ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 (ヴァルナル)
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主人公+オリキャラ紹介 (ネタバレ注意!)

美羽やアリスの容姿や性格を知りたいという声をいただいたのでキャラ紹介を投稿しました!

270話を越えてのキャラ紹介なので今更感があるような………ないような………。

かなり大雑把な紹介となってますが、一分ネタバレがあるので、最後まで読めていない方や読み始めた方はご注意を!

このキャラ紹介は随時更新していく予定であります!
キャラの挿絵も投稿するので参考になれば(絵心ないので、そこはご容赦を………)

2017年6月15日 投稿
2017年6月25日 追記(モーリス)
2017年6月26日 追記(リーシャ)
2017年6月28日 追記(イグニス)


■主人公

 

兵藤一誠

 

【挿絵表示】

 

年齢 : 20歳(戸籍上は17歳)

身長 : 179cm

性格 : スケベの熱血漢 重度のシスコン

神器 : 赤龍帝の籠手

技能 : 錬環勁気功(万物に宿る気を操る技)

 

本作主人公。どこにでもいる普通の人間だったが、中三の夏に未知の力によって異世界『アスト・アーデ』へと飛ばされる。

 

アスト・アーデに飛ばされた後、暫くは元の世界に戻る方法を探しつつも平和な暮らしを送っていたが、当時人間と魔族間で起きていた戦争により、親友を失う。

 

失う辛さ悲しみを知った一誠は全てを守る力を得るため、神が住まう『神層階』に趣き、錬環勁気功という気を操る技を会得。

 

最終的には魔王シリウスを倒し、人間と魔族の二種族間の戦争を終わらせた。

周囲からは『勇者』と呼ばれているが、本人は勇者と呼ばれることに少々抵抗を持っている。

 

魔王シリウスから娘のミュウを託された後、自分の世界に連れて行くことに。ここで家族に自身に起きたことを説明、ミュウを家族として迎え入れるように説得。

ミュウを自身の義妹とする。

初めて『お兄ちゃん』と呼ばれたことに感動(この時から重度のシスコンに………)

 

アスト・アーデで三年を過ごしたはずの一誠だったが、元の世界では時間が経っていなかった。そのため、実年齢は戸籍上の年齢よりも三つ上になり、何気にショックを受ける(本人は最終的に開き直る)

 

駒王学園入学後、二年の年に駒王町を治める上級悪魔のリアスと邂逅。その人柄や自身の置かれた状況から眷属になることを決意。

ただし、この段階で一誠の実力はかなり高く、『兵士』の駒八つを使用しても転生できなかった。

リアスと自身の気を完全に同調させるというドライグの思い付きを行ったところ、駒を取り込むことに成功………したように見えたが、駒が機能不全を起こしてしまい意識を失う。

最終的には魔王アジュカ・ベルゼブブの手助けで悪魔への転生を果たす。

 

悪魔転生後は様々な活躍を見せ、その功績、実力から上級悪魔へと飛び級を果たす。

 

実力としては生身で最上級悪魔クラス、禁手になれば魔王クラスの力を発揮する。

 

禁手に至っていたが、魔王シリウスとの一騎討ちで追い込まれた一誠は新たな次元へと到達する。それは禁手を更に高位の次元へと昇華するという、普通ならあり得ない現象を引き起こす。

 

○禁手第二階層(ツヴァイセ・ファーゼ)

天武(ゼノン) 

通常の禁手から格闘戦能力を向上させた一対一の決戦仕様の鎧。

全身に大型のブースターが増設され、倍加スピードも通常の倍と大幅の強化がされる。

 

イメージ→エクストリームガンダム ゼノンフェーズ

 

天撃(エクリプス)

天武の格闘戦能力を砲撃戦に振った多対一向けの殲滅戦仕様。

背中に大きなドラゴンの翼が生え、籠手、腰、翼にそれぞれ二つずつキャノン砲が搭載されている。

天武同様に倍加スピードも倍。

 

イメージ→フリーダムガンダム

 

○禁手第三階層(ドライ・ファーゼ)

天翼(アイオス)

第二階層の二形態とは違う方向に強化した形態。

神剣イグニスの強大すぎる力を一時的に使用することに主眼を置いており、天武、天撃よりも若干攻撃力は劣る。(通常の禁手で魔王クラスなので十分攻撃力は高いが)

また、この形態では力よりも技による戦闘を得意としており、フェザービットを使った遠隔砲撃、バリア、遠隔斬戟や肉体の量子化を行えるようになるなど、気の操作性を極限まで上げている。

 

イメージ→エクストリームガンダム アイオスフェーズ

     (能力的にはダブルオークアンタ)

 

 

T・O・S(ツイン・おっぱい・システム)

イグニスにより考案された理論。

二人のスイッチ姫の乳力(にゅーパワー)を同調させ、その出力を二倍ではなく、二乗化させる。

 

⚫EXA形態

二人のスイッチ姫――――アリスとリアスの乳を吸ったことにより発現した超強化形態。

天撃(ECLIPSE)天武(XENON)天翼(AGIOS)の三形態の力をあわせ持つ他、リアスの滅びの魔力とアリスの白雷をも操れるようになる。

 

方向性の違う形態を強引に合わせているため不安定ではあるが、そのパワーは魔王クラスを圧倒できる。

 

※神器が使えないときは錬環勁気功により身体の強化。体術、剣術を用いて戦う。

 

 

 

■ヒロイン&オリキャラ

 

兵藤美羽(ミュウ)

 

【挿絵表示】

 

年齢 : 17歳

身長 : 160cm(B99/W60/H89)

性格 : 大人しく、人懐こい ブラコン

一人称: ボク

髪  : 黒髪ロング

 

本作ヒロインの一人。

 

魔王シリウスの娘。

一誠によって、彼の世界に連れてこられ、義妹となる。

 

本来なら父の仇であるはずの一誠ではあるが、父の想いと一誠の想いを理解し、兄として慕っている。

また、一誠が『勇者』と呼ばれていた頃の活躍(敵である魔族を助けるなど)を知っており、日常生活の中で一誠の優しさに触れていく内に兄妹以上の想いを持つことに。

 

魔王の娘だけあり、卓越した魔法・魔力を有する。

実力は最上級悪魔クラス。

一誠が上級悪魔に昇格したその日に赤龍帝眷属の『僧侶』として悪魔に転生。変異の駒。

 

朝が苦手。

 

一誠の世界に来てからは漫画にはまっているが、増えすぎた今では、整理に困っている。

 

胸が大きく、一見大人びた雰囲気もあるが童顔のため、幼くも見える。

身長がやや低めのため、本人は身長を伸ばしたがっている。

 

 

 

 

アリス・オーディリア

 

【挿絵表示】

 

年齢 : 20歳

身長 : 176cm(B82/W56/H80)

性格 : 勝ち気 ツンデレ(イッセー限定)

髪  : 金髪ポニーテール(下ろしている時もあり)

二つ名: 白雷姫

 

本作ヒロインの一人。

 

アスト・アーデの大国、オーディリアの第一王女。

一誠と旅をしていた仲間の一人であり、『白雷姫』の異名を持つ。霊槍『アルビリス』の使い手であり、自身の雷の魔力で身体を強化し、得意の槍術で相手を凪ぎ払う。

雷の魔力を使った際、その副作用で金髪の髪が純白に変わる。

実力はアスト・アーデ(神層階は除く)ではトップクラスであり、最上級悪魔クラス。

 

一誠が禁手に至った切っ掛けを作った人物で、『スイッチ姫一号』。

 

一誠が元の世界に戻った後は、人間と魔族との和平に向けて奔走。見事成し遂げる。

 

一誠が再びアスト・アーデを訪れた後、元の世界に戻る際に仲間の後押しもあって一誠の世界へ行くことに。

 

書類系の仕事は苦手で(本人曰く眠くなる)、王女時代は妹のニーナにほぼ丸投げ。

一誠の『女王』として悪魔に転生するが、その手の仕事は『王』である一誠に投げている。

しかし、元王女だけあって交渉には長けており、一誠達を助けることも。

 

典型的なツンデレだが、一誠の世界に来てからはデレが目立ち、自分から『イッセーの嫁』と公言する。(一誠自身もアリスは俺の嫁と言っている)

 

身長が高くスレンダーな体つき。

かなりの美女ではあるが、胸が小さい。

本人は胸を大きくしようと毎日おっぱいマッサージに励んでいる。

 

 

 

 

モーリス・ノア

 

【挿絵表示】

 

年齢 : 48歳

身長 : 180cm

性格 : 面倒見が良い イタズラ好き 

二つ名: 剣聖

 

オーディリア国の騎士団団長。

《剣聖》の二つ名を持つ、アスト・アーデ最強の剣士。

二刀流の使い手で、目にも映らぬ剣捌きで敵を両断する。(状況に応じて一本だけで戦うことも)

騎士団に入るには剣技と魔法が使えることが最低条件である中、唯一剣技だけで騎士団に入った人物。

素の一誠やアリスよりも実力は上であり、鎧姿の一誠でも上手く立ち回ることで上回ることも可能。(コカビエルクラスなら難なく倒せる)

 

使用している剣は亡き父親から受け継いだ物ではあるが、かなり斬れる以外は普通の剣。

剣に己の剣気を纏わせることで、デュランダルや聖魔剣を真正直から受け止められる。

 

イッセーの恩人の一人であり、剣の師でもある。イッセーを元の世界に戻すために戻り方を調べた人物。

かつて一誠と共に各地を旅して回った仲間の一人であり、一誠やアリスの面倒を見る保護者的な存在。

 

一誠が元の世界に戻ってからは国の政治にも関わることが多く、本人は面倒だと思いながらも職務をこなしている。

 

イタズラ好きであり、アリスが着替え中の部屋に一誠を向かわせたりすることも。(この時、一誠はアリスが着替えていることを知らない)

というのも、アリスが一誠に対して好意を持っていることを分かっての行動だったりするが………。

 

一誠がアスト・アーデに戻ってきた際には、アザゼルと意気投合。

『おっぱいドラゴン』に爆笑する。

 

最近の悩みは白髪が増えてきたことと、トイレに行く間隔が短くなってきたこと。

 

 

 

 

リーシャ・クレアス

 

【挿絵表示】

 

年齢 : 24歳

身長 : 172cm(B91/W58/H81)

性格 : おっとり 面倒見が良い

二つ名: 赤瞳の狙撃手

 

一誠の旅の仲間の一人。

《赤瞳の狙撃手》の二つ名の通り、魔装銃を用いて後方から敵を狙い打つ。

攻撃の際はオリジナルの望遠魔法を使っているのだが、その副作用で青い瞳が赤く染まる。

基本的に遠距離射撃が得意としているが、近距離での早撃ちもこなす。

治癒魔法や他の支援魔法もこなせるので応用力が高い。

一誠達ほど近距離戦は得意ではないが、総合的な戦闘力ではひけをとらない。

 

一誠が元の世界に戻ってからは魔法学校の教師をしており、魔法から戦闘訓練まで指導している。

 

一誠やアリスのお姉さん的存在で、リーシャ本人も弟、妹のように思っている。

スケベにも寛容で一誠のことも微笑ましく思っていたり。

 

性格・頭脳共に良く、料理も得意で家事全般をこなせる完璧な女性………に思えるが、仲のいい人にはハグする不思議な癖(?)を持つ。

その理由は一誠達にも分からない。

 

教職にやりがいを感じているが、忙しすぎる時があるので有給を取るか考えることもしばしば。

 

 

 

 

 

イグニス

 

【挿絵表示】

 

年齢 : ???

身長 : 174cm(B89/W60/H83)

性格 : 超エロい 自由奔放

趣味 : 女の子のおっぱいを揉むこと

 

アスト・アーデにおける原初の《真焱》の女神。

世界に命の炎を芽吹かせた後、神層階の最奥に引きこもったため、他の神からもその存在を忘れられた謎の深い人物。

 

悪神達によって生み出された《破壊の神》ロスウォードが神々を殺し、下界に降りてその力を振るった際、自身を神剣《イグニス》に変えて下界に降りた。(自身を剣に変えたのはイグニスの持つ巨大すぎる力によって、世界に影響が出るのを防ぐため)

 

神剣イグニスの火力はサマエルを焼却し、上位クラスの神々すら余裕で消し炭に出きるほど。

ただし、一誠がイグニスを制御できる時間は限られている上に、周囲に及ぼす影響も大きいため、滅多には使えない。

 

イグニスは自ら自身の力を封じているため、やろうと思えば封印を解くことも出きる。

そうした場合、長らく封印してきた影響で力が安定せず、周囲を焦土と化してしまう。

 

《イグニス》という名も力を抑えるための仮の名前であり、本当の名前は本人以外誰も知らない。

また、その時の力は未知数。

 

一誠の力とイグニスが持つ女神パワー(本人がそう言ってる)で実体化が可能に。

封印を解いたわけではないため、力を持たない実態となっている。

 

実体化したイグニスはやりたい放題。兵藤家に住むオカ研女子はもちろん、天界にいる天使の胸を揉みまくっている。

 

あらゆる場面のシリアスを破壊する本作最強のシリアスブレイカー。

周囲からは『最強のお姉さん』『駄女神』と呼ばれる。

イッセーからは『エロを司る女神』では、と思われたりしている。

 




イッセーの力はガンダムネタが多めです。
イッセーのイラストですが、原作ベースで少し大人っぽくしてます(二十歳なので)


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プロローグ
1話 帰還します!!


俺の名前は兵藤一誠。

エロと熱血で生きる十八歳だ。

 

………突然なんだけど、今俺は暗い森の中を全速力で走ってる。

理由は俺を追いかけているものが原因だ。

 

「イッセー様! どうか城へお戻りください!」

 

俺を追いかけているのはメイドの格好をした女の子達。

それも三十人くらい。

彼女達の格好はコスプレではなく、彼女達は正真正銘のメイドさんだ。

 

普段の俺なら迷わず彼女達に飛び込んで、あの豊満なおっぱいを満喫しているところだ。

正直言うと今でも直ぐに満喫したい!

 

だけど………

 

 

ビュン!

 

 

風を切る音をたてながら俺の顔の真横を矢が通りすぎた。

 

「うおぁ!? 俺を殺す気かよ!? ガチの矢じゃねーか! せめて、鏃は外してくれませんかね!?」

 

『まぁ、あの者達では相棒には追い付けんからな。何処かに当たれば止まるとでも思ってるのだろう』

 

そう、彼女達は皆、手に槍や剣、弓矢だの色々な武器を持っている。

 

ちなみにさっき話してたのは俺に宿っている神器―――神滅具《赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)》に封印されている二天龍の赤龍帝・ウェルシュドラゴンことドライグ。

俺の相棒でもある。

 

神器の説明についてはまた今度するとして、まず説明しなければならないのは現在、俺が置かれている状況だろう。

なぜ、俺が武器を持ったメイドさん達に追いかけられているかと言うと………話は三年前に遡る。

 

 

 

 

三年前、俺はこの世界とは別の世界にいた。

その世界が元の世界で、そこでは俺は普通の中学三年生だった。

 

ある日のことだ。

宿題を終え、俺は自分の部屋のベッドの上でいつも通りエロ本を読んでいた時―――――俺は何かに吸い込まれた。

これは比喩でも何でもない。

突然のことに、俺は自分に何が起きたのか認識する間もなく………。

 

気がついたら俺は全く知らないところにいた。

風呂………しかも、女湯に放り出された俺。

入浴中だった女の子と頭をごっつんこして、二人とも気絶することに。

 

まぁ、その後は俺の事情を説明するのに大変だったよ。

入浴していた女の子はある国のお姫様だったらしく、その風呂場に現れた俺は不審者として扱われ、斬首一歩手前まで行きましたよ………。

うん、怖かった!

辛かったよ!

 

で、どうにか俺のことを説明して、理解してもらうことに成功。

その際に、俺は自分が置かれた状況について、色々と訊ねることにしたんだが………聞いてて、混乱度合いが増した。

 

聞いた話をまとめるとこうだ。

この世界は俺がいた世界とは違う世界であること。

俺の目の前にいたのはオーディリアという国のお姫様で俺が現れたのはその国の城………の風呂場だったこと。

そして、この世界には勇者や魔王がいて人族と魔族の間で長い間、争いが続いていること。

 

今言ったことはほんの一部だが………いきなりファンタジー過ぎる世界に放り出されたんだぜ?

パニックになったのなんの。

そもそも話に現実味が無さすぎたし、どうすればいいか分からなかったんだけど………信じるしか無かったんだよね。

だって、目の前に本物のお姫様や勇者がいるんだもの。

実際に魔法も見ることになったわけだし、信じる以外にどうしろと?

 

元の世界に帰ろうとしたものの、当時は帰り方もわからず、状況が状況だったため、勇者やお姫様たちの計らいで俺は客人として城に住むことになった。

家族や友達に会えなかったのは少し寂しかったけど、見ず知らずの俺を王様やその家族、兵士の人も俺に優しく接してくれたし、勇者とも友達になれた。

勇者とは一緒に剣の稽古をしたり、町で買い物したり、何でもない話で盛り上がったりした。

正直、この世界にずっといてもいいかなって思った時期もあった。

 

だけど―――――その生活は長くは続かなかった。

 

俺がこの世界に来てから一年が過ぎたある日、人族と魔族との戦争が激化した。

人族と魔族の亀甲が崩れ、俺がお世話になっていた国にも魔族の軍勢が攻め込んできて………。

俺も、偶然出くわした魔族に襲われた――――しかし、俺は親友だった勇者に助けられた。

でも、俺を庇ったせいで、あいつは………。

俺の赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)が目覚めたのはこの時だ。

 

 

『あなたがいなければ彼は死ななかった! 私の前から消えて………!』

 

 

仲が良かったお姫様に言われた言葉だ。

俺のせいで勇者が死んだ。

その通りだ。

 

でも、これは彼女の本心じゃないことはすぐに分かった。

この時は元の世界に帰る方法も見つかっていたし、元の世界に帰れば命の危険もない。

だから彼女はわざとキツイ言い方をしたんだ――――俺を守るために。

 

確かに逃げれば良かったのかもしれない。

だけど、俺にはそんなことは出来なかった。

皆を見捨てて俺だけ逃げるなんてことは俺の選択肢には含まれていなかった。

何より、勇者の―――――親友から最後に託されちまったからな。

あいつとの約束を守るために俺は………。

 

俺は彼女達のもとを離れ、一人修業の旅に出た。

師匠を見つけて《錬環勁気功》っていう気を操る戦闘技術を教えてもらい、更にドライグには赤龍帝としての戦い方を教えてもらった。

皆のもとに帰るため。

そして、皆を守るため。

血反吐を吐いても全てを守る力を手に入れるため、厳しい修業に身を投じた。

それこそ、毎日、生死の境をさ迷うほどに。

 

 

修行を始めて二年。

師匠やドライグの修業を経て強くなった俺は皆のところに戻り、なんとか魔族から国を取り戻すことに成功。

それがつい数ヶ月前の話だ。

それから俺は魔王を倒すために数人の仲間と共に各地の戦闘に参加してきた。

そして昨日――――俺は魔王との一騎討ちに勝った。

 

魔王を倒して、一件落着………とはいかなかった。

実は俺、魔王から娘を託されたんだ。

 

激戦の末、散りゆく魔王は死の直前に俺に『娘に罪はない』と言って、娘を俺に託してきた。

魔王は長きに渡り続いた戦争を止めるためにその責務を果たすため、炎の中に消えていった………。

 

魔王は娘に自分の跡を継がせたくなかったんだ。

もし、魔王の娘が生きていた場合、『魔王の娘が新しい戦争の火種になるんじゃないか、ならばそうなる前に消してしまおう』そう考える者も現れるだろう。

だから、魔王は人族の恐怖の対象である『魔王』を自分で最後にしたいと望んだ。

何より、娘の幸せを願って―――――。

 

魔王から娘を託された俺は―――――魔王の娘を連れて元の世界に帰ることにした。

 

 

 

 

そして、今。

俺は大きな袋を担いで走っている。

袋の中には魔王の娘だ。

 

結構、揺れてるけど中は大丈夫か?

ぶつけたりしないように気を付けてるけど………なんとか我慢してくれ!

おっと、また矢が飛んできぞ。

 

俺は矢を交わして、追ってくるメイドさんを迎え撃つ格好となる。

すると、真上からメイドさんが二人、降ってきた。

 

「「勇者様、ご覚悟を!」」

 

「なんの!」

 

俺は彼女達の振り下ろした剣の間をくぐり抜けて、その隙に彼女達に触れた。

 

ちなみに最前線で戦い続けた俺は、人族の代表として勇者ってことになっている。

 

「悪いけど、今捕まるわけにはいかない! 《洋服崩壊(ドレスブレイク)》!!」

 

そして、俺が指をならすと――――。

 

 

バババッ

 

 

彼女達の服は下着を含めてバラバラになった。

豊かなおっぱいが!

ありがとうございます! 

眼福です!!

 

これが俺の必殺技《洋服崩壊(ドレスブレイク)》!

男の夢が詰まった最高の技だ!

この世界に来て会得した唯一魔力を使う技でもある。

俺って魔力量と魔力関係のセンスが致命的にないらしくて、これくらいしか会得できなかったんだよね!

 

「「キャアアアアー!!」」

 

二人は大事なところを手で隠してその場に踞る。

まぁ、当然の反応だよね!

 

俺は彼女達の裸体を脳内保存した後、再び走り出した。

だって、後ろから武器を持ったメイドさんがいっぱい来てるし。

 

…………いや、待てよ。

このまま逃げるより彼女達の足を止めた方が良いかもしれない。

突如浮かんだ名案。

もしかしたらパラダイスが見れるかもしれない。

裸の女の子達がいっぱい。

素晴らしい光景じゃないか!

 

『相棒、それはいくらなんでも……』

 

うるさい! 

俺は見るんだ!

この世界のおっぱいはもう見れないかもしれないんだぞ!

 

俺は追いかけてくるメイドの集団目掛けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

俺はメイドさん達の姿を脳内保存した後、森の奥まで走った。

いやー、中々刺激的な光景だったね!

我、超眼福なりってね!

 

彼女達の姿を思い出しながら進むと少し開けた空間に出る。

そこには石でできた門があり、門のなかは虹色に輝いている。

これは《異界の門》と呼ばれる門で、そこをくぐることで俺は元の世界に帰れることが出きる………らしい。

国で見つけた文献にはこれを潜ると元の世界に戻れるとあった。

 

門の前には先客がいた。

背は俺より少し低いくらい。

腰のところまである長い金髪をなびかせてこちらを見ている。

俺がお世話になった国のお姫様――――アリスだ。

彼女は旅の仲間でもある。

今着ている服はドレスではなく、旅の時に着ていた動きやすい服装だ。

 

「その様子だと彼女達は皆、裸にされちゃったのね」

 

「な、何でわかる!?」

 

「鼻血出てるわよ」

 

本当だ。鼻を手でぬぐうと血が付いてる。

ていうか、服まで付いてるし!

洗濯して落ちるかなこれ………。

 

「それで、アリスは何でこんなところにいるんだよ?」

 

「あんたを止めに来た、って言ったらどうする?」

 

「嬉しいけど、俺は帰るよ。元の世界に。今の俺はこの世界にいない方がいいしな。いつの間にか勇者なんて呼ばれてるし。………魔王を倒した勇者なんて、最初は良いけど、後々厄介者にしかならない、だろ?」

 

そう、俺がこの世界を去るのは魔王の娘を逃がすためだけじゃない。

 

魔王を倒した勇者の影響力は大きい。

勇者がいる国は他の国よりもこれからの政治を有利に進めることが出来る。

そうなると国と国との摩擦が生まれて、また戦争になる。

しかも、今度は人間同士の争いだ。

やっと戦争が終わっても、また次の戦争が始まる。

こんなの悲しすぎるじゃないか。

そんなのは俺が望むところじゃない。

 

でも、アリスには俺の考えは読まれてたみたいだ。

ま、まぁ、流石に魔王の娘を託されたことは気づかれてないと思うけど。

 

アリスはうつむきながら言った。

 

「やっぱり行っちゃうんだ…………」

 

「俺もアリスともっと一緒に居たいけどな」

 

「なっ!? も、もう! あんたはまたそんなこと言って!」

 

顔を赤くしてプイっとあっちを向いてしまうアリス。

俺はそんなアリスを見て、微笑みを浮かべる。

 

そして、

 

「とにかく俺は帰るよ」

 

「………また、会えるよね?」

 

「おう、なんかあったら俺を呼べよ。いつでも駆けつけるからさ!」

 

「どうやって来るつもりよ?」

 

「あ、どうしよう………」

 

アリスの言う通り、なんか方法あんのかな?

また吸い込まれれば良いのか?

いや、確か、あの文献には―――――。

 

顎に手を当てて、記憶を探っているとアリスは可笑しそうに笑いだした。

 

「フフフ。強くなってもやっぱりバカね」

 

「うるせーよ! 気合いでなんとかしてやる!」

 

「まぁ、あんたなら本当になんとかできそうね」

 

俺たちはそれからひとしきり笑った。

こうして、アリスと一緒に心の底から笑ったのって久し振りな気がする。

 

「………ボチボチ行くよ」

 

「ええ」

 

「国の再興とかで忙しくなると思うけど、体に気をつけろよアリス」

 

俺はそう言うとアリスに拳を差し出す。

 

「分かってる。イッセーも体に気をつけてね」

 

アリスもそう言って俺の拳に拳を合わせる。

 

「じゃあ、またな」

 

「ええ、またね」

 

俺達はそう言って互いに反対方向に進む。

アリスは国の方向に。

俺は門の方向に。

門を潜った俺は虹色の光に包まれていった―――――。

 

 

 

 

 

 

「う……ん? ここは?」

 

気が付くと俺の目の前にはエロ本があった。

これは向こうの世界に飛ばされる前に読んでいたエロ本に間違いない。

他にも本棚や床に置いてあるものもそのまま。

懐かしい俺の部屋だ。

机の上に置いてある時計を見ると、日付は俺が異世界に行った日と同じ。

 

「もしかして夢だったとか? ん?」

 

一瞬、長い夢でも見ていたのかと思う俺だったが、隣にあったものを見て、それが間違いであることを認識できた。

俺の横には大きな袋。

間違いなく俺が門を潜るときに担いでいたやつだ。

 

どうやら夢じゃなかったらしい。

ていうことは向こうの世界で三年過ごしたけど………時間が進んでいないだと?

まさかと思うが、こっちの世界では一瞬だったってことか?

 

そうなると今の俺は十五歳で中学三年生のままってことになるのか?

やばい受験勉強してない。

まだ七月だし、なんとかなるか?

まぁ、それは今は置いておこう。

 

俺はカーテンを開けて外を見る。

俺の眼に映ったのは変わらない、俺が産まれた町だ。

 

「ただいま―――――駒王町」

 



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2話 妹ができます!!

 

「さて、どうしたものかな………」

 

俺は今、ベッドの上にある大きな袋を見ている。

いや、正確には袋ではなく袋のなかでスヤスヤと寝息をたてる長い黒髪の女の子だ。

異界の門を通ったせいなのか何故か裸だ。

彼女が呼吸をするたびに大きな胸が揺れてる。

うーん、こっちに帰ってきて早々ありがたい光景だ!

正に眼福です!

 

「ゴクリ…………」

 

ぐっすり寝てるしちょっとだけなら………。

俺が揺れる胸に手を伸ばした――――その時。

寝ていた彼女と目があった。

 

「お、俺はまだなにもしてないぞ! ただ、大丈夫かどうかを確認しようとしただけだ!」

 

我ながら苦しい言い訳だ。

すると、黒髪の少女が、

 

「き……」

 

「き?」

 

「キャアアアアアアア!!!!!」

 

「ゴフッ!」

 

彼女の大絶叫と共にくり出されたグーパンチは見事俺の顔面を捉えた。

 

すごく痛い!

こんな細身の何処にこんなパワーがあるんだよ! 

魔王の娘だからか!?

そうなのか!?

 

「なんで、ボクは裸なのさ!? まさか………ッ!?」

 

顔を押さえて踞る俺に彼女は布団のシーツで体を隠しながら問い詰める。

 

まぁ、目が覚めたら自分は裸で目の前に男がいたらこうなるよね!

でもね、ここで騒ぐのは勘弁願いたい!

この家には父さんと母さんがいるんだもの! 

これ以上騒がれたら二人がここに来かねない!

そうなったら、事態が余計にややこしくなる! 

なんとかしなけば!

 

「待て! 頼むから落ち着いてくれ! 本当に俺はなにもしていない!」

 

そう言う俺を疑いの目でみる彼女。

 

「………本当に?」

 

「もちろん!」

 

「………じゃあ、ボクの服は? 着てたよね?」

 

「多分だけど、門をくぐる際に脱げたんだと思う。俺の服とかは錬環勁気功を使って俺の気と同調させてたんだけど、君の服とかは完全に忘れてて………」

 

「…………分かった。信じる」

 

まだ何か言いたげな表情だけど、なんとか落ち着いてくれたか。

一時はどうなることかと思ったが、まずは良しとしよう。

 

「とりあえず、自己紹介しようか。俺は兵藤一誠。気軽にイッセーって読んでくれ。赤龍帝で君の世界では一応、勇者って呼ばれてたよ」

 

「………ボクの名前はミュウ。君が倒した魔王シリウスの一人娘だよ」

 

「そっか。よろしくな、ミュウ」

 

俺が手を出して握手を求めるとミュウは少し驚いた表情になるが、なんとか応じてくれた。

 

「………うん。よろしくね、イッセー」

 

少し堅いけど、仕方ないか。

俺はこの子の目の前で父親を………。

 

ミュウが言う。

 

「ねぇ、イッセー」

 

「お、どうしたんだ? なんでも言ってくれ。俺に出来ることがあれば、なんでも力になるよ」

 

「何か着るものないかな?」

 

「あ………」

 

そうだ、すっかり忘れてた。

今のミュウはシーツを纏っているが、そのなかは産まれたままの姿!

いやー可愛いし巨乳だし、最高だな!

 

俺がミュウの体を見てることに気付いたのかシーツで更に体を隠された。

 

「ねぇ、今、見てたよね?」

 

「うっ………。すいません、見てました」

 

「早く着るものをくれないかな?」

 

ニッコリと笑って俺を見るミュウ。

顔は笑ってるけど、目が笑ってない。

魔力を体から滲ましてるし!

 

「はいっ! すぐに取ってきます!」

 

俺は慌ててミュウが着れそうな服を探した。

 

 

 

 

 

「うーん、ちょっと胸がきつい………」

 

俺が取ってきたのは俺が使ってるジャージだ。

流石に母さんの服を取るわけにはいかず、悩んだ末に選んだのが俺のジャージだった。

というか、母さんの服を漁ってるところなんか見られたらシャレにならねぇ。

男物のジャージだからいけると思ったんだけど、上着のチャックが上まで上がらず胸の真ん中辺りで止まってる。

ジャージだからと油断してたけど、これはかなりエロい。

 

「ねぇ、鼻から血が出てるけど大丈夫?」

 

「え?」

 

うわ、本当だ。

とりあえず、ティッシュ詰めとくか。

 

「それでだ。ミュウ、今後のことについてなんだけど、とりあえず父さんと母さんにミュウのことを話そうかと思う」

 

「イッセーのご両親に? 大丈夫なのそれ?」

 

「分からない。正直、異世界に行って魔王の娘を連れて帰りました、なんて普通なら信じてくれないだろうな。でも、ミュウのこれからの生活を考えるとこれがベストだと思うんだ」

 

「ボクの生活………」

 

「ミュウも自分の父親を倒した男と一緒に生活するのは嫌だと思う。けど、そこは耐えてくれないか? 今だけでも良い。君の生活が安定するまででいいから」

 

本当なら、俺はこの子の敵となる。

そんな奴と生活を共にするなんて、考えられないだろう。

 

でも、ミュウは首を横に振って、優しい表情で言ってくれた。

 

「大丈夫。君は………確かにお父さんを倒したけど命まではとろうとしなかった。君は上辺だけを見ずその人の本質をしっかり見ることが出来る。そんな君だからこそお父さんはボクを君に託したんだよ」

 

「でも、シリウスは………ッ」

 

「お父さんが死んだのは戦争の責任を自ら取ったからだよ。それくらいボクでもわかる。それに君もお父さんを最後まで説得してたよね。あの時わかったんだ。ううん、君がすごく優しい人だってことは知ってたよ」

 

………そんな風に思われていたなんて思わなかった。

確かに俺はミュウの父親、シリウスを倒したけど殺したわけじゃない。

けど、俺に負けたことで死んだのは事実だ。

だから、恨まれているものだと思ってた。

 

ミュウの目には嘘が全く含まれていない。

全てが本心だってことが分かる。

 

「それに今もお父さんを助けることができなかったことをボク以上に後悔してくれているよね。だからボクは君のことを恨んだりなんかしてないよ。ボクはイッセーを信じる」

 

強いなミュウは…………。

本当、心の強さは俺なんて足元にも及ばないかもな。

ミュウが俺のことを信じるって言ってくれてるんだ。

だったら俺がするべきことはたった一つ。

 

「俺を信じてくれたミュウとシリウスに誓うよ。俺はこれから何があってもミュウを守りきる! 絶対にだ!」

 

俺は何がなんでも守りきる。シリウスにミュウを託された時からそう決めていた。

けど、改めて覚悟を決めることができた。

 

俺の誓いを聞いてミュウは満面の笑みを俺に向けてきた。

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

今日は土曜日なので父さんは仕事は休みだ。

俺は今から父さんと母さんにミュウのことを伝えるべく、リビングに向かった。

正直、信じてもらえないだろうな。

でも、ミュウの今後がかかってるんだ。

何とかしてやるさ!

 

「おはよう、父さん、母さん」

 

「珍しく早いわね。いつもならもっと遅いじゃない。………あら? イッセー、なんか身長がすごく伸びてない? ねぇ、お父さん」

 

「そうだな。………十センチくらい伸びたか? 一日でそんなに伸びたのか?」

 

どうやら俺の体の異変に気付いたみたいだ。

あっちの世界での三年はこっちの世界では一瞬だったみたいなんだけど、体には三年分の変化が表れていた。

だから、父さんと母さんからしたら一日で一気に身長が伸びて体型も筋肉質になったと思われている。

 

母さんが言う。

 

「そんなわけないでしょう! この間テレビでホルモンの異常で身長が伸びた人の話があったけど、もしかして…………」

 

「まさか、重い病気なのか!? 母さん今から病院に行くぞ! この時間空いてる病院はあるか?」

 

「近くの病院なら十時からやってるみたいよ!」

 

「よし、イッセーの保険証とあと財布!」

 

まずい、話がおかしな方向に進んでるんですけど!?

なんかの病気だと思われてる!

俺はいたって健康です!

早く止めないと!

 

「待ってくれ、二人とも! これは病気じゃないんだ!」

 

「何言ってるの! 病気じゃなかったら一日で身長がこんなに伸びるわけないでしょう!?」

 

「頼むから話を聞いてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

 

 

 

 

あれから十分かけて二人を落ち着かせた俺は二人と向き合う形で座っている。

 

「本当に病気じゃないのね?」

 

「ああ、俺は健康だって」

 

いまだに心配する母さん。

まぁ、事情を知らなかったら誰だって病気って思うよな。

 

「それで、大事な話って何なんだ、イッセー? そんな真剣な顔をして。よっぽど大事な事なんだろう?」

 

「そうなんだ。実は…………」

 

俺は二人に全てを話した。

俺が異世界に飛ばされたこと。

そこで魔王と戦ったこと。

ミュウを連れて帰ったこと。

 

こんな話をされたら普通、呆れられるだろう。

だけど、真剣な俺の表情を見た二人は俺の話をしっかり聞いてくれた。

まぁ、身長とか俺の変化のことも話を聞いてくれた要因でもあると思うけど。

 

「異世界に飛ばされた、ねぇ? そんなゲームみたいなこと母さん信じられないわ」

 

「俺もだ」

 

まぁ、当然の反応だよな。

どうすれば信じてもらえる?

 

すると、俺の中にいるドライグが言った。

 

『相棒、籠手を出したらどうだ? 実際に目の当たりにすれば流石に信じるだろう』

 

そうか、その手があったか!

ナイスだ、ドライグ!

 

赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)!!」

 

俺はその場で籠手を左腕に装着した。

ドライグ曰く、この神器はこっちの世界のものらしいけど、二人を信じさせるには十分だろう。

うちの親はこういうファンタジーには全く無関係な一般人だしな。

いきなり俺の腕に籠手が展開されたのを見て、二人は目が飛び出そうなくらい驚いていた。

 

「な、なによ、それ!?」

 

「どっから出したんだ!?」

 

「これは俺に宿ってる神器って呼ばれるものの一つで赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)っていうんだ。ドライグ、頼む」

 

『始めましてだな。俺の名前はドライグ。かつて赤き龍の帝王と呼ばれたドラゴンだ』

 

「「籠手がしゃべった!?」」

 

『二人とも、相棒の話を信じられないだろうが、全ては事実だ』

 

「「…………」」

 

あ、いきなりのことで絶句してる。

 

「まぁ、こういうことなんだ。……父さん?母さん?」

 

「「…………」」

 

返事が返ってこない!

完全に放心してるよ!

帰ってきて!!

 

「か、母さん………」

 

「な、なに?」

 

「すまんが、茶をくれ………。喉が渇いた」

 

「は、はい………」

 

現実逃避しかけてる!?

ドライグ、どうすればいい!?

 

『知らん』

 

相棒から返ってきたのは冷たい返事だった。

 

 

 

 

 

 

あれから、どうにか話を信じてもらえた。

色々あったけど、とりあえず第一段階終了ってところだろうが、第一段階で結構疲れた…………。

 

「とりあえず、お前の話は信じよう。あんなものを見せられては信じるしかないからな」

 

「ありがとう、父さん」

 

「それで、お前が連れてきた魔王の娘さんは? いるのだろう?」

 

「ああ。今、連れてくるよ」

 

俺はミュウを呼ぶために二階の自室に向かった。

軽くノックをしてから部屋に入る。

 

「ミュウ、俺だ、イッセーだ」

 

俺の声を聞いて安心したのか、ベッドの下からミュウが顔を出した。

そんなところに隠れてたの!?

あれ、顔がかなり赤いな…………。

 

「ミュウ? どうしたんだ? 顔が赤いけど」

 

俺が尋ねるとミュウは背中に隠してた何かを俺に差し出した。

 

「イッセーってこういうのが好きなの?」

 

そ、それはベッドの下に隠してたエロ本じゃないか!

まさか、中を見たのか!?

 

「こ、これはミュウにはまだ早い!」

 

俺は慌ててエロ本を取り上げる。

俺が父さん達と話してる時間って結構あったけど、もしかして他のも見た!? 見たのか!?

 

とりあえず、話を変えなければ!

 

「ミ、ミュウ。父さん達のところに行くからついてきてくれ」

 

「………ご両親との話はどうなったの?」

 

「とりあえずは信じてもらえたよ。後はミュウのことだけだ」

 

俺はミュウの手を引いてリビングに戻る。

 

「父さん、母さん。彼女が魔王の娘のミュウだ」

 

「は、はじめまして!!」

 

ミュウはお辞儀をする。

かなり緊張してるようで、声が上ずっている。

 

「まぁ、座ってください。母さん、彼女に何か飲み物を」

 

父さんに言われて母さんはミュウのところにお茶を持ってきた。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「えっと、ミュウさんだったかしら? そんなに緊張してなくても良いのよ。私達もイッセーから話を聞いて一応、事情は理解したから」

 

母さんが優しく声をかけてくれたおかげで、少しだけどミュウの肩の力が抜けたみたいだ。

すると、父さんがミュウに深々と頭を下げた。

 

「ミュウさん、事情があったとはいえ、あなたのお父さんのこと、イッセーが申し訳なかった! だけど、こいつはスケベでも根は優しいやつなんだ。どうか許してやってほしい!」

 

父さんのいきなりの謝罪にミュウも驚いている。

きっと、父さんも俺と同じことを考えたのだろう。

ミュウが俺を恨んでいると。

 

頭を下げる父さんにミュウは微笑みながら答えた。

 

「頭を上げてください。………確かにボクのお父さんはイッセーに倒されたけど、実際に死んだのはイッセーのせいじゃありません。それにボクが今、こうして無事にいられるのはイッセーがボクをこの世界に連れてきてくれたからなんです。だから、イッセーを恨んでなんかいません。彼の優しさはボクも十分知ってます」

 

その言葉を聞いて父さんはほっと胸を撫で下ろしていた。

 

雰囲気が良くなったところで俺は話を切り出した。

この話は今回のメインと言ってもいい。

 

「父さんと母さんにお願いがあるんだ。もちろん、ミュウのことで」

 

「何だ?」

 

「ミュウをこの家の家族として受け入れてほしい。彼女の今後を考えるとこれがベストなんだ。どうか、俺の願いを聞き入れてほしい」

 

俺は父さんと母さんに頭を下げる。

ミュウも俺に合わせて頭を下げた。

 

いきなり、訳の分からない話を聞かされて頭が混乱しているところにこのお願いだ。

断られてもおかしくはない。

だけど、俺にはこうすることしか出来ない!

ミュウを守るためにも、ここで………!

 

「なぁ、母さん」

 

「なに? お父さん」

 

「スケベしか取り柄がなかったイッセーが成長したもんだな」

 

「そうね。私も驚いているわ。こんなに立派になってるんですもの」

 

聞こえてきたのは優しい二人の声。

 

「父さん?」

 

恐る恐る頭をあげると二人は微笑みながら俺達を見ていた。

 

「ミュウさん。あなたさえ良ければ、私達の娘として家族の一員になってもらえないだろうか?」

 

その言葉を聞いて、ミュウは戸惑いの声を漏らした。

 

「い、良いんですか………?」

 

「ああ、もちろんだとも」

 

迷いのない返答。

父さんも母さんもミュウに優しい笑顔を向けていて、

 

「………」

 

ミュウの頬を涙が伝う。

彼女は目元を覆い、体を震わせていた。

 

「ミュウ?」

 

俺が声をかけると、ミュウは言った。

 

「ごめんね………でも、嬉しくて。ボク、本当に受け入れてもらえるなんて、思ってなくて………」

 

戦争に負けた国の姫。

しかも魔族のだ。

普通なら絶望しか待っていない。

人族の国に捕まれば、一生を部屋に閉じ込められて過ごすか、最悪は処刑だ。

 

だけど今、父さんと母さんはミュウを受け入れてくれた。

もちろん、二人は人族と魔族の争いなんて知らない。

でも、初めて会ったミュウを快く迎えてくれている。

 

ミュウが言う。

 

「ボクは………ここにいても良いですか? あなた達の娘になっても、良いですか………?」

 

「こちらからも聞いていいかな。私達の家族になってくれるかい? 私達にあなたを守らせてくれるだろうか?」

 

質問に質問で変えす父さん。

ミュウは止まらない涙を手で押さえながら、何度も頷きで返す。

 

「ありがとう、ございます………ありがとうございます………!」

 

父さんが微笑む。

 

「ミュウは私達の家族になるんだ。そんな丁寧な言葉遣いはいらないよ。なぁ、母さん」

 

「えぇ、そうよ。遠慮はいらないわ。もし、良ければなんだけど………私達のことも本当の親みたいに思ってくれると嬉しいわ」

 

「うん! ありがとう………お父さん、お母さん!」

 

父さんと母さんはミュウを優しく抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

「ところで、ミュウはいくつなんだ?」

 

「今は十四歳。もうすぐ十五歳だよ、お父さん」

 

「そうか。ということはイッセーの妹になるということか」

 

ミュウは俺の妹になるのか。

ていうか、十四!? 

十四であのスタイルだと!?

十四であんなに素晴らしいおっぱいを持っているだと!?

流石は魔王の娘、なのか!?

 

ミュウが言う。

少し緊張気味な声音で、

 

「お父さん、お母さん。お願いがあるんだけど………聞いてもらえるかな?」

 

「なんだ? なんでも言ってくれ。私達で出来ることならなんでもするぞ」

 

「えっとね、ボクに名前をつけてほしいんだ。イッセーとも話してたけど、ミュウって名前だと正体がばれて何かあるかもしれないし…………」

 

そうなんだ。ばれないとは思うけど、万が一ということもあるからな。

《ミュウ》だとその可能性は高くなるかもしれない。

 

母さんが頬に手を当てて言う。

 

「ミュウってずっと呼ばれていたのよね? なら、出来るだけ違和感がないようにしたいわね」

 

「ふむ………。ミュウ………ミウ………。そうだ、美しい羽と書いて美羽って名前はどうだ?」

 

美羽か。

いい名前だと思うし、元の名前からも大きく変わるわけじゃないから違和感もない。

 

「兵藤美羽。いい名前じゃない。どうかしら?」

 

ミュウは新しく得た名前を口にする。

 

「兵藤美羽……。ありがとう………大切にするよ、この名前」

 

両手を胸に当てて、目を閉じるミュウ―――――いや、美羽は俺達を見渡して言った。

 

「ボクは今日からこの家の娘の兵藤美羽! よろしくね!」

 

こうして、俺の家族が増えることになった。

名前は兵藤美羽。

俺の妹だ。

これから我が家は賑やかになる………そんな気がする!

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう。美羽ちゃん、イッセーって性欲の権化だから気を付けてね」

 

「知ってるよ。ベッドの下にエッチな本がいっぱいあったもん」

 

せっかく良い感じになったのになんでそういうこと言うかな!!

それと、美羽! 

やっぱり他のやつも見たんだな!!

 

 



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3話 妹との日常です!!

美羽が俺達の家族になってから一月が経った。

美羽は俺が通う中学に入ることができ、学年も同じだ。

学校側には異世界のことは隠しつつも美羽が身寄りがなく、家の養女として迎え入れたことを伝えるとそれを信じてくれたようで、何の問題もなく中学に通うことが出来るようになった。

ちなみにだが、まだクラスには顔出しはしていない。

理由は今が八月で夏休みだからだ。

なので、クラスの皆と授業を受けるのは夏休み明けからとなる。

 

正直言うと、夏休みに入ってくれたのは俺も助かっている。

もし、そうでなければ俺の体の変化についてあれこれ聞かれかねないからな。

最悪、体調不良を言い訳に休むっていう手段もあったけど。

 

「お兄ちゃん、そこのエックスは二乗だよ」

 

「え? マジで?」

 

今、俺と美羽は受験に向けての勉強をしている。

美羽はこっちの世界に来てから日が浅いので受験勉強が大変なものになると思われたけど、なんと中学の範囲をこの一ヶ月足らずでほぼマスターしてしまった。

今では美羽の方が俺より勉強ができ、俺に教えることが出来るほどだ。

 

うぅ………俺、自分が情けないよ………。

 

「それにしても、美羽は頭が良いな。どうやって勉強したんだ? もしかして裏技があるとか?」

 

「そんな裏技なんてないよ。ボクは普通に勉強しただけだよ」

 

いやいや、おかしいって!

普通にやって、三年分を一ヶ月でマスターするってどんだけだよ!?

中学三年間の勉強ってここまで簡単だったっけ!?

それとも、俺の頭が悪すぎるのか!?

くそぅ、妹に抜かされる気分ってこんな感じなのか………。

 

「そ、そんなに落ち込まないでよ、お兄ちゃん! お兄ちゃんは少し勉強が苦手なだけで、それ以外は誰にも負けてないよ!」

 

俺が沈んでいると、美羽が慰めてくれる。

ていうか、美羽に『お兄ちゃん』って呼ばれるのがすごく心に響く。

シスコンの知り合いがいるけど、そいつの気持ちが少し分かった気がする。

もうね、美羽に『お兄ちゃん』って呼ばれるだけで色々と元気になる!

幸せな気分になるんだよ!

 

「ありがとな。俺もがんばるぜ!」

 

「うん! 一緒にがんばろ!」

 

それから暫くして。

本日の勉強会(ほとんど美羽に教えられていたけど………)は終わったので、俺はうーんと背中を伸ばしていた。

 

俺は息を吐きながら、首をぐりぐり回す。

 

「疲れたぁ………」

 

今日は数学をメインにやったけど、俺にとっては三年ぶりの数学だ。

久しぶりにやると、基本がすっぽり抜けてたりするから簡単な問題でも手間取ってしまったよ。

………まぁ、初見の美羽はとっくにマスターしてしまったけどね。

それでも、この一ヵ月でだいぶ思い出してきた。

 

美羽が湯飲みにお茶を注いで渡してくれる。

 

「はい、お茶」

 

「お、ありがとう」

 

俺は湯飲みに口をつけながら、時計を見ると時刻はもう夕方だった。

夕飯まではまだ時間があるか。

ずっと座りっぱなしだったし、散歩がてらに外出するとするかね。

 

「今からコンビニ行くけど、美羽はどうする?」

 

「あ、ボクも行くよ」

 

俺達は軽く支度をして、一階のリビングに降りた。

キッチンでは母さんは夕飯の支度をしており、俺は料理中の母さんに声をかけた。

 

「母さん、俺達、今からコンビニ行くけど何か買ってきてほしいものある?」

 

「あら、イッセー。調度良いところに来たわね。パンと牛乳をきらしてたから買ってきてちょうだい」

 

「パンと牛乳ね。了解。じゃあ、行ってくるよ」

 

「行ってきます、お母さん」

 

「二人とも気を付けてね」

 

 

 

 

俺達は家を出て、近くのコンビニに向かう道を歩いている。

夏だけあって、夕方になってもまだ暑い。

 

周囲から聞こえてくる蝉の鳴き声をぼんやりと聞く俺だったが、隣にいた美羽は鼻歌を歌っている。

えらくご機嫌だな。

 

「んふふ~♪」

 

「どうした?何か良いことでもあったのか?」

 

「お兄ちゃんとお出かけなんて楽しいもん。ご機嫌にもなるよ」

 

「お出かけって………。すぐそこのコンビニなんだけどな」

 

この一ヶ月で分かったことなんだが、美羽は非常に甘えん坊だった。

特に俺に甘えてくる。

俺としてはこうして甘えてくることは、すごく嬉しいことなんだけどね。

それだけ俺に心を開いてくれているってことだしな。

父さんと母さんともすぐに心を開くことができたし、向かいの家の鈴木さんとも仲良くなっていたみたいだ。

これなら、学校に通ってもすぐに友達ができるだろう。

誰とでもすぐに仲良くなれる、そこは美羽の良いところだ。

 

そうこうしてるうちにコンビニに着いた。

だけど………。

 

「う、う~ん」

 

俺達は中には入らずコンビニの前で立ち止まっている。

理由は美羽が中々、前に進んでくれないからだ。

 

俺は半目で言った。

 

「一ヶ月経ってもまだ慣れてないのか………自動ドア」

 

「だって、ボクがいたところにこんなのなかったんだもん!」

 

「それ言うの何回目だよ………十回以上は聞いたぞ?」

 

「うぅぅ」

 

そんな呻き声をあげながら美羽は俺を涙目で見てくる。

かわいいな、ちくしょう!

 

「分かった、分かったって! ほれ、いつもみたいに俺の腕に掴まれって。それなら良いだろ?」

 

そう言って俺は腕を美羽に差し出した。

自動ドアを通るだびにこれじゃあ、この先不安になるぜ………。

 

「良いの?」

 

「まぁ、いつものことだしな」

 

「ありがとう!」

 

そう言って俺の腕に抱きつく美羽。

そうすると、当然美羽の胸が当たるわけでして

 

 

むにゅぅぅ

 

 

うおぉぉぉぉぉぉ!

妹おっぱいが俺の腕を!

俺の腕を挟んでる!!

いつものことだけど、やばい!

これはやばい!!

至るに福と書いて至福!

しかも、目遣いで俺を見る美羽がすごくかわいいからダブルパンチだよ!

 

落ち着け、俺………!

美羽は義理とはいえ俺の妹。

しかも、シリウスから託された守るべき存在だ。

手を出す訳にはいかん!

しかも、ここはコンビニの前。こんなところで欲情するわけにもいかん!

静まれ、俺のムスコよぉぉぉぉぉ!

 

「ど、どうしたの!? お兄ちゃん、すごい鼻血だよ!」

 

「ハッ!」

 

またか!

理性と本能がぶつかってオーバーヒートを起こしたみたいだ。

 

「だ、大丈夫だ。も、問題ないよ………。とりあえず店員さんにティッシュ貰うか………」

 

俺達はコンビニに入り、レジの店員さんにティッシュを頼むことにした。

 

「す、すいません。ティッシュ貰えますか?」

 

「また、あなたですか………」

 

美羽とコンビニに来るたびにこれだから、すっかり顔を覚えられてしまったようだ………。

 

 

 

 

なんとかコンビニで買い物を済ませ、今は二人でアイスを食べながら公園のベンチでのんびりしている。

ちなみに、俺が食べているのはソフトクリームで美羽が食べているのはガ○ガ○君だ。

美羽のお気に入りだそうだ。コーラが好きらしい。

家の冷蔵庫には美羽専用でガ○ガ○君が常備されているから、違うのを食べれば良いのに………。

 

それにしても家の親、娘に甘すぎるだろ!もっと息子のことも大切にしてくれよ!

 

「やっぱりガ○ガ○君は最高だね!」

 

まぁ、喜んでくれてるから良いんだけどさ。

美羽が公園から見える建物を指差して聞いてきた。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。あそこに見えるのが駒王学園?」

 

「そうそう。あそこが俺達が来年受験するところだよ。結構でかいだろ?」

 

「そうだね。………ボク、合格できるかな?」

 

「美羽なら楽勝だよ。むしろ、俺の方がヤバイかもな」

 

いや、本当。

学力的にはギリギリなんだよね、俺。

体育なら余裕なんだけどな。

 

「さて、そろそろ帰るか。夕飯も出来てるころだろうしな」

 

アイスを食べ終えると結構良い時間なので帰ろうとした時だった。

 

「あ、お兄ちゃん。アタリだった」

 

そう言って美羽はアタリバーを俺に見せてくる。

確かにアタリだ。

美羽は満面の笑みを浮かべて言ってくる。

 

「もう一回、コンビニに行こ♪」

 

どうやら、もう一回鼻血を出す覚悟をしないといけないようだ。

 

『相棒もすっかり兄らしくなったな。妹に欲情するところ以外は』

 

うるせーよ!

仕方ねぇだろ!

美羽はな、顔は幼いけど体は大人なんだぜ!

スタイル抜群なんだよ!

エロの権化と呼ばれる俺が欲情しないわけねぇだろ!

俺も必死で堪えてるんだよ!

性欲の塊と呼ばれた俺が、ここまで我慢してるんだ、すごいことだろ!?

 

『はぁ………。それさえなければ、最高の相棒なんだが』

 

ドライグよ、諦めてくれ。エロこそ俺の力の源なんだがらさ。

エロこそ力、エロ正義だ!

師匠もそう言ってただろ?

 

『ちっ、あのジジイめ。相棒に余計なことを教えよって』

 

いや、エロいのは師匠に会う前からだけどね。

 

『泣いていいか?』

 

落ち着け、ドライグ!

こんなことで泣いていたらこれからどうなる!?

死ぬぞ!

 

『うおぉぉぉぉん! 誰か助けてくれえ!』

 

あ、泣いてしまった…………。

ごめんね、ドライグ。

 

「早く行こうよ、お兄ちゃん!」

 

俺がドライグと話していると美羽が手を引っ張ってきた。

 

「分かったよ。そんなに慌てなくてもガ○ガ○君は逃げないって」

 

苦笑する俺。

全く………本当に美羽は可愛いな!

 

『それにしても、この娘も大分馴染んできたみたいだな』

 

そうだな。

まだ、不安なところもあるみたいだけど、これから慣れていけば良いことだしな。

兄である俺がしっかりサポートしてやらないとな。

 

『そうだな。あの娘も色々と抱えこんでいることもある。相棒が支えてやることだな。俺も少しは力になるさ』

 

ありがとな、ドライグ。

やっぱりおまえは最高の相棒だよ。

 

そんな会話をしなから俺達は再びコンビニに向かった。

自動ドアを怖がった美羽が俺に抱きついてきて、俺がまた鼻血を出したのは言うまでもない。

 

 

 

 

「今日はなんか疲れたな」

 

家に帰った後、夕食を済ませた俺は風呂に入っている。

とりあえず、頭をあらうか………。

 

「あれ? シャンプーがきれてる」

 

何回押しても出てこないところを見ると、中身が切れたらしい。

替えのシャンプーあったかな?

替えのシャンプーは洗面台の下にあるはずだが………。

俺はシャンプーの替えを探そうと風呂の扉を開けた。

そこに―――――。

 

「「え?」」

 

目の前には裸の美羽がいた。

眼福です!

なんて言ってる場合か!

 

「美羽………?」

 

「お風呂、入ろうかと思って………」

 

ですよね!

それしかないですよね!

 

「あー、じゃあ、美羽が先に入るか? 上がったら呼んでくれれば良いからさ」

 

美羽がこっちに来てから、こういうバッタリイベントが起きないように気を付けていたんだが………ミスった。

美羽と気まずい雰囲気になるのは色々な意味で不味い。

いくらスケベな俺でも、そこだけは避けたかったんだ。

………が、イベントが発生してしまった以上はしょうがない。

今はこの状況を何とかせねば!

 

すると、美羽から返ってきたのは予想外の言葉だった。

 

「ボ、ボク………お兄ちゃんと一緒に入るよ! 背中流してあげる!」

 

「へ………」

 

ええええええ!?

マジですか!

そんなことが起こっても良いんですか!?

 

「い、いや、気持ちは嬉しいけど」

 

「………ダメ、かな」

 

そんな上目遣いで俺を見ないでくれ!

そんな風に言われたら、俺は………!

 

「ダメなんかじゃないって! お願いするよ! というかお願いします!」

 

こう答えるしかないじゃないか!

 

 

………というわけで。

 

 

「どう? 痒いところはない?」

 

「大丈夫だよ。気持ちいいよ」

 

俺は今、妹に頭を洗われています。

 

「はーい、流すよー」

 

「お、おう」

 

「次は体を洗うね」

 

「わ、分かった」

 

あぁ、力の加減が調度よくて気持ちいい。

それにしても、なんで美羽はこんなことを?

いままでは美羽と風呂に入ったことは一度もなかったし。

まぁ、裸で鉢合わせしたのも初めてだったけど………。

しばらく美羽に体を洗われていると背中にタオルとは違う柔らかい感触が伝わってきた。

この感触、覚えがある!

 

「み、美羽? まさか、おまえ………」

 

俺がおそるおそる振り替えると案の定、美羽のおっぱいが密着していた!

「よいしょ、うんしょ」と可愛い仕草でおっぱいを上下にうごかしていくぅぅぅぅぅ!

 

「美羽ちゃん!? そんな知識をどこで!?」

 

まさか、あっちの世界ではこういう洗い方だったのか!?

いや、少なくとも俺は知らん!

こんな、間違った知識は兄として俺が何とかしなければ!

お兄さんエロエロだけど、そういうのは時には厳しいよ!

 

俺が妹を注意しようとしたときだった。

 

「お兄ちゃんがもってるエッチなビデオでやってたから…………。こうすれば喜ぶかなって」

 

原因は俺か!

俺が原因だから注意しにくい! 

それにしても美羽、俺のビデオ見たの!?

ちゃんと隠してあったはずなのに!

 

たしかに喜んでるよ!

俺のムスコはフィーバーしてるよ!

 

「いかん………ひ、貧血だ………」

 

色々我慢していた俺にとって、今回のイベントは少々刺激が強かったらしい。

美羽のおっぱいの感触に喜びながらも、真っ白に燃え尽きたのだった。

 

 

 

 

「ここは………」

 

目を覚ますと俺の部屋にいた。

天国でもなければ地獄でもない。

間違いなく、俺の部屋だ。

 

すると、俺の視界に美羽の顔が入ってきた。

 

「目が覚めた? 大丈夫?」

 

あぁ、涙のあとがある。

どうやら俺が気絶したせいで泣かせてしまったらしい。

 

「ああ、大丈夫だよ。悪かったな、心配かけて………」

 

「ゴメンね、ボクのせいで………」

 

すごく落ち込んでいるが、美羽のせいではない。

俺はあの時、間違いなく幸せだった………!

 

そういえば、美羽が風呂に俺の背中を流した理由を聞いてなかったな。

 

「なぁ、美羽。なんで俺の背中を流すって言い出したんだ?」

 

俺の問いに美羽は顔を俯かせて言った。

 

「………ボク、こっちの世界に来てからお父さんやお母さん、特にお兄ちゃんにはお世話になりっぱなしだし………。何かお礼をしなきゃって思って………。でも何をしたらいいのか分からなくて」

 

なるほど………そんなことを考えてたのか。

まさか、そんなことで悩んでるなんて思ってなかったな。

 

俺は美羽をこっちに連れて来てから、美羽を守ることだけを考えていた。

美羽が少しでもこちらの世界に慣れるように、少しでも明るく幸せになれるように。

ただそれを願い、美羽を見守ってきた………つもりでいた。

俺は美羽の悩みに気づいてやることが出来ていなかったんだ。

それがこの結果だ。

 

俺は美羽の頭を撫でて言う。

 

「美羽の気持ちはよく分かったよ。ありがとな。だけど、俺達は家族なんだからさ、そんなに気を使う必要なんてないんだ。美羽が幸せでいてくるなら、それだけで十分だよ」

 

「………でも、それじゃあ、ボクは皆になにもしてあげられないよ?」

 

「そんなことはないさ。例えば美羽は俺に勉強教えてくれているだろ? それに父さんと母さんだって美羽には色々と助けられてるところもあるんだぜ?」

 

「本当?」

 

「ああ、本当だよ。今度、二人にも聞いてみるか? 多分俺と同じことを言うと思うよ」

 

俺の言葉を聞いて、美羽は少し泣きそうな顔をしていたけど、目元を拭い笑顔を見せてくれた。

どうやら、自分の中の悩みは解決したみたいだ。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。一つお願いししても良い?」

 

「どうした?」

 

「今日、お兄ちゃんと一緒に寝てもいい?」

 

な、なんて可愛いお願いなんだ!

んもぅ、美羽ちゃんてば、本当にお兄ちゃんっ子なんだから!

でも、お兄ちゃんは嬉しいぞ!

感涙すらするね!

 

「ああ、いいよ」

 

俺は美羽のお願いに笑顔でそう返した。

 

もう夜も遅いし、そろそろ寝る時間だ。

俺はベッドに横になり、布団を開けると、美羽も中に入ってくる。

俺の胸に頭をくっつけて丸くなる美羽を見て、俺は呟く。

 

「こうして、美羽と寝るのは美羽がこっちに来て以来か」

 

まぁ、あの時は寝たって感じじゃないけど。

 

 

美羽が家族になってから一ヵ月。

こうしてみると時が経つのは本当に早い。

 

「なぁ、美羽。あれ………美羽?」

 

「スー………スー………」

 

健やかな寝息を立てる美羽。

寝るのはや!

寝つき良すぎるだろう!?

ベッドに入って一分も経ってないけど!?

でも、それだけ安心してくれているってことなのかな?

そう考えるとつい微笑んでしまう。

 

俺は美羽の頭を撫でながら、目を閉じ、夢の世界へと旅立った。




美羽は立派なおにいちゃん子になりました!

あと、1~2話くらいでプロローグは終わる予定です。



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4話 駒王学園に入学です!!

美羽が来てから半年が経った。

桜の花がいたるところで咲き誇る四月。

本当にあっという間だった。

俺と美羽は無事に第一志望である、ここ駒王学園に入学することができた。

駒王学園は元々女子高だったけど、数年前に共学になったばかりだから比較的、女子の割合が多い。

実は俺の志望動機はここにあったりもする。

女の子に囲まれての学校生活!

男子の憧れってもんだ!

 

「おーい、イッセー。ここにいたのか」

 

「お、美羽ちゃんもいたのか。なんで、イッセーにだけこんな可愛い妹ができるんだ。俺達と同じスケベ男子なのに………」

 

今、俺達のところに来たのは俺の昔からの悪友。

ハゲの方が松田で眼鏡をかけているのは元浜だ。

こいつらは俺同様にスケベなことで有名で女子からは嫌われがちだけど、基本的には仲間思いの良いやつだ。

 

「妹ができるのにスケベは関係ないだろ」

 

元浜の発言に反論する俺。

うん、間違ったことは言ってないはずだ。

確かに可愛い妹であるが、そこにスケベは関係ない。

だけど、こいつらはいきなりキレやがった。

 

「そんなこと分かっとるわ! 羨ましいんだよ!」

 

「それにおまえ、去年の夏休み明けたとき、スゲー体鍛えてただろ! しかも身長も一気に伸ばしてよ! あの時から、女子のおまえへの反応が変わったよな!」

 

「そうだ! 俺達三人のモテない同盟は!? 俺達と同じくらいスケベなおまえだけモテるなんて絶対おかしい!」

 

そう言って同時に殴りかかって来やがった!

仕方ねぇだろ、鍛えないと生きられなかったんだからよ!

それに身長も三年分伸びたんだよ!

まぁ、こいつらにそんなことは言えるはずもないけど。

 

とりあえず、俺はこいつらの拳を掌で受け流す。

 

「「ゴフッ!」」

 

あ、上手い具合に松田と元浜が相討ちになったな。

鼻を抑えて蹲る二人に美羽が声をかける。

 

「大丈夫? 松田君、元浜君」

 

「美羽、こいつらなら大丈夫だ。心配しなくていいぞ」

 

俺が言うも、美羽は二人の鼻血を拭いてあげている。

やっぱり美羽はやさしいな。

 

美羽の優しさ、というより美少女に手当されていることに感涙する悪友二人。

 

「くぅ~。美羽ちゃんの優しさが心にしみるぜ」

 

「裏切り者のイッセーとは違うな」

 

そこまで言うか、元浜よ!

別に裏切った訳じゃねぇよ!

………まぁ、こいつらより女子からの評価が高いのは事実だけど。

 

「三人ともそろそろ教室に行かないと入学早々遅刻するぞ?」

 

とりあえず、俺は三人を引き連れて教室に向かった。

 

 

 

 

 

今日は少し長めのHRだけだったので授業はなく、昼で解散となった。

 

ちなみにだけど、俺と美羽は同じクラスだ。

正直、運が良かった。

半年経ったけど、美羽にはまだまだ不安なところがあるからな。

サポートが非常にしやすい。

付け足すなら松田と元浜も同じクラスだったりもする。

まぁ、二人は美羽とも仲が良いから色々と助けてくれるだろう。

これも運が良かったと言えるかもな。

………美羽に手を出したらお兄さん怒るけどね♪

 

さて、美羽と昼飯でも行くかな。

今日は母さんが寝坊したから弁当がないので、学食に行くことになってるんだけど………。

 

「あれ………美羽はどこだ?」

 

俺が教室を見渡すと人だかりが出来ていた。

何かあったのかと気になった俺は、人だかりに近づくと―――――美羽が男子に囲まれて質問をされまくっていた。

ふむ、美羽の美少女っぷりに早速、男子の注目の的になったわけだ。

ここは兄として助けてやらないとだ。

 

「おーい、美羽。昼飯に行こうぜ!」

 

「あ、お兄ちゃん! 皆、ゴメンね。お兄ちゃんが呼んでるから行ってくるよ」

 

「「「お兄ちゃん!?」」」

 

美羽の言葉にクラス中の声が一つになった。

すると、近くにいた女子生徒が俺に聞いてきた。

 

「え~と、兵藤君? 出席の時にも気になったんだけど、美羽さんとは双子なの?」

 

なるほどな。

事情を知らない人はそう思うか。

同じ苗字だし、HRが始まる前も仲良く話してたからな。

 

俺は苦笑しながら答えた。

 

「いや、双子じゃないよ。俺と美羽は義理の兄妹なんだ。色々あって、美羽は家の養子になったから血の繋がりはないんだ」

 

俺がそう言うと教室の時が止まった。

数秒後…………。

 

「「「えええええええ!!!」」」

 

再びクラス中の声が一つになった!

そこまで驚くことか!?

 

「羨ましいぞ、兵藤!」

 

「そうだ! 俺の妹と交換してくれ! あの生意気な妹と!」

 

クラスの男子が俺に言ってくる。

誰が交換なんかするか!

あと、おまえの妹とか知らん!

 

美羽の方を見ると美羽は女子に囲まれていた。

 

「いいなー。エロくても良いから、私もあんなカッコいいお兄ちゃんがほしい!」

 

「ねぇ、美羽さん。私のバカ兄と交換してよ!」

 

入学初日で何故に俺がエロいことを知ってる!?

けど、正直言うと女子の反応はうれしいです!

 

「「死ね!この裏切り者!」」

 

おっと、松田と元浜が殴りかかってきた。

まぁ、俺は受け流すんだけどね。

 

「え、えーと………あの………」

 

やばい、美羽が完全にフリーズしてる!

頭から湯気が出てるよ!

質問ラッシュに混乱してる!

 

俺は美羽の腕を掴むとすぐさま教室を飛び出した。

 

 

 

 

美羽を連れて教室を出た後、

 

「入学早々、大変だな。大丈夫か?」

 

「う、うん。ありがとう。助かったよ………ねぇ、お兄ちゃん」

 

「どうした?」

 

「ここ、どこ?」

 

「え?」

 

美羽に言われて見渡すと全く知らない場所………森の中だった。

 

えっと………やたらと教室が賑やかになった上、俺達について来ようとしたクラスメイトがいたから、できるだけ校舎から離れたんだけど。

クラスメイトと話す機会を作るのは良いことだが、あの状況では美羽が余計に混乱しそうだったしね。

 

うん、それはともかくここはどこだ?

まさか、迷った?

自分が通う学校で迷子?

つーか、どんだけ広いんだよこの学園!

なんで敷地に森があるんだよ!?

いつか遭難者が出るぞ!(多分!)

 

とりあえず、地図でも探すか………。

こんだけ広いんだ、どっかにあるだろ。

いや、それより周囲の気を探って人を見つけた方が早いか?

 

そんなことを考えていると、美羽が俺の制服の袖を引っ張ってきた。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。あそこに学生かな? 人がいるけど」

 

「どこに?」

 

「ほら、あそこの道を歩いてる、あの人だよ」

 

「でかした、美羽。 おーい、そこの人! ちょっと良いか?」

 

俺はその人、男子学生に大きな声で助けを呼ぶ。

すると、その男子は俺の声が聞こえたようで俺達のところに駆けつけてくれた。

 

「どうしたんだい? 何か困っているようだけど………」

 

金髪のやさしそうな男だった。

俺はその男子生徒に事情を説明する。

 

「いや、迷子になっちゃって。誰かいないかなと………」

 

「ハハハ………。まぁ、この学園は広いからね。毎年、必ず新入生の迷子がでるくらいだしね。とりあえず、校舎まで案内するよ」

 

爽やかな笑顔でそう答えてくれる。

つーか、毎年いるのかよ!?

なんか対策しろよ、駒王学園!

 

俺は男子生徒に礼を言う。

 

「すまん。助かったよ」

 

「ありがとうございます」

 

「そんなに堅くならなくてもいいよ。僕も新入生だしね」

 

「そうなのか? それにしてはやけにこの学園の地理に詳しいな」

 

「まぁね。僕の知り合いがこの学園に通っていてね。何度か来たことがあるんだよ。さっきもその人が所属している部活に顔を出して来たところなんだ」

 

「へぇ。そこに入るのか?」

 

「そうだよ。えっと…………」

 

「あ、悪い。自己紹介がまだだったな。俺は兵藤一誠。クラスは一年C組だ。それで、こいつは妹の兵藤美羽だ」

 

「兵藤美羽です。よろしくお願いします」

 

「僕は木場祐斗。一年B組だよ。これからよろしくね、兵藤君に兵藤さん。………あれ? 妹ってことは君達は双子なのかな?」

 

「いや、さっきも教室で聞かれたんだけど、俺達は義理の兄妹なんだ」

 

「なるほど、それで。さぁ、着いたよ」

 

木場と話しているうちに校舎に着いた。

いやーもう少しで学校で遭難するところだったぜ。

 

「ありがとな、木場。助かったよ。今度なんか奢らせてくれ」

 

「そんなに気にしなくてもいいよ、兵藤君。僕はこれから寄るところがあるから、また今度ね」

 

「おう。またな」

 

「ありがとうございました、木場さん」

 

俺達は木場に案内してもらい、ここで別れることになった。

木場の姿が完全に見えなくなったところで、俺は美羽に確認する。

 

「………気が付いたか?」

 

「うん。木場さん、人間じゃないよね。それに、この学園の中には何人か人間じゃない人がいるみたい」

 

「ああ。気配は上手く誤魔化してたけど明らかに人とは違う気配があった。ドライグ分かるか?」

 

俺はドライグに聞いてみることにした。

こっちの世界にも人外がいることは知っていたけど、実際に会ったことはなく、こっちの世界で会うのは今回が初めてだった。

ドライグなら何か知っているだろう。

 

『あれは悪魔だな』

 

「「悪魔?」」

 

俺と美羽はドライグに聞き返した。

 

『以前、話したことを覚えているか?』

 

ドライグに言われて俺は記憶を探った。

 

「確か、ドライグを封印した種族の一つだっけ?」

 

『そうだ。この世界には神話に語られる存在が実在している。悪魔もその一つで聖書に記される存在だ。かつて、神と天使、堕天使、悪魔、これら三者が大昔に戦争をしていたのは教えたな?』

 

「ああ。それで数を減らした三勢力は休戦したんだよな?」

 

『そうだ。その三勢力の内の一つが悪魔だ』

 

「悪魔って言うけど、木場さんってそんな悪そうな感じはしなかったよね? むしろ、優しい人だと思ったんだけど」

 

美羽の言うように木場から悪意なんて感じられなかったな。優しいやつだと俺も思う。

 

『まぁ、悪魔というのは一つの種族を指す言葉だからな。人間と同じように善人もいれば悪人もいるってことだ』

 

なるほどな、悪魔だからと言って必ずしも悪人ではないってことか。

木場が悪人でなくて良かったよ。種族は違ってもあいつとはこれから仲良くしていきたいしな。

俺がドライグの解説に安堵した時だった。

 

 

ぐぅぅぅぅぅぅぅ

 

 

美羽のお腹が盛大に鳴った。

美羽の顔を見ると耳まで真っ赤に染まっている。

 

「クスッ」

 

「笑うなんてひどいよ、お兄ちゃん!」

 

美羽はポカポカと俺を叩いて可愛く抗議してきた。

うん、やっぱり可愛いわ。

 

「ゴメンゴメン。俺も腹へったし、食堂行くか」

 

とりあえず、俺は美羽の頭を撫でて謝る。

こういうとき、頭を撫でてやると美羽は機嫌が良くなるんだ。

 

「うん!」

 

頭を撫でたことで美羽は機嫌を直してくれたみたいだ。

 

「早く行こうよ、お兄ちゃん!」

 

美羽は俺の腕を引っ張って走り出す。

そんなに腹減ってたのか?

 

「分かった分かった」

 

俺は美羽に引っ張られるまま食堂に向かった。

 

ちなみにだが美羽はこの後、定食を3つほど注文し全て完食した。

美羽の食べっぷりには食堂にいた全員が驚いたのは言うまでもない。

というより、俺も驚いていた。こんなことは初めてだ。

食堂のおばちゃんなんか旨そうに食べる美羽を見て、喜んでいたっけな。

 

 

 

 

それから一年間、俺達は平和に学生生活を送ることができた。

勉強して、学校行事に参加して、クラスの皆と共に過ごして。

それに、木場とも仲良くやれている。

俺も美羽も非常に充実した一年だったと思う。

 

 




これで、プロローグは終わりです。

次回から本編に入ります!


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第一章 旧校舎のディアボロス
1話 命を狙われます!!


今回から本編に入ります!!


 

時間が経つのって早いもので、俺は高校二年生になった。

そんな俺の学生生活はというと…………。

 

「おい、イッセー。そろそろ代わってくれよ」

 

「もうちょっと待ってくれ松田」

 

「ひとり一分の約束だぞ!」

 

はい、俺は松田と元浜の三人で女子の更衣室を覗いております。

 

うおぉぉ!

片瀬と鈴谷って良い胸してるのな!!

やっぱり、うちの生徒のレベルって高いな!

くぅぅぅ、ここに入学できて本当に良かった!

 

そんな風に女子の下着姿に興奮していると、女子達に動きがあった。

どうやら、バレたみたいだな。

残念だけど、ここが引き際か………。

 

「よし、松田。交代だ」

 

「よっしゃあ!」

 

俺は松田と場所を変わった後、元浜に合図を送った。

元浜も合図を確認して頷いた。

どうやら、こちらの意図は伝わったようだ。

喜ぶ松田を横目に俺は元浜とその場を後にした。

松田は覗きに集中してるのか俺達が去ったことに気が付いていない。

 

 

 

「…………イッセー」

 

「ああ、何事にも犠牲は付き物だ………。元浜、共に祈ってくれ。あいつの………松田の冥福を………!」

 

「ああ………ッ。あいつは良いやつだった………!」

 

「「俺達はお前のことを忘れない!」」

 

俺と元浜は共に天に祈りを捧げた。

次の瞬間―――――。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

後ろから断末魔にも似た声が聞こえた。

安らかに眠ってくれ松田よ。

 

アーメン。

 

 

 

 

「ちくしょう! 逃げるなら一声かけてくれても良いだろ!」

 

机を叩いて抗議する松田。

顔中に絆創膏とガーゼが貼られている。

どうやらあの後、剣道部員の女子、村山と片瀬に竹刀でボコボコにされたらしい。

松田が俺達も覗いていたことをチクったそうだが、俺達はその場にいなかったため聞き入れられなかったそうだ。

 

「まぁ、そんなに怒るなって。今度、新しく入手した紳士の円盤貸してやるからさ」

 

「うむ。俺も貸そう。今回のことはそれでチャラにしてくれ松田よ」

 

俺と元浜がそう言うと、松田も「まぁ、それなら」とおとなしく引き下がってくれた。

流石は我が同胞。

分かってるじゃないか。

俺達がそんなやりとりをしていると突然後ろから声をかけられた。

 

「また覗いてたの、お兄ちゃん?」

 

長い黒髪をなびかせた女子生徒。

一見、大人びた印象はあるものの、よく見ると顔はまだ幼さが残ってる。

そう、妹の美羽だ。

 

高校に入って二年目。

美羽はすごく大人っぽくなった気がする。

一年でこんなに変わるのかと俺も驚いているところだ。

 

「な、何のことかな~」

 

「とぼけてもダメ。ボクが気付かないとでも思ってるの?」

 

「うっ………」

 

確かに、美羽は気配とかにすごく敏感だからバレてるか………。

 

「あんまり、女の子が嫌がることしちゃダメだよ?」

 

うーん、妹に言われると中々、辛いものがあるな。

ここは俺も反省して、暫くは控えるか………。

 

松田と元浜が美羽を見て言う。

 

「それにしても美羽ちゃんはすごく綺麗になったな………」

 

「うむ。イッセーの妹にしておくにはもったいないくらいだ。現に男子からは高い人気があるからな。学園のアイドルとして余裕で上位に食い込んでいる」

 

確かに美羽は学園の男子生徒から人気がある。

誰に対しても優しく、頭も良い。

何より、美少女でおっぱいも大きい。

男子生徒からすれば憧れの的だったりする。

ただ、不思議なことに、今のところ男子から告白されているような素振はなかったと思う。

机や下駄箱にラブレターが入っていた、なんてこともなかったはずだし。

 

すると、

 

「イッセー、おまえ今、美羽ちゃんが告白されないことを不思議に思っただろ?」

 

「理由を知ってるのか?」

 

俺が聞き返すと元浜と松田はやれやれとため息をついた。

松田まで知ってるのかよ!?

すると、元浜が俺を指さして言ってきた。

 

「原因はおまえだよ、イッセー」

 

「え? マジで?」

 

俺なんかしたかな?

俺がエロエロだから?

いや、それは関係ないはずだ。

相手は男子なんだし………そうなると、余計に見当がつかねぇ。

 

「覚えてないか? 美羽ちゃんがガラの悪いやつらに絡まれた時のこと」

 

松田に言われて俺は記憶を辿る。

 

「あ、思い出した」

 

確か、去年の夏頃だったっけ?

美羽がクラスの女子と一緒に下校しているときに地元の不良集団にナンパされたことがあったんだ。

当然、美羽は断ったんだけど、その不良達がなかなかしつこくてな。

一緒にいた女子にまで手を出そうとしたんだ。

もう少しで美羽がキレて魔力を使いそうになったので、俺が間に入って不良達を止めたことがあったんだよ。

 

「あれって地元の新聞にも載っただろ。なんせ不良十数人を一人の男子学生が血祭りにしたんだからな」

 

「人聞きの悪いことはやめてくれよ、松田。まぁ、何人かは骨折して病院送りになったけど」

 

松田の言うとおりその事件は新聞にも載って地元の人の間では結構有名になったんだ。

当然、警察も来て不良達と一緒に俺も補導されたけど、美羽とその場にいた女子生徒が証言してくれたおかげで俺は何のお咎めも受けずに済んだ。

今思えば、もう少し騒ぎを抑える方法があったようでならない。

ただ、そのおかげで美羽が絡まれることはなくなったんだけど。

 

「それにしても、よく一人で相手できたな」

 

「ハハハ………。まぁ、鍛えてますから」

 

異世界で魔王を相手にしてました、なんて言えるわけないよな………。

 

「とにかく、そういうことだ、イッセー。美羽ちゃんに手を出せば怖い兄貴が出てくるってことで、男子どもは美羽ちゃんに告白できないでいるってわけだ」

 

マジか………。

そんな背景があったとは思ってもいなかったぜ。

まさか、俺の存在が美羽の恋路を邪魔してるとか!?

だったら、マジでへこむぞ、俺………。

 

「………なんか、ごめんな、美羽………」

 

「気にすることなんてないよ、お兄ちゃん。ボク、告白されても全部断るつもりだもん。………だって、美羽はお兄ちゃんが大好きだから!」

 

「…………」

 

あれ?

今、俺告白された?

いやいや、美羽はお兄ちゃん子だけど、まさかこんな人が大勢いるところでそんな大胆な発言はしないだろう。

よし!

もう一回言ってもらおう!

 

「美羽。悪いけど、もう一回言ってくれるか?」

 

すると美羽は顔を赤らめてモジモジしだした。

 

「え、え~と。もう一回? ………しかたないね………じゃあもう一回言うよ、お兄ちゃん」

 

「おう」

 

「ボクはお兄ちゃんが大好きです!」

 

固まる空気。

なんだろう、この気まずさは………。

いや、美羽に好きって言われて俺もうれしいけどね。

 

教室が静まり返ってもう十秒以上経った気がする。

そして、その静寂は突然破られた。

 

「「「「「えええええええええええええええええ!?」」」」」

 

クラス中の声が一つになった。

この感じ、一年ぶりだな!

 

この直後――――――。

 

「「「「「死ねえええええええええええええ!!!!! 兵藤ォォォォォォォォ!!!!!!!」」」」」

 

クラスだけでなく廊下にいた男子までもが俺に殴り掛かってくるのであった。

 

 

 

 

放課後。

 

「あ~、体中が痛い。明日絶対筋肉痛だな、これ。」

 

俺は一人、帰路についている。

松田と元浜は今日はバイト。美羽も今日はクラスの友達と一緒に帰っている。

美羽の状態は気を探って常にチェックしているから、何かあったらすぐに駆けつけることができる。

このことは美羽も了承済みだ。

 

美羽に親しい友達ができたのは兄として喜ばしいことだ。

これからも仲良くしてほしいと思う。

………前に元浜達にも言われたけど、俺っていつからこんなに兄バカになったんだ?

 

と、ここで俺の携帯が鳴る。

この着信音は相手は母さんからだ。

 

「もしもし、母さん? どうしたんだ?」

 

『あ、イッセー。悪いんだけど卵買ってきてくれないかしら? 買うの忘れちゃって』

 

「了解。卵だけでいいのか?」

 

『そうそう。じゃお願いね、イッセー』

 

「へーい」

 

卵ね。スーパーに行くんだったら松田がバイトしてるところに行くか。

友人割引で安くしてもらおうかね。

まぁ、ないだろうけど。

 

俺がスーパーに行こうと振り返ったところで、目の前には見慣れない制服を着た女子生徒がいた。

長い黒髪をした中々の美人だ。

彼女はじっと俺を見ていて、俺はそんな彼女に対して少し警戒を強めた。

いつもの俺なら一般人に警戒なんてしない。

ただ、それは一般(・・)の人だったらの話だ。

彼女からは人間とは違う、人外の気配が感じられた。

木場から感じられるものとは違うから、悪魔ではないみたいだけど………。

 

それに彼女を警戒するもう一つの理由として、彼女はさっきから俺のことをつけていた。

俺を狙う何者かなのか。

もし、そうだとしたら、俺の何が目的なのか。

とりあえず、用件を聞いてみるか…………。

 

「俺に何か用かな?」

 

すると、彼女はモジモジとしながら俺に尋ねてきた。

 

「え、えっと、駒王学園の兵藤一誠君ですよね?」

 

「そうだけど。どうしたの?」

 

「私、天野夕麻といいます。そ、それで、あ、あの…………」

 

なんかすごいテンパっているように見えるけどどうしたんだろう?

すると、彼女から出た言葉は俺の予想外のものだった。

 

「私と………付き合ってください!」

 

「…………」

 

思いもしなかった言葉に少し思考が停止する。

 

マジですか。

一日に二回も告白されたのは初めてだよ。

美羽のはカウントしていいのか分からないけどね。

俺が心の中で一人盛り上がってるとドライグが話しかけてきた。

 

『相棒、盛り上がっているところ悪いんだが、この娘は堕天使だ』

 

堕天使?

堕天使って前に言ってたドライグを封印した種族の一つだったよな?

 

『そうだ。欲を持ち、そしてその欲に従った結果、天より地に堕とされた天使のなれの果てだ』

 

なるほどな。

それで、その堕天使が俺に何の用があるんだよ?

 

『大方、相棒から神器の気配を感じとったのだろう。三大勢力は他の神話と比べて神器に最も関心のある奴らだ。神器を持つ人間を自分の勢力に引き込んだり、…………時にはその人間を殺して神器だけを奪うこともある』

 

殺す!?

俺、殺されちゃうの!?

この美少女がそんな物騒なことをする子だと!?

 

『相棒を殺せる奴なんて早々現れまい。見たところこの堕天使からはそこまでの力は感じられんからな』

 

そりゃそうだけど。

自分で言うのもなんだが、俺を殺せる奴は早々現れないだろう。

 

ただ狙いが気になるし、今後のこともある。

ちょっと探ってみるか。

 

『どうするつもりだ?』

 

告白を受けるんだよ。

しばらく付き合ったら何か分かるかもしれないしな。

俺はドライグとの会話を止めて彼女―――――天野夕麻と向き合った。

 

「もちろん、オーケーだよ。よろしくな、夕麻ちゃん」

 

「やったぁ! ありがとう、イッセー君!」

 

俺の答えに嬉しそうにはしゃぐ夕麻ちゃん。

すごく嬉しそうだ…………と、普通の人が見れば誰だってそう思うだろう。

 

だけど、俺は彼女の眼の奥に悲しみの表情があったことを見逃さなかった。

作り物の笑顔、どこか辛そうな表情だ。

俺はそれがすごく気になった。

一体、彼女に何があったのか………。

 

 

 

 

今日は土曜日というわけで学校は休みだ。

そして今日は夕麻ちゃんとデートの約束をしている。

美羽は自分も行くとぐずっていたけど事情を話したら納得してくれた。

まぁ、それが一番大変だったんだけど………。

 

それはともかく今、俺は待ち合わせ場所の駅前に来ている。

時計の針は待ち合わせ時間の十分前を指している。

いくら堕天使とはいえ女の子を待たせるわけにはいかないからな。

流石、俺!

紳士だぜ!

 

『自分で言うか』

 

うるせぇ!

そういうことにしておいてくれよ!

 

『どうせ、下心満載だろう』

 

女の子をエロい目で見て何が悪い!

夕麻ちゃん、美少女だしスタイル良いんだもの!

そりゃあ、そういう気持ちも持ってしまいますよ!

 

ドライグと話していると向こうから夕麻ちゃんが走ってきた。

俺の前に着いた夕麻ちゃんは手をゴメンのポーズにして言ってくる。

 

「イッセー君! ごめんなさい、待たせちゃった?」

 

「いや、俺もさっききたところだよ」

 

「そっか、良かった。少し早めに来たのだけど、イッセー君が先にいたから待たせちゃったかと思ったわ」

 

「気にしなくていいよ。女の子を待つのは男子の役目だしね。じゃあ、早速だけど行こうか」

 

「うん!」

 

というわけで、俺と夕麻ちゃんは街へと向かった。

 

 

 

 

 

夕麻ちゃんとは映画館に行き、ゲーセンに行き、おしゃれなカフェに行ったりして、すごく楽しい時間を過ごせた。

夕麻ちゃんも本当に楽しんでくれたみたいだったのだが………。

 

―――――夕方。

俺たちは人気のない公園に来ている。

普通のカップルだったら、ここで一つキスでもするんだろうな。

なんてことを思ってると俺の前を歩いていた夕麻ちゃんが振り返って俺の方を見てきた。

 

「イッセー君、今日は楽しかったわ」

 

「俺もだよ。すごく楽しかった」

 

「………ねぇ、イッセー君。私のお願い………聞いてくれないかな?」

 

「………言ってみてよ」

 

公園に強い風が吹く。

ザワザワと木々が不気味に音を立てる。

 

「死んで………くれないかな?」

 

夕麻ちゃんはそう言うと背中から黒い翼をだした。服も先ほどまでのかわいらしい服装から黒い服装に変わっている。

 

「やっぱり堕天使だったんだね」

 

俺が尋ねると夕麻ちゃんはすごく驚いていた。

そして俯きながら俺に聞いてきた。

 

「………気づいていたのね?」

 

「………まぁね」

 

「私の誘いに乗ったのは目的を探るため?」

 

「それもあったよ。だけどそれだけじゃない。俺に告白したときの夕麻ちゃん。一見、喜んでいたけど、どこか悲しそうだったから、それが気になったんだ」

 

「そう………なんだ………」

 

そう呟くと夕麻ちゃんは顔を上げた。

彼女は―――――涙を流していた。

 

夕麻ちゃんは手に光が集まると、その光は槍を生み出した。

そして、

 

「ゴメン…………なさいっ!」

 

夕麻ちゃんは泣きながら、俺にその槍を投げつけてきた。

その槍はまっすぐ、俺の心臓めがけて向かってくる。

動かなければ光の槍は心臓を貫き、俺の命を絶ってしまうだろう。

だけど―――――

 

「………」

 

俺は無言で、槍の穂先を掴み、止めた。

そして、手に力を籠め、槍を握りつぶす。

破壊された槍は光の粒子となって宙へ消えていく。

 

まさか、人間が堕天使の攻撃を防ぐとは思わなかったのだろう。

夕麻ちゃんは目を見開いていた。

 

「そんな………っ!?」

 

「ゴメンな、夕麻ちゃん。夕麻ちゃんにも事情があるのかもしれない。だけど、俺もこんな所で死ぬわけにはいかないんだ」

 

俺には父さん、母さん、そして美羽。

俺の帰りを待つ人がいる。

守らなきゃいけないものがある。

俺は必ず守るって誓ったからな。

だから、こんなところで死んでなんかいられない。

 

「なぁ、夕麻ちゃん。教えてくれないか? 俺を狙った理由を」

 

「それは………」

 

夕麻ちゃんが口を開いた―――――その時だった。

 

「たかだか人間一匹ごとき始末できんのか? 使えん奴だな」

 

第三者の声が夕麻ちゃんの言葉を遮った。

声は俺たちの真上から降ってきたものであり、見上げるとそこには黒い翼を広げた中年の男。

 

夕麻ちゃんが声を漏らす。

 

「ドーナシーク様………!? どうして、ここに………!?」

 

「ふん。おまえがグズグズしているから私自ら来てやったのだ。ありがたく思うのだな」

 

ドーナシークと呼ばれた堕天使。

ずいぶんと偉そうな口調で夕麻ちゃんに話しかけているが、夕麻ちゃんの上司か?

 

ドーナシークが俺を見下ろして言う。

 

「そこの人間。貴様はその身に神器を宿している。貴様は我らの計画の邪魔になりかねん。よってここで死んでもらう」

 

そう言うと、ドーナシークはいきなり光の槍を投げつけてきやがった。

いきなりかよ!

 

「そんなもんで俺が死ぬかよ」

 

俺は拳に気を纏わせて、降ってきた槍を殴りつけた。

拳と衝突した光の槍は容易に砕け散り、霧散していく。

 

このことにドーナシークは驚愕の声を漏らす。

 

「馬鹿な………人間ごときが私の攻撃を破っただと………!?」

 

「俺を殺したいんだったら、もっと鍛えてからくるんだな。あんたじゃ、俺は殺せねーよ」

 

「………っ! 人間ごときが調子に乗るなよ!」

 

ドーナシークと一触即発の空気が漂う。

だが、こちらの実力を知ってか、ドーナシークは警戒を強めるだけで、攻撃してくる気配はない。

 

そんな中、俺の後方に紅い光が現れる。

振り返れば、光は紅の魔法陣を描いていて、

 

「ちっ………悪魔か。ここで奴らと争うわけにはいかん。引き上げるぞレイナーレ」

 

「は、はい!」

 

魔法陣を見た二人は急いでこの場から羽ばたいていった。

 

こんな時になんだけど、夕麻ちゃんの本当の名前はレイナーレっていうんだな。

レイナーレ、今度会った時は君を――――――。

 

と、俺もさっさとここを離れた方がよさそうだな。

ここで面倒ごとを増やすのは勘弁したい。

 

急いでその場から去ることにした俺。

しかし、この時、俺は気づかなかった。

財布を落としたことに。

 

 

 

 

[リアス side]

 

私の名前はリアス・グレモリー。

この駒王町を治める上級悪魔、元72柱グレモリー家の次期当主よ。

 

私は今、堕天使の気配を感じたため朱乃を連れて反応があった場所に転移してきたの。

堕天使は私たち悪魔と対立関係。その堕天使に私の領域で好き勝手にさせるわけにはいかないわ。

そして、転移してきたのは駒王学園からそれほど遠くない公園。

 

朱乃が言ってくる。

 

「堕天使は既に去ったようですわ」

 

「そのようね。ただ、感じた気配からすると誰かと戦っていたようなのだけど………。どうやら、その者も去ったようね」

 

堕天使の気配は既にない。

出来れば捕縛したかったのだけど、一歩遅かったようね。

 

「あら?」

 

「どうしたの、朱乃?」

 

「いえ、ここにお財布が」

 

「財布?」

 

堕天使と戦った者が落としたのかしら?

まぁ、公園だし偶然ということも考えられるのだけど…………。

 

「このお財布、少し熱を持ってますわね」

 

「つまり、最近落とした物ってこと?」

 

「そう考えられますわ」

 

堕天使と戦った者が落としたのかしら?

 

「持ち主は分かるかしら? 何か分かるかもしれないわ。それに、今頃探しているかもしれないし」

 

「そうですわね。あら? この学生証は………駒王学園の生徒の物ですわ」

 

「うちの生徒? 名前は?」

 

「兵藤…………兵藤一誠君の物ですわ」

 

「兵藤、一誠…………」

 

その男子生徒が堕天使と?

考えすぎかしら?

 

とにかく、明日にでも部室に来てもらおうかしら?

一応、話は聞いておきたいし。

それに、この財布も返してあげないとね。

 

私と朱乃はその財布を持って部室に戻ることにした。

 

 

 

[リアス side out]

 




本編最初の話はこんなかんじです!

個人的にレイナーレは好きなので、心の綺麗なレイナーレにしました!


――――追記――――

皆さんのご意見をいただき、悪魔の駒のくだりは消しました。

ご都合主義が過ぎましたね

また、アドバイス待ってます!


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2話 悪魔と邂逅します!!

前話の悪魔の駒のくだりなんですけど、あまりにご都合主義が過ぎると感じたので丸々削除しました。
それ以外は変えていません。

それでは第1章2話目をどうぞ!


 

「おい、イッセー。なんで朝っぱらからうなだれているんだ?」

 

どうも、イッセーです。

松田が言うとおり、俺は机に突っ伏しています。

理由はというと、昨日どっかで財布を無くしたんだ。

寝る前に気付いて、今日も朝早くから探したんだけど見つからなかったんだよね。

あの財布、去年の誕生日の時に美羽がプレゼントしてくれたやつですごく愛用してたんだけどな………。

 

あ、そうそう、昨日の堕天使のことは美羽と父さん、母さんの三人には話したよ。

心配させるのも正直どうかと思ったけど、ある程度情報を持っておく必要はあると思ったんだ。

ドライグによると神器を持っている本人だけじゃなく、その家族も殺されたケースもあるみたいだしな。

 

俺はうなだれながら松田に訊く。

 

「なぁ、松田。俺の財布知らないか?」

 

「いや、知らんが?」

 

だよなぁ。

仕方ない、帰りに交番に寄るか。

もしかしたら親切な人が届けてくれているかもしれない。

そうであってくれ。

頼むから。

三百円あげるから。

 

そんなことを考えていると教室が賑わいだ。

女子が騒いでる………というより、黄色い歓声が聞こえてきて、

 

「き、木場キュン!?」

 

「どうしたの!?」

 

机に突っ伏している俺からは見えてないけど、どうやら木場が来たようだ。

つーか、キュンって…………。

 

「えーと、兵藤君はいるかな?」

 

女子にそう訊ねる木場。

どうやら俺に用があるらしい。

あいつがこうして俺を訪ねてくるのは珍しいな。

 

「よう、木場。俺ならいるぞ」

 

俺が声をかけると木場は気付いたようで、俺のところに来た。

 

「どうしたんだ? 珍しいな」

 

「うん。実は僕が所属している部活の部長が君に用があるらしくてね。放課後、部室に来てほしいそうだよ」

 

「確か、木場が所属してるのってオカルト研究部だったよな? ということはリアス先輩が?」

 

「そうなんだ。なんでも君の財布を拾ったとかで」

 

「―――――ッ!」

 

木場の情報に俺は机から飛び起き、木場の肩を掴んだ。

 

「マジでか!?」

 

「う、うん。それで、財布を取りに来てほしいっていうのと、君に少し聞きたいことがあるとかで…………」

 

リアス先輩が俺に話?

俺ってリアス先輩と面識あったかな?

 

ドライグが言ってくる。

 

『大方、昨日の堕天使のことだろう』

 

あーなるほど。

ということは俺が財布を落としたのは公園か。

多分、俺が堕天使と戦ったことに気付いてるんだろうなぁ。

 

「了解。じゃあ、放課後に案内してくれ」

 

「分かったよ。じゃあ、放課後迎えに来るね」

 

そう言うと木場は帰って行った。

面倒なことになったな。

まぁ、財布は帰ってきそうだし良しとするか。

 

とりあえず、俺は放課後に木場が迎えに来るのを待つことにした。

 

 

 

 

放課後。

教室で待っていると木場がやって来た。

 

「やぁ、兵藤君。迎えに来たよ」

 

木場ァ!

それは不味いだろう!

俺がそう思った瞬間、クラスにいた女子が沸いた。

 

「キタアァァァァァ!!!!」

 

「木場君×兵藤君!!」

 

「何言ってるのよ! ここは兵藤君×木場君よ!!」

 

「いやいや、ここは~」

 

どっちでもいいわ!

いや、やっぱりよくねぇ!

そもそも俺と木場はそんな関係じゃねぇし!

 

「木場ァ! さっさと行くぞ!」

 

「え? どうかしたのかい?」

 

「分からねぇのか!? この空間に俺たちが居続けることの危険性が!」

 

早くこの場から逃げないと腐女子どもの餌食になるぞ!

俺は木場の襟首を掴んでさっさと教室を出た。

手を掴むとあらぬ噂を立てられそうだしな…………。

 

 

 

 

俺は木場に案内されて学園敷地内にある森を歩いている。

 

「オカルト研究部の部室って旧校舎だっけ?」

 

「そうだよ。ここを抜けたところにあるんだ」

 

しばらく歩くと白い壁の建物―――――旧校舎が見えてきた。

 

旧校舎に入った後もそのまま木場について行くと、とある部屋に辿り着く。

入口のドアには『オカルト研究部』と書かれたプレート。

 

「部長、連れてきました」

 

扉越しに木場が言うと中から声が聞こえた。

 

「入ってちょうだい」

 

おお、今のはリアス先輩の声じゃないか!

実はなんだかんだで、ここに来るのは楽しみにしてたんだよな。

なんて言ったってリアス先輩と言えば学園一の美女!

おまけにリアス先輩と一緒に二大お姉さまとして知られている姫島先輩や学園のマスコット的な存在の塔城小猫ちゃんも所属しているという、美女美少女揃いの部活!

皆、悪魔のようだけどそんなものは関係ない!

まさに夢のようだぜ!

 

その声を確認すると扉を開け、俺と木場は中に入った。

 

「兵藤君はここに座っておいてね」

 

木場にそう言われ俺はソファーに座る。

部屋の中を見渡すと至る所にろうそくが置かれ、壁や床、天井にまで様々な魔法陣が描かれていて、中々に怪しげな空間だ。

オカルト研究部を名乗るだけはある。

 

部室内を見渡していると、俺の前にティーカップが置かれた。

 

「どうぞ、お茶ですわ」

 

そう言って優しく微笑むのは姫島朱乃先輩だ。

黒髪のポニーテールが特徴的な大和撫子美少女!

やっぱり美人だし、なにより巨乳………いや、爆乳!

揺れるおっぱいについ目がいってしまうぜ!

 

「ありがとうございます」

 

俺はお礼を言ってカップに口をつける。

 

「このお茶、すごく美味しいですよ、姫島先輩」

 

「あらあら、お口に合って何よりですわ」

 

「あれ? そういえばリアス先輩は?」

 

肝心のリアス先輩がいない。

気配は感じるけど…………。

 

木場は壁にもたれかかっている。

姫島先輩は俺の目の前。

塔城小猫ちゃんは俺の隣で羊羹を食べている………あ、目が合った。

 

「………あげませんよ」

 

「………とらないよ」

 

うーん、物静かな娘だな。

 

「部長は今、シャワーを浴びてますわ」

 

「シャワー? あ、さっきから聞こえるこの音ってシャワーの」

 

…………ということは、今リアス先輩は全裸!

極上の女体がすぐそこに!

くはぁ~、覗きたい!

今すぐにでも覗きたい!

 

そんなことするわけにもいかないので妄想の中で楽しもうとした時―――――バスタオルを巻いたリアス先輩が出てきた!

しかも、俺の目の前で着替えだしたよ!

 

マジですか!

良いんですか、リアス先輩!?

俺、思いっきり見ちゃってますけど!?

よし、とりあえず俺がいまするべきことは、この光景の脳内保存だ!

ちなみに、木場は見ないように後ろを向いていた。

 

「………先輩、目つきがいやらしいです」

 

小猫ちゃんが睨んでくる!

ゴメンなさい!

でもね、リアス先輩みたいな美少女の生着替えだもの、しょうがないと思うんだ!

 

「呼び出してしまって、ごめんなさいね。はじめまして。私の名前はリアス・グレモリー。兵藤一誠君、これってあなたの財布よね?」

 

「あ、こちらこそはじめまして。2年の兵藤一誠です。いやぁ、本当に助かりました。滅茶苦茶探してたもんで………。本当にありがとうございます」

 

「いいのよ。それでね、祐斗から伝わっていると思うのだけど………」

 

「そういえば、俺に話があるんですよね?」

 

「そうなの。…………単刀直入に聞くわ。あなた、昨日の夕方に堕天使と戦ったでしょう?」

 

やっぱり、来たかこの話題。

正直に答えるか、はぐらかすか………。

 

俺は一拍置いた後、聞き返す。

 

「なんで、そう思うんですか?」

 

「そうね。まずは私達のことを言っておく必要があるわね。実は………私達は全員、悪魔なのよ」

 

リアス先輩はそう言うと―――――背中から翼を広げた。

黒い蝙蝠のような翼。

それはリアス先輩だけじゃない。

木場も姫島先輩も隣にいる小猫ちゃんもだ。

 

リアス先輩が言う。

 

「私の知り合いに物の記憶を見ることができる人がいるのだけど、その人に見てもらったのよ。ごめんなさいね。プライバシーの侵害とも思ったのだけど、悪魔の仕事上仕方がなかったのよ」

 

「いえ、それはいいんですけど………」

 

物の記憶を見る、か。

そうなると、しらばっくれるのは無理か。

 

リアス先輩は真剣な表情で続ける。

 

「それであなたが堕天使と交戦しているのが分かったの。………兵藤一誠君。正直に答えてくれないかしら? 昨日のことを」

 

これは本当に正直に話すしかなさそうだ。

現場に落ちていた俺の財布。

しかも、物の記憶を探る能力とやらで、財布の記憶を見られている。

どうあがいても、俺が無関係と言い張るのは無理だ。

 

俺は小さくため息をついて、昨日のことを話すことにした。

 

「リアス先輩の言うとおりです。………俺は昨日の夕方、堕天使に襲われて戦いました」

 

「そう。堕天使の狙いは分かるかしら?」

 

「俺が神器を持ってるから殺すって言ってましたよ。よく分からないけど計画の邪魔になるとかで」

 

「っ! あなた神器を持っているのね?」

 

「ええ、まぁ」

 

「見せてもらうことはできないかしら?」

 

見せろっていわれてもなぁ………。

ドライグはどう思う?

 

『まぁ、問題ないだろう。襲われても相棒なら切り抜けられるだろうしな』

 

それもそうだな。

分かった。

 

「来い、赤龍帝の籠手」

 

俺は左腕に籠手を展開する。

これにはリアス先輩達も驚いていて、

 

「赤龍帝の籠手! 二天龍の一角、赤い竜を封印した十三種の神滅具の一つ…………。まさか、こんなに近くに所有者がいたなんて…………!」

 

木場達も出現した赤龍帝の籠手を見て、息を呑み、目を見開いていた。

 

この反応を見るに、赤龍帝の籠手ってやっぱりすごいんだな。

流石は十三種しかない神滅具ってところなのか?

 

『当然だ。極めれば神や魔王をも超えることが可能なのだからな。まぁ、相棒は異世界の魔王を倒してしまったが…………』

 

でも、シリウスってこっちの世界だとどれくらい強いんだ?

 

『恐らくだが、こちらの魔王とほぼ同等………いや、それ以上かもしれん。実力というのは単純な力だけで推し量ることは出来ないから、正確な比較は出来んが。なにより、今の魔王の力を俺は知らん』

 

そういえば、大昔の戦争で四大魔王が全員死んだって言ってたな。

それで、今の魔王ってのは生き残った悪魔の中から選ばれたんだっけ?

そんな魔王達とシリウスは同レベル以上ってことね。

まぁ、そのあたりはまた今度にして、今は話を戻そう。

 

「そういうことで、俺が今代の赤龍帝なんですよ。堕天使には神器を見せてないんで気付かれていないはずですけど」

 

「堕天使相手に素の状態で戦ったというの!? あなた、何者なの………?」

 

「何者と言われましても………」

 

異世界で勇者って呼ばれてました、なんてこと言えるわけないしな。

今代の赤龍帝じゃダメですか?

 

どう答えるか頭を悩ませる俺にリアス先輩が言ってくる。

 

「ねぇ、あなた良かったら私の眷属になってみないかしら?」

 

突然、リアス先輩が俺に提案してきたんだけど………。

眷属になるってどういうことだ?

ドライグからもそんな話は聞いてないぞ。

 

「えっと、リアス先輩。それってどういうことですか?」

 

俺が尋ねると、リアス先輩は懐から赤いチェスの駒を取り出して説明してくれた。

 

「眷属になるというのはこのチェスの駒―――――悪魔の駒(イーヴィルピース)を使って悪魔に転生することよ。私の下僕として」

 

「それって、何かメリットはあるんですか? あと、デメリットも」

 

「もちろんあるわ。まずメリットは――――」

 

リアス先輩の説明をまとめるとこうだ。

まずメリットだが、悪魔になることで音声言語限定で世界中のどこでも俺の言葉が通じるようになる。また、身体能力が上がり夜が近づくにつれて五感が鋭敏化するとのこと。

そして魔力。頭の中で思い浮かべたイメージを現実に起こすことができるようになるらしい。こちらはその者の力量しだいだそうだ。

あとは寿命がかなり延びるらしい。なんでも、1万年生きるとか。

持て余しそうだな…………。

 

次にデメリットだ。

日光を含めた光や聖書・聖水・十字架などの聖なるモノに対するダメージがかなり増えること。神社や教会に行くだけで頭痛がするらしい。

あとは、出生率が極端に下がることくらいか。

後者はともかく、前者は結構大きいな。天使や堕天使の光をくらえば大ダメージらしいし。

まぁ、当たらなければいいんだけど。

 

「――――っていう感じかしらね。それで話を聞いてみてどうかしら?」

 

そうだな。メリットとデメリットは分かった。

だけど、俺はそれ以上に気になることがあった。

 

「質問いいですか?」

 

「ええ。なんでも聞いてちょうだい」

 

「仮に俺がリアス先輩の眷属になったとして、俺の家族の保護とかってしてもらえるんですか? 俺の籠手に宿るドラゴンに聞いたんですけど、神器を持っている本人だけじゃなく、その家族も殺されたケースがあるって。だから、そのあたりはどうなのかなと…………」

 

「それは当然行うわ。私は眷属のことを家族だと思ってるの。眷属の家族は私の家族。家族のことは絶対に守って見せるわ」

 

それを聞いて安心した。

確かに俺は異世界で修行をして強くなった。

だけど、家族を絶対に守り切れるかというと、そんな自信は俺にはない。

いくら強くなったとしても俺一人だとやっぱり限界はある。

異世界で戦ったときだってアリス達の助けがなかったらどうにもならない場面も多かったしな。

だから、俺は仲間がいることの大切さがよく分かる。

 

ドライグ、この件のことどう思う?

意見を聞きたい。

 

『後ろ盾を得るという意味ではそう悪い話ではないと俺は思う。そもそも、相棒はドラゴンの力を宿す以上、大きな力を引き寄せる運命にある。先日の堕天使も良い例だ。こちらの世界に帰還してからは平穏が続いてきたが、今後は何かしらの事件に巻き込まれることもあるだろう』

 

ドラゴンは力を引き寄せる。

強大な力はより強大な力を―――――。

それが赤龍帝たる俺の宿命。

 

もし、その宿命に父さん、母さん、そして美羽が巻き込まれてしまうなら………。

ドライグが言うように後ろ盾を得ることで、協力者を作るのは悪くない考えなのかもしれない。

 

『それに、グレモリーといえば悪魔の中でも情愛が深いことで有名だ。他の悪魔や種族に属するよりもいいのではないか?』

 

ドライグの意見を聞いているとリアス先輩が俺に言ってきた。

 

「ねぇ、兵藤君。イッセーって呼んでいいかしら?」

 

「いいですよ。友達からはそう呼ばれてますし、その方が気軽なんで」

 

「そう。じゃあ、イッセー。あのね、この誘いを無理に受ける必要は無いのよ。このことはその場ですぐに返事が出せるほど軽いことではないもの。上級悪魔の眷属になる以上、こちらの事情に付き合ってもらわなけらばならなくなる。あなたも戦いに赴く必要だって出てくるわ。………たった一度だけの人生なんだから、よく考えてみてほしいの。あ、言っておくけど眷属にならなかったからと言ってあなたの家族を保護しない、なんてことはないから安心していいわ。この町の住民を守ることは私の仕事ですもの」

 

リアス先輩は真直ぐな目で俺を見て言ってくれた。

その言葉に嘘はないと思う。

すべてが本心で、俺のことを本気で想って言ってくれていることが伝わってくる。

 

悪魔に転生する以上、悪魔の事情やルールに従わなければならなくなるのだろう。

リアス先輩の話だと戦いに駆り出されることもあるようだ。

でも、俺が戦うことで守れるのなら―――――。

それでも、俺は………。

 

「そうですね。お言葉に甘えて、もう少しよく考えてみます」

 

そう言うとリアス先輩は微笑んだ。

 

「ええ。分かったわ。よく考えてみて」

 

話が終わり、そろそろ帰ろうかと思った時だった。

リアス先輩が何か思いついたように言ってきた。

 

「そうだわ。ねぇ、イッセー。あなた、オカルト研究部に入部してみない?」

 

「入部? 俺が、オカルト研究部に、ですか?」

 

「そう、入部。せっかく知り合えたんですもの。悪魔とかそういうのは関係なしに、この学園に通う生徒として」

 

なるほど、確かにそれは良い考えなのかもしれない。

悪魔とか転生とか関係なしに、生徒として部活に参加する。

俺も時に部活に入っているわけでもないし、特に問題はない。

それに何より、美少女軍団と称されるオカルト研究部に入部できるとか幸運以外の何物でもない。

ただ、

 

「………気になっていたんですけど、この部活って何をしているんですか?」

 

「基本的にはUMAのような未確認生物について調べたりして、その調査結果を展示して報告するの。実際に河童のところに行って取材したり、ネッシーを調べに現地に行ったりとかもしているわ。暇な日はお茶やお菓子を楽しんでいるの」

 

河童に取材!? 

ネッシー調べに現地見学!?

なにそれ。

スゲェ楽しそうなんですけど!

 

「そうですね。それじゃあ、せっかくのお誘いですし、オカルト研究部に入ろうと思います」

 

「じゃあ、この入部届にサインして今度持ってきてくれる?」

 

俺は手渡された入部届を鞄にしまった。

 

時計を見るともう午後の7時を過ぎてる。

そろそろ帰らないと母さんに怒られるな。

すると、俺の携帯が鳴った。

 

ゲッ、母さんだ………。

 

「も、もしもし………」

 

『イッセー! こんな時間まで何をしているの!?』

 

「ち、ちょっと学校で用事が………」

 

『学校? 学校にいるのね? 遅くなるんだったら連絡ぐらいしなさい』

 

「はい………。以後気を付けます………」

 

俺は電話を切ってポケットに携帯をしまい、苦笑しながら言った。

 

「すいません、母さんが怒ってるんでそろそろ帰ります………」

 

「そうね、もうこんな時間だもの。私達も解散しましょう。………イッセー、眷属になる話、よく考えて結論を出すのよ?」

 

「はい」

 

リアス先輩に念を押され、俺はそれだけ返すと部室を後にした。

 

 



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3話 決意します!!

部長に勧誘を受けてから一週間が経った。

俺は眷属にはまだなっていないけど、オカルト研究部の部員にはなっている。

あ、そうそう。部活に所属したことで、リアス先輩からは先輩と呼ばず、部長と呼ぶように言われたんだ。

そこにすごいこだわりがあるみたいだ。

俺も問題ないので部長って呼んでいるけどね。

 

この間、魔獣使いの取材で三年生の安倍清芽先輩という人のところに行ったんだ。

安倍先輩は部長たちのことは知っているらしく、駒王学園には安倍先輩以外にも特殊な能力を持った人間がいるらしい。

それでその時は安倍先輩が従えている鳥人、人魚、雪女についても取材したんだ。

たしか神戸出身の名古屋コーチンの鳥人で名前が高橋輝空(スカイ)だったのが衝撃だったよ。

安倍先輩曰く、高橋さんの先祖が元々イースター島に住んでいたけど日本に帰化したらしい。

「国も種族も名前もバラバラじゃん!」ってツッコんだのをよく覚えているよ。

あと、衝撃だったのが人魚がマグロに人間の脚が生えたクリーチャーだったり、雪女がただのメスゴリラだったことだ。

俺の中の人魚と雪女のイメージを粉々に破壊された瞬間だった………。

まぁ、取材自体は楽しかったよ。

 

家族のみんなには俺が部長から勧誘されたことはもう話した。

悪魔って言ったら少し驚くと思ったけど全く驚いていなかったよ。

父さんと母さん曰く、

 

「堕天使の次は悪魔か。もう慣れたよ」

 

「そうねぇ。日頃からドライグ君とも話してるし、今さらよねぇ」

 

とのことだ。

 

どうやら、もう人外や超常の存在には慣れたそうだ。

う~ん、パニックになったり、中二病を疑われたりするよりははるかにマシだけど、こうも慣れられると複雑な気分だ。

隣に座っている美羽も苦笑いを浮かべていたのを覚えているよ。

 

とにかく、俺たちが置かれている現状、部長の眷属になることのメリット・デメリット、そして俺とドライグが出した結論を話した。

父さんたちは戸惑っていたけれど、俺の負担を減らすことができるなら、と了承してくれた。

部長は眷属にならなくても守ると言ってくれたけど、部長の眷属になった方が情報の伝達や連携も取りやすく、より確実に守ることができるだろう。これも俺とドライグが出した結論だ。

 

………ただ、俺が不安だったのは、悪魔になった時に家族に受け入れてもらえるか、ということだった。

家族のことを疑っているわけじゃないけど、やっぱり不安だったんだ。

だけど、父さんはそんな俺の考えを聞いて、

 

 

「どこの世界に子供を受け入れない親がいる? たとえ、おまえが悪魔になり、俺たちと全く違う存在になったとしても、おまえは俺たちの息子だ。スケベでバカだが、心の優しい自慢の息子、兵藤一誠だ」

 

 

と言ってくれた。

母さんや美羽も同じことを言ってくれたよ。

嬉しかった。

たとえ俺が変わってしまっても家族だと言ってくれたことが。

 

一週間、俺はこのオカルト研究部で部長たちと触れ合い、そして決断した。

 

「部長、話があるんですけど………」

 

「どうしたの、イッセー? そんな真剣な顔をして」

 

「決断できました。………俺、部長の眷属になります」

 

そう言うとさっきまで笑顔だった部長は表情を真剣なものに変えた。

 

「イッセー。それは真剣に考えてのことなのね? 分かっているとは思うけど、一度転生するともう二度と人間には戻れないのよ?」

 

「分かってますよ、部長。だけど、大丈夫です。たとえ違う種族になったとしても俺を受け入れる。俺の家族はそう言ってくれましたから」

 

「あなたのご家族に話したのね………。もしかして、あなたの神器のことやこの間の堕天使のことも?」

 

「ええ。そのことは家族の全員が知っています。大丈夫ですよ、うちの家族はみんな口が堅いですから」

 

「そう。………最後にもう一度だけ確認するわ。本当に悪魔に転生しても良いのね?」

 

リアス先輩は最後にもう一度俺に尋ねてくる。

本当にこれでいいのか、と。

だけど、俺の答えは決まっている。

 

「はい。俺はあなたの眷属になります」

 

「わかったわ」

 

こうして、俺が悪魔に転生する儀式が取り行われることになった。

 

 

 

 

部長は赤いチェスの駒を取り出した。

―――――兵士の駒だ。

 

「今からこの悪魔の駒を使ってあなたを転生させるわ。準備はいいかしら、イッセー?」

 

「いつでも大丈夫ですよ」

 

「じゃあ、今からイッセーを転生させるわ。イッセー私の前に立ってちょうだい」

 

俺は部長に指示され、部長の正面に立つ。

それを確認すると、部長は転生させる言葉を口に出す。

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、兵藤一誠よ。我が下僕となるため、悪魔と成れ。汝、我が『兵士』として転生せよ!」

 

駒が紅い光を発する。

そして―――――

 

何も起こらなかった。

 

あれ?

これで終わり?

俺の体に何か変化が起こった様子はないんだけど………。

 

「部長、これって転生できたんですか? 特に変化を感じられないんですけど」

 

尋ねると、部長は感心したように俺に言った。

 

「どうやら、あなたは兵士の駒一つじゃ転生できないようね。これはあなたの実力が高い証拠よ。今度は二つ使ってやってみましょう」

 

へぇ、人によっては複数の駒を消費するって仕組みなのか。

 

部長は二つの駒を使ってもう一度儀式を行う。

 

 

………変化がない。

 

 

三つ目

 

 

………変化なし。

 

 

四つ目

 

 

………やっぱり変化がない。

 

 

五つ目

 

 

………変化なし。

部長が少し驚いてるな。

 

 

六つ目

 

 

………同じく変化なし。

あ、部長がちょっと焦りだしたな。

 

 

七つ目

 

 

………やっぱり変化がない。

 

 

「すごいわね。七つ使っても転生できないなんて。まさか私が持ってる兵士の駒を全部使うことになるなんて思いもしなかったわ」

 

どうやら次が最後のようだ。

そういえば、チェスの駒って8つだったな。

 

そして、最後の八つ目。

 

 

………変化がない。

 

 

この瞬間、部室の空気が凍った。

部長と木場は唖然としているし、いつもニコニコ顔の朱乃さんも表情が固まっている。

小猫ちゃんに至っては手に持っていたクッキーを落としている。

俺は地面に着く前にクッキーをキャッチ。

 

「はい、小猫ちゃん」

 

「………どうも」

 

あ、まだ放心しているな。

 

「イッセー。あなた本当に何者? 兵士の駒8つで転生できないなんて聞いたことないわ」

 

そんなこと聞かれてもなぁ。

俺は俺だし………。

 

すると、俺の左手の甲に緑色の宝玉が現れた。

ドライグだ。

 

『リアス・グレモリー。聞きたいことがある』

 

「あなた、赤龍帝ドライグね。まさかあなたと話すことがあるなんて思ってもいなかったわ。それで、聞きたいことというのは?」

 

『この悪魔の駒を使って転生する際、転生者が主よりも強い場合、転生は可能か?』

 

「少しならともかく、かなりの差があるなら難しいわ。やっぱり、イッセーを眷属にするには今の私では実力が足りないってことなのね………」

 

再び空気が凍る。

部長がすごく落ち込んでる!

なんだろう、すごく申し訳ないんだけど………。

 

『相棒、リアス・グレモリーと気を同調させてはどうだろうか?』

 

「気を同調?」

 

『今思ったことなんだが、同調することで相棒と駒との相性が良くなるのではないか、とな』

 

「なるほど。相性を良くすることで力の差による問題を解決するってことか」

 

『そういうことだ。だが、これはただの思い付きだ。上手くいくとは限らん。もしかしたら危険なことかもしれん』

 

「うーん、まぁ、そこは物は試しでやってみるか?」

 

『分かった。なら、俺も付き合おう。だが、決して無理はするなよ』

 

ドライグの意見を採用した俺は部長と向かい会うと、手を差し出した。

 

「部長、俺と手をつないでくれますか?」

 

「手を? いいけど、何をするつもりなの?」

 

「今から俺と部長の気を同調させます。もしかしたら、上手くいくかもしれません。まぁ、やってみなければ分かりませんが」

 

そう言って俺は部長の手を取り、錬環勁気功を発動。

俺の気を部長の気と完全に一致させて、

 

「部長、やってみて下さい」

 

「分かったわ」

 

部長は頷くと再び転生の儀式をを行う。

 

すると、机に置かれた八つの兵士の駒はさっきまでよりも強い光を発して俺の胸の位置まで浮かび上がった。

そして―――――俺の中に入っていった。

 

「上手くいったみたいね。イッセーは何とか悪魔に転生できたみたいよ」

 

おお、上手くいったか!

やってみるもんだな!

 

「じゃあ、改めまして。今日からリアス・グレモリー様の兵士になりました兵藤一誠です! これからもよろしく!」

 

俺が改めてあいさつするとみんなは拍手して俺を迎えてくれた。

俺、悪魔になったけどこの人達となら、これからも上手くやっていけるような気がするよ。

―――――そう思った時だった。

 

「っ!?」

 

急激なめまいが俺を襲った。

全身が怠くなり、視界がぐにゃりと歪む。

 

な、なんだってんだ………?

まさか、失敗した?

 

部長たちも突然のことに驚いていて、

 

「イッセー!?」

 

「大丈夫かい、イッセー君!」

 

「イッセー君!」

 

「イッセー先輩!」

 

皆心配してくれているけど、やばい、意識が………。

俺はあまりの倦怠感に耐えられず、その場に倒れた。

 

「イッセー! しっかりして! イッセー!」

 

薄れていく意識の中、最後に見たのは泣きながら必死で俺の名前を呼ぶ部長の顔だった。

そして、俺はそのまま気を失った。

 

 

 

 

「………ん? ここは?」

 

目を覚ますと見知らぬ白い天井があった。

俺は白いベッドに寝かされていてだな。

ここは………病院?

 

俺の意識が戻ったことに気が付いた部長が駆けつけてくる。

 

「イッセー、意識が戻ったのね? 体は大丈夫なの?」

 

「まだ、体が重いですけど、なんとか大丈夫です」

 

俺は上半身を起こしながらそう返した。

俺の無事を確認した部長はほっと息を吐いて、安心してくれたようだ。

 

「部長、ここは?」

 

「冥界の病院よ。あなたが部室で倒れたから急いで連れてきたの」

 

やっぱり病院なのか。

窓を見ると紫色の空が見える。

………明らかに俺がいた世界の空とは違う。

冥界の空は紫色なのか。

不気味だし、慣れるのに少しかかるかも…………。

 

そんなことを考えていると、部長が頭を下げてきた。

 

「ごめんなさい、イッセー」

 

「え? ど、どうしたんですか急に………」

 

「あなたは私のことを信頼して眷属になってくれたというのに、いきなりこんなことになってしまって………」

 

「頭を上げてください。部長もこうなることは想定外だったでしょうし。そもそも、俺が勝手にやったことなんで、悪いのは俺ですよ」

 

俺がそう言うと、部長は頭を上げてくれたけど、表情からはまだ罪悪感が感じられる。

よく見ると頬には涙の跡があって………。

よっぽど心配してくれたんだろう。

むしろ、俺の方が申し訳なく思えてくる。

 

「部長―――――」

 

俺が部長に話しかけようとした時だった。

病室のドアが開き、男性が二人入ってきた。

どちらもイケメンだ。

一人は紅髪の美青年、もう一人は緑色の髪で妖艶な顔つきの美青年だ。

 

共通しているのは二人とも相当な実力者だということ。

和やかな雰囲気だが、佇まいで分かる。

二人から感じるのは強者のそれだ。

 

すると、部長が二人に頭を下げた。

 

「魔王ルシファー様、魔王ベルゼブブ様。お呼び立てして申し訳ありません」

 

魔王!?

この二人魔王なの!?

マジですか!?

俺の中の魔王のイメージっておっさんって感じだったんだけど!

シリウスもおっさんだったし!

というか四大魔王のうち2人も来ちゃったの!?

なんで!?

 

紅髪の男性が微笑みながら言う。

 

「リアス。そんなにかしこまらなくてもいいよ」

 

「サーゼクスの言うとおりだ。リアス君、いつもどおりで構わないよ」

 

「はい。イッセーこの方々は魔王様よ」

 

部長がそう言うと二人は俺に向けて自己紹介をしてくれた。

まずは紅髪の男性だ。

 

「はじめまして、兵藤一誠君。私はサーゼクス・ルシファー。魔王をやらせてもらっている。リアスの兄でもある」

 

「同じく魔王をやらせてもらっているアジュカ・ベルゼブブだ。よろしく」

 

「兵藤一誠です。部長の、リアス様の眷属で兵士です。一応、今代の赤龍帝もやっています」

 

俺も自己紹介をしたんだけど…………。

部長って魔王の妹だったの!?

そこにビックリだよ!

 

紅髪の男性―――――サーゼクスさんが言ってくる。

 

「リアスからは聞いているよ。イッセー君と呼ばせてもらっても良いかな?」

 

「あ、はい」

 

「では、イッセー君。赤い竜が我が妹の眷属になったと聞いたときは驚いたよ」

 

「ええ。俺も悪魔に転生するとは思いませんでした」

 

緑色の髪の男性―――――アジュカさんが言ってくる。

 

「兵藤一誠君。今回君が倒れた件なんだが、その時の状況を聞かせてもらえるかい?」

 

「そうですね。あの時――――」

 

俺は転生したときのことを話した。

悪魔の駒を八つ消費しても転生できず、最終的には部長と気を同一化することで悪魔に転生を果たしたことを。

俺の話を聞いたアジュカさんは感心したように頷いた。

 

「なるほど。悪魔の駒は主の実力を大きく上回る者には使えないものなんだが、主と気を同調させることで、それを解決した、か。中々、面白いことを思いついたものだ。悪魔の駒は俺が作成したのだが、その方法は盲点だったよ」

 

悪魔の駒の製作者だったのね、この人。

 

「兵藤一誠君。君の中の駒を調べさせてもらってもいいかい?」

 

「ええ、構いませんけど」

 

「では、少し失礼するよ」

 

そう言うとアジュカさんは手を俺の胸に当てた。

すると、魔法陣が胸に展開される。

アジュカさんは展開した魔法陣から何か情報を探っているようで………。

しばらくすると、アジュカさんは手を離す。

 

「どうやら、悪魔の駒は取り込まれたものの、機能不全を起こしているようだ」

 

「機能不全?」

 

「悪魔の駒が君の力に耐えられなかったらしい。主を超えるものが使うとこうなるか。初めてのケースだな。使用された悪魔の駒は転生者の魂と結びつく。悪魔の駒が機能不全を起こした結果、君の魂が影響を受け、倒れた。こういうことだ。まだ、体が怠いのではないか?」

 

「はい………」

 

「やはりか。だが、心配しなくていい。俺が製作者として何とかしよう」

 

「できるんですか?」

 

「ああ。任せてくれ」

 

アジュカさんは俺に手をかざすと再び魔法陣を展開する。

 

「今から、君の駒を再調節する。本来なら、こういうことはしないんだけどね。折角、赤龍帝がこちら側についてくれたんだ。こういうこともあっても良いだろう。悪魔の駒の問題も分かったしね」

 

アジュカさんが魔法陣を動かして、色々と弄った結果、あれだけ怠かった体調が一瞬で元に戻っていった!

 

「これで問題ないはずだ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

俺がお礼を言うと笑って頷いてくれた。

すると、アジュカさんは時計を見て思い出したように言った。

 

「おっと、こんな時間か。さて、問題も解決したし、俺は帰るよ。サーゼクス、おまえはどうする?」

 

「そうだな。私も仕事があるし、そろそろ帰らないとグレイフィアに怒られる」

 

「あいかわらず、彼女には頭が上がらないようだな」

 

「ははは………。そうだ、帰る前に一つイッセー君に知らせることがある」

 

「俺に? どうしたんですか?」

 

「君のご家族の保護だが、私の手の者に護衛についてもらうことにした」

 

「本当ですか!?」

 

俺が聞き返すとサーゼクスさんは微笑みながら答えてくれた。

 

「ああ。君はリアスのことを信頼してくれたとリアスからは聞いている。ならば、それに応えるのは兄として当然だろう。少なくとも私はそう思っているよ」

 

魔王の配下が護衛なら心強い。

俺も安心できる。

 

「本当にありがとうございます!」

 

「さて、私たちは帰るよ。リアス、イッセー君、気を付けて帰りたまえ」

 

俺と部長が頭を下げると二人は笑って病室を去って行った。

二人きりになった病室で、部長が言う。

 

「イッセーが回復してくれて本当によかったわ」

 

「心配かけてすいません」

 

「いいのよ。私の実力不足も原因だもの。イッセー、今のあなたがどれだけ強いのかは分からないけれど、いつかあなたを従えるのにふさわしい王になって見せるわ」

 

「俺も部長の役に立てるよう頑張ります」

 

「ええ。よろしくね、イッセー」

 

 

こうして俺、兵藤一誠は今日この日、悪魔に転生した。

ただ、ドライグ曰く転生の影響でしばらく籠手が使えなくなるとのこと。

しばらくは錬環勁気功だけで戦うことになるか。

まぁ、何とかなるだろ!

ドライグ、調整は任せたぜ!

 

 

 

 

色々あったけど何とか転生できた俺は部室に戻った後、家に帰ることにした。

部員の皆は俺が無事なのを確認して安心してくれた。

本当にいい人たちだ。

 

家に着き玄関を開けると美羽が待っていた。

帰るのが遅くなったから、心配していたんだろう。

俺を見ると飛びついてきた。

 

「おかえり、お兄ちゃん」

 

「ああ、ただいま」

 

「悪魔になっちゃたんだね………」

 

美羽は気配で俺が悪魔に転生したことが分かったのだろう。

 

「まぁな。だけど後悔してないぞ。これで、家族の安全も保障されたしな。それに部長達もいい人だし、今日こっちの世界の魔王にも会ったけど優しい人たちだったよ。だから、安心してくれ」

 

「そっか。お兄ちゃんがそう言うなら大丈夫だよね」

 

美羽は俺から離れると俺の手を引張ってきた。

 

「お腹すいたでしょ? 晩御飯にしようよ。今日はボクが作ったんだ!」

 

おお、今日は美羽が作ったのか!

それは楽しみだ!

 

旨そうな匂いがする。

この匂い………今日は唐揚げか!

 

「イッセー! 帰ったら手洗いとうがい!」

 

うん、俺が悪魔になってもいつも通りの母さんでした。

だけど、それが何より嬉しかった。

悪魔になって父さんや母さんとは違う存在になったけどいつも通りでいてくれたことが本当に嬉しかった。

 

俺は手洗いとうがいを済ませて食卓に着いた。

 

「「「「いただきます!」」」」

 

いつものように学校であった事を話して、笑って、食事をする。

当たり前のことだけど、ここに家族としての幸せがあるんだと俺は思う。

この家族を守れるようにこれからも頑張るぜ!

 

あ、それと美羽の作った唐揚げは旨かった!

 

 

 




皆さんの意見を聞いてさんざん悩んだのですがイッセーは無事悪魔化しました。
とりあえず、解説します。

・イッセーの力量

まず、異世界の魔王シリウスの実力ですが、DD世界の前魔王と同じくらいです。
次に本作のイッセーの強さですが禁手+錬環勁気功でシリウスと同レベルになります。
なので、イッセーの強さ=前魔王クラス ということになります。


・悪魔化が可能と判断した理由
DD原作では竜王タンニーンが女王の駒を使って悪魔に転生しています。
タンニーンの強さは魔王クラスなのでイッセーも転生自体は可能だと判断しました。


・リアスとの実力差
ここをどうするか本当に悩みました。
皆さんが仰るように悪魔の駒は主よりも実力が高い場合、使用できません。
なので、本作ではイッセーとリアスの気を完全に一致させることで駒との相性を高め、転生できるようにしました。ただ、正確には取り込めたものの駒がイッセーのスペックに耐えられず機能不全を起こしています。
そこで製作者であり超越者のアジュカが駒を調整するというシーンを入れました。

つまり、イッセーとリアスの気の同調+アジュカによる駒の調整があってやっと転生出来たということです。


本作のイッセーは悪魔化はしない方が良いのではという意見はありましたが、今後の展開上、悪魔化させることにしました。
色々と設定が甘いところも多いと思いますが、今後とも応援よろしくお願いします。






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4話 悪魔のお仕事です!!

どうも、悪魔になったイッセーです。

俺は上級悪魔リアス・グレモリーの兵士として悪魔に転生した。

悪魔になった俺を待っていたのは悪魔としての仕事だ。

と言っても俺がやったのはまだチラシ配りだけだけどね。

深夜にチャリを漕いでポストに簡易版魔法陣が描かれた紙を入れていく作業。

地味に辛い作業だったよ。

 

 

――――だけど、目標ができれば苦にはならない。

 

 

部長曰く、悪魔には階級があり、転生悪魔でも爵位がもらえるとのこと。

つまり、今は下級悪魔の俺でも努力次第では上級悪魔になり下僕を持てるということだ。

 

『やり方次第ではモテモテな人生を送れるかもしれない』

 

部長のこの言葉は俺のスケベ心を刺激するには十分だった。

俺は元々、家族を守るために悪魔になった。

だけど、長い悪魔の生だ。

なにか目標がなければやってられない。

 

そこで、俺が目標にしたのはハーレム王になることだ!

俺だけのハーレム!

昔から欲しかった!

小学6年の七夕とクリスマスに『ハーレムが欲しい!』と願ったこともある!

………もちろん、願いは叶わなかったけどね。

ずっと叶わぬ夢だと諦めていた。

異世界でもそんな機会はなかった。

でも、今は違う。

長年の願いが叶えられるチャンスが目の前にある。

このチャンス、逃すわけにはいかねぇ!

 

まぁ、それだけじゃないけどね。

上級悪魔ともなれば、様々な特権が与えられる。

そうなれば家族も守りやすくなるってもんだ。

 

とりあえず――――。

 

「ハーレム王に俺はなる!」

 

そんなスケベ心を抱き、俺は今日もチャリを漕ぐ。

 

 

 

 

 

悪魔になって十日ほどが経ったある日。

 

「そろそろ、イッセーにも契約を取ってもらおうかしら」

 

と、部長が俺に言ってきたんだ。

 

「契約ですか?」

 

「ええ、イッセーもチラシ配りは馴れたと思うし、頃合いだと思うの」

 

マジですか!

やったぜ、ようやく地味なチラシ配りから解放される!

契約を取ってこその悪魔だ。

大きい契約を取って、上級悪魔になってやるぜ!

 

「頑張ってね、お兄ちゃん!」

 

気合いを入れている俺を応援してくれているのは美羽。

実は美羽もオカルト研究部の部員になったんだ。

 

悪魔になった次の日、部長は俺の両親に挨拶に来た。

部長は俺を悪魔に転生させたことやその時に起こったことを隠さず全て話してくれた。

そして、家族の今後のことまで詳しく丁寧に話してくれたんだ。

父さんも母さんもまさか部長が挨拶に来るとは思っていなかったらしく、最初は驚いていた。

だけど、部長の真摯な態度に二人とも部長のことを気に入り、俺のことをよろしく頼むと頭を下げてくれた。

 

美羽がオカルト研究部に入りたいと言い出したのはその時だった。

理由としては俺のことを心配してくれているのと、前々から興味はあったとのことだ。

部長も断るはずもなく、美羽のことを歓迎してくれた。

 

そう言うわけで今。

オカルト研究部にはリアス部長、朱乃さん、木場、小猫ちゃん、俺、美羽の6人が所属している。

 

話を元に戻そう。

リアス部長が言う。

 

「さっき、小猫に依頼が一件来たのだけれど、小猫は別件で居ないから、代わりに行ってもらえないかしら?」

 

おお、小猫ちゃんの代打か!

これは責任重大だな!

 

「もちろんですよ、部長!」

 

「じゃあお願いね、イッセー。朱乃」

 

「はい、準備は出来ていますわ。この魔法陣でイッセーくんには依頼人のところへ行ってもらいます。魔法陣の真ん中に立ってください」

 

朱乃さんに指示された俺は、彼女が展開した魔法陣の真ん中に立つ。

さぁ、悪魔として、初契約だ。

なんか、ドキドキするな。

依頼人に会ったときなんて言おうかな。

 

『汝の望み、言ってみるがよい』

 

みたいな感じかな。

 

それより、依頼人が美人なら良いな。

魔法陣で転移したらスゲェ美人のお姉さんがいて

 

『お願いを聞いてくれたら私を好きにしていいわよ』

 

とか言ってくれないかな。

グフフ…………。

俺が妄想を膨らませている間に転移出来るようになったようだ。

魔法陣の光が強くなった。

 

「イッセー。依頼人に失礼の無いようするのよ?」

 

「頑張ってね!」

 

「分かってますよ、部長。じゃあ、行ってきます!」

 

そして、俺は魔法陣の光に包まれて依頼人のところまで転移した。

 

 

 

 

目を開けるとわりと綺麗な部屋。

依頼人は………。

 

「あれ? 君は? 小猫ちゃんを呼んだんだけど」

 

眼鏡をかけたやせ形の男性がいた。

見るからにオタクって感じだな。

 

「えーと。悪魔グレモリーさまの使いのもので、兵藤一誠っていいます。小猫ちゃんは今、別件があったので代わりに俺が」

 

「チェンジで」

 

「ええ!? そりゃ無いですよ!」

 

依頼人の無情な言葉に衝撃を受ける俺。

会って早々チェンジだぜ!?

酷くないか!?

 

「僕はあのかわいい小猫ちゃんを呼んだんだぞ! なのになんで、男が来るんだよ!?」

 

うっ………。

確かに、俺も同じ立場なら全く同じことを言うだろうな…………。

だけど、引き下がるわけにはいかねぇ!

 

「気持ちは分かりますけど、俺もかわいい新人悪魔ってことで納得してください!」

 

「納得できるかぁ! 十字架持ってくるぞこの野郎!」

 

「そんなこと、冗談でも言わないでくださいよ!」

 

「本気だよ!」

 

マズイ、このままじゃあ、ずっと平行線だ。

話を変えないと埒が明かねぇ………というより、追い返される。

 

何か、別の話題は―――――。

 

その時、俺の視界に本棚に納められているマンガが入ってきた。

そこに並べれているのは、俺も持っているドラグ・ソボールだ。

本棚には限定版もあり、主人公のフィギュアも並べられている。

この人、かなりのファンと見た!

 

「俺――――ドラゴン波が撃てます」

 

「なん、だと………っ!」

 

俺の言葉に男性は目を見開いた。

この反応、やはりか!

 

「嘘じゃあないだろうね? ドラグ・ソボール世代にその手の嘘を着くと痛い目を見るよ? 僕だって学生の頃は毎日ドラゴン波の練習をしたものさ。なめるなよ、僕ら直撃世代を!」

 

「ええ。分かってますよ。俺だって校舎裏で何度も練習したことあります。――――お見せしましょう、俺のドラゴン波を!!」

 

俺は部屋の窓を開け、外に向かってドラゴン波のポーズを取り、錬環勁気功で気を溜めていく。

そして、俺の渾身の一撃を放つ!

 

「ドラゴン波ァァァァァ!!!!」

 

俺の掌から極大のオーラが空に向かって放たれる!

どうだ!

見たか、直撃世代!

 

俺が振り替えると依頼人は泣いていた。

それはもう号泣してる。

 

「………まさか、本当にドラゴン波が見られるなんて。グスッ。疑ってすまなかった! 悪魔君! 僕は今、猛烈に感動している! ………僕にドラゴン波を教えて欲しい!」

 

依頼人はそい言うと俺に土下座をしてまで、頭を下げてきた。

異世界に行く前の俺だったら、きっと同じことをしていたかもしれない。

そう思うと俺の中から何か熱いものが吹き出してくる。

俺は依頼人の肩を抱く。

 

「ええ! もちろんですよ! 一緒にがんばりましょう!」

 

こうして、俺は依頼人こと森沢さんと初めての契約を取ることができた。

この日は森沢さんと朝までドラグ・ソボールについて熱く語り合った。

 

 

 

 

 

次の日の夜。

また依頼が入ったんで俺はそこに向かうことにした。

 

魔法陣を抜けた先で待っていたのは――――鍛え上げた肉体を持つ世紀末覇者のような人。

それだけなら、俺も驚かない。

その人はラブリーな魔女っ娘の格好をしていた。

 

おかしい…………絶対におかしいって!

肉体と服装の方向性、全く逆じゃねぇか!

なんで、魔法少女の格好?

なんで、猫耳?

ふざけてるの?

罰ゲームなの?

そう言ってくれたほうが、まだ納得できる。

 

目の前に立つ世紀末覇者に俺は訊ねた。

 

「え、えっと、依頼人の方ですよね? それで依頼というのは…………」

 

「ミルたんを魔法少女にしてほしいにょ」

 

…………。

 

……………………。

 

………………………………。

 

「え?」

 

今この人なんて言った?

魔法少女にしてくれって言った?

それに語尾が「にょ」だったような…………。

 

聞き間違いであってほしい。

よし、もう一度聞いてみよう!

 

「すいません。もう一度お願いします」

 

俺が尋ねる。

すると―――――。

 

「悪魔さんっ!」

 

 

ブオォォォォォォォォォォッ!

 

 

うおぁ!?

な、なんだこの風圧は!?

声だけでこの風圧とかどんだけだよ!?

ガラス割れたぞ!

 

「ミルたんを魔法少女にしてほしいにょ!」

 

聞き間違いであってほしかった!

魔法少女って…………どう見ても魔王だろアンタ!

纏ってるオーラがシリウスよりも強いってどういうことだよ!?

本当に人間なのか!?

答えてくれ、ミルたん!

 

「魔法少女………ですか?」

 

「そうだにょ」

 

「え、え~と。なんで魔法少女になろうと?」

 

気になる。

すごく気になる。

こんな魔王みたいな人が何故に魔法少女になりたいと思ったのか。

 

ミルたんは一つのDVDを俺に見せてきた。

俺も知ってるミルキースパイラルという魔法少女のアニメだ。

まさか………。

 

「ミルたんはミルキーに憧れているんだにょ。それで魔法力をつけようとトレーニングしたけど魔法力はつかなかったにょ。だから、悪魔さんに頼ることにしたんだにょ」

 

いや、あんた、魔法力付けなくても十分強いと思うんですけど!?

魔法力より腕力使ったほうが物事解決できる気がするんですけど!?

 

「まずは、ミルキーについて教えてあげるにょ」

 

その日、俺はミルたんとミルキースパイラルを全シリーズ全話見ることになった。

ミルキーは普通に面白いと思うけど、隣で漢の娘がものすごい覇気を出しながら表情豊かに語るんだぜ?

俺にとって悪魔になったことを初めて後悔した瞬間だった…………。

 

とりあえず、気を操る修行方法を教えたら契約を結んでくれた。

俺のことは気に入ってもらえたらしく今後も俺を指名してくれるそうだ。

で、対価は一冊の本だった。

なんでも、悪の軍団と戦ったとき得た戦利品だそうだ。

 

部長に見せたところ大昔の禁術が書かれた魔道書であることが判明。

部室が大騒ぎになったのは別の話だ。

 

 

 

 

ミルたんと契約した次の日の放課後。

 

「やるじゃない、イッセー。初めてなのに二件も契約をとってくるなんて」

 

「ははは………ありがとうございます」

 

うん、誉められるのは嬉しいけど出来れば、もう少し普通の人と契約したかったよ。

 

「ただ………」

 

おっと、部長が眉間にしわを寄せて何やら考え出したぞ。

俺、なんかミスったかな。

心当たりがあるとすればドラゴン波だけど。

 

「部長………俺、何かやらかしました?」

 

「いいえ、そう言うわけででは無いのだけれど、ただイッセーに対するアンケート結果が良すぎるのよ」

 

アンケート?

そういえば、森沢さんとミルたんに書いてもらったな。

内容は見ていないが、どうやら好評だったらしい。

 

部長がアンケート結果を読み上げる。

 

「アンケートを読み上げるわ。一人目は………『彼と出会えて良かった! 今後とも是非指導をお願いしたい! また、語り合おう!』ですって。イッセー、何か教えたの?」

 

「えーと、マンガに出てくる技を少々………」

 

「マンガの技、ね。あまり、無茶なことを人間に教えてはダメよ」

 

ははは………。

まぁ、教えたのは筋トレと座禅だけだから大丈夫だと思うけどね。

 

「次は………あの魔道書を対価にくれた人よね?『あんなに真摯に話を聞いてもらえて嬉しかったにょ。また、よろしくお願いするにょ』………にょ?」

 

「部長、その人の語尾は気にしないで下さい。一々ツッコミを入れていたらキリがありませんよ………」

 

「え、ええ。そうさせてもらうわ。一体どんな依頼人なのか、すごく気になるのだけれど………」

 

気にしないで下さい。

お願いします。

 

「まぁ、悪魔として人間と仲良くしすぎるのは少しどうかと思うけど、この調子で頑張ってちょうだい」

 

「はい、部長!」

 

これからも契約をドンドン取って上級悪魔を目指すぜ!

 

 



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5話 金髪シスターとはぐれ悪魔です!!

とある日の昼。

今日の授業は午前で終わったため、俺と美羽は下校途中だ。

俺は一旦家に帰った後、夜に部室に行き、悪魔の仕事をすることになっている。

 

「美羽とこうして帰るのは久しぶりかもな」

 

「そうだね。お兄ちゃんもボクも他のクラスの子と帰っていたしね。それに最近、お兄ちゃんは悪魔のお仕事で忙しかったし」

 

「まぁ、そうだな」

 

悪魔になりたてということもあって、色々と勉強しなきゃいけないことがあったからなぁ。

確かに最近は兄妹間のスキンシップが少なかったかもしれない。

 

美羽が俺の手を取ると、甘えるように言ってきた。

 

「折角だから、どっか遊びに行こうよ」

 

「いいよ。久しぶりに兄妹でどっか行くか。美羽は何処に行きたい?」

 

「うーん、そうだね………」

 

顎に手を当てながら、兄妹のデート先を考え始める美羽。

 

すると――――

 

「はわうっ!」

 

すっとんきょうな声が聞こえてきた。

俺と美羽は振り返り、声の聞こえてきた方を見ると―――――シスターらしき人が盛大に転んでいた。

………顔面から路面に突っ伏してるけど大丈夫か?

 

「おっと」

 

彼女のヴェールが風に流されて飛んできたので俺はそれをキャッチした。

 

シスターというと教会関係者だったよな。

部長からは教会関係者とは関わるなと言われているけど、転んだところを助けるくらいなら大丈夫だろ。

 

「大丈夫か?」

 

俺はシスターへ近づき手を差し出した。

 

「あうぅ。どうして、何もないところで転んでしまうんでしょうか………ああ、すいません。ありがとうございますぅ………」

 

彼女は俺に気付いたようで、顔をこちらに向け―――金髪美少女が俺の目の前にいた。

綺麗な長い金髪とグリーンの瞳。

思わず見入ってしまう、それくらい彼女は綺麗だった。

初対面なのにどこか守ってあげたくなるような、そんな感情を抱いてしまう。

 

俺が見入っていると、金髪の美少女は戸惑いの声で、

 

「あ、あの………ど、どうかしましたか?」

 

「お兄ちゃん、見とれすぎだよ」

 

おおっと、いかんいかん。

完全に虜になってしまっていた。

美羽もそんな俺に対して頬をムニッと引っ張ってきてるし………。

 

俺は彼女を立たせてヴェールを返してあげる。

 

「はい。これ、君のものだろ?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「結構な荷物だけど、旅行?」

 

「いえ、私、この町の教会に今日赴任することになりまして」

 

教会に赴任、ね。

見た感じ俺達と歳が変わらなさそうだけど、しっかりしてるな。

というより、シスターって転勤みたいなものがあるのか?

どう見ても日本人じゃないし………。

 

そんな疑問を抱きながら、俺は微笑みながら言った。

 

「そっか。俺達もこの町に住んでいるんだけど、これから会う機会もあるかもしれないな。その時はよろしくな」

 

「よろしくね」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

そう言って彼女はペコリと頭をさげた。

頭を上げた後、彼女はほっとしたような表情で言ってきた。

 

「実は………私、この町に来てから困ってたんです。道に迷ったんですけど、言葉が通じなくて………。やっと、言葉が通じる方が見つかって助かりました」

 

あー、一般の人だとなかなか言葉が通じないよな。

俺も昔、外国の人に道を尋ねられたことがあるけど、大変だった記憶がある。

こういう場面だと悪魔になったメリットを感じられるよ。

なにせ、全ての言語が理解できるからな。

英語だろうが、フランス語だろうがどんと来いってね。

 

ちなみに美羽もその手の能力はあるらしい。

今も彼女の言葉は理解出来ているようだしな。

そこは美羽が異世界人だからなのか、それともそういう言語を翻訳する魔法を使っているのかは分からないけど。

 

美羽が彼女に言う。

 

「えっと、教会に行きたいんだよね?」

 

「そうなんです」

 

「なら、ボク達にまかせて。教会まで案内するよ。良いよね、お兄ちゃん」

 

「おう。困ってる人は助けないとな」

 

と、笑顔で返す俺だが………。

よし、後で部長に怒られる覚悟を決めておこう。

流石に教会に近づくのはアウトだろうしな。

 

「本当ですか! ありがとうございます! これも主のお導きのおかげですね!」

 

俺達の言葉を聞いて彼女は涙を浮かべて微笑む。

うん、この最高に可愛い笑顔を見れただけでも良しとしよう。

ただ、彼女の胸にあるロザリオが目にはいって頭痛が…………。

美羽は魔族だけど聖なる力に弱いわけではないらしく、特に苦しむ様子はない。

 

こういう経緯のもと、俺と美羽は彼女を町の方教会まで案内することにした。

 

 

 

 

教会へ向かう途中、公園の前を横切った時だった。

 

「うわぁぁぁん」

 

子供の泣き声が聞こえた。

見ると、一人の男の子が膝から血を流して、泣いていた。

どうやら転んでしまったらしく、膝を擦りむいたらしい。

 

すると、シスターさんはその子供の傍へ行った。

俺と美羽も彼女の後を追う。

 

「大丈夫? 男の子ならこのくらいで泣いてはダメですよ」

 

そう言いながらシスターさんは子供の頭を撫でてあげた後、自分の掌を子供の擦りむいた膝に当てる。

すると、彼女の掌から淡い緑色の光が発せられ、光に照らされた膝の傷があっという間に消えていった。

 

その光景に美羽が俺にしか聞こえない声で言ってくる。

 

(お兄ちゃん、今のって………)

 

(ああ、神器だな)

 

ドライグから聞いたことがある。

俺の持つ赤龍帝の籠手みたいに戦闘系の神器もあれば、回復のようなサポート系の神器もあると。

彼女のは回復の神器なんだろう。

赤龍帝の籠手以外の神器って初めてみたけど、やっぱり神器って凄いんだな。

それに色んな種類があって面白いとも思う。

 

「ありがとう! お姉ちゃん!」

 

ケガが治った子供は彼女にお礼を行って走っていった。

 

「ありがとう、だって」

 

俺が通訳すると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

俺は彼女の手に視線を移して訊ねた。

 

「その力って………」

 

「はい。治癒の力です。神様からいただいた素敵なものなんですよ」

 

俺の問いかけに対して治癒の力であることを告げる彼女。

その表情は寂しげなものになっており、神器の影響で何かがあったのは明らかだった。

そんな彼女の表情にこれ以上は聞けず、俺は短く返した。

 

「そっか。優しい力なんだな」

 

俺がそう言うと彼女は微笑んだ。

だけど、その微笑みは寂しげなままだった。

 

 

 

 

「ほら、あそこが教会だよ」

 

美羽が向こうにある建物を指差して言う。

 

教会を見た瞬間に体中がぞくぞくし始める。

これは俺が悪魔だからだろう。

悪魔にとっては教会は敵地。

聖なるもの、光は悪魔にとって毒になる。

 

シスターさんが言う。

 

「あ、あそこです! 良かった、本当に助かりました! ありがとうございます!」

 

地図と照らし合わせて確認する彼女。

場所が合っていたらしく、彼女は安堵しながらお礼を言う。

 

「案内も済んだし、俺達はこれで」

 

「そうだね。行こっか」

 

案内を終えた俺達は彼女に背を向けて手を振ろうとする。

すると、

 

「待ってください!」

 

俺達が別れを告げようとしたら呼び止められた。

シスターさんが言う。

 

「ぜひお礼をしたいので、教会まで一緒に来ていただけませんか?」

 

お礼………。

彼女は良い人だし、美少女だし、今後も会うかもしれないし、この縁を大事にしたい気持ちはある。

お茶のひとつでもしていきたいけど………流石にこれ以上はな。

教会関係者と悪魔があまり深くまで交流を持ってしまうのは不味い。

 

俺が困っていると美羽が助け船を出してくれた。

 

「ゴメンね。ボク達、これから用事があって帰らなきゃいけないんだ。だから、また今度で良いかな?」

 

「………そうですか。分かりました。また今度、お礼をさせてください。あ、私、アーシア・アルジェントと言います! アーシアと呼んでください!」

 

と、自己紹介をしてくれるシスターさん。

そういえば、自己紹介してなかったか。

俺は自身を指さして言う。

 

「俺は兵藤一誠。イッセーって呼んでくれ。こっちは妹の美羽だ」

 

「兵藤美羽です。よろしくねアーシアさん」

 

「じゃあ、アーシア。また会おうな!」

 

「はい! イッセーさん、美羽さん、またお会いしましょう!」

 

彼女、アーシアはペコリと頭を下げた。

俺と美羽も手を振って別れを告げ、その場を後にする。

振り返ると、彼女は俺達が見えなくなるまでずっと見守ってくれていた。

 

「本当に優しい人だね、アーシアさんって」

 

「そうだな。さっきはありがとな、美羽。助かったよ」

 

「いいよ。お兄ちゃんが教会に行ったら色々とマズいでしょ?」

 

まぁね。

俺、悪魔だもん。

 

苦笑する俺だったが、ふいにあることを思い出した。

 

「………そういえば、あの教会って随分前に潰れてなかったっけ?」

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

「二度と教会に近づいてはダメよ」

 

俺は部室にて部長に注意されていた。

一応、事情を説明して納得はしてくれたみたいだけど。

すごく心配してくれたみたいで、俺の姿を見たときはホッとしていた。

案内しただけとはいえ、少し軽率だったと申し訳なく思うよ。

 

「はい。………すいませんでした」

 

「あと、美羽にも言っておいてちょうだい。彼女は悪魔ではないけど、悪魔と関わりがある以上、教会には近づかないようにと」

 

「了解です」

 

部長が言うには、下手をすれば神側と悪魔側の問題に発展しかねないことだったそうだ。

それに、いつ光の槍が飛んできてもおかしくはなかったらしい。

 

『まぁ、そんなもの相棒には効かんだろう。神器が無くても十分に強いからな』

 

ドライグはそう言ってくれるけど、部長に心配をかけたのは事実だからな。

それに、大きな争いこそ起きてはいないが、悪魔と教会の関係が悪いのは事実だ。

ただの道案内だったとはいえ、俺がやったことは軽率だった。

 

俺は部長にあたまを下げて言う。

 

「本当にすいませんでした」

 

「いいのよ、分かってくれたのなら。それに私も熱くなりすぎたわ。ゴメンなさい。だけど、今後は気をつけてちょうだい」

 

そこまで言うと先程までと変わって部長は何やら考え始めた。

 

「ねぇ、イッセー。さっき、その教会は潰れていると言ってたわよね?」

 

「ええ、随分前に」

 

「潰れた教会にシスターが赴任? それも神器を持った………。そういえば、あなたが以前、堕天使に襲われた時、堕天使があなたは計画の邪魔になると言っていたのよね? ………もしかして」

 

部長がそこまで言った時だった。

部室の奥から朱乃さんが出てきた。

 

「あらあら、お説教は済みました?」

 

「ええ、まぁ」

 

「イッセー君も無事で何よりですわ」

 

「心配かけてすいません、朱乃さん」

 

俺がそう言うと、朱乃さんはニコニコ顔で「イッセー君が無事なら何も言うつもりはありませんわ」と言ってくれた。

部長が朱乃さんに問う。

 

「それで? 朱乃、何かあったのでしょう?」

 

部長の問いに朱乃さんはニコニコ顔をから一変、真剣な顔になった。

 

「―――――大公からはぐれ悪魔の討伐依頼が届きました」

 

 

 

 

はぐれ悪魔とは、眷族である悪魔が主を裏切るまたは、殺害した悪魔のことらしい。

はぐれ悪魔は非常に凶悪で各勢力から危険視されていて、見つけ次第、消滅させることになっているとのことだ。

そんなはぐれ悪魔がグレモリ―領であるこの町に潜入していて、毎晩、人間をおびき寄せては喰らっているらしい。

 

………美羽に夜中に出歩かないよう言っておくか。

 

俺達、グレモリー眷族はそのはぐれ悪魔を退治するべく、とある廃墟に来ている。

確かに中から悪魔の気配がする。

 

「部長、俺も戦うんですよね?」

 

「あなたの実力も見ておきたいところだけど、今日は見学してもらおうかしら。駒の特性も教えておきたいし」

 

悪魔の駒はチェスに倣って作られている。

駒には王、女王、戦車、騎士、僧侶、兵士の種類があり、それぞれに特性があるらしい………のだが、俺はその特性とやらについてまだ説明を受けていなかった。

まぁ、話を聞く機会がなかったというのもあるのだけど。

そういうことなら、今日は後ろで見学といくか。

 

部長が訊いてくる。

 

「悪魔がどうして人間を転生者として悪魔に変えようとしたのかは話したわね?」

 

「ええ。悪魔の出生率の低さですよね」

 

「実際にはそれだけじゃないんだ」

 

木場が部長に代わって話し始める。

 

「悪魔は過去の大戦で純粋な悪魔を失い、兵力を失ったんだ。だけど、堕天使や天使との臨戦態勢は消えないから、隙を見せるわけにはいけない。そこで大きな兵力の数は無理だから、少数精鋭にしようとしたんだ」

 

「それで出来たのが悪魔の駒ってことか」

 

「そういうことなの。この制度は爵位持ちの悪魔に好評なの。《レーティングゲーム》なんてものあるのよ」

 

「レーティングゲーム?」

 

「レーティングゲームというのは、簡単に言えば上級悪魔同士が自分の下僕をチェスのように実際に動かして競い合うものなの。詳しくはまた今度説明するわ。それで、駒の特性というのは―――」

 

部長はそこまで言って言葉を止めた。

止めた理由は俺もすぐに分かった。

 

「………はぐれ悪魔か」

 

俺の視線の先にいたのは上半身は女、だけど下半身は巨大な獣の体をした化物だった。

両手には槍みたいな獲物を持っている

 

「不味そうな匂いがするぞ? でも、うまそうな匂いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」

 

低い声で何やら呟くはぐれ悪魔。

そんな奴に俺が言えることは一言。

 

「気持ち悪い!」

 

つい口に出してしまった。

見た目も、声も、表情も何もかもが生理的に受け付けない!

笑い声だって、「ケタケタケタ………」って不気味なんだぜ?

木場なんか苦笑いしてるし。

 

部長がはぐれ悪魔に言い放つ。

 

「はぐれ悪魔バイサー。あなたを消滅しに来たわ。己の欲を満たすために暴れまわるのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名においてあなたを消し飛ばしてあげる!」

 

「小娘ごときが生意気な!」

 

部長の言葉にはぐれ悪魔バイサーは笑い声を止め、襲いかかってきた。

 

「祐斗!」

 

「はい!」

 

命令を受けた木場が飛び出す。

そのスピードは速く、瞬時にバイサーとの距離を詰めていく。

 

「イッセー、駒の特性を説明するわ」

 

部長は木場の方を見た。

木場は非常に速い速度ではぐれ悪魔の槍による攻撃を全かわしている。

 

「祐斗の駒は《騎士》。騎士になった悪魔は速度が増すの。そして祐斗の最大の武器は剣」

 

いつの間にか剣を握っていた木場はその速度をさらに上げてバイサーの両腕を切り落とす。

 

「ギャアアアアアア!」

 

切断された腕から血を噴き出しながら、絶叫するバイサー。

絶叫の途中のバイサーの足元に小猫ちゃんが立っていて、

 

「小猫の特性は《戦車》。その力はバカげた力と屈強な防御力」

 

バイサーが小猫ちゃんを踏み潰そうとするも小猫ちゃんはそれを軽く受け止め、巨大な足をどかせる。

 

「………ぶっ飛べ」

 

そして、小猫ちゃんはバイサーの腹の高さまでジャンプすると、拳を打ち込んだ。

その瞬間、ドゴンッと廃墟に打撃音が響く。

小さい小猫ちゃんからは想像できないほどの打撃力だ。

こいつが戦車の駒による強化ってことか………。

 

興味深く見ていると、俺の方に瓦礫が飛んできた!

 

「なんで俺に投げるの、小猫ちゃん!?」

 

「………小さいって言ったからです」

 

俺の心を読まれた!

まさか、戦車って相手の心を読む力も着くんですか!?

 

「戦車に心を読む力なんてないわよ」

 

部長にも心を読まれたよ!?

俺って分かりやすいの!?

 

「大丈夫だよイッセー君。偶々だから」

 

「木場ァ! おまえも読んでんじゃねぇか!」

 

「イッセー、次の説明に入るから聞きなさい」

 

はい………。

 

「最後に朱乃ね」

 

「あらあら、うふふ………分かりました、部長」

 

朱乃さんは悪魔の方へと向かっていく。

すると、朱乃さんの手からビリビリと電気のようなものが発生する。

 

「朱乃の駒は《女王》。《王》を除いた全ての特性を持つ、最強の駒。―――――最強の副部長よ」

 

バイサーの上空で雷雲のようなものが発生し、次の瞬間、そこから激しい落雷がはぐれ悪魔を襲った。

雷撃がバイサーが覆い、その巨体を焦がしていく!

雷撃が止み、その場にいたのは黒焦げとなったバイサー。

 

「ぐぅぅぅぅ………」

 

ボロボロになりながらも朱乃さんを睨み付けるバイサー。

 

「あらあら、まだ元気みたいですわねぇ。ならドンドンいきましょう」

 

次から次へと雷撃を浴びせていく朱乃さん!

えっ、まだやるんですか!?

これ以上はほとんどオーバーキルだと思うんですけど!?

っていうか―――――

 

「うふふふふ」

 

すごく笑ってるよ!

怖いよ、別の意味で!

 

「朱乃は究極のSなの」

 

「見れば分かりますよ!」

 

「大丈夫よ。味方にはやさしいから」

 

本当ですか!?

信じますよ!?

ふとした時にSに虐められたりしませんよね!?

 

そうこうしているうちにバイサーは完全にダウン。

もう抵抗する力はないのは明らかだ。

 

地面に突っ伏すバイサーに部長は手をかざす。

 

「最後に言い残すことは?」

 

「こ、殺せ………」

 

「そう。なら消し飛びなさい」

 

部長の手からどす黒い魔力が放たれる。

魔力がバイサーの体に触れた瞬間、奴は完全に消滅した。

 

「これで終わりね。朱乃、祐斗、小猫、ご苦労さま」

 

はぐれ悪魔の討伐任務はこれで終わりらしい。

 

はぐれ悪魔、身も心も完全な化物だったな。

ああはなりたくないものだ。

 

終了ムードになり、皆が帰ろうとする中、俺は部長に訊ねた。

 

「部長、《兵士》ってなんか特性があるんですか?」

 

「兵士の最大の特性は《プロモーション》よ」

 

「プロモーションですか? それって実際のチェスと同じ?」

 

「そうよ。兵士は私が敵地と認めたところに足を踏み入れたとき王以外の駒に昇格することができるの」

 

なるほど、最初は他の駒のような特性は持たないが、プロモーションすることで、女王、戦車、騎士、僧侶の特性を得られるってことか。

自由度が高いが、どのタイミングでどの駒になるかが重要になるってことか。

 

「とりあえず、プロモーションについては実際にやってみた方が良いでしょうね。今度はあなたにも戦ってもらうから、その時はよろしくね」

 

「はい、部長!」

 

こうして、はぐれ悪魔の討伐と俺への駒の解説は終わり、部室に戻ることとなった。

 



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6話 最悪の再会、そして・・・・・

はぐれ悪魔バイサーの討伐が終わり、部室に戻った後、俺に依頼が入った。

 

「部長、行ってきます」

 

「ええ、頑張ってきなさい」

 

転移用魔法陣の上に立ちながら出発の挨拶をする。

いつも通りに魔法陣の光に包まれ、今日の依頼者の家の玄関へ到着する。

だけど、俺は到着早々、違和感を感じた。

 

「血の匂い………。それにこの感覚。まさか………」

 

そう、家の中から漂う血の匂いとアーシアを教会に案内した時と似たような感覚。

嫌な予感がした俺は家の中へと入っていった。

 

気配を辿って着いた部屋には薄暗いライトがついているだけ。

部屋を覗いてみると―――――そこには血を出して倒れる人と、それを見下げている神父服のような服を着ている白髪の男。

男は俺に気付いたらしく、こっちを見て話してきた。

 

「おぉ~? これはこれは、悪魔くんじゃあ~ありませんか~」

 

ふざけた口調。

だけど、その眼には明らかな殺意があった。

 

「俺の名前はフリード・セルゼン。とある悪魔払い組織に所属する末端にございますですよ」

 

目の前の白髪の男―――――フリードは自己紹介をしながら一礼してくる。

俺は床に倒れる血塗れの男性に視線を送りつつ、確認を取った。

 

「これは………お前が、やったのか?」

 

「イエスイエス。俺が殺っちゃいました。だってー、悪魔を呼び出す常習犯だったみたいだしー、殺すしかないっしょ」

 

隠す気もなし、か。

人を殺しておきながら、罪悪感の欠片も感じない

 

俺がもう少し早く着いていたら、この人は助けられたかもしれない………と、悔やんでも今は仕方がない。

色々思うところはあるが、その前に一つ気になることがあるからだ。

この家には、この男以外にもう一つの気配がある。

しかも、その気は俺が知っているものだ。

 

あの人がこんなイカレ野郎の仲間?

嘘だろ?

あんなに優しい人がこんな残酷なことに手を貸すなんて―――――。

 

いや、考えるのは後回しにしよう。

フリードが光の剣を振り回して突っ込んできているからな。

 

「今からお前の心臓にこの刃を突き立てて、このイカす銃でお前のドタマに必殺必中フォーリンラブ、しちゃいます!」

 

横なぎに振るわれる光の剣。

俺はそれを難なく避けるが、フリードは避けた俺目掛けて銃を撃つ。

 

「悪魔祓い特製の祓魔弾だぜ☆当たったらそうとう痛いよー。ひゃはははは!」

 

悪魔祓い専用の銃ってことか。

確かに、あの銃からは嫌な雰囲気がある。

これも俺が悪魔になったから、そう感じるのかね?

とにもかくにも、触れない方が良さそうだ。

 

フリードは俺目掛けて次々に引き金を引きながら言う。

 

「ほほぅ! これをかわしますか悪魔くぅん!」

 

「一々うるさいやつだな。もう少し、静かに戦えないのか?」

 

剣を避ければ、銃弾が飛んでくる。

その銃弾を避ければ、今度は剣が降り下ろされる。

銃による攻撃によって、俺の動きをコントロールしようってわけか。

で、俺の動きを先読みして、そこに剣撃。

剣と拳銃のコンビネーション。

ふざけた野郎だが、訓練はしっかりされているらしい。

戦い方が上手い………が、戦い方にまで、嫌な性格が出ているな。

 

まぁ、この程度の攻撃、なんてことないけどね!

 

「遅いんだよ!」

 

俺は錬環勁気功でギアを上げて、フリードの右手を蹴り上げて剣を弾き飛ばす。

 

「なんですとぉ!?」

 

俺の動きに反応できなかったフリード。

急激に動きを変えた俺に驚愕の表情を浮かべている。

俺は瞬時にフリードの懐に飛び込み、鳩尾に拳を撃ち込んだ。

 

「ぐふぉ!」

 

ズドンッと衝撃がフリードの体を突き抜ける。

強烈な一撃を受けたフリードはその場に崩れ落ち、腹を抑えて悶絶している。

 

俺は膝をつくフリードを見下ろして言う。

 

「かなり手加減してやったんだ。意識はあるだろ?」

 

「この腐れ悪魔がぁぁあ! よくも俺様を殴ったなぁぁあ!」

 

フリードが苦しみながらも俺を睨み付けた。

 

「睨みつける元気はあるのか。だけど、おまえ、俺に勝てると思うなよ? おまえの実力じゃ逆立ちしても俺には勝てねぇよ」

 

手加減したのは、こいつを活かして捕らえるため。

今回の件について洗いざらい話してもらうためだ。

 

さて、暴れられても面倒だし、意識ぐらいは刈り取らせてもらうか。

そう思い、手刀を構えた―――――その時。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

女性の悲鳴が室内に響き渡った。

声が聞こえた方に俺もフリードも声がした方向に視線を向ける。

倒れ伏した男性の遺体を見て表情を固まらせていたのは教会へ案内をしたシスタ―――――アーシアだった。

 

「………やっぱりもう一つの気配はアーシアだったんだな」

 

錬環勁気功を会得している俺は気の質を見分けることが出来る。

人によって気の質というのは異なるもの。

千人いれば千通りの質がある。

俺がアーシアの存在を認識できたのも、アーシアの気の質を覚えていたからだ。

 

フリードはヨロヨロと立ち上がって、アーシアに話しかける。

 

「おんやぁ? 助手のアーシアちゃん。結界は張り終わったのかな?」

 

「こ、これは………」

 

「そっかそっか、アーシアちゃんはこの手の死体は初めてでしたねぇ。これが俺らの仕事。悪魔に魅入られたダメ人間をこうして始末するんすよ♪」

 

死体を見て呆然としているアーシアに何でもないような口ぶりで自分が行なったことを説明するフリード。

 

「そ、そんな………っ!?」

 

その説明を聞いてショックを受けたアーシアがフリードの方を向く。

当然、俺の顔も見ることになり、彼女の表情は驚愕したものになる。

 

「………イッセーさん?」

 

「………アーシア」

 

アーシアも俺がこんなところにいるなんて思いもしなかったのだろう。

彼女は俺のことを何処にでもいる普通の男子高校生だと思っていたはずだからな。

この雰囲気を見て俺達のことはフリードにも分かったようだ。

 

「なになに? 君たちお知り合い?シスターと悪魔の禁断の再会ってやつ?」

 

「悪魔? ………イッセーさんが?」

 

フリードの言葉が信じられないと固まるアーシア。

………正直、知られたくなかった。

あのままで良かったんだよ、お互いのためにも。

 

「ゴメンな、アーシア………。そう、俺は悪魔だよ」

 

俺がアーシアに謝る横ではフリードが大笑いしていた。

 

「ひゃはははは! 残念だけどアーシアちゃん、悪魔と人間は相容れません! それに、僕達、堕天使様のご加護なしでは生きてはいけないハンパ者ですよぉ?」

 

堕天使だと?

フリードはともかく、アーシアが?

 

いや、ちょっと待て。

そもそも、悪魔と敵対関係にあるはずの堕天使、その堕天使の加護を受けた二人が上級悪魔が管理するこの土地にいるというのはどういうことだ?

 

そんな疑問を持つ俺を無視して、フリードが言う。

 

「まぁ、そんなことは良いとしてぇ、俺的にはこの悪魔君にさっきの仕返しとしてぶったぎらないと気がすまないんですよぉ」

 

俺に光の剣を突き付けるフリード。

 

「懲りないやつだな。もう一発、キツイのを食らわせないと実力差を理解できないか?」

 

拳を鳴らせながら、フリードを睨む俺。

俺とフリードが戦闘を再開しようとした時だった。

アーシアが俺の前に立ち、庇うように両手を広げたんだ。

 

その行為に俺もフリードも目を見開いた。

 

「アーシア………?」

 

「マジっすかー、アーシアちゃん。キミ、何をしているかおわかりなんですかぁ?」

 

フリードの問いにアーシアが言う。

 

「はい。フリード神父。お願いです。この方を見逃してください。悪魔に魅入られたからといって、人間を裁いたり、悪魔を殺すなんて、そんなの間違ってます!」

 

アーシアの言葉を聞いたフリードは憤怒の表情となった。

 

「はぁぁぁぁぁああああ!? バカ言ってんじゃねぇよ! このクソアマが! 悪魔はクソだって、おまえも習っだろうが!」

 

「悪魔にだって、いい人はいます!」

 

「いねぇよ、バァァァカ!!」

 

「います! イッセーさんはいい人です! 悪魔だと分かってもそれは変わりません! こんなこと、主が許すわけがありません!」

 

 

アーシアがそう言った時、フリードは拳銃をもった拳を振り上げて―――――。

 

 

「おまえ、アーシアに何しようとした?」

 

俺はアーシアに当たる直前にその手を掴んだ。

腕を掴まれたフリードが叫ぶ。

 

「なっ!? 離しやがれ、クソ悪魔がぁあ!」

 

フリードは俺の手を振りほどこうとするけど、俺は離さない。

離してやるものか。

俺は握る力をさらに強めて、

 

「アーシアを殴ろうとしたよな? こんな優しい女の子を殴ろうとしたんだよな?」

 

「それがどうしたんすかぁ? 悪魔を庇うなんて、バカなことするからっすよ。そんなクソには教育が必要でしょ?」

 

「ふざけたこと、言ってるんじゃねぇぞ?」

 

鈍い音が部屋に響く。

俺は掴んでいたフリードの腕をそのまま握り潰したんだ。

 

「ギャアアアアアア!?」

 

手首を潰されたフリードは痛みのあまり絶叫を上げてもがき苦しむ。

そんな奴に俺は言う。

 

「殺された人はもっと痛かったと思うぜ?」

 

「このクソ悪魔がぁぁあああ!」

 

何処から出したのか、フリードは隠し持っていた光の剣を出して俺に斬りかかってきたが―――――無駄だ。

 

「クソはおまえだよッ!」

 

今度は死なない程度の力でフリードの顔面を殴り付けた。

フリードの顔面に拳がめり込むと、奴の体は勢いよく吹っ飛び、家の壁に衝突。

そのまま壁をぶち破り、外まで飛んでいった。

そして、外にある大きな木に衝突し、完全に気を失った。

派手に吹き飛んだが、ギリギリ生きてるって感じか。

 

フリードが戦闘不能状態になったことを確認した俺はアーシアの方へと駆け寄った。

 

「アーシア、大丈夫か?」

 

「………はい。イッセーさんに守っていただきましたから」

 

身体的にはケガ一つないが、精神的には………。

昼間には仲良く話していた俺が敵対関係である悪魔だったこと。

フリードが人を殺めていたこと。

今の彼女は頭の中がぐちゃぐちゃになっているはずだしな………。

 

部屋に紅い引光―――――グレモリー家の紋章が現れた。

転移魔法陣だ。

となると、

 

「やあ、兵藤君。助けに来たよ………ってもう終わったのかい?」

 

「遅えよ、木場」

 

魔法陣から最初に顔を出したのは木場だった。

木場に続くように残りのオカルト研究部の面々が魔法陣から現れる。

 

「イッセー、無事なの? ゴメンなさい、依頼人のところにはぐれ悪魔祓いが訪れていることが分かって、急いで来たのだけれど………」

 

「大丈夫ですよ、部長。俺は無傷です。あのクソ神父の方が相当重傷だと思いますよ?」

 

「そう、それは良かったわ。でも、心配したのよ?」

 

「………ははは、心配ばかりかけてすいません」

 

アーシアを教会に案内した件といい、今回の件といい、部長には心配かけてばかりだな。

新米悪魔とはいえ、心配ばかりかけてすいません!

 

俺はふと死んでいる男性の方を見る。

…………人の死ってのはたくさん見てきたけど、やっぱり馴れないよな。

 

「………イッセー、あなたのせいではないわ」

 

「だけど、俺がもう少し早く来ていればこの人は助けられたかもしれません」

 

「それでも、自分を責めないで。責任なら私にあるわ………。イッセー、あなたはそこにいる女の子の正体を分かっているわね?」

 

「ええ。………悪魔とシスターは、相容れないって言いたいんですよね?」

 

部長の言いたいことは分かる。

それでもアーシアは―――

 

その時、何かに気付いた朱乃さんが言う。

 

「―――ッ! 部長、数人の堕天使の気配がここに近づいていますわ」

 

この教会の周辺に複数の気配。

数は少ないが………。

 

朱乃さんの報告を聞いた部長はその場に魔法陣を出現させる。

 

「イッセー、話しは後で聞くから今は帰るわよ?」

 

「ならアーシアを―――――」

 

「気持ちはわかるけど、無理よ。この魔法陣は私の眷族しか転移出来ないの。だから、その子は無理なの。そもそも彼女は堕天使に関与している者。だったら尚更よ。それに、背後関係が分からない今、ここで堕天使と争えば悪魔と堕天使の間で大きな問題になりかねないわ」

 

部長の言っている意味は理解できる。

何が原因で悪魔と堕天使の争いが大きくなるか分からない今、下手に堕天使とその関係者に関わるわけにはいかい。

ここでアーシアを連れて行けば、それが原因で悪魔と堕天使間で大事になる可能性もあるんだ。

それでも、俺は―――――。

 

その時、俺は背中を押されて、魔法陣の方に突き飛ばされた。

俺を押したのはアーシアだ。

 

「………イッセーさん、私なら大丈夫です。行ってください」

 

微笑みながらそう言うアーシア。

だけど、頬には涙が流れていて、

 

「イッセーさん。また、会いましょう」

 

その言葉を最後に、俺達はそのまま駒王学園の部室へと転送されたのだった。

 

 

 

 

 

 

次の日。

今は午後の三時くらいだ。

俺は家の近くの公園に来ている。

今日は平日、普通なら授業を受けている時間だ。

 

それなのになぜ、こんな場所にいるのか。

理由は単純、俺は学校をサボった。

昨日のことがあって、どうしても行く気になれなかったんだ。

 

ベンチに座ってただ空を眺めていると、俺の頬に何か冷たいものが当たった。

 

「はい、飲み物買ってきたよ、お兄ちゃん」

 

美羽だ。

実は美羽も今日はサボっている。

俺を心配してくれてのことだ。

 

昨日の一件を終えて、家に帰った後のことだ。

俺の顔を見て美羽は何があったのか聞いてきたんだ。

美羽もアーシアに関わっているから、昨日の出来事を話したんだが………。

美羽も少しショックを受けていたのだが、それ以上に俺のことを心配してくれた。

 

「ありがとうな。…………それと、美羽にまで学校をサボらせてゴメンな」

 

「そんなこと気にしなくてもいいよ。ボクが勝手にサボっただけなんだから」

 

美羽はこう言ってくれる。

妹に心配をかける兄………お兄ちゃんとして失格だ!

でも、そんな優しさについ甘えてしまう!

 

美羽が空を見上げて言う。

 

「………アーシアさん、大丈夫かな?」

 

その言葉に昨日、部長に言われたことを思い出した。

この件の背後関係が分からない以上、下手に動くわけにはいかない、か。

確かにそうだ。

もし、堕天使全体が絡んでいたら悪魔と堕天使間で大問題になる。

 

だけど、俺はアーシアを助け出したい。

あんな悲しい顔を見たんじゃあな………。

 

俺が悩んでいると―――――。

 

「………ん?」

 

「どうしたの?」

 

「この気配は………」

 

ふいに感じた一つの気配。

その気は真っすぐにこちらに向かってきていて、

 

「イッセーさん!」

 

俺の名前を呼んでこっちに走ってくる女の子がいた。

その女の子は―――――アーシアだった!

 

俺はアーシアに駆け寄る。

 

「アーシア、無事だったんだな! 本当に良かったよ!」

 

「はい! 私は大丈夫です!」

 

俺の手を取り微笑むアーシア。

悪魔である俺との関りがあることもバレただろうし、堕天使に拘束されたんじゃないかと心配していたんだけどね。

うんうん、元気そうで何よりだ!

 

アーシアの無事を確認したところで、俺はアーシアに訊ねた。

 

「なぁ、アーシア。どうしてここに?」

 

「あ、それはですね―――」

 

アーシアが答えかけた時だった。

 

「アーシア!」

 

女性の声が聞こえた。

見るとこちらに一人の女性が走ってくる。

アーシアの名前を呼ぶその女性は、俺も知っている人で、

 

「もう! 私から離れないでって言ったでしょうっ………って、イッセー君!?」

 

「レイナーレ!?」

 

そう、彼女は俺の元カノにして、俺を殺そうとした堕天使、レイナーレだった。

 




久しぶりにレイナーレが登場しました!


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7話 友達になります!!

「本当にごめんなさい!」

 

そう言って俺に頭を下げてくるレイナーレ。

レイナーレ曰く、はぐれたアーシアを探して、見つけたところに俺がいた、とのことなんだけど・………。

俺と再会してから、かれこれ十分ほど経つが、ずっとこんな感じだ。

 

美羽はレイナーレが俺を殺そうとした堕天使であることを知って、初めは少し怒りの表情を浮かべていたんだけど、レイナーレが彼女の上司であるドーナシークっていう堕天使に無理矢理させられたことを知り、何度も頭を下げてくる彼女の姿を見て、少し怒りが収まったようだ。

 

「レイナーレさん、頭を上げてください」

 

美羽がそう言うも、レイナーレは俺に頭を下げ続けた。

 

「私があなたのお兄さんにしたことは、とても許されることじゃないわ。私はあなたやお兄さんに恨まれても、殺されても文句を言えない。それだけのことをしたもの」

 

参ったね………ここまで、謝られると逆に申し訳なくなるよ。

彼女が俺を殺そうとしたことは事実だけど、本心からでは無いことは何となく分かってたしな。

それに、この光景って男子が女子をいじめてるようにしか見えないから居心地が悪い…………。

 

「そんなに謝らなくても大丈夫だって。俺は気にしてないからさ。俺は今、こうして生きてる。だから頭を上げてくれよレイナーレ」

 

「だけど………」

 

「本当に気にしてないよ。だから頭を上げてくれって」

 

そう言うとレイナーレはやっと頭を上げてくれたけど、彼女の顔は涙でクシャクシャになっていた。

今もポロポロと涙を零している。

俺はポケットに入れていたハンカチで涙を拭いてあげた。

 

「ほら。そんな顔してると、折角の美人が台無しになるぞ?」

 

俺が微笑みを浮かべて涙を拭いてあげると、少しだが表情を柔らかくしてくれた。

それからレイナーレが落ち着くのを少し待った後、俺はふと気になったことを聞いてみる。

 

「今さらなんだけど、俺、さっきから君のことレイナーレって本名で呼んでいるけど、大丈夫?」

 

「えっ?」

 

「いや、俺と会った時は夕麻って名乗っていたからさ、良いのかなって」

 

「もちろん良いよ。夕麻って名前はあの時限りの偽名だし。………もし、イッセー君さえ良ければレイナって呼んでくれないかな?」

 

「レイナ?」

 

「えっとね、仲の良い人にはそう呼ばれているの………」

 

「そっか。じゃあ、俺も遠慮なくレイナって呼ぶことにするよ」

 

俺がそう言うと彼女は少し嬉しそうな表情となった。

 

 

 

 

 

 

「はい、アーシアさんにレイナさん。お茶で良かったよね?」

 

「ありがとうございます、美羽さん」

 

「ありがとう」

 

二人は美羽からペットボトルを受けとると少し飲み、ベンチに座った。

 

「それでなんだけど、何で二人はここに? レイナはアーシアを探してたっていうのは分かるんだけど」

 

レイナがアーシアを追ってきた時の表情はすごく焦っているようにも見えた。

まぁ、見知らぬ土地ではぐれたら誰でも焦るとおもうんだけど、何かそれだけじゃないような気がした。

何かに追われているような、そんな鬼気迫るものが彼女からは感じられたんだ。

 

俺の問いにアーシアは目を伏せ、レイナは真剣な目で俺を見てきた。

 

「………ドーナシークから逃げてきたの」

 

「逃げてきた? 何があったんだ?」

 

「ドーナシークがアーシアの神器を奪おうとしていることが分かったからよ」

 

「神器を奪う?」

 

「そう。そして、神器を奪われた人間は…………死ぬわ」

 

「「っ!?」」

 

レイナの言葉を聞いて、俺と美羽に衝撃が走った。

 

「そんな………! じゃあ、アーシアさんは………」

 

「だから、ドーナシークの計画を知った私はアーシアを連れて冥界、アザゼル総督の元に逃げようと考えたの」

 

アザゼルって名前は聞いたことがある。

堕天使の長だったはずだ。

ここで、一つの疑問が俺の中に生まれた。

 

「なぁ、レイナ。今回の件ってドーナシークの独断の行動なのか?」

 

「正確には分からないの。私は使いっぱしりみたいなもので、計画の詳細までは知らされていなかったもの。だけど、少なくともアザゼル総督やシュムハザ副総督はアーシアを殺したりしないわ。あの方達は神器持ちの人間を大切にしているもの」

 

「なるほど………」

 

レイナの言うことが真実ならば、ドーナシークを含めた一部の堕天使の犯行と見て間違いないはずだ。

仮に堕天使全体が絡んでいるなら、悪魔の領土でコソコソせずにさっさと堕天使の領土に連れて帰ればいい。

そうすれば、誰にも邪魔されずに済む。

それをしないってことは他の堕天使に隠れて事を進めているってことだ。

 

「それで、アーシアを連れて逃げようとしたんだけど、アーシアが逃げる前にイッセー君に会いたいって………」

 

「俺に?」

 

すると、アーシアが俺に答えた。

 

「私、イッセーさんお礼が言いたかったんです。それで、レイナさんに無理言ってイッセーさんを探してもらっていたんです」

 

「お礼って………。俺、お礼されるようなことしたかな?」

 

「はい。イッセーさんは私に優しくしてくれました。それに二度も助けて頂きました。教会を追い出されてからは誰かに優しくされたことって無かったものですから。嬉しくて………」

 

「教会を追い出された?」

 

俺はアーシアの言葉が信じられずについ聞き返してしまった。

アーシアは寂しそうな表情で小さく頷いた。

 

「………はい」

 

「イッセー君、アーシアは………」

 

「レイナさん、大丈夫です。………イッセーさん、私の過去を聞いていただけますか?」

 

「………ああ」

 

アーシアは自分の過去を話してくれた。

それは『聖女』として祀られた少女の救われない末路だった。

 

 

 

 

全ては今から十五年ほど前に教会に生まれたばかりの女の子が置き去りにされていた事から始まった。

そこは孤児院を兼ねた教会だったこともあり彼女は信心深く優しい子に育っていく。

 

そんな彼女に力が宿ったのは八つの時だった。

孤児院内に偶然ケガをした子犬が迷い込んだ。

彼女はその子犬を不思議な力であっという間に治療した。

そして、その場面をカトリック関係者に見つけられる。

 

彼女の人生が変わったのはそこからだ。

それから程なくして彼女はカトリック教会の本部に連れて行かれ、治癒の力を宿した『聖女』として担ぎ出された。

そして、訪れた信者に加護と称して体の悪いところを治療していく。

 

彼女の事が噂に上がるのに時間はかからず、多くの信者から『聖女』として崇められるようになった。

彼女の意思など関係なしに。

 

教会関係者はよくしてくれるし、他者のケガを治すこと自体は嫌いではなかった。

むしろ、自分の力が役に立っている事がうれしくて、治癒の力をさずけてくれた神への感謝を忘れる事もなかった。

………だけど、彼女は寂しかった。

誰一人、友と呼べる人が出来なかったからだ。

 

そんなある日、転機が訪れる。

少女の目の前に大ケガを負った悪魔が現れた。

教会の人間にとって悪魔は忌避すべき存在であり、見つけたら退治することが当たり前であった。

だけど、悪魔であろうとケガをしていた存在を見捨てられなかった彼女はその場で悪魔の治療した。

それが彼女の人生を反転させる事になった。

 

『聖女』が悪魔を治療する姿は教会に報告され、報告を聞いた司祭達はその事実に驚愕したという。

そして彼女は『悪魔も癒すことができる力』を持つ者『魔女』として異端の烙印を押され、そのまま教会を追放されたのだった。

それから、各地をさまよっていた後、偶然『はぐれ悪魔祓い』の組織に拾われ、それ以降堕天使の加護を受ける事になった。

そうして『はぐれ悪魔祓い』の一員となった少女だったが、神への感謝を忘れた事はなく、今でも祈りを捧げているという。

 

 

 

 

「………」

 

アーシアが語ったのは俺の想像を越えたあまりに壮絶な過去だった。

 

傷ついた悪魔を治療しただけで、アーシアを追放したのか………。

そして、アーシアの神器を奪おうとする堕天使。

神器を抜けば、アーシアが死ぬとわかっていながら、己の欲を満たすために―――――。

 

ふざけてるな。

どいつもこいつも、あまりに自分勝手だ。

 

「そんな………ひどいよ。そんなのって………」

 

「美羽さん、これは試練なんです。主が私に与えてくれた、試練なんです。私の信仰が足りないから………」

 

悲しむ美羽にアーシアはそう言う。

だけど、俺は首を横に振った。

 

「それは違うぞアーシア」

 

「えっ?」

 

「アーシアは何も間違ったことをしていない。もしこれが試練だっていうなら、アーシアはもう十分に耐えてきただろ?」

 

「ですが………」

 

「それでも神様がまだ足りないっていうなら、俺が神様に文句言ってきてやるよ、『俺の友達を悲しませてんじゃねぇ』ってな」

 

俺の言葉を聞いたアーシアは少し驚いていた。

 

「………友達」

 

「確かに俺たちは出会って間もないし、これと言って何かをしたわけじゃない。だけど、俺たちはこうしてお互いの気持ちを伝えることができているだろ? なら、俺たちは友達で良いんじゃないかな?」

 

「お兄ちゃんの言うとおりだよ、アーシアさん。ボク達はもう友達だよ」

 

俺と美羽がそういうとアーシアは涙を流した。

 

「す、すみません………。私、うれしくて………」

 

アーシアはそう言うと涙を拭いながら、笑顔を俺に見せてくれた。

 

そうだよ。

やっぱりアーシアは笑顔じゃないとな。

すると、レイナが少しモジモジしながらアーシアに言う。

 

「えっとね。………私も友達になってもいいかな? 堕天使だけど………」

 

「はい! レイナさん、よろしくお願いします!」

 

アーシアにそう言われて少しホッとしたレイナ。

レイナは次に俺と美羽の方をチラッと見てきた。

何を求めているのかは明らかで、

 

「もちろん、俺たちも友達だよレイナ」

 

「そうだね。最初はお兄ちゃんを殺そうとしたって聞いて怒ったけど、レイナさんってすごい優しい人だって分かったし。ボクもレイナさんと友達になりたいな」

 

「あ、ありがとう」

 

顔が赤くなっているけど、良い笑顔だ。

こうして、俺たち四人がお互いを友達として認め合った時だった。

 

「ふん。くだらんな。堕天使が悪魔と友達ごっこか? レイナーレ」

 

 

 

 

声は俺たちと少し離れた公園の噴水の方から聞こえた。

振り返ると、レイナの上司にして今回の首謀者とも言っていい堕天使、ドーナシークがいた。

 

「ド、ドーナシーク………!」

 

「ほう? 私を呼び捨てとはずいぶん偉くなったなレイナーレよ」

 

ドーナシークはレイナを睨みながらそう言う。

そして、今度は俺の方を見てきた。

 

「この間の神器持ちの人間か。いや、今は悪魔か。まぁそんなことはどうでもいい。アーシア・アルジェントをこちらに渡してもらおう」

 

「俺が素直に渡すとでも?」

 

「ならば―――」

 

「ならば、力づくでか? 俺に勝てると思ってんのかよ、おっさん。それとも俺たちの後ろにいるあんたの仲間にでも助けてもらうつもりか?」

 

「………っ!? 気付いていたのか。なるほど、やはり只者ではないようだな。だが、堕天使をバカにしてもらっては困るな、悪魔よ」

 

「このままおとなしく帰ってくれたら、痛い目を見ずに済むけど。どうする?」

 

「この場で貴様と争っても我々への損害が大きい。ここは引くとしよう―――――その者たちを連れてな」

 

ドーナシークがそういった時、アーシアとレイナが光に包まれた。

二人を包み込む光が強くなり、はじけた瞬間―――――ドーナシークの手元に二人が現れた!

 

「強制転移!?」

 

目を見開く俺にドーナシークは薄く笑って答えた。

 

「いざという時のために強制転移のマーキングをしておいたのだよ。アーシア・アルジェントだけでも良いかと思っていたのだが、レイナーレにも仕掛けておいて正解だった」

 

やられた………!

確かに、自分達の計画の要であるアーシアを逃すはずがない。

アーシアが逃げ出した時のために仕掛けを施していてもおかしくはない。

少し考えれば分かったことだ。

完全に油断していた………!

 

歯噛みする俺を嘲笑うようにドーナシークが言う。

 

「では、これで失礼する。計画も大詰めなのでな」

 

「待ちやがれ!」

 

俺はすぐさま気弾を放つも、僅かな差で転移の方が早く、命中することはなかった。

ドーナシークの転移が完了したと同時に俺たちの後ろにあった気配も消えていった―――――。

 

 

 

 

二人を連れていかれた後、公園にいるのは俺と美羽の二人だけ。

 

俺は先ほどまでドーナシークがいた場所を見つめながら息を吐く。

これも平和ボケってやつなのかね?

美羽をこちらの世界に連れてきてからは争いのない平和な日々が続いていたからな………。

二人が連れて行かれたのは油断していたせいだが………今は自分を責めている場合じゃない。

この後、どう動くかが重要だ。

 

俺は振り向くと、美羽に言う。

 

「俺はドーナシークを追う。美羽は家に――――」

 

「帰らないよ。ボクも行くよ」

 

「おまえなぁ…………」

 

「アーシアさんもレイナさんはボクの友達でもあるんだよ。だからボクも行く。それに、ボクはお兄ちゃんの足手まといにはならないよ」

 

ダメだこりゃ。

美羽ってば以外に頑固なところがあるからな。

こうなったら梃子でも動かない。

俺としては美羽を危険なことに巻き込みたくないんだが………。

 

「分かった。だけど、気をつけろよ?」

 

お前にケガされたら、俺も嫌だしな。

それに父さんと母さんに俺がしばかれる…………!

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

 

「よし。そんじゃ、さっさと行くぞ。二人を助けにな」

 

俺と美羽はアーシアとレイナを救出するべく、教会へと向かった。

さて………後で部長たちに何て説明しようか。

 

 

 

 

 

 

[リアス side]

 

 

私は今、とある公園に転移してきた。

 

「イッセーったらもういなくなってる…………」

 

イッセーの情報を基に朱乃に堕天使について調べてもらっていた結果、駒王町に現れた堕天使は一部の者が独断で行動していることが判明。

堕天使達を討伐しに行くから、イッセーを呼びに来たのだけれど…………。

 

私に続いて朱乃が転移してくる。

 

「あらあら、一足遅かったようですわね」

 

「もう、他人事みたいに言わないでちょうだい」

 

「うふふ。それで、どうするの、リアス?」

 

「イッセーは例の教会に向かってるみたいね。それなら、祐斗と小猫にもそちらに向かってもらいましょう」

 

「それでは、私が二人に連絡を入れておきますわ」

 

「ええ、お願いするわ」

 

朱乃が祐斗と小猫に連絡を入れた後、私と朱乃も堕天使のところへと向かった。

 

 

[リアス side out]

 




うーん、文章表現がもっと上手くなりたい・・・・・


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8話 突入します!!

俺と美羽は今、アーシアとレイナが連れていかれたとされる教会に着いた。

アーシアの気を追ってきたのだが、ここで間違いないようだ。

 

………で、そんな俺達よりも先に教会に着いている者達がいた。

 

「木場に小猫ちゃん。なんで、二人がいるんだよ?」

 

「リアス部長の命令でね。堕天使の背後関係が掴めたから討伐に来たんだよ」

 

「部長はイッセー先輩を呼びに公園に転移したらしいんですが、イッセー先輩はすでにいなかったと言っていました」

 

「マジで?」

 

俺が尋ねると二人は頷いた。

 

まさかのすれ違いか。

本当にすいません、部長………。

俺、グレモリー眷属の問題児とか思われてないよね?

 

木場が訊いてくる。

木場の視線は美羽に向けられていて、

 

「イッセー君。美羽さんも連れてきているようだけど………良いのかい?」

 

あー、やっぱり気になるよな。

皆には俺が赤龍帝であることは明かしていても、異世界のことは何一つ話していない。

当然、美羽の素性もだ。

 

「まぁ、大丈夫だ。美羽は俺が守るし。それに美羽もそれなりの実力はあるからな」

 

なんと言っても美羽は魔王の娘だね。

 

「………イッセー君がそう言うなら、分かったよ。僕や小猫ちゃんもいるからね」

 

聞きたいことがあるようだったけど、とりあえず納得はしてくれたようだな。

まぁ、ここで質問に答えている時間もないしな。

あまりのんびりしているとアーシアの神器が奪われてしまう。

 

次に小猫ちゃんが俺に聞いてきた。

 

「イッセー先輩、神器はまだ動かないんですよね?」

 

「まぁね。まだ、調整に時間がかかるらしいよ」

 

そう、籠手はまだ使えない。

ドライグ曰く、

 

『無理に悪魔化を試みた際、相棒は倒れただろう?あの時に神器に異常が生じてな。現ベルゼブブの協力もあって今は安定しているが、その影響で神器はしばらく使えない。当然、禁手化もだ。調整が終わり次第連絡する』

 

だそうだ。

 

そう言うわけで俺は今、籠手は全く使えない状態だ。

この事は部員の皆は全員知っている。

部長もこの事があったから、フリードの時にはすごく心配をしていたんだ。

相変わらず、表情に変化がないが小猫ちゃんもなんだかんだで心配してくれていたらしい。

 

「まぁ、籠手が使えなくても堕天使には遅れを取らないよ」

 

「そうですか。なら、いいです」

 

「そういえば、部長と朱乃さんは?」

 

「二人はこの教会の外にいる堕天使の討伐に行ったよ」

 

なるほど、一人も逃がすつもりはないようだ。

 

となると、この場の戦力は俺と美羽、木場、小猫ちゃんの四人。

これだけいれば十分過ぎるだろう。

 

教会の入り口に立つと、小猫ちゃんが言ってくる。

 

「先輩、気を付けてください」

 

「ああ、どうやら中で俺達を待っている奴がいるらしいな」

 

この気は…………あいつか。

 

扉を開けて中に入ると、待っていたのは白髪の男。

 

「やあやあやあ。感動の再会だねぇ、イッセーく~ん」

 

「フリード………本当に懲りない奴だな。結構重傷だったはずだが………」

 

「もちろん、この通り、生きてござんすよ! どこにも傷はナッシーング!」

 

「どうせ、アーシアに治療させたんだろ? ………まぁいい、とりあえず今すぐ消えろ。こっちは急いでんだ」

 

俺がそう言うとフリードは笑いながら光の剣を両手に握る。

光の剣の二刀流だ。

 

「そんな冷たいこと言わないでくれよぉ。俺っちはイッセー君に前回の仕返しをしたいんだからさぁ!」

 

「無駄ってことが分からないみたいだな。………退けッ!」

 

俺はフリード目掛けて殺気を放った。

俺の正面に広がった殺気による圧力は木製の床にヒビを入れ、弾く。

ガラスにもヒビが入り、いくつかが砕け散った。

 

フリードは少し後退りしながらニンマリと笑った。

 

「うひょー! すんごい殺気! これでこそ殺りがいがあるってもんだぜぇ!」

 

床を蹴って俺達の方に突っ込んでくるフリード。

 

迎え撃とうとする木場達を手で制した俺は腰を沈めて、拳を引いた。

俺は錬環勁気功を発動し、拳に気を集める。

赤いオーラが拳を纏う―――――。

 

俺は光の剣を振り回すフリードとの間合いを一瞬で詰め、奴の懐に入り込む。

 

「これでも喰らっとけ」

 

静かに告げた俺はオーラを纏わせた拳を放ち、フリードの顔面を捉えた。

成す術もなく、俺の拳を受けたフリードは教会の壁を突き破って飛んでいく。

 

初めて出会った時とほとんど同じ絵だ。

………ただ、フリードが当たる直前に体を後ろに反らしてダメージを減らしていたこと以外は。

 

まぁ、減らしたと言ってもほぼ直撃だったから、重傷なのは間違いない。

それにしても、あのタイミングであんなことが出来るなんてな。

あれで性格が良ければ教会からも追放されることもなく、良い戦士になれただろうに。

勿体ないやつだ。

 

「行くぞ、皆」

 

「あ、うん」

 

「………了解です」

 

俺は後ろで呆けている木場と小猫ちゃんに声をかけて先を急いだ。

 

 

 

 

[レイナーレ side]

 

 

私、レイナーレはアーシアと共にドーナシークに連れ去られてから、教会の地下にある大かな部屋に連れてこられた。

 

今、私は壁に鎖で四肢を繋がれている。

そして、アーシアは部屋の奥にある大きな十字架に磔にされている状態。

今からドーナシークがアーシアの神器を引き抜く儀式を行おうとしている。

 

「お止めください! こんなことは間違っています!」

 

「何が間違っているというのだ? 人間ごときが神器を持っていたとしても何の役にもたたん。私が持っていた方が有効に活用できる」

 

「ですが、そんなことをすればアーシアが!」

 

「この娘は神器のせいで辛い目に会ったのだろう?それはこれからも変わらん。だから、苦しみから解放してやろうというのだ。それが分からんのか、レイナーレよ」

 

確かにアーシアはこれまでに沢山辛いことを経験してきた。

もしかしたら、これからも辛い経験をするかもしれない。

だけど…………!

 

「今のアーシアには友達がいます! 例え辛いことが会ったとしても友達がいれば、アーシアは何だって乗り越えられます!」

 

「………レイナさん」

 

私がそう言うもドーナシークはどうでも良いことのように嘲笑う。

 

「友達?くだらんな。悪魔とつるむなど以ての外だ。………まぁ、いい。どのみちアーシアの神器は私がいただく。どんな傷でも一瞬で治す《聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)》。私はこの力があれば、私は更に堕天使としての高みに立つことができる」

 

「そんなことで………。そんなことであなたはアーシアを殺そうというのですか?」

 

「そんなことだと? 世の中は全て力だ。武力、智力、権力、財力。これらが高いものが常に勝ってきた。力とは全てなのだよ」

 

「そんなもの! 他人から無理矢理奪って得たものなんて何の意味もないわ!」

 

「所詮、貴様には何を言っても無駄か。私は同族を殺すことは好きではない。同じ堕天使として生かしておくつもりだったが、もういい。この娘から神器を抜き取った後で貴様は処分する。下級の堕天使が一人いなくなったところで問題はない」

 

ドーナシークがアーシアの方を向き、神器を抜き取るための術式を始める。

魔法陣が展開し、アーシアの体を光が包む―――――。

 

「止めなさい、ドーナシーク!!」

 

「うるさいぞ。そいつを黙らせろ」

 

「おら、黙れ!」

 

ドーナシークに命じられて私の横にいた悪魔祓いの一人が私の顔を殴った。

 

殴られた時に口の中を切ったのだろうか。

血の味がする。

 

「レイナさん!」

 

アーシアが私の事を心配してくれている。

その目には涙。

 

自分が殺されそうになっているというのに、私の心配………馬鹿ね、アーシア。

でも、そんなあなただからこそ、私は―――――。

 

ダメ、私ではアーシアを助けられない。

例え鎖を解いても私ではドーナシークからは逃げられない。

 

「誰か………助けて………誰か助けてよ………!」

 

私が自分の無力さに涙を流した―――――その時。

 

 

 

ドッガアァァァァアン!!!

 

 

 

突然、部屋の扉が吹き飛ばされた!

鉄製の扉が反対側の壁に衝突し、その衝撃で建物が激しく揺れた!

 

「何事だ!?」

 

ドーナシークも部屋にいた悪魔祓いも突然のことに声を荒げている。

暫くすると舞い上がっていた埃が収まり、視界が開けた。

そして、扉があった場所に立っていたのは―――――。

 

「俺の友達を泣かせてんじゃねぇ!」

 

赤いオーラを身体中から発しているイッセー君だった。

 

 

「レイナーレ side out」

 

 

 

 

遡ること少し前。

教会の地下に行く通路を発見した俺達は、その通路を進んでいった。

すると、通路の奥に金属製の大きな扉を見つけた。

 

「ここで、間違いないみたいだな」

 

「そうだね。中から堕天使の気配がする」

 

「それと、あのシスターさんの気配もします」

 

皆が言うようにこの扉の向こうからアーシアとレイナの気配がある。

それと、ドーナシークをはじめとした数人の堕天使、他にもいるけど………細かいことはいい。

今はアーシアの救出が最優先だ。

 

「じゃあ、いくぜ?」

 

俺の言葉に全員が頷く。

俺はそれを確認すると、扉を思いっきり殴り付けた。

扉は吹き飛び、反対側の壁に衝突。

その衝撃で建物は激しく揺れ、舞い上がった埃で室内は真っ白に染まっていた。

 

視界が開け、俺が目にしたのは涙を流すアーシアとレイナ。

 

「俺の友達を泣かせてんじゃねぇ!」

 

俺は怒りの言葉をドーナシークにぶつけた。

 

 

 

 

「イッセー君!」

 

「イッセーさん!」

 

俺の姿を見て、二人は俺の名前を呼んだ。

俺は二人に問う。

 

「二人とも無事か?」

 

「私は無事です。でも、レイナさんが………」

 

レイナの方を見ると口から少し血が流れていて、顔には痣も出来ていた。

 

見たところ、レイナの横にいる悪魔祓いらしきやつがやったのだろう。

あいつ、女の子になんてことしやがる!

よし、あいつは絶対にボコボコにしてやるよ!

心優しい美少女を傷つけるとか、男として許せん!

 

レイナが言う。

 

「これくらい平気よ。イッセー君、私は大丈夫だから」

 

「そっか。後で手当てしないとな。女の子の顔に傷が出来たらダメだしな」

 

とりあえず、二人とも命に関わるようなケガはしてないな。

となると問題はあいつか。

 

「また、貴様か。つくづく私の邪魔をしてくれるな悪魔よ」

 

そう言いながら翼を広げて、手に光の槍を作り出すドーナシーク。

その姿を見て、木場が少し驚いていた。

 

「翼が四枚………。なるほど、彼は中々の実力者のようだね」

 

翼の数で実力が分かるということか?

前回、ドーナシークの翼を見たときは気にしなかったけど、翼が多い方が強いのか。

ドライグはそんなこと教えてくれてなかったな。

 

ドーナシークが言う。

 

「もう少しで計画は遂行される。邪魔をしないでもらおうか」

 

ドーナシークはアーシアの首に槍を突きつけると、悪魔祓いに合図を送ってレイナにも剣を突きつけさせる。

 

「人質のつもりか?」

 

「私としては速やかに終わらせたいのだ。悪魔の諸君にはご退場願おう」

 

パチンッとドーナシークが指をならす。

すると、部屋に黒いフードを被った人間が三十人ほど入ってきた。

 

「全員、はぐれ神父とはぐれ悪魔祓いだね」

 

木場がそう呟く。

 

こいつら全員が奴の配下………。

よくこれだけの数を集めたもんだな。

 

「これくらいで俺達が引き下がると思ってんのか?」

 

「こちらには人質がいる。手は出せんだろう。それとも見捨てるか?」

 

「俺にとっては何もしないことは見捨てることと同じだ」

 

「ほう? 貴様にはこれが見えんのか?」

 

ドーナシークがさらに槍をアーシアに突きつけようとした――――その時。

 

バチンッと弾けるような音と共にドーナシークの槍が見えない何かに弾かれた。

それはレイナに剣を突きつけていた悪魔祓いも同じだった。

 

それにドーナシークが驚愕する。

 

「なっ!?」

 

奴が驚くのも無理はない。

アーシアとレイナを守ったもの、それは―――――。

 

「ボクの友達は誰にも殺させはしないよ!」

 

美羽が手を前に突きだし、そこには魔法陣が展開されていた。

 

美羽は魔法が使える。

美羽曰く、幼い頃からシリウスに魔法を教えられていたらしい。

現在では高い技術を有し、数多くの魔法が使えるとのこと。

 

美羽が今、展開した魔法は風による防御術式。

それをアーシアとレイナに同時に展開して二人を守ったんだ。

―――しかも、誰にも気づかれずに。

 

隠密性の高い魔法。

これを修得するのは並の努力では難しい。

これだけで美羽の高い実力が見て取れるだろう。

 

「ありがとうな、美羽。良いタイミングだ」

 

「ううん。お兄ちゃんが時間を稼いでくれたからだよ」

 

俺の言葉を聞いて、ドーナシークが声を荒げる。

 

「先程までの会話は時間稼ぎだというのか!?」

 

「ああ。アーシアは殺されることは無いだろうけど、レイナはそうじゃない。おまえにとってレイナは直ぐにでも殺すことが出来るだろ? だから、安全が確保されるまで待っていたんだよ」

 

「貴様………っ!」

 

「さあ、覚悟しろよドーナシーク。おまえの計画はこれで終わりだ」

 

俺がそう告げるとドーナシークは激昂する。

 

「たかが、悪魔ごときが! その者どもを今すぐ殺せ!」

 

ドーナシークに命じられて、はぐれ神父達が一斉に俺達の方に走ってきた。

 

「イッセー君、はぐれ神父どもは僕が相手しよう。彼らには個人的に思うところがあるからね」

 

剣を抜き放って、木場はそう言ってくる。

普段とは違うとても低い声色だ。

はぐれ神父と何かあったのだろうか?

 

「祐斗先輩、私も戦います。イッセー先輩はあの堕天使をお願いします」

 

「じゃあ、ボクは残りの堕天使を相手するよ!」

 

小猫ちゃんと美羽もそう言って戦闘に参加する。

木場が剣で相手を斬り伏せ、小猫ちゃんが殴り飛ばし、美羽は炎、雷、氷、風、あらゆる属性の魔法を放って堕天使を相手にする。

 

「分かった。後ろは任せたぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

俺はドーナシークのところまで駆けていった。

 

 



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9話 家族が増えます!

[リアス side]

 

私と朱乃は今、教会の近くにある小さな森の中にいる。

私達の役割は教会の外にいる堕天使の捕縛または消滅させること。

そして先程、外にいた堕天使の全員の処理が終わったところだ。

 

朱乃が言う。

 

「リアス、投降してきた堕天使は拘束して冥界の専門機関に送っておきました」

 

「そう。ご苦労様、朱乃。それじゃあ、祐斗達の応援に向かいましょう。イッセーもまだ神器が使えないみたいだし、心配だわ」

 

「そうですわね」

 

互いの合意の上で行ったとは言え、私の実力不足のせいでイッセーには無理な転生をさせることになってしまった。

アジュカ・ベルゼブブ様の調整もあって、最終的には無事に悪魔に転生できたが、悪魔の駒を取り込んだ際に生じた不具合もあり、イッセーは神器を使えない状況にある。

『兵士』の駒を八つ使っても転生できなかったほどの実力。

まだ彼の真の力というものは見たことがないけれど、主となった私よりも上なのは間違いないのだろう。

しかし、神器を使えない状態でどれだけ、その力を発揮できるのか………。

 

消えない不安を抱えた私はこちらの処理を終えたので、すぐに魔法陣を展開して教会に転移しようとした。

その時―――――。

 

 

ドゴオォォオオオン

 

 

何が崩れるような音が聞こえた。

音がした方角には―――――例の教会。

戦闘が行われている、そう認識すると同時に私達は感じ取った。

 

「このオーラは…………」

 

「…………イッセー君のものですわね」

 

感じ取れる濃密なオーラ。

間違いなく、私を―――――上級悪魔を超えている。

神器を使えないはずなのに、これだけの力を発揮できるだなんて………!

 

今回の戦いでは彼の実力が分かるかもしれない。

私はイッセーの心配をする傍らでそう考えていた。

もちろん、それは祐斗や小猫のサポートあっての話だ。

二人と協力して、どれだけ戦えるのかを確かめるつもりでいた。

 

でも、これは―――――。

 

「………私は彼を見誤っていたようね。多分、彼は………」

 

「部長?」

 

「行きましょう。といっても、到着した時には全てが終わっているでしょうけど」

 

 

 

イッセー、あなたは一体―――――何者なの?

 

 

 

[リアス side out]

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とドーナシークは地下室を飛び出た後、教会の礼拝堂の前で少しの戦闘を行った。

そして今。

教会の壁が一部崩壊しており、ドーナシークはそこに埋もれている。

 

「ゴブッ」

 

瓦礫の中で膝を着くドーナシーク。

口から血を吐いている。

さっき、俺があいつの腹に軽く一発入れたんだけど………意外とタフだな。

 

「もう終わりか?」

 

「ぐっ…………。舐めるなよ、若造がッ!」

 

そう言って、俺に光の槍を投げつけてくる………が、俺は胸に当たる直前に掴み、ドーナシークに投げ返した。

投げ返した光の槍はドーナシークが投げつけた時よりも速く、空を切裂きながら奴へと迫っていく。

 

「なっ!?」

 

まさか、投げ返されるとは思わなかったのだろう。

ドーナシークはギリギリのところで避けながらも、信じられないといった表情を浮かべていた。

 

「何故、悪魔である貴様が光に触れられる!?」

 

「気で手を覆ってたんだよ。直接触れているわけじゃないから悪魔の俺でもこういう芸当は出来る。それでも、少しヒリヒリするけどな」

 

「っ・・・・!」

 

絶句してるな。

 

光は悪魔にとって猛毒らしい。

直接触れば、光によって、身を焼かれるとのことだ。

特に魔力が低い悪魔は光への耐性が弱いらしく、少し掠めるだけでも激痛が走ると部長から警告を受けた。

俺は悪魔に転生したものの、保有する魔力量はかなり少ない。

下級悪魔の中でも魔力は低い方らしい。

そんな俺が堕天使の光の槍を直接受ければ、色々と不味い。

 

ならば、どうするか。

簡単だ、直接受けなければ良い。

 

俺は錬環勁気功を発動させて、体の表面を気で覆う。

こうすれば、ドーナシークの槍は俺には届かない。

 

俺は一歩踏み出して、ドーナシークに言う。

 

「まぁ、そんなことはどうでも良い。おまえはアーシアとレイナを傷つけた。簡単に終わらせるとは思うなよ?二人を泣かせたツケはきっちり払ってもらう」

 

「この………悪魔ごときがあぁぁああ!」

 

ドーナシークは翼を広げて空を飛ぶ。

そして、自分の周囲に光の槍を展開し、それらを全て、俺に目掛けて放つ。

さっきよりも速く、数が多い。

だが―――――。

 

「そんなもん、効くかよ」

 

俺は気を溜めておいた腕を振るうと、衝撃波を生み出し、降ってきた光の槍を全て弾き飛ばす。

弾かれた光の槍が周囲に着弾し、弾け飛んだ。

爆風と煙が巻き起こる中、俺はドーナシークの背後に移動して頭を掴む。

 

「いつの間―――」

 

そして、ドーナシークが言い切る前にそのまま教会の床に叩き付けた。

叩き付けた所にはドーナシークの血と羽が飛び散る。

 

「今のはレイナを泣かせた分だ」

 

ヨロヨロしながら立ち上がるがドーナシークは血まみれでボロボロだ。

 

「まだ、立てるのか。本当にタフだな、おっさん」

 

「クソォオオオオオ!」

 

ほとんど絶叫に近い叫びを上げながら手元に光を集めるドーナシーク。

その光は先程までとは違い、どんどん大きくなっていく。

小技では俺を倒せないと踏んで、自分の全力を放つ気のようだ。

少しすると、ドーナシークの手元にはやつの体の三倍くらいの大きさの槍が出来上がる。

 

「グオオオオオ!」

 

ドーナシークはその槍を握って突貫してくる。

多分、これが全力の攻撃なのだろう。

奴の全てを込めた捨て身の攻撃。

だけど――――

 

「なん、だと…………!?」

 

俺は槍の先端を掴み、ドーナシークの突貫を軽々と止めて見せた。

 

まさか、悪魔に成り立ての新人悪魔に自分の全力をこうも簡単に防がれるとは思わなかったのだろう。

ドーナシークは俺と、自身の作り出した光の槍を交互に、何度も視線を移していた。

 

驚くドーナシークを無視して、俺は握る手に力を入れ光の槍を砕く。

そして、俺は呆然とするドーナシークにボディーブローを放つ!

 

「ガハッ!!」

 

骨が砕ける感触と内臓を潰した感触が拳を通して俺に伝わる。

こみあげてきたものを堪えきれなかったドーナシークは口から大量の血を吐き出した。

 

「これがアーシアを泣かせた分。―――これで終わりだ」

 

俺はそのまま拳に更に力を込めて、ドーナシークを吹き飛ばす。

勢いよく吹っ飛んだドーナシークは教会のガラスを突き破り、外の木に衝突したところでそこに倒れ伏した。

その後、ドーナシークはピクリとも動くことなく、完全に気を失っていた。

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

はぐれ神父と堕天使を片付けた後、僕と小猫ちゃん、そして美羽さんは捕らわれていたシスターことアーシアさんとレイナーレという堕天使を救出した。

正直、悪魔が堕天使を助けるなんて前代未聞のことなんだけど、美羽さんとアーシアさんに懇願されたので助けることにしたんだ。

そして、上で戦っているイッセー君の援護に向かったんだけど…………。

 

そんなものは必要なかった。

イッセー君は堕天使を圧倒していたからだ。

あの堕天使から感じたオーラは並の堕天使よりもかなりの強者だった。

それをイッセー君は圧倒していた。

それも無傷で。

 

すると、見知った気配が近づいてきた。

 

「想像以上ね、彼」

 

リアス部長だ。

 

「部長、そちらの方は片付いたのですか?」

 

「ええ。祐斗と小猫も無事みたいで良かった………って、美羽? 何故ここに?」

 

「ボクがお兄ちゃんに頼んで連れてきてもらったんです。ボクも友達を助けたくて」

 

「そう。詳しくは後で聞かせてもらうわ。美羽も無事ね? ケガはない?」

 

「はい。ボクは大丈夫です」

 

なんてことを平然として言っているけど、彼女も圧倒的だった。

なにせ、彼女も無傷で堕天使を捕縛しているからね。

 

「部長、一部の者は捕縛してあります。お任せしても良いですか?」

 

「了解したわ。朱乃、冥界に送っておいてちょうだい」

 

朱乃さんはリアス部長の指示を受けて、捕縛した者ところへ向かっていった。

 

「それにしても、イッセー君はとんでもないですね。彼は一切、神器を使っていませんよ?」

 

「ええ。だから驚いているのよ。素の状態で上級悪魔を超えているんですもの」

 

そう、イッセー君の力は明らかに上級悪魔を超えたものだった。

イッセー君、君は一体何者なんだい?

 

「とにかく、イッセーのところに行きましょう」

 

リアス部長に言われ、僕達はイッセー君のところに向かった。

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

俺は外に飛んでいったドーナシークを回収して教会に戻った。

ドーナシークは生きているけど瀕死の状態だ。

 

ここは部長の管轄だからな。

こいつの最終的な処分は部長に任せるつもりだったから一応、死なないように手加減はしたんだけどね。

 

木場達と合流しようとしていると、アーシアが走ってきた。

 

「イッセーさん!」

 

「アーシア、大丈夫だったか?」

 

「はい! 皆さんが守ってくれましたから!」

 

「そっか。レイナも無事みたいだな」

 

「うん。私も助けてもらったから」

 

二人とも無事みたいだ。

レイナの傷が消えているのはアーシアに治療してもらったからなのだろう。

 

と、二人の後ろから部長が姿を見せる。

 

「イッセー、ご苦労様」

 

「あ、部長。………すいません、先に動いてしまって」

 

「いいのよ。あなたが無事ならそれで良いわ。………彼が今回の首謀者のようね」

 

部長がドーナシークを見ながら尋ねてきた。

 

「ええ。瀕死の状態ですが、一応生きてます。最終的な処分は部長にお任せしようと思いまして」

 

「そうね。彼は冥界の専門機関に送るわ。本当ならここで消し飛ばしても良いのだけれど、流石に元部下の前で消し飛ばすのは私も気が引けるわ」

 

そう言って部長はレイナの方を見た。

 

「部長、レイナは………」

 

「分かっているわ、イッセー。彼女のことは美羽とそこのシスターさんに聞いたわ。だから、彼女のことは私の方で少し取り調べてから解放するわ。本当なら、こういう処置はしないのだけれど………」

 

悪魔と堕天使は敵対関係だ。

普通なら、消滅させる、もしくは捕縛するのだろうが………どうやら、俺と美羽の気持ちを考えてくれたらしい。

 

部長がレイナに話しかける。

 

「えっと、レイナーレだったかしら?」

 

「あ、は、はい」

 

「そう言うわけで、もう少し私達に付き合ってもらうわ。いいわね?」

 

「は、はい」

 

「あと、シスターさんについては私の方で保護させてもらうわ。勝手だと思うけど、流石にこういうことがあった以上、放置しておくわけにはいかないもの。ごめんなさいね」

 

「い、いえ! よろしくお願いします!」

 

そう言ってペコリと頭を下げるアーシア。

二人の様子に部長はクスクスと笑った。

 

「二人とも、そんなに堅くならなくてもいいわよ? 確かに私達は悪魔で堕天使とは敵対しているけど、私はそれなりに人を見て判断しているつもりよ?」

 

「「は、はい!」」

 

この後、ドーナシークはアーシアに治療された後、冥界の専門機関に送られそこで裁きを受けることになった。

レイナは部長と少しばかり話した後、冥界の堕天使領に戻っていった。

駒王町に残ればいいのでは、と言ってみたけど、今回のことをアザぜル総督に報告しなければならないと言って戻っていった。

 

ちなみにレイナの連絡先は聞いといたからいつでも連絡は取れるんだ。

まぁ、互いに敵対している勢力に所属している者同士で連絡を取り合うのは問題なのだが………まぁ、その辺りは適当な言い訳を考えておこう。

 

アーシアは部長に保護されることになり、とりあえず今日は部長の家に泊まることになった。

 

それから、美羽のことだけど、部員の皆には亡くなった美羽の父親が魔法使いだったと言って誤魔化しておいた。

皆は色々と疑問があったようだけど、詮索はしてこなかったのは正直、助かったよ。

 

こうして、今回の騒動は収拾がついた。

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

 

俺は何時ものように松田や元浜と話をしながら授業が始まるのをまっていた。

チャイムが鳴り、席に座ると、教室のドアが開き、担任の先生が入ってくる。

 

「うーい、席につけー。それから、元浜はエロ本をしまえー」

 

「はーい」

 

「それじゃあ、出席をとるー。呼ばれたやつは大きく返事をしろー」

 

すると、一人の生徒が手を挙げた。

 

「坂田先生」

 

「なんだ、志村?」

 

「先生が持っているのは出席簿じゃなくて今週のジャンプです」

 

「あ、間違えた」

 

あ、間違えた、じゃねぇよ!

サイズ全然違うじゃねぇか!

 

全く、うちの担任は…………。

不真面目にもほどがあるだろう。

 

それからしばらくして、出席をとり終わると、坂田先生が言う。

 

「よーし、全員いるな。突然だが、転校生を紹介する。おーい、入ってくれー」

 

転校生とそう聞かされて賑わう教室。

男子なのか女子なのか、そんな定番の話で盛り上がっていく。

 

転校生は出来れば女子で!

更に言えば美少女が良いです!

 

そんなことを考えていると、教室の扉が開いて転校生が入ってきた。

 

「えっ?」

 

入ってきた転校生を見て、間の抜けた声を出す俺。

 

その転校生は見覚えがあったからだ。

というか、昨日も会った!

 

綺麗な長い金髪にグリーンの瞳の美少女――――アーシアだ!

そう、転校生とはアーシアだった!

 

ウソだろ!?

なんでここに!?

 

「じゃあ、自己紹介を頼む」

 

「えっと、アーシア・アルジェントと申します! 日本に来て日が浅いですが、皆さんと仲良くしたいです!よろしくお願いします!」

 

「「「「よっしゃあああ!!」」」」

 

クラスの男子はもうハイテンションだ。

そりゃあ、アーシアは可愛いからな。

事情を知らなければ、俺も同じ反応をしていただろう。

 

しかし、次にアーシアが発した言葉が驚きの内容で―――――

 

「それから、私はイッセーさんのお家にホームステイすることになりました。イッセーさん、よろしくお願いします!」

 

「「「「えええええええええっ!?!?!?」」」」

 

な、なにぃ!?

そんな話、聞いてないぞ!?

 

俺は美羽の方を見てみると、美羽はこちらに手のひらを合わせて『ゴメンね』と口パクで謝ってきた。

まさか、美羽は知ってたの!?

ていうか、父さんと母さんに許可は貰ったのかよ!?

いや、俺は全然良いんだけどね!

 

とりあえず、俺は…………、

 

「お、おう! よろしくなアーシア!」

 

と、答えるしかなかった。

休み時間に男子どもから追いかけ回されたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

 

俺、美羽、そしてアーシアは部室にいる。

 

アーシアが家にホームステイする件は昨日、俺達が家に帰った後、部長から美羽に連絡があったらしい。

部長も最初は俺に連絡をしたらしいんだけど、繋がらなかったらしく、美羽に連絡をしたとのこと。

 

まぁ、俺は帰ってからすぐに寝たからな………うん、しょうがない。

それで、美羽も俺に伝えるのを忘れていたそうだ。

ちなみに父さんと母さんの許可は既に貰っているとのこと。

アーシアの事情を話したら、是非とも家で暮らしてほしいと言っていたそうだ。

 

「ゴメンね、お兄ちゃん」

 

「そんなに謝るなって。俺にも非があるみたいだし。それにアーシアが家に来るなんて嬉しいサプライズだよ」

 

そう言いながら頭を撫でてあげる。

それより、俺には一つ気になることがあった。

 

「なぁ、アーシア。もしかして、悪魔になった?」

 

そう、アーシアからは悪魔の気配が感じられて、朝からずっと気になっていた。

 

「分かるんですか?」

 

「まぁな。…………部長、アーシアを何で転生させたんですか?」

 

部長が私利私欲で誰かを無理矢理、眷属にしたとは思えないけど…………。

 

すると、それにはアーシアが答えた。

 

「私がお願いしたんです」

 

「アーシアが?」

 

「はい。私がイッセーさんと一緒にいたくて、リアスさんに悪魔にしてもらったんです。リアスさんは悪魔になる以外の道も提示してくれました。でも、イッセーさんとずっと一緒にいたくて…………」

 

うぅ………これは恥ずかしいセリフだ!

アーシアちゃんも大胆だよ!

いや、嬉しいけどね!

 

「お兄ちゃん…………」

 

おお!?

美羽が頬を膨らませているんですけど!?

そんなに嫉妬しなくても、俺は美羽だけのお兄ちゃんだよ!

とりあえず、頭を撫でて機嫌を直そう!

 

「まぁ、そういうわけなの。イッセー、美羽、アーシアのことお願いするわね。アーシアの荷物は明日、お家の方へ届けるわ。あと、私もアーシアの主として挨拶に行くから、ご両親に伝えてもらえるかしら?」

 

「了解です、部長」

 

「分かりました。アーシアさん、これからもよろしくね!」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

話が纏まったところで、部室の奥から朱乃さんがケーキを持ってきた。

 

「さて、話も終わったことだし、アーシアの歓迎会を始めるわ。ま、まぁ、歓迎会と言っても私が作ったケーキしかないんだけど…………」

 

部長は頬を赤らめて照れくさそうに言った。

 

頬を赤らめた部長、かわいいです!

しかし、手作りケーキか!

部長の手作りが食べられるなんて感激だぜ!

 

こうして、アーシアは部長の『僧侶』として眷属になり、俺達の新しい仲間になった。

いや、仲間というよりは家族かな?

父さんも母さんも美羽も家族が増えたって喜んでるしな。

もちろん俺もだ。

 

アーシアが来て、また守りたいものが出来た。

守るってことは大変だけど、それでも守るものがあることは幸せなことだと思うんだ。

 




とりあえず、第一章は終わりです。
文章表現の悪さに泣きながらも、なんとか書けました!

次回は番外編として、使い魔編を考えています!





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番外編 顔合わせと使い魔です!!

アーシアが悪魔になって、一週間くらいが経った日の放課後。

俺達、オカルト研究部員はいつものように部室でくつろいでいた。

すると、部長が俺とアーシアに言ってきたんだ。

 

「イッセーとアーシアもそろそろ使い魔を持ってみない?」

 

「使い魔………ですか?」

 

「そう、使い魔よ。あなたとアーシアはまだ持っていないでしょう?」

 

使い魔は悪魔にとって、手足となる使役すべき存在。

情報伝達、偵察から追跡、他にも悪魔の仕事で役に立つとのことだ。

 

部長の手元に赤いコウモリが現れた。

 

「これが私の使い魔よ」

 

部長の髪と同じ色でなんか気品がある。

 

次に朱乃さんの手に小さな鬼が現れる。

 

「私のはこの子ですわ」

 

小鬼が使い魔なのか。

あんなのも使い魔にすることが出来るのか。

 

小猫ちゃんが呼び出したのは白い子猫だ。

 

「………シロです」

  

小猫ちゃんだけに子猫が使い魔。

イメージにあってるし、なにより可愛い。

 

それから、木場の使い魔は小鳥だった。

 

「イッセー君、僕の解説が適当すぎるよ………」

 

「さりげに人の心を読むなよ、木場」

 

まぁ、とにかく俺とアーシア以外の眷属は自分の使い魔を持っているのはみたいだな。

確かに今後の悪魔活動を行う上でも使い魔を持っておくと助かることがあるのかもしれない。

 

「部長、使い魔ってどこで手にいれるんですか?」

 

「それは―――――」

 

部長が言いかけた時だった。

 

部室の扉がノックされた。

部員は全員揃っているので、来客となる。

ここに部員の以外が来るとは珍しい。

少なくとも俺が悪魔になってからほとんどなかった。

というか、この気配は…………。

 

「失礼します」

 

扉を開けて、数人の女子と一人の男子が入ってくる。

 

「えっと、生徒会の人達だよね?」

 

そう、美羽の言う通り、彼女たちは生徒会役員会だ。

そして―――――全員から悪魔の気配が感じ取られる。

 

「やっぱり、生徒会のメンバーも悪魔だったんだな」

 

「あら? 気づいていたのね、イッセー」

 

「まぁ、前々から悪魔特有の気配は感じていましたからね」

 

生徒会メンバーの先頭に立つのは生徒会長の支取蒼那先輩。

眼鏡をかけた知的でスレンダーな美人さんで、男子よりも女子からの人気が高い。

ある意味では学園の二大お姉さまと称される部長や朱乃さんやりも人気がある。

その支取先輩が部長に尋ねた。

 

「リアス、もしかして彼が以前言っていた?」

 

「ええ。私の新しい眷属、兵士の兵藤一誠よ。そして、ここにいるが僧侶のアーシア・アルジェントよ。二人とも挨拶なさい」

 

部長に言われて、俺とアーシアも自己紹介をする。

 

「はじめまして。リアス・グレモリー様の兵士、兵藤一誠です」

 

「僧侶のアーシア・アルジェントといいます!よろしくお願いします!」

 

すると、支取先輩も俺達に自己紹介をする。

 

「はじめまして。学園では支取蒼那と名乗っていますが、本名はソーナ・シトリーといいます。上級悪魔、シトリー家の次期当主でもあります」

 

支取先輩も上級悪魔で次期当主………ということは部長と立場が同じか。

部長も上級悪魔グレモリー家の次期当主だしな。

 

と、ここで支取先輩の視線が美羽へと向けられる。

 

「彼女は?」

 

「あ、はじめまして。兵藤一誠の妹の兵藤美羽といいます。よろしくお願いします」

 

「あなたがそうでしたか。あなたのこともリアスから聞いています。こちらこそよろしくお願いします」

 

部長、美羽のこと先輩に教えていたのね。

俺から説明する手間が省けたから良いけど。

 

今度は部長が支取先輩に訊ねた。

 

「それで、ソーナの用件はなにかしら?」

 

「そうですね。私も新しい眷属を得たので紹介しようと思いまして。サジ、あなたも自己紹介を」

 

支取先輩にそう言われて男子生徒が前に出てくる。

この男子の顔には見覚えがある。

確か、最近生徒会に入った追加メンバーだったばずだ。

役職は書記だったかな?

 

「はじめまして。ソーナ・シトリー様の兵士となりました、二年の匙元士郎です。よろしくお願いします」

 

「ほほぅ、俺と同じ兵士か。よろしくな」

 

これは奇遇!

この学園に俺と同じ『兵士』がいたとは!

 

しかし、俺がの言葉に匙はため息をついた。

 

「俺としては、変態エロ三人組の一人であるおまえと同じなんてプライドが傷つくぜ」

 

「おいおいおい! 会っていきなりそれかよ! いや、間違ってないけどね!」

 

「おっ? やるか? 俺は駒四つ消費した兵士だぜ? 最近、悪魔になったばかりだが、おまえなんかに負けるかよ」

 

なんか、すごく挑発的な物言いだが………。

というか、駒四つを消費したってことは、それなりの実力があるってことか?

支取先輩の持つ『兵士』の駒を半分消費したことになるし。

 

『だが、相手の実力が測れないようではまだまだだな』

 

ドライグはやれやれといった口調でそう言うが………。

まぁ、それは置いておこう。

だって―――――横で美羽ちゃんがおでこに怒りのマークを浮かべてるんだもの!

 

「お兄ちゃんをバカにしないで。確かに、お兄ちゃんはすごくエッチだけど、優しくて強いんだ。お兄ちゃんの本質も知らないのに勝手なこと言わないでほしいな」

 

口調は冷静だが、怒りのオーラが滲み出てる!

ヤバい………これはヤバい!

後ろに『ゴゴゴ………』って文字が見えるもの!

 

「み、美羽、お、落ち着けって!」

 

「でも、お兄ちゃんを馬鹿に………」

 

「た、頼むから落ち着いてくれ!」

 

俺が必死で説得すると、とりあえず美羽は落ち着いてくれたが………。

お兄ちゃんを庇ってくれるのは嬉しいけど、美羽が怒ると………ね?

 

突然のことで部室にいる全員が茫然とするも、支取先輩が俺に頭を下げてきた。

 

「ごめんなさい、兵藤君。私の眷属が無礼を働いてしまって」

 

「か、会長、なんでそんなやつに頭を下げるんですか!?」

 

「黙りなさい、サジ。今のはどう見てもあなたが悪いです。あなたも無礼を詫びなさい」

 

「で、ですが………」

 

「どうやら、あなたは兵藤君を自分より弱い存在だと思っているようですね。それは大きな間違いです」

 

「ど、どういうことですか?」

 

匙が支取先輩に尋ねると、支取先輩はため息をついてから、それに答えた。

 

「良く聞きなさい。彼、兵藤一誠君は今代の赤龍帝です。駒を八つ消費しても転生しきれず、最終的には魔王ベルゼブブ様の力が無ければ転生出来なかったほどです。それに、彼は神器を使わなくとも主であるリアスを上回る力を持っています。今のあなたでは勝つことはおろか、勝負にすらなりません。瞬殺されます」

 

「駒八つ!? それに上級悪魔のリアス先輩よりも力が上!?」

 

会長の言葉に目元を引きつらせながら俺を見る匙。

 

「そういうことです。そもそも、実力云々の前に初対面の相手に対して無礼すぎます。分かったら、謝りなさい」

 

そう言って再び俺に頭を下げる支取先輩。

先輩にそう言われて今度は匙も頭を下げてきた。

 

「す、すまなかった、兵藤」

 

「二人とも頭を上げてください。腹は立ちましたけど、謝ってくれればそれでいいんで」

 

「ありがとう、兵藤君。兵藤さんも私の眷属が失礼しました」

 

「会長さんは悪くないですよ」

 

支取先輩には笑顔でそう言う美羽だけど、匙にはまだツーンとしていた。

こうして俺達、新人悪魔の顔合わせは終わった。

 

 

 

 

シトリー眷属との顔合わせが終わった後、俺達グレモリー眷属と美羽はとある森に来ていた。

 

使い魔の森。

ここはそう呼ばれているらしい。

やたらと背の高い巨木がそこらじゅうに生えていて、日の光のほとんどを遮ってしまっている。

雰囲気からして、何が出てきてもおかしくない。

 

森の中を見渡していると、

 

「ゲットだぜぃ!!」

 

「「ひゃ!」」

 

突然の大声に、アーシアと美羽は可愛い悲鳴声を上げながら俺の後ろに隠れてしまった。

声がした方を見ると帽子を深くかぶり、ラフな格好をしたおっさんがいた。

 

「俺はマダラタウンのザトゥージ! 使い魔マスターだぜ!」

 

「ザトゥージさん、連絡しておいた子達を連れてきたわ。イッセー、アーシア、この人は使い魔のプロフェッショナル、ザトゥージさんよ。今日は彼のアドバイスを参考にして、使い魔を手に入れなさい。いいわね?」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

「ザトゥージさん、使い魔ってどんなやつがオススメですか?」

 

「そうだな。人によって好みは変わってくるんだが、俺のオススメはこれだぜぃ!」

 

ザトゥージさんは図鑑の写真を指差して言った。

図鑑には見開きいっぱいに迫力の絵で描かれた一匹のドラゴン。

 

「あの………これは?」

 

「おう! そいつは龍王の一角、天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)ティアマット! 龍王唯一のメスでもある!まぁ、使い魔にしようとした悪魔などはいないけどな!」

 

「…………」

 

えーと、確か龍王って魔王並みに強いんだっけ?

ドライグ?

 

『そうだ。ちなみにティアマットは龍王最強でもある』

 

無理じゃね?

使い魔のレベル越えてるよな?

 

『相棒なら、なんとかなるんじゃないか?』

 

マジで?

 

『戦って勝てば、使い魔になってくれるのではないか?』

 

ほほぅ。

じゃあ、ドライグさんよ。

今の籠手の状況は?

 

『一応、倍加と譲渡は使えるぞ』

 

おお、使えるようになったのか!

じゃあ、鎧は?

 

『すまん。まだ、時間がかかる』

 

うん、それで、魔王クラスと戦うなんて嫌だからな!

そんな俺の気持ちとは裏腹に部長が俺に言ってきた。

 

「いいわね! イッセー、龍王を使い魔にしなさい!」

 

「部長、俺に死ねと!?」

 

「イッセーならなんとか出来るんじゃないの? 伝説のドラゴン同士で意気投合できそうじゃない」

 

いやいや無理です。

そんなキラキラした眼で見られても困るんですけど………。

俺は無言で首を横に振ると、

 

「天龍と龍王のセットが見たかったのに…………」

 

肩を落として心底残念そうにする部長!

そんなに見たかったの!?

 

「………ボクもお兄ちゃんのかっこいいところ見たいなぁ」

 

美羽まで!?

我が妹よ、お兄ちゃんに何を求めてるかは知らんが、お兄ちゃんにも出来ることと出来ないことがあるぞ!

見渡すとアーシアを除いた全員がそんな顔をしていて………って、そんなに見たいのか、あんた達は!?

 

すると、ザトゥージさんが俺の肩に手を置いて遥か向こうにある山を指差した。

 

「確か、昨日はあの辺りにいたぜぃ。もしかしたら今日もいるかもしれないぜぃ」

 

「すいません。俺が龍王をゲットしに行くのは確定なんですか?」

 

「違うのか?」

 

「違うわ!」と、俺が全力で言いかけた時だった。

 

なにか巨大な………濃密な力の波動を感じた。

感じた方角を見ると向こうの方で空高く飛ぶものがいた。

おいおいおい………まさかまさかのタイミングなのか?

 

図鑑の写真を確認してみるが、間違いない。

五大龍王の一角、龍王ティアマット。

図鑑と全く同じ姿だ。

 

「タイミング良すぎるだろ!? つーか、なんで皆は俺の方を見てくるのかな!? なに、この空気! 行かないとダメですか!?」

 

『相棒、物は試しだ。やるだけやってみろ』

 

…………どうやら、俺の味方はいないらしい。

 

えぇい、ままよ!

 

「分かったよ! やってやらぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺は絶叫しながら、悪魔の翼を広げてティアマットのところまで飛んでいった。

 

 

 

で、ティアマットの近くに来てみたは良いが、

 

「デカいよなぁ………」

 

流石にスゴい迫力だ。

それに、全身を覆っている青い鱗が神秘的に感じる。

 

『言い忘れていたが、ティアマットは俺のことを嫌っていた。気を付けろよ』

 

その情報、もっと早く言ってくれない!?

そうこうしてると、ティアマットも俺に気づいたようだ。

 

「悪魔か。それにそのオーラ………なるほど、おまえが今代の赤龍帝というわけか」

 

「はじめまして。俺は今代の赤龍帝、兵藤一誠だ」

 

「それで? 赤龍帝の悪魔が私に何の用だ?」

 

「単刀直入に言う。俺の使い魔になってほしい!」

 

「は?」

 

俺の言葉に気の抜けた声を出すティアマット。

そりゃ、初対面の相手からいきなり使い魔になれ、なんて言われたら思考が停止するよな………。

 

少しの沈黙が続いた後、

 

「フッ」

 

「フ?」

 

「ハハハハ!!」

 

おお!?

なんか、大笑いしだしたんだけど!

なんだなんだ!?

そんな面白いこと言いましたか!?

 

ひとしきり笑うとティアマットは俺を見下ろして言った。

 

「久しぶりに笑った。まさか、この私を使い魔にしたいと言いに来る悪魔がいるとはな。面白いぞ、小僧。…………いいだろう、チャンスをやる」

 

「チャンス?」

 

「この私を従えるだけの力量を示せたら、貴様の使い魔になってやる」

 

マジですか!

てっきり、怒りの炎を浴びせられると思ってたんだけど、意外と話が通じるじゃん!

 

………ま、まぁ、魔王に匹敵する最強の龍王を禁手なしで戦うとか自殺行為に等しいけどね。

本当ならごめんなさいして帰りたいところだが、ものは試しだ!

 

「分かった! 俺の力、存分に見せてやる!」

 

俺の腕が鈍ってなければ、それなりにはやり合える………と思いたい!

少なくとも逃げるくらいはなんとかなる………はず!

 

俺が構えたところで、ティアマットの周りに無数の魔法陣が展開される。

俺も籠手を展開。

 

『Boost!』

 

倍加の音声が籠手から発せられる。

久しぶりの倍加。

こっちの世界に戻ってきてからは神器を使うことがなかったからな。

数年ぶりの使用になるな。

 

ティアマットが展開した魔法陣から極大の魔力弾が放たれる。

一発一発が大きいうえに速い!

 

「うおっと!」

 

俺は大きく横に飛んで攻撃を回避。

すると、遥か向こうまで飛んでいった魔法の弾丸が着弾すると同時に辺りを大きく揺らした!

 

さ、流石は最強の龍王………まともにくらったらと思うとゾッとするな。

 

そんな俺の心情などスルーするかのように次々に放たれる魔法の弾丸。

まだ飛ぶのに慣れてないから、全部を避けるのは難しいか!

当たりそうになった魔法の弾丸は拳に気を纏わせて弾くしかない!

 

全ての攻撃をやり過ごした俺を見て、ティアマットは感嘆の声を漏らす。

 

「ほう。今のをしのいだか。並の悪魔なら今ので終わっていたんだがな」

 

「そう簡単に殺られてたまるか! おかえしだ!」

 

そう言って俺は気弾を連続で放つが、ティアマットは軽快な動きで全てかわしていく。

デカい図体の割りに素早い!

だったら、接近戦ならどうだ!

 

『分かっているとは思うが、ドラゴンの鱗は非常に硬い。普通に殴ればこちらがダメージを受けるぞ』

 

ああ、分かってるよ、ドライグ!

 

俺は硬気功を発動して拳の表面を硬質化させる。

これならドラゴンの鱗だろうと殴れるはずだ!

 

「接近戦か! 面白い!」

 

ティアマットもその巨大な拳を振り上げて応じる。

俺とティアマットの殴り合いで生じた衝撃が大気を揺らす!

 

「中々やるな! 赤龍帝の小僧!」

 

「これまで、必死で修業してきたからな!」

 

やっぱり強い。

こっちは今出せる全力を使っているけどティアマットには余裕がある。

禁手じゃないと、このクラスの相手はつらい!

 

ティアマットの攻撃をギリギリのところで回避しながら攻撃に転じようとする俺だが、少しの攻防の後、とうとうティアマットの巨大な拳が俺を捉えた。

全身を襲う物凄い衝撃!

こいつは受け止めきれねぇ………!

拳の勢いを殺しきれなかった俺は、そのまま地面に叩きつけられた!

 

「ガハッ!」

 

叩きつけられた衝撃で、全身に痛みが走る!

なんて、重たい一撃だ………!

 

痛みを堪えながら何とか立ち上がると、ティアマットが尋ねてきた。

 

「小僧、神器には禁手というのがあるのだろう? 使わないのか? それとも、まだ至っていないのか?」

 

「いや、禁手には至っているけど、今は籠手の調整中で使えないんだ」

 

「そうか、それは残念だ。貴様とならより戦いを楽しめると思ったんだが…………。仕方がない」

 

「なんか…………ゴメン」

 

「謝る必要はない。それにその若さでここまでやれるとは私も思ってなかったのでな。正直、驚いている」

 

「だけど、まだ、あんたを従えるだけの力は見せていない。そうだろ?」

 

「それは…………そうだな」

 

「だったら、続けようぜ。ここで諦めたらカッコ悪いしな」

 

「そうか。だったら見せて貰おうか!」

 

「ああ!」

 

俺は地面を強く蹴って飛び上がると、ティアマットと再び空中で対峙する。

 

………ティアマットに言ったものの、実際にどうするか。

ティアマットも俺の実力を甘く見ていたようだが、明らかに劣勢なのは俺だ。

俺は今出せる力をそれなりに出しているのに対し、相手は力の半分も出していないだろう。

流石は龍王と呼ばれるだけはある、か。

正直、禁手を使えない状態で龍王クラスと長期戦をやるのは得策じゃない。

ドライグ、そろそろいけるか?

 

『ああ。もう十分力は溜まっているぞ』

 

十分な力が溜まった合図として籠手の宝玉が光り輝く。

錬環勁気功による強化と赤龍帝の力でいけるか………。

 

俺は一度目を閉じると、ティアマットに告げた。

 

「龍王ティアマット。次の一撃で決めてやる」

 

俺は両手を空に掲げて気を練り始める。

そこに籠められるのは自分のものだけでなく、周囲に漂う気をも巻き込み、より強大で濃密な気の塊を生み出していく。

出来上がるのは俺の体より二回りくらい大きな気弾。

そして――――練りあがった気弾に溜めておいた力を譲渡する!

 

『Transfer!』

 

籠手から鳴り響く譲渡の音声。

すると、気弾は元の十倍以上の大きさに膨れ上がる!

 

「なっ!?」

 

これにはティアマットも驚愕しているようだ。

こいつなら―――――。

 

「死ぬなよ、龍王ティアマット! うぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

俺は特大気弾をティアマット目掛けて投げ飛ばした!

スピードも十分乗っている!

予想以上のスピードだったのか、ティアマットは反応が遅れ、真正面から特大気弾を受け止める形となる。

 

「ぐうううううう!!」

 

あまりの勢いにティアマットはその場に留まることができず、後ろに下がっていく。

そして、ついには山に衝突し、そこで大爆発が起こった。

 

 

 

 

「流石に疲れたな………」

 

ティアマットから受けたダメージもあるけど、今の一撃にかなりの力をつぎ込んだからな。

ここまでの力を使ったのが久しぶりってこともあって、疲労が一気に………。

 

「今の一撃、良い一撃だった」

 

山の方からティアマットが姿を現す。

体の表面から煙が出ているが、ピンピンしてる。

 

「………今のを喰らってそのダメージか」

 

「爆発の寸前に防御術式をはったからな。だが、直撃していれば私も危なかっただろう」

 

流石は龍王最強。

先ほどは対応に遅れたみたいだけど、その場の判断力が優れている。

 

ティアマットが言う。

 

「小僧、兵藤一誠と言ったな?」

 

「ああ。そうだけど?」

 

「そうか。ならば兵藤一誠、貴様を認めてやろう」

 

「へ?」

 

ティアマットの言葉に、今度は俺が気の抜けた声がを出してしまった。

 

「だから、貴様を認めると言ったのだ」

 

「それって俺の使い魔になってくれるってこと?」

 

「そういうことだ。神器が不調にも関わらず、ここまでの力を発揮したのだ。もし禁じ手を使われていたと考えると………認めざるを得まい。それに貴様はまだ若い。これから、どこまで強くなるのか見てみたくなったと言えば納得するか?」

 

ま、まぁ、俺としては認めてもらえたみたいで嬉しいんだけどね。

自分から申し込んでおいてなんだけど、こんなに簡単に龍王が使い魔契約を了承して良いものなんだろうか。

 

ティアマットは魔法陣を展開する。

魔法陣の光がその巨体を包み込むと、体のシルエットが変化していき、ドラゴンの巨体が人間サイズにまで小さくなった。

そして、光が止み姿を現したのは―――――長い青髪の美女。

しかも、モデルと思えるくらいスタイルが良い。

 

「これが私の人間形態だ、ってどうした? 何を驚いている?」

 

「驚くって! ドラゴンがいきなりスタイル抜群の美女に変わったんだぞ!? 誰でも驚くわ!」

 

異世界にもドラゴンはいたけど、こんなことは一度もなかったぞ!

驚く俺を見てティアマットはおかしそうに笑う。

 

「美女か、そう言われたのは初めてだ」

 

「そうなのか? ティアマット、すごく綺麗だけど?」

 

「そうか。とりあえず、そう言ってもらえると私も嬉しい。それから私のことはティアで良い。堅苦しいのは嫌いなんでな」

 

「そっか。じゃあ、俺のことはイッセーって呼んでくれ」

 

「了解した。ではイッセー、よろしく頼む」

 

「ああ。よろしくな、ティア!」

 

こうして、俺はティアになんとか認めてもらうことが出来た。

 

 

 

 

 

 

「ま、まさか本当に龍王を連れてくるなんて…………」

 

「こんなことは俺もはじめてだぜぃ」

 

ティアを連れて部長達の所へ戻ったら、すごく驚かれた。

というか、美羽とアーシア以外のメンバーが引いてた。

 

君達、少し前まではあんな視線を向けてきたのに、なんだその目は!?

温厚な俺でも怒っちゃうぞ!?

使い魔ゲットしに来たのに、全身がガクガクしてるんだぞ!

生まれたての小鹿みたいになってるんだぞ!

もう少し優しい対応をお願いしたいよ!

 

と、そうそう。

俺とティアが戦っている間にアーシアも使い魔を獲得していた。

アーシアが腕に抱いているドラゴンの子どもがそれだ。

 

それを見てティアが関心したように言った。

 

蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)を手懐けるとはな。大したものだ。そのドラゴンは心が清い者にしかなつかないからな」

 

心が清い者にしか懐かない………流石はアーシアだ。

 

その後、俺は部長の指示に従いながらティアとの契約を行った。

使い魔契約をするための紅い魔法陣が展開され、ティアがそこに入る。

 

「兵藤一誠の名において命ず。汝、我が使い魔として契約に応じよ!」

 

ティアがそれに応じると魔法陣の光が一瞬強くなり、消えていく。

契約の儀式が終わると、部長は深く息を吐いた。

 

「これで、使い魔契約は完了よ。私の眷属が龍王を使い魔にするなんて、思ってもいなかったわ。まぁ、私が言い出したことなのだけど…………」  

 

「こんな無茶はこれっきりにしたいですよ、部長。と、とりあえず帰りませんか? 横になりたいんですけど………」

 

美羽に支えられながら、体をプルプル震わせる俺を見て、全員が苦笑していた。

こうして、色々あったものの、俺とアーシアは無事に使い魔を得ることが出来たのだった。

 




というわけで、イッセーの使い魔は龍王ティアマットとなりました!

まぁ、龍王が使い魔ってスゴいデタラメな気がしますが・・・・


次回からライザー編に入ります。

ただ、今日で春休みが終わり、明日から学校が始まります。
資格勉強や定期テスト勉強などで忙しくなります。

なので、更新が遅くなるかもしれません。



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第二章 戦闘校舎のフェニックス
1話 日々の光景と悩む部長です!!


俺、兵藤一誠の朝は早い。

起床は朝の五時。

ジャージに着替え、キッチンで水を飲んだ後は外に出て修業を行う。

悲しいことに俺は戦闘方面の才能は皆無だった。

だからこそ、毎日、生死の境をさ迷うような目にあいながらも力を求めた。

あの地獄の修行があったからこそ今の俺がある。

そして、今の力を維持・向上させるには日々の鍛錬が必要だ。

 

「真の意味で強くなるには近道なんてない、か………」

 

そんな師匠の言葉を思い出しながら、俺は玄関から走り出す。

まずは隣町まで十キロのランニング。

それが終わったら腕立てや腹筋などの基本トレーニング。

その次は錬環勁気功の修業として、木に垂直に立って、それを維持する修業。

感覚を研ぎ澄ませ、自分と周囲に漂う気のコントロールを行っていく。

もちろん、人に見られないようにしている。

基本的な修業はこんな感じだ。

 

そして、最近は更に―――――

 

「イッセー、迎えに来たぞ」

 

俺のすぐ横に転移してきたのはティアだ。

 

「おう。今日もよろしく頼むよ」

 

 

 

 

 

 

「でえええええあッ!」

 

ティアが俺の拳をかわして、地面に大きなクレーターが出来た。

振り抜いた拳の勢いがそのまま衝撃波となって、周囲の木々を激しく揺らす。

 

俺とティアは使い魔の森の近くにある山に来ている。

そこで、俺はティアに修業相手になってもらっていた。

 

「鋭い攻撃だが、まだまだ甘いぞ、イッセー!」

 

ティアはそう言って俺に魔力弾に放ってくる。

 

「くっ!」

 

俺は間一髪でそれをかわして、気弾を大量に放つが、それはティアのブレスで相殺される。

 

元の世界に戻ってきてから、俺がしていたのは先程語った基本的な肉体作りのみ。

今みたいな組手もしておきたかったんだが、俺の相手になってくれる奴がいない。

美羽が相手として立候補してくれたこともあるけど、美羽はこの世界の勉強もあったからな。

俺としてはそちらに時間をつぎ込んで欲しかったので、美羽との模擬戦はほとんどしたことがない。

美羽の力を把握するために軽い手合わせをしたぐらいだ。

もし美羽が誤って魔法を暴発させたら、という心配から確認をしたが、特に問題はなかった。

むしろ、美羽が超高レベルの魔法の使い手だということが分かったかな。

 

ちなみにだけど、今の俺は神器を一切使っていない。

錬環勁気功だけでティアの相手をしている。

 

俺が神器を使用していない理由は二つ。

一つ目は、赤龍帝の籠手はその能力上、所持者の力量が高いほど、より高い効果を得られるということ。

つまり、生身の俺が強ければ強いほど、籠手の効果が大きいということだ。

 

二つ目は神器が無くても戦えるようにすること。

ドライグの話では異能を封じる神器があるらしい。

もし、そんな相手と戦った時に神器が封じられたら、俺には生身で戦うしかない。

だから、生身の状態でも戦えるようにしておく必要があるということだ。

 

それから、こいつは神器を使わない理由とは関係ないが、ティアと生身でやりあっているのは戦いの感覚を完全に取り戻すため。

先日の堕天使との一件で認識した―――――今後、また戦いに巻き込まれる可能性があるということ。

それは悪魔に転生とか、そういうのは関係なしに、俺が力を呼び寄せる赤龍帝だからだ。

美羽をこちらの世界に連れてきてから数年、何事もなく平和な日々を過ごしていたから油断していたが………もう二度と油断はしない。

 

『まぁ、現段階でも相棒は相当強いがな』

 

ドライグはそう言ってくれるけど、俺はまだまだだと思う。

現に神器なしだとティアにはかなり劣るしな。

 

『奴は龍王最強を誇っているからな。それは仕方がないだろう。それに相棒よりも経験量が遥かに多い。相棒が遅れをとるのは当然のことだ』

 

だからといって、現状で満足するわけにはいかないだろ。

………俺はもう自分の無力さに嘆きたくないからな。

 

「いくぞ、ティア!」

 

俺は呼吸を整え、再びティアに向かっていった。

 

 

 

 

ティアと三十分ほどのガチンコバトルを終えた後、時刻はもうすぐ七時になろうとしていた。

家に帰った俺は汗を流した後、リビングに向かった。

 

「あ、イッセーさん。おはようございます。朝の修業お疲れさまでした。お茶をいれますね」

 

そう言ってお茶を渡してくれるアーシア。

いやぁ、朝から美少女の笑顔が見られるなんて幸せだなぁ!

朝食の手伝いをしていたのか、アーシアはエプロンを付けていてだな………なんか幸せな気持ちになるよね!

アーシアちゃん、マジで可愛いです!

癒されます!

 

「おう。ありがとな、アーシア。………美羽はまだ寝てるのか?」

 

リビングを見渡すと美羽はまだいない。

まだ、寝てるのか?

 

「美羽を起こしてくるよ」

 

「分かりました。では、私は朝食の用意をしておきますね」

 

アーシアはそう言うと母さんと共にキッチンに立ち、朝食の準備を再開する。

俺は楽し気に話す母さんとアーシアの姿を見ながらリビングを離れて、二階の美羽の部屋へと向かった。

 

「おーい、美羽ー。朝だぞー」

 

ドア越しに声をかけてみるが返事がない。

ドアをノックしても、反応がないところを見るにまだ夢の中のようだ。

 

俺はドアを開けて部屋に入り、ベッドを見ると、美羽は猫みたいに丸くなって寝ていた。

実は美羽は朝が弱い。

一時、俺と早朝の修行に取り組んでいた時期もあったんだけど………朝が弱すぎるせいもあり、今に至る。

まぁ、美羽は美羽で家の中でも出来る簡単な魔法の練習はしているようだけどね。

 

とにかく、流石に学校を遅刻させるわけにもいかないので、今回は起こさせてもらう。

 

「美羽、起きないと遅刻するぞ?」

 

俺が美羽の体を揺らしながら言うと、少し反応があった。

美羽は寝ぼけた声で、

 

「うーん………後、五………二十分………」

 

そんなことを言いながら寝返りをうつ美羽!

五分から二十分に延長されたよ!

どれだけ眠いんだよ!?

あっ、よく見たらベッドの隅に漫画が詰まれてる!

美羽め、昨日遅くまで読んでたな!

 

と、ここで俺はあることに気付く。

―――――美羽のパジャマのボタンが全部外れている!

しかも、ノーブラなもんで美羽が呼吸をするたびにおっぱいが揺れる!

 

えぇい、朝からなんて刺激的な光景を見せてくれる!

眼福じゃないか!

 

そんな感じで妹おっぱいに見とれていると―――――美羽に腕を掴まれた。

そして、そのままベッドの中に引きずり込まれる!

 

「むぐっ!?」

 

美羽が俺の頭を両腕でがっちりホールド。

俺の顔に美羽のおっぱいが押しつけられる!

すごく柔らかくて、温かくて、良い匂いがして………一生このままで良いかなって思えてしまう!

 

だけどね?

流石にここまで押し付けられていると呼吸が出来ないわけでして………。

 

「むぐぐぐ………み、美羽………。そんなに力を入れられると………い、息が………」

 

「えへへ~。ダメだよぅ。お兄ちゃん、そんなところ~」

 

ダメだ!

全く聞いてねぇ!

美羽は未だに夢の中!

お願い、美羽ちゃん!

お願いだから起きて!

お兄ちゃん、幸せだけど、このままじゃ昇天する!

天に召されてしまう!

 

いや………おっぱいで窒息死というのはある意味幸せなのか?

美羽のおっぱい。

おっきなおっぱい。

可愛い妹おっぱい。

………そう考えると、このまま死ぬのもありかもしれない。

 

そんなことを考えていると、

 

「イッセーさん、朝食の用意が出来ました。美羽さんは起きました………か?」

 

ドアのところにアーシアが!

バッチリこの状況を見られてるよ!

 

「ち、違うんだアーシア! こ、これは別に朝からそういうことをしているわけでは!」

 

俺が説明しようとした時だった。

 

「わ、私もイッセーさんに抱きつきます!」

 

ええええええええええええ!?

アーシアちゃん、いつからそんな大胆な娘に!?

 

「美羽さんだけなんてズルいです!」

 

アーシアはそのまま、ベッドにダイブしてきたのだった。

 

この後、俺はやっと起きた美羽とアーシアに経緯を説明。

顔を真っ赤にする二人を宥めるのに苦労することとなった。

 

 

 

 

朝、教室にて。

 

「アーシアちゃんに美羽ちゃん、おっはよー!!」

 

「二人とも、おはよう。二人は今日もかわいいな」

 

登校した俺達三人に気付いた松田と元浜が挨拶をしてきた。

 

「おはようございます、松田さん、元浜さん」

 

「松田君、元浜君、おはよー!」

 

アーシアと美羽が挨拶を返すと、二人は感無量の表情になりながらしみじみと口を開く。

 

「元浜君!」

 

「ああ! 分かるぞ松田よ! 美少女達から挨拶! 朝から生き返る思いだ!」

 

まぁ、その気持ちは分かる。

俺も毎日、生き返る思いをしている!

今日みたいに疲れることもあるけど………。

それでも、嬉しいことには変わりない。

 

そういえば、こいつら俺に挨拶は?

 

「なぁ、俺もいるんだけど」

 

俺がそうそう言うと般若の形相で俺を睨んできやがった!

 

「うるさいわ! この裏切り者め!」

 

「そうだ! 美羽ちゃんだけでも羨ましいのに、アーシアちゃんがホームステイだと!? ふざけるな!」

 

「おまけにオカルト研究部にまで入部だと!? おまえがあの美女美少女軍団と同じ部活に入るなど言語道断! 今すぐ退部するか、俺達を紹介しろ!」

 

「そうだ! あるいは誰か可愛い娘を紹介しろ!」

 

「「お願いします!!!」」

 

そう言って俺にしがみついてくる二人。

しかも、目にはうっすら涙。

 

「おまえら怒るか泣き付くのか、どっちかにしろよ! つーか、離れろ!」

 

何で朝から男にしがみつかれなきゃいけないんだよ!

むさ苦しい!

 

「俺達と同じエロ三人組であるおまえだけが女の子に囲まれる生活なんて間違っている!」

 

そんなこと言われてもなぁ。

ほとんど、成り行きみたいなところもあるし………。

紹介しろって言われても………。

 

「知り合いに乙女ならいるんだが………」

 

「マジか! その娘で良い! 頼むから紹介してくれ!」

 

「イッセーよ、俺も頼む!」

 

そこまで言うなら仕方がない………。

俺は携帯を取りだし、電話帳を開き、とある人物に電話をかけた。

 

「あ、もしもし。俺です、イッセーです。えっと、俺の友人が会ってみたいそうなんですが………。あ、良いですか? ………分かりました。ありがとうございます。では、また」

 

俺は電話を切り、話した内容を軽くメモをして、松田と元浜の方を見る。

二人とも目が真剣だな………。

 

「で? どうだったんだよ、イッセー!」

 

「あぁ、まぁ、会ってくれるそうだ。このメモの場所にこの時間に待ち合わせだそうだ。友達も連れてくるってよ」

 

メモを受けとる元浜と松田。

すると、まるで神様でも崇めるかのように俺を見てきて、

 

「ありがとうございます! イッセー殿!」

 

「この恩、一生忘れません!」

 

おお、二人とも舞い上がってるが、ここまで喜ばれると少し罪悪感が………。

いや、嘘は言ってない。

乙女は紹介した。

それで良いって言ったのはこいつらだ。

俺は悪くない………はず!

 

「で、その乙女の名前は?」

 

「………ミルたん」

 

 

 

 

 

 

放課後。

俺は今、オカルト研究部の部室で木場と将棋をしていた。

 

「木場。王手で詰みだ」

 

「あ………。これで二勝三敗。イッセー君の勝ち越しだね。僕も将棋には結構自信があったんだけど」

 

「まぁ、ギリギリだけどな。今の勝負だって、俺も危なかったところが結構あったし」

 

将棋は俺の勝ちで終わりか。

 

「祐斗先輩に将棋で勝てるイッセー先輩はかなり強いです。………すごく意外ですけど」

 

小猫ちゃんにそう言われるけど………誉められてる気がしないのはなぜだろう。

 

「ああー! また、負けたぁぁぁぁぁぁ!」

 

悲鳴を上げたのは美羽だ。

どうやら、部長とチェスの対戦をして負けたらしい。

 

頭を抱える美羽を見て微笑む部長。

 

「フフッ。美羽ったら序盤はいい線いってるのだけれど、詰めが甘いわ。最後の最後のでいつもミスをしているんだもの」

 

「うぅぅ………」

 

涙目で唸る美羽。

まぁ、初心者だからしょうがないって。

 

「部長、今度はイッセー君とやってみませんか? 彼、チェスも強いかもしれませんよ?」

 

 

 

 

それから少しして、

 

「ふぅ。正直、危なかったわ」

 

息を吐き、ソファの背もたれにもたれる部長。

木場の提案で俺と部長はチェスを一戦だけやってみたが、結果は俺の負けに終わった。

 

「イッセー、あなた、本当に初心者なの? 私がここまで苦戦するのはソーナくらいよ」

 

「チェスはルールくらいで、やったことはないです。まぁ、将棋は得意なんで。それでですかね」

 

昔、父さんや死んだ爺ちゃんと結構してたから将棋には自信がある。

ただ、チェスは将棋と違って取った駒は使えない。

この違いが難しいところでもある。

 

「駒と駒の組み合わせが上手いから、すごく厄介だったわ。イッセー。あなたは将来、良い王になれそうね」

 

おおっ、部長からお褒めの言葉が!

俺の上級悪魔への道は一歩前進した………かも!

 

「イッセーさん、スゴいです!」

 

「流石はお兄ちゃん」

 

アーシアと美羽がそう言ってくれる。

ありがとうよ!

 

「美羽とアーシアはイッセーに一筋ね。二人が羨ましいわ………」

 

「部長? どうかしました?」

 

「いえ、何でもないわ」

 

笑顔でそう言ってくれたけど、どこか部長の表情が暗いような気がした。

 

 

 

 

 

その日の夜。

夕食を済ませた俺は自分の部屋のベッドで一人、横なっていた。

 

美羽とアーシアは風呂だ。

アーシアが家に来てからは女の子同士で風呂に入っているようで、二人とも仲良くやれている。

本音を言えば、二人と一緒にお風呂に入りたい!

美少女二人と混浴したい!

………が、流石になぁ。

美羽とは何回か一緒に入ったことはあるが、今はアーシアもいるしな。

なにより、我が家の風呂では狭すぎるのだよ………!

 

「決めた! 俺は上級悪魔になったら、でかい風呂のある家に住んでやる! そして、美少女達と混浴するんだぁぁぁぁぁぁ!」

 

などと言いながら、ベッドの上でゴロゴロしていた時。

突然、俺の部屋に魔法陣が描かれた。

 

「この文様はグレモリーの………ってことは」

 

魔法陣から現れたのは部長だった。

なんの連絡もなしに部長が来るのは珍しい。

 

「あ、部長。どうしたんですか?」

 

俺が尋ねると部長は何も言わず、ただこちらをじっと見てくる。

少しの間、無言が続くのだが………。

 

え、なに?

俺、何か怒られるようなことしたか?

もしかして、この間の契約活動でヘマをやらかしたとか?

いやいやいや、そんなはずはない。

俺はただミルたんとアニメ全話視聴していただけのはず!

怒られるようなことでは………よくよく考えると怒られることのような気がしてきた。

 

「お、俺、何かやらかしました?」

 

「………イッセー」

 

「は、はい」

 

「今すぐ、私を抱きなさい」

 

………。

 

予想外過ぎる発言に部屋が静まりかえる。

 

今、部長は何て言った?

俺に部長を抱けって言った?

俺の聞き間違い………だよな?

部長はいきなり、そんなこと言う人じゃないし。

 

「す、すいません部長。………今、なんと?」

 

俺が聞き返すと、部長は無言のまま俺を押し倒して馬乗りになった!

なんだなんだ、この状況は!?

 

「ち、ちょっと、部長!?」

 

「お願い………。祐斗は根っから騎士だからダメだろうし、あなたはこういうことに興味あるでしょう?」

 

「え、えーと………すいません。どういうことなのか、思考が全く追い付かないんですけど」

 

「………イッセー!」

 

「は、はい!」

 

「至急、私の処女を貰ってちょうだい!」

 

おおぅ、こういう時、どうすれば良いのか分かんないぜ!

 




うーん。

文章が雑になったような・・・・

次回はもっと上手く書けるように頑張ります!


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2話 婚約者の来訪です!!

「ふわぁ~あ」

 

朝の通学中、俺は大きなあくびをしてしまっていた。

気だるげにする俺を俺の両サイドを歩く美羽とアーシアが心配そうに見てくる。

 

「お兄ちゃん、寝不足?」

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ。大丈夫………じゃないけど、大丈夫。昨日はただ、眠れなかっただけだから」

 

そう、眠れなかっただけだ。

昨日はあんなことがあったのだから。

眠れなくて当然だろう。

 

 

 

 

「部長、それは本気ですか!?」

 

魔法陣で現れた部長は、いきなり処女を貰ってくれと言ってきたのだ!

混乱する俺を置いて、部長は俺に馬乗りになりながら服を脱いでいく!

 

「本気よ。………既成事実が出来てしまえば文句はないはず。それとも、イッセーは私ではダメかしら?」

 

「い、いえ! そんなことは!」

 

部長の初体験の相手に選ばれたんだ。

ダメなはずがない。

むしろ、光栄です!

だけどね、この展開はいきなり過ぎると思うんだ!

初体験ってこういうもんなの!?

こんな突発イベントみたいに来るもんなの!?

絶対違うよね!?

誰か、童貞の俺に教えてくれぇい!

 

というか、部長の言ったことで気になることがあったんだが。

既成事実が出来てしまえば文句はない………?

 

「そう。それは良かったわ」

 

疑問を浮かべる俺を無視して部長はブラのホックを外してしまう!

部長の豊かなおっぱいが目の前にぃぃぃぃぃぃぃ!

 

ブハッ!

 

飛び出す鼻血!

部長の生乳だぞ!?

興奮しないわけがないじゃないか!

 

部長が俺の肩に手を置いて訊いてくる。

 

「イッセー、あなたは経験はあるのかしら?」

 

「い、いえ! は、初めてです!」

 

知識だけならいっぱいあるけどね!

 

「私も初めてだから、お互いに至らない所もあるでしょうけど、何とか最後まで事を進めましょう」

 

部長はそう言って俺に顔を近づけてくる。

 

ちょ、ちょぉぉぉぉぉぉぉぉ!

マジでか………マジでこの勢いでしちゃうんですか、部長!?

俺としても初体験の相手が部長なら、最高だと思う!

 

唇を重ねようとする部長と俺の視線が交わり―――――俺は部長の肩を掴んでそのまま押し戻した。

 

俺の行動に驚く部長。

途端に悲しげな表情で訊いてきた。

 

「なんで? やっぱり私じゃ………嫌なの?」

 

「嫌なんかじゃないです! 俺だって部長となら歓迎です!」

 

「だったら………」

 

「でも、そんな顔をしている部長とするのは嫌です。というより、後で絶対に部長が後悔します」

 

「………っ!」

 

部長の眼は今からそういうことをしようとする人のものじゃなかった。

それに部長は俺のことよりも、なにか別のことに意識を持っていかれている気がしたんだ。

 

「部長、明らかに何か焦ってますよね? そりゃあ、俺はスケベだし、エロエロなことばっかり考えてますけど………これはそんな気持ちでしていい行為じゃない。そんなことは部長だって分かりますよね?」

 

「でも、こうでもしないと………」

 

何かを言おうとする部長。

俺は軽くため息をついて部長に向かい合った。

 

「部長。俺を悪魔に転生させるときに言いましたよね? 眷属は家族だ、って。悩みがあるなら言ってください。辛いなら頼ってください。俺達は仲間で家族なんでしょう?」

 

俺は制服の上着を部長に着せた。

すると、部長は肩を震わせて、目元にうっすら涙を浮かべていた。

 

「ゴメン、なさい………。私、あなたの気持ちも考えずに………」

 

「それはもう良いです。何があったのか、話してくれますね?」

 

俺がそう言った時だった。

 

部屋に銀色に光る魔法陣が展開される。

この魔法陣は部長が使うグレモリーのものじゃない。

 

眷属の誰かじゃないとすると、今度は誰が………?

 

魔法陣が強い光を発すると、そこから現れたのは銀色の髪をした若い女性。

メイド服を着ているってことはグレモリー家のメイドさんか?

グレモリー家は貴族だ。

メイドの一人や二人は普通にいるだろうし。

 

ただ、この女性………身に纏うオーラは半端じゃないな。

 

『そうだな。学園にいる悪魔などとは比べ物にならないほどの実力者だ』

 

やっぱりそうか。

佇まいに隙がなく、魔力の質も上級悪魔である部長とは別格と言っていい。

 

銀髪のメイドさんは部長を確認するなり、口を開いた。

その口調はどこか呆れたといった様子で、

 

「こんなことをして破談へ持ち込もうとしたわけですか?」

 

「こうでもしないと、誰も私の話を聞いてくれないでしょう? ………でも、今はもう冷静だからそんな馬鹿なことはしないのだけど」

 

「そうですか。それならば良いです」

 

そう言うと、メイドさんは俺に視線を移す。

 

「その龍のオーラ………。あなたがサーゼクス様が仰っていた赤龍帝を宿した………」

 

「兵藤一誠といいます。リアス・グレモリー様の兵士をやってます」

 

「私はグレモリー家に仕えるグレイフィアと申します。あなたのことはサーゼクス様から伺っております、この度はお嬢様がご迷惑をお掛けしました」

 

そう言って、深く頭を下げた後、メイドさん―――――グレイフィアさんは再び魔法陣を展開して部長の方を振り返る。

 

「お嬢様」

 

「ええ、分かっているわ。一度、私の根城に戻りましょう。話はそこで聞くわ。朱乃も同伴でいいかしら?」

 

「『雷の巫女』ですか? 私は構いません。王たる者、傍らに女王を置くのは常ですので」

 

「よろしい。イッセー」

 

部長はそう言うと俺に近寄ってきた。

 

「ゴメンなさい、イッセー。そして、ありがとう。あなたが止めてくれなければ、私は自分を嫌いになるところだった」

 

そして―――――頬に部長の唇が触れた。

 

お………おおおおお!?

ほっぺにキスされたぁぁぁあ!

部長のキスだとぉぉぉぉぉぉぉ!?

 

「今日はこれで許してちょうだい。明日、部室で会いましょう。今日のことは明日、説明するわ」

 

「は、はいっ」

 

部長は別れを告げるとグレイフィアさんとともに魔法陣の光の中に消えていった。

俺はキスされた頬をさすりながら、しばらくボーッとしてしまった。

 

「お兄ちゃん、お風呂上がったよ………って、どうしたの? 顔赤いけど」

 

美羽が部屋に入ってきたのはそれからすぐのことだった。

 

 

 

 

 

………なんてことがあってから俺はほとんど眠れなかった。

その状態でティアとの早朝修業。

正直、かなり辛い。

 

いかん、足元がふらふらする………。

今日の授業、サボって保健室で寝るのアリかもしれない。

そんなことを考えながら俺達は学校へと向かっていると後ろから近づいてくる気配。

 

「相変わらず三人は一緒にいるのね」

 

「あ、おはようございます、桐生さん」

 

「おはよー、桐生さん」

 

「二人ともおはよう。朝から元気ね」

 

こいつは桐生藍華。

俺達のクラスメイトだ。

橙色の髪で、三つ編みをしていて、眼鏡をかけているのが特徴。

そして、俺に負けじとエロい知識が豊富だ。

 

「およよ? 兵藤は寝不足かい?」

 

「まぁな」

 

「んふふ~。なるほどねぇ」

 

ニヤニヤしながら俺達を交互に見てくる。

 

「な、なんだよ?」

 

「昨日は相当お楽しみだったのかな?」

 

「「お楽しみ?」」

 

美羽とアーシアが可愛く首を傾げている。

そんな純情な二人に桐生が眼鏡を煌めかせながら、

 

「つまり―――」

 

「説明せんでいい!」

 

俺は桐生から逃れるため、美羽とアーシアの手を引っ張り先を急ぐことにした。

ここではマジで勘弁してくれ、桐生よ!

 

 

 

 

そして、放課後。

授業を終えた俺は美羽とアーシア、木場と共に部室へ向かっている。

 

「イッセー君、大丈夫かい? 顔色が優れないようだけど………」

 

「………ああ、ただの寝不足だ………大丈夫」

 

結局、俺は授業に出た。

おかげでもう限界に近い。

眠い、辛い、吐き気がする。

知ってるか?

寝不足って酷くなると吐きそうになるんだぜ?

 

帰ったらすぐに寝よう………。

寝なければ俺はダメになる。

いや、あそこに置かれたベンチがフカフカのベッドに見え始めた俺はもうダメなのかもしれない………。

 

つーか、今日早く帰れるのか?

昨日の件もあるし。

それに、グレイフィアさんの気配が旧校舎からしてるんだよなぁ。

 

そんなことを考えながら部室の近くまで来た時、木場がハッとしたように顔を上げた。

 

「………まさか僕がここに来るまでこの気配に気がつかなかったなんてね」

 

木場も気付いたんだろうな。

というか、グレイフィアさんとの面識あったのな。

アーシアの方は首を傾げているところを見ると何のことか分からないみたいだ。

美羽は気配は感じているようだけど、誰かまでは分からないようだな。

まぁ、会ったことないから当然だけど。

 

「とりあえず入ろうぜ」

 

そのまま進み、部室の中へ。

部室には部長、朱乃さん、小猫ちゃん、そしてグレイフィアさんがいた。

 

俺達の入室を確認した部長が口を開く。

 

「全員そろったわね。部活を始める前に話があるの」

 

「お嬢様、私がお話しましょうか?」

 

そう申し出たグレイフィアさんを首を横に振って断る部長。

部長は俺達を見渡して、

 

「実はね――――」

 

部長が何かを言おうとした時―――――部室の床に、魔法陣が出現した。

それと共に広がる熱い炎。 

この魔法陣は………グレモリーじゃない?

グレイフィアさんが使っていたものとも違うようだが………。

 

展開された魔法陣を見て、俺の傍で木場が呟いた。

 

「………フェニックス」

 

フェニックスってあの不死鳥?

魔法陣からは炎が巻き起こり、熱気が部室の中を包む。そして、その炎の中心に男の姿があった。

 

派手な登場だな!

部室が火事にでもなったらどうしてくれる!

ここには俺のエロ本も置いてあるんだぞ!

 

『ツッコミどころはそこか。エロ本など燃えてしまえば良いんだ』

 

エロ本は俺のエネルギー源なんだぞ、ドライグ!

一冊とて、燃やされてたまるかよ!

 

炎の中から現れた男が口を開く。

 

「ふぅ、久々の人間界だ」

 

男は赤いスーツを身に付けていた。

スーツを着崩して、ネクタイをせずに胸までシャツをワイルドに開いている。

ワル系のイケメンといった感じだ。

見た目的には………ホストか?

 

「やぁ、愛しのリアス。会いに来たぜ」

 

愛しのリアス………?

やけに馴れ馴れしいが部長とどういう関係だ、こいつ?

というか、そもそもこいつは、

 

「誰?」

 

おっと、声に出してしまった。

まぁ、出てしまったものは仕方がない。

 

目の前のホストみたいな悪魔が俺を見てくる。

 

「俺を知らないとはな。リアス、下僕の教育がなってないんじゃないのか?」

 

「いやいや。いきなり出てきて挨拶もしない、あんたの育ちの方がなってないんじゃないの?」

 

俺がそう言うと不機嫌そうな顔で睨んでくる。

 

「あ? おまえ、俺に喧嘩売ってんのか?」

 

「喧嘩を売ったつもりはないよ。まぁ、こっちも初対面の相手に失礼な口を利いたのは謝るが」

 

寝不足の影響で言葉遣いも悪くなってんな。

うん、もう少し気を付けようか。

 

すると、グレイフィアさんは俺の前に来て言った。

 

「兵藤一誠様。この方は純血の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家の三男、ライザー・フェニックス様であらせられます」

 

上級悪魔ねぇ。

全く貴族って感じがしないが………。

 

グレイフィアさんはそして、と続ける。

 

「この方はグレモリー家次期当主、リアスお嬢様と婚約されております」

 

「はああああああ!?」

 

 

 

 

「いやー、リアスの女王が淹れてくれたお茶は美味いものだ」

 

「痛み入りますわ」

 

朱乃さんはニコニコしてるけど、いつもの笑顔とは何処かが違う。

 

ソファに座る部長とその隣にはライザー。

ライザーは部長が嫌がるのも気にせず、髪を触ったり、肩やら手を触っている。

部長が嫌がっているのも楽しんでいるように見える。

 

「………っ!」

 

「美羽」

 

その様子を見て美羽は何か言いたそうだけど俺はそれを止めさせる。

気持ちは分かるが、ここで手を出したら部長に迷惑をかけることになる。

しかも、相手は部長の婚約者にして、貴族の三男坊ときている。

さて、どうしたものか………。

 

「いい加減にして頂戴! 私は前にも言ったはずよ。私はあなたとは結婚しないわ!」

 

部長はライザーの手を振り払って、そしてソファから立って言い放つ。

しかし、ライザーはやれやれといった表情でこう返した。

 

「それは以前にも聞いた。だが、そういうわけにもいかないだろう? 君のお家事情は意外と切羽詰まっているのだろう?」

 

「余計なお世話よ! 私は次期当主、婿くらい自分で決めるわ。私が本気で好きになった人を婿にする。それくらいの権利は私にもあるわ」

 

部長が自分の気持ちをハッキリとライザーに告げる。

ライザーはそれを耳にすると、舌打ちをして部長を睨み付けた。

そして、全身からプレッシャーを放ち始める。

奴の背中から炎が広がり、部室を再び熱気が包み込む。

 

「俺もな、フェニックスの看板を背負っているんだよ。名前に泥を塗られるわけにはいかないんだ。………俺はお前の眷属、全員を焼き尽くしてでもお前を冥界に連れて帰るぞ」

 

それを聞いた瞬間、俺は―――――

 

「今、何て言った?」

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

「今、何て言った?」

 

声がした方を振り向くとイッセー君が赤いオーラを発していた。

 

なんだ、このプレッシャーは………!?

こちらに向けられた訳でもないのに、彼の殺気に、オーラに体が震える………!

普段の彼からは考えられないほどの低い声と殺気に僕は冷や汗を流していた。

 

イッセー君の言葉にライザーがフンッと鼻を鳴らす。

 

「たかだか、転生したての下級悪魔が上級悪魔の会話に割り込んでくるとはな。それなりの覚悟は出来ているんだろうな?」

 

「聞いてるのは、こっちだ。俺の仲間を燃やす? ふざけるなよ、焼鳥野郎」

 

「なっ!? 貴様、俺を愚弄するかっ!」

 

「ハッ! 貴族だか、フェニックスだか知らないが随分上からものを言ってくれるじゃねぇか。あんた、そんなに大した野郎か? そうは見えねぇがな」

 

イッセー君からライザーに向けての殺気が強くなる。

 

先程、ライザーが放っていたものとは比べ物にならない!

まだ上がるというのか!

転生したての悪魔、下級悪魔の領域を遥かに越えている!

部長は先の堕天使との争いの時に、イッセー君を上級悪魔以上だと評価していたが、これはあまりに桁違いで………。

 

殺気を向けられているライザーの表情は驚愕に包まれ、後退りしている。

 

「こ、これは………な、何者なんだ!? 貴様は!」

 

「俺か? そう言えば名乗ってなかったな。俺はリアス・グレモリー様の『兵士』、兵藤一誠だ。良く覚えておけよ、ライザー。もし、ここで俺の仲間に手を出すというのなら俺も容赦はしない。その時は覚悟するんだな」

 

「くっ! 下級ごときが!」

 

ライザーもプライドからか、負けじと炎を体から噴き出しイッセー君に対抗する。

だけど、格が違う。

イッセー君のオーラはライザーの炎などものともしない。

ライザーの炎をオーラで押さえつけ、自身の領域を増やしていっている。

 

このままイッセー君とライザーが衝突するかと思われたその時、二人の間にグレイフィアさんが立った。

 

「おやめください、兵藤様、ライザー様」

 

グレイフィアさんは魔力を体から発しながら二人に告げる。

グレイフィアさんから発せられる魔力もまた、常軌を逸したレベルだ。

イッセー君、ライザー、グレイフィアさん、この三人のオーラが室内を支配しているせいで、他のメンバーは体を動かすどころか、呼吸さえ難しくなっていた。

 

「私はサーゼクス様の命によりここにいます故、この場に置いて一切の遠慮はしません」

 

グレイフィアさんの言葉を聞いて二人は睨み合いを止め、オーラの放出を止めた。

 

「最強の女王と称されるあなたに言われたら俺も止めざるをえない」

 

「まぁ、最初からやるつもりはないですよ。ここで暴れたら、どうなるかぐらい分かってますから」

 

どうやら、イッセー君は脅しをかけただけらしい。

確かにこんなところで二人が争えば学園は軽く消し飛ぶだろう。

イッセー君は怒りながらもその辺りは考えていたらしい。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

美羽には落ち着けとか言いながら、やっちゃったぜ☆

いや、ホンットごめん。

俺もね、本当はあそこまでするつもりはなかったんだよ。

でもね、寝不足やらライザーの発言やらでイライラが上限突破してだな………ホンットすいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

とりあえず、後で声に出して皆に謝っておこう!

 

グレイフィアさんが言う。

 

「グレモリー家もフェニックス家も当人の意見が食い違うことは分かっていました。ですので、もしこの場で話が纏まらない場合の最終手段を用意しました」

 

「最終手段? どういうことかしら、グレイフィア」

 

部長はグレイフィアさんにそう質問すると、グレイフィアさんは話し続ける。

 

「お嬢様が自らの意思を押し通すのであれば、この縁談をレーティングゲームにて決着を着けるのはいかかでしょうか?」

 

レーティングゲーム?

レーティングゲームは成熟した悪魔でなければ参加できないと聞いている。

部長はまだ未成年者だから、まだゲームには参加できないはずじゃ………。

 

しかし、俺のこの疑問はすぐに解決した。

 

「お嬢様もご存じのとおり、公式のレーティングゲームは成熟した悪魔しか参加できません。しかし、非公式のゲームならば、半人前の悪魔でも参加できます。この場合、多くが―――――」

 

「身内同士か御家同士のいがみ合いよね」

 

部長は嘆息しながら言葉を続ける。

 

「つまり、お父様方は私が拒否した時のことを考えて、最終的にゲームで今回の婚約を決めようってハラなのね? ………どこまで私の生き方を弄べば気が済むのかしら………っ!」

 

「では、お嬢様はゲームも拒否すると?」

 

「まさか。こんな好機はないわ。ゲームで決着をつけましょう、ライザー」

 

非公式とはいえレーティングゲームへ参加する事を了承する部長の言葉を聞き、ライザーは口元をにやけさせながらこう言った。

 

「へぇ、受けちゃうのか。それは構わないが、俺と俺の眷属は既に公式のゲーム経験もあるし、今のところ勝ち星も多い。眷属もこっちは十五人、フルメンバーだ。それでもやるか、リアス?」

 

「当然よ」

 

「いいだろう。そちらが勝ったら好きにするといい。だが、俺が勝ったらリアスは俺と即結婚してもらう」

 

激しく睨み合う両者の間に立って、グレイフィアさんが言う。

 

「承知いたしました。お二人のご意志は、私、グレイフィアが確認させていただきました。ご両家の立会人として、私がこのゲームの指揮を執らせていただきます。よろしいですね?」

 

「ええ」

 

「ああ」

 

グレイフィアさんの意思確認の言葉で一区切りとなり、部長もライザーもグレイフィアさんの言葉を了承した。

 

そこで、俺はグレイフィアさんに訊ねた。

 

「あの、グレイフィアさん。一つお願いがあるのですが………」

 

「なんでしょうか、兵藤様」

 

「そのレーティングゲームを行う前に俺達に修業期間をください」

 

「修業期間、ですか?」

 

「そうです。眷属の数もこっちが少ない上に、ゲームも未経験です。これではあまりにもこちらが不利すぎます」

 

そう言うと、俺の内側でドライグが俺にだけ聞こえる声で言ってきた。

 

『何を言う。相棒がいる時点でこちらが有利だろうに。先程のやり取りでライザーとやらの実力は分かった。相棒があれに負けるとは思えんがな』

 

いや、俺はレーティングゲームについて知識はほぼゼロだからね?

ルールも何も知らずに参加するのは流石にまずいだろう?

それに、レーティングゲームをすると言うことは眷属全員が関わるということだ。

俺一人が出張るわけにもいかない。

ルール次第じゃ、眷属全員のレベルアップが必要になるだろうし。

 

俺の意見を聞いてしばし考えるグレイフィアさん。

 

「なるほど、それもそうですね。ただ、こちらも余り時間をかけるつもりはございません。なので十日後。十日後にゲーム行いましょう。それでよろしいですね?」

 

「十分です。ありがとうございます」

 

グレイフィアさんは部長とライザーに視線を移す。

 

「お嬢様もライザー様もよろしいですね?」

 

その問いに二人は頷き、再度、両者の同意が得られた。

話が纏まったところで、ライザーは魔法陣を展開する。

 

「じゃあな、リアス。十日後のゲームで会おう」

 

「ええ。あなたを消し飛ばしてあげるわ!」

 

こうして、十日後、部長の将来をかけたレーティングゲームが行われることになった。

 



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3話 修業はじめます!!

部長率いるグレモリー眷属とライザー率いるフェニックス眷属のレーティングゲームが行われることが決定した日の翌日。

俺達はグレモリー家が人間界で所有する別荘で泊まり込みの修業を行うことになった。

 

そして、現在、俺達は別荘に向かうべく山道を歩いていた。

周囲には自然豊かな木々が生い茂り、小鳥が鳴いている。

景色も申し分ない。

 

「わぁ、良い景色だね」

 

「そうだな。都会では見れない景色だ。美羽、写真撮ってやろうか?」

 

「うん! アーシアさんも一緒に撮ろうよ」

 

「はい!」

 

そう言って向こうにある山をバックにして、美羽とアーシアはニッコリ笑ってこちらにピースサインをする。

よしよし、綺麗に撮れた。

後で父さんと母さんに見せてやろう。

絶対に喜ぶからな。

 

「い、イッセー君。余裕だね………」

 

木場が笑顔をひきつらせながら言ってきた。

 

「え? 何が?」

 

「………イッセー先輩、自分の状況を見てください」

 

小猫ちゃんに言われて自分の状況を見直してみる。

背中と肩にはリュックサック。

部長や朱乃さん、アーシア、そして美羽の荷物が入っている。

そのため、リュックサックはかなり大きい。

無駄に荷物が多いような気もするが、女の子には色々とあるのだろう。

 

木場や小猫ちゃんも同じ状況。

小柄な小猫ちゃんが体の倍以上の荷物を背負っている光景にどうツッコミを入れたら分からないが、本人が平気そうなので、良しとしよう。

 

「木場や小猫ちゃんだってリュックサック背負ってるだろ」

 

「そうじゃなくて………。今、君の体には魔法で負荷をかけているんだよね?」

 

美羽に頼んで俺の体に重力系の魔法で負荷をかけてもらっている。

ちなみに、戦車である小猫ちゃんが耐えられないくらいの重力だ。

 

「負荷をかけないと修業にならないだろ」

 

「ははは………。何て返せば良いのか分からないよ」

 

「………イッセー先輩は規格外にもほどがあります」

 

異世界で修業した時はこんなものじゃあ無かったからな。

というかね、師匠の修行が無茶苦茶すぎてね………。

 

『感覚が狂ってるのだろう』

 

ドライグ、泣いていい?

あの頃を思い出すと泣けてくるんだよ。

俺、よく生きてたなぁ………。

 

遠い過去を思い出しながら、俺は部長に言った。

 

「そんなこと言ってないで、早く来いよ。折角来たんだし、皆で写真撮ろうぜ。良いですよね、部長」

 

「そうね。それくらいは楽しんでも良いでしょう」

 

部長の承諾を得た俺は三脚を取り出し、カメラのタイマーをセットする。

 

「じゃあ皆、並んでくれ。じゃあ、いきまーす」

 

俺は並んでいる皆のところに駆け寄り、美羽の隣に立つとブイサインをカメラの方に向けた。

数秒後、カシャッとシャッター音が鳴った。

 

「お、良い感じだ。後で皆に送りますね」

 

「ありがとう、イッセー。じゃあ、写真も撮ったことだし、目的地に向かいましょう」

 

 

 

 

それから歩くこと十分弱。

目的地には着いた。

ただ、そこにあったのは………。

 

「部長、これが別荘ですか?」

 

「ええ。グレモリー家が所有する別荘よ」

 

部長に言われてもう一度、目の前の建物を見る。

 

「いや、世間一般的にはこれは屋敷と言うと思うんですけど」

 

明らかに俺達庶民が思っている別荘より大きい。

建物の横には大きなプールもある。

これ、別荘というより、セレブが住んでそうな豪邸だよね。

俺が想像する別荘って、もっとこじんまりした建物なんですけど。

 

「そう? まぁ、そんなことは置いといて、早速修業といきましょう。部屋に案内するから、各自ジャージに着替えて集合するように」

 

「部長、美羽は手伝いで来てるからジャージ持ってきてないです」

 

「じゃあ、美羽には飲み物の用意を頼めるかしら」

 

「分かりました」

 

その後、俺達はリビングに荷物を置き、案内された部屋で着替えることになったのだが………とにかく部屋の一つ一つが広い!

流石は貴族の所有する別荘ということなのか!

 

着替える前にリビングで水を飲んでいると、木場が青色のジャージを持って言ってくる。

 

「じゃあ、僕も着替えてくるよ」

 

「おう」

 

「覗かないでね」

 

「誰が野郎の着替えなんて覗くか! マジで殴るぞ、この野郎!」

 

「ははは、冗談だよ」

 

「………木場。修業、覚悟しとけよ」

 

「………」

 

木場の顔が青くなったのを横目に俺も着替えることにした。

 

 

 

 

[修業 木場編]

 

 

今回の修業での俺の主な役割は皆を鍛えることだ。

こう言うと申し訳ないのだが、俺と部長達の間では実力に差がありすぎる。

ドライグ曰く、

 

『相棒の場合、基本的な力に加えて、経験もある。しかも、師が奴だからな。そもそもの次元が違うのさ。だが、素材自体は悪くない。鍛え方次第では化けるだろうな』

 

とのことだ。

何にしても、十日という短い期間でどれだけ実力の底上げが出来るか………。

まずは、現状でどれほど戦えるのかの確認をするために、一人一人について相手をすることにした。

 

最初の相手は木場だ。

木場も《魔剣創造(ソード・バース)》という神器を持っているらしい。

あらゆる魔剣を想像できる能力があるとのことだが、まずは神器無しでどこまでやれるのかを確認するため、木刀の打ち合いをしている。

 

「いくよ、イッセー君!」

 

「来い、木場!」

 

俺の声に応じて、木場は木刀を両手で構えて突っ込んでくる。

 

はぐれ悪魔討伐の時や堕天使との一件で、木場の動きを見させてもらった。

木場の駒は『騎士』、その特性はスピードだ。

木場の戦いはそのスピードを活かした戦い方になっている。

スピードで相手を翻弄し、手数で圧倒し、隙をついて、一気に攻め落とす。

それが基本的な木場の戦法だ。

独学なのか、師匠がいるのかは知らないが、剣筋も良く、立ち回りも悪くない。

 

高速の連続攻撃を全て流す俺に木場が問う。

 

「僕の攻撃を全て流すなんてね。何処かで剣術を習っていたのかい?」

 

「昔、習っていたのさ。さて………そろそろ俺からも仕掛けるぞ」

 

防御から一転、完全に攻めに回ることにした俺。

攻めは中々だったが、守りはどうか。

俺は型のない荒々しい剣撃で木場を攻め立てる!

 

俺が振り下ろした木刀を厳しい表情で受け止める木場。

 

「速いうえに重い………ッ! ここまでとは………」

 

「このスピードならまだ着いてこれるな。じゃあ、ギアを一段階上げるぞ!」

 

「えっ!?」

 

目を見開く木場を置いて、俺はその場から姿を消す。

錬環勁気功を発動し、どんどんスピードを上げる俺を木場は追いきれていない。

 

「こっちだ」

 

「っ!」

 

背後に現れた俺に横凪ぎの一撃を放つ木場だが、木刀は虚しく空を斬るだけ。

 

更に俺は残像を生み出しながら、猛攻を仕掛けていく。

縦、横、斜めと様々な方向から木場へ木刀を叩き込んでいく。

更には突きまでも混ぜているため、木場も徐々に捌ききれなくなってきていた。

 

「こいつで終わりだ」

 

「くぅぅぅぅぅぅ!」

 

最後には木場の木刀を弾き飛ばし―――――木場の頭目掛けて木刀を降り下ろした。

木刀の切っ先が木場の髪に触れたところで、止まったので木場にダメージはないが、ここまでやられるとは思っていなかったのだろう。

木場はただ呆然としていて、

 

「………参りました」

 

木場が降参し、その場に座り込む。

かなりキツかったのか、肩で息をしている状態だ。

俺は汗だくの木場にタオルとスポーツドリンクを渡して言った。

 

「水分補給しとけ」

 

「ありがとう。………僕はスピードと剣術には自信があったんだけどね。こうも歯が立たないと少し自信を無くすよ」

 

「まぁ、世界は広いってことにしとけ。自信を持つことは良いけど、持ちすぎると油断に繋がるからな」

 

「君が言うと何処か説得力があるね」

 

「さて、少し落ち着いたところで注意点を言っておくか。おまえ、相手の動きを目で追ってるだろ?」

 

「え? イッセー君は違うのかい?」

 

「確かに目で追うことも必要だけど、それ以上に相手の気配を追うことが大切だ。それから、相手よりも一手先、二手先を読んで戦え。おまえは自分の持ち味がスピードと言ったが、今分かったとおり、おまえより速い奴は何人もいるだろう。そんな相手にスピード勝負をして勝てると思うか?」

 

「うっ………」

 

「だからこそ、目だけで追うな。五感全てを駆使して相手を追え。そうすれば例え目で追いきれなくても体が反応するからな。当面はこれを目標にしてみてくれ。それから、出来れば、相手の次の行動を予測できるようにな。木場は速さもあるし技術力もある。これを覚えれば戦い方が一段上に上がるはずだ」

 

「なるほど。………分かった、やってみるよ」

 

「よし。じゃあ、その辺りを意識しながらもう一度だ」

 

「よろしく頼むよ、イッセー君」

 

 

 

 

[修業 小猫編]

 

 

「当たってください………!」

 

木場の次は小猫ちゃんだ。

今度は木刀を使わず、素手による組手をしている。

小猫ちゃんから放たれる拳は鋭く、当たった木は折れて倒れてって………あの小さい体から撃ち出される拳とは思えねぇ!

ホンット、どこにそんなパワーがあるんですかね!

 

「………小さいって言いましたね」

 

呟きと同時に放たれる攻撃!

小猫ちゃんの拳が更に鋭くなったよ!?

ていうか、俺の心を読まないで!

 

あと、一つだけ言わせてほしい。

小猫ちゃんはコンプレックスに思っているかもしれないが、小猫ちゃんのロリは最高だと思うんだ!

 

「………殺します」

 

はうぁ!

小猫ちゃんの怒濤のラッシュがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

殴られた木がメキメキ言いながら倒れていくぅぅぅぅぅぅ!

 

コホン………ま、まぁ、この話は置いて、真面目な話をしようか。

 

小猫ちゃんは的確に中心線を狙ってくる。

相手のど真ん中を捉え、確実に破壊する拳だ。

たまに俺が攻撃をすると、それを避けて瞬時に懐に入ろうとする。

狙いも正確だ。

木場も小猫ちゃんも、前衛としてのセンスはピカイチ。

これも才能というやつなんだろうな………。

 

だが、攻撃が単調だ。

だからこそ、俺に一発を入れるどころか、掠めることすら出来ていない。

更に――――――。

 

小猫ちゃんが放った拳を俺は―――――人差し指で受け止めた。

 

「今の小猫ちゃんの拳は俺でも軽く受け止められるよ」

 

「………昇格もしていないのによく私の攻撃を受け止められますね」

 

「小猫ちゃんの攻撃は力が一ヶ所に集まっていないからだよ」

 

「………?」

 

「小猫ちゃんは戦車の特性に頼りすぎて効率良く攻撃が出来ていないんだよ。小猫ちゃんは魔力を使ってないようだしね」

 

「魔力………ですか?」

 

そう、小猫ちゃんの打撃はただ殴っているだけ。

まぁ、それだけでも威力は高いし狙いも良いんだけどね。

 

「良いかい? 力は効率的に使えば、ほんの僅かな力だけで、大きな効果をもたらすことができる。今のだって、俺の指に集めた力が小猫ちゃんの攻撃を上回ったから出来たことだ。簡単な例を出すなら………とりあえず実演してみるか」

 

そう言って俺は錬環勁気功を発動すると、拳に気を集めて、地面を殴り付けた。

すると、俺を中心にして直径五メートルくらいのクレーターが出来た。

 

「まぁ、こんな感じかな。今のは軽く殴っただけだが、それでもこれくらいの威力にはなる。小猫ちゃんもやってみてよ」

 

「魔力を拳に纏わせて………えい」

 

そう呟きながら小猫ちゃんは俺と同じように地面を殴る。

直径二十センチくらいの小さなクレーターが出来た。

俺が作ったクレーターと比較して、口許をへの字にする小猫ちゃん。

 

「難しいですね」

 

「いや、初めてにしては上出来だよ。俺が初めてやったときはクレーターすら出来なかったし」

 

「………そうですか」

 

「じゃあ、今のを意識しながら組手をしてみようか」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

 

[修業 朱乃編]

 

 

「それではいきますわ」

 

朱乃さんの駒は『女王』。

『女王』は『騎士』『戦車』『僧侶』の力を併せ持つ最強の駒。

朱乃さんの攻撃手段は主に魔力、魔法によるもので、特に得意としているのが雷の魔力による攻撃だ。

そこを考えると、朱乃さんは特に『僧侶』としての力が秀でているようだ。

 

俺と対峙している朱乃さんは極大の雷を放ってくる。

対魔法・対魔力の特性か、高い耐久力を持っていないと触れただけで丸焦げにされそうな威力だ。

しかも、広範囲に放ってくるから、こちらの逃げ道も塞がれる。

それにより、相手の次の行動を制限しているのは朱乃さんの作戦なのだろう。

そして、攻撃に緩急を付けているから余計に攻めにくい。

 

「スゴいですね、朱乃さん。流石は雷の巫女と呼ばれるだけはあります」

 

「あらあら、誉めてもらえて嬉しいですわ」

 

いつものニッコリ顔でそう言ってくる朱乃さん。

やっぱり美人だよなぁ!

おっぱいも大きいし!

大和撫子美人って良いよね!

 

おっと、鼻の下を伸ばしてる場合じゃないな。

今は修行に専念せねば!

 

「俺もいきますよ、朱乃さん!」

 

俺は手元に気を溜めて気弾を放つ。

迫る気弾を朱乃さんは雷で相殺して、反撃を仕掛けてくる。

俺達はそのまま砲撃戦に入ったのだが………。

 

数分が経過した頃には朱乃さんの魔力が少なくなり、息を切らしていた。

汗を拭いながら、朱乃さんが訊いてくる。

 

「………イッセー君は平気ですのね」

 

「朱乃さん、格上の相手に真正面から挑み続けるのは無理があります。途中で完全にペースが乱れてましたよ」

 

「………返す言葉もありませんわ」

 

「それと、攻撃方面は良いんですけど、防御面が弱いですね。それと、接近された時の対応が遅いです。相手が『騎士』………木場みたいにスピードで撹乱するタイプならやられてますよ」

 

俺の指摘に肩を落とす朱乃さん。

そう、朱乃さんは近距離戦に持ち込まれると弱い。

しかも、防御面が弱いため、その弱点は無視できないものになっている。

今までは眷属のチームワークで補っていたみたいだが、一対一であったり、仮に前衛メンバーが敗北した場合を考えると………。

 

「攻撃は最大の防御とは言いますけど、やっぱり防御系の魔力か魔法は覚えた方が良いですね。それと近距離での立ち回りも。………そうだ、美羽に魔法を習うってのはどうです?」

 

「美羽ちゃんに、ですか?」

 

「ええ。あいつの魔法の腕は俺が保証しますよ。簡単な防御術式を覚えるだけでも変わると思いますよ」

 

「そうですわね。お願いしようかしら」

 

「決まりですね。じゃあ、俺から美羽に言っておきます」

 

「私も行きますわ。教えてもらうのは私なのですから、私が頭を下げるのが礼儀と言うものです」

 

こうして、朱乃さんは美羽から防御術式を習うことが決まった。

 

 

 

 

 

 

[修業 リアス編]

 

 

今度は部長との修業に入る。

 

部長は手元に赤黒い魔力を作ってそれを岩目掛けて放った。

すると―――――部長の魔力に触れた部分は跡形もなく、消え去っていた!

 

「これが私が持つ《滅びの魔力》よ。触れたら本当に消し飛ぶわよ。………イッセー、続けて大丈夫なの? 当たったら、いくらあなたでも大怪我じゃ済まなくなるわ」

 

まぁ、確かに。

触れただけでアウトだもんなぁ………。

アーシアの治療でも治らないかも。

 

俺は苦笑しながら、部長に言った。

 

「まぁ、大丈夫ですよ。それくらい緊張感がないと俺も修業にならないんで。部長はそんなこと気にせずにドンドン撃ってください」

 

「分かったわ。気を付けてよ、イッセー!」

 

部長はそう言って俺に魔力弾を放ってくる。

絶え間なく強力な魔力を撃ってくるところを見ると、部長の魔力量は相当なものらしい。

更に俺が気弾を放つと華麗に避けて見せた。

 

高い魔力と高い身体能力。

流石は上級悪魔といったところなのだろう。

 

しかし、だ。

 

「部長、ストップです」

 

「どうしたの?」

 

「部長の欠点が分かりました」

 

「早いわね。教えてもらえるかしら」

 

「滅びの性質に頼りすぎです。確かに部長の魔力の性質は凶悪ですけど、攻撃に変化が無くて直線的過ぎます。それだと簡単に避けられてしまいますよ」

 

滅びの魔力は触るだけでアウトみたいなものだ。

だけど、当たらなければどうと言うことはない。

それに、無駄撃ちすると魔力が無駄に減るだけだからな。

 

「それから、部長も朱乃さんのように魔力を凝縮して放てるようにしてください。恐らく滅びの力が一気に向上すると思うので」

 

俺は更に言葉を続ける。

 

「現在の部長ではあいつにはダメージを与えることが出来ません。フェニックスは不死で何度も生き返るんですよね? だったら、その再生能力を上回るくらいの攻撃をしないとあいつには届きませんよ」

 

「なるほど。分かったわ。魔力放出後のコントロールと魔力の凝縮。この二つを目標にして修業を行いましょう」

 

 

 

 

[修業 アーシア編]

 

 

さて、最後にアーシアとの修行に入るんだけど………。

アーシアと修業っと言ってもなぁ。

アーシアは攻撃する術は持ってないし、性格からして誰かを傷つけることは出来ないだろう。

まぁ、せめて防御系の魔法を覚えてもらうとかはしてもらうとして、それは美羽に一任することになると思うし。

 

「と、いうことでアーシアの修業は戦闘ではなく神器についての修業をすることにした」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

おおっ、アーシアちゃんってば、やる気満々だな!

でもね、俺も神器については詳しくないんだよね!

修行をつける側としては泣けてくるな!

 

そこで、今回の修行はドライグの意見を参考にしてやってみることにした。

 

「アーシアの神器の効果はケガをした人の近くに行かないと治療が出来ない。今回の修業では遠くのケガ人を治療出来るようにする。これがアーシアの修業目標だな」

 

アーシアの治癒の力は相当なものだと思う。

死にそうな重傷でも、一瞬で治してしまうからな。

ならば、この限られた時間でするべきことは治癒力の向上ではなく―――――遠くにいるケガ人の回復。

これは戦術的にもかなり効果が大きい。

アーシアがこれを修得できれば、グレモリー眷属の戦術の幅が大きく広がるのは間違いない。

 

「それはどのようにして行うのでしょうか」

 

「そうだな。試しに俺がやってみるか」

 

俺はアーシアから少し距離を取って、籠手を展開する。

 

『Boost!』

 

一回だけ倍増してそのオーラを手元に集める。

そして、それをアーシア目掛けて放った。

オーラの塊がアーシアに着弾した瞬間―――――。

 

『Transfer!』

 

譲渡の音声と共にアーシアから感じられるオーラの量も増大した。

 

「まぁ、こんな風にオーラを相手に飛ばす感じだな。参考になったかな?」

 

「はい! 私、やってみます!」

 

アーシアの魔力訓練については朱乃さんに任せることにした。

俺は魔力はほとんど使わないからな。

魔力量も少ないし………。

 

それから、アーシアには最低限、自分の身は守れるように朱乃さん同様、美羽に防御魔法を教わることになった。

回復役のアーシアは敵からすれば絶対に潰しておきたいだろうからな。

ある程度の防御力を身につけておけば、なんとかなるだろう。

 

 

 

 

 

こうして、グレモリー眷属の修業一日目は終了となった。

ちなみに、俺の修業はいつも通りでティアとの神器無しでの組手だ。

この時ばかりは美羽に重力魔法を解除してもらったが………うん、負荷をかけながらティアとやり合ったらマジで死ぬ。

そうでなくても厳しい相手だし。

 

それで、修業が終わった俺達は今は夕食タイムに入っていた。

 

「旨いよ、美羽。本当に料理が上達したな」

 

食事の用意は話し合った結果、当番制となり今日の当番は美羽となった。

最初は食事の用意は手伝いで来ている美羽の役割となっていたが、魔法を美羽から教わっている以上、押し付ける訳にはいかないということで、全員平等の当番制が採用された。

今日の夕食はカレーとサラダだ。

こうしてると、小学生の時に行った自然学校を思い出すよね。

 

「うん、お兄ちゃんに『美味しい』って言ってもらいたいもん」

 

グハッ!

なんて可愛いことを言ってくれるんだ!

やっぱり、妹って最高に可愛いよね!

いや、これは美羽だからと言うべきなのか………どちらにしてもお兄ちゃん感激だよ!

 

「そんな可愛い美羽は頭を撫でてやろう」

 

「えへへ~」

 

頭を撫でた時の反応とかマジ癒し!

美羽はもうご機嫌さんだ!

 

ただ、美羽を撫でているとアーシアはぷくっと頬を膨らませて………。

これはこれで可愛いけど、拗ねないでくれ、アーシア!

俺はアーシアだって可愛いと思ってるから!

 

「アーシアも今日は修業頑張ったな」

 

俺が誉めて頭を撫でるとアーシアは笑顔を俺に向けてくれた。

 

「はい! イッセーさんと美羽さんのおかげです! 明日も頑張りたいと思います!」

 

美羽に続き、アーシアの笑顔!

ダブル妹系美少女(美羽は妹だが)のスマイルは最高に癒されるぜ!

 

「あらあら、イッセー君はモテモテですわね」

 

「まさに両手に華ね」

 

朱乃さんと部長がそう言ってくるけど、俺も自分でそう思う。

本当に美羽とアーシアは俺を癒してくれる。

一緒に寝たときなんてもう………!

 

美羽とアーシアに囲まれた生活にニヤけていると、部長が真剣な顔付きで尋ねてきた。

 

「今日一日、私たちの修業を見てもらったけどイッセーはどう思った?」

 

あー………その質問な。

やっぱり、訊いてくるよなぁ………。

 

どう答えるべきか悩んでいるとドライグが皆に聞こえる声で言った。

 

『相棒。こういうことはハッキリ言ってやった方が良い。その方がこの者達のためになる』

 

「そうね。正直に答えてちょうだい」

 

ドライグに続き部長はそう言ってきた。

 

まぁ、そうだよな。

今の実力を把握した上で、そこをどう伸ばしていくか。

それが今回の修行だし………。

 

俺は皆を見渡すと、この修行で感じたことを率直に答えた。

 

「仮に俺無しで部長達がライザーに挑んだ場合ですが………現段階の勝率はゼロです」

 

「「「っ!」」」

 

俺の言葉に部長達は声を詰まらせた。

部長が改めて訊ねてくる。

 

「理由を聞かせてもらえるかしら?」

 

「部長には修業中に言いましたが、ライザーの再生能力を越える攻撃力を持つ人がいないからです。恐らく今の状態でもライザーの眷属には対抗出来ると思いますが………」

 

実は修行の後で部長にはライザーの過去のレーティングゲームの映像を見せてもらったんだ。

映像越しの判断にはなるが、グレモリー眷属の個々の力はライザーの眷属には劣っていないだろう。

数が少ない分、こちらが不利だけど戦い方次第では勝てない相手では無い。

ただ、やはりライザーの不死の特性は今の部長達ではハードルが高すぎる。

 

それはグレモリー家やフェニックス家の人達も分かっているはず。

………どうも、仕組まれている気がする。

 

そんなことを頭の隅で考えながら、俺は皆に頭を下げた。

 

「ゴメンな皆。偉そうな言い方になってしまって」

 

俺の謝罪に皆は、

 

「良いのよ。そもそも正直に言えっていったのは私なんだし」

 

「そうですわ。イッセー君に言われて危機感を持つことが出来ました」

 

「そうだね。僕も今後の修業への覚悟を改めて持つことが出来たよ」

 

「力不足なのは私達の責任です」

 

「イッセーさんが私達のために言ってくれているのは、ここにいる全員が分かっていますよ」

 

皆がそう言ってくれて助かるよ。

 

部長はそれに、と続ける。

 

「イッセー、教わっているのは私達よ。気付いたことは遠慮せずに言ってちょうだい。このままでは私達は完全にあなたのお荷物になってしまうわ。そんなのは嫌なの」

 

「………了解です、部長。明日からの修業、より厳しくいきます」

 

「ええ、お願いするわ。美羽もよろしく頼むわね」

 

「分かりました。ボクも皆が強くなれるよう、全力でサポートするよ!」

 

 

 

 

夕食が食べ終わり、一息ついた頃。

 

「そろそろ、お風呂に入りましょうか。ここは温泉だから素敵なのよ」

 

温泉!

まさか露天風呂か!?

露天風呂といえば覗きだ!

俺は絶対に覗くぞ!

部長や朱乃さん達の裸………いかん、想像しただけで鼻血が出そうになる!

 

煩悩をたぎらせる俺に部長が、

 

「ねぇ、イッセー。私達と一緒に入る?」

 

な、なんですと!?

まさかまさかのお誘いだと!?

 

「そうですわね。一度、殿方の背中を流してみたいものですわ。それに稽古をつけてくれたお礼もしたいですし」

 

マジですか!?

良いんですか、朱乃さん!

是非、流してもらいたい!

 

「わ、私はイッセーさんとお風呂に入りたいです!」

 

「ボクも! 家では一緒に入ったこともあるし………良いよね?」

 

アーシアと美羽までも!?

なんて大胆な発言なんだ!

 

部長達と一緒に風呂!

まさに桃源郷じゃないか!

 

「小猫はどうかしら?」

 

部長が訊ねると小猫ちゃんは両手でバツ印をつくった。

 

「修業を見てくれたのは感謝しますが、嫌です」

 

拒否られた!

いや、何となく予想はしてたけどね!

やっぱりダメなんだね、小猫ちゃん!

 

「じゃ、なしね。残念、イッセー。祐斗と一緒に男風呂に入りなさい」

 

クスクスと悪戯っぽい笑みを浮かべながら部長が言う!

そんな………そこをなんとか!

女の子との混浴があれば、俺は明日を生きられるんです!

 

「覗いたら許しません」

 

小猫ちゃんに先手を取られた!

小猫ちゃんはいつも俺の心を読んでくるな!

ニュータイプですか!?

 

「イッセー君、修業のお礼に僕が背中を流してあげるよ」

 

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺の怒りの叫びが別荘に響き渡った。

そして、明日の木場の修行は超厳しくしてやると心に誓ったのだった。



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4話 レベルアップと部長の想いです!!

修業二日目。

今日からの皆の修業は、俺が指摘したことを踏まえつつ行っている。

それから、修行の効率化のため、俺と美羽、ティアの三人で担当を分けることにした。

俺は木場と小猫ちゃんといった前衛組の担当。

そして、朱乃さんやアーシアへの魔法の指導は美羽にやってもらっている。

ティアには部長の修業をマンツーマンで見てもらっている。(部長の後には俺の修業も見てもらっている)

 

で、俺が指導した方はこんな感じかな。

 

 

 

 

[木場の場合]

 

木場は目隠しをして俺の攻撃を避ける修業をしている。

 

気配や空気の流れを読み、攻撃を避ける。

これが出来るようになれば、目で追って動くよりも速く行動することができる。

更には死角からの攻撃にも対応できるようになる。

 

それに、木場の弱点は防御力の低さだ。

大きい攻撃を受けてしまえば即アウトになる可能性が大きい。

この修業をマスターすることで、攻撃だけじゃなく回避能力も高めることが出来るから木場にはかなり有効だ。

 

「中々難しいよ、この修業は………」

 

「それはそうだろ。ほれ、次いくぞ」

 

そう言って俺は新聞紙を丸めて作った棒を振り下ろすと、新聞紙は木場の頭に命中。

今ので百回目くらいだ。

 

俺は新聞紙の棒で肩を叩きながら言う。

 

「また命中だ。真剣ならアウトだぞ、木場」

 

「ははは………。コツがまだ掴めてなくてね」

 

コツ………ね。

まぁ、初めてで上手くやれってのも無理な話か。

俺も最初から出来ていたのかと問われると答えは否だ。

 

俺は腕を組んで少し考えた後、口を開いた。

 

「木場は敵の気配を感じることは出来るんだろ?」

 

「うん。それくらいはね」

 

「だったら、その感覚をもっと鋭くしたらいい。心を落ち着かせて、頭の中をクリアにするんだ。明鏡止水ってやつだ。そして、自分を中心に球を作る感じで、その球体の範囲に入ってきたものに対応する………って、イメージだな」

 

「自分を中心に球体を………」

 

木場はそう呟いて、一度深呼吸をする。

すると、

 

「………っ!」

 

変わった。

木場の雰囲気がほんの少しだけど、先程とは異なる。

こいつは―――――。

 

それから、数秒。

 

「イッセー君、いけるよ」

 

「………いくぞ」

 

俺は再び木場目掛けて棒を振り下ろす。

そして―――――棒は木場に当たることなく空を切った。

命中する瞬間、木場は体を後ろに反らし、避けて見せたのだ。

 

ヒントを教えたとはいえ、こんな短時間で避けれるようになるとは思わなかった。

実戦経験、それに加えて木場自身の才能か。

いやはや、こうも早くクリアしてしまうとは………。

 

「やるな」

 

「やっと、だけどね」

 

「じゃあ、この調子でドンドンいくからな?」

 

「うん。よろしく頼むよ、イッセー君」

 

コツを掴んだ木場は徐々に単発の攻撃なら避けれるようになっていき、目を隠した状態で連続攻撃を避ける程にまでなっていた。

 

 

 

 

[小猫の場合]

 

 

小猫ちゃんの修業は魔力を拳や足に纏わせる修業をしている。

 

小猫ちゃんの駒は戦車。

ただでさえ、高い攻撃力を有している小猫ちゃんの破壊力をさらに伸ばす。

これが今回の目標だ。

 

小猫ちゃんは今、山で見つけた大岩に拳を放っている。

 

「小猫ちゃん、もっと一点に魔力を集中させるんだ」

 

「集中………えいっ」

 

小猫ちゃんがそう呟いて殴りつけると、殴り付けた部位が炸裂し、岩に大きなクレーターが咲く。

それは昨日よりも深く、巨大なものになっている。

 

木場に続き、小猫ちゃんもちょっとしたアドバイスだけでここまで伸びるか。

こりゃあ、修行後は相当化けるぞ。

 

「そうそう。そんな感じ。それを維持しながら次いってみよう」

 

「分かりました、やってみます」

 

小猫ちゃんは岩に向かって次々に拳を放っていく。

まだ魔力のコントロールが不十分だから、威力が一定じゃないけど、昨日よりは大分良くなっている。

しかも、拳を撃ち込む度に威力も安定するようになっていてだな………。

早くも自分のモノにしていっているようだ。

 

ある程度、過ぎたところで小猫ちゃんにストップをかける。

 

「どう? 大体の感じは分かったかな?」

 

「そうですね。まだ、何となくですが」

 

「なら、実戦形式でやってみよう。いくら高い攻撃力でも、それを当てれるようにならないと意味がないからね」

 

「はい。お願いします、イッセー先輩」

 

その後、小猫ちゃんと実戦形式でやってみた。

 

動くものに当てる集中力と魔力をコントロールする集中力がいるので、最初は手間取っていた小猫ちゃんだけど、修業後半では魔力が安定するようになっていた。

 

 

 

 

 

「あぁ………極楽」

 

修業終了後。

夕食を食べ終えた俺は一人で風呂に入っていた。

木場は俺より先にあがったので、今は貸し切り状態に近い。

広い風呂を一人で貸し切りってのも悪くない。

やっぱり、足を伸ばしてゆったり出来る風呂って良いよね!

 

さて、風呂に入る前に美羽とティアからは皆の進捗具合を聞いたのだが………。

朱乃さんやアーシアも簡単な魔法ならマスターし、部長も魔力の凝縮は大体出来るようになったらしい。

 

ティアの修業が厳しいと部長が少し涙目だったけど………我慢してください、部長。

これも部長のためなんで………。

 

二日目で皆、コツを掴んできている。

眷属全員に言えることは高い才能を持っているということだ。

コツを掴むのが早く、次々と修得していっている。

これは指導を担当した側、全員の意見でもある。

 

才能という点では俺は皆の足元にも及ばないだろうな。

 

『確かに、相棒は才能など無に等しかったな。だが、相棒は努力だけで、今の強さまで登りつめた。俺は相棒を誇りに思うぞ』

 

嬉しいこと言ってくれるじゃないか。

ありがとうよ。

それで、ドライグから見た感じはどうよ?

 

『そうだな。確かに相棒達が言うように才能も高く成長も早い。だが、ゲームまでにフェニックスを倒せるほどになるかは微妙だな。流石に十日という短期間ではな』

 

そうか………。

過去のゲームを見たが、ライザーは頭や腕が無くなっても、そこから炎が巻き起こり、一瞬で再生させていたフェニックスの不死の特性は非常に厄介だ。

はたして、部長達がフェニックスの再生能力を越えることが出来るかどうか………。

まだ修業は始まったばかりだし、どうなるか分からないけどね。

 

『最悪、相棒がフェニックスを仕留めれば良い』

 

そいつはそうなんだが………禁手なしでフェニックスを倒すとなると………。

 

ブツブツと呟きながら、風呂から上がろうとした時―――――風呂場の扉が開かれた。

そして、そこにいたのは青い髪が特徴の綺麗なお姉さん。

そう、ティアが風呂場に入ってきたんだ!

 

「やはりここにいたか、イッセー」

 

「テ、ティア!? なんでここに?ここは男風呂だぞ!」

 

「分かっている。たまにはイッセーと一緒に入ろうと思ってな。背中を流してやろう。これも使い魔とのスキンシップというやつだ」

 

ええええええ!?

まさかそんな言葉がティアからでるとは!

良いんですか!?

使い魔とのエッチなスキンシップとかありなんですか!?

流石は龍王、大胆ですね!

つーか、人間版のティアはスタイル抜群の美女だから、目のやり場に困る!

とりあえず脳内保存しとくか!

大きいおっぱいといい、何から何まで最高です!

ありがとうございますぅ!

 

ティアがクスクスと笑う。

 

「フフッ、私の体がそんなに気になるのか?」

 

「ま、まぁ。俺も男だし………」

 

「そうか。イッセーなら別に見ても構わないぞ?なんなら触ってみるか?」

 

触ってみる、だと………ッ!

そんなことしちゃって良いんですか!?

龍王のおっぱい、揉んじゃっても良いんですか!?

 

テンパる俺の手を掴んで、ティアが自分の胸へと持っていくぅぅぅぅぅぅ!

 

 

むにゅん

 

 

凄まじく柔らかい感触が俺の手に伝わる!

大きくてモチモチしたものが俺の手に!

 

「どうだ私の胸は? イッセーは女の体に興味があるのだろう?」

 

ティアってこんなエロい性格してたの!?

それとも大人の女性の余裕なの!?

ええぃ、童貞の俺には刺激が強すぎるぜ!

 

俺の理性を無視して勝手に手が動く。

やはり男の性………神々しい女体とおっぱいを前にして、手が……手がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

「あっ………」

 

ティアから官能的な声が発せられ―――――興奮のあまり、大量の鼻血を噴き出す俺だった。

 

 

 

 

「あぁ………凄まじいおっぱいだった………」

 

まさか、ティアまであんなに大胆だったとは。

流石は龍王と言うべきか!

それにしても良いおっぱいだった!

感触はばっちり覚えてるぜ!

 

と、とりあえず夜風に当たってこの興奮を鎮めよう。

じゃないと、眠れん。

明日も修行があるんだ、寝不足で参加するわけにはいかないしね。

 

風に当たろうとテラスに行った時、そこには先客がいた。

 

「あら、イッセーじゃない。どうしたのこんな時間に?」

 

先客―――――部長が声をかけてきた。

テラスのベンチに座った部長の手元には一冊の本。

ふと見ると部長は珍しく眼鏡をかけていた。

 

「寝る前に夜風にでも当たろうかと思いまして。珍しいですね、部長が眼鏡なんて」

 

すると部長は眼鏡を外して説明してくれた。

 

「何かに集中したい時にこれを掛けると集中できるのよ。………私がかけると変かしら?」

 

「いえ! 知的な美女って感じで俺はありだと思いますよ!」

 

うんうん、いつもの部長と雰囲気が違うけど、これはこれで全然ありだと思う!

 

「それで、部長はここでレーティングゲームの勉強ですか?」

 

俺はまだ悪魔文字は完璧じゃないけど、部長が読んでいるのは戦術の本だというのは分かった。

次のレーティングゲームに向けて戦術を練っていたのだろう。

 

部長は自嘲しながら呟く。

 

「正直、気休めにしかならないのだけどね。一応ってところかしら」

 

「部長は、ゲームに勝つ自信がないんですか?」

 

「自信………ね。イッセーはこのゲームをどう感じるかしら?」

 

「正直、このゲームをセッティングした部長の親御さんとフェニックス家は部長に無茶なことをさせるなとは思います」

 

「そうね。このゲームは最初から私を負けさせるために組まれたものよ。チェスでいえばハメ手、スウィンドルね」

 

初めからライザーが勝つように仕組まれていた、ということか。

未成熟な部長に既にプロとしてデビューしている、しかも不死のフェニックスを当てるなんて、そうとしか考えられないからな。

 

ドライグが言う。

 

『まぁ、相手の誤算は相棒がこちら側にいたことか』

 

「そうね。でも、私はイッセーだけを戦わせるようなことはしないわ。私達全員で勝ちに行くつもりよ。以前にも言ったけれど、私はあなたを従えるのに相応しい王になってみせる。これが私の当面の目標よ」

 

『ほう。いい覚悟だ。リアス・グレモリーよ、その気持ちを忘れるな。自分を高めようと努力する者はいくらでも強くなれる。相棒のようにな』

 

「ええ、もちろんよ」

 

俺を従えるに相応しい王になる、か。

そう言われてしまっては、俺も部長のために頑張らないとだ。

 

部長の決意を聞いたところで、疑問に思っていたことを聞いてみるか。

 

「話は変わるんですけど………。今回の縁談を拒否しているのは、やっぱりライザーのことを嫌っているからですか?」

 

確かにライザーの性格には問題もあるけど、《旧七十二柱》に名を連ねるグレモリー家の事情を考えると無下に断れないものだと思う。

 

すると、部長は嘆息する。

 

「私は『グレモリー』なのよ」

 

「ええ。そうですけど?」

 

「どこまでいってもこの名前がつきまとうの」

 

「嫌なんですか?」

 

「いいえ。むしろこの名を誇りに思っているわ。だけど、誰しもが私のことをグレモリーのリアスとしか見てくれない。それが嫌なの。私はグレモリー家とかは抜きにして、リアスとして愛してくれる人と一緒になりたい。自分勝手なわがままだってことは理解しているわ。だけど、やっぱりこれだけは譲れないの」

 

部長は遠くを見ながらそう言う。

 

そっか………そうだよな。

いつもは学園のお姉さまとして慕われている部長だって、年頃の女の子なんだ。

悪魔とか、貴族とかそんなものは関係ない。

自分が好きになった人と一緒になりたい。

これは普通の女の子が持つ、当たり前の心だ。

 

「やっぱり、部長も一人の女の子ってことですね」

 

「え?」

 

聞き返す部長に俺は自分の気持ちを伝える。

 

「グレモリー家やフェニックス家の人からすれば部長のはわがままかもしれません。相応の立場の者と婚約、結婚するのは貴族にとっては当然なのかもしれません。………だけど、俺は部長の、その感情こそが普通だと思います」

 

俺は更に言葉を続ける。

 

「俺が眷属になったのは最終的には部長のその人柄です。部長を信頼出来たからこそ悪魔になることを決めたんです。もし、部長が主じゃなかったら俺は悪魔にはならなかったと思いますよ?」

 

「イッセー………」

 

「今回のゲーム。不安になる気持ちも分かります。だけど、もう少し肩の力を抜いてください。部長のことは俺達が守りますから」

 

そう、今回のゲーム、戦うのは部長だけじゃない。

俺も、朱乃さんも、木場も、小猫ちゃんも、アーシアもいる。

皆が部長のために戦うんだ。

部長が眷属は家族と言うのならば、眷属の俺達にとっても主である部長は家族みたいなものだ。

部長のためなら、喜んでこの力を振るおうじゃないか。

 

「部長?」

 

俺の言葉に俯く部長だが………少し顔が赤いような………。

 

「ありがとう、イッセー。少し気持ちが楽になったわ。まさか、年下にこんなこと言われるなんてね………。そろそろ寝るわ。イッセーは?」

 

「俺はもう少しここにいます」

 

「そう。じゃあ、先に休むわ。明日からもよろしく頼むわね、イッセー」

 

「了解です、部長」

 

 

 

 

それからあっという間に日が経ち、修業も終わった。

眷属の皆は俺が与えた修業をこなしていき、完璧とまではいかないけど、修業前よりも大分良くなった。

皆、やれることはやった。

後はライザーとのゲームに挑むだけだ。

 

 




次回、レーティングゲームに突入します!


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5話 レーティングゲーム始まります!!

すいません、遅くなりました!




決戦当日。

現在、夜の十一時四十分。

 

もうすぐゲームが始まる時間だ。

ゲーム開始時間になるまでの間、俺達グレモリー眷属はオカルト研究部の部室で待機している。

 

小猫ちゃんは拳に皮のオープンフィンガーグローブを付けている。肉球のマークが可愛らしい。

今はビスケットを食べている。

 

木場は手甲と脛当てを付けた後、壁にもたれて読書をしている。

そうしていると落ち着くそうだ。

 

部長と朱乃さんはお茶を飲んだりして、ソファでゆっくりしている。

 

アーシアはやっぱり不安なのだろう。

俺の隣に座って手を握ってくる。

まぁ、アーシアは戦う力もなければ、戦闘経験もない。

緊張や不安をかんじてしまうのも無理はない。

 

「やっぱ、怖いよな」

 

「はい………」

 

「そっか。心配するな………って、言っても難しいよな。だからさ、信じろ、アーシア。必ず勝つよ、俺達は」

 

そう言って、俺はアーシアの頭を撫でてやった。

完全に不安を取り除けるわけではないが、少しでも気持ちを落ち着かせることに繋がれば、それで良いさ。

 

皆がそれぞれのやり方でリラックスしていると、部室に銀色の魔法陣が展開され、光と共にグレイフィアさんが現れた。

 

「皆様、準備はお済になりましたか?」

 

その言葉に眷属全員が立ち上がる。

それを準備完了の意思として捉えたグレイフィアさんがゲームに関する説明を始めた。

 

「開始時間となりましたら、こちらの魔法陣から戦闘フィールドへ転送されます。戦闘フィールドは人間界と冥界の間に存在する次元の狭間に構成された使い捨ての空間なので、どんな派手な攻撃をされても構いません。各々、思う存分にご自分の力を振るってください」

 

俺は手を挙げてグレイフィアさんに尋ねる。

 

「本当にどれだけ暴れてもいいんですか?」

 

「はい。フィールドはかなりの強度で作られていますから、崩れることはないでしょう」

 

よし、それなら問題ない。

不死のフェニックスを倒すんだ、ちょっとやそっとで壊れられたらこっちが困る。

 

俺の質問の後もグレイフィアさんの説明は続く。

 

「今回のレーティングゲームは両家の皆様も他の場所から中継で戦闘をご覧になられます。さらには魔王ルシファー様も今回の一戦を拝見されておられます。それをお忘れなきように」

 

「そう、お兄様が直接見られるのね」

 

サーゼクスさんも観戦していると。

まぁ、部長のお兄さんだし当然か。

グレモリー家とフェニックス家―――――リアス部長とライザーの家族も見ているようだしな。

さて、そうなると、やはり―――――。

 

説明が終わるとグレイフィアさんは部室の真中に魔法陣を展開させる。

 

「これより皆様を戦闘フィールドにご案内します。この魔法陣の中にお入りください」

 

指示された通り全員が魔法陣に入ると、魔法陣の光が強くなる。

転移が始まるのを待っていると、グレイフィアさんが俺に声をかけてきた。

 

「兵藤一誠様、サーゼクス様からの伝言です」

 

「伝言?」

 

「はい。………『妹を頼む』と」

 

なるほど、ね。

もしかしたら、あの人もこの縁談には反対だったんじゃないかな?

嫌がる妹を無理矢理、結婚させるなんてお兄さんなら出来ないだろうし。

 

もしだ………俺が同じ立場なら絶対反対だね!

美羽が嫌がっているのに無理矢理結婚とかさせるなら、俺は大暴れして阻止してやるもんね!

お兄ちゃんを舐めるなってね!

 

『シスコン全開だな』

 

あったりまえだ、ドライグ!

妹を愛するお兄ちゃんなら当然のことなのだよ!

 

まぁ、それは置いておいてだ。

サーゼクスさんの場合は魔王っていう立場上、反対出来なかったってところなのだろう。

今の伝言がその証明だ。

 

俺はグレイフィアさんに向き直ると、笑顔で伝えた。

 

「分かりました。グレイフィアさん。俺の伝言をサーゼクスさんに伝えてもらえますか?」

 

「なんでしょう?」

 

「部長は必ず守ります、と伝えて下さい」

 

それを聞いたグレイフィアさんはどこか満足したような笑みを浮かべて頷いた。

 

「それでは皆様。ご武運を」

 

そうして、俺達は光に包まれながら転移した―――――。

 

 

 

 

目を開けると、俺達がいたのは部室だった。

 

転移の失敗か?

なんてことを考えていると、どこからかアナウンスが流れた。

 

『皆様、この度、フェニックス家とグレモリー家の試合に置いて、審判役を任せられましたグレモリー家の使用人、グレイフィアと申します』

 

グレイフィアさんが審判なのか。

 

『この度のレーティングゲームの会場として、リアス・グレモリー様方の通う、駒王学園の校舎を元にしたレプリカを異空間に用意させていただきました』

 

マジでか!

この部室ってレプリカなの!?

部屋に置かれている備品から、雑誌、小猫ちゃん専用のおやつまで、非常に細かいところまで作り込まれてる。

………もしかすると、ここに隠している俺のエロ本まで再現されているのかもしれない。

部室の窓から外を見ると本当に校舎まであるところを見ると、駒王学園全体を再現したってことなんだろうな。

ただ、違うと言えば空だ。

見慣れた夜空ではなく、空一面が緑色のオーロラのような物に覆われた不思議な光景が広がっている。

これが悪魔、驚異の技術力ってところか。

 

俺が感心している間もグレイフィアさんの説明が続く。

 

『両陣営、転移された先が「本陣」でございます。リアス様の本陣は旧校舎オカルト研究部部室。ライザー様の本陣は新校舎生徒会室。兵士ポーンの方はプロモーションを行う際、相手本陣の周囲まで赴いてください』

 

部室から生徒会室まではそこそこに距離がある。

俺達と遭遇することを考えると相手の兵士のプロモーションは大体は防げるか。

 

『使い魔の制限ですが、兵藤一誠様の使い魔、龍王ティアマットの使用は禁止とさせていただきます』

 

あらら………ティアはダメですか。

 

「公式のゲームでも強力な使い魔は制限されているものね。仕方がないわ」

 

部長も苦笑しながらそう言う。

 

あー………じゃあ今後、レーティングゲームに参加する機会があったとしても、ティアの出番は無いな。

でも、確かに強力な使い魔を自由に使って良いとなると、使い魔合戦みたいになってしまうか。

 

『開始のお時間となりました。なお、ゲームの制限時間は人間界の夜明けまでとなります。それでは、ゲームスタートです』

 

グレイフィアさんがそう告げた直後、学園のチャイムが鳴った。

こうして、俺達にとって初のレーティングゲームが開幕した。

 

 

 

 

「部長、地図を持ってきました」

 

木場がどこからか持ってきた地図を机に広げる。

それは学校の全体図の見取り図らしく、マスで区切られ、縦と横に英字と数字が書かれている。

これは………チェスに倣っているのか?

 

部長は旧校舎と新校舎に赤ペンで丸を着けると顎に手を当て、戦術を考え始める。

 

「やはり、体育館が重要な拠点になるわね。もし、ライザーに先に取られてしまうと、こちらが不利になるわ」

 

「こちらが先に押さえても、数の不利がある以上、体育館を守り続けるのも難しいですわね」

 

「部長、俺が行きましょうか? 多分、一人でもなんとかなると思いますけど」

 

俺の言葉に全員が考える。

すると、部長は何か思い付いたらしい。

 

「いえ、体育館はいっそのこと破壊してしまいましょう。そうすればこちらの手数を増やすことが出来るわ」

 

取られても不利、守っても不利なら無くしてしまえか。

確かにそれが最善だな。

 

部長の考えを聞いた木場が進言する。

 

「部長、相手も体育館を取りに来るなら、体育館を囮にしますか?」

 

「そうね。敵の撃破も兼ねて一石二鳥だわ。それでいきましょう。祐斗、小猫、朱乃はまず森にトラップを仕掛けて頂戴。それまではイッセーとアーシアはここで待機」

 

「了解です。部長」

 

部長に指示され木場と小猫ちゃん、朱乃さんの三人は使い魔を召喚して外に出ていく。

部室に残るのは俺、部長、アーシアの三人だ。

 

三人がトラップを仕掛けて戻ってくるまでに時間はあるし………待ってる間に相手の動きでも探っておきますか。

 

俺は目を閉じ、感覚を広げてフィールドにいる者の気の位置を把握する。

トラップ組は動きからして順調のようだ。

ライザー達は………まだ、新校舎にいるみたいだな。

特に何かをしているという様子はないが、こっちがゲーム初心者だからと甘く見ているのか。

それとも、部長に対するハンデのつもりなのか。

 

俺がフィールド内の気の動きに集中していると、部長が怪訝そうな声音で訊ねてきた。

 

「ねぇ、イッセー。さっきから何をしているの?」

 

「ライザー達の動きを探ってるんですよ。フィールド内の気の動きを把握して」

 

そう答えると、部長は目を丸くして、

 

「あなた、そんなことも出来るのね」

 

「ええ、まぁ」

 

「それで、ライザー達は?」

 

「特に動きはありませんよ。余裕のつもりなんですかね?」

 

「………そう」

 

一言だけ返す部長には緊張の色が見られた。

 

このゲームは部長の人生を決める重要なものだ。

だけど、そいつは人生初のゲームでもある。

ゲームが始まる前、部長は修行の傍らで戦術関連の本を何冊も読んでいたのは俺も目にしている。

それでも、部長の表情は厳しいものだった。

 

………不安だよな、部長も。

自身の今後もそう、上手く眷属を導けるのか、そして、このゲームに勝利できるのか。

いつもは凛としてて、学園のお姉さまな部長だって、まだまだ未熟な女の子だ。

ミスもするし、不安にもなる。

 

そんな部長に俺は―――――。

 

「部長、ちょっと良いですか?」

 

「え?」

 

俺はソファに座る部長の後ろに回り両肩に手を置くと、部長の気の流れを操作して、巡りを良くしていく。

 

「どうですか?」

 

「とても気持ちが良いわ。それに、体がポカポカして温かい………。すごく、心が落ち着くのを感じる………」

 

「部長の気の流れを良くして、体調を整えたんですよ」

 

「前々から気になっていたのだけれど、イッセーは仙術を使えるの?」

 

「う~ん、少し違うけど、まぁ、そんなところです」

 

ドライグから聞いた話だと、こっちの世界にも気を操る仙術ってやつがあるらしい。

遠くにいる相手の動きを把握できたり、身体能力を底上げすることもできるらしく、錬環勁気功と似ている。

ただ、一般的に仙術は直接的な破壊力は低いらしい。

それに硬気功のような技はドライグも見たことが無いと言っていた。

誰か仙術を修得している人がいたら一度、話を聞いてみたいところだ。

 

まぁ、その辺りは置いておこう。

今は部長のことだ。

 

「落ち着きましたか?」

 

「もう、イッセーったら私のことはお見通しなのかしら? 大丈夫よ、ありがとう」

 

「そうですか。それは良かった」

 

「フフフ、イッセー。私だけじゃなくてアーシアにもやってあげたら?」

 

「え?」

 

部長に言われてアーシアを見ると涙目で見てる!

しかも、頬を膨らませているし!

怒ってるの!?

怒ってるの、アーシアちゃん!?

 

俺は苦笑しながら、アーシアに手招きする。

 

「アーシアもこっちにおいで。やってあげるからさ」

 

「はい!」

 

それから少しの間、二人の気の流れを整えてあげたのだが………。

終わった後は二人ともスッキリした顔になっていて、帰ってきた三人が不思議に思っていたのは、また別の話だ。

 

 

 

 

本陣である旧校舎の周囲にトラップを仕掛け終わったので、俺達も動くことになった。

俺と小猫ちゃんで体育館へ向かい、木場は森で待機して相手の『兵士』を迎え撃つ。

その間に朱乃さんは魔力をチャージしている。

体育館を破壊するためだ。

 

俺と小猫ちゃんが体育館に着いた時、通信機を通して部長が言ってくる。

 

『イッセー、小猫。朱乃の準備が整い次第、連絡を入れるわ。そちらも体育館で相手を無力化したら連絡してちょうだい』

 

「部長、その事なんですが体育館の破壊はやっぱり俺がします」

 

『どうかしたの?』

 

部長に尋ねられ、俺はここに来るまでに気がついたことを報告する。

 

「どうやら、敵の一人が俺達の様子を伺ってるみたいなんで。雰囲気からして『女王』だと思います。朱乃さんにはそちらの相手をお願いしたいんです」

 

敵が『女王』なら魔力の無駄使いは避けた方が良いからな。

すると、朱乃さんから通信が入る。

 

『分かりましたわ。イッセー君の言う通り、私がその者の相手をしましょう』

 

朱乃さんの了解を得られたところで木場に通信を入れる。

 

「木場。そっちに三人ほど向かってるみたいだ。お前がその三人を倒したら体育館を破壊する。良いな?」

 

『了解したよ。倒したら、直ぐに連絡を入れるよ』

 

「よし。それじゃあ、体育館に突入します」

 

俺は通信を切り、小猫ちゃんと裏口から体育館に入った。

 

 

 

 

俺達は体育館の演壇の裏側にいる。

覗き込むと、コートには既に敵が待ち構えていた。

こっちを見ているってことは俺達に気がついているみたいだな。

 

「イッセー先輩」

 

「ああ。気づかれてるな。隠れてても仕方ないし、姿を見せますか」

 

そう言って、俺達は堂々と壇上に立つ。

 

コートには女性悪魔が四人。

チャイナドレスを来たお姉さんと棍を持った少女と双子らしき小柄な娘達。

確か、チャイナドレスのお姉さんが『戦車』で、他の三人は『兵士』だった気がするが、とにかく数はこちらのちょうど倍か。

 

すると、チャイナドレスのお姉さんが話しかけてきた。

 

「こちらが声をかける前に出てくるなんてね。随分潔いじゃない」

 

「まぁね。そっちも気が付いている以上、隠れてても時間の無駄だし」

 

「そう。ならさっさと始めましょうか」

 

その言葉を切っ掛けに相手は戦闘体制に入る。

 

「イッセー先輩は兵士をお願いします。私は戦車を倒します」

 

「分かった。気を付けてな、小猫ちゃん」

 

「大丈夫です。イッセー先輩に鍛えてもらいましたから」

 

俺と小猫ちゃんはお互いの相手と対峙する。

俺の目の前には『兵士』が三人、小猫ちゃんの前には『戦車』のお姉さんが一人。

 

俺と対峙する『兵士』のうち一人は棍を構え、双子はチェーンソーをニコニコ顔で取り出す。

そして――――

 

ドル、ドルルルルル!!

 

と、チェーンソーの機械音が体育館に響き始めた!

 

「解体しまーす♪」

 

「バラバラバラバラ!!」

 

双子は無邪気な声でそう言いながら突っ込んでくる!

映像でも見たけど、女の子がそんなこと言ったらいけません!

それから、チェーンソーは人を切る道具じゃないからな!

注意書をちゃんと読め!

人に向けるなって書いてあるから!

 

「ハッ!」

 

「おっと」

 

横から打ち込まれた棍を胸を反らして避けると、チェーンソーを持った双子が突っ込んできた。

だが、スピードは遅く、動きも単純で読みやすい。

魔力が込められた攻撃なのでそのまま受ければ、ケガもするだろうが、硬気功を使えば軽く防げる、そんなレベルの攻撃だ。

 

暫くこちらからは攻撃せずに回避に徹していると、双子がムキ―と叫んだ。

 

「あー、もう! ムカつくぅ!」

 

「どうして当たんないのよ!」

 

「………掠りもしないなんて」

 

棍を持った少女も少し焦っているみたいだ。

 

三人の攻撃を全て体捌きだけで避けていく俺はニヤリと笑みを浮かべて言う。

 

「フッフッフッ、そんな攻撃じゃあ、いくら振り回しても俺には届かないぜ?」

 

挑発も含めて悪役のように言うと、俺は本当に目を瞑る。

そうすると、案の定、三人は怒りに任せて攻撃してくる。

 

「言ったなー!」

 

「バカにして!」

 

「………絶対に倒す!」

 

攻撃が益々激しくなるが、それでも俺には当たらない。

髪の毛一本、掠めもしない。

気の流れや空気の流れで攻撃が丸わかり、というのもあるが、三人の感情が表に出過ぎているせいで、余計に行動が読めてしまうんだ。

 

怒りは徐々に焦りに変わり―――――やがては体力が限界に近づく。

その証拠に三人組の手数が減ってきている。

こちらは詰みに近い、か。

 

 

さて、小猫ちゃんの方はどんな感じかなと、小猫ちゃんの方を見るとこちらもこちらでチャイナドレスのお姉さんを圧倒していた。

相手の『戦車』は既に満身創痍だ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。攻撃が重い………っ!」

 

「修行の成果です」

 

そう言って小猫ちゃんは相手の鳩尾に鋭い一撃を直撃させるた。

ズドンッと重たい音と共に、チャイナドレスのお姉さんの意識が飛び、その場に倒れる。

そして、戦闘不能になったためか、体が光に包まれて、その場から消えていった。

 

『ライザー・フェニックス様の「戦車」一名、リタイア』

 

リタイヤのアナウンスが流れる。

なるほどなるほど、ゲーム中にリタイヤするとこうなるのね。

 

「イッセー先輩、こっちは終わりました」

 

「見てたよ。ちゃんと修行の成果が出ていて良かった」

 

親指を立てて、グッジョブのサインを送ると嬉しそうに微笑む小猫ちゃん。

うーむ、なんともこちらの保護欲をくすぐってくれる!

撫で撫でしたくなってしまう!

というか、後で撫でても良いですか!

 

「嫌です」

 

「そこだけ真顔で言うんだ!? そんなに嫌ですか!?」

 

酷い!

ここ最近の攻撃の中では、一番のダメージ受けたよ!?

 

小猫ちゃんにバッサリ切り捨てられた俺は目元に涙を浮かべながらも、こちらの戦いを終わらせに………いや、終わらせる前に少しだけなら良いかな?

俺の傷ついた心はこの技を以て癒そう―――――。

俺は突っ込んでくる兵士の三人の攻撃を潜り抜け、すれ違い様に触れて、

 

洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!」

 

俺が指を鳴らすと同時にチェーンソーの双子、棍の少女の服が下着を含めて全て弾け飛んだ!

そして、白く丸みを帯びた女性の裸体が現れる!

くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!

久しぶりの洋服崩壊、最高だな!

三人とも少々発育不足だけど、これはこれで全然アリだ!

 

「「「イヤァァァァァアアアア!!!」」」

 

体育館に響き渡る悲鳴。

 

三人とも踞り、大事な部分を隠す。

まぁ、当然だよね!

でも、君たちの全てはこの目に焼き付いているのだ!

 

「俺の眼は数キロ先のパンチラすら逃さないってね! 中々に素晴らしい光景でした! ありがとうございます!」

 

「最低!」

 

「ケダモノ!」

 

「女の敵!」

 

お礼を言う俺に返ってくるのは、『兵士』三人からの罵りの言葉。

 

だが、それがどうした!

そんな言葉、とうの昔に聞きなれている!

 

「戦っている時はカッコ良かったのに。最低です、イッセー先輩」

 

流石に味方から言われるとヘコむかな………。

すると、アナウンスが流れる。

 

『ライザーフェニックス様の「兵士」三名、リタイア』

 

ライザーの『兵士』が倒された。

これをやったのは恐らく―――――

 

『イッセー君、こっちは終わったよ』

 

木場からの通信だった。

 

「みたいだな。待ち合わせは運動場な。先に行っといてくれ。直ぐに行くよ」

 

『了解。先に行って待っておくよ』

 

木場との通信を終えた俺は全裸になった三人を置いて小猫ちゃんの所に行く。

すると、何故か小猫ちゃんが後ろに下がった。

 

「近づかないで下さい、ドスケベ先輩」

 

「大丈夫だって! 味方には使わないから!」

 

俺は小猫ちゃんに無駄な言い訳をしながら体育館を出ると、手元に気を集中させ、体育館に放った。

俺の気弾によって体育館は爆破し、当然、中にいた三人も―――――

 

『ライザー・フェニックス様の「兵士」三名、リタイア』

 

アナウンスが鳴り、先程の兵士達がリタイアしたことが伝えられる。

 

「体育館も破壊できたし、木場のところに急ぐか」

 

「そうですね」

 

体育館を破壊したところで、作戦の第一段階は終了だ。

作戦を次の段階に進めるべく、俺達は木場が待つ運動場に向かおうとした―――――その時だった。

 

 

俺達を爆撃が襲った。

 

 




いやー、資格勉強に追われて書く時間がなかなか無いです。

次話は現在、書いてますのでもう少し早く投稿出来ると思います。


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6話 終わらせます!!

「ふふふ………。狩りを終えて油断した獲物は一番狩りやすい。これは戦いの基本よ。こちらは多少の駒を『犠牲(サクリファイス)』にしてもあなた達を狩れれば十分よ。駒を一つ失うだけでそちらには大打撃なのだから」

 

「狙いは良いけど、甘いぜ。ライザーの女王」

 

巻き起こる煙と埃を払って俺はライザーの女王に告げる。

 

「なっ!?」

 

向こうは相当驚いているな。

 

不意を突き、直撃を確信したのにも関わらず、俺も小猫ちゃんも平然としているんだからな。

 

まぁ、狙っているのも分かっていたからわざと隙を見せたんだけどね。

 

実際、攻撃も当たる直前に防いだし。

 

「狩りを終えた後が一番油断する、か。―――それはあんたの方だ」

 

 

ドォォォォォォンッッ!!

 

 

今度はライザーの女王を雷撃が襲った。

 

そして、黒焦げの状態で体から煙をあげながら落下してくる。

 

上空には巫女服姿の朱乃さん。

 

「ナイスタイミングです、朱乃さん」

 

「ええ。イッセー君の合図が良かったのですわ」

 

敵は俺達が最も油断すると思われるタイミングで仕掛けてくる。

 

今回はそれを利用させてもらった。

 

おかげでライザーの女王に大ダメージを与えることが出来た。

 

ただ、直前に不完全ながらも魔力障壁を張ったおかげで、リタイアにならずにすんだようだけど。

 

「あのタイミングで障壁を張れるとは思わなかったよ」

 

「くっ………よくもやってくれたわね………ッ」

 

地に伏せながら女王は睨んでくる。

 

すると、懐から一つの小瓶を取り出した。

 

なんだ?

 

「あれは………フェニックスの涙!」

 

朱乃さんがそう呟いた。

 

あれが部長が言っていたフェニックスの涙か。

 

女王が自身に中身を振り掛けると傷があっという間に消えていった。

 

アーシアの神器みたいだ。

 

「あなた達、覚悟してもらうわよ。この私に恥をかかせたのだから」

 

女王は立ち上がって俺達に敵意を向けてくる。

 

すると、朱乃さんが俺の前に降りてきた。

 

「予定通り、彼女の相手は私が引き受けます。イッセー君と小猫ちゃんは祐斗くんの救援へ向かってください。私も修行の成果を見せつけてやりますわ」

 

朱乃さんの体から金色のオーラが発せられる。

 

纏うオーラが修業前とは明らかに違う。

 

「了解です。朱乃さん、ここは任せます!」

 

そう言って、俺と小猫ちゃんは運動場に向かって走り出す。

 

その直後に背後から激しい爆音と雷鳴が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

「待たせたな、木場」

 

運動場の隅にある体育用具を収める小屋の物陰に隠れていた木場を見つけた俺達はそこに駆け寄った。

 

「二人とも、無事みたいだね」

 

「当たり前だろ。この通り、俺達は無傷だよ」

 

俺は両手を広げてケガがないことを示す。

 

すると、木場が何かに気づいたようで、尋ねてきた。

 

「イッセー君、神器は使わないのかい?」

 

「まぁ、使う必要もなかったしな」

 

「流石だね」

 

お互いの無事が分かったところで現状を確認しておくか。

 

「とりあえず、俺達からの脱落者は無し。相手は兵士が六名、戦車が一名、脱落だ。女王は朱乃さんが戦っているけど、勝てると思う」

 

「じゃあ、残りは兵士が二名、僧侶が二名、騎士が二名、戦車が一名。そして王のライザーだね」

 

「そうだな。それで向こうは王以外の戦力を運動場に投入してきたみたいだな」

 

運動場からいくつか気配がするし。

 

木場や小猫ちゃんも気が付いたようで、俺の言葉に頷いた。

 

「イッセー先輩、祐斗先輩、どうしますか?」

 

「俺としては隠れるのが面倒だな」

 

「同感だね」

 

小猫ちゃんも頷く。

 

よし、話は纏まったな。

 

俺は運動場に姿を出して大声を出した。

 

「おーい! 隠れるのは面倒だから出てきてやったぞー!」

 

「イッセー先輩、軽いです」

 

「ははは………。まぁ、イッセー君らしいかな」

 

後ろで二人が何か言ってるけど気にしないでおこう。

 

すると、甲冑姿の女の子が出てきた。

剣を持っていることからして騎士だな。

 

「まさか、正面から堂々と出てくるとは………。正気とは思えん。だが、私はお前達みたいな馬鹿が大好きだ!」

 

うん。

俺が言えたことじゃないけど、あの娘も結構、馬鹿だと思う。

 

「私はライザー様の騎士、カーラマインだ!グレモリーの騎士よ、名を名乗れ!」

 

「名乗られてしまっては騎士として名乗らないといけないね。僕はリアス・グレモリー様の騎士、木場祐斗。騎士同士の戦い…待ち望んでいたよ!」

 

そう言って騎士同士の戦いに入る木場とカーラマイン。

 

木場、お前も剣士バカだったのな。

 

火花を散らして、剣と剣がぶつかり合う。

 

なんか、二人とも生き生きしてるな。

 

こうなると俺と小猫ちゃんが暇だ。

 

「暇そうだな」

 

「まったく、頭の中まで剣で塗りつぶされた者同士の戦いなど、泥臭くて堪りませんわ。カーラマインったら兵士達を犠牲にする時も渋い顔をしていましたし。主の戦略が気に入らないのかしら?」

 

顔の半分にだけ仮面をつけた女性と、ドレスを着た金髪縦ロールの美少女が現れた。

 

仮面の方が戦車でドレスの方が僧侶だったな。

 

それにつられて、隠れていたライザーの眷属が次々に姿を現し、俺達を取り囲む。

 

「やっと、全員出てきたな」

 

「随分と余裕だな。もしや、お前がライザー様が言っていたリアス・グレモリーの兵士、赤龍帝か?」

 

「ライザーがなんて言ってたのかは知らないけど、俺がリアス・グレモリー様の兵士で今代の赤龍帝、兵藤一誠だ。ライザーには俺が赤龍帝だって言ってなかったはずだけど………」

 

「ああ、ライザー様も後で知って驚いていたよ。………私はライザー様の戦車、イザベラだ。突然で悪いんだが、お前にはここでリタイアしてもらう」

 

イザベラさんがそう言うと僧侶と思わしき人が俺と自分達をドーム状の結界で閉じ込めた。

 

小猫ちゃんが結界を破壊しようと殴り付けるもびくともしない。

 

かなり強固に作られているようだ。

 

「お前を倒すのに邪魔が入られると困るのでな。ここでお前には私達全員の相手をしてもらう」

 

俺一人を集中砲火したいわけね。

 

すると、ドレスを着た娘が前に出てきて手に炎を作り出す。

 

「私も今回は参戦させて頂きますわ。あなたはこちらにとって要注意人物ですので」

 

「なんか、俺って凄い警戒されてる?」

 

「ええ。お兄様はあなたを危険視されていましたわ。神器を使わずに上級悪魔を越える力を有しているんですもの。警戒して当然ですわ」

 

………ん?

 

この娘、最初の方で何て言った?

 

お兄様って言わなかった?

 

「………質問良いか?」

 

「? なんでしょう?」

 

「今、お兄様って言った?」

 

「ええ。言いましたわ」

 

………何だろう。

 

俺達の思考が一瞬、止まった。

 

「つまり、君はライザーの妹だってこと?」

 

「そうです。私はレイヴェル・フェニックス。正真正銘、フェニックス家の娘ですわ」

 

あの焼鳥、自分の妹を眷属にしたのかよ!

 

見渡すとライザーの眷属全員が苦笑いしてるし!

 

すると、イザベラさんが説明してくれた。

 

「ライザー様曰く、『妹をハーレムに入れることは世間的にも意義がある。ほら、近親相姦に憧れるやつっているじゃん?俺は妹萌えじゃないから、形だけってことで』とのことらしい」

 

「私にはその考えは分かりませんわ」

 

はぁ、とため息をつきながらレイヴェルは肩を落とす。

 

あの焼鳥はバカなのか!

 

まぁ、妹が可愛いのは理解できるけどね!

 

レイヴェルのことを理解できたところで、アナウンスが流れた。

 

『ライザー・フェニックス様の「女王」一名、「騎士」一名、リタイア』

 

どうやら、木場と朱乃さんは勝ったらしいな。

 

レイヴェル達は今のアナウンスに驚いているようだけど。

 

「さて、どうする?そっちの女王は俺達の女王が倒した。俺達は未だに無傷。そっちは半分も駒を失ってるぞ?」

 

「ええ、正直驚いていますわ。まさか、ユーベルーナまで失うことになるなんて思いもしなかったので。だけど、あなたは肝心なことを忘れていらっしゃいますわ」

 

「そっちは不死身だって言いたいんだろ?」

 

「ええ、そうです。いくらあなた方が強くても不死を倒すことは不可能です」

 

「だけど、フェニックスを倒す方法は無い訳じゃない。何度も倒して精神をへし折る。もしくは―――神や魔王クラスの一撃を叩き込めば良いんだろう?」

 

「あなたにそれが出来るとでも?」

 

「出来るさ」

 

俺が間髪入れずに答えるとレイヴェルは目を見開いて驚いている。

 

「そう、ですか。でしたら、尚更あなたをお兄様のところに行かせるわけには行きませんわね」

 

レイヴェルがそう言うとライザーの眷属は全員、戦闘体勢に入る。

 

そこで俺はあることに気付いた。

 

ライザーが動きだしている。

 

向かっているのは旧校舎か。

 

「なるほどな。俺を足止めしている間にライザーが部長を倒すって算段か」

 

「気付いたようですわね。その通りですわ。リアス様を倒してしまえばこちらの勝ちですもの」

 

レイヴェルが言うことは正しい。

 

今の部長の所にはアーシアもいる。

 

アーシアが防御術式を覚えたとはいえ、ライザーの攻撃を防ぎきれるとは思えない。

 

となると、部長はアーシアを守りながら戦うことになる。

 

今の部長ではそれは無理だ。

 

そして、レーティングゲームは王が倒れたら負けになる。

 

 

ドゴォォォオン!!

 

 

旧校舎の方から爆発音が響く。

 

ライザーが部長達を攻撃したようだ。

 

グズグズしている暇はないな。

 

俺は上空に飛び上がると、俺を閉じ込めていた結界を思いっきり殴り付ける。

 

儚い音と共に結界は崩れ去った。

 

「結界が………っ!」

 

レイヴェル達は相当驚いているな。

 

まさか、こうも簡単に結界が破壊されるとは思わなかったのだろう。

 

着地した俺の所に木場達が駆け寄ってくる。

 

「悪いけど、俺は行かせてもらうよ。部長に守るって約束したからな。木場、朱乃さん、小猫ちゃん、ここを任せて良いか?」

 

「もちろんですわ」

 

「了解です」

 

「イッセー君、部長は頼んだよ」

 

「ああ、任せろ!」

 

俺は木場達にこの場を任せて部長の元へと急いだ。

 

 

 

 

[リアス side]

 

 

 

今、私は旧校舎の屋根の上でライザーと対峙している。

 

アーシアには回復のオーラを送ってもらっている。

 

想定外だったわ。

 

まさか、ライザー自ら私達の本陣に攻めてくるなんて。

 

「リアス。君にはさっさとリザインしてもらう」

 

「いいえ。リザインするのはあなたの方よ、ライザー。あなたの眷属はもう半分にまで減ったうえに女王まで失った。それに対してこちらは無傷。もうそちらには余裕がないはずよ」

 

「ああ。確かにそうだ。まさかユーベルーナがやられるとは思わなかったからな。どうやら君達を見くびりすぎていたようだ。だからこそここで君を倒して、このゲームを終わらせる」

 

ライザーは本気みたいね。

 

不味いわね。

 

私一人ではライザーを倒すことができない。

 

それにこの場にはアーシアもいる。

 

いくらアーシアが防御魔法を覚えたとしてもライザーの攻撃は防ぎきれないだろう。

 

そうなると、私はアーシアを守りながら戦うことになる。

 

それではこちらが完全に不利。

 

皆のところに合流するのも難しい。

 

ここは時間を稼いで皆の助けを待つしかないようね。

 

「リアス、君の考えていることは分かっているぞ。少しでも時間を稼いで救援を待つつもりなのだろう?」

 

やはり読まれている。

 

「少なくともあの赤龍帝の小僧はすぐに来ることはできまい」

 

「どういうことかしら?」

 

「俺の残った眷属全員であの小僧を抑えている。強力な結界までかけさせてな。あの小僧なら切り抜けることはできるだろうが、そこにはレイヴェルもいる。いくらあの小僧でもそれだけしておけば手こずるだろう」

 

ライザーの言葉に私は驚いた。

 

まさか、ライザーがそこまでしてイッセーを警戒していたなんてね。

 

「さぁ、リザインしろ、リアス!」

 

「誰がするものですか!」

 

ライザーの放った炎と私の放った滅びの魔力がぶつかる。

 

滅びの魔力がライザーの体を消し飛ばし、炎が私の肌を焦がす。

 

魔力障壁で防いでも衝撃までは消しきれない。

 

ケガはアーシアの回復で何とかなるけど、疲労は徐々にたまっていく。

 

それに対してライザーは攻撃を受けても再生し続ける。

 

このまま行けばこちらが先に力尽きてしまう。

 

「なかなか頑張るじゃないか。なら、これはどうだ!」

 

そう言ってライザーはアーシア目掛けて巨大な炎を放つ。

 

あれはアーシアでは防ぎきれない!

 

私は咄嗟にアーシアの前に立って魔力障壁を展開する。

 

だけど、魔力障壁はライザーの炎の勢いに負けて崩れ去ってしまう。

 

「あああああ!」

 

ライザーの炎を受けてしまい、全身を高熱が襲う。

 

「部長さん!!」

 

アーシアがすぐに回復してくれたおかげで傷は治ったけど、今のでかなりのダメージを受けてしまった。

 

体がしびれて思うように動かない。

 

「フッ、これでチェックメイトだな。今ので君はかなりのダメージを受けたはずだ。リザインしろリアス」

 

「だれが!眷属の皆が頑張っているのに私が諦めるわけにはいかないわ!」

 

どれだけダメージを受けたとしても私は絶対に諦めない!

 

「そうか………。それじゃあこれで終わりにしてやる!」

 

ライザーはさっきよりも大きい炎を私たち目掛けて放った。

 

ライザーの魔力が向かってくる。

 

避けないといけないのに体が言うことを聞かない!

 

このままじゃ………!

 

私は咄嗟に目を瞑ってしまった。

 

だけど、いつまでたっても攻撃は来ない。

 

「大丈夫ですか?部長」

 

目を開けると私の前にはイッセーがいた。

 

イッセーが今の攻撃を防いでくれたのだ。

 

「アーシアは無事か?」

 

「はい! でも………部長さんが私を庇って………!」

 

「そうか………。部長少し失礼します」

 

イッセーはそう言って私の胸に手を当てる。

 

イッセーの手が青白く輝いたと思うと私の体が少し軽くなった。

 

「部長の気の流れを調整しました。アーシアの神器はケガとかには有効ですけどこういうことはできませんからね。しばらくすれば動けるようになると思います。………すいません、部長。遅くなってしまって」

 

イッセーは申し訳なさそうな顔で頭を下げる。

 

「部長はここで休んでいてください。後は俺がやりますから」

 

そう言うと立ち上がって私に背を向ける。

 

ライザーがイッセーを忌々しそうに睨みながら言った。

 

「まさかこんなに早く来るとはな」

 

「ああ。あんたの眷属の相手は仲間にしてもらってるよ」

 

「ふん。あそこにはレイヴェルもいる。レイヴェルはユーベルーナに匹敵する力を持っている。貴様の仲間もそう長くはもつまい」

 

「俺の仲間を舐めるなよ?もたないどころか絶対に勝つぞ」

 

イッセーは自信に満ちた笑みを見せる。

 

「ほう。だが、俺がここで貴様を倒せばリアスの勝機は消え、俺の勝利が決まる!」

 

「俺は部長に守るって約束したんだ。ここで負けて約束を破るわけにはいかねぇんだよ。俺はここでおまえを倒して部長を守りきる!」

 

そう言うイッセーの背中はとても頼もしく感じた。

 

そして私は気付いてしまった。

 

これまで私の中にあったこの気持ちの意味を。

 

 

 

「さぁ、覚悟しろよライザー。――――― 一瞬で終わらせてやる」

 

 

 

私は彼のことを―――――――

 

 

 

 

 

[リアス side out]

 

 

 

 

 

 

 

「一瞬で終わらせる、か。大きく出たな赤龍帝の小僧」

 

「ああ。終わらせてやる」

 

俺は体からオーラを滲ませて、殺気をライザーにぶつける。

 

「っ! 神器を使わずにこの重圧………! だが、こっちは不死のフェニックス! 負ける道理はない!」

 

ライザーが体から炎を発する。

 

「火の鳥と鳳凰! そして不死鳥フェニックスと称えられた我が一族の業火! その身で受け燃え尽きろ!」

 

そう言ってライザーから尋常じゃない量の炎が溢れ出る。

 

確かに熱いな。

 

普通の悪魔なら一瞬で炭にされるだろう。

 

『ああ。フェニックスの炎はドラゴンの鱗にまで傷をつける。まともに受けるのは不味いだろうな。だが―――』

 

ああ、そうだな。

 

「そんな、ちんけな炎で俺がやられるかよ!」

 

錬環勁気功を発動させて瞬時に間合いを詰めて殴り飛ばす。

 

「ぐぁ! このクソガキがぁああ!!!」

 

ライザーは負けじと殴り返してくるが、そんなものは俺に効かない。

 

俺の気を纏った蹴りや拳が当たるたびにライザーの体は大きくのけぞる。

 

接近戦は不利と見たのかライザーは上空に飛び、俺を見下ろす。

 

「くたばれ!」

 

そして、無数の炎を放つ。

 

一発一発がかなりの熱量を持っている。

 

俺は気弾を放ってそのすべてを消し去った。

 

「何だと!?」

 

驚愕するライザーを無視して、俺は悪魔の翼を広げてライザーに突撃する。

 

ライザーも俺から逃れようとするけど、無駄だ。

 

俺は飛行速度をさらに上げてライザーに追いつく。

 

そして、ライザーの腹部にアッパー。

 

殴った衝撃がライザーを突き抜ける。

 

「ごふっ!!」

 

今のでかなりのダメージはあるだろう。

 

だけど、今の攻撃ではフェニックスの不死を超えられない。

 

だから、俺は放つ。

 

フェニックスを倒すことができる一撃を。

 

禁手が使えない今、それができる技はただ一つ。

 

俺はライザーをさらに上空に放り投げた後、右の拳を脇に構える。

 

そして、このゲームが始まってからずっと溜めておいた力を解放。

 

拳から凄まじい光が発せられ―――――

 

 

キイィィィィィィィィン!

 

 

甲高い音と共に光がどんどん膨れ上がる。

 

ライザーもこの技の危険性を感じたらしく、逃げようとするもさっきのダメージがまだ残っているせいでその場から動けないようだ。

 

やるなら今だ。

 

「ライザー。これで終わらせてやる」

 

「ま、待て!分かっているのか?この縁談は、悪魔達の未来の為に必要で、大事な物なのだぞ!? それを潰す事がどれほど罪深いか、理解しているのか!!」

 

「知るかよ、そんなこと。部長がこのゲームに勝てばこの縁談を破棄しても良いんだろ?おまえもそれに同意したじゃねぇか」

 

それに、と俺は続ける。

 

「おまえは一度でも部長の気持ちを考えたことあるか? グレモリーなんて関係ない、リアスという一人の女の子として見てほしいっていう部長の気持ちを考えたことがあるのかよ!」

 

拳から放たれる光は周囲を照らしていく。

 

「おまえは自分のプライドを守るためだけに部長を傷つけたんだろ?だったら俺がすることはただ一つ。おまえを倒して、部長を助ける。それだけだ!」

 

俺は拳をライザーに突出し、左手で手首を掴む。

 

狙いを定める。

 

この一撃は絶対に外さない!

 

「アグニッッ!」

 

俺の拳から放たれる極大の気の奔流。

 

神器無しの状態の俺が放てる最大火力。

 

火の神の名を冠する必殺技。

 

「破壊力はドライグのお墨付きだ。消し飛びやがれ!」

 

「クソおおおおおおおおお!!!!」

 

絶叫を上げながらライザーは光に呑まれていった。

 

『ライザー・フェニックス様、リタイア。よってこのゲーム、リアス・グレモリー様の勝利です!!』

 

ライザーがリタイアしたアナウンスがされ、俺達の勝利が決まった。

 

 



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7話 ゲーム終了!! そして・・・

[木場 side]

 

『ライザー・フェニックス様、リタイア。よってこのゲーム、リアス・グレモリー様の勝利です!!』

 

 

そのアナウンスが流れた時、運動場にいた僕達グレモリー眷属、ライザーの眷属の全員がその瞬間を見ていた。

 

イッセー君がライザーを倒す瞬間を。

 

―――圧倒的だった。

 

ライザーは決して弱いわけではない。

 

レーティングゲーム公式戦でのライザーの戦績は10戦2敗。

 

2敗は懇意にしている家への配慮だから実質無敗。

 

既に公式でタイトルを取る候補として挙げられているほどだ。

 

それらを考慮すると若手の上級悪魔の中でも強い方だろう。

 

 

そのライザーの攻撃をものともせず、イッセー君は圧倒していた。

 

そして、イッセー君が最後に放った技。

 

その技は極大の光の奔流となってライザーを呑み込んだ後も、そのまま空へと伸びていき、破壊音と共にゲームフィールドに大きな穴を開けた。

 

………ゲームフィールドに穴を開けるなんて聞いたことがない。

 

イッセー君が放った攻撃は明らかに魔王クラスのものだ。

 

しかも、神器を使わずにそれだけの技を繰り出していた。

 

そして、不死身であるはずのフェニックスを倒したんだ。

 

十日間の修業を経て、僕達は強くなれた。

 

このゲームでも以前より強くなれたことを実感できた。

 

だけど、イッセー君を見て今の状態で満足できないと思えた。

 

もっと強くなりたい。

 

僕を救ってくれた部長を守れるようになりたい。

 

そう思った瞬間だった。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

俺の体はとてつもない脱力感と疲労感に襲われている。

 

おまけに右腕が痺れている状態だ。

 

アグニ―――長時間溜めた気を一気に解放して放つ超火力砲。

 

素の状態でも禁手と同じくらいの破壊力を出すことができる。

 

ただ、技を放つのに時間がかかるのと放った後に反動が来るのがこの技の弱点だ。

 

「以前使ったときよりも反動が大きいな………」

 

俺がそう呟いたとき、左手の甲に宝玉が現れた。

 

ドライグだ。

 

『仕方があるまい。今の技は本来、籠手の力を使って放つ技だ。それを籠手なしで使ったのだ。反動も大きくなるさ』

 

ドライグの言う通りで、アグニは本来、籠手の倍加の力を使って放つ技だ。

 

その方が反動が小さいからな。

 

今回、籠手を使わなかったのは一応の理由がある。

 

『いくら、リアス・グレモリーのためとはいえ、少々無茶をし過ぎだ』

 

大丈夫だって。

反動が大きいといっても、もう少しで痺れとかも無くなるから。

 

それより、部長や皆にはそのことは黙っといてくれよ?

余計な心配はかけたくないからな。

 

『ああ。分かっている。そんな野暮なことはしないさ』

 

よし。

 

とりあえず、部長の所には戻るとするか。

 

 

 

 

「部長、大丈夫ですか?」

 

旧校舎に戻った俺は屋根の上で休んでいる部長の元に駆け寄った。

 

部長が着ている制服はもうボロボロだ。

 

ただ、アーシアの治療のお陰で怪我はすっかり治っているようだ。火傷の跡もない。

 

よかった。

 

「ええ。まだ体が痺れているけど、大丈夫よ。それより、イッセーの方は大丈夫なの?」

 

「俺は何ともないですよ。少し疲れましたけど怪我はありません。………まぁ、制服はボロボロですけど」

 

俺の制服はライザーの炎のお陰で部長と同じくボロボロだ。

 

特に上半身なんかは布地がほぼ失われているから裸に近い。

 

『まぁ、服は相棒の体と違って頑丈じゃないからな』

 

これ、買い換えないといけないのかな?

 

あーあ、後で母さんに何言われることやら………。

 

うん、服のことは諦めよう。

 

今更考えても仕方がないし。

 

「とりあえず、木場達の所に行きますか?」

 

「そうしましょう、と言いたいところだけど。まだ動けないのよ。・・・ごめんなさいね」

 

「あー、そうでしたね。じゃあ、少し失礼して」

 

部長を抱き上げる。

 

すると、部長は焦りだした。

 

「え? ………ちょ、イッセー!?」

 

「すいません、部長。嫌でしょうけど、今は我慢してください」

 

「………いや、じゃないけど………。こんな………お姫様だっこなんて、私………」

 

部長は顔を真っ赤にしながら何かを呟いた。

 

最後の方は聞き取れなかったけど、とりあえず許してくれたみたいだ。

 

「アーシア、飛べるか?」

 

「は、はい!大丈夫です」

 

アーシアが少し頬を膨らませているけど、何かあったのか?

 

まぁ、いいか。

 

「じゃあ、行こうぜ!」

 

この後、俺達は運動場にいた木場達と合流。

 

三人ともとくに大きな怪我をしている様子は無く、無事だった。

 

そして俺達、グレモリー眷属は誰一人欠けること無く、全員揃って部室に帰ることができた。

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

ここはレーティングゲームの観戦ルーム。

 

今回の縁談に関係しているグレモリー家とフェニックス家の者が集まっている場所である。

 

この場にいる全員が息を飲んでいた。

 

当初、このゲームは見るまでもなくライザーが勝つと思われていた。

 

いくら、リアス本人や眷属がどれだけ才能が高くとも、まだ成人すらしていない未熟な者達がフェニックスを倒すところなど一部の者を除いた全員が想像していなかった。

 

その一部の者―――サーゼクスは一人笑みを浮かべていた。

 

彼だけはイッセーの勝利を疑っていなかった。

 

ただ、あそこまでの実力とは思っていなかったが………。

 

「驚きましたな」

 

「ええ、話には聞いていましたが、まさかこれほどとは」

 

今、椅子に腰かけて話している二人はグレモリー卿とフェニックス卿。

つまり、リアスとライザーの父親だ。

 

「サーゼクスよ。彼の名前は何といったか?」

 

「兵藤一誠君です。父上、どうかされましたか?」

 

「いや、一つ気になることがあってな。私には彼が赤龍帝の神器を使っていなかったように見えたのだが………」

 

それを聞いてサーゼクスはああ、と納得する。

 

彼には何となくイッセーが神器を使わなかった理由が分かっていた。

 

「ええ。彼は神器は一切使っていませんよ」

 

その言葉に反応したのは、フェニックス卿だ。

 

「なぜ彼はそんなことを?神器を使えばもっと楽にライザーは倒せたでしょうに」

 

フェニックス卿の最もな意見にグレモリー卿も頷く。

 

確かに、イッセーは神器を使えば最後にあれほど疲労せずに済んだのだ。

 

では、なぜ使わなかったのか。

 

「仮に彼が神器を、赤龍帝の力を使っていればどうなると思われます?」

 

サーゼクスの問いに二人は考える。

 

「おそらく、一部の貴族の方の間ではリアスはこう言われるでしょう。『リアス・グレモリーは伝説のドラゴンを使って無理矢理、婚約を解消した』と」

 

「まさか・・・」

 

「ええ。これはあくまで私の想像ですが、彼はリアスの先のことを考えて、このゲームに臨んだのでしょう。リアスが他の貴族の方から揶揄されないようにするため、あえて赤龍帝の力を使わなかったのでしょう」

 

サーゼクスの言葉に二人は驚きを隠せないでいた。

 

イッセーが今回の縁談だけでなく、リアスの今後のことを考えながら戦っていたことに。

 

しばらくの間を置き、グレモリー卿はフェニックス卿の方へと向きを変える。

 

「フェニックス卿。今回の結婚、このような形になってしまい大変申し訳無い。無礼承知で悪いのだが、この件は・・・・」

 

「みなまで言わないでください、グレモリー卿。今回の縁談、残念な結果になってしまったが、息子にとっては良い勉強になったでしょう。フェニックスは絶対ではない。これを学べただけでも今回は十分でしょう」

 

「そう言っていただけると、こちらも助かります」

 

「グレモリー卿。あなたの娘さんは良い下僕を持ちましたな」

 

「………しかし、まさか私の娘が赤龍帝を眷属にするとは思いもしませんでした。―――次はやはり」

 

「ええ。目覚めているかも知れませんな。―――白い龍(バニシング・ドラゴン)。赤と白が出会うのもそう遠い話ではないでしょうな」

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

 

 

部室に帰った後、シャワーを浴びて汗を流したりしてから少しゆっくりした。

 

そういえば、部室のシャワーって初めて使ったな。

 

ちなみに、俺のボロボロになった制服は朱乃さんが魔力で修復してくれた。

 

これで母さんに怒られなくてすむな。

ほっとしたぜ。

 

木場や朱乃さん、小猫ちゃん、そしてアーシアも先に帰った。

 

アーシアは小猫ちゃんが家まで送ってくれるみたいだから安心だ。

 

 

部室には俺と部長の二人っきりだ。

 

俺はソファに横になり、部長は動けるようになったので、シャワーを浴びている。

 

いつもの俺ならもっとテンションが上がるんだけど、流石にアグニを放った後だからな。

 

性欲に体が着いてこず、グッタリしている。

 

まぁ、部長の裸は妄想の中で楽しむさ。

 

もう少ししたら帰るか。

 

美羽にはメールしたけど、心配してるだろうし。

 

そんなことを考えているとシャワー室からバスタオルを巻いた部長が出てきた。

 

おお!

 

やっぱり、部長のおっぱいは最高だな!

 

そんなことを考えていると部長がそのままの格好で俺の所に寄ってきた。

 

「イッセー、本当に大丈夫なの?」

 

「え?」

 

「だって、凄くダルそうにしてるし………」

 

「まぁ、少し体が重いですけど、もう少ししたら完全に回復するんで、大丈夫ですよ」

 

「そう、それはよかったわ」

 

部長はそう言って微笑み、俺の隣に座る。

 

なんだろう。

 

部長が少し緊張しているような………。

 

「部長、どうかしました?」

 

「………私ね。嬉しかったの。ライザーにやられそうになった時、助けてくれて」

 

「部長を助けるのは当然ですよ。守るって約束しましたからね」

 

「………それでね、イッセー。少し目を閉じてもらえるかしら? 渡したいものがあるの」

 

「え? あ、はい」

 

渡したいものってなんだ?

 

俺は部長に言われた通りに目を閉じる。

 

すると、俺の唇に何か柔らかいものが当たった。

 

目を開けると―――

 

部長が俺の首に手を回し、唇を俺へ重ねていた。

 

キス―――。

 

一分ほど唇を重ねた後、部長の唇が離れていく。

 

なっ!?

俺、部長とキスしちゃったよ!!

 

やばい!

俺、完全にフリーズしてたよ!!

 

「私のファーストキスよ。今日頑張ってくれたから、そのお礼よ」

 

「えええ!? いいんですか!? 俺なんかにファーストキスしちゃって!?」

 

「もちろんよ。あなたはそれだけのことをしてくれたもの」

 

頬を赤らめながらニッコリと微笑む部長。

 

そして、俺に抱きついてきた。

 

「ありがとう、イッセー」

 

いつもの部長の声だ。

 

ようやく、緊張が解けたようだ。

 

よかった。

 

部長に笑顔が戻ってくれて。

 

 

 

 

「私、イッセーの家に住むわ」

 

「へ?」

 

部長が着替えた後、いきなり言ってきた。

 

「すいません。部長………もう一度お願いします」

 

「イッセーの家に住むわ」

 

「な、なんで!?」

 

「下僕との交流を深めたいからよ。それにイッセーに鍛えてもらいたいからね。一石二鳥よ」

 

「いやいや、別に家に住まなくても修業くらい付き合いますよ!?」

 

俺がそう言うと部長は突然、上目使いで俺を見てくる。

 

そして、モジモジしながらこう言った。

 

「私と、一緒に住むのは………イヤ?」

 

 

ズキューーーン!!

 

 

今、俺のハートが撃ち抜かれた気がした。

 

な、何と言う破壊力!

 

いつもお姉様として崇められている部長が上目使いをするとここまでの破壊力があるのか!

 

そんなウルウルした目で見ないで!

 

そんな目で見られたら俺は………っ!

 

「わ、分かりました。とりあえず、親に聞いてみます………」

 

それから母さんに電話したところ、なんと即OK。

 

俺達が居ない間、家の大掃除をしたら部屋が一つ空いたらしい。

 

「何をおいてたんだよ!」とツッコミを入れてしまった。

 

というわけで、家に部長が住んでも問題ないと言われた。

 

なんて都合の良い展開なんだ………。

 

「そういうわけで、イッセー。明日からよろしくね」

 

ウインクしながら言う部長。

 

なんか、凄い展開になったな。

 

まぁ、良いか。

 

俺の日常は更に賑やかになりそうだ。

 

 




第二章はこれにて完結!

次回は一応、番外編を書こうと思いますが、気分次第でエクスカリバー編に入るかもしれません。

その時はご容赦を。


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第三章 月光校庭のエクスカリバー
1話 一騒動起こりそうです!!


前回の後書きで番外編を書くといっていましたが、上手く書けなかったので三章に入ることにしました。

番外編を楽しみにしていた方、申し訳ないです。

それでは、三章の一話、どうぞ!


どうも、イッセーです。

 

突然ですが、俺は今、どうすればいいのか分からず困っています。

その理由は………。

 

「うぅん」

 

艶かしい声を出しながらリアス部長が俺の横で寝ている。しかも、全裸で………。

 

この間から部長は俺の家に住むことになり、俺達と一緒に生活するようになったんだ。

 

とりあえず、俺の現状はこうだ。

今、俺の横では部長が全裸で、しかも俺を抱き枕のように抱いて寝ている。

そして、部長の胸が俺の体に押し付けられていて、俺の腕は部長の太ももで挟まれている。

 

この状況、どうすれば良いんだろう………。

まず、部長の体を脳内保存か。

目に焼き付けておこう!

 

あと、十五分ほどで修業に行く時間だけど、もう少しこのままでいたい!

だって、このシチュエーションを楽しみたいんだもん!

 

そんなことを考えていると部長の目が開いた。

 

「あら、イッセー。起きていたのね」

 

「ええ、まぁ。というより、部長。なんで俺のベッドに?」

 

「ゴメンなさいね。イッセーを抱き枕にして寝たい気分だったのよ。あなたが寝ていたからお邪魔させてもらったの。………イヤ、だったかしら?」

 

「い、いえ!部長と同じベッドで寝れて大変嬉しいです!」

 

「そう、よかったわ」

 

部長はそう言うと俺に抱きついてくる。

 

うおおおおおっ!

部長の胸が!

太ももが!

 

そして、俺の耳元で囁く。

 

「このまま、起きる時間までこうしているのも、素敵と思わない?ちょっとエッチなことも下僕とのコミュニケーションになるのかしらね」

 

そ、そんなこと囁かれたら、俺………っ!

 

ライザーの一件以来、部長の俺への態度が変わったような………。

なんかこう、積極的になったような気がする。

学校への登下校も俺の隣を歩こうとするし、昼休みも俺と過ごそうとしてくるようになったんだ。

全然嬉しいけどね!

 

まぁ、それを見て松田と元浜が俺を襲ってくる訳だけどね。

 

「部長………俺も、男なんで………」

 

「襲いたくなっちゃう?」

 

悪戯っぽい口調で部長が返してくるが、頬はほんのり赤くなっている。

 

「いいわよ。私はイッセーになら何でもしてあげるわ」

 

「っ!」

 

俺の思考がピンク色の方向へ飛びかけた時だった。

 

「イッセーさーん。起きていらっしゃいますか?そろそろ早朝トレーニングの時間ですよー」

 

アーシアの声だ!

 

ライザーの一件以来、アーシアも自分を鍛えるため、修業に参加している。

部長とアーシアは基礎体力作りをメインとした修業だ。

それで、朝は俺と部長、アーシアの三人で走っているんだけど、俺達が出てこないから起こしに来てくれたんだな。

 

って、そうじゃないだろ!

この状況、見られたらマズいって!

 

「イッセーさん?まだ、眠ってますか?部長さんも起きてこないのですが………」

 

「お、起きてるよ!ちょっと下で待っててくれ!」

 

部長が同居するようになってアーシアは部長に対して、何やらライバル心を抱いている様子なんだ。

よく分からないけど、部長も受けて立っているようだった。

 

まぁ、二人とも普段は仲が良いけどね。

 

「アーシア、もう少し待ってなさい。私もイッセーも仕度をしないといけないから」

 

ぶ、部長ぉぉぉぉ!?

何やってるんですか!?

 

 

バンっ!

 

 

勢いよく開け放たれる扉!

アーシアはベッドの上にいる俺達を見て、涙目になる。

しかも、頬まで膨らませているし。

 

アーシアを見るなり部長は体をより俺に密着させる………部長!?

 

「おはよう、アーシア」

 

ヤバい!

アーシアが全身を震わせている!

あれ?

こんな感じのシチュエーション、前にもあったような………。

俺がそれを思い出したときはすでに遅かった。

 

「私も裸になります!仲間外れなんて嫌です!」

 

あー、今日も賑やかだ。

 

 

 

 

「いただきます」

 

修業を終えた俺達は今、朝食をとっている。

 

「お兄ちゃん。顔が疲れてるけど、何かあったの?」

 

隣の席にいる美羽が俺の顔を覗きこみながら聞いてきた。

 

美羽………隣の部屋であれだけドタバタしてたのに気付かなかったのね。

いや、あの現場を見られるよりはマシだけどね。

 

「大丈夫だよ。それより、美羽は寝不足なのか?すごく眠たそうだけど?」

 

「エヘヘ。昨日遅くまでマンガを読んでて、それで………」

 

あー、それ俺もしたことあるな。

中学の時とかは結構多かったっけ。

 

「ほどほどにな?寝不足は美容の大敵らしいぞ?」

 

「うん。次は気を付けるよ」

 

「ちなみに、何を読んでたんだ?」

 

「お兄ちゃんに借りたドラグ・ソボール全巻。面白かったよ」

 

原因は俺か!

 

あれ全巻読んだのかよ。

50冊近くあるんだけど………。

 

「うん。旨い。リアスさんも料理が上手なんだねー。和食を作れるとは」

 

「ありがとうございます。お父様。日本で暮らすのも長いものですから、一通りの家事は覚えましたわ」

 

今日の朝食のうち、何品かは部長が修業から帰ってから作ったらしい。

マジで旨い!

 

「いやー、確かに美味しいですよ、部長」

 

「ありがとう、イッセー」

 

あ、アーシアが頬を膨らませて拗ねてるな。

 

「アーシアちゃんに続いて、リアスさんまで家に住みたいと聞いたときは驚いたけど、食事の準備まで手伝ってもらえて助かるわ」

 

「当然のことですわ、お母様」

 

「アーシアちゃんもお掃除やお洗濯を手伝ってくれるから本当に助かるわ」

 

「お世話になってるんですし。当然のことです」

 

頬を染めながらそう言うアーシア。

誉められて凄く嬉しそうだ。

機嫌も直ってる。

母さん、ナイスプレー!

 

部長とアーシアは俺がティアと修業をしている間、先に帰って色々と家事をこなしてくれている。

 

母さんも本当に助かっているようだ。

すると、部長が何かを思い出したように言った。

 

「あ、お母様。今日の放課後、部員達をこちらに呼んでも良いでしょうか?」

 

「ええ、良いわよ」

 

初耳だな。

美羽もアーシアも聞いてなかったみたいだし。

 

「部長、なんで家で?」

 

「今日は旧校舎が年に一度の大掃除で定例会議が出来ないのよ」

 

へぇ、そうなんだ。

それで、俺の家でオカ研と悪魔の会議をするわけね。

 

「お家で部活なんて、楽しそうです」

 

「じゃあ、ボクはお茶とお菓子を用意するよ」

 

二人ともノリノリだな。

 

「ええ。二人ともお願いね」

 

 

 

 

というわけで放課後。

部員の皆は俺の部屋に集まっていた。

俺達はまず、オカルト研究部としての会議を行った。

それで今度、河童の取材に行くことが決まった。

美羽のテンションがかなり上がっていたよ。

 

そして、今は悪魔としての会議。

その月の悪魔稼業の契約者数についての結果を部長から発表されていた。

ちなみに美羽はさっき母さんに呼ばれて出ていったから部屋にはいない。

 

「じゃあ、まずは契約者数から。朱乃が十一件、小猫が十件、祐斗が八件、アーシアは三件よ」

 

「すごいじゃないか、アーシアさん」

 

木場はアーシアの契約件数を聞いて素直に感心していた。

 

「………新人さんにしたらいい成績です」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

アーシアは嬉しそうに俺達に頭を下げる。

 

アーシアは流石だな。

 

どうやら、アーシアには癒しを求めてくる依頼者が多いらしい。

 

まぁ、アーシアは話しているだけで癒しているからな。

 

 

「そしてイッセー………九件」

 

うんうん。

木場や小猫ちゃんの件数を考えるとまずまずだ。

 

ん?

なんだ?

皆が俺を見てるんだけど………。

 

「え? なに? 何か変か?」

 

「いやー、なんていうか………」

 

「思っていたより普通で逆に驚いてます」

 

そういう反応!?

 

「イッセー君の規格外さを知っているからね。契約件数も規格外の数字になるものと期待してしまってね」

 

そうなの!?

皆、頷いてるし!

 

つーか、俺そんな風に思われてたの!?

なんか、ゴメンね!

期待を裏切っちゃって!

俺は悪くないけどね!

 

「まぁ、契約を取りはじめて間もないのだから、これだけ取れていれば十分よ。これからも頑張ってね、イッセー」

 

「おっす!これからも頑張ります!」

 

この調子でドンドン契約をとって、上級悪魔を目指すぜ!

 

『相棒なら直ぐだろう。というよりも既に実力は上級悪魔を超えている。いっそのこと魔王でも目指したらどうだ? まぁ、勇者と呼ばれた相棒が魔王を目指すなどおかしな話だがな』

 

魔王ねぇ。

俺に魔王が務まるとは思えないけどな。

 

部屋の扉がノックされて開かれる。

 

「お邪魔しますよー。皆さん喉が乾いたでしょう?お茶とお菓子を持ってきたわ」

 

母さんと美羽がお菓子を持ってきた。

 

確かに少し喉が乾いたからありがたい。

 

「ありがとうございます、お母様」

 

「いいのよ。皆さんも学校の部活と悪魔のお仕事のお話なんでしょう?これくらいお安いご用よ」

 

母さんも父さんも悪魔については完全に馴れてるからな。

 

悪魔の会議って言っても特に驚くことがない。

本当に馴れてるよな。

 

「そうそう。それと、良いもの持ってきたのよ」

 

母さんが取り出したのはアルバム。

あれはまさか!

 

「お母様、それは………」

 

「これはねぇ、イッセーの成長記録よ」

 

母さんがそう言った瞬間、部長の目の色が変わった。

 

部長がアルバムに興味を持ってる!

なんとかしなければ!

 

「祐斗、イッセーを抑えなさい」

 

「ごめんイッセー君、部長の命令だから」

 

「この裏切者め! だがな、おまえに俺が止められるかよ!」

 

木場が俺を羽交い締めにしようとしてきたので、逆に十字固めを決めてやる。

 

「ちょ、イッセー君。ギブ、決まってるから!」

 

タップする木場。

 

「うるせぇ!男の友情を裏切るようなやつにはこうだ!」

 

「うっ!」

 

よし。

これで木場は暫く動けまい。

 

「フッフッフッ、甘いですよ部長。木場が俺を止められるとでも?」

 

ニヤリと笑って俺は部長に言う。

 

どこの悪役だよ。

 

「甘いのはあなたよ、イッセー!今よ美羽!」

 

「了解! とう!」

 

部長の命令で今度は美羽が俺をベッドに押し倒す。

 

「美羽!? 卑怯ですよ部長!」

 

「いくらイッセーでも美羽が抱きついては引き剥がせないでしょう?」

 

くそ!

俺のことを良く分かってらっしゃる!

さすがは王と言ったところか!

 

「イッセー。私はね、小さい頃のイッセーに凄く興味があるの。以前、美羽に聞いたときから気になっていたのよ」

 

ここで明かされる新事実!

美羽も俺のアルバムを見たと!?

 

俺に抱きついている美羽を見る。

すると、美羽はニッコリと笑顔で頷いた。

 

「ボクもお母さんに見せてもらったよ!凄くかわいかった!」

 

「そういうわけで、私はどんな手を使ってでもこのアルバムを見るって決めていたの」

 

部長、なんでそんなかっこ良く決めてるんですか!?

 

あー!

俺のアルバムが開かれていくぅぅぅぅぅ!

部員の全員が俺の赤裸々な過去を見ていくぅぅぅぅぅ!

 

美羽が抱きついているから動けるわけもなく、俺は皆がアルバムを開いていくのをただ見るしかなかった………。

 

 

 

 

「で、これが小学生のときのイッセーなのよー」

 

「あらあら、全裸で。かわいらしいですわ」

 

「朱乃さん!?母さんも見せんなよ!」

 

「イッセー先輩の赤裸々な過去」

 

「小猫ちゃんも見ないでくれぇぇぇ!!」

 

あー、もう!

最悪だ!

オカ研のメンバー全員に見られてしまったよ!

 

「小さいイッセー、小さいイッセー!」

 

「私、部長さんの気持ちよくわかります!」

 

「分かってくれるのね、アーシア!嬉しいわ!」

 

なんか、部長とアーシアが大興奮してるんですけど………。

 

部長、息を荒立てないでくださいよ!

そんなにガキの頃の俺が気に入りましたか!?

アーシアと部長が二人だけの世界に入っちまった!

ちくしょう!

木場までニコニコ顔で見ていやがる!

 

「木場!おまえは見るな!」

 

「ハハハ。いいじゃないか、イッセー君。僕も楽しませてもらっているよ」

 

「………よし。今度、全力の模擬戦をしよう。ライザーにぶち込んだ技を体験させてやるよ」

 

「………遠慮しておくよ。死んでしまうからね」

 

木場は顔を真っ青にしながらそう言う。

遠慮するなよ、木場。

 

木場はアルバムを見ながら言った。

 

「でも、いいお母さんじゃないか」

 

「まぁ、それはそうなんだけどな」

 

ただ、こんなことはできればやめてほしい。

 

俺が死んでしまう………精神的に。

 

「イッセー君これは?」

 

「すまん、この状態じゃ見えないんだが………」

 

俺がそう言うと木場は俺の状態を確認する。

 

俺は美羽に抱きつかれてベッドに押し倒されている。そして美羽は寝不足のせいか、そのまま寝てしまった。

 

「スー………スー………」

 

爆睡してるよ。

あ、ヨダレまで垂らしてる………。

そういうわけで俺は身動きが取れない状態にある。

 

「相変わらず仲が良いね。それで、これなんだけど」

 

木場はアルバムをこちらに向けて一枚の写真を指差す。

 

そこには園児時代の俺と同い年と園児、そしてその子のお父さんらしき人が写っていた。

 

この男の子、よく遊んだ記憶がある。

ヒーローごっことかしたっけな。

確か、小学校に上がる前に親の転勤で外国に行っちゃったんだよな。

それっきりで、会うこともなければ連絡もしたことがないんだよな。

 

ただ、木場が指しているのは正確にはその子ではなく、親御さんが持っている剣を指差しているようだ。

 

「これに見覚えは?」

 

いつもの木場と少し声のトーンが違う。

この剣に何かあるのだろうか?

とりあえず、俺は正直に答える。

 

「いや、全く覚えが無いな。かなり昔のことだし・・・」

 

「こんなことがあるんだね。思いもかけない場所で見かけるなんて・・・・」

 

そう呟きながら木場は苦笑する。

ただ、その目ははっきりとした憎悪に満ちていた。

 

「木場、その剣は?」

 

「これはね・・・・聖剣だよ」

 

この時、俺は嫌な予感がした。

また、騒動が起きそうだ。

 

 

 



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2話 明かされる過去!!

俺の家で部活をした日の夜。

 

「こんばんわー。グレモリーの使いの者です」

 

悪魔の依頼が入ったから、俺は依頼者のところに転移してきたんだけど………見渡すと誰もいない。

 

転移場所を間違えたかな?

 

そんなことを考えながら、俺は部屋を再度見渡す。

広い部屋で高そうなソファや机がある。

窓からは町が一望できる。

夜景がすごく綺麗だ。

どうやら、ここは高級マンションらしい。

 

すると、部屋のドアが開かれた。

入ってきたのは黒髪に少し金髪が混じった悪そうな風貌の男性。

かなりのイケメンだ。ワル系のイケメンか。

 

「うん? 君は………」

 

「ああ、グレモリーの使いで来ました。悪魔を召喚された方ですよね?」

 

「そうか、君が。いやー、すまんすまん。君が来る直前に便所に行きたくなってな」

 

あー、なるほどね。

この人がトイレに行っている間に俺がここに転移してきたと。

 

「まぁ、適当に座ってくれ、悪魔君」

 

男性はそう言うと部屋を出ていってしまった。

 

とりあえず、座っとくか。

 

俺はソファに腰を掛ける。

 

おお、すげぇな、このソファ。

座り心地が半端じゃない。

家に欲しいくらいだ。

まぁ、こんなデカいソファを置く場所ないけどね。

 

すると、男性がグラスとワインを持って帰ってきた。

 

「まぁ、やってくれ」

 

「あ、すいません。俺、まだ未成年なもんで。お酒はちょっと」

 

「なんだ、そうなのか。そいつはミスったな。酒の相手をしてほしかったんだが」

 

「依頼ってそれなんですか?」

 

「ダメなのか?」

 

「いえ、そちらの願いを叶えて、それに見合う対価をいただけたらそれで結構なんで」

 

「じゃあ、相手をしてもらおうか。生憎、酒しかないんでな。氷水で良いかい?」

 

「ええ」

 

俺がそう言うと、男性はグラスに氷を入れていった。

 

 

 

 

「フッハハハハ。君は中々、女の尻に敷かれてるようだな」

 

「はぁ、そうですかね?」

 

俺がここに来てから30分ほどが経った。

 

本当に酒の相手しかしてない。

話の内容は俺の学生生活だとか普段の家での生活だとか、友人の話だとか。

日常生活の何気ない話しかしてない。

それでこれだけ大笑いするとは………。

 

「いやー、やはり若いやつと話してるのは楽しいな」

 

「そうですか? あなたも十分若いと思いますけど」

 

「お、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。ただ、俺はこう見えても結構年寄りだぜ? っと、もうこんな時間か。そろそろお開きとするか」

 

男性は時計を見ながらそう言う。

 

「もう良いんですか?」

 

「ああ。楽しませてもらったしな。それで、対価は何が良いんだい? 悪魔だから………命とか?」

 

いきなり、物騒なこと言うなー。

命を対価にするってことは昔はあったらしいけど、最近はそういうことは無いらしい。

 

「いえいえ。酒の相手くらいで命なんか取りませんよ」

 

「ほう。意外に控えめなんだな」

 

「うちの主は明朗会計がモットーなんで」

 

「そうか。じゃあ、あれでどうだ?」

 

男性が指差したのは壁にかけられた大きな絵。

かなり高そうだ。

 

「複製じゃないぞ。これは中世に描かれた絵でな。偶々、手に入ったんだが。俺は絵には興味なくてな」

 

「本当に良いんですか? こんな高そうなもの」

 

「他に適当なものが無くてな。ダメなら魂くらいしか」

 

「い、いえ。これで十分です!」

 

それから、何だかんだで契約は成立し、俺は代価として大きな絵をもらうことになった。

男性は俺のことを気に入ったらしく、今後も呼んでくれるそうだ。

少々、怪しいところもあるけど、それは今度で良いか。

 

契約も取り終わったので、帰ろうしたときだった。

部長から連絡が入った。

 

―――――どうやら、はぐれ悪魔が現れたようだ。

 

 

 

 

「ただいま到着しました」

 

「思ったより早かったわね………ごめんなさいね、急に呼び出してしまって」

 

俺は一度、部室に戻って絵を置いた後、部長達と合流した。

場所は町の外れにある廃工場の前。

 

「気にしないでください。それではぐれ悪魔はあの工場の中ですか」

 

悪魔の気配と血の臭いがする。

 

「大公からは、今夜中に討伐するよう命令が下っています」

 

「それだけ危険な存在という事ね。イッセーがいるから大丈夫だとは思うけど、これも修業だと思って全員でかかるわよ。アーシアは後方で待機、私と朱乃は外で待ち構えるから、イッセーと小猫、祐斗の三人で外まで引きずり出してちょうだい」

 

「了解です、部長」

 

「分かりました」

 

「………」

 

木場の返事がない。

と言うより完全に聞こえてないな、あれは。

 

「祐斗?」

 

「あ、はい。分かりました」

 

部長に名前を呼ばれてようやく返事をした。

昼間にあの写真を見たときから木場の様子がおかしい。

 

「木場、調子が悪いなら外で待機しておくか?」

 

「大丈夫だよ、イッセー君。僕も中に入るよ」

 

「そうか。だったら集中しろよ。相手がたとえ格下だったとしても、一瞬の油断が命取りになるんだからな」

 

「………分かっているよ」

 

木場は一言だけ返して黙り込む。

 

本当に大丈夫なのか?

不安はあるけど、ここで話し合う時間もない。

 

「じゃあ、行くぞ。木場、小猫ちゃん」

 

「はい」

 

「ああ」

 

俺達三人は工場内へ突入する。

 

うっ、血の臭いがかなりキツいな。

はぐれ悪魔のやつ、何人殺しやがった?

 

すると、奥にはぐれ悪魔を見つけた。

可憐な顔立ちをしている。

普通なら美少女だと思えるほどだ。

 

だけど………。

 

「ギシャァァァァア!!」

 

やっぱり化物になってやがるな。

しかも正気をなくしてやがる。

危険だと言われるわけだ。

 

「………先手必勝」

 

小猫ちゃんが先制で攻撃を仕掛けるが避けられる。

 

思ったより速いな。

それに小猫ちゃんの追撃も余裕で避けていやがる。

 

こういう相手は騎士の木場が一番適任なんだけど………。

 

「………」

 

剣を握ったままボーッとしている。

やっぱり戦闘に身が入ってない。

油断とかそんなレベルじゃないぞ、アレは。

 

「木場ァ!ボサッとするなぁ!」

 

俺の怒鳴り声にハッとなる木場。

 

木場ははぐれ悪魔に攻撃を仕掛けるも攻撃が軽いせいか軽々と受けられてしまう。

 

小猫ちゃんが木場のサポートに入るけど、木場の動きが悪いせいで全く連携が取れていない。

 

はぁ、仕方がないな。

 

はぐれ悪魔を退治するとき、俺は皆のサポートに回ってる。

その方が皆の修業になるからだ。

だけど、こうなった以上、俺が前に出るしか無いようだ。

 

「小猫ちゃん、木場、離れてくれ!」

 

俺の声に二人は道を開ける。

 

錬環勁気功を発動させた俺ははぐれ悪魔の腹に強烈な一撃を加える。

俺の拳がはぐれ悪魔の腹を貫き、辺りに血が飛び散った。

 

「これで終わりだぜ」

 

俺はゼロ距離から気弾を放ち、はぐれ悪魔を完全に消滅させた。

 

外に連れ出す予定だったけど、仕方がない。

今の状態とはぐれ悪魔の実力を考えると、誰がが深傷を負ってもおかしくなかったからな。

 

あー!

俺の制服が血まみれになっちまった!

 

はぁ、また朱乃さんに直してもらうか………。

 

肩を落とす俺に小猫ちゃんがドンマイと言ってくれた。

 

 

 

 

「すいません、朱乃さん。助かりました」

 

「いえいえ、これくらいお安いご用ですわ」

 

工場から出た後、俺は朱乃さんに制服に着いた血を落としてもらっていた。

なんか、毎回お願いしているような気がする。

今度、お礼でもしないと………そんなことを考えていた時。

 

 

バチンッ!

 

 

乾いた音が響いた。

部長が木場の頬をひっぱたいたんだ。

 

「目は覚めたかしら? イッセーがいてくれたから大事にはならなかったけど、一歩間違えれば誰かは危険だったのよ」

 

「すいませんでした部長。部長の言う通り、イッセー君がいなければ、僕は何もできませんでした。今日は調子が悪いので、これで失礼します」

 

「ちょっと、祐斗!」

 

どうでもよさそうな顔をしてそのまま去ろうとする木場。

 

やっぱりいつもの木場じゃないな。

普段の木場なら部長にこんな物言いはしない。

これは何を言っても聞きやしないな。

 

俺は木場を止めようとする部長の肩を掴む。

 

「イッセー?」

 

「部長。今の木場に何を言っても無駄ですよ。なぁ、木場」

 

俺がそう言うと木場は下を向いて黙りこむ。

 

「復讐か?」

 

「っ! ………驚いたよ。まさか、そんなことまで分かるなんてね」

 

「まぁな」

 

「イッセー君の言う通りだよ。僕は復讐のために生きている。――聖剣エクスカリバー。それを破壊するために、僕は生きている」

 

聖剣エクスカリバー。

こちらの世界についての知識が少ない俺でも知っている。

有名な聖剣だ。

 

「はぁ。そんなおまえにアドバイスだ。復讐にとらわれていると本当に大切な物が見えなくなるぞ。もっと周りを見てみるんだな」

 

「それはどういう意味だい?」

 

「そのままの意味だよ。いずれ分かるさ」

 

そう、いずれ木場も分かる。

自分にとって本当に大切なものは何なのか。

出来るだけ早く気付いてくれよ?

木場は俺と話した後、何も言わず俺達の元を去っていった。

 

 

 

 

「聖剣計画?」

 

俺がそう聞き返すと部長は頷いた。

 

「ええ、祐斗はその計画の生き残りなのよ」

 

家に帰ってから俺とアーシアは部長から木場と聖剣の関係について尋ねた。

 

そこで聞かせれたのは聖剣計画という、人工的に聖剣を扱える者を育成する計画についてだった。

 

アーシアもこの計画については初めて知ったようだ。

 

まぁ、聖女として崇められてきたアーシアにそんな極秘計画が伝わるわけがないか。

 

「聖剣は悪魔にとって最大の武器。斬られれば消滅させられることもあるわ。ただ、聖剣を扱える者はそう多くはない。数十年に一人でるかどうかだと聞くわ。そこで行われたのが聖剣計画よ」

 

なるほどな、教会からすればかなり重要な計画だ。

成功すれば、悪魔に対する攻撃手段が増えるんだからな。

 

「祐斗は聖剣、エクスカリバーに適応するために養成を受けたものの一人なの」

 

「じゃあ、木場は聖剣を?」

 

俺の質問に部長は首を横に振った、

 

「いいえ。祐斗は聖剣に適応出来なかったわ。それどころか、養成を受けた者、全員が適応出来なかったそうよ。計画は失敗に終ったの」

 

あれほど剣に精通し、多くの魔剣を扱える木場でも無理だったのか。

部長はそして、と続ける。

 

「適応出来なかったと知った教会関係者は、祐斗たち被験者を不良品と決めつけて、処分に至った」

 

―――処分

 

胸くそ悪い言葉だ。

 

「そ、そんな………」

 

アーシアにとってはその情報はかなりショックなもののようだ。

目元を潤ませて手で口を押さえている。

 

部長も不快な思いなのか、目を細める。

 

「何とか生き残った祐斗も私が見つけたときは瀕死の重症だった。だけど、そんな状態でもあの子は強烈に復讐を誓っていたわ。聖剣に狂わされた才能だからこそ、悪魔としての生で有意義に使ってもらいたかったのよ。祐斗の持つ才能は聖剣にこだわるのはもったいないもの」

 

部長は木場を救いたかったのだろう。

聖剣に、復讐にとらわれず、悪魔としての生をいきることで。

だけど、木場は忘れることが出来なかったんだろうな。

自分や仲間が殺されたんだ。

忘れる方が難しいか。

 

俺も異世界で親友を殺された時はそうだったよ。

だけど、アリスや他の仲間、師匠、ドライグの存在があったから俺は復讐にとらわれずにすんだ。

だから、木場にも気づいてほしい。

あいつには俺達がいることを。

 

部長は大きく息をつく。

 

「とにかく、しばらくは見守ることにするわ。今は聖剣のことで頭がいっぱいのようだし」

 

そうだな、俺も部長の意見に賛成だ。

おっと、そういえば部長にあの写真を見せてなかったな。

 

「部長、木場が聖剣を思い出した切っ掛けがこの写真みたいなんです」

 

俺は写真を部長に手渡した。

部長は写真を見るなり、眉をひそめる。

 

「木場がこの剣を見て聖剣だと言ってました」

 

「………そうね。エクスカリバーほど強力なものでは無いけれど、聖剣には間違いないわ」

 

やっぱり聖剣なのか。

こんなに近くにあったなんて知らなかった。

 

『相棒は異世界に飛ばされるまでは、ただの人間だったからな』

 

まぁ、そうだよな。

ていうか、皆は見ただけで聖剣って分かるのか。

俺にはさっぱり分からん。

 

『それも仕方がないだろう。相棒は聖剣に関する知識が少ないからな』

 

やっぱり聖剣とか神話についての勉強もした方が良いみたいだな。

 

「この男性が聖剣使い。私の前任者が消滅させられたと聞いていたけど、これなら説明がつくわ。でも、確か――」

 

俺がドライグと話している間に部長は何やら考えてはじめたな。

 

何か心当たりがあるのか?

しばらく考え込んだ後、部長は顔をあげた。

 

「今考えても仕方がないわね。もう夜も遅いし、そろそろ寝ましょう」

 

そう言うと、部長は服を脱ぎ出した!

 

「ぶ、部長!? なぜにここで服を脱ぐんですか!?」

 

「なぜって、私は裸じゃないと眠れないのよ」

 

「いやいやいや!そうじゃなくて、なぜ俺の部屋で脱ぐんですか!?」

 

「あなたと一緒に寝るからに決まっているでしょう」

 

さも当然のような口調で答える部長!

マジですか!?

俺と寝るんですか!?

 

「なら、私もイッセーさんと一緒に寝ます!」

 

今度はアーシアも脱ぎ出したよ!

対抗しないで!

嬉しいけど!

 

ガチャっと部屋のドアが開かれた。

 

「あ、お兄ちゃん達、帰ってたんだ」

 

そこにはパジャマ姿の美羽が!

 

「み、美羽!? おまえ寝てたんじゃ………」

 

「寝てたよ。それでさっきトイレに行って、部屋に戻ろうとしたら声が聞こえたから」

 

思ってたより普通の理由だった。

 

いや、そうじゃなくて!

この状況をどう説明すればいいんだよ!

男の部屋に下着姿の女子が二人。

 

完全に誤解されるパターンじゃねえか!

 

「えっと、リアスさんとアーシアさんは何をしてるの?」

 

やっぱり来たよ、この質問!

二人とも上手く答えてくれよ………?

 

「私はイッセーと寝ようとしているの」

 

「私もです!」

 

ダメだ、正直過ぎる!

美羽はそれを聞いて肩を震わせた!

 

「美羽?」

 

「二人ともズルい!ボクも一緒に寝る!」

 

なんと、美羽まで服を脱ぎはじめた!

 

「なんで、美羽まで脱ぐんだよ!」

 

「だって二人とも裸だし」

 

「合わせなくていいから!」

 

この後、俺は裸の三人と寝ることになったのだが………。

ベッドが狭いせいで俺は三人の裸で挟まれることになり、興奮しすぎて寝ることが出来なかった。

 

 



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3話 幼馴染みと事件です!!

一日の授業と部活を終え、悪魔の仕事もなかったから、俺と美羽、アーシアの三人は家路についていた。

いつもなら、部長もいて四人で帰っているんだけど、会長と用事があるらしく、今日はいない。

 

「木場君、大丈夫かな?」

 

今日、木場と同じクラスの子に話を聞いたところ、木場はずっとボーッとしていたらしい。

名前を呼んでも返事をせず、いつもと違う雰囲気に先生も心配するくらいだったそうだ。

 

「まぁ、あいつにも色々あるんだ。今はそっとしておいてやれ」

 

「………ボク達、何か出来ないのかな?」

 

美羽にも一応、木場のことは伝えておいた。

 

というよりも、美羽は俺達に何かがあったことに気がついて俺に尋ねてきたんだ。

本当に鋭いよな。

それ以来、ずっと木場を心配している。

 

「残念だけど、今の俺達に出来ることはあいつを見守ることぐらいだ。今は何を言っても逆効果だろうしな」

 

「………そうなんだ」

 

「そんなに落ち込むなって。あいつは絶対に帰ってくるさ。俺達の仲間を信じろよ」

 

………あいつ、美羽にここまで心配させたんだ。帰ってきたらお仕置きだな

 

『相棒、いつからシスコンになったんだ?』

 

ドライグこそ、いつそんな言葉を覚えたんだ?

 

『………』

 

まぁ、冗談は置いといて、木場には早く帰ってきてもらわないとな。

あいつがいないとオカ研の調子が狂うしな。

 

「っ!」

 

家に着く直前―――――俺は言い知れない悪寒を感じた。

この感覚は以前にも体験したことがある。

アーシアも感じているようだ。

美羽が平然としているから、これは―――――。

 

「アーシア、美羽。少し急ごうか」

 

二人は頷き、歩くペースを上げる。

この方向は俺の家。

母さんの気を感じ取れるから大丈夫だということは分かる。

だけど、何があるか分からない以上、急いだ方が良いだろう。

 

そして、俺達が家の前に着いたとき、そこにいたのはローブを着て十字架を胸に下げている二人の女性。

二人と談笑する母さんの姿があった。

 

「………母さん、玄関前で何してるの?」

 

「あら、イッセーじゃない。三人とも、お帰りなさい。久しぶりに会ったものだから話し込んじゃって」

 

久しぶりってことは知り合いなのか?

 

俺は二人の女性に視線を向ける。

一人は栗毛、もう一人は青髪に緑色のメッシュが入っている。

二人ともかなりの美人さんだ。

そして、二人からは聖なるオーラが感じられる。

エクソシストかね?

 

「こんばんわ、兵藤一誠君」

 

栗毛の女性が話しかけてきた。

 

俺のことを知ってる?

えーと、誰だっけ?

 

「あれ? 覚えてない? 私だよ?」

 

自分を指差す栗毛の女性。

 

俺は腕を組んで記憶を探る。

うーん、思い出せねぇ。

こんな美人さんなら一度会えば絶対忘れないんだが………。

 

すると、母さんが一度家に戻ってから一枚の写真を持って来た。

その写真はあの聖剣が写っていたものだ。

母さんはそこに写る友達だった男の子を指差した。

 

「この子よ。紫藤イリナちゃん。この頃は男の子っぽかったけど、今じゃ立派な女の子になっていたから、私もビックリしたのよ」

 

な、なにぃいいい!?

ウソだろ!?

俺、完全に男の子だと思ってたぞ!

なんか、ごめん!

 

「お久しぶり、イッセー君。男の子と間違えてた?仕方がないよね、あの頃はかなりヤンチャだったからね。………お互い、しばらく会わないうちに色々あったみたいだね。本当、再会って何が起こるか分からないものだわ」

 

………気付いているな。

俺が悪魔になったことに。

 

「そうみたいだな」

 

本当、再会ってのは何が起こるか分かったものじゃないな。

まさか、あのヤンチャ坊主がこんな美人になるとは!

 

『そこじゃないだろ』

 

ドライグにツッコミを入れられた。

 

 

 

 

「無事で良かったわ」

 

あの後、聖剣の気配を感じた部長がいそいで帰ってきた。

とりあえず、俺達の無事を確認して安堵しているようだ。

 

「部活が終わってから、ソーナから聖剣を所持した教会の関係者が潜り込んできている、という話を聞いたの。どうやら、私達に交渉を求めているようなの」

 

「教会関係者が俺達に交渉を? 部長はどうするつもりなんですか?」

 

「とりあえず受けておくことにしたわ。わざわざ向こうから交渉してくるなんて、よっぽどのことでしょうから」

 

まぁ、そうだよな。

断って、下手に動かれるよりは話を聞いた方が良いよな。

それにしても、このタイミングで聖剣ときたか。

最悪だな。

 

「それで、交渉はいつ?」

 

「明日の放課後よ」

 

明日か………えらく急だな。

 

「木場が聖剣を前にして冷静にいられますかね?」

 

「そうね。正直言って、今の祐斗は堪えられないと思うわ」

 

だろうな、下手したらイリナ達に剣を向けかねないな。

いざという時は俺が何とかするか。

 

 

 

 

そして、次の日の放課後。

 

部室には美羽を除いた部員全員とイリナ、緑色のメッシュを入れた女性が集まっていた。

美羽には話が立て込みそうなので先に帰ってもらった。

部長とイリナ達が向かい合う形で座り、俺達は部長の後ろで控えている状態だ。

 

………木場は一人、俺達と少し離れたところで壁にもたれ掛かり、イリナ達を鋭い目付きで見ている。

 

「この度、会談を了承してもらって感謝する。私はゼノヴィアという者だ」

 

「紫藤イリナです」

 

「私はグレモリー家次期当主、リアス・グレモリーよ。それで、悪魔を嫌っている教会側の人達が私達悪魔に何の用かしら?会談を求めてくるぐらいだからそれなりのことがあったのでしょう?」

 

「簡潔に言おう。………教会側が所有しているエクスカリバーが、堕天使たちによって奪われた」

 

「な!?」

 

俺達は声を出して驚いていた。

 

エクスカリバーは大昔の大戦で折れて今は七つに分けられたと部長から聞いていた。

 

確か、一本だけ行方不明でそれ以外は全て管理していたらしいんだけど………。

 

「教会は三つの派閥に分かれていて、所在が不明のエクスカリバーを除いて6本の剣を2つずつ所有していた。その内、三本のエクスカリバーが盗まれた。残っているのは私の持つ《破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)》と」

 

「私の持っている《擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)》よ」

 

ゼノヴィアは布で巻かれた大剣、イリナは腕に巻かれている紐のようなものそれぞれ指差した。  

 

管理していた物の半分、盗まれてるじゃねぇか。

教会がよっぽどバカだったのか。

 

―――もしくは、手引きしたやつがいたのか。

 

「我々がこの地に来たのはエクスカリバーを奪った堕天使がこの町に潜伏しているという情報を掴んだからだ。我々はそれを奪取、もしくは破壊するためにここに来た」

 

「堕天使に奪われるくらいなら、壊した方がマシだもの」

 

「………それで、盗んだ堕天使の名は?」

 

部長はゼノヴィアにそう尋ねた。

確かに、教会から聖剣を盗むことが出来るほどの堕天使だ。

気になるのも仕方がない。

 

「《神の子を見張る者(グリゴリ)》の幹部、コカビエル」

 

ゼノヴィアの情報に俺以外の全員が驚いていた。

 

………コカビエルって誰だっけ?

前に教えてもらった気がするけど、忘れちまった。

幹部って言うくらいだから凄そうなのは分かるんだけど………。

 

あと、グリゴリって何?

 

『グリゴリというのは彼方より存在する堕天使の中枢組織だ。コカビエルはそこの幹部でな。かつての大戦を生き残った強者でもあり、聖書にも記されている存在だ。その力は最上級悪魔を越えている』

 

へぇ、そんなやつが出てきたのか。

かなりの大事だな。

 

「………それで、貴方達は私達に何を要求するのかしら?」

 

「簡単だ。私達の依頼―――いや、注文は私達と堕天使のエクスカリバー争奪の戦いに悪魔が介入してこないこと。つまり、今回の事件で悪魔側は関わるなということだ」

 

ゼノヴィアの物言いに部長の眉がつり上がる。

 

「ずいぶんな言い方ね。私達が堕天使と組んで聖剣をどうにかするとでも?」

 

「悪魔にとって聖剣は忌むべき物だ。可能性がないわけではないだろう?」

 

部長の瞳に冷たいものが宿った。

かなりキレてるな。

まぁ、自分達の失態を棚にあげておいてこれだからな。

 

「もし、そちらが堕天使と手を組んでいるなら、私達はあなた達を完全に消滅させる。たとえ、魔王の妹でもね」

 

「そう。ならば、言わせてもらうわ。私は堕天使と手を組んだりしない。決してね。グレモリーの名にかけて、魔王の顔に泥を塗るような真似はしないわ」

 

部長がそう言い切るとゼノヴィアはフッと笑った。

 

「それが聞けただけで十分だ。私も魔王の妹がそこまで馬鹿だとは思っていない。今のはあくまで上の意向を伝えただけさ」

 

ゼノヴィアの言葉を聞き、部長は表情を緩和させる。

はりつめていた部屋の空気も少し緩くなった。

 

会話が終わり、イリナとゼノヴィアは立ち上がる。

 

「本日は面会に応じていただき、感謝する。そろそろおいとまさせてもらうよ」

 

「そう。お茶は飲んでいかないの?」

 

「いや、悪魔とそこまでうちとけるわけにもいかなくてね」

 

「ごめんなさいね」

 

ゼノヴィアは部長の誘いを断り、イリナも手でゴメンをしながら謝る。

すると、二人の視線はアーシアに集まった。

 

「兵藤一誠の家で出会った時、もしやと思ったが、アーシア・アルジェントか。こんな極東の地で『魔女』に会おうとはな」

 

ゼノヴィアの言葉にアーシアはビクっと体を震わせる。

 

―――――魔女。

 

この言葉はアーシアにとって辛いものだ。

イリナもそれに気づいてアーシアを見る。

 

「へぇ。あなたが噂になってた元聖女さん?悪魔を癒す力を持っていたから追放されたとは聞いていたけど………まさか、悪魔になっていたとはね」

 

「あ、あの………私は………」

 

二人に言い寄られ、対応に困るアーシア。

 

「安心しろ、このことは上には報告しない―――だが、堕ちれば堕ちるものだな。まだ、我らの神を信じているのか?」

 

「ゼノヴィア。悪魔になった彼女が主を信じているわけないでしょう?」

 

呆れた様子でイリナはゼノヴィアに言う。

 

「いや、背信行為をする者でも罪の意識を感じながら、信仰心を忘れない者がいる。彼女からもそれと同じものが感じられる」

 

「そうなの? ねぇ、アーシアさんは今でも主を信じているのかしら?」

 

その問いにアーシアは悲しそうな表情で答える。

 

「………捨てきれないだけです。ずっと、信じてきましたから………」

 

それを聞いたゼノヴィアは布に包まれた聖剣を突き出す。

 

「そうか。ならば、今すぐ私達に斬られるといい。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べてくださるはずだ」

 

 

―――ああ、限界だ。

 

 

俺はアーシアに突き付けられた聖剣を掴み、無理矢理下に向けさせる。

 

これにはゼノヴィアも驚きを隠せないようだ。

 

「布に包まれているとはいえ、悪魔が聖剣に触れるとは………」

 

「そんなもん知るかよ。それより、随分と好き勝手言ってくれたな。………アーシアが魔女だと」

 

「そうだ。少なくとも今の彼女は魔女だと呼ばれるだけの存在ではあると思うが?」

 

こいつ………!

 

俺は怒りに奥歯を噛み、ギリギリ鳴らす。

 

部長が俺を制止しようとするが、俺は言わせてもらう!

 

「ふざけんなよ………! 聖女だと勝手に祭り上げ、悪魔を癒してしまえば今度は魔女だと勝手に追放する。おまけにはアーシアを斬るとか言いやがったよな。おまえら教会側の人間は身勝手すぎる」

 

「聖女と呼ばれながらも、神に見放されたのは彼女の信仰心が足りなかったからだろう?」

 

「だったら、随分と心の狭い神様なんだな」

 

「なんだと?」

 

俺の言葉にゼノヴィアは眉を吊り上げて反応する。

 

「だってそうだろ。悪魔にも優しくできるアーシアを認めない。それまで多くの人々を救ってきたにも関わらずだ。本当に優しい心を持っている者が救われない。そんな信仰は間違っている」

 

「………今の発言は我々、教会への挑戦か?」

 

「別に俺はおまえらと戦いたい訳じゃない。戦争なんざ嫌と言うほど体験してきたからな。………ただ、おまえ達が俺の仲間や家族に剣を向け、傷つけると言うなら俺も容赦はしない。その時は叩き潰す」

 

「ほう。一介の悪魔がそこまでの口を叩くか」

 

ゼノヴィアが俺に向けて殺気を放つ。

 

「イッセー、お止め―――」

 

部長が俺を止めようとしたときだった。

俺とゼノヴィアの間に木場が入る。

 

「ちょうどいい。僕が相手になろう」

 

強い殺気を発して、木場は剣を携えていた。

 

「誰だ、キミは?」

 

ゼノヴィアの問いに木場は不適に笑う。

 

「キミ達の先輩だよ。―――失敗作だったそうだけどね」

 

その瞬間、部室内に無数の魔剣が現れた。

 

 

 

 

 

 

俺達は旧校舎の前にある芝生の広場に来ていた。

 

先ほど、俺とゼノヴィアの口論に木場が飛び込んできて、一触即発の空気になったんだ。

 

木場が売った喧嘩をゼノヴィアが買い、今から殺し合いは無しの決闘が行われることになった。

 

俺の前にはイリナ、木場の前にはゼノヴィアがそれぞれ対峙するかのように立っている。

 

対戦相手が逆のような気もするが………。

元々、俺がゼノヴィアと言い争っていたんだし。

 

そして、俺達の周囲を丸ごと囲むように紅い魔力の結界が展開されていた。

人払いと、戦いの騒音を消すための結界だ。

結界の端では部員の皆が俺達を見守っている。

 

「では、始めようか」

 

イリナとゼノヴィアが白いローブを脱ぐと黒い戦闘服の姿となった。

体の線が浮き彫りになっており、ボンテージっぽくてエロい。

どちらも出るとこ出てて腰が引き締まっている。

二人ともスタイルが良いな。

 

ゼノヴィアは布を取り払いエクスカリバーを解き放つ。

イリナの方は腕に巻いていた紐が日本刀の形になった。

 

「イッセー、ただの手合わせとはいえ、聖剣には十分気を付けて!」

 

「分かってますよ、部長」

 

以前、聖剣使いと悪魔の一戦を録画した映像を見たことがあるけど、聖剣で斬られた悪魔は傷口から煙を立てていた。

 

斬られたら本当にヤバイんだと思ったよ。

斬られないようにしよう。

 

『相棒ならあの程度の小娘など、余裕だろう』

 

まぁ、油断せずに行くさ。

木場の方は既に神器を発動して周囲に魔剣を出現させている。

 

そして、木場は不気味に笑っていた。

 

「………笑っているのか?」

 

ゼノヴィアが木場に聞く。

 

「倒したくて、壊したくて仕方かなかったものが目の前にあるんだからね。嬉しくてね」

 

ゼノヴィアは周囲に展開された魔剣を見る。

 

「《魔剣創造(ソード・バース)》か。………聖剣計画の被験者で処分を免れた者がいると聞いていたが、もしやキミが?」

 

ゼノヴィアの問いに木場は答えず、ただ殺気を向けるだけだ。

 

あいつ、これは殺し合い禁止だってこと分かってんのか?

 

「兵藤一誠君!」

 

いきなり、イリナが話しかけてきた。

 

「な、なに?」

 

「再会したら懐かしの男の子が悪魔になっていたなんて、なんて運命のイタズラ!聖剣の適正を認められ、晴れて主のお役にたてると思ったのに!これも主の試練なのですね!でも、この試練を乗り越えることで私は真の信仰に近づけるんだわ!」

 

目をキラキラと輝かせながら、難易度の高い言葉を飛ばしてきたよ!

 

完全に自分に酔ってるよね!

実は楽しんでるとか!?

俺はなんて返せばいいんだよ………。

 

ドライグ、ヘルプ!

 

『・・・・がんばれ、相棒』

 

ちょっと、ドライグさん!?

 

「さぁ、イッセー君。私のこのエクスカリバーであなたの罪を裁いてあげるわ!アーメン!」

 

ドライグとそんなやり取りをしていると風を切る音と共にイリナが斬りかかってきた。

 

おいおい、本気で斬りかかってきてないか?

それが久しぶりに会った幼馴染みにすることかよ!

 

………まぁ、俺は覚えてなかったけど。

 

よし、イリナには悪いけど速攻で終わらせよう。

さっきから聖剣のオーラが当たってピリピリするし。

 

俺は突っ込んで来たイリナを最小限の動きでかわした後、手首を掴み、空いてる手で聖剣を叩き落とした。

 

「えっ?」

 

呆然とするイリナの足を払い、地面に倒す。

 

「これで勝負あったな」

 

「ウソ………」

 

余りに一瞬のことだったので、イリナは信じられないような表情をしている。

 

まさか、こうもあっさり自分が負けるとは思わなかったのだろう。

 

「格上相手にいきなり突っ込んでくるのは不味いぞ、イリナ。もっと相手の力量を測れるようにならないとな」

 

俺はイリナの頭をポンっと撫でた後、部長の元へと戻った。

 

「終わりました、ってどうしたんですか?」

 

何故かアーシアを除いた全員が呆けていた。

 

「いえ、余りにも鮮やかだったから………」

 

「流石はイッセー君ですわね」

 

「………やっぱりイッセー先輩は規格外です」

 

まぁ、修業の賜物ですよ。

 

「おケガはありませんか、イッセーさん」

 

「ありがとうアーシア。俺は無傷だよ」

 

やっぱりアーシアは優しいよな。

一度、教会の上の人間に聞いてみたい。

何故、こんなにも優しいアーシアを追放したのか。

 

とりあえず、俺の方は終わった。

残りは木場とゼノヴィアか。

 

「まさか、イリナがこうもあっさりと倒されるとは………。正直、彼を見くびっていたよ」

 

「次は君の番さ」

 

木場は二本の魔剣を握り、ゼノヴィアに迫る。

 

「燃え尽きろ!そして凍りつけ!ハアアアア!!!」

 

片方の魔剣から業火が生まれ、もう片方からは冷気が発生する。

そして、木場の魔剣とゼノヴィアの聖剣がぶつかり合い火花を散らす。

二人の剣士による激しい剣撃が繰り広げられる。

 

「中々のスピードだ。そして、炎と氷の魔剣か。だが甘いっ!」

 

ゼノヴィアの一振りが木場の二本の魔剣を粉々にした!

 

「君の魔剣など、私のエクスカリバーの相手ではない!」

 

ゼノヴィアは長剣を天にかざし、地面へ振り下ろした。

 

 

ドォォォォォォォン!

 

 

地面が激しく揺れて地響きが発生する。

 

聖剣を振り下ろした場所にはクレーターが生み出されていた。

 

「七つに分かれてもこの威力。全てを破壊するのは修羅の道か………だけど!」

 

木場は新たに魔剣を作り出す。

 

「この力は同志の無念の思いで作られたものだ!この力で僕はエクスカリバーを破壊する!」

 

再び、ゼノヴィアに向かっていくが、作った魔剣はことごとく破壊される。

 

破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)か。

 

その名の通り、破壊力に特化した聖剣のようだ。

あれだと、普通の魔剣では歯が立たない。

すると木場は手元に巨大な一本の剣を創り出す。

禍々しいオーラを放つ魔剣を木場は両手で構える。

 

「その聖剣の破壊力と僕の魔剣の破壊力!どちらが上か勝負だ!」

 

木場はそれをゼノヴィアに向けて振るう。

 

 

―――それは、木場が最もとってはいけない行動。

 

 

壊れたのは、木場の魔剣。

 

そして、木場の腹部に聖剣の柄頭が抉りこむ。

 

「ガハッ」

 

口から吐瀉物を吐き、木場はその場に崩れ落ちた。

 

ゼノヴィアは木場を見下ろしながらつまらなさそうに言う。

 

「残念だよ。キミの武器は多彩な魔剣とそのスピードだ。巨大な剣を持てばキミの長所を殺すことになる。そんなことも分からないとはね」

 

そう、巨大な魔剣は木場が持ってはいけないものだったんだ。

 

ゼノヴィアはそれを見抜いていたらしい。

 

木場は立ち上がろうとするが、ダメージが大きいせいでそれは叶わない。

 

ゼノヴィアは木場を一瞥した後、俺の方に歩み寄ってきた。

 

「さて、兵藤一誠。イリナを一瞬で倒したキミの強さには私も驚いたよ。是非とも手合わせ願いたいところだが、私達も忙しいのでな。またの機会にするとしよう。リアス・グレモリー、先ほどの話、よろしく頼むよ」

 

「ええ、分かっているわ」

 

ゼノヴィアは踵を返しイリナと合流する。

 

「それでは失礼するよ」

 

「イッセー君!今度は私が勝つからね!」

 

なんか、イリナが拗ねているような………。

 

負けず嫌いなのは昔と変わらないな。

 

こうして、二人はこの場を去っていった。

 

 



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4話 共同戦線です!!

「うー、気持ちいいよ、小猫ちゃん」

 

小猫ちゃんは今、俺の肩をマッサージしてくれている。

 

最近、色々あって疲れてたからすごく気持ちがいい。

 

「イッセー先輩には修業を見てもらっていたお礼をしていませんでしたから。して欲しいときには言ってください。いつでもします」

 

くぅ~!

小猫ちゃんが優しくしてくれる!

 

いつもはツッコミと瓦礫が飛んでくるだけだったからな。

なんか感動するな!

 

「そういえば、あの二人がローブを脱いだとき、イッセー先輩、スケベな目で見てましたね」

 

うっ!

バレてたのか!

 

流石は小猫様、俺のこと良く見てるぜ!

 

俺はふとアーシアの方を見た。

 

「アーシア、大丈夫か?」

 

アーシアはゼノヴィアにきついこと言われてたからな。

 

正直、かなり心配だ。

 

「私は大丈夫です。イッセーさんが守ってくれましたから」

 

「そっか」

 

アーシアが微笑みながら答えたので俺はそう返すだけだった。

 

「それより、私は心配だったんですよ?イッセーさんが消滅させられてしまうのではないかと気が気じゃなかったんですから」

 

あー、どうやらアーシアに心配させてしまったみたいだ。

 

「心配かけてゴメンな、アーシア」

 

「いえ、私はイッセーさんが無事ならそれで十分です!」

 

おおっと、眩しいくらいの笑顔で言われてしまった。

 

なんか、立場が逆になってしまったな。

 

「待ちなさい!祐斗!」

 

部長の制止する声が聞こえてくる。

 

そちらを見ると、立ち去ろうとしている木場と激昂している部長の姿。

 

「私のもとから離れることは許さないわ。あなたは私の大切な『騎士』なのよ! はぐれになんて絶対にさせないわ!」

 

「………部長、僕を拾っていただいたことにはとても感謝してます。だけど、僕は同志達のおかげであそこから逃げ出せた。だからこそ、僕は彼らの怨みを晴らさないといけないんです………」

 

「祐斗!」

 

そう言う木場を引き留めようと部長は木場の腕を掴む。

 

その様子を見て、俺は椅子から立ち上がり部長に言った。

 

「部長、木場を行かせてやって下さい」

 

「イッセー!? 何を言うの!?」

 

まぁ、当然の反応か。

 

俺は声を荒げる部長を宥めながら続ける。

 

「今の木場の頭の中は聖剣への復讐のことで頭が一杯です。そんな状態のやつに何を言っても聞き入れませんよ」

 

「イッセー………」

 

まぁ、そんな顔しないでくださいよ部長。

 

俺は木場の方に視線を移す。

 

「なぁ、木場」

 

「………なんだい?」

 

「俺が前に言ったこと覚えているな?本当に大切なものは何なのか、頭冷やして良く考えてくるんだ。それから帰ってこい。俺達はいつでも、おまえを待ってるからさ」

 

「………」

 

そして、木場は何も言わずに部室を出ていった。

 

 

 

 

さて、木場にはああ言ったものの何もしないわけにはいかないんだよな。

 

エクスカリバーだけでなく、コカビエルなんてヤバそうなやつも絡んでいるみたいだしな。

 

ただ、部長に言うと止められるだろう。

 

そう言うわけで俺は一人で動くことにした。

 

まずは教会の人間―――イリナとゼノヴィアに接触するため、二人の気を追って町を歩いてた。

 

そして、見つけた。

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「どうか、天の父に代わって哀れな私達にお慈悲をぉぉぉぉぉ!!」

 

路頭で祈りを捧げる白いローブを纏う女の子が二人。

 

通りすぎる人々も奇異の視線を向けていた。

 

 

見つかったのは良かったんだけど………。

 

 

話し掛けたくねぇえええ!!

 

出来れば関わりたくないんですけど!

 

俺まで不審な目で見られそうでよ!

 

つーか、あいつら何してんの!?

 

エクスカリバーの奪還は!?

 

「なんてことだ。これが超先進国、日本の現実か………。誰も救いの手を差しのべてくれないとは。これだから信仰の匂いもしない国は嫌なんだ」

 

「毒づかないでよゼノヴィア。路銀の尽きた私達はこうするしかないんだから。このままじゃ食事も取れないのよ?」

 

「ふん。もとはといえば、おまえが詐欺紛いの変な絵画を購入したのが悪いんだ」

 

そう言ってゼノヴィアが指差したところには変なおっさんが描かれた一枚の絵画があった。

 

下手くそな絵だな。

 

「何を言うのゼノヴィア!この絵には聖なるお方が描かれているのよ!展示会の人もそう言ってたわ!」

 

「ああ、どうしてこんなのが私のパートナーなんだ………。主よ、これも試練なのですか」

 

「あなたって沈むときはとことん沈むわよね」

 

「うるさい!それより、今日の食事を何とかしないとエクスカリバー奪還どころじゃない。どうすれば良いんだ………」

 

「「はぁ………」」

 

 

ぐぅぅぅぅぅぅ………。

 

 

離れて見ている俺のところまで届く腹の虫。

 

二人はその場に崩れ落ちる。

 

………昨日、やり合った娘達とは思えないな。

 

さて、どうするかな。

 

正直、一人で話しかけにいくのは世間の目が怖いところだが………。

 

まぁ、女の子二人が道端で行き倒れるところなんか見たくないからな。

 

「そこの迷える子羊達。神の手じゃないけど、悪魔の手なら差しのべるぜ」

 

 

 

 

それから20分くらいが経った。

 

正直、俺はこの二人に接触したことを後悔しかけている。

 

 

なぜなら………。

 

 

「美味い!日本の料理は、美味いぞ!!」

 

「ああ、やっぱりファミレスのメニューこそ私のソウルフード!!」

 

ガツガツとファミレスで注文したメニューをたいらげていくゼノヴィアとイリナ。

 

テーブルの上に次から次へと皿が積み上げられていく。

 

ひぃ、ふぅ、みぃ………十皿以上は積まれてるな。

 

しかも、店員さんがまだ持ってくる。

 

あの細身のどこにそれだけの量が入るんだよ………。

 

「イッセー君はなんで泣いてるの?」

 

「いや、ちょっと懐事情が………」

 

君達の飯代だけで俺の財布の中は枯渇しそうです………。

 

聖書の神様。

信仰云々の前にこいつらには遠慮というものを教えたほうが良いと思います。

 

「すまない、次はこのジャンボパフェを頼めるか?」

 

 

まだ食うのか………。

 

 

 

数分後。

 

 

「信仰のためとはいえ………まさか悪魔に救ってもらうとは………世も末だ」

 

「私達は悪魔に魂を売ったのよ! 」

 

奢ってもらっといてそれかよ!

 

「ああ、主よ! 心優しいイッセー君にご慈悲を!!」

 

イリナは胸の前で十字架を刻む。

 

うっ!

頭痛が………っ!

 

「………イリナ、た、頼むから止めてくれ………。俺、悪魔だから………」 

 

「あ、そうだった。つい、癖で」

 

てへっとイリナは可愛らしく笑う。

 

普通にしてる分には美少女なんだけどな、この二人。

 

「それで、キミが私達と接触してきた理由は?」

 

ゼノヴィアが単刀直入にそう尋ねてくる。

 

どうやら、大体は察していたらしい。

 

「単刀直入に言わせてもらう。エクスカリバーの破壊に俺も協力させてほしい」

 

俺の発言に二人は驚愕していた。

 

「………目的はなんだ? 昨日、我々と関わらないように約束してもらっていたはずだが?」

 

まぁ、ゼノヴィアの言うことは最もだ。

 

悪魔は関わるなと言った翌日に協力させてくれ、と言ってきたんだからな。

 

「理由は二つある。そっちは破壊してでもエクスカリバーを回収したい、だよな?」

 

「ああ、そうだ。昨日も言った通り、堕天使に利用されるくらいなら破壊したほうがマシだからな」

 

「一つ目の理由なんだけど、木場・・・俺のところの騎士は自分と同志の怨みを晴らすためにエクスカリバーを破壊したがっている」

 

「なるほど。エクスカリバーの破壊という点では我々の利害は一致しているわけだ」

 

「そういうことだな」

 

「それで、二つ目の理由は?」

 

「まぁ、幼馴染みが死ぬところを見たくないってところかな。昨日、イリナと戦って分かったけど、おまえ達だけではコカビエルには勝てない。それはおまえ達も分かっているはずだ」

 

「………確かに、私とイリナだけでは正直無理だ。奪還も難しいだろう。無事に帰れる確率は三割以下。そういう意味ではキミが協力してくれるのはこちらにとっても大きいだろう」

 

ゼノヴィアが俺の協力に乗り気になると、イリナがそれに異を唱える。

 

「ちょっと、ゼノヴィア。相手はイッセー君とはいえ、悪魔なのよ?」

 

イリナは俺が悪魔だってことを気にしてるのか。

 

少し強引だけど、あの手を使おう。

 

「悪魔がダメなら、ドラゴンなら良いだろ?」

 

「何?」

 

ゼノヴィアが俺の言葉に反応する。

 

「俺はドラゴン―――今代の赤龍帝だ」

 

「「!?」」

 

二人とも凄く驚いているな。

 

やっぱ、赤龍帝の名前ってスゲーな。

 

ゼノヴィアはどこか納得しているみたいだ。

 

「キミから感じられるドラゴンのオーラ。それにイリナを一瞬で倒したその力量………。まさか、キミが赤龍帝だったとは………」

 

「そういうことだ。それで、どうだ? 俺の申し出を受けてくれるか?」

 

「良いだろう。最悪、上にはドラゴンの助けを借りたと報告すれば良いからな」

 

よし、交渉成立だ!

 

ふー、呑んでくれて良かったぜ。

 

危うく、食費が無駄になるところだった。

 

『随分、回りくどいことをしたものだな』

 

まぁな。

でも、こいつらに許可を貰っておいたほうが後々、面倒にならなくてすむ。

情報も入るかもしれないしな。

 

それに、俺もコカビエルは禁手無しで戦うにはキツい。

 

ドライグ、禁手はまだ時間がかかるんだろ?

 

『ああ、もう少しなんだが、最後の最後で手間取っている。………相棒の禁手は少し特殊だからな』

 

やっぱり、アレか………。

 

まぁ、そういうことなら仕方がない。

 

『すまないな、相棒』

 

気にするなって。

 

それまでは自分の力で乗りきって見せるさ。

 

「さて、そろそろ店を出るか。木場のところに行かないとな」

 

俺は会計をするため、レジに行く。

 

そこで俺は驚愕の事実を知ることになる。

 

 

「なっ………!? 9650円………だと!?」

 

 

俺の財布が悲鳴をあげた。

 

 

 

 

ファミレスを出た俺は木場に連絡をいれた後、イリナとゼノヴィアを連れて待ち合わせの場所に向かった。

 

イリナ達と一緒にいることを伝えたらすぐに応じてくれたよ。

 

待ち合わせの場所に着くと、そこには………。

 

「あれ、小猫ちゃんと匙? なんで二人がここにいるんだよ?」

 

木場だけじゃなく、何故か小猫ちゃんと匙がいた。

 

「………私は祐斗先輩を探していました」

 

「俺は小猫ちゃんに事情を聞いて木場を探すのを手伝っていたんだ。それで今、木場を見つけたところなんだ」

 

あー、やっぱり小猫ちゃんも心配してたんだな。

 

匙も手伝ってくれていたのか。

 

最初の出会いは最悪だったけど、結構良いやつだよな。

 

「それで、イッセー先輩はその二人を連れて何をしようとしてたんですか?」

 

うっ………。

まぁ、この状況で聞かれないわけがないか………。

 

誤魔化しも通用しなさそうだ。

小猫ちゃんって、かなり鋭いからな。

 

木場もいるし、ここは正直に言おう。

 

「実は―――」

 

俺は事情を話していく。

 

全てを聞き終えた後、匙が目玉が飛び出るかというくらいに驚愕していた。

 

「な、なにぃ!? 兵藤、おまえ、正気か!?」

 

「………連絡が取れないと思ったら、そんなことをしていたんですか」

 

俺がエクスカリバーの破壊に協力することにしたことを話すと匙も小猫ちゃんも驚いていた。

 

当然の反応か。

 

その横では木場とゼノヴィアが睨み合っている。

 

「エクスカリバー使いに破壊を承認されるのは、正直、遺憾だね」

 

「随分な言いようだ。そちらがはぐれなら問答無用で斬り捨てているところだ」

 

おいおい、共同作戦前なんだから、ケンカはやめてくれよ。

 

「キミが聖剣計画を憎む気持ちは分かるつもりだ。………あの事件は私達の間でも最大級に嫌悪されている。だから、計画の責任者は異端の烙印を押されて追放されたよ」

 

イリナがゼノヴィアに続く。

 

「バルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男よ。今では堕天使側についているわ」

 

聖剣計画の首謀者が堕天使側に?

 

「バルパー………。その男が僕の同志を………。情報の提供には感謝する。そのお礼として僕も情報を提供しよう。この間、僕はエクスカリバーを持った者に出会った。その男の名は―――フリード・セルゼン」

 

フリード、か。

死んではいないと思ってはいたけど、まさか今回の事件に関わっているとはな。

 

木場の情報にゼノヴィアとイリナが目を細める。

 

「なるほど、奴か」

 

「あいつを知ってるのか?」

 

俺がゼノヴィアに尋ねると、ゼノヴィアの代わりにイリナが答えた。

 

「ええ。フリード・セルゼンは十三才でエクソシストになった天才よ。多くの悪魔や魔獣を滅して功績を残していったわ」

 

「だが、奴はやり過ぎた。同胞すらも次々に手をかけていったのだからね。その結果、奴は異端として追放された。………なるほど、教会から追放された者同士が結託することはそう珍しいことでもない。もしかしたら―――」

 

「今回の件にバルパーってやつが関係しているかもしれないってことか」

 

俺がそう言うとゼノヴィアは頷いた。

 

それを見て木場の瞳には決意が生まれていた。

 

「それを聞いて、僕が協力しないわけにはいかなくなったよ」

 

木場もこの共同作戦に参加してくれる気になったみたいだ。

 

「じゃあ、話はついたわね」

 

イリナはメモ用紙にペンを走らせ、連絡先を渡してきた。

 

「何かあったらここに連絡してね」

 

「サンキュー。じゃあ、俺のも―――」

 

「イッセー君のケータイ番号はおばさまからいただいてるから大丈夫よ」

 

イリナが微笑みながら言う。

 

「マジで!?」

 

母さん、何やってんの!?

 

絶対軽いノリで小猫ちゃんと教えただろ!

 

『幼馴染みなんだし、連絡してみたら?』なんて、言ったに違いない!

 

「では、そういうことで。食事の礼はいつか返そう。赤龍帝の兵藤一誠」

 

ゼノヴィアはそう言うと踵を返した。

 

「またねイッセー君!」

 

イリナは手をブンブン振りながらゼノヴィアと共に去っていった。

 

はぁ………とりあえず、何とかなったな。

 

これで、俺の財布も報われる。

 

すると、木場が俺に言ってきた。

 

「イッセー君、君は―――」

 

「おっと、手を引けってのは無しだぜ」

 

「でも、これは僕の復讐だ」

 

「それでもだ。おまえは俺の友達だ。友達を助けないわけにはいかないだろ?」

 

「………」

 

まだ納得していない表情の木場。

 

どうしたものか。

 

俺はふと傍に立つ小猫ちゃんと匙を見る。

 

本当にタイミングが悪いところで会ってしまった。

 

眷属の皆には黙って事を進めるつもりだったんだけどな。

 

「小猫ちゃん、匙。この事は部長や会長には黙っててくれないか?」

 

そう言って、俺は二人に頭を下げる。

 

すると、返ってきたのは予想外の返事。

 

「………私もお手伝いします」

 

そう答えたのは小猫ちゃんだった。

 

小猫ちゃんは俺と木場の裾を掴み、顔をあげる。

 

その表情は寂しげなものだった。

 

「………祐斗先輩。私は、先輩がいなくなるのは寂しいです。それに、イッセー先輩も。一人で危険なことをしようとしないでください………。お願いします………」

 

なんだろう、普段と違う小猫ちゃんにときめいてしまった。

 

とりあえず、心配させてしまったんだ。

謝らないとな。

 

「ゴメンな、小猫ちゃん」

 

木場はというと、困惑しながらも苦笑いしている。

 

まさか、小猫ちゃんがこんな表情を浮かべるとは思わなかったのだろう。

 

「まいったね。小猫ちゃんにそんなことを言われたら、僕も無茶できないよ。本当の敵も分かったことだし、二人の好意に甘えさせてもらうことにするよ」

 

おお、木場も俺達の協力を受ける気になってくれたか!

 

流石の木場も小猫ちゃんには勝てないようだ!

 

俺もだけどね!

 

すると、匙が手をあげながら言った。

 

「えーと、すまん。俺はこの話に全くついていけてないんだけど………。エクスカリバーの破壊を会長やリアス先輩に黙っといてほしい、ってのは分かる。だけど、エクスカリバーと木場の関係が分からん………」

 

あれ?

小猫ちゃんから事情を聞いたんじゃなかったの?

 

「………すいません。祐斗先輩とエクスカリバーの関係までは話していませんでした」

 

今度は小猫ちゃんが答えた。

 

ああ、なるほど。

 

それだと、匙からすれば、さっきの話は理解出来てないだろうな。

 

そんな匙を見て、木場が言う。

 

「そうだね、僕の過去を話そうか」

 

木場は自分の過去を語り始める。

 

 

 

 

 

 

カトリック教会が計画していた聖剣計画。

 

被験者は剣に関する才能を持つ少年少女。

 

自由を奪われ束縛され、非人道的な実験を繰り返される毎日を送っていただけの日々だった。

 

だが、彼らは耐えていた。

 

自分たちは神に愛された特別な存在だと信じこまされていたから。

 

いつか特別な存在になれる。

 

いつか聖剣を扱える者になれる。

 

そう希望を持ち、過酷な日々に耐えていた。

 

だが、誰一人として聖剣に適合しなかった。

 

実験は失敗に終わる。

 

そして、そのことを隠匿するために行われたのが、毒ガスによる処分。

 

木場は他の仲間たちによって何とか逃れたそうだが、既に身体を毒が蝕んでおり、最早手遅れの状態だった。

 

そこに部長が現れ眷属悪魔として新たな生を得ることになった。

 

 

 

 

 

 

「僕を眷属として迎え入れてくれたリアス部長には感謝している。だけど、僕は同志達が逃がしてくれたおかげであそこから抜け出せた。………だからこそ、僕は彼らの怨みを魔剣に籠めてエクスカリバーを破壊しなければならない。これは唯一、生き延びた僕の贖罪であり、義務なんだ」

 

部長から聞いていたとはいえ、凄まじい過去だ。

 

贖罪であり、義務、か。

 

聖剣に復讐したい。

 

その気持ちは俺にも分かる。

 

でもな、木場。

 

おまえの同志は本当にそんなことをおまえに求めているのか?

 

「うおおおお!!」

 

俺の横で号泣する匙。

 

あーあ、鼻水まで垂れ流してるよ。

 

匙は木場の手を取る。

 

「木場ぁ! お前にそんな過去があったなんてな!ちくしょう! なんて非情な世の中なんだ! 酷い、酷すぎるぜ! おまえが、エクスカリバーを恨む理由も分かった!」

 

おお、力強く頷き出したぞ。

 

とりあえず、鼻水と涙を拭けよ、匙。

 

木場が困惑してるぞ?

 

だけど、匙は続ける。

 

「俺はおまえに協力するぞ!バレた時の会長のお仕置きが正直怖いが、あえて受けよう!」

 

匙は木場にそう言うと今度は俺の手を握ってきた。

 

「兵藤! 俺はおまえに感動している! 危険を省みず、仲間のために動けるなんて、なんて熱いやつなんだ! スゲーよ!」

 

「いや、おまえの方こそ! 誰かのために泣けるなんて、そう出来ることじゃない! おまえも熱い男だ、匙よ!」

 

俺は匙の手を握り返し、そう言う。

 

うんうん。

 

熱い男は嫌いじゃないぜ!

 

「………暑苦しいです」

 

「ははは………」

 

小猫ちゃんと木場が何か言ってるけどそんなのは無視だ!

 

少々、俺の予定とは変わったけど、こうしてエクスカリバーを破壊するための共同戦線が張られることになった。

 

 

 

 

この後、匙は自分の夢は会長とデキちゃった結婚するという夢を語ってくれた。

 

俺はその夢に号泣。

 

感動した。

 

男のロマンを感じたぜ!

 

そして、俺と匙は意気投合することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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5話 クソ神父との再開です!

その日の夜。

 

「こんな時間にお疲れ様です」

 

「悪魔のお仕事も大変だね」

 

玄関から俺を見送ってくれるのはアーシアと美羽だ。

 

「まぁ、お得意様のご要望だからな」

 

これから俺はイリナ達と合流するんだけど、二人には悪魔の仕事で出かけると言ってウソを着いている。

 

正直、二人を騙すのは罪悪感があるけど、これも巻き込まないためだ。

 

「じゃあ、行ってくるよ。部長が帰ってきたら言っといてくれ」

 

「分かりました」

 

「頑張ってね」

 

俺は二人に見送られながらイリナ達と待ち合わせているところへと向かった。

 

 

 

 

 

 

俺達はアーシアを助けたあの廃教会に集まっていた。

 

ここなら、部長や会長も気が付かないだろう。

 

そして、俺、木場、匙、小猫ちゃんの悪魔組の全員が黒い神父服を着ている。

 

理由はフリードがエクスカリバーを使って次々に神父を殺して回っているからだ。

 

ようするに、囮捜査だ。

 

神父の格好をしておけば、フリードの方から仕掛けてくるだろう。そう考えてのことだ。

 

ちなみに発案者はイリナ。

 

「悪魔が神父の格好をするなんてな」

 

「抵抗はあるだろうけど、我慢してね」

 

ぼやく匙にイリナがそう言う。

 

「目的のためなら、どんな手段でも使うさ」

 

木場はある程度の落ち着きは取り戻しているみたいだな。

 

一人で突っ走ってる時よりはるかにマシだ。

 

危うさが完全に消えたわけではないけど………。

 

俺達の準備が出来たのを確認してゼノヴィアが言った。

 

「効率を考えよう。これだけ人数がいるんだ、二手に別れたほうが良いだろう」

 

「力を二分するならイッセー先輩を一人とそれ以外を纏めるしかないです。それでも二分出来ている気がしませんが………」

 

小猫ちゃんの言葉に木場と匙がうんうんと頷いている。

 

ちょっと待てよ、おまえら。

 

俺をボッチにするつもりかよ。

 

「つーか、なんで匙まで頷いてるんだよ」

 

「いや………。この間、会長にグレモリーとフェニックスのゲーム映像を見せてもらったんだけどよ。あれ見れば誰でも同じ反応すると思うぜ?」

 

そう言う匙に今度は木場と小猫ちゃんがうんうんと頷いている。

 

ゼノヴィアとイリナは何のことか分からないという表情をしているな。

 

『実際そうだろう。この場にいる全員で相棒に襲いかかっても相棒は倒せまい』

 

ドライグまでそんなことを言ってきやがる。

 

なんだよ。

そんなに俺をボッチにしたいのか、おまえら。

 

拗ねるぞ?

 

その後、ゼノヴィアの提案により悪魔組と聖剣組に別れることになった。

 

「じゃあ、俺達は町の東側に行こう」

 

「では、我々は西側を回るとしよう。何かあったらイリナの携帯に連絡してくれ」

 

「了解だ」

 

そう言って、二手に別れようとしたとき。

 

「ああ、ちょっと待ってくれ」

 

俺はゼノヴィアに呼び止められた。

 

「どうしたんだ、ゼノヴィア?」

 

「キミには世話になったからね。お礼と言うわけではないが一つ情報を」

 

情報?

 

俺への情報ってなんだ?

 

俺がそんなことを考えているとゼノヴィアはその情報を明かしてくれた。

 

「―――白い龍は目覚めているぞ。気を付けろ、兵藤一誠」

 

その言葉に俺以外が戦慄した。

 

白い龍―――白龍皇バニシング・ドラゴン。

 

ドライグと同じ二天龍の一角でもある。

 

そして、赤龍帝に相対する存在。

 

ドライグから話は聞いていたけど、やっぱりいるんだな。

 

そいつと俺とは戦う運命にあるらしいが………。

 

「ああ、サンキューな、ゼノヴィア。気を付ける」

 

今は白い龍よりも木場のことだ。

 

俺は頭を切り替えて、町へと向かった。

 

 

 

 

町を歩き初めてから数分。

 

「なかなか、見つからないな」

 

「そうだね。どこかに身を潜めているんじゃないかな」

 

なんて会話を俺の後ろでしている木場と匙。

 

まぁ、流石に聖剣持ってその辺りをうろちょろするほど、フリードのやつもバカじゃないだろう。

 

「ん?」

 

俺は気配を察知して足を止める。

 

そんな俺を見て皆は怪訝な表情を浮かべる。

 

「………イッセー先輩、どうかしたんですか?」

 

小猫ちゃんが尋ねてきた。

 

「ああ、この先でフリードの気配がした。聖剣の気配と混ざってるから分かりにくかったけど、間違いない」

 

「おまえ、そんなことも分かるのかよ?」

 

「まぁな。修業すれば匙だって出来るさ」

 

「本当か!」

 

才能が皆無だった俺にでも出来るようになったんだ。

 

匙も修業すれば出来るようになるだろう。

 

ただし、地獄の修業をするはめになるけどな………。

 

「とりあえず、行ってみるか」

 

俺の言葉に三人は頷いた。

 

それから気配のした方へと足を進めると、そこははぐれ悪魔バイサーを倒した場所だった。

 

「なるほど、確かにここにフリードはいるみたいだね」

 

そう言う木場の視線の先には神父の死体があった。

 

全身が切り刻まれ、凄惨な状態だった。

 

匙は人の死体を見たのは初めてなのか手で口を押さえている。

 

「匙、大丈夫か?」

 

「………ああ、大丈夫だ。もう落ち着いた」

 

その時、寒気が俺を襲った。

 

この感覚、イリナ達と出会った時に感じたものと同じ、聖剣の気配!

 

「上だ!」

 

匙が叫び、全員が上を見る。

 

すると、聖なるオーラを放つ長剣をかまえた白髪の神父が降ってきた!

 

「神父御一行にご加護あれってね!」

 

瞬時に魔剣を作り出した木場がフリードの剣を受け、弾く。

 

フリードは宙返りしながら建物の屋根に着地する。

 

「おやおや、折角神父をチョンパしようと思ったのに悪魔のコスプレかよぉ~」

 

相変わらず、ふざけた口調だな。

 

「んん~? そこにいるのはイッセー君じゃあ、あーりませんかぁ。会いたかったぜぇ」

 

フリードも俺がいることに気づき、話しかけてくる。

 

「兵藤、あいつと知り合いなのか?」

 

「まぁな。出来れば二度と会いたくなかったけど」

 

俺の言葉を聞いて、フリードはさらにふざけた口調で言ってくる。

 

「そんなつれないこと言うなよぉ。あの時の仕返しをずっと、したかったんだからよぉ。この聖剣、《天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)》で今度こそイッセー君をズタズタにしてやるぜぇ!!」

 

はぁ、本当に懲りないやつだな。

 

今度こそ、再起不能にしてやろうか?

 

「一人で盛り上がっているところ悪いけど、おまえの相手は俺じゃない」

 

「はっ?」

 

俺の言葉に間抜けな声を出すフリード。

 

そして、その瞬間、俺の横を物凄い速さで通り過ぎるものがあった。

 

木場だ。

 

木場は魔剣をかまえてフリードに突っ込んでいく。

 

「キミの相手は僕だよ!」

 

「はっ! 脇役はすっこんでなぁ!!」

 

そこから始まる二人の剣士による剣撃の応酬。

 

空中に激しく火花が散る。

 

フリードのやつ、木場のスピードについていけるのか。

 

もしかしたら、あれが聖剣の能力なのか?

 

どちらにしても木場の騎士としての優位性が無くなったな。

 

剣の質は向こうの方が上だ。

 

「木場のやつヤバイんじゃないのか? 加勢しなくて良いのかよ? 兵藤、おまえが行けば楽勝だろ?」

 

匙の意見は正しい。

 

だけど、俺は匙の意見に反対する。

 

「いや、これは木場の復讐だ。もし、ここで俺が出ていけば木場は納得しない」

 

まぁ、本当にヤバくなったら助けるけどな。

 

「それに………俺達の相手はそこにいる、はぐれ神父どもだ」

 

そう言う俺の視線の先には黒い神父服をきたはぐれ神父がぞろぞろ姿を現していた。

 

ざっと十人くらいか。

 

さっさと片付けよう。

 

俺が前に出ようとしたとき、匙と小猫ちゃんに止められた。

 

「これ以上、おまえばっかりに良い格好させるかよ。俺だって兵士の駒を四つも消費したんだぜ? あれくらい余裕だ」

 

匙の左手の甲にデフォルメされたトカゲの顔らしきものが現れる。

 

「俺もおまえと同じ神器持ちでな。神器の名は《黒い龍脈(アプソープション・ライン)》!ラインを接続して相手の力を吸い出すことができる神器だ!」

 

おお!

 

匙も神器持ちだったのか!

 

『あれは五大龍王の一角黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)ヴリトラの力を宿した神器の一つだ』

 

へぇ、あれもドラゴン系の神器なのか。

 

一つってことは他にもあるのか?

 

『ああ、ヴリトラの力を宿した神器はいくつかあってな。まぁ、そのあたりの解説は今度にしよう』

 

そうだな。

今は目の前のことに集中しないと。

 

「………イッセー先輩は祐斗先輩をお願いします」

 

そう言って小猫ちゃんと匙ははぐれ神父達のところへと突っ込んでいった。

 

うーん。

ああ言われたら俺も下がるしかないな。

とりあえず、サポートに回るか。

 

俺は籠手を展開して力を溜める。

 

いつでも譲渡出来るようにしておこう。

 

というより、たまには籠手の力を使っておかないとドライグが拗ねる。

 

『誰が拗ねるだと? まぁ、出番が少なくて暇なのは確かだが………』

 

などと話していると………。

 

「クソッ、早く斬られろよ! クソ悪魔がぁ!」

 

聞こえてくるのは苦戦するフリードの声。

 

今見て気づいたけど、木場のやつ案外冷静だ。

修業で教えたことが出来ているから、フリードに遅れを取っていない。

技量で剣の差を埋めてるようだ。

 

このままいけば、木場だけでフリードに勝てるかもしれない。

 

匙達も俺の助けは要らなさそうだ。

 

そう思った時だった。

 

「随分、苦戦しているじゃないか。フリード」

 

男性の声が聞こえてきた。

 

声がした方を見るとそこには初老の男性。

 

「魔剣創造と赤龍帝の籠手、か。随分と厄介な代物が揃っているようだな」

 

「何しに来やがった、バルパーのじいさん!」

 

「っ!? おまえがバルパー・ガリレイか!」

 

フリードの言葉に木場がいち早く反応した。

 

まずい、仇敵を目の前にしてあいつ、冷静じゃいられなくなっていやがる!

 

「フリード、聖剣に因子を込めろ。さすれば聖剣の力をさらに引き出せる」

 

「へいへい。流れる因子よ、聖剣に!なんつってな!」

 

すると、フリードと聖剣のオーラが強くなった。

 

「さぁ、クソ悪魔君。さっさとチョンパといきましょうかぁ!」

 

っ!

 

速い!

木場の速度を越えてやがる。

 

「ぐっ!」

 

木場が魔剣で受け止めるも折られてしまう。

 

このままじゃ流石にまずいな。

 

俺も前に出ようとした時だった。

 

木場に迫る聖剣を受け止める者がいた。

 

「やぁ、遅くなったね」

 

ゼノヴィアだ。

 

「やっほー。連絡もらったから来たわよー」

 

イリナもいるな。

 

そういえば、フリードと交戦したときに小猫ちゃんが連絡入れてたな。

 

「フリード・セルゼンとバルパー・ガリレイだな。神の名のもと、断罪してくれる!」

 

「俺の前でその憎たらしい名前を出すんじゃねぇよ!クソビッチが!」

 

「待て、フリード」

 

フリードがゼノヴィアに斬りかかろうとした時、バルパーが止める。

 

「流石にこの状況では不利だ。ここは出直すとしよう」

 

「ちっ! しょうがねぇな」

 

フリードはバルパーの側に行くと俺達を見渡す。

 

「バルパーのじいさんにこう言われたんで、ここは引くとしますか。じゃあな、クソ悪魔共! この次はズタズタに切り裂いてやるよ! じゃあ、ばいなら!」

 

フリードは懐から何かを出したかと思うとそれを地面に叩きつける。

 

そして、それから激しい光が放たれた。

 

閃光弾か!

 

俺はフリード達の一番近くにいた小猫ちゃんと匙を回収した後、その場を離れた。

 

「………ありがとうございます。イッセー先輩」

 

「まさか、閃光弾を使ってくるなんてな。兵藤、木場達は?」

 

「木場とイリナ、ゼノヴィアの三人はフリード達を追って行ったよ。俺もこれからそこに向かう」

 

俺が二人にそう言って、木場を追おうとした時だった。

 

後ろから数人の気配が現れる。

 

こ、この気配は………

 

「どこに向かおうと言うのかしら? ねぇ、イッセー?」

 

振り返るとそこには会長と副会長、朱乃さん、そして部長がいた………。

 

 

 



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6話 大事なこと、思い出しました!!

「エクスカリバーの破壊って………あなた達ね………」

 

部長は額に手を当てる。

 

非常に機嫌がよろしくない表情をしている。

 

そして、俺と小猫ちゃんは部長の前に、匙は会長の前でそれぞれ正座をして説教を受けていた。

 

「サジ。あなたがこんな勝手なことをするとは思いませんでした」

 

会長が低い声音で匙に迫る。

 

怒ったときの会長、マジで怖いな………。

 

部長よりも怖いかも。

 

「ソーナ会長、待ってください。もともと、この作戦を考えたのは俺なんです。だから、罰は全て俺が受けます」

 

「発案者があなただとしても、それに参加をしたのはサジの意志でしょう? でしたら、サジも相応の罰は受けて貰います」

 

うっ………あっさり却下されてしまった。

 

でも、俺達が関係のない匙を巻き込んだのも事実だ。

 

俺が会長に食い下がろうとすると、匙に止められた。

 

「気にするな、兵藤! 俺は会長のお仕置きを覚悟の上で参加したんだからな! 受けるべき罰は受けるさ!」

 

匙………やっぱりおまえは男だよ。

 

「祐斗はそのバルパーを追っていったのね?」

 

「はい。イリナとゼノヴィアと一緒に。まぁ、フリード相手ならあの三人でも大丈夫だとは思うんですけど………」

 

「そう………。イッセーがそう言うならそうなのでしょうね」

 

そして、部長の視線が小猫ちゃんに移る。

 

「小猫まで、どうしてこんなことを?」

 

「………祐斗先輩がいなくなるのは嫌です。だから………」

 

小猫ちゃんは自分の想いを口にする。

 

部長はそれを聞いて嘆息した。

 

「………過ぎたことをあれこれ言うのもあれだけど、あなた達がやったことがどんなことか分かるわね?」

 

「はい。………すみません、部長」

 

「………はい。ゴメンなさい、部長」

 

俺と小猫ちゃんは頷き、謝った。

 

俺達がしようとしていたことは悪魔の世界に大きな影響を与える可能性が無いわけでは無かった。

 

それは分かっていた。

 

だからこそ、隠密に動いていたわけだけど………。

 

 

ベシッ! ベシッ!

 

 

音がする方を見ると、匙が会長に尻を叩かれていた!

 

しかも、魔力を籠めて!

 

あれ、絶対痛いって!

 

「あなたには反省が必要です。千回、きっちり受けて貰います!」

 

千回!?

えげつないな!

 

「兵藤ぉぉぉ! 俺は耐えるぞぉぉぉ!」

 

匙、頑張れ!

 

見てるだけでこっちの尻が痛くなる光景だ!

 

「イッセー、小猫」

 

部長が俺と小猫ちゃんの名を呼ぶ。

 

まさか、部長もするんですか!?

 

俺はつい身構えてしまう。

 

すると―――――部長が俺と小猫ちゃんを引き寄せ、抱き締めた。

 

「全く、バカな子達ね。本当に、心配ばかりかけて………。特にイッセーは一人でしようとしていたのでしょう? いくらあなたが強いといっても、あまり無茶ばかりはしないで………」

 

やさしい声音で部長は俺と小猫ちゃんの頭を撫でながらそう言う。

 

小猫ちゃんに言われたことと同じことを言われてしまった。

 

すいません、部長。

 

「さて、イッセー。お尻を出しなさい」

 

………え?

 

突然の展開に呆然とする俺。

 

この流れでですか!?

 

「下僕の躾は主の仕事だもの。あなたもお尻叩き千回よ」

 

部長はニッコリ微笑みながら右手に紅いオーラを溜める。

 

「ちょ、部長!? 何で魔力を凝縮してるんですか!?」

 

「あの修業後もあなたに教えてもらったことを継続しているの。これも私の修業の一環よ」

 

そりゃあ、継続は力なりって言うし、修業を続けているのは良いことだと思うよ。

 

でもね………俺を修業台にしなくてもいいんじゃないの!?

 

「さあ、お尻を出しなさい」

 

「………はい」

 

俺は迫る部長に逆らえず、尻を差し出した。

 

ちくしょう!

 

匙も耐えてるんだ!

 

俺も耐えてやらぁ!

 

 

こうして、俺の尻は死んだ。

 

 

 

 

俺と部長が家に帰る頃には夜の9時を過ぎていた。

 

そして、俺は尻を押さえながら家路についていた。

 

マジで痛い。

 

硬気功使えばよかったかも………。

 

まぁ、それでも衝撃は来ただろうな。

 

それくらい、痛かった………。

 

木場とは連絡が取れていない状態だ。

バルパーを見た瞬間から怒りに流されていたからな。

連絡を取ってる余裕が無いのだろう。

 

幸い、今のところ堕天使の気配は感じられない。

フリードやただのはぐれ神父程度ならあの三人で大丈夫だろう。

 

「ただいまー」

 

「ただいま帰りました」

 

俺と部長が帰宅すると、リビングから美羽とアーシアがひょっこり顔を出した。

 

「あ、イッセーさん、部長さん、おかえりなさい!」

 

「二人ともおかえりー」

 

なんか、二人とも顔だけ出して恥ずかしそうにしてるけど、どうしたんだ?

 

部長もそれに気が付いたのか訝しげな表情をしている。

 

すると、母さんの声が聞こえた。

 

「ほら、二人とも。見せなくて良いの?」

 

「ち、ちょっと心の準備が………」

 

なにやら三人で話し込んでいるようだ。

 

「仕方ないわねぇ。ほら」

 

「うわ!」

 

「はぅ!」

 

母さんに押されたのか、二人が飛び出してきた。

 

二人ともエプロン姿だった。

 

アーシアが白で、美羽は水色のエプロンだ。

 

可愛らしいフリルが着いている。

 

………ん?

 

なんか、肌の露出がやたらと多いような………。

 

こ、これは、まさかッ!!

 

は、裸エプロンだと!?

 

ちょ、ええええええ!?

 

アーシアァァァァァァ!

 

美羽ゥゥゥゥゥ!

 

二人ともなんて、素晴らしい――――否、いやらしい格好をっ!

 

「………え~と、これは………」

 

「同じクラスの桐生さんに教えてもらったんです………。キッチンに立つときはこれが正装だって………。こうすると、男性の方が喜ぶと・・・」

 

「ボクも初めて知ったよ………。まさか、下着も着けないなんて………」

 

二人とも顔を真っ赤にして、モジモジしながら呟く。

 

ぶふぁ!

 

やばい、鼻血が出てきやがった。

 

まじまじと見ると所々が透けている。

大事なところも見えそうだ!

エロいよ、エロ過ぎる!

 

桐生のやつめ!

アーシアと美羽に何てことを教えやがる!

二人とも俺の家族、守るべき存在なんだぞ!

 

そんな二人にこんな格好をさせるなんて………!

 

だけど、ありがとうございます!

 

眼福です!

 

クソ!

桐生、いい仕事してるぜ!

流石はエロの匠!

あいつには時折、負けを認めざるを得ないぜ!

 

「うふふ、可愛いでしょう? 母さん、こういうのは大賛成よ。ああ、若い頃を思い出すわぁ、父さんもあの頃は、うふふ………」

 

ちょっと、待てぇぇぇい!!!

 

今、なんと!?

若いころは、って母さんもこういうことを父さんとしてたのかよ!

 

ああ、やっぱり俺はあんた達の息子だよ!

遺伝子しっかり受け継いじゃってるよ!

 

「………なるほど、その手があったわね。まさか、二人に先手を取られるなんて………」

 

俺の隣で、何やら悔しそうにつぶやく部長。

 

な、何事ですか………?

 

「分かったわ。二人がそう来るなら、私もやってみようじゃない。お母様、私にも裸エプロンをお願いします!」

 

「了解よ、リアスさん! さぁ、こっちに!」

 

「はい!」

 

部長は気合を入れて母さんの案内に従い、この場を去った。

 

おーい! 

何やってるんですか、部長!?

対抗しないで!

 

「えっと、それでどうかな? ボク達のこの格好」

 

俺は鼻血を大量に流しながら二人の肩に手を置く。

 

「ああ………! 似合ってる。スゲェ似合ってるよ、二人とも。俺は今、感動すらしているよ。ありがとうございます。眼福です」

 

お礼を言う俺。

 

そうさ、俺はこれを見ただけでエネルギーを回復できたぜ。

もう、HPどころかMPまでマックスだよ。

 

「なぁ、アーシア」

 

「はい」

 

「もし教会の連中が来て、アーシアを傷つけようとするなら、俺が守る。アーシアが怖いと思っているやつは全部、俺が追い払ってやる」

 

突然の俺の言葉にアーシアは少し驚いている。

 

俺もこの流れで言うのはどうかとは思った。

だけど、この思いは伝えておきた。

 

俺はアーシアの頭を撫でながら続ける。

 

「アーシアのことは俺が守る。いや、俺だけじゃないな。部長や眷属の皆だってアーシアのことを守りたいと思っているんだ。だから、心配するな」

 

すると、アーシアが抱き着いてきた。

 

アーシアちゃん!

裸エプロンでそんなことしたら、色々なところが当たってしまう!

 

「………私、悪魔になったことは後悔していません。今は主への思いよりも大事なものがあります。イッセーさんや美羽さん。部長さんや学校のお友達、お父さま、お母さま、皆が私にとって大事なものです。離れたくありません。………私、もう独りは嫌です」

 

「ああ。俺たちはアーシアを絶対に独りなんかにしないよ。これからもずっと一緒だ」

 

美羽はアーシアの肩に手を置いて言った。

 

「大丈夫だよ。お兄ちゃんは約束を絶対に守ってくれるから。ボクのことも守るって言ってくれて、ずっと守ってくれた。だから、信じて」

 

「はい!」

 

アーシアは笑顔でそう答えた。

 

うん、やっぱり笑顔が一番だ。

 

すると、美羽が今度は俺の鼻に指を当てて言った。

 

「だけど、あまり一人で無茶をしたらダメだよ? 今回はコカビエルっていう危ない人も絡んでるんでしょ?」

 

あらら………。

これは、一人で動こうとしたことがバレてるな。

 

流石は美羽。

鋭いな。

 

「お兄ちゃんが強いのはボクも分かってる。………でもね、お兄ちゃんもボク達のことをもっと頼って。お兄ちゃんが傷ついたら、お兄ちゃんを想ってるボク達も傷つくんだからね?」

 

小猫ちゃんや部長にもいわれたな。

一人で無茶するなって。

 

………そうだよな。

 

今回、俺は一人で動こうとしすぎたのかもしれない。

 

コカビエルなんて大物が絡んでくる以上、誰かが死ぬかもしれない。

 

そんなことは嫌だった。

 

だけど、美羽の言った通りだ。

 

誰かが傷つけばその人を想って、また誰かが傷つく。

俺が傷つけば俺を想ってくれている皆が傷つく。

そんな当たり前のことが今回、俺の頭からは抜けていた。

 

俺は美羽の言葉で大事なことを思い出せた。

 

「美羽の言う通りだよな。ゴメン、気を付けるよ。それから、ありがとな。大事なことを思い出せたよ」

 

「うん。分かってくれたらそれでいいよ」

 

美羽はそう言うとニコリと笑みを見せる。

 

そこで、俺は一つ疑問に思った。

 

「ちょっと待てよ。美羽にはコカビエルについては話してなかったよな? なんで知ってるんだ?」

 

「ギクッ!」

 

俺が尋ねると、体をビクつかせる美羽。

 

つーか、声に出てるし。

 

美羽には木場や聖剣については成り行きで話した。

だけど、コカビエルについては一切話していない。

 

それなのに、なぜ美羽は知ってる?

 

すると、美羽は申し訳なさそうに答えた。

 

「………え~と、お兄ちゃんが早く帰れって言ったあの日。実は部室を魔法で盗聴してました………。ごめんなさい………」

 

美羽は深々と頭を下げて謝罪する。

 

驚愕の事実に俺は天を仰ぐ。

 

マジか。

あの日、魔法の気配なんて一切しなかったぞ………。

魔法の痕跡も感じられなかったし………。

 

小猫ちゃんは俺を規格外だというけど、俺からしたら美羽の方がよっぽど規格外だと思う。

 

流石はシリウスの娘。

 

おっと、感心してる場合じゃない。

 

ここは兄として説教せねば。

 

俺は視線を美羽に戻し注意しようとした。

 

その時、だった。

 

「イッセー!私も着てきたわよ、裸エプロン!」

 

部長が現れたのでそっちを見ると、美羽やアーシア以上にきわどい裸エプロン姿だった!

 

大事なところがギリギリ隠れている程度で、なんとかエプロンだと認識できる代物だ。

 

 

ブファァァ!

 

 

俺は再び鼻血を噴出した。

 

なんて、エロい恰好をしてるんですか、部長!

 

それ、本当にエプロンなんですか!?

 

いや、もうそんなことはどうでもいいか。

 

この美女美少女三人の裸エプロンが見られただけで、十分だ。

 

そして、俺は幸福感に包まれながら、貧血でその場に倒れた。

 

 



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7話 堕天使幹部と遭遇です!!

最近、忙しくて中々書けないです(泣)




裸エプロン事件の夜。

 

俺は一人眠れないでいた。

 

だって、部長や美羽、アーシアが俺のベッドで寝てるんだぜ?

しかも、全員全裸で。(これは完全に部長の影響だよなぁ)

 

裸エプロンのこともあったし、興奮して目が完全に覚めちまった。

 

そういうわけで、俺はリビングで録画しておいたアニメを見ている。

最近、忙しくて見る暇が無かったからな。

 

息抜きには調度いい。

この機会に溜まっているのを全部見てしまうか。

 

明日は日曜日だし、夜更かししても問題ないだろう。

 

 

 

 

それから少し時間が経った頃。

 

アニメを見ながらカーペットの上でゴロゴロしていると、階段の方から足音が聞こえてきた。

そして、リビングの扉が開かれる。

 

顔を上げると美羽がドアの所に立ってるのが見えた。

 

「あ、お兄ちゃん。やっぱり起きてたんだ」

 

そう言いながら近づいてくる美羽。

 

流石に全裸ではなかった。

 

だが、その格好はなんと、裸ワイシャツ!

 

おいおい、裸エプロンの次は裸ワイシャツですか!?

しかも、そのワイシャツって、この前俺があげたやつじゃねぇか!

俺が着れなくなったやつが欲しいって言ってきたからあげたんだけど、こう使ってくるとは!

 

「美羽!? なんて刺激的な格好を!」

 

明らかに胸のサイズが合ってないからボタンが外れている。

 

「これ? 桐生さんに教えてもらったの」

 

また、あいつか!

 

よし。

今度、礼を言っておこう。

 

流石っす、桐生さん。

マジで半端ないです。

正直、全裸よりもエロい気がします。

 

いやいや、そうじゃないだろ!

とりあえず、落ち着け俺!

 

「さっきまで寝てたよな?」

 

「うん。喉かわいちゃって」

 

美羽はコップにお茶を注ぎ、飲み干す。

 

それから美羽は俺の隣にちょこんと座った。

 

「どうした? 寝ないのか?」

 

「う~ん、一度起きると中々眠れなくて」

 

あー、そういうことあるよな。

 

となると、どうするか。

 

美羽はこのアニメ見てないからなぁ。

 

「どうする? ゲームでもするか?」

 

「そうだね~。じゃあ………」

 

美羽が言いかけた時だった。

 

「「!!」」

 

嫌な気配を感じた。

 

俺と美羽は立ち上がり、庭に飛び出る。

 

その気配がした方角を見た。

 

今の感じ、まさか――――

 

『ああ、堕天使だな。しかも、力を使っているようだな。この力の波動、並の堕天使ではあるまい』

 

コカビエルが出てきやがったのか。

 

しかも、この気配の近くには木場達の気配も感じられる。

 

これはマズいな。

 

「行くんだよね?」

 

「ああ。フリードだけならあの三人でも大丈夫だと思ったけど、堕天使が出てきたんなら話は別だ」

 

今の木場達ではコカビエルには勝てない。

 

どうやら最上級悪魔以上の力を持っているらしいからな。

 

下手すれば命を落とすこともあり得る。

 

早く助けに行かないとな。

 

「ボクも行くよ」

 

美羽が俺の手を握って言ってきた。

 

言うとは思ってたけどね。

 

「兄としては危険なところに妹を連れて行きたくないんだけど………」

 

「お兄ちゃんばかりに危険なことはさせられないよ。それにボクだって木場君達を助けたい」

 

真っ直ぐな目で俺の眼を見てくる。

 

こうなると、俺の言うことを聞いてくれないんだよなぁ。

 

アーシアを助ける時もこんな感じだったし。

 

仕方がないか………。

 

「分かった。皆には一人で無茶するなって言われてるしな。ただし、いつでも逃げれるようにはしておけよ?」

 

俺がそう言うと美羽は頷く。

 

すると、2階の窓が開かれ、制服姿の部長が下りてきた。

 

どうやら、部長も気が付いたらしい。

 

「イッセー、美羽。やっぱりあなた達も気が付いていたのね?」

 

「ええ。今から堕天使のところに向かいます」

 

「っ!? ダメよ、危険すぎるわ!」

 

声を荒げる部長。

 

まぁ、心配するのも無理はないか。

 

「大丈夫です。危険を感じたらすぐに逃げますよ。それに、今回は一人じゃありませんし」

 

「まさか、美羽も行くのかしら?」

 

「はい。二人で行けば逃げることも難しくはないと思います。あと、最悪の場合はティアを呼びますし」

 

俺の言葉を聞いて手を顎にやって考える部長。

 

「………そうね。魔王に匹敵する力を持つ彼女もいれば………。二人が行くことを認めるわ。その間に私は朱乃やソーナ達に連絡を入れて態勢を整えておきましょう。何かあればすぐに連絡すること。良いわね?」

 

「了解です、部長」

 

そうだな、それが一番良い選択だろう。

 

「じゃあ、早く行こうよ!」

 

部長の承認を得たことを確認すると美羽は駆けだした。

 

俺はそれをあわてて止める。

 

「美羽、ちょっと待て!」

 

「どうしたの? 早く行かないと木場君達が危ないよ!」

 

「自分の姿を見てみろ」

 

俺がそう言うと美羽は顔を下に向けて自分の姿を確認する。

 

「あ………」

 

そう、今の美羽はワイシャツを一枚だけ身に着けてる状態。

 

いくら急いでいるとはいえ、そんな格好で行くのは流石にマズい。

 

「………まずは着替えような」

 

「………うん」

 

耳まで真っ赤にしながら家に戻る美羽であった。

 

 

 

 

支度を終えた俺と美羽は直ぐに気配を感じた場所に来た。

 

ここは町はずれにある小さな山だ。

人通りも少なく、辺りが暗い。

ここなら、多少の戦闘をしても一般人に気付かれる心配はないだろう。

 

それだけは幸いだな。

 

到着して、目に入ったのはイリナがフリードに襲われている姿だった。

 

木場とゼノヴィアの姿が見当たらないのが気になるけど、それは後回しだ!

 

「美羽、助けるぞ! 援護を頼む!」

 

「うん!」

 

俺は美羽に指示を出すと、フリードに襲われているイリナの元へと走った。

 

何故かイリナの手には聖剣が無い。

 

まさか、奪われたのか!?

どちらにしろ、マズい!

 

俺は拳を握り、イリナを木に押し付けているフリードに殴りかかる。

 

「俺の幼馴染みに手を出してんじゃねぇよ!!」

 

「のわっ!?」

 

俺の攻撃に気付いたフリードは大きく後ろに跳んで、これを回避。

 

そして、俺の拳はフリードがいた場所に大きなクレーターを作り出す。

 

フリードから解放され、力なく崩れ落ちるイリナ。

 

「イリナ、大丈夫か?」

 

「………イッセーくん?………助けてくれたんだ………」

 

俺はイリナを抱き抱え、傷の具合を確認する。

 

戦闘服はズタズタに切り裂かれ、体の至るところから血を流している。

意識はあるけど、呼吸も荒く傷も深い。

かなりの重傷だ。

 

早いことアーシアに治療してもらわないとな。

 

「木場とゼノヴィアは?」

 

「………二人は無事に逃げたみたい………でも、私は一人逃げ遅れて………」

 

そこまで言うとイリナは気を失った。

 

「これはこれは、イッセーくんじゃないですか。邪魔しないでくれるかなぁ~。今からその娘を始末するんだからさ!」

 

フリードがそう言いながら剣を構えると、そこに風の魔弾が放たれる。

 

「させないよ!」

 

美羽が掌を前に突き出しながら、フリードを牽制する。

 

そして、フリードに注意を払いつつ俺の傍に駆け寄ってきた。

 

「イリナさん、ケガしてるの!?」

 

「ああ、かなりの重症だ。早くアーシアの治療を受けないと………」

 

「イリナさんはボクに任せて。治癒魔法である程度の応急処置はできると思うから」

 

おお!

美羽は治癒魔法も仕えたのか!

流石だな!

 

「分かった。イリナのことを頼む。俺は………」

 

俺はイリナを美羽に預け、立ち上がる。

そして、フリードと空に浮かぶ男を睨みつけた。

 

その男は十枚もの黒い翼を広げ、俺を観察するような目で見ていた。

 

ドーナシークなんかとは比べ物にならない程のオーラを感じる。

 

これは禁手じゃないとキツい相手だな。

 

「そのオーラとその翼。………てめぇがコカビエルか」

 

「いかにも。我が名はコカビエル。おまえは何者だ?」

 

コカビエルの問いに俺は籠手を展開する。

 

「ほう、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)か」

 

「ああ。俺は兵藤一誠。上級悪魔、リアス・グレモリー様の眷属で今代の赤龍帝だ」

 

「なるほど。この町の管理者、リアス・グレモリーが赤龍帝を手にいれたという噂は本当だったか。その龍のオーラ、忌々しい限りだ。大戦の時を思い出す」

 

コカビエルはどこか納得したような表情をしている。

 

赤龍帝が悪魔になったことは結構知られてるみたいだ。

 

「俺の幼馴染が随分世話になったみたいだな………」

 

俺は美羽の治療を受けているイリナを横目で見ながらコカビエルとフリードに殺気を放つ。

 

放った殺気は周囲の木々を激しく揺さぶり、地面にヒビを入れる。

 

「この殺気。今代の赤龍帝はかなりの実力者のようだな………」

 

「うひょ~。さっすがはイッセー君。半端ないっすねぇ」

 

コカビエルは驚きながらも嬉嬉とした表情を浮かべ、フリードは汗を流しながら僅かに後ずさる。

 

「コカビエル、単刀直入に聞くぞ。エクスカリバーを盗んだ挙句、この町に来て何が目的だ?」

 

「おまえの主、リアス・グレモリーの根城であるこの町で少し暴れさせてもらおうと思ってな。そうすればサーゼクスが出てくるだろう?」

 

サーゼクスさん………つまり魔王を引張り出したいのか。

 

「そんなことをすれば神と堕天使、悪魔の戦争が再び勃発する。それは分かっているはずだ」

 

俺がそう言うとコカビエルは笑みを浮かべながら答えた。

 

「それは願ったり叶ったりだ。エクスカリバーを盗めばミカエルが攻めてくるだろうと思ったのだが、よこしてきたのは雑魚の聖剣使いが二人。あまりにつまらん。だから俺は、悪魔の、魔王の妹の根城で暴れることにしたのさ」

 

ミカエル。

 

その名前は俺も知ってる。

 

確か、神の次に偉い大天使だったはずだ。

 

そんな大物にまで喧嘩を吹っかけたのか。

 

「まさか、おまえは戦争がしたいがためにこんな騒動を起こしたってのかよ?」

 

「その通りだ、赤龍帝。物わかりが良くて助かるよ。――――そう。俺は戦争がしたい。三つ巴の戦争が終わってから俺は退屈してたんだ! アザゼルもシェムハザも次の戦争に消極的でな。神器なんぞ集め始めて訳のわからない研究に没頭し始める始末だ。誰も戦争を起こそうとしない。そこで俺は思い至った。それならば、自らの手で戦争を起こせばいい、とな」

 

コカビエルの言葉を聞いて、俺ははらわたが煮え返りそうになった。

 

戦争がしたい、だと?

 

ふざけるなよ………!

 

「っ! 先ほどよりも殺気が強くなったか。それに後ろにいる娘も激しい怒りのオーラが感じられるな」

 

コカビエルの言うとおり、美羽から凄まじいオーラが放たれていた。

 

普段の美羽からは想像できない程の怒りのオーラ。

 

当然だ。

 

俺も美羽も戦争の悲惨さを知っている。

俺達は戦争で大切なものを失った。

俺は親友を失い、美羽は父親を失った。

目の前で死んでいった人達もたくさん見てきた。

 

だからこそ、こいつが軽々しく戦争という言葉を言ったことが許せない………!

 

「コカビエル。おまえは俺達の前で絶対に言ってはいけない言葉を使った。………てめぇは俺がこの手で潰す!」

 

それを聞いたコカビエルは愉快そうに笑う。

 

「ハハハ! 面白い! 俺はおまえ達が通う学園を中心に破壊活動を行う。止めたければいつでも向かってくるのだな! フリード、行くぞ」

 

「俺っちとしてはここでやり合いたいんすけどねぇ。まぁ、ボスがそう言うならしょうがないっすねぇ。イッセー君、じゃあまたあとでねぇ。はい、ちゃらば!!」

 

フリードはそう言うと、また閃光弾を使って姿を消しやがった。

 

光がやむとコカビエルの姿も消えていた。

 

あいつらが向かった先は駒王学園。

 

あいつ、本気で戦争をしたいらしいな。

 

「美羽、イリナの状態は?」

 

「一応、応急処置はできたよ。ただ、思ってたより傷が深いからアーシアさんに治療してもらった方が良いと思う。ボクの治癒魔法だと治すのに時間がかかるし」

 

「分かった。部長に連絡してアーシアを家に送ってもらおう。俺達はイリナをアーシアに診てもらった後に部長達と合流しよう」

 

 

 

 

この後、俺は部長に連絡して起こったことをすべて話した。

 

とりあえず、アーシアを家に送ってもらえたので、イリナを治療してもらうことができた。

 

イリナも今は呼吸が安定しており、顔色もだいぶ良くなっている。

 

これでイリナのことは一安心か。

 

残る問題は盗まれたエクスカリバー、バルパー・ガリレイ、フリード、そして………コカビエル。

 

てめぇらの好きには絶対にさせねぇ!

 

「アーシア、美羽、行くぞ!」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

俺は二人を連れて学園へと向かった。

 

堕天使幹部との戦いが幕を開ける!

 

 

 



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8話 決戦、駒王学園!!

更新遅くなりました!

次話は現在、執筆中なのでもう少し早く更新出来ると思います。


「リアス先輩。現在、学園を大きな結界で覆ってます。これでよほどのことがない限りは外に被害は出ません」

 

匙が部長に現状報告をしていた。

 

匙の動きが微妙にぎこちないような………。

 

尻叩きの影響かな?

 

木場をのぞいた部員メンバー全員が今、駒王学園の前にいる。

 

匙の言う通り、シトリー眷属によって学園は大きな結界に覆われている。

ただ、これはあくまで、中で起きたことを外に出さないための措置。

 

相手はコカビエルだ。

正直、この結界では心もとない。

 

「これは飽くまで最小限に抑えるものです。正直言って、コカビエルが本気を出せば学園どころかこの町ごと崩壊させることも可能でしょう」

 

会長が匙の説明に付け加える。

 

やっぱりそれだけの存在なんだな、コカビエルは。

 

「美羽、あの魔法陣が何か分かるか?」

 

俺が指差す方向には校庭全体に描かれた魔法陣。

 

その中央には四本の剣が神々しい光を発しながら、宙に浮いている。

 

「うーん、ボクにも良く分からないよ。ただ………」

 

「ただ?」

 

美羽がそこで言葉を切ったので俺は聞き返した。

 

「あの魔法陣、凄く嫌な感じがする………」

 

美羽がそう言うってことはよっぽどヤバイやつなんだろうな。

 

さて、どうするかな………。

 

ドライグ、禁手の状況はどうよ?

 

『後十分弱と言ったところか。それくらいならティアマットの手を借りずとも何とかなるだろう』

 

十分………ドライグの言う通り、それくらいならコカビエルの相手をするのにティアの手を借りる必要はないか。

 

それに、コカビエルは俺自身の手で殴っておきたいからな。

 

「ありがとう、ソーナ。あとは私達がなんとかするわ」

 

「リアス、相手はケタ違いの化け物なのですよ?」

 

ソーナ会長の声を遮るように部長が言う。

 

「分かってる。だからこそお兄様に連絡するよう、朱乃に言っておいたわ。………朱乃、お兄様はなんて?」

 

朱乃さんが一歩前に出て答える。

 

「あと四十分程度で到着するようですわ」

 

「四十分………。分かりました。その間、私達シトリーで結界を張り続けて見せます」

 

会長が決意を示す。

 

だけど、俺はそれに待ったをかけた。

 

「会長、結界の方に美羽を回します。いけるな、美羽」

 

「うん、任せて」

 

美羽は頷くと魔法陣を展開させて結界を強化する。

 

これには会長は驚き、部長は感嘆の声をあげる。

 

「これは………。なるほど、これならかなりもちそうですね」

 

「流石は美羽ね。私や朱乃に魔法を教えられるだけはあるわ」

 

よし、これで結界の方は何とかなるはずだ。

 

「さあ、私達も行きましょうか。皆、死んではダメよ。生きてあの学園に通いましょう!」

 

「「「はい! 部長!」」」

 

俺たちは気合の入った返事をする。

 

「頼んだぞ、兵藤!」

 

「ああ、任せろ! 匙も結界の維持、よろしくな!」

 

俺と匙は拳を合わせる。

 

すると、今度は美羽が俺の傍に寄ってきた。

 

「必ず、あいつをぶちのめしてきてやる。心配すんな」

 

「うん!」

 

俺はニカッと笑みを浮かべると美羽も微笑み返す。

 

さて、美羽と約束した以上、絶対に負けるわけにはいかないな。

 

行くぜ、ドライグ!

 

『相手は聖書に記されしコカビエル。不足はない。奴にドラゴンの力を見せつけてやれ』

 

 

 

 

堂々と正面から入り、コカビエル達の前に俺たちは立った。

 

目の前には魔法陣の傍にいるバルパー。

 

そして、宙で椅子に座って、俺たちを見下ろすコカビエル。

 

どうでもいいけど、椅子を浮かしてるのは堕天使の力か?

便利だな。

 

「こんなデカい魔法陣を敷いて何をするつもりだよ?」

 

疑問を口にする俺。

 

「四本のエクスカリバーを一つにするのだよ」

 

バルパーは笑みを浮かべながら答えた。

 

「バルパー、あとどれぐらいでエクスカリバーは統合できる?」

 

「五分もかからんよ、コカビエル」

 

「そうか。では引き続き頼む」

 

コカビエルはバルパーの答えを聞いた後、俺たちの方に視線を戻した。

 

「初めましてだな、リアス・グレモリー。その紅髪、おまえの兄にそっくりだ。忌々しくて反吐が出そうだよ。それで? 今回来るのはサーゼクスか? それともセラフォルーか?」

 

「魔王さまの代わりに私たちが相手になるわ!」

 

部長が答えた瞬間、閃光が走り、体育館を吹き飛ばした。

 

体育館が跡形も無くなってしまった。

 

「実につまらん。だがまぁ、余興にはなるか」

 

馬鹿デカい光の槍だな。

 

ドーナシークが使っていたものなんか比較にできないほどの大きさだ。

 

悪魔の俺が生身でくらったら即アウトかな。

 

『ビビったのか相棒?』

 

まさか。

あれくらいでビビるかよ。

 

「さて、俺のまずはペットと遊んでもらおうか」

 

コカビエルが指を鳴らす。

すると、魔法陣がいくつも展開され、十メートルはあるであろう三つ首の犬が出てきた。

 

数は十体は超えている。

 

「ギャオオオオオオオオォォォォォォンッッ!」

 

三つ首から発せられた咆哮が周囲を震わせる。

 

うるせぇ!

 

俺は耳を指で塞ぎながら部長に尋ねた。

 

「部長、あれは?」

 

「ケルベロス―――地獄の番犬の異名を持つ有名な魔物よ」

 

ケルベロスって漫画とかにも出てくるアレか。

 

へぇ、あれがそうなのか。

 

「本来は冥界に続く門の周辺に生息しているの。それを人間界に連れてくるなんて! 行くわよ、朱乃!」

 

「はい、部長!」

 

部長と朱乃さんがケルベロスに向かい飛んで行った。

 

よし、俺も行きますか!

 

俺は籠手を展開して倍加をスタート!

 

『Boost!』

 

籠手から倍加の音声が発せられる。

 

「アーシアは防護障壁を張って身を守ってくれ。誰かが負傷したらオーラを送って治療を頼む!」

 

「分かりました! 皆さんのケガは私が治します!」

 

うん、良い返事だ!

 

早速、俺の近くにいたケルベロスがうなり声をあげながら突っ込んで来た。

 

「アーシア、下がってろ!」

 

「は、はい!」

 

俺の指示に従いアーシアは後退する。

 

すると、ケルベロスはアーシアの方に狙いを変えやがった!

 

「ガアアアアア!!!」

 

「てめぇの相手は俺だよ! 駄犬!」

 

突進してくるケルベロスの頭を上から殴り付ける。

 

錬環勁気功で強化した俺の拳はケルベロスをグラウンドにめり込ませた。

 

「よし、次だ!」

 

「………地獄の番犬を一撃ですか………。やっぱりイッセー先輩は色々おかしいです」

 

うーん。

なんか、凄く失礼な事を言われた気がする。

 

というより、そう言う小猫ちゃんだって既に倒してるじゃん。

 

………見ると、小猫ちゃんが倒したケルベロスの体は至るところが凄い形に変型してる。

 

小猫ちゃん、やり過ぎだよ。

 

よく考えると凄い光景だよな。

 

ロリロリの小猫ちゃんの後ろにボコボコの魔獣が倒れてるんだぜ?

 

なんて恐ろしい光景なんだ。

 

 

ブォン!

 

 

小猫ちゃんがケルベロスの死骸をこっちに投げてきた!?

 

「なんで!?」

 

「………ロリって言ったからです」

 

「………いつも思うんだけどさ、小猫ちゃんは俺の心を読む能力でも持ってるの?」

 

「………」

 

黙らないで何か答えて!

 

気になるから!

 

「………馬鹿な事を言ってないでさっさと倒してください」

 

小猫ちゃんはそう言うと他のケルベロスに躍りかかる。

 

あー、気になる!

なぜ、小猫ちゃんがいつも俺の心を読んでくるのか!

 

「ガアアアア!!!」

 

おっと。

また、来やがった。

 

とりあえず、小猫ちゃんのことはまた改めて聞くとしよう。

なんか、炎を吐いてきたし。

 

「そんな炎で俺がやられるかよ!」

 

まだ、ライザーの炎の方が熱かった。

 

あんなしょぼい攻撃なんか屁でもねぇ!

 

素早く懐に入り込み、顎目掛けてアッパー!

 

顎が砕ける感触が拳を通じて伝わってくる。

 

よっしゃあ!

これで二体目!

 

すると、上空で俺達の戦いを眺めていたコカビエルが感嘆の声を上げる。

 

「ケルベロスを一撃とは………。流石は赤龍帝と言ったところか。リアス・グレモリーと他の眷属も中々やるようだ」

 

「当たり前だろ。俺の仲間を舐めると痛い目みるぜ?」

 

「それは楽しみだ。だが、赤龍帝。アレは良いのか?」

 

コカビエルが指差す方向にはケルベロスに襲われているアーシアの姿。

 

今は防御障壁で防いでいるけど、障壁にはヒビが入っている。

 

あれでは長くもたない。

 

「アーシア!」

 

部長の焦る声。

 

だけど、心配はいらない。

 

 

なぜなら―――

 

 

「遅くなりました、部長」

 

「加勢に来たぞ、グレモリー眷属」

 

 

首を斬り落とされ、アーシアを襲っていたケルベロスは絶命した。

 

そこには、魔剣を構える木場と聖剣を構えるゼノヴィアの姿があった。

 

 

 

 

 

「遅ぇよ、イケメン王子!」

 

「ハハハ、ごめん」

 

「とりあえず、遅れた分はきっちり働いてもらうからな」

 

「もちろんだよ、イッセー君!」

 

 

木場はそう言うとケルベロスに斬りかかる。

騎士のスピードで翻弄して次々と斬撃を与えていく。

 

ゼノヴィアはというと木場同様にケルベロスに斬りかかっていた。

 

破壊力抜群の一撃がケルベロスの腹を割る。

 

傷口からは煙が立ち込め、胴体が大きく消失していく。

 

「聖剣の一撃は魔物に無類のダメージを与える!」

 

トドメの一撃を受けたケルベロスは体が塵と化して消滅した。

 

相性抜群だな!

 

「私達も負けていられませんわ!」

 

「ええ。一気に片付けてしまいましょう!」

 

朱乃さんと部長が特大の魔力を放つ!

 

雷と滅びの魔力が生き残っていたケルベロスを全て消滅させる。

 

あんなのは絶対にくらいたくないな。

 

まともにくらったら重傷だろうな。

 

『そうか? 相棒なら耐えられるんじゃないのか?』

 

ドライグ………おまえは俺のことをなんだと思ってるんだよ?

 

俺はライザーみたいに不死身じゃねぇんだよ。

 

『禁手ならどうなんだ?』

 

まぁ、それなら耐えられるかな。

 

「消し飛びなさい!!」

 

部長がコカビエルに対して滅びの魔力を放った。

 

さっきのやつよりもデカい。

 

朱乃さんもそれに続く。

 

よし、俺も!

 

『Transfer!』

 

気弾を手元に作り出し、力を譲渡!

 

「くらいやがれぇ!!」

 

俺達三人が放った攻撃は空中で混ざり、コカビエルを襲う!

 

 

バシィィ!!

 

 

俺達の攻撃を受け止めながらコカビエルは嬉々とした表情を浮かべる。

 

 

「フハハハ!! 良いぞおまえ達! ここまでとは思わなかった! 面白い! 実に面白いぞ!」

 

おいおい、マジかよ。

 

あいつ、今のを受け止めやがった!

 

しかも、笑っていやがる!

 

『だろうな。やつは過去の大戦で魔王、神を相手にして生き残ったのだからな。あれくらいは当然だ』

 

分かってたけど、とんでもねぇな。

 

やっぱり、あいつを相手取るには禁手じゃないとキツい………か。

 

「―――完成だ」

 

聞こえて来たのはバルパーの嬉々とした声。

 

神々しい光が校庭を覆う。

 

あまりの眩しさに俺を含めた全員が顔を手で覆った。

 

四本のエクスカリバーが一本に統合される。

 

そして、陣の中心に異形の聖剣が現れた。

 

「エクスカリバー………ッ!」

 

木場が憎々しく呟く。

 

エクスカリバーが統合されたことで笑みを浮かべるバルパー。

 

「エクスカリバーが一本になった光で下の術式も完成した。あと20分程度でこの町は崩壊するだろう。早く逃げることをオススメする」

 

「「「!?」」」

 

バルパーの言葉にこの場にいる全員が驚いた。

 

駒王町が崩壊!?

 

クソッ、美羽が嫌な感じがすると言ってたのはこれか!

 

皆が焦る中、木場がバルパーに近づいていく。

 

「バルパー・ガリレイ。僕はあなたの聖剣計画の生き残りだ。いや、正確にはあなたに殺された身だ。今は悪魔に転生したことで生き永らえている」

 

冷静な口調で言う木場だが、はっきりとした憎悪が木場から感じられる。

 

「僕は死ぬわけにはいかなかったからね。死んでいった同志のために!」

 

木場が剣を構えてバルパーに斬りかかる!

 

だが、コカビエルが木場を狙っている!

 

マズい!

 

「待て! 避けろ木場ァ!!」

 

 

ドオオォォォォォン!!

 

 

コカビエルの槍が木場を襲う!

 

間一髪で避けたから直撃はしていないが、攻撃の余波で木場はボロボロになってしまった。

 

「直撃は避けたか。赤龍帝に感謝するんだな」

 

「コカビエル! てめぇ!」

 

「ふん。フリード」

 

コカビエルがあのクソ神父を呼ぶ。

 

「はいな、ボス」

 

バルパーの後ろからフリードが現れた。

 

「陣のエクスカリバーを使え。最後の余興だ」

 

「ヘイヘイ。全く、俺のボスは人使いが荒くてさぁ。でもでも、素敵に改悪されちゃったエクスカリバーちゃんを使えるなんて、感謝感激の極み、みたいな? ウヘヘ! さーて、悪魔ちゃんでもチョッパーしますかね! いや、ここはまずイッセー君をやっちゃいましょうか!」

 

相変わらずふざけたことを言いながら、フリードが合体したエクスカリバーを握った。

 

俺をご指名かよ………執念深いやつだな。

 

『というより、愚かだな。あの程度で相棒を殺そうなど片腹痛い』

 

俺もその意見には同意するぜ、ドライグ。

 

フリードなんぞに俺が負けるかよ。

 

「うっ………」

 

木場が立ち上がろうとするが、その場に膝を着く。

息も荒い。

思った以上にダメージが大きい。

 

「被験者の一人が脱走したとは聞いていたが、卑しくも悪魔になっていたとは。それもこんな極東の国で会うとは数奇なものだ」

 

バルパーが木場に近づき、語りかける。

 

「だが、君達には礼を言う。おかげで計画は完成したのだから」

 

「………完成?」

 

「君達、被験者にはエクスカリバーを操るほどの因子はなかった。そこで、私は一つの結論に至った。被験者から因子だけを抜き出せば良い、とな」

 

「っ!?」

 

バルパーの言葉に木場は目を見開く。

 

バルパーは自慢げに話を続ける。

 

「そして、私は因子を結晶化することに成功した。これはあの時に出来たものだ。最後の一つになってしまったがね」

 

バルパーが懐から輝くクリスタルのようなものを取り出した。

 

あれが聖剣の因子なのか?

 

バルパーの横でフリードがおかしそうに笑う。

 

「ヒャハハハ!! 俺以外のやつらは途中で因子に体がついていけなくて死んじまったんだぜ! やっぱ、俺ってスペシャルなんすかねぇ!」

 

すると、俺の隣にいたゼノヴィアな何かに気付いたように呟いた。 

 

「なるほど、読めたぞ。聖剣使いが祝福を受けるとき、体に入れられるアレは因子の不足を補っていたのか」

 

ゼノヴィアの言葉にバルパーが忌々しそうに言う。

 

「偽善者どもめ。私を異端として追放しておきながら、私の研究だけは利用しよって。どうせ、あのミカエルのことだ。被験者から因子を取り出しても殺してはいないだろうがな」

 

「………だったら、僕達も殺す必要は無かったはずだ。それなのにどうして………」

 

「おまえ達は極秘計画の実験材料にすぎん。用済みとなれば廃棄するのは当然だろう?」

 

「僕達は役に立てると信じてずっと耐えてきた………それを廃棄………」

 

木場は何とか立ち上がるけど、今の話を信じられないような目をしている。

 

俺だって信じられねぇよ。

 

どう考えても人のすることじゃない………!

 

バルパーが木場の足元に結晶を投げる。

 

「欲しければくれてやる。今ではより精度の高い物を量産する段階まで来ているからな」

 

木場は結晶を手に取って呆然と見つめた。

 

結晶を握り締めて、体を震わせる。

涙を流しながら。

 

その時だった。

 

結晶が淡い光を放ち、校庭を包み込むように広がった。

 

木場の周りにポツポツと光が湧き、人の形をとる。

 

………これはいったい?

 

「この戦場に漂う様々な力が因子の球体から魂を解き放ったのですね」

 

朱乃さんが言う。

 

木場は彼らを見つめる。

哀しそうな、懐かしそうな表情を浮かべた。

 

「僕は……僕はッ! ……ずっと、ずっと思っていたんだ。 僕が、僕だけが生きていいのか? って。僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。それなのに、僕だけが平和な生活をしていいのかって……」

 

霊魂の少年の一人が微笑みながら何かを訴える。

 

口を動かしているが、俺には読唇術の心得はないから、何をいってるのは分からない。

 

すると、朱乃さんが教えてくれた。

 

「『自分達のことはいい。君だけでもいきてくれ』。彼らはそう言ったのです」

 

それが伝わったのか、木場の両眼から涙が溢れる。

 

魂の子供たちが一定のリズムで口をぱくぱくしだした。

 

「――聖歌」

 

アーシアがそう呟いた。

 

彼らは歌っている。唱っている。

 

木場も涙を流しながら口ずさむ。

 

聖歌、かれらの生きるための希望。

 

「ッ!」

 

彼らの魂が青白い輝きを放って木場を中心に眩しくなっていく。

 

『大丈夫』

 

魂たちの声が俺にも聞こえる。

 

『僕らは、独りだけでは駄目だった――』

 

『私たちでは聖剣を扱える因子は足りなかった――』

 

『けれど、皆が集まれば、きっと大丈夫だよ―――』

 

本来ならば悪魔が聖歌を聴けば、悪魔の俺たちは苦しむ。

 

けれど、その苦しみを今は感じない。

 

むしろ、温かなものを感じる。

 

『聖剣を受け入れよう――』

 

『怖くないよ――』

 

『たとえ、神がいなくとも――』

 

『神が見ていなくたって――』

 

『僕たちの心はいつだって――』

 

 

「『ひとつだ』」

 

 

彼らの魂が一つの大きな光となって木場を包み込んだ。

 

ドライグ、これは――

 

『ああ、相棒が思った通りだ。あの騎士は至った。所有者の想いが、願いが、この世界に漂う流れに逆らうほどの劇的な転じ方をしたとき、神器は至る。それが――』

 

「―――禁手(バランス・ブレイカー)

 

俺はそう呟いた。

 

 

 

夜天の空を裂く光が木場を祝福しているかのように見えた。

 

 

 

 



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9話 曝された真実

[木場 side]

 

暖かい。

 

とても暖かい。

 

みんなの気持ちが僕に入ってくる。

 

ここにきてようやく分かった。

 

同志たちは僕に復讐なんて望んでいなかった。

 

ただ、僕に生きて――――

 

「だけど、これで終わるわけにはいかない」

 

そう。

 

これで終わらせてはいけないんだ。

 

目の前の邪悪を打倒さないとあの悲劇が再び繰り返される。

 

「バルパー・ガリレイ。あなたを滅ぼさない限り、第二、第三の僕たちが生まれてしまう。それは絶対に阻止しなくてはならない」

 

僕は優しき光に包まれながら一本の剣を創る。

 

「道具だった分際で何をほざく!フリード!」

 

「はいな!」

 

バルパーに命令され、フリードが僕の目の前に立ちふさがる。

 

「素直に廃棄されておけばいいものを。愚か者が。研究に犠牲はつきものだ。それすらわからんのか?」

 

バルパーは嘲笑う。

 

やはり、あなたは邪悪すぎる!

 

「木場ァァァァァ!! 今のお前なら、自分が何をするべきかわかるはずだ!!」

 

――――イッセー君。

 

「あいつらの想いと魂を無駄にすんなよ!」

 

「そうよ、祐斗! やりなさい! あなたならできるわ! 私の騎士はエクスカリバーごときに負けはしないわ!」

 

「祐斗くん! 信じていますわよ!」

 

「祐斗先輩、負けないでください」

 

「木場さん!」

 

リアス部長、朱乃さん、小猫ちゃん、アーシアさん………。

 

ああ、イッセー君が言っていた意味が分かった気がするよ。

 

僕にとって大切なもの。

 

それは―――――

 

「あぁ~。なに感動シーン作っちゃってんすかぁ。聞くだけで玉のお肌がガサついちゃう! もう限界! あ~、とっととキミ達、刻み込んで気分爽快になりましょうかねェ!!」

 

フリードは剣を構える。

 

フリード・セルゼン。

 

その身に宿る同志の魂。

 

これ以上悪用させはしない!!

 

「―――僕は剣になる。僕と融合した同志たちよ、一緒に超えよう。あの時果たせなかった想いを、願いを今こそ!」

 

剣を天に掲げて僕は叫ぶ。

 

僕の想いを!

 

「部長、そして仲間たちの剣となる! 魔剣創造(ソード・バース)ッッ!!」

 

僕の神器と同志の魂が混ざり合う。

 

魔なる力と聖なる力が融合する。

 

そして、僕の手元に現れたのは神々しい輝きと禍々しいオーラを放つ一本の剣。

 

「『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。聖と魔を有する剣の力、その身で受け止めるといい」

 

僕が創り出した剣を見てバルパーが驚愕の声を上げる。

 

「聖魔剣だと!? ありえない! 相反する要素が混ざり合うなど、そんなことあるはずがないのだ!」

 

僕は狼狽えるバルパーを無視して、歩を進める。

 

すると、ゼノヴィアが僕の隣に現れた。

 

「リアス・グレモリーの騎士よ。共同戦線が生きているか?」

 

「だと思いたいね」

 

「ならば、共に破壊しよう。あのエクスカリバーを」

 

「いいのかい?」

 

「ああ。あれは最早、聖剣であって聖剣でない。異形の剣だ」

 

「………分かった」

 

すると、ゼノヴィアは自身のエクスカリバーを地面に突き刺すと右手を宙に広げた。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

何かの言霊を発し始めている。

 

そして、空間に歪みが生じた。

 

その歪みの中心にゼノヴィアが手を入れる。

 

無造作に何かを探り、何かを掴んだのか、一気に引き抜いてくる。

 

そこにあったのは一本の聖剣。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。―――デュランダル!!」

 

デュランダルだって!?

 

エクスカリバーに並ぶほどの聖剣だ。

 

その刃は触れるもの全てを切り裂くと聞いている。

 

「デュランダルだと!?」

 

「貴様、エクスカリバーの使い手では無かったのか!?」

 

これにはバルパーばかりか、コカビエルも驚いているようだ。

 

「馬鹿な! 私の研究ではデュランダルを使える領域まで達していなかったはずだ!」

 

「私はそこのフリード・セルゼンやイリナと違って、数少ない天然物だ」

 

「完全な適性者、真の聖剣使いだと言うのか!」

 

そうか、彼女は本当に神に祝福されて生まれてきたようだね。

 

「デュランダルは触れたものは何でも斬り刻む暴君でね。私の言うこともろくに聞かない。だから、異空間に閉じ込めていたのさ」

 

デュランダルの刀身がフリードの持つエクスカリバー以上のオーラを放ち始めた。

これがデュランダルか!

 

「ここにきてのそんなチョー展開! そんな設定いらねぇんだよ! クソビッチがァ!!」

 

フリードが叫び、殺気をゼノヴィアに向けた。

 

そして、枝分かれした透明の剣を彼女に放つ。

 

激しい金属音が響く。

 

たった一度の横凪ぎで枝分かれしたエクスカリバーを砕いたのだ。

 

「所詮は折れた聖剣。このデュランダルの相手にはならない!」

 

ゼノヴィアがフリードに斬りかかる。

 

すると、フリードは高速の動きでそれをかわした。

 

恐らく天閃の聖剣の能力だろう。

 

「クソッタレがぁ!!!」

 

逃がさないよ!

 

僕は瞬時にフリードの背後にまわる。

 

「そんな剣で僕達の想いは壊せやしない!!」

 

「このクソ悪魔ごときがぁ!!!」

 

そこから僕達の間で激しい剣激が繰り広げられる!

 

聖魔剣とエクスカリバーがぶつかり合い、空に火花が散る。

 

フリードは真正面からの打ち合いは不利と考えたのか分身を生み出す。

 

夢幻の力か!

 

『目で追うな、気配を感じろ』

 

イッセー君のお陰だね。

 

今の僕にはどれが本物なのか気配で分かる!

 

「うおおおおおおっ!!!」

 

「なっ!? 幻影が通じねぇのかよ!?」

 

僕の聖魔剣をエクスカリバーで受け止めようとするが―――

 

 

バギィィィン

 

 

儚い金属音と共に異形の聖剣、エクスカリバーは砕け散った。

 

フリードは倒れ込み、肩口から裂けた傷から鮮血を滴らせる。

 

「見ていてくれたかい? 僕らの力はエクスカリバーを超えたよ」

 

僕は天を仰ぎ、聖魔剣を強く握りしめた。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

木場が立ち上がろうとエクスカリバーを砕き、フリードを倒した。

 

木場のやつ、ついにやりやがった!

 

まさか、このタイミングで禁手に至るなんてよ!

 

『しかもあの禁手はイレギュラーのものだろうな』

 

そうなのか?

 

『ああ。通常、聖と魔、相反する物が混ざり会うことはない。あのバルパーという者が言ってた通りだ』

 

つまり、木場の禁手は相当レアなんだな。

 

まぁ、その辺りはまた今度話し合えば良いかな。

 

木場がバルパーに迫る。

 

最後のケリを着けるつもりだろう。

 

「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらおう」

 

すると、バルパーはそんな木場の言葉を無視して、何かを呟きだした。

 

「そうか! 聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているとすれば説明はつく! つまり、魔王だけでなく神も―――」

 

 

ズンッ!

 

 

何かに思考が達したかに見えたバルパーの胸部を巨大な光の槍が貫いた。

 

そして、バルパーはそのままグラウンドに突っ伏した。

 

バルパーの気が消えていく。

 

これは、コカビエルの仕業だ。

 

「バルパー。おまえは優秀だったよ。そこに思考が至ったのもそれ故だろう。―――だが、俺はおまえなどいなくても最初から一人でやれる」

 

宙に浮かぶコカビエルがバルパーを嘲笑っていた。

 

「コカビエル、どういうつもりだ?」

 

「なに、用済みになったから消したまでのことだ、赤龍帝」

 

コカビエルはそう言うと地に降りてきた。

 

あいつから感じられる重圧が増したな。

 

部長達なんて頬に冷や汗を流してる。

 

「さぁ、余興は終わりだ。ここからは俺が相手をしよう。リアス・グレモリー」

 

「望むところよ!」

 

「部長、朱乃さん。今から二人に力を譲渡します。限界まで魔力を溜めて、あいつに放ってください。隙は俺達で作ります」

 

俺は部長と朱乃さんの肩に手を置き、力を譲渡する。

 

『Transfer!』

 

籠手から音声が発せられる。

 

すると、二人のオーラが凄まじいものになった!

 

近くにいるだけで肌が焼けそうなほどの魔力。

 

すげぇ。

 

『リアス・グレモリー、姫島朱乃のスペックは現時点でかなりのものだからな。赤龍帝の力を譲渡するだけでここまでのものになる』

 

流石は俺達の王と女王!

 

俺と小猫ちゃん、そして木場は合流して、コカビエルの正面に立つ。

 

「こうしてイッセー君の隣に立てるなんてね。正直、思っていなかったよ」

 

木場が自嘲しながら言ってくる。

 

「何言ってんだよ。おまえはついに禁手に至ったんだ。修業次第では数年で俺を越えることもできるぜ。まぁ、俺も抜かれないように修業するけどな」

 

「ははは。君がそう言ってくれるなら、僕はこれからも頑張れるよ。君を目指してね」

 

「ああ。木場なら出来るさ」

 

俺と木場が話してると小猫ちゃんが言ってきた。

 

「二人ともお喋りはそこまでにして集中してください」

 

そうだな。

今はコカビエルに集中しないと。

 

「木場、小猫ちゃん。部長達の準備が出来るまで俺達が時間を稼ぐ。いいな?」

 

木場と小猫ちゃんは静かに頷く。

 

「いくぜ!」

 

俺はそう言うとコカビエルに突っ込む。

 

そして、気を集中させてた拳を放つ!

 

コカビエルが拳を受け止める音が辺りに響く。

 

「まずは赤龍帝からか。今のおまえ一人では俺の相手になるまい?」

 

「ああ、今の俺じゃあおまえには勝てない。だけど、俺は一人じゃないんだぜ?」

 

俺の背後から木場が飛び出し、コカビエルに斬りかかる。

 

だが、コカビエルは手元に光の剣を作り出し、木場の聖魔剣を防いだ。

 

「聖魔剣と赤龍帝の同時攻撃か! 面白い!」

 

「そこ!」

 

俺と木場がコカビエルの両手を塞いでる間に小猫ちゃんがコカビエルの背後を取った!

 

その拳には俺が教えた通り、魔力を纏わせている。

 

「バカが!」

 

黒い翼が鋭い刃物と化し、小猫ちゃんを貫こうとする!

 

「クソッたれ! させるかよ!」

 

俺はコカビエルから拳を引いて、即座に小猫ちゃんを庇う。

 

しかし、俺は腕を掠めてしまった。

 

「くっ!」

 

俺の右腕から鮮血が吹き出す。

 

俺は小猫ちゃんを抱えて一旦、距離を取る。

 

「イッセー先輩、大丈夫ですか!?」

 

右腕を押さえる俺に小猫ちゃんが心配そうな目で見てくる。

 

「後輩を守るのは先輩の役目だからな。これくらいどうってことないさ」

 

それにアーシアが回復のオーラを飛ばしてくれたお陰で傷は直ぐに塞がったしな。

 

木場が聖魔剣をもう一本作り出し、斬りかかるが、それすらも受け止められてしまう。

 

だけど、木場はまだ諦めてはいない。

 

「まだだ!」

 

口元に三本目の聖魔剣を創り、それを勢いよく横に振った!

 

これには虚をつかれたのか、コカビエルは後方に退いた。

 

頬には横一文字の薄い切り口。

 

丁度、その時だった。

 

「三人ともそこから離れて!」

 

部長の声。

 

見ると、部長と朱乃さんの手元には凶悪な魔力の塊。

 

さらにゼノヴィアがデュランダルに聖なるオーラをチャージしていた。

 

俺達はそれを確認するとその場から離脱した。

 

そして――――

 

「消し飛べェェェェ!!!」

 

三人から放たれる滅びの魔力、雷、聖なるオーラの砲撃!

 

これをくらえば流石のコカビエルでも大ダメージを受けるはずだ。

 

現にコカビエルも焦りの表情を浮かべていた。

 

「ぬうううううん!!」

 

コカビエルは真正面から攻撃を受け止める。

 

だが、今までよりもあいつの顔に余裕がない。

 

「はああああああ!!」

 

部長達がさらに出力を上げ、畳み掛ける!

 

そして―――

 

 

ドオォォォォォオン!!

 

 

コカビエルは大爆発に包まれた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

部長も朱乃さんもゼノヴィアもかなり息を荒くしている。

 

今のでかなり消耗したようだ。

 

この状態では力の譲渡はもう出来ないな。

 

俺達は部長達の元に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ええ。かなりの消耗はしたけれど、少し休めば大丈夫よ。それより、コカビエルは?」

 

コカビエルはまだ爆煙に包まれて姿が見えない。

 

その時だった。

 

煙が払われ、そこからコカビエルが現れた。

 

身に纏う黒いローブが破れ、受け止めた両手はもちろん、体のあちこちから血が流れている。

 

だが、予想以上に傷が少ない。

 

「ハハハハ! 今の攻撃は中々のものだったぞ! 最上級悪魔ですら屠る攻撃だ! まさか、ここまでやるとは思っていなかったからな、久しぶりに本気で防がせてもらった!」

 

コカビエルは愉快そうに笑うと俺達を興味深そうに見てくる。

 

「愉快な眷属を持ったものだなリアス・グレモリーよ」

 

「どういうことかしら?」

 

「赤龍帝、聖剣計画の生き残り、そしてバラキエルの娘! 面白い面子を揃えたようだ」

 

「私の前であの男の名を口にするな!」

 

あの朱乃さんがここまで怒りを顕にするのは珍しい。

 

ドライグ、バラキエルって誰だ?

 

『バラキエル。雷光の使いとして有名な堕天使の幹部だ』

 

堕天使の幹部!?

 

それじゃあ、朱乃さんは堕天使の………。

 

「いや、あいつの娘がまさか悪魔に堕ちるとはな!全くおまえ達、グレモリーの兄弟は揃ってゲテモノ好きらしい!」

 

コカビエルが朱乃さんを嘲笑う。

 

 

ゲテモノ………?

 

 

朱乃さんが?

 

 

「ふざけるなよ、クソ堕天使! 朱乃さんや部長にそれ以上ふざけたこと言ってみろ。てめぇ、跡形もなく消し飛ばすぞ!」

 

全力の殺気を放ちながら俺は吼える。

 

そして、ゼノヴィアが俺に続いた。

 

「ああ。貴様は神の名のもとに断罪してくれる!」

 

デュランダルを構えるゼノヴィア。

 

俺とゼノヴィアが再びコカビエルと対峙する。

 

その時だった―――。

 

「―――神? よく主がいないのに信仰心を持ち続けられる」

 

コカビエルは表情を一変させ、呆れたように言う。

 

今の言葉に直ぐに反応するゼノヴィア。

 

「主がいない? どういうことだ! コカビエル!」

 

「おっと、口が滑ったな。………いや、良く考えてみれば戦争を起こすのだ。黙っている必要もない」

 

何だ………?

 

嫌な予感がする。

 

何を言うつもりなんだ?

 

すると、コカビエルは心底おかしそうに大笑いしながら言った。

 

「先の三つ巴の戦争の時、四大魔王と共に神も死んだのさ!!!」

 

「「「なっ!?」」」

 

全員信じられない様子だった。

 

「神が………死んだ………?」

 

「神が死んでいた? そんなこと聞いたことないわ!」

 

「あの戦争で悪魔は魔王全員と上級悪魔の多くを失った。天使も堕天使も幹部以外の多くを失った。どこの勢力も人間に頼らなければ種の存続が出来ないほど落ちぶれたのだ。だから、三大勢力のトップどもは神を信じる人間を存続させるためにこの事実を隠蔽したのさ」

 

ゼノヴィアが俺の隣で崩れ落ちる。

 

その表情は見ていられないほど狼狽していた。

 

「………ウソだ。………ウソだ。」

 

両膝をつき、ウソだとずっと繰り返す。

 

「そんなことはどうでもいい。問題は神と魔王が死んだ以上、戦争継続は無意味と判断したことだ! 耐え難い! 耐え難いんだよ! 一度振り上げた拳を収めろだと!? あのまま戦いが続いていれば俺達が勝てたはずだ! アザゼルの野郎も『二度目の戦争はない』と宣言する始末だ! ふざけるなよ!」

 

強く持論を語るコカビエルは憤怒の形相となっていた。

 

アーシアは手で口元を押さえ、目を大きく見開いて、全身を震わせていた。

 

アーシアだって、今でも祈りを欠かさない信仰者だ。

 

この事実は衝撃だったのだろう。

 

「………主はいないのですか? では、私達に与えられる愛は………」

 

アーシアの疑問にコカビエルはおかしそうに答えた。

 

「ふん。ミカエルは良くやっているよ。神の代わりに天使と人間をまとめているのだからな。『システム』さえ機能していれば、神への祈りも祝福も悪魔祓いもある程度は機能するさ」

 

コカビエルの言葉を聞いてアーシアはその場に崩れ落ちた。

 

小猫ちゃんが支えてくれたけど、アーシアは気を失っている。

 

「俺は戦争を始めるッ! お前達の首を土産に戦争を起こす! 俺だけでもあの時の続きをしてやる!」

 

 

そんなガキみたいな理屈で俺の仲間を傷つけたってのか?

 

そんなことで戦争を起こそうってのかよ?

 

「ふざけるのもいい加減にしろよ………っ!」

 

 

俺の怒りがピークに達した時―――

 

 

ドクンッ

 

 

鼓動と共に絶大な赤いオーラが俺の体から吹き出す。

 

そして、それは光の柱となってこの駒王学園を赤く照らした。

 

 



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10話 赤龍帝 復活!!

[美羽 side]

 

お兄ちゃん達が結界の中に入ってから十分が過ぎた。

 

ボクはシトリー眷属の皆と結界を張り続けている。

 

「ぐっ」

 

隣で気張っているのは匙君。

 

今は何とか耐えてるけど、もうすぐ魔力が底をつきそう。

 

匙君だけじゃない。

 

会長さん、副会長さん以外の人はもう限界が近い。

 

「不味いですね。私の眷属はもう私と椿姫以外は限界が近いです。美羽さんはどうですか?」

 

「ボクはまだまだいけます。だけど、コカビエルが本気で暴れだしたら、長くはもたないかもしれません」

 

「そうですか………。サーゼクス様が到着されるまでまだ時間がかかります。やはり、学園の崩壊は免れそうにありませんね。耐え難いことですが………」

 

会長さんは苦い顔で学園の方を見た。

 

その時だった。

 

赤い光の柱が現れ学園を照らした。

 

「この波動、魔王クラス!? まさか、サーゼクス様が? いや、違う。それに、まだ時間はかかるはず。一体………」

 

いつもクールな会長さんが驚いていた。

 

会長さんだけじゃない、シトリー眷属の皆がいきなりのことに驚きを隠せないでいた。

 

ボクはこの力を知ってる。

 

だって、お父さんと戦っていた時もそうだったから。

 

赤く激しいオーラ。

 

でも、とても優しい―――

 

「お兄ちゃん………」

 

ボクはこの戦いの行方が見えたような気がした。

 

 

 

 

[美羽 side out]

 

 

 

 

俺の体から赤いオーラが発せられている。

 

ドライグ、これは―――

 

『ああ。遅くなってすまない。今しがた、最後の調整が完了した』

 

いや、ある意味良いタイミングだったよ。

 

今、俺は目の前のクソ堕天使を殴りたくてしょうがないからな。

 

完了したってことはアレ(・・)も使えるんだよな?

 

『もちろんだ。かなりの時間を要してしまったがな。ただ、今回は止めておけ。アレは負担が大きすぎる。まずは普通の状態で体を慣らしていけ』

 

了解だ。

 

『まぁ、コカビエル程度ならアレは使う必要もないと思うがな』

 

コカビエルが驚愕しながら尋ねてくる。

 

「これは………っ! 赤龍帝、おまえは力を隠していたというのか?」

 

「別に隠してたわけじゃねぇよ。ただ、神器が不調だっただけだ」

 

俺から発せられるオーラが更に膨れ上がる。

 

地面にヒビが入り、大気を揺らす。

 

『さぁ、いこうか相棒。やつに分からせてやれ。自分が誰にケンカを売ったのかを』

 

そうだな。

 

いくぜ、ドライグ!

 

俺達、赤龍帝の力を存分に見せつけてやろうぜ!

 

『応ッ!』

 

俺は強く言葉を発した。

 

禁手化(バランス・ブレイク)ッ!!!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

籠手の宝玉が赤い閃光を解き放つ。

 

赤いオーラが激しさを増し、俺を包み込む。

 

そして、俺は赤い龍を模した全身鎧を身に纏う!

 

禁手(バランス・ブレイカー)、『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』!! さぁ、覚悟しろコカビエル。散々やってくれたツケはきっちり払ってもらう!」

 

 

 

 

俺はゆっくりと歩み始める。

 

対してコカビエルは一歩後退りした。

 

どうやら、今の俺の力に驚きを隠せないでいるようだ。

 

「この波動、魔王クラスだと!? バカなッ!」

 

「今更、後悔しても遅いぞ。てめぇは俺が今、ここで滅ぼす!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

一瞬の倍加、久しぶりの感覚だ。

 

禁手を使ったのなんてシリウスと戦ったときが最後だったからな。

 

背中のブースターが大出力でオーラを噴出させ、コカビエルと距離を一瞬で詰めた!

 

「なっ!?」

 

「まずは一発!」

 

鋭いアッパーがコカビエルの顎を捉えた!

 

打撃音が周囲にこだまする。

 

「ガッ、ハッ」

 

コカビエルの体が宙に浮く。

 

今の一撃はかなり効いたはずだ。

 

なにせ、赤龍帝の力と錬環勁気功で高めた一撃だからな。

 

俺はそこから更にもう一撃を加えてコカビエルを吹っ飛ばす!

 

コカビエルが上空で体勢を建て直す。

 

「くっ、ここまでとは! だが!」

 

手元には巨大な光の槍を作り出して俺に放ってくる。

 

体育館を吹き飛ばしたものよりもデカい。

 

後ろの方で焦る皆の声が聞こえてくる。

 

コカビエルの全力の一撃か。

 

あんなのくらえばアウトだろうな。

 

―――普通なら。

 

「そんなもんで、俺がやられるかよ!」

 

避けるまでもねぇ!

 

真正面から打ち砕く!

 

衝突する俺の拳と光の槍。

 

一瞬の拮抗。

 

 

――――砕けたのは光の槍だ。

 

 

「この程度かよ?」

 

「何だと?」

 

俺の言葉にコカビエルは眉をひそめる。

 

「この程度でサーゼクスさんにケンカを売ろうとしてたんだろ? おまえじゃあ、サーゼクスさんには勝てねぇよ。何も守ろうとしないおまえ程度じゃな!」

 

「貴様ァ!」

 

激昂してコカビエルは突っ込んでくる。

 

手元に光の剣を作り出し、斬りかかってきた。

 

俺はそれを左手で受け流し、ボディブローをぶち込む!

 

「ぐぅ!」

 

コカビエルは耐えられず、その場に崩れ落ちそうになる。

 

だけど―――

 

「この程度で終わらせるわけがねぇだろ!」

 

俺は右足を踏み出し、更に気を練り上げる。

 

錬環勁気功で高めた気が俺の体を駆け巡る。

 

そして、両の拳を握り、連続で繰り出す!

 

放つのは拳の弾幕だ。

 

「オオオオラァアアアアァ!!!!」

 

マシンガンのごとく絶え間なく続く俺の拳はその全てがコカビエルの体を抉る。

 

コカビエルは抗うことも出来ず、ただ俺の拳をくらうだけ。

 

反撃の隙なんて与えねぇ!

 

こいつはここで徹底的に潰す!

 

コカビエルの体が宙に浮く。

 

歯が砕け、羽根は抜け、見る影も無いくらい無惨な姿になっている。

 

『相棒、もう決めてしまえ』

 

ああ、こいつで終らせる!

 

 

「これで終わりだ!!」

 

 

 

ドゴンッ!!

 

 

 

最後に放ったトドメの一撃。

 

生じた衝撃波が周囲にまで影響を及ぼし、学園を覆っていた結界にヒビが入る。

 

ついにコカビエルは崩れ落ち、その場から全く動かなくなった。

 

全身の骨を砕いて、完全に意識を絶った。

 

もうこいつが起き上がることはない。

 

俺はコカビエルに背を向け、部長達の元へと歩いていった。

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

イッセー君が強いことは分かっていた。

 

フェニックスすら打ち倒すその力。

 

その力を扱いきる技量。

 

それら全てが僕達よりも遥かに上だった。

 

 

だけど、僕達が今まで見ていたのはイッセー君の力の一端だったのかもしれない。

 

初めて見るイッセー君の禁手。

 

赤い龍を模した全身鎧。

 

 

その力は僕達の想像を絶していた。

 

ほんの数分前までは圧倒的に優位に立っていたコカビエル。

 

僕達が束になっても敵わなかったあの強敵を、力を完全に取り戻したイッセー君は圧倒していた。

 

あのコカビエルが手も足も出ないなんて………。

 

そして、イッセー君はとうとうコカビエルを撃ち破った。

 

校庭に展開されていた魔法陣も消えた。

 

どうやら、コカビエルが倒されることで魔法陣も消えるようになっていたらしい。

 

これで僕達の町は消滅の危機を脱したことになる。

 

色々な事が起こったけど全てが終わった。

 

全員がそう思った。

 

 

「―――これが今代の赤龍帝か。面白い」

 

 

空から聞こえてきた突然の声。

 

儚い音と共に学園を覆っていた結界が砕け散る。

 

空を見上げるとそこにいたのは白。

 

白い全身鎧を纏った者が僕達を見下ろしていた。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

「―――これが今代の赤龍帝か。面白い」

 

結界が砕けると共に現れたのは白い鎧を纏った誰か。

 

声からして若い男だとは思う。

 

すげぇプレッシャーだな。

 

コカビエルの比じゃねぇぞ。

 

「何者なの!」

 

部長が叫ぶ。

 

コカビエルと事を終えた後なので警戒しているようだ。

 

「我が名はアルビオン。二天龍の一角、白龍皇だ」

 

「「「!?」」」

 

男の言葉にこの場にいる全員が戦慄する。

 

白龍皇ってドライグが前に言ってた白い龍だろ?

 

赤龍帝の俺と相反する存在。

 

マジかよ。

 

このタイミングで白龍皇が現れやがったのか!

 

「それで? 白龍皇が何の用だよ? まさか、俺と戦いに来た、なんて言うんじゃないんだろうな?」

 

勘弁してくれよ。

 

久しぶりの禁手で結構疲れてるんだぜ?

 

「俺としては今すぐ君と戦いたいところなんだが、俺も色々と忙しくてね。今回はアザゼルに頼まれてコカビエルを回収しに来ただけさ。あと、そこのはぐれ神父もな」

 

アザゼル………堕天使のトップか。

 

「回収してどうするつもりだよ?」

 

「そいつらを堕天使側で裁きたいそうだ」

 

「なるほどな。組織の問題児は組織で何とかしたい、ってところか」

 

「まぁ、そんなところだ」

 

「分かった。さっさと連れていけよ」

 

「案外、すんなり認めるんだな」

 

「下手に断ったら、それを理由におまえと戦うことになるかもしれないしな。それに………そいつら邪魔だし」

 

「なるほど。今代の赤龍帝は色々と面白いな」

 

白龍皇はそう言うと地面に伏しているコカビエルとフリードを担ぎ、踵を返す。

 

『無視か、白いの』

 

籠手からドライグの声が発せられる。

 

『やはり、起きていたか、赤いの』

 

『まぁな。そちらの所有者はかなりのもののようだな』

 

『それはお互い様だろう? だが、赤いの。以前のような敵意が感じられないが?』

 

『それこそお互い様だ。俺もおまえも、今は戦い以外の興味対象があると言う事だ』

 

『そう言うことだ。こちらはしばらく独自に楽しませて貰うよ。偶には悪くないだろう? また会おう、ドライグ』

 

『それもまた一興か。じゃあな、アルビオン』

 

二体の龍はそれを最後に会話を終了させたようだ。

 

「では、また会おう。我がライバルよ」

 

白龍皇は俺を一瞥すると、そのまま飛び去って行った。

 

ライバル、ねぇ。

 

なんか、勝手にライバル認定されたんだけど………。

 

『相棒、気を付けろよ。今代の白龍皇はかなりの力量だぞ』

 

それは会ってみて感じ取れたよ。

 

『恐らく、相棒と同レベルと考えても良い』

 

だろうな。

 

全く、厄介なやつに目をつけられたもんだ。

 

白龍皇が飛びっきりの美女だったら俺もやる気出すんだけどなぁ。

 

ライバルから恋人へ的なムフフな展開があるかもしれないし。

 

『やつは男だぞ?』

 

そうなんだよ!

 

過去に女性の赤龍帝とかもいたみたいだから、少し期待してたのに!

 

俺の夢は砕け散ったよ!

 

ドライグ、俺の夢を返してくれ!

 

『知るか、そんなもん!』

 

はぁ、白龍皇のことは後回しにしよう。

 

今考えても仕方がないしな。

 

とりあえず、部長達の所に戻ろう。

 

俺は鎧を解除して、今度こそ部長達のところに戻ることにした。

 

 

 

 

「お疲れさまです、兵藤君。あなたのおかげで学園は救われました。本当にありがとう」

 

俺が戻るとソーナ会長がお礼を言ってきた。

 

「いや、俺だけの力じゃないですよ。皆がそれぞれの役割を果たして、今回の事件を解決したんです。俺は俺が出来ることをしたまでですよ」

 

俺がそう言うとソーナ会長は頭を上げて微笑んだ。

 

今の会長を可愛く思ってしまった。

 

なんだろう、普段厳しいイメージがあるからかな。

 

すごいギャップを感じた。

 

匙が惚れるのも分かるかも。

 

「さて、私達は学園の修復をしなければなりませんね。朝までに終わるかどうか・・・・」

 

会長の言葉にハッとなる俺。

 

周囲を見渡すと校庭のあちこちに大きなクレーターができ、被害が無かったはずの校舎にまで損壊が見られる。

 

『まぁ、主に相棒の禁手による余波だな』

 

皆の視線が俺に集まる。

 

何で俺を見るの!?

これやったの俺ですか!?

俺のせいなんですか!?

いや、そんな苦笑いを返さんで下さい!

 

「なんか、もう、すいませんでしたぁ!!」

 

「だ、大丈夫よイッセー。お兄様達がもうすぐ到着するし、何とかなるわ。気にしないで」

 

うぅぅ、部長の優しさがしみるぜ!

 

俺、後片付けも頑張ります!

 

そこで、俺の視界に一人で聖魔剣を見つめる木場の姿が映った。

 

「やったな。木場」

 

「うん。イッセー君の、皆のおかげでとりあえずの決着を着けることが出来たよ。ありがとう」

 

そう言う木場の顔は憑き物が取れたように晴れやかなものだった。

 

すると、気絶から目が覚めたアーシアが木場の元に寄る。

 

「………木場さん、また一緒に部活できますよね?」

 

神の存在を否定され、かなりのショックを受けたはずのアーシアだけど、今は木場の心配をしている。

 

木場がそれに答えようとしたとき、部長が木場の名前を呼ぶ。

 

「祐斗」

 

木場は部長の方へと振り返る。

 

「祐斗、よく帰ってきてくれたわ。それに禁手だなんて、主として誇らしいわ」

 

木場はその場に膝まづく。

 

「部長。僕は部員の皆を、何より命を救っていただいたあなたを裏切ってしまいました。お詫びする言葉が見つかりません・・・・」

 

「でも、あなたは帰ってきてくれた。それだけで十分よ。皆の想いを無駄にしてはダメよ」

 

「部長………。僕はここに改めて誓います。僕はリアス・グレモリーの騎士として、あなたと仲間たちを終生お守りします」

 

木場がそう言うと、部長は木場の頬をなで、抱き締めた。

 

「ありがとう、祐斗」

 

こんなときに思うのもなんだけど………。

 

部長に抱きしめられてる木場が羨ましい!

 

ちくしょう、イケメン王子め!

 

俺と変われ!

 

………なんてことを考えると俺の隣にいつの間にか美羽がいた。

 

「どこに行ってたんだ?」

 

「学校の修復だよ、早くしないと朝になっちゃうし」

 

「へっ?」

 

美羽に言われて俺は校舎を見る。

 

 

 

………直ってる。

 

 

 

さっき会長と話してる時はボロボロだった校舎がいつの間にか完全に直っていた。

 

あれからまだ数分しか経ってない。

 

「いつの間に!?」

 

「え~と、お兄ちゃんが禁手になったときに術式を仕込んどいたの。すぐ終わるかなって思ってたから。流石に運動場とか体育館とかは修復出来てないけど・・・・」

 

テヘヘと笑う美羽。

 

いやいやいや、優秀すぎるだろ!

 

美羽ちゃん、普段の生活と魔法使ってる時の差が激しすぎるよ!

 

普段のどこか抜けてる天然ドジッ子娘は何処へ!?

 

いや、全然良いんだけどね!

 

実際、助かったし!

 

「それより、お兄ちゃん。リアスさんに抱きしめられてる木場くんを見て羨ましがってたでしょ?」

 

なぬ!?

 

「何故にそれを!?」

 

「見ればすぐ分かるよ。でもね、あれはどう?」

 

美羽が指差す方向には木場。

 

いや、正確には部長に尻を叩かれている木場の姿。

 

「皆に心配をかけた罰よ。きっちり一万回受けてもらうわ」

 

「は、はい!」

 

一万!?

 

俺達の時の十倍じゃねぇか!

 

俺と匙、小猫ちゃんは咄嗟に尻を手で隠してしまう。

 

あれは俺達にとってトラウマ以外の何物でもねぇよ!

 

「部長、一万も数えれるんですか? 途中で何回か分からなくなるんじゃ………」

 

「心配いらないわ、イッセー。朱乃がカウンターで数えてくれるから」

 

「ええ、私がしっかりカウントしますから、何の問題もありませんわ」

 

朱乃さんが手にカウンターを持ちながら言う。

 

そのカウンター、どっから出したの?

 

というより、どこか楽しそうですね朱乃さん!

 

完全にS顔になってるじゃないですか!

 

「し、心配いらないよ、イッセーく、ん。これも部長………の愛のムチだと、うっ………思えば耐えられるから………うっ!」

 

尻を叩かれながら笑顔を見せる木場。

 

うん………とりあえず、頑張れ。

 

「美羽」

 

「何?」

 

「尻叩きはもういいや………」

 

この後、木場は尻を押さえたまま、しばらくその場から動けなくなった。

 

 

 

 

コカビエル襲撃事件から数日後。

 

「やあ、赤龍帝」

 

部室に入った俺を出迎えたのは駒王学園の制服を着たゼノヴィアだった。

 

「な、なんでここに?」

 

俺が尋ねた瞬間、ゼノヴィアの背中から黒い翼が生えた。

 

気配で何となく分かってたけど俺は驚きを隠せないでいた。

 

だってこいつ、この間まで悪魔を敵視してたじゃん!

 

そのゼノヴィアが悪魔になったなんて信じられねぇ!

 

「ぶ、部長、これはどういう………」

 

「ゼノヴィアはね、私の騎士として悪魔になったの。これからよろしく頼むわね」

 

よろしく頼むと言われても………。

 

俺はまだ状況を理解できてないんですけど………。

 

すると、ゼノヴィアが答えた。

 

「神がいないと知ってしまったのでね。破れかぶれで頼み込んだんだ」

 

おいおい、破れかぶれすぎるだろ!

 

君の信仰はそれで良いのか!?

 

「デュランダル使いが眷属に加わったのは頼もしいわ。これで祐斗とともに剣士の両翼が誕生したわね」

 

部長は楽しげだ。

 

細かいところにこだわらないのが部長らしいというか何というか。

 

まぁ、聖剣使いのゼノヴィアが眷属入りしてくれたのは頼もしいとは思うけど。

 

レーティングゲームの時なんか、相手は悪魔だから大活躍しそうだ。

 

「今日からこの学年の二年に編入させてもらった。よろしくね、イッセーくん♪」

 

「真顔で可愛い声を出すな」

 

「むぅ、イリナの真似をしたのだが、上手くいかないものだ」

 

はぁ、なんか出会ったときのイメージがかけ離れていくような………。

 

「でもよ、本当にいいのか? 悪魔になってしまって」

 

「神がいないと知った以上、私の人生は破綻したに等しいからな。………だが、敵だった悪魔に下るのはどうなのだろうか? いくら魔王の妹とはいえ………。私の判断に間違いはなかったのか? ああ、お教え下さい、主よ! はうっ!」

 

何やら自問自答した上、祈りを捧げて頭痛をくらってるよ。

何してんだか。

 

こいつも結構、変なヤツだよね。

 

ここで、俺は一つ疑問に思った。

 

「そういえばイリナは?」

 

ゼノヴィアがいるのにイリナがいないのはなぜだ?、

 

ゼノヴィアは嘆息しながら答える。

 

「本部に帰ったよ。………イリナは私より信仰が深い。神の不在を伝えたら、心の均衡はどうなるか………」

 

イリナのことを思って伝えなかったのか。

 

だけど、これはゼノヴィアとイリナは味方から敵になったということだ。

 

ゼノヴィアはそれが分かっているのか、何処か覚悟を決めているようだ。

 

ゼノヴィアは続ける。

 

「私は最も知ってはならないことを知ってしまった厄介者、異端の徒になってしまった。………私はキミに謝らなければならない、アーシア・アルジェント」

 

「え?」

 

「主がいないのならば、救いも愛も無かったわけだからね。本当にすまなかった。キミの気が済むのなら殴ってくれてもかまわない」

 

ゼノヴィアは深く頭を下げる。

 

突然の謝罪にアーシアは慌てるが、宥めるように言った。

 

「ゼノヴィアさん。私はこの生活に満足しています。今は悪魔ですけど、大切な方々に出会えました。私は本当に幸せなんです」

 

アーシアは聖母のような微笑みでゼノヴィアを許した。

 

やっぱりアーシアはいい子だよなぁ。

 

「そうか、ありがとう。………そうだ、一つお願いを聞いてもらえるかい?」

 

「お願い、ですか?」

 

首をかしげて聞き返すアーシアにゼノヴィアは笑顔で言う。

 

「今度、この学園を案内してくれないか?」

 

「はい!」

 

アーシアも笑顔で答えた。

 

初めの出会いは最悪なものだったけど、こうして仲良くしてくれるのは良いことだ。

 

ゼノヴィアも悪いヤツじゃないと思うしな。

 

「我が聖剣デュランダルの名に懸けて、そちらの聖魔剣使いと赤龍帝、キミとも手合わせしたいものだね」

 

「いいよ、今度は負けないよ」

 

「ああ、いつでも相手になるぜ」

 

俺と木場も笑顔で返した。

 

部長が手を鳴らす。

 

「さぁ、新入部員も入ったことだし、オカルト研究部も再開よ!」

 

「「「はい、部長!」」」

 

全員が元気良く返事をする。

 

この日、オカ研に久しぶりに笑顔が帰ってきた。

 




なんとか第三章を書き上げることが出来ました!

ヴァーリが出てきましたが、本作ではヴァーリも強化していきます


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番外編 七夕の思い出 

リクエストがあったので書いてみました!

今回は七夕の日(もう過ぎてますけど、細かいことは気にしない!)ということで、兵藤兄妹の七夕の思い出です!


コカビエル襲来から幾日が過ぎた頃。

 

放課後、部活を終えた俺達は近所のスーパーに寄っていた。

 

「とりあえず、こんなもんか?」

 

「はい。イッセーさんのお母さんに頼まれたものは揃いました」

 

俺が買い物かご片手に問うとアーシアがメモを見ながら答えてくれた。

 

今は俺、美羽、部長、アーシアの四人で仲良く買い物中だ。

まぁ、母さんに頼まれたおつかいをこなしているだけなんだけどね。

 

一通り揃えた俺達はかごを持ってレジへ。

 

すると、レジのおばちゃんが俺の顔を見て、話しかけてきた。

 

「あら、イッセーくんじゃない。今日はおつかい?」

 

この人は俺が子供の頃からの知り合いで、昔から良くしてもらっている。

 

俺は財布を取り出しながら頷く。

 

「ええ」

 

「それにしても美人さんばかり連れてるわねぇ。もしかして、デートだったり?」

 

ムフフ、とニヤニヤ顔で見てくるんですけど………。

 

残念ながら違うんだよね!

普通のおつかいです!

俺もおつかいじゃなくて、四人でデートが良かったよ!

 

って、こんな場所で『デート』なんて単語を使ったら………。

 

「イッセェェェェェェッ! 美羽ちゃんだけでなく、リアス先輩とアーシアちゃんとデートだとぉぉぉぉ!?」

 

少し離れたレジで松田が騒いでいた!

 

そう、このスーパーは松田のバイト先なのだ!

しかも、現在進行形でバイト中!

 

なんてタイミングの悪いこと!

 

明日は元浜とのダブルラリアットが飛んでくるに違いない!

 

つーか、あいつ、バイト中に騒ぐなよ!

ほら、店長さん来たよ!?

 

おばちゃんはレジを打ちながら美羽に話しかけた。

 

「そういえば、美羽ちゃんは今年の七夕祭りも浴衣を着るの? 去年のが可愛かったからねぇ」

 

「うーん。お兄ちゃん、今年に入ってから忙しくなったから………一緒にいけないんじゃ、着てもあれだし………」

 

「あぁ、去年はベッタリだったわね。ウフフ、相変わらず仲が良いことで。はい、お釣りの五百六十円。ありがとうございました」

 

お会計を終えた俺達は買ったものを袋に詰めて店を出る。

 

家に帰る道の中で、アーシアが訊いてきた。

 

「イッセーさん、七夕ってなんですか?」

 

あー、そういや、アーシアって七夕知らないんだよな。

今年から日本に来たわけだし。

それに、教会で育ったから日本の行事とか知らないことの方が多いか。

 

すると、部長が人指し指を立てながらアーシアに説明する。

 

「七夕というのは日本の行事の一つね。七月七日に行われる夏の行事として昔から行われてきた日本の伝統とも言えるものなの。願い事を書いた短冊や飾りを笹の葉に吊るして星に願うのよ」

 

「お願い事をですか?」

 

アーシアが聞き返すと、部長は頷いた。

 

「そう。七夕には色々と由来があるのだけれど、最も有名なのが織姫と彦星のストーリーね。そのストーリーはね――――――」

 

と、部長がアーシアに七夕の解説を始める。

 

部長もよく知ってるなぁ、と感心しながらも町を見渡していると、あちらこちらに立てられているのぼり旗が目に入ってくる。

どれもが色鮮やかに『駒王町七夕祭り』と描かれていた。

 

もうそんな時期なんだな。

 

二年生になってからは色々あったから、あっという間だった気がする。

 

確か―――――

 

「去年は二人で行ったよね」

 

美羽が買い物袋をぶら下げながらニッコリと微笑んだ。

 

レジのおばちゃんが言ってた通りで、去年は美羽と二人で七夕祭りに行った。

いや、あの時は松田と元浜もいたっけな。

 

「そういや、美羽にとって七夕は去年が初めてだったな」

 

俺が美羽をこちらの世界に連れてきたのが中三の夏。

その時は既に七夕は過ぎていたから、美羽が七夕の存在を知ることになったのが高校に入ってからだ。

 

一年前の美羽も今のアーシアみたいな感じで―――――。

 

 

 

 

午前の授業が終わった後のことだ。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。七夕ってなに?」

 

昼休みになり、二人で弁当箱を机の上に広げていると、美羽がそう訊ねてきた。

 

ちなみに、俺達兄妹は昼休みに入ると二人で弁当を食べるのが習慣になっている。

 

「あ、そっか。美羽は七夕知らなかったな」

 

「うん。さっきの授業で先生が『今日は七夕だな』って言ってたし。それに最近、町で『駒王町七夕祭り』って書いてる旗が立てられてるし。それでね」

 

今日は七月七日、七夕の日だ。

 

中学生になってからは特に何かをすることもなくなってたけど、小学生の時は短冊に願い事を書いて笹に吊るしてたっけ。

 

いや………中学生になってからもしてたか。

 

『彼女が出来ますように!』って願った記憶あるな。

松田と元浜の三人で。

 

俺にとっては三年以上前の記憶だからな。

すっかり忘れてたわ。

 

「七夕ってのは日本の風習………行事みたいなもんだな。七月七日の日に短冊に願い事を書いて、笹に吊るすんだよ。ま、一種のお祈りみたいなもんだな」

 

叶ったことないけど………。

彼女、出来なかったし!

 

それでも願うのは………悲しい性といいますか何といいますか。

 

「でも、なんで七月七日なの?」

 

「それはな………」

 

俺はそこまで口を開いて………静止した。

 

あれ………七夕の由来ってなんだっけ?

 

………………。

 

………………。

 

………………ヤバい。

 

ヤバい………ヤバいヤバいヤバい!

 

完全にド忘れしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

俺は背中に嫌な汗が流れるのを感じながらも、頭をフルスロットルさせて記憶を探りだす。

 

思い出せ、俺!

ここで思い出せないのは、なんか恥ずかしい!

 

昔、小さい頃に聞いたことあるんだよ!

彦星と織姫の話!

 

えーと………確か――――――。

 

ダメだ………!

彦星と織姫の名前しか出てこねぇ!

あの二人が何したんだっけ!?

 

脳ミソがトリプルアクセルを決めて、着地したところで――――――俺はポケットに手を突っ込んだ。

 

取り出したのは携帯だ。

 

「お、お兄ちゃん………?」

 

美羽が怪訝な表情を浮かべる。

 

そんな美羽に俺はニッコリと微笑んで、

 

「すまん。忘れたから今から検索するな?」

 

「あはは………」

 

俺は………心の中で盛大に泣いた。

 

 

 

 

天の神様には織姫という娘がいました。

 

織姫は機織りが上手で、それはそれは美しいはたを織っていました。

 

神様はそんな娘が自慢でしたが、毎日化粧もせず、身なりに気を遣わずに働き続ける様子を不憫に思い、娘に見合う婿を探すことにしました。

 

すると、ひたすら牛の世話に励む勤勉な若者――――彦星に出会います。

 

この真面目な若者なら、娘を幸せにしてくれると思い、神様は彦星を織姫の結婚相手に決めました。

 

二人は毎日仲睦まじく暮らしました。

 

しかし、真面目だったこれまでとは一転して遊んで暮らすようになってしまいます。

 

仕事を全くしなかったため、天の服は不足し、牛達はやせ細っていきました。

神様が働くように言うも、返事だけでちっとも働こうとしません。

 

怒った天の神様は、織姫を西に、彦星を東に、天の川で隔てて引き離し、二人はお互いの姿を見ることも出来ないようにしました。

 

それから二人は悲しみにくれ、働こうともしなかったため、余計に牛は病気になったり、天の服はボロボロになっていくばかりです。

 

これに困った天の神様は、毎日真面目に働くなら七月七日だけは会わせてやろうと約束します。

 

すると、二人はまじめに働くようになり、毎年七月七日の夜は織姫と彦星は会えるようになりました。

 

          ―――――『七夕伝説』

 

 

 

………というストーリーがあったことが、検索の結果分かった。

 

うん、そういや、こんな話だったわ。

完全に忘れてたな。

 

昼休みから時間は進んで放課後。

 

夕焼けが町を照らし、赤く染まっている。

そんな中、帰路につく俺と美羽。

 

「織姫さんも年に一回だけだけど会えてよかったよね」

 

「そうだな。ただ、雨が降ると会えないみたいだけど」

 

「年に一回だけなんだから、その日ぐらい晴れって決まっても良いと思うんだよね。神様ならそれぐらい出来ると思うんだ」

 

あはは………確かに天候を司る神様とかいるよね。

 

こっちの世界はどうか知らないけど、美羽達の世界にはいるようだ。

神層階でも会ったことないけどね。

 

町を歩いていると、目に映るのは『駒王町七夕祭り』という文字が描かれたのぼり旗。

行き交う親子連れ。

たまに恋人同士と思われるカップルもいて、中には浴衣を着ている女性の姿も。

 

美羽がそれは町の様子を見ながら訊いてくる。

 

「七夕祭りってどこでやってるの?」 

 

「商店街と駅前の広場だよ。結構な人が毎年来ていてな」

 

今思うと、この町の人達ってこの手のイベントに積極的な人が多い気がする。

 

まぁ、それはともかくだ。

 

「美羽も行ってみたいだろ? 一緒に行くか?」

 

「うん! もちろんだよ」

 

美羽は嬉しそうに俺と手を繋いできた!

 

うぅぅ………やっぱり、美羽は可愛いなぁ!

いつもだけど!

 

お兄さんまでご機嫌になっちゃうぜ!

 

俺までルンルン気分になっていると―――――。

 

 

バンッ!

 

 

いきなり、肩を強く叩かれた!

 

何事かと思い、振り返ると―――――。

 

「うふふ………。二人ならそういう会話になると思ったわ!」

 

「か、母さん!?」

 

「お母さん!?」

 

不敵な笑みを浮かべた――――――母さんが立っていた!

 

ちょ、ええええええええ!?

いつ後ろに立った!?

全く気がつかなかったぞ!?

 

つーか、俺の背後を完全に取るとか、うちの母さんどんだけ!?

 

驚く俺と美羽を他所に母さんは買い物袋を片手に顎に手をやる。

 

………買い物帰りだったのな。

 

「今朝言いそびれたから、どうかなって心配だったのだけど、問題なかったようね。二人が行くのなら話が早いわ。二人ともダッシュで帰るわよ!」

 

「「は………え、ちょっと!?」」

 

俺と美羽は母さんに手を引かれ猛ダッシュで帰宅することになった。

 

………な、なんなんだ!?

 

 

 

 

母さんに無理矢理、ダッシュで帰宅させられた俺と美羽は母さんに言われるまま、シャワーを浴びて汗を流した。

 

ちなみに………一緒に風呂に入ったんだが………美羽のおっぱいが成長してて色々元気になってしまった………!

お兄さんは嬉しいぞ!

 

風呂から上がって着替えた俺は外出用の服に着替えて、リビングで美羽の仕度を待っていたんだが………。

 

待つこと二十分。

 

リビングの扉が開き、部屋に入ってくる者がいた。

 

それは―――――浴衣姿の美羽。

 

水色の生地に水玉模様がはいった何とも可愛らしいデザイン。

幼い顔立ちの美羽との相乗効果が抜群だった。

 

「ど、どうかな………?」

 

美羽が恥ずかしそうにしながらも、目の前でクルリと回る。

 

浴衣に目が行きがちだが、今の美羽は浴衣に合わせて髪をアップにしていて、それがいつもとは違う雰囲気を出していて――――。

 

か、可愛い………!

美羽の浴衣姿………!

こ、これは………これは………イケる!

 

美羽に続き、リビングに入ってきた母さんがドヤ顔で言った。

 

「どう? 私のチョイスは完璧でしょう?」

 

「………お母様。僕はあなたの息子で良かったと心から思っています。………最高っす!」

 

「でしょ!」

 

俺と母さんのテンションはマックス!

 

互いにカメラを構えて、パシャパシャと浴衣姿の美羽をフレームにおさめていく!

 

あぁ………またコレクションが増えてしまうではないか!

いや、これも兄としての勤め!

コレクションが増えることは仕方がない!

つーか、どんどん増えろ!

 

ありとあらゆる角度から撮っていると、俺はとんでもないことに気づいたしまった。

 

な、なんということだ!

写真撮りまくってたら、デジカメの容量が足りねぇ!

 

だが、しかし!

 

この俺を舐めるなよ、デジカメ!

メモリカードも予備のバッテリーもまだまだあるのだからな!

 

『シスコン………』

 

そーですぅぅぅぅぅ!

俺はシスコンですぅぅぅぅぅ!

妹ラブですぅぅぅぅぅ!

 

妹を可愛がって何が悪い!

 

ドライグ、おまえには美羽の可愛さが分からんのか!?

 

「ドライグくん、この可愛さが分からないとかどうかしているわ! 後でお説教よ!」

 

「ほら見ろ、母さんも俺と同意見だろうが!」

 

『なんで俺が説教されるんだ!?』

 

「イッセー! カメラのバッテリーが!」

 

「分かっているよ、母さん!」

 

『俺は無視かぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

ドライグの叫びが部屋に響く。

 

「あ、あの………お祭り、終わっちゃうよ?」

 

未だ撮りまくる俺と母さんの姿に美羽は苦笑するだけだった。

 

 

 

 

「おー、今年も人が集まってるな」

 

俺は広場の光景を見て、そう漏らす。

 

美羽のプチ撮影会が終わった後、俺と美羽は駅前の広場に来ていた。

 

広場には大きな笹竹が何本も置かれていて、その葉にはいくつもの短冊が吊るされていた。

広場の端には屋台もいくつか開かれていて、焼きそばからリンゴ飴まで売っている。

 

今年も例年通り賑わっているようだ。

 

「夏祭りみたいな感じだね」

 

「まぁな。夏祭りはもうちょい屋台が多いけど」

 

夏祭りがあるのは八月。

それも駅前の広場でやってるんだけど、屋台は今よりももっと多い。

 

去年の夏祭りには美羽を連れていくことが出来たけど、あの時の美羽は浴衣じゃなかったからなぁ。

今年はもう一度、浴衣姿の美羽が見られるということか!

今から楽しみだぜ!

 

すると、向こう側に見知った人物がいるのが見えた。

 

その人物もこちらに気づいたようで、手を振ってきた。

 

「おー、松田、元浜。おまえらも来てたか」

 

「毎年来てるからな」

 

「というより、毎年毎年祈りに来ているだろう? 神頼みというやつだ」

 

元浜はそういうと、一枚の短冊をこちらに見せた。

 

そこには―――――『彼女! 彼女がほしい! とりあえず可愛い彼女をください!』

 

すんごい達筆で書かれた願い。

松田も同じ願いをこれでもかと言うほど、短冊一杯に書いていた。

 

………ここまで来ると執念だよね。

 

ま、まぁ、俺も似たようなことしてたけどさ。

 

と、ここで二人の視線が美羽に移る。

 

「なんと………! ここで美羽ちゃんの浴衣姿が見られるとは!」

 

「うんうん! すっげぇ可愛いよ!」

 

「ありがとう、元浜くん、松田くん」

 

「「おっふ………」」

 

美羽が微笑みながらお礼を言うと、その可愛らしさに悩殺される二人。

 

そして―――――。

 

「イッセェェェェェッ! 貴様はやはり許せぇぇぇぇぇん!」

 

「どうして貴様にだけ、こんなに可愛い妹ができるのだぁぁぁぁぁぁ! 理不尽だぞぉぉぉぉぉぉ!」

 

血の涙を流して襲いかかってくる悪友二人!

 

分かってたよ………分かっていたよ、こうなるのは!

 

「世界は理不尽なもんなんだよ」

 

俺は残酷な一言と共に二人の拳を受け流した。

 

悪友二人を放置した俺は美羽を連れて、祭りの委員が待機するテントに短冊を貰いに行く。

 

赤、オレンジ、黄色、ピンク、青、水色と様々な色があり、形も長方形から星形とバリエーションが多い。

 

俺は黄色の長方形、美羽はピンクの長方形を選択。

 

短冊を受け取った後は専用のテーブルに願い事を書いていくのだが………。

 

さて、何を願おうか。

今までなら松田、元浜と並んで彼女が欲しいと神頼みしていた。

 

だけど―――――。

 

俺はふと隣で願い事を書く美羽を見る。

 

………やっぱり、今の俺の願いはこれだよな。

いや、願いじゃないか。

 

俺は思うまま、浮かんだ言葉を短冊に書いていく。

あまりに短い言葉だけど、これしかないかな。

 

書き終えた俺はペンを専用の場所に戻す。

 

それと同時に美羽も書き終えたようだった。

 

「書けたか?」

 

「うん。お兄ちゃんは?」

 

「俺も書けたよ」

 

「何を願ったの?」

 

うっ………それを聞きますか。

 

改めて見られると少し恥ずかしい気もするが………まぁ、いっか。

 

俺は息を吐くと、自身の短冊を美羽に見せた。

 

「え………」

 

短冊に書かれた文字に目を開く美羽。

 

俺が書いた言葉。

 

それは―――――。

 

 

『美羽を幸せにする』

 

 

言葉を失う美羽に俺は頬をかきながら言った。

 

「願いというよりは俺の想いかな? こういうのって誰かに願うものじゃないと思うし………こうして書いた方が叶うかなって思ってさ」

 

神に頼むのも良いけど、こうして宣言に近い言葉にした方がいい気がするんだよね。

というより、この手の願いは自分で叶えないといけないと思うんだ。

 

「美羽はこっちに来てから幸せか?」

 

「もちろんだよ。お父さんがいて、お母さんがいて、学園の皆がいて………そして、お兄ちゃん―――――イッセーがいる。ボクは幸せだよ?」

 

「そっか。………それなら、この願いは少し訂正だな。俺は美羽をもっと(・・・)幸せにしてみせる。それが七夕に誓うこと、かな? 美羽はなんて書いたんだ?」

 

俺が問うと美羽は少し頬を赤くして、手に握るものを見せてきた。

 

そこに書かれていたのは―――――。

 

 

『イッセーとずっと一緒に』

 

 

美羽は俺の胸に手を当てた。

 

「これがボクの願い。これからもずっと一緒にいてほしいなって。………良いよね?」

 

潤んだ瞳で俺の目を見てくる。

 

俺は美羽の頭を撫でて微笑んだ。

 

「いつまでも一緒だよ。これからも、ずっとな」

 

見上げると雲一つない晴れた夜空。

白くて川のように見える星の群れが見えた。

 

彦星と織姫も今の俺達のように抱き合っているのかな?

 

 

 

 

なんてことがあったなぁ。

 

あの時の美羽の可愛いさを思い出していると、

 

「うふふ。今の願いもあの時と一緒だよ?」

 

そう言って美羽は俺の腕に抱きついてくる!

 

あぁ………!

おっぱいが………美羽のおっぱいが俺の腕を挟んでる!

 

制服越しでも分かる柔らかさ!

しかも、今は夏服だから、より感触が!

 

うーむ、妹おっぱい最高!

 

「はぅ! イッセーさんと美羽さんの間でそんなことが!」

 

「なんてこと! やはり美羽は強敵だわ!」

 

アーシア!?

部長!?

なに、人の回想読んでくれてるんですかぁぁぁぁぁ!?

つーか、回想なんて読めるものなの!?

 

「想いがあれば、回想の一つや二つ読めるわ!」

 

「さりげに心を読まないでくださいよ、部長!」

 

「イッセーさん! 私も短冊に願い事書きますぅ! 私もイッセーさんと一緒にいたいですぅ!」

 

部長とアーシアまで抱きついてきたよ!

 

はぅあ!

背中に部長の豊かなおっぱいがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

流石はリアス部長だ!

ナイスおっぱい!

 

アーシアちゃんも可愛いぞ!

 

でも………ここ道のど真ん中ですよ!?

大胆過ぎではないですか!?

 

嬉しいことには変わりないけど!

 

「今年の七夕祭りは皆で行こっか?」

 

美羽の提案で今年はオカ研メンバー全員で七夕祭りに行くことになったのだが………。

 

ほんっと賑やかになったよね、家も!



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第四章 停止教室のヴァンパイア
1話 久しぶりの再会です!!


俺は今、悪魔の仕事で、あのダンディな男性のところに来ている。

 

「おー、よく来てくれたな悪魔君」

 

「どうも。いつもご指名ありがとうございます」

 

俺が魔法陣で転移して来ると男性は快く迎えてくれた。

 

「いやー、なんかすいません。ご無沙汰になってしまって………」

 

エクスカリバーだのコカビエルだのとドタバタしてたからここに来るのは久々なんだ。

 

「なに、気にすることはないさ。悪魔君も色々あったみたいだしな」

 

「………そう言ってもらえると、助かります。それで、今日の依頼というのは?」

 

俺が尋ねると、男性は棚から一つのゲームを取り出した。

 

「おお! それって、この間発売されたばっかりの格闘ゲームじゃないっすか!」

 

それは二日前に発売された最新のゲーム。

 

俺も今度、買おうと思っていた代物だ。

 

「おうよ! 今日は君と対戦したくて、呼び出したわけだ」

 

「了解っす! 早速やりましょう!」

 

 

 

 

 

 

「あちゃー! また負けた!」

 

「ふっふっふ。君に勝つために、買ってからすぐにやりこんだからな。もうストーリーは全てクリアしている」

 

「マジっすか!?」

 

やりこみすぎだろ。

 

この人、暇なのか?

 

奥の棚を見ると最新のゲーム機から何世代か前の古いゲームが納められていた。

 

確か、最後に来たときには無かったはずだ。

 

「随分、揃えましたね。マニアでもここまで揃えてる人は中々いませんよ」

 

「集めだしたらコレクションしたくなる質でね。周りからは『おまえのコレクター趣味は異常だ』と良く言われるよ」

 

「へぇ」

 

「さぁ、もう一戦しようか悪魔君。いや―――赤龍帝、兵藤一誠君」

 

そう言いながら男性は黒い翼を出しながら立ち上がる。

 

翼の枚数は六対十二枚。

 

「望むところですよ―――堕天使総督、アザゼルさん」

 

 

 

 

軽い自己紹介を終えた俺達はソファに座り、向かい合っていた。

 

「とりあえず、お茶だ」

 

「どうも」

 

渡されたお茶を飲む。

 

このお茶、旨いな。

 

「じゃあ、目的を聞かせてもらうぜ、アザゼルさん。なぜ、この町に潜伏していたのかを」

 

「いいだろう。まぁ、大した理由はない。コカビエルが妙な動きをしていることを察知してな。目的が分かるまで監視してただけさ」

 

「あの白龍皇は?」

 

「ヴァーリのことか」

 

「ヴァーリ? あいつはアルビオンって名乗ってたけど?」

 

俺がそう言うとアザゼルさんは苦笑いする。

 

「俺が直接手を下すのは色々とマズいんでな。今回はあいつに事態の収拾を頼んだんだ。まぁ、おまえさんがコカビエルのやつを倒したみたいだがな」

 

あー、なるほど。

 

確かに、悪魔の領地に堕天使のトップが出てくるのは後々面倒なことになりそうだよな。

 

アザゼルさんの言うことに嘘は無いだろう。

 

すると、今度はアザゼルさんが俺に尋ねてきた。

 

「ところで、なんで俺の名前が分かったんだ?」

 

「会った時に上位の堕天使ってことは分かってましたし、情報をくれた人がいるので」

 

「情報? 誰が?」

 

「あ、気になります?」

 

アザゼルさんは頷く。

 

そんなに気になるなら、ここに呼んでやろう。

 

俺は携帯を開き、とあるところに電話をかける。

 

「あ、もしもし? イッセーだけど。………ああ、そうそう。俺の用事は済んだからもういいぜ………OK、分かった」

 

少し話した後、電話を切る。

 

そんな俺を訝しげに見てくるアザゼルさん。

 

「いったい誰に―――」

 

アザゼルさんが口を開いた時だった。

 

部屋に魔法陣が展開される。

 

これは転移用の魔法陣だ。

 

 

そして、そこから現れたのは―――

 

 

「見つけましたよ、総~督~!」

 

「ゲッ! レイナーレじゃねぇか!」

 

そう、魔法陣から現れたのは、レイナーレことレイナだった。

 

今日は可愛らしい水色のワンピースを着ている。

 

レイナは部屋に現れるとアザゼルさんに詰め寄る。

 

「全く、何してるんですか! コカビエル様があんなことするから、悪魔側や天使側に謝罪の書状を送ったり、報告書を書いたりで忙しいんですよ!? その上、総督が仕事を私達に丸投げするから、忙しさが倍になったんですけど! あなたは一人でのんびりゲームですか!? 忙しすぎて、うちの部署から病院に行った人が何人でたことか! だいたい、総督はそんなんだから―――」

 

おお!?

 

レイナがキレてる!

 

転移してきて早々のマシンガントーク!

 

これには流石の総督様もたじたじだ!

 

つーか、仕事を丸投げしてきたのかよ。

 

何してんだよ、あんた。

 

レイナの怒りも最もだ。

 

「わ、悪かった。すまん、ゆるして―――」

 

「いいえ、まだです! 前もそんなこと言ってたじゃないですか! 今度という今度は許しません!」

 

「いや、その………ほら、赤龍帝もいることだし」

 

「あっ………」

 

あ、俺をダシにしやがった。

 

「ごめんね、イッセー君! なんか見苦しいところ見せちゃって!」

 

レイナが両手を合わせてゴメンのポーズをとりながら謝ってくる。

 

「いや、俺は気にしてないけど………。それより、あれはいいのか?」

 

「え?」

 

俺が指を指す方には、そろりそろりと忍び足でこの場から逃げようとするアザゼルさんの姿。

 

「あ………」

 

レイナと目があった瞬間、ダッシュで逃げやがった!

 

俺はてっきりレイナも追いかけるのかな、と思ったんだけど何やら落ち着いている。

 

「フフフ。甘いですよ総督!」

 

レイナがそう言った瞬間、玄関の方から声が聞こえてきた。

 

「ゲッ! 今度はシェムハザかよ!」

 

シェムハザって副総督じゃなかったっけ?

 

サボりの総督を連れ戻しに態々ここまで来たのかよ。

 

「ゲッ!、じゃありませんよ、アザゼル! さぁ、帰りますよ!仕事が大量に残っているのですからね!」

 

「分かった! 分かったから、引っ張るなー! つーか、何でロープで縛るんだよ!」

 

「こうでもしないと、また逃げるでしょう!」

 

「ちょ、やめ、ギャアアアー!!」

 

玄関から聞こえる絶叫。

 

何があった!?

 

レイナが玄関に向かう。

 

リビングに一人、残される俺。

 

何があったのか凄く気になるんだけど、俺はここにいた方がいいのかな?

 

「シェムハザ様」

 

「ご苦労様です、レイナーレ。アザゼルは私が連れていきます。あなたは赤龍帝とゆっくりしていって下さい。色々と話がしたいと思いますし」

 

「いや、しかし………」

 

「気にすることはありません。あなたはここ数日、ろくに休めて無かったでしょう? たまには休暇を取ってください。あぁ、それから、この部屋は好きに使ってくれても構いませんから。副総督である私が許可します」

 

「は、はぁ………」

 

「その服も久しぶりに彼と会うために、新しく買ったのでしょう?」

 

「な、なぜそれを!?」

 

「いやー、若いって良いですね。それでは、私はこれで」

 

「ちょ、シェムハザ様!?」

 

そこで、アザゼルさんとシェムハザさんの気配が消えた。

 

どうやら、帰ったらしい。

 

数分後にレイナが戻って来ると、なぜか顔が真っ赤に染まっていた。

 

 

 

 

アザゼルさんが連れ去られて、数分後。

 

俺とレイナは二人、アザゼルさんの部屋にいた。

 

「じゃあ、改めて。久しぶりだね、イッセー君」

 

「おう。久しぶりだな、レイナ。そのワンピース、凄く似合ってるよ」

 

「そ、そう? ありがとう」

 

「ああ。それにしても見違えたよ。纏うオーラが以前よりも強くなってたからな」

 

ドーナシークと戦った時のレイナの力は本当に弱くて、下級堕天使の中でも弱い方だった。

 

それが今のレイナからは少なくとも中級堕天使クラスの力を感じられる。

 

「うん。あの後、アザゼル総督に頼み込んで鍛えてもらってるの。おかげでほら!」

 

レイナが背中から黒い翼を広げる。

 

その枚数は四枚。

 

「へぇ、すごいな。そこまでレベルを上げるなんて思わなかったよ」

 

「ありがとう。でも、イッセー君だってパワーアップしてない?」

 

「そりゃあ、俺も毎日、ティアとスパーリングしてるからな」

 

「ティアって?」

 

あー、そうか。

レイナはティアのことを知らないんだった。

 

「えーと、五大龍王の一角、ティアマットって言えば分かるかな?」

 

俺がそう答えるとレイナは笑顔のまま固まった。

 

どうしたんだ?

 

「………イッセー君、体大丈夫? それって毎日死にかけるんじゃ………」

 

「死にかけるってことはないかな。疲れるけど」

 

「相変わらず、とんでもないね………」

 

レイナは嘆息する。

 

うーん、なんか引かれてるような………。

 

この話題はここで止めよう。

 

「そういえば、最近忙しいのか?」

 

「そう! そうなのよ!」

 

ずいっと顔を近づけてくるレイナ。

 

顔近いって!

 

「今、アザゼル総督に鍛えてもらう代わりに秘書的なことを任されてるのだけど、これが本当に大変なの!」

 

「お、おう」

 

「最初は凄く嬉しかったけど、あの人、すぐにサボって神器の研究したり、どっか行ったりするのよ! 毎回これだから、たまったものじゃないわ!」

 

………レイナってこんなキャラだったっけ?

 

かなりストレス溜まってるのかね。

 

やばい、またマシンガントークが始まりそうだ。

 

「お、落ち着けって」

 

「あ、ゴメンなさい………。私ったら、イッセー君に愚痴を………」

 

「苦労してるんだな………」

 

この後、俺達は夜遅くまで話したあと、それぞれの家に帰ることになった。

 

夜も遅いから泊まっていけば、と提案したんだけど、仕事が残っていると言ってレイナは帰っていった。

 

 

 

 

翌日、部室にて。

 

俺は部長に昨日のことを報告していた。

 

「そう。堕天使側も大変なのね………」

 

堕天使の総督が自分の領地で勝手なことをしてたから怒るのかなと思ってたけど、部長は怒るどころか堕天使側に同情していた。

 

まぁ、昨日のレイナや副総督のシェムハザさんの様子を見ていると相当苦労してるみたいだしなぁ。

 

あれでよく部下がついてくるよな。

 

悪い人じゃないとは思うけど。

 

「しかしどうしたものかしら………」

 

「何がですか?」

 

「アザゼルのことよ。彼は神器に深い興味を持っているという話だし………。もしかしたら、イッセーの神器を狙って………」

 

部長の考えていることは分からなくはないが、それは無いと思う。

 

あの人はただのサボりだ。

 

部長の不安を聞き、木場が口を開く。

 

「大丈夫ですよ、部長。いざという時は僕がイッセー君を守ります」

 

なんで、瞳を輝かせてるの?

 

木場、正直キモいぞ。

 

「………いや、気持ちは嬉しいけどさ………。なんでそんなことを?」

 

「君は僕を助けてくれた。僕の大切な仲間だ。仲間の危機を救わないでグレモリーの騎士は名乗れないさ」

 

言ってることは理解できる。

 

確かに木場は俺にとっても大切な仲間だ。

 

でもな、おまえの口調はどこかがおかしい………

 

そんな俺の気も知らずに木場は続ける。

 

「確かに今の僕では君の足下にも及ばない。だけど、禁手に至った僕ならイッセー君の役に立てる時がいつか来ると思えるんだ。………ふふ、少し前まではこんなことを言うキャラじゃなかったんだけどね。君と付き合っているとそれも悪くないと思ってしまったよ。それに………なぜだか、胸の辺りが熱いんだ」

 

「お、おい木場。もうそれ以上言うな。頭痛がしてきた………」

 

マジで勘弁してくれ!

 

蕁麻疹が出来ちまったじゃねぇか!

 

一部の女子の間では俺と木場がいかがわしい関係になってるとか噂されてんだぞ!

 

俺はBLなんか真っ平ゴメンだからな!

 

「そ、そんな………」

 

気落ちするな!

余計に気持ち悪いから!

 

それよりも俺は一つ気になることがあったのでそれを部長に尋ねる。

 

「レイナから聞いたんですが、三大勢力の会談があるんですよね?」

 

「ええ、そうなのよ」

 

俺の問いに部長は頷く。

 

三大勢力の会談。

 

それは一度、三大勢力のトップが集まり、現状について話し合うという会談が行われるということ。

 

会談のきっかけは、もちろんコカビエルの襲撃だ。

 

「ちなみに、私達グレモリー眷属も事件に関わった者として、会談に出席する予定よ」

 

それは初耳だ。

 

いや、考えてみれば当然か。

 

俺達は事件の当事者だからな。

 

「はぁ………。会談前で只でさえピリピリしてるのに、アザゼルは一体何を考えているのかしら」

 

部長、まだ気にしてたんですね。

 

気にしなくても良いと思うんだけどなぁ。

 

というより、真面目に考えない方が良いと思う。

 

「アザゼルは昔から、ああいう男だよ」

 

突然、この場の誰でもない声が聞こえてきた。

 

声がした方へと視線を移してみると、そこには見覚えのある紅髪の男性がにこやかに微笑んでいた。

 

朱乃さん達が跪くのにつられて俺もその場に跪ずく。

 

アーシアとゼノヴィアは頭に疑問符をあげている。

 

「お、おおお、お兄様!?」

 

驚愕の声を出す部長。

 

現れたのは部長のお兄さんにして、現魔王の一人、サーゼクスさん。そして、その後ろにはサーゼクスさんの女王、グレイフィアさんが控えていた。

 

「やあ、愛しの妹よ。そして、その眷属達。楽にしてくれたまえ。今日はプライベートで来ているのだからね」

 

「プライベート?」

 

すると、ゼノヴィアがサーゼクスさんの前に出た。

 

「あなたが魔王か。私はゼノヴィアというものだ」

 

「ごきげんよう、ゼノヴィア。デュランダル使いが妹の眷属になったと聞いたときは耳を疑ったよ」

 

「ああ。私も自分が悪魔になるとは思わなかった。破れかぶれでなったとはいえ、本当にこれで良かったのかと思う時があるよ。………そもそも、私はなぜ悪魔になろうと考えたのだ? 確かあの時は、えーと………」

 

何やらゼノヴィアが自問自答しだしたぞ。

あいつ、何やってんの?

 

それを見てサーゼクスさんは愉快そうに笑う。

 

「いや、リアスの眷属は愉快な者が多い。ゼノヴィア、君の力を是非ともグレモリーのために役立ててほしい」

 

「伝説の魔王ルシファーに言われては私も後には引けないな。我が聖剣デュランダルにかけて、やれるだけやってみよう」

 

「ふふ、ありがとう、ゼノヴィア」

 

ゼノヴィアとサーゼクスさんの顔合わせが終わったところで部長が尋ねる。

 

「それで、お兄様はなぜここに?」

 

すると、サーゼクスさんは一枚のプリントを出した。

 

「なっ!?」

 

部長が目を見開く。

 

あれはもしかして―――

 

「もうすぐ授業参観だろう。勉学に励む妹の姿が見たくてね」

 

「そ、それを伝えたのはグレイフィアね!? 黙っていたのに!!」

 

部長はグレイフィアさんにそう言うと、グレイフィアさんはさも当然のように答えた。

 

「はい。サーゼクス様はこの学園の理事をしています故、私にも当然学園の情報は入ってきます。むろん、サーゼクス様の女王ですので、主へ報告も致しました」

 

「私はこれに参加する為だけに魔王の仕事は全て片付けてきた!」

 

サーゼクスさんは親指を立て、ウインクする。

 

………やっぱり、この人はシスコンだ。

 

めちゃくちゃ部長のこと愛してるよ。

 

『それは相棒も同じことだろう』

 

………否定はできない。

 

「ああ、それから後で父上も来られるよ」

 

「はぁ………」

 

部長が大きなため息をつく。

 

まぁ、思春期だからね。

 

親にはそういうのに来てほしくないんだろうな。

 

アーシアや美羽は来てほしいみたいだけど………。

 

二人は例外かな?

 

「お兄様は魔王なのですよ? 一悪魔を特別視するのは………」

 

部長がそう言うとサーゼクスさんは首を横に振った。

 

「いやいや、実はこれは仕事の内でもあってね。三大勢力の会談を学園で行おうと思っている。授業参観に来たのはその視察も兼ねているんだよ」

 

「「「!?」」」

 

この情報にはオカ研の全員が驚いた。

 

レイナからもその情報はなかったしな。

 

「そういうわけで、私は前乗りしてきたわけだが………、この時間帯で宿はとれるのかな?」

 

時計をみると結構遅い時間だった。

 

流石にこの時間に宿をとるのは難しいだろうな。

 

そこで、俺は一つ提案をした。

 

「それなら、俺に良い考えがあります」

 

その提案にサーゼクスさんはにんまりと笑みを浮かべた。

 

 



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2話 お泊り魔王様です!!

「妹がご迷惑をおかけしてなくて安心しました」

 

「そんなお兄さん!リアスさんはとっても良い子ですよ」

 

「そうですよ。家に来てくれて私達も色々と助かってます。全く、イッセーには勿体ない人だ」

 

現在、サーゼクスさんは家に来て、母さんの手料理を食べている。

 

そう、俺の出した提案とはサーゼクスさんとグレイフィアさんを家に泊めることだった。

 

連絡を入れたときは魔王が来るとのことなので、流石の父さんと母さんも身構えていたけど、今は完全に打ち解けている。

 

どこからどう見ても魔王というより好青年だからなぁ。

 

物腰も柔らかいし。

 

「それにしても、そんなに若いのに悪魔のトップを務めているなんて凄いですな。イッセーに貴方の爪の垢を飲ませてやりたい」

 

すると、サーゼクスさんは微笑みながら答えた。

 

「いや、イッセー君は我々、悪魔にとって重要な存在です。いずれ、冥界を支える柱になってくれるでしょう。というより、私は将来、彼に魔王になってほしいと思っていますよ。彼にはそれだけの魅力がある」

 

今の発言には俺も驚きだ。

 

サーゼクスさん、そんなに期待してくれてるんですか!?

 

部長も俺の隣で頷いてるし………。

 

ところで、父さんはなんで泣いてるんだよ?

 

「うぅ、なんて勿体ない言葉なんだ………。おい、イッセー。おまえ、しばらくサーゼクスさんのところに行って勉強してこい。今のおまえの頭で魔王になったら悪魔の皆さんにご迷惑をかけかねない」

 

なんて酷い言われようだ。

 

悪かったな、バカで!

どうせ、前回のテストで追試をくらった愚か者だよ、俺は!

 

「いやぁ、来てくれるなら私は大歓迎だよ、イッセー君。受け入れる準備は出来てるからね」

 

笑いながらそう答えるサーゼクスさん。

 

マジですか!?

もう受け入れ態勢万全ですか!?

 

俺、行っちゃおうかな。

 

そんなことを考えていると、突然、肩と腕を捕まれた。

 

「まだ行ってはダメよ、イッセー」

 

おお、部長が凄い真剣な目付きだ。

 

「イッセーさん、何処かに行ってしまうのですか………?」

 

「………そんなの嫌だよ」

 

アーシアと美羽がうるうるした目で聞いてきた!

 

うん、無理。

 

こんな目で引き止められたら、行けるわけないじゃないか!

 

「………えっと、またの機会で良いですか?」

 

「もちろんだとも。その気になったら何時でも来なさい」

 

俺とサーゼクスさんの話が終わると父さんがキッチンから酒を持ってきた。

 

「サーゼクスさん!お酒はいけますかね? この間、良い日本酒が手に入ったんですよ!」

 

「それは素晴らしい! 是非ともいただきましょう!」

 

うーん。

 

悪魔になってから、それまで抱いていた魔王のイメージが崩壊したような気がする。

 

めちゃくちゃフレンドリーだ。

 

それにしても、魔王か………俺にそんな素質があるのかね?

 

 

 

 

「そ、そんな………イッセーと寝てはダメなのですか?」

 

宴の時間も終わり、今はもう就寝時間となっていた。

 

今、俺の部屋の前では部長、アーシアが目を潤ませている。

 

「今夜は彼と話ながら床につきたいんだ。今夜だけは彼を貸してくれないか?」

 

そう、サーゼクスさんが俺と話がしたいらしく、今日は俺の部屋で眠ると言ってきたんだ。

 

ほぼ毎夜と言って良いほど、俺と就寝を共にしている二人は俺と眠れないことが心底悲しいらしい。

 

ちなみに美羽は一足早く自室で眠っている。

 

昨日は夜更かしをしたらしく、限界だったようだ。

 

あいつ、夜更かしの癖がついてないか?

 

それはともかく、魔王様に頼みは断れないようで、部長はしぶしぶ頷く。

 

「………分かりました。イッセー………お休みなさい………」

 

「………私も今日は自分の部屋で寝ます………イッセーさん、お休みなさい」

 

うっ………なんだか、罪悪感が………。

 

「………お、お休みなさい」

 

ポツリと残された俺とサーゼクスさん。

 

「さ、中に入ろうか」

 

「そうですね」

 

そう言うと、俺達は部屋の中に入りドアを閉めた。

 

「本当に良いんですか?」

 

「何がだい?」

 

「いや、布団でいいのかなと」

 

俺の部屋にはベッドが一つしかない。

 

よって、どちらか一人が床に布団を敷いて寝ることになる。

 

サーゼクスさんは客人だし、それに魔王でもあるから、流石に布団はマズいんじゃないかと思い、ベッドを譲ろうとしたんだけど、サーゼクスさんはそれを断ったんだ。

 

「気にしないでくれたまえ。私は普段はベッドで寝ているからね。こういうのは新鮮なんだ」

 

まぁ、確かに。

布団を敷いて寝る魔王なんて想像できないな。

 

サーゼクスさんからしたら滅多に出来ない体験ってところか。

 

「さて、今晩は君と色々話したいんだが、その前にお礼を言わないとね」

 

「お礼?」

 

俺、サーゼクスさんからお礼を言われるようなこと何かしたかな?

 

「まずは、リアスの婚約の件。リアスを勝利に導いてくれたこと、兄として感謝しているよ。私は立場上、リアスを助けるわけにはいかなかったからね」

 

ライザーの一件か。

 

やっぱりサーゼクスさんも反対だったんだな。

 

「それに、あのゲームで神器を使わなかったのはリアスの先を案じてのことなのだろう?」

 

サーゼクスさん、気づいてたのか………。

 

ドライグ以外、誰にも言ってなかったのに。

 

俺は人差し指を口元に当てる。

 

「それ、部長や皆には黙ってて下さいね?」

 

「もちろんだとも。君の気遣いを無駄にするつもりはないよ。ただ、リアスのことを本気で考えてくれていたことにお礼を言いたかった。ありがとう」

 

サーゼクスさんは俺に頭を下げる。

 

魔王という立場ではなく、一人の兄として。

 

「俺は部長の眷属であり、家族です。俺は部長に幸せになってほしかった。それだけですよ」

 

「ふふふ。君がリアスの眷属になってくれて本当に良かった。これからもリアスのことを頼むよ、イッセー君」

 

「ええ、任せてください」

 

 

 

 

それから話は、コカビエルの話題になった。

 

「コカビエルの件はご苦労だったね」

 

サーゼクスさんが労いの言葉をかけてくる。

 

「それにしても、報告を受けた時は驚いたよ。あのコカビエルを圧倒したそうじゃないか」

 

「いやー、神器の調整がギリギリだったんで、少し焦りましたけどね。間に合ってくれたおかげで何とかなりました」

 

俺は頭をかきながら答える。

 

もし神器の調整が終わらず、禁手が使えなかったらコカビエルには勝てなかった。

 

まぁ、その場合はティアを呼んでただろうけど。

 

「君のことは初めて出会った時から強いとは思っていたが、正直言って想像を遥かに超えていたよ。神器を使わずにフェニックスを打ち倒し、聖書にも記されしコカビエルを圧倒するんだからね」

 

「まぁ、それは修行の賜物というか何というか」

 

俺は苦笑いを浮かべる。

 

そう答えるしかないよなぁ。

 

異世界に行って、そこで魔王を倒してきました、なんて言えるわけがない。

 

下手に異世界の話をすれば大問題になりかねない。

 

これはドライグの助言だ。

 

まぁ、修行の賜物っていうのは事実だから嘘は言ってないよな。

 

すると、サーゼクスさんは俺の目をじっと見てきた。

 

「確かに君の強さは厳しい修行で得たものなのだろう。だが、それだけではその眼にはなれない」

 

「眼、ですか?」

 

「そう、眼だ。君の眼は強く、優しい。多くの試練を乗り越えた者の眼をしている」

 

「………」

 

正直、俺は少し驚いている。

 

まさか、こうも簡単に見透かされるとは思わなかった。

 

サーゼクスさんは続ける。

 

「それ故に君は強い。力だけではなく、その心も」

 

「でも、俺はまだまだです。至らないところばかりで」

 

「君はまだ若いのだ。至らないところがあって当然だ。いや、むしろその若さでそこまでの領域に至れたこと自体が驚きではあるよ。………君は一体、どんな経験をしてきたのだろうね」

 

興味深そうに俺を見てくる。

 

この人は何となく気づいてるのかもな。

 

『そうだな。異世界のことはともかく、なにかしら大きな悲劇を経験していることくらいまでは察しているのかもしれんな』

 

やっぱ、凄いよこの人は。

 

すると、サーゼクスさんは唐突に尋ねてきた。

 

「イッセー君。魔王を目指してみないかい?」

 

「夕食の席でも言ってましたね。俺には魅力があるって」

 

サーゼクスさんは頷く。

 

「そう。君とは出会って間もないが、どこか感じるところがあってね。その器があると思った。今すぐというわけにはいかないが、将来の夢として考えてはもらえないだろうか?」

 

将来の夢、か………。

一応、俺には上級悪魔になって、ハーレム王を目指すっていう夢があるけど。

 

ハーレム王になったら(なれるのかは怪しいところではあるが………)、その先を考えなければならない。

 

そう考えたら、とりあえず魔王を目指してみるのもありか?

 

まぁ、こんな軽い気持ちで務まるものじゃあないだろうけど、視野に入れるのは悪くない。

 

「そうですね。一応、考えてみます。当分先のことになると思いますけど」

 

俺がそう答えるとサーゼクスさんは満足そうな笑みを浮かべた。

 

でもよ、俺が魔王になったらどうなるんだ?

 

確か、現魔王って襲名制だったはずだ。

 

サーゼクスさんも、サーゼクス・グレモリーからサーゼクス・ルシファーになってるわけだろ?

 

例えば俺がサーゼクスさんの跡を継いだとすると――――。

 

イッセー・ルシファー………。

 

………合わない。

 

日本人の名前じゃまったく様にならないような………。

 

 

 

 

「さて、堅苦しい話はここまでにしようか。次は君と同じ兄として話がしたい」

 

「?」

 

頭に疑問符を浮かべる俺。

 

兄としてって………。

 

まぁ、俺もサーゼクスさんも妹がいるけど………何を話すんだ?

 

サーゼクスさんは持ってきていた鞄から一冊の本らしきものを取り出す。

 

「それは?」

 

「これはね―――リアスの成長を記録した写真集だよ」

 

な、なんですと!?

 

そんな物が存在していたのか!

 

いや、この人は部長を溺愛している。

 

あって当然といえるだろう。

 

「映像記録もあるのだが、流石にそれも持ってくるとグレイフィアにバレそうでね………。今日はアルバムだけを持ってきたのさ」

 

「な、なるほど」

 

「それで、君には妹を愛する兄として私の気持ちを共有して欲しかったのだ! 今日、リアスに君を貸してもらったのはこのためだ」

 

こっちがメインですか!?

さっきまでの真面目な話はついでだと!?

 

「さぁ、見てくれたえ。これがリーアたんの五歳のころの写真だ」

 

サーゼクスさんが指差す写真には幼い頃の部長が大きな熊のぬいぐるみと遊ぶ姿が写っていた。

 

か、かわいい………!

 

あのお姉さまキャラの部長にもこんな時代があったのか!

 

ヤバイ、鼻血が。

 

「イッセー君、これを使いたまえ。ティッシュだ」

 

「あ、ありがとうございます。ってサーゼクスさんも鼻血出てますよ」

 

「おっと………これでよし」

 

俺達は二人、鼻にティッシュを詰める。

 

幼い部長の写真を見ながら鼻にティッシュを詰める魔王ルシファーと赤龍帝か………。

 

他人には見せられない姿だ。

 

「で、どうだい?」

 

「めちゃくちゃ可愛いです!」

 

「そうだろう!」

 

ページをめくるたびに現れる可愛い部長。

 

サーゼクスさんが部長を溺愛する理由が分かったぜ。

 

これは溺愛しない方がおかしい!

 

なるほど………。

 

サーゼクスさんには見せてもいいのかもしれない。

 

俺は立ち上がり、本棚の方へと向かう。

 

そしてそこから一冊の本を取り出した。

 

それを見てサーゼクスさんはハッとなる。

 

「それは、まさか………」

 

「ええ、これは俺が撮りためていた美羽の写真集ですよ」

 

そう、実は俺も美羽の写真を撮り、アルバムを作っていた。

 

中学から今に至るまでの美羽の日常の写真が納められている。

 

その価値はエロ本をも凌ぐ。

 

実は、このアルバムは誰にも見せたことがない。

 

なぜなら、自分でもシスコンと思えるくらいに日常生活の細かいところまで写真を撮っているからだ。

 

いつからだ!?

 

いつから俺はシスコンになったんだ!?

 

この写真集を見るたびに俺は自分に問いただすが、何だかんだで、止められずにここまで来てしまった。

 

だが、この人になら見せてもいいかもしれない………。

 

俺はページを開く!

 

「このページは美羽の寝顔を集めたものです!」

 

「おおっ! やはり君も!」

 

サーゼクスさんがアルバムを眺め、ページを捲る。

 

そして涙を流す。

 

「素晴らしい………! 君の彼女への愛情が伝わってくるよ。君も私に劣らず、妹のことを溺愛しているようだ………。イッセー君、君のことを同志と思ってもいいかい?」

 

「もちろんです!」

 

俺達は互いの手を取り感動の涙を流す。

 

ああ………ここに同志がいた………!

 

エロの同志は松田や元浜がいた。

 

だけど、妹を愛でる同志はこれまでいなかった。

 

想いを共有してくれる人がいなかったんだ!

 

「イッセー君………いや、我が同志よ! 今日は語り合おうか!」

 

「はい!」

 

その日、俺達は互いの妹について夜が明けるまで熱く語り合った。

 

 

 



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3話 プールです!! 水着です!!

サーゼクスさんが来訪してから数日。

 

サーゼクスさんとグレイフィアさんは泊まった次の日に俺の家を出立した。

 

どうやら、この町の下見をしているようだ。

 

俺も少し付き添ったんだけど、あれは本当に下見なのか?

 

やってたことと言えば、ゲーセンで俺と対戦したり(冥界にゲームセンターを作るらしい)、ファーストフードの店に入ったら全品注文したり(冥界にもチェーン店を作るらしい)、神社にお参りに行ったり(サーゼクスさんは自身の魔力で神聖な力を消し飛ばしてお参りしていた。なんてハタ迷惑な。………それに、魔王がお参りって)、どう見ても遊んでいたようにしか見えなかった。

 

まぁ、冥界には娯楽が少ないらしいから、市民が楽しめるものを作りたいんだろうな。

 

うん、そういうことにしておこう。

 

とりあえず、サーゼクスさんと親睦を深められたのは良かったかな。

 

プライベートの連絡先も教えてもらったし。

 

これから、度々連絡をとる予定だ。(話の内容は主に妹について)

 

今度、部長の映像記録も見せてもらう約束をしたからな、それが凄く楽しみで仕方ない。

 

幼い頃の部長、可愛かったな~。

 

あの写真を思い出しつつ、今日も学校へ登校する。

 

「いってきまーす」

 

今日は日曜日なので本来なら休みだ。

 

だけど、俺達はやることがあるため学園に向かっていた。

 

 

 

 

今、俺達オカ研メンバーはプールサイドに集まっていた。

 

「これを掃除すんのかよ………」

 

俺はプールの中を見てげんなりする。

 

プールの中は苔や藻がいたるところで繁茂している。

 

これを少ないメンバーで掃除しろというのだから、中々に面倒な作業だ。

 

「使ったのは去年の夏以来ですから、仕方がありませんわ」

 

「だが、どうしてオカルト研究部がプールの掃除を?」

 

まぁ、ゼノヴィアの疑問は最もだ。

 

プール掃除の仕事は本来、生徒会の仕事だ。

 

実際、去年は生徒会メンバーが行っていた。

 

部長がゼノヴィアに答える。

 

「コカビエルの時に生徒会メンバーが後始末をしてくれたから、そのお礼として今年はうちが引き受けたのよ」

 

あー、なるほど。

 

確かに校舎自体は美羽が直したものの、体育館とか、グラウンドとか、校舎以外のところは生徒会が請け負ってくれたんだ。

 

今年のプール掃除をオカ研が引き受けたのはそういう背景があったのか。

 

「でも、掃除が終わったらプールを使っていいと言われてるわ。私達は一足早くプール開きよ」

 

部長の言葉を聞いてハッとなる。

 

そ、そうだった!

 

今日は部長達の水着姿が見られるありがたい日じゃないか!

 

この前、なぜか部長と朱乃さんが水着姿の写真を送ってきたんだけど、あれは俺の携帯にしっかり保存してある!

 

今日はあれを生で見れるのか!

 

それを思うとやる気が出てきたぜ!

 

「よっしゃあ! やるぜプール掃除!!」

 

「イッセー先輩、顔がいやらしいです」

 

「うっ!」

 

流石は小猫ちゃん!

 

的確なツッコミだ!

 

「さぁ、始めましょうか。皆、オカルト研究部の名にかけて生徒会が驚くくらいピカピカにするのよ!」

 

「「「おおー!!」」」

 

 

 

 

んふふ~♪

 

水着だ水着だ!

皆の水着だ!

 

俺は更衣室で着替えながら皆の水着姿を想像していた。

 

いやー、俺、オカ研に入部して本当に良かった!

 

すると、俺の隣で着替えていた木場が言ってきた。

 

「そういえば、イッセー君の裸を見たのは初めてかもしれないね。いい体してるね」

 

「そ、それってどういう意味?」

 

「筋肉のつき方が良いっていう意味だよ。凄く引き締まってる」

 

「お、おう。そうか、サンキュー………」

 

なんだろう………。

俺を見る木場の眼が怖いような………。

 

前も部室でホモホモしいこと言ってきたからな。

 

早く着替えてこの場を離脱しなければ………!

 

「お、俺は着替えたから先に行くよ」

 

「うん。僕もすぐに行くよ」

 

俺は逃げるように更衣室を後にした。

 

 

 

 

それから一時間後。

 

俺達の目の前には苔ひとつないピカピカのプールがあった。

 

「いやー、かなりキレイになりましたね」

 

「そうね。皆、ご苦労様。今からはお楽しみの時間よ。朱乃、頼めるかしら?」

 

「ウフフ、了解ですわ」

 

朱乃さんは手を上にあげるとそこに魔法陣を展開する。

 

すると、魔法陣から水が作り出され、あっという間にプールを水で満たした。

 

すげぇ!

 

流石は朱乃さんだ!

 

「さぁ、思う存分泳ぎましょう。ねぇ、イッセー。私の水着、どうかしら?」

 

 

ブハッ!

 

 

勢いよく飛び出る鼻血。

 

部長の水着姿!

 

まぶしい!

 

布面積の小さい白のビキニ!

 

おっぱいがこぼれ落ちそうなんですけど!

 

下乳なんて見えるなんてレベルを越えている!

 

「最高です!」

 

「あらあら。部長ったら張り切ってますわ。よほど、イッセー君に見せたかったのですわね。ところで、イッセー君、私の水着姿も見ていただけますか?」

 

おお!

 

朱乃さんも登場だ!

 

こちらは赤と青が混ざったビキニだ!

 

もちろん、布面積は小さい!

 

最高です!

 

「イッセーさん、私も着替えてきました!」

 

振り返るとそこにはアーシアと小猫ちゃん。

 

二人は学校指定のスクール水着だ。

 

胸の「あーしあ」、「こねこ」と書かれた名前が素晴らしい!

 

「ああ、可愛いぞ! お兄さん感動だよ! 小猫ちゃんもいかにもマスコットって感じで良いな!」

 

「卑猥な目つきで見られないのもそれはそれって感じで少し複雑です」

 

何やらぶつぶつと残念そうにしてるけど………。

 

どうしたんだ?

 

すると、肩をつつかれた。

 

美羽だ。

 

「………どうかな?」

 

恥ずかしそうにもじもじしている。

 

美羽の水着はピンク色のビキニ。

 

部長や朱乃さんと違って布面積は大きいが、とても可愛い。

 

「グッジョブだ! 可愛いぞ、美羽!」

 

親指を立ててそう答えると美羽は嬉しそうに微笑んだ。

 

いやー、オカ研の皆は全員が美女美少女だから、水着がよく似合うな。

 

あれ?

 

誰か一人足りないような………。

 

「ゼノヴィアは?」

 

「ゼノヴィアさんは水着を着るのに手間取ってるみたい」

 

手間取る?

 

どんな水着なんだ?

 

すると、部長は俺に背を向けている小猫ちゃんの肩に手を置き、ニッコリ微笑みながら言う。

 

「それでね、イッセーに頼みがあるのよ」

 

「はい?」

 

 

 

 

「はい、いち、に、いち、に」

 

俺は小猫ちゃんの手を持って、バタ足の練習に付き合っていた。

 

部長に頼まれたこととは小猫ちゃんの泳ぎの練習に付き合うこと。

 

正直、意外だった。

 

小猫ちゃんは運動神経が良いから、てっきり泳げるものだと思っていた。

 

当の小猫ちゃんは「ぷはー」と時折息継ぎをしながら一生涯、足を動かしている。

 

うん、可愛いわ、やっぱ。

 

「小猫ちゃん、頑張って!」

 

横でアーシアが小猫ちゃんを応援している。

 

ちなみにアーシアも泳げないらしく、アーシアの練習も俺が付き合うことになっている。

 

うーん、俺としてはプールで泳ぐ部長達の姿を見たかった。

 

部長や朱乃さんが泳ぐたびにおっぱいが揺れて素晴らしい光景が見れると思うんだ!

 

でも、小猫ちゃんやアーシアの泳ぎの練習に付き合うのも最高かな。

 

「………イッセー先輩、付き合わせてしまってゴメンなさい」

 

「いやいや、小猫ちゃんの泳ぎの練習に付き合えて、俺も嬉しいよ。役得ってやつだな」

 

こんな光景は元浜には見せられないな。

 

あいつ、小猫ちゃんのファンだから、見られたら血の涙を流して襲ってくるぞ。

 

そんなことを考えているといつの間にかプールの端に着いていた。

 

「っと、端に着いたよ、小猫ちゃん」

 

「………ありがとうございます、イッセー先輩。………やっぱり、イッセー先輩は優しいです」

 

「どうしたの? 急に」

 

いきなり、優しいとか言われても………。

いや、悪い気は全くしないんだけどね。

 

「イッセー先輩は修業を見てくれたり、泳ぎを教えてくれたりしてくれます。………でも、私はイッセー先輩に何かをしてあげたことがありません」

 

小猫ちゃんがしゅんとした表情で言ってきた。

 

うーん、小猫ちゃんはそんなことを気にしてたのか。

 

普段、感情を表に出さないから分からなかったよ。

 

俺は小猫ちゃんの頭に手を置く。

 

「そんなことはないさ。俺だって小猫ちゃんに迷惑をかける時だってある。仲間ってのはお互いに助け助けられるもんだ。だからさ、そんなことで悩む必要はないよ」

 

「やっぱり、イッセー先輩は優しいです。………スケベですけど」

 

「あれー? そういう反応? 俺、結構良いこと言ったよ?」

 

「ふふ、そうですね」

 

そう言いながら微笑む小猫ちゃん。

 

か、可愛い………!

小猫ちゃんが笑うといつも以上に保護欲が沸き立てられるよな!

 

 

ザバァン!!

 

 

誰かがプールに飛び込む音が聞こえてきた。

 

見ると部長、朱乃さん、美羽、木場の四人が競争をしていた。

 

こ、これはチャンスだ!

 

俺は急いで水中に潜り、籠手を展開。

 

即座に倍加して両目に力を譲渡した。

 

『Transfer!』

 

これで俺の視力は一気に上がった!

 

泳ぐ部長達の姿を捉える!

 

うひょー!

 

揺れてる!

 

揺れてるよ!

 

部長達のおっぱいが水の抵抗で揺れてるよ!

 

やっぱり、俺の神器はこういうことのためにあるよな!

 

双眼鏡いらずの、最強の覗きだ!

 

まぁ、これをするたびにドライグが泣くんだが………とりあえず、脳内保存だ!

 

あ、クソッ、木場が俺の視界に!

 

邪魔だ、どけ!

 

野郎の裸なんぞ、見たくねぇんだよ!

 

 

ゴスッ!

 

 

俺の頭部に容赦のない一撃が加えられる。

 

痛い!

 

水中からザバッと上がってみると、小猫ちゃんが拳を握っていた。

 

しかも、魔力を纏ってる。

 

こんなところで俺の教えを実行しないで!

 

頭がへこむから!

 

「次はアーシア先輩の泳ぎを見るんじゃなかったんですか?」

 

小猫ちゃんに言われ、アーシアを見ると涙目だった。

 

「うぅ、私だって………」

 

あー、頬を膨らませてるよ。

 

もしかして、拗ねてる?

 

「すまんすまん、次はアーシアな」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

 

「………スースー」

 

プールサイドにビニールシートの上で寝息をたてるアーシアと小猫ちゃん。

 

泳ぎが苦手な二人は大分疲れたようだ。

 

冷えてはいけないから、タオルだけかけておこう。

 

それにしても二人の寝顔も可愛いな。

 

見てるだけで癒される。

 

 

ドボンッ!

 

 

木場と美羽はまだ泳いでるみたいだ。

 

おまえら、どれだけ泳ぐつもりだ?

 

俺も流石に疲れたぞ。

 

「イッセー」

 

そんなことを考えていると部長に声をかけられた。

 

振り向くと、部長が手招きをしている。

 

反対の手には小瓶らしきもの。

 

あれは、オイル?

 

ま………まさか、この展開は!

 

俺はダッシュで部長のところに向かう!

 

予想が正しければ、男子なら誰でも憧れるあのイベント!

 

「兵藤一誠、ただいま到着しました!」

 

「ねぇ、イッセー」

 

「はい!」

 

「オイル塗ってくれないかしら?」

 

 

――オイル塗ってくれないかしら

 

 

脳内でリピート再生されるこの言葉。

 

キタアァァァァァァァア!!

 

心の中でガッツポーズ!

 

夢のシチュエーション、憧れのイベント!

 

しかも、相手は学園のお姉様!

 

「もちろんです!」

 

「じゃあ、さっそくお願いするわ」

 

ハラリと外されるブラ。

 

ブルン、と豪快に揺れる部長の胸。

 

「ぶ、部長!男の目の前で脱いじゃって良いんですか!?」

 

「ええ、あなたになら私は構わないわ」

 

笑顔で答える部長!

 

マジですか!?

 

俺なら良いんですか!?

 

くぅー!!

 

生きてて良かった!

 

部長が良いと言ってるんだ!

 

覚悟を決めろ、兵藤一誠!

 

部長に渡されたオイルを手に落とし、馴染ませる。

 

そして、部長のお背中へ!

 

 

ぴと、にゅるぅぅぅ。

 

 

手に伝わる部長の感触。

 

あぁ、スベスベしてて気持ち良い。

 

感動で涙が止まらねぇ!

 

「あら? イッセー、泣いてるの? 私にオイルを塗るのは嫌だったかしら?」

 

「とんでもない! これは感動の涙です! 許されるならずっとしていたいです!」

 

「ふふ、それなら良かったわ。ねぇ、背中が終わったら前もお願いできるかしら?」

 

な、なんと!

 

前――それはつまり、部長のむ、胸を触るということ。

 

「良いんですか!?」

 

「いいわ。後で念入りに塗ってちょうだい。イッセーは女性の胸が大好きなのでしょう?」

 

「はい! 大好物です!」

 

ああ、そうさ!

 

俺はおっぱいが大好きさ!

 

それにしても、部長が俺に対して積極的になったような………。

 

「イッセー君♪ 私にもオイル塗ってくださらない? 部長だけずるいですわ」

 

背中に柔らかく、弾力のある何かが背中に押しつけられる!

 

こ、これは!

 

振り返ると朱乃さんがいた。

 

しかも、ブラを外した状態で!

 

朱乃さんが俺の体に腕を回して抱きついてくる!

 

「あ、朱乃さん?」

 

「ねぇ、良いでしょう?」

 

マジですか!

 

俺、学園の二大お姉様の両方からオイル塗りを頼まれちまった!

 

ああ、なんて最高な日なんだ!

 

「ちょっと朱乃! 私のオイル塗りはまだ終わってないのよ?」

 

部長が上半身を起こして、朱乃さんに言う。

 

明らかに不機嫌だ。

 

つーか、部長!

 

もろに見えてます!

 

おっぱいが揺れてるんですけど!

 

「いいじゃない。少しくらい。私は日頃からお世話になってるお礼にイッセー君に溜まってるものを吐き出させてあげたいだけですわ。………ねぇ、部長。私にイッセー君をくださらない?」

 

あ、朱乃さん!?

 

「だめよ! イッセーは私のよ! ………美羽やアーシアならともかく、あなたには絶対にあげたりするものですか! イッセーが獣になってしまうわ!」

 

け、獣ですか………。

 

「あらあら、酷い言われようですわ。ねぇ、イッセー君」

 

「な、なんでしょう、朱乃さん?」

 

「私のおっぱいを好きにしてみたくないかしら? 部長のことだから、特にそういうことをイッセー君にさせてあげたことはないのでしょう?」

 

た、確かに。

 

部長とは一緒に寝たりするだけで、特にそういうことをしたことはない。

 

いや、俺としてはそれだけでも十分なんだが………。

 

つーか、朱乃さん!

今日は、なんでそんなに積極的なんですか!?

 

「私と色々なことしてみない?」

 

 

ハムッ

 

 

「はうっ」

 

朱乃さんが俺の耳を甘噛みしてきたあぁぁぁああ!?!?

 

ヤバいよこの人! エロすぎる!

 

性欲の権化とまで言われたこの俺が為す術もなく圧倒されてるよ!

 

 

バシュン!!

 

 

ドス黒い魔力弾が俺の横を通りすぎる。

 

 

ギギギ、と首を後ろに向けると、プールサイドの一部が消し飛んでいた。

 

「朱乃、少し調子に乗りすぎじゃないかしら?」

 

部長が手に滅びの魔力を作りながらそう言う。

 

怖ぇ!

 

すると、俺に抱きついていた朱乃さんがすくっとその場に立ち上がる。

 

「あらあら。そっちがその気なら私も容赦しませんわ」

 

バチッ! バチチッ!!!

 

今度は朱乃さんの手に雷が作り出された!

 

二人は一瞬睨み会い―――

 

 

ドガアァァァァァァン!!

 

 

互いに魔力を投げ合った!

 

おいおい、こんなところで魔力合戦しないでくださいよ!

 

「イッセーはあげないわ。卑しい雷の巫女さん」

 

「可愛がるぐらいいいじゃない。紅髪の処女姫さま」

 

「あなただって処女じゃない!」

 

「ええ。だから今すぐにイッセー君に貰ってもらうわ」

 

「ダメよ! 私があげるのよ!」

 

「あら? ずっと、一緒に寝てるのに彼に手を出せていないあなたがそんなことをできるのかしら? 私なら×××や○○○をイッセー君にしてあげられますわ」

 

「私だってイッセーになら△△△や☆☆☆くらい出来るわよ! だいたい、朱乃は男が嫌いだったはずでしょう!」

 

「そう言うリアスだって男なんて興味ない、全部一緒に見えるって言ってたわ!」

 

「イッセーは特別なの!」

 

「私だってそうよ! イッセー君は可愛いのよ!」

 

あああああ!!

 

なんかとんでもないこと言いながら本格的な大ゲンカになってきたぞ!

 

完全に放送禁止用語じゃねぇか!

 

これは止めなくては!

 

これ以上、二大お姉様に放送禁止用語を言わせるわけにはいかない!

 

 

ヒュッ! バコッ!

 

 

俺の横を通りすぎる魔力。

 

な、なんだ!?

 

今の魔力弾、やたら威力が高いぞ!?

 

なんで、こんな時にコカビエル戦の時より威力が高いやつを撃つんですか!

 

あんなのくらったら、ひとたまりもない!

 

ダメだ!

 

ここにいたら、俺は死ぬ!

 

俺には二人のケンカは止められない!

 

「すいません、部長、朱乃さん!」

 

俺は謝りながら、その場を離脱した。

 

 

 

 

「はー、怖かった………」

 

眷属悪魔の可愛がり方は俺の想像を越えています。

 

いや、本当。

 

美少女達の取り合いの的になるのは嬉しいけど、流石に激しすぎるよ。

 

つーか、なんで俺なんだ?

 

俺、これといって何かをした記憶がないんだけど………。

 

とにかく、ここにいて治まるのを待つとしよう。

 

そんなことを考えていると、ゼノヴィアが現れた。

 

「兵藤一誠か。何をしてるんだ、こんなところで?」

 

「いや、なんというか………休憩かな。そういうおまえは?」

 

「初めての水着だから手間取ってね、似合うかな?」

 

こいつ、まだ手間取ってたのかよ。

 

いくらなんでも手間取りすぎだろう。

 

ゼノヴィアの水着は美羽のような標準的なビキニだった。

 

あー、やっぱり、ゼノヴィアもいい体してるな。

 

「ああ、凄く似合ってるよ。………でも、それほど手間取るような水着には見えないけど………」

 

まぁ、俺もビキニの着方なんて知らないけどね。

 

「実は着替えた後に少し考え事をしていてね」

 

「考え事?」

 

「ああ。兵藤一誠。折り入って頼みがある」

 

「イッセーでいいよ。仲間なんだし。それで頼みって?」

 

「ではイッセー。私と子供を作ってくれ」

 

 

 

 

ガタンッ!

 

 

突然のことに混乱する俺はゼノヴィアにプールの倉庫に押し込められた。

 

「な、ななななっ!?」

 

「聞こえなかったのか? ではもう一度言おう。私と子供を作ってくれ」

 

「いや、聞こえてるわ! 驚いてんだよ! どうしたんだ、いきなり!」

 

「そうだな。順を追って話そう」

 

ゼノヴィアは語りだす。

 

「私は今までずっと信仰のために生きていた。主に仕え、主のために戦う。これが私の全てだった」

 

それは俺も知ってる。

 

ゼノヴィアは熱心な信仰者だ。

 

悪魔になった今でもそれは変わらず、時折アーシアと信仰について語り合っている。

 

「だが、主がいないと知り、悪魔となった私には夢や目標が無くなってしまった。そこでリアス部長に尋ねたんだ。そしたら――」

 

―――悪魔は欲を持ち、欲を叶え、欲を望む者。好きに生きてみなさい。

 

「――と言われてね。そこで、私は女としての喜び、子供を産むことにしたんだ」

 

原因は部長かよ!

 

いや、確かに悪魔が欲を持つのは間違ってはいないと思うけど。

 

「で、なんで俺なんだ?」

 

「君はドラゴンを宿している。いや、君は素の状態でも十分と言えるくらいに強い。私は子供を作る以上、強い子供になってほしいと願っているんだ。君が父親ならドラゴンのオーラが子供に受け継がれ強くなるだろう。私はそう考えたんだ」

 

おいおい、何やら良く分からんことを言ってますけど!?

 

つまり、俺の遺伝子が欲しいと!?

 

「さっそくチャレンジしてみようじゃないか」

 

ゼノヴィアがブラを外し、現れるおっぱい!

 

そして、俺に抱きついてくる!

 

ヤバい!

 

ゼノヴィアのおっぱいが俺の体に直に当たる!

 

こ、この感触はぁぁぁぁあ!!

 

「さあ、私を抱いてくれ。子作りの過程さえちゃんとしてくれれば、後は好きなようにしてくれて構わない」

 

良いのか!?

 

大人の階段を上がっちゃって良いんですか!?

 

今ここには俺とゼノヴィアの二人だけ!

 

ここで退けば男が廃る!

 

松田、元浜、俺は先に行く!

 

俺はもうお坊ちゃんじゃないんだ!

 

ドライグ艦長! 兵藤一誠、突貫します!

 

『誰が艦長だ!』

 

ドライグのツッコミを無視して、俺はゼノヴィアの両肩を掴む。

 

ゼノヴィアは一瞬ビクッとするが、直ぐに受け入れ体勢になる。

 

「ゼノヴィア――」

 

 

「これはどういうことかしら、イッセー」

 

 

声がした方を振り向くと、紅い魔力を薄く纏った部長がいた。

 

いつの間に!?

 

「あらあら。ゼノヴィアちゃんずるいわ。イッセー君の貞操は私が貰う予定なのですよ?」

 

いつものニコニコ顔だけど、危険なオーラを発している。

 

怖い!

 

「イッセーさん、酷いです! 私だって言ってくれたら………」

 

涙目でそう言うアーシア。

 

言ったらOKなんですか!?

 

「………油断も隙もない。やっぱり、イッセー先輩はドスケベです」

 

小猫ちゃんが半目で睨んでくる!

 

違うんだ、小猫ちゃん!

 

これには色々あるんだ!

 

ダメだ。

 

ブラを外したゼノヴィアとそのゼノヴィアの両肩を掴む俺。

 

誰がどう見ても、何をしようとしていたのか明らかだ!

 

「どうした、イッセー。手が止まっているぞ。早く子作りをしよう」

 

おーい!

 

その言葉をこのタイミングで言うんじゃない!

 

空気を読め!

 

「「「子作り!?」」」

 

ゼノヴィアの言葉を聞いた部長はツカツカと俺に近づくと俺の腕を掴む。

 

「ぶ、部長?」

 

「私が悪かったのよ。只でさえ性欲の強いあなたを放置していたのだから。………でもね、子作りってどういうことかしら?」

 

微笑んでるけど、目が笑ってない!

 

マジだ、マジでキレてる!

 

すると、反対の腕を掴まれた。

 

「あ、朱乃さん?」

 

「そうですわね。どういう経緯で子作りをすることになったのか、詳しく教えていただきたいですわ。ねぇ、アーシアちゃん」

 

 

グンッ!

 

 

突然の浮遊感が襲う。

 

見れば小猫ちゃんが俺の両足を持ち上げていた!

 

「………連行です」

 

どこに!?

 

一体俺をどうするつもりなんだ!

 

「なるほど、イッセーと子作りをするには部長達に勝たねばならないのか。これは難易度が高いな。だが、それはそれで燃えるものがある」

 

「見てないで助けろよ! ゼノヴィアァァァァァァ!!」

 

この後、俺は部室に連れていかれ、部長から長~いお説教をくらうことになった。

 

ちなみにだが、美羽と木場は俺が説教をくらってる時も競争をしていたらしい。

 

最終的には木場が勝ったそうだ。

 

 

 



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4話 授業参観です!!

プールのあった次の日。

 

「部長。俺、今日は日直なんで先に行きます」

 

「分かったわ。また、学校で会いましょう」

 

俺は今日、家を早目に出た。

理由は部長にも言った通り、今日の俺は日直だ。

早目に登校して、担任の坂田先生のところに行ったり、黒板をキレイにしなければならない。

 

ただあの先生、結構寝坊が多いからな………大丈夫かな?

 

まぁ、それは置いておこう。

家を早目に出た理由はもう一つある。

それは人に会うためだ。

いや、この場合は会いに来たのを対処しに行く、といった方が正しいかな?

 

俺は自販機で缶コーヒーを2つ(・・)購入。

買った缶コーヒーを鞄のポケットに入れ、学園に向かう。

 

学園の周りには既に同じ駒王学園の生徒の姿がちらほらあり、俺はそれに混じって正門へと歩を進める。

正門の前にはダークな銀髪をしたイケメン。

年は俺と同じくらいか?

 

「やぁ」

 

「おう」

 

俺は軽くあいさつを交わし、缶コーヒーを投げ渡す。

銀髪のイケメンは受け取った缶コーヒーを見ながら言う。

 

「これを用意してたってことは、俺が来ることを分かっていたのかな?」

 

「まぁな。朝起きた時に気配は感じてたし」

 

「なるほど。では、改めて自己紹介しよう。俺の名前はヴァーリ。今代の白龍皇だ」

 

「今代の赤龍帝、兵藤一誠だ。よろしくな、ヴァーリ」

 

俺達は笑みを交わしながら自己紹介をする。

そして、俺は白龍皇―――――ヴァーリに問う。

 

「さて、早速だけど用件は? 今日、日直だからあんまり、のんびりは出来ないぞ?」

 

俺がそう言うとヴァーリは少し残念そうな表情をする。

 

「そうなのか? まぁ、そこまで時間は取らせないよ。今日来たのは軽く挨拶をしに来ただけさ」

 

挨拶ねぇ………。

俺は橋の手摺を背もたれのようにして、缶コーヒーのプルタブを開けた。

 

「そういえば、アザゼルがぼやいてたぞ」

 

「アザゼルさんが? なんで?」

 

「君がレイナーレにアザゼルの所在を明かしただろう? シェムハザに連れ戻された後、椅子に縛り付けられ無理矢理、仕事をさせられていたからな」

 

あー、あの後そんなことになっていたのか。

そうなったのはあの人が仕事をサボったせいだから、自業自得だ。

俺は悪くない。

つーか、椅子に縛り付けられるって、どれだけ信用されてないんだよ………子供か!?

 

「何て言うか、シェムハザさんも苦労してるな………」

 

「いつものことさ」

 

いつものことなのね………。

 

俺達は苦笑いしながらコーヒーを飲んだ。

すると、今度はヴァーリが尋ねてきた。

 

「兵藤一誠。君は世界で何番目に強いと思う?」 

 

「………? さぁな、考えたことが無いから分からん。俺は目の前の敵を、仲間に危害を与える奴を倒してきただけだからな」

 

「そうか。はっきり言って君は世界でも強者の部類に入る」

 

へぇ、そうなのか。

自分でもそこそこに強いとは思ってたけどな。

これは決して自惚れているわけじゃない。

これまでの修業と経験で得られたものを総合的に評価した結果だ。

 

「で? それがどうしたんだよ?」

 

「俺は君と出会った時、歓喜したよ。今代の赤龍帝が想像以上の強さだったのだからね」

 

俺は橋の手摺から腰を上げてヴァーリと向き合う。

 

「………つまり、俺と闘いたいのか?」

 

「ああ、そうさ。出来ることなら俺は今すぐ君と闘いたい………!」

 

ヴァーリが好戦的な目つきで俺にそう言ってきた瞬間だった。

風を切る音が聞こえたと思うと、ヴァ―リの首元に二つの剣が向けられていた。

 

「そういう冗談は止めてくれないかな」

 

「ここで赤龍帝と闘わせるわけにはいかないな白龍皇」

 

そうヴァーリに言うのは聖魔剣を向ける木場とデュランダルを向けるゼノヴィアだ。

二つの剣を首元に向けられているにも関わらずヴァーリは依然として平然としている。

こいつにとったら、こんなのは大したことはないだろうな。

 

はぁ………全くこいつらは………。

俺はため息を着くと振り返り二人の頭に軽いチョップをいれる。

 

「痛っ」

 

「うっ………なぜだ、イッセー!?」

 

ゼノヴィアが俺に突っかかる。

俺は再びため息をついた後、理由を説明する。

 

「こんな公衆の面前で物騒な物出すんじゃねーよ。一般の人に見られたらどうするんだよ?」

 

ここは学校の前。

一般人に思いっきり見られる可能性がある。

ただでさえ美少女で目立つのに、そこに剣を握っていたら尚更目立つ。

というか、普通に銃刀法違反じゃね?

 

俺の言葉に二人はしぶしぶ剣をしまう。

 

「それにこいつはここで俺とやり合うつもりは無いよ。だろ、ヴァーリ?」

 

俺がヴァーリに尋ねるとヴァーリは笑みを浮かべながら頷いた。

 

「ああ、兵藤一誠が言うようにここでやり合う気はない。挨拶をしに来ただけだからな。それに、俺も色々と忙しくてね。やることが多いんだ」

 

ヴァーリが俺の後ろに視線を向ける。

そこには部長を先頭にオカ研のメンバーが揃っていた。

 

「兵藤一誠は貴重な存在だ。大切にすると良い、リアス・グレモリー」

 

「言われなくても、そのつもりよ」

 

不機嫌そうに答える部長にヴァーリはフッと軽く笑うと部長の方へと歩を進める。

 

「二天龍に関わった者はろくな人生を送らないらしい。君達はどうなんだろうね?」

 

「ろくな人生かどうかは私が決める。他人にどうこう言われたくは無いわね。少なくとも今はイッセーと過ごせて幸せだと思っているわ」

 

「そうか」

 

ヴァーリはそれだけ言うと俺達の前から去って行った。

ヴァーリの姿が消えるのを確認した後、部長達は緊張していたのか、深く息を吐いた。

 

「イッセー、彼は――」

 

部長が俺に何かを尋ねようとした時、

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

「げっ! もうこんな時間かよ! 部長、話は後でします! それでは!」

 

学園に響くチャイムに焦りながらダッシュで教室へと向かった。

 

 

 

 

実は今日は授業参観の日だ。

そのため、教室の後ろにはたくさんの親御さんが来ている。

家の両親も来ている。

まぁ、あの人達が見に来たのは美羽とアーシアだけどね。

それだけなら特に問題ない。

そう、それだけなら。

 

親御さんの中にひときわ目立つ、長い青髪をした美女がいた。

その人に男子生徒や父兄、教卓に立っている男性教師も釘付けになっている。

 

「よう、イッセー。来てやったぞ!」

 

「なんで、ティアがここにいるんだよ!?」

 

「む? イッセーの部屋でこの紙を見つけてな」

 

ティアの手には授業参観のプリントが握られていた。

 

確かにティアは家に良く遊びに来るけどさ!

まさか、授業参観にまで来るとは思わなかった!

 

って………なんだ?

クラス中から視線が集まっているような………。

辺りを見渡すと男子生徒から睨まれていた。

 

おいおい、こいつら………。

 

「オホン! では授業を始めましょう!」

 

先生が咳払いをして、授業を始める。

そして、生徒に教材を配り始めた。

 

これは………粘土?

今の授業は英語のはずだけど………。

 

「さぁ、今日は紙粘土で好きなものを作ってみましょう。そういう英会話もある」

 

ねーよ!

なに考えてんだ、この人は!

楽な授業だけども!

 

こうして授業参観が始まったのだが………好きなものか。

何を作るかな?

うーん、悩むところだ。

 

………よし、決めた。

 

俺の脳内保存データとプラモ作りで鍛えた手先なら出来ないこともない。

思い立ったら実行だな。

俺は手を動かし、思い描いたものを作っていく。

 

 

それから数分後。

 

 

「「「おおっ!」」」

 

 

クラス中から驚きの声が上がる。

 

俺の机には水着を着たオカ研部員全員(木場は除く)の小型フィギュアが出来上がっていた。

昨日の記憶を頼りに作ったんだけど、我ながら中々の出来だと自負している。

これは捨てるのが惜しいな。

 

「兵藤君! 君にはこんな才能があったのか!」

 

おお、なんか先生も興奮してるな。

すると、松田が俺の前に自分の作品を持って現れた。

 

「イッセー、俺のと交換してくれ!」

 

そんな変なイモムシみたいなやつ誰がいるか!

一昨日来やがれ!

すると、今度は元浜が現れた。

その手には財布。

 

「イッセー、五千円で買おう! 売ってくれ!」

 

それを皮切りにクラス中から声が上がる。

 

「私は七千円だすわ!」

 

「なにを! なら俺は八千円だ!」

 

次々と手を挙げていくクラスメイト達。

おいおい、マジかよ!

授業中に作った工作が買取り合戦の対象に!

 

「私は一万円だす!」

 

先生まで手を挙げた!

何してんだ、あんた!

止めろよ、教師だろ!?

 

こうして、粘土工作(英語の授業)は俺の作ったオカ研部員のフィギュアをめぐるオークション会場と化した。

 

 

 

 

授業は終わり、昼休み。

 

「へぇ、良くできてるじゃない」

 

「本当、イッセー君の新たな才能ですわね」

 

「お兄ちゃん、こんなことも出来たんだね」

 

部長と朱乃さん、美羽が俺が作ったフィギュアを触りながら微笑んでいた。

 

結局、あのフィギュア達はオカ研のメンバーにそれぞれプレゼントすることにした。

 

皆に受け取ってもらえて良かったが………木場が自分の分が無くてへこんでいた。

うん、誰が野郎のフィギュアなんぞ作るか。

 

「それにしても精巧に作られていますわね。部長にそっくりですわ」

 

「そうね。朱乃の方も本当に良くできてるわ」

 

お二人からお褒めの言葉をいただいた!

いつも、皆の姿を見るたびに脳内インプットしてきたからな。

これくらいは余裕だぜ!

 

元浜が女性のスリーサイズを見るだけで測定できる能力を有しているが、俺はその領域をも越えようとしている。

俺のエロの進化はまだまだ止まらないぜ!

 

「リアスさん、これ部室に飾りましょうよ」

 

美羽がそう提案する。

 

俺の作品を部室に飾るのか。

少し恥ずかしい気もするが、良いのかもな。

 

「そういえば、サーゼクスさんは来たんですか?」

 

俺が尋ねると部長は額に手を当てて大きくため息をついた。

 

「ええ、来たわ。お父様も一緒に」

 

部長のお父さんも来たのか。

すると、後ろから声をかけられた。

 

「やぁ、イッセー君」

 

声の主はサーゼクスさんだった。

その後ろには紅髪の男性。

サーゼクスさんより年上に見えるけど………まさか………。

 

「初めまして、兵藤一誠君。リアスの父です。いつも娘がお世話になっているようだね」

 

やっぱり、部長のお父さんだったのか!

第一印象は若い!

サーゼクスさんの兄と言っても通用するんじゃないのかな。

それくらい若くてカッコいいお父さんだった。

 

「こちらこそ初めまして。兵藤一誠です。こっちにいるのが妹の美羽です」

 

「初めまして。兵藤美羽です。リアスさんにはいつもお世話になってます」

 

俺達が挨拶をすると部長のお父さんは微笑む。

 

「美羽さんか。君のこともサーゼクスから聞いているよ。リアスは君にも色々と助けられているようだ。ありがとう」

 

うーん、僅かなやり取りでも分かる気品の高さ。

この人からは風格が感じられるよな。

流石は部長とサーゼクスさんのお父さんだ。

 

「リアス、セラフォルーを見かけなかったかな?」

 

「セラフォルー様ですか? いえ、見ていませんが………。あの方もこちらに?」

 

「ああ。そうなのだ。途中まで共にいたのだが、いつの間にかはぐれてしまってね」

 

セラフォルー?

もしかして、セラフォルー・レヴィアタン様のことかな?

四大魔王唯一の女性とは聞いているけど、なぜにこの学園に来ているのだろうか?

 

すると、向こうから走ってくる女子生徒の姿が見えた。

あれは………会長?

 

「ひ、兵藤君!!」

 

「のわ!? な、どうしたんですか、会長!?」

 

「私を匿ってください!」

 

「は?」

 

訳のわからないことを言われた俺は思考がフリーズした。

匿ってと言われても………。

 

 

「待ってーー!! ソーナちゃーーーーん!!」

 

おお!?

今度は魔女っ子のコスプレをした女の人が走ってきた!

あの人から逃げてるのか?

いや、そもそも、なんであの人は魔女っ子のコスプレをしてるんだ?

 

会長は俺の背中に隠れ、俺の隣では部長がため息をついている。

あの人、誰よ?

 

「ソーたん! なんで逃げるの!? 私はただ、妹とラブラブしたいだけなのに!」

 

「それが嫌なのです! 場を弁えてください! それから、『たん』で呼ばないでください!」

 

あの~、俺を壁にして話さないでくれませんか?

 

どうやら、知り合いらしい。

真面目な会長と目の前の魔女っ子。

全く接点がないように思えるんだけど。

 

「あ、サーゼクスちゃんもここにいたの?」

 

「セラフォルー、君の妹への愛情はいつ見ても凄まじいね」

 

俺はサーゼクスさんの言葉に耳を疑った。

 

セラフォルー………妹………。

えーと、つまり目の前の魔女っ子は魔王セラフォルー・レヴィアタン様で、会長はその妹………ていう認識で良いのかな?

 

俺は部長の方を見る。

部長は何となく俺の考えていることが分かったようで、苦笑いしながら頷く。

 

えええええええええ!?

マジで!?

マジでこの人、魔王なんですか!?

マジでこの人、会長のお姉さんなんですか!?

 

「え~と、会長?」

 

「兵藤君、何も言わないで。何も言わず、目の前の魔王を倒してください」

 

「俺に死ねと!?」

 

「あなたなら出来るでしょう!?」

 

あー、無茶振りだ。

会長がとんでもない無茶振りをしてきやがったよ………。

普段のクールな会長の面影が全く感じられないよ。

 

「あ、兵藤。大変なことになってるな」

 

「よう、匙。突然で悪いんだけどさ、代わってくれないか? おまえ、生徒会メンバーだろ?」

 

「絶対無理。会長とふれ合えるのは嬉しいけど、流石に身が持たない」

 

あの熱い匙にクールに断られた!

ドンだけだよ!

魔法少女ならぬ魔王少女!

 

「ねぇ、サーゼクスちゃん。彼が噂のドライグ君?」

 

「そうだよ。彼が今代の赤龍帝、兵藤一誠君だ。そして、彼は私の―――同志だ」

 

セラフォルー様は俺をまじまじと見てくる。

 

俺の自己紹介まだだったか。

 

「初めまして。兵藤一誠です。リアス・グレモリー様の兵士をやってます。こっちは妹の美羽です」

 

「初めまして! 兵藤美羽です」

 

「うんうん、はじめまして☆ セラフォルー・レヴィアタンです☆ 気軽に『レヴィアたん』って呼んでね☆ それにしても、君がコカビエルちゃんを倒してくれたんだよね? ソーたんを助けてくれてありがとう☆」

 

ペコリ、と頭を下げるセラフォルー様。

 

良いお姉さんじゃないか。

スキンシップが激しいところ以外は。

 

「そういえば、セラフォルー様も授業参観に?」

 

「そうなのよ、リアスちゃん! ソーたんったら酷いのよ! 私に今日のこと黙ってたんだから! もう、お姉ちゃん悲しくて、天界に攻め込もうとしたんだから!」

 

おいおい、それで良いのか魔王少女! 

天界の人もとんだとばっちりじゃねぇか!

コカビエルの時、部長や会長はサーゼクスさんだけを呼んでたみたいだけど、その理由が分かった。

この人を呼んだら話が余計にややこしくなっただろうな。

この人のシスコンぶりは俺やサーゼクスさんを超えているよ。

 

「お姉さま、ご自重ください! もう、いや!」

 

会長が顔を真っ赤にして走って行った。

 

「あ、待ってーー! ソーたぁぁぁぁぁぁあん!!!」

 

「『たん』を着けないでとあれほど!」

 

魔王姉妹の追いかけっ子か。

間違っても学園を吹き飛ばさないでくださいよ?

 

「うむ、シトリー家は今日も平和だ。リーアたんもそう思わないかい?」

 

「『たん』を着けて呼ばないでください」

 

サーゼクスさん、グレモリー家も十分平和ですよ。

 

「で、美羽はなんでこっちを見てるんだ?」

 

「いや、お兄ちゃんも『たん』を着けるのかなって」

 

「流石にそれはない」

 

「そっかぁ」

 

なんで、残念そうな顔してるの!?

『美羽たん』って呼んでほしかったの!?

 

この後、俺の両親と部長のお父さんが合流。

今日は家で夕食を食べていくことになった。

そして、夕食の席では授業参観のビデオを再生して大いに盛上がった。

ただ、部長が赤面しながら俺の部屋に閉じ籠ることになった。



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5話 後輩は男の娘!?

授業参観の翌日の放課後。

 

今は俺達オカ研メンバーは部長に連れられて旧校舎の一角にある『開かずの教室』と言われている扉の前にいる。

『KEEP OUT』のテープが幾重にも貼られており、呪術的な刻印も刻まれている。

 

「ここに部長のもう一人の『僧侶』が?」

 

「ええ。その子の能力が強すぎるため私では扱いきれないと考えたお兄様の指示で、ここに封印しているの」

 

前々から何かあるとは思っていたけど、ここに人がいることに俺は今まで気がつかなかった。

普通、壁を隔てても人の気を感じるから分かるはずなんだけど、何か特殊な術式なのか?

 

それにしても、部長の手に余るほどの能力か。

どんな能力なのか凄く気になる。

 

「ただ、ライザーの件やコカビエルの件を通して、そろそろ良いだろうと、昨日お兄様から言われたの。まぁ、解決したのは全てイッセーや皆のお蔭なのだけれど」

 

「そんなことは無いですよ。部長だって強くなろうと努力してきたじゃないですか。これはその結果ですよ。なぁ、皆」

 

俺の言葉に全員が頷く。

 

そうさ、部長の努力はここにいる皆が認めてる。

事実、部長の実力は俺と出会ったころよりもかなり上がっている。

サーゼクスさんもそれが分かったからこそ、もう一人の僧侶の使用を認めたのだろう。

 

「ありがとう、皆。じゃあ、扉を開けるわ」

 

部長が手をかざすと、扉に刻まれていた呪術的な刻印も消え去った。

 

中の人の気を感じる。

今の術式が気を遮断してたのか。

 

俺がそんなことを考えていると部長が扉を開く。

すると―――――。

 

「イヤァァァァァアアアアアアッ!!」

 

とんでもない絶叫が中から聞こえてきた!

 

「な、なんだぁ!?」

 

これには俺だけでなく、アーシアと美羽、そしてゼノヴィアまで驚いていた。

部長はというと、ため息をつき、朱乃さんと中に入っていった。

 

『ごきげんよう。元気そうで良かったわ』

 

『な、な、何事なんですかぁぁぁ!?』

 

中から部長達のやり取りが聞こえてくる。

何事ですか、ってそれは俺達のセリフだと思う。

狼狽しすぎだろう。

 

『あらあら。封印が解けたのですよ? もうお外に出られるのです。さぁ、私達と一緒にここを出ましょう?』

 

いたわりを感じられる朱乃さんの声。

 

『いやですぅぅぅ! ここがいいですぅぅぅ! お外怖いぃぃぃぃ!!』

 

おいおい、マジかよ。

朱乃さんの優しい声を聞いても出てこないとか重症レベルの引きこもりだ。

 

いったいどんなやつだよ?

 

気になった俺は部屋に入り、中を見渡した。

中は薄暗いが、可愛らしく装飾されている。

ぬいぐるみとかもあった。

異様な点と言えば部屋の隅にある棺桶。

………なぜに棺桶?

 

俺は部長達の方に視線を移す。

そこにいたのは金髪と赤い相貌をした人形みたいな美少女だった。

そう、見た目だけは。

 

「部長、確認しますけど………その子、男ですよね?」

 

「あら、良く分かったわね」

 

部長が感心するように答える。

新たな事実に再び驚く、アーシア、美羽、ゼノヴィア。

 

………やっぱりか。

出来れば間違いであってほしかった。

確かに見た目は凄い美少女だ。

昔の俺ならテンションが上がっていただろう。

アーシアとのダブル金髪美少女だと。

だけど、この子から感じ取れる気は男性特有のものだった。

だから、見た瞬間に俺は愕然とした。

そして今、俺の中には一つの疑問が渦巻いている。

 

「なんで、引きこもりが女装してるんだよ!?」

 

おっと、思わず声に出してしまった。

でも、それだけ疑問だったんだ。

今のはしょうがない。

 

「だ、だって女の子の服の方が可愛いんだもん」

 

「もん、とか言うなぁぁぁぁ!」

 

俺の夢を返せぇぇぇぇ!

俺はな、アーシアとおまえのダブル金髪美少女僧侶を一瞬とはいえ、想像しちまったんだぞぉぉぉ!

 

「人の夢と書いて、儚い」

 

「うまい! けど、シャレにならんから、止めてくれ小猫ちゃん! つーか、さりげに俺の心を読まないで!」

 

何てこった………目で見るものと感じる気が一致しない事態が起こってしまった。

こんなこと初めてだぞ。

 

部長が女装男子の頭を撫でながら言う。

 

「この子の名前はギャスパー・ヴラディ。私のもう一人の僧侶よ。そして、元人間と吸血鬼のハーフなの」

 

「吸血鬼………ってヴァンパイアァァァ!?」

 

その時、女装男子、ギャスパーの口から小さな牙が見えた。

 

 

 

 

「ギャスパー。お願いだから、私達と一緒に外へ出ましょう。ね?」

 

部長が小さな子供をなだめるようにしゃがんで言うが、ギャスパーは激しく首を横に振る。

 

「いやですぅぅぅ!」

 

そこまで嫌か!?

ウソだろ!?

朱乃さんに続き、部長まで拒否するなんて、俺からしたらマジであり得ねぇ!

ほれ、見ろ!

部長も困った表情をしてるじゃないか!

 

「なぁ、ギャスパー。外に出るのがそんなに嫌か?」

 

「は、はいぃぃぃ。え、えっと、あなたは?」

 

「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は兵藤一誠だ。部長の兵士をやってる。よろしくな」

 

「僧侶のアーシア・アルジェントです。よろしくお願いします」

 

「騎士のゼノヴィアだ」

 

アーシアとゼノヴィアも俺に続いて自己紹介をした。

すると、ギャスパーの視線は美羽へと移る。

 

「あ、ボクは兵藤一誠の妹の美羽だよ。よろしくね、ギャスパー君」

 

「よ、よろしくお願いしますぅ」

 

さて、自己紹介が終わったところで話を戻すか。

 

「それで、さっきの話の続きなんだけど、そんなに外が怖いのか?」

 

「お外怖いですぅぅぅ!! 僕はずっとここにいたいですぅぅ!!」

 

こいつ、どんだけ外が嫌なんだよ。

いや、この怖がり方は正直異常だ。

過去に何かあったのか?

まぁ、何にしてもギャスパーを外に連れ出してみないと始まらないしなぁ。

少々強引にいくとするかね?

 

「大丈夫だって。俺達もいるし、心配ないって」

 

俺はギャスパーの肩に手を置く。

 

 

――――次の瞬間、この部屋の時間が止まった。

 

 

周囲は時間が止まったようにモノクロの風景となり、俺と美羽、部長以外の動きが完全に停止させられた。

部屋にあった時計の針も止まっている。

俺と美羽は視線を合わせると頷き合う。

 

恐らくこれがギャスパーの能力なのだろう。

時間停止の類か。

確かに使い方次第では危険な能力だな。

だけど、この三人だけが動けるのはなんでだ?

 

すると、部長が解説してくれる。

 

「やっぱり、二人にはこの子の能力は効かないみたいね。この子はイッセーと同じ神器持ちよ。―――停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)。視界に映した全ての物の時間を停止させることができるの。まぁ、停止の対象が強い場合は効果が薄いようだけど」

 

なるほどな、だから俺達は動けるのか。

すると、停止の効果がきれたのか部屋の様子が元に戻った。

 

「おかしいです。何か今………」

 

「ああ、何かされたのは確かだね」

 

停止が解けたアーシアとゼノヴィアは驚いているが、朱乃さんと木場、小猫ちゃんはため息をつくだけだった。

三人は知ってたわけだ。

 

「怒らないで! 怒らないで! ぶたないでくださぁぁぁぁいっ!」

 

当のギャスパーはというと、部屋の隅っこで泣き叫んでいた。

 

「いやいや、ぶったりしないから、落ち着けよ」

 

「………ほ、本当ですか?」

 

「ああ。時間を止められたくらいでぶつかよ。特に何かをされたわけでもないしな」

 

まぁ、俺は止められてないけどさ。

でも、ギャスパーが封印されていた訳が何となくだけど分かった。

こいつは自分の神器を制御出来ていない。

感情が高ぶると発動させてしまうようだ。

このままでは色々と危ないだろうな。

 

「それでね、イッセーにお願いがあるの」

 

「どうしたんですか?」

 

「私と朱乃はこれから会談の打ち合わせに行かないといけないの。だから、私が戻ってくるまでギャスパーのことを頼めないかしら?」

 

「了解です、部長」

 

会談の打ち合わせか。

部長も色々と忙しいんだな。

 

「あ、それから祐斗も一緒に来てちょうだい。お兄様があなたの禁手について知りたいらしいのよ」

 

「分かりました。イッセー君、ギャスパー君のこと任せたよ」

 

「ああ、任せろ」

 

そう言うと、部長、朱乃さん、木場の三人は魔法陣で転移していった。

 

さて、任せろとは言ったもののどうしたものか。

鍛えるにしても俺が教えることができるのは主に肉体を使うタイプだ。

実際に部長や朱乃さんはティアや美羽に任せてたしな。

何より問題はこいつの性格だ。

まずは外に出す必要があるしな。

俺が思案してる間にギャスパーは段ボールの中に入ってしまっているし。

 

「では、イッセー、こいつを鍛えよう。軟弱な男はダメだ。なに、私に任せてくれ。私は幼いころから吸血鬼と相対してきたからな」

 

段ボールに括り付けられた紐を引っ張りながらデュランダルを肩に担ぐ。

相対って………おまえは吸血鬼退治でもするつもりかよ。

 

「ヒィィィィッ!せ、せ、聖剣デュランダルの使い手だなんて嫌ですぅぅぅぅ!滅せられるぅぅぅぅぅ!」

 

「悲鳴をあげるな、ヴァンパイア。なんなら十字架と聖水を用いて、さらにニンニクもぶつけてあげようか?」

 

「ニンニクはらめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

悪魔が悪魔祓いとか………。

おまえもダメージを受けるからね、ゼノヴィア?

君、悪魔になってるからね?

 

「ねぇ、アレ良いの?」

 

美羽がゼノヴィアを指差しながら言う。

 

「美羽の言いたいことは分かる。少し様子を見よう」

 

「………そうだね」

 

「はぁ、先行きが不安だ………」

 

俺は小さくそう呟いた。

 

 

 

 

「ほら、走れ! 逃げなければデュランダルの餌食になるぞ!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃ! デュランダルを振り回しながら追いかけてこないでぇぇぇぇ! ハントされるぅぅぅ!!」

 

夕方に差しかかった時間帯、旧校舎の前でギャスパーがデュランダルを振り回すゼノヴィアに追い回されていた。

 

「ゼノヴィアさん、生き生きしてますね」

 

「アーシアもそう思う?」

 

「はい。ゼノヴィアさんの目がいつもより輝いてます」

 

ゼノヴィア………おまえ、日頃のストレスをここで解消しようとしてないかい?

 

「そういえば、ギャスパーは吸血鬼だろ? 太陽の光に当たっても大丈夫なのか?」

 

俺のこの疑問には小猫ちゃんが答えてくれた。

 

「ギャー君はデイウォーカーと呼ばれる特殊な吸血鬼なので、日の光に当たっても行動は出来ます」

 

「へぇ」

 

吸血鬼にも色々いるんだな。

おっと、ついにギャスパーがダウンしたぞ。

 

「うぅ~。もうダメですぅ~! もう動けないですぅぅ!」

 

地面に座り込むギャスパー。

見た目通りの軟弱ぶりだな。

 

「ギャー君、大丈夫?」

 

「うぅ、小猫ちゃん………」

 

「疲れた体にはニンニクが良いよ」

 

「に、ニンニクぅぅぅ!?」

 

おお、ギャスパーが逃げ出したぞ。

まだ動けるじゃないか。

 

つーか、小猫ちゃんまでギャスパーを虐めだしたよ。

ニンニク持ってギャスパーを追いかけだしたぞ。

しかも、笑顔で。

中々レアな光景かもしれない。

 

と、ここへ一人の気配が近づいてきた。

 

「おー、やってるなオカ研」

 

「おっ、匙じゃん」

 

「よー、兵藤。解禁された引きこもりの眷属を見に来たぜ」

 

「ずいぶん耳が早いな」

 

「会長から聞いたんだよ。それで、その眷属は?」

 

「あぁ、それなら今、ゼノヴィアと小猫ちゃんに追い回されてるぜ」

 

「おお! 金髪美少女か!」

 

嬉しそうな、匙だ。

 

まぁ、普通の反応だよね。

 

「女装野郎だけどな」

 

それを聞き、匙は地に両手を着き、ガックリと項垂れる。

心底落胆しているようだ。

 

「ウソだろ………そんなの詐欺じゃねぇか! つーか、引きこもりが女装って、誰に見せるんだよ!」

 

「分かる。その気持ちは十分に分かるぞ、匙よ!」

 

だって、普通に見れば美少女だもんなぁ。

男と知ったときのショックはでかい。

アーシアや美羽は良く似合ってると言って受け入れているが………。

やはり、これには馴れる必要があるのか?

 

まぁ、それはともかく。

 

 

「それで? 堕天使の総督さんはここに何を?」

 

「「「えっ!?」」」

 

俺の言葉に全員が驚き、動きを止める。

 

「気配は消していた筈なんだがな。流石はコカビエルを倒すだけはあるか。なぁ、赤龍帝」

 

「俺に気配を悟られないようにするなら、完全に気を消さないと無理ですよ、アザゼルさん」

 

アザゼルの名を聞いて、空気が一変した。

ゼノヴィアは剣を構え、アーシアは俺の後ろに下がった。

匙も驚愕しながら神器を展開する。

 

「ひょ、兵藤、アザゼルってまさか!」

 

「ん? あぁ、堕天使の総督だよ」

 

「なんで、おまえは警戒しないんだよ!?」

 

「なんで、と言われても」

 

特に警戒する必要もないしな。

アザゼルさんなんか、匙達の反応を見て苦笑いしてるし。

どう見ても戦う気配ではない。

 

「やる気はねえよ。ほら、構えを解けって。赤龍帝を除いて俺に勝てる奴がいないのは何となくでもわかるだろう? いや、そこの黒髪のお嬢ちゃんも中々の実力のようだが。まぁ、ちょっと散歩がてらに聖魔剣使いを見に来ただけだから、警戒すんな」

 

流石は堕天使の総督。

見ただけで美羽の力量を見抜いたか。

今の美羽ではアザゼルさんには勝てなくとも、手傷を与えるくらいなら出来るか。

 

「木場ならいないっすよ。今、サーゼクスさんに呼ばれてるんで」

 

「あらら。そりゃ残念」

 

どうやら、木場の聖魔剣が見たかったようだ。 

少し遅かったですね、アザゼルさん。

 

「なんだ、赤龍帝? 俺の顔をじっと見て」

 

「いや、少し痩せました?」

 

「あぁ。一昨日まで椅子に縛り付けられてたからな。ったく、シェムハザのやろう、俺を過労死させるつもりかよ」

 

いや、それは仕事をサボって、ゲームにのめり込んでたあんたが悪い。

あんたのお陰でレイナも相当ストレス溜まってたみたいだし。

 

すると、アザゼルさんは小猫ちゃんの後ろに隠れているギャスパーの方に視線を移す。

 

「『停止世界の邪眼』か。 そいつは使いこなせないと害悪になる代物だ。神器の補助具で不足している要素を補えばいいと思うが……そういや、悪魔は神器の研究が進んでいなかったな。五感から発動する神器は、持ち主のキャパシティが足りないと自然に動きだして危険極まりない」

 

ギャスパーの両眼を覗き込みながら説明しているアザゼルさん。

その視線は匙に移る。

 

「そっちのお前は『黒い龍脈』の所有者か?」

 

目を付けられたと思った匙が身構える。

どうしても戦闘態勢を取ってしまう辺り、アザゼルさんへの恐怖心があるのだろう。

まぁ、堕天使の総督といえば悪魔にとってはラスボスみたいなもんだしな。

その辺りはしょうがないか。

 

「丁度良い。そのヴァンパイアの神器を練習させるならおまえさんが適役だ。ヴァンパイアにラインを接続して余分なパワーを吸い取りつつ発動させれば、暴走も少なく済むだろうさ」

 

そういえば、匙の神器はラインを繋いだ相手の力を吸いとるんだったな。

すっかり忘れてたよ。

 

「神器上達の一番の近道は赤龍帝を宿した者の血を飲む事だ。ヴァンパイアなんだし、一度やってみるといい」

 

なるほど、そういう手もあったか。

アザゼルさんって神器に詳しいんだな。

というか、この人は神器の研究とかもしてるんだっけ?

 

「あー、そうだ赤龍帝。ヴァーリが勝手に接触して悪かった。どうやら、おまえさんに興味を持ったらしくてな」

 

アザゼルさんはそう言うが………男から興味を持たれたくなんてなかった!

出来れば、美少女が良かったです!

 

「じゃ、俺は帰るわ。あまり長居するのもなんだしな」

 

「まぁ、そうですね。じゃあ、次に会うのは会談の時ですかね」

 

「そういうこった。じゃあな、赤龍帝」

 

そう言うとアザゼルさんはこの場を去っていった。

 

 

 

 

場所は変わって体育館。

俺達はここでギャスパーの停止訓練を行っている。

訓練の内容は俺が投げたバレーのボールをギャスパーが停止させるというものだ。

ただ、そのままの状態でやると力が暴走するかもしれないので、アザゼルさんのアドバイス通り、匙の神器でギャスパーの力を散らせている。

頭にラインが繋がっているから、かなり不格好だけどね。

 

「よーし、いくぞギャスパー」

 

「は、はいぃぃ!!」

 

俺がボールを投げる。

そして、ギャスパーがボールを止めようと神器を発動させるが、

 

「あ、またか」

 

ボールだけを停止させたいんだけど、視界に映したもの全てを停止させてしまう。

なので、ギャスパーの視界に入っている匙やアーシアも止まっている状態だ。

つーか、この隙にギャスパーが逃げようとしてるし。

 

「こらこら、逃げるな」

 

「な、なんで動けるんですかぁぁぁ!?」

 

「おまえ、それが俺に効かないこと忘れてないか?」

 

 

 

 

それから暫くの間、訓練を続けてみたけど、やはり匙に力を吸いとってもらわないと制御できないみたいだ。

 

「うーん、中々うまくいかないな。そういえば、アザゼルさんが言ってたな。俺の血を飲めば良いって」

 

「絶対にいやですぅぅぅ!」

 

「おまえ、吸血鬼なんだろ?」

 

「生臭いのダメぇぇぇぇ!」

 

しゃがみこんで嫌々と首を横に振るギャスパー。

 

おまえ、本当に吸血鬼かよ?

吸血鬼って血を吸うものだろう?

 

「ヘタれヴァンパイア」

 

「うわぁぁぁん! 小猫ちゃんがいじめるぅぅ!」

 

小猫ちゃんの無情な一言に泣くギャスパーであった。

 

 



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6話 一歩前へ!!

「ギャスパー、出てきてちょうだい。無理して小猫に連れて行かせた私が悪かったわ」

 

ギャスパーはまた引きこもってしまった。

小猫ちゃんとお得意様の所に一緒に行ったのだが、そこで怖い目にあい、神器を無意識に使ってしまったらしい。

ちなみにそのお得意様とは森沢さんだ。

ギャスパーを見た森沢さんが興奮したらしい。

森沢さん、なにやってくれてんの!?

 

「眷属の誰かと一緒に行けば、あなたの為になると思ったのだけれど………」

 

『ふぇええええええぇぇぇぇぇえええんっっ!』

 

部長が謝るけど、一向に泣き止む気配がない。

人嫌いなこと、自分が神器を使いこなせずに迷惑をかけていること、ギャスパーが抱える問題は中々にややこしい。

 

実はさっき、部長からギャスパーのことを聞いたんだ。

ギャスパーは名門の吸血鬼を父親に持つが、人間の妾との間に生まれたハーフだったため純血ではなかった。

吸血鬼は悪魔以上に純血か、そうでないかを意識するらしく、実の親兄弟ですらギャスパーを軽視し、侮蔑してきたと言う。

更には、類稀なる吸血鬼の才能を持ちながら特殊な神器を宿してしまっていたため友達もできなかったらしい

仲良くしようとしても、ちょっとした拍子に相手を停めてしまう。

 

『ぼ、僕は………こんな神器なんていらない! だ、だって皆停まっちゃうんだ! 皆、僕を嫌がる! 僕だって嫌だ! もう友達を停めたくないよ………停まった大切な人の顔を見るのは………もう嫌だ』

 

ギャスパーは家から追い出された後、人間と吸血鬼、どちらの世界でも生きていけずに路頭に迷った。

そして、ヴァンパイアハンターに狙われ命を落としたところを部長に拾われたらしい。

 

「困ったわ。この子をまた引きこもらせるなんて『王』失格ね」

 

肩を落とし落ち込む部長。

この件に関して、部長は悪くないし、ギャスパーも悪くない。

 

どうすればいい?

俺はギャスパーに何をしてやれる?

俺の頭の中ではそれがずっと渦巻いている。

 

悩む俺と部長。

そこへ―――――。

 

「リアスさん、ここはボクに任せてくれないかな?」

 

廊下の向こうから美羽が姿を現す。

 

「美羽?」

 

「リアスさんはこれから用事があるんでしょ?」

 

「それはそうだけど………」

 

確かに部長はサーゼクスさん達と打ち合わせがある。

ここで、時間を取られては打ち合わせに間に合わなくなるだろう。

サーゼクスさん達も忙しい(ああ見えて)から、時間を延ばしてもらう訳にもいかないたろう。

 

俺も美羽の意見に賛同する。

 

「行ってください部長。ここは俺達が何とかします」

 

「でも………」

 

「部長は部長が今やるべきことをやってください。俺達も自分達がやるべきことをします」

 

「………分かったわ。二人ともギャスパーのこと、お願いね」

 

「「はい!」」

 

俺達の勢いある返事を聞いて、部長は微笑みうなずいた。

部長は心配そうにギャスパーの部屋を一瞥すると、魔法陣で転移していった。

 

「それで、美羽はどうするつもりなんだ?」

 

「一先ず、ギャスパー君が落ち着くまでここで待つよ」

 

俺と美羽は扉の前に座り、ギャスパーが泣き止むのを待った。

 

 

 

 

それから、一時間ほど経ったものの、変化はない。

出てくる気配もなかった。

やっぱり、黙って座り込むだけじゃダメか。

俺達からギャスパーに歩み寄らないと。

 

俺がそう思って口を開こうとした時だった。

 

「ねぇ、ギャスパー君。自分の力が怖い?」

 

先に語りかけたのは美羽だった。

 

「ボクもね。昔はギャスパー君みたいにひきこもりだったんだよ?」

 

『………え?』

 

ギャスパーから返事が返ってきた。

良かった、話は聞いてくれているみたいだ。

 

「ボクの死んだ本当のお父さんはね、凄い魔力と魔法の力を持ってたんだ。それはもう向かうところ敵無しって言うくらいに強かったんだ。当然、お父さんの娘であるボクにもその力は受け継がれたんだけど、小さい頃のボクはその力の制御が出来なくて、いつも周りの人に迷惑をかけてばっかりだったんだ」

 

この話は俺も聞いたことがない、美羽の小さい頃の話。

恐らく、俺が異世界に飛ばされるよりも以前の話だろう。

つまり、シリウスが生きていたころの話だ。

 

「それで、力を暴発させるたびに部屋に閉じ籠って一人で泣いてたんだよ。それでね、それを繰り返してたらお父さんに言われたんだ」

 

美羽はそこで一旦話を切る。

はぁ、と一度息を吐いて言った。

 

「『おまえはまた泣いて終わるのか? 泣くだけで再び同じことを繰り返すのか? おまえに力が宿ってしまったことはもう変えられない。もう変えられないことを泣き、嘆き、呪うのは下らないことだ。おまえをそんなことも分からない愚か者に育てた覚えはない』だって。・・・正直、八歳の娘に言う言葉じゃないよね」

 

き、厳しい。

うーん、シリウスのやつ、娘にも容赦無かったんだな………。

 

『き、厳しいお父さんだったんですね』

 

ギャスパーもこの反応だ。

美羽も苦笑いしてる。

 

「でもね、こうも言われたんだ。『もし、おまえが自分の力から逃げず、本当に力を使えるようになりたいと願うのならば、私はいくらでも手を差し伸べよう』って」

 

『………』

 

「ねぇ、ギャスパー君は自分の力を使いこなせるようになりたくない? ギャスパー君だって、今のままじゃダメだって思ってるから訓練をしようと思ったんじゃないかな?」

 

『ぼ、僕は………僕を拾ってくれたリアス部長のお役にたちたいです』

 

震える声で答えるギャスパー。

その答えを聞いて、美羽は微笑んだ。

 

「なら、ボクはギャスパー君に手を貸すよ。いくらでも。お父さんがボクにしてくれたようにね」

 

それから数十秒後。

俺達を遮っていた扉がゆっくりと開き、ギャスパーが僅かに顔を覗かせる。

 

「ぼ、僕にも出来るでしょうか………この力を使いこなすことが」

 

「大丈夫だよ。ギャスパー君がその気になれば出来る。ボクだけじゃない、部員の皆だってそう思ってる。ギャスパー君はやればできる子だって。ねぇ、お兄ちゃん」

 

「おまえなら出来るさ、ギャスパー。自分を信じろ。そして、仲間の俺達を信じてくれ。失敗してもいいじゃないか。最初から出来るやつなんていねーよ。そんでもって、それくらいでおまえを見捨てる俺達じゃないさ」

 

俺達がそう言うと、ギャスパーの瞳から大量の涙が零れた。

 

「グスッ………イッセー先輩………美羽先輩………僕、もう一度、頑張ってみますぅ!」

 

「おう! 俺達も全力でサポートするぜ!」

 

泣きじゃくってはいるけど、ギャスパーも一歩前に進めたようだ。

 

 

 

 

「それにしても、時を停める能力か。俺からしたら羨ましい限りなんだけどなぁ」

 

「―――っ」

 

俺の一言に心底驚いた表情をギャスパーは浮かべる。

 

あれ?

俺、なんか変なこと言ったか?

 

「だってよ、時間が停められるって最高の能力じゃないか。もし、俺がその神器を持っていたら、きっと、学園中の女子にいかがわしいことをしていたに違いない。これは断言できるな。廊下を匍匐前進しながらスカートの中を覗き見し放題だろうし。いや、部長や朱乃さんのおっぱいを揉むのも最高だな!」

 

あー、妄想が止まらんよ!

次から次へと浮かんでくるぜ!

 

「お兄ちゃん………さっきまでの感動のシーンを返してよ」

 

「あ、す、すまん! つい………ね?」

 

しまった!

やってしまった!

だって、時間を停められる能力ってそれだけ魅力的なんだもん!

もしかして、ギャスパーに呆れられたんじゃ………。

そう思ったんだけど、ギャスパーは嬉しそうに微笑んでいた。

 

「す、すごいです、イッセー先輩!」

 

「へっ?」

 

「神器の能力をそこまで卑猥な方向に考えることができるなんて、僕には真似出来ないことです! でも、今の言葉を聞いて、僕も少し考えが変わりました。ようは使いようなんだと」

 

「そうだ! その通りだぞ、ギャスパー! 神器なんてもんはな、その時にどう使うかで価値が変わる! 例えばだ、俺が赤龍帝の力をギャスパーに譲渡する。そして、ギャスパーが周囲の時を停める。その間、俺は停止した女子を触り放題だ」

 

「!!」

 

「つまりだ、おまえの停止能力も使い方しだいではハッピーになれるやつがいる、ということだ。どうだ、そう考えたら、おまえの能力も捨てたもんじゃないだろう?」

 

「は、はい! 今の話を聞いて僕も少し、この力が実は素晴らしいものなんだと思えました!」

 

 

おお!

ギャスパーが自分の力について前向きになりはじめた!

これはかなりの進展なんじゃないのか?

 

「お兄ちゃん、例えがエッチすぎるよ………。まぁ、お兄ちゃんらしいけどさ。あと、本当にしたら、ボクが怒るよ?」

 

「すまん! しないから、怒らないで!」

 

あと、スケベでゴメンね!!

でも、エロは俺を構成する重要要素なんだ!

そこは許してくれ!

 

「ところで、ギャスパー君はなんで段ボールの中に入ってるの?」

 

あ、それは俺も気になってた。

何故に段ボール?

 

「すみません、人と話すとき、段ボールの中にいると落ち着くんです」

 

と、ギャスパーは申し訳なさそうに言う。

まぁ、そこが落ち着くなら、別に良いんじゃないか?

無理強いするのもなんだし。

徐々に段ボールから外に出していこう。

 

「あー、やっぱり段ボールの中は落ち着きますぅ。ここだけが僕の心のオアシスですぅ」

 

段ボールの中が癒しの空間って………。

いや、俺も昔は段ボールで秘密基地を作って、そこに閉じ籠ったことがあるけど、それと同じ感覚か?

それにしても、何故か段ボールが似合うギャスパー。

 

段ボール吸血鬼か………新しいな。

 

「ねぇねぇ、こんなのはどうかな?」

 

そう言って美羽が取り出したのは二つの穴を開けた紙袋。

 

美羽はそれをギャスパーにかぶせる。

 

紙袋を頭にかぶった男の娘。

 

「ギャスパー君、どう?」

 

いやいや、これはいくらなんでも………。

 

「………あ、これ良いかも」

 

マジで?

どういうこと?

 

俺が美羽に視線を送ると解説してくれた。

 

「えっとね、ギャスパー君は暗くて狭い所が好きそうだったから、何となくやってみたの」

 

な、なるほど。

美羽の考えを聞いて納得してしまう俺。

 

でもな、美羽。

ギャスパーをよく見てみろ。

穴の空いた部分から赤い眼光がギラリと光り、ゾンビのようにノロノロと歩いてるんだぜ?

どう見ても変質者だぞ!

 

「僕、これ気に入りましたぁ。美羽先輩、ありがとうございますぅ」

 

「ギャスパー、俺は初めておまえを凄いと思ったよ」

 

「本当ですかぁ? これをかぶれば僕も吸血鬼としてハクがつくかも」

 

それはどうだろう。

 

 

 

 

その日の夜。

 

部長はギャスパーと話すために旧校舎に泊まり、アーシアも今日はゼノヴィアが借りているアパートに泊まることになった。

 

そのため、俺と美羽は久しぶりに二人で寝ている。

 

「二人で寝るのは久しぶりだね」

 

「そうだなぁ。アーシアが家に来る前以来か? 兄妹水入らずってやつだ」

 

部長やアーシアとも普段、一緒に寝ているから今夜はベッドが広く感じる。

 

なんだろうな。

美羽とこうして寝るのが久しぶりだからか、少しドキドキしてる。

美羽も心なしか顔が赤い。

 

「今日はありがとうな」

 

「なにが?」

 

「ギャスパーのことだよ。もし、あそこで美羽が話してくれていなかったら、ギャスパーは心を開いてくれなかったかもしれない」

 

「そんなことないよ。お兄ちゃんが話しても結果は同じだったんじゃないかな」

 

「それでも、もう少し時間がかかったはずだ。あの時、美羽が話してくれたからこそ、あいつは今日、一歩前に踏み出せたんだ」

 

本当にそう思う。

実際、あの時の俺はどうすればいいか悩んでいた。

 

俺はあいつの気持ちを理解してやることが出来なかったんだ。

あいつはこれまで、自身の力を必要ないと思って生きてきた。

神器のせいで人生を狂わされたと言ってもいいからな。

 

だけど、俺は神器の力を使わざるを得ない環境にあった。

そうじゃないと、生きることが出来なかったし、なにより、守りたいものを守れなかった。

だから、神器を不要だと思ったことなんてなかった。

 

美羽が自らの過去を話してくれたからこそ、あいつも勇気を出せたんだ。

 

「だから、ありがとうな」

 

「もう、そんなに真っ直ぐに言われると照れるよ・・・・」

 

美羽はプイッと顔を反対に向ける。

耳まで赤くなってるのが後ろからでも分かる。

 

照れすぎじゃね?

まぁ、可愛いけどね。

 

「さて、明日も早いしそろそろ寝るか」

 

「そうだね。お休みなさい」

 

「ああ、お休み」

 

俺は目を閉じて今日の出来事を振り返る。

 

色々とあったけど、ギャスパーが心を開いてくれて本当に良かった。

今後、もしかしたら、あいつを傷つけるやつが現れるかもしれない。

その時、俺はあいつのことを守ってやりたい。

せっかく出来た男子の後輩で仲間だしな!

 

 



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7話 堕天使と悪魔と

次の日、俺は部長に言われて、とある神社を訪れていた。

 

うーん、神社って俺たち悪魔にとって完全にアウェーだから、入るのに躊躇いを持ってしまうなんだが。

頭痛とかしそうだし。

つーか、入っても大丈夫なの?

以前、部長から入ってはいけない建物の一つとして説明を受けたけど………。

 

すると、鳥居の前に人影が見えた。

 

「いらっしゃい、イッセー君」

 

「朱乃さんも来てたんですね」

 

そこにいたのは巫女衣装を着た朱乃さんだった!

うんうん、よく似合ってる!

朱乃さんが巫女服を着るとまさに大和撫子って感じだな!

 

「朱乃さん、巫女服が凄く似合ってます!」

 

「うふふ、ありがとうございます」

 

「そういえば、朱乃さんは部長と一緒じゃなくて良いんですか? 会談の打ち合わせがあるのでは?」

 

「あちらはグレイフィアさまがいますし、今日の打ち合わせは最後の確認みたいなものなので、私が抜けても大丈夫ですわ。それよりも私はある方をお迎えしなければならないので」

 

ある方?

誰か来るのか?

それより、俺は鳥居をくぐっても良いのか?

ダメージを受けそうで怖いんですけど………。

 

「ここは裏で特別な約定が執り行われているので、悪魔でも入ることはできます」

 

そうなのか。

朱乃さんがそう言うのならそうなのだろう。

俺は鳥居をくぐって………あ、マジで大丈夫だ。

 

眼前に立派な神社の本殿が建っている。

少し古さを感じるけど、手入れされてるのか壊れている様子はない。

 

「朱乃さんはここに住んでいるんですか?」

 

「ええ。先代の神主が亡くなった後、無人になったこの神社をリアスが私のために確保してくれたです」

 

「なるほど」

 

俺が朱乃さんの解説を聞いて納得していると、気配を感じた。

 

「あなたが赤龍帝ですか?」

 

見上げると、そこには端正な顔立ちをした青年がいた。

ただ、その青年は豪華な白いローブを身に纏い、頭部に天輪を浮かばしていた。

そして、背には十二枚の黄金の翼。

このオーラ、相当の実力者だな。

 

「はじめまして赤龍帝、兵藤一誠君。私はミカエル。天使の長をしている者です」

 

かなりの大物だった。

 

 

 

 

俺と朱乃さん、そしてミカエルさんは今、本殿にいる。

神がいない現在、天界側を仕切っているのがこのミカエルさんだったはずだ。

まさか、天界側のトップが俺に会いに来るとは………。

 

「まず、あなたにはお礼を言わなければなりませんね。先日のコカビエルの一件。本当にご苦労様でした」

 

「いえ、あれは俺だけの力じゃありません。あの場にいた全員の力です」

 

俺がそう答えるとミカエルさんは優しげな笑みを浮かべた。

 

「それよりも一つ聞いても良いですか?」

 

「私に応えられることなら何でも答えましょう」

 

「なぜアーシアを追放したんですか?」

 

ずっと気になっていたんだ。

あれほど優しく、神を信じていたアーシアをなぜ追放したのか。

悪魔を癒したからって、なにも追放することはなかったはずだ。

だからこそ、今この場でその理由を聞いておきたかった。

 

「神が消滅した後、加護と慈悲と奇跡を司る『システム』だけが残りました」

 

「『システム』?」

 

「はい。『システム』とは神が行っていた奇跡などを起こすための物です。例えば、悪魔祓いや十字架などの聖具の効果、これらは『システム』があるからこそ作用します。………ですが、『システム』を神以外が扱うのは困難を極めます」

 

「つまり、神がいなくなって、その『システム』が上手く機能しなくなった、ですか?」

 

俺の言葉にミカエルさんは静かに頷く。

 

「現在は私を中心に熾天使(セラフ)全員でどうにか動かしている状態です。しかし、神がご健在だった頃と比べると、その効果は弱まっています。残念なことですが救済できる者は限られてしまいました。よって、『システム』に影響を及ぼす可能性のある物は教会に関するところから遠ざける必要があったのです」

 

「じゃあ、アーシアを追放したのは………」

 

「ええ、あなたが察した通りです。アーシア・アルジェントのもつ聖母の微笑は悪魔をも癒します。信徒の中に悪魔や堕天使を回復できる者がいると周囲に知られれば、信仰に影響を与えます。信仰は我ら天界に住まう者の源。信仰に悪影響を与える要素は極力排除するしかありませんでした」

 

アーシアが追放された背景にはそういう理由があったのか。

ということは、

 

「アーシアだけでなくゼノヴィアも追放したのは、もしかして?」

 

「神の不在を知ってしまった彼女も異端とするしかなかったのです。私の力不足で彼女達には辛い目にあわせてしまいました。本当に申し訳なく思っています」

 

瞑目し、悔しそうにするミカエルさん。

この人も天界のトップとしての苦渋の決断だったんだな。

 

「理由は分かりました。その想いをあの二人に伝えてやってくれますか?」

 

「もちろん。直接、アーシア・アルジェントそしてゼノヴィアに謝罪するつもりでしたので」

 

「ありがとうございます、ミカエルさん」

 

 

 

 

「では、今日の本題に入りましょう。あなたを呼び出したのはこれを授けるためです」

 

ミカエルさんの掌から光が発せられる。

その光を浴びていると、身体中がピリピリするんだが………。

 

光が止み、そこに現れたのは一本の剣。

エクスカリバーやデュランダルと似たようなオーラを感じる。

これは………聖剣か?

 

「これはゲオルギウス――聖ジョージが龍を退治するときに使った龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の剣、聖剣アスカロンです」

 

ゲオルギウスやら聖ジョージとか言われてもさっぱり分からん。

つーか、ドラゴン・スレイヤーって何?

名前からして物騒なんだけど………。

 

『龍殺しとはドラゴンを始末する者や武器の総称だ』

 

おいおい、じゃあ俺もターゲットに含まれるじゃん!

聖剣で龍殺しとか悪魔でドラゴンの俺にとっては超危険な代物じゃねえか!

クリティカルヒットだよ!

 

「特殊儀礼を施してあるので、あなたでも扱えるはずですよ」

 

あ、俺も使えるんだ。

本当に大丈夫なのか?

 

「でも、どうして俺に?」

 

これってかなり貴重なものなんじゃないのか?

俺は天使にとって敵である悪魔だ。

敵にこんなものを渡してしまっても良いのだろうか?

 

「大戦後、大きな争いは無くなりましたが、ご存じのように三大勢力の間で小規模な鍔迫り合いがいまだに続いています。この状態が続けばいずれ皆滅ぶ。いえ、その前に横合いから他の勢力が攻め込んで来るかもしれません」

 

他の勢力っていうと、ギリシャ神話とか日本神話とかだっけ?

 

ドライグが俺の疑問に答える。

 

『そうだ。それ以外にも数多くの神話体系がこの世界に存在する。通常は自分達の領域から出ることはないんだが、聖書の神が消失したことで他がどう動くか分からない。聖書の神の不在を三大勢力が秘匿するのは頷ける話なんだ』

 

うーん、知らないことだらけだ。

やっぱ勉強しないとなぁ。

 

「過去の大戦の時、三大勢力が手を取り合ったことがありました。赤と白の龍が戦場をかき乱した時です。あの時のように再び手を取り合うことを願って、あなたに―――赤龍帝に言わば願をかけたのですよ」

 

なるほど。

ミカエルさんの言いたいことは分かった。

俺がこれを受けとることで、三大勢力が手を取り合えると言うのなら、喜んで受け取ろう。

 

それに―――現在所有しているあの剣は今の俺では制御しきれてないからな。

使える武器が増えることは俺にとってはありがたい。

 

「分かりました。ありがたく頂くことにします」

 

「では、赤龍帝の籠手を出して同化させてみてください」

 

同化?

そんなことが出来るのか?

 

『まぁな。相棒も知っての通り、神器は想いに答える。相棒が望めば不可能ではないさ』

 

ドライグがそう言うのなら出きるのだろう。

俺は籠手を展開して宙に漂う聖剣を左手に取る。

 

『相棒、アスカロンを神器の波動に合わせてみろ』

 

了解だ。

 

俺は意識を集中させ、神器と聖剣の波動を合わせる。

聖なるオーラが流れ込んできて嫌な感じがしたけど、それも徐々に馴染んでいく。

そして、赤い閃光を発すると、籠手の先端からアスカロンの刃が生えていた。

どうやら、上手くいったらしい。

 

それを確認するとミカエルさんは微笑む。

 

「上手くいって良かったです。私はそろそろ行かねばならないのでここで失礼します。アーシア・アルジェントとゼノヴィアには必ず償いを果たしましょう。それでは、会談の時に」

 

そう言うとミカエルさんの体を光が包み込み、一瞬の閃光の後、ミカエルさんの姿は消えていた。

 

 

 

 

「お茶ですわ」

 

「ありがとうございます、朱乃さん」

 

ミカエルさんが去った後、俺は朱乃さんが生活しているという境内の家で一息ついていた。

 

朱乃さんが入れてくれたお茶は美味しいな。

少し苦味があるけど、茶菓子とよく合う。

 

「それにしても驚きましたわ。あのミカエルさまを前にして臆せず堂々としているんですもの」

 

「ははは」

 

よくよく考えたら俺みたいな一端の悪魔が天界側のトップと話せるなんて普通は無いんだろうなぁ。

俺、失礼なこと言わなかったかな?

 

「朱乃さんはミカエルさんとアスカロンを?」

 

「はい、この神社でアスカロンの仕様変更術式を行っていたのです」

 

なんか、部長も朱乃さんも大変だな。

三大勢力のトップ会談の打ち合わせだのなんだので、あっちこっちで仕事をこなしてる。

俺にはそういうのは向いてなさそうだ。

俺が出来るのは戦ったり、皆の修行を見たりするくらいだもんな。

 

ここで俺はあることを思い出す。

コカビエルが言ってたことが気になってたんだ。

 

「あの、ひとつ聞いても良いですか?」

 

「なんでしょう?」

 

「この間の戦いの時、コカビエルが言ってましたよね。朱乃さんが堕天使の幹部の………?」

 

俺の問いに朱乃さんは表情を曇らせる。

 

「………そうよ。私は堕天使幹部のバラキエルと人間の間に生まれた者です」

 

やっぱり、そうなんだな。

朱乃さんは話を続けてくれた。

 

「母はとある神社の娘でした。ある日、傷つき倒れていたバラキエルを助け、その時の縁で私を身に宿したと聞いています」

 

暗い表情の朱乃さん。

それほどに辛い過去なのか?

コカビエルがバラキエルという名を出したときと朱乃さんは明らかに怒りを表していたからな。

一体、お父さんとの間に何があったというのだろう?

 

すると、朱乃さんは巫女服の上を脱いだ。

そして、朱乃さんの背中から現れたのは悪魔の翼と堕天使の黒い翼。

 

「見ての通り、私は悪魔の翼と堕天使の翼、その両方を持っています。汚れた翼。これが嫌で私はリアスと出会い、悪魔となったの。でも、その結果、生まれたのは堕天使と悪魔の翼を持ったおぞましい生き物。ふふ、この身に汚れた血を持つ私にはお似合いかもしれません」

 

そう言って自嘲する朱乃さん。

 

「こんな悪魔だか堕天使だか分からないような汚らわしい私は本来、いても良い存在じゃないのよ………」

 

それを聞いた俺は―――――机を叩き、立ち上がった。

 

「そんなこと言わないでください。朱乃さんが汚れてる? おぞましい生き物? 俺には朱乃さんがそんな風には見えません」

 

「い、イッセー君………?」

 

驚く朱乃さんを無視して、朱乃さんの両肩を掴む。

 

「朱乃さんは朱乃さんです。朱乃さんが誰の血を引いていようとも、どんな存在であっても、そんなもんは関係ない! 俺にとって朱乃さんは優しい先輩で、大切な仲間です! だから、そんなことを言わないでくださいよ………!」

 

息を荒くする俺は朱乃さんの眼を真っ直ぐに見る。

 

「………イッセー君」

 

俺は朱乃さんの声で我に返る。

慌てて、手を離しその場に土下座した。

 

「す、すすす、すいません、朱乃さん! 生意気なことを言ってしまって!」

 

俺のバカヤロウ!

なにやらかしてんだよ!

元々、俺が朱乃さんに聞いたことじゃねぇか!

 

どうしよう、朱乃さんから返事が返ってこない。

恐る恐る、顔を上げると朱乃さんは―――泣いていた。

 

し、しまったぁぁぁぁぁ!!

俺、女の子泣かしてしまった!

 

俺は頭を畳にめり込むまで頭を下げる。

 

「す、すいません! ごめんなさい!」

 

「イッセー君」

 

「は、はい!」

 

「さっきの言葉は………」

 

「え、えっと、俺の想いを分かってほしくて、つい」

 

この気持ちは本当だ。

朱乃さんにこれ以上、自分のことを責めてほしくなかった。

でも、もう少し言い方があっただろ。

 

すると、俺の頬に朱乃さんの手が添えられる。

 

「イッセー君、顔を上げてください」

 

朱乃さんにそう言われて、俺は上体を起こし朱乃さんと向かい合う。

すると、朱乃さんが俺の方に顔を近づけてきて、そのまま抱きついてきた!?

 

「あ、朱乃さん?」

 

「ありがとう………イッセー君。私を認めてくれて」

 

「認めるもなにも、俺にとって朱乃さんは最初から大切な存在ですよ」

 

「………! そんなこと言われたら、本気になっちゃうじゃない」

 

本気?

なんのことやら………。

 

反応に困る俺の耳許で囁く。

 

「ねぇ、イッセー君。二人きりの時は『朱乃』って呼んでくれる?」

 

「え? せ、先輩にそれは失礼なんじゃ………」

 

「………ダメ?」

 

はう!

そ、そんな潤んだ瞳で懇願されたら俺は………!

 

「あ、朱乃………?」

 

「うれしい、イッセー!」

 

朱乃さんがさらに俺を抱き締めてくる。

 

ヤバい。

今の朱乃さん、超可愛かった………!

いつものお姉さまキャラじゃなくて、普通の女の子になっていた。

つーか、朱乃さんの胸がさっきから押し付けられてる!

やわらかい!

今の朱乃さんは上は裸みたいな状態だから、直で当たってるよ!

 

そして、次に待っていたのはなんと朱乃さんの膝枕!

感無量だぜ!

 

朱乃さんが俺の頭を撫でてくれる。

いつもは俺が美羽やアーシアの頭を撫でているから新鮮な感覚だ。

気持ちいい………。

朱乃さんの太股と手の感触が最高に気持ちいい。

 

あ、少しうとうとしてきた。

 

「イッセー君、気持ちいいですか?」

 

「はい、最高です。気持ちよすぎて、何だか眠気が………」

 

「あらあら、良いのですよ? 私の膝でお休みになってくれても」

 

徐々に目蓋が重くなり、俺はそのまま眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

この後、部長に俺が朱乃さんの膝の上で眠っているところを目撃された。

 

そして、一波乱起きたのはまた別の話………

 

 

 



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8話 トップ会談始まります!!

 

「―――さて、行きましょうか」

 

部室に集まるオカルト研究部の面々が部長の言葉に頷く。

 

今日は三勢力の会談の日だ。

 

さっき外を見てきたけど学園全体を強力な結界が覆っていて会談が終わるまで誰一人として中には入れないし、帰れないようになっている。

 

更には悪魔、天使、堕天使の軍がそれぞれこの学園前に待機していて、今にも戦争が勃発しそうだ。

 

はぁ、交渉決裂で即戦争とかマジで勘弁してくれよ?

 

まぁ、三大勢力のトップの人達の性格は知ってるから大丈夫だと思うけどさ。

 

「ギャスパー、今日の会談は大事な物なの。時間停止の神器を制御できない貴方は参加することはできないの。ごめんなさいね」

 

部長が優しく告げた。

 

ギャスパ―はまだ神器を制御できていない。

 

もし、何かのショックで会談中に発動してしまっては問題なので今回は留守番だ。

 

「ギャー君、大丈夫。私もいるから」

 

「ボクもいるしね」

 

そう、留守番するのはギャスパーだけじゃないんだ。

 

小猫ちゃんと美羽はここに残ってギャスパーの話し相手だ。

 

ギャスパーは特に美羽になついているようなので適役だ。

 

「小猫ちゃん・・・・美羽先輩・・・・ありがとうございますぅ」

 

「おとなしくしてろよ? ゲーム機、貸してやるからさ」

 

「はい! イッセー先輩、ありがとうございますぅ!」

 

すると、小猫ちゃんが大きな段ボール箱を持ってきた。

 

中には大量のお菓子。

 

「ギャー君、お菓子もたくさん用意したから」

 

「ありがとう、小猫ちゃん!」

 

うーん、あれは自分用では?

 

「紙袋もあるから寂しくなったら存分にかぶれ」

 

「はい!」

 

よし、良い子だ。

 

俺は立ち上がると、美羽の方を見る。

 

「ギャスパーのこと頼むな」

 

「任せて。お兄ちゃんこそ会談の方、頑張ってね」

 

「俺が頑張ることは特に無いと思うんだけどなぁ。じゃあ、行ってくるよ」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン、部長が会議室の扉をノックする。

 

「失礼します」

 

部長が扉を開けて中に入るとそこには……

 

特別に用意したであろう豪華絢爛なテーブルを囲むように各陣営のトップが真剣な表情で座っている。

 

悪魔側はサーゼクスさんとセラフォルーさん。それから給仕係のグレイフィアさん。

 

流石のセラフォルーさんも今日は魔女っ子の姿じゃなかった。

 

 

 

天使側はミカエルさんと知らない天使の女の子。

美人だな。

 

まるで、天使のようだ! 

 

あ、天使か・・・

 

 

 

堕天使側はアザゼルさんと白龍皇ヴァーリ、それからレイナだった。

 

俺に気づいたレイナが微笑む。

 

うん、かわいい。

 

ヴァーリも俺の方を見てくるけど・・・・男の視線なんかいらねぇ。

 

 

「私の妹と、その眷属だ。先日のコカビエル襲撃では彼女達が活躍してくれた」

 

サーゼクスさんが他の陣営のトップに部長を紹介する。

 

部長も会釈していた。

 

「報告は受けています。コカビエル襲撃の件はご苦労様でした」

 

ミカエルさんが部長へお礼を言う。

 

「悪かったな。俺のとこのコカビエルが迷惑かけた」

 

あまり悪びれた様子もなく、アザゼルさんが言う。

 

そんな態度に部長は目元を引き攣らせていた。

 

 

スパンッ!

 

 

突如、小気味良い音が部屋に響いた。

 

レイナが何処からか出したハリセンでアザゼルさんの頭を叩いたんだ。

 

「痛って! 何しやがるレイナーレ!」

 

「それはこっちのセリフです! 迷惑をかけたのはこちらの陣営なんですから失礼のないようにして下さい!」

 

「だからって、ハリセンで叩くことはないだろ!」

 

「シェムハザ様に総督が失礼なことをするようであれば遠慮なく叩けと言われましたので」

 

「あの野郎!」

 

 

おいおい・・・・

 

いきなり緊張感が無くなったぞ・・・・

 

見てみろ、この部屋にいる全員が苦笑いしてるじゃねぇか。

 

いや、サーゼクスさんだけ爆笑してる・・・・

 

 

良いの?

 

今から超真面目な話をするんだろ?

 

この空気ではじめても良いの?

 

 

「いやいや、何時ものことだがアザゼルの周りは愉快な者が多いな」

 

「勘弁してくれよ、サーゼクス・・・・・。俺、このところずっとこの調子なんだぜ? いつか過労死するぞ・・・・。あ、思い出した。この間のラーメン代返してくれ。1050円」

 

「おっと、すまない。ふむ・・・50円のお釣りはあるかい?」

 

「ちょっと待て・・・・・。おー、あったあった。ほれ釣りだ」

 

 

なにやら、財布を取り出して庶民的なやり取りを始めた二人。

 

いや、あなた達本当に何しに来たの?

 

つーか、二人でラーメン食いに行ったのかよ・・・・

 

敵同士でしょうが!

 

 

「サーゼクス様、私に黙って勝手なことをされていたようですね・・・・後でご説明願います」

 

「総督。今の話はきっちりシェムハザ様に報告するのでご覚悟を」

 

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

 

グレイフィアさんとレイナに言われて黙りこむ二人。

 

額には冷や汗が流れてる。

 

 

 

 

 

 

 

「では、会談を始めよう」

 

え!?

 

この流れで始めるんですか、サーゼクスさん!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この会談の前提条件として、この場にいる者達は『神の不在』を認知している」

 

サーゼクスさんはそう言うと皆を見渡す。

 

とくに返事がないのは言うまでもなく全員が知っているからだ。

 

「では、それを認知しているものとして、話を進める」

 

サーゼクスさんのその一言で三大勢力のトップ会談が始まった。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

「と言う様に我々天使は……」

 

「そうだな、その方が良いかもしれない。このままでは確実に三勢力とも滅びの道を……」

 

「ま、俺らには特に拘る理由もないけどな」

 

悪魔、天使、堕天使のトップたちが貴重な話をしている。

 

正直言って、この世界の事情をあまり知らない俺にとってはちんぷんかんぷんだ。

 

話の内容についていけていない。

 

 

うーん、重要な話なのは分かるけど、中身が分からないんじゃあな・・・・・

 

 

仕方がない、皆のおっぱいでも眺めていよう。

 

部長も朱乃さんも大きいよなぁ。

 

ゼノヴィアやレイナも良いおっぱいなんだよな。

 

アーシアも最近はけっこう成長してきている。

 

 

揉みたい。触りたい。つつきたい。

 

「―――以上が私、リアス・グレモリーと、その眷属悪魔が関与した事件です」

 

おっと、妄想している間に部長の報告が終わってしまった。

 

すると、朱乃さんがクスクスと笑いながら小さく言ってきた。

 

(イッセー君、さっきから皆のおっぱいを眺めていましたね)

 

バレてた・・・・

 

(そんなにおっぱいが気になるなら後で触らせてあげますわ)

 

マジですか、朱乃さん!

 

良いんですか!?

 

(ダメよ。朱乃もイッセーを誘惑しないでちょうだい)

 

はう!

 

横から部長に注意されてしまったぜ!

 

 

「さてアザゼル。この報告を受けて、堕天使総督の意見を聞きたい」

 

その言葉に皆が注目すると、アザゼルさんは不敵な笑みを浮かべて話始めた。

 

「先日の事件は我が堕天使中枢組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部コカビエルが単独で起こしたものだ。奴の処理は『赤龍帝』と後から来た『白龍皇』がおこなった。その後、組織の軍法会議でコカビエルの刑は執行された。『地獄の最下層(コキュートス)』で永久冷凍の刑だ。・・・・・まぁ、そこの赤龍帝にボコボコにされてすでに瀕死の状態だったがな。とにかく、やつはもう二度と出てこられねえよ。その辺りの説明はこの間転送した資料にすべて書いてあったろう?それで全部だ」

 

ミカエルさんが嘆息しながら言う。

 

「説明としては最低の部類ですね。しかし、あなた個人が我々と大きな事を構えたくないという話は知っています。それは本当なのでしょう?」

 

「ああ、俺は戦争になんて興味ない。コカビエルも俺のことをこきおろしていたと、そちらでも報告があったじゃないか」

 

アザゼルさんの言葉にサーゼクスさんとミカエルさんが頷く。

 

確かに、コカビエルはあのときアザゼルさんをかなり悪く言ってたな。

 

まぁ、俺もこの人の性格は知ってるから戦争に興味がないのが本当だということは分かる。

 

神器大好きのサボり総督だもんなぁ。

 

 

「それで、俺も一つ聞きたいことがある。少し話が脱線することになるが許してくれ」

 

「まぁ、内容にもよりますが・・・」

 

「アザゼル、言ってみてくれ」

 

「ああ。・・・・・赤龍帝、おまえは何者だ?」

 

 

っ!

 

ここで俺に話を振りますか。

 

「ヴァーリから話は聞いた。いや、聞かずともコカビエルのあの状態を見れば分かる。コカビエルをああもボロボロにするやつなんざそうはいない」

 

「そうですね。私も報告を聞いて驚きました。いくら赤龍帝の力を宿しているとはいえ、下級悪魔がコカビエルを倒すとは思いもしませんでした。兵藤一誠君、あなたはいったい・・・・」

 

アザゼルさんに続きミカエルさんまで聞いてくる。

 

というより、この部屋にいる全員の視線が俺に集まる。

 

「先に謝っておく。悪いが、会談にあたり、おまえさんのことは少し調べさせてもらった。おまえは悪魔に転生するまでは普通の高校生だったはずだ。親も普通の人間。先祖に魔術や超常の存在と接触した者はいない。それなのに、おまえは既に禁手に至っている。それもコカビエルを倒すレベルだ。・・・・おまえはどうやって、そこまでの力を手にいれた?」

 

・・・・さて、どう答えるか。

 

この人たちを信用していない訳じゃない。

 

話しても黙っといてくれるはずだ。

 

 

ただ、情報というのは何処からか漏れるか分からない。

 

もし、異世界のことを知られ、美羽の正体まで知られてしまえばどうなるか・・・・

 

考えるまでもない。

 

美羽はどこぞの研究対象になるだろう。

 

下手をすれば何かしらの実験をさせられるかもしれない。

 

それだけは絶対に避けたい。

 

俺はあいつをもう悲しませない。

 

そう誓ったんだ。

 

だから、この場で異世界のことを言うわけにはいかない。

 

 

俺がどう答えるか悩んでいると、先にアザゼルさんが口を開いた。

 

「いや、すまなかった。言いたくないなら答えなくても良い。俺が気になっただけだからな」

 

「―――! 良いんですか?」

 

「そりゃあ、話してくれるならうれしいが、おまえさんは言いたくないんだろう? なら、答えなくて良い。誰でも人には言えないことの一つや二つあるもんさ」

 

何となく、この人が何だかんだで部下に信頼されているのが分かった。

 

こう言うところが人に好かれるんだろうな。

 

「ありがとうございます、アザゼルさん」

 

 

アザゼルさんは視線を俺からサーゼクスさん達の方へと戻す。

 

「話を戻そうか。と言っても俺はこれ以上めんどくさい話し合いをするつもりはない。とっとと和平を結ぼうぜ。おまえらもその腹積もりだったんだろう?」

 

「「「っ!!」」」

 

アザゼルさんの言葉に全員が驚いていた。

 

いや、正確には俺とヴァーリを除いた全員か。

 

ヴァーリはさっきから興味が無さそうにしてるもんな。

 

まぁ、俺の話の時は興味を持っていたようだけど・・・。

 

 

俺が驚いていないのは、この会談が始めから和平を結ぶものだと思っていたからだ。

 

皆は何で驚いているんだよ?

 

『(それはこの三つの陣営の中で堕天使が最も信用されてないからだろう)』

 

そうなのか?

 

なんで?

 

『(考えてみろ。堕天使というのは欲に溺れた天使の成れの果てだ。胡散臭いだろう?)』

 

あー、なるほど・・・・。

 

そう考えれば確かに・・・・。

 

俺はレイナみたいな良い子しか知らないからなぁ。

 

いや、まぁ、ドーナシークやコカビエルみたいなやつも知ってるけど、悪魔にも『はぐれ』みたいなやつがいるからな。

 

そのあたりの考えは無かったよ。

 

サーゼクスさんが言う。

 

「確かに私も和平の話を持ちかけようと思っていたところだ」

 

ミカエルさんもそれに続く。

 

「私も今回の会談で三勢力の和平を申し出るつもりでした。戦争の大元である神と魔王はもういないのですから争う必要はありません」

 

 

―――神はもういない

 

この言葉を聞いて、アーシアとゼノヴィアが暗い顔をする。

 

この二人はずっと神のことを信じて生きてきたからな。

 

分かっているとはいえ、辛いんだろう。

 

 

「そこでだ。俺達、三竦みの外側にいながら世界を動かせるほどの力を持つ赤龍帝、そして白龍皇。おまえ達の意見を聞きたい。まずはヴァーリ、おまえの考えは?」

 

「俺は強いやつと戦えればそれでいいさ」

 

アザゼルさんの問いに、ヴァーリはにべも無く答える。

 

本当にそれ以外には望んでいないといった様子だ。

 

バトルマニアかよ・・・・・

 

次に俺に視線が移り、問われた。

 

「兵藤一誠。この質問には答えてもらうぜ。おまえさんはどうしたい?」

 

「どうしたいもなにも、俺は最初から和平を望んでいます。俺は皆と楽しく過ごせたらそれで良いんで」

 

それに戦争なんざもう二度とごめんだ。

 

俺は皆と普通の日常を過ごせればそれで良い。

 

エッチなイベントがあれば最高だけどな!

 

 

「さて、話が纏まったところで私も為すべきことをしなければなりませんね。・・・・・アーシア・アルジェント、ゼノヴィア」

 

「は、はい!」

 

突然、ミカエルさんに名前を呼ばれたので二人とも緊張してるみたいだ。

 

ミカエルさんは立ち上がり、アーシアとゼノヴィアの前に来る。

 

そして、二人に頭を下げた。

 

「私の力不足で二人には辛い思いをさせてしまいました。本当に申し訳ありませんでした」

 

その行動に俺と朱乃さん以外の全員が驚愕していた。

 

天使のトップが下級悪魔に頭を下げているんだから、当然か。

 

 

でも、ゼノヴィアは首を横に振って微笑む。

 

「頭をお上げください、ミカエル様。長年、教会に育てられた身。多少の後悔もありましたが、私は悪魔としての生活に満足しています。他の信徒には申し訳ないですが・・・」

 

ゼノヴィア・・・。

 

ゼノヴィアに続き、アーシアも手を組みながら言う。

 

「私も今、幸せだと感じています。大切な方達とたくさん出会えました」

 

ミカエルさんはアーシアとゼノヴィアの言葉に安堵の表情を見せていた。

 

「あなた達の寛大な心に感謝します」

 

 

ここでサーゼクスさんがアザゼルさんに問いかけた。

 

「アザゼル、あなたは神器を集めているようだが?」

 

「まぁな。神器の研究は俺の趣味だからな。・・・だがな、神器を集めていたのはとある存在を危惧してのことでもある」

 

「とある存在? それはいったい――――」

 

 

サーゼクスさんが言いかけた時だった。

 

 

「――――っ!!」

 

俺は窓の方へと駆け寄る。

 

俺の突然の行動にこの場にいた全員が驚いていた。

 

「イッセー!? どうしたの?」

 

尋ねてくる部長に俺は静かに答えた。

 

「―――――敵です」

 

 

その瞬間、部屋の中に戦慄が走った。

 

この気配は旧校舎の方か・・・

 

なんで旧校舎なんだ?

 

その時、妙な感覚に襲われた。

 

この感じ、身に覚えがある。

 

 

――――――今のはギャスパーの停止能力が発動した時と似た感覚だ。

 

 

 

 

 

 

 

部屋を見渡すと、動いている者と止まっている者に分かれていた。

 

サーゼクスさん、セラフォルーさん、グレイフィアさん、アザゼルさん、ミカエルさん、そしてヴァーリは動けている。

 

部員はというと

 

「眷属で動けるのは私とイッセー、祐斗とゼノヴィアだけね」

 

部長の言う通り、アーシアと朱乃さん、会長と副会長も停止していた。

 

「上位の力を持った俺たちはともかく、リアス・グレモリーの騎士は聖剣が停止の力を防いだのだろう。そして、リアス・グレモリーが動けるのは止まる瞬間に赤龍帝に触れていたからだろうな」

 

アザゼルさんが解説してくれた。

 

窓の外を見ると黒いローブを着こんだ魔術師みたいな連中が次々と現れ、外で止まっている警備の人や施設に攻撃を仕掛けてきた。

 

「これで、校舎には被害がでないだろう」

 

サーゼクスさんが俺達がいる新校舎に結界を張る。

 

これなら攻撃を受けても大丈夫だろう。

 

「さて、今の状況だが見ての通り俺達はテロを受けている。時間を停止させられ外にいる警備の奴らも全滅だ。そして、時間を停止する能力を持つ奴は少ない。そう考えると・・・」

 

「っ! まさか、ギャスパーがテロに利用されているというの!?」

 

部長がアザゼルさんに問う。

 

まぁ、今の状況をならそう考えるのが普通だろう。

 

ギャスパーがテロリストに利用されていると。

 

でも

 

「それは考えにくいですね」

 

「なぜそう言えるんだ赤龍帝?」

 

「簡単な話ですよ、アザゼルさん。今のギャスパーにはあいつが――――俺の妹がついてますから」

 



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9話 後輩の覚悟です!!

[アザゼル side]

 

 

妹がついてる、か。

 

会談のとき、コカビエルを倒したことで兵藤一誠について何者だ、と尋ねたが俺はあの黒髪の少女、兵藤一誠の妹、兵藤美羽についても気になっていた。

 

あの娘についての報告は特には無かったが、この間会ってみてすぐに相当の実力者であることが分かった。

 

調査の結果ではあの娘は二年近く前に兵藤一誠の義妹となっていることが分かった。

 

そこには特に気にするところはない。

 

問題なのはそれ以前の記録が全く出てこなかったことだ。

 

俺達の組織、グリゴリは優秀ではあるが完璧じゃあない。全てを調べあげることは難しい。

そんなことは理解している。

 

だが、全く情報がないということはおかしい。

 

 

兵藤一誠自身も謎だ。

 

赤龍帝の力を使って戦った形跡が悪魔になった後でしか記録がない。

 

調べによれば悪魔に転生する前からかなりの実力を持っていたという。

 

ただの人間がそこまでの強さを手に入れるにはやはり、何処かで戦闘の形跡があるはずなんだ。

 

 

この兄妹は謎に包まれ過ぎている。

 

一体何者なんだよ?

 

まぁ、さっき話さなくて良いと言ったから聞きはしないけどよ。

 

 

とりあえず、この兄妹のことは後回しだ。

 

今はテロリストの対処だな。

 

「赤龍帝の言う通り、あのヴァンパイアが敵の手に落ちてないと考えると・・・・、敵さんの方にも時間停止系の神器持ちがいると考えても良いだろう」

 

『停止世界の邪眼』のような時間停止系の神器はいくつか存在が確認されている。

 

だが、この規模で時間停止を仕掛けてこれるのは、その所持者が禁手に至っているか、術式を仕掛けて無理矢理に一時的な禁手状態にしているか。

 

 

さっきから停止の力が強まってるところを見ると恐らく後者だ。

 

恐らく力を譲渡して無理な力を使わせているのだろう。

 

それでは術者がもたない。

 

後で何らかの後遺症を残すことになるだろう。

 

 

・・・・いや、このまま放置しておけば俺達も危ないか。

 

 

 

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、俺はギャスパーのところに行ってきます。美羽がいるから大丈夫だとは思いますけど、何が起こるか分からないので」

 

「待って、イッセー。私も行くわ」

 

「部長・・・・分かりました。サーゼクスさん、良いですか?」

 

サーゼクスさんは頷く。

 

「ああ。そちらはイッセー君とリアスに任せよう。その間に我々も状況の打開策を考えよう」

 

よし、了解は取れた。

 

すると、アザゼルさんがヴァーリに言う。

 

「ヴァーリ、お前は外に出て魔法使いどもを蹴散らせ。白龍皇であるお前が出れば、相手は動揺するだろうからな」

 

 

「……ふ。了解だ」

 

 

ヴァーリは少し鼻で笑う。

 

そして、眩い光を発しながら力を解放した。

 

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 

その音声と共にヴァーリの体は白い鎧によっておおわれる。

 

ヴァーリは俺を一瞥すると窓から飛び出していった。

 

魔法使いから放たれる攻撃をものともせずに宙を舞い、魔力弾を放って敵の魔法使いを次々に沈めていく。

 

 

 

あいつの力はどう見ても魔王クラス。

 

魔力量なんて俺とは比べ物にならないな。

 

あいつは俺と闘いたいみたいだけど、そうなったら本気でやるしかないか。

 

 

まぁ、そのあたりは後で考えよう。

 

「じゃあ、部長。行きましょうか」

 

「ええ」

 

俺と部長は部屋を出て、旧校舎へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

部長とイッセー君が旧校舎に向かった後。

 

会議室に突然、魔法陣が現れた。

 

それを見て、サーゼクス様は苦虫を噛み潰したような表情をされていた。

 

「これは―――レヴィアタンの魔法陣」

 

え?

 

確かに、この魔法陣はセラフォルー・レヴィアタン様の魔法陣とは違う紋様をしている。

 

僕が疑問に思っていると隣にいたゼノヴィアが呟いた。

 

「書物で見たことがある。あれは旧魔王のものだ」

 

・・・・・なるほど。

 

あれが旧魔王レヴィアタンのものなのか。

 

噂には聞いていたけど、まだ存在していたんだね。

 

 

魔法陣から現れたのは胸元が大きく開いていて、深いスリットの入ったドレスを着た一人の女性。

 

「ごきげんよう、現魔王サーゼクス殿、セラフォルー殿」

 

「先代の魔王レヴィアタンの血を引く者、カテレア・レヴィアタン。これはどういうつもりだ?」

 

「もちろん―――あなた方を滅ぼすため」

 

その瞬間、カテレアから巨大な魔力弾が放たれた。

 

 

光が僕たちを覆い、部屋を吹き飛ばしたけど僕達は無事だった。

 

「三勢力のトップが共同で防御結界ですか。なんと見苦しい」

 

見下すように笑うカテレア。

 

そう、僕達を襲った魔力弾はサーゼクス様、ミカエル、アザゼルの三人が張った結界が防いでくれたんだ。

 

この三人が防いでくれなければ、停止させられている皆だけでなく、動けている僕やゼノヴィアも危なかっただろう。

 

 

サーゼクス様がカテレアに問いかける。

 

「カテレア、なぜこのようなことを?」

 

「先程も言ったはずです。あなた方を滅ぼすため、と。我々はこの会談の反対の考えに至りました。神と魔王がいないのならばこの世界を変革すべきだと」

 

神の不在、三大勢力の和平、それを全て知った上でのクーデターということか。

 

しかも、その考えはここにいる方々とは全く逆。

 

イッセー君が聞いたら本気で怒るだろう。

 

「カテレアちゃん、止めて! どうして、こんな・・・・」

 

セラフォルー様の悲痛な叫びにカテレアは憎々しげな睨みを見せる。

 

「セラフォルー、私から『レヴィアタン』の座を奪っておいて、よくもぬけぬけと!」

 

「わ、私は・・・・」

 

「ふん、安心なさい。今日、この場であなたを殺して私が魔王レヴィアタンを名乗ります」

 

カテレアの言葉に表情を陰らせるセラフォルー様。

 

 

 

「やれやれ、悪魔のとんだクーデターに巻き込まれたと思ったが、おまえらの狙いはこの世界そのものってことか」

 

「ええ、アザゼル。神と魔王の死を取り繕うだけの世界。この腐敗した世界を私たちの手で再構築し、変革するのです」

 

両手を広げてそう答えるカテレア。

 

しかし、その答えを聞いてアザゼルはおかしそうに笑う。

 

「アザゼル、何がおかしいのです?」

 

カテレアの声には明らかに怒りが含まれている。

 

「腐敗? 変革? 陳腐だな、おい。そういうセリフは一番最初に死ぬ敵役の言うことだぜ?」

 

「あなたは私を愚弄するつもりですか!」

 

激怒するカテレアの全身から魔力のオーラが発せられる。

 

「サーゼクス、ミカエル、俺がやる。いいな?」

 

アザゼル―――堕天使総督が戦場に立つ。

 

その身からは薄暗いオーラを放っている。

 

本気ではないというのにすごい重圧を感じる。

 

 

「カテレア、下るつもりはないのか?」

 

「ええ、サーゼクス。あなたは良い魔王でしたが、残念ながら最高の魔王ではなかった」

 

カテレアはサーゼクス様の最後通告を断る。

 

「そうか・・・・残念だ」

 

 

アザゼルとカテレアは上空へと場所を変える。

 

「旧魔王レヴィアタンの末裔。『終末の怪物』の一匹。相手としては悪くない。ハルマゲドンとシャレこもうか?」

 

「堕天使の総督ごときが!」

 

 

ドンッ!!

 

 

その瞬間、堕天使総督と旧魔王の末裔の戦いが始まった。

 

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

 

旧校舎に到着した俺と部長は部室へと急いだ。

 

中は特に戦闘を行った形跡はない。

 

部室の前まで来ると俺達は一度立ち止まる。

 

お互いに目で合図を送り、部室の扉を勢いよく開ける。

 

 

部室の中はにいたのは―――

 

 

「あ、おかえり。こっちはもう終わったよ」

 

 

結界の中でトランプをする美羽、小猫ちゃん、ギャスパーの三人の姿だった。

 

部屋の端には魔法でできたロープのようなもので縛られている女の魔法使いが数人。

 

全員気絶してるな。

 

 

この状況に戸惑う部長。

 

「え、えっと、これは?」

 

うん。

 

俺にもこの状況は分からん・・・・。

 

答えてくれたのは小猫ちゃんだった。

 

 

「五分ほど前にそこの魔法使いの人達が侵入してきたのですが、部室に入って来た瞬間に美羽先輩が全員を捕縛したんです」

 

そこは分かる。

 

このメンバーでここまで鮮やかに敵を捕縛出来るのは美羽だけだしな。

 

何故にトランプ・・・・・?

 

「何かが起こっていることは分かったのですが、いきなりギャー君の力に似たものに襲われたので美羽先輩が作った結界の中に入ったんです。それで、とりあえず安全が確認されるまでは結界の中で過ごそうということになりました」

 

「それでトランプ・・・?」

 

俺の問い三人は首を立てに振って頷く。

 

「一応、慌てるギャスパー君を落ち着かせる目的もあったんだけどね」

 

頬をポリポリとかきながら申し訳なさそうに言う美羽。

 

まぁ、ギャスパーがこの状況に慌てふためく姿は容易に想像できるな。

 

それに、ギャスパーは感情の起伏で神器が暴発する可能性もある。

 

そう言う意味ではこの判断は一概に悪いとは言えないか・・・・。

 

 

「まぁ、無事ならいいさ。よくやったな美羽」

 

「うん」

 

頭を撫でながら誉めてやると、いつものように凄く嬉しそうな表情を浮かべる美羽。

 

「・・・・一番の強敵は美羽なのかしら」

 

後ろで部長が何やら呟いているけど、どうしたんだろう?

 

 

・・・・ギャスパーが無事だということは、アザゼルさんが言っていたようにテロリスト側にも時間停止の神器の所有者がいるということで間違いないな。

 

 

だったらなんで、旧校舎を狙ったんだ?

 

すると、部長が言った。

 

「今回のテロは元々、ギャスパーを使って時間を停止させるつもりだった。それが失敗したから自分達が所有する神器所有者を使った、というところかしらね。・・・・もしこの考えが正しかったのなら最低な発想だわ」

 

なるほど。

 

出来るだけ自分達の手札は温存しておきたかったわけだ。

 

そのためにギャスパーを狙ったと・・・・。

 

「ギャスパー、落ち着いたか?」

 

「はい! 美羽先輩や小猫ちゃんのお陰です!」

 

「そっか。良かった」

 

よし。

 

ギャスパーのことはもう大丈夫だな。

 

後はテロリスト共を片付けるだけなんだけど・・・・。

 

問題は学園の上空で輝いている魔法陣。

 

恐らくあれが時間停止の作用を果たしているはずだ。

 

あれを止めることが出来れば・・・・・。

 

 

「イッセー先輩・・・・」

 

ギャスパーが俺の制服の袖を引張ってきた。

 

どうしたんだ?

 

何故か俯いているし。

 

すると、ギャスパーは顔を上げた。

 

その目は何かを決意しているように見えた。

 

「ぼ、僕も戦います!・・・・僕が敵の時間停止を破って見せます!」

 

 

「「「!?」」」

 

 

ギャスパーの言葉に俺達は驚いた。

 

まさか、こいつがそんなことを言うなんて・・・・・。

 

ギャスパーは続ける。

 

「ぼ、僕はいつも皆さんに守られてきました! リアス部長に拾ってもらったのに、イッセー先輩や美羽先輩、皆が僕を助けようとしてくれたのに、僕はまだ何にも役にたってません! だから・・・・僕も皆さんの役にたちたいんです!」

 

そんなことを考えてたのか・・・・

 

いや、こいつは以前、部長の役にたちたいと言っていた。

 

恐らく、ずっと前から思っていたんだろうな。

 

 

俺はギャスパーと向き合い、問う。

 

「ギャスパー、覚悟は出来ているか?」

 

「か、覚悟ですか?」

 

「ああ。誰かのために力を使うには覚悟が必要だ。自分の力に溺れず、誰かのために自分の力を振るうには相応の想いと覚悟がいる。・・・ギャスパー、もう一度聞くぞ。覚悟は出来ているか?」

 

俺の再びの問いにギャスパーは一瞬下を向いたけど、俺の目を見て、強い言葉で言った。

 

「か、覚悟は出来ています! ぼ、僕はもう逃げません! 以前のように目の前の現実から逃げたりなんてしません!」

 

その言葉を聞いた俺は笑みを浮かべ、ギャスパーの両肩に手を置いた。

 

「良く言った! なんだかんだで、おまえも男じゃないか! おまえが覚悟を決めたんなら俺ももう一度覚悟を決めよう。ギャスパー、おまえのことは俺が守ってやる。だから、何があっても心配すんな!」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

俺達は部室の窓から外に出て、上空に浮かぶ魔法陣を見上げる。

 

「いくぜ、ギャスパー! オカ研男子部員の先輩後輩タッグだ!」

 

「イッセー先輩、僕、頑張ります!」

 

良い返事だ!

 

俺は指を切り、流れる血をギャスパーに飲ませる。

 

 

ドクンッ

 

 

ギャスパーの体が脈打つ。

 

赤龍帝である俺の血を飲んだことでギャスパーの中に眠る力が解放されたんだ。

 

更に俺は溜めておいた力をギャスパーに譲渡!

 

『Transfer!!』

 

ギャスパーから発せられるオーラが格段に跳ね上がった!

 

「今だ! ギャスパー!」

 

「はい!」

 

ギャスパーの瞳が赤い輝きを発する。

 

そして―――

 

 

「時間の停止が止まった・・・・?」

 

部長が呟く。

 

校舎を見るとさっきまで止まっていた時計が動き始めている。

 

新校舎の方に意識を集中させると朱乃さんやアーシアの気も動いている。

 

やりやがった!

 

成功だ!

 

「やったぞ、ギャスパー!」

 

「は、はいぃ。つ、疲れましたぁぁ」

 

ヘナヘナとその場に崩れ落ちるギャスパー。

 

そのギャスパーを小猫ちゃんが支えてあげる。

 

「ギャー君、やればできる子」

 

「ありがとう、小猫ちゃん・・・」

 

部長もしゃがんでギャスパーを抱き締めた。

 

「ギャスパー、立派になったわね。嬉しいわ」

 

ギャスパー、顔を赤くして照れてるな。

 

うーん。

 

見た目が美少女だから少しドキッとしてしまうぜ。

 

「お兄ちゃん、ギャスパー君は男の子だよ?」

 

「美羽、それを言わんでくれ・・・・。とりあえず、皆のところに急ごうか。皆、魔法使いと戦っているようだしな」

 

新校舎の方から雷やら光の槍やらが見える。

 

動けるようになった朱乃さんやレイナ達も戦っているようだ。

 

「そうね。先を急ぎましょう。小猫、ギャスパーを連れてきてもらえるかしら?」

 

「了解です。ギャー君、私の背中に乗って」

 

「う、うん」

 

さっきのでギャスパーは力を使い果たしたみたいだしな。

 

仕方がないか。

 

こいつは十分に頑張ったんだ。

 

後は俺達で何とかするさ。

 

「行こうぜ、皆!」

 

 

俺達は新校舎の方で戦っている仲間の元へと急いだ。

 

 

 



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10話 二天龍激突!!

俺達が皆のところに向かい、校庭に着いた時だった。

 

敵の魔法使いは木場や朱乃さん達によってほぼ全滅させられていた。

 

もうすぐで片がつく。

 

そう思った時だった。

 

 

ドッガァァァアアアアアン!!!

 

 

俺達の前に何かが落ちてきた!

 

いきなりのことに部長達も驚いている。

 

立ち込める土煙が消え、そこにいたのは―――。

 

「・・・・チッ。俺もやきがまわったもんだ。この状況下で反旗かよ、ヴァーリ」

 

ダメージを負ったアザゼルさんだった。

 

「そうだよ、アザゼル」

 

白い光を放ちながら、俺達の前に白龍皇ヴァーリが舞い降りる。

 

その隣には知らないお姉さんがいた。

 

おお!

 

エッチな服だ!

 

胸元なんておっぱいがあんなに見える!

 

スリットも深く入っていて、太ももが!

 

エロい!

 

「なんだか、いやらしい視線を感じるわ。―――その子が赤龍帝なのですか、ヴァーリ?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「あなたが言うほど私達の脅威になるとは思えませんが・・・・」

 

「カテレア。君はもっと相手を観察する目を養った方がいい。彼は普段はあんな感じで残念だが、戦闘の時はまるで別人だよ」

 

なんか、凄く失礼なことを言われたような気がする・・・・。

 

つーか、今のヴァーリの言葉に小猫ちゃんも頷いてるし・・・・

 

「・・・・イッセー先輩は戦ってる時はすごいですが、日常はダメダメです」

 

エロくてゴメンね!

 

 

アザゼルさんが服についた土を払いながらヴァーリに問う。

 

「いつからだ、ヴァーリ?」

 

「コカビエルを本部に連れ帰る途中で彼女達にオファーを受けたのさ。『アースガルズと戦ってみないか?』―――こんなことを言われたら自分の力を試してみたい俺には断れない」

 

「それで『禍の団(カオス・ブリゲード)』に入ったというわけか・・・・」

 

 

カオス・ブリゲード・・・・・?

 

なんだそりゃ?

 

疑問に思っているのは俺だけじゃなかった。

 

サーゼクスさんやセラフォルーさんも知らないようだ。

 

俺達の表情を見て、アザゼルさんが言う。

 

「そういえば、会談の席で言いかけてそれっきりだったな。実は最近、うちの副総督シェムハザがとある組織の存在を掴んでな。その組織は三大勢力の危険分子を集めているそうだ。・・・・そして、その組織がこいつらが所属する『禍の団』ってわけだ」

 

ということはヴァーリはテロリスト側だったということか・・・・

 

「そして、その組織のトップは『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス」

 

 

「「「!!」」」

 

部長だけでなくサーゼクスさん達まで驚愕している。

 

「オーフィス・・・・そうか、彼が動いたのか・・・」

 

サーゼクスさんが険しい表情でそう呟く。

 

オーフィスって誰?

 

俺は全く知らん。

 

ウロボロなんたらドラゴンってそんなに凄い存在なのか?

 

 

『オーフィスか。懐かしい名だ』

 

知ってるのか、ドライグ?

 

『当然だ。やつは俺やアルビオンを越える存在。ドラゴン族最強の者、ドラゴンの神だ。そして、やつはこの世界で最強の存在だ』

 

なっ!?

 

俺はドライグの解説を聞いて絶句した。

 

そんなやつがテロリストのトップだってのか!

 

 

アザゼルさんが苦笑しながら言った。

 

「ったく、神と戦いたいねぇ。まぁ、おまえらしいと言えばお前らしいか」

 

すると、女性がアザゼルさんを嘲笑した

 

「今回の件は、我ら旧魔王派の一人、ヴァーリ・ルシファーが情報提供と下準備をしてくれました。彼の本質を理解しておきながら放置しておくなど、あなたらしくありませんね、アザゼル。……自分の首を自分で絞めたようなものです」

 

今、なんて言った・・・・?

 

旧魔王派とかは俺には分からない。

 

問題はその後だ。

 

 

ルシファー?

 

 

ヴァーリ・ルシファーだと?

 

 

ヴァーリは自身の胸に手を当て、俺に向かって言う。

 

「我が名はヴァーリ・ルシファー。死んだ先代の魔王ルシファーの孫である父と人間の母の間に生まれた混血児。ハーフなんだ」

 

ヴァーリの背中から光の翼と共に悪魔の翼が幾重にも生えだした。

 

マジかよ・・・・

 

今代の白龍皇が魔王の血族・・・・

 

「・・・・嘘よ・・・・そんな・・・・」

 

部長が驚愕の声を漏らす。

 

しかし、アザゼルさんは肯定した。

 

「事実だ。こいつは魔王の血を引きながら、人間の血をも引いているが故に白龍皇を宿すことが出来た冗談のような存在だ。こいつは過去現在未来において最強の白龍皇になるだろう」

 

最強の白龍皇・・・・

 

ったく、なんでよりによって俺の代の白龍皇がデタラメな存在なんだよ。

 

「規格外過ぎるだろ・・・・」

 

「それは君が言えることではないだろう、兵藤一誠。ただの人間から転生したにすぎない君は俺に匹敵する力を有している。考えようによっては君の方が規格外だ」

 

うーん。

 

こいつに言われるとなんか腹立つ。

 

『いや、実際相棒の強さは周囲からすれば、そう言われても仕方がないだろう』

 

同意してんじゃねぇよ、ドライグ。

 

 

 

「さあ、覚悟してもらいましょうか、アザゼル」

 

女性からとんでもないオーラが噴き出す。

 

なんだ?

 

いきなり力が上がったようだけど・・・・

 

「なるほど、オーフィスの『蛇』か。おまえら旧魔王派の連中はあいつにそれをもらったのか?」

 

「ええ。そうです、アザゼル。彼は無限の力を有するドラゴン。世界変革のため、少々力を借りました。おかげで私はあなた達、愚かな統率者を滅ぼすことができる」

 

「愚かな統率者か。まぁ、俺はそうかもな。いつもシェムハザの世話になりっぱなしの神器オタクだからな。だがよ、サーゼクスやミカエルは違うと思うぜ? 少なくともおまえらよりは遥かにマシさ」

 

「世迷い言を!」

 

アザゼルさんを睨み付ける女性。

 

すると、アザゼルさんは懐から何かを取り出した。

 

あれは・・・・短剣か?

 

「俺は神器マニアすぎてな。自作神器を創ったりしちまった。まぁ、そのほとんどがガラクタ、機能しないようなゴミだ。神器を作った『聖書の神』はすごい。俺が唯一、奴を尊敬するところだ。まぁ、禁手なんて神を滅ぼす力を残して死んでいったことに関しては詰めが甘いと思うが、それがあるから神器は面白い」

 

「安心なさい。新世界では神器なんてものは残さない。そんなものがなくとも世界は動きます。いずれはオーディンにも動いてもらい、世界を変動させなくてはなりません」

 

「ハッ! 横合いからオーディンに全部持ってかれるつもりかよ。まぁ、どのみちおまえはここでお仕舞いだ。俺から楽しみを奪うやつは――――消えてなくなれ」

 

アザゼルさんが短剣を逆手に構える。

 

「こいつは『堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)』。俺が作った人工神器の傑作だ。そしてこいつが―――」

 

短剣が形を変えて、そこから光が噴き出した。

 

そして、アザゼルさんは力のある言葉を発した!

 

禁手化(バランス・ブレイク)・・・・ッ!」

 

一瞬の閃光が辺りを包み込む。

 

光が止み、そこにいたのは黄金の全身鎧を身につけた者。

 

 

バッ!

 

 

背中から十二枚もの漆黒の翼を展開し、手に巨大な槍を作り出す!

 

「『堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)』の禁手(バランス・ブレイカー)―――『(ダウン・フ)(ォール・)(ドラゴン・)(アナザー)(・アーマー)』」

 

この波動はドラゴンのものか。

 

半端じゃねぇな。

 

これをあの人は作ったというのか・・・・

 

アザゼルさんの神器研究もここまでくるとオタクを通り越してるんじゃ・・・

 

 

「ハハハ! 流石だな、アザゼル!」

 

ヴァーリが笑う。

 

本当に強いやつにしか興味がないのかよ!

 

 

アザゼルさんがヴァーリの方へと顔を向ける。

 

「おまえの相手をしてやりたいところだが・・・・。今日は赤龍帝と仲良くしてな」

 

「フッ、今日は最初からそのつもりさ」

 

不敵に笑いながらヴァーリは俺を見てきやがった!

 

こんなやつとなんて仲良くしたくないわ!

 

もっとまともな奴を連れてこい!

 

それか可愛い女の子なら尚良し!

 

 

「さっ、来いよ」

 

アザゼルさんが女性に手招きをする。

 

「なめるなッ!」

 

女性が特大のオーラを纏ってアザゼルさんに突っ込む。

 

しかし―――

 

 

ブシュ!!

 

 

女性の体から鮮血が噴き出す。

 

今の一瞬の交錯の間にアザゼルさんが槍で斬ったんだ。

 

かなり傷が深い。

 

 

「ただではやられません!」

 

女性の腕が触手のように伸びてアザゼルさんの左腕に巻き付く。

 

そして、体中に怪しげな紋様が浮かび上がる!

 

「あなたを滅ぼせるのならば今ここでこの身が滅んでも意義がありましょう!!」

 

「自爆か? だが―――」

 

バシュッ!

 

光の槍で左腕を切断しやがった!

おいおい、マジか!

 

傷口からは鮮血が迸り、切り落とした左腕は消滅する。

 

「取引としては安すぎる!」

 

驚く女性の頭部をアザゼルさんが放った光の槍が貫く!

女性の体は爆破することはなく、塵と化して空へと消えた。

消滅したのは悪魔にとって光が猛毒だからだろう。

 

「ま、せいぜい左腕一本がいいところだ」

 

アザゼルさんの鎧が解除され、その手元には紫色の宝玉。

 

「まだまだ、改良の余地があるな。もう少し俺に付き合ってもらうぜ、龍王ファーブニル」

 

と、言って宝玉に軽くキスをした。

 

これが堕天使総督の実力か・・・・

 

「さて、アザゼルの方は終わったようだ。俺達も戦おうか、兵藤一誠」

 

あー、アザゼルさんの戦いが凄かったから忘れてた。

 

まぁ、こいつもあの戦いに見入っていたみたいだけど。

 

「もし、俺が断ればどうするつもりなんだ?」

 

俺がそう尋ねるとヴァーリは手を顎に当てる

 

「そうだな・・・・君の家族を殺すと言ったらどうだろう? まずはそこにいる君の妹からとか」

 

ヴァーリの言葉に体をビクッとさせる美羽。

 

・・・・・こいつ、そう言えば俺が断れないと踏んでワザと言ったな。

だが、断れば何の躊躇もなく実行に移すだろう。

 

「・・・・分かった。戦ってやるよ、ヴァーリ」

 

俺が一歩前に踏み出すと、制服の袖を掴まれた。

美羽だ。

凄く不安そうな顔をしている。

 

「大丈夫だよ、美羽」

 

「・・・・でも」

 

あらら・・・泣きそうになってるよ。

俺は美羽を抱き締める。

 

「心配すんな。俺は絶対に負けねぇよ。だから、俺を信じて待っててくれ」

 

「・・・・・」

 

「それとも俺のこと、信用できないか?」

 

「そんなことない! いつも信じてるよ!」

 

「だったら、今回も信じてくれよ。おまえの兄貴は誰にも負けないってな」

 

「・・・無茶はしないでね」

 

「ああ、分かってる」

 

俺はそう言うと美羽に背を向け、ヴァーリの方へと歩を進める。

 

「いくぜ、ヴァーリ」

 

「待っていたよ、この時を。さぁ、俺を楽しませてくれ!」

 

一瞬の静寂。

 

そして、俺は強く言葉を発した!

 

禁手化(バランス・ブレイク)ッ!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

俺から莫大な赤いオーラが発せられ、この身に赤い龍の鎧を纏う!

 

「悪いが勝たせてもらうぜ! 妹が待ってるんでな!」

 

その瞬間、赤と白は激突した。

 

 

 

 

「オラァ!!」

 

俺は右手を突きだし気弾を放つ。

 

「ふん!」

 

ヴァーリはそれを右手を横に薙いで弾き飛ばした。

今の攻撃程度ならヴァーリレベルが相手だと牽制にしかならないか。

 

ヴァーリも仕返しとばかりに無数の魔力弾を放って攻撃してくる。

一発一発が凶悪な威力を持ってる。

 

ここは避けた方が良さそうだ。

 

それにしてもなんて魔力量だ………。

 

流石は魔王の一族だけはあるか。

 

『相棒、やつの能力は覚えているな?』

 

触れたものの力を半減して、それを自らの力にするだったな。

 

『そうだ。やつに触れられれば、こちらの力は即座に半減される』

 

本当に厄介な能力だな。

かと言って、このまま砲撃戦ばかりしても埒が明かない。

 

ドライグ、突っ込むぞ!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

倍増により力が一気に上昇する!

 

俺は向かい来るヴァーリに小細工をすることなく、真正面から殴りかかる。

 

「格闘戦か! 面白い!」

 

「面白がってんじゃねぇ!」

 

始まるヴァーリと俺の壮絶な殴り合い。

俺がヴァーリの顔面を殴れば、ヴァーリは俺の腹に蹴りを入れる。

衝突するたびに互いの鎧が砕ける!

 

『Divide!』

 

ヴァーリからその音声が流れたと同時に俺の力が弱まった。

 

こいつが半減の力か!

 

『Boost!』

 

即座に倍加して、自身の力を元に戻す。

 

だけど、ヴァーリの力は俺から奪った力が加算されているからさっきよりも強くなってる。

こいつは赤龍帝の倍加能力だけで戦うのは骨が折れるな。

 

俺は錬環勁気功を発動。

 

赤龍帝の倍加に錬環勁気功による身体強化の上乗せだ。

 

「倍加による力の上昇が先程よりも上がってる・・・・? 何をした?」

 

「俺とおまえは敵だぜ? 教えるわけがねぇだろ」

 

「フッ、それもそうだな」

 

赤と白のオーラを纏って再びぶつかり合う俺とヴァーリ。

 

拳と拳、蹴りと蹴り。

時には砲撃戦による攻防。

お互いの技が衝突するたびに生まれる衝撃波が周囲に被害を及ぼしている。

 

「ハハハ! 良いぞ、兵藤一誠! まさか、ここまでとはな!」

 

こいつ、結構ダメージを受けているはずなのに笑ってやがる!

 

「随分楽しんでいるようだな!」

 

「それはそうだろう! 宿命のライバルが自分と互角の力を持っている! これほど嬉しいことはない!」

 

「そうかよ!」

 

このバトルマニアめ!

 

 

「うおおおおおお!!」

 

「ハアアアアアア!!」

 

本気の拳が互いの顔面を捉える!

俺とヴァーリの兜が壊れた!

 

ぐっ・・・・・!

今の一撃、かなり効いた!

 

正直言って俺もかなりのダメージを受けている。

 

今のところ俺とヴァーリの実力は完全に互角。

このままいけば相討ちなんてこともあり得るぞ。

 

俺とヴァーリは一度、校庭に降りて体勢を立て直す。

両者共にかなり息が荒い。

口からは血を流し、鎧も至るところが砕けている状態だ。

 

俺達は互いに息を整え構える。

 

すると―――

 

「兵藤一誠。君はまだ何かを隠しているだろう?」

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

イッセー君と白龍皇ヴァーリの戦いは激戦だった。

 

二人の実力は全くの互角。

 

 

堕天使総督アザゼルはイッセー君がヴァーリと互角であることに驚いていたけど、僕達からすればヴァーリがイッセー君と互角に戦えることに驚いていた。

 

イッセー君の力はすでに魔王クラス。

そんなイッセー君がここまで苦戦するところは僕達は初めて見た。

 

これが魔王クラスの全力の戦い。

 

ただ、拳が衝突するだけで校庭に大きなクレーターを作り、周囲に被害を及ぼす。

 

 

「ねぇ、サーゼクスちゃん。あの赤龍帝君は本当に下級悪魔なの?」

 

「セラフォルー、君の言いたいことは分かる。彼はもう魔王クラスの実力者だ」

 

サーゼクス様もセラフォルー様もこの様子だ。

 

二人の戦いは平行線を辿り、このまま相討ちになるとも考えられた。

だけど、その考えはヴァーリの驚愕の一言によって打ち砕かれた。

 

「兵藤一誠。君はまだ何かを隠しているだろう?」

 

その一言に僕達は騒然とする。

 

イッセー君が力を隠しているというのか・・・?

そんな、まさか・・・・。

今のイッセー君の力は全力ではないと言うのか?

だけど、イッセー君は息を荒くして、口からは血を流している。

とても、力を隠しているようには見えない。

 

全員の視線がイッセー君に集まる。

すると、イッセー君が口を開いた。

 

「別に隠してた訳じゃねぇんだ」

 

その言葉にこの場にいる全員が再び驚愕する。

 

「・・・・俺は悪魔に転生してから神器が不調になってな。しばらく禁手も使えないような状態だったんだ。コカビエルの時にやっと使えるようになったけどな。それで、禁手にかなりブランクができたから、ドライグに使用を控えるように言われてたんだ」

 

確かに、イッセー君は悪魔になってから神器が不調になっていた。

それは僕達だけでなく、サーゼクス様も知っていることだ。

 

「でも、使うしかないよな。・・・・・このままいけば俺たちは相討ちだ。それじゃあダメなんだ。俺は美羽に絶対に負けないって約束したからな。・・・・ドライグ、いけるな?」

 

『ああ、いつでも良いぞ相棒。ただし、無理はするなよ』

 

「分かってるさ。・・・・・いくぜ」

 

その瞬間、イッセー君から赤いオーラが発せられる!

彼を中心にして広範囲に波動が広がっていく!

 

「はあああああああああああああああッ!!!!!!」

 

イッセー君が拳を脇に構えて叫ぶ。

 

いったい、何をしようと言うんだ!?

 

 

赤い光がイッセー君を包み込み、学園の全てを赤く照らしていく。

そして、光が止みそこにいたのは―――

 

 

禁手(バランス・ブレイカ―)第二階層(ツヴァイセ・ファーゼ)――――――『天武(ゼノン)』ッ!!!」

 

 

鎧を変化―――いや、進化させたイッセー君の姿だった。

 

 



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11話 和平成立!! そして・・・・

バチッ バチチチチッ

 

 

俺の周囲にスパークが飛び交う。

 

 

「なんだ、それは―――」

 

 

流石のヴァーリもこれには驚いている。

 

 

今の俺の鎧は通常のものとは違う。

 

腕や肩、脚にブースターが増設され、体格が僅かに大きくなっている。

 

これが、今の俺の全力にして最強形態。

 

 

禁手第二階層『天武』

 

 

こいつはシリウスとの決戦で目覚めた力。

 

禁手を研ぎ澄ました先にある力だ。

 

 

「説明してる暇はない。俺がこいつを維持できる時間は限られてるからな。・・・・・一気に決めさせてもらうぞ!」

 

ドライグ、いくぜ!

 

『さぁ、見せてやろうか! 相棒の真の力を!』

 

 

『Accel Booster!!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

 

始まる一瞬の倍加。

 

籠手の宝玉にはBの文字が浮かび上がっている。

 

 

俺から発せられる莫大なオーラは学園全体を覆いつくし、学園の校舎を倒壊させる。

 

 

俺は一度深呼吸する。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「ガ、ハッ!」

 

瞬時に間合いを詰めてヴァーリの顔面に渾身のストレートを放つ。

 

今ので体勢を崩したヴァーリは上空に上がり、追撃を回避した。

 

「ぐっ・・・・なんだ、今のスピードとパワーは・・・・!」

 

「説明してる暇は無いって言ったろ!」

 

「ちぃ!」

 

突貫する俺に向けて、ヴァーリが右手を突き出す。

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide

DivideDivideDivideDivide!!』

 

俺を襲う半減の力。

 

だけど、今の俺にはそんなものは関係ない。

 

 

「力が減っていない!? 今の君には半減が効かないというのか!」

 

「いや、半減自体はされてるぜ。ただ、おまえの半減が俺の倍加に追い付いていないだけさ」

 

 

俺は突き出されたままのヴァーリの右手を掴む。

 

 

「今の俺の倍加スピードは通常の禁手の倍だ。もう、その半減の力は殆ど効果はないぞ」

 

「なっ!?」

 

驚愕するヴァーリにかまわずアッパーを放つ!

 

ヴァーリの顎を捉えた瞬間に腕のブースターがオーラを噴出して更に威力を増す!

 

「ぐあっ!」

 

ヴァーリの体が大きく仰け反る!

 

だが、こいつはこんなものじゃ倒れない!

 

ヴァーリは後退しながらも俺に魔力弾を放つ。

 

その威力は最初に放ってきたものよりも強力で、当たれば致命傷は避けられないだろう。

 

「おおおおおお!!!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

倍加した力を拳に集めて真正面から打ち砕く!

 

すると、目の前にはヴァーリが迫っていた。

 

今のは囮か!

 

「ハアアアアアア!!」

 

「ガッ!」

 

ヴァーリの蹴りが俺の頭部を直撃する!

 

痛え!

 

今ので俺の兜が割れたぞ!

 

こいつ、まだこんな力を残してたのかよ!

 

でもな、俺も負けられねぇんだよ!

 

放たれたヴァーリの脚を掴み、上空から地面に向けて思いっきり叩きつける!

 

「ぐはっ!」

 

吐瀉物を口からは吐き出すヴァーリ!

 

それでも、あいつは嬉々とした笑みを浮かべてやがる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・フフフフ、ハハハハ! これが君の真の力! 面白い! アルビオン、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使うぞ」

 

なっ!?

 

俺はヴァーリの言葉に耳を疑った。

 

覇龍を使う、だと!?

 

『待て、ヴァーリ。流石にダメージを受けすぎだ。いくらなんでも、今の状態で使うのは危険すぎる』

 

「俺はこの戦いをもっと楽しみたいんだ、アルビオン。―――『我、目覚めるは、覇の理に―――』」

 

おいおい!

 

あいつ、マジで呪文を唱え始めたぞ!

 

『自重しろ、ヴァーリッ!』

 

アルビオンが止めるってことは相当ヤバイんじゃないのか!?

 

『そうだな。あの状態で覇龍を使えば高い確率で暴走するぞ。早く止めた方が良い』

 

クソッ!

 

あんな力、この町で使わせてたまるものかよ!

 

ドライグ、一瞬で決めるぞ!!

 

『応ッ!』

 

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!』

 

倍加した力を溜める。

 

そして―――

 

 

 

『Ignition Booster!!!!』

 

 

 

全身のブースターからオーラが爆発し、一気にヴァーリとの距離を詰める!

 

音速を超えた瞬間的な動きがソニックブームを発生させて、周囲に破壊の嵐を巻き起こす!

 

「何っ!?」

 

「この町であんな力を使わせるわけにはいかねぇんだよ、ヴァーリ!!」

 

俺の持てる力の全てをこの一撃に注ぎ込む!

 

「こいつがトドメの一撃だ!」

 

腕のブースターが更に展開され、そこから莫大なオーラが噴き出し、威力を一気に底上げする!

 

こいつなら!

 

拳の勢いに負けて、ヴァーリが体育館の方に吹き飛んでいく!

 

 

ドオォォォォォォォォン

 

 

ヴァーリが突っ込んだことで体育館が崩壊して瓦礫の山と化す。

 

 

右腕が悲鳴をあげる。

 

もう、限界か・・・・。

 

天武の状態が解け、通常の禁手に戻る。

 

あと、数分もしないうちに禁手も解けるだろう。

 

瓦礫の一角が崩れ、禁手が解けたヴァーリが姿を現した。

 

全身血まみれだ。

 

銀髪も自身の血で赤く染まってる。

 

「うぐっ・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

地に肩膝をつきながら痛みに耐えている。

 

 

その時、ヴァ―リの近くに一人の男が舞い降りた。

 

三國志の武将が着ているような鎧を身に纏っている。

 

「おいおい、随分とボロボロだなヴァーリ」

 

「美猴か・・・・何をしに来たんだ?」

 

「その言い方は酷いんだぜぃ? 相方がピンチだっつーから助けに来たのによぅ。それにしても、おまえがそこまでやられる相手がいたなんて想像できなかったぜぃ」

 

「ああ。彼、赤龍帝が俺の予想を遥かに越えていてな。・・・・・今回の勝負は俺の負けだ」

 

「負けたわりには清々しい顔をしてるな」

 

「ああ。最高の戦いだったよ」

 

 

おいおい、なんか良く分からん奴が乱入してきたと思ったら、勝手に話し込み始めたぞ。

 

「誰だ、おまえは?」

 

「そいつは闘戦勝仏の末裔だよ」

 

俺の質問に答えたのはアザゼルさんだった。

 

うーん。

 

全く知らん単語が出てきたぞ。

 

何の末裔だって?

 

「分かりやすく言えば、西遊記で有名なクソ猿、孫悟空だ」

 

・・・・は?

 

ええええええええええええええ!?

 

「ま、マジで!?」

 

ウソッ!

 

超有名じゃん!

 

「なるほどな。おまえまで『禍の団』入りしていたとは世も末だ。いや、白い龍に孫悟空。お似合いでもあるかな」

 

アザゼルの言葉に美猴と呼ばれた男がケタケタと笑う。

 

「俺っちは初代と違って自由気ままに生きるんだぜぃ。よろしくな、赤龍帝」

 

なんか気軽な挨拶をくれたけど・・・・・

 

俺も挨拶をした方が良いのだろうか?

 

美猴はヴァーリに肩を貸すと棍を手元に出現させ、地面に突き立てた。

 

刹那、あいつらの足元に黒い闇が広がった。

 

そして、ずぶすぶと沈んでいく。

 

逃げるつもりか。

 

まぁ、今の俺には追いかける力も残ってないけどね。

 

「今日の戦い、楽しかった。次に会うときは君に勝つよ、兵藤一誠」

 

それだけ言い残すとヴァーリと美候は完全に姿を消した。

 

次って・・・・

 

また、戦うつもりかよ。

 

あいつのことだから次会うときは更に強くなってるんだろうな。

 

 

グラッ

 

 

おっと、俺も完全に限界だな。

 

鎧が完全に解け、その場に崩れ落ちる。

 

 

すると、誰かに体を支えられた。

 

「・・・・もう、無茶はしないでって言ったのに」

 

「・・・・ゴメンな、美羽。心配かけちまって」

 

美羽は首を横に振る。

 

「いいよ。無事でいてくれたのなら、それで十分だよ」

 

美羽はそう言うと俺をギュッと抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

それから一時間後。

 

到着した三大勢力の軍勢が戦闘後の処理を行っていた。

 

倒した魔法使いの死体を運んだり、建物の修復作業をしたり。

 

俺とヴァーリの戦闘で学園の建物の殆どが崩壊しており、それなりに時間が掛かるとのこと。

 

 

三大勢力の皆さん、すいませんでした!

 

 

ちなみに、結界の外には被害は出ていなかった。

 

三大勢力のトップ全員で結界を強化してくれていたらしい。

 

 

校庭の中央ではサーゼクスさん、セラフォルーさん、ミカエルさん、アザゼルさんが部下の人に指示を出しながら話し合っていた。

 

「彼女、カテレアの件は我々、悪魔側にあった。本当にすまない」

 

サーゼクスさんがそう言うとアザゼルさんは手を振る。

 

「俺もヴァーリが迷惑をかけた。未然に防げなかったのは俺の過失だ」

 

そう言うアザゼルさんの瞳はどこか寂しげだ。

 

ヴァーリとの間に何かあるのだろうか?

 

 

ミカエルさんがサーゼクスさんとアザゼルさんの間に入る。

 

「さて、私は一度天界に戻り、和平の件を伝えてきます。『禍の団』についての対策も講じなければなりませんしね」

 

「ミカエル殿。今回このようなことになってしまい、申し訳ない」

 

「サーゼクス、気になさらないで下さい。私としては三大勢力の和平が結ばれることに満足しているのですよ」

 

「ま、納得出来ない奴も出てくるだろうがな」

 

と、アザゼルさんが皮肉を言う。

 

「長年憎みあってきたのですから、仕方がありません。しかし、これからは少しずつ互いを認め合えば良いでしょう。・・・・問題はそれを否定する『禍の団』ですが」

 

「それについては今後連携をとって話し合うことにしよう」

 

サーゼクスさんの言葉に二人とも頷く。

 

「では、私は一度天界に戻ります。すぐに戻ってきますので、その時に正式な和平協定を結びましょう」

 

と、ミカエルさんがこの場をあとにしようとする。

 

「ちょ、ちょっと、待って下さいミカエルさん! イタタタ・・・・」

 

俺は美羽に肩を貸してもらいながらミカエルさんを追いかける。

 

アーシアに治療してもらったけど、まだ体のあちこちが痛む。

 

ヴァーリから受けたダメージもあるけど、天武の影響が大きいな。

 

「あまり無理をなさらないで下さい、兵藤一誠君。君が負った傷は大きいのですから。それで、私に何か?」

 

「ひとつだけお願いが」

 

「お願い?」

 

「アーシアとゼノヴィアが祈りを捧げてもダメージを受けないようにしてもらえませんか?」

 

これが俺の願い。

 

アーシアとゼノヴィアは悪魔になっても、神がいないと知っても毎日祈りを捧げていた。

 

もちろん悪魔だからダメージを受ける。

 

そんな二人を見ていていつも不憫に思っていたんだ。

 

「―――っ」

 

俺の願いを聞き、ミカエルさんが驚きの表情を見せる。

 

俺の傍にいたアーシアとゼノヴィアも驚いている。

 

「二人分ならなんとかできるかもしれません。二人は既に悪魔ですから教会に近付くのも苦労するでしょうが。二人に問います。今の神は不在ですがそれでも祈りを捧げますか?」

 

その問いにアーシアとゼノヴィアはかしこまって姿勢を正す。

 

「はい。主がいなくてもお祈りは捧げたいです」

 

「同じく、主への感謝とミカエルさまへの感謝を込めて」

 

「わかりました。本部に帰ったらさっそく調整しましょう」

 

ミカエルさんがニッコリと微笑んでそう言ってくれた。

 

やった!

 

言ってみるもんだな!

 

「ありがとうございます、ミカエルさん」

 

「あなたは此度の功労者です。これくらいのお願いでよければ喜んで引き受けますよ。それよりも、あなたは体をしっかり休めてください」

 

「・・・・ははは、そうします」

 

なんか、俺のことをかなり心配してくれてるな。

 

まぁ、流石に俺も疲れたから休養はとるけどね。

 

「良かったな、アーシア、ゼノヴィア。これからは遠慮することなく祈れるぞ」

 

アーシアはうるうると目元を潤ませ、俺に抱きついてくる。

 

「ありがとうございます、イッセーさん!」

 

うっ!

 

体に激痛が走る!

 

けど、俺は我慢するぜ!

 

俺は痛みに耐えながらアーシアの頭を撫でる。

 

「イッセー、ありがとう」

 

ゼノヴィアもお礼を言ってきた。

 

ほんのり頬が赤いのは照れてるのか?

 

ははは、ゼノヴィアが照れるなんて新鮮だな!

 

「ミカエルさま。例の件、よろしくお願いします」

 

木場が何やらミカエルさんにお願いしていた。

 

「ええ。あなたからいただいた聖魔剣に誓って、聖剣研究で今後犠牲者が出ないようにします。大切な信徒をこれ以上無下には出来ませんからね」

 

おお!

 

そっちもやってくれるのか!

 

「やったな! 木場! 痛っ・・・・・」

 

「ありがとう、イッセー君。それより、座っていた方がいいんじゃ・・・・」

 

平気だって!

 

美羽が支えてくれてるしな!

 

 

「さて、そろそろ俺も帰るわ。疲れた」

 

そう言って帰ろうとするアザゼルさん。

 

すると、一度だけ立ち止まり、俺の方を見た。

 

「あー、そうそう。俺は当分この町に滞在するつもりだから」

 

「へっ?」

 

今なんと?

 

「じゃあ、私も帰るね、イッセー君。また近いうちに会おうね!」

 

レイナも俺に手を振ってアザゼルさんについていく。

 

 

近いうちに・・・・?

 

 

まさかな・・・・

 

 

 

 

 

後日。

 

 

「てなわけで、今日からこのオカルト研究部の顧問になることになった」

 

「私もこの学園に入学することになりました!」

 

着崩したスーツ姿のアザゼルさんと制服姿のレイナがオカ研の部室にいた。

 

「・・・・どうして、あなた達がここに?」

 

額に手を当て、困惑している部長。

 

「なに、セラフォルーの妹に頼んだらこの役職になったのさ」

 

部員全員の視線が会長に集まる。

 

「でなければ、姉を代わりに連れてくると脅され・・・・せがまれまして・・・・」

 

会長、目が泳いでますけど!

 

つーか、今、脅されたって言いかけたよね?

 

「ようするにオカ研を売ったわけね」

 

部長が苦笑いしながら言う。

 

絶対そうだよね。

 

さっきから会長が目を合わせてくれないし!

 

「あれ? じゃあ、レイナは?」

 

「私は総督の監視よ」

 

あー、なるほど・・・・

 

この人、絶対に遊ぶだろうしな。

 

 

すると、アザゼルさんが言った。

 

「とか何とか言って、赤龍帝と会えるとかで舞い上がっていたくせに」

 

「ちょ、総督!?」

 

おお!

 

レイナが顔を真っ赤にしてアザゼルさんの襟首掴んでるよ。

 

一応、上司だろ?

 

そんなことしても良いのか?

 

 

あれ?

 

そういえば・・・・

 

「アザゼルさん、その左腕は?」

 

斬り落としたはずの左腕がなぜか生えていた。

 

「これか? これは神器研究のついでに作った万能アームさ」

 

 

アザゼルさんが袖を捲ると左腕がウィーンと機械的な音を出しながらドリルやらドライバーみたいな形に変えていった。

 

あの腕は義手ってことか。

 

 

「まぁ、そう言うことだ。こいつ共々よろしく頼むわ。リアス・グレモリー」

 

「はぁ・・・・・」

 

部長が盛大にため息をつく。

 

あ、会長が逃げた。

 

あの人、完全に丸投げしたな。

 

 

「そう嫌そうにするなよ、リアス・グレモリー。この俺がおまえらを鍛えてやろうってんだからさ」

 

「・・・・イッセーで間に合ってるわよ」

 

「だが、赤龍帝は神器については詳しく知らないだろう? 俺の研究成果を叩き込んでやるよ。そうしたら、おまえ達はもっと強くなれるぜ?」

 

まぁ、俺ができるのは身体的な修行のアドバイスくらいだしな。

 

木場の聖魔剣やギャスパーの邪眼、アーシアの癒しの力に関しては俺ではこれ以上どうにもならない。

 

以前、アーシアにしたアドバイスはドライグの意見を参考にしただけだしな。

 

そう考えたら、神器についての知識があるアザゼルさんが指導してくれるのはありがたい。

 

「いいか、今後俺のことは『アザゼル先生』と呼べよ」

 

アザゼルさんが自身を親指で指しながら言う。

 

アザゼル先生・・・・

 

なんか、微妙だな。

 

すると、アザゼルさん・・・・・アザゼル先生が思い出したように言った。

 

「あー、そうだった。忘れるところだったぜ。サーゼクスから伝言があるんだった」

 

「お兄様から?」

 

アザゼル先生が頷く。

 

「以前、赤龍帝の家に泊まった時に眷属のスキンシップの重要性を感じたんだと。『魔王サーゼクス・ルシファーの名において命ず。オカルト研究部女子部員は兵藤一誠と生活を共にすること』、だとさ」

 

は?

 

はああああああああああ!?

 

なんで!?

 

いや、男子が来るよりは遥かに良いけどさ!

 

「あらあら、よろしくお願いしますわ、イッセー君♪」

 

朱乃さんが抱きついてきたよ!

 

お、おっぱいが!

 

おっぱいが当たってるよ!

 

 

「でも、部屋足りるかな?」

 

うん。

 

美羽の言うことはもっともだ。

 

家にそんなスペースはもう無いぞ。

 

 

すると、部長がため息をついてから言った。

 

「仕方がないわね。お兄様に頼んで家を増築してもらいましょう」

 

 

は、はいいいいいいいいいいいっ!?

 

 

 

 

なんだろう、これからとんでもないことが起きそうな気がする。

 

まぁ、皆と賑やかに暮らせるなら、それも良いか。

 

 




四章完結です!

やっと出せました、イッセーの禁手第二階層!

すでに気づいている方も多いですが、元ネタはブリーチとエクストリームガンダムの格闘進化です。

現状、イッセーの最強形態です。

腕や脚のブースターは格闘進化のものを想像していただければ良いと思います。


能力としては倍加スピードの強化と格闘戦の強化が主となります。

ブースターが増設されたことにより、スピードも上がっています。

力がかなり上がりますが、その分、負担が大きいのが弱点です。

使った後は酷い筋肉痛みたいな痛みに襲われます。

まぁ、このあたりは今後のイッセーの修業で改善されていくでしょう。







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第五章 冥界合宿のヘルキャット
1話 夏休みが始まります!!


 

 

三大勢力の和平から二日ほどが経ち、夏休みとなった。

 

そんな日の早朝。

 

 

俺は違和感を感じて起床した。

 

下半身に妙な感触があったんだ。

 

さっきから何やら気持ちが良い。

 

 

なんだ?

 

タオルケットの中で動く何かは徐々に胸のところまで上がって来て―――

 

「とーちゃく♪」

 

長い黒髪の美少女、朱乃さんが現れたぁぁぁぁ!!

 

しかも、裸!

 

おっぱいやら太ももやらが俺の体に当たって、その柔らかい感触が伝わってくる!

 

朱乃さんの体は極上に柔らかい!

 

「うふふ、イッセー君は朝から元気一杯ですわね。朝からあんなに大きくなってるんですもの」

 

朱乃さんが頬をほんのり赤く染めながら言ってきた。

 

大きくなって・・・・?

 

ま、まさか・・・・!

 

 

「あ、朱乃さん、み、見たんですか・・・・?」

 

「服の上からですが・・・・」

 

 

ウソッ!?

 

直では無いとはいえ、大きくなってるところを見られてしまった!

 

最悪だ!

 

「あらあら、そんなに恥ずかしがることはありませんわ。男の子ですもの」

 

朱乃さん!

 

慰めになってませんよ!?

 

 

朱乃さんが細い指先を俺の体に這わせる。

 

「イッセー君の体って、やっぱりたくましいわ。それに男性の肌って思っていたより気持ちが良いのね。イッセー君だからかしら? イッセー君、私の体はどうかしら?」

 

「は、はい! 最高です!」

 

「うれしい。私の体、もっと楽しんでくれても良いのですよ? 隣に人がいるけど、気づかれないようにこっそりするのもいいのかしらね」

 

 

ブッ

 

 

鼻血が出てきた。

 

朱乃さん、エロ過ぎる!

 

この人、俺よりもエロいんじゃないのかと時折思えてくるよ!

 

朱乃さんが少しだけ身を起こして俺に覆い被さると、まっすぐ俺を見下ろしてきた。

 

「ねぇ、このまま私と・・・・」

 

朱乃さんの顔がどんどん近づいてくる。

 

こ、これはまさか!

 

俺のすぐ横では美羽や部長、アーシアが寝息をたてている。

 

こんな中でしちゃうんですか!?

 

俺の理性がそう叫ぶ!

 

 

だが、しかし!

 

 

それに逆らえないのは男の性か!

 

 

俺はそのまま朱乃さんを受け入れ―――

 

 

「朱乃、何をしているのかしら?」

 

 

隣から声が聞こえ、恐る恐る視線をそちらに向けてみる。

 

そこには怒りのオーラを纏った部長がいた!

 

こ、怖い!

 

リアスお姉さま、怖いっす!

 

 

そんな部長を見て朱乃さんが部長に見せつけるように俺に抱きついてくる。

 

「スキンシップですわ。私のかわいいイッセー君と素敵な朝を始めるつもりですの」

 

朱乃さんの一言に部長の機嫌が一気に悪くなる!

 

全身を震わせながら部長は言う。

 

「『私』の? あなた、いつの間にイッセーの主になったのかしら?」

 

「主でなくても先輩ですわ。後輩を可愛がるのも先輩のつとめですわ」

 

「先輩・・・・そう、そうくるわけね。・・・・ここは私にとって聖域なの。アーシアや美羽ならともかく、他の者まで入れるわけにはいかないわ! ここは私とイッセーの部屋よ」

 

俺の部屋、いつの間に部長と兼用になりましたか!?

 

初耳だよ!

 

「あらあら。リアスお嬢様は独占欲が強いですわね。・・・・私に取られるのが怖いのかしら?」

 

「・・・・・あなたとは話し合う必要があるようね」

 

部長のオーラが膨れ上がる!

 

朱乃さんも黄金のオーラを纏い始めたよ!

 

二人のオーラがぶつかりあい、バチバチと音をたてる。

 

 

おいいいいいっ!

 

朝から何してるんですか!?

 

原因は俺ですか!?

 

俺にあるんですか!?

 

 

つーか、アーシアも美羽も起きようよ!

 

よくこの状況で眠れるな!

 

起こすか!?

 

いや、二人の寝顔が可愛すぎて起こせねぇ!

 

 

ぼふっ! ぼふっ! 

 

 

音がする方へ振り向けば、二人のお姉さまが枕投げて合戦が始まっている!

 

本当に朝から何してるんですか!?

 

「だいたい、朱乃は私の大事なものに触れようとするから嫌なのよ!」

 

「ちょっとぐらい良いじゃない! リアスは本当にケチだわ!」

 

「この家だって、改築したばかりなのに、朱乃の好き勝手にはさせないんだから!」

 

「サーゼクス様だって仲良く暮らしなさいとおっしゃってたじゃない!」

 

「お兄様も朱乃も私の邪魔ばかりするんだもの! もういや!」

 

「サーゼクス様のご意向を無視する気なの!? 私にもイッセー君を貸しなさいよ!」

 

「絶対に嫌よ!」

 

 

おおう!?

 

いつものお姉さま口調が無くなって、年頃の女の子みたいなケンカになってますよ!?

 

 

うーん。

 

二人とも普段はお姉さまとして高貴な雰囲気を出してるけど、素は年頃の女の子なんだなぁ。

 

俺がそんな風にしみじみ思っていると二人の口ゲンカは更にヒートアップする。

 

 

「そんなこと言うわりには、未だにイッセー君と何もないじゃない! そんなことだから、あなたは処女なのよ! ○×△すらも出来ないくせに!」

 

「あなただって処女じゃない! 私だって×△□くらい出来るわよ!」

 

 

あー、プールの時と同じ流れだ・・・・

 

俺を取り合ってくれるのは、うれしいけど、ここまで激しいと困っちゃうぜ。

 

 

・・・・ん?

 

ちょっと待て。

 

俺は部長達の口ゲンカの内容を思い出す。

 

 

家を改築・・・・?

 

 

そういえば、ベッドがやたらと大きい・・・・。

 

今、俺を含めて5人がいるけど、まだまだ余裕がある。

 

上を見上げると天蓋まで着いてる!?

 

 

部屋もかなり広くなってる!

 

以前の三倍、いや五倍はあるぞ!?

 

テレビも最新の薄型に変わってるし、ゲーム機も最新のものに!?

 

知らねぇぇぇぇ!

 

こんな部屋知らねぇぇぇぇえ!

 

俺は急いで部屋を出た!

 

家の中が昨日とは別物だ!

 

廊下も倍くらいの幅になってる!

 

ここどこ!?

 

まるで、高級ホテルじゃないか!(テレビでしか見たことないけど)

 

 

階段を駆け下りながら、昨日のことを思い出す。

 

 

えーと、昨日はオカ研女子部員が引っ越してきたんだ。

 

それで、やっぱり家が狭いから改築するとか言ってたけど・・・・・

 

まさか、俺が寝てる間に!?

 

 

玄関を飛び出て、外から家の全容を見た。

 

「こ、これは・・・・・!」

 

 

俺の家は倍以上敷地に加えて、六階建てになっていた。

 

 

「なんじゃこりゃぁああああああああっ!?」

 

 

 

 

 

 

「いやー、悪魔の力って凄いんだな。寝てるあいだにリフォームされるとは」

 

朝食の席。

 

以前の五倍は広くなった食卓で父さんが感心しながら部屋を見渡す。

 

食卓の席には俺、俺の両親、美羽、部長、アーシア、朱乃さん、ゼノヴィア、小猫ちゃん、レイナが集合していた。

 

俺も父さんに同意する。

 

悪魔の力って凄いんだな・・・・。

 

まさか、朝からとんでもないビフォーアフターを見れるとは思わなかったよ。

 

匠もビックリだ。

 

部長が父さんに頭を下げる。

 

「お父様、お母様、部員の皆を受け入れて下さり、本当にありがとうございます」

 

「いいのよ、リアスさん。私達も家庭が賑やかになって嬉しいもの。部員の皆さんも私達のことを本当の家族だと思って接してくださいね?」

 

母さんの言葉に部員全員が頷いた。

 

 

父さんも母さんも三大勢力のことはすでに知っていて、和平が成立した時は自分のことのように喜んでいた。

 

だから、ここに堕天使のレイナがいても驚いてないんだ。

 

そういえば、ここには悪魔と堕天使がいるけど、天使も住むことになるのかな?

 

まぁ、父さんも母さんもこの性格だから受け入れるとは思うけどね。

 

 

母さんが家の図面を持ってくる。

 

「一階は客間とリビング、キッチン、和室。二階はイッセーと美羽とリアスさんにアーシアちゃんのお部屋。三階は私とお父さんの部屋と書斎、物置など。四階は朱乃さんとゼノヴィアちゃん、小猫ちゃん、レイナちゃんのお部屋ね」

 

部員全員が各部屋を持ってる訳か。

 

いったい何部屋あるんだ?

 

この部屋もシャンデリアや巨大テレビまで置いてるし。

 

母さんが部屋割りの説明を続ける。

 

「五階と六階は空き部屋ね。今のところはゲストルームや会議室にするつもりよ。悪魔の仕事とかで使うんでしょう?」

 

「はい。今後、ミーティングなどに使用する予定ですわ」

 

「その時は私もお茶を用意したりするから、遠慮なく言ってね」

 

「ありがとうございます、お母様」

 

・・・・母さん、悪魔の仕事の方にも気を使うようになったのな。

 

ここまでくると流石としか言いようがないな・・・・

 

 

この後も部屋割りの説明が続いた。

 

分かったことはこの家は地上六階、地下三階の九階建ての豪邸になっていたということ。

 

エレベーターだけでなくシアター、トレーニングルーム、屋内プール、大浴場まで備わっていた。

 

 

やっぱ、悪魔の力ってすげぇ・・・・・。

 

 

「あ、そういえば、ティアさんもここに住む予定よ」

 

「ええええええええ!?」

 

母さんの言葉に俺は本日二度目の絶叫をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「冥界に帰る?」

 

 

朝食を終えて部屋でまったりしていると部長に言われたんだ。

 

ちなみに今までの数倍にまで大きくなった俺の部屋には木場やギャスパーも来ているのでオカ研のメンバー全員が集まっている状況だ。

 

 

「ええ、そうなの。毎年、夏には冥界に帰っているのよ」

 

 

なるほど。

 

じゃあ、今年の夏休みはどうしようか。

 

今のところ何の予定も入ってないんだよなぁ。

 

「美羽は何か予定入れてるのか?」

 

「特には無いよ。宿題やって、あとはまったりするくらいかなぁ」

 

「あ、俺と同じか。松田と元浜に海に誘われてるけどどうする?」

 

「海かぁ。それもいいね」

 

 

俺と美羽がそんな会話をしていると、部長が苦笑しながら言う。

 

 

「悪いけど、イッセーにはついてきてもらうわ。というより、冥界に帰るときは眷属の皆にはついてきてもらうことになっているのよ」

 

あ、マジですか・・・・

 

まぁ、よくよく考えれば下僕が主についていくのは当然と言えば当然か。

 

と、なると松田達の誘いは断らないといけないのか・・・・。

 

後でメールしておこう。

 

 

オカ研悪魔メンバーは冥界行きか。

 

あれ?

 

じゃあ、レイナはどうするんだろう?

 

「レイナはどうするんだ? 俺達と一緒に冥界に行くのか?」

 

「私? 残念だけど、私はこの町で仕事があるから冥界へは行けないの」

 

「仕事?」

 

「えっと、私が総督の秘書的な仕事を任されていることは前に話したよね?」

 

「あー、そういえば、そんなことを言っていたような・・・」

 

あれはアザゼル先生が自分の正体を俺に明かした時だっけ?

 

あの時のレイナは印象的だったなぁ。

 

「私、それ以外にもグリゴリの外交局の副長をしているのよ。代理だけどね」

 

レイナの言葉に全員が驚く。

 

「この町は三大勢力にとって重要拠点になったでしょ? それで、私も外交官として悪魔側の人や天使側の人と話し合いをしないといけないのよ。この町のセキュリティとか他にも色々」

 

・・・・レイナちゃんは優秀な娘だった。

 

堕天使総督の秘書を任されるだけあって優秀なんだなぁ、とは思ってたんだけど、ここまでだったとは。

 

「話し合いのことは知っていたけど、堕天使側の使者がレイナだったなんて知らなかったわ・・・・」

 

「ははは・・・・。まぁ、代理なんですけどね。本来の副長は忙しすぎて倒れちゃったから・・・・」

 

レイナが苦笑いしながら答える。

 

 

おいおい・・・・。

 

もしかして、その副長って病院に行ったという人達のうちの一人なんじゃ・・・・。

 

 

「冥界かぁ」

 

美羽がそう呟いた。

 

まぁ、悪魔じゃない美羽が冥界に行くことなんて基本的にはないからな。

 

一度行ってみたいのだろう。

 

「美羽も予定がないのなら一緒に来る?」

 

「いいんですか、リアスさん?」

 

「ええ、若手悪魔の会合には参加できないけれど、冥界の観光くらいなら大丈夫でしょう」

 

ん?

 

なんか部長が気になる単語を口にしたな。

 

「部長、若手悪魔の会合って?」

 

「今回の里帰りはただの里帰りではないの。お兄様の提案で次世代の冥界を担う若い悪魔の交流会が開かれることになったのよ。私もグレモリーの次期当主として参加しなければならないのよ」

 

なるほど。

 

確かに、そんなところに悪魔じゃない美羽がいれば違和感丸出しだろうなぁ。

 

観光でも町の人から注目を浴びそうな気もするけど・・・・

 

 

それはそうと、

 

「アザゼル先生は何しに来たんですか?」

 

 

「「「えっ?」」」

 

俺の一言に全員が振り向く。

 

そこには渋い色の和服を着た堕天使の総督兼オカ研顧問のアザゼル先生がいた。

 

手に紙袋を持ってるけど、あれは何だろう?

 

「ど、どこから、入ってきたの?」

 

部長が目をパチクリさせながらアザゼル先生に訊く

 

「うん? 普通に玄関からだが?」

 

「……気配すら感じませんでした」

 

木場がそう言葉を漏らす。

 

まぁ、今の木場達じゃあアザゼル先生の気配を捉えるのは難しいだろうな。

 

「そりゃ修行不足だ。俺は普通に来ただけだからな。イッセー、今日はご両親はいないのか?」

 

「父さんは仕事で母さんは買い物に行ってますよ」

 

「・・・・そうか。それはタイミングが悪かったな。一応挨拶をしとこうと思ったんだが・・・・」

 

「挨拶?」

 

「ああ。受け持った生徒が世話になるんだ。挨拶くらいするさ。とくにここの家族には三大勢力のことで迷惑をかけるかもしれんしな」

 

 

アザゼル先生の言葉に全員が「へぇ」と感心していた。

 

この人、以外とこういうところはしっかりしてるんだな。

 

俺達のこの反応にアザゼル先生は目元をひくつかせる。

 

「・・・・おまえら、なんか失礼なことを考えてないか?」

 

俺達は苦笑いしながら首をブンブンと横に振る。

 

そんなこと考えてませんよ。

 

いや、本当。

 

「ところでその紙袋は?」

 

「おー、そうだった。良い地酒が手に入ったんでな。イッセーのご両親に渡そうかと持ってきたんだった。渡しといてもらえるか?」

 

「あ、はい」

 

俺はアザゼル先生から紙袋を受けとる。

 

二本も入ってる。

 

うーん。

 

ここまでしてくれると、逆に申し訳ないような気がするよ。

 

 

 

 

 

 

「それよりも冥界に帰るんだろう? なら、俺も行くぜ。なにせ、俺はお前らの『先生』だからな」

 

アザゼル先生はそう言うと、懐から手帳を取り出してパラパラとページを捲っていく。

 

「冥界でのスケジュールはリアスの里帰りと、現当主に眷属悪魔の紹介。例の若手悪魔達の会合、それとあっちでお前らの修業だ。俺は主に修業に付き合う訳だがな。お前らがグレモリー家にいる間、俺はサーゼクス達と会合か、ったく、面倒くさいもんだ」

 

本気で面倒くさそうだな。

 

この姿だけを見ていると部下からの信頼が厚いなんて思えないよなぁ。

 

部長がアザゼル先生に言う。

 

「ではアザゼル―――先生はあちらまで同行するのね? 行きの予約をこちらでしておいていいのかしら?」

 

「手間かけさせて悪いな、よろしく頼む。しかし、悪魔のルートで冥界入りするのは初めてだ。楽しみだぜ。いつもは堕天使側のルートだからな」

 

冥界かー。

 

以前行ったのは悪魔に転生してぶっ倒れたときだったな。

 

確かあの時は魔法陣で行ったっけ。

 

今回も魔法陣?

 

 

 

 

 

 

とりあえず、松田と元浜にメールをしておいた。

 

『俺と美羽は、海行くのはパスな! 部長達と旅行に行ってくるぜ!』

 

と送ったところ・・・・・

 

『死ね! 地獄に堕ちろ!』

 

『せめて、美羽ちゃんだけでも!』

 

 

おまえらなんぞに可愛い妹を預けてたまるか!

 

 

 

 

 



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2話 冥界へGO!!

俺達が冥界に行くことが決まってから二日後。

 

最初に向かったのは俺の家から歩いて十五分くらいのところにある駅だった。

 

ちなみに服装は駒王学園の夏服。

 

冥界に行くならこの服装が一番らしい。

 

 

それにしても、なんで駅なんだ?

 

そんな疑問を抱きながら部長に着いていくと駅のエレベーターに着いた。

 

「まずは、イッセーとアーシアとゼノヴィア、それから美羽が乗ってちょうだい。私と先に降りるわ」

 

「降りる?」

 

部長の言葉を怪訝に思う俺。

 

なぜなら、このエレベーターは上の階にしか行けないはずだからだ。

 

美羽も頭に?を浮かべているところ同じことを考えているようだ。

 

「ほら、目をパチクリさせてないで入りなさい」

 

苦笑をしながら部長が手招きしてくる。

 

まぁ、ここは部長の言うことに従おう。

 

 

「朱乃、後のメンバーについては任せたわよ」

 

「了解ですわ」

 

と、そこでエレベーターの扉が閉まる。

 

すると、部長がスカートのポケットからカードらしきものを取り出すと電子パネルに当てた。

 

ピッと電子音がなる。

 

すると―――

 

 

ガクン。

 

エレベーターが下がり始めた!

 

マジで下があったのか・・・・

 

なんか魔法使いの映画にこんなのがあったような・・・・

 

 

エレベーターが停止して扉が開いた。

 

外にあったのはだだっ広い人工的な空間だった!

 

すげぇ!

 

地下の大空洞ってやつか!

 

この町の地下にこんなのがあったなんて知らなかったぜ。

 

 

それから少しすると朱乃さんやアザゼル先生が降りてきた。

 

「全員が揃ったところで、三番ホームまで行くわよ」

 

部長の案内に従いホームまで歩いて行ったんだけど、視界に映るもの全てが新鮮で驚きだった。

 

 

 

 

 

 

 

リィィィィィィン。

 

汽笛が鳴らされ、列車は動き出す。

 

部長は列車の一番前の車両に座っていて、眷属である俺たちは中央からうしろの車両にいる。

 

そのあたりは色々と仕来たりがあるらしい。

 

まぁ、美羽はただの観光客だけどね。

 

 

車両の中はかなり広く、まるでホテルのスイートルームみたいに豪華だった。(テレビでしか見たことないけど・・・・)

 

 

走り出して数分。

 

列車は暗がりの中を進む。

 

奥の席にいるアザゼル先生はすでに夢の中だ。

 

 

「どのくらいで着くんですか?」

 

俺が朱乃さんに聞く。

 

「だいたい一時間ほどで着きますわ。この列車は次元の壁を正式な方法で通過して冥界に到着するようになってますから」

 

「へぇ。てっきり魔法陣で行くのかと思ってました」

 

「通常はそうですわね。ですが、新眷属の悪魔は正式なルートで一度入国しないと罰せられるのです。・・・・そういえば、イッセー君はもう済ませたのですよね?」

 

「はい。以前、冥界の病院に運ばれた時に済ませましたよ」

 

そう。

 

実を言うと、俺はもう手続きを済ませていたりする。

 

冥界の病院に運ばれたその帰りに部長が「ついでだから済ませておきましょう」と言ってサーゼクスさんを経由して手続きをしておいてくれたんだ。

 

「でしたら、イッセー君は魔法陣でいつでも冥界に来られますわ。もしかして、今日は魔法陣の方が良かったのかしら?」

 

「いや、俺はこういう感じの方が好きですよ。旅って感じがするじゃないですか」

 

「うふふ、そうですわね」

 

「それにしても正式なルートで一度入国しないと罰せられるってのは物騒ですね。・・・・そういえば、俺が病院に運ばれた時のはどうなんですか?」

 

「あれは緊急でしたからセーフですわ」

 

 

それはよかった。

 

まぁ、特に悪いことをしたわけじゃないのに罰せられたんじゃあ、たまったものじゃない。

 

すると、朱乃さんは頬に手を当てて、うふふと笑う。

 

「イッセー君の場合、主への性的接触で罰せられるかもしれませんわね」

 

「なぬ!?」

 

それが本当ならアウトじゃないのか!?

 

俺、部長の体を何回も触ってるぞ!

 

おっぱいや、太もも触ったし、プールではオイルも塗った!

 

向こうに着いた瞬間に逮捕とか、勘弁してくれ!

 

 

俺が焦っていると、俺の膝に朱乃さんが乗った。

 

ちょ、朱乃さん!?

 

「主に手を出すのはあれですけど、眷属同士のスキンシップなら問題はありませんわ。ほら、こんな風に―――」

 

朱乃さんが俺の手を取り、自分の太ももに誘導していくぅぅぅっ!!

 

こ、これは!

 

朱乃さんの太ももの感触が!

 

「もっと奥に・・・・」

 

そう言うと、更に奥に―――スカートの中へと誘導していく!

 

そ、そこは禁断の領域ですよ!?

 

いいんですか!?

 

 

俺の手が布らしきものに当たったその瞬間―――。

 

俺の腕はガシッと何者かに掴まれた。

 

振り向くと美羽とアーシアが俺の腕を強く掴んでいた。

 

「・・・・それ以上はダメだよ、お兄ちゃん」

 

「イッセーさんが変態さんになってしまいます・・・・」

 

イタタタ・・・・

 

二人とも握る力が強いって・・・・・

 

こんな力、いつ身に着けたの?

 

「あらあら。男性は変態なぐらいな方が健康ですわよ?」

 

あれ?

 

今の話すると俺は変態確定ですか?

 

まぁ、朱乃さんのお体を触れるならそれでもいいかな!

 

 

・・・・そういえば、小猫ちゃんの痛烈なツッコミが来ないな。

 

視線の先では窓の外を見てボーッとしている。

 

どうしたんだろうか?

 

 

すると車両の扉が開き、部長が現れる。

 

「・・・・朱乃、何をしているのかしら?」

 

俺と朱乃さんの方を見て眉をピクピクさせてる!

 

そうだった。

 

今、俺の膝の上には朱乃さんが乗ってる状態だったんだ!

 

しかも、俺の手は未だに朱乃さんのスカートの中!

 

 

これはマズい!

 

部長から紅いオーラが発せられてるよ!

 

慌てて、手を離そうとするが―――

 

 

「あらあら、私の体は嫌だったかしら・・・・」

 

 

朱乃さん!

 

そんなことを言われたら手を離せなくなるじゃないですか!

 

俺だって本当はこの先に進みたい!

 

 

俺が困惑していると、朱乃さんは俺の頭を胸に抱き寄せる。

 

俺の顔に朱乃さんのおっぱいが!

 

顔がおっぱいに埋まってるよ!

 

くぅぅ、柔らかいし、良い香りがする!

 

「ふふふ、下僕同士のスキンシップですわ」

 

「あ、朱乃、いい加減に―――」

 

朱乃さんの挑戦的な物言いに部長がキレかけた時だった。

 

 

「リアス姫。下僕とのコミュニケーションもよろしいですが、手続きをしませんと」

 

そう言いながら部長の後ろから白いあごひげを生やした初老の男性が現れた。

 

格好からするに車掌さんかな?

 

「ご、ゴメンなさい、レイナルド・・・・」

 

「ホッホッホッ。あの小さかった姫が男女の話とは。長生きはするものですな」

 

レイナルドと呼ばれた男性は楽しそうに笑う。

 

男性は帽子を取ると俺達に頭を下げてくる。

 

「はじめまして。姫の新たな眷属の皆さん。私はこのグレモリー専用列車の車掌をしているレイナルドと申します。以後、お見知りおきを」

 

「あ、こちらこそはじめまして。部長―――リアス・グレモリー様の兵士をしている兵藤一誠です。よろしくお願いします」

 

「アーシア・アルジェントです!僧侶です!よろしくお願いします!」

 

「騎士のゼノヴィアです。今後もどうぞよろしく」

 

新人悪魔全員が挨拶した。

 

朱乃さんもいつの間にか元の席に戻っていて、少々名残惜しそうだった。

 

いやー、朱乃さんのエロ攻撃は凄まじいね。

 

俺でも動けなくなるしな。

 

 

レイナルドさんの視線が美羽の方へと移る。

 

「そこのレディは・・・? 悪魔ではないようですが・・・・?」

 

「あ、私は兵藤美羽といいます。兵藤一誠の妹です。今回はリアスさんに誘われて冥界の観光に来ました。よろしくお願いします」

 

美羽は自己紹介するとペコリと頭を下げる。

 

それにレイナルドさんも「ああ」と頷いていた。

 

「あなたの話は姫から聞いております。いつも姫がお世話になっているようで。これからも姫のこと、よろしくお願いします」

 

レイナルドはそう言うと何やら特殊な機器を取りだし、モニターらしきものでアーシア達を捉える。

 

「あ、あの・・・・それは・・・・?」

 

困惑するアーシアとゼノヴィア。

 

「これはあなた方、新人悪魔を確認するための機械です。兵藤一誠様は別の手続きを既に済ませてあるようなので必要ありません」

 

あー、なるほどな。

 

それで、俺にはないのか。

 

レイナルドさんの持つ機械はアーシア達を捉えると「ピコーン」という軽快な音を鳴らした。

 

どうやらOKだったらしい。

 

アーシアとゼノヴィアのチェックが終わると今度は美羽と爆睡しているアザゼル先生に向けた。

 

「・・・・よくもまぁ、この間まで敵対していた種族の移動列車の中で眠れるものね」

 

部長が呆れながらも笑っていた。

 

まぁ、アザゼル先生ですからね・・・・

 

「ホッホッホッ。堕天使の総督殿は平和ですな」

 

レイナルドさんも愉快そうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

列車が発車してから四十分ほどが過ぎた頃。

 

 

『まもなくグレモリー領に到着します。まもなくグレモリー領に到着します』

 

 

レイナルドさんのアナウンスが車内に流れた。

 

「外を見てごらんなさい。あ、もう窓を開けてもいいわよ」

 

と、部長が言ってきたので、窓を開けて外を見てみると、外には大自然が広がっていた!

 

「うおおおお! すげぇ! 山だ! あ、向こうには町もあるぞ!」

 

俺はついつい、大声ではしゃいでいた。

 

なんか、なつかしい風景だな。

 

異世界にいた頃、旅の途中で見た風景もこんな感じだった。

 

美羽もこの景色を見て、懐かしげな表情をしている。

 

「皆、元気かな・・・・」

 

皆っていうのは魔族の友達や知り合いのことだろうな・・・・。

 

成行で仕方がなかったとは言え、俺は美羽をこっちの世界に連れてきた。

 

美羽の安全を確保するためとは言え、俺はこいつから友達も奪ってしまったことになる。

 

こっちの世界と向こうの世界では通信して無事を確かめることも出来ない。

 

不安になるのは当然か。

 

俺は美羽の頭を撫でながら皆には聞こえない声で言った。

 

 

「大丈夫、アリスが上手くやってるはずさ。アリスは魔族と人間の和平を考えていたからな」

 

 

異世界の国の王女で俺の仲間だったアリスは旅の途中で、どうにか人間と魔族の間で争いを無くせないかと考えていた。

 

たとえ、魔王を倒して人間が魔族を蹂躙したとしても、いずれは立場が逆転するかもしれない。

 

実際、過去ではずっとその繰返しだったようだからな。

 

 

でも、俺は思う。

 

こちらの世界でも争い合ってきた三大勢力が互いに手を結べたんだ。

 

向こうの世界でもそれは出来るはずだと。

 

「そう、だよね・・・・」

 

美羽はそう言うと軽く微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

それから十数分後、再び車内にアナウンスが流れた。

 

『まもなくグレモリー本邸前。まもなくグレモリー本邸前。皆様、ご乗車ありがとうございました』

 

「さぁ、もうすぐ着くわよ。皆、降りる準備をしておきなさい」

 

部長に促され、俺達は降りる準備をしだす。

 

しだいに列車の速度は緩やかになり、駅に停止した。

 

そして、部長先導のもと、俺達は開いたドアから降車していく。

 

けど、アザゼル先生だけは乗ったままだった。

 

「先生は降りないんですか?」

 

「ああ。俺はこのまま、魔王領に向かう。サーゼクス達と会談があるからな。終わったらグレモリーの本邸に行くから、先に行って挨拶を済ませてこい。修業はそれからだ」

 

アザゼル先生も何だかんだで忙しいんだな。

 

まぁ、総督だもんな。

 

アザゼル先生の言葉で思い出したけど、修業があるんだった。

 

グレモリー領の風景がすごくて、完全に忘れてたよ。

 

・・・・俺の修業ってどんなやつになるのかな?

 

「じゃあ、また後で」

 

「アザゼル、お兄様によろしく言っておいて」

 

俺と部長が手を振ると先生も手を振って応えてくれた。

 

改めて先生を抜かしたメンバーで駅のホームに降りた瞬間―――

 

 

 

 

『お帰りなさいませ、リアスお嬢様!』

 

 

 

おおっ!

 

部長が汽車を降りた瞬間にこのお出迎え!

 

あちこちで花火が上がり、並んだ兵隊達が空に銃を放ってる!

 

しかも、楽隊らしき人達が一斉に音楽を奏で始める!

 

流石はお姫様か!

 

異世界の城でもここまで豪華じゃなかったぞ!

 

 

「ありがとう、みんな。帰ってきたわ」

 

部長が満面の笑みでそう言うと執事やメイドさんたちも笑みを浮かべる。

 

そこに一人のメイドさんが一歩出てきた。

 

銀髪のメイドさん、グレイフィアさんだ。

 

 

「お帰りなさいませ、リアスお嬢さま。道中、無事で何よりです」

 

「ただいま、グレイフィア。元気そうで何よりだわ」

 

「馬車をご用意したのでお乗りください。グレモリー家の本邸までこれで移動します」

 

グレイフィアさんに誘導され、馬車のもとへ。

 

だけど、そこにいた馬は普通の馬ではなかった。

 

俺が知っているものよりも巨大で目もギラギラしている。

 

これに乗るのな・・・・

 

「私はイッセー、アーシア、ゼノヴィア、美羽と乗るわ。この三人は不馴れでしょうから」

 

「わかりました。何台か用意しましたので、ご自由にお乗りください」

 

俺達が乗り込むと馬車は動き出した。

 

道が舗装されているためか、乗り心地は思っていたよりも良い。

 

流れる景色を見ていると、俺の視界に巨大な建造物が映った。

 

「部長、あのお城は?」

 

「あれが本邸よ。今から向かう場所よ」

 

へぇ、あれが部長の実家か。

 

綺麗な建物だな。

 

周りにはお花畑や見事な造形の噴水がある。

 

「着いたわ」

 

部長がそう言うと馬車の扉が開かれる。

 

部長が先に降りてその後に俺達も続く。

 

木場達が乗った馬車も到着して、全員が揃った。

 

 

道の両脇にはびっしりとグレモリー家の使用人が整列していて、足元にはレッドカーペットが敷かれていてる。

 

「皆様、どうぞ、お入りください」

 

グレイフィアさんに促され、俺達がカーペットの上を歩き、屋敷に入った時だった。

 

小さな人影が現れ、部長のほうへと駆け込んでいく。

 

「リアスお姉さま! おかえりなさい!」

 

紅髪のかわいらしい少年が部長に抱きついていた。

 

「ミリキャス! ただいま。大きくなったわね」

 

部長もその少年を抱き締めていた。

 

「部長さん、その子は?」

 

アーシアが聞くと、部長はその少年を紹介してくれた。

 

「この子はミリキャス・グレモリー。お兄さま、サーゼクス・ルシファー様の子供なの」

 

へぇ、サーゼクスさんの息子さんか!

 

ということは部長の甥にあたるってことか。

 

「ほら、ミリキャス。あいさつをして」

 

「はい。ミリキャス・グレモリーです。よろしくお願いします」

 

グレモリー?

 

あ、そうか。

 

今の魔王制度は襲名制度だったな。

 

だから、グレモリーを名乗ってるわけか。

 

「俺は兵藤一誠。リアス様の兵士をやってる。よろしくなミリキャス」

 

俺が自己紹介をすると、ミリキャスは驚きながらも目をキラキラとさせる。

 

どうしたんだろう?

 

俺が訝しげに思っていると、ミリキャスは興奮した様子で話始めた。

 

「あなたが兵藤一誠さんなんですね! ファンです! 握手してください!」

 

ファン?

 

はて? なんのことだ?

 

俺、ファンが出来るようなことなんてした記憶はないんだけど・・・・

 

断る理由もないから、とりあえず握手したら「やったー」と言って喜ぶミリキャス。

 

うーん。わからん。

 

理由を聞きたいところだが、部長がミリキャスを連れて先に行ってしまった。

 

仕方がない、後で聞いてみようか。

 

 

部長の後に続いて階段を上がる。

 

すると、階段を上りきったところに一人の女性がいた。

 

おお!

 

すっごい美少女!

 

おっぱいも大きいぞ!

 

部長とすごく似てるな。

 

違う点と言えば亜麻色の髪と、部長より少し目つきが鋭いところくらいか。

 

もしかして部長のお姉さんかな?

 

「イッセー。私のお母様に熱い視線を送っても何も出ないわよ?」

 

・・・・・へ?

 

え、え~と。今、お母様って言った?

 

あの美少女が?

 

「ええええええ!? お、お母様ぁぁぁぁあああ!? どう見ても部長と同い年くらいの美少女じゃないですか!」

 

気の流れも若者と同じそれだぞ!?

 

ウソだろ!?

 

どう見てもお姉さんじゃんか!

 

「あら、美少女だなんて、うれしいことをおっしゃいますわ」

 

部長のお母様(未だに信じられねぇ)は頬に手をやり微笑む。

 

うん。微笑んだ顔も可愛いぞ!

 

「悪魔は魔力で見た目を自由に出来るのよ。お母様はいつも今の私ぐらいの年格好なお姿で過ごされてるの」

 

見た目については今の説明で分かったけど・・・・。

 

なんで、感じられる気の流れも若いんだ・・・・?

 

「はじめまして。リアスの新しい眷属の皆さん。リアスの母のヴェネラナ・グレモリーです」

 

部長のお母さん、ヴェネラナさんは自己紹介をしてくれた。

 

すると、俺の顔をまじまじと眺めてきた。

 

「あなたが兵藤一誠君ね?」

 

「あ、はい。俺のことをご存じなんですか?」

 

俺の問いにヴェネラナさんは頷く。

 

「ええ、ライザーとのレーティングゲームを拝見しましたし、それに今のあなたは冥界でも有名人ですから」

 

「有名人?」

 

俺が尋ねるとヴェネラナさんは近くにいた執事さんに何かを持ってこさせた。

 

あれは新聞かな?

 

ヴェネラナさんは新聞を広げて見せてくれた。

 

「ほら、この記事にあなたのことが書かれているのよ『三大勢力トップ会談、和平の立役者はリアス・グレモリーの兵士、兵藤一誠!』って。あのコカビエルを倒し、歴代最強と称される白龍皇を倒してテロを防いだあなたの武勇は今や冥界全体に広まっていますわ」

 

デカデカと新聞の一面を飾る鎧姿の俺の写真。

 

俺は驚きのあまり、ヴェネラナさんから新聞を奪い取ってしまう。

 

 

そして―――

 

 

 

 

 

 

「なああああああああああっ!?!?」

 

俺の絶叫がグレモリー本邸に響いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3話 若手悪魔の会合です!!

今回は少々長くなってしまいました。


夕食の席。

 

「遠慮なく楽しんでくれたまえ」

 

部長のお父さん――――ジオティクスさんの一言で会食は始まった。

 

デカい横長のテーブル。

 

天井には豪華なシャンデリア。

 

座っている椅子も高価そうだ。

 

 

ちなみにだけど、俺達が案内された部屋もデカかった。

 

風呂、トイレ、冷蔵庫、テレビ、キッチンと生活必需品が全て揃っていた。

 

美羽の希望で兄妹同じ部屋にしてもらったんだけど、スペースはまだまだ余ってる。

 

なんと言うか・・・・家の中に家がある感じかな?

 

案内された部屋、絶対改築される前の俺の家と同じくらいのスペースがあるって。

 

 

うん。とりあえず話を夕食の席に戻そう。

 

俺の目の前にはこれまた豪華な料理がずらりと並んでいる。

 

上手くナイフとフォークを使って料理を口に運ぶ。

 

ウマい!

 

めちゃくちゃウマい!

 

 

あー、ここでも異世界を思い出すなぁ。

 

城でもこんな感じだったっけ?

 

アリスにテーブルマナーを仕込まれたけど、まさかこっちの世界でも役に立つとは。

 

これはアリスに感謝しないとな。

 

 

俺の隣に座る美羽も優雅に食べている。

 

流石は魔王の娘で魔族の姫。

 

その辺りも仕込まれてたか。

 

 

「うむ。リアスの眷属諸君、ここを我が家だと思ってくれると良い。もちろん、美羽さんもだ。冥界に来たばかりで勝手が分からないだろう。欲しいものがあったら、遠慮なく言ってくれたまえ」

 

朗らかに言うジオティクスさん。

 

これ以上欲しいものなんてないかな。

 

 

いや、待てよ・・・頼んだらメイドのお姉さんもくれるのかな!?

 

夜伽の相手が欲しいです!

 

「お兄ちゃん、顔がニヤけてるよ」

 

おっと、美羽に注意されてしまったぜ。

 

まぁ、美羽と同じ部屋だからどの道、夜伽は無理だけどね。

 

「ところで兵藤一誠君」

 

ジオティクスさんが俺に顔を向ける。

 

「あ、はい」

 

「ご両親はお変わりないかな?」

 

「いやー、二人とも元気ですよ。冥界に行くって言ったら、二人とも行きたがっていましたからね。残念ながら仕事の都合で来ることは出来ませんでしたけど・・・・」

 

「そうか。それなら、ご両親の都合の良い日にいつでも気軽に来るように言っておいてくれないかな? 歓迎するよ。君の父上殿には連絡先も渡しているからね。連絡さえしてくれれば、迎えの者をよこそう」

 

 

それは初耳だぞ!?

 

父さん、連絡先もらってたの!?

 

もしかして、ジオティクスさんとサーゼクスさんが家に来たときか!?

 

 

あ、今の話で思い出した。

 

そういえば渡すものがあるんだった。

 

「えっと、これ、父さんが持たせてくれたお土産なんですけど・・・・」

 

俺はテーブルの下から紙袋を取り出す。

 

「ほう、それは?」

 

「この間、父さんが仕事で京都に行ってまして、その時に買ってきた漬物です」

 

 

父さん・・・・

 

貴族相手に漬物って・・・・

 

 

 

「おお! それは素晴らしい!」

 

ジオティクスさん、テンション上がってる!?

 

「よし、明日の朝食は和食にしよう。頼めるかな?」

 

「かしこまりました、旦那様」

 

執事さんが引き受けた!

 

明日の朝食決定ですか!?

 

この人、そんなに漬物好きなの!?

 

意外すぎる!

 

つーか、ヴェネラナさんも喜んでる!?

 

 

そういえば、部長も家では漬物を好んで食べていたな。

 

まさか、グレモリー家の人は漬物好き・・・・?

 

 

「そうそう。兵藤一誠君、私もイッセー君と呼んでもいいかね?」

 

「ええ、もちろんです。皆からはそう呼ばれてるんで」

 

実際、サーゼクスさん達にもそう呼ばれてるしな。

 

俺がそう答えるとジオティクスさんとヴェネラナさんは凄く喜んでいた。

 

「では、イッセー君。君が冥界で話題となっているのは知っているかな?」

 

「え、ええ、まぁ・・・・」

 

 

そう、なぜか俺は冥界で有名人となっていた。

 

新聞だけでなく、冥界のテレビ番組でも三大勢力の和平と共に俺のことについて語られていたんだ。

 

俺とヴァーリが戦っている映像が流され、テロを防ぎ和平を無事に成立させた立役者としてニュースキャスターの人が紹介していたんだけど・・・・・。

 

 

正直言って、超恥ずかしい!!

 

だって皆、俺のこと過大評価し過ぎだろう!

 

確かにコカビエルを倒したし、ヴァーリも倒した。

 

でも、ここまでお祭り騒ぎしなくてもいいと思うんだ・・・・

 

 

この原因は分かってる。

 

テレビに出演していたサーゼクスさんとセラフォルーさんだ。

 

あの二人が会談に出席した代表者として、語っていたんだけど、その時に俺のことをベタ誉めしていたらしい。

 

それがテレビや新聞で大きく取り上げられて、今に至るという・・・・。

 

 

どうしよう・・・。

 

冥界に来て早々、町を歩けなくなったぞ・・・・。

 

美羽と一緒に冥界観光しようって言ってたのに・・・・。

 

 

 

とりあえず、苦笑いしながら俺は答える。

 

「まさか、俺のことがこんなに取り上げられるとは思いませんでしたよ・・・・」

 

「いやいや、これは当然の結果だと私は思う。実際、君の活躍はかなりのものだ」

 

ジオティクスさんの言葉に全員がうんうんと頷く。

 

うーん、そんなもんなのかな?

 

今までに色々あったから、どの程度がスゴいのかよく分からないけど・・・・。

 

と言うより、俺は俺が出来ることをやっただけというか何というか・・・・・。

 

「イッセー君、これからもリアスのこと、よろしく頼む」

 

「もちろんですよ。リアス様のことは俺が全力で守りますよ」

 

俺がそう答えるとジオティクスさんとヴェネラナさんは満足気な笑みを浮かべた。

 

 

ただ、なぜか部長が顔を真っ赤にしていた・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

部長の実家に到着した次の日。

 

 

「つまり、上級悪魔にとって社交界とは―――」

 

俺は朝から悪魔社会、特に貴族が何たるかについて勉強させられていた。

 

部長のご両親が用意してくれた勉強の場なんだけど・・・・

 

なぜに俺だけ?

 

 

まぁ、冥界について知らないことだらけだからいい機会なんだけどね。

 

教育係の人も俺の質問に快く答えてくれるし。

 

とにかく俺は遅れないように、ひたすらノートにペンを走らせている。

 

うぅ・・・・勉強は苦手だぜ!

 

 

隣の席にはミリキャスもいて、一緒に勉強している。

 

小さいのに真面目に授業を受けてるな。

 

うーん、俺がこのくらいの時は勉強よりもサッカーしたり、ドッチボールしたりして、友達と遊んでばっかりだったような・・・・

 

 

他のメンバーはグレモリー領の観光に行ってる。

 

くそぅ! 羨ましいぞ!

 

俺だって行きたかったよ!

 

「若様、悪魔の文字はご存じでしょうか?」

 

「まぁ、少しなら。リアス様が教えてくれたので」

 

「なるほど。では、現状を確認しながら学んでいきましょう」

 

「・・・・あの、その前に一つ質問が」

 

「なんでしょう?」

 

「その『若様』ってのはいったい・・・・・?」

 

そう。

 

昨夜からグレモリーのメイドさんや執事さん、それにこの教育係の人まで俺のことを『若様』って呼ぶんだ。

 

「・・・・さあ、さっそく書き取りの練習をしてみましょう」

 

あ、はぐらかされた。

 

気になる。

 

なぜ、俺が若様なのか!

 

悪魔社会の勉強なら同じ新人悪魔のアーシアとゼノヴィアも受ける必要があるんじゃ・・・・?

 

 

ガチャ。

 

ドアが開き、入ってきたのはヴェネラナさんだった。

 

「おばあさま!」

 

あー、ミリキャスにとっては祖母に当たるのか。

 

俺にはどう見ても部長のお姉さんにしか見えん。

 

「二人とも勉強ははかどっているかしら?」

 

やさしい笑みを浮かべながらそう聞いてくる。

 

そして、ノートに書かれた俺の拙い悪魔文字を見、微笑んだ。

 

「サーゼクス達の報告通りね。確かに文字は上手とは言えませんが、一生懸命に覚えようとする姿勢が見てとれます」

 

そう言うと、ヴェネラナさんはお茶を入れてくれた。

 

あ、美味しいなこのお茶。

 

「もうすぐリアス様が帰ってきます。今日は若手悪魔の交流会の日ですから」

 

そういえば、今日だったな。

 

部長と同世代の若手悪魔が一堂に会するらしい。

 

全員が名門、旧家といった由緒ある貴族の跡取りがお偉いさんのもとに集まって挨拶をすると聞いている。

 

部長だけでなく、眷属の俺達も参加しなければならない。

 

勉強に会合、それから修業か。

 

はぁ、冥界に来てから色々忙しいな・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

部長達が観光から帰ってきてから直ぐに俺達は列車で魔王領へと移動した。(美羽はグレモリー本邸でお留守番だ)

 

列車に揺られること三時間。

 

到着したのは近代的な都市部だった。

 

人間界のものとは多少デザインが違うけど、建物も最先端の様相を見せていた。

 

ちなみに、俺が一番最初に気になったのは駅の前にあったゲームセンターとファーストフード店。

 

 

・・・・サーゼクスさん、本当に作ったんですね。

 

「ここは魔王領の都市ルシファード。旧魔王ルシファー様がおられたと言われる冥界の旧首都なんだ」

 

と、木場が説明してくれる。

 

旧魔王ルシファーってことはヴァーリの家族がここにいたってことか・・・・

 

「表から行くと騒ぎになるから、地下鉄に乗り換えるよ」

 

木場がそう言う。

 

へぇ、地下鉄もあるのか。

 

人間界と変わらないんだな。

 

 

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁああ!!!リアス姫様ぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

うおっ!?

 

突然の黄色い歓声に俺は驚いた。

 

歓声が聞こえた方を見るとホームにはたくさんの悪魔の人達。

 

なんかアイドルがファンに浴びせられる声援みたいだな。

 

「リアスは魔王の妹。しかも容姿端麗ですから、下級、中級悪魔から憧れの的なのです」

 

朱乃さんが説明してくれた。

 

やっぱり、部長はどこでも人気者なんだな。

 

学園でもお姉様として人気があるしな。

 

 

すると、さらに声が聞こえてくる。

 

 

 

「確か、リアス様の眷属に赤い龍を宿した人がいたわよね?」

 

「あ、それ知ってる! テレビで見たわ! どの人かな?」

 

「名前は・・・ヒョウドウ、イッセイ・・・・だったような・・・」

 

 

 

 

おお!?

 

それ、俺のことじゃん!

 

まさかのここで俺の話題がでますか!

 

俺って本当に有名みたいだな・・・・

 

 

部長が付き添いの黒服男性の一人に聞く。

 

「困ったわね。急いで地下に行きましょう。専用の電車も用意してあるのよね?」

 

「はい、ついて来てください」

 

この人達はどうやら俺達のボディーガードらしい。

 

 

『(相棒にそんなものは必要ないと思うがな)』

 

でもよ、部長はグレモリー家の姫様なんだぜ?

 

そういう人をつける必要があるのだろう。

 

見たところ、それなりの実力はあるみたいだし。

 

 

こうして、俺達はボディーガードさんの後に続いて、地下鉄の列車へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

地下鉄に乗り換えてから数分後、俺達は都市で一番大きい建物の地下にあるホールに到着した。

 

ボディーガードの人達は中には入れないらしく、エレベーター前で別れることになった。

 

「皆、何が起こっても平常心を保ってちょうだい。これから会うのは将来の私達のライバルよ。無様な姿は見せられないわ」

 

気合いの入った部長。

 

声音も臨戦態勢の時のそれだ。

 

 

ふと隣を見るとアーシアが生唾を飲んで落ち着こうとしていた。

 

緊張しているのかな?

 

「アーシア、大丈夫か?」

 

「き、緊張はしていますが、だ、大丈夫です!」

 

 

・・・・ガチガチだな。

 

ここは手を握ってやるべきなのだろうか。

 

 

すると、エレベーターが停まり、扉が開く。

 

出ると、そこは広いホールだった。

 

エレベーターの前には使用人らしき人がいて、俺達に会釈してきた。

 

「ようこそ、グレモリー様。こちらへどうぞ」

 

使用人の後に続く俺達。

 

すると、通路の先の一角に複数の人影が見える。

 

「サイラオーグ!」

 

部長がその内の一人に声をかけた。

 

知り合いなのかな?

 

あちらも部長を確認すると近づいてくる。

 

 

俺達と歳もそう変わらないか。

 

黒髪の短髪で野性的なイケメンだ。

 

瞳は珍しい紫色。

 

そして、その体はプロレスラーのような良い体格をしている。

 

それにこの濃密なオーラ。

 

・・・もしかしたら、俺と似たような戦闘スタイルかもしれないな。

 

 

「久しぶりだな、リアス」

 

男性は部長とにこやかに握手を交わす。

 

「ええ、サイラオーグ。変わりないようで何よりよ。初めての者もいるわね。彼はサイラオーグ・バアル。私の母方の従兄弟に当たるの」

 

へぇ、従兄弟なのか。

 

そういえば、何となくだけどサーゼクスさんに似ているような。

 

「サイラオーグ・バアルだ。バアル家の次期当主だ」

 

バアルってことは魔王の次に偉い『大王』だ。

 

ということはヴェネラナさんはバアル家の出身だったのか。

 

 

サイラオーグさんの視線が俺に移ったので自己紹介をする。

 

「はじめまして。リアス様の兵士をしている、兵藤一誠です」

 

俺が名乗るとサイラオーグさんの後ろにいる眷属らしき人が驚いていた。

 

サイラオーグさんはどこか納得のいったという表情をしているけど・・・・

 

「なるほど、やはりおまえがそうだったか。その鍛え上げられた体、その身に纏うオーラが別格だったからな。直ぐに気づいたぞ。おまえの武勇は聞いている。かのコカビエルを倒し、会談の場では歴代最強と称される今代の白龍皇を倒したそうだな」

 

「ええ、まぁ」

 

なんか、あっちこっちで噂されてるな・・・・

 

そんな大したことはしてないんだけど・・・・・

 

 

すると、部長がサイラオーグさんに尋ねた。

 

「それで、サイラオーグはこんな通路で何をしていたの?」

 

「ああ・・・・くだらんから出てきただけだ」

 

「・・・・・くだらない? 他のメンバーも来ているの?」

 

「アガレスとアスタロトもすでに来ている。あげく、ゼファードルだ」

 

サイラオーグさんがそう答えると部長も「ああ」とどこか納得しているようだった。

 

何かあったのか?

 

 

すると―――

 

ドオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

 

通路の奥から巨大な破砕音が聞こえてきた!

 

おいおい、この感じってまさか!

 

 

部長とサイラオーグさんが嘆息しながら破砕音が聞こえた部屋に入り、俺達もそれに続く。

 

部屋の中はボロボロで、テーブルも椅子も全てが破壊つくされている。

 

部屋の中央には会場をそうしたと思われる人物が二人。

 

それに二人の後ろにはそれぞれの陣営に別れた悪魔達が強いオーラを発しながらにらみ合いをしていた。

 

武器も取り出していて、一触即発の様相だ。

 

「ゼファードル、こんなところで戦いを始めても仕方なくては? あなたは馬鹿なのかしら? いっそのことこの場で殺してやろうかしら?」

 

「ハッ! 言ってろよ、クソアマッ! こっちが気を利かして別室で女にしてやろうとしてんのによ! アガレスのお姉さんはガードが堅くて仕方ねえな! そんなんだから未だに処女やってんだろう!? だからこそ俺が開通式をしてやろうって言ってんのによ!」

 

メガネをかけた美少女と顔に魔術的なタトゥーを入れたヤンキーみたいな男性が言い争っている。

 

・・・・悪魔にもヤンキーっていたのか。

 

 

部屋の端には優雅にお茶をしている少年悪魔とその後ろには眷属悪魔。

 

一見優しそうな雰囲気だけど・・・・

 

・・・なんだ?

 

さっきからアーシアを見てる・・・・?

 

不気味なやつだな。

 

俺はそいつの視界にアーシアが入らないよう、二人の間に立つ。

 

すると、そいつは一瞬、俺を睨んできた。

 

・・・・一応、警戒しておくか。

 

 

 

「ここは若手悪魔が軽く挨拶をする場だったんだが・・・血気盛んな若手悪魔を一緒にしたとたんこの様だ」

 

サイラオーグさんが俺の隣に立ち、そう言ってきた。

 

さて、どうするかな。

 

どのみち、あの二人のケンカは止めないといけないだろうし・・・・

 

俺がいくか。

 

俺が仲裁に入ろうと一歩前に出るとサイラオーグさんに肩を掴まれた。

 

「ここは俺がいこう。ここで間に入るのも大王家次期当主の仕事だ」

 

そう言うとあの睨み合う二人の元へと歩を進める。

 

「アガレス家の姫シーグヴァイラ、グラシャラボラス家の問題児ゼファードル。これ以上やるなら、俺が相手をする。これは最後通告だ」

 

サイラオーグさんからピリピリと物凄いプレッシャーが放たれる!

 

おいおい、本当に部長と同世代か!?

 

 

「誰が問題児だ! バアル家の無能が!」

 

ヤンキーがサイラオーグさんに殴りかかろうと―――

 

ドゴンッ!

 

激しい打撃音と共にヤンキーは広間の壁に叩きつけられた。

 

 

まぁ、当然の結果か・・・・

 

よく殴りかかったな、あのヤンキー。

 

「言ったはずだ。最後通告だと」

 

「おのれ!」

 

「バアル家め!」

 

迫力のあるサイラオーグさんの言葉にヤンキーの眷属悪魔が飛び出しそうになる。

 

「これから大事な行事が始まるんだ。まずは主を回復させろ」

 

『ッ!』

 

その一言にヤンキーの眷属たちは動きを止めて、倒れる主の元へと駆け寄っていった。

 

 

 

「イッセーの目には彼のこと、どう映ったのかしら?」

 

部長が聞いてきた。

 

彼というのはサイラオーグさんのことだ。

 

俺は正直に答える。

 

「いやー、かなり強いと思いますよ。・・・・・部長、とんでもない人がライバルになりましたね」

 

俺の言葉に部長は苦笑するだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

現在、会長達も到着し、ヤンキーを抜いた若手悪魔が修復された広間で顔合わせをしている。

 

「私はシーグヴァイラ・アガレス。大公アガレス家の次期当主です。先程はお見苦しいところをお見せして申し訳ありません」

 

と、先程のメガネのお姉さん、シーグヴァイラさんがあいさつをくれた。

 

この人が大公の次期当主なのか。

 

確か、大公って魔王の代わりに俺達に命を下すのが仕事だったな。

 

まぁ、今はそれ以外の仕事もしているようだけど。

 

 

「ごきげんよう。私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主です」

 

「私はソーナ・シトリー。シトリー家の次期当主です」

 

「俺はサイラオーグ・バアル。大王、バアル家の次期当主だ」

 

「僕はディオドラ・アスタロト。アスタロト家の次期当主です。皆さん、よろしく」

 

シーグヴァイラさんに続き、主達があいさつをしていく。

 

ちなみに俺達、眷属悪魔は主の後ろで待機している感じだ。

 

えっと、さっきのヤンキーも次期当主なんだよな?

 

あんなのが次期当主で良いのか?

 

「グラシャラボラス家は先日、お家騒動があってな。次期当主とされていた者が不慮の事故で亡くなったそうだ。先程のゼファードルは新たな次期当主候補となる」

 

サイラオーグさんが説明してくれた。

 

マジか。

 

グラシャラボラス家は今、大変なことになっているんだな。

 

でも、流石にあれは酷いんじゃないのか?

 

こう思っているのは俺だけではない・・・・はず。

 

 

それにしても、すごい面子が揃ったな。

 

グレモリーがルシファー、シトリーがレヴィアタン、アスタロトがベルゼブブ、グラシャラボラスがアスモデウス、そして大王と大公。

 

ドリームメンバーって感じだな。

 

 

「兵藤。おまえ、緊張してないのか?」

 

匙が聞いてきた。

 

「いや、全く。それよりも俺は朝から悪魔の勉強してたから少し眠いくらいだ」

 

「おいおい・・・・それは流石にマズいんじゃないか? あくびとか絶対にするなよ?」

 

「分かってる。だから今、必死に自分と戦っているんだ」

 

「・・・・負けるなよ」

 

うん。

 

俺、頑張る。

 

俺はやれば出来る子だからな!

 

 

扉が開かれ、使用人が入ってきた。

 

「皆様、大変長らくお待ちいただきました。皆様がお待ちです」

 

どうやら行事の準備が整ったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちが案内されたところは異様な雰囲気の会場だった。

 

俺達眷属悪魔は主を先頭にして一列に並んでいる状態だ。

 

俺たちが立っている斜め上の方に席がいくつも並んでおり、そこには上級悪魔と思われる初老の男性が数人座っている。

 

さらにその上、一番上の席にはサーゼクスさん、セラフォルーさん、アジュカさん、それからもう一人、魔王らしき人が座っている。

 

たぶんあの人が魔王アスモデウスだ。

 

アクビしてるよ、あの人・・・・

 

うーん、こうして改めて見てみると今の四大魔王様は全員かなり若いよな。

 

少し歳上のお兄さんとお姉さんにしか見えない。

 

 

 

お偉いさんの一人が威圧的な声音で話し始めた。

 

「よくぞ集まってくれた、次世代を若き悪魔たちよ。この場を設けたのは一度、この顔合わせで互いの存在の確認、更には将来を競う者の存在を認知するためだ」

 

「まぁ、早速やってくれたようだがな」

 

老人風の悪魔がそう言った後、その隣の年老いた悪魔が皮肉を言う。

 

まぁ、これは言われても仕方がないね。

 

顔合わせした直後に広間を破壊とか、流石にあれは・・・・。

 

 

サーゼクスさんが口を開く。

 

「君たちは家柄も実力も共に申し分ない。だからこそ、デビュー前に互いに競い合い、力を高めてもらいたいと考えている」

 

するとその時、サイラオーグさんが挙手をした。

 

「我々、若手悪魔もいずれは禍の団との戦に投入されるのでしょうか?」

 

これまた直球な質問だな。

 

すごいことを聞くもんだ。

 

「私達としては、できるだけ君たちを戦に巻き込みたくはないと思っている」

 

サーゼクスさんはそう答える。

 

だけど、サイラオーグさんはその答えに納得がいかないようだ。

 

「なぜです? この場にはテロ組織と戦い、生きて帰った者達もいます。我らとて悪魔の一端を担うもの。冥界のため、尽力を尽くしたいと―――」

 

「サイラオーグ。君のその勇気は認めよう。しかし、無謀だ。なにより、君達ほどの有望な若手を失うのは冥界にとって大きな損失となるだろう。理解してほしい。君達は我々にとって宝なのだ。だからこそ、じっくりと段階を踏んで成長してほしいと思っている」

 

この言葉にサイラオーグさんは「分かりました」と渋々ながら一応の納得はしたようだ。

 

 

 

 

 

 

その後、お偉いさん達の難しい話や魔王様からの今後のゲームについての話が続いた。

 

正直、悪魔歴の浅い俺にとってはちんぷんかんぷんな話ばかりだった。

 

特にお偉いさんの話はよく分からないことばかりで、何度アクビが出そうなのを堪えたことか。

 

「さて、長話に付き合わせてしまって申し訳なかった。なに、それだけ君達に夢を見ているのだよ。最後に君たちの目標を聞かせてくれないだろうか?」

 

サーゼクスさんの問いかけに最初に答えたのはサイラオーグさん。

 

「俺は魔王になることが夢です」

 

いきなり、言い切ったな!

 

凄いよ、この人。

 

お偉いさん達も今の目標に感嘆の声を漏らしている。

 

「大王家から魔王が出るとしたら前代未聞だな」

 

お偉いさんの一人がそう言う。

 

「俺が魔王になるに相応しいと冥界の民が感じれば、そうなるでしょう」

 

また言い切ったな!

 

やっぱり、凄いよ。

 

 

サーゼクスさん。

 

あなたは以前、俺に魔王にならないか?と聞いてきたけど、俺なんかよりもこういう目標を持った人の方が魔王に向いてると思いますよ。

 

 

次に部長が答える。

 

「私はグレモリーの次期当主として生き、レーティングゲームの覇者となる。それが現在の、近い未来の目標ですわ」

 

初めて耳にしたけど、部長らしい答えだ。

 

部長がそれを望むのなら眷属である俺達はそれを支えるまでだ。

 

 

その後も若手の人が目標を口にし、最後にソーナ会長の番が回ってきた。

 

 

「私の目標は冥界にレーティングゲームの学校を建てることです」

 

へぇ、ソーナ会長は学校を建てたいのか!

 

いい夢じゃないか。

 

と、俺は感心していたのだが、お偉いさんたちは眉をひそめていた。

 

「レーティングゲームを学ぶ学校ならば、すでにあるはずだが?」

 

「それは上級悪魔や特例の悪魔のための学校です。私が建てたいのは平民、下級悪魔、転生悪魔、全ての悪魔が平等に学ぶことのできる学校です」

 

おお!

 

流石は会長だ!

 

差別のない学校。

 

これからの冥界にとっていい場所になるんじゃないかな。

 

匙も誇らしげに会長の夢を聞き入っている。

 

 

しかし―――

 

 

『ハハハハハハハハハハッ!!』

 

お偉いさん達はまるで可笑しなものを聞いたかのように笑う。

 

俺は意味が分からなかった。

 

なんで、笑うんだよ?

 

「なるほど! 夢見る乙女と言うわけですな! これは傑作だ!」

 

「若いというのは実に良い! しかし、シトリー家の次期当主よ、ここがデビュー前の顔合わせの場で良かったというものだ」

 

なんで、会長の夢がバカにされてるんだよ?

 

「いまの冥界が変革の時であっても、上級や下級といった差別は存在する。それが当たり前だと思っている者も多いんだ」

 

木場が淡々と口にした。

 

 

なるほど・・・・・

 

つまり、このお偉いさん達はそれが当たり前だと考えているから、会長の夢を否定するってことか。

 

 

 

なんだろうな。

 

これには俺も怒りが沸いてきたぞ・・・・ッ。

 

 

「私は本気です」

 

会長が正面からそう言うが、お偉いさんは冷徹な言葉を口にする。

 

「ソーナ・シトリー殿。そのような施設を作っては伝統と誇りを重んじる旧家の顔を潰すことになりますぞ? いくら悪魔の世界が変革期に入っているとは言え、たかだか下級悪魔に教えるなどと・・・・」

 

その一言に俺よりも早く黙っていられなくなったのは匙だった。

 

「なんで・・・・なんでソーナ様の夢をバカにするんですか!? こんなのおかしいっすよ! 叶えられないなんて決まった訳じゃないじゃないですか!」

 

「口を慎め、転生悪魔の若者よ。ソーナ・シトリー殿、躾がなっておりませんぞ」

 

「・・・・申し訳ございません。後で言い聞かせます」

 

会長は表情を一切変えずに言うが、匙は納得出来ていない。

 

「会長! どうしてですか!? この人達は会長の、俺たちの夢をバカにしたんすよ! どうして黙ってるんですか!?」

 

匙のその叫びを聞いてお偉いさんはフンと鼻を鳴らす。

 

「全く、主も主なら下僕も下僕か・・・・。これだから人間の転生悪魔は」

 

 

 

ああ、とことん腐ってるなこいつら・・・・。

 

部長、すいません。

 

俺は心のなかで謝ってから、一歩前に出る。

 

 

「あんた達に人の夢を否定する権利があるのかよ?」

 

俺の一言に視線が匙から俺に集まる。

 

「誰が貴様の発言を認めた? リアス・ グレモリー殿もどうやら下僕の躾がなっていないようだ」

 

「そんなものはどうでも良い。聞いてるのはこっちだぜ。・・・・もう一度聞く。あんたらに会長の夢を否定する権利があるのか?」

 

俺の言葉にお偉いさんの一人が怒りの形相で怒鳴る。

 

「立場をわきまえろ、若僧! 貴様、何様のつもりだ! 消されたいか!」

 

「やれるもんならやってみろよ。その代わり、あんたにもそれなりの覚悟はしてもらうぜ?」

 

俺から発せられるオーラが会場を覆いつくす。

 

そして、俺の背後にオーラが集まり、赤い龍が姿を現した。

 

オーラで形成された赤い龍の目が光り、お偉いさん共を睨み付ける。

 

「こ、これは・・・・!?」

 

驚愕するお偉いさんに俺は告げる。

 

「いいか? 俺は別にあんた達とやり合いたい訳じゃないし、謀反とかそんなものを起こす気もない。・・・・ただし、俺の仲間をこれ以上バカにするのなら容赦はしない。よく覚えておけ」

 

「そうよそうよ! おじ様たちはよってたかってソーナちゃんを苛めるんだもの!! 私だって我慢の限界があるのよ!これ以上言うなら、私も赤龍帝君と一緒におじさま達を苛めちゃうんだから!」

 

セラフォルーさんが涙目で俺に続く。

 

しかも、その身からは凄まじい魔力を発している。

 

まぁ、セラフォルーさんはソーナ会長を溺愛してるから、ブチ切れるのは当然か。

 

下からは俺、上からはセラフォルーさんに睨み付けられ、お偉いさんさん達はタジタジだ。

 

 

 

すると、サーゼクスさんが間に入る。

 

「セラフォルー、イッセー君。気持ちは分かるが落ち着きたまえ。皆さま方も若者の夢を潰さないでいただきたい。どんな夢であれ、それは彼らのこれからの動力源になるのですから」

 

サーゼクスさんの言葉に俺とセラフォルーさんはオーラを発するのを止め、お偉いさん達も「・・・すまなかった」とソーナ会長に詫びた。

 

 

「そうだ! ソーナちゃんがレーティングゲームに勝てばいいのよ! ゲームで好成績を残せば叶えられることも多いもん!!」

 

「それはいい考えだ」

 

セラフォルーさんの提案にサーゼクスさんは感心したような表情を浮かべ、俺達に提案してきた。

 

「リアス、ソーナ。二人でゲームをしてみないか?」

 

そうきたか!

 

これは予想外だ!

 

部長も会長も顔を見合せ、目をパチクリさせている。

 

「もともと、近日中に君達、若手悪魔のゲームをする予定だったのだよ。アザゼルが各勢力のレーティングゲームのファンを集めてデビュー前の若手の試合を観戦させる名目もあったからね」

 

マジか!

 

グレモリー眷属の初戦の相手がシトリー眷属かよ!

 

駒王学園に通う悪魔同士の対決じゃねえか!

 

 

部長は挑戦的な笑みを浮かべ、会長も冷笑を浮かべる。

 

「公式ではないとはいえ、はじめてのレーティングゲームがあなただなんて運命を感じますね、リアス」

 

「そうね。でも、やるからには絶対に負けないわよ、ソーナ」

 

おお!

 

さっそく火花を散らせてるよ!

 

二人ともやる気満々だな!

 

「リアスちゃんとソーナちゃんの試合! 燃えてきたかも!」

 

セラフォルーさんも楽しげだ!

 

「対戦の日取りは人間界の時間で八月二十日。それまでは各自好きなように過ごしてくれてかまわない。詳しいことは後日送信しよう」

 

サーゼクスさんの決定により、部長と会長のレーティングゲームの開催が決まった!

 

 

 




次回は修業に入ります!


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4話 温泉と修行です!!

前回、誤って途中のものを投稿してしまいました。

今回はそれの完成版です。



それではどうぞ!


「そうか、初戦はシトリー家か」

 

グレモリー家に帰ると、アザゼル先生が待っていた。

 

広いリビングに集合し、先生に先程の会合の顛末を話したんだ。

 

「対戦まで約二十日間か・・・・」

 

先生が何やら計算を始める。

 

「修業ですか?」

 

俺が尋ねると先生は頷く。

 

「当然だ。今回のゲームのこともあるが、禍の団のこともある。サーゼクスは若手を巻き込みたくないと言ったそうだな。これには俺も賛同している。・・・・だが、敵さんにとってはそんなものは関係ないからな」

 

確かに・・・・

 

禍の団のやつらにとっては俺達が若手だろうが何だろうが関係ないだろうな。

 

いつ襲ってくるかも分からないし、備えておくのは重要なことだ。

 

「修業は明日から始めるぞ。すでに各自のトレーニングメニューは一部を除いて考えてある」

 

先生の言葉に皆の視線が俺に集まる。

 

なんで、俺を見てるの?

 

もしかして、一部って俺のことですか!?

 

 

すると、木場が先生に尋ねた。

 

「僕達だけが堕天使総督のアドバイスを受けるのは不公平なのでは?」

 

あー、それもそうか。

 

他の若手から文句があってもおかしくないと俺も思う。

 

だけど、先生は嘆息するだけだ。

 

「それくらい別にいいだろ。俺は悪魔側に研究のデータも渡したし、天使側もバックアップ体制をしているって話だ。あとは若手悪魔連中がどれだけ自分を高めるか、その心しだいだ」

 

まぁ、それもそうか。

 

本当に強くなりたかったら必死で自分を鍛えるもんな。

 

「それに、うちの副総督のシェムハザも各家にアドバイスを与えているしな。もしかしたら俺よりもシェムハザのアドバイスの方が役に立つかもな! ハハハハ!」

 

おいおい・・・・。

 

いきなり、不安になるようなこと言わないで下さいよ。

 

「まぁ、そういうことだ。修業は明日から。今日は全員のんびりしてろ」

 

先生のこの言葉で今日のミーティングはお開きとなった。

 

・・・・俺の修業はどうなるんだろうな。

 

不安だ。

 

そこへグレイフィアさんが現れた。

 

「皆様。温泉のご用意が出来ました」

 

それは最高の知らせだった!

 

 

 

 

 

 

「あー、極楽」

 

 

俺は木場、アザゼル先生と共にグレモリーの庭の一角にある温泉に浸かっていた。

 

 

「旅ゆけば~♪」

 

先生なんて歌まで歌ってご機嫌だ。

 

「いやぁ、流石は冥界屈指の名家グレモリー家の温泉だ。いい湯だぜ」

 

この人って温泉に慣れてるよな。

 

普段から浴衣着てるし、日本の文化が好きなのか?

 

まぁ、それだったら日本人の俺としては嬉しいけどね。

 

 

俺と木場は並んでタオルを頭にのせて湯に浸かっていた。

 

それにしても、さっきの木場はキモかった。

 

だって、突然―――

 

「イッセーくん。背中を流してあげるよ」

 

なんてことを頬を染めながら言ってきたんだぜ?

 

確かに裸のお付き合いなんてものもあるけど、頬を染めながら言われるとゾクッとする。

 

せめて、普通に言ってくれ。

 

頼むから!

 

 

ん?

 

そう言えばギャー助は?

 

あいつも男湯に一緒に来たはずなんだけど・・・・

 

 

見渡してみると入口のところでウロウロしてるギャスパーを発見。

 

「ギャスパー。折角の温泉なんだから入れよ」

 

俺は湯から一旦上がり、ギャスパーを捕まえる。

 

「キャッ!」

 

なんて、可愛らしい悲鳴を上げるギャスパー。

 

この瞬間、嫌な予感がしたので俺はギャスパーを温泉に投げ入れた。

 

 

ドボーーーン!!

 

 

「いやぁぁぁぁぁん! 熱いよぉぉぉ! 何するんですかぁ!」

 

絶叫を上げるギャスパー。

 

大げさなやつめ。

 

まぁ、これでギャスパーも温泉に浸かれるだろ。

 

 

「おい、イッセー! 何しやがる! 酒がこぼれるだろうが!」

 

あー、先生が酒飲んでるの忘れてた。

 

いや、ホントすみません。

 

 

俺は再び温泉に入る。

 

すると、先生が俺に尋ねてきた。

 

「ところでイッセー。おまえ、女の胸が好きなんだって?」

 

「ええ、もちろん! 大好きです!」

 

俺は即答した!

 

ああ、おっぱいは俺の大好物さ!

 

「おまえ、女の胸を揉んだことはあるのか?」

 

先生は両手の五指をわしゃわしゃさせながら聞いてくる。

 

「ええ! もちろん!」

 

俺は右手で揉む仕草をする。

 

思い返せば俺は異世界に渡ってから今まで、色んな人のおっぱいを触ってきたような気がするぜ。

 

 

「そうか、じゃあ、こう―――」

 

頷く先生は、人差し指を横に突き立てて言う。 

 

「女の乳首をつついたことはあるか?」

 

先生が指で宙を押すようにする。

 

 

それを見て俺は不敵な笑みを浮かべた。

 

そして、チッチッチッと人差し指を横に振る。

 

「甘いですね先生。俺がそれをしてないとでも?」

 

「なに・・・・? おまえ、まさか―――」

 

「先生、俺は――――女の子の乳首をつついて禁手に至った男ですよ」

 

絶句する先生。

 

隣では木場とギャスパーも衝撃を受けているようだった。

 

ふっふっふっ・・・・

 

皆、俺の偉大さに今頃気づいたのかな?

 

 

すると、先生は俺の両肩に手を置いた。

 

そして、哀れみの目で俺を見てきた。

 

「イッセー・・・・俺から話を振っといてなんだが・・・・まさか、おまえがそこまでバカだったとはな・・・・」

 

「・・・・・僕は皆の想いを受け入れてやっと至ったって言うのに・・・・胸をつついて至った?・・・・そんな・・・」

 

あれ?

 

先生と木場が残念そうな表情で俺を見てくる!

 

なに、その反応。

 

俺、可笑しなこと言ったかな?

 

 

「流石はイッセー先輩ですぅ! 僕達の予想のはるか斜め上をいってますぅ!」

 

ギャスパーが目をキラキラさせて言ってくる。

 

ありがとうよ、ギャスパー!

 

 

 

そこに女湯の方から声が聞こえてくる。

 

『リアス、またバストが大きくなったのかしら?』

 

『そ、そう?ぅん・・・。ちょっと、朱乃、触り方が卑猥よ。そういうあなたこそ、ブラジャーのカップが変わったんじゃないの?』

 

『前のは少々キツかったものですから。あら? 美羽ちゃんも以前より大きくなったような・・・・』

 

『あら、本当じゃない』

 

『ふぇ!? そ、そんなことないですよ・・・って、なんで二人で揉みにくるんですか!?』

 

『いいじゃない。減るものじゃあるまいし』

 

『そうですわ。これは・・・・この柔らかさにこの肌触り。私も胸には自信がありますが、これには劣るかもしれませんね』

 

『やんっ! あ、朱乃さぁん、そこ、らめぇぇぇぇ!』

 

『はうぅ、皆さんスタイルが良いから羨ましいです・・・』

 

『そんなことはないさ、アーシア。アーシアのだってほら』

 

『はぁん!ゼノヴィアさん、ダメですぅ! あっ・・・・そんな、まだイッセーさんにもこんな・・・・』

 

『ふむ。アーシアのは触り心地が良いな。なるほど、これなら男も喜ぶのかもしれないね』

 

 

 

・・・・・・。

 

 

あー、ヤバい鼻血が止まらない。

 

うちの女子部員はエロすぎるぜ。

 

うーん、覗きたい。

 

男湯と女湯を隔てる壁。

 

これを登ってあちらの世界へダイブしたい。

 

どっかに覗き穴はないのか!

 

 

「なんだ、覗きたいのか?」

 

アザゼル先生がいやらしい笑みで聞いてきた。

 

「はい! 覗きたいです!」

 

「堂々としてるな。いや、それこそ男だ。温泉で女湯を覗くのはお約束だ。だがな―――」

 

先生はそこまで言うと俺の腕をむんずっと掴んで、空へ放り投げた!

 

「どうせなら、混浴だろ!」

 

どわああああああっ!

 

ちょ、目が回るううううう!

 

 

俺の視界が男湯から女湯に移り―――

 

 

ドッボォォォォォォン!!

 

 

痛って!

 

鼻にお湯が入った!

 

鼻がツーンとする!

 

 

サバッ!

 

俺は底に手を着き、顔をお湯から出す。

 

 

そして、今の俺はとんでもない状況に陥ってることに気づく。

 

「イタタタ・・・・」

 

「え、み、美羽?」

 

「へっ?」

 

俺の目の前には美羽の顔。

 

互いの鼻が当たりそうなほど近い。

 

さらに言うなれば、俺が美羽に迫っているような格好だ。

 

俺はこの状況に動けないでいた。

 

美羽も同様のようだ。

 

俺達はそのままじっと互いの目を見つめ合う。

 

 

一糸纏わぬ生まれたままの美羽の姿。

 

温泉に入っているせいか長い黒髪がいつも以上に艶やかで、幼い顔立ちも今日はどこか大人っぽく見える。

 

 

エロいってのもあるけど、それよりも綺麗だ・・・・

 

「・・・・・お兄ちゃん。そんなに見つめられたら・・・・・」

 

 

 

 

はっ!

 

 

いかんいかん!

 

何考えてんだ俺!

 

「ご、ゴメン!」

 

俺は慌てて立ち上がる。

 

この行動を俺はすぐに後悔することになる。

 

なぜなら―――

 

 

 

 

 

「「「あっ」」」

 

 

女子の視線が俺の下半身へと集まる。

 

 

「ああああああああっ!」

 

 

俺の絶叫が温泉に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

俺達はグレモリー家にある広い庭に集まっていた。

 

アザゼル先生から修行のメニューを聞くためだ。

 

 

なんだけど・・・・・

 

 

「ね、眠い・・・・」

 

「そ、そうだね・・・・」

 

朝から俺と美羽はダウンしていた。

 

はい、兄妹そろって寝不足でございます。

 

 

昨日の夜、一緒のベッドに入った俺と美羽。

 

温泉でのことがあったからお互いにドキドキして、全く眠れなかったんだ。

 

あ、言っておくけど手は出してないぞ。

 

妹を泣かせるようなことはしないからな。

 

 

まぁ、とにかくそう言うわけで俺達は超眠い。

 

目の前に布団があったらダイブしたい。

 

美羽は寝てても良かったんだけど「皆が修行するのにボクだけ寝るなんて出来ないよ」と言って起きてきたんだ。

 

 

無理するなよ、美羽。

 

 

ちなみに、昨日の温泉で皆の裸はバッチリ脳内保存しているぜ!

 

眼福でした!

 

 

 

メンバーが揃ったことを確認した先生が口を開く。

 

「よし、約二名すでにダウンしかけているが、全員揃ったな。今から修行のメニューを渡していくんだが・・・・・その前におまえらに悪い知らせだ」

 

先生が重い口調で言う。

 

悪い知らせ?

 

なんだ?

 

「まぁ、まだ決まったことじゃない。現在も議論が続けられていることなんだが・・・・」

 

えらく歯切れが悪いな。

 

こんな先生は珍しい。

 

部長達も先生を怪訝な表情で見ている。

 

「いったい、どうしたというの?」

 

気になった部長が尋ねた。

 

すると、先生は俺を見て言った。

 

「イッセー。おまえはこの若手のゲームに参加できないかもしれない」

 

 

「「「!?」」」

 

 

この情報にこの場にいる全員が驚いている。

 

意味が分からない俺。

 

なんで、俺だけゲームに参加できないんだよ!?

 

もしかして、お偉いさんに失礼な態度をとったから!?

 

 

「どうして、イッセー君が参加できないんですか?」

 

木場が聞いてくれた。

 

「理由は簡単だ。イッセーがあまりにも強すぎるからだよ」

 

「はぁ!? そんな理由で!?」

 

アザゼル先生の言葉に俺は納得出来ないでいた。

 

先生は嘆息する。

 

「実のところ、これには俺も反対出来ないでいる」

 

「どうしてですか!?」

 

「おまえ、自分の実力を考えてみろ。おまえの力量はどうみても魔王クラス。下手すりゃ、俺でも負けるかもしれん。デビュー前の若手がそんな力を持ったやつを相手に出来るわけがないだろう」

 

この理由に皆は「あー」とどこか納得しているようだった。

 

ウソッ!?

 

皆はそれで良いのかよ!?

 

ちくしょう!

 

いじけてやる!

 

「それから、もう一つ理由があってな。イッセーは転生する時、アジュカの手が加わっただろ?」

 

「ええ、まぁ」

 

「本来、リアスでは眷属に出来なかったおまえはアジュカの手を借りることによって無事に転生し、リアスの眷属となった。これは不公平なのでは、という意見が多くてな」

 

た、確かに。

 

それを言われると平等じゃないような気がする・・・・

 

他の若手には魔王の援助なんていってないだろうし・・・・

 

アジュカさんも「今回は特別だ」的なことを言ってたな。

 

 

「・・・・分かりました」

 

「まぁ、そう気を落とすな。仮に若手のゲームに参加出来なくてもプロの方では存分に力を振るえるだろうさ」

 

プロねぇ・・・・

 

割りと先の話だな。

 

「イッセーが抜けることで戦力は一気に下がる。だがな、リアス。これはチャンスでもあるんだぞ?」

 

「ええ、そうね。イッセーが抜けることで私達は色々と不利になるでしょう。でも、これで勝てば私達の評価は一気に上がるはずよ」

 

なるほど、そう言う見方もあるわけか・・・・

 

あー、俺も参加したかったなー。

 

まだ決まったわけじゃないけどさ・・・・

 

 

「さて、気を取り直して修行の話をするぞ。先に言っておくが今から渡すメニューは先を見据えたものだ。すぐに効果が出る者とそうでない者がいる。ただ、おまえらはまだ成長段階だ。方向性を見誤らなければ伸びるはずだ。まずはリアス、おまえだ」

 

最初に先生が呼んだのは部長だった。

 

「お前の才能、魔力、身体能力はどれをとっても一級品だ。このまま普通に暮らしていても成人になる頃には最上級悪魔の候補にも挙げられるだろう。が、今すぐにでも強くなりたい。それがお前の望みだな?」

 

先生の問いに部長は力強く頷く。

 

「ええ。私は皆の王として相応しい者になりたい」

 

「なら、この紙に記してあるメニューをこなしていけ」

 

先生から手渡された紙を見て部長は不思議そうな顔をしている。

 

「・・・・・これって、基本的なメニューよね?」

 

「お前はそれでいいんだ。おまえは全てが総合的にまとまっている。だからこそ基本的な修行で力が高められる。問題は『王』としての資質だ。王は力よりもその頭の良さ、機転の良さが求められる。要するに眷属が最大限に力を発揮できるようにしてやるのが王の役割なんだよ」

 

なるほど。

 

先生の言うことは最もだな。

 

というより、先生もしっかり考えてたんだなぁ。

 

「次に朱乃」

 

「・・・・はい」

 

先生に呼ばれるものの不機嫌な表情の朱乃さん。

 

朱乃さんはどうにもアザゼル先生が苦手らしい。

 

レイナとは普通に接することが出来ているみたいだから、やっぱりお父さん絡みかな?

 

そう思っていたら、先生はそのことを真っ正面から言う。

 

「おまえは自分の中に流れる血を受け入れろ」

 

「ッ!」

 

ストレートに言われたせいか、朱乃さんは顔をしかめる。

 

「フェニックス家とのレーティング・ゲームは見させて貰った。確かにおまえは強くなった。だがな、これから出会うであろう強敵には雷だけでは限界がある。雷に光を乗せ『雷光』としなければ、いつかこの眷属の足を引張ることになるぞ。・・・・・・自分を受け入れろ。俺から言えるのは今はこれだけだ。『雷の巫女』から『雷光の巫女』になってみせろ」

 

「・・・・・」

 

先生の言葉に朱乃さんは応えなかった。

 

ただ、拳を強く握り、唇を噛んでいた。

 

朱乃さんも今のままじゃダメなことくらい分かってるはずだ。

 

俺は信じるぜ、朱乃さんは絶対にこの試練を乗り越えてくれるってな。

 

「次は木場だ」

 

「はい」

 

「まずは禁手を解放している状態で一日保たせろ。それが出来れば次は実戦の中で一日保たせる。この修行期間で最低でも一週間は持続出来るようにしろ。神器については俺がマンツーマンで教えてやる。剣術のほうは・・・・師匠に習うんだったな?」

 

「ええ、一から鍛え直してもらう予定です」

 

へぇ、木場にも師匠がいたのか。

 

どんな人なのかな?

 

・・・・俺の師匠みたいに鬼畜ではないと思うけど。

 

 

「次はゼノヴィア。おまえはデュランダルを今以上に使いこなせるようにしろ。今のおまえはデュランダルに振り回されている所がある。出来るだけ制御できるようにしろ。それが出来ればテクニック方面もちったぁマシになるさ」

 

「分かった。やってみよう」

 

それから先生の視線はギャスパーに移る。

 

「次、ギャスパー」

 

「は、はいぃぃぃぃぃ!!」

 

チョービビってるよ。

 

いや、段ボールに逃げ込まないだけ進歩してるか・・・・?

 

「おまえはまず、その引きこもりをなんとかしろ。そうじゃないと話しにならん。おまえはスペックだけなら相当のものだ。それを克服出来ればゲームでも実戦でも活躍出来るはずだ。とりあえず、『引きこもり脱出作戦!』なるプログラムを組んだから、それをこなしていけ」

 

「はいぃぃぃぃぃ!! 当たって砕けろの精神で頑張りますぅぅぅ!!」

 

・・・・こいつがその言葉を言うと本当に砕けそうで不安だ。

 

すると、先生の視線は美羽に移った。

 

「悪いが、美羽にはギャスパーのサポートを頼む。こいつは、おまえになついているようだからな。おまえがいれば安心するだろうよ」

 

「分かりました。一緒に頑張ろうねギャスパー君!」

 

「美羽先輩! よろしくお願いしますぅ!!」

 

なるほど。

 

ギャスパーに美羽を付けるのはありか。

 

まぁ、美羽が厳しくできるのかは疑問だけど・・・・

 

「続いて、アーシア」

 

「は、はい!」

 

アーシアも気合い入ってるな。

 

「おまえも基本トレーニングで身体と魔力の向上を目指せ。それから、回復のオーラを飛ばすことにもっと慣れろ。より遠方の味方を回復の出来るようにな」

 

確かに、アーシアは回復のオーラを離れた相手に飛ばせるようになったけど、距離がかなり限られているからなぁ。

 

まぁ、基本は出来ているからなんとかなるだろう。

 

「次に小猫」

 

「・・・・はい」

 

小猫ちゃんも相当気合いが入ってる様子だ

 

「おまえは申し分無いほど『戦車』としての才能をもっている。おまけにイッセーとの修行を経て、現状でも中々のものになっている」

 

そりゃあ、ケルベロスをボコボコに出来ますからね・・・

 

小猫ちゃんは力の使い方が以前よりも良くなったと俺は思う。

 

「だが、リアスの眷属にはイッセーを筆頭に木場やゼノヴィアといったおまえよりもオフェンスが上のやつが多い」

 

「・・・・分かっています」

 

先生のハッキリとした言葉に悔しそうな表情を浮かべる小猫ちゃん。

 

もしかして、気にしていたのか?

 

「俺から与えるのは基本的なメニュー、そして自分をさらけ出せっていうアドバイスだ。そうでなければ、これ以上の成長は望めんぞ?」

 

「・・・・・」

 

何も答えない小猫ちゃん。

 

さらけ出せ、か。

 

小猫ちゃんは何かを隠してる?

 

えらく険しい表情をしている。

 

 

ここはそっとしておいた方が賢明か?

 

 

「最後にイッセー」

 

おっと、俺の出番か。

 

「おまえについては本当に悩んだぞ。おまえは魔力が下級悪魔の平均並ってこと以外は全てが超一流だ。正直、俺のアドバイスはいらないんじゃないか、と考えたくらいだ」

 

「先生・・・・・」

 

「おいおい、そんな残念そうな目で見るなよ。ちゃんと考えてきてるって。・・・・おまえ、悪魔になってから『昇格(プロモーション)』は使ったか?」

 

先生にそう聞かれ、俺は記憶を探る。

 

「・・・・そういえば、無いような・・・・・」

 

「やっぱりな。まぁ、必要も無かったんだろうが・・・・。今後、禍の団と争っていく上で、おまえよりも強いやつと出会さないという保証はない。その時のためにも使える力は今のうちに身に付けておけ。おまえが悪魔の駒の特性を使えば、かなりの力になるはずだ」

 

なるほど。

 

確かにそうだな。

 

いや、機会が無さすぎて今まで忘れてたってのもあるんだけどね。

 

あ、コカビエルとヴァーリの時に使えば良かったのか・・・・

 

 

まぁ、今後使っていけばいいや。

 

 

「さて、もうそろそろ来るはずなんだが・・・・」

 

アザゼル先生が時計を見て何やら呟く。

 

来る?

 

誰か来るのか?

 

 

・・・・ん?

 

空から気配が・・・・

 

俺は空を見上げた。

 

すると、俺の視界にデカい影が!

 

こっちに猛スピードで向かって来たぞ!?

 

 

ドオオオオオオオオンッ!

 

それは地響きを鳴らしながら俺の目の前に着地した。

 

デカい!

 

十五メートルはあるんじゃないか!?

 

これは――――ドラゴン!?

 

 

「アザゼル、よくもまぁ悪魔の領土に堂々と入れたものだ」

 

巨大なドラゴンは笑みを浮かべながら言った。

 

おお!

 

喋れるのか!

 

「ハッ! サーゼクスからの許可は貰ってるぜ? 文句あるのかよ?」

 

「ふん。まあいい。それで? 俺に相手をしてほしいというのはそこの小僧か?」

 

巨大なドラゴンがデカイ指で俺を指してきた。

 

え?

 

このドラゴンが俺の修行相手ですか?

 

「そうだ。イッセー、紹介するぜ。このドラゴンは『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』タンニーン。元龍王の一角で今は転生して悪魔になっている。こいつがおまえの修行相手だ」

 

タンニーンって聞いたことある名前だ。

 

元六大龍王の一角だったドラゴン。

 

以前、ドライグに教えてもらったことがある。

 

まさか、こういう形で会うことになるなんてな。

 

とりあえず挨拶しとくか。

 

「兵藤一誠です。よろしくお願いします」

 

「うむ。ドライグを宿すものを鍛えるのははじめてだ。おまえの噂は俺の耳にも届いているぞ。随分活躍しているみたいじゃないか」

 

元龍王にも俺の噂が!?

 

いや、気にするのは止めよう。

 

いちいち驚いていたらキリがない。

 

 

「あいつはまだなのか?」

 

先生が呟く。

 

まだ来るんですか?

 

俺がそう思った時、俺達の前に魔法陣が展開される。

 

そこから現れたのは―――ティアだった。

 

 

「え、ティア?」

 

「おう、イッセー。今日は堕天使の総督殿に呼ばれてな。来てやったぞ」

 

 

・・・・・嫌な予感がする。

 

「せ、先生? 俺の修行相手って、まさか・・・・」

 

「お、察しが良いじゃないか。そうだ。おまえの修行相手はタンニーンとティアマット。この二人に頼んである。存分に修行に打ち込め」

 

 

は、はいいいいいいい!?

 

 

マジですか!?

 

龍王が二人!?

 

俺に死ねと!?

 

 

「イッセー君、ファイト」

 

木場が俺の肩に手を置いて爽やかなイケメンフェイスで言ってきやがった!

 

マジで殴るぞ、この野郎!

 

 

おわっ!

 

タンニーンに俺の体を掴まれた!

 

う、動けん!

 

「さあ、修行に行くぞ兵藤一誠。おまえの力を俺に見せてくれ」

 

なんか、どっかで聞いたようなフレーズ!

 

ちょ、マジでこの二人が相手なのかよ!?

 

 

「リアス嬢、あの山を借りてもよろしいか?」

 

タンニーンが向こうの山を指差して部長に問う。

 

ぶ、部長、許可出さなくて良いから助けて!

 

「そうね。好きに使ってちょうだい。イッセー、絶対に生きて帰ってくるのよ?」

 

そんな不吉なこと言わないで!

 

「お兄ちゃん、頑張って!」

 

「おう!」

 

美羽に言われたら断れねぇ!

 

なんて、俺は妹に弱いんだ・・・・

 

 

 

こうして、俺は龍王二人が相手という無茶苦茶な修行に身を投じるのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 



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5話 山籠りします!!

高校二年の夏。

 

本来なら今年こそ彼女を作って青春を謳歌するはずだった。

 

松田や元浜と紳士の交流会もするはずだった。

 

 

そりゃあ、もちろん修行もするさ。

 

・・・・でもな、それにも限度がある。

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオン!!

 

 

空で激しい衝突音が鳴り響く。

 

「うおりゃあああ! なんで、俺の修行はいつもこうなんだよ! クソッタレ!」

 

俺の拳とタンニーンのおっさんの巨大な拳が衝突し、その度に衝撃波が生まれる。

 

「神器を使わずにここまでやるか!」

 

 

今、俺は生身で巨大なドラゴンとやりあってます。

 

 

 

え?

 

いつもと同じ?

 

 

 

そんなことはない。

 

なぜなら――――

 

「タンニーンばかりに気を取られ過ぎているぞ、イッセー!」

 

人型のティアが魔法による砲撃を放ってくる。

 

 

はい。

 

俺は生身で二体の魔王クラスを相手にしてます。

 

 

山にこもって数日。

 

着てきたジャージはボロボロ。

 

上半身は完全に裸だし、下も長ズボンだったやつはもう半ズボンと化している。

 

 

「ちぃ! プロモーション『騎士』ッ!」

 

迫る魔力砲撃を避けきれないと判断した俺はすかさず騎士にプロモーションして砲撃を回避する。

 

 

俺の修行の目標は二つ。

 

一つはアザゼル先生から与えられた目標で兵士の駒の特性であるプロモーションに慣れること。

 

 

そして、もう一つは俺が自身に課せた目標。

 

それは『天武(ゼノン)』を今以上に扱えるようになること。

 

天武は現段階での最強形態だけど、いかんせん持続時間が短い。

 

アザゼル先生が言っていた通り、今後、俺よりも強い敵が現れる可能性は十分にある。

 

だから、もっとあの力を扱えるようにならなければいけない。

 

それには俺自身の身体能力をより上げる必要がある。

 

まぁ、そのあたりは普段のティアとの修行と同じだ。

 

 

今回はそれの超ハード版ってところかな。

 

 

 

「これでも、くらえぇぇぇぇええ!!!」

 

両手に巨大な気弾を作り出し、タンニーンのおっさんとティア目掛けて放つ。

 

 

「ふん! 甘いわ!」

 

おっさんはそれを軽々と弾く。

 

これは想定内。

 

俺の狙いはこの次だ。

 

 

「甘いのは、おっさんの方だぜ!」

 

おっさんの意識が気弾に向いた瞬間に俺は背後に回り込む。

 

そして、おっさんの背中に飛び蹴り!

 

「ぐおっ!?」

 

俺の蹴りが効いたのか苦悶の声を上げるおっさん。

 

よっしゃあ!

 

燃やされたジャージの借りは返したぜ!

 

 

すると―――

 

「イッセー、今は一対一ではないぞ?」

 

背後からティアの声が聞こえる。

 

振り返った瞬間

 

 

ドゴオオオオオオオオン!!

 

 

俺は地面に叩きつけられた。

 

 

 

痛ってぇ!

 

ギリギリ硬気功で防げたから良かったものの、まともにくらえばマジでヤバかった。

 

ったく、相変わらずティアは容赦ねぇな!

 

『そもそも、生身で二体の龍王を相手取ることが無茶だ』

 

まぁ、それはそうなんだけど・・・・

 

とりあえずは生身の俺を鍛え直すとするさ。

 

駒の特性も勉強しやすいしな。

 

『それで? 感覚は掴めてきたのか?』

 

まぁ、大体な。

 

一応、昇格した時の力の流れは分かってきたよ。

 

 

この数日、色々試してみて俺に合っている駒は『戦車』と『騎士』だった。

 

この二つの駒の特性は錬環勁気功の身体強化と相性が良いらしく、両方使った場合の効果はかなり大きい。

 

 

『僧侶』の特性は気弾による砲撃をするなら、良いんだけど、俺の戦闘スタイルに合わないんだよなぁ。

 

 

 

「どうした、赤龍帝の小僧? もうギブアップか?」

 

タンニーンのおっさんとティアが宙に浮きながら俺を見下ろしてくる。

 

俺は「よっこらせ」とその場に立ち上がる。

 

「いいや、まだまだ!」

 

さて、休憩は終わりだ。

 

再開といきますか!

 

 

俺は悪魔の翼を広げて、突貫した。

 

 

 

 

 

 

 

それから二時間後、お昼時。

 

 

「おー、やってるな」

 

 

そう言って木々の間からひょっこり顔を見せたのは和服姿のアザゼル先生だった。

 

 

「アザゼル先生じゃないっすか。どうしたんですか?」

 

「ちょっと様子見と差し入れを持ってきたんだよ。ここいらで少し休憩したらどうだ?」

 

先生は周囲を見渡して苦笑いしながら言う。

 

俺も周囲に目を向けてみると、あちこちで大きなクレーターが出来ていたり、山の木が焦げていたり、さながら戦場の様だった。

 

ち、地形が色々変わってる・・・・

 

この間まであそこにあったはずの山が無い。

 

これ・・・・後でグレモリーの人に怒られないかな・・・・?

 

 

俺がそんなことを考えているとティアが言った。

 

「そうだな、もう時間もいい頃だ。そろそろ休憩を入れるとしよう。これ以上はオーバーワークになりかねん」

 

タンニーンのおっさんもそれに頷く。

 

「うむ。赤龍帝の小僧も腹が減っているのではないか? 腹が減っては力は出せんぞ」

 

まぁ、確かに腹は減っている。

 

朝からぶっ通しだったからなぁ。

 

それじゃあ、お言葉に甘えて休むとするか。

 

 

 

 

 

 

 

「うまい! くうぅ~、最近まともな飯食ってなかったからなぁ~」

 

俺はアザゼル先生の差し入れを食べていた。

 

「おまえが食ってるやつがリアス、これが美羽、これがアーシア、そしてこれが朱乃のだ。しっかり食ってやれよ。特にリアスと朱乃は火花散らしながら作ってたからな」

 

「もちろんすよ!」

 

皆が作ってくれたんだ!

 

食うに決まってる!

 

ああ、皆の愛情が伝わってくるぜ!

 

「それにしても、龍王を二人も相手にして未だに五体満足なのは流石だな」

 

先生は俺の肩を叩いて言う。

 

「ふざけんな! 俺が何度、死にかけたことか! タンニーンのおっさんの炎なんかとんでもねぇよ!」

 

「ハハハ! そりゃあ、そうだろう。タンニーンの吐く炎は隕石の衝突に匹敵するからな!」

 

何その情報!?

 

そんなとんでもドラゴンを相手にさせられてたの!?

 

もう、イヤ!

 

帰りたい!

 

 

「いや、我等を相手にして生きている時点でおまえも相当のものだぞ?」

 

おっさんが言う。

 

 

それはあんた達が加減してくれてるからだろ。

 

俺も籠手無しの状態で本気の龍王二人と渡り合う自信はないって。

 

 

「で? プロモーションには慣れたか?」

 

「まぁ、なんとか。どの駒が俺に合っているのかは分かりましたよ。もうしばらくは駒の特性を見ながら修行に打ち込む予定です」

 

「了解だ。そもそもおまえに与えた修行は難しいものじゃない。プロモーションに慣れたら後はおまえの好きなように修行してくれ」

 

 

なんか丸投げされたような気がする・・・・

 

アザゼル先生は俺がつけているトレーニング日誌を見ながら言う。

 

「えらくハードだな。正直、俺もここまでハードなメニューを与えるつもりはなかったんだが・・・・・。龍王を二人もつけたのは禁手込みの修行を考えていたからな。まさか、神器無しでやってるとは思ってなかったぞ」

 

「まぁ、それくらいしないと強くなれませんからね。ヴァーリも次はもっと強くなってそうだし」

 

 

今代の白龍皇、ヴァーリ・ルシファー。

 

この間は『天武』でなんとか勝てた。

 

でも、次はどうなるか分からない。

 

 

と、ここで俺はあることを思い出した。

 

「そういえば、ヴァーリのやつは『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を使えるんですか? 俺との戦いで使おうとしてましたけど・・・・・」

 

覇龍は神器に封じられている二天龍の力を強制的に解放する。

 

一時的に神に匹敵する力を得られる代わりに寿命を大きく削るうえに理性を無くす危険な力だ。

 

 

「ああ、あいつは自身が持つ膨大な魔力を消費することで覇龍を使える。使用時間はその時の具合によっても変わるが、大体十分程度か。・・・・・おまえは使ったことがあるのか?」

 

「いえ、俺は神器の中にある映像記録をドライグに見せてもらっただけで、使ったことはないです。・・・・あの力は絶対に使いたくないですね」

 

 

ドライグに一度見せてもらった覇龍を使った時の記録。

 

それは凄惨なものだった。

 

使用者は敵を倒しても止まらず、見境なく周囲を破壊し尽くす。

 

中には自分が守りたかったものすら自らの手で壊す者もいた。

 

俺は絶対にそんなことはしたくない・・・・。

 

だから覇とは違う、別の力を求めた。

 

 

先生はさらに尋ねてきた。

 

「おまえがヴァーリとの戦いで使ったあの力。あれはなんだ? 俺は長年、神器の研究を行ってきた。歴代の赤龍帝と白龍皇も何人か見てきた。だがな、誰一人としてあんな力を解放したやつはいなかったぞ。ヴァーリでさえな」

 

 

あー、やっぱり聞いてきたか。

 

先生ならいつかは聞いてくると思っていたけど・・・・

 

どう答えようか。

 

俺が悩んでいると左手の甲に宝玉が現れる。

 

『あの力は相棒が辿り着いた禁手の先にある力だ』

 

ドライグの言葉を聞いた先生は首を捻る。

 

「だが、禁手は神器の究極のはずだ。まぁ、後天的に亜種の禁手に至る者もいるが、そういう感じではなかった」

 

『だろうな。相棒の禁手は通常のもので間違いない。―――禁手の第二階層。これは相棒が更なる進化を求め、神器がそれに答えた結果に生まれたものだ。当然、生半可な想いではこの領域に立つことはできん』

 

「・・・・なるほど。神器、神滅具にはまだ俺の知らない不思議があるというわけか・・・・・いや、だが・・・・・」

 

何やらぶつぶつと呟く先生。

 

それだけ、俺の現象が珍しいと言うことだろうか?

 

まぁ、ドライグも最初は驚いていたしな。

 

 

「今代の赤と白はどちらも規格外だな。白は覇龍を扱い、赤は禁手の更に上の領域に立つか・・・・」

 

タンニーンのおっさんまで何やら呟き始めたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「話は変わるんだが・・・・おまえ、朱乃のことはどう思う?」

 

「良い先輩だと思います」

 

「そうじゃない。女としてだ」

 

「魅力的です! 彼女にしたい一人です!」

 

Sモードの時が少し怖いけど、普段の朱乃さんはやさしいし、時折見せる年頃の女の子なところも良いね!

 

俺の答えに先生は「うんうん」とどこか安堵しているようだった。

 

「良い答えだ。俺はなダチの代わりにあいつを見守らなければならないんだ」

 

「バラキエルさんのことですか?」

 

「そうだ。バラキエルのやつはシェムハザと同じ大昔からの仲間でな。若い頃は一緒にバカをやったもんだ。・・・・気づけば、俺の周りは妻子持ちになってたけどな。シェムハザは悪魔の嫁がいるし、バラキエルは朱乃がいる。はぁ・・・・」

 

深くため息をつく先生。

 

もしかして、独身なのを気にしてる?

 

「先生は結婚しないんですか?」

 

「・・・・俺は趣味に生きるからいいんだよ。それに女なんていくらでもいる」

 

遠くを見て答える先生。

 

婚期についてはタブーらしい。

 

「そういうわけで、俺は朱乃のことが気になるのさ。あの親子にとっては余計なお世話だろうがな」

 

「先生って世話焼きですね」

 

「暇なだけだ。おかげで白龍皇も育てちまったがな」

 

 

そんなことはないな。

 

なんだかんだで、お節介焼きなんだろう。

 

俺達のこともヴァーリのことも、全部世話を焼いてしまうんだろうな。

 

「とにかく、朱乃のこと、おまえにも任せる」

 

「任せるって・・・・」

 

 

どう任せるんだよ?

 

戦闘の時に身を守れってことか?

 

まぁ、その時は体張って守るけどさ。

 

「おまえはバカだが、悪い男じゃない。分け隔てなく接してくれそうだ」

 

「・・・・先生、話が見えてこないんですけど」

 

「ハハハハ、それでいいのさ。おまえならなんとかできる、俺はそう思ってる」

 

「? よく分からないけど、まぁ、朱乃さんのことは俺が守りますよ。というより、仲間は体張って俺が守ります」

 

「よし、おまえがそう言ってくれるなら、俺も少しは安心できるものさ。・・・・・それよりも今は小猫のことか」

 

「小猫ちゃん? 小猫ちゃんがどうかしたんですか?」

 

俺の問いに先生はため息をつく。

 

どうしたんだ?

 

「どうにも、焦っているみたいでな・・・・。俺が与えたメニューを過剰に取り組んでな。今朝、倒れた。完全なオーバーワークだ」

 

「倒れた!?」

 

後輩の悪い知らせに俺は驚いた。

 

しかも、オーバーワークって・・・・

 

「ケガはアーシアの治療でどうにかなるが、体力だけはそうはいかん。今はベッドに寝かせてある。しばらくは絶対安静だ」

 

そこまで酷いのか・・・・

 

いや、待てよ・・・・

 

俺は思い付いたことを先生に言う。

 

「俺が小猫ちゃんの治療をします」

 

「おまえがか?」

 

「ええ。俺が小猫ちゃんの気を整えて治癒能力を上げてやれば、かなりマシになるはずです」

 

「なるほど・・・・。そういえば、おまえは仙術に似た技を使うんだったな。・・・・・おまえを一度連れ戻すように言われてるから調度良いか」

 

「連れ戻す? 誰に言われたんですか? 部長?」

 

「―――の母上殿だ」

 

 

まさかのヴェネラナさんからの呼び出しだった。

 

 



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6話 猫の涙

「はい、そこでターン。そうそう、中々良い感じよ。思っていたより上手いわ。どこかで習ってたのかしら?」

 

グレモリー本邸から少し離れたところにある別館。

 

俺はそこの一室でヴェネラナさんからダンスの指導を受けていた。

 

 

・・・・・なぜ俺はこんなことをしているんだろう?

 

ヴェネラナさんに会うなり、案内されて、そのままダンスの練習だ。

 

ここでも、アリスから受けた指導が役立っていた。

 

ところどころぎこちないけど、ある程度は出来ているみたいで、ヴェネラナさんも誉めてくれた。

 

 

ヴェネラナさんとの密着状態でダンスレッスン・・・・

 

美人だし可愛いから、意識してしまうぜ!

 

それにおっぱいが大きくて柔らかい!

 

おっぱいが当たって、色々反応しちゃってます。

 

ヴェネラナさん、気付いてないよね・・・?

 

気付かれたら、問題になりそうだ。

 

静まれ、俺!

 

 

 

「少し休みましょうか」

 

ふぅ、何とかやり過ごしたぞ。

 

俺は近くに置いてあった椅子に座る。

 

いやー、やっぱりこういうのは苦手だ。

 

まぁ、おっぱいの感触を楽しめるところは良いんだけどね。

 

 

「あの~」

 

「何かしら?」

 

「どうして俺だけ? 木場とギャスパーは?」

 

そう、ずっと疑問だった。

 

グレモリーの勉強会もそうだし、このダンスレッスンもそうだ。

 

紳士を教え込むならあの二人もいるじゃないか。

 

「祐斗さんは既にこの手の技術は身に付けています。ギャスパーさんも吸血鬼の名家の出身だけあって、一応の作法は知っています。問題は人間界の平民の出である一誠さんです。・・・・ですが、夕食の時の作法といい、このダンスといい、ある程度のことを身に付けているようで驚きました」

 

ヴェネラナさんは感心したように言う。

 

まぁ、これも異世界での経験が活きたってところかな。

 

アリスが「いつか役に立つから覚えておきなさい」と言って教えてくれたんだけど、本当に役に立つ日が来るなんて思ってなかったよ。

 

アリス、マジでありがとう。

 

 

「まだ完璧とまではいきませんが、今の一誠さんならリアスと社交界に出ても恥をかくことはないでしょう」

 

ヴェネラナさんが微笑みながらそう言ってくれた。

 

どうやら、部長の顔に泥を塗ることにはならなさそうだ。

 

 

 

さて、良いタイミングだし聞いてみるか。

 

正直、本人の許可も得ずに勝手に聞くことに気が引けるけど、ここ数日ずっと気になっていたことだ。

 

「もう一つ質問いいですか?」

 

「ええ、なんでも聞いてください」

 

「小猫ちゃんが自ら封じている力についてです。オーバーワークで倒れたって聞きました。小猫ちゃんはいったい、何と戦ってるんですか?」

 

俺の質問にヴェネラナさんは軽く息を吐く。

 

それから、対面の椅子に座り俺と向かい合う。

 

そして、とある話を語り出した。

 

 

 

「昔、姉妹の猫がいました」

 

それは二匹の猫の話だった。

 

 

 

 

 

親も家も失った二匹はお互いを頼りに懸命に生きていた。

 

寝るときも、食べるときも、遊ぶときも、ずっと一緒。

 

ある日、二匹は悪魔に拾われることになる。

 

姉はその悪魔の眷属となることで、姉妹はまともな生活を送れるようになり、幸せな日々を過ごしていった。

 

 

・・・・しかし、その生活は長くは続かなかった。

 

 

転生悪魔となった姉猫は秘められていた力が一気に溢れだし、急速な成長を遂げたそうだ。

 

その猫の種族はもともと妖術の類いに秀でていた。

 

その上、魔力の才能も開花し、仙人のみが使えるという仙術まで発動することになる。

 

短期間で主を超えてしまった姉猫は力に呑まれ、ついには主を殺害した後、姿を消してしまう。

 

そう、姉猫は『はぐれ』となったのだ。

 

追撃部隊は『はぐれ』となった姉猫を追ったが、ことごとく返り討ちにあい、壊滅したそうだ。

 

これを知った悪魔達はその姉猫の追撃を一旦取り止めたという。

 

 

 

そして、当時の悪魔達は残った妹猫に責任を追求することにした。

 

『妹も姉と同じように暴走するに違いない。今のうちに始末した方がいい』―――――と

 

 

 

 

 

 

「でも、妹猫には罪はありませんよね?」

 

「ええ。今、あなたが言ったようにサーゼクスが妹には罪は無いと、上級悪魔の面々を説得したのです。そして、サーゼクスが監視することで処分は免れました」

 

「それでも、妹猫が負った心の傷は大きいんじゃ・・・・」

 

「はい。ですから、サーゼクスは笑顔と生きる喜びを与えてやってほしい、と妹猫をリアスに預けたのです。妹猫はリアスと接していくうちに少しずつ心を開いていったのです。そして、リアスはその猫に名を与えたのです―――小猫、と」

 

 

・・・・小猫ちゃんの過去か。

 

つまり、小猫ちゃんの正体は―――

 

「彼女は元妖怪。猫の妖怪、猫又。その中でも最強の種族、猫魈の生き残りです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、部長。お久しぶりです」

 

「イッセー!」

 

ダンスレッスンも終わり、一旦本邸に移動した俺を迎え入れてくれたのは部長だった。

 

こうして会うのは5日ぶりか。

 

なんてことを考えていると部長が抱き着いてきた!

 

ああ、部長からいい匂いが・・・

 

「ああ、イッセーの匂い・・・。イッセーったらこの数日で一層逞しくなったんじゃない?」

 

「まぁ、龍王二人と修行してますからね。嫌でも筋肉はつきますよ」

 

「ちゃんと眠れてる? 食事は? 私はあなたと共に寝ることができなくて寂しいわ・・・」

 

ああああ!

 

そんなに瞳を潤ませながら言わないで下さいよ、部長!

 

思わず、抱きしめたくなるじゃないですか!

 

 

はっ!

 

そうじゃないそうじゃない。

 

それよりも先にすることがあるんだった。

 

「部長、小猫ちゃんは?」

 

部長は険しい顔になる。

 

「ええ、着いて来て」

 

 

 

 

 

 

部長に案内され入室したのはグレモリー本邸にあるメディカルルームだった。

 

ここで小猫ちゃんが安静にしているらしい。

 

 

部屋に入るとそこは広い部屋で、学校の保健室みたいな部屋だった。

 

部屋の方に足を進めると、朱乃さんがベッドの脇で待機しており、そのベッドには小猫ちゃんが横になっていた。

 

「!」

 

俺は小猫ちゃんの頭に生えているものを見て驚いた。

 

小猫ちゃんの頭にあるもの、それは―――――猫耳。

 

やっぱり、猫の妖怪だってのは本当のことらしい・・・

 

 

いや、そんなことはどうでも良くなるくらい、可愛い!

 

ラブリーだよ、小猫ちゃん!

 

 

おっと、今はそれどころじゃないんだった。

 

「イッセー君、これは―――」

 

俺が小猫ちゃんの猫耳に反応したせいか、朱乃さんが説明しようとする。

 

それを俺は手で制する。

 

「大丈夫ですよ。大体の話は聞いているので」

 

俺はそう答えるとベッドの脇に移動して小猫ちゃんの様子を伺う。

 

特にこれといったケガは見受けられない。

 

まぁ、ケガならアーシアの治療で一発だろう。

 

問題は小猫ちゃんの気が結構乱れてる点か・・・・

 

オーバーワークの影響だろう。

 

「・・・・何をしにきたんですか?」

 

不機嫌そうな声音だ。

 

俺が来たのを怒ってるのかな?

 

「そうだな・・・・・小猫ちゃんが心配だから来たってのと、あとは治療をしにきたってところかな」

 

「・・・・治療ならアーシア先輩にしてもらいました」

 

「ああ。でも、アーシアが直せるのはケガだけだ。乱れた気までは直せない。・・・・・小猫ちゃん、少し頭を触るよ」

 

俺は小猫ちゃんの頭に手を置く。

 

意識を集中して、小猫ちゃんの気を整える。

 

・・・・思った以上に乱れてるな。

 

これは相当無茶をしたな。

 

 

「うん。これでよし。体が大分楽になったんじゃないかな? 治癒能力も上げておいたから、すぐにベッドから起きれるようになるよ」

 

気の調整が終わったので小猫ちゃんの頭から手を離す。

 

・・・・猫耳、フワフワしてて気持ち良かった。

 

 

それにしても、ブスッとしたまま、小猫ちゃんは何も答えてくれないな。

 

「小猫ちゃん、なんでオーバーワークなんてしたんだい?」

 

「・・・・なりたい」

 

小猫ちゃんが小さく呟く。

 

「え? なに?」

 

俺が訊き返すと小猫ちゃんは目に涙を溜めながら、ハッキリとした口調で言った

 

「強くなりたいんです。祐斗先輩やゼノヴィア先輩、朱乃さん・・・・そしてイッセー先輩のように心と体を強くしていきたいんです。ギャーくんも強くなってきています。アーシア先輩のように回復の力もありません。・・・・このままでは私は役立たずになってしまします・・・・・・。『戦車』なのに、私が一番・・・・・弱いから・・・・・・。お役に立てないのはイヤです・・・・・」

 

「小猫ちゃん・・・・」

 

それを気にしていたのか・・・・。

 

小猫ちゃんは涙をボロボロとこぼしながら続ける。

 

「・・・・・けれど、内に眠る力を・・・・・・猫又の力は使いたくない。使えば私は・・・・・・姉さまのように。もうイヤです・・・・・もうあんなのはイヤ・・・・・・」

 

俺は初めて小猫ちゃんのこんな泣き顔を見た。

 

今まで感情をあまり出さない子だったから、少し驚いている。

 

「でもね、小猫ちゃん。それだったら、尚更無理をしてはいけない。オーバーワークなんてものは小猫ちゃんの将来を奪う可能性だってあるんだ。・・・・本当に強くなりたいのなら、自分を受け入れるしかないんだよ。最後に頼れるのは自分なんだからさ。それに小猫ちゃんがお姉さんと同じようになるとは限らないだろ?」

 

「・・・・・・・あなたに何が分かるんですか?」

 

そう呟くと、小猫ちゃんがこちらを睨んできた。

 

「イッセー先輩が私の気持ちの何が分かるんですか! イッセー先輩は体も心も強いからそんなことが言えるんです! あなたは強いから・・・・・ッ! あなたに弱い私の気持ちなんて分からない!」

 

そう怒鳴り、肩で息をする小猫ちゃん。

 

部長や朱乃さんもこれには驚いている。

 

「・・・・小猫」

 

部長がそう声をかけると小猫ちゃんは、我に戻ったのか、体をプルプルと震わせる。

 

「・・・・ごめん、なさい・・・・私・・・・そんな、つもりじゃ・・・・」

 

両肩を抱き、震えを止めようとしているけど、一向に止まらない。

 

涙も止まらなくなっているようだった。

 

 

俺は側に合った椅子に腰掛け、小猫ちゃんと向かい合う。

 

「気にしなくてもいいよ、小猫ちゃん。とりあえず落ち着いて。部長、水をお願いできますか?」

 

部長は頷くとコップに水を入れて持ってきてくれた。

 

小猫ちゃんはそれを受け取り、口をつける。

 

「落ち着いたかな?」

 

「・・・・少し」

 

まだ、少し体が震えてるけど、さっきよりはマシになってるな。

 

「部長、朱乃さん。俺達を二人にしてくれますか? 二人で話がしたいんです」

 

俺がそう言うと二人は頷いて、部屋を後にした。

 

 

それを確認すると俺は小猫ちゃんと再び向き合う。

 

「さっきはゴメンな。俺、少し無神経だったよ」

 

「・・・・そんなこと、ないです。・・・・悪いのは私」

 

小猫ちゃんの言葉に俺は首を横に振る。

 

「いや、実際俺は小猫ちゃんの気持ちを分かってやれなかった。・・・・ギャスパーの時だってそうだ。俺は自分の力を恐れたことがないんだ。俺はそんなことを考える余裕が無かったから・・・・。・・・・・・でもな、弱いやつの気持ちは分かるつもりだ。俺も昔は本当に弱かった・・・」

 

「・・・・イッセー先輩が弱いところなんて信じられません」

 

そう言ってくれる小猫ちゃんに俺は苦笑する。

 

「いやいや、俺は本当に才能が無くてさ。ドライグも最初は呆れてたんだぜ? 出会った瞬間に『今回はハズレか・・・・』なんて言ってきたからな。・・・・あれ? 前にも俺は才能が無いって言わなかったっけ?」

 

「・・・・ただの謙遜だと思っていました」

 

あらら・・・・

 

そういう風に捉えられていたのね・・・・

 

皆、俺のこと過大評価しすぎだぜ。

 

「まぁ、そういう訳で俺は強くなるために、ただひたすらに力を求めた。修行して何度も死にかけたこともあった。それでも力を求めて修行したんだ」

 

 

よくよく考えたら、俺がやってきた修行ってオーバーワークとか、そういうレベルを超えてるな。

 

崖の上から蹴落とされたりもしたし・・・・・

 

よく生きて乗り越えたもんだ。

 

 

「・・・・どうして、そこまで・・・・?」

 

小猫ちゃんの問いに俺は静かに答えた。

 

「守りたいものがあったから」

 

「・・・・!」

 

俺の答えに小猫ちゃんは目を見開く。

 

今の言葉にどこか思うところがあるのだろう。

 

「さっき、俺は小猫ちゃんはお姉さんと同じになるとは限らないって言ったよね?」

 

「・・・・はい」

 

「あれは確信を持って言えるよ」

 

「・・・・どうしてですか?」

 

「力に呑まれる人は、そもそも自分の力を恐れたりしないからさ。・・・・・それに、守りたいものがあるなら尚更ね。小猫ちゃんにも守りたい人がいるんでしょ?」

 

小猫ちゃんは窓の外を眺める。

 

そして、小さく口を開いた。

 

「・・・・・私は部長を・・・・リアス様を守りたい。私を救ってくれたリアス様のお役に立ちたいです」

 

それを聞いた俺は笑みを浮かべ、小猫ちゃんの頭を撫でた。

 

「だったら大丈夫さ。その気持ちを強く持っていれば小猫ちゃんは力に呑まれたりしないよ」

 

すると、小猫ちゃんは俯き、シーツをギュッとその小さな手で握った。

 

まだ、不安が残ってるみたいだ。

 

「それでも恐いなら、俺が一緒に小猫ちゃんの力に向き合ってやる」

 

「・・・え?」

 

小猫ちゃんは顔を上げて、俺の顔を見る。

 

そんな小猫ちゃんに対して俺はもう一度言う。

 

「小猫ちゃんがその力に向き合うのなら、俺は力を貸すぜ。それに、もしも小猫ちゃんが力に呑まれそうになったのなら、俺が全力で止めてやる」

 

「・・・・・・・」

 

小猫ちゃんは何も言わず、しばらくの間、ただ俺の顔をじっと見るだけだった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・ありがとう、ございます。イッセー先輩」

 

 

小猫ちゃんはそう言うと涙を流しながらも微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、少し経った頃。

 

 

「ねぇ、小猫ちゃん」

 

「・・・・なんですか?」

 

「猫耳、触っていい?」

 

「・・・・なんでですか?」

 

「いや、さっき触った時、スゲー気持ちよくてさ。なんか、フワフワしてて」

 

 

俺がそう言うと小猫ちゃんは薄く頬を染めながら、

 

「・・・・そんなことを考えてたんですか・・・・やっぱり、イッセー先輩はドスケベです」

 

「え!? なんで!?」

 

 

うん。

 

やっぱり小猫ちゃんはこうじゃないとね。

 



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7話 グレモリー眷属、再集結です!!

本邸に戻り、小猫ちゃんと話をしてから時間は流れ、冥界での修行も本日が最後となった。

 

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 

一瞬の倍加で俺の力が一気に上昇する!

 

そう、俺は禁手の状態で修行に臨んでいた。

 

今回の修行の総仕上げだ。

 

 

「タンニーン! 今のイッセーを甘く見るなよ!」

 

「分かっている!」

 

 

ドンッ! ドンッ! ドゴォオオオオォォォォォン!!

 

 

タンニーンのおっさんと俺の拳が上空で激しく衝突する。

 

互いに本気。

 

体から発せられるオーラもぶつかり合い、激しく火花を散らす。

 

「私を忘れてもらっては困るな!」

 

横合いから元の姿となったティアの拳が飛んでくる。

 

俺はそれを真っ正面から受け止める!

 

「今のを受け止めるか! 流石だな!」

 

「いや、まだまだ! 俺の実力はこんなもんじゃねぇぞ!」

 

 

ドライグ、全力でいくぞ!

 

『承知!』

 

纏うオーラが膨れ上がり、周囲にスパークを生み出す!

 

禁手(バランス・ブレイカー・)第二階層(ツヴァイセ・ファーゼ)――――『天武(ゼノン)』ッ!!」

 

 

鎧が通常のものから進化し、腕や肩、脚にブースターが増設される。

 

俺の最強形態!

 

だけど、今回は更に上に行かせてもらう!

 

「プロモーション『戦車』!!」

 

俺の中の駒が変化し、攻守が上昇する!

 

 

「それがおまえの全力か! 大盤振る舞いだな、兵藤一誠!」

 

「どうせ、今日で最後なんだ! 思いっきり行かせてもらうぜ、おっさん!」

 

「面白い! ならば、俺も全力で相手になろうか!」

 

 

おお!

 

おっさんとティアが纏うオーラが一段上に上がった!

 

流石は龍王ってところか!

 

 

俺も負けねぇぞ!

 

『Accel Booster!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

 

全身のブースターからオーラを噴射して、おっさんに突っ込む。

 

迎え撃つおっさんの拳を避けて、拳を放つ!

 

「ぐあっ!」

 

天武の状態に戦車による力の上乗せ。

 

流石のおっさんでもかなりのダメージを与えたはずだ!

 

 

更に追撃を仕掛けようとする。

 

しかし、それはティアの魔法砲撃によって防がれた。

 

俺は一旦下がり、距離を取る。

 

「甘く見るなと言ったはずだぞ、タンニーン」

 

ティアがおっさんの横に並びながら言う。

 

おっさんは頭をポリポリかきながら苦笑いしている。

 

「いや・・・・甘く見ていたつもりはないのだが・・・・」

 

「はぁ・・・・今のイッセーは魔王クラス。おまけにあの形態での瞬間的な力は我々をも超える。あの一撃を受ければおまえとて、ダメージは免れん」

 

「ああ。全く、今代の赤は規格外だな・・・・。では、これならばどうだ!」

 

おっさんは口を大きく開き、巨大な炎を吐き出した!

 

ヤバい!

 

おっさんの本気のブレスとか、まともに受けたらシャレにならねぇ!

 

 

つーか、ティアも魔法陣を幾重にも展開してる!?

 

「追加だぞ、イッセー!」

 

おいおい!

 

ティアもかよ!

 

 

龍王二人の合わせ技とか、俺を殺す気か!?

 

しかも、規模がデカすぎて避けることも出来ねぇじゃねぇか!

 

 

ちくしょう!

 

やってやるよ!

 

 

俺は右手に気を溜めて、それを突き出す!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

 

「うおおおおお! ヤケクソじゃああああ! くらいやがれぇぇ!! アグニッ!!!」

 

 

俺から放たれた気の奔流、おっさんのブレス、ティアの魔法砲撃が衝突し――――

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオン!!!!

 

 

グレモリー領上空で大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

二十分後・・・・

 

 

「あー、死ぬかと思った・・・・・」

 

俺、おっさん、ティアの三人は息を切らしながら草原の上で大の字になっていた。

 

「ま、まさか俺達の攻撃を押し返すとは・・・・・。恐ろしいものだ・・・・」

 

「・・・ああ、私もあそこまでやるとは思わなかったぞ・・・・」

 

あんた達が無茶苦茶な攻撃するからだろ・・・・

 

見てみろ、さっきので地形が変わったじゃねぇか。

 

近くに人が住んでなくて良かったよ・・・・・。

 

 

もし、グレモリーの人に怒られたら連帯責任だからな。

 

 

あー、腕やら脚やらあちこちが痛い・・・・

 

「ったく、二人とももう少し手加減してくれよ・・・・修行最終日にして、死にかけたじゃねぇか」

 

それにおっさんが反論する。

 

「何を言う。あの状態のおまえに手加減なんぞすれば、こちらがやられるに決まっているだろう。本気でも勝てるかは分からんというのに」

 

「全くだ」

 

あ、ティアまでそんなことを言いやがる。

 

はぁ、もう疲れたし、これ以上言うのはやめよう・・・・。

 

 

「さて、そろそろ戻るとするか・・・・・イタタタ・・・・」

 

あー、修行で天武の使用時間も延びたけど、使った後は全身がダルいな・・・・。

 

前回よりもマシだけどさ。

 

 

「無理をするな、イッセー。本邸までは私が連れていってやるから」

 

そう言ってくれるティア。

 

いやー、助かるね。

 

流石はティアだ。

 

気が利いてるよ。

 

 

俺がティアの優しさに感動していると、ティアはこちらに背を向けしゃがんだ。

 

え?

 

なに?

 

「ほら、早くしろ。おぶっていってやる」

 

は、はあああああ!?

 

「いやいやいや、ちょっと待て! それは・・・・」

 

俺が焦るのを見てティアは意地悪そうな笑みを浮かべる。

 

「なんだ、恥ずかしいのか?」

 

「そりゃあ、まぁ・・・・・」

 

「ハハハハ! 歴代最強の赤龍帝もおんぶは嫌か!」

 

なんで爆笑してんだよ・・・・

 

赤龍帝とかそんなの関係なしに、俺の歳を考えろ。

 

高校生にもなってお姉さんにおんぶされるとか恥ずかし過ぎるだろ・・・・

 

「いやー、イッセーも可愛いところあるじゃないか! さぁ、私の背に乗れ」

 

「いや、断りましたけど!?」

 

「早くしないとここに置いていくぞ? それでも良いのか?」

 

う・・・・

 

一瞬、歩いて帰ることも考えたが、ここからグレモリー本邸までは二十㎞以上は離れている。

 

今の状態でその距離は辛い・・・・

 

 

 

いや、待て。

 

それならタンニーンのおっさんがいるじゃないか。

 

「お、おっさん・・・・助けて・・・・」

 

「すまんな。ティアマットの機嫌を損ねると後が面倒なんだ。ティアマットの背に乗っていけ」

 

おっさん!?

 

くそぅ、タンニーンのおっさんに見捨てられた・・・・

 

 

 

結局、俺はティアにおんぶされた状態で帰ることになった。

 

 

・・・・・途中、ティアの背中で眠ってしまったことは誰にも言わないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

グレモリー本邸前。

 

「では、俺はこれで帰る。魔王主催のパーティーには俺も参加する予定だ。また会おう、兵藤一誠。それとドライグ」

 

ティアに背負われて帰ってきた俺はタンニーンのおっさんと別れることになった。

 

おっさんは自分の領地に帰るらしい。

 

「色々ありがとう、おっさん」

 

『すまんな、タンニーン。また会おう』

 

「ああ、俺も楽しかったぞ。まさか、ティアマットと共にドライグの宿主の修行に付き合うことになるとは思わなかったぞ。長生きはするものだ。そうだ、パーティー入りの時は俺の背に乗るか?」

 

「いいの?」

 

「ああ、問題ない。俺の眷属を連れて、当日にここへ来よう。ティアマットも一緒に来るか?」

 

「いや、私は予定があるのでな。遠慮しておこう」

 

「そうか。それは残念だ。では、兵藤一誠。さらばだ!」

 

そう言うとおっさんは羽ばたいて空へ消えていく。

 

俺は手を振って見送った。

 

 

 

・・・・ティアの背中の上から。

 

そろそろ下ろしてくれよ。

 

今のティアは人の姿をしてるから、どう見てもお姉さんにおんぶされてる男子高校生にしか見えないんだよ。

 

「さて、私もそろそろ行く。アジュカに呼ばれてるからな」

 

「アジュカさんに? どんな用があるんだよ?」

 

「私とあいつは古い付き合いでな。それで色々とあいつの仕事を手伝ってやってるのさ」

 

へぇ、そうだったんだ。

 

俺はティアの背中からおりる。

 

 

「色々とありがとな。アジュカさんによろしく言っておいてくれ」

 

「ああ。それではな」

 

ティアはそう言うと魔法陣を展開して転移していった。

 

 

さてと・・・

 

「木場、今見たことは黙ってろよ」

 

振り返らずにそう言うと、後ろで驚くような声が聞こえた。

 

「・・・気配は消していたはずなんだけどね」

 

苦笑いしながら建物の陰から出てくる木場。

 

「俺に気付かれないようにするんだったら、気を完全に消さないと無理だぞ。・・・・それにしても、相当腕を上げたみたいだな」

 

木場から感じ取れるオーラの質が修行前よりもずいぶん上がっていた。

 

濃密で静かなオーラだ。

 

流石は木場だ。

 

「イッセー君はずいぶん疲弊してるみたいだけど、どうしたんだい?」

 

「・・・ついさっきまで、龍王二人とガチバトルしてた・・・」

 

「・・・・お疲れさま・・・。肩、貸そうか?」

 

「・・・頼む」

 

木場に肩を貸してもらい、屋敷に入ろうとすると後ろの方から一つの気配が近づいてきた。

 

木場もそれに気付いたのか後ろを振り返る。

 

 

そこにいたのは・・・・全身に包帯を巻いたミイラだった。

 

「おー、イッセーと木場じゃないか。久しぶりだな」

 

「うん、こんなバカなことをするのはおまえくらいだよな、ゼノヴィア」

 

「何があったんだい・・・?」

 

恐る恐る、木場が尋ねる。

 

ゼノヴィアは改めて自分の格好を見て言う。

 

「修行して怪我をして包帯を巻いて、また怪我をして包帯を巻いたらこうなったんだ」

 

「ほとんどミイラ女じゃねぇか!」

 

「失敬な。永久保存されるつもりはないぞ?」

 

「そういう意味じゃねぇよ!」

 

あぁ・・・。

 

出会った時のクールなイメージはどこへやら・・・。

 

いや、修行の成果は見られるけどね。

 

大分強くなってるみたいだし。

 

 

「イッセーさん、木場さん、ゼノヴィアさん! お帰りなさい!」

 

屋敷から出てきたのはアーシアだった。

 

服は制服じゃなくてシスター服。

 

うん、やっぱりアーシアにはこの服だよな。

 

「三人ともお帰り」

 

続いて屋敷から出てきたのは美羽。

 

こっちは完全に私服だった。

 

まぁ、美羽はギャスパーのサポートだから服は適当で良いしね。

 

「おう、ただいま」

 

「あれ? 服は?」

 

「そんなものは疾うの昔に燃え尽きたさ」

 

修行開始数時間で俺の上着はほとんどが炭になったよ。

 

タンニーンのおっさんのブレスでね・・・・。

 

「何か着ないと風邪ひいちゃうよ?」

 

「そうだな。汗を流したら着替えるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

外で修行していた俺、木場、ゼノヴィアはシャワーを浴びて着替えた後、俺の部屋に全員が集まることになった。

 

なんで俺の部屋なのか疑問に思ったけど、一番集まりやすいからという理由でここになったらしい。

 

部長の部屋でいいのでは? という声もあったけど部長が「絶対にダメ!」と強く嫌がったのでナシとなった。

 

なにか見せられないものでもあるのだろうか・・・・?

 

 

まぁ、そんなわけで集まった俺たちは各自の修行を報告していた。

 

木場は師匠との修行顛末、ゼノヴィアはデュランダルをどこまで扱えるようになったかを。

 

俺も龍王二人との修行について話した。

 

皆、完全に引いていた。

 

うん、こうなることはなんとなく予想はついてたよ。

 

だって、グレモリー領の地図を結構変えちゃったもんな。

 

いくつ山が消し飛んだことか。

 

「部長、本当申し訳ないです・・・」

 

「い、いいのよ・・・あの辺りは人もいないし・・・イッセーが無事ならそれで・・・」

 

 

部長、笑顔が引きつってます!

 

そんなに引かないで!

 

俺だってもう少し穏やかにしたかった!

 

だけど、龍王二人が本気で来るんだもん!

 

俺だって本気でいかないと死んじゃうところだったんです!

 

 

・・・・・いや、本当にごめんなさい。

 

 

「それで、どこまでの成果が得られたんだ?」

 

アザゼル先生が尋ねてきた。

 

「とりあえず『昇格(プロモーション)』でどの駒が俺に適しているのかの把握、『天武(ゼノン)』の使用時間の延長はできました。使用後の筋肉痛も以前よりはマシになってます」

 

「まぁ、そんなところだろうな。大体予想通りだ。・・・・ただ、おまえの修行。あれは激しすぎだ。今朝なんて町の方まで衝突音が聞こえてたぞ」

 

マジですか・・・

 

あー、今日は『天武(ゼノン)』を使ってたからより激しくなったんだった。

 

町の皆さん、うるさくして申し訳ないです・・・

 

 

「ま、今日はこんなところだろ。これで報告会は終了だ。特にイッセーは限界が近そうだしな。寝かせてやらねぇと、倒れちまうぞ」

 

先生のおっしゃる通りです・・・

 

疲労が溜まりすぎて限界です・・・

 

眠い・・・

 

「おまえらもこの二週間に渡る集中特訓で相当疲労が溜まってるはずだ。しばらくは十分に体を休ませろ。いいな?」

 

先生の言葉に全員が頷き、そこで解散となった。

 

皆が俺の部屋を後にし、部屋には俺と美羽が残る。

 

「美羽・・・・俺、少し寝るわ・・・」

 

「うん。お休み、お兄ちゃん。修行お疲れ様」

 

 

俺はベッドにダイブして、そのまま眠りについた。

 

 

 



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8話 パーティー会場へ!!

うぅ・・・学校の課題が多すぎて執筆が進まない・・・


パーティー当日。

 

 

俺は黒いタキシードを着て客間で待機していた。

 

・・・・着た、というより着せられたと言った方が正しいか。

 

ヴェネラナさんに命じられたメイドさん達に着替えさせられたんだ。

 

まぁ、パーティーだし、部長達もドレスを着るとのことだしな。

 

俺もこういうのに着替えないとダメなんだろうな。

 

 

「やぁ、イッセー君。結構様になってるね」

 

「イケメン王子に言われてもなぁ」

 

木場もタキシードを着てるんだけど、かなり似合ってる。

 

どこぞの貴族と言われても頷けるくらいだった。

 

 

うーん、やっぱり顔なんだろうか・・・・

 

それとも立ち居振る舞い・・・・?

 

 

ちくしょう! 俺もイケメンに生まれたかった!

 

 

「兵藤と木場じゃないか」

 

振り返ると匙がいた。

 

「おう、久しぶりだな。・・・・なんでここに?」

 

「会長がリアス先輩と一緒に会場入りするから俺達シトリー眷属もついてきたんだ。で、会長は先輩に会いに行ったし、副会長達もどっかに行っちまったから、俺もうろうろしてたんだよ。そしたら、ここに出た」

 

なるほど。

 

つまり、匙は迷ったんだな・・・・

 

この本邸、かなり広いから迷うのも分かるけどね。

 

近くの椅子に座る匙。

 

「聞いたぜ、兵藤。おまえ、ゲームに出られないんだってな」

 

「あー、やっぱり情報いってたのか」

 

そう、結局俺はゲームに参加することが出来なくなった。

 

決まったのは昨日。

 

理由はアザゼル先生が言ってた通りで、俺の実力が皆とかけ離れているからだそうだ。

 

俺も出たかったなー。

 

「会長も残念がってたよ。全力のグレモリー眷属とゲームをしたかったってな」

 

「そっか。でも、俺がいなくても他の皆がいる。舐めてもらっては困るな」

 

「舐めるわけがねぇだろ。木場達も強いのは十分承知してる。・・・・だから、今度のゲームでは全力でいかせてもらうぜ。そのために俺だって修行したんだからな」

 

 

やっぱりシトリーの方も修行してたんだな。

 

匙のオーラが以前よりもかなり上がってる。

 

相当ハードなメニューをこなしたんだろうな。

 

 

「そうそう。俺、おまえに礼が言いたかったんだ」

 

はて?

 

俺、こいつに何かお礼を言われるようなことしたかな?

 

「この間、若手悪魔が集まった時のことだ。会長の夢が上の連中に笑われただろ。・・・・あの時、怒ってくれてありがとな」

 

「なんだ、そんなことかよ。いいよ、お礼なんて。同じ学園に通う仲間として当然のことをしただけだしな」

 

「それでも俺は嬉しかったんだ。おまえが会長の・・・・俺達の夢を認めてくれたようでさ」

 

ソーナ会長の夢。

 

それは冥界に新しいレーティングゲームの学校を作ること。

 

それは上級悪魔や特定の悪魔だけじゃない、全ての悪魔が通える差別のない学校だ。

 

それは匙達の夢でもあるらしい。

 

「認めるもなにも、最高の夢じゃないか」

 

「ああ。だから俺達は何がなんでも夢を叶えるぜ。そのためにも今度のゲーム、絶対におまえ達に勝つ!」

 

「いや、勝つのは俺達さ!・・・・まぁ、俺は出ないけど。木場、何か言ってやれ」

 

俺が振ると木場は苦笑する。

 

「・・・・そこで僕に振るんだ。まぁ、でも僕達が勝つよ。絶対に負けないよ、匙君」

 

木場は不敵に笑みを浮かべて答える。

 

匙も笑っているけど瞳は真剣そのものだ。

 

 

すると、部屋の扉が開いた。

 

「お待たせ、イッセー、祐斗。あら、匙君も来ていたのね」

 

そこにはドレスアップした部員の面々。

 

化粧もしてドレスを着こんで髪も結ってる!

 

皆、お姫様みたいだ!

 

まぁ、部長は本物のお姫様だけど。

 

 

朱乃さんも今日は西洋ドレス姿!

 

メチャクチャ似合ってる!

 

超絶を遥かに超えた美人さんだよ!

 

 

アーシアや小猫ちゃん、ボーイッシュなゼノヴィアも似合ってる!

 

 

 

 

さて、問題はこいつか・・・・

 

「おい、ギャスパー。なんでおまえまでドレスなんだ?」

 

「だ、だって、ドレス着たかったんだもん」

 

こいつは・・・・

 

「サジもここにいたのですね」

 

同じくドレスアップしたソーナ会長。

 

うーん、可愛い!

 

「うおおおおお! 会長ぉぉぉ!! メチャクチャ可愛いですぅぅぅ!!!」

 

匙が興奮して鼻血を吹き出していた。

 

服、汚れるぞ?

 

 

「いいなー、ボクも行きたかったよ」

 

部員の後ろからひょっこり現れたのは私服姿の美羽。

 

美羽は今日もお留守番だ。

 

まぁ、悪魔のパーティーだからね。

 

仕方がないさ。

 

「カッコいいよ、その服」

 

「ありがとな。まぁ、こういう堅苦しい服は苦手なんだけどね」

 

「ダメだよ。こういうのはちゃんとした服を着ないと」

 

おお、流石は元姫。

 

こういうのは厳しいぜ。

 

「美羽が来れないのは残念だな。美羽のドレス姿も見たかったよ」

 

「本当? なら今度、着て見せようか?」

 

「見たいけど・・・・そこまで気を使わなくてもいいよ。それより、今日はどうするつもりだ? 一人だと暇だろ?」

 

「大丈夫だよ。リアスさんのお母さんに冥界の料理を教えてもらうことになってるから」

 

へぇ、そうだったのか。

 

というより、ヴェネラナさんも料理出来たんだな。

 

いや、部長も料理は出来るし、母親のヴェネラナさんが出来ても不思議ではない、かな?

 

 

そんなことを考えていると部屋の扉が再び開き、執事さんが入ってきた。

 

「失礼します。タンニーン様とその眷属の方々がいらっしゃいました」

 

 

 

 

 

 

 

 

庭に出てみるとタンニーンのおっさんの他にもおっさんと同じくらいの大きさのドラゴンが十体もいた。

 

圧巻だな。

 

おっさんの眷属って全部ドラゴンだったのか。

 

「約束通り迎えに来たぞ、兵藤一誠」

 

「ありがとう、おっさん」

 

「おまえ達が背に乗ってる間は特殊な結界を発生させておくから、衣装や髪が乱れる心配はない。気軽にしてくれ」

 

おお!

 

この気の遣いよう、流石はおっさんだ!

 

紳士だぜ!

 

「ありがとう、タンニーン。シトリーの者もいるのだけれど、頼めるかしら?」

 

「おお、リアス嬢。美しい限りだ。もちろん良いぞ」

 

こうして、俺達はドラゴンの背に乗り会場へと向かった。

 

 

俺はおっさんの頭に乗り、空を見渡す。

 

ドラゴンの背から見る風景は絶景だな!

 

『まさか、ドラゴンの上からこの風景を見ることになるとはな』

 

ドライグが苦笑している。

 

ドライグもドラゴンだもんな。

 

何とも言えない体験なのだろう。

 

 

「あー、そう言えばおっさんに聞いてみたいことがあったんだった」

 

「なんだ?」

 

「どうして悪魔になったんだ?」

 

「まぁ、理由は色々あるが、一番の理由はドラゴンアップルだな」

 

「ドラゴンアップル? なにそれ?」

 

「龍が食べるリンゴのことだ」

 

 

そのまんまだな。

 

 

「とあるドラゴンの種族にはそれでしか生きられないものもいてな。人間界にも実っていたのだが、環境の変化により絶滅してしまったのだ」

 

「それヤバいんじゃないの?」

 

「ああ。それによりドラゴンアップルは冥界にしか存在しなくなってしまった。冥界で得ようにもドラゴンは嫌われ者だ。悪魔にも堕天使にも忌み嫌われている。―――だから、俺は悪魔となり、実の生っている地区を丸ごと領土にしたのだよ。上級悪魔以上になれば、魔王から冥界の一部を領土として頂戴できる。俺はそこに目をつけたのだ」

 

「ということは、そのドラゴンの種族はおっさんの領土に住んでいるのか?」

 

「そうだ。今ではドラゴンアップルを人工的に実らせる研究も行っている。特別な果実だから時間はかかるだろう。それでもその種族に未来があるのなら価値はある」

 

すごいな。

 

一つの種族を助けるためにそこまで出来るのか。

 

おっさんこそ、龍の王って感じだよな。

 

「やっぱり、おっさんは良いドラゴンだよ」

 

「ハハハハハハッ! そんな風に言われたのは初めてだ! しかも赤龍帝からの世辞とは痛み入る! だがな、俺は大したことはしていない。種族を存続させるのはどの生き物とて同じことよ。力のある者は力の無い者を救う。これは当然のことだとは思わんか?」

 

「ああ。だけど、その当然が難しいんだよ。それが出来るおっさんはやっぱりすごいと思うぜ?」

 

「そうか」

 

おっさんはそう言うとフッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

会場の近くに到着した後、タンニーンのおっさんとは一度別れて俺たちはパーティー会場に向かっていた。

 

別れた場所から会場までは少し距離があり、グレモリー眷属とシトリー眷属は用意されたリムジンで移動し、そして会場である超高層高級ホテルに入っていく。

 

あっちこっちに武器を持った兵士の人が目に写る。

 

魔王主催のパーティーだからか警備が厳しいんだろうか?

 

 

そうこうしてるうちにリムジンはホテルの入口に到着。

 

リムジンから降りると大勢の従業員の人が迎え入れてくれた。

 

朱乃さんがフロントで確認を取り、エレベーターへ。

 

「最上階の大フロアが会場のようね」

 

ここの最上階って何階なんだ?

 

エレベーターの表示を見てみると・・・・・に、二百っ!?

 

流石は冥界、スケールが桁違いだ。

 

 

俺が建物の階数に驚いているうちに最上階に到着し、エレベーターが開く。

 

 

一歩出ると会場の入口が開かれ、きらびやかな空間が俺達を迎え入れた!

 

フロア全体に大勢の悪魔とうまそうな料理の数々!

 

天井には巨大なシャンデリア!

 

豪華すぎるぜ!

 

 

『おおっ』

 

部長の登場に会場にいた人達が注目し、感嘆の声を漏らしていた。

 

 

「リアス姫はますますお美しくなられた・・・・」

 

「サーゼクス様もご自慢でしょうな」

 

 

流石は部長。

 

どこに行っても注目の的だ。

 

「・・・人がいっぱい・・・・」

 

おどおどしてるけど普通についてきているギャスパー。

 

さっそく修行の成果が出てるな。

 

以前ならダンボールに逃げ込んでいただろうに。

 

後で誉めてやろう。

 

 

「イッセー、挨拶まわりするからついてきて」

 

「へ? あ、分かりました」

 

冥界では俺の存在を知っている人は多く、挨拶をしたいっていう上級悪魔の人達が大勢いるらしい。

 

皆、俺のことに興味津々のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、疲れた」

 

あいさつを終えて、俺はフロアの端にある椅子にアーシアとギャスパーとの三人で座っていた。

 

部長と朱乃さんは遠くの方で女性悪魔の人達と談話してる。

 

木場は女性悪魔の人達に囲まれてキャーキャー言われていた。

 

クソ! やっぱりイケメンは敵だ!

 

 

あー、もう帰りたくなってきた。

 

だって挨拶長いんだもん。

 

しかも中にはトレードしないか、とかふざけたことを言ってくるやつもいたし。

 

トレードというのは王の悪魔の間で同じ駒同士の眷属を交換する制度のことだ。

 

つまり、俺を自分の眷属にしたいから自分の眷属と交換してくれと言う意味だ。

 

全くもってふざけてるな。

 

 

『(悪魔というのは本来、欲が強い種族。それゆえ相棒のような強者を自分の配下にしたいという者も出てくるだろうさ)』

 

そういうのは全部お断りだぜ。

 

俺は部長以外に主を持つつもりはないからな。

 

 

「イッセー、アーシア、ギャスパー、料理をゲットしてきたぞ、食え」

 

ゼノヴィアが料理が乗った大量の皿を器用に持ってやってきた。

 

「サンキュー、ゼノヴィア」

 

「このくらいお安いご用だ。ほら、アーシアも飲み物くらいは口をつけておけ」

 

「ありがとうございます、ゼノヴィアさん。・・・・私、こういうのは初めてで、緊張して喉がカラカラでした・・・」

 

アーシアはゼノヴィアからグラスを受けとると口をむける。

 

俺も料理を受け取り、口に運ぶ。

 

うーん、美味い。

 

 

俺が料理に舌鼓を打っていると、人が近づいてきた。

 

ドレスを着た女の子だった。

 

「お、お久しぶりですわね、赤龍帝」

 

「えーと、レイヴェル・フェニックスだっけ?」

 

「そうですわ」

 

そう、部長の元婚約相手、ライザーフェニックスの妹。

 

いやー、懐かしいな。

 

数ヶ月ぶりか?

 

「元気そうだな。そういえば兄貴は元気か?」

 

ライザーのことを聞いたら、レイヴェルは盛大にため息をついた。

 

「・・・・あなたに敗北してから塞ぎ込んでしまいましたわ。負けたこととリアス様をあなたに取られたことがショックだったようです。いえ、それ以前にあなたが最後に放った一撃。あの時の恐怖心が未だに残っているようですわ」

 

あらら・・・

 

部長から引きこもってるって話は聞いてたけど、本当だったんだな。

 

 

「まぁ、才能に頼って調子に乗っていたところもありますから、良い勉強になったはずですわ」

 

手厳しいな。

 

兄貴もバッサリ切りますか。

 

「・・・・容赦ないね。一応、兄貴の眷属なんだろう?」

 

「それなら問題ありませんわ。今はトレードを済ませて、お母様の眷属ということになってますの。お母様はゲームをしませんから実質フリーの眷属ですわ」

 

へぇ、今はライザーの眷属じゃないのか。

 

 

「と、ところで赤龍帝・・・・」

 

「そんなに堅くならなくても良いって。普通に名前で呼んでくれ。皆からは『イッセー』って呼ばれてるしさ」

 

「お、お名前で呼んでもよろしいのですか!?」

 

・・・・なんで、そんなに嬉しそうにしてるんだ?

 

「コ、コホン。で、ではイッセー様と呼んで差し上げてよ」

 

「いやいや、『様』は付けなくて良いって」

 

「いいえ! これは大事なことなのです!」

 

 

・・・・そ、そうなのか?

 

うーん、良く分からんね。

 

そこへ更に見知ったお姉さんが登場した。

 

「レイヴェル。旦那様のご友人がお呼びだ」

 

この人はライザーの戦車、イザベラさんだ。

 

「分かりましたわ。では、イッセー様、これで失礼します。こ、今度お会いできたら、お茶でもいかがかしら? わ、わわ、私でよろしければ手製のケーキをご用意してあげてもよろしくてよ?」

 

レイヴェルはドレスの裾をひょいと上げ、一礼すると去っていった。

 

良くわからん娘だなぁ。

 

「やぁ、兵藤一誠。会うのはゲーム以来だ」

 

「ああ、久しぶりだ、イザベラさん」

 

「ほう、私の名前を覚えていてくれたとは、嬉しいね。君の噂は聞いているよ。大活躍しているようじゃないか」

 

「そこまで活躍した記憶は無いんだけどね。・・・・一つ聞いていいか?」

 

「なんだい?」

 

「俺、レイヴェルに何かしたかな? 俺と話している時、メチャクチャ緊張してるみたいだったからさ」

 

俺がそう尋ねるとイザベラさんは苦笑する。

 

「君を怖がってるとかそんなんじゃないから安心してほしい。・・・・正確にはその感情とは全く逆な訳だが・・・。まぁ、それは私からは言わない方が良いだろう」

 

「? 良くわからないけど・・・・、お茶はOKだと言っておいてくれ」

 

「本当か? それはありがたい。レイヴェルも喜ぶ。では、私もこれにて失礼する。兵藤一誠、また会おう」

 

イザベラさんはこちらに手を振って去っていった。

 

 

「・・・イッセー先輩って、悪魔の人と交友が多いんですね」

 

ギャスパーが尊敬の眼差しでそう言うんだけど・・・・。

 

そんなに多いかな?

 

 

すると、俺の視界に小さな影が映った。

 

―――小猫ちゃんだ。

 

何やら急いでいる・・・・というより何かを追いかけている?

 

なんだ・・・・?

 

嫌な予感がする・・・・。

 

「アーシア、ゼノヴィア、ギャスパー。俺、少しここを離れるわ」

 

「どうしたんですか、イッセーさん? もうすぐサーゼクス様の挨拶が始まりますよ?」

 

「ちょっと用を思い出してな。すぐに戻ってくるさ」

 

「分かった。私達はここにいるぞ」

 

 

俺は席を立って小猫ちゃんを追いかける。

 

エレベーター?

 

下に向かっているのか?

 

隣のエレベーターの扉が開き、俺はそれに乗り込む。

 

すると、俺に続いてエレベーターに乗ってきた人がいた。

 

「部長?」

 

「イッセー、私も行くわ。小猫を追いかけているのでしょう?」

 

「あ、部長も気づいたんですね」

 

「当然よ。私はいつでもあなた達のことを見ているのだから」

 

 

 

 

 

 



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9話 黒猫

俺と部長はエレベーターで一階まで降りた後、外に出た。

 

 

「イッセー、小猫の気配は追えるかしら?」

 

「はい。今は森の奥に向かってるみたいです」

 

「森? ホテル周辺の森にあの子は行ったのね?」

 

「みたいですね。俺達も行きましょう」

 

「分かったわ」

 

 

ホテルから少し離れた森の中を俺と部長は走り抜く。

 

森の中はある程度は人の手が入っているようで部長も問題なく走れている。

 

森を進むこと数分。

 

俺は部長の手を引いて木の影に隠れる。

 

顔を覗かせると小猫ちゃんを視認できた。

 

 

小猫ちゃん以外の気配を感じる・・・・

 

誰だ?

 

 

小猫ちゃんもそれに気づいたのかその気配がした方へと視線を移す。

 

 

「久しぶりじゃない、白音。元気してた?」

 

聞き覚えのない声。

 

現れたのは黒い着物を身に包んだ女性。

 

頭部に猫耳・・・・ってことは、もしかして・・・・・

 

 

「黒歌姉さま・・・・!」

 

目を見開き、絞り出すような声を出す小猫ちゃん。

 

やっぱり、あの女性が小猫ちゃんのお姉さん・・・・

 

確かにどことなく似ているような気もする。

 

 

そういえばさっき、あの人は小猫ちゃんのことを『白音』って呼んでたな。

 

それが小猫ちゃんの本名・・・・?

 

 

それにしても美人だな。

 

おっぱいも部長や朱乃さんに負けないくらい大きいぞ!

 

小猫ちゃんも将来あんな感じになるのかな?

 

それは楽しみだぜ!

 

 

お姉さんの足元に黒い猫がすり寄る。

 

「会場に紛れ込ませたこの黒猫一匹でここまで来てくれるなんて、お姉ちゃん感動しちゃうにゃー」

 

なるほど。

 

小猫ちゃんはあの黒猫を追いかけてここまで来たのか。

 

「・・・・姉さま。どういうつもりですか?」

 

「そんな怖い顔しないでほしいにゃ。ちょっと野暮用なのよ。まぁ、悪魔さんのパーティーを見に来たって感じかにゃん♪」

 

手を猫みたいにしてウインクするお姉さん!

 

うん、可愛いぞ!

 

猫耳お姉さん、最高だな!

 

 

ギュゥ

 

 

イタタタ・・・・部長、頬を引張らないでくださいよ・・・・

 

 

すると、感じたことのある気配が現れる。

 

「ハハハハ、こいつ、もしかしてグレモリー眷属かい?」

 

そう言って姿を表したのは古代中国の鎧みたいなのを着た男。

 

会談の時にヴァーリを迎えに来た孫悟空の末裔、美候。

 

あいつがいるってことは小猫ちゃんのお姉さんもヴァーリの仲間ってところか。

 

 

ふいに美候の視線がこちらに向けられる。

 

「気配を消しても無駄無駄。俺っちや黒歌みたいに仙術知ってると、気の流れの少しの変化でだいたいわかるんだよねぃ」

 

あれ?

 

俺は完全に気を消していたから気付かれるはずがないんだけど・・・・

 

 

あ、部長か・・・・

 

 

はぁ・・・・

 

俺は渋々姿を現すことにした。

 

部長もそれに続く。

 

俺達を確認して小猫ちゃんは驚いていた。

 

「・・・・イッセー先輩、リアス部長」

 

「よう、この間ぶりだな。クソ猿さん。ヴァーリは元気かよ?」

 

「おいおい、赤龍帝もいたのかよ。おまえさんには気付かなかったぜぃ。ヴァーリのやつは元気にやってるよ。おまえさんとの再戦に燃えて今も修行してるはずだぜぃ」

 

うわー、その情報は聞きたくなかった。

 

ヴァーリのやつマジで燃えてそうだもん。

 

げんなりしている俺を見て美猴はケラケラ笑う。

 

「もしかしたら、ヴァーリが挑みにいくかもしんねぇけど、その時はよろしく頼むわ」

 

「・・・・出来れば来ないでほしいね。・・・まぁ、それは置いといて、なんでここにいるんだよ? テロか?」

 

俺が直球に聞いてみると、二人は軽く笑んだ。

 

「いんや、そういうのは俺っちらには降りてきてないねぃ。今日は俺も黒歌も非番なのさ。したら、黒歌が悪魔のパーティ会場を見学してくるって言いだしてねぃ。なかなか帰ってこないから、こうして迎えに来たわけ。OK?」

 

無駄に話してくれたけど、嘘はついていないみたいだ。

 

「美猴、この子が赤龍帝?」

 

小猫ちゃんのお姉さんが俺を指差して美猴に尋ねる。

 

「そうだぜぃ」

 

それを聞いて、お姉さんは目を丸くする。

 

「へぇ~。これがヴァーリを退けたスケベな現赤龍帝なのね」

 

お姉さんがマジマジと俺を見てくる。

 

 

スケベな現赤龍帝、か。

 

否定は出来んね。

 

『そこは否定しろ』

 

それは無理だぜ、ドライグ。

 

だって、事実だし。

 

 

 

美猴はあくびをしながら言う。

 

「黒歌~、帰ろうや。どうせ俺っちらはあのパーティに参加できないんだしよぅ」

 

「そうね。でも、白音はいただいて行くにゃん。あのとき連れていってあげられなかったしね♪」

 

「勝手に連れ帰ったらヴァーリが怒るかもだぜ?」

 

「この子にも私と同じ力が流れていると知れば、オーフィスもヴァーリも納得するでしょ?」

 

「そりゃそうかもしれんけどさ」

 

お姉さんが目を細めると、小猫ちゃんはそれを見て体をビクつかせる。

 

嫌がっている・・・・というよりは怖がっているようだ。

 

 

 

すると、部長が間に入る。

 

「この子は私の眷属よ。指一本でも触れさせないわ」

 

この行動を見て、美猴もお姉さんも笑う。

 

「あらあらあらあら、何を言っているのかにゃ?それは私の妹。上級悪魔様にはあげないわよ」

 

「それによぅ、俺っちと黒歌を相手には出来んでしょ? 今回はその娘もらえればソッコーで帰るからさ、それで良しとしようやな?」

 

 

 

「おいおい、ふざけたことぬかすなよ。ここには俺がいるんだぜ?」

 

俺は部長と小猫ちゃんの前に立つ。

 

「小猫ちゃんを連れていく? させるわけがねぇだろ」

 

ピリッ。

 

俺と美猴、小猫ちゃんのお姉さんが睨み合い、周囲の空気が変わる。

 

だけど、お姉さんは睨むのを止めてニッコリと笑う。

 

「めんどいから殺すにゃん♪」

 

その瞬間、妙な感覚が俺を襲う。

 

これは・・・・結界か?

 

「……黒歌、あなた、仙術、妖術、魔力だけじゃなく、空間を操る術まで覚えたのね?」

 

部長が苦虫を噛んだ表情で言う。

 

「時間を操る術までは覚えられないけどねん。空間はそこそこ覚えたわ。結界術の要領があれば割かし楽だったり。この森一帯の空間を結界で覆って外界から遮断したにゃん。だから、ここでド派手な事をしても外には漏れないし、外から悪魔が入ってくる事もない。あなた達は私達にここでころころ殺されてグッバイにゃ♪」

 

なるほど・・・・。

 

俺達を森ごと閉じ込めたってわけか。

 

援軍は来ないのは別に良いとして、問題は小猫ちゃんの目の前でお姉さんと戦うことになることか・・・・。

 

逃がそうにも結界の外に逃げられそうにはない。

 

俺が力を解放すれば結界を壊せるだろうけど、その時の余波で部長や小猫ちゃんが傷つくかもしれない。

 

さて、どうするかな・・・・。

 

 

俺が考えていた時だった。

 

空から声が聞こえてくる。

 

「リアス嬢と兵藤一誠がこの森に行ったと報告を受けて急いで来てみれば、結界で封じられるとはな・・・・」

 

「タンニーンのおっさん!」

 

良いタイミングで来てくれた!

 

どうやら、小猫ちゃんのお姉さんが結界を張る直前に入り込んだみたいだ!

 

「おっさん! 部長と小猫ちゃんを頼めるか? この二人の相手は俺がするから!」

 

俺がそう言うと部長と小猫ちゃんは驚いていた。

 

小猫ちゃんが俺の服の袖を掴む。

 

「・・・・ダメです! 姉さまの力は私が一番よく知っています。姉さまの力は最上級悪魔に匹敵するもの。いくらイッセー先輩でも幻術と仙術に長ける姉さまを捉えきれるとは思えません。姉さまだけでも勝つことは難しいのに、あの男の人も同時に相手にするなんて・・・・」

 

そう言う小猫ちゃんは泣きそうな顔をしていた。

 

自分のために誰かが傷つくのが嫌なのだろう。

 

俺は小猫ちゃんの頭を撫でて上げる。

 

「大丈夫。心配ないよ、小猫ちゃん。・・・・俺を信じてくれ。絶対に守るから。・・・・・部長、小猫ちゃんを連れておっさんのところへ」

 

「・・・・分かったわ。小猫・・・」

 

部長は何か言いたげだったけど、頷いて小猫ちゃんと共にタンニーンのおっさんの背に乗る。

 

 

 

「へぇ。私達を同時に相手にしようだなんて、言ってくれるじゃない。よっぽど自信があるのかしら?」

 

「いんや、黒歌。赤龍帝はヴァーリを倒してるんだぜぃ? 舐めてかかるとこっちがやられるって」

 

美猴は黒歌に注意を促すとどこからか棍を取り出す。

 

・・・・どっから出したんだろう?

 

まぁ、それは今はどうでもいいか。

 

俺も籠手を展開してアスカロンを引き抜く。

 

「そりゃ龍殺しの聖剣かい? ドラゴンが龍殺したぁシャレてるねぃ」

 

「やっぱりそう思う?」

 

俺と美猴は軽口を叩きながら笑う。

 

そして―――

 

 

 

ギィン!

 

 

互いの剣と棍が衝突し、火花を散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そら!」

 

「おっと!」

 

俺と美猴の互いの武器が衝突し次々に火花を散らしていく。

 

何合か打ち合っているけど今のところはこれといったダメージを受けてもないし、与えてもいない。

 

「へぇ、神器無しでも強いじゃねぇの。流石はヴァーリを倒すことはあるか!」

 

そう言いながら美猴は棍で殴りかかってくる。

 

俺はそれをアスカロンで受け止める。

 

「そりゃあ、鍛えてるからな!」

 

 

すると、周囲に黒い霧が発生していた。

 

濃いっていうほどじゃない。

 

前方が確認できるからな。

 

ただ、不気味な雰囲気を持っていた。

 

ふと、横を見ると黒歌の体から発せられている。

 

 

なんだこれ?

 

 

「ありゃりゃ? この霧は悪魔や妖怪になら効く毒霧なんだけど・・・・・。赤龍帝には効かないのかしら? ドラゴンだから?」

 

今、サラリとえげつないこと言ったな。

 

これ毒霧かよ!

 

まぁ、俺には効かないみたいだけどさ。

 

部長と小猫ちゃんに退避してもらっといて正解だったな。

 

 

「毒霧が効かないのなら撃っちゃうにゃん♪」

 

お姉さんから魔力の弾らしきものが放たれる。

 

生身でくらうのはマズそうなので、俺はアスカロンを振るい魔力弾を真っ二つに斬る。

 

素の隙に美猴が俺に攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「伸びろ!如意棒ッ!」

 

うおっ!?

 

美猴の棍が伸びた!?

 

「便利だなそれ!」

 

「だろ? ほしいかい? まぁ、やらないけどねぃ」

 

「いや、別にほしいとは言ってないけど」

 

それにアザゼル先生あたりに頼めば作ってくれそうだし・・・

 

 

とりあえず、俺は次々と放たれる美猴と黒歌の攻撃を捌きながらアスカロンによる斬撃と気弾による攻撃を繰り出す。

 

気弾が黒歌に命中・・・・したかのように見えたが、黒歌の姿が霧散する。

 

「良い一撃ね。でも、無駄よ。自分の分身くらい幻術で簡単に作れるわ」

 

黒歌の声が森に木霊する。

 

フッと霧の中に人影が次々と生まれ、その全てが黒歌!

 

幻術か!

 

 

いやー、それにしても美女がいっぱいいるってのは幻だとしても良い光景だな!

 

俺に棍を振り降ろしてくるこのクソ猿も美女だったら最高なのによ!

 

「ねぇ、美猴。なんか喜ばれてるような気がするんだけど・・・・」

 

「俺っちに聞くな! つーか、なんで赤龍帝は俺っちを残念そうな目で見てくる!?」

 

そりゃ、男となんざ戯れたくないわ!

 

小猫ちゃんのお姉さんと代われ!

 

 

ギィィンッ!

 

 

振り降ろされた棍をアスカロンで弾き、一旦距離を取る。

 

アスカロンを構えて、二人と視線を合わせる。

 

すると、美猴が尋ねてきた。

 

「なぁ、赤龍帝。鎧は使わないのかい? さっきから全然本気を出してないじゃねぇの」

 

「まぁな。今回はアスカロンを使う良い機会だったんだよ。おかげで大分慣れてきたけどな」

 

「そいつぁ良かった。それで? いつまで続けるよ?」

 

「出来れば、おまえ達にはこのまま帰ってほしいところだよ。小猫ちゃんの前でお姉さんを倒すのも気が引けるしな」

 

「だってよ。言われてるぜ、黒歌」

 

美猴が尋ねると黒歌は目を細めて俺目掛けて殺気を放ってくる。

 

「へぇ、ずいぶん舐めたこと言ってくれるじゃない。私に帰ってほしいなら白音を渡しなさい。あの子は私の妹よ」

 

「それは無理だ。小猫ちゃんは俺達の大切な仲間だ。渡すわけにはいかないな。・・・・・それに今、小猫ちゃんは自身の力と向き合おうとしている。しばらくはそっとしておいてくれないか?」

 

「なら尚更、連れていかないわけにはいかないわね。白音の力は私が一番分かってる。私があの子の力を見てあげるのが一番だとは思わない?」

 

「それを小猫ちゃんが嫌がってもか?」

 

「それがあの子のためよ」

 

互いの意見が平行線を辿る。

 

これは何がなんでも小猫ちゃんを連れていくつもりだな・・・・。

 

仕方がない。

 

お姉さんには悪いけど、ここは強引にでもお引き取り願うか・・・・。

 

まぁ、強引と言っても傷つける気はないけどね。

 

俺はアスカロンを籠手に収納する。

 

 

 

禁手化(バランス・ブレイク)ッ!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 

鎧を纏った俺の体から、莫大なオーラが発せられる!

 

 

禁手の余波で、地面が揺れて森がざわめく。

 

そして、周囲を覆っていた結界に亀裂が入り、崩れ去る。

 

 

「結界が・・・・っ!?」

 

「今代の二天龍は両方化け物だねぃ」

 

結界が崩れたことに驚愕の表情を浮かべる黒歌と美猴。

 

 

その時、美猴の後ろの空間に裂け目が生まれた。

 

なんだ?

 

俺が疑問に思っていると裂け目から一人の若い男が現れた。

 

背広を着て、手には極大のオーラを放つ剣が握られている。

 

あの剣は・・・・聖剣か?

 

「そこまでです、美猴、黒歌。悪魔が気づきましたよ」

 

眼鏡をした男性はそう言う。

 

口振りからするに二人の仲間か?

 

「おまえ、ヴァーリの付き添いじゃなかったかい?」

 

「黒歌が遅いのでね、見に来たのですよ。そうしたら美猴までいる。まったく、何をしているのやら」

 

ため息をつく男性。

 

「兵藤一誠、そいつに近づくな! 手に持っているものが厄介だぞ!」

 

タンニーンのおっさんが俺にそう叫ぶ。

 

「聖王剣コールブランド。またの名をカリバーン。地上最強の聖剣と呼ばれるコールブランドが白龍皇のもとにあるとは・・・・」

 

マジか。

 

あれが最強の聖剣・・・・・

 

ゼノヴィアのデュランダルよりも強いんだろうか・・・・?

 

「そっちの鞘に収めている方も聖剣だな?」

 

「これは最近見つけ出した最後のエクスカリバーにして、七本中最強のエクスカリバー。『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』ですよ」

 

おいおい、それって行方不明になってるっていうやつじゃ・・・・・。

 

「そんなに話して平気なの?」

 

黒歌の言葉に男性は頷く。

 

「ええ、実は私もそちらのお仲間さんに大変興味がありましてね。赤龍帝殿、聖魔剣の使い手さんと聖剣デュランダルの使い手さんによろしく言っておいてくださいますか?いつかお互い一剣士として相まみえたい―――と」

 

大胆不敵というか。

 

あの二人がこの話を聞いたらどう思うだろうか。

 

「さて、逃げ帰りましょうか」

 

男性が手に持つ聖剣で空を斬ると空間の裂け目が更に広がり、人が数人潜れるほどの大きさになる。

 

男性と美猴が先に潜り、最後に残った黒歌もそれにつづこうとする。

 

それを俺は呼び止める。

 

「なぁ、小猫ちゃんのお姉さん」

 

「なによ?」

 

「・・・・あんた、本当に力に呑まれて主を殺したのか?」

 

俺がそう尋ねると黒歌は軽く笑みを浮かべた。

 

 

 

「さぁ、どうだったかしら」

 

 

 

それだけ言い残すと黒歌は空間の裂け目を潜り、この場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

それから五分後。

 

騒ぎを嗅ぎ付けた悪魔の皆さんに俺達は保護された。

 

そして、魔王主催のパーティーは『禍の団(カオス・ブリゲード)』の襲来により急遽中止となった。

 

 



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10話 ゲーム直前です!!

[アザゼル side]

 

 

 

「失態ですね」

 

 

魔王領にある会談ルームでうちの副総督シェムハザが開口一番にそれを言った。

 

俺は隣で茶を啜りながら「ほどほどにな」と心中で呟く。

 

魔王主催のパーティーは『禍の団(カオス・ブリゲード)』の襲撃を受け、急遽中止となった。

 

いや、結果的にそうなったと言うべきか。

 

冥界指名手配中のSS級はぐれ悪魔『黒歌』と闘戦勝仏の末裔、美猴がパーティーを見に来ていたことなど、誰も予想だにしなかっただろう。

 

最終的にはイッセーが一人で追い払ったおかげで被害を出さずに済んだものの、パーティー会場の隙を突かれたのは、他の勢力にとって、悪魔の警戒心の有無を疑うものだろうさ。

 

 

見ての通り、我らが副総督シェムハザ君と天使側のセラフさん達は額にシワを寄せてご立腹だ。

 

まぁ、俺は人のこと言えないからここは黙っとくか。

 

総督の俺がハメを外してカジノに夢中だったなんてことが知れたら、後で何を言われるか・・・・。

 

 

シェムハザが更に報告する。

 

「相手は『禍の団(カオス・ブリゲード)』独立特殊部隊『ヴァーリチーム』の孫悟空『美猴』と猫魈『黒歌』、更に聖王剣コールブランド所持者も関与。一人一人が絶大な力を有するチームの三名も侵入するとは・・・・・。だいたい悪魔の管理能力は―――」

 

あーあ、また始まったよ。

こいつの小言は長ぇんだ。

 

それにしてもヴァーリのやつ、とんでもないメンバーを揃えたもんだな。

メンバー全員が最上級悪魔クラス。

ヴァーリ本人も魔王クラスときたもんだ。

もう、ヴァーリチームは一個の軍隊として数えても良いくらいだな。

 

 

 

そんなやつらを追い払うイッセーもとんでもないと思うがな・・・・・。

 

 

イッセーもヴァーリもその実力はすでに魔王クラス。

しかも、まだ成長途中だというから恐ろしい。

タンニーンも言っていたが、白は覇龍を使い、赤は禁手(バランス・ブレイカー)の上の領域に立つ、か。

今代の赤と白は本当に規格外だよ。

 

 

ちなみに、タンニーンはチビドラゴンと化してこの会議に参加している。

 

と言っても、端の方で上役達ともうすぐ開かれるリアスとソーナ・シトリーの戦いを予想しているのだが。

 

「俺はリアス嬢を応援させてもらおうか。今のリアス嬢が兵藤一誠を抜きでどこまでやれるのか見てみたい」

 

「アザゼルのもたらした知識はレーティングゲームに革命を起こしそうだよ。下手すれば半年以内に上位陣に変動があるかもしれない」

 

「そりゃよかった。ここ十数年もトップの十名に変化がなかったものですから。これでおもしろいゲームが拝めそうですな」

 

ハハハ、同盟結んでから緊張感ねぇなぁ。

こんな調子で大丈夫かね、三大勢力。

 

 

その時、部屋の扉が開かれる。

入ってきた人物を見て全員が度肝を抜かれた。

 

「ふん。若造どもは老体の出迎えもできんのか」

 

古ぼけた帽子をかぶった隻眼の爺さん。

白く長い髭を生やしており、それは床につきそうなぐらい長い。

 

服装は質素なローブで、杖をしている。

 

「―――オーディン」

 

 

そう、現れたのは北欧の神々の主神、オーディン。

鎧を着た戦乙女のヴァルキリーを引き連れてのご来場だ。

 

「おーおー、久しぶりじゃねぇか、北の田舎クソジジイ」

 

俺が悪態をつくと、オーディンは髭をさする。

 

「久しいの、悪ガキ堕天使。長年敵対していた者と仲睦まじいようじゃが・・・・・また小賢しいことでも考えているのかの?」

 

「ハッ! しきたりやら何やらで古臭い縛りを重んじる田舎神族と違って、俺ら若輩者は思考が柔軟でね。わずらわしい敵対意識よりも己らの発展向上だ」

 

「弱者どもらしい負け犬の精神じゃて。所詮は親となる神と魔王を失った小童の集まり」

 

チッ・・・・。

このクソジジィは口数だけは相変わらず減らねぇ。

 

「独り立ち、とは言えないものかね、クソジジィ」

 

「悪ガキどものお遊戯会にしか見えなくての、笑いしか出ぬわ」

 

・・・・ダメだこりゃ。埒が明かねぇ。

 

 

そこへサーゼクスが席を立ってオーディンに挨拶をする。

 

このクソジジィにそんなものがいるかね?・・・・と思う俺は間違ってない。

 

 

「お久しゅうございます、北の主神オーディン殿」

 

「……サーゼクスか。ゲーム観戦の招待来てやったぞい。しかし、おぬしも難儀よな。本来の血筋であるルシファーが白龍皇とは。しかもテロリストとなっている。悪魔の未来は容易ではないのぉ」

 

オーディンが皮肉を言うが、サーゼクスは笑みを浮かべたままだ。

 

ジジイの視線がサーゼクスの隣のセラフォルーに移る。

 

「時にセラフォルー。その格好はなんじゃな?」

 

セラフォルーの格好は日本のテレビアニメの魔女っ子だ。

 

こいつもコスプレ好きだね。

そのおかげで、妹が苦労しているみたいだが・・・・・

 

「あら、オーディンさま! ご存知ないのですか? これは魔法少女ですわよ☆」

 

ピースサインを横向きにチェキしやがったよ。

 

「ふむぅ。最近の若い者にはこういうのが流行っておるのかいの。なかなか、悪くないのぅ。ふむふむ、これはこれは。こういうのは我が北欧でも取り入れていこうかのぅ」

 

スケベジジイめ。

セラフォルーのパンツやら脚やらをマジマジと眺めてやがる。

つーか、北欧にこれを取り入れるのは色々マズいんじゃないのか?

 

そこにお付きのヴァルキリーが介入する。

 

「オーディンさま、卑猥なことはいけません!ヴァルハラの名が泣きます!」

 

「まったく、おまえは堅いのぉ。そんなんだから勇者の一人や二人、ものにできんのじゃ」

 

オーディンのその一言にヴァルキリーは泣きだす。

おいおい、なんだよ、こいつは。

 

「ど、どうせ、私は彼氏いない歴=年齢の戦乙女ですよ!私だって、か、彼氏ほしいのにぃ!うぅぅ!」

 

オーディンは嘆息する。

 

「すまんの。こやつはわしの現お付きじゃ。器量は良いんじゃが、いかせん堅くての。男の一つもできん」

 

ジジイの人選が分からん。

あんた、護衛の意味知ってんのか?

あんたを守れるとは思えんが・・・・・まぁ、他の業界へのツッコミはいいか。

 

「聞いとるぞ。サーゼクス、セラフォルー、おぬしらの身内が戦うそうじゃな?まったく大事な妹たちが親友同士というのにぶつけおってからに。タチが悪いのぉ。さすがは悪魔じゃて」

 

「これぐらいは突破してもらわねば、悪魔の未来に希望が生まれません」

 

「うちのソーナちゃんが勝つに決まっているわ☆」

 

魔王様は自分の妹が勝つと信じているようで。

まぁ、この二人は究極のシスコンだ。

当然と言えば当然か。

 

オーディンは空いてる席に座る。

 

「さてと。『禍の団』もいいんじゃがの。わしはレーティングゲームを観に来たんじゃよ。―――日取りはいつかな?」

 

オーディンのその言葉に場は今度開かれるゲームの話題へと移った。

 

 

 

それから、俺は休憩といって席を立ち、廊下の長椅子で休んでいた。

 

あー、お偉方でやる会談やら会議は肩が凝るぜ。

 

 

首を回しているとサーゼクスがやって来た。

なんだ、こいつも抜け出してきたのか。

サーゼクスは俺の隣に座ると尋ねてきた。

 

「アザゼル、今回のゲームをどう見てる? 今回のゲーム、イッセー君が参加できないことになってしまったが・・・・」

 

「なるほどな・・・・・。イッセーはリアス達の柱的な存在だ。これまでもイッセーがいたから切り抜けられたと言ってもいい。そんなイッセーがいない状態であいつらがどう戦うか気になるってところか」

 

俺がそう言うとサーゼクスは頷く。

 

 

「まぁ、普段より力は出せるんじゃないのか? 今回、イッセーは観戦に回ると知って、あいつらは無様なところは見せられないって気合い入れてたからな」

 

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

 

 

シトリー眷属とのゲーム決戦前夜。

 

俺達は再び俺の部屋に集まり、最後のミーティングをしていた。

 

ちなみに俺の部屋に集まった理由は修行報告会の時と同じ理由だ。

 

 

パーティー会場では美猴や小猫ちゃんのお姉さんの襲来もあったけど、俺が追い払ったことで一応の決着はついた。

 

 

いやー、俺も事件の当事者として事情聴取を受けたけど担当の悪魔さんがサインを求めてきた時は驚いたね。

なんでも娘さんが俺のファンらしい。

グレモリー家の悪魔教育のおかげで助かったよ。

悪魔文字で自分の名前を何回もノートに書かされたからサインもなんとかなった。

 

で、今はミーティングだったな。

 

「リアス、ソーナ・シトリーはグレモリー眷属のことをある程度知っているんだろう?」

 

先生の問いに部長は頷く。

 

「ええ、おおまかなところは把握されているわね。祐斗や朱乃、アーシア、ゼノヴィアの主力武器は認識されているわ。フェニックス家との一戦を録画したものは一部に公開されているもの。更に言うならギャスパーの神器や小猫の素性も知られているわ」

 

「ほぼ知られてるわけか。で、おまえはどのくらいあちらを把握してる?」

 

「ソーナのこと、副会長である『女王』のこと、他数名の能力は知っているわ。一部判明していない能力の者もいるけれど」

 

「不利な面もあると。まあ、その辺はゲームでも実際の戦闘でもよくあることだ。戦闘中に神器が進化、変化する例もある。細心の注意をはらえばいい。相手の数は八名か」

 

「ええ『王』一、『女王』一、『戦車』一、『騎士』一、『僧侶』二、『兵士』二で八名。まだ全部の駒はそろっていないみたいだけれどイッセーが抜ける分、数ではこちらより一人多いわ」

 

なんか申し訳ないね。

俺が抜ける分、数的にも不利。

しかも俺達はオフェンスに回れる人数が元々少ないからかなり痛いな。

 

アザゼル先生が用意したホワイトボードに書き込んでいく。

 

「レーティングゲームは、プレイヤーに細かなタイプをつけて分けている。パワー、テクニック、ウィザード、サポート。このなかでなら、リアスはウィザードタイプ。いわゆる魔力全般に秀でたタイプだ。朱乃も同様。木場はテクニックタイプ。スピードや技で戦う者。ゼノヴィアはスピード方面に秀でたパワータイプ。一撃必殺を狙うプレイヤーだ。アーシアとギャスパーはサポートタイプ。さらに細かく分けるなら、アーシアはウィザードタイプのほうに近く、ギャスパーはテクニックタイプのほうに近い。小猫はパワータイプだ」

 

いきなり、覚えることが増えたな。

俺もそのうちゲームに出るんだし、覚えておかないとな。

木場達がどの位置のタイプなのか、グラフに名前を書いていく。

木場はテクニック、ゼノヴィアはパワーと、各メンバーがどの位置にいるのか、図にしてもらった。

 

 

あれ?

俺の解説がないぞ?

 

「先生、俺は?」

 

その質問を聞き、皆が興味津々といった感じに先生を見る。

 

「イッセーか。・・・・おまえはウィザード以外は全てこなせる。パワー、スピード、テクニックの方面で活躍できる。更にはサポートタイプのほうにもいける。ギフトの力でな」

 

へぇ、俺って結構活躍できるんだな。

ウィザード・・・・魔力方面では全く活躍できそうにないのが情けないところだが・・・・・。

 

アザゼル先生の解説を聞いて部長が言う。

 

「それだけあれば十分万能よ。逆に使い所が多すぎて困ってしまうわ」

 

「イッセーが参加した場合、若手悪魔のゲームなら下手な戦略はいらんだろう? 『ガンガン行こうぜ』方式でやった方が楽かもな」

 

「・・・・そんなことをすれば私の評価は下がってしまうわよ」

 

部長が盛大にため息をつく。

そっか、ゲームは一人の眷属が強すぎてもダメなんだよな。

勝つまでの戦略が重要になるんだ。

いやー、レーティングゲームって奥が深いよなぁ。

 

「話が脱線したな。ミーティングに戻すぞ」

 

先生がそう言って仕切り直しをする。

 

「パワータイプが一番気をつけなくてはいけないのは―――カウンターだ。テクニックタイプのなかでも厄介な部類。それがカウンター系能力。神器でもカウンター系があるわけだが、これを身につけている相手と戦う場合、小猫やゼノヴィアのようなパワータイプはカウンター一発で形勢が逆転されることもある。カウンターってのはこちらの力をプラス相手の力で自分に返ってくるからな。自分が強ければ強いだけダメージも尋常ではなくなる」

 

「カウンターならば、力で押し切ってみせる」

 

おいおい、ゼノヴィア。

それ、威張って言うことじゃないぞ?

 

「それで乗り切ることもできるが・・・・・、そういうのはイッセーくらいになってからにしろ。相手がその道の天才なら、おまえは確実にやられる。カウンター使いは術の朱乃や技の木場、もしくはヴァンパイアの特殊能力を有するギャスパーで受けたほうがいい。何事も相性だ。パワータイプは単純に強い。だが、テクニックタイプと戦うにはリスクが大きい」

 

「むぅ・・・。では今後はイッセーのパワーを目標にするとしよう」

 

テクニックを磨こうぜ、ゼノヴィア。

まぁ、テクニックってのはそう簡単に身につくものじゃないけどさ。

 

「リアス、ソーナ・シトリーの眷属にカウンター使いがいるとしたら、お前かゼノヴィアにぶつけてくる可能性が高い。十分に気をつけろよ?」

 

「ええ、私の消滅の魔力もゼノヴィアのデュランダルの聖なるオーラも跳ね返されたら即アウトの可能性が高いものね」

 

確かに・・・・。

カウンター使いには木場あたりをぶつけるのが最適だな。

 

先生はペンをしまうと最後のまとめを言う。

 

「おまえ達は今回のゲームでは色々と不利な面が多い。だがな、俺はおまえ達が勝つと思っている。―――自分の力を信じろ、おまえ達なら出来る」

 

それが今回の話し合いでした先生のアドバイスだった。

 

その後、先生が抜けたメンバーで決戦の日まで戦術を話し合った。

 

 

俺も皆に出来ることは全てやった。

 

 

後は皆の健闘を祈るだけだ。

 

 



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11話 開幕です!!

お久し振りです!!

活動報告では試験を乗り切ってから執筆を再開すると書きましたが、息抜きに1話だけ書いてみました。

今回からリアスVSソーナです。

それではどうぞ!!


決戦当日。

 

ゲームが始まるまであと三時間ほど。

ゲームに出場するメンバーは各自、体を動かしたり、シミュレーションをしたり、リラックスするなりしている。

 

 

美羽はアーシアとギャスパーの三人で雑談している。

あの二人はその方が緊張が和らぐだろう。

 

 

俺はというと、自分の部屋で悪魔のお勉強だ。

教育係の人から宿題を出されたので今、ノートにペンを走らせているところだ。

まさか、宿題を出されるとは思ってなかったぜ。

ゲームをリアルタイムで観戦するためにも早く終わらせないと。

 

 

「えーと、なになに・・・・元七十二柱で断絶した家はどこか・・・・・」

 

 

あー、これ教えてもらった記憶がある。

何処だったかな。

俺は過去に書いたノートを開いてそのページを探す。

 

 

コンコン

 

 

すると、部屋のドアがノックされた。

 

『・・・・イッセー先輩、今良いですか?』

 

「小猫ちゃん? いいよ、入ってきて」

 

 

ガチャ

 

 

俺が許可すると小猫ちゃんがドアを開けて入ってきた。

そして、俺の側に寄ってくる。

 

「・・・・失礼します。・・・・・? イッセー先輩は何をしてるんですか?」

 

小猫ちゃんは俺の手元を覗きこんで尋ねてきた。

 

「グレモリーの教育係の人から出された宿題だよ。これを終わらせないと皆のゲームを観戦出来ないからね」

 

「どのくらい終わったんですか?」

 

「う~ん、だいたい半分くらいかな。一度習ったところだし、皆のゲームが始まる前には終わると思うよ」

 

「そうですか」

 

小猫ちゃんはそう言うと側にある椅子に座る。

それから、何も言わずにじっと俺の方を見てくる。

 

緊張してるのかね?

 

俺は手を動かすのを止めて小猫ちゃんと向き合う。

 

「小猫ちゃん、俺に話しがあるんじゃないの?」

 

「・・・・はい」

 

俺の問いに小猫ちゃんは頷く。

 

 

 

「今回のゲームで私は・・・・・猫又の力を使います」

 

 

 

「っ!」

 

小猫ちゃんの一言に俺は少し驚いた。

小猫ちゃんは続ける。

 

「・・・・このままでは私は皆のお役に立てないかもしれません。だから使おうと思います」

 

決意の眼差しだった。

これまで否定していた自分の力を受け入れる覚悟を決めたようだ。

 

「・・・・だから、その・・・・私が猫又の力を使うところを見ていてくれますか?」

 

顔を赤くしながらそう言う小猫ちゃん。

少しモジモジしてるな。

 

あー、もう!

小猫ちゃんの上目使いが可愛すぎ!

保護欲が掻き立てられるよ!

 

「小猫ちゃんのお願いは断れないよ。小猫ちゃんが頑張るところしっかり見る。だから―――頑張れ!」

 

「・・・・はい!」

 

うん、元気の良い返事だ。

 

小猫ちゃんの決意を聞いたところで俺はひとつの提案をする。

 

「そうだ、小猫ちゃん。今度、気の扱い方を教えようか? 小猫ちゃんの種族は気を扱う仙術に長けているんだよね?」

 

「そうですが・・・・イッセー先輩が教えてくれるんですか?」

 

「うん。俺が使う技は『錬環勁気功』っていう気を扱うものなんだ」

 

「れんかん、けいきこう・・・・? 聞いたことがないです」

 

「まぁ、マイナーものだからね・・・・。でも、話を聞いてると仙術ってのはこれと良く似てるみたいだし、基本くらいなら教えてあげられると思うんだ。それにこの技は格闘術がメインなところもあるから小猫ちゃんのスタイルに向いてると思う。だから、小猫ちゃん、俺と一緒に修行してみない?」

 

「よろしくお願いします」

 

俺が尋ねると小猫ちゃんは即答した。

 

「私は少しでも強くなってリアス部長の、皆のお役になりたいんです・・・」

 

「OKだ。じゃあ、詳しい話はまた今度といこうか。今は目先のゲームに集中しないとな」

 

「分かっています。ゲームに出られないイッセー先輩の分まで頑張ります」

 

「おう! よろしく頼むぜ、小猫ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲーム五分前。

 

グレモリー本邸の地下にゲーム場へ移動する専用の魔法陣が存在する。

俺以外の眷属がその魔法陣の上に集まり、もうすぐ始まるゲーム場への移動に備えていた。

 

アーシアとゼノヴィア以外は駒王学園の夏の制服姿だ。

アーシアはシスター服、ゼノヴィアは出会った頃に着ていたあのボンテージっぽい戦闘服だ。

二人ともそちらの方が気合いが入るらしい。

 

ジオティクスさん、ヴェネラナさん、ミリキャス、アザゼル先生が魔法陣の外から声をかける。

 

「リアス、頑張りなさい」

 

「次期当主として恥じぬ戦いをしなさい。眷属の皆さんもですよ?」

 

「がんばって、リアス姉さま!」

 

「まぁ、俺が教えられることは教えた。あとは気張れや」

 

皆に声をかけていく中、俺は木場に近づく。

 

「木場、匙には気を付けろ。あいつがこのゲームにかける想いは半端じゃない。どんなことをしてでも勝つつもりだ」

 

「・・・・そうだね。彼には特に気を付けるよ」

 

木場は真剣な面持ちで頷く。

 

 

すると、魔法陣が輝きだした。

移動する準備が出来たみたいだ。

 

 

「皆、頑張れよ!」

 

俺は最後にエールを送る。

これが俺が今できる唯一のことだ。

 

そして光が皆を完全に包み込み、皆は転移していった。

 

ついにゲームが始まる!!

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

 

魔法陣でジャンプして到着したのは―――テーブルだらけの場所だった。

周囲を見渡してみれば、どうやら飲食フロアらしく、テーブル周辺にファストフードの店が連なっていた。

 

ここは見覚えがある。

 

 

「駆王学園近くのデパートが舞台とは、予想してなかったわ」

 

僕の隣に来ていた部長が言う。

 

そう、ゲームの舞台は僕たちがよく通うデパートだった。

 

そのとき店内アナウンスが聞こえてきた。

 

『皆さま、このたびはグレモリー家、シトリー家の「レーティングゲーム」の審判役を担うことになりました、ルシファー眷属『女王』のグレイフィアでございます』

 

アナウンスはフェニックス戦のときとおなじくグレイフィアさんだ。

 

『我が主、サーゼクス・ルシファーの名のもと、ご両家の戦いを見守らせていただきます。どうぞ、よろしくお願い致します。さっそくですが、今回のバトルフィールドはリアスさまとソーナさまの通われる学舎「駒王学園」の近隣に存在するデパートをゲームフィールドとして異空間にご用意しました』

 

ゲーム会場が見知った場所だから、やりやすいとは思う。

だけど、それはシトリーの方も同じこと。

地理的アドバンテージは互いに五分といった感じだ。

 

『両陣営、転移された先が「本陣」でございます。リアスさまの本陣が二階の東側、ソーナさまの「本陣」は一階西側でございます。「兵士」の方は「プロモーション」をする際、相手の「本陣」まで赴いてください』

 

僕達グレモリー眷属唯一の兵士であるイッセー君がいないから、プロモーション出来るのはシトリー眷属の匙君と仁村さんだけだ。

二名しかいないが、こちらの数が不利な分、プロモーションされたら非常に厄介なものとなる。

 

部長もその辺りは既に考えているだろう。

 

『今回のゲームでは特別ルールがございます。各陣営に資料が送られていますので、ご確認ください。回復品である「フェニックスの涙」は各陣営に一つずつ支給されます。なお、作戦時間は30分。それまでは両チームも接触は禁止となります。――――それでは、作戦時間です』

 

 

アナウンス後、すぐに作戦会議を開く。

時間は三十分。

一分たりとも無駄に出来ない。

 

「今回のゲームは屋内戦を想定したもののようね。・・・・・今回の特別ルールは『バトルフィールドとなるデパートを破壊しつくさないこと』・・・・つまり、派手な戦闘は行うなってことね」

 

部長が送られてきたルールの紙を見ながら言う。

 

「なるほど、私や副部長にとっては不利な戦場だな。範囲の広い攻撃ができない」

 

ゼノヴィアの言うとおりだ。

朱乃さんの広範囲に及ぶ雷やゼノヴィアのデュランダルによる聖なる斬戟波動も使えない。

 

二人の攻撃は強力な分、周囲への影響も大きい。

今回のゲームでは自身の持ち味を活かせないことになる。

 

「困りましたわね。大質量による攻撃戦をほぼ封じられたようなものですわ」

 

朱乃さんが困り顔で頬に手を当てていた。

僕も息を吐きながら意見を言う。

 

「ギャスパーくんの眼も効果を望めませんね。店内では隠れられる場所が多すぎる。商品もそのまま模されるでしょうし、視線を遮る物が溢れています。闇討ちされる可能性もあります。・・・・・・困りましたね。これは僕らの特性上、不利な戦場です。派手な戦いができるのがリアス・グレモリー眷属の強みですから、丸々封じられる」

 

部長が僕の言葉に首を横に振った。

 

「いえ、ギャスパーの眼は最初から使えないわ。こちらに規制が入ったの。『ギャスパー・ヴラディの神器使用を禁ずる』だそうよ。理由は単純明快。まだ完全に使いこなせないからね。眼による暴走でゲームの全てが台無しになったら困るという判断でしょう。しかもアザゼルが開発した神器封印メガネを装着とのことよ。―――本当、用意がいいわね」

 

ふと、ギャスパー君を見てみるとさっそくメガネをかけていた。

似合ってるよギャスパー君。

 

それにしても、イッセー君が抜けるだけでも数的に不利なのに、更にギャスパー君まで規制が入るとなると、かなり厳しい状況だ。

 

更には特別ルールでグレモリーの強みが出せないと来ている。

 

いつものように立ち回れるのは僕と小猫ちゃんだけになるだろう。

 

「では、ギャスパー君には魔力とヴァンパイアの能力だけで戦うことになりますね」

 

僕の言葉に部長は頷く。

 

「そういうことね。修行で神器の扱いが向上したとはいえ、まだまだ使いこなしているというほどではないもの。暴走したら大変なことになるわ。・・・・・まぁ、これに関しては何となく予想はしていたから大した問題ではないわ。―――ギャスパー、イッセーから例の物は受け取っているわね?」

 

「はい。ここに転移する前に渡されました」

 

「よろしい。いざという時にはそれを使ってもらうわ。お願いね、ギャスパー」

 

「はい! 僕、頑張りますぅ!」

 

ギャスパー君が気合いの入った返事で答える。

 

彼はイッセー君達と出会ってから劇的に変わったと思う。

少し前のギャスパー君ならこんなに良い返事はしなかっただろうからね。

 

 

「今回のゲーム、私達にとってはかなり不利なものよ。でも、不利な状況下で敵を倒してこそ私達の評価は上がるわ」

 

部長が不敵な笑みを浮かべながら言う。

 

「あらあら、ずいぶんと燃えてますわね」

 

「当然よ。だけど、燃えているのは朱乃、あなたもでしょう? ・・・・いえ、私とあなただけじゃないわ。この場にいる全員が同じ気持ちのはずよ」

 

部長の言葉に全員が頷いた。

 

そうだね。

 

今回はイッセー君が僕達の戦いを見ることになる。

無様なところは見せられない。

 

まぁ、部長達は他の想いもあるみたいだけどね。

 

小猫ちゃんも今までにないくらい気合いが入ってる。

ゲームの前にイッセー君と何やら話していたようだけど、それが原因かな?

 

 

部長がポンッと手を叩く。

 

「おしゃべりするのはここまで。作戦会議を始めましょう。まずは戦場の把握からね。・・・・ここが、デパートをそのまま再現しているとしたら、立体駐車場の車も再現されているのかしら? だとしたら、厄介ね」

 

その言葉を聞いて僕は進言する。

 

「部長、屋上と立体駐車場を見てきます。近くに階段がありますから、確認してきます」

 

「そうね。お願い、祐斗」

 

僕はその場を足早にあとにして、屋上と立体駐車場の様子を見に行った。

 

 

 

 

 

 

 

僕が偵察に行ってから約10分後。

 

「ただいま戻りました」

 

「ごくろうさま。祐斗。さっそくだけど、どうだったか教えてくれる?」

 

「はい」

 

僕は細かく記されている地図に書き込みをしながら、車の配置など細かく報告していく。

 

「やはり車も再現されているわね。だけど、台数が思ったより少ないのは救いね。隠れるところも少ないし、ある程度の強力な攻撃もできるわ」

 

部長が地図を見ながらそう言う。

 

それを聞いて朱乃さんも意見を述べる。

 

「そうなると、立体駐車場から攻めるのは私とゼノヴィアちゃんが向いてますわね」

 

「そうね。朱乃とゼノヴィアには立体駐車場から侵攻してもらうわ。店内からは祐斗と小猫。ルール上、店内でも普段通りに立ち回れるのは二人だけでしょうし」

 

部長はそう言うとギャスパー君に視線を移す。

 

「ギャスパーはコウモリに変化して、デパートの各所を飛んでちょうだい。序盤、あなたにはデパート内の様子を逐一知らせてもらうわよ」

 

「りょ、了解です!」

 

 

それからも作戦会議は続き、細かい戦術を決めていった。

そして、一応のプランは固まった。

 

 

 

 

 



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12話 リアスvsソーナ 前編!!

[木場 side]

 

 

―――定時。

 

僕たちはフロアに集まり、開始の時間を待っていた。

そして、店内アナウンスが流れる。

 

『開始の時刻となりました。なお、このゲームは制限時間3時間の短期決戦(ブリッツ)形式を採用しております。―――それでは、ゲームスタートです』

 

ブリッツということは短時間で決着をつけることになる。

長期戦と違い、あまりスタミナに気を配らなくていいのはありがたい。

 

「指示はさっきの通りよ。祐斗と小猫、ゼノヴィアと朱乃で二手に分かれるわ。祐斗と小猫は店内からの進攻。朱乃とゼノヴィアは立体駐車場からの進攻よ。ギャスパーは序盤、複数のコウモリに変化しての店内の監視と報告。その後は私の指示でどちらかのグループへの加勢。進攻具合によって、私とアーシアも侵攻を開始する。いいわね?」

 

部中の指示を聞き、頷く。

そして、全員耳に通信用のイヤホンマイクを取り付ける。

 

「相手はソーナ。手の内を知られている分、こちらの作戦もある程度はお見通しでしょう。それでも、私達は勝つ。―――私達の力を見せつけてやりましょう!」

 

『はいッ!』

 

全員、気合が入っていた。

 

当然だ。

 

このゲーム、絶対に負けられない。

 

「それじゃ、ゼノヴィアちゃん、行きましょうか」

 

「ああ、よろしく頼む、副部長」

 

先に動いたのは朱乃さんとゼノヴィアだ。

フロアを飛びだし、立体駐車場へと向かっていく。

 

 

「小猫ちゃん、僕達も行こうか」

 

「はい」

 

僕と小猫ちゃんも本陣を離れて店内を進む。

 

小猫ちゃんが本来の力、猫又の力を使うことは眷属の皆が知っている。

 

今は猫耳を出して、周囲を警戒しながら進んでいるところだ。

 

 

僕と小猫ちゃんは店内に足音が響かないように細心の注意を払いながら、歩を進める。

 

もし、相手にこちらの接近を気付かれると隠れられる恐れがあるからだ。

 

ここはショッピングモール。

隠れるところなんて、いくらでもあるからね。

 

思いもよらないところからの攻撃を許す可能性だってある。

 

「どうだい、小猫ちゃん?」

 

僕が尋ねると小猫ちゃんは遥か先を指差して言う。

 

「・・・・・動いてます。真っ直ぐこちらに向かってきている者が二人。詳細までは分かりませんが・・・・」

 

小猫ちゃんは今、仙術の一部を解放しているから気の流れである程度は把握できるみたいだ。

 

この分だと、小猫ちゃんがいる限り相手の接近には対応できそうだ。

 

「・・・・・あとどのくらいで接触するかな?」

 

「・・・・・このままのペースなら、おそらく十分以内です」

 

・・・・・十分。

 

 

流石に罠を仕掛ける時間は無いね。

 

近くに隠れるか、真正面から迎え撃つか。

 

僕が思考を張り巡らせた、その時だった。

 

「「―――ッ!」」

 

僕と小猫ちゃんは咄嗟にその場から飛び退いた。

 

「―――木場か!まずは一撃ッ!」

 

匙君が自身の神器のラインを使いターザンみたいに降りてきて攻撃を仕掛けてきた!

匙君の背中に誰かが乗ってる!

 

いつの間に接近を許したんだ!?

 

直前まで気配を感じなかった!

 

僕は驚きながらも匙君の膝蹴りを剣の腹を使って受け止める。

 

ドゴンッ!

 

蹴りの衝撃が体に伝わってくる!

 

僕は受け止めた時の反動を利用して後ろに大きく下がった。

 

体勢を整えて、剣を構える。

 

 

「よー、木場」

 

現れたのは匙君。

その隣には背中に乗っていた少女。

生徒会のメンバーで、一年生の仁村さんだ。

 

匙君の右腕には黒い蛇が何匹もとぐろを巻いている状態だった。

 

以前見た時と形状が違う。

恐らく、修行を通して神器が進化したのだろう。

 

 

「どういうトリックだい? 小猫ちゃんでさえ直前まで接近に気づけなかった」

 

僕が尋ねると匙君は笑みを浮かべながら答える。

 

「簡単なことさ。おまえ達が察知したのは囮。俺達は気配を悟られにくいように予め術式を仕込んで接近し、奇襲を仕掛けた。それだけだ」

 

なるほど。

 

どうりで気づけなかった訳だ。

 

イッセー君なら空気の流れとかで気付いたかもしれないけど、僕達はそこまでの領域に達してないからね。

 

 

 

僕は耳に取り付けたイヤホンマイクを通じて匙君達に聞こえない声で部長に連絡を入れる。

 

「・・・・部長。相手と接触しました。匙君と仁村さんです」

 

『祐斗達だけでいけそうかしら?』

 

部長の問いには小猫ちゃんが答える。

 

「・・・・問題ありません。索敵範囲を絞って周囲を探りましたが、それらしい気配はありませんでした。数は五分です。私達だけで相手します」

 

『了解したわ。二人には相手の撃破をお願いするわ』

 

「・・・・了解です」

 

そこで通信を切る。

 

 

小猫ちゃんは一歩前に出て、拳を構えた。

 

「私は仁村さんと戦います。祐斗先輩は匙先輩をお願いします」

 

「任せて」

 

 

とは言ったものの、僕の中には言い知れない不安があった。

 

 

『それから匙には気を付けろ。あいつがこのゲームにかける想いは半端じゃない。どんなことをしてでも勝つつもりだ』

 

 

転移する前にイッセー君が言った言葉がよぎる。

 

 

・・・・・匙君。

 

彼を見ると体の表面を薄く黒いオーラが覆っていた。

 

僕の頬を嫌な汗が伝う。

 

これは、早く終わらせた方が良さそうだ。

 

 

 

「仁村、おまえの相手は搭城さんだ。いけるな?」

 

「はい!」

 

「よし。――――いくぞ!!」

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

 

 

[リアス side]

 

 

祐斗と小猫が相手と接触してから五分が経った。

 

相手は二年の匙君と一年の仁村さんと言っていた。

 

警戒すべきは匙君の神器。

繋げた相手の力を吸いとる能力を持つ。

 

非常に厄介な能力だけど、祐斗達なら上手く立ち回ってくれるはず・・・・・。

 

 

「ギャスパー、どのあたりまで行けたのかしら?」

 

『今、相手の陣地近くの食品売り場に来てます』

 

「それで何かおかしなところは?」

 

『えっと・・・・野菜売り場の方で何かしているようなんですけど・・・・』

 

野菜売り場?

 

そこで一体何を・・・・・

 

どうしたものかしら。

ソーナがどんな罠を仕掛けているのか気にはなるのだけど、ギャスパーに深追いさせるのは危険な気がする。

 

 

「・・・・・野菜」

 

ソーナがどんな手を使ってくるのか思考していると、隣にいたアーシアが呟いた。

 

「どうかしたの、アーシア?」

 

「い、いえ。そんなに気にすることでもないので・・・・」

 

首を横に振るアーシアに私は言う。

 

「いいのよ。どんな些細なことでも気づいたら言ってちょうだい。もしかしたら、それがとても重要なことかもしれないもの」

 

「そうなんですか? じゃあ、えっと・・・・夏休みに入る前にゼノヴィアさんと小猫ちゃんとギャスパー君の四人で女子会をしたんです」

 

「女子会? あなた達、いつのまにそんなことを・・・」

 

というより、ギャスパーは女子としてカウントしても良いのかしら・・・・?

 

まぁ、見た目はどう見ても女の子にしか見えないのだけれど・・・・

 

「それで、その時に小猫ちゃんが手作りの料理を振る舞ってくれたんです。野菜炒め、パスタ、スープという感じで色々な種類の料理を作ってくれました。ただ・・・・」

 

「ただ?」

 

「全ての料理にニンニクが使われていて・・・・・それを食べたギャスパー君が倒れてしまったんです」

 

 

・・・・・・小猫ったら。

 

あの子はギャスパーを弄るのが相変わらず好きね。

仲良くしているのは主としては嬉しいことなのだけれど・・・・

 

 

 

・・・・・・

 

何が私の中で引っ掛かった。

私は今のアーシアの言葉を思い出してみる。

 

野菜炒め・・・・・ニンニク・・・・・・

 

 

もしかして・・・・・・

 

私は直ぐ様ギャスパーに通信を入れる。

 

「ギャスパー、今すぐその場を離れなさい」

 

『え? どうかしたんですか?』

 

「野菜売り場で何かしていると言ったわね? 私の読みが正しければそれはあなたを誘き寄せるための罠よ」

 

『ど、どういうことなんですか?』

 

私の言葉に戸惑うギャスパー。

 

そんなギャスパーに私は告げる。

 

「野菜売り場・・・・・そこにはニンニクも置いてあるのではなくて? このゲームフィールドが本物と全く同じように再現されているとしたら、そのニンニクも本物のはず」

 

私がそこまで言うと、アーシアが何かに気づいた。

 

「もしかして、会長さんはニンニクを使ってギャスパー君を倒そうとしているということですか?」

 

「そういうことよ。・・・・ソーナは私達の大まかな主力武器については知っているわ。だとしたら、私が序盤でギャスパーに偵察をさせることはお見通しのはず。・・・・・こんな序盤でギャスパーを失うわけにはいかないわ。ギャスパー、直ぐにその場を離れて朱乃達の方へ向かってちょうだい。現状を見るに朱乃達の方にテクニックタイプをぶつけてくるはずよ。その場合、ギャスパーは例の物を使って対処してほしいの」

 

『わ、分かりましたぁ!!』

 

 

ふぅ。

 

危うく何でもないところで眷属を失うところだった。

 

しかも、その方法がニンニクだなんて・・・・・・笑えないわ。

 

 

「アーシア、お手柄よ」

 

「はい! お役にたてて良かったです!」

 

 

 

 

[リアス side out]

 

 

 

 

 

 

[朱乃 side]

 

 

 

私とゼノヴィアちゃんは立体駐車場に入っています。

 

祐斗君の報告通り、平日のデパートを再現したためか車の台数が思っていたよりも少ないみたいです。

 

ゼノヴィアちゃんが先に進み、私が背後を警戒しながら歩を進めていく。

 

そして、二階から通路を進んで一階の駐車場へと足を踏み入れた時でした。

 

―――前方に人影。

 

見れば、メガネをかけた黒髪長髪の女性。

 

駒王学園生徒会副会長、真羅椿姫。

手には薙刀。

 

彼女は長刀の使い手。

その実力は確かなものです。

 

「ごきげんよう、姫島朱乃さん、ゼノヴィアさん。二人がこちらから来ることは分かっていました」

 

淡々と話す椿姫さん。

 

その横から二名―――。

 

長身の女性と日本刀を携えた細身の女性。

 

長身の女性が『戦車』の由良翼紗さん。

日本刀を持つ女性が『騎士』の巡巴柄さんですわ。

 

なるほど・・・・。

 

やはり、私達がこちらから来るのは読まれていましたか・・・・。

 

 

「ゼノヴィアちゃん、気を付けて下さい。ソーナ会長の眷属にはテクニックタイプの人が多いと聞いています。恐らく狙いはカウンターでしょう」

 

「ああ、分かっているさ。だが、私はそれを押し返すまでだ」

 

ゼノヴィアちゃんはそう言って腰に携えた二本の剣を抜き放つ。

 

今回、デュランダルは使えない。

ルールの特性上、デュランダルでは上手く立ち回れないでしょう。

 

私の攻撃はある程度、的を絞れば周囲へ影響を出さずに出来るでしょうが、デュランダルではそういうのは難しいようです。

 

 

「私が後方から援護します。ゼノヴィアちゃんは前衛をお願いできますか?」

 

「力を抑えながら三人を相手取るのは難しいが、何とかやってみよう」

 

「それから、もうひとつ。先程リアスから連絡がありました。ギャスパー君がこちらの加勢に来てくれるそうです」

 

「・・・・了解した。それでは、ギャスパーが来るまでもたせるとしよう」

 

 

そう言って、じりじりと間合いを詰める。

 

私も手に魔力を溜めて、戦闘態勢へと入ります。

 

 

そして―――

 

 

 

ギィィィィィンッ!!

 

 

ゼノヴィアちゃんと椿姫さん、巡さんの剣が衝突する。

その勢いに剣から火花が散り、激しい金属音を奏でた。

 

その瞬間、椿姫さんと巡さんはゼノヴィアちゃんが手にしている得物を見て、二人とも一歩後ろに下がった。

 

「その剣は・・・・・・聖剣!?」

 

巡さんの問いにゼノヴィアちゃんは頷く。

 

「イッセーに借りたアスカロンと木場に作ってもらった聖剣だ」

 

『!?』

 

その告白に相手全員が驚いていた。

 

 

イッセー君は修行の最中、籠手と融合したアスカロンが取り外せることに気づきました。

そして、このゲームでアスカロンが戦力になるだろうと読んであらかじめ渡していたのです。

威力はデュランダルに及びませんが、アスカロンも伝説上の聖剣。

十分な威力を持っています。

 

 

そして、左手に持つ祐斗君が作り出した聖剣。

禁手に至ったことで魔剣だけでなく聖剣も創れるようになったようです。

 

オフェンスに回れる人が少ない以上、人数で不利な場面も出てくるだろうと、リアスが提案したのですが・・・・早速その場面がやってきましたわね。

 

威力は伝説の聖剣と比べると劣りますが、それでも聖なる力を宿している以上、悪魔にとって絶大なダメージを与えることが出来ます。

 

 

「巴柄! 翼紗! 絶対にあの剣をその身で受けてはなりません!」

 

「分かってます! あんなのに斬られたら消滅しちゃいますよ!」

 

 

そこから始まる激しい剣戟戦。

 

私も後ろから支援攻撃を行ってサポートを行います。

 

修行の成果、今ここで見せますわ!

 

「雷光よ!」

 

ガガガガガガガガッ!!!

 

これまで封じてきた力が私の指先から放たれる。

 

これを見て、椿姫さんは目を見開く。

 

「これは・・・・・・光の力!? 姫島さん、あなたは堕天使の力を受け入れたというのですか!?」

 

その問いに私は静かに頷く。

 

「ええ・・・・。正直、私もこの忌々しい力を使うのは抵抗がありました。・・・・・ですが、この力と向き合わなければ私は前に進めない。だから、決めましたの。彼が見ているこのゲームで使うことで乗り越える、と―――」

 

そう言うと手元に雷光の塊を作り出す。

建物や車を破壊しないように調整しないといけないのが難しいですが・・・・。

 

狙いを定めて雷光を放つ!

 

椿姫さんはバックステップをしながら薙刀に魔力を纏わせて雷光を捌いていく。

 

 

「くっ! 二人とも出来るだけ物影に隠れながら攻めなさい! 聖剣だけに注意を取られているとやられますよ!」

 

「「了解!」」

 

 

流石はソーナ会長の懐刀。

 

指揮を取るのが上手いですわ。

 

場所が場所だけに物影に隠れられるとこちらも攻めにくい。

 

攻撃が単調にならないよう、タイミングをずらしながら仕掛けてますから、今は相手側も攻めにくいでしょう。

それにこちらの武器は聖剣と雷光。

掠めるだけでも大きなダメージを受けますから尚更です。

 

しかし、時間をかければこちらがハメ手を受ける可能性もあります。

 

 

何か手を打たなければ・・・・・。

 

援護攻撃をしながら思案していると、こちらに向かってくる影がひとつ。

 

あれは―――

 

 

「朱乃さん! ゼノヴィア先輩! お待たせしましたぁ!」

 

「おお! ギャスパー! 待っていたぞ!」

 

ゼノヴィアちゃんが歓喜の声をあげる。

 

そう、現れたのはギャスパー君。

 

どうやら、間に合ったようですわね。

 

「ギャスパー君、よく来てくれました。早速ですけど、お願いできますか?」

 

「はい!」

 

元気よく返事をするギャスパー君。

 

 

この光景を見て、相手全員が怪訝な表情を浮かべる。

 

「ギャスパー君・・・・? なぜ彼がここに? まさか、罠に気づいたのですか?」

 

「罠? それはもしかしてニンニクのことですか? それならリアスがギリギリで気付いたのでなんとかギャスパー君を撃破されずにすみましたわ」

 

「・・・・なるほど。ですが、彼がここに来たところで戦力になるとは思えませんが・・・・。彼の時を停止させる神器は使用を禁じられているはずです」

 

「ええ。確かにギャスパー君の神器『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』は禁じられています。しかし、彼の吸血鬼としての力は禁じられていません。・・・・・ギャスパー君」

 

私が合図を送るとギャスパー君は制服のポケットから小瓶をひとつ取り出した。

 

小瓶の中には赤い液体が入っています。

 

「これはイッセー君の―――赤龍帝の血です」

 

「ッ!・・・・まさか・・・・・」

 

今の情報を聞いて椿姫さんは気付いたようです。

 

慌ててギャスパー君に攻撃を仕掛けようとする。

 

ですが―――もう遅い。

 

ギャスパー君は小瓶の蓋を開けてイッセー君の血を飲み干す。

 

 

そして―――

 

 

ドクンッ

 

 

ギャスパー君の体が大きく脈打ち、この駐車場の空気が一気に様変わりした。

 

不気味で言い知れない悪寒が私の体を駆け巡った。

見るとギャスパー君はそこから消えている。

 

 

チチチチチ。

 

その鳴き声が聞こえた時、無数の赤い瞳をしたコウモリが周囲を飛び交う。

 

「今回のゲーム、ソーナ会長は私達の作戦の要を祐斗君かゼノヴィアちゃんだと思っていたのではないですか? だとしたら、それは間違いです。―――私達の要はギャスパー君です」

 

驚く彼女達にコウモリ達が襲いかかる。

 

「こ、これは!」

 

「うそっ!?」

 

反撃しようとした由良さんと巡さんは何かに引っ張られて大きく体勢を崩した。

 

引張ったのは彼女達の影から伸びた無数の黒い手。

 

「これがギャスパー君の力だというの!?」

 

「ええ、これが本来ギャスパー君が秘めている力の一部です。イッセー君の血を飲んだことで解放されたのです」

 

黒い手に抗っていた椿姫さんも既に捕らわれている。

 

もう彼女達に打つ手はありません。

 

コウモリが彼女達の体を包み込み、体の各部位を噛んだ。

 

「血を吸うつもりですか!?」

 

「正確にはあなた方の血と魔力ですわ。・・・・・レーティングゲームは戦闘不能とみなされれば強制的に医療ルームに転送されます。―――あなた方にはここでリタイアしてもらいます」

 

 

「くっ・・・・・申し訳ありません・・・・・会長・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

『ソーナ・シトリー様の「女王」一名、「騎士」一名、「戦車」一名、リタイア』

 

 

 

 

[朱乃 side out]



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13話 リアスvsソーナ 後編!!

『ソーナ・シトリー様の「女王」一名、「騎士」一名、「戦車」一名、リタイア』

 

 

 

俺はグレモリー家に用意された自室のモニターでゲームの観戦をしていた。

もちろん今のアナウンスが流れた時もその一部始終を見ていた。

 

俺の血を飲んだギャスパーがソーナ会長の眷属をたおすところを。

 

今回のゲームのルーム上、機動力がある木場かゼノヴィアが作戦の要だと思っていたんだけど、その予想は大きく外れることになった。

 

まさか、ギャスパーが要だったとは・・・・

 

 

確かに俺の血を―――赤龍帝の血を飲んだときのギャスパーのスペックは相当のものだ。

それは会談を襲撃された時に確認済みだしな。

 

それにあいつの吸血鬼としての能力なら建物を壊すことなく相手を撃破できる。

 

 

・・・・・だけど、実際に使ってくるとは誰も思わなかっただろう。

当然、ソーナ会長も。

 

事実、ソーナ会長の眷属である副会長と巡さん、由良さんはギャスパーに撃破されたことで、戦力を大きく失ったことになる。

 

それに対して部長達は今のところ誰一人として欠けていない。

 

 

 

これで不利な状況から一転、部長が優位に立った。

 

ギャスパーはさっきので力を使い切ったのか完全にダウンしているが、朱乃さんやゼノヴィアはまだピンピンしている。

 

 

 

問題は不利な状況に陥ったソーナ会長がどんな反撃をしてくるのか。

 

そして―――匙だな。

 

 

 

木場が匙と戦闘を開始してから少し経った。

 

匙は体の至るところを斬り裂かれ、全身が血まみれだ。

聖魔剣の聖なる力の影響か、傷口から煙が出ている。

いつリタイアしてもおかしくない状況だ。

 

どうみても木場が圧倒的に有利だ。

 

 

―――だけど、匙は決して倒れない。

 

むしろ、体から沸き立つオーラは戦闘に入る前よりも大きくなっている。

 

 

木場もそれに気付いているのか、戸惑いの表情を浮かべている。

 

 

このゲーム、まだまだ荒れるかもしれないな・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・ぐっ・・・ゲホッ!」

 

 

僕の目の前では匙君が全身から血を流しながら床に膝をついている。

 

それに対して僕は掠り傷は何ヵ所かできているものの、大きなダメージは受けていない。

 

匙君を持ち前のスピードを活かして攻め続け、素手やラインによる攻撃があればすぐに距離を取る。

 

ようするにヒットアンドアウェイだ。

 

 

――――完全に僕が優位。

 

 

のはずなんだけど・・・・・。

 

その考えは今の僕の頭からは完全に消えていた。

 

何度斬ろうとも何度倒そうとも、匙君は立ち上がって僕に攻撃を仕掛けてくる。

更に言うなら、その攻撃は徐々に鋭くなって来ている。

 

 

「く・・・・・おおおおおおおっ!!!」

 

 

痛みをこらえ、歯を食い縛りながら立ち上がる匙君。

 

一体、どこからこんな力が沸いてくるのだろうか。

 

「ラインよ!!」

 

勢いよく放たれるライン。

始めの方と比べると段違いの速さだ。

 

僕はそれを剣で捌きながら接触されるのを拒む。

 

繋げられたら力を吸われてしまうからね。

一瞬で全部を持っていかれるなんてことはないと思うけど、油断はできない。

 

あのラインには直接触れないのが賢明だね。

 

 

僕達のすぐ側では小猫ちゃんと仁村さんが戦闘を行っていた。

 

小猫ちゃんは格闘に秀でているけど、今回は更に猫又の力を解放しているので普段よりも戦闘力が上がっている。

 

それでも、仁村さんは猫又が扱う仙術についての知識を持っているのか、小猫ちゃんの攻撃を受けないように上手く立ち回っていた。

 

しかし、ついに小猫ちゃんの拳が相手の頬を掠める。

そして変化が起こった。

 

仁村さんの体か少しだけ揺らぎ、その目も泳いでいるようだった。

そして、小猫ちゃんはその隙を見逃さなかった!

 

拳に薄い白色のオーラを纏わせて、相手の胸に打ち込んだ!

 

 

パンッ!

 

 

小気味の良い音が周囲に響き渡る。

 

その瞬間、仁村さんはその場に膝を落とした!

 

「気を纏った拳であなたに打ち込みました。同時にあなたの体内に流れる気脈にもダメージを与えたため、もう魔力を練ることは出来ません。更に言うなら内部にもダメージは通ってます。・・・・・あなたは立ち上がることは出来ません」

 

 

なるほど。

 

これが小猫ちゃんが扱う仙術か・・・・・。

 

話には聞いていたけど、これは格闘戦において絶大な効果を発揮するようだね。

 

イッセー君も気を扱う技術に長けているみたいだけど、同じことが出きるのだろうか?

今のところ拳に纏わせて殴り付けているところしか見たことがないんだよね。

 

・・・・・まぁ、それだけでも十分な威力があるのだけれども。

 

 

「・・・・・匙先輩、ゴメンなさい・・・・・」

 

それだけを言い残すと、仁村さんの体が光輝き、この場から消えてなくなる。

 

いまのはリタイヤしたときの光だね。

 

『ソーナ・シトリー様の「兵士」一名、リタイア』

 

グレイフィアさんのアナウンスが聞こえてくる。

 

これで相手は四名を欠いたことになる。それに対して僕達は今のところ誰一人として欠けていない。

完全に優位に立ったわけだ。

 

「・・・・・私はイッセー先輩と約束したんです。絶対に負けません!」

 

小猫ちゃんが格好よく決める。

もしかしたら、小猫ちゃんが一番気合いを入れているのかも知れないね。

 

 

「くっ・・・・副会長達に続いて仁村までやられたのかよ・・・・。やっぱり強いなおまえら・・・・・。でもよ、俺がここで諦めるわけにはいかねぇんだ!」

 

匙君が腕の傷を押さえながら言いながら、こちらに魔力弾を放ってくる。

あの魔力にこめられたものは相当な代物。

 

防御力が低い僕がまともに受ければ大ダメージを受ける。

 

 

この魔力はいったいどこから来ているんだろう?

匙君の魔力はこれほどまでに高くはなかったはず。

それなのにこの威力を産み出している。

 

それにあれほどの負傷を負いながらも立ち上がれることにも疑問を抱いていた。

 

その答えを探すべく僕は魔力弾を避けながら匙君の体を注意深く観察する。

 

すると、破れた制服の間から彼の胸部に何かが繋げられているのが見えた。

 

まさか・・・・・・

 

 

「匙君、君は自分の命を力に変えているのかい!?」

 

「気付いたか・・・・。ああ、そうさ。俺がおまえを相手にするのには力不足だってことくらい自分が一番分かってんだ。だから、俺は神器の力で命を力に変換しておまえと戦うことにしたのさ。見ての通り『命懸け』ってやつだ」

 

「本気かい?そんなことをすれば君は・・・・・」

 

僕がそう言うと匙君は真剣な眼差しで笑みを浮かべた。

 

「ああ、こんなバカなことをしてたらそのうち死ぬだろうな。それでも俺はどんなことをしてでもおまえ達を倒す。そう決めてここに来たんだ。―――この戦いは冥界全土に放送されている。俺達は俺達の夢をバカにしてた奴等の前でシトリー眷属の本気をみせなきゃいけない!」

 

 

ドゥンッ!

 

 

そう言いきった匙君の体からこれまでとは比べ物にならないほどの黒いオーラが発せられる!

 

「俺達の夢を叶える為なら俺はいくらでも命をかける。どうせ悪魔は永遠に近い寿命を持ってるんだ。百年や二百年分の命を使ったところでどうってことはない。このゲーム、会長の眷属が俺だけになったとしてもおまえ達全員を倒して見せる!」

 

 

それほどまでの覚悟を持っていたのか・・・・・。

 

正直、彼がこのゲームにかける想いは想像を遥かに越えていた。

 

 

オォォォォォォォォォ・・・・・・・

 

 

匙君の背後に大きな黒い蛇のようなものがぼんやりと浮かぶ。

あれは何だ・・・・?

 

いや、今はそんなことを考えている余裕は僕には無い。

 

匙君から発せられるオーラが僕の肌をピリピリと刺激する。

 

これほどの力・・・・・・彼は本当に百年分以上の命を燃やしているのかもしれない。

 

早く彼を止めなければ非常に危険だ。

 

匙君自身もそうだし、今の彼の攻撃を受ければ僕達もリタイアは免れない。

 

 

 

僕は瞑目し、感覚を研ぎ澄ませる。

そして剣を正面に構え、腰を落とす。

 

「君にそれ以上の無茶をさせるわけにはいかない。君は僕が止める」

 

「止まらねぇ!俺はおまえ達を倒して勝利を掴む!」

 

僕は目を開き、床を蹴る!

 

それと同時に匙君も拳を握り、駆け出した!

 

「ハァァァァァァァッ!!」

 

「おおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の交錯。

 

 

 

 

 

 

ドシャア

 

 

僕の後ろで大量の血を吹き出しながら崩れ落ちる匙君。

聖魔剣の影響からか、体から煙が上がっている。

 

 

そう、制したのは僕だ。

 

「・・・・ちっ・・・・・くしょう・・・・・・」

 

 

匙君の体が光に包まれる。

戦闘不能と見なされリタイアするんだ。

 

だけど、僕は彼から目を離せなかった。

目を離したら再び立ち上がる、そう思えたからだ。

 

 

『ソーナ・シトリー様の「兵士」一名、リタイア』

 

 

そのアナウンスを聞いて張り詰めていたものが一気に無くなった。

 

同時に僕の右腕を激痛が襲う。

 

「ぐっ・・・・・」

 

見れば、深い傷が出来ていて吹き出た血が制服を赤く染めていた。

 

さっきの攻撃で匙君の拳が僕の腕に当たったんだ。

 

・・・・・もし、僅かにでも僕の攻撃が遅ければ僕の腕はもっと酷いことになっていただろうね。

 

今の右腕は傷によって動かせない状態だしね。

 

 

 

「祐斗先輩、大丈夫ですか?」

 

「まぁ、なんとか・・・・・。部長がフェニックスの涙を僕に渡しておいてくれて良かったよ」

 

僕は制服のポケットを探り、小瓶を取り出す。

小瓶の蓋を開けて傷にかけるとあっという間に傷が無くなった。

 

これで僕はまだ戦える。

 

「さぁ、行こうか。部長達もすでに動き出しているみたいだ」

 

「はい」

 

 

小猫ちゃんも頷き、僕達は最後の決戦に赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

ショッピングモールの中心に中央広場みたいなところがある。

円形のベンチに囲われて、その中央には時計の柱が存在していた。

ここは、よく買い物に疲れた客が座ったりしているところだ。

 

そこまで歩を進めたところで僕は足を止めた。

 

当然だろう。

 

―――ソーナ会長が目の前にいるのだから。

 

 

会長から少し下がったところには生徒会メンバーの『僧侶』二人。

二年の花戒さんと草下さんだ。

二人は会長を囲むように結界を張っている。

 

 

なぜ会長がここに・・・・・?

 

形勢はどう見ても会長が不利だ。

それなのにこうも堂々と姿を現すなんてね。

 

・・・・・・なにか仕掛けているのだろうか?

 

 

すると、僕と小猫ちゃんが来た方向とは逆からゼノヴィアとギャスパー君を背負った朱乃さんが現れた。

 

どうやら、真羅先輩達を倒したのはギャスパー君のようだね。

彼はあらかじめイッセー君の血が入った小瓶を貰っていたから、それを使用したのだろう。

 

 

「ソーナ、大胆ね。中央に出てくるなんて」

 

振り替えればアーシアさんを従えた部長がそこにいた。

 

「そう言うあなたも『王』自ら移動しているではありませんか、リアス」

 

「ええ。どちらにしてももう終盤でしょうから」

 

「・・・・・・そうですね。それにしても、椿姫がとられるとは想定外でした。まさか、ギャスパー君を使ってくるとは・・・・・」

 

会長が厳しい表情で言う。

 

会長はギャスパー君の性格を知っていたからこそ、作戦の計画が大きく狂ったのだろう。

 

少し前までの彼ならこんなことにはならなかっただろうからね。

 

 

 

「さぁ、決着をつけましょうか。・・・・あなたはリザインしろと言ってもしないでしょう?」

 

「当然です。ここでリザインなんてすれば眷属に顔向けが出来ません」

 

「だと思ったわ。・・・・・だから、私は今持てる全力を以てあなたを倒す」

 

 

そう言う部長の体からオーラが発せられる。

完全に戦闘モードに入ったんだ。

 

 

それに対して、会長は特に構える様子がない。

オーラを纏うわけでもなく、魔力を溜めるわけでもなく、ただただ僕達を見ているだけ。

 

・・・・・やはり、何かがおかしい。

 

部長もそれを感じたのかどこか訝しげな表情をしている。

 

罠でも仕掛けているのかと周囲を見渡すけど、そういう感じのものは見当たらない。

 

 

 

「何をしている。さっさとケリをつけようじゃないか」

 

ゼノヴィアが二つの聖剣を握って前に出る。

 

・・・・ゼノヴィア、君はもう少し慎重になった方が良いと思うよ?

 

と言いたいところだけど、このまま睨み合っていても時間の無駄になるのは確かだ。

 

同じことを考えているからか部長もゼノヴィアを止めようとはしない。

 

 

それを了承と捉えたゼノヴィアはその場を駆けて会長に斬りかかる!

 

振り下ろされた二つの聖剣はゼノヴィア自身のパワーと相まって、その力を増幅させる。

 

二人の『僧侶』によって作られた結界はその力に耐えきれず、呆気なく破壊されてしまう。

 

そして、ゼノヴィアの聖剣が会長に届いた―――はずだった。

 

 

 

「なっ!?」

 

僕達、グレモリー眷属の全員が驚愕の声をあげる。

 

 

ゼノヴィアに斬られたはずの会長が姿が消えたからだ。

 

 

リタイアしたわけではない。

もし、リタイアしたのならアナウンスが流れるはずだ。

 

どういうことだ!?

 

まさか、今の会長は幻影・・・・・?

 

 

 

驚く僕達に目掛けて花戒さんと草下さんが魔力による攻撃を仕掛けてくる!

 

近くにいるゼノヴィアが危ない!

 

「ゼノヴィア!」

 

「くっ・・・・・! この程度で!」

 

ゼノヴィアが聖剣を振りかぶり、草下さん目掛けて一撃を繰り出す!

 

すると、草下さんは両手を前に出し―――

 

 

反転(リバース)!」

 

 

聖剣の聖なるオーラが消失し、魔のオーラと変化した!

 

ゼノヴィアの斬撃はただの斬撃となって草下さんが展開した魔力障壁に防がれ、呆気に取られるゼノヴィアに対して花戒さんが魔力弾を放つ。

 

ゼノヴィアは間一髪で聖剣を盾にして受け止めるが、広場の端の方まで吹き飛ばされてしまう。

 

 

そのまま、草下さんが追撃を仕掛けようとするが―――

 

 

ドオオオオオオオオンッ!!

 

 

草下さんを大質量の雷が襲う!

 

今のは朱乃さんが放った雷、いや雷光による攻撃だ。

 

光は悪魔にとって猛毒。

今のをまともに受けた草下さんは光に包まれる。

 

「憐耶!」

 

花戒さんが草下さんの名を呼ぶが、その隙を小猫ちゃんにつかれてしまう。

 

「そこ!」

 

「うっ・・・・・!」

 

小猫ちゃんの気を纏った拳が花戒さんの胸に直撃する。

 

仁村さんの時と同じようにその場に膝を着く花戒さん。

 

そして、彼女の体が光に包まれた。

 

 

『ソーナ・シトリー様の『僧侶』二名、リタイア』

 

 

アナウンスがなり、二人の姿が完全に消える。

 

 

それを確認した部長はゼノヴィアのところに駆け寄った。

 

「ゼノヴィア、大丈夫?」

 

「ああ、問題ない。・・・・・だが、さっきのは一体・・・・」

 

「分からないわ。彼女の能力なのか、それとも神器なのか。ただ、カウンター系の一種なのは間違いないわね」

 

カウンター系の能力。

力押しの戦闘が多い僕達にとっては厄介なものだ。

 

 

部長は少し息を吐く。

 

そして、表情を引き締めた。

 

「あとはソーナだけね。小猫、位置は特定できるかしら?」

 

「はい。先程は感じ取れませんでしたが、今は屋上に会長の気を感じます。さっきの結界は会長の姿をそこにあるように見せるための虚偽と幻影、そして本人の気と位置を感じ取られないようにする特殊なデコイだと思います」

 

猫耳をピクピクと動かして、会長の気を探っているようだ。

 

「そう、屋上。そこにソーナがいるのね。なら、私達もそこに向かいましょう。決着をつけるわ」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

 

 

デパートの屋上。

外の空は白く、何もなかった。

ゲームの空間だからだろう。

 

僕達はそこに赴いていた。

 

前方には会長の姿。

 

会長はこちらに視線を送ると苦笑していた。

 

部長が会長に問う。

 

「ソーナ、どうして屋上に?」

 

「最後まで『王』が生き残る。それが『王』の役割。私が取られたら、このゲームは終わってしまうでしょう?」

 

「・・・・そう、深くは聞かないわ」

 

部長はそう言うと瞑目する。

 

そして、一歩前に出る。

 

それに合わせて会長も前に出た。

 

「リアス、私は諦めません。あの子達が諦めなかったように」

 

会長はそう言うと両手を大きく広げた。

 

その瞬間―――

 

 

ザバァァァァァァ!!!

 

屋上の床から水が吹き出す。

それは部長と会長を囲むようにドーム状に展開される。

そして、それは僕達と部長との間に壁を作ることになった。

 

「これは―――」

 

部長は目を見開き、声を漏らす。

 

会長は不敵な笑みを浮かべる。

 

「これは私があなたと一対一(・・・)で戦うために桃と憐耶との三人で用意した最後の仕掛けです。特別な術式を組んだので、あなたの眷属でもそう簡単に破ることは出来ません。この意味は分かりますね?」

 

 

――――っ!

 

僕は慌てて聖魔剣で斬りかかるが、水の壁はビクともしない。

 

ゼノヴィアも攻撃を仕掛けたけど、結果は同じだった。

 

 

最後の最後でやられた!

 

これでは部長と会長の一騎討ちだ。

レーティングゲームは『王』が取られれば終わり。

 

つまり、この勝負は部長が負ければ僕達の敗北ということになる。

 

 

くそっ・・・・・ここに来て・・・・・・!

 

 

 

「心配いらないわ、祐斗」

 

焦る僕に部長が声をかけてきた。

 

部長は僕達を見渡して、一言。

 

「絶対に勝つ。皆の想いを無駄にはしないわ」

 

部長はそう言うと会長の方に視線を戻し、歩を進める。

体から凄まじいオーラを発しながら。

 

「私はこのゲームの開始直後からずっと魔力を溜めていたの。イッセーがライザーとのゲームの時にしたようにね。まぁ、あそこまでの出力は出ないのだけれど・・・・」

 

ドンッ!

 

部長のオーラが更に激しいものとなる。

体から漏れだす滅びの魔力が周囲に影響を出し始めている。

 

・・・・なんて魔力だ。

 

どうやら、部長は修行を経てかなりのパワーアップを果たしたらしい。

 

 

 

それを見て、会長は笑みを浮かべる。

 

会長の周囲に水のオーラが集まり、次第に何かを形成させていく。

 

この水の量、尋常じゃない。

 

見れば、このデパートのあらゆるところから水が集まってきているようだった。

 

流石は水の魔力を得意とするシトリー家。

姉のセラフォルー様は氷、妹の会長は水が得意と聞いている。

 

「さて、リアス。私の水芸、とくと披露しましょう」

 

会長は大量の水を魔力で変化させ、宙を飛ぶ鷹、地を這う大蛇、勇ましい獅子、群れをなす狼、そして、巨大なドラゴンを幾重にも作り出していた。

 

ここまで同時に違うものを形成できるのか!

魔力の技術は部長を超えている!

 

閉じ込められた空間でこれほどの数を作り出されては部長に逃げ場はない!

 

 

「ふふ、あなたもかなりの修行をしたようね。流石は私の親友にしてライバルのソーナだわ。だけど、私も負けてられないの。あなたを倒すわ、ソーナ!」

 

「臨むところです、リアス!」

 

 

そして、親友同士の激闘が始まった。

 

部長は凶悪なほどの滅びの魔力を、会長は多彩な水の魔力をぶつけ合った。

 

どちらも魔力の質に秀でているが、こうして見ていると部長はパワー、会長は技術が目立つ。

 

 

二人の激闘はしばらく続いた。

 

 

そして―――

 

 

『ソーナ・シトリー様、リタイア。よって、リアス・グレモリー様の勝利です!!』

 

 

ゲームは幕を閉じた。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 



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14話 夏休みの終わりです!!

ゲーム終了後。

 

俺はとある医療施設に来ていた。

 

眷属の皆はここで体を休めている。

特に俺の血を飲んでその力を発揮したギャスパーと最後に会長との激闘を繰り広げた部長の疲弊具合は酷く、二人はベッドで横になっている状態だ。

 

俺がここを訪れたのはそのお見舞いと軽い治療を施すためだ。

 

 

・・・いや、それからもうひとつあったな。

 

俺は施設の廊下を歩き、とある病室の前で一度立ち止まる。

 

部屋にいる人の名前を確認してドアをノックする。

 

『どーぞ』

 

部屋の中から気だるげな声が聞こえてくる。

俺はドアを開けて中に入った。

 

部屋の壁や天井は白色で窓からは紫色の空が見えた。

俺が運ばれた病院もこんな感じだったっけ?

 

ベッドの脇には小さな棚がある。

その上にはバナナ。

 

これは差し入れか・・・・?

 

「よう、匙。具合はどうよ?」

 

「もう最悪。体のあちこちが痛ぇよ・・・」

 

そう、部屋にいたのは匙だ。

 

体中を包帯でグルグルに巻かれて、点滴を打っている。

 

うーん、包帯の白色ってここまでくると痛々しいな・・・

 

「聖なる力を含んだ攻撃を受け続けたんだ。そりゃ、そうなるさ。・・・・にしても無茶をしたもんだな。自分の命を力に変換するなんてよ」

 

あれには俺も驚いたよ。

まさか神器を使って自分の命を力に変えてたんだからな。

 

恐ろしいことをしたもんだ。

 

匙は苦笑する。

 

「まぁな。そうでもしないと俺は木場と戦うことができなかった。・・・いや、それでもあいつに手も足もでなかったよ・・・」

 

下を向き、ため息をつく匙。

 

「何言ってんだ。おまえと木場とは単純に戦闘力も戦闘経験にも差がある。今の木場に真正面からあそこまで食らいつけたのなら十分だよ。それにおまえの最後の攻撃を受けて木場も涙を使うほどのケガを負っていたからな」

 

俺がそう言うと匙は首を横に振った。

 

「それじゃあダメなんだよ・・・。俺は会長に絶対勝つって約束したんだ。絶対に勝って勝利に導くってさ・・・。それなのに結局、俺は何もできなかった・・・・」

 

そう言うと匙は拳を強く握る。

血が滲むほど強く。

 

 

「くやしいか?」

 

「ああ・・っ! くやしいよ! 当然だろ!」

 

「そうか・・・」

 

俺はそこでいったん息を吐く。

 

そして、匙の眼を見て言った。

 

「だったら、その気持ちを忘れるな。その気持ちを持ち続ける限り、おまえはまだまだ強くなれるよ。・・・・おまえはまだ弱い。これからも負けることもある。それは当然だ。世界には強い奴なんていくらでもいるんだからな。だけどな、負けてもそれを次の糧にすればいい。そうすればいずれ勝てる」

 

「・・・・おまえ、本当に俺と同い年かよ? そんなことが言えるなんてよ」

 

「まぁ、俺の場合は色々経験してきただけだよ」

 

俺と匙は軽く笑った。

 

でも、匙の眼には灯が灯っていた。

ゲームの前の時よりもさらに強い灯が。

 

どうやら、気合いを入れ直したみたいだ。

 

 

パンッ

 

俺は自分の両膝を叩いて立ち上がる。

 

そして、匙の頭に手を当てて気の流れを調整してやる。

治癒能力も上げておいたから、ケガもすぐに治るだろう。

 

「よし。これでいいだろ」

 

「兵藤、おまえってこんなこともできるのな。体が軽くなったぞ」

 

「まぁな。じゃあ、そろそろ俺は行くよ。部長やギャスパーの見舞いもあるしな」

 

「そっか。・・・色々ありがとな」

 

「気にすんなって。俺達は友達だろ? 友達ってのは助け合うもんだぜ?」

 

「そうだな」

 

俺は部屋の入口の方まで歩いていく。

 

おっと、忘れるところだった。

 

俺は途中で立ち止まり振り返る。

 

「匙。おまえ、人間界に帰ったら、俺の家の前に毎朝5時集合な」

 

「は?」

 

突然のことに訳が分からないという表情を浮かべる匙。

 

そんな匙に俺はニヤリと笑って言ってやった。

 

「俺が修行を付けてやるよ。俺がこなしてきた修行メニューの一部を体験させてやる」

 

「ちょ、ちょっと待て! それって、かなりやばいやつなんじゃないのか!?」

 

「ん~、軽く百回くらいは死ぬかな・・・? ハハハ、まぁ、なんとかなるだろ。じゃあな、匙! 体、早く治せよ!」

 

俺は手を振って部屋から出る。

 

「おいぃぃぃ! ちょっと待てぇぇぇ! うわっ!」

 

ガタン! ガシャン!

 

 

あ・・・今の音から察するにあいつ、ベッドから落ちたな。

 

まぁ、あれだけ元気があれば大丈夫だろ。

 

俺は匙を放置して部長がいる部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

部長の病室に入ると、それぞれのベッドの上で寝ている部長とギャスパー。

 

二人とも熟睡してるな。

 

ギャスパーなんてヨダレ垂らしてるし・・・・・。

 

 

まぁ、二人とも頑張ってたしな。

 

 

特に部長は凄かった。

 

最後の会長との一騎討ち。

二人とも親友同士だからなのか、互いの全力を出してぶつかっていた。

 

そのおかげで、二人とも血塗れ。

制服なんて大事なところを隠す部分以外は無くなっていたもんな。

 

最後は部長のパワーが会長の技術力を上回り、勝利したわけだけど、正直どっちが倒れてもおかしくはない激闘だった。

 

会長が部長との一対一に持ち込んだあの罠。

あれの効果はかなり大きかったと言える。

 

 

 

ギャスパーはと言うと俺の血を飲んで、潜在能力を発揮したのはいいけど、一回それをしてしまうとヘトヘトになってしまう。

 

スタミナがないのが、こいつの弱点でもあるんだよなぁ。

 

まぁ、引きこもりだったギャスパーがああやって戦えるようになったんだ。

 

それに、今回はこいつの頑張りが勝利の鍵になったと言っても過言ではない。

 

今回は十分過ぎる働きを見せたんだ。

 

ゆっくり休んでくれ、ギャスパー。

 

 

俺はギャスパーの頭を撫でてやると、ギャスパーの気を整えてやる。

 

ギャスパーもどこか気持ち良さげな表情だ。

 

 

 

さてと、次は部長だな。

 

見ると部長のケガはキレイサッパリ無くなっていた。

アーシアの治療だろう。

 

流石はアーシア。

いい仕事してるよ。

 

部長の額に手を当てて、ギャスパーと同様に気の巡りを良くしようとした時、部長の目が開いた。

 

「・・・・イッセー?」

 

「あ、起こしちゃいました? すいません、部長」

 

「いいのよ。・・・・・それより、イッセーは私達のゲームを見ていてくれたのよね?」

 

「もちろん。始めから終わりまでばっちりと」

 

「どうだったかしら、私達のゲームは?」

 

「皆、修行の成果を十分に出せていましたよ。あの不利な状況から勝てたんですから凄いですよ」

 

「そうね・・・・・。ただ、最後は正直危なかったわ。ソーナがあそこまで強くなっていたなんてね」

 

部長が腕を軽く押さえながら苦笑する。

 

「それはそうですよ。ソーナ会長も必死なんですから。もし、次に戦ったときは向こうはかなり強くなってると思いますよ?」

 

「ええ、そうでしょうね。だから、次も負けないように私ももっと強くならなくてはね」

 

部長は掲げた掌を見つめながらそう言う。

 

部長は手を下ろすと、部長はフッと微笑んだ。

その微笑はやさしさに包まれたものだった。

 

「今回、勝てたことも嬉しい。でもね、それ以上に朱乃と小猫、二人が自身の壁を越えてくれたことが一番嬉しいの」

 

「俺もそう思います。朱乃さんと小猫ちゃんが先に進めて俺も嬉しいです」

 

「これもイッセーのおかげね。あなたのおかげで、私の眷属は皆、抱えてたものを突破していくわ。私が思い悩んでいたものをイッセーは全部打ち破ってくれた。そのことにとても感謝しているのよ」

 

部長の言葉に俺は首を横に振った。

 

「そんな大層なものじゃないですよ。俺はただ、皆で楽しくやっていきたい。それだけを考えているだけですから」

 

「フフフ、あなたが私の眷属で良かった。・・・・これからもよろしく頼むわね」

 

「もちろんですよ、部長」

 

部長と俺は互いに微笑む。

 

 

すると・・・・

 

コンコン

 

 

ふいに病室のドアがノックされる。

 

「どうぞ」と部長が返事をすると、現れたのは見たことのないじいさんだった。

 

帽子を被って、眼帯をしている。

 

しかも超長い白髭だ。

 

「え・・・と、誰っすか?」

 

俺が怪訝に訊くと、じいさんは笑う。

 

「わしは北の田舎ジジイじゃよ。・・・・ふむ、なるほどのぅ。おまえさんがサーゼクス達が話していた赤龍帝じゃな? その若さでよくもそこまで鍛えたものじゃわい」

 

なんだなんだ?

 

俺のことをジロジロ見てくるんだけど、このじいさん。

 

サーゼクスさんの名前が出てきたってことはどこかのお偉いさんか?

 

「オーディン様ですね? 初めてお目にかかります。私はリアス・グレモリーですわ。このような姿での挨拶、申し訳ありません」

 

部長は知っているようだ。

 

オーディンってどっかで聞いた名前だな。

 

えーと、確か・・・・・・

 

「よいよい。セラフォルーの妹との一騎討ちは激戦じゃったからのう。仕方があるまいて。・・・・しかし、ううむ。デカイのぉ。観戦中、こればっかり見とったぞい」

 

じいさんは部長のおっぱいをやらしい目つきで見ている!

なんだよこのじいさん!

クソジジイじゃねえか!

俺以外がやらしい目つきで見ることは許さねぇぞ!

 

俺が猛抗議しようとしたら側にいた鎧を着たキレイなお姉さんがじいさんの頭をハリセンで叩く。

 

よし、よくやった!

 

俺は咄嗟にガッツポーズをしてしまう。

 

「もう! ですから卑猥な目は禁止だと、あれほど申したではありませんか! これから大切な会議なのですから、北欧の主神としてしっかりしてください!」

 

「・・・・まったく隙のないヴァルキリーじゃて。わーっとるよ。これから三大勢力とギリシャのゼウス、須弥山の帝釈天とテロリスト対策の話し合いじゃったな」

 

じいさんはあたまを擦りながら、半目で呟いた。

 

「まぁよいわ。サーゼクスの妹と赤龍帝。わしはこれにて失礼するぞい。また、どこかであることもあるじゃろう」

 

それたけ言い残すと、じいさんと鎧着たお姉さんは病室を後にした。

 

 

なんだったんだ、あのじいさんは?

 

つーか、あの人、北欧の神様なのかよ!

 

どう見てもただのスケベジジイにしか見えん!

 

 

はぁ・・・・

 

魔王の次は神様もかよ。

 

色々イメージ変わるぜ・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

八月後半。

 

俺達グレモリー眷属+美羽は、本邸前の駅で冥界とのお別れの時を迎えようとしていた。

 

「それでは、イッセー君。また、会える日を楽しみにしているよ。いつでも気兼ねなく来てくれ。君のご両親にもよろしく言っておいてもらえるかな?」

 

大勢の使用人を後ろに待機させて、ジオティクスさんがそう言ってくれる。

 

「はい。伝えておきます」

 

次はヴェネラナさんが言う。

 

「イッセーさん、人間界ではリアスのことよろしくお願いしますわね。娘はちょっとわがままなところがあるものだから、心配で」

 

「お、お母さま!? な、何を仰るのですか!」

 

部長は顔を真っ赤にしていた。

うーん、かわいいな部長!

 

「もちろんです」

 

俺は頷いた。

 

まぁ、部長は俺の家族の一員だしね。

絶対に守りますよ。

 

 

「美羽さん、あなたと過ごせた日々は楽しかったわ。あなたもまた来てくださいね」

 

「はい! また来ます、ヴェネラナさん!」

 

美羽とヴェネラナさんは互いの手を握り合っている。

随分仲良くなったなぁ。

まぁ、二人は俺達がいない間に色々としていたみたいだし、それでかな?

 

つーか、美羽よ。

その大量の紙袋はなんだ?

 

 

「リアス、残りの夏休み、手紙くらいは送りなさい」

 

サーゼクスさんがミリキャスを抱えながら言う。

そのすぐ後ろにはグレイフィアさんが待機していた。

 

「はい、お兄様。ミリキャスも元気にね」

 

「うん、リアス姉さま!」

 

 

すると、サーゼクスさんが俺の方に近づいてきて、耳打ちした。

 

(イッセー君、今回は色々忙しくて語り合うことが出来なかったけど、いずれまた会おう)

 

(ええ、もちろんです!)

 

(その時はセラフォルーも参加してもいいかな? 彼女も交じりたいと言っているんだが・・・・)

 

(セラフォルーさんがですか? ・・・・あ、ソーナ会長のですね?)

 

(そう言うことだ。彼女もソーナのアルバムを溜め込んでいてね。披露したいそうだ)

 

(マジですか!? ぜひ参加してほしいですね! じゃあ、今度は三人でぜひ!)

 

(うむ!)

 

それから、俺とサーゼクスさんは固く握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

帰りの列車。

 

俺と美羽は今、戦っていた。

 

何と?

 

そんなものは決まってる。

 

 

手付かずだった夏休みの宿題だよ!

冥界に来てから忙しかったから、完全に忘れてました!

 

思い返してみれば、俺、大切な高校二年生の夏休みの大半をドラゴンと山で過ごしただけじゃねぇか!

 

毎日、死にかけたわ!

 

 

良いことと言えばティアと添い寝をしたくらいだ。

ティアのおっぱいの感触が最高でした!

ありがとうございます!

 

 

とにかく、俺は号泣しながら、現国の宿題に手をつけていた。

 

美羽はというと俺の隣で次から次へと問題を捌いていく。

 

流石は美羽だ!

俺とは頭のできが違うぜ!

 

 

とりあえず、誰か助けて!

ヘルプミー!

 

「ハハハ、流石のイッセー君も宿題には勝てないのかな?」

 

木場が優雅に紅茶を飲みながら笑ってやがる!

 

笑うくらいなら手伝ってくれ!

 

「おまえは終わったのかよ?」

 

「貰ったその日に終わらせたよ」

 

ちくしょう!

 

そのイケメンフェイスが腹立つ!

 

 

あー、もういいや・・・・・。

 

明日頑張ろう・・・・・。

 

 

あれ? これってダメなやつの考えなんじゃ・・・・。

 

 

はぁ・・・・

 

 

ため息をつく俺。

 

すると、そこへ小猫ちゃんが現れて・・・・俺の膝にお座りぃぃぃっ!?

 

俺は何が起きたのか分からなかったが、小猫ちゃんが俺の膝の上にお座りして、猫耳をピコピコ動かしていた。

 

「こ、小猫ちゃん・・・・?」

 

恐る恐る顔を覗いて見ると

 

「にゃん♪」

 

満面の笑みで微笑まれた。

 

 

――――っ!

 

 

その微笑みに思わずギュッと抱き締めてしまった!

 

「にゃあぁぁ・・・・・先輩・・・・・・」

 

小猫ちゃんの顔が真っ赤になった。

 

くそっ! 

破壊力が高すぎる!

 

可愛すぎるぜ、小猫ちゃん!

 

 

 

はっ!

 

ここで俺は皆からの視線を感じた。

 

アーシアが涙目だったり、部長が半目で睨んでいたり、朱乃さんが無言のニコニコフェイスプレッシャーを放っている。

 

そして、美羽に至っては「うぅ~」と唸りながら、俺の頬を引張ってくる始末だ。

 

痛いよ、美羽・・・・

 

 

あまりの可愛さに我慢できなかったんだ、許してくれ。

 

 

こうして、列車は俺達の住む人間界へと―――――

 

 

 

 

 

 

人間界側の地下ホームに列車は到着し、俺は大きく背伸びした。

 

「うーん、着いた着いた。さてさて、我が家に帰るとしますか」

 

そんなことを言いつつ、各自で自分の荷物を持って列車から降りる。

 

すると、目の前に一人の優男がいた。

その顔には見覚えがあった。

若手悪魔の会合の時にアーシアに妙な目線を送っていたやつだ。

名前は確か―――ディオドラ・アスタロトだっけ?

現ベルゼブブ、つまりアジュカさんの家の者だったはずだ。

 

そいつはアーシアの姿を確認すると、いきなりアーシアに詰め寄ってきた。

 

「アーシア・アルジェント・・・・。やっと会えた」

 

「あ、あの・・・」

 

困惑するアーシア。

 

おいおい、なんだよこいつ?

 

「おい、あんた。アーシアが困ってるだろ。・・・・何の用だよ?」

 

俺は二人の間に入り、目的を尋ねた。

 

しかし、ディオドラは俺を無視してアーシアに真摯な表情で訊いてきた。

 

「・・・・僕を忘れてしまったのかな? 僕たちはあの時出会ったはずだよ」

 

ディオドラは突然胸元を開き、大きな傷跡を見せてきた。

深い傷跡だな。

 

アーシアはそれを見て目を見開く。

 

「―――――っ! その傷は、もしかして・・・・」

 

見覚えがあるのか?

 

上級悪魔のディオドラと元シスターのアーシアに接点があるのか?

 

「そう。あの時は顔を見せることが出来なかったけど、僕は君に命を救われた悪魔だよ」

 

「―――――っ」

 

その一言にアーシアは言葉を失う。

 

 

「改めて自己紹介しよう。僕の名前はディオドラ・アスタロト。ここに来た目的はただ一つ」

 

ディオドラはアーシアのもとに跪くと、その手にキスをする。

 

「なっ!? てめぇ、アーシアに何しやがる!」

 

怒鳴る俺を再び無視して、ディオドラはアーシアに言った。

 

「アーシア、君を迎えにきた。会合の時、あいさつできなくてゴメン。でも、こうして再び出会えたことは運命と思っている。―――僕は君を愛している。僕の妻になってくれ」

 

 

―――――ディオドラは俺達の目の前でアーシアに求婚したのだった。

 

 

夏休みが終わり、新学期が始まろうとしていた。

 

 

 




これにて第五章は終わりです。

うーん、ゲームのところが中々上手く書けなかったのが残念なところではありました。

次章ではvsディオドラに入ります!

今後も応援よろしくお願いします!


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番外編 修行・体験版です!!

久しぶりに番外編を書きました!


冥界から帰ってきた次の日。

時刻は朝の四時五十分。

 

俺は修行に向かうべく、家の前で軽いストレッチをしていた。

夏休みの集中特訓も終わったけど、強くなるには日々の修行なんだよね。

 

俺の隣では部長やアーシアも俺同様に体を伸ばしている。

二人は家に住んでから俺と一緒に修行をこなしてきたから馴れたものだ。

 

二人が動くたびに揺れるおっぱい!

朝から眼福です!

ありがとうございます!

 

俺は二人のおっぱいから元気を貰いながら腰を伸ばす。

 

すると、俺の背中に何やら柔らかいものが当たる。

 

こ、この感触は!

 

「うふふ。ねぇ、イッセー君。私のストレッチに付き合ってくださらない?」

 

あ、朱乃さんが俺に密着してきたぁあああ!!

ジャージの上からも分かるこの質感!

たまらんね!

 

「もちろんですよ、朱乃さん!」

 

ええ、付き合いますとも!

朱乃さんのお体に触れるのならばいくらでも!

 

俺が一人盛り上がっていると、右手を誰かに握られた。

ふと見ると、小猫ちゃんが俺の手を握っていた。

 

「・・・私も付き合ってもらえますか?」

 

顔を赤らめてモジモジしながら言ってくる小猫ちゃん!

可愛すぎるよ!

 

夏休みの合宿から小猫ちゃんの俺への反応が変わったんだよね。

列車の中では俺の膝の上へのお座り。

 

今日の朝なんか、起きたら俺の上に小猫ちゃんが寝ていたんだ!

猫耳姿で!

しかも、「にゃん♪」って言ってくれたんだぜ?

 

尋常じゃない可愛さだよ!

 

「うんうん! もちろんだよ!」

 

「ありがとうございます、イッセー先輩」

 

そう言って微笑む小猫ちゃん。

 

ヤバい。

あまりの可愛さに鼻血が・・・

 

 

うーん。

美羽、アーシアに続いて小猫ちゃんが俺の癒しキャラに!

 

 

「むぅ・・・。朱乃副部長に続いて小猫まで参戦とは・・・・。これは手ごわい者が参戦したものだ」

 

「イッセー君って、無意識に攻略していくのね」

 

俺の後ろで屈伸しながら何やら呟く、ゼノヴィアとレイナ。

 

攻略ってなんだよ・・・・

 

「ハハハ、流石はイッセー君だね」

 

「すごいですぅ、イッセー先輩!」

 

木場とギャスパーまで・・・・

 

うーん、よく分からん。

 

 

まぁ、それはおいておこう。

 

俺は朱乃さんと小猫ちゃんのストレッチを手伝いながら時計に目をやる。

 

もうすぐ来るはずなんだけどな・・・・

 

 

すると、

 

「おーい、来たぞ兵藤」

 

こちらに手を振りながら歩いてくる匙。

その後ろには女子が数人。

 

「よう、匙・・・・それと、会長?」

 

そう匙とともに現れたのは生徒会メンバーだ。

 

確かに、病室で匙に声はかけておいたけど、まさか生徒会メンバーが全員来るとは・・・・

 

匙が苦笑しながら言う。

 

「いやぁ・・・俺がおまえの修行を受けるって言ったら、会長が体験してみたいってさ」

 

「ええ、この間のゲームで私達の実力不足を痛感しました。なので、これを機に今後の修行の参考にできないかと考えたのです。・・・連絡もなしに来てしまい申し訳ないのですが、よろしいですか?」

 

なるほど・・・・

 

まぁ、流石は会長だよな。

一度負けても、めげずに次に活かそうとする。

 

この人、次のゲームは勝つんじゃないかな?

 

「俺は良いですよ。じゃあ、今日の早朝トレーニングはグレモリーとシトリーの合同ということで」

 

 

 

 

 

 

家の前にグレモリーとシトリーのメンバーが横一列に整列し、その前に俺と今起きてきた美羽が立つ。

 

デカいアクビだな美羽。

 

「えー、じゃあ修行の方を始めます。とりあえず今日は皆に俺がしてきた修行の一部を体験してもらいます。・・・・でいいんですよね?」

 

今日は元々、匙を鍛える予定だったんだけど、この話を部長達にすると「やってみたい」と言って、全員集まったんだよね。

会長たちも同じみたいだ。

 

正直、木場や匙は男子だし遠慮なく厳しくできるんだけど、流石に女の子にあの修行を体験させるのは気が引ける・・・・

 

「ええ、よろしく頼むわ」

 

部長達が頷く。

 

・・・・仕方がないな。

 

「分かりました」

 

俺は一度と息を吐く。

そして、修行内容を解説する。

 

「えっと、俺の修行なんですが初めの方は技の修行とかは一切ありません」

 

「そうなのかい?」

 

木場の問いに俺は頷いた。

 

「ああ。どんなに技を身に着けても、それを扱えるスタミナがなければ意味がないからな。というわけで、皆にはこれから隣町まで十キロのランニングに行ってもらう」

 

これに皆は少し意外そうな表情だった。

 

シトリー眷属の巡さんが手を挙げる。

 

「それって普通の修行だよね? それが兵藤君がしてきた修行なの? なんか意外だね」

 

全員がうんうんと頷く。

 

まぁ、これだけ聞くと普通の修行だよな。

 

俺は首を横に振って、その質問に答える。

 

「いやいや、流石に普通に走るわけじゃない。ある程度の負荷を掛けながら走るんだ」

 

「負荷?」

 

「そうだよ。そのために美羽に起きてもらったんだ」

 

そう、朝弱い美羽に起きてもらったのはやってもらいたいことがあるからだ。

 

ここにいるメンバーでそれができるのは美羽だけだからな。

 

「よし、じゃあ美羽。眠いところ悪いけど、早速頼む」

 

「ふわぁ~あ。うん。えっと、どのくらい?」

 

「そうだな・・・初回だし・・・皆が悪魔だってことを考えると・・・十倍くらいかな? あ、ギャスパーとアーシアは無しな。二人は絶対に耐えられないから」

 

「十倍だね。じゃあいくよ~」

 

美羽の手元に小さな魔法陣が展開される。

 

それは一瞬輝くとすぐに消えた。

 

「・・・っ!」

 

「これは・・・!」

 

「か、体が・・・重い!」

 

皆の額に汗が流れ、中には膝をつく人も。

 

「兵藤君・・・・これはいったい・・・・?」

 

会長が呼吸を荒くしながら尋ねてくる。

 

「今、皆の体には十倍の重力がかかっています」

 

『!!!』

 

俺の一言に驚愕の表情を浮かべる会長。

 

「ひ、兵藤・・・おまえ、こんな状態で修行してたのかよ・・・・!?」

 

「おう。だから言ったろ? 軽く百回は死ぬって。俺もやり始めたころは死ぬかと思ったよ。俺の師匠は手加減なんて全くなかったからなぁ」

 

俺は匙にそう言いながら昔を思い出す。

 

いやぁ~あの頃はマジで辛かった。

この状態で崖から蹴落とされたり、師匠の技をくらったりしてたもんなぁ。

・・・・地獄だったよ。

 

皆、大分辛そうだ。

結構、ヤバいのかな?

 

「辛かったら、匙以外は言ってくれ。体を壊したら元も子もないからな」

 

「俺は壊してもいいのかよ!?」

 

「おまえは根性で乗り切れ」

 

「悪魔か! おまえ!」

 

おう、悪魔だよ。

天使でも堕天使でもねぇよ。

 

「美羽、俺は三十倍で頼む。俺も走るから」

 

「は~い」

 

美羽が再び魔法陣を展開する。

そして、俺の体に負荷がかかった。

 

久々にここまでの負荷をかけたけど、やっぱキツイな・・・。

 

靴が地面にめり込みそうだ・・・・。

 

「じゃあ、さっそく行こうか!」

 

「「ごめんなさい! もうギブッ!」」

 

女子全員が根をあげた・・・

 

 

 

 

 

 

女子が全員リタイアしたので結局、俺と木場、匙の三人で走ることになった。

 

他の皆は家の地下にあるトレーニングルームで別のメニューをこなしている。

 

俺は二人の様子を見ながら走っているわけだけど・・・・・

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・・」

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

 

二人とも滝のような汗を流して、重くなった体を無理やり動かしている。

一歩踏み出すだけで、一苦労といった様子だ。

 

「おーい、大丈夫かよ二人とも?」

 

俺が訊くと、二人はフラフラの状態で顔を上げる。

 

「こ、これが大丈夫に見えるのかよ・・・・・?」

 

「し、正直言って・・・・ぼ、僕も限界が近いね・・・・」

 

もう疲労困憊って感じだな。

まぁ、初めてだし仕方がないか。

 

「よし、もう少ししたら休憩を入れるか?」

 

「も、もう少しってどれくらいだよ?」

 

「あと四キロくらい?」

 

「ふざけんな! 死ぬわ!」

 

「だって、まだ一キロくらいしか走ってないぞ?」

 

「一キロ!? それだけしか進んでねぇのかよ!?」

 

絶句する匙。

そして、その横でまるで絶望したように地面に手をつく木場。

この光景、過去の自分を見ているようで懐かしいな。

 

「おまえ、よく走れるな・・・・・。俺達の三倍の負荷をかけてるのによ・・・・」

 

「まぁな。昔、経験済みだし」

 

それに錬環勁気功を使って全力で身体強化してるからな。

 

言っておくが、ズルをしているわけじゃないぞ。

これもれっきとした錬環勁気功の修行だ。

 

「匙、文句を言う暇があったら足を動かした方が良いぞ? しゃべると余計な体力を消耗するからな」

 

「くっ・・・・・分かってるよ、ちくしょう!」

 

 

 

 

 

 

隣町についた頃には時刻は昼を過ぎていた。

 

今日が日曜日でよかった。

平日なら間違いなく遅刻だからな。

 

美羽が重力魔法に仕掛けをしてくれていたせいか、町に着いた瞬間に体にかかっていた負荷が消えた。

今は体が綿毛のように軽い。

 

俺は一人組手をしながら、軽く体を動かしているんだけど・・・・

 

「「・・・・・・・」」

 

木場と匙は公園のベンチでグッタリしていた。

まるで燃え尽きたかのように。

 

イケメンが台無しだぜ、木場。

 

 

『仕方がなかろう。あの修行はかなりキツいものだ。今のそいつらでは耐えられないだろう。・・・・・まぁ、相棒はそれを乗り切ったのだが・・・・・。あの頃はただの人間だった相棒がよく乗り切れたものだ』

 

まぁ、人より根性があっただけさ。

それだけが取り柄だったからな。

 

 

ぐぅぅぅぅぅぅ

 

 

三人の腹が鳴る。

 

もう昼過ぎだし、流石に腹が減ったな。

 

「そろそろ帰るか。母さん達が昼飯作ってるだろうし」

 

「・・・・・そうだね」

 

「あ~腹減った・・・・」

 

「二人とも汗を流すついでに俺の家で食っていけよ」

 

「お言葉に甘えるとするよ。僕も今から帰って昼食を作る気力はないかな・・・・」

 

木場が苦笑しながら言う。

 

「よし。じゃあダッシュで帰るぞ。早くしないと飯が冷めちまうからな!」

 

俺の言葉を聞いて、再びガックリする二人。

 

「また、走るのかよ・・・・」

 

「心配すんなって、匙。今は負荷がかかってないから、かなり楽なはずだよ」

 

「それもそうなんだけどさ・・・・もう足がガクガクしてるんだぜ?」

 

「そこは根性で耐えろ」

 

「はぁ・・・・結局そうなるんだよなぁ ・・・・」

 

 

 

それから俺達は再び走って家に帰った。

 

こうして、体験版の修行は終わった。

 

 

 

 

 

次の日、木場と匙は筋肉痛になっていた。

朝起きるとベッドから起き上がれなくなっていたらしい。

やっぱり、いきなりの十倍での修行はキツかったようだ。

 

一応、明日からも修行を指導していくんだけど、もう少し負荷を減らしてやろうかな・・・・?

 

 

 

 




ということで、今回はグレモリー眷属とシトリーの眷属達がイッセーがこなしてきた修行の一部を体験する話でした。

まぁ、女子はいきなりリタイヤしてしまいましたが・・・・(笑)


次話からは新しい章に入ります!


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第六章 体育館裏のホーリー
1話 二学期、始まりました!!


新章開始です!


冥界から帰ってきてから二週間が経った。

夏休みも無事に終わり、学校の方も二学期へと突入していた。

 

 

いつものように早朝の修行を終えて汗を流した俺は玄関の端に置かれたものを見てどうしたものかと考えているところだ。

 

大量に積まれた豪華な箱の数々。

 

これは全てアーシア宛に送られた物だ。

 

送り主はディオドラ・アスタロト。

若手悪魔の一人で現魔王ベルゼブブを輩出したアスタロト家の次期当主。

 

冥界での若手悪魔の会合の際、アーシアに妙な視線を送っていたやつだ。

そして、合宿から帰ってきた俺達を待ち伏せて、その場でアーシアに求婚しやがったんだ。

 

あの野郎がアーシアの手にキスをした時は思いっきり殴ってやろうかと思ったけど、そんなことをすれば、後々で面倒なことが起こるのは目に見えていたから、なんとか我慢したんだ。

 

あの時、我慢できた自分を誉めてやりたいね。

 

まぁ、部長が間に入ってくれたお陰で問題を起こすこと無く、ディオドラを追い返すことが出来たんだけど・・・・・

 

 

どうにもあいつは気にくわない。

 

いや、特に俺自身が何かをされたわけではないし、そもそも初対面だから、あいつと関わったことがない。

 

そのはずなんだけど・・・・・・俺はあいつが嫌いだ。

特にあいつの目が。

 

あいつの目は何と言うかドロドロしたものを感じる。

特にアーシアに送る視線は愛情とはかけ離れた物のように感じるんだ。

 

 

まぁ、俺が過剰に反応しているだけかもしれない。

 

今は一応の注意だけしておくか。

 

 

 

・・・・・・にしても、この大量の贈り物はどうすればいいんだよ?

 

アーシアは受けとる気は全くないし、むしろ困っている。

それなのに毎日のように送ってきやがるから、迷惑してるんだ。

 

完全にストーカーだよ。

 

 

父さんと母さんは事情を知ったとたん激怒した。

二人とも家に住む人達全員を家族同然に思ってるから、アーシアのことも実の娘のように可愛がっている。

 

娘がストーキングされてると知って、父さんなんかディオドラのところに殴り込もうとしたくらいだぜ?

 

それを止める俺の身にもなれってんだ。

 

 

 

そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。

 

「あら、イッセー。朝の修行は終わったの?」

 

現れたのはジャージ姿の部長だった。

額から汗を流して、首にはタオルをかけている。

 

「俺の方は終わりましたよ。それで、さっきシャワーを浴びてきたところなんです。部長の方は終わったんですか?」

 

「ええ。私達の方もさっき終ったわ。やっぱり皆と一緒にすると修行もはかどるわね」

 

そう言って部長は微笑む。

 

 

家に住むオカ研メンバーはランニングを俺と一緒にこなした後、一旦家に戻り、そこから各自の修行メニューをこなしている。

 

参加メンバーが多いから対戦しながらの修行も行っているそうで、中々にハードなメニューをこなしているようだ。

 

 

まぁ、それは置いといて今は目の前のプレゼントの山を何とかしたい。

 

部長も俺の気持ちが分かったようで苦笑を浮かべる。

 

「ここに置いてあるもの以外にもラブレターや映画のチケットやお食事のお誘い、商品券まであるのよ。・・・・・アーシアも困ってるみたいだから私が処分しておいたのだけど・・・・・。ディオドラは懲りずに送ってくるのよね」

 

流石の部長も困り顔だ。

まぁ、毎日ですからね。

 

「・・・・とりあえず、これも処分しましょうか?」

 

「そうね。学校から帰ったら私が処分しておくわ」

 

 

 

「「はぁ・・・・・・」」

 

 

俺達は盛大にため息をつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

二学期が始まり、駒王学園は九月のイベント、体育祭の準備へと入っていた。

 

ただ、この時期になると、非常にアタマにくる出来事もある。

 

クラスメイトにあか抜けた連中が増えるからだ。

いわゆる夏デビューというやつだ。

 

夏を境に非常にチャラくなるやつらが出てくる。

男子なら髪を染めたり、女子なら今時のギャル風スタイルになったりする。

 

それくらいなら俺も腹を立てることはない。

 

俺がアタマにきているのは別のところにある。

 

 

「夏に彼女をゲットして童貞を卒業・・・・・。中々うまくいかんものだな・・・・・・」

 

と、元浜がしみじみと呟いた。

 

「・・・・・で? 例の情報は得たのか?」

 

俺の問いに元浜は頷く。

 

「ああ。今、松田が最終確認をしに出かけているのだがーーー」

 

「おおおーい! イッセー! 元浜! 情報を得てきたぞ!」

 

教室の扉を勢いよく開けて、駆け込んできたのは松田だ。

 

どうやら情報を得てきたらしい。

 

「やっぱり、吉田のやつ夏に決めやがった! しかもお相手は三年のお姉様らしいぜ!」

 

「「くそったれ!」」

 

俺と元浜はその場で吐き捨てるように毒を吐いた!

 

やはりか!

あの野郎、二学期に入ってから随分と態度がデカくなったと思ったらそういうことか!

 

「あと、大場も一年生の子がお相手だったそうだ!」

 

「なにぃ!? 大場が!?」

 

後ろを振り向くと大場が爽やかな笑顔で手を振ってきた!

 

ちくしょおおおおおお!!

非童貞めぇぇぇえ!!

 

てめぇら、男の貞操をそんなに軽く捨てていいと思ってんのか!

 

俺も捨ててぇぇぇぇ!!!

 

 

そう俺がキレているのは夏に済ませたやつがいるからだ。

そいつら、非童貞共が俺達に向ける蔑んだ目が無性にムカつく!!

 

 

 

こんなはずじゃなかった!

 

俺だって、夏に童貞を捨てたかった!

 

だけど、結局は会合だの修行だのでそんな機会は全くなかった!

 

くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!

 

 

俺が心の中で絶叫していると、近づいてくる気配がひとつ。

 

「童貞臭いわねぇー」

 

くくくと俺達を嘲笑いながら登場したのは桐生だった。

 

口元をにやけさせて、鼻をつまんでいた。

 

「桐生! 俺達を笑いにきたのか?」

 

元浜の問いに桐生は頷く。

 

「どうせ、あんた達のことだから、意味のない夏を過ごしたんじゃないの?」

 

「うっせー!!」

 

「ところで兵藤。最近、アーシアがたまに遠い目になるんだけど、何か理由知ってる?」

 

と、桐生が尋ねてきた。

 

まぁ、理由は間違いなくディオドラのやつだな。

 

最近のアーシアはボーッとしていることが多い。

授業でさされたアーシアが珍しく慌てていて、教科書を逆さまにしていたこともあった。

 

 

とうのアーシアはクラスの女子と談笑をしているが・・・・

 

なんとかしてやりたいよな。

 

「まぁ、私も出来る範囲でアーシアを助けてあげるから、あんたもしっかり支えてやりなさいよ」

 

「そうだな。サンキュー、桐生」

 

こいつも結構良いやつなんだよなぁ。

 

 

「お、おい! 大変だ!」

 

突然、クラス男子の一人が急いで教室に駆け込んでくる。

 

なんだなんだ?

 

そいつは呼吸を整えて、気持ちを落ち着かせると、クラス全員に聞こえるように告げる。

 

「このクラスに転校生が来る! 女子だ!」

 

一拍あけて―――。

 

『ええええええええええええええええええええっ!!!』

 

クラス全員が驚きの声をあげたのだった。

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤと賑わう教室。

 

突然もたらされた転校生の情報に皆は舞い上がっていた。

 

 

ガララッ

 

 

教室の扉が開かれる。

 

現れたのは俺達の担任、坂田先生だ。

 

「朝からうるせーぞ。高校生ですか、コノヤロー」

 

「いや、そのまんまでしょーが!」

 

坂田先生がボケて志村君がツッコム。

もうお馴染みの光景だ。

 

「ほら、テメーら席つけ。元浜はそのエロ本をしまえー」

 

「はーい」

 

先生はそう言うとクラス全員の出席をとっていく。

 

そして、クラスメイト全員の名前を呼び終えたところで桐生が手を挙げた。

 

「先生。今日、うちのクラスに転校生が来るって本当ですか?」

 

「おっ、情報がはえーじゃねぇの。まぁ、この時期には珍しいとは思うが、このクラスの生徒が一人、増えることになった」

 

『おおっ!』

 

先生の言葉に男子生徒のテンションがおかしなくらい高まってる!

だって女子だもん!

そりゃ、テンション上がりますよ!

 

女子も男子の反応に呆れつつも興味津々なようだ。

 

「それじゃ、入ってくれ」

 

先生がそう言ったところで俺は気づいた。

 

あれ?

 

この気ってもしかして――――

 

 

先生の声に促されて入室してきた。

 

『おおおおおおおおおおおっ!』

 

歓喜の声が男子から沸き上がる。

 

登場したのが栗毛ツインテールの相当な美少女だったからだ。

 

しかし、俺は喜びよりも驚きの方が大きかった。

 

見れば、美羽やアーシアも同様でゼノヴィアに至っては目を丸くしてポカンとなるほどだった。

 

レイナはなんのことかよく分からないという表情だ。

まぁ、レイナは彼女のことを知らないから当然か。

 

だって彼女は―――

 

「紫藤イリナです。皆さん、どうぞよろしくお願いします!」

 

そう、夏前にゼノヴィアと共にエクスカリバー強奪事件で来日した紫藤イリナその人なのだから!

 

 

 

 

 

 

「紫藤イリナさん、あなたの来校を歓迎するわ」

 

放課後の部室。

 

オカ研メンバー全員、アザゼル先生、ソーナ会長が集まり、イリナを迎え入れていた。

 

ちなみに俺の膝の上には小猫ちゃん。

ここが小猫ちゃんの定位置になりつつある。

 

うーん、お尻の感触がたまらんね!

 

「はい!皆さん!初めまして――の方もいらっしゃれば、再びお会いした方のほうが多いですね。紫藤イリナと申します!教会――いえ、天使さまの使者として駒王学園にはせ参じました!」

 

パチパチパチ

 

その言葉を聞いて部員の皆が拍手をする。

 

イリナは天界側の支援メンバーとして派遣されたらしい。

 

 

イリナが「主への感謝~」とか「ミカエルさまは偉大で~」とか始めだした。

 

皆は苦笑しながらも聞いていた。

 

相変わらず、信仰心が強い娘だなぁ・・・・・。

 

それから少ししてアザゼル先生が口を開く。

 

「おまえさん、『聖書に記されし神』の死は知っているんだろう?」

 

まぁ、ここに派遣されるってことはそうなんだろうな。

 

この駒王町は三大勢力の協力圏内の中でも最大級に重要視されている場所の一つらしい。

ここに関係者が来るってことは、ある程度の知識を持っていることになる。

 

当然、『聖書の神』の死についても。

 

「もちろんです、堕天使の総督さま。私は主の消滅をすでに認識しています」

 

そんなイリナを見て意外そうな表情をするゼノヴィア。

 

「意外にタフだね。信仰心の厚いイリナが何のショックも受けずにここへ来ているとは」

 

そんなゼノヴィアの言葉のあと、一泊開けて、イリナの両目から大量の涙が流れ出る!

 

「ショックに決まっているじゃなぁぁぁぁい!

心の支え! 世界の中心! あらゆるものの父が死んでいたのよぉぉぉぉっ!? 全てを信じて今まで歩いてきた私なものだから、それはそれは大ショックでミカエル様から真実を知らされた時あまりの衝撃で七日七晩寝込んでしまったわぁぁぁっ! ああああああ、主よ!」

 

イリナはテーブルに突っ伏しながら大号泣してしまった。

ま、まぁ、今までの心の支えが無くなったのだからしかたがない・・・・・・かな?

 

俺の家は基本的に無宗教だし、そういうのは分からない。

 

ただ、アーシアとゼノヴィアがその事実を知ったときはかなりヤバかったから、そうなのだろう。

 

「わかります」

 

「わかるよ」

 

アーシアとゼノヴィアがうんうんとうなずきながらイリナに話しかける。

 

そして、三人はガシッと抱き合う。

 

 

「アーシアさん! この間は魔女だなんて言ってゴメンなさい! ゼノヴィア! 前に別れ際に酷いこと言ったわ! ゴメンなさい!」

 

イリナの謝罪に二人とも微笑んでいた。

 

「気にしてません。これからは同じ主を敬愛する同志、仲良くしていきたいです」

 

「私もだ。あれは破れかぶれだった私が悪かった。いきなり、悪魔に転生だものな。でも、こうして再会できてうれしいよ」

 

「ありがとう! アーシアさん! ゼノヴィア! これからよろしくね!」

 

『ああ、主よ!』

 

三人でお祈りしだしたよ・・・・・・。

 

とりあえず、仲直り出来たってことで良いのかな?

 

それなら俺も嬉しい。

 

皆で笑顔が一番だからな。

 

 

「ミカエルの使いってことでいいんだな?」

 

アザゼル先生の確認にイリナも頷く。

 

「はい、アザゼルさま。ミカエルさまはここに天使側の使いが一人もいないことに悩んでおられました。現地にスタッフがいないのは問題だ、と」

 

「ああ、そんなことをミカエルが言っていたな。ここは天界、冥界の力が働いているわけだが、実際の現地で動いているのはリアスとソーナ・シトリーの眷属と、俺とレイナーレを含めた少数の人員だ。まあ、それだけでも十分機能しているんだが、ミカエルの野郎、律義なことに天界側からも現地で働くスタッフがいたほうがいいってんでわざわざ送ってくると言ってきてたのさ。ただでさえ、天界はお人好しを超えたレベルのバックアップ体制だっつーのに。俺はいらないと言ったんだが、それではダメだと強引に送ってきたのがこいつなんだろう」

 

アザゼル先生はため息を吐きながらそう言った。

 

なるほど。

 

イリナが派遣されたのにはそういう背景があったのか。

 

最初は悪魔が数名だった部長の根城も随分と大所帯になったものだ。

 

これも和平のおかげだな。

 

 

さてさて、ある程度の話が分かったところで俺はイリナに質問することにした。

 

これはイリナと再会してからずっと気になっていたことだ。

 

「なぁ、イリナ。もしかして、人間じゃなくなった?」

 

「あれ? 分かるの、イッセー君?」

 

「まぁな。イリナの気の流れが以前とは微妙に変わっていたからな」

 

「へー、そんなことで分かっちゃうんだ。ふふ、じゃあ、早速お見せしましょう!」

 

イリナは立ち上がると、祈りのポーズをとる。

 

すると、彼女の体が輝き、背中からバッと白い翼が生えた!?

 

おおおお!?

 

て、天使なのか!?

 

これには俺を含めた全員が驚きだ!

 

いや、アザゼル先生だけが顎に手をやりながら、感心するように見ていた。

 

「―――紫藤イリナといったか。おまえ、天使化したのか?」

 

「天使化? そのような現象があるのですか?」

 

木場が先生に訊くと、先生は肩をすくめた。

 

「いや、実際にはいままでなかった。理論的なものは天界と冥界の科学者の間で話し合われてはいたが……」

 

考え込むように目を細める先生にイリナが頷く。

 

「はい。ミカエルさまの祝福を受けて、私は転生天使となりました。なんでもセラフの方々が悪魔や堕天使の用いていた技術を転用してそれを可能にしたと聞きました」

 

マジか。

 

ということはこの学園に悪魔、堕天使、天使の三種族が勢揃いすることになるのか。

 

さらにイリナは話を続ける。

 

「四大セラフ、他のセラフメンバーを合わせた十名の方々は、それぞれ、Aからクイーン、トランプに倣った配置で『御使い(ブレイブ・セイント)』と称した配下を十二名作ることにしたのです。カードでいうキングの役目に主となる天使さまとなります」

 

先生がイリナの話に興味を示していた。

 

この人は技術とか、その手の話が大好きだからな。

 

 

「なるほど『悪魔の駒』の技術化。あれと堕天使の人工神器の技術を応用しやがったんだな。ったく、伝えた直後に面白いもん開発するじゃねぇか、天界も。悪魔がチェスなら、天使はトランプとはな。まあ、もともとトランプは『切り札』という意味も含んでいる。神が死んだあと、純粋な天使は二度と増えることができなくなったからな。そうやって、転生天使を増やすのは自軍の強化に繋がるか」

 

簡単に言えば『悪魔の駒』の天使バージョンってとこか。

 

そういうことも出来るようになったんだな。

 

「そのシステムだと、裏でジョーカーなんて呼ばれる強い者もいそうだな。十二名も十二使徒に倣った形だ。まったく、楽しませてくれるぜ、天使長様もよ」

 

くくくと先生は楽しげに笑いを漏らしていた。

 

 

「それで、イリナはどの札なんだ?」

 

俺は気になったのでイリナに尋ねた。

 

すると、彼女は胸を張り、自慢げに言う。

 

「私はAよ!ふふふ、ミカエルさまのエース天使として栄光な配置をいただいたのよ!もう死んでもいい!主はいないけれど、私はミカエルさまのエースとして生きていけるだけでも十分なのよぉぉぉぉっ」

 

目を爛々と輝いているイリナ。

 

あ、左手の甲に『A』の文字が浮かび上がっる。

 

「なるほどな。イリナの新しい人生の糧はミカエルさんになったのか」

 

俺が嘆息しながら呟くと、隣でゼノヴィアも応じる。

 

「自分を見失うよりはマシさ」

 

ま、そりゃそうだ。

 

俺はゼノヴィアの意見に同意する。

 

神様の消失で自分を見失うよりは新しい主のもとで仕事に励んだ方が前に進めるってもんだ。

 

イリナは俺達に楽しげに告げる。

 

「さらにミカエルさまは悪魔のレーティングゲームに異種戦として、『悪魔の駒』と『御使い』のゲームも将来的に見据えているとおっしゃっていました!いまはまだセラフのみの力ですが、いずれはセラフ以外の上位天使さまたちにもこのシステムを与え、悪魔のレーティングゲーム同様競い合って高めていきたいとおっしゃられていましたよ!」

 

「ま、天使や悪魔のなかには上の決定に異を唱える者も少なくない。長年争い合ってきた中だ、突然手を取り合えと言えば不満も出るさ。しかし、考えたな、ミカエル。そうやって、代理戦争を用意することでお互いの鬱憤を競技として発散させる。人間界のワールドカップやオリンピックみたいなもんだ」

 

不満を持った人達のうっぷん晴らしみたいなもんかな?

 

まぁ、どちらにしても面白そうだ。

 

「先生、そのゲームが出来るようになる頃には俺も参加できますよね?」

 

「そうだな。ゲームが確立されるのは少なくとも十年はかかるだろう。そのころにはおまえ達も新人悪魔としてプロデビューしている。そうなれば今回の若手悪魔のゲームに参加できなくなったイッセーでも参加出来るさ」

 

よっしゃあ!

 

俺がその舞台で活躍すれば上級悪魔にも昇格してハーレム王になれる可能性も大きい!

 

今から腕が鳴るぜ!

 

「おいおい、気合いを入れるのは良いことだが、大分先の話だぞ? そもそもおまえが本気を出したら大抵のやつがスクラップにされる。自重しろ」

 

「人聞きが悪いことを言わないで下さいよ!」

 

なんだよ、スクラップって!

 

俺がそんな酷いことをするようなやつに見えるか!?

 

『いや、実際にコカビエルを再起不能にしたではないか。それを考えると、あながち間違いでもあるまい』

 

ドライグまでそんなこと言うのかよ!?

 

くそぅ! 拗ねるぞ!?

 

 

先生とドライグの言葉を聞いて、全員が苦笑する。

 

 

「まぁ、その辺りの話はここまでにして、今日は紫藤イリナさんの歓迎会としましょう」

 

ソーナ会長が笑顔でそう言う。

 

イリナも改めて皆を見渡して言った。

 

「悪魔の皆さん!私、いままで敵視していきましたし、滅してもきました!けれど、ミカエルさまが『これからは仲良くですよ?』とおっしゃられたので、私も皆さんと仲良くしていきたいと思います!というか、本当は個人的にも仲良くしたかったのよ!教会代表として頑張りたいです!よろしくお願いします」

 

複雑な経緯もあるけど、これでイリナも駒王学園に仲間入りってことだ。

 

その後、生徒会の仕事を終えたシトリー眷属も加わり、イリナの歓迎会がおこなわれたのだった。

 

 



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2話 体育祭の練習です!!

イリナが転校してから数日。

 

「はいはい! 私、借り物レースに出まーす!」

 

元気いっぱいに手をあげるイリナ。

 

イリナは持ち前の明るさのおかげで男女問わず人気が高く、すでにクラスに溶け込んでいた。

 

今はホームルームの時間で、体育祭で誰がどの競技にするのかを話し合っているところだ。

 

 

・・・・・はぁ。

 

とうの俺は机に突っ伏して、ため息をついていた。

 

 

イリナも俺の家に住むことになったんだ。

まぁ、夏休みに地上六階、地下三階という豪邸と化した家は部屋もたくさん余ってるから、一人や二人増えたところで、とくに問題はない。

 

ただ、一つ気づいたことがある。

 

 

それは家の女子率が上がると意外に肩身が狭いということだ。

 

母さん以外、美少女だらけ!

男子高校生としては理想の住まい!

 

・・・・・なんて思ってたけど、現実はそこまで甘くない。

 

 

例えば、アーシア、ゼノヴィア、イリナの三人が集まって女子トークをし始めたとしよう。

恐ろしく会話に入りづらい!

ここに小猫ちゃんやレイナまで入り込むと俺の接触できるスペースはない!

 

そのグループに入ることを諦めて、お姉様のもとへ行くと、部長と朱乃さんもやっぱり女子トークお姉様バージョンをしているんだ。

そこへ俺が「部長~」「朱乃さ~ん」と甘える感じで入り込んでも空しくなる。

 

 

確かに、異世界でも女の子に囲まれて過ごしたこともある。

城ではメイドさんもいたし、アリス達もいた。

 

だけど、俺は向こうでは客人扱いってのもあったから、そこまで肩身が狭くなるってことは無かったんだよなぁ。

あの時は右も左も分からない状態だったから、質問ばっかりしていたし。

 

 

はぁ・・・・・。

俺ってここまで甲斐性無しだったのか・・・・・。

こんな調子でハーレム王になれるのかね?

 

まぁ、だからと言って皆と仲が悪いとかではない。

普段は仲良く過ごしている。

 

女の子には女の子の生活があるってことで納得はしてるさ。

 

 

つーか、ここのところ、ずっと美羽に甘えてるような気がする・・・・。

女子トークについてけない俺の心情を察してか、俺のことを気遣ってくれている。

 

昨日なんて膝枕してくれたんだ。

 

うぅ・・・・妹の優しさが身に染みます!

 

 

「兵藤」

 

ふいに桐生に呼ばれた。

奴は現在、黒板の前に立ち、体育祭の競技について書き込んでいるところだ。

 

「脇のところ、破れてる」

 

「え? マジか」

 

と、桐生の言うように自身のワイシャツの脇を見るが、とくに破れてるところは無い。

 

ここで俺は自分のミスに気づいた。

だが、もう遅い。

 

「はい! 決まり!」

 

俺の名前がチョークで黒板に書き込まれていく!

 

「騙しやがったな、桐生!」

 

やられた!

 

完全に油断してた!

 

文句を言うが、奴はいやらしく笑うだけだった!

 

「あんたは二人三脚よ。相方は―――」

 

桐生がそこまで言いかけると、数人の手が挙がる。

 

美羽とアーシア、レイナにゼノヴィアだ。

 

 

四人はお互いを見合う。

 

「ほう、随分と強敵が揃ったものだ」

 

「そうね。でも、これは譲れないわ」

 

「ボクだってそうだよ」

 

「私もイッセーさんと走りたいです!」

 

うおおおおお!?

 

なんか四人の間で火花が散ってる!

 

四人は教室の後ろの方へと移動する。

 

そして―――

 

「「「「ジャンケン、ポン! あいこでしょ!」」」」

 

 

壮絶なジャンケン大会が始まった!

四人とも必死の表情だ!

そこまでして、俺と二人三脚したいですか!?

俺としては全然嬉しいけどね!

 

「「「「あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこで・・・・・・・しょ!」」」」

 

つーか、長いよ・・・・・

 

中々決まらないのな。

 

 

「四人とも盛り上がってるところ悪いけど早く決めてね。今日中に選手を決めないといけないから」

 

桐生がそう言うが・・・・・

 

「「「「あいこでしょ!」」」」

 

四人の耳には全く入っていないようだった。

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

それから五分後。

 

「それじゃあ、兵藤の相方はアーシアで決まりね」

 

桐生がそう言いながら、黒板にアーシアの名前を書いていく。

 

そう、永遠に続くかと思われた四人のジャンケン大会を見事制したのはアーシアだった。

 

よくもそこまであいこが続いたな!

 

 

「くっ・・・・・あそこでパーを出さなければ・・・・・っ!」

 

ゼノヴィア、めちゃくちゃ悔しそうだな。

自分の右手を見ながら過去の自分を責めてるよ。

 

正々堂々やって負けたものは仕方がないよな。

 

 

すると、アーシアが顔を少し赤くしながら俺のところに近づいてきた。

 

「イッセーさん、よろしくお願いします!」

 

「おう! よろしくな、アーシア!」

 

こうして、俺とアーシアは二人三脚のパートナーに決定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

今日から学園全体で体育祭の練習が始まっていた。

 

俺のクラスも体操着に着替えて、男女合同で各自が出場するの競技の練習をしていた。

 

「勝負よ、ゼノヴィア!」

 

「望むところだ、イリナ!」

 

イリナとゼノヴィアはグラウンドで駆けっこしていた。

二人はリレーの練習をしているんだけど・・・・・。

 

あいつら、互いに負けたくない競争心からか、グラウンドを爆走してるよ。

めちゃくちゃ速い。

流石は悪魔と天使。

 

ちなみに、美羽とレイナはグラウンドの端の方で障害物競走の練習をしている。

なぜか、網が体に巻きついていて、エロいことになっているのだが・・・・

 

「・・・・しかし、高速で動かれると、おっぱいの動きが把握しづらいな」

 

「そうだな」

 

「やはり、運動のときは適度な速さが一番だ」

 

と、俺と松田、元浜の三人は走る女子のおっぱいの動きを観察していた。

 

大きいのも、小さいのも、女子が動くたびに揺れるから目が離せないぜ!

 

体操着最高!

 

 

「お、兵藤」

 

「おう、匙じゃん」

 

匙が俺に話しかけてきた。

手にはメジャーやら計測するものを持っていた。

 

「何やってんだ?」

 

「揺れるおっぱいを観察だ」

 

「あ、相変わらずだな、おまえ・・・・。戦闘の時とのギャップが激しすぎないか?」

 

そう言いながら嘆息する匙。

特に戦闘時も平常時も変わらないと思うんだけどなぁ。

 

「修行にはなれたか?」

 

俺が尋ねると匙はため息をつきながら首を横に振った。

 

「いや、全然。あの修行、キツすぎるぞ・・・・・。今も体が重たくて仕方がない」

 

今の匙の体には美羽の魔法によって、常時、重力の三倍の負荷がかけられている状態だ。

 

以前、十倍でやってみたところ、次の日には体が動かなくなったらしい。

 

学園での生活もあるため、負荷を軽めにしてるんだが・・・・

 

それでも、かなりキツいようだ。

 

「まぁ、がんばれ。それを乗り切ったら、数段上のステージに進める。俺にもできたんだ、匙だってできるさ」

 

「ああ。俺、絶対に強くなって、今度こそ会長を勝利に導く!」

 

「その意気だ!」

 

 

うんうん。

 

この調子ならこいつは直ぐに強くなれると思う。

 

「ところで、兵藤はどの競技に出るんだ?」

 

「俺はアーシアと一緒に二人三脚だ」

 

「くっ! 相変わらずうらやましい野郎だ! 俺はパン食い競争だよ」

 

へー、匙はパン食いに出るのか。

 

それも面白そうだけど、俺はアーシアちゃんとの二人三脚の方が良いな。

仲良し小良しで走り抜きますよ。

 

うらやましがる匙のもとへメガネの女子が二人登場。

 

「サジ、何をしているのです。テント設置箇所のチェックをするのですから、早く来なさい」

 

「我が生徒会はただでさえ男子が少ないのですから、働いてくださいな」

 

ソーナ会長と副会長の真羅先輩だ。

二人が匙を呼んでいる。

おおっ、二人のメガネがキラリと光ってるぜ。

 

「は、はい! 会長! 副会長!」

 

匙はあわてて二人のもとへと走っていく。

うーん、生徒会は厳しそうだな。

 

 

そういえば、副会長もグラマーな体型をしてるんだよなぁ。

というより、生徒会メンバーも美少女揃いなんだよな。

 

うん、いいおっぱいしてるぜ!

 

 

『(・・・・ヴリトラか)』

 

ん?

 

どうしたよ、ドライグ。

 

『(相棒はこの間のゲームの際、あの小僧の背後に現れたものを覚えているか?)』

 

あー、そういえば匙の後ろに黒い蛇みたいのがぼんやりと浮かんでいたっけな。

 

木場が驚きの表情を浮かべていたのを良く覚えてるよ。

 

『(あれはヴリトラが小僧の闘志によって反応したのだろう。・・・・幾重に刻まれ、魂が薄まろうとも宿主の強い思いがあれば話は別だということか・・・・)』

 

それって、匙に封印されているヴリトラの意識が戻ったということか?

 

『(いや、そこまでではない。あの時の、一時的なものだろう。だが、今後次第ではヴリトラの意識が戻ることもありうるな)』

 

なるほど・・・。

 

『(使い魔にティアマット、近くにはファーブニルとヴリトラ。そしてタンニーンにも出会った。相棒は各龍王に縁があるのかもしれんな)』

 

龍王に縁がある、か。

確かにそうかもしれない。

今後も他の龍王と接する機会がくるかもな。

 

 

「アーシア! 夏休みの間におっぱい成長したぁ?」

 

「キャッ! 桐生さん! も、もまないでくださいぃ」

 

あ!

エロメガネ娘がアーシアにセクハラしてやがる!

目を離すとすぐこれだ。

 

アーシアがエロくなったらどうしてくれる!

 

・・・・まぁ、それはそれで良いかな、と思う自分もいるが・・・・・。

 

 

さて、そろそろ俺達も練習を始めるとするか。

 

俺はクラスごとに用意された競技用道具から二人三脚用のひもを取り出した。

 

「アーシア、俺達も練習しようぜ!」

 

「は、はい!」

 

じゃれついていた桐生にペコリと頭を下げたアーシアは、俺のもとへと駆け寄ってきた。

 

俺とアーシアはぴったりくっつき、足首にひもを結ぶ。

 

「よし、さっそく行くぞ、アーシア!」

 

「は、はい!」

 

アーシアは恥ずかしそうにしながらも俺の腰に手を回す。

 

うーん、アーシアの髪からいい匂いが・・・。

しかも、ぴったりとくっついているから、アーシアの柔らかい体が・・・・。

 

いかんいかん!

雑念を振り払わないと!

今は練習に集中しなければ!

 

息を整えて、俺達は互いに頷き合った後、足を一歩前へ踏み出した。

 

「せーの、いち、に――――」

 

声を出して、動き出すが―――――

 

ガクン!

 

足を取られて、バランスを崩した!

 

「きゃっ」

 

「アーシア! 危ない!」

 

倒れそうになるアーシアを急いで掴まえて体勢を立て直す。

 

「・・・やっぱり、俺がアーシアに合わせるしかないよなぁ」

 

と、俺が考えていると、アーシアが顔を紅潮させていた。

何かに耐えている様子だ。

 

どうしたんだ、アーシア?

 

 

ムニュ

 

 

あれ?

 

右手が何か柔らかいものを――――――――――

 

 

って、俺、アーシアのおっぱい揉んでるぅぅぅぅぅっ!!

 

さっき、とっさに掴んだところはおっぱいだったのか!

 

 

むぅ・・・、質量が増している・・・・

 

桐生が言っていた通り、確かにアーシアは夏休み中に成長したようだ。

 

いやいやいや、何を冷静に分析してんだよ!

 

俺はアーシアのおっぱいから手を離す!

 

「ゴ、ゴメン! わざとじゃないんだ!」

 

「だ、大丈夫です。平気です。で、でも、触るときは一言言ってからにしてください・・・・。私も心の準備が必要ですから・・・・」

 

一言いえばOKなんですか!?

 

「と、とりあえず、再開しよう」

 

「は、はい。でも、すみません。私、運動はそこまで得意じゃないので」

 

気落ちするアーシア。

 

「いいって。要は息を合わせること。コンビネーションだ」

 

「コンビネーション?」

 

可愛く首をかしげるアーシア。

うーん、やっぱりアーシアには癒されるなぁ。

 

「そう、コンビネーション。まずはゆっくりでいいから一緒に声を出して、一歩一歩動いてみよう」

 

「分かりました! よろしくお願いします!」

 

こうして俺達はまず息を合わせて歩くことから始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

その日の放課後。

 

今日は教室の掃除当番だったんで、部室には遅れて顔を出すことになった。

 

俺は同じ掃除当番だった美羽とアーシアを連れて部室に入る。

 

すると、先に来ていた部長を含めたほかのメンバーは顔をしかめていた。

 

「どうしたんですか?」

 

俺が尋ねると、部長が言う。

 

「若手悪魔のレーティングゲーム。私達の次の相手が決まったの」

 

へぇ。

もう決まったのか。

 

グレモリー対シトリーの一戦を皮切りに例の六家でゲームが行われている。

部長達もシトリー以外の家と戦うことになっていた。

 

・・・・まぁ、俺は出られないわけだけど。

 

「それで、次の相手は誰なんです? あ、もしかしてサイラオーグさんとかですか?」

 

確かにあの人が相手なら、こういう空気になるかもしれない。

あの人は会合で集まった若手悪魔の中でも纏うオーラが別格だったからな。

 

だけど、部長は首を横に振った。

 

「まぁ、サイラオーグを今の段階で相手にするのは正直言って辛いのだけど・・・・。今回はそういうのではないの」

 

部長はそこで止めると、一旦息を吐く。

 

そして、次の対戦相手の名を言った。

 

「次の対戦相手は―――――ディオドラ・アスタロトよ」

 

「―――――っ!!」

 

このタイミングであいつが相手か・・・・。

 

悪い冗談としか思えない対戦相手に俺は思わず言葉を失った。

 

 



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3話 激戦!? 体育倉庫!

ここのところ自分でも驚くくらいに更新スピードが速いです。

まぁ、八月~九月にかけてまた忙しくなりそうなので、出来るところまでは更新していきたいと思っています。


「おいっちにーさんしー、おいっちにーさんしー」

 

俺とアーシアは早朝から体操着で二人三脚の練習をしていた。

ゼノヴィアも付き添いで来てくれていて、最近ずっと練習していた。

 

練習を始めた頃はアーシアがバランスを崩して何度も転びそうになっていたけど、今では競歩くらいの走りは出来るようになっていた。

 

「あぅ! いち、に! はぅぅ! さん、し!」

 

アーシアは俺に遅れないようにするため、必死でついてきている。

 

俺もアーシアに合わせるのが中々に難しいけど、上手いことタイミングを合わせるようにしているから転ぶことはない。

 

「うん。大分良くなってきたね。じゃあ、一度本番のように走ってみようか」

 

ゼノヴィアが俺達のヒモを直しながら言う。

 

ふと、アーシアを見ると、少し表情を陰らせていた。

 

「ディオドラのことか?」

 

「はい・・・・・」

 

ディオドラが部長達の次の相手と決まってからアーシアは悩んでいる様子だった。

 

あいつはアーシアが教会を追放される原因となった悪魔。

あいつがなぜ、そこにいたのかは分からないけど、あいつのせいで、アーシアが辛い目にあったことには変わらない。

 

アーシアにとっては悪い思い出でしかない。

 

「・・・・・私、彼を救ったこと、後悔してません。今でも彼を救えて良かったと思っています」

 

「・・・・・それでアーシアが辛い目にあったのに?」

 

俺の問いにアーシアは頷く。

 

「そっか・・・・・」

 

アーシアは心が強い。

 

今まで信じてきたものに裏切られたら泣き言の一つや二つ出てくるはずだ。

それをアーシアは言わない。

 

それどころか、原因であるディオドラを救えて良かったと言える。

 

こんなことは中々言えることじゃない。

 

「私は教会を追放されて悲しいこともありました。でも、それが無かったらイッセーさんとこうしてお話することも出来なかったと思います」

 

アーシアは続ける。

 

「私、ここが好きです。この駒王学園も、オカルト研究部も好きです。皆さんと過ごせる生活は本当に大切で大事で、大好きなことばかりでとっても素敵なんです。だから、私は今の生活にとても満足しています。幸せだと感じているんです。ずっと一緒にいたいです」

 

アーシアは眩しいくらいの笑顔で言った。

 

アーシアは本当に今の生活が好きなのだろう。

 

だったら、俺のやるべきことはアーシアが楽しく過ごせるこの生活を守ることだ。

 

俺はアーシアの肩を抱いて言う。

 

「そうだな、俺達はずっと一緒だ! アーシア、ディオドラことも深く考えるな。経緯はどうであれ、嫌なら嫌と言えばいいんだ」

 

俺の言葉にアーシアは少しきょとんとするが、すぐに笑みを見せてくれる。

 

「はい」

 

すると、今度はゼノヴィアが思い詰めた表情で言う。

 

「・・・・アーシア、改めてだけど、もう一度君に謝りたい。初めて出会った時に暴言を吐き、刃を向けたこと。今でも後悔しているんだ。・・・・・そんな私をアーシアは私をと、と、友達だと・・・・・」

 

おおっ、ゼノヴィアが珍しく顔を紅潮させてるな。

 

アーシアはゼノヴィアの手を取り、満面の笑みで言う。

 

「はい。私とゼノヴィアさんはお友達です」

 

真正面からの屈託のない一言。

ゼノヴィアは少し涙ぐんでいた。

 

「ありがとう・・・・・。ありがとう、アーシア」

 

うんうん。

感動的なシーンだよな。

俺まで泣きそうになったよ。

 

本当、アーシアちゃんは優しい子ですよ。

 

 

「うぅぅぅっ! 良い話よねぇ・・・・」

 

突然聞こえてきた嗚咽。

 

声の方向を見れば、イリナが号泣していた。

 

「イリナか。なんでここに?」

 

「うぅ、ゼノヴィアに誘われてね・・・・。早朝の駒王学園も良いものだぞーって。で、来てみたら、美しい友情が見られるんだもの。これも主とミカエル様のお導きだわ・・・・」

 

ハンカチで涙を拭いながら、天に祈りを捧げるイリナ。

 

「そういや、おまえ、オカ研じゃないよな?」

 

俺が尋ねるとイリナは満面の笑みで親指を立てる。

 

「ええ、実は私、クラブを作ることにしたのよ!」

 

「へぇ、それってどんな?」

 

俺が思わず聞き返すと嬉しそうに話すイリナ。

 

「うふふ、聞いて驚きなさい! その名も『紫藤イリナの愛の救済クラブ』! 内容は簡単! 学園で困っている人たちを無償で助けるの! ああ、信仰心の篤い私は主のため、ミカエルさまのため、罪深い異教徒どものために愛を振りまくのよ!」

 

妙なポーズで天に祈りを捧げながら、目を爛々と輝かせるイリナ。

つーか、ネーミングセンス悪すぎだろ・・・・・。

 

「……いや、うん。まぁ、がんばれ」

 

俺は適当に相づちを打つと、イリナは胸をどんと叩いて言う。

 

「任せて! もちろん、オカルト研究部がピンチのときはお助けするわ! 今回はリアスさんのお願いでオカルト研究部の部活対抗レースの練習を助けるの!」

 

ということは、体育祭は俺達のところに参加するのね。

 

「一つ訊くけど、部員は他にいるのか?」

 

「まだ私だけよ! おかげで同好会レベルに留まっていて、正式な活動と運営資金は規制されているわ。まずはソーナ会長を説得するところからスタートね」

 

こんな怪しさ満点の同好会をソーナ会長は認めるのだろうか?

 

そもそも、部員が集まるのか?

 

「とりあえずはオカルト研究部に籍を置くことになっているの」

 

それってほぼオカルト研究部の部員じゃねぇか!

 

と、俺は思わずツッコミそうになったのを堪える。 

 

「それはともかく、練習を始めよう」

 

俺は気分を取り直して、アーシアとの練習を再開した。

 

 

 

 

「ふぅー。ちょっと、つ、疲れましたねぇ」

 

アーシアが体操服をバタバタさせながら息を吐いていた。

まぁ、早朝からずっと走っていたからな。

いくら人より強靭な悪魔とはいえ、体力の少ないアーシアは疲れるだろう。

 

俺の場合は体力的には問題ないけど、アーシアを気遣いながらだったから、精神的に気疲れしているところもある。

 

体育倉庫に道具を片付けたら一旦、部室に戻って一息つくか。

授業までまだ時間かあるし、大丈夫だろ。

 

そんなことを考えながらライン引きを倉庫の奥に片付けていると―――

 

ガラガラガラ、ピシャッ

 

扉がしまる音?

 

見ればゼノヴィアが後ろ手に倉庫の扉を閉めていた。

 

な、なんだ?

どうしたんだ、ゼノヴィアのやつ・・・・・。

 

アーシアもゼノヴィアの行動に可愛く首を傾げていた。

 

「どうしたんですか? ゼノヴィアさん」

 

尋ねるアーシア。

 

すると、ゼノヴィアは真剣な表情で語り出す。

 

「アーシア、私は聞いたんだ。私たちと同い年の女子はだいたい今ぐらいの時期に乳繰りあうらしいぞ」

 

………………。

 

………え?

 

「ち、ちちくりあう?」

 

アーシアが怪訝そうに聞き返す。

 

ゼノヴィアはハッキリとした口調で言う。

 

「男に胸を弄ばれることだ」

 

―――こ、こいつはいきなりなにを言い出しているんだ!?

 

まさか、ここでするつもりか!?

 

「む、む、む、胸を……っ!」

 

アーシアは顔を真っ赤に染め上げ、声も上ずっている!

 

「ゼノヴィア!こんなところでそんな話をいきなりするな!」

 

「イッセーは少し黙っていてくれ。まずはアーシアと話す。イッセーの出番はそれからだ。すまないが、倉庫の隅でウォーミングアップでもしておいてくれ。これから激闘になる」

 

出番!? 激闘!? ウォーミングアップ!?

 

そんなものしなくても、体力には自信が・・・・・

 

って、そうじゃねぇだろぉぉぉぉぉおおおお!!

 

マジか!?

ここでするつもりなのか!?

 

俺が混乱しているさなか、ゼノヴィアがアーシアに話を続ける。

 

「クラスの女子のなかには彼氏に毎日のようにバストを揉まれている者もいる。私はいろいろと調べたんだ」

 

どうしておまえはそういうことを真摯に調べてくるんだよぉぉぉっ!

 

「アーシア。私たちもそろそろ体験してもいいのではないか?」

 

ゼノヴィアはアーシアの肩に手を置き、真剣な面持ちで言う。

 

なんで、そこまで深刻な話しになってるんだ!?

 

「あ、あぅぅぅっ!そ、そんな、きゅ、急に言われても……」

 

アーシアも困惑していた!

 

「だいじょうぶだ。初めては多少くすぐったいらしいが、慣れてくればとても良いものらしいぞ。きっと乳繰りあえば、自然と二人三脚も上手にこなせる」

 

ええええええええええええっ!?

 

そこに持っていきますか!?

 

「・・・・・コ、コンビネーションはそこから生まれるのでしょうか・・・・」

 

アーシアちゃんが説得されかけてるぅぅぅっ!?

 

ウソだろ!?

 

それで良いのか、アーシア!

 

迷うアーシアにゼノヴィアは笑みで応える。

 

「アーシア、私達は友達だ」

 

「はい」

 

「乳繰り合いも共にしよう。二人なら大丈夫だ」

 

「・・・・え、えっと、そ、そうなのですか?」

 

おいおいおい!

 

話が纏まりつつあるよ!

 

ゼノヴィアがこちらに顔を向ける。

 

「では、しようか。私は子作り練習も兼ねるよ」

 

「ちょっと待て! いきなり、こんな場所で―――いや、雰囲気的に体育倉庫とか憧れるけどさ!」

 

狼狽する俺だが、ゼノヴィアが俺の手元を指差す。

 

「そうは言うが、イッセー。そんなに指を動かして、すでに準備万端みたいじゃないか」

 

ああっ!

気づけば俺は両手の指をわしゃわしゃと動かしていた!

無意識での行為ってやつか!

 

どうやら俺の体は正直者らしい!

 

 

俺が自分の欲望の強さに驚いていると、ゼノヴィアは体操着の上を脱ぎ捨てる。

 

 

ぶるん

 

 

ブラに包まれていても確かな存在を見せてくるゼノヴィアおっぱいが見参!

 

 

ブッ!

 

 

見事な脱ぎっぷりに俺の鼻血も噴き出た!

 

ゼノヴィアもおっぱいデカいよな!

良い形してるぜ!

 

そんなふうに思っていると、ゼノヴィアはブラのホックを外した。

 

 

ぶるっ!

 

 

抑えるものが無くなったためか、見事な乳房が俺の眼前に!

 

うん!

綺麗なピンク色の乳首だ!

 

 

「ほら、アーシアも」

 

ゼノヴィアがアーシアへ迫る!

 

おおおーい!

何アーシアの体操着を掴んで脱がそうとしてるの!?

 

「で、でも、心の準備がまだ・・・・・」

 

ゼノヴィアはもじもじするアーシアから強引に体操着の上を取り払った!

 

そして、現れるアーシアのブラジャー姿!

 

可愛らしいデザインのブラジャーじゃないか!

 

「大丈夫だよ、アーシア。不安なら私が先にイッセーとしても良い。私とイッセーの行為を見ていればどういうものか理解できて、勇気と準備が整うはずだ」

 

「え!・・・・・え、えっと」

 

「ふふふ、冗談だよ。やっぱり後から来た者に先を越されるのは嫌だと思っていた」

 

「い、いえ・・・・そういうことじゃなくて」

 

「今日がチャンスだよ。今は部長達もいない。誰にも邪魔されず、イッセーと乳繰り合えるチャンスは今しかないかもしれないんだ」

 

「―――――!」

 

その一言にアーシアが黙り込んでしまった!

 

た、確かにここには部長達もいないから、プールの時みたいに誰かが止めに入ることもないだろうけど・・・・

 

 

パチン

 

 

ゼノヴィアがアーシアのブラのホックをはずしたぁぁぁっ!

 

「―――――あっ」

 

あらわになった胸元をアーシアは顔を真赤にして手で隠す!

 

だよね!

それが普通の反応だよね!

 

ゼノヴィアさん、堂々とぶるんぶるんさせすぎ!

いえ、ありがとうございます!

最高です!

 

そのゼノヴィアが俺の手を引き―――――――トンと体を押した。

 

「おわっ!」

 

倒される俺。

 

舞うホコリの中、上半身だけ起こした俺は体育用マットの上に押し倒されたことに気付く。

 

 

がばっ!

 

 

何か覆いかぶさる!

 

 

ぶるぶるっ!

 

 

眼前で揺れるゼノヴィアのおっぱい!

 

ゼノヴィアは俺の左手を取り、自身の胸に当てる!

 

 

ブハッ!

 

 

鼻血が止まらねェ!

 

殺傷能力の高いやわらかさが俺の手に伝わる!

 

埋没していく俺の五指!

 

「イッセーさん・・・・私も・・・・」

 

隣に座ったアーシアが俺の右手を取って、自分の胸へ―――――

 

 

ふにゅん

 

 

ゼノヴィアほどではない。

しかし、確かな存在感のアーシアのおっぱいに俺の五指がぁぁぁ!

 

よくここまで育ってくれた!

 

俺は猛烈に感動しているよ、アーシア!

 

「・・・ぅん・・・・」

 

甘い吐息がゼノヴィアの口から漏れる。

 

「やはり、自分で触るのと、男が触ってくるのとでは違うね。さて、イッセー。私とアーシア、どちらも準備はOKだ。好きなだけ揉みしだくと良い」

 

「も、もみしだくって・・・・」

 

「ああ、存分にな。イッセーは女の胸が好きなのだろう?」

 

そりゃあもう!

 

大好物だぜ!

 

 

俺は両の手に軽く力を入れる。

 

すると、俺の指は二人の胸に更に埋没していく!

 

くぅぅ! なんて刺激的な光景なんだ!

 

ここまで来たら俺は止まらんぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 

 

 

 

 

と、俺の中のエンジンがフル稼働しようとした時だった―――――――

 

 

ガラララ

 

 

突然開かれる扉。

 

「・・・・中々出てこないから心配してきてみれば、な、な、な、なんてことを!」

 

入ってきたのはイリナだった!

 

しまった!

 

完全に存在を忘れてた!

 

くそぅ、どうして毎回毎回、女の子とイチャイチャしようとしたらこうなるんだ!

 

 

いや、今しなければならないのは、イリナへの弁解だ。

 

だが、こんな状況で言い訳できるのか!?

上半身裸の女の子二人と男が一人だぞ!?

もう詰んでるだろ!

 

イリナのことだ、「不潔!」とかクリスチャン的な発言をしそうだが――――――――

 

「ベッドでしなさい! ここは不潔で衛生的によくないわ!」

 

・・・・・不潔の基準が違った

 

 

 

結局、俺は今回も大人の階段を上ることができなかった・・・・・

 

はぁ・・・・・

 

 

 



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4話 渡しません!!

ここのところ連続の投稿です。

今月中には6章を書き切りたいと思います。


体育倉庫での一件があった日の放課後。

 

部活の時間だ。

 

「全員集まってくれたわね」

 

部員全員が集まったことを確認すると、部長は記録メディアらしきものを取り出した。

 

「これは若手悪魔の試合を記録したものよ。私達とシトリーのもあるわ」

 

戦いの記録。

 

そう、今日は皆で試合のチェックをすることになったんだ。

部室には巨大なモニターが用意される。

 

アザゼル先生がモニターの前に立って言う。

 

 

「おまえら以外にも若手悪魔たちはゲームをした。大王バアル家と魔王アスモデウスのグラシャラボラス家、大公アガレス家と魔王ベルゼブブのアスタロト家、それぞれがおまえらの対決後に試合をした。それを記録した映像だ。ライバルの試合だから、よーく見ておくようにな」

 

『はい』

 

先生の言葉に全員が真剣にうなずいていた。

 

皆、他の家がどんなゲームをしたのかすごく気になるようだ。

参加している若手悪魔はほとんどが俺達と同期。

どんな戦いをしたのか気になってしょうがないって感じだ。

 

実は俺も気になっている人がいる。

 

サイラオーグ・バアル。

部長の従兄弟に当たる人だ。

 

部長から聞いた話だと、あの人が若手のナンバーワンらしい。

 

まぁ、そう言われれば納得だ。

あの人は会合で集まった若手悪魔の中でも別格だと思ったほどだからな。

 

「まずはサイラオーグ―――バアル家とグラシャラボラス家の試合よ」

 

さっそく、サイラオーグさんか。

 

相手はあのヤンキー。

あいつ、サイラオーグさんに吹っ飛ばされてたけど、まともな勝負になるのか?

 

 

記録映像が開始され、数時間が経過する。

 

グレモリー眷属の顔つきは真剣そのものになり、視線は険しいものになっている。

 

そこに映っていたのは―――圧倒的なまでの『力』だ。

あのヤンキー悪魔とサイラオーグの一騎打ち。

一方的にヤンキーが追い込まれていた。

眷属同士の戦いはすでに終わっている。

どちらも強い者ばかりを眷属に持っていて、白熱したが、問題なのは『王』同士の戦いだ。

 

最後の最後で駒をすべてなくしたヤンキーがサイラオーグさんを挑発した。

 

サシで勝負しろ、と。

 

サイラオーグさんはそれに躊躇うことなく乗った。

ヤンキーが繰り出すあらゆる攻撃がサイラオーグにはじき返される。

まともにヒットしても何事もなかったようにサイラオーグさんはヤンキーに反撃していた。

自分の攻撃が通じないことで、ヤンキーはしだいに焦り、冷静さを欠いていた。

そこへサイラオーグさんの拳が放り込まれる。

幾重にも張り巡らされた防御術式を紙のごとく打ち破り、サイラオーグさんの一撃がヤンキーの腹部に打ちこまれていく。

 

その一撃は映像越しでも辺り一帯の空気を震わせるほどだった。

 

「・・・凶児と呼ばれ、忌み嫌われたグラシャラボラスの新しい次期当主候補がまるで相手になっていない。ここまでのものか、サイラオーグ・バアル」

 

木場は目を細め、厳しい表情でそう言った。

サイラオーグさんのスピードは相当なものだった。

それも、木場が目を奪われるほどの。

スピードが持ち味の木場にとっては思うところがあるのだろう。

 

見ればギャスパーがブルブル震えながら俺の腕につかまっていた。

ビビりすぎだろ、ギャスパー・・・・・。

 

 「リアスとサイラオーグ、おまえらは『王』なのにタイマン張りすぎだ。基本、『王』ってのは動かなくても駒を進軍させて敵を撃破していきゃいいんだからよ。ゲームでは『王』が取られたら終わりなんだぞ。バアル家の血筋は血気盛んなのかね」

 

先生が嘆息しながらそう言う。

確かに、部長は前に出ていく傾向が見られるよな。

部長は恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

 

「あのグラシャラボラスの悪魔はどのくらい強いんだ?」

 

ゼノヴィアの問いに部長が答える。

 

「今回の六家限定にしなければ決して弱くはないわ。といっても、前次期当主が事故で亡くなっているから、彼は代理ということで参加しているわけだけれど……」

 

朱乃さんが続く。

 

「若手同士の対決前にゲーム運営委員会がだしたランキング内では一位はバアル、二位がアガレス、三位がグレモリー、四位がアスタロト、五位がシトリー、六位がグラシャラボラスでしたわ。『王』と眷属を含みで平均で比べた強さランクです。それぞれ、一度手合わせして、一部結果が覆ってしまいましたけれど」

 

「しかし、このサイラオーグ・バアルだけは抜きんでている―――というわけだな。部長」

 

ゼノヴィアの言葉に部長は頷く。

 

「ええ、彼は怪物よ。『ゲームに本格参戦すれば短期間で上がってくるのでは?』と言われているわ。逆を言えば彼を倒せば、私たちの名は一気に上がる」

 

と、部長は言うけど・・・・・・

皆には悪いけど、今の実力ではサイラオーグさんには勝てないだろう。

まぁ、その辺りは皆も理解してると思うけどね。

 

 

「とりあえず、グラフを見せてやるよ。各勢力に配られているものだ」

 

先生が術を発動して、宙に立体映像的なグラフを展開させる。

 

そこには部長や会長、サイラオーグさんなど、六名の若手悪魔の顔が出現し、その下に各パラメータみたいなものが動き出して、上へ伸びていく。

ご丁寧にグラフは日本語だった。

 

グラフはパワー、テクニック、サポート、ウィザード。

ゲームのタイプ別になっている。

最後の一か所に『キング』と表示されている。

たぶん『王』としての資質だろう。

 

サイラオーグさんはかなり高めだ。

そして、ヤンキー悪魔が一番低い。

 

まぁ、あいつは王って感じはしないもんなぁ・・・・。

 

 

部長のパラメータはウィザード―――魔力が一番伸びて、パワーもそこそこ伸びた。

あとのテクニック、サポートは真ん中よりもちょい上の平均的な位置だ。

 

 

そして―――サイラオーグさん。

 

サポートとウィザードは若手の中で一番低い。

だけど、そのぶんパワーが桁外れだ。

ぐんぐんとグラフは伸びていき、部室の天井まで達した。

極端すぎるがパワーが凄まじいということか・・・・・。

サイラオーグさんを抜かす五名の中でも一番パワーの高いゼファードルの数倍はあるな。

 

 

「ゼファードルとのタイマンでもサイラオーグは本気を出しやしなかった」

 

だろうな。

ヤンキーと戦ってる時のサイラオーグさんは映像からも分かるほどに余裕があったしな。

 

「やはり、サイラオーグ・バアルもすさまじい才能を有しているということか?」

 

ゼノヴィアが尋ねると、先生は首を横に振って否定する。

 

「いいや、サイラオーグはバアル家始まって以来才能が無かった純血悪魔だ。バアル家に伝わる特色のひとつ、滅びの力を得られなかった。滅びの力を強く手に入れたのは従兄弟のグレモリー兄妹だったのさ」

 

サイラオーグさんも俺と同様に才能が無かったのか。

 

ということは、あの強さは――――

 

「サイラオーグは、尋常じゃない修練の果てに力を得た稀有な純血悪魔だ。あいつには己の体しかなかった。それを愚直までに鍛え上げたのさ」

 

 

やっぱり、サイラオーグさんも修行したんだな。

あそこまでの強さになるには相当、厳しいものだったのだろう。

努力の果てに得た強さ。

だから、あの人の目は自信に満ち溢れているんだ。

 

先生は続ける、語りかけるように。

 

「奴は生まれたときから何度も何度も勝負の度に打倒され、敗北し続けた。華やかに彩られた上級悪魔、純血種のなかで、泥臭いまでに血まみれの世界を歩んでいる野郎なんだよ。才能の無い者が次期当主に選出される。それがどれほどの偉業か。―――敗北の屈辱と勝利の喜び、地の底と天上の差を知っている者は例外なく本物だ。ま、サイラオーグの場合、それ以外にも強さの秘密はあるんだがな」

 

試合の映像が終わる。

結果はサイラオーグさん――――バアル家の勝利だ。

最終的にグラシャラボラスのヤンキーは物陰に隠れ、怯えた様子で『投了』宣言をする。

サイラオーグは縮こまり怯え泣き崩れるヤンキーに何かを感じる様子もなくその場をあとにしていく。

 

映像が終わり、静まりかえる室内で先生は言う。

 

「先に言っておくがおまえら、ディオドラと戦ったら、その次はサイラオーグだぞ」

 

「――――っ!?」

 

部長は怪訝そうにアザゼルに訊く

 

「少し早いのではなくて?グラシャラボラスのゼファードルと先にやるものだと思っていたわ」

 

「奴はもうダメだ」

 

先生の言葉に皆が訝しげな表情になる。

 

「ゼファードルはサイラオーグとの試合で潰れた。サイラオーグとの戦いで心身に恐怖を刻み込まれたんだよ。もう、奴は戦えん。サイラオーグはゼファードルの心―――精神まで断ってしまったのさ。だから、残りのメンバーで戦うことになる。若手同士のゲーム、グラシャラボラス家はここまでだ」

 

あらら・・・・・。

心を完全に折られちゃったのか。

まぁ、自慢の魔力が全く通じず、素手だけでボコボコにされたのだから、仕方がないのかな・・・・・?

 

「おまえらも十分に気をつけておけ。あいつは対戦者の精神も断つほどの気迫で向かってくるぞ。あいつは本気で魔王になろうとしているからな。そこに一切の妥協も躊躇もない」

 

アザゼルのその言葉を皆が頷く。

 

部長は深呼吸をひとつした後、改めて言う。

 

「まずは目先の試合ね。今度戦うアスタロトの映像も研究のためにこのあと見るわよ。―――対戦相手の大公家の次期当主シーグヴァイラ・アガレスを倒したって話しだもの」

 

「大公が負けた? マジですか?」

 

俺は思わず、部長に尋ねてしまう。

俺はてっきりあのメガネのお姉さんが勝ったと思っていたからだ。

会合の時点ではあの人の方がディオドラよりも強かった。

それをディオドラは下したのか・・・・・?

 

いや、レーティングゲームは王だけで勝てるもじゃない。

ディオドラが何か策を練っていたのだろうか・・・・・。

 

「イッセーの言いたいことは分かるわ。私もアガレスが勝つものだと思っていたもの。・・・・・とりあえず、映像を見てみましょうか」

 

そう言いながら、部長が次の映像を再生させようとしたときだった―――

 

 

パァァァァァ

 

 

部屋の片隅で一人分の転移魔法陣が展開した。

この紋様は見覚えがあるぞ。

グレモリー家の勉強会で習ったことがある。

確か・・・・・

 

「――アスタロト」

 

朱乃さんがぼそりと呟いた。

そして、一瞬の閃光のあと、部室の片隅に現れたのは爽やかな笑顔を浮かべる優男だった。

そいつは開口一番に言う。

 

「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いに来ました」

 

 

 

 

 

 

 

部室のテーブルには部長とディオドラ、顧問として先生も座っている。

朱乃さんがディオドラにお茶を淹れ、部長の傍らに待機する。

 

ディオドラがアーシアに何かしてきたら、殴ってしまおうか。

そんなことを考えつつ、俺は部長の後ろで待機している。

 

「リアスさん。単刀直入に言います。『僧侶』のトレードをお願いしたいのです」

 

 

『僧侶』―――つまりアーシアかギャスパーのことだ。

 

 

「いやん、僕のことですかぁ!?」

 

「そんな!? ギャスパー君は渡さないよ!」

 

ギャスパーが自分の身を守るように肩を抱き、美羽もギャスパーを守るようにギャスパーの前に立つ。

 

「んなわけねぇだろ」

 

俺はツッコミながら二人に軽くチョップを入れる。

 

なんのコントだよ?

 

しかし、こいつもずいぶんたくましくなったもんだ。

以前なら「ヒィィィィッ!ぼ、僕のことですかぁぁ!?」とか悲鳴をあげて段ボールの中に逃げたんじゃないか?

こいつはこいつで強くなっているってことかね?

 

・・・・で、ディオドラが欲しい『僧侶』はアーシアのことだろう。

 

ディオドラが『僧侶』といった瞬間から、アーシアは俺の手を強く握ってきた。

 

―――『嫌だ』っていう主張だろう

 

「僕が望むのリアスさんの眷属は―――『僧侶』アーシア・アルジェント」

 

ディオドラはそう言い放ち、アーシアの方に視線を向ける。

 

その笑みは爽やかなものだ。

 

「こちらが用意するのは―――」

 

自分の眷属が乗っているであろうカタログらしきものを出そうとしたディオドラへ部長は間髪入れずに言う。

 

「だと思ったわ。けれど、ゴメンなさい。その下僕カタログみたいなものを見る前に言っておいた方がいいと思ったから先に言うわ。私はトレードをする気はないの。それはあなたの『僧侶』と釣り合わないとかそういうことではなくて、単純にアーシアを手放したくないから。―――私の大事な眷属悪魔だもの」

 

部長はそう言い切った。

 

元々比べる気もトレードする気も無いのだろう。

 

「それは能力?それとも彼女自身が魅力だから?」

 

ディオドラは淡々と部長に訊いてくる。

 

嫌な意味で諦め悪いな、こいつ。

 

「両方よ。私は、彼女を妹のように思っているわ」

 

「―――部長さんっ!」

 

アーシアは手を口元にやり、瞳を潤ませていた。

部長が『妹』と言ってくれたのが心底嬉しかったのだろう。

 

「一緒に生活している仲だもの。情が深くなって、手放したくないって理由はダメなのかしら?私は十分だと思うのだけれど。それに求婚したい女性をトレードで手に入れようというのもどうなのかしらね。そういう風に私を介してアーシアを手に入れようとするのは解せないわ、ディオドラ。あなた、求婚の意味を理解しているのかしら?」

 

部長は迫力のある笑顔で言いかえす。

最大限最慮しての言動だったが、キレているのは傍から見ても一目了然だ。

 

しかし、ディオドラは笑みを浮かべたままだ。

それが不気味さを醸し出している。

 

「―――わかりました。今日はこれで帰ります。けれど、僕は諦めません」

 

ディオドラは立ち上がり当惑しているアーシアに近づく。

そして、アーシアの前へ立つと、その場で跪き、手を取ろうとした。

 

「アーシア。僕はキミを愛しているよ。だいじょうぶ、運命は僕たちを裏切らない。この世のすべてが僕たちの間を否定しても僕はそれを乗り越えてみせるよ」

 

そう言って、アーシアの手の甲にキスをしようとする。

 

 

ガシ!

 

 

俺はディオドラの手を掴み、無理矢理立ち上がらせる。

 

「悪いな。アーシアは嫌がってるんだ。お引き取り願うぜ」

 

俺が手を掴みながらそう言う。

 

すると、ディオドラは爽やかな笑みを浮かべながら言った。

 

「離してくれないか? 薄汚いドラゴンに触れられるのはちょっとね」

 

 

とうとう本性を出しやがったな、こいつ・・・・

 

 

と、思ったと同時に俺は冷や汗を流した。

 

 

ディオドラにビビったとかそんなんじゃない。

 

そもそも、こいつなんぞにビビる俺じゃない。

 

 

では、なぜか?

 

 

それは――――美羽がとんでもない殺気を放ってるからだよ!

 

 

ヤバい! 

美羽が暴れたら部室が吹き飛ぶ!!

 

俺は慌ててディオドラの手を離し、美羽を止めようとする。

 

 

その瞬間――――

 

 

パンッ!!

 

 

部室内に、そのような何かを叩く破裂音が聞こえた。

 

見てみると、そこにはディオドラの頬を平手打ちしたアーシアの姿があり、ディオドラは殴られた頬を抑えていた。

 

 

そして、アーシアは俺に抱きつき叫ぶように言った。

 

 

「そんなことを言わないでください!」

 

 

これにはこの場の全員が驚いていた。

まさか、アーシアが誰かを叩くなんて思ってもみなかったからだ。

美羽もこれには驚いて、殺気の放出を止めている。

 

 

「なるほど。・・・・・では、こうしようかな。次のゲーム、僕は――――――」

 

「いい加減気づけよ。アーシアの顔を見てもわからねぇのか? アーシアはおまえの所にはいかない。何があってもな」

 

ディオドラの言葉を遮って俺は言った。

 

「大方、ゲームに勝てたら、自分の愛に応えて欲しいとかいうつもりだったんだろ? バカだろ、おまえ。どれもこれもアーシアの気持ちを無視して一方的にやってるだけじゃねぇか。そんなのはただのストーカーだ」

 

「・・・・僕をバカにしてるのか?」

 

「ああ、してるね。・・・いや、嫌悪してると言った方が正しいか。俺はおまえのその目が嫌いだ。いくら取り繕っても、その内にある腐った部分までは隠せないぞ?」

 

俺の言葉に怒りを覚えたのか、ディオドラから殺気が放たれる。

 

・・・が、たいしたことじゃないな。

これなら、さっきの美羽の方がはるかに強かったぞ。

 

 

睨み合う俺とディオドラ。

その時、先生のケータイが鳴った。

いくつかの応答の後、先生は俺たちに告げる。

 

「リアス、ディオドラ、ちょうどいい。ゲームの日取りが決まったぞ。―――五日後だ」

 

 

 

 

その日はそれで終わり、ディオドラは帰っていった。

 

もう二度と部室に来ないでほしいものだ。

 

それから魔王からの正式な通達が来たのは、翌日のことだった。

 

 

 



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5話 萌えるコスプレ大会です!!

ディオドラが部室に来た日の夜。

 

俺は美羽を連れて、近くのコンビニに来ていた。

そう、美羽と来るたびに毎回鼻血を流していたあのコンビニだ。

 

目的は皆の分のアイスの購入。

秋が近いと言ってもまだまだ暑さが残るこの季節。

やっぱり冷たいものが食べたくなる。

一応、アイスを買い置きしてたんだけど、オカ研女子部員が家に住むようになってから大所帯になったこともあり、消費が早いんだ。

 

 

とりあえず、皆の要望に合うものを適当にカゴに入れていく。

基本、全部箱買いだ。

 

冷蔵庫に入るのか?という疑問もあるだろうが、そこは問題ない。

家が改築されたついでに家具も色々デカくなってたんだが、冷蔵庫もデカくなっていたからだ。

どうみても業務用サイズ。

 

それだけあれば、容量が足りないなんてことは起きない。

 

 

「で、美羽はどれにするんだよ?」

 

「ガ○ガ○君の栄養ドリンク味。この前、ナポリタン味を食べてみたけど、あれはハズレだったからね」

 

「あれ食ったのかよ。勇気あるな、おまえ」

 

とか言いつつ、俺はそれをカゴに入れていく。

そしてレジへ。

 

レジには馴染みの店員さん。

 

「今日は鼻血出ないんですね」

 

「ハハハ・・・・。妹が自動ドアを克服したので・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

買い物を終えて、コンビニから出た。

 

美羽が小さな声で言う。

 

(ねぇ、ボク達見られてるよね?)

 

(お、流石だな。気付いてたのか)

 

(うん。気づいたのはついさっきだけどね。・・・・どうするの?)

 

(別に敵意は感じないし、あいつは不意打ちとかしないだろうからこのまま放っておいても大丈夫だとは思う。・・・・・まぁ、一応声はかけてみるか)

 

俺は一息つくと、暗がりに向かって声をかけた。

 

「そこで何してんだよ、美猴。・・・・・それからヴァーリも」

 

―――すると、突然そこに気配が生まれる。

 

闇夜から姿を現したのはラフな格好の男。

 

「やっぱりバレてるみたいだぜぃ、ヴァーリ。おひさ、赤龍帝」

 

美侯のその声を聞き、もう一人の青年が暗闇から現れる

 

「二ヶ月ぶりだな、兵藤一誠」

 

白いシャツ姿のヴァーリが出てきた。

 

ヴァーリの姿を見て、美羽は俺の服の袖をギュッと掴む。

 

どうやら、美羽はヴァーリが苦手らしい。

 

まぁ、本気では無かったとは言え、殺すって言われたからな。

苦手意識を持つのも仕方がないか。

 

とりあえず、俺は美羽を安心させるために頭を撫でてやる。

 

そして、ヴァーリに目的を尋ねた。

 

「で? 何のようだよ? あ、言っとくけど前回の続きとか無しだぞ」

 

そんなことしてたら、折角買ったアイスが溶けちまうしな。

 

俺が嫌そうな顔でそう言うとヴァーリは苦笑を浮かべる。

 

「それは残念だ。俺としてはまた君と戦いたいんだが。・・・・まぁ、今日はそういうことを言いに来た訳じゃないから安心してほしい」

 

「? 言いに来た? 何を?」

 

「レーティングゲームをするそうだな? 相手はアスタロト家の次期当主だと聞いた」

 

「俺は出れないけどな」

 

「そうなのか? ・・・・・まぁ、いい。俺がここに来たのは一つ忠告しに来たんだよ」

 

その言葉を聞き、俺は怪訝に思う。

 

「・・・・どういうことだ?」

 

「記録映像は見たか?アスタロト家と大公の姫君の一戦だ」

 

ディオドラが帰ったあと、俺は部長達と共にディオドラ対アガレスの記録映像を確かに見た。

試合はディオドラの勝ちだった……。

ディオドラの実力は圧倒的で、奴だけがゲームの途中から異常なほどの力を見せ、アガレスとその眷属を撃破したんだ。

ディオドラの眷属は奴をサポートするぐらいで、『王』自ら、孤軍奮闘、一騎当千の様相を見せた。

ディオドラは魔力に秀でたウィザードタイプだ。

しかし、部長を超える魔力のパワーでアガレスを追い詰めていた。

 

これを見て訝しげに思ったのはほぼ全員。

ゲーム自体ではなく、ディオドラのみに注目していた。

 

あいつは急にパワーアップしたんだ。

それまではアガレスがかなり追いつめていたのに途中から急に力強くなったディオドラに敗北した。

 

まさか、俺はあいつの力をはかり間違えたのか?とも考えたけど、それはない。

確かにあいつのオーラはアガレスのお姉さんよりも下だったはずだ。

 

現に先生もディオドラの力に疑問を抱いていた。

先生は生でこの試合を観戦していたらしいけど、事前に得ていたディオドラの実力から察してもあまりに急激なパワーアップに疑問を感じたようだ。

 

部長も同じ意見だった。

 

「ディオドラはあそこまで強い悪魔ではなかった」―――と。

 

二人の意見は一致した。

 

パワーアップする前のディオドラでも若手悪魔の中では十分に強かった。

部長よりも魔力が多少劣る悪魔だと聞いている。

けど、試合途中からディオドラは皆が驚くほどの力を発揮していた。

 

短時間でそこまで強くなれるのか?

 

「まあ、俺の言い分だけでは、上級悪魔の者たちには通じないだろう。だが、君自身が知っておけばどうとでもなると思ってね」

 

・・・・・ここは礼でも言っとくべきなのかね?

 

俺がそう思ったときだった。

 

ふいに人影が―――。

 

この場にいる全員が予想外だったようで、そちらへ視線を向けていた。

 

何者だ?

 

ぬぅ……。

 

闇夜から姿を現したのは―――ものすごい質量の筋肉に包まれた巨躯のゴスロリ漢の娘だった。

 

頭部には猫耳がついている。

 

 

―――ミルたん!?

 

 

俺の悪魔家業のお得意さんだ!

 

 

現れた瞬間、ヴァーリが二度見していた。

 

俺、今のヴァーリの気持ちが分かる気がする・・・・・。

 

「にょ」

 

「ど、どうも・・・・・」

 

手をあげ、俺にあいさつし、横を通り過ぎていく。

俺も手をあげて引き攣る笑顔で挨拶を返したが・・・・・。

 

「頭部から察するに猫又か? 近くに寄るまで俺でも気配が読めなかった。仙術か?」

 

ヴァーリが真剣な面持ちで美侯に訪ねる。

ミルたんの気配の消し方は半端じゃない。

俺でも今のは気づけなかったからな!

 

「いんや、あれは・・・・トロルか何かの類じゃね?・・・・・猫トロル?」

 

美侯が首をひねり、答えに困っていた。

 

ヴァーリと美猴、美羽の三人が俺の方を見てくるんだけど・・・・・。

 

俺に答えを求めるな!

俺だって知りたいわ!

ミルたんが何者なのか!

 

「まぁ、いいか。帰るぞ、美猴」

 

ヴァーリはそれだけ言うと、美猴と共にこの場を後にしようとする。

 

「待てよ。それだけ言いに来たのか?」

 

俺がそう訊くとヴァーリは笑って見せる。

 

「近くに寄ったから、忠言に来ただけさ」

 

ヴァーリはそう言うと歩みを進める。

 

このまま帰るのかと思っていると、ヴァーリは足を止めて振り返った。

 

「そうだ、兵藤一誠の妹。兵藤美羽だったかな?」

 

いきなり名前を呼ばれてビクッとする美羽。

俺の服を掴む力が強くなった。

 

「な、なに?」

 

美羽が恐る恐る尋ねるとヴァーリは瞑目しながら言った。

 

「どうやら、君は前回、俺が言った言葉のことを気にしているようだ。それについては謝っておこう。すまなかった」

 

ヴァーリの突然の謝罪に間の抜けた表情の美羽。

 

そして、ヴァーリはそれだけ言うと、再び俺達に背を向ける。

 

「それじゃあ、俺は帰るよ。美猴、行くぞ」

 

「じゃあな、赤龍帝。なぁ、ヴァーリ。帰りに噂のラーメン屋寄って行こうや~」

 

美猴もヴァーリに付いて行き、今度こそ二人は帰っていった。

 

 

・・・・・・・

 

 

あいつは良いやつなのか悪いやつなのか良く分からん時があるな。

 

まぁ、基本的には悪いやつではないとは思うけど・・・・・。

 

『おまえのライバルは変わったやつだな』

 

あ、やっぱりそう思う?

 

『ま、相棒も随分変わっているがな』

 

失礼なやつだ。

誰が変わり者だ。

 

『だが、俺は相棒が宿主で良かったと思っている』

 

ん?

 

どうしたよ、いきなり。

 

『相棒は歴代の中でも俺に一番話しかけてくれている。会話が楽しいと思えた宿主は相棒が初めてなのさ』

 

まぁ、これまで分からないことだらけだったからな。

 

ドライグに聞かないとどうすれば良いのか俺には判断出来ないこともあったし。

 

『それが良かったのかもしれんな。おまえは俺を道具としてではなく、一つの存在として扱ってきてくれた』

 

何言ってんだ。

 

おまえは俺の相棒だろ。

それに俺に戦い方を教えてくれた師匠の一人でもあるんだ。

ドライグ、おまえは俺にとって大切な存在なんだよ。

そんなやつを道具扱いなんてするわけがねぇだろ。

 

『・・・・そうか。そう言ってくれると俺も嬉しい』

 

おう。

 

これからも宜しく頼むぜ、相棒。

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリと話した後、俺と美羽はまっすぐ家に帰った。

 

とりあえず、ヴァーリが言ってたことを部長とアザゼル先生に伝えておかないとな。

 

ヴァーリの忠告から察するにディオドラのあの力には何か秘密があるみたいだ。

それもとびっきり危険なものだろう。

でなきゃ、あいつがわざわざ忠告しに来るなんて考えにくい。

 

俺は家に帰ってからすることを確認しつつ、玄関扉を開ける。

 

そして、そこにいたのは―――

 

「あらあら、お帰りなさいイッセー君」

 

エッチなコスプレ衣装を着た朱乃さんだった!

 

「あ、朱乃さん、その格好!」

 

肌の露出が多いゲームキャラの衣装!

巫女服なんだけど、太ももは全開、胸元も申し訳程度に大事な部分を隠してるだけ!

 

俺の視線はもう裸寸前の格好にいってしまっていた!

 

そりゃ、そうだろう!

こんなの見せられたらくぎ付けになっちまう!

 

エッチです、朱乃さん!

そんな風にくるりと回るとおっぱいがこぼれちゃいますよ!

 

朱乃さんは俺へ微笑む。

 

「うふふ、ねぇ、イッセー君。似合ってるかしら?」

 

「ええ、もちろん! 最高です!」

 

俺は鼻の下を伸ばして、歓喜の声を出していた!

もう最高だぜ!

 

「良かった。うふふ、どうします? 鑑賞会にすればいいかしら? それともーーー」

 

朱乃さんは胸元をなぞりながら、エッチな視線を俺へ向けてくる!

 

「あっちのベッドの上でお触りアリの体験会にした方がいいのかしら?」

 

 

ブッ!

 

 

思考を飛ばす一言に俺の鼻血が勢い良く飛び出した!

 

俺は「はい!」と答えようとするが――――

 

 

「ダメェェェェェエッ!」

 

 

美羽が目に涙を浮かべながら抱きついてきた!

美羽のやわらかいおっぱいが俺の体に押し当てられる!

 

「朱乃さん、そんなにお兄ちゃんを誘惑しないでください! そんな格好でそんなこと言ったら誘いに乗っちゃうじゃないですか!」

 

美羽は俺と朱乃さんを接触させまいと必死の表情だ!

 

「あらあら、美羽ちゃんは私にイッセー君を取られるのが嫌なのかしら?」

 

朱乃さんは微笑みながら言う。

 

そして、次にとんでもないことを言い出した!

 

「でしたら、美羽ちゃんも一緒にどうかしら? 私とイッセー君、そして美羽ちゃんの三人でするの」

 

「!!」

 

な、なんですと!?

そんな提案アリですか!?

 

見ると、美羽は衝撃を受けたような表情をしている。

なんか、ドンドン顔が赤くなってるんですけど!

 

「え、えっと・・・・」

 

 

美羽が何やら言いかけたその時、部屋の隅から数人の女子が現れた。

 

アーシア、ゼノヴィア、レイナ、小猫ちゃんだ!

 

って君達、その格好は!?

 

多少デザインが違うが、四人とも朱乃さんのような露出の多い巫女服を着ていた!

当然、太ももやら胸やらが思いっきり見えちゃってるよ!

 

「うん。動きやすい。下着を着けられないが、機能的に身軽でいいな」

 

「で、でも、かなりスースーしない? あそこが見えそうで恥ずかしい・・・・」

 

戦士的な感想を漏らすゼノヴィアと顔を紅潮させながらスカートの裾を掴んで大事な部分を隠そうとするレイナ。

 

ノーブラ!? ノーパンなのか!?

 

「そ、それに・・・・透けてますよね、これ・・・・」

 

アーシアが胸元を隠して、照れながら言う。

確かに良く見ればピンク色が透けて見える!

 

興奮する俺のもとに歩いてきたのは小猫ちゃん。

小猫ちゃんは巫女服の他に自前の猫耳と尻尾を出していた。

ラブリーだよ、小猫ちゃん!

 

「・・・・似合いますか? にゃん♪」

 

招き猫のごとく手を「にゃん」する小猫ちゃんの破壊力に俺は未知の領域を見てしまった!

かわいい! 

かわいすぎる!

 

何この夢空間ッ!?

本当に現実か!?

夢なら覚めないでくれ!

このまま俺はずっと見ていたいぜ!

 

「し、しかし、なんでこんなことに?」

 

突然のコスプレ大会。

 

その理由を俺は朱乃さんに訊く。

 

「ええ、私が日頃からお世話になっているイッセー君に何かお礼をしたいと思い、そのことを皆に話したら、こうなりました」

 

なんでこうなったのかは良く分からんが・・・・・

 

それでも、ありがとうございます!

大変眼福でこざいます!

 

それにしても、皆スタイルがいいから、コスプレ衣装が映えること映えること!

 

これ、デジカメで撮影してもいいのだろうか?

自家発電の源にしてもいいのだろうか!?

 

 

「あれ? 部長は?」

 

皆のコスプレ姿に目を奪われて、すっかり忘れていたけど、この場には部長の姿がない。

 

どうしたんだ?

 

「リアスは自室に籠って次のレーティングゲームの作戦を練っていますわ」

 

あー、なるほどな。

部長も次のゲーム、燃えてるみたいだな。

 

俺がそんな風に思っていると、二階の方から人影が現れる。

 

「皆、何を騒いでいるの?」

 

現れたのは部長だった。

 

部長は一人、部屋に籠っていたからかコスプレではなく普通の私服だった。

 

まぁ、作戦を練るのにコスプレなんてしないか・・・・。

 

 

部長の問いに朱乃さんが答える。

 

「あらあら、リアス。私達は今、イッセー君に喜んでもらおうとしているのですわ」

 

どこか挑戦的な表情で言う朱乃さん。

 

「・・・・・・」

 

部長は何も言わず、部屋へと戻ってしまった。

 

 

怒らせちゃったかな・・・・・?

 

自分は真剣に考えているのに、周りがふざけていたら怒るのも当然か・・・・・。

 

謝らないと。

 

「俺、ちょっと行ってくる」

 

俺は階段を登り、部長の部屋を目指す。

 

すると、俺の前に一つの影が降り立った。

 

「ほら、イッセー。私の方が似合っているでしょう?」

 

降りてきたのはこれまたエッチな悪魔的な衣装を着込んだ部長のお姿ぁぁぁぁあ!

自前の翼をパタパタとかわいく羽ばたかせている!

 

自慢気にポージングする部長!

おっぱいがぷるんぷるん震えてる!

 

「はい! 似合ってます!」

 

しかし、部長は朱乃さんに対して対抗心が強いよな。

 

「・・・・・・」

 

それを見ていた朱乃さんが無言で部屋に入っていく!

直ぐに出てくると、紐同然の衣装に変わっていた!

 

 

ブハッ!

 

 

鼻血が止まらん!

ほとんど裸じゃないか!

 

ち、乳首だって、ちょっとした動きで見えてしまうほどだ!

 

「イッセー君は、こんな感じの露出の多い服装が一番ですわよね?」

 

朱乃さんの問いに俺はガン見するのが精一杯だ!

 

「イッセー君。手を天に向けて指を差して」

 

はて?

 

俺は朱乃さんに言われた通りに右手の人差し指を天に向けて突き立てる。

すると、朱乃さんが俺の指を取り、自分の胸元へ誘導して―――

 

 

ずむっ!

 

むにゅぅぅぅぅっ!

 

 

お、俺の指が朱乃さんのおっぱいに埋没していくぅぅぅぅ!

 

「ぁん・・・・。す、すごいわ、これ・・・・・。イッセー君の指が・・・・・・」

 

艶のある桃色吐息を漏らす朱乃さん!

 

すると、部長に俺の左手が掴まれた。

部長はそのまま乳房のほうに誘導して―――

 

むにぃぃぃっ!

 

俺の手のひらに部長のおっぱいがぁぁぁぁっ!

 

なんてこった!

俺、二大お姉さまのおっぱいを同時に触ってるぅぅぅぅ!!

 

今日は最高の日だ!

 

「・・・・ぅん・・・・・。やっぱり、イッセーに触れられると、胸が熱くなるわね・・・・・・」

 

部長の甘い吐息に俺の鼻血が滝のように流れていく!

このままじゃあ、俺は大量出血で死ぬ!

 

だが、しかし!

俺はこのまま触っていたい!

 

 

俺に乳を触らせながらも二人は火花を散らしている!

 

部長が涙目で叫ぶ!

 

「朱乃には負けないわ!」

 

「私だって!」

 

二人は体から凄まじいほどの魔力を漂わせながら部屋に入っていく!

 

『私の方がイッセー君好みのプロポーションですわ!』

 

『いいえ! イッセーは私の方が魅力的だと思ってるわ!』

 

 

おいおいおい!

何やら部屋でケンカし始めたぞ、お姉さま方!

 

仲が良いのか、悪いのか・・・・・・。

 

やっぱり、お友達なんだなーって思えるな。

 

 

ちなみに言っとくが、俺は二人とも大好きだぜ!

 

 

俺の服の袖がクイクイと引張られた。

 

振り返ってみると、そこにはナース服を着た美羽の姿が!

特に露出が多いわけではないが、メチャクチャ似合ってる!

 

「ねぇ・・・・・ど、どうかな・・・・・・?」

 

モジモジしながら、恥ずかしげに尋ねてくる美羽。

上目使いでうるうるした目で俺を見てくる!

 

 

ブッファァァァァァァ

 

 

美羽のあまりの可愛さに俺は再び鼻血を噴き出し、その場に倒れこむ。

 

「え!? どうしたの!?」

 

美羽が俺の頭を抱えて、心配そうにしている。

 

俺は震える右手で親指を立てて言った。

 

「で、でかしたぞ・・・・・美羽。お、俺は生きてて幸せだった・・・・・・・ガクッ」

 

「え!? え!? しっかりして! お兄ちゃーーーん!」

 

 

俺は失血により、意識を失った・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

それから一時間後。

 

俺は美羽の看病を受けたおかげで無事に回復した。

そして、俺は今、部屋で部長と話しているところだ。

 

「ゴメンなさいね、色々と騒いでしまって」

 

「いえいえ、ああいう感じなら俺は大歓迎ですよ。・・・・俺の方こそすいません。部長が次のゲームの作戦を考えてるときに騒がせちゃって・・・・」

 

俺が頭をかきながら謝ると部長は微笑む。

 

「いいのよ。私もストレス発散になったしね」

 

すると、部長は表情を一変させて真剣なものとなる。

顎に手をやり、なにかを考え始めた。

 

「それにしても、ヴァーリのことよ。彼がこの町に侵入していたこともそうだけど、それより彼の忠告が気になるわ」

 

「そうですね。どうやら、それをわざわざ言いに来たみたいですし・・・・・。とりあえず、アザゼル先生とサーゼクスさんには報告しといた方が良いと思います」

 

「そうね。私から報告しておくわ」

 

部長は小さな魔法陣を展開すると先生とサーゼクスさんに連絡を入れる。

 

魔法陣を介して二人の考え込む声が聞こえたけど、この場ではそれ以上話が進むことがなかった。

 

ヴァーリの忠告。

ディオドラには気をつけろ、か。

 

ディオドラは一体何を隠しているというんだ・・・・・?

 

まぁ、情報が無い以上、ここで考えても仕方がないか。

 

 

ふと時計を見ると時刻は夜の十二時を過ぎていた。

そろそろ寝る用意をしないとな。

 

「俺はもうボチボチ休みます」

 

「ええ。私もそうするわ。明日は冥界に行かないといけないもの」

 

「冥界にですか? 何かあったんですか?」

 

尋ねると部長は俺の顔を見て「あぁ」と何かを思い出したかのように言った。

 

「そう言えばイッセーにはまだ伝えていなかったわね。私達に取材が入ったの。明日、私達は若手悪魔特集で冥界のテレビ番組に出ることになっているのよ」

 

俺は一瞬、間の抜けた表情になる。

 

そして―――

 

「テレビ番組ィィィィィィッ!?」

 

俺の叫びが兵藤家に響き渡った。

 

 

 

 



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6話 新番組!?

翌日の朝。

つまり、テレビ収録の日だ。

 

冥界には家で昼食を食べてから行くそうなので、俺は兵藤家の地下にあるトレーニングルームで木場とゼノヴィアの修行に付き合っていた。

 

「はぁぁぁ!!」

 

ゼノヴィアがデュランダルを大きく振りかぶって斬りかかってくる。

 

刀身には強烈な聖なるオーラを纏わせているため、並の悪魔が触れたらアウトだ。

触れた瞬間に肌を焼かれるんじゃないか?

 

そんなことを思いつつ、俺は錬環勁気功を発動し、硬気功を纏った拳でデュランダルを殴り付ける。

 

 

ギィィィィィン!

 

 

「なっ!? デュランダルを素手で!?」

 

「それだけ力の制御が出来て無いってことだよ。力にムラがありすぎるぞ」

 

驚愕の声をあげるゼノヴィアに解説をする。

 

確かにデュランダルのパワーは凄まじい。

俺がミカエルさんから貰ったアスカロンをも上回る力を持っている。

そして、デュランダルを扱うゼノヴィア自身のパワーもかなり強いといってもいい。

 

だけど、制御出来ていないパワーなんてのは正直言ってあまり意味がない。

 

現に今の攻撃もオーラが弱い部分を狙って殴ったから、容易にゼノヴィアの体勢を崩すことができたしな。

 

 

夏合宿で以前より扱えるようになっているみたいだけど、まだまだ修行不足だ。

 

ゼノヴィアの今後の課題だな。

 

 

俺がそんなことを考えていると、俺の周囲を取り囲むかのようにいくつかの剣が展開される。

 

これは木場の聖魔剣!

宙に浮いた聖魔剣は一斉に俺目掛けて飛んでくる!

 

拳に大量の気を纏わせて思いっきり、横凪ぎにスイングする。

それによって産み出された衝撃波が聖魔剣を蹴散らした。

 

「そこッ!」

 

スイングしたことで隙が生まれた俺に木場が姿勢を低くした常態で突っ込んできた。

 

今のは囮か!

 

木場は今は負荷をはずしている状態だ。

そのせいか、かなりの速さだ。

以前よりもスピードが上がっている。

 

タイミングは悪くない。

 

だけど――――

 

「力の差が明確な相手に真正面から挑むのはマズいぞ、木場。これって前も言わなかったか?」

 

そう言いながら、木場が握る聖魔剣を蹴って上に弾き飛ばす。

木場は一瞬、驚きの表情を浮かべるけど、すぐに次の行動に移す。

 

「っ! まだだ!」

 

木場は失った聖魔剣の代わりに新しい聖魔剣を二振り作り出した。

 

『騎士』のスピードを活かし、俺を翻弄しながら剣を振るってくる。

更にはゼノヴィアとアイコンタクトを取りながら二人で同時に攻めてきた。

 

いつのまに、こんなコンビネーションを覚えたんだよ?

 

完璧とは言わずとも二人の呼吸が合っていて、俺が一方の攻撃を防ぐと、もう一方がその隙をついてくる。

 

二人とも騎士だから速い速い。

 

 

よーし、俺もギアを上げるか!

 

錬環勁気功による出力を上げて赤いオーラを発する。

 

「いくぜ、二人とも!」

 

「「!?」」

 

床を蹴って飛び出す!

騎士の二人を越えるスピードだ。

 

二人は目では俺を追えてるみたいだけど、体が付いていけてない。

 

俺がまず狙ったのはゼノヴィアだ。

 

「ゼノヴィア、受け身とれよ!」

 

デュランダルを回し蹴りで弾き飛ばす。

 

武器を失ったゼノヴィアは大きく飛び退いて追撃を回避しようとするが、もう遅い。

 

ゼノヴィアが着地した地点には俺はすでに追い着いていて、ゼノヴィアの胸部に掌底を放つ。

 

「ぐっ!」

 

俺の攻撃が直撃したゼノヴィアはその場に膝をついた。

 

 

ゼノヴィア、何気におっぱい触っちゃってゴメン!

 

 

背後に気配。

 

木場は俺がゼノヴィアを撃破した瞬間を狙っていたようだ。

 

「甘いぜ、木場!」

 

「えっ!?」

 

俺は瞬時に木場の背後に回り込む。

木場からすれば、俺は消えたように見えるだろう。

 

驚く木場の首にポンッと手刀を当てる。

攻撃したというより、本当に乗せただけって感じだ。

 

 

「ま、参ったよ、イッセー君・・・・・・」

 

 

木場の投了で模擬戦は終了となった。

 

 

 

 

 

 

「ほれ、タオルとスポーツドリンク」

 

床に座り込む木場とゼノヴィアに投げ渡す。

 

二人とも汗だくだ。

 

「二人ともあんなコンビネーションをいつのまに覚えたんだよ?」

 

俺の問いにゼノヴィアがタオルで汗を拭いながら答える。

 

「朝の修行でね。部長が提案したんだ。騎士二人のスピードで相手を翻弄しつつ攻撃できないか、とね。他にも眷属の皆で互いの動きに合わせられるようにしている」

 

なるほど・・・・。

 

部長、いい考えを思い付きましたね。

 

コンビネーションの修行とか、俺はしてこなかったからなぁ。

 

錬環勁気功を習った時もそんなことはしなかったし。

 

今もティアにつき合ってもらっているけど、一対一でやってるから、コンビネーションとか出来ないし。

 

俺もコンビネーション、誰かとしようかな・・・・・。

 

『まぁ、相棒の動きに合わせられる者など限られてくる。当面は今のままでいいんじゃないか?』

 

それもそうだな。

 

その辺りは今度考えるとしよう。

 

 

それよりもさ、あの話はどうなったんだ?

 

『あれか・・・。一応何とかなったぞ』

 

マジか。

思ったより早いな。

 

『ああ。悪魔の駒の特性もあったおかげで、こちらも調整が予想以上に楽だったぞ。あとは相棒の日々の修行の成果ともいえる』

 

まぁ、毎日、龍王とスパーリングしてるからな。

ある程度の成長はするさ。

 

それじゃあ、どっかで一度使ってみるか。

 

『そうだな』

 

 

 

ガチャ

 

 

部屋の扉が開かれる。

 

入ってきたのは美羽だ。

 

「あ、やっぱりここにいたんだ。修業は終わったの?」

 

「さっきな。それで、どうしたんだ?」

 

「お昼ご飯出来たからお母さんに呼んできてって頼まれたの。お昼ご飯食べたら、冥界に行くんでしょ?」

 

「あ、もうそんな時間か・・・・。了解だ。汗流したら直ぐに行くよ。美羽は皆と待っていてくれ」

 

「はーい」

 

それだけ伝えに来ると美羽は上へと上がっていった。

 

「とりあえず汗流そうぜ。汗で服がへばり付いて気持ち悪いしな」

 

「そうだね。僕達もそうするとするよ」

 

 

 

 

 

 

それから一時間後。

 

昼食を終えた俺達グレモリー眷属は専用の魔法陣を使って冥界へジャンプした。

 

到着した場所は都市部にある大きなビルの地下だ。

 

転移用魔法陣のスペースが設けられた場所で、そこに着くなり、待機していたスタッフの皆さんに迎えてもらった。

 

「お待ちしておりました。リアス・グレモリー様。そして、眷属の皆様。さぁ、こちらへどうぞ」

 

スタッフの人に連れられて、エレベーターを使って上層階へ。

 

ビル内は人間界とあまり変わらない作りだが細かい点で差異があったりする。

例えば魔力で動く装置と小道具が建物に使われていたりする。

エレベーターがつき廊下にでるとそこにはポスターがあった。

そこに写っていたのは部長だった!

こうやって見るとまるでアイドルみたいだ!

 

と、廊下の先から見知った人が十人ぐらいを引き連れて歩いてくる。

 

「サイラオーグ。あなたも来ていたのね」

 

部長が声をかけたのはバアル家次期当主のサイラオーグさんだった。

貴族服を肩へ大胆に羽織り、王の風格を漂わせている。

そのすぐ後ろに金髪ポニーテールの女性、サイラオーグさんの『女王』が控えている。

うーん、美人だ。

 

「リアスか。そっちもインタビュー収録か?」

 

「ええ。サイラオーグはもう終わったの?」

 

「これからだ。おそらくリアスたちとは別のスタジオだろう。――試合、見たぞ。あの不利な状況下でよく勝てたものだ。おまえとゲームをする時には油断は出来んな」

 

「何を言っているのよ。あなたの方こそ、圧倒的だったじゃない。流石は若手悪魔のナンバーワンだわ」

 

サイラオーグさんと部長が互いに笑みを浮かべ、互いに言葉を送っている。

 

だけど、目は真剣そのものだ。

二人とも今から燃えてるらしい。

 

サイラオーグさんの視線が俺へと移る。

 

「兵藤一誠。今回の若手悪魔のゲームには出場出来ないと聞いた。・・・・・・何とも残念な話だ」

 

サイラオーグさんは本当に残念そうに言ってくる。 

 

だけど、直ぐに真っ直ぐな目で俺を見てきた。

 

「俺はいつかおまえと戦ってみたい。魔王様方が賞賛する天龍の拳を味わってみたいと思っている。今すぐとは言わない。だが、機会があれば、この挑戦受けてくれるか?」

 

そう言うと手を差し出してきた。

 

まさか、この場で申し出をされるなんてな・・・・

 

いや、この人は今でも強さを追い求めている。

自分の限界なんてものは考えずに、ずっと。

 

見れば、差し出された手には無数の傷痕があった。

中には傷が深そうなものもある。

 

よほど、厳しい修業をこなしてきたのだろう。

 

 

挑戦の答え。

そんなものは決まっている。

 

俺はサイラオーグさんの手を取り、握手する。

 

「ええ、もちろんですよ。俺もあなたと戦ってみたい。若手悪魔ナンバーワンの力、俺に見せてください」

 

サイラオーグさんは俺の答えに満足気な笑みを浮かべた。

 

「この挑戦、受けてくれたことに礼を言うぞ、兵藤一誠。・・・・・・フッ、どうやら俺は高揚しているらしい。体の奥が沸き立つようだ」

 

「ははっ、俺もですよ。じゃあ、またいずれ戦いましょう」

 

俺とサイラオーグさんはそれだけ言うと、そこで別れた。

 

 

いやー、俺って戦いが好きな訳じゃないけどさ、ああいうタイプは嫌いじゃない。

むしろ、好感を持てる。

 

なんだろうな、俺とあの人って似てるところがあるんだ。

愚直なまでに自分の体を苛めぬいて、鍛えていく。

それが今の強さに繋がっているんだ。

 

 

「ふふっ、流石はイッセーね。あのサイラオーグの挑戦を受けるなんて」

 

「そうですか?」

 

「ええ。今の私には彼の挑戦を喜んで受けるなんてマネは出来ないもの。それだけの力の差が私と彼の間にはある」

 

まぁ、確かに今の部長ではサイラオーグさんには勝てないだろう。

部長も努力を続けて、俺と出会った時と比べると段違いにレベルを上げた。

それでも、あの人には届いていない。

 

「それでも、私は彼を倒してみせるわ」

 

「俺も付き合いますよ。俺で良ければとことんね」

 

「ありがとう、イッセー」

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺達はスタジオらしき場所に案内され、中へ通される。

 

まだ準備中で、局のスタッフがいろいろと作業していた。

 

先に来ていたであろうインタビュアーのお姉さんが部長にあいさつする。

 

「お初にお目にかかります。冥界第一放送局の局アナをしているものです」

 

「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」

 

部長も笑顔で握手に応じた。

 

「さっそくですが、打ち合わせを―――」

 

と、部長とスタッフ、局アナのお姉さんを交えて番組の打ち合わせを始めた。

スタジオには観客用の椅子も大量に用意されている。

 

人間界のバラエティーとあまり変わらないな・・・・

 

「……ぼ、ぼ、ぼ、ぼぼぼぼぼぼ、僕、帰りたいですぅぅぅぅぅ……」

 

俺の背中でぶるぶる震えているギャスパー。

 

まぁ、引きこもりにテレビ出演は酷だよなぁ。

見ればアーシアだって緊張している。

同じ『僧侶』のギャスパーにも頑張ってもらおう。

 

「眷属悪魔の皆さんにもいくつかインタビューがいくと思いますが、あまり緊張せずに」

 

スタッフがそう声をかける。

 

「えーと、木場祐斗さんと姫島朱乃さんはいらっしゃいますか?」

 

「あ、僕です。僕が木場祐斗です」

 

「私が姫島朱乃ですわ」

 

木場と朱乃さんが呼ばれ、二人とも手をあげる。

 

「お二人には質問がそこそこいくと思います。お二人とも、人気上昇中ですから」

 

「マジですか?」

 

俺が思わず聞き返すとスタッフは頷く

 

「木場さんは女性ファンが、姫島さんには男性ファンが増えてきているのですよ」

 

あー、イケメンと美女だもんな。

そりゃ、人気でるわな。

 

前回のシトリー戦は冥界全土に放送されたらしいし、それで二人が人気出たわけか・・・・・。

 

クソッ、木場め!

 

羨ましすぎる!

 

俺もゲームに出られたら女の子にモテたかもしれないのに!

今から悪魔の上層部に掛け合ってみるか!?

 

 

「えっと、もう一方、兵藤一誠さんは?」

 

「あ、俺です」

 

名前を呼ばれたので自分を指差しながら答える俺。

 

「あっ! あなたがですか! いやー、新聞やニュースで拝見していたのですが、鎧姿が印象的だったのでわかりませんでした」

 

あー、そう言えば。

 

グレモリー家でヴェネラナさんに見せてもらった新聞に載ってたのも鎧姿だったような・・・・・。

 

一応、ニュースでは俺の素の姿も映ってたけど、鎧の方が印象強いよな。

 

「それでですね、兵藤さんには収録後、第一会議室の方にご案内いたします。なので、収録後は帰らずにここに残っていてもらいます」

 

「会議室? え~と、どう言うことですか?」

 

俺が尋ねると局アナのお姉さんは手元の資料を見ながら言った。

 

「兵藤さんにはあるプロジェクトに参加してもらうことになっていまして・・・・・。魔王サーゼクス・ルシファー様と堕天使総督アザゼル様がそこに兵藤さまをお連れするように仰られまして・・・・」

 

サーゼクスさんとアザゼル先生が?

 

しかも、俺だけを呼んだのか?

 

うーん、よく分からんな・・・・

 

「分かりました。それじゃあ、収録後に」

 

「ありがとうございます。それでは番組の打ち合わせを再開します」

 

 

それから、打ち合わせを終えて、収録に入った。

 

 

 

 

 

 

収録後。

 

俺は予定通り、スタッフさんにテレビ局にある会議室に案内された。

 

スタッフさんがドアをノックする。

 

「失礼します、兵藤一誠さまをお連れしました」

 

『うむ、入ってくれたまえ』

 

部屋の中から了承の声が聞こえた。

 

今のはサーゼクスさんか?

 

俺はドアを開けて入室する。

 

中にはサーゼクスさんやアザゼル先生の他にプロデューサーらしき人、スーツを着た重役と思われる人など、数名の人が円卓を囲んでいた。

 

「おー、来たか。まぁ、座ってくれ」

 

アザゼル先生が俺の姿を確認すると席に座るように言ったので、空いている席に腰をかける。

 

「呼び出してしまい、すまないね、イッセー君」

 

「いや、それは良いんですけど・・・・・。どうしたんですか?」

 

「うむ。実はイッセー君を主人公にしたヒーロー番組を作ろうかと思っていてね。それを話し合うために今日は来てもらったのだよ」

 

「え、えええええ!? ヒーロー番組!? お、俺のですか!?」

 

俺はサーゼクスさんの言葉に驚愕の声をあげる!

 

だって、そうだろう!

 

いきなり呼び出されたかと思ったら、俺にヒーロー番組の主人公をやれって言うんだぜ!?

 

驚くに決まってるだろう!

 

 

アザゼル先生が手元の資料を見ながら言う。

 

「まぁ、落ち着けって。こういう話になったのは色々と理由がある」

 

「理由?」

 

「ああ、そうだ。戦争が終わり、協定を結んで冥界は平和になった。これから先、俺達がしなければならないのは冥界を盛り上げ、新しい世代を育てていくことだ。ここまでは良いな?」

 

うんうんと頷きながらアザゼル先生の話を聞く。

 

まぁ、それは分かる。

 

「だが、盛り上げていこうにも冥界には娯楽と言うものが無いに等しい。そこでだ。冥界の民が、特にこれからの世を背負うことになる子供が夢を持てるものを作ろうということになった」

 

「・・・・それでヒーロー番組ですか?」

 

「そういうことだ」

 

 

俺も小さい頃はイリナとヒーローごっこして遊んだし、そういうのにも憧れた時期はあった。

 

ヒーロー番組をすることは子供を楽しませるってことには良い手だと思う。

 

「そこまでは分かりました。・・・・・でも、なんで俺なんですか?」

 

この問いにはサーゼクスさんが答えた。

 

「イッセー君。君も知っているだろうが、君は今、冥界の人々の間で話題となっている。なにせ、あのコカビエルを倒し、会談の時も活躍した。更にはパーティー会場でのテロも阻止したのだからね」

 

パーティーの時のはテロって言うのか・・・・?

 

つーか、俺が有名になったのってサーゼクスさんが原因でしたよね!?

 

サーゼクスさんは続ける。

 

「そこでだ。君にヒーローとして活動してもらうことで、子供たちの希望となってほしいのだよ。・・・・イッセー君、今回の話を受けてもらえないだろうか?」

 

・・・・・

 

子供たちの希望、か・・・・。

 

そういえば、ミリキャスも俺に握手とか求めてきたっけな。

あの時の屈託のない笑顔を思い出す。

 

俺が子供たちのために何かできるのなら、それも良いかもしれないな。

 

俺はしばし考え込んだ後、サーゼクスさんに俺の答えを出した。

 

「分かりました。俺でよければ引き受けますよ。俺が冥界の子供たちに夢を見せられるのなら喜んで」

 

「ありがとう、イッセー君」

 

話が纏まると、アザゼル先生が俺の前に資料を二つ出してきた。

 

どちらの表紙にも丸の中に『極秘』と書かれている。

 

どんだけ厳重なんだよ・・・・。

 

「いやー、イッセーなら引き受けてくれると思ってたぜ。早速だがそれが番組の資料だ。おまえの特徴を出せるような名前をさんざん考えたんだが、最終的にその二つに絞ることになった」

 

へぇー。

この二つのどちらかが俺が演じるヒーローの名前になるのか。

ワクワクする反面、ちょっと照れくさいな。

だって、俺が冥界の子供たちからその名前で呼ばれるんだろ?

 

俺は少しドキドキしながら、資料のページを捲った。

 

そして唖然となった。

 

 

 

 

 

『案① 乳龍帝おっぱいドラゴン』

 

『案② 妹龍帝シスコンドラゴン』

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・えっ?

 

 

「どうだ? おまえの特徴を出した名前だろう? 案①の方は以前、おまえが女の乳首を押して禁手(バランス・ブレイカー)に至ったって言っていたことを思い出してな。普段からおっぱいおっぱい言ってるおまえにぴったりだと思うんだ。そして案②の方だが、これは普段のおまえの美羽への接し方からだ。・・・・俺としては案①の方が語呂が良くて言いやすいし、商品化もしやすいと思うんだ。そこで、主役を演じるおまえ本人の意見を聞きたい。・・・・イッセー、どっちを演じたい?」

 

 

俺はこの時、究極の選択を迫られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

結局、俺を主役とした新番組の名前は『乳龍帝おっぱいドラゴン』になることが決まった。

 

 

理由はアザゼル先生が言ってたのと、案②の方はサーゼクスさんやセラフォルーさんとキャラが被るからだそうだ・・・・。

 

正直言って、俺も意味が分からないまま話が進んでいった・・・・。

 

 

 

そして、新番組の名前が決まった瞬間、ドライグが泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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7話 波乱の前触れ

「ぷはー」

 

俺は家の地下一階にある大浴場の脱衣所で湯上がりのフルーツ牛乳をあおっていた。

 

あー、うまい!

 

湯上がりの一杯てのは良いもんだな!

 

それにしても、この大浴場、地下一階にあるんだぜ?

いまだに信じられないよ。

 

いや、アリスの城にも住んでいたし、部長の城にも泊まったから大豪邸には慣れてるんだけどさ。

自分の家が大豪邸に変わると話は別だ。

だって、ほんの一ヶ月前は普通の家だったんだ。

誰でも驚くって。

 

地下二階には屋内プールもあるし。

まぁ、俺も錬環勁気功の修行の一環として水面を走る修行も出来るからありがたいんだけどね。

女子も気が向いたら泳いでるしな。

 

で、地下一階にある大浴場には入浴後の飲料として各種牛乳が冷蔵ケースに入って完備済みだ。

 

部長曰く

 

「日本の湯上がりは各種牛乳よね」

 

だそうだ。

 

部長の日本へのこだわりは凄まじいね。

 

ちなみに俺は日替わりで飲むものを変える。

部長と美羽、イリナはフルーツ牛乳派、朱乃さん、アーシア、小猫ちゃんはノーマル牛乳派、ゼノヴィアとレイナはコーヒー牛乳派だそうだ。

 

さっきまで修行してたからな。

今は汗を流してさっぱりさ。

 

皆、どんどん強くなってきている。

それも、かなりのスピードで。

 

・・・・・俺も次のステージに進まないと。

 

まだ扱いきれてない力もあるわけだしな。

 

まぁ、慌てても仕方がない。

俺に才能なんて無いのはとうの昔に気づいていることだし。

俺は自分のペースでゆっくり強くなっていくさ。

 

 

大浴場を出ると、向かいにある大広間の明かりがついていた。

 

地下一階には大浴場の横に大広間があり、映画鑑賞も出来るし、各種トレーニングも出来る。

 

俺もさっきまでここで修行していたんだ。

 

扉が開いてるので覗いてみると、練習用の剣を振るうゼノヴィアの姿があった。

トレーニングウェアを着込んで真剣に剣を振るっている。

ゼノヴィアが俺の気配に気づいたのか、こちらに顔を向けた。

 

「・・・・イッセーか」

 

「よっ。覗くつもりはなかったんだけど、明かりがついていたもんだからさ」

 

俺はそのまま入室した。

 

「修行か?」

 

「うん、ゲームも近いからね」

 

「でもよ、日が落ちる前にも相当、修行してたろ? あんまりやり過ぎるとオーバーワークになっちまうぞ」

 

ゼノヴィアはこのところ、修行量を上げていた。

今日もオーバーワーク寸前と思えるほど打ち込んでいた。

何かに取り憑かれたような表情で。

 

木場と手合わせもしていたが、焦りすぎているせいか、隙を突かれてカウンターを食らうことも多かった。

 

「私は―――木場よりも弱いからな」

 

ゼノヴィアは真っ直ぐな瞳で言った。

 

確かに、出会った当初は木場よりもゼノヴィアの方が強かった。

だけど、木場が聖魔剣を得てからは才能を開花させていき、今では立場が逆転してしまった。

 

それは日々の修行で明らかになっている。

 

「単純に才能という点では私よりも木場の方が上なのだろう」

 

ゼノヴィアは少しだけ目を陰らせた。

同じ剣士として木場に嫉妬している部分もあるんだと思う。

 

「才能、か。まぁ、木場の才能は俺達の中でも抜きん出ているよ」

 

「それはイッセーよりもか?」

 

ゼノヴィアの問い頷く。

 

「ああ。というより、部長の眷属に俺より才能が無いやつなんていない。俺が一番才能が無いんだよ」

 

ゼノヴィアはどこか驚いたような表情で見てくる。

 

おいおい・・・・・。

俺、結構主張してるぜ?

どれだけ信じてもらえて無いんだよ・・・・・。

 

「才能なんてものは努力さえ続けていればいつかは追い抜ける。だけどな、やり過ぎは良くない。強くなりたいんなら、しっかり修行して、しっかり飯食って、しっかり休む! これが一番の近道だ。だからさ、そろそろ休めよ。あんまり気合い入れすぎると、体が付いてこなくなるぞ?」

 

まぁ、俺が言えたことじゃないけどな。

俺の場合、オーバーワークなんてレベルじゃなかったわけだし・・・・。

 

俺の言葉にゼノヴィアは何やら考え込む。

 

少しすると顔を上げて微笑んだ。

 

「そうだな。今、やり過ぎても体を壊してしまっては元もこもない。私もそろそろ休むとしよう」

 

「おう、そうしとけって。修行なら俺がいつでも付き合ってやるからさ。あんまり無茶はするなよ?」

 

「本当か?」

 

「本当だよ。つーか、嘘言ってどうするよ? 俺はおまえみたいに努力してるやつが好きなんだよ」

 

「そうか。ありがとう、イッセー」

 

よし、ゼノヴィアも分かってくれたみたいだ。

 

 

ん?

 

なんだか、ゼノヴィアの顔が赤いような・・・・。

 

どうしたんだよ?

 

 

俺が怪訝に思っていると、ゼノヴィアが口を開く。

 

「イッセーはその、なんだ・・・・・私のことが好きなのか?」

 

・・・・・え?

 

俺はいきなりの質問に頭が一瞬フリーズした。

 

「え、えーと、なんでそんなことを?」

 

「さっきイッセーが言ってたじゃないか。『おまえが好きだ』と」

 

ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇぇい!!

 

言葉足りてないって!

間の言葉はどこに行った!?

俺は慌てながら迫るゼノヴィアを止める。

 

 

「いやいやいや、俺は『おまえみたいに努力するやつが好きだ』って言ったんだよ! どんな解釈してんだ!?」

 

「ん? つまりそれは私のことが好きだということだろう? イッセーも大胆だな・・・・・」

 

あれ!?

こいつ、全く理解してねぇ!

確かに俺はゼノヴィアのことは好きだけどさ!

こいつの言葉にはどこか違和感がある!

 

つーか、なんで服脱ごうとしてんの!?

 

「私もイッセーのことが好きだ。そして、イッセーも私のことが好き。これは両想いというやつなのだろう? そうと決まれば早速、子作りだ」

 

おいぃぃぃぃぃ!

 

なんだその短絡思考!

 

マジか!?

マジでここでするのか!?

 

「待て待て! おまえ本気か!?」

 

「もちろんだとも。それとも何か不服か? ・・・・・もしかして、私が汗をかいているのを気にしているのか? 私としてはどのみち汗だくになるから気にしなくても良いと思うんだが・・・・・。イッセーは嫌か・・・・。それならちょうど隣の部屋が大浴場だ。そこで汗を流した後、子作りに励むとしよう。いや、どうせなら浴場でするのもアリか」

 

なんか、話が勝手に進められてる!?

 

ヤバい!

このままじゃ、俺は風呂場でゼノヴィアと激闘を繰り広げることになっちまう!

 

・・・・・それも良いかな、と思ってしまう自分がいるけど。

 

 

ガシッ

 

 

俺は腕をゼノヴィアに掴まれる!

そして、再び大浴場に直行!

 

ウソッ!?

マジで連れ込まれちまった!

 

目の前で服を脱いで行くゼノヴィア!

ゼノヴィアが服に手をかけて、脱いで行く!

 

 

ぷるん

 

 

現れるゼノヴィアのおっぱい!

汗のせいか、おっぱいに艶が出ている!

 

 

ブフッ

 

 

ゼノヴィアの見事な脱ぎっぷりに鼻血が噴き出る!

エロいよ! エロすぎる!

なんで、男の俺が見ている前で、そんな大胆なことが出来るんだ!?

 

つーか、この間の体育倉庫でも同じことがあったよな!

 

 

とりあえず、ありがとうございます!

 

俺が心の中でお礼を言っていると、ゼノヴィアは服を全部脱ぎ終わり、一糸纏わぬ生まれたままの姿のゼノヴィアがいた。

 

ゼノヴィア、大事なところ見えちゃってるから!

 

「イッセーはまだ脱いでないのか? 仕方がない、私が手伝ってやろう」

 

は、はああああああああ!?

 

そんなことしなくても自分で脱ぐ、ってそうじゃねぇだろぉぉおおおお!

 

止めようよ、俺!

 

 

ああっ!

 

 

あっという間にゼノヴィアに身ぐるみ剥がされた!

なんという鮮やかな脱がしのテクニック!

おまえ、そんな技術をどこで手に入れた!?

 

「ふむ・・・・。何だかんだで、イッセーもやる気十分じゃないか」

 

ゼノヴィアは俺の下半身を見て、そう呟く。

 

それを聞いて俺は咄嗟に手で股間を隠すが、すでに遅かった!

 

「男性のを生で見るのは初めてだが・・・・・。ここまで大きくなるのか・・・・・」

 

いや、感想とか言わなくて良いから!

何、観察してくれちゃってんの!?

 

こうなったの、おまえのせいだからな!

 

つーか、何でこんなことになった!?

 

「さて、準備は整った。後は浴場でするだけだ」

 

ゼノヴィアは再び俺の手を掴み、浴場の扉を開ける。

扉を開けたときに脱衣所に入り込んできた湯けむりが俺の肌に触れた。

 

それが俺の興奮を一気に高めることに!

 

どうしよう!

俺はこのまま、風呂場でゼノヴィアと!?

 

 

 

 

「あれ? ゼノヴィアさんと・・・・・イッセー君!?」

 

 

 

 

突然、聞こえてきた第三者の声。

 

見れば湯船に浸かるレイナの姿。

 

 

ブッ!

 

 

鼻血が再び噴き出ることに!

レイナの裸とかレアだ! レアすぎる!

 

やっぱり、レイナも良い体してるよな!

おっぱいも大きいし!

スタイル抜群だ!

 

よし、脳内保存!

 

 

「むぅ・・・・・。まさか、レイナが入っていたとは・・・・・想定外だ」

 

横で何やら呟くゼノヴィア。

想定外って・・・・。

 

ここ、大浴場だからね?

そりゃ、俺達以外も使うって。

 

こいつ、そのあたりを全く考えてなかったのな・・・・・。

 

「え、え、えーと、二人ともお風呂かな?」

 

レイナが尋ねてくる。

 

俺がこの場を収めるために「そうだよ」と答えようとした時、先にゼノヴィアが答えてしまう。

 

「いや、私達は今から子作りをするところだ」

 

こ、このおバカさん!

 

それ、言っちゃう!?

 

「こ、こここここここ子作り!?」

 

「そうだ。レイナがいたのは想定外だったが・・・・・まぁ、いい。どうだ、レイナも一緒にイッセーと子作りをしないか?」

 

おいぃぃぃぃぃ!

 

何言ってんの、この娘!?

レイナを巻き込むな!

 

見てみろ! 

レイナの思考が完全に停止してるから!

 

 

そして、レイナが我に帰った時―――

 

 

 

 

「えええええええええええええええええ!?」

 

 

 

 

レイナの絶叫が家全体に響き渡った。

 

 

その声を聞き付けた皆が風呂場に駆けつけてくるのは当然のことで・・・・・。

 

 

その後、俺は部長達から説教を受けることになった・・・・・。

 

 

俺だけ説教されるのは納得いかない・・・・・

 

 

まぁ、ゼノヴィアとレイナのおっぱいを見れたから良しとするか。

 

 

ちなみにだが、説教の後に皆で風呂に入ることになったのはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

「通信で悪いな、サーゼクス。例のグラシャラボラス家次期当主の不審死とディオドラ・アスタロトの魔力増大についてだが・・・・」

 

『やはり、繋がったか。・・・・・悪魔はいまだ問題を抱えるばかりだ』

 

はぁ、とため息をつくサーゼクス。

 

普段はにこやかにしているが、こいつも色々とストレスが溜まってるのかね?

 

「まだ、確証は得ないが、ヴァーリの忠告を信じるならば、ディオドラは―――。例の案、やるしかないかもな・・・・・はぁ・・・・・・」

 

今度は俺がため息をついた。

 

ったく、身内のイベントでただでさえテンション低いのによ。

 

通信用の魔法陣を通して、サーゼクスの笑い声が聞こえてくる。

 

『ふふふ。聞いたぞ、アザゼル。グリゴリの幹部がまた一人婚姻したようだな』

 

「ああ、そうだよ。・・・・・どいつもこいつも、焦りやがって。何よりも俺に黙って裏で他勢力の女とよろしくやってたなんてな・・・・・。クソ、そろそろ独り身は俺だけか!」

 

『ははははは!』

 

爆笑するサーゼクス。

 

クソ、腹立つなこいつ。

 

『アザゼルも身を固めたらどうだ? なんなら私が紹介してもいい』

 

「余計なお世話だ。それに俺は趣味に生きる男だ。・・・・・お、女なんていくらでもいる!」

 

『そうだな。そういうことにしておこう。―――さて、例の案についてだが、各勢力のトップは承諾してくれた。ミカエルもだ』

 

「そうか。まぁ、これは奴等を潰す絶好の機会だからな。乗ってくるとは思ってたぜ」

 

『ああ。・・・・・彼、イッセー君には話したのか? 彼の力は必要になる』

 

「いや、まだだ。今、あいつに話してしまうと他のメンバーにバレる可能性がある。イッセーには直前に話そうと思う。出来るだけ情報の漏洩は避けたい」

 

『しかし、それでは・・・・・』

 

「おまえの懸念は分かる。だが、あいつは意外とその辺りは冷静だからな。理由を話せば理解はしてくれるだろう」

 

まぁ、それでも怒るとは思うけどな。

なにせ、あいつの仲間を危険に曝すことになるからな。

その時はいくらでも殴られてやるさ。

 

それで足りないときは―――

 

「全ては提案した俺の責任だ。なんとかするさ」

 

 

[アザゼル side out]

 



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8話 奪われしレーティングゲーム

本日、連続の投稿です!


「そろそろ時間ね」

 

部長がそう言い、立ち上がる。

 

決戦日。

俺達は深夜にオカルト研究部に集まっていた。

アーシアがシスター服、ゼノヴィアは例の戦闘服。

他のメンバーは駒王学園夏の制服姿だ。

 

ゲームに出るメンバーは部屋の中央に展開されている魔法陣の上に集まり、転移の瞬間を待つ。

 

「皆、頑張れよ! あんなやつボコボコしてやれ!」

 

『おうっ!』

 

俺の声援に皆が気合いの入った返事をする。

 

これまで、俺は皆の修行につき合ってきたけど、皆はかなり力を上げていた。

部長もディオドラを研究して作戦を練っていた。

 

準備は万端。

 

後はあいつを倒すだけだ。

 

皆、かなりの努力を積んできた。

あんなやつに負けやしねぇ!

 

「皆、頑張ってね!」

 

「私も応援するわ!」

 

「私は皆が勝てるよう天に祈っておくわ!」

 

美羽、レイナ、イリナも声援を送る。

 

・・・・・・イリナ、俺達は悪魔だからね。

祈ったら逆にダメージを受けるって。

いや、アーシアとゼノヴィアは大丈夫なのかな?

 

魔法陣に光が走り、皆はゲームフィールドへと転送されていった。

 

 

さて、俺はテレビで皆のゲームを観戦しようかな。

 

俺が部室に用意されたモニターの電源を入れようとした時、椅子に腰かけていたアザゼル先生が立ち上がる。

 

・・・・・・?

 

なんだ?

 

部室に残ったメンバーはアザゼル先生の表情に怪訝な表情を浮かべていた。

 

なぜなら、アザゼル先生の表情はいつになく真剣なものだったからだ。

 

「どうかされました、総督?」

 

気になったレイナが先生に声をかける。

 

そして、アザゼル先生は低い声で俺達に言った。

 

「おまえ達には悪いと思っている。このゲーム、実は―――――」

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

 

「・・・・・着いたのか?」

 

魔法陣のまばゆい輝きから視力が回復し、目を開けてみると―――。

 

そこは広い場所だった。

 

・・・・・一定間隔で大きな柱が並んでいる。

下は・・・・・石造りだ。

辺りを見渡すと、後方に巨大な神殿の入り口がある。

 

・・・・・大きいな。

 

ギリシャで作られる神殿によく似ている。

パッとみでは壊れた箇所もなく、出来上がったばかりの様相を見せていた。

ここが僕たちの陣営か。

短期決戦か長期戦か判らいが、僕は僕の仕事をこなすだけだ。

 

などと勇み立ち構えていたのだが・・・・・・いつまでたっても審判役の人からのアナウンスが届いてこない。

 

 

「・・・・・おかしいわね」

 

部長がそう言う。

 

僕や他のメンバーも怪訝そうにしていた。

 

運営側で何かおこったのか?

そんな風に首をかしげて思っていたら―――。

 

神殿とは逆方向に魔法陣が出現する。

 

まさかディオドラか?

この近距離で相対するなんて、短期戦のゲームなのか?

 

だが、魔法陣は一つだけじゃなかった。

 

さらにパッパッと光りだし、辺り一面、僕たちを囲むように出現していく。

 

 

「・・・・・アスタロトの紋様じゃない!」

 

僕はそう言い、剣をかまえる。

 

朱乃さんも手に雷を奔らせながら言う。

 

「・・・・・魔法陣全て共通性はありませんわ。ただ―――」

 

「全部、悪魔。しかも記憶が確かなら―――」

 

部長が紅いオーラをまといながら、厳しい目線を辺りに配らせていた。

 

魔法陣から現れたのは大勢の悪魔たち。

 

全員、敵意、殺意を漂わせながらでてくる。その悪魔たちは僕たちを囲んで激しく睨んでくる!

 

何百人か、千人ぐらいか、正確な数は判らないが、結構な数に囲まれている!

 

「魔法陣から察するに『禍の団(カオス・ブリゲード)』の旧魔王派に傾倒した者たちよ」

 

 

―――――っ!?

 

 

禍の団(カオス・ブリゲード)』!

 

なぜ僕たちのゲームに乱入してくるんだ!?

 

「忌々しき偽りの魔王の血縁者、グレモリー。ここで散ってもらおう」

 

囲む悪魔の一人が部長に挑戦的な物言いをする。

やはり、旧魔王を支持する悪魔にとってみれば、現魔王とそれに関与する者たちが目障りなのだろう。

 

「キャッ!」

 

悲鳴!

この声は―――アーシアさん!

アーシアさんの方へ振り向くと、そこにはアーシアさんの姿はない!

 

「部長さん!」

 

空から声!上を見上げてみるとアーシアさんを捕えたディオドラの姿があった。

 

「やあ、リアス・グレモリー。アーシア・アルジェントはいただくよ」

 

笑顔のままそう言うディオドラ。

 

「卑怯者!アーシアを離せ!そもそもどういうことだ!私達とゲームをするんじゃなかったのか!?」

 

ゼノヴィアの叫びにディオドラは醜悪な笑みを見せた。

 

「バカじゃないの?ゲームなんてしないさ。キミたちはここで彼ら―――『禍の団(カオス・ブリゲード)』のエージェントたちに殺されるんだよ。いくら力のあるキミたちでもこの数の上級悪魔と中級悪魔を相手にできやしないだろう? ハハハ、死んでくれ。速やかに散ってくれ」

 

部長が宙に浮かぶディオドラを激しく睨む。

 

「あなた、『禍の団(カオス・ブリゲード)』と通じてたというの? 最低だわ。しかもゲームまで汚すなんて万死に値する! 何よりも私のかわいいアーシアを奪い去ろうとするなんて・・・・・ッ!」

 

部長のオーラがいっそう盛り上がる。

激怒しているんだ、当たり前だ。

僕だって奴に対して怒らずにはいられない・・・・・!

 

「彼らと行動したほうが、僕の好きなことを好きなだけできそうだと思ったものだからね。ま、最後のあがきをしていてくれ。僕はその間にアーシアと契る。意味はわかるかな? ハハハハッ、僕はアーシアを自分のものにするよ。追ってきたかったら、神殿の奥まで来てごらん。素敵なものが見れるはずだよ」

 

ディオドラが嘲笑するなか、ゼノヴィアが叫ぶ。

 

「アーシアは私の友達だ!おまえの好きにはさせん!」

 

ゼノヴィアは素早くイッセー君から借りていたアスカロンを取り出し宙にいるディオドラに切りかかろうとするが―――。

 

ディオドラの放つ魔力の弾がゼノヴィアの態勢を崩してしまう。剣はディオドラに届かなかったが、刃から放たれた聖なるオーラの波動がディオドラに向かう。

 

が、ディオドラは宙で舞うように軽く避けた。

 

「ゼノヴィアさ――――」

 

助けを請うアーシアさん!

 

だが、「ぶぅぅん」と空気が打ち震え、空間が歪んでいく。ディオドラとアーシアさんの体がぶれていき、次第に消えていった。

 

「アーシアァァァァァァァ!」

 

ゼノヴィアが宙に消えたアーシアさんを叫ぶが、返事なんて返ってこない。

 

僕はゼノヴィアに話しかける。

 

「ゼノヴィア! 冷静になるんだ! いまは目の前の敵を薙ぎ払うのが先だ! そのあと、アーシアさんを助けに行こう!」

 

「・・・・・そうだな、すまない、木場」

 

そう答えるゼノヴィア。

 

しかし、その瞳に憤怒に燃えていた。

 

僕たちを囲む悪魔たちの手元が怪しく光る。

 

魔力弾を一斉に放つつもりだろう。

 

ディオドラの言うことが本当なら、中級悪魔だけではなく上級悪魔も含まれている。こいつらが放ってくる魔力の雨を防ぎきれるか?

 

打開策を模索している僕だが、一触即発のなか『キャッ!』と悲鳴があがる。

 

朱乃さんの声だ。

 

なにかあったのだろうか!?

 

そう思ってそちらへ視線を向けると―――ローブ姿の隻眼の老人が朱乃さんのスカートをめくって下着を覗いていた。

 

「うーん、良い尻じゃな。何よりも若さゆえの張りがたま」

 

 

スパンッ!

 

 

言い終わる前にハリセンで老人の頭を叩く者が現れた。

 

「このクソジジイ! 俺の朱乃さんに何しやがる!」

 

現れたのはイッセー君だった!

 

イッセー君は老人の襟首を掴んで叫ぶ。

 

「あんたな! 神様だかなんだか知らねぇけど、ふざけたことしてると、滅しちゃうぞ! 神殺ししちゃうぞ! 神滅具の力を見せてやろうか!?」

 

「ま、まぁまぁ、落ち着いてよ、お兄ちゃん」

 

イッセー君を肩をつかんで、宥める美羽さん。

 

いつの間にいたのだろう?

 

『相棒、そんな理由で神を殺すな。赤龍帝の名が泣く。それにそいつも北欧の主神なんだ。流石の相棒でも勝てんぞ? それより今はすることがあるだろう?』

 

僕はドライグの言葉に驚いた。

 

この老人が北欧の主神オーディンなのか!?

なんで、そんな大物がここに?

 

というより、神に掴みかかるイッセー君もすごいと思うけど・・・・・・。

 

部長が三人に尋ねる。

 

「オーディン様! イッセー! 美羽! どうしてここへ?」

 

オーディン様が顎の長い白髭を擦りながら言う。

 

「うむ。話すと長くなるがのぅ。簡潔に言うと、『禍の団(カオス・ブリゲード)』にゲームをのっとられたんじゃよ」

 

やはり、ゲーム自体がそうなっていたのか。

 

「いま、運営側と各勢力の面々が協力体制で迎え撃っとる。ま、ディオドラ・アスタロトが裏で旧魔王派の手を引いていたのまでは判明しとる。先日の試合での急激なパワー向上もオーフィスの『蛇』でももらいうけていたのじゃろう。だがの、このままじゃとお主らが危険じゃろ? 救援が必要だったわけじゃ。しかしの、このゲームフィールドごと、強力な結界に覆われててのぅ、そんじょそこらの力の持ち主では突破も破壊も難しい。特に破壊は厳しいのぅ。内部で結界を張っているものを停止させんとどうにもならんのじゃよ」

 

「では、オーディン様はどうやってここへ?」

 

「ミーミルの泉に片目を差し出したおかげであらゆる魔術、魔力、その他の術式に関して詳しくなったんじゃよ。結界に関しても同様」

 

オーディン様は左の隻眼の方を僕達に見せる。

 

そこには水晶らしきものが埋め込まれ、眼の奧に輝く魔術文字を浮かび上がらせていた。

 

ぞくっ

 

その水晶の義眼に映し出された文字を見たとき、心身の底まで冷えて固まるように感じた。

 

なんて、危険な輝きなんだ・・・・・ッ!

 

「俺の方は部長達が転移していった後、ことの次第をアザゼル先生に聞かされたんですよ。それでこの爺さんと一緒に助けにきたんです。一足遅かったようですけどね・・・・・」

 

イッセー君が籠手を出しながら言う。

彼はアーシアさんがディオドラに連れ去られたことが分かっているのだろう。

その視線はディオドラがいると思われる神殿の方へと向けられていた。

その目からは明らかな憤怒が感じられる。

 

「ボクも同じ理由だよ。皆が危ないって聞いたから助けにきたの。とりあえず、皆は無事で良かった。早くアーシアさんを助けに行かないとね」

 

美羽さんも普段の彼女とは思えないくらい怒りのオーラを発している。

やはり彼女もアーシアさんがさらわれたと知って激怒しているようだった。

 

 

ただ、イッセー君は一つ気になることを言っていたのを思い出す。

 

アザゼル先生に聞かされた・・・・・・?

 

ということはこのゲームは始めから・・・・・・・。

 

「相手は北欧の主神と赤龍帝だ! 討ち取れば名が揚がるぞ!」

 

旧魔王派の悪魔が一斉に魔力の弾を撃ってくる!

この数は―――マズイ!

 

覚悟を決めて僕たちが魔力の弾を迎え撃とうとしたとき、オーディン様が杖を一度だけトンと地に突く。

 

ボボボボボボボボンッ!

 

こちらへ向かってきていた無数の魔力弾が宙で弾けて消滅した!

 

オーディン様は「ホッホッホッ」とひげをさすりながら笑う。

 

―――すごい!さすがは北欧の主神だ。

たったあれだけの動作であれだけの魔力弾を防ぐなんて!

 

「本来ならば、わしの力があれば結界も打ち破れるはずなんじゃがここに入るだけで精一杯とは・・・・・。はてさて、相手はどれほどの使い手か。ま、これをとりあえず渡すようにアザゼルの小僧から言われてのぅ。まったく年寄りを使いにだすとはあの若造どうしてくれるものか・・・・・・」

 

そうぶつぶつと言いながらもグレモリー眷属の人数分の小型通信機を渡してくる。

 

「ほれ、ここはこのジジイに任せて神殿のほうまで走れ。ジジイが戦場に立ってお主らを援護すると言っておるのじゃ。めっけもんだと思え」

 

そういって杖を僕たちに向けると、僕たちの体を薄く輝くオーラが覆う。

 

「それが神殿までお主らを守ってくれる。ほれほれ、走れ」

 

「爺さんはどうするんだよ?」

 

イッセー君が心配を口にするが、オーディン様は愉快そうに笑うだけだ。

 

 

「まだ十数年しか生きていない赤ん坊が、わしを心配するなぞ―――」

 

オーディンさまの左手に槍らしきものが出現した。

 

「―――グングニル」

 

それを悪魔たちに一撃繰り出す!刹那―――。

 

 

ブゥゥゥゥウウウウンッ!

 

 

槍から極大のオーラが放出され、空気を貫くような鋭い音が辺り一面に響き渡る。

 

悪魔たちは先の一撃で数十人にまで数を減らしている。なんて桁違いな威力なんだ!

 

「なーに、ジジイもたまには運動しないと体が鈍るんでな。赤龍帝の小僧はそやつらを守ってやれい。それがおまえさんの役割じゃて。さーて、テロリストの悪魔ども。全力でかかってくるんじゃな。この老いぼれは想像を絶するほど強いぞい」

 

手加減してこれなのか!さすがに神は別領域の強さだ・・・・・!

 

「分かった。死ぬなよ、爺さん! 皆、行こう!」

 

『おうっ!』

 

イッセー君の言葉に僕達は返事を返すと、イッセー君に続いて、神殿へと走り出したのだった。

 

 

[木場 side out]

 



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9話 本気のグレモリー眷属です!!

[木場 side]

 

神殿の入り口に入るなり、皆はオーディン様から受け取った通信機器を取り付ける。

 

『無事か?こちらアザゼルだ。オーディンの爺さんから渡されたみたいだな』

 

―――先生だ。

 

『言いたいこともあるだろうが、まずは聞いてくれ。このレーティングゲームは『禍の団』旧魔王派の襲撃を受けている。そのフィールドも、近くのVIPルーム付近も旧魔王派の悪魔どもがうじゃうじゃしている。だが、これは事前にこちらも予想していたことだ。現在、各勢力が協力して旧魔王派の連中を撃退している』

 

「予想していた? どいうことだ?」

 

先生の言葉にゼノヴィアが怪訝な表情で問う。

 

『リアスの耳には入っているだろうが、最近、現魔王に関与する者たちが不審死するのが多発していた。裏で動いていたのは『禍の団』旧魔王派。グラシャラボラス家の次期当主が不慮の事故死をしたのも実際は旧魔王派の連中が手にかけてたってわけだ』

 

グラシャラボラスの次期当主候補は『禍の団』に殺害されたのか・・・・・・。

恐らく、現魔王の血筋だから狙われたのだろう。

でも、どうしてディオドラが『禍の団』に?

 

『首謀者として挙がっているのは旧ベルゼブブと旧アスモデウスの子孫。俺が倒したカテレア・レヴィアタンといい、旧魔王派の連中が抱く現魔王政府への憎悪は大きい。このゲームにテロを仕掛けることで世界転覆の前哨戦として、現魔王の関係者を血祭りにあげるつもりだったんだろう。ここにはちょうど、現魔王や各勢力の幹部クラスも来ている。テロリストどもにとって襲撃するのにこれほど好都合なものもない』

 

つまり、僕たちの試合は最初から旧魔王派に狙われていた。

敵のターゲットは現魔王と現魔王の血縁者―――部長。そして、観戦しに来ていた各勢力の頭であるオーディン様もターゲットの一人だったのだろう。

 

「では、あのディオドラの魔力が以前よりも上がったのは?」

 

部長が先生に問いかける。

 

『『禍の団』に協力する代わりにオーフィスの『蛇』を受け取ったんだろう。『蛇』をもらったやつは三流のやつでも一流並みの力量を得ることが出来る。・・・・・まぁ、ディオドラがそれをゲームで使ったことは奴らも計算外だっただろうがな。そのおかげで今回のことを予見できたわけだが』

 

なるほど・・・・・。

 

無限の龍神の力はあそこまで急激なパワーアップを可能にするのか。

 

もしかしたら、ディオドラ以外にも力を分け与えている可能性もある。

そうなると、非常に厄介だ。

 

『あっちにしてみればこちらを始末できればどちらでもいいんだろうが、俺たちとしてもまたとない機会だ。今後の世界に悪影響を出しそうな旧魔王派を潰すにはちょうどいい。現魔王、天界のセラフたち、オーディンのジジイ、ギリシャの神、帝釈天とこの仏どもも出張ってテロリストどもを一網打尽にする寸法だ。事前にテロの可能性を各勢力のボスに極秘裏に示唆して、この作戦に参加するかどうか聞いたんだがな。どいつもこいつも応じやがった。どこの勢力も勝ち気だよ。いま全員、旧魔王の悪魔相手に暴れているぜ』

 

どの勢力もテロには屈しない姿勢というわけだ。

 

「・・・・・このゲームはご破算ってわけね」

 

『悪かったな、リアス。戦争なんてそう起こらないと言っておいて、こんなことになっちまっている。今回、お前たちを危険な目に遭わせた。いちおう、ゲームが開始する寸前までは事を進めておきたかったんだ。だから、イッセー達に伝えたのもおまえらが転移した後になっちまったがな』

 

「もし、私たちが万が一にも死んでしまったらどうするつもりだったんだ?」

 

ゼノヴィアが何気なく聞くと先生は真剣な声音で言った

 

『これはイッセー達にも言ったことなんだが、もしそうなった場合は俺もそれ相応の責任を取るつもりだった。俺の首でことが済むならそうした』

 

―――先生は死ぬつもりだったんだ。

 

そこまで覚悟して、旧魔王派の連中をおびき寄せたのだろう。

 

イッセー君が先頭を走りながら先生に通信を入れる。

 

「先生。アーシアがディオドラの野郎に連れ去られました。予定を変更して俺達はアーシアを助けに行きます!」

 

『―――っ。そうか、一足遅かったか・・・・・。分かった。おまえがいるなら、俺も少しは安心できる。そいつらのことは任せる。・・・・・・だが、くれぐれも気をつけてくれ。このフィールドは『禍の団』所属の神滅具所有者が作った結界に覆われているために、入るのはなんとかできるが、出るのは不可能に近いんだよ。―――神滅具『絶霧(ディメンション・ロスト)』。結界、空間に関する神器のなかでも抜きんでているためか、術に長けたオーディンのクソジジイでも破壊できない代物だ』

 

「了解です!」

 

イッセー君が気合いの入った一声で答えた。

 

『最後にこれだけは聞いていけ。奴等はこちらに予見されている可能性も視野に入れておきながら事を起こした。つまり、多少敵に勘づかれても問題ない作戦があると言うことだ』

 

「つまり、相手は隠し玉を持っている可能性があるということですか?」

 

僕の問いに先生は答える。

 

『そういうことだ。それが何なのかはまだ分からないが、このフィールドが危険なことには変わりはない。ゲームは停止しているため、リタイア転送は無い。そちらにはイッセーがいるから大丈夫だとは思うが、絶対ではないんだ。だから、十分に気をつけてくれ』

 

そこで先生との通信は終わった。

 

部長がイッセー君に尋ねる。

 

「ねぇ、イッセー。元々の予定ではどういう手筈だったの?」

 

「元々は俺が皆と合流した後、俺が皆を神殿の地下にあるシェルターに避難させる予定でした。・・・・まぁ、それもディオドラのせいで予定が狂いましたけどね」

 

ということは僕達がやるべきことはディオドラを倒した後、アーシアさんを助けて神殿の地下シェルターに逃げるということだね。

 

それなら、早くアーシアさんを助けないと。

 

「分かったわ。それで、アーシアの位置は分かるかしら?」

 

「はい。神殿の奧からアーシアとディオドラの気を感じます。このまま突っ切りましょう」

 

僕達全員は無言で頷き合うと神殿の奧へ向かって走り出した。

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

 

神殿の中は広大な空間だった。

大きな広間がずっと続く感じだ。

広間に巨大な柱が並ぶくらいで他に目立ったものはない。

 

神殿を抜けると前方に新たな神殿が現れ、俺達はそれを目指す。

それを何度か繰り返していくうち、とある神殿の中に入ったとき―――気配を感じた。

 

 

俺達はそこで足を止める。

 

前方から現れたのはーーーフードを深く被ったローブ姿の小柄な人影が十名ほど。

ディオドラの眷属だ。

 

『やー、リアス・グレモリーとその眷属の皆』

 

ディオドラの声が神殿に響く。

 

あいつの気は動いてない。

ということは、これは魔法か何かで声を送っているわけか。

 

『ハハハ、やっぱり君も来たんだね赤龍帝。じゃあ、役者も揃ったことだし、ゲームをしよう。中止になったレーティングゲームの代わりだ』

 

随分ふざけたことを言ってやがるな、こいつ・・・・・。

 

ゲームだと?

 

『お互いの駒を出し合って、試合をしていくんだ。一度使った駒は僕のところへ来るまで二度と使えないのがルール。あとは好きにしていいんじゃないかな。第一試合、僕は『兵士』八名と『戦車』二名を出す。ちなみにその『兵士』たちは皆すでに『女王』に昇格しているよ。ハハハ、いきなり『女王』八名だけれど、それでもいいよね? 何せ、リアス・グレモリーは強力な眷属を持っていることで有名な若手なのだから』

 

「いいわ。あなたの戯言に付き合ってあげる。私の眷属がどれほどのものか、刻み込んであげるわ」

 

部長がディオドラの提案を快諾した。

 

「相手の提案を呑んでいいんですか?」

 

美羽が部長に訊くと、目を細めながら言う。

 

「ここは応じておいた方がいいわ。あちらは・・・・アーシアを人質にとっているんですもの」

 

下手に刺激するのはマズいってことだな。

 

まぁ、あのディオドラのことだ。

何をするか分からないしな。

 

 

部長は息を吐くと小猫ちゃん達に視線を向ける。

 

「イッセーを出すまでもないわ。私達は小猫、ギャスパー、ゼノヴィアを出すわ。今名前を呼んだメンバーは集まってちょうだい」

 

小猫ちゃん、ギャスパー、ゼノヴィアは部長のもとに集まる。

 

「ゼノヴィア。あなたには『戦車』の殲滅を頼むわ。思いっきりやっていいから。全部ぶつけてちょうだい」

 

「了解だ。いいね、そういうのは得意だ」

 

部長がそう言うと、ゼノヴィアは不敵な笑みを浮かべる。

 

まぁ、制限なしのこいつなら『戦車』の二人くらい余裕だろ。

 

「『兵士』は小猫とギャスパーに任せるわ。オフェンスは小猫。仙術で練り込んだ気を相手に叩き込んで根本から断つ。ギャスパーはイッセーの血を飲んでサポートに回ってちょうだい」

 

「・・・・・了解」

 

「了解ですぅ!」

 

二人はそれぞれ頷いた。

 

 

俺は木場の魔剣で指先を軽く切り、ギャスパーに血を与えた。

 

 

ドクンッ!

 

 

ギャスパーの胸が脈打ったのが分かった。

 

次の瞬間、ギャスパーの体を異様なオーラが包んでいた。

赤い相貌も怪しく輝きを発している。

 

よし、これならいける!

 

 

準備が整った三人は前に出る。

 

それを確認したのか、ディオドラの声が聞こえてきた。

 

『じゃあ、始めようか』

 

ディオドラの声と共に奴の眷属が一斉に構えだした。

 

それと同時に、ゼノヴィアはデュランダルを解放すると、アスカロンと二刀流の構えをして、『戦車』二名の方へ歩み出した。

 

「アーシアは返してもらう」

 

ゼノヴィアの全身からかつてないほどのプレッシャーが放たれていた。

 

その眼光は鋭い。

 

「・・・・・私は友と呼べる者を持っていなかった。そんなものがなくとも、神の愛さえあれば生きていける、と」

 

『戦車』二名がゼノヴィア目掛けて走り出す。

 

しかし、ゼノヴィアは動じずに独白を続ける。

 

「そんな私にも分け隔てなく接してくれる者達ができた。特にアーシアはいつも私に微笑んでくれた。出会った時に酷いことを言ったのにも関わらずだ。アーシアは何事もなかったかのように話しかけてくれた。それでも『友達』だと言ってくれたんだ!」

 

ゼノヴィア・・・・・・。

 

出会った時のこと、ずっと気にしていたんだな。

 

「だから、助ける! 私の親友を! アーシアを!」

 

 

ドンッ!

 

 

ゼノヴィアの想いに答えるかのようにデュランダルとアスカロンから絶大なオーラが発せられる!

その波動はゼノヴィアに攻撃を仕掛けようとした『戦車』の二人を弾き飛ばした。

 

ゼノヴィアは二本の剣を振り上げると涙まじりに叫んだ!

 

「だから! だから頼む! デュランダル! アスカロン! 私の親友を助けるために! 私に力を貸してくれ! 私の想いにこたえてくれぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

ゼノヴィアが宙でデュランダルとアスカロンをクロスさせると、聖なるオーラが更に膨れ上がった!

二つの剣は広大な光の柱を天高く迸らせていく!

神殿の天井に巨大な穴が生まれた!

そして、ゼノヴィアはそれを『戦車』二名の方へと一気に降り下ろした!

 

 

ザバァァァアアアアアアアアアアアッッ!!

 

 

二つの大浪とも言える聖なる波動は、『戦車』二名を飲み込んでいった!

 

 

ドオオオオオオンッ!!

 

 

神殿が大きく揺れ、砂誇りが舞う。

 

揺れが収まったとき、俺の視界に映ったのは―――

 

ゼノヴィアの前方に伸びる二本の大きな波動の爪痕。

その先にあった柱や壁は全て消失している。

 

これがセーブ無しのゼノヴィアの攻撃か・・・・・。

予想以上の威力だ。

どうやら、夏の合宿の効果はかなり大きかったらしい。

 

ただ、ゼノヴィアは肩で息をしている。

流石に連発は無理か。

 

 

 

さて、残るは小猫ちゃんとギャスパーの方だな。

 

二人の方に視線を移すと、ギャスパーは複数のコウモリに分身して、小猫ちゃんは猫耳を出した状態で体の表面を青白く輝かせていた。

仙術による気を纏っているんだ。

 

八人の『兵士』は一斉に小猫ちゃんに襲いかかる。

 

だけど小猫ちゃんは特にその無表情を崩すことなく、相手の気配を読んで全ての攻撃を捌いていた。

 

小猫ちゃんは自分の力を扱いきれるように日々努力している。

 

今回はその成果が見られる。

 

攻撃が掠りもしないので、相手の『兵士』達は徐々に焦りを見せ始めている。

 

すると、数人の『兵士』の動きが止まった。

 

『小猫ちゃん、停止している間に相手を無力化するですぅぅぅ!!』

 

ギャスパーが邪眼の力を活用して相手の動きを止めたんだ。

 

他の『兵士』も停止させられ、小猫ちゃんは次々に停止した『兵士』を掌底で殴り飛ばしていく。

 

 

ギャスパーが停止させている間に小猫ちゃんが気を纏った攻撃を撃ち込む、か。

 

こりゃ、近接戦では最強のコンボだな。

 

小猫ちゃんに気を乱された相手は魔力を練ることも、立ち上がることも出来なくなる。

 

小猫ちゃんの攻撃をくらった『兵士』八名は崩れ、その場に倒れて動かなくなった。

死んではいない。

ただ、起き上がれないだけだ。

 

数ではこちらが完全に不利だったはずが、結果はこちらは無傷。

それも相手を瞬殺している。

 

圧倒的じゃないか。

 

戦闘を終えた三人が帰ってくる。

 

「・・・・・終わりました」

 

「ああ、よくやったぞ、小猫ちゃん。ギャスパーもゼノヴィアもだ。修行の成果が出せていたよ」

 

誉めると三人は嬉しそうに微笑みを浮かべた。

 

 

さて、とりあえずは一勝だ。

 

 

待ってろよ、アーシア!

 

すぐに助けに行くからな!

 

 

 

 

 



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10話 かつてない怒り

相手の『兵士』と『戦車』を倒したことにより、敵は『女王』、『騎士』二名、『僧侶』二名、そしてディオドラのみだ。

 

ディオドラの相手は俺がするとして、他は部長と朱乃さん、木場で何とかなるだろう。

 

「行きましょう」

 

部長の掛け声と共に俺達は次の神殿へ足を進めた。

 

次に俺達を待っていたのは―――敵三名の姿。

全員、ローブを纏っている。

 

「待っていました、リアス・グレモリー様」

 

三名のうちの一人がローブを取り払う。

あの人は確か、ディオドラの『女王』。

 

うん、美人だ。

ブロンドのお姉さん。

碧眼がキレイだ。

 

それに続いて残りの二名もローブを取り払った。

片方が女性で、もう片方が男性だ。

二人とも『僧侶』。

映像では魔力とサポートは中々に優秀だった。

 

『女王』の方も強かったはずだ。

アガレス戦では『女王』の直接対決をして勝利を修めていたからな。

炎の魔力を用いていたのを覚えている。

 

「あらあら、では、私が出ましょうか」

 

そう言って一歩前に出たのは朱乃さん。

 

「あとの『騎士』二人は祐斗がいれば十分ね。私も出るわ」

 

と、部長も前に出た。

 

二大お姉さまのタッグかよ!

 

「あら、部長。私だけでも十分ですわ」

 

「何言っているの。いくら雷光を覚えても、無茶は禁物よ? ここは堅実にいくのが一番だわ」

 

雷光と滅びの力。

どちらも強力な性質を持つ。

更にはそれを扱う二人も強くなっているから、威力は絶大だ。

 

それが共闘する。

この勝負も余裕で勝てそうだ。

 

すると、小猫ちゃんが俺をちょんちょんと小突く。

 

ん?

どうした小猫ちゃん?

 

小猫ちゃんは俺にしゃがむように促し、耳元に小さな声で耳打ちしていく。

 

ふむふむ、なるほど。

 

「それでいいの?」

 

「・・・・はい。それで朱乃さんはパワーアップします」

 

パワーアップしなくても勝てると思うんだけどなぁ・・・・。

まぁ、小猫ちゃんの頼みとあらば言ってみようか。

 

「朱乃さーん」

 

俺が呼ぶと朱乃さんが振り向く。

 

「えっと、その人達に完勝したら、今度の日曜デートしましょう! ・・・・・・これでいいの小猫ちゃん?」

 

俺が小猫ちゃんに尋ねるとコクコクと頷く。

 

うーむ、俺とデートする権利なんかで朱乃さんがパワーアップするとは思えないけどなぁ。

 

 

カッ! バチッ! バチチチチッ!

 

 

突然、稲妻が辺り一面に散らばり出した。

何事かと思い、朱乃さんの方へ顔を向けると―――絶大な雷光のオーラに包まれた朱乃さんがいた!

 

「・・・・・うふふ。うふふふふふふふ! イッセー君とデート!」

 

え、ええええええ!?

 

なんか、迫力のある笑みを浮かべながら、周囲に雷を走らせてる!?

ウソッ!?

マジでパワーアップしちゃったよ!

 

「酷いわ、イッセー! 朱乃だけにそんなこと言うなんて!」

 

ちょ、今度は部長が涙目で俺に訴えてきた!

 

「うふふ、リアス。これは私の愛がイッセー君に通じた証拠よ。さっきだって、『俺の朱乃』って言ってくれたわ。これはもう確定なのではないかしら?」

 

「な、な、なななな、何を言っているの! デ、デート一回くらいの権利で雷を迸らせる卑しい朱乃になんか言われたくないわ!」

 

おいぃぃぃぃぃい!

 

なんだか、部長と朱乃さんが口論し出したんだけど!

小猫ちゃん、これ本当に大丈夫なの!?

事態が悪化した風にしか見えないんだけど!

 

「なんですって? いまだ抱かれる様子もないあなたに言われたくないわ。その体、魅力がないのではなくて?」

 

「そ、そんなことはないわ!」

 

「あら? 何をしたというのかしら?」

 

「・・・・ベッドの上で胸を触ってくれたわ」

 

「・・・・それ、イッセー君の寝相が悪くてそうなっただけではなくて?」

 

「・・・・・キ、キスしたもん・・・・・」

 

あ、今の部長、スゲー可愛かった。

完璧に普通の女の子だった。

 

つーか、人前でそんなこと言っちゃって良いんですか!?

 

 

ガシッ

 

 

俺は突然、肩と腕を掴まれた。

 

見てみると、美羽、ゼノヴィア、小猫ちゃんが俺を掴んでいた。

ものすごい力で・・・・・。

 

「今の話、どういうことかな?」

 

美羽、笑顔だけど目が笑ってないぞ・・・・・。

 

「いや、部長とキスしたのは・・・・な、なんというか・・・・そういう雰囲気になって・・・・・」

 

その先に進もうとしたら、アーシアが部屋に入ってきたから出来なかったけどね・・・・。

 

「ほう・・・・。それはどんな雰囲気か、是非とも教えてもらいたいものだな。なぁ、小猫」

 

「・・・・リアス部長だけなんてズルいです」

 

ゼノヴィアと小猫ちゃんも目がマジだ!

 

木場に助けてもらおうと視線を送るが・・・・・。

 

「ハハハ。大変だね、イッセー君」

 

木場ァァァァ!!!

 

 

俺が叫ぼうとした時――――

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

 

 

うおっ!?

 

神殿が揺れる!

ゼノヴィアの時の比じゃないぞ!

 

見ると、お姉さま方が口論を続けながら莫大なオーラを発していた!

 

「だったら私も今すぐにイッセー君と唇を重ねてきますわ! リアスのキスなんか忘れるくらいに!」

 

「ダメよ! あなたのことだから、舌も入れるつもりでしょう!」

 

「当然よ! 彼を私色に染め上げて見せますわ!」

 

「絶対にダメよ! イッセーが獣になってしまうわ!」

 

・・・・・・なんつー会話をしてるんですか。

つーか、今の件、以前にも聞きましたよ?

 

相手の『女王』と『僧侶』達もどう出ていいのか分からず、困惑している様子だった。

 

しかし、この空気に耐えられなくなったのか、『女王』が全身に炎のオーラを纏いながら激昂する。

 

「あなた方! いい加減になさい! 私達を無視して男の取り合いなどと―――」

 

「「うるさいっ!」」

 

 

ドッゴォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

部長と朱乃さんが特大の一撃を相手目掛けて撃ち放つ!

その威力は見ているだけで寒気がするほどだった!

 

滅びの魔力と雷光が敵を容赦なく包み込んでいき、周囲の風景もろとも消し飛ばしていった!

 

相手は今ので完全に戦闘不能。

 

お、恐ろしい・・・・・。

 

あの二人は怒らせたらマジで怖いね。

しかし、口論は止まらない。

 

「だいたい朱乃はイッセーのことを知っているの!? 私は細部まで知っているわ!」

 

!?

 

部長、いつ俺の細部を見ましたか!?

風呂の時ですか!?

 

「知っているだけで、触れたことや受け入れたことはないのでしょう? 私なら今すぐにでも受け入れる準備は整ってますわ!」

 

「うぬぬぬぬ! ・・・・・まぁ、いいわ。それはアーシアを救ってからゆっくりと話し合いましょう。まずはアーシアの救出よ」

 

「ええ、わかっていますわ。私にとってもアーシアちゃんは妹のような存在ですもの」

 

おおっ、二人ともやっと意見が一致したか!

一時はどうなることかと思いましたよ!

 

 

ん?

 

そこで俺はあることに気づいた。

この気・・・・・まさか・・・・・。

 

俺は次の神殿の方を見る。

 

そんな俺を美羽が怪訝な表情で見てくる。

 

「どうしたの?」

 

「・・・・もしかしたら、嫌なやつと再会するかもな」

 

「?」

 

意味が分からないと、首を可愛く傾げる美羽。

まぁ、仙術使ってる小猫ちゃんでも気付けてないから仕方がないか。

 

まぁ、いいか。

出会えば敵だろうし、その時は倒すだけだしな。

 

 

「イッセー。私と小猫も頑張ったんだ。今度、私達ともデートしてくれ」

 

ゼノヴィアの言葉にガックリとなる俺であった・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

俺達はディオドラの『騎士』が待っているだろう神殿に足を踏入れたとき、俺達の視界に見覚えのある者が映り込む。

 

「や、おひさ~」

 

現れたのは白髪の神父。

それは―――

 

「やっぱ、おまえかよ。フリード」

 

そう、俺達の目の前に現れたのはフリード・セルゼン。

あのクソ神父だった。

 

エクスカリバー事件の時以来か。

懐かしいもんだ。

 

まぁ、会いたくなかったけど・・・・・。

 

「おやおや? 今、俺と会いたくなかった、とか思ったでしょ、イッセー君?」

 

「おう」

 

「うわぉう! 即答! 僕チン傷ついちゃう!」

 

大袈裟に泣き真似をするフリード。

 

そんなキャラじゃないくせに。

ふざけた口調もそのままか。

 

俺は辺りを見渡し、フリードに問う。

 

「フリード。ディオドラの『騎士』はどうした?」

 

俺の問いに嫌な笑みを浮かべるフリード。

 

フリードは口をモゴモゴさせると、ペッと何かを吐き出した。

 

見てみると、それは人の指だった。

 

「俺様が食ったよ」

 

こいつ・・・・・・。

 

部長と朱乃さんの戦闘が終わった直後に二つの気が消えたから、もしかしたら・・・・とは思っていた。

だけど、今の答えは予想外だ。

 

小猫ちゃんが鼻を押さえながら目元を細めた。

 

「・・・・・その人、人間止めてます」

 

小猫ちゃんが忌むように呟く。

 

奴はニンマリと口の端をつりあげると、人間とは思えない形相で哄笑をあげる。

 

「ヒャハハハハハハハハハハッハハハハハッ! てめえらに切り刻まれたあと、ヴァーリのクソ野郎に回収されてなぁぁぁぁぁぁっ! 腐れアザゼルにリストラ食らってよぉぉぉぉぉおおっ!」

 

ボコッ! ぐにゅりっ!

 

異様な音を立てながらフリードの体の各所が不気味に盛り上がる。

神父服は破れ、四肢は何倍にも膨れ上がった。

 

「行き場無くした俺を拾ったのが『禍の団』の連中さ!奴ら! 俺に力をくれるっていうから何事かと思えばよォォォォオオっ! ぎゃははははは! 合成獣だとよっ! ふははははははっははははっ!」

 

ドラゴンやコウモリ、そのほかにもいろんなものを混ぜたような、異形の形になるフリード。

 

美羽が口許を押さえて信じられないものをみたかのような表情をしている。

俺は手のひらで美羽の視線を遮る。

こんな醜悪なものを美羽に見せなくない。

 

「ヒャハハハハハハッ!ところで知っていたかい?ディオドラ・アスタロトの趣味をさ。これが素敵にイカレてて聞くだけで胸がドキドキだぜ!」

 

フリードが突然ディオドラの話しを始める。

 

「ディオドラの女の趣味さ。あのお坊ちゃん、大した好みでさー、教会に通じた女が好みなんだって! そ、シスターとかそういうのさ!」

 

女の趣味? シスター・・・・・?

俺の中で直ぐにアーシアと直結した。

 

フリードは大きな口の端を上げながら続ける。

 

「ある日。とある悪魔のお坊っちゃんはチョー好みの美少女聖女様を見つけましたとさ。でも、聖女様は教会にとても大切にされていて、連れ出すことは出来ません。そこでケガした自分を治療するところを他の聖職者に見つかれば、聖女様は教会から追放されるかも、と考えたのでしたぁ」

 

そうかよ・・・・。

 

そういうことかよ・・・・・・。

 

道理でおかしいはずだ。

現魔王の血縁者で上級悪魔であるディオドラが教会の近くで眷属も引き連れず、怪我をし、たまたま悪魔も治せるアーシアに助けられる。

考えれば考えるほど、あまりにも話しができすぎている。

 

アーシアはあのクズ野郎に・・・・・・ッ

 

強く握る俺の拳からは血が滲み出ていた。

だけど、痛みは感じない。

それよりも怒りの方がでかい・・・・・・・ッ!

 

「信じていた教会から追放され、最底辺まで堕ちたところを救い上げて犯す! 心身共に犯す! それが坊っちゃんの最高最大のお楽しみでありますぅぅうう!!」

 

「ッ!!」

 

キレた美羽が咄嗟に魔法陣を展開する。

 

・・・・・が、俺はそれを止める。

 

「どうして!?」

 

美羽が驚愕の表情を浮かべる。

 

「あんなクズ野郎のためにおまえが手を汚す必要はない。ここは―――」

 

「僕が出るよ」

 

俺の言葉を遮って前に出たのは木場。

木場は聖魔剣を一振り作り出した。

 

「イッセー君が出るまでもない。その怒りはディオドラまで取っておくんだ。だから、彼の相手は僕がしよう。・・・・・それに僕もそろそろ限界なんだ」

 

冷静な物言いだ。

 

だけど、木場の瞳ははっきりとした怒りと憎悪に満ちていた。

 

「分かった。任せるぞ、木場」

 

木場は静かに頷くと、そのまま歩んでいく。

その身に殺意を含んだ攻撃的なオーラを纏わせながら。

木場は異形の存在と化したフリードの前に立つ。

 

「やあやあやあ! てめぇはあのとき俺をぶった斬りやがった腐れナイトさんじゃあーりませんかぁぁぁぁ! イッセー君を殺る前にてめぇに仕返しするといきましょーかぁぁぁ! 色男さんよぉぉぉっ!」

 

木場は聖魔剣をかまえると冷淡な声で一言だけ言う。

 

「君はもういない方がいい」

 

「調子くれてんじゃねぇぇぇぇぞぉぉぉぉっ!」

 

全身から生物的なフォルムの刃を幾重にも生やして木場へと突っ込んでいくフリード。

 

木場とフリードが交錯する―――

 

 

バッ!

 

 

刹那、モンスターと化したフリードは無数に斬り刻まれ四散した。

すれ違い様に木場が高速の斬戟をフリードに繰り出したんだ。

 

「・・・・・んだ、それ・・・・・強すぎんだろ・・・・・」

 

辺りにフリードの肉片と血液が散らばる中、フリードの頭部が床に転がり、大きな目をひくつかせていた。

 

「・・・・・ひひひ。ま、おまえらじゃ、この計画の裏にいる奴らは倒せねぇよ・・・・・」

 

 

ズンッ!

 

 

頭部だけで笑っていたフリードに木場は容赦なく剣を突き立て、絶命させる。

 

「続きは冥府の死神相手に吼えているといい」

 

クソッ、木場のやつ決め台詞までカッコイイのかよ!

イケメンめ!

 

俺は物言わなくなったフリードの頭部を見る。

なんというか、こいつとは腐れ縁だったのかね?

 

今はこいつのことはいい。

俺達がやるべきことはアーシアを助ける。

それだけだ。

 

「行こう、皆」

 

俺達は頷きあい、ディオドラの待つ最後の神殿へと走り出した。

 

 

 

 

 

最深部の神殿。

ここにアーシアとディオドラがいる。

 

内部に入っていくと、前方に巨大な装置らしきものが姿を現す。

そして、その中心にアーシアが張り付けにされていた。

 

見た感じ、外傷は無いし服も破れている様子はない。

気の乱れも感じないから、とりあえずは無事か。

 

「やっと来たんだね」

 

装置の横から姿を現したのはディオドラ・アスタロトだった。

やさしげな笑みが俺の癇に障る。

 

「・・・・イッセーさん?」

 

アーシアが顔を上げる。

 

目元が腫れ上がり、涙の跡が見えた。

腫れ上がり方からして、かなりの量の涙を流したのだろう。

 

「・・・・ディオドラ。おまえ、アーシアに話したのか?」

 

先程、フリードから聞かされたこと。

あれは絶対にアーシアに聞かせてはならないものだ。

 

だが、ディオドラはニンマリと微笑む。

 

「うん。全部、アーシアに話したよ。ふふふ、キミたちにも見せたかったな。彼女が最高の表情になった瞬間を。全部、僕の手のひらで動いていたと知ったときのアーシアの顔は本当に最高だった。ほら、記録映像にも残したんだ。再生しようか?本当に素敵な顔なんだ。教会の女が堕ちる瞬間の表情は、何度見てもたまらない」

 

アーシアがすすり泣き始めている。

 

「・・・・・そうか」

 

ああ・・・・こいつは許せそうにねぇな。

 

俺から放たれる殺気が神殿を揺らし、内部にひびが走る。

 

「アハハハ、凄い殺気だね!これが赤龍帝!でも、僕もパワーアップしているんだ!オーフィスからもらった『蛇』でね!キミなんて瞬殺―――」

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

 

 

 

「・・・あっ、がっ・・・・」

 

 

ディオドラの顔面が地面にめり込み、巨大なクレーターを作り出す。

今、俺がこいつをフルスイングで地面に殴り付けたんだ。

 

ディオドラは何が起きたのか分からず、痛みやらで混乱しているようだった。

 

拳をバキッバキッと鳴らしながらディオドラに告げる。

 

「立てよ、クズ野郎。アーシアを泣かせたツケはきっちり払ってもらう。これで終わりと思うなよ? おまえには絶望を見せてやるよ」

 

 

かつてないほどの怒りが俺の中で燃え上がっていた。

 

 

 



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11話 ぶちのめします!!

「うぐっ、うぅぅぅぅ・・・・・」

 

顔を押さえながら後ずさりするディオドラ。

何とも情けない声を出すものだな。

 

俺が殴る直前まではあんなに意気がってたのにな。

 

こいつなんぞ、ドライグの力を借りるまでもない。

素手で十分だ

 

俺はゆっくり歩を進めてディオドラに近づく。

俺が一歩進むとディオドラは二歩くらい下がっていく。

 

「おいおい、何逃げてんだ? さっき、一瞬がどうとか言ってなかったか?」

 

「赤、龍帝・・・・・・ッ!」

 

俺の言葉に激昂したディオドラは手に魔力を溜めて魔力弾を一発撃ってくる。

大きさはそこそこってところか。

 

俺はそれを片手で受け止め―――握りつぶした。

 

「っ!?」

 

驚くディオドラ。

 

俺はそれを無視して歩みを進める。

そして、ディオドラを挑発するように言った。

 

「こいよ。その程度か?」

 

「だ、黙れぇぇぇぇぇ!!!!」

 

ディオドラは俺へと向かい乱雑に魔力弾を放つ。

俺は全ての魔力弾を気を纏った拳で相殺し、その時に生じた煙を振り払い、ディオドラの目の前まで移動する。

そして、そのままディオドラを殴り付ける!

 

再び地面に叩きつけられ、バウンドしながら転がっていくディオドラ。

 

よろよろと体を震えさせながらディオドラは立ち上がる。

 

「ぐっ・・・・・ふざけるな・・・・! 僕は上級悪魔だ! 現魔王ベルゼブブの血筋なんだぞ!」

 

はぁ・・・・

 

俺はこいつの言葉を聞いて盛大にため息をついた。

こいつ、本気で言ってんのか?

 

「上級悪魔? 現魔王の血筋? はっ! おまえがそれを語るなんて片腹痛いぜ。おまえには部長や会長、サイラオーグさんと同じ上級悪魔を名乗る資格はない! おまえがアガレスに勝てたのだって、他人の力を借りたからだろ?」

 

俺の周りの上級悪魔の人達は全員が誇り高く、自分を高めようと日々努力を重ねている。

誇り高く生きようとしている。

そんな誇り高い上級悪魔と目の前のクズが同じ?

そんなものは認めない。

 

あのライザーだって他人の力を借りるなんてマネはしなかった。

そういう点では、ライザーの方が上級悪魔らしいぜ。

 

ったく、なんでアジュカさんの親戚にあいつみたいなやつがいるんだよ? 

あいつはアジュカさんにとって汚点にしかならない。

こんなやつのせいでアジュカさんの足が引っ張られるのは許せない。

 

「っ!!」

 

ディオドラのやつが手元に魔力を溜めて、無数に放ってきた。

 

馬鹿の一つ覚えかよ。

それは俺には効かないってのは分かってないのか?

 

マシンガンのような魔力弾が俺を捉えたかのように見えたのだろう。

ディオドラは大声で笑い出す。

 

「アハハハハハ! 散々僕をバカにしてその程度か、赤龍帝! そうだろうね! 高々、転生悪魔が上級悪魔の僕に敵うはずがないんだよ!」

 

そう言いながら魔力弾を放ち続けるディオドラ。

 

 

だが―――

 

 

「どこ見て撃ってんだ?」

 

「!?」

 

あまりの衝撃にディオドラの攻撃が止まる。

 

ディオドラが後ろを振り返った。

 

「な、なんで僕の後ろに・・・・・!? じゃあ、僕の攻撃が当たったのは何だったんだ!?」

 

「おまえが無駄に攻撃してたのは俺の―――残像だ」

 

回し蹴りがディオドラの腕に命中し、そのまま骨を砕いた。

骨が砕ける感触が蹴りを通して俺に伝わる。

 

こいつが調子に乗って攻撃し続けたのは俺が錬環勁気功で作り出した気による残像。

俺はディオドラの魔力弾が当たる寸前に避けて、背後に回ったんだ。

ディオドラは俺が声をかけるまで、それに気付かずに魔力の無駄撃ちをしてたけどな。

 

「ぐああああああっ!?」

 

あまりの痛みに絶叫をあげるディオドラ。

だが、俺は容赦なくやつに言った。

 

「痛いか? 苦しいかよ? まぁ、そりゃあそうだろうな。だがな、アーシアはもっと苦しかったんだ!」

 

そう言って、俺はボディーブローをやつにくらわし、神殿の端まで吹き飛ばす!

 

飛ばされたディオドラは神殿の柱に衝突。

柱は衝撃で崩壊する。

 

「おまえに騙されて! アーシアは傷ついて! 泣いていたんだよ! アーシアを、俺の家族を傷つけるやつは例えどんなやつでもぶちのめす!」

 

俺から発せられる赤いオーラが神殿を大きく揺らす!

それのオーラは形をなし、俺の背後に巨大な赤い龍になる。

その赤い龍はディオドラを鋭い眼光で睨み付けた。

 

「ひっ!」

 

赤い龍に睨み付けられたことで、恐怖の声をあげるディオドラ。

そして、悪魔の翼を広げて神殿の外に逃げようとしやがった!

 

俺は地面を蹴って瞬時にあいつの先に回り込む!

 

「逃がすわけねぇだろ!!」

 

ディオドラの顔面をつかんでそのまま地面に叩きつける!

俺は着地して、ディオドラを叩きつけたところに歩み寄る。

 

「言ったはずだぜ? おまえには絶望を見せてやるってな」

 

「う、うわあぁぁぁぁぁああ!!! 来るなぁぁぁぁああ!!」

 

ディオドラは叫び、俺をこれ以上近づけまいと魔力障壁を展開する。

 

往生際が悪いやつだ。

アーシアを散々傷付けておいて、自分が殴られるのはそんなに嫌なのかよ?

 

こんなやつにアーシアが傷付けられたと思うと俺の怒りは更に増していく。

 

「こんな薄っぺらい障壁で俺を止められると思うな!」

 

拳を振りかぶり、障壁に叩きつける。

すると、ディオドラが展開した魔力障壁はガラスが割れるような音と共に呆気なく崩れ去った。

 

「な、なんで!? なんで、僕の魔力が効かない!? 僕はオーフィスの『蛇』で力を上げたというのに!」

 

喚くディオドラの襟首を掴んで、無理矢理立ち上がらせ―――拳を腹部に撃ち込む!

更に顔面にももう一撃!

 

「ぐわっ! がはっ! ・・・・・痛い。痛いよ! どうして!」

 

「どうせ、今まで痛みを感じたことがないんだろ? 痛みを知らないから平気で他人を傷つける。いい機会だ、勉強していけ。これが痛みってやつだ!」

 

気を纏った拳がディオドラの腹部を抉る!

 

内蔵が潰れたような音が聞こえた。

恐らく、骨も何本かは砕けてるな、これは。

 

まぁ、この程度で終わらせるつもりは全くない。

この程度で終わらせるはずがない。

 

ディオドラを宙に放り投げるのと同時にやつの全身に蹴りと拳を放っていく!

こいつにはサンドバックになってもらう!

 

コカビエルの時と同様、拳と蹴りによる弾幕。

こいつの意識が無くならないよう、的確に各部に攻撃をぶつけていく!

楽にはさせない。

こいつは徹底的に再起不能になるまでぶちのめす!

 

そして、数秒もしない内にディオドラはボロ雑巾のようになった。

辺りにはディオドラの血が大量に飛び散っている状態だ。

 

「・・・・・・うっ・・・・・・・あっ」

 

苦痛の声をあげるディオドラ。

 

『相棒、そろそろ終わらせたらどうだ? そいつの目はもう死んでいる』

 

「そうだな。そろそろ、終わりといくぜ」

 

息を深く吐き、錬環勁気功で身体中の気を爆発的に増大させる。

腰を落とし、拳を引いて狙いを定めた。

 

身体を回転させながら落下するディオドラの顔がこちらを向いた瞬間―――

 

「せぇーのぉ!」

 

強烈な一撃がディオドラの顔面を捉える!

拳が命中したディオドラは幾つもの柱を崩壊させていき、遂には神殿の奥にある壁に埋没した。

 

声も上げずに崩れ落ちるディオドラ。

やつの目は完全に光を失っていた。

 

 

「死んだのか?」

 

ゼノヴィアが俺に近づきながら尋ねてきた。

 

「いや、殺しちゃいないさ。というより殺さない。死はあいつにはぬるすぎる。あいつにはこれからも生きて、とことんまで絶望してもらう。・・・・それにあんなやつでも肩書きは上級悪魔で一応はアジュカさん、現魔王の血筋だ。殺したらサーゼクスさん達に迷惑をかけるかもしれない。最終的な判断はサーゼクスさん達に任せるさ」

 

「そうか・・・・」

 

「大丈夫だ。サーゼクスさん達は優しいけど、厳しい人だ。相応の裁きはしてくれるさ」

 

「・・・・うん。イッセーがそう言うのならそうなのだろう。私はイッセーの判断を信じるよ。・・・・・だが、もし再びアーシアに近づくようだったら―――」

 

「あぁ、その時は―――」

 

俺とゼノヴィアは視線を気絶しているディオドラに向ける。

 

「「跡形もなく消し飛ばす」」

 

俺達はそれだけ言うと、アーシアの方へと駆け寄った。

 

「アーシア!」

 

装置のあるところへ皆が集合していった。

 

「イッセーさん! 皆さん!」

 

俺はアーシアの頭を優しくなでてやる。

 

「ゴメンな、遅くなって。辛いこと聞かされたんだろう?」

 

俺が尋ねるとアーシアは首を横に振った。

 

「私は大丈夫です。イッセーさんが来てくれると信じてましたから」

 

「そっか」

 

安堵したのか、アーシアは嬉し泣きをしていた。

よし、アーシアを救出したらアザゼル先生が言っていた地下シェルターに部長達を連れていって、俺も先生達のところに加勢しよう。

天界や堕天使の戦士としてイリナやレイナも戦っているわけだし。

 

アーシアを装置から外そうと木場達が手探りに作業をし始めていた。

 

―――だが、少しして木場の顔色が変わる。

 

「・・・・手足の枷が外れない」

 

何!?

 

俺もアーシアと装置を繋ぐ枷を取ろうとするが、外れない。

 

禁手となって鎧を着込んだ状態で枷を外そうと試みるが―――

 

「クソッ! 外れねぇ!」

 

嘘だろ!?

赤龍帝のパワーでも外れないのか!

 

天武(ゼノン)』を使うか?

いや、あまり無茶をするとアーシアにまで影響を与えてしまう可能性がある。

それはマズい。

 

アーシアの四肢についている枷を外そうとこの場にいる全員で取り払おうとするが、聖魔剣、聖剣で切ろうとしても、魔力をぶつけてもビクともしない!

 

なんだ、この枷!?

特別製なのか!?

 

俺は気絶しているディオドラに近づき、往復ビンタをくらわせて無理矢理、目を覚まさせる。

 

「・・・・・うっ。ひっ! せ、赤龍帝!?」

 

「うるせぇ! 喚くな! 俺の質問に答えろ。あの枷はなんだ? どうやったら外れる?」

 

俺が尋ねるとディオドラは言葉少なく呟いた。

 

「・・・・・あの装置は機能上、一度しか使えない。が、逆に一度使わないと停止できないようになっているんだ。―――あれはアーシアの能力が発動しない限り停止しない」

 

「続きを言え」

 

俺ががそう言うと苦しそうにしながらもディオドラは答える。

 

「その装置は神器所有者が作り出した固有結界のひとつ。このフィールドを強固に包む結界もその者が作り出しているんだ。『絶霧(ディメンション・ロスト)』結界系神器の最強。所有者を中心に無限に展開する霧。そのなかに入ったすべての物体を封じることも、異次元に送ることすらできる。それが禁手に至ったとき、所有者のすきな結界装置を霧から創りだせる能力に変化した。―――『霧の中の理想郷(ディメンション・クリエイト)』、創りだした結界は一度正式に発動しないと止めることはできない」

 

木場がディオドラに問いただす。

 

「発動条件と、この結界の能力は?」

 

「・・・・・発動の条件は僕か、他の関係者の起動合図、もしくは僕が倒されたら。結界の能力は―――枷に繋いだ者、つまりはアーシアの神器能力を増幅させて反転させること」

 

―――っ!

 

つまり回復の能力を反転させる。

 

それはつまり―――。

 

木場はさらに問いだす。

 

「効果範囲は?」

 

「・・・・・このフィールドと、観戦室にいる者たちだよ」

 

その答えに全員が驚愕した。

アーシアの回復の効力は凄まじい。

それが増幅されて反転させられたら・・・・・っ!

 

「・・・・・各勢力のトップ陣がすべて根こそぎやられるかもしれない・・・・・ッ!」

 

マズいな・・・・・。

そんなことになれば、人間界も天界も冥界にも、世界中に影響が出る。

 

「ねぇ、これって外側からは外れないんだよね?」

 

美羽がディオドラに問いかける。

 

「・・・・・そうだよ」

 

美羽はその答えを聞くと今度は俺の方に視線を移す。

 

「お兄ちゃん、ボクに赤龍帝の力を譲渡してくれないかな?」

 

「? 何をするつもりだ?」

 

「この結界が外からの力で壊せないなら、内側から解除すればいいんじゃない?」

 

「・・・・・なるほど。でも、オーディンの爺さんでも解除できない結界を張ることが出来るやつが作った結界だ。そう簡単にいくか?」

 

そう、このフィールドに展開されている結界とアーシアを繋いでいる枷は同じ神滅具の所有者から作られている。

 

スケベジジイとはいえ、術に秀でている北欧の主神が解除出来ないほどの代物を作る所有者の実力は凄まじいと言える。

 

 

すると、美羽は俺に近づいてきて、俺にしか聞こえない声で言った。

 

「大丈夫。お父さんから教わっているとっておきの魔法があるから」

 

「―――!」

 

シリウスから教わったとっておき、か。

 

そんなものがあったなんてな。

 

「それってかなり強力なやつなんじゃないのか? いけるのか?」

 

俺が尋ねると美羽は頷いた。

 

「今のボクの力じゃ、まだ完璧じゃない。でもボク達(・・・)の力を合わせれば―――」

 

強い瞳で言う美羽。

 

そうだよな、美羽だってアーシアを助けたいんだ。

その気持ちは同じなんだ。

 

試してみる価値はある。

 

妹を信じるのも兄貴の役目だよな!

 

「よし! じゃあ、やってみるか!」

 

「うん!」

 

「ドライグ、おまえも力を貸してくれ!」

 

『無論だ』

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

禁手の状態で一気に倍増の力を溜めていく!

 

美羽がアーシアを縛る結界を囲む大きな魔法陣を展開する。

 

その美羽に対して俺は溜めた力を譲渡!

 

『Transfer!!』

 

美羽の力が一気にはね上がり、その体から絶大なオーラを発している!

美羽は目を閉じ、何やら呪文らしきものを呟いている。

 

他の皆も俺と同様、見守るように美羽を見つめている。

 

そして、美羽は目を開く。

 

「アーシアさん、絶対に助けて見せるからね」

 

美羽はアーシアにそう言うと、その魔法の名を口にする。

 

 

「『我、神をも見透かす者なり(ドゥルヒ・ゼーエン)』」

 

 

魔法陣が青白く輝いた。

 

 

その瞬間――――

 

 

バキンッ

 

 

枷にヒビが入ったと思うと、結界はあっという間に崩れ去り、アーシアは解放された。

 

あまりにも呆気なく結界が崩れ去ったので、皆は間の抜けた表情となっている。

 

 

「ふにゃあ・・・・・」

 

「おっと」

 

魔法を使って消耗したせいか、美羽が倒れそうになるのを俺は受け止める。

 

今の魔法の名前を聞いたことがある。

 

さっき美羽が使ったのは俺が行った異世界で最高峰の魔法の一つ。

全ての物質、能力の構造・性質を解析し、内側から崩す魔法。

恐ろしいのはその対象範囲。

一般的なものから、神が作るものさえ解析し、崩壊させると聞いている。

ただし、消耗が大きくここぞという時にしか使えないのが欠点であり、他にも色々と制約があるらしいが・・・・・。

 

シリウスのやつこんな魔法を使えていたのか。

もし、シリウスが俺との戦いで使っていたら負けてたかもな。

あの時、なんで使ってこなかった・・・・・?

 

まぁ、考えるのは今度でいいか。

 

「よくやった美羽。お疲れさま。つーか、あんな魔法覚えてたのかよ。初めて見たぞ」

 

「あははは、まぁね・・・・。ボクは大丈夫だから、アーシアさんの所に行ってあげて」

 

「そうだな・・・・・。小猫ちゃん、美羽のこと任せていいか?」

 

「・・・・はい。美羽先輩、大丈夫ですか? 仙術で楽にするのでそのままでいてください」

 

「ありがと~」

 

俺は近くにいた小猫ちゃんに美羽を任せてアーシアの元に行った。

 

「イッセーさん!」

 

「アーシア!」

 

枷から解放されたアーシアが俺に抱きついてくる!

 

うんうん、アーシアが戻ってきてくれて良かったよ!

 

「信じてました、イッセーさんが助けに来てくれるって信じてました」

 

ゼノヴィアが目元を潤ませていた。

 

「アーシア! 良かった! 私はおまえがいなくなってしまったら・・・・・」

 

アーシアはゼノヴィアの涙を拭いながら微笑む。

 

「どこにも行きません。私とゼノヴィアさんはいつも一緒です」

 

「うん! そうだな! 私達はずっと一緒だ!」

 

抱き合う親友同士。

アーシアとゼノヴィアの友情は美しいなぁ。

 

俺は木場と―――――絶対に! 断固として断る!

 

「美羽さん、皆さん、ありがとうございました。私のためにこんな・・・・」

 

「気にしないでよ。ボク達とアーシアさんは家族なんだから」 

 

アーシアが一礼すると美羽や皆も笑顔でそれに応える。

 

すると、部長がアーシアを抱きしめる。

 

「部長さん?」

 

「アーシア。そろそろ私のことを部長と呼ぶのは止めてもいいのよ? 私はあなたを妹のように思っているのだから」

 

「―――っ。はい! リアスお姉さま!」

 

部長とアーシアが抱き合っている。

感動のシーンだな!

 

「よかったですぅぅぅぅっ! アーシア先輩が帰ってきてくれて嬉しいよぉぉぉぉ!」

 

「ギャー君、よしよし」

 

ギャスパーもわんわん泣いてやがる。

つーか、小猫ちゃんに頭撫でられてるし。

 

あー、とりあえずは一段落か。

 

「さて、アーシア。行こうか」

 

「はい! と、その前にお祈りを」

 

アーシアは天になにかを祈っている様子だった。

 

「何を祈ったんだ?」

 

尋ねるとアーシアは恥ずかしそうに言った。

 

「内緒です」

 

笑顔で俺のもとへ走り寄るアーシア。

 

 

 

――――っ!!!

 

 

 

突然現れる無数の気配!

 

上を見上げると、一人の男が掌をアーシアに向けていた!

 

 

ちっ! このタイミングで新手かよ!

 

 

「アーシア!」

 

「キャッ」

 

俺は咄嗟にアーシアを庇うように抱きつく。

 

 

「美羽! 皆を頼む!」

 

 

それだけ言い残すと、俺達は光に包まれた。

 

 

 



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12話 新たなる力

[木場 side]

 

僕達は一瞬、何が起こったのか分からなかった。

いや、今でもよく分からない。

 

ディオドラ・アスタロトをイッセー君が打倒し、神滅具の装置を美羽さんが破壊したことで、アーシアさんの救出が無事に終わり、この場から退避するはずだった。

 

だけど、その瞬間のイッセー君がものすごい勢いでアーシアさんを庇ったと思うと二人はまばゆい光の中に消えていった。

 

イッセー君は美羽さんに「皆を頼む」と言っていたけど正直、何のことなのか理解できていない。

 

「神滅具で作った結界が人間ごときに壊されるとはな・・・・・。霧使いめ、手を抜いたな。計画の再構築が必要だ」

 

聞き覚えのない声。

 

僕達の前に現れたのは数百を超える旧魔王派の悪魔。

ほとんどが上級悪魔と見られるが、中には最上級悪魔クラスの者も数人いた。

 

そしてその先頭に浮かぶ二人の悪魔。

二人とも軽鎧(ライト・アーマー)を身につけ、マントも羽織っていた。

 

・・・・・なんだ、この体の芯から冷え込むようなオーラの質は・・・・・。

 

部長が口を開く。

 

「・・・・・誰?」

 

「お初にお目にかかる、忌々しき偽りの魔王の妹よ。私は偉大なる真の魔王ベルゼブブの血を引く、正当なる後継者、シャルバ・ベルゼブブ」

 

「同じく、真の魔王アスモデウスの正当なる後継者、クルゼレイ・アスモデウスだ」

 

―――旧ベルゼブブと旧アスモデウス!

アザゼル先生が通信で言っていた今回の首謀者がご登場とは・・・・。

 

ディオドラ・アスタロトがボロボロの体で旧ベルゼブブ―――シャルバに懇願する顔となった。

 

「シ、シャルバ・・・・助けておくれ・・・・キミと一緒なら、こいつらを殺せる・・・旧魔王と現魔王が力を合わせれば―――」

 

ピッ!

 

シャルバが手から放射した一撃がディオドラの胸を容赦なく貫いた。

 

「愚か者め。あの娘の神器の力まで教えてやったのに、モノにできずじまい。しかも、赤龍帝とはいえ神器を使っていない者に敗れるなど・・・・・たかが知れているというもの」

 

嘲笑い、吐き捨てるようにシャルバは言う。

 

ディオドラは床に突っ伏すことなく、チリと化して消えていった。

 

あれはーーー光の力?

 

天使や堕天使に近い能力か?

 

僕の視界にシャルバの腕に取り付けられた見慣れない機械が映る。

もしや、あれが光を生み出す源か?

 

『禍の団』は三大勢力の不穏分子が集まっていると聞く。

光を扱う天使や堕天使の協力者から何か提供があったと見るべきか・・・・・。

 

「さて、サーゼクスの妹君。突然で悪いが、貴公には死んでもらう。理由は言わずとも分かるであろう?」

 

旧アスモデウス、クルゼレイが言う。

冷淡な声だ。

瞳も憎悪に染まってる。

 

よほど現魔王に恨みがあるのだろう。

主張と家柄、魔王の座を取り上げられたことを深く恨んでいるようだ。

 

「グラシャラボラス、アスタロトに続き、私を殺すと言うのね」

 

部長の問いにシャルバは目を細める。

 

「その通り。不愉快極まりないのだよ。我ら真の血統が、貴公ら現魔王の血族に『旧』などと言われるのは耐えがたいことなのだよ。故に我らは現魔王の血族を滅ぼすことにしたのだ。―――サーゼクスの妹よ、死んでくれたまえ」

 

「くっ! イッセーとアーシアをどうしたというの!?」

 

部長は最大までに紅いオーラを全身から迸らせ、シャルバに問い詰める。

 

その問いにシャルバは嘆息した。

 

「ああ、あの赤い汚物と堕ちた聖女か。あの者達は私が次元の彼方に送った。いかに赤龍帝と言えども『次元の狭間』に居続ければ、『無』に当てられて消滅するだろう。当然、あの娘も同様。―――死んだ、ということだ」

 

クルゼレイがシャルバに続く。

 

「こちらは赤龍帝を警戒してこうして手勢を引き連れて来たのだが・・・・・その必要は無かったようだ。まぁ、我らにとっては嬉しい誤算だった。・・・・・ふん、それにしても愚かな男だ。あの娘を庇おうとしなければ、もう少し長く生きられたものを・・・・・。所詮は低俗な転生悪魔か」

 

 

ギリッ

 

 

僕は怒りでどうかなりそうだった。

僕の親友を、イッセー君を馬鹿にするこいつらに対して強烈な殺意が胸の奥から涌き出るようだった。

 

他の皆も同様だ。

 

涙を流しながらも、シャルバとクルゼレイに鋭い視線を送っている。

 

当然だ。

 

大切な仲間であるアーシアさん、そしてイッセー君を殺されたのだから・・・・・・っ!

 

「許さない・・・・・ッ! 許さない・・・・・ッ! 斬り殺してやる・・・・・ッ!!」

 

ゼノヴィアが涙を流しながらデュランダルとアスカロンを強く握りしめ、シャルバ達に斬りかかろうとする!

 

 

―――しかし、それは美羽さんによって止められた。

 

 

「落ち着いて、ゼノヴィアさん。今、突っ込んでも相手の思う壺だよ」

 

「・・・・っ! しかし、アーシアとイッセーはあいつに殺されたんだぞ! おまえはそれを許せるのか!?」

 

ゼノヴィアは激昂し、美羽さんに掴みかかる。

 

ゼノヴィアの気持ちは理解できる。

親友と愛する者を同時に奪われたんだからね。

僕だってそうだ。

 

でも、なんで彼女はこうも冷静にいられるんだ?

彼女は普段からイッセー君を慕っていて、彼への想いは他のメンバーよりも強い。

 

それなのにどうして、こうも冷静でいられるんだ?

 

僕が疑問に思うなか、美羽さんはゼノヴィアの手に自分の手を添えて言った。

 

「本当にお兄ちゃん達が死んだと思ってる?」

 

 

――――っ

 

その言葉に僕の思考は一瞬止まった。

 

「お兄ちゃん―――イッセーがこのくらいで死ぬって本当に思ってるの、皆?」

 

彼女は続ける。

 

「あの人はこの程度じゃ死なない。ボク達を置いて死ぬような人じゃない。・・・・アーシアさんだってそう。イッセーがいるなら大丈夫」

 

美羽さんはゼノヴィアの手を放し、シャルバ達の方へと視線を向ける。

 

そして、一歩だけ前に出た。

 

「イッセーは必ず戻ってくる。だから、それまではボクが皆を守るよ」

 

そう言う彼女の体からは凄まじいオーラが発せられる!

これが美羽さんの実力なのか・・・・!?

上級悪魔を軽く越えている!

 

先程の魔法で随分と消耗したように見えたけど、何処からこんな力が出てくるんだ!?

 

「・・・・そうね、イッセーがこれくらいで死ぬはずがないわ。それにアーシアだって彼が着いているのなら・・・・・。ありがとう、美羽。おかげで冷静さを取り戻せたわ」

 

部長が笑みを浮かべながら言う。

 

そうだ。

 

イッセー君が死ぬはずがない。

確証はない。

だけど、不思議とそう思えるんだ。

 

他の皆もそれが分かったのか、先程とは表情が違う。

 

美羽さんはそれを見て微笑む。

 

部長が美羽さんの隣に立つ。

 

「さぁ、皆! イッセー達は絶対に帰ってくる! 私達の元に! だから、生き残るわよ!」

 

『はい! 部長!』

 

僕は涙を拭って、目の前にいる強大な敵に剣を向けた。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

俺とアーシアが光に包まれた後、目を開けるとわけの分からん場所にいた。

 

周囲は様々な色が混ざり合ったようなハチャメチャな景色。

万華鏡を覗いているかのようだ。

 

ここは何処だ・・・・・?

 

『ここは『次元の狭間』だ』

 

次元の狭間?

 

あー、そう言えばグレモリー所有の列車に乗った時に通ってたな。

 

 

・・・・・以前にも見たことがあるような・・・・・

そう、悪魔に転生するずっと前に・・・・・・

 

うーん、思い出せん。

 

まぁ、今の問題は俺に抱えられてる気絶したアーシアと向こうにいる部長達の方が心配だ。

 

『鎧を纏っておけ。いくら相棒といえども素の状態では次元の狭間の『無』にあてられて消滅するぞ』

 

おいおい、マジかよ!

 

それ、早く言ってくれない!?

 

つーか、それだとアーシアもヤバいじゃねぇか!

 

『アーシア・アルジェントには相棒のオーラを纏わせておけ。それならば、暫くの間はもつだろう』

 

そうか!

 

了解だ、ドライグ!

 

俺はドライグの指示通りに鎧を纏う。

そして、気絶しているアーシアと俺の気を同調させて、俺のオーラを纏わせておく。

アーシアの体の表面を分厚く赤いオーラが包んでいる状態だ。

 

とりあえずはこれでよし。

 

さてさて、早く戻らないと向こうが危ない。

結構な数がいたはずだ。

ほとんどが上級悪魔クラス。

中には魔王クラスらしきやつが二人いたな。

 

『あとは最上級悪魔クラスが五人だな』

 

それだけの数を相手に部長達が生き残るのは正直、かなりキツいぞ。

美羽だって消耗してるんだからな。

 

ドライグ、どうすれば戻れる?

 

『そうだな・・・・・。大抵は特殊な術式や装置を使って次元の狭間を行き来することが出来るんだが・・・・・。後は強大な力をぶつける、とかだな』

 

なるほど・・・・。

 

強大な力、か。

 

ここにはアーシアもいるから出来るだけ一点に力を集めた方が良さそうだな。

 

ただ、問題は戻った後だ。

 

百を越える敵がいて、その中には魔王クラスが二人もいやがる。

どうせ、オーフィスってやつの『蛇』を貰ったんだろうが、厄介だ。

あまりに数が多すぎる。

 

天武(ゼノン)を使ったとしても分が悪すぎるな・・・・。

天武(ゼノン)はパワーは絶大だけど、基本的に一対一の決戦仕様だ。

大勢の敵を相手にするのには向いていない。

 

『となると、アレの出番か。まさか、試運転もせずにいきなりの実戦投入とはな』

 

そうなるな。

まぁ、俺らしいといえば、そうなるかな?

 

でも、今回使うのはそれだけじゃない。

 

『ほう・・・・。だが、アレは・・・・。相当の無茶になるぞ、分かっているのか?』

 

そりゃあな。

下手すれば腕一本持ってかれるかもな。

 

その辺りは事が済んでから考えればいいんじゃないか?

今はそんなことよりも大切なことがある。

 

『そうか。ならば、俺も少しでも相棒の負担が減らせるよう、努力しようじゃないか』

 

頼むぜ、ドライグ。

・・・・・悪いな、いつも世話になりっぱなしで。

 

『何を言う。俺と相棒の仲だろう。存分に頼ってくれ』

 

ハハッ、やっぱりおまえは最高の相棒だよ!

 

 

さーて、それじゃあ、お喋りはここまで。

行こうか、ドライグ!

 

『応ッ! 旧魔王派とやらに見せつけてやれ。自分達が誰を敵に回したのかをな』

 

分かってるさ!

 

 

俺は手を前に突き出す。

すると、手元に赤い粒子が集まって一つの形をなす。

 

「仲間が危ないんだ。今回は付き合ってもらうぜ『イグニス』」

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

旧魔王派の悪魔達との戦闘が始まり、数分。

僕達は逃げながらも、襲いかかってくる敵を撃退していった。

今のところは全員無事だ。

 

だけど、それも危うくなっている。

 

何せ相手の数が多すぎる。

それに力量も向こうの方が上ときている。

 

正直、今生きていられるのは美羽さんの力のお陰だと言っても過言ではない。

 

彼女が放つ多彩な魔法による攻撃は旧魔王派の悪魔達を撹乱し、僕達がそこを突いて撃破している。

こちらには僕の聖魔剣やゼノヴィアが持つ聖剣、そして朱乃さんの雷光。

悪魔にとって猛毒となる武器を所持しており、それが相手の悪魔を苦しめている。

 

しかし、美羽さんの疲労具合も酷く、肩で息をしている状態だ。

 

僕達も相当疲労している。

 

もう、いつ誰がやられてもおかしくない状況だった。

 

「死ね! 忌々しいグレモリー!」

 

敵の悪魔が手に持った槍で部長に襲いかかる!

 

「させませんわ!」

 

朱乃さんが放つ雷光が敵の悪魔に命中し、消滅させる。

 

「デュランダル!」

 

ゼノヴィアがデュランダルの聖なるオーラによる嶄戟を放ち、複数の悪魔を屠る。

 

流石に二人の攻撃は強力だ。

格上の相手であっても、光の力と聖なる力が効いている。

 

 

すると、そこへシャルバとクルゼレイが姿を現した!

 

「ほう、これだけの数を相手にここまでやるか。惜しいものだな。現魔王の血族になど産まれなければ将来、良い悪魔になったものを・・・・。非常に残念だ」

 

「卑劣なやり方しか出来ないあなた達が何を言うの!」

 

部長が巨大な滅びの魔力を放ち、朱乃さんやゼノヴィアもそれに続く!

 

だが、それはクルゼレイによって全て弾かれてしまう。

クルゼレイはそのまま部長に近づき、手元に魔力集める。

 

マズい!

 

全員がそう思い、それを阻止しようと動き出すが、他の悪魔に妨害されてしまう!

 

このままじゃ!

 

僕は必死で剣を振るう!

このままでは部長が殺されてしまう!

それだけは絶対に防がなければならないんだ!

 

抗う部長だが、クルゼレイには一切攻撃が通じず、追い詰められてしまう!

 

 

「さぁ、これで終わりだ、リアス・グレモリー」

 

 

クルゼレイが巨大な魔力を部長に放つ――――

 

 

 

「ぐおおおおおっ!?」

 

 

 

しかし、それが部長を襲うことはなく、そこにいたのは片腕を失い、苦悶の声をあげるクルゼレイの姿。

 

なんだ!?

 

どういうことだ!?

 

 

僕だけじゃない、旧魔王派の悪魔達も突然のことに動きを止めていた。

 

 

そして、その答えはすぐに分かることになる。

 

 

部長の前に舞い降りた赤い龍を模した全身鎧(プレート・アーマー)

それは現れると同時に翼をバッと大きく広げた。

その鎧の形状は僕が知っている物とのどれとも違うものだった。

 

だけど、間違いない。

 

あれは――――

 

 

「部長、皆、遅くなってゴメン。無事か?」

 

 

左手にアーシアさんを抱え、右手に見たことがない大剣を持ったイッセー君だった。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 



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13話 俺、暴れます!!

[アザゼル side]

 

 

『禍の団』旧魔王派の討伐が始まってから結構な時間が経った。

 

俺の持ち場にも最初はかなりの数の悪魔がいたが、それももうすぐ片付けられるところまできている。

 

「こちらアザゼル。イリナ、レイナーレ、そっちの状況は?」

 

俺は他の場所でまだ戦闘を続けていると思われる二人に通信を入れる。

 

『こちらイリナです。私の方はほとんど討伐できました。今は他の御使い(ブレイブ・セイント)の人達と残党との戦闘を行ってます』

 

『こっちも似たような感じです。シェムハザ様と行動を共にしていますが、もうすぐ終わりそうな感じです。総督の方はどんな状況ですか?』

 

「俺のところもほぼほぼ終わりって感じだな。俺はこのまま作戦を続ける。二人とも掃討を続けてくれ。だが、くれぐれも気を抜くなよ? 向こうは俺達を滅ぼすつもりで来てるんだからな。最後にどんなことを仕掛けてくるか分からない。いいな?」

 

『『了解!』』

 

俺はそこで通信を切った。

 

ミカエル達からも似たような報告を受けている。

 

このままいけば、旧魔王派の悪魔共はだいたい片がつくな。

 

 

・・・・・だが、妙だな。

一向に敵の首謀者が姿を現す気配がない。

 

今回の首謀者、旧ベルゼブブと旧アスモデウスの末裔。

シャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウス。

 

奴等のことだから、てっきり現魔王かミカエル、もしくは俺のところにでも姿を現すと思ったんだがな・・・・・。

部下からもそれらしい姿を見たという報告は一切ない。

 

考えられるとすれば・・・・・・・リアスのところ、か。

 

これまで旧魔王派の連中は現魔王本人ではなく、その関係者を狙うという行動を取っている。

それを考えるとリアス達のところに姿を現していてもおかしくはない。

 

だが、これだけ大掛かりな侵攻をしておいて、狙いがリアスってのは解せないな。

何か作戦があるのか、それともその作戦が失敗したのか。

 

もし本当にリアス達のところにいるなら、それはマズいな。

あちらにはイッセーだけじゃなく、オーディンのジジイもいる。

大丈夫だとは思いたいが・・・・・・。

 

どちらにしろ、早くここを片付けて、援軍に行ってやる方が良さそうだ。

 

 

その時、ファーブニルを宿した宝玉が何かに反応したように淡く輝いた。

それと同時にフィールドの一番隅っこに人影を一つ確認する。

 

俺は宙を飛んでそこへ向い、その人影の前に降り立つ。

 

腰まである黒髪の小柄な少女。

黒いワンピースを身に付け、細い四肢を覗かせている。

 

少女は端正な顔つきだが、視線をフィールド中央に並ぶいくつもの神殿の方へと向けていた。

 

「まさか、おまえ自身が出張ってくるとはな」

 

少女はこちらに顔を向けると薄く笑う。

 

「アザゼル。久しい」

 

「以前は老人の姿だったか? 今度は美少女さまの姿とは恐れ入る。何を考えている――――オーフィス」

 

そう、こいつは『禍の団』のトップ、『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス。

 

姿こそ違うが、こいつから漂う不気味で言い様のないオーラはオーフィスのものだ。

 

以前はジジイの姿だったが、今回は黒髪少女かよ。

まぁ、こいつにとって姿なんてのは飾りみたいなもんだけどな。

いくらでも変えることができる。

 

問題なのはそこじゃない。

こいつ自身がこうして出張ってきていることだ。

それほど重要な作戦なのか?

 

神殿の方に視線を向けているということは、そっちに作戦の中心があるのかもしれない。

そうなると、あいつらが危険だ。

 

「見学。ただ、それだけ」

 

「高みの見物のつもりか? ・・・・・ここでおまえを倒せば世界は平和になる、か?」

 

俺は苦笑しながら光の槍の矛先を突きつけるが、奴はただ笑みを浮かべるだけ。

 

「無理。アザゼルでは我は倒せない」

 

だろうな。

俺だけじゃおまえを倒すことは不可能だ。

いや、今回の作戦に参加した各勢力の幹部クラスが集まっても倒すことは出来ないだろうさ。

こいつはそれだけの存在なんだ。

だが、ここでこいつを倒せば、『禍の団』に深刻な大打撃を与えるのは確実なんだよな。

 

そんなことを考えていると、俺の隣に転移用魔法陣が展開された。

現れたのは紅髪の魔王サーゼクス。

 

「サーゼクス、どうして出てきた?」

 

俺が尋ねるとサーゼクスはオーフィスの方に視線を向けたまま言う。

 

「ここに彼・・・・・いや、今は彼女か。オーフィスの気配を感じた。一度、彼女とは話がしたいと思っていた。あれほど、世界に興味を示さなかったあなたがなぜ今頃テロリストの親玉などをすることにしたのだ?」

 

「暇潰し、なんて冗談は止めてくれよ? おまえの行為はすでに世界各地で被害を出しているんだからな」

 

俺もサーゼクスに続き、オーフィスに問う。

 

こいつがトップに立ち、その力を様々な危険分子に貸し与えた結果、各勢力に被害をもたらしている。

死傷者も日に日に増えており、俺の部下も何人か死んでいる。

もう無視できないレベルだ。

 

何がこいつをそうさせたのか、俺には分からなかった。

いままで、世界の動きを静観していた最強の存在が何故今になって動き出したのか。

 

返ってきた答えは予想外のものだった。

 

「―――静寂な世界」

 

・・・・・・・

 

「は?」

 

一瞬、何を言ったのか分からず、聞き返してしまう。

 

すると、オーフィスは紫色の空を見上げながら言った。

 

「故郷である次元の狭間に帰り、静寂を得たい。ただそれだけ」

 

――――――!

 

おいおい、マジかよ。

 

普通ならホームシックかよと笑ってやるところだが、次元の狭間ときたか。

 

あそこには確か――――――

 

「我はグレートレッドを倒し、次元の狭間に戻りたい」

 

確かに今、次元の狭間を支配しているのは奴だ。

まさか、それを条件に旧魔王派共や他の勢力の異端児に懐柔されたのか?

 

なるほど。

ヴァーリ、おまえの目的が分かったぜ。

おまえは―――

 

 

俺の思考がそこに至った時、とある変化に気付く。

 

 

・・・・暑い。

 

あまりの暑さに汗が噴き出してやがる。

見れば、隣にいるサーゼクスも同様だった。

 

近くで戦闘を行っている部下たちや旧魔王派の連中も変化に気付いたのか、戸惑っている様子だった。

 

このフィールド全体の気温が上がっているのか・・・・?

 

一体何が起こっている?

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

 

 

パリィィィィィン

 

紫色の空にガラスが割れるような音が響く。

空には大きな裂け目ができていて、そこからは次元の狭間の万華鏡を覗いたような光景が見えた。

 

「部長、皆、遅くなってゴメン。無事か?」

 

突然の俺の登場にこの場にいる全員が驚き、動きを止めて俺の方に視線を送っていた。

 

「イッセー・・・なの?」

 

部長が戸惑いが混じった声で尋ねてきた。

 

「ええ、そうですよ。部長、ケガはありませんか?」

 

俺がそう答えると部長はどこか安堵したかのような表情になり、その場にペタンと尻餅をついた。

 

「本当にイッセーなのね? よかった・・・・。本当によかった・・・・。アーシアも無事なのね?」

 

「はい。気絶してますがケガ一つしてませんよ。・・・・・部長、アーシアを頼みます」

 

左手で抱えていたアーシアをそっと部長の前に寝かせる。

そして、俺達を取り囲んでいる旧魔王派の悪魔に向かって全力の殺気を放った。

 

それに呼応するかのように大気が揺れ、地面に地割れが生じる。

 

「てめぇら、よくもやってくれたな・・・・・」

 

その言葉に反応したのは俺がさっき腕を斬り落とした男。

出血する腕を抑えながら声を荒げる。

 

「なぜだ!? なぜ貴様がここにいる!? きさまはシャルバが次元の狭間に送ったはずだ! どうやって出てきたというのだ!?」

 

俺とアーシアをあそこに送った奴はシャルバっていうのか。

後ろでこっちを見ているあいつだな・・・・。

 

あの時、俺が一瞬でも遅ければアーシアはあいつに・・・・

 

俺は目の前の男を睨みつけながらその質問に答える。

 

「別に・・・。ただ、空間を無理やり斬り裂いて出てきただけだ。それ以外は何にもしちゃいないさ」

 

「なっ!?」

 

驚愕の声をあげる男。

 

そんなに驚くことかよ?

 

『それは仕方があるまい。空間を斬り裂くなんてことは特殊な能力でもなければ普通は出来ない。その剣の力は俺から見ても異常だ』

 

ドライグにそう言われ、俺は右手に握る剣に視線を移す。

 

ゼノヴィアが今手にしているデュランダルやアスカロンのような装飾はないが、鍔が白毛で覆われているのと、巨大な片刃の刀身が特徴的だ。

 

 

――――――『真焱の大剣』イグニス

 

 

俺がいた異世界において、神をも殺すと言われる炎を司る剣。

そして、美羽を託された時にシリウスから譲り受けたものでもある。

 

その力の強大さにシリウスですら使いこなせなかった代物だ。

もちろん、俺も。

 

力の制御が出来ないため、周囲にまで影響を与えてしまう。

現にイグニスを出していることで、フィールドの気温がどんどん上昇している。

下手をすると味方まで傷つけてしまう可能性がある非常に危険なものだ。

そして、こいつは自分が認めた者以外の言うことはあまり聞いてくれないらしい。

赤龍帝の鎧を纏っていても右手が焼けそうなくらいに熱い。

 

これはさっさと終わらせないと本当に右腕がイカレてしまうかもな・・・・

デュランダルもゼノヴィアの言うことを聞かない暴君だと聞いていたけど、こいつの方がタチが悪いぜ。

 

「美羽。疲れているところ悪いけど、皆を一か所に集めて空間遮断型の結界を張ってくれ。ここから先は俺も力の加減ができない」

 

俺がそう頼むと美羽は静かに頷く。

 

しかし、今の言葉に他の木場が反対する。

 

「いくらなんでも無茶だ、イッセー君! これだけの数を一人で相手にするつもりなのかい!?」

 

「そうですわ! あなただけにそんなことをさせるわけにはいかないわ! 私達も戦います」

 

朱乃さんまでもが声を荒げて反対してくる。

 

まぁ、確かに今からしようとしていることは無茶だ。

この場を切り抜けても、その後でなんらかの後遺症が俺を襲うことだってありうる。

 

だけど――――

 

俺が二人にそれを伝えようとするまえに美羽が二人を止める。

 

「・・・・皆、お兄ちゃんの言葉に従って。ここから先はボク達は足手まといにしかならない。・・・・だから、お願い」

 

「「・・・・・っ!」」

 

美羽の懇願に二人は戸惑う。

 

そう、皆には悪いけど実際には美羽の言う通りだ。

皆が万全の状態ならともかく、今はかなり消耗しているし、傷を負っているメンバーもいる。

しかも、今は気絶したアーシアを守りながら戦わなければならない状況。

そんな状態では目の前の百を越える相手に生き残ることはとてもじゃないが無理だ。

 

更に言うならば、イグニスによる影響が皆に及ぶことを恐れての判断だ。

 

美羽も本当は反対なんだろうけど、それを理解してか苦渋の決断といった表情をしている。

 

「・・・・分かったわ。イッセーの言う通りにしましょう・・・・」

 

部長は頷くが、美羽同様の表情だ。

自分も戦えないことが悔しいんだろうな・・・・。

 

でも、ここは堪えてください、部長。

 

美羽が皆を囲むくらいの魔法陣を展開してドーム状の結界を展開する。

 

空間遮断型の結界だから、イグニスによる被害を受けることは避けられるはず。

 

「美羽、もう少しだけ皆を頼むな」

 

「・・・・うん。だから・・・・絶対に生きて帰ってきて」

 

「分かってるさ」

 

一言だけ返し、周囲を見渡す。

 

それにしても、なんつー数を集めてきやがったんだよ。

部長を狙うにしてもこんなに数を連れてくる必要あったのか?

 

『いや、おそらくは相棒を警戒してのことだろう。まぁ、数に頼らなければ何もできない情けない奴らということには変わりがないがな』

 

その意見には同意するぜ、ドライグ。

 

 

「貴様一人で我らを相手にするというのか? ずいぶん舐められたものだ」

 

シャルバが俺に言ってくる。

それに合わせて、旧魔王派の悪魔から放たれる俺への殺気が強くなった。

 

「ああ。おまえらごときなら俺だけで十分だってことさ! いくぜ、ドライグ!」

 

『応!』

 

鎧から莫大なオーラが発せられる!

 

そして、翼に格納されているキャノン砲が二門、腰に折りたたまれているキャノン砲が二門、籠手の外側に折りたたまれていた砲門が二門。

合計六門もの砲門が一斉展開される!

 

これが俺の新しい力。

 

禁手(バランス・ブレイカー)第二階層(ツヴァイセ・ファーゼ)・砲撃特化―――――『天撃(エクリプス)

 

天武(ゼノン)の格闘の力を砲撃の力に振った殲滅戦用の形態だ!

 

『Accel Booster!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

 

ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

 

 

倍増によって瞬間的に高められた俺の気と魔力が混ざり合い、鳴動する!

 

それぞれの砲門の照準を定め、一斉斉射する!!!

 

「消し飛べぇぇぇぇぇ!! ドラゴン・フルブラスタァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

『Highmat FuLL Blast!!!!』

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドオォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!

 

 

六つの砲門から放たれたれる砲撃!

連続して放たれるそれは次々と目の前の敵を捉えていく!

今ので半分以上の敵が消し飛んだ!

 

今の攻撃に驚愕の表情を浮かべる旧魔王派の悪魔達。

 

だが、まだだぜ。

こんなもんじゃ終わらねぇ!!

 

俺はドラゴンの翼を広げて敵に突っ込んでいく。

 

『この形態での戦闘は初めてだ。細かい制御は俺が担当する。相棒は存分に暴れろ!』

 

サンキュー、ドライグ!!

 

俺は狙いを定めて次々と砲撃を放っていく!

それによってあっという間に消し飛んでいく敵!

一撃を放つたびに巻き起こる破壊の嵐!

 

「なっ! これは!?」

 

驚愕の声をあげるシャルバ。

 

そりゃ、驚くだろうな。

なにせ、既に連れてきた悪魔のほとんどがいなくなったんだからな!

 

「くっ! この汚れたドラゴンめがぁぁぁ!」

 

さっき俺が腕を斬り落とした男が叫びながら俺に巨大な魔力の塊を放ってくる。

まともに受けたらダメージは免れない。

 

だけど、それがどうした。

 

「そんなもんで俺が止まるかよ!」

 

真正面から迎え撃つ!!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

『Transfer!!』

 

倍増した力をイグニスに譲渡!

イグニスの刀身が元の鋼色から紅く変色し灼熱化する!

俺はイグニスの刀身にオーラを集めて、それを豪快に振るった!

 

放たれた灼熱の斬撃が男の魔力とが空中で衝突する。

 

衝突によって激しい光が生じた。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!! 消え去れ、赤龍帝!!!」

 

男から放たれる魔力が増大する。

 

流石に魔王クラスの攻撃は簡単に押し返せないか!

 

「やられてたまるかよ! 俺は生きて! 皆を守り抜く! おまえらなんかにやられるわけにはいかねぇんだよ!」

 

 

ドクンッ

 

 

突然イグニスが脈打った。

一瞬、何が起こったのか分からなかったけど、次の瞬間、俺が放った斬撃の力が急激に増した。

 

力を貸してくれるのか・・・?

 

よく分からないけど、とりあえず礼を言うぜイグニス!

もう少しだけ俺に付き合ってくれ!

 

急激に力を増大させた斬撃はあっという間に男の魔力を呑み込んだ。

そして、その斬撃はそのまま男へと迫る。

男は咄嗟に魔力障壁を展開して、防ごうとするが―――――

 

「こんな・・・! こんな力が・・・・! 私は真の魔王アスモデウスの後継者なのだぞ! その私がこんなところで・・・・! クソッ! クソォォォォォォォォォォォ!!!!!」

 

男の魔力障壁は灼熱の斬撃によって燃やし尽くされ、崩れ去った。

 

辺り一面に炎が広がり、周囲を赤く照らす。

今の一撃をまともに受けた男は炭となり、生じた爆風によって塵と化した。

 

「クルゼレイがやられただと!? バカな! 奴も私のようにオーフィスの『蛇』によって前魔王クラスにまで力が引き上げられているのだぞ!」

 

シャルバの発言を聞いて、俺は無性に怒りが込み上げてきた。

 

「やっぱりそうかよ。おまえら旧魔王派のやつらはどいつもこいつも他人の力に頼ってるだけじゃねぇか。あげくの果てには正面から決闘を挑むこともしない。汚い手を使って弱い者から手にかけていく。・・・ふざけんじゃねぇ! そんなやつが魔王を名乗るんじゃねぇよ!!!」

 

シリウス、サーゼクスさん、アジュカさん、セラフォルーさん、俺が出会ってきた魔王はそんな卑怯なことは絶対にしない!

 

こいつみたいなやつが魔王を名乗ることは俺が許さない!

 

「黙れ、赤龍帝!!!」

 

激昂したシャルバが次々に魔力を放ってくる。

それに続いて、生き残っている部下も俺に突っ込んできやがった。

 

遠くから魔力を放ってくるやつには砲撃を、接近してきて槍や剣を振るってくるやつにはイグニスによる斬撃で凪ぎ払う。

 

 

「ぐあああああああ!!!」

 

「お、おのれええええええ!!!」

 

 

俺の攻撃を受けた奴らは絶叫を挙げながら、その一撃で沈んでいく。

 

そして、ついに残るのはシャルバただ一人だけとなった。

 

「これで終わりだ。まだ続けるかよ?」

 

「ふざけるな! 私は真の魔王ベルゼブブの後継者だぞ! 貴様などに敗れる私ではない!」

 

無駄にプライドだけは高い奴だな。

 

右腕から焼けるような音が聞こえてきた。

激痛が俺を襲う。

 

『急がなければ、もうすぐこの形態が解けるぞ。いや、通常の禁手さえ保てなくなる。その剣の同時使用によってかなりの消耗をしてしまったからな』

 

そうか・・・・。

流石にそれはヤバいな・・・・。

右腕も本格的に危なくなってきたしな。

 

シャルバが俺の異変に気付いたのか、嫌な笑みを浮かべる。

 

「ふはははは! どうやら限界が近いらしいな! あれほどの力を使ったのだ、そうなるのは当然だ! ここが貴様の墓場となる! くたばれ、赤龍帝!」

 

シャルバから絶大な魔力の波動が放たれる。

さっきの男が放った奴よりもかなりデカい!

 

イグニスで防ごうにも右腕が悲鳴をあげる。

 

クソッたれ!

こうなったら俺の残ってる力の全てをぶつけてやるよ!

ドライグ、こいつで決めるぞ!

 

『承知した!』

 

六つの砲門を全て展開して一点に狙いを定める。

この一撃に全てをつぎ込む!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

全ての砲門にオーラが蓄積されていく。

 

「こいつで最後だ! ドラゴン・フルブラスタァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

『Highmat FuLL Blast!!!!』

 

六つの砲門から放たれた莫大なオーラは混ざり合い、一つとなる!

 

そして、それは迫りくる魔力の波動を一瞬で消し去り、一直線にシャルバのもとへと突き進む!

 

「何ッ!?」

 

驚愕の声とともに焦りの表情となるシャルバ。

逃げようにも、砲撃がデカすぎて避けることもできない!

転移するにしても、もう遅い!

このまま消し飛びやがれ!

 

「バ、バカな・・・・! 真の魔王であるこの私が! ヴァーリに一泡も吹かせていないのだぞ!? おのれ! 赤い龍め! 白い龍めぇぇぇぇぇ!!!!」

 

極大の赤い閃光にシャルバは包まれ、その先にあった神殿とともに光の中へ消えていった――――――――

 

 




イッセーの新形態、天撃(エクリプス)について解説を。

鎧の形状としてはエクストリームガンダ
ムというより、フリーダムガンダムに近いです。

一対一の格闘戦に特化した天武に対し、多対一で砲撃戦に特化した殲滅用の形態です。(砲撃特化と言っても格闘戦もある程度はこなせます)

広範囲への攻撃を苦手としているイッセーの弱点を克服した形態となります。

当然、魔力と気の消耗が激しいのがこの形態の弱点ですね。




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14話 ずっと一緒だ!

[木場 side]

 

 

「バ、バカな・・・・! 真の魔王であるこの私が! ヴァーリに一泡も吹かせていないのだぞ!? おのれ! 赤い龍め! 白い龍めぇぇぇぇぇ!!!!」

 

シャルバはそう叫ぶと共にイッセー君が放った赤い光に呑まれて消えていった。

 

僕達は美羽さんが展開してくれた結界の中から、その戦いを見ていた。

 

イッセー君は本当にたった一人であれだけの数の敵を倒してしまった。

中には魔王クラスが二人もいたというのに。

 

僕はイッセー君の方へと視線を向ける。

 

・・・・・あれがイッセー君の新しい力。

 

鎧の形状や先程の戦い方からして恐らくは大勢の敵を相手にすることを主としたものだろう。

 

六つもある砲門から放たれる一撃はその一つ一つが強大で、最上級悪魔クラスの力を持っていた者でさえ消滅させることができるほどの威力を誇っていた。

 

僕は禁手に至り、これまでの修行で以前よりも強くなった。

だけど、だからこそ分かってしまう。

イッセー君との力の差を。

 

・・・・・遠い。 

あまりに遠く感じてしまう。

 

僕は本当にあの隣に立つことが出来るのだろうか・・・・・?

 

 

イッセー君の鎧が解除され、手に持っていた剣も赤い粒子と化して消えていった。

その時―――

 

 

グラッ

 

 

まるで力が抜けたようにイッセー君の体が崩れ落ちた!

そして、そのまま上空から落下してくる!

 

意識を失っているのか!?

 

僕は慌てて結界から飛び出すと、その場を駆け出し、落下してくるイッセー君の元へと向かう。

 

 

ズキッ

 

 

体に痛みが走る。

 

くっ・・・・ 敵から受けた傷が思ったより深い。

 

だけど、止まるわけにはいかない・・・・!

間に合ってくれ!

 

僕は両手を前に突きだしてイッセー君を受ける体勢になり―――

 

 

ドサッ

 

 

何とかイッセー君をキャッチすることに成功した。

良かった、間に合った。

 

「祐斗、イッセーは!?」

 

部長がこちらに尋ねながら走ってきた。

 

イッセー君の顔を覗いてみると、大量の汗をかき、完全に気を失っているようだった。

 

それでも無事だと思い、部長にそれを報告しようした。

だけど、僕の視界に入ってきたものが、僕の口を閉ざさせることになる。

 

僕の反応に部長も怪訝に思ったのか、怪訝な表情で再度尋ねてくる。

 

「祐斗・・・・? イッセーは大丈・・・・・・!? これは!?」

 

部長が僕の視線の先にあるものを見て目を見開いた。

 

それはイッセー君の右腕。

 

 

 

 

イッセー君の右腕は皮膚が焼けただれ、肌が黒く変色している。

 

 

 

 

これは火傷なんてレベルじゃない!

腕が使い物にならなくなってもおかしくはない状態だ!

 

考えられる原因はイッセー君が握っていたあの剣。

あの剣は離れている僕達にも届くくらいの熱量を持っていた。

あの剣が原因なのはほぼ間違いないだろう。

 

イッセー君はこんな状態になるまで剣を振るい続けていたというのか・・・・ っ!?

 

なんでこんなになるまで・・・・・っ!

 

 

いや、理由なら分かっている。

 

僕達だ。

僕達を守るためにこんな・・・・・っ。

 

「早く治療しないと手遅れになりますわ!」

 

「分かってるわ! アーシア!」

 

部長が大声でアーシアさんの名を呼ぶ。

 

アーシアさんはついさっき目を覚ましたところで現状を理解できていなかったようだけど、イッセー君の右腕の状態を見て、表情を一変させた。

 

「イッセーさん!? しっかりしてください! イッセーさん!」

 

アーシアさんは直ぐ様に治療を開始する。

淡い緑色の光がイッセー君の右腕を照らし、傷を治していく。

しかし、神器の力によって傷が塞がっていくものの、治りが遅い。

 

アーシアさんの神器は大抵の傷なら比較的短い時間で完治させることが出来るんだけど・・・・・。

 

それほどまでに深い傷だというのか・・・・・。

 

「ボクもやるよ!」

 

美海さんもアーシアさんの隣にしゃがみ、魔法陣を展開する。

治癒魔法をかけるつもりだろう。

 

二人がかりなら――――

 

 

 

 

「死ねぇぇぇぇ! 化け物めぇぇぇぇ!!!」

 

 

『!?』

 

 

振り返れば槍を持った悪魔がこちらに猛スピードで迫っていた!

生き残りがいたのか!?

 

視線からして狙いはイッセー君か!?

 

僕は迎え撃とうと動き出すが、これでは間に合わない!

 

クソッ!

 

僕は咄嗟にイッセー君の前に立ち、盾になろうとする。

彼を、イッセー君をこんなところで死なせるわけにはいかないんだ!

僕の命をかけてでも彼は死なせない!

 

 

槍が僕を貫きそうになった瞬間。

 

 

ドウンッ!!

 

 

「ぐあああああああ!!」

 

迫ってきていた悪魔は突如として現れた白い光が直撃して、そのまま消滅した。

 

 

なんだ!?

 

いったいどこから!?

 

 

「悪いな。今、彼に死んでもらっては俺が困るんだ」

 

声と共に僕達の前に現れたのは眩い光を放つ白い全身鎧(プレートアーマー)

 

以前にも見たことがある。

そう、僕が見たのは駒王学園で行われた会談の時。

 

イッセー君と激闘を繰り広げたあの男。

 

 

「赤龍帝、兵藤一誠を倒すのはこの俺だ。誰にも譲らないさ」

 

 

白龍皇、ヴァーリ・ルシファーが僕達の前に現れたのだった。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・・・・。俺は・・・・・・」

 

目を覚ました時、俺は禁手の状態から解かれていた。

号泣する皆に抱きつかれた時は何事かと思ったよ。

 

時間の経過と共に記憶が戻ってきた。

 

そういえば、シャルバに最後の一撃を放った後、力尽きて、そのまま気を失ったんだった。

 

すると、俺の視界に一人の男が写る。

 

「ヴァーリ? なんでおまえがここに?」

 

俺が尋ねると木場が代わりに答えてくれた。

 

「イッセー君が気を失っている時に生き残った旧魔王派の悪魔が襲ってきたんだけど、ヴァーリが助けてくれたんだ」

 

マジかよ。

 

全員倒したと思ってたのに・・・・・。

まさか、倒してないやつがいたなんて気づかなかった。

俺もまだまだってことかな。

 

『(気づかなかったのは無理はない。相棒は力のほとんどを使い尽くして限界を迎えていたからな)』

 

だけど、そのせいで皆を危険にさらしたんだ。

修行不足だよ。

 

『(そう自分を責めるな。相棒はよくやった。最善を尽くしたんだ。それ以上求めるのは単なる傲りだ)』

 

そっか・・・・・。

分かったよ、ドライグ。

何にしても全員助かったんだ。

結果オーライってところだろ。

 

とりあえず、ヴァーリには礼を言わないとな。

 

「ありがとな、ヴァーリ。助かったよ」

 

「いいさ。君を倒すのは俺だ。他のやつに持っていかれるのが許せなかっただけだしな」

 

不敵に笑みを浮かべるヴァーリ。

 

おいおい・・・・・。

こいつ、マジで再戦望んでるよ・・・・・・。

 

はぁ・・・・・。

 

 

ここで疑問に思ったことがある。

 

「つーか、何でここにいたんだよ? テロってわけじゃないんだろ?」

 

こいつは旧魔王派みたいな汚いマネはしないだろう。

むしろ、真正面から堂々と挑んでくるだろうし。

 

だからこそ、こいつが何をしにきたのか全く分からん。

 

「俺がここに来たのはあるものを見に来たんだ。・・・・そろそろか。空を見ていろ」

 

「?」

 

俺は訝しげに思い、何もないフィールドの空を見上げる。

 

すると―――。

 

 

バチッ! バチッ!

 

 

空中に巨大な穴が開いていく。

そして、そこから何かが姿を現した。

 

「あれは―――」

 

そこから出現したものを見て、俺は驚いて口が開きっぱなしになっていた。

他の皆も同様だった。

 

「よく見ておけ、兵藤一誠。あれが俺が見たかったものだ」

 

空中に現れたのは真紅の巨大なドラゴン。

 

なんだあれ!?

メチャクチャデカいじゃねぇか!

 

何メートルあるんだ!?

 

驚く俺を他所にヴァーリは続ける。

 

「『赤い龍』と呼ばれるドラゴンは二体いる。ひとつは君に宿るウェールズの古のドラゴン、ウェルシュ・ドラゴン。俺に宿るバニシング・ドラゴンも同じ伝承から出てきている。そして、もうひとつは『黙示録』に記されし、赤いドラゴンだ」

 

「黙示録・・・・?」

 

「『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッド。『真龍』ーーー『D(ドラゴン)×(オブ)D(ドラゴン)』と称される偉大なドラゴンだ。自ら次元の狭間に住み、永遠にそこを飛び続けている。今回、俺はあれを確認するためにここへ来た」

 

「でもよ、どうしてそんなところを飛んでいるんだ? 今回、シャルバに次元の狭間に飛ばされたけど何もなかったぞ?」

 

「ほう、次元の狭間から脱出したというのか。やはり、君は面白い。質問の答えだが、それは俺には分からない。いろいろ説はあるが・・・・・。あれがオーフィスの目的であり、俺が倒したい目標だ」

 

ヴァーリの目標―――

 

とんでもない目標だな、それは。

 

「俺はいつか、グレートレッドを倒す。そして、『真なる白龍神皇』になりたいんだ。赤の最上位がいるのに白だけ一歩前止まりでは格好がつかないだろう?」

 

ヴァーリは苦笑しながら夢を語った。

笑ってはいるけど、目はとても真剣なものだ。

 

なるほど、こいつがテロリスト集団に身を置いてるのもあのドラゴンを倒すためか。

 

こいつらしいな。

 

「だけど、その前にまずは君に勝たないとな。赤龍帝、兵藤一誠。この挑戦、受けてくれるか?」

 

その台詞つい最近聞いた覚えがあるぞ。

ったく、なんでどいつもこいつも俺に挑戦したがるのかね?

 

はぁ・・・・・。

 

俺は軽く息を吐いた後、笑みを浮かべた。

 

「あー、分かったよ。その挑戦、受けてやるよ。いつでもかかってこい。真正面からぶつかってやる」

 

「そうか。礼を言うよ、兵藤一誠」

 

短い返しだったけど、満足したような表情のヴァーリ。

 

すると、一つの気配が現れる。

 

「グレートレッド、久しい」

 

振り返ると俺達のすぐ近くに黒髪黒ワンピースの少女が立っていた。

 

いつのまに・・・・・・

 

「誰だ?」

 

ヴァーリがそれを確認して苦笑する。

 

「オーフィス。無限の龍神さ。『禍の団』のトップでもある」

 

マジか!?

この少女がテロリストの親玉!?

てっきり、ジジイとかおっさんの姿をしてると思ってたのに!

 

こんなに可愛い娘だったのかよ!

変質者がいたら誘拐されるぞ!?(多分!)

 

少女―――オーフィスはグレートレッドに指鉄砲のかまえでバンッと撃ち出す格好をした。

 

「我は、いつか必ず静寂を手にいれる」

 

 

バサッ

 

 

今度は羽ばたきの音と共に数人の見知った気配が現れた。

 

アザゼル先生、ティア、タンニーンのおっさんだ。

 

三人ともフィールド内で戦闘を行っていたようだけど、どうやら終わったらしい。

 

「おー、イッセー。無事で何よりだ」

 

「うむ、流石は私のイッセーだ。こちらの旧魔王派の悪魔共は片付けたらしいな」

 

「ハハハハ、兵藤一誠は規格外だからな、何とかなるとは思っていた。―――と、オーフィスの気配を追ってきたらとんでもないものが出てきたな」

 

三人は空を飛ぶグレートレッドに視線を向ける。

 

「懐かしい、グレートレッドか」

 

「おまえらも戦ったことあるのか?」

 

先生の問いにティアとおっさんは首を横に振る。

 

「いや、俺なぞ歯牙にもかけてくれなかったさ」

 

「同じくだ。まぁ、やつが本気を出したら私は一瞬で消されるだろうな」

 

この二人がそこまで言うか。

 

いや、俺もあのドラゴンに勝てる気は全くしないけどね。

 

「久し振りだな、アザゼル」

 

ヴァーリが先生に話しかける。

 

「おう。元気そうじゃねぇか、ヴァーリ。クルゼレイ・アスモデウスとシャルバ・ベルゼフブはどうやら、イッセーが倒したみたいだな」

 

「ああ。一部始終を見ていたが、彼の新たな力を見ることができた。ふふっ、俺も再戦するのが待ち遠しいよ」

 

「相変わらずのバトルマニアだな。まぁ、それはおいといてだ」

 

先生はオーフィスに言う。

 

「オーフィス。旧魔王派は末裔共を失い、それに荷担していたやつらも掃討、または捕縛した。旧魔王派は壊滅だ」

 

「そう。それもまた一つの結末」

 

オーフィスは全く驚く様子もなかった。

痛くも痒くもないって感じだな。

 

それを聞いて、先生は肩をすくめた。

 

「おまえらの中でヴァーリのチーム以外に大きな勢力は人間の英雄や勇者の末裔、神器所有者で集まった『英雄派』だけか」

 

英雄派?

 

まだそんな勢力があるのかよ・・・・・・。

 

「さーて、オーフィス。やるか?」

 

先生が光の槍の矛先をオーフィスに向ける。

 

えっ、戦闘開始ですか!?

俺は参戦しませんよ!?

もうそんな力残ってませんからね!

 

すると、オーフィスは先生を無視して体の向きを俺の方に変える。

 

「赤龍帝。我の仲間になってほしい」

 

 

『なっ!?』

 

この場にいる全員が驚愕の声をあげる。

 

俺は何を言われたのか、意味がわからず、脳がフリーズしている状態だ。

 

「へ? 今、なんて?」

 

「我の仲間になってほしい。我と共にグレートレッド、倒す」

 

はああああああああ!?

 

俺、勧誘されちゃったよ!

俺にテロリスト集団に入れってか!

 

「悪いけど、断るよ」

 

「なぜ?」

 

「俺はテロリストになるつもりはない。そんなのは絶対にゴメンだ」

 

俺がハッキリと断ると「そう、残念」と言って、俺に背中を向けてしまう。

 

一瞬、寂しそうな眼してたけど・・・・・

俺、キツい言い方しちゃったかな?

 

「我は帰る」

 

ヒュッ!

 

一瞬、空気が振動したと思ったら、オーフィスは消え去っていた。

 

いついなくなったのか動きが見えなかった・・・・・

 

先生達も嘆息してる。

 

「俺も退散するとしよう。仲間が待ってるんでね」

 

ヴァーリもそう言い残すとこの場を去ってしまった。

 

あー、なんか色々あって疲れた・・・・・。

 

右腕も痺れてるし・・・・・・って、あれ?

今気づいたけど、痛みがマシになってる。

 

見れば、アーシアが目を覚ましていた。

 

「アーシアが治療してくれたのか? ありがとう、アーシア」

 

「い、いえ、私は・・・・・。すいません、イッセーさん、私を庇ったせいでイッセーさんが・・・・・・」

 

アーシアが涙を浮かべながら、謝ってくる。

俺の腕のことを言ってるのか?

 

アーシアのせいじゃないのに・・・・・・

 

「アーシア」

 

「はい・・・・キャッ」

 

俺はアーシアを動く左腕で強く抱き締めた。

突然のことにアーシアも驚いている様子だった。

 

「俺は大丈夫だ。俺は生きて、こうしてアーシアと話してる。だからさ、何も心配いらない」

 

「い、イッセーしゃん・・・・うぅぅぅぅ・・・・」

 

おいおい、余計泣いちゃったよアーシアちゃん。

まぁ、さっきみたいに暗い表情じゃないから、大丈夫か。

 

「あらあら、妬けてしまいますわ」

 

「そうね。でも、ここは譲るしかないわね」

 

朱乃さんと部長が何やら話してるけど・・・・・。

そこは気にしないでおこう。

 

「お兄ちゃん」

 

「美羽。俺の代わりに皆を守ってくれてありがとな。おまえがいてくれて本当に良かった」

 

「う・・・・」

 

「う?」

 

「うわああああああん!!」

 

 

ドンッ

 

 

ごふっ!

 

美羽が飛び付いてきた。

結構な衝撃がきたぞ。

 

「よかった・・・・・・無事で本当によかったよぉぉぉぉ」

 

あらら・・・・

 

美羽もわんわん泣き出したよ。

こいつにもかなり心配かけたようだな。

 

これは後で父さんのゲンコツが待ってるかもな・・・・・。

 

「妹を泣かせるとはどういうことだー!」とか言って強烈なやつを繰り出してくるかも・・・・・・

 

まぁ、その時はあえて受けよう。

 

 

「さ、帰ろうぜ。俺達の家に」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

 

こうして、今回の騒動は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

それから二日後。

 

 

ばーん! ばーん!

 

 

空砲が空に鳴り響き、プログラムを告げる放送案内がグラウンドにこだまする。

 

『次は二人三脚です。参加する皆さんはスタート位置にお並びください』

 

そう、今日は体育祭の日だ。

そして、今から俺とアーシアが出場する二人三脚が始まろうとしていた。

 

俺は自分とアーシアの足首のひもをぎゅっと縛る。

 

「これで準備は万端だ。いつでもいけるぜ」

 

俺がそう言うとアーシアはどこか心配そうな顔で俺に聞いてきた。

 

「イッセーさん、右腕は大丈夫ですか?」

 

アーシアの視線が俺の右腕へと移る。

 

今、俺の右腕には包帯が巻かれている状態だ。

理由はこの間の戦闘で出来た傷を隠すため。

 

傷といっても痛みはほとんどひいてる。

これもアーシアや美羽の治療のおかげだ。

ただ、まだ痺れは残っていて、あまり動かすことは出来ない。

 

これもイグニスを使った代償ってやつだ。

まぁ、腕が無くならなかっただけマシだな。

 

「問題ないよ。少なくともこの競技には影響しないさ。勝とうぜ、アーシア。俺達のこれまでの努力の成果を学園の皆に見せつけてやろうぜ!」

 

「はい!」

 

 

そして、順番は俺達の番となった。

お互いの腰を手でおさえ、走る構えとなる。

 

 

パンッ!

 

 

空砲が鳴り響き、俺達はスタートを切る!

 

「「せーの、いち、に! いち、に!」」

 

二人の声を合わせて走り出す。

うん、良いスタートだ。

二人の呼吸がピッタリ合ってる!

 

「イッセー! アーシア! 一番取りなさい!」

 

「いけますわよ!」

 

部長や朱乃さん、他の部員の皆が応援をくれる!

 

一般の観客席の方からも馴染み深い声が聞こえてくる。

 

「イッセー! ゴール決めろよ!」

 

「アーシアちゃんもファイトォ!」

 

父さん、母さん! 

俺達の晴れ舞台、しっかり見ていてくれよ!

 

そのままカーブを曲がり、あとは一直線。

このまま走り抜く!

 

「お兄ちゃん! アーシアさん! ラストスパートだよ! 頑張って!」

 

ゴール手前では美羽が俺達を待っていてくれている!

 

俺は走りながら、アーシアに言った。

 

「アーシア、俺達は家族だ。もし、またアーシアを泣かせるやつが現れたら俺が絶対に守る。だから、ずっと側にいてくれ」

 

「―――っ!」

 

アーシアは泣きそうになるけど、それを堪えて走るのに集中した!

 

そして―――

 

 

俺達はゴールテープを切った!

 

「よっしゃああああああ!」

 

一番の旗をもらい、俺はガッツポーズを取った!

 

「やったぞ、アーシア!」

 

「はい! やりました、イッセーさん!」

 

俺とアーシアら手を取り合って喜んだ!

 

いやー、これまでアーシアとたくさん練習してきたからな、その成果を出せたよ。

 

おっと・・・・

 

俺は全身の力が抜けていくのを感じ、こけそうになる。

 

やっべぇ。

 

天撃(エクリプス)を使ったときの疲れがまだ回復してないんだった。

あれで体の中の気をほとんど使いきったからなぁ。

 

そんな状態で体を動かせばこうなるのは当然か。

 

「イッセーさん、大丈夫ですか!?」

 

体勢を崩す俺をアーシアが支えてくれた。

 

「あー、ちょっと疲れただけだよ」

 

そこに美羽が駆け寄ってきた。

 

「二人とも大丈夫?」

 

「少し疲れただけだから心配ないよ」

 

「そっか、良かった。アーシアさん、お兄ちゃんを任せて良いかな? ボク、次の競技に出ないといけないから」

 

「は、はい!」

 

いやー、なんか色々悪いな・・・・。

 

アーシアに支えられながら、その場を移動する。

 

「アーシアさん、ファイトだよ♪」

 

「―――っ」

 

何言ってるんだ、美羽のやつ。

俺達の競技は終わったぞ?

 

俺が疑問に思っているなか、俺の隣ではアーシアは頬を赤く染めていた。

 

そんなこんなで、俺はアーシアと共に休めるところへと移動した。

 

グラウンドから少し離れた木の下。

すぐ横には体育館がある。

俺達はそこで一息つくことにした。

 

他の生徒は競技の応援に行っているから、俺達以外は誰もいない。

とても静かだ。

 

最近、ゆっくり出来なかったから、こういう場所も悪くないと思えてくる。

 

「ふぅ。少し休んだら応援に行こうか」

 

「あ、あの、イッセーさん」

 

「ん? どうした?」

 

アーシアに呼ばれて振り返ると―――

 

 

アーシアが俺の唇に唇を重ねてきた。

 

 

・・・・・・・・

 

ん?

 

んんんんんんん?

 

混乱する俺!

 

「あ、アーシア、い、いいい今のって」

 

「イッセーさん、大好きです。これからもずっとお側にいます」

 

最高に眩しい笑顔で言われてしまった。

 

俺はその場に寝転がり、空を見上げた。

 

「ああ。ずっと一緒だ、アーシア」

 

 

俺、今最高に幸せだ。

 

 

 

 

 

 




ということで第六章はこれにて終わりです。

いやー、なんとか今月中に章を完結させることができました。
よかったよかった。

8月からは学業の方で色々と忙しくなるので更新スピードが一気に落ちます。
楽しみにしてくれている方には申し訳ないです・・・・

ですが、完結に向けて今後も頑張るので応援よろしくお願いします!

ちなみにですが、次回は番外編を考えています。
余裕があれば投稿します。


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番外編 イッセーの変化!?

今回はD×Dよりもはぐれ勇者をベースに書いてみました。

それではどうぞ!


[リアス side]

 

 

「ん・・・・・朝・・・・・」

 

窓から入ってきた朝の日差しで私は眼が覚めた。

ベッドから上半身を起こすと、そこにはいつもの光景。

この家に住むオカ研のメンバーが大集合して、同じベッドで就寝を共にしている。

 

旧魔王派との一件が終わり、駒王学園の体育祭の二日後。

 

アーシアが無事に帰ってきて、旧魔王の末裔達と激戦を繰り広げたイッセーも生きて帰ってきてくれた。

二人が帰ってきてくれて本当に良かった。

 

だけど・・・・・

 

私はふとイッセーの右腕に視線を移す。

 

生々しい火傷の跡。

イッセーはその事についてはあまり語ってはくれなかったけど、あの時使っていた大剣が原因だと考えられている。

 

 

情けない・・・・・

自分が情けなさすぎて嫌になる・・・・・。

 

私はイッセーの主として、イッセーを守らなければならないのに私はいつも守られてばかり。

ライザーの時もコカビエルのときも。

今回の件でもそう。

私はいつもイッセーに負担を強いている・・・・・。

 

これでは、王失格だわ・・・・・

 

それでもイッセーは私を責めることはしないでしょう。

彼は優しいから。

 

でも、私はその優しさに甘えるわけにはいかない。

 

もっと・・・・・もっと強くならないと・・・・・

 

眠っているイッセーの頬を撫でる。

 

「イッセー・・・・私、絶対に強くなる。あなたに相応しい王になってみせるわ」

 

その時だった。

ふと室内が僅かに明るくなったのは。

 

「―――え?」

 

輝きを放っていたのはイッセーで、

 

「う・・・・・っ・・・・・」

 

微かな呻き声を発しながら、イッセーの体に変化が現れた。

逞しい青年から幼い子供の身体へと――――

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

 

 

突然のことに呆然とする私の目の前で、みるみるイッセーの身体は小さくなっていく。

最終的には小猫よりも一回りくらい小さくなったところで止まった。

以前、イッセーのお母様に見せてもらったアルバムに載っていたイッセーと同じ姿。

 

ど、どういうこと・・・・・・?

 

私は目の前で起きた出来事に、頭がついてこず、完全に思考が止まった。

 

「うーん」

 

幼い姿になったイッセーはゆっくりと体を起こした。

まだ眠いのか、目を擦るイッセーは辺りをキョロキョロと見渡すと私と眼があった。

 

「え、えーと・・・・・・・イッセー・・・・・・?」

 

何て声を掛ければいいのか分からなかった私はとりあえず名前を呼んでみた。

 

キョトンとするイッセーはそんな私に一言。

 

「おねえちゃん―――だれ?」

 

 

[リアス side out]

 

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

僕達オカ研メンバーとアザゼル先生は朝早くからイッセー君の家に集まっていた。

 

ちなみにだけど、イッセー君のご両親は昨日から旅行に行っているためここにはいない。

福引で温泉旅行が当たったらしい。

 

この場にいる全員が真剣な面持ちだ。

 

なぜ、僕達がここに集まっているのかというと、それは部長が緊急召集をかけたから。

そして、その原因は部長の膝の上でキョトンとしている幼い子供となってしまったイッセー君だ。

 

なんでこんなことに・・・・・?

 

昨日は普通に生活していたし、体育祭でもアーシアさんと走っていた。

僕も話をしたりしていたけど、疲れているところ以外は至って普通だったはずだ。

 

いったい何が原因なんだ?

 

アザゼル先生が小猫ちゃんに問いかける。

 

「小猫、イッセーの体の状態はどうだ?」

 

「一通り見てみましたが、今のところ気の流れは乱れてません。正常です。ただ」

 

「ただ?」

 

アザゼル先生が聞き返す。

 

「ただ、イッセー先輩の気の量が明らかに減っています」

 

気の量が減る?

どういうことだろう?

 

「イッセー先輩に教わったことですが、生物には体を維持するにはそれなりの気の量が必要らしいです」

 

「なるほどな。つまり、イッセーは先の戦いで限界を超えて気を使いまくった。その影響が今になって出た、ってことか」

 

アザゼル先生が顎に手をやりながらどこか納得したように言う。

 

限界を超えての気の使用。

イッセー君はそこまで無茶をしていたというのか。

 

小猫ちゃんが頷く。

 

「本来、生物は気を操ることなんて事は出来ません。私のように仙術を扱えるか、イッセー先輩のように特殊な戦闘技術を身に付けていない限りは。通常なら、無意識に必要な分の気を体内に取り入れつつ、それを消費したり循環させたり、しているので肉体に変化が生じることはないのですが・・・・・・・」

 

つまり、今のイッセー君は体を維持するのに必要な分の気がないために、今の姿になったということだね。

 

先生が息を吐く。

 

「そんなになるまで無茶しやがって、と言いたいところだが、イッセーがこうなったのは俺に責任がある。リアスのところに旧ベルゼブブと旧アスモデウスが現れる可能性を考えておきながら、そっちに十分な戦力を送ってやれなかった。ドライグ、イッセーの精神状態はどうなっている?」

 

先生がそう言うとイッセー君の左手の甲に宝玉が現れる。

 

『比較的落ち着いている。だが、体が縮んだせいか、精神も幼児化している。更には記憶も失っている状態だ』

 

なんてことだ。

記憶まで・・・・・・。

 

『おまえ達、あまり自分を責めるなよ? 今回、相棒がこうなってしまったのは、あの形態になるのが初めてだったこと、相手が魔王クラスの実力を有していたこと、そして、あの剣を使ったこと。様々な要因が重なった結果だ。それに相棒自身はおまえ達が自分を責めることを望んではいない』

 

ドライグはそう言ってくれてはいるけど・・・・・

 

アザゼル先生が再び大きくため息をつく。

 

「とにかく、今はイッセーを元に戻すことが先決なんだが・・・・・こんな現象は俺も初めてだ。リアス、俺の方でも色々知り合いを当たってみる。こっちでも何か試してみてくれ」

 

そう言い残すと先生は転移用魔法陣で帰ってしまった。

 

 

 

 

 

 

アザゼル先生が去った後、僕達は頭を悩ませていた。

イッセー君は僕達の名前も忘れてしまっているようだから自己紹介だけはしておいたんだけど・・・・・・

 

何かを試せと言われても、どうすればいいんだろう?

 

うーん、と頭を悩ませる僕達の視線が幼くなったイッセー君に集まった。

 

本人は何のことか分からず、かわいく首をかしげるだけだったけど、これは女性陣には強烈なインパクトを与えたようで

 

 

『か、かわいい』

 

 

女性陣の声が重なった。

 

確かに、今のイッセー君は僕からみてもかわいいと思う。

普段の勇ましいイッセー君とのギャップがすさまじい。

 

「ふむ、これが幼いイッセーか。なんというか、これはこれでいいものだな・・・・・」

 

ゼノヴィアが言う。

 

「た、たしかに。イッセー君ってエッチなところ以外はカッコいいってイメージがあったからこれは驚きだわ」

 

レイナさんもゼノヴィアの意見に賛同する。

・・・・・レイナさん、涎垂れてますよ?

 

僕は部長に尋ねる。

 

「僕達はどうします?」

 

「まずは私達にできることを考えましょう。何か思い付いた人はいるかしら?」

 

部長が皆を見渡しながら言う。

 

僕達にできること、か。

 

すると、朱乃さんが挙手した。

 

「イッセー君の記憶を戻すというのはどうでしょう?」

 

――――っ!

 

朱乃さんに視線が集まる。

 

なるほど、そういう考えがあったか。

 

「ナイスよ、朱乃! そうね、イッセーの記憶が戻れば何か案が出るかもしれないわ!」

 

朱乃さんのアイデアに部長が嬉々とした表情で言った。

 

確かに、気を使うことに長けているイッセー君なら、この状況を打開する方法が出てくるかもしれない。

 

「でも、どうやって記憶を戻すんですか?」

 

「決まってますわ。イッセー君が好きなものといえば――――おっぱいです」

 

 

・・・・・・・・・

 

 

朱乃さんのその言葉でイッセー君の記憶を取り戻す作戦が始まった。

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

[リアス side]

 

 

朱乃の発言で始まったイッセーの記憶を戻す作戦。

 

た、確かにイッセーは女性の胸が大好きだけど・・・・・・・。

本当にそれで記憶が戻るのかしら?

 

祐斗とギャスパーには別の方法を探るために冥界に行ってもらっているのだけど、アザゼルでも見たことがないと言うくらいだから、そちらの方は難しいでしょうね。

 

「朱乃、言っていることは分かるけど、実際には何をするつもりなの?」

 

「まずは服を脱ぎます。そして、イッセー君に触ってもらうの」

 

『!?』

 

朱乃の発言にこの場の全員が目を見開いて絶句していた。

 

「ちょっと、正気なの!?」

 

「もちろんですわ。イッセー君が好きなものを見せていくことで何か刺激が生まれるかもしれませんわ」

 

刺激って・・・・・。

何か別の刺激が生まれそうな気もするのだけれど・・・・・・。

 

まぁ、一理あるといえばそうなのかもしれない。

やってみる価値はあるわね。

 

「分かったわ。じゃあ、服を脱いでみましょうか」

 

「え!? 本当に脱ぐの!?」

 

イリナさんが驚愕しているようだった。

まぁ、彼女は天使ですもの仕方がないような気もするわ。

 

「無理にとは言わないわ。それで戻る確証もないわけだし」

 

「うぅ~、イッセー君を元に戻すためにも、ここは・・・・」

 

すると、ゼノヴィアが一歩前に出た。

 

「別に構わないよ。裸になるだけで記憶が戻るなら安いものだ」

 

そう言って服を脱ぎ捨てるゼノヴィア。

あなた、相変わらず豪快ね。

 

「わ、私も脱ぎますぅ!」

 

「ボ、ボクも!」

 

アーシアと美羽もそれに続いて服を脱いでいく。

二人のイッセーへの思いは凄まじいものがあるわね。

 

私も負けていられないわ!

 

 

 

それから数分後。

 

部屋ではイッセー以外が下着姿になっていた。

結局、イリナさんもイッセーを元に戻すため、と一肌脱いでくれた。

 

普段のイッセーなら鼻血を出して喜んでいる状況なのでしょうけど、今のイッセーはあまり反応を示さない。

というより、「何をしてるんだろう?」といった表情でこちらを見ている。

 

まぁ、今のイッセーはどう見ても四~五歳。

反応しないのは仕方がないことかもしれないわね。

 

「あらあら。これは困りましたわね。では、イッセー君」

 

次は実際に触れてもらうつもりなのだろう。

朱乃がそれをしようとした時、

 

「何? 朱乃お姉ちゃん」

 

「――――!」

 

朱乃がそこで固まってしまった。

 

「あ、朱乃? どうしたの?」

 

私が尋ねると、朱乃は顔を赤らめながらニヤけさせていた。

 

「うふ、うふふふふふ。・・・・・・朱乃・・・・お姉ちゃん・・・・・・いい響きですわ」

 

「ちょ、朱乃?」

 

「リアス。あなた達も一度呼んでもらえばいいですわ。そうすれば私の今の気持ちが分かります」

 

朱乃にそう言われ、私は膝に座っているイッセーの方を見る。

 

イッセーは私の視線に気づいたのか、キョトンとしながらこちらを見てきた。

 

「え、えっと・・・・イッセー?」

 

「どうしたの? リアスお姉ちゃん」

 

 

――――――!

 

 

イッセーに「お姉ちゃん」と言われた瞬間に私の中に電撃が走った。

 

こ、これは・・・・・・

 

私は朱乃の手を取る。

 

「私、あなたの気持ちが分かったわ!」

 

「でしょう!」

 

あぁ・・・・何かしら、この気持ち・・・・・

心が満たされるような・・・・・・・

 

朝は突然のことでそこまで思考がいかなかったけれど、これは・・・・・・

 

「あ、あの・・・・お二人共どうされたんですか?」

 

アーシアが怪訝な表情で尋ねてきた。

他の皆も同じような感じだった。

 

そんなアーシアに私は顔をニヤけさせながら言った。

 

「アーシア、イッセーに話しかけてごらんなさい」

 

「? それじゃあ・・・イッセーさん?」

 

アーシアがよく分からないといった感じでイッセーに声をかける。

 

すると―――

 

「アーシアお姉ちゃん?」

 

「はうっ・・・・・こ、これは・・・・・・!」

 

フフフ、アーシアも分かったようね。

イッセーに「お姉ちゃん」と呼ばれることの新鮮さ! 素晴らしさ! そして、この快感!

そう、小さくなったイッセーの破壊力は想像を遥かに超越している!

 

もうダメ!

あのイッセーがこんなにも可愛くなるなんて!

 

 

それから、他の皆も本来の目的を忘れて、イッセーの名前を呼んでは「お姉ちゃん」と呼ばれ、一人残らず撃沈していった。

 

 

 

 

 

数十分後。

 

 

ぐぎゅるるるるるるるる・・・・・・・

 

 

イッセーのお腹から可愛らしい音が鳴った。

 

「お腹すいた・・・・」

 

イッセーがお腹を押さえながら言うので時計を見てみると、時刻は昼の一時前。

色々考え事をしていたから、すっかり忘れてたわ。

 

「もうこんな時間だし、一旦止めて、お昼にしましょうか」

 

「そうですね。お兄ちゃんも限界みたいですし・・・・・何にします?」

 

「そうねぇ・・・・・。とりあえず早く出来るものの方が良さそうだし・・・・・・スパゲッティにでもしましょう」

 

 

というわけで、今日のお昼はミートスパゲティ。

脱いでいた服を着て、調理開始。

 

余程お腹が空いていたのか、お昼が出来たときは表情をパァと明るくさせていた。

 

あぁ、どうしてこうも一つ一つの仕草が可愛いのかしら。

見れば、皆も私と同じような表情をしていた。

 

 

すると、

 

「う、うーん」

 

何やらイッセーが難しい顔をしながら、手こずっているのが分かった。

 

「どうしたの?」

 

「・・・・うまく食べられない」

 

そこで私達はハッとなる。

 

小さくなったとしてもイッセーの右腕の傷は消えていない。

つまり、今のイッセーは右腕を上手く使えない状態だった。

 

一人で頑張って食べようとしたのだろう。

動かない右腕で食べようとして、スパゲティを服に落としてしまう。

 

「ごめんなさい・・・・・」

 

悪いことをしたと思ったイッセーがしょんぼりとした顔で謝ってきた。

私はそんなイッセーの頭を優しく撫でてあげる。

 

「いいのよ、イッセー。あなたの腕のことを考えていなかった私が悪いの。まずは服を拭いて、それから私が食べさせてあげる。・・・・無理はしないで私達を頼ってちょうだい」

 

あなたはいつも私達を助けてくれる。

そのお返しというわけではないけれど、今の私達ではこういうことでしか、あなたにお礼が出来そうにない。

だから、あなたにはもっと私達を頼って欲しい。

心からそう思う。

 

「ありがと、リアスお姉ちゃん」

 

 

 

 

 

 

昼食後も私達は色々と試してみた。

 

朱乃の案―――私達の胸を触らせたり、イッセーが持っているエッチな本やビデオも見せてみた。

しかし、イッセーの記憶が戻ることはなかった。

 

更には小猫の仙術で気の巡りを良くしてみたのだけれど、それでもイッセーに変化はなく、ただ時間が過ぎていった。

 

 

そして、今は入浴の時間。

 

「はい、体洗うからそのままね」

 

「はーい」

 

美羽のお願いに元気よく返事をするイッセー。

 

お風呂に入る前、誰がイッセーの体を洗うかで少し揉めたのだけど、最終的にはじゃんけんで決めることになり、美羽が勝者となった。

 

美羽はプラスチックの容器のポンプを数回押してボディーソープを手の上に出すと、両手を擦り合わせるようにして泡立てた。

そして、そのままタオルを使うことなく、手でイッセーの体を洗っていく。

 

子供の体はとても繊細だから傷つけないように美羽も配慮しているみたいだった。

 

イッセーがくすぐったそうに体をよじるけど、美羽は「我慢だよー」と言って泡を擦り付けていった。

 

「うふふ、微笑ましいですわね」

 

「そうね。こうしてみていると本当の姉弟みたいね。まぁ、普段から仲の良い兄妹だったけれど」

 

「そうですね。イッセーさんと美羽さんはとても仲が良いです」

 

「・・・・・小猫お姉ちゃん・・・・・小猫お姉ちゃん」

 

小猫、イッセーに「お姉ちゃん」って言われたことが相当嬉しかったみたいね。

昼からずっと言い続けているもの。

 

「はい、綺麗になったよ」

 

美羽がシャワーを止めてイッセーに告げた。

すると、イッセーはニコッと笑って、

 

「ありがと、美羽お姉ちゃん」

 

「――――っ」

 

あ、美羽が固まったわ。

イッセーの可愛さだけじゃなくて、普段は自分が妹の立場だから、そう言われるのが新鮮なんだと思う。

 

「うぅ、もう可愛いすぎるよ!」

 

美羽がガバッとイッセーを抱き締めた。

 

美羽ったら、衝動を抑えきれなかったのね。

まぁ、気持ちは分かるわ。

私だって同じ立場なら抑えきれる自信は無い。

 

 

 

「ひゃん!」

 

突然、美羽が声をあげた。

 

何事かと思ってそちらを見てみると――――

 

「やっ・・・・・そこっ・・・・・・・ふわぁぁぁっ」

 

胸をイッセーに吸われている美羽の姿がそこにあった。

 

「なっ・・・・・イッセー!?」

 

私が名前を呼んでも返事が返ってこない。

それほと夢中だというの!?

 

「ほ、ほら、イッセー君! お姉ちゃん困ってるから! 止めよう、ね?」

 

レイナが美羽を助けようとイッセーの肩を掴んだ。

 

すると、イッセーはグルンと首を後ろに回して、レイナに飛び付いていった。

 

「キャッ」

 

「大丈夫か、レイナ?」

 

ゼノヴィアがレイナに尋ねて安否を確認する。

 

「ええ、私は大丈夫。それよりも・・・・・・あんっ、い、イッセー君!?」

 

嬌声をあげるレイナ。

ま、まさか・・・・・・・

 

「あっ、・・・・・そんな・・・・・らめぇぇぇ」

 

レイナも美羽と同じく、イッセーに胸を吸われていた。

 

いくらイッセーが女性の胸を好きでも、ここまで激しく求めてきたことはなかったのに・・・・・

それに昼間もそこまでの関心は示さなかった。

なぜ、今になって?

 

「リアス、これはどういうことてしょう?」

 

「分からないわ。今、考えているところよ。それよりも早くレイナを助けた方が良いのではなくて?」

 

レイナの表情は恍惚としたものとなっていて、体をビクンッと跳ねさせている。

 

流石に止めさせた方が・・・・・

 

「・・・・・! 待ってください、部長」

 

「どうしたの、小猫?」

 

「・・・・・イッセー先輩の気が増大してます」

 

 

『!?』

 

 

小猫の言葉にこの場にいる全員が驚愕した。

 

イッセーの気が増大している?

それってつまり―――

 

「イッセーの体が元に戻ろうとしているということ?」

 

「・・・・・・おそらくですが、胸から気を吸収しているんだと思います」

 

「つまり、イッセー君を元に戻すには私達の胸を吸わせれば元に戻る、ということですね」

 

そんなバカな、と言いたいところだけど、あり得ないことではないのかもしれない。

現にイッセーの気が増大しているんだし・・・・・。

 

イッセーは無意識にその行為に出たのかしら?

理由は分からないわね。

 

でも、こうなったらやることは一つ。

 

「皆、自分の胸をイッセーに差し出すのよ!」

 

自分でも何という指示を出したのかと思う。

それでも、可能性があるのなら!

 

「よし、任せろ! レイナ、交代だ!」

 

「ふぇ、ゼノヴィアさん・・・・・?」

 

「イッセー! 今度は私の胸・・・うわっ」

 

その声に反応してイッセーはレイナの胸から口を離してゼノヴィアの胸に飛び付く。

その勢いにゼノヴィアは足を滑らせ、尻餅をついてしまった。

頭を床に打たなかったのは不幸中の幸いね。

 

「イタタタ・・・・・イッセー、そんなに慌てなくても!?・・・・・いきなり・・・・あ、ああ・・・・・ん」

 

ゼノヴィアもイッセーに胸を吸われて甘い吐息を漏らしていく。

 

「あの、リアスお姉さま」

 

「どうしたの、アーシア?」

 

「ほ、本当に良いのでしょうか? 私のは・・・・その・・・・・皆さんと比べて・・・・小さいですし・・・・・」

 

「・・・・・私もです・・・・・」

 

アーシアと小猫が自分の胸を手で抑えながら、呟いた。

まぁ、確かに二人の胸は私たちほど豊かではないけれど、そのあたりは大丈夫じゃないかしら?

 

 

 

この後、私達の全員が胸を吸われていくことになった。

 

 

[リアス side out]

 

 

 

 

 

 

んあ・・・・・・?

 

ここは・・・・・・?

 

確か、昨日はスゴく疲れたから直ぐに寝て・・・・・

 

あれ?

ここ、俺の部屋じゃなくね?

 

視界には白い湯気が見えた。

ここは・・・・・・風呂か?

 

俺、いつの間に風呂に入ってたんだよ?

 

つーか、なんか、頭に軟らかいものが当たってる。

スゴく軟らかくてプニプニしてて、気持ち良い。

 

頭を動かしてみると、コリッとしたものが当たって―――

 

 

ガバッ

 

 

俺は慌てて飛び起きる!

 

後ろを見てみると、美羽が俺の下敷きになっていた!?

しかも、全裸だ!

 

いや、ここは風呂だ。

全裸なのは当たり前・・・・・そうじゃねぇ!

 

辺りを見れば部長や朱乃さん、アーシア、家に住んでるオカ研メンバーが風呂場の床に倒れていた!

 

何でこんなことになってるんだ!?

 

しかも、皆どこか表情が恍惚としているような・・・・・

 

と、とりあえず、皆を起こそう!

 

「お、おーい、美羽? だ、大丈夫か?」

 

俺はまず、一番近くにいた美羽を抱き起こす。

すると、美羽の体がビクンッと跳ねた。

 

え?

何、今の反応・・・・・

 

「お、おい? み、美羽?」

 

俺が再び声をかけると美羽の目がうっすらと開いた。

 

「あ・・・・お兄ちゃん・・・・・元に戻ったんだね・・・・・よ、よかった・・・・・・・」

 

元に戻った?

どういうことだよ?

 

うーん、分からん。

 

それにしても、目のやり場に困るな。

皆、全裸だし。

とりあえず、目覚めから良いものを見せてくれてありがとう!

脳内保存しました!

 

いやいや、そんなことしてる場合じゃねぇ!

皆を起こさないと!

 

それから俺は皆を起こして、一人ずつ上の階に運んだ。

 

 

 

 

 

 

「大変申し訳ありませんでしたぁ!!」

 

兵藤家のミーティングルーム。

ここに、オカ研部員全員とアザゼル先生が集まっていた。

 

そして、俺は女子部員全員に土下座している。

 

皆の意識が戻った後、俺はそれまでの経緯を聞いて唖然となった。

 

まさか、俺が幼児化していて、皆のお、おっぱいを吸って元に戻っていたなんて・・・・・

更には女子部員全員に対してそれをしたと知ったときは衝撃を受けたとかいうレベルじゃなかった。

 

しかも、俺にはその時の記憶が全く無い。

それゆえに誰にどう謝ればいいのか分からないでいた。

 

アザゼル先生がため息をつきながら言う。

 

「まさか、女の胸を吸って元に戻るなんてな・・・・・・。今日一日、知り合いのところを駆け回ったのは何だったんだか・・・・・・」

 

「僕とギャスパー君は冥界にある図書館を駆け回ったよ」

 

マジか、木場とギャスパーまで・・・・・

 

「す、すまん・・・・・俺もここまでのことは初めてで・・・・・・自分でも驚いているんだ」

 

昔、錬環勁気功の使い過ぎで一時的に身長が縮んだことはあったけど・・・・・・

まさか、幼児まで戻るなんて初めてだ。

おまけに記憶も失ってたみたいだし・・・・・・

 

「まぁ、何にせよ元に戻ったんだ。これで良しとしようぜ。そもそも、おまえの体が幼児化したのは俺の責任でもある」

 

うぅぅ・・・・そう言ってもらえると俺も助かります・・・・。

 

男組は俺が元に戻ってめでたしめでたし、という感じだけど、女性陣はそうはいかない。

ゼノヴィア以外は今も顔を赤くして俺から視線をそらしている。

 

俺、どれくらいやらかしたんだろう・・・・・・

想像すると怖くなってきた。

 

部長が口を開く。

 

「ま、まぁ、イッセーが元に戻ってくれたのは嬉しいし、イッセーに胸を差し出すように言ったのは私だけど・・・・・・でも、あそこまで・・・・・・」

 

あそこまで!?

それはどこまでですか!?

 

つーか、今とんでもないこと言いませんでしたか!?

発案者は部長ですか!?

 

「そうですわねぇ・・・・私もあんなに激しくされるなんて、思ってもいませんでしたから・・・・」

 

「私、いっぱい吸われてしまいましたぁ・・・・・」

 

「・・・・・私もです」

 

「・・・・・ボクなんて三回くらい」

 

「私は子育ての練習が出来たと思っているから別に構わないが」

 

「ゼノヴィア・・・皆があなたみたいに剛胆じゃないのよ。私なんて堕ちかけたんだから・・・・・」

 

「アハハハ・・・・・私、あっという間に・・・・・いかされ・・・・・」

 

うおおおおおおおおおおおい!?

なんか想像以上のことをしていたみたいなんですけど!?

どんだけ、おっぱい求めてるんだよ!?

 

ヤバイって!

謝って済む問題なのか!?

 

どうすれば良いのか分からず混乱する俺!

 

死んで詫びるしか無いんじゃないのか!?

 

「あ~あ、やっちまったなぁ、イッセー」

 

先生が俺の肩をポンと手で叩いた。

 

「先生。俺、どうすれば・・・・・」

 

「そりゃあ、決まってるだろう。こいつらに対して、それ相応の責任を取るしかないわな」

 

「せ、責任ですか?」

 

「おうよ。おまえが責任取ってくれるなら、こいつらも今回のことは水に流してくれるんじゃないか?」

 

先生の言葉を聞いて、俺は皆の方へと視線を戻す。

 

皆、顔が赤いのは相変わらずだけど、今度は目を合わしてくれた。

 

「え、えーと・・・・・お、俺で良ければ・・・・・・?」

 

と、言ってしまったけど・・・・・俺なんかで良いのかよ?

そんなことを考えていると、皆の表情がパアッと明るくなった。

 

あ・・・・・なんか、俺で良かったっぽいな・・・・・。

 

 

「あーやれやれ。今日一日でかなり疲れた。俺は帰って寝るわ」

 

「僕とギャスパーもそろそろ帰るよ。それじゃあまた」

 

「お休みなさいですぅ」

 

こうして、三人はこの空間に俺だけを残して去っていった。

 

部屋に微妙な空気が漂う。

 

き、気まずい・・・・・・

 

「あ、あの」

 

この空気をなんとかしようと声をかけようとしたら、部屋に魔法陣が展開され、アザゼル先生が再び姿を現した。

 

何事かと思い、この場の視線が先生に集まる。

 

「あー、イッセー。言い忘れていたんだが、人間界の時間で明日の夕方五時からおまえが主人公の特撮物『おっぱいドラゴン』の第一話が放送される。しっかり見ておけよ?」

 

・・・・・・・・

 

固まる部屋の空気。

 

そういえば、ギリギリまで皆には教えないようにと言われてたから、皆はまだ知らないんだった。

 

そして―――

 

『ええええええええええええええっ!?』

 

我が家に女性陣の驚愕の声が鳴り響いた。

 

 

 

 

その後、俺は新番組について皆から問い詰められ、俺がおっぱいを吸ってしまった件は一時の間、皆の頭から抜けることになった。

 

 

 

 

 




というわけで番外編3はイッセーが幼児化する話でした。
はぐれ原作では縮んだ時の記憶はあったみたいですが、今回は丸々失っていることにしました。


次話から新しい章に入りますが、更新はかなり遅くなると思います。



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第七章 放課後のラグナロク
1話 平和な日常です!!


更新遅くなりました!

今回から新章スタートです!


なんだ・・・・・・?

 

ここはどこだ・・・・・?

 

辺りは炎が燃え盛り、逃げ惑う人、泣き叫ぶ人、倒れる人、様々な人達がいた。

 

この町、以前どこかで・・・・・・

 

すると、天から一筋の黒い光が降り注ぎ、更に町を焼いていった。

今ので、さっきの人達も吹き飛んでいく・・・・・

 

そんな中、町の広場があったと思われる場所で泣いている女性が一人。

金髪の女性のようだけど、自身が流している血のせいか、所々赤く染まっていた。

 

その腕には少女が抱かれている。

しかし、その少女はピクリとも動かない。

 

『なんで・・・・・・なんで・・・・こんな・・・・・』

 

女性は泣きながらもう一方の手で持っていた槍を落とす。

 

空には黒い翼を持った何かがいた。

 

それは何も言わず、ただ女性を見下ろすだけ。

 

『もうすぐこの世界は終わりを迎える・・・・・・。俺は・・・・・・』

 

今、一言だけ発したけど、周囲の音で上手く聞きとれない。

 

女性は更に激しく涙を流す。

 

『・・・・・助けて・・・・・助けてよ・・・・・・・イッセー・・・・・・』

 

 

 

 

 

 

そこで俺は目が覚めた。

 

上半身を起こして周囲を見渡す。

 

・・・・自分の部屋。

 

俺はいつものように皆と同じベッドの上で寝ていた。

皆も何か変わっているところは特になく、スースーと寝息をたてている。

 

隣には美羽と部長。足元には小猫ちゃんや朱乃さん。アーシアやゼノヴィア、イリナ、レイナもいる。

いつもの光景だ。

 

何だったんだ・・・・さっきの夢は?

夢にしては妙にリアルで、夢って感じがしなかった。

 

それに、あの泣いていた女性って・・・・・

 

いや、確証はない。

だけど、何でか分からないけどそう思えた。

 

 

何でこんな夢・・・・・・。

 

もしかして・・・・・・・・。

 

いや、まさかな。

 

俺は首を横に振って頭に過った嫌な考えを消し去った。

 

 

ふと、時計を見てみると時刻は朝の五時。

修行の時間か。

 

俺はベッドから起きると手早くジャージに着替えて、早朝の修行へと向かった。

 

 

 

 

 

 

『ふははははは! ついに貴様の最後だ! 乳龍帝よ!』

 

戦隊ものでよく出てきそうな派手な格好をした怪人が高笑いしていた。

 

『この乳龍帝がおまえ達闇の軍団に負けるわけにはいかない! いくぜ! 禁手化(バランス・ブレイク)!!』

 

俺そっくりの特撮ヒーローが一瞬、赤い光に包まれたと思うと、変身した。

その姿は俺の赤龍帝の鎧まんまだった。

 

兵藤家の地下一階にある大広間にはシアターがあるんだけど、俺達グレモリー眷属、美羽、イリナ、レイナ、アザゼル先生、そして俺の両親がここに集まっていた。

 

鑑賞作品は『乳龍帝おっぱいドラゴン』。

俺を主役とした子供向けのヒーロー番組だ。

と、言っても、俺自身が演じているわけではなく、俺と背格好が同じ役者さんにCGで俺の顔をはめ込んで加工している。

 

「・・・・・始まってすぐに大人気みたいです。子供だけでなく、一部の大人にも人気が出ているそうです」

 

膝上の小猫ちゃんが尻尾をふりふりさせなが言う。

うーん、ラブリーだよ小猫ちゃん。

 

この間、第一話を見てみたけど、思っていた以上にストーリーがしっかりしていて驚いたよ。

更には視聴率が七十%を超えたと聞いたときには驚くなんてものじゃなかった。

 

 

物語のあらすじはこうだ。

伝説のドラゴンと契約した若手悪魔のイッセー・グレモリーは悪魔に敵対する邪悪な組織と戦うヒーローである。

おっぱいを愛し、おっぱいと平和のために戦う男。

邪悪な闇の軍団を倒すため、伝説のおっぱいドラゴンとなるのだ!

・・・・・・とのこと。

 

 

正直言おう。

チョー恥ずかしい!

だって、俺の親まで真剣に見てるんだぜ?

録画もしているみたいだし!

 

父さんがつまみを食べながら言う

 

「いやいや、俺もガキのころはこういうのに憧れたもんだ。近所の友達とヒーローごっこなんてしてな。誰がヒーローをするかでよくもめたよ。まさか、俺の息子が特撮のヒーローを演じるとはなぁ。人生何が起こるか分かったもんじゃない」

 

俺もそう思うよ、父さん・・・・・。

 

父さんの横では母さんが皆のコップにお茶を注いでいる。

 

「でも・・・・タイトルが『おっぱいドラゴン』・・・・・子供から人気があるの良いことなんだけど・・・・・・複雑よねぇ」

 

ですよね!

それにも同意するぜ!

よく、こんなタイトルで通ったな!

 

「この番組に出てくる鎧は本物そっくりだね。この籠手のおもちゃもよく再現されてるし。すごい再現度だよ」

 

木場がおもちゃ版赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)をまじまじと眺めている。

 

そう、実は始まってすぐにグッズも販売し出していると言う。

木場が今手にしている籠手のおもちゃもその一つ。

ボタンを押すと本物みたいに音声が鳴って宝玉が光るんだ。

他にも色々と販売されており、アザゼル先生、サーゼクスさん、セラフォルーさんが作曲した『おっぱいドラゴンの歌』という曲もバカ売れしているとのこと・・・・・・

 

うーん、悪魔ってよく分からんね。

話には聞いていたけど、冥界には娯楽と言えるものが本当になかったらしい。

 

画面では敵の罠にかかり、ピンチに陥った主人公の姿があるが、そこへヒロインが登場した。

 

『おっぱいドラゴン! 来たわよ!』

 

登場したのドレスを着た部長だった。

もちろん本物じゃなく、俺同様に部長と似た背格好の役者さんに部長の顔を加工している。

 

『おおっ! スイッチ姫! これで勝てる!』

 

主人公がスイッチ姫のおっぱいにタッチした。

すると、主人公の鎧が赤く輝きを放った!

つーか、スイッチ姫って何!?

 

『うおおおお! エネルギー全快! いくぜ、天武(ゼノン)!!』

 

おいおい、天武(ゼノン)まで再現されてるじゃねーか。

 

俺の全てを番組で流す気かよ?

いや、別に良いんだけどね?

 

「おっぱいドラゴンの味方にスイッチ姫がいるんだよ。ピンチになったとき、スイッチ姫の乳を触ることでおっぱいドラゴンはパワーを得るんだ!」

 

ノリノリでアザゼル先生が解説をくれた。

 

天武(ゼノン)は乳を触らなくても使えるんだけど・・・・・

そこは番組仕様なんだろうか・・・・・・

 

 

スパンッ!

 

 

先生の頭を部長がハリセンで叩く。

 

「・・・・・アザゼル、どういうことかしら? ス、スイッチ姫って・・・・・」

 

「あー、それな。イッセーは女の胸をつついて禁手に至ったと聞いてな。それを参考にしたのさ。女の胸を触ることでパワーアップ出来るんじゃないかとな」

 

「どうして私なのよ!?」

 

「おまえは冥界では有名で人気もある。主演女優としてはピッタリだろう?」

 

そんな理由で部長がスイッチ姫に!?

不憫だ!

あまりに部長が不憫すぎる!

 

先生、部長に謝ってください!

部長が泣きそうになってるんですけど!

 

アザゼル先生が俺に尋ねてきた。

 

「そういえば、イッセー。おまえの新形態あるだろ?」

 

「『天撃(エクリプス)』ですか?」

 

「おう、それそれ。それも今後の物語でいれていくつもりだから、今度話を聞かせてくれ」

 

「まぁ、良いですけど・・・・・」

 

下手に弱点とか出さないでくださいよ?

一応、俺の切り札なんで・・・・・。

 

アザゼル先生が嬉々として言う。

 

「そうか! これで新商品の開発も進みそうだ。あ、それからな、今後のストーリーにグレモリー眷属であるおまえ達にも役割が回ってくるからな。そこのところ覚えといてくれ」

 

それは初耳だ。

ということは木場達もこの番組に出てくるのか。

どんな役回りになるんだろうな。

 

「・・・・・もう、冥界を歩けないわ」

 

部長はため息混じりにつぶやく。

俺もですよ、部長。

見つかったら、「あ、おっぱいドラゴンだ!」って指差されそうだし・・・・。

 

『もう、どーでもいいじゃないか。どーせ、俺達は乳龍帝でおっぱいドラゴンだ・・・・・・』

 

俺と部長以上にため息をつく人がいた。

ドライグはこの放送が始まってからずっとこんな感じだ。

まぁ、乳龍帝だもんな。

 

二天龍の片割れ、赤龍帝として畏怖されてきたドライグからすればショックだよなぁ。

心中察するぜ、ドライグ。

 

『うぅ・・・・・・相棒・・・・・・・』

 

あ、でも部長のおっぱいでパワーアップしてみたいという自分もいるんだよなぁ。

 

『うおおおおおおん!! もうイヤだ、こんな世界!』

 

あー、泣いてしまったよ。

スマン、ドライグ。

そこをなんとか立ち直ってくれ。

 

「でもでも、幼馴染みがこうやって有名になるって、鼻高々でもあるわよねー」

 

イリナがはしゃぎながら言う。

この娘、すっかり『おっぱいドラゴン』を楽しんでるな。

 

「そういえば、私もイッセー君とヒーローごっことかしてたよね。懐かしいものだわ」

 

と、イリナが変身ポーズをしながら言う。

 

あー、そのポーズ覚えてる。

俺が小さい頃に好きだったヒーローのものだ。

 

「やったやった。あの頃のイリナってやんちゃなイメージが強かったよ。それが今では美少女になってるんだから人の成長って分からないもんだ」

 

あの頃はイリナのことを完全に男の子だと思ってたからなぁ。

再会したときの衝撃は相当のものだった。

正直、イリナが聖剣持ってたことよりも驚いたよ。

 

俺の言葉を受けて、途端に顔を真っ赤にするイリナ。

 

「もう! イッセー君ったら、そんな風に口説くんだから! そんなこと言われたら私、堕ちちゃう!」

 

イリナの羽が白黒に点滅し出した!

これが堕天の瞬間なのか?

 

天使が欲を持つと、堕ちるって聞いてたけど、こんな感じなんだな。

 

それを見て先生が豪快に笑う。

 

「ハハハハ! 安心しろ。ミカエル直属の部下だ。堕天してきたら、VIP待遇で歓迎するぜ!」

 

「いやぁぁぁぁぁ! 堕天使のボスが勧誘してくるぅぅぅぅ!!」

 

イリナが涙目で天へ祈りを捧げていた。

 

隣にいた父さんがこの光景を見ながら言った。

 

「うーん、賑やかなもんだ。こうして見ていると、なんだな。今更ながら、悪魔とか天使とか堕天使とか、関係なく思えてくるな」

 

全くだ。

ついこの間までは敵対していた者同士なんだぜ?

これを見ているとそうは思えないよな。

それがこうやってワイワイ出来るんだ。

種族が違っていてもさ、分かりあえるんだよ。

 

すると、父さんは顔を寄せて、皆に聞こえない声で俺に尋ねてきた。

 

(それで、あの事(・・・)についてはまだ話してないんだな?)

 

あの事・・・・・父さんが言っているのは俺と美羽についてのことだ。

 

俺が異世界で魔王を倒して帰ってきたこと、美羽が魔王の娘であり、その身を守るために俺がこちらの世界に連れて帰ってきたこと。

 

そのことは、父さんと母さん以外には誰にも話していない。

 

もちろん、皆を信用してないわけじゃない。

むしろ、十分な信頼をおいている。

話したからって美羽に酷いことをしてくることは無い。

 

ただ、どこから情報が漏れるかなんてのは分からない。

美羽に危険がおよぶ可能性が僅かにでもあるのなら、このまま黙っていたいと思っている。

 

皆も俺や美羽について聞きたいこともあるのだろうけど、それをしてこないのは皆の優しさだ。

皆に隠し事をしなければいけないのは心苦しいけど、もうしばらくはそれに甘えていたいと思う。

 

父さんは俺の表情を見て察したのか、小さく息を吐く。

 

(そうか・・・・。まぁ、おまえやドライグの話を聞いている限り、口外しないほうが良いんだろうな。・・・・・分かった。俺と母さんも今の状態を継続しよう。・・・・・だがな、イッセー。隠し事というのはいつかバレるもんだ。その時のことを考えておかないと後々、面倒なことになるぞ)

 

父さんの言う通りだ。

隠し事はいつかはバレる。

 

俺や美羽のことだっていつかは皆に知られてしまうだろう。

その時、俺は―――

 

(・・・・・分かってるさ)

 

(それなら良い。・・・・・俺や母さんはおまえみたいな経験はしたことがないし、人外についてだってほとんど分からない。おまえのような力だってない。だけどな、俺達はおまえ達の親なんだ。出来ることなら何でもする。だからいつでも頼ってくれ)

 

父さんの今の言葉に、旧魔王派の連中との戦いを終えて家に帰った時のことを思い出す。

 

帰ってきた俺の右腕を見た父さんと母さんは何があったのかと問い詰めてきたんだ。

俺は起こったことを全て話した。

全てを知った時、母さんは「これ以上無茶をしないでくれ」と泣きついてきた。

まぁ、右腕を失う直前までいったんだ当然の反応だよな。

 

だけど、父さんはこう言ったんだ。

 

「俺達がいくら言ってもおまえは止まるつもりがないのだろう? だったらおまえは自分が選んだ道を突き進め。俺も出来る限り、おまえを支える。だから、俺たちのことも頼ってくれ」―――――――と。

 

父さんだって、本当は母さんと同じ気持ちのはずなんだ。

俺だって、両親に心配をかけたくない。

 

だけど、俺は仲間のためなら全力で戦うととっくの昔に覚悟を決めている。

仲間を見捨てるわけにはいかない。

ここで止まるわけにはいかないんだ。

 

その気持ちを父さんは汲んでくれた。

 

「ありがとう、父さん」

 

「何言ってんだ。俺はおまえの父親なんだ。当然のことさ。だけど、無茶は程々にしろ。母さんだけじゃないここにいる皆がおまえのことを思っている。忘れるなよ?」

 

分かっているよ、父さん。

 

 

父さんとの会話を終えた後も『おっぱいドラゴン』の鑑賞会は続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

昼休み中の駒王学園。

 

俺は松田と元浜、そして美羽達と弁当を食べていた。

 

「はい、卵焼き。あーん」

 

「あーん」

 

「イッセーさん、お茶をどうぞ」

 

「サンキュー、アーシア」

 

美羽に食べさせてもらった卵焼きを呑み込んだ後、左手でアーシアから渡されたお茶を啜る。

美少女二人が両隣に座って、ご飯を食べさせてくれる!

いやー、最高の昼休みだな!

 

まぁ、当然のように松田と元浜は血の涙を流しながら睨んでくるわけで・・・・

 

「なんで!? なんでイッセーばかりが!」

 

「美少女からの『あーん』だと!? そんなイベントがなぜお前にだけ起こるのだ!?」

 

二人は自分の弁当を食べながら俺に泣き叫んでくる。

 

「しょうがねぇだろ。今は右腕使えないんだからさ」

 

そう、美羽とアーシアに食べさせてもらっている理由はここにある。

 

イグニスを使った代償で俺の右腕は炭になる寸前だった。

アーシアと美羽の治療のおかげで右腕を失わずに済んだものの、あれから数日が経った今でもうまく動かせない状況だ。

全く動かせないわけじゃない。

だけど、無理に右手で食べようとすると食べ物を落としてしまうことが多々ある。

授業中のノートも美羽に任せている状態だ。

それに、最近の修行だって、ティアとのスパーリングは無しに基礎トレーニングに重点を置いた修行を行っている。

 

冥界の病院やグリゴリの施設で診てもらったところ、腕を動かすのに重要な神経やら筋肉やらがいくつか完全に焼失していたらしい。

アーシアの神器でも完全に治せなかったのはそのためだ。

 

今は、失った部分を元に戻す再生治療を受けているところで、それが上手くいけば腕は動かせるようになるかもしれないと担当医に言われたんだけど・・・・

完全に失ったものを元に戻すには冥界の技術でも難しいらしく、以前の状態に戻すにはもう少し時間がかかるとのことだ。

 

はぁ・・・

 

利き腕が使えなくなるってのは本当に不便なんだぜ?

着替える時もかなり苦労するし・・・・

 

まぁ、今みたいに嬉しいこともあるわけだけどね。

 

「しっかし、そんな大ケガするなんて。俺達もヤカンには注意しないとな」

 

「うむ。一度の不注意が大惨事になるかもしれないというのがイッセーを見ていて良く分かった。美少女に囲まれるのは羨ましいことだが、腕が使えなくなるのはな・・・」

 

あ、ちなみに学園の皆には誤ってヤカンの熱湯を腕に被ったって言ってあるんだ。

まぁ、実際はそれどころじゃないんだけどね。

 

「そういうことだ。おまえらも火傷には十分注意しろよ?」

 

俺の言葉に悪友二人は深く頷いた。

 

すると、元浜が何かを思い出したようだった。

 

「そういえば、修学旅行の班決めをしないとな」

 

あー、修学旅行があるんだった。

ここのところ忙しくて完全に忘れてたよ。

俺達二年生は京都に行くんだ。

 

「えーと、男子女子混合で五人以上十人以下だっけか」

 

俺が尋ねると松田が頷く。

 

「そうそう。俺達三人組はとりあえず決まりだ。嫌われ者だからな、俺ら」

 

言うな、ハゲよ。

 

俺の評価自体はこいつらよりは上らしいが、一部の女子にはエロ男子高校生として嫌われている。

まぁ、女子の割合が大きいからか、その辺りも厳しいもんだ。

 

妹の美羽を除いたら、仲が良いのはアーシア、ゼノヴィア、イリナ、レイナ、それから桐生か。

まぁ、他にも仲が良い女子生徒はいるけど、四~五人程度だ。

 

あ、でもシトリー眷属の人達を入れたらもっと多いのかな?

 

「エロ三人組。修学旅行のとき、うちらと組まない? 美少女だらけよ?」

 

メガネ女子の桐生が申し出てきた。

何だ、そのいやらしい顔は?

 

 

「ああ、おまえ以外は美少女だな」

 

「うっさい! で? どうするのよ?」

 

「まぁ、良いんじゃないか? いつもつるんでるメンバーの方が良いだろ」

 

俺が答えると桐生はメガネをくいっとあげながらニヤリと笑った。

 

「そんじゃ決まりね。じゃあ、修学旅行の班メンバーはこの九人ってことで坂田先生に提出しとくわ」

 

「おう、頼むわ」

 

ということで修学旅行の班が決まった。

 

男子は俺、松田、元浜の三人。

女子は美羽、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、レイナ、桐生の六人だ。

 

メンバーが決まったので、今度、どこを回るか決めることになった。

 

観光地を調べておくか。

 

そういや、京都には天龍寺があるんだっけ?

俺、二天龍のドライグを宿してるから、一度行ってみるのも良いかもしれないな。

 

今度、旅行に必要なものを買いにいくとしよう。

 

「お兄ちゃん、次は何が食べたい?」

 

「そうだなー、唐揚げをたのむよ」

 

「うん、分かった。はい、あーん」

 

「あーん」

 

 

うん、やっぱり美羽が作った唐揚げは美味かった!

 

 

 

 

 

 

 



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2話 英雄派の影

町にある廃工場。

 

そこに俺達グレモリー眷属、イリナ、レイナは集まっていた。

 

すでに日は落ちていて、空は暗くなりつつある。

 

薄暗い工場内に多数の気配。

更に言うなら、殺意と敵意が俺達に向けて発せられている。

 

「――――グレモリー眷属か。嗅ぎ付けるのが早い」

 

暗がりから現れたのは黒いコートを着た男性。

男の周囲からは人型の黒い異形の存在が複数。

十や二十じゃない。

この狭い工場内に黒い人型モンスターが百近くいる。

 

部長が一歩前に出る。

 

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』―――英雄派ね? ごきげんよう、私はリアス・グレモリー。三大勢力よりこの地を任されている上級悪魔よ」

 

部長の挨拶を聞いて、男が薄く笑みを浮かべる。

 

「ああ、存じ上げておりますとも。魔王の妹君。我々の目的は貴様たち悪魔を浄化し、町を救うことだからな」

 

敵意剥き出しの発言だな。

 

そう、目の前にいる奴らは英雄派とかいう『禍の団』の構成員。

ここのところ、この英雄派が俺達に襲撃してくる。

アザゼル先生や部長が言うには各勢力の重要拠点も英雄派の襲撃を頻繁に受けているとのことだ。

 

英雄派は英雄や勇者の末裔、神器所有者で構成されているためか、俺達の相手は人間が多い。

 

ちなみにだが、俺達グレモリーとイリナ、レイナがオフェンスに回り、シトリーと美羽が町の防衛に当たっている。

 

 

男の横から人影が二つ。

二人とも人間だ。

サングラスをした男性と中国の民族衣装らしきものを着た男性。

それからもう一人、離れたところから狙っているやつがいるな。

 

あの三人の周囲にいる黒いやつは神器か何かで産み出されたものだろう。

英雄派ではあれを兵隊として使っているようだ。

ちなみに強さは一般的な下級悪魔レベルでは相手にならない。

まぁ、俺達の実力は中級から上級悪魔レベルだから全然いけるけどね。

 

『(何を言う。相棒が本気を出せば上級どころか魔王クラスではないか。そもそも、このレベルの相手なら相棒だけで瞬殺だろう?)』

 

いやー、俺も最初は一人で十分って言ったんだけどね。

皆、心配性でさ。

俺の腕のことを気にしてくれているんだ。

 

まぁ、皆からは無茶をするなって言われてるし、しばらくはサポートに徹するさ。

 

というわけで、今のフォーメーションはこうだ。

 

前衛は木場とゼノヴィア、そして小猫ちゃん。

今みたいに狭い空間ではデュランダルは威力が大きすぎるから、ゼノヴィアはアスカロンを使って戦う。

 

今思えば、あのアスカロン、俺がもらったのにほとんどゼノヴィアが使ってるな・・・・・・

まぁ、良いけど。

 

中衛は俺、イリナ、ギャスパーの三人だ。

俺達は前衛の三人が討ち漏らした敵を打倒するのが役割だ。

ギャスパーは邪眼を使って前衛の三人のサポートするのが役目。

 

後衛は部長、朱乃さん、アーシア、レイナ。

部長は司令塔をしつつの支援攻撃をする。

朱乃さんも魔力で後方から支援。

アーシアはダメージを受けた味方に回復のオーラを飛ばすのが役割だ。

そして、レイナの役割だけど彼女は後衛、特に回復要員であるアーシアの護衛と援護攻撃だ。

レイナの武器は手に持った二丁銃で、それを使って戦闘を行うらしい。

ちなみにその二丁銃はアザゼル先生お手製とのこと。

 

これが俺達、オカルト研究部のフォーメーションだ。

まぁ、万全の状態だったら俺も前衛に回るんだけどね。

 

敵が俺達のフォーメーションを確認すると、黒いコートを着た男性が手から白い炎を発現させた。

 

「また、神器所有者か・・・・・」

 

木場が呟く。

 

「困ったものね。ここのところ、神器所有者とばかりと戦っているわ」

 

部長も嘆息する。

 

 

炎を揺らす男がこちらへ攻撃を仕掛けようとした瞬間――――

 

ヒュッ!

 

 

「ガッ・・・・・・・な、何・・・・・」

 

男は鮮血を撒き散らして、その場に倒れる。

 

「悪いね。速攻で決めさせてもらうよ」

 

木場が聖魔剣を振るうと、刀身についていた血が飛び散った。

 

そう、開幕と同時に木場が男を速攻で斬り伏せたんだ。

さっきの木場は今までで一番速かった。

 

木場は開始直前まで、脚に魔力を溜めているようだった。

そして、開始と同時に溜めていた魔力を一気に解放した。

 

なるほど・・・・・。

俺や小猫ちゃんが気や魔力を拳に纏わせて威力を上げるように、木場は脚に魔力を溜めることで速力を一気に上げた、ということか。

 

やるじゃねぇか、木場のやつ。

 

 

「「・・・・・・・・っ!!」」

 

いきなり仲間がやられたことで相手もかなり動揺してるな。

だけど、すぐに冷静になったのか、すぐに後ろに下がり、その代わりに異形の戦闘員が前に出てきた。

 

構成員の一人が叫ぶ。

 

「赤龍帝を狙え! やつは片腕が使えない状態だ! やつが回復したら後々の脅威になるぞ!」

 

その言葉に異形の戦闘員が俺めがけて走ってくる。

あまりに数が多いため木場達前衛組も突破を許してしまう。

 

つーか、ターゲットは俺ですか。

どうやら、俺が万全じゃないことは相手も知っているらしい。

 

『まぁ、ある意味良い判断だな。相棒が全快したら相手にとっては非常にやっかいだろうからな。だが、甘い』

 

そうだな。

 

いくら片腕が使えなくても、この程度のやつらに負ける俺じゃない!

 

「おらぁ!!」

 

俺は突っ込んできた戦闘員の顔面目掛けて回し蹴りを放つ!

 

 

ドガアァァァァァン!!

 

 

蹴りが直撃した戦闘員は勢いよく飛ばされ、工場の壁に激突した!

 

あー! 壁に大穴が空いた!

 

やり過ぎたか!?

 

「イッセー、もう少し加減出来ないかしら?」

 

部長が半目で言ってきた!

 

すいません、部長!

 

『というより、サポートに徹するんじゃなかったのか?』

 

仕方がないだろ!

 

向こうから狙ってくるんだからよ!

 

おっと、またきたぞ。

 

「もう! イッセー君は無理しないの!」

 

「僕達もいるですぅ!」

 

俺へと向かってきた戦闘員はギャスパーによって停止させられ、その隙にイリナが光の槍で倒していく。

 

うん、最近の戦闘で二人のコンビネーションが良くなってきてるな!

 

ギャスパーも出会った頃と比べるとかなり神器を使えるようになってきてる!

よくやったぞ、ギャスパー!

 

 

イリナが光の槍を投擲する!

それは真っ直ぐに突き進み、サングラスをかけた男を捉えた――――かのように見えた。

 

 

ズヌンッ

 

 

光の槍が消えた!?

相手に当たる瞬間に工場内の影が伸びてイリナの攻撃を飲み込んだ。

あれは影を操る能力?

あの男の神器か。

 

神速で斬り込む木場。

聖魔剣が男性に降りかかるが、影が素早く動き木場の剣を飲み込んだ!

 

 

ビュッ

 

 

木場自身の影から聖魔剣の刀身が勢いよく飛び出す!

木場は瞬時に地面を蹴って、回避することに成功した。

 

「影で飲み込んだものを任意の影へ転移できる能力・・・・・。厄介な部類の神器だ」

 

木場が目を細めながら呟く。

 

そうなると、さっきのイリナの槍は!

 

 

ブオンッ

 

 

空気が震える音と共に建物の影からイリナの槍が飛び出した!

 

狙いはアーシアか!

 

「私に任せて!」

 

レイナがアーシアを庇うように立つと手に持った銃を槍に向けて引き金を引いた。

 

 

ガンッ!

 

 

銃口から光の弾丸が飛び出し、イリナの槍を破壊した!

 

「アーシアはやらせないわ!」

 

すげぇなあの銃。

イリナの槍をあっさりと破壊したぞ。

 

レイナ曰く、あの銃はレイナの光力を圧縮して放つことが出来るらしく、近距離戦よりも中距離~遠距離戦が得意なレイナの戦闘スタイルに合わせた武器となっているらしい。

 

うーん、流石はアザゼル先生のお手製だな!

 

 

アーシアは戦闘において重要な回復要員だ。

やられるわけにはいかない。

 

レイナが守ってくれているお陰で俺達は目の前の戦闘に集中できるからとても助かっている。

 

 

ビュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!

 

 

俺の視界に青く光輝くものが映り込む。

 

民族衣装の男が光で出来ている弓と矢で俺達を狙っていた!

 

光は悪魔にとって猛毒。

俺達のうち、イリナとレイナ以外のメンバーがくらえば大ダメージは免れない。 

 

ここは、俺が―――

 

と、思っていると聖なる斬撃が男に向かって放たれた!

 

「ぐあぁ!!」

 

聖なる斬撃は男に直撃し、男は矢を放つことなく、壁に叩きつけられ気絶した。

 

「ふぅ、なんとか威力は抑えられたな」

 

息を吐く、ゼノヴィア。

 

そう、今の攻撃はゼノヴィアがアスカロンを使って放ったものだ。

工場を破壊しないように威力を抑えたみたいだけど、相手を倒すには十分すぎる威力があったようだ。

 

後は―――

 

「レイナ、あそこを狙い打て! 俺達を狙っているやつがいるぞ!」

 

俺は工場の外を指差して、レイナに伝える。

 

レイナもそれに瞬時に反応して銃を構えた。

 

「分かったわ! 逃がさないわよ!」

 

レイナの銃が光の弾丸を撃ち出す!

 

すると―――

 

「ぎゃっ!」

 

向こうの方から敵の声が聞こえた。

かなりの距離があるみたいだけど命中したらしい。

それに、気の位置が動く様子がないところを見ると、良いところに命中したようだ。

 

よし、これで残るはサングラスの男と戦闘員だけだ!

 

ただ、あいつの影を操る能力は厄介だな。

さて、どうしたものか・・・・・・

 

俺が考えていると部長が指示を送ってくれた。

 

「前衛組、指示を出すわ。祐斗は影使いを狙って! 小猫とゼノヴィアは雑魚の方を蹴散らして祐斗の活路を開いて! 中衛、後衛は全力でサポート! 一気に片をつけるわよ!」

 

『了解!』

 

全員が応じ、一気に動き出す!

 

ゼノヴィアと小猫ちゃんが先行して、戦闘員を蹴散らしていく!

ゼノヴィアはアスカロンで凪ぎ払い、小猫ちゃんは気を纏った拳を的確にぶつけていく!

 

中衛組の俺やイリナだけでなく部長や朱乃さん、レイナも後方からの支援攻撃で敵を殲滅していく!

 

いくら数が多くても、このメンバーなら大概の敵は倒せそうだ!

 

戦闘員が霧散し、その隙に木場が影使いに迫る!

そして、木場は影使いへと斬りかかる!

 

 

ドウンッ!

 

 

再び吸い込まれる聖魔剣の刀身!

この後、どこかの影から聖魔剣が飛び出してくるはずだ!

 

 

ビュッ!

 

 

飛び出してきたのは戦闘員に対して蹴りを放っていた俺の影からだ!

 

「イッセー! それをかわして、影へ気弾を撃ち出して!」

 

了解!

 

俺は最小限の動きで、聖魔剣の刀身を避ける!

そして、影へ向かって気弾を放った!

 

 

ドンッ! ドウンッ!

 

 

やっぱり、俺の気弾は吸い込まれていく!

 

・・・・・なるほど。

そういうことですか、部長!

 

「祐斗! 影で繋がってるから、イッセーの気弾がそちらに来るわ! 影から出てくる前に影の中で気弾を両断してちょうだい!」

 

「了解です!」

 

部長の指示に従い、木場が影の中で聖魔剣を振るった!

 

 

ドオオオオオオオオンッ!

 

 

「ぐわっ!」

 

 

爆発音と悲鳴が工場内に響く!

見れば影使いがボロボロになって吹っ飛ばされていた!

 

「やはりね。攻撃そのものは受け流すことは出来ても、弾けた威力までは受け流すことは出来ない。予想が当たってくれて良かったわ」

 

部長が不敵な笑みを浮かべる。

 

流石は部長、良い着眼点だ。

 

さてさて、戦闘員は全て倒したし、残っていた影使いも倒した。

 

「部長、工場の外から狙っていた奴も連れてきましょうか?」

 

「そうね。それはゼノヴィアと小猫に任せるとするわ。二人ともお願いできるかしら」

 

部長のお願いにゼノヴィアと小猫ちゃんが頷く。

 

「了解だ。小猫、行くぞ」

 

「・・・・・はい、ゼノヴィア先輩」

 

ゼノヴィアが猫耳モードの小猫ちゃんを連れて工場から出ていく。

 

敵の気配もないし、とりあえずは戦闘終了だ。

あー、終わったー。

俺は腰を伸ばして軽いストレッチをする。

 

すると――――

 

「・・・・・・ぬおおおおおおおおっ!!!」

 

先程倒した影使いがふらふらの状態で立ち上がり、絶叫した。

 

・・・・・・おいおい、さっきのでかなりのダメージを受けたはずなのによく立てたな。

 

俺がそんなことを考えていると、男の体に黒いモヤモヤが包んでいく。

更に影が広がり、工場内を包み込もうとしていた。

 

なんだ・・・・・これは・・・・・・?

 

さっきまでとは違う。

明らかに力が上がっている。

何が起きたんだ・・・・・・・?

 

 

カッ!

 

 

影使いの足元に光が走り、何かの魔法陣が展開される。

見たことがない魔法陣だ。

グレモリー家で習ったもののどれとも一致しない紋様だった。

アザゼル先生やレイナが使っている堕天使のものでもない。

 

魔法陣の光に影使いは包まれていき、一瞬の閃光のあと、影使いはこの場から消えた。

 

 

 

 

 

 

「皆、お疲れさま。誰もケガしなくて良かったよ」

 

影使いが消えた後、俺達はその場に残された神器所有者を捕縛して冥界に送った。

 

そんでもって、今はオカ研の部室でくつろいでいるところだ。

 

木場が言う。

 

「そうだね。イッセー君の方は大丈夫なのかい?」

 

「おう。俺もいたって無傷だよ。まぁ、あの程度なら腕を使わなくても倒せるさ」

 

「ハハハ、流石だね」

 

「そう言う木場の方こそ。開幕早々に倒したじゃねぇか。あれには驚いたぞ」

 

「あぁ、アレね。イッセー君や小猫ちゃんの戦い方を参考にさせてもらったよ。僕は普段は魔力をあまり使わないからね。結構練習してたんだけど、今日はその成果を出せたよ」

 

へぇ。

 

木場のやつ、いつの間にそんなことしてたんだよ。

 

もし、木場がそれを完璧にマスターしたら、かなりのスピード強化になるな。

 

木場はグレモリー眷属の中でも成長が早い。

このままいけば、数年後くらいには俺も抜かれてるかも・・・・・・

 

うーん、俺ももっと修行しないと・・・・・・

イケメンには負けたくない。

 

『(負けたくない理由がそこか)』

 

そうだよ。

言っておくがな、これはかなり重要なことだぞ、ドライグ。

イケメンのうえに強いなんて、反則過ぎるだろ。

顔ではこいつには勝てそうにないから、せめて強さだけは勝っておきたい!

 

『(はぁ・・・・・・。相棒らしいというかなんというか・・・・・)』

 

おーい、そんなに気落ちするなよ。

俺の性格なんてずっと前から分かってるだろ?

 

まぁ、なんにしても強くなっておいて損はないだろ。

 

「それにしても、厄介なことになってきたね」

 

嘆息しながら木場が言う。

 

「どういうことだ、木場」

 

「刺客の神器所有者に特殊技を有する者が出てきたってことさ。今までは向こうも力押しで来ていたけど、テクニックタイプに秀でる者が現れてきた」

 

あー、木場が言いたいことが分かった。

 

「つまり、向こうは俺達について分析してきているってことか?」

 

「そう。僕達は基本的にパワータイプが多い。まぁ、僕やイッセー君のようにテクニックを有するメンバーもいるけど、メンバーのほとんどが強力な力を有している」

 

確かに、俺は赤龍帝だし、木場は聖魔剣を持ってる。

他にも部長の滅びの魔力や朱乃さんの雷光、ゼノヴィアのデュランダルなんかも攻撃力が非常に高い。

 

木場は続ける。

 

「もしかしたら、相手は気づいたんだろうね。直接防御出来ないなら、別の形でいなせば良いと」

 

相手を研究するタイプの敵か・・・・・。

英雄派ってのは随分と厄介なやつらの集まりらしいな。

 

「それにしても変よね」

 

イリナの言葉に全員の視線が集まる。

 

「どういうことだ?」

 

ゼノヴィアがイリナに尋ねる。

 

「私達と英雄派が戦ったのって一度や二度ではないでしょう? それこそ、本気で私たちを倒したいのなら、最初の二、三回ぐらいで戦術プランを立ててくると思うの。向こうにだって戦術家はいるだろうし。それで四度目辺りで決戦をしかけてくるでしょう。でも、四度目、五度目でもそれは変わらなかった。ずいぶん注意深いなーと感じたけれど……。なんていうかな、彼らのボス的な存在が何かの実験をしているんじゃないかしら?」

 

「実験?私たちの?」

 

朱乃さんの問いにイリナは首を捻った。

 

「どちらかというと、彼ら―――神器所有者の実験をしているような気がするの。・・・・・・まぁ、ただの勘だから、間違っているかもしれないけど・・・・・・・。この町以外にも他の勢力のところへ神器所有者を送り込んでいるのだから、強力な能力を持つ者が多いところにわざとしかけているんじゃないかしら」

 

イリナの言葉に皆黙り混んでしまった。

 

なるほど・・・・・・そう言う考えもあるか。

新鮮な意見だな。

 

俺は単純に各勢力の攻略としてどんどん刺客を送って、俺達の勢力の情勢を不安定にするのが目的だと思ってた。

自分の勢力が不安定になれば、こんな状況下でも我が身かわいさに足並みを揃えてこない奴も出てくるだろうし・・・・・・。

 

・・・・・神器所有者を俺達にぶつけるのは、裏に何かの思惑があるってことか。

 

ん?

 

待てよ、神器といえば――――

 

「・・・・・・劇的な変化」

 

小猫ちゃんがぼそりと呟き、全員の顔が強ばった。

 

「英雄派は俺達に神器所有者をぶつけて禁手に至らせるつもりだってことか・・・・・」

 

「そうだね。・・・・・あの影使いに起きた変化。似ているような気がするよ」

 

俺は木場の意見に頷く。

 

あの影使いが見せた変化。

あれは禁手化だってことか・・・・・・・。

 

「それが本当ならえげつないこと考えやがるな。英雄派ってのは」

 

俺の意見にイリナも続く。

 

「全くよ。何十人、何百人死んでも、一人が禁手に至ればいいって感じよね・・・・・・。最低な発想だわ」

 

部長が肩をすくめる。

 

「わからないことだらけね。後日アザゼルに問いましょう。私達だけでもこれだけの意見が出るのだから、あちらも何かしらの思惑は感じ取っていると思うし。・・・・・そろそろ帰りましょうか」

 

そうだな。

 

アザゼル先生なら俺達よりももっと深いところまで考えてそうだし。

 

そういうわけで、今日は解散となった。

 

俺は朱乃さんがいれてくれたお茶を飲んでから帰り支度を始めた。

皆も同様に帰り支度をしていくなか、朱乃さんが鼻歌を歌っていた。

すごく嬉しそうだけど、何か良いことでもあったのかな?

 

「あら、朱乃。随分とご機嫌ね。S的な楽しみでもできたの?」

 

部長の問いに朱乃さんは満面の笑みで答える。

 

「いえ、そうではないの。うふふ。明日ですもの。自然と笑みがこぼれてしまいますわ。明日はイッセー君とデート。やっとその日がやって来ましたわ」

 

あー、それか。

 

ディオドラの眷属との戦闘の時に小猫ちゃんのアドバイスで俺が言ったやつだ。

 

うん、俺もしっかり覚えてるぜ!

俺だって明日が楽しみさ!

初め、朱乃さんは俺の腕のことを気にしていたようだけど、俺は即OKした。

 

だって朱乃さんとのデートだぜ?

腕が無くなっても行くって!

 

朱乃さんは俺の腕に抱きつくとニッコリと笑う。

 

「イッセー君、明日はよろしくお願いしますわ♪」

 

その瞬間、女子部員から恐い視線が!

 

そんな目で見ないで!

 

「ええ、俺の方こそよろしくお願いします!」

 

皆の視線を振り払い、俺は笑みを浮かべてそう答えたのだった。

 

 

 



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3話 デートします!!

忙しくなる前に投稿しておきます!

それではどーぞ!


英雄派の構成員との戦闘があった次の日。

 

俺は待ち合わせ場所である駅近くのコンビニの前にいた。

 

コンビニのガラスで身だしなみをチェック!

寝癖もないし、歯もしっかり磨いてきた!

よし、準備は万端だ!

 

待ち合わせ時間である午前十時になろうとしたとき、フリル付きのかわいらしいワンピースを着た同い年くらいの女の子が俺の眼前に来た。

 

「え、えーと、あ、朱乃さん・・・・・?」

 

「ゴメンなさい、待たせちゃったかしら?」

 

「い、いえ」

 

俺は目をパチクリさせながら、胸を高鳴らせていた。

 

今の朱乃さんは髪をおろして、年相応の女の子が着るようなかわいい服を着ている。

ブーツを履いた朱乃さん、初めて見た!

 

うーん、かわいい!

 

てっきり、いつものようなお姉さま的な年上の女性が着てそうな服装をイメージしてたから、これにはビックリだ!

普段、朱乃さんが部長と出掛けるときの私服もそんな感じだったし!

 

いつもの朱乃さんは美人って感じだけど、今日はかわいく見える!

 

「そ、そんなに見られると恥ずかしいわ。・・・・・変、かな・・・・・?」

 

うぅ!

そんな上目使いで見ないでくださいよ!

ときめいちゃうじゃないですか!

 

俺は首を横に振って、親指を立てる。

 

「いえ! めちゃくちゃ可愛いです!」

 

俺がそう言うと、朱乃さんは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだった!

 

なんてこった!

今日の朱乃さんは乙女すぎる!

 

「今日イッセー君は一日私の彼氏ですわ。・・・・・・イッセー、って呼んでもいい?」

 

うおおおおおおお!?

 

顔を紅潮させながら訊いてくる朱乃さん!

反則だ!

反則すぎる!

 

「も、もちろんですよ!」

 

即答する俺!

だって、断る理由もないし・・・・・・・断れるはずがない!

 

こんなお願いを断れる奴がいるだろうか!?

いや、いない!

 

朱乃さんもそれを聞いて顔をぱぁっと明るくさせた。

 

「やったぁ。ありがとう、イッセー」

 

ぐはっ!

表情一つで必殺の威力!

 

 

あ・・・・・そういえば・・・・・・

 

俺はあることを思い出す。

会談の前、ミカエルさんと初めて出会った頃のことだ。

 

「えーと・・・・・」

 

言い淀む俺を怪訝な表情で見てくる朱乃さん。

 

「どうしたの? ・・・・・・・やっぱり、嫌だった?」

 

「いえ、以前に朱乃さんにお願いされたことを思い出しまして」

 

「お願い? 私、イッセー君に何かお願いしたかしら?」

 

あー、朱乃さん忘れてるっぽいなぁ。

まぁ、いいや。

言ってしまえ、俺!

 

「・・・・・朱乃」

 

「・・・・・・え?」

 

突然のことにポカンとする朱乃さん。

俺が何を言ったのか分からないでいるようだった。

 

「え、えーと。初めてミカエルさんと出会った後に朱乃さんと話しましたよね。その時、朱乃さんが二人の時は『朱乃』って呼んでくれと言ってたことを思い出しまして・・・・・・」

 

「・・・・・・!」

 

朱乃さんは本当に驚いた様子で少しの間、そのまま固まってしまった。

 

すると、朱乃さんは肩を震わせて手で顔を覆ってしまった!

 

えっ!?

泣いた!?

泣かせてしまったのか!?

ウソッ!?

 

混乱する俺!

やっぱり、先輩に対して呼び捨てはダメだったんだろうか・・・・・

 

「え、あ、あの、すいません! 先輩を呼び捨てなんて!」

 

俺は焦って、咄嗟に謝る。

 

あー、もう!

デート前に何やらかしてんだよ、俺!

 

すると、朱乃さんは涙を拭いながら俺の手を握ってきた。

 

「違うの・・・・・・私、嬉しくて・・・・・・イッセーが『朱乃』って呼んでくれたことが嬉しくて・・・・・・。ゴメンなさい、驚かせてしまって」

 

「い、いえ。傷つけたんじゃないなら、良かったです」

 

俺は朱乃さんにハンカチを手渡しながら言う。

 

朱乃さんは俺から受け取ったハンカチで目元を押さえるとクスッと笑った。

 

「もう、イッセーったら。不意打ちなんて卑怯よ」

 

アハハハ・・・・・

 

俺も朱乃さんから十分すぎる不意打ちを受けたんで、これであいこってことで許してください。

 

俺達はクスクスと笑いあう。

 

あー、とりあえずデートはできそうだ。

よかったよかった。

 

 

それはそうと・・・・・・・・

 

俺はふと後ろを見る。

すると、俺の視界に紅髪が映った。

よくよく見れば、少し離れた電柱の陰に紅髪の女性がサングラスと帽子を被って、こちらをうかがっている。・・・・・あ、メガネをかけた金髪の方は涙目だ。それとレスラーの覆面から猫耳を出している小柄な少女。紙袋を被った怪しい奴!そして普段の格好の木場がこちらへ手で謝っていた。

 

部長と部員達だよね!

あなた達、何やってんですか!?

木場以外はどう見ても不審者に近いんですけど!?

 

何人かメンバーが足りないな。

 

そういえば、美羽がゼノヴィア、イリナ、レイナ、母さんとショッピングに行くって言ってたような・・・・。

あそこにいないのはそれでか。

 

つーか、皆は俺が気の流れで分かるの知ってますよね?

気どころか気配すら隠すつもり無いでしょ!?

だって、こっちまで怒りのオーラが届いてるんだもん!

 

小猫ちゃんは仙術を使って気をある程度消してるみたいだけど、まだ完璧じゃないな。

今度、修行をつけてあげよう。

 

「あらあら、浮気調査にしては人数多すぎね」

 

朱乃さんも気がついたのか、小さく笑んでいた。

そして、見せつけるかのように俺に身を寄せて腕を組んでくる。

 

あー、朱乃さんの髪から良い香りがする。

それに、腕に朱乃さんの胸が・・・・・。

たまらんね!

 

バキッ

 

鈍い音が後方からする。

恐る恐る振り返ると怒りに震えている様子の部長が電柱にヒビを入れていた!

 

部長、恐いっす!

あと、それは器物破損なんでちゃんと修復してくださいよ!?

 

「ねぇ、イッセー。私のこと呼び捨てにするなら、敬語とかも無しにしてくれないかしら?」

 

「え? あ、ああ、はい。分かりました」

 

俺がそう言うと朱乃さんは俺の鼻を指でツンと押した。

 

「まだ敬語よ?」

 

「あー、普段は敬語ですからね。それが出ちゃいましたよ。・・・・・・えーと、分かった。これで良いかな?」

 

俺がそう言うと朱乃さんは微笑む。

 

「ありがとう、私の我儘を聞いてくれて」

 

「いや、こんな可愛い我儘なら大歓迎だよ」

 

「うふふ。それじゃあ、行きましょうか、イッセー」

 

「そうだね、朱乃」

 

こうして、俺と朱乃(・・)は町へと繰り出した。

 

 

ちなみにだが、再び振り返ると魔力で電柱に入ったヒビを直している部長の姿があった。

 

 

 

 

 

 

デートを始めて三時間ほど。

 

その間、朱乃はいつものお姉さま口調が完全に無くなり、完全に年頃の女の子だった。

 

服のブランドショップに行っては「ねぇ、イッセー。これ、似合う」とか、「それともこっちかしら?」って洋服を比べては俺へ普通の女の子のように訊いてくる。

 

それに対して俺は「どっちも似合ってる!」と親指を立てて答えたけどね。

だって、何着ても似合うんだもん!

 

露店で買ったクレープを一緒に食べたら「美味しいね、イッセー」とか言ってくるんだ。

 

町中を歩いているときは、ずっと手を繋いでた。

その間、朱乃は頬を染めてるんだ。

 

いやー、マジで可愛い!

今日、「可愛い」って言うの何回目だよ?

まぁ、それくらい今の朱乃は可愛いということだ!

 

よし、今日はとことん楽しむぞ!

 

俺は朱乃の手を引いて言った。

 

「朱乃! 行きたいところがあるなら言ってくれ! 俺が連れていってやるよ!」

 

「うん!」

 

あー、最高に可愛い笑顔で返事をされてしまったよ!

 

この後、俺達は朱乃のリクエストで水族館に行くことになった。

 

 

 

 

 

 

「深海魚って変な顔の子が多いのね」

 

水族館から出たばかりの朱乃は楽しそうに言った。

久しぶりに町の水族館に来たけど、良いもんだな。

小さな水族館だけど、イルカのショーとかもやっていて、すごく楽しめた。

朱乃も満足しているようだった。

 

「さて、次はどこ行こうか?」

 

「そうねぇ」

 

俺と朱乃が次の目的地を決めようとしていた時、俺の視界に再び紅髪の追跡者様ご一行が映った。

 

部長達はずっと、俺達の後ろを追ってきてるんだけど・・・・・。

凄まじいプレッシャーだったよ。

正直、戦闘時以上だった気がする・・・・・・。

 

俺、このデートが終わったら死ぬかも・・・・・・。

 

朱乃も紅髪のご一行様を確認した。

 

可愛いイタズラ笑顔を作ると、俺の手を引張りだした!

 

おおっ!?

なんだなんだ!?

 

振り向き様、朱乃が楽しそうに言った。

 

「リアスたちを撒いちゃいましょう!」

 

なんと!

そうきましたか!

 

部長達も俺達が逃げると知って、急いで駆け出したぞ!

 

つーか、速ッ!

部長達、メチャクチャ速いんですけど!?

こちらが追い付かれそうなくらいの速さだ!

そんなに必死か!

 

えぇい!

こうなったらヤケだ!

とことん付き合ってやらぁ!

 

「朱乃、捕まれ!」

 

「えっ!? キャッ」

 

俺は先を走る朱乃の手を引いて抱き上げる!

右腕が多少使えなくてもこれくらいは出来るのさ!

 

そして、俺は全力で走った!

 

出来るだけ人がいない道を選択して、町中を右に左に駆け巡り、部長達を撒く。

最終的には小猫ちゃんの探知に引掛からない距離まで逃げきった。

 

皆の気配が俺達がいる位置とは全く違う方向に移動していくのを確認すると、そこで朱乃をおろす。

 

「ふぅー、なんとか撒けたみたいだ」

 

俺は息を吐く。

いやー、美羽がいたら追いつかれてたかも・・・・・・。

 

どうせ、帰ったら皆のお怒りが飛んでくるんだ。

こうなったら、全力で楽しむさ。

 

朱乃も俺に抱き上げられている間、凄く楽しそうだったし。

 

「どうだった? 少し乱暴になっちゃったけど・・・・・」

 

俺が尋ねると朱乃は髪を押さえながら答える。

 

「ええ、風が凄く気持ちよかったわ。分かっていたけど、イッセーって物凄く足が速いのね」

 

「鍛えてますから」

 

俺がテキトーなポーズをしながら言うと朱乃は口許を抑えながらクスクス笑っていた。

 

さてさて、部長達を撒いたところでデートの再開といきますか。

 

「次はどこに行こうか?」

 

俺はあたりを見渡して、現在地を確認する。

すると、「休憩○円」「宿泊○円」の文字が書かれた看板があちらこちらにあった。

 

そこで俺は重大なミスに気付いたのだった。

 

 

ここ、ラブホテルばかりじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!

 

 

しまったぁぁぁぁぁ!

なんつーところまで走ってきてるんだよぉぉぉぉ!

 

朱乃もここもそれに気付いたようで顔を真赤にしだしたよ!

 

「ち、違うんだ! け、決して下心とかがあったわけではなくて!」

 

必死の言い訳!

だけど、こんな言い訳聞いてくれるのか!?

 

だって、朱乃からすれば、突然抱きかかえられたと思ったら連れてこられたのがラブホ街だぞ!?

信用できるわけがないじゃないか!

 

あぁ・・・とんでもないことをやらかしちまった・・・・。

今日は先輩とか後輩とか全てを忘れてデートする予定だったのに・・・・・。

 

終わった・・・・完全に嫌われるパターンなんじゃないのか・・・?

 

すると―――――

 

「・・・・いいよ」

 

「へ?」

 

朱乃が何を言っているのか分からず、俺は聞き返してしまった。

 

いいよって・・・・

 

え?

 

朱乃は俺に体を寄せてくると、俺を見上げて潤んだ瞳で言った。

 

「・・・・イッセーが入りたいなら、私、いいよ・・・。・・・・だいじょうぶだから」

 

・・・・・・・。

 

俺の鼻から鼻血が滝のように流れ出た。

 

マ、マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああっ!?

 

ほ、本当に!?

マジで!?

良いんですか!?

 

「あ、朱乃さん・・・・」

 

俺は驚きのあまり、いつものように『さん』付けで呼んでしまう。

 

朱乃さんはそのまま俺に抱き着き、俺の胸に顔を当てる。

 

「・・・・・さっきまでみたいに『朱乃』って呼んでくれないと・・・イヤ・・・・・」

 

ああああああああああ!!!!

そんなこと言われたらぁぁぁぁぁぁあああ!!!!

 

なんだこの展開!?

こ、これはもう行くしかないんじゃないのか!?

 

朱乃さん・・・・いや、朱乃にここまでされたら俺はそれに応えるしかないじゃないか!

見れば、朱乃も覚悟を決めているよ様子だった!

俺だって朱乃とそういう関係になりたい!

 

よし、行こう!

 

俺は決心して、朱乃の背中に腕を回す。

 

「あ、朱乃・・・・俺・・・・」

 

 

俺が口を開いたとき、こちらに近づいてくる気配を感じた。

 

すぐさま朱乃から離れて気配を感じた方に視線を移す。

 

そこにいたのは帽子を被ったラフな格好の爺さん。

背後にはガタイの良い男とパンツスーツを着た真面目そうなお姉さん。

 

男の方は知らないけど、爺さんとお姉さんについては見たことがある。

というか、あの爺さんとは何度か話したこともある!

 

「オーディンの爺さん!?」

 

そう、現れたのは北欧の主神オーディン!

旧魔王派との一件の時はこの爺さんと一緒に部長達を助けに行った!

 

「ほっほっほっ、久しいの赤龍帝の小僧。まったく、昼間っから女を抱こうなどとやりおるわい」

 

笑いながらそう言う爺さん。

 

「ど、どうして、ここに?」

 

あまりの展開にわずかながらに戸惑いながらもオーディンに話しかける朱乃。

 

そうだよ。

なんでこの爺さんが日本にいるんだよ?

テロが活発な時期にこんなところに来るなんて不用心だと思うぞ。

 

「オーディンさま! こ、このような場所をうろうろとされては困ります! か、神様なのですから、キチンとなさってください!」

 

お姉さんが爺さんを叱りつける。

冥界であった時は鎧着てたよな、このお姉さん。

 

「よいではないか、ロスヴァイセ。お主、勇者をもてなすヴァルキリーなんじゃから、こういう風景もよく見て覚えるんじゃな」

 

「どうせ、私は色気のないヴァルキリーですよ。あなたたちもお昼からこんなところにいちゃだめよ。ハイスクールの生徒でしょ?お家に戻って勉強しなさい勉強」

 

うーん、なんだか爺さんだけでなく俺達まで叱られてしまった。

 

はぁ・・・・朱乃とラブホテルに入る雰囲気じゃないな、これ。

無念だ・・・・。

 

ふと横を見ると朱乃がガタイの良い男性に詰め寄られていた。

 

「・・・あ、あなたは」

 

朱乃は目を見開いて、驚いている。

 

「朱乃、これはどういうことだ?」

 

男の方はキレ気味で、声音に怒気が含まれている。

す、すごい迫力だな・・・・・。

気配からするに堕天使か?

 

「か、関係ないでしょ! そ、それよりもどうしてあなたがここにいるのよ!」

 

朱乃は目つきを鋭くして、にらみ付けていた。

そこには先ほどの乙女モードの雰囲気は微塵もない。

 

「それはいまはどうでもいい! とにかく、ここを離れろ。おまえにはまだ早い」

 

朱乃の腕を掴み、強引に何処かへ連れて行こうとする!

 

「いや! 離して!」

 

抵抗する朱乃!

おいおい、いきなりなにしやがる!

 

俺は男性の腕を掴んでそれを阻止する。

 

「あんたが何者かは知らないけど、朱乃は嫌がってるだろ? 彼女を傷つけるつもりなら、俺も黙っちゃいないぜ?」

 

俺は殺気を放って男に告げる。

男は冷や汗を流しながら、俺に言った。

 

「今日はオーディン殿の護衛としてきている。私は堕天使組織グリゴリ幹部、バラキエル。――――――姫島朱乃の父親でもある」

 

「―――――――!」

 

予想外の言葉に俺は言葉を失った。

 

 



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4話 主神様が我が家に来るそうですよ!?

「ほっほっほ、というわけで訪日したぞい」

 

兵藤家の最上階にあるVIPルームでオーディンの爺さんが楽しそうに笑っている。

この部屋にはグレモリー眷属が全員集合しており、アザゼル先生もいる。

 

・・・・・・そして、何故か父さんや母さん、美羽までもがこの部屋にいた。

何でいるんだよ?

 

なんでも、日本に用があり、そのついでにこの町に来たようだ。

下手なところよりも、悪魔、天使、堕天使の三大勢力が統治するこの町にいた方が安全らしい。

 

・・・・・そのついでで俺と朱乃さんの初体験がなくなったと思うと腹立つけどな。

 

あ、今はいつものように『朱乃さん』って呼んでいる。

あれは二人きりの時って約束だからな。

 

ちなみにだが、部長達と合流した後、俺達を追跡していた女子メンバーから頬を引張られた。

俺が朱乃さんにお姫様抱っこをしたことが衝撃だったようだ。

俺なんかのお姫様抱っこで良ければいつでもするのにね。

 

朱乃さんはというと、今はいつものニコニコ笑顔さえ止めて、不機嫌な顔となっていた。

お父さんと邂逅してからずっとだ。

 

朱乃さんのお父さん―――バラキエルさんもこの場にいるけど、朱乃さんは視線すら交わさない。

 

バラキエルさんの話は以前、アザゼル先生に少しだけ聞いたことがある。

武人気質で堅物らしい。

堕天使の中でも先生と肩を並べるほど強く、一発の攻撃力なら堕天使随一だそうだ。

 

「どうぞ、お茶です」

 

と、母さんがオーディンの爺さんの前にお茶の入った湯飲みを置く。

 

母さんが神相手に応対してる!

しかも、平然と!

 

少しは驚こうよ!

 

「お、すまんの。しっかし、人間に茶を入れられるのは始めてじゃわい」

 

でしょうね!

俺もまさか、自分の母親が神相手に茶を入れるなんて思ってなかったよ!

 

戻ってきた母さんが横のソファに座る。

 

「家に神様が来るなんて、こんな機会二度とないかもしれないもの。今のうちに色々と体験しておかないとね」

 

「それにしても、神様って思ったより普通の格好してるんだな。もっとそれっぽい服を着てると思ってた。・・・・・というか、去年亡くなった林さんのところのお爺さんに似てるような・・・・・・」

 

あんたら、もう少し緊張しろよぉぉぉおおおお!!

 

目の前にいるの神様だから!

ラフな格好してるけど、北欧の主神だから!

 

つーか、林さんって誰だよ!?

 

あー、もうツッコムの疲れた・・・・・

父さんと母さんについては放置しよう・・・・・・

 

「ふむ・・・・・・デカイのぅ」

 

クソジジィ・・・・・・女子メンバーのおっぱいをいやらしい目で見てやがる!

もし、触ったら天武(ゼノン)で思いっきり殴ってやるからな!

ドライグ、もしもの時のために準備しておけよ!

 

『はぁ・・・・・・』

 

返ってきたのは相棒の盛大なため息だった。

 

 

スパンッ!

 

 

「もう! オーディンさまったら、いやらしい目線を送っちゃダメです! こちらは魔王ルシファーさまの妹君なのですよ!」

 

ヴァルキリーの人がオーディンの爺さんの頭をハリセンで叩いていた。

 

俺はそれにガッツポーズ!

相変わらず良いツッコミをしてくれるな、あの人!

冥界の病院でも同じことした記憶があるぜ!

 

「まったく、堅いのぉ。サーゼクスの妹といえばべっぴんさんでグラマーじゃからな、それりゃ、わしだって乳ぐらいまた見たくもなるわい。と、こやつはワシのお付きヴァルキリー。名は―――」

 

「ロスヴァイセと申します。日本にいる間、お世話になります。以後、お見知りおきを」

 

へぇ、ロスヴァイセっていうのか。

冥界の時のような鎧を着てないから印象が違うけど、美人だよなぁ。

年齢は俺達とそこまで変わらないのかな?

 

「彼氏いない歴=年齢の生娘ヴァルキリーじゃ」

 

爺さんが笑いながら言う。

するとロスヴァイセさんは酷く狼狽し、泣き出した。

 

「そ、そ、それは関係ないじゃないですかぁぁぁっ!わ、私だって、好きで今まで彼氏ができなかったわけじゃないんですからね! 好きで処女なわけじゃないじゃなぁぁぁぁぁいっ!」

 

ロスヴァイセさんはその場に崩れ、床を叩きだした。

 

なんだろう・・・・・・

俺、あの人にすげぇ共感できる!

 

俺だって好きで童貞してるんじゃねぇぇぇぇぇっ!!!

 

「まぁ、こういうわけでな。哀れなヴァルキリーなんじゃよ」

 

爺さんが嘆息しながら言う。

 

すると、俺と爺さんの目があった。

爺さんは何かを思いついたようで、手をポンッと叩く。

 

「そうじゃ。赤龍帝の小僧、こやつを嫁にもらってくれんかのぅ?」

 

「「は?」」

 

俺とロスヴァイセさんの声が重なる。

 

何言ってんだ、この爺さん?

 

爺さんは続ける。

 

「アザゼル坊から聞いてるぞい。赤龍帝は中々にスケベだとな。それなら、ロスヴァイセをお主の嫁にと思ったまでじゃよ。こやつは見た目だけは良いからの」

 

それで俺にロスヴァイセさんを嫁にとれってか!?

 

た、確かにロスヴァイセさんはスタイルが良いし、美人だ。

でも、いきなりすぎるぞ・・・・・・

 

「ちょ、オーディン様!?」

 

「よいではないか。赤龍帝はまだ若いが実力はある。サーゼクス達も認めるほどにな。・・・・・・ロスヴァイセよ、このままでは本当に嫁の貰い手がつかなくなるぞい」

 

「・・・・・・っ!」

 

爺さんの言葉に固まるロスヴァイセさん。

今のはかなりの衝撃があったらしい。

 

つーか、まだ嫁とか気にする歳じゃないよね、ロスヴァイセさん。

全然若いよね。

 

ロスヴァイセさんの肩が震え、次第に激しくなってきた。

 

そして――――

 

「余計なお世話ですぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 

スパァァァァァァン!!!!!

 

 

ロスヴァイセさんが振りかぶったハリセンが爺さんの頭を捉えたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ったく、何してんだか・・・・・・」

 

アザゼル先生が苦笑している。

 

「ワシは悪くないぞぃ。こやつが人の親切を無下にするから・・・・・」

 

爺さんがおでこに湿布を張りながら先生に反論する。

まぁ、あれは爺さんが悪いよね。

ロスヴァイセさんも怒るのは当然だ。

 

・・・・・まぁ、俺からすれば良い話だったような気もしなくはないけどね。

 

そんなことを思っていると先生が口を開く。

 

「爺さんが日本にいる間、俺達で護衛することになっている。バラキエルは堕天使側のバックアップ要員だ。俺も最近忙しくて、ここにいられるのも限られている。それに今はイッセーも万全の状態じゃないからな。少しの間だがバラキエルがこの町に滞在することになった」

 

「よろしく頼む」

 

と、言葉少なめにバラキエルさんがあいさつをする。

 

「爺さん、来日するのにはちょっと早すぎたんじゃないか?俺が聞いていた日程はもう少し先だったはずだが・・・・・。来日の目的は日本の神々と話しをつけたいからだろう? ミカエルとサーゼクスが仲介で、俺が会議に同席となっていたはずだが?」

 

アザゼル先生が茶を飲みつつ訊いた。

 

「まぁ、早めに来たのは理由があっての。実は我が国の内情で少々厄介事・・・・・というよりも厄介なもんにわしのやり方を非難されておってな。事を起こされる前に早めに行動しておこうと思ってのぉ」

 

爺さんは長い白ひげをさすりながら嘆息していた。

 

「厄介事って、ヴァン神族にでも狙われたクチか? 頼むから『神々の黄昏(ラグナロク)』を勝手に起こさないでくれよ、爺さん」

 

先生が皮肉げに笑うが・・・・・・専門用語ばっかりでさっぱり分からん。

 

「ヴァン神族はどうでもいいんじゃがな・・・・・。ま、この話をしていても仕方ないの。話は変わるが、アザゼル坊。どうも『禍の団』は禁手化できる使い手を増やしているようじゃな。怖いのぉ。あれは稀有な現象と聞いていたんじゃが?」

 

俺達眷属は皆驚いて顔を見合わせていた。

 

いきなり、その話になるか。

 

「ああ、レアだぜ。だが、どっかのバカがてっとり早く、それでいて怖ろしくわかりやすい強引な方法でレアな現象を乱発させようとしているのさ。もういくつか報告が挙がっている」

 

「それってやっぱり・・・・・・・」

 

俺の言葉に先生は頷く。

 

「おまえ達の間でも話し合ったそうだが、それでおおむね合っている。下手な鉄砲でも数打ちゃ当たる作戦だよ。まず、世界中から神器を持つ人間を無理矢理かき集める。ほとんど拉致だ。そして、洗脳。次に強者が集う場所―――超常の存在が住まう重要拠点に神器を持つ者を送る。この町に送ってきているのもそれが理由だ。そして、禁手に至る者が出るまで続ける。至ったら、強制的に魔法陣で帰還させるってな。おまえらが対峙した影使いもおそらくは・・・・・・」

 

やっぱりあの影使いは禁手になろうとしていたのか・・・・・・。

 

先生は一度茶を啜り、話しを続ける。

 

「これらのことはどの勢力も、思いついたとしても実際にはやれはしない。仮に協定を結ぶ前の俺が悪魔と天使の拠点に向かって同じことをすれば批判を受けると共に戦争開始の秒読み段階に発展する。自分達はそれを望んでいなかった。他の勢力だって同じ考えだろうさ。だが、奴らはテロリストだからこそそれが出来る」

 

なるほど・・・・・・・。

 

そうなるとマジで厄介な奴らだな。

これからもどんな手を使ってくるか分かったもんじゃない。

 

「それをやっている連中はどういう者なのですか?」

 

木場の問いかけに先生が続ける。

 

「英雄派のメンバーは伝説の勇者や英雄さまの子孫が集まっていらっしゃる。身体能力は天使や悪魔にひけを取らないだろう。さらに神器や伝説の武具を所有。その上、神器が禁手に至っている上に、神をも倒せる力を持つ神滅具だと倍プッシュなんてものじゃすまなくなるわけだ。報告では、英雄派はオーフィスの蛇に手を出さない傾向が強いようだから、底上げにかんしてはまだわからんが・・・・・・・。まぁ、ろくでもない奴等だってことを覚えておいてくれ」

 

おいおい、英雄や勇者がそんな非人道的なことをしても良いのかよ?

 

つーか、そいつら「英雄」を名乗ってるけど英雄の意味分かってやってんのか?

 

「とにかく、禁手使いを増やして何をしでかすか・・・・・それが問題じゃの。事が大きくなる前に潰しておきたいところじゃが・・・・・」

 

オーディンの爺さんが茶を啜りながら言う。

 

言ってることは深刻だけど、顔は普段通りだ。

かなりの楽天家だぜ、この爺さん。

 

「俺も爺さんの意見には同意だが、まだ調査中で分かってないことの方が多い。ここであーだこーだ言っても始まらん」

 

と、アザゼル先生の言葉で話は終わることになった。

 

皆も一息ついて、お茶を飲む。

父さんは仕事が残ってる、母さんは夕食の準備があると言って部屋を出ていった。

 

さてさて、話は終わったし俺は何をしようか・・・・・。

一応、宿題も終わってるから特にすることがないんだよね。

 

テレビでも見るか・・・・・・

 

そんなことを考えていると先生が爺さんに尋ねた。

 

「なあ、爺さん。どこか行きたいところはあるか?」

 

すると、爺さんはいやらしい顔つきで五指をわしゃわしゃさせた。

 

「おっぱいパブに行きたいのぉ!」

 

「ハッハッハッ、流石は主神どのだ! 分かりやすくていい! よっしゃ、いっちょそこまで行きますか! 俺んところの若い娘っこどもがVIP用の店を開いたんだよ。すぐそこだ。そこに爺さんを招待しちゃうぜ!」

 

「うほほほほほほっ! さっすが、アザゼル坊じゃ! 分かっとるのぉ!」

 

「ついてこいクソジジィ! おいでませ、和の国日本へ! 着物の帯くるくるするか? 「あ~れ~」ってやってみたいだろう? あれは日本に来たら一度はやっとくべきだぞ!」

 

「たまらんのー!」

 

二人の様子に部長も額に手をやって眉をしかめてる。

 

まぁ、二人ともエロいよね!

エロ首脳陣だ!

二人は盛り上がって、部屋を退室していった。

 

うーん、俺も行きたかったけど、女性陣の目があるからなぁ。

 

よし、今度こっそり連れていってもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

オーディンの爺さんとアザゼル先生がおっぱいパブに旅立ってから少し時間が経った時だった。

 

「朱乃。話し合いをしたいのだ」

 

兵藤家五階の廊下から話し声が聞こえてきた。

そちらへ足を運んでみると、朱乃さんとバラキエルさんが何やらもめていた。

 

「気安く名前を呼ばないで」

 

朱乃さんが不機嫌な表情をしながら言う。

その声音は今までにないくらい冷たいものだった。

 

「・・・・・赤龍帝と逢い引きをしていたのはどういうことだ?」

 

おいおい、俺かよ!

俺の話題を出しますか!

 

盗み聞きするのはどうかと思ったけど、俺の名前が出たとなれば、すごい気になる。

 

「私の勝手でしょう? なぜ、あなたにとやかく言われなければならないのかしら?」

 

「噂は聞いている。彼はかなり破廉恥な男だとな。ち、乳龍帝の二つ名があるというではないか」

 

そんな噂が流れてるんですか!?

どこからそんな!

 

それに乳龍帝って、アザゼル先生とサーゼクスさんが勝手に決めただけですからね!

そこのところ勘違いしないで!

 

・・・・・破廉恥ってのは間違っちゃいないけど。

エロエロだし。

 

『ふ、ふふふふ・・・・・・・もうあちこちで乳龍帝の名が・・・・・・。この世界で生きていく場所は俺には無いというのか・・・・・・・』

 

ドライグゥゥゥゥゥゥ!!!

 

気をしっかり持て!

傷は浅いぞ!?

 

『・・・・・いや、俺はもう、ダメだ・・・・・・・・ガクッ』

 

うわぁぁぁぁぁぁ!!!

ド、ドライグがぁぁぁぁああああ!!

 

「私は心配なのだ。おまえが・・・・・・卑猥な目にあっているのではないかと」

 

うーん、やっぱりどう見ても悪い人には見えないんだよなぁ。

いかにも父親って感じの心配の仕方だし。

心の底から朱乃さんの身を案じているみたいだ。

 

「彼を悪く言わないで。イッセー君は・・・・・確かにスケベだけれど、優しくて頼りがいのある人だわ。私達をいつも助けてくれる、守ってくれる。・・・・・・彼のことを知らないくせに噂だけで判断するなんて、最低だわ」

 

「私は父として―――」

 

そこまで言いかけたバラキエルさんに朱乃さんは目を見開いて言い放った。

 

「父親顔しないでよっ! 母さまを見殺しにしたあなたを私は許さない!」

 

・・・・・・・母さまを見殺し?

 

どういうことだよ?

 

「・・・・・・・」

 

バラキエルさんはその一言に黙ってしまう。

 

と、物陰に隠れていた俺と朱乃さんの視線がふいにあってしまう。

 

「イッセーくん・・・・・聞いていたの?」

 

あちゃー、やってしまった。

朱乃さんが言ってたことについて考えていたからうっかりしてたぜ。

 

まぁ、ここは素直に謝ろう。

 

俺が出ていくと、バラキエルさんは激怒した。

 

「ぬっ! 男が盗み聞きなど! 破廉恥な! やはり、娘に卑猥なことをしているのか! そうはさせんぞ! あ、逢い引きなど認めん!!」

 

うおおおおおおい!?

 

なんか、訳の分からん怒り方してるよ、この人!

盗み聞きと朱乃さんに卑猥なことするのは全く関係ないじゃん!

 

・・・・・・卑猥なことをしたことも、されたことも覚えはあるが、それを言ってしまえば余計に話が拗れるから黙っておこう。

 

 

バチッ! バチッ!

 

 

バラキエルさんが雷光を光らせてる!?

ちょっとは人の話を聞こうよ!

 

 

バッ

 

 

朱乃さんが俺とバラキエルさんの間に入り、俺を庇うように抱き締めた。

 

「彼に酷いことをしないで。私には彼が必要なのよ・・・・・。だから、ここから消えて! あなたなんて私の父親じゃない!」

 

・・・・・・朱乃さんの叫び。

 

それを聞いて、バラキエルさんは雷光を止め、瞑目する。

 

「・・・・・すまん」

 

それだけを言って、この場を去ってしまった。

 

あれほどガタイのいい人の背中がとても小さく、そして寂しそうに見えた。

 

俺をぎゅっと抱き締める朱乃さん。

そして、震える声で言った。

 

「お願い。何も言わず・・・・・・・このままでいて。・・・・・・お願い、イッセー」

 

 

・・・・・・朱乃さんとバラキエルさんの間に何があったのかなんて俺には分からないし、俺に何が出来るのかなんて分からない。

 

それでもどうにかしてあげたいと思う。

 

 

――――別れなんてのは突然訪れることだってあるのだから。

 

 

会いたくてももう二度と会うことが出来ない。

話したくても声を聞きたくても、それが叶うことがない。

俺はその悲しみや辛さを知っている。

 

だからこそ、そうなる前に二人には――――

 

 

 



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5話 父娘の過去

やっと書けました!

次話も書きはじめているので、もう少し早く投稿できるかと思います。


オーディンの爺さんと再会した次の日のこと。

 

俺達グレモリー眷属は グレモリー家主催のイベントに主役として参加していた。

 

そのイベントとは『おっぱいドラゴン』関連のもので、いわゆる握手会と言うやつだ。

俺の目の前には長蛇の列が出来ていて、ほとんどが冥界の子供達だ。

 

「今日は来てくれてありがとう」

 

と、子供一人一人にサイン色紙を渡して、握手をしていく。

本当は俺が書いたサイン色紙を渡す予定だったけど、俺の腕が使えないこともあって、代わりの人が書いてくれたんだ。

今日来てくれた子供達には申し訳ないと思いながらも握手をする。

 

すると、子供達は満面の笑みを浮かべるんだ。

 

「おっぱいドラゴン! 頑張ってね!」

 

うん。

この言葉が聞けただけで、イベントに参加して良かったと思えるよ。

 

子供達の中には「変身して!」とか「ゼノンになって!」とかお願いしてくる子もいたので、俺はその要望に答えてあげている。

 

まぁ、それで笑顔が見れるならいいよね!

 

他の眷属の皆も『おっぱいドラゴン』に出演しているからこの握手会に参加している。

 

俺の隣の席ではスイッチ姫として出演している部長が笑顔で子供達と握手をしている。

 

「ふふふ。最初はこの役に対して思うところがあったのだけれど、子供達の笑顔を見ているとこういうのも悪くないって思えてくるわね」

 

「ええ、俺もそう思います。何だかんだで、楽しんでますし」

 

俺と部長は笑いながら握手を続けていく。

 

 

ちらっと木場の方を見ると女の子がすげー並んでる。

 

木場も番組内では敵組織の幹部『ダークネスナイト・ファング』として出演しており、今もその格好をしている。

 

騎士の鎧を着こんだ木場は結構様になっていて、イケメンを更に引き立たせていた。

 

く、くそぅ!

うらやましいぞぉぉぉぉぉおお!!!

 

俺だって女の子にキャーキャー言われたい!

なんで木場ばかりが!

やっぱり顔なのか!?

 

 

小猫ちゃんも今は獸ルックの衣装を着て握手をしている。

かなりラブリーな姿だ。

 

並んでいるのは主に大きなお友達。

 

小猫ちゃんも『ヘルキャットちゃん』として味方役で出演している。

 

それにしても、小猫ちゃん、かなり丁寧に応対してるな。

 

うーん、プロだ。

 

 

 

 

 

 

握手会を終えた俺達は楽屋のテナントへと戻っていた。

 

結構疲れたな。

 

まぁ、楽しかったけどね。

 

俺は腰を伸ばしてストレッチする。

基本、椅子に座りっぱなしだったから体のあちこちが変な感じだ。

 

そこへスタッフが近づいてきた。

 

「イッセーさま、お疲れさまですわ」

 

タオルを持ってきてくれたのは縦ロールヘアが特徴の女の子。

 

「おー、サンキューな。レイヴェル」

 

そう、その女の子はライザーの妹であるレイヴェル・フェニックスだ。

 

彼女がここにいるのは、なんでも今回のイベントのことを知ってアシスタントを申し出てきたらしい。

 

人手も足りなかったので、イベント責任者が即OKを出したところ、テキパキと仕事をこなしていったそうだ。

 

俺も分からないことをレイヴェルに聞いたりして結構世話になったんだよね。

 

正直、そこまで仕事が出来るとは思ってなかったから驚いているところだ。

 

「いやー、今回はレイヴェルがいてくれて助かったよ」

 

「い、いえ! 私は当然のことをしたまでですわ!」

 

顔を赤くしているところを見ると照れてるのかな?

うーん、可愛いな。

 

「それにしても、子供達は皆、イッセー様に夢中でしたわね」

 

「ああ。子供達に夢を与える仕事って良いもんだなって思えたよ」

 

「はい。とても素晴らしい仕事だと思いますわ」

 

最初はサーゼクスさんやアザゼル先生に頼まれたからってのもあった。

でもさ、子供達と触れ合ってみて真剣にヒーローやってみようかなって思えたんだ。

だから、今後もおっぱいドラゴンを続けてみようかと思う。

 

俺なんかが、子供達に夢と希望を与えることが出来るのなら。

 

 

「イッセー、そろそろ人間界に帰るわよ」

 

部長が楽屋テントへ入ってきた。

 

もうそんな時間か。

今日はこの後、オーディンの爺さんの護衛だったな。

 

あの爺さん、キャバクラ行くわ、おっぱいパブにも行くわ、道端のお姉さんをナンパするわでやりたい放題だから、疲れるんだよね。

 

上司で苦労しているという点で、レイナとロスヴァイセさんが愚痴を言い合っていたような・・・・・

二人とも互いを励まし合っていたのを良く覚えている。

なんとも言えない光景だった・・・・・・。

 

「了解です。レイヴェル、今後もこういうイベントがあると思うんだけど、その時はまた助けてくれないかな? 俺って冥界のことで知らないことも結構あるからさ」

 

「は、はい! 私でよろしければいつでも駆け付けますわ」

 

「ありがとう、レイヴェル」

 

俺はレイヴェルと握手を交わした後、部長達と共に人間界に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

冥界でのイベントを終え、オーディンの爺さんの日本観光に付き合った後。

 

 

「ハァッ!」

 

 

ギイィィィィン!!

 

 

ゼノヴィアが振り下ろしたデュランダルと木場が作り出した二本の聖魔剣が激突し、激しい金属音を周囲に響かせている。

 

鍔迫り合いは不利と見た木場は一旦後ろに下がる。

今の一撃で刀身にヒビが入った聖魔剣を捨て、木場は新たに聖魔剣を二振り作り出した。

 

兵藤家の地下にあるトレーニングルーム。

そこで、木場とゼノヴィアが互いの剣をぶつけ合っていた。

 

現在、家に住むオカ研メンバーは各自、修行に打ち込んでいた。

 

部長や朱乃さんは魔力方面、イリナとレイナは光力といったようにそれぞれに与えられた課題をこなしており、アーシアやギャスパーも神器をより扱えるようにアザゼル先生が作成したメニューを基に取り組んでいる。

ちなみに小猫ちゃんは俺が与えた気を扱う修行メニューをこなしている。

俺は美羽に少し修行に付き合ってもらった後で、今は皆の監督役だ。

 

・・・・・それにしても、木場のやつ速くなったなぁ。

それも直線で速いだけじゃなくて、ジグザグと方向を変えながらもそのスピードを維持できているところがすごい。

 

木場の相手をしているゼノヴィアも木場のスピードに翻弄されて、手数が少なくなってきているようだ。

 

ゼノヴィアも『騎士』だからそこそこのスピードはあるんだけど、木場と比べるとやはり劣る。

更にはテクニックの面でも木場が優位に立っているから、デュランダルの強大なパワーで薙ぎ倒していくスタイルのゼノヴィアには木場はかなり相性が悪い。

 

だからと言って木場が一方的かと言われると、そうではない。

 

ゼノヴィアだって日々の修行で強くなってきている。

 

その証拠に手数は減っているものの、木場の攻撃を紙一重で交わしている。

避けられない攻撃についてはデュランダルの刀身で受けて、そのまま木場を弾き飛ばしている。

 

そのため、木場もゼノヴィアに有効打を与えられないでいた。

 

ゼノヴィアもテクニック方面が良くなってきていることが分かる。

・・・・まぁ、結局、パワーでゴリ押しになるのは変わらないけどね。

 

現段階だと、総合的に見て木場の方が上かな?

何回か模擬戦をやってるけど、最終的には木場が勝ってるしな。

 

俺がそんな風に二人の模擬戦を見ていると、ぜノヴィアは木場との距離が空いた一瞬を狙って、デュランダルを床に突き刺した。

 

何をするつもりだ?

 

その行為に木場も俺同様に怪訝な表情を浮かべていた。

 

すると、ゼノヴィアが叫ぶ。

 

「やられっぱなしは性に合わん! いかせてもらうぞ!」

 

ゼノヴィアがそう叫ぶと、足元からゼノヴィアを丸く囲むように光が漏れだした!

そして、その光は強くなっていき、ゼノヴィアを中心に広がっていった!

 

 

ドドドドドドドドドドドドッ!!

 

 

広がっていく眩い光は床を抉っていき、ゼノヴィアに迫っていた足場を失った木場はそのまま弾き飛ばされた!

 

光が止み、残ったのはゼノヴィアを中心にした破壊の波紋。

 

「ゲホッ ゲホッ あ、危なかった・・・・・・。直撃の瞬間に聖魔剣の盾の展開が間に合ったからよかったけど・・・・・・。まさか、全方位に攻撃を仕掛けてくるなんてね」

 

木場は苦笑しながら言うと聖魔剣を杖にして立ち上がる。

 

今のはゼノヴィアを中心に全方位へと聖なるオーラの攻撃が広がる技だな。

しかも、波のように次々にと聖なるオーラが襲ってくるから、こちらから攻撃するのは難しい。

ある意味、攻防一体の技だな。

 

「これで一矢報いることが出来たぞ。どうだ、イッセー?」

 

ゼノヴィアは胸を張ってこちらにブイサインを送ってきた。

 

確かに今のが木場に直撃してたらヤバかったかもな。

まぁ、それなりに威力は調整してるみたいだったけど。

 

「お、おう。・・・・・でも、もう少し威力を抑えてくれるか? 家が壊れそうでよ・・・・」

 

「ん? そのことなら大丈夫だ。リアス部長からは魔王の攻撃を受けても壊れないと聞いているからな」

 

マジか。

この家を設計した人、すげぇな。

 

そういえば、アジュカさんお抱えの建築家が設計したとか部長が言っていたような・・・・・・。

何か特別な術式でも組んでいるのだろうか?

 

俺が感心していると、ゼノヴィアは木場に言う。

 

「さぁ、続けようか」

 

「そうだね。・・・・・・いくよ、ゼノヴィア!」

 

そうして、二人は模擬戦を再開した。

 

 

そこへ一つの気配が現れる。

 

「おー、やってるな」

 

声がした方を振り向けば、そこにいたのはアザゼル先生だった。

 

「どうしてここに?」

 

「美羽に聞いたら、全員ここで修行してるって聞いてな。様子を見に来たのさ。ほれ、差し入れだ。おまえの母親から渡されたものだ」

 

と、先生が手渡してきたのは大きめの弁当箱で、中にはおにぎりがたくさん入っていた。

どうやら母さんは全員分作ったらしい。

これ、一人で作るの大変だっただろうに。

母さんには感謝しないとな。

 

早速一つ頬張る。

うん、美味い。

具に明太子が入っている。

 

先生は俺の隣に座ると、笑った。

 

「おまえ達、グレモリー眷属は随分強くなったもんだな。正直、そのペースに驚かされている」

 

「全くです。木場には下手したら数年くらいで抜かされそうですし」

 

「まぁ、あいつの才能はずば抜けているからな。おまえ達の中ではトップだろうよ。他の面子も才能豊かで成長が早い。ギャスパーだって、俺が与えたメニューをこなし、少しずつではあるが神器の使いこなしつつある」

 

確かに、この間の英雄派との戦闘でもあいつは活躍していたしな。

 

ふと横を見るとギャスパーが先生が作ったという空中で浮遊する虫みたいなロボットを停止させていた。

一応、修行なんだけど、はたから見てると何とも微笑ましい光景だ。

 

「あいつも頑張ってるみたいですからね」

 

俺の言葉に先生も頷く。

 

「ああ。出会った頃と比べると引きこもりもマシになったしな。俺も一つもらっていいか?」

 

「どうぞ」

 

先生がおにぎりを一つ頬張る。

 

「お、鮭か。それでだ。ここに来た目的は修行の見物以外にもう一つあってな。おまえに朗報だ」

 

「朗報?」

 

「おまえの腕を治療する新薬を開発していてな。それがもうすぐ完成しそうなんだ」

 

おおっ!

マジですか!

 

その知らせに喜ぶ俺!

 

だって、もっと時間がかかるものだと思っていたしな。

 

「悪魔の医療機関とグリゴリで共同で開発したものだ。アジュカのやつも一枚噛んでてな。効果は期待できるだろうよ」

 

そう言って先生は水筒の茶を啜った。

 

この人がそう言うならマジで期待できるな!

冥界の皆さん、ありがとうございます!

俺、今後も冥界のために頑張ります!

 

あ、そうだ。

俺、先生に訊きたいことがあるんだった。

 

「先生。俺、訊きたいことがあるんですけど」

 

「朱乃とバラキエルのことだろう?」

 

先生は見透かしたように言った。

この人は俺が尋ねてくることをなんとなく分かってたんだろうな。

 

先生の問いに頷く。

 

「そうか・・・・・・。だが、俺から聞いたんじゃ、堕天使の総督としてバラキエルを擁護するような話ぶりになっちまうだろうな。それでも良ければ話してやる」

 

「はい」

 

俺が一言返すと、先生は息を吐いた。

 

そして、二人の間に何があったのか話してくれた。

 

 

 

 

 

 

朱乃さんのお母さんの名前は姫島朱璃といって、とある神社の巫女をしていた。

 

ある日、朱璃さんがいる神社の近くに、敵対勢力に襲われて重症を負ったバラキエルさんが倒れていた。

 

偶然、傷付いたバラキエルさんを発見した朱璃さんはバラキエルさんを匿い、手厚く看病した。

 

その時、バラキエルさんと朱璃さんは親しい関係になった。

そして、朱乃さんが二人の間に産まれた。

 

バラキエルさんは朱乃さんと朱璃さんを置いていくわけにはいかず、近くで居を構えて、そこから堕天使の幹部として動いていたそうだ。

 

三人は慎ましくも幸せな日々を送っていた。

 

だけど、幸せは長く続かなかった・・・・・

 

ある日、アザゼル先生からの指示でバラキエルさんはとある任務に向かうことになった。

それはバラキエルさんにしかこなせなかった任務だそうだ。

 

その時だ。

朱乃さんと朱璃さんが住む家を敵対勢力が襲撃したのは・・・・・

どうやら、バラキエルさんにやられて恨みを持っていた者がバラキエルさんの不在を狙っての犯行だったそうだ。

 

バラキエルさんが二人の危険を察知して駆けつけたが一足遅かった。

朱乃さんは朱璃さんが命がけで庇ったおかげで助かった。

 

しかし、朱璃さんは敵の手によって殺害されてしまう・・・・・

 

 

 

 

 

 

「その日、朱乃は俺達堕天使がどれだけ他の勢力に恨まれているのかを知ってしまってな。堕天使の幹部であるバラキエルに対して心を閉ざしてしまったのさ。・・・・・全ては俺のせいなんだよ。あの日、俺がバラキエルから妻と娘を奪った。・・・・俺はバラキエルに殺されても文句は言えない」

 

アザゼル先生の口調は静かなものだけど、拳を強く握っていた。

よほど、後悔しているのだろう。

 

先生は今でも自分を責め続けているのか・・・・・

 

「でも、昔はともかく今の朱乃さんなら分かってるはずですよね? バラキエルさんが悪くないのは・・・・」

 

「多分な。だが、頭では理解していても、まだ受け入れることができないのかもしれん」

 

先生はため息をつく。

 

「バラキエルも自分から朱乃と話をしようとしているが、また朱乃を傷つけてしまうのではないかと考えているようでな。前に進めないでいるのさ」

 

朱乃さんに拒絶されて、そのまま去ってしまったのはそういうことか・・・・

 

だけど・・・・・

 

俺はこれまで見てきた朱乃さんを思い出して、それを先生に伝える。

 

「でも、朱乃さんは少しずつ前に進んでいると思いますよ? レイナとも普通に接することが出来てますし、自分に流れる血を受け入れようともしています」

 

そう、朱乃さんは堕天使を受け入れつつある。

堕天使に対してのイメージもだいぶ和らいできているはずだ。

だったら、バラキエルさんのことだって受け入れることが出来るはずだ。

 

俺の言葉に先生も頷く。

 

「ああ。俺もそれは感じていた。・・・・だから、何かしらの切っ掛けがあれば昔のような関係に戻れるんじゃないかと考えてはいるんだが・・・・。俺が下手に手出しすれば二人の関係を悪化させてしまうだろう。・・・・その切っ掛けがやって来るのを待つしかないのかもしれん」

 

切っ掛けか・・・・・。

それが訪れるのは今すぐかもしれないし、十年後、二十年後になるかもしれない。

下手すれば、それが来ないことも考えられる。

それをただ待つってのもなぁ・・・・。

 

先生が俺の肩に手を置く。

 

「朱乃が自身の弱い部分を見せる男はおまえだけだろう。だから、その時は頼む。これはおまえにしか頼めないことなんだ」

 

先生は俺の目をまっすぐな目で見てきた。

 

そんな先生に俺は笑みを返した。

 

「ええ、朱乃さんは俺が守りますよ。俺に出来ることならなんでもします」

 

そうだよ。

俺は俺ができることをすればいいんだ。

これまでだってそうしてきた。

 

俺がそう言うと、先生はどこか安堵したようだった。

 



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6話 悪神の襲来です!!

冥界。

 

俺はグレモリー領にある大きな病院に来ていた。

理由は右腕の定期検診を受けるためだ。

 

俺の前では眼鏡をかけた主治医の先生が診察結果を見て何やら頷いていた。

 

「ふむふむ・・・・・。以前見たときよりも状態は良好ですね。と言っても完治にはほど遠いですが・・・・。ただ、薬の効果が出ていることが分かっただけでも、大きいでしょう」

 

「完治までどのくらいかかりそうですか?」

 

俺が尋ねると主治医の先生は腕を組んで考え込んだ。

 

「う~ん、今の薬では完治までは至らないでしょうし・・・・・。開発している新薬の効果次第となるでしょうね」

 

「あー、グリゴリと共同で開発してるって言うやつですか?」

 

主治医の先生が頷き、机の引き出しから資料を取り出した。

 

資料にはグラフやら何やらがたくさん書かれていて、俺が見てもさっぱり分からない。

 

「ええ、魔王ベルゼブブ様も開発にご協力して下さっているので、効果は期待できると思います。データも良い結果を出しているようです。この分で行けば遅くとも一ヶ月で完成すると聞かされています。それまでは今の薬で少しずつ治療を進めていきましょう」

 

おおっ。

そんなに早く出来るんだな。

先生が言ってた通りだ。

 

「それではこれで診察は終わりです。薬も処方しておきますので、受け取っておいてください」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

あと遅くてあと一ヶ月。

ということはもっと早く完成する可能性もあるってことか。

修学旅行に間に合えばラッキーだな。

 

一通りの診察が終わったので、診察室から出る。

 

すると、診察室か前のベンチに座っていた美羽が俺の元に歩いてきた。

 

なぜ美羽がここにいるかと言うと、俺の付き添いだ。

 

本来なら部長がいた方が何かと融通が聞くんだけど、部長は今、他の皆と共にオーディンの爺さんを護衛中だ。

俺のために仕事を休ませるのも悪いと思ったので部長にはそちらを優先してもらった。

 

「お待たせ」

 

「ううん。それで、どうだった?」

 

「ほんの少しだけマシになってるみたい。まぁ、新薬の完成待ちだな」

 

「そっか・・・・。じゃあ、それまではボクがお世話するよ。お兄ちゃんを助けるのも妹の役目だからね」

 

美羽は微笑みながらそう言ってくれた。

 

うぅ・・・・

美羽の優しさが心に染みるぜ!

なんて良い娘なんだ!

 

俺は感動の涙を流しながら美羽の頭を撫でてやる。

 

「ありがとうな、美羽。なんか、いつも世話になりっぱなしだな」

 

「気にしないで。今までお兄ちゃんには助けてもらってばっかりだったから、これくらいどうってことないよ」

 

美羽はそう言ってくれるけど、ここのところずっと美羽の世話になりっぱなしだからな。

今度、何かお礼しないと。

 

何が良いかな?

 

美羽が俺の手を引く。

 

「じゃあ、行こっか」

 

「そうだな」

 

この後、受付で薬を受け取った俺達はそのまま家に帰った。

 

 

 

 

 

 

帰宅後。

 

時計を確認すると時刻は午後の四時を少し過ぎたくらいだ。

 

今、家にいるのは俺と美羽の二人だけ。

他の部員はアザゼル先生と共にオーディンの爺さんの護衛任務で、父さんは休日出勤、母さんはご近所さんと何処かに出掛けている。

何処かと言っても駒王町の中にいるみたいだけどね。

 

 

「お兄ちゃん、アイス食べる?」

 

美羽が冷蔵庫の中を漁りながら訊いてくる。

 

「おー、いるいる」

 

俺も何か口に入れたかったのでそう答えた。

 

美羽がアイスを包んでいた袋を開けて、俺に手渡してくれた。

ちなみにアイスは抹茶バーだ。

 

季節はもう秋だけど、たまに冷たいものが欲しくなる。

 

「なんか、あれだな。美羽と二人になるのって久しぶりだ」

 

俺の言葉に美羽もアイスを食べながら頷く。

 

「いつもは部員の皆と一緒にいるからね。皆といるのは楽しいけど、こうして二人で過ごせて嬉しいよ。お兄ちゃんを独占してるって感じで」

 

ニコッと笑いながらそんなことを言ってくる。

 

独占って・・・・

そんなこと言わなくても俺の妹はおまえだけだぞ?

 

まぁ、俺も美羽と過ごせるのは嬉しいんだけどね。

 

 

・・・・・・こうして二人でいると美羽をこっちの世界に連れてきた時のことを思い出す。

 

人間と魔族との長きに渡る戦争を終わらせるためにシリウスと一騎討ちをして、それに勝った。

それで終わりかと思えばシリウスから美羽を託された。

 

そして、美羽を守るために俺はアリス達にも黙って美羽をこちらの世界に連れてきた。

 

そんでもって、父さんと母さんに頼んで美羽を娘として家族に受け入れてもらった。

 

・・・・・・あれからもう二年以上が経ったんだな。

 

早いもんだ。

 

美羽もすっかりこっちの生活に慣れて、今では自動ドアも一人でくぐれるほどになった。

 

大したことじゃないと思うだろ?

でも、昔と比べると大きな進歩なんだぜ?

 

「どうしたの? さっきからボクの顔を見てるけど」

 

俺の視線に気づいた美羽が尋ねてきた。

 

「いやぁ、おまえをこっちに連れて来た時のことを思い出してたんだよ。あれからもう二年以上が経ったんだぜ?」

 

「あー、もうそんなになるんだ。あっという間だった気がするよ」

 

「自動ドアに怖がってたのを昨日のことのように感じるよ」

 

俺が笑いながらそう言うと、美羽は頬をプクッとかわいく膨らませながらポカポカ叩いてきた。

自動ドアの事はあまり言われたくないらしい。

 

「もう! それを言わないでよ! お兄ちゃんのイジワル!」

 

「ハハハハハ、悪い悪い」

 

俺は美羽に謝りながら頭を撫でてやる。

こうすると機嫌が良くなるのは変わらない。

 

俺は食べ終わったアイスのバーをゴミ箱に捨て、美羽が入れてくれたお茶を飲む。

 

そして、美羽にあることを尋ねた。

これは二人きりの時じゃないと出来ない質問だった。

 

「なぁ、美羽。・・・・・もし、シリウスに会えるとしたらやっぱり会いたいか?」

 

俺のいきなりの問いに美羽は一瞬目を見開いた。

 

いきなり、こんな質問するなんてどうかしてると自分でも思ってる。

それでも訊きたかった。

 

「・・・・・会えるなら会いたいよ、やっぱり。辛い思い出や悲しい思い出が多いけど、楽しい思い出もある。厳しい人だったけれど、それでもボクにとっては優しいお父さんだったから・・・・・・・」

 

「そっか・・・・・・。ゴメンな、いきなり訊いちゃって・・・・」

 

俺がそう言うと美羽は首を横に振った。

 

「ううん、気にしないで。・・・・朱乃さんと朱乃さんのお父さんのことだよね?」

 

「ああ」

 

美羽は俺の意図が分かっていたらしい。

流石に鋭いな。

 

「美羽から見て、バラキエルさんはどう思う? 堕天使とかそんなのは抜きにしてだ」

 

「そうだね・・・・・。優しい人、だと思うよ。とても朱乃さんのことを想っているのが伝わってくる。・・・・・朱乃さんにもそれは伝わっていると思う。お母さんのことも理解してるはずだよ」

 

俺は少し驚いた。

 

美羽は朱乃さんのお母さん、つまり朱璃さんのことを知っているようだった。

 

「どこで朱璃さんのことを?」

 

「リアスさんから聞いたの。お兄ちゃんも知ってたんだね」

 

「ああ。俺はアザゼル先生からな」

 

なるほど、部長から聞いたのか。

確かに部長なら朱乃さんのことを把握しているはずだもんな。

 

美羽も朱乃さんとバラキエルさんのことが気になってたってことか。

 

美羽が話を続ける。

 

「朱乃さんは素直になれないだけなんじゃないかな? 心の中では昔みたいに戻りたい、だけど素直になれないせいで、お父さんを拒絶してしまう。だから余計に心を開けなくなっている。そんな感じがするんだ」

 

・・・・・・・

 

なんと言うか、やっぱり美羽はすげぇな。

朱乃さんのことを良く見ている。

下手したら俺よりも人を見抜く力があるのかもしれない。

 

「あ、でも、ボクが勝手に思ってることだから本当にそうとは限らないよ?」

 

美羽がお茶を飲みながら言う。

 

「いや、案外、美羽の言う通りかもしれないぜ?」

 

アザゼル先生と言ってたように、朱乃さんは堕天使を受け入れつつある。

それを考えれば美羽の言っていることも正しいのかもしれない。

 

お互いの本当の気持ちを伝える機会さえあれば・・・・・・

 

まぁ、そこが一番難しいんだけどね。

 

「さて、どうしたもんかね・・・・・」

 

そう呟いてお茶を飲む。

 

 

その時だった――――

 

 

 

「「――――――!!」」

 

俺と美羽は顔を見合わせる。

 

「ねぇ、今のって・・・・・」

 

「ああ。何か大きい力が現れたな。英雄派・・・・・じゃないな。この気は人間のものじゃない」

 

かと言って悪魔でも堕天使でも天使でもない。

俺が知っている中で一番近い者があるとすれば・・・・・・

 

オーディンの爺さん。

 

だけど、この気は爺さんのものじゃない。

だとすれば、今のはいったい・・・・・・?

 

左手の甲に宝玉が現れる。

 

『相棒、気を付けろ。今現れたのは―――――神だ』

 

神・・・・・

 

なるほど、どうりで。

 

並のやつならここまで大きな力は持ってないだろうからな。

神と言われれば納得だ。

 

なんで、神がこんなところに?

 

『この気配から察するに相手は北欧の神の一角、ロキだろう。奴がこの地を訪れた理由は考えずとも出てくるだろう?』

 

オーディンの爺さんか・・・・

 

『そうだ。先日、オーディンは厄介な者に自身のやり方を非難されていると言っていた。恐らく―――――』

 

なるほどね・・・・

そういうことかよ。

 

とりあえず、会いに行くか?

 

『それならば、ティアマットを呼んでおけ。今の相棒が奴の相手をするには荷が重い』

 

了解だ。

 

俺は召喚用の魔法陣を開いてティアを呼び出す。

 

魔法陣が光輝き、ティアが姿を現した。

 

「急に呼び出して悪いな」

 

「気にするな。それで私を呼び出した理由は―――――なるほど、そう言うことか」

 

ティアは窓から空を見上げて目を細める。

俺が言う前に神の気配を感じ取ったようだ。

 

「神が現れたか・・・・・。しかも、この感じ。ロキか・・・・・。だとしたら厄介だな」

 

ティアはそのまま何やら呟いた。

 

ティアが窓を開けてこちらを向く。

 

「行こうか。放っておくのはマズいかもしれん」

 

 

 

 

 

 

ティアに促され、外に出た俺は悪魔の翼を広げて上空を目指す。

 

後ろにはティアと美羽が続いていた。

 

俺は飛びながら美羽に言う。

 

「おまえまで来る必要はなかったんだぞ?」

 

「二人だけを危険な目に合わせられないよ!」

 

「危険って・・・・・。まだそうなるとは決まってないぞ?」

 

俺の意見にティアが首を横に振った。

 

「いや、美羽には来てもらった方が良いだろう。相手はロキだ。だったら美羽の力も必要になる」

 

ティアがそこまでいうのか・・・・

 

飛んでから数分。

町の遥か上空に二つの影を確認した。

 

若い男性と女性が浮遊していて、女性が男性と腕を組んでいた。

男性は黒を基調としたローブ、女性は黒いドレスを着ている。

二人とも顔立ちが良くイケメンと美女だ。

どちらも相当の実力者のようだ。

 

目の前の二人がこちらに気づいて視線を向ける。

 

男性の方が俺達を見て、笑みを浮かべた。

 

「ほう。そのオーラ、赤龍帝か。それに龍王最強と名高きティアマットまでいるとは。そこの娘は・・・・・なるほど」

 

俺達のことを知っているみたいだな。

 

ティアが尋ねる。

 

「これはこれは、北欧の悪神ロキ殿、そしてヘルヘイムの女王ヘル殿。このようなところで会うとは奇遇ですね。態々北欧からこのような町に来られたのは観光ですかな?」

 

あの男性がロキ、女性がヘルって名前なのか。

 

『そうだ。ロキは北欧の悪神と謳われる狡猾の神だ。そしてヘルはその娘。北欧における死者の国、ヘルヘイムを治めている。どちらも強大な力を持った神だ。相棒でも真正面からやり合うのは難しい。ティアマットを呼んだのは正解だったな』

 

マジか。

そんなヤバイ奴が二人も現れたってのかよ。

 

ティアの問いにロキが答える。

 

「残念ながら観光ではない。我らはこの地を訪れている主神オーディンに物申しに来たのだよ」

 

「なるほど、オーディン殿に文句を言っていたのはあなただったのですね」

 

「そういうことだ。我らが主神殿が、北欧から抜け出て他の神話体系に接触しているのが耐えがたい苦痛でね」

 

そう言うとロキは体から黒いオーラを発する。

 

「物申しに来た、ですか・・・・・。話し合いをするにしては纏うものが穏やかではありませんね」

 

ティアの言葉にロキは口の端を吊り上げた。

 

「話し合いだと? 我らは端からそのつもりはない。オーディンの首を取るつもりでここに来ている」

 

こいつ・・・・!

オーディンの爺さんを殺す気で来てやがるのか!

 

そんなことすれば大騒ぎなんてもんじゃなくなるぞ!?

分かって言ってるのかよ!?

 

その言葉を聞いてティアのオーラが変化した。

 

「なるほど・・・・『神々の黄昏(ラグナロク)』を迎えるのが貴様の悲願だったな。だが、そんなことをさせると思うか?」

 

「龍王が三大勢力の肩を持つと?」

 

「私は今の生活に満足している。それを乱されるのが許せんだけだ。私の生活を乱そうとするならば、神である貴様にも牙を向けるぞ」

 

ティアがその身に濃密なオーラを纏ってロキを睨み付ける。

 

「面白い。ならばオーディンを屠る前に貴殿らを相手にするとしよう」

 

ロキとヘルが禍々しいオーラを纏った。

 

離れているのに肌をビリビリと刺激してきやがる。

これが神か・・・・・。

 

俺も即座に鎧を纏って、戦闘体勢に入る。

相手は神だ。

油断は出来ない。

 

「美羽、おまえは町に被害がいかないように結界を頼む」

 

「分かった」

 

美羽は手元に魔法陣を展開すると、俺達を囲むように結界が広がった。

ひとまず、これで町の人に気付かれることはないし、被害がいくこともないだろう。

 

といっても、相手は神クラス二人だ。

俺達が本気を出してしまえば美羽の結界は砕け散る。

 

家を出る前にアザゼル先生に報告を入れておいたからもうすぐ来るはずだ。

追い払うのは無理でも援軍が来るまでなら保つだろう。

 

「イッセー、おまえはロキをやれ。私はヘルを相手する」

 

男の方をやれってことね。

俺は頷く。

 

「了解だ。気をつけろよ、ティア」

 

「フッ、誰に言っている。・・・では、行こうか」

 

そう言って、俺はロキ、ティアがヘルの前に立つ。

 

それを見てロキが言う。

 

「私の相手は赤龍帝か。相当の実力を持っているようだが・・・・。貴殿一人で我に届くとでも?」

 

「さぁな。俺としては事を荒立てたくないから、あんた達にはこのまま帰ってほしいんだけど・・・・」

 

「そうはいかん。我の目的を達するまではな」

 

「そうかよ。だったら、強制的にお帰り願うぜ!」

 

 

ドンッ!!

 

 

俺の体から赤いオーラが噴き出す。

 

「神が相手なんだ。出し惜しみは無しだ」

 

オーラがどんどん激しくなり、バチッバチチッと火花を散らす。

それに合わせて鎧が通常の物から進化していく。

 

禁手(バランス・ブレイカー)第二階層(ツヴァイセ・ファーゼ)――――――天武(ゼノン)!!!」

 

鎧の各所にブースターが増設されて、格闘戦に特化した形態となる。

 

ロキはこの形態を見て少し感心しているようだった。

 

「それが貴殿の力か。歴代の赤龍帝を何度か見たことがあるが、そのどれとも当てはまらない。流石に我の前に立とうとするだけはある!」

 

この形態を見ても余裕の表情だな、こいつ。

 

だったら、その余裕を無くさせてやるまでだ!

いくぜ、ドライグ!!

 

『だが、むやみやたらと突っ込むなよ? ロキは魔術に秀でている神だ。どんな術を使ってくるか分からんぞ』

 

ドライグの忠告を聞きつつも倍増をスタート!

 

『Accel Booster!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

一瞬の倍増!

高められた力が俺の体を駆け巡る!!

 

全身のブースターからオーラが噴出され、そのままロキ目掛けて飛翔する!!

正直、右腕が使えない分、格闘戦は辛いところがあるけど、まずは軽く拳を交えてみる!

 

「おおおおおおおおおっ!!!」

 

左の拳を振りかぶり、とりあえず一撃目!

 

拳がロキの顔面に届く前に障壁のようなものが展開され、俺の攻撃を阻んだ。

ロキの魔法か!

 

でも、これくらいなら破れる!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!』

 

ブースターから噴射されるオーラが増して拳の威力を高めていく!

 

そして―――――

 

俺の攻撃に耐えかねたロキの障壁にヒビが入る。

 

「軽くやってこれか。よもや我の障壁を崩すとは。だが、甘い」

 

ロキがそう言うと、俺を囲むようにあたり一面に魔法陣が展開された。

そして、魔法陣からは鎖のようなものが伸びてきた!

 

俺の動きを止めようってのか!

 

俺は咄嗟にその場を離れるが、大量の鎖は俺を追いかけてくる。

それをさらに避けても、鎖は大きなカーブを描いて俺のところに戻ってきた。

 

追尾機能もあるのかよ!

 

「その鎖から逃れられると思うな。貴殿をどこまでも追いかけて、締め上げるぞ」

 

ちぃ!

早速厄介なやつを出してきたな!

だったら撃ち落とすまでだ!

左手を後方に突出し、気を集中させる。

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!』

 

「アグニッ!!」

 

放たれる極大の気の奔流。

 

それは俺を追いかけていた大量の鎖を包み込み、全て消滅させた。

 

そして、俺が放ったアグニはそのままロキの方へと突き進む。

しかし、ロキの展開した障壁によって軽々と防がれてしまった。

 

まぁ、今のくらいじゃあいつには届かないよな。

 

「フフフ、今代の赤龍帝。流石に今の程度なら対処できるか」

 

「舐めんなよ。あれくらいでやられるかっての」

 

「いや、貴殿を侮ってなどいない。むしろ、その逆だ。貴殿は警戒すべき人物だからな。・・・・・ではこれならどうだろうか?」

 

ロキはそう言うと手元に一つの魔法陣を展開した。

 

召喚用か・・・・・?

一体何を―――――

 

ロキの手元に現れたのは一振りの剣。

柄から刀身まで真黒な両刃の剣が現れた。

 

「――――いくぞ」

 

ロキは剣を握った次の瞬間―――――

 

俺との間合いを一瞬で詰めてきた。

 

「なっ!?」

 

俺は驚きながらも咄嗟に上体を後ろに反らし、斬戟を回避する。

 

しかし、避けたと思えば、ロキは剣を逆手にして更に斬りかかってきた!

 

「ほらほら、どうした? 隙だらけだぞ」

 

ロキは笑みを浮かべながら高速で剣を振るってくる。

 

クソッ!

こいつ、格闘戦もこなせんのかよ!

 

とにかく、今は崩れた体勢を立て直さないと、やられる!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!』

 

全身のブースターからオーラを噴出させて、全力で後方に下がろうとするが、その度にロキに間合いを詰められる。

恐らく、行動する瞬間に何かしらの魔法を使ってやがるな・・・・。

 

それなら―――――――

 

俺は錬環勁気功を発動する。

気による残像を作りだし、ロキの認識を僅かにずらす。

 

こいつは目で俺の動きを追っているそれなら――――

 

すると、ロキの剣は残像を捉えて空を切った。

 

思った通りか。

 

「ほう・・・。我から逃げ切るとは。やるではないか」

 

「そりゃどーも。・・・・なぁ、その剣はなんなんだ? かなりヤバそうに感じるだけど」

 

俺が尋ねると、ロキは手に持った剣を俺に見せつけるかのように天に掲げた。

 

「楽しませてくれている礼だ。特別に答えてやろう。この剣は我が創り出し神剣レーヴァテイン!! これに斬られたものはレーヴァテインの炎によってすべて燃やし尽くされる!」

 

すると、ロキが手にしている剣、レーヴァテインから炎の渦が生み出された。

かなりの熱量だ。

 

神剣レーヴァテイン。

俺が持ってるイグニスみたいなもんか。

 

『剣の力としてはイグニスの方が遙かに上だろう。だが、あの剣も十分危険だ』

 

だな。

斬られたらダメージは免れないな。

 

北欧の魔術に神剣。

更にはそれを駆使する戦闘技術。

 

正直、今の俺では勝つのはキツイな。

万全の状態でも難しい。

 

せめて、あと一人。

あと一人、俺と同レベルの奴がいれば―――――

 

見れば、ティアはヘルの相手をしてるし、美羽も町に被害が出ないよう結界を維持するので精一杯だ。

 

ここは俺が何とかして持ちこたえるしかないな。

 

天撃(エクリプス)を使いたいところだけど、場所が悪すぎる。

下手したら美羽の結界を壊してしまうだろうし、そうなれば町の人たちにも気づかれる。

イグニスも当然使えない。

 

アスカロンは――――――――ゼノヴィアに貸しっぱなしだ。

最後に使ったのって、美猴と戦った時だっけ?

 

まいったね。

 

ロキが口を開く。

 

「何やら考え事をしているところ悪いが、我はそろそろオーディンの首を取りに行きたいのでな。貴殿との戦い、ここで終わらせるのは惜しいが、仕方があるまい」

 

ロキは再び召喚用の魔法陣を展開する。

 

なんだ?

次は何を呼び出すつもりなんだ?

 

「貴殿に紹介しよう。我が息子を」

 

息子?

娘の次は息子かよ・・・・

 

魔法陣が輝き、そこから灰色の何かが現れた。

あれは・・・・・・狼か?

 

かなりデカいな。

十メートル以上はある。

 

狼の赤い相貌が俺を捉えた。

 

 

ぞくっ・・・・・

 

 

身体中に悪寒が走った。

それだけで、あの狼の危険性が分かる。

あいつはヤバい。

ロキやヘルよりも遥かに危険な感じがする。

 

なんだ、あの狼は・・・・・・?

 

神喰狼(フェンリル)だと!? イッセー、美羽、奴には近づくな!」

 

普段、冷静なティアが焦りの表情で叫ぶ。

 

「あの狼は何なんだよ!? かなりヤバいのは見て分かるけど・・・」

 

ティアはヘルと魔法合戦を行いながら教えてくれた。

 

「あいつはロキが生み出した最悪最大の魔物の一匹だ! あいつの牙は神を確実に殺すことが出来る! あいつに噛まれたら、いくらおまえでもやられるぞ!」

 

「「―――――ッ!?」」

 

俺と美羽はその情報に驚愕した。

 

神を確実に殺す牙!?

そこまでヤバいのかよ!?

 

ロキの野郎、なんつーもんを召喚しやがる!

 

『やつは全盛期の俺でも手こずるレベル、天龍に準ずる力を持つ。これまでの敵とは訳が違う。やつからいったん距離を置いた方が良い』

 

地上最強の二天龍とまで称されたドライグがそこまで言うのか・・・・・

 

ロキがフェンリルを撫でる。

 

「その通り。息子の牙で噛まれた者はたとえ神であろうと死に至る。貴殿とて容易に屠ることができる。貴殿らはここで死ぬのだ」

 

クソッ・・・・!

ロキとヘルだけでも手が一杯なのに・・・・!

 

どうする?

どうすれば、この状況を切り抜けられる?

 

俺が頭をフル回転させて、現状の突破口を探っているとロキが笑みを浮かべた。

 

「まずはそこの娘。じつに面白い力を持っているではないか。それを食らえばフェンリルの糧となる、か?」

 

な、何・・・!?

 

ロキがスーッと指先を美羽に向ける。

そして、一言。

 

「――――――――やれ」

 

 

『オオオオオオオオオオォォォォォォォオオオオオンッッ!!!』

 

 

闇の夜空で灰色の狼が透き通るほどの遠吠えをした。

そして、その赤い相貌が美羽に向けられる。

その瞬間、眼前の狼が俺の視界から消えた―――――。

 

くそったれ!

そうはさせるかよ!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

『Ignition Booster!!!!』

 

一瞬の倍加と共に全身のブースターからオーラを噴出して、フェンリルの先に回る!

 

 

「あいつに触んじゃねぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!!!!!」

 

俺は美羽の前に立ち、突っ込んでくるフェンリルの顔面を渾身の左ストレートで殴り飛ばす!!

拳がフェンリルの顔に命中するが、ここから更に力を上げる!!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

「おおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

ドガァァァァァァァァァアン!!!!!

 

 

激しい衝撃が上空を揺るがし、美羽の張っていた結界までも破壊してしまった。

 

「美羽! 無事か!?」

 

「う、うん・・・お兄ちゃんが守ってくれたから・・・・」

 

「そうか・・・・。良かった・・・・」

 

危なかった。

あと一瞬でも遅れれば―――――

 

フェンリルは殴られた衝撃でロキのところまで飛んでいくと、見事な着地を決めていた。

流石は最悪最大の魔物。

顔から血を流しているが思ったよりダメージは少ない。

それでも、動きを止めるくらいにはダメージを与えられたか。

 

だが―――――

 

 

「ごぶっ」

 

 

俺は口から血を吐き出す。

腹部を見れば、鎧には大きな穴。

 

そう、俺が拳を繰り出した瞬間にあの狼もそれに合わせてその大きな爪で俺の腹を抉ったんだ。

ったく、あのスピードに合わせるとかとんでもねぇな・・・・・。

 

あまりの激痛に体がよろめく。

体勢を崩した俺を美羽が支えてくれた。

 

「お兄ちゃん!? しっかりして! 今、治療するから!」

 

美羽が手元に魔法陣を展開して俺の腹部に手を当てる。

 

だけど、ロキはそれをさせまいとフェンリルに指示を出す。

 

「回復か。そうはさせん。赤龍帝はフェンリルに追い付くばかりかダメージを与えた。恐るべきことだ。今のうちに始末するに限る。―――――フェンリル」

 

この状態で襲われたら、次は間違いなくやられる!

そうなれば美羽もあいつに殺されてしまう!

 

「イッセーはやらせん!!」

 

ティアが俺を守ろうとフェンリルに攻撃を仕掛けようとする。

しかし、ヘルが間に入ってそれを阻止する。

 

「行かせると思って? お父様の邪魔はさせませんわ」

 

「くっ!! そこをどけぇぇぇぇぇぇええええ!!!!」

 

マズい!

 

ティアがヘルに足止めされている以上、俺が何とかするしかねぇ!

 

美羽は何が何でも守ると決めた。

こいつはやらせない!

 

 

 

『覇を使え』

 

 

 

頭に男の声が聞こえた。

ドライグの声じゃない。

 

これは―――――

 

『覇を使えばその娘も守れる。さぁ、唱えよう』

 

歴代の赤龍帝か・・・・!

こんな時に!

 

うるせぇ!

黙ってろ!

 

『何を言う。貴様は誓ったのだろう? その娘を守ると。今のままで奴らを退けられると思っているのか?』

 

それでもだ!

覇龍を使ったら奴らは倒せるだろうけどな、守りたいものまで傷つけてしまうような力なら俺は絶対に使わねぇ!!

 

 

「これなら!」

 

美羽がフェンリルを囲むように魔法陣を展開すると、そこから光の槍が無数に飛び出してフェンリルに突き刺さる。

だけど、あれじゃあフェンリルは止められない!

 

フェンリルは自分に向かってくる槍を前足ですべて薙ぎ払う。

 

「まだだよ!」

 

美羽はフェンリルの足元に巨大な魔法陣を展開させる。

魔法陣には六芒星が描かれていて、それはフェンリルが中央に立ったと同時に激しく輝いた!!!

 

魔法陣から発せられた光はフェンリルを覆い尽くすと天まで伸びる光の柱となった。

 

「これで少しは時間を稼げるはず! 今のうちに治療を!」

 

美羽の狙いは時間を稼ぐことか。

美羽も自分の力ではフェンリルを止められないことは分かってたんだな。

 

確かに俺が回復できれば、もう少しだけなら何とかなるはずだ。

 

美羽の掌が俺の腹部に再び当てれられ、傷を癒していく。

 

「アーシアさんほどの治療は出来ないから、応急処置にしかならないけど今はこれで!」

 

「ああ、ありがとう、美羽」

 

よし、このまま傷がある程度塞がってくれれば・・・・・

 

 

しかし―――――

 

 

突然、フェンリルを封じていた光の柱が砕け散った。

 

「フェンリルの動きを止めるとは驚いたぞ。見たこともない魔法だ。やはり、貴殿が・・・・・」

 

見ればロキがレーヴァテインで魔法陣を破壊していた。

 

やられた・・・・!

もう少しだったのに・・・!

 

ロキは俺達にレーヴァテインの切先を向ける。

 

「案ずるな。楽に死なせてやろう」

 

二ィと笑みを浮かべるロキ。

 

俺は中途半端に傷が塞がった状態で立ち上がり、美羽を押しのける。

 

「美羽、少し下がってろ」

 

「ダメだよ! そんな傷で動いたら・・・・・!」

 

美羽は俺を制止しようとするが、俺はそれを聞き入れなかった。

 

左腕を突出し、その名を呼ぶ。

 

「来い、イグニス」

 

手元に赤い粒子が集まり、一つの剣を作り出す。

それは巨大な片刃の剣。

俺の右腕を焼いた剣だ。

 

こいつを使うってことは左腕を失うことになるだろう。

でも、ここで生き残るにはイグニスの力を借りるしかねぇ。

イグニスの召喚によって周囲の温度が急激に上昇する。

 

「!? その剣は一体!?」

 

初めてロキが驚愕したな。

 

まぁ、こいつについて教える余裕なんて俺にはない。

 

俺はイグニスを振りかぶりロキに斬りかかろうとした。

その時だった。

 

 

「イッセー、そいつは使うな!」

 

 

どこからか聞こえる声。

 

それと同時に無数の光の槍、雷光、滅びの魔力、聖なるオーラがロキとフェンリルに襲いかかった。

その攻撃が放たれた方向を確認すると、オカ研メンバーにアザゼル先生、バラキエルさん、ロスヴァイセさんにオーディンの爺さんが駆けつけてくれていた。

 

皆の登場でロキ達の動きも止まり、ティアと戦闘を行っていたヘルもロキのところに合流していた。

 

先生とバラキエルさんが黒い翼を羽ばたかせて、俺の横に寄って来た。

 

「すまん、遅くなった。アーシア、イッセーを治療してやってくれ!」

 

「はい! 美羽さん、イッセーさんを!」

 

「うん!」

 

俺は美羽に抱えられ、アーシアの元に運ばれた。

今のアーシアなら遠距離からの治療も可能だけど、一旦俺を後退させる意味もあるんだろうな。

 

先生が怒気を含んだ声で言う。

 

「よう、ロキ。よくも俺の生徒をやってくれたな。おまえがここに来た目的は聞かなくても分かってる。オーディンの爺さんの首だろ?」

 

「これはこれは堕天使の総督殿。いかにも。我の目的はオーディンの首。他の神話勢と和議を結ぼうなどと愚かな考えを持つ主神を粛清しに来たのだ。貴殿らにも我が粛清を受けてもらおう」

 

「そのためにフェンリルまで呼ぶとはな。しかも人間界に。正気の沙汰とは思えんね」

 

「我は目的のためなら手段は選ばん。オーディンよ、今一度だけ聞く! まだこのような愚かなことを続けるおつもりか!」

 

ロキはオーディンの爺さんの方に視線を移して尋ねる。

 

爺さんは部長達の前に立ち、顎の長い白髭をさすりながら言った。

 

「そうじゃよ。少なくともお主らよりもサーゼクスやアザゼルと話していたほうが万倍も楽しいわい。だいたいのぉ、黄昏の先にあるのは終末。つまりは滅びじゃ。それを自ら引き起こそうとするなど、それこそ愚かな行為じゃと思わんか?」

 

それを聞いたロキのオーラが変質した。

明らかな殺意が爺さんへと向けられる。

 

「了解した。・・・・・我は止まらん。ここで貴様を殺し、黄昏を行うとしよう。いかにオーディンがいるとはいえ、フェンリルがいては前に出てこれまい」

 

その言葉に同調するように、ヘルとフェンリルからも凄まじいプレッシャーが放たれる。

 

ロキとヘルはともかくフェンリルがヤバすぎる。

 

一度、戦ってみて分かった。

あいつはこの場にいるメンバーだけじゃ止められない。

フェンリルを止めるならまだ戦力が足りない。

 

 

すると―――――

 

 

「悪いが、兵藤一誠をやらせる訳にはいかないな」

 

 

俺達の前に白銀が舞い降りる。

 

 

「やぁ、兵藤一誠。無事か?」

 

「ヴァーリ!?」

 

俺達の前に現れたのは白龍皇ヴァーリ。

旧魔王派との一件以来だ。

 

「おうおう、よくもその出血で動けるねぃ。やっぱり赤龍帝は色々おかしいぜぃ」

 

横から金色の雲に乗って出てきたのは美猴だった。

 

「うるせーよ。今にも倒れそうなんだよ、俺は。もう少し気遣え」

 

美羽とアーシアの治療で傷は塞がりつつあるとは言え、流した血の量は多い。

今にも気を失いそうだ。

 

俺がそう言うと美猴はケラケラと笑う。

 

「そんなこと言う元気があるんなら、気遣う必要もないと思うぜぃ?」

 

うーん、腹立つ!

ロキの前にこいつを倒しちゃおうか!

 

って、そんなことよりも何でこいつらがここにいるんだ?

 

「―――――! 白龍皇か!」

 

ロキがヴァーリの登場に嬉々として笑んだ。

 

「始めましてだな。悪神ロキ殿。俺は白龍皇ヴァーリ。―――――貴殿を屠りに来た」

 

「白龍皇が赤龍帝の味方をするか」

 

「彼、赤龍帝の兵藤一誠を倒すのはこの俺だ。他の者に横取りされるのは気にくわないのさ」

 

ヴァーリの答えにロキは口の端を吊り上げる。

 

「ふはははははは! なるほど! 実に面白い! まさかこんなところで二天龍を見られるとは思わなかったぞ!! ――――今日は引き下がるとしよう」

 

ロキがそう言うとヘルが尋ねた。

 

「よろしいのですか?」

 

「流石に白龍皇まで来られてはこちらも不利だ。赤龍帝も回復しつつある。この場は一時退くとする」

 

ロキがマントを翻すと、空間が歪みだし、ロキとヘル、フェンリルを包み込んだ。

 

「だが、この国の神々との会談の日! またお邪魔させてもらう! オーディンよ、次こそはその喉笛を噛みきってみせよう!」

 

そう言い残すと、ロキ達は姿を消した。

それを確認したと同時に俺も意識を失った。

 

 

 

 

 

 

気づくと、俺はオーディンの爺さんが移動するときに乗っている馬車の中で横になっていた。

 

あー、失血で気を失ったのか。

 

「気が付いた?」

 

声がした方を見ると、美羽とアーシア、小猫ちゃんがいて俺を治療してくれているところだった。

温かい緑色のオーラが俺を包み、腹部の痛みを消してくれていた。

小猫ちゃんも俺の体に手を当てて気の巡りを良くしてくれている。

自然治癒能力を高めてくれているんだ。

 

「三人とも、ありがとう。俺はもう大丈夫だ」

 

俺は上体を起こして三人にお礼を言う。

すると、三人は涙ぐんだ。

 

「もう! 心配したんだから!」

 

「イッセーさん! 良かった!」

 

「・・・・・先輩、無茶しないでください」

 

ガバッと三人が抱きついてきた。

 

あははは・・・・・

また心配かけちまったな。

俺って毎回同じことを繰り返しているような気がする。

 

俺は三人の頭を撫でてやる。

 

「心配かけてごめんな」

 

さて、俺のケガも治ったことだし、あいつにも礼を言わないとな。

 

俺は三人を連れて馬車を出た。

 

馬車は既に地上に降りていて、場所は駒王学園旧校舎の前にある小さな広場だった。

夜間のため、人の気配はない。

それでも、念のためだろう、周囲には何やら結界が張られていた。

 

部長達が集まっている場所に歩を進める。

そこには部長や先生、オーディンの爺さん以外にもメンバーがいた。

 

ヴァーリとその仲間。

美猴と黒歌、それからアーサーがいた。

 

俺に気付いたヴァーリが声をかけてきた。

 

「気が付いたか、兵藤一誠。傷の具合はどうだ?」

 

「ああ。お陰さまで今は完全に塞がっている。ありがとな、ヴァーリ。あの時、おまえが来てくれなかったら誰かが死んでいた」

 

「気にするな。言っただろう? 君を倒すのは俺だと。あんなところで死なれては俺が困るのさ」

 

ヴァーリは笑みを浮かべながらそう返してくる。

 

どんだけ俺と闘いたいんだよ、こいつ!

 

まぁ、何にしてもヴァーリのお陰で助かったのも事実だ。

ここは素直に感謝しておこう。

 

先生がヴァーリに声をかける。

 

「イッセーの無事も確認できたことだし、話を戻すぞ。ヴァーリ、なぜ、ここに現れた?」

 

「心配するなアザゼル。そちらに害を及ぼす気はないさ」

 

「答えになってないぞ」

 

先生の言葉にヴァーリは苦笑する。

そして、俺達を見渡してから言った。

 

「そちらはオーディンの会談を成功させるために、何としてでもロキを撃退したい。そうだろう?」

 

その問いに先生が答える。

 

「ああ、そうだ。だが、このメンバーだけではロキとヘル、そしてフェンリルを退けるのは至難の技だ。英雄派のテロ活動のせいで、どこの勢力も大騒ぎ。とてもじゃないが、こちらにこれ以上人員を割くことは出来ん」

 

「だろうな」

 

・・・・・・はぁ。

テロが横行してるこの時期に厄介な奴等が現れたもんだ。

しかも相手は神クラス。

面倒なんてレベルじゃないぞ。

 

「それで? おまえはこの後、どうするつもりなんだ? おまえがロキ達を倒すのか?」

 

先生の問いにヴァーリは肩をすくめる。

 

「そうしたいところだが、今の俺にやつらを同時に相手するのは不可能だ。フェンリルだけでも厄介だと言うのに」

 

まぁ、そうだろうな。

いくらヴァーリが強いと言ってもあのレベルを相手にするのはな・・・・・

 

俺が万全の状態だったとしても無理だ。

一人一人のレベルが高すぎる。

 

 

「―――――だが、二天龍が手を組めばそれも不可能じゃない」

 

 

『!?』

 

 

その言葉にこの場にいる全員が驚愕した!

だって、そうだろう!

 

こいつが言ってることは―――――

 

 

「今回の一戦、俺は兵藤一誠と共闘しても良いと言っている」

 

 

 



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7話 物知りなドラゴンです!!

翌日。

 

俺の家にはオカ研メンバー、アザゼル先生、そしてヴァーリチームの面々が集まっていた。

 

まさか、ヴァーリとその仲間が家に来るなんてな。

思っても見なかったぜ。

 

ヴァーリ達のことはサーゼクスさんにも伝わっているらしく、このことは了承しているとのことだ。

まぁ、俺達は旧魔王派の時と今回、ヴァーリに二度助けられているからな。

そのあたりもあるのだろう。

 

それに皆もヴァーリが他の旧魔王派とは違うことは一応認識しているようだ。

部長も渋々とはいえ、家に来ることを了承したしね。

 

「えっと、ヴァーリ君だったかしら? お飲み物は何が良い?」

 

と、母さんがヴァーリに声をかけた。

 

母さんもこいつがテロリストの一味だと知って驚いていたけど、俺達が何度か助けられたことを話したとたん、フレンドリーになった。

 

「ああ、すまない。ではコーヒーをいただこう」

 

「じゃあ、俺っちはコーラで」

 

「私は紅茶をいただけますか?」

 

「えーと、私は普通にお茶でいいかな~」

 

うーん、緊張感ねぇな、こいつら。

まぁ、そんなものを期待するのは無駄だと思うけど。

黒歌と美猴なんて、ソファでゴロゴロしてるしな!

 

オーディンの爺さんの護衛の件だけど、三大勢力が協力することになった。

当然、爺さんの会談を成就させるためなんだけど・・・・・

援軍をこちらに送ることは難しいらしい。

どの勢力も英雄派から神器所有者を送り込まれている状況でそちらにも人員を回さなけらばならないとのことだ。

つまり、この町のメンバーで守れということ。

 

ったく、簡単に言ってくれるよなお偉いさんは。

 

相手はロキとヘル、そしてフェンリル。

こいつらを俺達だけで退けろとか無茶にも程がある。

 

フェンリルに関しては封じられる前の二天龍に匹敵するほどの力を持っているという。

先生やタンニーンのおっさんでも単独では勝てない。

 

俺やヴァーリもまだ二天龍の力を全て引き出せていないので、フェンリルには勝てない。

 

ヴァーリ曰く、『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』ならば何とかなるらしいが、フェンリルを倒せたとしても残る神二人まで保たないそうだ。

 

俺は・・・・・・使いたくはない。

暴走し仲間を傷つける可能性がある以上、使いたくない。

また、歴代の奴等が何か言ってきたら無視してやろうか。

 

最悪の場合はイグニスを使うさ。

例え左腕まで使えなくなったとしてもそれで守れるのなら安いもんだ。

 

とりあえず、今は犠牲を出さないようにするための作戦会議をしている。

 

 

「まず、ヴァーリ。俺達に協力する理由を話してもらう。こうなった以上、昨日みたいなのは無しだ」

 

ホワイトボードの前に立った先生が疑問をヴァーリにぶつける。

まぁ、それは気になるところだよな。

 

ヴァーリは不敵に笑むと口を開く。

 

「奴等と戦ってみたいだけだ。美猴達も了承済み。この理由では不服か?」

 

うん、そんなところだろうとは思ってたよ。

戦闘マニアだもんな。

 

先生は嘆息する。

 

「まぁ、不服と言えば不服だな。だが、こちらとしては戦力として欲しいのは確かだ」

 

「だろうな。そちらは援軍の見込みがない上に、兵藤一誠も万全の状態ではない。今の戦力で一戦交えれば確実に犠牲者が出る。それはそちらとしては望むところではないだろう?」

 

「そりゃあな。・・・・・まぁ、サーゼクスも了承しているし、俺も協力してもらいたいと思っている」

 

「そうね。納得出来ないことが多いけれど、今はそんなことを言っている場合じゃないものね」

 

部長が先生に続く。

文句はあるようだけど、現状が現状だからな。

 

ソーナ会長も了承しているようだったし。

 

俺もヴァーリ達が味方として参戦してくれるなら心強いと思っている。

こいつらは戦力としては申し分ないほどの猛者の集まりだからな。

 

「まぁ、ヴァーリのことは置いておく。話をロキ対策の方に移行するぞ。やつらの対策はある者に訊く予定だ」

 

「ある者?」

 

先生が部長の言葉に頷く。

 

「そう、あいつらに詳しいのがいてな。そいつにご教授してもらうのさ」

 

「それは誰ですか?」

 

俺が尋ねる。

 

「五大龍王の一角、『終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)』ミドガルズオルムだ」

 

――――!

 

ここで龍王が出てきますか!

その龍王がなんで関係してくるんだ?

 

「まぁ、順当だな。だが、やつが俺達の声に応えるのだろうか?」

 

ヴァーリの問いに先生が答える。

 

「二天龍、龍王―――ティアマット、ファーブニル、ヴリトラの力、タンニーンの力で龍門(ドラゴン・ゲート)を開く。そこからやつの意識を呼び寄せるのさ。これだけいれば奴も応えてくれるだろうよ」

 

へぇ。

そんな方法があるのか。

 

「もしかして、俺も・・・・・?」

 

匙がおそるおそる手を挙げる。

 

「心配するな。おまえには要素の一つとして来てもらうだけだ。大方のことは俺達に任せろ。とりあえず、俺はタンニーンと連絡をとる。イッセーはティアマットに連絡を入れておいてくれ」

 

「了解です」

 

「よし、それじゃあ俺はシェムハザと対策について話してくる。バラキエル、付いてきてくれ」

 

「了解した」

 

先生はそう言ってバラキエルさんと魔法陣で転移していった。

 

残されたのは俺達オカ研と生徒会。

そしてヴァーリチームの面々。

 

微妙な空気が部屋に流れる。

 

「赤龍帝!」

 

美猴が手を挙げる。

 

「なんだよ?」

 

「この下にある屋内プールに入っていいかい?」

 

「あ、私も入りたーい」

 

黒歌までそれに続きやがった。

 

こいつら・・・・・・・。

 

確認するけど、一応敵同士だからね、俺達。

おまえら自分達がテロリストの一味だってこと忘れてないよね?

 

「まぁ、いいんじゃね? ただし、変なことはするなよ? 家の中荒らしたりとか」

 

こいつらイタズラとか好きそうだもんなぁ。

 

俺がそう言うと美猴は頬をかきながら言う。

 

「そんなことしねぇよ。俺っちはただ泳ぎたいだけだぜぃ。ほら、水着もこのとおり」

 

と、美猴が海パンを袋の中から取り出す。

 

なんで今持ってんだよ!?

はなからプールで泳ぐ気だったのか!?

 

「はぁ・・・・・。分かったよ。この部屋を出て地下に降りればプールだ。テキトーに泳いでくれ」

 

「サンキュー!」

 

そのまま美猴はこの部屋を出ていってしまった。

 

「こ、これが最後のエクスカリバーなんですね! すごーい!」

 

「ええ。ヴァーリが独自の情報を得まして、私の家に伝わる伝承と照らし合わせた結果、見つかったのですよ」

 

声のする方を向けばイリナとアーサーがエクスカリバーについて話していた。

イリナって本当に誰とでも打ち解けるな。

 

横では木場とゼノヴィアが警戒しながらも二人の話を聞いていた。

 

剣士としてはやっぱり気になるんだろうな。

 

すると、アーサーは俺に視線を移して、声をかけてきた。

 

「赤龍帝」

 

「ん? どうした?」

 

「あなたも面白い剣を所有しているとヴァーリから聞きました。よろしければ見せてもらえないでしょうか?」

 

「あ、私も見たい! なんでも物凄い剣だって木場君とゼノヴィアから聞いたわ! この間は一瞬でよく見えなかったし」

 

イリナまでそんなことを言ってきた。

 

イグニスを見たいって言われてもなぁ。

 

「悪いな。あれはかなり危険なものでさ。俺でも制御しきれてないんだ。ここで出したら辺り一帯が灼熱地獄に変わっちまう」

 

ロキの時に出したけど、あれは場所が遥か上空だったのが幸いだった。

それに出した時間も一瞬だったしな。

 

それを聞いて二人は目を開いて驚いているようだった。

 

「ヴァーリを倒すほどの力を持つあなたが制御仕切れてないとは・・・・・。いやはや、とんでもないですね」

 

「まぁな。俺の右腕がこうなったのもアレを使ったからだし」

 

俺は右腕をアーサーに見せる。

そこにあるのは生々しい火傷の跡。

 

「なるほど・・・・・・・分かりました。本当ならあなたと剣を交えてみたかったのですが、そう言うことでは仕方がありませんね。またの機会にしましょう」

 

おおっ、分かってくれたか。

アーサーも戦闘が好きそうだけど、ヴァーリチームの中では一番まともかもしれない。

 

俺の視界にもう一組のやり取りが映った。

 

「・・・・・・」

 

「にゃん♪」

 

小猫ちゃんと黒歌か。

 

小猫ちゃんは警戒しながらお姉さんを睨み、黒歌の方は妖艶な笑みを浮かべている。

 

黒歌のやつ、何してんだよ?

 

俺は近づき、両者の間に入る。

 

「小猫ちゃんは連れていかせないぜ?」

 

俺は黒歌にいった。

まぁ、大丈夫だとは思うけど一応の釘はさしておこう。

 

すると、黒歌はイタズラ笑顔で俺をジロジロと見てきた。

 

なんだなんだ?

 

「むふふ。赤龍帝も結構凛々しい顔してるのよねぇ」

 

俺の頬を撫でながら上目使いで言ってくる黒歌。

 

うーん、可愛いな!

流石は小猫ちゃんのお姉さんだ!

 

つーか、前屈みになってるから黒歌の着物の間からおっぱいが!

良いおっぱいしてるな!

 

小猫ちゃんも将来、こういう感じになるのかな?

だったら、最高だな!

 

「ねねね、一つお願いがあるんだけど」

 

「なんだよ?」

 

「私と子供作ってみない?」

 

「・・・・・・・・・・・へ?」

 

こいつ、今、何て言ったよ・・・・・・・?

 

突然のことに困惑する俺。

 

黒歌は構わず続ける。

 

「私ね、ドラゴンの子が欲しいの。特別強いドラゴンの子。ヴァーリにも頼んだんだけど、断られちゃって。だったら、あんたしかいないし。二天龍だし、強いし、赤龍帝なら申し分ないにゃん。つまり―――」

 

「えーと、つまり・・・・・・?」

 

「あんたの遺伝子を提供してほしいにゃん」

 

・・・・・・・・・・・

 

なんか、ゼノヴィアみたいなこと言ってきやがったよ。

 

そんなに二天龍の遺伝子って魅力的なのか?

 

「にゃははは、今ならお買い得にゃん。妊娠するまでの関係でいいからどうかにゃ?」

 

エロい!

エロすぎるぜ、小猫ちゃんのお姉さん!

こんなお姉さんが相手なら断る理由もない!

 

ぜひお願いします!

と、俺が了承の返事を返そうとすると、小猫ちゃんが俺と黒歌の間に入った。

 

「・・・・・・・姉さまに先輩の・・・・・・・・・・・は渡しません」

 

何やら頬を赤くして呟く小猫ちゃん。

 

途中が全く聞き取れなかったけど、黒歌には通じたのか楽しそうに笑んだ。

 

「へぇ。あの白音がねぇ・・・・・」

 

黒歌はにんまり笑うと俺と小猫ちゃんに手を振って、ヴァーリの方へと行ってしまった。

 

あー、俺の初体験が・・・・・・

 

チャンスを逃した俺はガックリとなるのであった。

 

 

 

 

 

 

先生が帰ってきた後、俺と匙、ヴァーリは転移魔法陣で兵藤家からとある場所へと飛んだ。

 

なんでも例の龍王を呼び寄せるために特別に場所を用意したとか。

 

着いた場所は白い空間だった。

部屋自体には特にこれといって目立ったところは無い。

 

「先日以来だな、兵藤一誠」

 

「お、来たかイッセー。待っていたぞ」

 

声をかけてきたのは大きなドラゴンと長い青髪の美女。

 

「タンニーンのおっさんとティアじゃん。先に来てたんだな」

 

「ああ、おまえに連絡をもらった後に堕天使の総督殿のところに行ってな。そしたらここへ案内された。着いたのはつい数分前だよ」

 

と、ティアが解説してくれた。

 

おっさんの方はというと匙を見ていた。

 

「・・・・・そちらがヴリトラを宿す者か」

 

「ド、ド、ドラゴン・・・・・・龍王! 最上級悪魔の・・・・・・!」

 

おいおい、ビビりすぎだろ、匙よ。

体が震えてるぞ。

 

いや、緊張だけじゃなくて、どこか尊敬が混じってるような目だな。

 

俺は匙の肩に手を置く。

 

「緊張すんなって。おっさんは強面だけど、いいドラゴンだぞ? 厳しいけど優しいんだ」

 

「バ、バカ! 最上級悪魔のタンニーンさまだぞ! お、おっさんだなんて失礼だろ!」

 

「そうか?」

 

おっさんはおっさんだしなぁ。

修行中もずっとおっさんって呼んでたし。

 

俺に指を突きつけて匙が言う。

 

「最上級悪魔ってのはな、冥界でも選ばれた者しかなれない。冥界への貢献度、ゲームでの実績、能力、それら全てが最高ランクの評価をしてもらって初めて得られる、悪魔にとって最上級の位なんだよ」

 

と、匙が熱弁する。

 

へー、そこまですごいもんなのか。

 

いや、でも・・・・・・・

 

「でもよ、俺、サーゼクスさんに魔王になってみないかって言われたぞ?」

 

そう、三大勢力の会談の前、サーゼクスさんが家に泊まった時の話だ。

夕食の時と、寝る前にサーゼクスは俺に「魔王になってみないか」と言ってきた。

サーゼクスさんは割りと本気だったことを覚えているよ。

 

「・・・・・・・は?」

 

あ、匙が口を開けて固まった。

 

目の前で掌を振っても返事が返ってこない。

ただの屍のようだ。

 

そして数秒後。

 

「は、はあぁぁぁぁぁぁあああ!?」

 

うおっ!?

 

匙が絶叫しやがった!

 

「お、おま、おまえ・・・・・マジかよ!?」

 

「あ、ああ。まぁな」

 

なんか、メチャクチャ驚いてるよ、こいつ。

 

隣を見るとタンニーンのおっさんとティアがふむふむと納得しているような表情だった。

 

「なるほど。サーゼクスから既に声をかけられていたか。まぁ、兵藤一誠の実力は既に魔王クラス。素の状態でも最上級悪魔クラスだからな」

 

「そうだな。実力的には申し分ないだろう。後は魔王として政治やその他の職務をこなせるかどうかが問題だな」

 

ティアの言葉に俺は頷く。

 

「あー、それな。俺もそこが心配なんだよ。サーゼクスさんに言われて一応考えてみるって言ったけどさ。俺って頭よくないし」

 

「まぁ、そこはまだ心配しなくても良いのではないか? 仮にイッセーが魔王になるにしてももっと先の話だ。これからゆっくり学んでいけばいい」

 

ティアは笑いながらそう言ってくれた。

 

うーん、勉強って苦手なんだよなぁ。

でも、期待してくれているならそれに応えてみたい。

 

ティアの言うとおり、ゆっくりでもいいからコツコツ勉強していこう。

 

何事も日々の努力だからな。

 

おっさんの視線がヴァーリに移る。

 

「・・・・・白龍皇か。妙な真似だけはしてくれるなよ? その時は躊躇いなく噛み砕くぞ」

 

その言葉にヴァーリは苦笑するだけだった。

 

アザぜル先生が術式を展開して専用の魔法陣を地面に描いていく。

光が走っていき、独特の紋様を形作っていた。

 

「それで、今から会うドラゴンってどんなやつなんだ?」

 

俺が尋ねるとティアが嘆息する。

 

「ミドガルズオルムか・・・・・。まぁ、なんと言うか・・・・・。一言で言えば、ただのグータラ野郎だな」

 

グータラ野郎?

どういうこと?

 

俺が怪訝な表情をしているとタンニーンのおっさんが教えてくれた。

 

「あやつは基本的には動かん。世界に動き出すものの一匹だからな。使命が来るその時まで眠りについているのだ。最後に会ったのは数百年前だが、世界の終わりまで深海で寝て過ごすと言って、そのまま海の底へと潜ってしまった。それ以来あやつとは会っていない」

 

マジか・・・・・・

そんなドラゴンが龍王に・・・・・・

 

いったいどんなドラゴンなんだよ・・・・・・

 

「さて、魔法陣の基礎はできた。あとは各員、指定された場所に立ってくれ」

 

先生に指示され、魔法陣の上に立った。

 

各自指定ポイントに立ったことを先生が確認すると、手元の魔法陣を操作した。

 

 

カッ

 

 

淡い光が下の魔法陣に走り、俺のところが赤く光り、ヴァーリのところが白く光った。

そんでもって、先生のところが金、匙のところが黒、ティアのところが青、そしておっさんのところが紫色に光り輝く。

 

『それぞれが各ドラゴンの特徴を反映した色だ』

 

と、ドライグが説明してくれる。

 

なるほど。

言われてみれば確かに。

 

魔法陣が発動し、部屋が一瞬、光に包まれた。

 

すると、魔法陣から何やらが投影され始めた。

立体映像が徐々に俺達の頭上に作られ――――

 

俺達の目の前にこの空間を埋め尽くす勢いの巨大な生物が写し出された!

 

でけぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

グレートレッドよりもデカいじゃねぇか!

 

目の前のドラゴンは東洋の細長いタイプのドラゴンで、その長い体でとぐろを巻いているようだった。

 

俺が驚いているのを見て、おっさんが言う。

 

「こいつはドラゴンの中で最大の大きさを誇る。グレートレッドの五、六倍くらいはあるだろう」

 

ひぇぇぇ

 

つーことは五、六百メートルくらいはあるってことかよ。

 

驚く俺の耳にデカイ奇っ怪な音が飛び込んできた。

 

『・・・・・・・ぐごごごごごごごごごごごごごぉぉぉぉおおおおおおん・・・・・・・・』

 

おっさんが言ってた通り、本当に寝てるよ、このドラゴン・・・・・

 

「案の定、寝ているな。おい、起きろ、ミドガルズオルム」

 

タンニーンのおっさんが話しかける。

 

しかし、

 

『・・・・・・・ぐごごごごごごごごごごごごご・・・・・・』

 

返ってくるのはデカイいびきだけ。

 

熟睡中だな。

 

「おい、ミドガルズオルム! 起きんか!」

 

おおっ

 

タンニーンのおっさんが怒ったぞ。

 

その怒鳴り声を聞いて、ようやく目の前のドラゴンは目を開けた。

 

『・・・・ん? おぉ、タンニーンじゃないか。久し振りだねぇ』

 

なんともゆっくりな口調だな。

 

『・・・・・ドライグとアルビオン、ティアマットまでいる。・・・・・それにファーブニルと・・・・・ヴリトラも・・・・? どうしたんだい? もしかして、世界の終末なのかい?』

 

「いや、違う。今日はおまえに訊きたいことがあってこの場に意識のみを呼び寄せたのだ。それで訊きたいこというのは―――」

 

『・・・・・ぐごごごごごごごごごごごごご・・・・・・ずぴー・・・・・・』

 

ミドガルズオルムが再びいびきをかき始めた! 

ダメだ、このドラゴン!

話出来ないじゃん!

 

「まったく、こいつは・・・・・。変わらんな・・・・・」

 

ティアが嘆息している。

どこか諦めてない!?

 

ヴァーリなんて苦笑してるぞ。

 

「寝るな! どれだけ寝れば気がすむんだ、おまえは!」

 

再度、怒鳴るおっさん。

 

ミドガルズオルムも大木な目を再び開ける。

 

『・・・・・タンニーンはいつも怒ってるなぁ・・・・・。それで僕に訊きたいことって?』

 

「聞きたいことは他でもない。おまえの父と兄、姉について訊きたい」

 

おっさんがそう訊く。

 

なんで、ミドガルズオルムの家族について訊いてるんだ?

つーか、このドラゴンに兄姉がいたのな。

 

怪訝に思う俺に気づいたのか、ティアが解説してくれた。

 

「ミドガルズオルムは元来、ロキが作り出したドラゴンでな。強大な力を持っているんだが、見ての通りこの性格だ。北欧の神々もこの性格には困り果ててな。結局は海の底で眠るように促したのだ。せめて、世界の終末が来たときには何かしら働けと言ってな」

 

「何かしらって・・・・・・。それで良いのかよ・・・・・・」

 

「まぁ、既に北欧の神々もこいつには何も期待してないだろうがな」

 

ティアは苦笑しながら言う。

 

ひ、ひどい話だ・・・・・・。

残念すぎるぞ、ミドガルズオルム!

 

おっさんの質問にミドガルズオルムが答える。

 

『ダディとワンワンとお姉ちゃんのことかぁ。いいよぉ。あの三人にはこれといって思い入れはないしぃ・・・・・。あ、タンニーン、一つだけ聞かせてよぉ』

 

「なんだ?」

 

『ドライグとアルビオンの戦いはやらないのぉ?』

 

俺とヴァーリを交互に見ながら言ってきた。

 

「ああ、やらん。今回は共同戦線でロキ達を打倒する予定だからな」

 

『へぇ。二人が戦いもせずに並んでいるから不思議だったよぉ。今代の赤と白はどちらも実力者みたいだからねぇ。面白い戦いになると思うんだけどなぁ』

 

「確かに今代はどちらもかなりの実力を持っているが・・・・。今回はそうも言ってられんのでな」

 

そりゃそうだ。

 

ロキ達を相手にする前に俺とヴァーリがやりあったら、それだけでえらいことになるぞ。

 

『ワンワンが一番厄介だねぇ。只でさえ強いのに、噛まれたら死んじゃうことが多いからねぇ。でも、弱点はあるんだぁ。ドワーフが作った魔法の鎖、グレイプニルで捕らえることができるよぉ。それで足は止められるねぇ』

 

「・・・オーディンから貰った情報では、グレイプニルではフェンリルは抑えることが出来なかったそうでな。それでおまえから更なる秘策を得ようと思っているのだ」

 

『なるほどねぇ・・・・・。ダディったらワンワンを強化したのかなぁ? なら北欧に住むダークエルフに協力してもらって、鎖を強化してもらえばいいんじゃない? 確か長老がドワーフの加工品に宿った魔法を強化する術を知ってるはずぅ』

 

へぇ。

こっちの世界にもエルフっているんだ。

 

先生がヴァーリの方を指さす。

 

「そのダークエルフが住む位置情報を白龍皇に送ってくれ。この手の類のことはヴァーリの方が詳しい」

 

『はいは~い』

 

ヴァーリが情報を捉え、口にする。

 

「―――把握した。アザゼル、立体映像で世界地図を展開してくれ」

 

先生がケータイを開いて操作すると、画面から世界地図が宙へ映写される。

ヴァーリがとある場所を指差し、先生がその情報を仲間に送り出した。

 

連絡を終えた先生が言う。

 

「よし。フェンリルについてはとりあえず良しとしよう。残るはロキとヘルか・・・・・・」

 

『ダディとお姉ちゃんかぁ・・・・・。二人とも魔法が上手だし、お姉ちゃんなんかヘルヘイムの魔物やら死人を呼び出せるから面倒だよぉ。呼び出せる数は千じゃそこらじゃないからねぇ』

 

マジかよ・・・・・。

ヘルの方も相当に厄介じゃねぇか。

こちらは数が限られている分、呼び出されたらかなりキツいぞ。

 

アザゼル先生も顎に手をやり、むぅと唸っていた。

 

「恐らく呼び出す魔物の一匹一匹はそこまで強くないだろうが、数でこられるとマズイな」

 

『多くの魔物を呼び出す時にはお姉ちゃんの動きが止まるから、そこを攻撃すればいいんじゃないかなぁ』

 

「なるほどな。それは良いことを聞いた。ではロキの方はどうだ?」

 

『そうだねぇ。ダディは魔法だけじゃなくて剣を用いた格闘戦もできるからねぇ』

 

そうなんだよなぁ。

ロキの野郎、魔法も出来て格闘戦までこなせるからチートなんだよ。

レーヴァテインなんて剣まで持ってるし。

 

『ダディを倒すとしたら結局は正攻法しかないかなぁ。そうだねぇ、ミョルニルでも撃ち込めばなんとかなるんじゃないかなぁ』

 

ミドガルズオルムの話を聞いて、先生は考え込む。

 

「ミョルニルか・・・・・。確かにそれならばロキにも十分通じるだろうな。だが、雷神トールが貸してくれるだろうか・・・・・。あれは神族が使用する武器の一つだからな」

 

『それなら、さっきのダークエルフに頼んでごらんよぉ。ミョルニルのレプリカをオーディンから預かってたはずぅ』

 

「物知りで助かるよ、ミドガルズオルム」

 

先生は苦笑しながら礼を言う。

 

本当に物知りだよな、このドラゴン。

実は龍王と呼ばれるのはこの辺りから来てるんじゃないだろうか・・・・・。

 

『いやいや。たまにはこういうのも楽しいよ。・・・・・ふはぁぁぁぁぁ・・・そろそろ僕も眠くなって来たから、また今度ね・・・・・・・』

 

大きなあくびをするミドガルズオルム。

少しずつ映像が途切れてきた。

 

「ああ、起こしてすまなかった」

 

おっさんの礼にミドガルズオルムは少し笑んだ。

 

『いいさ。また何かあったら起こしてよ』

 

それだけ言い残すと、映像は完全に消えてしまった。

 

うーん、ミドガルズオルムか。

悪いやつではないんだけど、変なドラゴンだったな。

 

とにもかくにも、ミドガルズオルムから得た情報を基に俺達は動き出すこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




異世界篇について質問があったので、ここで少しだけ答えます。
今のところはぐれ勇者原作とは全く違う流れにしようと思っています。
完全なオリジナルを考えています。

まぁ、まだまだ思案中なので投稿するのは先になりますが・・・・


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8話 本当の気持ち

ミドガルズオルムとの邂逅から数日。

ロキとの決戦に向けての準備は着実に進んでいた。

 

まず、俺達オカ研メンバーと生徒会メンバーは学校を休んでいる。

代わりに俺達を模した使い魔達が学校生活を送っている状況だ。

初めは松田と元浜とのエロトークについていけるか心配だったけど、俺の性格を完全にコピー出来ているみたいで、その辺りは問題ないみたいだ。

他の皆も同様。

 

学校を休んでいる間、俺達は各自修行を行いつつ、体を休める。

それが今できることだ。

 

と言うわけで、俺は地下のトレーニングルームの端にある小さなスペースで座禅を組んでいた。

 

理由は神器の中にいる歴代に接触するため。

 

なぁ、ドライグ。

あの歴代の怨念は何とかならないか?

 

『そう言われてもな・・・・。以前にも言ったことがあるが、歴代赤龍帝達の怨念は強すぎて、俺でも奴らをどうこうすることは出来ん』

 

はぁ・・・・・

 

俺は盛大にため息をつく。

 

歴代の怨念は俺がピンチになると毎回、ああやって俺に覇龍を使わせようとしてくるから、かなり面倒だ。

 

『歴代は相棒の強さを感じている。それ故に相棒に覇龍を使わせて全てを破壊させようとしているのさ。今の相棒が覇龍を使い、暴走すれば辺り一帯は更地になるだろう』

 

そこまでして俺を暴走させたいってのかよ・・・・・

 

これは早急に手を打たないとマズいな。

こっちの世界に戻ってきてからもこんな激戦が続くとは思ってなかったから放置しておいたけど・・・・・。

そう呑気にはしていられないな。

 

 

神器の中に意識を潜り込ませてみる。

暗闇のなかを泳いでいき、たどり着いたのは何もない真白な空間。

ここに来るのも久しぶりか。

 

そこにはテーブルと椅子がたくさんあって、それぞれに歴代の赤龍帝達が座っていた。

男性から女性、子供から老人まで色々な人が無言で座っている。

 

全員、うつろで意識がないように無表情だ。

 

俺がヤバくなった時、こいつらは目覚めて、俺を覇に引きずり込もうとする。

 

無駄だとは思うけど、声をかけてみるか。

 

「おーい、起きろよ。聞こえてるんだろ?」

 

「・・・・・・・・」

 

返事は返ってこない。

肩を叩いても体を揺すっても無反応だ。

 

他の歴代にも同じことをしてみるけど、結果は同じだった。

 

まいったね、こりゃ。

話が出来ないんじゃ、どうしようもない。

 

女性はおっぱいでも揉んだら反応してくれるかね?

 

 

・・・・・・いや、止めとくか。

後で何されるか分からんし。

 

『というより、反応がないからといってそう言う行為をするのはどうかと思うぞ』

 

ですよねー。

 

はぁ・・・・・

 

今回も収穫は無しか。

 

俺は歴代との接触を諦めて、神器から意識を戻すことにした。

 

 

 

 

 

 

「あー、疲れた」

 

俺は座禅を解いてゴロンと横になる。

 

やっぱり、あそこにいると精神的に悪いな。

白い空間に怨念が満ちているから息が詰まりそうになる。

 

さーて、シャワーでも浴びてゆっくりするか。

汗で服がへばりついて気持ち悪い。

 

風呂場へ行こうと立ち上がると、部屋に朱乃さんが入ってきた。

 

「ここにいましたのね、イッセー君。修行お疲れさまですわ」

 

「修行というほどのものじゃないんですけどね。ところで、どうしたんですか?」

 

「アザゼルからイッセー君を呼ぶように頼まれたのです。ミョルニルの調整が終わったそうですわ」

 

ミョルニルってミドガルズオルムが言ってた武器か。

確かレプリカだっけ?

 

「了解です。汗流したら行きますよ」

 

俺は横に畳んでおいたジャージの上着を掴んで朱乃さんに言う。

 

朱乃さんもそれを聞いて部屋を出ていこうとする。

その後ろ姿を見て、俺は呼び止めた。

 

「朱乃さん。何か悩んでいますよね?」

 

俺が尋ねると、朱乃さんの体がピクッと僅かに反応した。

朱乃さんが何かを悩んでいるのは顔を見れば明らかだ。

 

・・・・・いや、本当は聞かずともその理由は分かっている。

 

朱乃さんは振り返り、口を開く。

 

「どうして、そのようなことを・・・・・?」

 

「朱乃さんの表情がどこか辛そうに見えたんで気になっただけです」

 

俺がそう言うと朱乃さんは息を吐く。

 

「・・・・イッセー君には隠し事は出来ませんわね」

 

「理由はやっぱり・・・・・・・お父さんのことですか?」

 

「・・・・・・」

 

朱乃さんは俯き黙りこむ。

 

「すいません、実は俺、朱乃さんとバラキエルさんについて聞いたんです。二人の間に何があったのか・・・・。朱乃さんのお母さんのことも・・・・・」

 

「・・・・・そう」

 

俺が頭を下げて謝ると朱乃さんは一言だけ返してきた。

どこか複雑そうな感情を抱いた声音だった。

 

俺は頭を上げて朱乃さんに言う。

俺が今からしようとしているのことは朱乃さんに嫌われることになるかもしれない。

 

それでも―――――

 

「朱乃さん。朱乃さんのお母さんのことですけど、あれは――――」

 

「―――分かっていますわ」

 

俺が言い終える前に朱乃さんが答えてしまう。

そして、朱乃さんはそのまま続ける。

 

「母さまが死んだあの日。あの人にはどうしようも出来なかった。でも、あの時の私は母さまが死んだショックで頭が一杯でそんなことを考える余裕なんてなかった。・・・・・今なら分かります。あの人が悪くないことくらい・・・・」

 

やっぱり朱乃さんも理解はしていたんだ。

バラキエルさんのせいではないことも。

バラキエルさんが朱乃さんのお母さんを見殺しにした訳ではないことも。

 

「・・・・・私はあの日、あの人に酷いことを言ってしまったの。『父さまのせいで母さまが死んだ! あなたなんて嫌い! 大嫌いっ』って。本当は私のせいで母さまは死んだ・・・・・! 母さまが私を庇ったから・・・・・! それなのに私は・・・・・!」

 

「もしかして、朱乃さんがバラキエルさんを拒むのって・・・・・」

 

「・・・・・そう。全ては私が弱いせい・・・・・。あの人の顔を見る度にあの日のことを思い出して、拒んでしまう。・・・・・私のせいてどれだけあの人を傷つけてしまったか・・・・・」

 

朱乃さんは震える声と共に涙を流していた。

両肩を抱いてその場に崩れ落ちる。

 

「私は・・・・! 父さまに謝りたい・・・・! 昔みたいに戻りたい・・・・・! それなのに・・・・・」

 

美羽の言った通りだった。

 

朱乃さんは心の中ではバラキエルさんと元の父娘に戻りたいと思ってたんだ。

それでも、それを言い出せずにいたんだ。

 

だったら俺が出来ることは一つだな。

 

俺は朱乃さんの正面に屈んで、朱乃さんの両肩に手を置く。

 

「だったら、朱乃さんのその気持ち、バラキエルさんに伝えましょう」

 

「・・・・・でも」

 

「・・・・今すぐとは言いません。朱乃さんの決心がついた時で良いです。朱乃さんが本当それを望んでいるのなら、俺は朱乃さんを支えます。だから、その想いをバラキエルさんに伝えてください。」

 

「・・・・・・・」

 

「もし、朱乃さんがその勇気を持てないのなら、俺の勇気をあげます。いくらでも持っていってください。」

 

そうだよ。

俺なんかの勇気で朱乃さんとバラキエルさんが元の父娘に戻れるのなら、全部あげてもいい!

 

すると、朱乃さんは口を開く。

 

「どうして・・・・・イッセー君はそこまでして、私達のことを・・・・・?」

 

どうして、か・・・・・。

 

まぁ、朱乃さんからすれば不思議に思うだろうな。

自分達父娘に関係のないはずの俺がここまで口を出すんだからな。

 

「・・・・・俺は昔、親友を目の前で失いました」

 

「っ!」

 

「俺だけじゃありません。美羽も本当の父親を失いました。だから、俺達には分かるんです。家族を、大切な者を失う気持ちが・・・・」

 

俺は言葉を続ける。

 

「朱乃さんだって分かってるはずです。別れなんてのは突然訪れることだってあることを。会いたくてももう二度と会うことが出来ない。話したくても声を聞きたくても、それが叶うことがないことを。・・・・・例え悪魔や堕天使が永遠に近い寿命を持っていたとしても、その時はやってくるかもしれない。・・・・・俺は朱乃さんに後悔してほしくないんです・・・・・・」

 

もし、このまま朱乃さんが自分の気持ちを伝えられないまま終わったら、絶対に後悔するだろう。

そして、その後悔は一生続くことになる。

そんなことにはなってほしくない。

 

「今すぐにとは言いません。今日中にとも言いません。だけど、朱乃さんのその気持ち、必ずバラキエルさんに伝えてください」

 

「・・・・・・・」

 

朱乃さんは無言のままだったけど、涙を流しながら静かに頷いた。

 

とりあえず、朱乃さんの気持ちも確認できたし、俺の気持ちも伝えた。

あとは朱乃さん次第ってところか。

これ以上は俺が手を出すわけにはいかないからな。

 

あ、今気づいたけど、汗でベトベトの手で朱乃さんに触れちまった。

 

「す、すいません、朱乃さん。俺、汗かいてるのに・・・・」

 

離れようとすると朱乃さんが俺を強く抱き締めてきた。

 

な、何事?

 

「いいの・・・・・。もう少し、このまま・・・・。お願い、イッセー」

 

なるほど・・・・。

そう言うことね・・・・・。

 

俺は再び朱乃さんを抱き締めて、頭を撫でてあげる。

 

「分かりました。それじゃあ、もう少しこのままいます」

 

それから数分間、俺達はそのままの状態でいた。

 

 

 

 

 

それから十分後。

 

俺は朱乃さんと共にアザゼル先生が待つ兵藤家最上階にあるミーティングルームへと向かった。

 

部屋に入るとそこにいたのはグレモリー眷とシトリー眷属、アザゼル先生とバラキエルさんとロスヴァイセさん、そしてヴァーリがいた。

 

部屋に入った俺に先生が話しかける。

 

「おう、来たか。悪いな、呼び出して。修行中だったんだろ?」

 

「いや、ほとんど神器の中に潜ってただけなんで大丈夫ですよ」

 

「ってことは歴代達に会って来たのか。それで、成果はどうだ?」

 

先生に尋ねられて俺はため息をつきながら首を横に振った。

 

「全くナシです。歴代に会えることは会えるんですけど、まったく無反応なんで話もできない状況です」

 

「やはりか・・・・。ドライグの話じゃ、歴代の怨念共は覇龍を使う時に意識を取り戻すらしいからな。・・・・いや、それ以外にもおまえが窮地に陥った時にも意識が戻るんだったか? おまえのことだから大丈夫だとは思うが、絶対に覇に呑まれるなよ。おまえが暴走したらマジでヤバそうだからな。このあたり一帯が数秒で更地に変わりそうだ」

 

「分かってますよ。そのために覇とは違う道を選んだんですから。それで、ミョルニルの調整が終わったって聞いたんですけど・・・」

 

俺が尋ねると先生は頷く。

 

「ああ。本来、神しか使えない物だが、悪魔であるおまえでも使えるように仕様をオーディンの爺さんと共に行った」

 

「お、俺が使うんですか? 先生とかバラキエルさんじゃなくて?」

 

レプリカとはいえ神の武器なんだろう?

そんなのを俺が使っていいのか?

 

「ああ。俺はオーディンの爺さんの護衛につく。おまえ達には悪いが俺は戦場に立つことが出来ん。そうなれば、今回ロキ達とやり合うメンバーの中で最高戦力はおまえかヴァーリだ。だが――――」

 

「俺は必要ない。俺は天龍の力のみを極めるつもりなんでな。ロキとの戦いも白龍皇の力で戦うつもりだ」

 

「だそうだ。てなわけでイッセー、おまえがミョルニルを使え」

 

なんか、消去法で決められたような気がするんだけど・・・・・気のせいだよな?

うん、気のせいだ。

そういうことにしておこう。

 

ヴァーリのやつは追加装備はいらないってことね。

天龍の力を極める、か・・・・。

本気で白龍神皇を目指してるんだろうな。

 

こりゃ、うかうかしてると再戦した時は負けるかも・・・・。

次も勝てるよう、しっかり修行しないと。

 

「赤龍帝さんにオーディン様からこのミョルニルのレプリカをお貸しするとのことで、どうぞ」

 

ロスヴァイセさんから手渡されたのは――――――――――普通のハンマーだった。

豪華な装飾やら紋様が刻まれているけど大きさとしては普通のハンマーだ。

に、日曜大工で使えそうだな。

大きさもちょうどいいし・・・・。

 

・・・・なんか、思ってたのと違うな。

神の武器って聞いてたから結構ワクワクしてたのに・・・・

 

「オーラを流してみて下さい」

 

ロスヴァイセさんに言われて軽くオーラをハンマーに流してみる。

 

 

カッ!!

 

 

 

一瞬の閃光。

その眩しさに俺は目を閉じてしまった。

 

そして、光が止んだので目を開けてみると――――――――

 

 

ハンマーがデッカくなっていた!!

 

おおっ!!

すげぇ!!

 

渡された時の3倍くらいなったか?

とにかく、先ほどとは見違えるくらい大きくなっていた。

 

それに伴って重さも増しているみたいなんだけど・・・・

もしかして、大きさに比例して重さを増していくのか・・・・?

 

先生が言う。

 

「そういうことだ。ミョルニルは流すオーラの量によって大きさが変わる。当然、そのオーラの量によって威力も変動する。おまえが力一杯オーラを籠めたらもっとデカくなる。おっと、その状態で無闇に振るうなよ? 高エネルギーの雷で辺り一帯が消え去るぞ」

 

 

マジっすか!?

 

前言撤回!

このハンマー、マジでヤバいな!

 

つーか、そんな危険な物をこの町に持ち込まないで下さいよ!

 

俺はオーラを流すのを止める。

すると、ハンマーは元のサイズに戻っていった。

とりあえず、これで辺り一帯が消し飛ぶことはないかな。

 

「さて、ミョルニルのことは確認できたな。使い方の詳細は取説を後で持ってくるからそれを読んでおいてくれ」

 

「取説!? 取扱説明書なんてもんがあるんですか!? これ神様の武器ですよね!? 今の発言でかなり安っぽく見えてきたんですけど!?」

 

「何言ってやがる。大概のものに取説は付いてるだろ。テレビ然りゲーム然り。特に危険物には取説つけないと後で苦情が来るだろ」

 

「神様も人間と変わらねェじゃねェか!」

 

「そーだよ。オーディンのジジイを見てみろ。神だということを除けば、ただのスケベジジイだろ。そーゆうもんなんだよ、どこの世界も」

 

そんな世界は知りたくなかった・・・・・!

・・・・そういえば、師匠も武術の神様だとか何とか言われてたけど、かなりスケベだった。

マジでどこの世界でもそのあたりは変わらないのかもしれない・・・・

 

先生が咳払いして俺たち全員に言う。

 

「作戦の確認に入るぞ。まず、会談の場で奴が来るのを待ち、そこからシトリー眷属の力でおまえ達をロキ達ごと違う場所に転移させる。奴もこのことは読んでいるだろうが、あえて真正面から来るだろう。そして大人しく転移されるはずだ。転移先はとある採掘地。広く頑丈な場所だから存分に暴れてくれ。ロキはイッセーとヴァーリ。二天龍が相手をする。フェンリルとヘルはグレモリー眷属とヴァーリチーム、そして龍王ティアマットと元龍王タンニーンで撃破してもらう。フェンリルは鎖で捕縛した後に撃破。ヘルはティアマットを中心にして撃破してもらう」

 

そう、俺はヴァーリと一緒にロキ担当だ。

一人であいてにするなら非常に厄介だけど、ヴァーリとなら何とかなるかもしれない。

 

だけど、油断は絶対にできない。

奴はそれほどまでに強い。

 

先生が続ける。

 

「絶対に奴らをオーディンの元へ行かせるわけにはいかない。特にフェンリルはな。あの狼の牙は神を砕く。主神オーディンといえども、あの牙に噛まれれば死ぬ。何としても未然に防ぐ。いいな?」

 

『はいっ!』

 

ヴァーリ以外のメンバーが強く応える。

 

・・・・・それにしても、異世界で魔王と戦ったと思えば、次は元の世界で神を相手にすることになるなんてな。

俺の人生って波乱だらけだな・・・・

 

「さーて、鎖の方はダークエルフの長老に任せてるし、あとは・・・・・。匙」

 

先生が匙を呼ぶ。

 

「なんですか、アザゼル先生」

 

「おまえも作戦で重要だ。ヴリトラの神器持ってるしな」

 

先生の一言に、匙は目玉が飛び出るほど驚いていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! お、俺っすか!? お、俺、兵藤や白龍皇みたいなバカげた力は無いっすよ!?」

 

かなり狼狽してるな。

まぁ、匙も俺の修行で強くなってきているとはいえ、まだ神を相手に出来るレベルじゃない。

前線に出るのは辛いところがある。

 

先生もそれを理解して、嘆息した。

 

「分かってる。何もおまえに前線でロキ達とやり合えとは言わん。というか、今のおまえが前線に立てば死ぬ。だから、おまえにはサポートに回ってもらいたい。特にロキの相手をするイッセーとヴァーリのな。おまえの能力は今回の戦いで必要になる」

 

「サ、サポートって・・・・」

 

「まぁ、そのために、おまえにはちょいとばかしトレーニングをしてもらう。そういうわけで、ソーナ、こいつを少しの間借りるぞ」

 

会長に訊く先生。

すでに右手で匙を確保してる・・・・

 

「よろしいですが、どちらへ?」

 

「冥界の堕天使領――――――――グリゴリの研究施設さ」

 

そういう先生の顔はすごく楽しそうだった。

 

あー、これは匙のやつ地獄を見るな。

先生の玩具決定だな。

 

俺は匙の両肩に手を置く。

 

「匙・・・・・俺はおまえのこと・・・・・絶対に忘れない」

 

「おいいいいいいいいっ!! 不吉なことをいうなぁぁぁぁぁあああ!!! つーか、死ぬの確定!?」

 

「はっはっはっー。行くぞ、匙! いざ、実験室へ!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!! 会長、助けてぇぇぇぇぇええええええ!!!!!」

 

匙が会長に助けを求めるが・・・・・

 

「匙、頑張りなさい。・・・・耐えるのですよ」

 

「か、会長ぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

こうして、匙は先生と共に冥界に旅立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

先生と匙が冥界に行ったので、ミーティングも終了となった。

解散早々にバラキエルさんとヴァーリは部屋から出ていく。

美羽も自室へと戻って行った。

 

会長が部長に声をかける。

 

「リアス、地下のトレーニングルームを使用しても構いませんか?」

 

「ええ、もちろんよ。修行するのでしょう?」

 

「はい。私達シトリーは前線に立たないとはいえ、オーディン様の護衛に付かなければなりません。会談はもうすぐ。一分たりとも無駄にできません」

 

会長の言う通り、シトリー眷属はロキと俺達を転移させた後、爺さんの護衛に付くことになっている。

とても重大な役割だ。

 

「分かったわ。私も後で行くから、好きに使ってちょうだい」

 

「ありがとうございます。それでは各自着替えて、地下に集合です」

 

『はい!』

 

おおっ、他のメンバーも気合十分だ。

 

シトリーのメンバーは各自の荷物を持って地下へと向かい、木場達もそれについて行った。

 

そして、部屋には俺と部長だけが残る。

 

俺も一旦部屋に戻ろうとしたとき、部長に呼び止められた。

 

「ねぇ、イッセー。少しいいかしら?」

 

「どうしたんです、部長?」

 

「朱乃のことよ。あなたを呼んで戻ってきた朱乃の表情が少し晴れやかだったから・・・・何かあったの?」

 

流石は部長。

仲間のことを良く見てる。

 

俺はその問いに少し微笑んで答えた。

 

「ただ、朱乃さんの本音を聞いただけですよ。それだけです」

 

「本音・・・。なるほど、そういうことだったのね。・・・・朱乃は前に進めそうかしら?」

 

「あとは朱乃さん次第ですが・・・・・大丈夫です。今の朱乃さんなら―――――」

 

俺がそう言うと部長は軽く息を吐いて、安堵したような表情となる。

 

部長もここのところ朱乃さんのことをずっと心配してたからな。

少し安心したのだろう。

 

 

朱乃さんなら大丈夫だ。

何も心配いらない。

きっと、自分の想いを伝えることが出来る。

 

俺はそう信じてる。

 

 

「あ、ここにいたのね、イッセー」

 

と、母さんが部屋に入ってきた。

格好は長袖に長ズボンで、手には軍手をはめていた。

 

少し土がついてるから、屋上菜園で作業してたのかな?

 

 

「ねぇ、お父さんの工具箱知らない? トンカチを使いたいんだけど・・・・あら?」

 

母さんがテーブルに置いてあるミョルニルのレプリカに気付いた。

そのままテーブルの方へと歩いていき、それに触れる。

 

「ちょうど良かったわ。ねぇ、これ少し借りていい?」

 

「え?」

 

「さっきね、菜園の手入れをしてたんだけど、ベンチの釘が抜けそうだったの。それで修理しようかと思ったんだけど、工具箱が見当たらなくて困っていたのよ」

 

あー、なるほど。

それでトンカチを探していたと。

 

 

・・・・・・ん?

 

 

何か嫌な予感がする・・・・

 

「すぐに返すから、これ少し借りるわね」

 

そう言って母さんはミョルニルのレプリカを持って部屋を出て行ってしまった。

目的のものが見つかって、ご機嫌なのか少しスキップしていた。

 

ポカンとそれを見送る俺と部長。

 

 

そして、数秒後・・・・・

 

 

 

「「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!!!」」

 

 

 

俺と部長の叫び声が周囲に響き渡った。

 

 

 

 

 

 




書き溜めておいたのが尽きたので次回はもっと更新が遅くなりそうです・・・・・


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9話 模擬戦します!!

思ったより早く書けました!




「まさか、こんなところで君と再戦出来るなんてね」

 

俺の目の前でヴァーリが不敵に笑みを浮かべる。

本当に嬉しそうだな、こいつ。

 

俺とヴァーリは先生に頼んで作ってもらった空間にいた。

俺達が立っているのは学園のグラウンドより少し広いくらいの荒れ地。

ここはレーティングゲームのフィールドを参考にして作った特別な空間だ。

 

俺とヴァーリがここに来たのは模擬戦をするため。

お互いの今の実力を計って、ロキとの戦いに備えるのが目的。

当日は俺とヴァーリの二人でロキの相手をすることになっている。

そのためにも今の俺達がどこまでやれるのかを知っておく必要がある。

 

「再戦って・・・・・これは軽い手合わせだぞ? あまり無茶するとロキとやりあう前にダウンしちまうからな」

 

「そうは言っても手を抜くつもりは無いのだろう?」

 

「当たり前だ。そうじゃないとやる意味がない」

 

今回の模擬戦にはルールがある。

それは通常の禁手で戦うことだ。

俺の禁手の第二階層もヴァーリの覇龍も使ってはいけない。

 

ヴァーリの覇龍は魔力を消費することで少しの間なら使えるみたいだけど、消耗が大きすぎる。

俺の第二階層も同様。

ロキとの戦いが近いのにこんなところで消耗するわけにはいかない。

 

ヴァーリも全力の俺と戦えないことを残念がっていたけど、そこは了承してくれている。

 

あとは制限時間があるってことくらいか。

一応、十分を予定していて、時間が来ればブザーが鳴るらしい。

 

ちなみにだけど、このフィールドの端の方にはちょっとしたスペースが設けられていて、そこにオカ研メンバーと生徒会メンバー(匙だけはグリゴリにいる)、アザゼル先生、バラキエルさん、そしてオーディンの爺さんとロスヴァイセさんまでいた。

皆、二天龍である俺達の模擬戦に興味津々らしい。

 

本来のゲームフィールドなら観戦席みたいな部屋があって、そこで見学するんだけど即席で作ったためかこのフィールドにはそんなものは無い。

なので、皆は巻き込まれないよう特殊な結界に覆われている。

 

 

朱乃さんは先程からバラキエルさんの方をチラッと見てるけど・・・・・。

流石にまだ言い出せないみたいだ。

 

つーか、アザゼル先生とオーディンの爺さん、何か食ってるな。

あれはポップコーンか?

なんでここで食うんだ!?

 

 

「・・・・なんか、あの人達ふざけてないか?」

 

俺がそう呟くとヴァーリは苦笑する。

 

「アザゼルは昔からあんな感じだよ。気にしない方がいい」

 

うん、そうだね。

これ以上触れるのはやめよう。

 

「それじゃあ、始めるか」

 

俺のその一言でこの空間の空気が変わる。

 

俺とヴァーリがそれぞれ赤と白のオーラを纏い、それはどんどん膨らんできている。

 

俺達のオーラが接触したとき―――――

 

 

「「禁手化(バランス・ブレイク)!!!!」」

 

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!』

 

一瞬、赤と白の光がこのフィールドを照らす。

 

光が止み、俺の前にいるのは白い全身鎧を装着したヴァーリの姿。

 

・・・・・・以前戦ったときよりも明らかに強くなってるな。

静かだけど濃密なオーラだ。

 

やっぱり、こいつも相当な修行を積んできたのかね?

 

木場もそうだけど天才が努力すると本当に伸びるよな。

 

うーん、羨ましい限りだ。

俺なんて地道に修行をこなしていくしかないからな。

 

「凄いオーラじゃないか。シャルバ達との一戦から分かっていたが、君もかなり腕を上げたようだ」

 

「まぁな。冥界合宿の時は龍王二人を相手にスパーリングしてたし」

 

今思い出しても、あれはキツかった・・・・・。

だって、ティアもタンニーンのおっさんも本気でかかってくるんだぜ?

何度死にそうになったか・・・・・。

あれで強くなれなかったら、マジで泣いてるところだぞ。

 

「フッ、やはり君は面白い。それでは、その成果を俺にも味あわせてもらうとしよう!」

 

「いいぜ。そのための模擬戦だからな!」

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

 

俺は一気に倍増させて背中のブースターからオーラを噴出させる。

 

とりあえず、いつものスタイルでいってみるか!

 

「うおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

気を纏わせた左ストレートを放つ!

 

「まずは格闘戦か! 面白い!」

 

嬉嬉とした声で言いながら、拳を避けるヴァーリ。

本当に楽しそうだな・・・・

 

そんなことを考えながら俺達はいきなりの格闘戦に突入する。

こっちは右腕が使えない分不利だけど、その分、錬環勁気功で気を体中に循環させて手数を増やす!

気を纏ってる分、威力も増してるからまともにくらえばヴァーリでもダメージは避けられない!

 

俺達の拳と蹴りが衝突するたびにこのフィールドを揺らしていく。

 

以前よりも攻撃の一発一発が重い!

しかも鋭くなってやがる!

 

だけど、俺も負けてねぇ!

 

俺が拳を放つと、ヴァーリはそれを受け流し俺の右側に蹴りを放ってきた。

こういうところで右腕が動かないことの辛さが出てくる。

右側をガードすることができないからだ。

当然、避けなければならないんだけど、その分俺の手数が減ることになる。

 

「攻撃も重く鋭い。だが、片腕が動かない状態で突っ込んでくるのはどうかと思うぞ?」

 

ヴァーリも蹴りを放ちながらそんなことを言ってくる。

 

まぁ、こいつの言う通りだ。

 

明らかに不利な状態で真正面から殴り合う。

正直言って、良い行動とは言えない。

 

 

だけど――――

 

 

俺はあえて蹴りを受ける。

受けた衝撃を利用して体を反対方向に回転させ、オーバーヘッドの要領でヴァーリの顔面目掛けて蹴りを振り下ろした。

 

「なっ!?」

 

ヴァーリは俺の奇襲に驚きながらも、顔の前で腕をクロスさせて俺の蹴りを防いでいた。

俺に蹴り飛ばされた衝撃でヴァーリは大きく後退する。

籠手の部分が破壊され、僅かながら腕が赤くなってるのが見えた。

 

だけど、大したダメージは与えられてないな・・・・・

 

「今のを防ぐとか、どんな反射神経してんだよ・・・・」

 

俺はヴァーリの身体能力に驚きながらも少し呆れる。

 

今のは攻撃をあえて受けることで相手の油断を誘うカウンターに近い技だ。

更に言うなら、こちらは受けた瞬間に反対方向に体をずらして威力を低減させるので見た目ほどダメージは受けていない。

 

ヴァーリも俺が受けた瞬間は僅かに気の緩みがあったんだけど・・・・

流石にそう甘くはないか。

 

弾けるような音と共に兜に亀裂が入った。

額に熱いものが流れるのが分かった。

 

受け流したはずなのにこれか。

直撃したらヤバいな。

 

「なるほど、格闘技術では君に分があるようだ。では砲撃戦ならどうだろうか?」

 

籠手を修復してから、両手に魔力を溜めるヴァーリ。

同時にヴァーリの周囲に魔法陣が展開されていく。

 

ロキやロスヴァイセさんが使うものと似てるような・・・・

 

「ロキ対策で覚えた北欧の魔術だ。覚えたてだが威力は十分だろう」

 

やっぱり北欧魔術かよ!

 

そういえば、最近ヴァーリが何か読んでたけど・・・・・

あの本って北欧の魔術が載ってるやつだったのか!

 

そんな数日で覚えられるもんなの!?

 

クソッ!

やっぱり天才だぜ、こいつ!!

 

うおっ!?

 

ヴァーリが一斉に放ってきやがった!

魔力と魔法の混合かよ!

 

ヴァーリの砲撃が俺を追いかけるように次々放たれてくる!

一発一発が以前よりも強力になってるから、当たったらシャレにならん!

 

とにかく俺は必死で避ける!

機会を伺いつつ、反撃の準備を始める。

 

「避けてばかりか? この程度じゃないだろう?」

 

「うるせぇよ! バカスカ撃ちやがって!」

 

「ハハッ。では、逃げられないようにしてやろう」

 

ヴァーリが光翼を大きく広げる。

 

『Half Dimension!!!』

 

その音声が流れると共に周囲の空間が歪みだした。

そして、辺りの物が小さくなり俺の周囲の空間が徐々に狭まってきた。

 

なんだ!?

白龍皇の能力か!?

 

『相棒、あれは簡単に言えば周囲のものを半分にしていく技だ』

 

おいおいおい!

マジかよ!

 

そんなことすれば、美羽や皆のおっぱいまで半分になっちまうんじゃないのか!?

 

『・・・・・心配するのはそこか!?』

 

当たり前だ!

俺にとっては死活問題だ!

 

『・・・・だが、見学に来てるものは巻き込まれないように結界に覆われているのだろう? 心配はないと思うが・・・・・』

 

いーや、あのヴァーリが使う技だぞ。

何が起こるか分かったもんじゃない!

 

俺とドライグがそんなやり取りをしていると、ヴァーリが言ってきた。

 

「これで逃げ場はほぼ失われたわけだが・・・・さぁ、どうする?」

 

確かに、部屋が狭くなった以上、あの砲撃を避け続けるのは難しいな。

あれだけ広範囲に砲撃されたんじゃ、いつかは捉えられる。

アグニで相殺するのも一つの考えだけど、それだとあの数は相殺しきれない。

 

 

・・・・準備も整ったことだし、そろそろ使うか。

 

 

俺が反撃に出ようとした時だった。

ヴァーリの光翼が点滅する。

あれはアルビオンか?

 

『いいぞ、ヴァーリ! あんな天龍の恥さらしは殲滅してしまえ!!』

 

うおぉぉぉぉぉい!

いきなりの過激発言だな!

 

なんで、アルビオンのやつキレてんだよ!?

 

『なんだと!? どういう意味だ!』

 

ドライグも今の発言は聞き捨てならなかったようだ。

ドライグがアルビオンに問いただすが――――――――

 

『黙れ! 私の宿敵は断じて乳龍帝などではない!』

 

そ、そこかぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!

 

『ま、待て! それは誤解だ! 乳龍帝と呼ばれているのは宿主の兵藤一誠だ!』

 

おーい!

罪を全部俺になすりつけるつもりか!?

俺だって呼ばれたくてなったわけじゃないやい!

あの名前考えたのアザゼル先生達だからね!

そのあたり忘れないで!

 

・・・・まぁ、俺に全く罪がないかと言われるとそこは否定できない。

おっぱい突いて禁手に至ったのは事実だし・・・・

 

『宿敵を模した『おっぱいドラゴン』などというヒーロー番組を見た時の私の気持ちがおまえに分かるか!? どれだけの衝撃を受けたことか! あれを見た日から涙が止まらんのだ!』

 

『俺だって泣いたんだ! 気付けばため息が多くなってる! その名を聞くたびに心が張り裂けそうになるのだ! 実際に乳龍帝と呼ばれる俺の気持ちを考えてみろ!』 

 

『そんな気持ちなど知りたくない!! ・・・・我らは誇り高き二天龍だったはずだ・・・・! それがどうしてこんなことに・・・・! うぅ・・・・ドライグ、私はどうすればいいんだぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!』

 

『俺だってどうすればいいのか分からんのだ!!! うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!』

 

 

・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・・

えーと・・・・何、この状況?

二天龍が号泣してるんだけど・・・・・・

 

俺達、模擬戦中だよね・・・・・・?

なんなの、この状況・・・・・・

 

ヴァーリは魔力弾を俺に向けて放ちながら訊いてくる。

マスクで表情は分からないけど、その声音は本当に困っているようだった。

 

「・・・・こんな状況で訊くのはどうかと思ったんだが・・・・。兵藤一誠、俺はどうすればいいだろうか?」

 

「知るかァァァァァ!!!! とりあえず、俺が謝る! ドライグ、アルビオン、そしてヴァーリ! マジでゴメン!!!」

 

俺はヴァーリの魔力弾を避けながらそう叫んだ。

 

もういいよ!

どーせ、俺が悪いんだ!

 

この模擬戦が終わったら改めて謝るよ!!

 

俺は左手を上に向けて突き出す!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

『Transfer!!!!』

 

力を譲渡する音声が籠手から発せられた瞬間、この俺の身長の20倍はあろうかという巨大な気弾が作られる。

 

「これは・・・! 先程から反撃してこなかったのはこのためか!」

 

「ああ、そうだよ! さっきまでのお返しだ!!」

 

左手を前方に振り下ろす!

それに合わせて巨大な気弾もヴァーリ目掛けて突き進む!

 

これだけ巨大な気弾だ。

普通に攻撃するぐらいじゃ、相殺しきれないはずだ!

 

ヴァーリもそれを感じ取ったのか、空間の半減と俺への魔力砲撃を止め、気弾に向けて手をつき出す。

 

「相殺できないなら半減して威力を削るまでだ!」

 

『DividDividDividDividDividDividDividDividDivid!!!!』

 

『Half Dimension!!!』

 

ヴァーリが気弾の表面に触れて再びあの能力を使う。

しかも半減の合わせ技かよ。

 

気弾がどんどん半減されていき、最終的にはソフトボールくらいのサイズになり、ヴァーリに握りつぶされてしまった。

 

結構な力を籠めたんだけど・・・・・・

こうもあっさり対処されるとは。

 

まぁ、今のも計算内だ。

ヴァーリも今ので相当の力を使ったのか肩で息をしている。

今が絶好の機会だ!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

一気に倍増してヴァーリに突進する!

動きが止まってる今を狙う!

 

 

「かかったな」

 

 

『Power Dispersion!!!!』

 

 

―――――っ!!

 

今の音声と共に俺の力が完全に消失した。

 

なんだ、今のは!?

半減なんてレベルじゃない!

完全に力が消えた!?

 

「奥の手というものは最後まで隠しておくものだぞ、兵藤一誠」

 

ヴァーリがそのまま手刀を繰り出してくる!

 

くっ・・・・・考えるのは後だ!

今はこの局面を何とかすることに集中しろ!

 

ヴァーリの技の効果が切れたのか力が戻ってきた。

それでも、ヴァーリの方が速い!

このままじゃやられる!

危険を感じた俺は咄嗟に錬環勁気功を発動して気を急激に循環させた!

 

急激な気の流れに体が一瞬悲鳴をあげるけど、問題ない!

 

勢いを取り戻した俺の拳とヴァーリの手刀が交差し互いの体を捉えた―――――――――――

 

 

ピリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!!!!!

 

 

その瞬間、甲高い電子音がフィールド内に響く。

模擬戦の終了を知らせるためのブザーだ。

 

その音が流れたと同時に俺達はピタリと止まった。

 

「ハハハッ・・・・・」

 

「フッ・・・・・」

 

俺達は互いに苦笑しながらその拳を引いた。

 

 

 

 

模擬戦の終了時間が来たので、俺達は鎧を解除して地面に降り立つ。

 

 

「どうやらここで終わりのようだ。・・・・・結果は引き分けかな?」

 

と、ヴァーリは言うが・・・・・

俺はその言葉に首を横に振った。

 

「・・・・・いや、もし今のが当たっていたら俺の方がダメージを受けてたはずだ。今回はおまえの勝ちだよ、ヴァーリ」

 

そう、ブザーが鳴らなかったら、ヴァーリの手刀は俺の鎧を切り裂いていたはずだ。

 

俺の拳もヴァーリを捉えていただろうけど、そこまでのダメージを与えることは出来なかったはず・・・・・。

 

はぁ・・・・・

最後の最後でミスったな・・・・・・

 

それはそうと・・・・・

 

「さっきの技、あれはとんでもないな。相手の力を完全に無にする技だろ?」

 

俺がそう尋ねるとヴァーリはフッと笑む。

 

「君には隠しても無駄みたいだ。そう、あの技はほんの一瞬、触れた相手の力を完全に霧散させる。相手が強ければ強いほど、霧散できる時間は当然短くなるがな」

 

相手の力を完全に霧散させる技。

一瞬とはいえ恐ろしい技だな・・・・・・。

 

あれ?

 

もしかして、こいつ――――

 

「それって元々、俺対策だろ?」

 

「フフッ、それはどうかな?」

 

あ、はぐらかされた。

つーか、図星だよね?

絶対に第二階層の対策で編み出した技だろ。

 

「ただ、この技は見かけ以上に消耗が激しい。今の俺でも数回使えたら良い方だろう」

 

ヴァーリは肩で息をしながら、そう言うが・・・・・・

何発も使われたら厄介すぎるわ!

 

俺も新しい技考えるかな・・・・・・。

 

俺とヴァーリはその場に座り込む。

 

「あー、疲れた・・・・・・。十分ってこんなに疲れるもんだったか?」

 

「良いじゃないか。俺はかなり楽しめたぞ」

 

「まぁ、俺も結構楽しかったけどさ」

 

俺は地面に大の字になって空を見上げる。

フィールドの空は紫色。

冥界の空を再現してるのかね?

 

まぁ、何にしても取り敢えずはゆっくりしたいところだ。

 

俺はヴァーリに訊く。

 

「今の技、ロキに通じそうか?」

 

その問いにヴァーリは考え込む。

 

「ロキほどのレベルに使うとすれば、ここぞと言う時ににしか使えないだろう。それでも、奴の力を霧散できる時間は一秒も無い」

 

一秒、か・・・・・・

本当に一瞬だ。

 

だけど、その一秒が勝敗を分けることになる。

 

見学していた皆が俺達の方に歩いてきた。

 

その中からアーシアが飛び出して、俺の方へと駆け寄ってくる。

 

「イッセーさん! おケガはありませんか?」

 

「ああ、大丈夫だよ、アーシア。俺もヴァーリも痣はあちこちに出来てるけど、そこまで大きなケガはしてないよ」

 

俺がそう答えるとアーシアはほっと胸を撫で下ろした。

 

「とにかく、治療しますから、そのままでいてください。ヴァーリさんもイッセーさんが終わればすぐに治します」

 

「すまない」

 

淡い緑色の光が傷を負った部位を包み、傷を癒していく。

いつ見てもアーシアの治療はすごいよなぁ。

本当に一瞬で治るもんな。

 

「おうおう、俺が作った特製フィールドをこんなにも無茶苦茶にしやがって。おまえら、これは軽い手合わせじゃなかったのかよ?」

 

と、アザゼル先生が周囲を見渡しながら苦笑していた。

 

フィールドのあちこちに巨大なクレーターが出来ていて、足場がほぼ無いような状態だった。

 

うん、家のトレーニングルームでしなくてよかった。

もしやってたら、家が崩壊していただろう。

 

「今代の赤と白はどちらも元気が有り余っとるのぅ。流石はサーゼクスとアザ坊が認めるだけはあるわい」

 

「だろ? だけどよ、これより更に上の領域があるって言うんだから嫌になる。しかもまだ成長途中と来たもんだ。おまえら、頼むから勝手に戦わんでくれよ? 歴代の赤と白の戦いでいくつ島がなくなったか。おまえらが暴れたらそれどころの話じゃなくなる」

 

まぁ、だからこそこうして専用のフィールドをつくってもらった訳ですし、その辺りは心配いらないっすよ。

 

こいつと全力でやり合うときはもっと強固なフィールドを注文するかもしれないけど・・・・・。

 

「それで? 互いの実力は分かったのかよ?」

 

先生の問いに俺とヴァーリは互いの顔を見合わせ、頷いた。

 

「それなら良い。このフィールドは暫く置いておくから今後も適当に使ってくれ。ただ、あまりやり過ぎるなよ? 体を休めつつ修行に励め。いいな?」

 

分かってますよ、先生。

 

さてさて、これで今のヴァーリの実力も知れたことだし、後でロキ対策でも考えるか。

 

とりあえず、汗を流してゆっくりしよう。

そんなことを考えながら俺達はそのフィールドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

兵藤家のリビングにて。

汗を流した俺とヴァーリはのんびりしていた。

 

「ヴァーリ、お茶いるか?」

 

「いただくよ」

 

と、俺はヴァーリのコップにお茶を注ぐ。

冷蔵庫で冷やしておいたキンキンの麦茶だ。

風呂上がりに飲むと美味いんだよな。

 

俺は自分のコップにも注ぎ、トレーにのせてソファでくつろいでいるヴァーリの元まで運ぶ。

 

「ほれ」

 

「ありがとう」

 

コップに口をつけ、麦茶を飲む。

 

ぷはー、美味い!

 

「自分の家みたいにくつろいでしまっているが・・・・良いのかい?」

 

「良いんじゃね? 皆は少しおまえのこと警戒してるところがあるけど、おまえが悪人じゃないことは分かってるみたいだし」

 

「一応、テロリストの一員なんだが・・・・・」

 

ヴァーリは苦笑しながら、コップに口をつける。

 

まぁ、俺達は何度か助けられてるし、こいつがこうして家でゆっくりするくらいなら別に構わないんじゃないかと思う。

 

「そういえば、黒歌達は?」

 

今日、俺は黒歌や美猴、アーサーを見ていない。

 

「黒歌と美猴はこの家の空き部屋でテレビゲームをしているはずだが・・・・・。アーサーは妹のところに行っている」

 

マジか。

アーサーって妹がいるんだ。

 

つーか、黒歌と美猴のやつ、好き放題にやってくれてるな!

ゲームくらい別に良いけどよ!

あいつらは遠慮を知らねぇな!

 

「ま、いつでも遊びに来いよ。修行もできるしな。あ、テロ行為はお断りだぜ?」

 

「ふふふ、それは約束できないな」

 

なんて冗談を言っていると、俺達のところに二つの影が現れる。

 

「お主ら仲がよいのぉ」

 

「そうですね。赤龍帝と白龍皇と言えば出会ったら即対決、というイメージが合ったのですが・・・・・。この二人を見ているとそうは思えなくなりますね」

 

現れたのはオーディンの爺さんとロスヴァイセさんだった。

 

仲が良いって・・・・

 

まぁ、歴代の赤龍帝と白龍皇はすぐにドンパチやってたみたいだし・・・・・・

そう考えたら、こうしてまったりしてる俺達は仲が良い天龍と言えるのかな?

 

「ところで白龍皇。お主はどこが好きなのじゃ?」

 

爺さんがいやらしい目付きでヴァーリに訊く。

 

おいおい、爺さん・・・・・

まさか、ヴァーリ相手にエロトークか?

 

「? なんのことだ?」

 

首をかしげるヴァーリ。

ヴァーリは爺さんの意図は分からないらしい。

 

まぁ、こいつはそういうのとは無縁だろうしなぁ。

 

ヴァーリに聞き返されて、爺さんはロスヴァイセさんのおっぱい、尻、太ももを指差していく。

 

「女の体の好きな部位じゃよ。赤龍帝は乳じゃろ? お主も何かそういうのがあるんじゃないかと思うてな」

 

「心外だ。俺はおっぱいドラゴンなどではない」

 

心底心外そうに言うヴァーリ。

 

ゴメンね!

俺のせいだよね!

 

「まぁまぁ、お主も男じゃ。何処かあるじゃろう?」

 

「・・・・・あまり、そういうのに感心がないのだが。しいて言うならヒップか。腰からヒップにかけてのラインは女性を表す象徴的なところだと思うが」

 

ヴァーリが何気にそう答えた―――――

 

 

 

「なるほどのぉ。ケツ龍皇というわけじゃな」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

後日、ヴァーリから話を聞いたところ、その日アルビオンは一日中泣いていたという・・・・・・・

 

 

 

 

 




ロキとの決戦は次か次の次くらいで書きたいと思います。

気づけば80話を越えていて自分でも驚いてます。


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10話 伝えます!!

「メイド喫茶がいいです!」

 

その日の部活動は、学園祭で催す持ち物について話し合っていた。

ロキとの決戦も近いけど、学園生活も大切だ。

こういうのは早めに決めておかないとな。

 

そういうわけで、今日は学園に通えることになっている。

 

それでだ。

俺の希望はメイド喫茶! 学園でも美女美少女と名高い皆がメイド服を着れば絶対に受けると思うんだ!

 

「メイド喫茶・・・・悪くないのだけれど、もう少し何かほしいわね・・・・」

 

と、部長はそう言いつつホワイトボードに書き込んでいく。

 

「俺としてはおっぱいメイド喫茶が良かったんですけど、それじゃあ他の奴らに皆のおっぱいを見られることになるんですよね・・・・」

 

「・・・そんなことを考えていたんですか、ドスケベ先輩。クッキーいりますか?」

 

「うん、ありがとう小猫ちゃん」

 

小猫ちゃんは俺に毒舌を吐きながらもクッキーを分けてくれる。

いやー、こういうところに癒されるよな!

 

ちなみにだが、小猫ちゃんは今、俺の膝の上にお座りしている。

小猫ちゃんのお尻の感触がたまらんね!

 

「ははは、イッセー君らしい意見だね。・・・・でも確かにメイド喫茶だけでは他の部活と同じになってしまいますね」

 

木場が紅茶を飲みながら言う。

 

木場の言う通り、他の部活でもメイド喫茶をしようというところは多い。

うちがやれば普通のメイド喫茶でも勝てるだろうけど・・・・

確かにそれでは面白くない。

 

そうなると、喫茶以外のものにするか?

 

例えば去年と同じとか?

 

いや、部長的には同じことを連続でするのは嫌らしいし・・・・。

 

うーん、難しいよなぁ。

 

部長が部員一人一人に案を訊いていくが・・・・これといって斬新なものが出るわけでもない。

 

「どうせならオカルト研究部っぽいものがいいよね」

 

という意見を美羽が出すものの、オカルト的な内容はあまり話題にならないだろう。

 

話題になるとすれば、やっぱりうちのメンバーだろうし・・・・・

エロ学生の俺以外は全員人気者だしな。

 

あ、それだったら・・・・

 

「オカ研メンバーで人気者投票とか? あ、俺と木場は抜きで。どうせ木場には勝てませんし・・・・」

 

俺が何気なくそういうと女子部員が互いの顔を見合わせた。

 

ギャスパーが手を挙げる。

 

「なんで僕は含まれてるんですかぁ?」

 

「おまえは男子としてカウントしても良いのか分からんからな」

 

性別は男だけど見た目は美少女だからな。

こいつは男子からも人気があるんだ。

 

「でも、二大お姉さまのどっちが人気あるのか気になるね」

 

そう美羽が言うと―――――――――

 

「「私が一番に決まってるわ」」

 

部長と朱乃さんの声が重なり、にらみ合いを始めた!

二人とも笑顔だけど目が笑ってないよ!

マジだ!

 

「あら、部長。何かおっしゃいました?」

 

「朱乃こそ。聞き捨てならないことを口にしなかったかしら?」

 

バチッバチバチッ

 

うおっ!?

 

二人の間に火花が散ってる!?

 

「み、美羽・・・・・」

 

「う、うん。ゴメン・・・・」

 

美羽も自分の失言に気付いたのか、冷や汗を流しながら謝罪してくる。

 

「・・・・時すでに遅し」

 

小猫ちゃんが呟く。

うん、その通りだね・・・・。

 

まぁ、朱乃さんの調子が戻ってきているのが分かっただけでも良しとするかな。

 

こうして、お姉さま方の口喧嘩が勃発し、会議はご破算。

学園祭の催し物については後日に持ち越すことになった・・・・・。

 

 

修学旅行前に決めることが出来るのだろうか・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

学園から帰宅した後、俺達は最後の作戦会議を行っていた。

会談は今夜。

つまり、ロキとの戦いも今夜ということになる。

今はロキを迎え撃つための最終チェックをしているところだ。

 

兵藤家のミーティングルームには今回の作戦に参加するオカ研メンバー、生徒会メンバー、ヴァーリチーム、アザゼル先生、バラキエルさん、ティア、タンニーンのおっさん。

そして、オーディンの爺さんとロスヴァイセさんが集合していた。

 

ちなみにだけど、タンニーンのおっさんはチビドラゴンと化して宙に浮いている状態だ。

 

 

ぐるっと部屋を見渡してみるが・・・・・・

一人足りないような・・・・・

 

「先生・・・・匙は・・・・?」

 

そう、今回の作戦に参加するはずの匙の姿がない。

というより、ここ数日連絡すら取ってないからあいつの状況が分からないでいた。

 

生きてんのかな・・・・・・?

 

先生が答える。

 

「匙はまだグリゴリにいる。まだ、調整が上手くいってなくてな・・・・・。今はうちの副総督のシェムハザに任せている。なんとか、間に合えば良いんだが・・・・・」

 

先生はむぅと何やら考えながらホワイトボードに作戦の内容を書いていく。

 

とりあえず、匙は生きてるみたいだ。

調整という言葉がすごく気になるが、そこは気にしないでおこう。

あいつなら無事に俺達の元へ帰ってきてくれるはずだ(多分!)

 

「魔法の鎖グレイプニルは後で直接戦場に送られる。バラキエルを中心にしてフェンリルを捕縛してくれ。出来るだけ早くな。フェンリルを封じるだけでも戦況が大きく変わってくるからな」

 

「了解した」

 

 

それからも作戦会議は続いていき、一通りの確認が済んだ。

 

先生は作戦のまとめを述べた後、真剣な面持ちで言う。

 

神々の黄昏(ラグナロク)にはまだ早い。なんとしてでも食い止めるぞ」

 

『はい!』

 

先生の言葉に俺達は気合いを入れて、返事をした。

 

「よし、それじゃ、時間になったら改めて召集をかける。それまでは各自で好きなようにやってくれ」

 

という先生の言葉で、この場は解散となった。

 

さてと、時間まで俺は何をしようか・・・・。

今は夕方の五時。

 

作戦開始は深夜なので、それなりに時間がある。

 

皆はというと、部長は会長と話してるし、木場達も後で体は軽く動かすものの、今はゆっくりするとのことだ。

 

うーむ・・・・・・。

 

今のうちに出来ること・・・・・・。

 

宿題・・・・・か?

 

いやいやいや、数時間後に死線に赴こうと言うのに宿題をするってのは何か違うだろ。

 

 

うん、考えるのは止めにしよう。

とりあえずベッドにダイブする、そして今日買ったエロ本の新刊を読む。

これに決めた。

 

俺がそんなことを考えていると、部屋を出るバラキエルさんとそれを追うように部屋を出ていこうとする朱乃さんの姿を視界に捉えた。

その表情はどこか覚悟を決めているように感じた。

 

 

・・・・・・そうか。

 

朱乃さん、ついに決心がついたんですね。

 

「朱乃さん」

 

俺に呼び止められ、こちらを振り向く朱乃さん。

俺は朱乃さんに笑みを浮かべながら、親指を立てた。

 

「頑張ってください。朱乃さんなら出来ますよ」

 

俺が朱乃さんに出来ることはエールを送ることぐらいだ。

 

「ありがとう、イッセー君。行ってきますわ」

 

そう言って朱乃さんは部屋をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

[朱乃 side]

 

 

私はイッセー君と言葉を交わした後、先に部屋を出てしまっていたあの人を、父を追いかけた。

 

階段を駆け降りると、玄関の扉に手をかけている父を見つけた。

 

「待って!」

 

私は普段は出さないような必死の声で呼び止める。

 

今しかない。

私の本音を伝えるのは今しか出来ない。

根拠なんてものはないけれど、そう思えた。

 

この機会を逃したら私はまた決心が鈍ってしまうかもしれない。

だからこそ・・・・・!

 

「あ、朱乃!? どうしたのだ、そんなに慌てて・・・・」

 

父は息を切らして、肩を上下させている私を見て驚いているようだった。

 

それもそうなのかもしれない。

 

ついこの間まで、私は父から声をかけられても拒絶してきたのだから。

それが今はこうして追いかけてきている。

 

父からすれば何事かと疑問に思っても仕方がないと思う。

 

「と、とりあえず落ち着くのだ。こうして私に声をかけてきたということは何か話があるのだろう? 全て聞くからまずは深呼吸するのだ」

 

父にそう言われ、私は荒くした呼吸を落ち着かせるため、深呼吸する。

 

おかげで呼吸は落ち着いてきた。

でも、その代わりに心臓は激しく脈打っているのが分かった。

 

・・・・・自分でも緊張しているのが分かる。

 

こうして父と向かい合っているだけで、緊張がどんどん増していくのが感じられた。

 

 

父は私を許してくれるだろうか・・・・・。

再び娘として受け入れてくれるだろうか・・・・・。

 

色々な思いが私の胸の中で渦巻いていた。

 

父に拒まれたら・・・・・なんてことまで考えてしまっている。

 

 

『俺は朱乃さんに後悔してほしくないんです・・・・・・』

 

 

ふいにイッセー君の言葉を思い出す。

 

後悔・・・・・。

ここで逃げてしまえば私は一生後悔する。

 

 

伝えよう。

私の言葉で。

私の本当の気持ちを―――――。

 

「父さま・・・・・」

 

「っ!」

 

父さま・・・・・

 

父に対してこう呼ぶのはいつ以来だろう。

 

「父さま・・・・・今までごめんなさい・・・・・!」

 

私は父に頭を下げた。

まずはこれまで父を傷つけてきたことを謝らなければならない。

 

「私・・・・ずっと分かってた。母さまが死んだのは父さまのせいじゃないってことくらい・・・・。本当は私のせいなのに・・・・。だけど、私はそれを受け入れることが出来なくて・・・・私が弱いせいで・・・・・父さまに酷いことを・・・・・」

 

父さまはいつも私には優しくて、私を愛してくれていた。

それなのに私は自分が弱いせいで、母さまが死んだことを父のせいにしてきた・・・・・。

 

 

ポタッ 

 

 

床に水滴が落ちた。

気付けば私は涙を流していた。

 

「父さま・・・・・、ごめんなさい・・・・!」

 

私は涙を流し、ただひたすらに謝り続けた。

 

たとえ、どれだけ謝ろうとも私がしてきたことは許されるものではないのかもしれない。

それでも、私は父に謝りたかった。

 

「朱乃、もういい・・・・。もういいんだ」

 

父は私の両肩に手を置き、私の顔を上げさせる。

 

「朱乃、おまえは悪くない。それに謝らなければならないのは私の方だ。全てはおまえと朱璃を守れなかった私が悪いのだ・・・・・!」

 

父は肩を震わせながら絞り出すかのような声で続ける。

 

「弱いのは私とておなじだ。おまえを傷つけるのが怖くて、おまえと真正面から向き合うことが出来なかった。私がもっとおまえを見ることが出来ていれば再びおまえを泣かせることもなかっただろうに・・・・・! 本当にすまなかった・・・・・!」

 

「・・・・違う。父さまは私と向き合おうとしてくれていた。なのに拒んでしまったのは私・・・・・。父さまは悪くないよ・・・・・」

 

私がそう言うと父は首を横に振る。

 

「いや、例えおまえに拒まれても父親であればもっとぶつかるべきだった・・・・・。私は父親失格と言われても否定できない・・・・」

 

そんなことない!

あなたは父親失格なんかじゃない!

 

「朱乃、こんな私を許してくれるか・・・・? もう一度、おまえの父親をさせてもらえないだろうか?」

 

「許すも何も、父さまは悪くないよ・・・・・。それにお願いするべきなのは私です。父さま、私を娘として受け入れてくれますか?」

 

「ああ・・・・もちろんだとも!」

 

父は――――父さまは大きく頷くとボロボロと大粒の涙を流していた。

だけど、その表情は晴れやかなものだった。

 

良かった・・・・・。

受け入れてもらえることができた・・・・・。

 

そう思って安堵すると、体から力が抜けてガクンッと崩れ落ちそうになった。

 

「あ、朱乃!?」

 

父さまは慌てて私を抱き止める。

見るからに必死という感じだった。

 

私は父さまを安心させるように言う。

 

「大丈夫です。少し、気が緩んだだけだから」

 

「そ、そうか! なら良かった! おまえにまでいなくなられたら私は・・・・・・!」

 

もう、大袈裟すぎよ。

 

私は父さまに支えられながらゆっくりと立ち上がる。

 

「うふふ。ありがとう、父さま」

 

私が少し微笑みながらお礼を言うと――――

 

 

ブワッ

 

 

父さまの両目から滝のような涙が流れてだした。

 

「と、父さま!?」

 

「あ、朱乃が笑ってくれた・・・・・! 私に微笑みを・・・・! うおおおおおおおおおおお! 生きてて良かった!」

 

「ちょ、父さま!? 大袈裟すぎです!」

 

 

この時の父さまの大きな声は町中に広がったそうです。

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、ここは四階にある私の部屋。

部屋には父さまもいて、部屋を見渡していた。

 

「うむ、綺麗に片付けられている。アザゼルからは料理も出来ると聞いている。朱乃は朱璃に似てしっかり者に育ってくれたようだ。安心した」

 

「とりあえず、適当に座ってください。お茶を入れましたので、どうぞ」

 

「ああ、すまない」

 

そう言って私達はイスに座り、向かい合う。

 

すると、父さまはフッと笑みを浮かべた。

 

「もう一度、朱乃とこういう風に話せる日が来るとは・・・・・。彼には感謝しなければならないな」

 

「彼?」

 

聞き返すと父さまは一度頷いて、その名前を言った。

 

「今代の赤龍帝、兵藤一誠君だ」

 

「!」

 

父さまの言葉に私は目を見開いた。

 

まさか、イッセー君は父さまとも話をしていたというのだろうか?

 

「つい先日のことだ。彼からこう言われたのだ。『朱乃さんがあなたに声をかけてきた時は彼女の話を聞いてあげて下さい。そして、その気持ちを受け止めてあげて下さい』とな」

 

イッセー君がそんなことを・・・・。

 

うふふ、本当にどこまでも優しい人なんだから。

 

「朱乃は・・・・・その、なんだ、彼のことが好きなのか?」

 

「はい。私には彼以外には考えられませんわ」

 

「そ、そうか(むぅ、朱乃はそれほどまでに彼を・・・・・。私は父としてどうすべきなのだ!?)」

 

父さまは少しぎこちない動きでカップに口をつける。

 

どうしたのかしら?

 

「ま、まぁ、おまえが幸せであるならそれでいい。・・・・・兵藤一誠、か」

 

「イッセー君がどうかされました?」

 

「うむ。彼と話した時に気付いたのだが・・・・。彼の目が印象的だったのだ」

 

「目、ですか?」

 

私の問いに父さまは頷く。

 

「そうだ。・・・・・彼はおまえとそう歳も変わらないようだが・・・・・まるで、多くの試練を乗り越えてきたかのようだった。他人を詮索するような真似はしたくないが、彼はどのような経験をしてきたのか少し気になっていたのだ」

 

イッセー君・・・・。

イッセー君は私の後輩で、勇ましい姿だけじゃなくて、どこか可愛いところがある。

そこが良いのだけれど・・・・。

 

けれど、確かにイッセー君は本当に年下かと疑問に思うような時がある。

私にきっかけをくれた時もそう。

 

・・・・彼の過去に興味がないと言えば嘘になってしまう。

 

 

まぁ、イッセー君が何者であれ、私の気持ちは変わりませんわ。

 

「うふふ」

 

「?」

 

私の笑みに父さまは頭に疑問符を浮かべながら首を傾げていた。

 

 

 

 

 

[朱乃 side out]

 

 

 




次回はロキとの決戦に入ります!


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11話 狡猾の神

[アザゼル side]

 

都内のとある高層高級ホテル。

俺はオーディンの爺さんと日本の神々との会談の仲介役としてホテルの一室に控えていた。

 

爺さんは・・・・珍しく真面目な顔で会談の予定をチェックしている。

 

「どうしたよ、爺さん。緊張するガラじゃないだろう?」

 

俺がからかうように言うと、爺さんは手にしている資料をテーブルに置き軽く笑んだ。

 

「まぁの。会談だけなら何も心配はしとらんよ。・・・・ロキのことじゃ」

 

ロキ、か・・・・。

 

「この歳までワシはジジイの知恵袋だけで何事も解決出来ると思っておった。実際、何とかなってきたしのぉ。だが、それは間違いじゃった。真に大切なのは若いもんの可能性じゃよ」

 

「おいおい、今さらかよ。気付くの遅すぎるぜ、爺さん」

 

「小僧が生意気を言いよる、と言いたいところじゃが・・・・まったくもって情けない話じゃ。ワシの今までの過ちがロキを生んだのかもしれん。そして、そのせいで今度は先のある若いもんに苦労をかけておる」

 

爺さんの眼は慈愛に満ちていた。

 

ったくよ、あんたがそんなだと調子狂うぜ。

 

俺は盛大にため息を吐いて頭をボリボリとかく。

 

「その若い者の可能性を潰さないためにも、今回の会談は成功させにゃならん。これはあんたにしかできないことだ。今回、ロキ達と戦うあいつらのためにも、頼むぜ爺さん」

 

「分かっておる」

 

爺さんは一言だけ返すと茶を啜った。

 

俺は時計に目をやる。

 

そろそろ日本の神々が来るはずだ。

天照を中心にした日本神話の神々達。

 

こいつらとの会談が上手くいけば各勢力同士の結びつきを強固にできる。

禍の団なんてもんがある以上、この結びつきは必ず必要になる。

 

「バラキエル、そっちの状況は?」

 

俺は通信用魔法陣を展開して屋上で待機しているバラキエルに通信を入れる。

 

『今のところは問題ない・・・が、そろそろ現れるだろう。向こうもこちらの位置は補足しているはずだからな』

 

「そうか・・・。すまんな。また、おまえに押し付けちまった」

 

バラキエルの妻・・・朱璃が死んだ時もそうだ。

俺が無理を頼んだせいでバラキエルは大切な者を失うことになってしまった。

 

俺は何度、同じことを繰り返せば学習するんだろうな・・・・。

 

『気にするな。今となってはこの任務に私を当ててくれたことを感謝しているくらいなのだ』

 

バラキエルの言葉を俺は怪訝に思い、首をかしげた。

恨み言なら分かるが礼を言われるようなことをした覚えはない。

 

『私は娘と・・・・朱乃と再び話をして、また父と呼んでもらうことが出来た』

 

―――――――!

 

なるほど、それでさっきはご機嫌だったのか。

 

「そうか、朱乃と話せたか。安心したぜ。おまえは不器用なやつだから心配していたんだが・・・・。それも杞憂だったな」

 

『ああ。アザゼル、今まで本当に世話になった。俺の代わりに朱乃を見てくれて・・・・。心から礼を言う、ありがとう』

 

「おいおい、そんな死亡フラグ立てるようなこと言うなよ。おまえに死なれては困るぜ」

 

『分かっている! 私は死なん! 生きて、また朱乃と親子の会話をするのだ!』

 

メチャクチャ張り切ってやがる・・・・。

 

まぁ、やっと家族に戻れるというんだ。

死ぬわけにはいかんわな。

 

「それじゃあ、そっちは頼んだぜ。バラキエル」

 

『了解だ!』

 

俺はそこで通信を切った。

 

ふぅ・・・・。

なんだか、少し肩の荷が下りた気がする。

 

やっとか。

やっとあいつらは家族に戻れるのか。

 

きっかけは・・・・・イッセーだろうな。

あいつが朱乃の本音を引き出したんだろう。

バラキエルからもあいつに話しかけられたことは聞いてる。

 

「なんじゃ、アザゼル坊? 何か良いことでもあったのかのぅ? 顔がニヤついているぞい」

 

おっと、顔に出ていたか。

まぁ、自然に笑みがこぼれるのも仕方がないさ。

 

「まぁな」

 

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

 

時刻は深夜。

決戦の時刻だ。

 

俺達は会談が行われるホテルの屋上で待機していた。

高層の建物のため屋上ともなるとかなり高い。

風もビュービュー吹いてる。

 

部長によれば会談ももうすぐ始まるとのこと。

つまり、ロキ達もそろそろ現れるということだ。

 

周囲のビルの屋上にシトリー眷属が配置されていて、いつでも転送できるようにしている。

 

匙は・・・・まだ到着していない。

いまだグリゴリの施設で特訓を受けているみたいだ。

本当に大丈夫なのかよ、あいつ・・・・。

 

この屋上には俺達オカ研メンバー以外に先生の代わりに戦闘に参加するバラキエルさん、鎧姿のロスヴァイセさん。

そしてヴァーリチームの面々がいた。

 

遙か上空にはティアとタンニーンのおっさんが宙に浮いている。

もちろん人には視認されないよう術をかけている。

 

「時間よ。会談が始まったわ」

 

部長の言葉に皆の顔が一層引き締まる。

 

会談が始まった。

 

それは、つまり―――――――

 

「小細工なしか。恐れ入る」

 

ヴァーリが苦笑した。

 

俺も上空の一点を睨む。

 

 

バチッ! バチッ!

 

 

ホテル上空の空間が歪み、大きな穴が開いていく。

 

そこから姿を現したのはロキ、ヘル、そしてフェンリル。

 

今回はいきなりフェンリルが出てきたか・・・・。

 

そんな俺の考えを見抜いたのか、ロキはニヤッと笑みを浮かべた。

 

「何か言いたそうだな、赤龍帝。フェンリルのことか?」

 

「まぁな。人間界にそんな危険なやつを何度も連れてくるなんてどうかしてるぜ」

 

「赤龍帝と白龍皇以外にも龍王が二人。それだけの者達を相手にするのだ。流石の我も本気でいかせてもらうさ」

 

「なるほどね・・・。引く気はないってことか」

 

「当然だ」

 

ロキがそう答えた瞬間、ホテル一帯を包むように巨大な結界魔法陣が展開された。

会長達シトリー眷属が俺達を戦場に転移させるための大型魔法陣を発動させたんだ。

 

「ふむ、場所を変えるか。良いだろう」

 

ロキ達は特に慌てる様子もなく、不敵に笑んで大人しくしていた。

 

そして、俺達は光に包まれた。

 

・・・・・・・

 

 

 

光が止み、目を開くとそこは大きく開けた土地だった。

岩肌ばかりで何もない。

 

そういえば古い採石跡地だっけ?

 

戦場を確認した後は仲間たちに目をやる。

うん、全員いるな。

 

「逃げないのね」

 

部長が皮肉気に言うと、ロキは笑う。

 

「逃げる必要などない。どうせ抵抗してくるだろう。それならば貴殿らを潰してからオーディンを殺せばいい」

 

「貴殿は危険な考えにとらわれているな」

 

バラキエルさんが言う。

 

「危険な考えを持ったのはそちらの方だ。各神話の協力など・・・・。愚かにもほどがある」

 

「やはり、話し合いは無理か」

 

バラキエルさんは雷光を纏い、背中に十枚もの黒い翼を展開した。

 

それを見て俺とヴァーリが前に出る。

 

「それでは、始めようか」

 

「ああ。あいつは俺達が止める」

 

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!』

 

赤と白の閃光が戦場を覆う。

 

俺の体に赤龍帝の赤い鎧が装着され、ヴァーリも一切曇りのない純白の全身鎧に身を包んでいた。

 

それを見てロキが喚起した。

 

「これは素晴らしい! 二天龍が我を倒すために共闘しようというのか! フハハハハ!!!! こんなに心躍ることはないぞ!」

 

俺達を前にしても笑ってやがるぞ、ロキの野郎・・・・。

 

ロキはレーヴァテインを呼び出し、柄を握る。

 

「さぁ、来るがいい! 赤と白の競演を見せてもらおうではないか!」

 

こいつも誰かさんみたいに戦闘狂なのかよ。

 

まぁ、そんなのはどうでもいい。

 

俺はこいつをぶちのめすだけだ。

先日の借りもあるしな。

 

「美羽。おまえはティアと一緒にヘルの相手を任せる。戦況次第で、皆の回復も頼む。アーシアだけじゃ回復が追い付かないかもしれないからな」

 

アーシアの回復は凄まじいけれど、今回は相手が相手だ。

負傷者が次々に出ることになるだろう。

 

そうなれば、いくらアーシアでも限界が来る。

 

「分かった。皆のことは任せて」

 

美羽は頷くと、ティアの隣に立ちヘルと向かい合う。

 

見ればヘルはすでに魔物を呼び出していた。

百はいるか・・・・・。

 

ヘルは大量の魔物を呼び出すときは動きが止まるとミドガルズオルムが言っていたけど・・・・・・。

 

どうやら、予想よりも多そうだ。

 

 

「うふふふ。龍王最強と名高いティアマット様が私の相手をしてくださるとは光栄ですわ」

 

「ふん。心にもないことを。それに私一人ではない。おまえの相手をするのは私()だ」

 

ティアがそう言うと、レイナと部長、朱乃さんが前に出た。

 

そう、ヘルの相手をするのはティアと美羽だけじゃない。

この三人も加わる。

 

ヘルはそれを見て見下すように笑う。

 

「悪魔と堕天使ごときが私の前に立つなど・・・・・。身の程を知りなさい」

 

うーむ、性格悪いぜ。

 

美人だから、そこが勿体ないな。

 

ティアが部長に言う。

 

「・・・・・リアス・グレモリー、おまえ達は魔物共の相手をしろ。私と美羽はやつだけで手一杯なんでな」

 

「分かったわ。朱乃、レイナ、いくわよ」

 

「「了解!」」

 

部長の声に頷き、朱乃さんは雷光を、レイナは二丁銃を構える。

 

そして、魔物との戦闘に突入した。

 

俺達もいくか。

 

風を切る音と共にヴァーリが仕掛けた。

空中で光の軌道を描きながらロキに迫る!

 

俺も背中のブースターからオーラを噴出してそれに続いた!

 

ロキは笑みを浮かべながら俺たち目掛けて魔法による砲撃を放つ!

しかも、結構デカい一撃だ!

 

「こんなもん!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

拳を振りかぶり、迫る砲撃に叩きこむ!

 

激しい衝突音とともにロキの砲撃が消え去った!

 

ロキの初撃を避けたヴァーリがこの間の模擬戦で俺に披露してくれた北欧魔術を展開する!

一つじゃない。

ヴァーリの周囲にいくつもの魔法陣が展開されている!

 

「こちらのも受けてもらおうか」

 

斉射した!

ロキが放った奴よりも大きい!

この採石場を埋め尽くすんじゃないかと心配になるくらいの規模だ!

 

幸い味方は離れた場所で戦闘を行っているから巻き込まれずに済んだ。

 

攻撃が止んだ後、目の前にあったのは巨大な穴。

底が見えないくらいの深さだ。

 

流石はヴァーリ。

開幕早々からとんでもない攻撃を見せてくれるぜ。

 

だけど・・・・・

 

「ふはははは! なるほど! 良い威力だ!」

 

ヴァーリの攻撃で生じた爆風が止み、そこにいたのは無傷のまま宙に漂っているロキだ。

防御魔法陣がロキを覆うように展開されていた。

あれで防いだのだろう。

 

砲撃はよっぽどタイミングが合わないと軽く防がれるか・・・・。

ロキを倒すなら格闘戦が最適か。

 

ということで、例の秘密兵器を取り出す。

腰につけていたミョルニルのレプリカだ。

 

オーラを送って、手頃なサイズにする。

俺の身長の半分くらいの大きさだ。

 

少し重いけど全然振れる。

 

ロキは俺が手にしているのを見て目元をひくつかせていた。

 

「・・・・・ミョルニルか。いや、レプリカだな。そのような物を託すなど・・・・・! オーディンめ、それほどまでして・・・・・・!」

 

ロキのオーラが増し、先程までの静かなものから荒いものへと変化した。

オーディンの爺さんがこれを渡したことが許せないといった様子だな。

 

俺からしたらそんなことはどうでも良い。

 

ミョルニルを振り上げ、そのままロキへと迫る!

こいつは神をも倒せる雷を放つ!

 

こいつならどうよ!

 

ロキはこいつの危険性を知ってるからか、その場から大きく後退した。

 

空を切り、地面に直撃する。

 

 

ドオオオオオオオオオンッ!!!

 

 

・・・・・あれ?

 

地面に巨大なクレーターも生まれたし、かなりの威力なのは分かったけど・・・・・

 

肝心の雷が発生しない!?

 

予想外のことに戸惑う俺!

 

なんで!?

俺は何度か振ってみるが、ミョルニルはうんともすんとも言わなかった。

 

えええええええええっ!?

 

「ふははははは」

 

俺の情けない姿にロキが笑う!

 

「笑ってんじゃねぇよ!」

 

「いやはや、中々に笑えた。しかし、残念だ。その槌は力強く、純粋な心の持ち主にしか扱えない。貴殿には邪な心があるのではないか?」

 

うっ・・・・・

 

それって・・・・・・

 

「もしかして、俺がスケベだから?」

 

「貴殿は女人の体に興味があるのか。ふむ、若さゆえの邪心か」

 

納得しないで!

悲しくなるから! 

 

「まぁ、そう気を落とすな。男なら誰でも持つものだ。仕方がないだろう」

 

なにこの状況!?

俺、敵に励まされてるよ!

 

止めて!

 

あれ・・・・・なんか涙が・・・・・・。

 

まさか、俺のスケベ心がこんなところで足を引っ張るなんて・・・・・・。

 

今日から改心・・・・・・は出来ない!

スケベ心は捨てられねぇ!

 

俺はオーラを流すのを止めてミョルニルをしまう。

 

「もういいよ! おまえはミョルニル無しでやってやらぁ!」

 

俺は気を高める!

 

俺の周囲にはスパークが飛び交い、それと同時に俺の鎧が変化する!

 

「禁手第二階層――――天武(ゼノン)ッ!! おまえはこの拳で直接殴り飛ばす!」

 

俺が叫ぶとロキはレーヴァテインを正面に構えた。

 

「面白い! それではこちらも本格的に攻撃に移るとしよう!」

 

すると、離れたところでフェンリルを相手にしていたゼノヴィアが俺に何かを投げてきた。

 

「イッセー! そいつを返すぞ!」

 

俺はそれをキャッチする。

ゼノヴィアが俺に投げ渡してきたのはずっと貸しっぱなしだったアスカロンだった。

 

「良いタイミングだ、ゼノヴィア!」

 

俺は左手でアスカロンを握り、それをロキに向けた。

 

「いくぜ、ロキ! うおおおおおおおっ!!!!」

 

『Accell Booster!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

第二階層の鎧を纏ったことで加速した倍増がスタートして、俺の力が一気に上がる!

 

全身に増設されたブースターから莫大なオーラを噴出して、そのままロキに突っ込む!

 

「ほう、聖剣か! しかし、そんなものが我がレーヴァテインに通じると思うな!」

 

 

ギィィィィィンッ!!

 

 

俺のアスカロンとロキのレーヴァテインが激しくぶつかり、火花を散らす!

それから俺とロキは空中で剣戟の応酬を繰り広げた!

互いの剣がぶつかるたびに空気を揺らし、周囲に影響を及ぼす!

 

「赤龍帝は剣をも扱えるか! 我と対等に打ち合える者に出会えたのは久しぶりだぞ!」

 

「そうかい!」

 

俺はそう言ってレーヴァテインの柄を蹴り上げる!

ロキの懐が空いた!

 

ここだ!

 

「だああああああああ!」

 

アスカロンをロキの腹部目掛けてフルスイングで振るう!

しかし・・・・ロキに当たる直前、防御魔法陣がロキの前面に展開され、俺の横凪の一撃は防がれた。

 

「クソッ」

 

俺の舌打ちにロキは不敵に笑む。

 

「いい線だが、惜しかったな。今ので我を取れると思ったか?」

 

それを訊いて今度は俺が笑った。

 

「はっ! おまえこそそれで防げたと思ってんのか? おまえの相手は俺()だぜ?」

 

その瞬間、ロキの背後に白い閃光が現れる。

 

「その通りだ。俺を忘れてもらっては困るな」

 

「そうだったな。我の相手は二天龍だった。ならば―――――フェンリル」

 

ヴァーリの手刀を防御魔法陣をもう一つ展開して防ぎながら、ロキはフェンリルに指示を出す。

 

今までタンニーンのおっさん達と攻防を繰り広げていたフェンリルがこちらを向き、ヴァーリに襲いかかろうとする。

 

それを見たバラキエルさんが叫んだ。

 

「今だ!」

 

「にゃん♪」

 

 

ブゥゥゥゥイイイイイイィィィィィンッ!

 

 

黒歌が笑むと同時にその周囲に魔法陣が展開して、地面から巨大で太い鎖が出現した。

あれが魔法の鎖、グレイプニルだ。

 

無事に届けられたのは良かったが持ち運びが難しいため、黒歌が独自の領域にしまい込んでいたんだ。

 

それをタンニーンのおっさんとバラキエルさん、そしてロキから離れた俺とヴァーリが掴み、フェンリルへと投げつける!

 

「ふははははは! 無駄だ! グレイプニルの対策など、とうの昔に―――――――」

 

ロキの嘲笑空しく、ダークエルフによって強化された魔法の鎖は意志を持ったかのようにフェンリルの体に巻きついていく!

 

 

『オオオオオオオオオンッ・・・・』

 

 

フェンリルが苦しそうな悲鳴を辺り一帯に響かせる。

 

「―――――――フェンリル、捕縛完了だ」

 

バラキエルさんが身動きが出来なくなったフェンリルを見て、そう口にした。

 

とりあえず、これでフェンリルは封じた。

 

 

「はぁあああああ!!!」

 

「このぉ!!」

 

ティアと美羽から放たれる嵐のような魔法攻撃がヘルに襲いかかっている。

 

「くっ・・・調子に乗って・・・・!」

 

あまりの強烈さにヘルも額に汗をにじませながら防御一辺倒になっているようだ。

次々と魔物を呼び出してはいるけど、それらは部長達の攻撃によって全て滅されていく。

 

あの調子なら、むこうも何とかなりそうだ。

 

ヘルはティアと美羽が抑えてくれているし、フェンリルは油断さえしなければタンニーンのおっさん達がいれば十分に撃破できる。

 

 

 

残るは―――――

 

 

 

「後はおまえだけだな、ロキ」

 

俺はアスカロンの切先をロキに向ける。

 

少しは焦ると思ったんだけど、ロキは感心するように見てくるだけ、か。

 

「この状況でまだ余裕があるのか?」

 

俺が問う。

 

「よもやフェンリルをこんなにも早く封じられるとは思わなかったのでな。グレイプニルを強化したのはダークエルフ。そして、そのことを貴殿らに教授したのはあの愚か者だな?」

 

愚か者・・・・ミドガルズオルムのことを言ってるんだろうな。

 

「まぁな。あいつには感謝してるぜ。あいつのおかげでこうしてフェンリルを封じられた」

 

「だが、我を倒さねば意味は無い」

 

「倒すさ。これからな!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

倍増すると共にロキ目掛けて飛翔する!

 

「面白い! やって見せろ!」

 

ロキもそれに応じて、自身の周囲に魔法陣を展開する。

そこから現れたのは無数の鎖だった!

 

またかよ!

 

あんなもんに気を取られてたら、やられる!

 

すると、俺の背後からものすごいスピードでヴァーリが飛んできた。

 

「兵藤一誠。ロキは一先ず俺が抑えよう。準備しておけ」

 

それだけ言うと、俺を追い抜かしヴァーリは単身、ロキに挑んでいった。

 

あいつ・・・・・

 

なるほど、そういうことかよ。

 

ヴァーリの思考を読み取った俺は立ち止まる。

 

迫るロキの鎖。

以前の比じゃないな。

 

ドライグ、すべて吹き飛ばすぞ。

 

『アルビオンに前衛を任せるのか。・・・・いや、あの技を使う気だな』

 

そういうことだ!

ヴァーリの準備が整うまでは俺はあいつのサポートに回るさ!

 

俺だってあの形態ならヴァーリ以上に砲撃戦もこなせるしな!

 

迫る鎖を睨みながら、鎧の形態を変化させる。

そう、砲撃特化のあの形態だ!

 

「禁手第二階層、砲撃特化――――――天撃(エクリプス)!!!!」

 

増設されていたブースターが消えて、その代わりにドラゴンの翼と六つのキャノン砲が形成される!

 

そして、砲門を全て展開する!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!!』

 

 

ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

 

 

倍増によって瞬間的に高められた俺の気と魔力が混ざり合い、鳴動する!

 

それぞれの砲門の照準を定め、一斉斉射!!!

 

「いくぜぇぇぇぇええええ!!!! ドラゴン・フルブラスタァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

『Highmat FuLL Blast!!!!』

 

六つの砲門から放たれたれる砲撃!

 

放たれた極大のオーラは無数の鎖を覆いそのまま消し飛ばしていく!

ついでに、ヴァーリを襲っていたロキの魔法砲撃をも全て相殺した!!

 

それにより生じた爆煙が辺り一帯を覆い、ロキとヴァーリの姿が見えなくなった。

 

「ほう! 本当に今代の赤龍帝は面白い! 先ほどまでとは全く違う力ではないか!」

 

ロキの笑い声が爆煙の中から聞こえてくる。

 

「その余裕が命取りだ」

 

ヴァーリが煙を振り払い、ロキに迫る!

拳に尋常じゃない程の魔力を纏わせてロキに放つ!

 

「どこがだ?」

 

しかし、その行動はロキには読まれていたようで、ヴァーリの拳を受け止めた。

 

そして、ロキがレーヴァテインを振るい、ヴァーリを斬り裂いた!

 

「ガハッ」

 

ヴァーリは咄嗟に体を捻って致命傷は避けたもののかなりのダメージを負ってしまう。

白龍皇の純白の鎧がヴァーリの血で赤く染まっていく。

 

「白龍皇。貴殿もかなりの実力だが、我にはまだ届かんよ」

 

ロキが笑みを浮かべてヴァーリを嘲笑う。

 

すると―――――

 

ヴァーリはロキのレーヴァテインを握る腕を掴んだ。

 

ロキはそれを振りほどこうとするがヴァーリは放さない。

 

「言ったはずだ。その余裕が命取りになるとな」

 

『Power Dispersion!!!!』

 

その音声が鳴った瞬間、ロキの圧倒的だったオーラが完全に消えた。

 

そう、ヴァーリが狙っていたのはこれだ。

 

「これは・・・・!? 我の力が消えた、だと・・・・!?」

 

ロキの顔から余裕が消えて焦りの表情となった。

 

その気持ちは分かるぜ。

 

俺もあれを食らった時はかなり焦ったからな!

 

「下がれ、ヴァーリィィィィィィィ!!!! ドラゴンフルブラスタァァァァァァァ!!!!!!」

 

『Highmat FuLL Blast!!!!』

 

俺が砲撃を放ったのとヴァーリがその場から退いたのは全く同時だった。

 

六つの砲門から放たれた莫大なオーラは混ざり合い、一つとなった!

そして、力を失ったロキへと一直線に突き進む!

 

今のロキに防ぐ術は無いが、ヴァーリの技の効果も直ぐに切れる。

そうなればこれも防がれてしまうだろう。

 

だから頼む!

間に合え!

間に合ってくれ!

 

「届けぇぇぇぇぇぇェええええええええ!!!!!」

 

俺の想いに呼応して鎧の出力が上昇した!

 

これなら!

 

「バカな! 我がこのようなところで! おのれぇぇぇぇぇぇ!」

 

俺の砲撃はロキの叫びをかき消し、そのすべてを覆い尽くした――――――――。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・」

 

砲撃を終えた俺は天撃の形態を解除して、通常の鎧に戻っていた。

今のにかなりの力を込めたから、肩で息をしている状態だ。

ただでさえ、消耗が激しい第二階層をフルパワーで使ったんだ。

こうなるのも仕方がないか・・・・。

 

俺はゆっくりと地面に着地して、膝をついているヴァーリに声をかける。

 

「ヴァーリ、大丈夫か?」

 

ヴァーリの傷を見ると、剣に斬られた傷だけじゃなく火傷したように肌が焼けただれていた。

レーヴァテインに斬られるとこうなるのか・・・・・。

 

「ああ。少し傷が深いが、これくらいなら耐えられる」

 

「ったく、無茶しやがって。アーシア! ヴァーリの回復を頼む!」

 

「はい!」

 

アーシアが後方からヴァーリに回復のオーラを送ってくれる。

 

ヴァーリの体を淡い緑色の光が包み、ヴァーリの傷を癒していく。

遠方からの回復は直接傷を回復させるよりも遅い。

だけど、流石はアーシア。

数秒程度でヴァーリの傷は完治した。

 

「彼女の回復の力には驚かされるよ。神器を十分使いこなせているようだね」

 

ヴァーリはアーシアの力に賞賛を送った。

俺もそれには同意する。

 

「だろ? アーシアの成長はすごいんだ。俺と出会った頃と比べると段違いだぜ」

 

アーシアも毎日修行に励んでるからな。

ぐんぐん成長してるんだ。

アザゼル先生でさえ、舌を巻くほどだ。

 

・・・・きっかけさえあればいつでも至れるとは思うんだけど、どんな禁手になるんだろうか?

 

まぁ、何がきっかけになるかはその人次第だし、禁手も木場みたいに亜種とかがあるから、俺には予想のしようがないんだけどね。

 

それについては今はおいておこう。

 

俺達は同じ方向に視線を送る。

 

空中からロキがボロボロの姿で落ちてきていた。

 

ロキが地面に転がり、口から血を吐く。

 

「ゴブッ・・・・。まさか、こんなに早く終わってしまうことになるとは・・・・」

 

俺達はロキの方に歩を進めて、ロキから少し離れたところまで移動する。

ロキは全身から血を流していて、満身創痍の状態だった。

 

ヴァーリの技で力を霧散されているところに俺の全力の攻撃をまともにくらったんだ。

いかに神といってもこうなるのは当然だ。

 

「ふふふふ・・・。これが赤龍帝と白龍皇の力・・・・。何とも素晴らしいものだ・・・・。もう少し味わいたかったのだが、残念だ。・・・・・まぁ、我の役目は果たせたから良しとしよう・・・・」

 

その言葉を訊いて俺とヴァーリは怪訝に思った。

 

・・・・・・役目?

 

役目ってなんだよ?

こいつの目的はオーディンの爺さんを殺して神々の黄昏を迎えることだろ?

 

「・・・・後のことはロキに任せよう」

 

「「――――――――――――!?」」

 

 

 

次の瞬間、俺達の背後に気配が現れる。

 

 

 

「ああ、ご苦労だった――――――我が分身よ」

 

 

 

その声に俺とヴァーリは直ぐに反応して、後ろを振り返るが、

 

 

ザシュッ!

 

 

俺とヴァーリは腹部を横凪ぎに斬り裂かれ、その場に膝をつく。

斬られたことによる痛みと高熱を当てられたような痛みが一斉に襲ってくる。

 

でも、俺は痛みを忘れるくらいの衝撃を受けた。

 

俺達を斬り裂いた人物。

 

「な、なんで・・・・おまえが・・・・」

 

こんなことはあり得ない。

 

なぜなら、その人物は俺達の後ろで死にかけているからだ。

 

なのに俺達の目の前に立っているのは紛れもないその人物だった。

 

「なんで、おまえがそこに立ってんだよ!」

 

 

 

 

「赤龍帝と白龍皇。歴代でも最強と名高い二人を相手に、我が何の策なしに前に立つと思ったか?」

 

 

 

 

倒したと思っていたロキがレーヴァテインを地面に突き刺し、冷たい笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 



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12話 訪れた危機

ようやく投稿できました。


俺は地面に膝をついて、激痛が走る腹を抑えていた。

傷がかなり深いためか、出血が止まらない。

ヴァーリも俺と同様のようだ。

 

いきなり訪れた俺達のピンチに全員の視線がこちらに集まっていた。

そして、皆は目を見開いてて驚愕していた。

 

俺とヴァーリの危機。

それもあるだろう。

 

でも、皆が驚いているのは恐らく別のことだ。

 

皆の視線の先には俺の後ろで倒れているロキと俺の前でレーヴァテインを握るロキ。

二人のロキへと向けられている。

 

俺はズキンッと痛む腹を押さえ、予め渡されていたフェニックスの涙を傷口に振りかける。

 

傷口から煙を立ち上らせながら、傷が塞がっていく。

 

その様子を横目に俺は思考を働かせていた。

 

俺を斬った目の前のロキは恐らく本物。

じゃあ、さっきまで戦っていたロキは何者なんだ?

錬環勁気功を使える俺が偽物に気づかなかったのはなぜだ?

 

気を読み違えた?

いや、それは無い。

後ろで倒れているロキからはロキと全く同じ気を感じられる。

全く同じ気を持つ奴が複数いるなんて聞いたことがねぇぞ・・・・。

 

そんな俺の思考を見透かしたようにロキは笑う。

 

「何が何だか分からない、といった感じだな、赤龍帝。先ほどまで自分が戦っていたのは何者か考えているのだろう?」

 

ああ、こいつの言う通りだ。

正直、戸惑っている。

 

「ここまで我を追い詰めた貴殿らには特別に教えてやろう。そこに倒れているのは我の分身体だ。我が禁術に禁術を重ねて創り出したのだ。元々は黄昏の時までに取っておくつもりだったのが、相手が相手なのでな。使うことにしたのだ。唯一の弱点は長時間、力を酷使すれば肉体が崩壊するくらいだが・・・・。しかし、驚いたぞ。それは我の分身とはいえ我とほぼ同等の力を持っている。それが倒されるとはな・・・・」

 

俺はロキの解説を聞いて舌打ちをする。

 

クソッ・・・・そういうことかよ・・・・!

 

「道理で分からなかったわけだ・・・・」

 

「それは我と全く同じ波動、力を持つ。気付かなかったことを恥じる必要は無い」

 

ロキはそういうと周囲を見渡し、視線をフェンリルの方へと向けた。

 

そして両腕を広げた。

 

「ふむ。多少スペックが落ちるが―――――」

 

 

グヌゥゥゥゥゥン

 

 

ロキの両サイドの空間が歪み始めた。

 

そして―――――――――

 

空間の歪みから何かが出てくる。

それを見て、全員が息を飲んだ。

 

現れたのは二匹の巨大な狼だった。

 

灰色の毛並、赤い相貌。

そして鋭い牙と爪。

 

あれは、まさか―――――!!

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!』

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!』

 

 

二匹の狼が遠吠えをあげる。

 

「紹介しよう。フェンリルの子、スコルとハティだ。親のフェンリルよりは劣るが牙は健在だ。十分に神を屠ることが出来る。当然、貴殿らもな」

 

マジかよ・・・!

 

フェンリルに子供がいるなんて聞いてねぇぞ!

この最悪の状況でとんでもない奴らが現れやがった!

 

ロキがバラキエルさんたちの方を指さしながら二匹の子フェンリルに指示を出す。

 

「さあ、スコル、ハティよ。父を捕えたのはあの者たちだ。その牙と爪で食らい尽くすがいい!」

 

風を切る音と共に二匹の子フェンリルが駆けだした!

一匹はバラキエルさんとヴァーリチーム、もう一匹はタンニーンのおっさんと木場達の方へと向かっていく!

 

マズイ!

 

俺は痛みをこらえて、追いかけようとするが、ロキに行く手を阻まれた。

 

「おっと、行かせるわけにはいかんな」

 

ちぃ!

 

仲間がヤバイって言うのに!

 

「ヴァーリ、いけるか?」

 

俺はヴァーリに尋ねる。

 

ヴァーリも既にフェニックスの涙を使って傷を癒していたので出血が止まっている。

 

ヴァーリは立ち上がりながら頷く。

 

「ああ、少々血を流してしまったが問題ない」

 

「よし。じゃあ、早いとこロキの野郎をぶっ倒すぞ」

 

全身から赤いオーラをたぎらせる。

先程、かなりの血を流したせいで体が少しふらつくが、これくらいならいける。

俺とヴァーリはまだ戦える。

 

問題はどうやってロキを倒すかだ。

 

俺達の手の内は今までの攻防で見られてしまっている。

ヴァーリの新技も警戒されているだろう。

 

「どうすれば我を倒せるか、考えは纏まったか?」

 

ロキのやつ、俺達を観察してやがるな・・・・・。

俺達が次にどんな手を使ってくるのか楽しみだという顔をしている。

 

なめやがって・・・・・・!

 

すると、ロキの足元の影が広がり出した。

 

「こないなら、こちらからいこうか――――」

 

影から現れたのは複数の巨大な蛇!

いや、あれは体が細長いドラゴンか!

 

・・・・あのドラゴンには見覚えがある!

かなり小さくなってるけど、間違いない!

 

「ちぃっ! ミドガルズオルムも量産していたか!」

 

ヘルと魔法合戦をしながらティアが憎々しげに吐いた!

 

そう、あれはミドガルズオルムにそっくりだ!

タンニーンのおっさんぐらいのサイズのドラゴンが数十匹現れる!

 

「さて、そろそろ殲滅に入ろうか。ヘル、あれをやれ」

 

「うふふ、分かりましたわ、お父様」

 

ヘルはニヤッと笑みを浮かべる。

 

そして、ティアとの戦闘を打ち切り、ロキの後方へと下がった。

ヘルを中心に直径が五十メートルはあろうかという巨大な紫色の魔法陣が展開される。

 

おいおい・・・・・これってまさか!

 

「イッセー! ヘルを止めるぞ! これ以上、数を増やされては敵わん!」

 

「分かった! ヴァーリと美羽も頼む!」

 

俺の声を聞いて、部長や朱乃さん達もヘルに向けて自身の全力の攻撃を放つ!

 

どれも強力なもので、並大抵の相手なら一瞬で塵に出来るほどの威力を誇っていた。

 

しかし――――

 

「させると思うか?」

 

俺達の一斉攻撃は全てロキが何重にも張った強力な防御魔法陣で防がれてしまう!

 

何枚かの魔法陣を破壊することが出来たけど、ヘルまで攻撃が届かない・・・・!

 

ヘルの魔法陣が完成する。

 

ヘルは何やら呪文を唱えると嬉々とした表情で叫ぶ!

 

「さあ! お出でなさい! 私の可愛い僕達よ! 私達に歯向かう愚かな者達を蹂躙しなさい!」

 

『オォォォォォォオッ!!』

 

『グギャアアアアアアアッ!!!』

 

奇声をあげながら辺り一帯を覆い尽くさんとばかりに現れる魔物の数々!

その数は千を越えている!

 

間に合わなかった・・・・・・!

 

だけど、一体一体はそこまで強くない!

一気に消滅させる!

 

「ヴァーリ! ティア! 俺と美羽で魔物を消し飛ばす! 援護してくれ! 部長達は木場達の救援に向かってください!」

 

「了解した。ロキ、続きをやろうか」

 

「ヘル! 貴様の相手は私だ!」

 

俺が再び天撃の形態になると同時にヴァーリはロキ、ティアはヘルに殴りかかる。

 

部長達もタンニーンのおっさん達と合流して、子フェンリルと量産型ミドガルズオルムの戦闘を開始した!

 

「この程度でっ!」

 

「ぬぅぅん! やらせん!」

 

おっさんの炎とバラキエルさんの雷光が量産型ミドガルズオルムを吹き飛ばしていく!

流石はおっさんとバラキエルさんだ!

龍王と堕天使幹部の力は伊達じゃない!

 

「おりゃ!」

 

「祐斗はフェンリルの足止めを! ゼノヴィアはその隙をついて!」

 

美猴と部長の声。

オカ研メンバーとヴァーリチームも子フェンリルと死闘を繰り広げていた。

 

「はい! 咲け、聖魔剣よ!」

 

木場が手に持った聖魔剣を地面に突き刺すと、子フェンリルの足元から大量の聖魔剣が出現し、子フェンリルの体を貫く!

 

動きが止まった瞬間を狙ってゼノヴィアがデュランダル砲を放つ。

 

更には朱乃さんの雷光、イリナとレイナの光の槍と銃弾による攻撃が続く!

 

子フェンリルはその灰色の毛を自身の血で赤く濡らしていく。

 

皆の連携は確実にダメージを与えていた!

 

しかし、子フェンリルはまるでダメージを受けていないかのようにすぐに反撃に移る。

 

何て奴だよ・・・・・。

 

 

 

ドゥ! ドウンッ! ドオオオオオンッ!

 

 

 

戦場に鳴り響く爆発音。

 

ヴァーリが魔力と北欧魔術の攻撃を幾重にも撃ち出していた。

かなり消耗しているはずなのに、威力が衰えていないところがすごいところだ。

 

「この短期間でよくぞそこまで北欧の魔術を身につけたと誉めてやるぞ、白龍皇よ! だが、甘い!」

 

ロキはヴァーリの攻撃をレーヴァテインの斬戟で切り裂き、仕返しとばかりに北欧の魔術による攻撃を放つ。

 

「やはり、魔術では相手の方が上手か。ならばッ!」

 

ヴァーリはそう言ってロキとの格闘戦に突入する。

レーヴァテインを上手くかわして、拳打を繰り出していた。

 

そのすぐ近くではティアとヘルが激戦を繰り広げていた。

 

「ふん!」

 

人間の姿からドラゴンの姿となったティアの拳がヘルの魔法陣を打ち砕いていく。

 

「やはり、貴様らを倒すなら下手に魔法で攻めるより、拳が一番のようだな」

 

「それが分かったところで、私に勝てると思ってもらっては困ります」

 

ヘルは紫色に輝く魔法陣を操り、ティアへと無数の魔術の弾丸を放っていく。

一つ一つの弾丸に濃密な力が宿っていて、掠るだけでも大ダメージを受けてしまいそうだ。

 

「この程度で私を倒せると思うなッ!!」

 

ティアのブレスがヘルの魔術の弾丸を全て相殺する。

 

二人とも大したダメージを与えてもいなければ、受けてもいない。

 

この分だと、ティアの方もヘルだけならなんとかなりそうだな。

 

だったら俺は目の前の魔物の大群を早く片付けて、木場達の救援に向かう!

子フェンリルと量産型ミドガルズオルムを潰してから、ロキ、ヘルを全員で倒す!

 

「いくぞ、美羽!」

 

「うん!」

 

俺は全砲門を展開。

美羽もそれに合わせて、周囲には無数の魔法陣を展開する。

 

俺達は上空に上がり、そこから魔物を見下ろす。

ロキの分身体を相手にかなりの力を消耗したけど、やるしかねぇ!

 

『ギャオオオオオオオッ!』

 

ヘルの魔物達が翼を広げ、俺を襲おうと迫ってくる!

見れば半分くらいが子フェンリルを相手にしている皆のところやロキ達と激戦を繰り広げるヴァーリとティアのところへと向かおうとしていた!

 

ドライグ、一発の威力を最小限にして、連射性を上げることはできるか?

 

『ああ、可能だ。こうなることもあろうかと、そのあたりの調整は済んである』

 

おおっ!

流石だぜ!

 

それじゃあ、さっそく頼む!

 

『承知した』

 

ドライグが了承した後、展開されてる砲門に変化が訪れる。

 

大口径だったキャノン砲の砲門が複数に別れて、ガトリングガンのような形状となった。

六つの砲門全てがより連射に適した形状になったんだ。

 

これなら消耗を出来るだけ少なくできるし、俺の攻撃が皆を巻き込む恐れも少ない!

 

「いっくぜぇぇぇえええ! リボルビング・フルバーストォォォオオオオオオ!!」

 

『Full Throttle Blast!!!!』

 

各砲門が回転しながら無数のオーラの弾丸を放っていく!

 

それはまるで雨のように魔物に降り注いでいく!

 

一発の威力は通常のものと比べるとかなり劣るけど、魔物を葬るには十分な威力だ。

 

俺は宙を舞いながら、味方に押し寄せる魔物を撃ち落としていった!

 

「風よ! ボクに力を貸して!」

 

美羽が掌を上空に向けて掲げる。

 

すると、風が渦を巻きはじめた。

そして、そのまま天まで届こうかというくらい大きな竜巻へと変化した。

それが美羽を中心に三つ。

 

風が鳴り、周囲の魔物が竜巻に吸い込まれていく!

 

なんつー吸引力だ。

百匹以上吸い込まれたぞ。

 

吸い込まれた魔物は風によって切り裂かれて塵になっていた。

 

美羽のやつ、また魔法の腕を上げたか?

 

俺と美羽の攻撃で確実に数を減らしていく魔物共。

だけど、あまりに数が多すぎる。

 

「このままじゃ押しきられるよ!」

 

「ああ、分かってる!」

 

圧倒的な物量差。

それが俺と美羽を足止めする。

 

こんなやつらに手間取ってる時間はないってのに!

 

「イッセー君! 避けるんだ!」

 

焦るなか、木場がそう叫んだのが聞こえた。

 

俺は自身に迫る危機を感じとり、後ろを振り返った。

 

その瞬間ーーーー

 

俺は突如、横から現れたフェンリルに食われてしまう。

 

フェンリルの牙は俺の鎧を容易に貫き―――

 

「ガハッ!」

 

大量の血を吐き出す。

 

なんで、こいつが!?

 

こいつはグレイプニルで捕縛されていたはずじゃ・・・・・。

 

フェンリルが捕まえられていた場所を確認すると子フェンリルの一匹がグレイプニルを咥えていた。

 

あいつが、フェンリルを開放したのか・・・・・!

 

おっさん達は量産型ミドガルズオルムともう一匹の子フェンリルと交戦中だった。

その隙をつかれたのか・・・・・!

 

フェンリルは俺をくわえたまま頭を振り回し、俺を岩肌へと叩きつけた。

 

今まで感じたことのない激しい痛みが俺を襲う・・・・!

 

フェンリルの牙が俺の体を更に深く抉る・・・・・・!

 

大量に流れ出る血。

 

これ以上、失血したら戦闘どころじゃなくなる!

早く抜け出さないと!

 

俺は腕に力を入れてフェンリルの口から抜け出そうと試みるが・・・・・ダメだ!

 

思うように力が入らねぇ!

 

「このっ! お兄ちゃんを離して!」

 

美羽が風で形成した刃でフェンリルの体を傷つけるが、フェンリルはびくともしない。

 

それでも美羽は攻撃の手を止めない。

 

それを鬱陶しく思ったのか、フェンリルは前足を横にないで美羽の体を切り裂いた。

 

「くっ・・・・うぅ・・・・」

 

まともに受けてしまった美羽は鮮血を撒き散らして、その場に倒れ込む。

 

このやろう・・・・・よくも・・・・・!

 

「ぐっ・・・おおおおおおおおおおっ!!!!」

 

こいつは・・・・・!

こいつだけは許さねぇ!

 

牙を握る手に力が入り、フェンリルの牙にヒビが入る!

 

「があああああああああああ!!!!」

 

絶叫と共にフェンリルの口を無理矢理こじ開ける!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

「ゼロ距離だ! くらいやがれぇぇええええ!」

 

手元に気弾を作り出して、フェンリルの口の中で爆発させた!

 

爆発の衝撃を利用して何とかフェンリル口から脱出し、地面を転がる。

 

背中と腹にデカイ穴が空いていてそこからドクッドクッと血が流れ出ていた。

 

ヤバイ・・・・

 

今のでかなり体に負荷をかけちまった・・・・・・。

 

いや、今は自分の体のことなんて心配してる場合じゃない!

 

早く、美羽を・・・・・!

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・美羽、今助けるっ!」

 

震える手で懐からフェニックスの涙を取り出す。

 

俺とヴァーリは前衛だからと予めフェニックスの涙を複数、持たされていたのがラッキーだった。

 

今、アーシアは傷だらけのゼノヴィアや部長の治療に当たっている。

美羽まで手が回らない状況だ。

 

だから、俺は小瓶の蓋を開けて中身を美羽に振りかける。

美羽を助けるにはこれしかない。

 

俺の時のように煙を立ち上がらせながら、美羽の体にできた傷が塞がっていく。

 

「うっ・・・・・」

 

「美羽、大丈夫か?」

 

「う、うん。ありがとう・・・・・って、お兄ちゃんのその傷を早く治さないと!」

 

「あ、ああ。分かってる」

 

これで美羽は助かった。

 

次は俺の番だ。

 

もう一つ小瓶を取り出して自分に使用しようとするが・・・・・

 

『オオオオオオオオオンッ!!!』

 

先程の攻撃を受けて、動けなくなっていたフェンリルが遠吠えをあげる。

 

遠吠えを止め、その赤い相貌を俺に向けてきた。

 

『グルルルルルルルッ!!』

 

うなり声をあげて、鋭く睨んでくる。

 

かなり、お怒りのようだ。

流石のフェンリルも口の中を攻撃されては防ぎようがなかったらしいな。

 

といっても奴はまだ動ける。

それに対して今の俺は立つだけで精一杯だ。

 

俺の状態を把握した美羽が俺の前に立つ。

 

「お、おい! 美羽!?」

 

「早く、傷を治して! それまでボクがくい止める!」

 

「馬鹿やろう! 逃げろ!」

 

「置いていけるわけないでしょ!」

 

くっ・・・・どうする・・・・・・。

このままじゃ、俺だけじゃない。

美羽までやられる!

 

フェンリルが地を駆けて、俺へと迫る!

 

こうなったら、美羽だけでも守り抜く!

 

俺は美羽の腕を掴んで無理矢理俺の後ろへ下がらせる。

俺の眼前には大きく口を開けたフェンリル。

 

フェンリルが再び俺を食らおうとした―――――

 

 

――――やらせん――――

 

 

突然、俺と美羽を覆うように黒い霧が発生する。

 

それはフェンリルの攻撃を防ぐ壁となって、俺達をフェンリルの牙から守った。

 

フェンリルもいきなりのことに驚いたのか、後方へと下がる。

 

俺と美羽も状況を理解できずに、ただ驚くだけだった。

 

 

再び声が聞こえる。

 

 

――――神をも殺める狼よ。貴様がどれだけの力を持っていようが、私がこの者達を殺させはしない――――

 

 

渋い男性の声。

 

その声はフェンリルに向けて言い放った。

 

 

――――消え失せろ――――

 

 

 




現在、インターンシップだの資格試験の勉強だのに追われてます・・・・・

なので、次回の投稿は9月の中旬以降になります。


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13話 最後の賭け

前回のあとがきで次の投稿はかなり遅くなると書きましたが、出来るだけ近日中に今の章を終わらせたいと思ったので投稿しました!


――――消え失せろ――――

 

 

最後にその一言だけを言い残すと、その黒い霧はスーッと消えていった。

 

 

な、なんだ・・・・・?

 

なんだったんだ、今のは・・・・・!?

 

 

フェンリルにトドメをさせられそうになっていた俺を・・・・いや、俺と美羽を突然現れた黒い霧がフェンリルの牙から守ってくれた。

 

おかげで俺と美羽は助かったんだけど・・・・

 

「ね、ねぇ、今のって・・・・・」

 

美羽が声を漏らす。

その声は明らかに震えていた。

 

「あ、ああ・・・・・」

 

美羽が驚くのも無理はない。

俺だってかなり驚いている。

 

だって今のは―――――

 

俺の脳裏に浮かぶのはかつて死闘を繰り広げたあの男。

 

だけど、あいつは死んだ。

 

だったら、今のはいったい・・・・・・・

 

だめだ、いくら考えても全然分からん。

 

「フェンリルを止めただと? あれはいったい――――」

 

ロキもありえないといった表情で俺達を見てくる。

 

その時だった。

 

空から大質量の雷光が煌めき、フェンリルに命中。

その動きを止める。

 

「イッセー君! 美羽ちゃん!」

 

「その者達はやらせん!」

 

声がした方を見上げると、堕天使の翼を広げた朱乃さんとバラキエルさんが俺達のところへ降りてきていた。

 

朱乃さんは地面に降り立つとすぐに俺の元へと駆け寄る。

 

「なんて深い傷・・・・! 今治療しますから少し我慢して!」

 

朱乃さんはそう言うと俺が手にしていたフェニックスの涙を取り上げ、傷のある箇所に振りかけていく。

 

涙の効果のおかげで、明らかに致命傷だった傷が一瞬で塞がっていく。

 

「父さま!」

 

「うむ! ここは私が引き受ける! 朱乃は二人を後ろへ連れていきなさい!」

 

バラキエルさんが全身に雷光を纏わせながらそう言う。

 

俺はそれに反対する。

 

「いくらバラキエルさんでもあいつを一人で相手にするのは無茶です! 俺も戦います!」

 

「そのような体で何を言う。ロキに続き、フェンリルの牙までまともに受けてしまった君の体は既に満身創痍。少し休んでいなさい」

 

「でも!」

 

バラキエルさんに食い下がろうとするとバラキエルさんは俺の肩に手を置く。

 

「なに、私とてあのフェンリルを一人で倒せるとは思っていない。だが、君が回復するまでならもたせることができるだろう。幸い、向こうももうすぐ片がつく」

 

バラキエルさんが指差す方を見ると、オカ研メンバーとヴァーリチーム、そしてタンニーンのおっさんとロスヴィセさんが子フェンリル二匹と量産型ミドガルズオルム、そして、ヘルの魔物相手に激闘を繰り広げる姿が見えた。

 

「ギャスパー! やつの視界を奪って! 小猫は仙術でやつの気を乱してちょうだい!」

 

部長がギャスパーに指令を送る!

 

俺の血を飲んだギャスパーの体が無数のコウモリに変化し、子フェンリルの顔にまとわりつく。

 

ギャスパーには俺の血が入った小瓶を何個か渡してある。

それが役に立っているようだ。

 

「動きを止めますぅ!」

 

更には怪しく目を輝かせて、子フェンリルの動きを止めようとしていた!

 

子フェンリルの力が大きいせいか、完全には動きを停止させることは出来ていない。

だけど、子フェンリルの動きは幾分、鈍くなっていた!

 

その隙をついて小猫ちゃんが懐に入る!

 

「イッセー先輩から教わった技で!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

気を纏わせた拳を的確に撃ち込む!

その瞬間、子フェンリルの体が僅かによろめいた!

 

上手く体内の気を乱すことが出来たらしい!

 

俺が教えたのは的確な場所に最適な気を撃ち込むこと。

それが相手の気を乱す最も有効な技だ。

 

小猫ちゃんはそれを実践出来てる!

 

子フェンリルの体がふらついたのを部長は見逃さず、更に指示を送る。

 

「祐斗は子フェンリルの足を止めて! ゼノヴィア、イリナさんは一斉攻撃よ! レイナは私と魔物を一掃して!」

 

部長の指示を受けて木場が動く。

 

「これで!」

 

木場が子フェンリルの足下に大量の聖魔剣を出現させて、子フェンリルの足を貫く!

 

更には驚異的なスピードで接近し、子フェンリルの体に斬戟を加えていく!

 

「イリナ、いくぞ!」

 

「ええ! 元教会タッグでやっちゃいましょう!」

 

ゼノヴィアのデュランダル砲とイリナの光の槍が子フェンリルの体を覆う。

 

小猫ちゃんの攻撃によって防御することが出来なかった子フェンリルは二人の全力攻撃を受け、全身から血を噴き出させていた!

 

「レイナは左を頼むわ!」

 

「了解! 一掃します!」

 

部長から放たれた大出力の滅びの魔力がヘルの魔物を消し飛ばしていく!

 

流石に滅びの性質は強力だ!

触れた魔物を一瞬で塵にしていった!

 

レイナも例の二丁銃を構えて、自身に迫る魔物共を確実に狙い撃ちしていく!

 

「まだまだ!」

 

レイナは銃の側面をくっつけた。

 

すると、銃口の先に光が収束されていき、レイナの体の半分はある光の球が出来上がる。

 

「いくわよ! フルバーストォ!!!」

 

放たれた光の球は魔物に命中したと思うと、拡大し、周囲の魔物を巻き込んでいった!

 

今ので五十体くらいは消し飛んだか?

 

なんつー威力だ!

 

 

一方―――

 

 

「―――こいつはどうだ?」

 

少し離れたところでタンニーンのおっさんが大出力の炎を量産型ミドガルズオルムに吐き出していた!

 

戦場を炎の海が大きく包み込む!

 

炎の中では複数のミドガルズオルムがもがき苦しみながら、消し炭になっていった!

 

「続きます!」

 

ロスヴァイセさんも北欧の魔術を展開してタンニーンのおっさんに続く。

 

雨のように降り注ぐ魔術の球が残りの量産型ミドガルズオルムとその周囲の魔物を貫いていく!

 

流石は北欧の主神の護衛を任されるだけはある!

 

「皆さんの回復は私が!」

 

ダメージを受けた者へアーシアが回復のオーラを飛ばす。

強敵ばかりのこの戦場。

ダメージを受ける者が多く、アーシアは休む暇もなく回復のオーラを送り続けていた。

その顔には疲労が見られる。

だけど、その回復は皆をしっかりと支えていた!

 

オカ研メンバーが相手をしているのとは別のもう一匹の子フェンリルを攻撃しているヴァーリチームも善戦していた。

 

「そらよっと!」

 

美猴が如意棒で子フェンリルを殴打していく!

伸縮自在の如意棒を操り、子フェンリルにダメージを与えていた!

 

「にゃははは♪ それそれ足止め」

 

黒歌が術を使って子フェンリルの足下をぬかるみに変えた。

子フェンリルは足を取られ動きを封じられる。

 

その子フェンリルにアーサーが聖王剣コールブランドを振るう!

その刀身には絶大なオーラを纏わせていた!

 

「とりあえず、視界を奪っておきましょう」

 

 

ザシュッ!

 

 

子フェンリルの両目を切り裂いた!

 

「次は爪。そして、その危険きわまりない牙も。この聖王剣コールブランドならば、子供のフェンリルごとき空間ごと削り取れます」

 

 

ゴリュッ!

 

 

アーサーはそう言って子フェンリルの爪と牙を削り取っていく!

 

『ギャオオオオオオン!』

 

子フェンリルも激痛に悲鳴をあげていく。

 

・・・・・・えげつない。

 

攻撃が残酷すぎるぜ、アーサー!

しかも、すました顔でそれをやるからメチャクチャ怖いよ!

子フェンリルがかわいそうに見えてくるわ!

 

「見ての通り、あちらは私達が優勢だ。ヘルの魔物も君達が大半を削ってくれたおかげで、残りわずかだ」

 

バラキエルさんが言う。

 

「残りはロキとヘル、そしてフェンリルのみ。だが、ここで君がやられてしまっては形勢が逆転することもありうるのだ」

 

「・・・・・・」

 

確かにバラキエルさんの言う通りで、ここで俺が無茶をするよりも一旦態勢を建て直してから参戦した方がいい。

 

だけど、いくらなんでもバラキエルさん一人にこの場を任せるのは・・・・・・

 

「君の不安は分かる。だが、私は死なん。ようやく朱乃と元の家族に戻れるというのだ。こんなところで死ぬわけにはいかん。・・・・・そして、君も死なせない。君のおかげで私達は前に進むことが出来たのだ。恩人を死なせはしない」

 

バラキエルさん・・・・・・。

 

「さぁ、朱乃。二人を任せるぞ」

 

「はい。・・・・二人を避難させたあと、私もすぐに加勢にきます」

 

朱乃さんが俺と美羽を担いた時だった。

 

ロキと戦っていたヴァーリが俺達のところへと降りてきた。

 

鎧のあちこちが破損しているが、大きなダメージを受けた様子はない。

 

「兵藤一誠を後退させることには賛成だが、フェンリルの相手は俺が引き受けよう。バラキエルにはロキの相手をしてもらいたい」

 

ヴァーリの言葉を聞いてバラキエルさんは怪訝な表情となる。

 

「なに? おまえ一人でフェンリルの相手を引き受けると言うのか?」

 

「ああ。一応の策はある。俺がフェンリルを引き離せば残るはロキとヘルのみだ。そうなればそちらも楽だろう?」

 

それはそうだけど・・・・・

 

相手の最大戦力はフェンリル。

それがいなくなれば俺達は相当、楽になる。

 

「だけど、どうやって引き離すつもりだよ?」

 

「言っただろう、策はあると」

 

ヴァーリの言葉を聞いてハッとなる。

 

まさか、こいつ――――

 

 

上空からこちらを見下ろしているロキが笑う。

 

「ふはははは! 一人でフェンリルを相手取るだと? 無謀なことを! 我も倒せない貴殿が勝てるとは到底思えんな!」

 

「俺を――――白龍皇を舐めるな」

 

 

ドンッ!

 

 

ヴァーリから凄まじいオーラが溢れ出る!

 

鎧に埋め込まれている宝玉が虹色に輝き、鎧自体も白く輝いていた!

 

そして、ヴァーリは力強くその呪文を口にした!

 

 

「我、目覚めるは―――」

 

〈消し飛ぶよっ!〉〈消し飛ぶねっ!〉

 

ヴァーリの声に呼応するように別の声が発せられる。この世の全てを呪いそうな声が、歴代白龍皇の怨念が辺り一帯に響き渡る。

 

「覇の理に全てを奪われし、二天龍なり―――」

 

〈夢が終わるっ!〉〈幻が始まるっ!〉

 

「無限を妬み、夢幻を想う―――」

 

〈全部だっ!〉〈そう、すべてを捧げろっ!〉

 

「我、白き龍の覇道を極め―――」

 

ヴァーリから一際大きなオーラが発せられ、最後の言葉が発せられる。

 

「「「「「「「「「「汝を無垢の極限へと誘おう―――ッ!」」」」」」」」」」

 

Juggernaut Drive(ジャガーノート・ドライブ)!!!!!!!!!』

 

ヴァーリの鎧が変質していく。

 

まるで意思を持った生き物の様にヴァーリの全身を覆っていき、ロキの攻撃により破損していた箇所も再生していくように治っていく。

 

そして、白金に輝く鎧を纏ったヴァーリは、見る者の心を奪いそうな程に美しかった。

 

・・・・・なんて、オーラの量だ。

 

これが覇龍。

 

ドライグに歴代の記録を見せてもらったけど、まさに別次元の強さだ。

 

いや、歴代最強とも言われるヴァーリだからこそ、ここまでの力を発揮できているのだろう。

正直、俺の第二階層では太刀打ちできない。

 

だけと、生で覇龍を見て再認識できた。

 

 

―――――この力は危険だと。

 

 

覇龍を使ったヴァーリが叫ぶ。

 

「黒歌! 俺とフェンリルを例のポイントへ送れ!」

 

「はいはーい」

 

黒歌が手をこちらに向けると、ヴァーリとフェンリルの足下に魔法陣が展開される。

 

魔法陣が一瞬、輝くとヴァーリとフェンリルは何処かに転移していった。

 

・・・・・・おいおいおい!

 

あいつ、何やってんの!?

 

つーか、例のポイントとか言ってたけど、最初からこれが目的だったのか!?

 

いや、確かにフェンリルをロキ達から引き離せたけどさ・・・・・

 

無茶苦茶するな、あいつ・・・・・

 

ロキが舌打ちをする。

 

「白龍皇め・・・・・! まさか、フェンリルが目的だったとは・・・・・!」

 

憎々しげにヴァーリがいた場所を睨んでいた。

 

それを見て、バラキエルさんが言う。

 

「ヴァーリ・ルシファーがフェンリルを引き離してくれたおかげで敵方の戦力を大きく削ることができたな。私はロキを相手する。朱乃、分かっているな?」

 

「はい。父さま、お気をつけて。私もすぐに加勢に参ります」

 

朱乃さんはそう言うと俺と美羽を連れて後方へと下がった。

 

 

 

 

 

 

朱乃さんに連れてこられたのは俺達の最も後方にいるアーシアのところだった。

 

俺と美羽はアーシアの前に下ろされる。

 

「イッセーさん! 美羽さん! お二人とも大丈夫ですか!?」

 

アーシアが俺達のところへ駆け寄り、俺達の傷を見ていく。

 

幸い、フェニックスの涙のおかげで傷自体は塞がっている。

 

ただ、フェンリルにやられたせいで、かなりの消耗をしてしまった。

 

特に俺はフェンリルに砕かれる前に、レーヴァテインで腹をかっさばかれているから、血が足りてない。

体がフラフラする。

 

こうして意識があることだけでも驚きだよ。

 

「ああ。痛みはないよ。傷も塞がっているしな」

 

俺はそう言ってアーシアの頭をポンポンと撫でてやる。

 

「・・・・・よかったですぅ。 うぅ・・・・イッセーさんが無事で良かったですぅ・・・・・・」

 

・・・・・無事と言えるかは怪しいところだけどね。

俺の体はどう見てもボロボロだし。

 

「アーシア、泣いてる暇は無いぜ? 部長達はまだ戦ってるんだからな」

 

そうだ。

まだ、戦いは終わっていない。

のんびりしてる暇なんてないんだ。

 

俺だって本当はこんなところで休んでる場合じゃない。

直ぐにでもバラキエルさんのところに行って、ロキを倒さないといけない。

 

だけど、体が言うことを聞いてくれない・・・・。

 

クソッタレめ・・・・・・!

 

「私は父さまのところに戻ります。アーシアちゃんは二人のことをお願いします」

 

「はい!」

 

朱乃さんは堕天使の翼を広げて飛び立っていく。

 

俺も早く回復して行かないと・・・・!

 

すると、俺の前に部長達と共に子フェンリルを相手にしていた小猫ちゃんが現れた。

 

小猫ちゃんは俺の様子を確認すると俺の胸に手を当てる。

 

「イッセー先輩の気の乱れを出来るだけ元に戻します。これで疲労感は取れるはずです」

 

俺の体の気が整えられていくのが分かる。

 

自分でしようにも大量の失血で体の感覚がおかしくなってる。

自分でやるのは危険だったから小猫ちゃんが来てくれて本当に助かった。

 

「ありがとう、小猫ちゃん。体が随分軽くなったよ」

 

「・・・・分かっていると思いますが、私は疲労の感覚を取り除いただけです。疲労自体はそのままです」

 

「ああ、分かってるよ」

 

「なら、良いです。私もイッセー先輩が死ぬのは嫌です。だから、無理はしないでください」

 

小猫ちゃんは俺に背を向けるとそのまま、戦場へと戻っていった。

 

去っていく小猫ちゃんの背中を眺めながら俺は苦笑する。

 

無理はするな、か。

 

ゴメン、小猫ちゃん。

それは約束できないな。

 

ここは戦場。

皆は限界ギリギリのところで戦ってるんだ。

俺だけ無理をしないなんてことはできない。

 

「はぁ・・・・・」

 

俺はため息をつくと、美羽と向き合った。

 

「美羽、少し試したいことがある。付き合ってくれないか?」

 

俺は賭けに出ることにした。

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

僕達はロキが新たに呼び出したフェンリルの子の一匹を相手に善戦していた。

 

「はぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

僕は騎士のスピードを最大限に活かしながら全力で聖魔剣を振るい、子フェンリルの体を切り裂いていく。

 

流石にフェンリルの子だけあって、その体は堅い。

僕の攻撃が通らないこともあった。

 

だけど、これまでの攻防でダメージを蓄積している今なら話は別だ。

 

僕の聖魔剣に斬られた部位からは血を吹き出し、明らかにダメージを与えていることが分かる。

 

「ゼノヴィア! 今だ!」

 

「ああ! いくぞ! デュランダルッ!!」

 

近距離から放たれた聖剣のオーラが子フェンリルを覆っていく!

 

『オォォォオオオオオオン・・・・・・』

 

消え入りそうな声で子フェンリルが鳴く。

 

流石にかなり効いてるみたいだね。

 

ヴァーリチームも優勢みたいだし、タンニーン様やロスヴァイセさんも量産型ミドガルズオルムを圧倒している。

 

魔物達を相手にしている部長とレイナさんももう少しと言ったところだ。

 

・・・・・残る問題は今回の元凶であるロキとそれに従うヘル。

 

今はバラキエルさんとティアマットさんが相手をしてくれているおかげで何とかなっているが・・・・

 

「ふはははは! 堕天使一匹ごときで我を倒せると思ったか! 見くびるなよ!」

 

「・・・・・っ!」

 

ロキが握るレーヴァテインの斬戟をすんでのところでかわすが、バラキエルさんはすでに至るところに切り傷が出来ていた。

 

傷の表面には火傷したみたいな跡もあり、それが合わさってバラキエルさんを傷つけるようにみえた。

 

イッセー君が回復するまでとのことだけど、もたもたしているとバラキエルさんが危ない。

 

「父さま!」

 

イッセー君達を後方へと下がらせた朱乃さんがバラキエルさんを援護するように雷光をロキへと放つ。

 

しかし、ロキは容易くそれを弾く。

 

これまでの修行で朱乃さんは大きく力を上げた。

その攻撃を軽々防ぐなんて・・・・・。

 

やはり、神というのは存在そのものが別格なのだろうか。

 

「堕天使・・・・いや、悪魔の気配も感じるな。先程の発言からして、その者の娘か。堕天使として産まれながらも悪魔に転生した、といったところか。しかし、それが一匹増えたところでどうということはない。まとめて始末してくれよう」

 

ロキはそう言うと自身の周囲に大型の魔法陣を複数展開し、狙いを朱乃さんとバラキエルさんに定める。

 

あれは危険だ!

 

バラキエルさんが焦りの表情となりながら、朱乃さんを庇う。

 

「下がるんだ、朱乃! ここは私が受ける!」

 

「嫌ですわ! 父さまを置いていくなんて出来ません!」

 

このままでは二人ともやられてしまう!

 

その時、空中に何やら魔法陣のようなものが描かれた。

 

そして、その魔法陣からは黒い巨大なドラゴンが落ちて来た。

 

禍々しい黒いオーラを迸らせるドラゴンで、歪な動きをしている。

 

何だ、あれは?

 

「あれは――――」

 

ロキも突然現れたドラゴンに目をやり、動きを止める。

 

すると、耳につけている通信機から声が流れた。

 

『皆さん、ご無事ですか?』

 

聞こえてきたのは男性の声。

 

皆にも聞こえているようで、戦闘を行いながら、その通信に耳を傾けていた。

 

そんな中、その声に反応する者がいた。

 

レイナさんだ。

 

「シェムハザ様。あの黒いドラゴンを送ってきたのはもしかして・・・・・」

 

シェムハザ・・・・・グリゴリの副総督。

たしか、匙君を任されていると先生から聞いているけど・・・・。

 

『ええ、私です。単刀直入に言いましょう。そのドラゴンは匙元士郎君です』

 

!?

 

あれが匙君!?

 

『実は今回の件に辺り、匙君に対してヴリトラ系の神器を全て合成したのです。そもそもヴリトラは幾重にも切り刻まれ、その魂を分割して4つの神器に封じた存在。その4つを合わせたのです』

 

「ですが、そんなことは可能なのですか?」

 

『本来は不可能です。ですが彼はレーティングゲームでは木場祐斗君との戦闘の際、内に秘めるヴリトラの意識を一瞬とはいえ起こさせた。おそらくは彼の闘志にヴリトラの魂が反応したのでしょうね。それに我々はかけたのです。結果としては上手くいきました。・・・・・一応、暴走する可能性も考えていたのですが、杞憂に終わりました。現赤龍帝、兵藤一誠君から受けていたという修行のおかげですね』

 

・・・・・なるほど、イッセー君の修行は伊達じゃなかったということだね。

 

『匙君。あとはいけますね?』

 

シェムハザさんがそう尋ねると黒いドラゴンから声が発せられる。

 

『はい!』

 

通信が切れたところで、部長が匙君に話しかける。

 

「匙君、聞こえるかしら? リアス・グレモリーよ」

 

『リアス先輩! 俺は何をすれば良いですか?』

 

「今、イッセーは大きなダメージを受けてしまったせいで、後ろに下がっているの。イッセーが回復するまで、バラキエルのサポートにまわってもらえないかしら?」

 

『了解です!』

 

匙君はロキに向けて黒い炎を放つ。

 

黒炎は命中するとロキの体を縛るように巻き付き始めた。

 

ロキは振り払おうとするが、その炎が消えることはなかった。

 

「これはヴリトラの黒炎か! やつの炎は相手を縛る呪いの炎だと聞いていたが・・・・忌々しいかぎりだ」

 

『ああ! こいつはたとえ神様でも容易に消すことは出来ないぜ! 兵藤が回復するまでおまえの動きを封じさせてもらう!』

 

「ふん。この程度の炎で!」

 

ロキのオーラが一段階上がり、凄まじい光を発する!

まだ、こんなに力を残しているのか!

 

匙君の黒炎が消し飛ばされそうになるが――――

 

ロキを極大の雷光が貫いた!

その威力にロキも動きを止める。

 

上空を見上げると堕天使の翼を大きく広げた朱乃さんとバラキエルさんが雷光を纏っていた!

 

二人とも肩を上下させていて、相当消耗しているようだ。

 

ロキは上空に浮かぶ二人を睨み、殺気を放つ。

 

「ちっ・・・・堕天使ごときが無駄な真似を・・・・。ふんっ」

 

ロキが全身に力を入れて、体に巻き付いていた黒炎を振り払った。

 

そして、匙君に向けて魔法による砲撃を放つ!

 

『ぐああああああああ!!』

 

砲撃は匙君に直撃し、周囲もろとも吹き飛ばした!

 

僕は匙君に駆け寄り、安否を確認する。

 

「匙君! 大丈夫かい!?」

 

『あ、ああ・・・・。俺はまだやれるぞ!』

 

黒いドラゴンの姿で再び立ち上がり、ロキに向かって次々に黒炎を放って攻撃を仕掛ける。

 

しかし、その黒炎はこごとくかわされてしまう。

 

「ほう、以外と頑丈だ。我の攻撃を受けて反撃できるとはな。だが――――」

 

ロキはレーヴァテインを振りかぶり、刀身に炎を纏わせていく。

 

その炎は辺り一帯を燃やし尽くすのではないかと思えるくらいの熱量を持っていた。

 

あれはマズい!

 

「この戦いにも飽きた。我はオーディンを討ちに行く。貴殿らにはここで散ってもらうとしよう!」

 

ロキがレーヴァテインを振り下ろす――――

 

 

 

「ロキィィィィィイイイイイイイ!!!!」

 

 

 

その声にロキは振り向く。

 

その視線の先ではイッセー君が巨大化したミョルニルを握りしめ、ロキに迫っていた。

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 




次話もできるだけ早く投稿したいです!


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14話 覚悟の時

朱乃さんや小猫ちゃんのおかげで僅かに回復することができた俺は皆に大出力の炎を放とうとしているロキを視界に捉えた。

 

 

「ロキィィィィィイイイイイイイ!!!!」

 

 

美羽に作戦を伝えた俺はミョルニルにオーラを全力で流し込む。

 

その大きさは俺を遥かに越えるほどの大きさ。

十倍以上はあるだろう。

 

おかげでかなり重い。

片手で持ち上げられるギリギリの重さだ。

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

天武の形態で倍増を加速させ、全身の力を一気に高めていく。

 

正直、こうして倍増させるのも限界に近い。

 

『そうだ。相棒の今の状態を考えればこの形態ももうすぐ維持できなくなる。いや、今もこうして使えていること自体驚きだがな』

 

まぁな。

 

だから、俺は賭けに出た。

これが最後の賭け。

 

ミョルニルの巨大さにロキは一瞬、目を見開くが直ぐに笑みを見せた。

 

「あれだけの傷を受けてまだ立ち上がれるのか! だが、貴殿ではミョルニルは扱いきれんぞ! 貴殿に邪な心が有る限りはな!」

 

ああ、そうだ。

俺ではミョルニルは使いこなせない。

 

俺がスケベなせいでな!

 

スケベな心を今すぐ捨てる?

うん、無理!

 

皆には悪いけどスケベ心は捨てられません!

ごめんなさい!

 

「ああ! 俺はどうせスケベだよ! だから、これでもくらいやがれぇぇぇぇえええええ!!!!」

 

俺はミョルニルを振りかぶり、そのまま――――

 

 

 

 

ロキめがけて全力で投げた。

 

 

 

 

「なっ!?」

 

俺の行動にロキは戸惑い、驚愕の声をあげる。

 

まぁ、元々投げて使うような武器じゃないし。

レプリカとはいえ神様の武器だ。

それは投げるなんて誰にも考えつかないだろうさ。

 

 

ロキは巨大化したミョルニルを避ける。

 

ミョルニルはそのまま、地面に落ちていき――――

 

 

ドゴォォォォォォォォオオオオオンッ!!!

 

 

落下した周辺が消し飛び、更地と化した。

 

スゲェ威力だな!

 

ただ、俺がスケベなせいで雷は発生していない。

これは分かっていたことだから気にしないけどね。

 

俺の手から離れ、オーラの供給元を失ったミョルニルは元のサイズに戻る。

 

俺の予想外の行動にロキは呆気に取られていたけど、笑いだす。

 

「どうした、赤龍帝よ! 気でも狂ったか! フェンリルにその身を砕かれ、頭もやられたか!」

 

言ってろよ。

 

笑うなら笑っとけ。

 

そもそも、俺の本命はここじゃない。

この先だ。

 

「ふははははは! 所詮はその程度であったか! どうやら貴殿を買いかぶりすぎたーーーーーーっ!?」

 

ロキは再び俺の方を見た瞬間に言葉を失った。

 

なぜなら、俺の手にはミョルニルよりも恐ろしいものが握られているからだ。

 

「来やがれ! イグニスッ!!!」

 

左手に赤い粒子が集まり、一振りの大剣が現れる!

刀身から灼熱の炎を解き放って、周囲一帯を灼熱地獄に変貌させる!

 

皆、少しだけでいい!

少しだけ我慢してくれよ!

 

「そのようなもので! 我がレーヴァテインで打ち砕いてくれる!」

 

ロキがレーヴァテインを振り下ろす!

 

「砕けるのはてめぇだ!」

 

左手が焼けるのを耐えながらイグニスを全力で振るう!

 

俺のイグニスとロキのレーヴァテイン。

 

炎を纏う二つの剣が交錯する―――――

 

 

バリィィィィィィン!!!

 

 

「ぐおおおおおおおおっ!?」

 

 

激しい破砕音と共にロキが絶叫をあげた。

 

あれだけ圧倒的な炎を発していたレーヴァテインは粉々に砕け散り、それを握っていたロキの腕はイグニスによって斬り落とされた。

 

ロキの右腕から血が吹き出し、ロキは傷口を抑える。

 

だけど、ロキは直ぐ様、反撃に移ってきた!

 

「貴様ァァァアアア!!!!」

 

正面に魔法陣を展開して、そこから魔術弾を放ってくる!

 

ほとんどゼロ距離だったため、俺は避けることが出来ず、まともに受けてしまう。

ロキの魔術弾は俺を貫き、腹部に風穴を開けた。

 

「ガハッ」

 

口と腹から血を吹き出す。

 

痛ぇ・・・・・・

 

クソッ・・・・・今回の戦闘でどれだけ血を流すんだよ、俺・・・・・。

 

俺が痛みに苦しむなか、ロキが俺の胸ぐらを掴む。

 

「死ぬ覚悟は出来ているだろうな? 貴様は絶対に許さん! 徹底的に潰してくれる!」

 

ロキのオーラが更に高まる。

禍々しいオーラだ。

 

流石は悪神って言ったところか?

 

だけどな――――

 

ロキの腕を掴む。

絶対に離さないように強く。

 

「覚悟するのはおまえだよ」

 

「なに?」

 

怪訝な表情で聞き返してくるロキ。

 

その時、上空から神々しい輝きを放ちながらこちらに向かってくる者がいた。

 

「ナイスタイミングだ。美羽」

 

「やあああああああああっ!!!!」

 

遥か上空から物凄いスピードで迫ってくるのは美羽。

 

しかも、その手に持っているのは―――――

 

「ミョルニルだと!? なぜ、貴様が!?」

 

ロキがこれまでにないくらいの驚きを見せていた。

 

俺の最後の賭け。

 

それは美羽がミョルニルでロキを倒すこと。

 

作戦を要約するとこうだ。

 

まずは俺がミョルニルをロキに投げつける。

当然、ロキは避けるだろう。

そして、俺がロキの注意を完全に引き付けている間に美羽がミョルニルを確保。

そして、美羽がロキにミョルニルを撃ち込む。

 

問題は美羽がミョルニルを扱えるかどうかということとロキがその隙を見せるかどうかということだった。

まぁ、上手くいったようだけどな。

 

今のミョルニルは俺の時のようにただ大きいだけじゃない。

神々しい輝きを放ちながら雷を纏わせている。

つまり、ミョルニル本来の性能を引き出せているということ。

 

「凄ぇだろ? 誉めてくれたっていいんだぜ?」

 

まぁ、俺の妹だからな!

邪念なんてもんは一切無いのさ!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

俺は手元に巨大なオーラの球を作り出す!

そして、それを美羽に放った!

 

『Transfer!!!!』

 

力を譲渡された美羽のオーラが数倍に膨れ上がり、ミョルニルの神々しさも更に増した!

 

「美羽!」

 

「いっけぇぇえええええええええっ!!!!」

 

俺がロキから離れた瞬間、最大限まで高めた渾身一撃がロキの全身へ完璧に打ち込まれた!

 

そして、ミョルニルからとんでもない量の雷が発生した!

 

 

ドガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!

 

 

特大の一撃が、ロキを完全に呑み込んだ。

 

雷がやんだ頃にはロキの体は大きく煙をあげていて、見る影がないほどにボロボロになっていた。

 

「がっ・・・・はっ・・・・・」

 

ロキは上空から墜落して、地面に落ちた。

ピクリとも動かない。

 

今度こそやったか・・・・・・

 

「よくもお父様を!」

 

背後から強烈な殺気が襲ってきた!

 

振り替えれば、ヘルが俺の背後を取っていて、すでに攻撃体勢に入っていた!

 

ここまで来て・・・・・!

 

避けきれないと感じ、覚悟を決めた。

 

すると――――

 

 

ドゴンッ!

 

 

横合いから何かがヘルを吹き飛ばした。

 

「最後の最後で大きな隙を見せたなヘル。まぁ、フェンリルを失い、ロキすらも敗北した今、おまえ一人で我らに勝てる可能性などほとんど無いがな」

 

人間形態のティアが拳にふぅと息をかけながら、ようやく終わった戦いに、大きく息をはいた。

 

 

 

 

ティアとバラキエルさんにヘルの拘束をお願いした後、俺はアーシアの治療を受けた。

 

いやー、アーシアがいてくれてマジで助かったぜ。

 

フェニックスの涙ももう尽きていたし、アーシアがいなかったらヤバかったな。

 

さてさて、俺は向こうの方で倒れているロキを拘束するとしようか。

 

「美羽」

 

「分かった」

 

美羽に一声かけ、二人でロキの元まで歩いていく。

 

一応、周囲を警戒しながら進んで行くけど特に何かが起こるようすはない。

近づく気配も感じないし、問題はないようだ。

 

まぁ、またロキの分身でした、とかだったら辛すぎるけどな。

 

ロキも禁術で作ったとか言ってたし、量産は出来ないものだと思いたいところだ。

 

ロキの近くまで寄るとうめき声が聞こえた。

 

「うっ・・・・」

 

覗き込むとロキと視線が合った。

どうやら、まだ意識はあるらしい。

 

「タフだな、あんた。あれを受けて意識があるとか・・・・・」

 

「ふ・・・・。見事、としか言いようがない。これだけの戦力を揃えて負けたのだ。もう抵抗はせんよ・・・・・。と言っても我に抵抗できるほどの力は残っていないが・・・・・」

 

ロキの言葉に少し驚く。

 

「へぇ。意識があるものだから、何か仕掛けてくると思ってたんだけどな」

 

「言ったであろう。我に抵抗できるほどの力はすでにない」

 

ロキは震える体でヨロヨロと立ち上がる。

 

確かにロキからは殺気もなければ敵意も感じない。

本当に抵抗する力は無いんだろうな。

 

だけど・・・・・・

何だろう、この感覚は・・・・・・

 

何かモヤモヤした不安感が俺の中で渦巻いている。

 

ロキが笑みを浮かべながら口を開く。

 

「・・・・・まさか、我が敗北するとはな。・・・・・・流石は異世界の魔王を倒すだけはある(・・・・・・・・・・・・・・)、と言ったところか」

 

俺はその言葉に目を見開いた。

 

「な、に・・・・!?」

 

絞り出すような声が漏れる。

 

こいつ、今、なんて言った・・・・・・?

 

異世界の、魔王・・・・・?

 

驚愕する俺と美羽を見て、ロキはニヤッと笑みを浮かべる。

その笑みは悪意に満ち溢れていた。

 

すでに片方しかない腕を広げてロキは叫ぶ。

 

「我を倒したところでもう遅い! かの者は貴殿らがいた世界を滅ぼし、やがてこの世界をも滅ぼすだろう! 黄昏は止められぬ! それまでは一時の平和を過ごすがいい! 異世界の魔王の娘! そして、異世界より帰還せし赤龍帝よ!」

 

突如、ロキを中心に氷のようなものが現れた!

 

それを見て美羽が叫ぶ。

 

「これは封印!?」

 

「ふははははは!!」

 

狂ったように笑うロキ。

 

こいつ、自分で自分を封印しようってのかよ!?

 

「待ちやがれ! 今のはどういうことだ!」

 

「はーはっはははは!!!!」

 

「答えろ、ロキ!!!」

 

錬環勁気功を発動させて氷を殴り付ける。

でも、氷はヒビすら入らず、ビクともしない!

 

それでも、俺は殴り続けた!

 

「答えろって言ってんだろ! ロキ! ロキィィィィィイイイイイイイ!!!!!」

 

氷は完全にロキを包み込み、その動きを止めた。

俺の叫びは虚しく響くだけ。

 

 

そこで、俺は完全に意識を失った。

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

ここはオーディンの爺さんと日本の神々の会談が行われたホテルの最上階の部屋。

 

「とりあえずは何とかなったな」

 

バラキエルから作戦の結果を聞いた俺はサーゼクスと今回のことを話し合っていた。

 

「うむ。会談も無事に終わり、同盟をより強固にすることが出来た。オーディン殿も喜ばれておられた。何より、犠牲が出なかったことは私も安堵している」

 

今回の作戦。

 

イッセーとヴァーリという歴代でも最強の二天龍と龍王が二人。

非常に強力なメンバーが参加してくれてはいたが、やはり敵も敵だけに犠牲は出るだろうと覚悟はしていた。

 

だが、蓋を開ければ犠牲はゼロ。

 

ロキとヘルは下され、フェンリルはヴァーリと共にどこかへ転移していったという。

 

まぁ、ヴァーリのことだから上手くやってるとは思うがな。

 

「やはり、今回の決め手はまたイッセー君となるか」

 

「いや、正確には兵藤兄妹、だな。最終的には美羽がミョルニルを使ったらしい」

 

よく美羽にミョルニルが扱えたもんだ。

確かにあいつは相当な実力を持っているが・・・・・

 

「兵藤兄妹、か・・・・・。今回の件でより謎が深まったな。それにロキの言葉も気になる」

 

バラキエルによればロキは『異世界の魔王の娘』、『異世界より帰還せし赤龍帝』と言っていたと言う。

 

そして、『かの者』。

 

この世界を滅ぼすほどの存在。

ロキがそこまで言うなら相当ヤバい奴には違いない。

 

「イッセー君はまだ眠っているのかい?」

 

「ああ。あいつは今回の作戦で一番の重傷者だ。レーヴァテインで斬られるわ、フェンリルに噛まれるわでボロボロだよ。おまけに大量の失血で意識を失ってやがる。しばらくは絶対安静だ。詳しく話を聞きたいところだが、まずは休ませなければならん」

 

「そうか・・・・・。異世界、か。厄介なものが出てきたな」

 

全くだ。

 

異世界。

これは各勢力の学者のあいだで議論になっているものだ。

どこの神話体系にも属さない未知の世界。

グリゴリでも議論はしているが、結論は出ていない。

 

まさか、こんなところでその話になるとはな。

 

だが、これはイッセー達の謎を解き明かすことになる。

俺はそう思っている。

 

「異世界より帰還せし赤龍帝、か」

 

 

俺はそう呟きながら、窓から町の灯りを眺めた。

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

真っ白な世界。

 

そこはまるで神器の深奥、歴代の赤龍帝達がいるあの空間のように何もない真っ白な世界が広がっていた。

 

そこにいるのは二人の男女。

 

男性は長い黒髪を持ち、歴戦の戦士を思わせるような威厳のある顔つきで、黒い服を身にまとっていた。

 

女性の方は、燃え盛る炎のような赤いドレスを着込んでおり、太ももまである長い髪もドレスと同じ色をしている。

 

男性も女性も顔立ちがよく、一見すれば俳優や女優と思えるほどだった。

 

女性が微笑みながら言う。

 

「あなたも随分と無茶をしますね。いきなり出ていくんですもの。驚いたわ」

 

「すまない。無断であなたの力を使ってしまった。あれは私一人では・・・・・肉体を失った私の力では止められなかった。どうか許してほしい」

 

「気にしないで。あなたのそう言うところは嫌いかじゃない。ううん、むしろ好感が持てるわ」

 

「そう言ってもらえると私も助かる」

 

男性は瞑目する。

 

女性はそんな男性を見て口を抑えながら笑う。

 

「それにしてもあの子も相当、無茶をするわね。あんな体になってもまだ守るために戦うんですもの」

 

「ああ。流石は私が認めた男だ」

 

「ええ。あなたがあの子を気に入る理由が分かったわ」

 

「そう言うわりにはあなたは彼を認めていないようだが?」

 

男性がそう言うと女性は肩をすくめる。

 

「認めていないわけではないわ。でも、私の声が届かない以上はまだその時じゃない。あの子にはまだ早いってことよ。下手をすればあの子を殺してしまうことになる。そんなことは避けたいのよ」

 

「・・・・・そうか。あなたがそう言うのであれば仕方がない」

 

 

男性はため息を吐く。

だが、その表情は少し安堵しているようにも見える。

 

「あのロキと名乗る神が言っていたな。『かの者』、と。あれは、もしやあなたが言っていた?」

 

男性が尋ねると女性は静かに頷く。

 

「『彼』が封印から解かれた。そう考えるのが妥当でしょう」

 

「では、やはり――――」

 

「ええ。―――――《アスト・アーデ》。私達は戻らねばいけません」

 

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・・・ここは・・・・・・」

 

気づくと俺はベッドの上にいた。

 

また、気を失ってたのか。

最近、こういうことが多くないか?

 

イタタタタ・・・

 

体を起こそうとすると、鈍い痛みが走る。

 

辺りを見渡すと真っ白な部屋だった。

ここってもしかして・・・・・・

 

部屋のドアが開く。

 

入ってきたのは朱乃さんだった。

 

「あら、イッセー君。目が覚めたのですね」

 

「はい。朱乃さん、ここって・・・・・」

 

「グレモリーお抱えの病院ですわ。イッセー君が突然倒れたので、ここまで転移してきたのです。お医者様からはしばらくは絶対安静とのことですわ」

 

あー、やっぱりね。

そんな予感はしてたよ。

 

今回は相当な無茶をしたからなぁ。

かなりの血を失ってたし。

 

「そういえば、皆は?」

 

「皆、かなりの消耗をしていたので今はグレモリー邸で体を休めていますわ」

 

そりゃあ、激戦だったからな。

皆も限界だったんだろうな。

 

「あれ? 朱乃さんはもう大丈夫なんですか?」

 

「ええ。私はもう大丈夫ですわ。グレモリーの女王として皆を支える役目もありますし」

 

朱乃さんはベッドの隣にある椅子に座ると、側にある冷蔵庫からリンゴを一つ取り出す。

 

小型の包丁を使って器用にリンゴを剥いていく。

 

「ここに来たのはあなたにお礼が言いたかったの」

 

「お礼?」

 

聞き返すと朱乃さんは頷いた。

 

「イッセー君のお陰で私は前に進むことができました」

 

「それは朱乃さんが頑張ったからですよ。俺は特に何もしてないです」

 

「いいえ。あなたが背中を押してくれなければ恐らく、私達の関係は元に戻ることがなかったでしょう。本当にありがとうございました」

 

朱乃さんはそう言って頭を下げてきた。

 

うーん、そんなに大層なことはしてないんだけどなぁ。

 

朱乃さんはリンゴの皮が剥き終わると、お皿に並べてベッドに備え付けられているテーブルにそれを置く。

そして、爪楊枝をリンゴにさすと、俺の口許まで運ぶ。

 

「はい。あーん」

 

「あ、あーん」

 

パクっ

 

うん、美味い!

 

「美味しい?」

 

「はい! 朱乃さんが剥いてくれたリンゴは最高です!」

 

「あらあら。そこまで言ってくれると私も照れてしまいますわ」

 

いつものニコニコスマイルを見せてくれる朱乃さん。

いや、いつものとは少し違うか?

 

つーか、頬を染めてる朱乃さん、可愛い!

 

「あら? イッセー君、ちょっと良いかしら?」

 

「はい?」

 

なんだなんだ?

 

俺は疑問に思いながらも朱乃さんに言われて顔を近づける。

 

すると、朱乃さんの顔が近づいてきて――――

 

俺と朱乃さんの唇が重なった。

 

・・・・・・・。

 

ん?

 

んんんんんんんんん?

 

「うふふ。私のファーストキスですわ。受け取ってもらえるかしら?」

 

頬を染めながら、笑う朱乃さん!

 

マジっすか!?

ファーストキス貰っちゃったよ!

 

いや、嬉しいけどさ!

 

突然のことに混乱する俺に朱乃さんは抱きついてくる。

 

「大好きですわ。イッセー君。これからもずっとあなたの側にいます」

 

おおおおおおおおっ!?

 

えーと、どうしよう!?

 

とりあえず、俺は!

 

「はい! 俺も朱乃とずっと一緒にいます!」

 

 

 

 

朱乃さんがグレモリー邸に戻った後。

 

『相棒、調子はどうだ?』

 

んー、まぁ、ぼちぼちってところかな。

 

傷は完全に治ってるから痛みはないんだけど・・・・・・。

いかんせん、血を流しすぎた。

血が足りてないせいで少し体が重いかな。

 

『そうか。その分なら飯食って十分な睡眠を取れば直ぐに良くなるさ。しばらくは安静にしろよ?』

 

分かってるよ。

 

流石に錬環勁気功でもどうしようもないし・・・・・。

アーシアや小猫ちゃんの治療も効かないしな。

 

しばらくは体を休めるのするさ。

 

『それならいい。・・・・・話は変わるがロキの最後の言葉。覚えているか?』

 

・・・・・ああ。

 

あいつは俺と美羽のことを知っていた。

それが何故だかは分からない。

 

だけど、気になるのはもうひとつある。

 

ロキの言葉からして、向こうの世界で何かが起こってるのは確かだな。

アリスや向こうの仲間達の身に危険が迫っているのかもしれない。

 

『それから、グレモリー達に知られてしまったぞ。どうするつもりだ?』

 

そうだな。

 

父さんも言っていたようにいつかはバレると思っていたし・・・・・

 

潮時だろう。

 

『それでは――――』

 

ああ。

 

皆に打ち明けるときが来たようだ。

 

 




というわけで、今章はこれで終わりです。

本当はもう少しコンパクトにしたかったところもあるのですが、何とか書ききれて良かったです。

次章からは異世界編『異世界召喚のプリンセス』に入ります!
完全なオリジナルでいこうと考えているので、はぐれ原作と全くの別物になります。(しっかりしたものが書けるかかなり不安ですが・・・・・)

あと、はぐれ原作の設定も少し変えようかなー、と考えてます。




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第八章 異世界召喚のプリンセス
1話 最後の眷属です!!


今更ながらの誤字修正報告です。

プロローグ1話で

>皆のところに戻りなんとか魔族から国を取り戻した。それがつい一ヶ月前の話だ。

一ヶ月ではなく数ヶ月の間違いです。

久しぶりに読み返してみたら見つけたので、修正しておきました。





[木場 side]

 

 

ある日、オカルト研究部部室。

 

 

「えぇっ!? 保険がこんなに!? しかも掛け捨てじゃない!」

 

 

ロキとの戦いから数日が経ち、僕達の元には平和な日々が戻ってきた。

いつものように学園に通い、部活に顔を出す。

 

いつもと変わらない光景・・・・・・のように思えるんだけど、僕達にはいくつかの変化があった。

 

まず、一つ目。

ロスヴァイセさんがこの駒王町に残ることになったこと。

 

・・・・・ゴメン、少し訂正するよ。

ロスヴァイセさんはこの町に置いていかれた(・・・・・・・)と言った方が正しいのかな?

 

どうやら、会談が終わった後、オーディン様はそそくさと北欧に帰ってしまったらしい。

ロスヴァイセを忘れて・・・・・・。

 

ロスヴァイセさんとしては直ぐに北欧に戻ろうとしたんだけど、戦いの事後処理に追われて帰ることが出来なかったんだ。

 

 

泊まるところもなかったので、一先ずはイッセー君の家に厄介になったんだけど・・・・・

仕えていた主神に置いていかれたことが相当なショックだったようで、しばらく泣き止まなかったそうだ。

 

それを見かねた部長がロスヴァイセさんに声をかけた。

 

―――――私の眷属にならないか、と

 

 

そして今。

 

 

「そうなの。グレモリーの眷属になれば好きな領地ももらえるし、今ならこういう特典がついてくるのよ」

 

と、部長が何やらパンフレットを指差しながら説明をしている。

 

ロスヴァイセさんも食い入るようにパンフレットを見て、二つのパンフレットを両手に、内容を交互に確認していく。

 

「すごい! 北欧よりも全然充実してるじゃない! しかも、お給料も遥かに上! 最高の職場だわ!」

 

ロスヴァイセさん、目がキラキラ光ってますよ。

 

よほど、部長が提示した内容が良かったのか、中々パンフレットを離そうとしない。

 

「・・・・すごい迫力」

 

僕の隣で小猫ちゃんが呟く。

 

うん、僕もそう思う。

戦ってるときよりも迫力を感じるよ。

 

 

「前の職場でよっぽどストレスがたまってたのかしら?」

 

「イリナさん・・・私、ロスヴァイセさんの気持ちが分かるかも!」

 

「えっ?」

 

「だってだって、ロスヴァイセさんってあのオーディン様の身の回りのお世話をしてたんでしょ? 私だったら絶対爆発してるわ! いや、今でも爆発しそう!」

 

 

レイナさん、それってもしかして――――

 

 

ガチャ

 

 

「おーう、やってるな、おまえら」

 

 

部室に入ってきたのは白衣を着たアザゼル先生。

手に化学の教科書を持っているから、さっきまで授業をしていたんだろう。

 

先生をじとっとした目で見るレイナさん。

それから、大きなため息を吐いた。

 

「はぁ・・・・」

 

「・・・・おいおい、なんだよ・・・・・人の顔見るなり盛大にため息なんか吐きやがって・・・・」

 

先生は目元をひくつかせながら、部室の扉を閉める。

 

・・・・・レイナさんも先生には苦労させられているみたいだね。

 

上司で苦労する点ではレイナさんとロスヴァイセさんは同類なのかもね。

 

そんなやり取りを無視して部長とロスヴァイセさんの会話は続いていく。

 

「グレモリーといえば、魔王輩出の名門で、グレモリー領の特産品は好評で売り上げもとても良いと聞いています」

 

「そうよ。あなたが望むならその事業を任せてもいいわ。グレモリーはより良い人材を募集しているのよ」

 

勧誘を続ける部長がポケットから紅い駒を取り出す。

 

「そんなわけで、冥界で一仕事するためにも私の眷属にならない? あなたのその魔術なら『戦車』として動ける魔術砲台要員になれると思うの。ただ、不安なのは駒一つで足りるかどうか・・・・・。戦乙女を悪魔にした例なんて聞いたことがないし、こればかりはやってみないと分からないわね」

 

先生を除いた全員が部長の申し出に驚いていた。

 

今手にしているのは部長の最後の駒だ。

それをロスヴァイセさんに使おうと言うのだから仕方がないだろう。

 

でも、確かに部長の言う通りで、ロスヴァイセさんが眷属になってくれれば心強い。

先日の戦いでも見せてくれた魔術のフルバーストはレーティングゲームでも活躍してくれるだろう。

 

それに僕達眷属の中にはウィザードタイプは部長と朱乃さんしかいない。

万能そうに見えるイッセー君でも、魔力や魔術に関してはほぼ使えない。

・・・・・僕が知ってるのは洋服崩壊(ドレス・ブレイク)くらいかな?

 

 

ロスヴァイセさんは駒を受けとる。

 

「なんとなくですけど、冥界で出会った時からこうなるのが決まっていたのかも知れませんね」

 

紅い閃光が室内を覆い――――ロスヴァイセさんの背中に悪魔の翼が生えていた。

 

 

上手く眷属に出来たみたいだね。

戦乙女は半神だから、駒が足りるか僕も不安だったんだけど、問題なかったみたいだ。

 

 

そういえば、アジュカ・ベルゼブブ様がつい最近発表したことなんだけど、

 

『悪魔の駒は主の成長に合わせて変質する』

 

というものがあったんだ。

 

 

部長はこれまでの修行でその実力を向上させてきた。

もしかしたら、それも今回の眷属化に関係があるのかも。

 

 

パンッ

 

 

部長が掌を叩く。

 

「そういうわけで、私、リアス・グレモリーの最後の眷属は『戦車』のロスヴァイセになったわ。皆、仲良くしてあげてね」

 

部長の紹介に合わせてロスヴァイセさんがペコリとお辞儀をする。

 

「この度、リアスさんの眷属となりましたロスヴァイセです。グレモリーさんの財政面や、保険、その他の福利厚生もろもろを考慮して思いきって悪魔に転生しました。皆さん、よろしくお願いします」

 

 

パチパチパチ

 

 

ロスヴァイセさんの挨拶に皆は拍手を送るけど・・・・・

皆、苦笑している。

 

本当に思いきったと思うよ。

 

というより、部長が洗脳したようなところもあるような気がするよ。

だって、完全に保険屋の人に見えたからね。

 

「まぁ、いいんじゃないか? 私もやぶれかぶれで悪魔になったことだしな」

 

ゼノヴィア、君はもう少し考えて行動した方が・・・・

 

「ん? どうかしたのか、木場?」

 

「ははは・・・何でもないよ」

 

まぁ、無事にロスヴァイセさんが眷属になってくれて僕も嬉しいよ。

これでグレモリー眷属もかなり強化されたんじゃないかな?

 

「うふふふふふふ! オーディンさま、次にお会いしたときは覚悟してくださいね?」

 

不気味に笑みを浮かべているロスヴァイセさん。

しかも、迫力のあるオーラを纏っている!

 

オーディン様にそれだけ不満があったのだろうか・・・・

 

「とりあえず、これでおまえの眷属は揃ったわけだ」

 

「アザゼル、そこは私の席よ。でも、そう言うことになるわね」

 

「にしても、おまえの巡り合わせはとんでもないな。ヴァルキリーが悪魔になったなんて聞いたことがねぇぜ。この面子じゃ、プロのレーティングゲームに参加してもすぐに上位に入るだろうよ。・・・・まぁ、それはイッセーがいる時点で確定しているところもあるがな」

 

先生がイッセー君の名を口にした瞬間、部屋の空気が変わる。

 

 

これが僕達の中で起きた変化の二つ目。

 

「先生、イッセー君の様子はどうですか?」

 

今、ここにイッセー君はいない。

ロキの策略やフェンリルの牙を受けたせいで、瀕死の重症を負い、冥界のグレモリー領内にある病院で入院している。

 

先生は手元に資料を出し、それをパラパラと捲る。

 

「あー、今のところ問題なしだ。先日の戦いで死んでもおかしくない傷を負っていたがアーシアの治療でそれも治ってる。あとはしっかり体を休めていれば直ぐに良くなるさ」

 

その言葉に全員が安堵した。

本当に良かった。

 

朱乃さんも一度、イッセー君のお見舞いに行ったそうだが、やはり顔色がすぐれないようだったと聞いていたから、心配だったんだ。

 

僕達もイッセー君の顔を見に行こうとしたんだけど、他にやることがあって行けなかったんだ。

 

とにかく、彼が無事なら安心できる。

 

「今回の入院はちょうど良くてな。近々、イッセーに右腕を治すための治療薬を投薬するつもりだったんだ」

 

「完成したの?」

 

 

治療薬というのは冥界、悪魔側の医療機関とグリゴリでイッセー君の右腕を治すために共同開発したもの。

アーシアさんの治療でも、完治することができなかったので新薬を作り、以前のように動かせるようにしようと言うものだ。

その開発にはアザゼル先生とアジュカ・ベルゼブブ様まで関わっていると言う。

一介の悪魔にそれだけのことをするなんてね。

イッセー君の存在が冥界にとってどれだけ重要なものになっているのかが分かるよ。

 

部長の問いに先生はうなずく。

 

「ああ。試験データも良い結果が出てる。投薬してから数日はかかるだろうが、完治は見込める」

 

なるほど。

アザゼル先生が太鼓判を押してくれるならそうなのだろう。

 

これは朗報だ。

 

先生はそこで息をはく。

 

「ま、ケガのことは良いんだが・・・・・。おまえらも分かってるだろ? あいつと美羽。兵藤兄妹のこと」

 

「・・・・・・・・」

 

部屋の空気が再び張り詰める。

 

僕はロキが最後に言い放った言葉を思い出す。

 

 

 

『我を倒したところでもう遅い! かの者は貴殿らがいた世界を滅ぼし、やがてこの世界をも滅ぼすだろう! 黄昏は止められぬ! それまでは一時の平和を過ごすがいい! 異世界の魔王の娘! そして、異世界より帰還せし赤龍帝よ!』

 

 

 

あの時、僕たちはロキの言葉の意味が分からなかった。

その言葉の意味よりも僕達が驚愕したのはイッセー君の反応だった。

 

まるで、絶対に知られてはいけないものを明かされたように焦るイッセー君。

ロキが自身を封印するために作った特殊な結界を何度も殴り付けていた。

 

結果的には途中でイッセー君が倒れてしまったので、破壊することは出来なかったが・・・・。

 

あそこまで焦るイッセー君を見たのは初めてだった。

 

「オーディンの爺さんにロキの封印を解くように依頼してはいるが、向こうも手間取っているみたいでな。かなり特殊なものらしい。解除するにはかなりの時間を要するとのことだ」

 

「・・・・・では、イッセー先輩か美羽先輩に直接聞くしかないと言うことですか?」

 

「そうなるな。俺やサーゼクスとしては今すぐにでも話を聞きたいところなんだ。今まで誰にも認知されていない異世界が関わっている。しかも、そこにはロキがこちらの世界を滅ぼすと言うほどの存在がいる。それが本当だとしたら早めに対策をしておく必要があるだろう。そのためにも情報が必要なんだ」

 

 

異世界・・・・・。

このことは少し前に先生から聞かされた。

 

どこの神話体系にも属さない未知の世界。

世界中で議論されており、グリゴリでも時折、議題に挙がるそうだが、結論は出ていないらしい。

 

その異世界にイッセー君と美羽さんは関わっている。

いったい、なぜ二人がそんなところに関係しているのかは分からない。

 

「――――だが、話を聞くにしてもまずはあいつらが落ち着くのを待つ、と言うのが俺とサーゼクスの出した結論だ。ロキのせいであいつらも相当混乱していたみたいだしな。心の整理をさせてやる必要があるだろう」

 

・・・・確かに、先生の言う通りなのかもしれない。

 

傷ついた体を休ませるのもあるかもしれないけど、二人も考えを纏める時間が必要なはず。

 

皆もそれには納得しているようで頷いていた。

 

「ま、近いうちに自分達から話してくれるだろうさ。イッセーのことだ。知られてしまった以上、俺達に話さなければいけないことくらいは理解してるはずだ。俺はあいつらを信じるぜ。なんせ、俺は『先生』だからな。生徒を信じるのも教師の勤めだ」

 

先生はそう言うとニヤリと笑った。

 

「そうね。私もアザゼルに賛成するわ。私もイッセー達が話してくれるのを待つ。それが私達に出きることだと思うの」

 

「ですわね。私もイッセー君を信じます」

 

部長と朱乃さんも微笑む。

 

アーシアさんや小猫ちゃん、他の皆も気持ちは同じのようだ。

 

当然、僕もだけどね。

 

先生は僕達の顔を見て満足そうな笑みを浮かべる。

 

「とりあえず、今日の部活はイッセーの見舞いに行くとしようぜ。おまえらもあいつと触れ合えなくてストレス溜まってんだろ?」

 

イッセー君との関わりが薄いロスヴァイセさん以外の女性陣はそうだろうね。

 

この数日、部長をはじめとした女性陣はどこか調子が狂っているようだったからね。

授業中にボーッとしたりすることが多い。

クラスの人達からも心配されているらしい。

 

部長や朱乃さんまでもがそうなっているので、先生からは保健室や早退を進勧められたこともあるとのことだ。

 

・・・・・かなり重症だ。

 

「あ、そうそう。美羽は先に病院に行ってるぞ。なんでも、イッセーの看護をするとかで授業が終わったとたんに俺のところに来て、転移していったからな」

 

「「「「それを先に言ってよ!!!!」」」」

 

女性陣の声が重なった。

 

「こうはしていられないわ! 朱乃、すぐに行くわよ!」

 

「ええ! ただでさえ、美羽ちゃんには遅れをとっているのに、こんなところでゆっくりなんて出来ませんわ!」

 

「はぅぅ! 先を越されてしまいましたぁ!」

 

「くっ! 授業終了早々に教室を出ていったのはそう言うことだったのか!」

 

「総督! なんで最初に言わないんですか!?」

 

「・・・・・完全に油断してました」

 

「え、えーと、私も天使としてイッセー君の看護をするわ!」

 

イリナさん、そこは天使である必要ないと思うんだけど・・・・

 

「先生・・・・・、完全に爆弾を投下しましたね」

 

「これで、いつものこいつらに戻っただろ。しけた面してんのはこいつらには合わねぇからな」

 

どうやら、こうなるように計算していたみたいだ。

 

流石は先生、と言ったところかな?

 

 

それにしても、イッセー君は驚くだろうね。

自分がいない間に眷属が増えているんだし。

 

 

この後、僕達はイッセー君のお見舞いに行くべく、冥界に転移していった。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 




というわけで、新章1話はロスヴァイセの眷属化でした。

1話丸々、木場視点で書いたのは初めてかも。

異世界に行くのは2~3話後を予定しています。


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2話 打ち明けます!!

やっと試験が終わりました!

しばらくはゴロゴロ出来るんだ!
こんなに嬉しいことはない!

というわけでどーぞ!



「・・・・・・・ん?」

 

眠っていた俺は僅かな重みを体に感じたので目を覚ました。

 

すると、

 

「あ、目が覚めた? おはよう、お兄ちゃん」

 

目が覚めたら俺の上に美羽がいた。

 

 

ロキとの戦いが終わり、それによるケガで始まった俺の入院生活。

 

アーシアのおかげで傷は塞がったものの、消耗が激しかったこともあり、俺はグレモリー領の中にある大きな病院に運ばれた。

 

診察の結果、しばらくは安静にしておいたほうが良いと担当医に言われたので、今日も一人おとなしくベッドの上で横になっていたんだ。

 

暇だから、窓の外を眺めたり、たまに様子を見に来る看護婦さんのおっぱいを眺めたりしたりもしていたけど、ただただ大人しくしていた。

 

昼飯を食べ、少し眠たくなった俺はそのまま昼寝。

 

 

――――そして、目が覚めたら美羽がいた。

 

ナースのコスプレ姿で!

 

しかも、俺にまたがった状態で!

 

「お、おはよう? つーか、今、夕方じゃねえか。学校はどうしたんだ?」

 

「ちゃんと行ったよ。授業が終わった後、アザゼル先生に頼んでこっちに送ってもらったんだ」

 

「な、なるほど。それで、なんで俺にまたがってるんだ? しかも、ナースの格好までして」

 

「んー、お兄ちゃんを元気にさせようと思ったからかな?」

 

そう言われ、美羽の体を順番に見ていく。

 

たゆんと揺れる豊かなおっぱい!

括れた腰!

スカートから覗かせるスベスベした白い太もも!

服の上からも分かる美羽の素晴らしい体つき!

 

しかも!

 

癒し系の美羽がナースの格好をしている!

 

特に露出が多いわけではないが、美羽とナース服という最強コンボが俺の心を掻き立てる!

 

「どうかな?」

 

「うん! メチャクチャ元気になった!」

 

親指を立てて嬉しさのあまり号泣する俺!

 

目覚めて早々、とても良いものを見させていただきました!

 

ありがとうございます!

 

「やっぱり、このコスプレは正解だったみたいだね」

 

ニコッと笑う美羽。

 

うん、流石は我が妹!

俺の思考を完全に把握している!

 

くぅぅ~、笑顔が眩しいぜ!

 

おっと、いかんいかん。

色々なところが元気になりすぎた。

落ち着こう。

 

まずは深呼吸だ。

 

「どうしたの?」

 

「妹という存在のありがたみに感謝しているところだよ」

 

「?」

 

よく分からないと首を可愛く傾げる美羽。

 

あー、癒される。

最近は色々と慌ただしかったから、それもあるんだろうな。

いつもより癒されている気がするぜ!

 

白衣の天使か。

実在したんだな。

 

とりあえず、美羽を撫でてやろう。

可愛すぎるわ。

 

「スゲェ元気でた。これで俺はしばらく生きていけるな」

 

「もう、大袈裟すぎるよ」

 

「大袈裟じゃないって。俺がどれだけおまえに癒されてきたことか。マジでありがとう」

 

「そ、そう? そこまで言われると照れるよ・・・・」

 

顔を紅潮させて恥ずかしそうにモジモジしてる。

その仕草がこれまた可愛いぜ!

 

なんで、こうも行動一つ一つに癒されるのか!

 

と、ここで俺はあることに気づく。

 

「そういえば、部長達は?」

 

皆はロキの事後処理とか他の悪魔の仕事に追われていたらしいけど、それも大方片付いたとアザゼル先生からは聞いている。

 

もしかしたら、そろそろ来てくれるかな、とか思ってたんだけど・・・・・・。

 

「皆はもうすぐ来るんじゃないかな? アザゼル先生も後で行くって言ってたし」

 

あ、そうなんだ。

 

ここ数日、皆の顔を見てないから、少し寂しかったんだよな。

 

入院生活もかなり退屈だし、早く退院して皆と過ごしたいぜ。

 

 

「・・・・・・皆、か」

 

美羽はそう呟くと少し表情に影を落とす。

 

理由は聞かなくても分かってる。

 

「やっぱり、不安か? 皆に俺達のことを話すのが」

 

先日のロキとの戦いで、俺達は思いもよらなかった事態に陥った。

 

それは、ロキが俺達の秘密を知っていたことだ。

 

俺が異世界に行って、あちらの世界の魔王シリウスを倒したこと。

そして、美羽がシリウスの娘だということ。

 

それを皆の前で暴かれた。

 

いつ、どこであいつが俺達のことを知ったのかは正直言って分からない。

どれだけ考えても結論はでなかった。

 

だけど、皆に知られてしまったことには変わりはない。

 

皆に俺達のことを明かす時が来たんだ。

 

美羽は小さく頷く。

 

「・・・・うん。少しね」

 

自分の過去を話して、皆に受け入れられるか不安っていった顔だな。

 

ったく、こいつは・・・・・・

 

「美羽」

 

「えっ? うわっ!」

 

俺は美羽をそのまま抱き寄せる。

 

「何も心配はいらないさ。俺達は固い絆で結ばれた仲間なんだぜ? 皆は絶対に受け入れてくれる。皆とはこの数ヶ月、苦楽を共にしてきた。互いを信じて死線だって乗り越えてきたんだ。絶対に大丈夫だ。それに」

 

「それに?」

 

「おまえをこっちの世界に連れて来た時に言っただろ? 何があってもおまえを守るってな。だから、心配すんな!」

 

そう、俺はシリウスから美羽を託された時から誓った。

美羽を必ず守り抜いてみせると。

 

その誓いは今でも――――いや、これから先も消えることはない。

 

美羽は一瞬、目を見開いたけど、それから少し微笑んだ。

とても、嬉しそうな表情で。

 

「うん・・・・・。ありがとう、お兄ちゃん。・・・・・イッセー」

 

美羽は力を抜いて、そのまま体を俺に預けてくる。

 

これで少しくらい不安は取り除けたかな?

 

つーか、美羽に『イッセー』って呼ばれたのはいつ以来だろう。

久しぶりすぎて逆に新鮮だな。

 

 

さて、俺も改めて覚悟を決めることが出来た。

 

実のところ、皆に隠し事をするのは内心、辛かったんだよね。

だから、今回は良い機会だとも思っている。

 

隠し事はいつかはバレる。

そう考えれば、皆に明かすのが少し早くなったってところなのかな?

 

 

とりあえず、皆が来るまではゆっくりしよう。

 

俺はそんなことを考えながら目を閉じた。

 

 

すると――――

 

 

ガララッ

 

 

部屋の扉が開かれた。

 

扉の方を見てみると部長や部員の皆がそこに立っていた。

 

皆、なぜか息をきらしてるけど・・・・・・何事だよ?

 

皆はこちらを見ると目を見開く。

皆の視線は俺と、俺の体に密着している美羽に集まっていた。

 

 

 

 

・・・・・・あ、これは死んだ

 

 

 

 

俺がそう思った瞬間。

 

 

「「「「これはどういうこと!?」」」」

 

 

皆の声が病院中に響き渡った。

 

 

皆、院内ではお静かに。

 

 

 

 

 

 

皆が部屋に来てから十分ほどが経った。

 

「大体、美羽も私達に黙って来るなんてズルいわ。それにナースのコスプレまでして」

 

「うぅ・・・・・ごめんなさい」

 

 

その間、俺達は部長達から説教を受けるはめになったけど・・・・

 

ずっと正座だったから足が痺れた・・・・・・

 

アザゼル先生が爆笑しながら俺を指差す。

 

「ハハハハハハ! そこまでにしといてやれよ。一応、こいつは入院患者なんだぜ?」

 

先生・・・・・止めてくれるのはありがたいけど、心の中では『いいぞー! もっとやれー!』なんて思ってるでしょ?

 

顔にそう書いてあるし!

 

「そ、そうね。私達もイッセーのお見舞いに来たわけだし・・・・・。ギャスパー」

 

「はい!」

 

部長に言われてギャスパーが持ってきたのはよくあるようなフルーツの盛り合わせ。

 

ただ、見たことないような果物ばかりだ。

グレモリーの特産品か?

 

「イッセー先輩、これ食べて元気になってください!」

 

「おう! ありがとうよ!」

 

ギャスパーからかごを受け取り、ベッドの横の棚におく。

果物の色がが鮮やかでキレイだからこのまま飾っとくのもありかも、なんて思えるな。

 

「イッセーさん、体の具合はいかがですか?」

 

「問題ないよ。アーシアの治療もあって、今はピンピンしてるよ。ありがとな、アーシア」

 

そう言ってアーシアの頭を撫でてやると、アーシアは顔を紅潮させてモジモジする。

 

「い、いえ、私は出来ることをしたまでですから」

 

うん、可愛いな。

 

「イッセーはいつ頃退院出来るんだ? また、私の修行に付き合ってもらいたいんだが」

 

ゼノヴィアがそう尋ねると、それには先生が答えた。

 

「そうだな・・・・。右腕の治療もあるし、あと、4、5日ってところか? ま、これだけ元気なら体を動かしても問題ないだろうよ。退院直後にでも付き合ってもらえ」

 

「了解した。じゃあ、イッセー、その時はよろしく頼むよ」

 

「いいぜ。俺も体を動かしたいしな。入院生活でなまった体をほぐすにはちょうどいい。どうせなら木場もやろうぜ」

 

「そうだね。僕もイッセー君に修行をつけてもらいたいと思ってたんだ」

 

「よし、決まりだ。じゃあ、退院後に三人でやるか」

 

なんていう会話がしばらく続いていく。

 

・・・・・・

 

うーむ、どのタイミングで切り出すべきか。

 

なんと言うか、どことなく皆の表情が固いような気もするし・・・・・・。

 

美羽は美羽で少し緊張しているような感じだ。

 

仕方がない。

少し唐突のような気もするけど・・・・・・

 

 

俺は少し息を吐いた後、皆の顔を見渡す。

 

 

 

「なぁ、皆。少し話たいことがあるんだ。・・・・・俺と美羽のことについてだ」

 

 

 

「「「―――――!」」」

 

皆の表情が変わる。

さっきまで笑っていた先生も厳しい顔となった。

 

恐らく皆は俺と美羽が自分から話すのを待っているはず。

だったら、俺はそれに応える。

 

「皆も気になっているのは分かってる。ロキの言葉、そのことについて今から話そうと思う。質問があるなら後で受け付ける。だから、とりあえずは俺の話を聞いてほしい。・・・・まず、俺のことから話そうか。――――俺は二年前、中三の夏に異世界に飛ばされたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

それから、俺は二年前に自身に起こったことを全て話した。

 

 

俺が異世界に飛ばされたこと。

 

そこの人達と触れ合ったこと。

 

人間と魔族の種族間戦争に巻き込まれたこと。

 

親友を失ったこと。

 

全てを守るために必死で修行したこと。

 

魔王シリウスと激闘を繰り広げたこと。

 

そして、シリウスから美羽を託されたこと。

 

何も包み隠すことなく経験した全ての出来事を話した。

 

皆は驚きながらも、静かに俺の話を聞いてくれていた。

 

「それからこっちの世界に戻ってきた俺は美羽の生活を考えて、父さんと母さんにも全てを打ち明けたんだ」

 

「それじゃあ、やはりイッセーのお父さまとお母さまは・・・・」

 

「ええ、異世界のことを認知してます。父さん達にも美羽の素性を明かさないように頼んでいました。・・・・・ゴメン、皆。俺も皆に隠し事をするのはどうかと思ったんだけど、美羽の安全を考えると、異世界のことは口にしない方が良いと判断したんだ」

 

すると、左手に宝玉が現れる。

 

宝玉が点滅し、ドライグの声が聞こえる。

 

『おまえ達、どうか相棒のことを許してやってほしい。相棒はおまえ達に隠し事をすることを本当に心苦しく感じていた。決しておまえ達を信用していない訳ではないのだ。それに、相棒に黙っておくように助言したのは俺だ。批難は俺が受けよう』

 

いや、ドライグは悪くない。

 

ドライグはいつも俺に最善の道を助言してくれた。

美羽のこともそうだ。

 

皆はただただ驚いたといった表情でその場で無言になってしまっていた。

 

まぁ、いきなりこんな話をされてもすぐに理解するのは難しいよな。

 

父さんと母さんの時もそうだったし。

 

 

しかし、俺の話を聞いて一人うんうんと頷いている人がいた。

 

「なるほどな。そういうことなら色々納得できる」

 

 

俺が語っている間、壁にもたれて話を聞いていたアザゼル先生がベッドの側まで歩いてくる。

 

「納得できる? どういうことですか?」

 

先生の言葉に俺は聞き返す。

その問いに先生は頷いた。

 

「三大勢力の会談の時、おまえのことを調べたと言ったのを覚えてるか?」

 

「あー、そういえば言ってたような・・・・・。それがどうかしたんですか?」

 

「その調べている過程でおまえには色々と疑問に思うところがあったんだよ。その中で一番気になったのは、そこまでの強さを持っておきながら、悪魔になるまでにその力を使った形跡が全くなかったということ。ここが俺の中でずっと引っ掛かってたんだよ。普通、全く見つけられないなんてことはあり得ないからな」

 

まぁ、流石のグリゴリでも異世界のことまでは調べられないしな。

俺が神器に目覚めたのもあっちの世界だし。

 

調べられないのは無理はない。

 

なるほど、先生はそれで会談の時に聞いてきたのか・・・・。

 

 

先生の視線が美羽に移る。

 

「それに美羽についてもだ。おまえに関しちゃ、どこで産まれて、どこで生きてきたかさえ分からなかった。まぁ、今回のことでハッキリしたがな。・・・しかし、驚いたぜ。まさか、おまえが魔王の娘だったとはな。しかも、そのシリウスってのはこちらの世界の魔王と同等の力量なんだろ?」

 

すると、ドライグが言う。

 

『いや、それについては少し訂正したい』

 

「訂正?」

 

『単純な力量で言えば魔王クラスだ。だが、美羽がアーシア・アルジェントを救った時に見せた魔法などを考慮すると、総合的な力ではこちらの魔王を上回るのかもしれん』

 

「なに?」

 

『つまり、あの男はまだ力を隠していたのかもしれんということだ。・・・・いや、何らかの理由で使えなかった。あるいは使わなかったと言った方が正しいか? まぁ、これもただの推測だ。既に亡き今、確認する術はないがな』

 

俺もドライグの意見と同じだ。

 

あの時、シリウスが手を抜いたというのは考えられない。

互いに死力を尽くしてぶつかり合った。

それは間違いない。

 

それでも、シリウスにはまだ力があったんじゃないか?

最近の戦闘で美羽を見ていたらそう思えてならない。

 

 

「ま、とにかくだ。おまえと美羽のことは理解したぜ。異世界のこともな。俺はおまえらが俺達に隠してたことを責めるつもりはない。むしろ、当然の判断だろう。俺も同じ立場ならそうした。異世界なんてもんが知られたら大騒ぎだからな。それに、美羽の存在がろくでもない奴に知られたら、実験材料にされる可能性もあったはずだ。リアス、おまえらもそこのところは分かってやれよ?」

 

「ええ。それは分かってるわ。話を聞いてすごく驚いたし、今でも理解していないこともあるわ。でも、イッセーが私達を信用してない訳ではないことが分かっただけでも十分よ」

 

それに、と部長は続ける。

 

「美羽、私はあなたが異世界の人間だからといって突き放すなんてことは絶対にしないわ。私にとってあなたは大切な家族なんですもの。ねぇ、皆」

 

部長がそう言うと皆は微笑んで頷いた。

 

「ええ。私にとってイッセー君はイッセー君で、美羽ちゃんは美羽ちゃんです。それ以外の何者でもありませんわ」

 

朱乃さん・・・・・・

 

その言葉を聞いて、美羽の瞳から雫が落ちた。

 

「イッセー君、美羽さん。僕達は仲間だ。それに僕も誓ったよ。僕は皆の剣となって皆を守ると。二人のことも守ってみせるよ。・・・・まぁ、今の二人に勝てる気は全くしないんだけどね」

 

ありがとう、木場。

その気持ちだけで十分だぜ。

 

「私はお二人にどんな過去があったとしてもお二人のことが大好きです! 私の大切なお友達で家族です!」

 

「・・・・私もイッセー先輩も美羽先輩も私にとっては優しい先輩です」

 

「僕も先輩方のことは大好きですぅ!」

 

アーシア、小猫ちゃん、ギャスパー・・・・・

 

「ああ、私にとっても二人は二人でしかない。私のかけがえのない友達だ!」

 

「私もよ。私は二人に救われたもの。二人がどんな過去を持っていても関係ないわ!」

 

「え、えっとね、私にとってもイッセー君は大切な幼馴染みだし、美羽さんも私にとっては大切な存在よ! あれ? 今思ったんだけど、イッセー君の妹ってことは私にとっても妹的なポジションなのかしら?」

 

ゼノヴィア、レイナ、イリナ・・・・・・

イリナ、最後の方の意味はよく分からなかったけど、とにかくありがとう。

 

俺は美羽の方を見る。

 

「な? 心配なかっただろ?」

 

「うん・・・・! ありがとう、皆! ボク、ボクは・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!」

 

あらら、号泣してるよ。

涙が滝みたいになってる。

 

まぁ、悲しみの涙ではないのは明らかだし、良いかな。

 

「皆、俺からも礼を言うよ。本当にありがとう!」

 

俺、悪魔になって良かったと思う。

 

悪魔になってからは戦い続きで大きなケガをすることも多くなった。

 

でもな、それでも後悔はしていない。

 

こんなにも最高の仲間に出会うことが出来たんだからな!

 

 

 

 

 

 

美羽も泣き止み、病室が良い感じの空気になった時だった。

 

 

「まぁ、イッセーと美羽の過去については良いのだけれど・・・・・」

 

部長はそこで言葉をとぎらせる。

 

どうしたんだろ?

 

「ねぇ、イッセー」

 

「なんです?」

 

「イッセーはその世界で三年過ごしたのよね?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「それで、帰ってきたら時間は進んでいなかったって・・・・」

 

「はい」

 

うん、あの時は驚いたね。

 

まぁ、時間が経っていなかったおかげで行方不明扱いにならなくてすんだけど。

 

もし、こちらの世界でも三年が経っていたらその間に父さん達が警察に届け出を出してたかもしれない。

そう考えると不幸中の幸いだったのかな?

 

部長はうつむき、少し考えると俺の方を見て再び尋ねてきた。

 

「ということは、イッセーは私や朱乃よりも年上・・・・・?」

 

 

「「「「あっ」」」」

 

 

部長の言葉に部員の皆はハッとなる。

 

 

・・・・・・・・ん?

 

 

「だって、異世界での三年がこちらの世界で一瞬だと言うことは・・・・・」

 

「・・・・・イッセー君は私とリアスよりも二つ年上と言うことになりますわね」

 

部長に続き朱乃さんが言う。

 

「ま、普通に考えりゃそうなるわな。イッセーは今、十七歳だが、実際の歳は二十歳ってことになるな」

 

先生がそう言うと、皆の視線が俺に集まる。

 

 

・・・・・・・・・・

 

え、えーと、どうしようこの空気。

 

「い、いや、でもこちらでの時間は経ってなかったんだし・・・・十七ということには」

 

「ならんだろ。おまえの肉体と精神は異世界でこちらの者よりも三年長く生きていることになる。認めろよ。おまえは二十歳だ」

 

「い、いや、でも!」

 

俺が食い下がろうとする!

 

しかし、先生は無視しやがった!

 

「よーし、今度から酒の相手はおまえにしてもらうか。二十歳なんだからいけるよな? 二十歳なんだし」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」

 

俺の絶叫が病院中に響き渡った。

 

まともに青春を送らないまま二十歳認定なんて嫌だぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう。ロスヴァイセが私の眷属になったからよろしくね、イッセー」

 

「ええええええええええええええええっ!?」

 

 

 



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3話 オカ研メンバー、本気です!

「―――――――というわけで、今回、私はリアスさんの戦車として眷属になりました。今後ともよろしくお願いします」

 

「は、はぁ・・・よろしくお願いします」

 

皆に俺と美羽のことを打ち明けた後、俺はロスヴァイセさんが部長の新しい眷属になったことと、その経緯を聞かされていた。

 

なんというか・・・・部長、完全にロスヴァイセさんを買収しましたよね!?

 

まぁ、部長のことだから無理やりなんてことはないだろうし、そのあたりは心配してないけど・・・・

 

つーか、ロスヴァイセさん、それでいいんですか!?

 

「とにかく、これでリアスの眷属は全員そろったことになる」

 

あ、そっか。

 

部長の残ってる駒って戦車だけだったもんな。

兵士は俺が8つも消費しちゃったし・・・・

ということはロスヴァイセさんが最後の眷属になるわけだ。

 

ロスヴァイセさんの戦いを見たけど、この人も相当強いと思うし、魔術、魔法が使えるメンバーが少ないから良い人を眷属にしたと思うよ。

 

「ロスヴァイセ、おまえ歳いくつだっけ?」

 

「今年で十九です」

 

へぇ、やっぱり俺達とあまり変わらないんだな。

 

部長が言う。

 

「ロスヴァイセは教員として駒王学園で働くことになったの」

 

「教員なんですか? 俺はてっきり大学部の方に入るものだと思ってたんですけど」

 

だって、ロスヴァイセさんって大人っぽいけど学生としても十分やっていけると思うんだ。

 

すると、ロスヴァイセさんが首を横に振った。

 

「私は教員免許を持ってますし、学生をするよりは教師として人に教える方が楽しいかと思ったので」

 

ロスヴァイセさんって教員免許持ってたんだ。

なんか、すごいなこの人。

 

「ロスヴァイセが十九ってことはリアスの眷属の中ではイッセー、おまえが一番歳上になるわけだな。二十歳だしな」

 

「先生! それを言わんでくださいよ! 俺だって好きで歳食った訳じゃないんですよ!」

 

異世界に行かなかったら俺はまだ十七だったんだ!

 

うぅ・・・・なんで俺だけこんな・・・・・

まともに青春を過ごさずして十代を終えてしまうなんて・・・・

 

まぁ、異世界でも色々な人に出会えたし、楽しいこともたくさんあった。

異世界に行ったこと自体は不幸だなんて思ってないけどさ。

 

 

「朱乃、イッセーが私達より歳上だと言うことは・・・・」

 

「ええ、リアス。私達も妹キャラになり、イッセー君に甘えることは十分可能ですわ」

 

ぶ、部長? 朱乃さん?

 

何を言って――――

 

二人の言葉を聞いてアーシア達が焦ったように叫ぶ。

 

「だ、ダメですぅ! お二人までそんなことをされたら!」

 

「・・・・私達が絶対的不利」

 

小猫ちゃん、どうしたのそんなに厳しい顔をして?

 

「むぅ、あの二人に新しい属性を作られては・・・・」

 

「ええ、お姉さまキャラだけじゃなく、妹キャラだなんて・・・・・。そのギャップでイッセー君を落とすつもりだわ!」

 

おいおい、ゼノヴィアとレイナまでどうしたよ?

 

「ダメぇ! イッセーはボクのお兄ちゃんなの! 誰にも譲らないよ!」

 

おおう!?

 

美羽が部長と朱乃さんに猛抗議をしだしたぞ!?

 

突然の女性陣の会話に混乱する俺。

なんだ、この状況・・・・・

 

俺の肩に手が置かれる。

 

「色々と大変だね、イッセー君。がんばってね」

 

「イッセー先輩! 僕、イッセー先輩のこと忘れません!」

 

木場が慈悲いっぱいの目で見てくる!

つーか、ギャスパーに至っては不吉すぎるって!

 

なに?

俺、死ぬの!?

 

クソッ!

こうなったのも皆を爆笑しながら見てるこの人のせいだ!

 

「先生! 笑ってないで何とかしてくださいよ!」 

 

「無理」

 

「即答!?」

 

「こんな面白い修羅場を止めるわけねぇだろ」

 

そう言って先生は何処からか取り出したビデオカメラで撮影し出した!

 

何やってんの、この人!?

 

「なるほど、これがリアスさんの眷属として生きるということですか。私も馴れなければいけませんね」

 

ロスヴァイセさん、そんなことメモしなくていいから、止めてくださいよぉぉぉおおおおおお!!!

 

 

 

 

 

 

 

それから十分後。

木場のおかげでなんとか事態は収束した。

 

・・・・木場、マジでありがとう

 

コホンッと先生が咳払いし、話し出す。

 

「ま、イッセーの歳なんざどうでもいいとしてだ・・・・・。問題はこれからのことだな」

 

先生の言葉に部屋が静まり返る。

 

これから、か・・・・・。

 

「ロキのせいで異世界のことが露呈したうえに、イッセー、美羽、おまえ達のことが暴かれた。一応の情報統制はしているが、何処からおまえ達のことが漏れるかは分からん。もし、そうなった場合だが・・・・・美羽、分かっているな?」

 

そう言って先生は美羽を見る。

 

美羽はビクッと体を震わせた。

 

もし、美羽の存在がろくでもない奴に知られた場合、美羽は危険な目に合うだろう。

そいつに拐われ何らかの実験に付き合わされることだってあり得る。

 

つまり、そうならない為にも対策をしておく必要があるってことだ。

 

俺は・・・・・ま、大丈夫だろう。

 

ドライグ曰く、大抵の奴らは俺自身に手を出すことはないらしいしな。

 

「美羽のことは俺達の方でもサポートするつもりだ。一応の対処法も既に考えてある。だから、そんなに固くなるな。教え子のことはしっかり守ってやるさ」

 

先生・・・・・

 

この人はこう言うところがあるから憎めない。

 

俺と美羽は先生に頭を下げる。

 

「ありがとうございます、先生」

 

「ああ、そんなんはいいって。俺もおまえらには世話になってる。これくらいはどうってことねぇよ。まぁ、そういうわけで、こちらの方はどうにかできる。だが、問題なのはもう一つの方だ。ロキが言っていた『かの者』」

 

その言葉に部長が反応する。

 

「それはこちらの世界をも滅ぼすという?」

 

「ロキが言うにはそうらしいな。だが、これは見過ごせない。サーゼクスも同じ意見だ」

 

やっぱり、先生とサーゼクスさんも気になっているのか。

 

俺もそのことをずっと考えていた。

 

しかも、向こうの世界では既に動き出しているかもしれない。

つまり、アリスや他の皆に危険が迫っているかもしれないんだ。

 

俺は――――

 

 

俺は皆に視線を移し、覚悟を伝える。

 

 

「皆、俺はもう一度、異世界に行こうと思っている」

 

 

「「「「っ!」」」」

 

 

部長が俺に問う。

 

「異世界に行くって・・・・・。方法は分かっているの?」

 

「ええ。・・・・確証は無いですけど一応の見当はついてます」

 

昔、こっちの世界への帰り方を調べた時のことを思い出したんだ。

 

ついこの間まで完全に忘れていたけど、恐らくその方法で向こうの世界に行けるはず。

 

皆の目を見ながら俺は続ける。

 

「向こうの世界にも俺の仲間がいるんだ。一緒に旅をした仲間。それだけじゃない。向こうに飛ばされて、右も左も分からない俺を助けてくれた人達もいるんだ。そんな人達に危険が迫っているなら、俺は行かなくちゃいけないんだ」

 

「イッセー・・・・・」

 

「部長、すいません。でも、これはもう決めたことなんです。俺のわがままを許してください」

 

そう、これは俺のわがままだ。

向こうにいるアリス達を助けに行くなんてことは皆には関係がない。

それでも、俺はあいつらを助けに行きたいんだ!

 

 

すると、部長の手が俺の頬に触れる。

 

「謝らないで。私だって自分のわがままのために皆を巻き込んだわ。・・・・・それにあなたは今まで私達をその身を挺して守ってきてくれた。あなたにはそのわがままを言う権利がある」

 

「部長・・・・・」

 

「私はあなたに守られてばかりだった。だけど、今度こそあなたの力になってみせる。――――私もあなたについていくわ」

 

「!?」

 

部長の発言に今度は俺が驚いた!

 

だって、俺についてくるっていうことは――――

 

「私も異世界に行くわ」

 

 

 

 

 

 

 

「それは本気ですか!?」

 

「もちろんよ」

 

部長は覚悟のこもった瞳で言う。

 

本気だ・・・・・!

 

「でも、部長は・・・・・」

 

部長はグレモリー家の次期当主だ。

冥界にとっても重要な人になりつつある。

 

一悪魔である俺のわがままにつき合わせる訳にはいかない。

 

「分かってるわ。私はその立場上、あまり勝手なことは出来ない。だけど、私ももう決めたの。あなたについて行くと」

 

部長がそう言うと他のメンバーも一歩前に出て来た。

 

もしかして、皆は・・・・・

 

木場が言う。

 

「当然、僕達も行くつもりだよ、イッセー君。僕達も部長と同じ気持ちさ」

 

その言葉に皆は頷く。

 

おいおい・・・・・マジかよ。

いや、でも・・・・・!

 

俺がそれを止めさせようとすると、先生が笑みを浮かべた。

 

「無駄だぜ。こいつらは何があってもおまえについて行くぜ。観念しろよ、イッセー」

 

「先生!?」

 

「それに、だ。魔王直々の命令がリアスに下ればおまえの勝手なわがままじゃなくなる」

 

命令?

 

どういうことだ?

 

「今、サーゼクスから通信があった。リアス、おまえに魔王としての命令だ。『魔王サーゼクス・ルシファーの名において命ず。リアス・グレモリーとその眷属は異世界に赴き、調査せよ』だとよ」

 

「なっ!?」

 

俺は驚愕の声をあげる。

まさか、サーゼクスさんまでそんなことを言うなんて、考えてなかった。

 

サーゼクスさんからの命を受けた部長は不敵な笑みを浮かべる。

 

「魔王様からの命令では断る訳にはいかないわ。というわけで私達は異世界に行くことになったわ。異論は無いわね、イッセー?」

 

「でも、かなり危険なことになるかもしれないんですよ!?」

 

「イッセーの懸念は分かるわ。だから、危なくなったらすぐに逃げるわ」

 

おいおい・・・・・

良いのかよ・・・・・・

 

「よく、サーゼクスさんが許しましたね」

 

「まぁな。この数日、俺とサーゼクスの間で話し合っていてな。こうなる可能性も見越していた。それでリアス達の気持ちをあいつに伝えたところ、許可が降りたってことだ。それに今回の命令はあくまで調査だ。戦う必要はない。もし本当にヤバかったら一度こちらに帰ってくると良い」

 

・・・・・・

 

はぁ・・・・・・・

 

俺はベッドに大の字で倒れると天井を見上げる。

 

・・・・・なんてこった。

 

元々、俺と美羽で行くつもりだったってのに・・・・・。

 

美羽も向こうには仲の良かった友達がいる。

その気持ちを知っていたから俺は俺と美羽だけで行こうと考えていた。

 

まさか、こんな大所帯になるなんてな・・・・・

 

「はははは・・・・・」

 

不思議と笑みが溢れた。

 

まったく、この人達は・・・・・・

 

俺は再び上体を起こして、皆と向き合う。

俺は笑みを浮かべて言った。

 

「皆、よろしく頼む!」

 

『おうっ!』

 

皆の気合いの入った声が重なった。

 

 

すると、先生が尋ねてきた。

 

「それで? どうやって異世界に行くつもりなんだ?」

 

皆も興味津々と言った感じだ。

 

俺は過去に調べたことを思い出しながら、答える。

 

「俺がこの世界に戻るために色々と調べたんですが、どうやら、世界には『指向性』というのがあるらしいんです」

 

「指向性?」

 

「はい。えーと、なんて説明すれば良いんだろ・・・・・。例えば俺はこっちの世界の人間だからこの世界へに戻れた。だったら美羽はあちらの世界の人間だから・・・・・・」

 

「なるほどな。つまり、おまえは美羽という存在(・・)を使って異世界に渡るつもりだった。そういうことだな?」

 

「そうです。まぁ、これも、俺の直感だし、いけるかどうかは分からないんですけどね。俺が異世界に行けた理由も謎だし。そもそもの原因は俺が吸い込まれたからだし・・・・・」

 

「吸い込まれた? 何に?」

 

「うーん、それが何だったのか・・・・・。あまりに一瞬の出来事だったし・・・・・。あ、そういえば、この間、次元の狭間に飛ばされた時と似た光景を見た気が・・・・」

 

アーシアを庇ってシャルバに次元の狭間に飛ばされたときのことを思い出す。

 

あの万華鏡を覗いたような光景は俺が異世界に渡った時に一瞬だけ見えた光景と同じだった。

 

俺の話を聞いて、先生は何か心当たりがあるのか、手を顎にやり何やら考え出した。

 

「まさかと思うが『次元の渦』に吸い込まれたのか?」

 

次元の渦?

聞いたことがない言葉だ。

 

皆も聞き覚えがないらしく、頭に疑問符を浮かべていた。

 

「次元の渦ってのは極稀に起こる現象でな。その名の通り、次元の狭間に出来る渦みたいなやつだ。あまりに一瞬のことだから、発見するのは現象が起こった後になるから、まだまだ調査段階のものなんだ。それゆえにいつ、どこで、どういう仕組みで起こるのかは誰にも分からない」

 

部長が先生に問う。

 

「でも、起こるのは一瞬なのでしょう? なぜ、その存在が知られているの?」

 

「確かに次元の渦を起こるところを見たものはいない。だが、起こった後には必ずその周囲が歪む。それが渦に見えるから次元の渦って呼ばれてるのさ。話を聞く限り、イッセーはそれに吸い込まれたのだろう。・・・・なんというか、災難だったな」

 

本当ですよ!

 

なんで、俺がそんな滅多に起きないやつに吸い込まれないといけないんだ!

 

「しかし、興味深いな。・・・・・別の世界に渡った者は元の世界に戻るためだけに次元の渦を発生させられるのか・・・・・? いや、それだったら、なぜイッセーは異世界へ? 世界の意思とでも言うべきなのか・・・・? それに異世界で過ごした三年がこちらで一瞬だったことも気になる。次元の渦による影響か・・・・・?」

 

ぶつぶつと呟きなが考え込む先生。

 

ああなったら完全に自分の世界に入り込んでるんだよなぁ。

 

「そういえばイッセー。おまえ、さっき調べたって言ってたよな?」

 

「え? あ、はい」

 

「元の世界に戻るための資料があったということはだ。過去にも誰かがその世界へ行ったことがあり、元の世界に戻った後もその世界に行くことを可能にしたということになる」

 

「あー、向こうでもそういう話になったような」

 

一緒に方法を探してくれていた人も同じことに気づいてたな。

ただ、具体的な方法は書かれてなかったから分からなかったんだけどね。

 

まぁ、そんなことは先生に言われるまで完全に忘れてました!

 

そんな俺の表情を見て、先生はため息をつく。

 

「ったく・・・・そんな重要なことを忘れやがって・・・・。おまえ、やっぱりバカだろ」

 

「ははは・・・・・すいません」

 

あの時はこんなことになるなんて思ってなかったし・・・・・

完全に頭から抜けてたよ。

 

いや、本当に面目ない。

 

「ま、異世界に行くにしても、おまえの腕が治ってからだ。それまで各自、準備をしていろ。その間に俺もおまえらが抜ける分の要員は確保しておく」

 

そっか。

 

俺達が抜けるということは町を守るメンバーが減ることになる。

俺達の穴埋めをするメンバーが必要になるんだよな。

 

俺の時みたいに一瞬で帰ってこれる保証もないし。

 

「そうだな・・・・。おまえ達の代わりに『刃狗(スラッシュドッグ)』のチームに任せるか。何かあっても、あいつらの実力なら余裕だろう」

 

スラッシュドッグ?

なんか、格好いい名前だ。

先生がそこまで言うなら相当の実力者なんだろうな。

 

「とにかく、そう言うことだ。イッセー、おまえは腕の治療に専念しろ。いいな?」

 

「はい!」

 

よーし、張り切って治療に励むぜ!

 

・・・・・と言っても薬を飲んで軽いリハビリだけなんだけどね。

 

 

とにかく、こうして俺達は異世界へ向かうことに決まった!

 

待ってろよ、アリス!

すぐに行くからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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4話 いざ、異世界へ!!

連続投稿いきまーす!


皆に俺と美羽のことを打ち明けてから5日が経った。

その間、俺はサーゼクスさんやアジュカさんにも自分の口から過去のことを話した。

 

二人とも俺の話を受け止め、今回のことを理解してくれた。

 

それに、俺達が異世界へ行っている間、町のことや家のことも見ていてくれるそうで、グレイフィアさんが家にいてくれるそうだ。

 

あの人がいてくれるならかなり心強い。

 

 

それから、父さんと母さんにも今回のことを伝えた。

美羽のことを部長達に明かしたこと。

 

二人とも驚くかと思ったんだけど、どこか納得しているような感じだった。

そして、俺が異世界に行くことも認めてくれた。

 

二人ともこうなることが何となく分かっていたのかな?

 

 

コンコン

 

 

病室のドアがノックされる。

 

「はーい」

 

俺が返事を返すと入ってきたのはアザゼル先生だった。

 

「おう、様子を見にきたぜ。つっても今日退院だっけか?」

 

「そうですね」

 

俺の腕のことなんだけど、新薬の効果やリハビリのおかげでなんとか、以前のように動かすことが出来るようになった。

 

先生の推測通り、新薬の効果は絶大だった。

 

ちなみにだけど、その新薬はこれからも研究を続けて、今後の冥界医療に活かしていくらしい。

 

「ほれ、退院祝いだ」

 

そう言って先生に手渡されたのはブレスレットだった。

ブレスレットには小さな宝玉が埋め込まれていて、何やら紋様が描かれている。

結構、キレイだ。

 

「これは・・・・・」

 

「そいつは俺が作ったやつでな。おまえのそれと美羽のやつを合わせて二つある」

 

「美羽のも?」

 

「おう。言ってただろ? 美羽のことで一応の対策はしてあるってな。とりあえず、それは仮処置だ。腕にはめてみろ」

 

そう言われて俺は左手首にそれを取り付ける。

 

・・・・・・が、何も変化は起きない。

 

なんだこれ?

 

「それはな、美羽が危険を感じたとき、もしくは美羽の体に異常が起こった時、美羽をおまえのところに強制転移させる道具さ」

 

「っ!」

 

「使用回数の制限は特にない。そいつがぶっ壊れるか、おまえが死なない限りな。一応、距離が離れていても強制転移は可能だ」

 

先生、この短期間でこんなものを作ってたのか!

すげぇよ、この人!

 

確かに、これなら美羽が襲われても安全は確保できる!

 

先生は笑みを浮かべながら続ける。

 

「デザインも悪くないし、何も起こらなければペアルック的な感じで使える。・・・・・美羽がその点を一番喜んでいたのは開発者としては複雑だったけどな」

 

あははは・・・・・

 

美羽、おまえ・・・・

 

あれ? 

でも、これって・・・・・・

 

俺は疑問に思い、それを先生に言う。

 

「これって俺の方から美羽を呼び出すことは出来ないんですか?」

 

俺の問いに先生は首を横に振り、ため息をはく。

 

「すまんが、そこまでの機能はつけることが出来なかった。今回はあくまで美羽の安全を確保するために作ったからな。もう少し時間があればいけるような気もするんだが・・・・・。その代わり、そいつは美羽が何処にいようと効果を発揮できるようにはしてある。例え距離が離れていても、結界に覆われていてもな。とりあえずはそれで我慢してくれ」

 

「いや、それだけでも十分ですよ。ありがとうございます、先生」

 

「礼はいらねぇよ。言ったろ? それは退院祝いだってな」

 

先生はニヤッと笑むと椅子に腰掛ける。

 

そして、俺の右腕を掴み、まじまじと見てきた。

 

「で? 肝心の右腕はどうなんだよ? 見た目は前と変わらんが・・・・」

 

「もう大丈夫です。傷跡は残ってますけど、以前みたいに動かせます」

 

そう言って右腕を自在に動かしてみる。

もう箸だって持てるぜ。

 

「そうか。そりゃ何よりだ」

 

先生は少し安堵した表情となった。

 

いやー、先生には感謝してるぜ。

右腕治ったのも先生のおかげでもあるしな!

 

この人、何だかんだで良い人なんだよなぁ。

バラキエルさんも良い人だったし。

 

なんで堕天したか謎だな。

 

「そういえば、先生ってなんで堕天したんですか?」

 

「なんだよ、いきなり?」

 

「いえ、何となく気になったので」

 

「まぁ、教えてやっても良いけどよ。つーか、言ってなかったか? 俺、童貞失って堕天したんだよ」

 

 

衝撃の事実に俺は言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

退院手続きを終えた俺は先生と共に家に転移してきた。

とりあえず、自分の部屋に転移したんだけど、そこにはオカ研メンバーが集結していた。

 

「おかえりなさい、イッセー」

 

「ただいま戻りました、部長。って何で俺の部屋に集まってるんですか?」

 

「何言ってるの? ここはあなたの部屋であり、私の部屋でもあるのよ?」

 

そうでした。

 

俺の部屋は皆の寝床になってるんだった。

家に住んでるオカ研メンバーは全員、この部屋で寝てるもんな。

ベッドも改築した時より一回り大きめになったんだ。

 

「イッセー、私達は既に準備は整えてあるわ。あなたに言われた通り、ソーナにもあなた達のことを話しておいたけど・・・・良かったの?」

 

実は部長にソーナ会長にも俺と美羽のことを話すよう頼んでおいたんだ。

 

会長達なら信用できるし、何より同じ学園の仲間で、死線を乗り越えた仲間だ。

こうなった以上、隠し事は無しにしておきたい。

 

「ええ。ソーナ会長なら大丈夫だと思うので」

 

「まぁ、ソーナも初めは驚いてはいたけど、事情は理解してくれたわ」

 

流石はソーナ会長だ。

 

とりあえず、準備は完了か。

 

 

俺は皆を見渡す。

 

皆も俺の視線に、その表情を真剣なものにした。

 

「皆、今から俺達は異世界に飛ぶ。向こうではどんな危険が待っているか分からない。危なくなったらすぐに逃げること。これだけは約束してくれ」

 

向こうで何かが起こり始めているのは確かだ。

もしかしたら、また死線を潜るはめになるかもしれない。

しかも、それはロキの時よりも危険な戦場になることも考えられる。

 

だから、俺は皆に言った。

皆には死んでほしくないからな。

 

『はいっ!』

 

皆の返事で全てが決まった。

 

俺はニッと笑う。

 

「よし。それじゃあ、行くか。――――アスト・アーデに」

 

 

 

 

 

 

室内は眩い光に包まれていた。

最上階にあるミーティングルーム。

 

俺達は部屋の中央で円を繋ぐように手を繋いだ状態でいた。

 

「今、思ったんですけど、先生まで来ても良いんですか?」

 

「おうよ。シェムハザやバラキエルには話をつけてある。今回のことはそれだけ重要なんだよ。それに」

 

「それに?」

 

「異世界だなんて、面白そうだろ。向こうにはどんな面白い物があるのかすげー興味あるしな!」

 

あ・・・・・

確かに、この人はそういう人だった。

 

この人は面白そうだと思ったらそれに突き進んでいくもんなぁ。

 

はぁ・・・・・

 

まぁ、先生が来てくれるのは心強いけどさ。

 

 

俺は自分の隣を見る。

 

そこには輝きの中心になっている美羽がいた。

 

「とりあえず、ゆっくり深呼吸だ。そして、向こうの世界を思い浮かべろ」

 

俺は手を繋いだ皆に錬環勁気功を使って気を完全に同調させる。

循環させた気が俺達を巡り、一つの円を形作っていく。

これは錬環勁気功の技の一つ。

全てが俺と一体になる技だ。

 

美羽と俺達を一つにすることで、ここにいる全員が向こうに行けることになる。

 

正直、この大人数を俺一人で調整するのは難しいから、小猫ちゃんにも手伝ってもらっている。

 

まさか、こんなところで小猫ちゃんに教えたことが役立つとは・・・・・。

 

 

キイィィィィィィィィィン

 

 

甲高い音が響き始める。

どうやら、そろそろのようだ。

 

俺は部屋で俺達を見送りに来ている父さんと母さん、サーゼクスさんに視線を送る。

 

「イッセー、美羽、皆、気を付けるんだぞ!」

 

「皆揃って、絶対に帰ってきなさい!」

 

分かってるよ、父さん、母さん。

 

「リアス。父上と母上には私の方から話をつけておいた。グレモリーのことは私に任せてくれ」

 

「ありがとうございます、お兄様」

 

「気にするな。可愛い妹のためなら、これくらい、どうということはないよ。・・・・イッセー君、皆を頼む」

 

「はい!」

 

すると、部屋に一つの魔法陣が現れた。

 

そこから現れたのは人型のティアだった。

 

「ティアも見送りに来てくれたのか?」

 

「見送り? 何を言っている?」

 

そう言うとティアはツカツカとこちらに歩いてきて、俺の肩を掴む。

 

俺を通して俺達を包む光と同じものがティアを包んでいく。

 

「私を置いていくとはどういうつもりだ? 私も連れて行ってもらおうか」

 

ティアは不敵に笑みを浮かべる。

 

その行動にこの場の全員が驚いていた!

 

「おいおい! マジかよ!?」

 

「大マジだ。私はおまえの使い魔なのだろう? だったら私も連れていくべきだと思うが?」

 

「・・・・・・・」

 

あー、ダメだ。

この目は何を言っても聞かない人の目だ。

 

「良いのかよ?」

 

「なーに、おまえのためになら喜んで力を使おうじゃないか」

 

 

はぁ・・・・・

 

盛大なため息が漏れる。

 

皆も苦笑していた。

 

「まさか、ティアマットまで来るなんてな。最強の龍王も随分丸くなったもんだな」

 

先生が笑いながら皮肉を言うが、ティアもそれに返す。

 

「フッ、私はイッセーがどこまで行くのか見たくて使い魔になったんだ。こうするのは当然だろう? どこぞののサボり未婚総督よりは遥かにマシだ」

 

おい、ティア!

それは禁止ワードだぞ!?

 

「んだと!? 喧嘩売ってんのか、テメェ!」

 

先生が怒鳴るが、ティアはすました顔でとんでもないことを口にしていく!

 

「悔しかったら早いところ身を固めるんだな。おまえのとこのシェムハザもバラキエルも結婚しているし、既に子もいるというじゃないか。他の幹部もつい最近、おめでたいことがあったと聞いている。女はいくらでもいる、なんてことをほざいているが、いつまで経っても結婚しないし、挙げ句の果てには神器にのめり込み、完全にオタクと化した。サボりでオタクの未婚総督。最悪だな」

 

「おまえだって独り身だろうが! タンニーンは結婚してるぞ!」

 

マジか。

タンニーンのおっさん、奥さんいたんだ。

どんな人なんだろ?

 

「私はおまえと違って独り身を気にしてないからな。独り身をウジウジと嘆いているおまえと一緒にするな」

 

「ぐっ・・・・後で覚悟しとけよ・・・・」

 

「やれるならやってみろ」

 

そう言って凄まじいオーラを纏わせていく二人!

 

 

おいいいいいいいいいいっ!!

 

なんで行く直前に喧嘩してんの!?

 

マジで止めて!

あんたらが喧嘩したら、この家どころか町まで吹き飛ぶから!

 

 

「クスッ」

 

そんな二人のやり取りを見て、美羽が微笑んだ。

 

「なんか、さっきまでの重たい空気が無くなっちゃったね」

 

ああ、全くその通りだよ。

 

あー、さっきまでのシリアスはどこへやら・・・・・

 

はぁ・・・・・こんな調子で大丈夫なのかね?

 

『まぁ、この方がおまえ達らしいと思うがな』

 

そう言われれば確かにそうなんだけどさ・・・・・

 

もう、いいや!

諦めよう!

俺達にはシリアスを保ち続けるのは無理!

 

そういうことで!

 

 

「それじゃあ、父さん、母さん、サーゼクスさん! 行ってきます!」

 

 

その瞬間、俺達は完全に光に覆われた。

 

 

 

 




はい、というわけでイッセー達は異世界に旅立ちました!

メンバーはオカ研メンバー+アザゼル+ロスヴァイセ+ティアマットです。

本当は今回で異世界での描写を書きたかったのですが、とりあえずキリがいいところで終わらせました。

次回より舞台は異世界となります!







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5話 早速、波乱です!!

チュンチュンチュン

 

鳥のさえずりが聞こえ、穏やかな風が吹いている。

風な俺の頬をくすぐり、それが心地よくもある。

 

サァァァと木々の枝葉を揺らす音も聞こえた。

 

こういうところでゆっくり昼寝するのも良いもんだよな。

 

・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・

 

「って違ぁぁぁぁぁぁあああああう!!!」

 

俺は上体を起こして叫んだ!

 

ここどこだよ!?

なんで、俺はこんな森の中で横になってんの!?

 

もしかして、アスト・アーデに着いたのか?

だったら、こんな場所知らねぇぇぇぇええ!!

以前はアリスの城に飛ばされたから今回もそうだと思ってたのに!

マジでここどこ!?

 

プリーズ・ヘルプ・ミー!!!

 

周囲を見渡すと皆もいた。

とりあえず、全員で来れたみたいだ!

それだけは良かったぜ!

 

よーし、とりあえずは落ち着こう。

深呼吸だ。

 

俺はゆっくりと息を吐いて心を落ち着かせる。

 

「ここが、おまえが言ってた異世界か?」

 

いつのまにか起きていた先生が周囲の森を見渡しながら尋ねてくる。

 

「う~ん、多分・・・・・?」

 

「多分って・・・・・。おまえな・・・・・」

 

「いや、俺だって、この世界の全てを知ってるわけじゃありませんし・・・・・。むしろ知らない土地の方が多いですよ」

 

「ま、それもそうか。俺だって元の世界の全てを知っているわけでもないしな」

 

「・・・・・どうしましょう?」

 

「とりあえずは寝てる奴らを起こすか・・・・・」

 

あー、いきなりこんなことになっちまって大丈夫なのかね?

先行きがかなり不安だ・・・・・・。

 

美羽ならこの場所のこと知ってるのかな?

とりあえず、美羽から起こすか。

 

俺は美羽の体を揺さぶってみる。

 

「おーい、起きてくれ。美羽~」

 

すると、

 

「・・・・・あと五分・・・・・・ZZZ」

 

そう言って寝返りをうつ美羽。

 

自宅感覚か!

 

それに、おまえのあと五分は五分じゃないだろ!

下手すれば一時間の時もあったし!

 

「こんなところで寝てたら風邪引くぞ」

 

「・・・・んん・・・・・おはよ?」

 

おおっ、起きてくれたか。

つーか、瞼擦って、眠そうだな。

 

「おう、おはよう」

 

美羽は周囲をぐるっと見渡す。

そして、少しの間ボーッとすると、いきなり目を見開いた!

 

「ここ・・・・! 成功したの!?」

 

ようやく、まともに話せそうだ。

 

「うーん、多分? 俺はこの場所には来たことないから、分からないんだよな。美羽はここがどこか知ってるか?」

 

「うん、ここは―――」

 

美羽が答えようとした時だった。

 

 

「「「イヤアアアアアアアアアッ!!!」」」

 

 

突然、複数の叫び声が森に響いた!

今のはアーシアとイリナ、レイナの声だ!

 

何があった!?

 

俺は声が聞こえたほうへと向かう。

 

すると――――

 

 

「はぅぅ・・・・私の服が無くなってますぅ!」

 

「これはどういうことなの!?」

 

「あ、イ、イ、イ、イッセー君!? 見ちゃダメだからね!」

 

 

俺の視線の先にいたのは全裸で踞る三人と小猫ちゃんの姿!

 

 

ブフフッ

 

 

勢いよく飛び出す鼻血!

まさか、こちらの世界に来て早々、こんなすばらしい光景を目にできるとは!

 

アーシアのおっぱいも以前より大きくなっていて、目で見て判別できるほどだ!

よくぞそこまで!

 

レイナとイリナもスタイル抜群だからこれまた!

二人とも恥ずかしがっているところが可愛いすぎるぜ!

 

小猫ちゃんもロリロリだけど、最高です!

 

ありがとうございます!

眼福です!

 

 

「・・・・スケベ死ぬべし」

 

 

ドスッ

 

小猫ちゃんの毒舌と鋭いストレートが俺の顔面を捉えた!

 

うぐぐ・・・・小猫ちゃん、痛いっす!

日に日に威力が増してるな!

これも修行の成果ということか!

 

つーか、小猫ちゃんの毒舌はどこの世界でも変わらないのか!

なんか逆に安心するな!

 

「・・・・でも、なぜ私達の服だけが?」

 

小猫ちゃんが部長達を見ながら尋ねてくる。

 

確かに部長や朱乃さんといった他のメンバーは全員、来るときに着ていた服で、裸ではない。

ロスヴァイセさんや途中でいきなり参加したティアも普通の状態だ。

 

全員裸だったらもっと最高だったけどな!

 

なんで、この四人だけが・・・・・。

 

あれ?

そういえば、こんな状況以前にも・・・・・・。

 

「ねぇ、小猫ちゃん。アーシア達の担当は小猫ちゃんだったよね?」

 

「・・・・そうです」

 

あちゃー、もしかして・・・・・。

 

俺は恐る恐る小猫ちゃんに尋ねた。

 

「・・・・・もしかして、服に気を流してない・・・・・・?」

 

「・・・・・えっ?」

 

あ、この感じは当たりだ。

 

なるほど、それなら説明はつくな。

俺が美羽を連れて行った時と全く同じだ。

 

どうしよう・・・・・。

 

「えっとね、多分、服に気を通してなかったせいで・・・・・その、途中で脱げたんだと・・・・・思う・・・・・」

 

「・・・・・もしかして、私のせい・・・・・・」

 

シュンとなって落ち込む小猫ちゃん!

 

「いやいやいや、違うよ! 小猫ちゃんのせいじゃないって! きっと俺が伝え損ねたんだよ! うん、俺のせいだって!」

 

「・・・・・いえ、私がイッセー先輩のしていることをしっかり見ておけばこんなことには・・・・・」

 

マズい!

自分を責めだしたよ!

 

俺は小猫ちゃんの肩を掴んで慌てて首を振った。

 

「小猫ちゃんのせいじゃないって! そこまで注意してなかった俺のせいだよ! ゴメン! 全ては俺のせいなんだぁぁぁああああ!!」

 

そうだ!

小猫ちゃんが悪いなんてあり得ない!

小猫ちゃんを泣かせるくらいなら俺が泣くわ!

 

 

 

 

 

 

とりあえず、四人の服は朱乃さんが例のごとく魔力で解決してくれた。

 

来る前と同じ服を作ってもらい、ひとまず事態は収拾した。

 

「朱乃さん、ありがとうございます」

 

「うふふ。これくらいならお安いご用ですわ」

 

いやー、マジで朱乃さんがいてくれて助かったよ。

 

小猫ちゃんも立ち直ってくれたし。

めでたしめでたしだ。

 

「ったく、こんな調子で大丈夫かよ? 不安しかないんだが・・・・・・」

 

先生が嘆息する。

 

いや、本当にすいません。

 

「とにかく、これから行動するにもここがどこなのかをハッキリさせないとな。美羽、ここがどこか分かるか?」

 

先生の問いに美羽は頷く。

 

どうやら、心当たりがあるらしい。

 

「ここはゲイルペインの森だよ」

 

「ゲイルペイン?」

 

「ゲイルペインはボク達、魔族が治める国で、ここはその中にある森。よく、ここには遊びに来ていたから間違いないと思う」

 

そっか、どうりで俺は知らないわけだ。

 

ゲイルペインはシリウスと一騎討ちした時にしか来たことないからな。

その時もこの森は通ってないし。

 

それにしても、のどかな所だな。

 

「よし。それなら、とりあえずは美羽に先導してもらうのが良さそうだ。頼めるか?」

 

「任せてください」

 

まぁ、それが適任か。

 

それに魔族の人と何かあっても美羽がいてくれれば顔が利くだろうし。

 

 

すると、小猫ちゃんが何かに反応した。

 

「どうしたの、小猫?」

 

部長が怪訝な表情で尋ねる。

 

それに対し、小猫ちゃんは厳しい顔で答えた。

 

「血の・・・・血の匂いがします」

 

「「「!?」」」

 

血!?

 

誰かケガしてんのか!?

 

俺は直ぐに全身の感覚を鋭敏化して、探索範囲を拡げる。

 

もし、小猫ちゃんの言うことが本当なら、どこかに人がいるはず・・・・・

 

そして、

 

「見つけた! こっちだ!」

 

俺は気を感じ取った方へと走り出す。

皆も後に続き、駆け出した。

 

数十人くらいの気を感じた。

しかも、何かと戦っている・・・・・?

 

これは急いだ方が良さそうだ。

 

一応、周囲を警戒しながらも俺は速度を上げて、そこの地点へ急行した。

 

小猫ちゃんは俺の隣に来ると猫耳を出して、ピコピコと動かす。

 

何かを感じ取ったようだ。

 

「っ! イッセー先輩、これは・・・・・!」

 

「ああ、何か良くないやつがいるな。なんだこの気は・・・・? 人の気じゃないな・・・・」

 

明らかに人のものじゃない気。

しかも、全く同じ気が複数いやがる。

 

こんなことは通常はあり得ない。

 

何が起こっているんだ?

 

 

『―――――!』

 

『――――――っ!?』

 

『――――――!』

 

 

誰かが叫んでいる声が聞こえる!

 

そして、俺達はその現場に到着した。

 

すると、そこでは――――

 

 

 

グギュアアアアアアアアアッ!!!!!

 

オオォォォォオオオオオオオッ!!!!!

 

 

「くっ、この!」

 

「おい! 救護班は負傷者を安全なところへ運べ!」

 

「くそっ! このままでは!」

 

 

 

十数体の白い怪物とそれと争っている兵士達の姿があった。

 

なんだ、あの怪物は・・・・・!?

 

二メートルくらいの大きさで、ドラゴンのようなものもいれば人形のものもいる。

ただ、一つ目だったり、腕が六本もあったりしてどれも形が歪だ。

 

兵士の方は人間と魔族が混ざっていて、互いを庇いながら、怪物から逃れようとしている。

中には血まみれで、担がれている人までいた。

 

早く助けねぇと!

 

「何かよく分からないけど、皆、助けるぞ!」

 

『おう!』

 

俺達は茂みから飛び出し、怪物に向かっていった!

 

俺は怪物と襲われそうになっていた兵士の人の間に入り込み、その巨大な腕を受け止める。

 

突然の俺の登場に兵士の人は戸惑っていたけど、俺の顔を見て、目を見開いた。

 

「イッセー殿!? なぜあなたがここに!? 元の世界へと戻られたのでは!?」

 

「お久しぶりです、部隊長! 詳しくは後で話すんで、ここは下がってください! 木場!」

 

「分かってるよ!」

 

木場はそのスピードで部隊長を助け出す。

それによって、怪物の意識が木場に向いた。

 

その瞬間を逃さず、俺の背後から飛び出した小猫ちゃんが仕掛ける!

 

「・・・・・そこ!」

 

 

ドゴンッ

 

 

放たれた鋭いアッパーが怪物の顎を捉える!

衝突の音が周囲に響いた!

 

小猫ちゃんは更に追撃する!

気を循環させて体の動きを加速させていく!

 

それは激しいラッシュを生み出した!

 

気を纏わせた拳と蹴りが的確に怪物の体を抉っていく。

中級悪魔クラスが相手なら既にスクラップにしてるほどの威力だ。

上級悪魔でもまともに食らえばかなりのダメージになるだろう。

 

 

しかし、

 

 

ゴァアアアアアアアアア!!!

 

 

怪物は何事も無かったかのように小猫ちゃんに反撃に移った!

口から炎を吐き出し、尾と何本もある腕を駆使して小猫ちゃんを襲う!

 

マジかよ・・・・・。

あれを受けてもまだ戦えるのか・・・・・。

 

あれは部長達では一人で相手するのは辛い!

 

「部長! 皆はチームを組んで対処してください! アーシアは治療にあたってくれ! 俺と先生、ティアは一人でやります!」

 

「ちっ、仕方ねぇ。俺もいっちょうやるか!」

 

「まさか、こうも早くに戦闘になるとはな!」

 

先生とティアも舌打ちをしながら、それぞれ怪物を相手取る。

 

俺も瞬時に鎧を纏って、目の前の怪物に殴りかかる!

 

「おおおおおおっ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

倍加と同時に気を循環させて、身体能力を強化!

 

小猫ちゃんのラッシュを受けても倒れなかったってことはこいつらはかなりしぶとい。

少なくとも上級悪魔よりも強いと見た方が良いだろう。

だったら、俺も相応の力を出す必要があるってことだ!

 

突っ込む俺に対して怪物は口から炎を吐いてきやがる!

かなりの熱量だ!

 

ここは避けるのが得策だけど、後ろにはまだ逃げ遅れた兵士の人達もいる。

避けるわけにはいかねぇか!

 

俺はそのまま突っ込み、炎に向かって拳を放つ!

俺の拳は炎を打ち破り、怪物の腹に突き刺さる!

 

直ぐに拳を引き抜き、そのまま畳み掛ける!

小猫ちゃん以上のラッシュで拳と蹴りの嵐を巻き起こし、怪物の体を崩壊させていく!

 

「こいつでどうだ!」

 

 

ドゴォォォオオオオオオンッ!

 

 

渾身のストレートが怪物の顔面を捉え、地面に叩きつける!

それにより、巨大なクレーターができた!

 

 

俺は着地して息を吐き、右腕を閉じたり開いたりして、その動きを確認する。

治療のおかげで右腕も完全に治ってるな。

やっぱ、右腕が使えると戦いやすい。

 

 

すると―――――

 

 

グルァァアアアアアアアアッ!!!

 

 

「!!」

 

 

さっき叩きつけた怪物が俺めがけて炎を放ってきやがった!

 

咄嗟に後方に跳んで、それを回避するが、俺は驚きを隠せなかった。

 

 

おいおい・・・・・・

今のを受けてもまだ動けるのか・・・・・・ッ!!

 

腹が抉れて、腕も数本もげてる状態だぞ!?

どんだけ、しぶといんだよ!

 

見れば、部長達だけでなく、先生やティアもそのしぶとさに舌打ちしていた。

 

「なんだ、こいつらのしぶとさは・・・・・。普通じゃねぇぞ」

 

「力自体はそれほどだが・・・・これは少々、面倒だな」

 

先生とティアが相手している怪物は頭が半分無くなっているにも関わらず、二人に攻撃を仕掛けていた。

 

こうなったら、完全に消滅させるしかなさそうだな・・・・・。

 

『こいつらは頭だけでも向かってくるかもしれんぞ? そう思えるほどのしぶとさだ』

 

ああ、中途半端に加減をしてる場合じゃねぇなこれは。

 

ただ、本気を出せば皆まで巻き込んでしまいそうだ。

先生とティアも俺と同じことを考えているのか、本気は出していない。

 

部長達だけならなんとかなるけど、負傷してる人がいるしな・・・・・。

 

よし、こうなったら・・・・・

 

「先生、ティア! 二人は皆と一緒に防御結界を張ってください! こいつらは俺が纏めて相手します!」

 

「っ! おい、リアス達もそいつら連れてこっちに来い! 巻き込まれるぞ!」

 

「分かったわ! 皆、その人達を避難させるわよ!」

 

先生と部長の指示で皆が一ヵ所に集まり、周囲に強力な防御結界を発生させる。

 

これなら!

 

いくぜ、ドライグ!

 

『正直、そこまでする必要はないと思うが・・・・・まぁ、負傷兵がいる以上、早々に片をつけるのが得策か。森を破壊し尽くすなよ?』

 

分かってるよ!

 

俺は全身の気を高めた。

体の周囲にスパークが発生すると同時に鎧も変化する。

 

「禁手第二階層・砲撃特化――――天撃!!!」

 

狙いは怪物共全部。

出来るだけ、周囲に影響を与えないようにしないとな。

 

『ピンポイントで狙えば問題ないだろう。そのあたりの調整は俺がしてやる』

 

サンキュー、ドライグ!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

「消し飛びやがれ! ドラゴン・フルブラスタァァァァアアアアアア!!!」

 

『Highmat FuLL Blast!!!!』

 

六つの砲門から放たれた赤い砲撃!

それらが全ての怪物を呑み込んだ!

俺の砲撃を食らった怪物は跡形も無くなり、チリになっていった。

 

よっしゃ!

 

ドライグのおかげで怪物だけを狙い撃ちできたぜ!

森への被害は最小限に抑えられただろう。

 

俺は怪物の完全消失を確認すると、鎧を解除して、皆のところへ歩いていった。

 

「アーシア、その人達の傷は?」

 

「皆さん、消耗が激しいですが傷は塞がっています。もう大丈夫です」

 

「そっか。サンキューな、アーシア」

 

とりあえず無事なら良かった。

 

俺が皆の無事に安堵していると、

 

 

「姫様!」

 

「ミュウ様! よくぞご無事で!」

 

 

と、魔族の人達が美羽を囲んで歓喜の声を挙げていた。

 

「うん。ボクは元気だよ。皆は大丈夫?」

 

「はい! あの方々に治療して頂いたので傷もこの通り!」

 

一人の男性が、傷があった場所を美羽に見せて自身の無事を示す。

アーシアに治療してもらったおかげで傷は完全に無くなっていた。

流石はアーシア、良い仕事してるぜ!

 

 

一人の中年男性が近づいてきた。

甲冑を身に付け、腰に剣を携えている。

 

さっき助けた部隊長さんだ。

 

「イッセー殿。危ないところ、助かりました」

 

部隊長さんが俺に頭を下げてきた。

 

「礼なんていいって。俺も昔はトリムさんに色々助けられたし。あ、そうだ、皆にも紹介するよ。この人はトリムさん。俺が世話になってた国には騎士団があるんだけど、そこの部隊長をしてるんだ」

 

「トリム・ハルバードと申します。皆さま、先程は本当に助かりました。心からお礼を申し上げます」

 

トリムさんはそう言って部長や先生達に頭を下げる。

 

そして、再び俺と向き合うと尋ねてきた。

 

「それで、イッセー殿はなぜここに? アリス様やモーリス様からは元の世界へと戻られたと聞きましたが?」

 

「まぁね。こっちでも色々あって、もう一度この世界に来ることにしたんだ。詳しく話すと長くなるし・・・・・。先に兵士の人達を休ませた方が良いと思うよ?」

 

アーシアに治療されたとはいえ、体力までは回復していない。

一先ずはどこかで休ませる必要があるだろう。

 

俺の提案にトリムさんも頷く。

 

「確かに・・・・・」

 

すると、魔族の人達と話していた美羽が手を挙げた。

 

「それじゃあ、この近くにある集落で休ませるのはどうかな? そこなら十分な休養が取れると思うよ」

 

「集落? 近いのか?」

 

「うん。ここからなら歩いても十分しないよ」

 

「それならちょうど良いか。じゃあ、案内頼んで良いか?」

 

「うん。それじゃあ、行こっか。ボク達の悠久森林都市、フォレストニウムへ――――」

 

 

 

 

 




と言うわけで、イッセー達は無事に異世界へたどり着くことができました!

オリジナルと言いながら国や都市の名前ははぐれ原作からそのまま流用しましたが、特に気にしないでください(笑)


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6話 フォレストニウムにようこそ!!

こちらの世界の住人――――トリムさん達と再会してから数分。

俺達は美羽や現地の魔族の人の案内で森の奥へと歩いていた。

 

それで、気づいたことなんだけど、木々が生い茂ってるのに太陽の光が地面まで届いてるんだよな。

だから、周囲はとても明るい。

 

すると、イリナが耳打ちしてきた。

 

(ねぇねぇ、イッセー君)

 

(ん? どうした?)

 

(今から行くところって魔族の集落なんだよね? 顔を知られてない私達はともかく、魔王を倒しちゃったイッセー君は大丈夫なの?)

 

あー、それは尤もな意見だ。

 

後ろを歩いてる皆も同じことを考えているようで、俺のことを心配するような目で見てきた。

 

(まぁ、なんとかなるだろ・・・・・・多分・・・・・)

 

(もう、イッセー君ってば本当に適当なんだから・・・・・)

 

あははは・・・・・・

 

ゴメンね適当で・・・・・

 

でも、案外大丈夫なんじゃないかな?

 

 

「そういえば、モーリスのおっさんには連絡してくれたんだよね?」

 

「はい。イッセー殿が来られたことはモーリス様に伝わるよう、動ける兵士を国に帰しました」

 

それじゃあ、向こうに着く頃には受け入れ準備してくれているかも。

 

 

それから、しばらく歩くと森の奥にある行き止まりに辿り着いた。

 

すると、先頭を歩いていた魔族の男性が虚空に片手をかざして、何かを呟いた。

それと同時に正面の風景がぐにゃりと歪み始めた。

 

「これは・・・・・魔法で入り口を隠しているのか? だが、こんな魔法は見たことねぇな」

 

「ええ・・・・北欧でもこんな魔法は無かったと思います」

 

先生とロスヴァイセさんが興味深げに入り口にかけられていた魔法を見て呟く。

 

そんな二人に美羽が解説をくれる。

 

「これは概念魔法で入り口を封印してるの。概念魔法で入り口という概念を一ヵ所に設定して封印してしまえば、誰もその先に進むことは出来なくなるんだよ。迂回しようとしても正しい入り口が一つしかない以上はその周りをぐるぐると回ることになるんだ」

 

美羽の解説にへぇ、と感心する二人。

今の解説で理解したらしい。

 

俺は・・・・・魔法のことは良く分からないのでスルーした。

 

「こちらです」

 

魔族の男性の指示に従い、現れた道の奥へと進む。

 

道の初めのうちは緩やかな斜面の上り坂だったんだけど、徐々にその勾配が急になっていく。

 

アーシアにはきつそうだ。

 

「アーシア、大丈夫か?」

 

「は、はいぃ・・・・・ちょっと疲れましたぁ・・・・・」

 

アーシアは少し息を切らしながら必死についてきていた。

 

まぁ、この斜面を普通に歩くのはしんどいわな。

こうなるのは仕方がないか。

 

俺はアーシアの前で腰を下ろし、アーシアに促す。

 

「ほら、アーシア。おぶってやるよ」

 

「えっ? でも、それじゃあ、イッセーさんが・・・・」

 

「アーシア一人を背負ったくらいで疲れるほどやわじゃないよ。それより、アーシアが足でも捻ったらそれこそ大変だからな」

 

「イッセーさん・・・・・じゃあ、お言葉に甘えて」

 

アーシアはそう言うと俺の背中に体を預けてきた。

少し頬が赤いのは恥ずかしがってるからかな?

 

アーシアをしっかり受け止めた俺はそのまま立ち上がる。

 

やっぱりアーシアは軽いなぁ。

 

 

 

「「「「・・・・・・・・・・」」」」

 

 

 

な、なんだ!?

女性陣から無言のプレッシャーが・・・・・・・

 

つーか、美羽はなぜに涙目!?

 

「流石はアーシア・・・・・策士だな」

 

ゼノヴィアが何やら真剣な顔で呟いてるけど、どうしたの?

 

って、先生と木場はなんで、苦笑してるの!?

 

「うーん、イッセー君は自分から騒動を起こしているような気がするよ」

 

「全くだ。ただ、こいつにはその自覚がないらしい。天性の女たらしなのかもな」

 

女たらしって・・・・・・俺、そんな風に見えますか!?

 

いつも振り回されてる気がするんですけど!?

 

「イッセー君は女たらし、と」

 

ロスヴァイセさんもそんなことはメモしなくていいですよ!

 

 

 

 

 

 

それから少し歩くと、斜面の上に太い蔓と蔦で形作られた門が姿を現した。

 

あれが集落の入り口か。

 

見張りらしき人が二人ほど立ってるし。

手には武器も持ってる。

 

俺達を案内してくれた魔族の人がその見張りの人達のところまで駆けていく。

 

「ボクも行ってくるよ。事情を説明してくる」

 

美羽もその後を追う。

 

俺達はここで待つか。

 

「イッセー、おまえ殺されないといいな」

 

先生・・・・不吉なこと言わないでくださいよ。

 

「大丈夫だよ。イッセー君のことは僕が守って見せるさ」

 

木場、その気持ちはありがたいけど・・・・・・・

そんなに目をキラキラさせながら言うんじゃねぇよ!

おまえが言うと毎回、ホモホモしく聞こえるのはなぜだ!?

 

 

はぁ・・・・・

 

なんだろう、凄く疲れた・・・・・・

 

 

「説明がすんだようだぞ」

 

ティアの言葉に反応して門の方を見てみると美羽が手を振っていた。

 

俺達はそれを確認すると斜面を登り、美羽のところへと向かう。

 

「ゴメンね、待たせちゃって」

 

「良いよ。この大所帯だし、仕方がないさ」

 

俺は苦笑しながらそう返す。

 

まぁ、元の世界から来た俺達にトリムさん達も加わったから人数的には二十人は越えてるしな。

 

この人数で来られれば集落の人も驚くだろう。

 

「それで、入っても良いのか?」

 

「うん、許可はもらえたよ」

 

そう言って美羽は笑顔を見せた。

 

そして、門の向こう側へ立つとくるりと振り返って両手を広げた。

 

「ようこそ! ボク達の悠久森林都市、フォレストニウムへ!!」

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

魔族の人達に案内されて訪れた森の中にある集落。

 

それは圧巻だった。

 

そこは自然と街が完全に融合、一体となった空間。

中央に立つ緩やかな斜面に生えた巨大樹は、その幹がそのまま居住スペースとなって、魔族の人達の家となっていた。

更にその幹の上には民家と思われるものもある。

しかも、巨大樹の上の方にまでそれは見られ、ここからでは視認出来ないものもあった。

 

巨大樹そのものが、魔族の人達の生活スペースになっていると言っても良いかもしれない。

 

「・・・・・すごい」

 

誰かが呟いた。

僕も同じ気持ちだ。

 

 

言葉が出ないのは、ただただ、この迫力に、この神秘性に心を奪われていたからだ。

 

「俺もこんな場所は見たことねぇぜ。ははっ! 早速、楽しませてくれるな、異世界!」

 

先生ですら目を輝かせてこの光景に感動していた。

 

これが僕達の世界と違う異世界。

アスト・アーデと呼ばれる世界の一部。

 

遊びに来たわけではないけど、他にどんな場所があるのか少しワクワクしてくるよ。

 

そうして立ち尽くしている僕達のところへ一人の老人がやって来た。

肌が黒く、僕達の世界のダークエルフのような姿をしている。

 

いや、もしかしたら、本当にダークエルフなのかもしれない。

 

エルフという存在はこの世界にもいるとイッセー君から聞いているからね。

 

「出迎えが遅くなり、申し訳ない」

 

「ウルム・・・・!」

 

知り合いなのだろう。

 

美羽さんの声が明るく弾んだものになった。

 

「そっか。今はウルムがここの長老なんだね。元気そうで良かったよ」

 

「はい。姫様もご健勝のようでなによりです」

 

ウルムと呼ばれたその老人は笑うと、イッセー君へと視線を向けた。

 

片方の眉を上げて、尋ねる。

 

「――――ヒョウドウ、イッセー殿、ですな?」

 

その問いに僕達は息を呑んだ。

 

これは単なる名前の確認じゃない。

この老人は訊いているんだ。

 

――――自分達の王を殺したのはおまえなのか、と。

 

 

イッセー君は落ち着いた表情で老人の視線を受け止める。

 

「そうです。俺が兵藤一誠です」

 

「ま、待って、ウルム! この人は!」

 

慌てた美羽さんが二人の間に入り、イッセー君を庇おうとする。

 

しかし、ウルムさんは笑うだけだった。

 

「心配には及びません。我らは彼に危害を加える気は初めからありません。我らはシリウス様のご意志を存じております」

 

ほっ・・・・

 

僕達の中で張り詰めていたものが解け、身体中から気が抜ける。

 

これは心臓に悪いね・・・・・。

 

「さて、事情は伺っております。まずは負傷された方を休ませなければなりませぬな。既に場所は確保しております」

 

「ありがとう、ウルム」

 

「姫様方は我らの同胞をも救ってくださったのです。私は当然のことをしたまで。さぁ、負傷した方はこちらへ。それ以外の方はこちらへ。落ち着いて話せる場所にご案内しましょう」

 

ウルムさんはそう言って、ゆっくりと歩き始めた。

僕達もそれに続いていく。

 

そうして案内されたのは巨大樹の中央にある彼の自宅だった。

 

仄かに甘い樹木の香りに包まれた、穏やかな空間。

僕達は勧められるままに、腰を下ろす。

 

「どうぞ・・・・」

 

「あ、どうも」

 

ウルムさんの家族かな?

女性が僕達にお茶を淹れてくれた。

 

良い香りがする。

 

「さて、勇者イッセー殿。此度のこと改めてお礼を申し上げる」

 

「いや、そんな大したことはしてないって。襲われてる人を助けるのは当たり前だろ」

 

えっ?

 

今、ウルムさんはイッセー君のことを「勇者」って言った・・・・・?

 

部長もそこに引っ掛かったのイッセー君に尋ねる。

 

「イッセー、今のは・・・・・」

 

「あ、え、えーとですね。実は俺、こっちの世界では勇者扱いなんですよね・・・・・・あははは」

 

 

・・・・・・・・・

 

「「「「勇者ぁぁぁぁあああああ!?」」」」

 

僕達の驚愕の声が重なり周囲に響いた!

 

 

「イッセー君!? それってどういう・・・・・」

 

僕はイッセー君に尋ねる。

 

だって、そんな話を彼からは聞いていない。

皆も驚くのは当然だ。

 

「う、うーん、なんて答えようか・・・・・・」

 

イッセー君は腕を組んで何やら言いにくそうにする。

 

すると、となりに座っていたトリムさんがその問いに答えてくれた。

 

「イッセー殿は長き渡る人間と魔族の戦いを一人で終わらせたのです。歴代でも最強と称され、誰にも倒せないと吟われた魔王シリウスと一騎討ちすることで。それにより、この世界ではイッセー殿は勇者とされているのです」

 

「ち、ちょ、トリムさん!?」

 

「何を慌てているのです、イッセー殿? 私は事実を述べただけですが?」

 

「いや、空気読んで! ここ、魔族の領地だから!」

 

と、イッセー君が慌てていると、

 

「ふぉっふぉっ、気にすることはありませんぞ、イッセー殿。シリウス様を倒したあなたを複雑に思う者もいますが、我ら魔族の者もあなたのことは認めております」

 

「へっ?」

 

イッセー君が呆けた顔で聞き返すと、ウルムさんは再び笑う。

 

「かつての争いの中、我らを邪悪な存在として、戦う意志のない者にまで刃を向ける人間ばかりで・・・・・、いや、我らも他人のようには言えませぬな。我らの中にもそう言う心なき者はいた」

 

しかし、とウルムさんは続ける。

 

「あなたは違いました。戦意の無い者には手を上げず、決して害そうとしなかった。また、味方にそういう者がいれば、それを見過ごさず、時には敵であるはずの我らを守ってくださった。確かに戦争という状況の中、そのような行動をするのは問題だった。しかし、その心が次第に多くの人間に伝わり、必要以上の戦闘を避けるようになったのです。そして、それは我らも同じ」

 

「俺はそんなに大層なことをした覚えはないよ。間違ってるものは間違ってるって言っただけだ」

 

「ですが、それを実際に行うことは難しいこと。それが出来たのはあなたの心が高潔であられたからこそ。だから、シリウス様もあなたのことを認めておられた。あなたは我ら魔族にとってもある意味、英雄なのです」

 

「おいおい・・・・・」

 

イッセー君は嘆息する。

 

 

味方から称賛されることは難しい。

だけど、敵からも称賛されるのは遥かに難しい。

 

それを成したイッセー君は本当にすごい。

 

ふと、部長達を見てみると顔を赤くしてイッセー君を見つめていた。

 

 

あ、これは・・・・・

 

「これはリアス達のポイントが急上昇したな。今後の修羅場は今までの比じゃなさそうだ」

 

先生がニヤッと笑みを浮かべながら楽しそうに言う。

 

僕もそれには同意見かな?

イッセー君、これまで以上に大変になるだろうけど、頑張ってね。

 

僕は・・・・・・後ろからそっと応援しておくよ。

 

 

「まぁ、中にはあなたに辱しめられた者もいましたが・・・・・」

 

「えっ?」

 

 

その瞬間――――

 

 

 

ドガァァァァァァァァァアアアアン!!!!

 

 

壁が破壊され、当たりに埃が舞う。

 

なんだ!?

何が起きたんだ!?

 

見ると、目の前には巨大なハンマーを持った女性がいた。

自身の伸長よりも大きいハンマーを担いでこちらに歩いてくる。

頭部の耳から察するに獣人かな?

 

女性はイッセー君の姿を確認すると身体中からすさまじいオーラを発した!

 

「見つけたぞ! この変態ドスケベ勇者!」

 

「え、えーと」

 

「私を忘れたとは言わせねぇぞ! よくも・・・・よくも、戦場で私の服を・・・・・!」

 

服・・・・・・

 

その単語を聞いて、ほとんどの部員がそれを察した。

 

それってもしかして――――

 

 

「あの時の恨み! 死ねぇぇぇえええええええ!!!」

 

「うわっ!? ちょ、ちょっとタイム!」

 

「誰が待つかぁぁああああ!!!!」

 

 

ドガァァァァァァァァァアアアアン!!

 

 

「ひぇぇええええええ!!!」

 

イッセー君は飛んできたハンマーを間一髪でかわして、外に逃げた!

 

女性もハンマーを回収してイッセー君の後を追っていく!

 

ウルムさんは苦笑しながら、二人の背中を見ていた。

 

「彼女の名前はエルザと言いましてな。珍しい女性の戦士なのですが・・・・・・戦場でイッセー殿に服を消された者の一人なのです。確か・・・洋服崩壊(ドレス・ブレイク)と言いましたかな?」

 

やっぱり・・・・・。

 

イッセー君、さっきまでの感動を返してくれないかい?

感動が大きかった分、残念すぎるよ。

 

「いやはや、あの技には私も世話になりましての。良い目の保養になりましたわ。ふぉっふぉっふぉっ」

 

長い眉を触りながらウルムさんは愉快そうに笑い出す。

 

どうやら、この人もそれなりにスケベらしい。

 

はぁ・・・・・・

 

 

「・・・・・なんと言うか、どこの世界でもイッセー君はイッセー君なのよね・・・・・・・」

 

イリナさんの言葉に全員が頷いた。

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

イッセー君の断末魔が聞こえた。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 




と言うわけで今回はここまでです。

本当はもう少し書こうかと思ったんですが、力尽きました。

次回くらいでアスト・アーデに何が起こっているのか書きたいと思っています。


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7話 滅びの神の伝承

「はぁー、スッキリした!」

 

ボロボロになってる俺の横で獣人の女性が背中を伸ばしていた。

 

この人の顔には見覚えがある。

 

昔、魔族との大規模な戦闘があった際、前線で戦っていた女性の戦士だ。

 

褐色の肌でスタイル抜群!

戦士だからか引き締まった体をしている!

更にはおっぱいも大きい!

部長や朱乃さんほどではないがゼノヴィアクラスはある!

 

という、素晴らしいお体をしていたので、当時の俺はたまらず洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!!

 

その裸体を脳内メモリーに焼き付けたんだ。

今でもその光景が目に浮かぶ。

 

いやー、中々刺激的だった。

 

 

周囲で戦っていた人間、魔族の男性の視線も彼女に釘付けとなり、戦場が一時停止したこともあったな。

 

 

まぁ、戦闘後にアリスにグーパンチをもらったのはまた別の話だ・・・・・・

 

「とりあえず、これでチャラにしてやるよ」

 

「は、はい・・・・すいませんでした」

 

これ以上されたら俺はスクラップにされてしまう!

まだ始まったばかりなのに戦闘不能とか勘弁してくよ!

 

イタタタタ・・・・・

あー、身体中が痛いよ・・・・・

 

女性はハンマーを下ろして俺の隣に座る。

 

「なぁ、おまえがミュウを保護してくれていたんだろ?」

 

「えっ?」

 

「だーかーらー、おまえがシリウス様からミュウを託されたのか聞いてんだよ」

 

「ま、まぁね・・・・・あれ、もしかして、君が美羽の?」

 

俺が尋ねると、女性は笑って頷いた。

 

「おう。私はエルザ。ミュウとは小さい頃からよく遊んでてな。長い付き合いなんだ。と言っても昔のあいつは引きこもりがちだったから、外で遊んだ方が少ないけどな」

 

そっか。

やっぱり、この人が美羽の友達なんだ。

 

「おまえ、ミュウに変なことしてないだろうな?」

 

おおう!?

やたらと迫力のある睨みで俺を見てくる!

 

俺は慌ててブンブンと首を横に振った。

 

「してないしてない! 断じて手は出してません!」

 

「本当だろうな?」

 

「本当です!」

 

天地神明に誓って手は出してないよ!

一瞬、そういう空気になりかけたことはあったけど、なんとか我慢したし!

 

すると、エルザは睨むのを止めて、ニッと笑った。

 

「ま、信じてやるよ。おまえがミュウを悲しませてないならそれで良いさ。おまえもあいつのことを大切にしてくれているみたいだしな」

 

「分かるのか?」

 

「あいつの顔見てりゃ分かる。おまえと過ごしていてあいつは満足してるんだろうよ」

 

エルザは美羽がいるウルムさんの自宅を見る。

 

そして、俺に拳を差し出してきた。

 

「これからもあいつのことを頼む。あいつは泣き虫だからな」

 

「ああ、分かってるよ。俺も何がなんでもあいつは守るって誓ったからな」

 

その拳に俺も自分の拳を合わせた。

 

 

 

 

 

 

俺とエルザがウルムさんのところに戻ると皆がエルザによって破壊された壁の修復をしていた。

 

戻ってきた俺達の姿を確認するなりウルムさんがエルザを叱る。

 

「全く、私の家をこんなにして・・・・・。おまえは少しは考えてから行動せんか」

 

「あははは・・・・・すいません、長老~」

 

「笑っとらんと、おまえも手伝いなさい」

 

「は、はい・・・・・ごめんなさい・・・・・」

 

エルザは頭をポリポリかきながら申し訳なさそうに修復作業を手伝う。

 

壁を壊したこともあるんだろうけど、どうやらエルザはウルムさんに頭が上がらないらしい。

 

おれも手伝うか・・・・・と言っても俺は魔力量も少ないし、魔法も使えないから足を引張るだけなんだよなぁ。

 

とりあえず、ホウキで部屋の掃除でもしますか。

 

「ウルムさん、ホウキはどこに?」

 

「ああ、申し訳ない。こちらです」

 

ウルムさんに案内されて掃除道具が納められている場所に行く。

 

お、あったあった。

 

ホウキとチリトリらしきものを入手した俺は部屋に戻る。

 

すると、

 

「さっきはいきなりで驚いたけど、やっぱりエルザだったんだね」

 

「おう。ミュウも元気そうで何よりだ。あのスケベ勇者のところにいたんだろ? 随分楽しそうにしてるじゃないか」

 

「うん。おにい・・・・イッセーとの生活は楽しいよ。家族も増えたし」

 

「ん? おまえ、今、お兄ちゃんって言いかけたか? まさかと思うが、あのスケベ勇者の妹になったのか?」

 

「うん」

 

「なっ!?」

 

美羽の肩を掴み驚愕するエルザ。

まぁ、自分の父親を倒した男の妹になったんだ。

そりゃ、驚くわな。

 

エルザは嘆息する。

 

「ったく・・・・おまえ、昔から兄弟を欲しがってたけどさ・・・・・。まさか、あのスケベ勇者の妹になるなんて、想像を絶してるぜ」

 

「でも、イッセーはすごく優しくて、ボクを大切にしてくれているよ。ボク、今はすごく幸せなんだ」

 

うーん、そこまで言われると俺も少し照れるね。

 

まぁ、確かに美羽は毎日を本当に楽しく過ごしていると思う。

学校に友達がいて、家では父さん、母さん、俺、そしてオカ研の皆がいる。

 

すると、俺の隣にいたウルムさんが笑う。

 

「ふぉっふぉっふぉっ。イッセー殿。感謝しております。ミュウ様を本当に大切にしてくれているようで」

 

「まぁ、守るって約束したし・・・・それに」

 

「それに?」

 

「あいつは俺にとってもかけがえのない大切な存在なんです」

 

「・・・・・そうですか。やはりシリウス様の判断は間違いではなかった。それが分かり嬉しく思います」

 

 

 

 

 

 

それから少しして、壁の修復が終わり、俺達は再び席に着いた。

 

これからの話は俺達がこの世界に来た本来の目的。

 

「トリムさん、ウルムさん。聞かせてくれ。俺がこの世界を去ってからのことを。俺はそのために戻ってきたんだ」

 

この世界で何かが起こっているのは既に察しがついている。

ロキの言ってたこともそうだけど、さっき戦ったあの白い怪物。

 

あんなやつは見たことがない。

 

俺の問いに二人はむぅ、と唸る。

 

「そうですね・・・・。まずはイッセー殿が去ってから起こったことを順を追って話しましょう。まず、気になっていると思いますが、我々人間と魔族の関係についてですが、一先ず、二つの種族間に和平協定が結ばれ、今後、争いが無いよう約束が取り交わされました」

 

「「っ!!」」

 

これには俺と美羽も驚き、歓喜した。

 

トリムさんがここに普通にいるから、もしかしたらと思ってたけど、マジで和平が結ばれたのか!

 

「よかった・・・・! 本当によかったよ・・・・!」

 

喜びのあまり、美羽は涙を流す。

この世界を離れてからもずっと気にしていたからな。

これであんな悲劇が起こらなくて済むって分かったんだ。

そりゃ、こうなるさ。

 

「ああ、やったな!」

 

俺は美羽の頭を撫でてやる。

俺だって嬉しいんだ。

 

喜ぶ俺達を見て、ウルムさんも微笑む。

 

「イッセー殿がシリウス様を倒されてから、我々と敵対していた国には魔族を滅ぼそうという意見がありました。しかし、オーディリア国のアリス様やその他の重鎮の皆様のご尽力のおかげでこうして我々は生きております。あの方々には感謝の念が尽きません」

 

そうか・・・・アリスのやつ、本当にやりやがったのか!

多分、モーリスのおっさんやリーシャ、ニーナ達の助けもあったんだろうけど、よく他の国を説得できたな。

 

トリムさんが話を続ける。

 

「そうして、私達オーディリアを中心に人間と魔族の間で和平を結ぶことが出来たのです。今では貿易も行うほど、関係は良好なものになっています。しかし・・・・・」

 

そこまで言うとトリムさんが厳しい表情となった。

ウルムさんまで、額にシワを寄せている。

 

「この世界に異変が起きたのはつい二ヶ月ほど前のことです。・・・・・イッセー殿、さきほど対峙したあの怪物のことをどう思われますか?」

 

「一言で言うならとにかくしぶとい、かな・・・・。力もそれなりにあったし、厄介なやつだとは思ったよ」

 

実際、俺の攻撃を受けても生きてたし、先生やティアですら驚くほどのしぶとさだった。

あれは尋常じゃない。

 

「そうですか・・・・・。実はあの怪物はこの世界各地に出現しているのです」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

トリムさんの情報に俺達は驚愕の声をあげた。

 

あんなやつが、あちこちに現れるのかよ!?

並の兵士じゃ太刀打ち出来ないぞ!?

 

「お察しの通り、奴らはそれなりの使い手でなければ相手になりません。そして、奴らによる被害は既に深刻なものとなっています。オーディリアと付き合いのあったゼムリアという国を覚えていらっしゃいますか?」

 

「ああ」

 

ゼムリアはアリスの国、オーディリアと古くから付き合いのある国で、かなり大きな国だ。

そこの王族の人達とは何度か会ったことがあるし、旅の途中で何度か寄ったこともある。

 

「そのゼムリアは一ヶ月ほど前に蹂躙されました。しかも、たった一日で・・・・・」

 

「っ! マジかよ・・・・・」

 

「そして、アリス様と我々は直ぐに救援に向かったのですが、『奴』の前には力及ばず・・・・・ッ」

 

トリムさんは悔しそうに言うと、唇を強く噛む。

唇から血が滲み出ていた。

 

アザゼル先生が問う。

 

「その『奴』ってのはさっきの怪物共の親玉だな?」

 

恐らく、そいつがロキが言っていた『かの者』。

いずれ、俺達の世界に現れるという存在。

 

部長達も息を飲む。

 

 

ウルムさんが美羽の方を向く。

 

「姫様。『滅びの神』の伝承は覚えておられますかな?」

 

「あ、うん」

 

滅びの神の伝承・・・・・

それは俺も聞いたことがあるな。

 

部長が尋ねてきた。

 

「イッセーも知っているの?」

 

「ええ。昔、アリスってやつから聞かされた事があるので」

 

「どんな話なの?」

 

「えっとですね・・・・・」

 

俺はアリスから聞かされた話を思い出しながらその伝承を語り出した。

 

 

 

 

 

 

それは遥か昔、まだ人間と魔族が共生していた頃の話。

 

当時、人間と魔族の人達は今のように国を分けることも争うことなく、共に笑い、互いを助け合い平和な日々を送っていた。

 

しかし、ある日のこと。

 

その平和は『彼』によって崩れ去る。

 

『彼』は天より現れ、地に立つと自らの眷属を産み出し、その地を蹂躙した。

 

『彼』に抗おうと人間と魔族が力を合わせ立ち向かうも、圧倒的な力を持つ『彼』と産み出された眷属の前には遠く及ばず、殺されてしまう。

 

そうして、『彼』は瞬く間に世界の半分を蹂躙した。

 

『彼』の前では全てが無力とほとんどの者が悟り剣を握ることを諦めていくなか、一人の人間と一人の魔族の者は立ち上がり、『彼』に向かっていった。

 

天は彼らに『彼』を倒すための力を与える。

それは全てを焼き尽くす炎の剣。

 

剣を授かった彼らは『彼』に挑み、長きに渡る戦いの末、ようやく封印に至った。

 

『彼』は深き海の底に封印され、そのまま目覚めることはなく、彼らは世界に平和を取り戻したのであった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・って言う伝承なんですよね。というより俺が聞かされたのは小さい子供向けの童話なんで、これ以上は知らないんですけど」

 

この童話をアリスやその妹のニーナからよく聞かされたもんだ。

 

二人はこの話がお気に入りで毎回のように読んでたからな。

 

それに、この童話こそアリス達が人間と魔族の和平を願う切っ掛けになったらしいんだよね。

 

「でも、これってただの言い伝えだろ?」

 

「いえ、それがそうでもないのです。実際に私達は『奴』と遭遇しています」

 

トリムさんがそう答えると先生が言った。

 

「だとしたら、よく無事に帰ってこれたな。そんな危ない奴を前にして・・・・・」

 

「ええ、『奴』の力の前に私達も死を覚悟したのですが・・・・・。『奴』は私達を殺すことなくどこかへ去ってしまったのです」

 

「なに・・・・・?」

 

アザゼル先生は眉をひそめる。

 

去った?

どう言うことだよ?

 

「理由は分かりません・・・・が、そのおかげで私達は命拾いしました。現在は『奴』を倒すべく、人間と魔族を合わせた各国首脳で議論を繰り返しています」

 

「ちょっと待て。その敵さんが今どこにいるのか、おまえらは捕捉しているのか?」

 

「それが・・・・・奴は私達の前から去った後、どこにも姿を見せていないのです。この一ヶ月、どこにも現れることなく、出現するのはあの怪物のみ。・・・・・私達も情報が不足しているため、今はこうして各国で連携を取り、怪物が現れた場合はそこに兵を派遣して討伐することしか出来ていません」

 

話を聞いてますます謎が深まったな・・・・・。

 

アリス達は魔族、人間の二つの種族を合わせても上位クラスの実力だ。

そのアリス達でも手も足もでないとなると、そいつはかなりの実力だ。

わざわざ、あの怪物を使わなくてもそいつが一人でやった方が早いんじゃないのか?

 

先生が言う。

 

「この世界にも神クラスはいるんだろう? イッセーからの話だと神層階という神々が住まう場所があると聞いている。なぜ、そいつらは出てこない? まさかと思うが世界の危機に傍観をきめこんでる訳じゃないだろうな」

 

それには俺が答えた。

 

「神層階の神は下界、つまりはこの世界に干渉出来ないことになっているんです。神の力は大きすぎて下界に及ぼす影響が大きすぎるため、固く禁じられているらしいですよ。だから、下界に降りることも出来ないんですよ」

 

「ちっ・・・・めんどくせぇ世界だ。だが、さっきの伝承ではその『滅びの神』ってのはその神層階から現れたんじゃないのか? もし、そうだとしたらおかしくないか?」

 

「うーん、そう言われると、俺には何とも・・・・・」

 

確か、師匠から聞いた話ではそうだったんだけどな・・・・

 

 

でも、先生の言う通りで、その『滅びの神』が神層階から現れたんだとしたら色々と納得できない点がある。

 

神層階の神は下界には降りられない。

そして、全ての神は神層階に住んでいる。

これは間違いない。

 

だとしたら、その『滅びの神』ってのは何者なんだ?

 

うーん、色々と考えてみるけど全く分からん。

 

先生がトリムさんとウルムさんの二人に問う。

 

「なぁ、ロキという神の名前に聞き覚えはあるか?」

 

「いえ、私は存じませんが・・・・」

 

「同じく」

 

二人はロキのことを知らない、か・・・・・。

 

ロキはこちらの世界に来たことがない? 

だったら、なんであいつは『滅びの神』のことを知ってたんだ?

そもそも、どうやって俺と美羽のことを知った・・・・?

 

まぁ、聞いたのがこの二人だけだから、まだ何とも言えないけど・・・・・。

 

部長がため息をつく。

 

「どうやら分からないことだらけのようね・・・・・。まずはその神について情報を集めないと対策のしようがないわ」

 

「そうですわね。ですが、今日のところは体を休めた方が良いのでは? 情報収集はそれからでも遅くないでしょう?」

 

「それもそうね。ウルムさん、私達がこの集落で一晩過ごすことを許してもらえるかしら?」

 

部長がそう尋ねるとウルムさんは微笑む。

 

「ええ、もちろん。既に皆様の宿も用意しておりますので、今日のところはゆっくりしていって下さい」

 

「ありがとうございます。お世話になりますわ」

 

 

こうして俺達はこの集落で一泊することになった。

 

『滅びの神』についてはモーリスのおっさん達と合流した後、改めて調査することにした。

 

 

 

 

 

 



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8話 ヒートアップします!?

[三人称 side]

 

 

イッセー達一行がフォレストニウムで一泊することが決まってから数時間後。

 

アスト・アーデにある国、オーディリア。

このオーディリアは自然豊かであり、土地も恵まれているため、年中良い作物を収穫できる国として有名である。

 

また、国を守るために設営されている王国騎士団は非常に練度が高いことでも知られており、他の国からも一目置かれている国でもある。

 

 

そんなオーディリアの王宮の廊下を歩く男性が一人。

年齢は四十~五十代くらいと言ったところか。

髪には白髪が混じっている。

 

だが、そんな彼の体からは歳を全く感じさせない覇気が放たれていて、歴戦の戦士のそれだ。

 

彼の名はモーリス・ノア。

 

王国騎士団の団長を務めており、かつてはイッセーと共に世界を旅した人物。

そして、アスト・アーデに飛ばされたイッセーのため、元の世界へ帰る方法を調べあげた人でもある。

いわば、イッセーの恩人だ。

 

そんな彼は廊下から中庭で稽古する兵士達を見ながらため息を吐いた。

 

「全く、どうしたものか・・・・・」

 

かつては魔王を倒すべく、世界を回り、その凄まじい剣技から『剣聖』とまで呼ばれた彼が悩んでいること。

 

それは今、この世界を脅かしている『滅びの神』についてだ。

 

モーリスはアリスやトリム達と共にゼムリアの救援に向かった際、一度だけ滅びの神の力を目にしている。

彼はゼムリアの人々の避難活動に従事していたため、実際に戦ったわけではないが・・・・・。

 

「奴さんとやり合うにはどう見ても戦力が足りなさすぎる。人間、魔族の全ての戦力を投入しても勝てる可能性は低い、か・・・・。まぁ、今は奴自身が出て来ないだけマシなんだが・・・・それもいつまでも続くもんじゃねぇ。奴は再び俺達の前に現れる。それまでに戦力の底上げをしねぇとヤバイな」

 

モーリスは頭をボリボリとかきながら、ブツブツと独り言を呟いた。

 

他国が怪物の襲撃を受けている中、今のところオーディリアは襲撃を受けてはいない。

しかし、それも長くは続かないだろうと彼は思っていた。

 

一見、国内は平和ではあるが、国民の間で不安は募っている状態であるのはモーリスも把握している。

国の政治にも関わっているモーリスはそちらの方でも何か対策をうたねばならない。

 

「ったく、どこぞの神のせいでストレス溜まるぜ。禿げたら一生恨んでやる」

 

なんて冗談を言う彼の目は割と本気だ。

 

彼は兵士達の稽古を見届けた後、自分の執務室へ戻ろうとした。

 

すると、向こうの方から慌てた様子で走ってくる兵士が一人。

 

「モ、モーリス様! ここにおられましたか!」

 

「おう、どうした、そんなに慌ててよ? と言うより、おまえさんはトリムとゲイルペインへ救援に行ってたよな?」

 

「は、はい!」

 

モーリスは彼の様子にハッとなる。

 

「まさか、奴らにやられたんじゃねぇだろうな!?」

 

モーリスは怪物の強さを知っている。

なので、トリム達が怪物にやられたのではと思ってしまったのだ。

 

焦るモーリスを宥めるように兵士は伝える。

 

「た、確かに数は予想より多く、我々も壊滅寸前になりましたが、なんとか全員無事です。トリム様もご無事です。怪物もなんとか退けることに成功しました」

 

「そうか・・・・。冷や汗をかいちまったぜ」

 

その言葉を聞いてモーリスは安堵する。

 

「それで、モーリス様に至急お伝えせよ、とトリム様から命が下り、戻って参りました」

 

「なに? 何か問題でもあったのか?」

 

モーリスは怪訝な表情をする。

今の話では怪物は倒し、トリム達も負傷はしているようだが、全員無事とのことだ。

 

問題があるとすれば魔族との間に何かあったぐらいしか浮かばないが、モーリスはすぐにそれを可能性からはずした。

 

現場のすぐ近くにあるフォレストニウム。

そこの長老とは知り合いで、人柄もよく知っている。

また、そこに住まう魔族の人々についてもモーリスは把握していた。

 

(彼らの性格を考えると問題が起こるなんてことはないはずたが・・・・・。それに負傷しているならフォレストニウムで保護してもらえるはずだ・・・・・)

 

モーリスが考え込んでいると兵士は弾んだ声でモーリスに伝えたのだった。

 

「イッセー殿が・・・・・イッセー殿が戻って来られました! それも元の世界の仲間を連れて!」

 

「な、なにぃ!? それは本当か!?」

 

予想もしていない伝令にモーリスは普段は出さないような驚愕の声をあげて、そのまま全ての思考を止める。

 

二年前に魔王シリウスを倒し、元の世界に帰っていったこの世界の勇者。

赤龍帝、兵藤一誠が再びこの世界に戻ってきた。

 

内心、もう二度と会うことは出来ないだろうと思っていた。

 

モーリスは思考を取り戻し、事態を把握すると直ぐに行動に移った。

 

「あいつが・・・・イッセーが帰ってきたのか! よし、直ぐに城中の兵士及び使用人に知らせろ! あいつはここに来るだろうからな! いつでも迎え入れる準備をしておけ!」

 

「はい! 直ちに!」

 

モーリスからの命を受け、兵士は颯爽とその場を去っていく。

 

一人になったモーリスは窓のから空を眺めながら笑みを浮かべる。

 

「よく戻ってきてくれたぞ、イッセー! 早くその面見せに来やがれ!」

 

モーリスの歓喜の声は城中に響き渡った。

 

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

 

 

フォレストニウムに一泊することが決まった俺達は夕食を食べた後、風呂に入ることになった。

 

ここフォレストニウムには大きい公衆浴場的な場所があり、集落に住む人達は日頃から活用しているそうだ。

 

俺はそこの女性専用を使わせてもらえることになった。

アザゼル先生や木場、ギャスパーは普通に男性専用を使っている。

 

それなのになぜ、俺だけが女性専用なのか。

その理由は俺がシリウスを倒したことにある。

 

一応、和平が結ばれたこともあり、魔族からの俺に対する敵意はほとんど無いとのことだ。

だけど、やはり俺に思うところがある人もいて、それはほとんどが男性らしい。

 

もし、俺が男性の方に入って魔族の人と鉢合わせになったら気まずいだろうとのウルムさんの気遣いで女性専用に入ることになった。

 

ちなみに、魔族の女性からは許可は得ている。

エルザも何だかんだで許してくれた。

 

 

 

 

 

そして、今。

 

 

 

 

 

「ねぇ、イッセー。気持ちいい?」

 

「うふふ。こんなのはどうですか、イッセー君?」

 

俺は部長と朱乃さん、二大お姉さまに体を洗われていた!

 

しかも胸で!

 

石鹸を胸で泡立て、俺の体の至るところに押し当ててくる!

 

お二人の胸の感触と石鹸の泡が混ざり合い、とんでもないことになってるよ!

 

「んっ・・・・それにしても、この石鹸すごいわ。肌がすごくスベスベになっていくのがわかるもの・・・・・あっ」

 

「そうですわね・・・・あんっ・・・・・それにイッセー君の体と擦れあって、とても気持ちいいですわ・・・・」

 

ヤバイ!

二人の甘い吐息に体が反応してしまう!

 

なんてこった!

もう色々とフィーバーしてるんですけど!

 

部長が潤んだ瞳で言ってくる。

 

「ウルムさんの話を聞いて私、なんだか体の底から熱くなったの。やっぱりイッセーは最高だと思ったわ。だから、ね?」

 

ああっ!

 

部長が抱きついてきたよ!

 

おっぱいが!

太ももが!

 

部長のありとあらゆる部分が俺に密着してくる!

 

「ねぇ、イッセーは私よりも年上なのでしょう? だったら呼び捨てで呼んでくれないかしら? リアスって」

 

「えっ? で、でも、部長は俺の先輩ですし・・・・失礼なんじゃ・・・・・」

 

「そんなこと関係ないわ。私はあなたに呼んでほしいの。ねぇ、お願い・・・・・・」

 

潤んだ瞳で、しかも上目使いで俺を見てくる!

な、なんて可愛いんだ部長!

普段のお姉さまはどこへ!?

 

すると、今度は部長と反対側に朱乃さんが抱きついてきた!

 

「リアスだけズルいわ。ねぇ、イッセー君。私も・・・・・」

 

はうっ!

 

なんなんだ、この状況は!

二大お姉さまが二人揃って甘えてくる!

 

こんなことを誰が予想しただろうか!

 

二人の壮絶な甘え攻撃に俺はたじろぎながらも言った。

 

「え、えーと、じゃあ・・・・リアス? 朱乃?」

 

俺がそう言うと二人の表情がパァッと一層明るいものとなった。

 

「「うれしい、イッセー!」」

 

 

ガバッ 

 

 

二人がより密接に抱きつき、俺は浴場の床に押し倒されてしまった。

 

二人が俺に覆い被るように四つん這いになる。

 

俺の目の前で二人のおっぱいが凄いことになってる!

 

 

ブハッ!

 

 

鼻血が止まらねぇ!

 

「今日はイッセーにいっぱいご奉仕してあげたいの」

 

「良いかしら?」

 

ご奉仕!?

なんですかその素晴らしい言葉は!?

 

 

すると、浴槽の方から美羽達の声が聞こえてきた。

 

「うぅ・・・・・完全に主導権握られちゃったよ・・・・・・。ジャンケンも負けちゃったし・・・・・」

 

「あのお二人に勝てる気がしません・・・・・」

 

「むぅ・・・・ダメだ。入り込む隙が無い。ここはあの二人が終わるのを待つしかないのか・・・・・」

 

「でも、終わるのかな? 終わる気配が全くしないのだけれど」

 

「・・・・・多分、永遠に続くと思います。あの時、グーを出した自分を恨みます」

 

「ダメよ私! あんなの見てたら堕天しちゃう! ミカエル様、お助けくださいぃぃぃいいいい!」

 

オカ研女子部員がどこか羨むような目で二人をみていた。

 

風呂はいる前にしてたジャンケンってこれのことだったの!?

 

つーか、イリナは翼を白黒点滅させてるけど大丈夫かよ?

 

「さっき、卑猥なことは禁止って言ったのに・・・・・・見事にスルーされましたね。今のあの二人には何を言っても無駄なような気がします」

 

ロスヴァイセさんは諦めた様子でため息をついていた。

つーか、初めて見るロスヴァイセさんの裸!

 

タオルを体に巻いているが、スタイルの良さが分かる!

流石は北欧銀髪美女!

 

とりあえず脳内保存します!

 

 

「ねぇ、イッセー。どこを見ているの? 今は私達を見てくれないとイヤよ」

 

部長に顔を掴まれぐいっと向きを変えられる。

互いの鼻が当たる距離に部長の顔があった!

 

近い!

近すぎる!

 

 

ドクドクと流れていく鼻血。

このままでは失血で死んでしまう。

 

いや、この状況で逝けるなら本望かな・・・・・

 

美女二人に密着されながら逝く。

最高じゃないかと思うんだ。

 

 

その後、俺は部長と朱乃さんに体の隅々まで洗われた。

 

そして、ヒートアップした部長と朱乃さんが俺の下半身へと意識を向けた瞬間、皆に止められた・・・・・

 

 

 

 

 

 

超刺激的な風呂から上がった後、俺は一人、巨大樹の幹の上で風に当たっていた。

 

まだ興奮が治まらないな・・・・・

とりあえずはこの興奮を治めることに集中しよう。

 

すると、俺のところへ先生が歩み寄ってきた。

 

「ここにいたのか、イッセー」

 

「あ、先生。どうでしたそっちの風呂は?」

 

「いい湯だったぜ。ウルムから酒ももらってな。これがまた美味かった。おまえの方は・・・・・・いや、大体分かるから言わなくていい。どうせ、リアスと朱乃が暴走しかけたんだろ?」

 

「あははは・・・・・」

 

流石は先生。

全てお見通しのようで。

 

「ま、これからおまえは色々と大変だろうけど、気張れや。男の見せどころだぜ?」

 

先生は笑いながら俺の隣に座る。

 

大変、か・・・・・。

まぁ、皆の過激なアプローチには戸惑うけど、それも良いかな。

 

エッチなお誘いなら俺はうれしいしな!

 

「おまえの過去の話を聞いてあいつらも盛り上がってるのさ。まぁ、戦争を終わらせて勇者とまで呼ばれたんだ。そうなるのも当然か」

 

「自分から勇者なんて名乗ったことはないんですけどね。周りが言ってるだけで・・・・・」

 

「そんなもんだろ。これまで俺は多くのものを見てきたが、勇者もしくは英雄と称賛された奴らは、民衆から認められた者がそうなっていった。自分から英雄だなんて名乗った奴はいねぇよ。・・・・・・おまえからすれば英雄派の奴らには思うところがあるんじゃないのか?」

 

「まぁ、そうですね」

 

英雄派・・・・・。

 

確かに俺はあいつらに思うところがある。

英雄の子孫だかなんだか知らないけど、その行いを見て誰が英雄と称えるのか疑問に思っていた。

 

あいつらは英雄の意味を知らない。

 

「あいつらがどんな思想で動いてるのかは俺も知らんがな。・・・・・とりあえず目先の問題は滅びの神だな。リアスの言う通り、情報が少なすぎる。明日の朝、ここを出発するんだろ?」

 

「はい。オーディリアという国に行きます。そこが俺が世話になったところなんです」

 

「確か旅の仲間もいると言っていたな。その国の王女も仲間だったか」

 

「アリスっていうんです。あいつとは結構死線を乗り越えた仲ですよ」

 

何度戦場で助けられたことか。

いや、あいつには日常でも助けられたっけ。

 

すると、先生は手を顎にやり何やら考え始めた。

 

「・・・・まさかとは思うが・・・・・そいつも? そうだとしたら・・・・とんでもねぇな・・・・・」

 

 

何を言ってるんだ?

 

よく分からないけど、そろそろ寝るか。

明日も早いし。

 

俺は立ち上がり、背伸びをした。

 

「それじゃあ、俺は寝ます。先生は?」

 

「俺はこの集落を探索してから寝ることにするさ。後でウルムに案内してもらう予定になってるからな」

 

この人のことだから、そんなことだろうとは思ってたけどね。

つーか、ウルムさんも案内引き受けてくれたのかよ。

 

そして、俺はその場を去り、用意された部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

 

部屋に戻り、眠りにつこうとした時。

 

ベッドを見ると――――

 

 

 

「やぁ、イッセー。待っていたよ」

 

「・・・・イッセー先輩。お邪魔しています」

 

 

 

ゼノヴィアと小猫ちゃんがベッドの上で待機していた。

 

「え、なんで?」

 

なんで二人がここに?

二人はそれぞれの部屋を用意されていたはずだが・・・・・

 

俺が尋ねると二人は胸を張って誇らしげに言った。

 

「ふふふ。今回はジャンケンに勝たせてもらったんでね。今夜はここで寝ることになった」

 

「・・・・流石にこのベッドで全員寝るのは無理なので」

 

 

ま、まぁ、確かに。

 

用意されたベッドは普通サイズよりも少し大きいくらいで、いつも寝ている物よりも大分と小さい。

 

せいぜい三人くらいしか眠れないだろう。

 

つーか、なんでジャンケンしてまで?

いや、俺は全然嬉しいけどさ。

 

 

そう言えば、美羽はエルザと寝るって言ってたっけ?

久しぶりにあった友人だからな。

互いに色々話したいこともあるんだろう。

 

ゼノヴィアがベッドをポンポンと叩く。

 

「さぁ、イッセー。こっちに来てくれ。風呂の時のあの二人を見ていたら私も君の温もりが欲しくなってしまってね。今日は三人でくっついて眠るとしよう」

 

 

なんか、こいつが言うと不安しかしないんだけど・・・・気のせいか?

 

まぁ、異世界に渡ったせいか俺も結構疲れたし、横になるとしますか。

 

俺はベッドの真ん中に大の字になって寝転がる。

ゼノヴィアと小猫ちゃんは俺を挟む形でベッドに転がった。

 

二人とも俺の腕を枕にしている。

 

ゼノヴィアが俺の腕を触りながら言う。

 

「これは良いものだな。いつもは部長や美羽達の独占状態だったから味わうことがなかったが・・・・・。これは独占したくなるな」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。イッセーを一番近くで感じられるからね。今日は君と色々するつもりだったが・・・・・。これを楽しみたくなったから止めておくよ」

 

色々!?

 

色々って何をするつもりだった!?

 

やっぱりこいつは油断できねぇ!

嬉しいけど!

 

「・・・・にゃあ・・・・イッセー先輩の匂い・・・・・」

 

ゼノヴィアの反対側では小猫ちゃんが俺の服を掴んで猫みたいに丸くなっていた。

 

ぐはっ・・・・・なんだ、この可愛さは!

猫耳状態の小猫ちゃんの可愛さは尋常じゃない!

 

俺の心を鷲掴みにしてくる!

 

 

「さて、私も眠るとするよ。おやすみ、イッセー」

 

 

ゼノヴィアはそう言うと俺の顔に近づいてきて―――

 

 

チュッ

 

 

俺とゼノヴィアの唇が重なった・・・・・

俺の思考は一瞬フリーズするが、少ししてから何が起こったかを理解した!

 

 

えええええええっ!?

 

 

ちょ、不意打ちすぎるわ!

以前もこんなことあったよな!

 

混乱する俺をよそにゼノヴィアは目を閉じ、スースーと寝息をたて眠ってしまったいた。

なんか、寝顔がニヤけてる気がするんだけど・・・・・

 

ふと見ると小猫ちゃんも熟睡してる。

 

二人も疲れてたんだろうな。

 

こっちに来てから皆がやたらと積極的になったよなぁ。

先生はああ言ってたけど、俺って大したことしたつもりはないんだよね。

 

『そう思っているのは相棒だけだ。相棒がしてきたことは偉業と言ってもいい。相棒はこれまで多くのことを一度に経験してきたから感覚が狂っているのだろう』

 

そうかな・・・・?

 

『そうだ。まぁ、それが相棒が皆から慕われている理由の一つでもあるだろうがな』

 

慕われているねぇ・・・・・

 

ま、好かれている自覚はあるよ。

・・・・・ただ、女性陣の勢いに推されているだけで。

 

ハーレム王への道程は遠いな。

 

『ハハハハハ! 相棒はスケベなくせに押しに弱いからな! なんとも可笑しな話だ!』

 

うるせぇよ!

 

俺だってな、俺だってな・・・・・・前に進みたいんだよ!

つーか、進めようとしたこともあるし!

 

でもな、毎回毎回タイミングが悪すぎるんだよ!

 

神様は俺に恨みでもあんのか!?

 

『神? 聖書の神のことなら奴はすでにこの世にいないぞ?』

 

分かってるよ!

言ってみただけだから!

 

はぁ・・・・・もう疲れた・・・・・・

 

 

俺も寝る。

おやすみ、ドライグ。

 

『ああ。また明日だ、相棒』

 

 

俺はそのまま目を閉じ、両隣に温もりを感じながら眠りについた。

 




次回はイッセーが旅の仲間と再会します!(予定)


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9話 懐かしい人達との再会です!!

夏休みの間に出来るだけ話を進めておきたいと思う今日この頃。


翌朝。

 

フォレストニウムの門の前に俺達は集まっていた。

 

トリムさんや兵士の人達も一晩寝たら体力も回復したよだ。

流石に鍛えられているだけはある。

 

「お世話になりました、ウルムさん」

 

「いえいえ。また機会があれば寄っていって下さい。歓迎しますぞ」

 

俺とウルムさんは握手を交わす。

 

俺達は今からこのフォレストニウムを出発し、オーディリアに行く。

トリムさんが伝令を回してくれたから、ある程度は受け入れ準備が整っている・・・・・はず。

 

まぁ、アリスの城はデカイからこの人数でも泊まるくらいはできるだろうさ。

 

「エルザ、またね!」

 

「ああ。いつでも帰ってこい。ここはおまえの故郷なんだから遠慮することはない」

 

「うん!」

 

俺の隣では美羽とエルザが手を取り合っていた。

二人とも少し眠たそうにしているのは、朝まで話をしていたのが原因らしい。

 

よっぽど話が弾んだようだ。

 

 

すると、エルザが美羽に耳打ちする。

 

(おまえ、あいつのことが好きなら早いこと手を打った方がいいぜ? 周りの女もあいつに惚れてるんだろう? そうなりゃ、早い者勝ちさ)

 

(早い者勝ちって・・・・)

 

(なーに、押し倒して迫ればいちころだろ。ほら、よく言うだろ? 押してダメなら押し倒せってな)

 

(それ、引くんじゃ・・・・・)

 

(そうだっけ? まぁ、どっちでもいいだろ。とにかく、おまえならいけるからやってみろよ)

 

(そうかなぁ?)

 

(おまえはその手のことは苦手だろうが、その時は勢いだ。自信を持て)

 

(う、うん・・・・・)

 

 

何やら俺の方を見ながら話してるけど・・・・・

何してんだ?

 

エルザは美羽との話を切り上げ、俺に近づいてくる。

そして、俺の肩を叩いた。

 

「昨日も言ったが、ミュウのこと大切にしろよ? 泣かせたら承知しねぇからな」

 

「お、おう。分かってるよ」

 

「それからもう一つ」

 

「へっ?」

 

エルザは俺の顔をぐいっと引っ張ると今度は俺に耳打ちしてきた。

 

(ミュウがおまえを求めた時は受け入れてやってくれ)

 

(それってどういう・・・・・)

 

聞き返すが、エルザは俺から離れてバンバンと背中を叩いてきた。

 

痛いって・・・・

戦士だから力が強いよ・・・・

 

エルザはニッと笑う。

 

「まぁ、そう言うこった! 頼んだぜ、スケベ勇者!」

 

そう言ってエルザは背中を向けて去っていった。

 

結局、どういう意味なのかさっぱり分からなかった。

 

美羽を受け入れろって言われても、とっくに受け入れてるんだが・・・・・。

甘えてきたときは、存分に甘やかしてるし。

まぁ、たまに俺の方から甘える時もあるけどね。

 

 

ふと、美羽の方を向けば顔がこれまでにないくらい真っ赤になっていた。

 

おいおい、何があったよ?

 

「イッセー殿、そろそろ」

 

「あ、うん。分かったよ」

 

トリムさんに促され、俺は改めて見送りに来ている魔族の人達を見る。

 

その人達に向かって大きな声で言った。

 

「それじゃあ、俺達は行きます! 皆さん、お世話になりました!」

 

 

それから俺達は門をくぐり、集落を出た。

 

さて、いよいよ行きますか!

アリス達のところへ!

 

 

 

 

 

 

 

俺達はフォレストニウムを出た後、用意された馬車に乗ってオーディリアに向かった。

 

 

部長が感心しながら言う。

 

「こっちの世界にも馬車はあるのね」

 

「ええ。異世界って言っても俺達の世界とそう変わるもんじゃないんですよ」

 

「へぇ」

 

 

そんな会話をしながら馬車に揺られること数時間。

道の向こうに町が見えてきた。

 

皆の視線もそこに集まる。

 

「あそこが目的地のオーディリアの城下町セントラルです! 懐かしいぜ!」

 

俺は馬車の荷台から体を乗りだし、懐かしい光景に少しはしゃいでいた。

二年ぶりに見る町の光景。

俺が去った時からほとんど変わってない。

なんか感動するな!

 

「イッセーさん、すごく楽しそうですね。あの町に何か良い思い出があるんですか?」

 

アーシアがはしゃぐ俺に尋ねてくる。

 

俺は頷いた。

 

「ああ、あの町には思い出がたくさんあるんだ」

 

あそこでは楽しいこと、悲しいこと、たくさんのことを経験してきた。

 

そして、今の俺の原点になった場所でもある。

 

『だな。今の相棒はあそこから始まったと言っても過言ではない』

 

ドライグの言葉に皆は頭に疑問符を浮かべながら、周囲の光景を眺めていた。

 

 

それから数分後、馬車はオーディリアの王城、セントラル城に到着する。

 

俺達の世界で言う西洋風の城。

部長の家よりも大きいかな?

 

いやー、ここも変わらねぇな!

 

俺は馬車から飛び降りて城内をぐるっと見渡す。

 

「イッセー殿。ご案内いたします。皆様もこちらへ」

 

トリムさんが馬車から降りて案内をしてくれる。

 

トリムさんの後に続いて建物の中に入ると、そこでは――――

 

 

『お帰りなさいませ! 勇者様!』

 

 

メイドさん達がずらっと並んで盛大に出迎えをしてくれていた!

 

まぁ、お帰りってのは少し違うような気もするが・・・・・

細かいことは気にしないでおこう。

 

「皆、久し振り! 元気そうで何よりだよ!」

 

手を振ってメイドさん達に挨拶を返す。

 

二年も経っているせいか流石に新人らしき人も何人かいたけど、殆どが知っている顔だ。

 

皆と出会うのは―――――あ、やべ・・・・

 

森で洋服崩壊(ドレス・ブレイク)くらわした時以来だった・・・・・・

 

まさかと思うけど、エルザの時みたいにボコボコにされる、なんてことはないよね?

 

 

俺が内心焦っていると、一人のメイドさんが前に出た。

 

「お久し振りです、イッセー様」

 

「ワルキュリアじゃねぇか。元気そうだな!」

 

彼女はメイド達を纏める侍従長ワルキュリア・ノーム。

ロスヴァイセさんのような長い銀髪が特徴的な美女。

いつも冷静で面倒見の良いお姉さんなんだ。

 

 

「ええ。イッセー様に服をバラバラにされましたが、元気にやっています」

 

 

・・・・・一つ付け加えるならこの人も小猫ちゃん並みに毒舌を吐く。

それも的確に相手の精神を抉るような毒舌を吐いてくるので恐ろしい人でもある。

しかも、顔色変えずに言ってくるところが特に恐い。

 

まぁ、普段は優しいんだけどね。

 

「あ、う、うん。・・・・・・ごめんね」

 

「いえ、私は気にしていません。イッセー様がどれほどの変態であるかは私も存じていますので。むしろ、それが分かっていながらも対策をしなかった私の落ち度でしょう」

 

ぐはっ!

 

冷たい一言が、的確に俺の心を抉っていく!

ワルキュリア、真顔なんだもん!

再会早々、恐いよ!

 

でも、俺が悪いから文句は言えないんだよね・・・・・

 

ワルキュリアは部長達に頭を下げ、自己紹介をする。

 

「皆様、はじめまして。私はワルキュリア・ノーム。オーディリア家の侍従長をしている者です。この城内でお困りのことがあれば何なりとお申し付け下さい」

 

とワルキュリアの軽い自己紹介に続き、部長や木場達も名を名乗っていく。

 

皆の紹介を終えたところでワルキュリアは体の向きを変えた。

 

「さぁ、こちらへ。モーリス様がお待ちです。イッセー様」

 

「は、はい・・・・本当にすいませんでした」

 

なんだか逃げたしたくなってきた・・・・・

 

 

パタパタパタ

 

 

どこからか足音が聞こえてきた。

 

皆もそれに気づいたのか、それが聞こえてくる方向に視線を移す。

 

視線の先にいるのは一人の女性。

腰まである長い金髪で、背は部長と同じくらい。

赤いドレスを身に纏っている。

かなりの美少女だ。

 

「お兄ーさーん!!!」

 

その美少女は床を蹴って高くジャンプすると、俺に飛び付いてきた!

 

「ひょっとして、ニーナか!?」

 

「そうだよ! 会いたかったよぉ!」

 

その美少女、ニーナは弾んだ声でそう言うと頬擦りしてきた。

 

おいおい、マジかよ!

 

二年前よりも成長しすぎだろ!

 

最後に会った時はアーシアみたいな感じだったのに、今ではスタイルが部長クラスになってんじゃねぇか!

 

二年という月日でここまで成長するもんなの!?

 

お兄さん驚きだよ!

 

「大きくなったな。見違えたよ」

 

「うふふ~。私も成長したってことだよ☆」

 

ニーナは俺の前でくるっと回るとこっちにブイサインを送ってきた。

 

た、確かに成長したな。

 

特に胸が・・・・・

回転で揺れてたもんな・・・・・

 

「イッセー様、ニーナ様の胸元に視線が釘付けになっています。あれから二年も経つというのに成長しませんね」

 

「・・・・・やっぱりイッセー先輩は次元を越えてもドスケベです」

 

おおう!?

ワルキュリアと小猫ちゃんのダブルツッコミだと!?

 

強烈だが、新鮮だ!

 

まさかこの二人のツッコミを一度に食らう日がくるとは!

 

「小猫様、絶妙なタイミングです」

 

「・・・・ワルキュリアさんもかなり鋭いツッコミです」

 

なんか、二人の間に奇妙な感情が芽生えようとしているぅぅうううう!?

 

俺という共通のツッコミ相手を持つことで親近感でもわきましたか!?

 

 

「お兄さんも変わらないね~。相変わらずエッチなことが好きなんだ~。じゃあ、こんなのはどうかな?」

 

そう言ってニーナは胸元を寄せて前屈みになった!

 

 

ブファッ!

 

 

噴き出す鼻血!

 

エロい!

昔は俺のことをお兄さんって呼んでは後ろをついてきていたあの子がこんなにもエロくなっていたとは!

 

人間の成長って素晴らしい!

 

ワルキュリアがたん息しながらニーナを嗜める。

 

「ニーナ様、お止めください。あなたは王家の者なのですから、気品ある振る舞いをしてもらわなくては困ります」

 

「大丈夫だよ~。私がこんなことするのはお兄さんだけだし」

 

「それでもです。それにイッセー様をこれ以上、刺激すれば掃除が面倒になります。イッセー様も早くその鼻血を止めていただけますか?」

 

「は、はい・・・・」

 

とりあえずティッシュを詰めておこう。

持ってきておいて良かった・・・・・。

 

一応、ポケットティッシュは母さんに言われて四つほど持ってきてある。

 

「行きますよ。モーリス様も待っておられるので」

 

「あ、ああ。ニーナも行くか?」

 

「もちろん!」

 

そう言ってニーナは俺の腕に抱きつく。

 

腕が胸に挟まれてる!

しかも柔らかい!

 

また鼻血が噴き出しそうだぜ・・・・・

 

 

「お兄ちゃん・・・・・」

 

美羽が涙目で見てくるぅうううう!

 

泣かないでくれ、妹よ!

俺だって困惑してるんだ!

 

『(だが、嬉しいのだろう?)』

 

そりゃあもう!

最高です!

 

『(はぁ・・・・・)』

 

 

 

 

 

 

「こちらでモーリス様がお待ちになっております」

 

と案内されたのは大きな扉の前だった。

木製で、見事な彫刻が彫られている。

 

ここは確か、他国の来賓がやって来た時に使う部屋だったような・・・・・。

 

 

コンコンコン

 

 

「モーリス様。イッセー様とそのご友人の方々をお連れしました」

 

ワルキュリアが扉をノックして言うと中から返事が返ってくる。

 

『おう。入ってくれ』

 

それに応じてワルキュリアが扉を開ける。

 

ワルキュリアに続き、部屋に入ると部屋の奥の椅子に白髪混じりの男性が座っているのが見えた。

 

男性は俺の顔を見るとニッと笑みを浮かべた。

 

「久し振りじゃねぇか。以前よりも随分逞しくなったな、イッセー」

 

「モーリスのおっさん!」

 

決して忘れられないその顔。

俺にとっては恩人で旅の仲間。

 

『剣聖』モーリス・ノアが笑顔で俺を迎えてくれていた。

 

 

 

 

 

 

「どうぞ、イッセー様」

 

「ありがとう、ワルキュリア」

 

ワルキュリアに淹れられたお茶を受取り、喉を潤す。

 

迎えられた俺達は一旦席に着いて、ほっこりしていた。

長時間、馬車に揺られていたから少し疲れたしな。

 

「美味しいです。ぜひ淹れ方を教わりたいですわ」

 

「そう言っていただき光栄です、朱乃様。私でよろしければお教えしますが・・・・」

 

「ありがとうございます。それでは時間がある時にお願いしますわ」

 

「よろこんで」

 

皆、結構打ち解けてるんだよなぁ。

流石と言うべきか。

 

・・・・・ギャスパーは知らない人だらけで動きがまだぎこちないが、引きこもりっ子だからしょうがないよね。

 

モーリスのおっさんが茶を啜りながら言う。

 

「知らせを受けた時は驚いたぜ。まさか、おまえが再びこの世界に来るなんて思ってもみなかったからな」

 

「俺もまたこっちに来ることになるとは思わなかったけどね。まぁ、また再会出来たのは嬉しいよ」

 

「それは俺もさ。しかし、随分美人ばかり連れてきたもんだな。おまえのハーレム王の夢は叶ったのか?」

 

「うっ・・・・それは・・・・・」

 

俺の反応で察したのか、おっさんはニヤッと笑う。

 

「なるほどな。ま、そんなこったろうとは思ったがな。押しに弱いのは相変わらずか・・・・・」

 

その言葉に先生がおっさんに問う。

 

「やっぱり昔からこいつはそうなのか?」

 

「ああ。旅をしているころは、こいつは既に有名になっていてな。腕っぷしもあるし、性格もスケベなところ以外は真っ直ぐで良い。顔だって悪くない。言い寄ってくる女は結構いたぞ」

 

「だが、押しに弱すぎるせいでその都度タジタジになってたってところか。イッセー、おまえ、その辺りは全く成長してねぇのな」

 

そう言われると返す言葉もないです・・・・。

 

女の子に仲良くされるのは嬉しいんだけどね。

ただ、なぜか俺の周りの女の子は勢いが凄いんだ。

最初は良いんだけど、だんだん激しくなっていって、最終的には凄いことになるんだよね・・・・・。

 

うーむ、どうすれば女の子をしっかり受け止められるようになるのか。

これは俺の最重要課題だ。

 

「アザゼルって言ったな。こいつは元の世界ではどうなんだ?」

 

「まぁ、それなりにモテてるか。ここにいる奴らは皆そうさ。あー、そうそう。こいつは女の胸が好き過ぎてな。今では『おっぱいドラゴン』なんて二つ名が付いてる」

 

おいおいおい!!!

何言ってくれてんの、この人!?

 

つーか、その名前作ったのあんたでしょうが!!!

 

「クッ・・・・ククククククッ・・・・・・アーハッハッハッハ!!!!! おいおい、マジかよ!!!!」

 

おっさんが爆笑し始めた!

バンバンと机を叩いて笑い転げてるよ!

 

あー、もう!

先生のせいだ!

何でその名前のこと言っちゃうかな!?

 

「ハハハハ・・・・・はぁ~腹痛ぇ! おまえの胸好きもそこまでいくと逆に感心できるな! どうせ、ドライグも泣いたんだろ?」

 

「泣いてるよ! すでに!」

 

「おーい、ドライグ。おっぱいドラゴンになった感想は?」

 

『聞くなぁぁぁあああ!!! モーリス、貴様、分かって聞いているだろう!?』

 

「おうよ!」

 

『うおおおおおおおん!! なんでこの世界でもこんな目にぃいいいいいいい!!!』

 

あー、ドライグが泣いちゃったよ!

かつてないくらい号泣してるよ!

 

そりゃそうだよね!

異世界でもその名で呼ばれるなんて思わないよね!

 

俺も思ってなかったよ!

 

先生が未だに爆笑してるおっさんに言う。

 

「実はなそのおっぱいドラゴンはチビッ子の間で人気があってな。町を歩く度にその名で呼ばれるんだ」

 

おいいいいいいいいっ!?

 

確かに冥界の町でも病院でも言われたこともあったけど!

そんな追加情報教えなくていいから!

 

「マジかよ?」

 

「マジだ」

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

「「アーハッハッハッハッハッハハハハハハハ!!!」」

 

 

 

おっさん二人の笑い声が城内に響き渡った。

 

そして、ドライグは泣いた。

 

 




次回、アリスが登場します!


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10話 原点

この章は結構長くなりそうです


『うぅ・・・・・・ぐすっ・・・・・』

 

 

ドライグ・・・・・泣き止んでくれよ。

俺だって泣きたいんだ。

 

流石にこれは・・・・・・

 

 

「でさ、こいつさ――――」

 

「おいおい、そりゃあ―――」

 

 

俺の目の前でおっさん二人が俺とドライグをネタに盛り上がってる。

なんで、こんな状況に・・・・・・

 

普通ここはさ、二年ぶりの再会に感動するシーンじゃないかな?

 

なんで、再会早々にネタにされてるんだ・・・・・・

ひどい、ひどすぎる・・・・・・

 

 

部長達も苦笑して、どうすればいいか分からないと言った表情だし!

 

 

「そういえばよ、こいつは女の胸をつついて禁手(バランス・ブレイカー)に至ったんだろ? その時の話を聞かせてくれよ」

 

 

っ!?

ちょ、先生!?

 

ここでその話も持ち出しますか!?

 

「バランス・ブレイカー・・・・? ああ、あの赤い鎧のことか。あの時は酷かったな。戦場で危機的状況になった時があったんだ。そしたら、こいつ、一国の王女であるアリスに対して『胸をつつかせてくれ』って真顔で頼んだんだぜ? あれには俺もどう反応していいか分からなかった」

 

おっさんも答えんでいいから!

 

見てくれよ、皆の視線が俺に集まっているから!

 

「ねぇ、イッセー。その時のこと。後で聞かせてもらえるかしら?」

 

部長ぉぉぉぉおおおお!?

 

笑ってるけど目が笑ってないです!

 

「お兄ちゃん、ボクも聞かせてほしいな」

 

美羽まで!

 

マジで勘弁してください・・・・・・

 

あの時は俺も必死だったんだ!

禁手に至らないといけない状況だったんだよ!

 

「ま、それに応じたアリスもアリスだがな。戦場のど真ん中で乳房を晒してこいつを受け入れた。一瞬、戦場の時が止まったのをよーく覚えてるよ」

 

それ以上言うのは止めてぇぇぇえええええ!

 

後ろからワルキュリアが冷たい視線を送ってきてるから!

汚物を見るような目だよ!

 

 

「イリナ、もしやと思うがそのアリスという人も・・・・・」

 

「そうね、ゼノヴィア。ほぼ間違いないと思うわ」

 

 

なんか女性陣が戦慄してる!?

 

どうしたよ?

 

 

あれ?

 

そういえば――――

 

「アリスとリーシャは? あいつらはいないのか?」

 

「アリスは執務室で書類と向き合ってるぜ。リーシャも今では魔法学校の教官だからな。忙しいのさ。まぁ、リーシャはともかくアリスならこの城内にいる。会ってくるといい。ニーナ、案内してやってくれ」

 

「はーい。それじゃあ、お兄さん、ついて来てよ」

 

とニーナに手を引かれて俺は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ここにお姉ちゃんがいるよ」

 

ニーナに案内されたのは城の最上階の一室。

確かに執務室って札が貼ってある。

 

あのアリスがデスクワークねぇ・・・・・

あいつ、そういうの苦手じゃなかったか?

 

俺の考えが分かったのかニーナが笑う。

 

「お姉ちゃん、いつも書類を溜め込むんだよね。だから、ほとんど私が引き受けてるの」

 

「マジか。ニーナって今、十七歳だったよな? すげぇな」

 

「でしょ? 昔みたいに撫でてくれても良いんだよ?」

 

ニーナが頭を差し出してきたので撫でてやる。

あ、サラサラしてて気持ちいいな。

 

「うふふ。やっぱりお兄さんの手って大きいね。それじゃあ、入って入って。私はここで戻るから」

 

「えっ? ニーナは入らないのか?」

 

「うん。せっかくの二人の再会なんだから、私がいたら邪魔でしょ?」

 

そんなことはないんだけど・・・・・。

 

うーん、まぁ、ニーナがそう言うのなら・・・・・。

 

 

俺はニーナに促され、扉を開けて中に入る。

 

すると、そこでは―――――

 

 

 

 

「えっ・・・・・・・?」

 

 

 

 

突然の来客に呆然とした表情でこちらを見てくる金髪の女性。

 

スレンダーな体つきで、かなりの美人だ。

ニーナと同じ綺麗な長い金髪。

窓から入る陽の光に照らされ、どこか神々しく感じる。

 

ただ、その女性は白い下着姿でその手には服を掴んでいる。

 

どうやら、着替え中だったらしい・・・・・・。

 

 

俺も流石にこの事態は想定外だったので、女性と目があった瞬間に固まってしまう。

 

重たい空気が室内に漂う。

 

この空気に耐えられなかった俺はこの状況を打破するべく、話しかける。

 

「あ・・・・・・・・え~と、久しぶり・・・・・アリス・・・・・・」

 

「イ、イッセー・・・・・・なの? どうして、ここに・・・・・あっ」

 

そこまで言って、女性―――アリスは改めて自分の状況を確認する。

 

もう一度言うが、今の彼女は下着だけの姿だ。

 

アリスの顔が真っ赤になり、涙目で俺を睨んでくる。

 

「あ・・・あああああ・・・・・・! イ、イッセー、あんたねぇ・・・・・!」

 

ワナワナと体を震えさせるアリス!

しかも、手にはどこからか出した槍を持ってる!

 

こ、これはヤバい!

 

とりあえず、ここは――――

 

「素晴らしいお体! ありがとうございます!」

 

俺は合掌してお礼を言った!

おそらく遺言になるだろう!

 

 

 

そして――――

 

 

 

「バカァァァァァァアアアアアアアア!!!!」

 

「ギャアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「イタタタタ・・・・・おまえ、もう少し手加減してくれよ・・・・・・」

 

「何言ってんのよ。私の下着姿を見ておいて、この程度で済んだんだから感謝しなさいよ」

 

 

制裁を受けた俺はアリスから治療を受けながらぼやいていた。

 

こいつに手当されるのもいつ以来か・・・・・

 

「大体ねぇ、ノックくらいしなさいよ。ここ、王女の執務室よ、一応」

 

「それは悪かったけど・・・・・なんで、ここで着替えてるんだよ? 執務室なんだろ?」

 

うん、俺の言ってることは間違ってない。

そもそも執務室で着替える方がおかしいと思うんだ。

 

「だって、こんなに書類が溜まってるのよ? 自室に態々、着替えに行くなんて時間の無駄じゃない」

 

とアリスの指差す方には山積みにされた資料の束。

おいおい・・・・・どうすればこんなに溜まるんだよ?

 

そんなに忙しいのか?

 

いや、つーかさ・・・・・

 

「おまえの部屋、この隣なんだろ? さっきニーナにそう聞いたけど?」

 

「そうよ。それが?」

 

「いや、いい・・・・・」

 

俺はアリスの返しについため息を吐いてしまう。

 

こいつ、こんな性格だったっけ?

もっとしっかりした性格だったはずなんだけど・・・・・

 

二年の歳月は人の性格まで変えてしまうのかね?

 

 

「それで、あんたは何でここにいるのよ?」

 

「えっ? モーリスのおっさんから聞いてないのかよ?」

 

「? 何を?」

 

頭に疑問符を浮かべて何のことか分からないと言った表情のアリス。

これは本当に俺がこの世界に戻ってきたことを知らなかったようだ。

 

原因は・・・・・・絶対におっさんだな。

どうせ、アリスには黙っておくよう城の皆に言ってたんだろうな。

 

クソッ・・・・嵌められた。

あのおっさん、こうなることを分かってたな!

 

 

アリスも何かを察したのか、迫力のある笑みを浮かべた。

 

「なるほど・・・・・モーリスね・・・・・・。イッセー、分かってるわね?」

 

「おう。後で殴りに行くぞ」

 

おっさんのくだらねぇイタズラのせいで、ボコボコにされたんだ!

 

この恨み、絶対に晴らしてやるぜ!

 

 

「それはそうと本当に久し振りね。イッセー、元気そうで何よりだわ」

 

「アリスこそ。すごくキレイになったな。いや、前から美人だったけど、なんかこう、より一層美人になった」

 

本当にそう思う。

ここまで来れば神々しさも感じるしな。

女神と言われても信じるぞ。

 

「なっ!? もう! 誉めても何も出ないわよ?」

 

どうしたどうした?

顔がゆでダコみたいになってるぞ。

 

「でも、あんたは相変わらず胸が好きなんでしょ? 私は、その、そんなに大きくないし・・・・・・。ニーナの方があんた好みなんじゃないの?」

 

ま、まぁ、確かにアリスよりもニーナの方が胸は大きい。

 

アリスの胸はだいたいアーシアと同じくらいか。

 

いや、でも!

 

「そんなことねぇよ! 俺は女性のおっぱいは大きいのも小さいのも大好きだ!」

 

「そんなこと大声で言わないでよ!」

 

 

バキッ

 

 

アリスの鋭いグーパンチが俺の顔面にクリーンヒット!

痛い!

けど、懐かしい感触だ!

 

アリスは腕を組んで顔を赤くしながら言う。

 

「ったく、スケベなところも相変わらずね」

 

「あははは・・・・・。ワルキュリアにも言われたよ・・・・・」

 

あの人のはアリスの比じゃなかったけどね。

ワルキュリアのは言葉だけじゃなくて、その視線とかも駆使して心を抉ってくるから。

 

 

おっと、そう言えばこいつに言わなきゃいけないことがあったな。

 

「アリス。魔族との和平、おめでとう」

 

俺が祝福の言葉を送るとアリスは微笑む。

 

「ありがとう。色々あったけど、なんとかここまで来ることが出来たわ」

 

「夢だったもんな。人間と魔族が手を取り合える世界を作る。旅の時もいつも言ってたもんな」

 

「ええ。でも、私の力だけじゃ無理だった。ニーナやモーリス、リーシャ、ワルキュリア、そしてイッセー。皆の力があったからこそよ」

 

アリスの言葉に苦笑する。

 

「俺は何もしてないよ。シリウスを倒した後、直ぐに元の世界に帰ったしな」

 

「でも、あんたが戦争を終わらせた。イッセーがいなかったら、この和平は成り立たなかったわ。イッセーの力があってこそよ」

 

真っ直ぐな目で俺を見てくるアリス。

そう言われると照れるね。

 

アリスは立ち上がり、背を伸ばした。

 

「さて、と。・・・・とりあえず、モーリスのところに行きましょうか。あのおっさんは一度殴っておかないと気がすまないわ。ふふふふふ!」

 

おおっ、目がマジだ。

燃えてるよ!

 

「そうだな。あ、俺の仲間も連れて来てるんだ。紹介するぜ」

 

「そうなの? それは楽しみね」

 

 

そんな会話をしながら俺達は部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

 

イッセー君がニーナさんと部屋を出ていき、五分ほどが経った頃だった。

 

先程まで愉快に話をしていた先生とモーリスさんが真剣な表情となった。

 

モーリスさんが口を開く。

 

「それで? 何から聞きたい? おまえら、イッセーのことで知りたいことがあるんじゃねぇのか?」

 

 

「「「っ!」」」

 

 

僕達の考えを見透かしたように言ってきたその言葉に僕達は驚愕し、目を見開いた。

平然としてるのは先生と部屋の隅で控えているワルキュリアさんぐらいだ。

 

この人は僕達の疑問を見抜いていたと言うのか。

それも僅かな時間で、ろくに言葉も交わしていないと言うのに・・・・・。

 

「なるほど。それであの娘も行かせたわけか・・・・・。流石、と言うべきか?」

 

「これまで、あんたと話していて向こうでのあいつのことは何となく分かったからな。自分のことをある程度は話したみたいだが・・・・・」

 

「まぁな。だが、俺達はあいつ以外の視点からの話を聞きたいのさ。俺達が聞いたのはあくまでイッセー視点の話。だから、あんたの視点での話を聞きたい」

 

イッセー君の過去。

確かに彼は僕達に全てを話してくれたのだろう。

 

彼は隠し事をするのは好きではないみたいだったからね。

 

だけど、先生の言う通り、それはあくまでイッセー君の言葉。

周囲から見たイッセー君はどうだったのか。

そこが知りたい。

 

まぁ、自分自身への評価と他人からの評価が違ってくるのと同じだね。

 

 

僕達の視線がモーリスさんに集まる。

 

「ま、そう言うことなら別に話しても良いだろう。イッセーもおまえさん達のことは信頼してるみたいだしな。だが・・・・・・魔族の姫君。あんたには少々辛い話になるかも知れないぜ?」

 

モーリスさんが美羽さんに問いかける。

 

美羽さんはモーリスさんの目をしっかり見て答えた。

 

「お願いします。ボクもイッセーのことを知りたいんです」

 

強い目だ。

 

おそらくモーリスさんがこれから話そうとすることはこちらの世界で争いが続いていた頃の話だ。

その頃のイッセー君は人間側で美羽さんは魔族側。

互いに敵同士。

 

当然、聞きたくない話の一つや二つはあるだろう。

 

それを理解した上で聞こうと言うのだ。

並みの覚悟じゃない。

 

「・・・・・分かった。それじゃあ、先ずはイッセーがこの世界に飛ばされた時の話をしようか。まぁ、飛ばされ時の話と言っても最初の頃は至って普通だ。アリスが風呂入ってたらそこに全裸のイッセーが飛んできて、そのまま二人揃って気絶したくらいだったからな」

 

いや、その時点で普通じゃないです。

既におかしいところがいくつかあるんですが・・・・・・

 

そのアリスという女性は目覚めた時はすごく混乱しただろうね。

見ず知らずの男性が全裸で現れたのだから。

 

どう見ても変質者だよ。

 

「そんでもって、気絶したイッセーを俺達で介抱して事情を聞いたのさ。あいつも突然のことにかなり混乱していたが、とりあえずは元の世界に帰るまでここに住むことになったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

当時のイッセー君はごく普通の中学三年生。

神器に目覚めているわけでも無ければ、異能の存在すら知らない。

 

そんな彼が突然、異世界に飛ばされたんだ。

その時の彼の様子は容易に想像できる。

 

 

この世界で生きていくことになった彼はモーリスさん達にサポートされつつも日々を送っていたそうだ。

 

当時、勇者と呼ばれていたライト・オーヴィル。

 

彼とイッセー君は親友と言って良いくらいに仲が良く、スケベなところ以外は似ていて、真っ直ぐで熱血な性格だった。

 

二人は町で買い食いすることもあれば、共にモーリスさんから剣の稽古を受けていたりもしていたという。

 

イッセー君も色々不安はあったみたいだけど、幸せな日々を送っていたそうだ。

 

 

だけど、イッセー君がこちらで生活を始めてから一年が経った頃。

この国に異変が起きる。

 

魔族がこのオーディリアに侵攻を始めた。

 

当時、そんなことは珍しいことではなかった。

先代の国王、つまり、アリスさんとニーナさんの父親が生きていた時、オーディリアもゲイルペインに攻め込んだ時もあり、他の国でもゲイルペインの侵攻を受けたことはあったそうだ。

 

その時の魔族軍の勢いは凄まじく、瞬く間に首都セントラルに到達したという。

 

 

モーリスさんやライトは魔族の侵攻を食い止めつつ町の人間を避難させていたそうだけど、人手が足りなかった。

 

すると、イッセーが言った。

 

 

自分も手伝う、と。

 

 

モーリスさん達は止めたそうだが、それでもイッセー君は町の人達を助けるために町へ降りていった。

 

町におりたイッセー君は偶々逃げ遅れた子供を見つける。

その子供は親とはぐれて一人で泣いていたそうだ。

イッセー君はその子供を連れて逃げようとしたが、そこに魔族の兵士が現れた。

 

その兵士は剣を向け、斬りかかる。

イッセー君は咄嗟にその子供を庇ったそうだ。

 

 

しかし―――

 

 

斬られたのはイッセー君ではなく、その間に立ったライトだった。

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、運が悪かったって言うしかねぇんだろうな。なんせ戦時中だ。人が死ぬ方が当たり前の時代だ」

 

「だが、そのころのイッセーは・・・・」

 

「ああ、何も知らない平和なところで育ったただのガキだ。受け入れろっていう方が無理がある」

 

モーリスさんは悲しげな目で息を吐く。

 

「俺が駆けつけた時にいたのは倒れて動かなくなっていたライトと気絶した子供。そして――――ライトの剣を握り、魔族の兵士を斬り伏せていた血塗れのイッセーだったよ。あの時の光景は目に焼き付いている」

 

それからのイッセー君は見ていられなかったと言う。

 

自分のせいで親友が死んだ。

イッセー君はずっと自分を責めていたそうだ。

 

「だからこそアリスは元の世界に帰るように言ったのさ。もちろん、この世界が危険だったこともあるが、あいつがこれ以上自分を責めないようにってのもあったんだろうな」

 

「なるほどな・・・・・。あいつが戦争を嫌う理由はそう言うことだったのか・・・・・」

 

先生の言葉にハッとなる。

 

コカビエルの時、イッセー君は戦争と言う言葉に凄く反応していた。

あの時はただ仲間を傷つけられることに怒っているものと思っていたけど、それだけじゃなかったんだ。

 

「・・・・・全ては俺が悪いのさ。あの時、イッセーを無理矢理にでも止めていればこうはならなかった」

 

「だが、イッセーが行かなければその子供は死んでいたかもしれない、だろ?」

 

「まぁな」

 

 

その後の話は僕達がイッセー君から聞かされた通りだった。

 

神が住まう神層階で修行を終えたイッセー君が再びモーリスさん達の前に現れ、魔族から国を奪還。

 

それから、イッセー君とモーリスさんを含めた四人で旅を始め、各地を回る。

 

最終的にはイッセー君が美羽さんの実の父親である魔王シリウスと一騎討ちに勝利し、長い戦争を終わらせた。

 

 

「俺が知ってるのはこれで全部だ。神層階でのことは俺も知らん。行ったこともないしな。・・・・ただ、あいつはもう何も失わないために戦う。守るためなら無茶をやらかすこともあるだろう。その時はあいつを助けてやってほしい」

 

モーリスさんはそれだけ言うと茶を啜った。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

 

俺はアリスと共に先ほどの部屋の前に戻ってきた。

 

「さぁ、行きましょうか」

 

 

バンッ!

 

 

アリスはドアを勢いよく開くとその体から激しいオーラを発した!

 

「モーリス、よくも図ってくれたわね~。覚悟は出来てるかしら・・・・?」

 

 

バチッバチチッ

 

と、体にスパークを纏い始める!

それと同時にアリスの体が白く光り輝き始める!

髪の色も金髪から曇りのない純白に変わる!

 

「ま、待て! お、落ち着け、アリス! ほ、ほら、サプライズだって!」

 

「そのサプライズのせいで私は着替えてるところ覗かれたのよ!」

 

「おまえ、また執務室で着替えてたのかよ!? それは俺のせいじゃねぇだろ!」

 

「うるさーーーーい!! 問答無用!」

 

体に白い雷を纏ったアリスはそのままおっさんに殴り掛かった!

 

「ちょ、おま、その状態で俺に近づくなよ! まっ、ギャアアアアアアア!!!!!」

 

アリスの白い雷に触れたおっさんは感電し、一瞬で黒焦げになった・・・・。

 

相変わらず、恐ろしい・・・・。

 

すると、木場が席を立ち歩み寄ってきた。

 

「イッセー君・・・・」

 

「ん? どうした、木場? ・・・・なんで目、潤ませてんだよ・・・・?」

 

「イッセー君。僕は強くなる。君に肩を並べるくらいに強くなるよ!」

 

「お、おう・・・。が、頑張れ?」

 

なんだ、どうした?

 

すると今度は部長達が近づいてきた。

 

「イッセー・・・・私も主としてあなたを守れるくらい強くなって見せる。だから、無茶はしないで・・・・」

 

「は、はぁ・・・・」

 

なんで皆、涙目なの!?

俺、何かしましたか!?

 

ん?

美羽の表情が少し暗いような・・・・・

 

黒こげになったおっさんがボロボロの状態で言う。

 

「す、すまんが、おまえとライトのこと、話したぞ・・・・ガクッ」

 

っ!

 

マジか・・・・

以前、皆に話したときはとにかく美羽のことを理解してもらおうと、そのあたりは詳しく話してなかった。

それに美羽にはあまり聞かせたくなかったしな。

 

なるほど・・・それなら美羽の表情が暗いのも納得できる。

 

まぁ、おっさんのことだから、予め美羽に確認をとったと思うけど・・・・・

 

俺が美羽の前に立つと、美羽は申し訳なさそうな顔をする。

 

「ご、ごめんね・・・・ボク、お兄ちゃんのこと何も知らなかったみたい・・・・」

 

俯き、そう謝ってくる。

 

はぁ・・・・

こいつは何でもかんでも気にするな・・・・

 

優しい性格だからかもしれないけど。

 

「なんで美羽が謝るんだよ? おまえは何も悪くないだろ」

 

「で、でも・・・」

 

「確かに、俺は辛い思いもした。でもな、今ではそれが無かったらおまえとこうすることも無かったと思う。もちろんライトが死んだことは悲しい。だけどな、おまえと出会えて俺は嬉しいんだ。だからさ、そんな顔しないでくれよ」

 

俺はそう言って美羽の頭を撫でる。

 

今の俺があるのはあの経験があったからこそだと思ってる。

あの経験がなければ、俺は今の力を得ることも無かっただろうし、そうなれば皆を守ることもできなかったかもしれない。

 

「う、うん・・・・」

 

「ほーら、まだ顔が暗いぞ?」

 

 

むにぃ

 

 

まだ表情が暗いので美羽の両ほっぺを軽く引っ張る。

 

ひょ、おひぃいひゃん(ちょ、お兄ちゃん)? ふぁにしてふの(何してるの)?」

 

「ははっ、何言ってるか分からねぇよ」

 

うーむ、それにしてもモチモチでスベスベしてるな。

とんでもない肌だ。

触ってる俺の方が気持ちよくなってきた。

 

あ、やべ・・・止まらなくなってきた・・・

 

恥ずかしがってる美羽の顔・・・・・・超可愛い!

 

 

すると、服の袖をくいっと引っ張られた。

 

見ると小猫ちゃんが俺の袖を掴んでいた。

 

「・・・・・イッセー先輩、そろそろ止めた方が良いです。鼻血出てますよ」

 

「えっ?」

 

うわっ、ほんとだ・・・・

いかんいかん、あまりにも美羽が可愛いので、つい・・・・

自重しなければ・・・・

 

「ねぇ、イッセー。そろそろ紹介してもらえる? 私、ずっと待ってるんだけど」

 

その声に振り返ると、アリスがスッキリした顔で微笑んでいた・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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11話 酒は飲んでも飲まれるな

書いてて思った。

この章に入って10話越えてるのにイッセー達がアスト・アーデに来てから、まだ一日しか経っていない!




「皆さん、始めまして。私はアリス・オーディリア。この国の第一王女です。歳は二十歳でイッセーと同い年よ。二年前にイッセーやモーリス、それから、ここにはいないけどリーシャって子と旅をしていました。どうぞ、よろしく」

 

「そういえば、私もまだ自己紹介してなかったね。私はニーナ・オーディリア。十七歳です。アリス・オーディリアの妹で第二王女です。よろしくお願いします」

 

と、アリスとニーナが皆に自己紹介をしていた。

 

こうして見てると、なんだな・・・・・

ニーナのおっぱいの成長が凄まじいことがよく分かる。

谷間だってあんなに・・・・・

素晴らしいね!

 

「イッセー、どこを見ているの?」

 

おっと、アリスがジト目で見てきた。

 

「いや~、懐かしいなーって思ってさ・・・・」

 

「本当にぃ?」

 

本当本当・・・・・

だから、その雷止めてくれ・・・・・

 

すると、木場がニーナに尋ねた。

 

「ニーナさんは旅をしていなかったのかい?」

 

「私はお姉ちゃん達と違って戦う力は持ってないからね。だから、皆が旅をしている間は国の復興とか、町の人達と色々な政策を考えたりしてたの」

 

「そのころのニーナさんは十五歳だよね? すごいね」

 

木場が誉めるとニーナは少し照れているようだった。

 

でも、ニーナは確かに頭がいい。

俺達が国を離れて旅が出来たのもニーナの力のおかげと言ってもいいくらいだからな。

 

 

アリスが部員の皆を見ながら言う。

 

「それにしても、随分大所帯で来たわね」

 

「あははは・・・・・・。俺もここまで数が増えるとは思ってなかったんだよね」

 

「・・・・・しかも、美人ばっかり」

 

な、なんか、アリスが不機嫌になっているような・・・・・

 

まぁ、確かにオカ研女子部員は美人美少女揃いだよね。

皆との生活も楽しいし。

 

ん?

 

ちょっと待てよ・・・・・・

 

「言っとくけどギャスパーは男だからな。こう見えても」

 

「「「えっ!? ウソッ!?」」」

 

アリス、ニーナ、モーリスのおっさんが驚愕の声をあげた。

 

ギャスパーは見た目、美少女だから間違えるよな。

 

 

「・・・・・・・」

 

 

ふと見るとワルキュリアが無言で目を見開いていた!

あの冷静なワルキュリアが心を乱してる!

これはかなりレアな現象だ!

 

 

「ギャスパー」

 

「なんですか、イッセー先輩?」

 

「おまえ、やっぱりスゲェわ」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

「ま、色々話したいこともあるが、とりあえず食ってくれ。皆、腹減ってるだろ?」

 

モーリスのおっさんがそう言うと長い机の上にはメイドさん達に運ばれた料理が並んでいた。

 

今は丁度昼時。

俺も腹減ってたし、久しぶりのこっちの料理が食えるのは嬉しい。

 

俺達の世界にはないような料理もいくつかあり、皆も興味を引かれているようだった。

 

ちなみにだけど俺の隣にはアリスとニーナが座っている状況だ。

向かいの席にはモーリスのおっさんとアザゼル先生とティア。

 

「アザゼル、ティアマット。あんたらいける口か?」

 

「おっ、いいねぇ」

 

「いただこう」

 

モーリスのおっさんが出してきたのは一本のボトル。

ボトルの蓋を開けてアザゼル先生とティアのグラスに注ぐ。

 

おいおい、昼間から酒かよ。

 

「モーリス、昼からお酒はどうかと思うわよ?」

 

「良いじゃねぇか、たまにはよ。今日は再会を祝してパァーっといこうじゃねぇか。ほら、アリスもついでやるから」

 

「はぁ・・・・。ま、いっか。イッセー、あんたも飲みなさいよ」

 

「おう」

 

酒かぁ。

 

元の世界では未成年ってことにしてたから、飲んだことないんだよね。

どうせ、そのうち飲むだろうし少しだけ飲んでみるか。

 

アリスにグラスを渡すと酒が注がれていく。

 

グラスを受け取り、嗅いでみると良い香りだった。

これは花の香りかな?

 

「あれ? イッセーってもしかしてお酒は初めて?」

 

「まぁね。向こうでは未成年ってことにしてたから」

 

「あー、さっきも言ってたっけ? 不思議よね。こっちでは三年も過ごしてたのに元の世界では時が進んで無かっただなんて」

 

全くだ。

そのおかげで助かったこともあるけどね。

 

「それじゃあ、再会を祝して」

 

「乾杯」

 

 

キンッ

 

 

互いのグラスを当てて、酒を飲んでみる。

 

あ、以外といける。

酒って美味いんだな。

 

ちなみにだけど、部長達はお酒ではなくジュースか、もしくはお茶だ。

皆は未成年だからね。

 

「モーリス、おかわり」

 

アリスがグラスをおっさんに突きだしていた。

 

はやっ!

もう二杯目ですか!?

 

おっさんがアリスのグラスに注ぎながら言う。

 

「アリスは結構飲むぞ。前に飲み比べしたら負けたからな」

 

おっさんに勝ったの、この娘!?

 

半端じゃねぇな!

 

アリスがふふっと不敵な笑みを浮かべる。

 

「イッセーも勝負してみる?」

 

「・・・・・いや、遠慮しておくよ」

 

デビューしたての奴がベテランに勝てるわけねぇだろ!

 

アリスは二杯目をぐいっと飲み干すと料理を食べる。

さっき、おっさんに対して注意してたとは思えない飲みっぷりだな。

 

一応確認するけど、俺と同い年だよね?

 

ペース早すぎじゃね?

 

「それにしても驚いたわ。久しぶりに会ったら人間止めて悪魔になってるんだもの」

 

「俺も色々あったってことさ」

 

「色々ねぇ。さっきドライグから聞いた話だと、あんたも大変だったみたいじゃない」

 

悪魔になってからは大きな戦いもあったし、死にかけたこともあったな。

会談の時とか、テロリストの時とか。

 

ロキの時なんか本当にヤバかったよね。

フェンリルに噛まれるわロキにズタズタにされるわ。

あげくの果てには爆弾投下していきやがったし・・・・・・

 

「でも、楽しくやってたよ。皆との生活にも満足してる」

 

「皆との生活って・・・・・もしかして、ここにいる全員と一緒に住んでるの?」

 

「木場とギャスパー、アザゼル先生は違うけどな。最初は美羽。その次にアーシア、部長。そうしてるうちに一気に増えて大家族になっちまった」

 

おかげで家も改築することになっちゃったけどね。

それでも、毎日を賑やかに過ごせている。

 

悪魔になったことを後悔したことなんてない。

 

・・・・・あ、ミルたんと邂逅した瞬間は少しだけしたかも。

 

ま、まぁ、それはおいておこう。

 

 

「そう、なんだ」

 

「あ、でも、アリス達のことを忘れたことなんてないぞ。ここで過ごした時間は俺にとって大切な時間だからな」

 

「フフフッ。それは私もよ。あんたのことを忘れたことは一度もないわ」

 

そう言って微笑むアリス。

お酒が入っているからか頬がほんのり赤い。

 

実を言うと今のアリスの顔にドキッとしてしまった。

それに、今気づいたことなんだけど、アリスから良い香りがするんだよな。

 

「うふふ。お兄さん、顔赤いよ? お姉ちゃんにドキッとしてるの?」

 

「あ、いや、お酒が入ってるからかな? あははは・・・・・」

 

ニーナちゃん、鋭い!

俺のことよく見てるな!

 

ニーナは向かいの料理をすくうと俺の口元に運ぶ。

これはまさか!

 

「はい、あーん」

 

来ました!

ニーナちゃんからの『あーん』だ!

 

二年ぶりの『あーん』に感動を覚えるぜ!

 

「あ、あーん」

 

「美味しい?」

 

「うん、美味い!」

 

 

そんなやり取りをしていると、強い視線を感じた。

 

この視線は・・・・・

 

「うぅ・・・・・お兄ちゃん・・・・・・」

 

はうっ!

 

美羽がまた涙目になってる!

なんかゴメン!

とりあえず今日は許してくれ!

 

 

「もう、ニーナにばっかりデレデレしないの。ほら、私もやってあげるから」

 

とアリスまで『あーん』をしてきた!

 

ウソッ!?

アリスからこんなことされたことは一度もないぞ!?

 

酔ってる!?

酔ってるのか!?

 

 

「なぁ、モーリス。やっぱりそう言うことなのか?」

 

「ん? あー、まぁ、そうだな。旅の時もこんな感じだったよ。いや、今は酒が入ってるせいで少しハイになってるのもあるな。喜びのあまり、酒のペースも早いこと早いこと。さっき開けたやつがもう無くなっちまった。ワルキュリア、すまねぇが酒を頼む」

 

「かしこまりました」

 

そう言うおっさんの手にはさっきのボトル。

中身は既に空だった!

 

いつの間に飲んだ!?

 

 

すると、

 

「朱乃、後で作戦会議を開きましょう」

 

「ええ、リアス。イッセー君と同い年で共に旅をした仲。そして、あの雰囲気。美羽ちゃんに勝るとも劣らない強敵の出現ですわ」

 

「あんなお綺麗な人がいるなんて・・・・・私、どうしましたら・・・・・」

 

「・・・・・・アーシア先輩、ここは手を組むしかないようです」

 

「ここは機を見て、一気に攻め込むのが最善か?」

 

「でも、その隙が出来そうにないわよ?」

 

「・・・・イッセー君、あちこちで好かれてるんだもん。もしかしたら、他にも・・・・・・」

 

 

んん?

部長達の間に緊張が走ってる・・・・・?

すごい真剣な目だ。

 

つーか、ゼノヴィア!

おまえの発言は不安しかしねぇ!

攻め込むって何ですか!?

 

 

 

 

 

 

それからも楽しい昼食会は続いたんだけど・・・・・・

 

 

しばらくしてから事件が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、イッセー・・・・・」

 

「ん?」

 

アリスが声をかけてきたので俺は振り向いた。

 

 

すると、俺は顔を両手でがっちりホールドされ――――

 

 

チュッ

 

 

近づいてきたアリスの唇と俺の唇が重なった!

アリスがキスをしてきたぁぁぁぁぁあああああ!?!?

 

更にアリスは俺に抱きつき頬擦りまでしてきた!

 

「アハハハハ! イッセーの肌ってスベスベ~!」

 

 

「「「「「ああああああああああああああっ!?!?!?」」」」」

 

 

オカ研女子部員の声が部屋に響く!

 

俺もアリスのあり得ない行動に混乱する!

 

アリスの性格上、自分からこんなことをしてくるなんてことはないはずだ!

 

俺がスケベなことをすれば、いつもツッコミ役だったし!

 

 

「おっさん! これって!?」

 

「ああ、完全に酔ってるな」

 

「こいつ、酒強いんじゃないのかよ!?」

 

「強いぜ。だがな、それだけ飲めばそりゃ酔うだろう」

 

おっさんに言われて後ろを見てみると空のボトルが転がっていた!

軽く十本は越えてる!

 

これ全部一人で飲んだの!?

俺、まだ三杯しか飲んでないよ!?

 

つーか、誰か止めようよ!

気づかなかった俺も俺だけどさ!

 

「おまえと再会してテンション上がってたんだろうな。通常の三倍のスピードで酒が無くなっていった」

 

「何処の赤い彗星!? なんていってる場合か! 見てみろ! こいつの顔、真っ赤じゃねぇか!」

 

なんてことを叫ぶが、酔ったアリスは止まらない!

 

アリスは俺の頭を抱き、自分の胸に押し当てる!

 

 

むにゅん

 

 

うおおおっ!

俺の顔にアリスのおっぱいが!

ニーナほど大きくはないが、その存在をしっかりと俺に示してくれる!

 

「小さいけど私もしっかり胸あるんだからね~? ほらほら~」

 

ダメだ!

発言が既にアリスじゃない!

全くの別人格と化したか!

 

だが、俺は嬉しいぞ!

エロいアリスも最高だ!

 

 

「あらら・・・・・。ここまで酔ったアリスは見たことねぇな。ワルキュリア、悪いが止めてくれ。このままだと取り返しがつかないことになりそうだ」

 

「了解しました。アリス様、失礼します」

 

 

トンッ

 

 

アリスの背後に立ったワルキュリアがアリスに手刀を放った。

すると、暴走していたアリスから力が抜けていく。

 

「軽く気絶させました。少ししたら目覚めるでしょう」

 

さ、流石はワルキュリア。

的確なポイントに適度な強さで手刀をくらわすとは・・・・・。

この人ってなんでもこなせるよね、本当・・・・・。

 

「溜まってたもんが一気に解放されたのかね? ま、こいつも最近は忙しかったからな。たまにはハメを外させてやっても良いだろう」

 

いや、流石に外しすぎでは・・・・・?

 

俺の胸の中で穏やかな寝息をたてるアリス。

こいつも色々大変なんだな。

 

「イッセー、アリスを部屋まで運んでやってくれ。部屋は分かるだろ?」

 

「え? 俺が? 別にいいけど・・・・・」

 

勝手に部屋に入って、後で怒られないか不安はあるが・・・・・

 

仕方がない。

 

とりあえず、俺はアリスを抱き抱える。

 

 

その瞬間、凄まじいプレッシャーが俺に伝わってきた。

女子部員の方を見ると迫力のある笑みでこちらをじっと見ている。

 

こ、恐い・・・・・・。

 

俺、後で死ぬのかな・・・・・・・。

 

 

「ハハハハハ!! こいつはとんでもねぇ修羅場になりそうだな!」

 

「ま、しっかりやれよ、イッセー! 俺達は見物させてもらうからよ!」

 

うるせぇよ!

おっさん共!

 

あんたら、どれだけ俺をネタにするつもりだ!?

 

 

天武で殴ってやろうか!?

 

『よし、今すぐやってくれ。いつでも準備は出来てる』

 

ほら!

ドライグさんもお怒りだよ!

おっぱいドラゴンをネタにしたから!

 

 

とにかく、俺はアリスを部屋に運ぶべく、この部屋を後にした。

 

 




というわけで、今回はアリスが酔っぱらう話でした!(完全にネタです!)


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12話 約束

「――――ってなわけで、おまえさん達も話は聞いているだろうが、正直言って分からないことだらけだ」

 

 

昼食から数時間後。

 

俺達はモーリスのおっさんから改めてこの世界の現状を聞いていた。

特に新しい情報はなく、ウルムさんやトリムさんから聞いた話とほとんど同じだった。

 

「滅びの神とやらも一度姿を見せてそれっきりだ。奴さんが現れるまではあの白いのを潰していくしかないだろう。完全に後手に回っちまうのは気に入らねぇけどな」

 

おっさんはそう言ってため息をつく。

部長や先生達もむぅ、と唸っていた。

俺も色々考えてはいるけど、これといったアイデアは出てこない。

 

オーディリアはまだ襲撃を受けていないみたいだし、他国はそれぞれの軍を率いてなんとか怪物を殲滅しているという。

 

たまに他国から救援要請も受けるみたいだから、俺達が動くのはその時になるだろう。

 

 

これは、長期滞在になるかも知れないな・・・・・。

 

 

なんてことを考えている俺の隣では一人、空気が違う人物がいた。

 

「・・・・・・私、なんてことを・・・・・・。もう、お酒・・・・・止める・・・・・」

 

今にもズーンという効果音が聞こえそうなくらいに落ち込んでいるアリス。

 

どうやら、酔った時のことを覚えているらしい。

 

 

俺が部屋に運んだ後、ワルキュリアの言った通り、十分くらいで目が覚めたんだけど・・・・・・

その瞬間に全てを思い出したらしく、それからずっとこんな感じだ。

 

 

ま、まあ、俺もあの変貌っぷりには驚いたけどね。

まさか、アリスがあんなエロく迫ってくるなんて思ってもなかったし。

 

だが、しかし!

アリスのおっぱいの感触はしっかり覚えている!

当然、脳内メモリーには自動保存されている!

服の上からも分かるあの柔らかさは最高だった!

 

 

おっと、とりあえず今は慰めてやらないと。

かなり沈んでいるからな。

 

「そんなに落ち込むなって。人間、誰にも失敗はあるだろ?」

 

「でも、皆の前であんな破廉恥なことを・・・・・・」

 

「い、いや、だ、大丈夫だって! 次! 次は気を付けような! うん!」

 

俺としてはもう一度してほしいけどね!

 

 

すると―――

 

 

「・・・・・・あんた、喜んでない?」

 

 

ギクッ!

 

なんでバレた!!?

 

 

「顔がニヤけてる・・・・・」

 

「あ、マジか・・・・・」

 

いかんいかん。

 

アリスのおっぱいの感触を脳内でリピート再生してたから、顔に出ちまったか。

 

「・・・・・私が落ち込んでるのに・・・・・あんたは私の胸の感触でも思い出してるんでしょ・・・・・」

 

 

再び、ギクッ!

 

 

なんで、そこまで分かるの!?

そんなに顔に出てた!?

 

「・・・・・あ、う、うん」

 

「・・・・・感想は?」

 

「最高でした! ありがとうございました!」

 

「もう! このスケベ勇者ぁぁぁぁああああ!!!」

 

 

バキィッ!!

 

 

「ガフッ!」

 

 

アリスの鋭いアッパーで俺は宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセーさん、大丈夫ですか?」

 

「あ、ありがとう、アーシア」

 

 

淡い光が俺の顔に当てられ、傷を癒していく。

アーシアがいてくれて助かった・・・・・・

 

当のアリスはというと顔を腕組みして俺と反対方向を向いている。

うーむ、流石に正直に言い過ぎたかな?

 

耳まで真っ赤になっているのが後ろからでも分かる。

 

 

「とりあえず、これをおまえさん達に渡しておこう」

 

そう言ってモーリスのおっさんから配られたのは魔法陣が描かれた紙だった。

 

これは・・・・・通信用か?

 

「有事の際はおまえさん達の力を借りることになるだろう。その時はそれを使って連絡を入れる。しっかり持っておいてくれ」

 

なるほど。

白いやつが現れたらこれに連絡が来るわけだ。

 

「連絡を受けたら、この城の正門前に集まってくれたらいい。おそらく、転移の門を使うことになる」

 

「転移の門?」

 

先生が興味を引かれたようだ。

 

「転移の門ってのは各国の主要な都市に配備されていてな。有事の際には門を繋いでそこに転移出来るのさ」

 

「それだったら転移魔法陣で転移した方が早いんじゃないか? まぁ、俺達はこの世界には来たばかりで、どこに転移すればいいのか分からんが・・・・・」

 

「それもそうなんだが、この門の利点は一度に大量の物資と人を転移出来ることなのさ。例えばだが、その都市が危険にさらされた場合、その都市の民衆を避難させることが出来るのさ」

 

「そいつは大したもんだ。なぁ、見せてもらっても良いか?」

 

「良いぜ。どうせ、見せることになるしな。イッセーはどうする?」

 

と、おっさんに尋ねられたけど・・・・

 

うーん、どうしようかな?

 

俺は転移の門の場所は知ってるし、何回か使ったこともあるから、態々見に行くほどのものじゃないんだよね。

 

今のところ、何も起きてないようだし、俺達の出番はない。

 

 

あ、そうだ。

それなら――――

 

「俺は町に行くよ。会っておきたいやつもいるからな」

 

そう言うとおっさんは何か察したようだった。

おっさんはニッと笑む。

 

「そうだな。だったらあいつの好物でも買っていくと良い。金は出してやるよ」

 

「助かるよ、おっさん。ありがとう」

 

俺はおっさんが出してくれたお金を受けとりポケットにしまう。

 

「ゆっくりして来るといい。だが、晩飯には戻ってこいよ? ワルキュリアが飯作ってくれてるだろうからな」

 

「分かってるよ」

 

 

俺はあいつに会いに行くとして、美羽達はどうするんだろ?

 

 

「皆はどうする? 俺と行くか?」 

 

「良いの? お兄ちゃん達の邪魔にならない?」

 

「そんなことはないさ。大勢の方があいつも喜ぶだろうからな」

 

 

 

 

 

 

俺はオカ研の皆を連れて王城を出た後、セントラルの城下町を訪れていた。

 

 

「わぁ・・・・・」

 

 

俺の隣で美羽が感嘆の声を漏らす。

 

町には多くの人が行き交っている。

大通りの両端には市場が並んでいて、どこも繁盛している様子だ。

更に言うなら他国からの商人も来ているみたいで、俺がいた頃よりも活気がある。

 

フォレストニウムも凄かったけど、ここは別の意味で凄いところだ。

美羽からすれば初めて見る世界かもな。

 

俺達が住む町でもここまでの人混みは見られない。

 

部長が言う。

 

「凄い人だかりね。今日はお祭りでもあるのかしら?」

 

「ここはいつもこんな感じですよ。でも、前よりも人が増えたかな?」

 

ここは元々、物流が集中する場所だし、国内外を問わずに色々な人が集まってくるんだけど・・・・・

でも、確かに人が多いような気がする。

 

もしかしたら、魔族との和平が成立したからかな?

そうだと嬉しいな。

 

「イッセー先輩、その帽子はとうしたんですか?」

 

小猫ちゃんが俺の頭に乗ってる帽子を指差しながら聞いてきた。

 

「これ? これはモーリスのおっさんから借りたんだよ。俺の顔は結構知られてるからね。大騒ぎになるからって貸してくれたんだ」

 

まぁ、魔法で分からなくしたりする方法もあるんだけど、そこまでするのは面倒だし・・・・・

気を完全に消して認識出来なくする方法もあるけど、そうなると皆からも俺を認識出来なくなるからね。

 

バレたらその時は何とかするよ。

 

「それで、イッセー君はどこに行く予定なのですか?」

 

「とりあえず、俺がよく買い食いしてた店に行きます。これから会うやつは、そこのパイが好物だったので」

 

広場についた俺は町の地図を確認して、目的の場所を探す。

 

えーと、確かあの店は・・・・・

 

お、あったあった。

良かった、まだ店はあるみたいだ。

 

「店の場所を確認できたんで、行きま――――」

 

 

「ここにいたのですね、イッセー」

 

 

突然、後ろから声をかけられた。

聞き覚えのある声だ。

 

振り返るとそこにいたのは淡い緑色の髪を後ろで束ねた長身の女性。

歳は俺より少し上くらい。

服装はノースリーブの白いワンピースで、スラッとした白い四肢を覗かせている。

 

 

「もしかして、リーシャか?」

 

「ええ、そうですよ。久しぶりですね、イッセー」

 

やっぱり!

 

彼女の名前はリーシャ・クレアス。

歳は俺よりも四つ上。

旅の仲間で、俺やアリスのお姉さん的な存在の人だ!

 

「会えてうれしいよ。おっさんから聞いたぜ。教官をしてるんだってな」

 

「はい。と言っても今年からなので新米なんですけどね」

 

「それでも凄いじゃないか。おめでとう、リーシャ」

 

「ありがとうございます。イッセーも一層逞しくなりましたね。――――さぁ、こちらに」

 

と両手を広げるリーシャ。

 

そうだった・・・・・。

この人は仲のいい人には直ぐハグする癖があるんだった。

何でかはアリス達にも分からないんだけど、昔からこうらしい。

 

皆の視線が恐いところだけど・・・・・

 

俺はリーシャとの距離を詰めて背中に手を回す。

リーシャも俺の背中に手を回してきた。

 

「本当に逞しくなりましたね。出会った頃とは大違いです」

 

まぁ、修行しまくったからね。

 

それよりも、リーシャの豊かな胸が当たって・・・・・。

しかも、大人のお姉さんの良い香りがする。

アリスとはまた違った香りだ。

たまらんね!

 

 

 

「「「「・・・・・・・・・・・」」」」

 

 

・・・・・・うん、皆の視線が恐い。

 

ロスヴァイセさんだけは周りの店に興味を持っていかれてるみたいだけど・・・・・。

 

 

「そちらの方々はイッセーの・・・・?」

 

「元の世界から連れてきた俺の仲間さ」

 

「そうですか。それなら、挨拶をしておかないといけませんね。はじめまして、私の名前はリーシャ・クレアス。気軽にリーシャと呼んでください」

 

リーシャは丁寧にお辞儀をする。

 

それに応じて皆も名乗っていく。

 

皆の紹介が終わったところでリーシャが尋ねてきた。

 

「それで、イッセーはどちらに?」

 

「『山猫食堂』に行くんだけど、その前に土産を買っていこうと思ってね」

 

「なるほど。あそこのお店に行くのですね。それなら、私もご一緒してもよろしいですか? 私もここの所は忙しくて、機会がないのです」

 

「もちろん。それじゃあ、行こうか」

 

 

 

 

 

 

リーシャと再会した俺達は俺がよく買い食いをしていた店で人数分のパイを購入した後、目的の店を訪れた。

 

店の看板には『山猫食堂』という店の名前と猫の絵が描かれていて、外観は古びた印象を受ける。

 

「ここに来るのは私も久しぶりですね。イッセーほどではありませんが」

 

「最後に来たのはいつくらいなんだ?」

 

「そうですね・・・・・・三ヶ月ぶりでしょうか」

 

三ヶ月か。

 

あまり時間が取れないって言ってたしな。

魔法学校の教官も大変だ。

 

歩きながら聞いた話だと、リーシャは主に回復魔法の指導に当たっているらしい。

旅の間に培った技術を次の世代に伝えていくことにやりがいを感じているとのことだ。

 

リーシャは戦闘もこなせるから、たまに残業で戦闘訓練を見ることもあるみたいだけどね。

 

部長が尋ねてくる。

 

「ねぇ、イッセー。ここに会いたい人が? でも、準備中みたいよ?」

 

部長の言う通り、確かにドアには『準備中』の札が張られてある。

 

まぁ、昼飯時はとっくに過ぎてるし、仕方がないのかな?

 

「大丈夫ですよ。とりあえず入りましょう」

 

 

店内に入ると、そこにあったのは小さなフロア。

木目の床にところ狭しと並んだテーブル。

 

石造りの壁にはポスターや貼紙が貼られてある。

天井には巨大なシーリングファンがあって、店内の空気を循環させている。

 

この店は俺がこっちにいた頃、よくモーリスのおっさん達に連れてこられた店だ。

アリスやニーナもお忍びでよく来てたっけ。

あいつら、城から勝手に抜け出した時はワルキュリアに説教されてたのをよく覚えてるよ。

 

 

「誰もいないよ? 勝手に入って大丈夫だったの?」

 

美羽に言われてぐるっと店内を見渡す。

確かに誰もいない。

 

この時間帯ならいると思ったんだけど・・・・・・。

 

「おーい居ないのかよ、おばちゃーん」

 

少し大きめの声で呼び掛けてみる。

 

すると

 

「はいはーい、どなた~?」

 

厨房の奥から、女性の声が返ってきた。

 

なんだ、いるじゃん。

 

「表に札をかけ忘れたかしら? ごめんなさいね、今準備中なの~。もう少ししてから来てくれる~?」

 

あらら・・・・・

俺の声に気づいてないよ。

 

「エルニダさん。私です。リーシャです」

 

とリーシャが言うと、厨房から女性が現れた。

 

「あら~、リーシャちゃん? 久しぶりじゃないの。最近、めっきり来なくなってたから心配してた――――えっ?」

 

現れた女性は俺の姿を視界に捉えた瞬間に固まった。

 

そして、その表情は驚きのものから喜びの笑みへと変わっていった。

 

「あら・・・・・イッセーじゃないの!」

 

エプロンで手を拭きながらおばちゃんは慌てて近寄ってきた。

 

俺も笑みを返す。

 

「久しぶり、おばちゃん。元気にしてたか?」

 

「勿論よ、って来るなら来るで連絡しなさいよ! 分かってたら色々、料理つくって待ってたのに!」

 

おいおい・・・・・

早速無茶言ってくれるよ、この人。

 

「俺、昨日戻ってきたばっかりなんだぜ? しかも、いたのはゲイルペインだ。こっちに来たのも今日の昼頃だよ」

 

「そうなの? でも、昨日モーリスが来たけど、何も言ってこなかったわよ? あ、もしかして、ご機嫌だったのはこれが理由?」

 

あのおっさん・・・・・・・・

 

「それにしても、可愛い娘ばっかり連れて・・・・・アリス様が怒ってたんじゃないの?」

 

「別に・・・・・。いや、着替え覗いたら殴られたか・・・・」

 

「あんたも相変わらずだねぇ」

 

嘆息するおばちゃん。

 

確かに今でもスケベだけど、あれはモーリスのおっさんのせいでもあるし!

それに、あんな所で着替えるアリスにも問題があると思うんだ!

 

「まぁ、適当に座んなさいよ。おやつでも作ってあげるから」

 

「ありがとう。あ、俺、あいつに会いに来たんだけど、良い? ほら、あいつの好物も買ってきてるんだ」

 

と、手に下げている袋を見せる。

中にはパイがいくつか入っている。

 

それを見たおばちゃんは目を細めた。

 

「そうかい・・・・すまないねぇ。ゆっくり話してきな」

 

「ありがとう」

 

そう言って、厨房の横を通って店の裏口へと歩いていった。

皆も俺の後をついてくる。

 

裏口のドアを開けると、そこにはやや大きい中庭があって、家庭菜園が広がっていた。

何種類かの野菜を育てているようで、中には大きな実を付けているものもある。

 

「イッセー君、ここに会いたい人がいるのかい? 誰もいないけど・・・・・」

 

木場が怪訝な表情で尋ねてきた。

 

まぁ、事情を知らなかったらそう言う反応になるよな。

俺は苦笑しながら歩を進める。

 

そして、辿り着いたのは庭の隅。

 

「これは・・・・・お墓?」

 

そこにあるのは小さな墓石。

その墓石には文字が刻まれてある。

 

皆が怪訝な表情をする中、美羽が声を漏らした。

 

「ライト・・・・・・もしかして・・・・・」

 

 

「「「「「っ!!」」」」」

 

 

美羽の漏らした一言に皆も目を見開いた。

どうやら、ここが何なのか理解したようだ。

 

リーシャが皆に説明する。

 

「ここはイッセーの先代の勇者、ライト・オーヴィルの実家なのです。そして、その墓石はライトのもの。先程の方はエルニダ・オーヴィル、ライトの母親です」

 

 

リーシャの言う通り、この墓は俺を庇って死んだ俺の親友ライトの墓だ。

 

俺は墓石の前に座り、語りかけた。

 

「久しぶりに会いに来たぜ、ライト。ほれ、おまえの好物もこの通りな」

 

袋からパイを取り出して、墓石に備える。

こいつはこれが本当に好きだったからなぁ。

二人でよく食べたよな。

 

 

・・・・・・ここに来る度に思い出す。

 

ライトが俺を庇って死んだ日の事を。

 

魔族に斬られて倒れていく姿。

ライトの体から流れ出ていく赤い血。

 

今でも鮮明に覚えてる。

 

俺の軽率な行動が親友を殺した。

今でもそう思っている。

その後悔の念はいつまで経っても消えることはない。

 

 

だけど、ライトの最後の言葉。

倒れゆく中、俺に発した最後の言葉もしっかりと覚えてるんだ。

 

 

『皆を頼む』

 

 

その言葉は俺に刻み込まれた。

親友との最後の約束。

絶対に破ってはいけない約束だ。

 

だから、神層階まで行って無茶苦茶修行して、皆を守れるくらいの力を手に入れた。

 

そして、俺はなんとか戦争を終わらせることに成功した。

 

 

でも、再びこの世界に危機が迫っている。

俺はこいつとの約束を守らないといけないんだ。

 

 

俺は墓石に拳を当てる。

 

「ライト。俺はおまえの分まで力を振るう。皆を絶対に守ってみせる」

 

 

――――おまえがくれたこの命。皆のために使ってみせるぜ。

 

 

俺は立ち上がり、皆の方を向いた。

 

「ここに皆を連れてきたのは皆に俺の覚悟とお願いを聞いてもらいたいからだ」

 

「覚悟とお願い・・・・?」

 

その言葉に頷く。

 

「皆も話を聞いてなんとなく理解しているはずだ。今回の敵はおそらくロキよりも強大な力を有している。そんな危険な奴が俺達の敵だ。・・・・・今回の任務はあくまで調査。危なくなったら元の世界に帰ることになっている。だけど、俺にはそんなことは出来ない。何がなんでも、そいつを倒す。そのつもりで俺はここに来た」

 

皆は俺の話を黙ったまま静かに聞き続ける。

 

「だけど、俺だけじゃどうにもならないこともあるだろう。だから、その時は皆の力を貸してほしい。頼む!」

 

俺はそう言って皆に頭を下げた。

 

 

「「「「「もちろんっ!!」」」」」

 

 

俺が頭を上げると皆は強い瞳で俺を見ていた。

もうそれ以上何も言わなくてもいいと言った目だ。

 

どうやら、既に俺の覚悟は皆に伝わっていたらしい。

 

だったら俺の言うことは一言でいい!

 

「ありがとう!」

 

俺達のこの光景を見て、リーシャとおばちゃんが微笑む。

 

「イッセーは元の世界でも良い仲間を持ったみたいですね」

 

「そうだねぇ。イッセーはスケベなのに何故か人徳ってもんがある」

 

スケベなのは言わないで!

これは死んでも治らないから!

 

 

と、美羽がおばちゃんのところに歩いていく。

 

どこか緊張した様子だ。

 

「あ、あの! ボ、ボクは・・・・・ッ!」

 

自分の正体を明かそうとしたのだろう。

自分はあなたの家族を殺した魔族の一族だと。

 

だけど、おばちゃんは美羽の言葉を阻み、そのまま抱き締めた。

 

「良いんだよ、分かってる。何も言わなくて良い。これでも王国騎士団長とも繋がりがあるんでね。あんたのことは直ぐに分かったよ」

 

「っ! だったら、どうして――――」

 

「私もこれまで色々な人と出会ってきた。まぁ、モーリス達ほどじゃないけどね。そいつがどんな奴かは目を見ればすぐに分かるのさ。・・・・・・あんたは優しい目をしていたからねぇ。それも一目見たら分かるくらいに」

 

「それでも、ボクはあなたの・・・・・」

 

美羽が何かを言おうとするとおばちゃんは首を振った。

 

「確かに戦争で私は夫も息子も失った。だけど、家族を失ったのはあんたも同じだろう? もしかしたら、うちの息子もあんたの大切な人を殺めたかもしれない。人だろうが魔族だろうが、人を亡くすのは辛いことさ」

 

「・・・・・・・・」

 

「戦争も終わって和平が結ばれ、ようやく平和になった。今の私達がしなきゃいけないのは過去の因縁をどうこう言うよりも、この平和を守り続けることさ。死んでいった私の息子やあんたの父親のためにもね」

 

「・・・・・・・・・っ」

 

美羽の瞳から涙が溢れる。

感情が押さえきれなくなったんだろう。

 

おばちゃんは美羽の頭を撫でながら続ける。

 

「あんたは何も言わず、イッセーの隣で歩いていけば良い。あの子はスケベだけど優しい子だからね」

 

「はいっ」

 

美羽は流れる涙を拭って

 

「ボクはイッセーと一緒にいます。イッセーを信じてこれからもずっと」

 

「それでいい。・・・・イッセー、この子を泣かせたら私が承知しないよ」

 

「泣かせねぇよ。それも誓ったことだからな」

 

 

 

 




次回くらいで先に進めるつもりです。


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13話 敵襲

俺達がオーディリアを訪れてから数日が経った。

 

今のところ俺達に出動の要請はない。

俺達がしていたことと言えば、文献を読むか、実際に襲撃を受けた地域を調査したくらいだ。

 

アザゼル先生曰く、あの白い怪物の襲撃を受けたところにはともかく、滅びの神から直接被害を受けたゼムリアの土地には一ヶ月経った今でも力の残滓が残っていたらしい。

今も用意された部屋に籠って解析を行っているみたいだ。

 

つーか、解析の道具なんて持ってきてたのかよ。

用意がいい人だ。

 

 

まぁ、今のところはこんな感じだ。

 

 

俺はというと・・・・・

 

「イッセー、こっちの資料もお願い」

 

「お兄さん、これもよろしくね」

 

アリスとニーナに渡されて山積みになっていく資料の束。

 

なぜか、俺はアリスの仕事の手伝いをさせられていた。

 

・・・・・・何でこんなことに?

 

 

「だって、調べても出てこないものはしょうがないでしょ? それだったら目の前の仕事を片付けた方が良いじゃない」

 

その理屈は良いとして、なんで俺が手伝わされてるんだよ?

 

これ、おまえの仕事だろ。

しかも、なんでこんなに多いんだよ!

絶対におかしいよ!

 

少しは遠慮しようぜ!

 

「なぁ、なんでこんなに多いんだよ?」

 

「それはお姉ちゃんがサボってたから!」

 

ニーナが屈託のない笑顔でとんでもないことを言ってきやがった!

 

そのサボりのせいでこんなことに!?

ふざけんな!

絶対に一日じゃ終わらないだろ、この量!

 

誰か俺をここから解放してくれぇ!

頼む!

三百円あげるから!

 

 

コンコン

 

 

「どーぞ」

 

部屋がノックされ、アリスがそれに応じる。

 

入ってきたのはモーリスのおっさんだった。

 

「お、ここにいたか、イッセー・・・・・・ってなんか大変そうだな」

 

憐れみの目で見てくる!

 

同情はいらないから、助けてよ!

 

「それで、どうしたのよ?」

 

「あー、そうだった。おい、イッセー。おまえが連れてきた仲間の中に金髪の坊主と青髪の嬢ちゃんがいただろ。あの二人がどこにいるか分かるか?」

 

木場とゼノヴィアのことか。

金髪の坊主はギャスパーもだけど、おっさんがあいつに用があるのは考えにくいしな・・・・・

 

「その二人がどうしたんだよ?」

 

「あの二人は剣士なんだろ? それだったら俺が鍛えてやろうと思ってな。あの二人、今の実力はそこそこだが、この先伸びるだろうからな。この間、二人の動きを見ていたが見込みはある」

 

あー、なるほどね。

 

確かに木場とゼノヴィアはこの城の中庭で修行してたっけ。

そこをおっさんが見掛けたわけだ。

 

「了解だ。少し待ってくれ。呼び出してみるから」

 

おっさんからの修行か・・・・・

俺も受けたことある。

 

あの二人にはおっさんがどう映るんだろうな。

 

俺は通信用魔法陣を展開して木場とゼノヴィアに連絡を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

二人と合流した俺達は騎士団が激しめの稽古を行う時に使う専用の広場に来ていた。

 

「まさか、こっちの世界で最高峰の剣士から修行をつけてもらえるなんてね」

 

「ああ。イッセーと旅をした仲間の実力。存分に味わいたいものだな」

 

モーリスのおっさんから指導を受けれると聞いて、木場もゼノヴィアもやる気満々だな。

二人とも聖魔剣とデュランダルを出している状態だ。

 

ちなみにだけど、部員の皆やティア、それに部屋に籠っていた先生もおっさんの力には興味があるみたいで、この広場に集まっている。

 

 

広場の向こうから両腰に剣を携えたおっさんが歩いてくる。

 

「あー、すまんすまん。待たせたな」

 

「えらく時間かかってたけど、何してたんだ?」

 

「便所に行ってたのさ。この歳になるとどーもキレが悪くてな」

 

聞くんじゃなかった・・・・・。

 

つーか、あんたそんなに歳いってないだろ。

まだ、五十前だったよな?

 

「さて、祐斗とゼノヴィアだったな」

 

「はい、今日はよろしくお願いします」

 

木場がおっさんに頭を下げる。

 

「イッセーから話は聞いたと思うが、全力でこいよ? そうじゃねぇと修行にならんからな」

 

「もちろんです」

 

おっさんの言葉に不敵に笑う木場とゼノヴィア。

 

二人は共に剣を構えて、おっさんとの間合いをジリジリと詰める。

 

だけど、おっさんは剣を抜く気配はない。

 

その状況に俺と先生、ティアの三人以外は怪訝な表情をしている。

 

部長が尋ねてきた。

 

「あの人は何故、剣を抜かないの? 確かにあの人が相当な実力を持っているのは佇まいで分かるのだけれど・・・・・剣を抜かずに祐斗とゼノヴィアを同時に相手にするのは・・・・・」

 

まぁ、部長の言いたいことは分かるよ。

確かに木場とゼノヴィアは強い。

 

だけど――――

 

俺が答えようとすると、先にティアが部長に言った。

 

「その様子ではまだまだのようだな、リアス・グレモリー。感じないのか? この威圧感。あの男から放たれる歴戦の強者の気迫を。現にあの二人はその気迫に押されて動けなくなっているだろう?」

 

「っ!」

 

ティアに言われて部長も気づいたのだろう。

 

剣を握って、戦闘体勢に入っているはずの木場とゼノヴィアが未だに攻撃を仕掛けないことに。

特に木場はそのスピードを活かして相手を撹乱する戦法を得意としている。

なのに、その場から動けていない。

 

おっさんがニッと笑む。

 

「よーく見ておけよ。これが『剣気』ってやつだ。本当に強い剣士ってのは剣を抜かずとも相手を圧倒できるのさ。おまえらも剣士の端くれなら覚えておくといい」

 

おっさんはゆったりした動作で木場達と向かい合うだけ。

それだけなのに木場とゼノヴィアはそれに押されて、僅かに後ずさる。

その頬には汗が流れていた。

 

「そら、かかってきな。じゃねぇと修行にはならんぞ?」

 

「っ! ・・・・・いきますっ!」

 

木場とゼノヴィアは地面を蹴っておっさんに突撃する。

 

二人とも、いきなりトップスピードだ!

ゼノヴィアが真正面から斬りかかり、木場が背後に回り込む!

 

二人に挟み込まれたおっさんはただただ笑みを浮かべながらゆったりしている。

そして、ゼノヴィアのデュランダルと木場の聖魔剣。

二人の剣がおっさんに触れようとした瞬間――――――――

 

 

ガキィィィィィィィィィンッ!!!!

 

 

 

「っ!? いつの間に・・・・!」

 

二人の剣はいつの間にか抜刀していたおっさんの剣によって受け止められていた。

 

木場が目を見開き驚愕していた。

木場の眼でもいつ剣を抜いたのか分からなかったらしい。

 

二人は戸惑いながらも、一瞬だけ距離を取り、再びおっさんに斬りかかっていく!

 

木場のスピードとゼノヴィアのパワー。

二人のコンビネーションによる剣戟が次々と繰り広げられていく。

 

だけど、おっさんは余裕の表情で全ての剣戟を受け止めていた。

 

「デュランダルと聖魔剣の攻撃を受けきるなんて・・・・。あの剣は特別なものなの? これといった力は感じないのだけど・・・・」

 

「おっさんの剣はよく斬れること以外は至って普通の剣ですよ」

 

「まさかっ!?」

 

驚く部長。

 

まぁ、普通は驚くよね。

大丈夫ですよ、部長。

その反応が普通です。

 

おかしいのはあのおっさんです。

 

 

「木場! 下がれ!」

 

 

ゼノヴィアがそう叫ぶと、おっさんと攻め合っていた木場が横に飛び退く。

 

その瞬間を狙って、ゼノヴィアがデュランダルによる聖なるオーラを飛ばした!

放たれたオーラは地面を深く抉りながら、おっさんに迫る!

 

いくらおっさんでもあれをまともに受けてしまえば確実にやられる!

 

「おうおう、元気の良い攻撃じゃねぇの」

 

おっさんはまだ笑みを浮かべてる。

 

そして、一本の剣を地面に突き刺し、もう片方の剣を鞘に納めた。

 

 

 

 

「切り裂け――――断風」

 

 

 

 

キンッ

 

 

 

その金属音が鳴った瞬間――――

 

 

 

聖なるオーラは真っ二つに切り裂かれた。

 

 

ドドォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

斬り裂かれた聖なるオーラはおっさんの横を通り過ぎ、おっさんの遙か後方で弾けた。

 

予想外のことにゼノヴィアは固まり、木場も足を止めていた。

 

「なんだ・・・・今のは・・・」

 

戦いながらチャージしておいたオーラの砲撃がこうも容易く防がれた。

しかも、相手の剣は魔剣でも聖剣でも、ましてや神剣でもない。

ごく普通の剣だ。

 

 

今、おっさんがしたのは抜刀の際に生み出した衝撃波で斬り裂いた。

ただそれだけだ。

 

だけど、それを普通の剣でやる。

これが出来るのはおっさんの卓越した技量があってこそ。

 

俺には絶対に真似できない。

俺がしたら、剣が壊れてそれどころじゃなくなるだろうからな。

 

以前、おっさんにもっと良い剣を使ったらどうか、と言ったことがあるんだ。

 

どうやら、あの剣は死んだ父親に託されたものらしいんだ。

だから、それ以外の剣を使おうとはしないんだよね。

 

 

どっちにしろ、おっさんが無茶苦茶なのは変わらないけどね・・・・

 

「おい、イッセー。俺のこと無茶苦茶だとか思っただろ?」

 

なんで分かった!?

 

「俺からすりゃ、おまえの方が無茶苦茶だよ。あのシリウスを倒しやがったんだからな」

 

あんた、今の自分を見てから言えよ!

 

よそ見しながら二人の剣を受けてる時点で色々おかしいからね!

よく剣が折れないな!

 

「・・・・・・イッセー先輩が色々おかしい理由が分かった気がします」

 

おっさんで納得しないで、小猫ちゃん!

 

 

その後もおっさんの剣術指導は続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・。まさか、ここまでとは・・・・」

 

「そうだね・・・・。想像を遙かに越えていたよ」

 

 

地面に大の字になって寝転がる木場とゼノヴィア。

 

二人とも呼吸を荒くしてヘトヘトになってる。

それに対して一人で二人を相手にしていたおっさんは涼しい顔をしていた。

 

 

おっさんが笑いながら二人に水を渡す。

 

「いやいや、おまえ達も中々に筋が良いぜ。うちの騎士団に欲しいくらいさ。どうだ、うちに来ないか? ビシバシ鍛えてやるよ」

 

おっさんが二人を勧誘しだしたよ。

まぁ、確かにおっさんが鍛えたら二人はハイスピードで強くなるだろうな。

 

「あははは・・・・・・。そう言っていただけるのは光栄ですが、僕達には仕える主がいるので」

 

「そうかい。そりゃ残念だ。だが、しばらくはここにいるんだろう? その間は俺が相手をしてやることも出来るが・・・・・それなら、どうだ?」

 

「是非、お願いします」

 

そう言っておっさんと握手を交わす木場とゼノヴィア。

 

 

うーむ、二人がおっさんから修行を受けるなら、俺もうかうかしてられないな・・・・・。

 

 

そうしていると、向こうの方から一人の兵士が走ってくる。

どこか慌てた様子だ。

 

 

「モーリス騎士団長! 大変です! オーベル地区に奴らが現れました!」

 

 

その知らせに戦慄が走った。

 

どうやら、このオーディリアにも怪物共が現れたようだ。

 

 

 

―――――事態は動き出す。

 

 

 

 

 

 

 




話があまり進まなくて申し訳ないです!

ですが、次回は一気に話を進める予定なので、お待ちください!


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14話 滅びとの邂逅

遂に!
遂に100話達成!

ここまで応援してくれた方々に感謝です!
ありがとうございます!

投稿開始から約半年。
結構なハイペースできたような気がします。


その知らせは突然だった。

 

このオーディリアに奴らが現れた。

 

報告を受けた俺達はモーリスのおっさんの指揮で集められた兵士の人達と共に城の正門近くにある『転移の門』の前に集まっていた。

 

おっさんが前に立ち、兵士に伝える。

 

「先程、オーベル地区に奴らが現れたという情報が入った。この国に現れたのは今回が初めてとなる。が、奴らのことはこの場の全員が知っているはずだ。絶対に気を抜くんじゃねぇぞ。いいな!」

 

『はいっ!』

 

「よし! それじゃあ、部隊は大きく二つに分ける。一つはイッセー達と現地へ向かう部隊。もう一つは俺と共にここに残り、もしもの事態に備える部隊だ。今のところはオーベル地区しか知らせは受けていない。だが、奴らは神出鬼没だ。どこに現れるかは分からんからな」

 

確かにそれがいいだろう。

 

一応、俺と行く部隊には部員の皆だけじゃなく、先生やティアまでいる。

 

あの白い怪物を相手取る戦力としては十分だろう。

 

あとは住民の避難と安全の確保を兵士の人達にやってもらえれば問題ないはずだ。

 

「イッセーと行くのはトリムの部隊だ。頼めるか?」

 

「了解しました。騎士の誇りにかけても必ず民を守ってみせます」

 

トリムさんの言葉におっさんは頷いた。

 

 

ブゥゥゥウン

 

 

その音と共に石で作られた巨大な門が虹色に輝きだす。

転移の準備が出来たんだ。

 

この転移の門は非常時にしか使用許可が下りない。

今回はそれだけの事態ってことだな。

 

ちなみにだけど、使用許可を出すのはこの国のトップを勤めているアリスだ。

あんな感じだけど一応は王女だからな。

 

 

トリムさんの部隊に続き、皆が門を潜っていく。

 

最後に俺が潜ろうとするとアリスが近付いてきた。

 

「イッセー、気を付けてね」

 

なんか、不安そうな顔してるな。

らしくもない。

 

「分かってるよ。こっちは任せとけ」

 

俺は笑ってそう答えると門を潜り、虹色の光に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

転移の光に包まれた後。

 

目を開くと広がっていたのは見覚えのある風景だった。

 

オーディリアの南部に位置する都市、オーベル。

城下町のあるセントラルほどではないけど、ここも大きな町の一つだ。

海に面しているため、貿易船が多く停泊している。

旅の途中でも何度か寄ったことがある町だ。

 

いつもならセントラルの城下町みたいに人がたくさんいて賑わっているんだけど・・・・・・

 

人の気配が少ない。

既に避難しているのか?

 

 

 

ドオォォォォォォォン!!!

 

 

 

遠くの方から爆発音が聞こえた!

聞こえてきた方を見てみると黒い煙が上がっている!

 

もしや、と思った俺は感覚を広げてそこの気を探る。

 

この気は・・・・・・!

 

「奴らだ! 皆、行こう! トリムさん達は逃げ遅れた人の救助に当たってください!」

 

「了解です! イッセー殿、どうかお気をつけて!」

 

俺達はそこで分かれて、現場まで走った。

そこに行くまでに逃げる町の人達とすれ違う。

 

走ること数分。

現場に辿り着くと、そこにはあの白い怪物が二十体以上もいやがった!

 

ちっ・・・・!

まさか、こんなに多くいるなんてな!

 

それにしても、どうやってこんなに入り込んだんだ・・・・?

しかも、こんな町の中心近くまで・・・・・。

 

 

まぁ、考えるのは後回しだ!

今はこいつらを潰すのが先決か!

 

俺は瞬時に鎧を纏う!

 

「周囲には人の気配はない! 皆は全力で応戦してくれ!」

 

「「「了解!!」」」

 

前回、フォレストニウムでやり合った時のように俺と先生、ティアの三人は一人で、部長達はチームを組んで怪物共に殴りかかる!

 

 

いくぜ、ドライグ!

こいつらのしぶとさは前回で学習済みだならな!

 

『ああ。生半可な攻撃ではこいつらは倒れない。全力でやれ』

 

まぁ、美羽や部長達を巻き込まないように注意はするけどな!

 

スパークが生じると共に鎧の形状が変化する。

今回は格闘戦でいくぜ!

 

「禁手第二階層――――天武!!!」

 

全身にブースターが増設され、格闘戦に特化した形状になった!

 

前回は天撃でいかせてもらったけど、天武ならどうよ!

 

『Accell Booster!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

全身のブースターからオーラが噴出されて、怪物のとの距離を一気に詰める!

 

形はドラゴンみたいだな。

手が十本あって蜘蛛みたいだけど。

 

まぁ、それは良いとして、怪物もこのスピードには反応しきれていない!

 

 

「おおおおおおおおっ!!」

 

 

ドゴォォォォォォォン!!!!

 

 

渾身のストレートが怪物の顔面を捉えて遥か彼方まで吹き飛ばす!

普通ならこれで決まってるだろうけと、こいつらのしぶとさは並みじゃねぇからな。

 

俺は怪物を追いかけて更に追撃を仕掛ける!

 

怪物の真上を飛び、地面をバウンドして宙に浮いたところを叩きつけた!

 

籠手の力と錬環勁気功で高めた気を纏った拳での一撃。

この強烈な一撃をまともに食らった怪物は体を四散させた!

更には拳の余波で地面が大きく抉れて周囲を吹き飛ばしていく!

 

町の人達、ゴメン!

いくつか家が吹き飛んだ!

 

 

「おい、イッセー! もっと静かにやりやがれ!! っと、危ねぇな、この野郎!!」

 

 

先生は迫る怪物の炎をかわして、光の槍をぶん投げていた。

 

槍は怪物に突き刺さるとそのまま地面に巨大なクレーターを作り出した!

 

・・・・・ってあんたも人のこと言えないでしょうが!

 

「祐斗は聖魔剣で奴らを足止めして! 美羽とロスヴァイセはその隙に魔法で砲撃よ! 私と朱乃も続くわ!」

 

部長の指示に応じて、木場が怪物数体の足元に大量の聖魔剣を作り出す。

 

地面から咲いた聖魔剣は怪物共の足や胴体に突き刺さり、足止めに成功する!

 

そこへ、上空で幾重にも魔法陣を展開して待機していた美羽とロスヴァイセさんが極大な魔法のフルバーストを放った!

見てるだけで寒気がするほどの威力を持った砲撃だ!

 

それらは木場によって足止めされていた怪物共を一瞬で塵にしていった!

 

「流石です、美羽さん」

 

「ロスヴァイセさんの力があったからだよ」

 

それを確認した美羽とロスヴァイセさんは上空でハイタッチしていた。

魔法使いのコンビか。

二人とも相当の使い手だからとんでもないな!

 

と二人に感心していると地上では部長と朱乃さんのお姉様コンビが紅いオーラと黄金のオーラを纏っていた。

 

「朱乃!」

 

「了解ですわ!」

 

二人のオーラは膨れ上がり、それぞれ何かを形作っていく。

 

あれはドラゴンか?

 

部長の方は西洋のドラゴンで、朱乃さんの方は東洋の細長いタイプのドラゴンだ。

 

部長が笑む。

 

「こっちに来てから、なんだか力が溢れてくるの。だからこんなのも出来るようになったわ。――――滅びの滅龍(ルイン・エクスティンクト・ドラゴン)とでも名付けようかしら」

 

「あらあら。実は私もですわ。ーーーー雷光龍。うふふふ。ドラゴンの形になったのはイッセー君の影響かしら?」

 

おおっ!

なんだか知らないけど二人ともパワーアップしてる!

しかも、滅びの力と雷光をドラゴンの形に出来るのか!

めちゃくちゃ強そうだ!

 

「さぁ、消し飛ばしなさい!」

 

部長がドラゴンに指示をだす。

すると、滅びの力で形成されたドラゴンは意思を持ったかのように怪物に襲いかかった!

怪物に噛みつくと、その部分が跡形もなく消えていく!

かなり強力だ!

 

あれだけ濃密な滅びのオーラを形に出来るようになっていたのか。

あれじゃあ、大抵のものは触れただけで無くなっちまうな!

 

「続きます!」

 

朱乃さんも部長に続いて、雷光の龍を走らせた!

 

雷光の龍はその長い体で二体の怪物に巻き付いた!

すると―――

 

 

ガガガガガガガガガガッ!!!

 

 

雷光が煌めき、怪物の体を焦がしていった!

しかも、巻き付いている限りその攻撃は続くようで、怪物の足を完全に止めていた!

 

「うふふふふふ! どうかしら私の電撃は? おいたをする子にはまだまだいきますわ!」

 

笑顔で雷光の出力を上げていく朱乃さん!

 

怖ぇぇぇええええ!!!

 

なんかSの方もパワーアップしてませんか!?

こんな状況なのに楽しそうですね!

 

 

 

にしても部長と朱乃さんはいつの間にここまで力を上げたんだ?

 

・・・・・そういえば、さっき部長がこの世界に来てからとか言ってたな。

 

もしかしたら、この世界に来たことで体に何らかの変化が起きた・・・・・?

 

いや、でも、モーリスのおっさんとやり合ってた木場とゼノヴィアにはそんなところは見られなかった。

 

力が伸びる人とそうでない人がいるのか?

いや、個人差ってのも考えられるか・・・・?

 

『もしかしたら、相棒の第二階層もこの世界に来たことが関係しているのかもしれんな』

 

第二階層が?

 

『ああ。以前にも言ったことがあるだろう? このような進化を遂げたのは相棒だけだ。相棒の強い想いに神器が応えたのは間違いないだろう。だが、この世界に来たことも一つの要因なのではないかと思ったのだ』

 

でも、俺が第二階層に至ったのはこっちに飛ばされてから三年も後だぞ?

 

部長や朱乃さんみたいに数日でのパワーアップなんて無かったぞ。

 

『そもそも、こっちに来てから一年経つまでは神器にすら目覚めてなかったではないか。禁手に至ったのもそれから二年後だ。それに』

 

それに?

 

『相棒も先程考えていただろう。個人差なのかもしれん』

 

おいおい・・・・・

それはそれで傷つくな。

 

俺のパワーアップ、遅すぎだろ・・・・・。

 

『相棒らしいではないか』

 

うっ・・・・

そう言われるとそうかもしれないな・・・・・・・

 

 

ま、まぁ、この状況で部長達がパワーアップしてくれているのは嬉しい誤算だ。

もしかしたら、木場達も後でパワーアップする可能性もあるわけだし、期待してその時を待つとしよう。

 

 

仮にそうだとしたら、木場も第二階層みたいな感じになるのかな?

すごく気になる。

 

 

グワァァァァアアアア!!!!

 

 

おっと、もう一体来やがったな。

 

俺は突っ込んできた一つ目の人みたいな怪物の腕を掴んで、背負い投げの要領で上空に放り投げた!

 

怪物は飛べないらしく、空中では身動きが取れないようだ。

 

これならあいつを狙い撃ち出来る!

右手を付出して、落下してくる怪物に照準を合わせる!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

「狙い撃つぜぇぇええええ!」

 

 

放たれる極大の気の奔流!

 

天武の状態で放つアグニだ!

威力は半端じゃねぇぞ!

 

俺が放った極大のアグニは怪物を一瞬で消し飛ばし、そのまま天を貫いていった!

 

 

ふぅ・・・・・・

 

 

流石のあいつらでもこのレベルの攻撃なら一瞬で片がつくか。

 

 

ドドドォォォォォォォォンンン!!!

 

 

鳴り響く轟音。

 

そちらを見てみると離れたところでティアが凄まじいオーラを纏いながら怪物共を蹴散らしていた。

 

「貴様らごときがこのティアマットに敵うと思ったか!」

 

流石は最強の龍王。

 

前回は力を抑えていたから、少し手こずっていたけど、制限無しの今ならこの程度は余裕みたいだ。

 

「今回は貴様らで憂さ晴らしさせてもらうぞ! 最近はイッセーと触れ合う機会が少なくてイライラしてたところなんだ!」

 

うおおぅ!?

 

何言ってるの、あの人!?

 

確かに、最近はアリスやニーナとばかり話しててティアと話すことが少なかったけどさ!

 

そんなにストレス溜まってましたか!?

俺と触れ合わないとイライラするんですか!?

ティアってそんな性格だったっけ!?

 

なんか、ゴメン!

今度からしっかりティアと話す時間を確保するよ!

 

 

「・・・・・なんか、凄いことになってるね」

 

木場が苦笑しながらティアの方を見ていた。

 

うん、そうだね・・・・・

あのペースだとティアがこの町を破壊し尽くしそうで怖いよ・・・・・・

 

「ほらほら、次だ次!」

 

そろそろ止めに入ろうか・・・・・。

いや、でも、恐いし・・・・・・。

 

だって、笑顔で怪物共をボコボコにしてるんだぜ?

溜まってるストレスをここで発散してるのかね?

どちらにしても恐くて近寄れねぇよ。

 

 

「木場、頼みがあるんだけど・・・・・」

 

「何となく予想はつくけど、一応聞いておくよ。何だい、頼みって?」

 

「あいつを止めてきてくれる?」

 

「イッセー君は僕に死ねと?」

 

「あはははは・・・・・ゴメン、冗談だ」

 

 

そう言って俺は迫る怪物共に殴りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえずは片付いたか」

 

先生が首を回しながら言う。

 

俺も鎧を解いて、先生の言葉に頷いた。

 

二十体以上いたあの白い怪物共は部長や朱乃さんの予想外のパワーアップもあり、予想よりも早くに全滅させることが出来た。

 

・・・・・ま、まぁ、ティアの活躍も大きいかな?

見ていて怪物達がかわいそうに見えたよ・・・・・

 

ティアの顔はスッキリした表情をしていた。

どうやら、ストレスは発散できたらしい。

 

「ティア・・・・・」

 

「ん? どうした、イッセー?」

 

「俺、もっとティアとの時間を増やすよ」

 

俺がそう言うとティアの表情はパァッと一気に明るいものとなった。

 

更には俺を抱き寄せて、頭を激しく撫でてくる。

 

「そうか! ハハハハハハハ!」

 

普段ならここで皆の鋭い視線が来るだろう。

でも、皆はただ苦笑するだけだった。

 

どうやら、皆もティアの暴れっぷりに恐れを抱いていたようだ。

まぁ、そうなるよね・・・・・・。

 

 

『イッセー殿! 聞こえていますか、イッセー殿!』

 

 

通信用の魔法陣が展開され、トリムさんの声が聞こえてくる。

 

「聞こえてるよ。そっちはどう?」

 

『こちらは全ての住民を避難させることが出来ました。ケガ人が多く、中には重傷者もいますが、奇跡的に死傷者はいないようです』

 

その知らせに全員が胸を撫で下ろす。

死人が出なかったのは不幸中の幸いってところか。

 

「分かりました。俺達の方も終わったので直ぐにそっちに向かいます。トリムさんはそれまで、ケガ人の治療をお願いします」

 

『了解しました』

 

 

そこで通信は終わる。

 

俺は先程の戦闘で負傷したメンバーの治療に当たってるアーシアに声をかける。

 

「アーシア、悪いけどケガ人の治療を任せてもいいか? もしかしたら、衛生兵の人達だけじゃ人手不足かもしれないし」

 

「分かりました。それが私に出来ることなので」

 

アーシアは快く引き受けてくれた。

 

さて、とりあえず、アーシアの治療が終わるまで待つとしてだ。

 

 

「先生、どう思いますか?」

 

「あの白いやつのことか・・・・・。全ての個体が全く同じ気を持っていること、伝承の内容、そしてゼムリアに残っていた力の残滓。これらを照らし合わせると・・・・・。やはり、敵の親玉が産み出しているものとして考えるのが妥当だろう。・・・・・それで、さっき分かったことなんだが・・・・・・倒した内の一体から採取した腕なんだが、本体が消滅したら腕が土に変わったんだ」

 

「土、ですか?」

 

俺が聞き返すと先生は頷いた。

 

先生は懐から小瓶を取り出す。

中には何の変哲もない、何処にでもありそうな茶色い土が入っていた。

 

「こいつはその土の一部だ。詳しく調べて見ないことには何とも言えんが・・・・・・。敵の親玉は自然にあるもの、例えば土に自分の体の一部を使ってあの怪物共を作っている。なんてことが考えられる」

 

「でも、本当にそうなら白い奴を作るにも限界があるんじゃないですか?」

 

「ま、普通に考えればな」

 

先生は肩を竦めて小瓶をしまう。

 

自分の体の一部を使って産み出す、か。

あのレベルのやつらをあれだけの数を産み出せる時点でとんでもないな。

 

今後の調査で詳細が分かればいいんだけど・・・・・。

 

 

とりあえず、この町を襲っていた怪物共は全て片付けたし、新しい手懸かりも先生が見つけてくれた。

 

今回は収穫があったってことで戻るとしますか。

 

 

アーシアによる治療も終わり、ここから移動しようとした。

 

 

その時―――――

 

 

 

 

 

 

ズッ・・・・・・

 

 

 

 

 

「「「「「っ!!!!!」」」」」

 

 

 

突然、息が詰まりそうなくらいの重圧に襲われた。

 

 

な、なんだ・・・・・この感じは・・・・・っ!?

 

まるで体に重りを乗せたような感覚だ!

押し潰されそうになる!

 

皆も俺と同様で、先生やティアですら汗を流していた。

 

 

今まで感じたことのないこの重圧! 

このプレッシャー!

 

 

こいつが放たれてくるのは!

 

 

「上か!!!」

 

 

俺は上空を見上げた。

 

 

そこにいたのは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様が赤龍帝か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『滅び』が俺達を見下ろしていた。

 

 

 




というわけで、100話目、この章に入って14話目にしてようやく話が進みました!

活動報告でも書きましたが、何処かで100話記念のストーリーを書きたいと思っています!(その時の気分によりますが)
読んでみたいと思うストーリーを募集しています!


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15話 圧倒的な力

100話記念の話はこの章が終わってからにするつもりです。
皆さんの希望するストーリー案待ってます!


空を見上げる俺の視線の先にいるのは一人の男性。

 

 

死人のように血の気がない白い肌

 

何処までも冷たい、見ている俺の方が凍りつきそうな瞳。

 

アザゼル先生や朱乃さん、レイナのような黒い翼。

ただ、三人のように艶があるわけではなく、全てを呑み込むような深い闇色の翼だ。

 

頭部には二本の角、そして腰からは鞭のようにしなる長い尾があった。

 

 

その男性から感じられる圧倒的なプレッシャー。

あまりの重圧に息苦しささえ感じる。

アーシアとギャスパーなんて耐えることが出来ずに膝をついてしまっているほどだ。

 

 

額から冷たい汗が流れ落ちる。

 

 

「・・・・・な、んだ・・・・・あいつは・・・・・・ッ!」

 

 

この場にいる全員の視線が男性に集まる。

だけど、全員が動けないでいた。

 

先生やティアでさえ。

 

 

 

「貴様が赤龍帝か」

 

 

 

「っ!」

 

冷たい視線が俺の姿を捉えた瞬間、全身に悪寒が走った。

まるで、心臓を鷲掴みにされたような気分だ・・・・・。

 

あいつ、俺のことを知ってるのか・・・・?

 

ということはやっぱり――――

 

 

俺の思考がそこに至った瞬間、俺の視界から男性が消えた。

 

 

トンッ

 

 

 

「――――っ!!!」

 

 

気づけば男性は俺達の直ぐ近くに舞い降りていた。

 

 

全く反応できなかった・・・・・・!

 

動きが全く見えなかったぞ・・・・・ッ!!

 

 

「あいつ・・・・・いつの間に・・・・・・ッ!」

 

先生が僅かに聞き取れるほどの小さな声を漏らしていた。

 

先生も今の動きは見えなかったようだ。

 

見ればティアも同様の反応だった。

 

俺は驚きながらもゆっくり呼吸を整えていく。

そして、その男性の問いに静かに答えた。

 

「ああ。・・・・・・俺が赤龍帝だ」

 

「そうか。ロキから聞いていた外見的特徴が一致している。それに二年前と同じ力がおまえから感じられる」

 

ここでロキの名前が出てくるってことは間違い無さそうだな・・・・・・。

 

先生が一歩前に出て、男性に問う。

 

「おまえがあの白い奴らの親玉・・・・・・滅びの神か」

 

確信を持った声。

 

こいつから放たれるこの濃密な力。

それにロキの名前を口にした。

 

この場にいる全員が確信していた。

 

 

男性は無表情のまま口を開いた。

 

「神だと? 俺がか? 笑わせてくれる」

 

 

その答えに俺達は怪訝な表情を浮かべた。

 

・・・・・・まさか、こいつじゃないのか?

 

先生が聞き返す。

 

「おまえがこの騒ぎを起こしている張本人、滅びの神と呼ばれる存在じゃないのか?」

 

すると、男性はああ、と納得したように言う。

 

「・・・・・そうか。貴様らの間では俺はそう呼ばれているのか。ならば少しだけ訂正させてもらう。俺は神などではない。あのような愚か者共と同じ扱いは止めてもらおうか。不愉快だ」

 

この時、男性は始めて表情を変えて、明らかな不快感を見せた。

 

この世界の神々に対して何か思うところがあるのだろうか・・・・・。

 

「なるほど・・・・・。それなら、おまえのことはなんと呼べば良い?」

 

「ロスウォード。それが俺の名だ」

 

・・・・・・ロスウォード。

それが俺達が滅びの神と呼んでいた存在の名前か。

 

「それじゃあ、ロスウォード。おまえが神ではないとして、だ。この騒動を起こした張本人だってことは認めるんだな?」

 

「ああ、その通りだ」

 

ロスウォードは即答した。

 

・・・・・・隠す気も言い訳もなし、か。

まぁ、そんなことをしたところで意味はないけどさ。

 

先生は人工神器の短剣を突き付けて問いを続ける。

 

「おまえの目的はなんだ? あの伝承が事実ならおまえはこの世界を本当に滅ぼそうとしている。その理由はなんだ?」

 

そうだ。

そこが一番肝心なところだ。

 

なんで、こいつはこのアスト・アーデの各地で暴れまわっているんだ?

 

 

すると――――

 

 

「目的、か。答えるならば・・・・・・それが俺の存在意義だからだ」

 

「何?」

 

「俺はそのためだけに産まれてきた。・・・・・・いや、作り出された(・・・・・・)と言った方が正しいか」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

ロスウォードの予想外の言葉に俺達は驚愕を隠せないでいた。

 

 

作り出された、だと!?

 

ってことはこいつもフェンリルがロキに作られたみたいに、誰かの手によって作り出されたってことか!?

 

 

 

「全てを破壊し、全てを滅ぼす。それが、俺という存在だ」

 

 

 

ズッ・・・・・・

 

 

 

っ!!

 

ロスウォードから放たれる力が上がりやがった!

こいつ、どれだけの力を持ってやがるんだよ!?

 

俺は瞬時に鎧を纏う!

 

こいつは危険だ!

 

「部長! 皆を連れて逃げてください! ここは俺が―――ガッ」

 

 

俺は言い切る前に横からの衝撃に吹き飛ばされ、幾つもの家屋を突き抜けていった!

 

ヤバイ!

 

勢いが強すぎて止まらねぇ!

 

俺は咄嗟に背中のブースターからオーラを全力で噴出させて、勢いを相殺する!

 

海に突っ込むギリギリ手前のところでなんとか止まることが出来た。

 

 

ふぅ・・・・・な、なんとか止まったか。

 

にしてもなんつー速さだよ。

威力も半端じゃねぇぞ。

 

『正直に言おう。今の相棒ではまずは勝てん。アザゼルやティアマットと共闘したとしてもな。現段階で奴の力は全盛期の俺やアルビオン、天龍を超えている』

 

っ!

 

おいおい、マジかよ・・・・・・!

 

全盛期のドライグより強いとかどんだけだよ!

 

『更に言うなら今の奴はまだ本気ではない。見たところ、余裕があったからな。どれだけの力があるのか、それは俺にも測れない』

 

クソッ・・・・・

嫌な追加情報だぜ。

 

 

 

ドゴォォォォォオオオオオオン!!!

 

 

 

俺がさっきいたところから爆発音が聞こえる。

 

見ればティアと黄金の鎧を纏ったアザゼル先生がロスウォード相手に戦っていた!

 

あの鎧は人工神器の禁手。

俺の籠手みたいに何度も使える訳じゃないから、その使用には制限がある。

言わば先生の奥の手みたいなもんだ。

それを出会って早々に使ったのか・・・・・・。

 

 

あの状態の先生はオーフィスの蛇を飲んだ旧魔王派の幹部を圧倒できるほどの力を発揮する。

 

ティアだって龍王最強と言われるほどの猛者だ。

 

その二人を相手にしてロスウォードは押されるどころか圧倒していた。

 

 

なんて奴だよ・・・・・・!

 

 

俺も直ぐに加勢しねぇと!

 

ドライグ!

 

『逃げろ、と言ったところで無駄か。だが、それでこそだ。いいぞ。既に準備は出来ている』

 

サンキュー!

こうなったら超巨大な一撃をぶっ放してやろうぜ!

 

 

俺はに鎧を天撃の状態に変化させる。

 

同時に倍加もスタート!!!

 

 

『Accell Booster!!!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

更に錬環勁気功で気を周囲から取り込んで限界まで気を循環させていく!

 

狙いはロスウォード。

 

先生とティアに当たらないように気を付けないとな。

 

俺は三人の戦闘を注意深く見て、タイミングを伺う。

 

早まるな、と自分に言い聞かせる。

先生とティアが離れた瞬間、奴の動きが止まった瞬間を狙い撃つ!

 

 

そして、その時が訪れた!!

 

 

「いっくぜぇぇぇええええ! ドラゴン・フルブラスタァァァァァアアアアア!!!!」

 

『Highmat Full Blast!!!!』

 

六つの砲門からかつてないほどのオーラの奔流が放たれる!

放たれたオーラは空中で孤立したロスウォードに向かって突き進む!

 

ロスウォードは自分に迫る砲撃に気付きながらも、その場から動く素振を見せない。

 

そして――――――

 

 

ドドドドドォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!

 

 

俺が放った砲撃は見事に直撃した!!

 

 

煙が辺りに立ち込める。

 

俺はロスウォードの動きが止まっている間に先生とティアに合流する。

 

「先生! ティア! 二人とも無事か?」

 

「今のところはな。それにしても良いタイミングだった」

 

先生もティアも少し鎧と服がボロボロになっているけど今のところは大きな傷を負っている様子はなかった。

流石だ。

 

 

ふと見ると、部長達の姿がどこにもなかった。

 

俺の様子に気づいたのかティアが教えてくれた。

 

「美羽やリアス・グレモリー達には下がってもらったぞ。あのレベルを相手にあいつらを守りながら戦うのはきついからな。もうすぐオーディリアの兵士達と合流するはずだ」

 

なるほど。

確かにその判断は間違ってない。

 

部長達には悪いけど、そのあたりは皆も理解しているはずだ。

 

おそらく、アリスやモーリスのおっさん達にも知らせは行くはず。

 

「さて、俺達は目の前の奴に集中しねぇとな。今の一撃をまともに食らったんだ。倒せなくとも傷は負わせたと思いたいところだが・・・・」

 

先生が今だ煙に覆われている場所を睨む。

 

俺もそう思いたいところだ。

 

 

 

 

ドゥンッ

 

 

 

 

煙の中心から強風が巻き起こり、煙を掻き消していく。

 

現れたのは―――――――――――無傷のロスウォードの姿だった。

 

「マジかよ・・・・」

 

つい声が漏れてしまう。

 

それほどに衝撃だった。

 

天撃の最大出力の砲撃をまともにくらったんだぞ!?

それなにに無傷なんて・・・・

 

「こいつは・・・・本格的にヤバいな」

 

「先生、どうしますか?」

 

「どうするって言われてもな・・・・・・ここまでの奴が出てくるとは完全に想定を超えてる。俺としては一旦下がりたいところだが、そういうわけにもいかんだろ?」

 

そう言って先生はチラッと町の中心部に視線を送る。

 

向こうにはまだ、トリムさん達や町の住民の人達もいる。

ここで俺達が下がってしまえば、間違いなく被害は拡大するだろう。

 

せめてもう少し保たせたいところではある。

 

 

ロスウォードは自分の掌を見つめた後、俺達の方に視線を送ってきた。

 

 

 

「この程度か・・・・。少しは期待していたんだが、残念だ。どうやら期待外れのようだ」

 

 

 

また俺の視界から奴の姿が消える。

 

そして次の瞬間、風を切る音と共に苦悶の声が聞こえた。

 

「ガッ・・・!」

 

振り返れば、俺の隣にいた先生の姿は無く、代わりにロスウォードが立っていた!

 

先生はどこに・・・・!

 

奴の視線を追うと、その先には破壊された家屋。

瓦礫の中に先生が埋まっていた!

 

また見えなかった!

 

 

「チィッ!!」

 

 

舌打ちをしてドラゴンの姿に戻るティア。

その姿に戻った途端、巨大な拳でロスウォードを殴りつける!

 

衝突の衝撃が空気を震わせる!

完全に捉えた!

 

 

だが――――

 

 

「いくら巨体になろうとも、この程度では俺には届かん」

 

「なっ!?」

 

ティアの腕が宙を舞った。

いつの間にかロスウォードの右腕には黒い槍が握られていて、その先端には赤い血が滴っていた。

 

 

「テメェ!!!」

 

 

激高した俺は天撃から天武へと鎧を変える!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

『Ignition Booster!!!!』

 

砲門の代わりに全身に増設されたブースターからオーラを噴出!

ソニックブームを巻き起こす!

 

「うおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

この近距離だ!

この拳は外さねぇ!!!

 

ロスウォード目掛けて放った全力の拳!

 

それは奴を捉えて、かなりのダメージを与える―――――――はずだった。

 

 

パシィッ

 

 

空しく響く音。

俺の全力の拳はロスウォードによって軽々と受け止められていた。

 

「クソッたれ!」

 

俺は驚愕しながらも、更に追撃を仕掛けようと左の拳を握った。

 

しかし、

 

「言ったはずだ。期待外れ、と」

 

斬り落とされる俺の左腕。

噴き出す鮮血。

 

激痛が走る!

 

なんなんだ、こいつの異常な力は!?

 

「イッセー!!」

 

先生が巨大な光の槍を持ってこちらに迫る!

更にはティアが巨大な魔法陣を展開していた!

 

俺は咄嗟にその場から離れる!

 

それと同時に先生の巨大な槍とティアの極大の砲撃がロスウォードに放たれた!

 

二人の一斉攻撃がロスウォードに命中する!

 

だけど、これで倒せるような奴じゃない!

俺は痛みを堪えながらイグニスを呼び出す!

 

この剣を受ければいくらあいつでも多少の傷は負わせれる。

そう踏んでの行動だった。

 

ロスウォードの背後に回り、全力でイグニスを振り下ろす!

俺の想いに応えるようにイグニスの刀身が紅く変色し灼熱化した!

 

こいつなら!

 

 

 

「ほう。イグニスか。懐かしい剣だ」

 

 

 

久しぶりに出会ったような目でイグニスを見るロスウォード。

 

 

・・・・・・こいつ、イグニスを受け止めやがった。

 

それも素手で。

 

 

「なるほど。貴様が今の所有者だったか。だが、貴様はこの剣の真の力を全く引き出せていないな」

 

「おまえはこの剣の力を知ってんのかよ?」

 

「ああ。一度、この身で受けたからな」

 

ということは、伝承に出てきた剣って、やっぱり――――――

 

いや、今はとりあえずこいつを何とかしねぇと!

 

ロスウォードの周囲に黒い槍が無数に現れる。

 

「そろそろ終わりにしよう。貴様らでは俺の望みは叶えられん」

 

ロスウォードが指を鳴らした瞬間、黒い槍が四方に散っていく!

それは街の至る所に降り注ぎ、破壊の嵐を巻き起こしていった!

一本一本の威力が異常だ!

 

俺や先生、ティアもなんとか避けようとするが、あまりの量に完全によけきることは出来ず、体の至る所に槍が突き刺さっていく!

 

その一撃の威力に、俺達は耐えることが出来ず地面に落下してしまう!

そして、そのまま地面に張り付けにされてしまった!

 

「ゴブッ」

 

口から大量の血が吐き出される。

全身から血が流れていくのが見えた。

 

ヤバい・・・・出血しすぎて、感覚なくなってきた・・・・

 

体に力が入らない。

動けねぇ・・・・・!

 

 

ロスウォードはこちらに手を向けて、手のひらに黒い光を集めていく。

俺達にトドメをさそうってのか・・・・!

ダメだ、避けられねぇ・・・・!

 

 

そして、黒い光が強くなった。

 

その時――――――――――

 

 

 

奴の動きが止まった。

 

 

 

何だ?

トドメをさすんじゃないのかよ?

 

ロスウォードは自身の掌を見て呟いた。

 

「これは・・・・。そうか、まだ封印の影響が残っていたか・・・・・」

 

封印の影響?

どういうことだ?

 

もしかして、あいつの封印は完全に解かれたわけじゃない・・・・・?

 

ロスウォードの視線が怪訝に思う俺に移る。

 

「チッ・・・俺が動けるのはここまでか・・・・・。ならば―――――――」

 

そう言うと、再び手に黒い槍を作りだす。

そして、そのまま自分の腕の表面を斬った。

 

腕を前に突出し、横凪に一閃する。

あいつの腕から流れ出ていた血が周囲に飛び散る。

 

すると、

 

 

ボコッボコッ

 

 

奇妙な音と共に血が付着した地面が盛り上がる。

それは徐々に形を成していく。

それは俺達がつい先程戦っていた奴らと似ていた。

 

 

グギャァァァァァァァァアッ

 

オオオオオオオオオオオオッ

 

 

奇声を上げはじめる白い怪物共。

 

 

・・・・そうか、あの白い怪物どもはロスウォードの血で生み出されていたのか。

先生の推測が当たってたわけだ。

 

 

ふと、視線を上空に向けると、既にロスウォードの姿は無かった。

どうやらあいつは去ったらしい。

 

助かった・・・と言いたいところだけど、あいつが残していった白い怪物が迫ってるんだよね。

今度は半魚人みたいなやつかよ。

 

迎え撃ちたいところだけど、黒い槍のせいで身動きが取れない!

 

そんな俺の前に怪物が立つ。

 

このままじゃ、やられる!

 

 

 

 

 

「もう! だから気をつけてって言ったでしょ!」

 

 

 

 

 

気が付けば、目の前にいた怪物が真っ二つになっていた。

 

そしてその代わりにいたのは――――――――

 

 

 

「ふぅ・・・どうにか間に合ったみたいね。意識はまだあるかしら、イッセー?」

 

 

 

白い雷をその身に纏い、怪物から槍を引き抜く女性。

 

アリスが俺の目の前に立っていた。

 

 

 

 

 




次回はアリス達を活躍させる予定です。

気になるアリス達の力量が分かると思います。


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16話 勇者パーティーの実力!!

「ふぅ・・・どうにか間に合ったみたいね。意識はまだあるかしら、イッセー?」

 

 

そう言って俺の方を見てくるアリス。

 

体には白い雷を纏わせ、長い髪も金髪から純白に変化している。

 

その手には銀色に輝く槍。

 

服装はいつものではなく、緑を基調にした戦闘用の服を着ていた。

 

 

こうして見てると背中を任せて戦った時を思い出す。

 

 

「あ、ああ・・・・・助かったよ」

 

消え入りそうな声で返す。

 

正直、意識はあるけど今にも気を失いそうだ。

かなり出血してるし、左腕斬り落とされてるし・・・・・。

出血しすぎて痛みの感覚も無くなってきてる。

 

マジでヤバい。

 

「ゴメン。聞いた私が悪かったわ。どう見ても無事ではないもの」

 

「あははは・・・・・・」

 

まぁ、でもアリスのおかげで命拾いしたよ。

助けに来てくれなかったら確実にやられてたもんな。

 

すると、向こうの方から部長達が走ってくるのが見えた。

 

部長に美羽にアーシアだ。

 

他の皆の安否が気になるけど、とりあえず三人は無事だったみたいだ。

安心したぜ。

 

俺の側まで駆け寄った三人は俺の状態を見て、悲鳴をあげる。

 

「イッセー!? しかも、その腕・・・・・・! アーシアはイッセーの治療を! 美羽は私とイッセーの腕を捜すわよ!」

 

「分かったよ! お兄ちゃん、直ぐに戻ってくるからね!」

 

そう言うと二人は俺の左腕を探しに行ってしまった。

 

・・・・・・正直、見つかる可能性はかなり低いんじゃないかな?

 

この広い町で人の腕を探すのは難しいし・・・・・。

俺も斬られた腕がどの辺りに落ちたかなんて覚えてないし・・・・・・

 

これは先生みたいに義手も考えとかないと・・・・・

 

 

アリスが俺の腹に深々と突き刺さってる槍に手を添える。

 

「イッセー、引き抜くから少し我慢しなさいよ?」

 

「お、おう・・・・。出来るだけ丁寧に、な・・・・・?」

 

「分かってるわよ。せーの・・・・・・・っ」

 

「ぐっ・・・・・・!」

 

アリスが槍を引き抜いた瞬間に激痛が走った。

 

よかった、まだ痛みを感じるだけの余裕はあるみたいだ。

 

 

すかさずアーシアが俺の腹に手を当てる。

淡い緑色の光が腹の傷を癒していく。

 

傷は数秒もしないうちに完全に塞がった。

 

「ありがとう、アーシア・・・・・・」

 

俺がお礼を言うと、アーシアは眼からボロボロと大粒の涙を流す。

 

「こんなになるまで・・・・・! イッセーさん、もう無茶はしないでください・・・・・! イッセーさんがいなくなったら、私は・・・・・・・ッ!」

 

「ゴ、ゴメン・・・・・」

 

「でも・・・・っ! イッセーさんが生きていて、良かったです!」

 

腹の治療を終えると次は足の治療に入るアーシア。

 

ここのところ、アーシアには世話になりっぱなしただな。

 

「他の皆は?」

 

「木場さんやゼノヴィアさんは先生とティアさんのところに向かっています。イッセーさんの治療を終えたら二人の治療に向かいます」

 

そっか、この様子だと木場達は無事みたいだな。

 

あの攻撃の中、よく無事だったもんだ。

 

 

俺の視界に数人の姿が入る。

 

ティアを抱えた木場とゼノヴィアだ。

 

ティアも右腕を斬り落とされて、腹にデカイ風穴が空いている。

早く治療しないと命が危ない。

 

ボロボロの姿のティアがぐぐっと顔をあげる。

 

「イ、イッセー・・・・・無事だったか・・・・・」

 

「この状態で無事って答えるのもおかしいけど、とりあえずは生きてるよ。アーシア、俺はもう良いからティアを頼む」

 

俺は後は左腕だけだし、少しの間なら耐えられる。

先にティアの出血を止めた方が良いだろう。

 

そう思っていると、ティアが小さな魔法陣を展開する。

 

そこから出てきたのは――――

 

「これは・・・・・・イッセーの腕だ。斬り落とされた時に回収しておいたぞ。・・・・・それから、これは私のだ。・・・・・まずはイッセーの腕を繋げてやってくれ・・・・・・」

 

そこまで言うとティアは何も言わなくなり、その場に崩れ落ちた。

 

咄嗟に木場とゼノヴィアが受け止めてくれたおかげで倒れずにはすんだが・・・・・・

 

「木場、ティアは!?」

 

「危険な状態だけど、息はあるよ」

 

よ、良かった・・・・・・

 

 

木場はティアをゼノヴィアに任せると俺の左腕を持って、こちらに駆け寄った。

そして、斬り落とされた腕が繋がるように当ててくれる。

そこへアーシアの回復のオーラが放出されていく。

 

俺の腕は徐々に繋がっていき、機能を回復させる。

 

それを確認した木場が俺に問いかける。

 

「部長と美羽さんは? 一緒じゃないのかい?」

 

「あー、俺の腕を探しに行ってくれたんだけど・・・・・。まさか、ティアが回収してくれてるとは思ってなかったからな」

 

「なるほど。じゃあ、僕の方から連絡を入れておくよ」

 

「頼むわ」

 

 

俺の治療が終わり、アーシアと木場はティアの治療に移る。

 

アーシアのおかげでティアの傷もあっという間に塞がっていく。

この分ならティアも助かるか。

 

あとはアザゼル先生が心配だな・・・・・。

 

 

いや、それだけじゃないか。

 

町にはロスウォードが残していった怪物共がいやがる。

町の人達にも危害が及ぶかもしれない。

 

部長や木場達だって消耗はしている。

今の状態で奴らを迎え撃つのはキツい。

 

 

「大丈夫よ、イッセー」

 

俺の不安を見透かしたようにアリスが言った。

見てみると不敵な笑みを浮かべている。

 

「ここに来たのは私だけじゃない。感じるでしょ? あの二人の波動を」

 

アリスに言われて、俺はハッとなる。

 

さっきまでは傷のせいで気づかなかったけど・・・・・。

残る意識を集中させて、町の様子を伺ってみる。

 

そして、感じとることが出来た。

 

これは――――

 

 

 

「よう、イッセー。随分手酷くやられたな」

 

「アリスは間に合ったようですね」

 

 

 

現れたのはアザゼル先生を担いだモーリスのおっさんと移動しながら先生に回復魔法をかけているリーシャだった。

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、これでおまえらの無事は確認できたか」

 

「無事ではない気がしますが・・・・・。まぁ、全員生きていて再会出来たので良いでしょう」

 

 

おっさん達と合流してから数分後、他の部員の皆とも合流できた。

 

皆、ボロボロの姿の俺を見て泣きながらとびついてきた。

 

「お兄ちゃんが生きてる・・・・・・っ! うわぁぉぁぁぁぁぁん!!!」

 

美羽なんか現在進行形で泣き続けてるところだ。

服が涙でぐっしょり濡れてるよ。

 

俺は美羽の頭を撫でて、自身の無事を伝える。

 

「ゴメンな。また、心配かけちまった。泣かせないって約束したのにな・・・・・」

 

俺がそう言うと美羽は首を横に振る。

 

「ううん・・・・・。お兄ちゃんが生きてるなら、ボクはそれだけで嬉しいから・・・・・・」

 

美羽はそう言ってくれるけど・・・・・

 

妹に心配ばかりかけてるようじゃ、兄貴としてはまだまだだな・・・・・・。

 

 

とりあえず、俺と同じく重症だった先生やティアも今は傷は塞がっているし、皆も負傷はしていたものの全員生きてる。

 

こういうところでは本当に強運だな。

 

 

おっさんが腰を伸ばしてストレッチし始める。

 

「さーて、あいつらを片付けるとするか。ここに来るまでに何体か倒してきたし・・・・・残るはざっと十弱か。俺とアリス、リーシャの三人だから、一人ノルマは三、四体だな」

 

おっさんが町で暴れる怪物共を数えながら言う。

 

おっさんの言葉にリーシャが言う。

 

「別にノルマは設けなくてもいいのでは? 倒せる人が倒せば問題ないと思います。リアスさん達はここでイッセーのことをお願いしますね。直ぐに戻ってきますので」

 

リーシャは微笑むと魔法陣を展開する。

 

魔法陣から現れたのは一丁の狙撃銃。

銃身には色々な紋様が刻まれていて、装飾も施されている。

 

「イッセー、大人しくしてなさいよ? 私達が戦うからって自分も戦うなんて言い出さないように」

 

アリスの言葉に苦笑で返す。

 

そんなことは分かってるよ。

 

今の状態の俺が行っても足手まといになるだけだしな。

血が足りなくてフラフラするし・・・・・。

 

アリス達が俺達の前に背を向けて並ぶ。

 

この三人の背中をこうして見てると、戦場で背中を任せて戦っていたあの頃を思い出す。

 

 

三人から発せられる凄まじいオーラに気づいたのか、怪物が集まってくる。

 

 

 

グキャォォォォオオオオオオ

 

 

 

奇声をあげながら怪物がこちらに迫ってくる。

 

部長達が身構える中、おっさんは余裕の表情で前に出た。

 

そして、腰の剣に手をかけた―――――

 

 

キンッ

 

 

その金属音がなった瞬間、怪物共の体は上半身と下半身が分断されていた。

 

「今の技は・・・・・」

 

木場が呟く。

 

そう、今のはおっさんがゼノヴィアの砲撃を斬り裂いた技。

 

神速の抜刀で産み出した衝撃波で相手を斬る技だ。

 

「どんなにしぶとくても、動けないんじゃあ意味はねぇだろ?」

 

上下で真っ二つにされた怪物共は地面でジタバタするだけ。

腕が複数あるやつは腕を使って移動しているものの、動きはかなり遅くなっている。

 

おっさんはそんな怪物共のもとにゆっくりと近づき、もう一本の剣を抜刀する。

 

「動けない敵を斬るのは剣士としてはいい気分じゃねぇが・・・・・・ま、化け物相手なら良しとするか」

 

二振りの剣を両手に持ち、剣先を外側に向けて構える。

 

その瞬間、おっさんから放たれる剣気が爆発的に膨れ上がった。

 

離れているのにビリビリと感じるこの剣気。

部員の中でも実際におっさんと対峙した木場とゼノヴィアはその光景を食い入るように見ていた。

 

 

「土に還りやがれ」

 

 

おっさんが両の腕を振るった。

目にも止まらぬ――――いや、目にも映らぬ速さと言った方が正しいかな。

 

実際、皆はおっさんが何をしたのか理解できていないようだ。

 

おっさん怪物に背を向けて剣を鞘に納める。

 

それと同時に怪物共は本当に土になったかのようにサラサラと崩れていった。

 

 

木場が呟く。

 

「いつの間に・・・・・全く見えなかった」

 

「まぁ、しょうがないさ。モーリスのおっさんは《剣聖》とまで呼ばれるほどの剣士だ。剣術だけなら俺なんかよりも遥かに上をいく人だしな」

 

「・・・・・一応、確認するけど、あの人は魔法や魔術の類いは使えないんだよね?」

 

「ああ。全くな。オーディリアの騎士は剣術だけじゃなくて魔法も使えるようにならないといけないんだけど、あのおっさんだけは別なんだよ。魔法なんて必要がない。それほどまでに凄まじいのさ」

 

木場は息を呑んで、ただただおっさんを見ていた。

 

木場以上のテクニック、ゼノヴィア以上のパワー。

あれがこのアスト・アーデ最強の剣士、モーリス・ノアなんだ。

 

 

 

ドドドドドドドドドォォォォォォン!!!

 

 

 

突如、雷鳴が鳴り響く。

 

「ハアアアアアアアアアアッ!!!」

 

白い雷を纏ったアリスが物凄いスピードで怪物に迫る。

白い軌跡を描く、その姿はまるで白い閃光。

 

怪物との距離が近くなるに連れて雷もその激しさを増す。

 

そして、槍を怪物の胸に突き刺す!

その打突の凄まじい威力に怪物の体は四散した!

 

朱乃さんが俺に言う。

 

「アリスさんも私と同じように雷を使うようですが、使い方がかなり違いますわね」

 

「ええ。朱乃さんは雷を放出してそれで相手を攻撃します。それに対してアリスの場合は雷を身体強化に使います」

 

アリスは雷自体で攻撃することは少ない。

基本的には自身の体に纏うことで、攻撃力、防御力、スピードを劇的に上げる。

雷に乗り、そのスビードで繰り出す槍による打突の威力は見ての通り。

 

あの異常なしぶとさを持つ怪物を一撃で倒せるほどだ。

 

「ですが、あの使い方は・・・・・」

 

「魔力を操る力が高くないと出来ないですね。それがないと逆に自分の体を焦がすことになる」

 

 

ちなみにだけど、髪の毛が金色から純白に変わるのは雷を運用した影響らしい。

 

その姿からついた二つ名が――――《白雷姫》

 

 

「ほら! そこ邪魔よ!」

 

 

アリスが槍を回しながら穂先に雷を集中させる。

白い雷が周囲に飛び、アリスを囲っていた怪物の体を焼いていく。

 

動きを止める怪物。

その隙をアリスは逃さない。

 

連続で放たれる突きが怪物を捉えて、一瞬で塵に変えてしまった。

 

「あの子はもう少し周りへの影響を考えて戦ってもらわないと困りますね」

 

と、俺のすぐ近くではリーシャが苦笑していた。

 

まぁ、アリスの攻撃って派手だから、あちこち破壊するよね。

今だって、アリスの雷の影響で建物が崩れかけてるし。

 

俺も人のこと言えないけどさ・・・・・・

 

 

ガチャ

 

 

リーシャが狙撃銃を構えて狙いを定める。

 

それと同時にリーシャの瞳が青から赤へと変わる。

 

「そこですね」

 

トリガーを引く。

すると、銃身の紋様が輝き、銃口のところに幾重にも魔法陣が展開される。

 

 

瞬間、数体の怪物の頭か弾けた。

まるで連鎖していくように。

 

次に腕、その次に足というように怪物を構成するパーツが次々と弾けていく。

 

それもコンマ数秒の速さで。

 

 

「流石だな。《赤瞳の狙撃手》の腕は衰えるどころか更に上がってるわけだ」

 

俺がそう言うと、リーシャは苦笑する。

 

「まぁ、この手の相手は私には向いてないんですけどね。相性悪すぎです」

 

なんてことを言いながら、既に数体を倒している。

 

銃を構えてから十秒も経ってないのに、この早業。

 

確かにリーシャは超遠距離からの狙撃を得意としているけど、ここまでの早撃ちが出来るなら相性の悪さなんて問題ないと思う。

 

「一発で倒れてくれない相手は何発も撃たないといけないので疲れました」

 

リーシャは銃を下ろして構えを解く。

瞳も元の色に戻っていた。

 

 

 

 

 

戦闘開始からほんの僅かな時間で怪物は全滅。

 

 

 

 

 

「これがイッセーの旅の仲間の実力・・・・・・」

 

部長達はただただ、三人の実力に驚くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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17話 ニーナの罠!?

ロスウォードが去り際に残していった怪物をアリスたちが殲滅してから数時間が経った。

 

俺達は事後処理をトリムさんが率いる部隊に任せた後、セントラルの城に戻っていた。

 

俺や先生、ティアは消耗が特に酷く、すぐにでも休みたい気分だったけどそうはいかない。

初めて得た情報。

 

それを皆に知らせなくてはならない。

 

モーリスのおっさんが難しい顔をしながら言う。

 

「ロスウォード・・・・それが奴の名か。それにイッセー達が三人がかりでも相手にならないとなるとな」

 

「ああ。俺も驚いたぜ。まさかあそこまでとは思ってなかったからな。あんた達が来てくれなかったら恐らくこの中の誰かは死んでいた。一先ず礼を言うぜ」

 

先生がおっさんに言った。

 

確かにアリスが来てくれなかったら、少なくとも俺は間違いなく死んでいただろうな。

アリスにはマジで感謝してる。

 

いや、アリスだけじゃないな。

俺の傷を治してくれたアーシアや自分も重傷を負いながらも斬り落とされた俺の左腕を回収してくれていたティアにも感謝してるんだ。

 

「おまえ達が生きて帰ってきたことには嬉しいが・・・・・結果的にオーベルの町には甚大な被害が出てしまった。それに死傷者も少なくない」

 

おっさんの情報に皆の表情が陰る。

 

ロスウォードが最後にはなった黒い槍の雨は、町を壊滅させた。

部員の皆は奇跡的に無事だったものの、町の人たちの中に死者が出てしまった。

 

 

クソッ・・・・

 

 

握る拳に力が入り、爪が皮膚に食い込む。

血が滲みだすけど、そんなことは気にならない。

 

 

手も足も出なかった・・・・!

俺にもっと力があれば、と思ってしまう・・・!

もう少し力があれば死者を出さずに済んだかもしれない・・・・!

 

『だが、それは・・・・』

 

分かってる!

今、それをどうこう言ったところでどうにもならないことくらい!

 

それでも・・・・!

 

 

カチャン

 

 

俺の前にティーカップが置かれた。

顔を上げるといつの間にかワルキュリアが俺の横に立っていた。

 

「イッセー様。お気持ちは分かりますが、今は心を落ち着かせてください。こういう時だからこそ冷静にならなければならない。それはあなたも分かっているでしょう?」

 

ワルキュリアはこの場にいる全員の顔を見渡す。

 

「ここにいる全員があなたと同じお気持ちなのです。それに、あなたがご自身を責めれば、皆さんも悲しみます。当然、私も」

 

「ワルキュリア・・・・」

 

「今は悲しみも後悔も感じている時ではありません。この先をどうするか。それを考える時です、・・・・っとメイドの私が言う言葉ではありませんね。失礼しました」

 

手を口に当てて言うと、ワルキュリアはお辞儀をして後ろに下がって行った。

 

 

ははは・・・・

 

流石はワルキュリアだ。

 

なぜか、ワルキュリアが言うと頭がクリアになる。

さっきまで、色々なことが頭の中で渦巻いてごちゃごちゃになっていたのに、その全てが綺麗に整理されていく。

そんな感じがするよ。

 

 

「ま、ワルキュリアの言う通りだ。イッセー、それにおまえ達もだ。今は自分のことを責めてる場合じゃない。それにそんな時間もねぇ」

 

そう言うと、おっさんは前にあるボードに書き記していく。

それは今回得られた情報と今後について。

 

「とりあえず、被害を受けたオーベル地区の住民は他の町に避難させた。オーベルの復興については他国からの支援、特にゲイルペインからの支援もあり、早急に取り掛かれることになっている。その件に関してはニーナ、おまえに一任する。よろしく頼むぜ」

 

「分かりました、おじ様」

 

おっさんに言われてニーナは頷く。

 

それから、おっさんの視線はアリスとリーシャに移る。

 

「アリスには今日得た情報を他国へと送ってもらいたい。それから、ロスウォードが現れた時は戦おうとはせず、逃げるように言っておいてくれ。何の対策もせずに奴と一戦交えるなんざ、いたずらに兵力を消耗させるだけだからな」

 

「分かったわ」

 

「それからリーシャはアザゼルの手伝いをしてもらいたい。施設も貸してやってくれ。アザゼルが得た白い奴らの体の一部。そこから何らかの突破口が見つかるかもしれんからな」

 

「分かりました。アザゼルさんには明日、ご案内いたします。今日の方は休まれた方が良いと思うので」

 

リーシャの言葉に先生は苦笑する。

 

「ああ、すまんな。流石の俺も今日はくたびれた。一日休ませてもらう」

 

「構いませんよ。あれ程の重傷だったのですから無理はありません。イッセーも今日は休んでくださいね?」

 

「分かってるよ」

 

俺もそろそろ限界だ。

血を流しすぎたせいでフラフラするしな。

 

 

「ロスウォードにはまだ封印の影響が残っているものと思われる。その影響が残っている間になんとかしたい。そこで、明日からはオーベルに残っている奴の力の残滓を調査する。おまえ達にも手伝ってもらうから今日はゆっくり休め」

 

 

 

 

 

 

 

 

会議が終わり、茶を飲んで一服していると向かいの席に座っていたリーシャが言ってきた。

 

「どうせなら、私が介抱してあげましょうか? 昔みたいに」

 

な、なんとっ!?

 

マジっすか!?

昔みたいにって言うことは膝枕とかしてくれるんですか!?

それなら是非ともしてほしい!

 

リーシャの太ももはスベスベしてて、更にはほど良い弾力もあって気持ち良いんだよな!

 

また、あの感触を味わえるというのか!

最高じゃないか!

 

 

「ぜひお願いします!」

 

「ふふふ、イッセーは相変わらずですね。それでは後程、部屋でしてあげましょう」

 

あぁ・・・

生きててよかった・・・・!

またあの感触を味わえるというのか・・・・っ!

 

 

バチッ バチチチチッ!!!!!

 

 

激しい電撃が部屋に飛び交う。

と同時に鋭い殺気が俺に放たれていた。

 

「うふふふ・・・。イッセー・・・・あんた、随分元気みたいじゃない。それだけ元気なら私の槍の稽古にでも付き合ってもらえないかしら?」

 

うおっ!?

 

アリスが戦闘モードで俺を睨んでくるぅぅぅ!!!

ちょ、その雷止めてくんない!?

 

マジで死ぬから!

 

 

「・・・・・よくもこの状況でスケベになれますね、イッセー先輩。今すぐにでも、アリスさんの槍を受ければいいと思います。特に頭」

 

「そうですね。イッセー様は一度アリス様の電撃を受けられた方がいいかもしれません。脳に直接受ければ、その変態もマシになるかもしれませんね」

 

 

ゴファ!

 

 

小猫ちゃんとワルキュリアの合わせ技!

小猫ちゃんの毒舌がいつもより強めに感じるのは気のせいだろうか!?

ワルキュリアから毒舌の指導とか受けてないよね!?

 

つーか、脳に直接受けるってどういうことだよ!

頭、かち割れってか!?

 

 

俺が二人の毒舌を食らっている横ではアリスがリーシャに食いかかっていた。

 

「リーシャも! イッセーに甘くしないでよ!」

 

「ダメなの?」

 

「もちろんよ!」

 

「なんで?」

 

「なんでって・・・・・・・だって、イッセーはスケベだし・・・・・・」

 

「イッセーがエッチなのは昔からじゃない。それは私も承知しているわ」

 

「で、でも・・・・・!」

 

アリスがそこまで言うとリーシャはアリスの肩を掴んで微笑んだ。

 

「分かったわ。それならアリスにイッセーを譲るわ。あなたが介抱してあげなさい」

 

「はぁ!? な、なんで私が!?」

 

「え? だって、アリスはイッセーのこと―――」

 

「わー! それダメぇ!!!」

 

涙目でリーシャの口を押さえるアリス。

なんか、顔がトマトみたいに真っ赤になってるぞ。

めちゃくちゃ焦ってるな。

 

何があったんだよ?

 

 

「素直じゃねぇな相変わらず」

 

おっさんが何やら呟いているのが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

部屋に戻った後、俺は直ぐにベッドにダイブした。

ベッドに突っ伏した瞬間、溜まってた疲労が一気に俺を襲ってきて、俺の全身から力を奪っていったんだ。

そして、俺はそのまま眠りについた。

 

 

 

それから、何時間経ったのだろう。

 

 

「―――さん。―――お兄さん。起きてください、お兄さん」

 

 

プニプニと頬を押される感触と俺を呼ぶ声で俺は目が覚めた。

 

ゆっくり目を開くと、眠る前はまだ窓から陽の光が僅かに入っていたものの、今は真っ暗になっていた。

 

「んあ・・・・ニーナか?」

 

「はい、私ですよ。お兄さん」

 

俺の頬を指で押しながらニッコリと微笑むニーナ。

 

何でニーナが俺の部屋に?

 

「お休みのところごめんなさい。お兄さん」

 

「いや、大丈夫だよ。一眠りしたら、疲れもマシになったしね」

 

体はまだ少しも重たいけれど、眠る前と比べると大分マシだ。

 

俺は上半身を起こして背中を伸ばす。

あー、良く眠れた。

 

「それは良かった。それで、さっき、お兄さんにお風呂の用意をしたから、それを伝えに来たんだよ」

 

「お風呂? 態々、俺のために? いつもの大浴場じゃないのか?」

 

この城に来てから、俺は使用人が使っている大浴場を利用していた。

 

態々、俺のために準備してもらうのも悪いと思ってたし・・・・・・。

 

そこは俺達が来てからは解放されていたから、何時でも使える。

今日も目が覚めたらそこに入ろうかと思っていたんだ。

 

 

「お兄さんの疲れが取れるように特別なお湯を用意したの」

 

「へぇ。それはありがたいな。ありがとう、ニーナ」

 

そう言ってニーナの頭を撫でてやる。

 

ニーナは顔を紅潮させて少し照れた様子だった。

 

「じゃあ、風呂の支度するから。少し待っててくれるか?」

 

「うん!」

 

 

 

それから俺は風呂の支度を軽く済ませ、ニーナにその場所まで案内してもらった。

 

その場所はこの城の最上階にある王族用の浴場だった。

 

 

「おいおい、俺がここに入っていいのかよ? まぁ、昔は良く使ってたけどさ」

 

「お兄さんなら大丈夫。さぁ、入って入って」

 

とニーナは俺を脱衣場へと押し込んでいく。

なんだか、無理矢理感も感じられるのは気のせいだろうか?

 

まぁ、いいか。

せっかく、俺のために用意してくれたんだ。

ありがたく使わせてもらおう。

 

 

風呂場に入ると、用意されていたのは白いお湯が入った浴槽。

 

いい香りがする。

これはハーブかな?

 

それに何か術的なものも感じられるな。

疲れが取れる術式でも仕込んでいるのだろうか。

 

そんなことを考えつつ、湯船につかる。

 

「あぁ~」

 

自然と出る声。

温泉なんかに浸かった時に出るあれだ。

 

確かに体から疲れが吸いとられるような感じがする。

これが湯の効能なのかね?

 

チャプチャプとお湯を自身の体にかけながらお湯を堪能していく。

 

最近は家でも大きい風呂にばっかり入っていたから、普通サイズの風呂もたまには良いなと思ってしまう。

このサイズの浴槽に入るのは何ヵ月ぶりだろう?

 

それに風呂場の窓から見える月が綺麗なので、体だけじゃなく心の疲れも取れていくようだ。

 

ニーナにはまた今度お礼をしないとな。

最高の風呂だよ。

 

 

ニーナに感謝の念を送りつつ、堪能していると――――

 

 

 

ガチャ

 

 

 

突然、風呂場の扉が開く。

 

 

 

「「えっ?」」

 

 

 

俺は入ってきた人物と目が合い、固まった。

 

 

 

 

 

 

入ってきたのは全裸のアリスだったぁぁぁぁあああ!!!

 

 

 

「ちょ、ええええええええっ!? ア、アリスゥゥゥゥゥウウウウウ!?!?!?」

 

「な、なんで、あんたがここにいるのよぉぉぉぉおおおお!?!?!?」

 

 

跳び跳ねて絶叫する俺達!

 

なんでアリスが入ってくるんだ!?

 

いや、確かにここは王族専用だけどさ!

ニーナが俺のために用意したって言ってたから完全に貸切りだと思ってたんだけど!

 

 

アリスが大事なところを手で隠しながら叫ぶ!

 

「まさか覗き!?」

 

「覗きならこんなに堂々と入ってねぇよ!」

 

「だったらなんでここにいるのよ!?」

 

「ニーナに案内されたんだよ!」

 

「ニーナが!? ってイヤァァァァアアアア!!! 前隠しなさいよ、バカァ!!!」

 

「おわっ!?」

 

アリスに指摘されて初めて気づく!

 

驚きすぎて俺も全裸なの忘れてました!

 

とりあえずタオルで隠そう!

 

よし!

これで完璧だ!

 

って満足してる場合じゃねぇ!

 

アリスに事情を理解してもらわないと、丸焦げになる!

それは避けなければ!

 

「と、とりあえず、俺の話を聞いてくれ、な? それから、雷は止めてくれ!」

 

「・・・・・・話を聞こうじゃない・・・・・・」

 

アリスは俺を涙目で睨みながらその場にうずくまる。

 

た、頼むから理解してくれよ?

 

そう切に願いながら俺はこれまでの経緯をアリスに話していった。

 

 

 

 

 

 

一通り事情を説明した後、アリスは盛大にため息を吐いた。

 

 

「ったく、図ってくれたわね、ニーナ」

 

「図った?」

 

「私もニーナに言われたのよ。良いお湯が手に入ったから入ってみてって」

 

おいおい・・・・・

ってことはニーナのやつ、これが狙いだったのかよ。

 

なんでこんなことを?

 

「あの娘は余計なことを・・・・・・こんな・・・・・」

 

何やらブツブツと呟くアリス。

何が心当たりがあるのかね?

 

「ま、まぁ、そういうことなんだ。とりあえず、俺は出るよ」

 

「え? でも、入ったばかりなんじゃないの?」

 

「それはそうなんだけど・・・・・」

 

流石にこれ以上いるのもアリスに悪いしな。

 

それにアリスの身体見たら色々反応してしまいそうだし、そうなれば丸焦げにされそうで恐いんだよね・・・・・

 

そう思い、風呂場から出ようとすると、アリスに腕を掴まれた。

 

何事?

 

 

 

「・・・・・わよ」

 

アリスが何か言ったけど、聞き取れなかった。

 

「えっ?」

 

「・・・・・良いわよ」

 

「何が?」

 

「だ、だから、あんたと一緒に入っても良いって言ってんの!」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

な、なんですとぉぉぉぉぉおおおおおおお!?!?

 

 

「マジで!?」

 

「何度も言わせないでよ、バカァ!」

 

 

バキッ

 

 

「あべしっ!」

 

 

アリスのグーパンチが俺の顔面を捉えた!

 

ドクドクと流れる鼻血を抑えながら俺はアリスの言葉を脳内でリピートする。

 

一緒に入っても良い、だと!?

 

あのアリスがそんなことを!?

 

夢なのか!?

だとしたら、絶対覚めてくれるなよ!?

 

 

アリスは顔を真っ赤にしてモジモジと恥ずかしそうにしながら言う。

 

「せ、せっかく、ニーナが用意してくれたし・・・・・。あんたを追い出すのも悪いし・・・・・。それなら二人で入った方が、い、いいいいいいんじゃない?」

 

最後の方、声震えてますけど!?

大丈夫なの!?

風呂に入った瞬間、感電死とかしないよね!?

 

 

色々なドキドキ感を感じながら俺はアリスと共に湯船に浸かった。

 

 

 

 

 

 

王族用の湯船と言っても俺達の世界にある一般の風呂よりも少し大きいくらいだ。

二人で入ると当然狭い。

 

なので、俺とアリスは必然的に密着して入ることになるんだけど・・・・・・

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

か、会話がない。

気まずい空気が流れてるよ・・・・・・。

 

普段の俺なら柔らかい女の子の体の感触やおっぱいや太ももに意識を向け、それを楽しんでいるだろう。

 

しかし、この空気の中でそれをするのは・・・・・・・。

 

 

 

すいません、少しだけ楽しんでいます。

 

 

 

密着することで伝わるアリスの肌の感触!

女性特有の甘い香り!

もちろん、おっぱいにも目はいっています!

 

楽しまないわけにはいかないでしょう!

 

ただ、ガッツリ見るわけではなくチラッとだけどね。

そこが肝心。

 

変な気を起こせば感電死させられる可能性もあるし・・・・・

 

 

それにしても、あのアリスがこんなお誘いをしてくれるとは思わなかったよ。

この間のやつはお酒の影響だからだろうし。

 

 

さて、とりあえずはこの空気を何とかしないとな。

アリスも顔真っ赤で何を話したら良いか分からないと言った様子だし。

 

何を話そうか・・・・・・。

 

と俺が考えているとアリスに先を越されてしまった。

 

「イッセーって、いつもボロボロになってるわね。今日もそうだった」

 

「あー、まぁ、そうかな」

 

何でかは分からないけど、俺の敵って強敵が多いよな。

そのせいで戦う度に大きな怪我をしてる。

 

その自覚は前々からあった。

 

「見たときは驚いたわ。腕は一本無くなってるし、体のあちこちに槍が突き刺さってるし・・・・・・」

 

「俺だって、あそこまでやられるとは思ってなかったんだよ。ロスウォード・・・・・あいつの強さは異常だ」

 

「それでも、逃げることくらいは出来たでしょう?」

 

「出来るかよ、そんなこと。皆を置いて逃げるならボロボロになってでも戦った方がマシさ」

 

本気でそう思う。

 

逃げるくらいなら最後まで戦う。

俺はその覚悟でこれまで歩いてきた。

 

まぁ、戦略的撤退なら何回かしたけどね。

 

でも、皆を置いて自分だけ逃げるってのは絶対に無しだ。

 

「変わらないわね。そういうところ」

 

「変わらないよ。これからもな」

 

俺がそう返すとアリスはフッと笑んだ。

 

 

俺は今の生き方を変えるつもりはない。

もう二度と大切なものを失わないように。

守るべきものを守れるように。

例え自分が傷ついても戦い抜く。

 

まぁ、最近は皆に無茶するなって良く言われるから、程々にしているところもあるけどね。

 

 

アリスは少し俯くと、手でお湯をすくう。

 

「実はね、今日、あんたが倒れてるところを見たとき、心臓が止まりそうになった」

 

「大袈裟だな」

 

「大袈裟じゃないわ。あんたが死んだんじゃないかと思うと、それだけで何も考えられなくなったわ」

 

「・・・・・・・・」

 

「でも、あんたが生きているのが分かって、本当に嬉しかった。涙が出そうなのを堪えてたのよ?」

 

アリスはそう言うと苦笑する。

 

 

あの時は平然としているように見えたけど、こいつにも結構心配かけてたんだな。

 

「ゴメン」

 

「何謝ってるのよ。私はあんたが生きていてくれればそれで良いのよ」

 

「はははは・・・・・・。美羽にも言われたっけな」

 

「美羽ねぇ・・・・。まさか、魔王の娘を妹にしてるなんて思わなかったわ」

 

「連れ帰ってたことには驚かないのかよ?」

 

「うーん、魔王の娘がいないって聞いた時、なんとなく予想はついてたからね。それに」

 

「それに?」

 

聞き返すとアリスは俺の頬に指を当てて笑んだ。

 

「あんたならやりそうだし」

 

あらら・・・・・

俺の行動はお見通しだったようで・・・・・・

 

流石と言うかなんと言うか・・・・。

 

極秘に連れていった意味が無かったような気がするのは気のせいだろうか?

 

「まぁ、あの娘の言う通りよ。私もあんたが生きていてくれるならそれでいい。それだけで嬉しい。だから」

 

そこまで言うと、アリスは俺の首に手を回す。

 

そして、憂いのある瞳で言った。

 

 

 

 

「絶対に死なないで」

 

 

 

 

――――――っ

 

今までのどの言葉よりも重みがあった。

心の底から発せられた言葉。

 

 

今後、ロスウォードと戦うに当たって、俺が無茶をするのが分かってるんだろうな。

実際、あいつは無茶をしなければ生き残れない相手だ。

 

アリスはそれが分かってる。

 

だから、俺には無茶をするなとは言わなかった。

 

ただ生きて帰ってきてほしい。

 

それがアリスの俺への望み。

 

 

「ああ。死なないよ」

 

「絶対よ。王女との約束破ったらひどいんだからね」

 

「破らないよ。つーか、破ったらどのみち俺、死んでるじゃん」

 

「それもそーね。ふふふ」

 

 

俺達は一頻り笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、程よい温もりを感じた俺達は二人とも眠気に襲われ、そのまま目蓋を閉じてしまった。

 

 

翌朝、俺とアリスの間で気不味い雰囲気になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以前の質問で「この章のヒロインは?」と聞かれました。
その時は美羽とアリスのダブルヒロインって答えましたけど・・・・・・

書いてるうちに、「この章のヒロインってアリスじゃね?」と自分で思うようになってきました。(笑)


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18話 突破口を求めて

今回は少し短めです。

それから皆さんが気になっているであろう人物が登場します!


ある日、朝食の時間。

 

 

「祐斗、ゼノヴィア。後で稽古付けてやるから来いよ」

 

「分かりました」

 

「よろしく頼む」

 

パンを齧りながら、木場とゼノヴィアを稽古に誘うおっさんとそれを受ける二人の姿が目に入った。

 

いつもの広場で一対一でやり合うのだろう。

ここのところ毎日あんな感じだ。

 

ロスウォードと邂逅してから数日。

あいつとの圧倒的な力量差を実感した俺達はあの手この手で突破口を探していた。

特にアザゼル先生はリーシャとロスヴァイセさんを助手にして各地を転々としては研究施設に籠ってる。

 

こちらの魔法に詳しいリーシャと北欧の術式に精通しているロスヴァイセさん。

この二人の補助があれば何か掴めると思うんだけど・・・・

 

俺は隣でコーヒーを飲んでいる先生尋ねた。

 

「先生、何か進展はありましたか?」

 

「いいや。今のところは進展と言えるほどの成果は無い。現在も解析は進めてはいるんだが・・・・」

 

先生は首を横に振って息を吐いた。

 

そっか・・・・

あれからあまり時間が経ってないしな。

それにまだ情報が足りないってのもあるんだろうな。

 

 

俺の向かい側に座っていたアリスが言った。

 

「誰かあいつのことを知ってる人がいれば良いんだけどね~」

 

「それが見つかれば苦労はしないよ。ゲイルペインの長老も知らないんだぜ?」

 

「まぁ、それはそうなんだけどさ。美羽さんもお父さんから話は聞いてないんだよね?」

 

とアリスが美羽に話を振った。

 

美羽は食べていたパンを飲み込むと頷いた。

 

「うん。お父さんにはそういう話は聞かされてなかったし・・・・・。ウルムから送ってもらったお父さんの遺品にもそれらしいものは無かったよ」

 

魔王だったシリウスの所有物にも関連するものは無かったのか・・・・・。

 

 

はぁ・・・・・

 

アリスの言う通り、誰かロスウォードについて知ってる人がいればいいんだけどなぁ・・・・・・。

 

「奴が封印された場所でも判明すればいいんだがな。あれほど強力な奴を封印してたんだ。その周囲には封印の痕跡がのこるはず。それを解析できれば一気に事を進められるんだがな・・・・・」

 

封印された場所か・・・・・。

 

つーか、よくあんな奴を封印できたな。

一体、誰がしたのかかなり気になる。

 

そもそも、あいつは自分のことを作られた、と言っていた。

その作った本人に話を聞けることが出来れば話が早いんだけど・・・・・。

 

 

それにあいつは神々のことを愚か者と言っていたな。

神との間に何かあったのか?

 

 

神・・・・・

 

作られた・・・・・・

 

伝承・・・・・・

 

神層階・・・・・・・

 

俺は今までのキーワードを頭のなかで組み立ててみる。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・ん?

 

 

ちょっと待てよ・・・・・・

 

 

もしかして――――――

 

 

 

「あーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 

 

 

俺の絶叫が部屋に響いた!

 

 

ガタンッ

 

 

俺が立ち上がったことで椅子も勢いよく後ろに倒れる!

 

でも、そんなことはどうだっていい!

 

 

そうだよ!

いるじゃん、知ってそうな人!

 

なんで今まで忘れてたんだろう!

 

 

突然の俺の叫びに皆は耳を塞いで呆然とした表情で俺を見ていた。

 

「おいおい! いきなり大声出しやがって! なに考えてんだ、おまえは!」

 

 

スパンッ!

 

 

先生が何処からか出したハリセンで俺の頭を叩いた!

 

痛いって!

 

 

「ど、どうしたの、お兄ちゃん?」

 

美羽も怪訝な表情で尋ねてくる。

 

俺は目の前にあった水を飲んで、自分を落ち着かせる。

それから深呼吸も追加でやった。

 

「ふぅー」

 

息を吐いて、再び椅子に座った。

 

いやー、もっと早くに思い出しとけば良かった。

それなら、こうして悩むことも少なかったかもしれない。

 

あー、俺のバカ野郎!

 

 

「イ、イッセー? あ、あんた、どうしたのよ?」

 

「・・・・・いたんだよ」

 

「いた? 何が?」

 

「ロスウォードについて知ってそうな人!」

 

「「「「何ぃっ!?」」」」

 

全員が驚愕の声をあげた。

 

当然の反応だ。

これまで、ほとんど何も分からなくて手詰まりに近い状態からのこれだ。

 

俺だって自分に驚いてるところだ。

 

先生が俺の両肩を掴む。

 

「マジかよ! おまえ、何でもっと早くに言わなかった!?」

 

「俺だって今思い出したんですよ!」

 

「だぁー、このバカタレが! そんなことは言い! 早く言え! 誰だ! どこの誰だ!」

 

 

 

 

 

「俺の―――――――――師匠です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界、アスト・アーデの果てには一つの島がある。

森に覆われた小さな島だ。

 

 

ここはアスト・アーデに住む人々は誰も知らない場所。

恐らく、俺しか知らない場所だ。

 

 

なぜか?

 

 

その理由の一つにこの島を囲う海には強力な魔獣が多く住み着いていることが挙げられる。

ロスウォードに比べるとかなり劣るけど、一体一体が異常な強さを持つ魔獣で、一国の軍隊を投入しても倒せるか分からないほどの強さを持つ。

 

だから、魔族も人間も誰も近寄らない。

 

 

そして、もう一つの理由として、海上に漂う霧の存在がある。

島を囲うように漂う白い霧。

島に近づくものの感覚を狂わせ、近寄れないようにする魔の霧だ。

 

一度入ってしまえば二度と出てこれないなんてことも言われている。

 

 

だから、この島のことは誰も知らない。

当然、アリス達も。

 

 

俺がこの場所を知ってる理由はかつてこの場所に来たことがあるからだ。

昔、ライトを亡くしてアリス達と分かれた後、一人で修行の旅に出た時に一度。

 

あの時は死ぬかと思ったね。

霧に捕らわれないように海に潜り、海の中では魔獣共に見つからないようにしないといけなかったからな。

 

それを一ヶ月以上かけてこの島に来た。

食料も水もほとんどないような状況だ。

 

正直、よく生きていられたなと自分でも不思議に思うくらいだ。

 

やっぱり根性なのかね?

 

 

そんな島に俺は一人来ていた。

皆を連れてこなかったのはある人との約束もあったからだ。

 

 

「それにしても、今回は苦労はしなかったな」

 

そんなことを一人で呟きながら森の中を歩いていく。

 

魔獣も天武(ゼノン)でぶっ飛ばしたし、霧も天撃(エクリプス)の砲撃で吹き飛ばしたからな。

かなり楽に来れた。

 

『滅茶苦茶だな。昔の相棒ならそんなことは出来なかっただろうに』

 

まぁ、そう言うなよ。

今回は急いでいたこともあるしな。

 

森を抜けると広い草原に出た。

その中央には古い神殿がある。

 

石で作られていて、見た目は転移の門に似ている。

 

 

俺がこの島に来たのはこれが目的だ。

 

 

「神層階への入口。見つけたぜ」

 

 

そう、この神殿こそが神層階への入口。

この神殿を通ることで神層階へと行くことができる。

前回はそうだった。

 

俺は神殿に入った。

ちょっとした懐かしさも感じながら周囲を見渡す。

 

少し進むと広い空間にたどり着いた。

壁にはこれと言った特徴はないけど、床の中心には円形の紋様が描かれている。

古代の文字やらよく分からない絵が床の石板に彫られていた。

 

 

初めて見たときは怪しさしか感じなかったよなぁ。

 

 

なんてことを思い出しながら俺は円の上に立ち、オーラを流し込む。

 

すると、紋様の線をなぞるように光が走り始めた。

どうやら、今回も行けそうだな。

 

『今回は気絶しないと良いな』

 

あー、前回は気絶してたっけ?

そこを師匠に保護されたような・・・・・・

 

まぁ、いっか。

何とかなるだろ。

 

床に描かれた紋様がカッと強い光を発する。

 

その瞬間、天井から降ってきた光の柱に俺は呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・ぼう。・・・・・・ろ。起きろ、相棒』

 

ドライグの声が頭に響く。

その声で俺は目が覚めた。

 

 

周囲を見渡すと、辺り一面霧に囲まれていた。

真っ白だ。

 

この光景には見覚えがあった。

 

ここは・・・・・・

 

『ああ。どうやら上手くいったみたいだぞ。それに、この霧から感じられる妙な力。ここはあのジジイが住む場所の近くだ』

 

やっぱりか。

 

ってことは近くに師匠の小屋があるはずなんだけど・・・・・・

 

 

俺はゆっくり立ち上がってもう一度周囲を見渡してみた。

 

だけど、何処までいっても真白な世界。

悪魔の視力でも見えないか。

 

仕方がない。

 

 

錬環勁気功を発動させて、周囲の気を探る。

例え神々が住む神層階であったとしても、錬環勁気功による気の探索は可能だ。

気は万物に宿るからな。

それは神でも例外はない。

 

 

周囲を探索し始めてから少し経った。

 

 

「見つけた。こっちか」

 

俺は気の感じた方への歩を進めていく。

 

ここは森の中なので、木の枝を手で退けながら目的地を目指す。

 

 

『また、あのジジイと出会うことになるとはな。正直、会いたくなかったんだが・・・・・』

 

ドライグって本当に師匠のこと嫌いだよな。

 

『基本的には悪くはないと思うが・・・・・あのスケベジジイのせいで相棒はこんな風になってしまったからな』

 

いや、だから、スケベなのは前からだって。

師匠は関係ないよ。

 

『・・・・・・・・そう、だったな・・・・・・・うぅ・・・・・・クズッ』

 

 

あーあ、ドライグがまた泣き始めた・・・・・・

 

ゴメンゴメン。

泣くなよ、ドライグ。

 

 

 

そんなやり取りをしながら歩くこと十分弱。

 

 

 

崖の上にある小さな山小屋に着いた。

 

丸太を組んで作られたよく見る山小屋だ。

 

煙突から煙が出てるってことはいるみたいだ。

 

 

『懐かしいな』

 

ああ、まったくだ。

ここでは随分世話になったもんな。

 

うぅ・・・・あの地獄のような修行が昨日のことのように思えてくる・・・・・

 

よくこの崖から蹴落とされたっけ・・・・

 

 

あ・・・・涙出てきた・・・・・

 

 

『うぅ・・・グスッ・・・・・』

 

おいおい、なんでドライグまで泣いてるんだよ?

さっきのことまだ気にしてるのか?

 

『いや・・・・毎夜毎夜、二人のスケベ話に付き合わされたこと思い出すと・・・・・涙が出てきてな・・・・グズッ・・・・』

 

そっちか・・・・。

 

ゴメンね、師弟そろってスケベで。

 

 

ま、とりあえず入ってみるか。

 

俺は小屋の扉をゆっくり開いてみる。

 

 

すると――――――

 

 

 

 

 

 

「うひょーーー! たまらんのぉ! この尻! この太もも! うひょひょひょひょひょ!!」

 

 

 

 

スケベな声を出しながらテレビらしきものにへばりつく師匠の姿があった・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、イッセーは再び神層階へ行きました!

最初の方(プロローグ3話)で会話に出ていたイッセーの師匠がついに見参!

次回は師弟のやり取りになります!


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19話 師弟の再会です!!

テレビらしきものにしがみつく白髪頭の老人。

画面には女性のエッチな動画が流されていた。

 

「うんうん! たまらんわぃ!」

 

俺のことなど気づきもしないでただただスケベ顔を浮かべている。

 

これが俺の師匠、拳神グランセイズ・・・・・・なんだけど・・・・・

 

 

 

 

 

『・・・・・帰ろうか』

 

 

 

 

おぉーとぉっ!

 

早くも出ました、ドライグさんの帰りたい発言!

 

 

いやいやいや、早いよ!

俺達、まだ何も成し遂げてないからね!?

小屋の扉開けて、爺さんのスケベ顔見ただけだからね!

 

そんなことをするためだけに来たわけじゃないから!

 

 

と、とりあえず、声かけてみるか・・・・・・

 

「師匠」

 

「ふむふむ、この娘もいいのぅ!」

 

「師匠!」

 

「うほほほほほ! こんなところまで!」

 

「師匠!!!!」

 

「やかましい!!! ジジイの楽しみを邪魔するでないわ!」

 

 

ゴンッ!!

 

 

「ガフッ!!!」

 

 

 

師匠が投げた鍋が俺のおでこに直撃した・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かと思えば弟子が帰ってくるとはのぅ」

 

「あははは・・・・・・お久しぶりです、師匠・・・・・。相変わらずお元気そうで・・・・・・」

 

腫れたおでこに氷を当てながら苦笑する俺。

酷い再会だよ・・・・・。

 

『だから言ったではないか。帰ろうと』

 

うん、少し後悔してるよ。

 

あー、おでこが痛い・・・・・。

アーシアに治療してほしい・・・・・・。

 

「いやー、すまんのぅ! ちょうど良いところだったのでのぅ! あの女子がのぉ、良い感じじゃったんじゃよ!」

 

愉快そうに笑う師匠。

 

どんな感じだったんだよ!?

 

絶対に悪いことしたなんて思ってないよね!

まだ顔がニヤけてるしな!

 

 

つーか、何でタンクトップ?

何で短パン穿いてんの?

 

どうみても、そこらへんにいる爺さんにしか見えねぇよ。

 

 

前の仙人が着てそうな白い胴着はどうしたんだよ?

 

「何て言うか・・・・・色々、変わりました・・・・?」

 

「む? この服のことかの? これは前から持ってたぞぃ。普段はこんな感じじゃよ」

 

「えっ!? だって、俺がいるときは」

 

俺がここにいる時はいつも白い胴着来て、パッと見は仙人みたいな格好してたじゃん!

 

師匠は笑いながら頭をポリポリかく。

 

「流石に弟子がいるときは真面目な格好するわい。だって、その方がそれっぽいじゃろ?」

 

そんな理由ですか!?

 

いや、確かにタンクトップに短パン姿の人のところで修行するとか全く絵にならないけど!

 

それでも、その事実は知りたくなかった・・・・・・!

 

 

二年間も共に過ごした師匠の姿は偽りの姿だったというのか・・・・・・!

 

『内面はそうでもなかろう?』

 

あ、それもそうか。

 

スケベなところは変わってないわ。

 

 

 

何も変わらない、師匠の姿だった・・・・・・。

 

『感動的なセリフのつもりだろうが、スケベジジイだからな、あれ』

 

うん・・・・・・・そうだね。

 

 

「ドライグも相変わらずだの」

 

『ふん。その言葉、そのまま返してくれる』

 

「更にワシはそれを投げ返す」

 

『いや、それを更に俺がバットで打ち返す』

 

「いーや、更にそれをワシが殴り返す」

 

『それでは、こちらはブレスで吹き飛ばす』

 

「なーに、ワシはそれを」

 

 

「二人とも止めてくれよ。キリがねぇよ」

 

この二人、仲が良いのか悪いのか分からんね。

再会早々これかよ。

 

 

まぁ、二人とも良い人にはかわりないけどさ。

 

 

 

それにしても―――――

 

「師匠、この小屋もえらく変わりましたね」

 

そう言って小屋の中を見渡す。

 

建物外観は以前と同じ。

 

だけど内装は全く別物になっていた。

 

 

 

以前は畳とご飯を炊く釜。

それから部屋を仕切る襖しかなかったこの山小屋。

人一人が暮らすには十分なスペースはあるものの、やや寂しい空間だった。

まぁ、仙人が住んでいそうな空間だったことには間違いない。

 

 

 

 

 

 

なんということでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

畳みはフローリングに変わり、ベッド、ソファまで完備!

釜があった場所には炊飯器と冷蔵庫にキッチン!

 

さっき使っていたテレビらしきもの。

あんなのは前はなかった。

 

前にあったのは水を張った石造りの桶。

そこに映像を写し出すという、中々に仙人が持ってそうな感じのものだった。

それが今では薄型テレビと化している。

 

 

部屋の空間も以前より広くなったような・・・・・・・。

 

 

 

何があった!?

俺がここを去ってから一体何があったんだよ!?

 

何でこんなハイテクな暮らししてんの!?

 

さっきの煙突の意味は!?

 

 

「あー、これかの? リフォームっちゅうやつじゃ」

 

「リフォーム?」

 

「昔、お主のいた世界の話を聞いたじゃろ?」

 

「えぇ、まぁ」

 

確かに話した。

俺の普段の生活とか、どんなものがあるとか。

 

元の世界のことは修行の合間に話をした記憶はある。

 

「もしかして、それで?」

 

尋ねると師匠は頷く。

 

「なんか、その話聞いたら態々火を起こして米炊くのとかめんどくさくなっちゃった」

 

なっちゃった、じゃねぇよ!

 

 

やべぇよ!

俺、ロスウォードの気持ち分かっちゃったよ!

愚か者だよ、この人!

 

 

「それにあんな石の桶で見るよりもこれで見た方が画質良いし、女子の動きもクッキリハッキリじゃ!」

 

 

ああああああああっ!!!!

 

ダメだ、この人!

ここまで来たら武術の神でもなんでもねぇよ!

どうみても、クソジジイだよ!

 

 

さっきからツッコミどころしかねぇ!

誰か俺の変わりにツッコミ入れてくれぇぇええええ!

 

ドライグ、ヘルプ!

 

『却下』

 

 

つ、冷たい!

 

 

 

 

 

「して、その手に持っとる袋はなんじゃ?」

 

「あ、お土産のエロ本です」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、せっかく来たんじゃ。ゆっくりしてゆけ。ココアで良いかの?」

 

「あ、はい」

 

 

つーか、神層階にココアなんてあんの?

初耳なんだけど。

 

『知らん』

 

 

師匠は最新式のキッチンに立って湯を沸かす。

よく見たらIHじゃん。

 

おかしい・・・・・

色々おかしいって・・・・・

 

 

 

数分後、師匠がココアの入ったコップを持ってくる。

 

「ほれ」

 

「ありがとうございます」

 

恐る恐る飲んでみる。

 

 

あ、本当にココアだこれ。

神層階ってカカオでも実ってるのか?

 

師匠も俺の向かいに座り、茶を啜る。

 

「さて、とりあえずは人間と魔族との争いを終わらせたこと。誉めておこうかの。良くやったぞい、イッセー」

 

「見てたんですか?」

 

「まぁの」

 

そういえば、前にあった石の桶で下界の様子を見ることが出来たっけな。

 

もしかして、このテレビでも見れるのか?

 

「まぁ、俺の力だけじゃ無理でしたけどね」

 

「白雷姫、剣聖、赤瞳の狙撃手。皆の力があってこそというわけじゃな」

 

「ええ」

 

俺と師匠は笑む。

 

 

師匠が下界の様子を見ていたというなら話は早い。

今起こっていることも知っているはずだ。

 

「師匠、下界の現状。ご存じですよね?」

 

「ロスウォードのことじゃな? やはり、お主がワシを訪ねてきたのは・・・・・・」

 

「はい。師匠ならあいつのことを知っているのではと思ったので」

 

師匠は難しい顔をして、むぅと唸る。

この様子だと、師匠はロスウォードについて何か知っている・・・・・?

 

 

色々聞きたいことはあるけど、まず、あいつのことについて俺は知りたい。

 

「ロスウォードは自分を作られた、と言っていました。それに神々を恨んでいるような目をしていました」

 

「そうか・・・・・・。やはり、奴は・・・・・」

 

「教えてください、師匠。あいつは一体誰に作られたんです?」

 

俺が問うと師匠は茶を啜って一息つく。

 

 

 

――――そして衝撃の事実を語りだす。

 

「簡潔に言うと、奴は神層階に住まう一部の神々の外法によって産み出されたのじゃ」

 

「なっ!?」

 

神層階の神々が作った!?

どういうことだよ!?

 

「お主も知っておるじゃろ。神には善神もいれば悪神もおる。・・・・・・・一部の悪神が集まり、この世界を自分達のものにしようと考えた末に作り出したのがロスウォードという存在。まぁ、結局はその悪神共も奴を制御仕切れず、殺されてしまったんじゃがの」

 

 

既に神を・・・・・・、

 

いや、あの強さならそれも可能か・・・・・。

 

ったく、とんでもない奴を産み出してくれたもんだな・・・・・!

ろくな神じゃねぇ・・・・・!

 

しかも、制御仕切れずに殺されてるんじゃ世話ねぇぜ。

 

 

師匠もため息を吐く。

 

「全く、いらぬことをしてくれたものじゃ。それで、そのことを知ったワシを含めた他の神々は奴を倒すべく、戦いを挑んだ」

 

「それで、結果は?」

 

「現状を見れば分かるじゃろ。・・・・・ワシらは敗北した。多くの神々が奴に消滅させられてしもうたわい。・・・・・奴にもかなりの手傷は負わせたんじゃが・・・・・下界に逃げられてしもうた」

 

「奴を追うことはしなかったんですか?」

 

「それも考えた。じゃが、お主も知っておる通り、神々が下界に降りることは禁じられておる。それに、仮に追って奴と再戦したら、それこそこの世界は終わってしまうわい」

 

「どういうことですか?」

 

「良いか? 神というのはこの世界を支える柱とも言っても良い。奴と戦い、これ以上神々が消滅すれば、この世界を支える柱は無くなってしまう。そうなれば、下界はおろかこの世界そのものが崩壊することになるのじゃ。故にワシらは奴を追うことを止めた。・・・・・・まぁ、神々が下界でその力を振るえばそれだけで、下界は崩壊するじゃろうがな」

 

なるほど・・・・・。

そう言うことだったのか。

 

だから、師匠達はロスウォードを追撃しようとしなかった。

師匠達が下界に降りてその力を振るえば、どのみち世界を崩壊させることになってしまうから。

 

 

ということは、結局は俺達だけでロスウォードを倒さないといけない。

 

「あいつを倒す方法はあるんですか?」

 

「何を言っとる。お主も薄々気がついとるじゃろ。――――イグニス。名を忘れ去られし神が創造した剣。それが鍵となるじゃろうな」

 

 

イグニス、か。

滅びの神の伝承に伝わる剣。

 

大昔の人間の魔族はイグニスを使ってロスウォードを封印したとされている。

 

 

「よく昔の人はあの剣を使えましたね。つーか、よくロスウォードを封印なんて出来ましたね」

 

「まぁ、奴にもワシらと戦った時の傷が残っておったしの。それに、先代の所有者はお主より使いこなしておったぞぃ」

 

 

マジかよ・・・・・

一体、どんだけ強かったんだ・・・・・・?

 

「ちなみにじゃが、そやつは魔族の者での。魔王はその一族から始まったのじゃよ」

 

「えっ!?」

 

「正確にはそやつの息子から魔王が始まったのじゃが・・・・・。それ以降は魔王の一族がイグニスを管理しておった。まぁ、誰もイグニスを使いこなせる者はおらんかったがの」

 

 

そりゃ、あんな剣を使いこなせる魔王がいれば今頃、人間は完全敗北してるよ。

 

それにしても、シリウスが持ってたのはそういう経緯だったのか・・・・・。

 

 

俺に託したのは美羽に託すなんて真似はしたくなかったてのもあるんだろうな。

危ないし。

俺なんて右腕焼かれたし・・・・・・。

 

俺がシリウスの立場でも絶対に渡さないね。

とにかく危ないから。

 

 

「俺がイグニスを使いこなせるようになるにはどうすれば良いですかね?」

 

「もっと強くなれ」

 

 

うわー、すごい意見だ。

最もだけど、ちょっと間に合いそうにないかな・・・・・・。

 

 

師匠は笑いながら白い顎髭をさする。

 

「まぁ、強いて言うなら剣との対話じゃな」

 

「対話?」

 

「一度、イグニスと対話してみるとよい。心を通わせるのじゃ。そうすれば少しはヒントが得られるかも知れんのぅ」

 

 

イグニスと対話、か。

考えたこともなかったな。

 

神器みたいな感じですれば良いのかな?

 

 

「よし、さっそくここで」

 

とイグニスを展開すると師匠に頭を叩かれた。

 

「ワシの家を燃やす気か!?」

 

 

あ、ダメですか・・・・・・。

 

じゃあ、どこですれば良いんだよ?

 

 

「あ、そうそう。ロスウォードが封印された場所って分かりますか?」

 

「禁断の海域じゃよ。ほれ、ダークテリトリーの三島に囲まれたあの海域じゃ。じゃが、それがどうかしたのか?」

 

「もしかしたら封印の跡が残ってるんじゃないかと思いまして。それを解析できれば少しは対抗出来るんじゃないかと」

 

「なるほど、倒すまではいかずとも多少の効果はあるかもしれんのぉ」

 

 

ダークテリトリー、か。

あの辺りって邪龍の類がいるから面倒なんだよなぁ。

 

とりあえず、先生にはそれを伝えるか。

ここから通信って出来るのかな?

 

 

 

「下界の者と連絡を取りたいのなら良いものがあるぞい」

 

「良いもの?」

 

「これじゃ、これ」

 

 

 

と師匠が短パンのポケットから出してきたのは、どっからどうみても携帯電話。

 

 

なんでだぁぁぁぁああああ!!!

なんでここにスマホが!?

 

 

おかしいよ!

絶対におかしい!

 

これも俺が情報源ですか!?

 

 

「とりあえず、これを使って魔法陣を展開してみぃ」

 

「は、はぁ」

 

 

と携帯を耳に当てて魔法陣を展開する。

 

 

 

すると―――――

 

 

 

 

『――――こちらアザゼルだ。イッセーか? どうした?』

 

 

 

おおっ!

ノイズが混ざって聞き取りにくいけど、先生と繋がった!

これ、本当に携帯電話じゃん!

 

 

あ、師匠がドヤ顔してる。

なんか、腹立つ。

 

 

「先生、聞こえますか?」

 

『ああ、ノイズが混じっているが聞こえている。おまえの師匠とは会えたのかよ?』

 

「ええ。で、ロスウォードの情報が手に入ったので、早いところ伝えとこうかと」

 

『マジかよ! でかした! さっそく聞かせてくれ』

 

「はい。まず―――――」

 

 

 

 

それから俺は師匠から得た情報を先生に伝えた。

先生達は直ぐに動いてくれるそうだ。

 

あと、しばらくは神層階に残ることも伝えておいた。

イグニスと対話をするためだ。

 

 

 

 

こうして、俺は師匠と少しの間だけど生活を共にすることになった。

 

 

 

 

 



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20話 今、出来ることを

今まで一つの章で10話~14話くらいだったので、この章は二章分の長さになりそうです。


あと、今章11話のタイトル変えました。
内容は変わっていませんが。


師匠の元を訪れてから一週間が経っていた。

 

 

俺は師匠に用意してもらった場所で一人座禅をしていた。

神器に潜るときにしていたのと同じ感じだ。

 

違うところと言えば、今回は俺の前の地面にはイグニスを突き刺していることと、周囲を師匠特製の特殊な結界で覆っていることだ。

結界を張っているのは、イグニスによる影響を出さないため。

もし張ってなかったら周囲が焼け野原になってしまうからな。

 

そんでもって、俺は一人イグニスと向き合って座禅をしているわけなんだけど・・・・・。

 

 

 

イグニスの中に意識を潜らせても、見えてくるのは真っ白な景色だけ。

どこまで潜っても見えてくるのは何もない白い空間だ。

 

『かなり深いな・・・・。この空間の最深部に何かがある気はするんだが・・・・・』

 

ドライグがそう言う。

 

最初は俺一人だけで潜ってたんだけど、中々上手くいかなかったんだ。

それで、ドライグに助けを求めて今もこうして一緒に潜ってもらってるんだけど・・・・・

 

正直、ドライグも根を上げそうになっているほどだ。

 

 

あ、ちなみにだけど、ここは精神世界だからドライグも元のドラゴンの姿で行動しているんだ。

俺はドライグの背に乗っている状態だ。

 

快適快適。

 

『まさか、相棒をこうして背に乗せる日が来るとはな。まぁ、精神世界限定だが・・・・・』

 

まぁね。

 

いやー、思ってたより快適だよ。

昼寝していい?

 

『振り落すぞ』

 

ゴメンゴメン。

冗談だよ。

 

 

にしても、本当に何も見えてこないな・・・・・。

 

師匠の助言をもらって何とかイグニスとの対話を試みているんだけど今のところ成果は全くなし。

見えてくるのはどこまでも続く白い空間のみだ。

 

本当にこれでいいのかね?

 

『いや、この先に何かがあるのは間違いないだろう。僅かにだが何者かの波動が感じられるからな』

 

そうか・・・・。

ってことはこのまま進むしかないってことかよ?

 

『そうなるな。だが、このまま進めてもかなり時間がかかるだろう。あまり潜りすぎると精神と肉体が離れてしまう。そうなってしまえばロスウォード対策どころではなくなる。そろそろ相棒は出た方が良い』

 

了解だ。

 

それじゃあ、俺は一度戻るよ。

また後で潜るから、その時は頼むよ。

 

『分かった』

 

 

そう言って、俺は一度精神世界から出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはぁーーーーーっ! 疲れたぁ!」

 

 

精神世界から出た俺は座禅を止めて、その場で大の字になった。

 

時計を見てみると、かれこれ二時間以上潜ってたみたいだった。

 

いや、これはかなりキツイ。

神器に潜るよりもはるかに辛いな・・・・・。

 

あー、足痺れた・・・・。

動けねぇ・・・・・。

 

全身汗だくだから、とにかく汗を流してしまいたい。

 

 

ここのところ、毎日こんな感じだよなぁ。

イグニスと対話できない限り、これが続くとなると・・・・・・地獄だな、これは。

 

だけど、イグニスを扱えるようになることがロスウォードを止める手段になるのなら、止めるわけにはいかないよな。

 

美羽達とも連絡は取っているけど、今のところ大きな襲撃は無いらしい。

たまに白い怪物が現れるだけで、ロスウォード本人は姿を見せていないようだ。

白い怪物共の退治はモーリスのおっさん達がやってくれているから安心だ。

 

 

それから、アザゼル先生曰くロスウォードが封印されていたという禁断の海域の調査は無事に済んだとのことだ。

先生の読み通り、その場所には封印の痕跡があったそうだ。

今はそれを元に新しい術式を組み上げている最中らしい。

 

リーシャ達の協力もあるから、順調に進んでくれることを願いたい。

 

とにかく俺は俺に出来ることをしないとな。

 

 

と、そこで後ろから声を掛けられた。

 

「イッセーよ。進捗具合はどうじゃ?」

 

振り向くとそこには師匠がいた。

格好は相変わらずのタンクトップに短パン姿という超ラフな格好をしている。

 

・・・・・皆さん、この人が神様です。

鼻くそほじってるけど、この人が武術の神様です。

 

 

「うーん、上手くいかないですね・・・・・。対話どころか、会うことすらできてないんですよね。ドライグが言うには、何かがいるのは間違いなさそうなんですけど・・・・・・」

 

「まぁ、そう気を落とすでない。急ぎすぎても良い結果は得られんよ。とりあえず、飯にせぬか? 腹が減っては何とやら、じゃよ」

 

そう言ってニカッと笑う師匠。

 

まぁ、それもそうか。

急がなきゃいけないけど、焦って事を進めても良いことは無いしな。

ドライグにもあまり根を詰めすぎないように言われてるし。

 

何より腹が減ってる。

 

「そうっすね。汗流したら行きますよ」

 

「了解じゃ。じゃあ、ワシは飯の支度をしようかのぅ」

 

そう言うと師匠は小屋へと戻って行った。

 

俺も行くとするかな。

 

俺はよっこらっせと立ち上がって師匠の後を追った。

 

 

 

あー、ちなみにだけど風呂も魔改造されてたよ。

以前の風呂は薪を燃やして焚くタイプだったのに、今ではボタン一つで・・・・・・。

 

便利な世の中だ・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を終えた後、一息ついていた。

 

ソファの上に寝転がり、天井を見上げる。

視線の先ではオシャレなシーリングファンがクルクル回って室内の空気を循環させていた。

 

もう、これにはツッコまない。

散々ツッコミを入れたから。

 

 

この一週間、この小屋で過ごして分かったことは他の神々の家にまでこの近代化の波が押し寄せていること。

 

この間なんか、師匠とこの世界の知恵の神様が楽しげに電話で話しているのを聞いたよ。

 

どうやら、その知恵の神がこのキッチンとかテレビを作り上げた人らしい。

師匠からの相談を受け、その話の内容だけでここまでの物を作り上げたそうだ。

今は神々の間で使えるインターネットを作っているとか何とか。

 

神様ってスゲェ・・・・・・・。

 

 

「食って直ぐに横になると体を壊すぞぃ」

 

と師匠が食後のお茶を入れて、持ってきてくれた。

 

「あ、すいません」

 

「何だかんだ言いながらかなりくつろいでおるのぉ」

 

「いやー、このソファの寝心地が良いもんで、つい」

 

「やらんぞぃ。それはワシも気に入っとるのでの」

 

俺は苦笑しながらお茶を飲む。

 

まぁ、うちにもソファはあるしね。

部長がかなり良いやつを揃えてくれたし。

 

 

三十分くらい休憩いれたら再開しようかな・・・・。

と時計を見ながらそんなことを考えていると、師匠が口を開いた。

 

「今のところロスウォード本人に動きはないみたいじゃの」

 

「ええ。多分、封印の影響がまだ残ってるんじゃないかと」

 

「ま、それもいつまでも続くもんじゃなかろうて。数日後に現れるかもしれんし、今日現れる可能性もある」

 

 

ロスウォードと邂逅してから二週間近く経った。

 

師匠の言う通り、いつ現れてもおかしくはないんだ。

せめて、来るタイミングさえ分かればまだマシなんだけどさ。

被害が出ないように町の人達を避難させたり出来るし。

 

戦闘と同時に避難活動を行うにも相手のレベルからして厳しいところがある。

俺達としては出来るだけ戦力を戦闘につぎ込みたいところなんだけど・・・・・・。

 

 

師匠がお茶を啜る。

 

「まぁ、分からんもんをいくら考えても仕方がなかろうて。奴が現れる前に何とかして、こちらの準備を整えるしかないじゃろう。その辺りは運じゃな」

 

運、か。

まぁ、そうなるよね。

 

奴が現れる直前までになんとか出来れば良いんだけど・・・・・。

 

 

ここで師匠が話題を変える。

 

「ところでじゃが、イッセーよ」

 

「なんです?」

 

「お主、戦っている最中に視界から色が消えたことはあるかの?」

 

「色が、ですか?」

 

聞き返すと師匠は頷いた。

 

 

俺は手を顎にやって記憶を探ってみる。

 

戦闘中に色が消える・・・・・・?

そんなことあったっけ・・・・・・・・・。

 

 

師匠が俺の顔を覗き込むように見てくる。

 

「どうじゃ?」

 

「えーと、確か一度だけ・・・・・そう、シリウスと戦った時に一度」

 

 

シリウスとの一騎討ち。

その最後の局面だった。

シリウスとすれ違い様の刹那の瞬間、俺の視界から色彩が消えたことはある。

 

まるでモノクロ映像を見ているように色彩が無くなったんだ。

そして、動く全てのものがスロー再生されたように遅く感じる。

 

あの時は必死だったから全く気にならなかったけど、今思うと不思議な現象だった。

血を流しすぎて目がおかしくなったのかね?

 

 

「なるほどのぉ。一度入っておるか・・・・・・」

 

師匠は髭を擦りながら感心したように言う。

 

どうしたんだろうか?

 

「ただ、意図的にはまだ入れていないようじゃの。シリウスの時もほとんど偶然に近いか。いや、極限の状態だったはずじゃから、入ったのは当然と言うべきかの」

 

 

どういうことか、さっぱり分からん。

師匠はさっきから何をブツブツ呟いてるんだろうか?

 

『ボケたんだろ』

 

「ワシはまだボケとらんよ。ピンピンしとるわい」

 

「いや、そんなことはどうでも良いんで、どういうことか教えてくれますか?」

 

「そうじゃの。まずはお主が入ったその状態。それは一般に領域(ゾーン)と呼ばれるものじゃ」

 

ゾーン・・・・・・

 

あー、なんか聞いたことある!

メチャクチャ集中してる時になるアレか!

 

なるほど。

俺が体験したのはゾーンだったのか!

 

「極限の集中状態。これに入ると身体能力だけでなく、飛躍的に反射速度も上げることができるのじゃよ。この状態に入れる者は極々僅かな者のみ。そして、意図的(・・・)に入れる者はその中でも一握りの人間だけじゃよ」

 

「でも、それがどうかしたんですか?」

 

俺が尋ねると師匠はため息をつく。

 

「お主は阿呆か。意図的に領域(ゾーン)に入れるようになれば、お主は更に強くなれるということじゃよ」

 

「っ!」

 

マジでか!

その領域に自分で入ることか出来ればもっと上に行けるのか!

 

いや、待てよ・・・・・

 

「師匠、なんでそれを俺に黙ってたんです? 修行中はそんなこと教えてくれなかったじゃないですか」

 

「そりゃそうじゃ。意図的に領域に入るということは自身の体に大きな負荷をかけることになる。身体的にもあるが特に脳にダメージがいく。それも尋常ではないほどのな。脳は腕や足と比べて鍛えるのは容易でないからの。あの段階で教えるには危険じゃったんじゃよ」

 

な、なるほど・・・・・。

確かに脳がやられたら即アウトだからね。

クルクルパーになるのは嫌だ。

 

「じゃが、一度入っとるなら話は早い。今日から伝授するとするかのぅ。最後の教えというやつじゃ。まぁ、ロスウォードに通用するかと言われれば難しいところじゃが、足しにはなるじゃろ」

 

師匠はそう言ってウインクする。

 

最後の教え、か。

一応、奥義は教えてもらってるんだけどね。

 

 

「さて、久しぶりに弟子に稽古をつけてやるとするかの」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

[モーリス side]

 

 

 

「ま、今日はこんなもんで良いだろ。二人とも汗流してこい。それから水分補給も忘れるな」

 

「はい、ありがとうございました」

 

「いつも、ありがとう」

 

汗だくの祐斗とゼノヴィアが俺に頭を下げて、広場から去っていく。

 

 

イッセーが神層階に向かってから一週間。

 

俺はいつものように祐斗やゼノヴィア、騎士団の連中に稽古をつける日々を送っていた。

 

他国とのことはアリスやニーナが引き受けてくれているし、解析の方もアザゼルとリーシャ達が動いてくれている。

 

 

そうなると、俺に出来るのはいざという時に動けるよう、兵の練度を上げていくことぐらいだ。

 

ロスウォードと直接やり合えとまでは言わないが、せめて、奴が産み出す怪物程度は相手取れるようにしたいところだ。

 

 

先日のオーベル襲撃を受けて、国内も以前よりピリピリしてやがる。

表面的にはあまり変わらないが、町の空気がな・・・・・・。

 

 

俺とアザゼルはロスウォードが次狙う都市はこのセントラルだと睨んでいる。

 

奴はイッセーにトドメを差しにくるのではないか。

そんな考えが俺達の間にあった。

 

まぁ、確証となる物は何もないが・・・・・・。

 

 

俺は用意していた水を飲み干した後、アリスの執務室に向かった。

 

 

 

 

 

 

執務室にアリス達の様子を見に来たんだが・・・・・・

 

 

「おい、ニーナ。なんであいつは呆けてるんだよ?」

 

俺が目にしたのは窓の外をボーッと眺めるアリスの姿と苦笑しながら書類に目を通しているニーナの姿だった。

 

「一応、お姉ちゃんの仕事は終わってるんだけどね・・・・・・。ここのところ仕事の合間はずっとこんな感じだよ。原因は・・・・・・言わずとも、ね?」

 

 

俺は手を顔にやり、ため息を吐く。

 

 

あいつ・・・・・・

 

仮にも一国の王女だぞ、あいつは。

それが惚れた男に少しばかり会えなくなったからって、ここまで呆けるかよ。

 

もう会えないと思ってた男に二年ぶりに会って、余計に思いが強くなったのかねぇ?

 

そのくせ、素直じゃねぇんだよなぁ・・・・・・。

めんどくさいやつだ・・・・・・。

 

 

「ニーナは至って普通だな」

 

「私も寂しいよ? でも、お姉ちゃんはあの性格だし・・・・・・。それにお姉ちゃんがあの様子だと、妹の私がやるしかないでしょ?」

 

「・・・・・・おまえ、本当に成長したな。おじさんは嬉しいぜ。あ、涙出てきた・・・・・」

 

上があれだと、下が成長するってのは本当だったんだな。

 

いかんね、歳を取ると涙もろくなる。

 

 

おっと、ニーナに知らせることがあるんだった。

俺はニーナに耳打ちする。

 

(この間話していた件だが、議会の奴らは承認してくれたぜ)

 

(本当!? よく話が通ったね)

 

(まぁな。皆、アリスがどれほど頑張ってきたか知ってるからな。だが、おまえは良いのかよ?)

 

(うん。お姉ちゃんには幸せになってもらいたいからね)

 

 

ははははは・・・・・・。

 

良くできた妹だ。

こいつだって本当は―――――。

 

 

いや、今言っても仕方がねぇか。

 

今は目の前のことに集中しねぇとな。

 

 

 

[モーリス side out]

 

 

 

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

 

「なるほどな・・・・・。こいつか・・・・・」

 

「アザゼル総督。これはもしかして――――」

 

「ああ、見つけたぜ。だが、やはり効果は一瞬、ほんの数秒ってところか・・・・・」

 

それにこいつには多量の魔力が必要になるな・・・・・。

リアス達の魔力だけでは到底足りないな。

 

 

「ただいま戻りました」

 

俺とロスヴァイセが考え込んでいる所にリーシャが現れた。

 

こいつがここにいるってことは調査は終わったらしいな。

 

「それでどうだった?」

 

俺が尋ねるとリーシャは微笑んだ。

 

「ええ、アザゼルさんの言った通りでしたよ。この国は四大神霊の加護を受けている土地ですからね」

 

四大神霊。

火、水、土、風を司る神霊。

神ではないが、それに近い存在らしい。

 

この国が豊かな土地に恵まれているのはそいつらの加護を受けているためだ。

今回はそれを利用させてもらう。

 

恐らく、発動してしまえばこの国の土地は一時的に機能を停止してしまうだろう。

だが、これはやらなくてはならない。

 

「よし。早速行動に移るぞ。動ける人員は全て投入してくれ」

 

「ええ。モーリスには許可は得ています。直ぐに動かしましょう」

 

 

 

 

[アザゼル side out]

 

 



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21話 再臨

9月も終わり、10月から学校か~~~

更新スピードがかなり落ちると思いますが、ご了承ください。


[木場 side]

 

 

「はぁ・・・憂鬱だわ・・・・・」

 

部長が大きなため息を吐いていた。

 

 

イッセー君が彼の師に会うべくこの世界の神々が住まうという神層階に向かってから既に十日。

 

彼からもたらされた情報を基に僕たちはロスウォードに対抗する術を探した。

その結果、アザゼル先生は何かを掴んだらしく、今はオーディリア各地を回り準備をしている。

リーシャさんやロスヴァイセさんもそれに同行していて、ここ三日ほどは会っていない状況だ。

 

僕達も今できることとして、各自の修行やこの町の避難経路を確認したりして、いざという時のために備えているんだけど・・・・・。

 

 

「イッセーとこんなに触れ合えない時間が続くなんて・・・・。早く帰ってきてくれないかしら」

 

 

見ての通り、女性陣はイッセー君の帰りを待ちきれないでいるみたいだ。

特に部長に朱乃さん、アーシアさんに美羽さんはイッセー君に依存してると言っても良いくらいだからね。

ここ最近のため息の多さは尋常じゃない。

今、僕達は気分転換も兼ねて町に来ているんだけど、隣で歩いている部長も相変わらずの様子だ。

 

モーリスさんから聞いた話だと、アリスさんも仕事の合間はボーッとしていることが多いとか・・・・。

 

こうして見ているとイッセー君の存在の大きさがよく分かる気がするよ。

 

 

そんな中、全力で楽しんでいる人がいた。

 

「これ可愛い! あ、これ美味しそう! ねぇねぇ、ゼノヴィア。これ似合うんじゃない?」

 

「イリナ。少しはしゃぎ過ぎじゃないか?」

 

そう、イリナさんだ。

 

彼女は町の市場を歩き回り、はしゃいでいた。

アクセサリーから食べ物まで。

 

僕達の世界では見られない物、全てに目を輝かせていた。

 

「だって、異世界なんて早々来れる物じゃないでしょ? だったら楽しまなきゃ」

 

 

まぁ、確かにその通りだね。

そもそも、この異世界の存在自体が未知のもだったわけだし。

こうして僕達がこの世界に来ていることって、よくよく考えたらすごい体験をしているわけなんだよね。

 

正直、僕達が異世界に来ていること自体、最近忘れそうになってたよ・・・・。

激戦があったこともあるけど、僕達と接してくれる人達が元の世界の人達と変わりなかったからね。

 

 

はしゃぐイリナさんを見て、部長も微笑む。

 

「まぁ、イリナさんの言う通りなのかもしれないわね。せっかく来たわけだし・・・。それにイッセーともう会えなくなったわけでもないしね。・・・・・帰ってきたら存分に・・・・ふふふ」

 

 

イッセー君。

帰ってきたら、それはそれで大変なことになりそうだよ・・・・。

僕は、応援することしかできないけど、頑張ってね。

 

 

 

たまにイッセー君から連絡をもらうけど、彼はイグニスとの対話だけでなく、彼の師から新たに修行をつけてもらっているらしい。

領域(ゾーン)という極限の集中状態に意図的に入る術を学んでいるとのことだ。

 

再会する頃には彼は更に強くなっているだろう。

どんどん引き離されていくような気がするよ。

 

 

僕もその領域(ゾーン)に入ることは可能なのだろうか・・・・?

もし入れるなら――――――

 

 

 

ズッ・・・・・・

 

 

 

 

「「「「っ!!!!」」」」

 

 

 

 

突然、僕達を凄まじい重圧が襲った。

 

息が詰まりそうな・・・・体が押し潰されそうになるほどのこの重圧・・・・!

この感じはまさか・・・・!

 

 

僕は空を見上げた。

 

視線の先には黒い翼の男。

 

間違いない、ロスウォードだ・・・・・・。

 

 

 

「部長・・・・」

 

「ええ。ついに来てしまったようね」

 

 

皆も厳しい顔で頷いていた。

ついにロスウォードが僕達の前に再び姿を現した。

 

それも最悪のタイミングで・・・。

 

今はアザゼル先生もイッセー君もここにはいないというのに・・・・っ!

 

 

すると、僕達の耳元に小さな魔法陣が展開した。

 

『聞こえているか、おまえ達』

 

聞こえてきたのはモーリスさんの声。

 

「はい、聞こえています。モーリスさん、これは――――」

 

『ああ、分かっている。どうやら奴さんが現れたみてぇだな』

 

「僕達は避難にあたりますか?」

 

『いや、おまえ達は一度戻ってこい。町の避難の方は既に兵士達を動かしている。アザゼルにも連絡済だ。向こうの作業が終われば帰ってくるだろうよ』

 

僕達はその言葉に驚いていた。

 

何という迅速さだ。

ロスウォードが現れたのはつい先程だというのに・・・・・。

 

いや、今は感心している場合じゃない。

 

「部長」

 

「分かっているわ。皆、城に戻るわよ!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・・」

 

「今日の修行はここまでじゃな」

 

「あ、ありがとうございました・・・・・・・」

 

 

俺は息をきらしながら小屋へと戻っていく師匠に頭を下げた。

 

あー、疲れた・・・・・・。

 

俺はその場に大の字になって寝転がった。

 

 

ここは小屋がある崖の下。

そこに広がる大きな草原だ。

 

俺はこの三日間、師匠から領域に意図的に入るための修行を受けてたんだけど・・・・・・・。

 

 

結果的には僅かな時間だけど領域に入ることには成功した。

一度入っていたこともあり、予想よりも早く入れることができた。

 

ただ、想像してたよりもキツかった。

身体的にもそうだけど、やり過ぎると頭痛がするんだよなぁ・・・・・。

 

しかも、籠手の力を使わずに師匠とガチンコで殴り合いの猛特訓。

もうヘトヘトだよ・・・・・・。

 

『スケベジジイとは言え、この世界では武術の神と呼ばれるジジイだ。相応の実力はあるさ。今の相棒では勝てんだろう』

 

まぁね。

 

パワーだけならともかく、テクニック勝負となるとな。

錬環勁気功だって、師匠の方が遥かに上だし。

 

『それはそうだろう。あのジジイは長い時の中で技術を磨き続けてきた。二年の修行で追い付けるほど甘くはないさ。それに、ジジイが本気で錬環勁気功を使えばパワーですら劣ることになるぞ』

 

師匠を越えるにはまだまだか・・・・・・。

いつかは越えてみたい背中だけどな。

 

 

とりあえず風呂に入ってから飯にするか。

朝からぶっ通しだったから腹減っちまった。

 

 

 

 

 

 

昼食を終えて体を休めていると・・・・・・。

 

「そういえば、オーディリアにロスウォードが現れたみたいじゃの」

 

「ブフォアッ!!!!」

 

俺は盛大に口の中のお茶を吹き出した!

 

だってそうだろ!

 

師匠に掴みかかる!

 

「なんで、そんなことを思い出したみたいに言うんですか!?」

 

「落ち着かんか。ワシもさっき知ったんじゃ」

 

「じゃあ、早く教えてくださいよ!」

 

なんでそんな呑気にしてるの!?

 

ヤバイじゃん!

アリスや美羽達がピンチじゃねぇか!

 

師匠はまぁまぁ、と俺を宥めるように言う。

 

「そもそも、修行したばかりで消耗しておるお主が行って戦力になるとおもうか?」

 

「うっ・・・・・・」

 

「万全のお主が向かっても手も足も出なかったのが、あんな腹も減って、ヘロヘロの状態で勝てると思うとるのかの?」

 

「ううっ・・・・・・」

 

 

仰る通りです・・・・・・。

 

師匠とやり合って、消耗しきってる俺が行っても邪魔にしかならないよな・・・・・・。

 

いや、だからって皆のところに行かないわけにはいかないだろ!

 

あー、どうすりゃ良いんだよ!

 

 

俺が頭を抱えていると師匠がニヤッと笑んだ。

 

「まぁ、そう慌てるでない。今のところロスウォード本人は何も仕掛けておらんしの。精々、眷獣を出しとるくらいじゃ」

 

「眷獣?」

 

「なんじゃ、その名も知らんかったのか? ほれ、あの白いやつじゃよ」

 

あー、あの怪物ね。

 

眷獣って言うのか。

初めて知ったよ。

 

確かに獣っぽい雰囲気あるかな?

 

「眷獣程度ならお主の仲間でどうにでもなるじゃろ」

 

まぁ、それはそうだけど・・・・・・。

 

アリスやモーリスのおっさんもいるし。

それに、部長や朱乃さん達もパワーアップしてるしな。

 

「でも、何かあってからだと遅いじゃないですか。ここからだと時間もかかりますし」

 

この神層階からあの島に降りて、そこからオーディリアまで飛ぶ必要がある。

当然、それなりに時間がかかる。

それでは遅すぎる。

 

「それも問題ない。こんなこともあろうかと作ってもらったからのぉ」

 

作ってもらった?

何を?

 

師匠は立ち上がり、部屋の隅にあるクローゼットを開けた。

すると、ピッピッと電子音が鳴る。

何かを操作してるみたいだ。

 

操作が完了したのか師匠は手招きで俺を呼ぶ。

 

師匠のところに行った俺が見たものは―――――

 

 

 

「エ、エレベーター・・・・・・・?」

 

 

 

小さなガラス窓がある小さな部屋。

壁に取り付けられたボタンには色々な国名が刻まれている。

 

 

「このボタンを押せば、その国へと飛ぶことができる。どうじゃ、すごいじゃろ?」

 

 

えええええええええっ!?

 

知らねぇぇぇええええええ!

この十日間、こんなの一度も見たことねぇよ!

 

「いつの間に!?」

 

「んー、四日ほど前じゃったかの? お主が座禅しとる間に知恵の神につけてもらったのじゃ」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

言葉が出ない・・・・・・。

 

俺がイグニスに意識を潜らせている間にこんな物を・・・・・・。

 

神様マジでパネぇ・・・・・・・。

 

 

「え、えーと、俺としては助かるんですけど・・・・・こんなの作って良いんですか?」

 

神様が下界に降りるのは禁じられているんだろ?

 

 

師匠は顎髭をさすり、笑みを浮かべた。

 

「別にこういう物を作ることは禁止されとらんよ。それに使うのはお主じゃ。何も問題はあるまいて」

 

ま、まぁ、それもそうか・・・・・・。

 

 

「そういうわけじゃ。とりあえずお主はある程度回復させてから向かうのが良かろうて。少し待っておれ。良いものを作ってやろう」

 

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

モーリスさんからの指示を受けた僕達は城の正門前に集まっていた。

僕達が到着した頃には騎士団の人達は白い怪物を抑えるべく現場へと向かった後だった。

 

「さて、集まってもらってそうそうで悪いんだが、おまえ達にも動いてもらう」

 

そう言うとモーリスさんは紙を広げた。

それはこのセントラルの地図で、数か所に赤い印が着けられている。

 

「見て分かると思うが、この印のところが白い奴らが暴れている箇所だ。今のところ、どういうわけかロスウォード本人は動いていない。それが気になるところではあるが・・・・・」

 

 

確かに。

 

ロスウォードは先程からあの怪物を生み出すだけで、本人が動こうとする様子はない。

まぁ、怪物の数はこれまでよりもはるかに多い数を出してるわけだけど・・・・・。

すでに百近く放っている。

 

これを相手取るのは一苦労だ。

 

 

だけど・・・・・

どう考えても、自身で攻撃した方がすぐに片が付くと思う。

 

ここにいるメンバー全員で向かっても勝てる相手ではない。

 

それを考えると、やはり・・・・・。

 

一体どういうつもりなんだろうか?

 

 

「奴が動かないなら都合がいい。今のうちに白いのを殲滅する。俺やアリスも当然出る。おまえ達にもそちらに当たってもらうぜ」

 

 

それから僕達は各自指示を受けた場所へと向うことになった。

 

 

 

 

 

 

僕は美羽さん、ゼノヴィアとのスリーマンセルで町の南側へと走った。

他の皆も被害を受けている場所へと向かっている。

 

ちなみにティアさんとモーリスさん、アリスさんは一人で現場へと向かった。

まぁ、あの三人なら一人でも後れを取ることは無いだろう。

 

「木場君! あそこ!」

 

美羽さんが指さす方には通常の物よりも大きい腕の長い猿のような怪物。

その周囲にもあの怪物が数体。

町を破壊していた。

 

ゼノヴィアが叫ぶ。

 

「まずい! 逃げ遅れた人がいるみたいだぞ!」

 

「分かってる! 僕が先陣をきるから二人は援護してくれ!」

 

「「了解!!」」

 

 

僕は駆けるスピードを上げる!

手元に二振りの聖魔剣を創り出し、片方を怪物目掛けて投げつける!

 

 

グシュッ

 

 

聖魔剣は怪物の眼に突き刺さり、その動きを止めた!

更に僕の後方からゼノヴィアのデュランダルと美羽さんの魔法による砲撃が怪物を吹き飛ばした!

 

僕はその間に何とか逃げ遅れた女性を保護。

抱きかかえて、美羽さん達のもとに戻る。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ありがとうございます・・・・。すいません、足をくじいてしまって・・・・」

 

女性の足を見てみると、赤く腫れていた。

それから、どこかで擦りむいたのか少し出血もしている。

 

命に関わるような大きなケガじゃないようで安心したよ。

 

「見せてください。ボクが治癒魔法をかけるよ」

 

そう言って美羽さんは小さな魔法陣を展開して女性の足に当てる。

すると、アーシアさんの神器のように淡い緑色の光が発せられ、傷を治していった。

 

「これで大丈夫。大きなケガじゃなくてよかったよ。もしそうだったらアーシアさんのところまで運ばないといけなかったからね」

 

アーシアさんは今、城内で逃げる際に負傷した人達の治療に当たってる。

 

彼女の神器の力はこちらに来てから伸びており、一度に大勢の人を回復できるようになっていた。

それもかなり早いスピードで。

 

 

 

まぁ、それは僕も同じだったりするんだけどね。

部長や朱乃さんのように早くは無かったけれど、僕の力にも変化はあったんだ。

 

僕は聖魔剣を手に握っている一振りのほかに七本の聖魔剣を空中に展開する。

一本一本はそれほど長くはなく、普通の剣の半分くらいの長さだ。

 

「美羽さんは後ろから援護をお願いするよ。僕とゼノヴィアが前衛だ」

 

「了解だ。派手に暴れるとするよ」

 

「でも、出来るだけ町は壊さないでね?」

 

ははは・・・・

 

ゼノヴィアにそれを頼むのは難しい気はするけどね・・・・。

 

 

「さぁ、行くよ!」

 

僕は地面を蹴って一気にトップスピードに至る。

展開した七本の聖魔剣も僕に付き添うようについてくる。

 

僕の目の前には二体の怪物。

その太い腕から繰り出される攻撃を避け、懐に入る。

 

そして、そのまま飛び上がり怪物の頭を斬り刻んだ。

 

 

普通の相手ならここで勝負はついてるんだけど、今相手をしているのはこれで終わるような相手じゃない。

頭を無くしても僕を狙って攻撃してくる。

 

僕は手を振りかざし、宙を舞う七本の聖魔剣を動かす。

 

「斬り刻め、七剣(セブンソード)

 

七本の聖魔剣が一斉にその鋭い刃で怪物を切り刻んでいく。

 

一体目がバラバラに分解された後、七本の剣は意志を持ったかのように二体目の怪物に襲いかかって行く。

 

 

これが僕が使えるようになった力の一つ。

創り出した聖魔剣を遠隔操作できるようにすること。

 

今までは空中に創り出しても一定の方向に飛ばすくらいしか出来なかった物がこうして自在に動かせるようになったんだ。

 

まぁ、部長や朱乃さんと比べると地味だけどね。

 

それでも、これが出来るようになったのは僕にとってはかなり大きい。

今までは近接して戦うしかなかった相手でも遠くから攻撃できるようになる。

それに、何より手数を圧倒的に増やすことが出来る。

 

戦術的に幅が広がったことになるね。

 

 

「はぁぁあああああああっ!!!!」

 

 

ドッガァァァァァァァァァァァン!!!!!!

 

 

デュランダルから放たれた莫大な聖なるオーラが辺り一帯の建物ごと怪物を消し飛ばした。

 

ゼノヴィアにも変化は起きてたんだけど・・・・・

見て分かる通り、それは大幅のパワーアップだった。

 

ゼノヴィアらしいといえばゼノヴィアらしいけど・・・・・・。

 

 

「どうだ木場! 私のデュランダルはここまで威力を上げたぞ!」

 

意気揚々に言うゼノヴィア。

 

うん・・・・すごいとは思うよ・・・・・。

あれだけのしぶとさを誇る相手を一撃で消し飛ばすのだから。

 

 

でも、さっき美羽さんに町は壊さないようにって言われていたのを完全に忘れているみたいだね・・・・。

 

 

はぁ・・・・。

 

どうしよう、ゼノヴィアが完全にパワーに走ってしまう。

彼女にはもっとテクニック方面も頑張ってほしいのだけれど・・・・。

 

 

事が済んだら、美羽さんに町の修復をしてもらうことにしよう・・・・・。

 

 

ふと見ると美羽さんは保護した女性の周囲に結界を張りながら、ため息をついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼノヴィアさん・・・・町は壊さないようにって言ったのに・・・・」

 

「まぁ、良いじゃないか。この辺りの住民は助けられたし、あの怪物共は全て倒しただろう?」

 

「それはそうなんだけどさ・・・・・」

 

ガックリと肩を落とす美羽さん。

ま、まぁ、彼女の気持ちはわかるかな。

 

流石にこれは・・・・・

 

 

周囲を見渡すとゼノヴィアが放った攻撃の爪痕があちこちに残っている状態だった。

 

うーん、後でモーリスさんに怒られなければいいけど・・・・・。

 

 

とりあえず他の皆も大体は終わったみたいだ。

 

残るは――――――――――

 

 

 

 

 

「シリウスの娘か。・・・・・赤龍帝はどこにいる?」

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

声がした方を振り向くといつの間にかロスウォードがすぐ近くに立っていた。

 

前回もそうだったけれど、声をかけられるまで接近に気が付かなかった・・・・・。

 

 

美羽さんは唾を飲み込み、ロスウォードに尋ねる。

 

「・・・・お兄ちゃんはここにはいないよ」

 

「そうか。どうりで出てこないわけだ」

 

 

僕はロスウォードの言葉に疑問を覚えた。

 

イッセー君を狙っているのか?

 

美羽さんも怪訝な表情をしている。

 

「どうしてお兄ちゃんを狙っているの?」

 

「どうして、か・・・・。正直、理由は俺にも分からん。殺し損ねたからなのか、あるいは・・・・・。まぁ、今のあの男の力では後者は無理だろうがな」

 

そう言うとロスウォードはこちらに掌を向ける。

 

「どのみち俺のすることは変わらん。ただ、与えられた全てを滅ぼすという術式に従っておまえ達を消すまでだ」

 

「「「っ!」」」

 

僕達は咄嗟に身構える。

 

 

けど、今の僕達でロスウォードの相手をするのは無謀だ。

 

確かに僕達は前回よりも力を伸ばすことが出来た。

それでも、今の力が目の前の敵に通じるとは思えない・・・・・。

 

皆もロスウォードがここにいることは彼が放っている濃密なオーラで気付いているはず。

それでも、救援に来るまでには時間がかかるか・・・・・。

 

 

 

嫌な汗が額を流れていく。

 

 

どうする・・・・?

この状況をどうやって切り抜ければいい?

 

僕が考えている間にもロスウォードは黒い槍を手元に創り出す。

堅牢なイッセー君の鎧でさえ容易く貫いたという黒い槍。

 

 

 

 

ロスウォードはそれを握り、僕達の方へと投げた――――――――

 

 

 

 

速い。

迫る槍のスピードに体がついてこない。

相手は全く本気を出していないというのにこのスピードだ。

 

僕だけでなく美羽さんやゼノヴィアも同じ状態。

 

 

 

黒い槍は美羽さんに迫り、その胸を貫く。

 

 

 

 

 

――――――――――はずだった。

 

 

 

 

 

突如、美羽さんは光の粒子と化してその場から姿を消した。

美羽さんがいなくなったことで、黒い槍は僕とゼノヴィアの間を通り抜けて遙か彼方まで飛んで行ってしまった。

 

 

どういうことだろう?

なぜ美羽さんが姿を消した?

 

 

 

 

「アザゼル先生がくれたブレスレットが役に立ったな」

 

 

 

 

 

声がした。

聞き覚えのある声だ。

 

僕達が待ちわびた彼の声―――――――――

 

 

上空を見上げると美羽さんを抱きかかえているイッセー君の姿があった。

 

 

 

「悪い。遅くなった」

 

 

 

 

 

[木場 side out]

 

 



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22話 禁断の力

今回が夏休みラストの投稿になります。

次回は少し期間が空くことになります。


十分ほど時はさかのぼる。

 

師匠が何か作ってくれるというので、それまで待っていた。

 

俺としては今すぐにでも皆のところに向かいたいんだけど・・・・・。

修行したばかりで消耗した状態でロスウォードとやり合うのは無謀だ。

 

 

焦る気持ちを抑えながら待つこと数分。

 

師匠がキッチンの方から出てきた。

 

「ほれ、出来たぞい」

 

と師匠が渡してきたのはお湯・・・・?

 

コップに入ってるのは透明なお湯。

見た感じ、普通のお湯だ。

 

「師匠、これは・・・・?」

 

「それは神湯(しんとう)と言っての。この神層階でしか作れん特別な水から作ったものじゃよ。効果は飲めば分かるじゃろ」

 

 

・・・・・?

 

 

色々疑問もあるけど、とりあえず飲んでみるか。

コップに口をつけて一気に飲み干す。

 

味は甘露水のように少し甘い。

でも、それ以外は何てことない普通のお湯だ。

 

「どうじゃ?」

 

「どう言われても普通の水じゃ・・・・・・・・っ!」

 

 

俺はそこまで言いかけた時に気づいた。

体の底から力が湧いてくる。

 

もしかして、これが―――――

 

 

師匠は俺の様子を見ながら顎髭をさする。

 

「すごいじゃろ? それを飲むとな体力の回復だけでなく、ケガの回復もしてくれるありがたい水じゃよ。しかも飲んでから直ぐに効果が現れるというのがすごいところなんじゃ」

 

俺は手のひらを開けたり閉じたりして、力の入り具合を確認してみる。

 

スゲぇ!

 

流石は神々が住まう場所だ!

こんなものまであったのかよ!

 

さっきまで残っていた疲れまで完全に無くなってる!

フェニックスの涙よりすごいんじゃないのか!?

 

「師匠、これいくつか貰っていっても良いですか?」

 

これがあったらアーシアの負担も減らせることが出来るし、何より体力まで回復できるところがありがたい。

 

しかし、師匠は首を横に振った。

 

「この水は神層階でも稀少なものでの。ワシが持っとる分はお主に飲ませたのが最後じゃ」

 

 

その言葉にガックリと肩を落とす。

 

マジでか・・・・・・。

せめて一人分くらいは欲しかったんだけど・・・・・・。

 

 

まぁ、無いものをねだっても仕方がない。

 

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

「うむ。死ぬでないぞ」

 

「はい!」

 

 

師匠に別れを告げ、いつの間にか用意されていたエレベーターで下界に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

イッセーが下界に降りてから数分後。

 

イッセーを見送ったグランセイズは一人、動き始めていた。

 

服装もそれまで着ていたラフなものから白い胴着に着替えている。

 

「さて、ワシも動くとするかの。可愛い弟子一人に無茶をさせる訳にはいくまいて・・・・・・」

 

そう呟き、彼は小屋から出ていった。

 

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

 

 

 

現在。

 

俺はアザゼル先生が作ってくれたブレスレットの効果で俺の元へと強制転移させられた美羽を抱きかかえて、宙に浮いていた。

 

 

危なかった・・・・。

ブレスレットが無かったら、美羽は確実に胸を貫かれているところだった。

 

 

妹が死ぬところを見ずに済んだか・・・・・。

良かった・・・・・。

 

 

先生、マジでありがとう!

 

 

呆然としていた美羽が口を開く。

 

「お、お兄ちゃん・・・・?」

 

「おう。十日ぶりか? 悪いな、遅くなっちまった」

 

 

久しぶりの美羽か・・・・・。

 

最近、美羽成分が足りてなかったから、なんか安心するぜ!

 

あー、この感触、この声、この温もり!

こんな状況なのに癒されるな!

 

 

『シスコンはいいから、目の前の敵に集中しろ』

 

おっと、そうだったそうだった。

今はこんなことしてる場合じゃ無かったな。

 

 

感覚を広げて皆の安否を確認してみる。

目の前の木場とゼノヴィアは良いとして他の皆は・・・・・・

 

 

「ん? アザゼル先生とロスヴァイセさん、それにリーシャがいないな・・・・・」

 

「その三人は今はこの町にいないよ。何かを準備しているみたい」

 

なるほど・・・・・。

ってことは全員無事なわけね。

 

先生達が動いているってことは何か有効な手段でも見つかったのだろう。

 

 

と、ここでティアが俺のところに転移してきた。

 

「待っていたぞ、イッセー」

 

「ああ、遅くなってゴメンな」

 

「なーに、あの程度ならイッセーの力無しでも乗りきれる。問題は・・・・・・・」

 

ティアが下に視線を移す。

 

その先にいるのは一人佇むロスウォード。

 

 

相変わらずの濃密なオーラだ・・・・・・。

 

 

 

とりあえず、美羽を下ろすか。

 

俺は美羽を抱き抱えたまま、地面に降り、美羽をそこに下ろす。

 

 

「来たか、赤龍帝。・・・・・・力をつけたか」

 

「分かるのか?」

 

「纏うものが以前よりも僅かに強くなっている」

 

 

僅かに、か。

 

まぁ、あれからそこまで時間が経ってないから、仕方がないと言えばそうなるな。

 

ロスウォードは黒い槍を手元に作り出す。

 

それを見て、ティアと美羽が戦闘態勢に入った。

俺も鎧を纏って、いきなり天武の状態になった。

 

 

ティアが俺に問いかける。

 

「それで? 神層階でなにか得られたのか?」

 

「うーん、少し?」

 

 

正直言って、イグニスとの対話は全く出来ていない。

何度も潜っては見たものの、その成果と言えるものはほとんどない。

 

それでも師匠の元に行って得られたものはあった。

 

 

 

「よそ見している暇があるのか?」

 

 

その瞬間、ロスウォードが俺達の前から消える。

 

 

 

 

 

それと同時に、俺の視界から色が消えた―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

突然巻き起こる爆音と爆風。

僕の視界からロスウォードの姿が消えた一瞬のことだった。

 

 

衝撃が大気を震わせて、辺り一面を吹き飛ばした。

ゼノヴィアの攻撃とは比較にならない程の破壊。

 

 

「なにが起きたんだ!? イッセー達は無事なのか!?」

 

ゼノヴィアが目を見開き、叫ぶ。

 

「分からない。僕も何が起こったのか全く見えなかったからね」

 

気付いたらこの状況だ。

 

いまだに土煙が舞い上がっていて何も見えない。

 

 

それから少しすると、土煙が止み視界が開けてくる。

 

僕達の眼に入ったのは――――――

 

 

 

「ほう・・・・・」

 

 

 

瓦礫に埋まるロスウォードと拳を握りしめるイッセー君だった。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー・・・・おまえ・・・・・」

 

驚愕するティアの声。

 

見れば皆も目を見開いていた。

 

 

まぁ、それもそうなるだろうな。

なんせ、俺達の視線の先にいるのは瓦礫に埋まってるロスウォードなのだから。

 

 

ロスウォードが視界から消えた瞬間、あいつは俺目掛けて槍を振るってきた。

俺はそれに合わせて全力のカウンターをぶっ放しただけだ。

ただそれだけ。

 

 

それでも、以前の俺なら全く反応できずに首を斬り落とされていただろう。

前回はあいつの動きを見切ることすらできなかったからな。

 

 

領域(ゾーン)。これが俺の新しい力だ」

 

 

極限集中状態。

脳への錬環勁気功の使用によって強制的にその状態へと至らせる。

 

当然、負荷は大きい。

それでも、こうしてロスウォードの動きを見切って、反撃できるほどの力を得られる。

 

まぁ、制限時間はある。

 

長時間の使用は俺の体にダメージを与えることになるから、そのあたりに注意しないとな。

 

 

ロスウォードはゆっくりと立ち上がる。

 

「俺にカウンターを入れるとはな・・・・。これは予想外だ」

 

「そうかよ。それじゃあ、予想外ついでに前回の反撃と行くぜ」

 

 

俺は後ろを振り返り、ティアと美羽に視線を送る。

 

「前衛は俺が行く。二人は援護を頼むよ。流石に一人で倒すのは無理だからな。あと、アリスとモーリスのおっさん達にも言っといてくれ」

 

「・・・・仕方がない。奴の動きを捉えられるのはイッセーだけだ。私達が前に出ても邪魔にしかならないだろう」

 

「分かったよ。お兄ちゃんはボクが支えて見せるよ」

 

「頼んだぜ」

 

美羽の頭を撫でて、ロスウォードと向かい合う。

 

 

さて、行くとするか。

 

『そうだな。前回の借りはしっかり返すとしよう。やられっぱなしでは赤龍帝の名が泣く』

 

おうよ!

 

行くぜ、ドライグ!

 

『Accel Booster!!!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

全身のブースターからオーラを噴出して、ロスウォードへと突っ込む!

 

領域に入ったことで、反射速度だけじゃない。

身体機能の全てが向上されている。

 

駆けるスピードも段違いだ!

 

ロスウォードも瞬時に黒い槍を握り、俺を迎え撃つ。

 

俺の拳とロスウォードの黒い槍が激しく激突する!

 

「でぁぁぁぁあああああああああっ!!!!!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

一輝に倍加した力の全てを拳に込めて殴りつける!

一発一発を放つたびに倍増した力の全てを籠める!

それはロスウォードの黒い槍と打ち合えるほどの威力を生み出していた!

 

正直、こんな力の使い方では長期戦は不利だ。

だから、早い段階で勝負を決めたいところ。

 

俺の拳を軽々と受けながらロスウォードは言う。

 

「なるほど。確かに前回とは違う。今の貴様の眼には別の世界が見えているようだな」

 

「まぁな!」

 

そう叫びながら、拳と蹴りの連続技を放っていく!

 

前回はおまえの動きを捉えることすらできなかった。

それを考えるとこうして打ち合えるだけでもかなりの進歩だ。

 

手は休めない。

攻撃の手を緩めてしまえば、一気に押し切られてしまう。

 

衝突する度に巻き起こる爆風。

それは雲を消し、町の建物を崩す。

 

 

それでも、こいつが本気ではないことは一目瞭然か・・・・・

まだまだ力を残していやがる・・・・!

 

ったく、こっちはこれだけ無茶苦茶な力の使い方してるのにこれかよ!

 

 

ザシュッ

 

 

黒い槍が肩をかすった。

それだけで鎧の部分を壊して生身にダメージを与えられた!

 

分かっていたけどとんでもない威力だ!

 

直撃したら死ぬ。

そう考えても間違いじゃない。

 

 

「どうした? 俺を倒すつもりなのだろう?」

 

「ガッ・・・・!」

 

振り下ろされた二本の槍が俺の胸を十字に抉った!

咄嗟に後ろに下がったから致命傷は避けたけど、このままじゃ押し切られてしまう!

 

 

「お兄ちゃん、下がって!」

 

 

美羽の声が聞こえ、俺は瞬時に上空へ飛ぶ。

 

直後、ティアと美羽から放たれる魔法のフルバーストがロスウォードを覆った!

マシンガンのように放たれる魔法による攻撃。

しかも一発の魔法が凶悪なほどの威力を持っているのが見ただけで分かる。

 

無限に放たれる魔法の砲撃は完全にロスウォードの動きを封じ込めていた。

 

「イッセー!」

 

「私達もいきますわ!」

 

地上から放たれるのは滅びと雷光の龍。

その二つの龍は混ざり合い、強力な力を持った一体の龍となった。

 

滅びの力と雷光を併せ持つ龍。

その龍は動きを止めているロスウォードへと食らいついた!

 

流石は部長と朱乃さんだ!

最高の合わせ技じゃねぇか!

 

そこにゼノヴィアによる聖なるオーラの砲撃、イリナとレイナによる光の雨が降り注いだ!

 

 

しかし――――――――

 

 

 

バシュンッ

 

 

 

 

全ての攻撃が弾き飛ばされ、現れたのは傷一つ付いていないロスウォード。

 

ちっ、やっぱり今のじゃあいつは倒せないか・・・・・。

 

 

龍王の攻撃も混ざってるってのに。

あんなのをまともに受けたら魔王クラスでも消え去るぞ・・・・・。

 

 

 

あいつを倒すにはやっぱり―――――――

 

「来てくれ! イグニスッ!!」

 

灼熱の炎を纏いながら現れる巨大な片刃剣。

ロスウォードを倒すための鍵となる剣。

 

領域に入っている今なら、少しくらいはこいつの力を引き出せるはずだ!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

『Transfer!!』

 

倍加した力をイグニスに譲渡!

 

イグニスの刀身が元の鋼色から紅く変色し灼熱化する!

シャルバ達に使った時よりも強い力を感じる!

 

 

これを見たロスウォードは目を細める。

 

「イグニス・・・・・。俺を倒すならそれを使うのが最適だろうな」

 

 

前回、初めて出会った時から感じていたんだけど・・・・・・

こいつ、もしかして―――――――――――

 

 

いや、今はそんなことを考えている場合じゃないな。

 

俺がしなきゃいけないのは、ここでこいつを倒してこれ以上の破壊を止めさせる!

それだけだ!

 

 

錬環勁気功で更に気を練り上げ、全身に循環させる。

脳にも更に気を集中させて領域の状態を持続させる。

 

ここで領域から出てしまえば、俺にはあいつの動きを捉えることが出来なくなる。

その前に、なんとしてでも!

 

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

『Ignition Booster!!!!』

 

 

 

全身のブースターからオーラが爆発し、一気にロスウォードとの距離を詰める!

音速を超えた瞬間的な動きがソニックブームを発生させて、周囲に破壊の嵐を巻き起こした!

 

だけど、ロスウォードは余裕でこの速さについてきやがる!

 

空中に激しい衝突音が響く!

錬環勁気功で残像を生み出し、ロスウォードを攪乱しながら攻撃を仕掛けていく!

 

剣と拳、剣と蹴り。

時には気弾を放ちながら、俺はロスウォードに食らいつく!

 

皆の支援砲撃もあって、俺はまだ戦い続けることが出来ているけど・・・・・・正直、押されている。

それはロスウォードが徐々に力を上げていることもある。

だけど、理由はそれだけじゃない。

 

体が俺に限界を知らせていた。

 

ヤバい・・・・・!

体中が悲鳴を上げていやがる・・・・!

 

腕や足だけじゃない。

激しい頭痛が俺を襲う!

 

『来るぞ!』

 

「っ!」

 

ドライグに言われて、咄嗟に体を反らす。

避けるのが僅かに間に合わず、黒い槍が俺の腹を少し抉った!

 

クソッ!

 

領域の状態でも動きを捉えられなくなってきやがった!

 

『奴が何故、最初から力を出してこないのかは分からん。だが、流石にこのままではマズい。奴のパワーもスピードも戦闘前よりも格段に上がっている。これ以上、力を上げられてしまっては再び手も足も出なくなるぞ』

 

分かってる!

 

一気に決めるぞ!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

「こいつで終いだ! くらいやがれぇぇぇぇ!!」

 

俺はフルスイングでイグニスを振るう!

そこから放たれるのは灼熱の斬撃!

 

この町の空を覆い尽くすような巨大な炎!

かつてない熱量がロスウォードを完全に捉えた!

 

 

更には皆の支援砲撃も降り注ぐ!

全ての砲撃はロスウォードを包み込み―――――――

 

全員の攻撃が弾けて大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・ゲホッゲホッ・・・・!」

 

 

全員の一斉攻撃によって赤く染まった空を見上げながら、俺は町に降り立った。

領域も限界が来たせいで、今は視界に色が戻っている。

 

手足が震え、立つことですらやっとの状態だった。

 

 

『仕方があるまい。戦闘中は倍加し続けている状態だった。しかも、負荷がかかる領域に入った状態でだ。まぁ、相手が相手だがな』

 

ま、まぁね・・・・・。

あ、鼻血出てきた・・・・・。

 

スケベなこと以外で鼻血出すのって久しぶりか?

 

 

「イッセー!」

 

「お兄ちゃん!」

 

声がした方を振り向くとアリスや美羽、部長達がこちらに走ってきていた。

 

「皆、無事か・・・?」

 

「それはこっちの台詞よ。アーシアさん、治療してあげてくれる?」

 

「はい!」

 

アーシアの手から淡い光が発せられて、俺の体を包み込んだ。

 

 

これは・・・・・アーシアの力が上がってるのか?

回復のスピードが前よりも上がっているような・・・・・。

 

 

それに、僅かに気の乱れと体力も治ってきてる?

 

 

アーシアの神器はケガだけを治すものだったんだけど・・・・・。

 

『こちらの世界に来たことで何かしらの変化があったのかもしれんな』

 

あー、前に言ってたやつね。

じゃあ、アーシアの神器も本来の力以上のものを発揮できるようになったのかね?

 

まぁ、何にしてもありがたいね。

 

 

モーリスのおっさんが尋ねてきた。

 

「で、ロスウォードはどうなった?」

 

「倒せてはいない。だけど、今のでそれなりのダメージを与えたと思う」

 

 

なんせ、灼熱化したイグニスの一撃をまともに受けたからな。

その上、皆の一斉攻撃だ。

 

『あんなのを受ければ大抵の神は消し炭になるぞ』

 

そっか・・・・。

 

倒してはいなくても、ダメージは与えた・・・・・・と思いたい。

 

 

「アザゼル先生は?」

 

あの人たちは何かの準備をするためにここを離れているんだろう?

 

まだできないのかよ?

 

「さっき連絡があった。どうやらもうすぐらしいぞ。かなり大がかりな術式らしいからな。手間もかかるんだろう」

 

 

なるほど・・・・。

 

まぁ、アザゼル先生のことだし、上手くいくとは思うけどさ・・・・。

だけど、もう少し急いでほしい。

 

いつ、ロスウォードが動き出すか分からないしな。

 

 

 

 

 

その時―――――

 

 

 

 

 

赤く染まっていた空が、急に暗くなった。

 

 

 

空を見上げると、直径が百メートルは軽く超えるかと思われる漆黒の球体が浮かんでいた。

 

その球体の底には僅かに血を流したロスウォード。

 

 

 

おいおい・・・・・嘘だろ・・・・。

あれを受けて、それだけしかダメージを受けてないのかよ・・・・!

 

俺は腕の一本くらいはもらったと思っていたのに・・・・!

 

 

ロスウォードは自身の体から流れる血を眺める。

 

「俺に傷を負わせたか・・・・。だが、これで限界か・・・・・」

 

 

ロスウォードは俺達の方に掌をむける。

 

それと同時に漆黒の球体はゆっくりと動き出した。

 

「終わりにしよう。貴様らは良くやった。一瞬とは言え、俺に可能性を見せたのだからな。俺としてはおまえ達が更に力をつけるまで待ちたいところなんだが・・・・・。すまんな、俺は自身に施された術式には逆らえんのだ」

 

 

ゆっくりと落ちてくる漆黒の球体。

 

あれはヤバい・・・・!

ヤバすぎる!

 

『ああ。あんなものを受けてしまえば、この町はおろか、この国そのものが消し飛ぶぞ』

 

ドライグの焦る声を聞いて、皆に戦慄が走る。

 

モーリスのおっさんが叫ぶ!

 

「アリス! 避難させた奴らを他の国に飛ばすぞ! 転移の門を開け!」

 

「分かってるわよ!」

 

「リアス! おまえ達も逃げるぞ!」

 

「でも、今からじゃ間に合わないわ!」

 

「それでもやるしかねぇだろ! あんなもん防げると思ってんのか!」

 

 

あの球体が落ちてくるまで一分もない。

 

それだと、この町の人達を転移させるまで時間がなさすぎる。

 

どうする・・・・・!

 

 

 

 

 

っ!

 

 

 

 

俺はそこでハッとなった。

 

あの攻撃を防ぐ方法。

一つだけ可能性を見つけた。

 

 

 

「祐斗はイッセーを頼む!」

 

「はい! イッセー君、僕の肩に掴まるんだ!」

 

おっさんの指示に従い、俺に肩を貸そうとする木場。

 

だけど、俺はそれを拒んだ。

 

俺の行為に木場は驚いたような表情を浮かべる。

 

「イッセー君・・・?」

 

「木場、おまえは皆と行け。アーシア、もう十分だよ、ありがとう」

 

俺は治療してくれていたアーシアに礼を言って立ち上がる。

アーシアの治療のおかげでかなりマシになった。

 

 

何かを察したようにアリスが言う。

 

「イッセー、あんたまさか・・・・!」

 

「ああ、俺は何とか時間を稼ぐ。皆は早く行ってくれ」

 

「「「っ!?」」」

 

皆は俺の言葉に驚愕した。

 

まぁ、驚くのも無理はないか・・・・・。

 

「あんた、正気!? また一人で無茶をするつもり!?」

 

「ははは・・・・。悪いな、どう考えても皆を守る方法はこれしかなかったよ」

 

 

 

 

ドライグ、頼みがある。

 

『なんだ?』

 

少しの間、歴代の怨念を抑え込むことって出来るか?

 

『っ!? それは・・・・・・!』

 

ああ、そうさ。

 

だけど、この状況切り抜けるにはそれしかねぇだろ?

 

『・・・・っ! それはそうかもしれんが・・・・』

 

大丈夫だって、ヴァーリは自身の魔力を消費することで何とかなってただろ?

俺にはそこまでの魔力は無い。

 

でもさ、生命の根源たる気なら周囲から集められる。

それを代用させてもらうさ。

 

『なるほど・・・・。だが、防げるかどうかは分からんぞ?』

 

まぁ、防げなくとも時間を稼げさえすれば良いよ。

皆が逃げる時間だけでも稼げるのなら、それでいい。

 

 

「時間がない。皆、行ってくれ!」

 

「そんなの―――――――」

 

皆が俺を引き留めようとすると、モーリスのおっさんがそれを制した。

 

おっさんと俺の視線が合う。

 

「本気なのか?」

 

「もちろん。まぁ、死ぬつもりはないよ」

 

「そうか・・・・。おまえら、ここはイッセーに任せていくぞ」

 

その言葉にアリスがおっさんに掴みかかった。

 

「どうしてよ!? イッセー一人を置いていくというの!?」

 

「ああ。ここでこうしていても時間の無駄だ。それにおまえは王女だ。この国の民を守る義務がある」

 

「だからって―――――」

 

「おまえらはイッセーの覚悟を無駄にするつもりか?」

 

「「「っ!」」」

 

「おまえらがイッセーのことを想うならここを早く離れた方が良い。こいつのことを本当に想っているのならな」

 

その一言に皆は黙ってしまった。

 

 

もし、俺がここで動かなければ一生後悔すると思う。

 

おっさんは俺の覚悟を組んでくれているんだ。

 

「それに、この場に俺達がいても出来ることは何もない。早くしろ。これ以上イッセーを困らせるな」

 

おっさんがそこまで言うとティアが皆の足元に魔法陣を開く。

 

「そういうことだ。おまえ達は邪魔だ」

 

そして、皆が何かを言う前に光が皆を覆い、強制的に転移させた。

 

 

 

ここに残ったのは俺とティア。

 

 

 

「おいおい・・・・なんでティアまで残ってんだよ?」

 

「おかしなことか? 私はおまえの使い魔だ。主に付き添うのは当然だろう? それに」

 

「それに?」

 

「私との時間を増やすと言ってくれただろう」

 

 

あ・・・・・・。

 

確かに言ったけどさ・・・・。

 

よりによってこんな状況で・・・・・。

 

まぁ、いっか。

 

ティアは言っても聞いてくれないし。

 

 

「それじゃあ、最後まで付き合ってもらうとするよ」

 

「了解だ、マスター」

 

俺とティアは互いに笑みを浮かべた。

 

 

さて、漆黒の球体も迫っていることだし、始めますか!

 

 

パンッ!

 

 

俺は両手を合わせて、気を練り始める。

自分のものだけじゃない。

 

周囲に漂う気を自身に取り込み、体内で循環と圧縮を高速に繰り返していく。

 

これが錬環勁気功の奥義の一つ。

 

俺の体を覆っていた赤いオーラが次第に黄金に変わり、輝き始めた。

 

 

 

ありったけでいくぞ、ドライグ!

 

 

『ああ! こうなったら俺もとことんまで付き合おうではないか!』

 

 

ゴウゥッ!!!!

 

 

 

俺を中心に風が吹き荒れる。

 

 

 

そして、俺は――――――

 

 

 

禁断の呪文を唱えた――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我、目覚めるは―――――――――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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23話 砕かれた希望

学校始まってから中々書く時間がないです(泣)

質問で聞かれたことですが、ロスウォードのイメージはウルキオラの第二階層です。





「我、目覚めるは―――――」

 

 

 

 

 

<ようやくか> 

 

<やっとだね>

 

 

 

 

 

呪文を唱えると、歴代達の声が聞こえてくる。

それと同時に俺の意識を引きずり込もうとしやがる。

 

まぁ、それもドライグがある程度抑えてくれているおかげで、少しはマシだ。

 

 

 

「覇の理を神より奪いし二天龍なり―――――」

 

 

 

 

 

<覇を求めることが我らの真理>

 

<それこそが赤龍帝の本懐>

 

 

 

こいつら・・・・・・っ!

好き勝手言いやがる・・・・・・・!

 

 

 

 

 

「無限を嗤い、夢幻を憂う―――」

 

 

 

 

<おまえも我らと共に来い>

 

<今代の赤龍帝、兵藤一誠よ>

 

 

歴代の怨念が一層強くなる。

 

 

 

うるせぇよ、てめぇら!

そんなに俺の邪魔をしたいのかよ!

 

人の足引っ張る暇があるなら、力を貸しやがれぇぇえええええ!

 

 

 

 

 

「我、赤き龍の覇王となりて―――」

 

 

 

 

 

その節を唱えた時、一人の女性の声が聞こえた。

 

<ふふふ、やっぱり面白いわ、あなた>

 

 

 

・・・・・・・ん?

誰だ?

 

この感じ・・・・・・・・他の歴代とは違うな。

 

 

<心配しないで。私はエルシャ。あなたの味方よ>

 

味方・・・・・?

 

<そう。残留思念になった私は神器の中からずっと、あなたを見ていたわ。おっぱいドラゴンさん♪>

 

はうっ!

この状況でそれ言うの止めてくれません!?

 

つーか、女の人にその名前で呼ばれると超恥ずかしいんですけど!

 

<いいじゃない。面白いし♪ そんなことよりも今は目の前のことを何とかしましょう。私とベルザードでドライグのサポートをするわ。あなたは精一杯、その力を振るいなさい>

 

ベルザード・・・・・・?

 

 

いや、今は気にしてる時間は無いな。

ありがとう、エルシャさん!

これが片付いたら、改めてお礼しにいくよ!

 

 

 

そして、俺は最後の節を力強く発した。

 

 

 

 

「汝を紅蓮の煉獄に沈めよう――――――!」

 

 

 

『Juggernaut Drive!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

俺が身に纏う鎧の形状が変化した。

 

より鋭角になり、色は血のような赤。

背中からはドラゴンの翼のようなものが生える。

 

両手、両足からは鋭利な爪のようなものが生え、その姿は小型のドラゴン。

 

 

 

覇龍となった俺から吹き荒れる嵐のようなオーラは周囲の物を破壊していく。

 

「これが覇龍か・・・・・・。なんという禍々しい力だ」

 

後ろでティアがぼそりと呟いた。

 

 

今まで、この力を使わなくて良かった。

俺の意思に関係なく、周囲を破壊していくからな。

まぁ、初めて使ったからってのもあるんだろうけど・・・・・。

 

 

『いや、覇龍を使って正気を保てているだけでも十分だ』

 

 

ドライグ?

 

歴代の怨念を抑え込んでるんじゃないのか?

 

『それはエルシャとベルザードがやってくれている』

 

その二人は何者なんだよ?

歴代の赤龍帝ってのは分かるけどよ。

 

『ベルザードは歴代の男性赤龍帝の中で最強だった男だ。エルシャは女性赤龍帝の中で最強だった者だ』

 

マジかよ。

 

そんなスゲー人達が俺の味方をしてくれたのか。

 

『まぁ、現在の歴代最強は相棒なんだがな・・・・・。俺も驚いている。神器の奥底にいたあの二人がここで出てくるとは思わなかったからな』

 

 

「喋ってる暇はないぞ。もうすぐ来るぞ」

 

ティアが俺とドライグに注意を促した。

 

上を見上げると漆黒の球体が眼前に迫っている。

 

 

さて、この状態で止めれるかは微妙なところだけど・・・・・。

やるしかねぇか!

 

「いくぜ、ドライグ! ティア!」

 

「おう!」

 

 

俺とティアは上空に上がり、両手を上に掲げる。

手のひらを広げて腰を落とす。

 

こいつをこの町に落とさせやしない!

 

球体は徐々に近づいてきて、ついに俺とティアにのしかかった。

その瞬間―――――

 

 

 

ズンッ

 

 

ぐっ・・・・・・・・!

重い・・・・・・・・!

 

あり得ないほどの重量が俺達を襲う。

骨が軋み、大量の汗が流れる。

体中が悲鳴をあげていた!

 

これだけ圧倒的な力を放っている覇龍状態でも受け止めることすら出来ないって言うのかよ!

ティアだっているってのに!

 

これがロスウォードの力・・・・・・・!

世界を滅ぼすほどの力を持つ存在が放つ一撃か!

 

「「ぐっ・・・・・・おおおおおおおおおおっ!!!」」

 

俺とティアの咆哮がこの町に響く。

 

 

吹き荒れるオーラ。

封印される前の天龍の力を覇龍によって引き出した俺と龍王ティアマットの全力。

ほとんどの敵なら圧倒できるほどの力だ。

 

それでも、俺達は圧されていた。

 

ふと下を見てみると地表までもうすぐのところまで近づいてしまっていた。

 

「イッセー! このままでは・・・・・・・!」

 

「分かってる! だけど、諦めるわけにはいかねぇだろ!」

 

今の状態が続けば、この球体は町に落ちてしまう。

そうなれば、この国の全てを吹き飛はされてしまだろう。

 

この国の人を避難させるにはまだ時間がかかる。

だから、俺達は何としてでもこいつを防ぎきらないといけない。

 

 

こうなったら・・・・・・・

 

 

『どうした? 何か方法があるのか?』

 

ああ、上手くいくかはわからないけどな。

 

ドライグ、俺がイメージするものを送る。

出来るか?

 

『っ! なるほど・・・・・・そうきたか。だが、それでは生身の部分の防御力は大幅に下がるぞ』

 

そんなもんいらねぇよ。

こいつを防ぐことが出来なかったら、どのみち結果は同じだろ?

 

やれることは全てやってやるさ。

 

『承知した』

 

俺は覇龍の状態を維持したまま(・・・・・・・・・・・・)、鎧を解除。

これは覇龍を解いたわけではなく、鎧を維持する力をもこの球体を防ぐ力として使うということ。

 

鎧を解いた瞬間、俺から発せられるオーラが上がった。

それによって少しは持ち直したけど・・・・・・。

ギリギリか。

 

 

俺はティアに頼み事をしてみた。

 

「ティア、おまえの力を全て俺にくれないか?」

 

「それは良いが・・・・・。おまえ一人で何とかするつもりか?」

 

「そうだよ。このままじゃ、そのうち押しきられる。俺とティア、二人の力を一つにしたら少しは可能性がある」

 

今は二人の力をバラバラに使っている状態だ。

それでは力にズレが生まれて、その部分が弱くなってしまう。

 

それだったら、一人に力を集約させた方が効率が良い。

ティアもそれを理解したのか、一考した後、頷いた。

 

「・・・・・・分かった。受けとれ。私の持てる力の全てをおまえに渡そう」

 

ティアはそう言うと俺の肩に手を置く。

その手を通して俺の中にティアの力が流れ込んでくる。

 

 

ドンッ!

 

 

力を受け取ったと同時に俺から放たれるオーラが爆発的に上がった。

赤いオーラが膨らみ、この町を赤く照らしていく。

 

俺に全ての力を譲渡したティアは手を離す。

 

「これで私に出来ることは何もなくなってしまったな。・・・・・・・後は頼んだぞ」

 

俺に全ての力を託したことで、ティアは意識を失い、地に落ちてしまう。

 

「ああ、サンキューな。ティアは下がって休んでいてくれ。後は俺がやる」

 

ティアがくれたこの力。

その想い。

 

無駄にはしない!

いくぜ、ドライグ!

 

『応っ!』

 

『Accel Full Booster!!!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!!!!!』

 

鳴り響く倍加の音声。

新しいその音声はこれまでものよりも更に加速した倍加を実現。

それと同時に俺の力は一気に引き上げられる!

 

 

 

『Welsh Dragon Advent !!!!』

 

 

グオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

 

膨れ上がったオーラは巨大な赤い龍の形となり、漆黒の球体をその太い腕で押し返す!

 

錬環勁気功を脳に使用し、二度目の領域(ゾーン)に突入。

周囲に漂う気を全て使う勢いで、気の圧縮と循環を超高速で続けていく!

 

 

パンッ

 

 

その音と共にこめかみの血管が弾けて、温かいものが頬を伝った。

まだ不馴れな状態で強制的に領域に何度も入ろうとした結果か・・・・・・。

こめかみ以外にも腕や足、体の至るところの血管が弾けていく。

俺の肉体も限界を迎えているようだ。

 

 

 

それがどうした。

 

 

俺は今まで、自分の限界を越えてここまで来たんだ。

限界なんて越えてやる!

 

「がぁあああああああああああああ!!!!!!」

 

獣のような咆哮をあげ、両手を力一杯に前に突き出す。

限界を越えて溜めていた気を全て解き放った。

 

オーラで形成された赤い龍の巨体が更に巨大なものとなる。

その大きさは漆黒の球体を越えていた。

 

 

そして、赤い龍はその翼で球体を包み込み―――――

 

 

 

 

赤い龍の中で全てが弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

 

生じた爆風がこの町を駆け抜け、全てを吹き飛ばした。

 

ティアマットに城へ強制的に転移させられた僕達は避難施設に避難していた人達を転移の門のところまで誘導しながら、ロスウォードの放った球体と、それを防ぐイッセー君達のことを見ていた。

 

僕達も加勢に行きたかったけど、足手まといになるとモーリスさんに止められ、ただ見ることしか出来なかった。

 

漆黒の球体は凄まじいオーラを放つイッセー君達でも、防ぎきれないもので、徐々にこの町に落ちてきていた。

避難民の中からはもうダメだと言う声まで聞こえてくる。

 

 

その時だった。

 

 

イッセー君の纏うオーラが巨大な赤い龍の形となったのは。

 

 

あれは何度か見たことがある。

一度目は若手悪魔の会合でソーナ会長の夢を悪魔上層部に否定された時。

二度目はディオドラ・アスタロトがアーシアさんを傷付けた時。

 

どちらも圧倒的で上級悪魔でも震えるほどの力だった。

だけど、今回のはオーラの量も濃さも桁違い。

魔王クラスをも遥かに上回っている。

 

 

巨大化した赤い龍はその翼で球体を包み込み、最終的にはそのほとんどを抑え込んだ。

 

爆風で町は崩壊状態だけど、あれほどの攻撃を放たれたのにも関わらず、この程度ですんだのなら奇跡と言っても良いのかもしれない。

 

 

 

そして今。

 

 

 

「ボク、行ってくる!」

 

「待って! 私も行くわ!」

 

美羽さんが転移用魔法陣を展開し、アリスさんもそこに飛び込む。

 

「おい! 待て!」

 

モーリスさんが引き止めようとするが、二人の耳には届かず、この場から姿を消してしまった。

 

モーリスさんは頭をかき、僕に言った。

 

「あー、クソッ! 祐斗! ここの指揮は俺が取る。おまえらはアリス達を追いかけてくれ!」

 

「はい!」

 

僕達は部長が展開した転移用の魔法陣に入る。

 

場所は先程イッセー君と別れた場所。

二人がそこへ向かったのは明らかだ。

 

転移の光が僕達を包み込み、その場所まで移動する。

 

すぐ目の前には先に転移していた美羽さんとアリスさん。

その隣ではティアマットが気絶していた。

 

 

だけど、肝心のイッセー君はどこにも見当たらない。

 

 

・・・・・・・イッセー君はどこに・・・・・・・?

 

 

 

その時、僕は美羽さん達の視線が上空に向けられていることに気付いた。

 

 

 

二人の視線を追いかけていくと――――――

 

 

 

僕は目を見開いた。

 

 

そこにいたのは、ロスウォードに首を掴まれ、全身から血を流しているイッセー君。

イッセー君の瞳からは完全に光が消えていた。

 

 

「自身を犠牲にしてこの国を守ったか・・・・・。まさかここまでの力を発揮するとは・・・・・・・」

 

ロスウォードはそう言うと指先をイッセー君の胸に当てた。

 

 

・・・・・待て

 

・・・・・・何をするつもりだ

 

 

「貴様はよくやった」

 

 

ロスウォードの指先に黒い光が集まっていく。

 

 

 

「一瞬だ。せめて楽に死なせてやる」

 

 

「やめてぇえええええええええ!!!!」

 

美羽さんが制止の声をあげる。

 

だけど、その声はロスウォードには届かない。

 

そして――――――

 

ロスウォードから放たれた黒い光はイッセー君の胸を貫いた。

 

 

 

 

「いやぁぁあああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

美羽さんの悲鳴が崩壊したこの町に響いた。

 

 

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 




というわけで、今回はここまでです。

次回も一週間くらいは空くと思います。


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24話 対話の時

思ったより早く書けました!




[木場 side]

 

 

黒い一筋の光が空に流れた。

 

 

ドサッ

 

 

ロスウォードが手を放したことでイッセー君は重力に引かれるまま地面に落ち、砂塵が舞う。

胸に空いた穴からドクッドクッと夥しい血が流れだし、地面を赤く染めていく。

 

 

「いや・・・ああああ・・・ああああああああっ!!!!!!」

 

悲鳴を上げながらイッセー君に駆け寄る美羽さん。

僕達も美羽さんの後に続き、イッセー君の周りに集まった。

 

目を開いたまま、指先一つピクリとも動かない。

 

 

 

・・・・・・・・イッセー君が・・・・・・・死んだ・・・・・・・・?

 

 

あのイッセー君が・・・・・・・・・?

 

 

・・・・・そんな・・・・・・・・・・・

 

 

 

僕は目の前の現実を信じられず、ただ呆然としていた。

全ての思考が停止して、倒れているイッセー君を見つめるだけ。

 

 

これまで、イッセー君はどんな危機でも乗り越えてきた。

イッセー君なら大丈夫。

僅かにだけど、そんな気持ちも僕の中にはあった。

楽観的な考えなのは分かってる。

 

・・・・・・これまでのイッセー君を見ているとそう思えていたんだ。

 

 

だけど、目の前の光景はそんな考えを粉々に打ち砕いた。

 

 

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

 

夢であるなら直ぐに覚めてほしい。

こんな悪夢をこれ以上見たくない・・・・・・!

 

 

「イッセーさん!」

 

アーシアさんが回復のオーラを当てるが、胸に空いた穴が塞がる様子は一向にない。

アーシアさんの神器、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)では損失した部分を回復させることは出来ない。

その為なのだろう。

ということはフェニックスの涙でも効果がないということ・・・・・。

 

美羽さんも必死で回復魔法をかけているけど、穴が塞がる様子はない。

 

 

これじゃあ、イッセー君は・・・・・・っ!

 

 

「起きてよ・・・・目を覚ましてよ、イッセー・・・・・。私、まだあなたに何も・・・・・」

 

部長がイッセー君の体にすがりつく。

目からは大粒の涙を流し、何度もイッセー君の名前を呼び続ける。

 

朱乃さんやアーシアさん、他の皆も同様に泣きながら何度も名前を呼び続ける。

 

それでも、イッセー君が起き上がることも無ければ、返事が返ってくることは無い。

 

 

美羽さんは傍らにペタンと座り込んだまま、力なくイッセー君の体を揺らす。

 

「・・・・・ねぇ、起きてよ・・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・。こんなところで・・・・・・・こんなところで寝ていたら帰れないよ・・・・・・。お父さんとお母さんにただいまって言えないよ・・・・・・。だから、起きてよ・・・・・・。ボクの名前を呼んでよ・・・・・・」

 

「私と約束したじゃない・・・・・。死なない・・・・・絶対に死なないって・・・・・・。約束・・・・破って・・・・どうすんのよ・・・・・・・!」

 

 

カランッ

 

 

アリスさんが手に持っていた槍を落とした音が響く。

 

「言ったわよね・・・・約束破ったらひどいって・・・・。だから、起きなさいよ・・・・! 起きてよ・・・・! イッセェェェェェエエエエエエエエッ!!!!!!!」

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い・・・・・。

何もない真っ黒な世界。

 

まるで海の底に引きずりこまれたように落ちていく。

 

体がどんどん冷たくなり、次第に感覚すら無くなっていく。

 

何も見えない。

何も聞こえない。

何も感じられない。

 

 

 

・・・・・俺、死んだのか・・・・・・。

 

 

覚えているのは今まで禁じていた覇龍を使ったこと。

ロスウォードの攻撃からオーディリアを守るために、限界を超えて力を使いまくったことくらいだ。

 

正直、最後にどうなったのかまでは覚えてない。

 

 

俺、ちゃんと皆を守れたのかな・・・・・。

 

 

それだけが気になってしまう。

 

 

 

だけど、その想いすら闇に呑まれて徐々になくなっていく。

 

このまま、全てが消えてしまうのか・・・・・。

 

 

思考するのを止め、俺は目を閉じる。

 

 

もう何もかもがどうでも良くなる。

 

俺はこのまま・・・・・・

 

 

 

 

―――――― 起きてよ、お兄ちゃん! ――――――

 

―――――― 死なないって約束したじゃない! 目を覚ましてよ! ――――――

 

 

 

薄れゆく意識の中で、かすかに声が聞こえた。

 

もう何も聞こえなくなっているはずなのに、声が聞こえてくる。

 

 

―――――― イッセー! ――――――

 

―――――― イッセー君! ――――――

 

―――――― イッセーさん! ――――――

 

―――――― イッセー先輩! ――――――

 

―――――― イッセー! ――――――

 

―――――― イッセー君! ――――――

 

―――――― イッセー君! ――――――

 

―――――― イッセー先輩! ――――――

 

 

 

俺を呼ぶ声。

 

皆・・・・泣いているのか・・・・・・?

 

ははは・・・・皆は泣き虫だなぁ・・・・・・。

 

 

 

 

そうじゃねぇ・・・・!

そうじゃねぇだろ・・・・!

 

何のんきにしてやがる!

 

皆を泣かせて平気な顔してんじゃねぇ!

 

 

 

死んだから、このまま諦めるか?

 

冗談じゃねぇ!

 

死んだのなら、生き返ればいいじゃねぇか!

 

生き返って、皆の涙を拭いてやれよ!

 

自分でも無茶苦茶なことを言ってるのは分かってる!

 

それでも・・・・・!

 

 

俺は約束したんだ!

 

守るって・・・・!

絶対に死なないってな!

 

 

 

こんな所で、眠ってる場合じゃない。

 

 

立てよ・・・・!

立て・・・・・!

動いてくれよ、俺の体・・・・・!

 

 

 

 

俺の心は・・・・・

 

 

 

 

 

俺の魂はまだ死んでない!

 

 

 

 

 

 

 

「それでこそだ」

 

 

 

 

 

 

 

再び声が聞こえた。

皆の声とは違い、今度ははっきりと。

 

それと同時に黒一色だった世界は白い世界に変わった。

体の感覚も戻り、温かさを感じることが出来る。

 

 

俺はゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡した。

 

 

すると、俺のすぐ近くに黒い霧のようなものが見えた。

 

そして、そこに現れたのは―――――――――

 

 

「あんたは――――――」

 

「久しぶり、と言うべきか? 異世界より現れし勇者―――――赤龍帝、兵藤一誠」

 

 

黒いローブを身に纏った男性。

長い黒髪を持ち、歴戦の戦士を思わせるような威厳のある顔つきをしている。

 

 

「シリウスッ・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は目を見開き、驚きを隠せないでいた。

 

 

目の前に現れたのは既に死んだはずの男だったからだ。

 

 

人間と魔族の戦争を終わらせるために死闘を繰り広げた男。

俺に敗れたことによって、命を落とした男。

 

 

「なんで、あんたがここにいる!? あんたは――――」

 

「死んだはず、か? 安心しろ。私は既に死んでいる。今ここにいる私は思念体のようなものだ」

 

俺の言葉を阻み、シリウスはそう答えた。

 

「私はおまえと最後の戦いをする前に自身の力の半分をイグニスに封じ込めていたのだ。つまり、おまえと私がいるこの世界はイグニスの中というわけだ。私は力を持った思念体と言ったところか」

 

「なっ・・・・!?」

 

その言葉を訊いて、更に驚愕する俺。

 

 

ここがイグニスの中で、シリウスがここにいたこともそうだけど、それ以上に力の半分をイグニスに封じ込めていたことに衝撃を受けた。

 

そして、俺には態々そんなことをした理由も分からなかった。

 

 

「なんで・・・・なんでそんなことを・・・・? もしかして・・・・・あの時、最初から死ぬつもりだったって言うのか!?」

 

もし、そうだとすれば、俺はシリウスを許せない。

 

 

人間と魔族の未来を掛けたあの戦いで手を抜いたってことかよ・・・・・!

 

それだけじゃない。

 

美羽は・・・・あいつは・・・・・!

 

「美羽はあんたが死んで、泣いてたんだ! あんたのことをあいつは父親として慕っていた! それなのに、あんたは・・・・・!」

 

俺はシリウスの胸ぐらを掴んで、怒鳴る。

 

俺が言えたことじゃない。

そんなことは分かってる・・・・!

 

それでも・・・・!

 

「落ち着け。ああしなければ、この世界は滅びていたのだ」

 

シリウスは俺の手を引きはがし、冷静な声で言った。

 

俺はその言葉に疑問を持つ。

 

「どういうことだよ・・・?」

 

「ロスウォード。私はある方より、その存在を聞かされていた。奴がどういう存在なのか。どれほどの力を持つのか。もし、あのまま戦争が続いていれば、この世界はロスウォードによって容易に滅ぼされていただろう」

 

ある方・・・・?

 

「長きに渡る戦争を終わらせ、魔族と人間、この二つの種族の共存を図る。そのためには、まず人間から恐怖の存在とされていた『魔王』という存在を終わらせるしかなかったのだ。魔王は私で最後にしたかった」

 

シリウスはしかし、と続ける。

 

「私もただ無駄に死んだわけではない。私を殺すのに相応しい者。この世界を守ることが可能な力を持った者。何よりも・・・・娘を安心して託せる者。それを見極め続けた。・・・・・おまえとの戦いに手を抜いたというのも誤解。あの時、私は全力を出した。全力を出し切って、おまえという存在を見極めた。・・・・娘に辛い思いをさせたことについては私も心を痛めた。だが、今では自分の選択は間違ってなかったとはっきりと言える。おまえ達と共に過ごす娘は本当に幸せそうだった。礼を言うぞ」

 

「あ、ああ・・・・」

 

 

シリウスの話を聞いて、一応の理解はした。

納得出来ないことはある。

だけど、シリウスの目を見ていると、これ以上問い詰める気にはなれなかった。

 

それに、いきなりお礼を言われて、どう反応すればいいのか分からない・・・・・。

 

 

 

 

 

・・・・・・ん?

 

 

 

 

 

ちょっと待て。

 

 

なんで、シリウスは俺の世界での美羽の生活を知ってるんだ・・・・?

 

 

まさか・・・・・。

 

 

 

嫌な汗が大量に流れてきた・・・・・。

 

 

 

いや・・・いやいやいやいや・・・・・嘘だろ・・・・。

 

ないないない・・・・そんなことって・・・・絶対にないよ・・・。

 

俺の考えすぎだよね・・・・。

 

うん。

 

そうに違いない・・・・!

 

そうであってほしい!

 

 

 

シリウスの表情はそれまでの真剣なものから変わり、複雑そうなものになった。

 

「ま、まぁ、娘と卑猥なことをしているのはどうかと思ったが・・・・・・」

 

うわああああああああああああ!!!!!!

 

嫌な予感が的中しちゃったよ!

やっぱり、これまでの俺達の生活をバッチリ見ちゃってるよこの人!

イグニスの中から俺達のこと見てたよ!

 

最悪じゃん!

 

お父さんの目の前で、娘さんと風呂入ったり、膝枕してもらったり、裸で寝てたりしてしまったよ!

おっぱいを揉んだこともあるんだけど!?

 

 

俺は直ぐに土下座した!

 

「す、すいまっせんでしたぁぁぁぁああああああ!!!!!」

 

やべーよ!

どうしたらいいのか分からねぇよ!

 

殺される!

俺、お父さんに殺されてしまう!

 

「お、落ち着け・・・・。娘自らしたことだ。私もおまえのことを責めたりはしない・・・・?」

 

語尾が疑問形なんですけど!?

 

本当にそう思ってますか!?

 

 

 

「ウフフフ、仲がいいわね、あなた達。流石は互いに認め合った仲、かしら?」

 

 

第三者の声。

若い女性の声だ。

 

声がした方を振り返ると、赤い光が集まっていた。

 

光が止み、現れたのは一人の若い女性。

見た感じは俺よりも少し歳上。

かなりの美女だ。

燃え盛る炎のような赤いドレスを着込んでおり、太ももまである長い髪もドレスと同じ色をしている。

 

俺は突然現れた女性に恐る恐る尋ねてみる。

 

「・・・・えーと、誰?」

 

「あら、あなたはシリウスと違って察しが悪いわね。シリウスは私を見た瞬間に理解したわよ?」

 

そう言われて、俺は首を捻る。

 

少し考えた後、ハッとなった。

 

「あ、もしかして―――――――イグニス!?」

 

「正解~♪ まぁ、イグニスっていうのも仮の名前なんだけどね。今はイグニスでいいわ」

 

女性――――イグニスはそう言いながら微笑む。

 

なんか、軽いノリだな・・・・・。

 

それよりも、今、気になること言ったな、この人。

 

「仮の名前っていうのは?」

 

「あー、それ? それには理由があるんだけど・・・・・。とりあえず、この剣についてお話ししましょうか。まず、この剣を作ったのは私なの」

 

「えっ!?」

 

「驚いた?」

 

そりゃあ、驚くだろ!

 

本当にイグニスという剣を作ったと言うのなら、この人が師匠が言ってた・・・・・・・。

 

「グランセイズが言ってたでしょ? 名を忘れ去られし神がこの剣を作ったって。その神が私なの」

 

「でも、なんで名前を忘れられたんだ?」

 

「それは私がこの世界に命の炎を芽吹かせた後、神層階の最奥に引きこもっていたからよ。長い間、引きこもっていたら皆に名前を忘れられちゃったのよ」

 

ウフフフ、と微笑みながらとんでもないこと言ったよ、この人。

 

 

シリウスが言う。

 

「この方は原初にして、真焱。このアスト・アーデという世界を造り上げた神のうちの一人なのだ。命の母とも言える」

 

「母というのは止めて。私、まだ独身だから」

 

シリウスの頬を指先で押しながら注意するイグニス。

 

独身って・・・・・・。

そんなところ気にしてるんですか・・・・・・?

 

神というより年頃のお姉さんにしか見えない・・・・・。

 

「まぁ、それは置いといて。私がこの剣を造り、こうしてこの剣の中にいる理由だけど・・・・・・。それは言わなくても分かるわよね?」

 

その問いに俺は頷いた。

 

「ロスウォード。あいつを止めるため、ですよね?」

 

「そう。悪神達の自分勝手な考えで造り出されたあの子を止めるために私は神層階の最奥から出てきた。でも、そのためには私自身を剣という形に作り替えて力をある程度封じないといけなかったの。もし、私がそのままの状態で出てきていれば、神層階にも下界にも多大な影響を与えてしまう。だから、自分を剣に作り替えて下界の人々に託した」

 

「託したって言うわりには、俺の腕とか炭になりかけたんだけど・・・・・・」

 

「それはそうよ。制御出来ない莫大な力ほど危険なものはないもの。場合によっては自らの力で滅びる者だっているわ。そんなことにならないようにする為にも、相応しいレベルに達してない人には使えないようにしてたのよ」

 

な、なるほど・・・・・。

 

確かにイグニスの言う通りだ。

 

制御出来なければ、力は暴発することもある。

それがどれだけ、周囲に被害をもたらすか・・・・・・。

 

覇龍がまさにそれだ。

歴代の赤龍帝達は覇龍を制御出来ずに周囲を破壊し尽くして、自身も命を落とした。

 

「まぁ、あなたは強引に使い続けてきたけど・・・・・」

 

ため息をつくイグニス。

 

 

アハハハ・・・・・・。

 

仲間を助けるためだったんだから、仕方がないよね。

腕一本で皆が助かるなら安いもんだ。

 

「それで私が仮の名前を名乗っているのもこの力を抑えるためなの。ここまではOK?」

 

「あ、はい」

 

「よろしい」

 

 

あれで力を抑えてるってところは未だに信じられないけどな・・・・・・。

 

話を聞いてるとイグニスとしての力も本来の力の一部みたいな感じだし・・・・・。

 

本来の力を解放したらどうなるんだよ・・・・・・?

 

想像しただけで恐ろしい・・・・・・。

 

 

あ、そうだ。

 

「今更疑問に思ったんだけど、なんで俺はここに来られたんだ? 何度も潜ってたのに深すぎて、イグニスに会うことすら出来なかったぞ?」

 

「それはあなたが死んだからよ。死んだことで魂が肉体と離れた。死んだ時の衝撃であなたの意識は一気にこの剣の深奥にまで来られたのよ。あなたの相棒、赤龍帝ドライグがここまで来られなかったのは魂が肉体から離れて時が経ちすぎていたからなの」

 

「じゃあ、シリウスは俺と戦う前に一度死んだことがあるのか?」

 

俺の問いにシリウスは首を横に振った。

 

「私は単純に長い月日をかけただけだ。一年以上の時を必要としたがな」

 

そういうことか。

 

一週間程度で何とかなるものじゃなかったってことね・・・・・。

 

 

「とりあえず、この剣についての解説は終わりよ。私の本当の名前を知りたければ、イグニスとしての私の力を使いこなせるくらいに強くなりなさい。その時が来たら教えてあげる♪」

 

「わ、分かりました・・・・・」

 

何年かかることやら・・・・・・。

 

悪魔の長い寿命を使いきっても、その領域に至れるか不安だぞ。

 

「さて、本題に入りましょうか。あなたにお願いがあります、兵藤一誠君」

 

「イッセーでいいよ。皆からはそう呼ばれてるし」

 

「それじゃあ、イッセー。お願いと言うのはあの子を・・・・・ロスウォードを止めてあげてほしいの。彼の望みを叶えてほしいのよ」

 

ロスウォードの望み・・・・・。

 

あいつと戦って分かったことがある。

 

それは―――――

 

 

「あいつが一番、自分自身をどうにかしたいって思ってる」

 

俺の言葉にイグニスは頷いた。

 

「そう。あの子は悪神達にかけられた呪いで自分の意思で行動することが出来ないの。全てに滅びを与えるまで、永遠に滅びを繰り返し続ける。終わりのない滅び。呪いを解呪することはもう無理。・・・・・・あの子を助けるためにも、あの子を終わらせてほしいのよ」

 

助けるために終わらせる、か。

 

悲しい話だ。

 

「分かった。何とかしてみるさ」

 

「あなたならそう言ってくれると思ったわ」

 

微笑むイグニス。

 

 

さて、話は纏まったんだけど・・・・・・。

 

「で、どうやってロスウォードを倒せば良いんだよ? 全く歯が立たなかったぞ? それに、俺は死んでるんだろ?」

 

今の俺は死んでる状態みたいだし・・・・・

イグニスを十全に使えない今では、仮に生き返れたとしても、また直ぐに殺されてしまう。

 

すると、イグニスはチッチッチッと人差し指を立て、左右に振る。

 

「それならご心配なく。そのためにシリウスはここにいるのよ」

 

「へっ?」

 

イグニスに言われて俺はシリウスの方を見る。

 

シリウスは頷いていた。

 

「私が自身の力をこの剣に封じた理由を言ってなかったな。それはこうなることを想定していたからだ」

 

「どういうことだよ?」

 

「つまり、おまえとイグニスの繋がりを私という存在を用いて強くする。そうすれば、おまえはイグニスの力を引き出せる。そのために、私はここにいる」

 

「だけど、それは―――」

 

「ああ。これを行えば私の存在は完全に消える。だが、これも想定内だ」

 

「っ!」

 

「何か思うところがあるのか?」

 

「当たり前だ! 俺にまた、おまえを殺せって言うのかよ!? この戦いに勝っても、あんたは・・・・・・!」

 

「殺せ? おかしなことを言う。私は守るべきもののために力を使うだけだ。娘を、私が愛したこの世界を守るためにな。それで消えるのならば本望だ。娘のこの先を見守ることが出来ないのは心残りではあるが、おまえがいてくれるのなら心配はあるまい。・・・・・・そうだな、おまえに最後に頼み事をするとしよう」

 

「・・・・・・何だよ?」

 

「娘を――――ミュウを頼む」

 

 

真っ直ぐな目で俺を見てくるシリウス。

 

 

あの時の・・・・・・シリウスに美羽を託された時の光景と重なる。

 

あの時から俺と美羽の関係は始まった。

 

あれからもう二年が経った。

 

まさか、またその言葉を聞くことになるなんてな・・・・・。

 

 

両の頬を熱いものが流れていることに気づいた。

 

俺は服の袖でそれを拭い、シリウスに拳を突き出す。

 

「ああっ・・・・・! 任せとけ・・・・・!」

 

シリウスは俺の答えに満足そうな笑みを浮かべた。

 

 

パンッ

 

 

イグニスが掌を叩く音が響く。

 

「それじゃあ、いきましょうか。イッセーを待つ人もいることだし、そろそろ安心させてあげないとね」

 

「そうだな。娘も泣いているようだ。早く起きて拭いてやってほしい」

 

二人の言葉に俺は静かに頷く。

 

そして、俺達三人は円を描くように互いの手を繋いだ。

 

二人の――――シリウスとイグニスの力が流れ込んでくるのを感じる。

 

力だけじゃない、想いも伝わってくる。

 

 

 

 

 

 

いくぜ、二人とも。

 

 

 

今から唱えるのは今回が最初で最後の呪文。

一度きりだ。

 

 

 

 

 

「我、目覚めるは魔と真焱を纏いし赤龍帝なり―――」

 

 

 

 

 

 

 



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25話 滅びの終わり

異世界編もクライマックス!

あと1~2話くらいで終わり・・・・・かな?


[木場 side]

 

 

 

僕達は絶対的な危機に陥っていた。

 

 

 

ロスウォードの攻撃によってイッセー君は倒れた。

 

この場にいる皆にとってイッセー君は心の支えと言っても過言ではない存在。

それを失ったことは僕達にとっては致命的なものだった。

 

 

そして今。

 

 

ロスウォードに負わせた傷から流れ出た僅かな血。

そこから例の怪物が産まれ、僕達を包囲していた。

 

数は十体程度。

 

 

「祐斗! そっちは任せるぞ!」

 

「はいっ!」

 

僕は駆けつけてくれたモーリスさんと共に皆が逃げるための道を切り開いていた。

 

僕は新しい力の一部、七剣(セブン・ソード)を駆使して怪物を斬り刻んでいく。

怪物の手足を七剣で切断し、最後に本体にトドメをさす。

 

 

皆が戦える状態じゃない今、僕がやるしかない。

正直、僕も一杯一杯だ。

それでも、イッセー君の代わりに僕が皆を守らないといけない。

 

僕は流れる涙を拭い、新たな敵に斬りかかる。

 

 

モーリスさんもその卓越した剣技で一度に数体の怪物を塵にしていった。

 

 

怪物に関しては僕とモーリスさんだけで十分だろう。

 

 

 

問題は―――――

 

 

 

タンッ

 

 

 

地上に降り立つロスウォード。

その冷たい瞳が僕達を捉える。

 

「貴様らも赤龍帝の元へと送ってやる。それが、俺の意思(・・・・)で出来る唯一のことだからな」

 

そう言うと、周囲に黒い槍を無数に展開する。

宙を覆うそれらの穂先全てが僕達へと向けられていた。

 

 

「こいつは・・・・・ヤバイな・・・・・・」

 

モーリスさんが呟く。

剣聖と呼ばれる彼ですらこの反応だ。

 

あの無数の槍が放たれれば、僕達に防ぐ術はない。

 

 

「案ずるな。痛みすら感じない。・・・・・・一瞬だ」

 

ロスウォードが指を弾く。

 

それと同時に全ての槍が雨のごとく僕達に降り注いだ。

 

僕は・・・・・・っ。

 

親友の仇を討てないまま、こんなところで終わってしまうのか・・・・・・っ。

 

 

 

黒い槍が僕の眼前まで迫った。

 

 

 

 

その時――――――

 

 

 

 

 

オオオオオオオオオオオオッッッ

 

 

 

 

 

突然、現れた炎の壁。

 

それは赤と黒のオーラを雷のように弾けさせながら、僕達をドーム状に覆い、ロスウォードの黒い槍から僕達を守っていた。

 

 

「なんだ、それは・・・・・・・。なぜ、貴様が立っている・・・・・・」

 

 

ロスウォードもこの状況に目を見開いていた。

彼にとっても予想外の出来事だったのだろう。

 

 

僕はロスウォードの視線を追って、その先にあるものを見た。

 

 

 

「お兄・・・・・ちゃん・・・・・・・?」

 

 

 

そこには―――――

 

 

 

かつて無いほどのオーラをたぎらせたイッセー君が立ち上がっていた。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

 

 

今から唱えるのは今回限りの呪文(うた)

 

俺とシリウス、そしてイグニス。

俺達三人で謳う最初で最後の三重奏(トリオ)だ。

 

 

「我、目覚めるは魔と真焱を纏いし赤龍帝なり―――」

 

 

 

胸に空いた穴に炎が宿り、穴を塞いでいく。

まるでフェニックスのように。

 

それと同時に赤龍帝の鎧が展開された。

 

 

 

『無限の想いを胸に抱き、救道を往く』

 

 

 

俺の赤いオーラとシリウスの黒いオーラが混ざり、膨れ上がる。

俺達のオーラは止まることを知らず、天を貫いていく。

 

 

 

『我ら、全てを守護する真の炎となりて』

 

 

 

 

鎧から莫大な熱量を持った炎が噴き出す。

紅蓮の炎は俺とシリウスのオーラを包み込む。

 

 

 

赤と黒。

そして、紅蓮の炎が鎧を覆う。

 

 

そして、俺達は同時に最後の一節を謳った――――。

 

 

 

 

 

「『汝に絶対の救いと希望を与えよう――――!』」

 

 

 

 

その瞬間、俺を覆っていたオーラが弾けた。

 

天と地が激しく揺れる!

 

 

 

『Welsh Burning Full Drive!!!!』

 

 

 

 

眩い光と共に揺れが収まる。

 

光が止み、皆の前に現れたのは通常の鎧よりも鋭角になった鎧だろう。

色も赤と黒を基調としたものになっている。

 

翼も四枚になっていて、鎧の各所から炎を噴出させている。

 

俺の右手には刀身が通常の鋼色から紅蓮に変わったイグニス。

普通だったら物凄い熱が俺の右手を焼いていただろうけど、今は右手を焼くような熱は感じられない。

 

 

『相棒、これは――――』

 

 

ああ、そうさ。

 

俺の赤龍帝としての力とシリウスの魔王としての力。

そしてイグニスの力を一斉解放した状態だ。

 

『そうか・・・・・。対話には成功したのだな』

 

そういうことだ。

 

まぁ、この状態になれるのは今回限りだけどな。

 

 

シリウスの声が聞こえてくる。

 

『そうだ。そして、私がおまえとイグニスを繋いでいられる時間も少ない。せいぜい二分といったところか』

 

二分ね・・・・・。

了解だ。

 

 

「なぜ、貴様が立っている? 心臓を消し飛ばしたはずだが・・・・・・・」

 

ロスウォードは俺がこうして立っていることに怪訝な表情をしている。

 

まぁ、普通はあり得ないよな。

胸にデカイ穴を空けられたのに、そこからまた立ち上がったんだからな。

 

「皆の声が聞こえたからさ。皆の俺を呼ぶ声が聞こえた。―――――皆を泣かせたまま死ねるわけないだろ?」

 

皆が呼んでくれたから、俺は再び立ち上がることが出来た。

諦めずに済んだ。

 

皆が一度消えかけた俺に灯をつけてくれたんだ。

 

 

・・・・・・・それに、俺は頼まれたしな。

 

「・・・・・・この力は皆を守るだけの力じゃない。おまえを救うための力でもある。俺が・・・・・・いや、俺達(・・)がおまえを永遠の滅びから解放してやる」

 

「ほう・・・・。何が起きたかは分からんが、貴様から感じられる力が先程とは全く別物だな・・・・・」

 

「ああ、そうだ。今ならおまえを止められる」

 

俺はそう言って一歩前に出る。

 

「・・・・・本当にイッセーなの?」

 

アリスが呆然とした表情で尋ねてきた。

俺が生き返ったことをまだ理解できていないようだ。

いや、アリスだけじゃないな。

皆も似たような表情だ。

 

モーリスのおっさんでさえ、言葉を失ってるくらいだしな。

 

 

俺は一度マスクを収納して、笑みを浮かべた。

 

「おう。心配かけて悪いな。・・・・・ありがとな。俺を呼んでくれて。聞こえたぜ、皆の声が」

 

「・・・・バカッ・・・・・! 私がどれだけ心配したと思ってんのよ!」

 

あらら・・・・・。

これは後でアリスからのお説教だな。

 

美羽や部長達もまた泣き始めたし・・・・・・。

 

「まぁ、お説教は後でいくらでも受けるよ。・・・・・皆はここで見ていてくれ。ここから先は俺達でやる。おっさん、皆を頼むな」

 

「俺達じゃあ、完全に足手まといにしかならねぇか・・・・。任せたぜ、イッセー」

 

おっさんの言葉に俺は頷きで返す。

 

 

いくぜ、ドライグ、シリウス、イグニス!

 

おまえ達の力を俺に貸してくれ!

 

『応ッ!』

 

『当然だ』

 

『さぁ、いきましょうか!』

 

 

俺はイグニスの切先をロスウォードに向けて叫んだ!

 

 

「ここでおまえを止める!」

 

 

『Accel Full Booster!!!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!!!!!』

 

 

覇龍を使った影響か、更に加速できるようになった倍加。

それは俺に絶大な力を与える!!

 

ドォォォォォォッ!!!!

 

全身から炎を噴出して瞬時にロスウォードとの距離を詰める!

巻き起こる炎と爆風が炎の嵐を巻き起こし、周囲の景色を吹っ飛ばした!

 

イグニスの刀身には紅蓮の炎が渦巻くように起こり、その威力を絶大なものにする!

 

 

ガギィィィィィィンッ!!!!!

 

 

鳴り響く衝突音!

 

イグニスの刃が届く直前にロスウォードは黒い槍で防ぐが、あまりの衝撃に遙か後方に吹き飛んでいく!

 

ここではこれ以上戦いたくないからな。

皆から離れた場所で戦わせてもらうぜ!

 

俺は更にブースターから炎を噴出させて追撃を仕掛ける!

 

 

ロスウォードは翼を大きく広げて勢いを殺し、空中でくるりと宙返りして態勢を整える。

 

急激に上がった俺のスピードにロスウォードは目を見開いていた。

 

あいつは驚きながらも、こちらに黒い槍を数本投げてくる。

槍に籠められた力は一つ一つが凶悪で、まともに受けるのは得策じゃない。

だけど、この立ち位置で俺が避ければ皆が危ない。

 

 

俺は鎧から噴出させている炎を操り、炎の手の形成。

その手で黒い槍を掴み取り、そのまま燃やし尽くした。

 

「この炎は俺の手足も同然だ!」

 

炎の手を複数伸ばし、ロスウォードを掴みにかかる。

 

ロスウォードはそれを軽々とかわして、俺との間合い取る。

 

 

そして、両の手に黒い槍を持ち、周囲にはあの漆黒の球体を三つほど創り出した。

 

 

・・・・あんな技を一度に三つも出せるのかよ。

たった一つでも防ぎきるので精一杯だったってのに・・・・・。

 

ロスォードは容赦無く三つの球体を放ってきた!

 

 

『だが、今のおまえならば、なんとかなるだろう?』

 

まぁな。

今の俺ならな!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!!!!』

 

『Transfer!!』

 

俺は瞬間的に倍加した力の全てをイグニスに譲渡!

イグニスの刀身を覆っていた炎が爆発的に膨れ上がった!

 

「斬り裂けぇぇぇェええええええええええッ!!!!!」

 

俺はイグニスを全力で振るい、紅蓮の斬撃を放った!

 

三つの球体と紅蓮の炎が衝突し―――――――――――

 

 

 

ドオォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

 

 

上空で大爆発を起こした。

 

空一面が紅蓮と黒で染まる。

 

 

すると、ロスウォードは爆煙を振り払い、槍を振るってきやがった!

 

「ッ!」

 

俺は咄嗟に上体を反らして槍を避けるが・・・・・・

 

なんつースピードだよ・・・・

 

この状態でもギリギリのスピードだぞ、こいつは・・・・・!

 

 

 

それから、俺とロスウォードは上空で激しい剣戟の応酬を繰り広げた!

 

紅蓮の剣と化したイグニスとロスウォードの黒い槍とがぶつかり合い、空を、大地を揺らしていく。

 

まるで、世界の悲鳴を訊いているようだ。

 

「確かに力は遙かに上がった。だが、この程度では俺は倒せんぞ」

 

「ぐっ!」

 

黒い槍が俺の腕をかすり、鎧の部分を破壊される!

生身の腕にダメージを受けちまった!

 

だけど、俺だって負けられねぇ!

 

俺は脳に錬環勁気功を使用。

それと同時に俺の視界から色が消えた。

 

今回の戦闘で三度目の領域(ゾーン)に突入。

 

少々、キツイけどこれくらいなら!

 

「おおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

俺はイグニスを振るい、ロスウォードの左腕を斬り落とす!

やっと大きなダメージを与えられたな!

 

「くっ・・・・」

 

ロスウォードは僅かに苦悶の声を漏らす。

しかし、片腕を失った状態でもその攻撃は衰えない。

 

ロスウォードは右手で俺の顔を掴むとそのまま地面に叩きつけた。

 

「ガハッ・・・・!」

 

叩きつけられた衝撃で肺が圧迫され、口から空気が漏れる。

痛ってぇ・・・・。

 

起き上がろうとすると、ズキンッと体に痛みが走る。

 

・・・・・今ので骨の何か所かにヒビがはいったか。

 

『来るぞ!』

 

「ッ!!」

 

ドライグに言われて、空を見上げるとロスウォードが巨大な槍を投げつけていた!

あんなのくらったら、ひとたまりもないぞ!

 

俺は急いで四枚の翼を羽ばたかせて上空へ退避。

 

何とか槍を回避することは出来たけど―――――

 

先程、俺がいたところには大きな穴が・・・・・・底が見えないくらいに深い穴が空いていた。

しかも、範囲が広すぎる。

 

山が谷に変わったって感じだな・・・・・・・。

 

 

「一人の相手にここまで力を使ったのは貴様が初めてだ」

 

そう言うとロスウォードは俺の近くで停止する。

 

「だが、そろそろ限界か・・・・・・。その疲労からして、もうすぐでその状態も解除されるのだろう?」

 

・・・・・・っ

 

確かにその通りだ。

俺は既に肩で息をしている状態。

 

この状態もあと三十秒程度で維持できなくなる。

 

今は何とか互角の戦いを繰り広げてはいるけど、この状態が解除されてしまえば、それも終わる。

 

そうなれば瞬く間に俺は殺されるだろうな。

 

 

どうする・・・・・・・。

 

 

 

すると、俺の耳元に魔法陣が展開された。

 

なんだ・・・・・?

 

『聞こえとるかの、イッセー? ワシじゃよ』

 

「師匠!?」

 

予想外の人からの通信に俺は驚きの声を上げた!

 

何でこのタイミングで師匠からの通信が入るんだよ!?

 

『お主がやられてしもうた時はどうしようかと思ったぞい。まぁ、よう分からんが、生き返ったようじゃの』

 

「見てたんですか?」

 

『うむ。こっちでもお主のサポートをしようと準備してたのでの。それが無駄にならずに済みそうじゃ』

 

サポート?

準備?

 

どういうことだよ?

神様は下界に降りられないだろ?

そうなったらサポートも何も・・・・・・・

 

俺が怪訝に思っていると師匠は少し笑った。

 

『なーに、お主が思うとることくらいは分かっとるよ。何もワシが下界に降りる訳ではない。ワシがしておったのは神層階に住まう神々から気を分けてもらい、それをお主に送る準備じゃよ』

 

「!?」

 

『苦労したぞい。ロスウォードに対抗できるほどの気を練るのはのぉ。それゆえに時間がかかってしもうたが・・・・・・。ま、とりあえず、そっちに送るから受けとるのじゃ』

 

とんでもないことをスゲー軽い口調で言ってない!?

 

いや、前からそういう人だけどさ!

 

 

すると、空から一筋の光が見えた。

それは真っ直ぐに俺へと落ちてきて――――――

 

 

カッ!

 

 

俺にぶつかり、激しく輝いた!

 

光は俺の体に染み込むように入ってくる。

入り込んだ気が俺の全身を駆け巡り、力を増大させていく!

 

 

『受け取ったかの? それだけあれば少しの間は何とかなるじゃろ?』

 

「ええ、ありがとうございます」

 

『すまんの。結果的にワシら神々がしなければならぬことをお主一人に任せてしもうた。・・・・・許せ、イッセー』

 

本当に申し訳なさそうに言う師匠。

師匠のこんな声音は初めて聞いた。

 

俺はそれに対して言葉を返そうとした。

 

 

その時、もう一つの通信用の魔法陣が俺の耳元に展開された。

 

 

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

「待たせて悪かったな。こっちも準備が整ったぜ」

 

ロスウォード対策のための術を得た俺はそれの準備をするべく、オーディリア各地を回っていた。

 

かなり大がかりな術式な上に少しばかり変更もしたから、時間がかかっちまったがな。

 

『完成したんですか?』

 

「おう。色々変更があったせいで遅くなったがな」

 

 

イッセーとロスウォードの戦いを監視用の魔法陣で見ていたが・・・・・・。

一時はもうダメだとも思ったぜ。

 

イッセーがあそこから立ち上がるとは思わなかったからな。

 

 

『変更?』

 

 

イッセーが尋ねてくる。

 

 

まぁ、本来なら半日ほど早く術式を完成させる予定だったんだが・・・・・・。

 

 

オーディリアという国は四大神霊という火、水、土、風を司る神霊の加護を大昔から受け続けた国だ。

だから、この国は他国よりも土地が豊かで恵まれている。

 

今回はオーディリアの土地に長きに渡って溜まり続けた四大神霊の力。

これを利用して術式を発動する手筈だった。

 

 

だが、それがつい先日、少しばかり変更になった。

 

その理由は――――

 

 

「よう、スケベ勇者! 聞こえてるかよ!」

 

 

俺を押し退けてイッセーと通信する女が現れた。

 

その声を聞いてイッセーは驚きの声をあげる。

 

『エ、エルザ!? なんでそこにいるんだよ!?』

 

そう。

こいつはゲイルペインの森、フォレストニウムでイッセーを巨大ハンマーでボコボコにしていたあの女だ。

 

「んなもん決まってるだろうが! 私も戦うために来たんだよ! いや、正確には私達(・・)だけどな!」

 

「ふぉっふぉっふぉっ。イッセー殿。私もいますぞ」

 

『ウルムさんも!?』

 

「私とエルザだけではありませぬ。ゲイルペインの民、全てがここに集まっております」

 

『なっ!?』

 

 

再び驚愕するイッセー。

 

 

まぁ、俺も流石にこうなるとは思ってなかったからな。

 

人間と魔族。

この世界に住まう全ての民がこの術式を発動するために力を貸してくれることになるとは思ってなかったぜ。

 

だから、俺とロスヴァイセ、リーシャは急いで術式の変更を行ったわけだ。

 

オーディリアの土地に溜まっている力だけじゃなく、この世界の民、全ての力をこの術式に使えるように。

 

お陰で時間がかかっちまったが、効果は抜群だろうよ。

 

 

「ま、そういうこった。詳しく話すには時間がねぇ。今から術式の発動させる! おまえらは配置につけ!」

 

 

『おおっーーーー!!!』

 

 

俺達は各自の配置につき、足元の魔法陣に手を置いた。

 

 

 

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

 

 

各地から巨大な光の柱が走るのが見えた。

 

かなりの距離があるはずなのに一本一本がかなり太く見える。

 

光の柱は俺とロスウォードがいる遥か上空で重なり合い、巨大な魔法陣を描いた。

 

 

すると、ロスウォードの体から発せられていたオーラに変化が訪れる。

 

先程まで荒々しかったものが、徐々に小さくなっていく。

 

「これは・・・・・・。そうか、貴様らは俺が封印された時の術式を・・・・・・」

 

「ああ。・・・・・・これにはこの世界に住む全ての人の想いが籠められてるんだ」

 

俺はイグニスの切先に師匠から受け取った力の全てを注ぎ込んだ。

紅蓮の炎が更に燃え盛る。

目映い赤い光が周囲を照らしていく。

 

 

これが俺が出来る最後の攻撃になる。

 

こいつに全てを籠める!

 

俺は四枚のドラゴンの翼を広げて、ロスウォードに突っ込んだ!

 

 

「終わりにしようぜ、ロスウォードォォォオオオオオッ!!!」

 

 

俺は叫び、空を駆ける!

 

 

 

 

 

そして―――――――

 

 

 

 

イグニスの刃がロスウォードの胸を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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26話 またな!!

「・・・・・見事だ・・・・・・」

 

 

そう言って、ロスウォードは自身の胸を貫いているイグニスの刀身を撫でる。

 

 

そんなロスウォードに俺は尋ねる。

 

「なんで・・・・・避けなかったんだ・・・・・・?」

 

アザゼル先生達が発動した術式でこいつは確かに力を大きく削がれていた。

 

あの状態のロスウォードが相手なら、今の俺がそのまま戦っても勝てていただろう。

 

 

だけど、こいつは・・・・・・最後、避ける素振りすら見せなかった。

 

 

俺には自らイグニスの刃を受け入れたかのように見えた。

 

 

「赤龍帝・・・・・俺の望みは分かっているな・・・・・?」

 

「ああ・・・・・・」

 

 

こいつの望みは自分を終わらせること。

 

だけど、自身に施された呪いにも近い術式で自ら死ぬことも出来ない。

自分の意思に関係なく永遠に滅びを繰り返していく。

 

「貴様らが使ったのは俺の力を削ぐだけのものではない。俺にかけられた呪いを弱めることが出来るものだ」

 

「っ!」

 

それはつまり――――

 

「最後の最後で・・・・・俺は自分の意思で・・・・自分を終わらせることができた」

 

 

サァァァァァ

 

 

ロスウォードの体が砂がこぼれ落ちるように崩れていく。

 

 

同時に俺の方も鎧を維持できなくなり、解除された。

二分という短い時間だったとは言え、俺にロスウォードと互角の戦いをさせてくれた鎧も限界を迎えたわけだ。

 

 

「なぜ、貴様は・・・・・・泣いている・・・・・?」

 

「えっ?」

 

ロスウォードに言われて頬に触れると、涙が流れていた。

 

この涙の理由は分かってる。

 

俺は震える声で答えた。

 

「・・・・・悲しすぎるだろ・・・・・・っ。勝手に作り出されて、訳の分からない呪いをかけられて、唯一の望みが死ぬことで・・・・・・・。俺は・・・・・・」

 

「おかしな・・・・・男だ。一度は自身を殺した相手のために泣くとはな・・・・・・・」

 

ロスウォードの体は吹く風で崩壊していく。

すでに上半身しか残っていない。

 

「戦う前、貴様は俺を救うと言ったな」

 

「ああ」

 

皆を守るための力。

そして、ロスウォードを救う力と俺は言った。

 

呪いを解呪することは出来ない。

だから、俺に出来たのはロスウォードを終わらせることだけだった。

 

 

ロスウォードはフッと笑む。

 

「俺は貴様達に救われた・・・・・・。最後に忌まわしい呪いからも解放された。貴様達のおかげだ。―――――礼を言う」

 

 

っ!

 

 

このタイミングでそんな・・・・・・・反則だろうが・・・・・・・っ!

 

 

ロスウォードは涙を流す俺の額に指を当てる。

 

「俺はもう消える。その前に・・・・・・」

 

なんだ・・・・・・?

 

 

俺が訝しげに思っているとロスウォードの体は殆ど塵になっていて、俺の額に当てられた指も塵と化した。

 

残るは頭のみ。

 

そして、ロスウォードは最後に―――――

 

 

 

「去らばだ、赤龍帝」

 

 

 

それだけを言うとロスウォードの姿は完全に消えて無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

ロスウォードとの最後の戦いを終えた俺は皆の所へと戻った。

 

一度死んだせいなのか、俺の体は既に限界を迎えていた。

 

一歩一歩の足が重い・・・・・・。

普通に歩くだけで倒れそうになる。

 

すると、

 

「お兄ちゃん!!」

 

向こうの方から美羽達が走ってくるのが見えた。

 

あ、ギャスパーがこけた。

小猫ちゃんに背負われてるし・・・・・・。

 

「イッセー、大丈夫なの!?」

 

部長が俺の体を触りながら安否を確認してくる。

特に胸のあたりをメチャクチャ触ってきた。

 

ま、まぁ、胸にデカイ穴開けられたから、仕方がないと言えばそうなのかな・・・・・・。

 

つーか、くすぐったいよ・・・・・・。

 

俺は部長を宥めるように言う。

 

「落ち着いてくださいよ。俺は何とか大丈夫です」

 

「でも、胸に穴を・・・・・・」

 

「あー、まぁ、塞がってるんで。俺はこの通り生きてますよ」

 

皆も俺の胸を見たり触ったりしてくる。

完全に塞がっていることに驚きを隠せないでいるようだった。

 

 

「俺が生き返れたのはシリウスのお陰なんだ」

 

俺の言葉に真っ先に反応したのは美羽だ。

 

「お父さんが・・・・・・?」

 

「ああ。あいつはこうなることを見越して準備してたんだよ」

 

 

その時、俺の隣に黒い霧が現れる。

それは徐々に人の形を形成していく。

 

そして、それを見た美羽は目を見開いた。

 

「お父さん!?」

 

『久しぶりだな、ミュウ』

 

こうしてシリウスが出てこれたのはイグニスの力を借りたんだろうな。

 

俺と美羽がフェンリルに襲われた時もそうだったみたいだし。

 

『私はおまえの日々の暮らしを見てきた』

 

「えっ!?」

 

『ま、まぁ・・・・・おまえも年頃の娘だ。色々あるのは分かるが・・・・・・程々にな』

 

「~~~っ」

 

あ・・・・美羽の顔が過去にないほど真っ赤に・・・・・・。

 

まぁ、そうなるよね。

俺も同じだったよ・・・・・・。

 

シリウスはコホンっと咳払いする。

 

『とにかく、おまえが幸せならそれでいい』

 

「うん・・・・・。ボクは今、幸せだよ。お兄ちゃん・・・・・イッセーと皆といられて幸せだよ」

 

『そうか』

 

シリウスは息を吐く。

 

『私は・・・・・・魔王である私の娘として産まれたおまえには色々と危険がつきまとう。おまえを守るためにも最低限、自身を守れるだけの力をつけてやろう。そう考えて、おまえに厳しく接してきた。・・・・・だが、優しくしてやることは出来なかった。物心がつく前に母を病で亡くし、愛情が最も必要な時でさえ厳しくあたってしまったな。結局、私はおまえに対して父親らしいことをしてやることが出来なかった。・・・・・・すまなかった』

 

「そんなことない! ボクはお父さんの娘として産まれてきたこと後悔なんてしてないよ! お父さんが厳しくしてくれたからこそ、今のボクがあるんだよ!」

 

美羽の言葉にシリウスは目を丸くしていた。

 

 

シリウス・・・・・。

美羽は俺達が思っている以上に強いんだぜ?

俺も美羽と出会った時はこの強さに驚かされたよ。

 

 

シリウスはフッと笑った。

 

その時、シリウスの体が輝き始めた。

 

『そろそろ時間のようだ』

 

「もういくのか?」

 

俺が尋ねると、シリウスは頷いた。

 

『出来ればもう少し話をしていたいんだが、そこまでの時間はない』

 

シリウスは再び美羽の方に視線を移す。

 

『ミュウ。私はこれ以上おまえを見守ることは出来ない。たが、これからもおまえのことを想い続ける』

 

「お父さん・・・・っ」

 

美羽の瞳から涙がこぼれる。

シリウスはそんな美羽の頭を撫でて抱き締めた。

その手でしっかりと。

 

『兵藤一誠。これからも娘を頼む』

 

「任せろ。あんたの分まで俺が美羽を守り続けるよ」

 

シリウスは満足そうな表情になる。

そして、淡い光と共に消えていった。

 

 

空を見上げると、さっきまで空を覆われていた暗い雲がすっかり無くなっていた。

 

 

ありがとな、シリウス。

おまえのお陰で皆を守ることができたよ。

 

これから先は任せとけ。

 

 

 

「それじゃあ、帰ろうか・・・・・・・っと」

 

皆と向き合った瞬間、立ちくらみがした。

視界がグニャリと歪んで真っ直ぐ立つことが出来なくなる。

 

「悪い。限界みたいだ・・・・・」

 

俺はそう言うと、そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ白な世界。

辺り一面何もない真っ白な世界に俺は立っていた。

 

 

目の前には一人の女性――――イグニスが微笑んでいた。

 

「お疲れさま。あなたのお陰であの子は救われたわ」

 

「まぁ、皆の力がなかったら危なかったけどな」

 

最終的には師匠やアザゼル先生、エルザ達の力が無ければやられてたかもしれない。

シリウスが俺もイグニスを繋いでいるのも限界に近かったしな。

 

「そうね。じゃあ、あの人達にもお礼を言っといてくれる?」

 

「了解だ。・・・・・にしても、寂しくなるな。シリウスがもういないってのは」

 

「ええ。二年も話し相手になってくれた人がいなくなるのはね・・・・・。でも、あの人も満足そうにしてたし、良しとするわ。今度からはあなたが私の話し相手になってね、イッセー♪」

 

「へっ? いや、いいけどさ・・・・・。つーか、俺ってまたここに来れるのか?」

 

今回は死んだ衝撃でイグニスと会えたみたいだし・・・・・。

もう一度、ここに来るとなればかなり時間かかるような気がするんだけど・・・・・。

 

イグニスは俺が考えていることを理解したようで、苦笑した。

 

「その心配はないわ。あなたは一度ここに来て、私と繋がった。ようするに経路(パス)ができたのよ。だから、会おうと思えばいつでも会えるし、私から話しかけることも出来るわ」

 

なるほど。

 

「あ、でも、私の本当の名前を教えるとかはないからね? 前にも言ったけど、それはあなたが相応しい力を得てからよ?」

 

「分かってるよ。それまではイグニスって呼ぶことにするさ」

 

「よろしい。あと、その日がくるまでは今まで通り使う度に腕が焼かれるから注意してね♪」

 

「マジですか・・・・・」

 

「マジよ♪」

 

うーん、ということはもっと修行しないといけないってことなのか・・・・・・。

 

イグニスを使いこなせるようになるって・・・・・・どれだけの修行が必要なんだ・・・・・・?

 

うん、考えるのは止めよう。

なんとかなるの精神でいくことにしよう・・・・・・。

 

あれ?

これって駄目な奴の考えなんじゃ・・・・・・。

 

 

腕組みしながら悩む俺を見て、イグニスは笑みを浮かべる。

 

「さて、そろそろ起きてあげなさい。皆も心配してるみたいよ?」

 

「皆・・・・・? あー、そっか」

 

言われて思い出したけど、俺って気絶したんだった。

 

そうだな。

そろそろ起きて皆を安心させてやるか。

 

「それじゃあ、俺は行くよ。寂しくなったらいつでも声をかけてくれ」

 

「ふふふ。案外直ぐに会うことになるかも知れないわよ? 寂しがり屋だからね」

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと、俺はベッドの上に寝かされていた。

 

ここは・・・・・・城に用意されてた自室か。

 

窓からは夕焼けの光が入り込んでいて、今が夕方だということが分かった。

 

ってことは、俺は丸一日は寝てたってことか・・・・・。

 

まぁ、かなりの疲労だったしな。

つーか、一回死んだし・・・・・・。

 

 

と、ここで俺の上に僅かな重みがあるのに気づいた。

 

見れば、小猫ちゃんが猫耳を出して俺の上で丸まっていた。

横には美羽もいる。

 

何してんの、この娘達は・・・・・・。

 

 

ガチャ

 

 

 

部屋の扉が開き、アリスが入ってきた。

 

「目が覚めたのね」

 

「ついさっきな。丸一日気絶してたみたいだな、俺」

 

ハハハと苦笑しているとアリスがため息をつきながら首を横に振った。

 

「何言ってんのよ・・・・・。五日よ」

 

「は?」

 

アリスの言葉につい聞き返してしまった。

 

今、なんて言った?

 

「だーかーら、五日よ。あんたは五日も気絶してたのよ」

 

「・・・・・・・マジ?」

 

「マジよ」

 

 

い、五日も気絶してたのかよ・・・・・・。

どうりで体が重いわけだ。

 

じゃあ、ここに小猫ちゃんと美羽がいるのは―――――

 

「私達は交代であんたの看病をしてたのよ。今日はその二人が担当ってわけ。あんたが倒れた後、体を調べたら気の流れが無茶苦茶になってて、小猫さんが丸一日かけて気の流れを整えてくれたのよ。後でお礼を言っておきなさいよ?」

 

「丸一日も・・・・・・」

 

皆も消耗してたのに、俺の看病をしてくれたのか・・・・・。

 

俺は小猫ちゃんと美羽の頭を撫でる。

すると、二人は安心したような表情になった。

 

「にゃあぁ、先輩・・・・・」

 

「お兄・・・・・ちゃん」

 

ぐっ・・・・・か、可愛い・・・・・・。

寝言でそんなこと言われると・・・・・・。

 

「鼻血出てるわよ」

 

「あ、ほんとだ」

 

いかんね。

久しぶりの癒しに体が過剰反応してるぜ。

 

とりあえず、ティッシュを・・・・・・・。

 

うわー、結構出てるな。

最強レベルの癒しは俺の体には少し早かったのかね?

 

癒しのリハビリが必要だな。

 

 

あ、そういえば・・・・・・・

 

 

「アリスも看病してくれてたのか?」

 

「えっ?」

 

「いや、交代でしてたって言ってたし。なんとなくな」

 

「ま、まぁね。感謝しなさいよね。王女が看病をするなんて滅多にないんだからね」

 

「そりゃそうか。ありがとな、アリス」

 

「あ、う、うん・・・・・」

 

おいおい、どうしたよ?

顔が赤くなってるぞ?

 

アリスは大きく息を吐くと近くにあった椅子に腰かける。

 

「あんたって謎よね。なんか存在そのものが。胸に風穴開けられてる状態から復活って・・・・・・・。正直、まだ信じられないわ」

 

「ハハハハ・・・・・・」

 

返す言葉もないね。

 

生き返れたのはシリウスとイグニスのおかげだけどさ。

 

もし、俺がシリウスと出会ってなかったら・・・・・・。

もし、俺がシリウスからイグニスを託されてなかったら、俺はどうなってただろうな。

 

「そういえば他の皆は?」

 

「リアスさん達のこと? さっき、町の修復作業から帰って来てたから、今は広間でくつろいでいると思うわ。早く起きて顔を見せてあげなさい」

 

「そうだな」

 

うーむ、小猫ちゃんと美羽を起こしてしまうのは気が引けるな・・・・・・。

 

小猫ちゃんなんて俺の上に完全に乗ってる状態だしな。

起こさすにベッドから出るのは難しそうだ。

 

と、俺がいかにして二人の寝顔を守るか考えていると、アリスが立ち上がり、こっちに歩み寄ってくる。

 

「ん? どうした?」

 

俺が尋ねてもアリスは俯いたまま。

 

 

すると――――

 

 

アリスは俺の体を抱き寄せた。

 

「ありがとう。約束を守ってくれて。生きて帰ってきてくれて。私、本当に嬉しかった」

 

アリスの体から緊張が抜けていくのが分かった。

今まで貯まっていたものが全て吐き出されるように。

 

もしかしたら、俺がもう起き上がらないのではないか、そんな不安があったのかもな。

 

あの激戦の後に五日も眠ったままだったらそんな不安も抱いてもおかしくないか・・・・・・。

 

俺はアリスの背中に手を回してしっかり抱き締める。

 

俺が今こうして生きていることを実感させるために。

 

「おまえとの約束だ。破るわけにはいかないだろ」

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

 

 

他国の協力もあり、セントラルの修復はハイペースで進められた。

既に八割近くの修復が進んでいて、あと三日ほどで元通りになるとのことだった。

 

 

俺は美羽と一緒にフォレストニウムの外れにある墓地を訪れていた。

 

フォレストニウムの町よりも静かで、ここにいるだけで気持ちが安らぐ。

そんな場所にシリウスの魂を弔うための墓は建てられていた。

 

俺とシリウスの戦いの後、常に争いの中にいたシリウスには穏やかに過ごしてほしいとの願いからこの場所にウルムたちが設けたとのことだ。

 

シリウスは前線に身を置きながらも、平和を願っていた一人だからな。

こういう場所はあいつも好むだろう。

 

美羽が墓の前に花を添える。

 

「ありがとう、お父さん。皆を守ってくれて。イッセーを助けてくれて」

 

俺と美羽は墓の前でかがみ、手を合わせた。

 

 

シリウス、俺達の戦いは無駄じゃなかった。

その事が今回の件ではっきりしたな。

 

人間と魔族が手を取り合える時代が来た。

この平和が続くよう、あの世から見守っていてくれ。

 

 

美羽は先に立ち上がった。

 

「もういいのか?」

 

「うん。伝えたいことはしっかり伝えられたから」

 

「そっか」

 

美羽の言葉を確認し、俺も立ち上がる。

 

 

この日、俺達は元の世界に戻る。

 

おばちゃんの手料理も食べたし、ライトにももう一度会ってきた。

人間と魔族に平和が訪れたのも確認できた。

もう思い残すことは何もない。

 

そろそろ帰らないと父さんと母さんが心配するだろうしな。

 

 

俺と美羽はシリウスの墓に背を向け、皆が待つ場所へ向かおうとするが、三歩ほど歩を進めたところで俺は立ち止まった。

 

美羽が怪訝な表情を浮かべる。

 

「どうしたの?」

 

「いや、もう一度だけ言っとこうかなって」

 

「?」

 

頭に疑問符を浮かべる美羽。

 

俺は振り返り、美羽の肩を抱き寄せた。

一度深呼吸をして、シリウスに向かって誓いをたてる。

 

「改めて誓うぜ、シリウス。俺が美羽を幸せにする。美羽が笑って過ごせるように、おまえの分まで美羽を守り続けるよ」

 

美羽はもう俺の家族だ。

なくてはならない存在なんだ。

守ることは当たり前と言ってもいい。

 

俺が改めて誓ったのは、シリウスにもう一度、俺の気持ちを伝えたかったからだ。

 

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

「なぁ、美羽。俺の気持ち、あいつに伝わったかな?」

 

「伝わってるよ。だって、お父さんはボク達のことを見守っててくれてるはずだから」

 

「・・・・・・そうだな」

 

 

 

 

数分後。

 

 

俺と美羽は今回、アスト・アーデに来たときに目覚めた場所に向かっていた。

 

前回と違い、俺達は強制的に次元の渦を作り出し、こっちの世界に来た。

となると、帰る時も同じようにした方が確実だろう、というアザゼル先生の説明を受けたんだけど・・・・・・・。

 

原理を説明されても全く分からなかったのでスルーした。

 

まぁ、とにかくだ。

行くときと逆を辿れば良いということ。

あの場所で今度は俺や部長達を媒介にすれば元の世界に帰れるだろうということだ。

 

また、錬環勁気功で皆の気を同調させるから美羽も連れて帰ることができる。

 

 

森の中を少しばかり歩くと目的の場所に着いた。

そこには見送りの人達が来ていて、フォレストニウムに住む人達やアリス達も集まっていた。

 

「おーう、やっと来たか」

 

俺と美羽の姿を確認して先生が手を挙げる。

皆、準備は出来てるみたいだな。

 

「ひめさまーーーっ」

 

と魔族の子供達が走ってきて美羽を取り囲んだ。

 

人気者だな。

 

「皆もきてくれたんだね、ありがとう」

 

美羽が子供達を抱き締めていく。

 

俺の方にも来たので頭を撫でてやった。

 

 

俺はそのまま歩いていき、モーリスのおっさんの方へと歩み寄った。

 

「元気でなイッセー。また、来いよ。いつでも歓迎するぜ」

 

「そうですよ。私もいつでも待ってます」

 

と、リーシャが抱き締めてくる。

 

おっぱいが当たってる!

 

あー、このおっぱいともお別れなのか!

忘れないよう、しっかり脳内保存しておこう!

 

 

「お兄さん、鼻血出てるよ」

 

 

おっと、いかんいかん。

なんか、鼻血が出やすくなってないかい?

 

師匠のところにいる間は女の子と触れ合う機会が無かったからなぁ。

 

「ニーナも元気でな。また会いに来るぜ」

 

「うん。その時は私ももっと大人になってるから、その時は色々しようね♪」

 

 

ブファッ!

 

 

色々!?

あんなことやそんなことですか!?

 

うん、今から待ち遠しい!

 

 

『一回死んだくらいではスケベは治らんのか』

 

悪いな、ドライグ!

スケベは死んでも治らねぇよ!

 

『はぁ・・・・・。まぁ、相棒らしいか・・・・・。っと言い忘れていたんだが・・・・・・。しばらく籠手の力は使えなくなった』

 

っ!?

 

またかよ!

 

なんで!?

 

『今回の戦闘で無茶苦茶な力の使い方をしただろう? 特に覇龍を使った時にな。あれのせいで、神器がオーバロードした』

 

マジかよ・・・・・・・。

 

『まぁ、そんなに気を落とすな。しばらくはまた錬環勁気功だけで戦っていけば良いじゃないか。領域の修行にもなるだろうしな』

 

それもそうか・・・・・・。

 

了解だ。

使えるときが来たら教えてくれ。

 

『分かった』

 

やれやれ・・・・・・。

まさか、また神器が使えなくなるとは思わなかったよ・・・・・。

 

ドライグの言う通り、しばらくは錬環勁気功だけになるな。

 

 

俺はアリスの方に視線を移す。

 

どこか表情が暗いのは気のせいだろうか?

 

「それじゃあ、またなアリス。何かあったら呼んでくれよ。直ぐ駆けつけるからさ」

 

「どうやって呼ぶのよ?」

 

「うーん、気合い?」

 

「・・・・・二年前も同じようなこと言ってなかった?」

 

あ・・・・・・確かに。

 

俺ってあの時から成長してねぇな。

 

 

「イッセー、そろそろ行きましょうか。美羽も準備は出来たみたいよ?」

 

部長に言われて見てみると美羽は既に先生達の輪に入って、戻る準備を整えていた。

 

俺もそろそろ行くか。

 

「そうですね。・・・・・・じゃあ、俺は行くよ」

 

「・・・・・・うん」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「? どうしたのよ?」

 

行くと言っておきながら、その場から動かない俺を見て、アリスは怪訝な表情を浮かべた。

 

 

なんと言うか・・・・・。

 

このまま行っても良いのか、という疑問が俺の中に渦巻いていた。

 

何故か、このまま元の世界に戻ったら後悔する。

 

アリスの顔を見ていたらそんな気がした。

 

 

 

 

・・・・・・・よし、決めた。

 

 

「アリス、おまえも来いよ」

 

「は、はぁ!?」

 

俺の発言にアリスは盛大に驚く。

 

部長達も驚いているのが背を向けていても分かった。

 

「な、ななななんで!?」

 

「そんな顔してるのに置いていけるわけがないだろ?」

 

「そんな顔ってどんな顔よ!?」

 

「今にも泣きそうな顔だよ」

 

「っ!」

 

 

俺が別れを告げた瞬間、アリスは目元を潤ませて、泣きそうになっていた。

 

自分も連れていってほしい。

 

アリスがそう思ってるような気がした。

 

理由はそれだけだ。

でも、確信はある。

 

これでも互いの背中を預けあった仲だ。

なんとなく考えていることは分かるよ。

 

「あんた、正気なの!? 私は王女なのよ!? 私には国を守る義務が・・・・・・ってモーリス、あんた何してるのよ!?」

 

アリスが言ってる途中でおっさんがアリスの腕を掴んでいた。

 

おっさんはニヤッと笑う。

 

そして、何も言わずに天高くアリスをほうり投げた!

 

 

「キャアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

アリスの叫び声が森に響く!

 

俺はアリスが落下してくる前に何とかキャッチに成功する!

 

「いきなり何すんのよ!?」

 

「そうだ! 危ないだろうが!」

 

俺と俺に抱き抱えられた状態のアリスがおっさんに吠える。

 

しかし、おっさんは笑みを浮かべたままだ。

 

そして、アリスに向かって言った。

 

「行ってこいよ、アリス。国のことなんざ、俺達に任せとけばいいのさ」

 

「はぁ!?」

 

「そうだよ、お姉ちゃん。素直になりなよ。行きたいんでしょ?」

 

「何も問題はありませんよ。議会には既に話を通してあるので」

 

「ちょ、どういうことよ、リーシャ!?」

 

「こうなるであろうというのは容易に想像できたので、ニーナを中心に、議会に話を通したのですよ。アリスが何の問題もなくイッセーの世界に行けるように」

 

おいおい、マジかよ。

この三人、アリスに黙ってそんなことしてたのか・・・・・。

 

アリスも絶句してるし・・・・・・。

 

 

おっさんが続ける。

 

「まぁ、おまえが行きたくないって言うなら話は別だがな。議会にはアリスの意思しだいとも伝えてある。一応、聞いておくぜ。おまえはイッセーと共に行きたいのか、それとも行きたくないのか、どっちだ?」

 

「私は・・・・・・」

 

おっさんの問いにアリスは言葉を詰まらせる。

顔を赤くしながら、俺の方をチラッと見てきた。

 

 

はぁ・・・・・。

 

おっさんが前々から言ってた素直じゃないってのはこう言うことかよ。

 

仕方がない。

 

「アリス、俺と一緒に来てくれるか?」

 

「っ!」

 

「俺はおまえと一緒にいたいと思ってる。だから一緒に来てくれ」

 

これは俺の本心でもある。

もっとアリスと一緒にいたい。

 

 

アリスがフリーズすること数秒。

アリスは耳まで真っ赤にしながら、ボソリと呟いた。

 

「・・・・・なさいよ」

 

「ん?」

 

「・・・・・とりなさいよ」

 

「とる? 何を?」

 

「だ、だだだだだから! 王女の心を奪ったんだから、責任取りなさいって言ってるのよ!」

 

うおっ!?

 

耳がやられた!

キーンってする!

 

「ねぇ、聞いてるの!?」

 

アリスが俺の胸ぐらを掴んで揺らしてくる!

 

「ちょ、止め、首しまってるから! 危ないって!」

 

俺の叫びを聞いてアリスは手を離す。

 

あー、死ぬかと思った・・・・・・・。

 

「・・・・・で? ・・・・・・どうなのよ?」

 

責任って・・・・・・。

 

あれ?

なんか、前にもこんなやり取りをしたことがあるような・・・・・・。

 

「ま、まぁ、俺で良ければ?」

 

「なんで疑問形になってるのよ?」

 

「うっ・・・・・・」

 

 

こんな俺達のやり取りを見て、三人は笑う。

 

「じゃあ、決まりだな」

 

「そうね。ようやく素直になったってことかしら」

 

「ふふふ。イッセー、アリスのことお願いしますよ?」

 

 

三人はそう言うと俺の背中を押して、部長達の輪に押し込む。

 

アザゼル先生が苦笑していた。

 

「ったく、また女を作りやがった。ここまで来ると流石と言うべきなのかね?」

 

「うむ。これもイッセーの人徳と言えるだろう」

 

ティアは何やら納得してる表情だ。

 

「本格的にライバルになってしまうのね」

 

「ですが、それでこそイッセー君ですわ」

 

部長や朱乃さん達も仕方がないといった感じで俺を見てくる。

 

隣にいた美羽も微笑んでいた。

 

「お兄ちゃんならそうすると思ったよ」

 

「まぁ、これから色々大変だろうけどな・・・・・・」

 

なーんか、また先生にネタにされる気がするんだが・・・・・。

 

よし、考えるのは止めよう。

恐ろしい未来しか見えない。

 

 

 

キイィィィィィィィィィン

 

 

 

甲高い音が響き始める。

どうやら、そろそろのようだ。

 

俺は後ろを振り返る。

そして、見送ってくれる全員に大声で言った。

 

 

「またな!!」

 

 

 

その瞬間、俺達は完全に光に覆われた。

 

 

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

目映い光が森から消えた。

 

先程までいたはずの場所にはイッセー達はもういない。

 

「行っちまったな」

 

モーリスは苦笑しながら続ける。

 

「ニーナもそうだが、リーシャ、おまえも行きたかったんだろ?」

 

「ええ。ですが、私はこの世界でやるべきこともありますし」

 

リーシャは小さな笑みを浮かべる。

 

「それに、また会える気がするんです。だから、その時を待つことにします」

 

「そうか・・・・・。ま、確かにな」

 

モーリスは頷き、背中を伸ばす。

 

ニーナも微笑みながらイッセー達がいた場所を見つめる。

 

「じゃあ、帰ろっか」

 

ニーナ達はその場を後にして、国に戻ることにする。

アリスの幸せを願いながら。

 

 

 

 

 

 

その時―――――

 

 

 

 

「すいませんにょ。道に迷ってしまったにょ。ここが何処だか教えてほしいにょ」

 

 

 

三人の思考は完全に止まった。

 

 

 

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はアリスとイッセーの父・母との邂逅かなぁ・・・・・


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27話 新しい日々を

「ッセー・・・・・・・イッセー・・・・・・イッセー!!」

 

 

ん?

 

 

母さんの声が・・・・・・。

 

なんか必死な声だな。

何かあったのか・・・・・?

 

 

俺は上半身を起こそうとするけど、俺の上には何かが乗っているようで起き上がれない。

 

 

えーと、どうなったんだっけ?

 

 

確か・・・・・・・。

 

 

俺は記憶を辿ってみる。

 

 

モーリスのおっさん達に別れを告げて、それでアリスも―――――

 

 

ガバッ

 

 

 

俺は自分の上に乗っているものを見る。

すると、アリスがスースーと穏やかな寝息をたてていた。

 

どうやら、今回も上手くいったらしいな。

 

 

俺の横には母さん。

父さんやサーゼクスさんも部長達の体を揺らし、起こそうとしていた。

 

 

「イッセー、大丈夫なの!? 光が止んだと思ったらイッセー達が倒れてて・・・・・・。どうなったの?」

 

 

あー、この反応は間違いないな。

 

 

どうやら、今回もこっちの世界では時間は進んでいなかったらしい。

向こうには一ヶ月以上いたんだけど、こっちでは一瞬だったみたいだ。

 

となると、母さん達のこの慌てようは納得だな。

 

母さん達からすれば俺達はいきなり倒れたようにしか見えなかっただろうし。

 

 

「この娘は誰なの?」

 

 

あと、知らない女の子が一人増えてるってのが母さん達の認識だな。

 

 

ま、とりあえず言うことは・・・・・

 

「母さん」

 

「どうしたの?」

 

 

キョトンとする母さんに俺は笑顔で言った。

 

 

「ただいま!」

 

 

 

 

 

 

 

一時間後。

 

 

「アリス・オーディリアです。イッセーのお父様、お母様、よろしくお願いします」

 

 

と、アリスが父さんと母さんに自己紹介をしていた。

 

帰ってきてから父さん達にまず聞かれたのはアリスについてだ。

まぁ、異世界から帰ってきた思えば人が一人増えてるんだから、仕方がない。

 

と言うことで、まずはアリスについて紹介していた。

 

「父さん、母さん。アリスもこの家に住むことを許してほしいんだけど・・・・・」

 

「イッセーを助けてくれた恩人を断る理由もない。部屋も余ってるから問題はないんだが・・・・・」

 

「まさか、リアスさん達に続いてこんなキレイな人を連れて帰ってくるなんて・・・・・・。イッセー、あんた、いつからそんな女たらしになったのよ?」

 

ひ、ひどい言われようだ・・・・・。

 

俺がいつ女たらしになりましたか!?

いつも女子の勢いに負けて振り回されてる気がするんですけど!

 

 

俺が目元をヒクつかせているとアリスがクスッと笑う。

 

「あんたは十分に女たらしだと思うわよ? だって私にあんなこと言うんだもの・・・・・・。責任は取ってもらうからね?」

 

その言葉に母さんが反応した。

 

「せ、責任!? ちょっと、どういうことなの!? 説明しなさい、イッセー!」

 

うおおおおおおいっ!?

 

なんか、ややこしいことになろうとしてる!?

 

とりあえず、誤解を解こう!

 

「い、いや、俺はアリスと一緒にいたいって言っただけで・・・・・・」

 

「それってプロポーズ!? お父さん、イッセーが結婚するって!」

 

おいおいおい!

ぶっ飛びすぎだろ!

 

俺、まだ高校二年生だからね!?

結婚とか早いからね!?

 

『だが、相棒は二十歳だろう?』

 

それを言うな、ドライグ!

泣けてくるから!

 

つーか、皆の視線が鋭いものに!

部長なんか、紅いオーラを発してるよ!

滅される!

俺、帰宅早々に滅される!

 

美羽とかアーシアは涙目だし!

 

先生なんて爆笑してるよ!

笑ってないで助けて!

 

 

慌てる俺をよそにアリスは勝手に話を進めていく。

 

「今後は王女としてではなく、一人の女としてイッセーの隣を歩いていくつもりです」

 

「そ、それはつまり、イッセーの嫁に・・・・・」

 

父さんが尋ねるとアリスは頬を赤くしながら頷いた!

 

ちょ、ちょっと待とうか!

早い!

早すぎる!

 

来る前はあんなに素直じゃなかったのに、なんでそんな風になってるの!?

 

「イッセーも二十歳だし・・・・・アリスさんも同い年・・・・・。確かにいけるかもしれないな」

 

「そ、そうね。今の子は二十歳くらいで結婚する人もいるみたいだし・・・・・・」

 

父さんと母さんが何やら相談してる!

マジかよ、この人達!

 

それから、二十歳、二十歳って連呼するな!

こっちの世界では十七歳なんだよ!

 

アリスはと言うと俺の方に視線を向けてウインクしてきた。

 

「こっちでもよろしくね、イッセー♪」

 

ワザとだ!

絶対にワザとだ!

混乱する俺を見て楽しんでるだろ、おまえ!

 

 

今のを見て、父さんと母さんは勝手に盛り上がっていった!

 

「母さん、赤飯だ! 赤飯を炊け!」

 

「そうね! 式場も探しましょう! こういうことは早い方が良いわ! イッセーのスケベに愛想を尽かされる前に!」

 

おいいいいいいいいっ!!!

 

ちょっと待たんかい!

赤飯とか式場とかいらないから!

 

 

「ハハハハハハッ!! こいつは良い! 二十歳の高校生で、しかも嫁さん持ちかよ!」

 

うるせぇよ! 

この未婚総督!

 

人のこと笑う前にあんたが身を固めろよ!

つーか、まだ嫁じゃないから!

 

 

「イッセー・・・・・。どう言うことなのかしら?」

 

「そろそろ、この状況を説明してくださる?」

 

ヤバい!

 

部長と朱乃さんの背後に滅びの龍と雷光の龍が!

二体の龍が睨んでくるよ!

 

「これが王女の力か・・・・・。凄まじいな」

 

「ええ。・・・・・まさか、競争をすっ飛ばしてご両親の前で嫁入り宣言だなんて。流石だわ・・・・・」

 

ゼノウィアもイリナも納得してんじゃねぇ!

 

「あわわわ・・・・・。どうしよう小猫さん!?」

 

「・・・・・・正面からは不利なので、隙が出来るのを待つしかないと思います」

 

レイナと小猫ちゃんは何を相談しているのかな!

 

ああっ!

美羽とアーシアが今にも泣きそうに!

 

 

クソッ!

 

ここは親友に助けてもらおう!

 

木場、助けてくれぇ!

 

俺は木場に視線を送るが・・・・・・・

 

 

「大変だね、イッセー君」

 

 

ダメだ!

ギャスパーと一緒に後ろの方へ避難してる!

 

助ける気なんて無いってことかよ!

 

男の友情はどこにいった!?

 

 

はぁ・・・・・・・。

 

なんで、帰ってきてこんなに疲れるんだよ・・・・・・・。

 

「おい、アリス。どう収拾つけるつもりだよ・・・・・・」

 

「ふふふ。こっちでも楽しくやっていけそうね」

 

 

アリスは本当に楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

「疲れた・・・・・・」

 

自室に戻った俺はベッドにダイブした。

久しぶりの感触。

少しヒンヤリしていて気持ちが良い。

 

 

はぁ・・・・・。

 

なんで、あんな騒動になるんだよ・・・・・。

 

あの後、勝手に盛り上がる父さんと母さんを止めて、部長達を宥める羽目になった。

精神力が根こそぎ持っていかれたよ・・・・・。

 

 

先生と木場、ギャスパーは既に各自の家に帰った。

だけど、部長達は部屋に籠って何やら相談してるみたいだ・・・・・・。

 

 

話の内容は・・・・・・・想像するだけで恐ろしい・・・・・・。

 

 

『うふふふ。早速楽しくなってきたみたいね』

 

イグニス?

 

『そうよ♪ 言ったでしょ? 会話くらいならいつでも出来るって』

 

あー、そういえば言ってたな。

 

『そうそう。それにしても、あなたの周りはいつも賑やかね』

 

まぁ、そうかな・・・・・。

 

いや、まさか、アリスがあんなことを言うなんて思ってなかったよ。

お陰でえらい事になった。

 

『彼女も素直になったって事じゃない? こっちに来たせいで・・・・・っていうより、王女として振る舞う必要もなくなって、抑圧されていたものが解放されたんじゃないの?』

 

抑圧って・・・・・。

 

まぁ、よく分からないけど、あいつがこっちに来たことで後悔しなければ良いけどさ。

 

『何言ってるの。後悔しないようにあなたがするんじゃない』

 

それもそうか。

経緯はとにかく誘ったのは俺だしな。

 

 

 

コンコン

 

 

 

『イッセー。入るわよ』

 

「アリスか? 良いぜ」

 

 

ガチャ

 

 

 

扉が開き、アリスが入ってくる。

 

見れば服装が変わっていた。

ピンク色のシャツに白いスカートをはいている。

 

「その服は?」

 

「これ? アーシアさんに借りたのよ。リアスさん達だとサイズが合わないから。・・・・・・・胸が・・・・・・」

 

ズーンという効果音が聞こえてきそうなくらいに落ち込んでるよ・・・・・・。

 

た、確かに部長達と比べるとアリスの胸は控え目だ。

 

俺は大きいのも小さいのも歓迎だけどな!

 

ただ、それを言うとまたグーパンチが飛んできそうなので黙っておくとしよう。

 

 

アリスは頬を紅潮させて、少しモジモジしながら聞いてきた。

 

「どう・・・・かな?」

 

「似合ってるよ。スゲー可愛い!」

 

俺は親指を立てて感想を言う。

 

いつもはドレスかもっと動きやすい服装を着ていたから、アリスのこういう格好は新鮮だ!

 

アリスはアーシアよりも身長が高いけど、今着てる服はアーシアが持ってる中でもゆったりとしたやつだから、ちょうど良いくらいになってるな。

 

「そっか・・・・・良かった・・・・・」

 

胸に手を当てて安堵するアリス。

 

そんなに心配しなくても、アリスなら大抵の服は着こなせると思うんだけどなぁ。

 

 

「それで、着替えてきたのはあんたにこの町を案内してもらいたいからなんだけど・・・・・・いい?」

 

「もちろん。どうせ、近いうちにしとこうと思ってたしな。それに、俺がアスト・アーデに飛ばされた時だってアリスに案内してもらったし。今回はそれのお返しだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが俺達が通ってる駒王学園だ」

 

 

町を案内することになった俺は以前、美羽を案内したルートを辿っていた。

 

それで、今は駒王学園に来ている。

今日は学園は休みなので誰もいない。

 

静かなもんだ。

 

 

アリスは敷地や校舎を見渡して、「へぇ」と感心していた。

 

「結構大きいのね」

 

「まぁな。あ、言っとくけど、この世界の人間は基本的に魔法とかは実在しないものとして認識してるから、気を付けてくれよ?」

 

「あ、そうなの? 分かったわ、気を付ける」

 

 

それから、俺はアリスに学園の散策しながら施設を解説していく。

 

アリスにとっては初めて見るものも多く、一つ一つに感嘆の声を漏らしていた。

 

そして、俺は自分の教室へと案内する。

 

「ここが俺が授業を受けてる教室だ。俺の席は窓側の真ん中にある」

 

と、自分の席を指差す。

 

「ここであんたが勉強をねぇ・・・・・。本当に勉強してるの? 寝てるんじゃないの?」

 

「・・・・・たまにな・・・・・」

 

「あとはスケベな本を持ち込んでたりして」

 

「なんで分かる!?」

 

エスパーか、おまえは!?

 

アリスはやれやれとため息を吐く。

 

「あんたねぇ・・・・・学校にそんなもの持ってきてどうするのよ?」

 

「読む!」

 

主に松田、元浜と開く紳士の会の時にな!

 

「はぁ・・・・・バカね」

 

 

うるせぇ!

エロは俺の源なんだい!

 

 

 

 

 

 

 

学園を案内した後、俺は町の主要な場所を訪れていた。

 

と言ってもショッピングモールとか、日頃から俺が活用してる場所ばっかりだけどな。

 

 

そして、時刻は夕方。

 

「そろそろ帰るか。母さんが夕食を作ってるだろうし」

 

「そうね。もう空も暗くなってきたわ」

 

「で、町を巡ってみた感想は?」

 

「すごく楽しかったわ。オーディリアには無い物ばかりでどれも見ごたえがあったもの」

 

「そっか」

 

 

楽しんでもらえたのならなによりだ。

 

家への帰り道。

俺の視界にはいつものコンビニが目に入る。

 

「アリス、何かいる物あるか?」

 

「いる物? そうね・・・・私、喉渇いたわ」

 

「了解。じゃあ、コンビニで何か買うか」

 

 

そんなわけでコンビニの前に来てみたんだけど・・・・・。

 

 

皆さん、美羽が昔、コンビニの前でどういう反応をしていたか覚えていますか?

 

 

はい、お察しの通りです。

 

 

「ね、ねぇ・・・・・ここもあの自動ドアってやつなの・・・・・?」

 

俺の腕にしがみついて、中々前に進もうとしないアリス。

 

ショッピングモールで初めて自動ドアを見たときなんか、「ひゃっ!」という可愛らしい声を出してたもんだ。

 

アスト・アーデの住民は自動ドアに対する恐怖症でも持っているのだろうか・・・・・。

 

「まぁ、美羽も慣れたし、おまえもそのうち慣れるさ」

 

「そのうちって・・・・いつよ?」

 

「ん~、半年くらい?」

 

「無理! ビギナーの私にはまだ無理!」

 

そう叫んで、俺の襟首を掴んでくる!

 

く、首が・・・・

 

「ちょ、やめ・・・・、ギブッ! しまてるって!」

 

俺はタップしながら絶叫をあげる!

 

 

ゲホッ・・・・ゲホッ・・・・

 

 

こいつ・・・加減を知らねェ・・・・・。

危うく死ぬところだったぞ

 

「ま、まぁ、俺も慣れるまでは付き合ってやるからさ・・・・・な?」

 

「うぅ・・・・・分かったわよ・・・・・」

 

と、涙目で再度、俺の腕にしがみつくアリス。

 

 

いかん・・・・胸が・・・・!

アリスの胸が当たってる!

 

美羽の時のように挟み込まれることはないが、その柔らかさがしっかりと伝わってくるぜ!!

 

うん、役得だ!

 

 

俺はアリスを連れてコンビニに入る。

 

そして―――――――――

 

 

 

「あなた・・・また鼻血出てますよ」

 

「あ、ホントだ」

 

 

店員さんにティッシュを借りる日々が再開した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

「あー、貧血になりそう」

 

「私が真剣に悩んでる時にあんたって人は・・・・・・何考えてるのよ」

 

「おっぱいの感触を楽しんでました」

 

「こんな道の真ん中でそんなこと言わないでよ!」

 

 

バキッ

 

 

「ぐはっ!!」

 

アリスのストレートが俺の顎を捉える!

 

こっちの世界での第一号のアリスパンチになるのか!

 

痛いけど、ある意味記念だな!

 

「ったく、もう!」

 

あははは・・・・。

 

俺は苦笑しながら顎をさする。

 

あー、ジンジンする・・・・。

 

 

っと今気づいたけど、もう空は完全に真っ暗だな。

 

コンビニで結構時間喰ったこともあるんだけど、暗くなるのが早くなった気がする。

 

俺は夜空を見上げながら冬の訪れを感じていた。

 

 

 

「あ、そうだ」

 

「どうしたのよ?」

 

「いいこと思いついたんだよ」

 

「いいこと?」

 

怪訝な表情を浮かべるアリスに俺は笑みを返す。

 

これだけ暗かったら、多分いけるはず。

 

「アリス、ちょっと・・・・」

 

「えっ・・・何・・・・キャッ」

 

俺はアリスを抱え上げた。

 

「今から良いもの見せてやるから、おとなしくしてろよ?」

 

 

周囲に人がいないことを確認して、俺は悪魔の翼を広げる。

そして、アリスを抱えた状態で上空を目指した。

風を切りながら結構なスピードで飛行する。

 

ちなみに俺とアリスの気は完全に消してあるから、一般の人に見つかる危険性は無い。

 

 

飛行すること数分。

町を見下ろせる場所で俺は停止した。

 

 

 

「アリス。目を開けてみろよ」

 

「って、こんなところ来て、一体何を――――――」

 

アリスはそこで言葉を失った。

 

何故かというと・・・・・

 

 

「キレイ・・・・・」

 

アリスが小さく声を漏らす。

 

俺達の位置から見えるのは町の夜景だ。

町中に明かりが灯り、昼間とは違う姿を見せている。

 

赤や白、青といった様々な色の光りが混ざり、一つ一つが星のようにも見える。

だけど、星空とはまた違った雰囲気で。

 

俺は息抜きにたまにこうして夜景を見に来ることがある。

美羽や部長達とも来たことがある。

 

町の夜景スポットは他にもあるけど、こうして上空から見下ろすのが一番おススメだ。

まぁ、一般の人にはおススメできないけど・・・・・。

 

 

「アスト・アーデでは見れない光景だろ?」

 

「ええ。こんなの見たことがないわ。でも、なんで私をここに?」

 

なぜ、か・・・・。

 

うーん、何と答えようか・・・・。

 

「・・・・おまえには色々と世話になってたしな。それのお礼・・・・かな?」

 

「また疑問形になってる」

 

「うっ・・・」

 

言葉に詰まる俺を見て、アリスは微笑む。

 

 

うぅ・・・。

自分でも赤面してるのが分かる。

なんだか恥ずかしくなってきた・・・・・。

 

 

俺はコホンと咳払いして言う。

この機会を逃したら中々言うことが出来ないと思ったから。

 

 

「ま、まぁ、なんというかさ・・・・・。後悔はさせないよ」

 

「えっ?」

 

「いや・・・・・今回、なんかグダグダな感じで連れてきちゃっただろ? だからさ、ちゃんと言っておきたかったんだよ」

 

モーリスのおっさん達のせいでもあるけど・・・・・。

アリスをぶん投げるわ、無断で議会に話をつけるわで・・・・・。

かなりグダグダな雰囲気になってたよね・・・・。

 

 

だからこそ、ちゃんと面と向かって伝えておきたかった。

 

 

 

 

「おまえがこの世界に来たこと後悔させやしない。この先もずっと・・・・俺がアリスを守り続けるよ」

 

 

 

俺の気持ちだ。

美羽や部長達もそうだけど、アリスだって守るべき存在なんだ。

 

 

 

俺の言葉にアリスは―――――

 

 

 

 

「もうっ・・・・。やっぱり、あんたは女たらしよ・・・・」

 

俯くアリスの瞳からポロポロと滴が落ちた。

 

 

なんで泣いてるの!?

変なこと言ったか!?

 

「え、えっと、アリス・・・・?」

 

恐る恐る声をかけてみる。

だけど、返事は帰ってこない。

 

ヤバい・・・・どうしよう・・・・。

 

後悔させないとか言っておいて早速これかよ!

 

 

俺が焦ってると、アリスが俺の顔を両手でおさえてきて――――――

 

 

俺とアリスの唇が重なった。

 

 

僅か数秒。

それでも、しっかりと感触は残っていて。

 

アリスがゆっくりと顔を離していく。

互いの鼻がくっ付きそうな距離で二人の瞳が合った。

 

 

 

「後悔なんてしないわよ、イッセー」

 

 

 

月の光に照らされたアリスがとてもキレイに見えた。

 

 

 

 

 




これにて異世界召喚のプリンセスは完結です!
一応オリジナルのストーリーでしたが、いかがだったでしょうか?

当初の見込みよりかなり長くなって自分でも驚いてます。(笑)

って言うか、この話を書いてて、

「あれ? メインヒロインってアリスだっけ?」

って思ってしまいました(笑)


次章はDD原作に戻り、修学旅行編に入ります。





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番外編 焼き鳥復活計画!! 前編

アリスが家に住むことになった翌日のことだった。

 

 

時刻は朝の五時前。

そろそろ修行に行く時間だ。

 

異世界から帰ってきたばかりだけど、これだけは怠るわけにはいかない。

 

というわけで、ベッドから起きようと上半身を起こす。

 

 

「スースー」

 

 

俺の隣では美羽がピンク色の可愛らしいパジャマを着て、穏やかな寝息をたてていた。

 

うん、この寝顔には相変わらず癒される。

あまりにも可愛いいので、頭を撫でてやる。

 

すると、

 

 

「お兄・・・・ちゃん。・・・・・大好き」

 

 

ゴファッ!

 

 

なんと言う寝言!

クソッ、可愛すぎる!

 

異世界から帰還して、その翌日からこれか!

最高の朝じゃねぇか!

 

 

「イッセー・・・・・」

 

「・・・・・イッセー君」

 

反対側ではネグリジェを着たお姉さま方二人。

 

透けてる!

おっぱいが透けています!

ピンク色の先端がバッチリ見えてますよ!

 

 

「イッセーさぁん・・・・・卵焼き作りましたよ。あーん」

 

アーシアは夢の中で俺にあーんをしてくれているのか!

うんうん、美少女からのあーんは最高だよね!

またしてもらいたいものだぜ!

 

「子作り・・・・・・今日こそ・・・・・・」

 

豪快に腹を出してるゼノヴィア。

おまえは何の夢を見てるんだ!?

 

「ふふふ、お饅頭美味しい・・・・」

 

イリナは饅頭食ってる夢見てるのか。

よだれ垂れてるよ・・・・・ゼノヴィアの腹の上に。

 

ここは拭いてやるべきなのだろうか?

 

「・・・・イッセー先輩。私、大きくなりました・・・・・」

 

小猫ちゃんは俺の上で猫みたいに丸まって寝てる。

 

大きくなった小猫ちゃんか・・・・・・。

今のラブリーな小猫ちゃんも良いけど、大きくなった小猫ちゃんも見てみたいかも!

黒歌並のスタイルになったりして!

それはそれで最高だな!

 

「う~ん、総督~。仕事してください~」

 

レイナ・・・・・。

夢の中でもアザゼル先生に迷惑かけられてるのか・・・・。

 

あれ・・・なんだか泣けてきた・・・・・。

 

今度、どこかに連れて行ってあげよう。

今のレイナにはストレスの発散が必要だ!

 

 

にしても、こうして皆と寝るのも久しぶりだ。

オーディリアの城では各自に部屋を与えられてたし、部屋のベッドもこのベッドと比べると小さかったからな。

 

こうしてると帰って来たんだなって改めて思えてくる。

 

 

っていうか、皆はいつの間にベッドに潜り込んだんだ?

昨日、寝た時には美羽と部長、アーシアしかいなかったぞ?

 

まぁ、今となってはこの方が落ち着くから良いんだけどさ。

 

 

さて、そろそろ着替えるとするか。

ティアには今日も修行に付き合ってもらえるように頼んどいたしな。

 

皆を起こさないようするには・・・・・・

まず、小猫ちゃんを腹の上から下ろさないとな。

 

小猫ちゃんを下ろそうとすると・・・・

 

 

小猫ちゃんが俺のシャツをギュッと握ってきた!

 

「・・・・イッセー先輩、ずっと一緒です・・・・にゃあぁ」

 

 

こ、これは・・・・・!

 

なんてこったよ!

こんなことされたら下ろすに下ろせないよ!

 

 

どうしよう!

 

どうすればいい!

 

俺は・・・・・どうすればいんだぁぁぁぁぁああああ!!!!!

 

 

 

ガチャ

 

 

 

ここで部屋のドアが開く音が聞こえた。

 

ドアの方を見てみると、僅かに開かれた隙間からアリスがこちらを伺っているのが見えた。

 

 

何してんだ・・・・?

 

 

「アリス? どうした?」

 

 

ガタッ

 

 

声をかけると、アリスは慌てたように隠れた。

 

なんだ・・・・?

 

俺は訝しげに思い、再び声をかけてみる。

 

「アリス?」

 

すると、ゆっくりとドアが開き、アリスがそーっと入ってきた。

枕を胸に抱え、恥ずかしそうにしている。

 

なぜか、俺と目を合わせてくれない。

 

「な、なんだ、起きてたのね・・・・・・」

 

「まぁな。俺が起きるのは大体この時間だ。修行もあるしな」

 

「そうなんだ・・・・・。・・・・せっかく早起きしてきたのに・・・・・」

 

「えっ?」

 

「なんでもないわよっ。・・・・・・・・って、なにこの状況」

 

ようやく、こっちを向いたと思えば言葉を詰まらせるアリス。

 

朝から色々忙しい奴だな・・・・。

 

なにがあったんだよ?

 

「ねぇ、イッセー。なんで、リアスさん達もここで寝てるの? っていうか、この家に住んでる女の子のほとんどがいるみたいなんだけど・・・・」

 

「ん? まぁ、親とロスヴァイセさん以外はいるか・・・・。でも、いつもこんな感じだぜ?」

 

今年の夏からだけどね。

最初はこうでもなかったんだけど、日に日に増えていったんだよね。

 

そのおかげで、改築後に大きくなったベッドを更に大きくすることになった。

 

あ、そういえば、ティアも来るよな。

ティアは基本的には自分の住処にいるんだけど、たまに兵藤家に泊まるときもある。

今日もこの家にいるはずだ。

 

 

「あんたって・・・・・やつは・・・・!」

 

 

 

ワナワナと肩を震わせるアリス。

 

その身に白い雷を纏わせて、髪も金髪から純白へと変化する。

 

 

・・・・・え?

 

 

「ア、アリス・・・? なんで―――――」

 

 

「この浮気者ーーーーーーっ!!!!」

 

 

 

スパーーーーーーーンッ

 

 

 

アリスが持っていた枕が俺の顔に炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛ってぇ・・・・」

 

 

朝の修行を終え、朝食を食べた後も顔に枕の跡が残っていた。

 

あー、ヒリヒリする・・・・・。

 

「ゴ、ゴメン・・・・つい・・・・」

 

申し訳なさそうにするアリス。

朝の一件以来、ずっとこんな感じだ。

 

俺は苦笑しながらアリスの頭をポンポンと撫でる。

 

「もう気にしてないよ。だから、そんなにしょぼくれるなよ」

 

「うん・・・・」

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

 

「ひゃっ!」

 

その音に驚いたアリスが俺に抱き着いてくる。

アリス・・・・自動ドアだけじゃなくて、インターホンもダメなのか・・・・。

 

普通の物音なら平気なのにな。

やはり、機械の存在そのものがダメなのだろうか?

 

まぁ、こうしてアリスの可愛い反応を見れるから、良いんだけどね。

 

 

それにしても、客か。

 

・・・・この気の感じは・・・・・あの娘か。

 

何のようだ?

 

「はいはーい」

 

俺は訝しげに思いながらも、玄関の扉を開ける。

 

そこにいたのは――――――

 

 

「あっ、イッセー様・・・・」

 

「よう、レイヴェル。久しぶりだな」

 

 

上級悪魔フェニックス家の娘、レイヴェル・フェニックスが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達はリビングに集まっていた。

 

 

「リアス様。突然の来訪、申し訳ございません」

 

「良いのよ。歓迎するわ、レイヴェル」

 

 

レイヴェルが部長に挨拶をし、部長も笑顔を返していた。

 

冥界では何度か顔を合わせることがあったけど、まさか人間界の、しかも、俺の家に来ることになるなんて思ってもなかったよ。

 

部長の様子だと事前の連絡も無かったみたいだし、本当に不意打ちの訪問のようだ。

 

 

ちなみに、今日のレイヴェルは白いワンピースを着ていた。

 

うーん、結構胸あるよね。

 

多分、俺とアリスよりも年下だよね?

まぁ、見た感じの判断でしかないけど・・・・・。

 

「・・・・イッセー先輩、どこを見てるんですか?」

 

おっと、流石に小猫ちゃんは鋭い!

 

俺は誤魔化すため、苦笑しながらレイヴェルに話を振った。

 

「それで、どうしたんだ? レイヴェルが家を訪ねるなんて珍しいな」

 

「はい・・・・。実は兄のことでご相談がありまして・・・・・」

 

その言葉を聞いて、俺と部長は顔を見合わせる。

 

これは少々込み入りそうだな・・・・・。

 

「ライザーについて?」

 

部長が尋ねると、向かいの席に座るレイヴェルは頷く。

 

「はい。兄があの一件以来、塞ぎ混んでしまったのはお耳に届いていると思うのですが・・・・・」

 

あー、そういえばそんなことを聞いた記憶があるな。

 

あれは・・・・・・魔王主催のパーティーの時だっけ?

 

 

許嫁関係にあった部長とライザー。

 

だけど、部長は親の決めた婚約が嫌で、自由な恋愛をしたくて、その関係を破談させるためにライザーとのレーティングゲームに挑んだ。

 

あの時はグレモリー所有の別荘で皆の修行を見てたっけな。

 

最終的には俺がライザーにアグニをぶちこんで、倒したんだけど・・・・・・。

 

 

レイヴェル曰く、あの一撃に恐怖を覚えたライザーは引き込もってしまったらしい。

それは半年近く経った今でも変わらないようだ。

 

 

俺達の会話を隅の方で見守っているアーシア達。

 

「ライザーか。話には聞いているが・・・・・」

 

「どういう人なの?」

 

ゼノヴィアとイリナがアーシアに尋ねる。

 

ライザーと面識のないメンバーは興味津々といった様子だ。

 

「えーと、フェニックス家の方で・・・・」

 

アーシアが説明していく。

 

そういえば、あの一件はアーシアがグレモリー眷属に入った直後のことだったな。

 

今思えば懐かしいものだ。

 

「許嫁・・・・・。貴族社会に憧れます。上手いこと玉の輿に乗れないかしら」

 

ロスヴァイセさん・・・・・・何を企んでいるんですか?

 

目がキラリッと輝いてますよ?

 

 

ま、こうして、妹自ら訪問してくるってことは本当に困っているんだろうな。

 

「ライザーはあれから治ってないのね・・・・」

 

部長の一言にレイヴェルは頷く。

 

「本来なら、ここへ来るのは筋違いかもしれません。だけど、リアス様のところならあるいは、と意見を伺ったものですから・・・・・・」

 

「私のところ? どういうこと?」

 

部長の疑問にレイヴェルは答える。

 

「兄の精神的なところを直すのなら、リアス様の眷属が持つ・・・・・いわゆる『根性』を習った方が良い。そのように意見をいただいたのです。今日はそれで・・・・・」

 

 

その答えを聞いて、リビングに皆の苦笑が漏れる。

 

 

根性、か。

 

まぁ、間違ってはないな。

グレモリー眷属は全員がガッツを持ってるし、その根性でこれまで戦い抜いてきたからな。

 

自分で言うのはなんだけど、俺なんて根性の塊だと思うんだ。

 

 

場の空気が少し緩和するとレイヴェルの溜まっていたものが吐き出された。

 

「というかですね、兄は情けないです! 一度の負けくらいで半年も塞ぎこむんですよ!? イッセー様だけではなく、他のドラゴンにも怯えてるとか情けなさ過ぎると思いませんか!? 男なら負けを糧にして前に進めば良いものを! もう情けなさ過ぎます!」

 

おおっ。

 

ライザー・・・・・。

おまえ、妹に「情けない」を連呼されてるぞ。

 

つーか、レイヴェルもメチャクチャ不満を溜め込んでたみたいだな。

 

どれだけ酷い状況なんだよ・・・・・・。

 

「・・・・・でも、あれでも一応は私の兄なものですから」

 

と、レイヴェルは最後に締めくくる。

 

 

何だかんだ言っても兄が心配なわけだ。

まぁ、そうじゃなかったら、態々ここまで来ないよな。

 

 

しかし、元婚約者の部長も複雑な心境のようだ。

レイヴェルも本気で兄を何とか立ち直ってほしいという思いで来ているわけだし。

 

 

ま、仕方がないか。

 

俺は立ち上がって、レイヴェルに言う。

 

「俺が何とかするよ。任せろ、レイヴェル」

 

レイヴェルをはじめ、全員の視線が俺に集まった。

 

「ライザーが引き込もった原因は俺にもあることだしな。立ち直らせるのも俺がやってやるさ。それに」

 

「それに?」

 

レイヴェルが聞き返してきたので、俺は頬をかきながら答えた。

 

「レイヴェルの頼みとあってはことわるわけにもいかないだろ。レイヴェルには色々と助けてもらってるしな」

 

特におっぱいドラゴンのイベントでね。

 

レイヴェルが裏方でサポートしてくれて、スゲー助かったもんな。

 

「イッセー・・・・・」

 

「心配ないですよ、部長。要するにライザーに根性を叩き込むんですよね? それなら俺が適任ですよ」

 

俺は笑みを浮かべながら部長に言った。

 

まぁ、俺が引き受けた理由としてはもう一つあるわけだが・・・・・・。

 

 

レイヴェルの方へ視線を戻すと、パァッと明るい表情なっていた。

だけど、直ぐにハッとなったのか、咳払いした。

 

「し、し、仕方ありませんわね。それではイッセー様に頼んで差し上げてよ? せいぜい上級悪魔のために励んでくださいな」

 

あらら・・・・。

ツンツンしちゃって・・・・・。

 

その様子に苦笑していると、レイヴェルは顔を赤くしながら言った。

 

「・・・・い、一応お礼を言ってあげますわ」

 

「おう!」

 

 

こうして、「焼き鳥復活計画(仮)」が始動したわけだが・・・・・。

 

 

さーて、どうしてやろうかな。

 

 

 

 

 

 



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番外編 焼き鳥復活計画!! 中編

現在、百話突破記念の話を考えているのですが、中々上手く書けていません。

うーん、どうしよう・・・・・・。




俺達、オカ研メンバー+アリスは冥界のフェニックス家を訪れていた。

 

人間界からグレモリー領へ転移した後、アリスの手続きを済ませ、それから魔法陣を介して何度もジャンプをして到着したわけだが・・・・・・。

 

うーん、でかい。

 

部長の家も相当大きかったけど、ここも負けてない。

 

フェニックスの涙でかなり稼いでるってのは聞いてたけど、これを見てるとかなり儲けてるのが分かるな。

 

 

城門が重い音を立てながら開いていき、俺達は中へと進む。

すると、少し進んだところに数人の使用人を連れたレイヴェルが待っていた。

 

「ごきげんよう、ようこそフェニックス家へ」

 

「ごきげんよう、レイヴェル。ライザーはこの区画に住んでいたわよね?」

 

部長の問いにレイヴェルは頷く。

 

「はい、ここから入ってそちらまで行けますわ」

 

レイヴェル先導で建物の奥へと進んでいく。

 

 

あー、やっぱり天井も高いな。

廊下の脇には高そうな甲冑やら絵画やらが飾られてる。

 

流石は貴族ってところか。

 

「リアス様、お久しゅうございます。それと、久しいな、赤龍帝」

 

第三者の声。

見れば、見知った女性が立っていた。

 

顔に半分だけの仮面をつけているのが特徴的な女性。

イザベラさんだ。

ライザーの戦車でもある。

 

「久しぶり、イザベラさん」

 

「話は色々聞いているよ。あの北欧の悪神ロキとやり合ったそうじゃないか。流石だ。っと、今日はライザー様のために来てくれたのだったな。・・・・・・すまん、礼を言うよ」

 

「気にしないでくれ。・・・・・・ライザーってそんなに酷いのか?」

 

尋ねるとイザベラさんは嘆息した。

 

「部屋に引きこもり、一日中レーティングゲームの仮想ゲームをしているか、チェスの強い領民を呼び寄せて一局する。それをこの半年ずっと繰り返してる」

 

イザベラさんはそれから、と付け加える。

 

「テレビで君の話題が出てくると、怯えたようにベッドに逃げ込む始末だ・・・・・・。ほら、君が演じているおっぱいドラゴンなるものがあるだろう? あれが流れるだけでもダメみたいなんだ」

 

・・・・・重症だな。

 

そこまで俺が怖いのか・・・・・・?

 

アリスが俺を小突いてくる。

 

「あんた、やり過ぎたんじゃないの?」

 

「うーん、どうだろう・・・・・・」

 

 

フェニックスを倒すには何度も倒すか魔王クラスの一撃をくらわせるか。

そのどちらかだ。

 

だから、魔王クラスの一撃をぶっぱなしたんだけど・・・・・。

 

『それだけの攻撃を受けたのだ。あの小僧が恐怖するのも無理はない』

 

はははは・・・・・・。

 

やり過ぎたのかな?

 

 

ま、まぁ、これから何とかすればいいか・・・・・・。

そのために来たんだし・・・・・・。

 

 

レイヴェルとイザベラさんの足が大きな扉の前で止まる。

火の鳥らしき見事なレリーフが刻まれていた。

 

 

コンコン

 

 

扉をノックするレイヴェル。

 

「お兄様、お客様ですわ」

 

そう言うと部屋の中からは弱々しい声が返ってきた。

 

『レイヴェルか・・・・・。すまんが今日は誰とも会いたくない。嫌な夢を見たんだ・・・・・。今はそっとしておいてくれ』

 

 

おいおい・・・・・。

これがあのライザーかよ?

 

以前の高慢な態度とは正反対じゃねぇか。

 

レイヴェルは深くため息をつく。

 

「こういう感じですの。私がどれだけ言っても部屋から出てくる気配がないのです」

 

イザベラさんやさっき合流したライザーの眷属達もため息をついてる。

 

 

ったく、何してんだか。

 

 

俺はレイヴェルの肩に手を置いて言った。

 

「なぁ、レイヴェル。今からかなり無茶苦茶しようと思うんだけど、いいか?」

 

「え? あ、はい。お父様もお母様も好きにしてくれと仰っていたので・・・・・・」

 

「OK。じゃあ、皆は少し下がっていてくれ」

 

俺の言葉に皆は怪訝な表情を浮かべるけど、指示に従って後ろに下がってくれた。

 

それを確認した俺は錬環勁気功を発動。

右腕に気を循環させる。

 

 

そして―――――

 

 

ドッガァァァアアアアアアン!!!!

 

 

俺は扉をぶち抜いた。

 

吹き飛んだ扉が窓ガラスを突き破って外に飛び出す。

 

砕け散るガラス。

舞い上がる埃。

 

 

「な、なんだぁ!?」

 

 

そんな中、聞こえてくるのは慌てるライザーの声。

俺は扉の欠片を踏みながら中に入る。

 

そして、ライザーの姿を確認してからニヤリと笑った。

 

「よう、ライザー! 今からおまえの根性を叩き直す! 表出ろ!」

 

 

 

 

 

「せ、せ、せ、せ、赤龍帝ぇぇえええ!?」

 

 

 

 

 

 

俺の姿を見て、目が飛び出そうなくらい見開くライザー。

 

普通なら俺がここにいることを聞いてくるはずだ。

 

だけど、ライザーは俺の姿を見るなり、窓を突き破って逃げ出しやがった!

 

あの野郎、いきなりそれか!

 

「逃がすかよっ!」

 

 

ダンッ!

 

 

俺は床を蹴って外へと飛び出す!

 

いきなりトップスピードに至った俺はライザーに追い付き、頭を掴んで地面に叩きつけた!

 

 

ドゴォォオオオオオオン!!!

 

 

地面には巨大なクレーターが出来て、その中央にはライザーがめり込んでいた。

 

『いきなり無茶苦茶だな』

 

ま、いいだろ。

 

これで外には引きずり出せたわけだし。

 

レイヴェルの許可も得てるしな。

 

 

ライザーは体を起こし、俺に指を突き付けてくる。

 

「なんで貴様がここにいるんだ!?」

 

「レイヴェルに頼まれたんだよ。情けない兄貴を何とかしてくれってな」

 

「んなっ!?」

 

絶句するライザー。

 

俺はそんなライザーを無視して勝手に話を進めていく。

 

「今日からおまえの引きこもり生活を改善していくわけだけど・・・・・。とりあえず、山籠もりするからよろしく」

 

「勝手に話を進めるな! 山籠もりだと!? なぜ俺がそんなことをしなければならない!?」

 

「決まってるだろ。修行だよ修行。根性をつけるには修行が手っ取り早いからな」

 

「ふざけるな! 俺は上級悪魔だぞ! 貴族たる俺がそのようなことを―――――――」

 

ライザーがそこまで言いかけた時。

 

俺の隣にアリスが着地してきた。

それに続いて、美羽や部長、レイヴェル達も地上に降りてくる。

 

アリスはライザーの姿を見て、嘆息する。

 

「ホント・・・。話に訊いていた以上に情けない男ね」

 

アリスの言葉にライザーが激高する。

 

「なんだとっ!? 人間ごときが無礼な!」

 

「そうやって他人を見下してるうちは話にならないわ。と言うより、まずは今の自分の姿を見なさいよ。貴族というよりホームレスだから」

 

ま、まぁ、確かに・・・・。

 

今のライザーは髪は寝癖がついていて、髭も伸びてる。

おまけにボロボロの寝間着姿だ。

 

誰がどう見ても貴族だなんて思えないよな・・・・。

 

ボロボロにしたのは俺だけど。

 

「私、口だけの男って嫌いなのよ。特にあんたみたいな奴。そんなんだからリアスさんにもフラれるし、イッセーにボコボコにされるのよ。上級悪魔だから、貴族だから、修行しない? ふざけんじゃないわよ。自分を磨こうとしない人が貴族を名乗らないで。あなたについていくと決めたこの子達に迷惑かけてるとは思わないの?」

 

おおっ・・・・。

ライザーへのあたりが強いな・・・・。

 

アリスは一国の王女だったし、今のライザーに対して思うところがあるのかね?

 

 

アリスの言葉に言い返せないライザー。

だけど、何か言い返したかったのだろう。

 

ライザーはアリスに叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「う、うるさいっ! 俺に指図するな! この貧乳女!」

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、時が止まった感じがした。

 

 

 

 

 

 

あ・・・・・ヤベ・・・・・。

 

 

 

 

 

人には絶対に触れてはならない領域がある。

それは人それぞれだけど、確実に存在するものだ。

 

 

そして、ライザーはそれに触れてしまった。

 

 

 

バチッ バチチチッ・・・・・

 

 

 

スパークが巻き起こり、空気中で弾けていく。

 

 

「・・・・・言ったわね・・・・・。よくも言ってくれたわね・・・・・・」

 

 

アリスは槍を自身の固有空間から取りだす。

 

 

その瞬間、体に悪寒が走った!

 

マズイ!

これはマズイ!

 

 

「み、皆! に、逃げるぞ!」

 

「えっ? イッセー?」

 

「良いから早く! 巻き込まれる前に早く!」

 

急いで!

お願いだから!

 

俺は全員に注意を促し、ライザーを残して遠くへと走る!

 

 

本能が俺に告げていた!

あそこにいたら死ぬ!

絶対に死ぬ!

 

 

 

 

数秒後・・・・・

 

 

 

 

 

この場にいた全員が知ることになった。

 

『白雷姫』を怒らせるとどうなるか。

 

 

 

白き雷が煌めくのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまえ・・・・・・やり過ぎ・・・・・・」

 

「そ、そう?」

 

 

あれから数分後。

 

俺達が見たのは見る影もないくらいボロボロにされたライザーの姿だった。

 

体から炎が発せられ、傷は回復していってはいるが・・・・・。

顔はパンパンに膨れ上がり、もはや誰なのか分からない。

 

 

ライザー・・・・・。

不死身の体で良かったな。

 

そうじゃなかったら、確実にあの世行きだ。

 

 

「俺達はライザーを立ち直らせるために来たのに、これ以上使い物にならなくしてどーするよ?」

 

俺が言うとアリスは頬をかきながら苦笑する。

皆もどう反応すればいいのか分からず、対応に困っていた。

 

 

はぁ・・・・・・。

 

 

とりあえず、ライザーが気絶してる間に用意も出来たし、こうして外に連れ出すことも出来た。

第一段階は成功ってことでいいだろ。

 

次は・・・・。

 

 

部長が尋ねてくる。

 

「さっき山籠りするって言ってたけど、具体的にどうするつもりなの?」

 

「えーと、ちょっと待ってください。ボチボチ来るとは思うんですけど・・・・・」

 

「?」

 

俺は腕時計を確認してから空を見上げる。

 

もうすぐ待ち合わせの時間なんだけど・・・・・。

さっき連絡したら、もうすぐ着くと言っていたし。

 

と、遠くの空から大きな影が一つ飛来してきた。

 

「あ、来た。おーい!」

 

俺はそれに向かって手を振った。

 

 

そして――――

 

 

ズゥゥゥゥゥゥウンッ!!

 

 

大きな地響きを立てながら、巨大なドラゴンが俺達の前に降り立った。

 

「この間ぶりだな、おまえ達」

 

「おっさん、来てくれてありがとう」

 

そう、そのドラゴンとは元龍王のタンニーンのおっさんだ!

 

俺が礼を告げている横でライザーが叫んだ。

 

「タ、タタタタタタンニーンッ!? 最上級悪魔・・・・で、伝説の・・・・・・ドラゴン!」

 

 

あらら・・・・・。

 

そう言えば、俺だけじゃなくて他のドラゴンもダメなんだっけか?

龍のオーラを持つもの全てにビビるんだった。

 

おっさんがビビるライザーに視線を移す。

 

「ライザー・フェニックスか。将来有望な王として注目していたんだが・・・・・・。その様子だと確かに問題があるようだ。ところで・・・・・なぜ、既にボロボロになっているのだ?」

 

「あははは・・・・・・。まぁ、おっさんが来る前に色々あってね」

 

おっさんには既に事の顛末は話してある。

その話を聞いた時はおっさんも「情けない」と一蹴していたな。

 

「俺だけじゃなくて、ドラゴン関連全てがダメみたいでさ。暫くはドラゴンばっかりの場所で修行をつけてやりたいんだよね。そうすれば、ドラゴンに慣れると思うんだ」

 

「なるほど。それで俺を呼んだわけか」

 

「そうそう。そんでもって、ついでに山で修行でもすれば根性もつくだろ? もう準備もしてあるんだ」

 

「ほう、準備が良いな。分かった。それでは俺の領地に行くとしよう。ドラゴンも多くいるし、山もある。多少暴れても問題あるまい」

 

流石はおっさん。

話が早いぜ。

 

「そういうわけで、部長。俺はライザーを連れておっさんの領地に行ってきます」

 

山で修行。

夏休みの地獄を思い出すな。

 

龍王二人を相手に全力のスパーリング。

 

あの時は死ぬかと思ったね。

 

 

「い、いやだぁぁぁぁあああああっ!!」

 

ライザーが炎の翼を広げて逃げようとする。

 

ま、無駄だけどね。

 

「逃げるな。男なら覚悟を決めろ」

 

「ひぃぃぃいいいい!」

 

おっさんのデカい手に掴まれもがくライザー。

 

事情を知らない人が見たらドラゴンに食われそうになっている人にしか見えないだろうな。

 

 

さて、俺も行きますか。

 

 

「それじゃあ、俺は行ってきます」

 

俺はおっさんの背に飛び乗り、皆に別れを告げる。

 

部長が見上げながら言ってくる。

 

「イッセー。ライザーのことお願いするわね」

 

「任せてください」

 

「何かあったら連絡してちょうだいね」

 

「了解です、部長」

 

暫く皆と触れあえないとなると、寂しくはあるが・・・・・。

まぁ、レイヴェルのためだ。

ここは我慢するさ。

 

 

そんなことを思っているとレイヴェルが一歩前に出た。

 

「私も行きますわ!」

 

「っ!」

 

この申し出には驚いた!

 

マジか!

この山籠りについてきたいと!

 

うーん、どうしよう・・・・・。

女の子を山籠りに連れていくのは気が引ける。

 

 

「私も・・・・・兄を・・・・・兄を立ち直らせたいのです!」

 

 

決意の眼差しで告げてくるレイヴェル。

 

本当にライザーのことが心配なのだろう。

 

「何人増えようが俺は構わないぞ、兵藤一誠」

 

おっさんはそう言ってくれた。

 

俺は頷き、レイヴェルに言う。

 

「分かった。じゃあ、一緒に行くか!」

 

「はい!」

 

レイヴェルは嬉しそうに応じてくれた。

 

話が纏まると、レイヴェルは素早く魔力で衣装をドレスから動きやすい服装へとチェンジさせる。

 

そして、俺と同じくおっさんの背に乗った。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

おっさんは俺達の準備が出来たのを確認すると大きな翼を広げて出発した。

 

 

ライザーが自分の眷属に助けを求めていたが、眷属達は手を振ってエールを送るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

 

おっさんの領地に到着した俺達は早速、山籠りに入った。

 

 

 

「うおおおりゃあああああっ!!」

 

 

 

ドゴォォオオオオオオン!!!

 

 

 

「ギャァァアアアアアアッ!!」

 

 

俺の蹴りを間一髪で避けて転がるライザー。

 

さっきライザーがいたところに巨大なクレーターが咲いた。

 

ぜーはー、と呼吸を荒げながらライザーが叫んだ。

 

「お、俺を殺す気かぁあああああ!」

 

「あんた不死身なんだし大丈夫だろ?」

 

「そういう問題じゃない!」

 

じゃあ、どういう問題だよ?

 

まだ全力は出してないぞ?

今回は初日だから軽めにやってるんだけど・・・・・・。

 

「こんなもん、やってられるか! 俺は帰る!」

 

とライザーは俺に背を向けて走り出した。

 

 

また、往生際が悪いことで。

 

つーか、そんなことしても無駄だって。

 

「逃がしませんぞ、ライザー殿!」

 

逃げるライザーの前に立ちはだかったのは水色の大型ドラゴン。

 

あのドラゴンはおっさんの配下のドラゴンで、高位のドラゴンらしい。

 

「修行に戻るのです!」

 

ブフゥゥゥウウッ!!

 

水色のドラゴンがブレスを吐いて、ライザーを吹き飛ばす。

 

「俺の炎が凍るぅぅうううう!」

 

あ、ほんとだ。

 

炎の翼が凍ってるよ。

 

フェニックスだけあって、ライザーの炎は結構な熱量を持ってる。

それを凍らせるって凄いな、あのドラゴン。

 

 

 

ちなみに今の修行。

基本は俺とライザーのスパーリング。

その周囲には複数のドラゴンが俺達を見守っている(監視とも言う)

ライザーが弱音をあげた時はドラゴン達が励ましてくれるのだ!(襲われているようにしか見えない)

 

 

これだけドラゴンに囲まれていたら、そのうち慣れるだろう。

 

 

水色のドラゴンのブレスで俺の足元まで吹き飛ばされたライザー。

うつ伏せの状態でピクリとも動かない。

 

「お兄様! さっさと起きてください!」

 

水色のドラゴンの上からレイヴェルがライザーに檄を飛ばしていた。

 

うーん、中々に厳しい妹だ。

 

でも、それも兄貴を思ってのことだ。

良い妹じゃないか。

 

「ほら、レイヴェルもああ言ってることだし、早く続きをしようぜ。どうせ、ここにいてもやることは修行だけなんだしさ」

 

俺が声をかけてみると、小さな声でライザーが返してきた。

 

「・・・・・これは・・・・・・いつまで続くんだ?」

 

「そりゃあ、あんたが俺とドラゴンに慣れるまでかな」

 

「・・・・・・・・」

 

 

初日からこれじゃ、先が思いやられるな・・・・・・。

 

はぁ・・・・・・・。

 

 

俺はため息を吐いた後、ライザーに言う。

 

「あんた、レイヴェルに心配かけといて何も思わないのかよ?」

 

「何・・・・?」

 

ライザーはようやく顔を上げる。

 

「俺がこれを引き受けた理由の一つは同じ妹を持つ兄貴として、妹に心配かけるあんたが許せなかったからだ」

 

「俺は・・・・・」

 

「それにだ。アリスが言ってたけど、あんたの眷属に申し訳ないとは思わないのか? ・・・・・・いや、それだけじゃないか。部長もあんたのことを本気で心配してるぜ? このままで良いのかよ?」

 

何も返してこないライザーに俺は言葉を続ける。

 

「立てよ。あんたに上級悪魔としての誇りがまだあるんなら、俺達(・・)に一発ぶちかましてみろよ。それが出来ないなら、あんたは本当にただの焼き鳥だ」

 

 

その時、

 

 

 

ゴォォォオオオオオッ!!

 

 

 

 

ライザーの背から炎の翼が広がった。

先程よりもかなりの熱量だ。

 

ライザーは立ち上がり、俺に吠える。

 

「貴様ァァァアアア!! どこまでも俺を愚弄するか!」

 

 

へぇ・・・・・。

少しはやる気になったか?

 

 

俺はニヤッと笑う。

 

「おう。愚弄してるぜ。今のあんたはフェニックスでも何でもない。ただの焼き鳥だからな。なんなら、塩でもかけてやろうか? それともタレ?」

 

「こ、の・・・・・っ。下級悪魔の分際でぇぇえええ!」

 

ライザーは俺に向かって火球を放ってくる。

それなりの熱量だけど、この程度なら問題ない。

 

俺は手に気を集めて、軽く振り払う。

 

 

ようやく、まともな攻撃をしてきたか。

 

そろそろ本格的に修行に入れる・・・・・か?

 

ま、さっきまで逃げ回っていたから、ほんの少しだけ前進したな。

 

 

「じゃあ、修行を始めるか。おまえが俺達(・・)に食らいつくことが出来るようになれば、この山籠りを終わらせてやるよ!」

 

 

俺がそう叫んだ時だった。

 

 

 

俺の後ろに二つの影が降り立った。

 

それは二体のドラゴンだった。

 

 

「待たせたな」

 

「よう、イッセー。来てやったぞ」

 

「お、来てくれたのか、ティア。サンキューな。おっさんも用は済んだのか?」

 

「ああ」

 

 

俺は二人と軽く話すと再びライザーと向かい合った。

 

 

「さ、これからが修行の本番だ。俺とタンニーンのおっさん、そしてティア。天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)ティアマットって言えば分かるか? 俺達三人(・・・・)であんたの修行をつける。まぁ、頑張れ」

 

そこまで言って、俺は気づいた。

 

ついさっき燃え盛り始めたライザーの炎が小さくなってるような・・・・・・。

というか、白目むいてないかい?

 

「おーい、ライザー?」

 

俺はライザーの目の前で手を振ってみる。

 

すると―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

ライザーの絶叫が山にこだました。

 

 

 



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番外編 焼き鳥復活計画!! 後編

「修行開始から三日。兄はいかがでしょう?」

 

 

俺とレイヴェルは山の岩場に用意されていた椅子に座り、休憩をとっていた。

 

魔法瓶から注がれたお茶を受けとり、飲む。

 

うん、美味い。

ちょうど喉が乾いてたから助かったよ。

 

「まぁ、今のところ順調なんじゃないかな」

 

俺は向こうの方を見ながらそう答えた。

 

 

俺の視線の先では――――――

 

 

 

「休んでいる暇はないぞ、ライザー・フェニックス!」

 

「この程度で根をあげてどうする! まだまだいくぞ!」

 

 

 

ドゴォォオオオオオオン

 

 

 

「ギャァァアアアアアア!!!」

 

 

二人の龍王に追いかけられて、必死に逃げるライザーの姿があった。

 

いやー、巨大なドラゴンに追いかけられるのって、迫力あるよね!

しかも、魔王に匹敵するドラゴンが二体。

 

ライザーが着ていた服は既にボロボロで下半身が辛うじて残っている程度。

 

・・・・・・こうして見てると夏休みの時の自分に見えてくる。

俺の服も初日でああなったっけ?

 

『違いは相棒の場合、あの二人に真正面から殴りかかっていたことくらいか。まぁ、普通はあのフェニックスの小僧の反応の方が正しいがな』

 

おいおい・・・・・。

その言い方だと俺は異常ってことかよ?

 

『さてな』

 

あ、はぐらかしやがった。

 

 

今、俺はこうして休憩してるけど、普段は俺も二人に混ざってライザーを追いかけ回してる。

天龍と龍王による集中特訓って感じだ。

修行時間は基本、飯の時間を除いては朝から夜までずっとだ。

 

修行が終わるとライザーは糸が切れたように倒れこみ、そのまま爆睡する。

そんな日々が続いている。

 

「文句は言いつつもやることはやってるし、攻撃もそれっぽくはなってきてる。このままいけば何とかなるんじゃないかな」

 

「そうですか・・・・・」

 

おっさんのブレスで吹き飛ばされるライザーを心配そうに見るレイヴェル。

 

「やっぱりライザーが心配?」

 

「はい・・・・。イッセー様だけでなく、まさか、タンニーン様と龍王ティアマットまで加わるとは思っていなかったので・・・・・・」

 

あー、なるほどね。

 

端から見てるとやり過ぎと思うのは当然か。

なんせ、龍王二人まで加わってるんだからな。

 

上級悪魔が相手をするには荷が重すぎる。

 

 

俺はレイヴェルを安心させるように落ち着いた口調で言う。

 

「何も心配はいらないさ。俺達も考えなしにやってるわけじゃない。ある程度の手加減はしてるさ」

 

その証拠にライザーは今も生きてるからな。

 

もし俺達が本気でライザーを追いかけ回したら、初日でライザーは死んでる。

今の俺はまた神器が使えなくなっているけど、それは確実だろう。

ドライグやおっさん、ティアも同意見だったりする。

 

だから、俺達はライザーの現在の実力やその時の状況を見て調整をしている。

 

まぁ、ライザーは不死身だからそれなりに厳しくはしてるけどね。

 

 

「とにかく、レイヴェルが思っているようなことにはならないから安心してくれ」

 

「イッセー様がそう言うのであれば、私はそれを信じるしかありませんわ。兄のためにありがとうございます」

 

「いいって。レイヴェルの頼みだしな。ライザーのことは任せとけ」

 

「はい。・・・・・あ、そうでした。ケーキを作ってきましたの」

 

と、レイヴェルは持ってきていたバスケットをテーブルに置いて中身を見せてくる。

中には美味そうなパンケーキが入っていた。

しかも、食べやすいように小さいサイズに分けてある。

 

「レイヴェルがこれを作ったのか? 俺のために?」

 

「兄がお世話になってますし・・・・・。以前、その・・・・約束しましたから・・・・・・」

 

そういえば、パーティーの時にそんなことも言ってたっけな。

本当に作ってくれたんだ。

 

「その・・・・よろしかったら、食べてくれても構わなくてよ?」

 

「うん、じゃあいただくよ」

 

渡されたフォークを受け取って、パンケーキを一つ口に運ぶ。

口に入れた瞬間、口当たりの良い食間と程よい甘みが広がっていく。

 

「い、いかがでしょうか・・・・・?」

 

レイヴェルが恐る恐る聞いてきたので俺は率直な感想を述べた。

 

「美味しいよ。レイヴェルってケーキ作るの上手なんだな」

 

「と、当然ですわ! 私のパンケーキが食べられるなんてイッセー様は幸せ者ですわよ! 感謝しながら味わってくださいな!」

 

「あははは・・・・・」

 

うーむ、たまに反応に困るところがあるよね・・・・・・。

 

良い娘には違いないんだけどさ。

高飛車でお嬢様気質が目立つんだけど、芯の部分は純粋で優しい心の持ち主なんだよな。

 

ま、パンケーキは本当に美味しいから味わって食べるよ。

 

 

あ、そうそう。

一度、レイヴェルに聞いてみたいことがあるんだった。

 

「レイヴェルってさ、人間界の学校で言うと何年生になるんだ?」

 

「私ですか? そうですね、日本のハイスクールで言うところの一年生ですわ」

 

「マジか、後輩じゃん」

 

へぇ、高一なのか。

 

ということは小猫ちゃんとギャスパーと同じ学年ってことになるんだな。

 

 

・・・・・・それにしては発育が良い。

二年のアーシアよりも成長しているように見える。

 

いや、アーシアはまだまだこれから伸びる可能性がある!

俺と出会った時と比べると明らかに成長してるもんな!

これからが楽しみだぜ!

 

 

 

 

アリスには・・・・・・・このことは黙っておこう。

 

多分、泣く。

 

 

 

 

「今度、駒王学園の制服を着てみたいですわ」

 

「おー、着てみなよ。絶対に似合うって」

 

「もちろんですわ! 必ずや着こなしてみます!」

 

レイヴェルが胸を張って言う。

 

 

いかん、つい胸に目がいってしまった。

 

さっきの話の後だし、しょうがないよね!

多目にみてくれ!

 

「・・・・こ、今度、またお宅にお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「いいぜ。いつでも来てくれよ。歓迎するからさ」

 

「あ、ありがとうございますわ! それでは、またうかがいますわ!」

 

おおっ。

なんか、スゲー喜んでるな。

 

それにしても笑顔が可愛い。

いつもの癖でついつい頭を撫でそうになる。

 

「そういえば、今夜リアス様たちがこの山に来るそうですわ」

 

「部長達が?」

 

「なんでも、この近くに良い温泉があるそうなのです」

 

「温泉!?」

 

 

マジか!

そんな話は聞いてなかったぞ!?

 

今夜・・・・・・。

今から覗きのポイントを探すには・・・・・・。

 

ダメだ!

修行があるから時間が取れない!

 

こうなったら、その場の判断で動くしかないのか!

 

 

 

 

ドォォォオオオオオオオオン!!!!

 

 

 

 

「ひぇええええええええ!!」

 

 

巨大な地響きとライザーの悲鳴。

 

その方向を見れば、先程まであったはずの山が消えていた・・・・・・。

 

「あ、あの、イッセー様・・・・・・。本当に大丈夫なんですよね・・・・・・?」

 

レイヴェルが顔をひきつらせながら訊いてくる。

 

 

う、うーん・・・・・・。

 

 

「ま、まぁ、死ぬようなことはない・・・・・・・かな?」

 

 

 

ドゴオォォォォォオオオオオオオオン!!!!

 

 

 

ライザーが空を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう少し手加減してやれよ・・・・・」

 

 

俺の足元に転がるのは全身からプスプスと煙をあげているライザー。

黒こげで完全に白目を向いている。

 

 

ライザーをこんな風にしたティアは特に悪びれた様子もなく・・・・・・。

 

「いやー、スマンスマン。普段はイッセーが相手だからな。加減をミスった」

 

「おい・・・・・」

 

さっき、レイヴェルに心配はいらないって言ってしまったんだぞ?

 

おっさんの方は普段から若いドラゴンを鍛えたりすることも多いらしく、その辺りの加減は上手いんだけど・・・・・。

 

ティアを呼んだのはミスったか?

今のライザーを見てるとそう思えてきた。

 

「ん? どうした、イッセー?」

 

「色々難しいなって思っただけだよ」

 

「? なんのことかは分からんが、この鳥はどうする?」

 

と、ティアは黒こげのライザーを指差す。

 

「とりあえず・・・・・・運ぶか」

 

「よし、ならば私が運んでやろう」

 

そう言うとティアはドラゴンの姿のまま、ライザーの足を掴んで持ち上げる。

 

片足を捕まれた状態で宙ぶらりんになるライザー。

 

 

 

・・・・・・・なんか出荷前の鳥に見えてきた。

 

 

 

流石に扱いが雑すぎるだろ・・・・・・。

せめて両足を持ってやれよ。

 

『大差無くないか?』

 

・・・・・・・・。

 

俺はドライグの言葉を無視して、俺とライザーが寝床にしている洞窟まで移動することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後。

 

 

俺は気絶したライザーを放置して温泉がある場所へと向かっていた!

 

やっぱり温泉と言えば覗きだろう!

 

レイヴェルから知らされた時から俺の頭の中はこのことで一杯だった!

 

 

え?

気絶したライザーの看護?

 

誰がするかよ、そんなもん!

気絶してることを良いことに簀巻きにしてやったわ!

 

間違ってもライザーがこっちに来れないようにしっかり縛っといたぜ!

 

『鬼か』

 

皆の裸を見ても良いのは俺だけだ!

もしも他人が見ようとするならば、俺は鬼にもなる!

 

 

さて、地元のドラゴンに貰った地図だともうそろそろ着くころなんだけど・・・・・。

 

現在地はこの辺か。

 

 

俺が地図を見ながら空を飛んでいると、こちらに近づいてくる気配に気づいた。

 

なんだ、このスピードは・・・・・・。

かなり速いぞ。

 

 

それにこの気は・・・・・・まさか・・・・・・!

 

 

 

 

「赤龍帝ぇぇえええええ!! 貴様、一人で覗くつもりかぁぁあああああ!!」

 

 

炎の翼を広げて蒙スピードで突っ込んでくるライザー!

 

 

俺はそれを見て目が飛び出るほど驚いた!

 

 

ウソッ!?

 

しっかり縛っといたはずだぞ!?

態々、燃えにくいロープを使っていたのに!?

 

あれを振り切って来たのかよ!?

 

 

ライザーは俺の前で急ブレーキをかけながら停止する。

そして、俺に指を突き付けて叫んだ!

 

「貴様だけに良い思いはさせん! 俺も覗くぞ!」

 

「おまえ、俺とレイヴェルの会話を聞いてやがったな!? そんな余裕があるなら、修行に集中しろよ!」

 

「黙れ! 俺は・・・・・・俺は・・・・・・・リアスの乳が見たいんだぁぁあああああ!!!」

 

「はぁ!?」

 

「何のためにこんな山籠りを耐えていたと思う! 俺はなこの日を来るのを待ってたんだ! その為だけに耐えてきた!」

 

こ、この野郎・・・・・この近くに温泉があることを知ってやがったな。

 

 

修行していれば、いつかは部長達が様子を見に来る。

そうすれば、その様子見ついでに部長達は温泉に入るだろう。

 

それをこいつは予想してやがったのか!

 

「おまえな! ちったぁ真剣に修行に取り組めよ!」

 

「俺は大真面目だ! だからこそ、この日が来るのを待っていた! 俺は何がなんでも覗くぞ! この場で貴様を倒してな!」

 

 

ゴォォオオオオオオッ!!!

 

 

ライザーの炎がかつてないくらいに膨れ上がる。

 

前のレーティングゲームの時よりも、今回の修行の時のどれよりも強く熱い炎。

 

 

「なんだよ! おまえもしっかり根性持ってるじゃねぇか! スケベ根性をな!」

 

俺の時間を返せ!

 

「うるさい! いくぞ、赤龍帝ぇぇええええ!!」

 

ライザーは莫大な炎を振り撒きながら、突っ込んでくる!

 

なんで、修行の時よりも速いんだよ!?

 

 

ライザーの拳に炎が集まり、それが俺めがけて飛んでくる!

 

「こなくそ!」

 

 

バキッィ!!

 

 

俺は拳を避け、ライザーの顔面に強烈なカウンターを放った!

 

以前のライザーなら、この一撃で吹っ飛んでたはずだ。

 

 

だが・・・・・。

 

 

 

ググッ

 

 

ライザーは俺の拳が顔にめり込んだ状態でその場に踏ん張り、この一撃を耐えた!

 

そして、反撃に出てきた!

 

「うおおおおおおおおっ!!!」

 

凄まじい炎がライザーの体から巻き起こり、次々に火球を放ってきやがった!

しかも、一発一発がでかい!

 

「ちぃっ!」

 

俺は一旦後ろに飛び退いてその炎をかわす。

 

ライザーを見ると鼻血を出してはいるが、目はギラギラしている。

 

この野郎・・・・・

 

 

そこまでして部長の裸が見たいのか!

 

 

いや、俺がライザーの立場だったら同じことをする!

 

 

俺は体勢を整えて息を大きく吸い込む。

 

「こうなったら認めてやるぜ、ライザー! おまえは俺に負けないくらいのスケベだ! ドスケベだよ、おまえは!」

 

俺の体を赤いオーラが包み込む。

その激しさに空気が震え始めた。

 

こいつが本気なら、俺もそれに応えよう!

男にはやらなければいけない時があるんだ!

 

「究極! 無敵! 地上最強と称えられた我がドラゴンの力! その身で受け消え失せろッ!!」

 

「そんなもので俺の夢が打ち砕けるかッ!!」

 

という以前のレーティングゲームとは全く逆の台詞を吐きながら俺とライザーは衝突する。

 

 

『なんとも言えん光景だ』

 

 

ドライグが何やら言っているが、そんなのは無視!

 

俺は今持てる全力で皆の裸を死守する!

こいつをこの先へは行かせはしない!

 

皆の裸を覗くのはこの俺だぁぁぁぁあああああ!!!!

 

 

ゴォォオオオオオオ!!

ドォォォオオオオオオオオン!!!

ドゴォォオオオオオオオオオン!!!

 

 

フェニックスの業火とドラゴンの赤いオーラが上空で暴れまわる!

何度も衝突を繰り返し、互いの体を殴り付けていく!

 

 

俺達が衝突を始めてから十分ほど。

 

俺は特にダメージを受けた訳ではないが、驚きを隠せないでいた。

 

ライザーは何度も俺に殴られているにも関わらず、倒れなかったからだ。

 

フェニックスを倒す方法の一つに精神を断つことが上げられる。

前回ならば、それも可能だった。

ただ、皆のことがあったから、最高の一撃で一気に終わらせにかかった。

 

だけど、今のライザーは全く倒れそうにない。

体は既にボロボロ。

それでも、何度も再生を続け、その度に身に纏う炎は強くなっていく!

 

 

なんて執念だ!

こいつのスケベ根性には驚かせられる!

 

「ぜーはー・・・・・・・俺は・・・・覗く! 覗いてみせる!」

 

肩を上下に動かしながら、そんなことまで言ってくる。

 

 

チラッと後ろを見てみると暗い山の中に明かりが見えた。

いつの間にか温泉にまで近づきすぎてしまったようだ。

 

 

これ以上近づくと皆も驚いて温泉から抜け出してしまいそうだ。

 

そろそろ決めるか。

 

 

「まさか、ここまで手こずることになるとは思わなかったぜ。だけどな、あんたはここで終わりだ!」

 

俺は懐に手を突っ込み、ある物をライザーに放り投げる!

 

 

「それはっ!?」

 

宙を舞うそれを見てライザーは目を見開いた。

 

俺が投げたもの。

 

それは俺が持ち込んでいたエロ本だ!

しかも俺が特選した、超エロエロな一品!

こいつに反応しない男などいない!

 

 

スケベ心だけで動いているライザーには効果は抜群だ!

 

 

案の定、ライザーの動きが止まった!

そこを俺は見逃さない!

 

 

直ぐに領域に突入!

 

「星になりやがれぇええええええ!!!」

 

「ぐぼあああああああっ!!!!!」

 

 

ドコンッ!!

 

 

俺は咆哮と共にライザーに蹴りを入れ、空の彼方へと吹き飛ばす!

 

空にキラーンと星が輝くのが見えた。

 

 

俺は領域を解いて、息を吐く。

 

 

ふぅ・・・・・

 

 

いやはや、不死身のスケベってのは怖いね。

全く折れないんだもん。

 

 

 

フッフッフッ・・・・・・。

 

さてさてさーて。

 

これで邪魔者はいなくなった!

 

エロ本を回収し、いざ温泉へ!

 

 

俺は気配を消して温泉へと向かう。

そこは露天風呂で、外からは容易に中が見える場所だった。

 

 

おおっ!!

 

全裸の部長に朱乃さんだ!

他の皆も温泉でゆっくりしている!

 

最高の光景じゃないか!

 

やっぱりライザーをぶっ飛ばしといて良かった!

この眺めは独り占めしたいよね!

 

 

ん?

 

あそこは・・・・・・。

 

 

俺は温泉の今いる地点よりも少し進んだところに小さな岩場を発見した。

 

あそこに行けばもう少し近くで見れそうだな。

 

 

そろりそろりと、歩みを進めてそこへ移動。

 

 

すると――――――

 

 

「「あっ・・・・・・」」

 

 

なんと、その岩場の裏には美羽がいた。

 

しまった!

皆の裸に夢中で気づかなかった!

完全に目が合っちゃったよ!

 

「お兄ちゃん?」

 

その声に釣られて他の皆が集まってくる!

 

「イッセーじゃない。どうしてここに?」

 

「あらあら、イッセー君?」

 

「イッセーさんもいらっしゃったのですか?」

 

「流石はイッセーだ。私達を覗きにきたか」

 

 

おおおおおおっ!!!!

 

皆の生乳が!

生乳のオンパレードじゃないか!!!

 

皆の裸に感動する俺!

 

「イッセー様!?」

 

レイヴェルの声!?

 

そちらを見ると全裸のレイヴェルが!

 

 

・・・・・・やはり、中々のおっぱいの持ち主で。

 

鼻血を流しながら、揺れるおっぱいをガン見する俺。

 

 

「イッセー・・・・・・あんたって・・・・・あんたって・・・・・・!」

 

 

うおっ!?

 

レイヴェルの横では顔を真っ赤にしたアリスがいた!

なんか、手元に雷を纏わせてる!?

 

レイヴェルもその背に炎の翼を展開した!

 

 

こ、これは・・・・・・・・・・死んだな・・・・・・・。

 

 

 

 

「ドスケベェェェエエエエエエエエエ!!!」

 

「イッセー様のエッチィィイイイイイ!!!!」

 

 

ガガガガガガガガガッ!!!!

 

ゴオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 

「ギャアアアアアアア!!!!」

 

二人から強烈な一撃を食らい、俺は黒こげになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。

 

 

ライザーは俺とドラゴンに対する恐怖症をなんとか克服した。

 

 

俺との再戦で少し自信を回復できたらしい。

 

 

 

うーむ・・・・・・。

 

やはり、エロこそ力、エロこそ正義と言うことだろうか・・・・・・。

 

 

 

 

 




次回から修学旅行に入ろうと思います。


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第九章 修学旅行はパンデモニウム
1話 修学旅行直前です!


ある日の夜。

 

 

「ね、ねぇ・・・・・今日、一緒に寝て良い・・・・・?」

 

 

 

一日の予定を済ませ、後は寝るだけ。

ただ、寝るには少し早いのでヘッドの上で漫画を読みながら一人ゴロゴロしていた時だった。

 

枕を持ったパジャマ姿のアリスが部屋に入ってきた。

そして、開口一番にそう言ってきたのだった。

 

 

「え? あ、いや、別にいいけどさ・・・・・。どうしたんだ?」

 

 

アスト・アーデから帰還してから一週間ほど。

こちらの世界に来たアリスは自分の部屋で寝ていた。

 

それが、いきなり一緒に寝ると言ってきたので俺は少し驚いていた。

 

 

アリスは胸に抱き抱えた枕に顔を埋めながら小さな声で言う。

 

「・・・・だって・・・・今度、どっか行くんでしょ? また離れることになるかと思ったら・・・・・・」

 

「いや、大袈裟だろ・・・・・・。たかだか、四日ほど別れるだけだよ。しかも京都だから近いし」

 

俺はアリスに苦笑しながらそう返す。

 

そう。

俺達、駒王学園の二年生は京都に三泊四日の修学旅行旅行に行く。

 

既に俺は準備を済ませていて、後は行くだけ。

まぁ、何かすることがあるとすれば、お土産とか名所を見ておくくらいだ。

 

向こうでは基本的にグループ行動だから、どこを回るかは桐生達と相談することになるけどね。

 

 

何にしても、アリスが言うほど大層なものじゃない。

異世界に行くとか言うなら分かるけど、俺達が行くのは京都だ。

交通機関を使えば数時間、魔法陣を使って転移すれば一瞬の距離。

 

「何かあれば直ぐに連絡できるし、思ってるようなことにはならないよ」

 

俺がそう言うとアリスは枕から少し顔をあげて、

 

 

「・・・・・・ダメ?」

 

 

はうっ!

 

 

そんな目元を潤ませながら言わないでくれ!

つーか、アリスってそんなキャラだったか!?

 

クソッ!

メチャクチャ可愛いじゃねぇか!

 

 

 

「わ、分かったよ。じゃあ、寝るか?」

 

「・・・・・うん」

 

 

というわけで、アリスもベッドの上へ。

 

少し恥ずかしそうにしながらも、どこか嬉しそうにしているのは気のせいだろうか?

 

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

 

う、うーん・・・・・・・。

例の風呂の時みたいになってる・・・・・・。

 

会話がない。

 

 

すると、アリスが寝返りを打って俺の方に体を向ける。

 

「ねぇ、イッセーってさ・・・・・」

 

「ん?」

 

「いつも、皆と寝てるわよね・・・・・?」

 

「ま、まぁ、そうだな・・・・・」

 

一昨日なんか、部長達が裸で俺に抱きついて寝ていたんだけど・・・・・・。

そこをアリスに目撃されて、とんでもないことになった。

 

「わ、私も・・・・・」

 

そう呟くとアリスは俺に体を寄せてピッタリとくっついてきた。

 

「たまには・・・・・いいでしょ?」

 

んんんんん!?

なんだこの状況!?

 

俺が状況を呑み込めずに混乱しているとアリスは上目使いで言った。

 

「それとも、やっぱり胸の大きい娘の方が・・・・・いい?」

 

「いや、そんなことはないって!」

 

 

ヤバイ・・・・・。

 

なんか、スゲードキドキしてきた!

心臓の鼓動が早くなっていくのが分かる!

 

さっきも言ったけど、アリスってこんなことするキャラだったか!?

 

アリスが俺に好意を持ってくれているのは分かってる。

それでも、いつもは俺がエロいことをすると容赦なくツッコミ入れてくるポジションだったはずだ!

 

それが今!

 

 

俺とアリスの距離は急接近していた!

 

 

次第にアリスの顔が近づいてきて―――――

 

「イッセー、私ね・・・・・・」

 

アリスが何かを言いかけた時だった。

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「お兄ちゃん、もう寝たの? 今日は早いんだね。・・・・・・・・えっ?」

 

 

 

美羽が部屋に入ってきたぁぁぁぁあああああ!!!!

 

このタイミングで!?

 

ヤベーよ!

 

男女が体を密着させて向かいあってるんだぜ!?

言い訳できねぇ!

 

 

「あら? どうしたの美羽? ・・・・・・・!?」

 

部長も来ちゃったよ!

しかも、この状況を見て固まっちゃったよ!

 

それにつられて他のメンバーも入ってくる!

 

「あらあら、これは・・・・・・」

 

「はぅぅっ! 出遅れましたぁ!」

 

「・・・・・一瞬の隙が命取り」

 

朱乃さん、アーシア、小猫ちゃんだ!

 

皆もこの光景に絶句してる!?

 

つーか、命取りってどういうことだよ!?

 

 

肩をプルプルと震わせる美羽。

 

俺は恐る恐る声をかけてみた。

 

「み、美羽・・・・・・?」

 

 

すると――――――

 

 

 

 

「アリスさんだけズルいよっ! ボクもお兄ちゃんにくっつく!」

 

 

 

 

 

この日、俺は女子の皆に密着されて眠ることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「将来的にはグレモリー領に北欧魔術の学舎を設立や、悪魔の女性から戦乙女を輩出したり、新しい事業に挑戦してみたいと思っています」

 

ロスヴァイセさんが自身が思い描くビジョンを語る。

 

「天使の私が上級悪魔のお屋敷にお邪魔できるなんて光栄の限りです! これも主と魔王様のおかげですね!」

 

楽しそうにするイリナ。

 

「今回はお招き頂きありがとうございます。私もリアスさんのご実家を訪れることができる日が来るなんて思ってもいませんでした」

 

レイナは丁寧に挨拶をしている。

 

 

俺達、グレモリー眷属+レイナ+イリナは部長のご両親とお茶会を開いていた。

 

 

美羽とアリスはと言うと、今日は父さん、母さんの四人でまた町歩きをしている。

アリスはこっちに来てから日が浅すぎるからな。

まずはこの世界に慣れようというのが目標だ。

 

駒王学園への入学も考えてはいるそうだけど、それはもう少し先のことになりそうだ。

 

大学部に入るのかな?

 

 

それで俺達がなぜ、ここに来ているかと言うと、部長の眷属が揃ったので、記念として改めて紹介することになったんだ。

 

本当ならもう少し早くしたかったところだったけど、ロキとの戦いの後に俺が入院したり、異世界に行ったりしてドタバタしてたからな。

異世界から帰還した後も、サーゼクスさんに報告したりもしてたし・・・・・・。

 

ま、ジオティクスさんもヴェネラナさんも紹介が遅れたことについては全く気にしてないみたいだけどね。

少なくとも俺が入院していたことに関しては知ってるみたいだし。

 

「ハハハ。ロスヴァイセさんは事業に関心をお持ちのようで、グレモリーの当主としては期待が膨らむばかりだ」

 

ジオティクスさんは朗らかに笑っていた。

相変わらずダンディでカッコいいお父さんだな。

 

お茶を口にしていたヴェネラナさんがカップを置くと話題を切り替える。

 

「そういえば、一誠さん達二年生の皆さんは修学旅行間近でしたわね」

 

「はい。京都に行ってきます」

 

「そういえば、リアスがお土産で買ってきてくれた京野菜のお漬け物がとても美味しかったわね」

 

あー、前回来たときに父さんに持たされたお土産の漬け物を渡したら喜んでたっけ?

 

部長も好んで食べてるし・・・・・・。

どうやら、グレモリー家の人は漬け物好きなようだ。

 

イメージが合わないけどね。

 

「それじゃあ、俺が買ってきますよ」

 

「あら・・・・・そういうつもりで言ったのではなかったのだけれど・・・・・・。ごめんなさいね、気を遣わなくてもよろしいのよ?」

 

と、ヴェネラナさんは口元を手で隠しながら頬を赤く染めていた。

 

うん、可愛い!

やっぱり、どう見ても部長のお姉さんにしか見えないよ!

 

「いえ、俺もお土産を選んだりするの好きなんで。あ、何かリクエストはありますか?」

 

「そうねぇ・・・・・」

 

 

その後も他愛のない話は続いていき、お茶会は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お茶会を終えた俺達はそのまま帰ろうとはせず、グレモリーが所有している一つの城に寄っていた。

 

どうやら、サーゼクスさんが魔王領から戻っているらしく、帰り際にあいさつをしておこうということになったんだ。

 

「僕も行きます!」

 

ミリキャスも父親に会いたいということで俺達と同伴することに。

 

 

そんでもって、サーゼクスさんが戻った時に使うという移住区に来た。

すると、通路でサーゼクスさんと黒髪のお客さんらしき人と鉢合わせする。

 

「お邪魔している。元気そうだな、リアス、赤龍帝」

 

その黒髪のお客さんとは貴族服を着たサイラオーグさんだった。

 

前回会った時もそうだったけど、全身から覇気が滲み出てるよな。

紫色の瞳もギラギラした闘志に満ちている。

 

俺を見た瞬間、どこか挑戦的な笑みを浮かべていたんだけど・・・・・・。

多分、俺と戦える日が来るのが待ち遠しいんだろうな・・・・・。

 

「ええ、サイラオーグこそ元気そうで何よりだわ。お兄様、ごきげんよう。こちらにお帰りになられていると伺ったものですから、ご挨拶だけでもと思いまして」

 

「気を遣わせてしまってすまないね。ありがとう、リアス。それから眷属の諸君も」

 

サーゼクスさんがミリキャスを抱き抱えながら微笑む。

 

 

こうして見てると魔王には見えないね。

シリウスと再会したから余計にそう感じてしまう・・・・・。

 

 

「お兄様、サイラオーグがここに来ていたのは?」

 

「うむ。バアル領の特産品を持ってきてくれたのだよ。従兄弟に気を遣わせてしまって悪いと思っていたところなのだ」

 

そっか。

 

サーゼクスさんから見てもサイラオーグさんは母方の従兄弟だもんな。

 

魔王の親戚で次期大王か。

サイラオーグさんの立ち位置もすごいもんだ。

 

「それから、今度のゲームについてもいくつか話してね。フィールドを用いたルールはともかく、バトルに関しては複雑なルールは一切除外してほしいとのことだ。そして――――――彼はイッセー君との戦いを望んでいる」

 

「「「っ!」」」

 

サーゼクスさんの言葉を聞いて、俺を除いた全員が驚いていた。

 

俺は・・・・・・まぁ、なんとなく予想はしてたかな。

 

「サイラオーグ、本気なの? イッセーは―――――」

 

「ああ、分かっている。今の俺では勝てまい。だが、兵藤一誠の実力がいかに抜きん出ているからと言って逃げるわけにはいかん。・・・・・・いや、違うな。俺は兵藤一誠と拳を交えたいのだ。俺の魂がそれを望んでいる」

 

 

すごい気迫と覚悟が伝わってくる。

 

サイラオーグさんの眼力高い視線が部長を捉え、そして俺に移る。

 

・・・・・・凄まじい威圧だ。

 

悪意も邪念も一切感じない。

 

あるのは純粋な戦意。

 

 

「こ、怖いですぅうううっ」

 

・・・・・なんで、俺の後ろでガクガクしてるんだよ、ギャスパー?

 

 

俺とサイラオーグさんの視線がぶつかり合っていると、サーゼクスさんが提案する。

 

「ちょうどいい機会だ。軽く拳を交えてみるといい」

 

その提案にサイラオーグさんは目を丸くしていた。

 

「よろしいのですか?」

 

「サイラオーグも今の自分の力がどこまで通じるのか知りたいのではないか?」

 

「ええ」

 

「だったら、やってみるといい。まぁ、イッセー君が了承すればの話だが・・・・・」

 

皆の視線が俺に集まる。

 

今からですか・・・・・・。

 

 

まさか、サーゼクスさんがそんな提案をしてくるとは思ってなかったよ。

 

ま、俺としては断る理由も無い。

 

「分かりました。あ、だけど、今は神器が使えない状態なんで・・・・・それで良ければ」

 

「そうなのか?」

 

「ええ、ちょっと色々あって不調なんですよ」

 

俺がそう答えるとサイラオーグさんは少し残念そうな顔をする。

 

だけど、すぐに笑みを浮かべて―――――

 

 

「それでも構わない。おまえの拳を存分に見せてくれ」

 

 

 

 

 

 

グレモリー城の地下には駒王学園のグラウンドがすっぽり入りそうなくらいの広さを持つトレーニングルームがある。

 

俺達はそこへ移動していた。

 

眼前でサイラオーグさんは貴族服を脱ぎ、グレーのアンダーウェア姿になる。

 

現れるのは鍛え抜かれた見事な肉体。

相当な修行をつんできたことがよく分かる。

 

「軽い手合わせとは言え礼を言うぞ、兵藤一誠。俺はこの時をずっと待っていた」

 

「良いさ。約束もしてるし・・・・・・・俺もサイラオーグさんとは戦ってみたいとは思ってたからね」

 

俺達は互いに笑みを浮かべる。

 

サイラオーグさんの体からは分厚いオーラが放たれていて、既に戦闘態勢に入っていた。

 

本当に部長と同世代かよ?

 

 

オーフィスの蛇を使ったディオドラをも遥かに凌いでるな。

ま、あんな奴と比べるのはサイラオーグさんに対して失礼か。

 

 

 

周囲の空気に緊張が走る。

 

 

 

「それでは―――――いかせてもらうぞ!」

 

 

その瞬間、サイラオーグさんは飛び出した。

 

 

速い!

 

 

サイラオーグさんから放たれるのは真っ直ぐで、分かりやすい一撃。

だけど、その拳に込められた想いは半端じゃない!

 

まともに食らえばダメージは受ける。

 

だったら―――――

 

 

「おらぁぁあああ!!!!」

 

 

拳に気を集中させ、サイラオーグさんの拳めがけて放つ!

 

 

「っ!」

 

 

 

バキィッ!!!

 

 

 

拳と拳がぶつかり合い、その衝撃で地面に亀裂が入る!

 

そして、俺達は弾かれたように後ろに飛び退いた。

 

 

すげぇな。

 

スピードもパワーも想像以上だ。

 

ヤンキーとの戦いの時よりも明らかに数段パワーアップしてる!

 

これが若手最強の拳!

 

 

「凄いですね。一人でそこまで鍛えたんですか?」

 

「ああ。俺には魔力の才能など皆無でな。あったのはこの体のみ。だから、俺はひたすらに身体を鍛えた」

 

 

やっぱり、俺達はどこか似てるな。

 

辿ってきた道のりは同じってわけだ。

 

 

――――まるで自分と戦ってるみたいだ。

 

 

「今度はこっちからいくぜ!」

 

 

俺は高揚を覚えながら地面を蹴って駆け出す!

 

気を高速で循環させて、身体能力を一気に高めてサイラオーグさんに拳を振るう。

 

 

ドンッ!

 

 

サイラオーグさんは顔の前で腕をクロスして俺の拳を防ぐが、耐えきれず、かなり後ろの方へと吹き飛ばされた!

 

 

ザザザッと地面を滑りながら、こちらを見るサイラオーグさんの顔は―――――笑っていた。

 

獰猛に、だけど、心の底から嬉しそうに笑みを浮かべている。

 

 

「これほどとは・・・・・・! 久しぶりに満足のいく戦いが出来そうだ!」

 

 

サイラオーグさんのオーラが一段上がる。

 

そして、先程よりも速いスピードで俺に迫ってきた!

動いた衝撃で、サイラオーグさんがいたところが大きく抉れる。

 

挑んでくるのは悪魔特有の魔力合戦でもなければ魔法でもない。

純粋な格闘術!

 

真正面から飛んでくる拳と蹴り!

 

小細工抜きの肉弾戦か!

 

「いいぜ、受けてやるよ!」

 

俺も後ろに下がることはせず、ただ前に出る!

 

互いの拳や蹴りを捌き、相手の顔、ボディ、足へと自身の攻撃を放っていく!

 

拳が衝突する度に地面に亀裂が入り、深く抉れていった!

 

 

「ぬんっ!!」

 

 

繰り出される拳!

 

 

ブゥゥゥゥンッ

 

 

風を切る音!

すげぇ拳圧だ!

 

俺は最小限の動きでそれをかわし、腕を掴む。

 

 

「だぁあああああ!!!!」

 

 

そのまま背負い投げの要領で投げ飛ばす!

サイラオーグさんはトレーニングルームの壁に叩きつけられる!

 

 

「ガハッ・・・・・・!」

 

 

サイラオーグさんが吐血するだけのダメージは与えた。

 

すると、俺の額から何か流れてくる。

拭ってみるとそれは血だった。

 

かわしたはずなのにこれか・・・・・・。

 

『本気ではないとはいえ、相棒に肉弾戦でここまで食らいつく悪魔もそうはいまい』

 

ドライグも感心してる。

 

確かにその通りだ。

しかも、この人は部長と同じでまだデビュー前だというから驚きだ。

 

分かっていたけど、半端な鍛え方じゃない。

 

 

濃密なオーラを纏ったサイラオーグさんが叫ぶ!

 

「まだ俺は終わらんぞ、兵藤一誠!」

 

「よっしゃあ! 俺もギアを上げていくぜ!」

 

再び交わる拳と拳。

俺は更に気を高めてパワーの底上げをする。

 

 

俺ってヴァーリみたいに戦闘狂ってわけでもないんだけど、この戦いにはなぜかテンションが上がっていた。

 

軽い手合わせってことだったから、それなりにセーブしている。

だけど、それもそろそろ止めても良いだろう感じてしまっている。

 

サイラオーグさんだって、この戦いを楽しんでいるようだ。

俺の本気を引き出そうと、どんどんパワーを上げてきている。

 

 

 

だったら、その想いに応えよう。

 

俺は一気に本気を―――――領域に突入しようとする。

 

 

 

その時。

 

 

 

「二人ともそこまでだ」

 

 

 

「「っ!」」

 

 

 

サーゼクスさんが間に入って俺達の拳を受け止めていた。

 

 

ブォォオオオオオオオ

 

 

二つの衝突によって風が吹き荒れる。

 

 

「サーゼクスさん・・・・・?」

 

「イッセー君、サイラオーグ。君達の気持ちは分かるが今日はここまでにしてもらおう。ここまで来てしまうと流石に止めないわけにはいかない」

 

言われて見てみると離れたところにいる部長達のところまで地面に大きな亀裂が入っていた。

俺達の拳圧にこの部屋が耐えきれなかったのか。

 

「す、すいません・・・・・・」

 

やっちまった・・・・・・。

 

見ればサイラオーグさんも苦笑している。

 

申し訳なさそうにする俺達にサーゼクスさんは微笑みながら言う。

 

「いやいや、責めているわけではないのだよ。ただ、ここで君達の本気を見てしまうのは勿体ないと思ったのでね」

 

「それでは、今度のレーティングゲームに兵藤一誠は参加出来るのですか?」

 

「上層部が納得するかは分からないが、私から言っておこう」

 

 

マジか!

ついに俺も公式のレーティングゲームに参加出来るのか!

 

まだ分からないけどサーゼクスさんなら何とかしてくれるはず(多分!)

 

 

サイラオーグさんは脱いだ上着を拾い、肩にかける。

 

「それでは俺はこれで失礼します。兵藤一誠、また拳を交えよう」

 

「もちろんです」

 

サイラオーグさんは俺と握手を交わした後、この場を去っていった。

 

 

その後ろ姿を見ながらサーゼクスさんが尋ねてきた。

 

「彼の拳はどうだったかな?」

 

「俺とあそこまで殴り合える人はそういないんで、正直、驚いてます。しかも、手足に枷をつけた状態ですよね?」

 

やり合っている時、サイラオーグさんの手首と足首には魔法陣みたいな紋様が見えた。

 

多分、あれは自身を縛るための枷だろう。

 

「その通りだ。彼はまだ若手だが、上級悪魔の中であの拳を受け止めることが出来る者は殆どいないだろう」

 

 

サイラオーグ・バアル。

 

滅びの魔力を持たずに生まれてきた悪魔。

武器は己の拳。

 

あの人とは今度こそ本気で殴り合ってみたい。

 

 

 

 

 

 

それから数日後、駒王学園にて。

 

「それじゃあ、予定はこんな感じで良いわね?」

 

桐生がメモを見せながら確認を取ってきた。

 

俺は修学旅行に行くメンバーと当日の打ち合わせをしていた。

ちなみに班長は桐生。

 

「名所は回れるし、お土産を買える時間も取れるから良いんじゃないか?」

 

「後は、その日の人の流れとか見て臨機応変に対応すればいいと思うわ。この時期は修学旅行生が多いから、混んでるかもしれないし」

 

桐生の意見に皆は頷く。

 

 

そういえば、去年ははじめての京都に部長がはしゃぎすぎて予定していたところの全てを回ることが出来なかったと朱乃さんが言っていたな。

 

俺達の班にも初めてメンバーはいる。

特にゼノヴィアは金閣寺に興味津々らしく、かなり楽しみのようだ。

 

ま、余裕のある予定を組んでるし、朱乃さんが言っていたようなことにはならないだろう。

 

 

「とりあえず予定は決まりね。準備が出来ていない人はしっかりしておくよーに」

 

『はーい』

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

チャイムが鳴った。

 

俺は席に戻って次の授業の準備をする。

次は日本史だな。

 

 

ガラララッ

 

 

 

「テメーら、席つけー」

 

 

入ってきたのは担任の坂田先生。

 

あれ?

先生って国語担当だろ?

 

日本史は?

 

クラスの皆が訝しげに思っていると先生は頭をボリボリとかきながら言った。

 

 

「時間割りでは日本史の授業だったが、服部先生の痔が悪化したので国語に変更になった。つーわけで、早速授業始めっぞー」

 

気だるげに言う先生。

 

 

 

「それじゃあ、花の慶次十巻を開け」

 

 

 

 

先生、持ってません。

 

 

 

 



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2話 行ってきます!

修学旅行当日。

 

場所は東京駅の新幹線のホーム。

ホームの隅の人目につかない場所に集まっていた。

 

居残り組では部長が見送りに来てくれていた。

父さんや母さん、他の居残り組とは既に行ってきますの挨拶はしてある。

朱乃さんや小猫ちゃん、ギャスパーも来たがっていたけど授業もあるしね。

 

アリスは家でこの世界のお勉強だ。

・・・・・・・今のアリスに新幹線の駅はまだ早い。

 

 

「はい、これ人数分の認証よ」

 

 

部長が旅に出る俺達にカードらしきものを渡してくれた。

カードの表にはグレモリーの紋様が描かれている。

 

「これが噂の?」

 

木場が訊くと部長は頷く。

 

「ええ。これが悪魔が京都旅行を楽しむときに必要な、いわゆる『フリーパス券』よ」

 

京都の名所は寺が多い。

しかも、どこもが神聖な場所だ。

 

普通、悪魔がそこへ行けばダメージを受ける。

聖なるものは悪魔にとっては毒だからな。

 

そこで、このフリーパス券の出番。

 

京都の裏事情を牛耳る陰陽師だとか妖怪が悪魔が観光を楽しめるようにと発行してくれているそうだ。

当然、信用の出来る悪魔にしか発行はされない。

 

こう言うところでグレモリーの名前のありがたみを感じるな。

 

 

悪魔ではない美羽にも発行されているのは謎だが・・・・・。

関係者だから、一応とのことだろうか・・・・?

 

 

「私達グレモリー以外にもシトリー、天界関係者、堕天使にも配布されているわ」

 

「ちなみに入手してくれたのはシェムハザ様だけどね」

 

部長の情報に追加を加えるレイナ。

 

・・・・・・アザゼル先生って信用されてないのだろうか?

 

「総督が私の分を完全に忘れていたのよ。あの人はしっかりしてるのかうっかりしてるのか分からない時があるわ」

 

先生・・・・・・あんた、何してんの!?

 

そりゃ、レイナも怒るわ!

ほら、ぶつぶつと愚痴を溢し始めてるし!

 

「とりあえず、スカートか制服の裏ポケットにでも入れておきなさい。無くしちゃダメよ? いいわね?」

 

「了解です!」

 

返事をして、すぐに裏ポケットにカードを入れる。

よし、これでOK。

 

アーシアの携帯が鳴る。

 

「あ、桐生さんですか? はい。皆さんも一緒です。今からそちらに行くところです」

 

桐生からの呼び出しらしい。

 

アーシアは電話を済ませ、部長に一礼する。

 

「では、リアスお姉さま。行ってまいります!」

 

「お土産買ってくるからね!」

 

「行ってきます」

 

「行ってきまーす」

 

「それじゃあ、行ってきますね」

 

アーシア、美羽、ゼノヴィア、イリナ、レイナが部長に別れの挨拶をしてこの場を後にする。

 

「では、僕もこれで。お土産買ってきます」

 

木場も一礼して自分のクラスの方へと去っていく。

 

俺もそろそろ行かないと。

 

部長が俺の襟元に手をやる。

 

「イッセー。襟元をきちんとなさい」

 

「あ、すいません」

 

どうやら襟元が乱れていたようだ。

 

部長は俺の襟を直すと俺の肩に顔を寄せる。

 

「どうしたんですか?」

 

「・・・・正直、あなたがいない間、すごく寂しいわ。本心を言えばあなたと離れたくないのだけれど・・・・・・。王の私がそこまで甘える訳にはいかないものね」

 

そう言って苦笑する部長。

 

朱乃さん達にも「行かないで」って言われたっけな。

 

皆は大袈裟だなぁ。

 

 

ま、そう言ってもらえるのは男冥利に尽きるってものなのかね?

 

 

つーか、目元を潤ませている部長、超可愛い!

いつものお姉さまとのギャップが凄まじいぜ!

 

 

俺は部長の頭をポンポンと撫でてあげる。

 

「甘えたいときは甘えても良いよ、リアス(・・・)。リアスだってまだ年頃の女の子なんだからさ」

 

俺がそう言うと部長は少し驚いたようにする。

 

 

俺の実年齢が皆にバレてから、部長や朱乃さんは凄く甘えてくるようになったんだ。

まるで美羽みたいに。

 

だから、俺は何となく分かった。

 

どうすれば部長は安心するのかを。

 

 

部長は少し顔を赤らめて小さな声で言った。

 

「イッセーったらズルいわ。こんな時に歳上の発言するんだもの」

 

「ははは・・・・・。でも、本当にそう思っているよ。王として頑張らないといけないのは分かるけどさ、甘えたいときは存分に甘えてくれても良いんだぜ? 一応、俺の方が歳上だから」

 

俺は親指で自分を指しながら笑った。

 

 

ぶっちゃけると、半分諦めているところもあるんだよね。

 

先生からは二十歳、二十歳言われるし。

父さんは酒を勧めてくるし。

 

どーせ、俺は二十歳だよ!

 

良いもん!

二十歳で青春送ってやるもんね!

見てろよ!

 

 

 

部長――――リアスはクスッと笑うとお願いをしてきた。

 

「それじゃあ、一つお願いしようかしら」

 

「お願い?」

 

「行ってきますのキス・・・・・してくれる?」

 

 

思考が止まった。

 

 

 

 

 

 

な、なぁぁぁにぃぃぃぃぃ!!?

 

 

行ってきますのキスだとぉぉおおおお!?

 

 

流石にこれには驚いた!

 

た、確かに甘えても良いって言ったけど!

 

直球過ぎませんか!?

 

つーか、行ってきますのキスって甘えてるうちに入るの!?

 

 

リアスは自身の唇を指差して言う。

 

「早くしないと遅れてしまうわ。だから、ね♪」

 

おいおい、マジかよ!

 

この目は本気の目だよ!

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「・・・・・甘えても良いって言ったのに」

 

プクッと頬を膨らませるリアス。

 

ぐっ・・・・・!

なんでこんなに可愛いの!?

 

そんな風に言われたら断るわけにもいかんじゃないか!

 

「わ、分かった・・・・・。そ、それじゃあ・・・・・」

 

俺はリアスの肩に手を置き、顔を近づけていく。

 

 

ドクンッ ドクンッ

 

 

ヤバイ!

ドキドキが止まらねぇ!

 

相手からされたことは何回かあるけど、自分からってのは初めてだから、かなり緊張する!

 

 

 

次第に俺の唇とリアスの唇が近づいて―――――

 

 

 

 

互いの唇が重なった。

 

 

 

ほんの一瞬。

それが限界だった。

 

俺は直ぐに唇を離した。

 

こ、これ以上は心臓が破裂しそうだ・・・・・・・!

 

 

こんな一瞬で良かったのだろうか・・・・・・。

 

そう思い、リアスの方を見てみると―――――

 

 

「初めて・・・・・・イッセーからキスされちゃった。すごく、嬉しい」

 

両手で頬に触れて、本当に幸せそうな表情をしていた。

 

メチャクチャ乙女な顔だ。

 

「ありがとう、イッセー。これだけで私はしばらく生きていけるわ」

 

「また、大袈裟な・・・・・。っとそろそろ行かないと。それじゃあ、俺も行ってきます、部長」

 

「あら? もう名前で呼んでくれないの?」

 

少し不機嫌そうにする部長。

 

「えっと、今からは十七歳ってことにするんで・・・・・。公私は分けるってことで許してもらえると助かります・・・・・」

 

流石に先輩を呼び捨てにするわけにはいかないだろう。

それにこの世界では俺は部長よりも年下ってことになってるし。

 

「フフフッ、冗談よ。大丈夫、分かってるから。それじゃあ、行ってらっしゃい、イッセー!」

 

「はい、行ってきます、部長!」

 

 

 

 

 

 

 

新幹線が東京駅を出発してから十分ぐらい経った頃。

 

 

「スー、スー」

 

 

穏やかな寝息をたてているのは美羽だ。

 

昨日はワクワクして眠れなかったのだろう。

今朝は完全に寝不足だった。

 

新幹線に乗ってから数分間ははしゃいでいたけど、今では完全に夢の中。

 

俺の膝に頭を乗せて熟睡してる。

 

 

ちなみに、俺と美羽の席は車両の一番後ろだ。

前の席には松田と元浜。

通路を挟んだ反対側の席にはゼノヴィアとイリナ。

その前にはアーシアとレイナ、桐生が座っていて、向かい合わせの席になっている。

 

 

松田が席の間から顔を覗かせる。

 

「美羽ちゃん、完全に寝ちまったな」

 

「昨日は眠れなかったみたいだからな。これは京都に着くまでは起きないぞ」

 

「・・・・やはり、美羽ちゃんの寝顔は天使のようだな。・・・・・これはチャンス」

 

「おい、元浜。なぜにカメラ?」

 

「この寝顔を撮るからに決まっているだろう。美羽ちゃんの寝顔は俺達にとっては超レアだからな」

 

「それを俺が許すと思うか?」

 

「そこを何とか!」

 

合掌して頭を下げてくる元浜。

 

それを見て少し一考する。

 

まぁ、元浜や松田には中学の時から美羽のことで色々助けてもらってるしなぁ。

 

 

元浜に俺は条件を提示した。

 

「絶対に可愛く取れよ? それからその写真は俺にもくれ。あと、他のやつにバラ撒いたりした場合はその写真は全て俺が回収させてもらうからな」

 

そして、その写真は全てアルバムに納めてやる。

例え同じ写真だったとしても美羽の写真だ。

捨てるわけがない。

 

「お安いご用だ、我が同士よ。それにこれは俺の美少女コレクションとして保存するだけだ。誰にも見せないことを約束しよう。礼と言ってはなんだが・・・・・・新たに入手した紳士の円盤『爆乳秘湯巡り・(スーパー)』を今度貸してやろう」

 

「それは・・・・・・シリーズ最高傑作で激レアと言われるアレか!」

 

「その通り! かなりの費用と時間を費やしたが、先日、入手に成功したのだ!」

 

おおっ!

流石は元浜!

俺ですら入手出来なかったものを持っていたとは!

 

こいつのエロへの努力には頭が下がるぜ!

 

 

俺の許可を得た元浜はパシャリと写真を撮っていく。

 

見せてもらったが、かなり可愛く撮れていた。

 

我が家の家宝にしよう。

 

「この旅行から帰ったら直ぐにプリントアウトして渡そう」

 

「頼んだぜ、元浜」

 

俺と元浜はグッと親指を立てる。

 

やはり持つべきものは友だな。

 

そんな俺を見て松田が言う。

 

「にしても、イッセーのシスコンぶりは凄まじいな。おまえに妹が出来たと聞いた時も驚いたけど、俺はおまえの変わりように驚いたぞ。まぁ、エロいところは全く変わってないけどさ」

 

「松田よ。もし、おまえに美羽のような妹が出来たらどうする?」

 

「それは・・・・・・・溺愛するな・・・・・」

 

「つまり、そういうことだ」

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後。

 

それまで話をしていた松田と元浜も寝てしまった。

 

 

俺は、昨日は早く寝たので、そこまで眠くはない。

ただ窓から外を眺めてる。

 

すると、廊下を挟んで反対側の席に座るゼノヴィアが席から少し身を乗り出して言ってきた。

 

「イッセー」

 

「ん? どうした?」

 

「今回、有事の際にはイッセーが代理の王を勤めると聞いているんだが」

 

「ああ、そうだよ」

 

 

もし、この修学旅行中に非常事態・・・・・・例えば、禍の団のテロとかがあった場合は俺がグレモリーとシトリーを纏める王になることになったんだ。

 

俺で良いのか、と思ったんだけど部長や会長だけでなく、先生からも任命されてしまったから引き受けたんだけど・・・・・・・。

 

ま、これも将来、上級悪魔になった時の練習として考えれば良いのかね?

 

 

「それなら、先に言っておこうと思ってね。今、私はデュランダルを持っていない。完全に丸腰だ」

 

おいおい・・・・・・。

いきなりとんでもない情報を知らされたよ。

マジか。

 

「なんで?」

 

「なんでも正教会に属している錬金術師がデュランダルの攻撃的なオーラを抑える術を見つけたらしくてね。今は天界経由であちらに送っているんだ」

 

なるほど。

 

ゼノヴィアはまだデュランダルを制御出来ていないところがあるからな。

パワーでごり押しするにしてもまだまだ力にムラがある。

 

デュランダルが無いのはそういう理由か。

 

「了解だ。何かあったらアスカロンを貸せってわけね? まぁ、ほとんどおまえが使ってるけどさ」

 

「そういうことなんだ。だが、イッセーも今は籠手の能力を使えないだろう? 私が借りてしまっていいのか?」

 

「構わないよ。俺の武器はこれだし」

 

俺は自分の拳を見せながら言う。

 

錬環勁気功は武器が無くても相手を制圧できる総合格闘術だ。

剣が無くても俺は十分に戦える。

 

「そうか。そういうことなら私も安心できる。その時は遠慮なく使わせてもらうよ」

 

「おう」

 

それだけのやり取りをするとゼノヴィアは隣の席のイリナと会話を再開した。

 

 

さて、俺は・・・・・・・・。

 

 

松田と元浜も寝てるし、膝の上には美羽が頭を乗せて熟睡してる。

動くわけにもいかないし・・・・・・・。

 

 

 

 

京都に着くまで時間はある。

 

折角だし神器に潜ってみるか。

 

 

俺は瞑目して、神器に意識を持っていった。

 

 

 

 

 

 

暗い場所を抜けていき、その先にあるのはあの白い空間。

 

テーブル席がおかれて、歴代達が座っている。

 

 

無表情なのは相変わらずか。

 

話しかけても通じないことは分かってるし、ここは・・・・・。

 

 

「エルシャさーん、ベルザードさーん! 俺ですよー!」

 

 

大きな声で二人の名前を呼んでみる。

 

 

すると、一組の男女が現れた。

 

黒髪でダンディな風体の男性とウェーブのかかった長い金髪のお姉さん。

 

他の歴代達とは違い、二人には表情がある。

 

男声の方が朗らかに言う。

 

「やぁ、イッセー君。また、来てくれたみたいだね」

 

「どうも、ベルザードさん。暇なんで少しお喋りしに来ました」

 

俺がそう言うと女性は微笑んだ。

 

「やっぱりあなたって変わってるわ。残留思念とお喋りしに来る赤龍帝なんて、これまでなかったわよ?」

 

「別に良いじゃないですか、エルシャさん。こういう例外がいても」

 

「それもそーね」

 

そう、この二人は歴代最強と言われていたベルザードさんとエルシャさん。

ロスウォードの時に力を貸してくれたあの二人だ。

 

俺の後ろに赤いドラゴンが姿を見せる。

 

ドライグだ。

 

『まさか、こうして再び出てくるとはな。特にベルザードの方は意識を失いつつあったではないか』

 

ドライグの言葉にエルシャさんも頷く。

 

「それには私も驚いているのよ。まさか意識を回復させるなんて思ってもいなかったわ」

 

「それはイッセー君のお陰さ。神器の中から彼の行動を見て、実に面白い青年だと思っていた。彼に興味を持っているうちに俺は意識を取り戻すことができた」

 

そんなこともあるのか。

 

俺の行動がベルザードさんの意識を取り戻す切っ掛けになったと。

 

 

「そういえば、おっぱいドラゴンに興味津々だったっけ? それが一番の切っ掛けじゃなかったかしら?」

 

な、なにぃぃいいい!?

 

そうなんですか、ベルザードさん!?

 

 

俺の視線がベルザードさんに移る。

 

すると、

 

「そう! あれは俺を刺激するには十分だった! 爆笑した!」

 

ベルザードさんのテンション上がってる!?

 

そして、エルシャさんも爆笑し始めた!

 

「特に名前が決まった瞬間のドライグの表情は最高だったわ!」

 

 

おいいいいいいいいっ!!!

 

 

その話題をドライグの前でしないで!

 

泣くから!

 

 

『うおおおおおんっ!! こいつらにまで言われるのかぁああああ!!!』

 

ほら見ろ!

 

号泣してるじゃないか!

かつての相棒達に言われて涙が滝のようになってる!

 

最悪じゃねぇか!

 

 

この人達、本当にそこの歴代達と同じ残留思念なのか?

反応が違いすぎるぞ。

 

「他の歴代もこの二人くらいに話してくれたら良いんだけど・・・・・」

 

「そうね。他の人達は完全に闇に呑まれちゃってるから・・・・・。少しくらいの刺激じゃ反応しないかも」

 

 

刺激ねぇ・・・・・・。

 

どうしたものか・・・・・。

 

 

覇龍の時はあんなに活発だったんだけどな。

やっぱり力を――――覇を求めるというのが一番の刺激なんだろうか?

 

だけど、あれは危険すぎる。

 

前回は上手くいったけど、次も出来るとは限らない。

 

出来れば他の方法を探したいところなんだけど・・・・・・。

 

 

俺が思案している時だった。

 

 

「キャッ!」

 

 

突然、エルシャさんが悲鳴をあげた。

 

何事かと思い、そちらを見てみると―――――

 

 

 

「むむむ・・・・私よりも胸がある。それに感度も良いわ」

 

 

イグニスがエルシャさんの胸を後ろから揉んでいた。

 

「なんで、ここにあんたがいるんだよ!?」

 

「簡単な話よ。私とイッセーの間には経路(パス)が出来たって言ったでしょ? それを利用したのよ」

 

イグニスが説明してくれたけど、さっぱり分からん。

 

どういうことだよ?

 

俺が首を傾げているとドライグが言う。

 

『なるほど。神器は相棒の魂と直結している。相棒と繋がったおまえがここに入れるのも当然か』

 

えーと、それはつまり・・・・・・?

 

『分かりやすく言うとだ。イグニスは相棒を経由してこの神器に潜り込むことが出来るようになったと言うことだ』

 

マジかよ。

そんなことが出来るようになってたのか。

 

「そー言うことよ。だから、こんなことも出来ちゃう♪」

 

そこから更にエルシャさんの胸を揉みしだいていくイグニス!

 

あんた、何してんの!?

 

「ふぁっ・・・・・ひゃん! ちょ、そこは!」

 

「ふふふ、可愛い反応するじゃない。それなら――――」

 

イグニスはエルシャさんの服の中に手を滑らせていく!

 

そして、胸の辺りに手を持っていった!

 

「こうしたらどうなるかしら?」

 

「んっ! そこ・・・・、ダメぇ・・・・・・ひゃぁぁあああ!!!」

 

エルシャさんの体がビクンッと跳ねてその場に崩れていく。

 

 

イグニスって、こんなにエロい性格してたの・・・・・・?

もしかして、そっち系の人・・・・・?

 

 

あ、やべ・・・・・・今の見てたら鼻血が・・・・・。

 

精神世界でも鼻血って出るのな・・・・・・。

 

 

「うん、満足満足!」

 

 

顔を真赤にして横たわるエルシャさんを見て本当に満足そうな顔をしてるイグニス。

 

この人、一応、神様だったんだよね?

 

やってることはただの変態だよ!

 

「変態じゃないわ。欲求不満だっただけよ」

 

「いや、ダメだろ! つーか、心を読むなよ!」

 

「いいじゃない。私、ずっと一人だったからストレス溜まってたのよ。途中でシリウスが来たけど・・・・・あの人、堅物だったから、こういうのは出来なかったし。あなたも中々来てくれないしね」

 

それ以上言わないで!

 

あんたへのイメージが変わってくるから!

 

いや、もう手遅れか!?

 

 

って、後半とんでもないこと言わなかった!?

 

会いにいったらそういうことしてくれるんですか!?

 

 

イグニスの視線が歴代達の方へと移る。

 

「あっちにも可愛い娘がいる~」

 

 

テテテッと小走りで歴代のそばに寄るイグニス。

 

 

非常に嫌な予感がする・・・・・・・。

 

まさか・・・・・・・・

 

 

「それじゃあ、失礼して。いただきます」

 

 

イグニスは歴代の女性赤龍帝達の胸を揉み始めた!

 

あんた、ここに何しに来たの!?

 

さっきからツッコミどころが多すぎる!

 

 

すると、ベルザードさんが何かに気づいたように言った。

 

「むっ・・・・・・。イッセー君。あれを見たまえ」

 

ベルザードさんが指差す先にはイグニスに胸を揉まれている少女。

 

あれがどうしたんだろう?

 

変態が一人で盛り上がってるようにしか見えない。

 

「揉まれている彼女の表情が変わってきていないかい?」

 

「・・・・・・・えっ?」

 

言われてもう一度、目を凝らして見てみる。

 

すると、確かに変化が見えた。

 

 

なんか・・・・・・恍惚としてる。

 

 

 

無表情だったのが、トロンとした瞳になってきてる。

 

 

 

・・・・・・えっ?

 

マジで?

 

あれだけ何度も話しかけても変化無かったのに?

 

あんな変態行為で反応するんですか?

 

 

 

 

『うそん』

 

 

ドライグが絶句していた。

 

 

 

 

 

 



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3話 観光と襲撃です!

『間もなく京都に到着致します』

 

アナウンスが流れた。

 

 

ついに到着か!

 

新幹線が駅のホームに停車し、俺達は荷物を持って外に出た。

 

 

「おー、やっと着いたな」

 

松田が辺りを見渡す。

 

周囲には駒王学園の生徒以外にも学生がいた。

 

桐生が言ってた通り、この時期は修学旅行で来る学生が多いんだな。

 

 

「さっ、改札出るわよー」

 

桐生先導のもと、改札口まで移動して潜っていく。

 

 

「わぁ、すごく広いね!」

 

美羽が弾んだ声で言う。

 

 

京都駅の天井は広いアトリウム。

エスカレーターも多い。

 

東京に負けてない気がするよ。

 

 

「見ろ、アーシア! 伊○丹だ!」

 

「はい! ゼノヴィアさん! 伊○丹です!」

 

興奮気味のゼノヴィアとアーシア。

 

目につくもの全てに反応してる。

マジで楽しそうだな。

 

「天界にもこんな素敵な駅が欲しいわ!」

 

「総督にも神器ばっかりいじってないでこういうのを作って欲しいわ」

 

レイナ、それはただの愚痴じゃないのか・・・・・?

 

ってか、先生が本気だしたら作れそうだ。

 

「集合場所はホテル一階ホールだったわね。ほーら、あんた達ー、さっさと集まらないと時間無くなるわよー」

 

班長の桐生が声をかけてくる。

全員をまとめると桐生がしおりを出して位置を確認。

 

「えーと、ホテルはここで・・・・・。現在地が西改札口だから・・・・・・こっちね」

 

「早く行こうぜ。外に出ればすぐだろ」

 

「松田、知らない土地舐めてるとケガするわよ? その軽率な行動で戦死者が出たらどうするのよ」

 

「ここは戦場かっ!?」

 

 

 

なんて会話をしながら俺達は京都駅を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

京都駅から数分歩いたところに大きな高級ホテルがある。

俺達が泊まるのはそのホテルなんだけど・・・・・・。

 

 

 

 

その名も『京都サーゼクスホテル』

 

 

 

 

 

京都でも魔王の名前は影響力があるらしい。

 

ちなみに少し離れたところには『京都セラフォルーホテル』がある。

 

ここは悪魔の領地じゃないんだし、もう少し控えた方が良いと思うんだよね。

 

まぁ、許可は得てると思うけどさ。

 

 

このホテル、裏ではグレモリー家が運営しているんだ。

だから、俺達は格安で部屋が用意できたとのこと。

 

中に入ると、きらびやかで豪華絢爛な造りのロビーが俺達を迎えていた。

流石はグレモリー家が運営するだけある。

 

松田、元浜、桐生はその迫力に圧倒されていた。

 

 

俺達は・・・・・・まぁ、慣れてるからね。

 

部長の家やアリスの城で。

どちらもこのホテルよりも大きくて迫力が半端じゃない。

 

 

ロビーから少し進んだところにホールがある。

 

広いホールにはすでにかなりの数の駒王学園の生徒が集まっていた。

先生達もいる。

 

時間が来ると各クラス、班ごとに点呼が始まり、いない人の確認などが始まる。

 

全員ホールの床に座り、先生達の注意事項に耳を傾けていた。

 

ちなみに今喋ってるのはうちの担任だ。

修学旅行に来てるのに白衣を着ているかは謎だが・・・・・・。

 

「つーことで、いいか、テメーら。修学旅行の夜と言えばピロー・スローイング・フェスタが定番中の定番だが、顔面はセーフ。三回当てられた奴はその時点で退場。一回に投げられるピローは一つまで。ルールはこれで統一しろー。『中学の時はこうだった』とか、『やっぱり、こうしようぜー』とか言い出すやつも退場だー」

 

 

うん、普通に枕投げだよね。

確かに定番だけど、何故にそこだけ英語?

つーか、ここで話さなくても良くね?

 

色々ツッコミ所しかないが、俺の横では・・・・・・

 

「修学旅行ではそのような祭典が行われるのか・・・・・・」

 

「修学旅行は私が知らないことがいっぱいです」

 

ゼノヴィアとアーシアが真剣に聞いちゃってるよ。

 

そんな大層なものじゃないから!

 

結局、坂田先生は『ピロー・スローイング・フェスタ』についての注意事項だけを言って次の先生と交代した。

 

 

そして、ロスヴァイセさんの番になったんだが・・・・・。

 

「百円均一のショップは京都駅地下のショッピングセンターにあります。何か足りないものがあったらそこで済ませるように。お小遣いは計画的に使わないとダメですよ? あれやこれやと無計画に使っていたらすぐに無くなります。だからこそ百円で済ませられる百円均一を活用しなさい。――――百均は日本の宝です」

 

百円均一のお話ですか!?

 

確かに安くて便利だけどさ!

 

 

ロスヴァイセさんって日本に来てから百均にハマってるみたいなんだけど・・・・・・。

 

それで良いのか、元ヴァルキリー!?

 

結局、ロスヴァイセさんは『百均』について熱く語って、話を終えた。

 

 

ちなみにだけど、ロスヴァイセさんは駒王学園に就任してからすぐに生徒からの人気を得た。

美人で真面目なのにどこか抜けているから、男女を問わずクリーンヒット。

更には歳も近いから『ロスヴァイセちゃん』って親しみを込めて呼ばれてる。

 

「―――と、以上に気をつけてください。部屋に荷物を置いたら、午後五時まで自由行動ですが、あまり遠出はしないように」

 

『はーい』

 

と、最終確認を聞いたあと二年生全員の返事でホールでの午後の行動についての説明が終了した。

 

 

 

 

 

 

駒王学園の生徒が泊まるホテルの部屋は広い洋室で男子が二人部屋、女子が三人部屋だ。

駒王学園は比較的女子の割合が大きいからそうなるのも仕方ない。

 

中に通されると大きなベッドが二つと京都駅周辺を窓から一望できる風景を目の当たりにする。

 

ここは松田と元浜の部屋で二人は豪華な部屋にテンションを上げていた。

 

「すっげぇぇぇぇえ!!」

 

「駒王学園に入学して本当に良かったと思えるな」

 

 

まぁ、他の高校よりは絶対に豪華だよね。

駒王学園だからこそってやつだ。

 

 

さてさて、問題は俺だな。

 

俺だけ一人余ったから部屋を一人で使うことになっているんだが・・・・・・。

 

なぜか俺の部屋だけ、階が違う。

男子が泊まる階から上に二つ上がって、隅にある部屋。

 

 

・・・・・・・嫌な予感しかしない。

 

 

扉を開けると――――

 

 

「・・・・・・は?」

 

 

そこは八畳一間の和室だった。

小さなテレビに小さなちゃぶ台。

最低限のものしか置かれていない。

 

 

「あははははははは! マジかよ! ここだけ和室じゃん!」

 

「ベッドではなく敷き布団か。しかも一人だけ・・・・。旅行資金のやりくりがイッセー一人に一気に来たというわけか。ドンマイだ」

 

爆笑する松田と分析しながら励ましてくれる元浜!

とりあえず、松田は殴る!

 

なんで俺だけ!?

 

俺、嫌われてるの!?

 

泣いていいですか!?

 

美羽のところに泊めてもらうか!?

 

 

すると、扉がノックされる。

 

「イッセー君? ここに来てますか?」

 

「あ、ロスヴァイセさん」

 

扉の所にはジャージ姿のロスヴァイセさんが立っていた。

 

俺はロスヴァイセさんに近づいて耳打ちする。

 

(すいません。説明してもらっても良いですか? 俺、泣きそうなんですけど)

 

(そこは我慢してください。ハンカチ貸してあげますから。ここは私達が話し合いが出来るよう特別に用意した部屋なんです)

 

(話し合いって、悪魔的な?)

 

(そういうことです。京都で何かが起こった時は話し合いが出来る場所が必要となります。そこで一人余っていたイッセー君の部屋に割り当てたのです)

 

(いや、それは良いとして、なんで和室? もう少しマシな部屋があったでしょう?)

 

(他の部屋は一般の方が泊まっていますし、この部屋は基本的に誰も来ないとのことなので。私達が集まるにはちょうど良かったのです)

 

(今思ったんですけど、アザゼル先生の部屋とかで良いじゃないですか)

 

(それもそうですね。まぁ、今から部屋を用意するのもあれなんで、ここは耐えてください)

 

ひどいっ!

俺だって修学旅行先のホテルは皆と同じ豪華な部屋が良かったよ!

 

 

 

 

 

 

 

京都駅から一駅進んだところに『稲荷駅』があり、そこから下車することで伏見稲荷への参道に入ることができる。

 

「おーっ、珍しいものがたくさん店頭に並んでいるな」

 

「わー、かわいい狐ばかりですね」

 

「ここで少しくらいお土産買っても大丈夫よね?」

 

と教会トリオは早速京都の空気を堪能していた。

 

こうしてキャッキャッしているところを見るとアーシア達は普通の女子学生と変わらない。

 

その隣では、

 

「この髪飾り、レイナさんに似合うんじゃないかな?」

 

「本当? うーん、でも少し高いかなぁ」

 

と美羽とレイナが簪を前に相談していた。

水色と白色の花の飾りがついた可愛らしい簪だ。

 

確かに、レイナに似合いそうだな。

 

 

お値段は・・・・・・5900円。

 

流石に高い。

他のお土産のことも考えると厳しい値段だ。

 

プレゼントしてあげたいのは山々なんだけど、俺もそこまでお金を持ってきているわけではない。

 

ここはまた今度ということにしておくのが良いだろう。

 

 

「うむ、美少女達in京都!」

 

松田がゴツい一眼レフのカメラでアーシア達と美羽達を交互に撮っていく。

 

「ちょっと、私は撮らないの?」

 

桐生が半目で物申していた。

 

 

一番鳥居を抜けると大きな門が現れ、その両脇には狐の像が立っている。

 

魔除けの像だから本来なら、俺達悪魔は近寄れない。

だけど、部長から受け取っていたフリーパスのお陰で特に問題は無いようだ。

 

 

・・・・・さっきから視線を感じているんだけど、あれは監視か?

 

まぁ、ここの人達からすれば俺達悪魔は完全に余所者だし、フリーパス券があるとはいえ、少しくらい見張りをつけるのは仕方がないと言えばそうだしな。

 

美羽やゼノヴィア、イリナ、レイナも既に気づいているようだ。

 

アイコンタクトを取ってきたので、俺は頷いて返す。

 

今のところ敵意も殺気も感じないから放置しておくか。

 

 

そんなことを考えながら、歩いていくと稲荷山を登る階段が見えてくる。

 

そこから更に歩くと千本鳥居が俺達の前に現れたのだった。

 

 

 

千本鳥居を潜り始めてから数十分。

 

 

 

流石に名所だけあってすごい迫力だ。

進めど進めど赤い鳥居ばかりだしな。

 

俺達は写真を撮りつつ階段を登っているんだが・・・・・・。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・・・・・。俺、もう・・・・・もう限界・・・・・・・・」

 

元浜は既に息があがっていた。

 

松田が嘆息しながら言う、

 

「情けないぞ。アーシアちゃん達だってまだ元気だってのに」

 

松田は運動神経抜群だから、このくらいは余裕のようだ。

 

アーシアは悪魔とはいえ、運動は苦手だ。

それでも、まだ余裕があるのは日頃の修行の成果だな。

 

ちなみに桐生も少し汗を流しているが、とくに弱音をあげることはなく写真を撮りまくってる。

 

元浜。

おまえ、一般の女子より体力ないのな・・・・・・。

 

階段を上がるごとに死にそうな顔をしている元浜を哀れみの目で見つつ、俺達は山を登っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少し経った頃、異変が起きた。

 

俺達に向かって敵意が放たれてきたんだ。

 

 

ゼノヴィアが神妙な顔をしながら言う。

 

(イッセー、気づいたかい?)

 

(もちろん。数は・・・・・・ざっと二十くらいか)

 

 

集まりつつある複数の気配。

 

さっきの視線とは違うか?

 

 

まぁ、何にしてもここで襲撃を受けるのはマズい。

 

ここは山の休憩所。

一般の人も大勢いる。

 

こんなところでドンパチやるわけにはいかない。

 

(ゼノヴィア、おまえ達は元浜達を頼む。襲撃してこないのは一般の人がいるからだと思う。ここは俺が引き付ける)

 

(了解した。だが、十分に気を付けてくれ)

 

(おう)

 

さてさて、どうするかな。

 

「俺、先にてっぺんまで行ってみるわ」

 

「あ、ボクも行くよ」

 

俺が元浜達にそう言うと美羽がそれに続く。

美羽の方を見ると頷きを返してきた。

 

ま、相手もそれほど脅威になるレベルじゃなさそうだし良いか。

 

それよりも問題なのは一般人に見られること。

美羽がいれば人払いの結界くらいなら直ぐに張れる。

 

「OK。じゃあ、二人で先に行ってくるよ」

 

「なんだなんだ? 兄妹デートかよ? 羨ましいやつめ」

 

「松田よ、これも兄の特権なのだ」

 

「その特権、俺にくれ!」

 

「ふざけんな!」

 

うちの妹は誰にもあげません!

 

 

そんなやり取りをしつつ、俺と美羽は皆の元を離れて階段を登っていった。

 

 

よし、気配は俺達を追ってきているな。

 

どうせなら頂上まで行ってみるか。

 

 

 

 

 

 

しばらく歩くと、頂上らしき場所に出た。

あるのは古ぼけたお社だけ。

 

辺りは木々で鬱蒼としていて、まだ日が出ているというのに薄暗い。

 

人の姿は俺と美羽以外はない。

 

ここなら問題ないだろう。

 

 

俺と美羽は頷き合い、気配のする方に視線を送る。

 

「出てこいよ。いるのは分かってるぜ」

 

すると――――

 

 

「・・・・・やはり、京の者ではないな。それに人でもない」

 

 

現れたのは巫女装束を着た可愛らしい女の子だった。

 

「・・・・・女の子?」

 

予想外の人物の登場に目を丸くする美羽。

 

キラキラ光る金髪に、金色の瞳。

背丈からして小学校低学年くらいか?

 

そして、何よりも気になったのは――――獣の耳。

 

小猫ちゃんみたいに頭部に耳がある。

あれは狐かな?

 

それにお尻からはもふもふしてそうな尻尾がある。

 

 

 

・・・・・・触ってみたい。

 

 

「お兄ちゃん・・・・・何考えてるの?」

 

 

おっと、いかんいかん。

 

あの耳と尻尾を見てたら小猫ちゃんのを触った時のことを思い出しちゃったよ。

 

あー、もふもふしたい。

 

獣耳って良いよね!

 

 

なんて思ってると獣耳の少女は俺を激しく睨み、吐き捨てるように叫ぶ。

 

「余所者め! よくも・・・・・・っ! かかれっ!」

 

少女の掛け声と共に林から山伏の格好で黒い翼を生やした頭部が鳥の連中と、神主の格好をして狐のお面を被ったやつらが現れる!

 

あの鳥は天狗か!

 

つーか、いきなりですか!?

話し合いもなし!?

 

 

少女は容赦なく俺に指を突きつける。

 

「母上を返してもらうぞ!」

 

「いや、おまえの母ちゃんなんか知らないんですけど!?」

 

俺の叫びを無視して天狗と狐神主は襲いかかってくる!

 

俺は攻撃を軽くいるのは捌きながら、美羽に指示を出す。

 

「美羽! 結界を頼む! こいつらは俺が相手する!」

 

「分かった!」

 

俺の指示に美羽はこの周囲にドーム状の結界を展開する。

 

これで人が近づいても気づかれないし、見られる心配もない!

 

「母上を返せ!」

 

「だから、知らないって言ってんだろ!」

 

「ウソをつくな! 私の目は誤魔化しきれんのじゃ!」

 

誤魔化すも何も、マジで知らねぇよ!

 

って問答無用か!

先ずは人の話をしっかり聞きなさいよ!

 

おまえの母ちゃんはどんな躾してんだ!?

 

ったく、京都に着いて早々にこれかよ!

 

 

「不浄なる魔の存在めっ!」

 

「神聖な場所を穢しよって!」

 

二人の天狗が錫杖を振るってくる。

 

その攻撃には完全に殺気が込められている!

 

「おまえらも人の話を聞けーーー!!!」

 

 

パシィッ

 

 

振り下ろされた錫杖を掴み、蹴りを入れて吹き飛ばす!

 

相手のレベルは高くない。

この程度なら俺だけで十分だ。

 

俺は向かってくる奴らの攻撃を素早く避け、軽い攻撃で制していく。

 

 

かなり理不尽なことになってるけどここは加減しよう。

 

部長には京都を壊さないように言われてるしな。

 

それに、ここで騒ぎを起こせば他勢力にも、悪魔業界にも迷惑をかけることになる。

 

出来るだけ騒ぎを最小限に抑えよう。

 

 

 

そんなことを考えながら、相手の攻撃を捌いていると――――

 

 

狐神主共が美羽に日本刀で斬りかかろうとしているのが視界に入った!

 

 

その瞬間、俺の頭の中で何かがキレた。

 

 

「テメーらァァアアア!! 何してんだァァアアア!!!」

 

俺は瞬間的なダッシュで狐神主に追い付き、頭を掴む!

そこからグルグルと体を高速回転!

そして、遥か彼方へと全力で放り投げた!

 

こっちが加減してたら調子に乗りやがって!

 

 

「「アアアアアアアアッ!?!?」」

 

天空で絶叫をあげる狐神主共!

 

そんな奴らに俺は中指を立てて叫んだ!

 

「星になりやがれ! 今度やったらこんなもんじゃ済まねぇからな!」

 

美羽に斬りかかるなんざ、言語道断!

それこそ問答無用だ!

 

次やりやがったら、フルボッコにしてやるよ!

 

「お兄ちゃん、やり過ぎ! やり過ぎだって!」

 

「あ、ゴメンゴメン。あの攻撃がおまえにいくと考えたら・・・・・・・つい」

 

「もうっ。あんまりいじめちゃダメだよ?」

 

 

はい・・・・・・・すいませんでした・・・・・・・。

 

うぅ・・・・・美羽に注意されてしまった・・・・・・。

 

 

『あの程度、美羽程の実力ならどうとでもなっただろう?』

 

いや、そうなんだけどさ。

 

体が勝手に・・・・・・。

 

『シスコンここに極まれりだな』

 

ハハハ・・・・・・。

 

 

俺一人に手も足もでないことに驚いたのか、奴らは後退していく。

 

『いや、今の相棒に引いてるんだろ』

 

うるせぇよ!

 

 

少女は俺達を憎々しげに睨んだ後、手をあげた。

 

「・・・・・撤退じゃ。今の戦力ではこやつに勝てぬ。おのれ、邪悪な存在め。必ずや母上を返してもらうぞ!」

 

「だーかーらー、おまえの母ちゃんなんて知らないって!」

 

少女はキッと睨みを更に鋭くするが、一迅の風と共に連中は消えていった。

 

 

やれやれ、とりあえずは追い返せたな。

 

 

 

それにしても、母上を返せ、か。

 

 

 

どうやら既に何かが起こってるのは間違いなさそうだ。

 

 

 

 

 



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4話 とりあえず楽しみます!!

初日の夜。

 

俺達オカ研メンバーは夜、ホテルを抜け出て先生先導のもと、街の一角にある料亭に来ていた。

 

「料亭『大楽』・・・・・・。ここにレヴィアタン様がいらっしゃるのか」

 

そう、俺達はセラフォルーさんに呼び出されたんだよね。

 

 

話の内容は何となく予想はつく。

 

 

中に通され、和の雰囲気が漂う通路を抜けると個室が現れる。

 

戸を開けると着物姿のセラフォルーさんが座っていた。

 

「ハーロー! 赤龍帝ちゃんもリアスちゃんの眷属の皆も、この間以来ね☆」

 

いつもながらにテンション高いなぁ。

 

それにしても、着物姿似合ってるな。

長い髪も結っていて、すごく可愛い。

 

「セラフォルーさん、着物姿似合ってますね」

 

「ありがとう、赤龍帝ちゃん☆」

 

俺が誉めるとブイサインを送ってくる。

 

 

「お、兵藤たちか」

 

セラフォルーさんのすぐ隣では匙とシトリー眷属の二年生女子が座っていた。

どうやら先についていたようだ。

 

「よう、匙。そっちはどうよ? 午後はどっかに行ったのか?」

 

「いいや、生徒会の仕事があってな。午後は先生方の手伝いで終わったよ」

 

ため息混じりに言う匙。

 

生徒会も大変だな。

 

「ここのお料理、とても美味しいの。特に鳥料理は絶品なのよ☆ 赤龍帝ちゃん達もたくさん食べてね♪」

 

俺達が席に着くやいなや、料理をどんどん追加してくれるんだけど・・・・・・。

俺達、さっきホテルで夕食を取ったばかりなんだよね。

 

あ、でも美味いなこれ。

口に入れると止められない止まらない。

ついつい食が進んでしまう。

 

皆も俺と同じ感じだ。

 

この焼き鳥美味い。

串から外してあるので、とても食べやすい。

 

「美羽、これ食ってみろよ。美味いぞ」

 

「本当? じゃあ、あーん」

 

「仕方がないなぁ」

 

美羽は甘えん坊だ。

 

美羽が可愛らしく口を開けてきてので箸で摘まんで美羽の口に運ぶ。

 

「ほら、あーん」

 

「あーん」

 

パクっ

 

美羽はしっかり味わうように噛み、ゴクンと飲み込んだ。

 

「エヘヘ、美味しいね」

 

微笑む美羽。

 

あー、癒される。

京都に来て早々に運がないと思ってたけど、これを見ただけで疲れが吹き飛ぶな!

 

 

「なんというか・・・・・・兄妹というより、恋人同士に見えてきたんだけど・・・・・」

 

「うん、これはもうバカップルの域に入ってるね」

 

「シスコンもここまで来るとね」

 

おっと、シトリー女性陣から苦笑が聞こえてきたぞ。

 

なんか美羽の顔が赤くなってるし。

 

恋人って言われて照れてるのかね?

 

まぁ、正直に言うと、美羽は可愛いし優しいから恋人にしたいと思ったことは何度もあるかな。

 

 

料理も堪能してるし、美羽にも癒された。

そろそろ本題に入るとしますか。

 

「それでセラフォルーさんがここにいるのは?」

 

俺の問いにセラフォルーさんは横チェキで答える。

 

「京都の妖怪さん達と協力体制を得るために来ました☆」

 

そういえば、外交担当だっけ?

 

ここにいるのはお仕事しにきたのか。

しっかり京都も堪能してるみたいだけどね。

 

俺が納得していると、セラフォルーさんは箸を置いて、表情を少々曇らせる。

 

「だけどね・・・・・どうにも大変なことが起こっているみたいなのよ」

 

それを聞いて俺の脳裏にあの狐耳の少女が浮かび上がる。

もしかして、あれも関係しているのか?

 

先生が言う。

 

「イッセーから報告を受けてな、少し調べたんだ。そしたら、この地の妖怪を束ねていた九尾の御大将が先日から行方不明だということが分かってな」

 

九尾・・・・・・。

あの有名な九尾の狐か。

 

 

――――母上を返せ!

 

 

「まさか――――」

 

俺の考えが分かったのかセラフォルーさんと先生が頷く。

 

「おそらく、そういうことでしょうね。あなた達を襲ったのは九尾の娘さん」

 

「そして、ここのドンである妖怪が攫われたってことは、関与しているのは十中八九『禍の団』だろうさ」

 

二人の言葉に皆は息を飲んでいた。

 

 

ここに来てまでテロリストが絡んでくるのかよ。

 

そんでもって、あの狐耳の少女は俺達をさらった連中として襲撃したのか。

 

あの時は向こうも問答無用の構えだったから、追い返したけど・・・・・・・。

もう少し話を聞いてやれれば良かったかな・・・・・・。

 

あんなに小さい子供だ。

母親が誘拐されれば必死にもなる。

 

「お、おまえら、また厄介なことに首突っ込んでるのか?」

 

「悪いな、匙」

 

どうも俺の周囲ではトラブルが多発するようで。

 

いや、俺のせいじゃないからね!?

そこはしっかり認識してもらいたい!

 

「ったく、こちとら修学旅行で学生の面倒見るだけで精一杯だってのによ。やってくれるぜ」

 

先生が忌々しそうに吐き捨てる。

 

 

確か舞妓さんと遊ぶとか言ってませんでしたか?

観光する気満々でしたよね?

 

今キレてるのも遊べなくなるからなんじゃ・・・・・・・。

 

 

セラフォルーさんが先生の杯に酒をつぎながら言う。

 

「どちらにしても、まだ公にはできないわ。なんとか私達と協力してくださる妖怪の方々と連携して事の収拾を図るつもりなのよ」

 

「俺も独自に動くつもりだ。部下にも言って京都内を探らせている。何か手懸かりが掴めれば情報を回そう」

 

はぁ・・・・・・。

 

旅行初日から大変だ。

 

俺としては貴重な高校生活の修学旅行だから、無事に観光を楽しみたいんだけど・・・・・・。

そうも言ってられないか。

 

「それじゃあ、俺はティアにお願いしてみますよ。こっちでも色々探ってみます」

 

「すまんな。だが、おまえ達は修学旅行を楽しめ。この時間ってのは今しか体験できないことだ。俺達、大人が出来るだけ何とかするから、その時が来るまではこの旅行を満喫しろ」

 

 

 

 

 

 

修学旅行二日目。

 

 

「よっしゃー! 着いたぜ清水寺!」

 

 

松田が大きな門の前で手を広げる。

 

そう、俺達が訪れたのは清水寺だ。

 

 

いざ、仁王門を潜り、寺の中へ!

 

「見ろ、アーシア! 異教徒の文化の粋を集めた寺だ!」

 

「はい! 歴史を感じます!」

 

「異教徒バンザイね!」

 

教会トリオは興奮しながら、かなり失礼なことを言っている!

特にゼノヴィアとイリナ!

異教徒とかは言わない方が良いって!

ここにも神様仏様がいるんだからさ!

 

「おおー、思ったより高いな」

 

俺は清水の舞台から下を眺めてみた。

 

写真とかテレビでは見たことあったけど、実際に見てみると迫力が違う。

 

確か、釘を一切使ってないんだっけ?

 

よくもクレーンとかがない時代に作れたよなぁ。

昔の人はすごいや。

 

「ここから落ちても助かるケースも多いらしいわよ」

 

桐生が解説をくれる。

 

落ちる人いるんだ・・・・・・。

この高さから落ちて人間でも助かるってんだから謎だ。

 

 

境内には安全と合格の祈願や恋愛成就を願う小さなお社があった。

 

中には『天然パーマが治りますように!』とか『魔法少女になりたいにょ』みたいな願い事まである。

 

 

二つ目のやつって・・・・・・・あの人だよね?

 

あの人も来たことがあるのかよ・・・・・・。

神様もビビって逃げるんじゃないかな・・・・・・。

 

 

そんな感じに他人の願い事も少し見ながら、賽銭箱に小銭を入れて願っておく。

 

 

エッチなことがたくさん起こりますように! 平和で過ごせますように! もっとおっぱいを触れますように!

 

 

少々、卑猥な願い事をしておく。

まぁ、平和で過ごせるようにってのも本心だけどね。

 

ところで、悪魔がお願い事しても叶うのだろうか?

 

「お兄ちゃん、これやってみようよ」

 

と美羽が指差したのは恋愛のおみくじ。

 

義理とはいえ、兄妹で恋愛のくじを引くってのはおかしな感じだけど・・・・・・。

まぁ、いっか。

 

俺と美羽はくじを引いてみる。

 

「お、大吉じゃん。将来安泰。・・・・・・・なんか、子に恵まれるとか書いてるけど・・・・・・。まぁ、お似合いだってさ」

 

「本当? やったね! ボク、本当に嬉しいよ!」

 

俺が内容を伝えると美羽は頬を赤く染めて大喜びしていた。

 

「それに・・・・・(あ、赤ちゃんもできちゃうんだ)・・・・・(よかった)

 

なんか、最高潮に顔が真っ赤になってきてる!?

 

俺の制服の裾を摘まんでモジモジし始めたんだけど!?

 

 

喜んでもらえたのは嬉しいけど、子供に恵まれるって・・・・・・。

ってことは、俺と美羽でそういうことをするわけで・・・・・。

 

ついつい想像してしまうが、俺は首をブンブンと横に振った。

 

いかんいかん、これはあくまでくじだ。

落ち着け、俺。

こんなところで鼻血を吹き出すわけにはいかんぞ。

 

 

つーか、恋愛のくじって子宝まで書いているもんなの?

始めて見たんだけど。

いや、恋愛のくじ引くのも初めてだけどさ。

 

まぁ、俺達がお似合いってことだけ受け止めておくか。

正直に嬉しいし。

 

 

「よし、イッセー。私ともしてみよう」

 

「次は私です!」

 

「じゃあ、アーシアさんの次は私やるー」

 

「え? 皆、やるの? じゃ、じゃあ私も!」

 

 

というわけでゼノヴィア、アーシア、イリナ、レイナと順にやってみた。

 

 

結果は――――――

 

 

「ぜ、全員、大吉・・・・・・っ!?」

 

俺は絶句した。

 

 

何この確率!?

おかしくね!?

 

もしかして、このくじの中は全部大吉か!?

 

いや、それはないか。

俺と美羽の前にやっていた人達は中吉とか凶の人もいた。

それに今引いた人も「あちゃー! 大凶じゃん!」とか言って嘆いていたし。

 

そんな中でこの結果ってことはマジなのか・・・・・・!?

 

桐生がポンッと俺の肩を叩いた。

 

「ま、頑張んなさいよ」

 

頑張るって何を!?

 

 

「・・・・・後で分かっているな元浜?」

 

「おう。ホテルに帰ったら『イッセー撲滅委員会』の連中と共にイッセーを袋叩きにするぞ」

 

隅で男二人がとてつもない殺気を放ってる!

 

『イッセー撲滅委員会』って何だ!?

 

名前からして不吉な予感しかしねぇ!

 

 

俺達はその後、寺を一回りし、記念品を手軽く買うとバス停へと向かった。

 

「次は銀閣寺ね。もう十時過ぎだし、少し急ぎましょう」

 

 

 

 

 

 

「銀じゃない!?」

 

銀閣寺に到着し、寺を見たゼノヴィアが開口一番に叫んだのがそれだった。

 

銀閣寺は銀じゃないってのワリと知られてることだと思うんだけど、この様子じゃ知らなかったんだな。

 

ポカーンと開いた口が塞がらないくらいに驚いていた。

 

「ゼノヴィアさんはお家でも『銀閣寺が銀で、金閣寺が金。きっと輝いているのだろうな』と言っていたものですから」

 

アーシアがゼノヴィアの肩を抱いて言った。

 

ドンマイだ、ゼノヴィア。

 

「建設に携わった足利義尚が死んだとか、幕府の財政難とかで銀箔を貼るのは中止になったんだって。まぁ、金閣寺は金だから、元気だしなさいよ」

 

桐生がそう説明しながら、ゼノヴィアを励ましていた。

 

ゼノヴィアも「そうか、金に期待しよう」と少し立ち直った。

 

 

 

 

 

 

「金だっ! 今度こそは本当に金だ!」

 

金閣寺に到着し、ゼノヴィアが開口一番に叫んだのがそれだった。

 

銀閣寺の時とは違ってかなりテンション上がってるな。

 

喜んでいるのなら何よりだ。

 

「金だぞぉぉっ!」

 

両手を上げてゼノヴィアが瞳を輝かせていた。

 

確かに金閣寺は金ピカだ!

実際に見ると思っていたよりも輝いていて、圧倒されそうだ!

 

辺りには他の生徒達も来ていて、木場の姿も見えた。

 

「よう、木場」

 

「あ、イッセー君。やっぱり来ていたんだね」

 

「まぁな。金閣寺は名所中の名所だしな」

 

なんて会話をしながら俺達も写真を撮っていく。

 

撮った写真は部長達にも送信っと。

しっかり楽しんでいることを報告しておこう。

 

 

「金だぞぉぉぉおおおおっ!!!」

 

 

ゼノヴィアが再度叫んでいた。

 

うん、そろそろ落ち着こうか。

 

人の目が集まってきてるから。

 

 

 

 

 

 

銀閣寺、金閣寺と連続で回り、お土産を買い、そして今は休憩所で一休みしている。

 

和服のお姉さんが淹れてくれた抹茶と和菓子を満喫しつつ、撮った写真を見返していく。

 

うん、バッチリバッチリ。

 

「・・・・・金ピカだった」

 

ゼノヴィアは未だに金閣寺を見た余韻に浸っていた。

よほど感動したらしいな。

 

にしても今日はゼノヴィアの見たところがない側面を見れた気がする。

 

今日、一番楽しんでたのはゼノヴィアじゃないかな?

 

まぁ、俺も楽しんでるけどね。

 

「美羽、口にきな粉がついてるぞ」

 

「あ、ホントだ」

 

なんて会話をしていると―――――ふいにケータイが鳴った。

 

かけてきたのは朱乃さんだ。

 

「もしもし。どうしたんですか、朱乃さん?」

 

『もしもし。イッセー君? 大したことではないのだけれど・・・・・・。小猫ちゃんが気になることを言っていたの』

 

「気になることですか?」

 

『さっき、写メを送ってくれたでしょう? 金閣寺が写ったやつ。その写真にね、写っているらしいのよ』

 

「写っている?」

 

『ええ、狐の妖怪が何体か写っているそうなの。何か起こっているの? まぁ、狐の妖怪自体は京都では珍しくないのだけれど・・・・・』

 

朱乃さんの少し心配げな声。

 

 

狐の妖怪、か。

さっきから感じてる視線はそれだったわけね。

 

敵意も感じないから放置しておいたんだけど・・・・・・。

 

朱乃さんや小猫ちゃんが言うなら少し警戒を強めておくか。

 

「いえ、大丈夫ですよ。今のところ何か起きてる訳でもありませんし」

 

『本当に? イッセー君がそう言うのであれば大丈夫だとは思うのだけれど・・・・・』

 

「まぁ、何かあったらこっちから連絡しますよ」

 

 

そこで俺は電話を切った。

 

先生には部長達を心配させないように、九尾のことは伏せておくよう言われてるしな。

今はこれで良いだろう。

 

一応、もう一度写真を確認してみたけど、特に変わったところはない。

猫又である小猫ちゃんだからこそ気づいたのかな?

 

 

ここはアーシア達にも伝えておくのが良いんだけど・・・・・・。

 

少し遅かったな。

 

 

お茶屋の方では松田、元浜、桐生が眠りこけている。

他の一般の観光客も同様。

 

起きているのは俺と美羽、アーシアにゼノヴィア、イリナとレイナだ。

 

ゼノヴィアが女性店員を怖い顔で睨み付けているのに気づいた。

まぁ、警戒するわな。

 

だって、明らかに人間ではないもんな。

 

頭部には獣耳で、腰には尻尾。

京都の妖怪か。

 

俺は立ち上がり、女性店員さんに尋ねてみる。

 

「俺達に何の用かな?」

 

 

すると―――――――

 

 

 

「ようやく見つけましたよ」

 

聞き覚えのある声に俺達はそちらを向く。

 

そこにいたのはロスヴァイセさんだった。

 

「ロスヴァイセさん? どうしてここに?」

 

「あなた達を迎えに行くようにとアザゼル先生から頼まれました」

 

「先生に? それにこの妖怪さん達は・・・・・」

 

「大丈夫です。彼らはあなた達に害をなすつもりはありません。私同様、あなた達を迎えに来たのです」

 

「というと?」

 

「つまりですね、誤解が解けました。九尾のご息女があなた達に謝りたいと言うのです」

 

 

なるほど・・・・。

そういうことか。

 

どうやら、先生たちが上手くやってくれたみたいだ。

 

納得していると、獣耳のお姉さんが前に出て深々と頭を下げてきた。

 

「私達は九尾の八坂に仕える狐の妖でございます。先日は申し訳ございませんでした。我らが姫君も謝罪したいと申されておりますので、どうか私達についてきてくださいませ」

 

「ついて来いって・・・・どこに?」

 

「我ら京の妖怪が住まう裏の都です。魔王様と堕天使の総督殿、それから龍王ティアマット殿も既にいらっしゃいます」

 

「あ、ティアもいるんですね」

 

俺がそう言うとロスヴァイセさんが答えた。

 

「はい。途中で合流することになりました。それに今回の話は彼女にも聞いてもらった方が良いと思います」

 

「それもそうですね。それじゃあ、案内お願いします」

 

「かしこまりました。それではこちらへ」

 

 

俺達は獣耳の案内を受けて、裏の都とやらに行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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5話 姫の気持ち

金閣寺近くの人気のない場所に設置した鳥居。

 

そこを潜った先にあったのは完全な別世界。

 

江戸時代の町並みのセットのように、古い家屋が立ち並んでいる。

まるで時代劇の世界に入り込んだようだ。

 

薄暗い空間と独特の空気。

そして、そこに住まう妖怪達が俺達を迎えてくれていた。

 

一つ目の大きな顔の者もいれば長い首をもった者。

他にも立って歩く狸や河童など様々だ。

それら全てが俺達に好奇の視線を向けてくる。

 

 

この間の狐の姫様がいるところまで狐のお姉さんが案内してくれている。

 

「ここが妖怪の世界なんですか?」

 

「はい。ここは京都に住まう妖怪が身をおく場所です。悪魔の方々がレーティングゲームで使うフィールド空間があると思いますが、あれと似たような方法でこの空間を作りだしています」

 

「へぇ、妖怪の世界でもレーティングゲームって知られてるんですね」

 

「レーティングゲームの試合の様子はこちらでも見ることができるのですよ。中には熱狂的なファンもいます」

 

「なるほど。この世界は裏の都って呼ばれてるんでしたっけ?」

 

「他にも裏街、裏京都などとも呼んでおります。大抵の妖怪はここに住んでいますが、中には表の京都に住む妖怪もおります」

 

「へぇ」

 

妖怪にも色々あるんだな。

 

 

家屋が立ち並ぶ場所を抜けると林に入る。

そこを更に進むと巨大な赤い鳥居が現れた。

 

かなりの大きさだな。

千本鳥居で見たやつよりも三倍くらいあるか?

 

先生とセラフォルーさん、ティアを鳥居の先に発見。

 

「お、来たか」

 

「やっほー、待ってたわよ☆」

 

「よ、イッセー」

 

三人に手を振って返す俺。

 

すると、二人の間に金髪の少女がいた。

あの九尾の娘さんだ。

 

今日は巫女装束ではなく、戦国時代のお姫様が着るような豪華な着物を着ていた。

こうして見ると確かに小さなお姫様って感じだ。

 

「九重様。皆様をお連れいたしました」

 

俺達を案内してくれた狐のお姉さんはそう言うとドロンと炎を出現させて消えてしまった。

 

今のが狐火ってやつなのかな?

漫画とかでよく見るけど実物を見れるとはね。

 

 

お姫様は俺達の方に一歩出てきて口を開く。

 

「私は京都に住まう妖怪達を束ねる者――――八坂の娘、九重と申す」

 

そう自己紹介をした後、深く頭を下げてきた。

 

「先日は申し訳なかった。お主達を私の勘違いで襲ってしまった。どうか、許してほしい」

 

と、この間のことを謝ってきた。

 

皆の方を見ると、俺に視線が集まっていた。

 

 

まぁ、実際にやり合ったのは俺だし・・・・・・。

そういえば、俺と美羽以外の皆は松田達のことを任せていたから出会ってすらないんだよね。

 

この感じだと俺に任せるってことなのかね?

 

「まぁ、誤解が解けたのなら俺はいいよ。一応、そっちの事情も聞いてるからさ、気にしないでくれ」

 

「し、しかし、私はお主達に危害を・・・・・」

 

あらら・・・・。

なんか、かなり気にしてるみたいだな。

 

危害って言われても特にそれといった危害は受けてないんだよね。

 

俺は片膝をついて九重に視線を合わせる。

 

「九重はさ、お母さんが心配でああいうことをしたんだろう?」

 

「あ、ああ・・・・・だが、そのせいでお主達に迷惑を・・・・・・」

 

「だから、九重は俺達に謝った。間違ったことをしたと思ったから・・・・・・だろ?」

 

「もちろんだとも」

 

「それなら俺は・・・・・俺達は九重のことを責めたりはしないよ。九重はちゃんと謝ってくれたからな」

 

そう言って俺は笑顔で九重の頭を撫でてあげた。

 

九重はというと、顔を真っ赤にしてモジモジしながら呟いた。

 

「・・・・・・あ、ありがとう」

 

「おう!」

 

ま、こんな感じかな?

 

誤解も解けたし、九重も謝ってくれた。

一先ずはこれでOKだろ。

 

 

あ、そういえば・・・・・・

 

俺は九重に耳打ちする。

 

(あのさ、俺が投げ飛ばしたあの人達、大丈夫? 割りと本気で投げちゃったからさ・・・・・・)

 

(あやつらは私が連れていた中でもそれなりの手練れ。あれくらいなら大丈夫じゃ。・・・・・・まさか、ああも簡単にあしらわれるとは思わなかったが・・・・・・)

 

あははは・・・・・・。

ま、まぁ、無事なら何よりかな?

 

 

俺が立ち上がると先生が小突いてきた。

 

「流石は勇者・おっぱいドラゴン様だ。子供の扱いが上手いな」

 

「ここで勇者の肩書きを出さないでください。それに自分から名乗ったことはありませんよ」

 

「いいじゃねぇか。おまえがどう言おうと周囲からはそう言われてたんだしよ」

 

まったく、この人は・・・・・・。

これ以上は言っても無駄だから言わないでおこう。

 

「こんなところでおっぱいドラゴンの布教を広げようとするなんて! 私も魔女っ子テレビ番組『マジカル☆レヴィアたん』の主演として負けていられないわ!」

 

なんか対抗意識燃やされてる!?

 

こんなことで対抗しないで!

 

ったく、どこでも魔王様はいつも通りなんですね!

 

 

そんなやり取りをしている俺達に九重が言った。

 

「・・・・・私がこのような事を言うのは身勝手だとは思う・・・・・じゃが! どうか・・・・・どうか、母上を助けるために力を貸してほしい!」 

 

 

 

 

 

 

俺達は屋敷に入り、事の顛末を聞いていた。

 

 

この京都を仕切る九尾、八坂さんは須弥山の帝釈天から遣わせれた使者と会談するために数日前に屋敷を出たという。

 

ところがその八坂さんは会談の時間になっても姿を現すことがなく、そのまま連絡が取れなくなった。

 

このことを不審に思った妖怪サイドが調査を行ったところ八坂さんの護衛についていた烏天狗を瀕死の状態で保護した。

 

「その後、その者が母上が襲撃を受け、さらわれたことを伝えてくれたのじゃ」

 

「その天狗は?」

 

「もう・・・・・」

 

俺の問いに九重は悲しげな表情で首を横に振った。

 

先生達の見立てでは今回の件に『禍の団』が絡んでいる可能性は高いとのことだ。

 

「各勢力が手を取り合おうとすると、こういうことが起こりやすい。オーディンの時はロキ。そんでもって、今回はテロリストってことだ。どいつもこいつも面倒な奴らばかりだ。そんなに俺達が気に入らないのかね?」

 

先生が不機嫌そうに言う。

 

平和な日々を願う先生のことだ、きっと腹の内は煮えくり返ってるのだろう。

 

ま、それは俺もか。

 

 

九重の脇に座る天狗の爺さんが言う。

 

「総督殿、魔王殿。どうか、八坂姫を助けるため、力をお貸しいただけないじゃろうか? 我らに出来ることならば何でもいたす」

 

この天狗の爺さんは天狗の長で古くから九尾の一族と親交が深いそうだ。

今回もさらわれた八坂さんを助けるために集まってくれた。

 

 

天狗の爺さんは一枚の絵画を見せてくれた。

 

「ここに描かれておりますのが八坂姫でございます」

 

そこに描かれているのは巫女装束を着た金髪美女!

頭部にはピンと立った狐耳!

 

そして、おっぱいがチョーデカい!

巫女装束の上からも分かるそのボリューム!

 

これが九重のお母さんなのか!

 

「お兄ちゃん、涎垂れてる」

 

ハッ!

 

いかんいかん!

九重が困っているときにこんな卑猥なことを!

 

いや・・・・・・でも、ここまでの美女とは思わなかったから・・・・・。

 

 

俺が涎を拭っていると先生が言う。

 

「八坂姫をさらった奴らが京都内にいるのは確実だろう」

 

「どうして分かるんですか?」

 

「京都全体の気が乱れてないからだ。御大将――――九尾の狐はこの地に流れる様々な気を管理し、バランスを保つ存在でもある。京都ってのはその存在自体が巨大な力場だ。もし九尾がこの地を離れるか殺害されていれば京都には異変が起こるんだよ。まだそれがないってことは御大将は生きてこの京都にいるってことさ。そして、さらったテロリスト共もそこにいるだろうぜ」

 

やっぱり京都って特別な都市なんだな。

 

でも、そうなら少し急がないとヤバイか。

 

テロリストが八坂さんをさらったってことはだ、少なくとも八坂を使って何かするということ。

それで、八坂さんの身に何かがあれば、それによる被害は京都中に出ることになる。

 

「セラフォルー、悪魔側での調査はどうなっている?」

 

「今も動いてもらってるけど、情報はないわ」

 

「ティアマットは?」

 

「私の方も同じくだ」

 

先生は二人の報告を聞いてむぅと唸ると俺達を見渡す。

 

「おまえ達にも動いてもらうことになるかもしれん。人手が足りなさすぎるからな。強者との戦いに慣れているおまえらなら、いざというときにも動けるだろう。その時が来たら頼むぞ」

 

『はい!』

 

先生の言葉に俺達は応じた。

 

九重が手をつき深く頭を下げる。

脇に座る天狗の爺さんと狐のお姉さんもそれに続く。

 

「どうかお願いじゃ・・・・・母上を助けるのに力を貸してくれ・・・・・・・。どうか・・・・・・お願いします・・・・・・!」

 

震える声で言う九重。

 

畳にはポロポロと涙が零れていた。

 

 

俺は立ち上がり、九重に言った。

 

「任せとけ! 俺達が九重のお母さんを取り返す! そんでもってテロリストの奴らもぶちのめしてやるよ!」

 

 

どんな理由があるにしろ、こんな小さな女の子を泣かせるような奴は―――――潰す。

 

徹底的にな。

 

俺の中ではテロリスト共に対する怒りが燃え盛り始めていた。

 

 

 

 

 

 

「あー、疲れた・・・・・・」

 

 

ボフッ

 

 

部屋に入って早々に布団へとダイブ。

 

夕食も済ませたし風呂も入った。

 

いやー、今日は色々あって疲れたわ。

 

 

妖怪の世界――――裏京都を出た後、俺達は金閣寺に戻り、寝ていた松田達を起こして観光を再開。

お土産を買ったり、今日予定していた他の名所も無事に回ることが出来た。

 

ホテルに帰ってからは木場やシトリー眷属とも今後についても話し合った。

まぁ、先生達から連絡があるまでは観光をつづけるんだけどね。

 

 

明日は嵐山にいく予定なんだけど、なんと九重がガイドをしてくれることになった。

 

俺達を襲ってしまったお詫びとのことだ。

俺達はもう気にしてないんだけど、あちら側の好意もあるからね。

とりあえず、受けておいた。

 

母親をさらわれて九重も不安だろうけど、明日の観光で少しでも気をまぎらわせることが出来れば良いな。

 

 

九重と一緒に観光ということは松田達の前に姿を現すということだろ?

耳とか隠せるのかな?

 

まぁ、小猫ちゃんも普段は隠してるし、問題ないとは思うけど。

 

 

それにしても、九重の耳・・・・・・フワフワしてた・・・・・・。

 

うーむ、もう一度くらいは触ってみたいものだ。

 

 

さてと、今から何をするかな。

 

松田と元浜は女子風呂を覗きに行くだろうし。

まあ、風呂の見張りにはロスヴァイセさんとシトリー眷属がいるとのことだから確実に死ぬだろう。

 

俺は二人とは別ルートで行ってもいいが・・・・・・・。

 

 

すると――――

 

 

 

コンコン

 

 

 

部屋の扉がノックされた。

 

この感じは美羽か。

 

俺は起き上がって部屋の扉を開ける。

 

 

そこには浴衣を着た美羽が立っていた。

 

風呂上がりなのか、髪がしっとり濡れていて頬が少し赤い。

水滴が美羽の首筋をつたい、そのまま胸へスーッと流れ落ちる―――――

 

 

ぐっ・・・・・・・なんとも言えない色気があるな!

 

「遊びにきたよ、お兄ちゃん。・・・・・ってどうしたの? 鼻血出てるよ?」

 

「えっ・・・・あ、ホントだ」

 

美羽の浴衣姿って初めて見たけど、可愛いし・・・・・・なんか色気が半端じゃない。

風呂上がりってのもあるんだろうか?

 

「ま、まぁ、上がってくれ」

 

「じゃあ、お邪魔しまーす」

 

俺は美羽を部屋に招き入れ、とりあえず鼻血を拭う。

 

 

『妹の浴衣姿に欲情か』

 

うるせー!

 

浴衣の間から見えるおっぱいについ反応しちゃうんだよ!

仕方がねぇだろ!

 

「とりあえず、ジュースでも飲むか? 冷蔵庫に色々入ってるけど」

 

「そうだね。何があるの?」

 

「オレンジとリンゴ、ブドウもあるし、あとはミックスジュースかな」

 

「そんなに買ったの?」

 

「いや、元から入ってた。ほら、俺だけ部屋がこんなだろ? それの代わりか何かは知らないけど、この部屋の飲み物は結構充実してたんだよ。ホテルの人に聞いたら全部タダで飲んで良いって言われてさ」

 

「へぇ、それじゃあ飲み放題ってことだね」

 

「ま、そうなるな」

 

俺は二人分のコップにジュースを注ぎ、片方を美羽に手渡す。

 

美羽は腰に手を当て、一気に飲み干した。

 

「プハァー。お風呂上がりの一杯って良いよね」

 

「おじさんかよ」

 

「もうっ。ボク、まだまだ若いよっ」

 

プクッと頬を膨らませる美羽。

 

「ははっ、冗談だって」

 

いやー、反応が一つ一つ可愛いよね。

 

俺は笑いながら、コップに口をつける。

 

「二日目を終えたわけだけど、初の京都はどうだった?」

 

そう、美羽はゼノヴィア達と同じで今回が初の京都だった。

そのため、前々から下調べしたり、修学旅行の準備も張り切ってしてたんだ。

 

美羽と一緒に買い物に行ったりもしたっけな。

 

 

ちなみに俺は以前に一度来たことがある。

 

あれは小学校低学年の時だったかな?

転校していった友達の家が京都にあって、遊びに来たことがあるんだよね。

 

まぁ、その友達も今は引っ越して九州にいるけど。

 

美羽は二日間の思い出を振り返りながら微笑む。

 

「すごく楽しかったよ。どこの名所も立派なものばかりだったしね。ゲイルペインに住んでいた頃には見たことが無いものばかりだったよ。それに・・・・・・」

 

「それに?」

 

「友達とこうして旅行に来てワイワイすることなんてほとんどなかったから、それが一番の思い出なんだ」

 

そっか。

 

そういえば、昔の美羽はギャスパーみたいに引きこもりだったな。

エルザとかと遊ぶこともあったみたいだけど、基本的には室内で遊ぶことが多かったらしいし。

 

中学のころは三年生からだったから二年生の修学旅行には参加できなかったしな。

今回が美羽にとって初めての修学旅行になるのか。

 

そういうところではアーシアとかゼノヴィアとかと変わらないか。

 

「まぁ、楽しかったのならそれでいいさ。美羽が喜んでくれるなら俺も嬉しいしな」

 

「お兄ちゃんは楽しかった?」

 

「もちろん」

 

まぁ、色々あったけどな。

 

 

そんな感じで俺と美羽がこの二日間の思い出を語り合っていると――――――――

 

『イッセー!』

 

『ついに見つけたぞ!』

 

廊下から松田と元浜の声が!

ドタバタと走ってきている!

 

俺の部屋に入ろうってのかよ!

 

「美羽、遮断結界を頼む」

 

「えっ? なんで?」

 

「久しぶりの兄妹水入らずをあいつらに邪魔されてたまるか」

 

「あ・・・・うん」

 

美羽は頷くと、魔法陣を展開。

俺と美羽を囲むように小さなドーム状の結界が形成される。

 

これであいつらからは俺と美羽の姿が見えることは無いしこちらの声が聞こえることも無い。

 

 

バタンッ

 

 

勢い良く扉が開かれ、松田と元浜の二人が現れた。

 

松田が部屋を見渡して言う。

 

「あれ? イッセーのやついないじゃん」

 

まぁ、俺達からはバッチリ見えてるけどね。

あいつらからは俺達の姿は目視できない。

 

「もしかしたら、あいつも女湯が覗けるという例のスポットの存在を知ったのかもしれん!」

 

「なに!? いや、あいつなら気付いていても不思議じゃない! 先に覗くつもりか!?」

 

「そうに違いない! 行くぞ松田! あいつにだけ良い思いをさせるな!」

 

「おおっ!」

 

 

ドタドタと走り去っていく二人。

 

ていうか覗きが出来るスポットだと!?

そんな場所があったのか!?

 

き、気になる!

行ってみたい!

 

 

だが!

今はこの時間を大切にしたい気持ちで一杯だ!

 

ここは・・・・・・美羽を優先する!

 

 

「そろそろ解いても良いかな?」

 

「そうだな・・・・・・いや、ちょっと待った。誰か来た」

 

 

人が近づいてくる気配を感じて美羽を制止する。

 

すると、現れたのはアーシア、イリナ、ゼノヴィアの教会トリオだった。

 

三人は俺の部屋を覗くと首を傾げる。

 

「イッセーさん?」

 

「いないな。どこかに出かけているのか?」

 

「女湯覗きに行ってるのかも。イッセー君ならしそうだし」

 

俺ってやっぱりそーいうイメージなのね。

まぁ、否定はしないけど。

 

美羽とのおしゃべりがなければ覗きに行ってたかもしれないし。

 

 

とりあえず、この三人なら結界を解く瞬間を見られても問題ない。

 

俺は美羽に結界を解くように言おうとすると――――――――

 

 

美羽に口を手で覆われて、布団に押し倒された!

 

突然のことに慌てる俺に対して美羽は人差し指を立てて「しーっ」と言ってくる!

 

な、何ごとっ!?

 

 

そんなことになってるとは気付かず教会トリオは、

 

「しかたがない。時間を改めてまた来よう」

 

「そうですね」

 

「じゃあ、卓球しにいかない? 勝負よゼノヴィア!」

 

「のぞむところだ!」

 

「とりあえず、誰もいないようだし電気だけ消しときましょうか」

 

 

パチンッ

 

 

イリナが気を使ってくれたのか、部屋の電気を消してしまった!

節電は大切だよね!

ありがとう、イリナ!・・・・・・ってそうじゃなくて!

 

そして、三人は扉を閉めてここから去ってしまう!

 

 

 

え、ええええええええええええええええっ!!!

 

 

何、この状況!?

どうすればいいのこの状況!?

 

 

真っ暗な部屋に俺と美羽の二人だけ!

しかも、俺は美羽に布団の上に押し倒されてる!

展開が急すぎてわけが分からねぇ!

 

「お、おい・・・・・・美羽? ど、どうしたんだ?」

 

俺は恐る恐る尋ねてみる。

 

流石にこの展開は考えてなかったから何が何だか分からない状態だ。

 

「ボクね・・・・こっちに帰ってきてからずっと、お兄ちゃんに伝えたいことがあったんだ・・・・・それで、二人きりになる機会を探してたの・・・・」

 

「二人きり?」

 

「うん。家だと皆がいるからね」

 

確かに家では部長達もいて二人きりになる時間は無かった。

それにアスト・アーデから帰ってきてからはライザーの更生計画だの、アリスの町探索とかで忙しかったもんな。

 

それにしても伝えたいことってなんだ?

それも態々二人っきりでなんて・・・・・・。

 

何か悩み事でもあるのだろうか?

それも他人には聞かせられないようなこと・・・・・?

 

それならば、俺はしっかり訊いてやらないと!

兄として妹の力になってやらねば!

 

そう自分に言い聞かせる俺の上では、

 

 

 

(押してダメなら押し倒せ)(押してダメなら押し倒せ)(押してダメなら押し倒せ)(押してダメなら押し倒せ)・・・・・・・」

 

 

 

何やら念仏のように呟いているんだけど・・・・・・。

 

俺が怪訝に思っていると美羽が口を開いた。

 

「お、お兄ちゃん・・・・」

 

「お、おう。な、なんだ・・・・?」

 

聞き返す俺。

 

そして、美羽から出た言葉は―――――――――

 

 

「お兄ちゃんは・・・・・イッセーはボクのことを妹としてしか見れない? 一人の女の子としてはもう見れないかな・・・・・?」

 

 

「へっ・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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6話 兄妹と恋人

「お兄ちゃんは・・・・・イッセーはボクのことを妹としてしか見れない? 一人の女の子としてはもう見れないかな・・・・・?」

 

「へっ・・・・・?」

 

一瞬、俺は美羽が何を言っているのか分からなかった。

 

この状況に思考がついてこれず、ただただ混乱するだけ。

 

部屋は真っ暗で(まぁ、消したのはイリナだけど)俺は布団に押し倒され、上には美羽がまたがってる状況だ。

 

突然こんなことをしてくるんだ、混乱しないわけがない。

 

俺が必死に状況を理解しようとする中、美羽は再度口を開く。

 

「どう・・・・・・かな?」

 

「どう、と言われても・・・・・・なんでそんなことを?」

 

一人の女の子としてって・・・・・・・。

 

しかも、美羽はいつものように「お兄ちゃん」とではなく「イッセー」と呼んだ。

 

それはつまり――――

 

「ボクは・・・・・イッセーが好き・・・・・大好き。お兄ちゃんとしても、一人の男の人としても」

 

「――――っ」

 

美羽が迫ってきて俺との距離が一気に近くなる。

 

「イッセーとお父さん、お母さんがボクを家族として迎え入れてくれてボクは幸せになれた。イッセーと出かけたり、勉強したり、毎日がとても楽しいんだ。・・・・・・その毎日の中でイッセーへの想いは強くなってきて・・・・・。覚えてる? 二年生になって少し経ったときにボクがイッセーのことを好きって言ったの」

 

「あ、ああ。覚えてるよ」

 

あれは俺が悪魔になる前、まだ部長やアーシアと出会う前のことだったな。

 

誰の目から見ても美少女な美羽に誰も告白とかしてこないから怪訝に思ってた時に松田と元浜からその事情を聞いた後。

 

美羽は誰の告白も受ける気はなく、俺のことが好きだと言ってきたんだ。

 

今でも鮮明に覚えてるよ。

あまりに突然の告白だったもんで・・・・・。

 

「あの気持ちは今でも変わらないよ。ううん、あの時よりも大きくなってる。それでも、少し我慢してたんだ」

 

「我慢? なんで?」

 

「それは・・・・・これ以上幸せになっても良いのかなって。魔族で敗戦国の姫だったボクは本当なら処刑されてもおかしくはなかった。けれど、イッセーがボクを助けてくれた。・・・・・・今もこうして笑えるのはイッセーのおかげなんだ」

 

「そんな大袈裟な」

 

俺がそう言うと美羽は首を横に振った。

 

「大袈裟なんかじゃないよ。ボクは本当にそう思ってる。だからこそ・・・・・・これ以上、イッセーに求めてしまったら何だかバチが当たる気がして・・・・・・・」

 

だけど、と美羽は続ける。

 

「アスト・アーデに戻って、ロスウォードとの戦いでイッセーが倒れた時、後悔したんだ。――――もっと自分の気持ちを伝えておけば良かったって。あの時はイッセーは生きて帰ってきてくれたけど・・・・・また同じことが無いとは限らない。今回だって、また危ないことになろうとしてる」

 

美羽の言う通りだ。

 

俺はロスウォードに胸を貫かれて一度死んでる。

それでも生き返れたのはイグニスやシリウスの力があったからこそ。

もう一度、生き返れるなんてことはないだろう。

 

そして、今回はまた禍の団が絡んでる。

前回の旧魔王派の襲撃の時は何とかなったけど、今度の敵もそうなるとは限らない。

 

しかも、今の俺は籠手の力を使えない。

相手次第では苦戦することもありうる。

 

それだけじゃないな。

これからだってどんな死線が待ち受けているかも分からない。

俺が再び命を落とすことだってありうるんだ。

 

美羽の手に力が入る。

 

「もう・・・・ボクは後悔したくない! だから、今、伝えておきたいんだ! ボクはイッセーが好き! 他の誰よりも、イッセーのことが好き!」

 

俺の頬に何かが落ちてきた。

 

ふと見ると美羽はポロポロと涙を溢していた。

その涙は俺の頬に落ち、皮膚を辿って布団へと流れていく。

 

それほどまでに俺のことを想ってくれていたのか・・・・・・。

 

美羽の気持ちはしっかり伝わった。

 

妹が――――美羽が泣いてまで気持ちを伝えてくれたんだ。

伝わらないはずがない。

 

じゃあ、俺の気持ちは?

 

「美羽、俺は――――」

 

そこまで言いかけた時だった。

 

 

ガチャ

 

 

突然、部屋の扉が開いた!

俺は咄嗟に美羽を引き寄せてしまう!

 

このタイミングで来るとか誰だよ!

 

扉のところにいるのは白衣姿の男。

 

「もう消灯時間だ。さっさと寝ろよ兵藤・・・・・ってもう寝てやがるのか」

 

うちの担任だったぁぁああああああ!!!

普通に巡回に来ただけだったよ!

 

うん、文句言ってすいませんでした!

先生は真面目に仕事してるだけだもんな!

ごめんなさい!

 

「寝る子は育つってか? 修学旅行に来た生徒ってもうちょい遅くまで起きてるもんじゃないの? まぁ、寝てるなら別にいいけど。俺も楽だし。さてと、借りてきたDVDでも見るとするか」

 

 

パタンッ

 

 

先生はそれだけ言うと扉を閉めて立ち去っていった。

 

なんだよ、この変なドキドキ感は!?

心臓がバクンッバクンッしてるんですけど!

 

あれ? 

先生、今寝てるって言った?

 

「あ、そろそろ先生が巡回に来る時間だったから、結界を少し変更しといたよ。皆からはお兄ちゃんが布団で寝てるようにしか見えないんだ。こっちの姿も音も向こうに伝わらないのは同じだけど」

 

マジかよ・・・・・・。

 

用意周到だな・・・・・・。

 

「はぁ・・・・・」

 

あー、盛大にため息が出たぞ。

 

「ね、ねぇ・・・・・・」

 

美羽が顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。

 

「ん? どうした?」

 

「い、いや、えーと・・・・・・これ・・・・・」

 

美羽に言われて俺は状況を確認してみる。

 

「あ・・・・・」

 

そうでした!

俺と美羽は完全に密着しているんだった!

 

俺が抱き寄せたせいなのか、美羽の浴衣が少しはだけている!

 

「ご、ゴメン! つい・・・・・」

 

「う、ううん、大丈夫。今のは仕方がないよ・・・・・」

 

「「あはははは・・・・・・・」」

 

二人の苦笑が部屋に響く。

 

いやはや・・・・・毎回毎回タイミングが悪いことで・・・・・。

 

誰かが意図的に俺の邪魔をしてるんじゃないかと思えてくるよ。

 

俺の腕の中で美羽がモジモジしながら言う。

 

「え、えっと、それでどうかな? ボクのこと・・・・・・」

 

そうだ。

途中で予想外のことがあったけど、これにはしっかりと答えないと。

 

と言っても答えはとっくに決まってる。

 

俺は美羽を更に強く抱いて頭を撫でる。

 

「俺も美羽のことが好きだよ。妹としても。一人の女の子としてもな」

 

俺の本音だ。

 

確かに俺は周囲からはシスコンと呼ばれるほど妹の美羽を可愛がってる。

だけど、一人の女の子として好意があるのも事実だ。

 

これまで美羽は俺のことを兄として慕ってくれていたからそういった心情を表に出すことはしなかったけどね。

 

俺の答えに美羽はほっと胸を撫で下ろしている。

 

「良かった。いきなりこんなこと言っちゃったから嫌われるかと心配してたんだけど・・・・・」

 

「それはあり得ないよ。俺が美羽のことを嫌うはずがないだろ。俺は美羽の可愛いところ、おっちょこちょいなところ、全てが好きなんだからさ」

 

「・・・・・ありがとう、イッセー・・・・・お兄ちゃん」

 

そう言うと美羽は目元に涙を浮かべながら本当に嬉しそうに微笑んだ。

 

それからしばらく、俺達は互いを抱き締め合った。

 

この日、俺と美羽は兄妹の関係から少し進むことになった。

 

 

 

 

すると、美羽が起き上がる。

 

時間的にボチボチ部屋に戻るのかな?

そんな風に思っていると、

 

「お兄ちゃん。もう一つだけ良いかな?」

 

「ん?」

 

俺が聞き返すと美羽はまるで決心したような瞳で答えた―――――

 

「お兄ちゃん・・・・・・・を・・・ください・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

その言葉に俺は今日二回目の思考停止に入った。

 

「ダメ・・・・・かな?」

 

再度声をかけられて俺はハッとなる。

 

そして、

 

「え、ええええええええっ!?」

 

「ちょ、声大きいよ!」

 

「ムグッ・・・・・! ムムム・・・・・」

 

驚愕の声をあげると両手で口を塞がれてしまった!

 

く、苦しい・・・・・・・。

 

俺は美羽の手にタップする!

 

そ、それ以上されたら死ぬ!

死んでしまう!

 

ギブッ! ギブッ!

 

窒息しかけてるのを見て、美羽はパッと手を離す。

 

「ご、ゴメン! お兄ちゃんがあんなに大きな声出すから・・・・・・つい」

 

「い、いや、俺の方こそゴメン。・・・・つーか、結界あるから大丈夫なんじゃ・・・・・・」

 

「あ、ホントだ・・・・・・・ゴメンなさい」

 

「う、うん。大丈夫だよ・・・・・。俺も大きな声だして悪かったよ」

 

危うく死にかけるところだったが・・・・・・。

 

今はそんなことどうでもよくて!

 

美羽は何て言った!?

俺の聞き間違いじゃなければ、その・・・・・あれだよな!?

つまり、そういうことだよね!?

 

「え、えっと・・・・・」

 

「やっぱりボクじゃイヤ? アリスさんや他の皆の方がいい?」

 

「そ、そんなことはない! 俺だって美羽にそう言ってもらえて嬉しい!」

 

美羽を嫌がるわけがない!

 

だけどね、展開が急すぎない!?

告白を受けてからの展開がマッハなんですけど!?

 

「急なんかじゃないよ。ボクはずっとお兄ちゃんとこうしたいと思ってたんだよ?」

 

「ずっと!? って、俺の心を読まれた!?」

 

「お兄ちゃん、普段は分かりやすいんだもん」

 

マジでか!?

もしかして、小猫ちゃんとかにもそう思われてるのか!?

 

普段から表情を読み取られないように訓練でもするか?

止めとこう。

もう遅いと思うし・・・・・。

 

とりあえず、深呼吸して心を落ち着かせよう。

 

美羽は俺のことを一人の男として好きで、俺もその気持ちは同じだ。

兄妹の関係から少し外れることになるけど、お互いの気持ちが通じているなら良いとも思う。

 

それで今。

 

美羽はその・・・・・俺と・・・・・・。

 

さっきも美羽に言ったけど、そう言ってくれるのはすごく嬉しい。

美羽が求めてくれるなら俺はいつでも受け入れる。

男として責任はとりますよ、もちろん。

 

だけど、ここで一つ問題があってだな。

 

「俺・・・・・『アレ』持ってないんだ・・・・・」

 

そう言うと美羽は可愛く首を傾げる。

 

「『アレ』って?」

 

「いや、そのー、アレだよ・・・・・・」

 

うぅ・・・・・美羽の前でこの名前を口にすることになるなんて・・・・・・・

 

超恥ずかしい・・・・・・!

だが、これは言わなければ・・・・・・・!

美羽のためにも!

 

「えっとだな・・・・・このまま、普通にしちゃうと、美羽に・・・・・出来ちゃうだろ? 流石に学生のうちにそれってのは不味いんじゃないかと・・・・・・」

 

「あ、もしかしてコ○ドームのこと?」

 

おいいいいいいいいいっ!?!?

 

かなり直球だな、おい!

ストレート過ぎるわ!

こっちは出来るだけカーブをかけてたのによ!

 

「大丈夫だよ! ボク、持ってるから!」

 

「な、なにぃぃいいいいい!?!?」

 

美羽は袖の中から取り出したものは確かにそれだった!

 

なんで美羽が持ってるの!?

 

しかも箱!?

12個入り!?

 

何回戦するつもりだ!?

 

いや・・・・・これは買っておいたのが箱で態々中身を出すのが面倒だったんだよな?

うん、そうに違いない。

 

つーか、いつ買ったんだよ!

 

「これで問題ないよね?」

 

「ま、まぁ、そう、なるな・・・・・・」

 

あれ?

気のせいだろうか?

 

美羽がやたらと気合いを入れているような・・・・・・

 

「じゃあ・・・・・」

 

 

スルッ

 

 

美羽が帯をほどき、浴衣が肩を滑るようにして脱げていく。

そこから現れるのは、一糸纏わぬ美羽の姿。

 

下着・・・・・・・着けてなかったのね・・・・・・。

 

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

美羽は艶のある表情で俺に迫り――――唇を重ねてきた。

離れないようにするためか、俺の後ろに腕を回してしっかりと。

 

ああ・・・・・・ここまでされたら俺、限界だ。

 

「美羽」

 

「えっ? ひゃっ!」

 

今度は俺が美羽を布団に押し倒し、美羽の上で四つん這いになる。

 

一瞬、美羽の体が強張ったけど、それも直ぐに無くなった。

 

俺は真っ直ぐ美羽の瞳を見つめて最後の確認をした。

 

「俺も美羽が好きだ。だけど、美羽は本当に・・・・・俺で良いのか?」

 

 

すると―――――

 

 

「もちろんだよ。ボクはお兄ちゃん以外の人は考えられないよ」

 

美羽は俺の頬に手を当てて微笑んだ。

 

「そっか」

 

俺も微笑みを返す。

 

 

これ以上は聞かない。

 

俺は美羽と再びキスをする。

 

 

暗い部屋の中で俺達は重なりあった――――。

 

 

美羽を絶対に悲しませない。

悲しみの涙だけは絶対に流させやしない。

 

これで誓うのは何度目だろう。

ずっと言い続けている気がする。

 

それでも。

俺は改めて誓うよ。

 

美羽が心の底から笑顔でいられる日々を守り続けると―――――。

 

 

 

 

「うっ・・・・・・もう朝か・・・・・・」

 

 

時計を見てみると朝の五時前。

 

修学旅行だってのにこの時間に起きてしまうのはもう習慣だな。

いつもはこの時間から修行してるし。

 

ただ、いつもと違うのは体がメチャクチャ重いということ。

なんというか、激戦を終えた後みたいな感じだ。

 

えーと、何があったんだっけ?

 

 

確か――――――

 

 

俺は慌てて上半身を起こす!

 

わおっ!

俺、全裸じゃねぇか!

 

隣には俺と同じく全裸の美羽!

 

「おはよ、お兄ちゃん」

 

「お、起きてたのね・・・・・・」

 

「うん。少し余韻に浸ってたから」

 

 

余韻・・・・・・

 

 

ちょ、ちょっと待てよ・・・・・・・

 

 

そんな、そんなまさか・・・・・!

 

 

俺は布団の側にあった箱を取る!

そう、美羽が持ってきていたアレの箱だ!

 

 

中身を確認すると―――――

 

 

 

「な、無い・・・・・・」

 

 

 

中身は空っぽだった。

 

そ、そんなバカな!

 

俺は辺りを見渡してみる!

 

ゴミ箱だ!

ゴミ箱はどこだ!

 

直ぐ様にゴミ箱をチェック!

 

中には使い終えたアレとティッシュが大量に・・・・・・。

 

ま、マジでかぁぁああああああ!!!

 

じゅ、12R(ラウンド)・・・・・・!

ボクシングの世界タイトル戦か!?

 

と、途中から記憶が・・・・・・。

た、確か、ほとんど美羽が・・・・・・・。

 

まさか、美羽があそこまでスゴいとは・・・・・・・。

お兄さん、終始タジタジだったよ・・・・・・・。

 

ギギギッと後ろを振り返ると美羽はとても晴れやかな表情だった。

 

「お、おまえ、大丈夫なの・・・・? 体、重くない?」

 

「ボクは全然平気だよ?」

 

うそん。

 

お、恐ろしい・・・・・・。

 

流石は魔王の娘か・・・・・・。

 

スタミナが半端じゃねぇ。

 

「こ、声とか漏れてないよね?」

 

昨晩は結構声出てたから、周囲に響いてそうだ。

もし、聞かれてたらかなりヤバイだろうな。

 

だけど、美羽は首を横に振った。

 

「それも大丈夫だよ。結界はお兄ちゃんが寝てから解いたし、それまではちゃんと維持できてたからね。誰かに見られることも聞かれることもなかったと思うよ」

 

「そ、そうか。それは良かった」

 

つーか、俺の方が早くにダウンしてたんだ・・・・・。

 

美羽ちゃん、マジで半端ねぇ。

 

明かされた事実に衝撃を受けていると、美羽は頬を染める。

 

「ボク達、し、しちゃったんだね・・・・・」

 

「お、おう・・・・・」

 

大人の階段を猛スピードで駆け上がったな。

修学旅行先でこうなるとは思ってなかったよ。

 

美羽は布団の上に座り込み、モジモジし始める。

 

「これからどうしよっか? その・・・・・」

 

あー、なるほどね。

 

何となく言いたいことが分かったよ。

 

「これからも今までみたいに過ごせば良いんじゃないかな? 確かに俺達はお互いに気持ちを伝えあったけどさ、兄妹の関係が無くなったわけじゃないんだし」

 

「そっか・・・・そうだよね。ボクは一人の男の人としてもイッセーが好きだけど、お兄ちゃんとしてのイッセーも好きなんだし」

 

「そういうこった」

 

クスクスと笑う俺達。

 

「さて、と。目が覚めちまったし、朝食までは時間がある。散歩でも行くか?」

 

「そうだね。っとその前に」

 

そこまで言うと美羽は俺に抱きついてきた。

 

そして―――――

 

 

チュッ

 

 

俺の頬にキスをしてきた。

 

「なっ!?」

 

不意打ちに驚く俺。

 

そんな俺を見て美羽はクスッと笑った。

 

「大好きだよ、お兄ちゃん」

 

 

 

 

散歩を終えて、俺達は朝食に向かう途中だった。

 

廊下の隅でバッタリと桐生と遭遇する。

 

「おっす、桐生」

 

「おはよー、桐生さん」

 

「おっ、朝から一緒とは相変わらず仲が良いわねーお二人さん」

 

「ま、まぁな」

 

修学旅行先のホテルで励んでいたなんて言えない・・・・・・。

 

ってか、桐生と美羽とレイナは同じ部屋じゃなかったか?

昨晩、美羽が部屋にいなかったことを不審に思わなかったのだろうか?

 

俺が怪訝に思っていると、桐生は眼鏡をキラーンと光らせて美羽に言った。

 

「で? 昨晩は上手くいったのかな?」

 

「うん。桐生さんのおかげで。貸してくれてありがとね」

 

「フッフッフッ。こんなこともあろうかと用意しといた甲斐があったわね」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・え?

 

 

 

昨晩・・・・・・?

 

 

 

貸すって何を・・・・・・?

 

 

 

すいません、何か嫌な予感がするんですけど。

 

 

「でも、ゴメンね。全部使っちゃったんだ」

 

「全部!? ひゃー、流石にそれは予想外だわ。兵藤、あんたどれだけ出すのよ?」

 

桐生が心底驚いたようにオーバーなリアクションを取る。

 

 

 

あれ・・・・・・なんか、嫌な汗が・・・・・・・。

 

 

 

背中の方が冷たくなってきてるんですけど。

 

 

俺は恐る恐る口を開いた。

 

 

「な、なぁ、美羽。昨日のアレってもしかして・・・・・」

 

すると、桐生がそれに答えた。

 

「コ○ドームは私があげたのよ。修学旅行といえばこういうイベントもあると思ってね。まさか、全部使われることになるとは思わなかったけど」

 

美羽が持ってきたのは、自分で買ったのではなく、桐生に借りたものだと!?

 

 

ってことは昨晩のこと、こいつは―――――

 

 

「ま、あんたら兄妹というより、恋人に近かったんだから良いんじゃない? どーせ、そのうち合体すると思ってたし。良い思い出になったんじゃないの? あ、でもアーシアとかゼノヴィアのこともよろしく頼むわよ、兵藤」

 

「お、おい、き、桐生?」

 

呼び止めようとすると、桐生は口に手を当ててスケベな笑みを浮かべた。

 

「ムフフ、それじゃあ、私は先にいくわ。お二人とも末長くお幸せに~」

 

そう言い残すと桐生はホールの方へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なあぁぁぁぁぁああああああ!?!?」

 

 

 

 

 

 



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7話 嵐山へレッツゴー!!

「なぁ、おまえら、その顔どうしたんだよ?」

 

 

朝食を終えて、班に合流すると松田と元浜の顔が腫れ上がっていた。

バンソーコーやらガーゼやらが顔中に貼られている。

 

「なぁに、名誉の負傷さ」

 

松田が胸を張って言うが・・・・・・・。

 

 

そういや、こいつら女湯覗きに行ったんだっけ?

 

この様子だと、女湯を覗けるという例のスポットはシトリー眷属に抑えられていたみたいだな。

そんでもって、こいつらは強引に突破しようとしたと。

 

シトリー眷属に勝てるわけねぇだろ。

女子とはいえ、悪魔だからね。

しかも部長とのゲームに負けてからは相当な修行を積んでるらしいし。

 

 

ってか、さっき俺にも嫌疑がかかったな。

シトリー女子に問い詰められたよ。

 

アリバイを聞かれたんだが・・・・・・昨晩は美羽と・・・・・しちゃってたからね。

流石にそのことは言えるわけがなく、困ってたんだ。

 

最終的には美羽と事情を知る桐生が口裏を合わせて助けてくれたけど・・・・・・。

 

 

うぅ・・・・・。

なんか、とんでもない奴に弱味を握られた気分だ。

 

ま、まぁ、桐生はああ見えて良いやつだから大丈夫・・・・・・・だと思いたい・・・・・・。

 

 

「ムフフフ」

 

 

桐生が口に手を当ててスケベな笑みを浮かべてる!

 

大丈夫なの!?

 

本当に大丈夫なのか、これ!?

 

 

すると、元浜が怪訝な表情で訊いてきた。

 

「ところで・・・・・・おまえは何があったんだ?」

 

「えっ? な、何が?」

 

「何がってその状況についてだが」

 

 

元浜が俺を指差してくる。

 

いや、正確には俺達(・・)か。

 

 

ゼノヴィアが呟く。

 

「今日の美羽はやけに積極的だな」

 

 

今の俺の状況を説明しよう。

 

俺は今、美羽と腕を組んで歩いています。

 

ホテルを出てからずっと。

 

「~♪」

 

美羽はかなりご機嫌な様子で少し鼻歌も歌ってる。

俺からしたら可愛いし別に良いんだけどね。

 

ただ、美羽がいつも以上に積極的だから皆の視線が・・・・・・ね。

 

 

「普段から仲が良いのは知っているが、今日はいつも以上だな」

 

 

うっ・・・・・!

 

 

言えない・・・・・・。

こんな状況で言えない。

いや、どんな状況でも言えない。

 

言えば松田と元浜は血の涙を流して永遠に追いかけてくるに違いない。

 

それだけじゃない。

美羽は学年でも人気のある女子生徒だ。

ここで明らかになれば、『イッセー撲滅委員会』なるものが大挙して迫ってくるだろう。

 

 

・・・・・・つーか、イッセー撲滅委員会って何だ!?

 

 

とにかく、どうにかして乗りきらなければ!

 

「き、気のせいだよ。お、俺達はいつもこんな感じだぜ?」

 

「声が上ずってるぞ。しかも何故に疑問形?」

 

「な、なんのことかなぁ~」

 

 

それ以上聞いてくれるな元浜よ!

 

世の中には知らない方が良いこともあるのだ!

 

 

 

 

 

 

今日は嵐山周辺の観光だ。

 

まず向かうは天龍寺!

 

 

俺、二天龍だから縁がありそうな気がするんだよね。

 

なぁ、ドライグ。

天龍寺っておまえかアルビオンに由縁があるのか?

 

『(どうだったかな。昔、京都で戦いをしたようなしてないような)』

 

どうやら、記憶が曖昧らしい。

暴れてたにしろ、相当昔のことなのかもな。

 

 

大きな門を潜り境内を進む。

受付で観光料金を払い、中を見ようとした時だった。

 

「おおっ、待っておったぞ」

 

建物の影から巫女装束の金髪少女が現れた。

 

「よっ、九重。今日はよろしく頼むぜ」

 

「うむ! 任せておけ!」

 

元気よく答える九重。

この間のような暗い表情は今日は見えない。

 

獣耳と尻尾は隠していた。

まぁ、一般の人もいるし当然か。

 

松田と元浜が九重を見て驚いていた。

 

「はー、可愛い女の子だな。イッセー、いつの間にこんなちっこい子をナンパしてたんだよ?」

 

「・・・・ハァハァ・・・・・ちっこくて・・・・・・可愛いな・・・・・」

 

元浜の息づかいが危険なものに!?

 

しまった!

こいつは真性のロリコンだった!

九重みたいな子はこいつにとってはどストライクじゃないか!

 

とりあえず、警察にでも突き出しておくか!?

 

 

「やーん! 可愛い! 兵藤、どこでこんな子を掴まえたのよ?」

 

桐生が元浜をぶっ飛ばし、九重に抱きついた!

頬擦りまでしてるよ!

おまえもちっこい子が好きなのか!

 

つーか、掴まえたって言い方止めろ。

色々あったんだよ。

 

「は、離せ! 馴れ馴れしいぞ! 小娘!」

 

「うーん! 可愛すぎるわ! お姫様口調とか最高じゃない!」

 

 

あー、ダメだこりゃ。

九重の声は届いてないな。

 

このまま放置してたら、桐生が九重を可愛がって一日が終わってしまいそうだ。

 

こいつなら、それくらいやりかねん。

 

俺は桐生を九重からベリッと引き剥がす。

 

「この子は九重。ちょっとした知り合いでな。今日は俺達の観光案内をしてくれることになってるんだ」

 

「九重じゃ、よろしく頼むぞ」

 

えっへんと堂々とした態度の九重。

 

その姿に元浜と桐生の眼鏡がキラーンと光っていたのは無視しよう。

 

「それじゃあ、早速お願いするよ、九重」

 

「もちろんじゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで俺達は九重のガイドのもと天龍寺を始めとした嵐山の名所を回る。

 

俺達に一生懸命紹介しようとする姿は微笑ましいものだった。

 

 

天龍寺に二尊院、竹林の道、常寂光寺。

 

九重が予め名所のルートを考えてくれていたおかげで、当初の見込みよりも多くの名所を観光することができた。

 

小さいのにしっかりしていて、松田達も「へぇ」と感心していた。

 

九重は自ら案内を申し出たこともあって、責任感とかもあったのかな?

 

とにかく、俺達を楽しませようと頑張ってくれていたよ。

 

 

 

「いやー、結構歩いたな」

 

 

 

息をつくのは松田だ。

 

俺達は九重の薦めで湯豆腐屋で昼食を取ることにした。

 

 

歩いて少し疲れたのもあるし、時間的にもちょうどよかった。

 

 

実はこれも九重のプラン通りだったりもする。

 

聞けば、あの狐耳のお姉さんとか天狗の爺さんにどこを回れば良いか予め聞いていたそうだ。

 

おかげで俺達はかなり楽しめた。

竹林の道も良かったし、人力車に乗っての観光なんかも出来たからな。

 

「ここの湯豆腐は絶品じゃ」

 

九重が俺達に湯豆腐をすくって器に入れてくれる。

 

本当にしっかりしてるよな。

 

九重はというと、心底楽しそうに笑っている。

これが普段見せている年相応の姿なんだろうな。

 

「これがイッセーの分じゃ」

 

「サンキュー」

 

俺は礼を言って器を受けとる。

 

おぉー、これは美味そうだ!

昆布のダシの香りが食欲をそそるぜ!

 

桐生から箸を受けとり早速・・・・・・・。

 

 

んー、美味い!

 

豆腐もいつも食べてるやつとは違うな!

薬味もお好みで選べるというのも良い!

 

俺は大根おろしを乗せてポン酢をひとたらしっと。

 

あー、やっぱり和食って良いよね。

 

「これはいけるな」

 

ゼノヴィア達もはふはふ言いながら湯豆腐を味わってる。

 

そういや、皆は湯豆腐食べたことなかったな。

家では作らないし。

 

これも良い思い出になったんじゃないかな?

 

もしかしたら、帰ってからもう一度食べてみたいとか言い出したりするかも。

 

 

「あ、イッセー君」

 

声をかけられたので振り返ると木場の班が隣の席で昼食をとっていた。

 

「よう、木場じゃねぇか。そういや、おまえ達も今日は嵐山だったな」

 

「うん。天龍寺は行ってきたかい?」

 

「もちろん。天井の龍は圧巻だったぜ」

 

「僕達も午後は渡月橋を見てから天龍寺に行く予定だから楽しみだよ」

 

「そっか。俺達もこの後、渡月橋に行くから途中まで一緒に行くか」

 

「そうだね」

 

などと話していると今度は後ろから声をかけられた。

 

「おう、おまえら、嵐山堪能してるか?」

 

後ろの席ではアザゼル先生とロスヴァイセさんがいた。

 

ってか、真っ昼間から酒ですか!

 

「先生達も来てたんですね。つーか、教師が昼酒ってのはどうかと思いますよ?」

 

「無駄ですよ、イッセー君。この人、私が何度言ってもお酒を止めないんです。生徒の手前、そういうのはいけないと再三言ってはいるのですが・・・・・」

 

ロスヴァイセさんはお怒りのようだ!

額に青筋立ててるよ!

 

こ、恐い!

 

「まぁ、そういうなよ。嵐山方面の調査した後のちょっとした休憩じゃねぇか。心配すんな。どこぞのお姫様みたいに酒に飲まれることはないからよ」

 

先生・・・・・・それ、アリスのこと言ってますよね?

 

本人の前では言わないでくださいよ?

あいつ、結構引きずるタイプなんで。

 

「飲むとか飲まれるとかの問題ではありません。私達教師は生徒の見本にならないといけないんですよ? それを・・・・・・」

 

「大丈夫だって。うちの生徒はやって良いことと悪いことの区別ぐらいつけてるさ。俺達が多少崩したところで非行に走る奴なんざいねぇよ。はぁ・・・・・。ロスヴァイセよ。おまえ、もう少しお堅いところを直した方が良いぜ? そんなんだから、男の一人もできねぇんだよ」

 

 

あ・・・・・・

それ、禁句じゃね?

 

 

俺が気づいた時には既に遅く―――――

 

 

 

バンッ!

 

 

 

ロスヴァイセさんは真っ赤になってテーブルを叩いた!

 

「か、かか彼氏は関係ないでしょう!? バカにしないでください! 分かりましたよ! 飲めばいいんでしょう!」

 

ロスヴァイセさんはそう叫ぶと先生から酒を奪った!

 

 

くびっぐびっ

 

 

おおっ!

見事な飲みっぷりだ!

 

「ぷはー! だいたいれすね、あなたはふだんからたいどがラメなんですよ」

 

おいおいおい!

呂律回ってなくね!?

 

早っ!

酒回るの早っ!

 

 

「い、一杯で酔っぱらったのか・・・・・・?」

 

流石の先生もこれには驚いているようだ!

 

だよね!

俺もその気持ちは分かるぜ!  

 

あ! ロスヴァイセさんが二杯目を!

 

「ぷふぁー!」

 

二杯目も見事な飲みっぷりで!

 

気のせいか・・・・・なんか目が据わってるような・・・・・・。

 

「わらしはよってなんかいないのれふよ。わらしはおーでぃんのクソジジイのおつきをしているころから、おさけにつきあっていたりしてれれすね。おさけにはつよいんれすよ」

 

うん!

絶対に強くないよね!

確信を持って言えるよ!

 

なぜ、二杯でそんなになるんだ!?

 

アリスよりも酷い酔い方だ!

 

 

しかし、ロスヴァイセさんの愚痴は続いていく!

 

「あー、なんらかあのジジイのことおもいらしたら、はらたってきた。こんろあったら、ただじゃおかないっすよ。わらしはやすいおきゅうきんでみのまわりをせわしてたんれすよ? ジジイのせいれ、かれしはできないし、できないし・・・・・・・かれしができないんれすよぉぉぉぉおおおおお!! わらしだってすきでしょじょしてるんじゃなぁぁぁあああいっ!!!!!!」

 

 

だ、大号泣しだしたよ・・・・・・。

 

この人にお酒は『飲ますな危険』だな。

 

今、家で飲むのは父さんと母さん以外に俺とアリスくらいだ。

当然、年齢的な問題もある。

 

部長達も二十歳なれば飲み始めるとは思うけど・・・・・・何があってもこの人だけには飲まさないでおこう。

 

家でこんな状態になられたら、誰が止めるんだよ・・・・・・?

 

俺か?

うん、絶対無理。

断言しておくぜ。

 

こんな状態の人を止める術は持ち合わせていないな。

 

 

あと、美羽。

処女ってところに凄く反応してたけど、頼むから気を付けてくれよ?

 

つーか、桐生!

そこで俺達を見るな!

 

バレる!

 

 

「わかったわかった。おまえの愚痴に付き合ってやるから、話してみな」

 

 

お、流石は先生だ。

酔っぱらいの対処法もお手のものみたいだ。

 

先生の言葉を聞いて、ロスヴァイセさんは大号泣から一転、パァッと明るい表情になる。

 

「ほんとうれすか? アザゼルせんせー、いいところあるじゃないれすか。てんいんさーん、おさけ、じゅっぽんついかれー! アハハハハ!」

 

 

おいいいいいいいっ!!

 

まだ飲むんかい!

 

止めよう!

そろそろ止めとこう!

 

なんてこったよ!

この人、百均だけじゃなかったよ!

 

酔っぱらいヴァルキリーだよ!

 

「おまえら、さっさと食って行け。ここは俺が受け持つからよ」

 

「り、了解っす・・・・」

 

とりあえず、俺達は先生の言う通りにすることにした。

 

昼食をさっさと済ませ、店を出る。

 

 

「ひゃくえんショップ、サイコーれすよー! アハハハハ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

店を出て、渡月橋を目の前にした俺達。

 

「ロスヴァイセちゃん、すごいことになってたな」

 

「ああ、あれは相当酒癖悪いぞ」

 

松田と元浜も若干引いていた。

 

俺もあれには驚いたよ。

 

「きっと、ロスヴァイセちゃんも色々苦労してるのよ」

 

桐生はうんうん頷いて同情している。

 

 

ま、まぁ、確かに苦労はしてるかな・・・・・・。

 

オーディンの爺さんにはかなり手を焼いていたようだし。

 

「お主達も大変だな」

 

「あ、アハハハハ・・・・・・」

 

・・・・・・・九重にまで同情されてしまった。

 

ロスヴァイセさんには言わないでおこう。

 

泣く。

 

 

さてさて、気を取り直して次に行きましょうか!

 

次は渡月橋!

 

歴史を感じさせる古風な木造の橋がそれだ。

ここから見える山の風景が絶景だ!

 

「知ってる? 渡月橋って渡りきるまで後ろを振り返ったらいけないらしいわよ?」

 

桐生がそう言ってくる。

 

アーシアが聞き返す。

 

「どうしてですか?」

 

「なんでも、渡月橋を渡ってる途中で振り返ると授かった知恵が全て返ってしまうらしいのよ。そこのエロ三人組は振り返ったら終わりね。エロが無くなったらただのバカになってしまうわ」

 

「「「うるせぇよ!」」」

 

俺、松田、元浜が桐生に返す。

 

おまえ、バカにしすぎだろ!

俺だってエロ以外の知識くらいあらぁ!

 

気にする素振りもない桐生は追加情報をくれる。

 

「あと、振り返ると男女が別れるって言い伝えもあるわね」

 

 

ガシッ

 

 

「絶対に振り返らないよ!」

 

桐生の説明を聞いて美羽が俺の腕に強く掴まる!

必死の表情だ!

 

「お、おい、美羽?」

 

「お兄ちゃんも絶対に振り返ったらダメだよ!」

 

「あ、はい・・・・」

 

うーむ、美羽が涙目で言ってくるものだから、つい頷いてしまった。

 

迷信だと思うんだけどね。

 

まぁ、可愛いから良しとしよう!

 

 

「あいつら、義理とはいえ兄妹だろ? どうみてもカップルにしか見えん・・・・・」

 

「うむ。あそこまでいくと既にバカップルの領域だ・・・・・・。まさかと思うが・・・・・・」

 

 

うっ・・・・・・。

 

松田元浜め、なんて鋭い!

 

元浜なんて、何かを察したような顔してるけど!?

大丈夫だよね!?

まだセーフだよね!?

 

「気にせんでいいと思うのじゃが・・・・・。男女の話は噂に過ぎんのじゃ。なんでも大昔にここで男女が痴話喧嘩して別れたとかで・・・・・」

 

九重がそう言ってくれる。

 

なんか良くありそうな話だな、それ。

その男女がここで別れたのが広まって今に至ると。

 

それを聞いても美羽は頑として腕を離そうとはしない。

まぁ、美羽は純粋だからね。

 

 

無事に渡りきり、反対岸に到着。

 

美羽も大きく息を吐いて一安心してる。

 

 

ふと振り返ってみると――――

 

 

「うぅ・・・・・イッセーさん」

 

「中々に見せつけてくれるな。イッセー、後で私にもさせてくれ」

 

「確かにこれはバカップルだわ」

 

「イッセー君と美羽さんって・・・・・」

 

 

おおうっ!?

 

アーシアが涙目だし、ゼノヴィア、イリナ、レイナが半目で見てくるよ!

 

 

「とりあえず、委員会に連絡だな」

 

「案ずるな松田よ。既に連絡済みだ」

 

 

おいいいいいいいっ!!

 

委員会はやめろ!

 

つーか、委員会って何!?

 

結局、どういう組織なの!?

 

 

その時だった。

 

 

突然、ぬるりと生暖かい感触が全身を包み込んでいった―――――

 

 

 

 



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8話 英雄派、現る!

なんだ・・・・・・今のは・・・・・・・?

 

 

周囲を見渡すと、俺と美羽、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、レイナ、九重。

それから少し離れたところにいる木場しか周辺に人がいなかった。

 

 

これは一体―――――

 

 

すると、俺達の足下に霧らしきものが立ち込めてきた。

 

それを見て最初に反応したのはアーシアだった。

 

「・・・・・この霧は・・・・・私が捕まった時と同じ・・・・・?」

 

「アーシア? 見覚えがあるのか?」

 

ゼノヴィアが尋ねるとアーシアは頷いた。

 

「はい。この感じは間違いありません。私がディオドラさんに捕まった時、神殿の奥で私はこの霧に包まれてあの装置に囚われたんです」

 

「――――絶霧(ディメンション・ロスト)

 

木場が俺達の方に歩みながら言う。

 

「神滅具の一つだったはずだよ。それもとびきり危険な」

 

 

ああ、その通りだ。

 

あのオーディンの爺さんですら解除できないほどの結界を作り出した神器。

俺やヴァーリが持つものと同じ、神をも滅ぼすという神器の一つ。

 

アーシアの言うことが正しいとすれば、こいつは――――

 

「ちっ・・・・とうとう出やがったなテロリスト共・・・・」

 

「禍の団、だね」

 

「そういうことだ。ったく、人が修学旅行中だってのに邪魔してくれるぜ」

 

 

すると、俺達のそばに降り立つ人影が一つ。

 

アザゼル先生だ。

 

「おまえら、無事か?」

 

「まぁ、今のところは」

 

「そうか」

 

先生は俺達の安否を確認すると周囲を見渡し、目を細める。

 

「俺達以外の存在はこの周囲からキレイさっぱり消えちまってるってことは・・・・・・ここは作られた空間、そこに俺達は強制的に転移させられたってところか」

 

転移させられる前兆なんてなかったんだけどな。

生暖かい感触を感じた瞬間にはこの場所にいた。

 

やっぱり、相手は相当な使い手らしい。

 

「ここを形作っているのは悪魔の作るゲームフィールドの空間と同じものですか?」

 

先生に聞いてみる。

この空間はどうにもレーティグゲームのフィールドと似ているような気がする。

 

「ああ、三大勢力の技術は禍の団にも流れているだろうからな。これはゲームフィールドの技術を用いたものだろう。そんでもって、神器で生み出した霧の力で俺達をこのフィールドに転移させたというわけだ。――――霧で包み込んだものを他の場所に転移する。これも絶霧の能力だ。ほとんどアクションなしで俺達を全員転移させるとはな・・・・・・。これだから神滅具は怖いもんだぜ」

 

そっか。

やっぱり、この空間はゲームフィールドの応用なんだな。

テロリストに技術が流れると碌なことに使わねぇな。

 

横の九重が震える声で口を開く。

 

「・・・・亡くなった母上の護衛が死ぬ間際に口にしておった。気づいたときには霧に包まれていた、と」

 

 

それを聞いて俺と先生は頷き合う。

 

・・・・・なるほど。

 

ってことは向こうから態々出向いてくれてくれたってことね。

探す手間が省けたな。

 

 

 

俺達の視線は渡月橋の向こう側へと向けられる。

 

薄い霧の中から人影がいくつか現れた。

 

「はじめまして、アザゼル総督、そして赤龍帝」

 

挨拶をくれたのは先頭に立つ黒髪の青年。

 

見た目的には俺達とそう変わらない。

学生服の上から漢服らしきものを羽織っていて、手には槍を持っている。

 

・・・・・・なんだ、あの槍から感じられる不気味なオーラは?

見るだけで少し悪寒がする。

感じとしては教会に近づいた時とか十字架を見たときに近い。

 

青年の周囲には似たような学生服を着た複数の人。

若い男女ばかりで、青年と同じく俺達と歳はそう変わらないように見える。

 

先生が一歩前に出て訊く。

 

「おまえが噂の英雄派を仕切ってる男か」

 

先生の問いに青年は槍の柄を肩でトントンとしながら答える。

 

「曹操と名乗っている。一応、三国志で有名な曹操の子孫さ」

 

曹操・・・・・曹操の子孫!?

 

マジかよ。

そんなのが目の前に現れるなんて思ってなかったぜ。

 

先生は視線を相手から外さずに俺達に向けて言った。

 

「全員、あの男の槍には注意しろ。あれは最強の神滅具『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』だ。神を貫く絶対の槍。神滅具の代名詞になった原物だ」

 

『――――っ!?』

 

先生の言葉に全員が狼狽した。

 

そんな危険な物がよりによってテロリストのところにあるのかよ!

 

「あれが天界のセラフの方々ですら恐れている聖槍・・・・・!」

 

「そうか・・・・・あれがイエスを貫いた槍。神をも貫く絶対の槍か!」

 

イリナとゼノヴィアは目を見開きながらも、より警戒を強めていた。

 

そういや、悪魔になってすぐに部長に教えてもらったな。

キリストさんを貫いた伝説の槍の話を。

 

あれが正にそれってことか。

 

「あれが聖槍・・・・・」

 

アーシアがうつろな双眸で槍を見つめていた。

まるであの槍に魅了されて、意識が吸い込まれていくような――――

 

先生が素早くアーシアの両目を手で隠した。

 

「信仰のある者はあの槍をあまり見るな。心を持っていかれてしまうからな。あれは聖十字架、聖杯、聖骸布、聖釘と並ぶ聖遺物(レリック)の一つ。アーシア、ゼノヴィア、イリナ。おまえらは特に注意しろ」

 

「なぁ、一つ確認したいんだけど」

 

「なんだい赤龍帝?」

 

「九重の母親、八坂さんをさらったのはおまえらか?」

 

すると、曹操はニヤッと笑みを浮かべて答えた。

 

「ああ、その通りさ」

 

「隠すつもりは全くなしか・・・・・。単刀直入に言うぜ。八坂さんを返せ。それから俺達の前から消え失せろ」

 

「ハハハ、それは無理な相談だ。彼女には俺達の実験に付き合ってもらう予定だからね」

 

「実験?」

 

「その通り。スポンサーの要望を叶えないといけないのでね」

 

それを聞いて、九重が歯をむき出しにして激怒していた。

目にはうっすらと涙。

 

母親をさらわれたあげく、訳のわからん実験に使われそうなんだ。

よほど、悔しいのだろう。

 

「スポンサー・・・・オーフィスのことか? それで突然姿を見せたのはどういうつもりだ?」

 

先生が問い詰める。

 

「隠れる必要がなくなったものでね。実験の前に軽い挨拶と、少し手合わせをお願いしようかと思いまして。それにアザゼル総督と噂の赤龍帝殿にお会いしたかったのですよ」

 

「俺に?」

 

堕天使のトップである先生はともかく、俺に態々会いに来たってのは・・・・・・。

 

「そうだよ。俺は特に君に興味があるのさ。三大勢力の会談の場ではあのヴァーリを倒し、オーフィスの蛇を得たシャルバとクルゼレイ、そしてその手下達を一人で倒したそうじゃないか。それに、君はこれまで誰にも確認されていない禁手の更に先に至った男。興味を持たないわけがない」

 

禁手の更に先・・・・・・第二階層(ツヴァイセ・ファーゼ)のことか。

 

はぁ・・・・・こいつもヴァーリと同じタイプか?

 

いや、こいつはヴァーリよりも不気味感じがする。

ヴァーリみたいに単なるバトルマニアじゃなくて、なんかこう――――

 

 

どっちにしても、男になんざ興味持たれたくないっての!

 

先生が手元に光の槍を出現させた。

 

「こいつは力ずくで聞き出すのが手っ取り早いか?」

 

先生の構えを見て俺達も戦闘体勢に入る。

 

俺は籠手を出現させてアスカロンを取り出す。

 

「ゼノヴィア!」

 

「すまない!」

 

ゼノヴィアもアスカロンをキャッチして構えを取る。

 

「美羽、おまえはアーシアと九重を頼む」

 

「わかった!」

 

美羽も素早くアーシアと九重の前に立つ。

 

さてと・・・・・・力が使えない以上、籠手は単なる防具としてしか使えないな。

どうしたものか。

 

ん?

そういや、ロスヴァイセさんは?

 

気は感じるけど、姿を見せない。

 

「先生、ロスヴァイセさんは?」

 

「あいつも俺達同様転移しているが、酔いつぶれて寝てる。一応、強固な結界を張っておいたから心配はいらない」

 

「そ、そうですか・・・・・」

 

酔いつぶれて寝てるのね・・・・・・。

ま、まぁ、酔った状態で戦闘に参加されるよりはマシか・・・・・・。

 

仕方がない、今回は美羽に魔法要員として頑張ってもらおう。

 

にしても、あいつら余裕の表情だな。

 

英雄派って神器を持った人間の集まりだっけか?

 

神器持ちが相手ってのは厄介だな。

神器は特殊な能力を持った物が多い。

 

例えば以前戦った影使い。

ああいう能力は直接的な攻撃が効かないから厄介極まりない。

 

曹操の横に小さな男の子と眼鏡をかけた青年が立った。

 

「レオナルド、悪魔用のアンチモンスターを頼む。ゲオルクはレオナルドの力を引き上げてやってくれ」

 

「了解した」

 

ゲオルクと呼ばれた眼鏡の青年が頷き、男の子の周囲に魔法陣を展開する。

 

すると、周囲に不気味な影が現れて広がっていく。

それは渡月橋全域を黒く染めたと思うと、最終的にはそれの三倍以上にも膨れ上がった。

 

その影が盛り上がり、形を為していく――――

 

腕、足、頭が形成されていき、目玉が生まれ、口が大きく裂けた。

その数は五百はいる。

 

『ギュ!』

 

『ゴギャ!』

 

『ギャッ!』

 

耳障りな声を発しながら現れたのは二本足で立つ黒いモンスター。

それが辺り一帯で蠢いている。

 

どこか、ロスウォードの眷獣に似ているな。

 

もしかして、あの男の子の能力は――――

 

先生がぼそりと呟いた。

 

「――――『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』か」

 

「先生、それってもしかして・・・・・・」

 

「ああ、おまえが察した通りだ。魔獣創造はその名の通り、魔獣を産み出す・・・・・いや、造り出す能力と言った方が正しいか。あの神器はあらゆる魔獣を造り出すことが出来るのさ。能力者次第では全長数百メートルの怪物も造れる」

 

曹操が先生の言葉に笑む。

 

「ご名答。そう、この子が持つ神器は神滅具の一つ、魔獣創造。俺が持つ聖槍とは別の意味で危険視されている神器だ」

 

っ!

 

おいおい・・・・・マジかよ。

 

あの男の子の神器も神滅具だってのか!

流石にそれには驚くぜ!

 

ここは神滅具の見本市かよ!?

 

先生も嘆息する。

 

「神を貫く『黄昏の聖槍』、世界規模で危険な『絶霧』と『魔獣創造』。上位神滅具四つのうち三つもテロリストが保有とはな・・・・・」

 

全くだ。

厄介にもほどがあるぜ。

 

ただの神器でも能力次第ではヤバいってのに。

 

「先生、その凶悪神器の弱点は?」

 

「本体狙いだ。まぁ、本人自体が強い場合もあるが、神器の凶悪さほどではないだろう。それに魔獣創造に関しては所有者がまだ成長段階なのは間違いない。やれるならとっくに各勢力の拠点に怪獣クラスを送り込んでいるはずだからな」

 

倒すなら今ってことか。

 

先生の言葉を聞いて、曹操が苦笑する。

 

「あららら。なんとなく魔獣創造を把握されたかな? その通りですよ、アザゼル総督。この子はまだそこまでの生産力と創造力はない。今、これだけの数を造り出せたのは魔法で可能な範囲でこの子の力を引き上げているからだ。普段、一度に造り出せる数は、これの三分の一程度かな?」

 

そこまで言うと、人指し指を立てる。

そして、言葉を続けた。

 

「ただし、この子の能力は一つの面には大変優れていましてね。相手の弱点をつく魔物――――つまりはアンチモンスターを造り出すことが出来るのですよ。そして、今出したのは対悪魔用のアンチモンスターだ」

 

曹操が手をフィールドにある店に向けた。

 

モンスターの一匹が口を大きく開け、一条の光が発せられる。

 

刹那――――

 

 

ドオオオォォォォォンッ!!

 

 

店がぶっ飛び、強烈な爆発を巻き起こす!

 

これは光の攻撃か!

光は俺達、悪魔にとっては猛毒!

 

対悪魔用ってのはそういうことかよ!

 

先生が叫ぶ。

 

「曹操! 各陣営の主要機関に刺客を送り込んでいたのは俺達のアンチモンスターを造り出すデータを揃えるためか!」

 

「半分正解かな。送り込んだ神器所有者の他に黒い兵隊もいただろう? あれもこの子が造った魔物さ。あれに君達の攻撃をあえめ受けさせることで、この子の神器にとって有益な情報を得ていた。おかげで禁手使いを増やしつつ、悪魔に天使、堕天使、ドラゴンなどのメジャーどころのアンチモンスターは造れるようになった。その魔獣も中級天使並の光力は放てるよ」

 

神器所有者の禁手使いを増やすと同時にあの黒い怪人で俺達のデータを収集してたってのか!

 

用意周到だな、こいつら。

 

マジで厄介すぎるぞ!

 

憎々しげに曹操を睨む先生だが、一転して笑みを浮かべた。

 

「だが、神殺しの魔物だけはまだ造り出せない。そうだろう?」

 

「・・・・・・・・」

 

その一言に曹操は反論しなかった。

 

俺は先生に問う。

 

「どうしてわかるんですか?」

 

「簡単な話だ。やれるならとっくにやっている。俺達に差し向けてきたみたいにな。もしそれが出来るのならば各陣営に差し向けて試すはずだ」

 

なるほど、言われてみれば確かにそうだ。

 

アンチ神モンスターが造り出せないってことが分かっただけでも大きい!

 

 

曹操が槍の切っ先をこちらに向けた。

 

「神はこの槍で屠るさ。―――――さ、はじめようか」

 

それが開戦の火蓋を切った。

 

『ゴガァァァァァァッ!!!』

 

奇声をあげながらアンチモンスターの大軍がこちらに向かってくる!

 

「イッセー、こっちはおまえに任せる。俺は曹操をやる――――禁手ッ!」

 

先生が懐から素早く人工神器を取りだし、黄金の鎧を身に纏う!

十二枚の黒い翼を展開して、高速で曹操に向かっていった!

 

「これは光栄の極み! 聖書に記されし、かの堕天使総督が俺と戦ってくれるとは!」

 

曹操は桂川の岸に降り立つと不敵な笑みで槍を構える!

 

槍の先端が開き、光輝く金色のオーラの刃を形成した!

それと同時にこの空間全体の空気が震える!

 

なんて、神々しさだよ!

悪魔の俺達があの槍に直接触れるのはマズい!

 

 

ドウゥゥゥゥゥゥンッ!!

 

 

先生の光の槍と曹操の聖槍がぶつかり、強烈な波動が生み出される!

 

その衝撃で桂川が大きく波打ち、川の水が津波のように陸地に乗り上げた!

 

先生と曹操は攻め合いながら川の下流へと向かって岸を駆けていく!

 

とりあえず、あっちは先生に任せるとしてだ。

 

俺達はこっちに集中するか!

 

「木場! ゼノヴィア! イリナ! おまえ達はアンチモンスターを蹴散らしてくれ! レイナは美羽とアーシアと九重を守りつつ、木場達を援護! アーシアは回復のオーラを送ってくれ!」

 

『了解!』

 

皆は俺の指示にしたがって、陣形を組む!

 

木場達三人は俺の前方に出て、各々武器を構えた。

 

「木場、悪いが聖剣を一振り創ってくれ」

 

「了解。君は二刀流の方が映えるからね」

 

木場が素早く手元に聖剣を一振り造り出すと、駆け出したゼノヴィア目掛けてそれを放り投げる。

空中で聖剣を受け取ったゼノヴィアはアスカロンとの二刀流で魔獣共を蹴散らしていく!

 

流石はパワータイプの騎士だ!

 

しかも、異世界に行ってからゼノヴィアのパワーは更に上がっているからデュランダル無しでも十分に強い!

 

アンチモンスターの一匹が口を大きく開き、ゼノヴィアを背後から狙う!

 

光が口内に溜まっていきそれが放たれる瞬間―――――

 

「させないわ!」

 

イリナが光の槍を投げ、アンチモンスターを口から貫いた!

 

貫かれたアンチモンスターは崩れるように塵になっていく。

 

ナイスだイリナ!

 

その近くでは光の攻撃が連続で木場へと放たれていた。

 

まともに受ければ防御力の薄い木場はアウトだ。

 

だが――――

 

「当たらなければどうということはない」

 

ジグサグと高速で光の攻撃を交わしながらアンチモンスターの群れに接近し――――

 

十体近くのアンチモンスターが細切れになり、四散した!

放たれたのは超高速の斬戟!

 

木場の動きもかなり磨きがかかっているな!

 

流石だぜ!

 

「あの白いやつには及ばないしね。これくらいは数がいても何とかなるかな」

 

木場は剣を振り払い、そう付け加える。

 

 

確かに目の前のアンチモンスターはロスウォードの眷獣に比べると攻撃力も防御力も格段に低い。

あの嫌になるくらいのしぶとさもない。

 

どれだけ数がいようとも今の俺達には余裕の相手だ。

 

よし!

俺もやりますか!

 

大きく跳躍してアンチモンスターが密集してる場所へと飛び込む!

 

拳に気を溜めて、そのまま!

 

 

ドゴォォォォォォォオオオオン!!!

 

 

地面は大きく抉れ、数十体のアンチモンスターが塵と化す!

 

向かってきたアンチモンスターの頭を掴み、そいつで反対側のやつを地面に叩きつける!

 

「オラァッ!!」

 

手元に特大の気弾を造り出して、ぶちかます!

 

それによってアンチモンスターの群れは難無く霧散していく。

 

後方からはレイナからのマシンガンのように撃たれる光の弾丸と美羽からの魔法砲撃。

 

俺達の連携攻撃により、五百はいたアンチモンスターの群れは開始早々に数十体まで数を減らしていた。

 

しかし、例の少年が次々と影からアンチモンスターを生み出していく!

 

やっぱり、本体を叩くのが手っ取り早いか?

 

 

そう考えた時、俺のもとに襲来する影が複数。

 

制服姿の女の子が数名。

 

「赤龍帝は私達が!」

 

槍や剣を携えて俺に突貫してくる。

 

「やめておけ、君達では赤龍帝に勝てない!」

 

腰に何本も帯剣した白髪の優男が叫ぶ。

 

確かにその通りだな。

 

この娘達では俺に傷をつけることは出来ない。

 

俺は振り下ろされた刀を人差し指と中指の間で挟み、サイドから迫ってきた槍は蹴りあげて弾き飛ばす。

 

更には俺の背後に回ってきた女の子の攻撃を紙一重でかわして手首を掴む。

 

「そんな!?」

 

「私達の連携が、こうも容易く!?」

 

女の子達は驚愕していた。

 

ま、確かに連携は悪くなかったよ。

動きもしっかり訓練されていたのが分かったし。

 

「相手の実力を測れないようじゃ、まだまだ修行不足だ」

 

俺はそう言うと不敵な笑みを浮かべる。

 

そして

 

「さて、悪いが君達にはここで退場してもらうよ! 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)ッ!」

 

 

バババッ!!

 

 

女の子達の制服は下着もろとも弾け飛んでいった!

 

「「「い、いやぁあああああああっ!」」」

 

女の子達が悲鳴をあげて自身の大事なところを手で隠す!

 

うむ!

引き締まった良いプロポーションしてるぜ!

 

あの槍を持っていた娘なんて、結構胸があってスタイル抜群だ!

 

とりあえず脳内保存しとくか!

 

女の子達は恥ずかしさのあまり、素早く近くの家屋に逃げ込んでいった。

 

反応が可愛いぜ!

 

 

すると・・・・・・

 

 

「お兄ちゃん。あんなにしたのに、まだ元気なんだね」

 

うおっ!?

美羽が迫力のある笑顔で見てきた!?

 

ダメだった!?

洋服崩壊はダメですか!?

 

女の子と戦うときの楽しみなんだ!

そこは許してくれぇ!

 

 

美羽の隣で光の弾丸を撃っていたレイナが叫んだ。

 

「イッセー君!? 『した』ってどういうこと!?」

 

そ、そこに食いついたかぁぁああああ!

 

レイナちゃん、戦闘しながらもそこは聞き逃さなかったのか!

 

俺はアンチモンスターをなぎ倒しながら言葉を詰まらせる。

 

「い、いや、その・・・・・・」

 

「昨日の晩、美羽さんが部屋にいなかったけど・・・・・・それってまさか!」

 

それに便乗するように前衛で剣を振るっていたゼノヴィアが叫ぶ!

 

「なにぃっ!? まさか子作りか! 子作りなのか!?」

 

「ゼノヴィア! はっきり言い過ぎだ! 子供もいるんだぞ!?」

 

味方にも敵にもな!

 

「イッセーさん!? まさか、そんな!?」

 

アーシアまで!

 

「イッセー君、本当なの!?」

 

イリナまでもが入ってきたよ!

 

君達、今戦闘中だからね!?

 

それどころじゃないからね!?

 

「私達にはこっちの方が重要なことだ!」

 

「ゼノヴィアにも心を読まれた!? 嘘だろ!?」

 

「そんなことより、どうなんだ! はっきりしろ、イッセー!」

 

「頼むから敵に集中してくれーーーーー!!!!」

 

 

俺の心からの叫びだった。

 

 

 



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9話 宣戦布告

「イッセー、どうなんだ! 美羽と子作りしたのか!?」

 

「だから、とりあえず敵を倒してくれよ!」

 

こんなことしてる間に次々と出てきてるから!

 

ほら!

あのアンチモンスターなんてビーム撃ってきてるからね!?

 

英雄派のやつらも呆然としてるし!

 

なんか、ゴメンね!

 

『ゴァアアアア!』

 

「テメェらは邪魔だってーの!!」

 

突っ込んできたアンチモンスターの首根っこを掴んで全力で投げ飛ばす!

 

アンチモンスターが着弾した場所が大きく弾け、爆風が巻き起こった!

周囲にいたモンスター共も何体か吹き飛ぶ!

 

今はおまえらの相手をするよりもゼノヴィア達の相手をする方が必死なんだよ!

どーすんだよ、これ!

早速バレちまったよ!

 

美羽も今更、「しまった」みたいな顔してるけど、もう遅いからね!?

 

「噂以上だね、現赤龍帝」

 

俺がゼノヴィア達に問いただされていると、何本も帯剣した白髪の優男が話しかけてきた。

 

よし、これを利用してこの混沌とした状況から抜け出そう!

 

俺は咳払いして、優男に言う。

 

「おまえ達って、旧魔王派の奴らとは大分違うみたいだな。自分の力を過信してる様子もないし、俺達を見下しているようには見えない。正直やりにくいよ」

 

旧魔王派の奴らは我先にと襲ってくる奴が多かったんだけど、こいつらはアンチモンスターに先行させて自分達は後ろから俺達を見ているだけだった。

 

・・・・・・・・正確には観察しているようだった、と言った方がいいか。

 

俺達の動きを観察し、分析している。

そんな感じだ。

 

「ハハハ。君達を見下すことが出来るのは世界でも最上位クラスの神々か、本当に愚かな者達くらいさ。シャルバ達は明らかに後者だ。――――君と君の仲間達は危険視するに値する者達だと認識しているよ。それとヴァーリも」

 

・・・・・・やっぱりやりづらいな。

 

相手がそう考えている以上、シャルバ達のように早々に油断はしてこない。

 

優男が一歩前に出て腰に携えていた剣を抜き放つ。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕は英雄シグルドの末裔、ジーク。仲間からは『ジークフリート』と呼ばれているけど、好きなように呼んでくれて構わないよ」

 

さっきまで俺を問い詰めていたゼノヴィアがそれを聞いて何か得心したようにジークフリートを見た。

 

「・・・・・・どこかで見覚えがあると思っていたが、やはりか」

 

ゼノヴィアの言葉にイリナが頷く。

 

「あの腰に帯剣している複数の魔剣。間違いないと思うわ」

 

俺は二人に問う。

 

「二人とも、あのホワイト木場みたいなイケメンのこと知ってるのか?」

 

「ホワイトって・・・・・酷いよ、イッセー君」

 

まぁ、気にするな木場よ。

物のたとえだって。

 

俺の問いにゼノヴィアが答える。

 

「あの男は私とイリナの元同胞。つまりは悪魔祓いだ。カトリック、プロテスタント、正教会の全てを含めてトップクラスの戦士。腰に帯剣した魔剣を扱うことからついた二つ名が『魔帝(カオスエッジ)ジーク』」

 

「なんか、教会っぽくない二つ名だな」

 

教会関係者と言えば聖なる力とかが浮かぶけど、魔帝だもんな。

 

どっちかと言うと悪魔関係者にいそうだ。

 

ジークフリートは苦笑する。

 

「それを言われてしまうと返す言葉ないよ。教会にいたころは僕も複雑だったしね」

 

あ、やっぱり思ってたんだ。

 

 

イリナが叫ぶ。

 

「ジークさん! あなた、教会を――――天界を裏切ったの!?」

 

「裏切ったってことになるかな。今は禍の団――――英雄派に属しているからね」

 

「なんてことを! 教会を裏切るだけじゃなく、悪の組織に身を置くなんて! 万死に値するわ!」

 

「・・・・・少し耳が痛いな」

 

ゼノヴィアがポリポリと頬をかいていた。

 

うん、君も破れかぶれで悪魔に転生してるからね。

 

イリナの怒りを聞いてもジークフリートはクスクス小さく笑っている。

 

「いいじゃないか。僕がいなくなったところで教会にはまだ彼がいる。あの人だけで僕とデュランダル使いのゼノヴィアの分を十分に補えるだろうさ。さて、紹介も終わったところで、そろそろ始めようか」

 

そう言うとジークフリートの持つ剣から異様なオーラが発せられる。

 

・・・・・・なんだ、あの剣。

 

魔剣らしいけど・・・・・・・俺は触らない方が良いような気がする。

 

「ここは僕がいこう。イッセー君達にはここを任せるよ」

 

木場はそう言い残すと一人、ジークフリートに斬りかかっていった!

 

 

ガギィィィィンッ!!

 

 

木場の聖魔剣とジークフリートの魔剣が激しく衝突し、火花を散らす!

 

「魔帝剣グラム。魔剣最強のこの剣なら、聖魔剣を難無く受け止められる」

 

「ならば、君に直接刃を届かせるまでだ」

 

二人は鍔ぜり合いの状態から後ろに飛び退くと、すぐに壮絶な剣戟を繰り広げ始めた!

 

木場はフェイントを混ぜながら高速で斬りかかるが、ジークフリートはそれを受けとめ、反撃に出る!

 

木場の攻撃を最小限の動きでいなし、自身の魔剣を繰り出している!

 

あいつ、木場の動きについてこれるのか!

 

木場もジークフリートの攻撃を読むように余裕を持って回避、そこから高速移動による残像を生み出していく!

 

今のところ、二人の実力は拮抗している!

 

 

二人の激しい攻防を見て、英雄派の一人が呟いた。

 

「うちの組織では、派閥は違えど『聖王剣のアーサー』、『魔帝剣のジークフリート』として並び称されているんだが・・・・・・。まさか、ジークの動きについてこれるとは・・・・・・。得た情報よりも遥かに実力を上げているな。この短期間でどうやって・・・・・?」

 

そうか、こいつらは異世界のことを知らないのか。

 

 

木場は異世界に渡ったことでかなり実力を上げた。

しかも、あのモーリスのおっさん直々に鍛えてもらったんだ。

こいつらが持ってる木場の情報はもう役にたたない。

 

ジークフリートは笑みを浮かべながら言った。

 

「聖魔剣の木場祐斗! 想像以上に楽しませてくれる! ならば、これはどうかな?」

 

ジークフリートは空いてる方の手で帯剣しているうちの一本を抜き放った。

 

二刀流か!

 

「バンムルク。北欧に伝わる伝説の魔剣の一振りだよ」

 

振り下ろされた新たな魔剣を木場は体を捻って回避!

 

手元にもう一本の聖魔剣を造り出して、木場も二刀流となった!

 

二人とも二刀流になり、再び鍔ぜり合う。

 

すると、二人を囲むように宙に七本の剣が現れた。

 

あれは木場の新しい力!

 

七つの剣はまるで意思を持ったかのように動き、ジークフリートに迫る!

 

 

すると―――――

 

 

ガガガガガギィィィィィンッ!!!

 

 

七つの剣は全て弾かれ、ジークフリートに届くことは無かった。

 

「遠隔操作できる聖魔剣か。流石に驚いたかな」

 

見れば、ジークフリートは三本目の魔剣を持っていた。

 

あれを高速で振るって、弾き飛ばしたということか。

 

 

いや、ちょっと待て。

 

 

三本目だと?

 

 

怪訝に思い、良く見てみるとジークフリートの背中から腕が生えていた。

 

鱗で包まれ、まるでドラゴンのような腕だ。

 

ジークフリートは笑みながら言う。

 

「これは僕が持つ神器、『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』さ。ありふれた神器だけど、これは少し特別でね。亜種にあたるのさ」

 

龍の手・・・・・・?

 

えーと、確か俺の籠手の下位神器だっけか?

 

以前、ドライグとアザゼル先生に聞いたことがあったな。

聞いた話では籠手タイプだってことだったけど・・・・・・。

 

亜種なんてものがあるのか。

 

ジークフリートは両手と背中の腕で魔剣を持つ三刀流。

 

それを知り、木場は少し表情を厳しくする。

 

「同じ神器使い・・・・。そちらは剣の特性も神器の特性も出していない、か」

 

「ついでに言えば禁手も出してないけどね。まぁ、君もまだ本気ではないのだろう?」

 

確かに木場はまだまだ余力を残しているけど、流石にこれは・・・・・・。

 

禁手状態の木場に対してジークフリートはほとんど素の状態。

 

互いに本気を出せば―――――

 

 

バサッ

 

 

俺達の前に先生が降り立ち、それに続くように英雄派の中心に曹操が戻ってきた。

 

二人は攻防を繰り返しながら、こちらへと戻ってきたようだ。

 

二人が戦った場所は煙をあげて焦土と化している。

 

・・・・・・先生の鎧は所々壊れていて、黒い翼もボロボロになっていた。

曹操の方も制服や羽織ってる漢服も破れた箇所があるが・・・・・。

 

鎧を纏った先生を相手にここまでやるか。

 

二人とも本気は出してないみたいだけど・・・・・・。

先生が本気になっていたら、今頃この一帯は消し飛んでるだろうしな。

 

それでも、先生とやり合ってあの程度しか受けてないのは曹操の実力が相当高い証拠。

 

曹操が首をコキコキ鳴らしながら言う。

 

「どうやら過去に得た情報はもう役に立たないか。そちらの成長率も計算してこちらもそれなりに修行をしていたんだが・・・・・。いやはや、君達には驚かされるよ」

 

「テロリストでも修行するんだな」

 

「当然。俺達は弱っちい人間なんでね」

 

弱っちい人間ね・・・・・

 

よく言うぜ、先生とそこまでやり合える実力を持ってるくせに。

 

先生が曹操に改めて問う。

 

「ひとつ訊く。おまえら、英雄派の動く理由はなんだ?」

 

その問いに曹操は目を細目ながら答える。

 

「アザゼル総督。俺達の活動理由はシンプルだ。俺達は『人間』としてどこまでやれるのか、それが知りたい。そこに挑戦したいんだ。それに悪魔、堕天使、ドラゴン、その他諸々。超常の存在を倒すのはいつだって人間だ。―――いや、人間でなければならない」

 

「英雄になるつもりか? って、英雄の子孫だったな」

 

「―――よわっちい人間のささやかな挑戦だ。蒼天のもと、人間のままどこまでいけるか、やってみたくなっただけさ」

 

それを聞いて、木場達が息を飲むのが分かった。

 

こいつは本気で俺達、悪魔・・・・・・いや、超常の存在に挑みに来ている。

そして、こいつにはそれを実行するだけの力がある。

 

それでも。

 

・・・・・なんか、こいつが言ってることってさ。

 

「下らねぇな、おい」

 

しんと静まる空間に俺の声が響き、この場にいる全員の視線が俺に集まる。

 

まぁ、この雰囲気の中でこんなことを言う奴が出てくるなんて思わないだろうからな。

 

曹操が眉をひそめる。

 

「なに?」

 

「下らねぇって言ったんだよ。超常の存在を倒すのは人間? それならテロなんて回りくどいことせずに堂々と挑んできやがれってんだ」

 

英雄派に所属してる神器所有者だって拉致して洗脳、それから各勢力に送り込むっていう最低なやり方だ。

しかも、こいつらのテロで戦う力もない人達だって被害を受けている。

 

そんな行いを見て、誰がこいつらを英雄と称える?

 

「おまえら、自分が英雄の子孫だからって勘違いすんな。英雄はおまえらの先祖であって、おまえらは決して英雄なんかじゃない。―――――おまえらが英雄を名乗るな」

 

「まるで、本物の英雄を見てきたような口ぶりだな」

 

「ああ、見てきたさ。本物の英雄―――――勇者をな。だからこそ、俺はおまえらが英雄を名乗ることを許せない」

 

俺の言葉に英雄派の奴らは殺気を強くする。

 

曹操だけは少し考え込むような表情をしていたが、ゆっくりと槍の切っ先を俺に向けた。

 

アンチモンスターは未だに作り出されている。

 

二つの陣営に再び緊張が走った。

その時―――――

 

 

パァァァァァァアアッ!

 

 

俺達と英雄派の間に魔法陣がひとつ、輝きながら出現する。

 

・・・・・知らない紋様。

 

「―――これは」

 

どうやら、先生は知っているようだった。

 

誰だろうか? 

 

少なくとも悪魔ではない。

 

怪訝に思っていると、眼前に現れたのは魔法使いの格好をした、外国の女の子だった。

 

中学生くらいだろうか? 

 

小柄な女の子だ。

 

女の子はくるりとこちらに体を向けると、深々と頭を下げた。

 

ニッコリ笑顔で、僕達に微笑みをかけてくる。

 

「はじめまして。私はルフェイ。ルフェイ・ペンドラゴンです。ヴァーリチームに属する魔法使いです。以後、お見知りおきを」

 

ヴァーリチーム!?

 

こんな可愛い娘が!?

 

 

『そこか』

 

 

あ、そうじゃなかった。

 

なんで、ヴァーリの仲間がここにいるかだよな。

 

 

先生が女の子、ルフェイさんに訊く。

 

「……ペンドラゴン? おまえさん、アーサーの何かか?」

 

「はい、アーサーは私の兄です。いつもお世話になっています」

 

なんと!

 

アーサーの妹ってこの娘だったのか!

 

俺がアーサーだったら溺愛するね!

 

 

先生があごに手をやりながら言う。

 

「ルフェイか。伝説の魔女、モーガン・ル・フェイに倣った名前か? 確かモーガンも英雄アーサー・ペンドラゴンと血縁関係にあったと言われていたが……」

 

ルフェイが目をキラキラと輝かせながら、俺に近づいてきた。

 

「あ、あの・・・・・兵藤一誠さん、ですよね?」

 

「う、うん。そうだけど?」

 

俺がそう答えると、ルフェイは手を突き出してきた。

 

「私、『乳龍帝おっぱいドラゴン』のファンなんです! あ、握手してください! あ、あと、サインも!」

 

ルフェイは慌ててどこからか色紙を出して、再び俺に手を突きだした。

 

え、えーと・・・・・・

 

突然の展開に、俺達も英雄派の奴らも間の抜けた状態になった。

 

この子、俺のファンなのね・・・・・・。

 

「曹操」

 

「なんだい?」

 

「ちょっとタイム・・・・・・」

 

「・・・・・・どうぞ」

 

俺は色紙とペンを受けとり、悪魔の言葉でサインを入れる。

 

悪魔の言葉で良いのかな・・・・・・?

 

この娘、人間だよね?

 

そんなことを考えつつ、ルフェイに色紙を渡し、「ありがとう」と言いながら握手をしてあげる。

 

「やったー!」

 

うん、スゲー喜んでる。

 

喜んでもらえて良かった・・・・・・・・なんて、言ってる場合なのか?

 

「え、えっと、それで君はここに何をしに?」

 

俺の問いにルフェイは屈託のない満面の笑みで答えた。

 

「はい! 私がここに来たのは赤龍帝様のサインを貰うため・・・・・・・じゃなくて、ヴァーリ様から伝言を頼まれたので、ここに来ました!」

 

そう言うとルフェイは曹操の方へと振り替える。

 

「それでは伝えますね! 『邪魔だけはするなと言ったはずだ』―――だそうです♪ うちのチームに監視者を送った罰ですよ~」

 

 

ドウゥゥゥゥゥゥゥンッ!

 

 

ルフェイが可愛く発言した直後に大地が激しく揺れる!

 

アーシアや九重なんて、尻餅をついてるほどだ。

 

地面が盛り上がり、何か巨大なものが出現した。それは地を割り、土を巻き上げながら地中から姿を現す!

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 

雄叫びをあげる巨人らしき物体!

 

なんだ、あのバカデカい岩の巨人は!?

 

先生が巨人を見上げて叫ぶ!

 

「ゴグマゴグか!」

 

先生の言葉にルフェイは頷いた。

 

「はい。私達のチームのパワーキャラ、ゴグマゴグのゴッくんです♪」

 

ゴッくんです♪………って、あれ、そんな風に呼ばれてるの!?

 

全く可愛くないんですけど!?

 

「先生、あれを知ってるんですか?」

 

「あれはゴグマゴグ。次元の狭間に放置されたゴーレム的なものだ。古の神が量産した破壊兵器らしいが、全てが機能停止だったはずだ」

 

「あれ動いてますけど!?」

 

「ああ、動いてるぜ! 俺も動いているのを見るのは初めてでな! 胸が踊るな!」

 

なんか、目をキラキラさせてるー!?

 

先生ってああいうの好きだもんな!

 

「な、なぁ、ヴァーリチームって他に誰がいるの?」

 

俺がルフェイに訊く。

 

あいつのことだから、他にもとんでもないメンバーを持ってそうでよ・・・・・・。

 

「えーとですね。今のところは、ヴァーリ様、美猴様、兄のアーサー、黒歌さん、フェンリルちゃん、ゴッくん、それから私の七名です」

 

そっか、七名か・・・・・・。

 

つーか、フェンリルもメンバーに入ってたんかい!

 

あいつ、とんでもない面子を集めたもんだな!

 

俺とルフェイが会話していると、ゴグマゴグが英雄派に向かって巨大な拳を降り下ろした!

 

 

ゴゴゴゴゴォォォォオオオンッ!!

 

 

バカデカい破砕音と共に渡月橋を木っ端微塵に破壊した!

 

うん、ここが嵐山を模した空間で良かった!

じゃなかったら、嵐山の名物は一つ完全に無くなってたもんな!

 

ゴグマゴグの一撃は大量のアンチモンスターを吹き飛ばした。

 

英雄派のやつらはその場から飛び退き、橋の反対岸に着地する。

 

「ハハハハ! ヴァーリはお冠か! 監視を送っていたのが気に入らなかったようだな!」

 

曹操は愉快そうに高笑いすると、槍をゴグマゴグに向けた。

 

「伸びろっ!」

 

槍の切っ先が伸びて、ゴグマゴグの肩に突き刺さる!

 

あの槍、伸びるのか!

美猴の如意棒みたいだな!

 

 

ズズゥゥゥゥンッ!

 

 

ゴグマゴグの巨体がその一撃で体勢を崩して、その場に倒れる!

 

倒れた衝撃で辺りを大きく揺らした!

 

その衝撃でアーシアと九重は再び尻餅をついていた。

 

二人とも、もう座っといた方が良いかも・・・・・・。

また揺れることもあるだろうし。

 

俺が二人にそう言おうとした時だった。

 

「もーっ! ドッカン! バッタン! うるさいれすよ!!」

 

突然、聞こえてきた呂律の回っていない声。

 

こ、この、声はまさか!

 

「ヒトが気分良く寝てるってのに、いやがらせれすか!? いいでれすよー、そっちがそのきなら、わらしらってねでるところでてやりまふよ!」

 

ろ、ロスヴァイセさんんんんんん!?

 

「ちょ、先生! 結界で覆ってたんじゃないんですか!?」

 

「あ、ああ・・・・・。あんな状態で混ざられても邪魔にしかならんからな。破って出てきやがったのか、あいつ・・・・・」

 

えええええええっ!?

 

酔っ払った状態で、先生の結界ぶち破ってきたの!?

 

なに、あの人!?

酔うと強くなる、あれですか!?

 

「うおりゃあああああああ!!! フルバーストじゃあああああああ!!!!」

 

 

ズドドドドドドドドオォォォォッ!!!

 

 

うおあっ!?

いきなり、ぶっぱなしやがった!?

何考えてんの!?

 

炎、光、水、雷などのあらゆる魔法攻撃が町を丸ごとぶっ飛ばした!

家屋も道も跡形もなく消え去ったよ!

 

ぶ、部長、良い人材をゲットしたとは思いますけど・・・・・・。

これから苦労しそうですね。

 

俺の視界に霧が映る。

 

ロスヴァイセさんが放った魔法攻撃はあのメガネをかけた青年が発生させた霧によって、英雄派のメンバーに届くことはなかったようだ。

 

あの攻撃を防ぐとは・・・・・。

 

「お酒がたりませんよぉぉおおおおおっ!!」

 

ロスヴァイセさん、あんたは寝てて下さい!

とーっても、危なっかしいから!

つーか、もう飲むな!

 

霧が更に英雄派を覆い、曹操がその中から言う。

 

「少々、乱入が多すぎたか。――――が、祭りの始まりとしては上々だ。アザゼル総督! 赤龍帝!」

 

曹操は俺達に向けて楽しそうに宣言した。

 

「俺達は今夜、この京都と九尾の御大将を使い、二条城で大きな実験をする! ぜひとも静止するためにこの祭りに参加してくれ!」

 

霧が辺り一帯に立ち込め、俺達をも覆っていく。

 

そして視界が全部、霧に包まれた。

 

 

 

 

霧が晴れると、観光客で溢れた渡月橋の前に俺達は立っていた。

周囲の人達は何事も無かったように観光を楽しんでいる。

 

どうやら、元の空間に戻ってきたようだ。

 

ルフェイとゴグマゴグの姿はない。

霧が晴れたと同時に戻ったのだろう。

 

 

ガンッ!

 

 

先生が電柱を横殴りしていた。

 

「祭りだと・・・・? ふざけたことを言いやがって・・・・っ!」

 

「・・・・・母上は何もしてないのに・・・・・・どうして・・・・・・」

 

俺と隣では九重が体を震わせて、涙を浮かべていた。

 

俺は九重の頭を撫でて、改めて決意を固めた。

 

曹操、テメェらは俺の手で潰す。

八坂さんも無事に取り戻してみせる。

覚悟しとけよ。

 

―――――九重を泣かせたツケはきっちり払ってもらう。

 



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10話 作戦会議と報告会!?

「ぷはー、風呂上がりの牛乳ってなんか良いよな!」

 

「あー、それ分かる分かる」

 

夕食後、風呂に入り、松田と元浜が満足そうに部屋でくつろいでいた。

 

松田が肩にタオルをかけて、自販機で買った牛乳をぐいっと飲みほしていた。

 

ちなみに俺はフルーツ牛乳だ。

 

 

流石はグレモリー運営のホテル。

その辺りも行き届いているね。

 

噂では部長が泊まるから設置したとか・・・・・・。

 

うん、あり得るな。

部長、風呂上がりの牛乳に強いこだわりを持ってるし。

 

 

渡月橋での戦いを終えた俺達は二条城を観光してからホテルに帰ってきたんだ。

 

今いるのは松田と元浜の部屋。

 

くそぅ・・・・・・こんなフカフカのベッドで寝やがって・・・・・・。

 

羨ましいぞ、こいつら!

 

 

明日は修学旅行の最終日。

京都駅周辺を見て回って、お土産を買うだけになる。

 

そんなわけで、今からこの三日間で回った京都の景色を部屋に備え付けてある薄型テレビで観賞することになったんだ。

 

元浜がデジカメの撮影データをテレビに接続していると、部屋の扉が開かれた。

 

「やっほー。風呂上がりの美少女軍団がやって来たわよ、エロども」

 

パジャマ姿の桐生が美羽達を連れて部屋に入ってくる。

 

桐生とアーシア、レイナはパジャマ。

 

美羽とゼノヴィア、イリナは浴衣か。

 

パジャマ組と浴衣組で別れてるわけね。

 

 

すると、浴衣姿の美羽と目が合う。

 

 

ヤバい・・・・・昨晩のことを思い出してしまった。

 

胸がドキドキしてる・・・・・。

 

 

多分、美羽も同じ気持ちなんだろうな。

徐々に頬が赤く染まってきてるし・・・・・・・。

 

 

「おーい、イッセー。どうした?」

 

「い、いやっ・・・・・・な、なんでもないよ」

 

「そのわりには声が裏返っているが・・・・・・」

 

「だ、大丈夫だって! ほ、ほら、メンバーも揃ったし早速観賞会といこうぜ!」

 

頼むから聞いてくれるな、松田よ!

 

ここに来るまで何度もゼノヴィア達に問い詰められ、その度に観光スポットの話題だの土産の話題だのを出すことで何とか受け流してきた。

 

おかげで、俺と美羽はまだハッキリとは明かしてない。

 

『(もう遅いだろ)』

 

・・・・・・・多分。

 

 

と、とにかくだ!

 

ここで、松田達にまで感づかれる訳にはいかんのだよ!

 

 

松田は俺の態度を怪訝に思いながら、再生ボタンを押して、最初の写真がテレビに写し出された。

 

新幹線発車から始まり、ホテル、伏見稲荷、清水寺。

 

三日間で巡った京都の景色がテレビに写し出される。

 

「このとき、元浜が階段で転びそうになってたな」

 

「そういう、松田こそ、茶店の団子を喉につまらせていたじゃないか」

 

「ていうか、あんたら、他校の女子が通りすぎる度にエロい視線を送ってたでしょ? いやらしい顔を京都のでまでさらして学園の恥だわ。・・・・・・っと、兵藤兄妹はバカップル炸裂ねー。兄妹で『あーん』なんてしてるし」

 

「「死ね! 裏切り者!」」

 

松田と元浜が殴りかかってきやがった!

 

桐生のやつめ、こいつらを煽って楽しんでるだろ!

 

 

とりあえず、俺は二人の拳を受け流す。

 

「「あべしっ!」」

 

上手い具合に松田と元浜が相討ちになった。

 

なんか、久しぶりに見た光景だな。

 

 

それからも俺達は思い出を語り合った。

バカ丸出しの話をしてはその度に爆笑した。

 

楽しかった修学旅行も明日で終わり。

 

最後まで楽しかった思い出にするためにも、俺達は―――――

 

 

 

 

 

 

 

観賞会も終わり、就寝時間になった頃。

 

俺達、オカ研メンバー、シトリー眷属、アザゼル先生、セラフォルーさんが俺の部屋に集まっていた。

 

 

これから、今夜のことについて話し合うところなんだが・・・・・・狭い。

 

十人以上も八畳一間にいるんだぜ?

 

そりゃ、ぎゅうぎゅうになるって。

 

教会トリオなんて押し入れの中から話し合いに参加してるし・・・・・。

 

 

昼間にあれだけ酔っ払っていたロスヴァイセさんは顔を真っ青にしながら参加していた。

酔い醒ましの薬を飲んだらしいけど、かなり気持ち悪そうだ。

 

・・・・・・・お願いだから、この部屋で吐かないで下さいよ?

 

俺、今日もこの部屋で寝る予定なんで。

 

 

先生が皆を見渡して口を開く。

 

「作戦を伝える。現在、二条城と京都駅を中心に非常警戒態勢を敷いた。京都で活動していた三大勢力の関係者および妖怪達を総動員して怪しい輩を探っている。今のところ、これといった報告は上がってきてはいないが、京都の各地から不穏な気の流れが二条城に集まってきているのは計測できている」

 

「不穏な気の流れ?」

 

木場が先生に尋ねる。

 

「ああ。そもそも京都ってのは陰陽道、風水に基づいて作られた巨大な術式都市だ。それゆえに各所にパワースポットを持つ。伏見稲荷とかもそうだな。おまえ達も観光でいくつか回ったはずだ。他にも挙げればキリがないほどの力場が京都には存在する。それらが現在、乱れて二条城の方にパワーを流し始めているんだよ。気の扱いに長けたイッセーは気づいてるんじゃないか?」

 

「まぁ、何となくは」

 

さっきから妙な気は感じてるよ。

 

流石に京都全体の気が乱れてることは分からなかったけどね。

 

そこまで範囲が広いと感知しづらいんだよ。

 

 

「ど、どうなるんですか?」

 

匙が生唾を飲み込みながら訊く。

 

「わからん。だが、ろくでもないことが起こるのは確かだ。奴らは九尾の御大将を使って実験すると言っていたからな。それを踏まえて作戦を伝える」

 

先生は部屋の中心に敷かれた京都の全体図を指示棒で指しながら改めて伝える。

 

「まず、シトリー眷属とレイナーレ。おまえ達は京都駅周辺で待機。このホテルを守るのもおまえらの仕事だ。相手はテロリストだ。ここを狙ってこないとは限らない。有事の際はおまえ達で当たってほしい。レイナーレは周辺に展開している堕天使への指示を出してくれ」

 

「了解です」

 

「次にグレモリー眷属とイリナと美羽、それから匙。おまえ達はオフェンスだ。イッセーを司令塔にして、英雄派幹部共の撃退および八坂姫を奪還をしてもらう」

 

「お、俺もっすか?」

 

匙が自分を指差していた。

 

先生は頷く。

 

「おまえのヴリトラの力――――特に龍王形態は使える。あの黒い炎は相手の動きを止めて力を奪うからな。今回もサポートにまわってくれ」

 

「り、了解です・・・・・」

 

なんか不安そうな顔してるな。

 

俺は匙の背中をバンバンと叩く。

 

「心配すんなって。おまえだって修行してんだ。何とかなるさ」

 

「何とかって・・・・・はぁ。仕方がねぇ、こうなったら、やってやるよ!」

 

おおっ、なんか吹っ切れた感じだな。

 

まぁ、修行の成果もあって、あの龍王形態は維持できるようになってるしな。

 

匙だって十分に戦力になる。

 

 

よし、ここでもう一押しくらいしてみるか。

 

「ここで頑張ればソーナ会長だって、おまえを認めてくれるかもしれないぜ?」

 

「マジか! うおおおおおっ!! 俄然、やる気出てきたぁぁああああ!!!」

 

おー、燃えてる燃えてる。

 

匙の背後に黒い龍が見えるぜ。

 

 

ま、ソーナ会長は既に匙のことを認めてるとは思うけどね。

 

一人燃えている匙を横目に先生は話を続ける。

 

「あまり良くない知らせなんだが、フェニックスの涙は三つしか支給されなかった」

 

「三つ・・・・・。もう少し何とかなりませんか? 対テロリストなんだし」

 

俺が言うと先生はため息と共に首を横に振った。

 

「すまんな。世界各地で禍の団がテロってくれてるおかげで涙の需要が跳ね上がってな。各勢力の重要拠点への支給もままならないのが現状だ。生産元のフェニックス家も大忙しみたいでな。今後はレーティングゲームでの使用も難しくなるだろう」

 

 

なるほど。

 

まぁ、考えてみれば当然か。

 

フェニックスの涙ってもともと大量生産出来ない高級品らしいし。

これだけテロが頻発していたら、品薄状態になっても不思議じゃない。

 

「その代わりと言っちゃあなんだが、助っ人も来てくれることになってる」

 

「助っ人?」

 

「そう、助っ人だ。各地で行われている禍の団のテロを幾度も制圧してきたテロリスト相手のプロフェッショナルだ」

 

そんな凄い助っ人が来てくれるのか。

 

それは心強い。

 

にしても、先生がそこまで言う人ってどんな人だろう?

 

 

イリナが手を上げる。

 

「この作戦は各勢力に伝わっているのですか?」

 

「当然だ。協力してくれている各勢力の人員が包囲網を張っている。英雄派だけじゃなく、それに乗じて動こうとする禍の団の構成員はこの機会に仕留めるつもりだ」

 

セラフォルーさんが先生の言葉に続く。

 

「外の指揮は私に任せてね☆ 悪い子を見つけたらお仕置きしちゃうんだから♪」

 

うん、この人のお仕置きは怖そうだ。

なんて言っても魔王だからな。

 

それから先生は俺に言う。

 

「包囲網にはティアマットにも参加してもらっている。本当ならおまえ達と二条城に向かって欲しいんだが、京都全体を包囲するには人員が足りなくてな。既に現地で動いてもらっている」

 

「あー、それでここにいないんですね」

 

どうりで、ここにティアの姿がないわけだ。

 

先生の言ってることもわかるし、ティアにはそっちで頑張ってもらおう。

 

「それと駆王学園にいるソーナにも連絡はしておいた。あちらもあちらで出来るバックアップをしてくれるようだ」

 

「あれ? うちの部長達は?」

 

俺の質問に先生は少し顔をしかめた。

 

「ああ、伝えようとしたんだが・・・・・・タイミングが悪かったらしくてな。あいつらはグレモリー領にいる」

 

「何かあったんですか?」

 

「どうやら、グレモリー領で旧魔王派の残党が暴動を起こしやがったみたいでな。禍の団に直接関与している輩ではないようだが・・・・・・。あいつらはそれの対応に向かっているのさ」

 

暴動って・・・・・・。

 

旧魔王派もとことん面倒なやつらだな!

 

「ちなみにグレイフィアとグレモリー現当主の奥方も出陣したそうだ。グレモリーの女を怒らせた奴らは・・・・・・大変だろうな」

 

先生が若干体を震わせながら言った。

 

先生が震えるほど恐ろしいのか・・・・・・。

 

セラフォルーさんが楽しげに言う。

 

「まあ、『亜麻髪の絶滅淑女(マダム・ザ・エクスティンクト)』、『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』、『銀髪の殲滅女王(クイーン・オブ・ディバウア)』が揃っちゃうのね☆ 暴徒の人達、本当にたいへんなことになっちゃうわね♪」

 

 

何その不吉な二つ名!?

 

絶滅、滅殺、殲滅って恐すぎる!

 

部長の二つ名は知ってたけど・・・・・

ヴェネラナさんと、グレイフィアさんまでそんな二つ名を持ってたの!?

 

「・・・・・・おまえも将来大変だな」

 

先生が俺の肩に手を置いて、頷いていた。

 

よく分からんけど、部長を絶対に怒らせたりはしないでおこう・・・・・・。

 

 

先生が咳払いをして、改めて皆に言う。

 

「とりあえず、作戦は以上だ。俺も京都上空から独自に奴らを探す。各員一時間後にはポジションについてくれ。――――死ぬなよ? 修学旅行は帰るまでが修学旅行だ。いいな?」

 

『はい!』

 

 

全員が返事をして、作戦会議は終わった。

 

 

 

 

 

 

作戦会議が終わった後、シトリー眷属やセラフォルーさんが部屋を出ていく中、俺とオカ研女子部員は先生に呼び止められた。

 

「作戦会議は終わったんじゃ・・・・・・?」

 

俺の質問に先生は頷く。

 

「ああ、作戦会議は終わりだ。だがな、今ここでハッキリさせておきたいことがある。とりあえず、イッセーと美羽はここに座れ」

 

「「?」」

 

怪訝に思いながらも先生が指定した場所に俺と美羽は座り込む。

 

向かいにはアーシア達教会トリオとレイナ。

 

 

 

すごーく、嫌な予感がする・・・・・・ってか、嫌な予感しかしない。

 

 

 

先生はアーシア達を指差して言った。

 

「こいつら、かなり気になっているようでな。このままだと、気になりすぎて戦闘に集中できないかもしれん」

 

 

そして、先生はスケベな笑みで言った。

 

「単刀直入に訊くぞ、イッセー、美羽。おまえ達、一線越えたな?」

 

「「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」」

 

声にならない悲鳴が俺と美羽から出た!

 

な、ななななんつー質問してきやがるんだ、この人は!?

 

「「ゲッホッ! ゲホッゲホッ!!!」」

 

俺と美羽は今の悲鳴で喉をやられ、咳き込む!

 

 

み、水! 

 

水を!

 

 

俺達は冷蔵庫に駆け込み、置いてあった水を一気に飲み干す!

 

喉が落ち着いたところで、俺は先生に叫んだ!

 

「あんた教師だろ!? なんつー質問してきやがるんだよ!?」

 

そう言うと先生は嘆息しながら言った。

 

「俺だって普段ならこんなこと訊きやしねぇよ。だがな、こいつらを見てみろ。気になって気になって仕方がないってツラだろ」

 

再度、アーシア達に視線を送ると―――――

 

 

「「「「じーーー」」」」

 

 

自分で「じーっ」とか言いながら、こっちを見てきてるよ!

 

無駄に迫力ありすぎじゃね!?

 

「こんな状態で戦場に出てみろ。こいつら、おまえ達のことが気になりすぎて力を発揮できんかもしれん。そうなれば作戦もクソもないだろう?」

 

あんた、それっぽいこと言ってるけど楽しんでるだけだよな!

 

一見、顔は真面目だけど目は笑ってるぞ!

 

修羅場を見て心の中で爆笑してやがる!

 

ふざけやがって!

 

 

「アザゼル先生の言う通りだ。イッセー、私達は気になって思う存分力を発揮できないかもしれん」

 

うっ・・・・・

 

「イッセーさん、本当のことを仰ってください」

 

ううっ・・・・・・

 

「イッセー君。私もすごーく気になってるの」

 

うううっ・・・・・・

 

「義理とはいえ妹とって・・・・・二人の場合、愛を感じられるわ!」

 

一人だけ違うような・・・・・・

 

つーか、ハッキリ言っちゃってるよ・・・・・・

 

 

答えないとダメ・・・・・なのか?

 

決戦前だぜ?

 

いや、でも皆が気になりすぎて力が発揮できないってのも問題だし・・・・・・。

 

 

「お兄ちゃん、もう隠すのは無理だよ・・・・・・」

 

 

美羽はもう諦めモードに入っちゃったよ。

 

ま、まぁ、ほとんどバレてるしね。

昼間の戦闘の時に。

 

 

よし!

 

腹を括ろう、俺!

 

 

俺は皆と向かい合って正座。

 

そして―――――

 

 

 

「さ、昨晩・・・・・俺達は・・・・・・しました・・・・・・」

 

 

 

消え入りそうな声で俺は事実を明かした。

 

は、恥ずかしいっ!

恥ずかしすぎるっ!

 

何だよ、この報告は!?

 

つーか、しないといけなかったのか!?

 

俺も美羽も顔真っ赤だよ!

 

穴があったら六泊くらいしたい気分だわ!

 

 

「さて、と。俺はそろそろ行くわ」

 

ちょっと、先生!?

 

この空気のなか出ていくの!?

 

助けてくれよ!

 

 

「イッセー、童貞卒業おめでとう」

 

 

バタンッ

 

 

それだけ言い残して先生は行ってしまった。

 

 

 

 

 

その後、ゼノヴィアが事の詳細を聞いてきて、美羽が顔を真っ赤にしながら全てを明かしたのだった。

 

俺は止めに入ろうとしたが、その迫力にただ見てることしか出来なかった。

 

 

 

四人は美羽が語る内容をそれはそれは熱心に聞いていた。

 

 

 

 

とんでもない羞恥プレイをした俺は―――――このまま決戦へと向かうのだった。

 

 

 

 



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11話 英雄派との開戦です!!

出発の時間となり、俺達はホテルを出て、京都駅のバス停に赴いた。

 

赴いたんだけど・・・・・・・

 

 

シュウゥゥゥゥッ

 

 

「イッセー君、美羽さん、顔から湯気が出てるよ」

 

「何かあったのか?」

 

木場と匙がそう言ってくる。

 

 

「「い、いや、大丈夫大丈夫・・・・・アハハハ・・・・・・」」

 

俺達はガックリとしながら二人にそう返した。

 

 

作戦会議を終えて、ホテルを出るまでの間、俺達はゼノヴィア達から質問攻めにあっていた。

 

問い詰められ、混乱した美羽は顔を真っ赤にしながら俺とのことをこと細かく言ってしまったんだ。

 

あーんなことやこーんなことまで、全てを。

 

「やはり、子作りとは奥深いものなのだな」

 

一人うんうんと頷いているゼノヴィア。

 

おまえが一番積極的に聞いてたよね。

 

「はぅぅ・・・・。イッセーさんと美羽さんはあんなことまでしてたなんて・・・・・。な、なにを弱気なことを! わ、私だって!」

 

顔を茹でタコのように真っ赤にしながらも気合いを入れているアーシア。

 

「はぁ~、危うく堕ちるところだったわ。で、でもでも、将来のためには聞いておかないとって思うし」

 

そういや、イリナは翼が点滅してたっけ。

 

 

さっき、ここに残るレイナも何やら呟いてたな。

 

 

アハハハ・・・・・・。

 

もう、どうすりゃいいんだよ・・・・・・。

 

兄妹揃ってHPもMPもゼロなんですけど・・・・・・。

 

誰か教会で甦生してくれ。

 

 

あ、俺、悪魔だからダメじゃん。

 

 

俺はもう死ぬしかないのか・・・・・・・。

 

『病んでるな』

 

『ウフフ、それはそうよ。二人のアツーイ夜を知られてしまったんだもの。無事に帰れたとしても決戦ね♡』

 

よし、英雄派全てを道ずれにして消えよう。

 

数年は山に籠って皆が忘れた頃に出てこよう。

 

『無駄だろ』

 

『彼女達のことだから、草木を掻き分けてでもあなたを見つけに来るわよ?』

 

そ、そんな・・・・・・。

 

二人の相棒から突きつけられた現実に俺は膝をつく。

 

 

匙が目元をヒクつかせながら言う。

 

「お、おい・・・・・兵藤。おまえ、本当に大丈夫かよ? おまえの頭上に『ズーン』って出てるぞ」

 

「す、スマン・・・・・・俺はここまでのようだ」

 

「まだ何もしてないけど!? ホテルから出ただけだぞ!?」

 

「あ、後のことは・・・・・・任せた・・・・・・ガクッ」

 

「無茶ぶり過ぎるっ! マジで何があった!?」

 

 

そんなやり取りをしながら二条城行きのバスを待っていると、俺の背中に何かが飛び乗った。

 

「イッセー! 私も行くぞ!」

 

金髪の巫女装束の幼女――――九重だった。

 

先生からは妖怪のいる裏京都で待機していると聞いていたけど・・・・・・。

 

「なんで、九重がここに?」

 

「私も母上を救いたいのじゃ!」

 

「おいおい・・・・・。危ないから待機するよう言われてるだろ?」

 

「それでもじゃ! 母上は私が・・・・私が救いたいのじゃ! 頼む!」

 

うーん、ここまで言われるとなぁ・・・・・。

 

今から行くのは戦場だ。

そんなところにこんな小さな女の子を連れていくのは普通に考えれば無しだ。

 

だけど、九重の想いは本物。

この子はそれほどまでに必死なんだ。

 

俺は九重を肩車して言った。

 

「仕方がないか・・・・・。わかったよ。一緒に行こうぜ」

 

「ほ、本当か?」

 

「おうよ。ただし、現地では俺の言うことをしっかり聞けよ?」

 

「うむ!」

 

すると、匙が慌てて反対した。

 

「お、おい、こんな小さな女の子を連れていくつもりかよ!?」

 

「ま、言いたいことは分かるけどさ。俺が責任もって九重を守るから、おまえも九重の気持ちを汲んでやってくれないか?」

 

「おいおい・・・・・」

 

匙が呆れながらため息をつく。

 

 

その時――――俺達の足元に薄い霧が立ち込めてきた。

 

同時にぬるりとした生暖かい感触が全身を襲った。

 

 

・・・・・・来やがったな。

 

「皆、注意しろ」

 

俺の言葉に全員が頷くと、俺達は全身を霧に覆われていった。

 

 

 

 

 

 

霧が止むと俺と九重は地下鉄のホームにいた。

 

『京都』って駅名のプレートもあるから京都駅の地下ってことだな・・・・・。

 

周囲に人影はなく美羽や木場達もいなかった。

 

 

近くに気配を感じないってことは完全に分断されたか・・・・・。

 

 

絶霧の能力で俺達はまた強制転移させられたわけだ。

 

全く・・・・・昼間の時といい、今回といい、俺達をいきなり転移させるんだもんな。

神滅具ってマジで恐ろしいと思うぜ。

 

「九重、大丈夫か?」

 

「私は大丈夫じゃが、ここは・・・・・?」

 

「昼間の時と同じだよ。俺達は強制的に転移させられたみたいだ」

 

「じゃ、じゃあ、ここも別空間に創られた疑似京都なのか? 彼奴等の持つ技術はすさまじいのぅ」

 

「全くだ」

 

俺と九重が相手の技術の高さに感心しながら周囲を見渡していると、俺のケータイが鳴った。

 

見ると木場からだった。

 

ケータイは通じるのね・・・・・・

 

「もしもし、木場か? 今はどこに?」

 

『うん。今は京都御所にいるよ。ロスヴァイセさんも一緒だよ。イッセー君は?』

 

「こっちは九重と京都駅の地下鉄ホームだ。ちょっと待て、地図で場所を確認する」

 

俺は九重を一旦、下ろして持たされていた地図を出す。

 

俺がいる場所はここ・・・・・・・そんでもって木場がいるのは・・・・・・。

 

おいおい・・・・・マジかよ。

 

「このフィールド、かなり広大に作られてるのか?」

 

『二条城を中心に京都の町を広大に再現してるみたいだね。レーティングゲームのフィールドの技術を使ったのならそれも可能だとは思う』

 

ってなると、早急に集まった方が良さそうだな。

 

このままだと完全に分断されているところに襲撃を受けるかもしれない。

 

戦う力を持たないアーシアのことが気になるところだが・・・・・。

 

「合流場所は二条城でいいな?」

 

『了解。他の皆への連絡はそちらから取るかい? 彼女達もこちらに来ていると思うからね。僕達は英雄派に招待されたようだから』

 

「俺の方から連絡してみるよ。木場は先生に連絡してみてくれ」

 

木場との連絡をそこで終わり、他の皆へ連絡してみる。

 

とりあえず、全員と連絡が取れた。

教会トリオは仲良く一ヶ所に集まっていて、美羽は匙と一緒だった。

その二つのグループにも集合場所を伝えておいた。

 

更に木場から連絡があり、先生とは連絡が取れなかったそうだ。

俺からかけてみても先生とは繋がらない。

 

どうやらフィールドの中では連絡が可能だが、内と外では完全に遮断されているようだ。

 

何か特別な術式でも仕込んでいるのかね?

 

 

ま、何にしても皆が誰かしらと同じ場所にいるみたいで安心した。

 

「九重、俺達も行こうか」

 

「わかった!」

 

九重と手を繋いで、二条城へと向かおうとした。

 

その時。

 

 

「? どうしたのじゃ、イッセー?」

 

立ち止まった俺を怪訝な表情で見上げる九重。

 

俺はホームの柱の方を見て目を細めた。

 

「出てこいよ。隠れてるのは分かってる」

 

突然現れた気配と俺に向けられた殺気。

 

この気はどこかで・・・・・・。

 

柱の影から姿を表したのは男が数人。

 

 

真ん中のサングラスをかけた男には見覚えがある。

 

男はニヤッと笑みを浮かべて話しかけてきた。

 

「やぁ、赤龍帝。俺のことを覚えているかな?」

 

「ああ、影を扱う神器を持ってたな」

 

「そうだ。かの赤龍帝に覚えてもらえているとは光栄だ」

 

「心にもないことをよく言う」

 

以前の戦闘でこいつは最後に異様なオーラを放っていたからな。

その時のことはよく覚えているよ。

 

俺達の推測が正しければ、こいつは――――

 

「それで? あんた達がここに来た理由は・・・・・ま、聞かなくても分かるからいいや」

 

「話が早くてこちらも助かるよ。――――それじゃあ、早速始めようか。以前のようにはいかない。教えてやるよ、本当の影の使い方を――――」

 

男から黒く不気味なオーラが発せられる。

足元の影が広がったと思うと、男の周囲にある柱、自動販売機などの影も動き出した。

 

「――――禁手化(バランス・ブレイク)

 

 

ズズズズッ

 

 

男から放たれるプレッシャーが増し、周囲の影が男のもとに集まって体を包み込んでいく。

 

全身を影が覆い、男の体に鎧のようなものが形作られた。

 

影の全身鎧ってところか。

 

「『闇夜の大盾(ナイト・リフレクション)』の禁手、『闇夜の獣皮(ナイト・リフレクション・デス・クロス)』。これが俺の新たな力。赤龍帝、あの時の反撃をさせてもらうぜ?」

 

影の男がそう言うと周囲にいた男達も神器を展開する。

 

そして一斉に――――

 

「「禁手化ッ」」

 

その声と共に男達の力が数段上がるのが感じられた。

 

 

こいつらもかよ・・・・・。

 

 

「『青の長槍(ピアス・ブルー)』の禁手『蒼黒の剛槍(ランサ・ペネト・ブルー)』」

 

「『無空の箱庭(スペース・ボックス)』の禁手『無定型の地平原(インターフェレンツ・エデン)』」

 

一人は青い通常の槍から青と黒が混じった柄が太く長い槍へと変化。

槍の切っ先には水を纏わせている。

 

もう一人は手に占いで使っているような水晶を持っていて、水晶の色が透明から白と黒が入り交じったような色に変化した。

 

 

禁手使いが三人・・・・・・。

 

対して俺は神器を使えないし、九重を守りながら戦わないといけない。

 

影使いの能力は何となく予想できるけど、他二人のは今のところ不明。

 

いきなり厄介な展開になっちまった。

 

 

ここは早めに片付けたいところだけど・・・・・・

 

 

「とりあえずやってみるか」

 

俺は影使い達三人に向けてそれぞれに気弾を放つ。

 

気弾が三人を捉え命中したかのように見えた。

 

しかし、全ての気弾が伸びてきた影に吸収されてしまった。

 

そして次の瞬間、俺を囲むように壁と天井に影が広がり、そこから俺の気弾が飛び出してきた!

 

俺は九重を抱えたまま、その場を離れる。

 

その直後。

 

 

ドドドドドドドドンッ!!!

 

 

互いに衝突し、気弾は全て弾けた。

 

 

影使いの能力は前回の拡張版ってところか。

 

今度は影を身に纏っているから直接的な攻撃は効かないだろう。

 

なんとも相性が悪い相手だ。

 

 

「赤龍帝、覚悟ッ!!」

 

剛槍を持った男が俺目掛けて突っ込んでくる。

 

槍から水を生み出し、それを操って斬り込んできた!

 

 

足を半歩ずらし、体捌きで受け流す。

 

そして、男の顔面にカウンターを放つ!

 

 

ズヌンッ

 

 

「っ!」

 

 

しかし、俺の拳は伸びてきた影に吸い込まれて男に届くことはなかった。

 

槍使いの男は舌打ちする俺に笑みを浮かべて更に槍を振るってくる!

咄嗟に後ろへ跳び、回避!

 

クソッ!

流石にこの状況で連携されると面倒だな!

 

 

「イッセー! 水じゃ!」

 

九重の言葉に足元を見てみると、いつの間にかホームは水浸しになっていた。

 

「ハハハッ! ガキを抱えながら俺達の相手はキツいんじゃないのか?」

 

槍使いの男は高らかに笑うと槍をホームに突き立てる。

 

波紋が広がり、ホームの水を揺らす。

 

「さぁ、やれ! 我が水よ! 奴の体を貫いてやれ!」

 

 

ギュオオオオオオッ!!

 

 

男の言葉と共にホームに溜まった水が槍のようなものを何本も形成し、俺を襲ってきやがった!

 

「こなくそっ!」

 

俺は硬気功を発動させて、向かってきた全てを打ち砕いていく!

 

この程度なら、まだ大丈夫だけど、九重を抱えながらじゃ激しい動きがとりづらい!

 

気弾を連続で放っても影が伸びてきて、全てが俺に返される!

 

 

ドゥ! ドンッ! ドドンッ!

 

 

「うわっ!」

 

気弾がホームを抉り、その時生じた衝撃波に九重が悲鳴をあげた。

 

気弾の威力ももう少し下げるか・・・・・・。

 

 

「やるなぁ、赤龍帝! だが、俺も加わればどうなるかな?」

 

影使いがそう言うと、周囲に影が広がり、そこから影が伸びてきた!

 

影の槍ってところか!

 

しかも、いくつかの影が触手のように蠢いて俺を縛ろうとする!

 

「えらく多彩だな!」

 

俺は気の残像を残すことで相手の認識をごまかし、それを回避する。

 

 

だぁー!

 

マジで神器の能力って厄介だ!

厄介過ぎる!

 

特にこの影!

 

変幻自在すぎるぜ!

 

 

ザアァァァァァァァッ

 

 

「おっと!」

 

水の方も影と組み合わせて攻撃してくるから、こいつもこいつで面倒だ。

 

 

槍使いが自身の影に槍を突き刺す。

 

ズヌンッと影に切っ先を吸い込まれたその槍は、俺の影から出てきやがった!

 

「ちぃっ!」

 

体を捻ってそれを避けると次は天井の影から無数の水の槍!

 

あの影使い、味方の攻撃の出現ポイントまで変えられるのか。

ま、敵のやつも出来るなら出来て当然か。

 

俺は気弾や拳を放って応戦するが影が伸びてきて、全ての攻撃を吸収する!

 

しかも、あちこちの影から返ってくるから性質が悪い!

 

「ハァッ!」

 

「効くかよ!」

 

顔目掛けて飛んできた槍を首を傾げて避ける!

 

避けたと同時に回し蹴りを放つ!

 

・・・・が、また影に妨害された!

 

 

この狭い空間でこいつらの能力とコンビネーションはマジで厄介すぎる!

 

ここは一旦、外に出るか!

 

俺は相手の攻撃を掻い潜り、上へと通じる階段を駆け上がる。

 

せめて、外でやり合うことが出来れば、何とかなるはずだ。

 

 

俺は階段を上り出口へ―――――

 

 

「なっ!?」

 

 

階段を上りきった俺は目を見開いた。

 

 

何故なら――――

 

上へと向かったはずなのに、出た場所はさっきと同じ地下鉄のホームだったからだ。

 

 

驚愕する俺を見て、影使いが愉快そうに笑う。

そして、水晶を持った男を指差して言った。

 

「驚いたかな? これがこいつの禁手の能力、周囲の空間を自由自在に創り変える能力さ」

 

「空間を?」

 

俺が聞き返すと影使いは頷く。

 

「そう。相手に気づかれることなく、その周囲の空間の形状を変える。仕掛けられた相手はその変化に気づくことは出来ない。だから、その気になれば永久に続く迷路にするだって出来る」

 

空間制御系の神器。

完全なサポートタイプ。

 

さっきから攻撃をしてこなかったのはそのためか。

 

「だったら空間を壊せばいいじゃないか」

 

「甘いな。神器の効果範囲内に閉じ込められたが最後。内側からこの空間を破壊することは出来ないよ。少なくとも今のあんたじゃな」

 

「なに?」

 

「今までの攻防でわかった。どんな事情があるかは知らないが、あんたは神器を使えない。そうだろ?」

 

「・・・・・っ」

 

気づかれたか・・・・・

 

いや、これだけの状況で神器を使わないんじゃバレて当然か。

 

「だったら、潰すなら今だ。神器を使えないあんたなら、今の俺達でも十分可能だ」

 

まぁ、その判断は間違っていない。

 

鎧だったら、こいつらの攻撃を受けてもびくともしない。

だけど、今は生身の状態だ。

まともに受ければダメージは受ける。

 

 

ズズズズッ

 

 

槍使いと水晶を持った男の体に影が巻きついて行く。

 

こいつは・・・・

 

「これであんたの攻撃は俺達には届かない。あんたはこの空間から逃げることもできず、俺達に串刺しにされる。それで終わりだ」

 

あの影は味方にもああやって使うことが出来るのか。

 

 

流石にマズイな。

 

 

大規模な攻撃が出来れば手っ取り早く終わらせることが出来る。

 

それはあの影の吸収能力には必ず限界があるからだ。

どんなに凄い能力にも必ず限界はある。

 

相手の吸収能力を超える攻撃。

それを放つことが出来れば早々に片がつく。

 

だけどここには九重がいる。

 

鎧の状態になれれば、翼で九重をくるんで保護することもできるんだけど・・・・・・。

 

 

ま、出来ないことを言っても仕方がない。

別の方法を考えるか。

 

と、この場をどう切り抜けるか考えている時だった。

 

 

「イッセー、私が足を引張っているというのなら気にすることは無いのじゃ」

 

九重が俺を見上げてそう言ってきた。

 

おそらく、俺の表情を見てなんとなく考えていることが分かったのだろう。

 

九重は一旦息を吐くと、自分の想いを俺にぶつけてくる。

 

「今回、無理を言ってついてきたのは私じゃ! 多少のケガくらい覚悟できておる! 私は何としてでも母上を助けたいのじゃ! こんなところで足を止めるわけにはいかん!」

 

「――――――――っ」

 

 

――――――凄い覚悟だ。

 

まだ、こんなにも幼い女の子だというのに。

 

「これはこれは幼き狐の姫君。赤龍帝が本気を出せば俺達に勝てると? 残念ながらそれは無理だ」

 

「無理などではない! この者は私と約束してくれた! 必ず母上を助けてくれると!」

 

「神器を使えれば、それも可能だっただろう。だが、その男は神器を使えない状態にある。神器を使うことすら出来ないただの悪魔が禁手に至った俺達を相手に勝てるはずもない。九尾は俺達の思い通りに利用させてもらう」

 

情の欠片もない男の言葉に九重は激しく睨みつける。

 

 

「さっきから随分好き勝手言ってくれるな」

 

俺は手のひらを影使い達に向ける。

戦闘開始してからずっと溜めてたから、もう十分だ。

 

男達は一瞬身構えるが、クスクスと馬鹿にするような笑い声を漏らす。

 

「まだ分からないのか? あんたの攻撃は俺の影には通用しない」

 

「それはどうだろうな。あんた、自分の能力を過信しすぎだぜ」

 

甲高い音が響き―――――右腕が激しく光り輝く。

 

「九重、しっかり俺に掴まっておけよ? ま、俺がしっかり守ってやるから心配すんな」

 

「うむ!」

 

俺の言葉に九重は満面の笑みを浮かべて頷き、俺の制服をギュッと掴んだ。

 

 

それを確認して再び、男たちの方に視線を向ける。

 

「言っとくけどな。人間だろうと、悪魔だろうと、妖怪だろうと関係ない。俺は誰かを泣かせるような奴らには容赦しない」

 

 

 

そして―――――

 

 

「アグニッ」

 

 

極大の光の奔流がこの空間の全てを吹き飛ばした―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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12話 突入、二条城!!

ガラッ ガララララッ

 

瓦礫が崩れる音が響き渡る。

 

「イタタタタ・・・・九重、大丈夫か?」

 

「私はイッセーが守ってくれたから大丈夫じゃが・・・・・・お主も無茶をするの」

 

 

周囲を見渡せば、崩壊し瓦礫の山と化した京都駅の地下ホーム。

天井が崩れ落ち、コンクリートの塊があちこちに転がっている。

 

 

英雄派の男達は・・・・・・アグニに完全に呑まれたな。

 

少し離れたところで全身から血を噴き出して倒れている。

瀕死の状態だ。

 

ギリギリ生きてるのは影の鎧があったからだな。

 

『籠手の力無しの状態で放ってしまったが、体はどうだ?』

 

少し疲れたけど問題ないよ。

 

後に曹操達が控えてるんだ。

こんなところで無駄に力を消費していられない。

 

だから、影使いが吸収できる許容をギリギリ越える威力のアグニを撃った。

ライザーの時はフェニックスの再生能力を越えるために全力――――魔王クラスの一撃を放ったけど、今回はそこまでの威力は必要なかったしな。

 

『なるほど。よくもまぁ、そこまで器用なことが出来たものだ。だが、奴の許容レベルはどうやって測った?』

 

 

ん~、勘・・・・・というか、経験測ってやつ?

 

 

『は?』

 

 

いや、戦っている間にさ、何となく相手の実力を測ってたんだよね。

 

気弾の威力を調整して、どのレベルで返ってくる気弾に変化が出るか見てたんだ。

そしたら、かなり威力高めのやつで僅かに気弾の威力にムラが出来ていたから、そこから上限値を計算したというか・・・・・・。

 

まぁ、九重がいたから無茶は出来なかったけど、明かすとそんな感じだ。

 

予測が当たってよかったぜ。

 

 

ドライグは感心しながら言う。

 

『昔の相棒では考えられないやり方だな。モーリス辺りならそれくらいはやりそうだが・・・・・。あのクソジジイも容易にこなすだろうな』

 

拳神の師匠はともかく、おっさんの方は異常だと思うけどな。

 

 

とにかく、そういうわけで俺は平気だ。

 

 

ただ・・・・・もう少し範囲を絞るべきだったかな?

 

この瓦礫の山を見ているとそう思えてくるよ。

 

 

「ここが本物の京都じゃなくて良かったのじゃ。そうじゃなかったら、大騒ぎになっとるの」

 

 

うっ・・・・・ごもっともな意見で。

 

ま、まぁ、九重はケガ一つ無いし、相手も倒せた。

結界オーライってことで良しとしよう。

 

「行くぜ、九重」

 

「うむ!」

 

俺は九重を抱き抱え、悪魔の翼を広げて二条城を目指した。

 

 

 

 

 

 

地図を見ながら、空を飛んでいると見えてきたのは二条城と門の前にいるオフェンス組のメンバー。

 

全員無事に揃ってるな。

 

「スマン、遅れた」

 

俺が手でゴメンとすると木場が笑顔で迎えてくれた。

 

「無事で何よりだよ。やはり、そちらにも刺客が?」

 

「まぁな。いきなり禁手使いが三人も来やがった。今の俺の状態は知ってるだろ? 少し苦戦してさ。・・・・・やはりってことは皆のところにも?」

 

「うん。僕達も禁手使いの襲撃を受けたよ」

 

「それで全員が無事ってことは倒せたみたいだな。流石だよ」

 

と、互いの無事を確認していると――――

 

 

「おげぇぇぇぇぇぇ・・・・・・」

 

近くの電柱で吐いてるヴァルキリーの鎧を着たロスヴァイセさんの姿が・・・・・・。

 

匙が「大丈夫っすか?」と背中をさすってる。

 

「え、えーと、あれは刺客にやられたのか・・・・? 神器の能力とか?」

 

そう尋ねると木場は苦笑しながら否定した。

 

「実は昼間に飲んだ影響で・・・・・動いたら気持ち悪くなったみたいなんだ」

 

 

ビチャビチャビチャ・・・・・・

 

 

聞こえてくるゲロの音。

 

な、なんか、メチャクチャ吐いてないか・・・・・?

 

「・・・・・酒とは恐ろしいものじゃな」

 

「九重、見るな。あれは見ちゃいけないものだ」

 

俺は両手で九重の目を遮る。

 

あんなシーンは子供に見せちゃいけません!

 

 

はぁ・・・・・・

 

やべーよ、この後も戦闘が続くのに別の意味で不安になってきたよ・・・・・。

 

 

ゲロ吐きヴァルキリー・・・・・・・嫌な二つ名が浮かんじゃったよ。

 

「お兄ちゃん、ケガはない?」

 

「服は何ヵ所か破けてるけどな。美羽はどうだ?」

 

「ボクも大丈夫だよ。匙君もサポートしてくれたしね」

 

「そっか」

 

ま、美羽なら大抵の相手は退けられるだろうし、匙のヴリトラの力も加われば何も問題ないとは踏んでたからな。

実力的にこっちは大して心配はしてなかったよ。

 

匙も日頃の修行の成果でヴリトラの力を大分使いこなせるようになってきたみたいだし。

 

 

一番心配してたのは・・・・・・・

 

「アーシアも無事みたいだな」

 

「はい。ゼノヴィアさんとイリナさんが守ってくれましたから」

 

「アーシアを守るのは任せてもらおう」

 

「そうそう」

 

戦闘服姿のゼノヴィアとイリナもそう言ってくれる。

 

相手も回復役のアーシアを狙ってくると思ってたから心配してたんだけど、杞憂に終わってくれたようだな。

 

 

見ればゼノヴィアに握られているデュランダルは装飾された鞘に入っている。

 

「それが新しいデュランダル?」

 

「そうだ。直前に私の元に返ってきたんだ」

 

デュランダル特有の攻撃的なオーラが漏れていない。

 

あの鞘で抑え込んでいるのか?

 

 

「げぇぇぇぇぇぇ・・・・・・」

 

 

うわ、まだ吐いてるよロスヴァイセさん・・・・・・。

 

マジで大丈夫なのか?

帰ってもらおうか?

 

いや、マジで。

 

あの調子じゃ戦闘中にも吐くぞ・・・・・・。

 

それが相手の顔面とかにぶちまけられたら・・・・・・テロリストとは言え、少し申し訳なく思ってしまう。

 

 

俺はロスヴァイセさん――――ゲロ吐きヴァルキリーを指差しながら美羽に言う。

 

「美羽、何とかできないか?」

 

「う、うん。一時的なもので良いなら・・・・・」

 

「もうそれでいいよ。この戦闘を乗り切れたらそれで」

 

半分諦めた感じで言う俺。

 

美羽は何とも言えない表情でロスヴァイセさんに応急処置の魔法をかけるのだった。

 

 

ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

 

 

巨大な門が鈍い音を立てながら開いていく。

 

開き放たれた門を見て木場が苦笑する。

 

「どうやら僕達を待ってるみたいだね」

 

「らしいな。凝った演出をしてくれるぜ」

 

俺は息を吐いて、皆の方を見る。

皆もそれに頷きを返してくれた。

 

「それじゃあ、ご要望通りに出向いてやるか」

 

それからロスヴァイセさんの吐き気が治まるのを待った後、俺達は二条城の敷地へと踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「僕が倒した刺客は本丸御殿で曹操が待っていると倒れる間際に言っていたよ」

 

木場が走りながらそう言う。

 

「本丸御殿ね。それを聞くと向こうが魔王で俺達が勇者のパーティーみたいに感じるな。ほら、RPGとかでよくある」

 

主人公のパーティーが魔王の城に乗り込むあのパターンにそっくりだよね。

 

「僕達が悪魔で向こうが人間だから、そのあたりは真逆になるけどね。ただ、勇者のパーティーというのは間違ってないんじゃないかな?」

 

木場の言葉にゼノヴィア達が続く。

 

「そうだな。こっちには本物の勇者がいるんだ」

 

「あんな英雄の子孫になんて負けやしないわ!」

 

 

アハハハ・・・・・

 

なんか、かなり期待されてないかい?

 

 

敷地内を進み、二の丸庭園を抜けると本丸御殿を囲む水堀が見えてくる。

それから本丸御殿に続く櫓門を潜り、辿り着いたのは古い日本家屋が建ち並ぶ場所。

 

キレイに整備された庭園も見えて、ライトアップまでされている。

 

ここまで細かく再現してるのか。

ある意味すごい拘りだ。

 

 

「禁手使いの刺客を倒したか。俺達の中でも下位から中堅の使い手でも禁手使いには変わらない。それを倒してしまうのは驚異的であり、流石だとも言える」

 

その声に振り向くと庭園には曹操。

建物の陰からは制服を着た英雄派の構成員が姿を現す。

 

「母上!」

 

九重が叫んだ。

 

九重の視線の先には着物姿のキレイな女性が佇んでいた。

頭部には狐耳、九つの尾。

 

あの人が九尾の御大将――――八坂さんか。

 

かなりの美人だ!

おっぱいも大きいな!

着物からこぼれ落ちそうなくらいだ!

 

「お兄ちゃん・・・・・こんな時に」

 

美羽が半目で見てくる!

 

うん、ごめんなさい!

スケベなこと考えてる場合じゃないよね!

 

「母上! 九重です! お目覚めくだされ!」

 

九重が駆け寄り声をかけても八坂さんは反応しない。

瞳は陰り、無表情だ。

 

何かの術で意識を奪われてるのか?

 

 

九重が曹操達を睨み付ける。

 

「貴様ら! 母上に何をしたのじゃ!」

 

「言ったでしょう? あなたの母君には我々の実験に協力してもらうだけですよ」

 

曹操はそう言うと槍の石突きで地面をトンッと叩く。

 

刹那――――

 

「う・・・・・うぐ・・・・・うぁぁあああああああっ!!!」

 

八坂さんが悲鳴をあげはじめた!

 

体が光か輝くと同時にその姿を変えていく!

 

どんどん大きくなっていき―――――

 

 

オオォォォォォォォォォンッ!!

 

 

夜空に向かって咆哮をあげる巨大な金色の獣。

 

これが八坂さんの正体、伝説の妖怪―――九尾の狐!

 

体格は十メートルくらい。

以前戦った親フェンリルと同じくらいだ。

 

巨大化した九つの尾のせいで見た目にはかなり迫力がある!

 

 

それに・・・・・この力の波動!

タンニーンのおっさんやティアにも負けてない!

実力は間違いなく龍王クラス!

 

 

今の八坂さんの瞳には感情が感じられない。

完全に英雄派に操られている状態なのだろう。

 

 

クソッ・・・・・・最悪の展開だ!

 

 

俺は曹操に問い詰める。

 

「曹操! こんな疑似京都を作って、しかも八坂さんまで操って、何をしようとしている!? 」

 

曹操は槍の柄を肩にトントンとしながら答えはじめた。

 

「そうだな、そろそろ教えてもいいだろう。俺達は京都に流れる力と九尾の力を使って、この空間にグレートレッドを呼び寄せる」

 

「なんだと? あのドラゴンを呼んでどうするつもりだ? まさか倒すなんて言うんじゃないだろうな?」

 

グレートレッド。

この世界で最強と呼ばれる赤龍神帝。

 

今の俺が挑んだら瞬殺されるほどの存在だ。

 

いくらなんでもあのドラゴンを倒すのは無理なんじゃないか?

 

先生曰く、全勢力で向かっても勝てないと言われてるみたいだし。

 

「流石に倒すのは難しいだろうな。というよりまともにやり合って勝てる相手じゃない。俺達のボスでさえ難しい相手だというのに」

 

こいつらのボス・・・・・・オーフィスか。

 

俺の脳裏に浮かぶあの少女。

無限の龍神と恐れられ、禍の団のボスをしている。

 

確か、次元の狭間に帰りたいっていう望みを持ってたな。

 

ただ、そこに戻るにはグレートレッドが邪魔で、オーフィスはそれを何とかしたいらしい。

 

「とりあえず、今回の実験はボスの願いを叶える第一歩なのさ。呼び寄せ、生態を調査できるだけでも大きな収穫だ。『龍喰者(ドラゴン・イーター)』がどれぐらいの影響をあの赤龍神帝に与えるかも見てみたいしね」

 

ドラゴンイーター?

なんだそりゃ?

 

ドライグ、聞いたことあるか?

 

『いや、初めて聞く単語だ。名前からしてドラゴンに対して何らかの影響を与えていくものだとは思うが・・・・』

 

ドライグですら知らないものなのか・・・・・。

 

ま、どちらにしてもろくでもない代物だろう。

 

 

俺は曹操に指を突きつける。

 

「その実験目的を知ったところで俺達がすることは変わらねぇ。とにかく八坂さんは返してもらうぜ」

 

俺がそう言うとゼノヴィアが剣を振り上げる。

 

鞘の各部位がスライドしていき、変形する。

 

 

ズシュゥゥゥゥゥッ!!

 

 

激しい音を立てながら、鞘のスライドした部分がら大質量の聖なるオーラが噴出する!

 

オーラが刀身を覆い尽くして極太のオーラの刃と化した!

 

オーラは上手く纏められているみたいだ。

その証拠に攻撃的なオーラが周囲に影響を与えていない。

 

あの鞘がデュランダルの力を制御してくれているようだ。

 

「貴様達の思想、今からしようとしていることは危険だ。私達だけではない。周囲にまで被害を与えるだろう。貴様達にはここで倒れてもらうぞ」

 

「僕もゼノヴィアに同意だね」

 

「同じく!」

 

木場とイリナもゼノヴィアに続き、聖魔剣と光の剣を作り出す。

 

「九重ちゃんを悲しませるような人達には手加減しないよ!」

 

「私も頑張ります!」

 

美羽とアーシアも気合い入ってる。

 

美羽の体から凄まじいオーラが放たれ、風が吹き荒れ始める。

どうやら美羽も相当お怒りのようだ。

 

「ま、ここまでされて黙ってるわけにもいかないもんな。俺もやってやるぜ」

 

匙の腕、足、肩に黒い蛇が複数出現。

それと同時に体から黒い炎を発する。

 

更には匙の傍らに影が現れ、黒い大蛇となった。

その大蛇も黒い炎を纏っている。

 

匙の左目は赤くなり、蛇の目のようになっている。

 

「ヴリトラ、おまえも力を貸してくれ」

 

大蛇が低い声で喋りだす。

 

『いいだろう。眼前の者共全てを我らが黒炎で燃やし尽くしてやろうぞ』

 

おおっ、やる気満々だな。

久方ぶりに暴れられるからテンション上がってんのかな?

 

 

全員、戦闘態勢も整ってるしやる気も十分だ。

 

「よし、ゼノヴィア。やっちまうか」

 

「任せろ」

 

 

ズォォォオオオオオオオオッ!!!

 

 

デュランダルのオーラが更に出力を上げていく!

オーラの刃が空を貫かんばかりの勢いで伸びていった!

 

 

これだけの聖なるオーラだ。

まともに受ければ上級悪魔でも完全に消え去るな。

 

聖なる力を宿してるだけでも悪魔には大ダメージなのに、これだけの力だ。

 

レーティングゲームではかなりの武器になるぞ。

 

 

そんじゃ、俺も続きますか。

 

俺は手に気を纏わせてイグニスを瞬時に展開。

 

刀身に灼熱の炎を纏わせる。

 

 

そして―――――

 

 

「「とりあえず、初手だ。喰らっとけ!」」

 

 

莫大な聖なるオーラと灼熱の斬撃が英雄派を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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13話 新手

ドゴォォォォォォォンッ!!

 

 

俺とゼノヴィアが放った斬戟は二条城の本丸を容易く吹き飛ばした。

本丸があった場所には煤だらけになった荒れ地のみ。

 

 

「ふー」

 

俺は息を吐きながら直ぐにイグニスをしまう。

これ以上持ってたら腕が焼かれかねない。

 

ゼノヴィアもデュランダルを肩に担いで額の汗を手で拭っていた。

デュランダルは元の鞘状態に戻っている。

 

「ゼノヴィア、ナイスアタック」

 

「イッセーも流石の威力だ」

 

なんてことを言いながら俺達はハイタッチ。

 

 

すると、匙が興奮気味に叫んだ。

 

「おまえら、早すぎだろ! いきなりか! いきなり決着をつけにいったのか!?」

 

「おう。早く終わらせるに越したことはないからな」

 

「だからって飛ばしすぎだろ!? 完全にオーバーキルめいた攻撃だったぞ今のは!」

 

「何言ってんだ。テロリストなんぞに加減するわけねぇだろ」

 

「イッセーの言う通りだ。私達の修学旅行を邪魔したことは万死に値する」

 

と、ゼノヴィアも俺に続く。

 

ゼノヴィアは全力で修学旅行を楽しんでたから、それを邪魔されて相当頭にきてたんだろうな。

少しスッキリしたような顔してる。

 

ゼノヴィアは新デュランダルをコツコツ叩く。

 

「うん。錬金術師によってエクスカリバーと同化したデュランダルは中々に良いものだ」

 

っ!

 

エクスカリバーと同化!?

 

俺が驚いているとイリナが解説してくれた。

 

「簡単に言うとね、デュランダルの刀身に教会が保有していたエクスカリバーを鞘の形で被せたらしいのよ。エクスカリバーの力でデュランダルの攻撃的なオーラを制御。更には覆っているエクスカリバーとデュランダルを同時に高めることで二つの聖剣は相乗効果をもたらして、破壊力を上げるのよ」

 

「そういや、ディオドラの時にデュランダルとアスカロンが共鳴してたっけ?」

 

「そうそう、それも新しいデュランダルが生まれた切っ掛けみたいなの」

 

へぇ、デュランダルとエクスカリバーの合体聖剣か。

 

これまた凄いものが出てきたもんだな。

 

ゼノヴィアは新デュランダルをかざしながら呟く。

 

「エクス・デュランダルと言ったところか」

 

エクス・デュランダル、か。

 

まぁ、無難と言うか・・・・・・そのまんまだな。

 

 

そういや、教会が保有してたエクスカリバーって六本だったよな?

 

最後の一本はヴァーリチームのアーサーが所有してたっけ。

 

もし、このエクス・デュランダルに最後のエクスカリバーが加わればどうなるんだろうな?

少し見てみたい気もする。

 

 

「いやー危ない危ない♪ 開幕早々やってくれる」

 

声がする方を見てみると曹操が楽しそうな笑みを浮かべて、槍で肩をトントンとやっていた。

他の英雄派メンバーも何ともなかったように立っていた。

 

今のを受けて無傷・・・・・・・なわけないか。

イグニスの一撃を受けて無傷ってのはないだろう。

 

 

あいつらの周囲に漂ってる霧。

 

あれで防いだのか?

 

「ゲオルクが作った空間に移動しなければやられていたかもしれないな。全く、君という男は俺を楽しませてくれるよ、兵藤一誠」

 

 

空間に移動?

 

そうか・・・・・・絶霧の能力なら簡単にできるか。

 

イグニスの一撃を受ける前に別空間に飛んで、今のをやり過ごした、と。

それなら無傷なのも納得できるな。

 

 

ジークフリートが興奮したように獰猛な笑みを浮かべる。

 

「ハハッ、流石は噂に名高い赤龍帝の一撃か。一瞬、死を意識したよ。曹操、やっぱり彼を譲ってくれないかな?」

 

「それは出来ないな。彼と戦うのは俺の予定だろう?」

 

うわー、なんか俺の取り合いし始めたぞ。

 

マジでやめてくんない!?

 

キモい!

 

 

「私も攻撃したんだが・・・・・・。まぁ、イッセーにはまだまだ及ばないから仕方がないのかもしれんが・・・・・」

 

ゼノヴィアがため息をついてるよ。

 

元気出せ、ゼノヴィア!

 

仕方がねぇよ!

俺が言うのもあれだけど、イグニスってチートだもん!

宿ってる人が半端じゃないんだって!

 

『えっへん。私って凄いでしょう?』

 

可愛い言い方してるけど、自慢しなくていいから!

 

あんたが凄い人なのは十分承知してるって!

 

『フフッ♪ 脱いでも凄いのよ?』

 

何の話だーーー!

 

今、全く関係ないよね!?

 

『でも、見たいのでしょう?』

 

 

 

・・・・・・・・・見たいです。

 

 

 

『相棒・・・・・・おまえ・・・・・・』

 

何も言うな、ドライグ。

 

これは男の性だ。

 

 

「さて、そろそろ実験を始めるとしよう」

 

曹操が槍の石突きで地面を叩く。

 

すると、八坂さんの体が輝き出した!

 

何だ!?

 

「九尾の狐に京都に流れる力を注ぎ、グレートレッドを呼び出す準備に取りかかる。ゲオルク!」

 

「了解」

 

曹操の言葉に眼鏡をかけた魔法使い風の青年、ゲオルクが手を突き出す。

 

ゲオルクの周囲に各種様々な紋様の魔法陣が縦横無尽に出現した!

魔法陣に描かれた数字やら魔術文字が高速で動き回る!

 

「・・・・北欧式、悪魔式、堕天使式、黒魔術、白魔術、精霊魔術・・・・・他にも・・・・・。彼はかなりの使い手のようですね」

 

ロスヴァイセさんが目を細目ながらそう呟いた。

 

確か、絶霧の弱点は所有者だと聞いていたが・・・・・・。

どうやら所有者も相当な実力者らしい。

 

これまた厄介なことで。

 

 

八坂さんの足下に巨大な魔法陣が展開する。

 

あの魔法陣、どこかで・・・・・・・。

 

 

俺が記憶を探っているとドライグが言う。

 

龍門(ドラゴン・ゲート)。以前、ミドガルズオルムの意識を呼び寄せた魔法陣に似ているな』

 

言われてみれば確かに。

所々は違うけど、あの時の魔法陣に似ている。

 

 

オォォォオオオォォォォンッ!!!

 

 

八坂さんが雄叫びをあげる!

双眸が大きく見開き、全身の金毛が逆立っている!

 

明らかに異常な状態だ!

 

 

ゲオルクが言う。

 

「グレートレッドを呼ぶ魔法陣と贄の配置は良好。あとはグレートレッドがこの都市のパワーに惹かれるかどうかだ。ここには天龍と龍王が一匹ずついるのは案外幸いなのかもしれない。曹操、悪いが自分はここを離れられない。魔法陣の制御をしなくてはならないんだが、これがまたキツくてねぇ」

 

ゲオルクの言葉に曹操は手を振って了承する。

 

「了解了解。さーて、どうしたものか。赤龍帝は俺がやるとして・・・・・・。ジークは聖魔剣だろう?」

 

「そうだね。前回の続きを楽しむとするよ」

 

「そうなると――――ジャンヌ、ヘラクレス」

 

「はいはい」

 

「おう!」

 

曹操の呼び声に細い刀身の剣を持った金髪のお姉さんと、二メートルはあろうかという巨体の男が前に出た。

 

「彼らは英雄ジャンヌ・ダルクとヘラクレスの意思―――魂を引き継いだ者達だ。おまえ達はどれとやる?」

 

曹操の言葉にジャンヌと呼ばれたお姉さんとヘラクレスと呼ばれた男が笑みを浮かべた。

 

その時だった。

 

 

「赤龍帝は私が貰う」

 

突如聞こえてきた、第三者の声。

 

これには英雄派のやつらも予想外だったのか声がした方に視線を向けた。

 

「まさか君がここに来るとはね・・・・・」

 

苦笑を浮かべる曹操。

 

 

声の主がいたのは先程まで本丸があった場所。

 

そこに立っていたのは長く淡い紫色の髪を後ろで束ねた女性だった。

かなりの美人だが、冷たい表情をしている。

 

ゼノヴィアが着ているようなボディーラインが浮き彫りになる戦闘服に袖無しのコートを羽織って、腰には二本の剣。

 

そして、手には二本の槍を握っていた。

 

二本の槍・・・・・・二槍流ってのは珍しいな。

少なくとも俺は戦ったことがない。

 

 

あの人、英雄派の一員か?

そのわりには雰囲気が・・・・・・。

 

特徴の制服も着てないし・・・・・・・。

 

 

ジャンヌが女性に言う。

 

「どういうつもりかしら? 普段は作戦に全く参加しないあなたがここに来るなんて」

 

ヘラクレスもそれに続く。

 

「それに赤龍帝を貰うだぁ? ふざけたことぬかしてるとおまえからやっちまうぞ!」

 

二人とも明らかに不機嫌な声音だ。

 

 

すると、女性は二人を睨み――――

 

「黙れ。――――殺されたいか?」

 

 

その瞬間、僅かに悪寒が走った。

 

 

なんつー殺気だよ・・・・・・。

 

直接殺気をぶつけられたヘラクレスとジャンヌは黙りこんでしまったぞ。

 

本当に英雄派なのか?

話からするに、曹操達とはあまり仲はよろしくないみたいなんだけど・・・・・。

 

 

怪訝に思う俺達に曹操は嘆息しながら言う。

 

「彼女はディルムッド。ケルトの英雄、ディルムッド・オディナの魂を引き継いだ者・・・・・・・なんだけどね」

 

曹操の言葉に女性――――ディルムッドは瞑目する。

 

「私はそんなものはどうでもいい。ただ強い者と戦うことが出来ればそれで」

 

「なんかヴァーリみたいな性格してんな。あんたも英雄派ってことでいいのか?」

 

俺の問いには曹操が答えた。

 

「一応の所属はね。ただ、彼女は活動に参加してくれないものでね・・・・・・。ついたあだ名が『英雄派のタダメシぐらい』」

 

その言葉に英雄派の面々が嘆息していた。

 

 

うん、とりあえず変な人が出てきたって認識で良いみたいだ。

 

何その二つ名!?

ただの残念な人じゃん!

 

本日の残念な人パート2かよ!

 

「私のことは言わないでくださいっ。反省してますからっ」

 

おおっと、ロスヴァイセさんが頬を染めてプンスカしてるよ。

 

こうしてると可愛くて美人な人なんだけどね。

 

って、心を読まれた・・・・・・。

 

 

戦場に微妙な空気が流れる。

 

それを払拭するように曹操が咳払いし、ディルムッドに尋ねた。

 

「それで、赤龍帝を貰うというのはどういう了見だ?」

 

「言っただろう? 私は強い者と戦うことを目的としている。赤龍帝とはいずれ刃を交えたいと思っていた」

 

「それは認められないな。あの男は俺の獲物だ」

 

「いや、私の獲物だ」

 

 

ズッ・・・・・・

 

 

二人が睨み合い、殺気がぶつかり合う。

俺達にも英雄派にも緊張が走った。

 

おいおい・・・・・ここにきて仲間割れか?

いや、仲間・・・・・・じゃないのかな?

 

英雄派のメンバーはディルムッドのことを嫌っているみたいだし・・・・・・。

 

 

睨み合うこと数秒。

 

曹操が再度口を開いた。

 

「では問おう。君が準備に準備を重ね、ようやく戦えるとなった相手が眼前にいるとする。その相手をいきなり横合いから奪われた。君はどうするかな?」

 

「まずはそいつを殺すな」

 

「だろう? 今の俺がまさにそれだ。俺はここに来るまでに色々と準備を整えてから来ている。ここで君に譲る訳にはいかないな」

 

その言葉にしばし考え込むディルムッド。

 

そして、

 

「チッ・・・・・。分かった今日はおまえに譲ろう」

 

「では改めて。ジャンヌ、ヘラクレス。おまえ達は誰とやる?」

 

「私は天使ちゃんにするわ」

 

「じゃあ、俺は銀髪の姉ちゃんだな」

 

「ということらしい。ディルムッド、君はデュランダル使いのゼノヴィアとやるといい」

 

「・・・・・・良いだろう」

 

少々、不服そうな表情で頷くディルムッド。

 

出来れば帰ってほしいんだけど・・・・・・。

向こうは槍の切っ先をゼノヴィアに向けているしな。

 

俺が曹操。

 

木場がジークフリート。

 

イリナがジャンヌ。

 

ロスヴァイセさんがヘラクレス。

 

そして、ゼノヴィアがディルムッド。

 

「ゼノヴィア、気を付けろよ? あのディルムッドって人、かなりの使い手だぞ」

 

「そのようだ。だが、イッセーを狙っていると聞かされて黙っているわけにもいかないな」

 

ゼノヴィアはエクス・デュランダルの鞘の一部に手をかける。

すると、カシャッと仕掛けが動いて柄のようなものが現れた。

 

それを引き抜くと―――――それは剣だった。

 

あのデュランダル分離出来るのか!

 

「相手が二槍流なら、こちらは二刀流だ。それにこっちの方が私に合っている」

 

ゼノヴィアが刀身に聖なるオーラを纏わせながら言う。

 

頼んだぜ、ゼノヴィア。

 

「匙、おまえは八坂さんの動きを封じてくれ。美羽にはあの魔法陣を破壊してほしい。出来るだけ八坂さんに影響を与えないようにしてくれ」

 

「俺は怪物対決かよ。・・・・・・任せとけ」

 

「あの魔法陣を封じるには・・・・・・やっぱり流れ込んでる都市の力を塞がないとダメだよね。そうなると・・・・・」

 

美羽は既に何やら考えを張り巡らせているようだ。

 

八坂さんのことは任せたぜ、二人とも!

 

匙の体が黒い炎に大きく包まれた。

次第に炎は広がり、巨大に膨れ上がっていく!

 

龍王変化(ヴリトラ・プロモーション)ッ!」

 

炎がいっそう盛り上がり、黒炎が形をなしていく!

それは体の細長い東洋タイプのドラゴンへと変貌した!

 

『ジャァァアアアアアアッ!!!』

 

巨大な漆黒のドラゴンが吼える。

 

ロキの時に見せたあの姿。

以前よりも安定しているな。

 

ヴリトラの黒炎は相手を縛り力を奪う。

なんとか八坂さんを抑え込んでもらいたい。

 

 

俺はアーシアに言う。

 

「アーシアは九重を頼む。それから回復もお願いするよ」

 

「はい! 皆さんのケガは私が治します!」

 

「九重もアーシアを頼むな」

 

「任せろ! じゃが―――」

 

「わかってる。おまえのお母さんは俺達が助ける。約束だ!」

 

任せろと親指を立てて九重に応じた。

 

俺は曹操に拳を向けて叫ぶ。

 

「さっさと終わらせるぜ、曹操。おまえのふざけた考えは今ここで打ち砕く!」

 

放たれた激しい殺気が空気を揺らして、砂利を弾く。

隅に置いてあった岩にヒビが入る音が聞こえてきた。

 

曹操は口の端を楽しそうに吊り上げた。

 

「いいね、この殺気。ここまでくると心地よくもある」

 

「その余裕ぶった口振りも叩き直してやるよ」

 

「余裕? それは違うな。俺は心から楽しんでいるのさ」

 

「そうかい。だったら勝手に楽しんでやがれ」

 

そう言って籠手からアスカロンを引き抜く。

 

 

 

一瞬の静寂。

 

 

 

そして――――

 

 

ガギィィィィィィィイイインッ!!!

 

 

互いの武器が火花を散らせた。

 

 

 

 




ディルムッドの容姿はfate grand order のスカサハ師匠をモデルにしました。


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14話 英雄派との激戦です!!

アスカロンと聖槍が衝突する音が響き渡る。

 

俺と曹操は僅かに競り合うと一度、距離を置く。

 

それがこの京都での最終決戦の開幕の合図となった。

 

龍王化した匙は八坂さんと大怪獣バトルを繰り広げ、その傍らでは美羽が大きな魔法陣を展開していた。

 

「我が魔法を逆転させる気か! そうはさせん!」

 

ゲオルグが霧を美羽の周囲に広げる。

 

あの野郎、美羽を転移させる気か!?

 

しかし、俺の心配はすぐになくなった。

 

その霧は美羽を中心に巻き起こった竜巻で全て吹き飛ばされた!

 

「邪魔はさせないよ!」

 

辺りに広がる無数の魔法陣。

 

そこから放たれるのはお返しと言わんばかりの異世界式魔法フルバースト!!

 

ロスヴァイセさんのようにありとあらゆる属性の魔法の砲撃が雨のようにゲオルクへと降り注ぐ!

 

砲撃の雨が止んだ頃にはその辺り一帯が焼け野原へと変貌を遂げていた!

 

うーん、流石の威力!

魔王の娘の実力は半端じゃないってな!

 

ゲオルクは霧で防いだようだけど、額から汗を流していた。

 

「なんだ、あの術式は・・・・・・。北欧・・・・・白魔術、黒魔術、どれにも当てはまらないだと?」

 

どうやら、美羽の魔法陣に関心を寄せているみたいだ。

 

まぁ、この世界の魔法使いからしたら興味深いだろうな。

ロスヴァイセさんも似たような反応してたし。

 

「さぁ、あの時の続きをしようか。木場祐斗」

 

「今度こそ君にこの刃を届かせよう」

 

木場は聖魔剣、ジークフリートは魔帝剣グラムを抜き放つ。

 

そして二人は駆け出した!

 

早速繰り広げられる剣戟の応酬!

互いの技を見切り、最小限の動きで相手の技を受け止め、あるいは避けている!

 

しかし、剣の質ではジークフリートの方に軍配が上がる。

 

よく見れば激しい剣戟の中で木場の聖魔剣の刃が欠けていた。

 

「流石は魔帝剣。魔剣最強と言われるだけはある!」

 

木場は後ろに飛び退くと手に持つ聖魔剣を捨て、新たに聖魔剣を二振り造り出す。

更には木場の周囲に七つの剣が出現した。

 

「以前のように様子見はしない。最初から全力でいかせてもらうよ」

 

木場の言葉にジークフリートが笑む。

 

「なるほど。ならば僕も本気をだそうか!」

 

ジークフリートがグラムを軽く振るい、奴の神器、『龍の手』の亜種である銀色の腕が背中から生えてくる。

 

すると、ジークフリートから先程とは段違いの重圧が解き放たれた!

 

木場への殺気も膨らんでいく!

 

「―――禁手化(バランス・ブレイク)ッ」

 

ジークフリートの背中から新たに三本の銀色の腕が生えてきた!?

 

なんだありゃ!?

 

背中に生えた四本の腕が帯剣してあった全てを抜き放つ。

空いている手には光の剣。

 

六刀流かよッ!

 

「元は教会の戦士だったからね。魔剣以外にもこうして光の剣も扱えるのさ」

 

六本の腕で構える姿はまるで阿修羅だ。

 

「これが僕の禁手『阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)』。『龍の手』の亜種たる神器は禁手もまた亜種となったわけだね。能力は単純。腕の分だけ力が倍加するだけさ。技量と魔剣だけで戦える僕には十分すぎる能力だ。さて、君はどこまで戦えるかな?」

 

挑発するように言うジークフリートに木場は不敵な笑みを浮かべて返した。

 

「君が倒れるまでだ。それまで僕はこの剣を振るい続けよう」

 

「いい返事だ」

 

そこから始まる二人の剣士による激戦が始まった。

 

死ぬなよ、木場!

 

俺は曹操と剣を交えながらも木場以外の状況を確認していく。

 

木場とジークフリートが剣を交えている中、少し離れたところではイリナとジャンヌが激戦を繰り広げていた。

 

「はっ!」

 

イリナが光の剣を振り下ろし、ジャンヌはレイピアで軽々と受け止める。

 

「いいね! 流石はミカエルさんのAと言ったところかしら?」

 

二人とも鍔ぜり合うことはせず、互いに地を蹴って剣戟を繰り広げていた。

 

イリナのスピードについてこれるのか。

 

コカビエルの騒動の時、教会からエクスカリバーの一本を任されるだけあってイリナの身のこなしは良い。

パワータイプのゼノヴィアと比べるとテクニックの方面に優れている。

それにスピードもあった。

 

それが天使化してから皆と修行を積んだおかげで出会った頃と比べるとかなり速くなっている。

 

そのイリナにジャンヌは対抗できていた。

 

「これならどう!」

 

イリナが空いている手を掲げる。

 

上空に光の槍が幾重にも展開され、ジャンヌ目掛けて降り注ぐ!

 

だけど、ジャンヌは余裕の表情で――――

 

「聖剣よ!」

 

叫ぶジャンヌの足元から剣が生えてくる!

 

イリナは咄嗟に後ろに飛び、回避するが、イリナの槍は地面から生えた剣に迎撃されてしまった。

 

イリナはそれを見て、ハッとなる。

 

「聖剣が地面から・・・・・造った? あなたの神器はもしかして――――」

 

「あら、お姉さんの能力バレちゃったみたいね」

 

ジャンヌはペロッと舌を出してウインクする。

 

そして自身の能力を明かした。

 

「お姉さんの神器は『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』。どんな属性の聖剣でも創れるのよ。まぁ、聖魔剣なんてものは造れないけれど」

 

それはそうだ。

 

聖魔剣は木場と木場の仲間達によって誕生したイレギュラー中のイレギュラー。

聖と魔、相反する二つの力を一つにした剣だ。

聖魔剣を創るなんて真似は木場以外には出来ないだろう。

 

ジャンヌは木場とジークフリートが戦っている場所を見るとニッコリと笑んだ。

 

「ジーくんも張り切ってるみたいだし、お姉さんも頑張っちゃおうかな♪ ―――――禁手化(バランス・ブレイク)♪」

 

ジャンヌの足下から大量の聖剣が生み出され、凄い勢いで重なっていく!

聖剣は何かを作り出し――――

 

「ドラゴン・・・・・・?」

 

イリナが呟く。

 

そう、ジャンヌの背後に現れたのは聖剣で出来た巨大なドラゴンだった!

 

「これが私の禁手『断罪の聖龍(ステイク・ビクティム・ドラグーン)』。ジーくん同様、亜種よ」

 

こいつも亜種の禁手かよ!

 

「さぁ、再開しましょうか、天使ちゃん♪」

 

ジャンヌは微笑みを浮かべると、剣を構えてイリナに斬りかかった!

 

 

ギィィィンッ!!

 

 

イリナはジャンヌの聖剣を受け止める。

 

しかし、そこを突いて聖剣のドラゴンがイリナを横合いから襲う!

 

「くぅっ!!」

 

イリナはギリギリで直撃は避けたけど、左腕を掠めたようで、血が腕を滴っていた。

 

あの量からして少し傷が深い。

 

「イリナ、大丈夫か!」

 

俺が叫ぶとイリナはこっちに親指を立てて返してくれた。

 

「大丈夫! これくらいどうってことはないわ!」

 

「回復を!」

 

アーシアがイリナに回復のオーラを飛ばして傷を癒す。

 

離れているとはいえ、流石の治癒力。

一瞬で腕の傷は塞がった。

 

「ありがとう、アーシアさん! 皆のためにもここで負けるわけにはいかないわ!」

 

イリナが握る光の剣の輝きが増す!

それを両手で構えてジャンヌへ向かって飛翔した!

 

踏ん張ってくれよ、イリナ!

 

 

ドゴォンッ! ドオオオンッ!

 

 

炸裂音を何度も響かせて爆破合戦に入っているのはロスヴァイセさんとヘラクレス。

 

「くっ! なんて防御力! 魔術を受けてもモノともしないなんて!」

 

ロスヴァイセさんによって縦横無尽に繰り出される魔法攻撃。

 

しかし、それをまともにくらっているヘラクレスは笑みを浮かべてロスヴァイセさんへと突っ込んでいく!

 

「ハッハッハーッ! いい塩梅の魔法攻撃だっ!」

 

ロスヴァイセさんの北欧魔術のフルバーストを受けて笑っていやがる!

ダメージは受けているようだが、傷は少ない!

 

 

・・・・・魔法に対して何かしらの耐性でもあるのか?

 

 

ヘラクレスの拳をロスヴァイセさんは軽やかに避ける。

 

すると、空振った拳は後方の樹木に突き刺さり――――

 

 

ドォォォオンッ!

 

 

炸裂音と共に木が木っ端微塵に爆ぜた!

 

「俺の神器は『巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)』ッ! 攻撃と同時に相手を爆破させる! このまま、爆発ショーを続けてもいいんだけどよぉ。どいつもこいつも禁手になってるんじゃ、俺も流れ的にやっておかないとなぁ! 禁手化(バランス・ブレイク)ゥゥゥウウッ!!!」

 

ヘラクレスが叫び、巨体が光輝く!

腕、足、背中に何かゴツゴツしたものが形成されていく!

 

光が止むとヘラクレスの全身から無数の突起物が生えていた!

 

まるでミサイルみたいな形をしている。

 

「これが俺の禁手ッ! 『超人による悪意の波動(デトネイション・マイティ・コメット)』だぁぁぁああ!!」

 

ヘラクレスがロスヴァイセさんに照準を定める!

 

ロスヴァイセさんもそれを察知して距離を取った!

 

「ハッハー! 仲間を爆破に巻き込まないよう俺の気を逸らそうってか! いいぜ、乗ってやるよ!」

 

ヘラクレスは嬉々として高笑いすると、空中に飛んだロスヴァイセさん目掛けて全身のミサイルを一斉に発射した!

 

ロスヴァイセさんは腕を突き出し、防御魔法陣を展開する!

 

無数のミサイルはロスヴァイセさんを襲い、空中で大爆発を起こした!

 

激しい爆風が辺り一帯を覆う!

離れて戦ってる俺達の所まで風が押し寄せてきやがった!

 

爆煙の中からロスヴァイセさんが飛び出し、地面に着地した。

 

だが、防御魔法陣を敷いたにも関わらず、ロスヴァイセさんはダメージを受けているようだった。

額から血が流れ、銀髪を赤く染めていた。

 

戦車の特性で防御力も上がっているはずなのに、あれか。

 

それほどヘラクレスの攻撃力が高いってことだな。

 

それに厄介なのはあの防御力。

今のロスヴァイセさんの攻撃を受けても大した傷がつかないってのはやっぱり何か仕掛けがあるんだろうな。

 

ロスヴァイセさんには相性が悪すぎる!

 

アーシアから回復を受けるロスヴァイセさん。

 

ロスヴァイセさんはアーシアにお礼を言うとスッと目を細め、新たに魔法陣を展開。

 

あれは召喚用か?

 

 

いったい何を―――――

 

 

俺だけでなく、ヘラクレスまでもが怪訝に思っていると魔法陣から出てきたのは装飾が施された一丁の狙撃銃。

 

 

えっ!?

 

 

そ、それって・・・・・・・

 

「リーシャさんから頂いた魔装銃の複製。本当に使う日がくるとは思いませんでした」

 

いつの間にそんなものを!?

そんなこと一言も聞いてないんですけど!?

 

ロスヴァイセさんはヘラクレスから更に距離を置いて銃を構える。

 

すると、銃口の前に複数の魔法陣が展開された。

 

ロスヴァイセさんが普段扱う魔法陣以外に、リーシャが扱うものも混じってるな。

 

「これは私でも扱えるように少し改造しています。彼女のような速撃ちは出来ませんが―――――」

 

 

キュウウウウウウウウウウンッ

 

 

魔法陣の文字が高速で回転していき、銃の先端に高密度の光が集まっていく。

 

バスケットボールくらいの大きさまで光が溜まると―――――ロスヴァイセさんは引き金を引いた。

 

 

ガァァァアアアアアアアアアアンッ!!!

 

 

物凄いスピードで光が放たれた!

光は真っ直ぐ進み、ヘラクレスを遥か後方へと吹き飛ばす!

 

「威力だけなら十分です。まぁ、今の私では次弾を撃つのに少し時間を要しますが・・・・・・。あなたにダメージを与えられるなら良しとします」

 

ヘラクレスが瓦礫を掻き分けで出てくる。

傷は・・・・・先程よりは大きなダメージを与えられているようだ。

 

「いいな、おい! 良い威力じゃねぇか! 丁度良い! 一方的な戦いほどつまらねぇもんはねぇからな!」

 

ヘラクレスはミサイルを次々と放ち、ロスヴァイセさんはそれを回避しながら魔装銃による砲撃を放つ。

 

互いの攻撃を避けながら、二人は市街地の方へと駆けていった。

 

頼みましたよ、ロスヴァイセさん!

 

曹操が槍をクルクルと回しながら構える。

 

「君の仲間も中々にやる。正直、彼らなら圧倒できるとは思っていたんだけど、考えが甘過ぎたか。一応、君達のデータを基に作戦を立てたつもりだったんだけどね」

 

「おまえ達のデータはもう役にたたないだろ? うちのメンバー舐めんなよ?」

 

異世界に渡り、そこでの戦闘を経て皆は大きく力を伸ばした。

 

もし、それがなかったら・・・・・・速攻でやられていたかもしれないけどな。

 

それくらい英雄派の幹部共の力量は高い。

 

「いやはや、全くもって驚異的だ。どうやったらここまで急激に実力を伸ばせるのか、ぜひともお教え願いたいところだが・・・・・・」

 

「教えるわけがねぇだろ。聞きたかったら力ずくで聞いてみろよ」

 

「それも面白いかもしれないな」

 

曹操はフッと笑みを浮かべる。

 

こいつの相手もしなくちゃいけないんだけど・・・・・。

 

俺が気になっているのはもう一人。

 

途中から参戦してきたディルムッドと名乗る女性だ。

 

「ハァァァッ!!!」

 

ゼノヴィアの激しい剣戟とディルムッドの二本の槍がぶつかる。

 

エクス・デュランダルともう一本は形状からして破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)だろう。

つまりは破壊力の高い聖剣による連戟を繰り出しているということ。

 

それをディルムッドはなに食わぬ顔で全て受け止めていた。

 

あの細い腕でよくあの攻撃を受け止められるな。

 

そして、一瞬の隙をついて反撃に出る。

 

エクス・デュランダルを弾き、赤い槍を凄まじい速度で刺突を放つ!

 

「くっ! 何という槍さばき!」

 

反撃に出られたゼノヴィアは後退しながら槍を避けていく。

 

長い槍と短い槍。

間合いの異なる武器の回避は非常にやりずらいようで、直撃はしていないものの頬や腕にかすり傷が出来ていた。

 

「ゼノヴィアさん!」

 

アーシアが回復のオーラを送る。

 

ゼノヴィアの体を淡い緑色の光が覆うが――――

 

「傷が・・・・・・塞がらないっ・・・・・!?」

 

ゼノヴィアだけじゃなく、俺やアーシアまでもが目を見開いた。

 

アーシアの回復が通用しない!?

 

嘘だろっ!?

 

アーシアの回復はどんな重症でも治すんだぞ!?

それをあんな掠り傷一つ治せないなんて・・・・・。

 

まさか、あの槍の影響なのか?

 

俺達が怪訝に思っているとディルムッドは黄色の短槍を前に突きだして言った。

 

「この槍の名は『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』。この槍で負った傷は塞がらない。デュランダル使いよ。死にたくなければ注意することだ」

 

傷が塞がらない槍だと!?

 

マジかよ!

そんな厄介な槍だったのか!

 

じゃあ、あの槍で重症を負ってしまえば・・・・・・・。

 

俺はゼノヴィアに叫ぶ。

 

「ゼノヴィア! その槍の攻撃は絶対にくらうな! アーシアの治癒が効かないってことはフェニックスの涙も効かないはずだ!」

 

「了解した!」

 

そう言うとゼノヴィアはデュランダルとエクスカリバーを構える。

 

ジリジリとディルムッドとの間合いを詰めていく中、額からは汗が流れ落ちていた。

 

そして、二刀流と二槍流の攻防が再開。

 

デュランダルと黄色の短槍ゲイ・ボウが激しく火花を散らした。

 

何とかして持ちこたえてくれよ、ゼノヴィア!

 

「さて、仲間の状況は把握できたかな?」

 

俺と競り合う曹操が言う。

 

「それはそっちもだろ? おまえだって全体の戦況を把握する方に意識を向けていただろ。仲間の心配か?」

 

「まぁ、彼女を仲間と呼ぶかどうかは疑問ではあるけどね」

 

ディルムッドの方に視線を送りながら苦笑する曹操。

 

そんなに英雄派の中では酷いのか!?

 

つーか、『英雄派のタダメシ食らい』って二つ名が付く時点で色々おかしい!

 

美人が台無しじゃん!

 

 

ギィィィィィィンッ!!

 

 

金属が弾ける音が響く。

 

俺と曹操は宙返りしながら着地。

 

「そろそろ俺達も本気でやろう。俺もゲオルクのサポートに回らないといけないみたいだしね」

 

「だな。八坂さんを助けるためにも、皆を守るためにもここは早く終わらせた方が良さそうだ」

 

劣勢のメンバーもいるんだ。

早く終らせて加勢に行ってやらないと。

 

 

俺はアスカロン、曹操は聖槍に溜めておいた聖なるオーラを解き放つ。

 

放たれた二つのオーラが衝突し、周囲を目映い光で覆った。

 

 

 




今回は木場達の戦闘がメインでした。

次回はイッセーと曹操をメインとした戦闘を書きます!



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15話 勇者の底力

いよいよこの章もクライマックスです!!


俺と曹操は二条城を飛び出して、市街地での戦闘に入っていた。

 

アーシアと九重から離れてしまうのは少し心配だけど、あの場でやり合って二人を巻き込んでしまうよりはマシだ。

 

高層ビルの壁を垂直に駆け抜け、幾度も衝突を繰り返す。

 

「おおおおおおおおおっ!!」

 

気合いと共に放つのは俺が今撃てる必殺の拳。

全身に気を循環させて、高めた一撃だ。

 

当然、禁手の状態と比べると威力は劣る。

 

それでも、大抵のやつは当たれば倒せる。

 

そう、当たれば(・・・・)

 

 

「良い一撃だ! ヒヤヒヤものだな!」

 

曹操は嬉々とした表情で俺の拳を次々とかわしていく。

 

時には槍で、時には体捌きで。

流れるような動きで俺の拳の全てをかわしていく。

 

さっきから掠りもしない。

 

俺は攻撃の手を休めないまま、曹操に叫ぶ。

 

「ちぃ! 一発くらい当たりやがれ!」

 

「言っただろう? 俺は弱っちい人間だって。君のような強者の一撃を受ければアウトな俺はこうするしかないのさ」

 

弱っちい人間、ね。

 

本当によく言うよな。

鎧を纏ったアザゼル先生と渡り合えるだけの実力を持ってるくせによ。

 

「だが、そう言う君こそ俺の槍をくらわないじゃないか」

 

「うるせぇよ! 悪魔の俺がそんなもん食らったらお陀仏だろうが!」

 

聖遺物の一つである聖槍の一撃なんざ、くらったら悪魔の俺はマジでヤバイんだよ!

消滅するわ!

 

・・・・・・って先生にも念を押されたしな!

 

つーか、こっちはギリギリなんだよ!

生身には受けてないけど、服は数ヶ所破れてるからな!

 

悔しいけど、テクニック面ではこいつの方が上らしい。

ここまでの戦闘でそれが明らかになった。

 

『ここまで来るとテクニックの極みとも言えるな。まさか、技術面で相棒を上回るとは』

 

ま、だからって弱音を吐くつもりなんて無いけどな!

 

俺はアスカロンに気を溜めて斬戟に乗せて横凪ぎに振り抜く!

気と混ざりあった聖なるオーラが壁を大きく抉り、ビルを倒壊させる!

 

曹操は隣のビルに乗り移って回避しやがった。

 

「伸びろっ!」

 

突きだされた聖槍が俺目掛けて伸びてくる!

 

速い!

 

「っ!」

 

俺はアスカロンの腹を盾にしてなんとか直撃は避ける!

 

だけど、そのまま近所の建物に突っ込んでしまった。

俺がぶち破ったことで、建物の壁はガラッと崩壊する。

辺りには埃も舞っている。

 

痛ってぇ・・・・・。

ギリギリ硬気功を背中に展開できたからケガはしなかった。

だけど、硬気功は表面を気で覆って硬化させる技だ。

衝撃までは消せない。

 

あー、背中が痛い。

 

俺は背中を伸ばした後、体のあちこちに付着した埃やら瓦礫の欠片をパンパンと叩いて落とす。

 

そういや、昼間もゴグマゴグをさっきので尻餅つかせてたな。

 

伸びるってことは逆に縮めることもできるのかな・・・・・?

 

槍の間合いの内側に入りこむことが出来れば・・・・・なんてことも考えていたんだけどね。

縮めることも出来るとすればそれも難しいか。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ・・・・・・

 

 

突如、建物が大きく揺れる。

 

………なんだ?

 

俺が怪訝に思っていると―――――極太の光の柱が天井をぶち抜いてきた!

こいつは聖槍による聖なるオーラの攻撃!

 

「げっ!」

 

思わず顔を引きつらせてしまう。

 

なぜなら、光の柱は俺を追いかけるように天井を破壊しながら迫ってくるからだ!

 

こんな狭い空間では避けることは難しい!

 

「クソッ!」

 

ガラス窓を破り、外に飛び出る。

その直後、俺がいた建物は真っ二つになり、轟音と共に崩れ去った。

 

だけど、俺は息をつく暇なんてなかった。

上から曹操が槍を構えて急降下してきた!

 

「このっ・・・・・・!」

 

気弾を二、三発放ってはみるが、容易く弾かれてしまう。

 

アスカロンと聖槍がぶつかり、空中で火花を散らす!

 

「うん、悪くない反応だ」

 

感心するように笑みを浮かべる曹操。

 

「一々評価してんじゃねぇ!」

 

落下しながら繰り広げられる剣戟の応酬!

 

俺は曹操の槍をアスカロンで受けながら拳や蹴りを放ち、曹操は俺の攻撃を受け流しながら槍を振るってくる!

 

しかも、思ってた通りでこの槍は伸縮自在らしく、俺が懐に入って拳を繰り出すと槍を縮めて応戦してきやがった!

 

地面に着地する前に聖槍を蹴って、曹操との距離を置く。

 

深呼吸して態勢を整え、一つの疑問をぶつけた。

 

「おまえは他のやつらみたいに禁手にならないのか?」

 

ジークフリートやジャンヌ、ヘラクレス。

それに京都駅の地下ホームで戦った奴らも禁手で挑んできたから、てっきり曹操も禁手してくると思ってたんだけど・・・・・。

 

ってか、禁手って珍しい現象じゃなかったか?

次々に禁手してくるから、かなり安っぽく見える。

まるで禁手のバーゲンセールじゃねぇか。

 

俺の問いに曹操が答える。

 

「当初はするつもりだったんだけどね。これまでの攻防で君が神器を使えないことが分かったし・・・・・・どうしたものか考えているんだよ」

 

やっぱり気づかれるよな。

籠手は防具としてしか使ってないし。

 

「君が禁手を使っていたなら、俺も使っていただろう。だけど、神器の能力すら使えない君ではね」

 

「・・・・・・舐めたことを言ってくれるぜ。バカにしてるのか?」

 

俺がそう言うと曹操は苦笑しながら首を横に振った。

 

「感心してるのさ。神器を使わずにここまでの戦闘をこなすのだから」

 

「それは禁手を使わない理由にはならねぇよ」

 

「俺が禁手を使えば今の君ではすぐに終わってしまう。早く終わらせるとは言ったが、それではあまりにつまらない」

 

曹操は槍の切っ先を俺に向けた。

 

「もう少しくらいはこの戦闘を楽しんでも良いだろう?」

 

この野郎・・・・・・。

 

アスカロンを地面に突き刺し、拳を脇に構える。

俺の行為に曹操は怪訝な表情をしながらも警戒を強めた。

 

「その余裕・・・・・・・・今すぐ無くしてやるよ」

 

ぐぐっと右腕に力を籠め――――――曹操から距離がある状態で高速の拳を放った。

 

 

ブォオオオオオオオオオオオッ

 

 

巻き起こる突風!

それは曹操を真正面から遥か後方へと吹き飛ばした!

 

曹操は聖槍と腕をクロスさせて直撃は避けたみたいだが、表情は苦悶と驚愕に満ちていた。

 

「離れた状態で・・・・・・・遠当てかっ!」

 

正解だ。

 

振り抜いた拳で衝撃を生み出し、相手を打撃する技。

不可視の攻撃だから直撃までのタイミングを測ることが出来ない。

 

まぁ、実際に拳を当てるよりは威力が低いんだけどね。

それでも十分な威力はある。

 

「もう一発っ!」

 

俺は曹操目掛けて、更に遠当てを繰り出す!

再び生じた突風が曹操を襲った!

 

「ぐっ!」

 

曹操は聖槍を地面に突き刺し、聖なるオーラのシェルターみたいなものを作り出し、俺の遠当てに耐える。

 

あの槍、あんなことも出来るのか。

随分と多機能だな。

 

だけど、曹操の体勢は十分に崩せた。

 

仕止めるなら今だ。

 

一気に決める!

 

俺は脳に錬環勁気功を使用。

それと同時に視界から色彩が消えた。

 

地面を蹴って瞬間的に曹操との距離を詰める!

拳を振り上げ、そこに気を纏わせた!

 

そして、それを曹操へと繰り出す。

 

 

しかし――――――

 

 

俺の腹部に嫌な感触が伝わる。

腹を見れば見れば、曹操の槍が深々と刺さっていた。

 

「ゴフッ」

 

腹から込み上げてきた大量の血が口から吐き出された。

 

 

・・・・・・・な、なんだとっ!?

 

 

動きを読まれた?

 

いや、今の俺は・・・・・・・・

 

「今回、一番驚かされたよ。まさか、君もそこに入れるとはね」

 

 

ズルリッ

 

 

曹操が槍を腹からゆっくり抜いていく。

 

そう言う曹操の瞳は―――――俺と同じ世界を見ていた。

 

 

 

 

「おまえも・・・・・・領域(ゾーン)に入れるってのかよ・・・・・!?」

 

腹を抑えながら問う俺。

 

ヤバい・・・・・・聖なる力の影響か意識が飛びそうになる。

 

俺は地面を蹴って曹操から距離を置くと、懐からフェニックスの涙を取り出し振りかける。

傷は煙をあげながら塞がっていく。

 

今のが聖なるオーラで消滅する感覚か・・・・・・。

話には聞いていたが、全身から力が抜けて自分が無になっていくような感じだった。

 

俺の問いに曹操は顎に手をやる。

 

「ゾーン・・・・・? ああ、君はあの状態のことをそう呼んでいるのか。俺は特に名付けはしなかったけど、君がそう呼ぶのなら統一しようか?」

 

想定外だ・・・・・・!

まさか、曹操まで領域に入ることが出来るなんて・・・・・!

 

「・・・・・・どうやってそれを会得した?」

 

「どうやって、か。これと言ったことはしてないんだが・・・・・修行で得た力としか言いようがない。君を知った時に今のままでは色々マズいと思ったのでね。俺も久しぶりにハードなメニューをこなしたものさ。そして至った。極限にまで集中を高めたこの世界に」

 

そうか・・・・・俺は脳に直接、錬環勁気功を使用することで強制的に領域へと突入する。

だけど、それは方法の一つであって別の手がないわけじゃない。

こいつは俺とは違う形で領域に突入出来るようになったってことか。

 

師も無しにそこへ至れたってことはこいつも天才の部類かよ・・・・・・。

 

俺の相手はこういうやつが多すぎるぜ。

 

………フェニックスの涙で傷は塞がったけど、結構なダメージを受けちまった。

 

俺は嫌な汗を流しながらアスカロンを構える。

まだ聖槍の影響が体の内側に残ってるのか・・・・・・。

 

こいつは長引かせるのはマズそうだ。

 

「あまり恐れている様子はないな。聖槍の恐ろしさを体験しただろう? 君がどれだけ強くても悪魔である以上は聖なる力が弱点なのは変わらない。いや、ドラゴンでもあるから龍殺しも弱点ではあるか・・・・・。どちらにしても、この聖槍は君にとっては最悪なのは間違いない」

 

「あれくらいでビビるようじゃ、俺はとっくの昔に死んでるよ。俺をビビらせたかったらもっとヤバい奴を連れてこい」

 

「なるほど・・・・・。それならば、龍喰者を前にすれば君は恐れるかな? まぁ、それは後にしよう。あれを君だけに使うわけにはいかない」

 

龍喰者、ね。

 

さっきもその名前を聞いたけど、そんなにヤバいやつなのか?

ドライグですら知らない存在みたいだし・・・・。

 

この戦いが終わったらアザゼル先生にでも聞いてみるか。

あの人なら何か知ってるかもしれないしな。

 

それよりも曹操には訊いておきたいことがある。

 

「昼間にアザゼル先生が訊いてたけどさ、俺ももう一度訊いておきたい。おまえ達英雄派はなぜこんなことをする? こんな大がかりな仕掛けまでして、だ」

 

「またその質問か。昼間にも言った通り、俺達は『人間』としてどこまでやれるのか、それが知りたいのさ。それに」

 

「それに?」

 

俺が訊き返すと曹操は肩に槍をトントンとした。

 

「悪魔や堕天使、ドラゴン、妖怪は人間の敵だ。その人間の敵が協力したら怖いだろう? 人間が魔王やドラゴンを倒すのはごく自然なことだ。そして、それを成すのは英雄の力を持つ俺達だ」

 

英雄の力・・・・・。

こいつら英雄派は英雄の魂を引き継ぎ、強力な神器や魔剣を所持している。

 

そのことを言っているのか?

 

「異形の存在を倒す、それが英雄だと?」

 

「人間の極みであり、強大な異形を倒す存在。それが英雄と呼ばれる者達だろう?」

 

「そうかよ………」

 

俺は奥歯をぐっと噛み締める。

 

同時に俺の体を赤いオーラを覆った。

 

間違ってる………間違ってるぜ………。

 

そんなものは英雄なんかじゃない。

 

「おまえ達が言う英雄がそう言う存在だというのなら………俺はその考えを真正面から否定する」

 

錬環勁気功の奥義を発動。

周囲に漂う気を自身に取り込み、体内で循環と圧縮を高速に繰り返していく。

 

これを使えば一気に消耗してしまうけど、やるしかない。

神器が使えない状態の俺が目の前の男を倒すにはこれしかないだろう。

 

俺の体を覆っていた赤いオーラの外側が黄金へと変わり、眩い輝きを放つ。

 

「曹操、覚悟しやがれ。おまえ達の間違ったその考え――――――今から粉々に打ち砕く!」

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

僕とジークフリートは剣を交えながら二条城を駆け巡り、今では門を少し出たところで戦闘を行っていた。

 

「七剣よ!」

 

僕は宙に浮かぶ七つの聖魔剣を操り、ジークフリートに攻撃を仕掛ける。

 

この剣はその特性上、相手の死角をついた攻撃が可能になる。

正面、真横だけでなく背後からも相手を切り刻む。

 

並の相手なら対処できずにすぐに片がついているだろう。

 

「まだまだ!」

 

ジークフリートは六本の腕で握った魔剣で僕の七剣を弾いていく。

背後からの攻撃もそれが迫ってくるのが分かっているかのように。

 

振り下ろされたグラムを聖魔剣を交差して受け止める。

 

「ぐっ・・・・・・!」

 

一撃一撃が重いっ・・・・・・・!

 

流石は魔帝剣グラムの使い手。

 

昼間の戦闘で分かっていたけど――――強い。

 

彼が禁手になってからは五本の魔剣と光の剣を駆使して僕の七剣を容易に防いでくる。

 

魔剣が強力なのもそうだけど、それを扱う彼の技量が禁手になってから顕著に現れていた。

 

僕は両の聖魔剣でグラムを弾いて大きく後ろに跳び、これまでの攻防で刃こぼれしていた聖魔剣を放棄。

 

息を大きく吐いて新たに聖魔剣を創造する。

 

ジークフリートが笑みを浮かべて言う。

 

「いいね。禁手を使った僕とここまで張り合えるなんて、想像以上だ」

 

「このくらいで満足してもらっては困るね。僕だってまだやれるさ」

 

手を前に突きだし、七剣を僕の前に整列させる。

 

「七剣!」

 

その命令に従い、七剣は弧を描くようにしてジークフリートを襲う。

 

「またこれか! 芸がないことだ!」

 

ジークフリートはグラムの刀身にオーラを纏わせて、一閃。

 

 

バリィィィィィン

 

 

ガラスが砕けるような儚い音と共に七剣の全てが粉々になった。

 

「その手はもう通じない。僕を倒すならもっと他の手を考えるべきだ」

 

グラムの切っ先を僕に向けてジークフリートは言う。

 

・・・・・・まぁ、僕もこのままではいけないと思っているよ。

 

これ以上、七剣を操作しても彼には通じない。

そんなことは分かっている。

 

だからこそ、僕は七剣をわざと砕かせた(・・・・・・・)

 

僕は天に手を掲げる。

 

すると―――――先程砕かれた七剣の破片全てが宙に浮かんだ。

 

剣の破片が空へと昇る。

 

ジークフリートは目を見開く。

 

「これは・・・・・・っ」

 

「僕が次の手を考えていないと思ったかい?」

 

これは七剣の奥の手。

 

隠し技だ。

 

刃の雨(エッジ・レイン)ッ!!」

 

僕が手を振り下ろすと同時に全ての刃がジークフリートへと降り注ぐ!

 

これだけ細分化された刃だ。

普通に剣を振るう程度では防げない。

 

「くっ・・・・・こんなもの・・・・・・・っ!」

 

ジークフリートは咄嗟の判断で後ろに飛ぼうとする。

 

だけど、それは無駄な行為だ。

 

僕は聖魔剣を地面に突き刺し、叫んだ!

 

「咲け、聖魔剣!」

 

ジークフリートを囲むように無数の聖魔剣が地面から生えた!

全ての聖魔剣の切っ先がジークフリートに向けられている!

 

上に飛ぼうにも刃の雨が迫っていて、それは出来ない!

 

これで逃げ場はない!

 

完全に捉えた!

 

刃の雨がジークフリートを完全に覆った。

 

 

 

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・・くっ・・・・・」

 

とてつもない疲労感が僕を襲い、その場に膝をついてしまった。

 

流石に力を使いすぎた。

 

まだ修行中である七剣の操作、それに加えて大量の聖魔剣の創造。

一度にこれだけの力を使ったのは初めてだからね。

少し加減を間違えたよ。

 

まぁ、相手も相当な実力者だから楽に勝てるなんてことは思っていなかったけど・・・・・・・。

 

砂塵が周囲に漂っていてジークフリートの姿が確認出来ない。

倒せたのかそうではないのか・・・・・・。

 

ただ、手応えはあった。

大きなダメージは与えたはずだけど・・・・・・。

 

暫くすると砂塵が止み、視界が開けてくる。

 

そして、僕の目に映ったのは―――――全身から血を流し膝をついているジークフリートの姿。

倒せてはいなかったみたいだけど、かなりのダメージは与えられたようだ。

至るところに七剣の破片が突き刺さっていて何とも痛々しい光景だ。

 

・・・・・・やったのは僕なんだけどね。

 

とにかく、ジークフリートに大きな傷を負わせた。

僕も疲労は大きいけど、戦えないほどじゃない。

あと一撃をジークフリートに繰り出せば勝負はつく。

 

僕は聖魔剣を杖に立ち上がり、構える。

 

すると―――――

 

「クッ・・・・・ハハハハハハッ!」

 

ジークフリートは狂ったような笑い声をあげた。

 

なんだ?

何をそんなに笑うことがある?

 

自分の生死がかかっているこの状況で。

 

一頻り笑うとジークフリートは懐に手をやった。

 

取り出したのは一つの小瓶。

 

それを見て僕は目を見開いた。

 

それは本来テロリストが持っていいようなものじゃない。

 

なぜ・・・・・・

 

「なぜ、君がフェニックスの涙を持っている!?」

 

そう、彼が取り出したのはフェニックスの涙!

 

あれは各地で起こる禍の団のテロ行為のせいで、各勢力の重要拠点への支給もままならないと聞いている。

 

それをなぜ、彼が持っているんだ!?

 

問い詰める僕にジークフリートは笑んだ。

 

「裏のルートで手に入れたのさ。ルートを確保し、金さえ払えば手にいれることは可能だ。もっとも、フェニックス家の者は僕達に回っているなんて露ほども思っていないだろうけどね」

 

ジークフリートは小瓶の蓋を開け、中の液体を自分の体に振りかけた。

傷口が煙をたてながら塞がっていく。

 

なんということだ・・・・・・。

まさか、こんな・・・・・・っ!

 

フェニックスの涙があればテロ行為で苦しむ人々を助けられるかもしれないのに!

 

「いい殺気だ。君から向けられる重圧が増したね。それほど僕達がこれを持っていることが許せないかい?」

 

「そうだね。流石に許せそうにないかな」

 

「そう。それでは僕を倒すといい。倒せればの話だけどね」

 

そう言ってジークフリートは再度、懐を探る。

 

取り出したのは拳銃だった。

 

いや、先端に針がついているから・・・・・・ピストル型の注射器なのだろうか?

 

「これを使うのは控えたかったんだけどね。ここで君に負けてヘラクレス達に笑われるのは面白くないんだ」

 

ジークフリートは針先を己の首筋に突き立てようとする格好になったときだった。

 

 

ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!

 

 

僕達の近くにあった、二条城の門が爆ぜた!

 

なんだ!?

 

何があった!?

 

ジークフリートもこれには驚き、注射器を下ろし門の方を見る。

 

 

「ガハッ・・・・!」

 

 

崩壊した門の瓦礫から出てきたのは膝をつき、吐血する曹操。

 

 

タンッ

 

 

その足音と共に降りてきたのは全身から赤と黄金のオーラを滾らせたイッセー君。

 

あれはロスウォードの攻撃からオーディリアを守るときに使っていたものと同じだ。

 

 

曹操は制服の袖で口許の血を拭いながら笑みを浮かべる。

 

「急激にスピードが上がったものだから避け損ねてしまったよ。君はどこまでも俺を楽しませてくれるな、兵藤一誠」

 

「こうなったら時間が無いんでな。さっさとケリをつけさせてもらうぜ、曹操!」

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 



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16話 解決です!!

曹操は聖槍を杖にしてゆっくり立ち上がる。

 

奴の瞳は俺と同じ世界―――――領域に入っている。

 

まさか、俺と同じように領域に入れる奴と戦うことになるなんて思ってなかったぜ。

 

曹操が言う。

 

「時間がない、か。どうやら、その急激なパワーアップは長時間の維持は難しいようだな」

 

今の俺は錬環勁気功の奥義を発動している状態だ。

周囲に漂う気を体内に取り込み、体内で循環と圧縮を高速に繰り返している。

 

一時的に身体能力を爆発的に上げることが出来るけど、長続きはしない。

何より、加減を間違えると自爆しかねない危険な技だ。

 

俺は拳を強く握る。

 

「俺の限界が来る前におまえを倒せばいいだけだ。それで全てが終わる。八坂さんの方も上手くいきそうだしな」

 

俺は八坂さんと大怪獣バトルを繰り広げる龍王化した匙の方に視線を移す。

 

『グオオオオオオッ!』

 

九本の尾に縛られ、苦痛の声を漏らしている匙。

 

一見すると匙が押されているように見えるだろう。

 

だけど、よく見てみると八坂さんの力も大きく下がっているのが分かる。

 

ヴリトラの黒炎で消耗している証拠だ。

 

「なぜだ・・・・・? 都市に流れる力を九尾に注いでいるはずだが・・・・・・まさか・・・・・・!」

 

目を見開く曹操。

 

どうやら気づいたようだな。

 

「おまえ達が施していた術式が崩されたってことだ。見ろよ、八坂さんの尾が匙から離れていくぜ?」

 

「ゲオルクが押し負けたというのか!?」

 

「あー、あの霧使いね。残念だったな、相手が悪すぎだ。何て言っても相対しているのは俺の妹。そう簡単には勝たせてくれねぇよ。ほら、今度は八坂さんを縛る魔法陣の輝きが小さくなってきたぞ」

 

ゲオルクが美羽に押し負けたのはいくつか理由がある。

 

一番大きいのはやはり美羽の魔法が特殊だということだろうな。

ゲオルグも美羽の魔法には戸惑っていたみたいだし。

 

まぁ、何にしてもだ。

 

「おまえ達の実験は失敗した。――――さぁ、覚悟しやがれ。これまで散々やってくれたツケ、きっちり払ってもらう」

 

アスカロンの切っ先を曹操に向ける。

 

すると―――――

 

「クッ・・・・・ハハハハハ! 面白い! ならば、俺がここで君を倒し、実験をやり直せば良い話だ!」

 

曹操は笑みを浮かべ聖槍をクルクルと回す。

 

曹操から放たれる威圧が増大する。

聖槍もそれに応えるように、これまでに無いくらいの輝きを放っていた。

 

俺を倒して実験をやり直す、か・・・・・。

 

やれるものなら―――――

 

「やれるものなら、やってみやがれっ!!」

 

その叫びと共に俺を覆うオーラも一気に膨れ上がった!

 

これ以上、こいつらを京都で好き勝手にやらせるかよ!

 

俺は曹操に真正面から突っ込んでいく!

 

たとえ神器が使えない状態だとしても、負けるわけにはいかねぇんだよ!!

 

「であぁぁあああああああっ!!!!」

 

 

ガギィィィィィンッ!!!!

 

 

全力で振り下ろしたアスカロンを曹操が受け止める!

 

だが、その顔は苦い顔をしていた。

 

「ぐっ・・・・・なんという一撃っ! これまでのどの攻撃よりも速く鋭いな! だがっ!」

 

曹操は槍を滑らせて、石突きで俺の腹に一撃を加える!

 

その衝撃で俺は吹っ飛ばされた!

 

幾つものビルを突き破り空中に放り出される俺。

 

だけど、俺を覆うオーラのお陰でダメージは受けていない!

 

空中で宙返りして、向かってくる曹操を迎え撃つ!

 

イグニス、今の俺なら最大どれくらい展開できる?

 

『鎧を纏っていないあなたなら十数秒が限度ね。それ以上は腕が焼かれるわ』

 

十分だ。

 

それだけあれば、あいつをぶちのめせる!

 

俺はイグニスを展開。

 

右手にはイグニス、左手にアスカロン。

 

ゼノヴィアと同じ二刀流!

 

「曹操ォォォォォォオッッ!!」

 

俺は奴の名を叫び、ビルの壁を蹴る!

 

悪魔の翼を羽ばたかせて、曹操に向かう!

 

「おおおおおおおっ!!」

 

「はああああああっ!!」

 

再び衝突する俺と曹操!

 

俺の攻撃の威力も上がっているが、奴の槍さばきも鋭さを増し、俺の体に幾つもの傷をつけていく!

 

正直、聖なる力の影響でかなりキツイ。

 

今にも意識が飛びそうになる。

 

「どうした、兵藤一誠! 今のままでは聖槍の影響で消滅してしまうぞ!」

 

そんなことは分かってるんだよ!

 

それでもっ!

 

俺は聖槍を弾き、大きく後ろへ下がる。

 

そして、イグニスを曹操目掛けて投擲した!

 

「それで俺の動揺を誘えるとでも?」

 

そう言って聖槍を振るいイグニスを弾き飛ばす曹操。

 

だが、次の瞬間―――――

 

「なっ!?」

 

曹操は驚愕の声を漏らす。

 

当然だ。

 

曹操の眼前にはアスカロンの切っ先が迫っているのだから。

 

俺はイグニスを投擲した後、全く同じ軌道でアスカロンを投げた。

イグニスでアスカロンが隠れるように。

 

そして今、曹操を貫こうとしていた。

 

 

ザシュッ

 

 

曹操は避けようとするが間に合わない。

アスカロンが曹操の右眼を深く抉った。

 

「ぐぅぅぅ・・・・・ッ。目が・・・・・・!」

 

右眼を覆い、苦しむ曹操。

手の隙間からは血が流れ出ていた。

 

あれで右目は潰せたな。

即興でやってみたけど、上手くいった。

 

曹操は右眼を手で押さえながら狂喜に顔を歪ませた。

 

「赤龍帝ぇぇぇぇっ!!」

 

叫ぶ曹操。

 

だが、俺はそれを無視して曹操の懐に入り込んでいた。

 

「こんなもんで済むと思うなよ? さっき言っただろ。ツケはキッチリ払ってもらうってな!」

 

気を纏わせた右手が赤く輝きを放つ!

 

「英雄名乗るなら、小さい女の子を泣かせてんじゃねぇぇええええええ!!!」

 

 

ドゴォォォオオオオオン!!

 

 

俺のボディーブローが曹操を捉え、遠くの方へと吹き飛ばした。

 

 

 

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・・」

 

俺は息を上げて、その場に膝をついた。

 

纏っていたオーラも次第に小さくなっていく。

奥義の限界が来たみたいだ。

 

しかも、聖槍を受けたせいで、体にできた傷から煙が上がってやがる。

こいつは早くアーシアに治療してもらわないとヤバイな・・・・・・。

 

体から力が抜けていく。

自分の体を支える力すら無くなり、突っ伏してしまった。

 

クソッ・・・・・ここまで来て、意識が・・・・・・。

 

「イッセー君!」

 

声が聞こえた。

 

俺のもとに駆けつけてくれたのは木場だった。

 

「木場・・・・・」

 

「しっかりするんだ、イッセー君!」

 

木場はそう言うとポケットに入れていたフェニックスの涙の小瓶を取りだし、俺に振りかけてくれた。

 

煙を上げて、俺の傷が塞がっていく。

 

どうやら、消滅せずにすみそうだ。

 

木場は俺を起こして肩を貸してくれる。

 

「悪いな、おまえに渡していた分を使わせちまって・・・・・」

 

「気にすることはないさ。君に死なれる方が嫌だからね」

 

木場はそう言って微笑む。

 

俺の傷が塞がり、安堵しているようだった。

 

「ところで、ジークフリートは? 倒したのか?」

 

尋ねると木場は首を横に振った。

 

「いや、イッセー君に殴り飛ばされた曹操を追っていったよ。僕もイッセー君が倒れるのが見えたから、戦闘を止めてここに来たんだ」

 

「そっか・・・・・。すまん、ジークフリートを追撃する機会逃しちまったな」

 

「いいさ。あのまま続けていたら僕も危なかっただろうからね。とりあえず行こう。曹操は二条城の本丸があった場所まで飛ばされたみたいだよ」

 

本丸があった場所って・・・・・・。

 

元の場所に戻っちゃったか。

 

俺は木場に支えられながら、戦闘開始地点に向かうことにした。

 

 

 

 

俺達が本丸に戻ると、そこにいたのはジークフリートとボロボロの姿の曹操。

曹操は口から大量に血を流し、今にも死にそうだ。

 

まぁ、あれだけ強力な一発を決めてやったんだ。

 

いくら曹操が強くても体の強度はそれほど高くはない。

 

ああなるのは当然だ。

 

と言っても俺も相当無茶苦茶したから限界なんだけどね。

満身創痍。

身体中が悲鳴をあげてるよ。

 

ジークフリートは曹操の懐を探り、小さな小瓶を取り出した。

 

あれは、まさか――――

 

「どうやら、禍の団にもフェニックスの涙が回っているみたいなんだ。認めたくないけどね」

 

木場が怒りの籠った瞳で教えくれた。

 

マジかよ・・・・・・!

 

フェニックスの涙がテロリストの手に!?

 

ジークフリートがフェニックスの涙を曹操にかけると煙をあげながら腹の傷が塞がっていく。

 

本物の涙ってことかよ・・・・・・!

 

クソッ・・・・・!

 

傷が塞がった曹操は聖槍を杖にして立ち上がる。

右目は・・・・・かなり深く抉れたのか、血は止まっているみたいだけど、潰れたまま。

 

曹操はフラフラの状態だってのに、俺を睨んでくる。

 

「やってくれたな、赤龍帝・・・・・っ!」

 

「まだやるか? まぁ、逃がしはしないけどな」

 

俺は最後の力を振り絞って気を集める。

 

右手の掌にバスケットボールくらいの大きさの気弾が出来上がった。

 

そして、それを曹操に投げつけようとした時だった。

 

 

バジッ! バチッ!

 

 

空間を震わす音が鳴り、空間に穴が生まれつつあった。

 

その光景に見覚えがある。

 

魔法陣は美羽が解除したはずだ。

 

なぜ、ここに―――――

 

いや、違う。

 

あの穴から感じられる力はグレートレッドとは別物だ!

 

空間の裂け目から姿を現したのは、緑色のオーラを発しながら夜空を舞う、十数メートルほどの東洋タイプのドラゴンだった。

 

曹操が叫ぶ。

 

「―――五大龍王の一角。西海龍童(ミスチバス・ドラゴン)玉龍(ウーロン)かッ!」

 

龍王!?

 

このタイミングで五大龍王の登場ですか!?

 

マジか!

最後の龍王と出会っちゃったよ!

 

俺が驚くなか曹操は五大龍王よりも、その背中に乗っている人影に目を向けていた。

 

その人影はまるで高さを無視する様に、ドラゴンの背中から地上へと降り立ってくる。

 

金色に輝く体毛に法衣を纏った・・・・・猿?

猿の妖怪・・・・・?

 

「大きな『妖』の気流、それに『覇』の気流。それらによって、この都に漂う妖美な気質がうねっておったわ」

 

小さな背丈の老人は一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。

 

「おー、久しぶりじゃい。聖槍の。あのクソ坊主がでかくなったじゃねーの」

 

猿の老人は曹操にそう言う。

 

曹操は目を細めて笑んだ。

 

「これはこれは、闘戦勝仏殿。まさか、貴方がここに来られるとは。各地で我々の邪魔をしてくれているそうですね?」

 

「坊主、悪戯が過ぎたぜぃ。ワシがせっかく天帝からの使者として九尾の姫さんと会談しようと思ってたのによぉ。拉致たぁ、やってくれるもんだぜぃ。ったく、異形の業界の毒なんぞになりおって。『覇業は一代のみ』とはよく言ったもんじゃ」

 

「毒、ですか。貴方に称されるなら、大手を振って自慢できる」

 

「と言っても、すでに仕置きはされとるようじゃ。赤い龍にやられたか?」

 

「ええ、まぁ」

 

え、えーと・・・・・・

 

ごめん、あの爺さん、誰?

 

敵か?

 

いや、話の内容からしてそれはないか。

 

曹操と知り合いみたいなんだけど・・・・・・・。

 

「・・・・・おそらく、孫悟空。しかも初代だよ」

 

俺の疑問が分かったのか木場がそう言った。

 

な、なにぃぃぃぃいいいいい!?

 

俺は木場の発言に心底仰天した!

 

「しょ、初代の孫悟空ぅぅぅううう!? あ、あの爺さんが西遊記の!?」

 

マジかよ!

超超超有名人じゃん!

すげぇ!

 

俺の目の前に西遊記の人きたぁああああ!

どうせなら、沙悟浄とかも見たかったけどね!

 

猿の爺さん――――初代孫悟空と目があった。

 

「赤龍帝の坊や。よー頑張ったのぉ。儂らが助っ人だぜぃ。まぁ、頑張りすぎて儂らの出番はほとんど無くなってしまったようだがの。――――玉龍、おまえはヴリトラを助けてやれぃ。九尾もあと一押しのようだぜぃ」

 

『龍使いが荒いぜ、クソジジイ! オイラ、ここに入るだけでチョー疲れてんですけど! ってか白龍皇の仲間の魔女っ子に手助けしてもらったんだけどよ! それはそうと、久しぶりじゃねぇか、ドライグ! 元気そうじゃねぇか!』

 

おおっ!

なんかテンション高いな、あのドラゴン!

 

『久しぶりだな玉龍。魂だけの状態で元気と言うのも変だが・・・・・まぁ、元気だ』

 

ドライグが複雑そうな声で返す。

 

なぁ、あのドラゴンって昔からああいう感じなのか?

 

『そうだな。玉龍は昔からああだ』

 

な、なるほど・・・・・。

 

玉龍は八坂さんのところへ向かい、匙と共闘を開始する。

 

匙も限界に近そうだったから、助けてくれるのはありがたい。

 

『うおおおお! 狐の姉ちゃん! オイラは強ぇぇぞ!』

 

テンション高いな、おい!

 

「さて、どうする坊主? このまま儂らとやり合うか? 儂はそれでも良いけどねぃ。だが、その時は容赦しないぜぃ?」

 

孫悟空が曹操に問う。

 

曹操はフッと笑みを浮かべると首を横に振った。

 

「やめておきましょう。この状況であなたと戦えば俺達は間違いなく壊滅する。それだけは避けたい。ジーク、撤退だ」

 

「・・・・・わかった。これ以上は無理だろう」

 

ジークフリートはそう言うと魔法陣を展開して何処かに連絡を入れる。

 

恐らく他の英雄派のメンバーに通信を入れているんだろうな。

 

ジークフリートが魔法陣を閉じるとすぐに英雄派幹部が集結。

 

ディルムッドの姿が見えないけど・・・・・・。

 

彼女は別行動だからだろうか?

 

「初代殿、赤龍帝殿、グレモリー眷属、再び見えよう」

 

曹操がそう言った瞬間、英雄派の足元に巨大な魔法陣が展開される。

 

逃がすかよっ!

 

俺は気弾を放とうとするが―――――

 

「ガッ・・・・・!」

 

全身を激痛が走り、それは出来なかった。

 

奥義を使った代償か・・・・・・!

 

転移の光に包まれていくなか、曹操は俺に視線を送る。

 

「兵藤一誠。次会った時は必ず君を貫く。この槍の真の力で」

 

それだけを言い残すと、英雄派はこの空間から消えていった。

 

 

 

 

英雄派が逃げたあと、残ったのは俺達と助っ人である初代孫悟空と玉龍。

そして、今だ九尾姿の八坂さんだ。

 

とりあえず動きは止めているから、まずは負傷したメンバーの治療をしているんだけど・・・・・・。

 

「くっ・・・・・やはり塞がらないか・・・・・」

 

ゼノヴィアが苦痛の声を漏らす。

 

ディルムッドとの戦闘でゼノヴィアは左腕に深い傷を受け、今も血が流れ出ている。

 

アーシアと美羽がなんとか治療しようと試みてみるが、結果は変わらない。

 

「ダメだ。おそらく普通に治療したのではこの傷は治らない。今は止血だけして、アザゼル先生にでも診てもらうのがいいかもしれない」

 

ゼノヴィアはそう言って制服の袖をちぎって腕を縛る。

 

イリナやロスヴァイセさんも相当な傷を負っていたけど、こちらはアーシアの治癒でなんとかなった。

 

問題はゼノヴィアか・・・・・・・。

 

「イッセー。私のことは後でいい。先に九尾を何とかしよう」

 

ゼノヴィアにそう言われ、八坂さんに視線を移す。

 

匙と玉龍のおかげで何とか動きは止めたものの、人間の姿に戻ることはなかった。

しかも、瞳は洗脳の色を浮かべたままだ。

 

「母上! 母上!」

 

『・・・・・・』

 

九重が泣きながら八坂さんを呼ぶが・・・・・・反応は一切ない。

 

「さて、どうしたもんかいの。仙術で邪な気を解いてもいいんじゃが、ここではちと時間がかかるのぉ」

 

初代も煙管を吹かしながら思慮しているようだ。

 

俺は初代に尋ねる。

 

「邪な気を解けば元に戻ると?」

 

「九尾を縛っとるのは邪な気。それを除いてやれば元には戻るぜぃ。だが、これほどまでの気じゃ。一人では少々時間がかかるぜぃ」

 

「じゃあ、俺も手伝いますよ。二人ならなんとかなるでしょう?」

 

「赤い坊や。おまえさん、自分の状態が分かっとるのかぃ? おまえさんに流れる気は滅茶苦茶。動くことも辛いだろう?」

 

まぁね。

 

錬環勁気功で身体に負担を掛けすぎたから、少し動くだけでも、全身がバキバキに痛い。

 

気の負担で痛めた身体は自然治癒でないと治せないから、アーシアの治療でも効果がない。

 

だけど、

 

「一時的に痛みを消して動けば問題ないです。こんな痛み、ほっとけばそのうち治りますしね」

 

「若いのに無茶するねぃ。ま、それならやってみようかねぃ」

 

初代は苦笑しながら承諾してくれた。

 

俺は泣いている九重の頭をそっと撫でてやる。

 

「九重、少し離れてろ。今から母ちゃん助けてやっからさ」

 

「・・・・・イッセー」

 

「心配はいらないよ。女の子との約束は絶対守る男だからな、俺は」

 

俺はそう言って笑むと、初代と共に八坂さんの身体に手を当てる。

 

・・・・・想像以上におかしな気が流れてるな。

 

八坂さん、今から解放するんでもう少し我慢してくださいね?

 

 

「いきます」

 

「おう、いつでもいいぜぃ」

 

俺と初代が頷いた瞬間。

 

 

ブワッ

 

 

八坂さんの身体を淡い光が包み込む。

 

俺と初代の二人で八坂さんを縛る邪悪な気を消し去る!

 

こいつなら!

 

「戻ってきてくだされ! 母上ぇぇえええええ!」

 

九重の心からの叫び。

 

そうだ!

戻ってこい!

九重にはあなたが必要なんだ!

 

俺は錬環勁気功の出力を上げる!

 

 

すると―――――

 

 

パァァァァァ

 

 

八坂さんの身体が輝きを放つ。

 

少しして光が止むと、人間の姿に戻った八坂さんがいた。

 

よっしゃ!

 

成功だ!

 

 

「・・・・ここは?」

 

八坂さんはふらふらと体がおぼつかない様子だが、意識は戻りつつあるようだった。

 

九重が八坂さんに駆け寄り、その胸に飛び込む。

 

「母上ぇぇぇっ! 母上ぇぇぇっ!」

 

八坂さんは優しく九重を抱きしめ、頭を撫でる。

 

「・・・・・どうしたのじゃ、九重。おまえは、いつまで経っても泣き虫じゃな」

 

見れば皆の治療をしていたアーシアが泣いていた。

 

うんうん、分かるぜその気持ち!

感動のシーンだよな!

 

他の皆も感動の涙を流していた。

 

俺もジーンと来てるぜ!

 

あ・・・・・やべっ。

身体に力が入らねぇ。

 

残った最後の力を全て使っちまったから、立つことも出来ないや。

 

俺が後ろ向きに倒れそうになると美羽が俺を支えてくれた。

 

「大丈夫?」

 

「あー、大丈夫と言いたいところだけど、大丈夫じゃないかも・・・・・・」

 

うん、立てないもんな。

マジでヤバイかも。

戻ったら確実にゴー・トゥ・ベッドだぜ。

 

「じゃあ、ボクがまた介抱してあげるよ」

 

「ハハハ・・・・・。じゃあ、お言葉に甘えるとするよ」

 

おっと、女性陣からの視線が・・・・・・。

こいつは後で荒れるかな・・・・・・?

誰も助けてくれないんだろうなぁ・・・・・・。

木場とか絶対後ろから見てくるだけだよね?

 

ほら!

 

今も少し離れたところからこっち見てるし!

 

よし、疲れたから後で考えよう。

今考えるのは無理だわ。

 

「ま、何はともあれ、解決じゃい」

 

初代がそう締めの一言を言った。

 

 

 

 



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17話 戦いはこれからも続く!?

最終話っぽいタイトルですけど、最終話ではありませんよー!




激闘を終えた俺達は京都の疑似空間からもとの世界に戻り、宿泊しているホテルの屋上にいた。

 

先生が俺の肩に手を置いて言う。

 

「よくやってくれた。おまえは休んでいろ、動くだけでキツいんだろう?」

 

「ええ、まぁ・・・・・」

 

少し動くだけで全身に激痛が走る。

 

全身筋肉痛の超酷いバージョンと言っても良いくらいだ。

 

「とりあえず、そこに横になっておけ。救護班! こいつらを診てやってくれ! ケガもそうだが、魔力と体力の消耗が激しい!」

 

先生が他のスタッフにそう指示する。

 

あー、マジで疲れた。

もう動きたくない・・・・・・・ってか動けないか。

 

作戦は英雄派の撤退という形で終わった。

 

京都を囲んでいた連合部隊も英雄派構成員とあのアンチモンスターとの激戦を終えて戦後処理となっているようだ。

 

英雄派幹部・・・・・曹操達は京都を囲んでいた包囲網から逃げたらしい。

 

どうやら、逃走用の経路も確保していて、そこから脱出したとか。

 

随分と用意の良いことで・・・・・。

 

逃がしたことはかなり悔しいが、結果的には八坂さんを取り戻せたし、実験とやらも阻止できた。

とりあえずはそれで良しとしよう。

 

美羽も相当疲労したみたいで、椅子にもたれ掛かっている状態だ。

 

まぁ、相当な魔法の使い手でもあり神滅具所有者のゲオルクとガチンコでやり合ってたんだ。

こうなるのも仕方がない。

 

アーシアは仲間の治療と戦闘の緊張感で疲弊し、美羽の隣で眠っていた。

 

治療を終えたメンバーは一応のために運ばれていく。

 

「ゴメン、イッセー君。情けないけど、お先に」

 

木場が謝りながら言う。

 

あいつもジークフリートと激戦を繰り広げていたからな。

情けなくなんてないさ。

 

俺は手をあげて応えた。

 

「元ちゃん!」

 

「元士郎!」

 

担架で運ばれる匙にシトリー眷属が付き添っている。

心配そうに涙まで浮かべて。

 

匙は龍王変化の消耗が激しく、戦闘終了後に気絶してしまった。

修行でそれなりに力を使えるようになったとはいえ、流石にキツかったようだ。

 

って、あいつも仲間に愛されてるな。

 

 

さて、問題は・・・・・・。

 

 

「先生、ゼノヴィアのことなんですけど・・・・・・」

 

「ああ、話は聞いたぜ。魔槍ゲイ・ボウに傷をつけられたようだな。厄介な話だ」

 

先生がゼノヴィアの傷口を見ながら言う。

 

「あの槍で傷をつけられるとその傷に呪いがかけられる。治癒妨害の呪いだ。過去にはその傷が悪化して死に至った者もいる」

 

戦闘中よりも戦闘後の方が面倒なことになってるんだな。

 

となるとゼノヴィアの傷にかけられた呪いを一刻も早く治さないとマズいってことだ。

 

「呪いを解こうにも難しくてな。相当高位の魔術師でも連れてこない限りは解呪できん」

 

「では、私の傷はもう塞がらないということか・・・・・」

 

ゼノヴィアが神妙な顔でそう呟く。

 

すると、先生は何か良いアイデアが浮かんだような顔で言った。

 

「いや、手はある。ゼノヴィア、おまえは運がいいぜ?」

 

「どういうことだ?」

 

先生の言葉に怪訝な表情で返すゼノヴィア。

 

俺も頭に疑問符を浮かべている。

 

運が良い・・・・・・?

 

それっていったい・・・・・・・・。

 

「いいか? ゲイ・ボウにつけられた呪いの効果範囲は受けた傷のみだ。つまり、その傷を除いてしまえば回復は出来る。切り取るのは傷の周囲だけで良い」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。切り取るって・・・・・それで傷が塞がるんですか?」

 

「いや、普通ならアーシアの治癒でもフェニックスの涙でも傷は塞がらない。損失した部位の再生は出来ないからな。だが――――」

 

先生は俺の右腕を指差す。

 

「イッセー。おまえの右腕はどうやって完治した?」

 

「俺の右腕? あっ―――」

 

先生に言われて思い出す。

 

 

冥界で旧魔王派との戦闘があった時。

 

俺はイグニスを使い、右腕を焼いた。

 

アーシアの治療でも効果が出なかったのは腕を動かすのに必要な筋肉やら神経やらが完全に焼失していたからだ。

 

そこで先生は新しい薬の開発に取りかかった。

 

「あの時の薬!」

 

先生はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「そういうこった。あれをゼノヴィアに使う。アーシアの治癒のように一瞬で塞がったりはしないが、失った部位を再生できる。というわけで、ゼノヴィア。おまえは今から冥界に俺と来てもらう。完治までには数日はかかるから少しばかり入院することになるが・・・・・・」

 

「そうなると修学旅行は・・・・・・」

 

少し表情に影を落とすゼノヴィア。

 

数日の入院と聞いて、皆と一緒に帰れないと思ったのだろう。

 

だけど、先生は首を横に振った。

 

「いや、一度冥界に行き応急措置だけする。修学旅行も今日で最後だ。それくらいならば大丈夫だろう」

 

「本当か!?」

 

「おうよ。おまえも最後まで楽しみたいだろう? 冥界で仮の措置だけして、それから戻ってこればいい。ま、最後はフラフラの状態で参加することになるだろうがな」

 

そう言って先生は苦笑する。

 

目をキラキラさせて本当に嬉しそうにしているゼノヴィアの頭をワシャワシャと撫で、先生は魔法陣を展開してどこかに連絡をいれた。

 

話の内容からして冥界の医療施設かな?

 

グリゴリでもあの薬の研究してるみたいだし。

 

その後、先生は幾つかの指示をスタッフに出し、ゼノヴィアを連れて冥界へと転移していった。

 

いやー、やっぱり先生は頼りになるな!

流石だぜ!

 

それにしても俺の右腕を治すために作られた薬がここで役に立つとは・・・・・・。

 

つーか、傷を周囲の部位ごと切り取るって・・・・・。

普通に言ってるけど、かなり恐ろしいことだよね。

 

 

とにかく、かなりの激戦だったけど仲間が死ななくて本当によかった。

 

俺は夜空を見上げて息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

修学旅行最終日。

 

今日はお土産屋巡りをしたんだけど・・・・・・・。

 

 

か、体が重い・・・・・・。

 

 

寝たところでこの痛みと重みは取れるはずもなく、俺は錬環勁気功で一時的に痛みを消しつつ観光していた。

 

美羽が体を支えてくれたから助かったぜ。

 

 

ゼノヴィアはというと、冥界で応急措置を受けたお陰で擬似的に傷を塞いでいる。

これで傷が悪化することはないらしい。

 

痛み止めも打っていて、左腕は少し痺れているらしいが特に問題はないようだ。

 

駒王町に帰ったら、すぐに冥界の病院に行く予定になっている。

 

他の皆も疲弊した体を引きずってお土産屋巡りをした。

 

 

お土産も買ったし、京都タワーも見た。

 

そして、とうとう京都を離れる時が来た。

 

 

俺達は京都駅の新幹線ホームにいて、九重と八坂さんが見送りに来ていた。

 

「・・・・イッセー」

 

八坂さんと手を繋いでいた九重が俺を呼んだ。

 

「ん? どうした、九重?」

 

俺な聞き返すと九重は顔を真っ赤にしてもじもじしながら俺に訊いてくる。

 

「ま、また、京都に来てくれるか?」

 

「ああ、また来るよ。そうだ、九重も俺の家に遊びに来いよ」

 

「遊びに行ってもいいのか?」

 

「もちろん。歓迎するぜ」

 

そう言って俺は九重の頭を撫でた。

 

おっ、顔が更に赤くなったな。

 

照れてるのかな?

 

いやー、反応が可愛いぜ。

年相応の反応って感じだな。

 

 

ピピピピピピ

 

 

発車の音がホームに鳴り響く。

 

九重が俺に叫ぶ。

 

「必ずじゃぞ! 九重はいつだっておまえを待つ!」

 

「おう! 次は皆で来るからまた、案内頼むな」

 

「うむ!」

 

それを確認すると八坂さんが言う。

 

「アザゼル殿、赤龍帝殿、そして悪魔、天使、堕天使の皆々、本当にすまなかった。礼を言う。これから魔王レヴィアタン殿、闘戦勝仏殿と会談するつもりじゃ。良い方向に進めていきたいと思うておる。二度とあのような輩によってこの京都が恐怖に包まれぬよう、協力体制を敷くつもりじゃ」

 

「ああ、頼むぜ、御大将」

 

先生も笑顔でそう言って八坂さんと握手を交わした。

 

セラフォルーさんも手を重ねる。

 

「うふふ、皆は先に帰っててね☆ 私は八坂さんと猿のおじいちゃんと楽しい京都を堪能してくるわ☆」

 

うん、かなり楽しげだ。

 

ちゃんと仕事してくださいね?

まぁ、大丈夫だとは思いますけど。

 

それだけのやり取りをして俺達は新幹線に乗車。

 

ホームで九重が俺に叫んだ。

 

「ありがとう、イッセー!」

 

「またな、九重!」

 

俺達は互いに手を振り合い、笑顔を返す。

 

 

プシュー

 

 

閉じる新幹線の扉。

 

発車しても九重が俺達に手を振り続けるのが見えた。

 

 

九重の姿が見えなくなると、俺達は各自の席に座る。

基本、来た時とほとんど同じだ。

 

俺の隣に座った美羽が言う。

 

「色々あったけど、楽しかったね。三泊四日なんてあっと言う間だったよ」

 

「だな。マジで色々ありすぎたぜ」

 

英雄派との戦闘もあるけど、観光もしっかりできた。

 

清水寺、銀閣寺、金閣寺に嵐山。

観光名所も予定通り回ることができた。

 

九重や八坂さんにも会えたしな。

 

あとは―――――

 

 

美羽の顔を見ると薄く頬を染めていた。

 

うん、なんだかんだでこれが一番のイベントだったような気がする。

 

 

俺と美羽は義理とはいえ、兄妹の一線を越えた。

 

後悔なんかしてないし、するはずもない。

 

俺は美羽のことを妹としても好きだし、一人の女の子としても好きだ。

 

その気持ちに変わりはない。

 

 

美羽が自身の太ももをポンポンと叩く。

 

「疲れてるでしょ? 来るときはしてもらったから、帰りはボクが膝枕してあげるよ」

 

そう言う美羽はニッコリと微笑んでいた。

 

め、女神がここにいた・・・・・・!

 

あー、もう!

 

なんでこうも可愛いのかね!

 

「じゃあ、お言葉に甘えてっと」

 

俺は横になって美羽の太ももに頭をのせる。

 

あー、柔らかくて気持ちいい。

 

しかも、良い香りがする。

 

ドキドキするけど、どこか安心感もあるんだよね。

 

 

膝枕最高!

 

 

 

ゾクリッ

 

 

妙な殺気が・・・・・・・。

 

振り向くとクラスの男子共が俺を睨んでいた!

 

「「「「ひ、兵藤ぉぉおおおおお・・・・・・!!」」」」

 

な、なんつー殺気だ・・・・・・・。

 

戦ってる時とは違う恐怖を覚えるぞ・・・・・。

 

立ち上がった松田と元浜が叫ぶ。

 

「皆のもの、静まれ! ここで暴れては他の乗客に迷惑をかける!」

 

「この男、兵藤一誠は駒王学園に帰り次第、我々『イッセー撲滅委員会』の手で制裁を加える! それまではその怒りを溜めておくのだ! 会員よ、その怒りをパワーに変えろ!」

 

「「「「おおおおおおおおおおっ!!!」」」」

 

二人の演説に手を振り上げて叫ぶ男子共!

 

なにこれ!?

 

死ぬの!?

 

俺、帰ったら死ぬんですか!?

 

って、おまえらも『イッセー撲滅委員会』のメンバーなんかいぃぃいいいい!!!!

 

クラスの男子ほぼ全員じゃん!

 

敵しかいないじゃん!

 

 

いや、この感じだと他のクラスにもいそうだ・・・・・・。

下手すれば学園中・・・・・?

 

 

「これから私達も頑張らないといけませんね」

 

「そうだったな。帰ってからも決戦だった」

 

「ええ、色々聞いちゃったし」

 

「リアスさん達も知ったらすごいことになりそう」

 

オカ研女子部員の呟きが聞こえてくる・・・・・。

 

そうでした、この娘達にはバレたんだった。

 

ど、どうしよう・・・・・・。

 

帰ってから大丈夫なのか、俺・・・・・・?

 

 

ってか、ゼノヴィア!

 

帰ってからも決戦ってどういうこと!?

 

おまえ・・・・・・・まさか!?

 

いやいやいや、おまえはまず腕を治療しようか!

 

帰ったら即病院なんだからよ!

 

 

「うぅ・・・・、美羽・・・・・・」

 

「アハハハ・・・・・・」

 

涙目で美羽に泣きつく俺とそんな俺の頭を苦笑しながら撫でる美羽。

 

俺の苦難は帰ってからが本番のようです・・・・・。

 

 

あ、美羽に撫でられるの気持ちいいな。

 

 

とりあえず、現実から逃げるため俺は目蓋を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

京都から帰還した俺達は部長達と合流し、そのまま冥界へ飛んだ。

 

もちろんゼノヴィアの付き添いだ。

 

冥界の病院に着いてからの医師の行動は迅速で、ほんの一時間程度でゼノヴィアの傷の処置が終わってしまった。

あの薬も既に投与済みだ。

 

先生の言った通り、回復の兆しはあったようで二日もすれば完治するとのことだった。

 

 

そんでもって、今はゼノヴィアの病室に集まっているわけだが・・・・・・・。

 

俺達、修学旅行組は京都でのことを部長から問い詰められていた。

しかも、正座で。

 

「なんで知らせてくれなかったの? と、言いたいところだけど、こちらもグレモリー領で事件が起こっていたものね。でも、ソーナは知っていたのよ?」

 

「は、はい・・・・・・すいません」

 

一応の説明は終えているんだけど、朱乃さんも小猫ちゃんも少々ご立腹の様子だった。

 

「こちらから電話した時に少しくらいは相談してほしかったですわ」

 

「そうです。水くさいです」

 

アリスも嘆息しながら続く。

 

「あんた、また奥義使ったでしょ?」

 

「あ、やっぱり分かる?」

 

「分かるわよ。さっきから動きがぎこちないんだもの。あんたって本当に無茶ばかりするんだから」

 

ハハハ・・・・・・。

 

流石はアリス。

 

お見通しのようで。

 

「というか、なんで私を呼ばなかったのよ? 私なら動けたのに」

 

「いや、アリスはまだこっちの世界に馴れてないし・・・・・」

 

「だからって、あんたがいなくなったら意味がないでしょ・・・・・・・バカ」

 

す、すいませんでした・・・・・。

 

「で、でも、皆さん無事に帰ってきたのですから・・・・・・」

 

ギャスパァァァァアアアッ!!

 

庇ってくれるのか!

 

皆の迫力に押されてオドオドしてるけど、その気持ちだけで俺は嬉しいぞ!

 

「まぁ、イッセーは現地で新しい女を作ってたけどな」

 

椅子に座る先生が場を混乱させるようなことを口走る。

 

女・・・・・?

 

「しかも九尾の娘だ」

 

九重のことかよ!

 

「そんなのじゃないですよ! 人聞きの悪い!」

 

「でもよ、八坂を見る限り、相当な美人で巨乳に育ちそうだぞ?」

 

た、確かに・・・・・。

 

美女で巨乳な九重か。

 

・・・・・・・いけるな。

 

 

いやいやいや!

 

「だ、だからって女を作ったってのは違うでしょ!? ただ仲良くなっただけですって!」

 

うん、俺は何も間違ったことは言ってないぞ!

 

「往生際が悪いやつめ。この天然女たらし」

 

「酷いっ!」

 

なんて言われようだ!

 

ねぇ、殴って良い?

やっちゃっていいかな、このラスボス先生。

 

『やってしまえ、相棒。俺が許す』

 

ドライグも乗り気だ。

 

おっぱいドラゴンのこと、まだ根に持ってるんだな。

 

すると、先生は何かを思い出したようだった。

 

「そういや、学園祭前にフェニックス家の娘が駒王学園に転校することになったみたいだぞ?」

 

「レイヴェルが!? マジで!?」

 

部長や朱乃さん、小猫ちゃん、ギャスパー、アリスは知っていたみたいで特に驚く様子はなかった。

 

俺達が修学旅行に行っている間にそういう話になったってことか。

 

「なんでも、リアスやソーナの刺激を受けて、日本で学びたいと申し出てきたらしい。学年は小猫と同じ一年。猫と鳥でウマが合わなさそうだが・・・・・それを見るのも一興か」

 

「・・・・・どうでもいいです」

 

先生の一言に小猫ちゃんは不機嫌そうに返した。

 

小猫ちゃんはレイヴェルが嫌いなのかな?

 

まぁ、同学年になるんだから仲良くしてね。

 

「でも、急ですね。なんで転校してくるでしょうね?」

 

俺の疑問に先生は意味深な笑みで俺を見てきた。

 

な、なんですか・・・・・?

 

「ま、そういうことだ。おまえ達も大変なもんだな」

 

そういうことってどういうこと!?

 

 

すると――――

 

 

「なるほど。またライバルが増えるということか。こうなれば早い内にイッセーと子作りするべきか? 美羽には先を越されたしな」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

ゼノヴィアの呟きに部長、朱乃さん、小猫ちゃん、アリスの声が重なった!

 

うぉおおおおおい!?

 

何言ってくれてるの、この娘!?

 

「い、イッセー!? 今のはどういうことなの!?」

 

「美羽ちゃんに先を越されたというのは・・・・・つまり・・・・・!」

 

部長と朱乃さんが問い詰めてきた!

 

ものすごい迫力だ!

 

「イッセー先輩、答えてください」

 

うおっ!?

 

小猫ちゃんが背後に立って俺の逃げ道を塞いでいる!

 

いつの間に!?

 

「イッセー・・・・・どういうことなの? あんた、美羽ちゃんと・・・・・・したの?」

 

 

バチッ バチチチッ

 

 

アリスの周囲にスパークが飛び交ってる!

 

こ、これはヤバイ!

 

ど、どうすれば良いんだ!?

 

 

A 逃げる

 

B ごまかす

 

C 正直に言う

 

 

俺の頭に浮かんだ選択肢はこの三つ!

 

こ、ここは―――――

 

 

「お、俺は美羽と・・・・・その・・・・・・しました・・・・・はい・・・・・」

 

 

言葉を詰まらせながら言う俺。

 

そう、俺が選んだのはC!

 

やはり正直に言うしかないだろう!

アーシア達には既に知られてるからどのみちバレる!

それに逃げるのは男としてどうかと思うんだ!

 

 

さぁ、皆の反応は!?

 

 

 

「・・・・・そう、イッセーは美羽としたのね」

 

「いつかはこうなる日が来ると思っていましたが・・・・・」

 

「・・・・なんというか、流石です美羽先輩」

 

「ええっ!? 流石ってどういうことなのさ!?」

 

あれ・・・・・?

 

気落ちしているけど、普通の反応だな。

 

というより俺はてっきり普段よりも凄い展開になると思っていたんだけど・・・・・・。

 

どこか納得しているような気もする。

 

「・・・・・・・」

 

先程までスパークを放っていたアリスはというと、今では無言で目を伏せている。

 

俺は恐る恐る声をかけてみた。

 

「アリス?」

 

「・・・・・・イッセーのバカ」

 

「えっ?」

 

「何でもないわよっ」

 

アリスはプイッとあっちを向いてしまった。

 

う、うーん、怒ってるのかな・・・・・・?

 

 

パンっ

 

 

先生が膝を叩いて立ち上がる。

 

「ま、おまえらもその辺にしといてやれ。イッセーも奥義なるものを使って、よく言ってもボロボロなんだ。問い詰めるにも少し休ませてからにしろ」

 

おおっ、先生が珍しく助け船を出してくれた!

 

ありがとうございます!

 

マジで助かります!

 

「そうね、とりあえずは休ませてあげましょう。祐斗達もしっかり休養をとること。いいわね?」

 

『はい』

 

部長の言葉に修学旅行組がそう返事を返して解散となった。

 

 

はぁ・・・・・どうやら、俺の心配は杞憂に終わったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

冥界から駒王町に戻った俺はサーゼクスに通信をいれていた。

 

目の前に魔法陣を開き、サーゼクスと映像が繋がる。

 

「サーゼクス、こちらで得た英雄派のデータを送る。あちらさんは上位の神滅具を三つも保有してる上、禁手祭り。イッセーの話では『龍喰者(ドラゴン・イーター)』なんてものも持ってるらしいぜ」

 

『聞き覚えのない単語だ。心当たりはあるかい?』

 

「いや、全く」

 

長いこと生きてきたが、俺もそんな名前は聞いたことがない。

 

名前からしてドラゴンに何らかの影響を与えるものだということは分かる。

今回もグレートレッドを呼び出して、それを使おうとしていたらしいからな。

 

ったく、いったいいくつ手札を持っているんだか。

 

やってくれるぜ、テロリスト共め。

 

『彼らには「三大勢力と妖怪の共闘関係を壊す」という名目があったようだからな。中心メンバーの思惑はともかく、下の者達にとっては正義の理由になるのだろう』

 

「ああ。結果、包囲網に参加した部隊にも大きく被害が出てしまった。魔獣創造のアンチモンスターもそうだが、想像以上に禁手の使い手が多くてな」

 

『禁手使いが戦況を悪化させた、か。やはり神器というのは恐ろしいものだな』

 

「おいおい。気持ちは分かるが、おまえまで神器を無くそうなんてこと言ってくれるなよ? 俺の楽しみが無くなる」

 

俺がそう言うとサーゼクスは笑う。

 

『そこまでは言わないさ。私達も神器によって助けられたことは多々ある。ようするに使い方次第ということだ』

 

それには同意するぜ。

 

神器の力は使い方次第で大きな利益をもたらすが、大きな被害を生むこともある。

 

まぁ、今回は後者だったが・・・・・。

 

「それで? 妖怪との交渉はどうなった?」

 

『上手くいった。今回の件を受けて妖怪側も協力体制を強く申し出てくれたよ』

 

「英雄派の行動の結果、協力体制を崩すどころか強めちまったってことだな」

 

皮肉というか、なんというか・・・・・。

 

「とにかく、協力体制を築けたのは大きい。詳細については後日話し合う。――――今回もイッセー達が戦果をあげたぞ」

 

『うむ、もう十分なくらいだ。特にイッセー君の場合、コカビエルの件や会談の時から大きな活躍をしてくれている。旧魔王派も実質、彼が一人で壊滅させたようなものだ』

 

「加えてロキと異世界でもな」

 

『ロスウォードと言ったか。二天龍を大きく越える存在だったと』

 

「ああ、奴はヤバかった。もし、こちらの世界に来ていたら、どこかの神話体系の一つや二つは確実に消滅していただろうさ」

 

『アザゼルがそこまで言う相手とはね。・・・・・・異世界のことは公には出来ないから公式の戦果としては数えられない。それでも、それを踏まえ我々四大魔王から推薦するつもりだ』

 

「となると――――イッセーの上級悪魔昇格は確実か」

 

『まぁ、彼の力はそれどころではないが・・・・・』

 

サーゼクスは苦笑する。

 

ま、イッセーは素の状態で最上級悪魔クラス。

禁手になれば魔王クラスときたもんだ。

 

上級悪魔でも控えめなくらいだぜ。

 

『それで彼の様子は? 神器が使えない状態でかなり無理をしたらしいが・・・・・』

 

「あー、本人曰くあと一日休めば治るんだとよ。特に心配はいらないってさ」

 

『それはよかった』

 

安堵するサーゼクス。

 

 

だが、俺は分かっていた。

イッセーを心配するなら別のことだということを。

 

まぁ、そっちの方は見ている側としては面白いから良いんだけどな。

 

さてさて、ついに女を知った奥手勇者様の今後はどうなることやら。

 

 

俺はワインの入ったグラスを片手に笑みを浮かべた。

 

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

 

修学旅行から帰った日の夜。

 

俺は一刻でも早く休みたかったので夕食を済まし、風呂に入った後、すぐにベットにダイブ。

 

錬環勁気功で痛みを誤魔化していたけど・・・・・・げ、限界。

 

全身がメチャクチャ痛い。

 

ちょっと触られただけでも悲鳴をあげそうだ。

 

気で痛めた体は自然治癒でしか治せないので、俺は安静にするしかない。

 

 

なんだけど・・・・・・・・

 

 

「あ、あの~、アリスさん? 何をして――――」

 

「見て分からない? 添い寝よ。添い寝」

 

ベットにダイブした直後、アリスが部屋に入ってきたんだ。

 

そして何も言わず、俺に並ぶかのようにベットに寝転んできた。

 

 

しかも、顔がかなり近い!

 

 

「い、いや、それは分かるんだけどさ・・・・・どうしたの?」

 

俺が尋ねるとアリスはプクッと頬を膨らませて――――

 

「えいっ」

 

ツンっと指先で俺の体をつついてきた!

 

「い、痛ぇええええ!!」

 

激痛が走り、悲鳴をあげてしまう。

 

大袈裟のように聞こえるかもしれないけど、マジで痛いんだって!

 

本当にちょっと動いたり触られたりするだけでヤバイから!

 

つーか、アリスもそのことは分かってるはずだろ!?

 

「な、何すんだよ!」

 

「天罰よ」

 

「天罰!?」

 

「あんた・・・・・美羽ちゃんとしたんでしょ? ・・・・・・(イッセーの初めては私が欲しかったのに)

 

ん?

 

今、なんて言った?

 

声が小さすぎて聞き取れなかったんだけど・・・・・・。

 

「イッセーの・・・・・バカバカバカバカ」

 

 

ツンツンツンツンツンツン・・・・・・・

 

 

なんか連続でつついてくるぅぅうううう!

 

「痛っ・・・・ちょ、マジ・・・・・やめてぇえええ!!」

 

激痛走ってるから!

 

本当にやめてください!

 

死ぬ!

 

死んでしまうって!

 

って容赦ないな、君は!

 

「な、なんでも言うこと聞くからやめてくれぇぇえええ!!」

 

心からの叫び!

 

もう、全身バキバキで限界だから!

 

 

俺が叫ぶとアリスはつつくのをやめてくれた。

 

あぁ・・・・・痛かった・・・・・・。

 

「な、なんでも言うこと聞くって本当・・・・・?」

 

「え、あ、うん・・・・・」

 

ほとんど助かるために言ったんだけど・・・・・・。

 

アリスは耳まで真っ赤にしてモジモジすると、潤んだ瞳で

 

「じゃ、じゃあ、今度・・・・・私とデートし――――」

 

 

バタンッ!

 

 

アリスがそこまで言いかけた時、部屋の扉が勢いよく開かれた。

 

何事かと思い、顔をあげると美羽が顔を真っ赤にして涙目で立っていた!

 

「ど、どうした、美羽・・・・・?」

 

俺が尋ねると――――

 

「うわぁぁぁぁぁん! 助けて、お兄ちゃぁぁぁぁあああん!!!」

 

美羽が俺に飛び込んできた!

 

再び全身に激痛が走る!

 

「ギャァァアアアアアアアアッ!!!」

 

断末魔のような悲鳴!

 

それを聞いて慌てる美羽。

 

「ご、ゴメン! だ、大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫じゃないです・・・・・・。と、ところで、何があったんだ・・・・・・?」

 

「あ、うん。実はさっき――――」

 

 

ドタドタドタドタ

 

 

美羽がそこまで言いかけると聞こえてくる複数の足音。

 

現れたのはリアス、朱乃、小猫ちゃん達!

 

あ、今はプライベートだから部長はリアス、朱乃さんは朱乃って呼び捨てで呼んでるんだ。

 

 

「待ちなさい、美羽!」

 

「最後まで聞かせてもらいますわ! イッセー君とどんなプレイをしたのかを!」

 

「逃がしません」

 

なぬっ!?

 

三人の言葉を聞いて衝撃を受ける俺!

 

皆の姿が見えないと思ってたけど、またあの日のことを聞かれてたの!?

 

そりゃ、顔も真っ赤になるわ!

 

恥ずかしすぎる!

 

つーか、病院で大人しく下がったのは美羽に改めて話を聞くためか!?

 

あの静けさは嵐の前触れだったと!?

 

 

ドタドタドタドタドタドタ

 

 

再び聞こえてくる足音。

 

次に現れたのは入院中のゼノヴィアを除いた修学旅行組の女子部員達!

 

「イッセーさん! 私もイッセーさんの赤ちゃん欲しいです!」

 

「わ、私は天使だから・・・・でも、将来のために見学するわ! 見学くらいなら、なんとか耐えることができると思うし!」

 

「イッセー君、私はいつでも準備出来てるから! ・・・・・い、言っちゃった! 私、ついに言っちゃったよ!」

 

おいいいいいいいいいっ!!!

 

何だよ、この状況は!?

 

アーシアちゃん、ストレート過ぎる!

 

美羽の時は一応着けてたから!

子作りまではいってないから!

 

イリナの見学って何だ!?

そんなところで頑張らないで!

 

レイナはレイナでいつでもスタンバイしてると!?

この娘もかなりストレートだよね!

 

 

「いいもん! 美羽が教えてくれないなら実践するだけだもん!」

 

「そうね、リアス! イッセー君の体に直接聞き出しましょう!」

 

お姉様方は何を言っているのかな!?

 

実践!? 

俺の体に直接聞く!?

 

とんでもないこと口にしちゃってるよ!

 

 

つーか、リアスは「もん」って言った?

 

可愛いな。

 

 

いや、そんなこと言ってる場合か!?

 

 

誰か・・・・・・

 

頼むから、誰か・・・・・・

 

 

 

「たーすーけーてーーーー!!!!!!」

 

 

 

 




これにて修学旅行編は完結です。

次回は番外編かな?


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番外編 イッセーの変化!?  その2

修学旅行から帰ってきてから三日ほど経った日の朝。

 

奥義による疲労も回復して、俺はいつも通りに朝五時に起きる。

もちろん修行だ。

 

寝ている皆を起こさないようにそーっとベッドから下りる。

 

たまに美羽や小猫ちゃんが俺の服をギュッと掴んできたりもすることもあるが、頭を撫でてやると安心したように力を緩めてくれる。

 

ベットから下りた俺は皆の可愛い寝顔を見て満足満足。

 

リアスや朱乃のおっぱいが思いっきり見えていたりもするが、それはありがたく脳内保存!

 

朝から眼服です!

 

ゼノヴィアも昨日には退院して普段の生活に戻っていた。

俺の時と比べると傷がマシだったので、すぐに塞がったようだ。

特に傷跡も目立たないので、本当に良かったと思う。

 

 

あれ?

 

なんか、前髪が目にかかるな。

 

いつの間に伸びたんだろ?

 

今度、散髪に行かないと。

 

 

まぁ、それは置いといて着替えますか。

 

 

いつものように朝を迎えた俺はかけてあるジャージを手に取り着替える・・・・・・・はずたった。

 

 

 

ぷるんっ

 

 

 

パジャマを脱いだ時に何が弾んだ。

 

 

・・・・・・ん?

 

なんだ、今の感じは・・・・・?

 

ぷるんっ・・・・?

 

訝しげに思った俺は胸のあたりを見てみる。

 

すると、そこには本来ならあるはずのない二つの丸いものがあって――――

 

 

・・・・・え・・・・・・ウソ、だろ・・・・・・

 

 

嫌な汗が流れ、頬を伝う。

 

 

ナニコレ・・・・・

 

ヤダコレ・・・・・

 

 

俺は咄嗟に股間に手をやる!

 

 

な、ない!

 

あるはずのものがない!

 

そんなバカな!?

昨日まではちゃんとあったぞ!?

 

 

信じられない俺はパンツの中を覗く。

 

 

・・・・・む

 

・・・・・・・むむむ

 

息子が消滅したぁぁあああああ!?!?

 

二十年間苦楽を共にしてきた俺の息子がぁああああ!!!

 

 

胸のこれといい息子の消滅といい・・・・まさか!

 

俺は頭を過った嫌な考えを払拭するようにブンブンと 首を横に振った!

 

 

ウソだ! 

こんなの信じないぞ!

信じてたまるか!

 

 

俺は洗面所に駆け込む!

 

鏡だ!

鏡を見るのが一番手っ取り早い!

 

そして、俺は鏡の前に立つ。

 

映っていたのは―――――

 

 

俺ではなく茶髪のロングヘアの女の子。

 

 

 

男とのゴツゴツした体とは違って女の子特有の丸みのある体型。

出るところはしっかり出ていて、どっからどう見ても女の子だった。

顔は割りと可愛い方だと思う。

髪も腰の辺りまで伸びていた。

 

 

俺は鏡に手をついて目を見開いた。

 

目元をピクピクとひくつかせながら―――――

 

 

「なんじゃこりゃぁああああああああああっ!?!?」

 

 

 

 

 

 

「あなた、本当にイッセーなの?」

 

リアスがそう訊いてくる。

 

あの後、俺の悲鳴を聞いて起きてきた皆は洗面所に駆けつけてきた。

そして、変わり果てた俺の姿を見て今度は皆が驚愕の声をあげていた。

 

現在。

 

俺達は俺の部屋に集まっていた。

 

ベッドの上で俺は頭をかきながら答える。

 

「だから、そうなんだって! 俺はイッセーだよ! お願いだから信じてくれ!」

 

と、返すも皆は戸惑ってばかりで納得は出来ていないようだ。

 

まぁ、俺だって信じられないよ。

 

朝、目が覚めたら女の子になっていただなんて・・・・・。

漫画かゲームだけにしてほしかったぜ。

 

俺の隣に座っている美羽が尋ねてきた。

 

「えっと、じゃあ、ボクと出会った場所は?」

 

「シリウスの城。シリウスと一騎討ちした後に美羽を託された」

 

「うん、正解。じゃあ、ボクがこの世界に来たときに、お兄ちゃんはボクを部屋に残してお父さんとお母さんに事情を話に行ったよね。お兄ちゃんが部屋に帰ってきたときにボクがいた場所は?」

 

「えーと、確か・・・・・俺のベッドの下だったな。俺のコレクションを読まれてた・・・・・」

 

今思い出すとあれはかなり恥ずかしかった。

 

「それも正解。お兄ちゃん・・・・・この場合はお姉ちゃんなのかな? とにかく兵藤一誠には間違いなさそう」

 

ま、それは俺達以外は知らないことだもんな。

 

俺かどうかを確認するには一番早い質問だろう。

 

「では、私と初めて子作りしたのは?」

 

「一度もしてねぇよ! 誤解を招くことを言うなよ、ゼノヴィア!」

 

「むぅ、この返し方は確かにイッセーだな」

 

今ので納得したのかウンウンと頷くゼノヴィア。

 

ったく、こいつは・・・・・。

 

とりあえず、皆は俺を兵藤一誠だと理解はしてくれたみたいだ。

それだけは良しとしよう。

 

「でも、なんでこんなことに? 思い当たる節はないの?」

 

アリスが顎に手をやりながら尋ねてくる。

 

そう言われて俺も記憶を探ってみた。

 

 

思い当たる節ねぇ・・・・・。

 

 

曹操と戦った時に奥義は使ったけど、それの後遺症なんてのは考えられないし・・・・・。

それ以前も特にこれといったことはない。

 

となると、帰ってきてからか。

 

一昨日はゼノヴィアの見舞いに行ったくらいだ。

ゼノヴィアが子作りをしようと病院のベッドに押し倒してきたことくらいしかイベントはなかった。

 

まぁ、物音を聞き付けた看護婦さんに見つかって注意されたけどね。

 

 

じゃあ、昨日は・・・・・・・

 

「あっ、あった」

 

「原因が分かったの?」

 

「原因・・・・・なんだろうなぁ。あれしか考えられないし」

 

「何なのよ? 言いなさいよ」

 

アリスに言われて俺は昨日のことを思い出す。

 

確か昨日は―――――

 

 

 

 

 

 

 

ゼノヴィアが入院して二日目。

 

アザゼル先生の言った通り傷が塞がったから、すぐに退院することが出来た。

 

そんでもって、退院祝いということでプチパーティーを家で開くことになった。

 

ちなみにこのパーティーには俺の退院祝いも含まれていたりする。

俺の時は異世界に行ったり、修学旅行の準備、ライザーの立ち直り作戦があったりして、そんな時間はなかったからなぁ。

 

「それじゃあ、ゼノヴィアと遅れたけど、イッセーの退院を祝って乾杯!」

 

『乾杯!』

 

リアスの音頭でプチパーティーが始まる。

 

テーブルには母さんや美羽達が作った料理や出前の寿司が並んでいて、どれも美味そうだ!

 

さーてと、俺はどれから食べようかなー。

 

すると、美羽が小皿に唐揚げを入れてくれた。

 

「はい、唐揚げ好きでしょ?」

 

「お、サンキュー」

 

唐揚げを箸でひょいと摘まんで口に入れる。

 

うーん、美味い!

 

外はカリッと中は肉汁があふれでてジューシーだ!

 

「美味いよ。また腕上げたな」

 

「エヘヘ。色々勉強したんだよ? ちなみにその唐揚げは揚げる前にお肉をマヨネーズで包んでるんだ。そうすると肉汁が閉じ込められてジューシーになるんだよ」

 

「へぇ。そんな裏技があったのか」

 

「うん。お兄ちゃんに美味しいって言ってもらいたいからね」

 

そう言ってニッコリと微笑む美羽。

 

 

ぐはっ!

 

な、なんて可愛いことを!

 

そんなこと言われたら俺・・・・・・猛烈に感動するじゃないかぁぁああああ!!!

 

「ありがとう。美味すぎて涙が出てきたぜ」

 

「そ、それは大袈裟だよ」

 

涙を流して言う俺に苦笑する美羽。

 

ハッキリ言おう!

これは大袈裟などではない!

 

美羽の愛情が心に染みる!

 

 

すると、俺の前にもう一つ小皿が出された。

そこに乗っているのは肉じゃがだった。

 

見るとその小皿を突き出してきたのはアリスだった。

 

「こ、これ・・・・イッセーのお母様に教えてもらって・・・・・その、作ったんだけど・・・・」

 

「アリスが?」

 

「う、うん・・・・・」

 

小さく頷くアリス。

 

 

マジか。

 

あのアリスが料理を・・・・・・。

 

俺が旅をしている頃のアリスは少なくとも料理は下手だった。

何度かチャレンジしていたが、一向に上達しなかったため、モーリスのおっさんがリーシャを料理担当に任命したんだ。

 

城でも料理を作ろうとした時期があったらしいけど、ワルキュリア達が作らせてくれなかったみたいだし・・・・・・。

というか、不器用すぎて一度火事になりかけたとか。

それ以来、ワルキュリアに調理場から追い出されたと聞いている・・・・・。

 

そのアリスが肉じゃがを作ったのか。

 

「な、なによぅ・・・・。やっぱり私のは食べられない?」

 

「いやいや、そういうことじゃなくて・・・・・。とりあえずいただくよ。せっかく作ってくれたんだし」

 

俺はアリスから小皿を受けとる。

 

ジャガイモが僅かに崩壊しているが・・・・・・アリスが作ったにしては形になってるな。

 

少し怖いけど・・・・・

 

「いただきます」

 

口へと運ぶ。

 

心配そうに見守るアリス。

 

「ど、どう?」

 

ごくりと唾を飲み込んで訊いてきた。

 

「美味い」

 

俺の正直な感想だった。

 

確かに見た目は不恰好だけど、母さんの味がした。

 

「美味いよ、アリス。少し驚いたぞ」

 

「驚いたって、どういう意味よ・・・・・・って言いたいところだけど・・・・・良かった。イッセーに美味しいって言ってもらえて」

 

顔を紅潮させながら嬉しそうに微笑むアリス。

 

ふとアリスの手を見ると指のあちこちにバンソーコーが貼ってあった。

 

美羽が俺に耳打ちする。

 

(アリスさん、頑張ってたんだよ? 普段は周りの人が料理させてくれなかったみたいで、あまり経験がなかったそうだし。それでもお兄ちゃんに食べてもらいたいって)

 

そっか・・・・・。

 

 

「アリス」

 

「な、なに?」

 

「ありがとな、本当に美味しいよ」

 

「う、うん・・・・・」

 

おおっ、なんか顔がメチャクチャ赤くなってるな。

トマトみたいだ。

 

 

何となく思ったんだけど、その指の傷はアーシアに治してもらったら良かったんじゃ・・・・・。

 

あ、でもアーシアは買い出しに行ってたからそれでか。

 

後でアーシアに治療してもらおう。

 

 

「おうおう、お熱いねぇお三方」

 

アザゼル先生が寿司を食べながら言ってきた。

 

ビールを片手に俺をからかってくる。

 

「全く、おまえは無意識に女を落としていくよな。天性のものを感じるぜ」

 

「落とすって・・・・・。どこがですか?」

 

「どこと言われてもおまえの全てがそうだろ? これまでの行動、言動を思い返してみてみろよ。今のだってそうだろ」

 

そうかな?

 

俺は思ったことを言ってるだけなんだけど・・・・・・。

 

『これは相当だな』

 

『ええ。まぁ、だからこそ皆はイッセーに好意を持つのでしょうけど』

 

ドライグとイグニスまでそんなことを言ってくる。

 

ま、まぁ、皆から好意を持たれているのは分かっているけどね?

 

先生はイヤらしい笑みを浮かべる。

 

「これは魔族の姫君のお次は一国の姫君になるか? アリス姫も食われちまうのかねぇ」

 

「「なっ!?」」

 

俺とアリスの声が重なった。

 

この先生は毎回毎回なんつーことを言ってくれるんだ!

 

見てみろ、アリスが恥ずかしさのあまり向こうに行っちゃったじゃないか!

 

「アハハハ・・・・・。ボクがいってくるよ」

 

「スマン、頼むわ」

 

美羽はテーブルに小皿と箸を置いてアリスを追いかける。

 

はぁ・・・・

 

「食うって・・・・・・言い方が酷すぎません?」

 

「別にいいじゃねぇか。つーか、複数の女を同時に手玉に取るくらいの器量がないとハーレム王にはなれねぇぞ?」

 

「うっ・・・・」

 

「ま、おまえの場合はその押しに弱すぎるところから直していかねぇと無理か」

 

「ううっ・・・・」

 

そんなこと言われても、周囲の女子のパワーが強すぎるんですよ!

 

俺だって・・・・・・俺だってそれくらいの器量がほしいです!

 

先生は詰まる俺を見て嘆息する。

 

「ったく、美羽で女を知ったと思えば相も変わらずか・・・・・。おまえはもっと女を知らないとな」

 

「もっと、ですか?」

 

「おうよ。そこでだ」

 

先生は懐を探り何かを取り出した。

 

それはアニメや漫画でありそうな形状の銃。

 

「先生・・・・・それは?」

 

「これはな俺が神器研究の一環で作った試作品なんだが、中々面白くてな。男の体を女に、女の体を男に出来るんだ。性転換銃ってやつだ。ま、実験段階なもんで完成はしてないんだが・・・・・・」

 

「はぁ」

 

性転換銃って・・・・・それは神器と何の関係が?

 

なにやら笑みを浮かべている先生だが・・・・・・。

 

な、なんだか嫌な予感しかしない。

 

この人がこういう笑みを浮かべる時はろくなことにならないんだよ・・・・・・。

 

「てなわけで、イッセー。おまえには実験に付き合ってもらうぜ?」

 

「はぁっ!? なんで!?」

 

「面白いからに決まってんだろ?」

 

「意味がわかりませんよ! 実験なら自分の研究室でやってくださいよ!」

 

「いやー、いい実験材料がなくてな。おまえならちょうど良いだろ?」

 

「ちょうど良いって何がーーー!?」

 

「とりあえず、くらっとけ!」

 

先生が引き金を引いた!

 

問答無用か!?

 

 

ビビビビビビビビビッ!

 

 

「ギャッ!」

 

銃の先端から発せられた光が俺を直撃!

 

俺の体を光が覆った!

 

俺の悲鳴を聞いたリアスが先生に言う。

 

「ちょっとアザゼル! イッセーに何をしたのよ!?」

 

「なーに、少し実験に付き合ってもらっただけさ」

 

「あなたって人は・・・・・・イッセー、大丈夫?」

 

俺の元に駆け寄るリアス。

 

「あ、うん。・・・・・先生、何も変化がないんですけど」

 

「へっ?」

 

拍子抜けする先生。

 

光が止んでも、俺の体に変化はなかった。

 

特に何かが変わるわけでもなく、いつもの体のままだった。

 

先生は手に持つ銃と俺の体を交互に見ながら首を傾げる。

 

「おかしいな。確かに効果は出るはずなんだが・・・・・。何も起きていないだと?」

 

「故障じゃないですか? まぁ、おかげで助かりましたけど。つーか、俺を使って実験とかマジで止めてください!」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・ということが昨日あった。

 

まさか・・・・・あの銃の効果が今になって・・・・・・?

 

「原因はアザゼルね・・・・・。アザゼルを呼び出したいところだけど、朝から妖怪側との協力体制についての確認に行ってるから・・・・・」

 

「今すぐ呼び出すのは難しいですわね」

 

リアスと朱乃がため息混じりでそう言う。

 

「そんな!? じゃあ、俺の体はこのままだってのかっ!?」

 

マジでか!?

 

俺、女の子として生きなきゃならないの!?

 

女の子を知るとかなんとか言ってたけど、女の子になってんじゃん!

 

あの人のくだらねぇ発明のせいで、俺のハーレム王への道は絶たれたんじゃないの!?

 

小猫ちゃんが訊いてくる。

 

「気を操って何とか出来ないんですか?」

 

「うーん、一応やってみたけど・・・・・やっぱ無理みたい。ロスヴァイセさんか美羽の魔法で何とかならないかな?」

 

「何とかと言われても、まずはどういった術式でこうなったのか解析しなければなりません。とりあえず、調べてみましょう」

 

と、ロスヴァイセさんが魔法陣を俺の頭の上で展開する。

三つの魔法陣が回転し、俺の体を調べているようだった。

 

「こ、これは・・・・・・!」

 

ロスヴァイセさんが驚愕の声をあげた!

 

なんだ!?

俺の体に何があったんだ!?

 

ロスヴァイセさんは顔を上げて俺の目を見据える。

 

そして―――――

 

「何も出ませんね。正常です」

 

「はっ? え、今の驚きは何だったんですか?」

 

「ええ。何も出なかったので、逆に驚いているのです」

 

な、なるほど。

 

いや、納得している場合か!?

 

何も出なかったってどういうこと!?

 

「美羽、俺を調べてくれ!」

 

「う、うん」

 

美羽もロスヴァイセさん同様に魔法陣を展開する。

幾つも展開されたそれは俺の周囲を回っていく。

 

アスト・アーデでも最高峰の魔法を修得している美羽なら!

美羽なら何かを見つけてくれるはずだ!

 

「こ、これは・・・・・・!」

 

美羽が驚愕の声をあげた!

 

なんだ!

俺の体に何があった!?

 

美羽は顔を上げて俺の目を見据える。

 

そして―――――

 

「何も出なかったよ」

 

「さっきと全く同じじゃないか! マジで!? マジで何も出ないの!?」

 

「う、うん。ごめんね」

 

「いや、美羽は悪くないよ!」

 

なんてこった!

 

この二人が調べても何も分からないと!?

 

―――――さ、最悪だ。

 

俺は元の体を取り戻すことが出来ないのか・・・・・。

 

「・・・・実はイッセー先輩は女の子」

 

「大丈夫だよ、小猫ちゃん。お兄ちゃんが男の子なのはボクが証明できるよ」

 

「そうでしたわね。美羽ちゃんの処女はイッセー君がいただいたのでしたわね」

 

「あっ・・・・・・」

 

朱乃に言われて顔を赤くする美羽。

 

うん、今のは完全に自爆だよね。

 

つーか、その火の粉が俺の方にまで飛んできたんですけど。

 

女性陣の視線が俺に集まってるし。

 

俺は咳払いして皆に言う。

 

「な、何にしてもアザゼル先生と連絡が取れるまでは俺はこのままってことだな。元々あの人のせいでもあるんだ。何とかして解決してもらおう」

 

その言葉にリアスも頷く。

 

「そうね。イッセーが元に戻ってくれないと私もあなたとできないもの」

 

「ええ。椅子に縛り付けてでも方法を探してもらいましょう。私だってイッセー君に処女をもらってほしいですもの」

 

リアスに続く朱乃。

 

・・・・・・ふ、二人の体からとてつもないオーラが滲み出ている!

 

マジだよ、この二人!

 

アザゼル先生、早くしないとあなた死にますよ?

 

すると、レイナが俺の体を見ながら言った。

 

「でも、そのままでいるにしても服をなんとかしないといけないわ。イッセー君、背も縮んでるし体格もかなり変わってるもの」

 

あー、確かに。

 

今着ているジャージも結構ブカブカだ。

これだと、結構動きづらい。

 

多分、他の服でも同じだろう。

 

そうなると、この中の誰かから借りないといけないのか・・・・・。

 

「とりあえず、服脱いで合うサイズを探しましょうか」

 

「そうだな」

 

俺はリアスの提案に頷き、ジャージを脱ぐ。

 

 

ぷるんっ

 

 

俺の胸が揺れた。

 

うーむ、おっぱいは好きだけど自分のはなぁ・・・・・。

 

ってか、結構な巨乳になってるよな俺。

リアス達程ではないが、イリナやゼノヴィアクラスはあるか。

 

何とも言えない状況だぜ。

 

 

ツカツカツカツカ

 

 

俺が思案しているとアリスが近づいてきて――――

 

 

むんずっ

 

 

俺の胸を鷲掴みしてきた!

 

「な、なんで、あんたにこんな大きいのがあるのよ!?」

 

「いや、俺に言われても知らねぇよ!?」

 

「こんなに揺らして・・・・・ねぇ、ケンカ売ってるの? ねぇ? ケンカ売ってるの?」

 

こめかみに青筋浮かべてる!?

怖いよ、怖すぎる!

 

どれだけ胸にコンプレックス抱いてるんだよ!?

 

つーか、力籠めすぎ!!

 

「いだだだだだだッ!! もげる! 乳もげる!」

 

「もげれば良いのよ! なんで男のあんたがこんな巨乳で私のは成長しないのよ!? 私なんて毎日おっぱいマッサージしてるのにぃいいいいい!!」

 

「そんなことしてたの!? ちょ、マジ痛いって! 頼むから誰か助けてーーー!!!」

 

俺は涙目で皆に助けを求める!

 

だが、皆は苦笑するだけだった!

 

助けてくれないの!?

 

「さ、流石にこの迫力は・・・・・」

 

「近づけないわよね・・・・・」

 

アリスが怖すぎて近づけませんか!?

 

すると、今度は小猫ちゃんが近づいてきた。

 

こ、小猫ちゃんが助けてくれるのか!

 

 

むんずっ

 

 

「・・・・イッセー先輩、これは私も許せません」

 

「そっちぃいいいいいい!? 助けてくれないの!?」

 

「・・・・・巨乳は敵です。ましてや紛い物なんて許せません」

 

そう言いながら力を強める小猫ちゃん!

 

「いだだだだだだッ!! もげる! 小猫ちゃん力強すぎ!」

 

戦車だからメチャクチャ力が強い!

マジで半端ねぇ!

 

 

俺はしばらくの間、地獄の苦痛を味わうことになった。

 

 

 

 

 

 

「すごく可愛い! いけるよ、お姉ちゃん!」

 

美羽が親指を立てて誉めてくる。

 

今、俺は皆の手によって色々な女性物の服を着せられていた。

ほとんど着せ替え人形状態だ。

 

やけにテンションの高いリアスと朱乃なんかは次々に自分の服を持ち込んでくる。

 

下着も・・・・・・。

 

まさか、女の子の下着を着るはめになるとは・・・・・。

 

ちなみに今着ているのは白のワンピースだ。

これは美羽のやつだな。

 

「そ、そうか? つーか、お姉ちゃんなのね」

 

「だって、今は女の子なんだし、お姉ちゃんって呼んだ方が良いでしょ?」

 

俺としては違和感しかないんだけど・・・・・・

もういいや。

 

開き直ろう。

 

「イッセー君、次はこれなんてどうかな?」

 

レイナが持ってきたのは青のシャツに白のスカート。

 

普段レイナが私服として着ているやつか。

 

「それにブラも持ってきたよ」

 

「うっ・・・・それも着けるのかよ・・・・」

 

「当然♪」

 

楽しんでるよね?

 

君達、俺で楽しんでるよね?

 

「じゃあ、その次はこれにしましょう」

 

 

うん、何を言っても無駄だ。

 

俺は諦めてレイナの下着を着けた。

 

 

 

 

 

 

地下の大浴場にて。

 

俺は皆と風呂に入ることになった。

 

脱衣場で服を脱ぎ、下半身を見て愕然とする。

 

男の象徴だったものが無いんだもんな・・・・・。

泣けてくるぜ。

 

脱衣場の鏡で改めて全身を見てみるが・・・・・・完全に女の子なんだよなぁ。

骨格も体型も全てが女の子特有のものだ。

おっぱいも大きいし。

 

 

はぁ・・・・・

 

俺の体は元に戻ることが出来るのだろうか?

 

 

俺はため息をつきながら浴場へ。

 

「待っていましたわ、イッセー君。さぁ、こちらへ」

 

「えっ? ちょ、ちょっと」

 

入るなり朱乃に誘導され、シャワー台のところへと連れていかれる。

 

そこにはリアスと美羽も待機していた。

 

なんだ?

 

頭に疑問符を浮かべていると、三人は手でボディーシャンプーを泡立て始める。

 

これってまさか・・・・・

 

「さぁ、今から隅々まで洗って差し上げますわ」

 

やっぱりか!

 

いや、嬉しいけどさ!

 

流石に今の状態だと複雑な心境だ!

 

泡立てが完了した美羽が俺の正面に来る。

 

「じゃあ、お姉ちゃん。洗うからじっとしててね?」

 

と言って美羽が俺の胸へ触れ――――

 

「ひゃん!」

 

つい声を出しちまった!

 

つーか、なんて声出してんだよ、俺!

 

俺は咄嗟に口を塞ぐがもう遅い!

 

「お姉ちゃん、感じてるの?」

 

「っ!」

 

美羽の一言に俺は言葉を詰まらせる。

 

「あらあら、顔をこんなに赤くして」

 

「あのイッセーがこんな風になるなんて。これはこれで・・・・・・」

 

あ・・・・これはヤバい。

 

完全にアウトなやつだ。

 

 

ガタンっ

 

 

俺は三人に押し倒された!

 

美羽にマウントポジションを取られ、リアスと朱乃が俺のサイドを囲む!

 

 

ピトッ ムニュゥウウウウウ

 

 

ああああああああっ!!

 

三人の肌が直に当たってるぅぅううううう!!

 

おっぱいの感触がトリプルできてるぅうううう!

 

しかも、泡立てたボディーソープがヌメリを生み出してるからとんでもないことになってる!

 

 

うん、女になってもこの辺りの感想は変わりません!

至福の時を過ごしてます!

最高です!

 

「やっ、んんっ・・・・。あの時もこんな感じだったね。今回は女の子同士だけど」

 

美羽が火照った顔でそんなことを言ってくる。

 

うわー、美羽の胸と俺の胸がくっついてこれまた凄いことに・・・・・。

 

我ながらエロい体してるな。

 

互いの胸の先端がこすれて、妙な感じがする。

 

そんなことを思っていると朱乃が耳元で囁いた。

 

「ねぇ、イッセー君。女の子の感じるところ教えてあげましょうか? 女性として体験できる機会なんて滅多にないですわよ?」

 

「えっ――――」

 

 

 

 

 

この後のことは想像に任せよう。

 

 

ただ一つ言うのならば、俺はもう少しで新しい世界への扉を開きかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、スマンスマン。まさか、効果が一日遅れて出るとは思わなくてな」

 

 

頭をボリボリかきながら笑う先生。

 

 

その日の夜。

 

何とか連絡が取れた先生を呼び出し、俺は再びあの銃の光線を浴びた。

 

今度は一瞬で男に戻ることができた。

 

どうやら、昨日は本当に故障していたらしい。

 

「スマンじゃないですよ! とんでもないことになったんですからね!? 少しは反省してください!」

 

「『僕は今度からしっかり動作確認してからしようと思いました(まる)』」

 

「作文!?」

 

クソッ・・・・この先生、絶対に反省してないぞ。

 

今度、レイナを通してシェムハザさんにチクってやる。

 

椅子に縛り付けられてしまえ!

 

先生は特に悪びれた様子もなく、俺の肩をポンッと叩く。

 

「ま、今回のことで女がどういうものか知れただろ?」

 

「うっ・・・・」

 

 

ま、まぁ、確かに。

 

女の子の体ってああなってたんだな・・・・・。

 

その辺りは今後の参考になったと言える。

 

 

今思い返すと本当に凄かった。

 

何回か意識飛びかけたもんな・・・・・・。

 

 

つーか、家の女子ってかなりエロいよね。

性格が。

 

女の俺を見て、かなりテンション上がってたし。

 

「まぁ、今日のことを糧に今後も気張れや」

 

「は、はぁ・・・・・」

 

 

ハーレム王、か。

 

少しはそれに近づけたのかね?

 

 




というわけで、今回はイッセーが女になる話でした。

原作であった性転換銃はイッセーには使ってなかったので、本作ではイッセーに使ってみました。


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番外編 わりと平和な一日を

最近忙しくて投稿おくれました。

とりあえず番外編をどーぞ!


ある日の休日。

 

少し遅めの朝食を終え、一休みした俺は自分の部屋で外出用の服に着替えていた。

最近は冷えてきたから、これまでのものから少し暖かい服装へとチェンジ。

 

カーキ色の服に紺の薄いジャケットを羽織る。

 

うん、こんなもんかな。

 

財布の中身は・・・・・・十分入ってるな。

 

 

コンコンコン

 

 

「はーい」

 

扉がノックされ、俺が返事を返す。

 

入ってきたのは美羽だ。

 

「ボクは準備出来たよ。お兄ちゃんは?」

 

「俺も準備完了だ。アリスは?」

 

「見てないよ? 部屋にいるんじゃないかな?」

 

「まだ準備してるのか? ちょっと見てくるよ。美羽は先に玄関に行っといてくれ」

 

「うん」

 

俺は美羽を先に行かせて、五階のアリスの部屋へと向かう。

 

準備するって言って結構時間経ってるんだけど・・・・・。

 

アリスのやつ、何してんだ?

 

俺はアリスの部屋の前に立ち、部屋をノックする。

 

「おーい、アリスー。準備出来たかー?」

 

と、声を掛けてみるも返事がない。

 

一応、もう一度声を掛けてるがまたしても返事がなかった。

 

いないのか?

 

「アリス? 入るぞ?」

 

訝しげに思った俺は扉を開けて中に入る。

 

すると――――

 

「お腹から・・・・・背中から・・・・お肉をよせて・・・・・・」

 

自分の脇腹と胸の辺りを掴んで何やら頑張っている下着姿のアリスがいた。

 

よほど集中してるのか、俺が入ってきたことにも気づいていない。

 

「よせて・・・・あげて・・・・・・よし!」

 

何が「よし!」なんだろう?

 

「エヘヘ・・・・」

 

自分の胸をふにふにと揉んでニヤけているアリス。

 

ここで俺は理解する。

 

あー、なるほど。

 

背中と腹の肉を胸に持っていったってことか。

 

僅かにだけど、アリスの胸が大きくなってる。

本当に僅かだけど・・・・・。

 

つーか、そもそもアリスの体は引き締まってるから、そんなに無駄な肉が無いんだよね。

だから、殆ど変化がない。

 

その僅かな変化に喜ぶアリス。

 

・・・・・あれ? 

 

なんだか涙が出てきた。

 

「努力、してるんだな・・・・」

 

「えっ!?」

 

俺の呟きにバッと振り向くアリス。

 

・・・・しまった。

声が漏れてしまった。

 

自分のミスに後悔してももう遅い。

 

アリスは身を守るように肩を抱いて、後ずさる。

 

「な、ななな、なんでここに・・・・・? み、見たの・・・・?」

 

「あ、いや、アリスが中々出てこないから様子を見に来たんだけど・・・・・うん、ゴメン。見ちゃいました」

 

「なっ・・・・・!?」

 

おおっ、耳まで真っ赤に・・・・・しかも、お湯が沸いたヤカンみたいに頭から煙が・・・・・。

 

うん、これは死んだな。

 

アリスはその身にバチッバチッと雷を纏わせ、金髪も純白へと変わる。

 

肩をワナワナと震えさせ、怒りのオーラが爆発しそうになっていた!

 

「イッセー・・・・・言い残すことはある?」

 

 

その問いに俺は合掌して――――

 

 

「俺は小さいおっぱいでも良いよ? とりあえず、美しいお体に眼福です!」

 

 

ドゴォォォォォォオン!!!

 

 

雷のグーパンチが俺の顔面を捉えた。

 

 

 

 

 

 

「イテテテテ・・・・・。ねぇ、俺の頭大丈夫? 割れてない? 血とか出てない?」

 

俺はズキズキする頭を抑えながら玄関に座り込んでいた。

 

流石はアリスパンチ。

鋭い一撃だぜ。

 

「大丈夫? でも、お兄ちゃんも悪いよ。勝手に女の子の部屋に入っちゃダメだよ?」

 

「一応、ノックはしたんだけどね・・・・・。美羽に行ってもらえば良かったかも」

 

後悔しても遅いけどね。

強烈な一撃はもうもらっちゃったし。

 

ってか、あいつにはもう少し加減を覚えてほしい。

さっきなんて壁に大穴が空いたぞ。

 

美羽が修復してくれたから良かったけどさ・・・・・・。

 

 

まぁ、俺も見てはいけないものを見てしまったからアリスのことを責められない。

 

おっぱいマッサージをやっていると言っていたが、あんなことまでしていたとは。

 

スレンダーな体も良いと思うんだけどなぁ。

 

「お待たせ」

 

階段を降りてきたのはアリス。

 

どうやら、ようやく準備が整ったらしい。

 

格好は白のセーターにグリーンのスカートか。

 

これは母さん達と町巡りに行った時に買ってもらった服らしいが、良く着こなせている。

 

「ど、どう?」

 

アリスが頬を染めながら恥ずかしそうに訊いてくる。

 

俺は親指を立ててそれに返す。

 

「似合ってるよ。スゲー可愛い!」

 

それほど高くない服らしいけど、アリスが着るとブランド物に見えてくる。

 

そういや、リアスや朱乃達も何でも着こなすよな。

 

やっぱり美人が着ると印象変わるのかな?

 

とにかく、三人とも外出の準備は整った。

 

「それじゃあ、行くか」

 

 

今日はアリスの町歩きも兼ねて三人でデートだ。

 

ちなみに他の皆は各々外出している。

 

リアスと朱乃は二人でショッピング、教会トリオは町の教会へ、レイナと小猫ちゃんはスイーツの食べ歩きに行っている。

 

ロスヴァイセさん?

 

あの人は一人で百均に行きましたよ。

 

なんでも近くに店が新しくできたとかで、そりゃあもう張り切ってたね。

 

百均ヴァルキリー・・・・・・美人なだけに勿体無い。

 

 

まぁ、とにかくそういうわけだ。

 

今日はアリスにこの世界を好きになってもらうためにも楽しませるぜ!

 

もちろん、美羽も楽しませるからな!

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、これとか似合うんじゃないかな? あと、これなんかも良いかも」

 

美羽がポールハンガーに掛かっている服をいくつか手に取り、アリスの体に当てていく。

 

「うーん、どうなのかな? 私、こっちに来てから日が浅いから良く分からないのよね。向こうの服とは雰囲気も違うし」

 

アリスは少し困ったような表情でそう返していた。

 

 

家を出てから数時間後。

俺達は商店街やゲーセンといった場所を回った後、近くのデパートにある衣料品専門店を訪れていた。

 

ここに来たのはアリスがまだ数着しか服を持っていないからだ。

 

アリスも女の子のなんだしオシャレしたいよね。

そのためには服も色々必要だと思うんだ。

 

少しばかり苦戦しているようだが・・・・。

 

 

美羽は微笑みながらアリスに言う。

 

「まぁ、ボクも初めはそうだったしね。迷うのも無理はないよ。お兄ちゃんはどう思う?」

 

おっと、俺に意見を求めますか。

 

俺は美羽に服を当てられたアリスをマジマジと見ながら答えた。

 

「どっちも似合うと思うけどなぁ。とりあえず、試着してみたらどうだ? 実際に着てみた方が良いだろ」

 

「それもそうだね。アリスさん、向こうの試着室に行こう」

 

美羽はアリスを連れて店の奥にある試着室に向かおうとするが、俺はそれを呼び止めた。

 

「美羽。おまえも好きな服買っていいんだぞ?」

 

「え? いいの?」

 

「まぁ、せっかく来たんだ。欲しいものがあれば言ってくれ」

 

実際、お金はそれなりに持ってきている。

 

二人の服を数着買っても全く問題ないくらいには。

 

 

俺の悪魔としての口座には悪魔の仕事で得たお金の他におっぱいドラゴンで稼いだお金が振り込まれている。

 

特におっぱいドラゴンの方はかなり儲かっているらしく、初めて通帳を見たときには目が飛び出るほど驚いたもんだ。

少なくとも現段階で普通の戸建て住宅を買っても余裕があるほどの貯金はある。

 

なので、ここで二人の買い物に少しくらい使ってもなんら問題はない。

 

「でも、無駄遣いにならない? アリスさんの買い物なのに・・・・・」

 

「構わないよ。美羽って普段あまり物を買わないだろ? たまにはいいじゃないか」

 

美羽が買うものって購読してる漫画くらいだしなぁ。

 

他に何かを買ってるのってあんまり見ないんだよね。

 

俺に何かをねだることもないし。

 

「・・・・じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」

 

「おう、存分に甘えてくれ。それに今日はデートなんだから、遠慮なんてしなくても良いよ」

 

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

 

嬉しそうにそう言うと美羽は気に入った服を持ってアリスと共に試着室へ。

 

 

ここから美羽とアリスのプチファッションショーが始まった。

 

可愛らしいものから大人っぽいもの、少し大胆なものまで様々。

たまに店員さんのアドバイスももらったりして、結構な数を試着していく。

 

「これなんてどう?」

 

「お、それも良いな」

 

「ちょっとしたアクセサリーを着けてもいいかもしれませんね。少々お待ちください」

 

なんて会話をしながら選んでいくこと一時間と少しが経過。

 

最終的には二人が気に入ったものを数着と店員さんオススメのアクセサリーもいくつか購入した。

 

 

 

 

 

 

服を買った後、次に向かったのは――――下着専門店だった。

 

「あ、あのさ・・・・・。俺がここまでついてくる意味は・・・・・? 店の外で待っていればいいんじゃ・・・・・。お会計の時に呼んでくれればいいからさ・・・・・」

 

うん、俺の言っていることはおかしくない。

 

なぜに男の俺が店内、しかも試着室の前にまで来なければいけないのか。

 

 

さ、流石に辛い。

 

 

いや、店内には恋人同士と思われるカップルの姿もいくつかあるんだけどさ。

 

美羽とアリスが美女美少女で目立つから一緒にいる俺にも自然と視線が集まるんだよね・・・・・。

 

俺の問いに美羽が答える。

 

「だって、お兄ちゃんの好みに合うものを選びたいし・・・・・ね?」

 

アリスの方を見ると僅かに頬を染めながら、小さく頷いていた。

 

「・・・・せっかく買ってもらうんだし・・・・・。それに、その時のために・・・・・私もイッセーも選んでほしい・・・・」

 

ま、マジですか・・・・・。

 

 

またアリスが大胆になってきているような気がするんだが・・・・・・気のせいだろうか?

 

家に住み始めてからというものの、添い寝してきたり、一緒に寝たいとか言い出したりして、日に日に大胆になってきているんだよね。

 

もしやと思うが、周囲の女性陣の影響か?

 

家に住む皆は大胆な娘ばかりだし・・・・・。

 

 

ま、まぁ、何かトラブルがあった時のために俺がいた方が良いだろう。

 

それに、ここまで言われては俺の中に拒否するという選択肢は既にない。

 

「わ、わかった。じゃあ、俺はここで二人の試着を待つとするよ」

 

俺が頷くと二人は選んだ下着を数着持って一緒に試着室へ。

 

俺は試着室の前にある椅子に腰を掛けて息を吐く。

 

いやはや、まさか下着選びまで付き合うことになるとは・・・・・想定外だぜ。

 

 

つーか、その時のためにって・・・・・・つまり、あれだよな?

 

あの時だよな?

 

 

美羽の時は――――

 

あ、そういや、下着つけてなかったわ。

 

浴衣の下は裸だったよね。

 

あれはかなり刺激的な光景だった。

 

 

いかん、思い出すだけで鼻血が・・・・・・。

 

 

これ以上、思い出すのは止めよう。

 

ここで鼻血を噴き出すわけにはいかない。

 

 

 

それから数分後。

 

 

 

「ねぇ、ねぇ、お兄ちゃん」

 

声をかけられたので、顔を上げると扉の隙間から顔だけ出した状態の美羽の姿があった。

 

「どうした?」

 

何事かと思い尋ねると手招きされた。

 

はて?

 

何か問題でもあったのだろうか?

 

訝しげに思いながらも歩み寄る。

 

 

すると――――

 

 

ガシッ  グッ

 

 

「えっ? おわっ!?」

 

腕を掴まれたと思うと急に引っ張られた!

 

突然のことに抵抗できなかった俺はそのまま試着室の中へ!

 

俺の目の前にいるのは下着姿の美羽とアリス!

 

 

いきなりのことに混乱する俺だが、すぐに思考を取り戻す!

 

 

おいおいおいおい!

 

試着室に男女がいるのは流石にマズいだろう!

 

つーか、マジで何事!?

 

「こんなことバレたら色々ヤバイって!」

 

俺は二人にしか聞こえない声で言う。

 

店の中には店員さんも他のお客さんもいる。

 

そんな中でのこれだ!

 

バレたら即終了だぞ、社会的に!

 

 

すると、美羽とアリスは少し恥ずかしそうに言った。

 

「さっき、言ったでしょ? お兄ちゃんに選んでもらいたいって」

 

「だから・・・・・その・・・・・あんたにはしっかり見て欲しいのよ」

 

 

グハッ!

 

 

美羽はともかく、今日のアリスはどうしたんだ!?

マジで大胆過ぎる!

何があったんだ!?

 

いかん、そんなことを言われたら・・・・・・俺は・・・・・・!

 

 

お、落ち着け、俺!

 

まずは深呼吸だ。

 

心を落ち着かせるんだ。

 

 

一度、二人に背を向けてスーハースーハーと深く息を吸って吐いてした後、もう一度二人と向き合う。

 

美羽はピンク色の可愛らしいデザインの下着。

 

対してアリスは淡いグリーンで花の刺繍がされた大人っぽいデザインの下着。

 

「どう・・・・・なのよ? 私だって恥ずかしいんだから・・・・早く答えて」

 

「二人とも似合ってる! 可愛いです!」

 

即答する俺!

 

大胆なアリスに少し戸惑うが、嘘は言ってない!

 

二人とも本当に良く似合ってる!

 

 

俺の意見にほっとしたように胸を撫で下ろすアリス。

 

そのアリスに美羽はウインクを送った。

 

「ね? だから大丈夫って言ったでしょ?」

 

「うぅ~、で、でも、やっぱり恥ずかしい・・・・・。美羽ちゃんは恥ずかしくないの?」

 

「うーん、お兄ちゃんなら良いかなって・・・・・。アリスさんもお兄ちゃんだから、下着姿を見せたんでしょ?」

 

「それは・・・・・・そうだけど・・・・・・」

 

何やら嬉しそうにしている美羽と涙目のアリスがいるんだが・・・・・・。

 

うん、とりあえず俺はここから出よう。

 

見つかったらマジで色々終わる。

 

扉を開けてそっと出ようとした時―――――俺は服を掴まれた。

 

「ちょっと待って。まだ見せてない下着もあるんだよ?」

 

「え?」

 

美羽の言葉に恐る恐る後ろを振り返る。

 

すると、美羽とアリスの手には他の下着が握られていた。

 

「他にも見て欲しいから、お兄ちゃんはここでもう少し待っててね?」

 

「こ、ここここまで来たんだから・・・・・・最後まで付き合ってもらうからねっ!」

 

 

 

この後、二人に生着替えを何度も見せられた俺は結局鼻血を噴き出した。

 

 

 

 

 

 

「あー、血が足りねぇ・・・・・」

 

一通りの買い物を終えた俺達は帰路についていた。

 

下着売場以降は平和に事が進んだが、あの一件でかなり血を流してしまった。

 

完全に貧血でございます。

 

「今日は楽しかったね」

 

「そうね。・・・・・は、恥ずかしいこともあったけど・・・・・凄く楽しかったわ」

 

買い物もしたし、カフェも行ったし、ペットショップで子犬を見たりもした。

 

 

ボーリングにも行ったけど、アリスが本気だしてピンを破壊しちゃったんだよね・・・・・。

 

あの時はマジで焦った。

 

 

ま、何にしても二人が楽しかったのならそれで良しだ。

 

刺激的だったけど、俺も楽しかったしな。

 

アリスが言う。

 

「イッセー、今日はありがとね」

 

「おう。今度は他の町に繰り出してみるか。アリスが楽しめそうな場所はまだまだあるからな」

 

「うん」

 

なんて会話をしてると美羽がアリスの後ろに回った。

 

何してんだ?

 

俺が少し訝しげに思っていると―――――

 

「えいっ」

 

美羽はアリスの背中を押して、俺の方へと突き飛ばした!

 

ちょうど、アリスが俺に抱きつくような格好になってしまう!

 

「美羽ちゃん!? 何を!?」

 

アリスが戸惑いの声をあげるが、美羽はニッコリと笑みを浮かべていた。

 

「アリスさんにはお兄ちゃんの右腕をあげる。ボクは――――」

 

そこまで言うと美羽は空いている左腕に抱きついてきた。

 

「左腕を貰うよ♪」

 

美羽の意図を理解した俺は苦笑する。

 

「アハハハハ・・・・・そういうことね」

 

「そういうこと♪ 今日はデートなんだし、良いでしょ?」

 

「まぁ、俺は良いよ。アリスは?」

 

「はぁ・・・・・。ま、いっか。イッセー、王女のエスコートはしっかりしなさいよ?」

 

「元がつくけどな。了解だ。それじゃあ帰りましょうか、王女様」

 

「ええ、よろしくね勇者様」

 

俺達三人は腕を組んで微笑む。

 

 

いやー、今日は平和な一日だったなぁ。

 

こういう日もたまには良いよね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら? イッセー?」

 

 

ん・・・・・?

 

 

声をかけられ、振り返るとリアス、朱乃の他、アーシア達教会トリオに食べ歩きに出ていた小猫ちゃん達。

 

別々に行動していたはずの皆がなぜか集まっていた。

 

「あれ? 皆、どうして集まってるの?」

 

俺が尋ねるとアーシアが答える。

 

「帰り道にそこの角で皆さんと出会いまして、今からお家に帰るところなんです。イッセーさんは――――はうっ! 美羽さんとアリスさんがイッセーさんと腕を組んでますぅ!」

 

「まさか三人でデート!?」

 

「「「「えええええええええっ!?」」」」

 

うおっ!?

 

皆の声がハモった!?

 

「ズルいわ、二人とも! 私達もイッセーとデートしたいわ!」

 

「そうですわ! イッセー君も出掛けるなら声をかけてくだされば良かったのに!」

 

「イッセーさん! 今度は私とデートしてください!」

 

「待て、アーシア! 今からという手もあるぞ!」

 

「それって夜のデート!? なんて大胆なの、ゼノヴィア!」

 

「・・・・・イッセー先輩、明日も休みなので美味しいものを食べに行きましょう」

 

「また行くの!? でも、私も行きたい!」

 

詰め寄ってくる皆!

 

ちょっと待とう!

 

落ち着こうか、皆!

 

流石に騒ぎすぎだって!

 

「・・・・・なんだか、いつもみたいになっちゃったね」

 

「・・・・・イッセー、どうするのよ?」

 

「どうすると言われても・・・・・・」

 

どうすればいいの!?

 

頼む!

 

誰か助けてください!

 

 

「あ、皆さん。こんなところで何をしているのですか?」

 

再び声がしたので振り返ると大量の紙袋を両腕に下げたロスヴァイセさんがいた。

 

「今から家に帰るところなんですが・・・・・ちょっと色々ありまして・・・・・・。ってか、その袋は?」

 

「これですか? これは百均で買ったんです! 見てください! これもこれもこれもぜーんぶ百円なんですよ! 凄くないですか! 安いって良いですよね! やっぱり百均は最高です!」

 

 

この人が一番、平和な一日を過ごしたようだった。

 

 

 

 

 

 

 




というわけでイッセーの平和(?)な一日を書いてみました。

次回は新しい章に入ります!


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第十章 学園祭のライオンハート
1話 ヒーローショーと凄まじい母!


新章始まります!

原作とはそこそこに流れが変わると思います!


「ずむずむいやーん!」

 

「「「「ずむずむいやーん!」」」」

 

ステージに立つ俺の掛け声に客席の子供達も最高の笑顔で反応した。

 

 

学園祭を目前にして、俺は冥界の旧首都ルシファードにある大型コンサート会場のステージでヒーローショーを繰り広げていた。

 

もちろん、『乳龍帝おっぱいドラゴン』のヒーローショーだ。

 

今の掛け声は『おっぱいドラゴンの歌』なるもの歌詞の一部で、なぜか流行っている。

 

 

ちなみにこの歌だが・・・・・・

 

 

作詞:アザ☆ゼル

 

作曲:サーゼクス・ルシファー

 

ダンス振り付け:セラフォルー・レヴィアたん

 

 

となっている。

 

始めて知った時の感想は「あなた達、なにやってんの!?」だった。

 

こっちの世界の魔王様は自由で良いですね!

 

やりたい放題だぜ!

 

俺の中にある魔王像は崩壊してます!

 

 

今回のヒーローショーだが、普通は代役の人が専用のコスチュームを着てショーを執り行っている。

 

それなのに、俺自らが出ているのはサーゼクスさんからのオファーがあったからだ。

 

禍の団のテロ行為で物騒な世の中だ。

俺の姿を見せることで、子供達が元気になってくれれば、とのことだった。

 

サーゼクスさんも「都合が合わなければ断ってくれてかまわない」と言ってくれたけど、特に予定もなかったし、子供達が元気になれるならと思って即OKをだした。

 

ついでに言うなら神器の調整も終わって、俺の禁手も使えるようになってたしね。

 

 

「フハハハハ!!! 来たなおっぱいドラゴン!! 我を倒せるか!」

 

「舐めるなよ! いくぜ! 禁手第二階層、天武ッ!!」

 

ショーも大詰めになり、ラストは敵の親玉との決戦。

 

ここで格闘特化形態、天武になると会場の盛り上がりが一気に上がる。

 

 

「がんばれ! おっぱいドラゴン!!!」

 

 

なんて声援も飛んできて俺も結構嬉しかったりする。

 

禍々しいデザインの甲冑に身を包んだ役者さんと大立回りを演じて、そしてラストは定番。

 

「くらえ! ドラゴンキック!!!」

 

必殺技の飛び蹴りを親玉にくらわしてステージの外に吹き飛ばす。

 

もちろん演技だからね?

本気でやれば会場吹き飛ぶから。

 

で、最後は背後に爆発の演出がされ、俺は中央で決めポーズ!!

 

中々に恥ずかしい!

 

けど、子供達が喜ぶ姿を見てるとそれも気にならなくなってくる。

 

 

それにしても爆発の演出は完全に俺が知ってるそれなんだよね・・・・・・。

舞台裏の装置とかも本格的だし。

 

人間界の特撮技術を研究したんだろうなぁ。

 

 

ショーが終わると、今回出演した全員が舞台に上がる。

 

スイッチ姫のリアスや悪役のダークネスナイト・ファングの木場も俺の横に並ぶ。

 

 

スイッチ姫・・・・・・元ネタはアリスなんだが・・・・・・。

 

そのキャラクターが作られた経緯を知ったとたん、リアスに深々と謝罪してたっけな。

 

 

スイッチ姫用ドレスを着たリアスが手を振ると子供達と一緒にリアスファンの男性陣が「うおおおおおっ!」と歓声をあげる。

 

木場の方にはお母さん方をはじめ、多くの女性ファンが「キャアアアアアッ!! 木場きゅううううんっ!!」と叫んでいた。

 

ちくしょうめ!

 

羨ましいぜ、木場のやろう!

 

今度から修行のレベルを上げてやろうか!?

 

 

ま、俺の方にも声援は来るわけで、

 

「「「おっぱいドラゴーーーーン!!!」」」

 

うん、チビッ子の声援はやっぱり嬉しいぜ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー」

 

ヒーローショーを終えた俺は舞台裏で一息ついていた。

 

これが終わったら次は人間界で学園祭の準備だもんなぁ。

男手が足りないから、結構大変なんだよね。

 

「お疲れさまです。お飲み物をお持ちしました」

 

「ありがとうございます。喉乾いてたんで助かります」

 

スタッフの人がお茶を持ってきてくれたので、お礼を言って受けとる。

 

ペットボトルのキャップを開けて、グイッと飲み干す。

 

 

ぷはーーー!

 

 

冷えてて美味い!

 

 

『では、おっぱいドラゴンのクイズコーナーです』

 

「「「「うおおおおおおっ!! ヘルキャットちゃぁぁぁぁぁん!!!」」」」

 

舞台ではクイズコーナーの司会を担当する小猫ちゃんに、大きなお友達の声援が向けられているようだ。

 

小猫ちゃんはロリ好きの人達に人気なんだよね。

 

まぁ、気持ちは分かる!

 

猫耳の小猫ちゃんだぜ?

 

萌える!

ってか、萌えないやつは男じゃない!

 

しかも、小猫ちゃんが微笑むとその可愛さは半端じゃない!

保護欲が掻き立てられるんだよ!

 

 

ま、何にしても『乳龍帝おっぱいドラゴン』は大盛況、冥界を盛り上げたいと言っていたサーゼクスさんとアザゼル先生の仕掛けは見事に大当たりってわけだ。

 

冥界メディアでは旧魔王派、ロキ襲来、英雄派との京都での事件もニュースで報じていて、参加していたメンバーのことを大々的に報道したようだ。

 

この前見た冥界の新聞やテレビでも『おっぱいドラゴン! またもお手柄!』みたいな感じだった。

 

冥界のチビッ子の間では特撮の中での俺と実際の俺が混同しているんだろうなぁ。

 

特撮の中での設定とかもあって、現実と違う部分もあるんだけどね。

 

俺がおっぱいをつついてパワーアップするとか。

 

実際におっぱいをつついてパワーアップしてみたい気持ちはあるけどね!

 

 

それにしても、人気があるのは嬉しいが・・・・・・複雑だ!

 

戦が珍しくなった悪魔業界で、なんで俺達がこうも次々と事件に遭遇するんだよ!

 

それだけは納得いきません!

 

誰か運命の操作でもしてるんじゃないのか!?

 

 

はぁ・・・・・。

 

 

文句を言っても仕方がないか・・・・・。

 

俺は子供達のヒーローとして頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

トイレに行き、控え室に戻ろうとしたときだった。

 

「やだぁぁぁっ!」

 

通路の奥から何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 

 

なんだ?

 

 

気になった俺は声がした方へと歩を進める。

 

見ると子供が大声で泣き叫んでいて、その子のお母さんと思われる人とスタッフの人が話していた。

 

「すいません。握手会とサイン会の整理券の配布は既に終わっていまして・・・・・」

 

スタッフの人が謝りながらそう告げる。

 

あー、なるほどね。

 

どうやら、あの親子は握手サイン会の整理券配布に間に合わなかったようだ。

 

ショーが始まる前の配布だったんけど・・・・・。

 

「そうなんですか・・・・・。もう終わっちゃったんだって」

 

お母さんがそう告げると、子供はいっそう目に涙を溜めて泣き叫んだ。

 

「やだぁぁぁっ!! おっぱいドラゴンに会いたいよ!」

 

ふと子供の手元を見ると鎧姿の俺を模した人形が握られていた。

 

 

・・・・・・あぁ、ダメだ。

 

 

俺は物陰で鎧を纏い、親子の前へと出ていく。

マスクだけ収納した状態だ。

 

「どうかしたんですか?」  

 

俺の声に親子とスタッフが振り返った。

 

「おっぱいドラゴンだ!」

 

子供は表情を一転させて笑みを浮かべた。

 

スタッフが俺に事情を説明してくれる。

 

「あ、兵藤さん。こちらのお母さんとお子さんが整理券の配布に間に合わなかったようでして・・・・・」

 

まぁ、そこで聞いてたから事情は理解してたんだけどね。

 

一応の確認を取った後、俺は子供の前に片膝をついて訊いた。

 

「君の名前は?」

 

「・・・・・リレンクス」

 

「リレンクスか。今日は俺に会いに来てくれてありがとな。すいません、何か書くものありますか?」

 

尋ねるとスタッフがマジックペンを渡してくれた。

 

「この帽子にサインしても良いかな?」

 

リレンクスの被っている俺のデザインが入った帽子。

 

それを指差すとリレンクスは何度も頷いた。

 

俺は帽子を受け取り、サインを書いてリレンクスの頭に被せた。

 

輝くような笑顔でリレンクスは帽子を何度も脱いでは被っていた。

 

喜んでくれたみたいだ。

 

俺はリレンクスの頭に手を置いて言う。

 

「リレンクス、男の子が泣いちゃ駄目だぞ。転んでも何度も立ち上がって女の子を守れるぐらい強くならないとさ」

 

「・・・・・僕にもできる?」

 

「もちろん。俺だって最初は弱かったんだぜ? それでも、守りたいものがあったから努力して強くなったんだ。リレンクスも努力すれば強くなれる。そして、本当に守りたいものが出来た時は誰にも負けないくらい強くなれるさ」

 

俺はリレンクスの頭をポンポンとした後、立ち上がり、スタッフの人と共にその場を後にした。

 

「兵藤さん。なるべくこういうことは控えてください。すべての方に応対するのは無理なのですから・・・・・特例を作ってしまうのは・・・・・」

 

スタッフが困惑した表情をしながら苦言を口にした。

 

「すいません。気をつけます」

 

俺は本当に申し訳ない気持ちでスタッフに謝った。

 

スタッフもそれを分かってくれたのか、それ以降はなにも言わずに持ち場に帰っていった。

 

 

全ての人に夢を与えることは叶わない。

 

スタッフもそれを知ってて線引きしている。

 

そこに俺は特例を作ってしまった。

 

 

俺がしたことは全スタッフの思いを裏切る行為だ。

 

 

それでも、泣いている人を見るとね・・・・・・。

 

 

「格好よかったわよ、流石はイッセーね」

 

リアスの声。

 

振り向くとリアスが手を振りながらこちらへ向かってきていた。

 

リアスは俺の頬を撫でながら言う。

 

「少し軽率だったけど、それでもあの子の夢をあなたは守ったわ」

 

「部長・・・・」

 

俺がそう言うとリアスは頬を可愛くプクッと膨らませる。

 

「部長?」

 

「あー、いや、今はプライベートじゃないし・・・・・」

 

一応、今はお仕事だからね。

 

あれ?

 

ここは「リアス様」って呼んだ方が良いのかな?

 

 

うーん、と俺が悩んでいると通路の奥から見知った女性が姿を現した。

 

「あら? ごきげんよう、リアス、イッセーさん。ここで何をしているのかしら?」

 

亜麻髪のリアスそっくりな女性!

 

「お、お母様! ミリキャスまで! いらっしゃっていたの?」

 

そう、リアスのお母さん――――ヴェネラナさんだった!

 

 

 

 

 

 

ヴェネラナさんとミリキャスに出会った俺とリアスは立ち話もなんだからということで、俺の控え室に戻っていた。

 

部屋に入るなりリアスが予め用意されていた紙コップにお茶を注いで、それを手渡してくれる。

 

「はい、イッセー」

 

「ありがとうございます、リアス様」

 

色々考えたけど、とりあえず、ここは「リアス様」で良いよね?

 

以前、リアスの家に行ったときはそう呼んでたし。

 

俺がそう答えるとヴェネラナさんは口に手を当てて微笑む。

 

「イッセーさん。私の前ではいつものように「リアス」で良いですのよ?」

 

「えっ?」

 

「この間、リアスがイッセーさんが名前で呼んでくれたと嬉しそうに話していましたから」

 

そうなの!?

 

隣に座ったリアスを見ると、それはもう顔が真っ赤になっていた。

 

俺が名前で呼んだ時って、東京駅のホームまでリアスが見送りに来たときだったよね?

 

ヴェネラナさんにそのことを言ったのはその後・・・・・。

 

あー、グレモリー領で暴動が起こった時だな?

 

 

報告するくらい嬉しかったんだ・・・・・・。

 

 

「イッセーさんの方から歩み寄ってくれるのは母としても嬉しく思います。やはり、リアスには年上の方が良いのかしらね?」

 

「アハハハ・・・・・」

 

確かにあの時は俺の方が年上だから甘えても良いよ的なことを言ったな。

 

王として振る舞おうとするリアスだって、年頃の女の子なんだからと、そう言ったんだけどね。

 

 

 

 

・・・・・・・・ん?

 

 

 

 

ヴェネラナさん・・・・・・なんで俺が年上なのを知ってるんだ?

 

この人からは高校二年生でリアスの後輩という風に認識されていたはずだが・・・・・・・。

 

その疑問に俺が固まるとヴェネラナさんは何かを理解したようで、

 

「あ、イッセーさんの事情は把握していますわ。サーゼクスやグレイフィア、それからイッセーさんのお母様からも話は伺っています」

 

「ええええええええてえっ!?」

 

ヴェネラナさんの言葉に驚愕する俺!

 

え、じゃあ、なに・・・・・・。

 

この人も異世界のこと知ってるのぉぉおおおお!?

 

マジですか!?

 

サーゼクスさんやグレイフィアさんはともかく、母さんからも訊いたの!?

 

「フフフ、先日、グレイフィアとイッセーさんのお母様の三人で母親談義に花を咲かせましたの。とても楽しかったですわ」

 

そんなことをしてたの!?

 

いつの間に・・・・・・。

 

ってか、母さん、貴族二人を相手に物怖じしないな!

 

いや、それは今更か・・・・・・。

 

何て言っても母さんだし。

 

「もちろん秘匿事項なのは理解しているので、そのあたりは安心してくださいね?」

 

「は、はあ、ありがとうございます・・・・・」

 

ま、まぁ、ヴェネラナさん達なら・・・・・。

 

何だかんだで付き合いも多いし、事情を知ってもらえているのは俺としても楽だ。

 

 

と、ここでヴェネラナさんはリアスに視線を移す。

 

「まぁ、イッセーさんは良いとして・・・・・・問題はリアスかしら?」

 

「っ!」

 

その一言にリアスが体を強ばらせる。

 

その緊張が隣にいる俺にまで伝わってくるぜ。

 

「リアス。話は聞いています。美羽さんに先を越されたと」

 

「ブフフゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」

 

俺は飲んでいたお茶を勢い良く噴き出してしまった!

 

この人、今何て言った!?

 

とんでもないこと言わなかったか!?

 

「ヴェネラナさん!? それをどこで!?」

 

「ええ、アザゼル総督から。主人とサーゼクスとアザゼル総督の四人でお酒を飲みながら雑談をしている時に」

 

あの人かぁぁぁあああああ!!!

 

なんつーことを言ってくれるんだ!

 

酒の席でふざけて言ったに違いない!

 

まさかと思うがあちこちで言いふらしてるんじゃないだろうな!?

 

とりあえず後で殴りに行こう!

 

これは殴っても許されるはずだ!

 

「まぁ、義理の兄妹ですし・・・・・どちらかと言えば恋人のような雰囲気だったので私は良いと思いますよ?」

 

フォロー!?

 

それはフォローなんですか、ヴェネラナさん!?

 

つーか、桐生みたいなこと言われたよ!

 

 

ヴェネラナさんは一度咳払いするとリアスに続ける。

 

「リアス。あなたがいつまでももたもたしているから出遅れたのですよ? 唯一の救いはイッセーさんがアレを望むことですが・・・・・。彼のような魅力的な殿方に他の女性が心を奪われるのは世の常。今のままではあなたは最後になることも考えられます。そこは理解していますね?」

 

おおっ、魅力的って言われた!

 

なんか嬉しい!

 

リアスは消え入りそうな声で返す。

 

「は、はい」

 

「まさかと思いますが、二人で出掛けたことは?」

 

「あ、ありません・・・・・・」

 

二人で買い物くらいなら行ったことあるけど・・・・・。

 

今の話の流れからしてそれとは違うことなんだろうなぁ。

 

「自分から誘ったことはないのですか?」

 

「よ、予定が合わなくて・・・・・」

 

うん、学園で会談が行われて以降はリアスも色々忙しかったしね。

 

ま、それは俺もだけど。

 

それを聞いたヴェネラナさんは額に手を当てて盛大にため息をつく。

 

「グレモリー家次期当主ともあろう者がなんと情けない・・・・・・。強引なところは私に似たと思ったのに、肝心なところは全然ダメじゃない・・・・・・・。イッセーさん、申し訳ないのだけれど、リアスと二人でお話がしたいの。ミリキャスを連れて席を外してもらえないかしら?」

 

こ、恐い・・・・・!

 

すごく優しい微笑みを向けてくれているが、プレッシャーが半端じゃないよ!

 

「わ、わかりました! ミリキャス、少し遊びに行こうか!」

 

「本当ですか、イッセー兄さま!」

 

「お、おう! だから、早く行こう!」

 

「はい!」

 

俺は直ぐ様に立ち上がりミリキャスと手を繋いで部屋からでる。

 

俺達を見送るヴェネラナさんは笑顔で手を振ってくれているが、リアスは涙目で「行かないで!」と首を横に振る!

 

でも、ゴメン!

 

流石に無理!

 

ヴェネラナさん、恐すぎる!

 

 

 

 

 

一時間後、部屋に戻ると涙目でグッタリしたリアスの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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2話 学園祭の準備です!!

翌日、俺は学校の一年生の教室前にいた。

小猫ちゃんとギャスパーのクラスだ。

 

ここに来た理由は、今日この学園にレイヴェルが転入してきたからだ。

 

リアス以上に生粋のお嬢様というレイヴェル。

 

一般人が通うこの学舎で上手く生活できているのか、それが気になったんだよね。

 

それで、昼休みを利用してここに来たわけだが・・・・・。

 

 

「・・・・・・おい、あの先輩だぞ」

 

「・・・・・むっ、俺達の敵。メンバーに知らせるか?」

 

「問題ない。委員会には既に知らせてある。情報も回っているはずだ」

 

「よし、このまま監視だ」

 

 

という男子生徒の会話が聞こえてくる・・・・・・。

 

ぐっ・・・・やはりここにも『イッセー撲滅委員会』が・・・・・っ!

 

なんか監視されてるし!

 

学園内で俺が安らげる場所は旧校舎しかないんじゃないのか!?

 

 

ちなみに女子の反応。

 

 

「あれが二年のケダモノ先輩・・・・?」

 

「学園のアイドルを皆手籠めにしたって・・・・・怖い・・・・」

 

「でも、二年の先輩が去年、不良に絡まれているところを助けられたって言ってたわ」

 

「あ、それ知ってる。確か―――」

 

「へぇ。じゃあ、良い人じゃない」

 

「いや、でも――――」

 

 

という感じだった。

 

ケ、ケダモノ・・・・・手籠め・・・・・・酷い!

 

まぁ、松田元浜と普通にエロトークはしてるけど・・・・・誰かを手籠めにした記憶はありません!

 

だけど、良い評価も少しはあるみたいだ。

 

それで満足しておこう。

 

木場のようにキャーキャー言われることなんてないだろう。

高望みはいけないぞ。

 

 

「あら、イッセーも様子見?」

 

声をかけられ、振り返ればリアスも来ていた。

 

「部長もですか?」

 

「ええ、ちょっと気になって」

 

と、リアスと共にクラスの中を見てみると小猫ちゃんとギャスパーは教室の隅で会話をしていて、レイヴェルはっと・・・・・・・。

 

あ、いた。

 

女子に囲まれてる。

 

「フェニックスさん、教科書はあるの?」

 

「フェニックスって、珍しい名字だね。かっこいいわ!」

 

「ギャー君に続いて外国の転入生が入ってくるなんてこのクラスで良かったわ!」

 

おーおー、質問攻めにあってるぜ。

 

ま、転校してきたばかりだから、仕方がないか。

しかも、外国からの美少女とあっては尚更だ。

 

 

高飛車なところがあるレイヴェルのことだから、

 

『何でも質問なさい! この私が答えて差し上げますわ!』

 

こんな感じに高圧的な物言いをするかなーって思ってたんだけどね。

 

実際はその真逆。

 

「あ、あの・・・・」とか「え、えーと」と対応に四苦八苦しているようだった。

 

視線も行ったり来たりしてどこに合わせればいいのか分からないみたいだ。

 

その視線が俺達と合う。

 

途端にレイヴェルは「失礼しますわ」と席を立って、俺達の方に近づいてきた。

 

レイヴェルは俺とリアスの手を取ると、そのまま教室を出てしまう。

 

廊下を曲がったところで手を離してくれたけど・・・・。

 

「どうしたんだ?」

 

俺が訊くとレイヴェルは気恥ずかしそうな表情で頬を染める。

 

「・・・・・て、転校が初めてですので・・・・・ど、どう皆さんと接したら良いのか分からなくて・・・・・・。それに、私は悪魔ですし・・・・・人間の方々との話題が見つからなくて・・・・」

 

あー、なるほどね。

 

レイヴェルは悪魔で、その上お嬢様だ。

人間界の平民が通う学校に転校してくれば話題も見つかりづらいか。

 

美羽の時はある程度の期間で、こちらの世界に馴れてから中学に通い始めたからな。

特に話題に困ることはなかったかな。

俺と同じクラスだったから、困ったことがあってもサポートに入れていたし。

 

それにしても、恥ずかしそうにしているレイヴェルってのは可愛いな。

いや、普段から可愛いけどね?

 

リアスが訊く。

 

「会話をしたくないわけではないのでしょう?」

 

「も、もちろんですわ! わ、私だって成長しているんです! 貴族として、平民の方から何かを学ぶことも大切だと思っているんです!」

 

うんうん、良い心がけだ。

 

ライザーとは偉い違いだ。

 

ま、ライザーも今では立ち直って自身を鍛えることに専念しているみたいだし、以前よりはかなりマシになったと言える。

 

レーティングゲームへの復帰も近いそうだ。

 

 

っと、ライザーのことはおいといて・・・・・今はレイヴェルだな。

 

一度会話が出来ればなんとかなるだろうし・・・・・。

 

美羽の時と同じなら誰かがサポートしてやれば良いと思う。

 

となると――――

 

「小猫ちゃんだな」

 

「・・・・・呼びましたか?」

 

俺の後ろに小猫ちゃんとギャスパーがいた。

 

俺達を追ってきたようだな。

 

俺は小猫ちゃんに頼んでみる。

 

「小猫ちゃん、それからギャスパーも。レイヴェルの学園生活が上手くいくようサポートしてあげてほしいんだ。二人は同じ学年で同じクラスだし。どうかな?」

 

小猫ちゃんは学園アイドルの一人だし、クラスメイトとも上手くやっていると聞く。

 

それにギャスパーも何だかんだで上手く会話できているみたいだ。

 

出会った頃と比べると本当に成長したよなぁ。

 

まぁ、この二人が仲介してくれればレイヴェルもクラスメイトと打ち解けることが出来ると思うんだ。

 

「ぼ、僕で良ければやってみますぅ!」

 

おおっ、ギャスパーが気合い入れてやがる!

 

うんうん、良く言った!

 

俺はギャスパーの頭を撫でてやる。

 

 

さて、小猫ちゃんの方は・・・・・・・

 

「・・・・・・・」

 

ん?

 

なんか不機嫌そうだな。

 

眉を寄せて口をへの字にしてる。

 

可愛いけど・・・・・・ダメだったか?

 

そう思っていると小猫ちゃんは小さく頷いた。

 

「・・・・・イッセー先輩がそう言うなら、別に良いですけど・・・・・・」

 

引き受けてくれたか!

 

流石は小猫ちゃん!

 

「てなわけで、レイヴェル。二人がサポートして―――――」

 

「・・・・ヘタレ焼き鳥姫」

 

俺の言葉を遮って、小猫ちゃんがぼそりと呟く。

 

 

・・・・・・

 

 

一瞬の静寂。

 

ほんの一瞬だけど、すごく重たい空気が漂った。

 

レイヴェルがこめかみに青筋を浮かべながら震える声で言った!

 

「い、いま、なんとおっしゃいましたか・・・・?」

 

「・・・ヘタレ」

 

間髪入れずに返す小猫ちゃん!

 

どうしたの!?

 

何があったの!?

 

見ればリアスもギャスパーも状況についてこれていない!

 

そんな中、小猫ちゃんとレイヴェルの戦いが勃発した!

 

「あ、あ、あなたね! フェニックス家の息女たる私にそのような物言い・・・・!」

 

「・・・・そんなこと言ってるから、いざという時にヘタレるんじゃないの? イッセー先輩の手を煩わせるなんて・・・・世間知らずの焼き鳥姫」

 

 

ブチンッ

 

 

何かがキレる音が聞こえた。

 

いや、正確には聞こえてないんだけど、確かに聞こえた気がした。

 

 

うおっ!?

 

レイヴェルから凄まじいオーラが!?

 

「・・・わ、私がイッセー様の手を煩わせている・・・・・? こ、この猫又娘は・・・・!」

 

「・・・焼き鳥姫」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 

 

な、なんだなんだ!?

 

二人の背後に猫と火の鳥が見える!

猫と火の鳥の目が輝き、激しく睨み合っている!

 

こ、怖い・・・・!

 

二人とも可愛いけど、その分怖く見える!

 

「あぅぅぅぅっ・・・・イッセー先輩、僕、こ、怖いですぅ!」

 

ギャスパーも女子二人の迫力に恐れを抱き、俺の背後に隠れた!

 

情けないぞ・・・とは言えない!

 

「お、俺だって怖いわ! リアス・・・じゃなくて部長! ここは年長者として何とか収めてください!」

 

「ええっ!? ここで私に振るの!? そう言うならイッセーの方が―――――」

 

「あー! それ以上はストップ! 分かった! 分かりました! ふ、二人とも! 落ち着こう! とりあえず落ち着こう!」

 

俺は二人の間に入り、何とか制止しようと試みる。

 

・・・・が、猫と鳥のバトルに恐々としていた!

 

だけど、先輩としてここは何とかしなければ!

 

「小猫ちゃんもレイヴェルもケンカしちゃダメだぞ? 俺ならいつでも頼ってくれていいからさ」

 

「「どっちの味方ですか!?」」

 

はうっ!

 

二人同時に訊かれてしまった!

 

背後の猫と鳥も俺の方を見てくる!?

 

どっちの味方と言われてもね・・・・・。

 

リアスに救いを求める視線を送るが・・・・苦笑を返されるだけだった。

 

 

この後、なんだかんだで話は纏まり、レイヴェルは二人のサポートを受けることが出来るようになった。

 

小猫ちゃんはレイヴェルの面倒を見てくれていて、レイヴェルは無事クラスメイトと打ち解けることが出来たようだ。

 

不安もあったけど、レイヴェルの学園生活は良いスタートが切れたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

 

「それでは、作業を始めましょう」

 

『おーっ!』

 

レイヴェルの入部のあいさつが終わった後、リアスの号令のもと、学園祭の準備作業に入っていた。

 

話し合った結果、この旧校舎全体を使って色々な催し物をしようってことになった。

お化け屋敷あり、占い部屋あり、喫茶店あり、オカルトの研究報告ありという風に皆が出した様々な案を採用することとなった。

まぁ、旧校舎全体を贅沢に使えるってのはオカ研ならではの特権だ。

 

これを活かせるよう全員張り切っているんだが・・・・・これが中々に大変だ。

 

旧校舎全体を学園祭仕様に改装するんだけど、魔力には頼らず手作りでやってるんだよね。

 

これはリアスの意見で、それに俺達も賛同した。

 

俺達は学生なんだし、学校の行事くらいは手作業でやらないとな。

 

それに完成した時の達成感もまた違ったものになってると思うんだ。

 

 

・・・・ちなみにだが、アザゼル先生も旧校舎の一室を使って学園祭に参加するそうでUFOを題材にしたものを展示するそうだ。

 

既に作業に入っていて、先ほどその部屋を見た時にはなんか凄いことになっていた。

 

どこで撮ったのかは知らないけど、UFOの写真があったり、自身の持論を書いたポスターを貼っていたり。

更には自作のUFOの模型も置いてあったりして、さながら博物館のようだった。

 

あの人、教師なんだけど・・・・・そっちの仕事は大丈夫なのか?

 

 

まぁ、それはおいて置こう。

 

それでだけど、女子+ギャスパーは衣装作りや部屋の模様替え作業をしている。

喫茶店とお化け屋敷用の衣装を作りつつ、教室にカーテンを設置したり小物を飾っていく。

 

 

俺と木場は外で大工作業だ。

 

トンカチとかノコギリを使って木材を加工していく。

 

体力には自信あるんだけど、馴れない筋力を使うからか結構疲れるんだよね。

 

肩にかけたタオルで流れる汗を拭う。

 

「イッセー君、そっち持って」

 

「あいよ」

 

なんて感じの会話をしながら作業を続けていく。

 

 

ロスヴァイセさんは職員会議に参加しているんだけど・・・・本来ならアザゼル先生も参加しないといけないんだよね。

 

さっき体調不良を理由に抜けてきたとか言ってたけど、絶対にロスヴァイセさんに押し付けてきたぞ、あの人。

 

 

ノコギリで木材を切っていると木場が話しかけてきた。

 

「ところでイッセー君はディハウザー・べリアルを知っているかい?」

 

「名前だけならな。レーティングゲームの王者だろ?」

 

リアスと朱乃がその人のことで話していたこともあったし、ビデオで研究している姿も何回か見たことがある。

 

俺の答えに木場は頷く。

 

「そう。正式なレーティングゲームのランク一位。べリアル家現当主であり、べリアル家始まって以来の怪物。長きに渡って王座についていることから『皇帝(エンペラー)べリアル』と称されているよ」

 

エンペラー・べリアル、か。

 

魔王でもないのに皇帝って呼ばれるのは凄いもんだな。

 

「トップテンに入れば英雄とさえ称されているけど、ランキング五位から上は不動とも言われているんだ。特に三位のビィディゼ・アバドン、二位のロイガン・ベルフェゴール、一位のディハウザー・べリアルは魔王に匹敵する実力を持つ最上級悪魔。お三方は大規模な戦争でも起きない限りは動かないと言われているよ」

 

「へぇ。それじゃあ、和平が結ばれた今じゃ出番がないんじゃないのか?」

 

「かもしれないね」

 

俺の言葉に木場は笑う。

 

魔王に匹敵する最上級悪魔、か。

 

それが三人も。

 

リアスの夢はレーティングゲームの覇者になることだけど・・・・・・容易にはいかないな。

 

ま、それは本人も分かっているだろうけど。

 

だからこそ、毎日修行に打ち込んでいるわけだし。

 

「仮にイッセー君がお三方の誰かと戦うとして、勝てるかい?」

 

「俺?」

 

聞き返すと木場は頷いた。

 

「イッセー君の実力は魔王クラスと言われているし、それはアザゼル先生もサーゼクス様も認めている。そんなイッセー君ならあるいは、と思ったんだけど」

 

「うーん、それはどうだろうな。俺は三人の能力も戦闘スタイルも知らないし・・・・・。相性しだいだな。あとはその時の状況と運だな」

 

「というと?」

 

「戦いってのはその時で状況が変化する。たとえ相手が格下でも気を抜けばやられるし、一瞬の判断で勝負がつくこともある。だからこそ、その時の状況を正確に把握して的確に対処することが勝利への道に繋がるんだ。運ってのは、その状況ってのはどうにも出来ないことがあるからな」

 

まぁ、根性で乗り切ることもあるけどね・・・・・・。

 

ゼノヴィアなんか正にそれだし、俺もそういうところあるんだよね・・・・・・。

 

「なるほど」

 

木場は納得したようで、トンカチで釘を打ち付けながら頷いた。

 

 

・・・・・・現王者ディハウザー・べリアル。

 

 

俺達がレーティング・ゲームの公式戦に本格的に参戦するとなるといずれはぶつかることもあるだろう。

 

俺達はその時、どう戦うか・・・・・。

 

ま、それも暫く先のことか。

 

「とりあえずはサイラオーグさんとの試合か」

 

木場も大きく頷いた。

 

「今回はイッセー君が参戦するから勝率は高いと思う。それでも油断は出来ない」

 

「だろうな。以前、軽く手合わせしたけど・・・・・あの時からサイラオーグさんの張り切り具合は半端じゃなかったしな」

 

あの時の実力で言えば俺の方が上手だっただろう。

 

だけど、今はどうか?

 

それは分からない。

 

恐らく、あの人は俺との再戦に向けて尋常じゃない修行を積んでくるはずだ。

本気で俺を倒すために。

 

「正直言うと、あの時、彼を見て恐れを抱いたよ。君の拳はフェニックスをも打ち倒す。軽い手合わせとは言え、それを平然と受ける彼は若手の中では飛び抜けている」

 

「まぁ、それは前から分かってたけどな」

 

俺は木場に苦笑を返す。

 

グラシャラボラスのヤンキー悪魔とのゲームも圧倒的だったしね。

 

 

ここで木場が話題を変える。

 

「イッセー君。悪いんだけど今日も修行に付き合ってくれるかい?」

 

木場の修行に付き合うことなんて特に珍しいことではない。

 

それなのになぜ、そんなことを聞いてくるのか。

 

それは――――

 

「良いけど・・・・・。おまえも無茶苦茶するな。自分を殺す気で来いなんてよ」

 

実は京都から帰ってきてから木場は全力の俺と修行をしたいと言ってきた。

 

しかも、俺の禁手が回復してからは天武の状態での修行を望んできたんだ。

 

ハッキリ言って自殺行為だ。

 

それでも木場は拳を握り、真剣な顔で言う。

 

「ジークフリートと戦った時・・・・・彼は最後に何かをしようとしていた」

 

英雄派が撤退した後、木場から聞かされた話ではフェニックスの涙で回復したジークフリートは何やら注射器のような物を取り出して、自身に使おうとしていたらしい。

 

一応、アザゼル先生にも報告はしてみたけど、いかんせん情報が少なすぎて何かは分からないと言われた。

 

木場は続ける。

 

「あれは彼の奥の手だったんだろうね。もし、使われていたら僕は恐らく負けていただろう。純粋な実力では彼の方が上手だったからね」

 

あの時は木場の奇襲によってジークフリートに大きなダメージを与えられたみたいだけど、同じ手は通用しない。

 

だからこそ木場は――――

 

「今のままでは彼に勝てない。だからこそ僕は次のステージに進まなければいけないんだ。イッセー君、僕に力を貸してほしい」

 

木場はそう言って頭を下げてくる。

 

次のステージか・・・・・・。

 

木場に見つかった新たな可能性。

 

それは二つある。

 

アザゼル先生の見解だと一つは可能でもう一つは未知の領域で分からないとのことだ。

 

木場はその両方を得ようとしている。

 

 

ま、ここまで言われたんじゃ俺の答えは決まっているけどね。

 

俺は木場の肩に手を置いて言った。

 

「もちろんだ。まぁ、アーシアもいるし、ギリギリ死なない程度に頑張ろうぜ。俺も色々試したいことがあるしな」

 

実はアスト・アーデから帰ってきてから俺にも変化があった。

 

ドライグが神器の深奥に謎の領域を見つけたらしい。

 

それは以前まではなかったものだそうだ。

 

一応、イグニスにも見てもらった。

 

すると、

 

 

『この領域に眠るのは力。これを引き出すことが出来ればあなたは次の領域に進めるかもしれない』

 

 

と言われた。

 

引き出すって言われてもね・・・・・・。

 

それ以来、修行の量を増やしているんだけど・・・・・・今のところは変化はない。

 

うーむ、どうしたものか・・・・・・。

 

 

と、俺が思案していると――――

 

「イッセー、作業は順調?」

 

リアスがこちらへ歩み寄って来ていた。

 

「もう少しかかるかなぁ・・・・・。ゴメンね、少し話をしてたものでさ」

 

手でゴメンとする俺だが、リアスは手を振って「そうじゃないのよ」と返す。

 

監督しに来たわけじゃないのか?

 

怪訝に思う俺にリアスは言う。

 

「サイラオーグの執事がね、個人的にイッセーにお願いがあるんですって」

 

「へっ?」

 

 

 



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3話 サイラオーグの過去

最近忙しくて、中々執筆が進みませんでした。

次回も少し遅くなるかなぁ・・・・・。

出来るだけ早く投稿出来るように頑張ります!

それではどーぞ!



明くる日のこと。

 

俺とリアスは二人で冥界のシトリー領に来ていた。

 

俺は豪華なリムジンの後部座席に座り、窓から豊かな自然を眺めている。

 

隣にはリアスが座っている。

 

「今回の件はお母様経由なのよ」

 

「ヴェネラナさん?」

 

聞き返すとリアスは頷く。

 

話を聞くとサイラオーグさんところの執事さんが俺に頼みがあるらしく、グレモリー家に伝えてきたそうで、ヴェネラナさんがそれを了承したという。

 

ヴェネラナさんはバアル家の出だから、その縁なんだろうな。

 

「俺に頼みってのは良く分からないけど、シトリー領に来たのは始めてだ。自然豊かで良いところだな」

 

「ええ、シトリー領は冥界、悪魔の領土のなかでも自然保護区が多いところなの。美しい景観の場所もたくさんあって、観光名所もあるのよ」

 

へぇ、グレモリーの領も自然豊かだと思ってたけど、シトリー領も大自然に恵まれた領土なんだな。

 

あの湖のあるところでキャンプとかしたら楽しいかも。

 

「それで今向かっているのは?」

 

「病院よ。シトリーは医療機関が充実していて、今から行くのは冥界でも名だたる病院の一つよ」

 

それはまた予想外の場所だ。

 

誰かが入院してるのか?

 

サイラオーグさん・・・・・・の関係者かな?

 

サイラオーグさん本人が入院ってのはあまり想像出来ない。

 

まぁ、今からいく場所が病院で俺に用があるってことは、何らかの治療の依頼なんだろうな。

 

俺が気を操れて、それで治療行為も出来ることは結構知られているらしいし。

 

そんなことを考えながら窓から外を見ていると、リムジンが拓けた場所に出ていく。

 

先にあるのは大きな建物。

 

あれが目的の病院のようだ。

 

 

その建物の送迎用の入り口にリムジンが止まり、俺達は車から降りた。

 

「お待ちしておりました」

 

俺達を迎えてくれたのは執事の格好をした一人の中年男性。

 

この人が依頼人か?

 

「案内してもらえるかしら?」

 

リアスがそう言うと執事さんは「どうぞ、こちらに」と歩き出していく。

 

案内についていき、病院内を進んでいるとリアスが口を開いた。

 

「イッセー、私の母がバアル家の出であることは知っているわよね?」

 

「もちろん。確かバアル家現当主の姉に当たるって聞いているけど」

 

「腹違いなのだけれどね。サイラオーグのお父様が本妻の息子、私の母が第二婦人の娘」

 

腹違いの姉か。

 

それだけで複雑そうだ。

 

「そして、私のおばさま――――サイラオーグのお母様は元七十二柱であり、上級悪魔の一族、ウァプラ家の出なのよ」

 

ウァプラ家・・・・・。

 

そういや、グレモリー家で授業を受けたときに習ったな。

 

確か――――

 

「獅子を司る家だっけ?」

 

「その通り。ウァプラ家は獅子を司る偉大な名家よ」

 

獅子、ライオンか。

 

サイラオーグさんらしい血筋だ。

 

 

そんな会話をしているととある一室の前にたどり着く。

 

「こちらでございます、リアス様」

 

執事さんに言われて、リアスは部屋へと入っていく。

 

俺も後に続いていくと、個室のベッドにキレイな女性が眠りについていた。

 

「・・・・・ごきげんよう、おばさま」

 

リアスは眠る女性に悲哀に満ちた眼差しを向ける。

 

おばさま・・・・・・・さっきの話からして、この人は・・・・・・・。

 

俺から花束を受け取りながら執事さんが言う。

 

「この方はミスラ・バアル様。サイラオーグ様の母君でございます」

 

やっぱり、そうなんだな。

 

サイラオーグさんのお母さんは呼吸器をつけたまま寝ていた。

 

俺も冥界の病院で入院していたことはあるけど、初めて見る機器がベッドの横に並んでいて、モニターには心電図のようなものが映し出されている。

 

執事さんは花束を持ったまま、涙を流していた。

 

「今日、ここへお呼びしたのは他でもありません。赤龍帝殿・・・・・・ミスラ様を目覚めさせるためにご助力願えないでしょうか?」

 

「何となく予想はしていたんですけど・・・・・・・。その前に質問良いですか?」

 

「ええ、私に答えられることであれば・・・・・」

 

執事さんは頷いた。

 

「それじゃあ、一つだけ。この依頼なんですけど・・・・・・なんで、依頼があなた個人からなんですか?」

 

「っ」

 

俺の問い執事さんは声を詰まらせた。

 

サイラオーグさんの母親となれば、バアル家にとっては次期当主の母親。

 

そんな大切な人を治療するのにも関わらず、一人の執事が個人的(・・・)に依頼してきたというのが引っ掛かったんだ。

 

普通ならバアル家から正式に依頼するというのが筋だろう。

 

すると、執事さんは拳を握り肩を震わせながら答えた。

 

「それは・・・・・・バアル家の者がサイラオーグ様を疎ましく思っているからでございます・・・・・・。シトリー領の医療機関に移したのもバアル領ではミスラ様のお命を狙う者が現れる可能性が高いため・・・・・」

 

「はぁ!?」

 

思わず声を出してしまった。

 

命を狙うってのはどういうことだよ!?

 

次期当主の母親だぞ!?

 

普通ならバアル領の方が安全だろ!?

 

俺が疑問に思っていると、リアスが語り始めた。

 

「サイラオーグはこれまでの経緯から疎ましく思われているのよ。特にバアル家の者から。・・・・・そうね、分かるように事情を話すわ」

 

 

それは一組の母子の激動の運命だった。

 

 

 

 

 

 

サイラオーグさんはバアル家現当主のお父さんと獅子を司るウァプラ家のお母さんの間に生まれた。

 

無事に出産されたとき、次期当主が生まれたと周囲は大変喜んだそうだ。

 

だが、それは束の間のこと。

 

サイラオーグさんは魔力が無いに等しく、バアル家の特色である『消滅』の力を持っていなかった。

 

バアル家当主は魔力に恵まれ、『消滅』の力を持つことが当然とされてきた。

 

そのため、そのことを知った周囲の者の反応は一転。

魔力と滅びを持たずして生まれてきたサイラオーグさんと、その子を産んだ母親であるミスラさんは蔑まれるようになる。

 

 

――――欠陥品を産んだバアル家の面汚し、と

 

 

実の父親でさえ、二人を見捨てたという。

 

 

当時のグレモリー家もその噂を聞き、ヴェネラナさんが二人をグレモリー領に保護しようとしたが、バアル家がそれを許さなかった。

 

その頃は滅びの力を色濃く受け継いだサーゼクスさんが活躍していたこともあり、バアル家としてはグレモリー家が気に入らなかったそうだ。

 

本家の子が特色を受け継がないで、嫁にいった者の子の方に遺伝したんだ。

バアル家の気持ちも分からなくはない。

 

 

バアル家は大王。

つまり、世襲でなくなった現魔王を除けば、家柄的にはトップに位置する家。

プライドも相当高い。

 

それ故に周囲の目も意識してしまう。

 

サイラオーグさんとミスラさんはバアル家にとって厄介者でしかなかった。

 

 

その後、ウァプラ家がミスラさんとサイラオーグさんの帰還を求めたが、それも叶わなかった。

 

サイラオーグさんだけは渡すわけにはいかない―――――家の恥を外に出すわけにはいかないと現当主である父親がそう告げたからだ。

 

 

当然、ミスラさんはサイラオーグさんと残ることを選んだ。

故郷の助力を断り、サイラオーグさんと一部の従者を連れてバアル領の辺境へと移り住むことにした。

 

貴族として生きてきたミスラさんにとって、そこからの生活は厳しいものだった。

 

特にサイラオーグさんは魔力が無いに等しかったため、同世代の下級、中級悪魔からいじめを受けることになる。

 

まだ幼い子供。

苛められれば泣いて帰ることもある。

 

 

しかし、ミスラさんはそんなサイラオーグさんに強く言い聞かせたという。

 

 

――――魔力がなくとも、あなたには立派な体があります。足りないとおもうのなら、代わりとなる何かで補いなさい! 腕力でも、知力でもいい、それを補ってみなさい! たとえ、魔力がなかろうと、滅びの力がなかろうと諦めなければいつか必ず勝てるから。

 

 

その言葉は今でもサイラオーグさんの心に残っている大切なものだそうだ。

 

 

その裏、サイラオーグさんに見られない場所でミスラさんは何度も謝り泣き続けていたという。

何度も謝り自分を責めていたそうだ。

 

 

それを知ってかなのか、それは分からない。

 

ある日、サイラオーグさんは泣くのを止めた。

 

 

 

 

 

 

「サイラオーグ様は自ら厳しい修行をこなし、ご自身を鍛えられたのです。何度倒れようとも立ち上がり、向かっていくようになりました」

 

自分の運命を呪うことはせず、ただ自分に足りないものに立ち向かっていく。

倒れても倒れても立ち上がり続ける。

 

相当な覚悟がなければ、そんなことは出来ない。

 

「そして、サイラオーグ様は夢を掲げたのです。――――実力があればどのような身の上でも夢を叶えることが出来る冥界を作りたい、と」

 

悪魔の世界は実力社会と言うが、その実、上流階級とそれ以外では世界がまるで違う。

たとえ力を持っていたとしても出自が下級の者は望みを叶えることが出来ないことの方が圧倒的に多い。

 

そんな悪魔社会を変えるためにサイラオーグさんは魔王を目指すことを決意する。

 

 

サイラオーグさんが中級悪魔とまともに勝負が出来るようになったころ、ミスラさんの体に異変が起こる。

 

「悪魔がかかる病の一つなのよ。その病気にかかると深い眠りに陥り、目を覚まさなくなる。次第に体も衰退していき死に至るの。症例が少ないから原因も治療方法も分かっていないわ。今出来ることは、こうやって人工的に生命を維持することだけ」

 

リアスが寂しげに目元を細目ながら言った。

 

治療方法を求めて冥界の名だたる病院を全て回ったそうだが、それは見つからず。

 

それでも、サイラオーグさんは突き進んだ。

 

「体を鍛え上げたサイラオーグはバアル家に帰還して、彼の父親とその後妻の間に生まれた弟を下したのよ。そうして、彼は次期当主の座を得た」

 

多分、その弟は滅びの力を持っていたんだろうな。

 

その弟を倒して今の地位を得た、か。

 

波乱に満ちてるな。

 

 

・・・・・・なるほど、それが気に入らないバアル家の誰かがミスラさんを狙うかもしれないってことなのか。

 

病気で体を動かせなくなったミスラさんは格好の的だからな。

 

性根が腐ってやがる・・・・・・。

 

 

執事さんがハンカチで涙を拭いながら言う。

 

「赤龍帝殿。あなたは万物に宿る『気』を操る力を持つと聞いています。しかも、それは仙術とはまた違った力とも」

 

「ええ、まぁ」

 

気を操るという点では同じだけど、その運用方法も操作の仕方も仙術と錬環勁気功では違いがある。

 

あと出力とかも違うかな。

 

俺が頷くと執事さんは深々と頭を下げて言った。

 

「どうか・・・・・どうかミスラ様の治療にご助力を・・・・。治療方法が分からない今、僅かな可能性でも、それにかけるしかないのです・・・・・・」

 

「イッセー。私からもお願いするわ。おばさまを治すために力を貸してくれないかしら?」

 

と、リアスも執事さんに続いて言った。

 

 

二人に言われて俺は腕を組んでうーむと考え込む。

 

治療を引き受けること自体は良いんだけど・・・・。

 

外傷とか毒とかなら治癒力を高めてやれば治る。

それは仙術でも可能だ。

 

ただ・・・・さっきの話からすると仙術は既に試してるっぽいんだよなぁ。

 

となると俺が治癒力を高めても効果は分からない、か。

 

どうしたものか・・・・。

 

「とりあえず、色々試してみます」

 

俺はミスラさんの額に手を当てて、目を閉じる。

 

俺とミスラさん、互いの体に流れる気の波長を合わせると脳波がシンクロ。

 

 

そして――――――――俺はミスラさんの精神世界へと潜った。

 

 

 

 

 

 

俺は白い世界に立っていた。

 

よく神器やイグニスの中に潜ったりもするが、あれと似たような空間だ。

 

ただ、問題は起きていてだな・・・・・この空間の周囲には黒い空間が広がっていて、それが少しずつこの空間を侵食してきているということ。

 

・・・・精神世界にまで影響が出ているのか。

 

侵食スピードはかなり遅いけど、確実に症状は進んでいるみたいだ。

 

こいつは急がないとマズいかもな。

 

「とりあえずは彼女を探しましょうか」

 

「そうだな」

 

俺は頷いて、歩き始める。

 

この空間のどかこかにミスラさんがいるはずなんだが・・・・・。

 

 

 

・・・・・あれ?

 

今、誰に返事したんだ、俺は・・・・・。

 

訝しげに思った俺は恐る恐る振り返る。

 

 

・・・・・イグニスがそこにいた。

 

 

「どうしたの?」

 

頭に疑問符を浮かべているイグニス。

 

あ、しかもドライグまでいやがる!

 

「なんでここにいるのぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

俺の絶叫がこの空間に響き渡った!

 

だってそうじゃん!

 

ここ、ミスラさんの精神世界だよ!?

 

なに、さも当然のような顔をして俺に着いて来てるの!?

 

「私達はあなたと一心同体。どこに行くのも一緒よ!」

 

ビシッとポーズを決めるイグニス!

 

そんなポーズを決められても困るんですけど!?

 

どこのヒーロー戦隊!?

 

「つーか、なんでドライグも来てるんだよ?」

 

『す、すまん・・・・無理やり連れてこられた』

 

て、天龍を無理矢理って・・・・・流石は原初の女神。

 

「あんた、絶対暇だろ?」

 

「あら、バレた?」

 

イグニスはウインクしながらペロッと舌を出す。

 

こ、この人は・・・・・・

 

 

はぁ。

 

 

俺は盛大にため息をつく。

 

もういいや。

 

これ以上ツッコんでいたら、ここに来た目的を忘れそうだ。

 

とりあえずはミスラさんを探そう。

 

結局、俺はイグニスとドライグを連れてミスラさんを探し始めた。

 

 

 

それから少し経ってから俺達は椅子に座った女性を見つけた。

 

ミスラさんだ。

 

ミスラさんの前には幾つもの映像が流れていて、その全てに一人の男の子。

 

赤ん坊の時のものもあれば、小学生くらいの時のものも映っていた。

 

これは・・・・・サイラオーグさんが幼いときの・・・・・・。

 

「あの・・・・・ミスラさん、ですよね?」

 

「・・・・・・・」

 

声をかけてみるが、返事は返ってこない。

 

聞こえていないのか?

 

もしかして、意識がないとか?

 

病の影響なのかな?

 

そんなことを考えているとイグニスが一歩前に出た。

 

「よーし、私が色々やって目覚めさせてあげましょう」

 

手をワシャワシャ動かしてイグニスがミスラさんに駆け寄った!

 

なんかスケベな笑みを浮かべてる!?

 

「待たんかいぃぃぃぃぃいいい!!!」

 

俺はダッシュで羽交い締めにして、それを阻止!

 

「あんた、なに考えてんの!?」

 

「おっぱい揉んだら覚醒するかなーと」

 

「するか! やめてくれよ! 後でサイラオーグさんに怒られるわ!」

 

マジで勘弁してくれ!

 

つーか、おっぱい揉んで意識が戻るとかないから!

 

あったとしても後で複雑な気分になるわ!

 

「えー、ダメー?」

 

「ダメに決まってるだろ!」

 

良いと思ったの!?

 

ダメだこの人!

ダメな女神、略して駄女神だよ!

 

「わかったわよぅ」とイグニスが諦めたので手を離す。

 

本当にわかったのか疑問ではあるが・・・・・。

 

俺から解放されたイグニスは背筋を伸ばしながら言う。

 

「病気が治るかどうかはともかく、精神世界での意識を目覚めさせることは出来るわよ?」

 

「え?」

 

「だって、こうして自分の子供の映像が流れているってことは、こんな状態になった今でも誰かを想うことが出来ているってことじゃない。だったら手はあるわ」

 

マジか!

 

駄女神と思ったとたんにスゲーことを言ってくれるな、この人は!

 

「それで、どうやるんだ?」

 

俺が訊くとイグニスは胸を張って言う。

 

「まぁ、私に任せなさい♪ これでも女神だから」

 

イグニスは掌を合わせ、何やら呪文を唱え始めた。

 

会わせた掌から赤い光が発せられていき、この冷えきった空間を暖めていく。

 

「あ、そうそう。今度、私の実験に付き合ってもらうからね?」

 

「実験!? それって何を――――」

 

「じゃあ、いっきまーす!」

 

「人の話を聞けーーーーー!!!!」

 

 

次の瞬間、赤い光がこの空間を覆った。

 

 

 

 

 

 

「目が覚めたか、兵藤一誠」

 

ミスラさんの精神世界から出て、目を開けるとサイラオーグさんがいた。

 

「あ、どうも・・・・・って、えーとこれはですね・・・・・」

 

今の俺はミスラさんの額に手を当てた状態だ。

 

「他人が何をやっているんだ」と思われてもしかたがない。

 

俺が現状を説明しようとするとサイラオーグさんは小さく微笑みながら首を振った。

 

「事情はリアスから聞いている。おまえが母を治療するために来たこともな」

 

よくよく考えれば、ここにはリアスも執事さんもいる。

 

二人に事情を聞いていてもおかしくないか。

 

執事さんが訊いてくる。

 

「赤龍帝殿。それでミスラ様は・・・・・」

 

「一応、やれることはやったと言うか・・・・・やってもらったと言うか・・・・・」

 

それから俺はこの場にいる三人に事情を話す。

 

精神世界で起きたことの全てを。

 

「という感じで・・・・精神世界でのミスラさんの意識は戻ったと思いますが、これで治療になったかどうかと言われると・・・・・・すいません」

 

「いや、かまわんさ。たとえ精神世界とは言え、母の意識が目覚めた。これだけでも十分前に進めたと言える。礼を言うぞ、兵藤一誠。それからリアス。グレモリー家とシトリー家にも世話になっている。両家には感謝の念がつきない」

 

「いいのよ。それくらいさせてもらうわ」

 

何気ないいとこ同士の会話。

 

しかし、サイラオーグさんの表情は一転して厳しいものになる。

 

「だが、ゲームは別だ。俺が欲しいのは全力のグレモリー眷属。全力のおまえ達と戦いたい」

 

堂々と不敵に言ってくれるぜ!

 

サイラオーグさんは自身の拳に視線を落とす。

 

「俺には肉体(これ)しかなかった。だから負ければ全てを失う。積み上げてきたものが崩れるだろう。『消滅』の魔力を受け継げなかった俺にとって、勝つことのみが唯一の道だった」

 

そして、俺とリアスに戦意に満ちた瞳が向けられる。

 

「格好は悪い。だが、これが俺の戦い方なのだ」

 

その言葉に俺も真っ直ぐにサイラオーグさんに向けて言葉を返す。

 

「分かっています。俺も全力であなたと拳を交えたい。そう思っていますから」

 

俺はサイラオーグさんに拳を差し出す。

 

「俺は自分の主を勝たせるため、あなたの想いに応えるため、持てる力の全てを出します」

 

そうさ。

 

ここに過去だのなんだのは一切関係ない。

 

あるのは今抱える想いだけだ。

 

目の前の男もそれを望んでいる。

 

だから、俺は今持てるの力を全てを出そうじゃないか。

 

 

俺の言葉にサイラオーグさんは満足そうに笑んだ。

 

「そうだ。それでいい。その言葉だけで十分だ。やはり、おまえと向かい合うと自然と高揚してしまうな。赤龍帝、兵藤一誠。今度こそ、互いの全力を出しきろうではないか!」

 

そう言ってサイラオーグさんは俺と拳を合わせる。

 

俺もサイラオーグさんも無意識のうちに体からオーラが滲み出てるぜ。

 

高揚しているのは俺も同じってことだな。

 

「リアス、兵藤一誠。夢のため、野望のため、俺はゲームに臨む」

 

「ええ、私も負けないわ」

 

サイラオーグさんの一言にリアスも大胆に答える。

 

 

その後、サイラオーグさんと執事さんに別れの挨拶をして、俺とリアスは帰路についた。

 

イグニスの力でミスラさんが回復すればいいが・・・・・・。

 

 

今はそれよりも―――――

 

「リアス」

 

「なに?」

 

「今度のゲーム、俺は初のレーティングゲームになるよな」

 

「そうね。ライザーの時はともかく、公式のゲームではそうなるわね。前回まではイッセーは出場出来なかったから・・・・・。もしかして緊張しているの?」

 

リアスの問いに俺は首を横に振った。

 

「いや、俺の主がリアスで良かったなって思ってさ」

 

「え?」

 

「こんな最高な気持ちで試合に臨めるなんて、きっとリアスが俺の主じゃなかったら体験出来なかったと思うんだ。だからこそ、次のゲーム。――――俺は君を勝たせてみせるよ」

 

俺はニッと笑ってリアスに言った。

 

 

すると――――

 

 

「う、うん・・・・・」

 

あれ?

 

なんか、顔赤くなってない?

 

どうしたよ?

 

『・・・・・相棒・・・・・おまえはバカなのか?』

 

『出たわね。無意識の女落とし』

 

 

二人の相棒から酷いことを言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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4話 記者会見やります!!

「うーむ、どうも上手くいかないな・・・・・・」

 

休憩中、おにぎりを頬張りながら俺はそう呟いた。

 

俺達グレモリー眷属は次のゲームに向けて、グレモリー領の地下にある広大な空間で修行に励んでいた。

 

普段の俺なら基本的に前衛組―――木場、ゼノヴィア、小猫ちゃんの指導に当たるんだけど、ここしばらくの間は木場の集中特訓に付き合っている。

 

理由は木場の二つの可能性を実現するため。

 

実は既に一つめの方は実現出来ていたりする。

 

全く、木場は才能豊か過ぎるぜ。

羨ましい限りだ。

 

で、俺の修行はというと、いつも通りティアとのスパーリングだ。

ただし、生身で。

 

俺も新しい可能性を実現するべく、色々試みているんだが・・・・・・全くと言っていいほど成果がない。

 

才能の無さに泣ける!

 

 

遠くの方ではゼノヴィアのトレーニングにロスヴァイセさんが付き合い、ギャスパーと小猫ちゃんがそれぞれのサポート。

その隣ではリアスと朱乃が魔力合戦を繰り広げている。

 

アーシアはイリナとレイナと一緒にアザゼル先生やロスヴァイセさんから習った魔法を練習している。

 

そんでもって、美羽とアリスが各グループにアドバイスを送っている。

 

 

ゲームが近いから皆、それぞれのトレーニングに励んでいるんだけど・・・・・忙しすぎるんだよなぁ。

 

だって、ほぼ毎日、授業→学園祭の準備→悪魔稼業→トレーニングって日程なんだぜ?

 

ここにはぐれ悪魔の依頼なんてものが入ってきた時にはもう荒れるね。

質の悪いはぐれ悪魔の時は容赦しない。

 

一撃で仕留める。

 

ただでさえ忙しいのにそんな奴に時間をかけていられるか。

 

「まぁ、現段階でも相当の力量なんだ。あまり焦らなくても良いんじゃないか? お、明太子」

 

ティアもおにぎりを頬張りながらそう言う。

 

どうやら具は明太子のようだ。

ちなみに俺のは鮭だった。

 

確かに焦るのは良くないんだよね。

 

俺の場合、地道に力をつけていくしかないわけだし・・・・・。

 

木場がお茶を飲んで一息ついたところで言った。

 

「僕ももう一つの方は全くだし、気にすることはないんじゃないかな?」

 

「まぁ、あれは特殊というか・・・・・そもそも超イレギュラーらしいしな。木場でもそう簡単にはいかないさ」

 

超イレギュラーと言っているのはアザゼル先生とドライグだけどね。

 

木場の次のステージか・・・・・。

 

さてさて、どうしたものか。

 

「実は領域(ゾーン)の修行も考えているんだけど、それはまだ早いかな?」

 

「今は止めとけ。一度に多くを望むと体を壊すぞ。まずは目の前の目標に進むべきだ」

 

「うむ。先程、イッセーにも言ったが焦る必要はないんだ。それにいくら才能があろうとも無茶をすれば先に体が悲鳴をあげる。体を壊してしまっては意味がない」

 

俺の意見にティアも頷く。

 

領域の修行、か。

 

多分、曹操が使えることを知って焦ってるんだろうな。

 

敵は俺達の実力を知ってかなりの修行を積んできている。

 

次、戦うときには前回よりも強くなっているだろう。

 

それで木場も俺達と同じ場所に来ようとしている。

 

木場も修行すれば、使えるようになるだろうけど今の修行もある。

流石にそれと同時進行は体を壊しかねない。

 

「イッセー様、どうぞ。そのゾーンと言うものは誰にでも使えるようになるのですか?」

 

見学に来ていたレイヴェルが訊いてきた。

 

コップにお茶を注いで、手渡してくれる。

 

「ありがとう。領域(ゾーン)ってのは極限の集中状態だ。能力とかは関係ないから全ての人に可能性はあると思う。だけど、そこに入れるのは極僅かな人だけだ。偶発的に入ることも難しいけど、意識的に入るのは尚更ね。それだけ高次元の領域なのさ」

 

「イッセー様はそれが使えるのですよね?」

 

「まぁね」

 

シリウスとの戦いで偶発的に、師匠との修行で意識的に入れるようになった。

 

まぁ、俺のは裏技に近いんだけど、その分リスクが高いのがネックなんだよね。

錬環勁気功を脳に直接使うわけだし。

無茶をし過ぎると脳にダメージがいくって師匠にも言われたっけな。

 

「とにかく、領域の修行は今は止めておけ。いいな?」

 

俺の忠告に木場は頷き、この話は終わりとなった。

 

お茶を飲みながらほっこりしているとリアスがこちらに歩いてきた。

 

うーむ、激戦だったからかジャージがボロボロに・・・・・。

 

下乳見えてます!

 

エロいです!

 

眼福です!

 

「そっちは終わったの?」

 

「ええ、ゼノヴィア達も終わったわ」

 

あ、ほんとだ。

 

ゼノヴィアとロスヴァイセさんがぶっ倒れてる。

 

あっちも激戦だったから、消耗しきってバタンキューですか。

 

アドバイザーの美羽とアリスは役目が終わったからか、二人で修行を始めてる。

 

 

ドゴォォォォォン!!!

 

ドォォォォォォォン!!!!!

 

 

うわー、これまた激しい・・・・・。

 

美羽の魔法砲撃とアリスの白雷が衝突して偉いことになってる。

 

この世界の現状を知って、アリスも修行しだしたんだよね。

今のところ、家に住むメンバーで本気のアリスとやりあえるのは俺か美羽くらいだ。

あとはたまに遊びに来るティアかな。

 

アリスが本気出すと木場よりも速いし、瞬間的な威力はゼノヴィアよりも上だからな。

 

 

リアスは魔力で服を修復すると俺の隣に座る。

 

「今の私があの二人に勝てるイメージが浮かばないわ」

 

「アハハハ・・・・・」

 

二人はどう見ても最上級悪魔クラスはあるもんな。

 

今のリアス達では厳しいかな?

 

ここでレイヴェルがリアスに尋ねた。

 

「リアス様。今回のゲームの開催場所はお聞きになられましたか?」

 

「ええ。大公アガレスの領土にある空中都市アグレアスね。大勢の観客を呼び込むそうだから、最初から長期戦を見越していないわね」

 

空中都市アグレアス。

 

冥界には空中に浮かぶ島があるらしいんだよね。

それがアガレス領にあるんだけど、思い浮かべるだけでファンタジー感溢れるよな。

 

リアスの口ぶりだと短期決戦になるのかな?

 

まぁ、観客がいるならそっちの方が盛り上がる気はするけど。

 

考え込む俺にリアスが苦笑する。

 

「レーティングゲームはエンターテイメントでもあるから、ファンありきなのは仕方がないわ」

 

「冥界ではリアス様のグレモリー眷属とサイラオーグ様のバアル眷属の一戦は大きな注目をあげています。どちらのチームもテロリストを退けるほど強力であることは知られていますから。それに今回はイッセー様が出場するとのことで、メディアでは連日取り上げられていますわ」

 

「マジで!?」

 

俺が出るだけでそんなに騒がれてるの!?

 

おっぱいドラゴンだからか!?

 

「『おっぱいドラゴン』として冥界の人気者ですし、何より下級悪魔でありながら、その実力は魔王クラスと称されていますもの。注目を浴びて当然ですわ」

 

レイヴェルの情報に唖然とする俺。

 

そ、そんなことになってたのか・・・・・!

全く知らなかった・・・・・・!

 

ヤバい・・・・・下手な試合は絶対に出来ねぇ!

 

「ティア! もう一度修行するから付き合ってくれ!」

 

と、修行を再開しようとすると―――――

 

「今日はここまでよ。あまりやり過ぎると明日の記者会見に影響するわ」

 

「へ?」

 

記者・・・・・会見・・・・・・?

 

俺は目をパチクリさせながらリアスを見る。

 

なにそれ?

 

間の抜けた顔をしている俺にリアスは微笑みながら言った。

 

「言ってなかったかしら? 明日はゲーム直前ということで、私達とサイラオーグのところが合同で記者会見をすることになっているのよ。テレビ中継されるから、変な顔しちゃダメよ?」

 

「ええええええええええっ!?」

 

初めて聞いた情報に俺は度肝を抜かされた。

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

俺達はグレモリー領にある高級ホテル、その上階に用意された控え室に待機していた。

 

だだっ広い部屋で、高そうな家具一式が揃い、テーブルの上にはフルーツ盛りやケーキ、お菓子やらが並んでいた。

 

このホテルの二階ホール会場にて、グレモリー、バアル、両眷属の合同記者会見が開かれることになっている。

 

内容はゲーム前の意気込みをといういたってシンプルなもの。

 

基本的にリアスとサイラオーグさんを中心にインタビューされるとのことらしいが、俺にもインタビューが来るらしいんだよね。

 

おっぱいドラゴンだし。

 

うーむ、なんと答えようか。

 

インタビューとかされるのは初めてだから少し緊張するかな。

 

『ミカエルと出会った時はまるで緊張しなかったくせによく言う。普通なら、そちらの方がよほど緊張するだろうに』

 

いやー、大物と面会するのってアスト・アーデで散々経験したから馴れたというかなんというか・・・・・。

 

『感覚がズレてるぞ』

 

そうなのかなぁ・・・・・。

 

ま、そのあたりは今更だから、別にいいや。

 

「イッセー先輩、これ美味しいです。一つあげます」

 

「ありがとう、小猫ちゃん」

 

俺は椅子に座っていて、膝の上には小猫ちゃん。

 

お菓子を『あーん』してくれたぜ!

 

お兄さん、感激だ!

 

あー、小猫ちゃんの尻肉の感触がたまらんね!

 

 

アーシアとロスヴァイセさんは鏡の前でメイクの方と「これでいいのでしょうか?」「似合うかな、似合わないかな」って化粧に必死だ。

 

二人とも素の状態でも十分キレイだから、そこまで頑張らなくても良いと思うけどなぁ。

 

その隣にはゼノヴィアが座っている。

こちらは簡単な薄化粧で済ませていて、雑誌を読んでいた。

落ち着いているな。

 

リアスと朱乃は準備万端。

 

俺達は駒王学園の制服で記者会見することになっているんだけど、二人は化粧を済ませたせいか、艶のある雰囲気を出していた。

 

流石は我らの二大お姉様だ。

本当にキレイだよな

 

「ギャスパー君もいつもの女子の制服なのかい?」

 

「は、はい。今更男子の制服を着るのもなんなので・・・・・ていうか、出たくないですぅぅぅぅっ! 引きこもりの僕には記者会見なんてハードル高過ぎですぅぅぅぅぅ!」

 

「ハハハ・・・・・」

 

叫ぶギャスパーの頭を苦笑しながら撫でる木場。

 

ま、気張れやギャスパー。

 

 

にしても、今日は小猫ちゃんが妙になついてきているな。

 

来るときも俺の制服の端を引っ張りながら歩いてたし、今も膝の上から離れようとしないし。

 

怪訝に思う俺に気づいたのか、小猫ちゃんはほんのり頬を赤く染める。

 

「・・・・・今日は焼き鳥がいないから、イッセー先輩の膝の上にいたいんです」

 

「あらあら。小猫ちゃんったら、レイヴェルちゃんにイッセー君を取られると思っているんですわね」

 

朱乃に言われて気恥ずかしそうにする小猫ちゃん。

 

「取られるって・・・・・」

 

「・・・・・イッセー先輩は優しすぎるから、困ることも多いんです」

 

ハハハハ・・・・・なるほどね。

 

小猫ちゃんとレイヴェルは同い年ってこともあって何となくライバルみたいになってるんだろうな。

 

で、先輩の俺をレイヴェルに取られると思ったと。

 

嬉しいね!

先輩冥利に尽きるってもんだ!

 

「小猫ちゃん・・・・・可愛すぎる!」

 

おっと、ついつい小猫ちゃんに抱きついてしまった。

 

いや、これは仕方がない!

 

だって可愛すぎるんだもん!

 

「にゃっ」

 

いきなりのことに驚いたようだが、顔を真っ赤にしながら尻尾をフリフリしていた。

 

そんな小猫ちゃんに安心してもらえるように俺は言った。

 

「そんな心配しなくても、小猫ちゃんも大事な後輩だよ」

 

「・・・・・・」

 

無言の小猫ちゃんだが――――

 

 

ブンブンブンッ

 

 

おおっ、尻尾の振りが激しすぎて風を切る音が!

 

なんか、メチャクチャ喜んでる?

 

 

俺と小猫ちゃんがそんなやり取りをしていると、一つの視線が。

 

リアスがジッとこちらを見ていた。

 

「どうしたの?」

 

俺が尋ねるとリアスはハッとなった様子で首を横に振った。

 

んー、どうも最近のリアスは調子がおかしいというか・・・・・・悩みごとかな?

 

どうも、俺への態度がぎこちない時があるんだよね。

まぁ、たまにしかないけどさ。

 

と、ここで控え室の扉が開かれスタッフの人が入ってきた。

 

「皆様、そろそろお時間です」

 

 

 

 

 

 

『お着きになられたようです。グレモリー眷属の皆様の登場です』

 

拍手のなか、広いフロアの会見場に入っていく俺達。

 

うわー、スゲー数の記者さんが来てる。

何人いるんだ?

この会場の半分は記者さんで埋まってるよ。

 

会見席の上には悪魔文字で『サイラオーグ・バアルVSリアス・グレモリー』って書かれた幕がある。

 

バアル眷属は既に揃っていて席についていた。

 

間を開けて、バアルの隣席に座る。

 

リアスが中央で、右隣に朱乃、左隣に俺だ。

後ろの二段目の席に木場達が座るんだけど・・・・・・

 

「あ、あわわわわ・・・・・ひ、人がいっぱい・・・・・」

 

ギャスパーが既に目を白黒させていた!

 

早い!

早すぎるぞ、ギャスパー!

 

まだ始まったばかりだからね!?

 

根性出せ、男の娘!

 

『両眷属の皆さんが揃ったところで、記者会見を始めたいと思います』

 

司会進行役の人がそう言って、記者会見はスタート。

 

ゲームの概要、日取りといった基本的なことは進行役の人が通達して、その後に王であるリアスとサイラオーグさんが意気込みを言う。

 

二人とも堂々としたもので、威厳が凄かった。

 

 

・・・・・・それにしても、サイラオーグさんから感じられるオーラが以前よりも数段上がったように感じられるな。

 

こんな短期間にどうやってそこまで・・・・・・・?

 

 

俺がそんな疑問を抱いているなか、両眷属の注目選手への質問がされていく。

 

男性人気の高いグレモリー眷属の女性陣が質問に一言返し、女性人気の高い木場も難なく返していく。

 

ギャスパーは・・・・・ガチガチだったが、なんとか返していた。

 

よくやったぞ、ギャスパー!

 

で、最後に俺へ質問が来るわけだが・・・・・

 

『冥界の人気者おっぱいドラゴンこと兵藤一誠さんにお訊きします』

 

「はい」

 

初出場だし、ゲームへの意気込かな?

 

他に来るとすれば、冥界の子供達に一言とか?

 

俺ってチビっ子からの人気が高いみたいだしな。

 

さてさて、どんな質問が来るのか―――――

 

『兵藤一誠さんは女性の胸をつつくとパワーアップするという情報があるのですが、今回は誰の胸をつつくのでしょうか?』

 

「ブフォアッ!!!!」

 

あまりにも予想外すぎる質問に噴き出してしまった!

 

な、ななななななんつー質問してきやがるんだ!?

 

「誰がそんな情報を!?」

 

『堕天使総督のアザゼル様です。特撮番組は兵藤一誠さんが女性の胸をつついて力を得たという事実を基に作られたという裏話をつい先日の取材で聞きました』

 

またあの人かよぉぉぉぉおおお!!!

 

そんなに俺を弄って楽しいか!

 

確かにおっぱいドラゴンへ行き着いたのはそれだけど!

 

俺がアリスのおっぱいつついて禁手に至ったからだけれども!

 

それを話さなくてもいいんじゃないの!?

 

『それで、今回は誰の胸をつつくのでしょうか? そのあたりを是非お聞かせ願いたいのです』

 

な、なんか、記者さん達が真剣な目で見てくるんですけど・・・・・・

 

え、なに・・・・・・

 

言わないとダメですか・・・・・・?

ダメな感じなんですか?

 

つーか、俺がおっぱいつついてパワーアップしたの一回だけだよ!?

 

それ以降はまともに過ごしてきたよ!?

 

まともにパワーアップしてきたよ!?

 

 

ここは俺では乗り切れない。

 

主のリアスに助けてもらおう!

 

俺は隣にいるリアスに小声で言う。

 

(リアス、たすけ―――)

 

『リアス!? 今、リアス様と言おうとしましたか!?』

 

「はぁ!?」

 

何を勘違いしてんだ、この人は!?

 

俺は「リアス、助けてください」って言おうとしたんだよ!

 

つーか、よくこの距離で聞こえたな!

 

マイクにも音声入ってなかっただろ!

 

「いや、あのですね!」

 

俺が何とか記者さんの誤解を解こうとするが、記者さん達は勝手に盛り上がり始めた!

 

『主の胸をつつくと! やはり特撮のようにパワーアップするんですね!? リアス姫! そのあたりはどうなのでしょうか!』

 

「し、知りません!」

 

リアスが顔を真っ赤にして手で覆ってしまった!

 

ゴメン!

 

なんかよく分からないけどマジでゴメン!

 

リアスの隣で朱乃が盛大に噴き出してる!

 

笑ってないで助けて!

 

『サイラオーグ選手! これに対してコメントを!』

 

待たんかいぃぃぃぃいい!!

 

そっちに振るなぁぁあああ!!

 

バカなの!?

 

あんた、バカなのか!?

 

サイラオーグさんは真面目な表情で答えた。

 

「うむ・・・・。赤龍帝がリアスの胸をつつけば、恐ろしく強くなりそうだな」

 

『おおおおおおっ!』

 

それを聞いて記者陣は沸き立つ!

 

ちょ、サイラオーグさん!?

 

なんで、そんなことを言っちゃうんですかぁぁぁあああ!?

 

 

そんなこんなで記者会見は盛大に盛り上がった。

 

 

 

会見終了後、俺は涙目のリアスに土下座して謝った。

 

 

リアス・・・・・本当にゴメンね。

 

 

ちなみにだが、このことを知ったアリスは涙目でリアスに謝り、俺はアリスからグーパンチをくらった。

 

 

 

 

 

 

 



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5話 ゲームに向けて!

記者会見の翌日。

 

俺は部室で盛大にため息をついていた。

 

手には冥界の朝刊が握られているんだが・・・・・

 

『おっぱいドラゴン、主の胸をつつく!?』

 

ひ、酷い見出しだ。

 

これにはリアスも顔を真っ赤にして、「もう冥界を歩けないわ」と、こちらも盛大にため息をついていた。

 

本当にゴメンね。

 

「昨日、リアスさんとアリスさんが涙目だったのはこれなんだね・・・・」

 

俺の隣から美羽が新聞を覗き込むようにして言う。

 

そういや、美羽には話してなかったな。

 

いや、そもそも誰かに話すような内容ではないが・・・・・。

 

「ま、まぁな。最も一番恥ずかしかったのはリアスだけどね。リアスは特撮の中での『スイッチ姫』であって、元ネタはアリスだし・・・・・ってか、アザゼル先生が勝手に巻き込んだと言うか・・・・・」

 

あのラスボス先生があっちこっちで余計なことをベラベラ喋るからいけないんだよ。

俺と美羽とのことも酔った勢いでヴェネラナさん達にぶちまけてるし、『おっぱいドラゴン』の裏話を話して記者さんに余計な情報与えてるし・・・・・・。

あの人が全ての元凶なんだよ。

 

ま、既に制裁は加えているけどな。

 

 

部室にいるのは俺と美羽、木場とギャスパーとレイナだ。

 

あとのメンバーはまだ来ていない。

 

同じクラスの教会トリオは学園祭に使う布地を求めて新校舎に向かっている。

 

「なぁ、ギャスパー。クラスでの二人はどうよ?」

 

と、ギャスパーに話題を振ってみる。

 

「は、はい・・・・・。小猫ちゃんとレイヴェルさんはことある度に口喧嘩ばかりですぅ」

 

二人は相変わらずか。

 

いつもは静かな小猫ちゃんなんだけど、レイヴェルに対しては容赦ないツッコミを入れるんだよね。

 

それでレイヴェルも怒って猫VS鳥が始まる訳なんだが・・・・・。

 

「で、でも、人間界に不馴れなレイヴェルさんに文句を言いつつも小猫ちゃんはきちんと面倒を見てあげてますし、レイヴェルさんも小言を言いながらも小猫ちゃんの後をついて回ってますよ・・・・・?」

 

なるほどなるほど。

 

何だかんだで上手くやっているみたいだな。

 

それは何よりだ。

 

「ま、二人とも意中の相手が分かってるからこそ、ぶつかっちまうんだろうな。同学年だから余計にな」

 

先程、部屋に入ってきた先生が開口一番にそう言った。

 

ちなみに顔には白い湿布が貼られてある。

 

それを怪訝に思ったのかレイナが先生に問う。

 

「そのケガは?」

 

先生は苦笑しながら、ガーゼを指差して答えた。

 

「あー、これか。容赦のない勇者様に鉄拳制裁くらってな。俺も悪いから文句は言えんのだが・・・・・なにも天武を使わなくてもいいだろうがよ」

 

「それは俺の分だけでなく、リアスの分も入ってるんで」

 

「ちったぁ、年寄りをいたわれ。二十歳の勇者様よ」

 

「そう言うんなら、暴露癖治してくださいよ! この未婚総督!」

 

「あぁ!? やんのか、ゴラァ!」

 

「やってやろうじゃないですか!」

 

 

バチッ バチチチチッ

 

 

俺と先生の間に火花が散り、二人のオーラが激しくぶつかり合う。

 

うん、この機会にしめてしまおうか!

今まで散々な目にあってきたし!

 

変な発明のせいで女の子にされちまった時もあったしな!

 

今までの恨みを晴らさせてもらおうか!

 

「まぁまぁ、落ち着こうよ二人とも・・・・・。二人が喧嘩したら学園が無くなっちゃうよ? そしたら、学園祭も出来ないし、先生のUFOも消えちゃう・・・・・」

 

美羽が俺達の間に入って、この場を治めようとする。

 

むぅ・・・・美羽に言われてはここは引くしかないか・・・・。

 

先生も「ちっ・・・・仕方がねぇ」と言いながらオーラを静めた。

 

だけど・・・・・

 

「総督。教師の仕事を放り投げていることはシェムハザ様に報告していますので、ご覚悟を」

 

流石はレイナちゃん!

 

この悪徳教師の素行の悪さを報告していたか!

 

先生もその一言に目元をヒクつかせている!

効果は抜群だ!

 

先生はコホンと咳払いをすると先程の続きを話す。

 

「ま、小猫もおまえの言うことを聞き続けてクラスでの面倒を見てくれるだろうし、レイヴェルも何だかんだで小猫を頼って人間界での生活に慣れていこうとするだろうさ」

 

それには同意するかな。

 

ギャスパーの話を聞く限りじゃそんな感じだし。

 

「・・・・ぼ、僕は小猫ちゃんのようにレイヴェルさんのお役にたてそうにないです。と、というか、プライベートでも戦闘でも皆さんのお役にたてそうにもなくて・・・・・」

 

ギャスパーが落ち込み気味に言った。

 

「おいおい、そう簡単に諦めるなよ・・・・・。おまえだって根性持ってんだからさ。ほら、会談の時も頑張ってたじゃないか」

 

会談で禍の団のテロがあった時だ。

相手の時間停止を止めるべく、俺とギャスパーが組んで解決したよな。

 

「あの時のおまえは根性出したと思うぜ? だから俺が保証してやるよ。おまえはデキる子だってな」

 

「うぅ・・・・イッセー先輩・・・・・。先輩は優しいですぅ!」

 

「あー、泣くな泣くな」

 

落ち込んでいる時に誉められたことが余程嬉しかったのか、号泣するギャスパー。

 

大袈裟過ぎるぞ・・・・・。

 

俺は抱きついてくるギャスパーの頭をよしよしと撫でながら言う。

 

「いいか、ギャスパー。男ってのは女の子を守れるくらいにならなきゃいけないんだ。おまえだって男なんだ。今は力がなくても、守りたい、誰かのために力を使いたいって気持ちさえあれば強くなれるさ」

 

「はいぃぃぃいっ!! ぼ、僕、頑張りますぅぅぅううっ!!」

 

うんうん、気合い入ったようだな。

 

ただ、ギャスパーの鼻水が俺の制服に・・・・・。

 

美羽達もこれには苦笑してるよ。

 

そんなやり取りをしているとリアスや他のメンバーが入室してきた。

 

あ、リアスがテーブルに置いてある朝刊を見て、ため息を・・・・・・。

 

うん、本当にゴメンね。

 

俺は心のなかで再度謝っていると、先生は全員集まった俺達を見渡すようにして言った。

 

「じゃあ、ミーティングを始めるぞ」

 

 

 

 

 

 

これからゲームに向けてのミーティングをする予定なんだが・・・・・先生の顔つきは険しいものだった。

 

「どうしたんですか?」

 

「・・・・ゲームについて話す前に各勢力について話したいことがあってな。ちょいと神器に関して厄介なことになりそうなんだ」

 

「厄介なこと?」

 

木場が訊くと先生は頷く。

 

「英雄派の連中のせいで禁手使いが増えているのはおまえ達も認識しているな?」

 

「ええ。実際に戦いましたから」

 

修学旅行に行った俺達二年生は京都で英雄派と戦った。

 

幹部もそうだけど、他の構成員にも禁手使いがいて、俺なんか一度に三人を相手取ることになったもんな。

 

俺が万全じゃなかったこともあるけど、能力が厄介だった。

 

「あいつら、英雄派に属していない神器所有者や悪魔に転生している神器所有者にその禁手に至る方法を伝え始めているという情報が入ってな」

 

「それってかなりマズいですよね?」

 

「ああ。かなりマズい。おまえらも知っていると思うが神器所有者ってのは必ずしも良い人生を送れたわけじゃない。中にはその異能ゆえに迫害、差別された者も少なくない」

 

確かに。

 

俺は事情が特殊だから、ともかく・・・・・・アーシアやギャスパーは神器のせいで辛い目にあっている。

 

いや、今はリアスの眷属として幸せに生活はしているが、その前はかなり辛い人生を送っていた。

 

先生は他にも、と付け加える。

 

「悪魔に転生した所有者も理不尽な取引で眷属になったケースだってある」

 

「・・・・・全ての悪魔が良心的なわけではないものね。上級悪魔にも心無い者は少なからずいるわ。人間界の影響で多様な考えを持つ悪魔が増えてはいるけど、本来は合理的な思考を持つのが悪魔ですもの」

 

俺はリアスを見極めた後、自分から眷属になったもんな。

リアスは何度もそれで良いのか、と確認をしてくれたけど・・・・・・全ての悪魔が優しいわけではない。

 

強引な方法で転生させられた者もいる、か。

 

「理不尽な思いで暮らしている神器所有者もいるってことだ。その者達が世界の均衡をも崩すと言われる禁手に至る。するとどうなるか・・・・・分かるな?」

 

その言葉に部室に緊張が走った。

 

先生は表情に影を落としながら言う。

 

「人間なら他者への復讐、世俗への逆襲。転生悪魔なら己を虐げてきた主への報復を考えるだろう。そうなれば世界各地で暴動が起こる。完全なパニックに陥るだろうさ」

 

俺は血が滲むほど拳を強く握った。

 

クソッ・・・・・

 

京都で英雄派を潰せておけば、こんなことにはならなかったはずだ・・・・・!

 

「お兄ちゃん・・・・・」

 

美羽が血の滲む拳に手を置いて俺を落ち着かせようとしてくれる。

 

皆も俺の心情に気づいたのか、こちらへ視線を送っている。

 

「おまえの気持ちは痛いほど分かる。だが、ここは抑えろイッセー。あの時、作戦に参加した全ての者がおまえと同じ気持ちなんだ」

 

「・・・・・すいません、俺・・・・・・」

 

俺が謝ると先生は息を吐きながら首を横に振った。

 

そうだ、英雄派の行動に怒りを覚えているのは俺だけじゃないんだ。

 

ここにいるアザゼル先生や木場達だって腹の内は煮えくり返ってるだろう。

 

俺一人が熱くなる訳にはいかない。

 

「今後、英雄派の行動にはより一層の注意を払うことになる。こちらも本気で構えなければ足元をすくわれるだろうからな。おまえ達もその辺りは覚悟しておいてほしい」

 

『はい!』

 

俺達全員が返事を返す。

 

これ以上、あいつらに好き勝手させてたまるかよ。

 

次あった時には必ず―――――

 

ここで先生は咳払いして重たくなった空気を払拭する。

 

「と、俺がここに来たのはサイラオーグ戦へのアドバイザーとしてだったな。ゲームも近いし、話を変えよう」

 

そうだな。

 

元々今日のミーティングはそれがメインなわけだし。

 

俺は部屋の雰囲気を変える意味合いも兼ねて先生に質問する。

 

「サイラオーグさんも先生みたいにアドバイザーが付いているんですか?」

 

俺達グレモリー眷属にはアザゼル先生がアドバイザーについている。

 

一勢力のトップがアドバイザーについている時点で俺達は若手にしては恵まれているだろう。

 

他の若手にはアドバイザーなんて付いていないところもあるみたいだからな。

 

「ああ、向こうにもいるぜ。皇帝様が付いたそうだ」

 

「っ! ディハウザー・べリアル」

 

先生の一声に一番反応したのはリアスだった。

 

将来、ゲームで各タイトルをゲットしたいリアスにとっては目標となる存在だからな。

 

「まぁ、おまえ達が正式参戦し上を目指すなら避けて通れない相手だ。それからもう一つ。サイラオーグはタンニーンと毎日ガチンコの修行をしてるんだと」

 

「なっ!?」

 

その追加情報に今度は俺が一番反応した。

 

タンニーンのおっさんとガチンコの修行!?

 

「サーゼクスに聞いたんだが、以前、イッセーと手合わせした時に自分の力不足を実感したんだと。そんで、次の日にはタンニーンに頼み込んで修行相手になってもらっているそうだ」

 

マジかよ・・・・・。

 

昨日、サイラオーグさんのオーラが数段上がっていたのはそれでか・・・・・。

 

「あいつは本気でおまえを倒しに来るぞ。他の眷属も相応のレベルアップはしているだろうが、サイラオーグ本人に関しては前回のグラシャラボラス戦、そして先日の手合わせの時とは別人と考えていいだろうぜ」

 

先生の言う通りだ。

 

次のゲームまでにあの人はどこまで力を伸ばしてくるか――――

 

ヤバイな・・・・・・。

 

なんか、体の底から高揚してきたぞ・・・・・・!

 

今からゲームが待ち遠しくて仕方がない!

 

俺が一人高揚しているなか、先生は話を続けていく。

 

「サイラオーグ達は禍の団相手にも戦っているって話だから危険な実戦も積んでいる。『若手を戦にかり出さない』というサーゼクス達の意向も虚しいか。おまえ達みたいに無茶な戦闘に連続で出くわす若手もいるしな」

 

先生が苦笑しながら言う。

 

いや、本当にそう思うよ。

 

今の悪魔業界って戦が珍しいって聞いてるのに、俺達は強敵と出くわしすぎでしょ。

 

俺は出来るだけ平和に生きたいね。

 

モニターに映し出された記録映像を見て、ロスヴァイセさんが言う。

 

「・・・・・・・この『兵士』、記録映像のゲームには出てませんよね?」

 

ロスヴァイセさんの視線の先に映っているのはサイバーな作りの仮面を被った者。

名前も『兵士(ポーン)』ってされている。

 

サイラオーグさんの眷属は女王1、戦車2、騎士2、僧侶2、そして兵士が1。

こちらの陣営と似た構成だ。

 

「記者会見でも記者が兵士について質問をサイラオーグ・バアルに向けていましたね」

 

と、木場が言う。

 

確かに訊かれていたな。

 

でも、会場にはいなかったはずだが・・・・・。

 

「そいつは滅多なことではサイラオーグも使わない兵士だそうだ。情報もほとんど無くてな。仮面を被っていてどこの誰だか分かりもしない。今回、初めて開示された者だ」

 

「ということは俺と同じで初出場?」

 

「そうなるな。噂では兵士の駒を六つか七つを消費したとのことだ」

 

『六つ!? 七つ!?』

 

異口同音で驚愕の声を出す俺達!

 

マジか!

 

となると相当な手練れか潜在能力を持っているってことだな!

 

先生が続ける。

 

「データが揃ってない以上、この兵士には細心の注意が必要となる。こいつはサイラオーグの隠し玉、虎の子・・・・・・いや、サイラオーグの家系的には獅子の子と言った方が良いか?」

 

獅子の子、か。

 

サイラオーグさんのお母さん、ミスラさんは獅子を司るウァプラ家の出だもんな。

 

そういえば、あの治療行為からどうなったのだろう?

 

 

その後はゲームの戦術と相手への対策を話合い、皆で一つ一つ詰めていった。

 

眷属でない美羽達は興味深そうに話を聞き、レイヴェルは一生懸命メモを取っていた。

レイヴェルは勉強熱心だな。

 

 

 

 

 

 

ミーティングも終わった後は帰るだけなので今は部室でゆっくりしている。

 

木場はゼノヴィア、イリナと剣について語ってるし、美羽と朱乃とアーシアとギャスパーは服の雑誌を見ながら何やら話してる。

 

男子のギャスパーが女子に混じって女の子の服(自分用)を選んでいる光景が違和感ゼロなのがあいつの凄いところだと思う今日この頃。

 

レイナと小猫ちゃんはまたスイーツを食べに行くらしく、店をチェックしていた。

 

俺は一人で紅茶を飲んでいる。

 

あ、リアスにミスラさんがどうなったか訊いてみるか。

 

何か情報が入ったかもしれないし。

 

「リアス、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

と声をかけてみるが、

 

「・・・・・・・」

 

返事が返ってこない・・・・・・というより、聞こえてないなあれは。

 

机の上に置いてある本の背表紙を見つめながらボーッとしてる。

 

さっきのミーティングではハキハキしてたんだけど・・・・・。

 

「リアス?」

 

「えっ? あ、なにかしら?」

 

「うん、あのさ――――」

 

もう一度声をかけたら、応じてくれたけど・・・・・・。

 

少し慌てたような感じだな。

 

何か悩みごとでもあるのだろうか?

 

 

 

 



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6話 覚醒する二人

連日の投稿です!




その日の夜。

 

夕食を済ませた俺は風呂に入る前に地下のトレーニングルームにいた。

 

壁と自身の気を一体化して垂直に立つ。

 

錬環勁気功の基本的な修行だが、今の俺にとっては軽いストレッチみたいなものだから特に辛くはない。

 

で、なんで俺が一人でこんなことをしているかと言うとだな・・・・・・やっぱり気になるんだよね。

 

俺の新たな可能性ってやつが。

 

もちろん、無茶はしない。

 

目を閉じて精神を集中させるだけだ。

神器の中に意識をやり、例の領域と向かい合う。

 

まぁ、何度もやっても変化はないんだけどね・・・・・悲しいことに。

 

でも、こうして精神統一するだけでも頭がスッキリするんだよね。

 

『あんまり煮詰まっちゃうと空回りするだけだし、たまには頭の中をリセットした方が良いわよ?』

 

そうだな。

 

毎日は出来なくても週に何度かはやろうか。

 

精神統一だけをするのは不定期だったし。

 

 

開始してから十分ほどが経った頃。

 

トレーニングルームの扉が開き、誰かが入ってきた。

 

「部屋にいないと思ったら、やっぱりここにいたのね」

 

入ってきたのはリアスだ。

 

手には着替えとタオルを持ってるから今からお風呂かな?

 

俺は精神統一を中断して、リアスの前に飛び降りる。

 

「修行?」

 

「んー、修行というより、精神統一かな。今やってる修行が上手くいってないからね。頭をスッキリさせてたんだよ」

 

「そう。でも、あんまり根を詰めすぎてはダメよ? というより、あなたは今でも十分強いのだから焦らなくても良いと思うわ」

 

「大丈夫大丈夫。焦りは禁物ってのは分かってるから」

 

俺が笑ってそう返すとリアスも微笑みを浮かべる。

 

にしても、周囲から見た俺ってやり過ぎているように見えるのかな?

 

一応、健康状態とかも考えてメニューを組んでるんだけど・・・・・。

 

リアスは入り口の近くに置かれた俺の着替えに気付いたのか、尋ねてきた。

 

「イッセーはお風呂はまだなの?」

 

「うん。これをしてから入ろうと思ってたからね。リアスも今から?」

 

「ええ」

 

「じゃあ、リアスが先に入ると良いよ。リアスが上がるまで俺は待っておくから」

 

俺はそう言って背を向けた。

 

もう少しだけさっきの続きをするか。

いや、他にも柔軟体操でもしてみようかな。

 

そんなことを考えていると手を掴まれた。

 

「イッセー、折角だし一緒に入りましょう。大きなお風呂ですもの、一人で入るのは寂しいわ」

 

お、お風呂のお誘いだと!?

 

一緒に入ると言うことはリアスのスタイル抜群の体をじっくり見ちゃったりするかもしれないんだよ!?

 

それでも良いんですか!?

 

って、そんなことを言うのは今更か・・・・・・。

 

今まで何度も入ってるしね。

 

というか、リアスからのお誘いだ!

 

断るわけがない!

 

そう言うわけで俺はリアスと一緒に風呂場へ直行した。

 

 

 

 

 

 

「あー、極楽極楽」

 

地下の大浴場に浸かる俺。

 

一日の疲れがお湯に溶けていくようだぜ。

 

 

兵藤家地下の大浴場。

 

夏休みの大改築の際に備え付けられたんだけど、二十人くらいが入っても余裕なくらいのスペースがある。

 

一応、一階にも普通サイズの風呂場があるんだけどね。

 

家に住む女子達はここで皆で洗いっこしながら入浴している。

俺もたまに一緒に入るがその光景は微笑ましいものだ。

 

ちなみにだが、父さんは一階の風呂を使用してる。

母さんが「父さんは一階のお風呂を使ってください!」と命じたからだ。

若い女の子が多く住んでいるからその配慮なんだよね。

父さんもそれには納得している。

 

で、今はこの大浴場に俺とリアスの二人で入っているわけだ。

 

「イッセーの背中を流すのって久し振りだったけど、やっぱり逞しいわ」

 

リアスがほんのり頬を染めながら言った。

 

そう!

 

さっき、俺はリアスに背中を流してもらったのだ!

 

美女に背中を流してもらえるなんて最高のシチュエーションだよね!

 

混浴最高!

 

「イッセーと二人きりでお風呂なんて、いつ以来かしら? 私がこの家に住み始めて少し経った時以来?」

 

「うーん、そうなるかなぁ。リアスが来た頃には美羽もアーシアもいたからね」

 

よ、四人で入ることは何度かあったかな・・・・・・。

 

改築前だったので、かなり狭かったが美女美少女と入れるならとそんなことは気にもしなかったけど。

 

でも、リアスと二人きりってのはあんまりなかったかな。

 

「フフフ」

 

リアスが何やら嬉しそうに笑った。

 

「どうしたの?」

 

「こうして、二人きりで入浴なんて恋人みたいって思えたのよ。美羽には悪いのだけれど・・・・・」

 

こ、恋人かぁ。

 

そういえば、美羽とそういう関係になってから、誰かと二人きりになるって時間はなかったな。

 

それは家の女子が複数で一度に俺の所に来るのが原因なんだが・・・・・。

しかも、以前よりもスキンシップがパワーアップしてるから俺もタジタジになってる。

 

俺が他の女の子と仲良くしたら美羽も怒るかな、なんてことも考えたこともあるんだよね。

 

でも、実際はその逆で、外からこちらを微笑ましく見ていると言うか・・・・・。

 

それが気になったので一度、美羽に訊いてみたんだ。

 

すると――――

 

『お兄ちゃんの夢はハーレム王なんでしょ? だったら皆と仲良くしてもボクは良いと思うよ? お兄ちゃんなら皆を幸せに出来ると思うからね。あ、でも、たまにはボクも甘えさせてね?』

 

と微笑みながら言われてしまった。

 

うーむ、何故だか分からないが美羽が一気に大人になったような気がする・・・・・。

 

いや、基本的にはいつものように甘えん坊だよ?

 

この間も俺に甘えてきたから、膝枕して頭を撫でてあげたら喜んでたしね。

 

 

俺は苦笑しながらリアスに言った。

 

「美羽はそのあたり気にしてないみたいだけど・・・・・」

 

「・・・・・美羽って私より歳下よね? あの子の方が精神的に歳上に感じてしまうのは気のせい・・・・・・?」

 

「いやー、気のせいじゃないかも・・・・・」

 

「・・・・・正妻としての自信なのかしら?」

 

「アハハハハ・・・・・・」

 

リアスの一言に俺は苦笑を返すだけだった。

 

と、そうそう。

 

今の話で思い出したけど、リアスに聞きたいことがあるんだった。

 

「リアスって最近、何か悩んでる?」

 

「え?」

 

「ほら、ヴェネラナさんがヒーローショーに来た後くらいから、たまにぎこちない時があるからさ。それで、何かあったのかな、と」

 

つい先日に行った『おっぱいドラゴン』のヒーローショー。

 

それにヴェネラナさんとミリキャスも来てたんだよね。

 

そこで、リアスと二人で話がしたいとかで俺はミリキャスと一緒に席を外すよう言われたんだけど。

 

その後からかな、リアスの様子が少しおかしかったのは。

 

たまに呼んでも返事しないときがあったし・・・・・。

 

俺が訊くとリアスは顔を真っ赤にして目を伏せた。

 

・・・・・・あれ?

 

この感じは聞いてはダメなパターン?

 

なんてことを思っているとリアスが小さな声で言った。

 

「ねぇ、イッセー。二つ、お願いがあるのだけど・・・・・」

 

「お願い?」

 

俺が聞き返すとリアスは小さく頷いた。

 

何やら緊張している様だが・・・・・重要なことなのだろうか?

 

それも二つあるみたいだし。

 

「その・・・・・私達って二人で出掛けたことってないじゃない?」

 

あー、そういや、この間もそんなことを言ってたな。

 

それを聞いたヴェネラナさんがどこか呆れてたのを思い出したよ。

 

「それで、次のゲームが終わったら・・・・・・私とデートしてくれる・・・・?」

 

なんか顔を赤くしてモジモジしてるんだけど・・・・・可愛いな!

 

普段の堂々としたお姉さまはどこに行ったんだ!?

 

メチャクチャ乙女になってるじゃないか!

 

どうしてそんな妹みたいな反応するかな!

 

あ・・・・・俺の方が歳上か。

 

いや、まぁ、俺の答えは決まってる!

 

「もちろん! リアスのお誘いだ、断るわけがない!」

 

俺は親指を立ててそう返した。

 

だって、リアスとのデートだぜ?

 

行くに決まってるでしょうが!

 

俺が即OKを出すとリアスは嬉しそうにして、

 

「ありがとう、イッセー」

 

と、俺に抱きついてきた!

 

 

むにゅぅぅぅ

 

 

リアスの豊かな胸が!

 

太股が!

 

リアスの体の全てが俺に密着してる!

 

たまらんです!

 

最高です!

 

 

ゲーム後にリアスとデート!

 

学園祭もあるし、これは楽しみが増えたな!

 

一つめのお願いがデートかぁ。

 

なんと可愛いお願いをしてくれるんだ、このお姉さまは!

 

「それじゃあ、二つ目のお願いって何かな?」

 

俺がそう尋ねるとリアスの体がビクッと震える。

 

 

・・・・・・え?

 

何今の反応・・・・・?

 

なんで、かつてないくらいに真っ赤になってるの?

 

 

リアスは一瞬目を伏せるが、すぐに顔を上げて――――

 

 

 

「私の・・・・・む、胸を押してくれる・・・・・・?」

 

 

 

・・・・・・・・

 

え、えーと・・・・・・・

 

げ、幻聴かな・・・・・?

 

今、とんでもないこと言わなかった?

 

リアスの口からあり得ない言葉が出たような・・・・・・。

 

 

いやいやいや、聞き違いだよ。

 

多分、修行のし過ぎで疲れてるんだな、俺。

 

うん、そうに違いない。

 

「ゴメン、俺って疲れてるみたいでさ。もう一度言ってくれる?」

 

もう一度、尋ねると―――――

 

「・・・・私の胸を押してほしいの・・・・・」

 

き、聞き違いじゃなかったぁぁぁぁああ!!

 

スイマセン、意味がわかりません!

 

「どういうこと!?」

 

是非とも説明お願いします!

 

お願いが予想外すぎて頭がついてきていません!

 

「分かるように説明するわ」

 

それからリアスはこの予想外のお願いに至った経緯を話してくれた。

 

 

ヒーローショーの日。

 

俺がミリキャスを連れて部屋を出た後のこと。

 

部屋で二人きりになったヴェネラナさんはリアスに言ったそうだ。

 

 

『美羽さんに先を越されたことはもう仕方がありません。彼女はそれだけ勇気を出して彼に告白したのでしょうから。話に聞くアリスさんだってそう。彼女も彼のために自身の胸を差し出し、彼を禁手に至らせました。彼を取り巻く女性の中ではこの二人が頭一つも二つも飛び抜けています』

 

 

「そこは私も認識していたの。あなたの中では彼女達は特別な存在なのだと。後から出会った私達よりも大きな存在だってことくらい」

 

リアスはそれをヴェネラナさんに言ったそうだ。

 

すると――――

 

 

『でしたら、あなたも特別な存在になってみなさい。今のあなたは特撮の中でのスイッチ姫でしかありません。それが悔しいと思うのなら――――なりなさい、特撮の中だけではない本物のスイッチ姫に』

 

と、指を突きつけられながら言われたそうだ。

 

 

 

 

・・・・・・・おかしい。

 

 

おかしすぎる!

 

途中までは分かった!

俺でも理解できた!

 

なんで急にスイッチ姫出てきた!?

 

「そう返されて、私もどうすれば良いのか分からなくて・・・・・・悩んでいたのよ」

 

それはそうだよね!

 

悩むよね!

 

だって、特撮の中での役回りだったのに、現実でもなれって言われたら困るわ!

 

ヴェネラナさん、なんでそんなことを言ったの!?

 

「それで・・・・・俺に胸を押してくれ、と?」

 

「ええ・・・・・。アリスさんの胸を押した時のように私も胸を押されたら何か変わるかもって思ったのよ。・・・・やっぱりおかしいわよね」

 

うん、色々おかしいよ。

 

リアスもなんで真面目に考えてたの!?

 

全く理解できません!

 

しかし、そんな俺とは裏腹にリアスは立ち上がって言った!

 

「でももう決めたの! 私はあなたに胸を押してもらうって! あなたの特別な存在になるためにも私は本物のスイッチ姫になる!」

 

リアスゥゥゥゥウッ!?!?

 

なんで、そんな一世一代の覚悟しましたみたいな顔してるの!?

 

なんで、スイッチ姫に執着してるの!?

 

あれか、この間の記者会見の時のやつも関係してるのか!?

記者さん達に問い詰められてたもんな!

 

 

あー、クソッ!

 

ぶるんぶるん揺れる胸につい目がいってしまう!

 

なんておっぱいなんだ!

 

眼福じゃないか!

 

リアスは俺の前に座ると胸を差し出してきた。

 

「さぁ、つついて! 私の胸を!」

 

リアスって自らこんなこと言う人だっけ!?

 

悩みすぎて、キャラが崩壊してませんか!?

 

 

・・・・・・いや、もう何も言うまい。

 

これ以上何も考えるな、兵藤一誠!

 

今は目の前のおっぱいに集中するんだ!

 

俺は人差し指を突きだしリアスの胸の先端に狙いを定める。

 

「い、いくよ・・・・・」

 

「いつでもいいわ」

 

ゴクリッと生唾を飲み込み、いざリアスの胸へ――――

 

その時だった。

 

 

ガタンッ

 

 

突然、何かの物音が聞こえた!

 

俺達は慌てて、その物音がした方に視線をやる。

 

そこには―――――

 

「イッセー!? リアスさん!? 何やってるの!?」

 

アリスが扉のところでタオルを落としていた。

 

 

 

 

 

 

「本気なの!?」

 

アリスの声が浴場に響く。

 

現場を目撃されてしまった俺達はアリスの前で正座して、それまでの事情を話していた。

 

風呂場の真ん中で・・・・・・。

 

一通りを説明したところで、アリスは信じられないと驚愕していた。

 

ま、まぁ、自ら進んでスイッチ姫になろうなんて女の子はいないよね。

 

でも、リアスは真剣な顔で言った。

 

「本気よ。それにもし私が本物のスイッチ姫になることが出来たなら、イッセーの悩みも何とか出来ると思うの」

 

「というと?」

 

リアスの言葉にアリスが怪訝な表情で聞き返す。

 

「イッセーはあなたの胸をつついて禁手に至った。もし、私もあなたのように本物のスイッチ姫になれるのなら、イッセーの修行も先に進めると思うの」

 

「・・・・・やっぱり私はスイッチ姫なんだ・・・・・」

 

何とも言えないと、ため息をつくアリス。

 

スイッチ姫の元ネタはアリスだもんな。

それは仕方がない。

 

で、リアスの言ってることなんだが・・・・・。

 

リアスの胸をつつくことで俺が新しいステージへと進めるんじゃないかってことだろ?

 

うーん、あり得るようなあり得ないような・・・・・・。

 

「で? あんたはつつくの? また女の子胸をつついて強くなるの?」

 

「う、うん。強くなれるかはともかく、つついてみようかなーって」

 

「あんたって・・・・・。はぁ・・・・・。なんでだろ、つつけば強くなるあんたを思い浮かべてしまう自分がいる・・・・・」

 

アハハハ・・・・・・。

 

なんかゴメンね。

 

でも、一度はおっぱいでパワーアップしてるし・・・・・いけるような気もするんだよね。

 

すると、今度はアリスが何やら決心した顔つきとなった。

 

「イッセー・・・・・・私のもつつきなさいよ」

 

「なんですと!?」

 

「・・・・・り、リアスさんだけにこれ以上恥ずかしい思いはさせられないわ。スイッチ姫を作ってしまったのは私が原因でもあるわけだし・・・・・・。そ、それに、二人の方があんたがパワーアップする確率も高いんじゃない?」

 

そう言うとアリスはリアスの隣に座り、俺と向かい合った!

 

そして、体に巻いてあるタオルを取り払い、リアス同様生まれたままの状態となる!

 

マジか!

今度は二人同時だと!?

 

「ほ、ほら! は、ははは早くしなさいよっ!」

 

声上ずってますけど!?

大丈夫なの!?

本当につついて大丈夫なの!?

つついた瞬間、丸焦げにされたりしないよね!?

 

前は槍で貫かれかけたし!

 

「イッセー・・・・私も準備万端よ」

 

リアスが再び胸をさしだしてきた!

 

なんてことだ・・・・・・リアスとアリス、この二人の胸を同時につつく日が来るなんて・・・・・!

 

戸惑いもあるけど、俺は感動してます!

 

感動で拳が震えています!

 

 

俺は深く息を吸い、両の人差し指を二人の胸へと向ける。

 

左手はアリスで右手はリアス。

 

二人のキレイなピンク色の乳首をロックオン。

 

狙いは外さない!

 

「いきます・・・・・・っ!」

 

そう告げて、指を二人の胸へ。

 

真っ直ぐに進んだ指は二人の乳首を捉える。

 

リアスの方はずむっと指が深く埋没していき、アリスの方は指がコリッとした乳首をしっかりと押していく。

 

 

その瞬間――――

 

 

「・・・・・・いゃん」

 

「・・・・・・あぁん」

 

 

二人の甘い吐息が漏れた。

 

 

ああ・・・・あの時の光景が思い出される。

 

俺がアリスの胸をつついて至った時のあの光景が――――

 

 

 

パアァァァァァァッ

 

 

 

突如、赤い光がこの大浴場を照らした!

 

その光は二人の胸から発せられていて―――――

 

「な、何これ!?」

 

「わ、私達の胸が・・・・・・・光ってる!?」

 

そう、二人のおっぱいが眩い光を放っていたのだ!

 

なんだ!?

 

なんなんだ、この神々しくも暖かな光は!?

 

 

 

 

 

ドクンッ

 

 

 

 

 

その光を目にした時、俺の中で何かが脈打った。

 

これは――――

 

『どうやら、これが鍵だったようね』

 

イグニスの声が聞こえた。

 

鍵ってどういうことだよ?

 

『イッセー、よく聞きなさい。――――あなたの可能性が動き出したわ!』

 

なに!?

 

それは本当か!?

 

『ええ。本当に僅かにだけど、確かにあなたの可能性は動き出した。幾度の修行を行っても全く反応がなかったのに、彼女たちの胸の輝きに反応したのよ!』

 

なんでそんなにテンション高いの!?

 

ってか、今さりげに悲しいこと言われたよ!

 

修行しても全く反応なかったのかよ!?

 

その声は二人にも聞こえていたようで、

 

「まさか本当に・・・・・・」

 

「なんであんたは胸でそうなるのよ!?」

 

戸惑うリアスと涙目で怒るアリス。

 

ゴメン!

 

どうやら、俺は本当におっぱいドラゴンだったらしい!

 

おっぱいで上限突破しちゃったぜ!

 

特撮は特撮じゃなくなったな!

 

『アリス・オーディリアとリアス・グレモリー。あなた達二人はこの瞬間、真のスイッチ姫となったのよ! 誇りなさい、そのおっぱいを! あなた達のおっぱいで愛しい人は更なる高みへと進む扉を開くことが出来たのよ!』

 

「イッセー! 私、やったわ! 特撮の中だけじゃない本物のスイッチ姫に!」

 

「イッセー! 絶対に責任とりなさいよ!? じゃなかったら酷いんだからねっ!」

 

 

 

 

 

今日、この日。

 

夢をかけたゲームを目前にして二人のスイッチ姫が誕生した。

 

一人は学園の先輩で俺の主、もう一人は異世界から来た旅の仲間。

 

主の方は特撮から本物に、旅の仲間の方は俺の二度目ということもあり、その存在を確固たるものにした。

 

 

白雷のスイッチ姫 アリス・オーディリア

 

紅髪のスイッチ姫 リアス・グレモリー

 

 

 

 

そして、ドライグは泣いた。

 

 



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7話 ゲーム目前! 空中都市へ!

最近忙しくて執筆が進まない!

と、ここで個人的な報告を。
夏に受けた資格試験に合格しました!

やったぜ!

そんなわけで、どーぞ!


ゲーム当日。

 

「おおー、スゲー」

 

俺は空中都市に続いているゴンドラの中から上空に浮かぶ島を眺めていた。

 

横ではアーシアやゼノヴィアも窓から外の風景を眺めていた。

ちなみに、このゴンドラには試合に出るグレモリー眷属が乗っている。

 

レイヴェルは先に現地にいて色々と準備を整えてくれているようで、他のオカ研メンバーはヴェネラナさん達と別のルートで応援にくるそうだ。

 

アガレス領の空に浮かぶ島、アグレアス。

 

島を浮かばせている動力は、旧魔王の時代に作られたものらしいが、アジュカさんにしか詳細は分からないらしい。

島の深奥部の調整は現ベルゼブブ眷属が行っているようだ。

 

にしても、空に浮かぶ島ってのは凄いもんだな。

アスト・アーデでも見たことがないや。

 

都市から地上に水が滝のように落ちていく。

それが複数。

幻想的な光景だ。

 

このアグレアスは空に浮かぶ島の上に造られた都市で、この辺り一体の空の流通を取り仕切る場所らしい。

あと、観光地でもあるそうだ。

 

都市への入り方は大きく三つ。

 

一つは魔法陣によるジャンプ。

これはVIPクラスか特別な行事の時にしか使えない方法らしい。

 

アグレアスは冥界にとって重要な場所であるから、なるべく魔力での移動は禁止しているようだ。

 

二つ目は飛行船などの乗り物。

これが一番メジャーとのこと。

 

で、三つめが俺達のように下の乗り場でゴンドラに乗って島に上がっていく方法。

リアスがゴンドラからの眺めを知っていて、その感想を聞いていたので全員がこの方法を希望した。

 

うん、今日が晴れてて良かった!

絶景だもんな!

 

 

ただ・・・・・・気分が晴れない人もいるようで。

 

『うぅ・・・・・グスン・・・・・女の乳でパワーアップするのは今回きりだって約束したのに・・・・・・。なんで、また・・・・・』

 

はい、相棒のドライグさんは先日の一件から数日経った今でもこんな感じです。

 

禁手に至った時、ドライグは涙声だったものの、今回限りだと言って、割りと言いたいことを我慢してくれていたようなんだが・・・・・・。

 

俺が再びおっぱいで新たな可能性の扉を開いちゃったから、精神が不安定気味になっているようで。

 

『・・・・・禁手に至った後はまともにパワーアップしてたじゃないか。天武も天撃も修行して手に入れてたじゃないか・・・・・・。なんで、ここに来て乳なんだ・・・・・・』

 

それは・・・・・・俺がおっぱいドラゴンだからさ!

 

『うわぁぁぁぁん!! おうち帰るぅぅうううう!!! 引きこもってやるぅぅうううう!!』

 

おおう!?

 

ドライグの言葉遣いが急変した!?

 

つーか、おまえの家ってどこ!?

 

『まぁまぁ、いいじゃないの。どんな形であれ、相棒が次のステージに進めるんだから』

 

と、イグニスがドライグを慰めている。

 

しかし、ドライグは納得できないようで、

 

『俺は二天龍の赤龍帝と多くの者に畏怖されてきたんだぞ! その俺の宿主が女の乳でパワーアップするなど言語道断! 女のおまえに俺の気持ちが分かるか!』

 

ま、まぁ、そうだよね。

 

本当にゴメンね、ドライグ。

 

でも、しちゃったものは仕方がないし、受け入れてくれ。

 

『受け入れられるか!』

 

こりゃ、相当ご立腹だな。

 

どうしたものか・・・・・・。

 

流石に今回の件は俺が悪いし・・・・・・ここは謝り続けるしかない、か?

 

すると――――

 

『あんまり、いつまでもグチグチ言ってるとしめるわよ? お姉さん怒らせるとどうなるか、分かってるのかな~?』

 

『おい、待て! 貴様、何をするつもりだ!?』

 

『ん~、とりあえず、神器の中をピンク色に変えようかな。ほら、歴代の女の子達がいるじゃない? あの子達で遊ぼうかな~』

 

『やめろぉぉおおおおおお!!!』

 

うおぉい!

 

イグニスさん、あんた何をしてるの!?

 

また歴代の女の子のおっぱいを揉む気か!?

 

なんて羨ましいこと・・・・・・じゃなくて!

 

ベルザードさーん! エルシャさーん!!

 

その人止めてーーーー!!!

 

『『ごめんなさい、無理です』』

 

即答!?

 

『だって、私も揉まれるし・・・・・』

 

『俺は眺めている方が面白いかな』

 

ダメだ!

 

歴代最強のお二人でも無理か!

 

このままでは神器の中がピンク色の空間へと変貌してしまう!

 

「イッセー君、汗かいてるけど大丈夫かい?」

 

「あんまり大丈夫じゃないかも・・・・」

 

ドライグ、後で助けにいくから耐えてくれ!

 

 

と、ここでリアスと視線が合った。

 

「・・・・・・・」

 

あ、顔が真っ赤に・・・・・・。

 

そうでした。

 

リアスもあの一件以来、目が合うだけでこんな感じかな。

 

あの後、リアスは自分の発言を思い返して、かなり恥ずかしいことを言ってたことを認識。

顔がゆでダコのように赤くなっていたのを覚えている。

 

直後、「皆には言わないで!」と涙目で言われてしまったよ。

ま、まぁ、自ら望んでスイッチ姫になろうとして、実際になってしまったことなんて知られたくないわな。

 

だけど、それは叶わない望みであってだな・・・・・・。

 

家に住む女性陣はそのあたりのことに鋭くて、リアスは直ぐに自ら打ち明けることになってしまったんだよね。

 

いやー、女の子の勘って怖いねー。

 

『それは実体験かしら?』

 

・・・・・・うん。

 

でも、リアスが以前と比べてどこか自信を持った表情をしているような気がするんだよね。

 

 

アリスの方は・・・・・・驚きの変化があった。

 

なんと、あの日からおっぱいが育ち始めたのだ!

 

見た目にはほとんど変化がないが、おっぱいが大きくなっていて、今朝測ってみると5mmほど大きくなっていた!

 

言っておくが誤差ではない!

何度も測ったんだ、間違いはない!

確かにアリスのおっぱいは成長している!

 

当の本人は涙を流して喜んでいた。

 

アリスのおっぱいの今後が楽しみで仕方がないです!

 

とにかく、スイッチ姫として覚醒した二人にも色々と変化があったということだ。

 

 

俺の方はと言うと二人のおかげで新たな可能性への扉は開いた。

 

だけど、今すぐにどうこうなるものではなく、今後の修行次第のようだ。

 

まぁ、俺にもまだ伸びしろがあるだけでも良しとしよう。

 

 

「実はな、今回のゲーム会場設定は上の連中がもめたらしい」

 

と、アザゼル先生が空を眺めながら言った。

 

「もめた?」

 

俺が聞き返すと先生は頷く。

 

「現魔王派の上役はグレモリー領か魔王領での開催を望んだんだが・・・・・ここにバアル派がバアル領での開催を訴えてな。なかなかの泥仕合になったそうだ」

 

っ!

 

そんなことがあったのか。

 

「現魔王は世襲じゃないからな。家柄、血筋重視の上級悪魔にとっちゃ、大王バアル家ってのは魔王以上に名のある重要なファクターなんだよ。なんせ元七十二柱の一位だからな」

 

「旧魔王派に荷担してた悪魔達も過去にそんなこと言ってもめたんですよね? 同じことを繰り返しているのがわからないんですかね?」

 

俺がそう訊くと先生は嘆息する。

 

「あれはあれ、これはこれってな。悪魔も人間と同じ、体裁やら何やらが色々あるのさ」

 

「・・・・・それで結局アガレス領」

 

小猫ちゃんがぼそりと呟く。

 

それに先生が頷いた。

 

「大公アガレスが魔王と大王の間を取り持ったって話だ。中間管理職、魔王の代行、か。時代は変われど毎度苦労する家だぜ」

 

中間管理職ですか・・・・・。

 

まぁ、話を聞くだけでも大変そうだな、大公。

 

木場が先生に尋ねる。

 

「僕たちのゲームは魔王ルシファーと大王バアルの代理戦争ということになるのでしょうか?」

 

「ま、そういう風に見る連中もいる。そんでもってバアル派の連中は最後までイッセーの参戦を拒んでいたみたいだぞ」

 

「俺、ですか・・・・?」

 

俺は自分を指差しながら聞き返す。

 

嫌われてるのか、俺?

 

特に何したってわけでもないはずだけど・・・・・・。

 

「若手悪魔の会合でおまえがやらかしただろ? 悪魔上層部のお偉いさん方に睨み利かせたそうじゃねぇか。その一件以来、一部の上役はおまえを危険視してるんだよ」

 

あちゃー、アレが響いてたのね・・・・・。

 

あいつら会長達の夢を笑ってたからムカついて、ついやってしまったんだが・・・・・。

 

「今言ったようにこのゲームを魔王と大王の代理戦争と見る連中もいる。だが、そんなことをおまえ達が気にする必要はない。仮に負けたとしてもサーゼクスが政治的に不利になるなんてこともないしな。ただ、大王家の連中とサイラオーグの後ろについた奴らがあまい汁を吸うだけだ」

 

「サイラオーグさんの後ろに政治家ですか」

 

「体一つでのし上がってきたあの男が今更政治家の意見に左右されることはないだろうがな」

 

まぁ、それもそうか。

 

あれだけ信念を持ってる人が他人の意見にほいほい流されるわけないもんな。

 

サイラオーグさんが政治家と繋がっているのも夢のためだろう。

 

「とにかくだ。上役の思惑はどうであれ、おまえ達は自分達の夢を叶えるために全力で突き進め。いいな?」

 

『はいっ!』

 

 

それから数分後、俺達を乗せたゴンドラはアグレアスに到着した。

 

 

 

 

 

 

ゴンドラから下りた俺達を出迎えてくれたのは入り待ちのファンとマスコミの大群だった。

 

「こいつはスゲー数だな」

 

「おまえ達がそれだけ注目されているってことさ」

 

俺の感想に先生がそう返す。

 

俺達はフラッシュと歓声に包まれながら、多数のスタッフとボディーガードの誘導のもと、表に用意されたリムジンに乗り込んだ。

 

「お待ちしておりましたわ」

 

リムジンの中で待機していたのは先にアグレアスに来ていたレイヴェルだ。

 

「おまたせ。色々準備してくれたみたいで、ありがとな」

 

レイヴェルにそう言って座席につく。

 

リムジンの車窓から後ろを見ると――――マスコミの車らしいものが追ってきていた!

 

こういうシーンって、テレビではよく見るけど・・・・・まさか、自分がその立場になるなんて思ってなかったよ。

 

先生が言う。

 

「おまえ達もマネージャーをつけた方がいいな。特にリアスとイッセーはな。今回の試合の結果に関わらず、認知度は上がる。日が経てばそれも落ち着くだろうが、しばらくの間はこんな感じになるだろう」

 

「マジっすか・・・・・。で、先生のマネージャー的存在がレイナなんですね」

 

俺が訊くと先生は盛大にため息をついた。

 

「レイナーレのやつ、肩書きは俺の秘書だが、実際はただの監視役だぞ。なんでもかんでもシェムハザに報告しやがかって・・・・・・そんなに俺は信用ないのか!」

 

『うん』

 

「声揃えて頷くんじゃねぇよ! ・・・・・まぁ、とにかくだ。おまえ達にもマネージャーは必要ってことだ。あー、そうだな。レイヴェル、おまえがイッセーのマネージャーをしたらどうだ?」

 

「わ、私がですか・・・・・?」

 

先生に言われたレイヴェルは少し驚いたようにして、自分を指差した。

 

先生は頷いて話を続ける。

 

「おまえなら悪魔業界のことはよく知ってるし、イッセーのサポートを十分にしてやれるだろう。それにこいつに付けば勉強にはなると思うぞ? スケベだがな」

 

最後に余計なこと付け足さないで下さいよ。

 

まぁ、事実ですけど。

 

でも、レイヴェルが俺のマネージャーとしてサポートしてくれるなら色々助かるかも。

 

同じ眷属の人に任せるわけにもいかないしな。

 

「俺からも頼むよ。俺ってまだまだ悪魔の世界で知らないことも多いしさ。レイヴェルがいてくれたら心強いよ」

 

「そ、そうですか・・・・・? わ、私でよければ引き受けて差し上げましてよ?」

 

「よし、決まりだな。じゃあ、詳しいことはまた今度話そうな」

 

「は、はい!」

 

おー、なんか気合い入れてるなぁ。

 

レイヴェルは真面目だから今から責任感とか感じてるのかな?

 

そんな風に考えているうちにリムジンは都市部を走り、会場となる巨大なドームを目前にしていた。

 

 

 

 

 

 

この空中都市には様々な娯楽施設がある。

 

その中でも一際目立つ巨大な施設――――アグレアス・ドーム。

 

今回のゲーム会場となる場所だ。

 

俺達はそのドーム会場の横にある高層高級ホテルに移動していた。

 

豪華絢爛な造りで広いロビーに天井にはデカいシャンデリアがある。

悪魔になってからこういう高級な場所に足を運ぶ機会が増えたな。

 

ボーイさんに連れられて、俺達の専用ルームに案内される。

 

試合は夜なのでまだ時間はある。

 

それまではその部屋で待機となる。

 

 

通路を進んでいるときだった。

 

通路の向こう側から不穏な雰囲気と肌にピリピリと刺すような冷たいオーラを放ちながら歩いてくる集団がいた。

 

顔が見えないくらいにフードを深く被り、足元が見えないほど長いローブを着こんだ不気味な雰囲気の集団。

 

その集団の中央には司祭の服らしきものを着込んだ――――骸骨がいた。

 

骸骨が司祭の服を身に包み、頭部には司祭が被る帽子。

手には杖を携えている。

 

そして、その体から発せられるものは他の者よりも数段上。

 

俺達はその骸骨に警戒を強める。

 

《これはこれは紅髪のグレモリーではないか。そして、堕天使の総督》

 

おおっ、喋った!

 

口から発せられた感じじゃないから、魔法的なもので言葉を飛ばしてるのか?

 

骸骨司祭の声を聞き、先生は皮肉そうに笑んだ。

 

「これは冥界下層――――地獄の底こと冥府に住まう、死を司る神ハーデス殿。悪魔と堕天使を何より嫌うあなたがここまで上がってくるとは・・・・・。しかも死神(グリムリッパー)をそんなに引き連れて」

 

冥府の神・・・・・ハーデス。

 

この骸骨、神様なのか。

 

確かに戦闘体勢でもないのにこのオーラだもんな。

 

そう言われれば納得だ。

 

《ファファファ・・・・・カラスめが、言うてくれるわ。なに、最近上で何かとうるさいのでな。視察に来たまでのこと》

 

「骸骨ジジイ、ギリシャ側の中でもあんただけが勢力間の協力に否定的なようだが?」

 

《だとしたらどうする? この年寄りも屠るか? ロキのように》

 

ハーデスがそう言うとその後ろに控えているローブの集団が殺意を放ってくる。

 

・・・・・おいおい、ここでやる気かよ?

 

試合前なんだから勘弁してほしいぜ。

 

アザゼル先生は頭を振って嘆息した。

 

「別に。オーディンのエロジジイみたいに寛容になれって話だ。少しくらいそうなっても損はないと思うぜ? 骸骨ジイ様よ。つーか、黒い噂が絶えないんだよ、あんたの周囲は」

 

《カラスとコウモリがピーチクと鳴いておるとな、私も防音対策をしたくもなる》

 

うわー、凄い敵視した蔑みだ。

 

カラスが堕天使でコウモリが悪魔ってか。

 

ハーデスが視線を俺に移し、その眼孔が光る。

 

《赤い龍か。白い龍と共に地獄の底で暴れまわっていた頃が懐かしい限りだ》

 

言われてるぜ、ドライグさんよ。

 

何やらかしたんだ?

 

『ちょっとな』

 

その言い方だと、ちょっとじゃないだろ!

 

マジで何やらかした!?

 

謝っとく方が良いのか?

 

相棒がしでかしたことだし・・・・・・。

 

《ファファファ・・・・・、まあよいわ。今日は楽しみとさせてもらおうか。今宵は貴様達の魂を連れにきたわけではないのでな》

 

それだけ言い残すとハーデス達は俺達のもとを通りすぎて行く。

 

皆は息を吐いて、張り詰めたものを解いていた。

 

「北欧時代に先輩のヴァルキリーからハーデス様の話は聞いていましたが・・・・・・魂を掴まれているような感覚は生きた心地がしませんね」

 

と、ロスヴァイセさんがつぶやく。

 

うん、確かにそんな感覚だ。

 

あの骸骨に睨まれると息苦しさを感じるんだよね。

 

「はぁ・・・・・。あの骸骨の人、プレッシャーが半端じゃないっすね」

 

俺がそう言うと先生も堅苦しかったのか、首をコキコキと鳴らせていた。

 

「そりゃ、あの骸骨ジジイは各勢力の主要陣の中でもトップクラスの実力者だ。俺やイッセーよりも強いぜ」

 

「トップクラスですか・・・・・。それはまたとんでもない人が来たもので・・・・・・」

 

「ああ。絶対に敵対するなよ? ハーデスもそうだが、周囲にいる死神共も不気味だ」

 

付き人が死神って時点で怖すぎだろ!

 

絶対に関わりたくねぇ!

 

「悪神なんですか?」

 

俺が訊くと先生は首を横に振る。

 

「いや、人間には平常通りに接する神だぞ。単に悪魔と堕天使・・・・・というよりは他の神話に属するものが嫌いなんだろうさ、あのジジイはな。ま、俺もあのジジイは嫌いだけど」

 

あら、ハッキリと嫌いって言っちゃったよ。

 

俺は嫌いって言うよりは苦手って言うべきなんだろうな。

 

親しく接しろって言われたら難しいところだ。

 

「デハハハハ! 来たぞ、アザゼルゥッ!!」

 

「こちらも来たぞ、アザゼルめが! ガハハハハ!」

 

と、先程までの重たい空気をぶち壊すかのように豪快な笑い声が通路に響き渡った。

 

その豪快な笑い声とともに先生のもとに駆け寄ってきたのは体格の良いひげ面のおっさん二人。

 

二人は先生にまとわりつき、先生は半目で嘆息する。

 

「・・・・・来たな、ゼウスのオヤジにポセイドンのオヤジ・・・・・。相変わらず暑苦しいこった。あの骸骨ジジイもこの二人くらい分かりやすけりゃいいのによ」

 

マジっすか!

 

この上半身裸のおっさん達がゼウスとポセイドンなのか!

 

超有名な神様じゃん!

 

た、確かに暑苦しいぞ!

 

二人は先生を弄り回していた。

 

「嫁を取らんのか、アザ坊! いつまでも独り身では寂しかろう!」

 

「ワシが紹介してやろうか! 海の女はいいのがたくさんだぁぁぁぁ!!」

 

「あー、余計な心配しなくていいって・・・・・・」

 

おおっ、先生が押されてる!

 

シェムハザさんとは違った押され方だ!

 

つーか、ゼウスもポセイドンもフレンドリーだな!

 

豪快すぎるぜ!

 

 

「来たぞ、おまえ達」

 

今度は聞き覚えのある声。

 

振り返ればそこにはチビドラゴンと化したタンニーンのおっさんが宙に浮いていた。

 

「おっさんも来てたんだな」

 

「うむ。今回のゲームは両陣営とも関わりを持っているからな。観戦しないわけがないだろう」

 

「聞いたよ。サイラオーグさんの修行相手をしてたんだって?」

 

「ああ。俺のところに頭を下げに来てな。ああされてしまっては受けないわけにはいかん。それに気にもなってしまったのだ。あの男がどこまでおまえに食らいつけるかをな」

 

スゲー楽しそうな笑みを浮かべてるな。

 

この口調だと本気のサイラオーグさんはかなり力を伸ばしてると考えて良さそうだ。

 

「今回のゲームは若手の一戦というレベルを越えているだろう。少なくとも俺はそう見ている。良いゲームを期待しているぞ」

 

「ああ、任せてくれ! 最高のゲームにしてみせるさ!」

 

親指を立ててそう返す俺。

 

俺の初舞台でもあり、リアスの夢を叶えるための大きな一歩になるゲームだ。

 

最高の試合をしてみせる!

 

リアス達もおっさんの言葉に気合いを入れているようだった。

 

「あっ! オーディン様!」

 

突如、ロスヴァイセさんが素っ頓狂な声をあげる。

 

ロスヴァイセさんが指を向ける方向にはオーディンの爺さんの姿。

 

ポセイドンとかゼウスという神様も呼ばれて来たみたいだったしオーディンの爺さんもそれで来たんだろうな。

 

オーディンの爺さんはロスヴァイセさんの姿を確認すると「これはマズい!」と叫んでその場から走り去っていく!

 

逃げた!?

 

それを見てロスヴァイセさんが吼えた!

 

「待てぇぇえええええ!! このクソジジイィィィィイッ!! その隣の新しいヴァルキリーはなんなのよぉぉおおおおお!!!!」

 

瞬時にヴァルキリーの鎧姿と化したロスヴァイセさんは、逃げ去るオーディンの爺さんを追いかけていく!!

 

ロスヴァイセさん、そこまでオーディンの爺さんへの怒りが強かったのね・・・・・・。

 

まぁ、置いていかれたわけだし・・・・・・。

 

リアスが額に手を当てて嘆息する。

 

「・・・・・イッセー、祐斗、ゼノヴィア、お願いできるかしら」

 

「り、了解・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 



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8話 想いを背負います!

専用の待機室に案内された俺達。

 

そこは部屋というより広いフロアで、休憩スペースから軽く体を動かすためのトレーニングスペースがある。

もちろん、器具も全て揃っている。

 

体を使うメンバーは俺を含めて、ジャージに着替えて軽い調整を始めていた。

 

木場とゼノヴィアは訓練用の木刀で軽く撃ち合い、俺と小猫ちゃんは軽く組手をしてみる。

 

やっぱりある程度は体を動かしておかないと、試合の時に緊張して動けなくなるかもしれないしな。

 

『よく言う』

 

ドライグが何か言っているがそれは無視。

 

 

部屋に着いた後、一度神器の中に潜ったんだが・・・・・。

 

俺が潜った時には既にイグニスがやらかしていてだな・・・・・歴代の女の子が骨抜きにされていた。(エルシャさんは逃げ切ったみたいだった)

 

流石に酷かったので、無理矢理止めてきた。

 

そしたら、ドライグも一応の回復はしてくれた。

 

 

「・・・・えいっ」

 

「うんうん、良い感じだよ」

 

なんて会話をしながらウォーミングアップをしていると―――

 

 

「邪魔をする」

 

男性が入室してきた。

 

「ライザー!」

 

「お兄様!」

 

その男性の登場に素っ頓狂な声を出すリアスとレイヴェル。

 

そう、その男性とはライザー・フェニックスだった!

 

修学旅行前の『焼き鳥復活計画』以来じゃないか。

 

「よー、様子を見に来てやったぜ。レイヴェルも元気そうじゃないか」

 

言うなり、ライザーはフロアの椅子に座る。

 

俺達のゲームを観戦しに来たんだろうけど、引きこもりは完全に治ったようだな。

 

朱乃がライザーにお茶を淹れ、ライザーがカップに口をつける。

 

「ゲームについて少し話そうと思ってな。今日のゲームはプロの好カード並みに注目を集めている。観客も席を埋め尽くす勢いだしな。ゲームの流れもプロの試合と同じだろうな」

 

あー、そういや、リムジンの中からチラッとドームの方を見たけど凄い人の数だったな。

 

今までの若手のゲームは決まったフィールド内で戦って最終的に王を倒せば勝ちという単純なルールだったけど、プロの試合と同じってことは特殊なルールもつくのだろう。

 

「おまえ達はほとんどプロと同じ舞台で戦うことになる。実戦とは違うエンターテイメント性を強く感じて戸惑うこともあるだろう。だが、これだけの大舞台だ。力を発揮すれば当然、評価にも繋がる。リアス、おまえにとって一つの正念場だ」

 

ライザーは真面目に語っていた。

 

プロとして、先人としての意見を向けてくれていた。

 

ライザーに言われ、リアスは目を細める。

 

「・・・・・私がここまで来れたのは眷属のお陰よ。今まで守ってもらってばかり・・・・・・。だから、この子達を上手く導けていない自分の未熟さに怒りを覚えるわ」

 

リアスも不安なんだな。

 

どんなに気丈に振る舞っていてもリアスだって一人の女の子なんだから仕方がないさ。

 

リアスの言葉を聞き、ライザーが言う。

 

「眷属を導く力、か。それは俺が嫌いな『努力』と経験を積めばある程度のものは得られる。今は未熟でもな。だがな、巡り合い――――良い人材を引き寄せる才能は別だ。この場にいる面子はおまえの持つ巡り合いの良さで集まった眷属だと思うぞ?」

 

「けれど、それは赤龍帝であるイッセーが引き寄せた部分も強いと思うわ」

 

「だが、赤龍帝と出会ったのはおまえの運命だ。違うか? 確かにドラゴンの強者を引寄せるという特性が働いたのかもしれんが、その赤龍帝と出会い、眷属にしたのはおまえだろう?」

 

ライザーは真っ直ぐな目でリアスに言った。

 

「自信を持てリアス。こいつらはおまえの宝だ」

 

おいおいおい・・・・・・

 

ライザー、良いこと言うじゃないか!

 

ヤバいよ!

 

俺、ちょっと泣きそうになったじゃないか!

 

ライザーは自分の言ったことに恥ずかしくなったのか、頬をかきながら続ける。

 

「ま、前回のゲームで負けた俺が言うのもなんだけどな。とにかく応援してるぜ、リアス。―――勝てよ」

 

「ええ、もちろんよ」

 

ライザーの激励にリアスも晴れやかな表情で応じる。

 

リアスは今までも王としての自分に頭を悩ませているようだったから、ライザーのお陰でそれが少し楽になったようだ。

 

「ん? どうした赤龍帝?」

 

俺がライザーの方をジッと見ていると声をかけられた。

 

俺は苦笑しながら答える。

 

「いや・・・・・前会った時とは大違いだな、と。ライザー・・・・・あんた、メチャクチャ良いやつじゃないか!」

 

「う、うるさい! あの事にはもう触れるな! あれは俺の黒歴史なんだよ!」

 

おーおー、慌ててるぜ。

 

ま、確かにあれは黒歴史以外の何物でもないわな。

 

ライザーは咳払いをすると、こちらに拳を突き出してきた。

 

「おまえも早く上級悪魔になって自分の眷属を持て。そして、プロの世界にこい。今度こそおまえに勝ってみせる。プロの本当の怖さを教えてやるよ」

 

「上級悪魔になって自分の眷属ね・・・・・。OKだ。最高のチームを作ってあんたと再戦してやるぜ。もちろん勝つのは俺だけどな!」

 

「いいや、勝つのは俺だ!」

 

俺達はニッと笑って互いの拳を合わせる。

 

全く、人ってここまで印象が変わるもんなのかね?

 

前回までのライザーとは大違いじゃないか。

 

ライザーの視線がレイヴェルに移る。

 

「それから、レイヴェルを頼む。こいつも中々のワガママだが、一途な奴でな。泣かしたら燃やすぞ?」

 

「お、お兄様!? よ、余計なお世話ですわ!」

 

レイヴェルが顔を真っ赤にして返していた。

 

それだけ確認すると「俺も焼きが回ったもんだ」と自嘲しながら退室していった。

 

ありがとな、ライザー。

 

おまえのお陰で眷属全員の気合いが高まったよ。

 

と、心の中で礼を言っていると扉が再び開き、ライザーが顔を出した。

 

「そうだ、言い忘れてた。赤龍帝、さっきサーゼクス様からおまえを呼ぶように言われてたんだった。VIPルームの方でお待ちだ。なんでも見せたいものがあるそうだ」

 

「サーゼクスさんが? 分かった行ってみるよ」

 

見せたいものってなんだろうな?

 

俺は単身、サーゼクスさんの待つVIPルームへと向かった。

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、俺はVIPルームに来ていた。

 

広い上に豪華な家具が揃った部屋で、まさにVIPって感じだ。

 

「悪いね、イッセー君。試合前に呼び出してしまって」

 

サーゼクスさんが朗らかに迎えてくれた。

 

俺は手を横に振って笑う。

 

「いえいえ。ウォーミングアップを済ませて、後は試合開始までゆっくりするつもりだったので。それで、俺に見せたいものというのは? ・・・・・まさか、リアスの幼少期のビデオですか!?」

 

そう!

 

以前話してそれっきりだった、リアスの映像集!

 

俺はまだ見ていない!

 

「それも見せたい! また君と語り合える時を楽しみにしているのだよ! だけど、私も君も中々に時間が合わなくてね・・・・・・。職務を疎かにするとグレイフィアに怒られるし・・・・・・どうしたものか」

 

うーむ、と頭を悩ませるサーゼクスさん。

 

俺も是非とも見てみたいものだ。

 

幼い頃のリアス!

 

写真で見たけど、可愛すぎだろ!

 

「まぁ、リアスの映像集については日を改めよう。それで今回、君に見せたいものはこれだ」

 

サーゼクスさんはテーブルに置いてある円盤を手に取り、俺に見せる。

 

「それはディスク? ビデオか何かですか?」

 

「うむ。君の熱烈なファンが送ってくれたのだよ。それをぜひ見てもらおうと思ってね」

 

サーゼクスさんは頷き、円盤をテレビ備え付けの再生機器らしきものに入れる。

 

そして、テレビのモニターに映像が映し出される。

 

そこにいたのは俺の禁手状態を模した人形を手にした男の子だ。

 

これは・・・・・ホームビデオか?

 

男の子はカメラに向かって口を開く。

 

『おっぱいドラゴン、こんにちは。ぼくはおっぱいドラゴンがだいすきです。いつもみてます。うたもうたえます。こんどのゲーム、ぼくはみにいけないけど、おうちでおうえんしてます。だから、ゲームでかってね』

 

――――っ

 

映像が切り替わり、今度は幼い兄妹が映し出された。

 

『おっぱいドラゴン! だいすき!』

 

『かってね!』

 

次は両親と共に映る子供。

 

『おっぱいドラゴン、おうえんしてます。そっちにいけないけど、ぼくはずっとおうえんしてます』

 

子供達からの応援のビデオレター・・・・・・。

 

映像は何度も切り替わり、たくさんの子供達が俺に応援のメッセージを送ってくれていた。

 

「今日のゲームは冥界全土に生中継されている。会場に来ている者だけではない。テレビの前で多くの子供達が君を見ているんだ」

 

サーゼクスさんは部屋の奥から段ボール箱を持ってきて、机の上に置く。

 

蓋を開けて中を見るとたくさんの手紙が丁寧に入っていた。

 

「読んでもいいですか?」

 

「もちろんだとも」

 

俺はいくつかな手紙を手に取り、中を読んでいく。

 

その全てが俺への応援メッセージだった。

 

拙い悪魔文字だけど、想いはしっかりと籠められていて――――

 

サーゼクスさんが言う。

 

「イッセー君、君にお願いがある。今日のゲーム、この子達のためにも戦ってくれないだろうか? この子達は冥界の未来だ。この子達の夢を守ってほしいのだよ」

 

『ふふふ、あなたはこっちの世界でも、悪魔になっても変わらないみたいね。あなたは皆の希望となる存在よ、勇者様♪』

 

『まぁ、おっぱいドラゴンという名前に関しては思うところはあるが・・・・・・。イグニスの言う通りだな』

 

二人の相棒もサーゼクスさんに続いてそう言ってくる。

 

夢を守る・・・・・皆の希望、か。

 

気がつけば、いつの間にかそんな風になってたんだな、俺。

 

「今日のゲーム、負けるわけにはいかないな。リアスのためにも、この子達のためにも」

 

 

だから、俺は全力を以て全ての想いに応えてみせる!

 

 

 

 

 

 

ゲーム開始まであと十分ほど。

 

俺達はドーム会場の入場ゲートに続く通路で控えていた。

 

ゲートの向こうから会場の熱気と明かりがさしこみ、同時に大勢の観客の声も聞こえてくる。

 

俺達の戦闘服はお馴染みの駒王学園の制服。

ただし、耐熱、耐寒、防弾、魔力防御などと、あらゆる面で防御力を高めた特別仕様だ。

通常の制服と比べると頑丈に作られている。

 

アーシアはシスター服。

ゼノヴィアは自前のボディーラインが浮き彫りの戦闘服。

ロスヴァイセさんもヴァルキリーの鎧姿だ。

 

三人ともそちらの方が使いなれていて落ち着くらしい。

作りは俺達と同じだ。

 

ギリギリまで各自のリラックス方法で待機しているなか、俺はリアスに声をかける。

 

「リアス、いけるか?」

 

「全く緊張しないと言えば嘘になるけれど大丈夫よ」

 

「そっか。・・・・・・ちょっと背中をこっちに向けてくれるか?」

 

「?」

 

リアスは怪訝な表情となりながらも俺に背中を向ける。

 

俺はリアスの両肩に手を置き、体の気の巡りを整えていく。

 

「これって・・・・・ライザーとのレーティングゲームでもしてもらったわね」

 

「落ち着くだろ? そこらのマッサージよりはリラックス出来ると自負してるよ」

 

俺が笑ってそう言うとリアスも微笑みを返してくる。

 

それから少しすると会場の方から進行役と思われる人の声が聞こえてくる。

 

『さぁ、いよいよ始まります! 東口ゲートからはサイラオーグ・バアルチームの入場です!!』

 

「「「「わぁぁぁああああああああっ!!!」」」」

 

そのアナウンスに会場が一斉に沸き立った!

 

スゲー声援だ!

 

こっちにまでビリビリ伝わってくる!

 

「・・・・緊張しますぅぅううっ!!」

 

「・・・・大丈夫。カボチャだと思えば怖くないよ、ギャー君」

 

緊張するギャスパーと落ち着いた様子の小猫ちゃん。

 

「ゼノヴィアさん、イリナさんがグレモリー側の応援席で応援団長をやると聞いたのですが」

 

「そのようだぞ。なんでもおっぱいドラゴンのファン専用の一画で応援のお姉さんをすると言っていた。応援団の衣装まで用意してな」

 

というアーシアとゼノヴィアの会話も聞こえてくる。

 

イリナは応援団長ね・・・・・。

 

しかも専用の衣装まで用意しているとは準備が良いことで。

 

レイヴェルもおっぱいドラゴンのファン席側に席が取れたと言っていたな。

 

レイヴェルとイリナは同じ場所にいるんだろうな。

 

となると、美羽とアリスとレイナはヴェネラナさんと一緒にいるのかな?

 

特にアリスは一番こういう空気には慣れてないから、専用の部屋で見てくれている方が俺としても安心できる。

 

アリスは王国の祭典とかで賑やかな場には出てたこともあるけど、今回のはそれとまた違った感じだしね。

 

『そして、西口ゲートからはリアス・グレモリーチームの入場です!!』

 

ついに俺達が呼ばれた。

 

「「「おおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!」」」

 

観客もかなりヒートアップしてるな。

 

さて、俺達も行きますか!

 

皆と視線が合い互いに頷き合う。

 

リアスが皆を見渡して一言だけ言った。

 

「ここまで私についてきてくれてありがとう。――――私達の出番よ。絶対に勝ちましょう!」

 

「「「はいっ!」」」

 

返事をする俺達。

 

そして、ゲートを潜った。

 

ついにゲームが始まる!!

 

 

 

 

 

 



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9話 ゲーム開幕!!

大歓声の中、俺達が目の当たりにしたのは広大な楕円形のフィールドの上空に浮かぶ二つの浮島だ。

 

フィールドに浮かぶ浮島の一つにサイラオーグさん達バアル眷属が揃っている。

 

『さぁ、グレモリーチームの皆さんも陣地へお上がりください』

 

アナウンスがそう促す。

 

どうやら、あの浮島が各陣営の陣地となるらしい。

 

俺達は浮島に繋がる長い螺旋階段を登り、上へと辿り着く。

 

俺達と向かい合う形でバアル眷属が見える。

 

かなりの距離があるけど・・・・・・このフィールド全体を使った空中大決戦的な感じかな?

 

陣地には人数分の椅子と謎の台。

それから、一段高いところに設けられた移動式の魔法陣らしきもの。

それ以外は特にない。

 

あちら側も俺達と同様のようだ。

 

今夜のゲームはどんな方式なんだ?

 

と考えていると―――――

 

「お兄ちゃーん! リアスさーん! 皆、頑張ってーーー!!」

 

何処からか美羽の声が聞こえてきた。

 

声がした方を振り向き、美羽を探してみると・・・・・・いた。

 

俺達の陣営の右手側の観客席に。

 

他にもイリナやアリスもいるんだが・・・・・・全員、学ランを着てハチマキをするという格好をしていた!

 

確かに応援団と言えばその格好が浮かぶけども!

 

ってか、アリスもよく着たな!

 

「イッセー! 負けたら承知しないわよーーーー!」

 

ノリノリか!

 

心配する必要なかったな!

 

とりあえず、応援ありがとよ!

 

 

あー、リアス達も苦笑してるし・・・・・。

 

もう笑ってやってくれ。

 

俺が美羽達に手を振っていると一人いないことに気づく。

 

レイナがいないんだが・・・・・席を外してるのか?

 

レイヴェルは美羽達と少し離れた席にいるようだが・・・・・。

 

ここで会場にアナウンスが響く。

 

会場に設置された超巨大モニターに映り込んだのはイヤホンマイクを耳につけたド派手な格好の男性だった。

 

『ごきげんよう、皆様! 今夜の実況は私、元七十二柱ガミジン家のナウド・ガミジンがお送りいたします! どうぞよろしく!』

 

おおー、実況つきなのか。

 

流石はプロ仕様のゲームだ。

 

『今夜のゲームを取り仕切る審判役にはリュディガー・ローゼンクロイツ!』

 

宙に魔法陣が出現。

 

そこから銀色の長髪に正装という出で立ちのイケメンが現れた。

 

「「「キャアアアアアアッ!! リュディガー様ぁぁぁあああ!!」」」

 

うおっ!?

 

女性を中心に凄まじい歓声が!

 

やはりイケメンだからか!?

 

イケメンが良いのか!?

 

「・・・・・リュディガー・ローゼンクロイツ。元人間の転生悪魔にして最上級悪魔。しかもランキング七位の人です」

 

小猫ちゃんが説明をくれた。

 

元人間の最上級悪魔!

しかも、レーティングゲームの現役トップランカーときましたか!

 

イケメンでそんなに強けりゃモテるわな!

 

って、そんな人が審判するとか豪華すぎる!

 

「でも、グレイフィアさんじゃないんだな」

 

ライザーの時とシトリーとの時はあの人だったから、今回もそうなのかと思ってたんだけど。

 

俺がそう呟くと朱乃が言った。

 

「大王家が納得するわけがありませんわ。グレイフィアさんはグレモリー側ですから」

 

・・・・・そう言われたらそうだな。

 

グレイフィアさんはサーゼクスさんの『女王』だし、グレモリーのメイドでもあるしな。

 

『そして、今回の特別ゲスト! 解説として堕天使総督のアザゼル様にお越しいただいております! どうも初めまして、アザゼル総督!』

 

 

 

 

・・・・・・・へっ?

 

 

 

と、画面一杯に見知った男性が映される。

 

俺達は全員唖然としていた。

 

男性――――アザゼル先生がニッコリと挨拶をする。

 

『どうも初めまして。アザゼルです。今夜はよろしくお願い致します』

 

あ、あ、あんた何してんのぉぉおおおお!?

 

そういや、今夜は特別な仕事があるって言ってたけど・・・・・これのことだったのかよ!

 

そうですか、今夜は解説者ですか!

 

 

あっ!

 

先生の隣にレイナがいる!

 

こっちに向かって可愛く手を振ってるよ!

 

そうか、レイナは先生の秘書だからついていったんだな。

 

ってか、軽くお化粧してる?

 

映るから意識したのだろうか・・・・・・。

 

『アザゼル総督はサーゼクス・ルシファー様をはじめ、各勢力の首脳の方々と友好関係を持ち、神器研究の第一人者としても有名でありますが、今日の一戦、リアス・グレモリーチームの専属コーチをされた上で、どう注目されているのでしょうか?』

 

『そうですね。私としましては両チーム共に力を出しきれるのかという面で――――』

 

うわー、営業スマイルだ。

 

営業スマイルで生き生きと解説しだしたよ。

 

あんなスマイル見たことないや。

 

紹介が終わったところでカメラが隣に移り、灰色の髪と瞳を持つ男性を映した。

 

『更に、もう一方お呼びしております!レーティングゲームのランキング第一位! 現王者! 皇帝ディハウザー・ベリアルさんですッ!』

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」

 

今までで一番の盛り上がりを見せる観客席!

 

会場全体の振動がこちらにまで届いてくる!

 

ディハウザー・べリアルが朗らかに口を開く。

 

『ごきげんよう、皆さん。ディハウザー・ベリアルです。今日はグレモリーとバアルの一戦を解説する事になりました。どうぞ、よろしくお願い致します』

 

――――あの人が皇帝べリアル。

 

レーティングゲーム現王者。

 

実況者がアザゼル先生とディハウザー・ベリアルに話を振る中、リアスは画面を通して真剣な表情で見ていた。

 

皇帝ベリアルはリアスの将来の目標。

 

俺達もいずれは戦うことになるであろう人物。

 

「ディハウザー・ベリアル。いつか必ず――――。けれど、今は目の前の強敵を倒さなければ、私は夢を叶えるための場所に立つ事すら出来ないわ」

 

その通りだ。

 

今の俺達の相手は皇帝ではない、サイラオーグさんだ。

 

舐めてかかっていい相手じゃないんだ。

 

『まずはフェニックスの涙についてです。皆さまもご存じの通り、現在テロリスト集団、禍の団の連続テロにより、各勢力間で緊張が高まり、涙の需要と価格が跳ね上がっております。そのた、用意するだけでも至難の状況です」

 

京都でも対テロ作戦なのに少ししか支給されなかったもんな。

 

だから、今回のゲームではおそらく支給されないだろうと踏んでいたんだが・・・・・・。

 

すると、実況者の声が弾んだものとなった。

 

「しかーーーーしっ! 涙を製造販売されているフェニックス家現当主のご厚意とバアル、グレモリー、両陣営を支持されるたくさんの皆さんの声が届きまして、今回のゲームで各チームに1つずつ支給される事となりました!』

 

その声と共に長巨大モニターには高価そうな箱に入った二つの瓶――――フェニックスの涙だ。

 

涙は支給されることになったのか。

 

そういや、レイヴェルも「なんとか用意したい」って言ってたな。

 

回復出来るのはありがたいが、逆にバアル側も一度だけ使える事にもなるな。

 

まぁ、使うのは勿論――――

 

「サイラオーグ・バアルを二度倒す覚悟を持たないといけないみたいだね」

 

木場が険しい面持ちで呟く。

 

こっちにはアーシアがいるから涙の重要度は低い。

 

となると、誰に持たせるかが問題となるが・・・・・・ここはリアスに持たせるのが妥当なところだろう。

 

王であるリアスが負けてしまえば、そこで俺達の敗北になるからな。

 

『このゲームには特殊ルールがございます!』

 

やっぱりあるのか特殊ルール!

 

レーティングゲームはエンターテイメントの要素も含んでいるから、今回は観客を盛り上げるためのルールになるだろうな。

 

『特殊ルールをご説明する前にまずはゲームの流れからご説明致します! ゲームはチーム全員がフィールドを駆け回るタイプの内容ではなく、試合方式で執り行われます! これは今回のゲームが短期決戦を念頭に置いたものであり、観客の皆さんが盛り上がるように設定されているからです! 若手同士のゲームとは言え、その様式はまさにプロ仕様!』

 

試合方式!

つまり、タイマンになるわけだ!

 

俺や木場はともかく、ギャスパーとかは誰かと組んだ方が力を発揮するから、そのあたりが不安なところだな。

 

『そして、その試合を決める特殊ルール!両陣営の王の方は専用の設置台の方へお進みください』

 

設置台というと、陣地にあるあの台のことか。

 

実況に促されたリアスとサイラオーグさんがそれぞれの設置台前に移動し、台から何かが現れた。

 

画面に映し出されたのは――――サイコロだった。

 

『そこにダイスがございます! それが特殊ルールの要! 今回のルールはレーティングゲームのメジャーな競技の1つ!――――ダイス・フィギュアです!』

 

ダイス・フィギュア・・・・・?

 

初めて聞く単語だ。

 

首をかしげる俺に木場が説明を始める。

 

「今まで僕達が体験してきたのは特殊なルールのない比較的プレーンなルールのゲームなんだ。本格的なレーティングゲームには幾つも特殊なルールがあって、今回のダイス・フィギュアもその一つさ。他にもフィールド中に設置された数多くの旗を奪い合う『スクランブル・フラッグ』と言うルールもあるよ」

 

「へぇ」

 

なるほど、レーティングゲームも奥が深いんだな。

 

この先もゲームをするとなるとルールもしっかり覚えないとな。

 

ルール解説が更に続く。

 

『ご存じではない方のために改めてダイス・フィギュアのルールをご説明致します! 使用されるダイスは通常のダイス同様六面、1から6までの目が振られております! それを振るい、出た数字の合計で試合に出せる手持ちが決まるのです! 人間界のチェスには駒の価値と言うものがございます!これは基準として「兵士」の価値を1とした上で盤上での活躍度合いを数値化したもの。悪魔の駒でもその価値基準は一定の目安とされております。勿論、眷属の方が潜在能力以上の力を発揮して価値基準を超越したり、駒自体にアジュカ・ベルゼブブ様の隠し要素が盛り込まれていたりして想定以上の部分も多々ありますが、今回のルールではその価値基準に準じたもので執り行います!』

 

駒の価値って確か・・・・・・『騎士』が3で『僧侶』も3、『戦車』が5で『女王』が9だったな。

 

『変異の駒』なんかはこの基準に当てはまらないみたいだけど。

 

『まず、両チームの王がダイスを振り、出た目の合計で出せる選手の基準が決まります! 例えば出た目の合計が「8」の場合! この数字に見合うだけの価値を持つ選手を試合に出す事が出来ます! 数字内であれば複数での出場も可能です! 「騎士」なら価値は3なので、2人まで出せますね! 駒消費1の「兵士」ならば場に8人も出せます! 駒価値5の「戦車」一名と駒価値3の「騎士」一名も合計数字が8なので出す事が可能となり、異なる駒を組み合わせて出場させることもできます! そして複数の駒を消費された眷属の方もその分だけの価値となりますので、グレモリーチームであれば「兵士」の駒を8つ使われたと言う赤龍帝の兵藤一誠選手が駒価値8となります』

 

俺は8か。

 

俺の転生にはアジュカさんの手が加わってるから何かあるかと思ったけど、そういうのは無いのか。

 

それにしたって大きい数字には変わらないけどね。

 

でも、出た目の合計が最小の2だったらどうなるんだ?

 

俺達にもバアル眷属にも駒価値1の兵士はいないぞ?

 

そんな疑問を抱いていると、ちょうどそのことが説明された。

 

『しかし、今回は両陣営とも駒価値1から2の選手がいません。そのため、合計数字が2になった場合は振り直しとなります。また、試合が進むにつれて手持ちも減りますので、当然出せる選手の数字にも変化があります。この場合も互いの手持ちと合致さるまで振り直しとなります!』

 

まぁ、当然だな。

 

それじゃあ、肝心の『王』の駒価値はどうなるんだ?

 

『王自身の参加は事前に審査委員会の皆様から出された評価によって、出場できる数字が決まります! 無論、基本ルール通り王が負ければその場でゲーム終了でございます!』

 

「審査委員会の評価?」

 

俺が疑問を口にすると朱乃が答えてくれた。

 

「ゲームの事前に審査委員会がリアスとサイラオーグ・バアルがどのぐらいの駒価値があるのか、それは主に王自身の実力であったり、眷属の評価、対戦相手からの比較などから算出しているのです。以前、アザゼルがグラフを見せてくれたでしょう? あれが参考にされるのです」

 

あー、そういえばあったな。

 

あれはディオドラとの一件の直前のことだ。

 

サイラオーグさんとヤンキー悪魔の試合映像を見た後、アザゼル先生が見せたくれたっけな。

 

サイラオーグさんのパワーがずば抜けてたのをよく覚えてるよ。

 

『それでは、審査委員会が決めた王の駒価値はこれですッ!』

 

実況者の叫びが合図となり、巨大モニターに表示された二人の名前の下に高速で数字が動き出す。

 

そして、ピコーンという軽快な音と共に数字が表示される。

 

『サイラオーグ・バアル選手が12!リアス・グレモリー選手が8と表示されました! おおっと、サイラオーグ選手の方が高評価ですが、逆に言いますとマックスの合計が出ない限りは出場できない事になります!』

 

サイラオーグさんの方がリアスより上か。

 

いや、でも待てよ・・・・・・。

 

俺はふと思ったので朱乃に耳打ちして尋ねる。

 

(この評価ってさ、いつのデータを使ってるの?)

 

(おそらく、ロキとの戦いまでのデータかと。参加した作戦などの評価も含まれていますから)

 

(ってことはさ、アスト・アーデでのことは入ってないんだよな?)

 

(そうなりますわね)

 

そうなると、リアスの8って評価も少し変わってくるな。

 

リアスはアスト・アーデに行ってからかなり力を伸ばしたし。

 

サイラオーグさんを上回るとは思えないけど、それでも実際は10くらいはありそうだ。

 

まぁ、10ってのは俺の勘だけど・・・・・・。

 

とにかく、リアスが8ってことはサイラオーグさんと違って誰かと組んで出場できるな。

 

『それともう1つルールを。同じ選手を連続で出す事は出来ません。これは王も同様です!』

 

「最初の数字が12だとしても、サイラオーグ自身が序盤から出てくるなんて事は無いと思うわ。彼の性格上、きっと自分の眷属をきちんと組み合わせて見せてくる。そのために厳しいトレーニングを重ねたのでしょうから。でも、必ず彼自身も出てくるわ。タイミングは合計数字次第だけど、バトルマニアなのは確かだと思うから」

 

ハハハハ・・・・・・バトルマニア、ね・・・・・。

 

「このルールだとアーシアとギャスパーを単独で出すのは悪手ね。特にアーシアの場合は組んで出すのも危険ということになるわ」

 

「アーシアはここに残った方がいいな。それは向こうだって読んでるだろうけど」

 

「ええ、こちらは実質、戦闘要員が八名となるわ」

 

八名・・・・・。

 

まぁ、戻ればアーシアの回復を受けられるだけでも大きいよな。

 

『さあ、そろそろ運命のゲームがスタートとなります!両陣営、準備はよろしいでしょうか?』

 

実況者が煽り、審判が手を大きく挙げた

 

『これより、サイラオーグ・バアルチームとリアス・グレモリーチームのレーティングゲームを開始致します! ゲームスタート!』

 



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10話 騎士VS騎士!!

それぞれの王が台の前に立ち、審判の掛け声を合図にダイスを振る。

 

出た数字は――――

 

『リアス・グレモリー選手が出した目は2!対するサイラオーグ・バアル選手が出した目は1! 合計3となりその数の価値分だけ眷属を送り出す事が出来ます!』

 

いきなり最小の数字かよ!

 

となると、俺達の陣営で出場出来るのは騎士の木場かゼノヴィア、もしくは僧侶のギャスパーかアーシアということになる。

 

このメンバーだと単騎で戦えるのは木場かゼノヴィアの二択になるな。

 

『作戦タイムは5分。その間に出場選手を選出してください。なお、兵士のプロモーションはフィールドに到着後、昇格可能となります。その都度、フィールドでプロモーションを行ってください』

 

五分・・・・・その間に今の二択を決めなければいけないのか。

 

いや、でも大体決まってるも同然か。

 

作戦タイムに入った瞬間、両陣営地が謎の結界に覆われた。

 

「これは作戦が外部に漏れないようにするためのものだね。こちらの声は結界の外には聞こえないし、外部から口元を読唇術で読まれないようにしているんだ」

 

木場に言われて巨大モニターを見てみると、俺達の顔にグレモリー眷属の魔法陣が覆っているようになっていた。

 

見ればバアル眷属も同様だ。

 

俺達は待機用の椅子に座ると、リアスが皆を見渡すように言った。

 

「ここは祐斗を出すべきでしょうね。もっとも向こうもこれは読んでいるでしょうけど」

 

まぁ、そうだろうな。

 

リアスの言葉に俺が続ける。

 

「アーシアとギャスパーは元々単独では出せないし、ゼノヴィアはテクニックでやられる可能性もあるしな」

 

「テクニックでくるなら、それ以上のパワーで押し返してみせよう」

 

「おいおいおい! 最近、テクニック方面が少しマシになってきたと思ってたのに・・・・・・結局それかよ!」

 

まぁ、ゼノヴィアらしいけどさ!

 

やっぱりこいつは筋金入りのパワータイプだよ!

 

自信満々の表情を浮かべるゼノヴィアにリアスが告げる。

 

「確かに今のゼノヴィアならたいていの相手は持ち前のパワーで凪ぎ払えると思うわ。だけど、序盤でエクス・デュランダルの仕様を晒すのは得策じゃない。晒すなら中盤ね。そうなると手の内を晒しても臨機応変に戦える祐斗を出すのがベストよ」

 

木場なら持ち前のスピードとテクニックで能力を知られていても十分に応用が利く。

 

ゼノヴィアは大技が多いから一度見せた場合、阻止されたり、避けられたりしてしまう可能性が大だ。

 

つーか、ゼノヴィアは体力の消耗とかケガもしそうなんだよね・・・・・・。

 

「読まれていても行かなきゃね。行ってくるよ」

 

木場が襟元を直しながら立ち上がる。

 

「負けんなよ?」

 

「当然勝つよ」

 

俺の言葉にいい笑顔で返事をする木場。

 

審判が告げる。

 

『まもなく時間です。試合に出場する選手は専用の魔法陣の上に立ってください。その魔法陣から別空間に用意されたバトルフィールドへ転送されます。なお、フィールドに転送されるまでの間、両陣営の陣地は結界により不可視の状態になります』

 

あの魔法陣はそういうものだったのか。

 

そんで、転送されるまでの間は陣地が不可視になるってのは?

 

小猫ちゃんが、俺の心中を察したように言う。

 

「・・・・不可視になるのは相手の出場選手を見て、直前に駒を変えないようにするためのものです」

 

あー、なるほどね。

 

確かに相手側の選手が分かっていれば相性の良い相手に変えるなんてことが起こりそうだしな。

 

そうこうしていると陣地を覆う結界が濃くなり、真っ白になった。

これで外と完全に遮断されたわけだ。

 

「では、行ってまいります」

 

耳にイヤホンマイクをつけた木場が魔法陣の上に立つ。

 

その瞬間、魔法陣が輝き、木場の姿が消えていった。

 

 

 

 

 

 

木場が魔方陣の上に立って消えた直後、結界も元に戻り、陣地上空に映像風景が幾つも現れる。

 

広大な緑の平原が映され、そこに木場と全身から青白い炎を放つ馬に乗った甲冑騎士がいた。

 

『おおっと! 第一試合の出場選手がバトルフィールドに登場です!フィールドは見渡す限りの広大な平原! この緑広がる原っぱが第一試合の舞台となります! 合計数字3によって両陣営から選ばれたのはグレモリー眷属の神速の貴公子! 木場祐斗選手です! リアス姫のナイトが登場です!』

 

「「「「「「「キャァァァァァァァァァァッ!木場きゅぅぅぅぅぅぅんっ!」」」」」」」

 

実況に煽られて観客の女性達が黄色い歓声をあげた。

 

クソッ!

 

大人気じゃないか、うちのイケメン王子!

 

神速の貴公子なんて呼ばれてるしよ!

 

『対するバアル眷属は―――――』

 

実況が紹介する前にバアル眷属のランスを持った甲冑騎士が馬を歩かせ、兜のマスクを上げた。

 

『私は主君サイラオーグ・バアルさまに仕える騎士の一人、ベルーガ・フールカス!』

 

フールカス・・・・・・フールカスって確か・・・・・・

 

「フールカスは馬を司る家よ」

 

リアスがそう教えてくれた。

 

そうそう、それも習ったことある。

 

馬を司るってのが騎士っぽいな。

 

『僕はリアス・グレモリー様の騎士、木場祐斗です。どうぞ、よろしく』

 

『名高き聖魔剣の木場祐斗殿と戦う機会を主君からいただき、剣士冥利に尽きるばかり』

 

『こちらこそ、貴殿との一戦を楽しみだと思えます』

 

おおっ、不敵に返してるぜ!

 

女性達がまたキャーキャー言ってるよ!

 

『アザゼル総督、あの青白い炎に包まれた馬は?』

 

『「青ざめた馬(ペイル・ホース)」、地獄の最下層コキュートスに生息する高位の魔物ですな。死と破滅を呼ぶ馬とも言われています。乗りこなすのは容易ではなく、気に入らない者ならば主でさえ蹴り殺すとされているが・・・・・・。ベルーガ・フールカスは完全に乗りこなしていますね。流石は馬を司るフールカスと言ったところでしょうか?』

 

しっかり解説してるな、あの先生は!

 

しかも上手くない?

 

解説者向いてるよ、あんた!

 

審判が魔法陣を介してフィールドに現れ、両者の間に入った。

 

『第一試合、開始してください!』

 

その合図と共に二人は即座に動き出す!

 

木場は聖魔剣を一振り作り出して地を蹴った!

 

『噂以上の速さ! だが、私とアルトブラウも負けん!』

 

ヒヒィィィィィンッ!

 

青い馬が鳴き、それと同時に姿を消した!

 

『速いっ!』

 

俺でも映像越しでは時たま見失うくらいの速さだ。

 

だけどな、うちの騎士もそれくらいの速さはあるんだ!

 

かましたれ、木場!

 

木場のスピードが上がり、フールカスと同様に映像から姿を消す。

 

 

ギィン! ギィィン!!

 

 

剣と剣が衝突する音が響き、空中に火花が散る。

 

衝突の瞬間だけは皆も目で追えているようだけど、それ以外はおそらく見えていない。

 

ついに両者が鍔競り合い、その動きを止める。

 

『我がアルトブラウの脚を持ってさえも互角が良いところとは・・・・・恐るべし、リアス姫のナイト!』

 

『そちらこそ、馬とのコンビネーションが抜群ですね。

 馬を斬ろうにもランスが届き、あなたを屠ろうにも馬がそれを許さない。ならば、これならどうだろうか!』

 

そう言った木場の周囲には七つの剣が現れ宙に浮かぶ。

 

『これは・・・・・!』

 

あれはこっちの世界に来てからは京都の戦闘でしか使ってないからな。

 

バアル側に情報が行ってなくて当然だ。

 

宙を舞う七剣にフールカスが驚いていると馬の足元から大量の聖魔剣が咲いた!

 

『遠隔操作できる聖魔剣とは! だが!』

 

フールカスの声に合わせるように馬が空高く飛び出していく!

 

しかも、浮いてる!?

 

あの馬、空を駆けることが出きるのか!

 

『逃がさない!』

 

木場の七剣が下からフールカスを追いかけ、追撃を行う。

 

七つの剣が上空で縦横無尽に動き、変幻自在に攻撃していく!

 

しかし、フールカスがランスを振るい、馬が纏う青白い炎で七剣を捌いていく!

 

あれを防ぐのかよ!

 

本当にコンビネーションがいいよな!

 

そんな中、木場が聖魔剣を振りかざす!

 

『雷の聖魔剣よ!』

 

 

カッ!

 

 

天が光り、雷がフールカス目掛けて降り注ぐ!

 

しかし――――

 

『あまい!』

 

フールカスが馬の炎の鬣に手を入れて何かを取り出す。

 

取り出したのは二本目のランス!

 

フールカスは取り出した二本目のランスで、木場の雷を切り裂いた!

 

 

ドドドォォォオオオンッ!

 

 

真っ二つに裂かれた雷はそれぞれ別々の方向に飛んでいき、そのまま地面に落雷した。

 

『まだまだ!』

 

木場が手に握る聖魔剣をフールカス目掛けて投擲!

 

雷撃を防いで隙が出来たところを狙うつもりだ。

 

『その程度は対処できる!』

 

そう叫ぶとフールカスは雷撃を斬り裂いたランスを投げつけて飛んできた聖魔剣を弾き飛ばした。

 

そのままフールカスは地面に降り立ち、再び馬の鬣からもう一本のランスを引き抜いた。

 

・・・・・あの鬣、違う次元に繋がってるのか。

 

まだランスを持っているかもしれないな。

 

 

それにしても、相手も相当な実力者だ。

 

おそらく初見であろう木場の七剣を容易に捌いていくんだからな。

 

しかも、馬と連携してくるのが厄介極まりない、か・・・・・・。

 

流石はサイラオーグさんの眷属。

 

これはかなりの修行を積んでそうだ。

 

『次は私が貴殿に見せようか! 私とアウトブラウの技を!』

 

フルーカスが構え、馬が木場目掛けて駆ける。

 

それと同時に――――フールカスと馬が幾重にも姿を増やした!

 

その数は十を越えている!

 

木場は新たに聖魔剣を創造して構える。

 

ただの幻影の場合、今の木場なら気配を追って剣を振るえるが――――

 

『っ!』

 

木場が厳しい表情をしながら、剣先を鈍らせていた。

 

まさか、あの幻影は本物と同じ気配を持っているのか!?

 

数もある以上、七剣でも対応は難しい!

 

マズい!

 

複数のフールカスが縦横無尽に高速で動き回り、木場に攻撃を加えていく。

 

木場は聖魔剣と七剣で防いでいくが、四方八方から飛んでくる攻撃に僅ながらもダメージを受けていく!

 

『くっ! 刃の雨!』

 

木場のその声と同時に七剣が細分化。

 

上空から雨のように木場の周囲に降り注いだ!

 

あれはジークフリートとの戦闘で使ってた技だ!

 

あの時はかなりのダメージを与えていたみたいだが―――――

 

『よもや、あのような技があったとは。一瞬でも判断が遅れていれば、やられていただろう』

 

フールカスは木場からかなり離れた場所でランスを構えていた。

 

どうやらうまく避けたようだ。

 

幻影を戻し再び一騎になるフールカス。

 

木場は軽く息を吐くと不敵に笑みを浮かべた。

 

『今のを避けられるとはね・・・・・。流石はサイラオーグ・バアルの騎士。・・・・・強い。簡単には勝たせてはくれないか』

 

頬を流れる血を拭うと木場はフールカスに聖魔剣を向けた。

 

『この勝負、いずれ僕の剣はあなたに届く。このままでもね。けど、そのためにはかなりの体力を消耗するでしょう』

 

『なるほど。確かに貴殿は私とアルトブラウを上回るだろう。今までの手合わせでそれが良く分かった。だが、私とてタダではやられん。我が主のために貴殿の手足を一本でも斬り落とし、体力を奪う!』

 

『その覚悟があるからこそ、あなたが怖い。覚悟を持った相手ほど怖いものはありませんから。――――だから、僕は聖魔剣とは別の可能性を見せましょう』

 

――――っ!

 

あれを出すのか。

 

いや、確かにこの状況を打開するにはあれがもってこいか。

 

木場の言う通り、相手のフールカスはかなりの覚悟を持って戦っている。

 

このままいけば木場はダメージを受けてしまうだろう。

 

木場は聖魔剣を消滅させて、手元に一振りの聖剣を創る。

 

そして――――

 

『―――禁手化(バランス・ブレイク)

 

その瞬間、木場が聖なるオーラに包まれていく。

 

地面から聖剣が生え、同時にドラゴンの兜を持つ甲冑騎士が創り出された。

 

現れた甲冑騎士達は地面に生えた聖剣を手に取り、木場を囲む。

 

甲冑騎士に囲まれる木場はまるで騎士団を仕切る団長のようだ。

 

それを見てフールカスは驚愕に包まれていた。

 

『・・・・バ、バカな!? 禁手化だと!? 貴殿の禁手化は双覇の聖魔剣のはず! 何故違う禁手化(バランス・ブレイク)となれる!?』

 

そう、木場の禁手は双覇の聖魔剣。

 

ただし、それは魔剣創造の禁手だ。

 

あいつには後天的に得たもう一つの能力がある。

 

『ま、まさか、聖剣創造の禁手化か・・・・!』

 

フールカスの漏らした言葉に木場は静かに頷いた。

 

聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)。聖剣創造の亜種の禁手です』

 

そう、これが木場の新しい可能性の一つだ。

 

木場の聖剣創造はコカビエル襲来の際に得たもの。

 

同胞の魂から聖剣使いの因子を譲り受け、聖剣を扱い、生み出す神器の能力も得たのさ。

 

それで、あの禁手だけど、ヒントは京都での戦いにあった。

 

英雄派のジャンヌ。

あいつは聖剣創造の持ち主で、亜種の禁手を使っていた。

 

それを見て木場は思い付いたんだ。

 

相談を受けた俺は木場の禁手発現に協力したもんだ。

 

聖魔剣ではなく、聖剣にした状態の木場に天武で相手したもんな。

 

・・・・・・何度か殺しかけてしまいそうになって、かなり焦ったけど。

 

うん、アーシアがいてくれて本当に良かった!

 

まぁ、その結果無事に至れたわけだし、良しとしよう!

 

木場の新能力の特徴は使い手と同じ速度と技量を龍騎士団に付与できること。

 

七剣と違って木場自身が持つ剣士としてのテクニックを発揮できるんだ。

 

まだ、完全に再現できているわけではないらしいが、伸びしろは十分にあるとのこと。

 

ただし、この状態では聖魔剣は創れないという。

 

『これに至るために自前の聖剣のみで本気のイッセー君と戦ったけど、何度も殺されかけたよ。そのおかげで二度目の禁手に至れたけど』

 

おまえがそうしろって言ったんだろうが!

 

でも、もう少し手加減すれば良かったと思ってます!

 

ゴメンね!

 

『そのお詫びの代わりにもう一つの可能性を実現させるための修行に付き合ってくれればいいかな』

 

「なんで俺の心の声を聞いてんだぁぁぁああ! エスパーか、おまえは!」

 

『酷いよイッセー君。僕は騎士だよ』

 

「つーか、こっちの声聞こえてるの!?」

 

『イヤホンマイクをしてるからね』

 

あ、そういやそうか。

 

いや、それじゃあ、心の声はどうやって読んだんだよ!?

 

まぁ、修行には付き合うよ。

 

そんなやり取りをしている中、別の映像風景では実況席の先生が面白そうな顔で顎に手をやっていた。

 

『本来、聖剣創造の禁手は聖剣を携えた甲冑騎士を複数創り出す聖輝の騎士団(ブレード・ナイトマス)と言うものだ。しかし、木場選手は独自アレンジをして生み出したのか。いやはや、相談を受けて可能とは答えたが本当に実現しちまうなんてな! しかも、龍騎士団ってイッセーの影響受け過ぎだろ!! 大きなお姉さんたちが喜ぶ展開だな!!』

 

嬉々としてそう実況する先生!

 

やめてくださいよ、気持ち悪い!

 

木場が騎士団を従えてフールカスの前に立つ。

 

聖魔剣ほどの攻撃力は無いが、騎士団の数は二十近くいる。

 

それの連撃が重なれば――――

 

『フールカス殿! いざ参ります!』

 

木場が騎士団と共にその場を駆け出し、フールカスに迫る!

 

『まだここで終わる訳にはいかん!』

 

対するフールカスも馬と共に前に飛び出した!

 

同時に複数の幻影を作り出す!

 

木場の騎士団とフールカスの幻影がぶつかる!

 

 

ギィィィィィンッ!!!!

 

 

鈍い金属音が響き渡り、お互いが生み出した幻影と騎士団は消滅――――。

 

 

『・・・・・フ、フフフフ、見事だ』

 

フールカスの甲冑が片口から腹部にかけて砕けて、傷口からは聖剣のダメージによる煙をあげていた。

 

制したのは木場だ。

 

フールカスがリタイヤの光に包まれて消えていく。

 

と、同時に審判が告げる。

 

『サイラオーグ・バアル選手の騎士、一名リタイヤです!』

 

 

 

 

 



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11話 小猫の願い

魔法陣から木場が帰還してくる。

 

「お疲れ、ナイスファイト」

 

「お疲れさまです、祐斗先輩」

 

戻ってきた木場とハイタッチを交わす俺と他のメンバー。

 

「木場さん、すぐに治療しますね」

 

「ありがとう、アーシアさん」

 

アーシアが木場のもとへと駆け寄り、傷を負った場所に手を当て、回復していく。

 

戻ってきたときに回復を受けられるのは俺達の強みでもあるよな。

 

治療を受けながら木場が真剣な顔で言う。

 

「やはり映像で見た時よりも実力は上がってたね。サイラオーグ・バアルだけでなく、彼の眷属も実力を上げているのは間違いないよ」

 

「主のサイラオーグさんがタンニーンのおっさんのところで修行してるくらいだしな。あの人は眷属からの信頼も厚そうだし、主が自分を磨こうとすれば眷属だって着いていくさ」

 

それは俺達も同じだけどな。

 

『初戦を制したのはグレモリーチーム! さぁ、次の試合はどうなるのでしょうか! 王はダイスを振ってください!』

 

実況の指示に従って再びダイスが振られる。

 

出目は――――リアスが6、サイラオーグさんが4。

 

合計は10!

 

今度は大きい数字だ!

 

『今度の合計数字は10! 両陣営、10までの選手を出せる事になります! 勿論、複数での選出もOKな数字です!』

 

作戦時間が始まり、次の試合に出すメンバーを決める。

 

さて、リアスはどうするつもりだろう?

 

俺や朱乃、王であるリアス自身は数が大きいからこの数字では単独になる。

 

木場はさっき出たから連続で出場出来ないルール上、無理か。

 

ま、今は休んどけよ。

 

また陣地が結界に覆われて外部から遮断される。

 

すると、リアスが口を開く。

 

「手堅くいきましょう。ロスヴァイセ。それとサポートに小猫。2人にお願いするわ」

 

「分かりました」

 

「・・・・・了解です」

 

ダブル戦車ときましたか!

 

戦車は駒価値5だから、二人でちょうど合計が10になる組み合わせだな。

 

二人とも気合いを入れて魔法陣の方の上に乗る。

 

さて、こちらは戦車の二人だが、あちらは何を出してくるか・・・・・・。

 

魔法陣が輝き、二人が転送されていった。

 

 

 

 

 

 

映像に映し出されたフィールドは薄暗い神殿らしき場所だった。

 

あちこちに巨大な柱が立っていて、奥には祭壇らしきものもある。

 

ディオドラの時にあったような神殿だ。

 

・・・・・・嫌な記憶を思い出させるな、このフィールド。

 

気になる相手だが、ライト・アーマーに帯剣と言う装備をした金髪の男と、背丈が三メートルはありそうな巨人。

 

『俺はサイラオーグさまの騎士の一人、リーバン・クロセル。こちらのデカいのは戦車のガンドマ・バラム。この二人でお相手する』

 

『・・・・・・』

 

騎士のリーバン・クロセルが自己紹介をしてくれるが、戦車のガンドラ・バラムは無言のまま。

 

それにしてもデカいな。

 

背丈もそうだけど、全体的にガタイが良い。

 

特に前腕が極太で、小猫ちゃんの胴体よりも大きいんじゃないだろうか?

 

「バラムは怪力が家の特色だったっけ?」

 

「そうだね。記録映像でもガンドマ・バラムの怪力は凄まじかったね」

 

俺の問いに木場が答える。

 

それからもう一つ。

 

俺の記憶が正しければクロセル家は元七十二柱で断絶していたはずだ。

 

ということは、あのリーバン・クロセルは断絶したクロセル家の末裔ってことになるな。

 

現冥界の政府は断絶した末裔が生き残ってないか捜索もしており、人間界に住んでいる悪魔を保護をしている。

 

人間界に住む上級悪魔の仕事の一つがそれで、リアスも過去に何度か保護したことがあると言っていた。

 

『第二試合、開始してください!』

 

審判の合図で試合が開始される。

 

「・・・・相手が相手なので初っぱなから本気で行きます」

 

小猫ちゃんは全身に闘気を纏わせ、猫耳と尻尾を出し、尻尾が二つに分かれた。

 

これは小猫ちゃんの新技で『猫又モードレベル2』というもの。

 

仙術を使って全身に闘気を纏わせる事で一時的にパワーを爆発させる事が出来る。

 

身体能力も上昇するんだ。

 

周囲の気を取り込む訳じゃないから錬環勁気功の奥義とは違うもの。

 

小猫ちゃんに教えてくれと言われたんだけど、あれは体に相当な負荷を強いるから今の小猫ちゃんにはまだ早いんだよね。

 

小猫ちゃんは素早く飛び出してバラムの顔面に一撃!

 

 

ドゴンッ!

 

 

豪快な音が鳴るが、バラムは全く怯まず、すかさず反撃に出る。

 

その巨大な腕から繰り出されるスイングはその風圧だけで、周囲に立っている柱を壊してしまう!

 

いくら戦車で頑丈な小猫ちゃんでもまともに受ければアウトだ!

 

小猫ちゃんはそれを身軽にかわして、バラムの体に次々と鋭いパンチを当てていく。

 

気を練った拳を当ててるんだ。

 

体が大きい分、効きにくいがいずれは内部の気を乱し、動けなくすることが出来る。

 

それまで、小猫ちゃんがバラムの拳をくらわなければいけるはずだ。

 

『ぬんっ!』

 

バラムが豪快に腕を振るう。

 

再びブゥゥゥゥンと空気を震わせながら、小猫ちゃんを狙う。

 

だけど、その大振りが小猫ちゃんに当たるわけもなく、小猫ちゃんは素早く避けた。

 

すかさず、その後方からロスヴァイセさんが魔法攻撃のフルバーストを放ち、その全てがバラムを襲う!

 

 

ドドドドドドドドンッ!!!

 

 

あらゆる属性の魔法砲撃で砂塵が舞うが――――その中からぬぅっとバラムが姿を現した。

 

体から煙が上がっているが、これといったダメージは受けていないようだ。

 

「・・・・・魔法に対する防御も高い。何だか最近、この手の相手に出くわしてばかりですね! それなら!」

 

ロスヴァイセさんは京都で相対したヘラクレスのことを言ってるんだろうな。

 

そこでロスヴァイセさんは召喚用の魔法陣を展開し、リーシャから貰ったという魔装銃を取り出すが――――

 

 

ズゥゥゥゥッ!

 

 

ロスヴァイセさんと周囲が突然ブレ出す。

 

何かに押し潰されたかの様に地面が凹み、ロスヴァイセさんが膝を付く!

 

『隙アリだ、お姉さん』

 

バアル側の騎士リーバン・クロセルが目を光らせながら言う。

 

そうか、あいつはそんな能力も持ってた!

 

映像で見た記憶がある!

 

『・・・・・重力操作の能力!!』

 

ロスヴァイセさんが足下に魔法陣を展開させようとする。

 

クロセルは手元に魔方陣を展開させ、ロスヴァイセさんの足を凍らせた!

 

『そう言えば、魔法剣士でしたね!』

 

『俺はクロセル家と魔法使い、人間の血も宿す混血でね! ついでに剣術も得意だ! 重力の方は神器、魔眼の生む枷(グラビティ・ジェイル)の能力さ!』

 

「彼の神器は視界に映した場所に重力を発生させるもの! 彼があなたから視線を外さない限りは能力は続くわ! 気を付けて!」

 

リアスがイヤホンマイクを通してロスヴァイセさんに告げる。

 

ギャスパーの時間停止能力には劣るが、相手の動きを止めるのは厄介なものだ。

 

『さぁ、あなたにはここでリタイヤしてもらう!』

 

クロセルが剣を抜き放ち、ロスヴァイセさんに迫る!

 

重力で動けないロスヴァイセさんは避けられない!

 

『・・・・・いくら重力で動けないとしても!』

 

ロスヴァイセさんは魔法陣を展開。

 

すると、手元にあった魔装銃が消えた。

 

 

なんだ?

 

 

怪訝に思うクロセルと俺達だが、次の瞬間―――――

 

 

ドォォオオオオオオオオオンッ!!!

 

 

上からクロセル目掛けて、一筋の光が降り注いだ!

 

クロセルは咄嗟に回避したのでダメージは与えられなかったが、クロセルの視界から逃れたロスヴァイセさんは重力から抜け出すことができた。

 

『上からの攻撃!? っ! あれは――――』

 

クロセルが上を見上げると一丁の狙撃銃がロスヴァイセさんの手元に落下してきていた。

 

おいおい・・・・・もしかして、これって・・・・・・。

 

『ええ、あなたが話している間に魔装銃をチャージしておきました。あとは魔法を使って遠隔操作で狙撃するだけ。外したのは勿体無いですが、なんとか視界から抜け出せましたね』

 

遠隔操作での狙撃か!

 

木場みたいなことするな!

 

しかも、魔装銃を消すことで相手の注意を反らして対応を遅らせた。

 

流石は北欧主神のお付きを任されるだけはある!

 

 

と、ここで小猫ちゃんが俺に通信を入れてきた。

 

『・・・・イッセー先輩、後で膝に乗っても良いですか?』

 

え、えーと、小猫ちゃん?

 

巨人と戦ってる最中に何を言ってるのかな?

 

『・・・・・イッセー先輩が後で膝枕もしてくれたらもっと強くなれます』

 

なんか要求が増えてない!?

 

あれか!

 

デートするって言ったら朱乃がパワーアップした時と同じか!

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

うわー、女性陣が無言でこっち見てくる!?

 

半目だよ!

 

多分、応援してくれている美羽達も同じような感じになっているだろう!

 

だ、だが、これは答えないといけない!

 

俺は一旦息を吐いて返答した。

 

「もちろん! 撫で撫でもつける!」

 

すると――――

 

『・・・・・わかりました』

 

小猫ちゃんがそう答えると同時に目がキラーンと光った!

 

しかも、闘気が膨れ上がってる!?

 

小猫ちゃんはそれまでの動きとは比べ物にならない速さでバラムの懐に入り、太い足を掴んだ。

 

そして、そのまま持ち上げて・・・・・・・って、えええええええっ!?

 

あの小さな体であの巨人を持ち上げちゃったよ!?

 

確かに小猫ちゃんは力持ちだけど、ものすごい光景だ!

 

 

ブウゥゥゥゥゥウン!!

 

 

しかも、バラムをグルグル回しだした!?

 

ちょ、バワーアップしすぎだろぉおおおお!!

 

どこにこんなパワーがあった!?

 

「これは・・・・・イッセーパワーね」

 

「ええ。イッセー君への想いが強かったのでしょう。よほど甘えたかったのですわ」

 

リアスと朱乃が何か考察してるんですが・・・・・・。

 

小猫ちゃんはバラムをクロセルの方へと放り投げる!

 

クロセルは目を見開きながら、回避するが、その隙をロスヴァイセさんは見逃さない。

 

『小猫さん! 攻撃は通っていますか!?』

 

『・・・・・はい。もう魔法に対する防御力が展開できないほど、気を乱しました』

 

『了解です! フルバースト、二人ともくらいなさい!』

 

ロスヴァイセさんがクロセルとバラムを囲むように魔法陣を幾重にも展開!

 

 

ドドドドドドオォォォォォォオオオオンッ!!!

 

 

クロセルとバラムに降り注ぐ、先程放ったものよりも強烈な魔法フルバースト!

 

その威力はフィールドを壊さんばかりの威力だ!

 

攻撃が止み、巻き起こった塵芥が巻き起こる。

 

小猫ちゃんがロスヴァイセさんに尋ねた。

 

『どうですか?』

 

『手応えはありました。二人ともリタイヤするだけのダメージは負ったと思います』

 

二人がそんな会話をしていると、舞っていた塵芥が静まる

 

そこにはクロセルが横たわっていたが―――。

 

『・・・・・バラムがいない!?』

 

驚愕する二人。

 

その瞬間、瀕死のクロセルが再び眼を光らせ、ロスヴァイセさんと小猫ちゃんを重力で捕らえる。

 

そこへ血だらけで満身創痍のガンドマ・バラムが―――――。

 

『ぬぅぅぅぅおおおおおおおおおおおっ!!』

 

最後の力を振り絞った巨大な拳が小猫に突き刺さった。

 

小猫ちゃんの小さな体が宙を舞って、そのまま地面へと叩きつけられる。

 

「小猫!!」

 

俺の隣でリアスが悲鳴をあげる。

 

リタイヤの光に包まれるクロセル、バラム、そして小猫ちゃん。

 

ロスヴァイセさんは横たわる小猫ちゃんを抱きかかえた。

 

『小猫さん・・・・・!』

 

『良かった。ロスヴァイセさんが残っていればグレモリーはまだ戦えます・・・・・』

 

『・・・・・ゴメンなさい、小猫さん。私が最後に油断しなければ・・・・・!』

 

『・・・・・謝らないでください、ロスヴァイセさん。嬉しいです。私、役に立てました・・・・・二人も倒せたんですから。・・・・・リアス部長、イッセー先輩・・・・・・勝って――――』

 

それだけ言い残し、小猫ちゃんは転送されていった。

 

ああ・・・・・分かってるよ、小猫ちゃん。

 

後は俺達に任せてくれ。

 

 

『サイラオーグ・バアル選手の騎士、戦車各一名。リアス・グレモリー選手の戦車一名、リタイヤです』

 

 

 

 

 

 

 



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12話 鬼畜イッセー!?

『第二試合を終えて、バアル側は眷属が三名、グレモリーは一名リタイヤ。グレモリー優勢ですが、まだ分かりません! ゲームは始まったばかりだからです!』

 

実況がそう煽る。

 

小猫ちゃんを取られたか・・・・・・。

 

最後の最後でバラムの根性にやられたな。

 

「冷静だね。小猫ちゃんがやられても感情を表に出さなかった」

 

木場が言う。

 

俺は軽く息を吐いてから答えた。

 

「まぁ、俺の中にあるのは『小猫ちゃん、よく戦った』って感情かな。確かに最後は油断したかもしれないけど、それまでは良い戦いぶりだったしな」

 

「仲間がやられて悔しくはないのかい?」

 

「そりゃ悔しいさ。でもな、そういうのは溜めて溜めて爆発させる方が効果的だぜ?」

 

その一言を聞いて木場は小さく笑った。

 

「なるほど、それもその通りだ」

 

そんな会話をしていると王がダイスを振った。

 

出た目は―――――リアスが3でサイラオーグさんが5。

 

合計数字は8。

 

俺でも出られる数字だな。

 

そして、作戦タイムに入るときだった。

 

サイラオーグさんが審判に告げた。

 

「こちらは僧侶のコリアナ・アンドレアルフスを出す」

 

なっ!?

 

試合開始前に出す選手の宣言したぞ!?

 

俺達や観客、実況の方までがそれに動揺していた。

 

モニターに僧侶の女性が映し出された。

 

ウェーブのかかった金髪ロングの美女!

 

デキルOLのようなビシッとしたスーツを着たグラマーなお姉さんだ!

 

彼女がコリアナという人なんだが・・・・・・なぜ、彼女なんだ?

 

しかも、僧侶なら3だから余りが5もあるぞ?

 

『こ、これは出場宣言なのでしょうか! サイラオーグ選手、その理由は?』

 

実況が訊く。

 

うん、その理由は是非とも知りたい。

 

すると、サイラオーグさんの視線が俺へと向けられる。

 

・・・・・え?

 

お、俺ですか?

 

「彼女は兵藤一誠の動きを封じる術を持っているとしたら、兵藤一誠はどう応えるだろうか?」

 

お、俺の動きを封じる術だと!?

 

「イッセーの動きを封じるなんて・・・・・そんなことが可能なのかしら?」

 

リアスも怪訝な表情で呟く。

 

自分で言うのもなんだけど、タイマンで俺の動きを封じるのはかなり難易度が高いと思うんだ。

 

映像でも彼女の動きは見たけど、俺を倒せるほどの火力もなかったと思うし・・・・・・。

 

ってなると、何か新しい術でも開発したとか?

 

赤龍帝だからドラゴンに対して有効な技とか?

 

解説のアザゼル先生が興味深そうに言った。

 

『うーむ、イッセーを封じる術か・・・・・。それは是非とも見せてもらいたいものだな』

 

『兵藤一誠選手といえば、その実力は既に高く評価されていますね。それにおっぱいドラゴンとしても冥界の子供達から絶大な人気を誇っていますが・・・・・・。そういえば、今回は女性の胸をつつくのでしょうか?』

 

おいぃぃぃぃいい!!

 

記者会見の時の話題を出すな、実況!

 

またいらん騒ぎが起きるでしょうが!

 

 

すると―――――

 

 

『あー、もうつついたようですな。リアスの乳首を押したとか』

 

「ちょっと待てぇぇぇええええ!!!」

 

俺の叫びが会場に響いた!

 

隣にいた木場が耳をやられたようだが、こっちはそれどころじゃない!

 

俺は実況席の先生に指を突きつける。

 

「な、ななな、なんで知ってるですか!?」

 

『この間、ファーブニルの宝玉を通してドライグから色々泣きつかれてな。ひたすら愚痴に付き合ったのさ。その時に聞いた』

 

ドライグさん!?

 

あんた、何してくれてるんだ!

 

『・・・・・す、すまん。俺も誰かに心の叫びを聞いてもらいたかったのだが・・・・・奴しかいなくてな』

 

ドライグの泣きそうな声を聞いて先生が苦笑する。

 

『ってか、おまえが乳をつついて可能性の扉を開いたこともそうだが・・・・・あれだ、イグニスに弄られることの方が多かったかな。毎度毎度、歴代の女共の乳を揉んで神器の中をピンク色にしてくるってよ。それをなんとかしたいからって、神器に詳しい俺を頼ってきたんだよ』

 

また、イグニスかよ!!

 

イグニスもそろそろ、歴代の女性で遊ぶの止めてくれます!?

 

ドライグが、ヤバいことになりそうなんですけど!

 

『えー。でも、イッセーがおっぱいつついた時の方がよっぽど衝撃受けてたわよ?』

 

うん、それについては謝るよ!

 

本当にゴメンね!

 

実況が先生に訊く。

 

『今の話だと兵藤一誠選手は既にパワーアップを果たしているということでしょうか?』

 

『いや、パワーアップはしてないんだが、新しい可能性を見いだしたみたいでな。今後の修行次第では大幅なパワーアップが期待できるかもしれん』

 

『なるほど! つまり、特撮同様ということになるわけですね!』

 

『リアスも真に『スイッチ姫』として覚醒したようだ。設定は特撮を越えて現実のものになったというわけだ!』

 

「「「「おおおおおおおおおおっ!!!」」」」

 

先生のコメントに会場が沸いた!

 

やめて!

 

それ以上言わないで!

 

ほら、リアスも応援席のアリスも顔真っ赤だから!

 

涙目になってるから!

 

ってか、レイナ!

 

その人を止めてくれ!

 

 

『スイッチ姫ーーーー!』

 

『おっぱいドラゴーーーーン!!』

 

 

観客席からそんな声が聞こえてくる!

 

ドライグ!

 

なんつーことしてくれたんだ!

 

あの人に言うからこんなことになっちまったんだぞ!

 

被害が拡大してるじゃないか!

 

『スマン・・・・・。あの時の俺はどうかしていたんだ』

 

全くだ!

 

どうかしてるぜ!

 

ま、まぁ、俺にも原因はあるみたいだけど・・・・・・。

 

とにかく、イグニスはこれ以上するのは止めてくれ!

 

『それじゃあ、前に言ってた実験に付き合ってくれる?』

 

ぐっ・・・・・。

 

イグニスが言ってた実験・・・・・・成功したら被害が広がりそうな気がするが・・・・・・。

 

背に腹は変えられん!

 

分かった!

 

分かったから、もうドライグを苛めないで!

 

実況のテンション高めの声が響く。

 

『さぁ、兵藤一誠選手はサイラオーグ選手のこの挑戦を受けるのか!』

 

そうそう、それだよ。

 

まさかの暴露劇に頭を持っていかれてたけど、目の前の問題はそれだよな。

 

俺を封じる術。

 

どんなものか非常に気になる。

 

「受けてたちます! 次の試合、俺が出ようじゃないですか!」

 

俺の宣言に会場全体のテンションが上がっていく。

 

リアスも額に手を当てて、困り顔をしていたが頷いてくれた。

 

「・・・・・はぁ、仕方ないわね。罠だとは思うのだけれど、私もあなたを封じる術とやらには興味があるわ。でも、気を付けてちょうだいね?」

 

「了解!」

 

俺はリアスに軽く敬礼して転移魔法陣に向かう。

 

『おっぱいドラゴンが戦うようです!』

 

実況がそう叫ぶ。

 

すると―――――

 

『おっぱい! おっぱい! おっぱい!』

 

観客席から子供達の声援が聞こえてくる。

 

『見てください! 子供達のあの笑顔! 冥界のヒーロー! おっぱいドラゴンの登場に子供達が大興奮しております!』

 

モニターに映る子供達は皆笑顔で俺の名前を一生懸命呼んでいた。

 

俺は手を振って子供達に応える。

 

よっしゃ!

 

俺の初ゲーム、気合い入れるぜ!

 

 

 

 

 

 

転移された後、俺がいたのはだだっ広い花畑だった。

 

色鮮やかな花が一面に咲き誇り、様々な花の香りがする。

 

先程までと違ってバトルフィールドとは思えない場所だ。

 

俺の前方には相手の僧侶、コリアナさん。

 

魔力全般に長けていたんだよな。

 

さてさて、どう出てくるか・・・・・・・。

 

俺の司会に審判が入ってくる。

 

『第三試合、開始してください!』

 

審判の合図で試合が始まる!

 

それと同時に相手は魔力による攻撃を放ってくる。

 

投げ槍のような形状の氷の魔力を幾重にも放ってきた。

 

俺は体捌きでそれらを全て避けていく。

 

「この程度は余裕のようね」

 

そう言うと更に攻撃を激しいものにしてくる。

 

氷の槍が正面だけでなく、上からも俺目掛けて降ってきた。

 

「よっと! ほい!」

 

多少数が増えたところで問題はない。

 

普段はこれより激しいもので修行してるからな!

 

ティアと美羽の魔法攻撃とか、これの比じゃないし・・・・・・。

 

特にティアが本気だしたらマジでヤバイんだよね。

 

余裕で避けていく俺を見てコリアナさんは息を吐いて攻撃の手を止める。

 

怪訝に思った俺は彼女に尋ねる。

 

「もう終わりですか?」

 

「ええ。これだけ撃っても掠りもしないんですもの。これ以上は無駄ね。・・・・・だから、早速だけど奥の手を出すことにするわ」

 

奥の手・・・・・。

 

俺の動きを封じるという術を披露してくれるのか。

 

どんな技が飛び出してくるのか・・・・・・・。

 

俺が警戒を強めていくと―――――

 

 

コリアナさんが服のボタンに手をかけ始めた。

 

おいおいおい・・・・・・・

 

これって、まさかーーーーー

 

「ふふふ・・・・・」

 

コリアナさんは意味深な笑みを浮かべると、上着を脱ぎ、その手をスカートへと持っていった。

 

 

な、なななな・・・・・・ま、マジでかぁぁぁぁぁあああ!!!

 

 

この人、試合中に服脱ぎ始めたよ!

 

ああっ!

 

スカートが花畑へと落ちていく!

 

白くてキレイな生足が!

 

お姉さんの生足が俺の視界にぃぃぃいいいい!!!

 

『おおっと! バアルチームのコリアナ・アンドレアルフス選手が突然脱ぎ始めました! 観客席の男性全員が無言でガン見している状態です! アザゼル総督! これはどういうことなのでしょうか!』

 

『・・・・・・・』

 

先生もガン見じゃねぇか!

 

でも、それは仕方ないよね! 

 

俺だってガン見だもん!

 

「どう? 今の私を攻撃できるかしら?」

 

コリアナさんがブラウスに手をやりながら聞いてきた。

 

『イッセー! 何をしているの! 攻撃のチャンスよ!』

 

イヤホンマイクからリアスの声。

 

確かに今は絶好のチャンスだ。

 

敵が手を止め服を脱いでいる。

 

無防備にも程がある。

 

でもな――――

 

「ゴメン。俺には・・・・・できない!」

 

『なんですって!?』

 

「だって・・・・・こんな・・・・・こんな素晴らしい光景を見ないわけにはいかないじゃないかぁぁああああ!!!」

 

心からの叫び!

 

目の前で美女が一枚一枚服を脱いでいく。

 

それを妨害できるだろうか?

 

否!

 

出きるわけがない!

 

先生が力説する。

 

『これがイッセーを封じる術とやらか! なんて恐ろしい技なんだ! 美女がストリップショーを繰り広げてくれる! 男ってのは服を取り払っていく女性に夢中になる生き物だ。確かにこれは動けない! つーか、イッセーじゃなくても殆どの男は戦闘不能になるぞ!』

 

ですよね!

 

全くもってその通りだよ!

 

これがバアル眷属の力か!

 

やはり侮れない!

 

『最低です』

 

『イッセー、あんた・・・・・・』

 

小猫ちゃんとアリスの声が聞こえたような気がした。

 

多分、実際に言ったんだろうなぁ・・・・・。

 

 

しかし、今は目の前のストリップに釘付けなんだ!

 

ありがとうございます!

 

俺は今、猛烈に感動してます!

 

涙が止まらねぇ!

 

 

コリアナさんのその美脚!

ブラジャーに包まれた豊満なバスト!

くびれた腰!

 

露になっていくその見事なお体!

 

残るはブラとパンツだけ!

 

エロい!

 

エロすぎる!

 

『ちなみに、このストリップショーですが、お子様の為に特殊加工を施して放送しますのでご了承ください』

 

なるほど。

 

確かにこれは会場やテレビの前のお子さまは見てはいけない。

 

 

ここから先は――――大人()の時間だ!

 

 

さぁ、ストリップショーもクライマックス。

 

その豊満なおっぱいを俺に見せてくれ!

 

と、俺がエロ視線でそれを期待していると――――コリアナさんはパンツの方に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・そっちかぁ・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

先程まで昂っていたものが急激に冷めた。

 

「はぁ・・・・・」

 

自然とため息を漏らす俺。

 

そんな俺を見てコリアナさんは怪訝な表情となる。

 

「どうかしたかしら?」

 

ダメだ・・・・・この人、気づいてないや。

 

確かにストリップショーという手は俺を止めるのに効果抜群だった。

 

そりゃあもう、ここまではガン見だったさ。

 

脳内メモリーに焼き付けてきたさ。

 

だけど――――

 

「コリアナさん、悪いけど俺はブラジャーからのパンツ派なんだ」

 

「え?」

 

クソッ・・・・・・まだ分からないのかよ!

 

俺はギリッと奥歯を噛みしめ、コリアナさんに指を突きつける!

 

「いいか! 確かにストリップショーは素晴らしい! だけどな! 脱ぐときには男性が何を期待しているのか、どこに視線を向かわせているのかを見なきゃいけない! あなたはそんな基本的なことが出来ていないんだ!」

 

「っ!?」

 

驚愕の表情を浮かべるコリアナさん。

 

やはり分かっていなかったようだな。

 

家に住む女性陣は違う!

 

俺の思考を把握し、その時の俺がどうしてほしいかを的確に当ててくる!

 

こんな・・・・・こんな最後に興奮が冷めてしまうようなことはしない!

 

『ええ、全くだわ。最後の最後に重大なミスをおかすなんてストリッパーとしては三流よ』

 

その意見には同意するぜ、イグニス。

 

ま、俺がこうしてハッキリ言ってしまうのは普段のレベルが高いからかもしれないけど。

 

『それもあるかもしれないわ。・・・・・さて、興奮が冷めてしまったところで、彼女にはお仕置きが必要ね』

 

お仕置き・・・・・?

 

すいません、どういうこと?

 

俺はもう手刀でも軽くくらわせて気絶させるつもりなんだけど。

 

『ダメよ。あなたはそれで良くても私が納得出来ないの。私の怒りの分まで彼女にお仕置きしてちょうだい』

 

・・・・・・ちなみに訊くけど、どうするの?

 

『それはね―――――』

 

イグニスがお仕置き内容を伝えて―――――えっ!?

 

その内容を聞いて俺は耳を疑った。

 

ちょ、それマジで言ってんのか!?

 

『当然よ』

 

流石にそれはマズいって!

 

色々終わるだろ!

 

特に俺への評価とか酷くなりそうなんだけど!?

 

『大丈夫よ。後で活躍すればいいから』

 

適当か!

 

『ドライグがどうなってもしらないわよ?』

 

人質!?

 

ドライグを人質にしようってのか!

 

なんて駄女神なんだ!

 

『あ、相棒ぉおおおおお!! 俺を見捨てないでくれぇぇえええええ!!』

 

うおっ!?

 

ドライグが泣いてる!

 

いいのか!?

 

やったらやったで後々後悔するぞ、おまえも!

 

『さぁ、早くなさい。彼女に私をガッカリさせたお仕置きを!』

 

そんなにしてほしいのかよ!

 

クソッタレ!

 

やれば良いんだろ、やれば!

 

『あと、しっかりセリフも忘れずにね』

 

ぐっ・・・・・!

 

こ、この駄女神はぁぁぁぁぁあああ!!!

 

 

俺はコリアナさんと視線を再び合わせて一度深呼吸をした。

 

こ、こうなったらやるしかないのか!

 

瞬時に彼女の背後に回り込む。

 

「えっ?」

 

コリアナさんからしたら俺が消えたように見えたのだろう。

 

俺は彼女の手をつかみ引き寄せる。

 

そして、耳元で囁いた。

 

 

 

「君にはお仕置きが必要だな」

 

 

 

彼女の耳たぶを噛み、彼女の体内を巡る気の流れを変えた。

 

「っ~~~~~!!」

 

声にならない嬌声を上げ、ビクンッと体を震わせて崩れ落ちてしまう。

 

錬環勁気功は普段の俺が使っているように体内で気を練ったり、周囲から取り込んだりして身体能力を上げたらや、感覚を引き上げたりできる。

 

 

・・・・・・が、実はエロいことにも使えてだな。

 

 

女性の感覚を一気に引き上げて・・・・・・要するに絶頂を与えることが出来る。

 

コリアナさんの表情は恍惚として、今でも身体がビクンッと震えている状態だ。

 

 

・・・・・・師匠からやり方だけは教わっていたけど、流石にどうかと思ったので今まで使って来なかったのに・・・・・・(俺に使う度胸がなかったのも使わなかった一因だ)。

ま、まさか、こんな公衆の面前で使うことになるなんて・・・・・。

 

『うんうん、良い感じだったわ。やれば出来るじゃないの』

 

うるせぇ!

 

つーか、なんで俺がアレを使えること知ってたんだよ!

 

『私は原初の女神よ? それくらい知ってるわ』

 

さも当然のように言われた!

 

実況が言う。

 

『こ、これはどういうことでしょうか? コリアナ・アンドレアルフス選手が声を上げたと思うとその場に崩れ落ちてしまいました!』

 

『あ、ああ。イッセーのやつ、彼女をイカせやがった・・・・・・。意外に鬼畜だな』

 

『イッセー君・・・・・・凄い』

 

やめて!

 

それ以上言わないで!

 

俺だってやりたくてやったんじゃない!

 

無理矢理やらされたんだ!

 

ドライグを人質に取られて仕方がなかったんだ!

 

『コリアナ・アンドレアルフス選手を戦闘続行不可能と見なし、第三試合は兵藤一誠選手の勝利とします!』

 

審判の判定で俺は勝利を得た。

 

 

 

 

だが―――――

 

 

 

 

同時に大切な何かを失った気がした。

 

 

 

 

 

 



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13話 ギャスパーの意地!!

試合が終わり、陣地へ戻った俺だが・・・・・・。

 

「「「・・・・・・・」」」

 

迎えてくれたのは皆のなんとも言えない表情だった。

 

うん、分かってたよ。

 

自分でも酷い試合だと思ってる。

 

特に最後なんか・・・・・・・。

 

『スマン、相棒・・・・・・。俺のために、こんな・・・・・』

 

き、気にするなドライグ。

 

おまえは俺の相棒なんだ。

 

相棒を助けるためならこのくらい・・・・・・・。

 

イグニスが楽しそうな声で言った。

 

『乳龍帝から鬼畜龍帝になっちゃったわね♪』

 

あんたがやらせたんだろうがぁぁぁぁぁあああ!!!

 

なに、他人事みたいに言ってるの!?

 

さらりとドライグを人質にとりやがって、この駄女神!

 

つーか、天龍を人質ってどんだけ!?

 

『私からすればドライグも子供同然よ』

 

『お、俺が子供同然・・・・・』

 

イグニスの言葉にショックを受けるドライグ。

 

地上最強と呼ばれた天龍が子供扱いだもんな・・・・・・。

 

異世界の女神半端ねぇ・・・・・。

 

「イッセー君・・・・まさか、あんなことをするなんてね。一応、子供達のヒーローなんだから・・・・・」

 

木場がため息を吐きながら言った。

 

そんな目で見ないで!

 

俺だって公衆の面前であんなことしたくなかった!

 

「違うんだ! あれはイグニスがやれって! ドライグを人質にしたんだ!」

 

俺はもっと簡単に終わらせようとしたんだよ!?

 

コリアナさんを気絶させて終わらせようかなって考えてたんだよ!?

 

モニターには実況席が映し出され、先生が顎に手を当てて唸っていた。

 

『うーむ、おそらくイッセーは彼女の気を操作して感覚を一気に引き上げたんだろうが・・・・・これはこれで恐ろしい技だな。触れるだけで女性はイカされる。そうなれば戦闘不能になるのは避けられないからな』

 

『となると、今の技は今後のレーティングゲームでの使用は制限されるでしょうね。レーティングゲームに出場する女性悪魔は少なくありませんから、下手をするとゲームに参加しない方も現れるかもしれません』

 

先生のコメントに皇帝がそう返す。

 

お願いだからそんな真面目に返さないでください。

出来ればスルーを希望します・・・・・。

 

ってか、もう使いませんよ!

 

『えー、折角良い技なのにー。今度、美羽ちゃん達にもやってみましょうよ』

 

うるさいよ!

 

あんたは少し黙ってくれ!

 

美羽達を巻き込むな!

 

 

 

 

 

 

次のダイスシュートが始まる。

 

出た目は――――リアスが3、サイラオーグさんが5。

 

また8か。

 

俺はさっきでたから、今回は無理だ。

 

となると、誰かを組み合わせて出すのが良いだろう。

 

リアスが席に戻り、次の試合に出すメンバー決める。

 

すると――――

 

「よし、次は私が出よう」

 

ゼノヴィアが前に出た。

 

騎士であるゼノウィアは3だから、出場は可能だ。

 

第四試合、ゲームは中盤戦に差し掛かろうとしている。

 

今くらいのタイミングならエクス・デュランダルの力を晒しても良い頃だろう。

 

「ええ、そうね。ゼノヴィアに任せようかしら。となると、後は誰と組んでもらうかなのだけれど・・・・・」

 

ゼノヴィアが出るとしたら数字があと5も余ってる。

 

「ここは祐斗かロスヴァイセが適任かしら?」

 

確かにパワータイプのゼノヴィアとテクニックタイプの木場が組めば戦術的にかなり有効だろう。

 

木場が前衛に出て相手を撹乱、そんでもってゼノヴィアが後ろからデュランダル砲で砲撃しても良いわけだし。

 

ロスヴァイセさんと組んだ場合はロスヴァイセさんの魔法で援護しつつ、ゼノヴィアが斬り込める。

 

しかし、ここで恐る恐る挙手した者がいた。

 

ギャスパーだ。

 

「・・・・・ぼ、僕が行きます。ゆ、祐斗先輩やロスヴァイセさん達は強いですから、後のために控えておいた方が良いかなって・・・・・そ、それに」

 

ギャスパーはゴクリと唾を飲み込んで言った。

 

「ぼ、僕はこ、小猫ちゃんの仇を討ちたいですぅ!」

 

すごい覚悟だ。

 

あのギャスパーがこんなことを言うなんてな・・・・・・。

 

俺はフッと笑ってギャスパーの頭をワシャワシャと撫でてやる。

 

「よし! 行ってこい! リアスもOKだろ?」

 

「もちろんよ。ギャスパー、ゼノヴィアをサポートしてくれるかしら? あなたの邪眼やヴァンパイアの能力でゼノヴィアをサポートして欲しいの」

 

「は、はいっ!」

 

リアスに言われて気合いを入れるギャスパー。

 

震えているが瞳の奥には強いものを感じられる!

 

こいつも男になってきたじゃないか!

 

「頼りにしているぞ、ギャスパー」

 

「は、はい! ゼノヴィア先輩!」

 

こうしてゼノヴィアとギャスパーのタッグが誕生した。

 

 

 

 

 

 

二人が到着したバトルフィールドは岩がゴツゴツした荒れ地で、足場の悪い場所だった。

 

二人の眼前にひょろ長い体格の男と、不気味なデザインの杖を携えた小柄な美少女・・・・・のような美少年なんだよな。

 

うーむ、こうしてみると男の娘対決のように見えてしまうのは俺だけだろうか?

 

『グレモリーチームは伝説の聖剣デュランダルを持つ騎士ゼノヴィア選手、一部で人気の僧侶な男の娘、ギャスパー選手です!』

 

「「「「うおおおおっ! ギャーくぅぅぅぅんっ!」」」」

 

実況の言う通り、観客席の一部からギャスパーに応援を送る男性ファンが!

 

す、スゴい人気だな・・・・・。

 

学園でも男子からの人気はあるけど、冥界でも変わらないのな。

 

ゼノヴィアは男性よりも女性からの声援が多いな。

 

ボーイッシュで豪快なところが受けているのかもね。

 

『対するバアルチームは、両者共に断絶した御家の末裔と言うから驚きです! 戦車のラードラ・ブネ選手、僧侶のミスティータ・サブノック選手はそれぞれ断絶した元七十二柱のブネ家とサブノック家の末裔です! アザゼル総督、バアルチームには複数の断絶した家の末裔が所属しておりますが・・・・・』

 

『能力さえあれば、どんな身分の者でも引き入れる。それがサイラオーグ・バアルの考えですからな。おそらくそれに呼応して彼の元に集まったのでしょう。断絶した家の末裔は現悪魔政府から保護の対象にされていると同時に、一部の上役から厄介払いと蔑まれているからね。他の血と交じってまで生き残る家を無かった事にしたい純血重視の悪魔は上に行けば大勢いますからな』

 

『ハハハハ、全くその通りです』

 

先生の皮肉げなコメントに皇帝べリアルが笑って返す。

 

その解説を聞き、バアル側の戦車ラードラと僧侶ミスティータが言う。

 

『我が主サイラオーグ様は人間と交じってまで生き長らえた我らの一族を迎え入れてくれたのだ』

 

『サイラオーグ様の夢は僕達の夢でもある。この勝負、負けるわけにはいかない』

 

バアル眷属の両者の目は使命感で燃えているようだ。

 

こいつは・・・・・・荒れるかもな。

 

『第四試合、開始してください!』

 

審判から開始が告げられ、両チームが素早く構える。

 

「ギャスパー、コウモリに変化して! ゼノヴィアはその後に攻撃!」

 

リアスが指示を出し、ギャスパーは無数のコウモリに変化してフィールド中に散らばり、ゼノヴィアは幾つものデュランダルの波動を放った。

 

バアル眷属はその攻撃を躱し、ミスティータが杖から炎を放つ。

 

確か、彼は魔力による攻撃を得意としていた。

 

『させません!』

 

コウモリとなって飛び回るギャスパーの赤い眼が炎を停止させ、ゼノヴィアがデュランダルの波動で掻き消す。

 

息の合ったコンビネーションだ。

 

『ラードラ! サイラオーグさまの指示が届いた! 僕は準備する!』

 

『了解だ!』

 

ミスティータが後方に下がって全身にオーラを迸らせる。

 

それを守る様に前に立つラードラ・ブネ。

 

壁にでもなるのかと思った時―――ラードラの体が盛り上がり始めた。

 

膨れ上がった肉体に尾と翼が生え、口元から牙が剥き出し、手の爪が鋭くなっていく!

 

 

ギャオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 

咆哮をあげるのは黒いドラゴン!

 

あのひょろ長い人がゴツいドラゴンになっちまったのか!?

 

「ブネは悪魔でありながらドラゴンを司る一族・・・・・。けれど、変化出来るのは家の血を引く者でも限られた者、よりによって・・・・・っ!」

 

リアスが苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

グラシャラボラス戦の記録映像でも見なかった能力に俺達は度肝を抜かれた!

 

『ドラゴン変化は情報にも無かった! サイラオーグめ・・・・・その眷属を鍛え上げて覚醒させたか! やってくれるぜ、大王家次期当主様よ!」

 

先生もそうコメントしていた。

 

このゲームに向けてドラゴンに変化できるように修行したってことか!

 

ドラゴン化したラードラとゼノヴィア&ギャスパーの攻防が始まった!

 

デュランダルの波動+直接攻撃を繰り出すが、相手が堅牢でなかなかダメージを与えられない。

 

『ギャスパー、少し時間を稼いでくれ!』

 

ゼノヴィアがギャスパーにサポートを仰ぐ。

 

デュランダル砲を放つつもりなのだろう。

 

ゼノヴィアは後方に下がり、それをサポートするように無数のコウモリがラードラを包み込む。

 

『えい! えい!』

 

ラードラは口から火炎を吐くが、ギャスパーは散らばって避ける。

 

ゼノヴィアがエクス・デュランダルを天高く掲げてチャージし始めた時、ミスティータが叫んだ。

 

『そこだ! 聖剣よ! その力を閉じよ!』

 

ミスティータの杖が怪しく光り、ゼノヴィアの全身を捕らえた。

 

不気味な光に包まれるゼノヴィアの体に気味悪い紋様が浮かび上がる。

 

すると、ゼノヴィアの手元が震え、デュランダルを下に下ろしてしまう。

 

「これは・・・・・・! デュランダルが反応しない・・・・・・・!」

 

な、何だと!?

 

デュランダルが反応しないってどういうことだよ!?

 

ミスティータの方を見ると、当人はやつれた表情になっていた。

 

『僕は人間の血も引いていてね。神器、異能の棺(トリック・バニッシュ)。最近になってようやく使えるようになった呪い系神器だよ・・・・・』

 

こっちも最近能力を開花させたのか!

 

どうりで情報がなかったわけだ!

 

「ゼノヴィア! アスカロンは使えないのか!?」

 

俺がイヤホンマイクを通じて尋ねる。

 

アスカロンは基本的に貸しっぱなしだから今もゼノヴィアが持っている。

 

デュランダルがダメでもアスカロンなら・・・・・・。

 

ゼノヴィアは自身の固有空間からアスカロンを引き抜くが・・・・・・。

 

『ダメだ。アスカロンも反応してくれない』

 

マジかよ・・・・・!

 

『異能の棺か。自分の体力、精神力などを極限まで費やす事で、特定の相手の能力を一定時間完全に封じる神器。バアルの僧侶は自分の力と引き替えにゼノヴィア選手の聖剣を使う力を封じたようだ』

 

先生がそう解説する。

 

聖剣を扱う力そのものを封じられたのか!

 

なんて厄介なんだ!

 

『本当なら聖剣を封じた余波で、彼女自身にも聖剣のダメージを与えさせようと思ったんだけどね・・・・・。聖剣使いとしての才能は想像以上に濃かったようだ・・・・・。だが、これで彼女は戦えない」

 

ミスティータがふらつきながら苦笑していた。

 

ゼノヴィアは聖剣を使えなくなったが、自身が聖なる力でダメージを受けるほどの封印はされなかったのか。

 

この状況下ではそれだけが唯一の救いだな。

 

『ぬんっ!』

 

 

ドゴォォォォォォォン!!!

 

 

そこへラードラが容赦なく襲いかかる!

 

火を吐きながら、その太い手足でゼノヴィアを攻め立てる!

 

『ゼノヴィア先輩!』

 

逃げるゼノヴィアを無数のコウモリが包み込み、同時にラードラの視界を奪った。

 

コウモリが居なくなると、そこにいたはずのゼノヴィアの姿もいなくなっていて、今は何処かの岩影に移動していた。

 

ギャスパーが避難させたんだな!

 

ナイスだ、ギャスパー!

 

『すまない、助かったよギャスパー。だが、どうやら私は役立たずになりそうだ』

 

『そ、そんな事ないです! ゼノヴィア先輩の方が僕よりもずっと部長のお役に立ちますよ!』

 

ギャスパーはゼノヴィアを励まし、腰に着けていたポシェットから小瓶、チョーク等の道具を取り出した。

 

『ぼ、僕、この手の呪いを解く方法をいくつか知ってます!』

 

ギャスパーは手元に小さな魔方陣を展開させ、ゼノヴィアの体に当てる。

 

どうやらゼノヴィアにかかった神器の呪いを調べているようだ。

 

『逃がさん! 何処だ!』

 

ラードラが地響きを立てながらゼノヴィアとギャスパーを捜し回る。

 

見つかるのは時間の問題・・・・・・。

 

急いでくれ、ギャスパー!

 

「ギャスパー、ゼノヴィアの呪いは解けそう?」

 

『はい、手持ちの道具で何とかなりそうです』

 

ギャスパーはゼノヴィアを中心にチョークで魔法陣を描く。

 

見慣れない紋様を描き、最後に俺の血が入った小瓶を持った。

 

ギャスパー強化用アイテムとして予め持たせておいたやつだ。

 

『今描いた魔法陣にこのイッセー先輩の血を馴染ませる事で、呪いは解けると思います。ただ、解呪出来るまで少し時間が掛かりそうですけど・・・・・』

 

『待て、ギャスパー。その血を使えばおまえは――――』

 

あれを使ってしまえばギャスパーはパワーアップは出来ない。

 

持たせているのはあの一つだけ。

それはギャスパーの体力的に一回しか使えないのが理由なんだが・・・・・。

 

困惑するゼノヴィアにギャスパーは満面の笑みを見せた。

 

『ゼノヴィア先輩、僕、役目を見つけました。今の僕にしか出来ないことを』

 

『ギャスパー・・・・・?』

 

訝しげに感じているゼノヴィア。

 

ギャスパーが魔法陣に俺の血を振り掛けると、描かれた紋様が淡く輝く。

 

そして、ギャスパーは立ち上がり―――――岩影から飛び出していった!

 

あいつ、まさか!

 

『ぼ、僕が時間を稼ぎます! 呪いが解けたら、そのままデュランダルをチャージしてください!』

 

血も飲まずに単身で挑むつもりか!

 

「駄目だ! 戻れ、ギャスパー!!」

 

「無謀よ! ギャスパー! 隠れなさい!」

 

俺とリアスが叫ぶが、ギャスパーは逃げる素振りを見せなかった。

 

その表情は決意に満ちたものだった。

 

『ダメですぅっ! ぼ、僕が時間を稼がないとダメなんですぅっ! 部長が勝つにはゼノヴィア先輩の力が必要なんですぅっ!』

 

「いいから、早く逃げてッ!」

 

リアスの二度めの叫びを聞かないギャスパーの眼前にラードラとミスティータが迫っていた。

 

『見つけたぞ、ヴァンパイアめ。あの剣士は隠したようだが、貴様がここにいるということは近くにいるのだろう? 火炎を撒き散らせば出てくるだろうか。・・・・・・いや、いっそ周囲の風景ごと焼き払ってしまおうか』

 

ドラゴンと化したラードラの巨躯に迫られ、全身を震わせているギャスパー。

 

しかし、逃げる素振りを見せず立ち向かっていく。

 

『あ、暴れさせるわけにはいきませんっ!』

 

『単独で臨むか。震えてはいるがその勇気、敬意を払うべきもの。勇気が無ければドラゴンの前に立つことすらできない』

 

ラードラは口元から猛火を勢いよく吐き出す。

 

ギャスパーは防御魔法陣で防ごうとするが・・・・・・。

 

「うわああああああああああああああああっ!!」

 

防御魔法陣が破れ、ギャスパーは火炎に吹き飛ばされていく。

 

ダメだ!

 

今のギャスパーではラードラの攻撃は防げない!

 

火炎の一撃で火傷を負うが、ギャスパーはよろよろと立ち上がる。

 

『下がれ、ギャスパー! それではおまえが!』

 

『むっ! やはり近くにいるな。どこにいる?』

 

ラードラがゼノヴィアの声を聞き、辺りを探し始めた。

 

『あああああああああああっ!!』

 

ギャスパーはラードラを行かせまいと、悪魔の羽を展開し、ラードラの腕に食らいつく!!

 

『っ! 離せっ! いつでも倒せる貴様とは違って、デュランダル使いは早急に倒さねばならぬ! 呪いの効果は有限だからな!』

 

ラードラが空いている手でギャスパーを掴み――――その手に力を込めた。

 

メキメキと骨の軋む嫌な音が響き渡る!

 

『うわぁぁああああああああああぁぁぁぁぁっ!』

 

ギャスパーが激痛に絶叫。

 

「もうやめて!」

 

アーシアが顔を手で覆い、絶叫した。

 

握りつぶしたギャスパーを地面に捨てる。

 

血塗れでボロボロ。

 

呼吸も乱れていて、いつリタイヤしてもおかしくない状態だ。

 

 

しかし―――――

 

 

それでも、ギャスパーは這ってラードラに食い下がった。

 

『・・・・・ぼ、僕は男の子だから・・・・・・守らなきゃ・・・・・ゼノヴィア先輩を・・・・・・部長の役に・・・・・・たたなきゃ・・・・・』

 

―――――っ!

 

その言葉を聞いて俺は目を見開いた。

 

ギャスパー・・・・・・おまえ・・・・・・。

 

『邪魔だ!』

 

ラードラに蹴られて地面をバウンドするギャスパー。

 

それでもあいつは這っていく。

 

『・・・・・男は女の子を・・・・・・守れるくらいにならなきゃいけない・・・・・!』

 

口から大量の血を吐き出しながらも、ギャスパーは立ち上がった。

 

受けたダメージで脚は震え、立っているのも難しい状態だというのに。

 

 

バキッ!

 

 

能力を使いフラフラになったミスティータがギャスパーを杖で横殴りにした。

 

『諦めろ。君では我々には勝てない』

 

無情な一声。

 

だが、それは事実だ。

 

血を飲んで強化されたギャスパーなら倒せたかもしれない。

 

だけど、今のギャスパーでは・・・・・・。

 

それでも、ギャスパーは両の足で立ち、ラードラとミスティータを見据えた。

 

『今は力がなくても・・・・・! 守りたい・・・・・・誰かのために力を使いたい・・・・・気持ちさえあれば強くなれる・・・・・・! 僕が・・・・・ゼノヴィア先輩を・・・・・守らないと・・・・・・!』

 

俺が教えた言葉。

 

ボロボロのせいで殆ど声になってないけど、確かに聞こえた。

 

あいつの強い声が。

 

 

ズンッ!

 

 

ラードラがギャスパーを容赦なく踏みつけた。

 

足をのけると、ギャスパーはボロボロになっていた。

 

もはや、まともに戦える状態じゃない。

 

 

 

 

『・・・・・ぼ、僕は・・・・・まだ・・・・・諦め・・・・・ない』

 

 

 

 

 

瀕死の状態でもまだ立ち上がろうとする。

 

 

「ギャスパー・・・・・・」

 

リアスはあまりの光景を背ける。

 

そんなリアスに俺は言った。

 

「目を背けるな、リアス。あいつは君のために戦ってるんだ。引きこもりで怖がりのあいつが、あんなボロボロになってでも立ち上がろうとしてるんだ。ギャスパーの王であるリアスが目を背けちゃいけない」

 

俺の言葉にリアスは涙を溢れさせるが――――それを拭い映像に視線を戻した。

 

「そうね。ゴメンなさい。あの子が頑張っているというのに私が逃げるわけにはいかないわね」

 

アーシアと朱乃が嗚咽を漏らし、ロスヴァイセさんは目に涙を浮かべていた。

木場は唇を噛み、血が滲んでいる。

 

『・・・・・僕は・・・・・戦える・・・・・。イッセー先輩なら・・・・こんな状況でも・・・・・諦めない。だから僕は―――――』

 

 

 

 

その時だった―――――

 

 

 

 

ギャスパーの体から黒い靄のようなものが発せられた。

 

その瞬間、ギャスパーの瞳が赤く輝きを放った!

 

『僕が・・・・・・僕が守ってみせる・・・・・! イッセー先輩と・・・・・・皆と約束したから・・・・・・!』

 

ギャスパーが叫ぶ!

 

『こ、これは停止の邪眼!?』

 

『馬鹿な!? そのような状態で私達の動きを停めたのか!』

 

この状況で二人の動きを停めたってのか!

 

ラードラとミスティータは何とか足掻こうとするが、停止の力が強く、抜け出せないでいるようだ。

 

どこにこんな力が・・・・・・・!

 

イグニスが言う。

 

『あの子の中に眠っていた力が動いたのね。あの子の想いに呼応するように』

 

ギャスパーの潜在能力が解放されたというのか!

 

『多分ね。あんな状態になっても諦めない強い心があったからこそ解放されたと思うわ』

 

『ああ。きっと相棒の影響だろうな。出会った頃とは大違いだ』

 

ドライグもそう続ける。

 

そうか・・・・・。

 

だったら俺は最後まで見届けなければいけないな。

 

あいつの想いと覚悟を。

 

『くっ・・・・・、見事としか言いようがない。だが、いつまで我々を停められる? この停止が解けた時が――――』

 

ラードラがそう言った時だった。

 

 

 

『いや、もう十分だ』

 

 

 

岩陰からゼノヴィアが姿を現した。

 

デュランダルから極大の聖なるオーラが溢れている。

 

静かに、だけど荒々しく弾けるそれは近寄るだけで消滅しそうなほどだ。

 

 

「すまなかった。私が不甲斐無いばかりに、おまえは・・・・・・」

 

涙を流して、ギャスパーに謝る。

 

「私には覚悟が足りなかったようだ。だから、あんなものに捕らわれた」

 

エクス・デュランダルの鞘がスライドしていき、攻撃フォルムとなる。

 

「仲間の為に、主の為に持つべきだった死ぬ覚悟をギャスパーよりも足りなかった。自分があまりに情けない・・・・・! 私は自分が許せなくて仕方がないんだ!!」

 

聖なるオーラがゼノヴィアの体を包み込み、より一層強く輝いていく。

 

「おまえの思いに応えるのはただ一つ。こいつらを完全に吹き飛ばしてやろう!! それが、お前への応えだと思うからな!!」

 

エクス・デュランダルから天高く立ち上る聖なる光の柱。

 

それは京都で見たときよりも巨大で、フィールドが激しく揺れる!

 

そして、ゼノヴィアは必殺の一撃を振り下ろした!

 

「でゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

ザバアァァァァァァアアアァァァンッ!!!

 

 

大質量のオーラの波動がラードラとミスティータを飲み込んでいき、二人はリタイヤの光となって消えていった。

 

『サイラオーグ・バアル選手の戦車一名、僧侶一名、リタイヤです』

 

第四試合の終了を告げるアナウンスが流れると、ギャスパーはその場に倒れた。

 

ゼノヴィアはデュランダルをしまうとギャスパーに駆け寄り、その体を抱き寄せた。

 

『終わったぞ。おまえがあの二人を倒したんだ』

 

『・・・・・勝てたんですね・・・・・良かった。・・・・・僕は・・・・・お役にたてたんですね』

 

『もちろんだ・・・・・!』

 

ゼノヴィアがそう返すとギャスパーは安心したような表情で完全に気を失い、リタイヤの光に包まれていった。

 

 

 

第四試合も勝利を得たが俺達は後輩二人を失った。

 

俺達先輩が守るべきだった後輩が誰よりも奮闘した。

 

小猫ちゃん、ギャスパー。

 

俺達は絶対に負けない!

 

二人の覚悟はしっかりと受け取ったからな!

 

 

 

 

 




次はもう少し遅くなるかもしれません。


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14話 激戦! 女王対決!

第四試合を終えて、それぞれの陣営の数が減ってきている。

 

俺達グレモリー眷属はリアスに朱乃、木場、ゼノヴィア、アーシア、ロスヴァイセさん、そして俺の七名。

 

対してバアル眷属は王のサイラオーグさんに女王、それから例の仮面の兵士の三名のみ。

 

数は俺達が圧倒的に有利。

 

『戦いも中盤を超えようとしているのかもしれません! バアルチームは残り三名! 対するグレモリーチームは残り七名と現在はグレモリーチームが優勢であります! しかし! バアルチームの残りのメンバーが強力です! 巻き返しとなるか必見です!』

 

実況が会場を盛り上げる。

 

サイラオーグさんが出るときは俺が行くとしてだ。

 

問題は――――

 

「相手の兵士は駒消費7だったよな?」

 

俺の問いに木場が頷く。

 

「そうだね。少なくとも今まで出てきたバアル眷属よりも強敵なのは間違いないと思うよ」

 

相手チームは駒価値的に単独でしか出場できないが、駒価値が大きいと言うことはそれだけの力量があること。

 

ルール上、俺は連続で出られないし・・・・・。

 

今後の出し方次第では追い込まれることもありうるか。

 

 

第五試合の出場選手を決めるためのダイスシュートが行われる。

 

サイラオーグさんの手元には小さな数字の眷属がいないから、場合によっては振り直しが何度か行われた。

 

何投かすると、互いの眷属が出られる数字となった。

 

リアスが4、サイラオーグさんが5の合計9。  

 

ちょうど女王が出られる数字だ。

 

「あちらが出せるのは女王か兵士のみ。となると女王が出てくると思うわ」

 

リアスがそう言った。

 

俺が問う。

 

「なんでそう思うの?」

 

「サイラオーグはあの兵士を出来るだけ使いたくないと思っているように感じるのよ。いくらなんでも温存しすぎていると思わない? これまで出てくる気配が全くなかったわ。出られる試合も何度かあったと言うのに」

 

言われてみればそうか。

 

第一試合以降は出れたもんな。

 

特に第二試合は合計数字が10だったから、僧侶か騎士と組んで出せたんだ。

 

そう考えるとリアスの考えも外れてはいないように思える。

 

「となると、次の相手は女王ですか、部長」

 

「ええ、祐斗。サイラオーグの女王、クイーシャ・アバドン。『番外の悪魔(エキストラ・デーモン)』アバドン家の者が来るでしょうね」

 

『番外の悪魔』、アバドン家。

 

レーティングゲームの現役トップランカー三位もアバドン家で、しかも魔王クラスの実力者。

 

聞けば、アバドン家というのは相当強力な悪魔の一族だとか。

 

家自体は現政府と距離を取っていて冥界の隅でひっそりと住んでいるらしい。

 

「私が行きますわ」

 

朱乃がそう言って前に出る。

 

「相手の女王はアバドンの者よ? 記録映像を見る限り相当な手練れだったわ」

 

リアスの言う通り。

 

グラシャラボラス戦では相手の女王は絶大な魔力とアバドン家の特色という『(ホール)』を使って他者を圧倒していた。

 

その『穴』ってのは、なんでもかんでも吸い込む厄介な代物で、相手の放った技とか武器とかを吸い込んでしまうんだ。

 

しかも、『穴』無しでも女王の実力は高く、戦い方が上手かったのを覚えてる。

 

「俺が行こうか?」

 

俺がそう言うが、朱乃は首を横に振った。

 

「いいえ。イッセー君は相手の王、サイラオーグ・バアルまで取っておくべきよ。相手の兵士もいる以上、あなたは最後まで控えておくべきだわ。それに、後ろに祐斗君、ゼノヴィアちゃん、ロスヴァイセさん、そしてリアスとイッセー君が控えてくれているからこそ、出来る無茶もあるんです」

 

ニコニコ笑顔で言われてしまった。

 

うーん・・・・・そこまで言われては引き留めるわけにはいかないんだよなぁ。

 

「ふふふ。私が負けたら、お仕置きで相手の僧侶にしたことしてくれます?」

 

「ブフォアッ!!」

 

おいおいおいおい!!

 

アレをしろってか!?

 

流石にダメだろ!

 

 

リアスが立ち上がる。

 

うん、今の発言にお怒りなのだろう。

 

ワナワナと肩を震わせて―――――

 

「ダメよ! ご褒美になってしまうわ!」

 

「そっちぃぃいいいいいい!?」

 

「そっちよ」

 

「いや、何当然のように言ってるの!?」

 

俺が帰ってきたとき何とも言えない表情してたじゃん!

 

酷いものを見たって感じだったじゃん!

 

俺が叫ぶと朱乃が頬に手を当てながら言う。

 

「まさかイッセー君があんな凄い技を持っていたなんて思いもよらなかったものですから・・・・・。少し体験してみたくて。それに・・・・・」

 

「・・・・・・それに?」

 

「鬼畜なイッセー君を味わってみたいですわ♪」

 

やーめーてーーーー!!

 

それ以上言わないで!

 

うちのドライグさん、泣いてるから!

 

『ぐっ・・・・うおおおおおおおおん!!!』

 

ほら!

 

号泣しちゃってるよ!

 

『まもなく開始時間です。出場選手は魔法陣へと移動してください』

 

アナウンスが聞こえる。

 

「それじゃあ、行ってきますわ」

 

朱乃はそう言うと表情を引き締め、真剣なものになる。

 

リアスが言う。

 

「・・・・・朱乃、お願いするわね」

 

「ええ、リアス。勝ちましょう、皆で」

 

それだけ言い残し、朱乃は転送の魔法陣の向こうへと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

映像に映し出された場所は無数の巨大な石造りの塔が並ぶフィールド。

 

朱乃はその中の塔のてっぺんにいた。

 

そして、その向かいの塔には金髪ポニーテールのお姉さん。

 

『第五試合の出場選手、グレモリー側は女王、姫島朱乃選手! バアル側は同じく女王、クイーシャ・アバドン選手! なんと女王対決となります!』

 

『これまでの試合からサイラオーグは兵士を出来るだけ使いたくないと見える。そうなると出すのは女王。リアスはそれを読んで朱乃を出したってところか。いや、サイラオーグもそれを読んでたかもしれんな』

 

実況にアザゼル先生がそう続ける。

 

やっぱり、先生も兵士についてはそう考えてたんだな。

 

 

サイラオーグさんの女王、クイーシャ・アバドン。

 

黒髪ポニーVS金髪ポニーって感じだな。

 

『やはり、貴女が来ましたか、雷光の巫女』

 

『不束者ですが、よろしくお願い致しますわ』

 

アバドンに不敵に返す朱乃。

 

物腰は柔らかいが、映像からでもその気迫が伝わってくる。

 

審判が出現し、両者を見据える。

 

『第五試合、開始してください!』

 

開始の合図が出される!

 

それと同時に朱乃とアバドンは悪魔の翼を羽ばたかせて空中へと飛び出していった!

 

空中で繰り広げられるのは壮絶な魔力合戦!

 

朱乃が炎で放てばアバドンは氷を。

 

さらに朱乃が水を使えばアバドンは風を使う。

 

今のところ、魔力による空中戦は互角。

 

朱乃はこれまでのトレーニングや異世界での経験を経て以前よりも強力な一撃を放てるようになった。

 

それに、俺が初めて修行をつけた時のように相手のペースに呑まれることなく、自分のペースを保っている。

 

『『はっ!』』

 

 

ドゴォォォォォォォン!!!

 

 

二人の魔力が衝突し、空中で大爆発を起こす!

 

その余波で周囲の塔が崩れ、崩壊していくほどの威力だ!

 

やっぱり、相手の女王もかなり強いな。

 

大質量の魔力を撃っているのに、表情には余裕がある。

 

・・・・・・付け加えるなら、相手は『穴』を使っていない。

 

『やはり、やりますわね。流石は若手最強サイラオーグ・バアルの女王ですわ』

 

『そちらこそ。過去の情報からもう少し楽な相手だと思っていましたが、油断は出来ませんね』

 

『ええ。侮ってもらっては困りますわ』

 

朱乃はそう言うと天に手をかざす。

 

魔力によって空に暗雲が作り出され、雲の合間から激しく光るものが見えた。

 

『雷光よ!』

 

暗雲から大質量の雷光が放たれる!

 

デカい!

 

 

ビガガガガガガガガガッ!!

 

 

閃光が走り、アバドンを雷が包んでいく。

 

その寸前、アバドンの周囲の空間に歪みが生じた!

 

歪みポッカリとおおきな『穴』が空く!

 

ここで使ってきたか!

 

大質量の雷光はそのまま、『穴』に吸い込まれ、アバドンに届くことはなかった。

 

しかし、これを読んでいたかのように朱乃は次の行動に移っていた。

 

『ここですわ! これならどうでしょう!』

 

その言葉と同時に天に雷光が走る!

 

 

ドガガガガガガガガガガガガッ!!

 

 

先程よりも強力な雷光!

幾重にも生み出された雷光が周囲一帯を襲う!

 

雷光が落ちた周囲の塔は吹っ飛び、破壊されていく!

 

フィールドの大半を覆うほどの雷光がアバドンを襲う!

 

これを受ければ、上級悪魔といえど致命傷は免れない。

 

これだけの広範囲攻撃だ。

避けるに避けられない。

 

 

さぁ、アバドンはどうする?

 

 

すると――――

 

 

アバドンが『穴』を広げ、更には周囲に複数の『穴』を出現させ、その全てが雷光の乱舞を難なく吸い込んでいった。

 

『っ!』

 

「なっ!?」

 

朱乃は目を見開き、俺の隣ではリアスが驚愕の声をあげていた。

 

見れば木場達も同様の反応だった。

 

アバドンが冷笑を浮かべながら言った。

 

『私の「穴」は広げる事も複数に出現させることもできます。更には吸い込んだ攻撃を分解して、放つことも出来るのです。――――このようにして』

 

朱乃を囲むように無数の穴が出現した。

 

それら全てが朱乃に向けられていて―――――

 

『雷光から雷だけを抜いて――――光だけ、そちらにお返しましょう』

 

 

ピィィィィィィィッ!

 

 

無数の『穴』から朱乃目掛けて一直線に幾重もの光の帯が放たれた―――――

 

 

 

 

 

 

「朱乃!」

 

リアスが悲鳴をあげる。

 

悪魔にとって、光は猛毒。

 

あれだけの光を浴びてしまえばリタイヤするのは避けられない。

 

「吸い込むだけではなく、あのようにカウンターにも使えるのか」

 

木場が絞り出した声で言う。

 

俺達が得ていた情報ではアバドンの戦闘スタイルは相手の攻撃を『穴』で吸い込み、その間に自分の魔力をぶつけて相手を倒すというもの。

 

あのようにカウンターとして使えるというのはこちらにとっては想定外だった。

 

アバドンの『穴』を俺達は甘く見ていた。

 

 

しかし――――

 

 

『なっ!?』

 

今度はアバドンが驚愕の声をあげた。

 

なぜなら、

 

『おおっーと!! 光に包まれたはずの姫島朱乃選手! なんと無傷です!』

 

実況の声が会場に響く。

 

そう、光に当てられたはずの朱乃が平気とした顔で立っていた。

 

アバドンが怪訝な表情で聞く。

 

『あなたは光を浴びたはず。なぜ、リタイヤしないのです?』

 

すると、朱乃は不敵な笑みを浮かべてその答えを出した。

 

朱乃の背後から現れる黄金に輝く細長い龍。

 

バチッバチッと体からスパークを発する龍は朱乃の体を包み込むようにとぐろを巻いた。

 

『これが私の奥の手、雷光龍。先程の光はこれで防がせていただきました』

 

そう、朱乃がリタイヤしなかった理由はこれだ。

 

異世界に渡ったことで力を伸ばした朱乃が得た雷光の新しい使い方。

 

雷光によって形作られた雷光龍。

 

ただの雷光とは違い、変幻自在に操れる。

 

光が当たる直前、朱乃は雷光龍で体を包み、それを防いだんだ。

 

・・・・・・攻撃だけでなく、ああいう風に防御にも使えるのか。

 

ギリギリだったみたいだけど、間に合ってよかった。

 

朱乃の背中から堕天使の翼が生える。

 

同時に雷光龍の輝きが増した。

 

『後輩達が頑張っているのに先輩である私がそう簡単にやられるわけにはいきませんわ』

 

『なるほど。ですが、負ける訳にいかないのは私も同じ。我が主のためにも私は勝たなくてはなりません』

 

『ええ、分かっています。だから、ここから先は隠し事は無しにしましょう』

 

『いいでしょう。互いに全力。出し惜しみはなしです』

 

二人を覆う魔力が高まり、濃密なオーラを放つ。

 

 

 

一瞬の静寂

 

 

 

フィールドだけでなく、会場もシンッとなる。

 

そして―――――

 

 

 

カッ!

 

 

ドガアアアアアアアアアアンッ!!!

 

 

空中で二人の魔力がぶつかり合った!

 

それまでにチャージしていた魔力の全てをつぎ込んだ互いの一撃は破壊の嵐を巻き起こし、フィールドを揺らす!

 

そこから再び始まるの壮絶な魔力の撃ち合い!

 

今度は雷光も『穴』も含まれていて、その激しさは更に増していく!

 

『雷光よ! 我が刃となれ!』

 

朱乃がアバドンに掌を向けると、周囲に光の槍――――いや、あれは雷光の槍か?

 

それが複数出現する。

 

解説のアザゼル先生が言う。

 

『あれは俺達が扱う光の槍を参考にしたものか。しかも雷光の槍ときたか! バラキエルの野郎、泣いて喜ぶぞ! いや、もう泣いてるかもしれねぇな!』

 

ですよね!

 

この映像を見たバラキエルさんが号泣する姿が容易に想像出来ますよ!

 

雷光の槍がアバドン目掛けて飛ぶ!

 

速いっ!

 

アバドンは咄嗟に『穴』を展開して吸収を試みるが、僅かに間に合わず、一本は腕を掠めてしまう。

 

光の影響で傷口からは煙が上がっている。

 

アバドンは苦痛の表情を浮かべるが、直ぐ様に反撃移った!

 

『やりますね! ですが!』

 

今度は朱乃を包み込むように全方位に『穴』が出現。

 

それから、アバドンの前面に『穴』が作り出された。

 

アバドンは前面の『穴』へ炎と風の魔力を放つ。

 

すると、朱乃の周囲からぽっかりとアバドンから放たれた魔力が飛び出してきた!

 

『穴』を介して自分の攻撃を任意の方角から飛ばすことも出来るのかよ!

 

飛び出してきた炎と風の魔力は混ざり、炎の竜巻と化した。

 

それが四方八方から朱乃へと迫る!

 

『くぅっ!!』

 

避けきれないと判断した朱乃は雷光龍を操作してそれを防ぐが―――――

 

 

ドゴォォォォォォォン!!!

 

 

衝突した魔力が爆発を起こした。

 

煙が立ち込め、朱乃の姿が見えなくなる。

 

『はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・』

 

アバドンの方は激戦で消耗したせいか、息切れを起こしている。

 

しばらくすると、煙が晴れていき、朱乃の姿が視認できるようになった。

 

リタイヤはしていないが、制服はボロボロでこちらはかなりのダメージを受けてしまったようだ。

 

『よく今のでリタイヤしませんね』

 

『私も負けられないので・・・・・・。どうです? そろそろ終わらせましょうか』

 

『私もそう考えていました。このまま続けていても次の試合に支障が生じるでしょう。最後に一撃。それを全力で放ちましょう』

 

そう言うとアバドンは手元に魔力を溜めていく。

 

本当にこれで最後にするつもりか。

 

朱乃も一度瞑目すると、天に手をかざす。

 

手にはバチッバチッと激しく弾ける雷光。

 

 

『『はあぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!』』

 

 

 

そして――――――

 

 

 

ドガアアアアアアアアアアンッ

 

 

 

二人の全力の一撃がフィールドを激しく揺らした。

 

 

 

制したのは――――――

 

 

 

『リアス・グレモリー選手の女王一名、リタイヤです』

 

 

 

第五試合を制したのはバアルの女王、クイーシャ・アバドン。

 

紙一重で相手が朱乃を上回ったようだ。

 

 

この結果を受けて、リアスは

 

「・・・・・・ありがとう、朱乃。後は私達に任せて。――――必ず勝つわ」

 

 

 

 

 




というわけで、今回は朱乃が頑張りました!

原作では割りとあっさりやられたような気がしていたので、本作ではかなりねばらせてみました!

次回も来週には投稿したいと思います!


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15話 決死の特攻!!

女王対決だった第五試合が終わり、第六試合のダイスを振るうときが来た。

 

両王がダイスを振るい、出た数字は―――――

 

リアスが6、サイラオーグさんが6!

 

合計数字はマックスの12!

 

『出ました!! ついにこの数字が出ました! この数字が意味することはサイラオーグ選手が出場できるということです!!』

 

『おおおおおおおおおおおおおっ!!』

 

実況の声に観客が大いに沸く。

 

それに呼応するかのようにサイラオーグさんは上着を脱ぎ捨てた。

 

戦闘に用意したのか、黒い戦闘服を着こんでおり、鍛え上げられた見事な体格が浮き彫りとなる。

 

ついにあの人が出るか。

 

サイラオーグさんの視線がこちらに向けられる。

 

戦意に満ちたその相貌。

 

離れているこちらの陣営までプレッシャーが伝わってくる。

 

「それじゃあ、俺が――――」

 

俺が立ち上がり、魔法陣へと向かおうとした。

 

その時、木場が俺の肩に手を置いた。

 

そして、真っ直ぐな目で言った。

 

「イッセーくん。僕とゼノヴィアとロスヴァイセでサイラオーグさんに挑むよ」

 

――――っ。

 

騎士が二人、戦車が一人で合計は11。

 

確かに出られる数字だ。

 

「木場、おまえ・・・・・・・」

 

木場は頷く。

 

「出来るだけ相手を消耗させるつもりだよ」

 

木場はニッコリとイケメンスマイルで言った。

 

リアスも木場が言わんとすること察したようだ。

 

「あなた達、まさか・・・・・」

 

「僕単独ではサイラオーグ・バアルには勝てません。できるだけ相手の戦力を削ぐ、この身を投げ捨ててでも―――。ゼノヴィア、ロスヴァイセさん、付き合ってくれますか?」

 

「勿論だとも、イッセーと部長がうしろに控えているというだけで勇気が持てる」

 

「役目がハッキリしている分、解りやすくていいですね。できるだけ、長く相手を疲弊させましょう」

 

皆も覚悟が決まった顔をしていた。

 

俺とサイラオーグさんの一騎討ちになるのは今回のゲームでは避けられない。

 

確実に勝ちを取りに行くのなら、俺と戦わせる前にある程度疲弊させた方が良い。

 

木場達はそう考えたようだ。

 

「それなら、イッセーと祐斗。もしくはゼノヴィアと組めば――――」

 

「それも考えました。ですが、イッセーくんは僕達の切り札。ここで出すわけにはいきません。次の試合は相手の兵士、あるいは女王が出てくるでしょう。そこでイッセー君が戦う。そうなると――――」

 

「そうなると残る相手は二人。だけど、ルール上はイッセーが連続で出場できないわ。だから次の次の試合はアーシアか出場すればいい。そして戦わずにリザインする。試合も最終決戦となれば回復役のアーシアの出番も無くなるでしょうから。そして、その次の試合ではサイラオーグが出てくる。そこでイッセーとサイラオーグの決定戦となるわけね?」

 

「はい。相手の女王は朱乃さんが疲弊させてくれました。サイラオーグ・バアルのかくし球といえる兵士は得体は知れませんが、出てきたとしてもイッセー君なら何とかできるでしょう。・・・・・・部長もそこまで作戦を立ててくれていたんですね」

 

木場の言葉にリアスは静かに頷く。

 

それを見て木場は爽やかな笑顔で言った。

 

「だからこそ、ここが正念場です。――――僕達がサイラオーグ・バアルの力を削ります」

 

「それにやれるなら倒す!」

 

ゼノヴィアは気合いに満ちていた。

 

木場は苦笑する。

 

「そうだね。僕もそのつもりだよ」

 

リアスは覚悟を決めたのか、大きく息を吐いた。

 

「分かったわ。三人とも、お願いするわね。サイラオーグに少しでも多くダメージを与えてちょうだい。ゴメンなさい。心の中で覚悟を決めていたのに・・・・・・私は本当に甘くて、ダメな王ね」

 

リアスの自嘲に木場は首を横に振った。

 

「僕たちは部長と出会って、救われました。ここまで来られたのも、部長の愛があったこそです。あなたに勝利を必ずもたらします」

 

木場はそれだけを言い残し、ゼノヴィアとロスヴァイセと共に転移魔法陣へ向かっていく。

 

木場と俺は向かい合う。

 

「ったく、また無茶なことを・・・・・・。いや、俺も人のこと言えないけどさ」

 

「ハハハ、僕はいつでも君の背中を追いかけてるからね。いつかは君に肩を並べられる男になりたいと思っている。―――――部長を頼むよ」

 

「ああ、任せとけ。おまえ達の覚悟はしっかり受け取ったぜ」

 

俺と木場は拳を合わせた。

 

 

 

 

 

 

三人が転移した場所は湖の湖畔。

 

腕組をして先に待機していたサイラオーグさんが立っていた。

 

『リアスの案か?』

 

全てを認識した上での台詞だったのだろう。

 

木場たちは何も答えないが、サイラオーグさんは感心するように口の端を上げていた。

 

『そうか。リアスは王として一皮むけたようだ。――――おまえらでは俺に勝てん。いいんだな?』

 

『ええ。ですが、ただではやられません。最高の状態であなたを赤龍帝に送り届けるっ!』

 

『いい台詞だ! お前たちは何処までも俺を高まらせてくれる!!』

 

木場の覚悟を聞き、サイラオーグさんはうち震えているようだった。

 

体に力が漲っているのが映像越しでも分かる。

 

『第六試合、開始してください!』

 

審判の合図、第六試合が始まった。

 

同時にサイラオーグさんの四肢に奇妙な文様が浮かび上がる。

 

『俺の体の縛りを負荷を与える枷だ。これを外し、全力でお前たちに応える!!』

 

淡い光がサイラオーグさんの四肢から漏れると、紋様が消える。

 

次の瞬間―――――

 

 

ドンッ!!

 

 

サイラオーグさんを中心に周囲が弾け、風圧が巻き起こり、足元が激しく抉れてクレーターとなった!

 

湖の水が大きく揺れて、並立っていた!

 

クレーターの中心では体から白い輝きを発するサイラオーグさん。

 

サイラオーグさんが体に纏っているもの。

 

あれは―――――

 

『・・・・・なんて奴だ。闘気を纏っていやがる。しかも、ここまで可視化するほどの・・・・・・周囲に影響を与えるほどの質量・・・・・』

 

解説の先生が言う。

 

それを聞いて実況が先生に疑問をぶつけた。

 

『となりますと、サイラオーグ選手は気を扱う戦闘術を習得していると?』

 

『いや、サイラオーグが仙術を習得しているという情報は得ていない』

 

先生に皇帝べリアルが続く。

 

『はい、彼は仙術などは一切習得していませんよ。あれは体術を鍛え抜いた先に目覚めた闘気です。純粋にパワーだけを追い求め続けた彼はその肉体に魔力とは違う力を手にいれたのです。あれを解放した今の彼は相性次第ですが、最上級悪魔を倒すことも不可能ではないでしょう』

 

修行の果てに得た純粋なパワーの波動。

 

それを師匠も無しで身に付けたってのかよ!

 

サイラオーグさんから放たれるプレッシャーに三人は表情を険しくしていた。

 

サイラオーグさんが吼える。

 

『一切の油断はしない! 覚悟を決めたおまえ達は侮っていい相手ではない! 俺は取られてもいい覚悟でこの戦いに臨もう! それこそが俺であり、相手への礼儀だ!!』

 

その瞬間、サイラオーグさんが立っていた地面が大きく削れ、サイラオーグさんの姿が消える!

 

速いっ!

 

以前の数倍の速さじゃないか!

 

『させません!』

 

ロスヴァイセさんは縦横無尽に魔方陣を展開させてフルバーストを撃つ体勢に入った。

 

『ロスヴァイセさん、そっちです!!』

 

なんとか動きを捉えた木場は聖魔剣の切っ先を向けた。

 

その先にはサイラオーグさんの姿。

 

そこへロスヴァイセさんのフルバーストが撃ち込まれる!

 

 

ドドドドドドドドドドドドドッ!!

 

 

大質量であらゆる属性の魔法が放たれていく!

 

マシンガンのように絶え間なく降り注がれる魔法攻撃の数々!

 

相手に反撃させないつもりか!

 

『はあぁぁぁぁぁああっ!!』

 

そこにゼノヴィアの聖なる波動の乱れ撃ちも加わる!

 

巻き起こる破壊の嵐で皆の姿が視認できないほどだ!

 

『ふんっ!』

 

 

バンッ!

 

 

サイラオーグさんが向かってきていた魔法と聖なる波動の全てを拳で撃ち落としていた!

 

サイラオーグさんは高速で次々と降り注がれる魔法と聖なる波動の雨を掻い潜り、ロスヴァイセさんとの距離を一気に詰めていく!

 

『逃げ―――』

 

木場がロスヴァイセさんに逃げるように言おうとするが、それよりも先にサイラオーグさんの拳がロスヴァイセさんを捉えていた。

 

腹部に拳がめり込み、直撃した瞬間、その周囲一帯の空気が揺れる!

 

ヴァルキリーの鎧が粉々に砕け、四散していく。

 

苦悶の表情となるロスヴァイセさんはそのまま、湖の遥か彼方へ吹き飛ばされていく。

 

同時にその体がリタイヤの光に包まれてながら、湖に落ちていった。

 

『まずは一人』

 

『うおおおおおおおっ!!』

 

ゼノヴィアがサイラオーグさんに真正面から斬りかかる!

 

刀身に聖なるオーラを纏わせ、サイラオーグさん目掛けて降り下ろす!

 

しかし、デュランダルの刃がサイラオーグさんを捉えることはなく、虚しく空を切った。

 

『なっ!?』

 

驚愕するゼノヴィア。

 

そして、その背後にサイラオーグさんが姿を現す。

 

『ゼノヴィア! 後ろだ!』

 

ゼノヴィアに木場が注意を促す。

 

ゼノヴィアは咄嗟に身をよじって放たれた蹴りを避けるが―――――

 

 

ゴオオオオオッ!!

 

 

その蹴りの勢いは凄まじく、空気を大きく震わせ、湖を真っ二つに割った。

 

危っねぇ・・・・・・今のをくらってたらゼノヴィアもリタイヤだったぞ!

 

その威力に驚愕する木場とゼノヴィアに対し、サイラオーグさんは不敵に笑みを浮かべる。

 

『まずは魔法の使い手から撃破したが・・・・・残るは剣士が二人。聖剣と聖魔剣の使い手か』

 

そう言うとサイラオーグさんのオーラが更に膨れ上がる。

 

それを見て、ゼノヴィアと木場も全身からオーラを迸らせた!

 

『木場! こいつはヤバいッ! 全力中の全力でなければ勝てない!!』

 

『解っている! 余力を残すという考えだけではやられる・・・・・! それほどの相手だ!!』

 

二人の緊迫ぶりを見て、サイラオーグさんは満足そうな笑みを見せた。

 

『それでいい。おまえ達の全力をぶつけてこい! そうでなくてはこの拳は止められんッ!』

 

 

ダンッ!

 

 

その場を勢いよく飛び出し、闘気を纏わせた拳で木場に殴りかかる!

 

木場は前方に聖魔剣を幾重に張り、壁を作るが――――

 

 

バギィィィィィンッ!!!!

 

 

聖魔剣の壁は呆気なく破壊されてしまう。

 

『聖魔剣が・・・・・!!』

 

『やわいな。これでは俺の攻撃は止められんぞ』

 

『ならば! デュランダルッ!!』

 

ゼノヴィアがデュランダルを大きく振るった!

 

戦いながらチャージした力を一気に繰り出すデュランダル砲!

 

木場は大きく後ろに下がった後、サイラオーグさんの周囲の地面に聖魔剣を作り出す。

 

聖魔剣で構成された壁!

 

あれで逃げ道を無くす気だ!

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォン!!

 

 

ゼノヴィアから放たれたデュランダル砲はサイラオーグさんを直撃!

 

まともにくらったぞ!

 

しかし――――

 

『いい波動だ。だが、俺を止めるにはまだまだ足りんな』

 

結果は無傷!

 

サイラオーグさんの闘気は薄まるどころか更に分厚くなっていた!

 

『真正面から受けて無傷だと・・・・・・バケモノか』

 

『ゼノヴィア! コンビネーションでいくよ!』

 

木場はゼノヴィアにそう告げ、七剣を作り出してその場を駆ける!

 

ゼノヴィアも直ぐにそれに続いた!

 

聖魔剣、エクス・デュランダルの二振りによる高速の剣戟を最小の動きでかわしながら、サイラオーグさんは向かってくる七剣を拳で粉砕していく。

 

『ゼノヴィア、下がって!』

 

木場の指示に従い、ゼノヴィアは一旦後ろに下がる。

 

それと同時に砕かれた七剣の刃がサイラオーグさんを囲むかのように宙に浮いた!

 

『刃の雨ッ!』

 

 

ザアァァァァァァァッ!!

 

 

全方位からサイラオーグさんへと降り注ぐ細かな刃の雨!

 

あれだけ細分化した刃を拳で撃ち落とすことは出来ない。

 

更には完全に囲まれているから避けることすら出来ない!

 

さぁ、どうする――――

 

『言ったはずだ。この程度では俺には届かんッ!』

 

 

ドウッ!!

 

 

サイラオーグのオーラが爆発的に膨れ上がり、刃の雨を吹き飛ばしてしまった!

 

なんつー力技だよ!

 

あの人には細かな技は通用しない。

 

そう判断した木場は素早く聖魔剣から聖剣に変化させ、例の龍騎士団を出現させる!

 

『いけぇぇぇっ!!!』

 

木場の命を受けて、二十体近くの龍騎士達が高速でサイラオーグさんに向かっていく!

 

『フールカスに見せた新しい禁手かッ! 是非もないッ!』

 

サイラオーグさんは嬉々として真正面から龍騎士団を迎え撃つ。

 

高速の斬戟をかわし、一撃で騎士達を屠っていく!

 

『数が多く、速さもある! だが、俺が相手では――――』

 

ガシャン、という儚い音を立てて最後の龍騎士が破壊された。

 

『硬さが足りない』

 

『っ!』

 

サイラオーグさんの洗練された体術に戦慄する木場。

 

あの新しい禁手に至るまでに木場はかなりの修行をした。

 

それでも、あの人には届かないか・・・・・。

 

木場は再び聖魔剣に戻し、ゼノヴィアと共にサイラオーグさんへと斬りかかっていく。

 

アイコンタクトを取りながら、絶え間なく放たれる剣戟の数々。

 

『才気溢れる動きだ。まだ、甘いところがあるが可能性を感じるな。――――しかし、この場では俺の方が上だ』

 

 

ドッ! ゴッ!

 

 

二人の攻撃を避けきったサイラオーグの掌底がゼノヴィアの腹部へ、回し蹴りが木場の脇腹にきまる。

 

『ガフッ!』

 

強烈な一撃を受けた二人は血を吐いてその場に崩れ落ちる。

 

今のでかなりのダメージを受けてしまったな・・・・・。

 

木場もゼノヴィアもダメージで手が震えている。

 

木場が血を吐きながらも小さく笑った。

 

『・・・・・イッセー君はすごいや・・・・・こんな一撃を受けても余裕でいられたんだから・・・・・』

 

木場は聖魔剣を杖にしながら立ち上がる。

 

『・・・・こんなところで寝てはいられない。体はまだ動くんだ・・・・・・!』

 

ゼノヴィアもよろよろと立ち上がりながらデュランダルを構えた。

 

『ああ! イッセーのため、部長のため! 剣を振るおうか!』

 

ダメージを受けてもなお立ち上がる二人にサイラオーグさんは最高の笑みを浮かべていた。

 

『まだ、楽しませてくれるのか・・・・・・!!』

 

『ああ、楽しませてやるさ・・・・・・!!』

 

ゼノヴィアがそう言うと、背後にロスヴァイセさんが出現した!

 

手には透明な刀身の剣!

 

『この距離ならどうでしょう!!』

 

超近距離の魔法フルバーストを放つロスヴァイセさん。

 

 

ドドドドドォォォォォオオオオンッ!!

 

 

けたたましい炸裂音を鳴り響かせて、サイラオーグさんの体から煙が上がり、ついに仰け反った!

 

って、なんでロスヴァイセさんが!?

 

さっきやられたんじゃ・・・・・・

 

俺が疑問に思っているとリアスが教えてくれた。

 

「さっき倒されたロスヴァイセは偽者。エクス・デュランダルの鞘と化しているエクスカリバーの能力を使ったのよ。擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)のね。擬態の力でロスヴァイセに化け、本人は透明の力で隠れたのよ」

 

「じゃあ、さっきのリタイヤの光は?」

 

「あれはロスヴァイセが予め魔法をかけていたのでしょうね。ゼノヴィアの合意があれば聖剣の因子が無くても短時間、能力の恩恵が受けられるのだけれど、上手くいったようだわ」

 

エクスカリバーの力で自分のリタイヤを偽り、相手の油断を誘ったってことかよ!

 

スゲェ連携だな!

 

これは俺も思い付かなかったわ!

 

超近距離から魔法のフルバーストを受けたサイラオーグさんは体の表面から血を滲ませながらも体勢を建て直す。

 

「見事な連携だ。お前たちに敬意を払うと共にこれを送りたい」

 

その眼光が鋭くなり、右の拳を握りしめるとゆっくりと引いていく。

 

全身を覆う闘気が拳に集中していき、一気に右腕が盛り上がる!

 

あれは・・・・・・マズい!!

 

三人もその危険性を感じ取ったのか、その場から急いで退避していくが―――――

 

 

ドォォオオオオオオオン!!!!

 

 

映像が激しく揺れたと思うと、サイラオーグさんの前方の地面が遥か先まで大きく抉れていた。

 

『リアス・グレモリー選手の『戦車』一名、リタイア』

 

ロスヴァイセさんがやられたのか!

 

今の技、俺の遠当てに似てるけど威力は桁違いだ!

 

拳圧によって生まれた腕の煙を振り払い、サイラオーグさんが再び、拳を強く握りしめてゆっくりと引いた。

 

『こいつは掠めるだけで致命傷を与える拳打だ。生半可な攻撃では止められん!』

 

闘気を纏った右のストレートが再び繰り出される!

 

それと同時に木場とゼノヴィアがサイラオーグさんの右腕に斬りかかった!

 

木場の聖魔剣はサイラオーグさんの闘気だけで刀身を砕かれていく!

 

そこへゼノヴィアのデュランダルが振り下ろされるが、分厚い闘気に阻まれて深くまで斬り込めずにいる。

 

歯がみするゼノヴィアだが、そのデュランダルの柄を――――木場も握りしめた!

 

その瞬間、二人の想いに呼応するかのようにデュランダルが莫大な閃光とオーラを解き放つ!

 

その輝きはかつてないほどだ!

 

そして、そのオーラはサイラオーグさんの闘気を越え、ついには右腕を切断する!

 

『見事だ。右腕はくれてやろう。これで俺は否応なく涙を使わなければならない。万全の態勢で決戦に臨みたいからな』

 

サイラオーグさんは鋭い蹴りを放ちゼノヴィアを穿ち、木場の腹部には深々と正拳突きが放たれた。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

豪快な音が響く。

 

繰り出された攻撃が二人の体を突き抜け、周囲の地面に大きな亀裂を入れた。

 

あれを食らってしまっては二人は・・・・・・・

 

しかし、木場は崩れ落ちながらも笑っていた。

 

『僕たちの役目はこれで十分だ。後は、僕の主と僕の親友が貴方を屠る・・・・・』

 

二人がリタイヤの光に包まれていく。

 

サイラオーグさんは自身の右腕を回収し、消えていく二人に言った。

 

『おまえ達の力と想いはこの身に刻まれた。――――おまえ達と戦えたことを感謝する』

 

 

 

『リアス・グレモリー選手の『騎士』二名、リタイヤ』

 

 



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16話 全力で応えます!!

今回は短めです。


『さぁ、ゲームも終盤に突入! 王はダイスをシュートしてください!』

 

実況者に促され、両王が台の前に立つ。

 

リアスが出した目は5、サイラオーグさんが出した目は4。

 

――――合計で9。

 

一発でこの数字が出たか・・・・・・。

 

俺は無言で立ち上がり、転移魔法陣へと歩を進める。

 

魔法陣に乗る直前、俺は顔だけ振り向かせて、後方にいるリアスとアーシアに一言。

 

「それじゃあ、行ってくるよ」

 

それだけ言うと俺は転移の光に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

俺が転移されたバトルフィールドは人気のないコロシアムの舞台上たった。

 

相対するように現れたのは女王、クイーシャ・アバドン。

 

朱乃との戦いで疲弊していたから、てっきり兵士がでるものと考えてたんだけど・・・・・。

 

その考えが顔に出ていたのか、クイーシャさんは怪訝な表情で尋ねてきた。

 

「どうしました? 私の顔に何か?」

 

「いえ、てっきり兵士の人が出てくると思っていたので・・・・・」

 

俺がそう言うとクイーシャさんはああ、と納得したような表情となった。

 

「彼は出ません。・・・・いえ、単独では出すことが出来ないのです。そのため私が出ることにしたのですよ」

 

単独では出せない・・・・・?

 

どういうことだ?

 

まさかと思うけど、暴走するような奴なのか?

 

気になるけど、兵士については後回しにするか。

 

「流石に落ち着いてますね。女である私ならばもっと喜ぶかと思いましたが・・・・」

 

「もちろん嬉しいっすよ! 美人は歓迎します!」

 

そりゃあ、野郎と戦うくらいなら俺は女の子とニャンニャンしたいね!

 

『よーし! それじゃあ、もう一回いってみよー!』

 

・・・・いや、イグニスさんよ。

 

それはマズいって。

 

つーか、なんでテンション高いの!?

 

イグニスの声が聞こえていたのか、クイーシャさんは自身の肩を抱いて身を守る格好となる。

 

「ま、まさかと思いますが・・・・・コリアナに使ったあの技を使う気ですか・・・・・?」

 

『もっちろん!』

 

「勝手に答えるなよ!! 使いません! 使いませんから微妙に距離とるの止めてください!」

 

さっきいた場所から五歩くらい下がってますよ、クイーシャさん!

 

そんなやり取りをしていると実況の声が聞こえてくる。

 

『えー、第三試合で兵藤一誠選手がコリアナ・アンドレアルフス選手に使った技は少々刺激が強いため、本試合より禁止といたします』

 

『つーか、全試合禁止だろ』

 

『そうですね。女性悪魔の方が逃げてしまうでしょう』

 

先生と皇帝べリアルも声を揃えて頷いてるよ!

 

ゴメンね!

 

刺激が強いよね、観客にも相手にも!

 

お子様には絶対に見せちゃいけないシーンだよね!

 

『でも、世の男性はあの瞬間を求めているわ!』

 

何の自信だ!?

 

どっから沸いてきやがった!?

 

『だってエロいじゃない』

 

確かにエロいけど!

 

コリアナさんも凄くエロいことになってたけど!

 

もうお願いだから黙ってて!

 

そろそろシリアスに入らせてくんない!?

 

グダクダな空気を払拭するために俺はコホンッと咳払いする。

 

そして、クイーシャさんに尋ねた。

 

「いいんですね? あなたでは俺には勝てない。疲弊した状態じゃ尚更です」

 

前の試合でサイラオーグさんが木場達に確認した内容と同じことを告げる。

 

向こうもそれを分かっているのか、少し微笑んだ後、表情を真剣なものへと変えた。

 

「もちろんです。赤龍帝―――禁手となりなさい。私の主サイラオーグ様はあなたの本気を所望している。ならば、女王の私もそれを望みましょう」

 

強い覚悟だ。

 

さっきの木場達に負けないくらい。

 

それほどのものをこの人から感じられる。

 

『第七試合! 開始してください!』

 

審判の合図で試合が始まるが、相手は動く気配がない。

 

・・・・・・俺の本気の姿を待ってるんだろうな。

 

 

それなら―――――

 

 

禁手化(バランス・ブレイク)ッ!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

籠手の宝玉が赤い閃光を解き放ち、俺の体を包んでいく。

 

光が止み、彼女の前に立つのは鎧姿の俺。

 

「これが俺の禁手です。そして、こいつが――――」

 

この状態でも十分だが・・・・・・

 

俺はここから更に鎧を進化させた。

 

 

バチッ!  バチチチチッ!

 

 

俺の周囲に激しくスパークが飛び交う。

 

そして――――

 

禁手(バランス・ブレイカー)第二階層(ツヴァイセ・ファーゼ)――――天武(ゼノン)ッ!!」

 

 

ドオォォォォォォォォッ!!

 

 

俺を中心にして吹き荒れる赤いオーラの嵐。

 

天武になった余波で足元には巨大なクレーターが生まれ、フィールドが揺れる。

 

「これが俺の本気です」

 

「――――っ! 想像以上ですね。これが今代の赤龍帝・・・・・・!」

 

驚愕するクイーシャさんに告げる。

 

「一撃です。この一撃で終わらせるつもりでいきます。防ごうとは思わないでください。避けなければ間違いなく死にます」

 

「言ってくれるわね。ですが、我が主のために、私は逃げるわけにはいきません!」

 

「・・・・・分かりました」

 

俺はクイーシャさんに掌を向けてそこに気を集中させる。

 

『Accel Booster!!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

加速した倍加によって、気が爆発的に膨れ上がった!

 

クイーシャさんは危険を感じたのか、前方に『穴』を展開するが――――

 

「アグニッ!!」

 

放たれる赤い光の奔流。

 

クイーシャさんは『穴』で吸収しようとするが、アグニは『穴』をも破壊してクイーシャさんを包み込んだ。

 

 

ドオォォォォオオオオオオォォンッ!!

 

 

真っ直ぐに突き抜けた赤い光は眼前のコロシアムを跡形もなく消し飛ばし、ついにはフィールドに巨大な穴を開けた。

 

『サイラオーグ・バアル選手の女王、リタイヤです』

 

審判が俺の勝利を告げる。

 

一瞬の出来事に会場が騒然となるのが分かった。

 

 

・・・・・・しかし、今の一撃はクイーシャさんには当たっていなかった。

 

アグニが彼女を襲う瞬間にリタイヤの光に包まれていたのが見えたからな。

 

フィールドにサイラオーグさんの映像が映し出される。

 

その表情は苦渋にまみれたものだった。

 

『俺が強制的にクイーシャをリタイアさせた。あのままでは、赤龍帝に殺されるところだったからな。いや、殺すつもりだったのだろう?』

 

サイラオーグさんはフィールドにいる俺に語りかけてくる。

 

俺は鎧を解除して苦笑しながら言った。

 

「俺は彼女の想いに応えただけです。あそこまでの覚悟を決めた人に手加減をするのは、その人を侮辱するのと同じですから」

 

『ほう・・・・・。では、俺に対してもそうであると?』

 

「当然。・・・・・俺は俺に向けられる全ての想いに応える。そう覚悟を決めてこの場に立っています。相手が俺の全力を望むなら俺は全力を以て応えます」

 

だからこそ、クイーシャさんには俺の全力を見せた。

 

たとえ彼女を殺してしまうことになっても、それが彼女に対する礼儀だと思ったから。

 

それに、サイラオーグさんだって木場達の覚悟に応えてくれたしな。

 

俺が不敵な笑みで言うと、サイラオーグさんも嬉しそうな笑みを見せた。

 

『いい返事だ。・・・・・赤龍帝と拳を交える瞬間を俺は夢にまで見た。――――委員会に問いたい。もういいだろう? この男をルールで戦わせなくするのはあまりにも愚だ! 俺は次の試合、こちらとあちらの全部で団体戦を希望する!』

 

――――っ!

 

団体戦ときたか。

 

つまりは俺とリアス、アーシア、そしてサイラオーグと相手の兵士で戦おうって話だ。

 

いきなりの提案で驚いたけど、俺は賛成だ。

 

俺もサイラオーグさんに続いてどっかで見てる委員会に言う。

 

「俺はその案に乗った! どうせこの後の展開は読めてるんだろ? それなら、面倒なことは無しにして一気に決めてしまいたい!」

 

皇帝べリアルがにこやかに言う。

 

『彼の言う通り、このあとの流れは簡単に読めてしまう。連続して出られないルール上、次がグレモリーの僧侶とバアルの兵士。その次がサイラオーグと赤龍帝の事実上の決定戦となるでしょう』

 

アザゼル先生も顎に手をやりながら続く。

 

『それはあまりにもつまらない。それならば、次の試合を団体戦にしてケリをつける。分かりやすいし、このテンションを継続して見られるだろうな。俺としてはサイラオーグの意見に賛成だが・・・・・・さて、委員会の上役はどうするか』

 

『私もそれでいいのなら、構わないわ』

 

リアスも同意してくれた。

 

次の試合は消化試合だったから、リアスもそれを除いて一気に勝負をつけたいと考えたようだ。

 

それから、数分の時間が経ち、実況席に一報がもたらされる。

 

『委員会から、報告を受けました! 団体戦を認めるそうです! 次の試合は事実上の決定戦となる団体戦です! 両陣営の残りメンバーの総力戦となります!!』

 

会場が沸きだした。

 

次が決戦となるから当然の反応だろう。

 

いよいよ、最後の戦いが始まる!

 

 

 

 

 

 




というわけで、今回はキリの良いところで終わらせました。

次回より最終決戦です!


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17話 全力VS全力

俺とリアスは団体戦―――最終決戦のフィールドとなる広大な平地に立っていた。

 

辺りには本当に何もない。

 

思いっきりやれるってことだな。

 

実況がマイクを震わせる。

 

『さぁ、これまで激闘を繰り広げてきたバアルVSグレモリーの若手頂上決定戦もついに最終局面となります! サイラオーグ選手によってもたらされた提案により団体戦となった最終試合! バアル側は王、サイラオーグ選手と謎多き仮面の兵士、レグルス選手! 対するグレモリー側は真のスイッチ姫となった王のリアス選手と皆の味方おっぱいドラゴンこと兵士、乳龍帝・・・・もとい赤龍帝、兵藤一誠選手!』

 

こっちの紹介酷くない!?

 

リアスの顔真っ赤だよ!

 

『乳龍帝・・・・・素で間違えただろ、あの実況・・・・・グスンッ』

 

うちのドライグさんなんて泣いちゃってるよ!

 

どうやら、俺達は乳龍帝が定着してしまったらしい!

 

『ずむずむいやーん!』

 

『おっぱい!』

 

観客席の子供達はおっぱいドラゴン的な応援をくれた。

 

『二人とも、ファイトだよ!』

 

『油断しないでよ!』

 

『イッセー君とリアスさんに天のご加護を!』

 

美羽達も声を大にして応援してくれている。

 

イリナよ・・・・・天の加護はいらないかな。

 

俺達、悪魔だから。

 

ちなみにアーシアは陣地に置いてきた。

 

理由は回復役は真っ先に狙われるからだ。

 

相手はサイラオーグさんと駒消費7の謎の兵士。

 

アーシアの防御魔法では二人の攻撃が飛んできても防ぐことは出来ない。

 

サイラオーグさんはアーシアを狙うようなことはしないだろうけど、流れ弾的なものは十分にありうるからな。

 

回復役がいてくれれば安心はできるが、相手が相手だ。

 

今回は控えに回ってくれ、アーシア。

 

『さて、最終試合を始めようと思います』

 

審判が両チームの間に入り、俺達の準備が出来ていることを確認する。

 

『・・・・・では、最終試合! 開始してください!』

 

ついに最後の試合が始まる。

 

俺達の視線が交錯し、漂う空気に緊張が走った。

 

すると、サイラオーグさんがフッと小さく笑んだ。

 

「リアス。お前の眷属は素晴らしい。妬ましくなるほど、お前を想っている。それ故に強敵ばかりだった」

 

この人がそう言ってくれるならリタイヤしていった木場達も戦ったかいがあったというもの。

 

「この場にいるのは互いに王と兵士のみ。終局に近いな」

 

サイラオーグさんは真っ直ぐに言うと、次に俺の前に立った。

 

「兵藤一誠。ついにここまで来たな」

 

「ええ。以前、グレモリー城の地下でやり合って以来ですね」

 

修学旅行の直前。

 

あの時は互いに本気ではなかった。

 

「今回は全力でぶつかり合おうか」

 

「そのつもりです。ここには俺達の戦いを遮るものはありません。だから全力であなたと殴り合いができる。――――リアス、少し下がっててくれ」

 

「レグルス、おまえもだ」

 

俺が視線をリアスに移してそう言うとサイラオーグさんも仮面の兵士に下がるように告げる。

 

俺の意図が伝わったようだな。

 

「「まずはあの時の続きからいこうか」」

 

俺達はニッと笑みを浮かべると――――体からオーラを解放した。

 

 

ドオォォォォォォォォッ!!

 

 

俺の赤いオーラとサイラオーグさんの白く輝く闘気が膨れ上がる。

 

足元の地面を深く抉り、そこを中心にして地面にヒビが走っていく。

 

激しく衝突するオーラとオーラ!

 

それにより巻き起こる突風!

 

リアスも相手の兵士も巻き込まれると判断したのか更に後ろへと下がった。

 

『おおっーと! いきなり激しい衝突が始まりましたっ! 互いのオーラをぶつけ合って力比べをしているようです!』

 

『二人ともかなり濃密なオーラを放ってやがるな。並の奴じゃ近づくだけで焼かれて死ぬぞ』

 

実況に続き、先生が解説を入れる。

 

まずはと思って誘ってみたんだけど、こいつは想像以上だわ。

 

結構な力入れてるのに向こうは平然としてるぜ。

 

『前回の手合わせから相当実力を伸ばしたとみえる。タンニーンに修行をつけてもらっただけはあるな』

 

だな。

 

まだまだ底は見せてくれそうにない、か。

 

それじゃあ、そろそろ動きますか!

 

俺がオーラを放つのを止めて、構えるとサイラオーグさんも俺と同じようにして構えをとった。

 

俺達は一瞬、睨み合い―――――

 

同時に駆け出した!

 

「だああああああああっ!!!」

 

「おおおおおおおおおっ!!!」

 

 

バキィッ!!

 

 

互いの渾身の右ストレートが炸裂!

 

衝撃が空気を揺らし、地面にクレーターが咲く!

 

拳を通してサイラオーグさんの力がビリビリ伝わってきやがる!

 

互いにバックステップで一度距離を取ると、俺は地面を蹴ってフィールドを駆けた。

 

錬環勁気功で気を足に溜めて一気に初速を上げることに主眼を置いた瞬発だ。

その状態で地面を蹴り続けば、速度はさらに上がっていく。

 

サイラオーグさんも同様に地面を駆け、俺との距離を詰めて来る。

 

互いの間合いに入った瞬間に繰り出されるのは左右の拳によるラッシュ。

しかも、拳にオーラを纏わせた状態で放つ拳だ。

 

直撃すればダメージは免れない。

 

そのため、俺達は基本的に受けることはせず、時には避け、時には受け流しながら自身の拳を繰り出していた。

 

「前回の手合せの時よりも攻撃が鋭く感じられるな! まともに受ければ俺とて大きなダメージを受けるだろう!」

 

「それはこっちの台詞だ! 枷を外したあなたの力は桁違いだよ!」

 

サイラオーグさんが拳を繰り出すたびに、風を切る音が鳴り響く!

 

その拳圧で俺の服はところどころ破れるほどだ!

 

俺は攻撃をいなしながら周囲から気を取り込み、その全てを右の拳に纏わせる。

 

それを脇に構え―――――――一気に振り抜く!!

 

「っ!!」

 

サイラオーグさんは危険を感じとったのか、咄嗟に横へと回避。

 

俺の拳は見事に空振るが、その勢いは真っ直ぐに突き抜け――――――

 

 

ドォォオオオオオオオン!!!!

 

 

地面を大きく抉りながら、遙か遠くの方まで突き進んでいった!

 

クソッ!

やっぱそう簡単には当たってくれないか!

 

俺が小さく舌打ちしてると、サイラオーグさんは俺の右後ろへと回り込んできた。

 

見れば肘打ちを繰り出す格好となっている。

 

それに対して俺は地面に片手をつき、その腕を軸にして蹴りを放つ。

 

しかし、俺の蹴りは虚空を薙いで終わった。

 

俺が蹴りを放つと同時にサイラオーグさんは俺の右手側に移動していたからだ。

 

サイラオーグさんは俺の足を掴み、地面に叩きつけようとするが―――――

 

「そう簡単にはやらせねぇよ!」

 

ゼロ距離で気弾を放つ! 

 

このままでは避けられないと判断したサイラオーグさんは俺の足から手を放し、大きく距離を取った。

 

一度、近距離戦を終えた俺達は軽く息を吐く。

 

 

・・・・・・いやはや、中々にヒヤヒヤするぜ。

 

 

若手悪魔ナンバーワンの真の力。

 

パワー極振りだけあって凄まじい威力だ。

 

と、ここで俺の視界に相手の兵士が映り込んだ。

 

リアスと対峙しているその兵士は仮面を静かに取り払った。

 

そこにあったのは俺達とそう歳が変わらないであろう少年の顔。

 

――――だが、それはすぐに変貌する。

 

 

ボコッ! ベキッ!

 

 

体中から快音を起こして、少年の体が盛り上がっていく!

 

全身に金色の毛が生えて、腕や脚が太く、たくましくなっている。

口が裂けて、鋭い牙を覗かせ、尻尾が生えて、首の周りにも金色の毛が揃えていく。

 

 

ガゴォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 

 

兵士の少年は五~六メートルはある巨大なライオンへと変化した!

 

額には宝玉のようかものがあり、そのライオンがリアスの眼前に立つ。

 

なんだ、ありゃ!?

 

『おおおっと! バアルチームの謎の兵士、その正体は巨大な獅子だったーーー!』

 

実況も驚いている様子だった。

 

うん、俺も驚いてるよ!

 

『あれは・・・・・ネメアの獅子か!?いや、あの宝玉は・・・・・まさか!』

 

解説の先生は驚きながらも何か得心したようだった。

 

あのライオンに心当たりがあるようだ。

 

実況が訊ねる。 

 

『アザゼル総督、あれはいったい?』

 

『・・・・ネメアの獅子はギリシャ神話に登場するヘラクレスの十二の試練の相手なんだが・・・・・。聖書の神があの獅子の一匹を神器として封じ込めた。それは十三ある神滅具として数えられて、極めれば大地を割るほどの威力を持ち、巨大な獅子の姿にもなれる。―――神滅具『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』。しかし、所有者がここ数年、行方不明になっていたんだが・・・・まさか、バアル眷属の兵士になっていたとは・・・・・・』

 

マジで!?

 

あのライオンが神滅具なの!?

 

兵士ってことは悪魔になってるんだよな・・・・・・。

 

そんなことが可能なのかよ?

 

すると、サイラオーグさんは静かに口を開いた。

 

「残念ながら本来の所有者は既に死んでいる。俺が『獅子王の戦斧』の本来の所有者を見つけた時は、既に怪しげな連中に殺された後だ。神器となる斧だけが無事だった。所有者が死ねば神器はいずれ消滅する。その戦斧もそうなるであろうと思っていたんだが・・・・・・、あろうことか意志を持ったかのように獅子に化けて、所有者を殺した集団を根こそぎ全滅させたのだ」

 

所有者が死んだのに、神器単体で動き出したってのかよ!

 

ドライグ、聞いたことあるか?

 

『初耳だな。少なくとも俺はそのような経験はない』

 

そっか。

 

ドライグの場合、所有者が死ねば直ぐに意識が途切れて、気づいたら次の所有者の神器の中にいたんだったな。

 

「俺が眷属にしたのはその時だ。獅子を司る母の血筋が呼んだ縁だと思ってな」

 

サイラオーグさんのお母さん、ミスラさんは獅子を司るウァプラ家の人。

 

確かに運命的な出会いだったのかもな。

 

『単独で意思を持って動く神器・・・・・・神滅具だと!? 更には悪魔に転生できたのか! それを可能にしたのは獅子の力か悪魔の駒の性能か・・・・・。どちらにしろ興味深い! 実に興味深いぞ! そりゃ、所有者を断定できないわけだ! レアだ! レアすぎるぜ! サイラオーグ! 今度、その獅子を俺の研究所に連れてこい! スゲー調べたい!』

 

おおー、スゲー笑顔だ。

瞳の奥がキラキラ輝いてるよ、あの先生。

 

まぁ、それだけレアな現象ってことか。

 

なんせ悪魔に転生してるもんな、神滅具が。

 

「所有者無しの状態のせいか、力がとても不安定でな。敵味方見境無しの暴走状態になって、勝負どころではなくなるから単独で出せるものではなかった。出せるのは今回、俺と組めるこのような最終試合だけだ。いざというとき、こいつを止められるのは俺だけだからな」

 

クイーシャさんが言ってたのはこの事だったのか。

 

サイラオーグさんと組んででしか出すことが出来ない。

だから、さっきの試合はクイーシャさんが出るしかなかったと。

 

「どちらにしても、私の相手はその神滅具の獅子ってことね」

 

リアスが獅子に構え、滅びの魔力を練りだしていく。

 

滅びのオーラが形をなし―――――一体のドラゴンを造り出す。

 

滅びの滅龍(ルイン・エクスティンクト・ドラゴン)

 

朱乃同様に魔力をドラゴンの形に押し留めたもの。

 

ロスウォード眷獣にはかなり有効だったが、はたして神滅具ではどうなるか。

 

うーむ、なんで二人ともドラゴンの形になったんだろうな。

 

『朱乃ちゃんも言ってたじゃない。イッセーの影響かもって。イッセーのことを考えすぎてドラゴンになったのかもね』

 

お、俺ですか・・・・・・

 

まぁ、何にしても強力なのは変わらない。

 

俺とリアス、双方が相手に向かっていく。

 

俺は拳を繰り出し、リアスが滅びの魔力で形成された龍をライオンへと放つ。

 

頑張ってくれよ、リアス!

 

再開される超至近距離の格闘戦。

 

拳撃と蹴撃が交錯し、その激しさは一度目の戦闘をも上回る。

速く、鋭く、威力も一段階上がる。

 

直撃は受けていないが、サイラオーグさんの拳が俺の頬を掠め、頬から赤いものが流れた。

 

だけど、それはこっちだって同じ。

 

サイラオーグさんの拳を流した後、その腕を掴む。

 

その腕を引張り、態勢を崩したところに蹴りを放った!

 

「そらっ!」

 

放った蹴りは周囲の空気を斬り裂きながら、サイラオーグさんの顔面へと迫る!

 

サイラオーグさんは右腕で受け止めるが・・・・・

 

「ぐっ・・・・!」

 

苦悶の表情を浮かべた。

 

すると、右腕の表面に血が滲んでいるのが見えた。

 

それは俺の蹴りが当たった場所ではなく、それとは別の場所―――――――木場とゼノヴィアが斬った場所だ。

 

 

俺はそれを見て笑みを浮かべた。

 

 

嬉しくてたまらなくなった。

 

木場の、あいつらの攻撃は確かに届いていた。

圧倒的な実力差があったのにもかかわらず、確かに届いていたんだ!

 

「木場! ゼノヴィア! ロスヴァイセさん! おまえ達からのバトンは確かに受け取ったぞ!」

 

俺は身をかがめ、サイラオーグさんの鳩尾に肘打ちを叩きこむ!

 

 

ドゴォォンッ!!

 

 

衝撃がサイラオーグさんの体を突き抜けた!

 

「ガハッ!」

 

サイラオーグさんの体がよろめく!

 

その隙を俺は見逃さない!

 

肘打ちを繰り出した体勢から体を捻って、サイラオーグさんの顎へと蹴りを繰り出す!

 

その体を上へと押し上げる!

 

俺は地面を蹴って、それを追いかけた!

 

「おおおおおおおおッ!!!!」

 

そこから繰り広げるのは拳と蹴りを混ぜた七連撃!

 

サイラオーグさんの体がくの字に折れ曲がり、更に上空へと押しやる!

 

俺は悪魔の翼を広げて急上昇。

サイラオーグさんの先へと回り込む。

 

そして、こいつが――――――――

 

「リタイヤしていった仲間の想いを籠めた一撃だッ!!」

 

フルスイングで振り下ろす回し蹴り!

 

 

ドッゴオォォォォォォォォォォォォンッ!!!!

 

 

まともに受けたサイラオーグさんは地面へと叩きつけられる!

 

地面に巨大なクレーターが咲き、土砂が上空まで舞い上がった!

 

土砂とともに下に着地した俺はクレーターの中心部を見る。

 

そこには大の字に地面にめり込んだサイラオーグさんの姿。

 

実況が叫ぶ。

 

『決まったぁぁぁああああ! 一瞬の隙をついての連撃が炸裂! サイラオーグ選手、立てるでしょうか!』

 

普通の相手ならまずは立てない。

 

今の連撃全てにかなりの力を籠めたからな。

 

しかし――――――

 

 

ボゴンッ

 

 

サイラオーグさんが体に乗った土を振り払いながら起き上った。

 

「強い・・・・。これほどのものか・・・・・!」

 

サイラオーグさんは口から滲んだ血を拭いながら・・・・・笑っていた。

 

それはもう満足そうな表情をしていた。

 

・・・・・・蹴りを食らう直前に闘気を一か所に集中させてダメージを軽減したのか。

 

上手い。

 

あの瞬間に咄嗟の判断。

 

流石に戦い慣れている。

 

 

「キャッ!」

 

 

リアスの悲鳴が聞こえた。

 

振り向くと、血染めのリアスが膝をつき、呼吸を荒くしていた!

 

獅子は体から煙を上げ、ダメージを負っている。

 

しかし、その状態でリアスの前に立ち塞がる!

 

 

マズい!!!

 

 

「リアスはやらせねぇえええええ!!!」

 

俺は咄嗟に右腕を引いて、獅子目掛けて遠当てを放つ!

 

生み出された衝撃波が獅子を襲い、吹き飛ばす。

 

吹き飛ばされた獅子は宙返りして着地。

 

平然としていた。

 

それでも、リアスから引き離すことができた。

 

俺はリアスに駆け寄り、倒れそうになるところを受け止める。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ・・・・」

 

そう言うリアスだが、出血が激しい。

 

このままいけばリアスは失血でリタイヤするだろう。

 

そうなれば俺達の負けだ。

 

俺はリアスのポケットから小瓶を取りだした。

 

「これを使うよ」

 

「ごめんなさい、私・・・あなたの足を引張って・・・・」

 

申し訳なさそうにするリアスだが、俺は首を横に振った。

 

「いや、いいさ。神滅具だけあって相手も相当な手練れだ。仕方がないさ」

 

リアスに涙を振りかけると傷が塞がっていく。

 

これで一安心。

 

だが、こちらもフェニックスの涙を使ってしまったか・・・・・。

 

 

その時だった。

 

 

『サイラオーグ様! 私を身に纏ってください! あの禁手ならばあなたは!』

 

おおっ!?

 

ライオンが喋った!?

 

って、纏うって・・・・禁手って言ったのか?

 

ライオンの言葉にサイラオーグさんの怒号が飛んだ。

 

「黙れッ! あの力は冥界の危機に関してのみに使うと決めたものだ! この男の前であれを使って何になる!? 俺はこの体のみでこの男と戦うのだ!!」

 

どうやら奥の手があるようだが・・・・・

 

ドライグの声がフィールドに響いた。

 

『ずいぶん舐めたことを言ってくれる。他人の全力を要求しておいて、自分は出し惜しみをするというのか?』

 

静かにそう言った後、ドライグは怒りをぶつけるように叫んだ。

 

『ふざけるなよ、小僧。その程度で相手の全力を引き出そうなど片腹痛い!』

 

おいおい、ドライグさんよ・・・・少し言い過ぎじゃないか?

 

・・・・と言いたいところだけど、ありがとよ。

 

俺もサイラオーグさんに吼える。

 

「俺の仲間も、あなたの眷属も自分の全てをかけてこの戦いに臨んでいる! ぶつけろよ、あなたが持てる全てを! そうすれば、俺も全力で応えよう!」

 

この先の戦いに出し惜しみなんていらない!

 

俺達は互いの持てる全てでぶつかり合うべきなんだ!

 

一拍開けて、サイラオーグさんが言う。

 

「・・・すまなかった。確かに相手に全力を求めておいて、こちらが力を出し惜しみするなど無礼以外の何物でもない。それに、これまで俺に着いてきてくれた眷属達にも顔向けできんな。俺はなんと愚かだったのだろうか」

 

一呼吸した後、サイラオーグさんの力が爆発的に上昇した。

 

カッと目を開き、強く言う。

 

「俺は目の前の男を倒したい! 俺は負けるわけにはいかんのだ! 我が夢のために! 俺の夢に殉じてくれた我が眷属のために! レグルスゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

『ハッ!!』

 

ライオンの全身が黄金に輝き、光の奔流と化しサイラオーグに向かう!

 

「今日この場を死戦と断定する!」

 

黄金の光を全身に纏ったサイラオーグは高らかに叫んだ。

 

「我が獅子よ! ネメアの王よ! 獅子王と呼ばれた汝よ! 我が猛りに応じて、衣と化せ!」

 

フィールド全体が震えだす。

 

異空間であるフィールドが耐えられなくなってきたようだ。

 

サイラオーグさんが眩い閃光に包まれていき、周囲の風景をぶっ飛ばす!

 

 

『「禁手化ゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」』

 

 

 

閃光が止み、現れたのは金色に輝く獅子の全身鎧だ。

頭部の兜にはライオンのたてがみと思わせる金毛がなびく。

 

「『獅子王の戦斧』の禁手化―――『獅子王の剛皮(レグルス・レイ・レザー・レックス)』! 殺す気でいかせてもらうぞ、兵藤一誠!」

 

その言葉に俺は笑みを浮かべ、鎧を纏う。

 

スパークを発生させ、一気に天武へと至る。

 

全力には全力を以て応えよう―――――。

 

「いいぜ! 第二ラウンドといこうか!」

 

 

 

 



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18話 獅子の咆哮、赤き龍の意地!

赤と黄金のオーラがフィールドを照らす。

 

俺とサイラオーグさんは一歩、また一歩と前進していく。

 

鎧に闘気を纏わせているその姿は迫力があるな。

 

『ある意味あれが直接攻撃を重視した使い手にとって究極に近い姿だからな。力の権化である鎧を着込み、それで直接殴る。だから、どうしても果てがあのようになる』

 

ドライグが解説してくれる。

 

なるほど。

俺みたいに打撃合戦がメインの人にとってはパワーの権化ともいえる身に纏う鎧の方が攻守ともにバランスが良いのか。

 

肉薄する距離でサイラオーグさんが俺に言う。

 

「いくぞ」

 

その一言とともに放たれる黄金のオーラを纏った拳!

 

 

パシィッ!

 

 

俺はそれを受け止めるが・・・・・・重い!

 

受け止めるだけで、籠手の部分にヒビが入る!

 

枷を外したこの人も相当だったけど、鎧を纏ったこの人の拳は段違いだ!

 

俺も力を籠めた拳を放つ!

 

 

ガンッ!

 

 

しかし、サイラオーグさんの左手に受け止められてしまう!

 

サイラオーグさんが言う。

 

「これが赤龍帝の鎧を纏ったおまえの一撃か!」

 

「そっちこそ。俺の鎧にヒビ入れるとか、リアスと同世代とは思えない」

 

俺達は不敵に笑みを浮かべると、そのまま手を組んで押し合う形となる。

 

 

ドオォォォォォォォォッ!!

 

 

赤と黄金のオーラが膨れ上がり、地面を大きく抉る!

 

『獅子の鎧を纏ったサイラオーグ選手! そして、おっぱいドラゴンとなった兵藤一誠選手! 二人の力比べが再び繰り広げられております!』

 

うーん、そこは赤い鎧を纏った兵藤一誠選手じゃダメなの?

 

もう少し俺の実況も格好良くしてくれない!?

 

恥ずかしいから!

 

『Accel Booster!!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

俺は恥ずかしい気持ちを我慢しながら倍加!

 

「おおおおおおおっ!!!」

 

全身のブースターからオーラを噴出させて、サイラオーグさんを押していく!

 

「ぐっ・・・・おおおおおおおっ!!!」

 

サイラオーグさんも両の腕に力を籠めて押し返してくる!

 

なんてパワーだ!

 

これが神滅具の、獅子の鎧を纏ったサイラオーグさんの力か!

 

高まるオーラのぶつかり合いがフィールドを激しく揺らしていく。

 

 

そして――――

 

 

「「おおおおおおおおおおおっ!!!!」」

 

 

目映い閃光が生まれ、周囲の風景が弾けた。

 

 

 

 

 

 

「だぁあああああああああっ!!!!」

 

「おおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

力比べから一転して、始まる超至近距離での格闘戦!!

 

ただ前に出て、殴り続ける!

 

ここから先は同じ道を歩く者として、互いの全てをぶつけ合うのみ!

 

「であっ!!」

 

俺の蹴りがサイラオーグさんの顔面を捉えると、兜が割れる!

 

それのお返しと言わんばかりにサイラオーグさんの拳が俺のボディーへと撃ち込まれる!

 

それによって、腹部の鎧が破壊される!

 

自分でいうのもアレだけど、俺の鎧を砕くやつなんてそうはいない。

 

「やっぱり、あなたは凄い!」

 

「魔力を持たずして生まれてきた俺にはこの体しかなかった! だからただひたすらに自分の体を虐めぬくしかなかった! それはおまえも同じなのだろう?」

 

「だけど、俺には師がいた! あなたは違う! あなたは一人で自らを鍛え上げた! 以前、あなたは自分のことを格好悪いと言っていたがそうは思わない! その生き様は、その背中は誰かに希望を見せることが出来るものだ!」

 

サイラオーグさんのように魔力を持たずして生まれた悪魔の子供は他にもいるだろう。

 

才能がない、あったとしても下級悪魔だと蔑まれる者もいるだろう。

 

だけど、この人はそういう人達の希望になる人だ!

 

俺の言葉を聞いて、サイラオーグさんは壮絶な殴り合いの中、高らかに笑った。

 

「ハハハハハハハッ!! おまえにそこまで言われるとは! 俺も自分の歩みを誇れるというもの! だが、容赦は無用だぞ、兵藤一誠!」

 

「当たり前だ! 俺は仲間のために、リアスのために、そして、俺を応援してくれる人達のために絶対に勝つ! たとえ、それがあなたの夢の妨げになろうとも!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

倍加した力の全てを拳に纏わせ、サイラオーグさんの腹部へと放つ!

 

 

ガギャァァァァァァァン!!

 

 

俺の拳はサイラオーグさんの鎧を砕き、生身に食い込んでいく!

 

それを食らい、サイラオーグさんが血を吐き出す。

 

『サイラオーグ様!』

 

「ガハッ・・・・・! レグルスを纏った状態でも、この男の全力には劣ると言うのか・・・・! 否! 俺はまだやれる! このような戦い、今心底味わわずに大王バアル家の次期当主は名乗れぬ!」

 

今のでかなりのダメージを与えたはずなのに、その眼光は更に鋭く、闘気はより一層燃え盛っていた。

 

すごい気合いだ・・・・・・。

 

サイラオーグさんは立ち上がり、再び拳を繰り出してくる!

 

俺はそれを受け止め――――

 

 

ガシャンッ!

 

 

「ぐっ・・・・・!」

 

受け止めた瞬間、物凄い衝撃が腕を襲った。

 

籠手が砕け、生身にダメージを受ける。

 

威力がさっきよりも増しているのか!

 

『神器は宿主の想いに応えるからな。この男の想いに獅子の神器が出力を上げたのだろう。まぁ、この場合、宿主と言って良いのかは分からんがな』

 

そうか・・・・・。

 

ってことはこの人はまだまだ強くなるってことだな。

 

今、こうして拳を交えている瞬間にも。

 

クソッ・・・・・さっきので左腕が痺れてやがる!

 

だけど、それがどうした!

 

サイラオーグさんが強くなるなら、俺も強くなればいい!

 

籠手を修復して、サイラオーグさんへと突っ込む!

 

それと同時に俺は領域に突入。

視界から色彩が消え、白黒の世界が広がる。

 

サイラオーグさんの拳を流して、その腕を掴む。

 

「どりゃああああああっ!!!」

 

拳の勢いを利用した背負い投げ!

 

サイラオーグさんを上へと放り投げる!

 

右腕を引いて拳に気を集めていく。

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

倍加によって、高められた気が赤い閃光を放ち甲高い音を出す。

 

そして、その右腕をサイラオーグさん目掛けて突き出した!

 

「アグニッ!」

 

赤い光の奔流が放たれ、サイラオーグさんを包み込む!

 

強大な爆発が生じて、フィールドに穴を開けた。

 

煙が止み、地面にできた巨大なクレーターの中央には鎧が砕け、ボロボロの状態のサイラオーグさんが倒れていた。

 

『サイラオーグ選手ダウンッ! 兵藤一誠選手の強烈な一撃がクリーンヒットォォオオオ!!』

 

実況が叫び、会場も大いに沸いた。

 

天武の状態で繰り出したアグニだ。

 

立てたとしても、戦えないだろう。

 

 

その時―――――

 

 

『立ちなさい、サイラオーグ!』

 

 

一人の女性の声が会場に響いた。

 

この大歓声の中でも聞こえるほど、しっかりと。

 

観客の目がその声の方に集まり、俺も声のした方に視線をやる。

 

そして、俺は目を見開いた。

 

そこには執事さんに支えられながら立つミスラさんの姿があったのだから。

 

昏睡から覚めたのか!

 

イグニスのあの時の光があの人の病を治したってのか!

 

『そーいうことよ。彼女の精神世界まで蝕んでいたものを完全に取り除いたのが効いたみたいね』

 

ここ最近で、一番あんたを凄いと思えたぞ。

 

悪い方ならいつも思ってるけど・・・・・・・。

 

『立ちなさい、サイラオーグ! あなたはまだ戦えるでしょう? まだその拳を握れるでしょう?』

 

ミスラさんの表情は厳しく、誇り高く、気丈なもの。

 

その声は応援ではなく、息子を叱咤する母親のそれだった。

 

その時、サイラオーグさんの指がピクリと動くのが見えた。

 

眠りから覚めたばかりだからか、ミスラさんは執事さんに支えられていても体をよろめかせる。

 

それでも、強い声で叫んだ。

 

『たとえどんな困難が立ちはだかっていようとも、それを乗り越える力があなたにはある! 何度転ぼうとも起き上がる! あなたはそうやって生きてきたではありませんか!』

 

サイラオーグさんの手が動き、腕が動き、足が動く。

 

そして、その体が持ち上がり始めた。

 

『夢を叶えるのです! たとえ生まれがどうであろうと結果的に素晴らしい力を持っていれば、誰もが相応の位置につける世界。それがあなたの望む世界のはずです! これから生まれてくるであろう冥界の子供達が悲しい思いを味わわないで済む世界! それを作るのでしょう!』

 

ついにはサイラオーグさんは両の足でしっかりと立ち上がり―――――その瞳の奥に闘志を再び燃え上がらせた。

 

それを見てミスラさんは微笑みを浮かべる。

 

『いきなさい。私の愛しいサイラオーグ。あなたは私の自慢の息子です』

 

その瞬間だった。

 

大地を大きく踏みしめて、血を撒き散らしながら、眼前の男は完全に立ち上がった。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!」

 

獅子が咆哮をあげた。

 

 

 

 

 

 

かつてないくらい目映く、荒々しい黄金のオーラがフィールドを駆け抜ける。

 

その波動は明らかに今までのものとは全くの別物。

 

俺のオーラを呑み込む勢いで膨れ上がった。

 

神器は所有者の想いに応じて力を発揮する。

 

この力はサイラオーグさんの想いそのものってわけだ。

 

血を噴き出しながらもギラギラした瞳で俺を見据えるサイラオーグさん。

 

 

その姿に俺の心は打ち震えた。

 

この人はまだ戦える。

その拳を握れるんだ。

 

まだ勝負はついてなどいない。

 

そう思うと心の底から高揚した。

 

「兵藤一誠! 俺は負けん! 俺には勝たねばならぬ理由がある! 叶えなければならないものがあるのだ!」

 

サイラオーグさんは向かってくる!

 

ボロボロの状態で、その拳を繰り出してくる!

 

「俺だって負けられない!」

 

俺もそれに呼応して飛び込む!

 

俺とサイラオーグさんの拳が同時にお互いの顔面に鋭く食い込む!

 

こんな状態で、ここまでの威力があるのか!

 

でも、ダメージが多い分、サイラオーグさんの動きが遅い。

 

俺は再び放たれてきたサイラオーグさんの拳を避けようとした。

 

しかし――――

 

 

ガゴォォォォォォォォンッ!!!

 

 

「ガッ・・・・・・・!」

 

顔面に直撃をもらってしまった。

 

兜が砕け散り、脳が揺れる!

 

確実に避けたはずだった。

それなのに俺は全力の拳を受け、相当なダメージを負ってしまった。

 

なんだ・・・・・。

 

今・・・・・サイラオーグさんの動きが速くなったような・・・・・。

 

よろめきながらサイラオーグさんの方を見ると――――

 

「おいおい・・・・・・マジかよ・・・・・!」

 

 

サイラオーグさんの目は俺や曹操が見ることが出来るものと同じ世界を見ていた。

 

 

この土壇場で領域(ゾーン)に入ったってのか!

 

サイラオーグさんは息を荒げながら言う。

 

「負けん・・・・・! 俺は負けんぞ、兵藤一誠・・・・・・!」

 

これだけフラフラなのに、どこにそんな力が眠ってやがるんだ・・・・・!

 

『まるで、相棒が初めて領域に入った時と同じだな』

 

―――――シリウスとの決着の時か。

 

俺も負けそうになってる土壇場で領域に入ったんだった。

 

絶対に負けられない、譲れないものがあって、ついには極限の果てへと至った。

 

そうか・・・・・・そこまで同じになるわけだ。

 

ハハッ・・・・・大ダメージを受けたっていうのに、自然と笑みが零れる!

 

「ああ・・・・・そうだな。あなたはまだまだ戦える! 拳を握れる! だったら、俺も最後まで徹底的にやってやる!」

 

俺も再び領域に突入する!

 

互いに極限の状態での壮絶な殴り合い!

 

しかし、俺達は避けることはせず、ただただ力の限り拳を振るい続けた!

 

相手の拳打が自分の体にめり込もうとも、痛みを忘れたように殴り続ける!

 

己の全てを拳に籠めて、相手を破壊する。

 

鎧が砕け、肉が弾けようとも構わない!

 

俺達はどれだけダメージを受けようとも前に出続けた!

 

拳がぶつかる衝撃で、フィールドが悲鳴をあげて、いたるところに穴が開く。

 

このフィールドも俺達の戦いに限界を迎えようとしているらしい。

 

「おおおおおおっ!!」

 

サイラオーグさんの拳が俺の腹に突き刺さる!

 

「ゴブッ・・・・・!」

 

血を吐き出し、よろめく俺。

 

内蔵を幾つかやられたかな・・・・・・。

骨も何本か折れてるのは確実だろう。

 

でも、倒れるわけにはいかない。

 

 

『頑張れ! おっぱいドラゴン!』

 

『負けるなーーー!!』

 

 

観客席から子供達の声援が聞こえる。

 

いや、それだけじゃない。

 

 

『お兄ちゃん、しっかり!』

 

『立ちなさい、イッセー!』

 

『イッセー君!』

 

 

美羽にアリスにイリナ。

 

 

『イッセー君、頑張って!』

 

 

実況席にいるレイナ。

 

 

「イッセー!」

 

 

フィールドにいるリアスが俺の名前を呼んでくれる。

 

そうさ、皆のこの想いに応えるためにも――――

 

「俺も・・・・・・負けるわけにはいかねぇぇぇえええ!!」

 

 

バガァァァァァアアン!!!

 

 

振り下ろした拳がサイラオーグさんの顔面を捉えた。

 

サイラオーグさんの上体が仰け反り、ついに倒れそうになる。

 

しかし――――

 

 

ザッ・・・・・・

 

 

サイラオーグさんは倒れることはなかった。

 

「倒れてなるものか・・・・・・! 俺はこの男を倒すまで倒れるわけには・・・・・・!」

 

なんて人だ・・・・・・。

 

未だに闘志が衰えを見せないなんて・・・・・・。

 

既に俺達の鎧は僅しかなく、俺は籠手、サイラオーグさんは胸にある獅子の顔の部分しか残されていなかった。

 

 

ズキンッ

 

 

「ぐあっ・・・・・!」

 

激痛が全身を襲う。

 

サイラオーグさんによって蓄積されたダメージが想像よりも大きい。

 

それでも・・・・・・!

 

俺は歯を食いしばり、踏ん張る。

 

震える拳を振り上げ、サイラオーグさん目掛けて放とうとした。

 

 

その時だった。

 

 

『もういい・・・・・もういいのです、赤龍帝・・・・・』

 

サイラオーグの鎧の胸部にある獅子が声を発した。

 

目からは涙を溢れさせている。

 

そこで俺は気づいた。

 

「サイラオーグさん?」

 

サイラオーグさんは――――拳を突き出し、俺に向かおうとしたまま意識を失っていた。

 

それでも両の瞳は戦意に満ち、ギラギラしたものを浮かべていた。

 

『サイラオーグ様は少し前から意識を失っていた・・・・・。それでも、嬉しそうに・・・・・・ただ嬉しそうに向かっていった。ただ、真っ直ぐに、あなたとの夢を賭けた戦いを真に楽しんでおられた・・・・・・』

 

意地だけでも戦っていたのか・・・・・・。

 

意識を失っても、その拳を振るい続けたと言うのかよ・・・!

 

すごいよ・・・・・すごいよ、あなたは・・・・・・!

 

『ああ・・・・・。実力は相棒の方が上だった。だが、それでもこの男は最後まで戦い抜き、遂には相棒と同じ境地にまで辿り着いた。・・・・・見事だ、サイラオーグ・バアル』

 

俺はその目の前に立つ男の体を抱き締める。

 

 

「俺はあなたと戦えて本当に良かった・・・・・! ありがとう・・・・・!」

 

 

 

『サイラオーグ・バアル選手、投了。リタイヤです。リアス・グレモリーチームの勝利です!!』

 

 

最後のアナウンスが流れ、会場が熱気に包まれた。

 

 

こうして、若手悪魔最強を決める戦いは俺達グレモリーの勝利で終わった。

 

 

 

 

 



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19話 ゲーム終了! 学園祭に色々お楽しみです!

気付いたら、俺は真っ白な世界にいた。

 

ここは・・・・・神器の中か?

 

ふにふにと頭に気持ちいい感触があって、程よい寝心地だ。

 

「気づいた?」

 

ふと、顔を上に向けるとイグニスが微笑んでいるのが見えた。

 

「イグニス? ここは・・・・・」

 

「私の中よ。ドライグも歴代の子達もいないでしょ?」

 

そう言われればそうか。

 

って、俺、イグニスに膝枕されてたのか・・・・・・・。

 

「私の膝枕はどう?」

 

「スゲー気持ちいいよ。安らぐ」

 

「ふふふ」

 

イグニスは俺の頭を撫でる。

 

こうして見てると女神って感じがするんだけどなぁ。

美人だし、こんな感じに母性があるところもあるし。

 

普段が残念すぎる・・・・・・。

 

「むっ・・・・今、失礼なこと考えたわね?」

 

うっ・・・・・鋭い・・・・・・。

 

「い、いや? そ、そんなことはないぞ?」

 

「疑問形になってるわよ」

 

「ハハハハ・・・・・・・」

 

まぁ、親しみやすいお姉さんってことには違いないかな。

色々ツッコミどころは多いけど。

 

俺が苦笑していると、イグニスが言う。

 

「お疲れさま、イッセー。素晴らしい戦いだったわ」

 

「最後はただただ殴り合っただけだけどな。二人ともボロボロになった」

 

最後は小難しいテクニックなんて捨てて、ただ殴り合った。

俺達は必死だったけど、周りから見ればドロドロの試合に見えたかもね。

 

俺がそう言うとイグニスは首を横に振った。

 

「それがいいんじゃない。夢を、想いを真っ直ぐにぶつけ合う。たとえ、ボロボロになって血塗れになってでも、その姿は美しいものよ。――――あなた達の魂は本当に綺麗だった」

 

 

――――――っ。

 

 

・・・・・・いつもの駄女神はどこに行ったんだよ?

 

急に女神っぽいこと言い出すなんてな。

 

 

 

でも・・・・・凄く嬉しい。

 

 

俺達の想いが応援してくれていた皆にも届いているような気がしたから。

 

「イッセー、あなたはサイラオーグに言ってたわね。希望を見せる人だと。・・・・・でも、それはあなたも同じよ。こっちの世界でもあれほどまでにあなたを応援してくれる人達がいる。あなただって希望を見せる人なの」

 

そう言うとイグニスは手元に赤く輝く球を作り出した。

 

それを俺の胸に当てる。

 

「それは・・・・・・?」

 

「これはあなたの可能性を私が集めたもの。あの時、僅かに漏れた可能性の欠片よ」

 

あの時って・・・・・・リアスとアリスのおっぱいをつついた時ね・・・・・・。

 

あの時、僅かに動いたらしいけど・・・・・その時に例の領域から解き放たれたものがこれか。

 

「これには私の力も少し混ぜてあるの。いつも頑張ってるご褒美よ。それにこの力はそのうち必要になってくると思うしね」

 

赤い球が俺の体に入っていく。

 

 

 

ドクンッ

 

 

 

その瞬間、俺の胸が強く脈打った。

 

こいつは―――――

 

「これからも励みなさい。あなたならこれを使いこなせるわ。いつかは本当の私も―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで俺は目が覚めた。

 

視線の先には見知らぬ天井。

 

「ここは・・・・・・?」

 

周囲を見渡せば真っ白な部屋で、俺は包帯にくるまれていた。

 

どうやら、試合が終わった後、俺は病院に運ばれたらしい。

 

ケガはアーシアが治療してくれたのか治っている。

だけど、消耗が激しいな・・・・・・・。

 

「目が覚めたか」

 

聞き覚えのある声が聞こえた。

 

声がした方を振り向くと同じく包帯姿のサイラオーグさんがいた。

 

「同じ部屋だったんですね」

 

「ああ。病室なら余っているだろうに。サーゼクス様かアザゼル総督が、体力が回復するまでの話し相手としてマッチングしてくれたようだな」

 

「みたいですね」

 

まぁ、入院生活って暇だしね。

話し相手がいるのはありがたい。

 

「・・・・・負けたか」

 

サイラオーグさんがそう呟く。

 

「・・・・・悪くない。こんなにも充実した負けは初めてかもしれない。だが、途中からはよく覚えていない。気がつけばここにいた」

 

「俺も無我夢中だったので所々記憶が抜けてますよ」

 

「それでも、一つだけハッキリしている。――――最高の殴り合いだった」

 

「ですね。あれだけボロボロになったってのに、気分が良いんです」

 

お互いに笑みを浮かべ、笑う。

 

そこへ入室してくる者がいた。

 

「失礼するよ」

 

紅髪の男性、サーゼクスさんだ。

 

「サーゼクスさん」

 

「やあ、イッセー君、サイラオーグ。素晴らしい試合だったよ。私も強くそう思うし、上役も全員満足してくれたよ。二人の将来が実に楽しみになる一戦だった」

 

サーゼクスさんは激励を俺達に送ると、近くの椅子に腰をおろした。

 

「さて、イッセー君に話があるんだ。サイラオーグ、少し彼と話してもいいだろうか?」

 

「俺は構いませんが・・・・・席を外しましょうか?」

 

「いや、構わないよ。君もそこで聞いておいて損はないかもしれない」

 

サーゼクスさんは真面目な顔で言う。

 

「イッセー君。君に昇格の話がある」

 

 

・・・・・・・・

 

 

一瞬、何を言われたのか分からず、フリーズする俺。

 

「昇格? えーと、俺がですか?」

 

サーゼクスさんは頷く。

 

「正確には君と木場君と朱乃君だ。ここまで君達はテロリストの攻撃を防いでくれた。三大勢力の会談テロ、旧魔王派のテロ、神のロキすら退けた。そして、先の京都での一件と今回の試合。これらが重なり、君達の昇格が決定された。おめでとう。これは異例であり、昨今では稀な昇格だ」

 

今まで強敵と戦ってきたのが評価されての昇格ということか。

 

 

マジか・・・・・・。

 

 

いつかは昇格したい。

そう思ってはいたけど、こうも早くその話がくるなんて・・・・・・。

 

「俺が昇格・・・・・」

 

俺の呟きにサーゼクスさんが朗らかに微笑む。

 

「君はそれだけのことをしてきたということだよ」

 

その言葉にサイラオーグさんも頷く。

 

「受けろ、兵藤一誠。おまえは冥界の英雄になるべき男だ」

 

「うむ。詳細は今後改めて通知しよう。きちんとした儀礼を済ましてからの昇格といきたいのでね。会場の設置や承認すべき事柄もこれから決めていかないといけない。それでは、これで失礼するよ。二人とも体を休めてくれ」

 

それだけを言い残すとサーゼクスさんは退室していった。

 

残された俺とサイラオーグさん。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

「どうした? いきなりの昇格と聞いて現実味がわかないか?」

 

「うーん・・・・・まぁ、そんなところですかね。・・・・・でも、今は・・・・・・・・」

 

 

 

 

グゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・

 

 

 

 

俺の腹が盛大に鳴った。

 

「・・・・・・とりあえず腹が減りました」

 

 

 

この後、俺とサイラオーグさんは盛大に笑った。

 

そして、置かれていたバナナを仲良く分けた。

 

 

 

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

ゲームの解説が終わった後、俺は要人用の観戦室に足を向けていた。

部下から「例の者」が姿を表したという報告があったからだ。

流石に解説中に抜け出せるわけがなかったのでこのタイミングとなってしまったが・・・・・・

 

要人用の観戦室は個室となっていて、オーディンの爺さんは「ヴァルハラ」専用、ゼウスやポセイドンのオヤジは「オリュンポス」専用と、各神話ごとに専用の部屋が用意されている。

 

俺が向かうのはその内の一つ。

 

と、俺がお邪魔するつもりだった部屋から「例の者」が護衛と共に出てきた。

 

五分刈りの頭、丸レンズのサングラスにアロハシャツ、首には数珠というラフな格好だ。

 

まぁ、その点に関しては俺も人のことは言えないがな。

 

俺は「例の者」―――――帝釈天に話しかけた。

 

「これは帝釈天殿、ゲームはいかがでしたかな?」

 

「よー、正義の堕天使さん! イカしたゲームだZE! 現魔王派と癒着しているあんたにとってみれば『教え子』が勝ってよかったんだろ? グレモリーチーム、ありゃ常軌を逸したメンツが集い過ぎだ。並のチームじゃ相手にできんだろ」

 

常軌を逸したメンツね・・・・・・。

 

それは否定しない。

 

今のグレモリー眷属はイッセーを筆頭に猛者が揃っているからな。

 

だが、こいつが言うと皮肉にしか聞こえねぇ。

 

全勢力のトップ陣でも最高クラスの実力者。

戦いの神『阿修羅』に勝った武神、天帝。

 

俺はどうしても訊きたいことがあった。

 

京都で起きた英雄派のテロに関することだ。

 

「訊きたいことがある。」

 

「HAHAHA! ンだよ、正義の堕天使兄さん! 俺様で良かったらなんぼでも答えてやンぜ?」

 

「神滅具所有者のことを、曹操の事を俺たちよりも先に知っていたな?」

 

イッセーからの報告では初代孫悟空は曹操のことを知っていた。

 

こいつの配下である孫悟空が知っていたということは、こいつも曹操のことを知っている。

 

――――こいつは俺達が知らないところで、あの小僧と接触を持っていた。

 

帝釈天は意味深に口の端を愉快そうに笑ました。

 

「だとしたら、どうすんよ? 俺様があいつをガキの頃から知っていたとして何が不満だ? 報告しなかったこと? それとも・・・・・通じていたことか?」

 

・・・・・・・この野郎、自分からバラしやがった・・・・・・!

 

「インドラ・・・・・・ッ!」

 

俺は怒気の含んだ声でその名を呼ぶが、帝釈天は不敵に笑う。

 

「HAHAHA! そっちの名で呼ぶなんて粋なことをしてくれるじゃねぇか。そんな怖い顔をスンナや。それだったら、冥府の神ハーデスのやってることなんざ、勢力図を塗り替えるレベルだぜ?」

 

ハーデスのことも知ってるのか・・・・・・。

 

こいつ、どこまで「通じて」やがる・・・・・・?

 

帝釈天は俺に指を突きつけてくる。

 

「一つ言っとくぜ、若造。どこの勢力も表面は平和、講和なんてもんを謳ってやがるがな、腹の中じゃあ『他の神話なんて滅べ、クソが!』って思ってンだよ。オーディンのジジイやゼウスのクソオヤジが例外的に甘々なだけだぜ。信じる神が少なきゃ、人間どもの意思を統一できて万々歳だからな! だいたい、てめぇらの神話に攻め込まれて、民間の伝説レベルにまで落とした神々がどれくらいいると思う? ――――神ってのは人間以上に恨み辛みに正直なンだぜ?」

 

そんなことはわかってんだよ。

 

どこの神々も建前で協力体勢を呑んでも、腹の中では全く違うことを考えている。

 

だがな、今はその建前が大事な時期なんだよ!

 

勢力図が変われば人間界は簡単に滅ぶんだからな・・・・・!

 

帝釈天は息を吐く。

 

「ま、表向きは協力してやんよ。確かにオーフィス達は邪魔だからな」

 

オーフィス達、か。

 

そこには曹操も入っているのか?

 

「あー、そうそう。あの乳龍帝に言っておいてくれ。最高だったぜってな。・・・・・・だが、もし、世界の脅威になるようなら、俺が魂ごと消滅させてやるってよ。『天』を称するのは俺達だけで十分だ」

 

帝釈天はそう言って、去っていった。

 

 

世界の脅威、ね。

 

 

そいつは問題ないと思うぜ?

 

誰かがあいつの逆鱗に触れない限りはな。

 

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

 

「一列になってお並びくださーい!」

 

ウェイトレス姿の可愛らしい格好のアーシアが、廊下に並ぶ生徒達を整列させていた。

 

喫茶店に並ぶ長蛇の列だ。

 

オカルト研究部の出し物はお化け屋敷、占い、喫茶店、オカルト研究の発表など。

旧校舎を丸ごと使った出し物は大盛況だった!

 

我が部の美少女達に憧れるのは男子だけじゃなく、女子もいるから、男女ともにかなりの数だ。

 

「はーい、チーズ」

 

と、喫茶店で写真を撮っているのはウェイトレス姿のリアス。

 

部員と写真を撮れるシステムを作ったら、それがまた大当たりでソッコーで話題の的に。

 

俺?

 

指名なんてこないよ。

 

うちには木場がいるからな!

 

あのイケメンフェイスに勝てるわけねぇだろ!

クソッタレめ!

 

「やっほー。来たわよ、イッセー」

 

「大分賑わっているようだな」

 

声をかけてきたのはアリスとティアだ。

 

「来てくれたんだな」

 

「当たり前じゃない。私もこの学園に来るかも知れないんだし、こういうのはしっかり見ておかないとね」

 

「うむ。私はアリスの付き添いだが、こういうのも悪くない。今日は楽しませてもらう」

 

うん、しっかり楽しんでいるよね。

 

その手に握ったワタアメだとか、唐揚げだとかは屋台で買ってきただろ。

 

気になるのは、ティアの脇に抱えられた大きな箱だが・・・・・。

 

「それは?」

 

俺が指差して尋ねるとアリスが自慢げに答えた。

 

「これはね、野球部のバッティングコーナーで得た景品よ! 一撃でホームランを出してやったわ!」

 

「場外まで飛んでいってたな」

 

おいおい!

一般の人間がアリス相手に三振取れるわけねぇだろ!

 

少しは手加減しようぜ!?

 

・・・・・・・ま、楽しんでるなら別にいいか。

 

「お兄ちゃーん、こっちも手伝ってよー」

 

「あー、わかったわかった。それじゃあ、二人とも楽しんでいってくれ」

 

美羽に呼ばれた俺は二人にそう言うとお化け屋敷に使っている教室に入った。

 

そう、俺はこの時間、お化け屋敷のフランケンシュタイン役。

メイクもしている。

 

ギャスパーはドラキュラ役だが怖いどころか可愛くなっていた。

 

そんで、美羽は雪女!

 

白い着物を着て、メイクをしているんだが・・・・・・こちらは妙に色気があってだな。

薄い着物の隙間から覗かせる美羽の太ももやら胸元がエロいことに・・・・・・。

 

眼福だ!

 

・・・・・だが、この姿を他の男子に見せるとなると・・・・・・・!

 

「ボク、あと10分くらいしたら喫茶店だから、もうすぐ抜けるね」

 

「了解。・・・・・変なことされたらすぐに言えよ? その時は・・・・・俺が絞める!」

 

そりゃあ、美羽に手を出そうってんなら、お兄さん怒るからね!

 

「・・・・・お客さん絞めたらダメだよ」

 

『シスコンめ』

 

『恋人同士になったからいいのかな・・・・・?』

 

相棒二人が何か言ってた。

 

 

 

 

 

 

それから少し時間が経った頃。

 

場所は変わって一階奥のチケット売り場。

 

現在、作ったチケットが売り切れていて、レイヴェルが作ってくれている。

 

机にはチケット売りきれの札を出しているんだが、向こうの方にはチケットの再販をまだかまだかと待つお客さんの姿。

 

まぁ、チケットが出来るまで待ってなさい。

 

そんなわけで今の俺はちょっと休憩してる。

 

で、隣にはアザゼル先生。

 

「先生のUFOはどうですか?」

 

「こっちもそれなりに人は来てるな。さっき、UFOの研究家が来てな。中々充実した議論が出来た」

 

・・・・・・全力で楽しんでるな、この人。

 

教師の仕事はしてるのだろうか?

 

まぁ、どうせ後でロスヴァイセさん辺りに説教されるんだろうなぁ。

 

「それで、サイラオーグさんを支援していた上層部が手を引いたってのは?」

 

俺は先生から試合後の上役の動きを聞かされていたんだ。

 

どうやら、サイラオーグさんを支援していた上役が何人か手を引いたらしい。

 

「ああ。ま、俺から言わせれば手を引いた奴らは馬鹿だと思うがね。おまえとあれだけ打ち合えるってのは、ほとんど魔王と打ち合えるって言っているようなもんだぜ? それを理解してない奴がいるってことに俺は驚いたね。サイラオーグとの手を切っていない奴はそこんところを理解しているんだろうな」

 

それでも、サイラオーグさんは上へのパイプをいくつか失ったことになるのか・・・・・・。

 

「大王次期当主の座は?」

 

「そこは変動なしだ。滅びを持たないとはいえ、あれだけの実力者だ。民衆からの支持もある。大王家の連中があいつを気に入らなくても、そう簡単には下ろせないさ」

 

なるほどね。

 

聞いた話だと大王家はサイラオーグさんを嫌ってるみたいだから、今回のゲームに敗北したことで何かしらしてくるかと思ったんだけど・・・・・・どうやら、杞憂に済んだらしい。

 

「ま、そういうことだ。今回の敗北で上へ上がるのが少し遅くなるだけのこと。あいつなら直ぐにでも戻ってくる」

 

そうだな。

 

あの人なら――――――。

 

「おーい! アザゼル先生ー! 知り合いからUFOの写真を送ってもらったぞー!」

 

と、向こうの方から丸眼鏡をかけたおじさんが手をブンブン振って先生を呼んでいた。

 

あの人が研究家かな?

 

「マジでか! よーし、さっきの続きといこうか!」

 

先生はテンション高めにおじさんの方へと歩いていった。

 

うん、あの人が一番楽しんでいるように見える!

つーか、絶対教師の仕事してねー!

 

「イッセー様、新しいチケットができましたわ」

 

「おっ、サンキューな」

 

どうやら、チケットの追加生産が完了したらしい。

 

チケット売り場の売り切れ札を取り払った瞬間、客がダッシュしてきた。

 

急ぎすぎだろ!

必死か、おまえら!?

 

「はい、占いの券ですね」

 

レイヴェルは学園祭を楽しめているようだ。

 

レイヴェルがチケットを売りながら言う。

 

「・・・・・イッセー様」

 

「ん?」

 

「試合、感動しました・・・・・・。最後、相手選手を抱き締めるイッセー様を見ていたら、私もつい泣いてしまって・・・・・・」

 

頬を赤くするレイヴェル。

 

おいおい・・・・・・どうした、突然・・・・・・。

 

「ま、まぁ、俺も気分が盛り上がっていたというか何というか・・・・・。改めて言われると恥ずかしいかな」

 

「そ、そんなことはないと思います! そ、そうですわ! 私、打ち上げのケーキを作ります!」

 

「おっ、いいね。レイヴェルのケーキは美味いからな。楽しみにしてるよ」

 

俺がそう言うと、レイヴェルは顎に手をやり大胆に言う。

 

「と、当然ですわ! 特別でしてよ!」

 

まぁ、これでこそレイヴェルだな。

 

そんなことを思っている間にチケット売り場に並ぶ列は長蛇の列と化していた。

 

こりゃ、しばらくは忙しくなりそうだ。

 

「イッセー! 親友優待とかないのか!」

 

「倍の金額出すから!」

 

しっかり並べよ、悪友共。

 

 

 

 

 

 

「だあー、疲れたー」

 

 

学園祭の終盤。

 

チケット販売を終えた俺は部室で一人、ソファーに寝転がっていた。

 

校庭ではキャンプファイヤーを焚いて、その周囲では男女が楽しそうに踊っていた。

 

俺は・・・・・・もう疲れた。

 

チケット売りだの喫茶店のウェイターだのお化け屋敷だのでもうヘトヘトてす。

バアル戦の疲れも残っているから余計にね。

 

ちなみにだが、アリスやティアの他にサーゼクスさんやセラフォルーさんも来ていた。

・・・・・・が、顔を見せてからすぐにグレイフィアさんと会長に引きずられていった。

 

魔王二人が引きずられていくその光景は何とも言えないものがあった。

 

とりあえず、今は横になってゴロゴロしてる。

 

このまま瞼を閉じれば一瞬で夢の中だろう。

 

皆もまだ戻ってくる様子はないし・・・・・・少し寝るか。

 

 

その時、部室の扉が開いた。

 

 

入ってきたのはリアスだった。

 

「あら、イッセー。お疲れさま」

 

「お疲れ。大盛況だったな」

 

「ええ。大変だったけど楽しかったわ。最後の学園祭、もう思い残すことがないくらいよ」

 

そっか。

 

リアスと朱乃は三年生だから、今年が最後になるんだな。

 

俺が上体を起こすと、リアスは隣に座る。

 

「・・・・・・・」

 

しばし無言が続く。

 

いや、リアスは何か言い出そうとしてるけど顔を赤くして言い出せないといった感じだ。

 

何か悩みが・・・・・・?

 

なんてことを考えている俺の視界にカレンダーが映る。

 

今日は日曜日。

明日は代休で休みか。

 

ふと見るとリアスの視線もカレンダーと俺を行き来していた。

 

 

 

・・・・・・・あ、そういうこと。

 

 

 

 

そういえば、約束だったな。

 

リアスに言う。

 

「リアス。明日、二人で出掛けようか」

 

明日は俺もリアスもフリーなのは分かってる。

 

「え?」

 

虚をつかれたかのように目を丸くするリアス。

 

俺はそんなリアスを見て微笑みながら言った。

 

「ほら、この間約束しただろ? ゲームが終わったらデートしようって。明日は休みだしちょうど良いんじゃないかな?」

 

「それは・・・・・・そうだけど。良いの? イッセー、疲れてそうだし・・・・・・」

 

「大丈夫だよ。これくらい一晩寝たら吹っ飛ぶさ。それに―――――俺がリアスと出掛けたいんだ」

 

「――――っ」

 

俺の言葉にリアスは一瞬、目を見開く。

 

我ながら強引なお誘いだとは思うが、リアスと出掛けたいってのは本心だ。

 

 

リアスの反応は―――――

 

 

 

リアスは俺の肩に頭を乗せると腕を組んできた。

 

そして、

 

「うん・・・・・・!」

 

顔を覗き込むと頬を赤くして、凄く幸せそうな笑顔をしていた。

 

こうなると完全に甘えモードなんだよね。

普段のお姉さまが完全に何処かへと行ってしまってる。

 

そこが可愛いんだけどね!

 

さて、今日は帰ったら明日のデートのプランを考えないとな。

 

「リアス、何処か行きたいところは―――――」

 

リアスの頭を撫でながら尋ねようとした。

 

 

その時だった。

 

 

ガチャ

 

 

「あ、イッセーさん。先に戻られていたのですね・・・・・・はうっ! イッセーさんがリアスお姉さまと・・・・・!」

 

アーシア達が入ってきたぁぁぁあああ!!

 

このタイミングでかよ!

 

何時もながらに凄いタイミングで入ってくるよね!

 

「あらあら。ずるいわ、リアス。私もイッセー君の隣に行きますわ」

 

そう言って朱乃がリアスの反対側へと座る。

 

そして、腕を組んできた!

 

 

むにゅぅぅぅ

 

 

朱乃のおっぱいが俺の腕を挟んでるぅぅぅぅうう!!

 

最高だ!

 

たまらんぜ!

 

「ちょっと、朱乃! 今、良い雰囲気だったのに、どうして入ってくるのよ!」

 

「私だってイッセー君と良い雰囲気になりたいですわ。ねぇ、イッセー君、あのこと覚えてる?」

 

「あのこと?」

 

はて?

 

朱乃とも何か約束したかな?

 

「負けたらお仕置き。私は相手の女王に負けてしまいましたから、イッセー君のお仕置きが欲しいですわ」

 

そ、それかよぉぉぉぉぉおおおおお!!!

 

おいおいおい!

 

あれを朱乃にもしろってか!

 

「あ、朱乃!? それはお仕置きなの!? ご褒美の間違いじゃないの!?」

 

リアスもそのツッコミはおかしい!

 

的確じゃないよ!

 

「鬼畜なイッセー君を体験したいのよ」

 

「だったら、私もイッセーのお仕置きを受けるわ! 私もあの獅子にやられそうになったもの!」

 

リアスゥゥゥゥゥウウ!?

 

自分が何言ってるか分かってる!?

 

冷静になってくれ!

 

「ふむ。お仕置きか・・・・・。私も負けてしまったからな。イッセーのお仕置きを受けようじゃないか!」

 

ゼノヴィア!?

 

なんでそんなに堂々としてるの!?

 

「わ、私もあまり役に立てなかったので・・・・・・お仕置きを受けますぅぅぅううう!!」

 

アーシア!?

 

アーシアも活躍してたよ!

 

皆のケガを治してたじゃん!

 

「・・・・・・私も最後に油断してしまいました。お仕置きを受けないといけません」

 

小猫ちゃんまで!?

 

油断することは誰でもあるって!

 

無理にお仕置きを受けようと思わないで!

 

「私も体験したいんだけど、試合には出てないしね・・・・・」

 

「うーん、ボクも出てないし・・・・・」

 

「私は多分堕ちちゃうから・・・・・見学かしら?」

 

レイナと美羽とイリナもそこで相談しないで!

 

「私は・・・・・遠慮しておきます」

 

流石はロスヴァイセさん!

 

よかった!

 

ようやくまともな人がいた!

 

『決まりね! 出場したロスヴァイセちゃん以外の女の子達はイッセーのお仕置きフルコースよ!』

 

おいぃぃぃぃぃぃ!!!

 

勝手に仕切るな、この駄女神!

 

当店ではそんなコースは扱っておりません!

 

「す、凄いです、イッセー先輩」

 

「うん。これからイッセー君はどうなるんだろうね?」

 

そこの男子二人!

 

傍観してないで助けてくれよ!

 

「家庭科室をお借りして、ケーキを作ってきましたわ!・・・・・・あれ? 皆様、どうかされたんですか?」

 

レイヴェルが大きなケーキを持って入室してくる。

 

ケーキを作ってくれたんだな!

 

ありがとう、レイヴェル!

 

でも、この状況への質問はやめてくれ!

 

『それじゃあ、お仕置きは今夜開催するわ! 場所はイッセーの部屋! 参加者は集まるように!』

 

「「「「おおーーーーー!!」」」」

 

イグニスの掛け声に女性陣が拳を上げた。

 

 

 

俺、この先どうなるんだろう・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、第十章学園祭のライオンハートは完結です!

原作の流れに沿いつつオリジナル要素も入れてみましたがいかがだったでしょうか?

次回は番外編を書きたいと思いますが、今のところ内容は考えていません!(申し訳ない!)
書けたら投稿します!

次章は昇格試験です!






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番外編 フリーダム、イグニスさん!!

学園祭から数日が経ったある日。

 

 

「おらああああああ!!!!」

 

「・・・・・・・甘いです」

 

 

いきなりであれだが、俺は今小猫ちゃんと戦っていた。

 

繰り広げるのは指と指のラッシュ。

 

手に持ったコントローラーのボタンを的確に押して、技を繰り出している。

 

そう、俺達は先日発売された格闘ゲームで対戦していた。

 

テレビ画面には胴着を着たキャラクターが戦っていて、パンチやら蹴りやらを相手キャラクター目掛けて放っている。

 

俺が小猫ちゃんに挑んだのは小猫ちゃんがゲームを得意としていると聞いたからだ。

 

「やるね、小猫ちゃん! しかーし! 俺が編み出した新コンボならどうよ!」

 

と、個人的に練習した格闘コンボを意気揚々と繰り出す俺だが・・・・・

 

 

ピコピコピコ バキューン!!

 

 

「な、なぁっ!?」

 

 

あっさりと避けられ、カウンターを貰ってしまった。

 

「・・・・・格闘ゲームで私に勝とうなんて、千年早いです」

 

そう言って、宙に浮いたら俺のキャラクターへとここぞとばかりにコンボを放つ小猫ちゃん。

 

ああっ、HPゲージがみるみる減っていく!

 

「あっ、ちょ、タンマ!!」

 

「問答無用」

 

 

容赦のない連撃は俺のキャラクターをフルボッコにして――――

 

 

『Player2 WIN!!』

 

 

 

テレビ画面には小猫ちゃんの勝利を告げる文字。

 

 

う、嘘だろ・・・・・。

 

開始してソッコーで負けた・・・・・。

 

買ってからすぐにやりこんだ俺に対して、小猫ちゃんは今日が初見だぞ!?

 

「あらゆる格闘ゲームをやりこんできた私にはそんなの無意味です」

 

ううっ・・・・・

 

なぜか、小猫ちゃんが大きく見えてしまう!

 

このまま引き下がるのは悔しいが今の俺が小猫ちゃんに勝てるイメージがわかない。

 

ここは日を改めてリベンジしよう!

 

俺が意気込んでいると小猫ちゃんが言った。

 

「私が勝ちましたから、お願いを聞いてもらいます」

 

あー、そうそう。

 

実は対戦前に約束したんだよね。

負けた方は勝った方の言うことを一つだけ聞くって。

 

俺が勝ってたら、小猫ちゃんにマッサージでもしてもらうつもりだったんだけど・・・・・・。

 

負けたものは仕方がない。

 

「OK。俺に出来ることなら何でも言ってくれ」

 

「何でもですか?」

 

「おう。俺に出来ることならね」

 

無茶難題を言われると、流石に無理だからね。

 

俺が出来る範囲でってことで。

 

さて、小猫ちゃんのお願いは・・・・・・

 

「それじゃあ・・・・・膝枕と撫で撫でお願いします」

 

頬を赤くしてながら言う小猫ちゃん。

モジモジしてるところが愛くるしい!

 

お願いも可愛いな!

 

それくらいはお安いご用だぜ!

 

俺が快く受けようとすると・・・・・・

 

「イッセー、小猫。そろそろお昼にするからゲームをやめてこっちにきなさい」

 

リアスに呼ばれた。

 

時計を見ると十二時を少し過ぎたくらいで、昼食にはちょうど良い時間。

 

「わかった。それじゃあ、後でしてあげるよ」

 

「はい」

 

そう言って、テレビゲームをしまい食卓へと向かう。

 

テーブルには既に昼食が並べられていて、今日はナポリタンだった。

美味そうな匂いが食欲をそそる。

 

作ったのはリアスとアーシアだ。

 

基本、家の食事は女性陣が作ることになっているのだが、メインで作るのは母さんを除けば美羽にリアス、アーシアに朱乃だ。

 

アリスは母さんに教わりながらたまに作る。

今は修行中みたいなもんだ。

アリスは料理は得意ではないけど、上手くなろうと練習してる。

 

小猫ちゃんとレイナとロスヴァイセさんは作れるようだが、普段はあまり料理はしないようだ。

 

ゼノヴィアとイリナは・・・・・・以前食べたら壊滅的だった。

一瞬、三途の川が見えたのを覚えている。

あの二人には料理は作らせない方が身のためだろう。

ほとんど兵器だもんな、あれ。

 

まぁ、家の台所事情はそんな感じかな。

 

皆が席につく中、メンバーが足りない。

 

「あれ? 美羽は?」

 

俺が訊くとアリスが答えた。

 

「美羽ちゃんは昨日、夜更かししたみたい。昼寝してるわ」

 

「また寝たのか・・・・・。仕方がない、俺が起こしてくるから皆は先に食べておいてくれ」

 

俺は席をたち、美羽の部屋へと向かう。

 

あいつ、完全に夜更かしの癖がついてるよなぁ。

 

まぁ、休みの日ぐらい昼まで寝ても良いとは思うけどね。

 

 

コンコンコン

 

 

俺は美羽の部屋の前に立つと扉をノックする。

 

「美羽ー。昼飯だぞー」

 

声をかけてみるが返事が返ってこない。

 

どうやら、熟睡しているようだな。

 

 

 

・・・・・・・あれ?

 

 

 

何か忘れているような・・・・・・・。

 

とても大切なこと・・・・・・・っていうか、とてもヤバイことを・・・・・・・。

 

そんなことを頭の隅で考えながら扉を開ける。

 

 

 

 

 

すると―――――

 

 

 

 

 

「やっ・・・・・・ん、ああっ」

 

「ウフフ。美羽ちゃん、可愛い反応するわね」

 

ベッドの上にいたのは美羽と赤い髪の女性。

 

その女性にされたのか、美羽はパジャマが半分脱げたていて、胸は完全に露出しているし、パジャマの下は膝下まで脱げている状態だった。

 

女性は美羽の大きな胸の先端を指で摘まみながら言う。

 

「ここもこんなに硬くなってるわ。感じてるのかしら?」

 

「やっ・・・・・そ、そんなこと・・・・・はぁんっ」

 

「イッセーにはいっぱい吸われたり揉まれたりしたのでしょう? ここも・・・・・」

 

女性の手が美羽の下半身――――下着の中へと滑り込む。

 

「ここもイッセーに触られたのでしょう? 私も・・・・・」

 

「ダ、ダメぇ・・・・・そこは・・・・・お兄ちゃん・・・・・だけな、の・・・・ああっ」

 

美羽がビクンッと体を震わせながら弱々しく抵抗を見せる。

 

それを見て、楽しげに微笑む女性。

 

 

ここで俺は我に返った。

 

 

「俺の美羽に何やってんだぁぁぁあああ!!! この駄女神ぃぃぃぃいいい!!!」

 

 

そう、その女性とはイグニスだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふふ。美羽ちゃんがね、あまりにも気持ちよくお昼寝していたもんだから、つい」

 

悪びれる様子もなく、笑うイグニス。

 

昼食を終えた俺は目の前にイグニスを正座させて説教していた。

 

「アホかぁぁぁああ!! つい、じゃねぇよ! 美羽が涙目になってただろうが!」

 

「ふっ・・・・それだけ私のテクニックが凄いってことよ」

 

顎に手をやり、ニヤリと笑うイグニス。

 

「何の決めポーズ!? とりあえず、謝れ! 美羽に謝ってくれ!」

 

「ゴメンちゃい☆」

 

イグニスは美羽にウインクしながらペロリと舌を出す。

 

美羽は顔真っ赤の状態で何と返せば分からないでいるようだった。

 

こ、この駄女神・・・・・舐めとるな。

 

 

 

なぜ、イグニスがこうして俺達の前にいるかというと、だ。

 

以前言っていた『実験』が成功したからだ。

 

 

経路(パス)が出来たことによって、俺とイグニスの繋がりは強くなった。

 

イグニスが思い付いたのはこの経路を使って自身を具現化すること。

 

イグニスはドライグのように魂だけの状態になった訳じゃなく、自らを剣に変えただけだから、以前のように肉体を持った存在になることはいつでも可能だったとのこと。

 

ただ、問題はイグニスの莫大な力だ。

イグニスが完全に肉体を取り戻した場合、その強大な力で一瞬で辺り一体が焼け野原になる。

それはマズイ。

 

そこで、俺は一度イグニスと気を完全に同調。

周囲から体をかき集めた気とイグニスの力を合わせることでイグニスの擬似的な肉体を構築することにしたんだ。

 

この擬似的な肉体は力を持たないし、強い力を受けない限り崩れることはない。

崩れてもイグニスはまた剣の中に戻るというものになっている。

 

 

正直、俺は出来ないだろうと思っていた。

 

だけど、出来ちゃったんだよね、これが。

 

イグニス曰く出来たのは女神パワーのおかげらしいが・・・・・・・。

 

 

そんでもって、擬似的なものとは言え肉体を得たイグニスはさっそくやりたい放題やってくれてるわけだ。

 

「お姉さんも久し振りの外だからテンション上がってるのよ。多目に見てね♪」

 

いや、確かに嬉しいんだろうけどさ・・・・・・。

 

それでも限度があるからね。

 

『はぁ・・・・俺はようやく、あの女から解放されたのか・・・・・・。しばらくはゆっくり出来そうだ』

 

ドライグの声がとても穏やかなものに感じられるのは気のせいだろうか・・・・・・?

 

『相棒、これから大変だと思うが・・・・・・・頑張れ』

 

おまえ・・・・・・何されたの?

 

歴代の女の子の件だけじゃないだろ。

 

『聞くな・・・・・・!』

 

気になる!

 

ドライグは一体、何をされたんだ!?

 

「さーて、まずはどの娘で遊ぼうかな~?」

 

「おい!」

 

 

 

 

 

 

時刻は夕方を過ぎた頃。

 

 

「はぁ~、良い気持ち~。前から入ってみたかったのよ、このお風呂」

 

風呂に浸かりながら足を伸ばすイグニス。

 

今、浴場には俺とイグニスの他に、家に住む女性陣が全員集まっていた。

 

教会トリオは背中の流し合ってるし、リアスや朱乃達ものんびりしている。

 

隣にいる美羽がイグニスに訊く。

 

「でも、どうして皆でお風呂に入りたいなんて言ったの?」

 

そう、こうしてお風呂に入っているのはイグニスの希望だった。

 

普段、こうして全員で入ることもあるが、大抵は各自で入浴してるからな。

 

イグニスは頭にタオルを乗せながら言う。

 

「こういうのって良いじゃない。誰かとの裸の付き合いって私したことないしね」

 

「まぁ、神様だからな」

 

俺がそう言うとイグニスはクスリと笑う。

 

「それもあるけど、私の場合は神層階の奥に引きこもっていたから他の神との交流も無かったのよね。だからずっと一人だったわ」

 

なるほど。

 

そういや、初めて出会った時にそんなこと言ってたな。

 

「イッセーを通して、この光景を見ていいなーって思ってたのよね。誰かとワイワイ賑やかに過ごすことなんてしたことなかったから」

 

「そっか・・・・・。まぁ、これからはずっとワイワイ出来るから、良いじゃないか」

 

「ええ。だから、イッセーには感謝してるわ。こうして過ごせるようになったことは本当に嬉しいもの」

 

ウフフフ、と微笑むイグニス。

 

うーむ、つい可愛いと思ってしまった。

 

美羽がお湯をチャプチャプしながら尋ねた。

 

「もしかして、イグニスさんもお兄ちゃんを・・・・・?」

 

「そーねぇ。イッセーといるのは楽しいし、それも良いかも。妹兼恋人の美羽ちゃんは嫌かしら?」

 

「そんなことないよ。お兄ちゃんなら皆を幸せに出来ると思うし・・・・・・ボクのこともちゃんと可愛がってくれるもん。ね、お兄ちゃん?」

 

と、美羽が腕に抱きついてきた!

 

おっぱいが俺の腕を挟んでる!

 

以前より大きくなってるな、これは!

 

「流石は美羽ちゃん♪ 分かってるわね♪」

 

イグニスも反対側の腕に抱きついてきたぁぁぁああ!!

 

イグニスの裸に触れるのは初めてだけど、スベスベのモチモチだ!

 

これが女神のおっぱいなのか!

 

ありがたやありがたや!

 

「あら~、私のおっぱいに興奮してるのかな~? これが女神のおっぱいよ♪」

 

「最高っす!」

 

やっぱりエロいよね、この人!

 

 

「イッセー・・・・・・あんたねぇ・・・・・」

 

 

アリスが深くため息をついていた。

 

 

 

 

この後、家に住む女性陣がイグニスに色々なことをされてしまうことになるのだが・・・・・・。

 

俺はそれを阻止できなかった。

 

 

 

 

 




というわけで、イグニスさんが再び肉体を得る話でした。

被害は以前より拡大してますね(笑)


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第十一章 進級試験とウロボロス
1話 朝から賑やかです!


[アザゼル side]

 

 

それは学園祭が終わってすぐのことだった。

 

ヴァーリから俺宛にプライベート回線が開かれた。

 

「それは本気なのか、ヴァーリ」

 

通信用魔法陣を介して奴の元気そうな顔が見える。

 

『ああ、彼・・・・・いや、今は彼女か。彼女はそれを望んでいてね。俺としても興味があるので便宜を図りたい』

 

その提案を出されたとき、俺はかなり間の抜けた顔をしていただろう。

 

だが、それほどのものだったのだから仕方がない。

 

正直、勢力図が塗り替えられてもおかしくないほどのレベルだ。

 

「・・・・・・お前の事だ、それだけじゃないんじゃないか?」

 

『相変わらず鋭い。ゆえに他の勢力からも疎まれているわけか』

 

「余計なお世話だ」

 

『その「余計なお世話」を振り撒きすぎて、色々と思われていると聞くが?』

 

・・・・・こいつに言われなくても分かってる。

 

俺は各勢力の上層部には疎まれているだろうよ。

 

「堕天使の総督」って胡散臭い肩書きを持ったやつが「和平」だの「和議」だのを謳い出したわけだからな。

 

「・・・・・・・まぁ、これも性分だ。それで背中を狙われるなら、それで受け入れるさ」

 

『相変わらずだな』

 

「うるせーよ」

 

ヴァーリは苦笑すると、ふいに呟いた。

 

『・・・・・彼女を狙うものがいてね』

 

「当然だろうな。それこそ星の数だが、滅すること叶わずだからどいつも歯がゆい思いをしているんだがな」

 

『それはそうなんだが、身内から出そうでね。いや・・・・・仕掛けてくるかな』

 

俺の脳裏に浮かぶのは聖なる槍を持った若造。 

 

なるほど・・・・・。

 

「いぶり出す気か?」

 

『俺の敵かどうか、ハッキリさせるだけさ。まぁ、敵だろうけどね』

 

ヴァーリは楽しそうな笑みをして―――。

 

『ケリをつけるには頃合いだな』

 

こいつは、どこまでいってもバトルマニアか。

 

イッセーみたいに女でも作れば良いんだが・・・・・・こう思うのも「余計なお世話」なのかね?

 

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、俺が目を覚ますと目の前にアリスがいた。

 

反対側には美羽がいて、二人とも穏やかな寝息を立てている。

 

いつもなら、リアス達もいるんだけど・・・・・・他の皆の姿がない。

 

ってか、ここ俺の部屋じゃなくね?

 

ピンク色のカーテンに机の上には女性向けの雑誌。

家具の位置や置かれている物からして、ここはアリスの部屋か。

 

なんで、俺、アリスの部屋で寝てるんだ・・・・・・?

 

それに美羽までいるのは・・・・・・。

 

「起きた?」

 

俺がうーむと昨晩の記憶を探っていると美羽が目を覚ました。

 

「おはよう。なぁ、俺ってなんでここで寝てるんだっけ?」

 

「忘れたの? 昨日はボクとアリスさんでお兄ちゃんにお願いごとがあるって言って、ここに呼び出したんだよ。それで話しているうちに眠たくなって、ここでそのまま」

 

あー、そっか。

 

思い出したわ。

 

昨日、二人に呼び出されてあることをお願いされたんだが・・・・・・。

 

俺としては嬉しい申し出だったし、心強いんだけど・・・・・。

それはいつになるか分からないからなぁ。

 

美羽はまぶたを擦って一度上体を起こすと、体を寄せて俺に密着してくる。

 

そして、フフフと微笑みを浮かべた。

 

「お兄ちゃんの体温かいね。もう少し・・・・・こうしていてもいいかな?」

 

朝一番から可愛いこと言ってくれるぜ!

 

俺も美羽の温もりを感じられるように美羽の温もりを背中に手を回してギュッと抱きしめた。

 

温もりだけでなく、美羽の鼓動も伝わってくる。

髪から良い香りもするな。

 

ああ・・・・・安らぐなぁ。

 

久しく美羽とこんなことしてなかったから、ずっとこうしていたくなる。

 

ふいに美羽が顔をあげた。

 

「ねぇ、お兄ちゃん」

 

「ん? どうした?」

 

俺が聞き返すと、美羽は頬を染めてモジモジしながら言った。

 

「朝の・・・・・おはようのキス、してほしいな」

 

少し前までは俺が美羽を起こした後、美羽が俺のほっぺにチューすることがあったんだが・・・・・・(それ、逆じゃない? という意見は受け付けないぞ)

 

修学旅行での一件の後は美羽から求めてくるようになった。

 

まぁ、自分からキスをするってのは少し気恥ずかしくもあるんだが、美羽のお願いだから断るはずもない。

 

求められた時は俺が美羽にキスをすることになっている。

 

「いいよ。・・・・・美羽」

 

「・・・・・お兄ちゃん」

 

お互いの顔が近づいていく。

 

そして、唇を重ねた。

 

もちろんディープなものではなく、本当に重ねる程度だ。

 

それでも、離れた後は幸福感に包まれていてだな。

 

「エヘヘ・・・・・。やっぱり、いいね・・・・こういうの」

 

天使のようなスマイルを見せる美羽に癒される。

 

あぁ、朝から幸せだなぁ。

 

やっぱり平和が一番だよね!

 

 

 

「二人とも・・・・・・朝からしちゃうんだ」

 

 

「「っ!?」」

 

その声に慌てて振り向くと、アリスが起きていた!

 

いつの間に!?

 

頬を赤くして、俺達と視線を合わせてくれないんだけど・・・・・・・

 

見られた!?

今のシーン見られましたか!?

 

「・・・・・み、見た?」

 

恐る恐る尋ねると・・・・・・・

 

「二人とも凄く良い雰囲気でするんですもの・・・・・・。声をかけづらくて」

 

バッチリ見られてたぁぁぁあああ!!

 

恥ずかしい!

 

「あ、あ・・・・はぅぅぅぅ」

 

流石に美羽ちゃんも顔真っ赤だよ!

 

「・・・・・な、なんか・・・・・ゴメン・・・・・」

 

「謝らないで! こっちが申し訳なくなるから!」

 

アリスは悪くないよね!

 

悪いのはタイミングだよ!

 

はぁ・・・・・人にキスしてるところ見られるのってこんなに恥ずかしいものなのか・・・・・・。

 

うん、ここはさっさと起きてリビングに行くか。

 

少し時間を空ければ気まずさもなくなるだろうし。

 

そう考え、ベッドから降りようとすると―――――

 

「待って」

 

アリスが背中から抱きついてきた。 

背中側から前に手を回してしっかりと。 

 

え、えーと・・・・・・

 

な、何事・・・・・?

 

「私も・・・・・おはようのキス・・・・・してあげる・・・・・」

 

いきなりの展開に俺は思考が停止した。

 

「えっ?」

 

思わず聞き返してしまうが、アリスは視線を外しながら言った。

 

「だ、だって・・・・このままだったら、仲間はずれみたいで嫌だし・・・・・・。ほ、ほら! 私がしてあげるって言ってるんだから、顔こっち向けなさいよっ」

 

アリスは俺の顔を掴むと強引に引き寄せる。

 

互いの鼻が当たるくらいに近い!

 

アリスは瞳を潤ませながら、

 

「そ、それとも、私じゃ・・・・・・イヤ?」

 

ぐっ・・・・・なんで、急にそこまで雰囲気が変わるんだ!?

 

可愛いじゃないか!

 

そんなこと言われたら・・・・・・・俺だって我慢できない・・・・・・ッ!

 

「・・・・・アリス」

 

「っ!」

 

俺はアリスを引き寄せて、その唇に自分の唇を重ねた。

 

アリスは驚いた表情を浮かべて体を強ばらせる。

だけど、それは一瞬のことで直ぐに体も柔らかくなっていく。

 

離れると、アリスは口元を抑えて俺から視線をそらす。

 

「・・・・・あ、あんた・・・・・いつからこんな、積極的になったのよ・・・・・・」

 

「ハハハハ・・・・・・」

 

積極的になったというか・・・・・積極的にさせられたというか・・・・・・。

 

あんな風に言われたら俺でもああなるって。

 

「・・・・・アリスさん」

 

美羽が呟いた。

 

し、しまった!

 

美羽がいるのに、俺・・・・・・あんな・・・・・・。

 

アリスも慌てたように手を振る。

 

「み、美羽ちゃん! ご、ゴメンなさい! わ、私・・・・」

 

アリスが謝るが美羽は首を横に振った。

 

「ううん。アリスさんだって、ボクと同じ気持ちだってことは分かってるから」

 

美羽はだから、と続ける。

 

 

 

 

「今度は・・・・・三人でしたいな・・・・・」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「「ええええええええええええっ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

美羽の衝撃発言の後、俺は一階のリビングで朝食を取っていた。

 

今日は卵焼きと味噌汁と焼き鮭。

和食の定番だ。

 

「うん、美味い。皆が家に来てからは食事の時間が楽しみなんだよ。皆、料理が上手いから美味しくてなぁ。『男は胃袋をつかめ』って女性は言うらしいけど、わかるだろう、イッセー?」

 

しみじみと朗らかな笑顔で言う父さん。

 

俺もそれに頷く。

 

「うんうん、わかるよ」

 

美少女達に囲まれて、美少女が作った料理が食べられて、美少女と談笑しながら食事をする!

理想だよね!

 

毎日が最高だぜ!

 

「イッセーのお弁当はこれね♪」

 

満面の笑みを浮かべながらリアスがお昼のお弁当を俺の前に置いてくれる。

 

昼の弁当は当番制で、台所に立つメンバーが日替わりで作ってくれる。

 

そんでもって、今日の担当はリアス。

 

リアスの料理も一段と磨きがかかっているから、今から楽しみだぜ!

 

「ありがとう、リアス」

 

と、お礼を言ってる俺の視界にレイヴェルが映り込む。

 

弁当箱に料理を詰め込んでいるんだが・・・・・レイヴェルの弁当箱じゃない。

 

「なぁ、レイヴェル。その弁当箱は?」

 

「これはギャスパーさんへの差し入れですわ。お一人で朝練をしているそうですから」

 

「朝練!? ギャー助が!?」

 

ギャスパーが一人で朝練!?

 

そいつは驚きだ!

 

リアスが俺の隣の席に腰を下ろしながら言う。

 

「先日の一件で、自分の力不足を強く感じてしまったと言って、普段のメニューとは別に自主メニューをこなし始めたのよ。ハードワークにならない程度に体を一から鍛え始めたみたいなの」

 

先日の一件――――バアル戦のことか。

 

朱乃もそれに続く

 

「今の力を使いこなして、あの領域に至りたいと気合いを入れていましたわ」

 

あの領域――――禁手か。

 

力不足を感じた、か。

 

確かに今のギャスパーは弱い。

だけど、この間の試合では立派に戦って男を見せたと俺は思う。

 

あいつが自分の意思で強くなろうとするなら、俺はそれを見守ってやりたい。

 

あいつなら絶対に強くなれるさ。

 

ま、まぁ、ムキムキのあいつは想像したくないが・・・・・・。

 

「小猫さん? 顔色が優れませんわよ?」

 

レイヴェルが小猫ちゃんの顔を覗き込んでいる。

 

レイヴェルの言うように小猫ちゃんの顔色が優れていない。

顔が赤くて、少し辛そうだ。

 

「・・・・・なんでもない」

 

小猫ちゃんは簡素に返すが、レイヴェルはそれでも心配そうに小猫ちゃんの額に手を当てる。

 

「でも、お顔が赤いですわよ。風邪ではなくて? そうですわね・・・・・。フェニックス家に伝わる特製アップルシャーベットを作ってあげますわ。実家から地元産のリンゴが届きましてたの、それを使って特別にこの私が作ってあげますわね」

 

小猫ちゃんはレイヴェルの手をのけると一言。

 

「・・・・・・ありがた迷惑」

 

「んまー! ヒトの好意を即否定だなんて!! 猫は自由気ままでいいですわね!!」

 

「鳥頭に言われたくない」

 

「と、鳥頭? えーっと、日本語で鳥頭とは、物忘れの激しい方をさしましたわよね?」

 

「・・・・・よく勉強しているようだから、ほめてあげる」

 

「んもー!! この猫娘は!!」

 

ハハハハ・・・・・。

 

この二人の口喧嘩はもう日常の一部だ。

ことある度に言い合いをしている。

 

でも、仲が悪いわけではなくて、良いケンカ友達って感じだ。

 

小猫ちゃんはまだ人間界に馴れないレイヴェルを助けてるし、レイヴェルも小猫ちゃんを頼っているようだしね。

 

そんな二人の微笑ましい光景を見ていると向かいの席に座るイグニスが言った。

 

「昨日、イッセーと美羽ちゃんはアリスちゃんの部屋で寝てたみたいだけど、何をしてたのかな~」

 

「な、なんだよ・・・・・その意味深な顔は・・・・」

 

「いえね、今度は三人で合体したのかな~って」

 

「ブフゥゥゥゥゥウウウッ!!!」

 

霧状に噴き出される口の中の水!

 

な、ななななんつーこと聞きやがる、この駄女神!

 

「してねーよ! なんでそんなこと聞くんだよ!?」

 

「だって、イッセーのお父さんとお母さんは孫の顔を今か今かと待ってるみたいだし」

 

そうなの!?

 

父さんと母さんの方を見ると二人ともうんうんと頷いていた。

 

「イグニスさんの言う通りだ。早く美羽と子供作れ」

 

「私達に孫の顔を見せてちょうだい」

 

 

 

実は両親には美羽とのことは知られている。

 

修学旅行から帰ってきた俺は美羽と共に父さんと母さんの前に正座。

 

俺が美羽の初めてを貰ったんだ、ここは男として筋を通さなければと、全てを打ち明けた。

 

そして、俺は二人に土下座しながら、

 

「娘さんをくださいっ!」

 

と言ったんだ。

 

まぁ、本当ならシリウスに言うのが一番なんだけど、あの人はもういないし・・・・・・。

というわけで、美羽の親としてうちの両親に挨拶(?)をした。

 

すると、父さんは

 

「娘をよろしくお願いします」

 

と返してきた。

 

美羽と母さんは感動の涙を流していたが・・・・・・周りから見ていた皆からは何とも言えない光景だったそうだ。

 

義理とは言え、元々親子だしね・・・・・・。

 

まぁ、そんなわけで、俺と美羽の関係は親公認となっている。

 

 

 

でもね・・・・・・

 

 

 

「孫は早すぎね!?」

 

間違ってはない。

 

俺達、学生だし・・・・・・、その・・・・・孫は少し早いかなと思うんだ。

 

しかし、両親は首を横に振った。

 

「悪魔の世界ではどうかは知らないけど、日本の法律では二人は結婚できるわよ?」

 

「イッセーは二十歳で美羽は十七歳だしな」

 

うっ・・・・・それはそうなんだが・・・・・。

 

 

いやいやいや、戸籍上は十七歳だし!

 

あんたら、二十歳二十歳言い過ぎて完全に忘れてるだろ!

 

「確か・・・・・悪魔の世界では一夫多妻制だったな」

 

「となると、孫の顔もたくさん見られるわけね! うふふ、今から名前を考えないと!」

 

早い!

早すぎる!

 

なんで、家の両親はこうも行動が無駄に早いんだ!?

 

「と、とにかく! 孫に関しては先の話だから! 勝手に盛り上がらないで!」

 

「分かった分かった。じゃあ、ひっそり名前だけ考えておくよ」

 

分かってないじゃん!

孫の顔見る気満々じゃん!

 

「赤ちゃんの名前かぁ・・・・・・」

 

美羽も真剣に考え始めたぁぁああああ!?

 

もう少し待とうか!

 

その時に改めて一緒に考えよう、な?

 

父さんが母さんからお茶を受け取りながら言う。

 

「まぁ、あれだ。女の子を泣かせるようなことだけはするんじゃないぞ? それさえしなければ俺達は何も言わないさ」

 

「イッセーのことだから、そんなことはないと思うけどね」

 

母さんもそう言ってキッチンの方へと食器を運んでいった。

 

俺は苦笑しながら答えた。

 

「ハハハハ・・・・・・。それだけは絶対にしないよ」

 

 

と、俺と小猫ちゃんの視線が合った。

 

途端に小猫ちゃんはうつむいてしまう。

 

「・・・・・・孫・・・・・・赤ちゃん・・・・・・」

 

そんなことをぼそりと呟いている。

 

やっぱり元気がないようだ。

 

後で体を診てあげようかな?

 

 

 

 

 



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2話 昇格推薦、受けます!!

冬休みに突入しました!

でも、院試勉強がぁぁああああっ!!(泣)


その日の夜。

 

サーゼクスさんとグレイフィアさん、そしてアザゼル先生が家を訪問してきた。

今は兵藤家上階のVIPルームに集結している。

 

サーゼクスさんは俺と木場、朱乃、そしてリアスを前に座らせて正面から切り出した。

 

「先日も話した通り、イッセー君、木場君、朱乃君の三名は数々の殊勲を挙げた結果、私を含めた四大魔王と上層部の決定のもと、昇格の推薦が発せられる」

 

 

その話か!

 

そう、俺と木場と朱乃の三人に昇格の話が持ち上がってたんだ。

サイラオーグさんとの試合直後に少しだけ言われたんだけど・・・・・・。

 

なんていうか、早いよなぁ。

 

だって、悪魔になってから一年も経ってないんだぜ?

 

いずれは昇格できるだろうと思ってたけど、想像以上に早かったから驚いたよ。

 

今まで、テロリストと戦ったり悪神と戦ったりして、それが功績になったらしい。

まぁ、強敵だらけだったけどさ。

 

「昇格なのだが、木場君と朱乃君は中級悪魔、イッセー君にはいきなりだが上級悪魔の試験を受けてもらおうと思っている」

 

 

 

 

・・・・・・・・ん?

 

 

 

あれ?

 

幻聴かな?

 

俺だけ違う単語が聞こえたんだけど・・・・・・・。

 

俺は恐る恐る挙手しながら言った。

 

「あ、あの・・・・・、もう一度言ってもらっても良いですか? 俺、耳がおかしくなったみたいで・・・・・・」

 

すると、サーゼクスさんは朗らかに笑いながら、

 

「木場君と朱乃君には中級悪魔、そして君には上級悪魔の試験を受けてもらうよ」

 

 

 

木場と朱乃が中級悪魔で・・・・・・・俺が・・・・・・・上級悪魔・・・・・・・・?

 

 

 

「ええええええええええっ!?」

 

マジでか!?

 

俺が上級!?

 

驚愕する俺にアザゼル先生が酒の入ったグラスを片手に言う。

 

「おいおい、そんな驚くことかよ?」

 

「いや、驚くでしょ!? 俺が悪魔になってからそんなに経ってませんよ!? 中級でも早いなーって思ってたのにそれがいきなり上級!? つーか、なんで俺だけ上級? 木場と朱乃は?」

 

そう、そこも疑問だった。

 

昇格試験を受ける三人のうち、一番新参者の俺が飛び級なんてして良いのかよ?

 

サーゼクスさんがうむ、と頷く。

 

「確かに、君達の殊勲の内容から見ても、木場君も朱乃君も上級悪魔相当の昇格が妥当なのだが・・・・・」

 

「悪魔業界にも序列があるんだってよ。特に上がうるさいそうでな。おまえらに特例を認めておきながらも順序は守れと告げてきたそうだ」

 

先生もサーゼクスさんに続く。

 

それなら、余計に謎だ。

 

その理屈なら俺だって中級悪魔の試験を受けさせられるはずなんだけど・・・・・・。

 

「だがな、イッセー。おまえが中級ってのは無理がありすぎるんだよ」

 

「は?」

 

「考えてもみろ。オーフィスの蛇を使った旧ベルゼブブと旧アスモデウス、しかも大勢の手勢を連れた状態の奴らを一人で叩き潰すほどの実力だぞ? そんな奴が中級悪魔ってのはおかしいだろ。つーか、上級悪魔の肩書きでも足りねーよ」

 

いや、確かにシャルバとクルゼレイって奴等は一人で相手取ったけどさ・・・・・・。

 

それでも、早すぎる気がするんだよね。

 

悪魔の世界について知らないこともまだまだあるわけだし・・・・・・。

 

サーゼクスさんが言う。

 

「イッセー君。君の不安は分かる。確かに君は悪魔になって間もない。それゆえに君の上級悪魔への昇格を認めない上役もいた。だけどね、ここで君を昇格させることは今後の冥界にとっても重要なことなのだよ」

 

俺の昇格が冥界にとって重要・・・・・?

 

まぁ、俺はおっぱいドラゴンで冥界のチビッ子に人気もあるし、冥界に対しての影響力ってのはそこそこにあるとは思う。

それでも、少しメディアに取り上げられるくらいだろう。

 

そこまで重要なことだとは思えないんだが・・・・・・。

 

「いいかい? 上級悪魔になるということはそれ相応の責任感を持たなければならない。上級悪魔というのは貴族で、市民に対して手本となるようにしなければならないからね。また、市民を守れるだけの力も必要となる」

 

それは分かるけど・・・・・・俺、おっぱいドラゴンですよ?

 

おっぱいつついてパワーアップするような人が手本になれと言われても悪影響しか出さないような気がする。

 

「上級悪魔には常にそれらが付きまとう。しかし、それ故に様々な権限を与えられている。私を含めた四大魔王は君に上級悪魔になってもらい、君のその力をより冥界のために振るってもらいたい。そう考えているのだよ」

 

サーゼクスさんはそれに、と続ける。

 

「サイラオーグも言っていたが君は冥界の英雄になるべき存在だ。君なら上級悪魔としての務めを果たせると私は信じている」

 

―――――っ。

 

すごく真っ直ぐな瞳で言われてしまった。

 

この人は本当に俺なら出来ると信じてくれてるんだ。

 

先生は酒を飲み、笑う。

 

「ま、そう言うこった。それにおまえが上級悪魔になれば、今後の対テロもより活動しやすくなるだろうよ。難しく考えずに受けとけ。せっかく、お堅い上役の連中も許可してくれたんだしよ」

 

「そうね。イッセーなら大丈夫よ。上級悪魔としてのアドバイスは私からも出来るし、他にも頼れるメンバーはいるわ」

 

「私もイッセー様をサポートしますわ!」

 

リアスとレイヴェルにもそう言われてしまった。

 

う、うーむ・・・・・色々不安はある・・・・・。

 

だけど、皆が応援してくれるなら頑張って受けてみるしかないよな!

 

「分かりました! 俺、受けます! 今度の試験を乗り切って上級悪魔になってみせます!」

 

俺は立ち上がり、拳を握って宣言した。

 

予想よりもかなり早くて、まだ戸惑ってるところもあるが、こうなったらやってやる!

 

やり抜いて、絶対に合格してみせる!

 

俺の宣言にサーゼクスさんは満足そうな笑みを浮かべた。

 

「イッセー君ならそう言ってくれると思っていたよ。木場君と朱乃君はどうかな?」

 

木場と朱乃は俺同様に立ち上がり、サーゼクスさんに一礼する。

 

「この度の昇格の推薦、まことにありがとうございます。身に余る光栄です。リアス・グレモリー様の『騎士』として慎んでお受けいたします」

 

「私もグレモリー眷属の『女王』としてお受けいたします」

 

二人の言葉にサーゼクスさんは頷く。

 

「うむ。今回、二人は中級悪魔の試験となるが、これまでの殊勲とその実力を考えると、さほど時が経たない内に上級悪魔への推薦を貰えるだろう」

 

「他のメンバーも直に昇格の話が出るさ。おまえらはそれだけのことをやってきた。実力だってほぼ全員が上級悪魔クラスだからな。そんな下級悪魔ばっかりの眷属チームなんざ、レア中のレアだぜ?」

 

先生がそう言う。

 

そうだよな。

 

あれだけの激戦を潜り抜けた中で俺達だけ評価されるのもおかしな話だ。

この場にいる眷属全員が死線を越えてきたんだし。

 

「三人とも昇格推薦おめでとう。あなた達は私の自慢の眷属だわ。本当に幸せ者よ、私は」

 

リアスも満足そうな笑みを浮かべ、心底うれしそうだ。

 

「お兄ちゃん、木場君、朱乃さん、おめでとう!」

 

「三人ともおめでとう。応援するわ」

 

「イッセーさん、木場さん、朱乃さん、頑張ってください! 私も応援します!」

 

「うん、めでたいな」

 

「悪魔の昇格試験ってとても興味あるわ!」

 

「うんうん! 三人とも凄いわ!」

 

美羽にアリス、教会トリオにレイナも喜んでくれていた。

 

「僕も先輩に負けないよう精進したいですぅ!」

 

おおっ!

 

ギャスパーも前向きなコメントをくれた!

こいつも出会った頃とは大違いだぜ!

 

「私も早く昇格して高給で安定した生活が欲しいところです」

 

ロスヴァイセさんは相変わらず堅実な目標を持ってるな!

 

ただ、高給になったとしても百均好きは直らないだろうと思えるのは俺だけだろうか・・・・・・?

 

「それにしても、流石はリアス様のご眷属ですわ。短期間で三人・・・・・イッセー様に至っては飛び級ですもの。ね、小猫さん?」

 

レイヴェルが小猫ちゃんにそう投げ掛ける。

 

「・・・・・当たり前。おめでとうございます、イッセー先輩、祐斗先輩、朱乃さん」

 

笑顔を見せる小猫ちゃんだが、心なしか若干テンションが低い。

俺達の昇格の話は純粋に喜んでくれているようだけど・・・・・。

 

「イッセーが飛び級・・・・・。俺達には分からんが凄いことなのだろう。ううっ・・・・昔は性欲しか取り柄がなかったあのイッセーが・・・・・!」

 

「ええ、全くだわ。今まで、イッセーの性欲の強さに涙したことならあったけど・・・・・。ここ最近は嬉し涙が止まらないわ!」

 

父さんと母さんは喜んでくれているのか、号泣してる・・・・・・。

 

つーか、ここで俺の性欲について取り上げるの止めてくれる!?

流石に恥ずかしいわ!

 

「ふむ・・・・。流石はイッセーだ。私も悪魔業界を長く見てきたが飛び級する者などそうはいない。私の見込みに間違いはなかったな」

 

「でも、ティアちゃんとしてはもっと上の位が相応しいと思ってるんじゃないの?」

 

「まぁ、本音を言えばな。考えてもみろ、私とタンニーンを同時に相手取るレベルだぞ?」

 

なんてことを話してるのはティアとイグニス。

大人のお姉さんコンビだ。

 

この二人、いつの間にか仲良くなっていた。

昨日、二人がお茶してるのを見かけたんだけど、美女二人が並ぶ光景はとても絵になるんだよね。

 

皆がお祝いの言葉をぐれる中、先生が言う。

 

「さて、推薦を受けることが決まったわけだが、試験は来週だ。それが一番近い試験日だからな」

 

なぬっ!?

 

来週だと!?

 

「来週ですか。急ですね」

 

木場がそう言い、朱乃も続く。

 

「中級悪魔の試験はレポート作成と筆記と実技でしたわよね? 実技はともかく、レポートと筆記は大丈夫かしら?」

 

なるほど、中級悪魔の試験はレポートとかあるのか。

 

「あの、上級悪魔の試験の内容は?」

 

俺の問いにはグレイフィアさんが答えてくれた。

 

「上級悪魔の試験は中級悪魔の試験同様にレポート作成と筆記、実技があり、それに加えて戦術試験があります」

 

戦術試験がプラスされるのか・・・・・。

 

でも、上級悪魔になったら『悪魔の駒』を得て眷属を導かないといけないからな。

そのための試験があってもおかしくないか。

 

・・・・・・試験日は来週。

 

実技はともかく、レポートと筆記、戦術試験が問題だな。

 

俺が不安になる中、先生が言う。

 

「筆記に関しては悪魔の基礎知識と応用問題、レーティングゲーム。上級悪魔には政治学や領地の自治の内容が深く出されるだろう。戦術試験は試験官とのチェス、あとは口頭試問だったな。レポートは何を書くんだ?」

 

先生がグレイフィアさんに問う。

 

「試験の時に提出するレポートは砕いて説明しますと、『昇格したら何をしたいか』という目標をテーマに『これまで得たもの』と絡めて書いていくのがポピュラーですね」

 

なるほど。

目標と今までに得たものをテーマにして書けと。

 

ここまで聞いてると、あれだな。

 

「人間界の試験みたいですね」

 

俺がそう言うと先生がサーゼクスさんの方に視線を向けた。

 

「ま、倣ってるんだろう?」

 

「中級悪魔に昇格する悪魔の殆どが人間からの転生者なのだよ。そのため、人間界に倣ったものを参考にして、昇格試験を作成している。上級悪魔も同様。元人間が上級悪魔に昇格することは珍しいが、今後のことを見越してこちらも人間界に倣ったものへと変えたのだよ」

 

そっか、考えてみればそうだな。

 

最近は転生悪魔が多いから、昇格するのも元人間が多いんだな。

それに合わせて試験内容も決めてるわけだ。

 

先生は膝を叩くと俺達を見渡す。

 

「とにかく、レポートの締め切りが試験当日らしいから、まずはそれを優先だ。それから、イッセー!」

 

「は、はい?」

 

先生は俺に指を突き付けて言う。

 

「おまえはレポートの他に筆記試験の勉強をしろ! おまえはまだ悪魔業界について知らないことが多い。この一週間で可能限り詰め込め!」

 

「り、了解っス! え、えーと、戦術試験の勉強はどうすれば?」

 

「それについてはリアスからレクチャーを受けろ。まぁ、おまえが今までに経験してきたことを発揮できれば余裕だろうよ」

 

今まで・・・・・・。

 

先生が言ってる中にはアスト・アーデでの経験も含まれてるんだろうな。

 

まぁ、モーリスのおっさんの隣で戦ってきたから戦術についてはある程度組めると思う。

 

チェスだって、リアスから学べばなんとかなる・・・・・かな?

 

俺の肩に手を置くリアス。

 

「任せなさい、イッセー。私が色々教えてあげるわ」

 

「イッセー君、僕も改めて再確認したいから、一緒に勉強しよう」

 

「あらあら、じゃあ、私も一緒に勉強ね」

 

木場と朱乃もそう言ってくれる。

 

うん、スゲー心強い!

以前、学園での勉強で分からないところがあった時も、丁寧に教えてくれたしな!

 

よし!

いっちょう、気合い入れるか!

 

 

 

 

 

「さて、話が纏まったところで、私は一度北欧に戻ろうと思います」

 

と、ロスヴァイセさんが立ち上がった。

 

北欧に戻る?

 

どういうことだ?

 

「例の件ね?」

 

どうやら、リアスは事情を知っているらしい。

 

リアスの言葉にロスヴァイセさんが静かに頷く。

 

「ええ。京都での戦い、そして先日のバアル戦で私の問題点が見つかりました。このままではいずれ私は役立たずになるでしょう。――――『戦車』の特性を高めようと思います」

 

『戦車』の特性を高めるために北欧に帰るってことか?

 

『戦車』の特性はそこ攻撃力と防御力の高さ。

 

ロスヴァイセさんは今でも十分な火力を持っている。

・・・・・・となると、防御面か。

 

先生が訊く。

 

「ロスヴァイセ、ヴァルハラにアテがあるのか?」

 

「はい、そちら専門の先輩がいましたので。ヴァルキリー候補生時代に攻撃魔法の授業を重点に単位を取っていたのがここに来てアダになりました」

 

「そうか。確かにリアスのチームは火力は高いが防御面では薄いところがある。ロスヴァイセが魔法で防御面を強化すれば、この先リアスのチームは一気に伸びるだろう。リアスは許可を出したのか?」

 

先生がリアスに訊く。

 

「ええ。自ら伸ばしたい点があるのなら、断る理由はないわ」

 

リアスも合意していた。

 

それを聞いて、ロスヴァイセさんは礼を口にする。

 

「ありがとうございます。あ、それと学園の中間テストの問題用紙は既に作成しておきましたのでご心配なく」

 

あ・・・・・・・。

 

そ、そうだった・・・・・・そろそろ、学園でもテストがあるんだった。

 

二年の二学期は体育祭、修学旅行、学園祭、中間テストと連続であるんだったぁぁぁああああっ!!!

 

「や、やべぇ! テスト勉強、してねぇぇぇえええ!!」

 

立ち上がって叫ぶ俺!

 

ヤバいよ!

マジでヤバい!

 

テストが二連続で来るとか最悪じゃん!

 

頭を抱える俺の横ではサーゼクスさんがレイヴェルに言う。

 

「レイヴェル、例の件は承諾してくれるだろうか?」

 

「もちろんですわ、サーゼクス様」

 

快諾するレイヴェルだが・・・・・・。

 

例の件?

 

頭に疑問符を浮かべる俺にサーゼクスさんが言った。

 

「実はね、レイヴェルにイッセー君のアシスタント、つまりはマネージャーをしてもらおうと思っているのだよ」

 

マネージャー・・・・・・。

 

あー、そういや、先生にも言われたっけな。

 

「イッセー君はこれから忙しくなるだろう。人間界の学業でも、冥界での興行でも。今はグレイフィアがグレモリー眷属全体のスケジュールを管理しているが、それでも限界がある。それならば、今のうちからイッセー君にはマネージャーをつけるべきだと思ってね。そこで冥界に精通し、人間界でも勉強中のレイヴェルを推薦したのだよ」

 

なるほど。

 

確かにレイヴェルが俺のサポートをしてくれるなら心強い。

おっぱいドラゴンのイベントでも手伝ってくれてるし、何よりレイヴェルはしっかり者だしな。

 

・・・・・本当にマネージャーをつける日が来るとはね。

 

完全に芸能人だ。

まぁ、冥界での俺は芸能人だと思うけど。

 

「さっそくで悪いのだが、レイヴェル。今度の試験についてイッセー君のことを任せたい」

 

サーゼクスさんの言葉にレイヴェルは立ち上がり、自信満々に手をあげた。

 

「わかりました。このレイヴェル・フェニックス、必ずやイッセー様を上級悪魔に昇格させてみせますわ! さっそく、必要なものを集めてまいります!」

 

そう言ってレイヴェルは部屋を飛び出していった。

 

めちゃくちゃ気合い入ってるな。

 

いや、俺だって気合い入れないと!

 

レイヴェルだって支えてくれるんだ。

良い結果を出さないと、申し訳がたたない!

 

「レイヴェルにとっちゃ、イッセーの昇格は将来の自分の生き方にも大きな意味を持つからな。そりゃ、気合いも入るわ。小猫、油断してると大好きな先輩がレイヴェルに取られちまうぞ?」

 

先生、小猫ちゃんをあおらないでくださいよ。

 

小猫ちゃん、本気でレイヴェルをライバル視しちゃうんですから・・・・・。

 

などと思っていたんだが―――――

 

 

「・・・・・・・」

 

とうの小猫ちゃんは顔を俯け、心あらずの状態だった。

 

皆もおかしいと思ったのか一様に首を傾げていた。

 

うーむ、やはり体調が悪いのだろうか・・・・・・・。

 

 

 

 



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3話 応援もらいます!

「あー・・・・・・覚えること多すぎだろ・・・・・」

 

 

あれから数日が経った。

 

今は昼休みで、俺は学園の中庭にあるベンチに横になりながら、ボヤいていた。

 

片手にはこの数日で作った暗記帳。

レイヴェルの協力のもと、上級悪魔試験に出る要点だけをまとめてある。

赤シートで特定の文字を隠しながら覚えていくという、ベタな暗記方法だ。

 

はぁ・・・・・・昇格試験と中間テストがブッキングするとか・・・・・・。

 

毎日、悪魔の仕事をこなして、帰ってから勉強会だ。

皆に教えてもらいながら中間テストと昇格試験の勉強をしている。

どちらかを疎かにするわけにもいかないから、かなり大変だ。

 

・・・・・・もう、頭がパンクしそうです!

 

『でも、イッセーは頭が悪いわけではないのだから、なんとかなるんじゃないの? 戦術を組んだりもできるわけだし』

 

イグニスはそう言ってくれるが・・・・・。

 

戦術試験に関しては今までの経験があるから、なんとかなりそうなんだ。

伊達に異世界で戦ってきたわけじゃないからな。

 

ただ、冥界の政治学とかは元々の知識が薄いから覚えることが多すぎるんだよね。

政策とか出てくるし・・・・・。

 

悪魔になって一年も経ってない俺にとってはかなりハードルが高い。

 

せめて、一ヶ月あればもう少し余裕を持って勉強できると思うんだけど・・・・・。

 

『確かに話が急過ぎた。だが、それを言っても仕方がないだろう?』

 

うん、ドライグの言う通りだ。

 

一々文句を言っても始まらない。

今は合格に向けて勉強するしかないよな。  

 

レポートはもう終わらせたから、とりあえず暗記していかないと・・・・・・。

時事問題もあるみたいだし。

 

「お、兵藤じゃん」

 

声をかけられたので振り向くと匙がいた。

 

 

 

 

 

 

「聞いたぜ。昇格推薦だってな。おめでとさん」

 

匙が賛辞を送ってくれる。

 

俺は生徒会室にお邪魔をしていた。

 

「ああ、サンキュー。でも、話が急でな。覚えることが多すぎて頭がパンクしそうだ・・・・・」

 

「ま、飛び級だもんな。いきなり上級悪魔の試験となりゃ、そうなるって」

 

「あれ? おまえ、それ知ってたのか?」

 

「会長から聞いた。まぁ、俺も妥当だとは思うぜ。おまえ、かなりの死線潜ってきてるもんな。旧魔王派だの悪神だの英雄だのが相手だし」

 

まぁ、そうなんだよね。

 

ちなみに今回の俺の推薦理由の中には公には出来ないけど、アスト・アーデのことも含まれているそうだ。

これは先生から聞いた話。

 

匙が続ける。

 

「それを生きて結果出したんだから、当然っちゃ、当然だ」

 

「でも、木場も朱乃も激戦潜ってきたのに俺だけが飛び級ってのは未だに納得出来ないんだよな」

 

「姫島先輩を呼び捨てかよ・・・・・・って、実年齢はおまえの方が上だったか」

 

そうそう、俺のことは会長を始めシトリー眷属にも伝わってる。

 

匙も俺のことは知ってるんだ。

 

「まぁな。でも、黙っててくれよ? 一応、秘匿事項だからな」

 

「分かってるって。会長にも言われてるしな。・・・・・っと、さっきの続きだけど、確かに木場とかも実力的には上級悪魔クラスだもんな。俺も最初は木場と姫島先輩も飛び級かと思ってた」

 

「上が融通利かなかったそうだ。俺だけ例外らしい・・・・・」

 

「あー、なるほど。まぁ、おまえが中級ってのもおかしな話だ。実力は魔王様方と並ぶって言われてるし」

 

先生に言われたことを匙にも言われてしまった。

 

「俺も昇格したいところだけど、まずは強くならないとな」

 

匙が苦笑しながら言う。

 

「おまえも十分な実力は持ってるだろ。龍王ヴリトラもついてるし」

 

「いや、俺だけじゃなくて、シトリー全員で強くなりたいんだ。最近、会長がグリゴリに相談しててな。人工神器について」

 

「人工神器?」

 

というと、先生が使ってるやつだな。

 

神器を作ったと言う「聖書に記されし神」の神器システムを真似して独自に編み出したという。

 

まだまだ研究するところが多くて改良を繰り返しているそうだ。

 

「俺達シトリー眷属はさ、アザゼル先生の実験によく付き合っていてさ。ひとつの成果として、今度、シトリー眷属の非神器所有者に人工神器を取り付けてみようって話になったんだ」

 

「へー、それはすごいな」

 

「人工神器は本物の神器と比べて出力も安定しないし、回数制限もあるから、まだ不完全なものなんだ。けど、強くなれるのは確かだし、やっておいて損は無しだ。それに人工神器って結構面白くて、パワー、サポートのタイプ別に始まり、系統も属性系、カウンター系、結界系って感じでバリエーションも富んでやがる。俺達の神器みたいに魔物や精霊と契約したり、封印した人工神器もあるんだ」

 

先生の人工神器も五大龍王の一角『黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)』ファーブニルと契約してるな。

 

ああいうのが他にもあるのか。

 

確かに話を聞いていると人工神器も色々な種類があって面白そうだ。

一度、先生の実験を見学してみようかな?

 

などと思っていたら、生徒会室に他のシトリーメンバーが帰ってくる。

 

「あー、兵藤君がいるー」

 

お下げの『僧侶』草下さんが俺を見るなり、「昇格推薦おめでとー!」と祝ってくれた。

他のメンバーも賛辞をくれる。

 

「ありがとう! 試験頑張るよ」

 

一年の『兵士』仁村さんが言う。

 

「元士郎先輩、会長が例の書類を取りに行けと仰っていました」

 

「あー、あれな。了解。すぐに行くよ」

 

さらに二年のもう一人の『僧侶』花戒さんが匙に告げる。

 

「元ちゃん、私の用件も会長からの用事なの」

 

「マジか。重なってきたか・・・・・。仕方がねぇ、とりあえず近いところからいくとするか。それじゃ、兵藤、俺は行くわ。ゆっくりしていってくれ」

 

「へーい」

 

匙は花戒さんと仁村さんを引き連れて生徒会室をあとにした。

 

生徒会の仕事って大変そうだな。

 

そういや、以前、『戦車』の由良と『僧侶』の草下さんから聞いたんだが・・・・・・花戒さんと仁村さんが匙を巡って水面下で激闘を繰り広げているらしい。

 

あいつも大変だねぇ。

 

『あら、人のこといえるのかしら?』

 

うっ・・・・・・。

 

それもそうか・・・・・・。

 

と、ここで由良がサイン色紙を取り出してきた。

 

「兵藤、サインをくれないかい?」

 

「サイン? 俺のでいいのかよ?」

 

「もちろん。この間のバアル戦、感動したよ。最高の殴り合いだった」

 

「そ、そうか。ありがとよ」

 

由良は俺のファンらしい。

なんでも泥臭い男が好きだとか。

 

俺、泥臭いのかなぁ・・・・・・。

いや、確かに殴り合いが多いけど・・・・・・。

 

まぁ、ファンと言ってもらえて嬉しくはある。

 

しかも、由良も結構な美少女だから尚更ね。

 

「兵藤君が来ていたのですね」

 

聞き覚えのある声に振り向くと、ソーナ会長がいた。

 

「お邪魔してます、ソーナ会長」

 

「ええ」

 

俺のあいさつにクールに応える会長。

会長って美少女だけど、カッコいいと思ってしまうよな。

 

「皆に用事を頼みます。椿姫が部活棟で苦戦しているようです」

 

「「「はい!」」」

 

会長の命令を受けて、皆が返事を返す。

 

「兵藤君、またね!」

 

皆が生徒会室をあとにしていき、残ったのは俺と会長だけ!

 

ソーナ会長と二人きりってのは始めてだな。

 

って、途端に生徒会室が静寂に包まれたよ!

会長も書類に手をつけ始めたし!

 

うーむ、俺がここにいても邪魔にしかならないかなぁ・・・・・。

 

なんてことを考えていると会長が手を止めて言った。

 

「兵藤君。少し時間はあるかしら?」

 

「へっ?」

 

 

 

 

 

 

「チェックです」

 

「やりますね」

 

俺は今、ソーナ会長とチェスをしている。

 

上級悪魔の戦術試験では試験官とチェス対決もあるみたいだから、それの対策ということでソーナ会長が相手になってくれたんだ。

 

リアス達とチェスの練習もしているけど、同じ相手と何度もやっていると何となくパターンが読めてしまうからな。

 

「リアスとデートしたようですね」

 

「・・・・・リアスから聞いたんですか?」

 

「ええ。彼女とは幼い頃からの友人ですから。あなたと何かがある度に通信用魔法陣越しに話を聞かされます。初めて名前で呼んでもらえたとか、兵藤君からキスをしてもらったとか」

 

そ、そんな話をしてたの!?

 

「あなたが美羽さんと恋人という関係になってからは、リアスも燃えていましたね。あんなリアスを見たのは初めてかもしれません」

 

「ハハハ・・・・・・。マジっすか・・・・・」

 

引きつった笑みの俺に会長は真っ直ぐに視線を送りながら言った。

 

 

「あなたは私が出来そうになかった事を全て叶えるのね」

 

「どういうことですか?」

 

「ライザー・フェニックスの件、木場祐斗くんの件、ギャスパーくんの件、小猫さんの件、朱乃さんの件。リアスが抱えていたものをあなたが全部軽くしたの。私はあなたよりも長くリアスの側にいながら、友人でありながら、何も出来ませんでした。『上級悪魔だから』、『悪魔のしきたりだから』と概念に捕らわれ、それらの壁を私は越えられなかった。周囲の視線と自分の立場を鑑みて、何も出来なかったのです」

 

会長もリアスのことを心配してたんだな。

 

まぁ、二人は親友だし気にかけて当然か。

 

「あなたはそれらを意にも介さずに解決していった。私はそれがたまらなく嬉しくて、たまらない程に妬みもしたわ。私に出来ない事をあなたは全部解決してしまうのだもの。だからこそ、改めてお礼を言いたいのです。―――リアスを救ってくれてありがとう」

 

リアスを救った、か。

 

俺はそんな大したことはしてないんだけどな。

 

守りたいから守った。

助けたいから助けた。

 

リアスは俺にとって大切な人の一人だからな。

 

会長は息を吐くとクールな表情を緩める。

 

「ねぇ、兵藤君。プライベートの時はイッセー君と呼んでいいのかしら?」

 

「ええ、もちろんです」

 

俺がそう答えると会長はそれではと続ける。

 

「イッセー君。リアスのことをよろしくお願いします。わがままで直線的で短気なところもあるけど、誰よりも繊細なのよ。リアスにはそばで支える人が必要です。だからこそ、あなたにお願いしたいの。親友としてリアスには幸せになってほしいのです」

 

「任せてください。リアスは俺が守りますよ」

 

「それを聞いて安心しました。っと、チェックメイトです」

 

「あっ!?」

 

本当だ!

 

いつのまにかやられた!

どこにも逃げ場がないし!

完全に詰んでる!

 

うわー、全く気づかなかったぞ・・・・・・。

 

「フフフ、油断大敵です。試験頑張りなさい。あなたなら合格出来ると思いますよ?」

 

微笑みを見せてくれたソーナ会長。

普段、クールな会長が笑うと一段と可愛く見えるな。

 

会長にも応援されて嬉しい限りだ。

 

必ず合格してみせるぜ!

 

 

 

 

 

 

 

チェスを終えて、一息ついた後。

 

「イッセー君。プライベートの時は私のこともソーナでいいわ」

 

「えっ?」

 

いきなりのことについつい聞き返してしまう俺。

 

「だって、イッセー君の方が実年齢は私よりも上なのでしょう? リアスや朱乃のことも普段は呼び捨てみたいだし、それなら私もそれでいいかと思いまして。敬語もいりません」

 

あー、なるほど。

 

まぁ、リアスと朱乃だけ呼び捨てで二人と同い年のソーナ会長だけ、「会長」ってつけるのも変と言えばそうなのかな?

 

「わかった。それじゃあ、プライベートの時はソーナって呼ばせてもらうよ」

 

「流石に切り替えが早いですね。リアス達があなたに好意を寄せるのも頷けます」

 

今のでそんなことがわかるの!?

 

ソーナは俺の思考を読み取ったようにクスリと笑う。

 

「公私をわけて女性に接する男性は素敵ってことですよ」

 

「そ、そういうものかな・・・・・?」

 

「そうです」

 

ソーナは息を吐くと一言漏らした。

 

「私も恋人つくろうかしら」

 

おっと、これは新鮮な言葉をいただいたな。

 

「それじゃあ、匙とかどう?」

 

俺からの提案だ。

 

さて、脈ありなのかどうなのか・・・・・・。

 

ソーナは首をかしげた。

 

「匙は・・・・・・弟といったところかしら。それに彼を慕う眷属の子達がいるのだから、手なんて出せないわ」

 

あらら・・・・・・。

 

これは現時点で脈なしか。

 

匙・・・・・おまえの想いは遠いかもしれん!

 

頑張れ、匙よ!

 

 

 

 

 

 

 

 



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4話 小猫の異変

「あー・・・・・疲れた・・・・・」

 

 

ボフッ

 

 

勉強会を終え、悪魔の仕事も終えた俺は自室のベッドにダイブした。

 

マジで疲れた・・・・・・。

いや、体力的には問題ないんだけど、精神的にね・・・・・。

 

このあとも遅くまで勉強会だ。

 

学園の中間テストも上級悪魔の昇格試験も目前に迫ってるから、限界まで挑戦することになったんだ。

 

今、美羽達女性陣が深夜の勉強会前に英気を養う夜食を作ってくれている。

 

皆、毎日遅くまで勉強に付き合ってくれていてな。

リアスや朱乃、レイヴェルは昇格試験、美羽やアーシア達は中間テストの勉強を教えてくれるんだ。

 

本当に助かっている。

 

・・・・・まぁ、日中教室を抜け出して保健室で寝ていたりもするんだが、それは許してほしい!

 

とにかく、皆が俺のためにここまでしてくれているんだ!

弱音は吐いていられない!

少し休んだら頑張ろう!

 

俺は携帯のアラームをセットして瞼を閉じる。

 

こういう時は少しでも眠ると後で目がさえるもんだ。

ただ、アラームに気づかず、そのまま熟睡してしまう可能性もある。

それだけは避けたい。

 

ドライグ、時間になったら起こしてくれ。

 

『了解だ。アラームが鳴ったら声をかけよう』

 

頼んだぜ。

 

と、軽く睡眠をとろうとした時だった。

 

 

ガチャ

 

 

部屋の扉が開く音が聞こえた。

 

あれ?

もう夜食できたのか?

 

思ってたより早いな。

 

そんなことを思いながら視線をやると、そこには白装束の小猫ちゃん。

猫耳と尻尾をだして、猫又モードになっていた。

 

小猫ちゃんは体調が悪いみたいだから今日は学校も悪魔の仕事も休んでたんだ。

 

気の流れが微妙に乱れていたから一応の処置はしてみたんだけど・・・・・・。

 

小猫ちゃんの顔が赤いところを見るとあまり効果が無かったか・・・・・・?

 

それに、少し表情に艶があるような・・・・・・。

 

小猫ちゃんは俺に近づいてくると、恍惚とした表情のまま白装束の裾をたくし上げた。

 

 

・・・・・・・・は、穿いてない!?

 

 

の、ノーパンだと!?

 

流石にこれには驚きを隠せず、俺は口をあんぐりと開けていた!

 

だって、部屋に入ってきたと思ったら何も言わずにノーパンだよ!?

普通に驚くわ!

 

小猫ちゃんの大事なところをガッツリ見てしまう俺だが、ブンブンと首を横に振った!

 

「こ、小猫ちゃん!?」

 

小猫ちゃんは白装束をはだけさせると、ベッドで横になってる俺の上にまたがり、抱きついてきた!

 

荒い息づかいが聞こえ、ほんのり汗ばんだ小柄で柔らかい体が密着する!

 

「・・・・・先輩・・・・・切ないです」

 

耳元で官能的な台詞を言う小猫ちゃん。

 

しかも、俺の手を取って自分の胸に当てた!

小さいけど確かな柔らかさが俺の手に!

 

「・・・・・にゃぁぁ・・・・・先輩・・・・・」

 

おいおい、何があった!?

 

普段、小猫ちゃんは甘えては来るけど、流石にこれは様子がおかしい!

 

ざらっとした猫特有の舌触りが俺の首を伝う!

小猫ちゃんに俺の首筋をなめられた!

 

ちょ、小猫ちゃん!?

いつの間にこんなエロい舌使い覚えたの!?

 

小猫ちゃんは切なそうな瞳を浮かべたまま、小さく声を漏らした。

 

「・・・・先輩の・・・・・あ・・・・・」

 

「あ?」

 

聞く俺に小猫ちゃんはハッキリと告げてきた。

 

「赤ちゃんが欲しいです」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

な、な、なななぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃっ!?

 

赤ちゃんんんんんんんん!?

 

いや、俺達まだ学生・・・・・じゃなくて!

 

本当にどうしたんだ、小猫ちゃん!

 

小猫ちゃんは完全に白装束を脱いでしまい、全裸となってしまった!

 

そんな状態で俺の上にまたがってるものだから、もうあちこち直に当たってるよ!

 

 

そこへ―――――

 

 

「イッセー、お夜食ができたみたいよ・・・・・・あら」

 

イグニスが部屋に入ってきた!

 

ちょうど良かった!

なんとか、小猫ちゃんを止めてもらおう!

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・なんて考えてしまった俺はバカだった。

 

 

 

 

 

 

「なるほど。勉強会の前にまずは汗を流そうというのね。それは良い考えだわ。ちょっと待ってて、今皆を――――」

 

「待てぇぇぇええええええええええっ!!!!」

 

俺の叫びが家中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「猫又の発情期ってことか」

 

他のメンバーから連絡を受けて駆けつけた先生が事情を聞いて開口一番にそう言った。

 

あの後、駒王学園三年の魔物使い、安倍先輩を呼んで小猫ちゃんを診てもらった。

すると、「小猫ちゃんは子孫を残したいという本能の状態になっている」と診断されたんだ。

 

小猫ちゃんは現在、安倍先輩が調合してくれた薬を飲んで自室で休んでいる。

その薬が効いたのか今は落ち着いている。

 

「発情期、か・・・・・」

 

猫のと同じかは知らないけど、道理で気を調整しても効果が無かったわけだ。

生物がもつ本能的なものらしいからな。

 

「猫又の女は子供を宿せるようになって暫くすると一定周期で発情期に入る。要は猫又の本能が働いて子孫を残すために子作りしたくなるんだよ。その辺は猫と同様だな。猫又の女の特性上、相手は気に入っている異種族の男ってわけだ。つまりはおまえだよ、イッセー」

 

お、俺が選ばれたってことか・・・・・・?

 

自身を指差す俺に先生は頷いた。

 

「小猫はレアな猫又―――猫魈だ。赤龍帝との子供なら万々歳だ。だが・・・・・・・小猫はまだ小さい」

 

「それは小猫ちゃんの体が赤ちゃんを宿すには難しいってことですよね?」

 

「そういうことだ。出産は心身ともに成熟してなければ危険が伴う。それは人間も妖怪も同じこと。小猫の体はまだ未成熟。もし、今のままイッセーの子を宿したら出産の際に母子共に耐えられずに死ぬ可能性が高い」

 

小猫ちゃんが子供を作るにはもう少し時間が必要だってことだな。

いや、作ることは可能だろうけど危険が伴う、か

 

でも、体が未成熟なら本能的に発情期になんて来ないんじゃないのか?

 

安倍先輩も少し早いと言ってたし。

 

「小猫ちゃんの体はどうして、そんな・・・・・・。本能的に来るなら、まだ――――」

 

「その理由なら簡単にわかるじゃない」

 

そう言ったのはイグニスだった。

 

この場にいる全員の視線がイグニスに集まる。

 

「イッセーと美羽ちゃんが関係を進めてから、リアスちゃんや朱乃ちゃん、皆がイッセーに積極的に迫るようになったでしょ? それを見て感情が高まったのよ。『私も負けられない』ってね」

 

俺と美羽の関係がトリガーになった・・・・・・?

 

確かに修学旅行以降、皆の積極性が増していたけど・・・・・。

 

リアスが呟く。

 

「私達の行動が小猫を発情期へと向かわせたのかしら・・・・・」

 

「まぁ、他にもイッセーのお仕置きを受けたことが原因の一つとして挙げられるけど」

 

「おいおいおい!」

 

それ、あんたが学園祭の後に無理矢理させたんだろうが!

ドライグを人質に取ってよ!

あの時もドライグが泣きながら助けを求めに来ただろうが!

 

しかも、なぜか皆がお仕置きにノリノリだったしよ!

 

「でも、小猫ちゃんをたくさんイカせ―――」

 

「はい、ストーップ! それ以上は言うなよ、駄女神! それ以上言ったら本気で怒るよ!?」

 

「えー、じゃあ、小猫ちゃんをいっぱい気持ちよくさせて―――」

 

「言い方変えたらOKだと思うなよ!?」

 

ええい、この駄女神め!

いきなりシリアスをぶち壊してくれるな!

 

つーか、一部の女性陣が頬染めてるんですけど!?

あの時のこと思い出した!?

 

シリアスな空気が壊れたことに呆れたのか、先生はため息をついた。

 

「まぁ、原因は分からんが発情期を無理矢理抑え込むのも問題だ。薬で抑制し続けた結果、本能が正常に働かなくなるなんてこともありうるしな」

 

それは確かに。

 

薬ばかりに頼っていると逆に小猫ちゃんの体を壊してしまう可能性もある。

 

「一番良いのは小猫の状態が完全に落ち着くまでイッセーが耐えることだな」

 

「うっ・・・・・・それは、まぁ、そうですね」

 

「おまえにとっちゃ美味しい展開だろうが、ここは我慢しろ。おまえが抱けば小猫が死ぬ。そう考えれば耐えられるだろう?」

 

誘惑に耐えるかぁ・・・・・。

 

女の子に求められるとかなりアレがアレするんだけど・・・・・。

 

ぐっ・・・・・生殺し状態かよ!

 

俺がむぅ、と唸っているとイグニスがこちらに歩み寄ってきた。

 

「イッセー。いざという時のお守りを渡しておくわ」

 

と、手渡してきたのは―――――

 

 

四角いビニール袋に密封された物体。

 

 

・・・・・・・・おい、これは・・・・・・・・・

 

 

突然渡されたそれに思考が停止する俺。

いや、部屋の空気が凍った。

 

イグニスは楽しそうに微笑みながら、

 

「誘惑に負けた時用にね♪ こういう時にこそ文明の利器を使いましょう♪」

 

イグニスはビニールの端を摘まむと上に引き伸ばす。

 

その数、およそ十セット。

 

それを見て美羽が声を上げた。

 

「あっ! それボクの!」

 

「「「なにぃぃぃぃぃっ!?」」」

 

今度は美羽とイグニス以外の声が揃った!

 

なんで美羽のをイグニスが持ってるの!?

いや、そもそも美羽はなんでそれを持ってるの!?

 

「み、美羽・・・・・?」

 

俺が声をかけると美羽は頬を赤らめながら言った。

 

「え、えと・・・・・その、桐生さんにもらって・・・・・・お兄ちゃんとまた・・・・・・・ね?」

 

ね?・・・・・・と言われましても・・・・・・。

 

つーか・・・・・・・

 

 

 

桐生ぅぅぅぅぅぅぅううううっ!?

 

また、おまえかよ!

 

 

 

 

 

 

~そのころの桐生さん~

 

 

 

「今ごろ、あの兄妹は合体してるのかね~。アーシア達のことも考えるとあと二十は渡しといた方が良かったかも」

 

 

と、真面目に中間テストへ向けて勉強していた。

 

 

 

~そのころの桐生さん、以上~

 

 

 

 

イグニスは手を顎に当ててニヤリと笑う。

 

「その桐生って子やるわね。私と通じるものがあるわ」

 

確かにあんた達、気が合うかもね!

 

二人ともスケベだもんな!

 

「でも、甘い。私ならアリスちゃん達のことも考えて、一人辺り十は用意するわ」

 

一人辺り十って・・・・・・。

あんた、俺を何だと思ってんの!?

 

イグニスは美羽の肩に手を置く。

 

「まぁ、美羽ちゃんは小猫ちゃんのためにも我慢しなさい」

 

「う、うん・・・・・・。小猫ちゃんのためにも我慢するよ・・・・・」

 

あれ!?

我慢するの美羽なの!?

俺じゃないの!?

 

流石に先生もひきつった表情だ。

 

「・・・・・ま、まぁ、何にしても小猫と子作りはするなよ、イッセー」

 

「わ、わかってます・・・・・・」

 

「それならいい。――――そうだ、朱乃」

 

先生が朱乃に話を振った。

 

「バラキエルは承諾した。俺もそれでいいと思う、あとはおまえの意思次第だ」

 

 

「父が・・・・・そうですか。わかりました。ギャスパー君も頑張っているのですもの、私も」

 

朱乃が決意に満ちた表情をしていた。

 

リアスは知ってるようだけど・・・・・・朱乃はお父さんに何か頼んだのか?

 

先生は朱乃の言葉を聞いて頷いた。

 

「わかった。と、それはそれは置いておくとして、他の皆もちょっといいか」

 

先生が改まった声音で俺達を見渡した。

 

「明日、この家に訪問者を呼ぶ予定だ。リアス、それについての了解をとりたい」

 

「突然ね。初めて聞いたわ」

 

「ああ、すまんな」

 

先生は少し申し訳なさそうな声で謝る。

 

つーか、この家の決定権はリアスにあるのな。

 

「おまえ達はその訪問者に確実に不満を漏らす。いや、そいつに対して殺意を抱いてもおかしくないはずだ」

 

そ、そんなに・・・・・・?

殺意って、どんな相手が来るんだよ?

 

先生の発言に皆も顔を見合わせて驚いていた。

 

不満を抱く相手・・・・・・・。

 

リアスが思い至ったのか難しい表情を浮かべる。

 

「まさかと思うけどヴァーリ達が来るんじゃないでしょうね?」

 

あー、なるほど。

 

ヴァーリチームはあれでもテロリストの一員だからここに来ることに不満の声は出るかもな。

 

でも、殺意までいくか?

 

「まぁ、それで半分正解だ」

 

「半分? 他にも誰か来るのね?」

 

「ああ。問題はそいつなんだが・・・・・・。俺の願いとしては決して攻撃を加えないでほしい。話を聞いてやるだけで十分なんだ」

 

「それだけなの?」

 

「それだけだ。だが、上手くいけば情勢が変化する大きな出会いになるかもしれない。俺も明日の朝、もう一度ここに来る。――――だからこそ、頼む」

 

頭を下げる先生。

 

先生がそこまで言うのか・・・・・・。

 

いったい誰が来るってんだよ?

 

色々と疑問を抱いたまま、次の朝、俺達は「その人物」と出会うことになる。

 

 

 



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5話 無限との会談

次の日の朝。

 

インターホンが鳴らされたので、玄関へと向かった。

 

ドアを開けると、そこにいたのは見覚えのある人物。

黒いゴスロリ衣装を着た細身の女の子。

 

その女の子は俺の顔を見ると一言だけ簡素に漏らした。

 

「ドライグ、久しい」

 

おいおい・・・・・・マジかよ・・・・・・っ!

 

こいつは―――――

 

「オーフィス・・・・・・!?」

 

驚愕の声を上げる俺。

 

いや、驚かない方がおかしい!

予想外すぎるわ!

 

俺は一気に警戒を高めて、玄関に集まっていた他の皆も臨戦態勢に入った!

 

それも当然だ。

 

だって、こいつは各勢力にかなりの被害を与えている『禍の団』のトップだぞ!

 

無限の龍神、世界最強の存在!

 

そんなやつがなんで、俺の家を訪問してきやがった!?

ラスボスがお宅訪問するほど、この家は重要拠点なのか!?

 

オーフィスの登場に場に緊張が走る!

 

そんななか、先生が俺達とオーフィスの間に入った。

 

「待て待て! 昨夜言ったじゃねぇか! 誰が来ても殺意は抱くなって! 攻撃は無しだ! こいつも攻撃を仕掛けてこない! つーか、やったとしても俺たちが束になっても勝てねぇよ!!」

 

先生の言葉にリアスが激昂する!

 

「そのドラゴンは各勢力に攻撃を加えるテロリストの集団の親玉! 世界にも多大な損害を出しているいわば仇敵なのよ!? どうして、この怨敵を招き入れるの!? 同盟にとって重要な場所となっているこの町の、この家に! どうして、そこまでして! ・・・・・・まさか、アザゼル・・・・・あなた・・・・・・」

 

リアスはそこまで言うとハッとなる。

 

「まさかと思うけど、お兄様や天使長ミカエルに黙ってオーフィスをここに・・・・・?」

 

この町は天界と冥界が協力によって、他勢力とほ交渉にも使われる最重要拠点の一つ。

天使、堕天使、悪魔のスタッフが俺達以外にも動いており、場を維持している。

 

そこにオーフィスが入り込めたということは先生はスタッフを説得したか騙したかのどちらかだろう。

 

そして、答えはおそらく後者だ。

 

悪魔サイドからは何も連絡はなかったし、イリナやレイナの様子を見るに二人にも事前報告はなかったのだろう。

 

これだけの相手が来るんだ。

事前報告があって然るべき。

 

――――今回はそれがなかった。

 

リアスの言う通り、先生はサーゼクスさんやミカエルさんに黙ってオーフィスをここに連れてきたことになる。

 

リアスが更に激昂する。

 

「協定違反だわ、アザゼル! 魔王様や天使長ミカエルに糾弾されても文句は言えないほどの! 誰よりも各勢力の協力を訴えていたあなたが・・・・・・」

 

そこまで口にしたリアスは途端に語気を鎮めていった。

 

「協力体制を誰よりも説いていたあなたですものね。オーフィスを招きいれたのは何かしら理由があるのよね?」

 

リアスはそういう結論を口にした。

 

そう、先生は誰よりも他勢力との協力体制、和平に力を入れていた。

 

それに先生は俺達をその知識を活かして何度も救ってくれた。

 

この人はサボりで神器オタクな未婚総督だけど、面倒見のいい人なだけだ。

 

そんな先生を疑う道理はない。

 

「おい、イッセー・・・・・。おまえ、かなり失礼なこと考えていただろう?」

 

「ハハハ・・・・・気のせいですよ」

 

うん、さりげに人の心読まないでください。

 

ティアが一歩前に出て言う。

 

「まぁ、アザゼルはサボりで神器オタクな未婚総督だが、世界を破滅に導くような者ではないのは確かだ。信用しても良いと私は思うが?」

 

おいおいおい!

 

俺が考えてたことそのまんま言っちゃったよ、この人!

 

「んだと!? おまえを破滅に導いてやろうか!?」

 

おーい!

言ったそばから荒れてんぞ!?

 

全く平和的でない発言したよ!?

 

先生はコホンッと咳払いする。

 

「俺はこいつをここに招き入れるためにいろんなものを現在進行形で騙してる。だが、こいつの願いは、もしかしたら『禍の団』の存在自体を揺るがすほどのものになるかもしれないんだ。・・・・・・無駄な血を流さないために、それが必要だと判断した。改めて、おまえたちに謝り、願う。頼む、こいつの話だけでも聞いてやってくれないか?」

 

先生が再び俺達に頭を下げる。

 

この人がすることには重要な意味がある。

悪ふざけでこんなことをする人じゃない。

 

オーフィスをここに連れてきたのも大きな意味を持つんだろう。

 

「俺は先生を信じます。まぁ、束になっても勝てないんだし、ここは話を聞くしかないとも思いますしね」

 

俺は苦笑しながらそう言い、警戒を弱めた。

 

他の皆も頷き、それを了承した。

 

さて、オーフィスのことは良いとして、もう一つ気になることがある。

 

「それで、オーフィスの他にヴァーリチームから誰が?」

 

「それは―――」

 

先生が言い終わろうとした時、小さい魔法陣が玄関前に出現する。

 

そこから現れたのはトンガリ帽子にマントという出で立ちが特徴の魔法使いのルフェイと、灰色の毛並みを持つ大型犬。

 

この感じ・・・・・・覚えがある!

つーか、何度もこいつに殺られかけたわ!

 

「ごきげんよう、皆さん。ルフェイ・ペンドラゴンです。京都ではお世話になりました。こちらはフェンリルちゃんです」

 

物腰柔らかく、丁寧な挨拶をくれるルフェイだけど・・・・・。

 

フェンリルをちゃん付け!?

 

京都の時もあのデカイ石造りの巨人を「ゴッくん」って呼んでたよな!

 

この娘、スゴいな・・・・・・。

 

 

更に魔法陣がもう一つ展開する。

 

そこからはグラマーなお姉さんが登場する!

そのお姉さんは出てきた途端に俺に抱きついてきた!

 

「おひさ~赤龍帝ちん! 相変わらずおっぱいが好きなのかにゃ~?」

 

「大好きです!・・・・・じゃなくて! 黒歌かよ! どういう組み合わせだ!?」

 

そう!

現れたのは小猫ちゃんのお姉さんの黒歌!

 

クソッ!

 

乳の感触が最高じゃないか!

 

ってか、他の面子が登場してこないってことはヴァーリチームからはこの二人だけか?

 

黒歌に抱きつかれる俺をじっと見つめてくるオーフィス。

 

オーフィスは一言だけ漏らす。

 

「我、話、したい」

 

「とりあえず、お茶してやれ。このセッティングをするため、俺は他勢力を騙し騙してんだからな。これがバレて悪い方向に進んだら、俺の首が本当の意味で飛ぶからよ」

 

「はいはい・・・・・・はぁ・・・・・」

 

最強の龍神様とお茶ですか・・・・・。

 

 

 

 

 

 

VIPルームに移動した俺達。

 

俺達グレモリー眷属(小猫ちゃんは部屋で休んでいる)、美羽にアリス、イリナ、レイナ、レイヴェル、ティア、イグニス、先生、そして、ヴァーリチームのルフェイ、フェンリル、黒歌、今回の主役のオーフィスという面子が集まっている状態だ。

 

普通ではあり得ない顔ぶれに皆の表情が固いんだが・・・・・。

俺としてはシリアスブレイカーのイグニスが実体化した状態でこの場にいることの方が不安で仕方がねぇ。

 

頼むから、絶対に変なことするなよ!?

誰かのおっぱい揉むのも禁止!

 

「お茶ですわ」

 

朱乃が警戒しつつもヴァーリチームとオーフィスにお茶を淹れる。

 

ルフェイはお礼を言った後、お茶を口にして、黒歌はお茶請けのお菓子をモグモグ食べていた。

フェンリルはルフェイの側で気持ち良さそうに寝てる。

 

あ、相変わらず緊張感がないな・・・・・・。

 

合流した木場とギャスパーだが、木場は後ろで待機している。

表情はいつもと変わらずだが、感覚を研ぎ澄まして、何かあったらいつでも飛び出せるようにしているみたいだった。

ギャスパーは小猫ちゃんを心配して今は小猫ちゃんの部屋にいる。

あいつが側にいれば小猫ちゃんも幾分落ち着けるだろう。

 

さて、問題は目の前の龍神様だな。

 

俺は先生に耳打ちした。

 

(それで、具体的に俺はどうすれば?)

 

話をきいてほしいとは頼まれたけど、なぜオーフィスが話をしに来たのかも知らないし、無限の龍神様相手にどういう接し方をすれば良いのかも分からない。

 

(奴はおまえに興味を持っている。とりあえず、質問されたら返せ。あいつを理解する良い機会だ)

 

(質問されたら返せって・・・・・殆ど投げ槍じゃないですか)

 

(暴れることはしないだろうよ。オーフィスはヴァーリや曹操に比べたら好戦的な意思は無いに等しい。グレートレッド以外にそう攻撃を加えたりはしないだろうさ。おまえは各勢力の代表として会談するってことだ。いいか? とにかく、いいお茶会にしとけ!)

 

(俺任せかよ!?)

 

この人、軽く絞めていい!?

 

はぁ・・・・・大事な試験前だって言うのになんでこんなトンデモイベントが来るのかね。

 

などと俺と先生がヒソヒソとしているとティアが言った。

 

「それで? おまえがここを訪れた理由を聞かせてもらおうか」

 

ナイスだティア!

よくぞ切り込んでくれた!

 

やっぱり頼りになるお姉さんだよ!

 

オーフィスはお茶を口にして、ティーカップをテーブルに置くと口を開いた。

 

「我、ドライグと話したい。ドライグ、天龍やめる?」

 

う、うーん・・・・いきなり、訳のわからんことを聞かれたぞ。

 

俺は微妙な表情で聞き返す。

 

「ど、どういう意味かな?」

 

「宿主の人間、今までと違う成長をしている。我、とても不思議。今までの天龍と違う。ヴァーリも同じ。とても不思議」

 

俺とヴァーリの成長・・・・・・。

 

オーフィスは続ける。

 

「我、これまでの戦い見てた。ドライグ、違う進化した。力の波動、別物。我の知ってる限り、初めてのこと」

 

違う進化・・・・・・天武と天撃のことか。

 

って、今までの戦いも見られてたのな。

全く気付かなかったぞ。

 

オーフィスは更に続ける。

 

「だから、訊きたい。ドライグ、何になる?」

 

と、可愛く首をかしげながら訊いてきた。

 

さて、なんと答えるか・・・・・。

 

無我夢中で修行してたらこうなりました、と答えたらいいのかね?

 

いや、それはオーフィスが求める回答にはならないか・・・・・。

 

と、俺の左手の甲に宝玉が現れた。

ドライグだ。

 

『わからんよ、オーフィス。こいつが何になりたいなどと、俺にはわからん』

 

「・・・・・そう」

 

『ただ、こいつが新たな進化をする理由は単純で明快だ』

 

「それはなに?」

 

オーフィスは宝玉に視線を移して聞き返す。

 

ドライグは一拍置いた後、静かに答えた。

 

『こいつは守るために新たな力を求めている。全てを守ることは不可能。それが分かっていながらも全てを守ろうという想いが、一本の芯がこいつの中にはある。そいつが折れない限りこいつは止まらんさ。――――相棒はまだまだ進化する』

 

一本の芯、ね。

 

ドライグが言うほど大袈裟なものじゃない。

でも、言ってるのとは正しいのかな?

 

俺はまだ止まるつもりはないよ。

 

ドライグの言葉を訊いて少し黙りこむオーフィス。

それから、話を続けた。

 

「二天龍、我を無限、グレートレッドを夢幻として『覇』の力の呪文に混ぜた。ドライグ、なぜ、覇王になろうとした?」

 

『・・・・・力を求めた結果だろう。その末に俺は滅ぼされたのだ。あの時の俺は「覇」以外の力を高めることに気づけなんだ』

 

「我、『覇』、わからない。『禍の団』の者達、『覇』を求める。わからない。グレートレッドも我も『覇』ではない」

 

『最初から強い存在に「覇」の理なぞ、理解できるはずもない。無限とされる「無」から生まれたおまえと夢幻の幻想から生まれたグレートレッドは別次元なのだ。オーフィスよ、次元の狭間から抜け出てこの世界に現れたおまえは、この世界で何を見て、何を得た? そして、なぜ故郷に帰りたいと思ったのだ?』

 

「質問、我もしたい。ドライグ、なぜ違う存在になろうとする? 『覇』捨てる? その先に何がある?」

 

質問を質問で返してきたよ・・・・・。

 

俺のこの先に何がある、か。

 

そんなことはその時になってみないと分からないし・・・・・・。

 

 

 

「ドライグ、乳龍帝になる? 乳つつくと、天龍、超えられる? ドライグ、乳を司るドラゴンになる?」

 

「ブフォアッ!?」

 

その質問に俺は飲んでいたお茶を吹き出した!

 

おいおいおい!

 

無限の龍神様からとんでもない単語が飛び出してきたよ!

 

乳を司るドラゴンって何!?

 

『うぅ・・・・・こいつにまでそんなことを・・・・・はぁはぁ・・・・・! 意識が・・・・・意識が途切れそうだ・・・・!』

 

ドライグゥゥゥゥウウウ!?

 

過呼吸になってんぞ!?

 

しっかりしろ、傷は浅いぞ!?

 

そこにイグニスが追い討ちをかける!

 

「そう、ドライグはね、天龍を超えた存在に・・・・・乳龍になるの。おっぱいのパワーはそれこそ無限大! ドライグは赤き龍の帝王から赤き乳龍の帝王になるの!」

 

『くぁwせdrftgyふじこlp・・・・・!!』

 

声にならない悲鳴を上げるドライグ!

 

ヤバイ!

 

これはヤバすぎる!

 

「おい! ドライグをこれ以上追い詰めるな! つーか、赤き乳龍の帝王って何よ!? 全く威厳が感じられねぇ!」

 

ドライグ、しっかりするんだ!

 

『キャー! ドライグが!』

 

『しっかりするんだ、ドライグ!』

 

なんか、エルシャさんとベルザードさんの悲鳴まで聞こえてきたんですけど!?

 

一体ドライグに何があったんですか!?

 

状況の説明をお願いします!

 

 

すると――――

 

 

『うぅ・・・・ドライグ・・・・・あなたのことは忘れないわ・・・・・』

 

『ああ・・・・・! ドライグ! おまえは俺達にとっても最高の相棒だった! ・・・・・・安らかに眠ってくれ』

 

死んだ!?

ドライグ、死んだの!?

 

『『アーメン』』

 

「ドライグゥゥゥゥゥゥゥゥウウウッ!!!!!」

 

 

 

この後、なんやかんやあって、オーフィスと黒歌達は俺の家に少しの間住むことになった。

 

 

 

 

 

 



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6話 姉心

この章は少し短くなるかもしれません。


休日でも試験勉強に取り組む俺達。

 

リビング近くの空き部屋を勉強専用の部屋にして、棚には教科書やら参考書やらが納められている。

大半が俺の上級悪魔の試験対策用のものなんだけど・・・・・。

 

そんな環境下でリアス達に教わりながらノートに文字を書いていく。

木場や朱乃も同様。

 

そして、その様子をじーっと見てくるゴスロリ少女が一人。

オーフィスだ。

 

あれから数日が経つがオーフィスは部屋の端で俺達に視線をずっと向けているんだ。

母さんに渡された茶菓子をポリポリ食べながら。

 

一応、家に住む条件の一つとして、オーフィスと黒歌達には俺達の勉強を邪魔しないように言ってある。

向こうもそれを守ってか、特にこれといったことはしてこないし、問題を起こしたりもしていない。

 

ただ、落ち着かないんだよね・・・・・・。

流石に毎日ずっと視線を送られると、少し辛いものがある。

いや、何もしてこないんだけどさ。

 

黒歌とルフェイとフェンリルは地下の屋内プールで遊んでいる。

この二人と一匹には家から出ないように申しつけてある。

 

承諾してくれたんだけど、ルフェイはともかく黒歌がなぁ・・・・・・・。

あいつはどこかで抜け出しそうだ。

 

「イッセー様。この分野の問題ですが、まだ点数が安定してませんわ」

 

と、レイヴェルが俺の解答用紙を見て指摘する。

 

うーむ、元七十二柱の各御家の名前やら特徴はバッチリだし、人間界へ住むときのルールも覚えた。

それから断絶した家の生き残りの保護方法も当然覚えた。

このあたりは普段の悪魔の仕事でリアスを見てきてるからいける。

他の基本問題とちょっとした応用問題なら、大体解ける。

 

問題は冥界の政治と経済、それに領地の自治・・・・・。

そのあたりは上級悪魔の試験だけあって流石に難しい。

上級悪魔は自分の領地を持って治めたりもするから、当然と言えば当然なんだけどね。

 

「試験日もすぐだし、そこを集中的にやった方が良いかな?」

 

「そうですね。ただ、他の分野も怪しいところが幾つかありましたので、ここから先はイッセー様が苦手としている箇所をピックアップして取り組みましょう。まず――――」

 

そう言ってレイヴェルはパラパラとページを捲っていく。

 

本当に丁寧に教えてくれるよなぁ。

俺が苦手としてるところもチェック済みだし、分かりにくいところは噛み砕いて説明してくれる。

面倒見のいい娘だ。

 

 

「小猫ちゃん、大丈夫?」

 

「・・・・・大丈夫だよ、ギャー君」

 

気遣うギャスパーに小猫ちゃんは微笑んで返していた。

 

今日は体調がいいのか、小猫ちゃんは俺達と一緒に中間テストの勉強をしている。

 

・・・・・まだ顔が心なしか赤い。

 

あれから小猫ちゃんと俺は出来る限りの顔を合わせないようにしていた。

もちろん、小猫ちゃんの症状が収まるまでの我慢だ。

 

少し触れるだけでも、理性が本能に負けてしまう状態だからな。

なんとかしてあげたいけど、俺では逆効果になる。

 

俺も小猫ちゃんと普通に話せなくて寂しいが、小猫ちゃんも耐えてるんだから、俺も耐えないと。

 

 

と、アーシアが立ち上がり、オーフィスのもとへ。

 

「あ、あの、お菓子ばかりだとあれですから。これ、紅茶です」

 

紅茶の入ったカップをオーフィスに持っていった!

アーシアちゃん、勇気あるな!

 

オーフィスは無言でカップを受けとり、紅茶に口をつける。

 

アーシアはそれを確認するとニッコリ笑った後、戻ってきた。

 

「勇気あるな、アーシア・・・・・」

 

「そ、そんなに怖い方じゃないような気がしまして・・・・・。昨夜も美羽さんとイリナさん、イグニスさんとトランプしてましたし・・・・・」

 

「はぁ!?」

 

俺はその話に驚き、美羽とイリナの方を見る。

 

イリナは自信満々な笑みを浮かべてVサインを送ってきた。

 

「うん、誘ってみたの。最強のドラゴンとトランプできたわ」

 

「結構盛り上がったよね」

 

「ねー」

 

こ、この娘達、スゲぇ・・・・・・。

 

いや確かに少しの間接してきて、悪いやつって感じはしなかったけど・・・・・・。

いや、何を考えてるのか分からないって言った方が正しいか。

 

何にしてもトランプをやろうとは思えないかなぁ・・・・・。

 

 

あれ?

 

 

さっき、イグニスも参加したって言った?

 

まさかと思うが・・・・・・

 

「な、なぁ・・・・・イグニスもいたんだよな」

 

「いたわ」

 

「何か・・・・・した?」

 

「・・・・・・うん」

 

「ゴメン、詳しく頼む」

 

「え、えーと、トランプした後にオーフィスさんの胸を・・・・・・揉んでたよ」

 

「・・・・・・ついでに私達も揉まれたわ。私、危うく堕天しかけたんだけど・・・・・」

 

二人の報告を訊いてガックリと肩を落とす俺。

 

・・・・・・・イグニスェ・・・・・・・

 

あの駄女神・・・・・・後で説教してやる!

 

つーか、見境なしかい!

手当たりしだいに女の子に手出しやがって!

 

スケベな俺でもそこまで酷くはないぞ!?

 

木場が苦笑しながら言う。

 

「・・・・・イグニスさんの件はともかく、伝説に聞くウロボロスとは大分印象が違うね」

 

朱乃も同意し、頷いていた。

 

「混沌、無限、虚無を冠するドラゴンとは程遠い印象ですわよね」

 

『無限』と言われた『龍神』、か。

 

確かに今の光景だけを見てるとそんな風には思えない。

『禍の団』のトップだと訊いたときも「マスコットの間違いじゃねぇの?」なんてことを少し思ってしまったしな。

 

龍神、ドラゴンの神と称される存在らしいが、グレートレッドの方がドラゴンの神って感じがする。

 

ちらりとオーフィスに視線を向けると、相も変わらず俺の方をじーっと見ている。

 

この龍神様は俺から何を得ようとしている・・・・・?

 

 

 

 

 

 

それから少し経ち、昇格試験を目前に控えた深夜のことだった。

 

試験勉強を切りの良いところで切り上げた俺は試験に備えるために早めに寝たんだけど、深夜にトイレに行きたくなった。

そんでもって、今はトイレから部屋に戻る途中。

 

すると、上の階からいつもと違う空気が。

 

訝しげに思った俺は階段を上がって上の階、その部屋へと向かう。

 

その部屋の扉が少しだけ開いていて、部屋の中の様子が伺えた。

 

その部屋は小猫ちゃんの部屋。

そして、そこには黒歌がいた。

 

 

・・・・・・一応、気を消しておくか。

 

 

 

「ふふん♪ 一目で白音が発情期に入ったってわかったにゃん。あの男の遺伝子が欲しくてたまらないのかにゃ?」

 

「・・・・・姉さまには関係ない事です。出てってください」

 

「まぁまぁ。なんだったら、赤龍帝を落とす方法を伝授してあげてもいいにゃん♪」

 

ったく、黒歌のやつ何やってんだよ・・・・・・。

 

つーか、俺を落とす方法って・・・・・・ありがたいけど、今の小猫ちゃんには危険なことだ。

下手に刺激してもらっちゃ、困る。

 

小猫ちゃんが正常な時って言うか、そういうのが出来る時なら可!

 

・・・・・・まぁ、それは置いといてだ。

 

とにかく、今の小猫ちゃんにエロエロなことは吹き込まないでほしいところ。

 

ただ、どのタイミングで入室するか・・・・・・。

 

俺が入ってしまったら小猫ちゃんを刺激してしまわないだろうか・・・・・・?

 

そんなことを苦慮していたら――――

 

「んふふ♪ 部屋の中を覗いているいやらしいドラゴンさんがいるにゃ~?」

 

っ!?

 

バレた!?

気は完全に消してたぞ!?

 

「気は消してたみたいだけど、猫又だから匂いでわかっちゃうにゃん♪」

 

あちゃー、そっちか・・・・・。

そういや、小猫ちゃんも嗅覚が鋭かったな・・・・・・。

 

だけど、バレてるなら話は早い。

 

俺は迷わず小猫ちゃんの部屋に入室した。

 

「・・・・・イッセー先輩」

 

「お邪魔するよ、小猫ちゃん。・・・・・黒歌、今の小猫ちゃんに色々吹き込むのはやめろ」

 

「色々って何のことかにゃー? ハッキリ言ってくれないと分からないににゃん」

 

「その顔は分かって言ってるだろ!? おまえはスケベ親父か!?」

 

「むっ、それはヒドイにゃん。まぁ、私は白音の様子を見に来ただけよ。様子を見て発情期に入っちゃってることはすぐにわかったし。姉としては当然でしょ♪」

 

黒歌は可愛くウインクするけど、小猫ちゃんは表情を険しくする一方だ。

 

「この状態はとても敏感にゃん。こうするとね―――」

 

黒歌は小猫ちゃんの腕を引っ張り、俺の方に突き出してくる!

 

俺の胸に飛び込む小猫ちゃん。

 

「・・・・・・っっ!」

 

小猫ちゃんは途端に切ない表情をして目元を潤ませる。

 

「・・・・・にゃぁぁぁ・・・・先輩・・・・・・」

 

小さく官能的な声をあげて、さっきまでぶるぶると振り回していた尻尾が俺の腕に巻き付いてくる。

 

「どんなに我慢しても好きな男の肌に触れてしまえば、途端に子作りはたくなってしまうのよ。赤龍帝、白音はあんたの子供が欲しくてたまらない状況になっているのにゃ」

 

いや、そんなこと言われても・・・・・・。

 

俺としては今の小猫ちゃんに大きな負担をかけたくはない。

小猫ちゃんが死ぬようなことは絶対に避けたいことなんだ。

 

うぅ・・・・小猫ちゃんが体をすりすりしてくる!

 

理性が本能に流されてしまったのか、エロい表情で俺の服を脱がしてくる!

つーか、自分のも脱ぎ始めてるし!

 

小猫ちゃんのちっこいおっぱいがぁぁぁぁあああ!!!

 

「イッセー先輩・・・・・・私の体じゃ、ダメですか・・・・・?エッチできませんか・・・・・? 私は十分に先輩を受け入れられます・・・・・。いろんなところがちっこいですが、女の子の体です。だから・・・・・先輩の赤ちゃんが欲しいです・・・・・・」

 

そんな切ない瞳で迫らないでくれぇぇぇえええ!!

色々元気になっちゃうでしょぉぉぉおおおお!!

 

落ち着け、俺!

俺が小猫ちゃんを抱けば小猫ちゃんは死ぬ!

 

今は我慢だ!

我慢するんだ、俺!

 

俺は小猫ちゃんの肩を掴んで落ち着かせようとした。

 

しかし、小猫ちゃんがバランスを崩し倒れそうになった!

 

「危ねぇ!」

 

俺は間一髪、小猫ちゃんの下に回りその体を受け止めることに成功!

いやー危なかった・・・・・・。

 

小猫ちゃんはどこも打ってないと思うけど・・・・・・。

 

「大丈夫、小猫ちゃ――――」

 

そこまで言いかけた時、今の状況に気づく。

 

小猫ちゃんの顔が俺の眼前にあって、互いの息づかいが聞こえる距離にあった。

さっき、小猫ちゃんが俺と自分の服を脱がしてたから、互いの肌が直で当たってる。

 

トクンという小猫ちゃんの鼓動まで聞こえてくる!

 

小猫ちゃんは覆いかぶさるように抱き着いてきた!

 

「・・・・鳥娘には負けたくない。先輩をとられたくないです・・・・・・。マネージャーができなくても、先輩の欲求を満たすことはできると思います・・・・・」

 

何気ない素振りを見せていたが、レイヴェルの事を気にしていたのか・・・・・。

 

そういえば、試合の前にもそんなことあったか。

レイヴェルに俺を取られたくないって。

 

俺としては先輩冥利に尽きるんだけど、発情期と相まってその想いが強くなったのか・・・・・?

 

小猫ちゃんが俺のことを想ってくれるのは嬉しい。

 

でもな・・・・・・。

 

「そいつは間違ってるよ」

 

「先輩・・・・・・?」

 

小猫ちゃんは火照った顔を上げて聞き返してくる。

 

俺は小猫ちゃんの頭をやさしく撫でながら言った。

 

「小猫ちゃんはレイヴェルと違う。小猫ちゃんには小猫ちゃんの良さがあると思うぜ? それからもう一つ。俺は自分の欲求を満たすために小猫ちゃんを抱くなんてことはしない」

 

俺は一拍置いた後にハッキリと言った。

 

「俺が女の子と一緒になる時は、互いの準備が出来てからだ。今、俺が小猫ちゃんを抱いちゃったら、小猫ちゃんは後々後悔すると思う。俺だってそんなのは嫌だ」

 

今の小猫ちゃんは本能の赴くままに動いてるだけ。

そんな状態でして良いことじゃない。

 

小猫ちゃんは俯くと小さな声を漏らす。

 

「・・・・・・私じゃ、ダメですか?」

 

「ダメなもんか。だけど、今の小猫ちゃんじゃダメなんだ。俺は小猫ちゃんを死なせたくないし、後悔もさせたくない」

 

 

だから――――

 

 

俺は小猫ちゃんの小さな体をギュッと抱き締めた。

 

強く・・・・・だけど、やさしく包み込むように。

 

「今はこれで我慢な? 俺も今は我慢するからさ」

 

「・・・・・先、輩・・・・・」

 

瞳にうっすらと涙を浮かべる小猫ちゃん。  

だけど、さっきよりも僅かに瞳の色が良くなってる。

 

少しは理性を取り戻してくれたかな?

 

黒歌が感心したかのような口振りで言う。

 

「へぇ。赤龍帝ちんのことだから、タジタジになると思ってたんだけど、耐えちゃうんだ。これは予想外にゃん。女の子を知ったのかにゃ?」

 

「うるせーよ」

 

まぁ、当たってるけど!

 

黒歌は俺達の方へと近づくと、しゃがみこみ、小猫ちゃんの首筋をちょんと突いた。

 

すると、小猫ちゃんの体がビクンと一度だけ跳ねる。

 

途端に小猫ちゃんの体から全ての力が抜けていき、へたりこんでしまった。

 

黒歌は小猫ちゃんを俺から引き離して、横に寝かせる。

 

「残念だったわね、白音。赤龍帝ちんったら思ったより意志が強いみたい。まぁ、どのみち、そんな体で子を宿せば母子共に死ぬにゃん。どうしても欲しいのなら、私みたいにコントロールできるようになるまで待つべきにゃん。ねぇ、赤龍帝」

 

「なんだよ?」

 

「私の方がお得よ?」

 

「は?」

 

いきなり訳のわからんことを言ってきたな。

 

お得?

 

「白音はまだ無理だけど、私なら全然余裕にゃん。私と交尾してみない?」

 

「は、はぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「前にも言ったでしょ? 私、ドラゴンとの子供が欲しいのよ」

 

確かに言われたけど!

前回、ロキの一件で家に来たときに言われたけど!

 

この状況で言うか!?

 

た、確かに黒歌の体つきはエロくて、おっぱいの感触も最高だけど!

 

「・・・・・・ダメッ!」

 

話を聞いてたのか、小猫ちゃんは力の入らない体を必死に揺り動かして、黒歌から俺を守るように抱きついてきた。

 

「・・・・・私の先輩です。・・・・姉様には絶対にあげません!」

 

小猫ちゃんの必死の叫びだった。

 

うぅっ・・・・・そこまで俺のことを想ってくれいるなんて・・・・・!

 

お兄さん、感動して涙出そう!

 

その様子を見ていた黒歌は呆気にとられた後、ふっと小さく笑んだ。

 

「・・・・・ちょっと、そこの黒猫さん?」

 

第三者の声。

 

首だけ振り返れば、ドアのところにレイヴェルが立っていた!

 

「ありゃ、フェニックスのお嬢さん」

 

レイヴェルはツカツカと黒歌に近づき物申す。

 

「小猫さんは今とても体調が優れませんの。小猫さんに何かすると言うのなら、たとえ小猫さんのお姉さんでもクラスメートの私が許しませんわよ!」

 

おおっ!

レイヴェルが黒歌にキレてる!

しかも、小猫ちゃんを心配してのことだ!

 

二人の友情が見えた気がしたぜ!

 

レイヴェルに物申され、再び呆気にとられる黒歌だが、

 

「白音の友達かにゃ? ふーん、いつの間にかこの子を心配する子が次々増えてるのね」

 

そう言って一瞬、小猫ちゃんの方に視線を移した。

 

それは今までの少しふざけたようなものとは違っていて――――

 

黒歌は部屋を出ていこうとする。

 

そして、すれ違い様に俺の耳元に囁いた。

 

「白音のことを想ってくれてありがとね、赤龍帝ちん」

 

――――やさしい声だった。

 

それだけ言うと黒歌はレイヴェルをのけて退室していく。

 

「貴重な猫魈、これからも大事にしてね♪ そうじゃないと種族的に危機にゃん♪」

 

後ろでに手を振って去っていった。

 

 

 

・・・・・・あいつ、やっぱり小猫ちゃんのことを・・・・・・。

 

 

 

俺は去っていく黒歌の背中を見て、ふっと笑った。

 

あいつもああ見えて不器用なのかね?

 

「小猫さん、大丈夫ですか?」

 

小猫ちゃんの体調を気遣うレイヴェル。

 

「レイヴェル、どうしてここに?」

 

俺が問うとレイヴェルは頬を染めて恥ずかしそうに答えた。

 

「・・・・・そ、その、私は小猫さんのクラスメートですし・・・・・・小猫さんの様子を見に来るのも私の役目かなと・・・・・。そ、それに! まだ日本に慣れない私の面倒を見るのが小猫さんの役目ですもの! 早く復調していただかないと困ります!」

 

レイヴェルも小猫ちゃんが心配だったのな。

 

普段は口喧嘩が多い二人だけど、やっぱり良い友達だと思えるよ。

 

にしても、レイヴェルも素直じゃないねー。

 

「・・・・・二人ともゴメンなさい。先輩、私のせいで・・・・」

 

申し訳なさそうに小猫ちゃんは俺とレイヴェルに謝る。

 

小猫ちゃんの表情からは赤みが消えていて、正常に戻っている。

 

・・・・・一応、確かめとくか。

 

「ちょっと触るよ」

 

「はい」

 

小猫ちゃんの了承をとって、俺は小猫ちゃんの頬に触れる。

 

触れること十数秒。

 

小猫ちゃんが興奮する様子はない。

 

「やっぱりか・・・・・。小猫ちゃん、体の調子はどう?」

 

俺が訊くと小猫ちゃんは自身の変化に気づいたようで、額やらお腹に手を当てたりして、驚きの表情を浮かべた。

 

「・・・・普通に戻ってます」

 

「は、発情期が止まりましたの・・・・・? いったい何が・・・・・・」

 

レイヴェルも驚いている様子だった。

 

黒歌が何かしらの術で発情期を止めたようだ。

 

「ふぅ・・・・・やっぱり不器用だな、あいつ」

 

「「?」」

 

俺の呟きに後輩二人は頭に疑問符を浮かべていた。

 

 

 

 



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7話 試験当日! いざ、試験会場へ!

試験日当日。

 

俺達は兵藤家の地下にある転移用魔法陣に集結していた。

 

格好は駒王学園の制服だ。

レーティングゲームの時も着てたし、もうこれがグレモリーのユニフォームみたいなもんだな。

 

鞄の中には筆記用具に推薦状などの受験に必要なもの。

加えて事前確認用のノートが入っている。

試験開始ギリギリまではこのノートで覚えたことをおさらいするつもりだ。

 

雰囲気的には高校受験と同じだな。

 

試験会場となる昇格試験センターに行くのは俺と木場と朱乃、マネージャーのレイヴェル。

先生や他のメンバーも冥界までは付いてくるそうだが、会場近くのホテルで待機するとのこと。

 

転移はまず、受験者だけが一気に会場に行くそうで、その後、受験者以外のメンバーはホテルにジャンプするそうだ。

 

「そういや、ギャスパーは?」

 

見渡すが、ギャスパーの姿だけがない。

 

先生が答える。

 

「あいつなら、一足早くにここで転移して、冥界――――グリゴリの神器研究機関に行ったよ」

 

「あいつ一人でですか?」

 

「そうだ」

 

マジか。

 

ギャスパー一人で行動するなんて珍しいから少し驚いたぞ。

 

「バアル戦が終わってすぐにな。あいつ、俺のところに頭下げに来たんだよ。『先輩達のように強くなりたい! 僕ももっと皆さんのために力を使えるようになりたい』ってな」

 

――――っ。

 

ギャスパーがそんなことを・・・・・・。

 

「それだけの決心をしてグリゴリの門を叩いたんだ。引きこもりで臆病だったあいつがだ。生半可な決断じゃないだろう。今頃、研究員の指導のもと、自分の神器と向き合い始めているはずだ」

 

そっか・・・・・。

あいつ、そこまでの覚悟を・・・・・・。

 

あいつも男だってことだな。

あいつなら、きっと強くなって帰ってくるはずだ。

 

頑張れ、ギャスパー!

俺も頑張るからよ!

 

「で、ギャスパーは分かったんですけど、こいつらどうするんです?」

 

俺が指差す方向にはオーフィスと黒歌達。

 

まさかと思うが試験会場にまで付いてくるんじゃないだろうな?

オーフィスの目的は俺を見ることみたいだし。

 

「流石に会場に行くのはマズイから、俺達と共にホテル直行だ」

 

ま、そうだろうな。

 

いや、まてよ。

ホテルはOKなのか?

 

「それに、おまえらの試験が終わったら、一度サーゼクスのもとにオーフィスを連れていくつもりだ。良い機会だしな。オーフィスもおまえが行くなら、それに付いていくそうだ」

 

なるほど。

ってことは俺達は試験が終わったら、その足でサーゼクスさんのところに行くわけね。

 

「了解です。オーフィスをサーゼクスさんに会わせることに意味があるんですよね?」

 

「ああ。少しでも良い方向に向かわせたいからな。無理だと思われていた話し合いが出来る。これだけでも大きな一歩だ。オーフィスは何を考えているのかは分からん。だからこそ、話し合いで戦いを避けられる可能性があると俺は見ている。うまくいけば『禍の団』を瓦解させ、分散できるだろう。そうすれば各個撃破も可能になる。それにオーフィスの『蛇』を失えば、奴らの打倒も早まるだろうさ。この案件を申し出てきたヴァーリには感謝してるぜ」

 

ヴァーリ、か。

オーフィスが家に来たのも元々はヴァーリが先生に話を持ちかけたのが始まりだ。

 

だけど、俺にはその意図が読めない。

 

「あいつはなぜオーフィスを家に? その理由がさっぱり分からないんですけど・・・・・」

 

俺の言葉に先生は目を細め、ぼそりと呟く。

 

「あいつは・・・・・オーフィスを隠そうとしたのかもな。――――脅威から」

 

「・・・・・・脅威?」

 

それに隠す?

 

オーフィスが誰かに狙われてるってことか?

 

まぁ、テロリストの親玉だし、全勢力から狙われてるんだろうけど・・・・・・。

ただ、オーフィスを倒すことが出来ないから、どこの勢力も下手に手を出せない訳だが・・・・・・。

 

というか、オーフィスの脅威になる存在ってなんだ?

 

『私かも。おっぱい揉んだし』

 

イグニス・・・・・。

 

あんたはオーフィスの脅威というより、全女の子の脅威でしょうが!

なに、最強の龍神様の乳揉んでんだよ!?

 

『てへ☆』

 

てへ☆・・・・じゃねぇよ!

 

このシリアスブレイカーめ!

 

などとツッコミを入れているとイグニスは急に真剣な声音になる。

 

『でも、真面目な話をすると考えられるのはあるんじゃない?』

 

なに?

心当たりがあるのか?

 

『いえね、オーフィスが倒したいって言ってるのはグレートレッドなのでしょう?』

 

そうだな。

初めてオーフィスと出会った時に俺もオファーを受けたっけ。

 

『思い出してみて。京都でのことを。曹操がしようとした実験のことを』

 

京都の・・・・・曹操の実験・・・・・・。

 

『ドラゴンイーター、か・・・・・・』

 

ドライグが呟いた。

 

ドラゴンイーター・・・・・・そういや、曹操が言ってたな。

 

グレートレッドを呼び寄せてドラゴンイーターがどれくらいの効果をもたらすか試すって。

 

『そう。「グレートレッドに影響を与えるのでは?」と考えられる存在がいる。だったら、それはオーフィスちゃんにも同様とは考えられない?』

 

――――っ!

 

つまり、オーフィスを狙ってるのは・・・・・・曹操だってことか?

 

『それは分からないわ。でも、一つの可能性よ』

 

『なるほど。考えられない話ではないな』

 

ドライグもイグニスの意見に同意する。

 

曹操がまた動き出すのか・・・・・?

 

いや、今のはただの推測だ。

確証はない。

 

だけど、警戒はしておくべき、か・・・・・・。

 

 

「イッセー君、そろそろ行くけど・・・・・大丈夫かい? 怖い顔をしているけど・・・・?」

 

「いや、何でもない。大丈夫だ」

 

木場に声をかけられて、思考を切り換える。

 

とにかく今は試験だ!

 

気合い入れていくぜ!

 

俺達受験組は転移用魔法陣の上に乗る。

 

「お兄ちゃん、頑張ってね!」

 

「しくじらないでよ?」

 

美羽とアリスが声をかけてくれる。

 

それに続いてリアスも言った。

 

「イッセーなら必ず合格できると信じてるわ」

 

「おう! それじゃあ、行ってくるよ!」

 

俺達はリアス達に別れを告げて、転移の光に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

光が止むとそこは広いフロアだった。

 

足元には転移用の大型魔法陣が淡い輝きを放ってる。

 

ここが試験会場の昇格試験センターか。

 

目の前にはカッチリと正装をしたスタッフの人が立っていた。

 

「ようこそお出で下さいました。リアス・グレモリー様のご眷属の方々ですね? 話は伺っております。一応の確認を出来るものをご呈示ください」

 

えーと、確かスタッフの人にグレモリーの紋様が入った印と推薦状を見せるんだったな。

 

俺達は推薦状と紋様の入った印をスタッフに見せる。

 

「確認が済みましたので、どうぞこちらへ」

 

確認を終えたスタッフに案内され、石造りの廊下を進む。

 

豪華って感じはしないけど、シンプルで厳かな雰囲気の場所だな。

 

「ここはグラシャラボラス領にある昇格試験センターなんだよ」

 

と、木場が歩きながら教えてくれた。

 

ここってグラシャラボラス領なのか。

 

そういや、試験会場のこと知らなかったよ。

・・・・・・試験勉強だけで、精一杯だったもんで。

 

グラシャラボラス領といえば四大魔王の一人、ファルビウムって人の御家の領地だ。

 

この人だけ話したことがないんだよなぁ。

 

ただ・・・・・・『働いたら負け』という精神の持ち主であることは聞いている。

 

なんで、魔王になったの!?

 

「戦術家でもあるファルビウム・アスモデウス様に倣って、昇格試験センターを造ったそうです」

 

朱乃もそう言うが・・・・・・・『働いたら負け』の精神の人が戦術家ってのもなぁ・・・・・。

 

「術式に精通したアジュカさんのアスタロト家の領地に試験センターがあると思ったけどな」

 

「アスタロトの領地にも試験センターはあるよ。本来ならアスタロトで行われる昇格試験だろうね。上流階級の悪魔が通うほど名門と呼ばれる学校もあるほどさ。部長もアスタロト領の学校か魔王領にある学校か迷ったそうだからね。結局は魔王領にしたそうだけど」

 

「それじゃあ、グラシャラボラス領で試験を行う理由は?」

 

「それは、ディオドラが起こした事件でアスタロト家は失墜してしまったから・・・・・・」

 

先導するスタッフに聞こえない声で木場は教えてくれた。

 

そうか・・・・・ディオドラの野郎の一件が尾を引いてるのか。

 

あいつのせいでアスタロト家は危機的状況になった。

次期魔王の輩出権利も失ったという事情も聞かされたそうだ。

 

スタッフに連れていかれたのは広い受付らしき場所があり、受験者達が受付の人と話していた。

 

「こちらが中級悪魔の試験を受けられる方の窓口、あちらの端にあるのが上級悪魔の試験を受けられる方の窓口となっています」

 

ほうほう、俺はあの一番端の・・・・・・・・。

 

 

あれ?

 

あそこの窓口だけ、受験者が誰もいないんですけど!?

 

目をパチクリさせる俺に木場が苦笑しながら言う。

 

「昇格試験に臨める悪魔なんて、今の冥界では少ないからね。上級悪魔ともなるとその数は限られてくるよ。五、六人いれば多い方なんじゃないかな?」

 

それで多いのかよ!?

つーか、俺がその中の一人ってこと!?

 

でも、今の冥界は戦がないから、昇格しようとすれば大きな契約を取るかレーティングゲームで活躍するかのどちらかだ。

 

そんな中で昇格試験を受けられた俺達は特例なんだと思う。

 

それにしても、上級悪魔の受験者少なくない!?

 

「イッセー君、試験開始前に一つ」

 

木場が真剣な表情で俺の隣に立った。

 

「どうしたよ、改まってさ」

 

「君と出会えてよかった」

 

「何を言い出すかと思ったら・・・・・・。突然どうしたんだよ?」

 

「君がいなければ僕は昇格なんて出来なかったと思うからね。伝えておきたかったんだ」

 

「また大袈裟な・・・・・。俺がいなくてもおまえなら十分強くなれただろう?」

 

「いや、僕はイッセー君の背中を見てなかったらここまで来れなかったと思う。君と肩を並べる男になりたい、その一心で僕はここまで歩いてこれた」

 

大袈裟な・・・・・って言いたいけどこいつの目は本気だ。

本当にそう思ってるんだろうな。

 

俺は息を吐いて、木場に拳を差し出す。

 

「ま、何にしてもだ。一緒に合格しようぜ」

 

「もちろん。合格したら君は上級悪魔で僕は中級悪魔だけど、いつかは追い付いてみせるよ」

 

木場は笑んで、俺と拳を合わせる。

 

「うふふ。熱い友情ですわね。私も混ぜてもらおうかしら」

 

朱乃もニッコリ微笑んで俺達の拳の上に手を乗せる。

 

「全員で合格しよう!」

 

「「はい!」」

 

俺の言葉に二人は同時に返す。

 

「皆さん、書類を取ってきましたわ! あちらのスペースで記入しましょう!」

 

レイヴェルの先導のもと、俺達は受付用の書類に記入することに。

 

ついに試験が始まる!

 

 



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8話 上級悪魔を目指して!

連続投稿です!


上級悪魔昇格の試験会場と中級悪魔昇格の試験会場は違う場所にある。

 

木場と朱乃と別れた俺はレイヴェルの案内のもと、上級悪魔昇格試験会場へと向かった。

 

廊下を渡って先程受付を済ませた場所とは違う棟へと移動。

それから少し進むと、悪魔文字で『上級悪魔昇格試験・筆記試験会場』と書かれた立て札が見えた。

 

レイヴェルとはここで一旦お別れだ。

 

「それでは、私は一度ホテルに向かいますわ。試験終了一時間前には再びお迎えにあがりますので」

 

上級悪魔の試験は試験科目数も多いため、中級悪魔試験よりも終わるのは遅い。

そのため、木場と朱乃は先にホテルへと向かうことになっている。

 

「悪いな、レイヴェル」

 

「いえ! 私はイッセー様のマネージャーですから、当然のことですわ!」

 

「ハハハ。ありがとう。それじゃあ、行ってくるよ」

 

「はい! 頑張ってください!」

 

レイヴェルの応援を受けて試験会場の扉を開ける。

そこは長机が並ぶ室内だった。

 

以前、駒王学園の大学部の見学に行ったことがたるんだけど、正にそんな感じだ。

 

俺の受験番号は「001」。

ってことは一番前の席か。

 

俺が席につくと隣の席からヒソヒソ声が聞こえてくる。

 

「あれって・・・・・赤龍帝か・・・・?」

 

「ああ。噂には聞いてたが、昇格推薦の噂は本当だったらしい」

 

「でも、赤龍帝はまだ下級のはず・・・・・・飛び級か!」

 

なんか、スゲー言われてるな。

 

今、部屋にいるのは俺を含め四人。

その内、三人がヒソヒソ話に参加とか・・・・・・。

 

俺も混じってやろうか?

 

『うふふ。寂しいのならお姉さんが出てあげましょうか? 抱き締めてあげるわよ?』

 

嬉しい申し出だけど、それは後でな。

流石にそれをこの場でされると浮くから。

 

『既に浮いてるだろ』

 

うるせーよ。

 

てか、ドライグさんよ。

調子はどうなんだよ?

 

この間、精神崩壊しそうになってただろ。

 

『うっ・・・・・。ま、まぁ、大丈夫だ。処方された薬が効いているのだろう』

 

あの精神安定剤ね・・・・・・。

 

エルシャさん達の悲鳴を聞いた後、神器に潜ってみると、ドライグが泡吹いて倒れてた。

白目を向いて。

 

どうにも、オーフィスとイグニスのダブルパンチはドライグの精神に多大なダメージを与えたようだ。

 

殆どイグニスのせいだと思うが・・・・・・。

 

イグニスのせいでドライグが薬づけになっちまったじゃねぇか。

 

『だって、ドライグ弄るの楽しいし』

 

やめなさい!

ドラゴン愛護団体に訴えられるぞ!

 

『そんな組織があるのか? だとしたら、保護を願いたいんだが・・・・・』

 

知らん!

つーか、赤き龍の帝王が保護を求めるってどんだけ!?

 

そうこうしていると試験官が入室して、レポートの提出を促してきた。

 

俺は試験官の先導のもと、レポートを提出。

配られた試験用紙を前に準備を整える。

 

さて、どんな問題が出るのか・・・・・・。

色々不安なところはあるが、必ず結果は残す!

 

「時間です。開始してください」

 

 

 

 

 

 

「あー、あんな問題ありかよ・・・・・・。んだよ、『レヴィアたん』の第一クールの敵幹部の名前とか・・・・・知らねーよ」

 

試験会場の下の階には食堂がある。

 

俺は一人、テーブルに突っ伏していた。

 

数時間に渡る筆記試験は無事終了。

 

悪魔についての基本問題やら応用問題、苦手としていた政治や経済などの分野も一応は埋めた。

分からない問題もそれなりにあったけど、空欄にはしていない。

そこは神頼みだ(悪魔だけど)

 

・・・・・社会学の問題として、セラフォルーさんが製作している魔女っ子番組『レヴィアたん』についての問題が出てきた。

当然、そんなもんは分からないので俺は迷わず次の問題に進んだ。

 

他にも『乳龍帝おっぱいドラゴン』についての問題も出てきたけど、こっちは余裕だった。

なんせ、主役ですから!

一応チェックはしてるんだぜ!

 

あとは『禍の団』についての問題も。

これも余裕だった。

ってか、実際にあいつらと戦ってきてるから、その辺は下手な上層部よりも詳しいだろうさ。

 

筆記試験の出来具合としてはそこそこって感じだな。

ベストは尽くしたが、やはり難しい問題だっただけに不安な箇所はある。

 

まぁ、終わったことだし言っても仕方がないか。

他の試験で点を稼ぐとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の試験は個室で試験官とチェスだ。

その後に口頭試問が行われる。

 

俺は立ち上がり、次の会場へと向かった。

 

案内板に従って辿り着いたのは木製の扉の前。

 

うん、ちゃんと『戦術試験会場』って書いてあるな。

 

俺がノックをすると、扉の向こうから『どうぞ』と返ってきた。

 

「失礼します」

 

入室すると、部屋の中には円卓とその回りに椅子が二つ。

円卓の上にはチェス盤と駒が置かれている。

 

部屋の奥には大きなテーブルがあって、側面に何やらスイッチのような物が取り付けられていた。

 

「お待ちしておりました。兵藤一誠様。私があなたの試験を監督させていただきます」

 

と声をかけてきたのはビシッとスーツを着たお姉さん。

 

眼鏡をかけた黒髪ロングの美人さんで、いかにも仕事が出来そうな女性だった。

雰囲気としては副会長に近いかな?

 

「今日はよろしくお願いします」

 

俺が頭を下げると女性はにこやかに微笑んだ。

 

「そこまで固くなる必要はありませんよ。確かにこれは上級悪魔への昇格がかかった試験ですが、あまり気を入れすぎると空回りしてしまいます。チェスくらいはお茶を飲みながら、楽しんでください」

 

あ、なんか優しい感じの人だな。

試験官を務めるくらいだから少し厳しい人なのかなと思ってたんだけど。

 

女性はティーカップを二つ用意すると、そこへ茶を注いでいく。

 

「どうぞ、席におかけください」

 

「はい」

 

女性に促され、椅子に座る。

 

俺の前にティーカップが置かれ、女性も俺と向き合う形で椅子に座った。

 

「それでは、試験の概要を説明しますね。この戦術試験ですが、まずは私とチェスをしてもらいます。勝敗は問いません。ここで見るのは駒の配し方、勝敗までの過程を見ます」

 

なるほど。

 

まぁ、負けたらそこで点数ゼロとかだったらかなり厳しいよな。

過程を見るってことは相手の戦術を読む力が試されるのか。

 

「チェス終了後はあちらのテーブルにて、口頭試問を行います。あのテーブルに様々な地形のフィールドを映し出しますので、私が出した条件下で、あなたがどう行動するのかを聞かせてもらいます。簡単に言えば、レーティングゲームのシミュレーションのようなものです」

 

へぇ、あのテーブルはそのためのものなのか。

そういや、ライザーとのレーティングゲームの時にリアスが地図を用意して戦術を練っていたけど、そんな感じなのかな?

 

「概要は以上です。適宜質問は受け付けますが、今質問することはありますか?」

 

「いえ、特には」

 

「わかりました。それでは試験を始めましょう」

 

 

 

 

 

 

 

それから更に数時間が経った。

戦術試験も終えた俺だが・・・・・・俺は再び食堂のテーブルに突っ伏していた。

 

「つ、疲れた・・・・・・」

 

体力というより、精神が疲弊してる。

 

 

結果を言えばチェスは俺の敗けだった。

 

あのお姉さん、チェス強すぎ・・・・・・。

 

俺もリアスやレイヴェルに相手をしてもらっていたから、なんとか食らいついてたんだけどね。

最終的にはお姉さんの策略にはまり、王を取られてしまった。

 

勝ち負けは関係ないと言っていたけど・・・・・・やっぱ、気にするよなぁ・・・・・・。

 

過程だけなら悪くないと思う。

俺だってやられっぱなしじゃなかったわけだし。

 

でもなぁ・・・・・・どうせなら勝ちたかった。

 

『だが、その後の口頭試問では良い感じだったではないか』

 

ドライグの言う通り、口頭試問はそこまで難しいものじゃなかった。

 

実践経験はかなり積んできてるから、わりとスラスラ答えられたと思う。

お姉さんも時おり、感心しているようだったし。

 

『まぁ、泣いても笑っても次が最後の試験よ。頑張りなさい』

 

だな。

 

えーと、次は屋内闘技場だったか。

二十分後にジャージに着替えて集合だ。

 

そういや、木場と朱乃は試験がとっくに終わってるのか。

二人は先にホテルに行ったと思うけど・・・・・・二人の試験はどうだったんだろう?

 

あの二人なら試験は余裕だろうけど。

悪魔の知識は元々持ってるし、頭も良い。

戦闘だって中級悪魔レベルならとっくに超えてるしな。

受験者が相手なら手加減がいるレベルじゃないかな?

 

そんなことを考えていると向こうの方から声が聞こえてきた。

 

「イッセー様。こちらにいらしてたのですね」

 

レイヴェルだ。

 

「お、レイヴェル。もう来てくれたのか?」

 

「はい。既に試験終了の一時間前ですので」

 

「あれ? もうそんな時間?」

 

まだ実技が残ってるんだけど・・・・・・。

 

あ、でも本当だ。

壁にかけられた時計を見ると終了予定時間まであと一時間だ。

 

「実技試験は受験者同士で競い合いますが、上級悪魔試験では受験者が少ないので、すぐに終わりますわ」

 

そっか。

確かに俺含めて四人しか受けてないもんな。

 

そりゃ、直ぐに終わるわ。

 

「お兄ちゃん、お疲れさま」

 

「試験はどう?」

 

と、現れたのは美羽とアリスだ。

 

この二人はホテルで待っておくはずでは?

 

俺が二人の登場に怪訝に思っているとレイヴェルが答えてくれた。

 

「美羽さんもアリスさんも先程までホテルにいたのですが・・・・・私がイッセー様の元に戻ると言ったら付いてくると仰いまして・・・・・」

 

「ゴメンね、レイヴェルさん。わがまま言っちゃって」

 

「いえ、そこまで大したことではありませんわ。私と一緒に行動するのでしたら、この場に来ることは問題ではありませんので」

 

レイヴェルの話を聞いた後、俺は美羽達に尋ねた。

 

「でも、どうしてここに? どうせホテルで会うんだし、態々ここまで来ることはないだろ?」

 

美羽は少し申し訳なさそうな表情で答えた。

 

「う、うん・・・・・そうなんだけど・・・・・。やっぱり気になっちゃって」

 

「そうそう。あんたの昇格は私達にとっても重要なことなんだから、気にならない訳がないでしょ?」

 

アリスも自身の胸に手を当てて言う。

 

そうだったな。

俺の昇格は二人の人生にも大きく影響するんだった。

 

この間、二人からされたお願い。

まさかこんなに早くその願いを叶える機会が巡ってくるなんて思ってもなかった。

 

アリスが俺に訊く。

 

「それで? 試験の出来具合はどうなのよ?」

 

「う、うーん、そこそこ・・・・・・かな?」

 

「そこそこって・・・・・・しっかりしなさいよ」

 

ベストは尽くしてるよ?

おかげで既に精神力はヘトヘトです。

 

「それじゃあ、次の実技試験。あんた、全力でいきなさいよ? 周りにあんたの力を魅せやりなさい」

 

「無茶苦茶言うな・・・・・・」

 

俺が本気出したら試験会場が崩壊するぞ?

 

そうなったら試験どころじゃなくなるって。

 

そうこうしている内にもうすぐ次の試験が始まる時間となっていた。

 

「次でラストだ。気合い入れますか!」

 

 

 

 

 

 

ジャージに着替えた俺は屋内闘技場にいた。

 

他の受験者は既に体を動かしているようだった。

俺も軽いストレッチはしておこう。

 

それから数分経つと試験官の方々が集まり、俺達の点呼をとっていく。

四人しかいないんだから、見てわかると思うんだけど・・・・・・。

 

試験官は俺達受験者に受験番号のバッジをつけると、説明を始めた。

 

「実技試験は中級悪魔試験と同様でシンプルなものです。受験者の皆さんで戦闘をしてもらいます。対戦相手はクジによって決めてもらいます。戦闘は総合的な戦闘力を見るので相手に負けたとしても合格の目はなくなりません。出来るだけ良い試合をするようにしてください。ルールは持てる力で相手と戦ってもらいます。武器の使用も許可していますが、相手を死亡させた場合は失格となります。事故による死亡は我々試験官による審議によって是非が決まります」

 

ルール説明はそれからも続いていくが・・・・・。

 

良い試合って何!?

どんな試合なの!?

そのあたりを詳しく教えていただきたい!

 

ルール説明が終わり、俺達の前には箱が置かれる。

その箱にクジが入っていて、俺はそれを引く。

 

番号は「1」。

 

受験番号と変わらねー。

 

「試合は一組ずつ行います。まずは「1」の方と「2」の方が試合です」

 

試験官にそう言われた俺と対戦相手は魔力で円形に描かれたバトルフィールドに入っていく。

 

うーむ、良い試合か・・・・・。

 

どうすれば良い試合になるんだ?

 

『まだ考えているのか』

 

まぁね。

 

試験官が間に入り、俺達を交互に見てくる。

 

「どちらも準備は大丈夫ですね?」

 

頷く俺と対戦相手の男性。

 

試験官の手が上げられ――――下ろされた!

 

それと同時に男性から炎の魔力が俺めがけて放たれた!

 

開幕速攻かよ!

 

俺は右手を薙いで炎の魔力弾を弾き飛ばす。

 

「ちっ!」

 

男性は舌打ちすると、大きく後ろに跳んで魔力を練りはじめる。

 

すると、男性の背後に現れたのは炎で形成された大蛇。

 

大きいな・・・・・・十メートルくらいか?

 

「いけ!」

 

男性の号令に従い、大蛇は勢いよく飛び出してくる。

その大きな顎を開いて俺を丸のみにしようとするが――――

 

 

バァァァァンッ!!

 

 

俺が放った気弾で大蛇は弾けた。

辺りに火の粉が飛び散る。

 

えらく手応えがないが・・・・・・。

 

 

 

・・・・・・なるほど、そういうことか。

 

 

 

大蛇が俺の視界から消えたと同時に男性も消えていた。

 

おそらく今の大蛇は俺の注意をそらすための囮。

その間に男性は自分の姿を魔力か魔法かで消したってところか。

 

流石に上級悪魔の昇格試験を受けるだけはある。

 

感心していると、俺の背後から炎が飛んできた。

俺は体をそらしてそれを避ける。

 

それから四方八方から炎が俺めがけて飛んでくるが俺は体捌きだけで全てを避けていく。

 

「ちぃっ! なぜ当たらん!」

 

男性の苦渋の声が聞こえてくる。

 

なぜ当たらんと言われても・・・・・・姿消しても気の位置は把握できるからどこにいるのか直ぐに分かるんだよね。

 

『ぼちぼち反撃した方がいいんじゃない?』

 

『あまり時間をかけるのもな』

 

それもそうだな。

 

俺は二人の意見に頷くと、地面を蹴って飛び出した!

 

真っ直ぐに男性に向かっていく!

 

「なぜ俺の位置が――――」

 

 

ドガンッ!

 

 

男性が言い切る前には俺の飛び蹴りが炸裂!

 

男性は会場の壁に大きな穴を開けて、会場の外にまで飛んでいってしまった。

 

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

 

静まる会場。

 

試験官までポカーンとしてる。

 

「あの・・・・・・終わったんですけど・・・・・」

 

俺が声をかけると試験官の一人が慌てて吹っ飛んでいった男性を追いかけた。

 

試合を見ていた残りの受験者二名の声が聞こえてくる。

 

 

「・・・・・俺、赤龍帝と当たらなくて良かった。神器使わずにあれかよ・・・・・・」

 

「ですね。今日の私達は冥界で一番運が良いのかもしれません」

 

 

そんなにか!?

 

言っとくけど、手加減はしたよ!? 

死なせるわけにはいかないし!

 

 

そんなこんなで実技試験は終わり、長かった俺の上級悪魔昇格試験は終わった。

 

 



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9話 英雄派、再び

「ぷはー、やっと終わった・・・・・・」

 

試験を終えた俺はホテルに向かう前に美羽、アリス、レイヴェルと共に昇格試験センターの食堂で一息ついていた。

 

なんか、ずっと食堂に来ているような気もするが、まぁいいや。

とりあえず俺はゆっくりしたいんだ。

 

何時間にも及ぶ試験だったんだから、これくらいは許してくれ。

 

「イッセー様、お茶のおかわりをいただいてきましたわ」

 

「サンキュー。助かるよ」

 

レイヴェルがお茶のおかわりを持ってきてくれた。

本当に気の利く子だ。

流石はマネージャー!

 

アリスが食堂で注文したプリンを食べながら言う。

 

「にしても試験会場の壁に大穴開けるとか、やり過ぎよ」

 

「君ね・・・・・さっきと言ってることが真逆だぞ」

 

「何のことかしら~?」

 

おい、目を合わせろよ。

 

いや、加減をミスった俺が悪いんだけどさ。

ってか、あんなに飛んでいくとは思わなかったもんで・・・・・。

 

あれでもかなり加減はしたんだが・・・・・・。

 

「壁に開けた穴の修理費っていくらくらいするんだろう・・・・・」

 

「それはリアス様と相談するしかありませんわ」

 

俺の呟きにそう返すレイヴェル。

 

美羽が俺を励ますように言う。

 

「ま、まぁ、お金のことは後で考えようよ。今は試験が無事に終わったんだし、ゆっくりしよ?」

 

「そうだな。流石にもう疲れたよ。こういう試験って戦闘よりも消耗するよなー」

 

学校のテストにしかり、こういう試験にしかり。

頭を使う試験ってのはどうしてこうも疲れるのかね?

体動かす方がよっぽど楽だぜ。

 

「もう少しゆっくりしてから、ホテルに向かうとしましょう」

 

「賛成だ。と、そのプリン少しくれ」

 

レイヴェルの意見に俺は頷き、アリスのプリンを少しもらった。

 

 

 

 

この時、俺達は知らなかった。

 

 

 

 

事態は既に動き出していたことを―――――

 

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

 

時は一時間ほど遡る。

 

 

イッセー君よりも先に試験を終えた僕と朱乃さんは先にホテルに到着していた。

 

「おー、来たかおまえら。試験お疲れさん」

 

先生は転移してきた僕達を見てそう言うと注がれたグラスをあおっていた。

 

昼間からお酒を飲むんですね・・・・・・。

 

ホテルの貸しきりレストランには僕達のもとを一旦離れているギャスパー君とロスヴァイセさん、現在も試験を受けているイッセー君。

そして、僕達と入れ違いで試験会場へと転移していったレイヴェルさんと美羽さん、アリスさん以外が揃っていた。

 

美羽さんとアリスさんはイッセー君の試験がとても気になっている様子だった。

 

彼女達はもしかして・・・・・・・。

 

部長が僕達のもとへと歩み寄る。

 

「朱乃、祐斗。試験お疲れさま。どうだった?」

 

「どちらも手応えがありましたわ」

 

「僕もです」

 

筆記試験も問題なく解けたし、実技も相手を倒して終わらせることができた。

 

おそらく僕も朱乃さんも合格しているだろう。

それくらいの自信がある。

 

ふと見るとレストランの隅ではオーフィスがもぐもぐとパスタ料理を口に運んでいた。

あの姿だけを見るとテロリストのトップだなんて思えない。

 

黒歌さんやルフェイさんも甘い物を食べているようだ。

 

フェンリルの姿がないが、ルフェイさんの影の中に潜んでいるらしい。

ホテルはペット禁止だからね。

 

まぁ、最強の魔物がペットというのも反応に困るけど・・・・・。

 

黒歌さんははぐれ悪魔であり、冥界では指名手配中のため、猫耳と尻尾をしまい、服装もルフェイさんと似たようなローブを着込んでいた。

一応、サングラスもつけている。

 

さらには気の質も変えて、バレないようにしているらしい。

 

酔った先生が僕に言う。

 

「木場。前回のバアル戦でも思ったが、おまえの才はとんでもないな。破格と言ってもいい」

 

「破格・・・・・ですか?」

 

僕の言葉に先生は頷いた。

 

「とんでもない可能性を持った若手悪魔ってことだよ。おまえは後付けに得たものがあったとは言え、禁手を二つも目覚めさせている。信じられんほどの才だ。しかも、まだ発展途上中ときたもんだ」

 

「ですが、破格と言えばイッセー君の方では?」

 

イッセー君だってあれほどの力を持っておきながら、その力はまだまだ伸びる可能性を秘めている。

僕から言わせれば彼の方がよっぽど破格だ。

 

「確かにあいつも破格だな。つーか、禁手の更に上の次元に立つなんざ聞いたことがねぇぜ。ま、あいつが色々とおかしいのはそれだけじゃないがな」

 

先生はこれまでイッセー君が体験してきたことを言っているのだろう。

 

異世界に飛ばされたと思えば、そこで力を付けて勇者と呼ばれるまでになり、最終的には魔王を倒してしまった。

そこに至るまでにイッセー君が歩んできた道程は凄まじいものだ。

 

・・・・・・まぁ、禁手に至ったきっかけもおかしいとは思うけど。

 

「僕は恵まれています。すぐ近くにイッセー君がいますから」

 

「ああ。あいつはスケベでバカだが、どこまでも真っ直ぐなやつだ。目標にするには良い男だと思うぜ?」

 

「ええ。彼は僕にとって最高の目標です」

 

本当にそう思う。

 

いつかは彼と本当の意味で肩を並べられる男になりたい。

力だけでなく心も。

 

「そういえば、木場よ。もう一つの方はどうなんだ?」

 

もう一つの方・・・・・。

 

先生が聞いているのは僕に出来た新たな可能性の一つ。

二つあったうちの一つは実現できた。

 

『聖剣創造』を禁手に至らせることだ。

 

だけど、もう一つの方は―――――

 

僕は首を横に振った。

 

「そうか・・・・。だが、気にすることはない。そいつは元々、俺が立てた仮説に過ぎん。おまえが至れるなんて保証はどこにもないからな」

 

先生はそう言うけど・・・・確かにそれは存在する。

 

あとは自分次第だと僕は思っている。

 

自分には何かが足りない。

それが何なのか・・・・・まだ僕には分からない。

 

と、悩む僕の視界に何やら考え込むアーシアさんが映った。

食事もあまりとらず、ジュースの入ったグラスをじっと見つめていた。

 

「アーシアさん、何か考えごとかい?」

 

「私も神器についてもう少し深く知ろうかと思いまして・・・・」

 

「それは・・・回復を強化するということかい?」

 

僕の問いにアーシアさんは頷いた。

 

そして、アーシアさんはいつにない真剣な表情で先生に問うた。

 

「先生、私の『聖母の微笑』は禁手になる可能性はあるのでしょうか?」

 

その問いに先生はお酒を一口あおった後、口を開いた。

 

「ああ。おまえが禁手に至る可能性は十分ある。色々なイレギュラーな現象を起こしているイッセーの傍にいるわけだしな。修行しだいでは至れるだろうし、亜種の禁手に至れることもセンス次第では可能だ。いや、おまえにもイレギュラーな変化は起きてるか・・・・」

 

先生の言葉に首を傾げるアーシアさん。

 

「私に・・・・ですか?」

 

「そうだ。本来、『聖母の微笑』は傷の治療は可能だが体力や乱れた気を整える力は無い。だが、今のおまえはそれができる。こいつはかなりイレギュラーな現象だぜ?」

 

先生の言う通り、アーシアさんの力にも変化は起こっている。

 

傷の回復速度が上がっていることもそうだけど、体力、気の回復が出来るようになってきているんだ。

この二つの回復速度はさほど早くは無いし、ほんの僅かな回復しかできない。

 

それでも、過去にこのような現象は無かったと先生は言う。

 

僕とアーシアさんの神器の力が上がったのは―――――――異世界に行ってからのことだ。

 

「だが、そう考えると説明がつくか・・・・? イッセーの力、木場達の力の上昇・・・。これらを考えればやはり・・・・・」

 

先生は顎に手を当て、ブツブツと呟き始める。

 

「先生・・・?」

 

「ああ、すまん。それで回答の続きだがな。アーシア、おまえの回復は既に一級品だ。遠距離からの回復も予想以上の数値を叩きだしている。だから、おまえが考えるべきなのは自分の身を守る方法だ」

 

それはライザー・フェニックスとのレーティングゲームに向けて修行した時にイッセー君も指摘していたことだ。

 

アーシアさんは僕達グレモリー眷属の要。

貴重な回復要員だ。

 

しかし、それは僕達と戦う相手もそのくらいはすぐに気付く。

そして、まず最初に狙ってくるだろう。

 

先生は続ける。

 

「おまえが回復に専念するためにも、イッセー達が戦闘に集中するためにも、おまえは自分を守る能力を得るべきだろう。美羽に簡単な魔法障壁を習ったそうだが、それでは防ぎきれないものもある。そこでだ。おまえには強力な壁役となる魔物と契約する術を覚えてもらおうと考えている」

 

「強力な魔物?」

 

「強力な魔物だ。リアス、アーシアは気難しい『蒼雷龍』と契約を結んでいたな?」

 

先生の問いに部長は頷く。

 

「ええ、アーシアの使い魔になっているわ」

 

使い魔の森でアーシアさんが契約に成功した上位ドラゴンの子供。

部室で遊んでいるのをよく見かけるよ。

家でも一緒にいるそうだ。

 

「アーシアは魔物を使役する能力が高いのかもしれん。あんがい伝説級の魔物とでもすんなり契約できるかもしれないな。壁役になる魔物と言うと・・・・」

 

先生は再びブツブツと呟き始めた。

 

でも、アーシアさんを守る壁役の魔物がいてくれれば、僕たちも後衛に回る必要もなくなるから戦術的にかなり幅が広がるだろうね。

 

いったいどんな魔物と契約するのか今から気になって来たよ。

 

 

 

その時だった。

 

 

ぬるりとした嫌な感覚が僕を襲った。

 

この感覚は―――――――

 

「ありゃりゃ、ヴァーリはまかれたようにゃ。―――――こっちに本命が来ちゃうなんてね」

 

黒歌さんがそう言った瞬間――――――――

 

見覚えのある霧が辺りに立ち込めていった―――――――――

 

 

 

 

 

 

ホテル内のレストランを飛び出していく僕達。

 

建物内の人の気配がなくなっている!

京都で体験したものと同じだ!

 

僕達はまた強制的に転移させられたのだろう。

僕達のいたホテルと全く同じものを作り出して、僕達だけをそこに転移させたんだ。

 

こんなことが出来るのはあの霧使いしかいない。

 

レストランから広いロビーに到着すると、そこには黒いソファに座る二人の男性。

 

それを確認したと同時に僕達のもとに火球が飛び込んできた!

狙いはアーシアさんとイリナさん!

 

しかし、その火球は二人に届くことはなかった。

 

オーフィスが二人の壁となって火球を難なく打ち消したからだ。

 

・・・・オーフィスが二人を守った?

 

「あ、ありがとうございます」

 

「・・・・・」

 

アーシアさんのお礼にオーフィスは無反応だが・・・・。

 

僕はソファへと視線を戻した。

 

見覚えのある二人。

学生服にローブを羽織った青年と同じく学生服の上から漢服を着た黒髪の青年。

 

漢服を着た青年は槍を肩でトントンとすると僕達に向けて言った。

 

「やあ、久しいな。アザゼル総督、それにグレモリー眷属。京都以来だ」

 

「ちっ・・・。このタイミングで仕掛けてきやがったか―――――曹操」

 

先生が舌打ち交じりにその男の名を呼んだ。

 

最強の神滅具を持った英雄派のリーダー。

京都では九尾を攫い、僕達とも戦ったあの男。

 

イッセー君が負わせた目の傷が無くなっている・・・・?

傷が深すぎてフェニックスの涙でも回復してなかったはずだが・・・・・。

 

曹操はソファから立ち上がると僕達を一度見渡す。

 

「おや? 赤龍帝はいないのかい?」

 

「残念ながら今はな。それで? こうして俺達をこんなフィールドに転移させた理由はなんだ? まぁ、ろくでもないことは確かだろうがな」

 

先生がそう訊くと、曹操はオーフィスの方へと視線を移した。

 

「やあ、オーフィス。ヴァーリとどこかへ出かけたと思ったら、こっちにいたとはね。少々虚を突かれたよ」

 

すると、オーフィスの前に黒歌さんが立った。

 

「にゃはは、それはこっちの台詞にゃ。てっきりヴァーリの方に向かったと思ったんだけどね―」

 

「ヴァーリの方には別働隊を送ったさ。今頃やり合ってるんじゃないかな?」

 

一体何の話をしているんだ・・・・・?

 

状況が呑み込めない僕達を前にルフェイさんが挙手した。

コホンと咳払いすると、説明を始めた。

 

それと同時に彼女の陰からフェンリルが現れ、曹操達を鋭く睨みつけた。

 

「えっとですね。事の発端は二つありました。一つはオーフィス様がおっぱいドラゴンさんに大変ご興味をお持ちだったこと。二つ目はオーフィス様を影で付け狙う存在にヴァーリ様が気付いたことです」

 

ルフェイさんは指を二本立てて説明を続ける。

 

「そこで、ヴァーリ様は確証を得るため、いぶり出すことにしたのです。今回、オーフィス様をおっぱいドラゴンさんのお家にお連れしたのはこの二つを叶えることが出来ると考えたからなんです。運が良ければオーフィス様を囮にして私達のチームの障害となる方々とも直接対決が出来る、と。つまりですね・・・」

 

遠慮がちにルフェイさんは曹操達に指を突き付けた。

 

「そちらの方々がオーフィス様を狙っていたので、オーフィス様をヴァーリ様がお連れして動けば、そちらも動くでしょうから、狙ってきたところを一気にお片付けしようとしたのです。そこで、ヴァーリ様はオーフィス様をおっぱいドラゴンさんのお家に送ると同時に、偽物のオーフィス様をヴァーリ様がお連れするという作戦を立てられたのです。ちなみに偽物のオーフィス様は美猴様が変化されたものです♪」

 

僕はルフェイさんの言葉に驚愕した。

 

曹操がオーフィスを狙っていた!?

 

どういうことなんだ!?

 

オーフィスは英雄派が所属する『禍の団』のトップだろう!?

 

なぜ狙う必要がある!?

 

ルフェイさんの説明を聞き、曹操はうんうんと頷く。

 

「ま、ヴァーリのことだから何かしら策は講じてくるだろうとは踏んでいたさ。それにオーフィスが今世の二天龍に興味を抱いていることも知っていたからね。もしやと思って赤龍帝の方を探ってみれば案の定だった。こういう形でご対面を果たすことになったのは、そういうことだ」

 

曹操は槍を肩でトントンとしながら笑みを浮かべる。

 

オーフィスが静かに口を開く。

 

「曹操、我を狙う?」

 

「ああ。俺達にオーフィスは必要だが、今のあなたは必要ではない」

 

「わからない。けど、我、曹操に負けない」

 

「そうだろうな。正面からやり合ったのでは手も足も出ない。それほどにあなたは強い」

 

それはそうだろう。

 

いくら曹操が強いと言っても無限と称されるオーフィスを倒すことは無理だ。

各勢力のトップ陣でも容易に手を出せないというのだからね。

 

しかし・・・・なんだ、あの余裕の表情は・・・・・?

 

まるで策があるような表情をしている・・・・・。

 

禁手・・・?

 

曹操はまだ一度も禁手を見せていない。

最強の神滅具、その禁手を使えば勝てるのだろうか・・・・?

 

いや、先ほど正面からやり合っては勝てないと自分で言っていた。

ということは彼が禁手を使っても無理だということだ。

 

そうなると何か別の手が・・・・・?

 

疑問の尽きない僕の視界に眩い光が映り込む。

 

見ると黒歌さんとルフェイさんの足元に魔法陣が展開されていた。

二人が発現させたものだろうか?

 

黒歌さんがニンマリ笑みを浮かべる。

 

「にゃはは、そっちがそう来るならこっちも見せてやるにゃ。いくよ、ルフェイ。こうなったら、あいつをこっちに呼んでやらにゃーダメっしょ♪」

 

魔法陣の中心にフェンリルが位置すると、魔法陣の輝きが一層強くなっていく!

その輝きが弾け、周囲を光が覆った!

 

光りが止んだ時、そこにはフェンリルの姿は無く―――――――――

 

 

 

「ご苦労だった、黒歌、ルフェイ。―――――――こうして会うのは久しいな、曹操」

 

 

 

白龍皇、ヴァーリ・ルシファーが不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

[木場 side out]




というわけで、英雄派が再び現れました!

次回も木場視点で話が進むと思います。


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10話 神の呪いを受けし者

以前、この章は短くなるかなぁ、なんてことを書きましたが気のせいでした(笑)




[木場 side]

 

 

「ヴァーリ、これはまた驚きの登場だな」

 

ヴァーリの登場に曹操は苦笑する。

 

フェンリルと入れ代わりでヴァーリが転移してきた・・・・・?

 

ルフェイさんが魔法の杖で宙に円を描きながら言う。

 

「フェンリルちゃんとの入れ替わりによる転移方法でヴァーリ様をこちらに呼び寄せました」

 

やはりそういうことなのか。

 

ヴァーリが続く。

 

「フェンリルには俺の代わりにむこうにいる美猴達と英雄派の別動隊と戦ってもらうことにした。こうなることは予想がついていたからな。保険をつけておいて正解だった。――――さて、決着をつけようか、曹操。しかし、ゲオルクと二人だけとは剛胆なものだ」

 

ルフェイさんが言っていたようにヴァーリはこうなることを初めから読んでいたらしいね。

 

ヴァーリの言葉に曹操が不敵に笑む。

 

「剛胆ではないさ。俺とゲオルクだけで十分だと踏んだだけだよ、ヴァーリ」

 

「強気なものだな、曹操。それは例の『龍喰者(ドラゴン・イーター)』なる者が関係しているのだろう? 大方、英雄派の作り出した龍殺しに特化した神器所有者、もしくは新たな神滅具所有者といったところか」

 

ヴァーリの言葉に曹操は首を横に振る。

 

「それは違うな。『龍喰者』とは現存する存在に俺達が付けたコードネームのようなものだ。『龍喰者』とは俺達が作ったわけではなく、すでに作られていたんだよ。――――『聖書に記されし神』によって」

 

それを聞いたゲオルクが言葉を発する。

 

「曹操、いいのか?」

 

「ああ、頃合いだ、ゲオルク。赤龍帝がいないのは残念だが、オーフィスもいる、ヴァーリもいる。それに堕天使総督殿に若手悪魔最強チームがこの場にいる。観客としては十分だ。―――呼ぼう。地獄の釜の蓋を開けるときだ」

 

「了解だ。――――無限を食うときが来たか」

 

ゲオルクが口の端を吊り上げ、背後に巨大な魔法陣を出現させる。

 

その時―――――

 

 

ズォォォォォオオオオオ・・・・・・・

 

 

ホテル全体が激しく揺れた!

 

あまりに黒く禍々しいオーラが魔法陣から滲み出していく!

 

・・・・・なんだ、この心の底から冷え込むような感覚は・・・・・・っ!

 

見ればアザゼル先生やヴァーリですら、このオーラに冷や汗を流していた。

この二人でさえ、この反応。

これはいったい―――――

 

魔法陣から巨大な何かがゆっくりと姿を現していく。

 

それは十字架に磔にされている何者か。

 

体を強烈なまでに締め上げる拘束具。

それが身体中に施されており、その拘束具には不気味な文字が浮かんでいる。

目にも拘束具がつけられ、隙間から血涙が流れていた。

 

あれは・・・・・・ドラゴン・・・・・なのか?

 

上半身は堕天使のように黒い翼があり、下半身は東洋のドラゴンのように細長く、鱗もある。

 

両手、尾、黒い翼まで。

全身のあらゆるところに無数の大きな釘が打ち込まれている。

 

・・・・・・まるで、大罪人を縛り付けたような磔の仕方だ。

 

 

『オオオオォォォォオオオオオオォォォォォォ・・・・・・』

 

 

磔の罪人の口から不気味な声が発せられてロビー全体に響き渡る。

 

牙が剥き出しになっている口から吐き出された血と唾液がロビーの床に落ちる。

 

苦しみ、妬み、痛み、恨み。ありとあらゆる負の感情が入り混じったかのような低く苦悶に満ちた声音だった。

 

先生が目元をひくつかせ、憤怒の形相となっていた。

 

「・・・・・・こ、こいつは・・・・・。なんてものを持ってきてくれた・・・・・・! コキュートスの封印を解いたのか・・・・・!」

 

曹操が一歩前に出て、人差し指を立てながら言った。

 

「―――曰く、『神の毒』―――曰く、『神の悪意』。エデンにいたアダムとイブに知恵の実を食べさせた禁忌の存在。いまは亡き聖書の神が怒りを向けた存在――――神の呪いが未だに渦巻く原初の罪。『龍喰者』サマエル」

 

『――――っ!!』

 

その言葉を聞いて、この場の全員が驚愕の表情となった。

 

サマエル。

 

その名前は僕も知っている。

 

蛇に化けアダムとイブに知恵の実を食べるように仕向けたのがサマエルだ。

そのせいでサマエルは聖書の神の怒りに触れた。

また、聖書の神は極度の蛇―――ドラゴン嫌いになる。

 

教会の書物でドラゴンが悪として描かれているのはここに由縁がある。

 

神聖であるはずの神の悪意は本来ありえない。

サマエルはそのあり得ない悪意を全てその身に受けた。

 

「しかし、そいつはドラゴン以外にも影響が出る上にドラゴンを絶滅させかねない理由から、コキュートスの深奥に封じられていたはずだ。サマエルにかけられた神の呪いは究極の龍殺し。それだけにこいつの存在自体が凶悪な龍殺しだからな。・・・・・・・まさか・・・・・・」

 

先生はそこまで言うとハッとなる。

 

「おまえら・・・・・冥府を司る神ハーデスと・・・・・・!」

 

「そう、ハーデス殿と交渉してね。何重もの制限を設けた上でサマエルの召喚を許可してもらったのさ」

 

「野郎! サマエルの封印については全勢力で意見が一致してただろうが! ゼウスのオッサンが各勢力との協力体制に入ったのがそんなに気にくわなかったのかよッ!」

 

先生が憎々しげに吐き捨てた。

 

ハーデスが英雄派に協力したというのか!?

 

これはどう考えても勢力間に混乱をもたらすほどのことだ!

いくら悪魔と堕天使を嫌っているからといって、こんな真似をするなんて・・・・・!

 

曹操は聖槍をクルクルと回して矛先を僕達に向ける。

 

「というわけで、アザゼル殿、ヴァーリ、サマエル持つ呪いはドラゴンを喰らい殺す。サマエルはドラゴンだけは確実に殺せるからだ。龍殺しの聖剣など比ではない。比べるに値しないほどだ。アスカロンなど、サマエルに比べたらつまようじだよ」

 

龍王を斬り殺す力を秘めているアスカロンですら爪楊枝扱い。

それだけサマエルの龍殺しは凶悪なものということか。

 

「それを使ってどうするつもりだ!? ドラゴンを絶滅でもさせる気か!?・・・・・いや、お前ら・・・・・オーフィスを・・・・・・?」

 

先生の問に曹操は口の端を愉快そうに吊り上げた。

 

そして指を鳴らす。

 

「―――喰らえ」

 

 

ギュンッ!

 

 

僕達の横をなにかが高速で通り過ぎていく。

 

刹那―――バグンッ! 

 

という何かがのみ込まれるような奇怪な音が鳴り響いた。

 

慌てて振り返ると、オーフィスがいたであろう場所に黒い塊が生まれていた。

 

その黒い塊には触手の様な物が伸びている。

 

元をたどればそれは十字架に磔にされているサマエルの口元―――舌が伸びていた。

 

「おい、オーフィス! 返事をしろ!」

 

先生が呼びかけるが、オーフィスからの返事はない。

 

「祐斗! 斬って!」

 

部長の指示を聞いて、僕は聖魔剣を創りだし黒い塊に斬りかかる。

 

 

しかし――――

 

 

「っ!」

 

僕は目を見開き、驚愕の声をあげた。

 

黒い塊に触れた瞬間、聖魔剣は刃先の部分が失われた。

 

聖魔剣を消した・・・・・・? 

 

この黒い塊は攻撃をそのまま消し去るのか?

 

僕は刃先の消えた聖魔剣を消して、新たに聖魔剣を作り出す。

それをもう一度振るうが・・・・・・・結果は同じだった。

 

斬りかかった部分の刃が消失し、聖魔剣は上下二つに分かれていた。

 

『Half Dimension!』

 

ヴァーリが『白龍皇の光翼』を出現させ、その能力を行使する。

周囲の空間が歪んでいき、あらゆるものが半分になっていく。

しかし、黒い塊とサマエルの触手には変化がない。

 

「これならどうだ?」

 

それならばと、ヴァーリは手元から強大な魔力の波動を打ち込む。

それでも何事もなかったように黒い塊はそれを飲み込んでいった。

 

「消滅の魔力ならどう!」

 

部長が消滅の魔力を放ち、朱乃さんとゼノヴィアがそれに続く。

それでも黒い塊は意にも介さない!

 

とてつもなく頑強なのか・・・・・・それとも攻撃というものを全てはね除ける力を持っているのか?

 

ゴクンゴクンと不気味な快音を立て、塊に繋がる触手が盛り上がり、サマエルの口元に運ばれていく。

それはまるで、捕らえたオーフィスから何かを吸い取って喰らっているかのように見えた。

 

ヴァーリが白い閃光を放ち、鎧姿となる。

 

「相手はサマエルか。その上、上位神滅具所有者が二人。不足はない」

 

ヴァーリの一言に黒歌さん達も戦闘態勢に入る。

 

先生も黄金の鎧を纏い、僕も聖魔剣を新たに造り出す。

 

部長や朱乃さんも魔力を全身から迸らせるなどと、全員が戦闘態勢に入った。

 

それを見て、曹操は狂気に彩られた笑みを浮かべる。

 

「このメンツだとさすがに俺も力を出さないと危ないな。なにせ、ハーデスからは一度しかサマエルの使用を許可してもらえていないんだ。ここで決めないと俺たちの計画は頓挫する。ゲオルク! サマエルの制御を頼む! 俺はこいつらの相手をする」

 

ゲオルクがサマエルを制御しながら言う。

 

「一人で白龍皇と堕天使総督、グレモリー眷属を相手にできるか?」

 

「やってみせるさ。本当ならここに赤龍帝もいる予定だったんだ。それに比べればまだ楽なもんだ」

 

曹操の持つ聖槍が眩い閃光を放つ。

 

「―――禁手化(バランス・ブレイク)

 

力のある言葉を発し、曹操の体に変化が訪れる。

 

神々しく輝く輪後光が背後に現れ、曹操を囲むようにボウリングの珠ほどの大きさの七つの球体が宙に浮かんで出現した。

 

曹操が一歩前に出る。

それと共に奴を囲む七つの球体も宙を移動した。

 

「これが俺の『黄昏の聖槍』の禁手、『極夜なる(ポーラーナイト・)天輪聖王の輝廻槍(ロンギヌス・チャクラヴァルティン)』―――まだ未完成だけどね」

 

曹操の状態を見て、先生が叫ぶ。

 

「―――ッ! 亜種か! 『黄昏の聖槍』のいままでの所有者が発現した禁手は『真冥白夜の聖槍(トゥルー・ロンギヌス・ゲッターデメルング)』だった! 名前から察するに自分は転輪聖王とでも言いたいのか!? くそったれが! あの七つの球体は俺にもわからん!」

 

「俺の場合は転輪聖王の『転』を『天』とさせてもらってるけどね。そっちの方がカッコイイだろう?」

 

曹操は笑みを浮かべながら槍を肩でトントンと叩く。

 

最強の神滅具の禁手。

しかも亜種ときたか・・・・・・。

 

ヴァーリが皆に注意を促すように言う。

 

「気をつけろ。あの禁手は『七宝』と呼ばれる力を有していて、神器としての能力が七つある。あの球体ひとつひとつに能力が付加されているわけだ」

 

その言葉を聞いて、全員が驚愕する。

 

「七つッ!? 二つや三つではなくて!?」

 

「七つだ。そのどれもが凶悪。といっても俺が知っているのは五つだけだが。だから称されるわけだ、最強の神滅具と。紛れもなく、奴は純粋な人間のなかでは最強だろう。・・・・・そう、人間の中で」

 

ヴァーリをしてそこまで言うのか・・・・・・。

 

 

前回の京都でイッセー君は神器を使えない状態で曹操を退けた。

それでも彼はかなりギリギリだったと教えてくれた。

 

――――奇襲が上手くいってなければ、やられていたのは自分だろう、と。

 

しかも、それは神器が使えていても結果は分からなかったとも言っていた。

 

 

あれが最強の人間。

最強の神滅具、聖槍の使い手。

 

 

曹操が空いている手を前に突きだす。

球体のひとつがそれに呼応して曹操の手の前に出ていく。

「七宝がひとつ。―――輪宝」

 

そう小さく呟くと、その球体がフッと消え去る。

 

次の瞬間、ガシャンという何かが砕ける音がロビーに木霊した。

 

振り返れば―――ゼノヴィアが握るエクス・デュランダルが破壊される様が僕の視界に映りこんだ!

 

「・・・・・ッ!? エクス・デュランダルが・・・・・っ!」

 

ゼノヴィアも全く反応できなかったようで、ただ壊れゆく得物を見て驚愕するしかなかった。

 

錬金術でデュランダルの制御機能としての鞘と化していたエクスカリバーの部分が四散する!

デュランダル本体にも傷が付いているのが見えた!

 

「―――まずはひとつ。輪宝の能力は武器破壊。これに逆らえるのは相当な手練のみだ」

 

そう一言漏らす曹操。

 

次の瞬間―――。

 

ブバァァァァッ!

 

ゼノヴィアの体から鮮血が吹き出る。その腹部には穴が空いていた。

 

「ゴプっ」

 

口から血を吐き出し、その場に崩れるゼノヴィア!

致命傷なのは誰の目から見てもあきらかだ!

 

「ついでに転宝を槍状に形態変化させて腹を貫いた。いまのが見えなかったとしたら、君では俺に勝てないよ。デュランダル使い」

 

曹操の一声を聞き、全員がその場から散開する。

 

「ゼノヴィアの回復急いで! アーシア!」

 

部長がすぐさま反応して、アーシアさんに指示を出す。アーシアさんは呆然としていたが、すぐにハッとしてゼノヴィアに駆け寄った。

 

「ゼノヴィアさん! いやぁぁぁぁぁっ!」

 

アーシアさんは泣き叫びながら回復を始めた。

 

 

くっ・・・・・!

 

よくもゼノヴィアを・・・・・・!

 

「許さないよッ!」

 

僕が聖魔剣を手に突っ込む。

 

しかし、曹操にそれを聖槍で軽々と捌かれてしまう。

 

曹操は球体のひとつを手元に引き寄せると――――

 

「―――女宝」

 

その球体は高速で部長と朱乃さんのもとへと飛んでいく!

 

二人は球体に攻撃を加えようとするが――――

 

「弾けろッ!」

 

それよりも速く、曹操の言葉に反応して球体が輝きを発した。

 

それは二人の体を包み込んでいった!

 

「くっ!」

 

「こんなものでっ!」

 

二人は光に包まれながらも攻撃をしようとする。

 

・・・・・・しかし、二人から攻撃が放たれることはなかった。

 

二人とも怪訝そうに自分の手元を見て、もう一度手を前に突き出す・・・・・・が、やはり何も起きない!

 

これは、まさか――――

 

「女宝は異能を持つ女性の力を一定時間、完全に封じる。これも相当な手練れでもない限りは無効化できない。―――これで三人」

 

曹操の発言に、僕達は驚く。

 

お二人ほどの実力者ですら無効化されたということは、ゼノヴィアやイリナさん、アーシアさんも無効化される可能性が高い。

 

特にアーシアさんは回復役で今は重傷のゼノヴィアを治療中。

 

今、アーシアさんを無効化されたらゼノヴィアが・・・・・!

 

曹操が高笑いをする。

その表情は完璧に戦いを楽しんでいるようだった。

 

「ふふふ、この限られた空間でキミたち全員を倒す。―――派手な攻撃はサマエルの繊細な操作に悪影響を与えるからな。できるだけ最小の動きだけで、サマエルとゲオルクを死守しながら俺一人で突破する! なんとも高難易度のミッションだッ! だが―――」

 

まだ言い綴ろうとする曹操に向かって、黄金の鎧と純白の鎧が突っ込む。

 

「ヴァーリィィィィッ! 俺に合わせろッ!」

 

「まったく、俺は単独でやりたいところなんだが・・・・・・なッ!」

 

高速で曹操に近づく先生とヴァーリ。

 

二人とも瞬時に距離を詰める。

 

先生の光の槍とヴァーリの魔力の籠った拳が同時に曹操に打ちこまれていく。

 

「堕天使の総督と白龍皇の競演! これを御することができれば、俺はさらに高みへと昇れるだろうッ!」

 

嬉々としてその状況を受け入れる!

 

曹操は二人から高速で撃ちこまれていく攻撃を余裕で避けていた!

 

あの二人の攻撃を避けるなんて・・・・・・・いや、確か彼は――――

 

「彼で言うところの領域(ゾーン)というやつだ。この次元に足を踏み入れると全てがスロー再生されたように見える」

 

やはり、そうか・・・・・・。

 

今の曹操は僕達と別の世界を見ている。

イッセー君と同じ次元に曹操は立っているということ。

 

「邪眼というものをご存知かな? そう、眼に宿る特別な力の事さ。俺もそれを移植してね。赤龍帝にやられ、失ったものをそれで補っている。俺の新しい眼だ」

 

二人の攻撃を避けきった曹操は、視線を下へと向ける。

 

次の瞬間、先生の足元が石化していく!

 

「―――メデューサの眼かッ!」

 

目の正体に気づき、先生が舌打ちするが―――――

 

 

ドズンッ!

 

 

曹操は聖槍で黄金の鎧を難なく砕き、先生の腹部に聖槍が突き刺さった。

 

「・・・・・ぐはっ! ・・・・・・なんだ、こいつのバカげた強さは・・・・・・・ッ!」

 

先生は口から大量の血を吐き出し、鮮血をまき散らしながら崩れる。

 

曹操は槍を引き抜きながら言う。

 

「あなたとは一度戦いましたから、対処はできていました。それに――――領域に入っていない今のあなたでは俺を捉えるのは難しいでしょう。そうだろう、ヴァーリ?」

 

「アザゼルッ! おのれ、曹操ォォォォォッ!」

 

激昂したヴァーリが曹操に極大の魔力の塊を打ち出す。

 

あれが直撃すればいくら曹操でも倒れる。

 

しかし、その魔力の塊へ球体のひとつが飛来していく。

 

「―――珠宝、襲い掛かってくる攻撃を他者に受け流す。ヴァーリ、キミの魔力は強大だ。当たれば俺でも死ぬ。防御も難しい。―――だが、受け流す術ならある」

 

ヴァーリの放った魔力は、球体の前方に生まれた黒い渦に吸い込まれていく。

 

消えた・・・・・?

 

今のは敵の攻撃を吸収する能力なのか・・・・・・?

 

いや、曹操は受け流すと言った。

 

次の瞬間―――――

 

 

 

ゴパァァァァァァァァァァンッ!

 

 

 

僕の後方で激しい爆発音が響く!

 

振り向けば、黒歌さんがボロボロの姿で小猫ちゃんを守るようにたっていた!

 

まさか、今のはヴァーリの攻撃を転移させたのか!?

 

「・・・・・姉さま。どうして・・・・・ッ!」

 

「にゃはは・・・・・。私はお姉ちゃんだからね・・・・・・・」

 

血を吹き出し、煙を上げて倒れていく黒歌さん。

 

小猫ちゃんはすぐさまその体を抱きしめ、叫んだ。

 

「・・・・・ね、姉さまッ!」

 

「曹操―――、俺の手で俺の仲間をやってくれたな・・・・・ッ!」

 

怒りのオーラを全身にたぎらせるヴァーリ!

 

ここまで激昂する彼を見たのは初めてだ。

 

「ヴァーリ、君は仲間を思いすぎる。それが君の弱点なのかもしれないな。と、そういえばこれで七宝の全てを知っているのは君だけになったぞ。良かったな」

 

「では、こちらも見せようかッ! 我、目覚めるは、覇の理に全てを奪われし―――」

 

ヴァーリが『覇龍』の呪文を唱え始める!

 

あれをここで使うのか!

 

それを察したのか、曹操がゲオルクに叫ぶ。

 

「ゲオルク! 『覇龍』はこの疑似空間を壊しかねない!」

 

「わかっているッ! サマエルよ!」

 

ゲオルクが手を突き出して、魔法陣を展開させる。

 

すると、それに反応してサマエルの右手の拘束具が解き放たれた!

 

『オオオオオオオオォォォォォォォォォォォォオオッ』

 

不気味な声を出しながら、サマエルの右手がヴァーリへと向けられる。

 

その右手の先にいたヴァーリは黒い何かに包み込まれる!

それはオーフィスを包み込んだ黒い塊みたいだった。

 

『オオオオォォォォォォォォォォッ』

 

サマエルが吠えると、黒い塊が勢いよく弾け飛んでいく!

 

 

バシュンッ!

 

 

 

弾け飛ぶと共に試算した塊の中からヴァーリが解放される。

 

――――が、その純白の鎧は塊と共に弾け飛んでいき、体中からも大量の血が飛び散っていく!

 

「・・・・・ゴハッ!」

 

ロビーに倒れこむヴァーリ。

 

そんなヴァーリを見下ろし、曹操は息を吐く。

 

「どうだ、ヴァーリ? 神の毒の味は? ドラゴンにはたまらない味だろう? ここで『覇龍』になって暴れられてはサマエルの制御に支障をきたすだろうから、これで勘弁してもらおうか。俺は弱っちい人間風情だからな。弱点攻撃しかできないんだ。―――悪いな、ヴァーリ」

 

「・・・・曹操ッ!」

 

憎々しげに曹操を見上げるヴァーリ。

 

「あのオーフィスですら、サマエルの前ではなにもできない。サマエルがオーフィスにとって天敵だった。俺たちの読みは当たってたって事だ」

 

曹操は肩に槍をトントンとしながら言う。

 

オーフィスを包み込む黒い塊は未だに何かを吸い上げるように蠢いていた。

 

その様子を確認しながら曹操は僕達を数えるように指を向けた。

 

「えーと、これであと何人だ。ヴァーリにアザゼル総督を倒したいま、大きな脅威は無くなったかな。あとは聖魔剣の木場祐斗とミカエルの天使とルフェイと言ったところか」

 

「・・・・・・」

 

曹操の圧倒的な力にルフェイさんはどう出て良いのか分からずにいるようだった。

 

正直、僕もどう攻めれば良いのか分からずにいる。

皆がやられ、僕の中には怒りが渦巻いているが、ここで無闇に飛び出せば僕は一瞬であの槍に貫かれるだろう。

 

ここは僕のもう一つの禁手で・・・・・・・・。

 

そう思考を張り巡らせていた時―――――

 

「よくも! ゼノヴィアを! 私の仲間をっ!」

 

イリナさんが光の剣を構えて、飛び出していった!

 

怒りで冷静な判断が出来ていないのか!?

 

「ダメよ、イリナ! 闇雲に出れば殺される!」

 

部長が叫ぶがイリナさんは止まらない!

 

マズい!

 

僕は慌てて、彼女を止めようと駆け出すがこれでは間に合わない!

 

曹操は呆れたようにして槍をクルクルと回す。

 

「やれやれ。これでもう一人減ったか?」

 

 

 

その時

 

 

 

 

「格上相手に突っ込むのは不味いぞ、イリナ。って、これ前にも言わなかったか?」

 

イリナさんと曹操の間に突如として入り込む影。

 

その人物はイリナさんを脇に抱えると僕達の前に着地してくる。

 

「悪いな、皆。遅くなった」

 

「イッセー・・・・・・君?」

 

その人物――――イッセー君に抱えられた状態のイリナさんが小さく声を漏らした。

 

イッセー君はイリナさんを下ろすと彼女の頭を撫でながら微笑んだ。

 

「イリナ、ケガないか?―――――随分好き勝手やってくれたみたいだな、曹操」

 

「ああ。待っていたよ――――赤龍帝」

 

 

 

[木場 side out]

 

 



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11話 英雄派の思惑

俺がホテルに転移してきた時に感じたのは違和感と複数の気配だった。

 

元々俺は試験を終えた後、レイヴェルに連れられてホテルのレストランに直接転移する予定だった。

そこに皆もいるしな。

 

しかし、転移してみれば皆の姿はレストランにはなく、別の所に皆の気配が感じられた。

それに別の気配も。

 

嫌な予感がした俺は皆の元に急行。

 

 

 

そして、今に至る。

 

 

 

ゼノヴィアと先生、黒歌そしてヴァーリまでもが倒れ伏し血を流している。

 

イリナは間一髪のところだったが・・・・・・。

 

「皆!」

 

「ちょ・・・どうなってるのよ、これ!? 美羽ちゃん、アザゼルさんの治療を!」

 

「小猫さん! 黒歌さんの容態は!」

 

美羽とアリス、レイヴェルも駆けつけ、倒れている皆の元へ駆け寄る。

負傷者の治療はアーシアと美羽達に任せるとして・・・・・。

 

俺の目の前には輝くオーラを放つ槍を持ったあの男。

京都で死闘を繰り広げた英雄派のリーダー、曹操。

 

それから、美羽とも激しい魔法合戦を繰り広げたゲオルク。

 

そして・・・・・・上半身が堕天使で下半身がドラゴンみたいなやつ。

 

なんだよ・・・・・・このオーラは・・・・・・ッ!

寒気がするほどのプレッシャー・・・・・ッ!

 

絶対に触れてはいけないようなこの感じは――――

 

『・・・・・こいつは・・・・・! ドラゴンだけに向けられたこの圧倒的な悪意は・・・・・・!』

 

ドライグも目の前の不気味な存在に声を震わせていた。

 

天龍を怯えさせる程の存在ってことかよ!

 

 

「やぁ、赤龍帝。随分遅かったじゃないか。――――と、そういえば、君は上級悪魔への昇格推薦をもらっていたんだったな。おめでとう」

 

パチパチと拍手しながら祝いの言葉をくれる曹操。

 

「そいつはどうも。・・・・・で? おまえら、ここに何しに来やがった? 態々、俺達を祝福しに来たわけじゃないだろう? まぁ、この状況を見れば答えは分かるけどな」

 

 

 

 

バキンッ

 

 

 

 

ロビーに置かれていた花瓶が弾けるように割れた。

 

「曹操・・・・・・・。俺がいない間に随分とやってくれたなようだな・・・・・・! 俺の仲間を、先生を・・・・・・!」

 

俺の放った殺気にホテルの床や壁にヒビが入る。

 

体から滲み出る赤いオーラが空気を震わせ、次第にホテルそのものを揺らし始める。

 

俺は籠手を出現させ、鎧を纏う。

 

これを見て曹操が嬉々とした笑みを浮かべた。

 

「どうやら神器は使えるようになったみたいだな。だが、今の君にここで暴れてもらってはサマエルの制御に支障が生じそうだ。――――ゲオルク」

 

「了解だ」

 

曹操の言葉に頷き、ゲオルクが魔法陣を展開する。

 

なんだ?

 

何をするつもりだ?

 

俺が怪訝に思っていると美羽に治療されてる先生が血を吐き出しながら叫んだ。

 

「イッセー! 気をつけろ! あれは最強の龍殺し、サマエルだ! あれにオーフィスは捉えられ、ヴァーリですらやられたんだ! しかも攻撃が通じねぇ!」

 

「っ!」

 

マジかよ!

 

あのヴァーリがあそこまでの負傷を負うなんて・・・・・!

 

しかも、オーフィスも!?

 

それじゃあ、あの不気味な堕天使ドラゴンから伸びてる触手が捉えてるのって・・・・・・・まさか!

 

つーか、攻撃が通じない!?

なにそのチート!?

 

そうこうしてる内にサマエルとやらの右腕が俺へと向けられる!

 

 

ブゥゥゥゥン!

 

 

空気を震わせる音と共に触手が伸びてきやがる!

 

ヴァーリですらあれだ!

俺もあれを食らえば即アウトかよ!

 

『それじゃあ、私の出番じゃない? 本物のチートを見せてあげなさい』

 

イグニスが言う。

 

そうだな、最強の龍殺しだかなんだか知らねぇがこっちには最強のお姉さんがついてるんだぜ!

 

「消し炭にしてやらぁ!!!」

 

俺は即座にイグニスを展開!

 

その刀身に灼熱の炎を纏わせて触手目掛けて放つ!!

 

 

 

ズバァァァァァアアアアアッ!!!

 

 

 

放たれた炎の斬撃は触手を消し飛ばし―――――――サマエル本体を炎で覆った!

 

『オォォォォォオオオォォォ・・・・・』

 

サマエルから苦悶の声が発せられるが、イグニスの炎はその体を容赦なく燃やしていく。

 

「なっ・・・・!?」

 

流石の曹操もこれは予想外だったのか目を見開き、驚愕の声を漏らしていた。

 

魔法陣を展開中のゲオルクやリアス達も驚いているようだった。

 

まぁ、アザゼル先生の話だとサマエルも相当なものみたいだったからな。

 

イグニスが言う。

 

『イッセー。オーフィスちゃんを助けてあげないと、何かされてるみたいよ?』

 

オーフィスが呑み込まれているであろう黒い塊の方に視線を再び移すと、ゴクンゴクンと不気味な快音を立てて、何やら吸い取っているように見えた。

 

何をしているのかは分からないけど、早く助けてやらないと。

俺がイグニスを展開できる時間は限られてるしな。

 

俺は黒い塊の方に近づく。

 

うっ・・・・龍殺しだけあって嫌な汗が体中に・・・・。

 

早いとこ終わらせるか・・・・。

 

俺はイグニスを振り上げ――――――――――そのまま勢いよく触手目掛けて振り下ろす!

 

 

バチンッ!

 

 

弾ける音と共に触手は千切れ、黒い塊は消えていく。

それと同時に中からオーフィスの姿。

 

見た感じ、特に変わった様子もないけど・・・・ケガもしてなさそうだし・・・・・。

 

「バカな・・・・サマエルを斬っただと? ゲオルク、どれだけ取れた?」

 

ゲオルクは半ば呆然としながら曹操の問に答える。

 

「・・・・あ、ああ。四分の三強ほどだろうな。大半と言える。これ以上はサマエルを現世に繋ぎとめられないな」

 

そう呟くゲオルクの後方でサマエルを出現させている魔法陣が輝きを失いつつあった。

 

ゲオルクの報告を聞き、曹操はほっとした表情をする。

 

「上出来だ。十分だよ」

 

曹操が指を鳴らすと、サマエルは魔法陣の中に沈んでいく。

 

『オォォォォォオオオォォォ・・・・・』

 

苦悶に満ちたうめき声を発しながら、未だに炎に包まれた状態のサマエルは魔法陣の中へと消えていった。

 

あれ、あの後どうなるんだろうな?

 

『大丈夫よ。宣言通り消し炭になるから。まぁ、かなり制限された状態での力だから・・・・あのままおいて置けば完全焼失するのに一月くらいかしら? 肉体はおろか魂まで燃え尽きるわ』

 

・・・流石はイグニスさん。

 

あんたこそ本物のチートだよ・・・・・。

これで本来の力の一部って言うから恐ろしい・・・・。

 

そろそろ俺の方もイグニスを展開するのが限界なので仕舞う。

イグニスの熱によって急上昇していたホテル内の気温が下がっていく。

 

まぁ、それはおいといて問題はオーフィスだな。

 

もう一度、体を見てみるがやっぱり変化は見られない。

そうなると・・・・・何をされてたんだ?

 

オーフィスは曹操に視線を向ける。

 

「我の力、奪われた。これが曹操の目的?」

 

―――――――っ!

 

な、なんだと・・・・!?

 

その言葉に驚愕する俺達だが、問われた曹操は愉快そうに笑むだけだった。

 

「ああ、そうだ。オーフィス。俺たちは貴方を支配下に置き、その力を利用したかった。だが、あなたを俺たちの思い通りにするのは至難だ。そこにいる赤龍帝殿なら簡単かもしれないが。……そこで俺たちは考え方を変えた」

 

曹操は聖槍の切っ先を天に向ける。

 

「あなたの力をいただき、新しい『ウロボロス』を創りだす」

 

血を吐きながら先生は言う。

治療は続いているが、傷が深いのか傷の治療は思ったより手こずっているようだ。

 

「―――ッ! ・・・・そうか! サマエルを使ってオーフィスの力をそぎ落とし、手に入れた分を使って生み出す。・・・・新たなオーフィスか」

 

先生の言葉に曹操は頷く。

 

「その通りですよ、総督。我々は自分達に都合の良いウロボロスを欲したわけだ。グレートレッドは正直、俺たちにとってそこまで重要な存在でもなくてね。それを餌にご機嫌取りをするのにもうんざりしたのがこの計画の発端です。そして、『無限の存在は我々普通の人間でも倒し得るのか?』という英雄派の超常の存在に挑む理念も倒すことができた」

 

「・・・・・見事だよ、無限の存在をこういう形で消し去るとはな」

 

「いえ、総督。これは消し去るのとはまた違う。やはり、力を集めるための象徴は必要だ。オーフィスはその点で優れていた。あれだけの集団を作り上げるほどに力を呼びこむプロパガンダになったわけだからね。―――だが、考え方の読めない異質な龍神は傀儡にするには不向きだ」

 

「人間らしいな、実に人間らしいいやらしい考え方だ」

 

「お褒めいただき光栄の至りです、堕天使の総督殿。―――人間ですよ、俺は」

 

曹操は先生の言葉に笑みを見せていた。

 

新たなオーフィスを・・・・創る・・・・・?

サマエルで奪ったオーフィスの力で・・・・?

 

二人の会話に疑問符を浮かべる俺だが、そんな俺に曹操は槍の切っ先を向けてきた。

 

「さて、用事も済んだし本当ならここで帰るところなんだが・・・・・・少し手合せ願おうか、赤龍帝」

 

「・・・・・前回の続きをしようってか?」

 

「京都では件の第二階層とやらをお目にかかれなかったからね。是非とも見せてもらいたい」

 

「なるほど。―――――――それがおまえの禁手か」

 

曹操の背後には神々しく輝く輪後光、それに加え曹操を囲むようにボウリングの珠ほどの大きさの七つの球体が宙に浮かんでいる。

 

相変わらず静かなオーラだが、以前よりも遙かに濃密だ。

 

「そうだ。まだ調整中で未完成だけどね」

 

木場が叫ぶ。

 

「イッセー君! あの七つの珠にはそれぞれに能力が付与されている!」

 

「それぞれに・・・・? ってことは能力が七つあるってことかよ? んな無茶苦茶な・・・・」

 

「あんな馬鹿げた剣を持っている君に言われるのはね・・・・」

 

俺の言葉に曹操は苦笑しながらそう返す。

 

いや、そりゃあイグニスも無茶苦茶だけど、曹操の禁手も無茶苦茶だろう?

 

だって七つだぜ?

しかも見た目ではどれがどれなのか判断がつかない。

 

戦闘の時はどうなるか分からないけど・・・・。

 

まぁ、色々試してみるか・・・・。

 

 

バチッ バチチチッ

 

 

俺の周囲にスパークが飛び交う。

 

肩、腕、脚。

全身にブースターが増設されて、鎧の形状が変化していった。

 

「こいつが禁手第二階層―――――天武だ。お望み通りなってやったぜ?」

 

こんな狭い空間で天撃を使うわけにはいかないしな。

負傷者もいるし、出来るだけ巻き込まないようにしないとな。

 

曹操はこの形態を見て興味深そうにまじまじと見てくる。

 

「なるほど・・・・。覇龍とは違った力の波動だ。情報にある歴代のもののどれとも当てはまらない。これまでの実験で多くの神器所有者を見てきたがこんな進化を成し遂げた者は一人としていなかった。当然、俺も」

 

「まぁ、今のところなれるのは俺だけだしな。――――いくぞ」

 

 

その瞬間、俺と曹操は同時に領域へと突入した。

 

 

 

 

 

 

『Accell Booster!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

瞬時に倍加した俺は全身のブースターからオーラを噴出させて曹操へと突っ込む。

 

拳を構えて、殴り付ける体勢に入った。

 

「想像以上に速いな!」

 

「速いだけじゃねぇよ!」

 

腕からオーラを噴出させて、威力を劇的に高めた一撃を曹操へと放つ!

 

曹操は聖槍を盾にして防いだと思うと、それを軸にして体裁きで俺の攻撃を受け流した。

 

振り抜いた勢いだけで、ホテルの柱が崩壊する。

 

俺は振り向くと同時に気弾を複数放った!

 

「いやー怖い怖い。まともに食らえば俺は即アウトだな。――――珠宝」

 

すると、曹操の前に球体の一つが出てきた。

 

 

ギュゥゥゥゥゥンッ

 

 

俺の気弾が球体の前に生まれた黒い渦に吸い込まれていく!

 

なんだ、ありゃ!?

 

全ての気弾が吸収されたと思うと―――――アーシアの近くに新たな渦が発生した!

 

そこから出てくるのは先程俺が放った気弾!

 

ちぃっ!

 

そういうことかよ!

 

「アリス!」

 

「了解よ!」

 

俺の指示に反応してアリスが直ぐ様アーシアの前に立つ。

そして、取り出した銀色に輝く槍で全ての気弾を切り裂いた!

 

それを確認して俺は息を吐く。

 

ふぅ・・・・危ねぇ・・・・・

 

「イッセー! 無闇に攻撃するのは危険よ!」

 

「そうらしいな! 美羽! 結界を張ってくれ! 強力なやつを!」

 

「わかった! 皆、もう少し集まって!」

 

美羽の指示に従い、散会していた皆が美羽の近くに駆け寄る。

それと同時に美羽は空間遮断型の結界を何重にも展開した。

 

これであの結界内には受け流すことも転移することも出来ない。

 

何かあっても美羽とアリスで対処できる。

 

 

・・・・・・七つの内、一つしか見てないけど、こいつは想像以上に厄介そうだ。

 

 

そう思って曹操の方に視線を戻すと・・・・・・

 

「おいおい・・・・・。これまた面倒な能力だな・・・・・分身かよ」

 

俺の視線の先では光輝く人形の存在が複数出現していた。

数は八。

その全員が槍を構えている。

 

「居士宝。見ての通り分身を生み出す能力さ」

 

「木場の新しい禁手みたいだな」

 

「ハハハ。そうかもしれないな。だからこそ、木場祐斗の能力にも興味を持っていたんだが、まだ見れていないんだ。まぁ、それはまたの機会にとっておこう」

 

そう言うと分身体が一斉に襲いかかってきた!

 

槍をクルクル回しながら、左右上下から攻撃してくる!

 

俺は迫る槍をかわしながら、拳を放っていく。

たまに避けられたりもするが、まともに受けたやつは消滅していった。

 

「こいつも木場と同じで技術までは反映出来ていないようだな!」

 

横合いから伸びてきた槍を流しながら、その方向を見据える。

 

この攻撃は曹操本人からの攻撃だ!

 

「言っただろう? まだ調整中なんだ。もう少し改良したいところなんだが、どうしたものかな」

 

その時、曹操の右目が金色に輝いた!

 

それと同時に俺の鎧――――籠手の部分が石化していた!

 

あの右目、回復してると思ったら何か特殊なものに変わってやがる!

 

俺は直ぐに籠手の部分を破壊して、新たに籠手を作り直す。

 

直後、俺の右肩を槍が貫いた!

 

「ガッ・・・・・!」

 

「アザゼル総督達にも説明したけどね。これは君にやられて、俺が新たに得た眼だよ。邪眼というやつさ」

 

「てめぇ・・・・・・!」

 

俺は槍を引き抜く曹操に気弾を放つが、容易に弾かれてしまった。

 

曹操はふと、ホテルの時計に目をやる。

 

「・・・・・そろそろ時間か」

 

曹操はそう呟くとゲオルクの元に戻り、禁手を解いた。

 

時間だと・・・・・?

 

「件の第二階層とやらは十分に堪能した。現象としては興味深いが能力は単純だ」

 

能力は単純、か。

 

言ってくれるぜ。

まぁ、あいつの多彩な能力に比べれば見劣りするだろうよ。

 

「ゲオルク、サマエルが奪ったオーフィスの力はどこに転送される予定だ?」

 

「本部の研究施設にながすよう召喚するさいに術式を組んでおいたよ、曹操」

 

「そうか、なら俺は一足早く帰還する」

 

曹操はそう言って、ロビーをあとにしようとする。

 

ヴァーリが全身から血をなられ流しながら立ち上がる。

 

「・・・・・曹操、なぜ俺を・・・・・俺たちを殺さない? 禁手のお前ならば兵藤一誠が来る前にここにいる全員を全滅できたはずだ・・・・・。女の異能を封じる七宝でアーシア・アルジェントの能力を止めればそれでグレモリーチームはほぼ詰みだった」

 

一旦足を止めた曹操はヴァーリに向かって言う。

 

「作戦を進めると共に殺さず御する縛りも入れてみた・・・・・では納得できないか? 正直話すと聖槍の禁手はまだ調整が大きく必要なんだよ。だから、この状況を利用して長所と短所を調べようってね」

 

「・・・・・舐めきってくれるな」

 

「ヴァーリ、それはお互いさまだろう? 君もそんなことをするのが大好きじゃないか」

 

曹操は俺へと視線を戻す。

 

「赤龍帝の兵藤一誠。近い内にまた合間見えよう」

 

「・・・・・逃げるつもりか?」

 

俺は肩の傷を抑えながら問う。

 

すると――――

 

「予定時間だからね。それに――――あのまま続けていれば、今回は俺が勝っていただろうさ」

 

「っ!」

 

曹操はそれ以上は何も言わず不敵な笑みを浮かべる。

 

俺はそれを否定できなかった。

 

確かに俺の天武は攻撃力が爆発的に上がり、当たれば大抵の敵は倒せる。

 

しかし、どれだけ強大な力も当たらなければどうと言うことはない。

 

前回の京都でもそうだったように、曹操のテクニックは俺の上をいく。

それに加えてあの禁手にあの邪眼。

たんなるパワーアップどころじゃない。

 

天武のままでは(・・・・・・・)俺は負けていた。

 

 

「ゲオルク、死神の一行さまをお呼びしてくれ。ハーデスは絞りかすのオーフィスの方をご所望だからな。それと、前に考案した例の入れ替え転移、あれを試してみてくれ。俺とジークフリートを入れ替えで転移できるか? あとはジークに任せる」

 

死神・・・・・?

 

なんで死神がここで関係してくるんだ?

 

「それなら大丈夫だろう。試してみよう」

 

「流石はあの伝説の悪魔メフィスト・フェレスと契約したゲオルク・ファウスト博士の子孫だ」

 

「先祖が偉大すぎて、この名前にプレッシャーを感じるけども。まあ、了解だ、曹操。・・・・・それとさっき入ってきた情報なんだが・・・・・・」

 

ゲオルクが何やら険しい表情で曹操に紙切れを渡す。それを見た曹操の目が細くなっていく。

 

「・・・・・なるほど、助けた恩はこうやって返すのが旧魔王のやり方か。いや、わかってはいたさ。まあ、十分に協力はしてもらった」

 

何か起きたのか?

何やら想定外のことが起こったような表情をしているが・・・・・?

 

ゲオルクは魔法陣を展開させると、何処かへと消えていく。

 

「ゲオルクはホテルの外に出た。俺とジークフリートの入れ替え転移の準備中だ」

 

曹操は俺達に告げてくる。

 

「もうすぐここにハーデスの命令を受けて、そのオーフィスを回収に死神一行が到着する。そこには俺のところのジークフリートも参加する。そのオーフィスがハーデスに奪われればどうなるか・・・・・・。さぁ、オーフィスを死守しながらここを抜け出せるか挑戦してみてくれ。俺としては二天龍に生き残って欲しいが、それを仲間や死神に強制する気は更々ない。まぁ、精々気をつけてくれ」

 

そう言って俺達に背中を向ける曹操。

 

「曹操・・・・・・ここで俺を倒さなかったこと・・・・・後悔するぞ」

 

俺の言葉に笑みを浮かべながら曹操はこの場を去っていった。

 

 

 



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12話 姉の気持ち、龍の笑み

「駐車場に死神が出現しました。相当な数です」

 

外の様子を見に行っていた木場が、全員が待機しているホテルの一室に戻ってきた。

 

「・・・・ハーデスの野郎、本格的に動き出したってわけか!」

 

先生は憎々しげに吐く。

 

曹操が去ったあと、怪我人が続出した俺達はこの疑似空間のホテル上階で陣取っていた。

 

そこで俺はことの次第を改めて先生から聞いた。

 

あの骸骨神様、英雄派と繋がっていたのかよ・・・・・!

クソッタレめ!

 

アーシアと美羽の治療で先生、ゼノヴィアと黒歌は完治しているが、黒歌はダメージが大き過ぎたようで、いまは別室で休んでいる。

ヴァーリの攻撃をまともに受けたんだ。

それも仕方がない。

 

小猫ちゃんは黒歌を心配して付き添っているみたいだ。

 

それで、ヴァーリの怪我は治ったんだが・・・・・・サマエルの呪いが解けず、黒歌同様に別室で激痛に耐えている。

 

俺も何とかしてやりたいけど、サマエルの呪いはドラゴンにとって猛毒。

俺は触れない方が良いと先生に止められた。

 

先生の話では、この空間はゲオルクが作り出した空間のようだ。

絶霧の禁手、『霧の中の理想郷』。

霧を用いて固有の結界を作り出すことができ、今のようにホテルを中心に駐車場と周囲の風景も丸ごと疑似空間に創り出すことも出来る。

 

京都の時も思ったけど、凄い再現力だ。

ホテルの内部、細かいところまで再現されている。

部屋に置かれているベッドもフカフカだ。

 

流石に電気は通ってないし、水道も流れていないみたいだけどね。

 

ルフェイが嘆息した。

 

「本部から正式に通達が来たようです。砕いて説明しますと―――『ヴァーリチームはクーデターを企て、オーフィスを騙して組織を自分のものにしようとした。オーフィスは英雄派が無事救助。残ったヴァーリチームは見つけ次第始末せよ』だそうです」

 

ルフェイの報告に驚く俺達。

 

無茶苦茶言いやがるな・・・・・・・。

 

ヴァーリがオーフィスを自分のものにしようとする?

そんなことある訳がない。

ヴァーリの野郎は他人の力を借りようなんて真似はしねーよ。

 

つーか、本物のオーフィスここにいるし!

 

「あいつらの中ではオーフィスから奪った力が『本物』で、ここにいるオーフィスは『偽物』というふうになっているんだろうな。・・・・・英雄派に狙われていた上に、オーフィスの願いを叶えようとしたヴァーリチームの末路がこれか。難儀だな」

 

先生も息を吐き、ルフェイも肩を落としていた。

 

「私たちはグレートレッドさんをはじめ、世界の謎とされるものを調べたり、伝説の強者を探しまわったり、時々オーフィスさまの願いを叶えたりしていただけなのですが・・・・・。英雄派の皆さんは力を持ちながら好き勝手に動く私たちが目障りだったようです。特にジークフリートさまは私たちのことを相当にお嫌いだったようです。なにより、元英雄派でライバルだった兄のアーサーがヴァーリさまのチームに来たのがお気に召さなかったようでして・・・・・」

 

そういういざこざもあったのな。

アーサーは元英雄派で、ヴァーリチームに移ったと。

 

まぁ、移った理由は分からなくもないかな?

 

あれ?

 

それだったら・・・・・・

 

一つ疑問に思ったので俺はルフェイに尋ねてみる。

 

「なぁ、ディルムッドって英雄派にいるだろ? あいつ、英雄派の奴らと仲悪そうだし、そもそもテロ活動ほとんどしてないみたいだし。そっちに移らないのか?」

 

「一時、そういう話もありましたが・・・・・・ディルムッドさんが断られまして・・・・・・」

 

「断わった? 何で?」

 

俺が聞き返すとルフェイから返ってきた答えは、

 

「なんでも、ご飯が英雄派の方が美味しいらしくて・・・・・・。うちにも他の派閥にも移ろうとしないんです」

 

「はぁっ!?」

 

予想外の答えに素っ頓狂な声をあげる俺。

 

え、じゃあ、なに・・・・・・あの人、ご飯に釣られて英雄派に所属してるの!?

 

あっ!

そういや、『英雄派のタダ飯ぐらい』って呼ばれてるって曹操が言ってた!

 

なんで美人さんに限って変な人が多いんだよぉぉぉおお!

 

百均ヴァルキリーのロスヴァイセさんとか、レズレズな駄女神とか!

 

もしかして、家に呼んだらテロリスト抜けるんじゃないの、あの二槍流の人!

家のご飯は三食揃って絶品だからな!

 

ルフェイは先生に訊く。

 

「それにしても総督さま、ここ最近は神滅具祭りですね。―――グリゴリにいらっしゃる『黒刃の狗神』の方は元気ですか?」

 

話しを振られた先生は顔を天井に向ける。

 

「『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』、刃狗(スラッシュドッグ)か。あいつには別任務に当たらせている。そちらもそちらで十分に厄介な事件だ。あいつ、ヴァーリのことが嫌いでなぁ」

 

「はい、お話はうかがっております」

 

ルフェイはクスクスと可愛く笑う。

 

俺は先生にふとした疑問を投げ掛けた。

 

「そういや、先生。英雄派の連中は上位神滅具四つのうち三つ保有してますよね? 残りの一つは誰が持ってるか知ってるんですか?」

 

「ああ、『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』だな。そいつは既に所有者は割れている。そいつは天界、『御使い(ブレイブ・セイント)』のジョーカーをしているが・・・・・・。イリナ、奴は何をしている?」

 

ジョーカー。

その話は以前、先生に聞いたことがあるな。

 

何でも教会最強のエクソシストがその枠に決まったとか。

 

話を振られたイリナは首を捻りながら答える。

 

「デュリオ様ですか? 今は各地を放浪しながら美味しいもの巡りをしていると聞いてますが・・・・・」

 

そいつも美味しいものかい!

 

なんだ!?

強い奴は美味しいものに惹かれる性質があるのか!?

 

その答えに先生も絶句しているようだった。

 

「なっ・・・・・。仮にもセラフ候補者に選出されるかもしれない転生天使きっての才児だろうが! ミカエル達は何してやがるんだ!?」

 

「そ、それは私に言われても・・・・・・」

 

先生の質問にイリナも困り果てているようだった。

 

すると、先生が何か思い付いたような顔をした。

 

「あ! いま俺は現世の神滅具所有者の共通点を見つけたぞ。―――どいつもこいつも考えてることがまるで分からん! おっぱい野郎に戦闘狂、妙な野望を持った自分勝手な奴らばかりだ! これはあとでメモしてやるぞ、くそったれ!」

 

最後にそうやけくそ気味に叫ぶ先生。

 

おっぱい野郎って俺のことか!?

俺のことなのか!?

 

ひでぇ!

俺はおっぱいが好きなだけだい!

 

「それともうひとつ、共通点を見つけた。―――神滅具の使い方が従来通りじゃない。ほとんどの連中が歴代所有者とは違う面を探して力を高めてやがる。現代っ子は俺たちの範疇を超えているのか? いや、しかし・・・・・」

 

あらー、また独りで考え出したよ。

自分の世界に行ってしまうと先生は中々帰ってこないからなぁ。

 

「ねぇ、ここを出るアイデア浮かんだ?」

 

と、尋ねてきたのは美羽だった。

 

美羽は今いる階と上下合わせて五階分を巨大な結界で覆っていた。

それも何重にも展開していて、外部からの侵入を防いでいる。

ちょっとやそっとの力じゃびくともしない。

 

俺は美羽の問いに首を捻りながら答えた。

 

「いや、まだ何ともな・・・・・」

 

「イグニスさんの力でもダメ?」

 

『出来るけど、相応の力を出すから皆が丸焦げになっちゃうわよ?』

 

「・・・・・別の方法を考えよっか」

 

美羽は目元をひくつかせながら考え始めた。

 

オーフィスがこの部屋に戻ってきた。

 

『この階層を見て回る』

 

と一言だけ言い残し、出かけてしまったオーフィス。

それがやっと戻ってきた。

 

「―――で、具合はどうだ、オーフィス」

 

先生がオーフィスにそう問う。

 

「弱まった。いまの我、全盛期の二天龍より二回り強い」

 

「それは・・・・・・弱くなったな」

 

「いやいや、全盛期のドライグ達よりも二回りも強いんでしょ? それで弱くなったってどんだけ!?」

 

「そりゃ全勢力で最強の存在だからな」

 

「そういえば、そうでしたね!」

 

見た目が可愛いロリっ子だからついつい忘れてました!

これでも元々は無限の龍神様だものな!

世界最強の存在だったもんな!

 

そうそう、オーフィスで思い出した。

 

木場から聞いたんだけどさ、

 

「なぁ、オーフィス。アーシアやイリナを助けてくれたんだってな? なんでだ?」

 

こいつはグレートレッドやドライグ以外は興味の対象外みたいな感じだし・・・・・・。

少し気になったんだよね。

 

オーフィスは一言だけ答えた。

 

「紅茶、くれた。トランプ、した」

 

「そ、それって家でしてたこと?」

 

オーフィスは俺の言葉に頷くだけ。

 

・・・・・・こいつ、やっぱり悪い奴じゃないんじゃないか?

 

ただただ純粋なだけなんじゃ・・・・・・?

 

オーフィスの状態を聞いて、先生は顎に手をやる。

 

「しかし、二天龍よりも二回りも強いか。妙だな。曹操は絞りかすといまのオーフィスを蔑んでいたが、正直、これだけの力が残っていれば十分とも言える」

 

それは俺も思ってた。

地上最強と呼ばれた二天龍よりも二回りも強いっていうんだから、それは相当な力だ。

 

正直、俺や先生、ヴァーリが向かっていっても勝てないレベルだ。

 

先生の言葉を聞いて、オーフィスは無言で挙手する。

 

「曹操、たぶん、気づいてない。我、サマエルに力取られる間に我の力、蛇にして別空間に逃がした。それ、さっき回収した。だからいまは二天龍よりも二回り強い」

 

――――っ!

 

オーフィスのその告白に全員が度肝を抜かれた!

 

先生が叫ぶ!

 

「おまえ、この階層を見て回るって出ていったのは別空間に逃がした自分の力を回収するためか!?」

 

オーフィスは無言でコクリとうなずく。それを見て先生は「ククク」と含み笑いをする。

 

「曹操め、あいつはサマエルでオーフィスの力の大半を奪っていたと言っていたが、オーフィスは力を奪われている間に自分の力を別空間に逃がしていた。それを回収して力をある程度回復させ、それが全盛期の二天龍の二回りの強さときたもんだ。オーフィスを舐めすぎだな、英雄派」

 

先生を尻目に、オーフィスは指先に黒い蛇を出現させる。

 

「力、こうやって蛇に変えた。これ、別空間に送った。それ、回収した。でも、ここから出られない。ここ、我を捉える何かがある」

 

いや、これには驚いたわ。

オーフィスがこんな機転を利かせるとは・・・・・・。

 

いや、馬鹿にしているわけじゃないぞ?

 

「それで、オーフィスを捉える何かってのが気になるな」

 

俺の言葉に先生も続く。

 

「ああ。恐らく『霧の中の理想郷』によって造り出された結界の作用だとは思うが・・・・。弱っているとはいえオーフィスを捉えるとは・・・・・恐るべき力だな。流石は神滅具・・・・・」

 

皆がむぅと唸る中、美羽が挙手した。

 

「ねぇ、その結界ってこれのことかな?」

 

『えっ?』

 

美羽の言葉に全員が振り返る。

 

監視カメラのような映像が美羽の手元にいくつか映し出されていて、そこには黒いローブを着た奴らが大勢。

その内の三つの映像の中心部には何かの装置が置かれている。

形は尾を口でくわえたウロボロスの像だ。

 

・・・・おいおい、これは・・・・・

 

皆が呆気にとられる中、美羽が言う。

 

「えっと、こんな状況だし・・・・色々探った方がいいかなって・・・・・」

 

「それって・・・・僕が様子を見に行った意味、無かったんじゃ・・・・」

 

うっ・・・・。

 

た、確かに、美羽の方がリアルタイムで相手の様子も探れるし情報もより共有しやすい。

態々、木場が足を運んだ意味は無かったのかもしれない・・・・。

 

気落ちする木場に美羽は慌てて言う。

 

「そ、そんなことは無いよ!? これ、展開するのに時間かかるし、一度展開したらその方向しか見れなくなるから結構不便なんだよ!?」

 

美羽、この状況ではそれはフォローになってないぞ!

明らかに木場が持ってきた情報よりも多くのことがこれで分かるし!

 

ってか、いつも思うんだけどさ・・・・・。

 

美羽って、さりげなく凄いことするよね!

 

 

「木場、ドンマイ・・・・」

 

「う、うん・・・・」

 

 

 

その後、脱出作戦を考えた俺達はその時が来るまで各自、体を休めることになった。

 

 

 

 

 

 

脱出作戦まで少し時間があるということで、俺は黒歌の部屋に見舞いにきていた。

 

ケガは治ってはいるが、ヴァーリの攻撃をまともに食らったことに加えて、兵藤家にいる間はオーフィスを狙ってくる者がいないか常に神経を尖らせていたようで、予想以上に体力と精神を使っていたらしい。

 

「よう、黒歌。調子はどうだ?」

 

ベッドに横になっている黒歌に問う。

 

黒歌はイタズラな笑みを浮かべる。

 

「あらん、赤龍帝ちん。お見舞いに来てくれるなんて優しいにゃん」

 

「ま、小猫ちゃんを助けてくれたみたいだしな」

 

「たまたまにゃん」

 

たまたまねぇ。

 

リアス達の話だとヴァーリの攻撃は本来、小猫ちゃんに受け流されたものらしい。

 

咄嗟のことで動けなかった小猫ちゃんだが、それを庇ったのが黒歌。

 

黒歌は身を挺して小猫ちゃんを守ったんだ。

 

ベッドの横には俯き気味の小猫ちゃんと二人が心配で部屋にいるレイヴェル。

 

「・・・・・どうしてですか?」

 

小猫ちゃんはそうぼそりと呟き、途端に立ち上がって叫んだ。

 

「どうして・・・・・どうして私を助けたんですか!? 姉さまにとって私は道具になる程度の認識だったはずです!」

 

「さーてね、なんのことかにゃん」

 

「茶化さないでください! あの時・・・・・私を置いていったじゃないですか! 私は・・・・・周りの人に酷いことを言われて・・・・・・! 色々辛いことがあって・・・・・! リアス部長達と出会えて幸せを感じるようになった途端に私を無理矢理連れていこうとして・・・・・・!」

 

普段、口数が少ない小猫ちゃんが内に溜まっていたもの全てを黒歌にぶつけるかように吐き出していた。

 

「私には姉さまが分かりません・・・・・・!」

 

それだけを言い残し、小猫ちゃんは部屋を飛び出していく。

 

「レイヴェル。悪いけど、小猫ちゃんを頼めるか?」

 

「はい。任せてください」

 

俺のお願いにレイヴェルは頷き、小猫ちゃんを追って部屋を出ていった。

レイヴェルなら小猫ちゃんを任せられる。

 

俺は小猫ちゃんが座っていた椅子に腰をおろす。

 

そして、ため息混じりで言った。

 

「おまえも素直じゃないねぇ」

 

「いきなり口調が爺臭くなったにゃん」

 

「うるせーよ。ま、以前から薄々感じてたけどさ。おまえ、本当はかなりのシスコンだろ?」

 

「それ、赤龍帝ちんにだけは言われたくないにゃ。現赤龍帝はシスコンで有名だからねー」

 

俺はニヤリと笑みを浮かべながら言うと、黒歌も笑みを浮かべながら返す。

 

ハハハ・・・・・そうですか。

俺はシスコンで有名ですか。

否定はしないけど・・・・・。

 

俺は笑みを止めて真面目な表情で問う。

 

「一度、聞きたかったんだけどさ。前の主と何があったんだ? 話では力に溺れて殺した、なんて聞いてるけど違うんじゃないか?」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「本当に力に溺れるような奴が誰かを庇ったりしねーよ。まぁ、中には改心する奴もいるけどさ」

 

こいつ、普段はイタズラ好きでふざけてるようにしか見えないけど、中身はしっかりしたお姉さんだと思うんだよね。

 

この間、小猫ちゃんが発情期になった時なんかが良い例だ。

 

俺の言葉を聞いて黒歌はそれまでのイタズラな笑みを止めて真面目な表情となる。

 

「私の元バカマスターね、猫魈の―――私達の力に興味を持ちすぎたのよ。眷属になった私だけならともかく、白音にまでその力を使わせようとしたの」

 

「眷属じゃないのにか?」

 

「そ。あいつは眷属の能力を上げるために無理矢理なことをしまくってたわ。眷属の身内にまでそれを強要するのは当たり前。当時の白音じゃ、命令されるまま力を使用して暴走しちゃってたかもしれないのよね」

 

黒歌が指名手配のはぐれ悪魔になったのは主を殺したから。

 

しかし、その理由は―――

 

「おまえはそいつから小猫ちゃんを守ったってわけか」

 

「そこまで大袈裟なものじゃないにゃん」

 

黒歌はそう言うが、それしかないだろう。

 

冥界で小猫ちゃんを連れていこうとしたのも、俺達・・・・・いや、正確には俺から小猫ちゃんを引き離すため。

 

・・・・・・俺は力を引き寄せる赤龍帝だから

 

そう考えれば色々納得出来る。

 

「イタズラは大好きだし、力を使うのも、面白いことも大好き。所詮、私は野良猫にゃん。自由気ままに気のあった仲間達と放浪しながら生きていく方が向いてるにゃ。でも、白音は違う。白音は飼い猫の方が合ってるにゃん。だからさ、赤龍帝ちん」

 

黒歌は真っ直ぐな瞳で俺に言った。

 

「白音のことお願いね。君が側にいてくれるなら、あの子も幸せになれるだろうしね」

 

――――っ。

 

まさか、黒歌にそんなことを頼まれるなんてな。

 

やっぱ、こいつは不器用だわ。

 

不器用で――――良いお姉さんだ。

 

俺は立ち上がり、黒歌の頭をワシャワシャと撫でた。

 

「にゃっ!? いきなりなにするにゃー!?」

 

「アハハハ! 可愛い反応するじゃないか!」

 

こうして慌てる黒歌も可愛いもんだ。

ってか、新鮮だな!

 

俺はひとしきり笑うと黒歌の肩に手を置いて言った。

 

「任せとけよ。小猫ちゃんが笑顔でいられるよう頑張るからさ」

 

俺がそう言うと黒歌は目を丸くしてポカーンとする。

 

そんな黒歌に背を向け退室しようとする俺だが、それから、と続けた。

 

「おまえももう少し素直になれ。俺も協力してやるからさ」

 

それだけ言い残し、俺は退室する。

 

部屋のドアを閉める瞬間、それは小さく俺の耳に入ってきた。

 

「あんがとね、赤龍帝ちん」

 

 

 

 

 

 

黒歌の様子を見た後、俺はその足でヴァーリが休んでる部屋にも足を向けた。

 

部屋に入るとヴァーリは上半身だけ起こしていた。

 

こちらも黒歌同様にケガは治っているが、顔色が恐ろしく悪い。

呼吸も荒く、苦痛に耐えているようで、汗もびっしょりだった。

 

サマエルの呪いがこいつの全身を蝕んでいるんだろうな。

こいつのこんな青ざめた顔色を見ることになるとは思わなかった。

 

「・・・・・・かなりキツそうだな」

 

「情けない姿を見せてしまったな。曹操を討つためにここへと来たが、このザマだ」

 

「それだけサマエルの龍殺しがすごいってことだろう? おまえが受けてそれなら、俺だって結果は同じだっただろうさ」

 

サマエルから感じ取られた負の塊と言うべきあのオーラ。

近づくだけで嫌な汗が大量に流れ、寒気が止まらなかったもんな。

 

・・・・・・イグニスがいなかったら、俺も今頃はヴァーリと同じように寝込んでいただろう。

 

「ま、情けない姿を見せたのは俺も同じだ。俺も曹操にやられかけたからな」

 

天武を使ったにも関わらず、俺は曹操に追い詰められた。

 

あの禁手に加え、俺が潰した右眼に移植されていたメデューサの邪眼。

 

聞けばアザゼル先生もあの邪眼の能力で動きを封じられた後、槍で貫かれたらしい。

 

奴は京都でやり合った時とは比べ物にならない程に強い。

 

以前、奴に深傷を負わせたのは偶然と言っても良いだろうな。

あの手はもう通用しない。

 

「曹操はゲオルクとサマエルを死守することと、あの場でド派手な攻撃をせずにオーフィスの力を奪い去ること、それを単独で行い、更には俺達を殺さずに攻撃する。この四つの高難易度の条件を抱えながら、無事に目的を果たしていった。君も奴の力は理解しているだろう? あれが人間の身でありながら、超常の存在に牙を剥く者達の首魁だ」

 

ああ、分かってる。

 

ヴァーリ、先生を手玉に取ったその技量。

グレモリー眷属とヴァーリチームを御したその力。

 

 

あいつは強敵だ。

 

それも飛びっきり危険な。

 

 

ヴァーリが言う。

 

「奴の禁手の力はその身に受けて分かっただろう。あれは独りになっても複数の超常の存在と渡り合えるように奴が研究に研究を重ねて発現させた亜種の禁手だ」

 

「加えて領域(ゾーン)もな。あいつがそこに至っているとは思ってなくてな。京都では痛い目にあった」

 

「それから奴には『覇輝(トゥルース・イデア)』というものがある」

 

「何だそりゃ?」

 

「『覇輝』とは俺達で言う『覇龍』と限りなく近い。極めて遠いとも言えるが・・・・・・。それを使えば絶大な力を得られるが、暴走と隣り合わせだろう」

 

はー、そんなものまであるのかよ。

 

あいつ、どれだけ奥の手持ってるんだよ・・・・・・。

 

と、そうそう。

 

奥の手と言えば―――――

 

「そういや、おまえ、『覇龍』を超えた力、得たのか?」

 

作戦会議を終えた時にさりげなくルフェイに聞いたところ、ヴァーリは『覇龍』を昇華させようと修行に打ち込んでいたという。

 

「だとしたらどうする?」

 

「興味はあるな。だけど、これだけは言っておきたい」

 

「なんだ?」

 

「あいつは――――曹操は俺が倒す。あいつには俺の可能性を魅せつけてやらないとな」

 

俺の言葉にヴァーリは不敵に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 



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13話 脱出作戦開始!

今年も明日で終わりですね。
一年が早かったなぁ。

本作も今年の三月に書き始めて、もう160話を超えました。
よくもここまで続いたなと自分でも感心しています(笑)


ホテルの一室から窓の外を覗いてみる。

 

黒いローブを着込んだ奴らが大勢。

そいつらはこのホテルを取り囲むようにして、こちらを見上げている。

 

フードを深く被っているせいで、どいつもこいつも顔は分からないが、眼光だけはギラギラ輝かせているのが分かる。

敵意、殺意がむんむんしてやがる。

 

手には装飾が施された大鎌。

まぁ、死神といえばあの大鎌が浮かぶよね。

 

 

・・・・・にしても、かなりの数を連れてきたもんだな。

視界に映るのは黒一色。

数えるのが馬鹿らしく感じられるほどだ。

 

あの骸骨神様がテロリスト・・・・・・英雄派に手を貸していた、か。

 

ハーデスの行動はどう見ても越権行為。

いや、テロリストに手を貸してる時点でそれどころじゃないか。

 

ま、それを問い詰めるにもまずはこの状況から脱出することを優先させないとな。

 

ゲオルクによって作られた疑似空間を抜け出す方法は三つ。

 

先生がその説明をくれる。

 

「三つの方法だが、一つは術者であるゲオルクが自ら空間を解除すること。これは京都での戦闘が例だ。二つ、強制的に出入りする。これはルフェイや初代孫悟空と玉龍(ウーロン)がやってのけたことだ。こいつは相当な術者でなければ不可能。現在、ここにいるメンバーで出来るのはルフェイのみだ。ルフェイがここから連れ出せるメンバーは限られるし、一回限りになる。――――ゲオルクが結界を更に強固にするだろうからな」

 

高位の魔法使いは美羽もいるけど、空間制御の術式は難しく、ルフェイと合わせようとするとなると即席では難しいらしい。

 

下手に合わせようとすると、互いの術式が乱れて上手く発動しないそうだ。

 

ここにいるメンバーでルフェイに合わせられるのは黒歌のみ。

だけど、今のあいつは消耗が激しいから術を発動するのは無理だろう。

 

というわけで、美羽には最後の方法で力を振るってもらうことにした。

ちょうど新しい技を開発したらしいしな。

 

「そして、三つめ。こいつは単純明快だ。術者を倒すか、この結界の中心点を破壊することだ」

 

つまりはゲオルクを倒すか、美羽が見つけてくれたあのウロボロスの像を破壊するということ。

そうすれば、この空間は崩壊する。

 

で、その問題の結界装置は駐車場に一つ、ホテルの屋上に一つ、そしてホテル内部の二階ホールに一つが置かれている。

 

先生が顎に手をやりながら言う。

 

「三つもあるってことは相当大掛かりな仕掛けってことだ。当然向こうの守備も固いだろう。それで美羽、死神数は増えているか?」

 

「うん。どの結界装置にも死神の人達がかなり集まってるよ。というより、僕が結界で覆っている階以外は死神の人がいるみたい」

 

「向こうもオーフィスの抵抗を考えてか相当な人員を割いてるらしいな。どこに一番集まってる?」

 

その問いには美羽ではなくルフェイが答えた。

 

「駐車場が一番多いです。曹操様はこの空間からすでに離れていますが、代わりにジークフリート様がいらっしゃいますし、ゲオルク様も駐車場にいらっしゃいますね」

 

「なるほどな。三つある中で駐車場にあるやつが一番の機能を発揮しているだろう。それを直ぐに破壊できれば良いんだが・・・・・・これだけの数だ。抵抗も半端じゃない」

 

「それじゃあ、作戦通りにいきますか」

 

俺がそう言うと先生は頷いた。

 

「だな。おまえに一番負担をかけちまうが・・・・・・すまんな」

 

「何言ってんすか。こういう時に俺の力があるんでしょう? 任せてくださいよ」

 

俺は不敵に笑むと皆に視線を移した。

 

全員覚悟は決まってるな・・・・・・・。

 

「よし! 必ずここを突破してやろうぜ!」

 

「「「おうっ!」」」

 

こうして、脱出作戦はスタートした!

 

 

 

 

 

 

 

 

美羽の結界で覆われたホテルの階層。

 

その内、大きな窓があるホール。

その窓際に俺は立っていた。

一応、窓の外から内側が見えないようにしてある。

 

俺の側には美羽とアリスと朱乃。

それから小猫ちゃんがいた。

 

近くにはルフェイとイリナとゼノヴィアが待機している。

そこでは脱出用魔法陣の準備が進められていた。

 

イリナは天界に英雄派の真意とハーデスのクーデターを伝える役目で、ゼノヴィアはそれの護衛役だ。

英雄派の構成員や死神がこの結界の外で待機している可能性もあるからな。

 

加えて、曹操に破壊されたというエクス・デュランダルの修理もするらしい。

さっき、ルフェイがアーサーから預かっていたという『支配の聖剣』をゼノヴィアに渡していたから、それも加わるんじゃないかな?

 

もしそうなれば、デュランダル+完全なるエクスカリバーというとんでもない組み合わせになるわけだ。

 

また、他のメンバーも俺と同様にこのホールの窓際に立っている。

 

「美羽先輩、朱乃さん、アリスさん。そことそこにあります」

 

小猫ちゃんは床の一点と天井の一角を指差さしながら言った。

 

「分かった。ボクは準備OKだよ」

 

美羽は頷き、小猫ちゃんが指を向けていた床へと手をかざす。

 

「朱乃さん。落ち着いて。私と呼吸を合わせて」

 

「はい」

 

アリスは朱乃の背後から両肩に手を置き、朱乃は瞑目し集中している。

二人の呼吸が次第に一つになっていくのが分かる。

 

俺もそろそろ準備をしとかないとな。

鎧を纏い、その時を待つ。

 

 

・・・・・・黒歌の休んでいた部屋から飛び出していった小猫ちゃん。

追いかけていったレイヴェルと口喧嘩でもしたのか、その後は多少すっきりして帰ってきた。

 

こういうとき、レイヴェルの存在は大きいと思う。

後腐れなく喧嘩が出来る仲っていうのも大事だよな。

 

俺は小猫ちゃんに問う。

 

「小猫ちゃんは黒歌のこと嫌いか?」

 

いきなりの問いに小猫ちゃんは少し体をピクッと震わせる。

そして、俺の顔を見上げてきた。

 

「俺さ、今までのあいつを見て、あいつと話して思ったんだ。あいつは小猫ちゃんのお姉さんなんだって」

 

「・・・・・・姉さまのせいで私は辛い目に遭いました」

 

どんな理由であれ、黒歌が主を殺して「はぐれ悪魔」になったことは変わらない。

悪魔の世界は「はぐれ」と化した者に厳しい。

それはその家族にも及ぶ。

小猫ちゃんは「はぐれ」となった姉の罪を一身に浴びて心を深く傷つけられた。

 

「・・・・・私は姉さまを恨んでいます。・・・・・姉さまが嫌いです。――――でも、私をさっき助けてくれました」

 

小猫ちゃんは強い眼差しで言った。

 

「今だけは信じようと思います。少なくともここを抜け出るまでは」

 

「――――っ。そっか・・・・・」

 

どうやら俺がしようとしてたことは余計なお節介だったらしい。

俺が心配するまでもなかったってことだ。

 

小猫ちゃんは強くなっているんだ。

体だけじゃない―――――心も。

 

俺は小猫ちゃんの頭を撫でてあげる。

 

小猫ちゃんが俺に抱きついてきた。

 

「・・・・・先輩のおかげで強くなれたんです。ギャー君だって強くなれた。だから、私も強くなろうと思って――――」

 

「なれるさ。俺でもなれたんだ。小猫ちゃんならすぐだよ」

 

「・・・・・大好きです、先輩。どれだけ先輩が先に行こうとも必ず追いかけていきます。先輩のお役に立てるように頑張ります。他の皆が先にいても決して諦めません。だから―――」

 

小猫ちゃんは真っ直ぐに俺を見上げて言った。

 

「おっきくなったら、お嫁さんにしてください」

 

「「「「「えっ!? そこで逆プロポーズしちゃうの!?」」」」」

 

小猫ちゃんの言葉に俺が反応する前に仰天してる女性陣!

 

おいおいおい!!

 

君達、聞いてないふりしてバッチリ聞き耳立ててたのかよ!?

 

つーか、美羽にアリスに朱乃!

君達、ついさっきまでメッチャ集中してたじゃん!

今の一言で集中切らしてんじゃないよ!

 

って、お嫁さんときましたか!

まさかまさか、小猫ちゃんに逆プロポーズされる日が来るとは!

 

ま、答えは考えるまでもないだろう!

 

「ああ! 小猫ちゃんは俺が嫁にもらう! 誰にも渡さないさ!」

 

俺の答えに小猫ちゃんは――――

 

「はい・・・・・!」

 

目元を潤ませながら強く頷いた。

 

すると、窓際の方から女性陣から何やらボソボソと相談するような声が・・・・・・。

アリスと朱乃も複雑そうな顔でこっち見てるし・・・・・。

 

木場は苦笑してるし、アザゼル先生もやれやれと言った表情だ。

 

唯一微笑んでいるのは美羽くらいだ。

 

美羽とは将来のことをそれなりに話してるし、それでかな?

 

「術式、組み終わりました」

 

そうこうしている内にルフェイが転移魔法陣の完成を告げる。

 

ルフェイ、イリナ、ゼノヴィアの足元に光が走り、魔法陣が展開。

これで三人は外に出られる。

 

小猫ちゃんもリアス達の方へと移動。

 

俺は美羽とアリス、朱乃に合図を送った。

 

「三人とも、やってくれ!」

 

俺がそう言うと、美羽の手元には七色に輝く光が収束していき、朱乃とアリスはその身に黄金に輝く雷光と白く輝く雷を纏わせていく。

 

 

 

そして―――――

 

 

 

「スター・ダスト・ブレイカァァァァアアアア!!」

 

「「白式雷光龍!!」」

 

美羽から放たれる極大で七色に光る輝きは床を突き抜け、朱乃とアリスからは黄金と純白のオーラで形成された巨大な龍が天井を突き破り、天へと昇っていく!

 

 

ズアァァァァァァァァァアアアアッ!!!

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

 

爆音と地響きが共に生じるだけでなく、窓の外に煌めくものが見える!

この空間そのものが激しく揺れ動き、それと同時に相当数の気が消えたのが感じられるた!

 

流石は美羽の新必殺技とアリスと朱乃の合わせ技だ!

 

瞑目していたルフェイが告げる。

 

「屋上とホールに設置されていた結界装置と周囲にいた死神の方々がいなくなりました! これで残るは駐車場の一つだけです!」

 

よし!

 

これで相手は相当動揺するはずだ!

ここから更に畳み掛ける!

 

俺はルフェイの言葉を確認すると同時に鎧を変化させた!

 

「禁手第二階層・砲撃特化――――天撃!!」

 

俺は天撃の状態でガラス窓を突き破り、結界の外へ。

 

待ち受けるのは大量の死神共!

飛び出した俺へ視線が集まる!

 

「てめぇら! 舐めた真似してくれるじゃねぇか!」

 

俺はそう叫ぶと同時に翼と籠手、腰にあるキャノン砲全てを展開。

それぞれ、死神達へと狙いを定める!

 

 

俺達の作戦はこうだ。

まず、美羽とアリス、朱乃が強大な攻撃を放つことで結界装置の破壊と死神の数を大きく減らす。

 

美羽のは全属性の魔法を一点に集め、それを一気に解き放つという、広範囲への滅却力と貫通力を併せ持つ現時点で美羽が放てる最強の一撃。

 

アリスと朱乃のは二人の白雷と雷光を掛け合わせて、通常の雷光龍よりも遥かに威力を上げたものになっている。

こちらも高威力なうえに広範囲への攻撃ができる。

 

三人の技は威力もさることながら、その見た目は超がいくつも付くほどド派手なものだ。

こいつでホテルを囲んでいる死神達の動揺を誘う。

 

そこを俺が天撃で一気に殲滅するという、ほとんど急襲に近いような作戦だ。

 

まぁ、仕掛けてきたのは相手だ。

文句は言わさねぇ。

 

ちなみに、俺が外の死神共を相手している間に他のメンバーが駐車場を攻めることになっている。

 

 

さぁ、ドライグ!

さっさと終わらせるぞ!

 

『応ッ! 我らを敵に回したこと、奴らに後悔させてやろうではないかっ!』

 

『Accel Booster!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

 

ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

 

 

倍増によって瞬間的に高められた俺の気と魔力が混ざり合い、鳴動する!

 

「覚悟しやがれぇぇぇええ!! ドラゴン・フルブラスタァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

『Highmat Full Blast!!!!』

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドオォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!

 

 

六つの砲門から放たれた莫大なオーラの砲撃。

 

連続で放たれるそれは死神共を周囲の光景ごと消し飛ばしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後。

 

 

 

バチッ! バチッ!

 

 

 

疑似空間が再び悲鳴をあげていた。

 

空間の所々が歪んでいるようにも見える。

 

美羽達の強烈な攻撃に加えて天撃状態の俺の砲撃を食らったんだ。

こうなるのも当然か。

 

だけど、その空間の歪みもすぐに治っていく。

 

流石はオーディンの爺さんでも解除できない結界を造り出すだけあって、かなり頑丈だ。

それに、結界が崩れていないってことはまだ装置は壊せてないんだろうな。

 

ゼノヴィア達は無事にこの空間から脱出出来たみたいで、そこは安心した。

後は外に出てからのあいつらの無事を祈るしかない。

 

俺の方はと言うと、ホテルを包囲していた死神の大群は完全に消し飛ばした。

 

『下級の死神であっても、下手な中級悪魔よりはよっぽど強いんだがな』

 

そうなのか。

 

でも、そこまで強くなかったぞ?

数は無駄に多かったけどさ。

 

『それはそうだ。相棒があの程度の死神共に遅れを取るはずがない』

 

ドライグの声はどこか誇らしげに感じられるのは気のせいだろうか?

 

そういえば、死神の鎌に斬られれば生命力を削られるらしい。

斬られる前に吹き飛ばしたので問題なかったけど。

 

・・・・・・なんか、ゼノヴィアみたいだな、俺。

 

ま、まぁ、それは置いておこう。

 

とりあえず、こちらに転移してくる死神もいないし、俺も駐車場の方に行くとしよう。

 

皆もまだ戦ってるみたいだし―――――――

 

 

「っ! また何か転移してきやがったな・・・・・」

 

 

いきなり現れた不気味な気配。

 

この感じから察するに死神か・・・・?

だとしたら、俺がさっきまで相手していた奴よりも明らかに別格だぞ・・・・。

 

嫌な予感がした俺はドラゴンの翼を広げて、駐車場へと向かった。

 

 

 

 



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14話 死神と壮絶バトル中です!

俺が駐車場に駆けつけた時には既に激戦模様だった。

 

木場はジークフリートとタイマンでやりあってるし、他の皆も死神と激しいバトルを繰り広げていた。

 

と、言ってもこのレベルの死神が相手なら皆も余裕で倒せるだけの実力はある。

美羽やアリスだっているしな。

 

ただ、ここも数が多い。

この駐車場を埋め尽くさんばかりの数だ。

 

俺は後方から魔法攻撃を放ってる美羽の側に降り立つ。

 

「美羽!」

 

「お兄ちゃん! そっちは終わったの?」

 

「ああ、ホテル周辺の死神共は片付けた。残るはこの駐車場のみだ」

 

目の前にいるレベルの死神が相手なら短時間で片付けることが出来るだろう。

 

 

ただし、問題は―――――

 

 

 

ドゥゥゥゥゥン

 

 

 

上空で何かが衝突し、その振動がこちらにまで伝わってくる。

 

見上げるとそこには黄金の鎧を纏った先生と、装飾がされたローブに身を包む何者か。

顔には道下師が被りそうな仮面をつけ、手には大鎌。

 

明らかに他の死神とはレベルが違う。

俺がここに来る前に感じたのはあいつの波動だ。

 

曹操にやられたばかりで人工神器が回復しきっていないらしいが、それでも先生に鎧を使わせる程の相手。

 

・・・・・・何者だ?

 

そう相手の死神を観察していると近くで滅び魔力で作った龍を操りながら、リアスが言った。

 

「あれはハーデスに仕える死神の一人。最上級死神のプルート。伝説にも残る死神をハーデスは送り込んできたのよ」

 

最上級死神で、伝説にも残る存在・・・・・・。

 

そんな奴まで送り込んできやがったのか!

 

驚愕する俺にリアスは続ける。

 

「冥府は・・・・・いえ、ハーデスは本当に私達悪魔が目障りみたいね。今回のこと、冥府側はどういう話にするつもりかわかるかしら?」

 

「いや、全く。ってか、そもそもテロリストと組んでるのはハーデスだろう?」

 

俺がそう言うとリアスは首を横に振った。

 

そして、ため息を吐きながら答えを言う。

 

「私達がテロリストの首領オーフィスと結託して、同盟勢力との連携を崩そうとしたですって」

 

「はぁっ!?」

 

予想外の言葉に仰天する俺。

 

なんだそりゃ!?

でっち上げるにしても酷すぎるだろ!?

 

「そういう理由で私達をここで消すみたいよ。全く無茶苦茶にもほどがあるわ・・・・・・!」

 

紅いオーラを荒々しくさせて、リアスも激怒しているようだ。

 

ハーデスの野郎・・・・・・ふざけやがって・・・・・・!

 

そんなに冥界――――悪魔と堕天使が気に入らねぇってのかよ!

 

この借り、いつか返さねぇとこの胸に渦巻く怒りは収まらねぇぞ・・・・・・!

 

 

ギィィィィンッ!!

 

 

怒りに拳を震わせる俺の視線の先では木場とジークフリートが剣戟を繰り広げていた。

 

木場の聖魔剣とジークフリートの魔剣が衝突し、火花を散らす。

 

ジークフリートは既に禁手となっている。

自前の腕以外に背中からは四本の龍の腕が生えていて、六本の腕にそれぞれ剣が握られている。

 

「あの六本腕の英雄もどきは私が相手しようと思ったんだけどね。木場くんが自分がやるって」

 

と、アリスが槍で死神を蹴散らしながら俺の近くに寄ってきた。

 

そうか、木場が言い出したのか。

まぁ、京都では二度も剣を交えた相手だし、納得出来ると言えばそうかな。

 

「ノートゥング! ディルヴィング!」

 

ジークフリートの魔剣が煌めく!

 

魔剣の一本を横に薙ぐと剣戟と共に空間に大きな裂け目が生まれ、他の魔剣を振り下ろせば地響きと共に駐車場に大きなクレーターが作り出される!

 

切れ味重視と破壊力重視の魔剣か!

 

「次はこれでどうかな! バルムンク! ダインスレイブ!」

 

ジークフリートが他の二本の魔剣を振るうと片方の剣から放たれた禍々しい渦巻きが空間を削りながら木場に迫り、それを避けた木場の足元から巨大な氷の柱が生えてくる!

 

木場は獲物を聖剣に変えると素早く龍騎士団を生み出して、その内の一体を蹴り、氷の柱をやり過ごす!

 

氷の柱に呑まれた龍騎士はバキンッという儚い音と共に散っていく。

 

複数の魔剣を握ってるだけあって、技が多彩だ!

しかも、威力もある!

 

残った龍騎士がジークフリートに斬りかかるが、魔剣を軽く振るっただけで崩れていく。

 

「なるほど、これが君の新しい禁手か。君の能力を反映できるという点は面白い。だが――――」

 

ジークフリートは途中から魔剣を振るうことを止めて、体捌きだけで龍騎士達を受け流していく。

 

「技術はまだ反映出来ていないようだ。速度だけでは僕には通じない!」

 

流石に龍騎士の弱点を見抜いたか。

 

ジークフリートは迫る最後の龍騎士を受け流そうとした。

 

 

 

その時――――

 

 

 

その龍騎士は今までとは違う、軽やかな動きを見せ、ジークフリートの龍の腕を斬り落とした!

 

同時にジークフリートは体を大きく仰け反らせ、苦痛の表情となった!

 

「・・・・・ぐっ・・・・・! なぜ・・・・・!」

 

自分を斬った龍騎士に目をやるジークフリートはそれを見て目を見開いた。

 

なぜなら――――

 

「流石のあなたも僕が龍騎士の鎧を纏うとは思わなかったようですね」

 

その龍騎士の中から木場が現れた!

 

それと同時に龍騎士団に指示を送っていた木場の姿が消えていく!

 

「あちらの僕は魔力で生み出した幻術。あなたなら龍騎士団の弱点を直ぐに見抜くと思いました。――――だから、僕はそれを逆手に取った」

 

「僕が油断する瞬間を待ったというのか!」

 

ジークフリートは自分のミスに憤慨しているようだ。

 

しかし、どうやらそれ以上に驚くことがあるらしい。

 

ジークフリートは斬られた龍の腕に目をやりながら言った。

 

「このダメージ・・・・・君は龍殺しの力も得たのか!」

 

っ!?

 

マジか!

木場がそんな力を!?

 

木場は手に持つ聖剣を前に突き出して話す。

 

「ええ。『龍殺しの聖剣』。あなたの神器がドラゴンを冠する以上、これに抗うことはできない」

 

「龍殺しの魔剣、聖剣は神器で造り出すことが一番困難だと言われているが・・・・・・そうか、君はそれを可能にしたのか。大した才能だ」

 

ジークフリートもこれには称賛を送るしかなかったようだ。

 

いやはや、俺も驚かされた。

まさか木場が龍殺しの力を得てたなんてな。

 

いつの間にそんなものを・・・・・・。

 

「京都であなたと戦った後、アザゼル先生に相談したんだ。そして、先生の指導の元、修行したらなんとか発現に成功した。まぁ、かなり苦労はしたけどね」

 

ジークフリートの話だと、龍殺しの力を発現させるのが一番難しいんだろ?

京都の後ってことはそれほど時も経ってないのに・・・・・・。

 

やっぱ、木場ってスゲぇ!

 

つーか、あいつハイスピードで新しい力を得ていくよな!

その才能が羨ましいぜ!

 

アリスも隣で「やるぅ」って感心してるしな。

 

「赤龍帝――――イッセー君との修行がどこまでも僕を高まらせてくれる。彼がいたから僕はここまで来れたと言っても過言じゃない。一度、彼に修行をつけてもらうことをオススメするよ。ただし、本気の彼とやれば何度も死にかけるけどね」

 

木場の言葉を聞いてアリスが嘆息する。

 

「イッセー・・・・あんた、本気でやるにしても限度があるでしょ」

 

「アハハハ・・・・・・」

 

だって、そうしないと木場に悪いし・・・・・・。

 

ジークフリートは息を吐く。

 

「そうだね、それも考えておこう。けれど、君達にはこれを退けてもらおうか!」

 

ジークフリートの周囲に霧が発生し、そこから死神の大群が!

 

ゲオルクが霧を通して外部から死神を召喚したのか!

 

つーか、今に至るまで結構な数倒したのに、まだいんのかよ!?

 

「いかに君達が強いと言ってもこれだけの数だ。さて、君達はどう戦う?」

 

ジークフリートは愉快そうに笑んでいた。

 

質より量ってか。

あちらは何体やられても、その鎌が俺達に通ればそれで良し。

鎌に斬られれば生命力が削られる。

そうなれば、いくら俺達でも倒れる。

 

「・・・・・あらあら、これはちょっと大変ですわね」

 

空中を飛んで雷光を飛ばしていた朱乃も俺達のもとに合流してきた。

 

軽く見積もっても俺達を囲む死神の数は千以上。

フィールド全体を埋め尽くすほど。

 

「確かに多い。・・・・・けれど、ちょっと私達を舐めてるわね」

 

アリスが槍を構えて一歩前に出る。

 

俺もそれに同意する。

 

「だな。俺達がどれだけ死線を潜り抜けたと思ってんだ。俺達を潰したきゃ、最低でもこの倍は連れてくるべきだったな。―――美羽、まだいけるな?」

 

「もちろん。こんなところで死ぬわけにはいかないよ。だって、まだお兄ちゃんのお嫁さんになってないし、赤ちゃんも産んでないもん!」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

一瞬、時が止まった。

 

 

 

 

 

この流れでそれ言う!?

 

 

アリスが声をテンパらせて言う。

 

「み、みみみ、美羽ちゃん!? あ、ああ赤ちゃんって!?」

 

「え? そのままの意味だけど・・・・・。お父さんとお母さんには孫を見せるって約束したし・・・・・。お兄ちゃんのお嫁さんになって、ウェディングドレス姿も見せるって約束したし・・・・・ね?」

 

なんてこと言いながら美羽は俺を見てくる!

 

い、いや、確かにそういう話もあったけど!

 

 

「ウェディングドレス・・・・・そこまで話が進んでいただなんて・・・・・!」

 

「流石は美羽ちゃんですわ。私達の一歩も二歩も前にいますわね」

 

「・・・・・イッセー先輩は私とも約束してくれましたから・・・・・・・ふふふ」

 

「はわわわ・・・・・、イッセーさんのお嫁さん・・・・! ウェディングドレス・・・・・! 美羽さんも小猫ちゃんもすごいですぅ!」

 

「イッセー君のお嫁さんかぁ・・・・・私もそうなれば、総督の面倒みなくて済むし・・・・その後も・・・・・・」

 

「イッセー様と美羽さんが・・・・・! こ、ここここの場合、マネージャーの私はどうすれば!?」

 

 

 

えっ・・・・・ちょ・・・・・なにこの状況!?

 

 

死神の大群よりもお嫁さんの方に意識が傾き始めたぁぁぁあああ!?

 

小猫ちゃんは頬を赤らめて笑んでるし・・・・・。

 

ってか、レイナは寿退職考えてないかい!?

 

 

「お嫁さん・・・・イッセーのお嫁さん・・・・・イッセーと結婚・・・・・・イッセーとの子供・・・・・・」

 

アリスも何やらぶつぶつ呟き始めたよ!

意識が完全に自分の世界に引きこもちゃったよ!

 

おーい、帰ってこーい!

 

目の前に敵!

敵いるから!

 

つーか、子供はまだ早いよ!

 

 

「なんだ? お嫁・・・・? 何かの暗号か?」

 

ジークフリートが真剣に考え始めた!?

 

お嫁ってそのまんまの意味だよ!

深読みしすぎ!

 

あれか、さっき木場にやられたから慎重になってんのか!?

 

 

『大丈夫よ、皆! イッセーに言えば全て解決するもの! さぁ、小猫ちゃんのように言いましょう! 「お嫁さんにしてください」って!』

 

この駄女神ぃぃぃぃいいい!!

 

この状況で楽しんでるだろ!

 

ドライグ!

そいつを止めるんだ!

 

『無理だ。そんなことをすれば・・・・・俺は・・・・・・ガクガクブルブル・・・・・』

 

サマエルの時以上に声が震えてるぞ!?

 

一体、おまえは何をされたんだ!?

 

 

イグニスの言葉に反応したのか、リアス、朱乃、アーシア、レイナは俺に詰め寄ってきて――――

 

 

 

「「「「私もお嫁さんにしてくださいっ!」」」」

 

 

 

 

美少女達から同時に逆プロポーズされるという最高の光景なんだけど・・・・・・・

 

 

おかしい・・・・・!

 

色々、おかしいよ!

 

 

だって、皆の目にはこの状況映ってないもん!

目の前の死神達が映ってないもん!

俺達に向けられる殺気も軽く受け流してるよ!?

 

皆、俺しか見てねぇ!

メチャクチャ嬉しいけど!

 

 

アリスは未だブツブツ言ってるし、レイヴェルも思考が停止しているのかボーゼンとしてる。

 

 

つーか、こんなことしてる場合か!?

 

こんなことしてる間にも死神が迫ってきてるんだよ!?

戦ってるの木場と先生だけだよ!?

 

 

ええいっ!

 

ここはハッキリ答えるしかないのか!

 

「わかった! 皆は俺が嫁にもらう! だから、絶対にここを突破しよう!・・・・・・・・な?」

 

小猫ちゃんに答えたようにプロポーズを受ける俺!

 

どんな状況であれ、皆からのプロポーズだ!

断るわけがない!

 

 

 

すると――――

 

 

 

ドォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

周囲にいた死神達がごっそり消え去った!

 

「ふふふふ・・・・・・! ついに・・・・・・!」

 

「ええ・・・・! 確かに聞きましたわ!」

 

「はい! 私もしっかり聞きました!」

 

おおっ!?

 

皆のオーラが爆発的に膨れ上がってる!?

今の一撃はリアスと朱乃か!?

 

ノーモーションなのにスゲェ威力だ!

 

かなりの数が減ったぞ!

 

 

バンッ!  バババババババンッ!!

 

 

その音と共に上空に浮いてた死神が次々に落ちてきた!

 

見ればレイナが持つ二丁銃の銃口から煙が上がっていた!

 

「総督!」

 

レイナが空中でドンパチやってる先生に叫んだ。

 

「なんだ! こっちは死神様と超絶バトル中だ、クソッタレ!」

 

「私、近いうちに退職するかもー♪」

 

「それは今言うことなのかぁぁぁあああ!?」

 

先生!

 

ごもっともな意見です!

 

 

「皆! 早く終わらせてここから出ようね!」

 

「「「「もちろんっ!」」」」

 

 

美羽の言葉に元気よく返した女性陣。

 

彼女達の活躍により、死神達は瞬く間に殲滅されてしまうのであった。

 

 



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15話 赤龍帝と龍神と

今章ラスト、そして年内ラストの投稿となります!




「す、すげぇ・・・・・・」

 

「そ、そうだね。流石にこれは・・・・・・」

 

眼前に広がる光景に俺と木場はついそう漏らしていた。

 

 

草一つ残っていない荒れ地。

あれだけいた死神は女性陣の力によって退けられ、残るはジークフリート、ゲオルク、そして先生とドンパチやってるプルートのみ。

 

・・・・・いつもの数倍・・・・・いや、もっとか?

 

リアス達の力が増して見えたような・・・・・・・。

 

プルートと距離を取った先生は俺達の元に降り立った。

同様にプルートもあちら側に降り立つ。

 

「さて、ジークフリート、ゲオルク。――――チェックメイトだ」

 

光の槍の切っ先を奴らに向ける先生。

 

「・・・・・これが若手悪魔最強のグレモリー眷属の力か」

 

そう言いながら肩で息をするゲオルク。

 

 

う、うーん、グレモリー眷属というか・・・・・・やったの殆どオカ研女子だよね!

俺も木場も戦ったけど、主に女子の力だよね!

 

『ふふふ。さっきのでテンションが一気に上がったみたいね♪』

 

テンションが上がったって・・・・・・。

その一言だけで片付くレベルか?

 

だとしたら、どんだけテンション上げてんだよ・・・・・?

 

 

ま、おかげでゲオルクもかなりの力を使うはめになったみたいだし、良しとするか。

 

確かに上位神滅具の力は凄いし、ゲオルクの力も凄まじい。

だけど、限界は必ずある。

 

こっちは俺も先生も健在だ。

 

―――――今なら確実にこいつらを潰せる。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

バチッ! バジッ!

 

 

 

いきなり快音が鳴り響いた。

 

見上げれば、ほんの少しばかり上空に空間の歪みが生じ、そこに穴が空きつつあった。

 

新手かと思いきや、ジークフリートやゲオルクも訝しげな表情を浮かべていた。

 

・・・・・・あいつらにとっても想定外の乱入者ってことか?

 

次元に穴を開けてこの空間に侵入してきたのは軽鎧にマントという出で立ちの男性が一人。

 

 

その男を見て俺は目を見開いた。

 

 

あいつは―――――

 

 

その男は俺達とジークフリートの間に降り立つ。

 

「久しいな、赤龍帝。――――それとヴァーリ」

 

俺を睨みつると、その後ろ――――ホテル上階の窓際にいるヴァーリも睨み付けていた。

 

先生が目を細める。

 

「シャルバ・・・・・・ベルゼブブ。生きてやがったのか・・・・・」

 

そう、こいつはディオドラの時に俺達のもとに現れた旧魔王ベルゼブブの子孫、シャルバ・ベルゼブブだ!

 

なんでだ!?

 

あの時、確かに俺が―――――

 

ジークフリートが一歩前に出る。

 

「・・・・・シャルバ、報告は受けていたけど、まさか、本当に独断で動くとはね」

 

「やあ、ジークフリート。貴公らには世話になった。礼を言おう。おかげで傷も癒えた。・・・・・・オーフィスの『蛇』を失い、多少パワーダウンしてしまったがね」

 

「それで、ここに来た理由は?」

 

「なーに、宣戦布告をと思ってね」

 

大胆不敵にそう言うシャルバ。

 

宣戦布告だと?

 

何を企んでいやがる?

 

シャルバが醜悪な笑みを浮かべ、マントを翻すとそこから一人の少年が姿を現す。

その少年の瞳には陰があり、操られている様子だった。

 

俺はその少年に覚えがある。

 

あの子は京都でアンチモンスターを生み出していた少年。

上位神滅具『魔獣創造』の所有者だ。

 

その少年を見て、ジークフリートとゲオルクは驚愕する。

 

「……レオナルド!」

 

「シャルバ、その子をなぜここに連れてきている? いや、なぜ貴様と一緒にいるのだ!? レオナルドは別作戦に当たっていたはずだ! まさか、連れだしてきたのか!?」

 

面を食らっているゲオルクとジークにシャルバは大胆不敵に言った。

 

「少しばかり協力してもらおうと思ったのだよ。―――こんな風にね!」

 

 

ブゥゥゥゥゥン

 

 

シャルバが禍々しいオーラの小型魔法陣を展開し、レオナルドの体に近づける。魔法陣の悪魔文字が高速で動くと、レオナルドは叫んだ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁああああああああああああっ!」

 

絶叫を振り上げ、苦悶の表情を浮かべるレオナルド。

 

それと同時に彼の影が広がっていき、フィールド全体を覆うほどの規模となっていく!

 

シャルバの野郎、何をするつもりだ!?

 

「ふはははははははっ! 『魔獣創造』とはとても素晴らしく、理想的な能力だ! しかも彼はアンチモンスターを作るのに特化していると言うではないか! だから私は彼を連れてきたのだよ! 私の望みを叶えてもらうためにね! それでは創ってもらおうか! 現悪魔どもを滅ぼせるだけの怪物をッ!」

 

レオナルドの影から何かが生み出されていく!

 

影を大きく波立たせ、巨大なものの頭部から姿を現していった!

 

なんだ、こいつは・・・・・・・!?

 

デカい・・・・・頭、胴体、腕、脚と体を構成するパーツの全てがデカイ!

 

フィールド埋め尽くすほどに広がった少年の影から生み出されたのは―――――

 

『ゴガァァァァァァァァァァァァァアアアアァァァァァッ!!』

 

巨大な咆哮を上げる、超巨大モンスター!

グレートレッドよりも頭二つ分くらいは大きいぞ!?

 

全長で二百メートル・・・・・・いや、それよりもデカいか!?

俺達の前に現れたのは超巨大生物!

 

『魔獣創造』は所有者の力量しだいでどんな魔獣でも生み出せるらしいが・・・・・・・本当にこんなのが創られるなんて!

 

さらにそれに続くように、それよりも一回り小さい百メートルを超えるモンスターがレオナルドの影から何体も出てくる!

 

 

ブゥゥゥゥゥン!

 

 

生み出された魔獣たちの足元に巨大な転移魔法陣が出現した!

 

あの紋様は転移型か!?

 

「フハハハハハハッ! いまからこの魔獣たちを冥界に転移させ、暴れてもらう予定なのだよ! これだけの規模のアンチモンスターだ、さぞかし冥界の悪魔を滅ぼしてくれるだろう!」

 

シャルバがそう叫んだ瞬間、超巨大モンスターたちは転移の光に包まれていく!

 

マズい!

 

あいつが言ってることが本当なら、このモンスター共は冥界に転移して――――

 

それだけは止めないと!

 

「とめろォォォォォッ!!」

 

先生の指示のもと、皆が巨大モンスターに攻撃を放つがビクともしない!

 

 

だったら――――

 

 

「美羽! 俺に合わせろぉぉぉおおおお!!」

 

俺はそう叫んで天撃の状態になり、砲門を全て展開する!

 

『Accel Booster!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

瞬時に倍加してオーラを溜めていく!

 

美羽もその手に七色の光を集束させていった!

 

「ドラゴン・フルブラスタァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

『Highmat FuLL Blast!!!!』

 

「スターダスト・ブレイカァァァアアアア!!!!」

 

俺と美羽の砲撃が混ざり、極大のオーラが放たれる!

 

俺達の砲撃はモンスターの一体に直撃して、そいつを魔法陣から弾き飛ばした!

モンスターが倒れ、巨大な地響きが起こる!

その振動で立つのが難しいほどだ!

 

 

ぐっ・・・・・急激に力を使ったから体への負担が半端じゃない・・・・・・!

 

 

しかし、他の巨大なモンスター達は転移型魔法陣の光の中に消えていく・・・・・・・・。

 

モンスター達が消えた途端――――

 

 

グオォォォォォォン……。

 

 

このフィールドも不穏な音を立て始めた。

 

白い空には断裂が生まれ、ホテルの建造物も崩壊していく。

 

強制的な怪物の誕生と転移にこのフィールドが耐えきれなかったのか!

 

ゲオルクがジークフリートに叫ぶ。

 

「装置がもう保たん! シャルバめ、所有者のキャパシティを超える無理な使い方をさせたな!」

 

「仕方ない、頃合いかな。レオナルドを回収して退こうか。プルート、あなたも―――」

 

そこでジークフリートはいつの間にか姿をくらました死神に気がつく。

 

それを知り、何かを得心したようだ。

 

「・・・・・そうか、シャルバに協力したのは・・・・・。あの骸骨神の考えそうなことだよ。嫌がらせのためなら、手段を選ばずというわけだ。あんな一瞬だけの雑な禁手ではどれだけの犠牲と悪影響が出るか・・・・・・。それに、これではレオナルドは・・・・・・」

 

それだけ漏らすとジークフリートとゲオルクはレオナルドを回収して、霧と共にこのフィールドから消え去った。

 

クソッ・・・・・・!

 

ここまで来てこんな・・・・・・!

 

いや、それよりも今は冥界がヤバい!

 

ハーデスの野郎・・・・・・・ッ!

シャルバにまで手を貸してやがったのかよ!

 

 

ドォォォォンッ! ドォォォォォォォォォンッ!

 

 

ホテルの方から爆音!

 

見上げれば、シャルバが後衛のヴァーリ達に魔力攻撃を加えていた!

 

「ふはははは! どうした、ヴァーリィィィィィッ! 自慢の魔力と! 白龍皇の力はどうしたというのだァァァァァ! 所詮は人と混じった雑種! 真の魔王である私に勝てる道理がない!」

 

あの野郎、ヴァーリを集中的に狙ってやがる!

今のヴァーリはサマエルの呪いをくらってるんだぞ!

 

防御魔法陣を展開して防戦一方のヴァーリ。

 

「・・・・・他者の力を借りてまで魔王を語るおまえに言われたくない」

 

「フハハハハハハハハハハハッ!!! 最後に勝てばいいのだよ! さて、私が欲しいものはまだあるのだ!」

 

そう叫ぶとシャルバはオーフィスの方に手を突きだした!

 

すると、オーフィスの体に悪魔文字が書かれた螺旋状の魔力が浮かび、縄のように絡みつく!

 

「情報通りだな! 今のオーフィスは不安定であり、今の私でも捕らえやすいと! このオーフィスは真なる魔王への協力者への土産だ! それから、パワーダウンした私にも再び『蛇』を与えてもらおうか! いただいていくぞ!」

 

「させるかよっ!」

 

俺は気弾を放ってシャルバをオーフィスから引き離す。

 

しかし、それでも奴は醜悪な笑みを浮かべていた。

 

「呪いだ! これは呪いなのだ! 私を・・・・・真なる魔王を拒絶した冥界などもう存在する価値もない! このシャルバ・ベルゼブブ、最後の力を持って、魔獣達と共に冥界を滅ぼす!」

 

この野郎、完全にイカれてやがる!

復讐・・・・・・いや、それよりも質が悪い!

 

シャルバは俺に指を突きつけて更に叫んだ。

 

「赤龍帝! 貴殿が大切にしている冥界の子供も我が呪いによって全滅するだろう! 下級、中級の低俗な悪魔の子供から上級悪魔のエリートの子息子女が全て! 血反吐を吐き! のたうち! そして、悶死していく! 喜べ! それがおまえ達の『差別のない冥界』だ! 」

 

ちっ・・・・・!

とことんゲスな野郎だ!

 

そうこうしているうちにフィールドの崩壊が進んでいく。

 

ついには空間に複数の穴が開いて、フィールドの瓦礫を吸い込み始めた。

 

ホテルの室内にいる黒歌が叫ぶ。

 

「もう限界にゃん! 今なら転移も可能だから、転移魔法陣を展開するわ! 急いで!」

 

魔法陣を展開する黒歌のもとに皆が集まる。

 

 

しかし―――――

 

 

俺だけはそちらに行かなかった。

 

「イッセー!? 何してるの! 急ぎなさいよ!」

 

アリスがそう叫ぶ。

 

俺はマスクを収納して皆に笑みを見せる。

 

「・・・・・・お兄ちゃん?」

 

怪訝な表現となる美羽。

皆も同様の反応だった。

 

そんな皆に俺は告げた。

 

「悪いな、俺はここに残るよ。オーフィスを助けないといけないしな」

 

『っ!?』

 

俺の言葉に全員が度肝を抜かれていた。

 

「ボクも残る! お兄ちゃんだけを残してなんて行けないよ!」

 

「イッセー! それなら私も残るわ!」

 

美羽とアリスがこちらに来ようとするが俺は掌を二人に突きだして、それを制止する。

 

「俺だけで十分だ。あんなゲス野郎を倒すのに二人も三人もいらねーよ。それよりも先にするべきことがあるだろう? それに、俺なら鎧を着込んでいれば次元の狭間でも活動できるしな。――――今、この場でシャルバを逃すこともオーフィスを連れていかせることが今後、どんな被害をもたらすか分からない、だろ?」

 

俺の言葉に皆は黙り込む。

 

「もう限界にゃん! いま飛ばないと転移できなくなる!」

 

黒歌がそう叫ぶ。

 

「兵藤一誠」

 

先生に肩を貸してもらってるヴァーリ。

 

先程のシャルバの攻撃が響いているのかかなり辛そうだ。

 

「任せとけよ、ヴァーリ。俺のライバルに好き勝手言ってくれたんだ。あいつは俺がしっかり潰しとくさ」

 

「君がそう言ってくれるとはね」

 

ヴァーリは口の端を笑ました。

 

「イッセー、後で俺達が龍門を開いておまえとオーフィスを――――」

 

先生の途中で俺は首を横に振った。

 

「いえ、それは必要ないです。俺には最強のお姉さんが着いてますから。なぁ、イグニス」

 

『そーいうこと。私の力なら次元の狭間を斬り裂いて脱出できるわ。私達を召喚する暇があるなら、他のことに時間を使いなさい。ヴァーリ君の治療もあるしね』

 

イグニスの言う通りだ。

 

たとえ次元の狭間にいようともアーシアを助けた時みたいにして脱出することは可能だ。

 

それなら、召喚する時間を別のことに使う方が時間の節約にもなるってもんだ。

 

先生は何か言いたそうだったが、頷いてくれた。

 

「・・・・・そうか。わかった! おまえなら必ず帰ってくると信じてるぞ!」

 

「はい!」

 

『ま、イッセーのことは私に任せなさいな。私もイッセーに死なれるのは嫌だしー。危なくなったら自分の封印を解いてでも助けるから』

 

おいおい・・・・・・・それは色々ヤバいんじゃないの?

 

『大丈夫よ。次元の狭間なら私が本来の力を解放しても問題ないから・・・・・・・多分だけど』

 

うおぉい!

それ大丈夫なの!?

 

逆に心配になってくるわ!

 

 

・・・・・・はぁ。

 

ま、いっか。

 

俺は息を吐いた後、木場の方に視線を移す。

 

「木場! 俺がいない間、皆を頼む! オカ研男子として女の子は絶対に守れ! いいな!」

 

俺の言葉に木場は静かに頷く。

 

よし!

 

それじゃあ、行くとするか!

 

俺はドラゴンの翼を広げて飛び出した。

 

「お兄ちゃん!」

 

振り向けば、美羽がいて―――――

 

「心配すんな! 必ず戻る! 約束だ!」

 

俺はそう告げてシャルバの方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

ホテル上空で哄笑するシャルバ。

 

その前に俺は姿を見せる。

 

 

・・・・・・・フィールドも既に半分以上は消失してるな。

 

 

俺を視界に映すとシャルバは不愉快そうな顔となる。

 

「ヴァーリならともかく、貴殿のような天龍の出来損ないごときに追撃されるとは・・・・・・!」

 

「出来損ないで悪かったな。だが、忘れたのかよ? おまえは出来損ないの俺に負けてるんだぜ?」

 

しかも、あれだけの手勢を連れた状態でな。

情けないったらありゃしねぇ。

 

シャルバは一瞬、黙り込むが俺を問いただしてきた。

 

「私を追撃するのは何が目的だ!? 貴殿も真なる魔王の血筋を蔑ろにするのか!? それともオーフィスに取り入り力を求めるか!? 天龍の貴様のことだ、腹の底では冥界と人間界の覇権を狙っているのだろう!?」

 

あーあ・・・・・・。

こいつが言うことは毎回同じだな・・・・・・。

 

それしか頭がないのかね?

 

「・・・・・・くだらねぇな」

 

「何だと・・・・・・?」

 

俺の言葉に怪訝な表現で聞き返すシャルバ。

 

そんな奴に俺は息を吐いて言う。

 

「くだらねぇって言ったんだよ。血筋? 力? 覇権? そんなことばかりに目がいくから、おまえは落ちぶれたんだよ。そりゃ、誰も認めてくれんわな」

 

「貴様・・・・・ッ!」

 

「おまえの御託はもう聞きたくねぇ。それより、あんた、さっき冥界の子供達を殺すって言ったな?」

 

すると、奴は表情を一変させ、再び醜悪な笑みを浮かべた。

 

「そうだ! 偽りの魔王が統治する冥界で育つ悪魔など、害虫以下の存在! 成熟したところで真なる魔王である私を敬うこともないだろう! そんな悪魔共は滅んだ方が―――――」

 

 

 

ドゴンッ!!!

 

 

 

喚くシャルバの鳩尾に俺の拳がねじ込まれ、奴の体が大きくくの時に曲がる。

 

「ガッ・・・・・・フッ・・・・・・!?」

 

奴は崩れるようにホテルの屋上に落下。

そこで膝をついて、大量の血を口から吐き出した。

 

俺はシャルバの眼前に降り立ち、言い放つ。

 

「それ以上言わなくていいぞ。聞いた俺が間違ってた」

 

俺のオーラが膨れ上がり、周囲にスパークが飛び交う。

 

全身にブースターが増設されていく――――

 

「禁手第二階層――――天武。立てよ、ド三流。格の違いを見せつけてやる!」

 

荒れ狂うオーラが吹き荒れ、シャルバの体が更によろめく。

 

シャルバは苦悶の表情を浮かべながらも、こちらに手を向ける。

 

空間が歪み、そこから大量の蝿らしきものが出現してきた。

周囲一帯を蝿の群れが埋め尽くす。

 

「真なるベルゼブブの力を見せてくれよう!」

 

吠えるシャルバは、大量の蝿を操り、幾重もの円陣を描く。

そこから魔力の波動を無数に打ち出してきた。

 

 

しかし――――

 

 

その魔力の波動は俺が腕を薙いだだけで全て弾けていった。

 

「真なるベルゼブブの力? これが? 笑わせんなよ!」

 

 

『Accel Booster!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

 

全身のブースターからオーラを噴出して、一瞬でシャルバとの間合いを詰める!

 

再び決まるボディーブロー!

 

そこから俺は奴の体が顔面へと回し蹴りを放つ!

 

「ガッ・・・・・・!」

 

まともにくらったシャルバは何度バウンドした後、ホテルの屋上から転がり出た。

 

シャルバは悪魔の翼を広げて、空に浮かぶ。

 

「おのれ・・・・・! この下級ごときがぁぁぁぁぁっ!!」

 

シャルバは幾重にも魔法陣を展開して、そこからロスヴァイセさんのように各属性のフルバーストをぶっ放してきた!

 

一発一発はさっきのよりもかなり大きいな。

 

並の悪魔ならこれで軽く消滅するだろう。

 

俺は迫る魔法のフルバーストに右手を向けて――――

 

「アグニッ!!」

 

そこから極大の光の奔流を放った!

 

俺が放ったアグニはシャルバの攻撃を容易に呑み込んでいく!

 

「なっ・・・・・!?」

 

驚愕に包まれるシャルバ。

 

その隙を俺は逃さない。

 

呆然とするシャルバとの距離を再び詰めて、そこから更に拳を繰り出す!

 

反応できなかったシャルバはたまらず、体を大きく仰け反らせた。

 

おいおい・・・・・・本気でこの程度かよ?

 

こいつの攻撃に威力があるとかないとかいう以前の問題だ。

 

 

――――こいつの攻撃には魂が籠ってない。

 

 

それ故に全く重みを感じない。

 

こんな奴が真の魔王?

 

魔王を目指してるサイラオーグさんはこの拳を受けても殴り返してきたぜ?

あれだけボロボロになっても俺に立ち向かってきた。

夢に向かってただ真っ直ぐに。

 

サーゼクスさんだってそうだ。

確かに普段はお茶目なところもある。

それでも、冥界に住む人達が幸せに暮らせるにはどうしたら良いか、頭を悩ませている。

 

シリウスはアスト・アーデという世界を救うために、その身を捧げた!

 

 

やっぱ、許せないよな・・・・・・・。

 

 

「てめぇごときが! 魔王を名乗るんじゃねぇ!!」

 

 

ドガガガガガガガがガッ!!!

 

 

繰り出すのは拳の弾幕!

 

その全てがシャルバの体を次々に抉り、その身を破壊していく!

 

容赦はしない!

 

こいつは・・・・・・こいつだけは・・・・・・!

 

今この場で!

俺のこの手で完全に滅ぼす!

 

「オラァッ!!」

 

「ぐうぅぅぅっ!」

 

何度目のボディーブローだろうか。

衝撃がシャルバの体を突き抜け、大気を揺らした。

 

俺の目の前には見るも無惨なシャルバの姿。

 

「ゴボッ・・・・・・。こ、この腐れドラゴンめががぁぁぁぁぁっ!! これならどうだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ボロボロの状態で手元に小さな魔法陣を展開するシャルバ。

 

そこから飛び出してきたのは一本の矢!

 

 

ヒュンッ!

 

 

風を切る音と共に俺へと放たれた!

 

 

 

 

・・・・・・しかし、その矢が俺に届くことはなかった。

 

 

 

当たる直前に矢の軸を指で挟んで、それを止めたからだ。

 

「油断はしない。この土壇場で使ってきたってことは何か特殊なものなんだろ?」

 

見れば、鏃に何か黒いものが・・・・・・。

 

その時、俺は気づいた。

 

これから感じられるのは――――サマエルの呪いと同じだ!

 

俺はその矢を捨てると、気弾を放って消滅させる。

 

あれを食らってたら、俺もヴァーリみたいになってたな・・・・・・・。

 

シャルバは震えた声を小さく漏らした。

 

「そ、そんな・・・・・・ハーデスからもらった矢が・・・・・!」

 

またハーデスかよ・・・・・!

どこまでもやってくれる・・・・・・!

 

 

いや、それもあるけど――――

 

 

奥の手を失ったからなのか、シャルバは近くで俺達の様子を見ていたオーフィスに懇願しだす。

 

「オーフィス! オーフィスよ! 私に再び『蛇』を! この者を倒すにはあの『蛇』が必要なのだ!」

 

「無理。今の我、不安定。力を増大させるタイプの蛇、作れない」

 

オーフィスの告白にシャルバは絶望しきった表情となる。

 

俺はそんな奴の情けない姿に盛大に嘆息する。

 

「おまえはトコトンまで他人の力頼りなんだな。まぁ・・・・・それもこいつで終わりだ」

 

 

カシャ カシャ

 

 

右腕の籠手、そこのブースターが大きく展開する。

 

すると、そこから赤い――――燃え盛る炎のようなオーラが発せられた。

 

右手が荒々しい紅蓮の輝きを放つ―――――

 

「あんたは子供達から笑顔を、未来を奪おうとした。おまえをぶちのめす理由はそれだけで十分だろ!」

 

「あぐっ・・・・・!」

 

燃え盛る右手でシャルバの顔面を掴む!

 

シャルバは魔力弾を放つなどの抵抗を見せるが、どれだけ足掻こうとも無駄だ!

 

もう間違っても、こいつが再び現れないように!

 

子供達に手を出させないためにも!

 

ここで跡形もなく、完全に消し飛ばす!

 

「おまえには過ぎた技だ! シャイニング・バンカァァァァアアアアアッ!!!!」

 

『Pile Period!!!!』

 

掌から巻き起こった灼熱の炎がシャルバを包み込み――――塵一つ残さず消し飛ばした。

 

 

 

 

シャルバを倒した俺は、オーフィスの前に降り立ち、オーフィスを捉えていた魔力の縄を引きちぎった。

 

オーフィスが俺に問う。

 

「赤龍帝、どうして我助けた?」

 

どうして、か。

 

まぁ、色々と理由はあるけど、それはやっぱり――――

 

「おまえ、アーシアとイリナを助けてくれたんだろう?」

 

「あれ、あの者達への礼。赤龍帝が我助ける理由にはならない」

 

「アーシアとイリナは俺の大事な仲間だ。それを助けてくれたのなら、俺がおまえを助ける理由は十分だろ?」

 

俺がそう言うとオーフィスは可愛く首を傾げていた。

 

いやー、マジで可愛いな。

ついつい頭を撫でたくなっちまうぜ!

 

と、そうそう。

オーフィスに聞きたいことがあったんだ。

 

「なぁ、なんでおまえはあいつらと手を組んだんだ?」

 

「グレートレッドを倒す協力をしてくれると約束してくれた。だから、我もあの者達に蛇、与えた」

 

・・・・・・そ、そんな口約束で?

 

「利用されてる、なんて考えなかったのか?」

 

俺の問いにオーフィスはコクリと頷く。

 

「協力してくれるなら、我それでいい」

 

今のオーフィスを見てて、俺はなるほどと何となく納得してしまった。

 

こいつは誰よりも純粋なんだ。

 

こいつがテロリストの親玉になんてなってしまったのも、旧魔王派だの英雄派だのが勝手に担ぎ上げたから。

 

世界の覇権だとか、超常の存在とのバトルなんてオーフィスにはどうでもいいことで・・・・・・。

 

全部、『禍の団』の連中が作り出した仮初めだったってことか。

 

 

ハハハハ・・・・・・。

 

 

何か引っ掛かってたものが取れてスッキリした気分だ。

 

確かにオーフィスは何を考えてるのか分かりにくいし、滅茶苦茶強いドラゴンだ。

 

でも、本当は―――――

 

「なぁ、オーフィス。俺と友達になるか?」

 

「・・・・・友達? それ、なると、何かお得?」

 

「さぁな。だけど、話し相手にはなれるんじゃないか?」

 

「そう。それは楽しそう」

 

ああ、楽しいさ。

 

俺が楽しませてやる。

 

後悔なんてさせねーよ。

 

 

すると、オーフィスは向こうの方を指指す。

 

「それで、赤龍帝。あれ、どうする?」

 

「あれ?」

 

オーフィスが指指す方を振り返ると―――――

 

 

 

『ゴアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 

 

・・・・・・・・げっ。

 

 

 

俺と美羽が吹き飛ばした巨大モンスターが復活してるぅぅぅぅぅううう!?

 

うそ、マジで!?

 

あいつ、再生機能もついてんのかよ!?

 

 

うん、一体だけでもこっちに残せて良かった!

 

「どうするって言われてもなぁ・・・・・・・いや、待てよ?」

 

俺は崩れ行くこの空間を見て思う。

 

 

これは良い機会なんじゃないか、と。

 

 

俺の考えが分かったようで、二人の相棒が反応する。

 

『あら? あれを使うの?』

 

『まぁ、確かに良い機会なのかもしれん。次元の狭間であればあの技を使っても問題なかろう』

 

イグニスの言葉にドライグもそう続く。

 

だよな。

 

あの技は冥界、ましてや人間界で試し撃ちできるような技じゃない。

 

「オーフィス」

 

「なに?」

 

「オーフィスってさ、俺に興味を持ったから、家に来たんだよな?」

 

「そう。赤龍帝、普通でない成長。だから、我興味を持った」

 

「そっか。――――なら、俺の新しい可能性をここで見せてやるよ。友達になった記念だ。こいつを見せるのはオーフィスが初めてだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

俺は瞑目し、意識を集中させる―――――

 

 

 

感じろ――――

 

 

 

俺の可能性を―――――

 

 

 

拡げろ――――――

 

 

 

希望の翼を―――――――

 

 

 

 

禁手(バランス・ブレイカー)第三階層(ドライ・ファーゼ)――――――『天翼(アイオス)』」

 

 

 

 




というわけで、進級試験とウロボロス完結です!

年内完結間に合って良かったです!

次回から新しい章に入りますが、少し期間が空くと思うので、ご容赦を。

それでは、よいお年を!


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第十二章 補習授業のヒーローズ
1話 冥界の危機


明けましておめでとうございます!
ヴァルナルです!

新年初投稿です!

年末に比べると更新スピードはガクンと下がりますが、今後も完結目指して投稿していくので、よろしくお願いします!






[木場 side]

 

 

昇格試験から二日ほど経過した昼頃。

 

僕達グレモリー眷属は、グレモリー城の一角にいた。

グレモリー城の使用人をはじめ、グレモリーの私兵も慌ただしく動いている。

 

理由は現在冥界が危機に瀕しているからだ。

 

旧魔王派のトップ、シャルバ・ベルゼブブの外法によって生み出された『魔獣創造』の超巨大モンスターの群れは冥界に出現後、各重要拠点及び都市部へと進撃を開始した。

 

フロアに備え付けられている大型テレビでは冥界のテレビはトップニュースとして、進撃中の魔獣を映している。

 

『ご覧ください! 突如現れた超巨大モンスターは歩みを止めぬまま、一路都市部へと向かっております!』

 

魔力駆動の飛行機やヘリコプターからレポーターがその様子を恐々として報道している。

 

冥界に出現した『魔獣創造』の巨大な魔獣は全部で十二体。

 

どれもこれもが百メートルを優に超える大きさだ。

人型の二足歩行をするタイプの巨人もいれば、獣の様なタイプの四足歩行をするものもいる。

姿形は一体として同じものがいない。

 

人型タイプも、頭部が水生生物のものであったり、目がひとつであったり、腕が四本も生えているものもいる。一言で表すなら合成獣――――キメラのようだ。

 

魔獣たちはゆっくりと一歩ずつ歩みを止めぬまま進撃し、速ければ今日、遅くても明日には都市部に到達する。

 

さらに厄介なのが、この魔獣たちが進撃をしながらも小型のモンスターを独自に生み出している点だ。

 

魔獣の体の各部位が盛り上がり、そこから次々と小型のモンスターが生まれてくる。

大きさは人間サイズだが、一度に数十から百数体ほど生み出されている。

 

このモンスターたちは通りかかった森や山、自然を破壊し、そこに住む生き物も食らい尽していく。

人的被害は出ていないようだが、進撃先にあった町や村は丸ごと蹂躙されていった。

 

その巨大魔獣の中でも群を抜いて巨大なのが冥界の首都、魔王領にある首都リリスに向かっている。

 

一際巨大なその魔獣を冥界政府は『超獣鬼(ジャバウォック)』と呼称した。

その他十一体は『豪獣鬼(バンダースナッチ)』。

これらはアザゼル先生がルイス・キャロルの創作物にちなんで付けたものだ。

 

テレビの向こうでは、『豪獣鬼』を相手に冥界の戦士達が迎撃を開始していた。

黒い翼を広げ、正面や側面、或いは背面からほぼ同時攻撃で魔力の火を打ち込んでいく。

周囲一帯を覆い尽くす質量の魔力が魔獣に放たれていた。

 

その攻撃を繰り広げたのは、最上級悪魔とその眷属だ。通常の魔獣ならそれだけでオーバーキル。間違いなく滅ぼされているだろう。

 

 

しかし―――。

 

 

『なんということでしょうか! 最上級悪魔チームの攻撃がまるで通じておりません!』

 

体の表面にしかダメージを与えられず、致命的な傷は一切加えることができなかった。

 

迎撃に出ている最上級悪魔チームはどれもがレーティングゲーム上位のチームだ。

 

しかし、それでも効果のある迎撃ができずじまいだった。

それだけ、魔獣が堅牢だということ。

 

各魔獣の撃退には堕天使が派遣した部隊と、天界側が送り込んだ『御使い』たち。

そしてヴァルハラからはヴァルキリー部隊、ギリシャからも戦士の大隊が駆け付け、悪魔と協力関係を結んだ勢力から援護を受けている。

 

そのおかげもあって、最悪の状況だけは脱しているのが現状だ。

・・・・・・・あくまで、現状だが。

このまま時間が過ぎればどうなるかわからない。

 

 

更に問題は山積していた。

 

 

昨夜、レーティングゲーム王者―――ディハウザー・ベリアルとその眷属チームが迎撃に出たのだが・・・・・・・

 

『超獣鬼』にダメージこそ与えられたものの、歩みを一時的に止めることしかできなかった。

 

『超獣鬼』はダメージを速効で再生、治癒してしまい、何事もなかったように進撃を再開させたのだ。

 

その衝撃的な事実はニュースとして冥界中を駆け巡り、民衆の不安を煽る結果となってしまった。

レーティングゲーム王者である皇帝ベリアルとその眷属が出場すれば『超獣鬼』ですら倒せると内心で信じ切っていたからだ。

 

皇帝べリアルの力は疑いようのないもの。

魔王クラスと称されるその力でも退けることが出来なかったのだ。

 

 

もうひとつ問題なのは、この混乱に乗じて各地に身を潜めていた旧魔王派がクーデターを頻発させている点だ。

 

おそらく、この魔獣たちの進撃は旧魔王派の計画通りであり、それに合わせる形で各都市部を暴れ回っている。

 

さらに、この混乱によって冥界各地で上級悪魔の眷属が主に反旗を翻しているのだ。

 

無理矢理悪魔に転生させられた神器所有者がこれを機にいままでの怨恨をぶつけているのだ。

 

先生風に言うなら、禁手のバーゲンセール状態。

それが冥界各地で勃発している。

 

魔獣群を止めなければならないうえに、冥府の神ハーデスや『禍の団』の英雄派も警戒しなければならない。

 

 

――――冥界は深刻な危機に瀕している。

 

 

「『超獣鬼』と『豪獣鬼』の迎撃に魔王さま方の眷属が出撃されるようだ」

 

っ!

 

突然の声に振り向くとそこにはライザー・フェニックスの姿。

 

テレビに食い入りながら考え事もしていたので、彼の接近に気づけなかった。

 

ライザー・フェニックスは息を吐く。

 

「兄貴の付き添いでな。ついでにリアスとレイヴェルの様子を見に来た。・・・・・・奴はまだ戻ってきていないのか?」

 

深刻な表情でライザー・フェニックスは尋ねてきた。

 

 

彼が言う奴とはイッセー君のこと。

 

この騒動を起こした張本人、シャルバ・ベルゼブブに拉致されたオーフィスを奪還するためにイッセー君はあの疑似空間に残ったのだが・・・・・・・。

 

それから二日経った今でも彼が戻ってくることはなかった。

連絡すらついていないというのが現状だ。

 

当然、召喚も行ったが・・・・・・彼がそれに応じることはなかった。

 

 

彼がシャルバに負けたとは考えにくい。

それにイグニスさんがついているなら、次元の狭間から抜け出すことは容易に出来るはず。

 

 

それなのに、帰ってくることも連絡も出来ないということは何か予想外のアクシデントが起こったということ。

 

 

彼が死ぬはずがない。

 

 

だけど、彼と共に異世界へと渡った僕達は一度、彼の死を経験している。

 

 

――――嫌な考えが僕達の中に過っていた。

 

 

僕は頭を振ってその考えを消し去る。

 

「部長とは会えましたか?」

 

僕の問いにライザー・フェニックスは小さく頷く。

 

「ああ。・・・・・といっても、寝顔だけだがな。この二日、ろくに寝てないんだろう?」

 

あの疑似空間から脱出した僕達はそれからすぐに行動に移った。

 

グレモリー領に戻った後、グレモリー領に住む人達の避難に当たり、魔獣が生み出した小型モンスターの駆逐にも出撃した。

それに加え部長は城の兵士達に状況に応じて指示を送るなど、頭と体を酷使し続けることになったんだ。

 

こんな事態だ。

当然、休む暇などない。

 

疑似空間での戦闘から休むことなく動き続けた結果、グレモリー現当主、つまり部長のお父さんに少し休むように言われ、現在、部長は自室で休息を取っていた。

 

体の疲労もあるのだろうが、イッセー君を心配する心労もあったのだろう。

部長は糸が切れた人形のようにベッドで眠りについている。

 

他のメンバーも今は体を休めるように言われている。

皆も戦闘に続く戦闘で心身ともに疲弊しきってるんだ。

 

 

「いいかね、レイヴェル。気持ちは分かるが、ここで体を壊してしまっては元も子もないだろう? フェニックス領のことは我々がすでに手を打ってある。心配はいらないよ」

 

フロアに二つの姿が現れる。

 

一人はレイヴェルさんで、もう一人は男性だった。

 

その男性には見覚えがある。

と言ってもテレビでだが・・・・・・。

 

フェニックス家の長兄にして、次期当主ルヴァル・フェニックス氏。

 

端正な顔立ちで貴族服を身につけている。

物腰もとても柔らかく、立っているだけで華がある。

 

レーティングゲームでもトップテン内に入ったこともある実力者で、近々、最上級悪魔に昇格するのではないかという噂も流れていた。

 

ライザー・フェニックスが兄の付き添いでここに来たと言っていたのはこのことか。

 

氏はレイヴェルさんをソファへ座らせた後、僕の元へ歩み寄る。

 

「リアスさんの『騎士』か。そうだな、君でいいだろう」

 

そう言うと氏は懐から小瓶を数個取り出した。

 

「これを君達に渡すついでに妹とリアスさんの様子を見に来たのだよ。こんな事態だ、涙をこれだけしか用意出来なかった。有望な若手である君達に大変申し訳なく思う。――――もうすぐ私も愚弟を連れて魔獣迎撃に出るつもりでね」

 

「・・・・・愚弟で悪かったな」

 

ライザー・フェニックスが兄の言葉に口を尖らせていたが・・・・・。

 

そうか・・・・・・・フェニックスの兄弟も魔獣の迎撃に出るのか。

確かに不死身のフェニックスが前線にいるのは心強い戦力になるだろう。

 

僕はルヴァル氏から涙を受け取った。

 

そう、僕達だって前線に行かなければならないんだ。

こんなところで休んでいる場合なんかじゃない。

 

――――イッセー君が今この時も戦っているかもしれないのに、僕達だけ休んでなんていられない。

 

「赤龍帝君については私も聞いている。レイヴェルやリアスさんの眷属を見ていればどれだけ不安を抱えているのかがわかる。・・・・・だがね、焦るのは良くない。焦りは危険を伴う。そうなれば守れるものも守れなくなってしまう。それは分かるね?」

 

「はい・・・・・」

 

ルヴァル氏は僕の焦る気持ちを見抜いたのだろう。

 

でも、この方が言っていることは正しいことで・・・・・・。

 

 

「・・・・アーシア先輩、大丈夫ですか?」

 

見れば、小猫ちゃんがゲストルームのソファで横になって休んでいるアーシアさんに声をかけていた。

アーシアさんの顔には明らかな疲労が見られる。

 

それもそのはず。

アーシアさんはこの二日間、避難の時に負傷した人、暴動に巻き込まれた人、魔獣と戦って負傷した兵士の人達の治療に当たっていたのだから。

 

フェニックスの涙が不足している現在、彼女のような神器を持った人はその力を求められる。

 

アーシアさんも「イッセーさんだって頑張っていますから」と休まずに力を使い続けていたのだが・・・・・。

かなりの力を使ったのだろう、やはり限界が来てしまったのだ。

神器を使いすぎたせいなのか、今は熱を出してしまっている。

 

「は、はい・・・・・ごめんなさい、こんな時に倒れてしまって・・・・・・」

 

「いえ、アーシア先輩は十分頑張りました。これ以上力を使ったら・・・・・・」

 

「でも・・・・・・イッセーさんだって今も・・・・・・」

 

「それは・・・・・・」

 

アーシアさんの言葉に小猫ちゃんも言葉を詰まらせていた。

 

小猫ちゃんも気持ちは同じなんだ。

 

 

ルヴァル氏は微笑みながら僕の肩に手を置いた。

 

「この二日、君達が動き続けていたことはよく知っている。先程、レイヴェルにも言ったがね、体を壊してしまっては元も子もない。君達は将来有望な若手。ここで失いたくはない」

 

そう言うと、ルヴァル氏はレイヴェルさんの方に視線を移した。

 

レイヴェルさんは小猫ちゃんのところで、アーシアさんの看病に当たってくれているようだ。

 

「これはお願いなんだが、レイヴェルをここに置いてくれないだろうか? 折角、友人も出来たようだしね。小猫さんとギャスパー君だったかな? 連絡用の魔法陣越しに楽しそうに話してくれていてね」

 

どうやら、レイヴェルさんは身内の方に駒王学園での様子を報告していたようだね。

 

「それと赤龍帝君のこともね。・・・・・我が家としてはレイヴェルを将来、赤龍帝君の眷属にしていただきたいんだが・・・・・・・それはこの事態が解決してからゆっくり話していけばいいだろう」

 

イッセー君が気づいているかどうかは知らないけれど、フェニックス家の意向は様々な面から見て取れた。

人間界に来たこともそうだし、イッセー君のマネージャーになったこともその一つなのだろうね。

 

「わかりました。レイヴェルさんは僕達がお預かりします。・・・・・・ありがとうございました」

 

僕はルヴァル氏にそう頭を下げた。

少しだけど、彼の言葉で焦っていた気持ちが静まったから。

 

「うむ。それでは私達は行こう。ライザー、おまえもフェニックス家の男ならば業火の翼を冥界中に見せつけておくのだ。でなければ、またタンニーン殿の山に送りつけるぞ?」

 

「うっ・・・・・。それは勘弁願いたいです、兄上・・・・・。じゃあな、木場祐斗。これ以上、若手だけに良い格好はさせないぜ?」

 

ライザー・フェニックスはそう笑むとルヴァル氏と共にこの場を去っていった。

 

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 




というわけで、新年初投稿はこんな感じでした~。

原作同様、疑似空間の出来事から二日経っています。
ただ違うのはイッセーは死んだのではなく、音信不通になっているということです。

その理由が明らかになるのは三~四話以降になる予定です


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2話 立ち上がる若手達

[木場 side]

 

 

 

他のメンバーの様子を見に行き、フロアに戻ろうとした時だった。

 

廊下で見知った人物が前を通りかかる。

 

「―――匙君」

 

 

匙君だった。

 

僕が話しかけると匙も手を挙げる。

 

「よ、木場」

 

「どうしてここに?」

 

僕がそう訊くと、匙君は息を吐きながら言う。

 

「会長がリアス先輩の様子見と、今後のことで話しにきたんだよ。その付き添いでな。表ですれ違い様フェニックス家のヒトたちにも会ったけどな」

 

「そっか、ありがとう」

 

会長も部長の様子を見に来てくれたんだね。

 

匙君と共にフロアまで歩く。

その中で彼は決意の眼差しで言った。

 

「木場、俺も今回の一件に参加するつもりだ。都市部の一般人を守る」

 

――――っ。

 

シトリー眷属も冥界の危機に立ち上がったようだ。

 

 

実力のある若手は招集がかけられている。

大王バアル眷属と大公アガレス眷属も当然出るだろう。

 

シトリー眷属がそこに参加してもおかしくはない。

僕達にも声はかけられている。

 

「僕達も合流するよ」

 

「ああ。・・・・・だけど、大丈夫なのか?」

 

大丈夫、か。

 

正直、僕達は未だに帰ってこないイッセー君のことで頭が一杯だ。

出来れば、今すぐにでも救援に向かいたい。

 

だけど・・・・

 

僕は一度、息を吐いて返した。

 

「戦うよ。僕達はイッセー君に託された。冥界を・・・・・子供達を・・・・・・。彼がいない間は僕達が頑張らなければいけない。――――――僕達は立つよ、前線に」

 

僕は今、自分が抱えている心情を匙君に告げた。

―――――いや、僕達グレモリー眷属が抱えている心情と言った方が正しいかな。

 

匙君はニンマリと笑みを浮かべて大きく頷いてくれた。

 

「おまえならそう言ってくれると思ったぜ。だけど、無理はするなよ?」

 

笑みを浮かべていた匙君だが、一度大きく息を吐いた。

 

「実は俺さ・・・・・兵藤に憧れてるんだ」

 

「イッセー君に?」

 

僕が聞き返すと匙君は頷く。

 

「普段はスケベだけどさ、本当の兵藤は誰よりも熱くて仲間思いで、戦場では誰よりも前に出る。力だってバカみたいに強いし、戦ってる時のあいつって頭の回転も速いし。最初は・・・・・・俺と同期なのになんでここまで差があるんだって、嫉妬すら覚えた」

 

そうか・・・・。

イッセー君と匙君が悪魔に転生した時期はほぼ同じだった。

 

その時は僕達もイッセー君の過去を知らなかったし・・・・・同じ兵士である匙君がイッセー君に嫉妬や劣等感を感じてしまうのは仕方のないことだろう。

 

「あいつの過去を聞いたときはぶったまげたなんてもんじゃなかった。もちろん兵藤が経験してきたこともそうだけど・・・・・あいつが今までどんな気持ちで戦っていたのか、話を聞くまで俺はちゃんと理解してなかったことが分かってさ。あいつがどんな想いで力を手に入れたかなんて考えてすらいなかった自分が嫌になったよ」

 

「匙君・・・・君は―――――」

 

僕がそこまで言いかけると、匙君は手を突き出してそれを制する。

 

「言っとくけど、今は違うぜ? そんな気持ちを持ったままじゃあいつには追いつけない。そんなことはとっくに気付いてるよ。だから、俺はあいつを目標にすることにしたんだ。今は遠く及ばなくてもいつかはあいつに追いつきたい。そのためにも俺は今回の一件、あいつが不在の今、何が何でも一般市民を守り抜いてみせる。――――――たとえ、命を懸けてでも」

 

拳を握る匙君の瞳には強い覚悟があった。

 

「良い覚悟です。その気持ちがあれば、あなたはまだまだ強くなれますよ、サジ」

 

振り返ると、そこにはソーナ会長の姿があった。

 

「会長」

 

「ですが、命を懸けても死ぬことは許しません。わかっていますね?」

 

「はいっ! もちろんです!」

 

ソーナ会長の視線が僕に移る。

 

「私達はこれで失礼します。魔王領にある首都リリスの防衛及び都民の非難に協力するようセラフォルー・レヴィアタンさまから仰せつかっていますので」

 

最上級悪魔クラスの強者は各巨大魔獣の迎撃に回っているため、悪魔政府は有望な若手に防衛と民衆の避難を要請している。

 

グレモリー領民の避難はほぼほぼ終えているので、僕達グレモリー眷属は別の場所――――より被害の大きい場所に向かうことになるだろう。

 

「部長にお会いになられましたか?」

 

「先ほど部屋を覗いたら、眠りながら涙を流していました。よほど、無理をしていたのでしょう。揺さぶっても反応がありませんでした」

 

「・・・・この二日間、一睡もせずに事態の解決に向けて動いていましたから」

 

「肉体的な疲労もそうですが、イッセー君のことで心労が祟ったと見えます。・・・・もう少し休ませてあげてください」

 

「はい」

 

そこで会話を終え、ソーナ会長は一度背中を見せる。

 

・・・・が、何かを思い出したかのようにもう一度、こちらに顔を向ける。

 

「ああ、それともう一人、貴方達に会いに来ていますよ」

 

そう言ってソーナ会長は薄く笑うと、匙君を引き連れてその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

フロアに戻ると、ちょうどテレビで首都の様子が映し出されていた。

テレビに映る首都の子供達。

 

レポーターの女性が一人の子供に訪ねる。

 

『ぼく、怖くない?』

 

レポーターの質問に子供は笑顔で答える。

 

『平気だよ! だって、あんなモンスター、おっぱいドラゴンが倒してくれるもん!』

 

―――――――っ

 

満面の笑みでそう応える子供。

 

手には『おっぱいドラゴン』を模した人形が握られている。

 

画面の端から元気な顔と声が次々と現れてくる。

 

『そうだよ! おっぱいドラゴンがたおしてくれるもん!』

 

『おっぱいドラゴン!』

 

子供たちは不安な顔ひとつ見せず、ただただ『おっぱいドラゴン』が助けてくれると信じきっているようだった。

 

『早く来て、おっぱいドラゴン!』

 

・・・・・イッセー君、聞こえているかい?

 

君を呼ぶこの声は届いているかい?

 

皆、不安な顔一つ見せずに君が来るのを待っているよ?

 

 

もし、この声が届いているのなら――――――その顔を子供たちに見せてあげてほしい・・・・!

 

 

「俺たちが思っている以上に冥界の子供達は強い」

 

突然の声。

 

いつの間にか、僕の隣にその男はいた。

 

「あなたは!」

 

「兵藤一誠はとてつもなく大きなものを子供たちに宿したようだ。―――久しいな、木場祐斗。リアスに会いにきた」

 

サイラオーグ・バアル・・・・・。

 

ソーナ会長が言っていたのはこの人のことだったのか。

 

このタイミングでここに来たということは、やはりこの人にも事の次第は伝わっているのだろう。

 

「リアス部長は今――――――」

 

現在の部長の様子を伝えようとした時だった。

 

 

 

「ここにいたのね、祐斗」

 

 

―――――っ

 

その声に振り向くと、そこには部屋で休んでいたはずの部長。

 

目元には涙を流した痕があるが、毅然とした様子だった。

 

「もうお体の方は良いのですか?」

 

「ええ。少し休んだからもう大丈夫よ。ごめんなさいね、こんな時だというのに。・・・・サイラオーグも来ていたのね」

 

部長がサイラオーグ・バアルに声をかけた。

 

「ああ。兵藤一誠のことを耳にしたのでな。おまえ達の様子を見に来たのだが・・・・・余計な心配だったようだな」

 

イッセー君は僕達グレモリー眷属の柱。

ほとんどのメンバーは彼に依存してると言っても良い。

 

その彼が不在・・・・しかも生死不明となれば僕達は不安で一杯になる。

 

それが分かっていたのだろう。

サイラオーグ・バアルも僕達のことを気にかけてくれていたんだ。

 

部長は苦笑しながら首を横に振る。

 

「ありがとう、サイラオーグ。でも私は大丈夫。・・・・・イッセーは生きて帰ってくる。彼を信じないで彼の主は名乗れないわ。今ここで何もしなければ、あの空間に一人で残ったイッセーの想いを踏みにじることになる。そんなことはしたくないの」

 

「ほう・・・・。どうやら俺はおまえを見誤っていたらしい。おまえは俺が思っていたよりもずっと強くなっていたようだ。――――――――あの男に抱かれたか?」

 

「・・・・残念ながらまだよ。だけど、いつかは必ず―――――――。彼に幻滅されないためにも私は行くわ、戦場に。イッセーが私達に託したものを守るために」

 

「戦場に行くのはリアスだけではありませんわ。私達もです」

 

声のした方を向けば、朱乃さんに小猫ちゃん、レイヴェルさん、それにアーシアさん。

力を使い過ぎてアーシアさんは寝込んでいたけど、体調はもう大丈夫なのだろうか?

 

「朱乃、小猫、レイヴェル。アーシアはもう体はいいの?」

 

「はい。皆さんが看病してくれましたから。もう熱は下がってます」

 

「それは良かったわ。―――――そういうわけで、サイラオーグ。私達も出るわ」

 

部長の言葉を訊いて、サイラオーグ・バアルは満足そうに笑みを浮かべ、僕達を見渡す。

 

「ああ。それでこそおまえ達だ。あの男の仲間であるならばそうでなくてはな。それでは、俺は先に戦場に向かうとしよう。待っているぞ、リアス。そしてグレモリー眷属よ」

 

 

サイラオーグ・バアルが去るのを見届け、部長は僕達を見渡して何かに気付いた。

 

「そういえば美羽とアリスさんは? 彼女達の姿が見えないのだけれど・・・・・」

 

確かに、そう言われれば彼女たちの姿が見えない。

 

現在、ゼノヴィアとイリナは天界に向かってるし、ギャスパー君とロスヴァイセさんは自らの力を高めるためそれぞれグリゴリの研究施設と北欧に行っているためここにはいない。

レイナさんもアザゼル先生に着いてどこかへ行ってしまった。

 

あの二人は僕達と一緒にこの城にいるはずなんだけど・・・・・・いったいどこへ?

 

 

『ごらんください! 都市に攻め込んでいた小型モンスター達の群れが何かに遮られているようにあそこから一歩も前に進めていません! これはどういうことなのでしょうか!?』

 

テレビから聞こえる報道陣の声。

 

その声に僕達はテレビ画面を覗きこむように見る。

 

映し出されているのは冥界の中でも大きな都市。

 

カメラの向こう、都市に通じる道には『豪獣鬼』が生み出したモンスターの大群がいて、今にも都市部へと攻め込もうとしている。

 

しかし、その群れの先頭。

そこにいるモンスターはそれ以上先には進めないでいるようだった。

 

 

―――――まるで、透明な壁でもあるかのように

 

 

その時、映像に白い閃光と幾重にも放たれる光。

 

それによってモンスターの群れはことごとく消滅させられていく。

近くで戦っていた冥界の兵士達がその光景を唖然としながら見ているのが映像から分かる。

 

それはそうだろう、先ほどまでかなり手こずっていたのだ。

それが一瞬で滅されていくのだから、当然の反応と言える。

 

「まさか・・・・・」

 

部長が声を漏らす。

 

今の光景には見覚えがあった。

 

爆煙が止み、映像に現れるのは三人の女性。

 

 

『これで一先ずってところかしら?』

 

『だが、あのデカいのを何とかしなければ話になるまい』

 

『そうだね。どうにかして止めないと』

 

 

アリスさん、ティアマット、そして美羽さんは既に戦場に立っていた。

 

アリスさんと美羽さんもここで休むように言われていたはずなのだが・・・・・・

 

 

「私達もいきましょう。ーーーー彼女達に続くのよ」

 

『はいっ!』

 

 

僕達はその場を後にして、現場へと急行した。

 

 

 

[木場 side out]



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3話 魔王の血

[美羽 side]

 

 

「うわっ・・・・・。あのデカい奴、また小さいモンスター出してる・・・・・・」

 

アリスさんが向こうに見える『豪獣鬼』を見て、目元をヒクつかせていた。

 

都市に入ろうとしていた小型のモンスターはさっき倒したけど・・・・・・・。

やっぱり、大本を倒さないとダメみたい。

 

 

グレモリー領内に現れたモンスターはリアスさん達と協力して何とかしたし、一般の人達の避難も大体は済んだ。

 

あとは旧魔王派と神器所有者の暴動が残っているんだけど・・・・・・リアスさんのお父さんから「私と兵士達に任せて、今は休みなさい」と言われたんだ。

 

確かにあの疑似空間での戦闘からずっと戦いが続いていたから、皆の消耗は大きい。

 

特にアーシアさんなんて、冥界に戻ってからは熱を出すほど力を使ったみたいだし・・・・・・。

他の皆も既にヘトヘトの様子だったから、休まされるのは仕方がないのかもしれない。

 

「これは・・・・・リアスさん達の回復待った方が良かったかな・・・・? 皆がいれば、結構楽になると思うんだけど・・・・・」

 

「そうも言ってられんだろう? このような事態だ。動ける者が動かないでどうする?」

 

アリスさんにそう返すのはティアさん。

 

実はティアさんを呼んだのはボクだったりする。

 

ボクとアリスさんはまだまだ余力を残してはいたけど、冥界の地理は分からないからね。

そこで、冥界について詳しいティアさんに来てもらったんだ。

 

「とにかく、こいつらをこの先へと通すわけにはいかん。美羽、結界はまだ保てるな?」

 

「うん。これくらいならまだまだ平気だよ。だけど、このまま続けても埒があかないんじゃないかな?」

 

今、ボク達が取っている行動はこう。

 

都市部に入ろうとするモンスター達を魔法で作り出した壁でその侵攻を遮る。

モンスター達が動きを止めている間にティアさんとアリスさんが攻撃を仕掛けて、モンスターを一掃するというもの。

 

今のところ、これでこの場はやり過ごせているけど・・・・・・。

 

ティアさんは手を顎にやって考え込む。

 

「・・・・・ふむ。対物理、対魔法。それに加えてあの再生能力か・・・・・・。あれが生み出すモンスター共はともかく、あれそのものは相当に厄介だぞ。強大な一撃で跡形もなく消し飛ばせば良いのだろうが、この辺りはまだ避難も済んでいないようだしな」

 

「はぁ・・・・・。あのシャルバってやつ、とんでもないことしてくれたわね! ロスウォードの眷獣よりも厄介じゃないの! あーもー! やっぱり私も残って、殴ってやれば良かったかも!」

 

アリスさんが荒れてる・・・・・・。

雷の迸り方が凄いことになってるよ・・・・・・。

 

シャルバ・ベルゼブブ・・・・・・。

旧魔王派の末裔で、今回の騒動の張本人。

 

 

そして、そのシャルバを倒すために―――――

 

 

「不安か?」

 

「えっ?」

 

ティアさんがいきなり聞いてきたので、ボクは聞き返してしまう。

 

「イッセーが心配なのだろう? まぁ、それはおまえだけに限った話ではないが・・・・・」

 

「・・・・・・うん」

 

ティアさんの問いにボクは小さく頷きを返した。

 

 

あの疑似空間にお兄ちゃんが残ってからもう二日が経った。

だけど、一向に連絡はこないし、連絡を入れても何も返ってこない。

 

お兄ちゃんが負けるわけがない。

 

 

だけど・・・・・

 

 

「イッセーは一度命を落としている。私は気を失っていたから、その瞬間を目にはしていない。だが、おまえの・・・・おまえ達の目にはその時の光景が目に焼き付いているはずだ。また同じことになるんじゃないか、そんな考えが頭にあるはずだ」

 

否定できなかった。

 

確かにお兄ちゃんが貫かれるあの瞬間はボクの頭の中から消えていない。

 

あの瞬間を思い出すだけで、体の震えが止まらなくなる時だってある。

 

それほどの衝撃だったんだ。

 

ティアさんはボクの肩に手を置くと息を吐く。

 

「無理はするなよ? 次元の狭間へ捜索に行きたければ、私のツテで―――――」

 

「大丈夫だよ、ティアさん」

 

ティアさんの言葉を遮ってボクは言った。

ティアさんの心遣いは本当に嬉しいし、今すぐにでもお兄ちゃんに会いたい気持ちもある。

でも、その必要はないんだ。

 

だって―――――――――

 

「あの空間で別れる時に約束したんだ。―――――必ず戻るって。だから待つよ、お兄ちゃんが返ってくるのを」

 

ボクが微笑を浮かべてそう言うと、アリスさんも続いた。

 

「そーいうこと。まぁ、帰ってきたらきたで、心配させた罰としてお仕置きくらいは受けてもらわないとね。っていうか、私達の約束放り出して死ぬとか絶対に許さないわ」

 

「約束? ああ、そういうことか」

 

ティアさんはニッコリと笑みを浮かべるボクとアリスさんを見て、ああと納得したように頷いた。

 

もしかして、お兄ちゃんから聞いてたのかな?

 

「イッセーから相談を受けていたんだが・・・・。サーゼクスが昇格の話をした時は少しばかり驚いたぞ。まさか、いきなりおまえ達の願いを叶える機会が来るとは思ってなかったからな」

 

「イッセーから相談? 何て?」

 

「イッセーの上級悪魔昇格。それに通るということは、イッセーは自分の眷属を持てるようになるということ。おまえ達がそれを受けて、イッセーに自分を眷属にしてほしいと願い出たらしいな。私はイッセーからおまえ達がどの駒に向いているか相談を受けていたのさ。もう大体の考えは纏まっている」

 

「本当? その結果は?」

 

アリスさんが訊くと、ティアさんはクスッと笑って人差し指を唇に当ててイタズラな笑みを浮かべた。

 

「フフッ、それはまだ内緒だ。訊きたければ、おまえ達の主となる者から直接聞くことだ。・・・・さて、そろそろお喋りは終わりだ。そろそろあのデカブツの動きを止めようか」

 

 

『ゴアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 

向こうの方に視線を移すと『豪獣鬼』が光線を目から飛ばし、空を飛んでいる悪魔の人達に攻撃を仕掛けていた。

 

あれだけ強力な光線。

悪魔の人達はもちろん、それ以外の種族でも受ければ致命傷を負ってしまう。

 

早く何とかしないと・・・・

 

でも、何か特殊な特性を持っているのか、ボク達の攻撃は通りにくい。

 

 

そうなると――――――――

 

 

「攻撃が通らなくとも、これ以上進めないようにすることはできるだろう? 足を止めてやれば良い」

 

「そうだね」

 

「同感。それなら、こいつらをどかしましょうか」

 

アリスさんは槍をクルクルと回すと地面に突き立て――――――――――

 

 

バチ バチチチチチチチチチチチチッ!!!!!

 

 

その瞬間、道を埋め尽くすほどいたモンスター達は感電したかのように体が弾けた。

閃光が止み残るのは黒こげになった炭だけ。

 

「これでOKね。さぁ、美羽ちゃん、やっちゃってよ」

 

「もう準備は出来てるよ。それじゃあ、始めるね」

 

ボクは路面に掌をかざすと呪文の詠唱を始める。

 

同時に『豪獣鬼』の足元に巨大で青く輝く魔法陣が展開された。

 

そこから出てくるのはクリアーブルーの大きな壁。

それが『豪獣鬼』を囲むようにして四枚が現れた。

 

これは結界・・・・・というより足止めに近いかな?

 

『豪獣鬼』を封印するわけでも、攻撃するわけでもない。

ただ、その足を止めるための大きな壁。

 

「『四壁封陣』。これで『豪獣鬼』はあの結界内から出られないし、生み出された小型モンスターもあの壁からは出られないよ。でも、結構力を使うから、ボクはこれに集中しなきゃいけないんだけど・・・・」

 

「十分だ。援軍も来たようだしな」

 

ティアさんが後ろに視線を送って言う。

 

すると、ボク達の背後に転移魔法陣が展開された。

この紋様は・・・・・

 

「美羽、アリスさん、それからティアマット。遅れてごめんなさい。―――――私達も戦うわ」

 

それは頼もしい援軍だった。

 

 

 

[美羽 side out]

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

僕達が駆けつけた時には小型モンスターの群れは一掃された後だった。

 

しかも、向こうの方では侵攻を続けていたはずの『豪獣鬼』が巨大な壁らしきものに囲まれ、その動きを封じられているようにも見える。

 

「なんというか・・・・かなり出遅れた感じね」

 

部長が周囲を見渡しながら唖然としていた。

 

僕達が映像を確認してからここに転移してくるまでさして時間が経っていないのに・・・・。

 

相変わらず、とんでもないメンバーだ。

 

ティアマットが部長に問う。

 

「体はどうだ、リアス・グレモリー。それから、アーシア・アルジェントも」

 

「問題ないわ」

 

「私もです。私も皆さんと一緒に戦います!」

 

「そうか。それならば、早速任せたいことがある。向こうの方、都市の方で旧魔王派の残党が暴れているようだ」

 

ここでも旧魔王派は暴れているというのか・・・・。

 

つまり、ここで僕達がしなければいけないことは―――――――

 

「私達三人はあのデカブツの相手をせねばならんのでな。あちらはおまえ達に任せよう」

 

ティアマットの言葉に部長は強く頷いた。

 

「わかったわ。心配はいらないと思うけど、三人ともくれぐれも気を付けてちょうだいね。皆、私達の任務は旧魔王派の掃討。それから一般市民の避難および救助よ。いいわね?」

 

『はいっ!』

 

 

 

 

 

 

僕が市街地に入ってから少し時間が経つ。

 

ここには旧魔王派の残党が多くはびこっていて、破壊を行っていた。

 

「あっ、貴様はグレモリーの!」

 

などと言って攻撃を仕掛けてくる者もいるが、それは迷わず斬り捨てる。

これまでに斬った数は二十は超えているが一向に減る気配がない。

 

 

いったい、どこにこれだけの数が潜んでいたのか・・・・・

 

 

それにしても気になるのが、一体どうやってここまで大きな暴動を起こせたのか。

 

今のところ、僕が相手をした旧魔王派の構成員はそれほどの手練れではなかった。

 

ここは冥界でも大きな部類に入る都市だから、配備されている兵士も多い。

『超獣鬼』や『豪獣鬼』の討伐に当たっているのだろうか?

 

もしくは神器所有者達の禁手のバーゲンセールに巻き込まれたか・・・・・。

 

どちらにしても早く捕えるなり、倒すなりしないと後々厄介なことになるね。

 

そんなことを考える僕の前に見覚えのある男性が現れる。

 

 

白髪に腰に何本もの剣を帯剣した男――――――

 

「君は―――――」

 

僕はつい声を漏らした。

 

相手も僕に気付いたのか、こちらを振り向く。

 

「やぁ、木場祐斗。君もここにいたんだね」

 

「ジークフリート・・・・。どうして君がここにいる?」

 

その男性―――――――ジークフリートは一度息を吐いて首を横に振る。

 

「なに、魔王アジュカ・ベルゼブブに僕達との同盟を持ちかけたら断られてしまってね。今はその帰りなのさ」

 

「なっ!?」

 

僕は予想外の言葉に驚きを隠せずにいた。

 

魔王に同盟を持ちかけただって!?

この情勢下でそんなことをしたというのか!?

 

いや・・・英雄派も馬鹿じゃない。

アジュカ・ベルゼブブ様が同盟を呑みうる可能性があっての行動だろう・・・・。

 

そんな僕の考えを見透かしたのか、ジークフリートは説明するかのように話し出す。

 

「アジュカ・ベルゼブブは現四大魔王でありながら、あのサーゼクス・ルシファーとは違う思想を持ち、独自の権利すらも有している。そしてその異能に関する研究、技術は他を圧倒し、超越している。一声かければサーゼクス派の議員数に匹敵する協力者を得られるという話だ」

 

その噂は僕も耳にしたことがある。

 

現魔王政府の中で魔王派は大きく分けて四つある。

その中で支持者が多いのがサーゼクス様を支持するサーゼクス派とアジュカ・ベルゼブブ様を支持するアジュカ派だ。

 

両派閥は現政府の維持という面では協力関係にあるが、細かい政治面では対立が多い。

ニュースなどの報道では両陣営の技術体系による意見の食い違いが良く目立つ。

 

傍から見ればお二人が対立しているように見えなくもない。

 

「そして僕達が一番魅力を感じていたのが―――――――彼はあのサーゼクス・ルシファーに唯一対抗できる悪魔だというところだ。サーゼクス・ルシファーとアジュカ・ベルゼブブは『超越者』として前魔王の血筋から最大級に疎まれ、畏れられているほどのイレギュラーな悪魔だからね。その一方が僕達に手を貸してくれるのであればこれ以上の戦力はない」

 

「だけど、アジュカ・ベルゼブブ様はそれを断った」

 

僕の言葉にジークフリートは苦笑する。

 

「常に新しい物作りを思慮している彼のことだから、こちらの有している情報と研究資料を提供すれば食いつくと思ったんだけどね。彼にとって僕達との同盟は否定しなければならないものらしい」

 

普通に考えればそうだろう。

 

冥界を支える魔王の一人。

いわば、悪魔の代表者たる者がテロリストと手を組むなんてあってはならないことだ。

 

しかし、ジークフリートの口調ではそれとは違う理由があったように思える。

 

「彼にとってサーゼクス・ルシファーとは唯一『友』といえる存在らしい。彼が魔王になったのもサーゼクス・ルシファーが魔王になったからに過ぎない、だそうだよ。僕には分からない理由だけどね」

 

アジュカ・ベルゼブブ様とサーゼクス様は旧知の間柄。

若い頃からのライバル関係だったと聞く。

 

競うべき相手であり、友でもある存在。

 

それがアジュカ・ベルゼブブ様の中で確固たるものであり、テロリストとの同盟を破棄するのも容易なものだったのだろうね。

 

 

・・・・・・そこで気になるのが、同盟を断られた今、なぜジークフリートがこうして生きているかということ。

 

アジュカ様が見逃したのだろうか?

 

「よく無事に生きて帰れたものだ」

 

「僕と共にアジュカ・ベルゼブブの元に向かった旧魔王派の残党。今ごろ彼らがアジュカと戦っているんじゃないかな? ・・・・・いや、もう終わってるかもしれないな」

 

その口調だと旧魔王派の悪魔達はアジュカ・ベルゼブブ様に倒されたと見るべきなのだろうね。

 

過去の前魔王政府とのいざこざでサーゼクス様とアジュカ・ベルゼブブ様は反魔王派のエースとして当時最前線で戦われていた英雄だ。

 

サーゼクス様は全てを滅ぼしきる絶大な消滅魔力を有し、アジュカ・ベルゼブブ様は全ての現象を数式、方程式で操りきる絶技を有すると言われている。

 

旧魔王派の悪魔達はその力にやられたのだろう。

 

 

ジークフリートの背中から龍の腕が四本出現する。

そして、帯剣している魔剣を全て抜き放った。

 

「さて、そろそろやろうか。交渉が失敗に終わった今、僕もここで何か戦果をあげておかないと部下に示しがつかないんだよ。幹部をやるのも楽じゃない」

 

それを受けて、僕も手に握る絶大な聖魔剣に龍殺しの力を付与させて構える。

 

僕の龍殺しの力が彼に通じるのは前回の一戦、あの疑似空間での戦闘で証明済みだ。

 

正直、純粋な実力としては彼の方が上だろう。

これまでは彼の虚をついて戦ってはこれたが、果たして今回はどうなるか・・・・・・。

 

倒すなら、短期戦。

龍殺しの弱点を突くのが最善だ。

 

 

そんな考えを張り巡らせている時――――

 

 

 

「と言っても、ここで君とやりあえば勝てたとしてもダメージは否めないな。君の成長は恐ろしく早い」

 

そう言うとジークフリートは懐を探りだした。

 

取り出したのはピストル型の注射器。

京都で戦った時に彼が使いかけた物だ。

 

「そういえば京都で少しだけ見せたね。これは旧魔王シャルバ・ベルゼブブの協力により完成に至ったもの。いわばドーピング剤だ。――――神器のね」

 

「神器能力を強化すると?」

 

僕の問いに彼は頷く。

 

・・・・・・そんなものまで研究していたのか。

 

オーフィスの『蛇』を神器に絡まらせることで所有者の様々な特性を無理矢理に引き出す実験をしていたのは僕も知っている。

 

ジークフリートは語る。

 

 

「聖書に記されし神が生み出した神器。それに宿敵である魔王の血を加えたらどのような結果を生み出すかがこの研究テーマだった。かなりの犠牲を払ってしまったが、その結果、神聖なアイテムと深淵の魔性は融合を果たしたのさ」

 

魔王の血を神器に・・・・・・!

 

そんな聞くだけで危険な研究を犠牲を払ってまで成し遂げたというのか!

 

ジークフリートは手に握るグラムに視線を向ける。

 

「本来、この魔帝剣グラムの力を出し切れば、僕は君を倒せていただろう。だけど、残念ながら僕はこの剣に選ばれながらも呪われていると言っていい。この意味は理解できるだろう?」

 

彼の言うことは確かに分かる。

 

戦いながらも感じていた。

彼はグラムの本来の力を発揮できていないことに。

 

伝承通りならば魔帝剣グラムは凄まじい切れ味を持った魔剣。

攻撃的なオーラを纏い、いかなるものをも断つ鋭利さを持っている。

 

加えてグラムは龍殺しの特性がある。

かの五大龍王『黄金龍君』ファーブニルを一度滅ぼすほどの。

 

つまり、魔帝剣グラムはデュランダル+アスカロンの特性を持っているのだ。

 

これらを踏まえると持ち主であるジークフリーの特徴を捉えると実に皮肉な答えが生まれてくる。

 

「君の神器は『龍の手』――――ドラゴンだ。龍殺しの特性を持つグラムとは相性は最悪と言ってもいい」

 

「そう。僕の神器は亜種だったけれど、例外にはならなくてね」

 

ジークフリートは苦笑しながらグラムをひゅんひゅんと回す。

 

「禁手状態で、こうやって攻撃的なオーラを完全に抑えて使用する分には切れ味があって強固な魔剣なんだけどね。それではこの剣の真の特性を解き放つことは出来ない。かといって力を解放すれば・・・・・・禁手状態の僕は自分の魔剣でダメージを受けてしまう。こいつは主の体を気遣うなんて殊勝なことはしてくれないさ」

 

彼が本来のグラムを使用するとなれば、それは通常時に限られる。

 

 

――――つまり、禁手を解いた時だ。

 

 

 

「グラムを使いたければ常体でやればいい。けれど、それでは君達との戦いに対応しきれない。禁手の能力を使わなければうまく相対できないからね。しかし、禁手状態でも魔帝剣グラムを使用できるとなれば、話は別だ」

 

ジークフリートは注射器を首もとに近づけ――――挿入させていく。

 

 

僅かな静寂・・・・・・・

 

 

 

刹那、ジークフリートの体が脈動する。

 

それは次第に大きくなり、体そのものに変化が訪れる。

 

 

ミチミチ・・・・・という鈍い音を立てながら、彼の背に生える四本の腕が太く肥大化していく。

五指も形を崩し、持っていた魔剣と同化していった。

 

ジークフリートの表情は険しくなり、顔中に血管が浮かび上がっていた。

 

全身の筋肉が蠢き、膨れ上がり、身に付けていた英雄派の制服が端々から破れていく。

 

 

そして、誕生したのが――――

 

 

かつての面影を残さない、怪人ともいえる存在だった。

 

 

 

[木場 side out]

 

 



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4話 双覇の騎士王

[木場 side]

 

 

僕の眼前に立つのは地に手が届くほどに長く巨大化した四本の腕を背に生やす怪人。

 

その姿は以前の阿修羅のような姿ではなく、全く別のもの。

 

・・・・・・・このプレッシャーの不気味なオーラは以前の比ではない。

 

変貌したジークフリートは顔面に痙攣を起こしながら笑む。

 

『―――「業魔人(カオス・ドライブ)」。この状態を僕達はそう呼称している。このドーピング剤を「魔人化(カオス・ブレイク)」と呼んでいてね、それぞれ「覇龍」と「禁手」から名称の一部を拝借しているんだよ』

 

声も低く重いものに変化している。

 

魔人と化したジークフリートが一歩足を踏み出す。

それだけで、後ずさりしてしまうほどの圧力が僕に迫ってくる。

 

魔剣と同化し、以上な進化を遂げた四本の極太な腕がしなる

 

 

――――来る!

 

 

攻撃を視認するよりも前に僕は駆け出す。

 

次の瞬間、僕がいたところに渦巻き状の鋭いオーラと氷の柱が生まれ、地面が抉れて次元の裂け目まで生じていた。

 

 

各魔剣の相乗攻撃!

 

あんなものを受けてしまえば僕の体は弾け飛ぶだろう。

 

 

――――っ!

 

 

前方から感じる異様な空気!

 

僕は聖魔剣を聖剣に変化させて、禁手の騎士団を一体だけ具現化。

それを空中で蹴って距離をおくが――――

 

 

ブォォォォォォォォォッ!!!

 

 

僕がいた空間に極大で凄まじいオーラの奔流が通りすぎていく!

足場にした龍騎士が跡形もなく消え去っていく!

 

僕はジークフリートの方に視線を向けると――――ジークフリートはグラムを振るったままの状態でいた。

 

なんという威力だ・・・・・・・。

避けたというのに、余波だけで僕の体に痛みが走り抜けていく。

 

溜めの時間も無し。

振るっただけでデュランダル並みの破壊力。

 

・・・・・これが魔帝剣グラムの真の力。

 

地面に降り立った僕は聖剣を再び聖魔剣に戻し、更に空中に七剣を造り出した。

この全てに龍殺しを付与してある。

 

僕は地面を蹴ってジークフリートとの距離を瞬時に詰める。

横凪ぎの一撃を放つが軽々と魔剣の一本に受け止められてしまった。

 

だからと言ってここで守りに転じてしまえば、僕は一気に推されてしまうだろう。

 

ここから僕は手元にもう一本の聖魔剣を造り出し、二刀流となる。

 

「はっ!」

 

再び放つ横凪ぎの一撃。

しかし、これも容易に防がれてしまう。

 

それと同時に僕の剣を受け止めている以外の魔剣が僕に降り下ろされた!

 

極太の腕から繰り出される剣戟はその一本一本が破壊力に満ちているのはさっきので分かってる。

 

受け止めるだけでもダメージは免れない!

 

そう判断して後ろに飛ぶが、そこを狙ったかのようにジークフリートがグラムを振るう!

 

極大で危険なオーラが僕を切り裂こうとする。

 

着地したところから横に飛んで回避するが・・・・・・グラムの攻撃的なオーラは僕の体にダメージを残していく。

 

僕に当たらなかったグラムの波動は地を抉りながら後方まで走っていく。

 

このままでは逃げ遅れた人を巻き込みかねないか・・・・・。

 

既に何棟もの建物が彼のグラムの波動によって倒壊している。

 

「七剣よ!」

 

僕が手を突き出すとそれに従うように七つの剣がジークフリートを襲う。

 

『それはもう効かないと言っただろう?』

 

ジークフリートが軽く魔剣を振るっただけで七剣の全てが砕かれてしまう。

 

だけど、これは想定済みだ。

 

 

僕の狙いは――――

 

 

僕はジークフリートが七剣を撃ち落とした瞬間を見逃さず、彼の懐に入る!

 

ここで彼の体に直接龍殺しを叩き込めば形勢は逆転できるはずだ!

 

僕の聖魔剣はジークフリートの体を捉え――――砕け散った。

 

「なっ・・・・・」

 

驚愕の声を漏らす僕にジークフリートが不敵に笑む。

 

『どうやら、強化された僕の肉体は回避するが君の龍殺しの聖魔剣を超えていたようだ』

 

 

 

 

 

 

ジークフリートが振るった魔剣が僕の体を斬り裂いた。

 

 

 

 

「ガッ・・・・・・・」

 

 

 

僕は膝を着き・・・・・・・・その場に倒れ伏した。

 

 

ドクドクと僕の胸の辺りから夥しいほどの血が流れ、地面を赤く染めていく・・・・・・。

 

『それほどの傷だ。立つことはできないだろう?』

 

ジークフリートが低い声音で笑う。

 

彼の言う通りだ。

 

手どころか痛みで全身に力が入らない・・・・・・・。

 

『そういえば、ここに君がいると言うことは他のグレモリー眷属もいるのだろう? ・・・・・・いや、赤龍帝はいないのか。彼は死んだみたいだしね』

 

「―――っ! どういうことだ・・・・・?」

 

僕は掠れる声で問い詰める。

 

すると、ジークフリートは僕を哀れむような目で答えた。

 

『君達は知らないのか? シャルバはサマエルの血を塗った矢を持っていたんだよ。あれから赤龍帝の気配が感じられなくなった。ということは赤龍帝もサマエルの呪いを受けた可能性が高い』

 

「サマエルの呪いを受けてイッセー君が死んだというのか・・・・・・?」

 

『そう考えるのが妥当じゃないかな? この数日、彼の姿を目撃したという報告も受けていないしね』

 

そんなバカな・・・・・・。

 

 

イッセー君が死んだ・・・・・・?

 

 

ふざけるな・・・・・・・・。

 

 

そんな訳がない・・・・・・・。

 

 

「・・・・・そんな可能性なんて・・・・・僕は・・・・・僕達は信じない。彼は生きて・・・・・・必ず帰ってくる・・・・・!」

 

そうさ。

 

僕達は信じる。

 

彼がイッセー君が帰ってくることを・・・・・!

 

たとえ、シャルバがサマエルの血を塗った矢を持っていたとしても、彼がそれを受けるだろうか?

 

そちらの方があり得ない・・・・・!

 

『そうか。確かに彼が生きている可能性も否定は出来ないね。ならば――――ここで君達グレモリー眷属を殺しておくとしよう』

 

「っ!」

 

ジークフリートの言葉に僕は目を見開いた。

 

今・・・・・彼は何て言った・・・・・・?

 

『そんなに驚くことかな? 君達は僕達にとって厄介な存在であることは変わりはない。このまま見逃せば、この先どんどん力をつけていくだろう。そうなれば、こちらも甚大な被害を被ることは間違いない。君達を殺るなら赤龍帝がいない今が絶好のチャンスだろう』

 

そう言い残すと彼は僕に背中を向けて立ち去ろうとする。

 

部長を・・・・・皆を殺すつもりなのか・・・・・・!

 

強化され、魔帝剣グラムの真の力を引き出せるようになった今の彼ならそれも出来るだろう。

 

そうはさせない・・・・・!

 

「待て・・・・・・! 僕はまだ生きている・・・・・! 戦いはまだ終わっていない・・・・・!」

 

激痛で立つことも出来ないほどの状態だけど、僕は何とか追いすがろうとする。

 

このまま彼を行かせるわけには・・・・・・!

 

僕の言葉に彼は立ち止まり、振り返る。

 

そして、立ち上がろうともがく僕を嘲笑うかのように言った。

 

『今の君に何が出来る? 今の僕には手も足も出なかったじゃないか。ましてや、その出血だ。放っておいてももうすぐ死ぬ。・・・・・・・まぁ、トドメをさして欲しいと言うなら話は別だけどね』

 

彼はそう言うとそのまま歩みを進めていく。

 

「ぐっ・・・・・」

 

痛みを堪えきれず、僕は再び倒れこむ。

 

ダメだ・・・・・・・やはり体に力が入らない。

 

手足の感覚が無くなってきている。

目も霞んできた。

 

 

 

部長・・・・・

 

朱乃さん・・・・・・

 

小猫ちゃん・・・・・・

 

アーシアさん・・・・・

 

 

グレモリー眷属の皆が危ないというのに僕は・・・・・・

 

こんなところで・・・・・・

 

 

 

 

―――― 木場! 俺がいない間、皆を頼む! オカ研男子として女の子は絶対に守れ! いいな! ――――

 

 

 

 

 

ふいに聞こえてきたのはあの時に交わした彼の言葉。

 

 

 

何を諦めているんだ僕は・・・・・!

 

僕はイッセー君と約束したはずだ!

 

皆を守ると、そう彼に誓ったじゃないか!

 

 

動け・・・・・僕の体・・・・・!

 

立ち上がって剣を握るんだ・・・・・!

 

イッセー君はどんな時だって立ち上がっていたじゃないか!

 

こんなところで寝ている場合じゃない!

 

 

僕は手元に一振りの聖魔剣を造り出すとそれを地面に突き刺し、ありったけの力を籠める。

痺れる体に無理矢理奮い立たせ、倒れ伏せていた体を持ち上げた。

聖魔剣を杖に何とかして立ち上がった僕だが足が震え、一歩すら前に踏み出せない状態だ。

 

そんな僕に気づいたのかジークフリートは再びこちらを振り向き、そして目を見開いていた。

 

『まさか・・・・・その傷で立ち上がるなんてね。少々甘く見ていたかな? 前言撤回だ。やはり君はここでトドメを刺しておこう。ここで放置していけば追いかけてくるように思えるからね』

 

そう言ってジークフリートはこちらに歩を進め、ゆっくり戻ってくる。

 

・・・・・・立ち上がったとしても剣を振れないようじゃ意味はないか。

 

 

頼む、僕の体よ。

 

魔剣創造よ。

 

ほんの少しでいい。

 

皆を守るために・・・・・・・目の前の男を倒す力を・・・・・!

 

僕の想いに応えてほしい・・・・・・!

 

僕に更なる可能性があるというのなら、目覚めるべきは今なんだ!

 

 

僕はフラフラの体で剣を天に向けて振り上げ咆哮をあげた!

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

それと同時に聖魔剣が激しいオーラを放つ!

 

白と黒・・・・聖と魔のオーラが膨れ上がり、荒々しいオーラが吹き荒れた!

 

『なんだ・・・・・!? この力は・・・・今の君のどこにこんな力が・・・・・!?』

 

かつてないほど狼狽するジークフリート。

 

さっきまで死にかけていた男が立ち上がって吠え出したんだから、それも当然の反応か。

 

そんなジークフリートに僕は叫んだ。

 

「僕はイッセー君と約束した! 部長を・・・・皆を守ると! グレモリー眷属の男子として守り抜いてみせると誓った! ここで君を行かせるわけにはいかないんだ! 僕の想いに応えろ、魔剣創造ッ!!!!」

 

聖と魔の織り成す乱舞。

それが次第に小さくなっていき、完全な静寂が訪れる。

 

僕とジークフリートの間を一迅の風が吹き、砂塵が舞った。

 

僕は先程の荒々しいオーラとはうって変わり、静かで濃密な聖と魔のオーラを纏い、そして聖魔剣を胸の辺りに引き寄せた。

 

 

 

僕は一度、息を吐く。

 

 

そして、唄を唱え始めた―――

 

 

 

 

「この剣、我が魂を映す鏡なり」

 

 

 

聖魔剣から解き放たれた黒と白のオーラが僕を覆う。

 

 

 

「強き魂を持つ者、その刃は砕けず」

 

 

 

僕を覆う黒いオーラが変化していき、黒いコートのようなものを形成する。

同時に着ていた駒王学園の制服も黒一色の服へと変化した。

 

次に白いオーラが強くなり、黒い服装に白いラインが走る。

 

 

「一太刀に全てを籠めし者、斬れぬ物無し」

 

 

 

聖魔剣も強い輝きを放つと、その形状を両刃のものから片刃――――日本刀のような形状となった。

 

 

 

「畏れるな、退くな。誓いと誇りを胸に先へと進め」

 

 

 

ありがとう、魔剣創造。

 

僕の想いに応えてくれて。

 

 

 

 

「想いを貫き、仲間(とも)を護れ」

 

 

 

ありがとう、イッセー君。

 

君がいたからこそ僕はここに辿り着くことができたよ。

 

これで少しは君に近づけたかな?

 

 

 

「駆け抜けろ、双覇の騎士よ――――――」

 

 

 

ゴオォォォォォォオオオオオ!

 

 

僕を中心に突風が吹き荒れていく。

 

荒々しく吹くその風とは正反対に僕の纏うオーラは静かなものだった。

 

 

『なんだ、その姿は・・・・・・』

 

ジークフリートが僕を異質なものを見るような目で尋ねてきた。

 

今の僕から感じられる力は先程までとは違っているだろう。

 

まぁ、見た目もかなり変わっていると思うけどね。

 

「禁手第二階層――――『双覇の騎士王(パラディン・オブ・ビトレイヤー)』。・・・・僕の中に眠っていた新たな可能性を具現化したものだよ」

 

『っ! 君は赤龍帝と同じ領域に至ったというのか!』

 

同じ領域といえばそうなるかな。

 

もちろん、イッセー君のと比べると遥かに劣るだろう。

だけど、伸び白は十分にある。

 

この先の修行しだいでいつかは、ね?

 

『だが、君の受けた傷は塞がってはいない! そんな状態であと何回剣を振れる?』

 

確かに僕が受けた傷が今ので塞がるなんてことはないし、今も出血は続いている。

 

足も手も体全体が限界を訴えかけてきている。

 

 

 

だから――――

 

 

 

「一撃だ。この一撃でケリをつけよう」

 

 

僕は手に握った新たな聖魔剣を鞘に納刀して腰を落とした。

 

僕が全力で剣を振れる回数なんて、もう無いに等しい。

 

だから、この一振りに僕の全てを載せよう。

 

『一撃とは大きくでたものだ。だが、君は本当にそれを実現してしまいそうだ。僕も油断せずにいこうか!』

 

ジークフリートも魔剣と光の剣を構え、不気味で濃密なオーラを放っていく。

 

グラムもそれに応えるように攻撃的なオーラを強烈なものにしていった。

 

 

 

目を閉じ、全感覚を研ぎ澄ませる。

 

余計なものはいらない。

 

この一振りに全てをかけよう。

 

 

 

 

 

 

 

僕は目をゆっくり開くと、その一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

そして――――――――ジークフリートとすれ違う瞬間、一筋の光が煌めいた。

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・バカな・・・・この僕が反応出来なかったというのか・・・・・・』

 

 

ゴブッ

 

 

そう漏らすとジークフリートは口から血の塊を吐き出した。

 

彼の胴には深い斬り傷があり、そこからも大量の血が流れ出ていた。

 

僕の剣が彼の体を斬り裂いたんだ。

 

「抜刀術『影追』」

 

『ぐっ・・・・・僕の肉体は君の龍殺しの聖魔剣を超えていたはずだ・・・・・・・。いくら速さが上がったからといって・・・・・・』

 

「君の肉体を今の僕の聖魔剣が上回った。それだけのことさ」

 

『なるほど・・・・・・ガハッ・・・・・』

 

僕の返した言葉にジークフリートは皮肉気に笑むとついに膝を着き、息も絶え絶えになる。

 

彼から流れた血が彼の周囲を赤く染めていく。

 

「どうしてフェニックスの涙を使用しないんだい? 君達英雄派は独自のルートで入手できるのだろう?」

 

彼らは京都での一戦でフェニックスの涙を使用した。

今も所持していてもおかしくない。

 

けれど、彼は使用する素振りすら見せない。

 

ジークフリートは首を横に振る。

 

『この状態になると、フェニックスの涙での回復は出来なくなるのさ・・・・・・。理由はいまだに不明だけどね・・・・・』

 

この強化状態にはそんなデメリットがあったのか。

つまり、彼らは極度のパワーアップが出来る反面、回復は望めなくなるということ。

 

これは大きな情報だ。

 

皆にも知らせないと。

 

『・・・・・・やっぱりそうさ。・・・・・あの戦士教育機関で育った教会の戦士は・・・・・・まともな生き方をしないのさ・・・・・』

 

それだけを言い残し、彼はそのまま息を引き取った。

 

そして、僕もその場で意識を失った。

 

 

 

[木場 side out]



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5話 牽制と警告

[アザゼル side]

 

 

冥府。

 

そこは冥界の下層に位置する死者の魂が選別される場所。

 

そこに俺は赴いていた。

 

冥府はギリシャ勢力の神ハーデスが統治する世界。

冥界ほどの広大さはなく、ただただ荒れ地が広がるだけの世界。

生物が棲息できない死の世界でもある。

 

まぁ、俺から言わせれば何もない、つまらない世界って感じだな。

 

冥府の深奥。

そこには古代ギリシャ式の神殿がある。

その神殿は冥府に住む死神共の住処でもあり、ハーデスの根城でもある。

 

俺は数人のメンバーと共にそこに足を踏み入れた。

 

 

レイナーレもついてくるなんてことを言っていたが、リアス達の元へと向かわせた。

 

ここに連れてくるのは危険だからな。

 

もうすぐ合流するはずだ。

 

 

入ってすぐに死神共が群がってきやがる。

敵意の視線付きでな。

 

事前連絡も無しでの訪問だ。

こいつらにとっちゃ、殆ど襲撃みたいなもんだろうな。

 

ここに来た理由は二つ。

 

ハーデスの野郎に一言物申すためと、現在危機に置かれている冥界を骸骨オヤジの好きにさせないためだ。

 

俺達堕天使と悪魔への嫌がらせのためなら何でもするあのクソ野郎のことだ、『魔獣創造』の巨大魔獣が暴れている最中にまたとんでもない嫌がらせを入れてくるに決まってる。

 

牽制という意味も含めての電撃訪問しにきてやったのさ。

 

神殿内を真っ直ぐ進むと辿り着くのは祭儀場らしき場所。

広い場内は装飾に黄金が使われるなど、冥府に不似合いなくらい豪華な作りだ。

 

祭儀場の奥からハーデスの野郎が死神をぞろぞろ引き連れてやってきた。

相変わらず嫌なオーラだ。

 

連れている死神も相当な手練れだな。

漂わせる気の質から察するに上級から最上級クラス。

 

・・・・・・先日、俺達を襲撃してきたプルートがいないのが気になるが・・・・・・

 

 

ハーデスを視認するやいなや、俺の隣にいた男が一歩前に出た。

 

「お久し振りです。冥界の魔王サーゼクス・ルシファーでございます。冥府の神ハーデス様、急な来訪申し訳ありません」

 

そう、俺と共に来たメンバーの一人はサーゼクスだ。

 

あの疑似空間から帰還した俺はオーフィスの件を始め起こったこと全てをサーゼクスに話した。

当然、イッセーが未だ帰還できていないことも。

 

リアス達を巻き込んだ上にこれだ。

許してもらえる立場ではないのは分かっていた。

だが、それでも俺はこいつに頭を下げて謝罪した。

 

俺はこいつに殴られてもいい覚悟だったが、サーゼクスは一言、俺をこう誘ってきた。

 

 

「冥府に行く。アザゼルにも同伴してほしい」

 

 

この混乱に乗じてハーデスが動き出すとサーゼクスも踏んだのだろう。

 

言っても聞かないハーデスをどう止めるか。

 

 

―――――その答えが魔王自らの訪問だった。

 

 

眼球のない眼孔を不気味に輝かせて、ハーデスは笑いを漏らす。

 

《貴殿らが直接ここに来るとは・・・・・これはまた虚を突かれたものだ》

 

そう言うわりには声には余裕がある。

 

だが、この野郎の実力は本物。

なんせ世界でもトップクラスの実力者なんだ。

俺やサーゼクスを相手取っても勝てると踏んでいるのだろう。

 

ミカエルもこちらに顔を出したいと言っていたが、流石に天使長が冥府に赴くってのは体裁的にいかがなものかと思ったので制させてもらった。

 

今は冥界への援軍として送ってもらった天使達の指揮に力を注いでもらっている。

 

《して、そちらの天使もどきは? その波動、尋常ではないな》

 

ハーデスの視線が俺達の後方にいる神父服に身を包んだ青年に送られる。

 

ブロンドの髪にグリーンの瞳そして――――十枚に及ぶ純白の翼。

 

青年は軽く会釈した。

 

「やー、これはどうも。『御使い』のジョーカー、デュリオ・ジェズアルドです。今日はルシファー様とアザゼル様の護衛の一人でして。まー、俺達いらないと思いますがね。ま、そう言うことで天使のお仕事ッス」

 

かなり軽い調子だ・・・・・・。

 

ま、噂通りの変わり者だな。

 

上位神滅具『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』の所有者にして、空を支配する『御使い』――――

 

《なるほど・・・・・噂の天界の切り札か。ファファファ、ミカエルめ、まさかジョーカーを切るとはな。やってくれるわ》

 

それだけの存在なんだよ、おまえはな。

 

一応だが、表に刃狗(スラッシュ・ドッグ)も待機させている。

 

《ファファファ、コウモリとカラスの首領、神滅具が二つ・・・・・。この老人を相手にするにはいささか苛めが過ぎるのではないか?》

 

よく言うぜ、これだけの戦力があっても退けそうな実力を持ってるくせによ。

 

《茶を飲みながらのんびりと話すのも良いが・・・・・あえて訊ねよう。何用でここに赴いた?》

 

このクソジジイ・・・・・分かってるくせによ。

どこまでもこちらをイラつかせてくれる・・・・・・!

 

 

サーゼクスはあくまで自然に答える。

 

「先日、冥界の悪魔側にあるグラシャラボラス領で事件がありました、某ホテルにて我が妹とその眷属、ここにいるアザゼル総督が『禍の団』の襲撃を受けたのです。そして―――――同時に死神からも襲撃を受けたと聞き及んでおります」

 

《ああ、それか。なんでも貴殿の妹君とアザゼル殿が結託して、オーフィスと密談をしていると耳にしてな。配下の者に調査を頼んだのだよ。せっかく、各勢力との協力体制が敷かれようと言うのに、そのような危険極まりない裏切り行為があっては問題であろう? それも和平を謳うアザゼル総督自らの行為ともなれば事は大きくなる。敬愛する総督の是非が知りたくなってなぁ。・・・・・・仮にそのような裏切り行為があった場合、最低限の警告をするようには命じたがな》

 

くそったれめが・・・・・・!

プルートが冗談半分でほざいていたことをまんま述べやがってよ!

 

あれが・・・・・・あんだけの死神を投入してきた上に伝説の死神までけしかけてきたのが最低限の警告だと・・・・・?

 

ふざけるなよ・・・・・・クソジジイ・・・・・・ッ!

 

ハーデスは肉のない顎を擦りながら続ける。

 

《だが、それは私の早とちりであった。もしそちらに被害が出てしまっていたのなら非礼を詫びよう。贖罪も望むのであれば何なりと言うがいい。私の命以外ならば大概のものは叶えてやらんこともない》

 

・・・・・・この上から目線の物言いと態度。

 

わざとなのは明らかだが・・・・・・・今の俺には効果てきめんだな。

怒りのボルテージが上がりっぱなしで、今にも骸骨オヤジに食ってかかりそうになる。

 

 

・・・・・・だが、それをしないのには理由がある。

 

 

俺のすぐ近くで濃厚なプレッシャーを放つ奴がいるからだ。

 

サーゼクス・・・・・おまえも相当魔力が内側で荒立っているようだな。

ここまで怖いおまえを見たのは初めてだ。

 

ハーデスの報告を聞いて、サーゼクスは一つだけ頷いた。

 

「なるほど、早とちり・・・・・ですか。では、もうは一つだけ確認をしたいことがございます」

 

《何か?》

 

「あなたが『禍の団』と繋がっているという報告も受けています。あなたが手を貸し、英雄派がサマエルを使用した、と。もしこれが本当だとしたら重大な裏切り行為です。サマエルについては全勢力で表には出さないと意見が一致していました。私としてもあなたの潔白を疑うつもりもないのですが、一応の確認としてサマエルの封印状況を見せていただきたいのです」

 

ハーデスの野郎がサマエルを使用したかどうかは封印術式の経過具合を調査すればすぐに割れる。

白なら大昔に施された封印術式。

黒なら最近に施された封印術式。

 

それが確認できれば、この野郎を糾弾できる口実が得られる。

 

 

もっとも、一月経てばサマエルという存在そのものが消え去っているらしいが。

 

うちの勇者様と女神様がやってくれたおかげでな。

 

サマエルの存在が消失したとなれば、それはすぐに分かる。

その時はこいつを難なく糾弾できる。

 

 

サーゼクスからの問いにハーデスは嘆息した。

 

《くだらんな。私は忙しいのだ。そのような疑惑を問われている暇などない》

 

それだけ言い捨てて、この場から去ろうとする!

 

あの野郎、逃げようってのか!

 

都合の悪いこととなれば即これかよ!

 

「わかりました。では、問うのを止めましょう。しかし、あなたに疑いがかけられているのは事実。それではこうしましょう。冥界での騒動が収まるまで、あなたには私達と共にこの場に残っていただきたいのです」

 

サーゼクスはこの場にハーデスを繋ぎ止める案を申し出た。

 

こいつは最終手段だ。

まぁ、こうなることは大体の予測はついていたがな。

 

これはハーデスが冥界の危機に横やりを入れないように事件が収まるまで魔王自らこで監視をするという案。

 

これすらも断るようであれば、この神殿ごと結界で覆うつもりだが・・・・・・・さて、どうでる?

 

ハーデスは足を止めて、その場で振り返る。

 

《面白いことを言う。そうだな・・・・・・・。それならば、お主の真の姿を見せるというのであれば、考えてやらんこともない》

 

 

―――――っ。

 

そう来たか、このクソジジイ。

 

《噂に聞いておる。サーゼクスという悪魔が何故『ルシファー』を冠するに至ったか。――――それは『悪魔』という存在を超越しているがゆえと》

 

一瞬の静寂。

 

それを裂くようにサーゼクスが頷く。

 

「――――いいでしょう。それであなたがここに留まってくれるのならば安いものだ」

 

サーゼクスは上着を脱ぎ捨て、俺達に後方へ下がるよう視線を配らせた。

 

俺は頷き、デュリオと共に数歩後退する。

 

それを確認したサーゼクスは魔力を高めていく。

 

刹那―――――

 

 

 

ドンッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 

 

 

神殿が激しく振動し始めた。

 

かなり頑強に作られているはずの神殿のあちこちにヒビが走る。

 

・・・・・・・この揺れ・・・・・・まさか、神殿全体じゃなく――――この一帯の地域丸ごとサーゼクスの魔力で震えているのか・・・・・・・?

 

サーゼクスの体を滅びの魔力が覆い、やつの周囲が漏れ出した滅びの魔力によって塵も遺さずに消滅していく。

 

サーゼクスの体を紅いオーラが包み込んだ瞬間、莫大な魔力がこの祭儀場全体を包み込んだ。

 

神殿の振動が止み、祭儀場に静寂が訪れる。

 

その中央には―――――

 

 

人型に浮かび上がる滅びのオーラ。

 

『この状態になると、私の意思に関係なく滅びの魔力が周囲に広がっていく。特定の結界かフィールドが無ければ全てを無に帰してしまうが・・・・・・この神殿はまだ保つようだ』

 

滅びの化身と化したサーゼクス。

 

こいつがサーゼクスの真の姿・・・・・・・。

 

なんて魔力だよ・・・・・・・少なくとも前魔王ルシファーの十倍はあるぞ!?

 

これが悪魔というカテゴリーを大きく逸脱した存在――――『超越者』の力。

 

サーゼクスとアジュカ。

今の冥界を支える二人だけの超越者。

 

・・・・・いや、超越者と呼んでいい悪魔はもう一人だけ存在するか・・・・・。

そいつは姿をくらませて久しいんだけどよ。

 

俺としては出てきてほしくないな。

 

「・・・・・ハハハ、やっぱり護衛いらないかな」

 

後方では護衛役のデュリオが苦笑いしていた。

 

まぁ、こいつを見せられたらそう感じてしまうのも当然だ。

 

『これでご満足いただけただろうか、ハーデス殿』

 

《ファファファ、バケモノめが。前魔王ルシファーを遥かに超越した存在だ。魔王というカテゴリーすら逸脱しておる。悪魔であるのかすら疑わしい。――――お主は何なのだ?》

 

『私が知りたいぐらいですよ。突然変異なのは確かなのですけどね――――どちらにせよ、今の私ならあなたを消滅できる』

 

《ファファファ、冗談には聞こえんな。この場で争えば確実に冥府が消し去るな》

 

ああ、今のサーゼクスならハーデスに余裕で対抗できる。

こいつは嬉しい誤算だった。

 

サーゼクスを見据えるハーデスのもとに死神が一名現れ、ハーデスに耳打ちする。

 

報告を受けたハーデスは祭壇に設置されている載火台に手を向ける。

 

するとその炎の中に映像が映し出された。

 

そこに映っていたのは―――――

 

『おらおらおら! 俺っちの棒にどこまで耐えられるんでぃ、死神さんよ!』

 

如意棒を振り回す美猴の姿。

 

その近くではゴグマゴグが極太の剛腕で死神を吹き飛ばし、黒歌、ルフェイのコンビが魔法攻撃を放っていた。

アーサーが聖王剣を振るい、百単位で死神を葬り去る。

更にはフェンリルが神速の動きで大勢の死神を斬り裂いていた。

 

 

――――ヴァーリチームだ。

 

 

ヴァーリのやつは冥界に運ばれた後、初代孫悟空の力でサマエルの呪いから解放された。

 

その後、あいつらは勝手にどこかへと行ってしまったのだが・・・・・・・最高のタイミングで仕掛けてくれたな、あの悪ガキ共め!

 

超グッジョブじゃねぇか!

 

あいつらがやられっぱなしのはずがない。

やり返すなら、曹操か、旧魔王派もしくはハーデスだ。

 

なんとなくこうなるのは予想できていたが、このタイミングで暴れてくれたのは正直かなりありがたい。

 

しかも、神を殺せるだけの牙を持つフェンリル付きときたもんだ。

フェンリルの存在は確実にハーデス陣営にとってのネックになる。

 

が、見たところヴァーリの姿だけ見えないな。

何か企んでいるんだろうが・・・・・・・。

 

《・・・・・・貴様の仕業か、カラスの首領よ》

 

ハーデスが最高に不機嫌な声音でそう訊いてくる。

 

 

それだよ、それ。

俺はそいつが見たかったのさ。

 

俺は堪えきれずに嫌みに満ちた笑みを浮かべてこう言ってやった。

 

「さぁ、知らね」

 

《・・・・・・ッッ!》

 

おーおー、随分とお怒りのようで。

 

まぁ、これもおまえが散々やったことへのツケってやつだ。

 

とにかく、これでハーデスが冥界の危機に横やりを入れられなくなったのは確定だ。

 

本気のサーゼクスにヴァーリチームまでいるんだからな。

 

あの悪ガキ共を舐めるなよ?

あいつらは各勢力の追撃部隊を全て退けたバケモノ揃いなんだからよ。

 

「死神を総動員しなければ白龍皇一派を仕留めることは不可能でしょうな。それにあなたがこの場で指揮でもしないとダメでしょうねぇ」

 

俺の意見にサーゼクスが同意する。

 

『ええ。ですから、あなたにはここに留まってもらうしかないのですよ』

 

そう言うとサーゼクスは人差し指を立てる。

 

『一つだけ。これはあくまで私的なもの。ですが、これだけは言わせていただこう。――――冥府の神ハーデスよ。我が妹と義弟兵藤一誠に向けた悪意、万死に値する。この場で立ち会うことになった場合、私は一切の躊躇無く貴殿をこの世から滅ぼし尽くす』

 

・・・・・・・イッセーは義弟確定なのか。

 

いや・・・・・・リアスの嫁入り宣言を受け入れていたし、そうなるかもしれんが・・・・・・。

 

つーか、前は同志とか言ってなかったか?

 

ま、いっか。

 

俺は光の槍を出現させハーデスに突きつける。

 

「俺からも物申しとくぜ、骸骨神様よ。まぁ、俺も個人的なものだがな。―――――俺の教え子共に手ぇ出してんじゃねぇよ・・・・・・・!」

 

俺とサーゼクスの敵意を真正面から受けてもハーデスは微塵も気配を変えることはなかった。

 

これでハーデスの件はクリア。

 

後は任せたぜ、教え子共。

 

それからイッセー!

 

早く戻って来ねぇと出番が無くなっちまうぞ?

 

 

 

[アザゼル side out]

 



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6話 俺、目覚めます!

・・・・・・んあ、俺寝てた・・・・・?

 

 

目が覚めると俺の視界には万華鏡を覗いたような世界が広がっていた。

 

ここは・・・・・次元の狭間か・・・・・・?

 

あれ?

なんで俺はこんなところで寝てるんだ?

 

確か・・・・シャルバをぶちのめした後、オーフィスを助けて・・・・・・・。

 

あー、そうだそうだ、あのでっかいモンスターを新技で倒したんだった。

 

そこから先は・・・・・・・えーと・・・・・・・。

 

 

ってか、なんか両隣に程よい柔らかさと温もりを感じるんだけど・・・・・・。

 

「あら、イッセー。おはよう」

 

「赤龍帝、目が覚めた?」

 

声がしたので俺の両隣に視線を送る。

 

イグニスとオーフィスが俺と密着しているのが見えた。

 

 

 

 

・・・・・・・・全裸で。

 

 

 

「君達は何をしとるんだぁぁぁああああ!?」

 

ガバッと上体を起こす俺!

 

うおっ!?

 

俺も全裸になってる!?

 

俺の服どこにいった!?

 

辺りを見渡せど、見えるのは赤くてごつごつした岩場のようで荒れ地のような場所。

 

ここどこ!?

 

いや、それよりもなんで俺とこの二人は全裸なの!?

 

イグニスがクスクスと笑う。

 

「昨日のイッセーすごかったわぁ。だってすごい獣みたいに攻めてくるんだもの。ねぇ、オーフィスちゃん」

 

「赤龍帝、すごかった。我もそう思う」

 

は・・・・・・・?

 

二人が何を言っているか分からない俺はポカーンと二人を見る。

 

「あら? 覚えていないのかしら? 男と女が裸ですることと言えば決まっているでしょう?」

 

・・・・・・・・

 

まさか・・・・・・・・

 

ま  さ  か・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

冷たい汗が全身から流れ、嫌な考えが俺の頭を過る―――――

 

そんな俺にイグニスは頬を染めながら笑顔で言った。

 

「私達も美羽ちゃんの仲間入りってね♪」

 

 

 

 

「マジでかぁぁぁぁああああああ!?!?」

 

 

 

 

うそぉぉぉぉぉぉおおおお!?

 

全く記憶がねぇぇぇぇえええええ!!

 

え、うそ、マジでか!?

 

俺、この二人としちゃったの!?

 

そんな馬鹿な!

 

確かに全身ダルいし、疲れが残ってるけど・・・・・・。

 

この疲れってそっちぃぃぃぃぃいいいい!?

 

 

俺は二人から距離を取って頭を抱えてしゃがみこむ!

 

やべーよ!

 

どうすんだよ!

 

最強の女神様と最強の龍神様としちゃったの、俺!?

 

どうしよう、記憶が全くない!

 

二人の純潔奪っておいて記憶が無いとか最低じゃねぇか!

 

思い出せ、俺!

 

昨晩、俺に何があったんだ!

 

必死で記憶を探る俺だが、その時――――

 

 

 

 

デッデデーン!

 

 

 

 

軽快な音楽が流れ、そちらを向くとイグニスとオーフィスが一枚のプレートを持っていた。

 

そのプレートには大きく派手な文字で『ドッキリ大成功!』と書かれている。

 

「残念! ドッキリでしたー! イッセーったら見事に引っ掛かったー!」

 

「引っ掛かったー」

 

爆笑しながらそう告げるイグニスと棒読みで言うオーフィス。

 

え・・・・・・何コレ・・・・・・・

 

状況を理解出来ない俺はしばしの間、思考がフリーズしてしまう。

 

「は・・・・・? ドッキリ・・・・・・・?」

 

「そうよ♪ 前にねテレビでやってたのが面白くて、一度やってみたかったの。オーフィスちゃんにも協力してもらったのよ。ねー」

 

「ねー」

 

いや・・・・・・ねー、って言われても・・・・・

 

じゃあ、何か?

 

「俺は・・・・・・二人とは一線を越えてない・・・・・・?」

 

俺の問いに二人はコクリと頷いた。

 

そ、そうか・・・・・・俺は二人とはしてないんだな・・・・・。

 

そりゃあ、記憶がなくて当然か・・・・・。

 

 

 

は・・・・・・・ははははは・・・・・・・・

 

 

 

寝起き早々、やってくれたな・・・・・・・駄女神ぃぃぃぃぃいいいい!!

 

「ドッキリにしても質が悪すぎだろぉぉぉおおおお!!?」

 

怒りを叫ぶ俺!

 

どんだけ質の悪いドッキリ仕掛けてきやがるんだ!

どこでこんなもん覚えた!?

 

つーか、オーフィスもそれに付き合わなくて良いだろ!?

 

しかし、眼前の駄女神は悪びれる様子もなく、オーフィスの頭を撫でながら笑ってやがる!

 

「いやー、たまにはこういう刺激もいいかなーって」

 

「刺激強すぎだ! 心臓止まるかと思ったわ!」

 

「だって、これはある意味イッセーへの罰なのよ?」

 

罰・・・・・?

 

俺、なんか悪いことしたか?

 

疑問に思う俺だがイグニスの次の言葉に驚愕することになる。

 

「あの疑似空間を離れてから既に二日も経ってるのよ。イッセーはその間ずっと気を失っていたの」

 

「二日も!?」

 

「しかも、その理由が新技使ってガス欠になったと言うんだから・・・・・・少し呆れるわ」

 

「あ・・・・・・・」

 

た、確かに・・・・・・・あの新技を使って巨大モンスターは倒せたけど・・・・・・。

 

それを使った後にスゲー疲労感が俺を襲ってきて・・・・・それでそのまま・・・・・・。

 

ヤバい・・・・・!

 

また、美羽達に心配をかけてしまう!

すぐに戻るつもりだったのに!

 

「今頃、皆もイッセーのことを心配してるわ。だから、これくらいの罰は仕方がないんじゃない?」

 

「う・・・・・は、はい・・・・・」

 

言い返せない・・・・・・。

 

あの新技は力加減が出来るような技じゃないんだけど、それでも皆に心配をかけてしまうことには変わりはない。

 

「えーと、召喚とかあった・・・・・?」

 

「あったけど、イッセーが気絶してるんだから応じれるわけがないでしょ?」

 

ごもっともで・・・・・。

 

俺は地面に手を付き盛大にため息をつく。

 

これ・・・・・帰ったら皆に土下座して謝ろう。

許してもらえるか分からないけど誠心誠意謝ろう。

 

落ち込む俺の肩に手がおかれる。

 

顔を上げるとイグニスが微笑んでいた。

 

「まぁ、生きて帰ることが出来るわけだし、今はそれで良しとしましょう。あんまり落ち込むのもね」

 

「イグニス・・・・・・」

 

うぅ・・・・・イグニスが優しくしてくれる・・・・・・

 

普段が普段だけにこう言う優しい言葉を言われるとグッと来てしまうぞ・・・・・・。

 

「ところでイッセー。寝起きで見る、私達の体はどうかしら?」

 

「ん・・・・・?」

 

そう言われて状況を再確認する。

 

俺の目の前にはイグニスとオーフィスがいて、二人とも全裸である。

 

お姉さんとロリっ娘の裸・・・・・!

 

二人とも美女、美少女だからこれは・・・・・眼福だ!

 

オーフィスのロリも良いし、イグニスも良いおっぱいしててスタイル抜群なんだよな!

 

色々なところが反応してしまうぜ!

 

 

 

 

すると―――――

 

 

 

「赤龍帝のここ、大きくなった。なぜ?」

 

オーフィスが俺の下半身を指差して言った。

 

 

 

・・・・・・そういえば、俺も全裸だった。

 

 

 

「オーフィスちゃん、それはねー」

 

「言わんでいい!!」

 

 

 

 

 

 

服を着た俺達は再度、状況の確認に入った。

 

「とりあえず、ここは次元の狭間であれから二日が経った。そして、俺達がいるのは――――グレートレッドの上ってことで良いんだよな?」

 

そう、この赤いごつごつした岩場だと思った場所はなんとグレートレッドの上だった!

 

俺のすぐそばには巨大な角がある。

ここはグレートレッドの頭の上だ。

 

ドライグが嘆息して言う。

 

『おまえが例の技を使って気絶した後、偶然グレートレッドが通りかかった。そこでオーフィスはおまえを連れてグレートレッドの背に乗ったのだ』

 

そして今に至ると。

 

偶然でグレートレッドと遭遇って、すっげえ運が良いよな。

 

『俺が思うに例の技が関係しているのかもしれん。あれほど強大な力だ。グレートレッドが引き寄せられても不思議ではない。まぁ、おまえの他者を引き寄せる力の影響とも考えられるがな。只でさえ各伝説級の存在との遭遇率が異常なわけだし』

 

うーむ、そう言われると返す言葉がない。

 

つーか、俺は平和でエッチな生活を望んでいるのに、どうして危ない奴ばっかり寄ってくるのかね!

 

今まで何度死にかけたことか!

 

・・・・・・アスト・アーデで一回死んだか・・・・・・

 

ま、まぁ、それは置いておこう。

 

「えいえいえい」

 

俺のすぐ隣ではオーフィスがグレートレッドの頭をぺちぺち手で叩いてる。

 

「おーい、何やってんだ?」

 

「グレートレッド、倒す」

 

そんな可愛い攻撃でこのでっかいドラゴンを倒せるのか?

 

いや・・・・・・弱まったとは言え、元は無限の龍神。

 

あんな攻撃でもとんでもない威力があるのかもしれない。

 

ロリっ娘の強烈ぺちぺちか・・・・・・。

 

あんまり想像出来ないけどな。

 

 

ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・

 

 

俺の腹が盛大に鳴った。

 

「お腹すいてるの?」

 

「あ、ああ・・・・・。俺、この二日間何も食べてなかったしな・・・・・・・」

 

俺は腹を押さえながらイグニスにそう返した。

 

昇格試験センターの食堂でアリスが食べてたプリンを少し貰ったのが最後だったもんなぁ・・・・・。

 

流石に腹も減る。

 

つーか、曹操達が襲撃さえしてこなければ、俺はホテルでご馳走にありつけたんだ!

 

俺がこんな目にあっているのもあいつらのせいだ!

 

・・・・・などと思っているとイグニスが何やら服を脱ぎはじめた。

 

「おい、何をしようとしてるんだ?」

 

「え? お腹すいたんでしょう? だから、イッセーにおっぱいをと思ったのだけれど」

 

「ブフォアッ!」

 

思いもよらぬ言葉に吹き出す俺!

 

とんでもないことを当然のように言い出したぞ、この駄女神!

 

「俺は赤ん坊じゃねぇんだよ!」

 

「だって、イッセーはおっぱいドラゴンだし、おっぱい吸えばエネルギーチャージ出来るんじゃない?」

 

「俺を何だと思ってんだ!?」

 

確かに俺はおっぱいドラゴンだけれども!

おっぱいでパワーアップするような奴だけれども!

おっぱいで可能性の扉を開くような男だけれども!

 

おっぱいでエネルギーチャージなんて出来るか!

 

バカだろ!

あんた、やっぱりバカだろ!

 

「赤龍帝、乳吸えば回復する?」

 

さっきまでグレートレッドをぺちぺち叩いてたオーフィスがこっちの話に入ってきた!

 

ここで入ってくるのか!?

 

なんでそこに興味を持ったの!?

 

オーフィスにとって俺+おっぱいはグレートレッドよりも興味を持つものなのか!?

 

「吸わねーよ!」

 

「でも、美羽ちゃんとしてた時は」

 

「それ以上口を開くな! それ以上は言わさねぇよ!」

 

「いっぱい吸ってたじゃない」

 

「言ったそばから言われた!?」

 

「赤龍帝、吸った?」

 

「オーフィスもよい子はそんなことに興味を持っちゃいけません!」

 

「オーフィスちゃんも女の子なんだから知る権利はあるわ!」

 

「ねーよ! どんな理屈だ!?」

 

「赤龍帝、吸った?」

 

 

 

誰かたーすーけーてぇぇえええええええ!!

 

この訳の分からん空間から俺を救ってくれぇぇえええええええ!!

 

ドライグゥゥゥゥゥウウウウウ!!

 

ヘェェェルプゥゥゥゥゥゥッ!

 

『はぁ・・・・・・グレートレッドよ。出来るだけ早くこの男を冥界まで運んでやってほしい』

 

俺達はこのままグレートレッドに乗って冥界に向かうことになった。

 

 

 

 




というわけでイッセーは無事です。

シリアスが続いたので、アホな展開をぶちこんでみました(笑)


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7話 首都防衛戦

[木場 side]

 

 

「すいません、ご心配をおかけしました」

 

グレモリー場のフロアで、僕は部長達に頭を下げていた。

 

ジークフリートとの戦闘で瀕死の重症を負った僕は、あの後、部長達に発見されアーシアさんの治療によって助かった。

 

ただ、血を流しすぎたこともあり、一度グレモリー城へと帰還することになったんだ。

 

部長が僕の肩に手を置いて首を振る。

 

「いいのよ。あのジークフリートを倒したのだもの。それにあの周辺にいた旧魔王派はもう大方片付いたから問題ないわ。・・・・・体はもういいのね?」

 

「はい。問題ありません」

 

「そう、分かったわ。次は首都に向かうことになったの。準備を整えてくれる?」

 

「了解しました」

 

部長の支持を受けて支度しようとした時だった。

 

すると、こちらに複数の気配が近づいてくる。

 

「すまない、遅くなったな」

 

ゼノヴィアとイリナさん、それからレイナさんだ。

 

ゼノヴィアは布にくるまれた長い獲物を携えていた。

布には魔術文字と天界の文字も刻まれている。

 

―――布の中身は修復が終わったエクス・デュランダルだろう。

 

そして、イリナさんも新しい剣を腰に携えていた。

 

剣からは異様で力強いオーラを感じられる。

 

・・・・・・あの剣はいったい・・・・・・?

 

疑問を抱くが、僕はそれよりもとレイナさんに尋ねた。

 

「レイナさんはアザゼル先生と一緒じゃなかったのかい?」

 

「総督はサーゼクス様と共に冥府へと向かわれたわ。この機に乗じて冥府の神ハーデスがちょっかいを出さないように監視にね。私は総督の命でこっちに合流しに来たの」

 

なるほど。

 

あの疑似空間であれだけの死神を投入してきたんだ。

英雄派と繋がっている件もある。

 

冥界の危機に横やりを入れてくる可能性は十分にある。

 

ゼノヴィアが部長に問う。

 

「部長、イッセーのことは聞いている。まだ戻ってきていないのか?」

 

「ええ・・・・。だけど、無事だと思うわ。イッセーだもの」

 

「そうだな。イッセーがそう簡単にやられるものか。今頃私達の胸を恋しがっているだろう。すぐにでも帰ってくるさ」

 

ゼノヴィアもイッセー君の帰還を信じて疑わないようだ。

 

胸を恋しがる・・・・・・あり得るね。

 

イッセー君だもの。

 

「それで、これからどうするの?」

 

今度はイリナさんが部長に訊く。

 

部長はフロアに備え付けられている大型テレビに電源を入れる。

 

映し出されるのは冥界の各領土で暴れまわる巨大な魔獣達。

そして、『豪獣鬼』相手に善戦する悪魔や同盟関係の戦士達の姿だった。

 

『ご覧ください! 魔王アジュカ・ベルゼブブ様をはじめとしたベルゼブブ眷属が構築した対抗術式! それによって展開する魔法陣の攻撃が「豪獣鬼」にダメージを与えております!』

 

上空からレポーターが嬉々としてその様子をレポートする。

 

どうやらあの堅牢で凶悪な魔獣達もアジュカ・ベルゼブブ様とその眷属によって構成された術式プログラムに足を止め、ダメージを蓄積させているようだ。

 

『大怪獣対レヴィアたんなのよ!』

 

チャンネルが移り変わり、次に画面に映ったのはセラフォルー・レヴィアタン様だった。

 

・・・・・・確か、魔王様は出撃を控えることになっていたはずでは?

 

この状況に英雄派、特にあの曹操が絡んでくることを考え、魔王や各勢力の神仏は出撃を控えることになっていたはずだ。

いずれかの勢力のトップ陣、そのうちの一人でも聖槍に貫かれでもすれば大事だからね。

 

「冥界の危機にいてもたってもいられなくなって、眷属を連れて魔王領を飛び出してしまったそうよ」

 

部長が嘆息しながら教えてくれた。

 

・・・・・ハハハ、あの方らしいと感じてしまうよ。

 

極大ともいえる氷の魔力が画面いっぱいに広がり、広大な荒れ地が全て氷の世界と化していった。

セラフォルー・レヴィアタン様の得意魔力だ。

むろん、『豪獣鬼』も無事に済むはずもなく、半身以上が氷ついて身動きが取れなくなっていた。

 

これが魔王レヴィアタンの力・・・・・・魔力のスケールが桁違いだ。

 

別のチャンネルではタンニーン様が眷属のドラゴン達と共に『豪獣鬼』の一体を追い詰めているところだった。

対抗術式を得た今となっては、魔王級と称されるあの方の火炎には耐えられないだろう。

 

『母上! 頑張って下されー!』

 

更にチャンネルを変えると九尾の狐が『豪獣鬼』に強大な火炎をくらわせているところだった。

 

あれは―――――京都の八坂さん!

 

その背には巫女服を着た九重ちゃん。

八坂さん達が多くの妖怪を引き連れて大暴れしていた。

 

京都の妖怪勢力も冥界の危機に駆け付けてくれていたようだ。

 

イッセー君がこれを知れば喜ぶだろうね。

 

『あーっと! ついに! ついに巨大魔獣「豪獣鬼」の一体が活動を停止させました!』

 

レポーターの実況がテレビを通して聞こえてくる。

 

画面に映るのはその巨体を破壊尽くされた人型の『豪獣鬼』。

再生する様子もなく地に倒れ伏していた。

 

そしてその近くに佇むのは三名の女性。

 

最初に『豪獣鬼』を仕留めたのは美羽さん達だった!

 

以前、ティアマットがアジュカ・ベルゼブブ様とは面識があると言っていた。

おそらく、それで対抗術式を手に入れたのだろうけど・・・・・。

 

まさか三人であの『豪獣鬼』を倒してしまうとは・・・・。

 

イッセー君が上級悪魔になったとして、美羽さんとアリスさんは彼の眷属入りを果たすだろう。

そうなった場合、それだけで戦力的にレーティングゲームのトップクラス並みのチームになってしまうような・・・・・気のせいかな?

 

部長もテレビに映し出される映像に唸っていた。

 

「流石としか言いようがないわね・・・・。だけど、この様子ではあと半日もしないうちに他の『豪獣鬼』についても片が付きそうね。問題は―――――」

 

 

「残る問題は魔王領の首都に向かう『超獣鬼』でしょうね」

 

 

―――――っ!

 

聞き覚えのある声が後方から聞こえてくる。

 

振り返ればそこにいたのはヴァルキリーの鎧姿のロスヴァイセさんだった!

 

「ロスヴァイセ!」

 

「ただ今戻りました、リアスさん」

 

北欧から戻ってきてくれたのか!

 

ロスヴァイセさんが真剣な面持ちで言う。

 

「イッセー君のことは聞きました。まぁ、彼がそう簡単に命を落とすとは思えませんし、皆さんの胸を求めてそろそろ帰ってくるかもしれませんね」

 

・・・・・ロスヴァイセさんにも言われているよ、イッセー君。

 

グレモリー眷属女子、いや・・・・オカ研女子部員全員がそう思っているのかもしれない。

 

まぁ・・・僕もそう思うけど。

 

ジークフリートからシャルバがサマエルの血を塗った矢を持っていたという情報を聞かされ、不安には思ったけど・・・・・彼がその矢を身に受けるはずもない。

イッセー君は戦闘時において一切の油断をしないからね。

 

となると、イッセー君が帰ってこれなかった理由が気になるね。

一体どんなアクシデントがあったというのだろうか・・・・?

 

とにかく、後はグリゴリの研究施設へと向かったギャスパー君が戻ってきてくれれば全員集合となる。

ギャスパー君はまだ研究施設にいるのかな?

 

「皆様! 大変ですわ!」

 

フロアにパタパタと駆け寄ってくるのはレイヴェルさんだった。

 

皆の分のお茶を取りに行ってくれていたみたいだけど・・・・・

 

彼女は険しい表情で報告してくる。

 

「・・・・首都で活動中のシトリー眷属の皆さんが都民の避難の護衛をしている途中で・・・・・『禍の団』の構成員と戦闘に入ったそうです!」

 

――――――っ!

 

その報告を訊いて全員の表情が引き締まる。

 

部長は僕達を見渡して一言

 

「―――――行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

魔王領にある首都――――――――リリス。

 

高層ビルが立ち並び交通機関も発達した冥界の大都市である。

 

この大都市に規格外の魔獣『超獣鬼』が接近しつつある。

もし到達すれば首都は壊滅的な打撃を受け、その機能を失うだろう。

そうなれば、冥界の各所に影響が出るのは必然だ。

 

現在、ルシファー眷属―――――――グレイフィア様を始めとするサーゼクス様のご眷属方が『超獣鬼』の相手をしており、いまのところ足止めには成功しているそうだ。

 

ニュースで初めて拝見したが、グレイフィア様の放った魔力の波動は想像を絶する規模であり、地形そのものを消し飛ばしてしまうほどの破壊力だった。

 

魔王セラフォルー・レヴィアタン様と肩を並べる唯一の女性悪魔、『銀髪の殲滅女王』。

そして、魔王サーゼクス・ルシファーの妻。

 

部長がお義姉さまに畏敬の念を抱かれるのは当然なのだろう。

 

だが、そのグレイフィア様が率いるルシファー眷属でも決定打を与えるには至っていないという・・・・。

 

いったい、どれほどの怨恨を込めればあのような怪物が生まれるのか・・・・・。

 

しかし、ルシファー眷属の足止めのおかげで、都民の避難はほぼ完了しているとのこと。

 

シトリー眷属や他の若手悪魔は逃げ遅れた人がいないかの確認に回り、サイラオーグ・バアルは首都で暴れている旧魔王派を相手にしていると聞いている。

 

僕達グレモリー眷属とイリナさん、レイナさんは美羽さん達に連絡を入れた後、グレモリー城の地下にある大型転移魔法陣で首都の北西区画にある高層ビルの屋上に転移してきたところだった。

 

美羽さん達はそのまま『超獣鬼』の討伐へ向かうそうだ。

彼女達がルシファー眷属と共闘してくれるのならこちらも心強い。

 

レイヴェルさんはグレモリー城に置いてきた。

彼女は本来客分、戦闘に介入させるわけにはいかない。

 

・・・・まぁ、美羽さん達はどうなのだと聞かれると悩んでしまうけどね。

 

使い魔であるティアマットはともかく、美羽さんとアリスさんは・・・・・イッセー君の親族、関係者・・・・将来の眷属候補・・・・・?

すでに戦闘に介入している今となっては言っても仕方のないことだけれど・・・・・。

 

とにかくレイヴェルさんは残ることを承諾してくれている。

役に立てないことを心底残念がっていたが、こちらの言い分を素直に呑み込んでくれた。

 

「まずはソーナ達のところに向かうわ」

 

部長の言葉に頷き、この場から移動しようとした時だった。

 

僕達を呼び止める者がいた。

 

「み、皆さん! よ、よかった!」

 

それはギャスパー君だった!

 

「ここにいれば皆さんと合流できると堕天使の方々に言われていたんですけど、なかなか来なくて・・・・寂しかったけど会えてよかったですぅ!」

 

涙目のギャスパー君。

 

彼ともようやく合流できた。

あとはイッセー君だけだ。

 

彼が戻ってきてくれればグレモリー眷属は全員揃う!

 

「ギャスパー、トレーニングの成果、期待してるわよ」

 

部長がギャスパー君の肩に手を置いてそう言うが・・・・・・ギャスパー君は伏し目がちで顔色が悪かった。

 

「・・・・・は、はい・・・期待に添えるように頑張りますぅ。・・・・・あれ? イッセー先輩は?」

 

ギャスパー君はこの場にいないイッセー君をキョロキョロと探し始める。

 

ギャスパー君にはまだ伝わっていないのか・・・・・・?

 

「イッセーは――――」

 

部長がイッセー君のことを伝えようとした時だった。

 

「あれ!」

 

小猫ちゃんがとある方向を指差す。

 

その方向に視線を送ると遠目に黒い巨大なドラゴンが黒炎を巻き上げて暴れている様子が確認できる!

 

あれは――――匙君だ!

 

龍王化するほどの相手と戦っているということか!

 

全員がそれを確認すると、そのまま翼を広げて現場へと急行した。

 

 

 

 

 

 

僕達が辿り着いた場所は広い車道で道の両隣には高層ビルが建ち並んでいた。

 

しかし、そこは既に戦場と化しており、建物や道路、公共物に至るまで大きく破損していた。

周囲には火の手が上がっている。

 

人の気配が感じられないのが幸いと言ったところだ。

この様子を見るにこの区域の避難もほぼ完了しているようだった。

 

「リアス先輩!」

 

聞き覚えのある声に引かれてそちらを振り向くと横転した一台のバスを守るようにして囲むシトリー眷属女性陣の姿があった。

 

――――バスの中には大勢の子供達。

 

僕はバスを守るシトリー眷属の一人、『騎士』の巡さんに尋ねた。

 

「巡さん、これはいったい・・・・・・」

 

すると、巡さんは涙交じりに答えた。

 

「このバスを先導している時に英雄派と出くわして・・・・・。相手はこちらを確認すると突然攻撃を・・・・・・! 衝撃を受けてバスが横転してしまったので、ここで応戦するしかなくて・・・・・・会長と副会長と、元ちゃんが・・・・・・っ!」

 

『っ!』

 

その報告に僕達の間に緊張が走る。

 

英雄派の構成員!

 

匙君が龍王化してまで戦う相手となると―――――

 

「あれを!」

 

ロスヴァイセさんが叫び、とある方向を指差した。

 

その方向に視線を送ると・・・・・・・血塗れの匙君の喉元を掴む英雄派のヘラクレスの姿が!

 

その近くではソーナ会長が路面に横たわっており、真羅副会長は英雄派のジャンヌと交戦していた!

 

ヘラクレスは匙君を放り捨てると、倒れているソーナ会長の背中を踏みつける。

 

「ぐうっ!」

 

悲鳴をあげるソーナ会長!

倒れた女性を踏みつけるなんて!

 

ヘラクレスはソーナ会長と匙君を見て嘲笑う。

 

「んだよ、レーティングゲームで大公に勝ったっていうから期待してたのによ。こんなもんかよ」

 

「ふざけないでっ! 子供の乗ったバスばかり狙ってきたくせに! それを庇うために会長も匙も・・・・・!」

 

真羅副会長が涙を流しながら激昂していた。

 

普段、会長よりもクールな真羅先輩。

その真羅先輩がここまで感情を表に出す・・・・・・よほど悔しかったのだろう。

 

そして、その理由が英雄派が子供達が乗っているバスを狙ってきたから・・・・・・。

そんな卑怯なことをして会長と匙君を攻撃したというのか・・・・・・!

 

そんなことをされては僕も我慢は出来ない・・・・・!

 

「魔剣創造・・・・・・ッ!」

 

「「っ!」」

 

僕がヘラクレスとジャンヌの方に手をかざすと、二人の足元から大量の聖魔剣が咲き乱れる。

 

ヘラクレスとジャンヌが咄嗟に大きく後退したので、傷を負わせることが出来なかったが、それでも匙君達から引き離すことが出来た。

 

そして、僕は一振りの剣を抜き放ち、匙君達とヘラクレス達の間に立つ。

 

ジャンヌが僕の得物を見て仰天する。

 

「・・・・・グラム!? それにその腰の魔剣・・・・・・!」

 

「ああ、僕が倒した。このグラムを含め、彼の持っていた魔剣は僕を新しい主に選んだらしい」

 

僕の腰にはグラムとジークフリートが持っていた全ての魔剣が鞘に収まっている。

 

彼を倒し気絶した僕だったが、目が覚めると僕の周囲の地面に彼の魔剣全てが突き刺さっていたんだ。

 

始めは何事かと驚きもしたが、握ってみてすぐに分かった。

この魔剣達は僕を新しいマスターに選んだのだと。

 

正直、未だに驚きはあるよ。

 

「へっ! こんな奴に負けるなんてよ! あいつもたかが知れていたってわけだ!」

 

ヘラクレスは彼を嘲笑うだけだった。

 

どうやら、彼らの間では仲間意識みたいなものは薄いらしい。

 

「侮るなヘラクレス。相手を過小評価するのはおまえの悪い癖だ」

 

ヘラクレス達の後方に霧が発生し一人の男性が現れる。

霧使いのゲオルクだ。

 

ゲオルクはこちらに視線を送ると嘆息する。

 

「そうか・・・・・ジークフリートまでやられたか。グレモリー眷属にこれ以上関わると全滅しかねないな」

 

ジークフリートまで・・・・・・?

 

もしかして、例の『魔獣創造』の少年は再起不能となったのだろうか?

あの疑似空間でシャルバ・ベルゼブブに無茶な術をかけられていたようだしね。

 

ゲオルクは僕の後方、部長達に保護を受けている匙君に視線を移すと忌々しそうに言う。

 

「ヴリトラめ。思ったよりも黒炎の解呪に手間取ったぞ。呪いや縛りに長けた能力は伝説通りか」

 

「はっ! 未成熟とはいえ、龍王の一角をやっちまうなんてな! 流石は神滅具所有者ってところか!」

 

ヘラクレスはゲオルクを称賛した。

 

どうやら、ゲオルクが中心となって匙君を打ち倒したようだ。

魔法に長け、神滅具所有者が戦闘の中心となったのなら、龍王の匙君がやられたのも納得できる。

 

・・・・・・それ以前に子供の乗るバスを狙ってきたのもあったようだが。

 

「しっかりしてください!」

 

アーシアさんが会長と匙君に緑色の淡いオーラを当てていく。

二人の体をオーラが包み込み、傷が塞がっていった。

 

「・・・・・子供が大事に握りしめてたんだ・・・・・おっぱいドラゴンの人形を・・・・・・・ここで、あの子達に何かあったら・・・・・・俺は・・・・・・あいつの背中を二度と追いかけられなくなる・・・・・・」

 

治療を受けながら匙君はそう漏らした。

 

匙君・・・・・君は・・・・・・・!

 

僕は匙君の想いを聞き、真羅副会長に言った。

 

「ここは僕達がやります。副会長は子供達の避難をお願いします」

 

「けれど・・・・・」

 

「お願いします。あなた達が受けた分は僕達が返しますから。匙君やあなたの想いはしっかりと受け取りました」

 

「・・・・・・木場君・・・・・わかりました」

 

真羅副会長は頷く後退し、バスの方へと向かっていった。

 

これでいい。

 

これで子供達は安全だろう。

 

 

―――――あとは彼らを斬るだけだ。

 

 

「木場くんが副会長さんにイケメン力を発揮しているわ! イッセー君のこと言えないわね!」

 

イリナさんが何やら嬉しそうにはしゃいでいるけど・・・・・これはスルーしよう。

 

ゲオルクはしばし僕を観察するように見た後、目を細めた。

 

「・・・・・前回見たときよりも身に纏う雰囲気が違うな。ジークフリートを倒したのはその力だろうが・・・・・・何をした、リアス・グレモリーのナイトよ」

 

「僕の中に眠っていた可能性が目覚めたと言っておこう。・・・・・それとも、今この場で見せようか? 卑怯な手で仲間をやられて、怒りが爆発しそうなんだ。今にも君達を斬ってしまいそうだ」

 

「なるほど・・・・・それは興味深いな」

 

ゲオルクは笑みを浮かべた。

 

僕が手元に聖魔剣を一振り造りだし、逆手に持って前に突きだす。

 

既に目の前の者達を斬ってしまいたいが・・・・・・その前に聞きたいことがある。

 

「なぜ、あのバスを狙った? そして、なぜこの首都リリスにいるんだい?」

 

子供達を狙う理由が分からなかった。

旧魔王派の者ならともかく、彼らが態々あのバスだけを狙うなんて考えられない。

 

そして、どうしてこの都市にいるのか。

 

ジークフリートはアジュカ・ベルゼブブ様との同盟に失敗してその帰りだと言っていたが・・・・・・。

まさかと思うが、この都市のどこかに隠れ家があるのだろうか?

 

僕の問いにゲオルクが答える。

 

「まず後者から答えよう。といっても単なる見学だ」

 

「見学?」

 

僕が聞き返すとゲオルクは頷いた。

 

「そう見学だ。曹操があの超巨大魔獣がどこまで攻め込むことが出来るのか、その目で見てみたいというのでね」

 

つまりは曹操の付き添いということか。

 

・・・・・・その肝心の曹操の姿が見えないのが気になるが・・・・・・どこかで高みの見物でもしているのだろうか?

 

「では、なぜバスを狙った?」

 

再度訊く。

この都市にいる理由は分かった。

 

では、前者は・・・・・・・

 

「偶然、そのバスと出くわしてな。そうしたら、ヴリトラの匙元士郎とシトリー眷属も乗っていたのだ。あちらもこちらの顔は知っている。出会ってしまえば相対するのは自然の流れだろう?」

 

・・・・・偶然の相対だと言うのか?

 

確かにその流れで出会ってしまえば戦闘に入ってしまうのは理解できるが・・・・・・。

 

しかし、ヘラクレスは挑戦的な笑みを見せる。

 

「俺が煽ったってのもあるぜ? 魔獣の都市侵略の見学だけじゃ、物足りなくなってな。『子供を狙われたくなけりゃ、戦え』って言ったんだよ。んで、戦闘開始ってわけだ」

 

「私は止めておけばって言ったんだけどねー」

 

「そんなこと言ったか?」

 

「あら、言ってなかった? まぁ、どっちでもいいじゃない」

 

そう言うとジャンヌとヘラクレスは面白そうに笑う。

 

 

・・・・・そんなふざけた理由で戦いを始めたというかのか・・・・・

 

・・・・・匙君はそれを受けて、子供達を守るために・・・・・!

 

「――――君達に英雄を名乗る資格はない」

 

僕の中で怒りの感情が最高潮に高まっていく。

 

そんな卑怯なことをする者が英雄?

 

ふざけるな・・・・・・

 

僕が・・・・・・僕達が知っている英雄は断じてそんなことはしない!

 

 

 

――――僕の体を聖魔剣から漏れ出た黒と白のオーラが覆う

 

 

服装が黒を基調としたコートへと代わり、聖魔剣は日本刀のような形状へと変化する。

 

静かで濃密なオーラが僕を包み込み、聖と魔、相反する力が同時に膨れあがった。

 

 

新たな聖魔剣を振り、吹き荒れる風を断ち切る――――――――

 

 

「禁手第二階層――――『双覇の騎士王』。君達は纏めて僕が相手をしよう。全員、一人残らず斬り捨てる」

 

 

僕が切っ先を彼らへと向けた時だった。

 

 

「俺も混ぜてもらおうか」

 

そう言いながら、対峙する僕達の間に現れる男。

 

その男は金色の体毛に包まれた巨大な獅子を従えていた。

 

「英雄派は異形との戦いを望む英雄の集まりと聞いていたが、どうやらただの外道がいたらしい。あの巨漢の男は俺が貰うぞ、木場祐斗」

 

己の体術だけで僕とゼノヴィア、ロスヴァイセさんを倒し、あのイッセー君とも真正面から殴りあった男―――――。

 

 

サイラオーグ・バアルの登場だった。

 

 

 

[木場 side out]

 



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8話 獅子王と騎士王

[木場 side]

 

 

サイラオーグ・バアルは巨獅子――――レグルスをその場に留めさせると、その場に上着を脱ぎ捨てる。

 

見事に鍛え上げられた肉厚の体が現れ、その身からは闘気が放たれていた。

 

「首都で暴れまわっていた旧魔王派の残党を一通り片付けたところでな、遠目に黒き龍と化した匙元士郎の姿が見えた。それと何か大きな力が現れたと思ったのだが・・・・・それはおまえだったようだな、木場祐斗。少し前に会ったときとは随分雰囲気が変わったものだ。新たな力を得たか」

 

サイラオーグ・バアルは笑みを浮かべながら僕のこの姿を見てくる。

 

まぁ、雰囲気がかわったというか・・・・・服装はかなり変わっているよね。

 

駒王学園の制服から一変して今の僕が身に付けているのは黒いコートに黒い服。

所々に白いラインが入っているものの、上から下まで殆どが黒だ。

 

ちなみにだけど、魔剣群は鞘に納めて僕固有の異空間に仕舞ってある。

 

僕も笑みを浮かべながら返す。

 

「はい。イッセー君の・・・・・皆のお陰で得られた力です」

 

「なるほど。次にやり合う時にはおまえにも獅子の衣を使う必要がありそうだ」

 

ハハハ・・・・・・

 

流石にそれはキツいかな?

 

本気のイッセー君と真正面からやり合えるあなたに今の僕が勝つイメージがわきませんよ。

 

サイラオーグ・バアルの登場にヘラクレスはうれしそうな笑みを浮かべた。

 

「バアル家の次期当主か。滅びの魔力が特色の大王バアル家で、滅びを持たずに生まれてきた無能らしいじゃねぇか。悪魔のくせに肉弾戦しか出来ないんだろ? ハハハハ、そんなわけのわからねぇ悪魔なんざ初めて聞いたぜ!」

 

ヘラクレスの煽りを聞いてもサイラオーグ・バアルは表情を変えなかった。

 

この程度の戯れ言など、彼の半生から察するに幾重にも浴びた罵詈雑言の小さな一つに過ぎないのだろう。

 

「英雄ヘラクレスの魂を引き継ぎし者」

 

「ああ、そうだぜ、バアルさんよ」

 

ヘラクレスの方にゆっくりと足を進めながらサイラオーグ・バアルは断ずる。

 

「――――木場祐斗の言う通りだ。貴様のような弱小な輩が英雄のはずがない」

 

それを聞いて、ヘラクレスの額に青筋が浮き上がる。

今の一言で彼のプライドが沸き立ったのだろう。

 

「おもしれぇじゃねぇか。おい、ゲオルク、ジャンヌ! こいつは俺が貰うぜ!」

 

「はいはい、それじゃあ私はそこの聖魔剣を相手しようかしら。随分面白い変身してるみたいだし」

 

ヘラクレスの言葉にジャンヌがそう続く。

 

ゲオルクは瞑目して二人の意見を了承していた。

 

 

僕の相手はジャンヌか・・・・・・・。

 

ジャンヌは僕の方に視線を移すと不敵な笑みを見せた。

 

「まさかジークフリートを倒すなんて、流石に驚きだわ。彼はあれを持っていたはずなんだけど」

 

「あれと言うのは『魔人化』の薬のことかい?」

 

「へぇ、どうやら知っているようね。まさかと思うけどあれを使ったジークフリートを倒したのかしら?」

 

「そうと言ったら、君はどうする?」

 

「っ! ・・・・・どうやら私も出し惜しみするのは危険なようね。仕方がないわ」

 

ピストル型の注射器を懐から取り出すと、ジャンヌはそれを首もとに針を当て打ち込んだ。

 

次の瞬間、ジャンヌの体が大きく脈動する!

ジャンヌから放たれる重圧が増していき、顔中に血管が浮かび上がっていった!

 

ジャンヌは体を僅かによろめかせるが、不気味な笑みを浮かべた。

 

「これでいいわ。力が高まっていくのがわかる!」

 

彼女が吼えると同時に足元から刃が無数に出現していく!

あれ『聖剣創造』による聖剣!

 

彼女は聖剣でドラゴンを形作る亜種の禁手を得ていたはずだ。

 

しかし、ジャンヌが作ろうとしているのはドラゴンではなく――――聖剣は使役するドラゴンを作らずに彼女の体を覆っていった。

 

ジャンヌが聖剣に包まれていく――――

 

そして、眼前に降臨したのは聖剣で形作られた大蛇!

 

頭の部分にジャンヌが上半身だけ露出している。

下半身は大蛇と同化しているが・・・・・・・。

 

その姿は女性の蛇の魔物ラミアのようにも見える。

 

『うふふ、この姿はちょっと好みではないけれど、強くなったのは確実よ。これであなたを斬り刻んであげるわ』

 

低い声音で言うジャンヌ。

 

確かに彼女から感じられる重圧は遥かに増した。

ジークフリートと同様、危険な波動が僕の体にひしひしと伝わってくる。

 

少し前の僕なら簡単にやられていたかもしれない。

 

だけど、今の僕なら――――

 

「勝てると思うのなら来るといい。今の君がどれほどの力を持っていようと僕はそれをことごとく越えて見せよう」

 

僕は聖魔剣の切っ先をジャンヌに向けてそう告げる。

 

今の僕なら・・・・・皆の想いのおかげで至ったこの姿なら眼前の敵など恐れるに足りない。

 

あのような想いの籠っていない剣になど負けない。

 

それを聞いたジャンヌは獰猛な笑みを浮かべ、手元に巨大な聖剣を造り出した。

 

『いいでしょう! そこまで言い切るなら、やってもらおうじゃない!』

 

そう叫ぶとジャンヌは大蛇の蛇腹をうねらせて高速でこちらに迫ってきた。

 

速い。

 

前回の京都の時に禁手を使った彼女とイリナさんの戦いを僅かに見たことがあるけど、あの時よりも遥かに速くなっている。

 

やはり、無茶な力だけあって『魔人化』によるパワーアップの仕方は尋常じゃない!

 

巨大な聖剣を振り下ろすと共に大蛇の尾を使って僕を攻め立ててくる!

 

 

僕が避けると、その攻撃は地面を難なく破壊し大きなクレーターを作り出す!

 

スピードだけでなくパワーもかなり上がっている!

 

『ハハハハ! 大口を叩いていた割には手も足も出ないじゃない! ほらほら次々いくわよ!』

 

ジャンヌは笑いながら攻撃の手を増やしてくる。

 

聖剣による攻撃。

しかも、『魔人化』によって神器の性能を上げられた状態だ。

 

悪魔の僕が受ければ一溜まりもないだろう。

 

 

しかし――――

 

 

僕は聖魔剣を振るい、ジャンヌが持っている巨大な聖剣の腹を狙う。

 

僕の聖魔剣がジャンヌの聖剣を捉えた瞬間――――

 

 

キンッ

 

 

甲高い音と共に巨大な聖剣は上下で真っ二つに分かれた。

 

同時にジャンヌが持っている下の部分、聖剣の柄の部分を炎が包み込む。

また上側、刃の部分は凍りつき地面に落ちた瞬間に儚い音と共に砕け散った。

 

『・・・・・・っ!?』

 

ジャンヌは慌てて炎に包まれた聖剣の柄を捨てるが、その結果に言葉が出ないようだ。

 

 

僕の禁手第二階層はスピードや出力が劇的に上がる以外にも特徴がある。

 

それは僕が創造可能な剣の全てを一本に集約する力だ。

炎や氷、雷などありとあらゆる属性・能力をこの一振りで使用できる。

 

普段なら属性を変える際、剣を創り直していたけど、今の僕はその必要がない。

つまりタイムラグは無く、剣の形状も変えずに属性を変更できる。

しかも、複数の属性を同時に扱える。

 

そして、その属性の中には破壊力を重視した剣の能力も含まれている。

 

コカビエルのエクスカリバー騒動の直前。

ゼノヴィアと初めて戦った時の僕は頭に血が昇っていて破壊力を重視した巨大で強固な魔剣を造り出した。

 

・・・・・まぁ、結果的は僕の長所であるスピードを殺すことになってしまい、僕はゼノヴィアに敗北したのだけれど。

 

しかし、今の僕ならスピードを維持したまま(・・・・・・・・・・・)、破壊力のある一撃を繰り出せる。

 

当然、エクス・デュランダルのような馬鹿げた破壊力はない。

 

けれど、強化されたジークフリートの肉体を斬り裂き、強化されたジャンヌの聖剣を一撃で折るくらいの破壊力は余裕である。

 

 

今はまだ騎士王を名乗るには実力が足りないだろうけど、これからの修行次第だろうね。

 

「パワーもスピードも上がっている・・・・・・だけど、隙だらけだ」

 

『っ!』

 

 

 

僕がジャンヌと戦っているすぐ近くではサイラオーグ・バアルとヘラクレスが対峙していた。

 

「バアルさんよ。元祖ヘラクレスが倒したっていうネメアの獅子の神器を手に入れてるって言うじゃねぇか。――――皮肉だな、俺と会うなんてよ。それを使わなきゃ俺には勝てないぜ?」

 

ヘラクレスが挑発するように言うが、サイラオーグ・バアルは一言で断じた。

 

「使わん」

 

「は?」

 

更にこめかみに青筋を浮かび上がらせるヘラクレス。

 

「使わんと言ったのだ。貴様ごときに獅子の衣を使う必要などない」

 

サイラオーグ・バアルはただそう断ずるだけだった。

 

それを聞き、ヘラクレスは可笑しなことを聞いたように笑い声をあげる。

 

「ハハハハ! いい度胸してるぜ! 俺の神器で爆破できないものはねぇよ! あんたが闘気に包まれていてもな!」

 

ヘラクレスは飛び出し、両の手に危険なオーラを纏わせた!

 

サイラオーグ・バアルの両手を掴み――――

 

 

ドトドドドドドドドドドッ!!!!

 

 

神器による爆破攻撃を始めた!

 

爆破の衝撃とそれによる爆煙が周囲に漂う。

 

ヘラクレスの神器能力は攻撃と共に対象物を爆破するもの。

その威力は京都の時に実際にこの目で見ている。

その威力は侮れないものだった。

 

 

しかし――――

 

 

「なるほど。――――この程度か」

 

煙が晴れ、現れたのは無傷のサイラオーグ・バアル。

 

あの爆破攻撃をあの至近距離で受けて無傷とは・・・・・・

 

ヘラクレスは完全に激怒した様子で更に高まらせる!

 

「言ってくれるじゃねぇか。じゃあ、これならどうよ!」

 

そのままサイラオーグ・バアルに向けて拳の連打を繰り出した!

 

先程よりも凄まじい爆破が巻き起こり、サイラオーグ・バアルの全身を包み込む!

その勢いは辺り一面を覆うほどだ!

 

爆破が止むと、二人の相対している路面は完全に瓦礫の山と化していた。

 

瓦礫の上でヘラクレスが高らかに笑う。

 

「ハハハハハハハッ! ほら見たことかよ! 一瞬で散りやがった! 所詮は出来損ないの悪魔だったってことだ! たかが体術だけで――――」

 

そこまで言ってヘラクレスは声を詰まらせる。

 

――――その表情は一転して驚愕に包まれていた。

 

ヘラクレスの視線の先にはサイラオーグ・バアルが何事も無かったように佇んでいたからだ。

 

少しばかり血を流しているようだが、あの爆破攻撃を受けてその程度。

 

サイラオーグ・バアルは手を止めて唖然としているヘラクレスを見て嘆息した。

 

「英雄ヘラクレスの魂を受け継ぎし人間というから少しは期待もしていたのだが・・・・・・俺の期待はことごとく裏切られたようだな」

 

そう言いながらもヘラクレスとの距離を一歩、また一歩と詰めていく。

 

圧倒的な重圧がヘラクレスに重くのし掛かっているのが分かる。

 

ヘラクレスは両手を構えるが――――サイラオーグ・バアルが瞬時にヘラクレスとの間合いを詰めた。

 

あくまで真正面から。

この男の戦い方には舌を巻く!

 

今の動きが見えなかったのだろう、ヘラクレスは動けないようで――――

 

「俺の番だ」

 

 

ドズンッ!

 

 

重く、鋭い拳打がヘラクレスの腹部に深々と突き刺さった!

衝撃がヘラクレスの体を通り抜け、後方のビルの壁を難なく破壊する!

 

「――――ッ!?」

 

ヘラクレスの表情は苦悶に包まれていく。

そして、その場に膝をつき踞る。

 

口からは血反吐を吐き出していた。

 

明らかに深刻なダメージ。

 

あの一撃を受けた僕には分かる。

あれを生身に貰って無事な者はまずいない。

 

サイラオーグ・バアルはヘラクレスを見下ろして言う。

 

「どうした? 今の一撃はただの拳打だが?」

 

 

それを聞いて、ヘラクレスが憤怒の形相となって立ち上がる。

 

「ふざけるな・・・・・・・! ふざけるんなよ、クソ悪魔ごときがよォォォォォオオオオオオッ!!」

 

激昂するヘラクレスの体が輝き、体に無数の突起物か形成される!

 

あれは彼の禁手!

京都ではあのとてつもない破壊力でロスヴァイセさんを苦しめていた!

 

無数のミサイルが町中へと放たれていく!

ミサイルが直撃した場所は激しく破壊されていった!

 

その一発がサイラオーグ・バアルに真っ直ぐに飛んでいくが――――

 

「ふんっ!」

 

 

ゴンッ!

 

 

サイラオーグ・バアルは避けるまでもなく、拳だけでミサイルを弾き飛ばしていった!

 

続いて彼に迫るミサイル全てが打ち落とされていく!

 

なんという拳だ・・・・・・。

 

分かってはいるが、こうも眼前で見せられると改めて凄まじいと感じてしまう。

  

 

僕がサイラオーグ・バアルのその打撃力に驚嘆しているとジャンヌにも動きが見られた。

 

ヘラクレスにつられてなのか、僕に一太刀も浴びせられないのが苛立ったのか、ジャンヌも大蛇の腹をこちらに向けてそこから大量の聖剣を放ってきた!

 

『これならどう! 避けなければ、あなたは死ぬ! 避ければあなたの後ろにいる仲間が死ぬわ!』

 

なるほど。

 

確かに今、僕が避けてしまえばこの無数ともいえる聖剣の嵐は皆を襲う。

 

・・・・・・いや、下手をすればその更に後ろ、子供達の方へと向かいかねない。

 

ならば―――――

 

「はぁぁぁああああああああ!!!」

 

 

ギギギギギギギギギギギギギギンッ!!

 

 

僕は高速で剣を振るい、迫る全ての聖剣を撃ち落とす!

 

聖魔剣を覆っている白と黒のオーラが剣を振るう度に光の弧を空中に描き、聖剣を撃ち落とす度に火花が散る!

 

 

―――――子供達に何かあればイッセー君の背中を追いかけられなくなる。

 

ああ、その通りだよ匙君!

 

僕だって同じ気持ちさ!

 

だから、彼らをこの先へと一歩たりとも進ませやしない!

 

 

僕は最後の聖剣を叩き落とすと息を吐く。

 

ヘラクレスのミサイルがいくつか子供達の方に飛来してしまったようだが、それはロスヴァイセさんが強力な防御魔法陣を展開して完全に防いでくれていた。

 

ロスヴァイセさんが故郷の北欧に帰還したのは自らの――――『戦車』としての特性を高めること。

 

強固な防御魔法を覚えることで自身の防御力を底上げしたようだ。

 

グレモリー眷属はどんどん強くなっているようだね。

 

 

仲間の強化に喜んでいると、僕達のもとに子供達からの声が送られてきた。

 

「ライオンさん! がんばってぇぇぇえ!」

 

「ダークネスナイト・ファングも負けないでぇぇぇえ!」

 

英雄派幹部と対峙する僕とサイラオーグ・バアルに向けての声援だった。

 

僕もサイラオーグ・バアルもそれは予想外の声援で、きょとんとしてしまった。

 

「ふはははははは! なるほど! これは良いものだな、木場祐斗よ!」

 

「はい!」

 

これが子供達から貰える力!

 

イッセー君の気持ちが分かる気がするよ。

 

体の、心の奥底から力が沸いてくる!

 

「これで貴様達に負ける道理は一切無くなったな」

 

「ガキにピーチク言われただけで―――」

 

『調子に乗らないでもらえるッ!』

 

サイラオーグ・バアルの言葉に吼えるヘラクレスとジャンヌ。

 

しかし、その直後。

 

ヘラクレスの顔面に闘気に満ちた拳が撃ち込まれ、ジャンヌには濃密なオーラを纏った斬戟が放たれる――――

 

地に伏し、大量の血を流すヘラクレスとジャンヌ。

 

そんな二人を見下ろし、僕とサイラオーグ・バアルの声が重なる。

 

「「子供から声援すらもらえない者が英雄を名乗るな・・・・・・・ッ!」」

 

僕とサイラオーグ・バアルの体から放たれるオーラはより大きくなっていき、対してヘラクレスとジャンヌの顔には絶望しきった表情が浮かんでいた。

 

すると、ヘラクレスは懐に手を入れて何かを取り出す。

 

ピストル型の注射器とフェニックスの涙だった。

 

フェニックスの涙で傷を癒した後で『魔人化』をする気か!

 

それを見てジャンヌが嬉々とした声をあげる。

 

『それよ! ヘラクレス、あなたも使いなさい! あなたが「魔人化」すれば辺り一帯を吹き飛ばせる!』

 

「く、くそったれめがッ!」

 

毒づきながらヘラクレスは注射器の先端を首もとに持っていくが、その手には迷いが見られる。

 

サイラオーグ・バアルが問う。

 

「どうした、使わんのか? そこの女のように強化できるのだろう? 使いたければ使うといい。俺は一向にかまわん! それで強くなると言うのなら俺は喜んで受け入れよう! 俺はそのおまえを越えていく!」

 

威風堂々。

今の彼を表現するならこれだろう。

 

ヘラクレスはあまりもの悔しさに涙をうっすら浮かべていた。

 

「ちくしょぉぉぉぉおおおおおおおお!」

 

大声を張り上げて泣き叫ぶヘラクレスは『魔人化』の薬とフェニックスの涙を捨てた!

 

『ヘラクレス!?』

 

予想外の行為にジャンヌが叫ぶが、ヘラクレスはそれを耳に入れず、そのまま拳を構えてサイラオーグ・バアルに突っ込んでいく。

 

サイラオーグ・バアルはその姿を見て、初めて相手に構えをとった。

 

「最後の最後で英雄としての誇りを取り戻したか。悪くない」

 

サイラオーグ・バアルのその姿に、その拳にヘラクレスはプライドを甦らせたのか・・・・・・・。

 

なるほど、確かに悪くない。

 

僕は聖魔剣を構えてジャンヌに言った。

 

「どうやら彼の方が英雄としての誇りは残っていたようだね。さぁ、君はどうする?」

 

『黙れぇぇぇえええええ!』

 

狂気の表情で突っ込んでくるジャンヌ。

 

こちらは既にプライドも何もあったものではないか。

 

僕一人に追い詰められたのがよっぽど信じられないのか、半ば理性を失っているようにも見える。

 

 

サイラオーグ・バアルは拳に闘気をたぎらせ、僕は聖魔剣を一度鞘に納めて腰を落とす。

 

 

そして――――――

 

 

「この一撃で――――」

 

「果てるがいいっ!」

 

 

凄まじい衝撃が大気を揺らし、一筋の光が煌めいた。

 

 

[木場 side out]



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9話 闇の覚醒

[木場 side]

 

 

「くっ・・・・・・」

 

ジャンヌを倒した後、第二階層を解いた僕を急激な疲労感が襲った。

 

イッセー君が初めて僕達の前で第二階層を使った時もかなりの疲労具合だったけど・・・・・・今となってはその感覚がよく分かる。

 

手足が鉛のように重く、少し動かそうとするだけで筋肉痛にも似た痛みが全身を駆け巡る。

 

・・・・・慣れていない状態で短時間に二度も使った代償か。

 

「木場・・・・・おまえ・・・・・」

 

声をかけられ、振り向くとゼノヴィアとイリナさんが僕の後ろに立っていた。

 

今にも倒れそうな僕を心配してくれたのかな?

 

「大丈夫だよ。かなり疲れたけど、休めば何とかなるから」

 

 

と笑顔でそう言ったのだが・・・・・・。

 

 

「いや、そうではなくてだな。私の出番が無くなってしまったように感じてな・・・・・・・」

 

「うんうん。折角、新生エクス・デュランダルと量産型の聖魔剣を貰ってきたのにね」

 

 

どうやら僕の考えは大きくハズレていたらしい・・・・・

 

確かに僕がジャンヌを倒したことで、二人が剣士として力を振るえる相手を取ってしまったような気が・・・・・・。

 

「ハハハ・・・・・・・うん、なんかゴメンね」

 

僕は苦笑しながらそう言うしかなかった・・・・・。

 

 

とにかく僕がジャンヌを倒し、サイラオーグ・バアルがヘラクレスを倒したことで残る相手はゲオルクのみとなった。

 

むろん、曹操がどこから現れるか分かったものではないが・・・・・・

 

こちらはサイラオーグ・バアルを含め、相当な戦力がいる。

ゲオルクが例の『魔人化』を使用したとしても勝機は望めるだろう。

 

ゲオルクが倒れるヘラクレスとジャンヌを一瞥して笑んだ。

 

「強い。これが現若手悪魔か。バアルのサイラオーグ、そしてリアス・グレモリー率いるグレモリー眷属。特に木場祐斗に関してはあの赤龍帝と同じ領域に足を踏み入れたと見える。『魔人化』を使ったジャンヌでも敵わぬわけだ。しかし、先日会ったばかりだというのにここまで力を伸ばしてくるとは・・・・・・。この調子ではそちらの雷光の巫女や、聖剣使い、猫又やヴァンパイアも注意が必要のようだ」

 

ゲオルクは朱乃さん、ゼノヴィア、小猫ちゃん、ギャスパー君と視線を移していく。

 

先日の疑似空間では披露できなかったようだが、朱乃さんはアザゼル先生やお父さんの協力で堕天使の力を高める術を得ている。

内に眠る堕天使の力を目覚めさせ、雷光の威力を高めることができる。

 

一度、見せてもらったことがあるが、その姿はまるで上位クラスの堕天使のようだった。

 

 

ゼノヴィアに関しては天界で新たにデュランダルを鍛え直してきたみたいだ。

しかも、ルフェイさんから提供された『支配の聖剣』も加わりエクス・デュランダルは以前よりも強化されている。

 

デュランダル+七つ全てが揃った真のエクスカリバーというよりハイスペックな聖剣。

能力的にはあの曹操の禁手とも良い勝負が出来るかもしれない。

 

だけど、ゼノヴィアのことだからパワーに走りそうな気がして・・・・・・。

そこは後々、イッセー君に指導してもらうとしよう。

 

 

小猫ちゃんは先日の戦いから目立った強化があったわけではないが、お姉さんの黒歌から仙術と妖術を習うそうだ。

元々イッセー君から気の扱いについては習っていたし、そこに黒歌の指導も加わるとなると、小猫ちゃんもこれから伸びる可能性は大いにある。

 

しかも、軋轢があった姉から教わるというのだから、小猫ちゃんの決意も揺るがないものになっているのだろうね。

 

 

グリゴリに向かっていたギャスパー君については分からないが・・・・・・・・。

 

ふと見るとゲオルクから視線を向けられていたギャスパー君は表情を青ざめさせていた。

 

「ギャスパー、どうかしたの?」

 

部長が怪訝そうに尋ねると・・・・・・・ギャスパー君は次第に表情を崩し、そして涙を流し始めた。

 

それには眷属の皆が驚き、何事かとギャスパー君に視線を集まらせている。

 

・・・・・・何があったというんだい?

 

「・・・・・すいません、皆さん。・・・・・僕・・・・・僕! グリゴリの研究施設に行っても・・・・・強くなれなかったんです!」

 

――――っ!

 

ギャスパー君の告白に再び眷属全員が驚愕する。

 

「皆さんのお役に立ちたかったから・・・・・強くなりたかったのに! 今のままではこれ以上は強くなれないって言われて・・・・・・。・・・・・・僕はグレモリー眷属男子の恥なんです・・・・・・っ!」

 

ギャスパー君はその場で崩れ落ちていく。

 

 

しかし、その言葉に僕は違和感を感じてしまった。

 

思い出すのはサイラオーグ・バアルとのレーティング・ゲーム。

 

ギャスパー君は相手の『戦車』に何度ボロボロにされても立ち上がり、ついにはゼノヴィアが回復するまでその場を保たせることに成功している。

 

・・・・・・その時のギャスパー君は内から何かの力が漏れ出していたように見えたことをハッキリと覚えている。

 

あれがギャスパー君の潜在的な力だとすれば、強くなれないはずはない。

 

 

・・・・・・いや、ギャスパー君は今のままでは(・・・・・・・)と言った。

 

何か他の要因が足りないと考えるべきではないだろうか?

 

 

ギャスパー君の姿を見てゲオルクはつまらなさそうに息を吐く。

 

「亡き赤龍帝もこの後輩の情けない姿を見たら浮かばれないだろう」

 

その一言を聞いたギャスパー君は顔だけ上げてきょとんとした様子で漏らした。

 

「・・・・・亡き・・・・・・赤龍帝?」

 

彼は周囲を見渡す。

 

そうか、ギャスパー君だけがイッセー君がここにいない理由を知らないんだった。

 

「・・・・・イッセー先輩は? イッセー先輩がここにいないのはあの大きな怪物を止めに行っているからじゃないんですか?」

 

「ギャスパー、イッセーは―――」

 

真相を知らない彼に部長が告げようとするが、サイラオーグ・バアルが部長に視線を配らせ首を横に振った。

 

部長もそれを確認して言いかけた口を閉ざした。

 

どういうつもりなんだ、サイラオーグ・バアルと部長は・・・・・・・

 

『王』二人の視線のやり取りに僕が怪訝に思うなか、ゲオルクは口許を笑ましてギャスパー君に話始めた。

 

「そうか。君は知らなかったのか。赤龍帝は現在、行方不明になっているんだよ。この数日、彼の気配を感じとることが出来ない上に彼の姿を誰も確認していない。話に聞けば赤龍帝が最後に戦った旧魔王シャルバはサマエルの血を所持していたという。そうなれば赤龍帝がどうなったのか、何となくの予想はつくだろう? 彼はサマエルの呪いを受けて死んだ。そう考えるのが普通ではないだろうか」

 

ゲオルクはジークフリートが僕に語ったことと同じ内容をギャスパー君に聞かせた。

 

どうやら、彼ら英雄派の間ではイッセー君は完全に死んだものと認識されているようだ。

 

僕を含め部長達も彼の生存を確信している。

彼がシャルバなどに殺られるはずがない。

例えシャルバがサマエルの血を所持していたとしても。

 

もちろん、これには何の確証もない。

それでも、彼は必ず戻ると約束してくれた。

これを思い出すだけで彼は生きていると希望を持てる。

 

イッセー君はそれほどの男なのだ。

 

 

しかし、それをギャスパー君に伝えないと言うのは・・・・・・。

 

いや、まさかと思うが、サイラオーグ・バアルはギャスパー君を――――。

 

「悔やむことはない。あのオーフィスと白龍皇ヴァーリですらサマエルに打倒されたのだ。いかに赤龍帝といええども、あの呪いには打ち勝てない」

 

ゲオルクがそう告げた後、軽く笑った。

 

ゲオルクの言葉を聞いたギャスパー君は絶望しきった表情となる。

 

・・・・・・・後輩のこんな姿を見るのは耐えがたい苦痛だ。

 

「・・・・・・イッセー先輩が・・・・・・死んだ・・・・・・?」

 

ギャスパー君の頬を一筋の涙が伝った。

 

尊敬する先輩が死んだと聞かされ、彼の思考は絶望に塗り変わっているだろう。

 

ギャスパー君はアスト・アーデでのイッセー君の死を思い出してしまったのかもしれない。

 

僕達だって、あの光景を思い出す旅に絶望に呑み込まれそうになった。

それでもこうして戦えるのは彼が約束をしてくれていたからだ。

 

 

――――ギャスパー君はふらつきながら立ち上がっていく。

 

徐々に伏せていた顔も上げていった。

 

そこにあったのは感情の宿らない生気の抜けたような表情。

 

それを見た瞬間、背中に冷たいものが駆け抜けていくのが認識できた。

 

彼は小さく口を開くと一言だけ呟いた。

 

それは低く、この世のものとは思えない呪詛めいたものだった――――。

 

 

《―――死ね》

 

 

その瞬間―――――全てが黒く染まった。

 

いや、黒ではない。

それを遥かに通り越した暗黒と言える空間。

 

暗く、冷たく、光すら消滅してしまうほどの闇。

 

闇がこの区域全てを包み込んだのだ。

 

ギャスパー君の体から暗黒が滲み出ていき、周囲を黒く染めていく―――――

 

 

「なんだ、これは・・・・・・・! 暴走・・・・・禁手・・・・・・? いや、違う! では、ヴァンパイアの力か! しかし、これはあまりにも桁違いな・・・・・・ッ!」

 

突然の現象にゲオルクは驚愕し、周囲を見渡していく。

 

この光景にはゲオルクのみならず、この場にいる全員が驚くばかりだった。

 

こんな現象は見たことがない!

 

僕も禁手かと思ったけど、この力の感じからして違うものだろう。

 

だとしたら何だと言うんだ・・・・・この全部が闇に呑まれたような空間は・・・・・・・!

 

暗黒の領域と化した中央。

そこにはいっそう闇に包まれた人型が異様な動きをしながら、ゲオルクに近づいていく。

 

首をあらぬ方向に折り曲げ、肩を痙攣させ、足を引きずりながらゲオルクとの間合いを詰めていく。

 

その瞳を赤く、不気味に輝かせていた――――

 

《コロシテヤル・・・・・・! オマエラ全員、僕がコロシツクシテヤル・・・・・!》

 

発せられる声は既にギャスパー君とは別物。

呪詛、怨念、あらゆる負の感情が込められた、聞くだけで力を持つ危険な系統の声。

 

サイラオーグ・バアルもこれは自身の想像を遥かに越えていたようだ。

 

「・・・・・ギャスパー・ヴラディの中で何か吹っ切れる事柄があればと思ったのだが・・・・・・。リアス、おまえは一体何を眷属にした? こいつはバケモノの類いだぞ」

 

「ヴァンパイアの名門ヴラディ家がギャスパーを蔑ろにしたのは・・・・・・人間の血でも停止の邪眼でもなく・・・・・これを恐れたから・・・・・? 恐怖から・・・・・城と離れさせた・・・・・・?」

 

部長が声を震わせながらそう漏らしていた。

 

僕達の眼前で黒い化身となったギャスパー君が手を・・・・・いや、手らしきものを突き出した。

 

ゲオルクがすぐに反応して魔法陣を展開するが――――その魔法陣は発動する前に闇に食われていった。

 

「ッ!? 魔法でも神器の力でもない! なんだ、この力は!? どうやって我が魔法を打ち消した!?」

 

ゲオルクはそう叫びながら距離を取ると、無数の攻撃魔法陣を展開した!

そこからありとあらゆる属性の魔法フルバーストがギャスパー君に放たれる!

 

全てを吹き飛ばす気か!

 

 

しかし―――――

 

 

「なっ・・・・・!?」

 

その攻撃がギャスパー君に届くことはなかった。

 

暗黒の世界にいくつもの赤い眼が縦横無尽に出現し妖しく輝いたと思うと、全ての攻撃魔法は停止させられてしまった。

 

この領域全てに停止の邪眼を出現させたのか・・・・・・!

 

停止した魔法は闇に食われて消失していく。

 

それならばとゲオルクは霧を発生させ、それでギャスパー君を祓おうとする。

 

だが、その霧さえも闇に食われていった――――。

 

《喰う・・・・・喰ってヤッタ・・・・・・オマエの霧も魔法も・・・・・・全て喰ってヤッタぞ・・・・・》

 

言動が完全にギャスパー君のものとは違う。

もう別の存在と化していると思っていいのかもしれない・・・・・。

 

・・・・・・上位神滅具の霧でもこの闇の力に抗えない。

 

これがギャスパー君が内に秘めていた潜在的な力だと言うのか・・・・・・!?

 

もしそうだとすれば、彼の潜在能力は眷属の中でも一番なのではないだろうか。

 

この姿は常軌を逸しているというレベルではない。

 

ゲオルクが霧や魔法を駆使して攻撃を仕掛けるがその全てが停止させられ、闇に食われていく。

 

結界空間を作ろうと霧で魔法陣を展開させるが、ことごとく闇に食われていき、成形に失敗する。

 

 

すると――――

 

 

ゲオルクの周囲に変化が訪れた。

 

闇が蠢き、獣のようなものが形作られていく。

それは狼、巨鳥、ドラゴンと様々であるが・・・・・・眼が一つであったり、足が十本以上あったりとどれもまともな形をしていない。

 

闇の獣がゲオルクを囲う。

 

「くっ! 一旦引くしかない!」

 

ゲオルクは正体と能力が測りきれないギャスパー君の相手を諦め、足元に転移魔法陣を展開した!

 

逃げるつもりか!

 

ゲオルクの体が転移の光に包まれようとした瞬間――――ゲオルクの体から黒い炎が現れる!

 

黒い炎はゲオルクに絡み付き逃がさないようにしていた!

 

「逃がさねぇよ。ここまでやってくれたんだ。ただで済むわけねぇだろ!」

 

匙君だ。

匙君がヴリトラの炎でゲオルクを縛り上げたんだ。

 

黒き龍王の炎。

それを受ければ命を吸われて燃え尽きるまで絡み続ける。

 

「ヴリトラの・・・・・呪いか・・・・・!」

 

声を絞り出すゲオルク。

 

解呪に成功したと思われた黒炎は消えてはいなかった。

 

 

そして――――

 

 

闇の獣が動けない彼を喰らっていった。

 

 

 

 

 

 

闇が晴れて、元の風景に戻るとギャスパー君は路面に倒れていた。

 

ゲオルクの姿はない。

・・・・・・・あの闇の獣に完全に喰われてしまったのか?

 

部長がギャスパー君に歩み寄り、その体を抱き起こすと彼はすやすやと穏やかな寝息を立てていた。

 

先程の力を使いきって気絶したのだろうか、そこにいるのはいつものギャスパー君だった。

 

部長はギャスパー君の髪をそっと撫でる。

 

「・・・・・この子についてヴァンパイアに訊かなければいけないわね。・・・・・吸血鬼は悪魔を嫌っているから、質問に答えてくれるかは分からないけど・・・・・」

 

吸血鬼は悪魔以上に階級や血筋を重んじる。

現悪魔政府のように人間からの転生悪魔にチャンスを与えるといったことは決してしない。

 

「ヴァルハラに戻った時、興味深い話が聞けました。なんでもとある吸血鬼の名家が神滅具所有者を保有したことで、吸血鬼同士で争いが勃発してしまったそうです」

 

ロスヴァイセさんがそう話してくれた。

 

吸血鬼の業界は未だ悪魔を含め他の勢力と交渉すらしない閉鎖された世界だ。

 

その彼らが神滅具を得た・・・・・・?

 

「・・・・・それも気になりますが、今はこの状況をどうするかを考えましょう」

 

目覚めたソーナ会長が言う。

 

色々と想定外のことが起きてしまったが、こうして英雄派幹部三名を退けることができた。

 

残る問題はこの何処かにいると思われる曹操と現在も首都リリスに侵攻を続ける『超獣鬼』。  

 

『超獣鬼』の方はグレイフィア様率いるルシファー眷属に加え今ごろ美羽さん達が援軍として戦ってくれているだろう。

 

だが、それでもあの超巨大魔獣を退けられるかどうか・・・・・・。

 

あれを退けない限り、冥界の危機は去ったとは言えない。

 

 

「おっぱいドラゴンだ!」

 

シトリー眷属に守られながら避難中の子供の一人がそう叫んだ。

 

おっぱいドラゴン・・・・・?

 

まさか、イッセー君が帰ってきたというのか?

 

いや、確かに彼のオーラが感じられる!

 

ギャスパー君の変化に気をとられて気づかなかったけど、間違いない!

 

彼が帰ってきたんだ!

 

しかし、あの子供はどうやってそれを・・・・・・・?

 

「きれい!」

 

「おそら、まっか!」

 

他の子供達が空を見上げていた。

 

 

 

 

僕達もそれにつられて空を見上げると――――

 

 

 

 

空が赤く、鮮やかな紅蓮に染まっていた。

 

 

 

 

そこには恐怖など微塵も感じない。

 

――――優しく温かなオーラがこの冥界を覆っていた。

 

 

 

[木場 side out]

 

 



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10話 紅蓮の光

声が聞こえた。

 

 

 

――――助けて、おっぱいドラゴン!

 

 

――――早く来て!

 

 

――――あの怪獣をやっつけて!

 

 

 

子供達の声。

 

俺を呼ぶ子供達の声だ。

 

 

イグニスが俺に問う。

 

「イッセー、聞こえる?」

 

「ああ、聞こえるよ。しっかりとな」

 

『俺にも聞こえるぞ。相棒の登場を待っているこの声がな』

 

ふと見上げると次元の狭間の万華鏡の中身のような空に冥界の子供達の笑顔が次々に映し出されていく。

 

これは・・・・・・

 

『冥界中の子供達の想いをここに投射しているとグレートレッドが言っている』

 

冥界中の・・・・・

 

そうか、俺を待っている子供達がこんなにもいるんだな。

 

何だろう・・・・・胸の奥が熱くなる。

 

 

俺を待っている人がいる。

 

不安な気持ちもあるだろうに、笑顔を絶やさずに俺を待っている子供達がいる。

 

だったら、俺は行くしかないだろう?

 

「あなたはあの子達の希望。ヒーローならそれに応えてあげないとね」

 

イグニスはそう言うと実体を消し、剣へと戻っていく。

 

ああ、そうだな。

 

俺はこんなところでのんびりしている場合じゃないんだ。

 

『ああ、帰ろう。グレートレッド、この男をあの子達のもとへと帰してやってほしい。頼めるか?』

 

ドライグがそう言うとグレートレッドが一際大きい咆哮をあげる。

 

すると、前方の空間に歪みが生じて、裂け目が生まれていく。

 

 

感じる。

 

仲間のオーラを。

 

俺の大切な家族のオーラを。

 

 

俺は隣にいるオーフィスに言った。

 

「オーフィス、俺は行くよ。俺の居場所へ。皆が待ってるからな」

 

「そう。それは・・・・・少し羨ましいこと」

 

寂しげなオーフィス。

 

そんな顔するなよ。

 

だっておまえも―――――

 

「俺と来い」

 

俺の言葉にオーフィスは驚き目を見開いていた。

 

「おまえの居場所はこんな寂しい場所じゃない。おまえの居場所はこの俺だ」

 

俺は笑顔を浮かべてオーフィスに手を差しのばした。

 

「一緒に行こうぜ。俺の友達、オーフィス」

 

その時、最強と称された存在は微笑んだ。

 

「我とドライグは友達。我、おまえと共に行く」

 

俺とオーフィスは手を取り合った。

 

 

さぁ、行こうか。

 

 

俺達の居場所へ―――――

 

 

 

 

 

 

次元の狭間を抜け出ると――――どでかい怪獣が目の前にいた!

 

おいおい!

 

あれ、あの疑似空間で生み出されたモンスターの中で一番デカかったやつじゃねぇか!

 

後方を見れば遠目に都市部が見える。

 

そうか、あのモンスターはあの都市に向かおうとしているのか。

 

モンスターの周囲は破壊しつくされた後で、地面に大きなクレーターが無数に生まれている。

山も森も建物も全てが崩壊しているのが見えた。

 

ってか、今あのモンスターと戦っているのってグレイフィアさんとルシファー眷属か!?

 

しかも、美羽やアリス、ティアまでいる!

 

グレイフィアさんが戦うところを初めて見たけど、スゲーな!

一撃で周囲の風景が変わるほどの威力だ!

どう見ても魔王クラスの一撃だ!

 

その他のメンバーもとてつもない実力者だってことがここからでも分かる!

 

あの面子の攻撃を受けて、あのモンスターは大したダメージを負っていないのかよ・・・・・・・。

 

確か他にも巨大モンスターはいたはずだが・・・・・・

 

そうなると冥界の被害はとんでもないことになってるんだろうな。

 

うーむ、やはり一体だけでも倒しておいて良かった!

ガス欠になってでも倒して正解だったぞ!

 

『だからって、皆に心配かけても良い理由にはならないわよ?』

 

うっ・・・・・・はい、すいませんでした・・・・・・・。

 

反省してます・・・・・・・。

 

『まぁ、それでも冥界の負担は減っただろう。相棒のしたことは無駄ではない。事情を話せば許してくれるさ』

 

うぅ・・・・・やっぱりドライグは良い奴だなぁ。

 

相棒の優しさが身に染みます!

 

と、こんなところで感動している場合じゃなかった。

俺も参戦しないと。

 

俺は禁手になって鎧を纏うとドラゴンの翼を広げる。

 

「オーフィス。俺は少し行ってくるから、ここで待っててくれ。グレートレッドもオーフィスといてあげてくれないか?」

 

などとお願いをしてみるが・・・・・・・

 

グレートレッドに俺の言葉は通じているのだろうか?

 

すると、グレートレッドはコクコクとその大きな頭を上下させた。

 

『いいと言っている。少し見物させてもらうらしいぞ』

 

おおっ!

言葉が通じたのか!

 

「じゃあ、行ってくる!」

 

俺は翼を羽ばたかせ、美羽の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「美羽!」

 

俺は巨大モンスターに魔法攻撃をぶっ放している美羽の元へと降り立った。

 

近くにはアリスやティアもいて、二人も強烈な攻撃をモンスター目掛けて放っているところだった。

 

三人は俺に気づき、こちらに視線を送るが・・・・・・

 

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

 

目を丸くして呆然とする三人。

 

 

・・・・・・あれ?

 

反応薄くない?

 

 

あ、攻撃の途中だからかな?

 

『イッセーと認識してなかったりして』

 

そっち!?

 

いや、それはないだろう!?

 

『だって二日も音信不通だったのよ? 死んだと思われてるかもしれないじゃない』

 

あー、なるほど・・・・・・って酷い!

 

俺は死んでません!

気絶はしてたけど、死んではないから!

 

と、とりあえず、顔見せれば信じてくれるかな・・・・・?

 

俺は一旦鎧を解除して、三人に笑みをひきつらせながら口を開く。

 

「え、えーと、ただいま?」

 

頭に手を当てながらそう言うと―――

 

「お兄ちゃん!」

 

「イッセー!」

 

「うおっ!?」

 

美羽とアリスが飛び付いてきて、俺は地面に押し倒された!

 

「イダダダダダダダダダダダッ! 二人とも力強い! 絞めすぎ!」

 

二人が俺を抱き締める力が強すぎて、全身が悲鳴をあげてるよ!

 

あ!

 

今、変な音したよ!?

そろそろ離してくれないとマジで死ぬ!

 

帰還早々死んでしまう!

 

 

「信じてた・・・・・! 帰ってくるって信じてた・・・・!」

 

「何でこんなに遅いのよ・・・・・! バカァ!」

 

二人が涙を流しながら、そう声を漏らした。

 

美羽は俺の胸に顔をうずくめ、アリスは泣きながら俺の胸をドンドン叩いていてくる。

 

・・・・・やっぱ、二人にもかなり心配かけてたんだな。

 

「ゴメン、遅くなった」

 

俺は二人の頭をそっと撫でる。

 

二人は何も答えないけど、うんうん首を縦に振っていた。

 

ティアが俺の方に歩み寄ってきた。

 

「やっと帰ってきたか」

 

「ティア・・・・・・」

 

俺が声をかけるとティアは俺の側にしゃがみこむ。

 

そして、俺の頬を引っ張った。

 

「え、ちょ、ティア!?」

 

驚く俺だが、ティアはクスリと微笑む。

 

「心配させおって。バカ者め」

 

ハハハハ・・・・・・

 

どうやらティアも俺のことを心配してくれていたらしい。

 

これは他の皆にも相当心配かけてるんだろうなぁ・・・・・。

 

あー、後で皆にも謝らないと。

 

そんなことを思慮していると一つの人影が俺の近くに降り立つ。

 

「やはり一誠さんでしたか」

 

さっきまで凄まじい魔力攻撃を繰り出していたグレイフィアさんだ。

 

いつものメイドの格好ではなく、髪を一本の三つ編みに纏めあげて、ボディラインが浮き彫りになる戦闘服を身に付けている。

 

これがグレイフィアさんの戦闘服・・・・・・

 

前々から思っていたけどグレイフィアさんもスタイル抜群だよね!

本当に子供一人産んでますか疑いたくなるほど、腰に括れがある!

 

おっと、いかんいかん。

スケベ心を出している場合じゃなかった。

 

「はい、ただいま戻りました」

 

「連絡が取れないとのことだったので心配していましたが、無事で何よりです。戻って来てばかりで申し訳ないのだけれど、『超獣鬼』を止めるのを手伝っていただけますか?」

 

「ジャバ・・・・ジャバウォック・・・・・?」

 

「あの巨大魔獣の名前です。アザゼル総督がそう名付けました」

 

へぇ、あの巨大モンスターはそういう名前なのか。

 

あれ・・・・・そういや・・・・・・。

 

 

俺は目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。

 

感知範囲を広げていき―――――皆の気を見つけた。

 

都市の方、それもオカ研メンバーだけじゃなくて、シトリーとサイラオーグさんの気も感じる!

皆は無事のようだ!

良かった!

 

しかし、アザゼル先生はいないようだ。

 

てっきり皆と一緒にいると思ったのに・・・・・・。

 

俺はグレイフィアさんに尋ねた。

 

「アザゼル先生はどこに? 皆と一緒じゃないんですか?」

 

「アザゼル総督は今、サーゼクスと共に冥府にいます」

 

「冥府?」

 

「はい。冥界の混乱に乗じて冥府の神ハーデスが介入してこないとも限りませんから」

 

なるほど・・・・・。

 

確かにあの疑似空間でも大量の死神を送りつけてくるわ、伝説の死神を送りつけてくるわ、あげくの果てには英雄派とシャルバの野郎にも手を貸していたからな、あの骸骨神様。

 

放っておけば、この機に仕掛けてくるのは容易に想像できる。

 

アザゼル先生はハッキリ嫌いと言っていたけど、俺も今回の件で嫌いになったね。

どっかで仕返ししてやりたいと思える程には。

 

『それは私も賛成。そこで良い案があるんだけど』

 

良い案?

 

どんな?

 

『それはね――――』

 

イグニスがその良い案とやらを説明してくれる。

 

ふむふむなるほど。

 

中々面白いこと言うじゃないか。

 

『でしょう?』

 

クスクスと笑うイグニス。

 

俺はその案に乗った!

 

ドライグはどう思う?

 

『ふむ・・・・・神に喧嘩を売るなど中々過激だが・・・・・面白い。それでこそ赤龍帝というものだ』

 

よーし、多数決の結果全員一致だ!

 

それじゃあ、一発かましてやるか!

 

俺はグレイフィアさんに視線を戻す。

 

「グレイフィアさん、いくつかお願いがあります。美羽達も協力してくれ!」

 

俺がその作戦を告げると、この場にいた全員が不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

再び鎧を纏った俺は超巨大モンスター『超獣鬼』の眼前に飛翔した。

 

人型だけど、ドラゴンやらライオンやら他の生物の色々な部位がごちゃ混ぜな怪物。

まるでキメラっていう合成獣だな。

目も六つあるし。

 

サイズで言えばグレートレッドよりも大きい。

 

ったく、シャルバの野郎・・・・・・面倒なものを冥界に送り込んでくれたな!

 

『文句を言っても仕方があるまい。今はあの怪物を倒すことに専念することだ』

 

分かってるよ。

 

それじゃあ、おっ始めるか!

 

二人とも頼むぜ!

 

『応!』

 

『さっさとやっちゃいましょうか!』

 

 

俺は瞑目し、意識を集中させた。

 

 

籠手の宝玉から燃え盛る炎のような紅蓮のオーラが発せられ、俺の体を包み込む。

 

鎧の周囲にバチッバチチチッとスパークが飛び交った。

 

 

さぁ、魅せてやろうぜ。

 

俺の・・・・・俺達の可能性を!

 

 

ドバァァァァァァァァッ

 

 

俺を覆っていた紅蓮のオーラが膨れ上がり、そして弾け飛んだ!

 

そこから現れるのは―――――

 

 

「禁手第三階層――――天翼!!」

 

 

今の鎧は赤色から鮮やかな紅蓮に変わり、全体的に鎧が鋭くなっている。

 

特徴的なのは背の鳥類を思わせる赤い翼。

鳥類と言っても羽の一本一本は鋭く、刃物のようだ。

 

纏うオーラは天武や天撃よりも落ち着いた感じだ。

しかし、そのオーラは濃密で―――――

 

 

ゴアアアアアアアアアアアアッ!!

 

 

俺を認識したからか、『超獣鬼』が咆哮をあげる!

 

牙剥き出しの狂暴な口内から危険な火の揺らめきを確認できる!

 

炎を吐く気だ!

 

『相棒、あの炎が都市部に向かうのはマズイ。美羽達も準備中のようだしな』

 

分かってるよ、ドライグ!

 

 

ゴバァァァァァァァァァァンッ!

 

 

吐き出される大質量の火炎球!

確かにあんなのが都市に直撃したら広範囲で吹き飛ぶ!

 

避けるのがマズイならここで防ぎきってやるさ!

 

翼から八つの大きな羽が飛び出し、それが宙を駆け巡る!

 

俺が手を突き出すと、その内の三つが大きく三角形を描くように陣形を組んだ。

 

「フェザービットォッ!」

 

『Barrier!!!!』

 

その音声と共に各々の羽の先端から赤いオーラが放たれ、三つの羽を繋ぎ会わせる!

 

そして出来るのは巨大な三角形の形をしたクリアーレッドの障壁!

 

その障壁は迫る巨大な火炎を見事に防ぎきった!

 

「一誠さん。冥府にいるサーゼクスと通信が取れました。映像もそちらに送れます」

 

「ボク達も準備オーケーだよ!」

 

グレイフィアさんと美羽が準備完了の知らせを告げてくる。

 

よし、それならさっさと片付けるとするか!

 

俺とグレイフィアさんは仲間に指示を出す。

 

「アリス!」

 

「総司さん! 『超獣鬼』の足を両断してください!」

 

俺はアリスにグレイフィアさんは新撰組の羽織を着た侍にそう指示する。

 

「いくわ!」

 

「了解です、グレイフィア殿」

 

アリスと総司と呼ばれた侍は『超獣鬼』の足元に詰めより―――――それぞれ、『超獣鬼』の足を両断した。

 

アリスは左足を総司と呼ばれた侍は右足。

 

同時に両足を切断された『超獣鬼』はバランスを崩し、地響きをたてながら倒れていく。

 

その落下点には美羽とティアとグレイフィアさん、それから他のルシファー眷属が巨大な魔法陣を展開し始めた。

 

斬られた足が既に再生しつつある!

 

傷口から触手みたいなのが生えて、斬られた足を繋げようとしていた!

しかも速い!

 

ちぃっ!

間に合ってくれよ!

 

今からする技は地表付近で使って良い技じゃないんだからな。

 

俺がそう願っていると、どうにか魔法陣は完成したようで、『超獣鬼』の下に超巨大な魔法陣が輝きだした!

 

「上に上げるよ、お兄ちゃん!」

 

美羽がそう叫ぶ!

 

刹那、『超獣鬼』は魔法陣からの衝撃を受けて、遥か上空に吹き飛ばされた!

 

かなり高いぞ!

 

これなら!

 

「プロモーション『女王』!!」

 

 

 

キィィィィィィィィィィンッ!!!

 

 

 

女王に昇格すると同時に甲高い音が鳴り響き、鎧から赤い光が放たれる!

 

バッと翼を大きく広げると羽の隙間から赤い粒子が大量に放出されていく!

 

俺はイグニスを展開し上空に向けて構える。

 

すると、イグニスの刀身に先程射出された八つのフェザービットがカシャカシャという音を出しながら変形、イグニスと合体していく。

 

出来上がるのは刀身が三メートル近くはある超巨大な剣。

 

 

 

実を言うとこの天翼、元々俺のパワーアップを目的とした形態ではない。

 

もちろん通常の禁手よりも出力は上だが、天武や天撃と比べると攻撃力が低い。

打撃力は天武の方が高いし、砲撃の破壊力なら天撃の方が上だ。

この二形態は俺自身のパワーアップに主眼をおいてるからな。

 

 

では、天翼はどこに主眼をおいているか。

 

 

それはイグニスと同調し、イグニスが持つイグニスとしての力(・・・・・・・・・)を完全に引き出すこと。

 

 

それはほんの僅かな時間だが、イグニスの力をフルで引き出せるのさ!

 

もちろん天翼の特性はそれだけじゃない。

他にも色々な機能がついている。

フェザービットもその一つだ。

 

まぁ、それはこの場ではいいだろう。

 

 

完成した巨大な剣を振り上げると、刀身から莫大なオーラが解き放たれる。

 

放たれたオーラは天を貫き、その太さは『超獣鬼』の体長を遥かに超える!

 

それまるで紅蓮に輝く光の柱!

 

イグニスから放たれる莫大なオーラは冥界の空を赤く染め、大地を揺らし始めていた!

 

「これは・・・・・・冥界そのものが揺れている・・・・!?」

 

グレイフィアさんが驚愕の声を漏らしていた。

 

それだけイグニスの力が凄まじいと言うことだ!

 

『まだ本来の力の一部だけどね』

 

こんなことを軽く言ってくれるから家の女神様は恐ろしい!

・・・・・・が、心強くもある!

 

ドライグ、そろそろいけるか!

 

『・・・・・・Ⅲ・・・・・・Ⅱ・・・・・・・Ⅰ!!』

 

『Full Charge!!』

 

『今だ、やれ!』

 

ドライグからの合図!

 

今だ!

 

「ロンギヌス・・・・・・ライザァァァァァァアアア!!!」

 

剣を振り下ろしたと同時に莫大な紅蓮の奔流も次元を斬り裂きながら、『超獣鬼』目掛けて振り下ろされる!

 

そう、こいつは砲撃じゃない!

超巨大な斬撃なのさ!

 

「このままくたばりやがれぇぇぇええええええ!!!」

 

イグニスの絶大な力は『超獣鬼』を容易く呑み込んでいった――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

イグニスとの同調が終わり、紅蓮のオーラによる斬撃も終わる。

 

『超獣鬼』の姿はもうない。

イグニスの力に完全に消し飛ばされたからな。

 

それと、空間が大きく斬り裂かれたせいで万華鏡空間が一面に広がってる。

これは直るのに時間かかりそうだ・・・・・・・。

 

 

・・・・・・っと、ヤバイ。

 

 

突如、俺を激しい疲労感が襲った。

 

今の技は威力は絶大、神すらも容易に消し飛ばす威力を持つ。

しかし、当然ながら消耗は尋常じゃない。

 

現に俺はあの疑似空間でこれを使って二日も気絶してたからな。

 

まぁ・・・・・冥府には今の映像を送れたみたいだし良しとするか?

 

『ククク・・・・・今頃ハーデスを含め死神共は恐々としているかもしれんな。まさか、こんな形で我らから警告を受けるとは思わなかっただろう』

 

俺の意図が伝わっていると良いけどな。

 

 

 

――――次はない。俺の家族と仲間、そして子供達をも傷つけると言うのなら、神だろうと何だろうと、その時は迷わず消し飛ばす。

 

 

 

天翼の状態が解け、そのまま通常の禁手すら維持できなくなった。

 

いやー・・・・・・流石にキツいなこの技。

 

絶対に連発はしたくない。

 

『連発するような技ではないだろう?』

 

『それ以前に今のあなたでは連発できないでしょ?』

 

うん、ごもっともで。

 

空中で悪魔の翼を広げて、何とか体のバランスを維持するが・・・・・・力が抜けそうになる。

 

そこに美羽が駆け付けて、俺の体を支えてくれた。

 

「大丈夫?」

 

「あー、ありがとな。フラフラするけど平気平気」

 

などと言う会話をしながら近くの建物の屋上に降りる。

 

屋上に足をつけた瞬間、その場にへたりこんでしまった。

 

俺を追いかけてアリスとティアもこの場に現れる。

 

ティアが息を吐きながら言う。

 

「イッセー・・・・・。あのような技をいつの間に得ていたのだ? まともにくらえば神クラスですら消し飛ぶぞ」

 

「まぁね。ただ、使った後はこの様でさ。ここぞという時にしか使えないんだよね」

 

『皆と別れてから、この技を使ってねー。そのまま気絶しちゃったのよねー』

 

・・・・・・・あ、チクられた。

 

いや、自分で言うつもりだったけどさ・・・・・・もう少しタイミングを見図るつもりだった。

 

ツッコミたいけどスタミナが・・・・・・

 

『そして起きてからは私とにゃんにゃん』

 

「うおぉい! 根も葉もないこと言うなよ!」

 

『ツッコむ気力あるじゃないか』

 

うるせぇよ、ドライグ!

ここで止めないと厄介なことになるでしょーが!

 

「ねぇ、イッセー・・・・・・。今のはどういうことかしら?」

 

ほら、厄介なことになった!

 

アリスがこめかみに青筋立ててるよ!

 

「お、おち、おち、落ち着け! 今のはイグニスがふざけて」

 

『でも、裸で抱き合ったわ♪』

 

「あんたが脱がせたんだろ!?」

 

「もうっ! 私達が戦っている時にあんたはにゃんにゃん!? 舐めてるの!? ねぇ、舐めてるの!?」

 

「にゃんにゃん言うな! 俺は無実だ! なにもしてない!」

 

『私のおっぱいに見とれてたくせに』

 

「うっ・・・・・・それは・・・・・・」

 

「なんでそこで言葉が詰まるのよ!? あんたやっぱり!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「おい、イッセー。今のは聞き捨てならんな。やはりイグニスとにゃんにゃんしたのか?」

 

『プラスでオーフィスちゃんもね』

 

「「「3(ピー)!?」」」

 

おいぃぃぃぃぃぃ!!

 

女の子がこんな公の場でそんなことを叫んじゃいけません!

 

近くにグレイフィアさん達もいるからマジで止めてくんない!?

 

つーか、してねぇし!

 

 

 

 

したいという気持ちは・・・・・・・否定できないけど。

 

 

 

 

あ、そうだそうだ。

 

イグニスの言葉で思い出したけど、オーフィスを待たせたままだった。

 

「ちょっと待っててくれ。オーフィスを待たせてるんだ」

 

「オーフィス? 奴も近くにいるのか?」

 

「ああ、グレートレッドのところにな」

 

「それなら、すぐそこに来てるが」

 

「え?」

 

ティアが指差す方を見ると俺達の上空。

 

巨大な赤いドラゴン――――グレートレッドの姿があった。

 

こっちまで来てくれたのか?

 

「オーフィス! 終わったぞ!」

 

と、俺が手を振ってそう言うとグレートレッドの頭からオーフィスが降りてきた。

 

「ドライグ、帰る?」

 

「ああ。その前に皆と合流しないとな。付いてきてくれるか?」

 

「我、ドライグと友達。我はドライグについていく」

 

コクリと可愛く頷きながら了承してくれた。

本当に素直で純粋だな。

 

「とうとう無限の龍神まで引き込んだか。いや、オーフィスがイッセーに惹かれたのか? どちらにせよ、ここまで来るとイッセーの人を惹き付ける力というのは凄まじいな」

 

ティアが顎に手を当てて何やら頷いているが・・・・・・。

 

引き込んだとか、そんなんじゃなくて友達になっただけなんだが・・・・・・・

 

ま、いっか。

 

 

『ほう、それは本当か?』

 

ドライグが少し驚いたような声を漏らした。

 

どうした?

 

『喜べ、相棒。朗報だ。グレートレッドが相棒のオーラを回復してくれるらしいぞ』

 

おおっ!

 

マジでか!

 

『なんでも面白いものを見せてもらった礼だそうだ。グレートレッドに気に入られたな』

 

グレートレッドに視線を送ると、グレートレッドは俺を真っ直ぐ見ていた。

 

その大きな目が輝くと、グレートレッドから赤いオーラが放たれ、それが俺の中に入ってくる。

 

力が戻ってくる!

マジで回復してくれたのか!

 

俺の回復が終わるとグレートレッドの目が再び輝き、空に歪みが生じていく。

 

歪みは広がりを見せて、やがてグレートレッドが潜れるほどの大きさとなる。

穴の向こうに次元の狭間の万華鏡空間が認識できた。

 

「サンキューな、グレートレッド!」

 

別れる前にお礼をと思い、そう言う俺。

 

それが伝わったのかグレートレッドは再び俺に視線を移した。

 

そして、大きな口を開けた。

 

 

 

 

《おっぱい、おっぱい》

 

 

 

 

な、なんだと!?

 

初めて聞いたグレートレッドの言葉が・・・・・おっぱい!?

 

《おっぱい、おっぱい、さんぴー》

 

おいぃぃぃぃぃぃ!!

 

誰だグレートレッドにそんな言葉教えたやつ!

 

つーか、最後だけ違う!

 

さっきの会話を聞いてたな!?

 

「いま、最後・・・・・・」

 

「ええ、最後だけ違かったわね」

 

「やはりイッセーはイグニスとオーフィスの二人と」

 

違う!

 

あれは君達のせい!

俺じゃない!

 

あ!

 

言うだけ言って帰っちゃったよ、グレートレッド!

 

帰ってきて!

せめてこの三人の誤解を解いてから帰ってください!

 

 

 

カムバーーーーークッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、俺の想いは届くことがなく・・・・・・・

 

しばしの間、俺は三人に事情を話すだけで精一杯となった・・・・・・・

 



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11話 白銀の極覇龍

「快適」

 

胡座をかいた俺の上でオーフィスがお座りしている。

くつろいでいるようで・・・・・

 

『超獣鬼』を倒した俺達は、後のことはグレイフィアさんに任せて都市部の方に向かっていた。

 

そんでもって、俺と美羽、アリス、そしてオーフィスの四人はドラゴンの姿となったティアの背に乗って移動していた。

 

オーフィスと同じ感想になってしまうが、ティアの上は中々に快適だ。

 

街を見渡すと至るところから煙や火が上がっていて、道路や建物も破損しているものが多く見られる。

 

「敵さんも随分暴れてくれたみたいね」

 

「『禍の団』・・・・・グレモリー領にも旧魔王派の残党、英雄派の構成員がいたからね。向こうにとっては拠点を落とす絶好の機会だし」

 

アリスと美羽が街の被害状況を見ながらそう呟く。

 

ま、そうだろうな。

 

特に旧魔王派なんかは調子に乗って暴れたんだろう。

何と言ってもあのシャルバのクソ野郎が所属してた組織だし。

 

人の気配が感じられないのは、避難が完了したからだと思いたい。

 

最低でも死人は出ていて欲しくないと切に願うよ。

 

「・・・・・西の方」

 

足の上にお座りしているオーフィスがとある方向を指差してそう告げた。

 

「西? あー、なるほど・・・・・・確かにリアスや木場の気配が感じられるな。って、覚えていたのか?」

 

「アーシアとイリナの気配、覚えた」

 

おー。

流石は龍神様だ。

 

俺はオーフィスの頭を撫でながらティアに言う。

 

「そう言うわけでティア。西の方に頼むよ」

 

「了解だ。・・・・・・しかし、イッセーよ。オーフィスになつかれたのか?」

 

なつかれた・・・・・・・かな?

 

どうやらオーフィスは俺の膝の上が気に入ったみたいなんだよね。

さっきからここを離れようとしないんだ。

 

まぁ、俺としては可愛いからこれで良いんだけど・・・・。

小猫ちゃんみたいだ。

 

それから少し経った時だった。

皆のオーラを近くに感じた。

 

更に進むと人影が視認できた。

 

おー、いたいた!

 

リアスにアーシア、朱乃、小猫ちゃん、木場、ゼノヴィア、イリナ、レイナ、ロスヴァイセさん!

 

匙とソーナ!

 

そして、サイラオーグさんにあのでっかい獅子!

 

気になるのがギャスパーなんだけど・・・・・・気絶してるのか? 

 

 

皆も俺達のことに気づいて上を向いた。

 

俺はティアの背中から飛び降り、皆の前に着地!

いやー、ようやく帰ってこれたぜ!  

 

「悪いな、遅く―――」

 

俺がそこまで言いかけると、俺の元にリアス、アーシア、朱乃、小猫ちゃんが駆け寄ってきて、抱きついてきた。

 

「よく・・・・・帰ってきてくれたわ」

 

「イッセーさん! イッセーさんイッセーさんイッセーさん!」

 

「・・・・・私を置いていかないで・・・・・あなたのいない世界なんてもうゴメンなのだから・・・・・」

 

あらら、皆、大泣きしちゃってる。

 

美羽達の時と同じだ。

 

「うん、私も泣いてないぞ。私が選んだ男は死んでも死なないからな」

 

「なによ! 泣いてるじゃない! 私は無理せずに泣くもん! うぇぇぇぇぇんっ!」

 

「グスッ・・・・・良かった・・・・・本当によかったぁぁぁああ!」

 

ゼノヴィアとイリナとレイナは涙ぐんでいる様子だった。

 

心配してくれてありがとうよ!

 

 

・・・・・と、言いたいところだが・・・・・

 

う、うーん・・・・・・ここまで心配かけてたとなると、言いづらい。

 

新技使って気絶してただけだもんな・・・・・・。

 

いや、ここは正直に言って謝るとしよう!

 

「やはり無事だったのですね。流石です」

 

ロスヴァイセさんも俺の帰還を喜んでくれていた。

 

「まぁ、そう簡単には死にませんよ」

 

俺も笑顔でそう返す。

 

実際、あんな奴に殺られるほど柔な鍛え方はしてないってね。

 

「あの現象はやはりおまえが起こしたものなのか?」

 

サイラオーグさんが少し離れたところからそう尋ねてきた。

 

あの現象・・・・・?

 

サイラオーグさんが指差すのは上――――真っ赤に染まった空だ。

 

そういやロンギヌス・ライザーの影響がまだ残ってたな。

 

「ええ。さっき『超獣鬼』倒したときに少し」

 

にしても、あれから時間経ってるのにこれだけの範囲に影響が残り続けるってスゲーよな。

 

これがイグニスの力、か・・・・・・。

 

本来の力はどれ程のものか気になるな。

 

『それはイッセーが今よりももっと強くなってからよ』

 

今よりももっと・・・・・。

 

一体どれほどの力が必要になるのか、想像するだけで恐ろしい。

 

『あわてる必要なんてないわ。今でも十分に強いんだし、ゆっくりと鍛えていけば良いのよ』

 

それは分かってるんだけどさ・・・・・・

 

『どうかしたの?』

 

うん、まぁ、なんと言うか・・・・・イグニスの本当の名前ってのが気になっててさ。

 

いつかはその名前で呼んでみたいって思ってるんだ。

 

『ふふふ。そうね。私もイッセーに本当の名前で呼んでもらいたいかも。――――あなたなら、いつかはそこに辿り着ける。私はその時が来るまでのんびり待ってるから』

 

そっか・・・・・。

 

それなら、待っててくれ。

その名前で呼ぶ日が来るように俺も頑張るよ。

 

「やっぱりあれはイッセー君の仕業だったんだね」

 

声をかけてきたのはギャスパーを抱き抱えてる木場。

ギャスパーのやつはスヤスヤ寝息立ててるな。

 

あれ?

 

木場の雰囲気が変わったような・・・・・・。

あの疑似空間で別れるまでとはどこか違ってて・・・・・・。

 

木場が近づいてきたら急に寒気が・・・・・。

 

「なんか変わった・・・・・か?」

 

「まぁね。イッセー君や皆のお陰さ。僕も次のステージに辿り着くことが出来たよ」

 

――――っ!

 

ってことは木場も第二階層へと至ったのか。

道理で雰囲気が違うわけだ。

 

「やっぱりおまえはスゲーよ。禁手を得てからの成長早すぎだろ」

 

俺が笑いながら言うと、木場は微笑みながら首を横に振った。

 

「いや、まだまだだよ。僕の目標はイッセー君だからね。これからも精進していくつもりさ」

 

目標は俺ね・・・・・。

こいつのことだから、うかうかしてるとマジで抜かれそう・・・・・・。

 

お、俺も抜かれないように修行せねば!

 

顔で負けてる分、実力では勝っておきたい!

 

『やはりそこなのか相棒・・・・・』

 

そーだよ!

 

イケメン王子には一つでも多く勝っておきたい!

顔では勝てないから!

 

「シャルバはサマエルの血を使ってこなかったのかい?」

 

木場がそう尋ねてくる。

 

「あぁ、あの矢な。あんなもん食らうかよ。・・・・・ってか、なんでそのこと知ってるんだ?」

 

「ジークフリートが言っていたんだ。だからそこが気になってたんだけど・・・・・・やっぱりイッセー君は凄いや」

 

ジークフリートから?

 

あっ、木場の腰にあいつが使ってた魔剣が!

しかも、グラムまで持ってやがる!

 

・・・・・さっきから感じてた寒気はこれかよ・・・・・

 

とりあえずグラムは異空間にでも仕舞ってもらうとして、ジークフリートは木場が倒したのかな?

 

何にしても第二階層に至るわ、強力な魔剣はゲットするわで少し会わないうちにメチャクチャ強化されてないか!?

 

「ところでイッセー君はこの二日間なにを? 君がそれほど時間を要した理由が少し気になるんだけど・・・・・。あ、もしかしてあの疑似空間に残った『豪獣鬼』と戦っていたのかい?」

 

うっ・・・・・・

 

ここでそれを聞いてきますか・・・・・・。

 

ま、まぁ、確かに皆にも心配かけたし説明する義務はあるよね・・・・・・。

 

俺の後ろで美羽とアリスとティアの三人がため息ついてる・・・・・・。

 

と、とりあえず、初めから話そうか。

 

あのデッカイ怪獣と戦ったのは事実だしな。

 

「実はな――――」

 

『私とオーフィスちゃんとにゃんにゃん』

 

 

 

 

 

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

 

 

 

 

 

この後、事情を知らないオカ研女性陣から問い詰められたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・・・。なんと言うか心配してたのがバカらしくなりました」

 

ロスヴァイセさんが呆れたと言わんばかりの表情でため息をついていた。

 

「兵藤ぉぉぉぉおおお!! 俺達が必死こいて戦ってる時にそんなことを! とりあえず一発殴らせろぉぉぉおっ!!」

 

匙なんてキレてるし・・・・・。

こいつ・・・・・・俺がイグニスとオーフィスの二人と裸でくっついてたところしか反応してねぇ。

 

ま、まぁ、確かに皆が戦ってる時にアホなことしてたのは認めるしかないよね・・・・・。

 

ただ、俺はほとんど無実だということをご理解していただきたい!

 

あと、殴らせはしない。

痛いし。

 

「ですが、あの『豪獣鬼』や『超獣鬼』を倒すほどの技です。イッセー君が消耗するのも無理はありません。同盟軍はアジュカ・ベルゼブブ様が作られた術式が無ければダメージを与えられなかったのですから」

 

ソーナが俺を擁護してくれた!

 

うぅ・・・・・なんか嬉しいなぁ・・・・・・俺を庇ってくれる人がいた!

 

「イグニス達とのことはともかく、イッセーが動けなかった理由は納得できたわ。流石はイッセーね」

 

リアスも頷いて納得してくれたよ!

流石は俺の主様だ!

 

「私はイッセーさんがご無事なら大丈夫です! イッセーさんが無事に帰ってきてくれただけで嬉しいです!」

 

アーシアぁぁぁああ!

 

なんて良い子なんだ!

ついついギュって抱きしめてしまうじゃないか!

 

恥ずかしそうにモジモジしてるアーシアちゃん、可愛いなぁ!

心の底から癒されるぜ!

 

「それにしてもグレートレッドと遭遇したというのは驚きです」

 

ロスヴァイセさんが唸る。

 

うん、俺も驚いたわ。

まさか、グレートレッドと一緒に帰ってくることになるなんてな。

 

 

 

 

「――――強者を引き寄せる力か。首都リリスを壊滅させるモンスターという情景を見学しに来たら、まさか、グレートレッドと共に君が現れるなんてね」

 

第三者の声が聞こえてくる。

 

振り向けばそこには曹操の姿。

 

 

・・・・・向こうから出向いてくれたか。

 

 

皆の気を探ったときにいるのは気づいてたからな。

事情を伝えたら、こいつを殴りに行こうと思ってたんだけど・・・・・・。

 

行く手間が省けたようだ。

 

曹操は倒れる仲間を見て目を細めていた。

 

「・・・・・僅かな間でここまでの成長を遂げたか。グレモリー眷属の成長率、ここまで来ると異常だな。ヘラクレスはともかく、『魔人化』を使用したジャンヌ、そしてジークフリートまでやられるとはね。・・・・・・ゲオルクもやられたのか?」

 

そうそう、俺も皆からここまでの経緯を聞いて驚いたことがいくつかあったんだ。

 

その一つはもちろん、木場の進化だ。

変な薬を使ってパワーアップしたジークフリートとジャンヌを倒したって言うんだからな。

 

 

それともう一つはギャスパーについて。

俺が死んだと言う誤報をゲオルクから聞かされたギャスパーはとてつもない覚醒をしたらしく、ゲオルクを瞬く間に倒してしまったらしい。

 

・・・・・ただ、その力は不気味で恐ろしいものだったと聞かされた。

言動すらギャスパーのものではなかったとのこと。

 

ギャスパーに眠る力・・・・・・一体何だと言うんだ?

 

 

曹操の視線が俺へと移る。

 

「旧魔王派から得た情報ではシャルバ・ベルゼブブはサマエルの血が塗られた矢を持っていたと聞いたのだが・・・・・」

 

「ああ、持ってたな。だがな、俺があんなもん食らうと思うか?」

 

「ふっ・・・・・確かにその通りか」

 

曹操は俺の言葉に納得したようで笑みを浮かべていた。

 

さてさて、こいつとこうして出会った以上は逃がすわけにはいかねぇな。

 

一歩前に出て、気を高めていく。

 

こいつは今まで散々やってくれたからな。

 

ここで決着を―――――

 

 

その時、俺の視界の隅で不気味な波動が出現した。

 

装飾が施されたローブ、道化師のような仮面をした者が現れる――――。

 

あいつは・・・・・・最上級死神のプルート!

鎧を纏った先生と互角にやり合ってた死神じゃねぇか!

 

《先日ぶりですね、皆さま》

 

プルートの登場に曹操が嘆息する。

反応からして予定外の登場のようだ。

 

「プルート、なぜあなたが?」

 

《ハーデス様のご命令でして。もしオーフィスが出現したら、何がなんでも奪取してこいと》

 

プルートの視線が俺の隣にいるオーフィスに注がれる。

 

ハーデスの野郎、まだオーフィスを狙ってやがるのかよ!

執着しすぎだろ!

 

俺はオーフィスの前に立ってプルートに鋭い視線をぶつけた。

 

「オーフィスは渡さない。おまえらに連れていかれたら、ろくでもないことになるのは目に見えているからな」

 

《赤龍帝・・・・・。ハーデス様に宣戦布告をしたようで。なんとも傲慢な方です》

 

「はっ! 何とでも言いやがれ。俺はな・・・・・仲間を傷つけられるのが一番腹立つんだよ・・・・・・ッ!」

 

俺が放った全力の殺気で路面にヒビが入り、空気が震え出す。

 

曹操をやる前にまずはこのむかつく死神から片付けようか――――。

 

「お前の相手は俺がしよう。―――最上級死神プルート」

 

――――っ!

 

再びこの場の誰でもない者の声が聞こえてきた。

 

俺達と曹操、プルートの間に光の翼と共に降りてきたのは、純白の鎧に身を包む男。

 

「ったく、ここで登場かよ――――ヴァーリ」

 

「悪いな、兵藤一誠。こいつは俺がもらうぞ」

 

なんでこうも次々に登場してくるのかね!

俺の帰還に合わせて総登場ですか!?

 

俺の目の前でヴァーリがプルートに言う。

 

「あのホテルの疑似空間でやられた分をどこかにぶつけたくてな。ハーデスか、英雄派か、悩んだんだが、ハーデスは美侯たちに任せた。英雄派は出てくるのを待っていたらグレモリー眷属がやってしまったんでな。こうなると俺の内にたまったものを吐きだせるのがお前だけになるんだよ、プルート」

 

そう言うヴァーリは普段と変わらない口調だが、語気に怒りの色が見えている。

 

プルートは鎌をくるくると回すとヴァーリにかまえた。

 

《ハーデス様のもとにフェンリルを送ったそうですね。先ほど、連絡が届きました。神をも殺せるあの牙は神にとって脅威です。―――忌々しい牽制をいただきました》

 

「いざという時のために得たフェンリルだからな」

 

《各勢力の神々との戦いを念頭に置いた危険な考えですね》

 

「あれぐらいの交渉道具がないと神仏を正面から相手にすることが出来ないだろう?」

 

《まぁ、いいでしょう。しかし、真なる魔王ルシファーの血を受け継ぎ、なおかつ白龍皇である貴方と対峙するとは・・・・・・。長生きはしてみるものですね。―――貴方を倒せば私の魂は至高の頂きに達するでしょう》

 

歴代最強の白龍皇VS伝説の最強級死神か!

 

「兵藤一誠は覇龍とは全く違う力を極めようとしている。だが、俺は違う」

 

 

ドンッ!

 

 

そう叫んだヴァーリが特大のオーラを纏い始める!

この野郎、開幕全開かよ!

 

ヴァーリはとんでもない質量のオーラを辺り一帯に放出しながら言う。

 

「俺は俺だけの道を極める。ーーーー歴代所有者の意識を完全に封じた、俺だけの『覇龍』を見せてやろう」

 

光翼がバッと広がり、魔力を大量に放出させる。

 

純白の鎧が神々しい光に包まれ――――

 

「我、目覚めるは―――律の絶対を闇に落とす白龍皇なり―――」

 

各部位にある至宝から闘志を宿した声が響き渡る。

こいつは歴代の白龍皇の声か。

 

『極めるは、天龍の高み!』

『往くは、白龍の覇道なりッ!』

『我らは、無限を制して夢幻をも喰らう!』

 

恨みも妬みも吐き出さない。

その代わりに圧倒的なまでの純粋な闘志に満ちていた。

 

戦いという意識を通じて分かりあったのか?

 

「無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往く―――我、無垢なる龍の皇帝と成りて―――」

 

ヴァーリの鎧が形状を少し変化させ、白銀の閃光を放ち始める。

 

「「「「「「汝を白銀の幻想と魔導の極致へと従えよう」」」」」」

 

『Juggernaut Over Drive!!!!!!!!!!!』

 

そこに出現したのは、極大のオーラを放つ別次元の存在と化したヴァーリだった。

 

周囲の建物、乗用車も触れていないのにそのオーラに潰れていく!

 

凄まじい力だというのに覇龍ほどの危険な雰囲気は感じない。

 

ははっ・・・・・なんて野郎だよ。

ヴァーリの野郎、覇龍を昇華しやがった!

 

「―――『白銀(エンピレオ・ジャガ)の極覇龍(ーノート・オーバードライブ)』。『覇龍』とは似ているようで違う、俺だけの強化形態。この力、とくとその身に刻めッ!」

 

言い放つヴァーリに斬りかかるプルート。

 

残像を生み出しながら高速で動き回り、紅い刀身の鎌を振るう!

 

しかし―――――

 

 

バリンッ!

 

 

儚い金属音が響き渡った。

 

《ッ!》

 

驚愕するプルート。

 

たった一発、ただの拳で鎌が難なく砕かれたからだ。

 

そのプルートの顎にアッパーが撃ち込まれ、プルートを上空へと浮かばせる。

 

ヴァーリはプルートへと右手をあげて、開いた手を握る。

 

「―――圧縮しろ」

 

『Compression Divider!!!!』

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!!!!!!!』

 

空中に放り投げだされたプルートの体が、縦に半分、その次に横に半分に圧縮される!

 

さらに縦、横と半分に―――。

 

プルートの体が瞬時に半分へ、また半分へと体積を減らしていく!

 

《こんなことが……!このような力が……ッ!》

 

プルート自身が信じられないように叫ぶが、ヴァーリは容赦なく言い放つ。

 

「―――滅べ」

 

目で捉えきれないほどにまで圧縮をされたプルートは、空中で生まれた振動を最後に完全に消滅した。

 

それが伝説の死神の最期だった――――。

 

 

 

 

 

 

白銀から通常の禁手姿に戻ったヴァーリは額に流れる汗を拭った。

 

消耗は激しいようだが、凄まじい。

鎧状態の先生と互角だったプルートを瞬殺したんだからな。

 

これがヴァーリの新たな力――――『覇龍』の答え。

 

現時点では俺が使える三形態のどれよりも出力がずっと上だった。

消耗という点を含めば俺の方がバランスは良いと思うけど・・・・・・・。

 

なんつー進化をしやがるんだ、こいつはよ・・・・・。

 

「・・・・・恐ろしいな、二天龍は」

 

曹操がこちらに近づきながらにそう言う。

 

「ヴァーリ、あの空間でキミに『覇龍』を使わせなかったのは正解だったか・・・・・」

 

曹操にそう賞賛されるヴァーリだが・・・・・・奴は息を吐く。

 

「『覇龍』は破壊という一点に優れているが、命の危険と暴走が隣合わせだ。いま見せたのはその危険性をなるべく省いたものだ。更に『覇龍』と違い伸びしろもある。曹操、仕留められる時に俺を仕留め無かったのがお前の最大の失点だな」

 

ヴァーリの言葉に曹操は無言だった。

 

曹操は視線を俺とヴァーリの二人に向けた。

 

「赤龍帝兵藤一誠は禁手を進化させ、白龍皇ヴァーリ・ルシファーは覇龍を昇華させたか。どちらも前代未聞の発展を遂げているようだ。二天龍・・・・・・というより、今代の二天龍はやはり異常だよ。だが、そこが面白いところでもある」

 

そう言うと曹操はこちらへ聖槍の先端をこちらに向けた。

 

「さて、どうしようか。俺と遊んでくれるのは兵藤一誠か、それともヴァーリか、もしくはサイラオーグ・バアルか。または全員で来るか? いや、流石にそれは無理か」

 

挑発的な物言いをしてくれる。

 

前回はヴァーリと先生、それからグレモリー眷属を相手に一人で手玉に取ってたみたいだが、さっきのヴァーリを見れば勝てる見込みを算出出来ないだろう。

 

ま、それでもこいつは譲らないけどな。

 

こいつは俺の獲物だ。

 

俺が一歩前に出る。

 

 

 

その時―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐぎゅるるるるるるるるるぅぅぅぅうううう・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ・・・・・・れ・・・・・・・・?」

 

この緊張感溢れる現場に流れてはいけない音がした。

 

その音は俺の腹から出ていて――――

 

 

皆の視線が俺へと向けられる。

 

その視線にはサイラオーグさんやヴァーリ、加えて曹操のも含まれていてだな・・・・・・。

 

「お、お兄ちゃん・・・・・・・?」

 

美羽が怪訝な表情で尋ねてくる。

 

俺は皆の方を振り向くと、腹に手を当てて申し訳ない気持ちで一杯になりながら言った。

 

「ご、ゴメン・・・・・・は、腹減って・・・・・誰か食べるもの持ってない・・・・・・?」

 

「え、えーと・・・・・・」

 

「あのさ・・・・・俺、試験会場でアリスのプリン少しもらって以降の二日間・・・・・・何も食べてないんだわ」

 

「あ・・・・・」

 

皆も俺の言葉にハッとなる。

 

そう、俺はこの二日間、気絶していたせいで何も食べていないんだ。

 

グレートレッドはオーラの回復はしてくれたものの、空腹の回復まではしてくれなかったようで・・・・・。

 

『無茶言うな』

 

で、ですよねー・・・・・・。

 

ここにくるまで我慢してたけど、俺の腹はもう我慢出来ないらしい。

 

とりあえず、曹操には待ってもらって・・・・・・その間に食べ物を腹に収めなければ・・・・・・。

 

「ゴメン・・・・・ボク達の手元に食べ物はないみたいなんだけど」

 

美羽から残酷な現実が告げられる。

 

う、うん・・・・・そんな気はしてたよ。

 

でも、誰か一人くらいは非常食でも持ってないかなーって思ったんだよね・・・・・・。

 

ど、どうしよう・・・・・・。

 

などと考えていると、アリスが俺の手を掴み引張った。

 

その表情は何やら決心しているようにも見える。

 

「ちょっとこっちに来なさい」

 

「アリス?」

 

「いいから早くしなさいよっ」

 

「あ・・・・・はい」

 

アリスの迫力に圧され、俺はそのままついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

イッセー君と曹操の戦いが始まろうとした時、イッセー君のお腹が盛大になった。

 

ま、まぁ、事情を聞けば納得は出来るけど、まさかこのタイミングでなるとはね・・・・・・・。

 

イッセー君、君も中々にシリアスブレイカーだと思うよ?

 

 

それで、アリスさんがイッセー君の手を掴んで半壊した建物の向こうに行ってしまったんだけど・・・・・・。

 

こちらからあの二人の姿は確認できない。

 

この場の全員がアリスさんの行動を怪訝に思っていた。

 

様子から察するにイッセー君の空腹を満たす術があるようだけど、一体何をするつもりだろう?

 

それから少し経った時だった。

 

 

『なっ!? おまえ、マジで言ってるのか!?』

 

『大きい声出すなーー!!』

 

 

バキィッ!

 

 

『ガフッ!』

 

驚愕に包まれたイッセー君の声と怒りの籠ったアリスさんの声、それから鈍い音が周囲にこだました。

 

イッセー君・・・・・アリスさんに殴られたよね。

 

それからも二人の会話は所々が聞き取れる程度でこちらに伝わってくる。

 

『だから――――じゃない? 私はスイッチ姫であんたは―――――』

 

『気持ちは嬉しいけど、流石に―――――』

 

『嫌なの?』

 

『嫌じゃないけど、でもさ―――――』

 

『もうっ! 私がここまで言ってるんだから覚悟決めなさいよ! 今なら誰も見てないから早く――――――』

 

う、うーん・・・・・・何やら揉めてるみたいだね。

 

アリスさんの提案にイッセー君が戸惑っているような雰囲気だ。

 

それから更に少し時間が経った。

 

『わ、わかった』

 

イッセー君の声が聞こえてきた。

どうやらアリスさんの提案を受け入れたらしい。

 

イッセー君を回復させる術。

イッセー君がこれほど躊躇う程のものだ。

何かリスクが伴うものなのかもしれない。

 

「アリスさんは自分を犠牲にして、イッセーを回復させるつもりなのかしら? ・・・・・・流石ね。出遅れたわ」

 

部長も少し悔しそうに言っていた。

 

確かにアリスさんは皆が戸惑う中、誰よりも早くその術に気付き、実行に移そうとした。

その覚悟は凄まじいものなのだろう。

 

 

その時―――――

 

 

 

『・・・・・・・あぁっ・・・・・・・』

 

 

 

・・・・・・・・・・ん?

 

 

幻聴かな?

 

今、戦場では絶対に聞こえないであろう声が聞こえてきたような・・・・・・

 

そう思う僕だけど、それは確かにきこえてきて――――

 

『・・・んっ・・・・・やぁっ・・・・・くっ・・・・はぁぁっ・・・・・!』

 

再び聞こえてくるアリスさんの声。

その声音にはどこか艶があって・・・・・・・。

 

見渡せば、オーフィスを除いた女性陣は何かに気づいたようで、頬を赤く染めていた。

 

『・・・・イ、イッセー・・・・・・そこ、かんじゃ・・・・・だ、ダメ・・・・・はぅぅ・・・・』

 

アリスさんがそう声を漏らすが、イッセー君は何も答えない。

まるで何かに夢中になっているように。

 

僕も何となく二人がしていることが分かってしまった。

 

だけど、あえて言おう。

 

お二人は戦場で一体何をしているんですか!?

 

サイラオーグ・バアルやヴァーリ、敵側にいる曹操でさえもあちらを見ないように視線を全く別の方向に向けているんですが!?

 

なんてことだ!

 

この場の空気が緊張からかけ離れたものになっていく!

 

誰か!

誰かこの空気を何とかしてくれる人はいませんか!

 

恐らく、この気持ちはこの場の全員が持っていることだろう!

 

 

次の瞬間――――

 

 

 

カッ!

 

 

 

赤い閃光が周囲を包み込んだ。

 

これは・・・・・・イッセー君の回復に成功したというのか!

 

イッセー君、君はどこまでおっぱいドラゴンなんだ!

 

 

 

 

それから数分後。

 

 

 

 

建物の向こうからイッセー君のアリスさんが帰ってきた。

 

二人とも顔がこれまでにないくらい真っ赤に染まっている。

こちらも全員が顔真っ赤だよ、イッセー君。

 

二人がこちらを向くと僕達の間に微妙な空気が漂うのがわかった。

 

この空気に耐えられなかったのだろう。

 

イッセー君は一度咳払いをして――――

 

「さ、さぁ、おっ始めようぜ!」

 

「「「「・・・・・・・・・・・」」」」

 

その言葉に誰も返すことが出来なかった。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 



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12話 英雄VS英雄

アリスのおかげで、空腹は何とかなった。

 

何とかなったんけど・・・・・・・。

 

「ね、ねぇ、アリスさん・・・・・・・おっぱい、出るの?」

 

美羽が戸惑いながらも興味津々と言った表情でアリスに尋ねていた。

 

他の女性陣もそれに続く。

 

「今のって確実に・・・・・・ねぇ?」

 

「ええ。しかし、出るとなれば・・・・・・それはつまり、アリスさんは既にイッセー君の子供を・・・・・・?」

 

「・・・・・その可能性は大きいです」

 

「ええっ!? お二人はいつの間に!?」

 

「しまった! 美羽に続き、アリスにまで先を越されていたと言うのか!」

 

「待って、ゼノヴィア! 赤ちゃんが出来るにしても早すぎるわ!」

 

「となると二人はかなり前から・・・・・・・?」

 

「イッセー君!? 学生の間からこ、子供だなんて! あなたには教育的指導が必要ですね!」

 

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

皆が戦闘そっちのけで、別のこと考え始めたぁぁぁあ!?

 

しかも、ロスヴァイセさんに怒られたよ!

 

ちょ、ちょっと待ってくれ!

俺とアリスはまだしてない!

 

俺達はまだ一線越えてません!

 

アリスも涙目になりながら皆に叫んだ!

 

「待って待って! まだ処女! イッセーとだってしてない!」

 

慌てるのは分かるが落ち着け!

こんな公衆の面前で処女とか言っちゃダメだって!

 

ほら見てよ!

この会話に参加してないメンバーは唖然としてるから!

 

曹操ですら対応に困ってるみたいだから!

 

「え、えーと・・・・・・お兄ちゃんとしてないのに・・・・・出たの?」

 

うっ・・・・・美羽の鋭いご指摘だ!

 

た、確かにアリスは出して、俺はそれを吸った!

そして回復した!

 

だからこそ、俺も驚いている!

 

回復できたこともそうだけど、なぜアリスから母乳が出たのか!

 

アリスは恥ずかしそうな表情のまま、俺の方をチラッと見るとその口を開いた。

 

 

 

「そ、そこは・・・・・・・・・気合い?」

 

 

 

き、気合い・・・・・なのか?

 

つーか、それって俺が異世界から戻る時にアリスに言った言葉じゃん!

 

おまえも結局気合いか!?

 

『スイッチ姫だからかもね。もしかしたらリアスちゃんも出るかも』

 

イグニスが皆に聞こえる声でそう言った。

 

スイッチ姫だから出たと?

 

あ、あり得そう・・・・・・。

現に俺はつついてパワーアップしてきたし・・・・・。

 

するとリアスが言った。

 

「それよ! イッセー! さっそく私とも試しましょう! 私だってスイッチ姫なのだから!」

 

リアスゥゥゥゥゥウウ!?

 

なんでそんなに声が弾んでるの!?

 

なんでそんなに笑顔なの!?

 

なんでそんなにテンション上がってるのぉぉぉおお!?

 

 

つーか、吸って良いの!?

 

嬉しいけどさ!

リアスのあのおっぱいを吸えるとか最高じゃないか!

 

「ちょっと待ってくれ! 流石にここまで放置してたら申し訳ないから! ずっと待ってくれているみたいだから! そろそろあいつの存在思い出してあげて!」

 

俺は曹操を指差しながら叫ぶ!

 

曹操のやつ、何も言わずにずーっと待ってくれてたんだよ!?

 

こんなアホな展開に付き合ってくれてるんだ!

敵でも申し訳なくなるわ!

 

「「「「あっ・・・・・・忘れてた」」」」

 

声を揃える女性陣。

 

忘れてたんかぃぃぃぃぃいい!

 

 

 

 

 

 

 

 

一先ず女性陣が落ち着いたところで、俺は再び曹操の前に立つ。

 

ヴァーリが俺に歩みより、小さい声で訊いてくる。

 

「奴の七宝、覚えているな?」

 

・・・・・曹操の能力についてか。

 

「俺が体験したのは攻撃を受け流すやつと、木場みたいに分身を生み出す能力だった。あとは話に聞いただけだけど・・・・・・武器破壊と女の異能を封じるやつがあったよな?」

 

今挙げたどれもが厄介な能力だ。

 

俺が相手をするなら、女の異能を封じるのは使えないから他の六つに気をつければいいんだが・・・・・・・・そう簡単にはいかないよな。

 

「そうだ。残りは飛行能力を得るものと相手を強制転移させるもの、最後に破壊力重視の球体だ」

 

なるほど。

空を飛ぶのと強制転移と破壊力のある球体か。

 

「サンキュー」

 

問題はそれを見極められるか・・・・・・だな。

見た目に変化がないから、どれがどの能力だか全く分からん。

 

ま、それは戦いながらどうにかするとしようか。

 

そんなことを考えながら俺は更に一歩踏み出す。

 

「俺の相手はやはり赤龍帝か」

 

おーおー、嬉しそうな笑みを浮かべてくれるぜ。

ヤル気満々って感じだな。

 

「おまえには先日の借りもある。それに、おまえには俺の可能性を十分に魅せつけていないしな」

 

こいつとやり合うには天武でも天撃でもない、天翼が最適だろうさ。

 

俺の戦意を感じ取って、曹操は肩に槍をとんとんとした。

 

「面白い。それでは見せてもらおうか。――――君の新たな可能性とやらを」

 

「ああ。覚悟しやがれ。いくぜ、ドライグ、イグニス!」

 

『応ッ! 相手は再び最強の神滅具! ここで倒さねば赤龍帝は名乗れんぞ、相棒!』

 

『さぁ、見せてあげなさい。真の勇者の力を!』

 

籠手の宝玉から燃え盛る炎のような紅蓮のオーラが発せられ、俺の体を包み込む。

 

鎧の周囲にバチッバチチチッとスパークが飛び交った。

 

 

ドバァァァァァァァァッ!

 

 

俺を覆っていた紅蓮のオーラが膨れ上がり、そして弾け飛んだ!

 

「禁手第三階層――――天翼(アイオス)!!」

 

今の鎧は赤色から鮮やかな紅蓮に変わり、全体的に鎧が鋭いフォルムとなった。

 

背には特徴的な赤い翼!

広げると赤い羽が舞い、キラキラと輝く赤い粒子に代わる。

 

こいつなら曹操の多彩な能力にも対応出来るはずだ!

 

――――天翼になら全て託せる!

 

俺の変化を確認すると、奴も輪後光と七つの球体を出現させる。

 

前回は既に禁手の状態だったけど、えらく静かな禁手化だ。

静かすぎて不気味だぜ。

 

 

互いの視線がぶつかり――――俺達はその場を駆け出す!

 

俺達は既に領域に突入している。

あとはガチンコで勝負ってわけだ!

 

「象宝」

 

曹操は足元に球体を置くと宙に飛び出した!

あれが空を飛ぶ能力ってやつか!

 

俺も翼を広げて奴を追う!

 

 

『Accell Booster!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

「まずは初手だ!」

 

拳に気を溜めて、曹操目掛けて突き出す!

放たれるのは気の散弾!

 

奴は球体を近づける。

球体の前方に渦が発生して気弾をいくつか吸い込んだ!

 

あれは攻撃を受け流すやつだ。

となると、前回みたいにみたいにどこかから吐き出されるはず。

 

警戒していると――――真下から渦が発生して気弾が返ってくる!

 

俺は腕を薙いでそれを弾き飛ばす。

 

いくつかがビルに直撃して、壁が崩壊したけど・・・・・・

ビルのオーナーさん、ゴメンね!

 

「っ!」

 

背後に気配を感じ、腰を捻る!

そこを聖槍の聖なるオーラが通り抜けていった!

 

振り向くと曹操が不敵な笑みを浮かべていた。

 

こいつ・・・・・・いつの間に背後に―――――転移の力か!

 

「居士宝!」

 

曹操が球体の一つを前方に移動させるとそれが弾けて、光輝く人型の存在が複数出現する。

分身を作るやつだ。

数は二十近く。

 

前回はこれに手間取らされたところに邪眼でやられたが・・・・・・。

 

「生憎、やられっぱなしは性に合わねぇよ!」

 

大きく広げた翼から八つの大きな羽――――フェザービットが飛び出す!

 

フェザービットが空中を飛び回り、それぞれの先端の砲門からオーラの砲撃を放っていく!

 

放たれたオーラが分身を捉えていき、次々に消滅させていった!

 

「遠隔攻撃というやつか! 木場祐斗の能力に似ているな!」

 

「まぁな! おまえの分身を潰すにはもってこいだろ!」

 

フェザービットから放たれた砲撃が分身体の一体を捉えた瞬間、その分身体がぐにゃりと歪んで渦ができた。

 

こいつ、あの分身体の一体に攻撃を転移させる球を仕込んでいたのか!

 

見てすぐに対応策を編み出す・・・・・なんてやつだよ!

 

背後の空間が歪み、渦を巻く。

前と左右からは分身体が突っ込んでくる。

 

下手に避ければ、その隙を曹操につかれかねないな。

 

「だったら、全て防げばいい!」

 

俺の声に呼応して五つのフェザービットが陣形を組む。

それぞれの先端からオーラを放出して五つ全てが繋ぎ合わさった。

 

ピラミッド状に組まれたクリアーレッドの障壁が俺を囲み、全ての攻撃を防ぐ!

 

「全方位攻撃ならぬ全方位防御ってな」

 

俺の言葉に曹操は興味深そうにこちらを見ていた。

 

「砲撃に加え防御障壁か。随分多彩な能力だ。この分なら木場祐斗のように剣状にして飛ばせるのかもしれないな」

 

あらら・・・・・バレちゃったよ。

 

確かに俺のフェザービットはオーラを刃状に放出することで木場の七剣のように相手を斬り刻むことも可能だ。

 

フェザービットの能力は大きく三つ。

砲撃、斬撃、それから防御。

 

展開している八つをその時の戦況に応じて陣形を変えることで様々な対応が出来る。

曹操の禁手ほどの多彩さはないが、天翼の強みの一つでもある。

 

攻撃力は天武、天撃には劣るがな。

 

『相棒は元々攻撃力が高いのだからその辺りは気にしなくても良いだろう? 通常の禁手でもその攻撃を受ければ大抵の奴が倒れるさ』

 

俺の敵に回ってきた奴らが異常すぎるってことだな。

 

攻撃力を高めた形態の攻撃が通じないとかどんだけ強敵ばかりなんだよ・・・・・。

 

まぁ、今は天武や天撃ほどの攻撃力はいらない。

曹操に当てることが出来れば俺の勝ち。

 

曹操とやり合うなら手数が多い天翼が一番合ってるってことだ。

 

・・・・・・それをことごとく避けていくから嫌になるけどな。

 

俺は防御障壁を解くと、曹操と一定の距離をとる。

 

「ふぅ・・・・・。やっぱりおまえの相手はやりづらいな。俺だけでなく先生まで倒したんだからな」

 

「アザゼル総督か。確かにこの間の戦闘では制させてもらったが次はどうなるだろうな」

 

「どういうことだ?」

 

「あの総督を侮ることはできやしない。ああいう研究者気質の戦士は次に戦う時まで徹底的にこちらを研究してくる。俺のように強者の重い一撃を食らえばアウトなタイプはあの手の手合いとの戦いが一番怖い」

 

曹操の解説になるほどなと思った。

 

あの先生がやられ続けるなんて考えられないもんな。

次にやるときは新技なり新兵器なり用意してそうだ。

 

それはそれで見てみたい気もするけど・・・・・・。

 

「さて、戦闘再開だ」

 

そう言うなり曹操の姿が消えた!

上、下、後ろ、左右とありとあらゆる場所に曹操の気配が消えたり現れたりしやがる!

 

また、転移の力かよ!

 

攻撃を仕掛けようにもあちこちに転移するから動きが捉えにくい。

 

フェザービットの全方位防御で守りに転じても良いが、それでは無駄に消耗するだけだ。

 

そうこうしていると横から聖なるオーラ!

かわして瞬時に気弾を放つが、すでに曹操は転移済みか!

 

ええい、面倒な奴め!

ヒットアンドアウェイにしても面倒すぎるぞ!

しかも、分身体を作り出してそいつらを俺の方に放ってくるから余計にめんどくさい!

 

俺はフェザービットをソードモードに切り換えて、分身体を斬り刻んでいく。

分身体程度であれば、フェザービットで対応すればいい。

 

 

問題は――――

 

 

「ちょこまかするんじゃねぇ!」

 

 

ガギィィィィン!!

 

 

転移の瞬間移動で間合いを詰めてきた曹操の聖槍と俺の拳が衝突する!

 

「今のを見切ったか!」

 

「嘗めんな。おまえの気の動きさえ掴めればこれくらいの対応は出来るんだよ。つーか、これだけ転移の動きを見せられれば次の動きくらい予想できるさ」

 

「ハハハハ。サラリととんでもないことを言ってくれる。俺の動きを予想するなんてね。これでも相手に捉えられないようにしているつもりなんだが」

 

だから、ここまで苦戦してるんだろうが!

おまえの動きは読みづらくて仕方がねぇ!

 

そこから近接戦に入るが、曹操は俺の拳を蹴りを、あらゆる攻撃を受け流していく。

気弾を放つと球体で受け流されるし、フェザービットで砲撃をくわえようにも武器破壊でそれを破壊していきやがる!

 

破壊されたフェザービットは新たに作り直せばいいんだが、曹操も徐々に対応策を掴んできていやがる。

 

更に言うなら右眼に光るメデューサの眼!

あらゆる物を石化させるその能力は厄介極まりない!

 

近接戦を仕掛ければ俺の鎧は石化され、そのたびに石化した部分を破壊して修復しなければならない。

 

俺のリズムを崩したところをついて聖槍の切っ先が俺を貫こうとする!

 

 

だったら――――

 

 

俺はイグニスを手元に呼び出し、柄を握った。

 

「こいつなら防げねぇだろ!」

 

刀身に灼熱の炎を纏わせた状態で曹操に強烈な斬撃を放つ!

 

 

ギィィィィィィィィィンッ!!

 

 

「ぐっ!」

 

曹操は聖槍を盾にすることでやり過ごすが、イグニスの熱量にやられて苦悶の表情を浮かべていた!

 

ここだ!

 

フェザービットが曹操の背後に展開、三角形の防御障壁を形成する。

 

ここで初めて曹操が焦りの表情となった。

 

「っ! これは俺を捕らえるための壁か!」

 

その通り。

そいつは攻撃でも自らを守るためのものでもない。

 

曹操のリズムを崩し、更には逃げられないようにするための壁だ。

 

転移するにも残りの五つのフェザービットで珠を狙い打ち、それを妨げる。

 

あれを曹操に近づけさせなければ、転移は出来ないだろ!

 

 

 

「こいつで終わりだ!」

 

 

 

イグニスの刃が曹操に届く――――

 

 

 

 

ガシャァァァァアアアアアアアンッ!!!

 

 

 

 

突如、背中に強烈な衝撃を受けた。

鎧が砕け、破片が周囲に飛び散る。

 

「ガッ・・・・・・!?」

 

衝撃のあまりに肺が圧迫され、息が詰まる。

 

な、何が・・・・・・・!?

 

上空から町へ落下していく中、見上げると先程、俺がいた場所にあの球の一つが浮かんでいた。

 

「将軍宝。破壊力重視の七宝を転移の七宝で君の背後に転移させた」

 

曹操が笑みを浮かべながらそう言うのが聞こえた。

 

今のが破壊力重視の球体・・・・・・ッ!

なんて衝撃だ!

 

しかも、自身の能力を自身の能力で転移させて、俺の背後を取ったと・・・・・・・。

 

「ゴブッ・・・・・」

 

口から吐き出されたのは大量の血反吐。

肋骨も何本かやられたな。

 

やられた・・・・・!

まさか、そんなことまで出来るなんて・・・・・・!

 

曹操が槍を構えて俺を追いかけてくる!

 

マズい!

痛みで体が痺れて動かねぇ・・・・・!

 

「今のを受ければ流石の君も動けないだろう?」

 

あいつ、俺が動けないのが分かってるから自ら突っ込んできていやがる。

最後のトドメは自らの手でってか。

嫌な野郎だ。

 

このままじゃ、俺はやられる。

あの極大の聖なるオーラを纏った槍に貫かれれば俺は確実に消滅してしまうだろう。

 

悪魔にとって聖なる力は猛毒だもんな・・・・・・。

 

「さぁ、これでチェックメイトだ」

 

曹操が俺の眼前に迫る。

 

 

 

 

その時だった――――――

 

 

 

「死んじゃ嫌だよ、イッセェェェェエエエエッ!!」

 

 

 

声がした方を向けば美羽がすぐそこまで来ていた。

 

泣いているのか?

 

ハハハ・・・・・泣くなよ、美羽。

 

誰も諦めたわけじゃないんだからさ。

つーか、諦めねぇよ俺は。

 

おまえを・・・・・・おまえ達を残して死ねるわけないだろ?

 

 

俺は錬環勁気功を全力で発動した。

それは奥義ではない。

 

それよりもっと先の―――――――

 

 

 

 

 

聖なる槍が俺の胸を貫く。

 

その瞬間――――――

 

 

 

 

俺の体は赤い粒子と化して、その場から消えた――――

 

 

 

 

 

 

 

 



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13話 英雄とは

[木場 side]

 

 

僕達は何が起こったのか全く理解できなかった。

ヴァーリやサイラオーグ・バアル、そして戦闘中の曹操でさえ眼を見開き、驚愕に包まれていた。

 

聖槍に貫かれた瞬間、イッセー君の体が赤い粒子になって霧散したからだ。

 

イッセー君が・・・・・・消えた?

 

だけど、あれは聖なる力で悪魔が消滅したとか、そんなものではないだろう。

 

現に曹操の表情がそれを否定している。

 

では、イッセー君はどこに・・・・・・

 

全員が辺りを見渡した、その時。

 

「っ!」

 

ヴァーリが驚愕の声を漏らした。

 

その視線は曹操、その背後に向けられている。

 

そこでは先程の赤い粒子が集まって、何かを形作っていた。

 

そこから現れたのは――――

 

 

「おおおおおおおおっ!!!」

 

 

生身の状態のイッセー君が籠手からアスカロンを抜き放ち、曹操に斬りかかる!

 

あまりもの出来事に思考が付いていっていないのか、曹操は対応が遅れ、その斬戟を受けてしまった!

鮮血が宙に舞う!

 

あの曹操が今回の戦いで初めて大きな傷を受けた!

 

「ぐっ! ・・・・・・くそっ!」

 

曹操が例の球体を操り反撃しようとするが、イッセー君はその前に曹操の胸ぐらを掴み、頭突きを繰り出した!

 

鈍い音がこちらにまで聞こえてくるほどだ。

 

そして――――

 

イッセー君の渾身の左拳が曹操の顔面目掛けて放たれた。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッゴォォォォォォオオオオオオン!!!

 

 

ビルの屋上が崩落し、大きな地響きが響き渡る。

 

「はっ・・・・・はっ・・・・・・はっ・・・・・・」

 

息を荒くして、肩を上下させながら俺はその様を見ていた。

 

疲労が半端じゃない。

天翼どころか、禁手すら解けちまった。

 

一休みしたいところだが、そんな暇はない。

曹操を追いかけないと。

 

俺は曹操を叩きつけたビルに降りると、瓦礫に埋もれている曹操を発見した。

 

左肩から腹にかけて大きく斬り裂かれたおかげで、夥しいほどの出血。

剣から伝わってきた感触からして、骨まで届いてるな。

右目も血を流し完全に潰れてる。

 

メデューサの眼は厄介すぎるから、そこを狙わせてもらった。

 

「がはっ・・・・・な、んださっきのは・・・・・・・っ!」

 

血反吐を吐きながらぐぐっと上体を起こす曹操。

激痛に耐えながらも、先程の現象について思考を巡らせているようだ。

 

恐らく考えたところでその答えに行き着くことはないだろう。

 

ズタボロの曹操から視線を受けた俺はその疑問に答えた。

 

「俺の全てを気として昇華させた。一度、肉体を分解してな。名付けるなら『量子化』ってところか」

 

「まさか・・・・・っ!? そんなことが・・・・・いや、出来たとしてもそれは・・・・・・!」

 

信じられないといった表情だな。

まぁ、仕組みを理解できたなら当然の反応だ。

 

なんせ俺がしたことはほとんど自殺行為。

ミスをすれば体は元に戻らず、そのまま消滅してしまうだろうしな。

 

だけど、俺には出来ると確信できるものがあった。

 

「第三階層――――天翼の特性は俺が持つ剣、イグニスの能力を最大限に引き出すこと、次に攻防一体の戦闘を可能にすること。そして――――気のコントロールを極限まで高めること」

 

まぁ、消耗が激しい上に精神をかなりすり減らす技だからな。

天翼の状態でも、本当にここぞと言うときにしか使えない。

 

ロンギヌス・ライザー同様、連発は無理だ。

 

「・・・・・だとしたとしても、実際にそれを行うなどどうかしているとしか言いようがない」

 

「確信があるなら話は別だろ? それにな、あそこで泣かれたら実行するしかないだろ。死ぬわけにはいかないからな」

 

美羽に泣きながら「死なないで」と言われてしまった。

だとしたら、少しの危険くらい乗り越えないとダメじゃないか。

 

俺はアスカロンの切っ先を曹操に向けた。

 

「さて、どうする? フェニックスの涙を使うか? どうせ持ってるんだろ? こっちは受けた負傷の回復は済んでる」

 

量子化して、体を再構築する時に負った負傷は元に戻しておいた。

疲労は最高潮だが、痛みはない。

 

「どこまでも規格外な男だ。フェニックスの涙を使ったとしても、こちらは血を流しすぎた。普通にやればごり押しでやられるかもしれない」

 

曹操は聖槍を杖にして立ち上がる。

 

ま、そうだろうな。

あれだけの血を失えば、傷を塞いだとしてもまともに戦えるかどうか。

 

こっちは量子化したせいで禁手は解けてしまったが、通常の禁手くらいならまだ保てる。

・・・・・それでも数分が限度だろうけど。

 

「・・・・・・ならば『覇輝(トゥールス・イデア)』だ」

 

――――っ!

 

曹操の言葉に驚愕を受ける俺。

 

「君が奇跡を起こしたというならば、俺も奇跡を起こして見せよう」

 

曹操は震える手で槍を構えると、唱え出した。

 

「槍よ、神を射抜く真なる槍よ―――。我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの狭間を抉れ―――。汝よ、意思を語りて、輝きと化せ―――」

 

曹操の口にした呪文と共に聖槍の先端が大きく開ききり、そこから莫大な光が輝く。

 

この聖なるオーラの出力はヤバいな・・・・・・。

 

ヴァーリの話では『覇龍』と近くて遠い能力と言っていた。

能力はまるで分からないが・・・・・・『覇龍』は暴走をもたらす破壊の化身。

近いとするなら、曹操も莫大な力と引き換えに暴走するのか?

 

俺はアスカロンを構え、警戒を強める

 

 

 

すると―――――

 

 

 

徐々に槍の光が弱まっていく。

・・・・・大きく開いた槍の先端も普通の状態に戻っていった。

 

曹操はそれを見て―――目を見開き、絶句している。

 

「・・・・・発動・・・・・しない?」

 

不発か?

 

聖槍から感じられるプレッシャーが小さくなり、曹操の禁手さえ解かれてしまった。

 

「・・・・・なるほど、それがあなたの『遺志』か。俺の野望よりも赤龍帝を選んだというわけだな」

 

「どういうことだ?」

 

曹操の言葉の意味が分からなかった俺は怪訝な表情を浮かべながら尋ねた。

 

曹操は息を吐きながら答えた。

 

「・・・・・『覇輝』は聖書の神の『遺志』が関係する。亡き神の『遺志』はこの槍を持つ者の野望を吸い上げ、相対する者の存在の大きさに応じて、多様な効果、奇跡を生み出す・・・・・。それは相手を打ち倒す圧倒的な破壊力であったり、相手を祝福して心を得られるものであったりする。――――だが、君に対する『覇輝』の答えは静観・・・・・・いや、それどころか俺から力を奪った」

 

力を奪った・・・・・・。

聖槍が・・・・・・曹操を拒んだのか?

 

「つまりは聖槍が俺の勝ちを認めたと?」

 

「そう言うことだ。今後も俺の野望を見たいのなら、聖槍は俺を回復させるか、もしくは絶大な力を発動させただろうからね・・・・・・」

 

なるほど・・・・・・。

 

とにかく、その聖書の神の『遺志』とやらはこの勝負の決着はついたと言っているわけだ。

 

曹操の話から察するに今の奴では禁手は発動出来なさそうだな。

 

「一つ・・・・君に問いたい」

 

曹操が地面に片膝を着きながら訊いてくる。

 

「なんだ?」

 

「君は・・・・・俺が京都で自身の英雄としての在り方を語った時にそれを真っ向から否定したな。そこで君に問いたい。君にとって英雄とはどのような存在なのだ?」

 

 

―――人間の極みであり、強大な異形を倒す存在。それが英雄と呼ばれる者達だろう?―――

 

 

曹操が京都で俺に言った言葉。

英雄とは何か。

 

俺は曹操の意見を真っ向から全否定した。

間違っている、と。

 

俺が見てきた英雄はそんなものじゃなかったから。

 

「おまえさ・・・・・・誰かから声援をもらったことあるか?」

 

「・・・・・・?」

 

俺の唐突な問いに曹操は眉をしかめ、怪訝な表情を浮かべた。

 

そんな曹操に核心を付いた問いを投げ掛けた。

 

「おまえは誰かに『英雄』って呼ばれたか?」

 

「―――――っ」

 

眼を見開き、言葉を詰まらせる曹操。

 

そんな曹操に向けて俺は言葉を続ける。

 

「俺の中で英雄ってのはさ、自分から名乗るものじゃないんだ。いや、もっと言えば英雄は自らが望んでなるものじゃない。・・・・・・俺も英雄だなんだと言われてきたけど、自分が英雄だなんて思ったことは一度もない」

 

例えばアスト・アーデのこと。

皆は俺がしてきたことを偉業だと言ってくれたけど、大したことはしていないと思ってる。

そもそも、皆の力が無ければ平和には辿り着けなかったはずだ。

 

ここまで来れたのは皆のお陰なんだ。

 

「超常の存在に挑むのが英雄? それは結果だろ。その英雄達は誰かを守り、強大な敵に打ち勝った。決して自分のために力を振るったりはしなかったと思うぜ? ―――――英雄は自ら望んだ時点で英雄にはなれない。例えそれが英雄の子孫だったとしてもな」

 

「・・・・・聖槍に選ばれ英雄の血を引く俺は英雄でなければならない。そう考えていたのだが・・・・・俺が君に劣った理由はこれか。俺は英雄の血に拘りすぎたんだな・・・・・」

 

そう呟くと曹操は自虐気味に笑みを浮かべた。

 

その時、俺達の元に姿を現す者がいた。

 

純白の鎧に身を包んだ男――――ヴァーリだ。

崩壊した屋上から降りてきて、膝をつく曹操を見下ろしていた。

 

「・・・・・どうした曹操。以前のような覇気が感じられないな」

 

「やぁ、ヴァーリ・・・・・・。君のライバルは最高だな。俺の精神をことごとく砕かれてしまった」

 

「曹操にはやらないさ。『覇輝』は失敗したようだな。先程使ったのだろう?」

 

「・・・・・ああ。聖槍に眠る聖書の神の『遺志』は兵藤一誠を選んでしまったよ」

 

ヴァーリがそれを聞いておかしそうに笑う。

 

「なるほど。やはり、あの疑似空間で倒しておくべきだったな。どうやら赤龍帝兵藤一誠を倒す権利は俺にあるらしい」

 

「・・・・・俺が倒したかったけどな」

 

・・・・・・おまえら、ホモホモしいこと言って俺の取り合いとか止めてくれない?

キモい!

 

トドメさしちゃうぞ!?

 

「ああ、そうだな。兵藤一誠は俺が倒す」

 

「僕の友達は大人気だね」

 

ああっ!?

ここにきて雄度が増しやがった!

サイラオーグさんと木場まで来るのかよ!

 

なんてこった、嫌な空間が完成しちまった・・・・・・。

なんで・・・・・てめぇら、俺に熱い視線を送ってくるんだよぉぉぉぉおおお!!

 

帰りたい・・・・・・皆のところに帰りたい・・・・・・。

美羽達のところに帰りたい・・・・・・!

 

あー、美羽に抱きついてぎゅってしたい!

 

「・・・・二天龍、獅子王、聖魔剣・・・・・流石にこの状態で相手取るのは無謀か。いや・・・・・俺はもう戦えないか? レオナルドを失った時点で俺は詰んでいたかもしれないな。・・・・・それ以前に君達にちょっかいを出したのが運の尽きか・・・・・」

 

その時、俺達を見覚えのある霧が覆う。

霧の中から人影を視認した。

 

「・・・・・帰還しよう、曹操」

 

曹操のもとに現れたのは――――ボロボロのゲオルク。

片目と片腕を失い、左足も黒く変色している。

 

ギャスパーにやられた傷か・・・・・・。

 

「ゲオルクか・・・・・・」

 

「・・・・・俺達は大きくは間違ってはいなかった・・・・・だが・・・・・・」

 

ゲオルクが何かを言いかけるが、曹操は首を横に振った。

 

「・・・・・いや、俺達は初めから間違っていたようだ・・・・・。『英雄』という言葉の意味を真に理解していなかった・・・・・・。それが俺達の敗因だ・・・・・・」

 

「・・・・・そうか」

 

曹操の手を取り、転移魔法陣を展開するゲオルク。

 

サイラオーグさんと木場が取り押さえようとしたが―――聖槍が目映い光を発して俺達の視界を奪った。

 

なんだよ・・・・・奪われたとか言いながらまだこれだけの力を残してたのか。

 

聖なるオーラに身を焦がしながら突き出したサイラオーグさんの拳が空を切った。

聖槍の光に目をやられたせいで、僅かに遅かったようだ。

 

英雄の子孫達はその場から消えていた―――――。

 

 

 

 

 

 

「君なら追いかけると思ったんだけどね。なぜ、曹操達を追いかけなかった?」

 

ヴァーリがそう尋ねてきた。

 

俺はアスカロンを籠手に収納した後、大きく息を吐いた。

 

「放っておいてもあいつは暫く立ち上がれないさ。あいつの中にあった芯はへし折ったからな」

 

「そうか。だが、あの男は聖槍に選ばれた者だ。再び君の前に立ちはだかるかもしれないぞ?」

 

「その時はまた真正面からぶん殴ってやる。英雄の意味を理解しないままにその力を振るうなら、今度こそ二度と立ち上がれない程にな」

 

俺も甘いというか・・・・・・。

皆には悪いけど、その時は俺が責任を持って必ず仕止める。

 

俺の言葉にヴァーリは笑みを浮かべるだけだ。

 

『ドライグ・・・・・おまえ・・・・・』

 

『言うな、アルビオン・・・・・・俺も泣きたいのだ・・・・・。なんで、乳で回復するんだ・・・・・・!』

 

うおぉい!

 

いきなりシリアス壊すようなこと言わないでくれるかな、ドライグさんよ!

いや、確かにドライグにとってはショッキングなことだったかもしれないけどさ!

 

と、新たな気配がここに現れた。

転移魔法陣から姿を見せたのは紳士な出で立ちのアーサーだった。

 

「ヴァーリ、皆こちらに来ています。予定通り、一暴れしてきましたよ」

 

「そうか、すまんな」

 

ヴァーリが踵を返して去っていく。

 

アーサーが木場に視線を送っていた。

 

「木場祐斗。私が探し求めていた聖王剣コールブランドの相手として、あなたが一番相応しい剣士のようです。ヴァーリが兵藤一誠との決着をつける時、私もあなたとの戦いを望みましょう。それまではお互い、無病息災を願いたいものですね」

 

そう言い残してアーサーはヴァーリと共に去っていった。

 

木場もアーサーの挑戦を受けて、不敵な笑みを見せていた。

俺は木場が腰に帯剣している魔剣達を見下ろした。

 

本当、こいつ短期間でどこまで力を伸ばすんだよ・・・・・。

第二階層に至るわ、魔剣はゲットするわ・・・・・・。

 

今度、見せてもらうか。

 

「さて、俺も眷属を待たせているのでな。そろそろお暇させてもらおうか」

 

サイラオーグさんが窓際の方に足を向ける。

 

「お疲れさまでした、サイラオーグさん。それではまた」

 

「うむ。次合うときはお前が上級悪魔になってからになるか?」

 

「あははは・・・・・・。受かっていればの話ですけど・・・・・」

 

「心配せずともおまえなら問題ないだろう。合格したらバアル領に来い。祝杯をあげよう」

 

そう言ってサイラオーグさんは窓から飛び降りていった。

 

「僕も皆を呼んでくるよ。イッセー君はここで休んでいて」

 

木場もそう言うなり、窓から降りていった。

 

 

一人だけになった俺はその場に座り込んだ。

 

「あぁ・・・・・疲れた・・・・・」

 

・・・・・・量子化の影響で体がメチャクチャ重い。

 

『当たり前だ。あのような技だ。・・・・あまり多用はするなよ?』

 

分かってるよ。

俺だってあんまり使いなくないしな・・・・・・。

 

帰還早々、ロンギヌス・ライザーに量子化か。

色々無茶したなぁ・・・・・。

 

とりあえず、木場が皆を呼んでくるまでここで待とう。

出来るだけ今は動きたくない。

 

背中を後ろに倒し、横になろうとすると後頭部に柔らかいものが・・・・・・。

 

「お疲れさま」

 

「おー、イグニスか。って膝枕してくれるのか?」

 

「こんな瓦礫が散らばるところで寝たら頭痛いでしょ?」

 

「そりゃそうか」

 

イグニスの意見に同意だ。

 

イグニスは髪をすくようにしながら俺の頭を撫でると微笑みながら言った。

 

「にしても昇格試験が終わってから怒濤の展開だったわね。バトル続きじゃない」

 

「全くだ」

 

暫くはゆっくりしたいところだぞ。

つーか、休ませてくれ。

 

試験勉強の次は激戦とかマジで怒濤だった。

その中にはイグニスのシャレにならないドッキリもあったが・・・・・・。

 

一度、こいつにお仕置きしてやろうか?

 

「赤龍帝、寝てる?」

 

俺の手に触れる者がいた。

見ればいつの間にかオーフィスの姿が。

 

「起きてるよ、オーフィス」

 

そういや、オーフィスも何だかんだでイグニスのドッキリに付き合ってたな・・・・・。

 

うん、やっぱりオーフィスにイグニスは近づけるな危険だ。

何を教えるか分かったもんじゃない。

 

はぁ・・・・・今後、対策を考えないとなぁ。

 

「帰ろうか、オーフィス。俺達の家に―――皆でな」

 

「我、赤龍帝の家に帰る」

 

オーフィスが浮かべていたのは可愛らしい笑顔だった。

 

何はともあれ終わったな。

後は帰って――――

 

あっ・・・・・ヤベ・・・・・・・

 

中間試験が残ってたか・・・・・・・・泣けるな。

 

俺は辛い現実に涙を流したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

『超獣鬼』と『豪獣鬼』の殲滅に成功した報告を聞き、この場の緊張状態も収束の方向に向かいつつあった。

勝利の報告を知ったサーゼクスも滅びの魔力を消して、元の姿に戻っている。

 

イッセーの帰還を知ったとき、相当滅びの魔力の怒りの色を薄めていた。

ま、それは俺も同じなんだが・・・・・・。

 

イッセーのやつ、帰還の仕方もとんでもないが、帰還早々にやってくれるぜ。

 

まさか、ハーデスに宣戦布告するとはな。

 

グレイフィアから映像を送られた時は何事かと思ったが、まさかあんなことをするとは予想すら出来なかったぜ。

 

冥界の空を貫く光の柱。

映像だけでも十キロメートルはあるんじゃないかと思わせるあの巨大さ。

更にはこちらまで波動が伝わってくるほどの力。

 

・・・・・・神クラスをも容易に消し飛ばすことが出来るのは明らかだ。

 

神滅具・・・・・神をも殺す力の本領発揮ってところか。

 

あの映像を見たハーデスと周囲の死神共は完全に動揺していた。

他の死神はともかく、ハーデスが動揺するところなんざ、中々に見れたもんじゃない。

 

俺としては映像に残して各神話のトップ陣にばらまいてやりたかったね。

 

ヴァーリチームも一暴れしたら颯爽と退散していった。

相変わらず見事な手際だ。

 

うちのところの刃狗も退散させている。

もうこの場では必要ないだろうからな。

 

ハーデスを消滅させるような事態にならなかったのは幸いだった。

腐っていてもこいつは冥府の神。

世界には必要な存在だ。

消滅すれば各世界に大きな影響を与えてしまう。

 

本音?

 

そんなもん決まってる。

消え去れクソジジイだ。

 

まぁ、本音を胸の内に仕舞い込むのも大人には必要なことなんでな。

我慢はするさ。

 

さて、ハーデスに文句と警告だけ述べて帰ろうかというときだった。

 

死神が一名ハーデスに報告を述べる。

 

《ハーデス様、神殿内の死神の大多数が凍り漬けにされております》

 

《・・・・・・貴様の仕業か、ジョーカー》

 

ハーデスが眼孔を危険な色で輝かせる。

 

とうのデュリオは自身の肩を揉んでいた。

 

「まぁ、これくらいはね。何かしとかないとミカエル様に怒られてしまうんで。怪しい死神さんだけを凍らせちゃおうと思ったんスけどね。めんどいんで、神殿内にいるのはテキトーに凍らせてみましたよ。手癖が悪くてすんません。どーも、アーメン」

 

相変わらずの飄々とした態度に軽口だ。

 

――――しかし、強い。

 

このデュリオという天界の切り札は抜きん出ているな。

流石に切り札、ジョーカーに選ばれるだけはある。

 

何はともあれハーデスの横やりを未然に防げた。

この骸骨は絶対にやろうとしてただろう。

それを防げたのは大きい戦果だ。

 

「ま、サマエルの件は追々追求させてもらうぜ」

 

俺の宣告にハーデスは何も答えなかったが・・・・・・。

 

去り際にサーゼクスが口を開く。

 

「ハーデス殿、これで失礼します。今回は突然の訪問、誠に申し訳なかった」

 

サーゼクスは丁寧に非礼を詫びるが、その直後に強烈なプレッシャーを放った。

 

「それでもあえて言わせていただく。――――二度目はない。次はあなたを消滅させる」

 

《ファファファ、良い目をしよるわ。ああ、よく覚えておこう》

 

楽しげに笑ってるがよ、次があったら本当に消滅させられちまうぜ、骸骨爺さんよ。

 

うちの勇者様と紅髪の魔王をキレさせたら、それぐらい躊躇なくやっちまうだろうからな。

 

 

 

 

 

 

冥界と冥府を繋ぐゲートに辿り着いた頃。

 

デュリオは天界に戻り、俺とサーゼクスのみとなっていた。

 

「俺も再就職先を見つけないとな」

 

俺の言葉を聞いてサーゼクスは目を細めた。

 

「・・・・・やはり、そうなるのか」

 

「ああ、オーフィスを独断でイッセー達に会わせたのはどう考えても条約違反、免職を免れない事柄だ。俺は――――総督を降りる」

 

「しかし、オーフィスがこちらに来た事実は大きな事態だ。偉業と言ってもいい」

 

「引き込んだのはイッセーだろ」

 

あいつの人を惹き付ける力はここまで来たかと正直驚きを隠せないでいる。

もう、いろんなものがあいつを無視できないだろう。

 

「だが・・・・・」

 

サーゼクスが何かを言おうとしたので、俺は手を突きだしそれを制した。

 

「良いんだよ。俺は俺だ。ちょっとばかり肩書きがかわるだけだ。それと前線に行くのはもう引退する。おまえやミカエルのおかげで良い教え子が出来たからよ。そいつらの面倒を見るだけで余生を過ごせるさ」

 

イッセー達オカ研メンバーにヴァーリとそのチームがいりゃ、俺が戦わなくてもいいだろうよ。

 

今後はあいつらのサポートに徹するとするさ。

 

サーゼクスが可笑しそうに吹き出した。

 

「急に年寄り臭くなってしまったな」

 

「見た目若いけど、結構年寄だぜ俺。おまえが生まれる前から存在するんだからな。そこはキミ、年長者を立てたまえ」

 

「そうだな。今後はそうしたいと建前上は言っておこう。・・・・・・だが、アザゼル。引退する前に嫁は取っておいた方が・・・・・」

 

「うるせーーーー!!」

 

どいつもこいつも顔を会わせりゃ二言目には嫁嫁言いやがって!

 

そんなに独り者を苛めたいのかクソッタレめ!

 

ちっ!

まぁ、いい!

 

とりあえず、今回の事件は終わりだ。

今度、バカ共を連れて温泉旅行にでもいくとするかね。

 

いや、その前に昇格試験の発表があったな。

木場と朱乃は問題ないだろう。

残るはイッセーだが・・・・・・さてさて、どうなることやら。

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 



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14話 合格発表! そして・・・・・

冥界での騒動を終えてから数日が経った日のこと。

 

俺達は部室でとんでもないことを先生から聞かされていた。

 

「総督を更迭された!?」

 

そう、アザゼル先生が総督を辞職したというのだ。

これには事情を知るレイナ以外は驚きを隠せないでいた。

 

「何やらかしたんスか!? 横領でもしましたか!?」

 

「ちげーよ! 黙ってオーフィスなんざをここに引き連れてきたから、それでだよ」

 

「あっ、そっちか・・・・・。それじゃあ、今の先生の肩書きは・・・・・?」

 

てっきり、組織の金を使い込んでたのかと思った。

なんかしてそうだし。

 

俺の問いに先生は首をひねる。

 

「三大勢力の重要拠点であるこの地域の監督ってところか。グリゴリでの役割は特別技術顧問だな」

 

「・・・・・総督から監督」

 

小猫ちゃんがぼそりと呟いた。

なんだか、あんまり変わらないような・・・・・・。

 

「ま、そういうこった。グリゴリの総督はシェムハザがなったよ。副総督にはバラキエル。あー、これで俺は趣味に没頭できるな。さっぱりしたぜ」

 

んー、肩書きと役職が取り払われて益々自由になったんじゃ・・・・・。

またなんかやらかしてくれそうな気がする。

例の性転換銃みたいな感じの。

 

心配する俺の肩にレイナは手を置くと微笑んで言った。

 

「大丈夫よ。私も役職が変わって、アザゼル元総督の監視役になったから」

 

「おい、レイナーレ! そんなこと聞いてねぇぞ!?」

 

「シェムハザ新総督からのご命令でして。総督という役職が無くなればあなたは前よりも色々しでかすだろうとのことです」

 

「あの野郎! 俺の自由を奪う気か!」

 

うーむ、流石はシェムハザさんとレイナだ。

 

先生のことをよーく分かっている!

先手を打つのが早いこと早いこと。

 

そんなやり取りをしていると、先生は書類を三通取り出した。

 

「先日の昇格試験の結果が先程発表された。忙しいサーゼクスの代わりに俺が代理で告げる」

 

――――っ!

 

マジでか!

つーか、事前連絡もなしにいきなり発表!?

 

「まず、木場。合格! おめでとう、今日から中級悪魔だ。正式な授与式は後日だ」

 

おいおいおい!

心の準備する間もなく始めてるよ!

 

つーか、木場は合格か!

流石だな!

 

木場に書類を渡した先生は次に朱乃の名を呼んだ。

 

「次に朱乃。合格! おまえも中級悪魔だ。一足早くバラキエルに話したが、伝えた瞬間男泣きしてたぞ」

 

「・・・・・もう、父様ったら」

 

赤面しながら書類を受けとる朱乃。

男泣きするバラキエルさんの姿が目に浮かぶな。

 

そして、最後の一枚。

 

「最後にイッセー」

 

「は、はい!」

 

うわー、緊張する・・・・・・。

 

実技はともかく、筆記と戦術がなぁ。

いや、全く自信がないというわけではない。

 

それでも、ところどころで怪しいところがあってだな・・・・・。

 

「・・・・・・・」

 

書類を手に取ったまま黙り込む先生。

 

な、なんで黙ったままなんだ・・・・・・?

 

 

ゴクリ・・・・・・

 

 

俺が生唾を飲み込むと先生は――――

 

「おまえも無事に合格。本当に飛び級するとは大したもんだ。おめでとう、上級悪魔の赤龍帝が誕生だ」

 

先生は笑みを浮かべながらそう告げた。

 

合・・・・・・格・・・・・・。

 

う、受かったのか、俺・・・・・・・?

 

戸惑う俺だが先生は頷いてくれた。

 

――――っ!

 

や、やった。

 

「よ、よっしゃぁぁぁぁああああっ!!」

 

俺は両手をあげて大声を張り上げてしまった!

 

やった!

俺、本当にやったんだ!

 

「おめでとう、お兄ちゃん!」

 

美羽が俺に抱きついて、祝福してくれた!

俺も美羽をしっかり受け止め抱き締める!

 

「ああ! 受かったぞ! 俺も今日から上級悪魔だ!」

 

頑張って良かった!

本当に良かった!

 

「流石はイッセーだわ」

 

「おめでとうございます!」

 

「おめでとう!」

 

「おめでとう!」

 

「おめでとう、イッセー君!」

 

「まぁ、イッセー先輩ですから。おめでとうございます」

 

「私がマネージャーをしたのですから、受かってもらわないと困ります! で、でも、おめでとうございますわ!」

 

リアス、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、レイナ、小猫ちゃん、レイヴェルが賛辞をくれた!

 

「ありがとう! 皆のお陰だ!」

 

皆が助けてくれなかったらダメだったもんな。

マジで皆の力があったからこその合格だ!

 

帰ったらアリスや父さん達にも知らせてやらないとな。

 

先生は喜ぶ俺の肩に手を置いて言った。

 

「ま、おまえのことだ。最上級悪魔も案外すぐかもしれないな」

 

「マジっすか!?」

 

「力量だけは十分だからな。今後も実績を積んでいけばそのうち上がれるさ。さて、合格したことで近くに上級悪魔昇格の儀式が行われる。リアスを通して通知がいくだろうから流れを確認しておけよ?」

 

「は、はい!」

 

俺は興奮気味にそう返した。

 

 

 

 

 

 

それから数日が経った。

 

今日、俺は正式に上級悪魔として昇格する。

 

俺はオカ研メンバーとリアスの両親、俺の親、アリス、ティア、アザゼル先生と共に冥界を訪れていた。

ここにいる全員が儀式を受ける俺の関係者として招待されている。

 

通知が来てからは家でリアス達と一緒に儀式についてのレクチャー、及び概要の説明を受けた。

一応、全て頭に叩き込んではいるが・・・・・・緊張するぜ。

 

こういう厳かな儀式に出たことってあまりないからな。

特に今日の主役は俺だ。

途中で頭から抜けないようにしっかりと再確認しておかないと。

 

そういうわけで、今はグレモリー城内にある式場で実際に体験をしながら一連の行為を確認しているところだ。

 

リアスが式場の祭壇前に立ち、俺にレクチャーしてくれている。

 

「――――で、魔王様が読み上げた承認証をあなたに渡すから、あなたは教えた言葉で返すの。次に私があなたに王冠を被らせるわ。これは眷属から『王』が出たことを認める儀式なの。そして、最後に『王』の登録をする石碑に移動して、魔王様のお言葉の後に手で触れればOKよ」

 

うーむ、こうやって聞くだけならやってることは単純で簡単なんだが・・・・・・。

今日は式場に関係者たけでなく報道陣まで駆けつけるそうだし・・・・・。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。いつものイッセーでいれば問題ないわ」

 

「いつもの俺、か・・・・・」

 

俺は既に正装を済ませている。

同様にリアスも紅色のドレスに身を包んでいる。

 

いや、もっと言えば招かれた俺の関係者は全員が正装だ。

眷属にしかり、他のメンバーにしかり例外はない。

俺の両親も正装に身を包んでいる。

 

俺とリアスは会場では、更に儀式用の正装に着替えるみたいだけどね。

 

「お嬢様、一誠様、お時間です」

 

と、グレイフィアさんが報告してくれた。

 

ついに時間か・・・・・。

 

今からグレモリー城にある城下町の駅から列車に乗車して首都リリスまで移動となる。

 

よし、ここまで来たんだ。

無様な姿だけは晒さないよう気を引き締めていこう。

 

 

 

 

 

 

魔王領の駅に到着し、厳重な警戒の中で儀式を行う式場までリムジンでの移動となった。

リムジンを囲うように警備の車が並走してくれているんだが・・・・・。

 

「厳重過ぎじゃね?」

 

式場に向かう道中で俺が漏らした言葉がそれだった。

 

正直言うと、転移で移動すればいいじゃんなんてことも思ってる。

 

こんなことされると余計に緊張しちまうよ・・・・・。

 

「ま、上級悪魔への昇格だからな。冥界にとっても一大イベントになるのさ。一般の民衆にもおまえの姿を見せておく必要がある」

 

先生はそう言うが・・・・・・。

 

そういや、ここに来るまでにも報道陣の人達に詰め寄られたな。

あの時はボディーガードの人が手際よく案内してくれたから助かったけど・・・・・。

 

程なくして式場に到着。

 

俺とリアスは途中で皆と別れて、別室で準備することに。

俺は係りの人に連れられて儀式用の正装に着替えさせられる。

髪もオールバックで、男用の化粧までしてもらった。 

 

リアスも儀式用の煌びやかなドレスに着替え、化粧をしていた。

髪もアップにして、唇に紅も塗られている。

 

うーむ、流石はリアス。

化粧が入ると一段とキレイになるな。

 

「どうかしら?」

 

俺の視線に気づいたリアスが自身の格好に目を配らせる。

 

「キレイだよ。スゴくね」

 

「ありがとう」

 

時間になり、俺とリアスは式場の入り口前に移動。

俺はリアスの後ろに立ち、開場したら彼女に付き従う形で入場だ。

 

そして、ついに儀式が始まった。

 

入場の演奏と共に門が開き、俺達は歩みを進める。

 

立派で華やかな式場にはお偉いさん方が立ち並び、拍手をしてくれる。

来客の方には俺と共に来たメンバーに加え、シトリー眷属やサイラオーグさん、ライザーまでもがいた。

 

ライザーのやつ、来てくれたのか。

 

そんでもって、会場内にヴァーリ達の気配もするな。

あいつらも祝いに来てくれたのかね?

 

祭壇に向かい、そこで待ってくれていたのは魔王の格好をしたサーゼクスさんをはじめとした魔王の方々。

 

サーゼクスさんは俺と向かい合うと微笑みを送ってくれる。

 

「待っていたよ、イッセー君。君なら必ずこの場に来られると思っていた」

 

 

 

 

 

 

「――――以上、リアス・グレモリー眷属たる汝、兵藤一誠を上級悪魔とする」

 

色々と前置きが終わった後、承認証の授与が行われる。

サーゼクスさんが承認証に書かれていることを述べ、俺は片膝をついて承認証を受けとる。

 

「謹んでお受けいたします」

 

と、リアスに教えられた通りに返す。

 

俺は一度立ち上がった後、係りの人に承認証を手渡してから、次にリアスと向かい合い片膝をつく。

 

リアスが係りの人から王冠を受け取り、俺の頭部に被せていった。

流石に本格的な王冠のようで、結構な重さがあった。

 

それと同時に盛大な拍手が巻き起こる。

 

王冠の儀式が終わり、次が最後の儀式となる。

 

サーゼクスさんが再び祭壇の前に立つと手を挙げた。

すると、頭上より黒光りする大きな石碑が降りてくる。

 

この石碑に触れることで上級悪魔、『王』としての登録が済むらしい。

 

「さぁ、新たな『王』、兵藤一誠。石碑の前へ」

 

サーゼクスさんの言葉に従い、俺は前に出る。

 

右手にオーラを纏わせて石碑に触れる―――――

 

 

ドクンッ!

 

 

俺の心臓が高鳴った。

 

こいつは―――――『悪魔の駒』が反応しているのか?

 

石碑は赤く輝くと俺の手形を一度浮かび上がらせる。

その後、元の状態に戻っていった。

 

どうやら、これで登録は済んだらしい。

 

最後にサーゼクスさんから小箱を受け取った。

中には十五個の『悪魔の駒』。

 

これが俺の『悪魔の駒』・・・・・・・。

 

チラリと来客の方に視線を移すと美羽とアリスが真剣な表情でこちらを見ていた。

 

この儀式が終わったら早速使うことになりそうだ。

 

ここで俺の出番は終わりとなり、来賓の方々の言葉が続いた後、儀式は無事に終了した。

 

 

 

 

 

 

儀式を終え、控え室。

 

俺は椅子に座り、コップに注がれた水を一気に飲み干した。

 

「ぷはー! 生き返る!」

 

「お疲れさま、イッセー。そして、おめでとう」

 

「ありがとう、リアス。・・・・・俺、きちんとできていたかな?」

 

「もちろんよ。立派だったわ」

 

リアスがそう言ってくれるなら安心だ。

 

と、ここで控え室に皆が入ってきた。

どうやら会場の方も解散になったようだ。

 

皆に祝福されるなか、父さんと母さんは目元を潤ませていた。

 

「ううっ! イッセーの晴れ舞台は感動するなぁ!」

 

「ええ、お父さん。うちの息子は父親より出世しているようで感動するわ! 上級悪魔ってことはお給料も良いのでしょう? 一生安泰ね! あとは孫の顔を見せてくれれば文句はないわ!」

 

「またそれかよ! 今は昇格のことだけ祝ってくれないかな!?」

 

俺は苦笑しながらそう言った。

 

ったく、そこまでして早く見たいのか!

今は学生なんだからもう少し待ちなさいよ!

 

やれやれ、俺の両親はどこでもマイペースというかなんというか・・・・・・。

 

さて・・・・・俺には早速やるべきことがあったな。

 

俺は机に置いた小箱――――十五個の『悪魔の駒』を見る。

それを察したのか、美羽とアリスが俺の前に出てきた。

 

・・・・・なんか、二人ともワクワクしてない?

 

ま、いっか。

 

俺は二人と視線を交わした後、皆を見渡しながら言った。

 

「何となく気づいているかもしれないけど、俺はこの二人を眷属にすると決めた。これは二人の意思であり、俺の意思でもある」

 

「そんなことだろうとは思ってたがな。で? 二人をどの駒にするのかは決めているのか?」

 

アザゼル先生の問いに俺は頷きを返す。

 

そして、二人の方に再び視線を戻して、それを告げた。

 

「美羽には俺の『僧侶』、そしてアリスには俺の『女王』となってほしい」

 

そう、それが俺が出した結論だった。

かなり迷ったけどね。

 

ロスヴァイセさんの例を見てみると美羽は『戦車』でも良かったんだけどね。

ただ、美羽は結界や幻影といった魔法も使える。

『僧侶』はサポート役としても輝くから、幅広く魔法を使える美羽には適役だと思ったんだ。

 

次にアリス。

アリスはその戦闘スタイルから『騎士』にしようかと思った。

だけど、アリスは槍術だけでなく雷の魔力も使える。

『女王』はその特性上オールラウンダーが適役。

そこで機動力と破壊力、そして魔力を兼ね備えたアリスを『女王』とすることにしたんだ。

 

 

俺は箱から『僧侶』の駒を取りだし、美羽と向かい合う。

 

ちなみにこの駒は変異の駒だ。

変異の駒は複数の駒を使うであろう資質を宿した者を一つの駒で済ませてしまう特異な駒。

美羽の実力や潜在能力を考えるとどう考えても駒一つじゃ足りないだろうからな。

それに俺がレーティングゲームに出ることになった場合、美羽ほどの実力で駒価値が3で済むというのはデカい。

 

「美羽、俺に力を貸してほしい。俺の『僧侶』になってくれ」

 

俺がそう言うと、美羽は満面の笑みを浮かべて頷いてくれた。

 

「もちろんだよ。ボクを・・・・・・お兄ちゃんの眷属してください」

 

美羽が了承し、俺から駒を受け取った。

 

すると、駒は赤い光を発し――――美羽の胸の中へと入っていった。

 

これで美羽は俺の眷属となった。

 

 

次はアリスだ。

 

俺は『女王』の駒を取り出すと、美羽と同様にアリスに言った。

 

「アリス。俺の『女王』としてその力を貸してほしい。また俺の背中を預けさせてくれ」

 

「・・・・・・・」

 

 

・・・・・・あれ?

 

アリスから返事が返ってこない。

駒を受け取る仕種もなく、ただ俯いたまま黙ってる。

 

俺の眷属になるのが嫌になったとか・・・・・・?

 

いつまでも黙ったままのアリスに皆も怪訝な表情を浮かべていた。

 

そんな中、美羽がアリスの肩に手を置く。

 

「そんなに固くならなくても大丈夫だよ、アリスさん。お兄ちゃんに自分の気持ちを伝えようよ」

 

「そ、そうね・・・・・・」

 

美羽に言われ、アリスは一度大きく深呼吸した。

 

顔を見ると頬は赤くなっているものの、その瞳にはすごい決心が宿っているようにも見えた。

 

アリスは顔を上げるとその口を開く。

 

「眷属になる前に言っておきたいことがあるの」

 

「言っておきたいこと?」

 

「そう。私・・・・・まだ、あんたに自分の気持ちをハッキリ伝えてなかったから」

 

なんだなんだ、いきなり改まってさ。

 

ってか、アリスの気持ち?

 

「あんたってさ、バカでスケベだしドスケベだし、あげくの果てにはおっぱいドラゴンだし・・・・・・しかも、私の・・・・・を吸ってくるし」

 

酷ぇ・・・・・不満のオンパレードじゃん!

ゴメンね、スケベで!

つーか、最後のは俺だけに非があるとは思えないんだが!?

 

アリスの気持ちって俺への不満だったのか!?

 

「でも、いざと言うときはカッコ良くて・・・・・やるときはやるってところが良くて・・・・・・。そんなあんたが私は好き」

 

「――――っ」

 

目を見開く俺にアリスは息を吐いた後、真っ直ぐな瞳で言った。

 

「私、アリス・オーディリアはあなたの側で、あなたと共にこれからの道のりを歩んでいくことを誓います。――――私は兵藤一誠を愛しています」

 

アリスは俺に近づくと、俺の頬に手を当て――――唇を重ねてきた。

 

その時を待っていたかのように、俺が手にしていた『女王』の駒が眩く赤い光を放ち、室内を照らした。

 

『女王』の駒がアリスの中に入っていく――――

 

光が止むと同時にアリスは唇を離し、数歩後ろに下がった。

 

「「「「・・・・・・・・・・・」」」」

 

突然の光景に皆はポカーンと口を開けて呆然としているのだが・・・・・・。

 

正直、俺も驚いている。

まさか、アリスがこんな大胆に告白してくるなんて・・・・・・。

ま、まぁ、確かに家に来てからはかなり大胆になってきてたけどさ・・・・・・。

それでもこれは想定外の告白だった。

 

 

当の本人、アリスはというと・・・・・・・

 

「あぁぁぁ・・・・・・言っちゃった・・・・・・皆の前で言っちゃったよぉぉ・・・・・・」

 

手で顔を覆い、皆から顔を見られないようにしていた。

耳まで真っ赤になってるし・・・・・・。

 

「やったね、アリスさん! 練習通りに出来てたよ! 頑張ったね!」

 

「うぅ・・・・・美羽ちゃん・・・・・。うん・・・・私、頑張ったもん。ちゃんと伝えられたよ・・・・キ、キスだってしたもん・・・・・・」

 

涙目になってるアリスとそのアリスを抱き締めてる美羽。

 

これじゃあ、どっちが歳上か分かったもんじゃないな。

 

「な、なんて大胆なの・・・・・・!」

 

「まさかの公開告白&公開キス! すごいわ、アリスさん!」

 

なんか、他の女性陣がざわついてる!

 

「いやぁぁぁぁっ!! 恥ずかしいから言わないでぇぇぇええ!」

 

悲鳴をあげるアリス!

頭から湯気出てる!?

 

「お父さん!」

 

「ああ、分かってるぞ、母さん! 孫二人は確定だな! 美羽、アリスさん! 是非とも励んでくれ!」

 

あんたらはどんだけ孫が欲しいんだよぉぉぉおお!?

つーか、励んでくれとか言うな!

 

今のアリスにはトドメにしかならねぇよ!

 

「ハハハハハッ!! 昇格早々に修羅場かよ、イッセー。面白いから録画していいか?」

 

あんたは何してんだ、このラスボス元総督!

そのビデオカメラどっから出した!?

 

 

はぁ・・・・・

 

どうやら、昇格は果たしたものの、俺の周辺環境は変わらないらしい。

これからもツッコミの日々が増えそうだ。

 

ま、それはそれで良しとするか。

 

俺は抱き合ってる美羽とアリスを背中から抱き締め、笑顔で言ってやった。

 

「これからもよろしくな、二人とも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

美羽とアリスを俺の眷属にした後、俺達はグレモリー城で開かれた祝賀パーティーで夕食を楽しんだ。

 

そして現在。

時刻は既に夜の十二時だ。

 

冥界から帰ってきた俺は風呂を済ませ、あとは寝るだけの予定だった。

 

しかし、浴場で美羽とアリスに夜にアリスの部屋に来てほしいと言われたんだよね。

なんでも相談があるとか。

 

まぁ、二人とも悪魔になった訳だし、今後について色々と話したいこともあるのだろう。

時間を指定してきたのは気になるが・・・・・・どうも他の皆が寝静まるのを待ってたみたいなんだ。

 

あまり聞かれたくない話なのかね?

 

そんなこんなで、俺はアリスの部屋の前に立っていた。

 

 

コンコンコン

 

 

「お兄ちゃん? 入ってきてよ」

 

部屋をノックすると、中から美羽の声。

 

扉を開けて部屋に入ると―――――

 

「待ってたよ」

 

「い、いらっしゃい・・・・・・」

 

下着姿の美羽とアリスがベッドの上でちょこんと座っていた。

 

突然のことに思考が停止する俺。

 

ドアの前で固まっていると二人はこちらに近づいてくる。

 

アリスがドアを閉め、美羽が俺の手を取りベッドの方まで誘導する。

 

そして、俺は二人にベッドへと押し倒された!

二人が俺の上に覆い被さる!

 

「ちょ、え、えーと・・・・・・何事?」

 

何とか思考を再開させた俺は二人に尋ねる。

 

 

すると――――

 

 

「今日はお兄ちゃんが上級悪魔になって、ボク達がお兄ちゃんの眷属になった特別な日だから――――」

 

「・・・・・・私達に・・・・・イッセーを刻み込んでほしいの」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

な、ななななんだとぉぉぉぉぉおおおお!?

 

 

刻み込むって・・・・・この場合・・・・・つまり、そういうことだよな!?

 

いや、確かに記念すべき日ではあるが・・・・・。

 

「って、おまえらのその下着・・・・・・」

 

俺は二人が身に付けている下着に視線をやった。

 

美羽はピンク色の可愛らしいデザインの下着。

対してアリスは淡いグリーンで花の刺繍がされた大人っぽいデザインの下着。

 

その下着には見覚えがあった。

 

俺が気付いたことが嬉しかったのか美羽がニッコリと微笑んだ。

 

「うん。これは三人で買い物に行った時にお兄ちゃんが買ってくれた下着だよ?」

 

そう、これは俺達が三人で買い物に出かけた際、俺が二人に買った下着だ。

試着室の中に引きずり込まれて、似合ってるかどうかを聞かれたんだが・・・・・・。

 

そういや、「その時のために選んでほしい」なんてことを言われてたな。

本当に実行してくるとは・・・・・・・。

 

儀式後の告白といい、今の状態といい、アリスって本当に大胆になったな。

マジでそう思う。

 

今思い出したけど・・・・・俺、アリスの告白に対してちゃんと返事を返してなかったな。

 

ま、まぁ、あの時は周りがね・・・・・・。

 

少し時間が経っているけど、俺もアリスにはしっかり返事をしなければならないな。

 

「アリス」

 

「何よ・・・・・・?」

 

「俺も・・・・・・・おまえのことが好きだよ」

 

「っ!」

 

俺の突然の言葉に目を見開くアリス。

 

「怒りっぽいけど、努力家で優しくて、どこまでも真っ直ぐなアリスが俺は好きだ。・・・・・・書類を溜め込むのはどうかと思ったけどな」

 

「最後のさえなければ、かなりときめいたのに・・・・・」

 

「ま、俺も色々言われたからな。それの仕返しだ」

 

ニッと笑う俺にアリスはプクッと頬を可愛く膨らませる。

こういうところは昔から変わらないようで。

 

「・・・・・それで、どうなのよ? 私達を・・・・・・抱いてくれるの?」

 

「そうしたいところだけど・・・・・俺の手元にアレないし・・・・・・。アリスだって駒王学園に通うつもりなら、子供作るのはマズいだろ?」

 

「それは・・・・・そうなんだけど・・・・・・」

 

アリスがそう呟いた時だった。

 

「問題ないよ。持ってきてるから」

 

美羽が何処からか箱を取り出した。

その箱には見覚えがある。

修学旅行の時に美羽が持ってたアレの箱だ。

 

この展開は頭の隅で予想はしていた。

 

 

 

ただし、今度はそれが三つ(・・)

 

 

 

・・・・・・・あ・・・・・・・れ・・・・・・・?

 

なんか増えてない?

 

「それって・・・・・・何回戦するつもりだ?」

 

「・・・・・一人で一箱はいけるかなって・・・・・・あとは予備で・・・・・・」

 

「えっ!? わ、私も一箱!?」

 

「・・・・・一応、ね?」

 

いや・・・・・・そう言われましても・・・・・・。

 

美羽って俺よりも性欲強いよね、実は。

修学旅行の時もそうだったし・・・・・・。

 

つーか、アリスもなんだかんだで一箱受け取るのかよ・・・・・。

 

「お兄ちゃん。今日はアリスさんを先にしてあげてね。ボクはアリスさんの後でいいから」

 

「お、おう・・・・・?」

 

美羽は俺の上から退くと、アリスには何やら耳打ちする。

 

途端にアリスの顔が真っ赤になっていくが・・・・・・何を言われたんだ?

 

すると、アリスは再び俺の上に四つん這いになった。

 

そのまま恍惚とした表情で――――

 

「イッセー・・・・・・。私、イッセーが欲しいの・・・・・お願い」

 

 

 

 

 

この日、俺達は朝までお互いを求め合った――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤龍帝眷属

 

王  兵藤一誠

女王 アリス・オーディリア

僧侶 兵藤美羽(変異の駒)

 

 

 

 

 




これにて補習授業のヒーローズは完結となります!

アリスはイッセーの『女王』、美羽は『僧侶』として落ち着きました。


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番外編 赤龍帝眷属の危機!?

遅くなりました!



俺が儀式を受け、正式に上級悪魔に昇格してから数日後にそれは起こった。

 

 

「おはよう、イッセー」

 

「おはよう、リアス」

 

などと昇格して階級が変わってもいつもと何一つ変わらない朝の挨拶を交わす。

 

食卓に並ぶのはパンにハムエッグにサラダ、スープと今日は洋食だ。

 

いやー、やっぱり作り手が多いとメニューのレパートリーも増えるから良いよね!

 

修行を終えて腹も減ってるから、どれも美味そうに見える!

いや、美味いんだ!

 

 

ぐぅぅぅぅぅぅぅぅっ・・・・・・・

 

 

盛大になる腹の音。

 

それを聞いてリアスがクスッと笑った。

 

「もう、イッセーったらそんなにお腹空いてるの?」

 

「アハハハ・・・・・・。まぁね。修行した後だし、それでかな?」

 

「昇格しても怠けずに修行を続けているのね」

 

「そりゃあ、日々の鍛練が俺の強さに繋がるからな」

 

昇格してもその辺は変わらないよ。

 

「イッセーさん、おはようございます。朝ごはんの仕度が出来ましたから席についてください」

 

「おう、サンキュー」

 

アーシアに促されて、席につく。

既にゼノヴィアやイリナ達も席についている。

 

と、ここでレイナと俺の視線が合った。

 

すると、レイナは顔を真っ赤にして視線をそらす。

 

「・・・・・・・」

 

最近・・・・・というより、俺が昇格した次の日からずっとこんな感じなんだ。

あまり口を聞かないし、俺が近づくとこれまた顔を真っ赤にして逃げていくというか・・・・・・。

 

それに気づいたのか、ゼノヴィアが怪訝な表情で問う。

 

「どうしたレイナ。ここのところイッセーとあまり上手くいっていないようだが・・・・・喧嘩でもしたか?」

 

「え、あ、いや、そ、そそそそそういうわけじゃないの! うん!」

 

レイナは手を振りながらそう返した。

かなり焦っているのか、言葉を噛みまくってる。

 

俺もレイナと喧嘩をしたという記憶もないし、何かをした記憶もされた記憶もない。

正直、全く心当たりがない。

 

うーむ、ここは直接本人に聞いてみるべきか?

 

「なぁ、レイナ。レイナが俺を避けるのは多分、俺に原因があると思うんだけど・・・・・・。レイナを傷つけるようなことをしたなら謝るよ。だから、教えてくれないか? このまま、ギクシャクした関係が続くのはお互いにとって悪いことだと思うし・・・・・・」

 

これは本心だ。

 

同じ家に住んでいるんだから、それは毎日顔を会わせることになる。

その度に互いを避けるようでは、心苦しいと思うんだ。

 

俺はレイナと仲良くしていきたいし、俺に非があるならそれは直す。

 

「え、えっと・・・・・・でも、朝食の席で言うようなことじゃ・・・・・・皆もいるし。イッセー君は皆に知られてほしくないことだと思うから・・・・・」

 

俺が皆に知られてほしくないこと?

 

何だろう?

 

エロ本の隠し場所か?

 

それならとっくにバレてるんだが・・・・・・・。

この間なんて教会トリオがエロ本持って、それに載ってる言葉の意味を聞きに来たくらいだし。

 

あの時はかなり恥ずかしかった・・・・・・。

 

ゼノヴィアは興味津々といった様子で次々に聞いてくるわ、アーシアとイリナは顔を真っ赤にしながらも真剣に耳を傾けてるわでさ。

 

まぁ、とにかく今俺に皆に聞かれたくないような隠し事はない・・・・・・・はず。

 

「俺は構わないよ。言ってみてくれ」

 

「・・・・・本当に良いの?」

 

「まぁ、ここまで来れば皆も聞かずにはいられないって顔してるしね」

 

ここで黙っていても、後であれよこれよで問い詰められてバラしてしまうのがオチだろう。

これまでの経験で学んだことだな。

 

「えーと、じゃあ・・・・・・言うね?」

 

「うん」

 

その最終確認に俺は一言で返した。

 

レイナはそれを確認すると一度大きく深呼吸して覚悟を決めたような顔で口を開いた。

 

「実は私、見ちゃったの」

 

「見た? 何を?」

 

俺は聞き返す。

 

 

 

すると―――――――

 

 

 

「・・・・・・イッセー君が・・・・・・・美羽さんとアリスさんと・・・・・・・しちゃってるところを・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

食卓を囲む空気が凍った。

 

俺もレイナの予想を遥か超えた言葉に思考をフリーズさせてしまう。

 

えっと・・・・・つまり、その・・・・・・レイナは俺達が三人でしてたところを見た?

 

それって・・・・・・

 

それって、つまり―――――

 

 

「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「「「「「ええええええええええっ!?」」」」」

 

俺とリアス達の声が重なった!

レイナは顔を手で隠し、耳まで赤くしている!

 

ま、マジでかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 

「いつ!?」

 

「・・・・・・あの儀式を終えた、その日の夜に・・・・・・」

 

「っ!?」

 

間違いない!

完全に見られてる!

 

レイナは未だ顔を手で覆いながら言葉を続けた。

 

「私、一度目が覚めたの・・・・・・。それでトイレに行って、部屋に戻ろうとしたら、上の階・・・・・・アリスさんの部屋から声が聞こえてきて、それで様子を見に行ったら・・・・・・」

 

しまった!

あの時は美羽に防音用の結界を張ってもらってなかった!

皆が熟睡してたから完全に油断してた!

 

つーか、レイナの気配に全く気づかなかった!

 

「・・・・・私が覗いても気づかないくらいに三人とも夢中になってて・・・・・・。私もそのまま朝まで見てたというかなんというか・・・・・・」

 

朝まで覗いてたと!?

 

あの日、レイナが珍しく寝不足になってたと思ってたけど、原因はそれか!

 

「我も見てた」

 

「オーフィスまで!?」

 

子供は見ちゃいけません!

 

「・・・・・イッセー君と顔会わせる度にその光景を思い出しちゃって・・・・・・それで・・・・・」

 

それで、俺と顔を会わせにくかったと!?

 

そりゃ、そうだよね!

当然の反応だよ!

 

「イッセー・・・・・・どういうことかしら?」

 

「ええ。そこのところ詳しく説明してほしいですわね」

 

リアスと朱乃が微笑みながらこっちを見てくる!

 

怖いよ!

かつてないくらいに迫力があるんですが!?

 

「「なんで私も誘ってくれなかったの!?」」

 

誘うってどういうことですか!?

君達、自分がとんでもないこと言ってるの分かってる!?

 

「私はいつでもイッセーに処女を捧げられるわ!」

 

「私だってそうですわ! イッセー君になら、いつでもどこでも捧げる覚悟は出来てます!」

 

二人とも、朝食の席でそういうこと言っちゃいけません!

 

つーか、朱乃、普通に凄いこと言わなかった!?

いつでもどこでもって・・・・・・。

それはつまりベッド以外の場所でも・・・・・・・。

 

いやいやいや!

確かにエロいシチュエーションは色々浮かんでしまうが、それをすれば俺はバラキエルさんに殺される!

 

あの人のことだから、「不純だ!」とか言いながら大出力の雷光撃ってくるに違いない!

 

「レイナ! なぜそれを見たときに私に教えてくれなかったんだ!」

 

「私も我を忘れてたというか、気づけば朝になってて・・・・・」

 

そんなに覗くのに夢中になってたの!?

 

あと、ゼノヴィア!

おまえはどうするつもりだったんだ!?

 

「母さん、今朝の朝刊取ってくれるか?」

 

「えーと、これね」

 

あと、父さんと母さんはなんで平常運転なんだ!?

 

息子がピンチだって時に気になるのは今朝の朝刊だと!?

 

「おち、おおおおお落ち着いてくれ! とりあえず落ち着こうか! 美羽とアリスも止めてくれ!」

 

俺の叫びが朝の食卓に響き渡る!

 

 

・・・・・・が、ここで俺は気づいた。

 

美羽もアリスもここにいない。

 

「あれ? 二人は?」

 

「見てないけど? 美羽はともかくアリスさんはどうしたのかしら? この時間に起きてこないなんて珍しいわね」

 

リアスの言葉に首を捻る。

 

一瞬、またイグニスがやらかしてるかとも思ったが、俺の目の前で優雅に紅茶を飲んでるからそれはない。

流石に分身を作るのは無理だし。

 

美羽とアリスは悪魔化の影響で朝が少し辛くなったという。

美羽は元々朝が弱かったんだけど、アリスも少し弱くなった。

と言っても朝に起きれなくなったって程でもなくて、精々盛大に欠伸をするぐらいだ。

 

そのアリスが起きてこないってことは夜更かししたのか?

 

「ちょっと様子を見てくる。皆は先に食べててくれ」

 

「あ、逃げた」

 

イグニスの言葉にギクッとなりながら、俺は席を立った。

 

 

まず向かったのは美羽の部屋なんだが、そこに美羽の姿はなかった。

俺の部屋にもいないようだし・・・・・・。

 

となると、アリスの部屋か。

 

そういうわけで、俺はアリスの部屋に向かった。

 

「アリス、美羽、二人ともいるか? 朝飯だぞ」

 

ノックをした後でそう声をかけると・・・・・・。

 

『・・・・・あ、お兄ちゃん? ゴメン。ボクとアリスさん、ちょっと体調悪くて・・・・・』

 

「体調が悪い?」

 

怪訝に思った俺はドアを開けて、部屋の中に入る。

 

俺の視界に映るのはベッドで横になる美羽とアリスの姿。

二人とも毛布にくるまり、顔色を悪くしていた。

 

「おいおい、どうした?」

 

「・・・・・ボク達、朝から体が怠くて・・・・・」

 

「体が怠い?」

 

二人のおでこに手を当ててみる。

 

 

すると――――

 

 

 

「熱っ! かなりの熱だぞ、これ!」

 

触った瞬間にわかるほどの高熱!

 

「ケホッケホッ・・・・・」

 

咳も出てる!

 

 

 

こいつは―――――

 

 

 

 

「医者ぁぁぁぁあああああああ!! 救急車呼んでくれぇぇぇぇえええ!!」

 

「ちょ、お兄ちゃん!? 大袈裟だよ! ただの風邪だから!」

 

「バカ野郎! こんなに熱出てんだぞ!? 今すぐ病院に行くぞ!」

 

俺は拳を強く握りしめる。

 

なんてこった!

俺は・・・・・・・自分の眷属が苦しんでることに気づけなかったなんて!

『王』失格だ!

 

気を整えて気分を楽にしてやることは出来るが、ここまで病状が悪化していたら、根本的な治療にはならない。

 

もしかしたら特殊な病気だったりする可能性もある。

 

となると・・・・・・

 

「美羽! アリス! 待ってろ! 今すぐ助けてやるからな!」

 

俺は部屋を飛び出し、リビングに駆けていった。

 

「・・・・・・・バカ」

 

部屋を出る瞬間、アリスが何やら呟くのが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「お二人とも風邪ですな。といっても悪魔、特に転生悪魔にみられる風邪です」

 

リアスに事情を告げた後、グレモリー領にある大きな病院に二人を運び診察を受けた。

 

で、その診察結果なんだが・・・・・・・。

 

悪魔特有の風邪ってところか。

 

「それで治療はどうすれば?」

 

「基本的な治療方法は人間の方と同じです。風邪薬を処方しておきますので、それを飲んで安静にしていれば治りますよ」

 

なるほど。

それなら家でも看病できるな。

 

ほっ・・・・・・。

 

いやー、かなりの高熱だったから焦ったんだけどね。

ただの風邪で良かった。

 

診察室の扉が開き、ロスヴァイセさんが入ってきた。

 

「先生、イッセー君、二人共目が覚めましたよ」

 

病院に運ばれる直前、二人は意識を失うように眠ってたんだけど・・・・・。

どうやら目が覚めたらしい。

 

「わかりました。では病室の方に移動しましょう」

 

「そうですね」

 

先生とロスヴァイセさんと共に美羽とアリスがいる病室に移動する。

 

病室に入ると二人共上体を起こしてリアス達と話していた。

 

「二人共調子はどうだ?」

 

俺が問いかけると、美羽は申し訳なさそうに頷いた。

 

「少しマシになったよ。熱も今は下がってるみたいだしね。・・・・・・心配かけてゴメンね」

 

「気にするなって」

 

謝る美羽の頭を撫でてやる。

 

顔色も家を出る前よりも幾分か良くなってるな。

二人のおでこに手を当ててみるが、確かに熱は下がってる。

 

「今は点滴で症状が緩和しているはずです。少し失礼しますね」

 

医師の先生が二人の脈や血圧を測り、心音を聞いて異常がないかをチェックしていく。

 

それが終わると先生は二人に言う。

 

「特に問題はありません。とりあえず解熱剤を出しておきますので、二、三日は安静にしてください。熱が下がっても激しい運動はしないでくださいね。夜の運動会もダメです。なんちゃって!」

 

「「・・・・・・・・」」

 

先生の発言に顔を紅潮させて俺の袖をギュッと握ってくる美羽とアリス。

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

そして、俺達三人に向けられるリアス達からの視線。

 

「あれ? 笑うところですよ?」

 

一気に冷めた空気に響く先生の声。

 

 

 

・・・・・・笑えねーよ・・・・・・・

 

 

 

今朝はそれで問い詰められたんだよ!

なに余計なこと言ってくれてるの!?

 

『・・・・・ドンマイだ、相棒』

 

励ましてくれてありがとよ!

 

「それと、同居されている方々もワクチンを打っておいてください。悪魔にも感染しますから」

 

先生は看護師さんに指示を出して、俺達に手際よく注射していく。

 

そして順番が美羽に回る。

 

「では、お注射しますねー」

 

「は、はい・・・・・」

 

一気に青ざめていく美羽の顔色。 

看護師さんに握られている腕がガクガク震えてる。

 

「美羽ちゃん? どうしたの?」

 

美羽の急な変化に怪訝な表情を浮かべるアリス。

他のメンバーも首を捻っていた。

 

握られた腕が更に震え、縮こまっていく。

 

「あ、あの~、もう少し腕を伸ばしてもらえないと注射出来ないんですが・・・・・・」

 

看護師さんが困り顔で言った時だった。

 

 

 

「やっぱり嫌ぁぁぁぁあああ! 注射ダメぇぇぇぇえええ!!」

 

 

 

美羽が涙目で駄々をこね始めた!

 

そうだった!

美羽は注射が大の苦手だったんだ!

 

 

ブォォォォォォォォォォッ!!!!

 

 

ガシャーンッ!

 

 

美羽から迸る魔力の嵐が花瓶を割り、窓ガラスを砕く!

病室を次々に破壊していく!

 

 

ドカーンッ!

 

 

「ぐえっ!?」

 

「先生!? しっかりしてください先生ーーー!」

 

壁に叩きつけられた先生が白目向いて泡吹き始めた!

大丈夫か、先生!?

 

誰か医者を!

 

あっ、この人が医者だった!

 

「きゃあ!」

 

アーシアの悲鳴!

今度は何事だ!?

 

「アーシアのスカートが風圧で飛んでいったぞ!」

 

「割れた窓ガラスから外に出ていってしまったわ!」

 

なんだとぉぉぉおおおお!?

 

慌てて振り向く俺!

 

そこにはスカートが消え去り、ピンクのパンツが露になったアーシア!

 

なんということだ!

アーシアのスカートが!

このままではアーシアのパンツ姿を他の男に見られてしまう!

 

「ひゃあ!」

 

今度はレイナの悲鳴!

次は何だ!?

 

「レイナ先輩の服が美羽先輩の風の魔力で切り裂かれました」

 

小猫ちゃんが冷静に教えてくれた。

 

ホントだ!

レイナの服が洋服崩壊(ドレス・ブレイク)を食らったようにビリビリに!

 

豊かなおっぱいが俺の視界に!

眼福です!

 

「ちょ、落ち着きなさい美羽! 点滴打っているのだから注射も大丈夫でしょう!?」

 

リアスがそう叫ぶ。

 

確かにごもっともな意見だが、点滴の針は美羽が眠っている時に打ったからな。

美羽は針が体に入ってくるあの瞬間が嫌なんだ。

 

注射あるあるだな。

 

普段の戦闘では特にそんなことはないんだけどね。

恐らく注射器の形状、病院の雰囲気諸々が恐怖を増幅してるんだろうな。

 

って、冷静に分析してる場合か!?

とにかく止めないと!

 

確か、中学の時も一度暴走しかけて・・・・・。

あの時は美羽が暴れる前に気絶させたから何ともならなかったが・・・・・・。

 

よし、ここはまた気絶させるとしようか。

 

「美羽・・・・・すまん」

 

俺は一度謝った後、美羽の首筋にトンッと軽く手刀を当てる。

 

すると、さっきまで暴走していた美羽の体から完全に力が抜けていき、魔力の嵐も止まった。

 

慌てていた皆も力が抜けたようで、ガックリと肩を落とし盛大に息を吐いている。

 

「・・・・・・・イッセー。『王』としてまずは美羽に注射を克服させなさい。今後のことを考えると恐ろしいわ」

 

「ハハハハ・・・・・・。は、はい・・・・・」

 

この後、気絶した美羽に注射を打ってもらった。

 

それから、俺はオカ研メンバーと病院関係者に対して深々と謝罪することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで家に戻ってきた俺達。

 

美羽とアリスは二人共アリスの部屋で寝かせてある。

看病するならまとめて面倒見るのがてっとり早いからな。

 

というわけで、ここは俺が二人の『王』として看病することにした。

皆も手伝ってくれるからありがたい。

 

「熱はどうだ?」

 

「薬のお陰で下がってるわ。頭はクラクラするけどね。・・・・・ケホッケホッ」

 

寝てる美羽はともかく、アリスは咳はまだ出てるな。

 

こりゃ、医師の先生が言ってた通り、しばらくは安静だ。

 

俺は持ってきておいたお茶を湯飲みに注いでアリスに手渡す。

 

「水分は取っておけよ?」

 

「ありがとう・・・・・はー、暖まる」

 

「それにしても、俺の眷属が二人揃って風邪を引くとはなぁ・・・・・。今後は体調管理も徹底するか?」

 

俺がそう苦笑していると、アリスが訊いてきた。

 

「話は聞いたけど、悪魔だけの風邪なんでしょ? 私達、どこで病気をもらったのかしら?」

 

「あー、それな。俺達、地下室でたまに商人を呼び寄せてるだろ? その時にウイルスが二人に感染したんじゃないかってさ」

 

「でも、それって私達が悪魔に転生する前でしょ?」

 

「人間でも体の中に留まることはあるらしいからな。その状態で悪魔に転生したから発症したんだろうって」

 

「なるほど、そういうこと。今度から商人には消毒を受けてから来てもらいましょうか」

 

「だな」

 

冗談を言いながら笑う俺とアリス。

 

ま、元気でなによりだ。

 

「とりあえず汗拭くか」

 

俺はアリスに近づくと、用意しておいたタオルでアリスの顔を拭いていく。

 

アリスが終わったら美羽も拭いてやるか。

 

「冷たくて気持ちいい・・・・・」

 

アリスは目を閉じて息を吐く。

 

「だろ? キンキンに冷やしておいたからな。風邪引いてる時にこれで顔拭くと気持ちいいんだ」

 

昔、こうやって母さんにも拭いてもらったっけな。

 

「やっぱ、結構寝汗かいてるな」

 

アリスの頬を汗が伝い、それが胸の方へと落ちていく。

体の方も汗で濡れてるかも。

 

「ええ、後で下着も変えないと・・・・・」

 

「そうだな。体の方と下着はリアス達にやってもらうといい。皆もおまえ達の看病手伝ってくれているからな」

 

今頃、母さんとお粥でも作ってくれているんじゃないかな?

 

「これでよしっと。次は――――」

 

アリスの汗を拭き終わり、手を離そうとすると――――アリスに手を掴まれた。

 

「どうした? 何か欲しいものでもあるのか? だったらすぐに持ってくるけど」

 

などと訊いてみたが、アリスは首を横に振る。

 

それじゃあ、もう少し拭いて欲しいのだろうか?

冷たいタオルで顔拭くの気持ちいいしな。

 

「・・・・・・体の方も拭いて・・・・・イッセーが・・・・・」

 

「お、俺?」

 

俺が自分を指差すとアリスはコクリと頷く。

 

熱が出てきたのか、アリスの顔がみるみる赤くなっていく。

 

「早く・・・・・してよ」

 

「・・・・お、おう。えっと、じゃあ、パジャマ脱いでくれるか?」

 

「・・・・・イッセーが脱がせて」

 

「え・・・・」

 

ええええええぇぇぇぇえええ!?

 

な、なんでこんなに積極的・・・・・ってか甘えてるのか、これは!?

 

「・・・・お願い」

 

ぐっ・・・・・そんな潤んだ瞳でお願いされたら・・・・・・

断れないじゃないか!

 

可愛いじゃないか、俺の『女王』!

 

俺は一度大きく深呼吸すると、何も言わずにパジャマのボタンに手をかける。

 

上から順に一つ、また一つとボタンを外していくと現れるのは透き通るほどに綺麗な白い肌。

 

ボタンを外し終えた瞬間に伝わってきた熱気が俺の心を大きく揺さぶる!

 

「・・・・・下着も」

 

アリスの言葉に頷き、ブラジャーを外す。

 

抑えるものが無くなり、ぷるんと解き放たれるアリスのおっぱい。

 

あれ?

 

「また少し大きくなった?」

 

サイラオーグさんとの試合の前、あの浴場での一件の後、アリスの胸は僅かに大きくなっていた。

 

それがわかった時、アリスは泣いて喜んでいたが・・・・・。

 

今のはあの時よりも大きい。

 

「う、うん・・・・。あんたとその・・・・した後から少しね」

 

マジか!

あの後に成長したと!

 

美羽やリアス達のような巨乳のアリスは想像できないが、それでも俺は嬉しいぞ!

感動に涙すら出る!

 

俺が一人、感動しているとアリスは俺の首に両手を回した。

 

「また・・・・・する?」

 

「へ?」

 

「私はいいよ・・・・・あんたが望むなら私は――――」

 

いいよって・・・・・・・それはつまり―――――

 

「ボクもいいよ? お兄ちゃんとならいつでも」

 

声がしたので振り向くと美羽が起きていた!

 

いつの間に!?

 

つーか、なんでパジャマ脱いでるの!?

 

「おまえも汗かいてるだろ! 体冷やすと悪化するぞ!? ちょっと待て、拭いてやるから!」

 

「大丈夫だよ・・・・・。今から汗いっぱいかくと思うし・・・・・」

 

まぁ、確かに汗を拭いても、どうせすぐに――――ってなるかぁぁぁぁぁあ!!

 

つーか、確定か!?

今からするのは確定なのか!?

 

おまえら風邪引いてるのに元気だな、おい!

 

などと思っていたら、アリスに続いて美羽まで上半身裸で抱きついてきた!

 

え、なに、この展開!?

 

二人共、俺は看病するためにここにいるの分かってる!?

 

嬉しい申し出だけどさ!

 

「お兄ちゃん・・・・・」

 

「イッセー・・・・・・・」

 

二人が俺に迫る――――――

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「イッセー、お粥出来た・・・・・・・え?」

 

ドアが開き、入ってきたのはお盆にお碗を乗せたリアス!

 

「リアスお姉さま? はうっ! イッセーさん!?」

 

アーシアまで!

 

って、この流れには身に覚えがある! 

 

予想通り、他のメンバーも次々に集まってきては、この光景を見て言葉を失っていく!

 

 

「「「「「よ、夜の大運動会!?」」」」」

 

 

 

 

この後、俺が皆から問い詰められたのは言うまでもない。

 

 

それから、一つ付け足すが・・・・・・・。

 

 

二人から風邪をうつされた俺はナースのコスプレをした女性陣から看病を受けることになる。

 

 




というわけで、番外編は赤龍帝眷属の二人が風邪をひくお話でした。

最近は色々と忙しくて更新スピードが落ち始めています。
くそぅ!
なんで同時に課題が七つも出るんだ!(泣)

まぁ、そういうわけで、今後の更新は少し遅くなりますが、頑張って書いていきたいと思います!

あと、気づいている方もいると思いますが、番外編のナンバーを外しました。
これは、その章に新たに番外編を書くときに邪魔になるかなと思ったからであります。
内容は全く変わりません。

番外編で読んでみたいお話があれば、いつでも言ってください。
気分次第で書きます!(笑)






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番外編 ミリキャス君の見学会 前編

ある日の休日。

 

「お久しぶりです、皆さん。ミリキャス・グレモリーです」

 

リュックサックを背負った紅髪の少年が俺達の前で挨拶をしていた。

 

なんとミリキャスが俺の家を訪れてきたんだ。

 

ミリキャスは現魔王ルシファーのサーゼクスさんとその妻で最強の『女王』であるグレイフィアさんの間に生まれた子だ。

現魔王は世襲制じゃないから、今はリアスの次のグレモリー家当主になる。

 

正真正銘のプリンスってわけだ。

 

今日、グレモリー家からお客さまが来訪するとリアスから聞いていたが・・・・・・まさか、ミリキャスとはね。

俺は完全にサーゼクスさんかグレイフィアさん辺りだと思ってた。

 

会ったのは俺の昇格後の祝賀パーティー以来だが、あいさつ、立ち振舞いに気品が溢れていて、まさに良いところのお坊っちゃまって感じだな。

 

まぁ、実際そうなんだけど。

 

「はい、紅茶ですわ。お砂糖は角砂糖が二つでしたわよね?」

 

朱乃がミリキャスに紅茶を出していた。

 

「はい、いただきます、朱乃姉さま」

 

ミリキャスは朱乃のことを『朱乃姉さま』と呼ぶ。

ま、確かに朱乃はリアスの眷属では一番の古株だし、俺達よりも接点は多いのだろう。

 

ミリキャスは紅茶に少し口をつけると目をキラキラさせながら言った。

 

「イッセー兄さま、昇格おめでとうございます! 飛び級なんてすごいです!」

 

おおっ、一気に年相応の雰囲気になったな。

 

ってか、この間のパーティーでも祝いの言葉はもらったんだけどね。

 

「ありがとな。まぁ、俺も飛び級には色々と驚いたけど。まさか悪魔になって日が浅い俺が昇格とはなぁ」

 

「イッセー兄さまは冥界のヒーローですから当然だと思います。僕もイッセー兄さまのようなカッコいい男になりたいと思います!」

 

ヒーローね・・・・・。

いやはや、ここまで真っ直ぐに言われると少し照れ臭いな。

 

頬をポリポリとかいているとリアスが微笑む。

 

「ミリキャスはイッセーに憧れているのよ。ミリキャス、皆に今日ここに来た理由を」

 

「そうですね。今日は見学がしたくて、リアス姉さまと眷属の皆さんのもとに来ました」

 

「見学?」

 

俺が聞き返すとミリキャスは体を前に出して、笑顔で言う。

 

「はい! 人間界での悪魔の在り方が見たくて参りました!」

 

人間界での悪魔の在り方・・・・・・。

つまりは、俺達の悪魔としての仕事を見学しに来たということか?

 

リアスが立ち上がり、ミリキャスの後ろに立って肩に手を置いた。

 

「ミリキャスもいずれは眷属を作って人間との契約をとらないといけなくなるわ。それで、実際に人間界で暮らす私達の姿が見たいと言ってきたのよ」

 

「はい! 冥界でも有名な皆さんの生活を見てみたいです!」

 

そういうことか。

 

次期次期当主さまはこんなにも幼い時から悪魔の在り方に興味を持って、こうして行動に移しているのか・・・・・。

 

俺がこのくらいの時って、将来のことなんざ考えてなかったよなぁ。

年がら年中おっぱいおっぱい言ってたっけ。

 

・・・・・・それは今もか。

 

「すごいね。ボクがこのくらいの時って引きこもってたような・・・・・」

 

「私は勉強が嫌すぎて、城を抜け出して遊んでたっけ。・・・・・後で皆から説教されたなぁ」

 

聞こえてくる美羽とアリスの声。

 

俺の眷属、俺も含めてダメダメじゃん!

『王』はおっぱい野郎で、『女王』は脱走娘、『僧侶』は引きこもり娘じゃねえか!

 

美羽は事情があったから良いとしても、アリスは何やってんだ!?

 

下は上がアレだとしっかりすると言うが・・・・・・。

 

ニーナがデキる理由はこれか。

そういや、アリスが溜め込んだ仕事の手伝いをこなしてたっけな。

 

 

 

~そのころのニーナちゃん~

 

 

「クチュンッ!」

 

「どうした、ニーナ。風邪か?」

 

「う~ん、熱は無いんだけどなぁ。誰かが噂してるのかも」

 

「イッセーかもな」

 

「ふふふ、だったらいいなぁ。それはそうとお姉ちゃん、お兄さんと仲良くしてるのかな?」

 

「さてな。ま、あいつのことだから今ごろデレデレなんじゃねぇの」

 

と、談笑しているニーナとモーリスであった。

 

 

 

~そのころのニーナちゃん、終~

 

 

 

「クチュンッ」

 

「アリスさん、風邪?」

 

「おいおい、またかよ?」

 

「うーん、熱はないし・・・・・・誰かが私の噂でもしてるんじゃない?」

 

噂ねぇ・・・・・。

 

まぁ、風邪じゃないならいっか。

 

「そのようなわけで、今日から数日、ここで共に生活することになったの。皆もよろしくね」

 

「よろしくお願いします」

 

ミリキャスの挨拶に皆も微笑んでそれに応じた。

 

拒否する理由もないしな。

何より頑張ってるミリキャスを応援したくなった。

 

「イッセー兄さま、今日からよろしくお願いします」

 

ミリキャスが俺にペコリと頭を下げる。

 

「こっちこそ。俺の眷属共々よろしくな、ミリキャス」

 

「よろしくね」

 

「よろしく」

 

俺に続いて美羽とアリスがそう返す。

 

ちなみに二人はまだ契約したことないんだよね。

悪魔の仕事も始めてはいるが、まずはビラ配りだ。

 

俺も最初はビラ配りだったな。

地味で意外と大変な作業だったが、今となっては懐かしい。

 

二人が契約を取るのはもう少し先のことだろう。

 

そんなこんなで、ミリキャスは少しの間、俺達の仕事ぶりを見学することになった。

 

 

 

 

 

 

「よーし、千本ノックするぞー」

 

「はい、コーチ!」

 

深夜の河川敷。

 

草野球用のグラウンドでバットを振るうゼノヴィアとゼノヴィアが打ったボールを嬉々としてキャッチしていく野球帽にユニフォームという出で立ちの青年。

 

彼はゼノヴィアのお得意様だ。

 

俺とミリキャス、それから美羽とアリスはゼノヴィアの仕事風景の見学をしていた。

二人がついてきたのは後々のことを考えての見学ということで、ミリキャスと同じ理由だ。

あとは俺と共にミリキャスの護衛ってことでついてきている。

 

ゼノヴィアに入る仕事は体を動かす類いのものが多い。

工事の手伝いから各種スポーツの練習相手など。

 

ゼノヴィアにぴったりの仕事だと思う。

本人も元々体を動かすことは好きらしいし。

 

「頑張ってくださーい!」

 

俺達の横ではチアガール衣装のアーシアがゼノヴィアの依頼人に応援を送っている。

どうやら、あの青年は練習相手以外にも『応援してくれるチアガール』を要求したらしい。

 

そこでアーシアが助っ人として参加している。

 

うーむ、アーシアのチアガール姿はたいへん素晴らしいな!

ポンポンを両手に一生懸命応援する姿は可愛らしい!

 

「悪魔の仕事ってイメージ変わるわね。もっと、こう呪術的な感じのことを想像してたんだけど」

 

アリスがゼノヴィアとアーシアを見てそう漏らしていた。

まぁ、その気持ちは分からなくはない。

俺も悪魔になりたての頃は同じこと思ってたし。

 

そういう呪いとか魔物を倒してほしいといった大きな案件は基本的に上級悪魔であるリアスのもとに入る。

 

俺は昇格したとはいえ、解呪とかは無理だから出来ることといえば後者の魔物を倒したりするぐらいか。

 

ちなみにだが、お得意様の依頼は受け続けているよ。

変な人が多いけど俺を指名してくれるのは嬉しいし、今後とも契約を続けていきたいと思ってる。

 

ただ、俺の仕事ぶりは出来ればミリキャスには見せたくないかな・・・・・。

変人、変態が多いし・・・・・・ミルたんとかは絶対に紹介したくない。

出会った瞬間にミリキャスは泣く。

 

「おーし! 次は一万本ノックだー!」

 

「はいぃぃぃ!」

 

おいおい・・・・・。

あんまり無茶しすぎると死ぬぞ、依頼人。

 

頼むから変な問題は起こすなよ?

 

「いいなぁ・・・・・。僕も眷属の人には楽しく仕事をしてほしいです」

 

ミリキャスはゼノヴィア達を見てそう漏らしていた。

 

依頼人もそうだけど、ゼノヴィアもいい笑顔してるもんな。

 

俺も美羽達には悪魔ライフを楽しんでほしいと思う。

確かに戦闘にも駆り出されることはあるけどさ、それでも色んな人がいて、たまにはバカなこともあって楽しいこともたくさんある。

 

二人には楽しい経験をさせてやりたいと思ってる。

ま、俺も悪魔になって一年も経ってないけどさ。

 

「そういや、ミリキャスには将来の眷属候補はいるのか?」

 

「いえ、これからです。いいなーって思う目標はありますけど」

 

「へぇ、それってやっぱりリアスの眷属?」

 

俺達の生活に興味を持っての来訪だったから、そう思ったんだけど・・・・・・。

 

ミリキャスは首を捻る。

 

「うーん、リアス姉さまの眷属の皆さんも素晴らしい方々ばかりです。イッセー兄さまも格好よくて尊敬してます。ですが、僕が目標にしたいのは父さまの眷属かなって」

 

なるほど・・・・・・サーゼクスさんの眷属か。

 

それを言われると納得するしかない。

 

冥界最強を誇るサーゼクス・ルシファーの眷属。

魔獣騒動の際に初めて見たが、『女王』であるグレイフィアさんを筆頭に凄まじいオーラを纏う人達ばかりだった。

 

俺を含めたリアスの眷属では現ルシファー眷属には太刀打ち出来ないだろう。

 

あの時の光景を思いだしていると、ミリキャスが訊いてきた。

 

「ところで、イッセー兄さまは残りの眷属をどうするか決めているのですか? 既に『女王』にアリスさん、『僧侶』に美羽さんがいるようですが」

 

そう言われ、俺は美羽、アリスと顔を見合わせる。

 

残りの眷属については二人といろいろ検討中だ。

 

『女王』と『僧侶』を使ったから俺の残りの駒は『戦車』が2、『騎士』が2、『僧侶』が1、そして『兵士』が8だ。

当然ながらほとんど残ってる。

 

「一応、何人かはメンバーを決めてるかな。まぁ、そいつらが了承してくれればの話だけど」

 

「まだオファーはしていないのですか?」

 

「まぁな。そいつらも忙しくてさ。暫くは連絡取れないと思うし」

 

俺は苦笑しながらそう答えた。

 

あのメンバーなら何だかんだで受けてくれる気もするが、忙しいのは事実だからな。

 

「ただ、それでもまだまだ駒は余るんだよなぁ」

 

「ティアさんには声をかけたの? あの人が眷属になってくれれば心強いと思うんだけど・・・・・」

 

美羽が指差す方向にはティア・・・・・・と、その横でアーシアの使い魔であるラッセーとキャッチボールをしているオーフィス。

 

この二人と一匹も暇だということでついて来た。

 

オーフィスがボールを放り、それをラッセーが口でうまくキャッチしてオーフィスに戻す。

それを繰り返してる。

 

「我、ラッセーを鍛える」

 

「ガー」

 

オーフィスの言葉に鳴いて応えるラッセーだが・・・・・ラッセーを鍛える!?

 

元龍神様が直々に!?

 

「ふむ、私もラッセーを鍛えるとするか。鍛え方次第では将来、龍王の一角になれるかもしれん」

 

ティアも鍛えるの!?

そこに最強の龍王も加わっちゃうの!?

 

師匠が豪華すぎませんか!?

 

アーシアの使い魔が本当に未来の龍王になってしまいそうだ!

 

と、ティアを眷属にするかどうかの話だったな。

 

「ティアに話したことはあるよ。結果は断られた」

 

「断られた? なんで?」

 

「私はドラゴンであることに誇りを持ってるからだ」

 

美羽の問いにはティア本人が答えた。

 

聞こえてたのか。

 

ティアはこちらに歩み寄りながら続ける。

 

「確かにイッセーの眷属になるのは面白いと思う。イッセーといるのは楽しいし、安らぐ。だが、それでも私はドラゴンとして生きていきたい。ドラゴンとしての生を全うしたいと思っている。イッセーには悪いがな」

 

苦笑するティアに俺は首を横に振った。

 

「いいさ。何も悪魔にならなきゃ一緒にいられないなんてことはないんだからな。ティアとは今まで通りで良いと思っているよ」

 

「そう言ってくれると私もありがたい」

 

最強の龍王で、俺の使い魔で修行のパートナー。

それでいいと俺も思う。

 

「ま、そういうわけだ。俺もまだ昇格して日が浅いし、そんなに急ぐ必要はないかなって思ってる。そもそも、俺にとっても眷属になる人にとっても一度そうなれば、簡単には変えられないことだ。転生すればそこから元に戻ることなんてできないしな。だからこそ、眷属については慎重に考えていきたい」

 

俺は持ってきていた水筒のお茶を紙コップに注いでミリキャスに手渡す。

 

「そうですね・・・・。一度眷属になってしまえば、トレード以外で主を変える方法は限られます。眷属の人に幸せになってもらうためにも十分に考えないといけないんですね」

 

ミリキャスは受け取りながら何やら考えているようだった。

 

まぁ、ミリキャスならそのあたりは問題ないんじゃないかな?

リアスやサーゼクスさんの背中を見てきたなら、眷属に悲しい思いをさせることなんてないと思う。

 

「ゼノヴィアー! アーシアさん! コンビニでスポーツドリンク買ってきたわー!」

 

買い物袋片手に駆けつけてきたのはイリナ。

 

イリナも俺達と同じようにゼノヴィア達の邪魔にならない程度で見学してる。

 

本来なら悪魔の仕事を手伝ったりすることは天使として背信行為になるらしいが、今のように差し入れする程度なら良いらしい。

 

そのあたりの線引きはよくわからんね。

 

「おっ、自称天使さまからの差し入れが届いたぞ」

 

「自称じゃないもん! 天使だもん!」

 

そういや、イリナは自分から天使天使言い過ぎて、最近では『自称』が頭につくようになっている。

言っているのは主にゼノヴィアだが・・・・・・。

 

で、それを言うとイリナは頬を膨らませてプンスカと怒る。

そこが可愛らしいところでもあるけどね。

 

「さて、ゼノヴィアの方も一段落か」

 

「私、お腹すいたんだけど・・・・・」

 

「お腹すいたって言われてもなぁ・・・・・。この時間で空いてるところって・・・・・・・っ!」

 

俺はその場で立ち上がり、周囲を見渡す。

 

今・・・・・・なにか視線を感じたような・・・・・・。

敵意も殺気も全く無かったけど・・・・・。

 

俺が動いた瞬間に気配も消えたな。

 

監視・・・・・?

 

突然の俺の行為に怪訝な表情を浮かべる皆。

 

「イッセー兄さま?」

 

「・・・・・いや、悪い。なんでない」

 

俺は手を振りながらそう返した。

 

ま、気配も完全に消えたし相手は引いたようだ。

無闇に追跡するのもな。

 

ここは一旦、放置しておくか・・・・・・。

 

にしても、なんだったんだ今の視線は?

なんかこう・・・・・・悲しみに満ち溢れた感じがしたんだが・・・・・。

 

気のせいか?

 

「ふぅ、確かに腹が減ったな。やはり体を動かすとな」

 

ゼノヴィアはスポーツドリンクを片手に腹を押さえていた。

 

依頼人なんて大の字になりながら、腹を鳴らしてるしなぁ。

あの依頼人はかなり動いてたから、仕方がないか。

 

「そんじゃ、皆でラーメン食べに行くか? この時間でも空いてる店はあるしな」

 

『賛成!』

 

俺の提案にこの場の全員が拳を上げた。

 

おおっ、全員腹減ってたのな。

 

あー、でも俺も少し腹へったかも。

もう口がラーメンの口だ。

 

こうなったらラーメンを食べるまではこの食欲は収まらないだろうな。

 

「よし! それじゃあ、行くとするか!」

 

「イッセーの奢りで!」

 

「俺!?」

 

「もちろん、我らが『王』だもの」

 

そこに『王』は関係するのか!?

 

まぁ、別に良いけどよ!

 

 

この後、全員で近くのラーメン屋台に入ったんだが、そこには何故か特撮ヒーローの覆面が落ちていた。

 

 

 

 

 

 

[??? side]

 

 

ふぅ・・・・・・危ない危ない。

 

危うくバレるところだった。

 

まさか、この屋台に彼らが来るなんてね。

 

河川敷きの時といい、私の気配に気づくとは流石はイッセー君だ。

 

ミリキャス・・・・・・あんなに目を輝かせて・・・・・・。

 

人間界で学びたいというその姿勢は私もとても嬉しいし、イッセー君のような男にもなってほしいもは思う。

 

しかし・・・・・

 

「うぅっ・・・・・・ミリキャス・・・・・・君もおっぱいドラゴンがいいんだね・・・・・・。私は・・・・・サタンレッドはイッセー君が羨ましいぃっ!」

 

私はテーブルに突っ伏して泣き叫んだ。

 

今でも息子の言葉が忘れられない。

『サタンレンジャー』よりも『おっぱいドラゴン』が好きだというミリキャスの言葉が。

 

んもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

せめてミリキャスには「サタンレンジャーの方がカッコいいです!」と言ってほしかった!

 

やっぱり、今の冥界の子供達は『おっぱいドラゴン』がいいんですか!?

『サタンレンジャー』は駄目ですか!?

イッセー君もずるいよ!

次から次へと新しい鎧なんてつくっちゃってさ!

そりゃあ、商品もヒットしますよ!

冥界の特撮物で関連の商品で売れてるのってほとんど『おっぱいドラゴン』じゃないか!

大人気じゃないか!

それはいい!

 

 

しかし・・・・・しかしだ・・・・・!

 

 

冥界の子供達よ!

『サタンレンジャー』も見てぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!

 

「お客さん。急に隠れたりするから驚いたけど、訳ありかい? 愚痴なら付き合ってやるから言いな。ほら、こいつは俺の奢りだ」

 

私の前に差し出されるグラス。

店主がそこに酒を注いでくれる。

 

「マスター・・・・・・!」

 

「兄ちゃん、たまには酒の力を借りるのも悪くないぜ?」

 

「すまない・・・・・」

 

「それにしても、さっきから気になっていたんだが・・・・・その変な格好はなんだい? 兄ちゃん、売れない大道芸人か何かかい?」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

 

[??? side out]

 

 

 




というわけで今回はここまで!

一話完結にしようと思ったのですが長くなりそうなので前編後編にしました!
次回は後篇です!


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番外編 ミリキャス君の見学会 中編

お久しぶりです!

お待たせしました!




明くる日の朝。

 

「どうだ、ミリキャス。人間界での悪魔の、俺達の生活は?」

 

朝食の席で味噌汁をすすりながら俺はミリキャスに訊いてみた。

 

一応、ミリキャスはリアスの眷属である朱乃や小猫ちゃん、ゼノヴィア、木場にギャスパー、そして俺の仕事ぶりを見てきた。

 

朱乃は会社の社長さんやらセレブの奥さまがお客で、悩み相談やらお茶の相手をしてストレス解消を担ってる。

 

アーシアと小猫ちゃんは癒しを求める人の話相手、コスプレ撮影会がメイン。

 

木場は働くお姉さんが主で、ストレス発散のための話相手や得意の手料理を振る舞うなど。

スケベな依頼を受けないのがもったいない!

 

ゼノヴィアは先日のような体を動かすタイプの依頼。

 

ギャスパーはパソコンでの応対だ。

人付き合いが苦手な人を対象にネットでの契約を交わしている。

まぁ、ギャスパーらしいといえばそうなるな。

 

ロスヴァイセさんは主婦からの依頼が多いな。

節約術からバーゲンセール必勝法を教えている。

・・・・・・・熱心に語るその姿を見てたら泣けてきた。

 

俺はというと、比較的まともな人からの依頼を受けて、その働きをミリキャスに見せた。

 

内容は・・・・・・限定フィギュアを買ってきてほしいという新人会社員からの依頼。

その日は仕事の都合で買いにいけないからと、俺に依頼が回ってきた。

 

・・・・・・別に悪魔に頼まなくても良いじゃん!、と思ってしまうだろうが、これも悪魔としてのお仕事だし俺の大事なお得意様だ。

断るわけにはいかないんだよね。

 

そういうわけで、俺はミリキャスを連れて長蛇の列に数時間並んだ。

 

とまぁ、こんな感じで人間界での悪魔の仕事ってそこまで悪魔って感じはしないものばかりだ。

 

「皆さん、楽しそうにお仕事をされていて、とても良いと思います。それに依頼人の方々も喜んでいて、お互いに気持ちの良いものだと感じました」

 

俺の問いにミリキャスは笑顔でそう答えた。

 

ま、確かに俺達の依頼人は何だかんだで満足してくれているもんな。

そんでもって、何度も依頼を出してくれている。

 

俺達と依頼人の間である程度の信頼が築けているからだろう。

 

「僕も将来は日本で活動してみたいです」

 

「それはいいことだわ。一度お兄様に言ってごらんなさい。きっと賛同してくれるわ」

 

リアスも微笑みながらミリキャスに頷いていた。

 

ミリキャスが日本で活動するとなると、リアスみたいに高校生になってからなんだろうな。

となると結構すぐになるのか?

 

小学生から高校生って早いもんな。

 

って、俺の場合は人より三年分長く生きているけど。

 

などと考えているとーーーーー

 

「イッセー、今日は空いているかしら?」

 

リアスが一つお願いをしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー兄さま! 手合わせ、よろしくお願いします!」

 

俺と対峙するのはジャージに着替えたミリキャス。

気合いを入れている姿は中々に勇ましいものがある。

 

今から俺達は交流を深める意味も込めて模擬戦を行う。

 

「イッセー、ミリキャスと手合わせしてあげてくれないかしら? ミリキャスにも良い機会だと思うのよ」

 

というリアスのお願い・・・・・というよりは提案だ。

 

それを受けてミリキャスは「はい! ぜひお願いします!」と元気よくそれに応じた。

 

なんでもミリキャスは俺達やサイラオーグさんのように『修行する悪魔』という姿勢に好意的でミリキャス自身も普段からトレーニングはしているようだ。

 

あと、俺達が持つ『根性』に並々ならぬ関心があるとか・・・・・。

 

そういうわけで、この模擬戦が実現したわけだ。

 

他のメンバーはトレーニングルームの隅で俺達の模擬戦を見守っている。

 

ちなみに俺もジャージを着て動きやすい格好になってる。

流石に寝巻き姿でやるわけにもいかないしな。

 

「それでは、模擬戦はじめ!」

 

朱乃の号令で模擬戦が始まる。

 

俺は動かずにミリキャスの出方を待つ。

 

さてさて、ミリキャスはどうでてくるかな?

 

そう思慮しているとミリキャスが動く。

 

「いきます!」

 

「よし! どっからでもかかってこい!」

 

笑みを浮かべて応じる俺。

 

それと同時にミリキャスは地面を蹴って駆け出した。

 

 

ーーーー速い!

 

 

正直な感想だった。

子供とは思えないほどの速度で突っ込んでくる。

 

手元には紅いオーラ。

それをそのまま放ってくると思いきや、フェイントを混ぜ、俺のサイドから魔力を放ってくる。

それは紛れもなくリアスが使う滅びの魔力。

想像以上に魔力が濃い。

 

俺が半歩引いてそれをかわすと、滅びの魔力は地面に衝突しーーーー衝突した部分を丸ごと消滅させた!

 

地面にポッカリ空いたバスケットボール大の穴。

 

・・・・・子供が放つ威力じゃないな。

 

俺でも生身に直接受ければヤバいレベルだぞ、こいつは!

 

「えいっ!」

 

俺達が驚いている隙にミリキャスが間合いを詰め、魔力を放ってくる。

今度は散弾式か!

 

滅びの魔力は触れるものを消し去る魔力。

それはこんな小さな子供が放っても同じらしい。

 

・・・・いや、ミリキャスだからこそ、この年でここまでの力を持っているのかもしれないな。

 

サーゼクスさんとグレイフィアさんの子供。

あの二人の才能はミリキャスにしっかりと受け継がれているらしい。

 

俺は拳に気を纏わせて滅びの弾を撃ち落としていく!

 

普段なら俺も散弾式に打ち出すんだけどね。

今日は相手がミリキャスってこともあって自身にある程度の制限をかけることにした。

 

別にミリキャスを甘く見ているわけではなく、これも修行の一環として考えている。

 

次々と撃ち落としてく中ーーーーーミリキャスの打ち出した滅びの弾が突然軌道を変えた!

 

魔力の強さだけでなく、コントロールも出来ているじゃないか!

 

「ここで!」

 

ミリキャスが叫ぶと俺を取り囲むようにして滅びの弾が展開される。

 

「あ・・・・・・ヤベ・・・・・・」

 

体術に魔力制御、そして相手を追い込むこの戦い方。

 

才能だけじゃなく、ミリキャスの努力が伺えるな。

 

ミリキャスが手を突きだし、その拳を握ると俺を取り囲んでいた滅びの弾が一斉に俺へと降り注いだ。

 

これを一発一発撃ち落とすのは流石に数が多いか!

 

だから、拳に気を纏わせてーーーー一気に横に凪いだ。

 

 

ブオォォォォォォォォッ!

 

 

それにより生まれた突風が迫っていた滅びの弾を全て弾き飛ばす。

これにより、危機は脱した。

 

ふぅ・・・・・いやはや、ここまでとはね・・・・・・。

 

少し危なかったかも・・・・・・。

 

「相手が子供だからって油断し過ぎー」

 

おおっと、アリスからの厳しい一言!

うちの『女王』は手厳しい!

 

油断しているつもりはなかったんだけどね・・・・・・。

 

まぁ、それだけミリキャスが凄いってことさ。

事実、ミリキャスはこの年でここまでの実力を持っているんだから規格外と言ってもいいだろう。

 

当のミリキャスはというと、今ので結構な力を使ったのか少し息を切らしている。

それでも、構えを解かずに次の手を考えているようだ。

 

リアスの方に目をやるとこちらに微笑みを返してくる。

 

 

ーーーーー『ミリキャス派』

 

 

リアスから聞いた話に出てきた派閥の名前だ。

 

冥界の政治にはサーゼクスさんを支持する『サーゼクス派』なるものがあるんだが、その中に『ミリキャス派』と呼ばれる派閥もあるようだ。

 

既に多くの悪魔が目の前の幼い少年に注目している。

 

期待・・・・・・もあるんだろうが、それ以外のものまで感じてしまうのは気のせいではないだろう。

 

大人達の様々な思惑がこの子の背に重くのし掛かるというのなら、俺もそれを支えてやりたい。

ミリキャスの瞳を見ていると強くそう思えてくる。

 

俺は手を前に出して構えを取った。

 

「さぁ、ミリキャス! まだまだいけるな! 全力でぶつかってこい!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

それから三十分ほどが経った。

 

「はぁはぁはぁ・・・・・・」

 

息をあげて床に座り込むミリキャス。

 

俺は基本的に自分から攻めることはせずにミリキャスの攻撃を流して、その隙をつくという戦法をとっていたんだが、三十分もついてこられるなんて大したもんだ。

 

ミリキャスは魔力が尽きるまで、あの手この手で攻撃を仕掛けてきた。

俺に何度転ばされようとも泣かずに立ち上がって向かってきた。

 

ところどころでアドバイスをしていたんだが、それにすぐ順応してくるのは才能の高さ故なんだろう。

 

「よくイッセーを相手に諦めなかったわ」

 

リアスからも誉められていた。

 

うんうん。

技や魔力もあるが、既に相当な根性が身に付いているようだった。

 

流石はグレモリー男子ってところかな?

 

「一度お風呂に入って汗を流してきなさい。イッセー、ミリキャスをお願いできるかしら?」

 

「いいよ。俺も結構動いたしね。行こうぜミリキャス」

 

「は、はいぃ・・・・・」

 

ハハハハ、ミリキャスもヘトヘトだな。

 

 

そんでもって、風呂の仕度を終えた俺とミリキャスは大浴場へ。

 

何でもない話をしながら互いの背中を流しあったんだが、なんというか弟が出来たように思えた。

 

妹とはまた違った感じだ。

 

「「あぁ~」」

 

と風呂に浸かり、二人で声を漏らす。

 

ミリキャスが言う。

 

「こうしてると僕に本当の兄弟ができたみたいに思えてきます」

 

「そうだな。俺には妹はいるけど弟はいないからな。ミリキャスみてたら弟が出来たように思えたよ」

 

「イッセー兄さまもですか?」

 

「おう」

 

笑みを浮かべながらミリキャスの頭に手を置く。

 

こういう感じは悪くない。

ミリキャスも良い子だしな。

 

ミリキャスは話題を変えて先程の模擬戦を振り返る。

 

「やっぱりイッセー兄さまは凄いです。僕の攻撃が全然当たらなくて」

 

うん、途中から少しだけ本気で避けてたりもしたもんね。

途中でアリスから「大人気ない」とツッコまれてしまったけど・・・・・・・。

 

俺は苦笑しながら言った。

 

「俺とミリキャスとでは経験も実力も違うからな。それは仕方がないさ。今はそうでもミリキャスだって、この先どんどん強くなってくる。そうなりゃ、俺もヤバいかもな」

 

「うーん、僕がイッセー兄さまに勝てるイメージがわきません・・・・・」

 

「最初はそんなもんさ」

 

俺も昔はそう思ってた。

例えばモーリスのおっさんだけど、昔はおっさんに勝てるなんて思えなかったもんな。

 

・・・・・今でもやり合えば危ない気はするが。

 

あのおっさん、チート過ぎるんだよ!

純粋な剣術だけであれだから!

 

「ところで、イッセー兄さまはリアス姉さまと結婚するのですか?」

 

「げほっ!?」

 

不意打ち過ぎる質問に咳き込む俺!

 

ちょ、ミリキャス君!?

 

「なんでそんなことを!?」

 

「この間、父さまがそのようなことを」

 

サーゼクスさん!?

ミリキャスに何を言ったんですか!?

 

リアスの嫁入り宣言は受け入れたから間違ってはいないが・・・・・・・。

 

ってか、なんでサーゼクスさんは知ってるの・・・・・・。

 

あ、そうか、アザゼル先生だな。

あの人、あの現場にいたわ。

 

 

その時、背後に野性的なオーラを感じられた。

 

そちらを向けば浴場の扉のところに二メートル以上はある巨漢が立っていた。

逆立ったオレンジ色の髪と分厚いコートが特徴的だ。

その男には見覚えがある。

 

確か――――

 

その男はこちらに視線を向けると笑みを浮かべた。

 

「おー、いたいた。若と坊っちゃんは随分仲がいいみてぇだな」

 

「セカンド、勝手にお風呂場に入るなんて失礼ですよ?」

 

次に登場したのは紅色のローブに身を包んだ男性、それから羽織を着た日本人らしき男性。

巨躯の男に一言告げたのは羽織の男性だ。

 

どちらにも見覚えがある。

あの魔獣騒動で力を貸してもらった人達だ!

 

「皆さんもこちらに来たんですね!」

 

ミリキャスは声を弾ませていた。

 

ミリキャスにとっては馴染みのメンバーなんだろうな。

 

だって、この人達は―――――

 

「先日はどうも。ルシファー眷属の皆さん」

 

 

 

 



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番外編 ミリキャス君の見学会 後編

前編・後編の2話構成にしようかと思っていたんですが、3話構成になってしまいました。

しかも、後編が思ったより長くなってしまいました(苦笑)


そのまま風呂を上がって着替えた俺とミリキャスはルシファー眷属の人達を連れてリビングに戻った。

 

一番驚いていたのはリアスだ。

 

「総司! それに皆もこちらに来ていたのね!」

 

総司と呼ばれた羽織の男性は柔和な笑みを浮かべていた。

 

「これは姫。お久しゅうございます。我々もミリキャス様の護衛をと思いまして」

 

男性の視線は次に木場へと移る。

 

「祐斗も元気そうで何よりです」

 

「夏以来です、お師匠さま」

 

木場も姿勢を正してそう返した。

 

この人はサーゼクスさんの『騎士』の沖田総司さんだ。

本物の一番隊組長さん。

歴史上の人物、超有名人だ!

 

沖田さんは『超獣鬼』の時にアリスと共にあのぶっとい足を両断していた。

あのスピードは今でもよく覚えてる。

 

魔獣騒動の後にもしやと思って木場に尋ねてみたら、本当に木場の師匠だってんだから驚くしかなかったな。

 

「ハハハハ! ひっさしぶりだなぁ、姫さん」

 

「姫に無礼ですよセカンド。リアス姫、ご機嫌麗しゅうございます。また一段とお綺麗になられましたな」

 

豪快に笑う巨躯の男性とエレガントに会釈する紅色のローブに身を包む男性。

 

野性的なオーラを纏う巨躯の男性に対してローブの男性はとても静かなものだ。

二人とも纏うオーラがまるで逆。

 

共通しているのはどちらもとてつもない実力者だということか。

 

「セカンドもマグレガーも来ていたのね。お兄さまの眷属が揃って集まるなんて珍しいわね。有事の時以外にはそうそう集まらないというのに。それに、ミリキャスの護衛でもこれは大袈裟よ」

 

うんうん、リアスの言う通りだ。

なんで冥界最強のルシファー眷属が家に集まってるの?

 

セカンドと呼ばれた巨漢は持っていた酒瓶を一気に煽ると、口から息を吐くように火を噴き出す!

息と共に火がでやがった!

 

つーか、家で火を吐かないで!

火事になるでしょーが!

 

「なーに、この間の騒動の後で『たまには眷属でどっかに行くか』って話になってよ。坊っちゃんの護衛ついでに姫さんの顔を見にきたってわけよ。炎駒とバハムートは別件で来れなかったけどな」

 

なるほどなるほど。

ミリキャスの護衛とリアスの顔を見にきたってことね。

 

なんか旅行感覚で家に集まられているような気もするんだが・・・・・・・気のせいだろうか?

 

まぁ、別にいいけどさ。

 

「皆、改めて紹介するわね」

 

リアスはそう言うと紹介を始める。

まずは沖田さんだ。

 

「こちらが兄の唯一の『騎士』沖田総司。祐斗の剣の師でもあるの。皆も新撰組で知っているわよね?」

 

「え、ええ! やっぱり、歴史上の方・・・・・ですよね?」

 

リアスの紹介にイリナが驚愕する。

当然の反応だろうな。

だって、新撰組だもん。

 

イリナの驚きの声に沖田さんが微笑んだ。

 

「ええ、そうですよ。当時は病で戦線を離脱していましてね。なんとか死を回避するために様々な儀式に手を出していたら、サーゼクス様を呼び出してしまったのですよ。その時は黒猫の格好をされていましたね」

 

黒猫って・・・・・・。

なぜにその姿で召喚に応じたんですか、サーゼクスさん!?

お茶目か!

 

「それで魔の儀式を繰り返していたら、総司さんの体は魔物の巣窟になっていたのですよ」

 

ローブの男性がそう付け加えた。

 

すると、沖田さんの背後に猿の顔、手足が虎で尾が蛇という大きな魔物が現れた。

 

こいつは合成獣、キメラか!

 

「これは鵺という妖怪です。こういう風に私の体には数多くの妖怪が巣くってしまいまして。一人百鬼夜行が出来るようになってしまったのです」

 

沖田さんは妖怪の頭を撫でながら言うが・・・・・・。

一人百鬼夜行って、それまたとんでもないものを・・・・・。

 

「ゆえに『騎士』の駒が二個必要だったのでしょう。超獣鬼が産み出していた小型のモンスターを相手にしていたのが総司さんの妖怪達なのです」

 

と、ローブの男性が更に説明をくれた。

 

はぁー、そいつは凄いもんだな。

一人百鬼夜行も凄いけど、剣の腕も達人級みたいだ。

 

次にリアスが紹介したのは先程から色々と説明をくれていたあのローブの男性。

金髪と黒髪が混じった長髪でウェーブがかかっているのが特徴的だ。

 

「彼はマグレガー。マグレガー・メイザースよ。お兄さまの『僧侶』よ。近代西洋魔術の使い手にして、かの『黄金の夜明け団(ゴールデンドーン)』の設立者の一人よ」

 

その説明にアーシア達教会トリオとロスヴァイセさんはかなり驚いていた。

 

「わ、私、教会で習いましたよ!」

 

「魔術関係の偉人じゃないか!」

 

「うんうん、魔法を使う人にとってはすんごい有名だわ!」

 

「まさか、かの有名な・・・・・・。一度魔法についてじっくりお話ししてみたいですね」

 

などと言っているが・・・・・・・俺は上級悪魔の試験勉強の時に見かけたくらいか。

 

『黄金の夜明け団』という名前だけは覚えてるけど、詳細は知らないんだよね。

 

俺の反応にマグレガーさんは笑む。

 

「ふふっ、若君はあまり知らないようですね」

 

「すいません、試験勉強で名前を覚えたくらいなもので・・・・・」

 

「かまいませんよ。凄い魔法使い程度の認識でOKです」

 

凄い魔法使い程度じゃないと思いますけど・・・・・・。

 

俺がそんな風に思っているとマグレガーさんの視線は美羽に移った。

 

「あなたは若君の妹、美羽さんでしたね。若君の『僧侶』になられたとか」

 

「あ、はい。兄の『僧侶』として転生しました」

 

「先日の魔獣騒動の際にあなたの魔法を拝見しましたが、どれもが見たこともない術式で大変興味深いものばかりでした。もしよろしければ、あなたの魔法について教えていただきたいのですが」

 

おおっ、美羽がマグレガーさんに教えを請われてる!

 

そもそも美羽の魔法ってこの世界のものじゃないしね。

マグレガーさんが見たことがないのも当然だろう。

 

「わかりました。それで、代わりと言ってはなんですけど・・・・・マグレガーさんの魔法をボクに教えてくれますか? ボクもあなたの魔法には興味があって」

 

「もちろんかまいませんよ。ここは悪魔らしく等価交換といきましょう」

 

どうやら二人の交渉は成立したらしい。

 

二人とも魔法に関してはずば抜けてるから凄い議論をしそうだ。

 

最後の紹介となるのは巨躯の男性。

 

ガハハと豪快に笑いながら自身を親指で指しながら大きな声で言い放つ。

 

「さーて、俺の番だな! 俺はサーゼクスの旦那の『戦車』が一人、スルト・セカンドさまだ! さー、戦け! 跪け! なんてな! ガハハハッ!」

 

見た目通りに豪快な人だな!

元気の良いおっさんなことで!

 

リアスが苦笑しながら紹介をしだす。

 

「セカンドは行った北欧神話の炎の巨人スルトのコピー体なの。ラグナロクの折、巨人の大隊を引き連れて世界樹ユグドラシルに火をつけると予言されているあのスルトのね」

 

スルトか。

名前ぐらいは知っている。

ロキとの一戦の後に北欧神話の勉強も少ししたからな。

 

それのコピーってことは、いわゆるクローン的なものなんだろうか?

 

「北欧の神々がスルトのコピー体を作ったのは良かったのですが、コピー体が暴走しましてね。手がつけられなくなってそのまま放り出したそうなのです。そこにサーゼクス様が現れまして、ご自身が手にしていた『戦車』の『変異の駒』で眷属にされたそうなのですよ。コピー体ゆえに『セカンド』と呼ばれています」

 

サーゼクスさんの駒で、『戦車』の『変異の駒』!

どんだけの潜在能力をもってるんだ!?

 

その情報に驚く俺だが、セカンドさんはため息と共に火を噴いたあと話し出す。

 

「北欧のクソ野郎共に捨てられて、己の炎で燃え尽きそうになってた俺をサーゼクスの旦那が救ってくれたのさ。おかげで俺は炎の扱いも覚え、今では冥界最強の『戦車』として旦那についていくことができているんだがな!」

 

セカンドさんの表情と言葉からはサーゼクスさんへの敬愛が強く感じられた。

自身を救ってくれた主に対して感謝の念が尽きないんだろう。

 

マグレガーさんは苦笑する。

 

「その最強の『戦車』も超獣鬼との戦いで開幕直後に巨大化して無駄に力を使ったあげくガス欠となり、終盤戦では活躍しませんでしたけどね。超獣鬼が悪魔にとって桁違いのアンチモンスターであり、強力な再生能力を有していることを事前に説明したというのに・・・・・・。アジュカ様の対抗術式が届いてから一気に畳み掛ければあれほど倒すのに時間を要することはなかったでしょうに。あなたの本気の炎で燃え尽きぬ者などいないのですからね。まぁ、失敗しなければの話ですが」

 

長々とため息交じりに文句を口にする。

 

あのメンツで苦戦していたのはそういう背景があったのね。

 

 

デッデデーン!

 

 

「燃え尽きないものがいない・・・・・・。いいわね! それじゃあ、私の炎とどちらが強力か勝負よ!」

 

軽快な音楽と共にテンション高めの声が聞こえてくる。

 

そちらを向くとラジオを側に置いたイグニスが変なポーズを決めていた。

 

「我が名はイグニス! 真焱を司りし原初の女神!」

 

「何やってんだおまえ」

 

そんなイグニスにすかさずツッコミをいれる俺。

 

イグニスはというと、更にポーズを変えて言った。

 

「アニメで見て一度やってみたかったの。それに炎を話題に出すなら私でしょう? 最強の炎を見せてあげるわ!」

 

「やめなさい」

 

「イテッ」

 

俺はその一言と共にイグニスの頭にチョップを入れてやった。

 

そんな対抗意識燃やさなくていいって。

 

つーか、あんたが本気になったら辺り一帯が焼け野原になるだろ!

それこそ、何もかもが燃え尽きるわ!

あんたは存在そのものがチートなんだから!

 

はぁ・・・・・・まったく、うちの駄女神は・・・・・・。

 

もう少し女神っぽく出来ないもんかね?

まぁ、こっちの方が接しやすいと言えばそうだけどさ。

 

何にしてもとんでもないメンバーがルシファー眷属にいるってことか。

最強の『女王』に最強の『戦車』もいるし、それ以外のメンバーも強力だ。

しかも全体的にバランスがいい。

 

そんなことを思っているとリアスは誰かを探すように見渡した。

 

「そういえば、ベオウルフは? やはり今回は三人だけなの?」

 

その言葉を聞いて、沖田さん、セカンドさん、マグレガーさんはきょとんとするが、思い出したかのように「あー、そういえば」と一様に口にする。

 

「あー、あいつはー」

 

セカンドさんがそこまで言いかけたときだった。

 

 

バタンッ!

 

 

と、リビングの扉が大きく開け放たれた。

 

何事かと思い、そちらに視線を送ると―――――そこには少し息を上げた茶髪の男性がいた。

二十代くらいだろうか?

スーツを着ている。

 

「やっと追い付いたー! ひでーよ、皆! 俺を置いて先に行くなんてよ!」

 

「おっせーよ、ベオ」

 

「何言ってんスか! セカンドさんが俺にあれ持てこれ持て、あれ送れこれも送れって俺に日本のお土産を冥界に送らせてたからでしょうが!」

 

ぼやくセカンドさんに不満をぶつけるベオと呼ばれた男性。

 

例のごとくマグレガーさんが説明をくれる。

 

「彼がサーゼクス様の『兵士』の一人、ベオウルフです。サーゼクス様に戦いを挑んで惨敗し、そのまま頼み込んで眷属になった英雄ベオウルフの子孫です」

 

「短い! 俺の紹介短すぎないっスか!? ってか、皆は若さんにもうしたのかよ!?」

 

「てめぇが遅いからもう済んじまったよ。つーか、背広なんざ堅苦しいもん着てきやがって」

 

セカンドさんの一言にベオウルフさんは涙目で訴える。

 

「なんだよ! 俺の登場ぐらい待ってくれてもいいじゃん! 同じ『兵士』の先輩として若さんに格好良いところ見せたいのはわかるでしょ!? 第一印象は大事だからスーツだって新調したんスよ!」

 

「ベオ、若君は既に上級悪魔、『王』になられたのですよ? これからは『兵士』よりも『王』としての生き方の方が重要になってくるでしょう」

 

「あぁぁぁぁぁ!! そういえば、そうだったぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

マグレガーさんの一言に頭を抱えて叫ぶベオウルフさん。

 

そんなベオウルフさんを無視してセカンドさんが俺に言う。

 

「おう、若。あいつが俺達のパシリだ。若も存分に酷使してくれ」

 

「は、はぁ・・・・・」

 

パ、パシリっすか・・・・・。

なんつー扱い受けてんだよ・・・・・・・。

 

ってか、今更だけど俺はグレモリー関係者にとっては『若』なのね。

前はその理由が分からなかったけど、今では何となく分かってしまう自分に驚きだ。

 

リアスが小さく笑いながら俺に言う。

 

「ベオウルフは軽そうに見えるけど、実際は冥界の『兵士』の中でも五指に入るほどの強者よ。何せ転生前、お兄さまに手傷を負わせたほどだもの」

 

『兵士』の中で五指に入る!

やっぱり相当な手練れなんだな!

うーん、人って見かけによらないよね!

 

「腕をちょっと斬っただけですよ。それに若君の方が強いでしょう」

 

「んだよ! せっかく姫さまが良いこと言ってくれたのにぃ! 俺のイメージをこれ以上悪くしないで!」

 

マグレガーさんの一言に涙目になるベオウルフさん。

 

なんだか賑やかな人だな。

まぁ、この場のルシファー眷属全員にそれは当てはまるような気もするけど。

 

「ま、まぁ、俺はリアスの『兵士』でもあるんで、『兵士』の先輩としてアドバイスはもらうこともあると思いますよ?」

 

「うぉぉぉぉ! 流石は若さんだ! この人でなし達とは違って優しいぜ! うんうん! 『兵士』のことで聞きたいことがあれば何でも聞いてくれ! 力になるから!」

 

俺が苦笑しながらそう言うとベオウルフさんは感涙を流しながら俺の手を握ってブンブンと上下させる。

 

本当に賑やかな人だな。

 

こほんと咳払いしてこの場の空気を改める沖田さんはリアスに訊く。

 

「ところで、サーゼクス様はこちらにお越しになられていませんか?」

 

「来ていらっしゃらないけれど・・・・・どうかしたの?」

 

それを聞いてルシファー眷属の四人は顔を意味深に見合わせる。

 

そして、沖田さんが続けた。

 

「実は――――」

 

 

 

 

 

 

ある日のこと。

 

 

ミリキャスとの親子の時間を過ごしていたサーゼクスさんは不意にミリキャスに訊いてみたそうだ。

 

『ミリキャス、サタンレッドとおっぱいドラゴン、どちらが好きかな?』と。

 

サタンレッドはサーゼクスさん達、四大魔王がやっている『魔王戦隊サタンレンジャー』のリーダーのこと。

人間界の特撮でよくあるヒーロー戦隊の赤い人だ。

 

レッドをサーゼクスさん、ブルーをアジュカさん、グリーンがアスモデウスのファルビウムさん、ピンクをセラフォルーさん、そしてイエローをグレイフィアさんが担当しているんだが・・・・・・。

 

グレイフィアさんに関しては夫の趣味に付き合わされているといった感じかな。

実際、イエローの出番はほとんどない。

 

そのサーゼクスさんは自身が演じるサタンレッドと俺が演じているおっぱいドラゴンのどちらが良いかミリキャスに尋ねた。

 

そりゃ、サーゼクスさんとしてはサタンレッドの方が格好いいと言ってもらいたかったはずだ。

何せ自分が演じてるんだし、しかも自分の息子だし。

 

しかし、ミリキャスの回答は―――――

 

『おっぱいドラゴンです! バリエーションの多い鎧が格好いいですし、能力も多彩ですっごく良いと思います!』

 

 

 

 

 

 

そんなことがあったのだと沖田さんは語ってくれた。

 

その瞬間、笑顔のまま心の中で号泣しているサーゼクスさんの姿が頭の中に浮かんできてしまった。

 

・・・・・・「ドンマイ!」としか言いようがない。

 

ミリキャスが家に泊まった日から、サーゼクスさんはオフを取って行方をくらませているそうだ。

 

そんでもって、眷属である沖田さん達はサーゼクスさんがここに来ているかも?、と踏んでいた。

 

しかし、当のサーゼクスさんは家には来ていない。

 

 

・・・・・・・・なんだろう、すごく胸騒ぎがする。

 

 

俺は辺りを見渡し―――――カーテンをしてある窓へと向かった。

 

そして、カーテンを掴み、ゆっくりと開けていく。

 

 

そこには――――――

 

 

「・・・・・・・ミリキャス・・・・・サタンレッドよりもおっぱいドラゴンのほうが好きなんだね・・・・・・グスッ」

 

特撮ヒーローのレッドが悲しみのオーラを発しながら・・・・・・泣いていた。

 

 

 

シャッ!

 

 

 

俺は勢いよくカーテンを閉めた。

 

 

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

 

 

部屋の空気が凍りつく。

 

「お、お兄ちゃん・・・・・・今のって・・・・・・」

 

「美羽・・・・・・今のは幻覚だ」

 

「いやいや、そう言ってる時点で幻覚じゃないからね?」

 

「・・・・・そういうことにしてあげてくれ、アリス。そういう優しさも時には必要だ」

 

あんな悲哀に満ちた魔王なんて見たくなかった・・・・・・!

だって、特撮ヒーローの格好で泣いてるんだぜ?

 

つーか、今の感じから察するに河川敷で感じた気配ってサーゼクスさんかよ!

しかも、サタンレッドの格好で!

 

可愛い息子と話すおっぱいドラゴンという図をサタンレッドの格好で遠巻きに眺めていたと!?

 

そんなの・・・・・・・

 

そんなのは魔王でも何でもねぇよ!

ただの『かわいそうな人』じゃねぇか!

 

「とりあえず中に入れてあげようよ。外は寒いよ?」

 

美羽はそう言って、俺が閉めたカーテンを開けた。

 

すると―――――

 

 

「・・・・・・ミリキャス・・・・・サタンレッドは・・・・・・ダメなの・・・・・?」

 

 

サタンレッドがベランダで体育座りの状態で震えていた!

さっきよりも悲しみのオーラが強まってるよ!

 

身も心も凍えてる!?

 

「誰か毛布持ってきてぇぇぇぇ! この人のハートを温める毛布を!」

 

美羽がそう叫んだ!

 

ゴメン!

そんな便利な毛布は持ってない!

どんな毛布でもその人の凍えきった心は温められないよ!

 

セカンドさんが窓を開けてベランダで踞るサーゼクスさんに近づく。

 

「旦那・・・・・・」

 

「おお、セカンドかい? すまない、私はもうダメらしい・・・・・・」

 

「しっかりしてくだせぇ! 旦那はこのままでいいんですかい? このままじゃあ、ミリキャス坊っちゃんは乳龍帝に奪われちまう! 旦那はそれでいいんですかい!」

 

奪いませんよ!

 

何言ってくれてるんですか、あんたは!?

 

「マスター・サーゼクス、セカンドの言う通りです。ここが決め所なのかもしれません。ミリキャス様の前で()の威厳よりも()の威厳の方が強いというところを見せるしかないかと!」

 

マグレガーさんまで!?

乳の威厳よりも父の威厳って何!?

 

「そうか・・・・・そうだな・・・・・。何を弱気になっていたのだろうか、私は・・・・・! 私は・・・・・私はまだ、ミリキャスに格好いいところを見せていない!」

 

「そうですぜ、旦那!」

 

「ええ! 今こそサタンレッドの真の力を!」

 

あんたら、人ん家のベランダで何してんだぁぁぁぁぁぁ!!!

 

そんなところで決起しないで!

 

警察呼ぶぞ、この野郎!

 

「イッセー兄さま! 父さまが相手ですけど頑張ってください!」

 

ミリキャスも応援はありがたいけど、今はダメだろ!

 

サタンレッドが悲しみのオーラを増幅させてこっちを見てきたじゃん!

 

クソッ!

こうなったら俺はサタンレッドと戦うしかないのか!?

乳の威厳とやらを見せつけないとダメなのか!?

 

 

その時―――――

 

 

リビングに光が走り出して円を描き出す。

 

これは魔法陣。

しかも、グレモリーの紋様だ!

 

このタイミングで来るとなればあの方しかいない!

 

光が弾けて、魔法陣から出現したのは銀髪のメイドさん!

 

俺は心の底からガッツポーズ!

この方を待っていた!

だって、この状況を何とか出来るのはこの方しかいないのだから!

 

グレイフィアさんだぁぁぁぁぁぁ!!!

 

最強の『女王』の登場にルシファー眷属の全員が硬直し、表情を青くさせていく!

サタンレッドなんて、先程よりも体を震わせているほどだ!

これは完全に恐怖している!

 

グレイフィアさんは俺達グレモリー眷属に軽く会釈した後、ルシファー眷属に冷たい視線を向け、最後にサタンレッドをその視界に捉えた。

 

一歩前に出る。

 

それだけで、部屋の全員に冷や汗が流れるほどの重圧が伝わってくる!

 

セカンドさんとマグレガーさんなんてそそくさとサタンレッドから離れていく!

あんたら、主を見捨てるつもりか!?

 

「・・・・・誇り高きルシファー眷属が、ここで一体何をしているのでしょうか?」

 

 

ぞくっ・・・・・・

 

 

な、なんて重みのある言葉だ・・・・・!

 

こ、怖い! 

怖すぎる!

 

俺の近くにいたレイナとアーシアなんて、俺の後ろに隠れ出したよ!

君達は俺を盾にしないでくれるかな!

 

俺だって泣きそうなくらいなんだからよ!

 

ベオウルフさんがグレイフィアさんのもとに近寄り、言い訳を始めた。

 

「こ、これはですね! 姐さん! たまには眷属で集まって気分転換でも・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「はい、申し訳ございません。如何様にも処分されてください」

 

ベオウルフさんが跪いて謝罪した!

言葉の途中だったのに、グレイフィアさんの睨みの前に屈したぞ!

 

「てめぇ、ベオ! ソッコーで落ちやがって! 姉御! 俺達だって――――」

 

「・・・・・・・・」

 

「すいませんでした」

 

セカンドさんも屈した!

あんたもかよ!

 

グレイフィアさんは一つ息を吐くとセカンドさんに告げる。

 

「行くのなら、一言私に言いなさい。断りもなくよそさまのお家を訪ねるのは失礼です。それとミリキャス様の護衛はリアスお嬢様や一誠さんで十分です」

 

そして、グレイフィアさんの視線がサタンレッド――――サーゼクスさんを再び捉えた。

 

「サーゼクス様。オフを利用してそのような格好でこの町に来ているとは・・・・・・。納得のいくご説明をお願いします」

 

とても低く静かな声音。

しかし、そこには明らかな怒りが籠められている!

 

サタンレッドはゆっくりとグレイフィアさんに近づき――――その場で跪いた。

 

「すまない、私が悪かった」

 

屈した!

 

うん、わかってたよ!

 

「母さまが一番強いんですよ?」

 

ミリキャスが屈託のない笑顔でそう言った。

 

 

この後、サーゼクスさんはグレイフィアさんに連行された。

 

サタンレッドの覆面を脱いだサーゼクスさんの顔は絶望に包まれていた。

時おり、こちらに救いを求めるような視線を送ってきたが、俺は瞑目するだけだ。

 

助けられるわけがないでしょうが!

そもそも、今回はどう考えてもあなたが悪い!

ちゃんと魔王の仕事もしてくださいよ!

 

 

 

 

 

 

それから二日後。

 

今日、ミリキャスは冥界に帰る。

 

ルシファー眷属の人達が玄関まで迎えに来てくれていた。

 

お別れをする前にセカンドさんが俺を手招いた。

 

「若、おまえにいいもんを紹介したいんだよ」

 

そう言って、セカンドさんの大きな手のひらに現れたのはおもちゃの帆船のようなもの。

RPGに出てくるようなファンタジー世界の飛行艇みたいだ。

 

すると、その船は独りでに動き出して宙を舞い始めた!

 

「これは?」

 

「こいつはスキーズブラズニルっていう北欧に伝わる魔法の帆船だ。生きる飛行船とも言われてる。とある案件で俺が入手してな。かなりレアなもんだぜ? 世界に数えるほどしか存在しないからな」

 

生きた帆船!

北欧神話の魔法の帆船か!

 

「こいつは主のオーラを糧に様々な進化を遂げる。こいつをおまえの使い魔にしてみないか?」

 

「――――っ! この飛行船を俺の使い魔に、ですか?」

 

「ああ、おまえさえ良ければな。上級悪魔昇格の祝いのプレゼントだ。それにおまえは冥界のために体張って戦ってくれているからな。まぁ、龍王を使い魔にしているおまえからしたら物足りないかもしれないけどな」

 

「いえ、そんなことはないですよ。ありがたくいただきます」

 

ティアって使い魔っていうより、俺の修行パートナーってイメージの方が強いもんな。

 

それに使い魔だって、色々いてくれた方が助かると思う。

 

「これって、成長すると巨大化したりするんですか?」

 

俺の後ろに疑問にはマグレガーさんが答えてくれた。

 

「ええ。しかも成長は主のオーラやイメージ次第です。赤龍帝として異例の成長を遂げている若君なら面白い成長をしてくれるかもしれませんね」

 

「つーか、空飛ぶハーレム御殿にすりゃいいだろ。おまえ、ハーレム作ってるんだろ? 新聞にも載ってたけどよ。それなら空飛ぶハーレム御殿は必須だろうぜ」

 

なんと!

空飛ぶハーレム御殿ときましたか!

 

そいつは考えたことがなかった!

 

なるほど、ハーレム王を目指すならハーレム御殿は必要だ!

 

 

 

・・・・・・・・あれ?

 

 

ちょっと待てよ?

 

「今、セカンドさん・・・・・・新聞に載ってたって」

 

「ん? ああ、おまえの『女王』とキスしてるところが新聞の一面に載ってたぜ」

 

「あれは若君が昇格したその日の号外でしたね」

 

セカンドさんに続いてマグレガーさんがそう付け加えた!

 

「「ええええええええええええっ!?!?」」

 

俺とアリスの叫びが家中に響いた!

 

何で!?

 

昇格のその日ってことは・・・・・・あの時のか!

 

そんなのどこで―――――

 

 

 

 

 

『面白いから録画していいか?』

 

 

 

 

 

アザゼル先生かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 

あの人、どこまで俺を苛める気だ!

 

「ねぇ、イッセー・・・・・あの人殴ってきていいかしら?」

 

「許す! 何なら俺も行く!」

 

あのラスボス元総督、フルボッコにしてやんよ!

 

赤龍帝眷属の力、存分に味あわせてやらぁ!

 

「ふふふ。まぁ、いいではないですか。若君、姫のこともよろしくお願いしますね?」

 

マグレガーさんはウインクを送ってくるが・・・・・・・。

 

ふと隣を見るとリアスが顔を真っ赤にしていた。

 

ハハハハ・・・・・・・。

 

 

そんなやり取りもあったが、ついにミリキャスと別れの時がきた。

 

「お世話になりました! すごく楽しかったです! また、遊びに来てもいいですか?」

 

「もちろんだ。いつでも遊びに来い!」

 

「はい!」

 

俺とミリキャスは握手を交わした。

 

その時のミリキャスは本当に眩しいくらいの笑顔だった。

 

いつでも来いよ。

 

おまえは俺達にとって弟みたいな存在なんだからさ!

 

 

 




というわけで、2話連続投稿の番外編でした!
お待たせして申し訳ないです!

現在も課題に追われてまして、次も遅くなるとおもいます。
活動報告にも書きましたが、気長に待ってくれると助かります~。


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第十三章 進路指導のウィザード
1話 朝から訪問者です!


お待たせしました!
本編、新章開始です!


[三人称 side]

 

 

時は数日遡る。

 

それはシャルバ・ベルゼブブの外法により冥界が危機に陥った日。

 

アジュカ・ベルゼブブが考案した対抗術式により、『豪獣鬼』は殲滅され、残るは最大の魔獣『超獣鬼』を倒すのみとなった時のことだった。

 

その者は冥界にある魔王領、首都リリスから少し離れた場所でその光景を眺めていた。

 

例の疑似空間から帰還した赤龍帝、兵藤一誠が『超獣鬼』を倒す瞬間を―――――

 

「アハハハ♪ やっぱりいいね、彼は♪」

 

特徴的な白髪に少し幼さの残る少年のような顔立ち。

美少年といってもいいだろう。

 

格好はどこにでもいるような人間の服装。

白いパーカーを羽織っている。

 

その少年は空高く昇る赤い光の柱を見て楽しそうに笑んでいた。

 

「あんなのをもらっちゃったら、僕でも消え去るだろうねぇ。本当にどこまでも彼は僕の予想を越えてくれるよ。僕の『製作物』も壊してくれたみたいだしね」

 

少年はただただ、冥界の混乱と神をも葬る力を前にして心が踊っていた。

 

彼にとって『製作物』を破壊されたのは正直、想定外だったが、それはそれで良いと思っている。

あれほどのものを作れることはもうないだろうが、想定外のことが起きてこそ世の中は面白い。

そう考えているのだ。

 

少年は良いものが見れたと満足すると、パーカーのフードを被り、その場を後にしようとする。

 

数歩だけ歩いた後、彼は一度だけ振り返り―――――

 

「これから世界は大変なことになるよ。君はまた世界を救うことができるかな。ねぇ、勇者くん?」

 

それだけ言い残すと少年は闇色の風と共に姿を消した。

 

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

 

 

おっぱい

 

目が覚めるとおっぱいだった。

 

いや、俺がおっぱいになった訳ではなくて、目が覚めたら俺はおっぱいに頭を挟まれていたんだ。

 

なぜか体をガッチリ固定されているため、身動き一つ出来ない状態。

頭だけ動かして周囲の状況を確認する。

 

「・・・・・・イッセー・・・・・・」

 

「・・・・・・イッセーくん・・・・・もっと・・・・・」

 

という寝言を言うリアスと朱乃。

二人とも俺の頭を抱くようにして寝ていた。

透け透けのネグリジェで抱きついているからおっぱいの感触がほとんどダイレクトに!

 

「・・・・ん・・・・・」

 

「・・・・スースー・・・・」

 

美羽とアリスは二人仲良くくっついて寝ている。

二人は俺の眷属になってから二人で買い物とかに行ったりする機会が増えた。

眷属同士で仲良くしてくれるのは主として嬉しく思うよ。

リアスも眷属である俺達を見るときはこんな気持ちだったんだろうな。

 

「・・・・・・イッセーさん」

 

リアス達と同じく俺の名前を呼ぶアーシア

 

「・・・・・ぐーぐー・・・・・」

 

豪快に腹を出して寝るゼノヴィア

 

「・・・・・おまんじゅうおいしい・・・・・」

 

ゼノヴィアを抱き枕にしているイリナ

 

「・・・・・にゃん・・・・・」

 

俺の腹の上で丸まって寝ている小猫ちゃん

 

「・・・・・うふふ・・・・・・」

 

何の夢を見ているか分からないけど幸せそうに笑ってるレイナ

 

「・・・・・・・」

 

死人のように胸の上で手を組み横になってるオーフィス。

オーフィスは家に来てからというものの、何かと俺の後ろをついて歩いてくる。

・・・・・・・なつかれたのかね?

 

ま、そういうわけで、ほとんどフルメンバーがベッドの上に集まっていた。

 

女の子に囲まれて眠る!

しかも、リアス朱乃のおっぱいに挟まれながら!

朝から色々元気になってしまう!

 

でも、よくよく考えるとすごい光景だよな。

男は一人と複数の女の子が同じベッドの上で寝るのって。

 

それに最近、皆が俺のベッドに潜り込んでくる頻度が上がったような気がする。

スキンシップも前よりも積極的になってきたし。

 

まず登校の時。

 

俺の隣は基本的に美羽の定位置だった。

それが最近では他の女子で取り合う形となっている。

特にリアスと朱乃が開幕速攻で両サイドを押さえてくるな。

教会トリオや小猫ちゃん、レイナはそれならばと下校時に密着してきたりする。

 

この時の美羽は微笑ましそうに後ろからニコニコ顔で見ているだけだ。

どうやら意図的に譲っているらしい。

なんとなく、美羽ちゃんが精神的に大人になったと思える瞬間だった。

 

次に部活の時。

 

この時、俺の膝の上は小猫ちゃんの定位置だったんだが・・・・・・。

これを見ていたレイヴェルがついに行動を起こした。

 

なんと、小猫ちゃんと俺の膝の上を巡って争い始めたんだ!

 

俺の膝の上って一体何なの!?

 

と、一瞬は思ってしまったが、後輩二人のお尻の感触にそんな考えは消え去ったな。

とりあえず、右膝を小猫ちゃん、左膝をレイヴェルというように平等に分けてあげることで事態は収集した。

二人の柔らかいお尻は素晴らしいの一言だったよ。

 

最後にお風呂タイムだが・・・・・

 

ここは美羽とアリスが完全に押さえてしまっている。

入るときは一緒だし、二人で背中を流してくれたりもする。

美女美少女の二人が背中を流してくれる!

主冥利に尽きるってもんだ!

 

で、なんで皆が一気に積極的になったかなんだが

 

「・・・・・原因はあの一件だよなぁ」

 

そう呟くと――――

 

「無事だったとはいえ、イッセーと数日別れることになったんだ。それも安否不明の状態。こうなるのは必然なのだろう」

 

声のしたほうを見るとティアが椅子に座ってティーカップに口をつけていた。

 

「おはよう、ティア」

 

「ああ、おはよう。ふふっ、ハーレム王を目指しているおまえにとっては中々のシチュエーションなんじゃないのか?」

 

「まぁね。・・・・・最近は皆の勢いが増して対応に困ることもあるけど・・・・・・」

 

「そこは男の見せどころというものだろう。だが、見てる限りでは上手く対応できているではないか。イッセーの女をたらしこむ才能に関しては一級品だな」

 

「なんか酷ぇ・・・・・」

 

たらしこんでるか?

どう見ても勢いに圧倒されてるだろ、俺。

 

ティアはベッドへと近づいてくると、一番近くで眠っていたアーシアの頬を撫でる。

 

「誉めているぞ? 全員とバランス良く付き合えているようだしな。おまえの周りの女子は誰一人として不幸になっている者はいないだろう?」

 

「そういわれてもなぁ・・・・・・。ティアはどうなんだよ?」

 

「私か?」

 

俺に聞き返され、ふむと顎に手をやるティア。

数秒思考した後、フッと笑んだ。

 

「私は今のままで十分幸福だと感じている。こういう穏やかな日々もまた良いものだ。だが・・・・・・」

 

「もう少しイッセーとイチャイチャしたい?」

 

突如と入り込む第三者の声。

 

見れば、いつの間にかイグニスがティアの背後を取っていた。

 

イグニスは後ろから前へと手を伸ばし、ティアに抱きつくような格好となる。

 

その手がティアの豊かな胸を揉もうとすると、ティアはピシャリとその手をはたいた。

 

「勝手に胸を揉もうとするな」

 

「えー、少しくらいいいじゃない。ティアちゃんのケチー」

 

「誰がケチだ」

 

おおっ!

あの駄女神をクールにあしらってる!

ドライグですら泣きながら助けを求めるほどの存在をあしらってる!

 

どうやらイグニスのあしらい方を心得ているらしい!

流石は龍王!

クールだぜ、お姉さん!

 

今度イグニスの対処法を教えてもらおうかな!

 

 

しかし―――――

 

 

「だが、まぁ、イッセーと触れ合う機会をもう少し増やしたいというのは正解だ」

 

「でしょう? 最近は年下だからってリアスちゃん達に譲ってたもの。美羽ちゃんはその辺りは適度に調整しているみたいだけど」

 

「うむ。美羽には見習うべきところが多いな。決して独占はせず、しかし、自分もしっかり甘える。中々の手腕の持ち主だ」

 

「流石は正妻ね」

 

なんか二人でうんうん頷いてる!?

何をそこで語り合っているの、お姉さん達は!?

 

確かに美羽は他の皆に譲りながらも俺に甘えてくるけど!

昨日だって膝枕したりしてもらったりで自分でもイチャイチャしたなってくらいにはスキンシップも取ってるけど!

 

それを見習おうってのか!?

最強の龍王が!?

 

 

コンコン

 

 

ふいにドアがノックされる。

 

「おはようございます、イッセーさま。起きていますか?」

 

声の主はレイヴェルだ。

 

「ああ、起きてるよ」

 

俺が応じるとドアを開けてレイヴェルが入ってくる。

それと同時にベッドの状況を見て目を丸くしていた。

 

「・・・・・す、すごいことになってますわ・・・・・。完全に出遅れましたわね・・・・・。私も参加したかったですわ・・・・・」

 

参加したかったの!?

 

いや、俺は全然ウェルカムだけどさ!

 

ベッドの上がこれ以上に凄いことになりそうだよ!

 

「・・・・・・ふぁぁぁああ・・・・・」

 

レイヴェルの登場にリアスが起きたようだった。

 

寝ぼけ眼で俺、ティア、イグニス、レイヴェルの順に辺りを見渡し――――最後にベッドへと視線を配っていた。

 

「皆、おはよう・・・・・・って、すごいことになってるわね、ベッド」

 

ベッドの上の状況を見て、リアスは苦笑している。

 

ま、そうなるよね。

 

部屋の中を進み、ベッドの上の皆を揺り動かして起こそうとするレイヴェルは思い出したかのように言った。

 

「そういえばリアスさま。そろそろ魔法使いの方々との契約があるのですよね? あと、例の吸血鬼の方がいらっしゃるとか」

 

その言葉にそういえばと思い出す。

 

少し前にリアスにも言われたっけな。

 

そろそろ魔法使いとの契約が始まるシーズンだと。

この時期になると魔法使いから契約の話が持ち上がるそうだ。

 

吸血鬼についてはギャスパー関連なのだろう。

 

「レイヴェル、魔法使いに関してイッセーのフォローをお願いね。マネージャー、頼りにしているわ」

 

リアスの一言にレイヴェルは胸を張って頷いていた。

 

「お任せください! 赤龍帝のマネージャーたるこのレイヴェル・フェニックスがイッセーさまに相応しい魔法使いを選び抜いて見せますわ!」

 

おおっ、小柄な後輩が俺のために頑張ると宣言してくれると嬉しいものがあるな!

 

上級悪魔に昇格したはいいが、やっぱり悪魔業界や他の業界については知らないことが多い。

試験の時もリアスやレイヴェル達のサポートがあってからこそだったしな。

 

今回もレイヴェルがサポートに入ってくれるなら本当に助かる。

 

「ありがとな、レイヴェル。よろしく頼むよ」

 

「はい!」

 

うんうん、朝から元気だ。

 

 

・・・・・・・それは良いんだけどさ

 

 

「なぁ、おまえ達はなんで家にいるんだよ――――黒歌」

 

俺がそう言うとレイヴェルの後方から着物を着た黒髪の美女が登場する。

 

「ちゃお♪ お邪魔してるにゃん、赤龍帝ちん」

 

「あ、どうも。お邪魔しております」

 

更に黒髪の後ろからとんがり帽子が特徴的な魔法使いの少女、ルフェイが姿を現せた。

 

ヴァーリチームの女性陣が家に再登場だ。

この二人が来たのは試験直前、オーフィスが初めて家を訪問した時だったな。

 

「く、黒歌!? ど、どうしてここに!?」

 

「い、いつの間に!」

 

リアスと二人に背後を取られていたレイヴェルは驚いていた。

 

「白龍皇の仲間か。おまえ達がここにいるということは以前、この家に来たときに転移魔法陣のマーキングでもしていたのだろう」

 

ティアは冷静にそう判断していた。

 

なるほどなるほど、家にマーキングを・・・・・・・って何してんだよ、こいつら・・・・・・。

 

一応、敵地みたいなところなんだぞ、ここは。

 

ため息をつく俺に対して黒歌はというと・・・・・・

 

「ピンポーン♪ おかげさまで一瞬で来られるようになったにゃ。いつでもここのおっきなお風呂を使えるってわけ♪」

 

うん、こいつ、完全に敵地って考えてないな!

タダで使える銭湯感覚じゃねぇか!

 

「・・・・・ね、姉さま。どうしてここに?」

 

黒歌の声に反応して起きたのか、小猫ちゃんが目を覚ます。

 

起き上がった瞬間に、パジャマの隙間から小猫ちゃんのちっこいおっぱいが見えた!

 

ありがたやありがたや。

 

「どうしてって、白音が私から術を習いたいって言ってたから来てあげたのよ。ありがたく思ってほしいにゃ。あ、それから空いてる部屋はテキトーに占拠させてもらったから、よろしく~♪」

 

空いてる部屋を占拠!?

 

そりゃ、地上六階建てだから空いてる部屋はまだまだあるけどよ!

勝手に占拠するんじゃない!

 

「そ、それとですね。魔法使いの方々と交渉する時期に入ったとのことなので、僭越ながら私もアドバイザーとはして滞在させていただこうかなーっと。・・・・・ご迷惑でしょうか?」

 

「黒歌・・・・・・。おまえもルフェイを見習え」

 

おまえには謙虚さが足りねーよ。

 

「私にそんなのは似合わないっしょ。だ~か~ら~」

 

黒歌はそこまで言うと着物を更に着崩し、前屈みになった!

あの巨乳が更に強調された形に!

着物の隙間からおっぱいの先っちょが!

 

「赤龍帝ちんには体でお礼するにゃ」

 

「ようこそ兵藤家へ」

 

「ちょっと、イッセー!?」

 

あっさり堕ちた俺にツッコミを入れるリアス。

 

リアスからツッコミ受けるのって珍しいかも。

 

まぁ、おっぱいには逆らえないわ。

あのおっぱいで言われたら頷くしかないんだよね。

おっぱいは偉大だ。

 

「あ、あの、これ、アザゼル元総督よりのお手紙です」

 

「先生からの?」

 

ルフェイに渡された一枚の手紙を受け取り、封を切って中を確認する。

 

『ヴァーリんとこの黒歌とルフェイがちょくちょくお邪魔するかもしれねぇがよろしくな♪ ま、酷いことにはならないだろうから、仲良くしてやってくれや。 おまえらが尊敬するアザゼルより』

 

「・・・・・・・・」

 

あの人はまた勝手なことを・・・・・・。

いや、確かに何だかんだで大丈夫だとは思うけどさ・・・・・・。

 

「そういやヴァーリは?」

 

「あいつはいないにゃん。別件でね。だから今は別行動よ」

 

別件ね。

 

その間こいつらは家に転がり込むわけだ。

 

「たまにしか来ないから気にしないでほしいにゃん。白音のこともちゃーんと鍛えるから♪」

 

手を合わせてウインクしながら頼む黒歌。

 

頼まれたリアスは額に手を当てながら言う。

 

「・・・・・もう、勝手になさい。その代わり小猫のこと、頼むわよ? それと必要な時は力を貸しなさい。悪魔らしくギブアンドテイクよ」

 

リアスも半ば諦めたように承認してしまった。

 

というわけで黒歌とルフェイは家に度々訪問することになった。

 

兵藤家はいっそう賑やかになりそうだ。

 

 

 



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2話 契約期間突入です!

ある日の放課後。

 

俺達オカ研メンバー+アリスは部室に集合していた。

 

アザゼル先生がいないんだが、今は職員会議中らしい。

なんでも一人だけ長引いているとか。

 

同じ教員職のロスヴァイセさんは少し遅れてきたとはいえ、部室にいる。

 

あの人、何かやらかしたのかね?

 

とりあえず、集まった面々を見て、リアスが話し始める。

 

「今日集まってもらったのは、例の『魔法使い』との契約の件についてなの。皆の知っての通り、今日から契約期間に入っていくわ」

 

魔法使いとの契約。

 

悪魔にとって結構重要なことだ。

 

魔法使い達は基本的に自分の魔法を生涯に渡って研究し続ける言わば研究者的な存在。

黒、白、召喚、ルーン文字式、地域ごとの術式と数多くの魔法があり、彼らはその中から自分なりのテーマを決めて一生をそこに注ぐ。

研究を自分だけの秘匿にしたり、その探求の仕方も人それぞれ。

 

と、いうのがこの世界での魔法使いっていう者達らしい。

 

アスト・アーデの魔法使いってのは少し違うんだよね。

そもそも魔法が日常生活でも使えるように一般にも普及してる世界だし、そんなにガッツリ研究してる人って魔法学校の偉い先生くらいだろう。

 

実際、美羽は魔法の研究なんてしてないし。

独自に魔法を編み出したりはしているけど秘匿するつもりもないみたいなんだよね。

 

アリスに関しては魔法よりも身体的なところがメインだし。

 

そんな感じでアスト・アーデとこちらの世界では魔法使いの概念が違う。

 

それで、こちらの世界の魔法使いと俺達悪魔の関係だが――――

 

リアスが改めて言う。

 

「魔法使いが悪魔と契約する理由は大きく三つ。一つは用心棒として。いざというときにバックに強力な悪魔がいれば、いざこざに巻き込まれても解決しやすいのよ」

 

ヤクザみたいだな。

 

リアスが指の二本目を立てた。

 

「二つ目は悪魔の技術、知識を得たいため。魔法使いの研究に冥界の技術が役立つのよ」

 

それだけなら直に冥界に行って、直接手に入れるか、他の陣営を経由して手に入れれば良い。

と、思うかもしれないが、これが中々にリスクが高いそうだ。

 

まず前者だが、冥界に行く手段というのは限られている。

 

俺達なんかは気軽に行っているが、それは「上級悪魔グレモリー」という確かな後ろ楯があるからだ。

だから、悪魔になる前の美羽でも俺達について冥界にちょくちょく遊びに行くことができていた。

 

悪魔や堕天使以外の者が冥界に入るには特別な許可を得る必要があるということだ。

 

そして、後者だが、こっちは仲介料をとられるので値段がバカにならないそうだ。

下手をすれば生涯の研究で得た全財産でも足りないくらいの値をつけられてしまうとか。

 

だから、悪魔と契約して直接手に入れた方が安上がりになるとのことだ。

 

リアスが三本目の指を立てる。

 

「そして最後。これは単純なことよ。悪魔と契約することで己のステータスになるの。強力な悪魔と契約すればそれだけで大きな財産となるわ。私のお父さまやお母さまだって魔法使いと契約しているのよ? 何かあったときは相談事を受けるために召喚に応じるってわけね。上級悪魔とその眷属には義務の一つなの。今回の契約期間も私が適正の年齢に達したからなのよ」

 

そういう背景もあって俺達が魔法使いと契約する期間に突入することになったってわけだ。

 

ゼノヴィアが複雑そうに首をかしげた。

 

「まさか、私が魔法使いに呼び出される側になるとは、人生は何が起こるかわからないな」

 

俺もその意見に同意する。

 

「ま、そりゃそうだ。俺だってこうなるとは思ってなかったよ。そういや、俺ってどういう立ち位置で今回の契約を受けるんだ?」

 

上級悪魔、それも眷属を従える『王』ともなれば、契約する相手は変わってくるだろう。

 

一応、俺も昇格してるんだけど、『王』としては駆け出しもいいところだ。

しかも、まだ悪魔歴も短い。

 

それならリアスの眷属として契約に臨んだ方が俺にとっても契約する魔法使いの人にとっても良いと思うんだよね。

 

「今回、イッセーには私の眷属として契約を受けてもらうわ。イッセーはまだまだ知識が不足しているところもあるから、レイヴェルのサポートを受けながら慎重に選んでもらうわ。一度契約を交わしてしまえば簡単には反故できるものではないわけだし。他の皆も慎重にね?」

 

あ、やっぱりそういう感じなんだ。

 

リアスもその辺りは考えてくれてた訳ね。

 

「それから美羽とアリスさんは悪魔になったばかりだから契約はなしよ。今回は今後に向けての見学ということにしておいてちょうだい」

 

「うん。その方がボクも助かるかな」

 

「私達ってまだビラ配りだしね」

 

美羽とアリスはリアスの言葉に頷いていた。

 

二人はつい最近なったばかりで実績も無いに等しいからな。

悪魔の仕事も初めてはいるが、それもビラ配りの段階。

まだ契約したことすらない状態だ。

 

二人がどんな人と契約を取ってくるのか気になるところだが・・・・・・・。

 

そうこうしているとリアスが部室の時計を確認していた。

 

「そろそろ時間ね。魔法使い協会のトップが魔法陣で連絡をくださるの。皆、きちんとしていてね」

 

へぇ、トップ自ら連絡をしてくるのか。

 

魔法使い協会のトップってどんな人だろう?

イメージとしてはとんがり帽子を被った白い髭の老人って感じなんだけど。

 

すると、部室の床に大きな魔法陣が出現する。

 

「・・・・・・メフィスト・フェレスの紋様」

 

木場がそう呟いた。

 

・・・・・・・メフィスト・フェレス。

番外の悪魔(エキストラ・デーモン)に属する伝説の悪魔で、あの英雄派の霧使いゲオルクの先祖が契約していた悪魔。

 

魔法陣が完成すると光が宙に立体映像を映し出した。

 

椅子に優雅に座った中年男性。

赤色と青色の毛が入り交じった髪で、切れ長の両目は右目が赤で左目が青というオッドアイ。

すこし強面だな。

 

男性は俺達を見渡すとニッコリと笑った。

 

『やぁ、リアスちゃん。久しいねぇ』

 

なんとも軽い声音だった。

 

リアスが挨拶に応じる。

 

「お久しぶりです、メフィスト・フェレスさま」

 

『いやー、お母さんに似て美しくなるねぇ。キミのお祖母さまもひいお祖母さまもそれはそれはお美しい方だったよ』

 

「ありがとうございます」

 

リアスと顔見知りなんだ。

 

ってか、リアスのひいお祖母さんも知ってるって・・・・・もしかして家族ぐるみで付き合いがあるのか?

 

リアスが俺達にその人を改めて紹介してくれる。

 

「皆、こちらの方が番外の悪魔にして、魔法使い協会の理事でもあらせられるメフィスト・フェレスさまよ」

 

『や、これはどうも。メフィスト・フェレスです。詳しくは関連書物でご確認を。僕を取り扱った本は世界中にあるしねぇ』

 

テキトーか!

軽すぎるぞ魔法使い協会のトップ!

 

「メフィスト・フェレスさまは悪魔の中でも最古参のお一人で活動のほとんどを人間界で過ごされているの。それとタンニーンさまの『王』でもあらせられるわ」

 

『そうそう。滅びそうなドラゴン種族を出来る限り救済したいと言ってきてね。その言葉に感銘を受けた僕が『女王』の駒をあげたんだ』

 

そいつは驚きだ!

この人がタンニーンのおっさんの『王』だったのか!

 

そういや、この人って旧四大魔王と同世代だっけな。

試験勉強で少し触ったから覚えてる。

 

なんでも、旧政府・・・・・特に旧四大魔王とは仲が悪かったらしく、仲違いして人間界に住むようになったとか。

 

アザゼル先生やミカエルさんもそうだけど、見た目が中年や青年でも、中身がジジイの人が多いよな。

 

それからもリアスとメフィストさんの昔話、世間話、昨今の魔法使い業界の話が続いていく。

 

「では、ソーナとは既にお話を?」

 

「残念だけど、彼女とは後になってしまったよ。新しい眷属を迎えてからお話をしたいと言われてね。そういうことならと、キミ達と先に話をすることにしたのさ。ちなみにサイラオーグ・バアルくんとシーグヴァイラ・アガレスちゃんとは既に話は済んだよ。いやー、キミ達『若手四王(ルーキーズ・フォー)』はうちの業界でも、他の業界でも大人気だからね。早く話をつけろと下から突っつかれて仕方なかったんだ」

 

ルーキーズ・フォー?

 

初めて聞く単語だな。

 

俺が怪訝に思っているとレイヴェルがこっそり教えてくれた。

 

(最近つけられたサイラオーグ・バアルさま、シーグヴァイラ・アガレスさま、リアスさま、ソーナさまの若手悪魔四人を称した名称です。近年を顧みても破格のルーキーが集まった豊作の世代と言われてます)

 

(へぇ、そうだったのか。でも、確かにサイラオーグさんとかめちゃくちゃ強いもんな。木場もメキメキ強くなってきてるし)

 

(イッセーさま、ご自身のことが抜けてますわ)

 

(俺?)

 

レイヴェルの言葉につい聞き返す俺。

 

会話を聞かれたのか、メフィストさんが大きく頷いていた。

 

『うんうん。赤龍帝くんは異例とかそういうレベルじゃないからねぇ。一年も経ってない中での飛び級だし。それに、話に聞いたけど、ハーデスに宣戦布告したそうじゃないか。キミも大胆なことするよ』

 

あー、あれね。

 

そのことを知った皆から無茶するなって言われたっけな。

 

我ながら大胆なことしたかなって思うよ。

後悔はないけど。

 

「あの神様も色々やってくれたんで。少しくらいは仕返ししても良いでしょう?」

 

『いいねー。ハーデスもやり過ぎてるところがあるからね。僕は賛成だよ』

 

そんなやり取りをしているとアザゼル先生が部室に入ってきた。

 

「わりぃわりぃ、俺だけ会議が長引いてな。お、メフィストじゃねぇか!」

 

『やーやー、アザゼル。この間ぶりだねぇ。先にリアスちゃんと話をさせてもらっていたよ』

 

「ああ、魔法使い協会も大変なもんだな」

 

『まぁね。そっちは総督の座を退いてから生き生きしてるようじゃないか』

 

「そうでもないさ。うるさい見張り役がいてなぁ」

 

「うるさい見張り役って誰のこと言ってるんですかぁ?」

 

おっと、レイナがニコニコ顔で先生を睨んでる!

微笑みながら青筋浮かべてる!

 

怖い!

 

レイナに睨まれた先生はコホンと咳払いしながら、苦笑していた。

総督を退いてもレイナにはしっかり監視されてるんだな。

 

それにしても、先生もメフィストさんとは知り合いのようだ。

旧知の仲って印象だな。

 

そんな俺の視線に気づいたのか、先生が言う。

 

「俺とメフィストは長い付き合いでな。メフィストが悪魔側の旧政府と距離を置いている時期にグリゴリは独自の接触をさせてもらったのさ」

 

そりゃ、抜け目が無いことで。

この人らしいな

 

『グリゴリの情報網は大変役に立ったよ、アザゼル。今でも世話になってるしねぇ』

 

「お互い様さ。俺達も魔法使いの協会とパイプを持てて損はなかったからな」

 

そこからは俺達を置いて、あーだこーだと業界トークを始める二人。

 

ぶっちゃけ、中々に難しい話をしているようで、知らない単語がいくつも出てきた。

 

この二人の話は次元が違いすぎる!

 

 

 

しばらく話し込むこと数分。

 

 

 

『いやー、長くなってしまって悪かったね。それでは、キミ達と契約したいと言ってる魔法使いの詳細データを魔法陣経由で送るよ』

 

そう言いながらメフィストさんが指をくるくる回して、こちらに向けた。

 

すると、新たな魔法陣が展開されて、そこから書類が大量に降ってきた!

 

こ、これが魔法使いのデータ・・・・・?

 

かなりの量なんですけど!

皆と分担して整理していくが、まだまだ降ってくる!

 

中身を少しばかり覗いてみると、顔写真のようなものと、魔術文字で色々と項目があって、そこには長々文章が書かれていた。

 

履歴書みたいなものなのか?

 

書面に目を落としていた俺に木場が言う。

 

「最近の悪魔に対する魔法使いの契約っていうのは、まず書類選考なんだ。その後の選考は僕たちに委ねられるようになってるんだよ」

 

「就職活動みたいだな」

 

「ええ。就職活動ならぬ、契約活動といったところでしょうか。今はこれが主流なんですよ。昔は抜け駆けを目指す契約合戦をして、血塗れの時代なんてものもあったそうですから」

 

ロスヴァイセさんが山盛りの書類を抱えてそう付け加えてくれる。

 

そんな時代があったのかよ。

物騒だな・・・・・・。

 

今はそれを反省して平和的にやってるんだろうけど。

 

そんなことを思いながら送られた書類を指名された者ごとに仕分けていく。

 

一番多かったのはリアス。

とんでもない書類の山だ。

 

先生はその結果に至極当たり前といった面持ちだった。

 

「ま、当然だろう。リアスはグレモリー眷属の『王』。リアスと契約しておけば、眷属のおまえ達を動かせるかもしれないと踏むだろうからな」

 

リアスと契約できれば、色々とお得ってわけだ。

 

次に多いのはロスヴァイセさんだった。

 

「なるほど。魔法を研究する上で私の北欧で得た知識を欲しているのでしょう」

 

当のロスヴァイセさんは自分の評価を冷静に分析していた。

 

北欧は魔法に長けた世界だしな。

そう言われれば納得だ。

 

そして次に多かったのは――――俺だった!

 

マジか!

 

「イッセーは多くの武勲をあげているし、使い魔がかのティアマットだ。しかも、悪魔になって僅かな期間で飛び級も果たしたときている。多いのは当然だ。しかし、俺としてはもう少し伸びると思ってたんだが・・・・・・」

 

先生がふむと考え込んでいた。

 

この数を見てそういう感想が出ますか・・・・・・。

 

先生の中での俺の予想ってどうなってたんだろう・・・・・。

 

メフィストさんが言う。

 

『それでも十分多いけどねぇ。今回、伸びなかったのは赤龍帝くんの眷属が対象外だったことがあるかな』

 

「なるほど、そういうことか」

 

先生はその言葉に何やら納得したようで、美羽とアリスの方に視線を向ける。

 

美羽とアリスも頭に疑問符を浮かべていた。

 

『赤龍帝くんの眷属、特に僧侶の子は珍しい術式を使うみたいだからねぇ。キミと契約したがってた魔法使いは結構いたよ』

 

「ボクとですか・・・・・?」

 

自分を指差す美羽とそれに頷くメフィストさん。

 

『そうそう。残念ながら、キミ達はつい最近悪魔になったみたいだから契約の対象から外すことになってしまったんだ。まぁ、次の機会を楽しみにしてるよ』

 

メフィストさんはにこやかにそう言うが・・・・・・。

 

これまでの戦闘やら何やらで美羽のことも色々知られてるってことか。

下手に情報が漏れて面倒なことにならなければいいけど・・・・・。

 

俺の次にならんだのが、アーシア→木場→朱乃→ゼノヴィア→小猫ちゃん→ギャスパーという結果だった。

 

俺達のオファー具合を見て先生が口を開く。

 

「まぁ、一部予想と違ったが、大体はこんなもんだろう。リアスと契約出来れば一気に眷属であるおまえらを引き出せると考えた魔法使いが大勢だ。というより、リアス達を指名してきた連中の大半が雑兵だろうよ。この書類の山で光る魔法使いなんて数えるほどしかいないだろう」

 

『ハハハハ、ま、大半が雑兵さ』

 

言っちゃったよ!

 

先生はともかく、理事がそんなこと言っていいんですか!?

下から怒られるぞ!?

 

『ま、とりあえず、今回の書類はそれで全てだよ。めぼしい子がいたら、連絡をいただけるとありがたいねぇ』

 

今回はって・・・・・・ということは次もあるのね。

 

次もこんだけ多いとなると流石にげんなりするぜ。

書類に目を通すだけで嫌になりそうだ。

 

この山盛りの資料は持ち運べるはずもないから、転移魔法陣で家に送ることになった。

 

そんな中、メフィストさんが皆の手伝いをしていたレイヴェルに話しかける。

 

『そこの女人はフェニックス家の者かな?』

 

「は、はい。レイヴェル・フェニックスと申します」

 

問われたレイヴェルは丁寧に挨拶をかえす。

その振る舞いはまさに良家のお嬢様。

 

メフィストさんは顎を手でさすりながら言い始める。

 

『・・・・・これはうちの協会だけが掴んでいる極秘情報なんだけどね。どうにも「はぐれ魔術師」の一団が「禍の団」の魔法使いの残党と手を組んでフェニックス家関係者に接触する事例が相次いでいるんだよ』

 

――――っ。

 

ここで『禍の団』の名前が出てくるか。

しかも、フェニックス家の関係者と接触しているだと?

 

『フェニックスの涙が裏でテロリストに流通していたのは知っているね?』

 

それは知っている。

実際に曹操達英雄派が所持し、使用しているところを目撃しているからな。

 

レイヴェルは頷く。

 

「はい。一部の卸業者が裏取引をしていたと。ですが、それは、もう粛清されて流通は元に戻ったはずですが・・・・・・」

 

『いや、今も闇のマーケットで涙は売買されているよ。それも「フェニックス家」産ではない涙がね』

 

『――――っ!?』

 

なん、だと・・・・・・!?

フェニックス家産ではない涙が流通している!?

 

リアスが言う。

 

「純正ではないもの、偽物でしたら効果がないものと思われますが・・・・・・。まさか・・・・・」

 

メフィストさんはリアスの反応に首を縦に振る。

 

『その通り。その涙は純正に等しい効果を示しているんだ。ほら、これさ』

 

メフィストさんの手に小瓶が現れる。

 

『どうやって製造しているかは知らないけど、フェニックス産ではない涙が流通し、それに呼応するかのようにはぐれ魔術師がフェニックス関係者に接触をしている。お嬢さんも狙われるかもしれないから、気を付けてほしいと思ったのだよ』

 

「はぐれ魔術師達の居所は?」

 

俺が挙手して質問する。

 

しかし、メフィストさんは首を横に振った。

 

ま、潜伏先が分かってたら苦労しないか・・・・・・。

 

「俺の方もグリゴリであたらせる。なーに、レイヴェルにはそれは強い王子さまがついてるんだ、問題ないだろ。それに三大勢力の拠点の一つでもあるこの周辺は強力な結界やらが張ってある。そうそう侵入はされないだろう。レイヴェルもここにいて、王子さまがそばにいれば安心だ」

 

俺の頭をポンポン叩く先生。

 

王子さまって俺かよ。

 

「最近入手した情報なんだが・・・・・・『禍の団』の旧魔王派、英雄派の残党、魔法使い共を纏めようとしている輩がいるようだ。そいつが実質的な現トップらしいんだが・・・・・・」

 

先生が表情を険しくして言った。

 

そんな奴まで出てきたのかよ・・・・・・。

 

もしかして、偽物の涙の製造もそいつの指示か?

 

だとしたら、また大事になりそうな気がするぞ・・・・・。

 

ったく、次から次へと面倒な事が起ころうとする!

どうして平和ってのは長続きしないのかね!

 

メフィストさんが改まる。

 

『話がそれて申し訳なかったね。ということで、良い契約が叶うことを願ってるよ。それじゃあ、このへんで』

 

立体映像が消え、メフィストさんとの話は終わった。

 

魔法使いとの契約もあるけど、フェニックスの件が気になるな。

 

メフィストさんが言っていたようにレイヴェルに接触してくる可能性も十分にある、か・・・・・・。

 

・・・・・・一応の対策だけはしておこう。

 

 



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3話 ケンカするほど仲が良い

魔法使いの選考を始めて数日後の深夜。

 

「あー、多すぎだろ・・・・・・」

 

俺は目の前の書類の多さに根をあげそうになっていた。

 

読めども読めども減る気配がない。

かなり辛い作業だ。

 

「イッセーさま、この魔術文字の解読が済みましたわ。読んでくださいましね」

 

横につくのは敏腕マネージャーのレイヴェルちゃん。

俺のサポートとして確認作業を手伝ってくれている。

 

俺が頑張れるのはレイヴェルの存在が大きいな。

こうして夜遅くまで手伝ってくれてるんだ。

この子には本当に感謝してるよ。

 

他の部屋では皆がそれぞれの見方で魔法使い達の履歴書を見ている。

アーシア、小猫ちゃん、ゼノヴィア、ギャスパーはリアスや朱乃の意見を取り入れながら書類に目を通しているようだ。

 

美羽とアリスもいずれは自分達も契約することになるからと、最初は俺の隣で目を通していたんだが・・・・・・。

 

「・・・・・・スースー・・・・・」

 

「・・・・エヘヘ、これで私も巨乳に・・・・・」

 

はい、二人とも爆睡しております。

 

毎回これだ。

 

美羽は魔法使いとしての視点で意見をくれたりもするが、最後まで起きていた試しがない。

 

アリスなんて資料見始めて、数分でダウンしやがる!

「おまえは一体何しに来たんだよ!」ってツッコミたくなるが、一応手伝ってくれているから我慢する。

 

うぅ・・・・俺の眷属、こんなんで大丈夫なのかな

ぁ・・・・・。

 

不安しかねぇ!

 

「レイヴェル・・・・・」

 

「どうしました?」

 

「この状況・・・・・頼れるのは君だけだよ・・・・・・」

 

「っ! お任せください! 私がイッセーさまに相応しい相手を選び抜いてみせます!」

 

おおっ、やる気十分だ!

やっぱり、レイヴェルは頼りになるな!

 

今も書類ひとつひとつに視線を落として、辞書や資料を片手に細かくチェックしてくれてる。

しかも、分かりやすく付箋を貼ってメモまでしてくれている!

丁寧な仕事ぶりに感激だ!

 

「この魔法使いの男性は錬金術において、希少なレアアース、レアメタルの魔術的利用方法を研究されてますわ。こっちの女性はーーーー」

 

こうして俺でも分かるよう噛み砕いて情報を教えてくれる。

 

小猫ちゃんの話では休み時間にも人目から隠れて調べてくれているそうだ。

 

俺のために頑張ってくれるのは嬉しいけど、無理して体を壊さないか心配になるな・・・・・・。

 

そうそう、先日のフェニックス家の関係者が狙われるって情報についてだけど、改めてフェニックス家から届いたそうだ。

 

ライザーがえらく心配してたらしいが、あいつもお兄ちゃんしてるぜ。

 

まぁ、ライザーの気持ちも分かるな。

レイヴェル可愛いもん。

 

「か、可愛いですか・・・・・!?」

 

今まで真剣に資料とにらめっこしていたレイヴェルが突然、赤面しながら声を裏返らせていた。

 

・・・・・・えーと、これって―――――

 

「・・・・・・声、出てた?」

 

俺が問うとレイヴェルはコクコクと小さく頷いて返してきた。

 

あちゃー・・・・・、こいつはミスったかな。

 

いや、でも、レイヴェルが可愛いってのは事実だ。

頑張り屋さんだし、俺のためにこうして動いてくれているしな。

可愛いものを可愛いと言って悪いことなんてないんだ。

 

「もちろん容姿的なものもあるんだけどさ・・・・・。レイヴェルの一生懸命頑張ってる姿が良いなって思ったんだよね」

 

「~~~~っ!」

 

あ・・・・・・余計に顔が真っ赤に・・・・・・・

 

これは話題を変えた方が良いかもしれない。

 

俺は一度咳払いした後、レイヴェルに言った。

 

「その、なんだ、俺って普段からレイヴェルに色々と助けてもらってるし、お礼の一つでもできないと申し訳ないなーって。レイヴェルは俺にしてほしいことってあるか?」

 

マネージャーとして何かと頑張ってくれているレイヴェルに何かしてあげたい。

前々から考えていたことだ。

 

すると、レイヴェルは手にしていた資料を置いて赤面した状態で俺と向かい合った。

 

「で、でしたら・・・・・頭を撫でて、ほしいです・・・・・」

 

それは思ってもなかったリクエストだった。

 

んー・・・・・・頭を撫でてほしいって・・・・・・。

 

「そ、そんなことでいいの? 遠慮しなくていいんだぞ?」

 

けど、レイヴェルは首を横に振って、真正面から言ってきた。

 

「イッセーさまのマネージャーをできるだけで光栄なんです。だから、頭を撫でていただけるだけで、私はこの先も頑張っていけます」

 

・・・・・・なんて・・・・・・・なんて、良い子なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

良い子過ぎるぞ!

 

この子がマネージャーで良かった!

 

俺は抱き締めたくなる気持ちを抑えて、要望通りにレイヴェルの頭を撫でてあげた。

 

「・・・・・えへへ」

 

くぅぅ・・・・・笑顔も可愛いなぁ!

 

うん、俺、このマネージャーと一緒に今後も頑張っていくよ!

 

すると―――――

 

「あ、そうです。この後、『おっぱいドラゴン』のお仕事についてもスケジュール調整いたしますわ。魔獣騒動でショックを受けた子供達のためにチャリティーイベントに参加してほしいとの打診が既に――――」

 

・・・・・・でも、少し休ませてほしいと思ってしまう俺だった。

 

 

 

 

 

 

魔法使いの書類選考と悪魔の仕事に追われる俺達グレモリー眷属だが、修行もサボらずに続けなければいけない。

 

メフィストさんとアザゼル先生の話だと何やら不穏な動きもあるみたいだし、いざという時に動けるようにしておかないとな。

 

そういうわけで、俺達オカ研メンバー+アリスはジャージに着替えてグレモリー領にある地下の広大なバトルフィールドで修行に入っていた。

 

いつもと違い、俺に加えてアリスが前衛組の木場、ゼノヴィア、イリナを相手取り、美羽は後衛組のリアス達と離れたところで修行に取り組んでいる。

 

というのも、木場の第二階層に興味があったからなんだよね。

 

それで一戦交えてみたが・・・・・・想像以上だった。

 

複数の属性を一度に使えるという能力、あれは厄介なんてもんじゃないな。

 

たとえば、水と雷、火と風というような組み合わせできたとする。

そうすると、属性の相乗効果で威力は増加し、攻撃範囲も大きくなってくる。

 

しかも、見た目で変化がないし、ノータイムで能力を変えてくるから、かなり対処しにくくなってくるんだ。

 

身体能力もかなり伸びるし・・・・・・能力の幅で言えば、天武、天撃よりも上だろう。

 

まぁ、消耗が激しいところは俺と同じようだけど。

今も後遺症の筋肉痛で俺の隣でダウンしてるし。

 

「ハハハ・・・・・これに慣れるまでにどれくらいかかるんだろうね?」

 

「至ったばかりだからな。そのうち、痛まなくなるさ」

 

そんでもって、俺が木場の相手をしている間、アリスにゼノヴィアとイリナを任せていたんだけど・・・・・・。

 

こちらはアリスが圧倒していたな。

 

ゼノヴィアのエクス・デュランダルとイリナの量産型聖魔剣による剣戟を全てかわして、隙が出来たところを槍の石突きで突くという戦法を取っていた。

 

「むぅ・・・・・あそこまで攻撃が当たらないとなると嫌になるな」

 

「そうね。それも木場君みたいにスピードで翻弄する感じじゃなくて体捌きと槍捌きで全ての攻撃を流されたわ。・・・・・もう、あそこまでくると流石としか言いようがないわね」

 

ゼノヴィアに続き、イリナもそう漏らす。

 

二人の意見にアリスは苦笑しながら言う。

 

「スピードで撹乱することも出来たけど、今回は自分に制限をつけてみたのよ。その方が修行になるしね」

 

なるほどなるほど。

 

アリスも考えながら修行に取り組んでたってことか。

 

でも、まぁ、アリスが木場みたいにスピードで攻め出したらゼノヴィア達ではついていくのは難しいだろうな。

特にパワータイプのゼノヴィアじゃ荷が重そうだ。

 

「うーん・・・・・・。やっぱり、エクス・デュランダルはせっかく多彩な能力があるんだし・・・・・破壊力以外のも使えたらゼノヴィアさんはもっと伸びると思うの」

 

アリスがそう指摘する。

 

七つに別れたエクスカリバーはそれぞれに特殊能力を有していた。

今ではその全てが統合し、デュランダルと合体を果たしている。

 

破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)

 

その名の通り、破壊力のある攻撃特化の能力だ。

ゼノヴィアはこの聖剣の主だったから一番使いこなせている。

パワー重視のゼノヴィアには相性が良い。

 

 

擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)

 

様々な形に姿を変える特性を持つ。

これはイリナが持っていた聖剣で、持ち運ぶときは紐状にして戦うときは日本刀にしていた。

ゼノヴィアよりも元々の持ち主だったイリナの方が一日の長がある。

 

 

天閃の閃光(エクスカリバー・ラピッドリィ)

 

所有者のスピードと振られた剣速を高速化させる。

こいつはフリードが一番最初に使ってたな。

 

 

透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)

 

刀身だけでなく、持ち主をも透明にする。

バアル戦でロスヴァイセさんが使用した聖剣だ。

 

 

夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)

 

相手に幻術をかけて、敵を惑わすことができる。

これは魔法などが得意な者の方が相性がいいらしく、そちら方面に疎いゼノヴィアは習得に難航していた。

 

 

祝福の聖剣(エクスカリバー・プレッシング)

 

信仰が関与するようで聖なる儀式などで使うと効果を発揮するという。

 

 

支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)

 

いかなる存在をも意のままに操れるようになる特性を持つという。

ヴァーリチームのアーサーが所有していたのだが・・・・・

 

「私はアーサーのように伝説の魔物を支配できるような才能は発揮できないだろうな。・・・・・うまく発動すらしない」

 

やはりこちらも習得に難航しているようだ。

 

イリナがゼノヴィアから擬態の聖剣を受けとると刀身がうねうねと変化して、日本刀の形となった。

 

「ミミックはイメージ力が必要よね。使いこなせればいろんなものに変化させられるんだから」

 

イメージ力か・・・・・・流石に元持ち主が言うと説得力があるな。

 

そういや、木場の聖魔剣も創り出すときにはその剣を強くイメージするらしい。

 

木場は完全なテクニックタイプだし、イリナも最近は魔法を覚え始めてるからテクニックタイプのウィザードなのだろう。

 

こうして考えるとテクニックタイプの方がイメージ力があるのか?

 

俺はパワータイプだし、今持つ戦闘技術も修行と実戦で身に染み付いた感覚みたいなもんだから、その辺りはよく分からないけど・・・・・・。

 

「このままじゃ、自称剣士になってしまうわよ、ゼノヴィア」

 

「んなっ!?」

 

イリナに言われて相当ショックを受けた様子のゼノヴィア。

大口を開けて固まってるし・・・・・・。

 

しかし、ゼノヴィアも涙目になりながら言い返す。

 

「・・・・・・自称天使め」

 

自称天使。

それはイリナにとってタブーに近い単語だ。

 

言われたイリナは頬を膨らませてプンスカ怒り始める。

 

「自称じゃないもん! 天使だもん! ね、イッセー君! 幼馴染みのイッセー君なら私が本当の天使だってわかってくれるよね?」

 

「そういや、俺とイリナって幼馴染みだったな。ごめん、たまに忘れるわ」

 

「ガーン!」

 

あらら、今度はイリナが大口開けて固まったぞ。

 

うん、でも、割りと本当に忘れる時があるよ。

昔のイリナってやんちゃ坊主ってイメージあったからね。

あの頃は完全に男の子だと思ってた。

 

俺の言葉を聞いたゼノヴィアがせせら笑う。

 

「なるほどなるほど。イリナは自称幼馴染みなのか。そうなのか」

 

「自称じゃないもん! 幼馴染みだもん!」

 

「やーい自称幼馴染み天使ぃ」

 

「合体させないでよ! この自称剣士! 脳みそまで筋肉ぅっ!」

 

アホだ・・・・・。

この二人、口喧嘩を始めるとかなり低レベルの舌戦を繰り広げる。

内容は完全に小学生。

 

まぁ、そこが可愛くもあるんだが・・・・・・。

 

つーか、こいつら出会った時のあの危ないイメージから本当に変わったよなぁ。

 

こっちの方が年相応で本来の姿なんだと思うけどね。

見た感じ、二人とも楽しそうだし。

 

「どうするのよ、この状況」

 

「このままで良いんじゃね?」

 

 

 

 

 

 

修行を終えて、一日の予定をクリアした後はのんびりするだけだ。

 

「先輩、チョコミント食べますか?」

 

「うん、一口もらうよ」

 

膝上に座る小猫ちゃんが「あーん」をしてくれる。

 

うん、後輩からの「あーん」って良いよね!

最高だ!

 

いやー、今日も小猫ちゃんは俺を癒してくれるぜ!

 

小猫ちゃんの頭を撫でていると、レイヴェルが前に立った。

 

「こ、小猫さん、いつも思ってましたけど、人前でイッセーさまのお膝に座るなんてお行儀が良くないですわ!」

 

「・・・・・・ここは私だけの特等席」

 

ハハハ・・・・・特等席ときましたか。

 

「と、特等席!? イッセーさまからも言ってあげてください!」

 

「アハハハ・・・・・・。ま、まぁ、俺も嫌じゃないから別に良いんだけどね?」

 

ってか、いつも小猫ちゃんが膝上に座ってるから、これが生活の一部って感じなんだよね。

 

すると、小猫ちゃんは俺に抱っこという形になる。

 

「・・・・・私はイッセー先輩のお嫁さんになるから、ここをキープする」

 

「・・・・・っ!」

 

それを聞いたレイヴェルはワナワナと体を震えさせ、心底悔しそうな表情を浮かべていた。

 

小猫ちゃんにこうして注意しているレイヴェルだが、二人きりの時は俺の膝上に座りたいと言ってくる。

それで、俺も座らせてあげている。

 

それを見かけた小猫ちゃんは不機嫌そうに頬を膨らませるのだが・・・・・・・俺の膝ってそんなに人気なのか・・・・・?

 

最近ではいの一番に小猫ちゃんが占拠しにくるようになっている。

 

レイヴェルは涙目で抗議を始めた!

 

「ず、ずるい! ずるいずるいずるいずるい!」

 

おおっ!?

あのデキるマネージャー、レイヴェルが地団駄を踏んでる!?

 

「小猫さんばかりずるいですわ! えいっ!」

 

レイヴェルは小猫ちゃんを突き飛ばして、空いた俺の膝上に鎮座してしまう!

 

「私だってここに座ります! いいえ、占拠しますわ!」

 

「っ!」

 

突き飛ばされた小猫ちゃんは眉をつりあげ、口を三角にしている。

可愛いが、纏うオーラが恐ろしい!

背後に猫が見える!

 

そして――――

 

「えいっ!」

 

「きゃっ!」

 

今度は小猫ちゃんがレイヴェルを突き飛ばした!

即座に俺の膝上に乗り、俺にしがみついてくる!

 

「・・・・・ここは私の席っ! あげないっ!」

 

「独り占めなんて許しませんわ! 私も座りたいぃっ!」

 

再び小猫ちゃんを下ろそうとレイヴェルが奮闘し始める!

 

ま、また、この展開か・・・・・・。

 

小猫ちゃんとレイヴェル。

猫と鳥の『膝上争奪戦』勃発。

 

『レイヴェルはな。親しい者の前では礼儀正しく、慎ましいんだが・・・・・。基本的にはリアス並にわがままだ。特に人のものを欲しがる癖があってな。・・・・・・おまえとの暮らしの中でその辺りも見えてくるかもな』

 

以前、ライザーとのプライベート回線で話したときにそう言われたんだが・・・・・・・その通りだったよ。

 

レイヴェルも中々に・・・・・・・ね?

 

「お兄ちゃん達、何してるの・・・・・・って、また始まったんだ」

 

と、声をかけてきたのはパジャマ姿の美羽。

手には牛乳の入ったコップが握られていた。

 

美羽もこの光景を見て驚かないほどに見慣れている。

 

俺が視線で助けを求めながら、手でお願いのポーズを取ると美羽は苦笑しながら頷いてくれた。

 

コップをテーブルに置くと、未だ言い争ってる二人の頭を撫でながら、

 

「小猫ちゃん、レイヴェルさん。二人がケンカするとお兄ちゃんも困っちゃうよ? ここは仲良くね?」

 

「・・・・・はい・・・・・ごめんなさい」

 

「・・・・・・もうしわけありませんでした・・・・・・」

 

美羽にそう言われて落ち着く二人。

 

うーむ、こうして見てると美羽がお姉さんになってきているのが分かるな。

今の言葉もしっかり者のお姉さんって感じだったし。

 

結果的に右膝に小猫ちゃん、左膝にレイヴェルが座る形に治まり、そのまま俺達は四人で仲良くテレビを見てからその日を終えることになった。

 

俺の膝上に座っていた二人だが、最初はプンスカしてたけど、時間が経過するにつれて仲良く話をするようになっていたよ。

 

ま、ケンカはするけど、二人は友達ってことなんだろうな。

 

 



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4話 吸血鬼の来訪です!

深夜の駒王学園。

 

旧校舎オカルト研究部の部室に俺はいた。

 

理由は以前から挙がっていた吸血鬼との会談が今日、行われることになったからだ。

 

この場に集合したのはオカルト研究部全部員とアリス、ソーナに真羅副会長、アザゼル先生、そして天界側からシスターが一人――――

 

ベールを深く被ったシスター。

北欧的な顔立ちをした美女だ。

年齢は二十代後半ほどで柔和な表情と優しそうな雰囲気を纏っている。

 

シスターが見渡すようにこの場にいる全員へと挨拶をくれた。

 

「はじめまして、皆さん。私、この地域の天界スタッフの統括をしておりますグリゼルダ・クァルタと申します。何とぞよろしくお願い致します」

 

「私の上司さまです!」

 

イリナがそう付け加える。

 

先生がグリゼルダさんと握手を交わす。

 

「おー、話には聞いているぜ。ガブリエルのQ(クイーン)。シスター・グリゼルダと言えば、女のエクソシストの中でも五指に入る実力者。あんたをこっちに派遣してくれるとは天界も太っ腹じゃねぇか」

 

女のエクソシストの中で五指に入る!

それはまた凄い人が来てくれたな!

 

しかも、四大セラフの一人であるガブリエルさんのQ(クイーン)とは!

 

「恐れ入ります。堕天使前総督さまのお耳に届いているとは光栄の至りですわ」

 

丁寧に頭を下げるグリゼルダさん。

 

「シスター・グリゼルダは『クイーン・オブ・ハート』って呼ばれているの」

 

イリナが追加情報をくれた。

 

そういう通り名があるのか。

 

グリゼルダさんが深く陳謝する。

 

「本来ならもっと早くに挨拶に伺うべきでしたのに・・・・・もろもろ都合が付かず遅くなってしまいました。申し訳ございません」

 

本当に丁寧な物腰だな。

 

・・・・・・グリゼルダさんについては良いとして

 

「あらあら? ゼノヴィアったら、顔色が悪いわね?」

 

イリナが意味深な質問をゼノヴィアに投げ掛ける。

 

そう、先程からゼノヴィアの様子がおかしい。

 

いつもなら、色々な意味で堂々としているゼノヴィアだが、今日はなんだかソワソワしてる。

 

「・・・・・からかうな、イリナ」

 

ゼノヴィアは顔を強張らせて、まるで何かから逃げるように俺の背後に隠れようとするが―――――

 

そのゼノヴィアの顔をグリゼルダさんがガッチリと両手で押さえた!

 

「ゼノヴィア? 私と顔を合わせるのがそんなに嫌かしら?」

 

「・・・・ち、違う・・・・・」

 

・・・・・・物腰が柔らかいのには違いないが、こ、怖い!

 

しかも、なんでゼノヴィアなんだ?

 

俺が怪訝に思っていると再度、イリナが教えてくれた。

 

「シスター・グリゼルダはゼノヴィアのお姉さん的存在なの。同じ施設の出身で、いつもお世話になっていたせいか、彼女には頭が上がらないのよ」

 

「はー、ゼノヴィアにそんな人がいたのか。それだったら、グリゼルダさんもゼノヴィアが悪魔になったことにショックを受けたんじゃないのか?」

 

同じ教会の者なら同胞がいきなり敵である悪魔に転生したって聞いたら相当ショックを受けるはずだ。

しかも、グリゼルダさんにとってゼノヴィアは親しい存在だったんだから、尚更だ。

 

すると、俺の問いにはアーシアが答えた。

 

「先日、ゼノヴィアさんとイリナさんの職場である教会支部に行ったのですが・・・・・・・。シスター・グリゼルダはゼノヴィアさんが悪魔になったことを驚いていましたが、それよりも連絡を貰えなかったことが悲しかったと仰っていました」

 

なるほどね。

 

多分、グリゼルダさんにとってもゼノヴィアは妹みたいな存在なのかもな。

 

と、納得している俺の横では美人が台無しになるくらい顔が変形したゼノヴィアが声を絞り出していた。

 

「た、ただ・・・・・」

 

「ただ?」

 

「・・・・・で、電話に出なくてごめんなさい」

 

電話?

 

あー、そういや、ゼノヴィアがケータイの着信を無視していたことがあったな。

 

あれってグリゼルダさんからだったのか。

 

ゼノヴィアの謝罪を受けて、グリゼルダさんも手を離す。

 

「はい。よく出来ました。せっかく番号を教え合ったのだから、連絡ぐらいよこしなさい。分かりましたか? 食事ぐらいはできるでしょう?」

 

「・・・・・ど、どうせ小言ばかりだろうし」

 

「当たり前です。また一緒の管轄区域になったのだから、心配ぐらいします」

 

困った妹としっかり者のお姉さんって感じだな。

 

解放されたゼノヴィアに俺は言う。

 

「良いお姉さんじゃないか。たまには二人で出掛けてきたらどうだ?」

 

「それも良いですね。ゼノヴィア、予定の空いている日を教えてくださいね?」

 

「は、はい・・・・・」

 

なんか、「余計なことを・・・・・」って感じの表情だな。

 

でも、まぁ、ゼノヴィアもグリゼルダさんが嫌いってわけではないだろう。

 

にしても、あれだな。

剛胆なゼノヴィアがこんなにも可愛らしい反応を見せてくれるのは新鮮だ。

意外な一面だったな。

 

 

 

 

 

 

更に夜は更け、外が完全に静まりかえった頃。

 

旧校舎の入り口の方向から複数の気配。

 

全員がそれを感じとり、互いの視線を合わせていた。

 

リアスが立ち上がる。

 

「来たようね。・・・・・相変わらず、吸血鬼の気配は凍ったように静かだわ」

 

リアスが木場に視線を向けると、木場は立ち上がり、一礼してから部屋をあとにした。

吸血鬼を迎えに行ったのだろう。

 

交渉に立つのは俺、リアス、ソーナ、グリゼルダさんとアザゼル先生だ。

以前の三大勢力の会談時の俺はリアスの『兵士』だったからあまり自分から発言はしなかったけど、今回は違う。

俺も眷属を従える『王』として事に当たる。

 

眷属悪魔である美羽達やイリナ、レイナは俺達の側に並んで位置する形となる。

給士係である朱乃だけは専用の台車の前に待機していた。

 

うーむ、元々一国のトップだったアリスや姫だった美羽を立たたせておくっては変な気分だ。

 

オーディリアのお偉いさんや魔族の人に見られたら怒られそうだ。

 

そんなことを思っていると、部屋のドアがノックされる。

 

「お客様をお連れしました」

 

木場が紳士な応対で扉を開き、客を招き入れる。

 

入ってきたのは中世のお姫さまが着るようなドレスに身を包む人形のような少女。

目と鼻、口元まで人間味の感じられない、作られたような美しさがある。

長い金髪はウェーブがかかっていて、どう見ても美少女。

 

・・・・・・なんだが・・・・・・・彼女からは生気を感じられない。

肌の色も死人のように悪く、瞳はギャスパーよりも深い赤だ。

 

彼女の足元を見ると―――――影がなかった。

 

俺は事前に聞かされた吸血鬼の情報を思い出す。

 

吸血鬼は十字架や聖水に弱く、流水を嫌い、ニンニクも嫌う。

そして鏡に姿が映らず、影もない。

招待されたことのない場所には入ることができず、己の棺で眠らないと自己回復が出来ない。

 

ハーフであるギャスパーはいくつか違う。

 

影もあるし、鏡にも映る。

川も渡れるし、ニンニクも克服しつつある。

あと、自分の棺でなくとも眠ることができる。

 

この間は俺の部屋のベッドで丸まってたっけな。

つーか、基本段ボールで寝てるよな。

 

まぁ、そういうわけで、ハーフと純血の吸血鬼では違いがあるということだ。

 

少女に続いて入ってきたのはスーツを着た男女が一人ずつ。

こちらは護衛だろうが、少女と同じく影もないし、生命的な力の波動を感じさせない。

 

少女は丁寧に俺達に挨拶をくれる。

 

「ごきげんよう、三大勢力の皆様。特に魔王さまの妹君お二人に、堕天使の前総督さまとお会いできるなんて光栄の至りです」

 

リアスに促されて、リアスの対面の席に吸血鬼の少女は座ることに。

 

座る前に少女は名乗る。

 

「私はエルメンヒルデ・カルンスタイン。エルメとお呼びください」

 

「・・・・カルンスタイン。吸血鬼二大派閥のひとつ、カーミラ派。その中でも最上位クラスの家だ。純血で高位のヴァンパイアに会うのは久しぶりだな」

 

先生が顎に手をやりながら、そう漏らす。

 

吸血鬼は古くから存在する闇の住人。

悪魔の貴族社会のような階級制度を持つ。

 

悪魔と吸血鬼は互いに縄張りを刺激せずに人間を糧に生きていた。

 

天界が天敵なのは同じだが、共闘もせず、今まで一定の距離を置いていた。

 

三大勢力で和平を結んでからは、三つ巴の争いは収束したが・・・・・・。

吸血鬼はいまだ和議のテーブルにつこうとすらせず、今でも天界側、教会の戦士達と小競り合いが続いているようだ。

 

それで、吸血鬼の二大派閥についてだ。

 

なんでも、数百年前に吸血鬼の真祖に対する考え方で揉めて、大きく袂を分かつことになったとか。

純血の吸血鬼を残すため、男の真祖を尊ぶか、女の真祖を尊ぶかで長年対立しているそうだ。

 

男尊主義のツェペシュ派と女尊主義のカーミラ派。

 

先生の言葉を聞く限り、エルメンヒルデは女尊主義のカーミラ派の吸血鬼のようだ。

 

席に座るエルメンヒルデ。

 

朱乃がお茶を差し出したのを確認して、リアスが率直な質問をする。

 

「エルメンヒルデ。いきなりで悪いのだけど聞かせてもらうわ。今まで接触を避けてきたあなた達カーミラの者が、突然グレモリー、シトリー、アザゼル前総督に接触し、こうして会いに来たのはなぜ?」

 

エルメンヒルデは瞑目し、一度だけ頷くと目を静かに開いた。

 

「ギャスパー・ヴラディのお力を借りたいのです」

 

――――っ!?

 

俺達は予想外過ぎる答えに驚愕するしかなかった。

 

当のギャスパーは自分が指名されるとは思ってなかったのか、全身を震わせていた。

いや、俺達だってそう来るとは思ってなかった。

 

ギャスパーを指名してきた理由・・・・・・・。

心当たりがあるとすれば、覚醒したというギャスパーの力か・・・・・・・。

 

先生がエルメンヒルデなか問う。

 

「率直な質問に率直な答え。すまんが、順を追って説明してもらおう。吸血鬼の世界で何が起きた?」

 

「情報が流出し、既にご存じかと思いますが―――――神滅具を持つ者がツェペシュ側のハーフから出てしまったのです」

 

「なるほど。・・・・・・それで? ツェペシュ側が所有している神滅具はなんだ?」

 

神滅具――――。

 

全十三種ある神をも殺す力を秘めた神器。

 

現段階で悪魔側が『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』と『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』の二種。

つまり、俺とサイラオーグさんとこの『兵士』レグルスだ。

 

天界側に上位神滅具の『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』を持つジョーカー。

 

堕天使側に『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』を持つ『刃狗』がいる。

 

魔法使いの協会――――メフィストさんの組織に『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』。

 

多くの者から危険視されているはぐれ魔法使いの集団に『紫煙祭主の磔台(インシネレート・アンセム)』。

 

その他にヴァーリの『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバィディング)』、『禍の団』英雄派に『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』、『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』、『絶霧(ディメンション・ロスト)』。

 

所持していた英雄派幹部どもは行方を眩ませたから、この三種の行方は分からないそうだ。

 

とりあえず、所有者が明らかになっているのはこれだけだ。

 

所有者が割れてないのは『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』、『蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)』、『究極の羯磨(テロス・カルマ)』の三種だ。

 

『蒼き革新の箱庭』はアジュカさんが把握しているらしいが・・・・・詳しくはあの人しか知らないという。

 

となると、吸血鬼が入手しているのは『幽世の聖杯』か『究極の羯磨』のどちらかとなる。

 

エルメンヒルデはこう答える。

 

「『幽世の聖杯』です」

 

彼女の言葉を聞いた瞬間に先生は表情を厳しくした。

 

「よりにもよって聖遺物のひとつ、聖杯か。あれは生命の理を覆しかねない代物だ。・・・・・・不死者の吸血鬼がそれで何を求める?」

 

「絶対に死なない身体。杭で心臓を抉られても、十字架を突きつけられようとも、自分の棺で眠らずとも、太陽の光を浴びようとも決して滅びぬ体をツェペシュの者達は得たのです。いえ、正確に言いますと滅びにくい体を得た、でしょうか」

 

「その口ぶりだと聖杯の力はまだ不安定のようだな」

 

先生の言葉に彼女は頷く。

 

「彼らは弱点のない存在になろうとしているのです。吸血鬼の誇りを捨てる。それだけならまだしも、あの者達はこちらを襲撃してきたのです。既に犠牲者も出ております」

 

「ま、カーミラ側としては見過ごせないわな」

 

「はい、その通りです。そして、私達の目的は――――そちらにいらっしゃるギャスパー・ヴラディの力を借りて、ツェペシュの暴挙を食い止めることです」

 

エルメンヒルデの視線が再びギャスパーへと向けられる。

 

・・・・・ギャスパーを吸血鬼同士の抗争に参戦させようってのか。

 

リアスが静かな口調を変えずに訊いた。

 

「それはギャスパーがヴラディ家の――――ツェペシュ側の吸血鬼だったことが関係しているのかしら?」

 

・・・・・・内側では煮えくり返ってるな。

 

可愛い眷属を、今まで交渉にも応じなかった吸血鬼の抗争に貸せと言われたんだ。

情愛の深いリアスが怒らないわけがない。

 

それでも平静を装っているのはギャスパーについて知ろうとしているからだろう。

 

リアスの問いエルメンヒルデが意味深な笑みを見せた。

 

「それもあります。けれど、私どもが本当に欲しているのはギャスパー・ヴラディの力です。眠っていた力が目覚めた、と小耳に挟んだものですから」

 

「・・・・・・あの力はなに? あなた達はあれが何か知っているの?」

 

「ごくまれに本来の吸血鬼の持つ異能から逸脱した能力を有する者が血族から生まれることがあります。今世においてはハーフの者に多く見られておりますわ。ギャスパー・ヴラディもその一人でしょう。カーミラに属する私どもでは詳細を調べあげることは叶いませんが、ツェペシュ側には手がかりとなるものがあるかもしれませんわ」

 

吸血鬼から見てもギャスパーの力は逸脱しているのか。

 

そんで、詳しくはギャスパー出身のヴラディ家に直接聞けと・・・・・・。

 

エルメンヒルデは続ける。

 

「そして、問題の聖杯ですが、所有者はもちろん忌み子――――ハーフではありますが、名はヴァレリー・ツェペシュ。ツェペシュ家そのものから生まれた者です」

 

その名を聞いて反応を示す者がいた。

 

ギャスパーだ。

 

ひどく狼狽しているようすだった。

 

「・・・・・そんな・・・・・ヴァレリーが? う、嘘です! ヴァレリーは僕みたいに神器を持って生まれてはいませんでした!」

 

先程まで震えていたギャスパーがヴァレリーって人の名前が出た途端に人が変わったように・・・・・・・。

こいつにとって、ヴァレリーって人は大切な人なのか?

 

「落ち着け、ギャスパー。神器は生まれつきでなくとも後から目覚めるパターンもある。俺なんかがそれだ」

 

俺はギャスパーを制しながらそう言った。

 

俺の場合は少し特殊だが、目覚めたのはアスト・アーデに渡ってからだ。

生まれて直ぐに目覚めたわけではない。

 

先生曰く、どの歳で目覚めるかは個人差があるようだ。

 

「その通りです。彼女も近年、神器に覚醒し、能力を得たものと思われます」

 

先生が目を細め、腕を組む。

 

「俺達が特定する前に隠蔽されたと思っていいんだろうな。ったく、聖なる力を嫌う吸血鬼が聖杯を捨てようともせず、こちらに預けることもせず、自分達のもとに隠すなんてよ」

 

「私もそう思います」

 

先生の言葉にエルメンヒルデも応じていた。

 

「ギャスパー・ヴラディ、あなたは自分を追放した家に恨みはないのかしら? 今のあなたの力なら、それが可能ではないかと思いますが?」

 

「・・・・・ぼ、僕はここにいられれば十分です。部長や皆さんの元にいられればそれだけで――――」

 

「――――雑種」

 

その言葉を耳にした途端、ギャスパーの表情は曇り始める。

それを確認して、エルメンヒルデは続けていく。

 

「混じりもの、忌み子、もどき、あなたはどのようにヴラディ家で呼ばれていたのかしら? 感情を共有できたのはヴァレリーだけでしたわね? ツェペシュ側のハーフが一時的に集められて幽閉される城のなかで、あなた達は互いに助け合って生きてきたと聞いておりますわ。ヴァレリーを止めたいと思いませんか?」

 

それを聞き、今まで黙していたグリゼルダさんが口を開く。

 

「あなた方はハーフの子達を忌み嫌いますけど、元々人間を連れ去り、慰み者として扱い、結果的に子を宿させたのは吸血鬼の勝手な振る舞いでしょう? あなた方に民を食い散らかされ、悔しい思いをしながらも憂いに対処してきたのは我々教会の者です。できれば、趣味で人間と交わらないでもらいたいものです」

 

物腰は柔らかいが、明らかな怒りが声に含まれているな。

言葉に毒が満載だし。

 

エルメンヒルデは口元に手をやり、小さく笑む。

 

「それは申し訳ございませんでしたわ。けれども、人間を狩るのが我々吸血鬼の本質。ですが、それはあなた方、悪魔も天使も同じなのでは? ――――我々異形の者は人間を糧にせねば生きられぬ『弱者』ではありませんか」

 

・・・・・なるほどな。

 

どうやら、それが吸血鬼の認識らしい。

 

純血の吸血鬼とそうでないもの。

ハーフは『忌み子』で『雑種』。

人間は『糧』か。

 

そうは言うけどよ、いつまでもそんな考えじゃ、積もり積もった恨みや怒りは爆発するぜ?

 

自分達が至高だの何だのと考えている奴らはいずれ滅ぼされる。

 

それを吸血鬼達がわかる日は来るのかね?

 

エルメンヒルデは後ろで待機していた護衛役の吸血鬼を呼び、鞄から書面らしきものを取り出した。

 

「手ぶらで来たわけではありませんわ。書面を用意しました」

 

エルメンヒルデは書を先生に渡す。

 

受け取った先生は書面を見て息を吐く。

 

「・・・・カーミラ側との和平協議について、か。つまり、今日のこれは外交。おまえさんが特使として派遣されたってことだな?」

 

先生の問いエルメンヒルデは笑みを見せる。

 

「はい。我らが女王カーミラさまは我々の長年に渡る争いの歴史を憂いて、休戦を提示したいと申しておりました」

 

「順番が逆だ、お嬢さん。普通は和平の書面が先だろう? これじゃ、力を貸してくれなければ、和平には応じないって言ってるようなもんだ」

 

目元を細めたグリゼルダさんも続く。

 

「隔てることなく各陣営に和議を申し込み、応じていた我ら三大勢力がこれに応じなければ他の勢力への説得力が薄まりますわね。『各勢力に和平を説いているのに相手を選んで緊張状態を解いているのか』、と。しかも停戦ではなく、休戦。こちらの弱味を突かれた格好ですね」

 

やってくれる。

 

和平を盾にギャスパーを貸せってか。

 

リアスがふるふると怒りに震えていた。

そのリアスの手を握り、宥めるように首を横に振る。

 

エルメンヒルデは嬉しそうに口の両端をつり上げていった。

 

「ご安心ください。吸血鬼同士の争いは吸血鬼同士でのみ、決着をつけます。ギャスパー・ヴラディをお貸しいただければ、後は何もいりませんわ。和平のテーブルにつくお約束と共にヴラディ家への橋渡しも私どもが行いましょう」

 

流れがあちら側に移ろうとしていた。

 

 

 

 

しかし―――――

 

 

 

 

「えらく嘗めたこと言ってくれるわね」

 

一人の声が静まり返った部屋にこだました。

 

この空気の中でそんなことを言う者がいるとは思わなかったのだろう。

 

エルメンヒルデを含めた全員の視線がアリスへと向けられた。

 

 

 

 

 

 

「あなたは?」

 

「私は上級悪魔、赤龍帝兵藤一誠の『女王』、アリス・オーディリアよ」

 

エルメンヒルデに問われたアリスはそう名乗る。

 

すると、エルメンヒルデは蔑んだ目でアリスを見た。

 

「つまり、あなたは赤龍帝の下僕と・・・・・・。あなたが私に話しかける権利があるのですか? ただの従僕であるのなら、私に意見する資格などないと思いますが?」

 

言葉の節々から完全に見下しているのが丸分かりだ。

 

しかし、それは完全に悪手で・・・・・・・

 

「――――は?」

 

うっ・・・・・キレてる・・・・・・。

 

そりゃ、ああいう風に言われたら誰でもキレるが、こいつがキレるとマジで怖いんだよなぁ・・・・・・。

 

今も俺の背中にピリピリと刺すような感覚が来てるし・・・・・。

 

まぁ、でも―――――

 

「いいぜ、俺がその権利を与えるよ。それなら良いだろう?」

 

「っ! 赤龍帝、あなたは――――」

 

俺の発言に何か言おうとするが、俺はそれを遮って言葉を続けた。

 

「悪いな、エルメンヒルデ。こいつがキレると後々、愚痴を言われそうでさ。ここは俺を助けるためだと思って聞いてやってくれないか? それに――――今回の話し合いはそちら側から申し出たことだ。それくらいの譲歩があってもいいかと思うんだけど・・・・・・どうかな?」

 

俺は笑みを浮かべながらそうお願いしてみた。

 

ま、ぶっちゃけると、正式な外交でこういうことをし出すとキリがなくなるんだけど・・・・・・今回はあくまで吸血鬼側からの申し出。

こちらも聞きたいことはあったとは言え、一応は申し出を受けてあげた形だ。

 

――――多少の(・・・)わがままは聞いてもらうさ。

 

「・・・・・冥界の英雄と名高き赤龍帝からのお願いとあらば、受けないわけにはいけませんわ。あなたの言い分を聞きかせてもらいましょう、赤龍帝の『女王』」

 

俺の言葉を受けて、エルメンヒルデは明らかに不快な表情を浮かべながらも承諾してくれた。

 

俺は「ありがとう」とウィンクしながらお礼を述べた後、アリスに視線を送った。

 

「では、まず一つ聞かせてもらうわ。あなた達の言い分をまとめるとグレモリー次期当主の眷属一人を犠牲に、吸血鬼側は三大勢力との休戦協定を結ぶ、ということでいいのかしら?」

 

「犠牲になるとは決まっておりません。早々と決着がつけばそれにこしたことはありませんわ」

 

エルメンヒルデはしゃあしゃあと言ってのける。

 

「それはつまり、犠牲になるかもしれないってことよね? ギャスパー君が無事に帰ってこられる確かな保証はない、と。そういうことね?」

 

「・・・・・・・」

 

アリスがそう問うがエルメンヒルデは瞑目して何も答えない。

 

自分達に不利なことは言わない、か。

まぁ、それが交渉ってもんだから、当たり前なんだが・・・・・、答えられないってことは肯定してるも同義だ。

 

「それじゃあ、次に。私達の介入は? あなたの話だと戦力が不足しているからこそ、ギャスパー君を必要としたのでしょう? それなら、仲介にしろ、加勢にしろ、私達の力があった方が良いと思うのだけれど?」

 

アリスの提案をエルメンヒルデは首を横にして答えた。

 

「いえ、先程も申しましたように、我々の決着は我々の手で行います。アドバイザーぐらいでしたら、いかようにも」

 

「随分身勝手ね。こちらの大事な仲間を必要としておきながら、私達の介入を拒むなんて。それが純血の吸血鬼のやり方ってところなの?」

 

「吸血鬼の問題を吸血鬼の手で解決することのどこが身勝手なのです? ギャスパー・ヴラディはハーフとはいえ吸血鬼です。その者の力を使うことに何か?」

 

迫害しても、半分吸血鬼ならば使うってか。

それが対立側の出身者でも。

 

矛盾しているな。

理不尽にもほどがあるだろう。

 

俺の隣では、リアスが静かに憤怒していた。

瞳も怒りにたぎり、こちらもピリピリしたオーラを放っている。

 

俺はその手に手を重ねて「落ち着け」と視線を送る。

 

アリスは額に手を当てながらため息を吐く。

 

「あなた達の考えはよーく分かったわ。――――グリゼルダさん、あなたはさっき、『この話に応じなければ他の勢力への説得力が薄まる』って仰ってましたね?」

 

「ええ。三大勢力は隔てることなく各陣営に和議を申し込んでいましたから」

 

そう、今回の交渉で不利に立たされたのはそういう背景があるからだ。

 

相手を見て和平を結んでいるとなれば、他勢力からの信用を失う。

 

 

 

しかし――――

 

 

 

「今回の吸血鬼との和平協議、私はなしでもいいと思うわ」

 

『なっ!?』

 

アリスの言葉にこの場の全員が驚愕していた!

 

そりゃ、そうだ!

 

和平を掲げている三大勢力側の者がそんなこと言い出したら大問題だ!

 

「あ、アリスさん!? あなたは一体、何を!?」

 

流石のソーナもこれには衝撃を受けているようだ。

 

俺もアリスの発言にはかなり驚いている。

内心、「こいつ、いきなり何言い出してんの!?」とも思った。

 

だけど、アリスが何の考えなしにそんなことを言うだろうか?

 

俺は驚くと同時にそう思ってしまった。

 

アリスは冷静な口調で言った。

 

「確かに普通なら、ここで和平を断れば私達の勢力は信用を失うでしょう。だけど、()()()()()()()相手なら話は別なんじゃないの?」

 

――――っ

 

なるほど、そうきたか。

 

「もちろん、完璧に信用するなんてことは難しいわ。それは何処の勢力も同じはず。でも、三大勢力が和平交渉できているのは少なからずとも信用できる要素があるからではなくて?」

 

「まぁ、そうだな。各勢力、腹の内では何を考えてるか、分かったもんじゃないが・・・・・・。それでも、ある程度は信用がおける部分はある。ギリシャ勢力なんざ、ハーデスの野郎は全くもって信用できんが、ゼウスやポセイドンの親父はずっとマシだ」

 

アリスの問い先生がそう答えた。

 

そりゃそうだ。

全く信用できない奴と仲良くしろなんてのは無理な話だしな。

 

エルメンヒルデは怒気を含めた声音で尋ねる。

 

「私達のどこが信用できないと仰るのですか?」

 

「何もかもよ。ギャスパー君を貸せと言っておきながら安全は保証できないところも、かと言って私達の介入を認めないところもそう。何より和平を盾に交渉してくるような相手のどこを信用しろと? しかも、提示してきたのは休戦。端から一時的なものだと言っているようなものじゃない。そんな破ることを前提としたような協定を結べと本気で言っているのかしら?」

 

「ですが、争いがなくなるのは双方にとって良いものでは? 民の平穏も保てましょうに」

 

「ええ、そうね。だけど残念ながら、あなた達へは不信感で一杯だわ。そちらで起きている事が済み次第、休戦が破られることだって考えられる。そんな一瞬で終わるような和平なら結ばない方が後々のためよ」

 

一度和平を結んでしまった後にそのようなことになれば、互いの禍根は更に深まる。

 

そうなれば、そこからの関係修復は困難なんてもんじゃない。

 

「そのようなこと吸血鬼の誇りにかけてもいたしませんっ」

 

「へぇ・・・・。でも、私はその吸血鬼の誇りすら疑っているわ。ハーフの子を『忌み子』だと『雑種』だと蔑んでいながら、その子の力無しでは解決できないのでしょう? 最初から自分達、純血の吸血鬼のみで解決すれば良いじゃない。あなた達の誇りって随分安いのね」

 

 

パキッ

 

 

エルメンヒルデの前に置かれていたカップに亀裂が入った。

彼女とその護衛から放たれた殺気にカップが耐えられなくなったからだ。

 

流石に自分達、純血の誇りまで貶されれば怒るか・・・・・・。

 

これ以上は良いだろう。

 

「そこまでにしようか。このまま続ければ乱闘になりそうだ。アリス、おまえも席につけ」

 

俺がそう言うとアリスは微笑みを浮かべながら、

 

「これは失礼しました。一介の下僕ごときが過ぎたことを言ってしまい申し訳ありません」

 

と、わざとらしく深々とエルメンヒルデに謝罪とお辞儀をしてから席に戻る。

いやはや、えらく皮肉なことをしてくれるぜ。

 

王女の時では出来なかった発言だ。

 

ただの下僕としてなら、全く問題ないわけではないが、相応の地位についている奴が言うよりは影響が少ない。

俺達が言えないことをほぼほぼ言ってくれたわけだ。 

 

つーか、言うこと言ったからスッキリした顔してるなアリスさんよ。

 

さて、俺は後始末といきますか。

 

俺はエルメンヒルデに頭を下げた。

 

「すまない。うちの『女王』は色々と口が悪くてな。少しばかり失礼なことを言ってしまった。それに関しては謝るよ。ゴメンな、エルメンヒルデ」

 

俺は苦笑しながら、場の雰囲気を落ち着かせる。

 

それにより、エルメンヒルデと護衛からの殺気は弱まり、部屋の緊張が解れていく。

 

それを確認した上で、俺は再度口を開く。

 

「だけど、俺も今までのやり取りを見ていて、君達を信用することはできないな。だから、今のままでは君達の要求を承諾することなんてできない。・・・・・まぁ、和平をなしとまでは言わないけどさ」

 

「・・・・・では、私どもにどうしろと?」

 

「簡単なことさ。自分達の目でそちらの状況を確認しておきたい。だから、俺達がそちらの領地内で動けるよう許可がほしい。それからもう一つ、ギャスパーを連れていく際、俺達が最低限の介入することの許可だ。この二つを認めてくれればいい」

 

俺は吸血鬼の内政にあれやこれやと口を挟むつもりはない。

 

そこはエルメンヒルデの言う通り、対立しているカーミラ派とツェペシュ派で解決することだろうからな。

それに関して俺達が出来るのは本当にアドバイザーくらいだ。

 

だけど、ギャスパーを守るくらいの介入はさせてもらう。

こいつは俺の大切な後輩だしな。

 

それでだ。

ここで一度確認しておかないといけないことがある。

 

俺はギャスパーに問う。

 

「ギャスパー、おまえはどうしたい? リアスの眷属とか吸血鬼だとかは無しにしてだ」

 

そう、ここが一番重要なところ。

ギャスパーはどうしたいのか、本人の意思が肝心なんだ。

 

問題の渦中にあるヴァレリーをこいつは一体どうしたいと考えている?

 

ギャスパーは大きく息を吸って、震える口調で吐き出した。

 

「ぼ、僕、行きます。・・・・・・吸血鬼の世界に戻るつもりはありませんし、僕の居場所はここです。で、でも! ヴァレリーを助けたい! 彼女は僕の恩人なんです! 僕が今、こうしていられるのは彼女のおかげなんです! だ、だから!」

 

いい返事だ。

段ボールヴァンパイアが男の目をしてやがるよ。

 

あのギャスパーが格好良くなったじゃねぇか。

 

「本人の意思は確認できた。後はそっちの対応次第だ」

 

エルメンヒルデはギャスパーと目を合わせた後、息を吐いた。

 

「・・・・・分かりました。一度、カーミラさまにお話をしてみましょう。後日、我々で検討した内容をそちらに連絡します。ギャスパー・ヴラディについてもそれからで構いません」

 

「俺はそれでいいと思う。リアスと先生は?」

 

「私はそれで構わないわ」

 

「ま、妥当なところか。連絡はこいつで頼む」

 

と、先生は紙に何やらメモをしてエルメンヒルデに手渡した。

 

多分、先生への直通回線だろう。

 

エルメンヒルデはメモを受け取った後、立ち上がる。

 

「それでは、これで失礼いたしますわ。今夜はお目通りできて幸いでした。何よりも自分の根城に吸血鬼を招き入れるという寛大なお心遣いに感謝いたしますわ、リアス・グレモリーさま」

 

こうして悪魔と吸血鬼の会談は終わり、闇の住人達はこの旧校舎をあとにしていった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 



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5話 不穏な動き

会談が終わり、十分ほど過ぎた頃。

 

「しっかし、恐ろしいな・・・・・・・おまえの『女王』は」

 

アザゼル先生がやれやれといった表情で苦笑していた。

 

先生がこう言うのも当然だろう。

 

だって、いきなり『和平はなし』なんてこと言うんだもんな。

 

俺もあの瞬間は焦った。

 

で、当のアリスは・・・・・・

 

「あんな、ふざけた態度で和平なんて嘗めてるでしょ? ていうか、助けてほしいなら、素直に助けて下さいって言えばいいのに。これだから、プライドばかり高いやつらは・・・・・・。ねー、イッセー、聞いてるの?」

 

「はいはい、聞いてますよ、アリスさん」

 

会談の時、少しばかりスッキリした顔してたと思ってたのに・・・・・・・、どうやら、まだまだ溜めている言葉があるらしい。

まぁ、その単語を会談の時に使ってくれなくて良かったと思うよ。

 

使ってたら、別の問題が起きてただろうし・・・・・・。

 

「あー、もうちょっと上かな」

 

「このへん?」

 

「うん、そこそこ」

 

「・・・・・・つーか、なんで俺はアリスの肩揉んでるんだよ?」

 

そう、会談後、なぜかアリスが肩を揉んで欲しいと言ってきた。

 

それで、今はソファに座ったアリスを後ろからマッサージしてるんだが・・・・・・。

 

えーと、一応、悪魔の主とその下僕、なんだけど・・・・。

 

「いいじゃない。ああいう堅苦しい空気は苦手なのよ。それに、あの小生意気な吸血鬼をどうしてくれようかと、考えてたら肩が凝ってきたのよねー」

 

うん、ダメだ!

俺とこいつじゃ、主従関係は成り立たねぇ!

 

いや、別に求めてはないけど・・・・・・今後のことを考えると、ね?

 

うーむ、早速尻に敷かれているような気が・・・・・・。

 

「アリスさん、お茶ですわ」

 

「わーい、ありがとー、朱乃さん」

 

自由だなぁ・・・・・俺の眷属・・・・・・・。

 

それでも、良くやってくれたとは思う。

 

あの状況で話が進めばこちらの怒りは結構なところまでいってただろうからな。

 

「・・・・・・相変わらず、吸血鬼は好きになれない・・・・・」

 

リアスもそうだけど、特にゼノヴィア。

 

背中を向けていても分かるくらいに敵意のあるオーラを身にまとわせていたからな。

 

グリゼルダさんがカップに口をつけた後、ゼノヴィアに言う。

 

「昔のあなたたら、デュランダルで斬りかかっていたところですね。よく我慢しました。成長しましたね」

 

グリゼルダさんに褒められて、ゼノヴィアは複雑そうな表情で頬を赤く染めていた。

 

やっぱり、ゼノヴィアのこういう反応はいつになく可愛く思ってしまうな。

 

「それでこの後はどうするのですか? とりあえず、あちら側からの連絡待ちという形にはなっていますが、それからのことを考えておかなければなりません」

 

ソーナの言葉に全員の表情が引き締まる。

 

「ぼ、僕はヴァレリーを助けたいです!」

 

ギャスパーの気持ちは分かっている。

 

となると、俺達がすることは決まったも同然だろうな。

 

ギャスパーの決意を聞いたリアスは立ち上がる。

 

「行くわ。今度こそヴラディ家とテーブルを囲むつもりよ。まずは私が先に行って、この目であちらの現状を確認してくるわ。ギャスパーの派遣はそれからでも遅くないと思うの」

 

「俺も行こうか?」

 

俺がそう申し出るがリアスは首を横に振った。

 

「いえ、イッセー達は待機していてちょうだい。もしかしたら、ということもあるかもしれないもの」

 

「というと?」

 

俺の問いにリアスは指を二本立てる。

 

「前提条件としてギャスパーの主たる私が直接訪れるのが道理だし、その方が先方にも失礼がないわ。そしてあなた達に待機してもらう理由だけど、一つは事が起きた際にすぐに行動してもらうため。ここに襲来してくる者もいないとは限らないから、対応できるメンバーが残った方がいい。二つ目は私があちらで何かあった時に増援メンバーが必要になるでしょうから」

 

木場が問う。

 

「部長は何かが起きる、または巻き込まれると踏んでいるんですね?」

 

「ええ、祐斗。そうならないのが何よりだけど、今までの経緯、吸血鬼の問題から察しても巻き込まれる可能性はあるわね」

 

リアスの言葉に先生は頷く。

 

「ぞろぞろ全員で行けばあちらも警戒するだろうしな。俺は悪くない判断だと思う。だが、お前だけじゃ、不安だな。今回の一件、ツェペシュ、カーミラの双方の裏の事情が絡みそうだ。さっきの話は腑に落ちない点がいくつもあった」

 

「もちろん、最低限の備えはするわ。私の『騎士』は連れて行くつもりよ。いいわね、祐斗?」

 

「はい、お任せください」

 

木場がお付きか。

それなら安心できる。

 

今の木場なら大抵の相手は退けられるだろうしな。

 

先生が首をこきこき鳴らしながら言う。

 

「俺も行こう。俺はカーミラに会ってくる。エルメンヒルデから話は聞けたが、他にもいくつか確認しておきたいことがあるしな。その間、リアスはヴラディ家に向かうといい。リアスがカーミラ側に顔を出せば、警戒は強くなるだろうからな」

 

「先生自らだと警戒されるんじゃ? 堕天使の要人ですし」

 

「いまだ吸血鬼相手に戦っている天界側の人間が行くよりは多少はマシだろうよ。ていうよりも神器に詳しい俺が行くのは色々と都合がいいだろう」

 

「あー、聖杯とかで」

 

「そういうことさ」

 

先生がグリゼルダさんとイリナに言う。

 

「イリナ、シスター・グリゼルダ、このことはミカエルにも伝えておいてくれ。聖杯と吸血鬼、流石にきな臭すぎる」

 

シスターが頷く。

 

「ええ、わかりました。こちらは場合によってはジョーカーを切るとミカエルさまも仰っておりますし、最悪の結果だけは避けたいものです」

 

グリゼルダさんの言葉に先生も軽く驚いていた。

 

「天界の切り札をそんな簡単に出してもいいのか? まぁ、聖杯が絡む以上、ジョーカーの手助けはあった方がいいが・・・・・・。聖杯と吸血鬼。本来、相容れない聖と闇。ろくでもないことが起こるのは確かだろうな。俺は最低限の犠牲ですむようにしたい」

 

「ええ、そうならないためにも暇人ジョーカーは存分に使えと四大セラフさまのご意志です。本当、あの子ったら、暇さえあると美味しいもの巡りに出掛けて連絡がつかなくなりますから。ゼノヴィア以上に困った子です」

 

暇人なのか、ジョーカーって。

 

というより、グリゼルダさんはジョーカーの知り合いなのか?

 

まぁ、それはおいといてだ。

 

リアスと木場、先生が吸血鬼側のもとへと向かい、状況の確認をする。

そんでもって、ギャスパーを含めた残りのメンバーはこの町に待機。

 

先生の言う通り、嫌な予感しかしないが・・・・・・、今ここでそれを議論しても仕方がない。

 

まずはエルメンヒルデからの連絡を待つとしようか。

 

 

 

 

 

 

吸血鬼についての話し合いが終わった後のことだった。

 

先生が何かを思い出したように手をポンと叩く。

 

「そうだ、おまえ達に伝えておくことがあったんだ。ヴァーリから情報があってな」

 

「ヴァーリから?」

 

「あいつが世界中に足を運んで未知のものを探求しているのは知っているな?」

 

それは知ってる。

 

初めて聞いたときはマジで暇人の集団だとも思った。

 

まぁ、それも育ての親であるアザゼル先生の探求心があいつに移ったんだろうなぁ。

 

「どうにも旅先で『禍の団』の連中と遭遇するらしくてな」

 

「それはお尋ね者になってるヴァーリチームに粛清を与えるため、ですか?」

 

ヴァーリはオーフィスを俺達の元に送り込んだことで『禍の団』からも追われる立場となっている。

 

まぁ、元々他の派閥から色々と睨まれていたようだけどね。

 

先生が続ける。

 

「ヴァーリが探していたのは既に滅んだとされる凶悪な魔物の類いだ。生きているかもしれないという不確かな情報をもとに探しているようだ」

 

「・・・・・暇人通り越した超暇人じゃねぇか」

 

つい漏らした俺の言葉に先生も苦笑する。

 

「だな。それで、だ。その滅んだ魔物、主にドラゴンの生息していた地に『禍の団』の構成員――――魔法使いのグループも来ていたそうだ。遭遇は一度や二度じゃないらしい」

 

「偶然じゃなさそうですね。ま、あいつらなら余裕で撃退できると思いますけど。・・・・・・そういや、滅んだドラゴンってどんなのがいるんですか?」

 

「有名どころで言えば、『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハ、『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカ、『原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)』アポプスかな」

 

『懐かしい名だ。そのドラゴン達は『邪龍』の筆頭格だ。相当危険なドラゴン達だった』

 

へぇ、ドライグがそこまで言うってことは相当ヤバイ奴らだったんだろうな。

 

先生は頷く。

 

「そいつらは残虐性が高すぎて封印、退治されちまったよ。他にも北欧のニーズヘッグ、初代ベオウルフが退治したグレンデル、英雄の初代ヘラクレスが試練で倒したラードゥンは伝説の果実を守護していたドラゴンだったが退治されたな。日本だと八岐大蛇(やまたのおろち)が有名だ」

 

知らない名前ばかりだ。

 

知っているのは八岐大蛇くらいか。

 

「こいつら邪龍に共通するのはどこまでもしぶといってところだな。ヴリトラですら、魂を幾重に刻まれて意識を封じられただろう? それぐらいしないと邪龍ってのは存在を抹消できないのさ。で、邪龍の中でも筆頭格の三匹は頭一つ二つ抜けていた」

 

ヴリトラでも不気味だと感じてしまうのにそれ以上ってことかよ・・・・・・。

 

「・・・・・二天龍よりも強いんですか?」

 

「それは流石に現役時代の赤白の方が強いだろう」

 

そっか。

 

やっぱり、封印される前のドライグとアルビオンはそれだけ強かったってことか。

 

『だが、俺やアルビオンでさえ、『邪龍』に近づくのは避けたぞ。あいつらはとにかく面倒なんでな。何度倒しても狂ったように向かってくるのさ。何度かその類いとやり合ったが嫌になった・・・・・。おそらくアルビオンもそう感じているはずだ』

 

マジかよ・・・・・。

絶対に関わりたくない奴らじゃねぇか。

 

関わるな危険、だな。

 

先生は顎に手をやりながら話を続ける。

 

「しかし、滅んだドラゴン――――特に『邪龍』を語るのは久しぶりだ。だが、わかるだろう? 力があり、暴れん坊のドラゴンは例外なく滅ぼされる。その点、ティアマットは要領がいいんだろうな。なんだかんだ好き勝手に生きているようだ」

 

先生の言葉を聞いてどこか納得してしまった。

 

ドライグなんかはアルビオンと盛大に喧嘩した上に、三大勢力の三つ巴の戦争を無茶苦茶にしたから滅ぼされたわけだし。

 

ティアは俺の使い魔なんてやってくれてはいるが、基本的には自由に生きている。

 

「私がどうかしたか?」

 

ふと声をかけられたので振り返ってみると、部室にティアが転移してきていた。

オーフィスをおんぶした状態で。

 

「ティアって要領がいいなって話をしてたんだ。力のあるドラゴンが滅ぼされる中で上手くやってるなーって」

 

俺がそう言うと、ティアはオーフィスを下ろしながら笑みを浮かべる。

 

「だろうな。私は考えなしに力を振るったりはしない。滅ぼされたドラゴンはその辺りを全く考慮しないからバカなんだ。そこの赤いのも含めてな」

 

『・・・・・・・』

 

ティアの鋭い一言に黙ってしまうドライグさん。

 

うん、返す言葉もないって感じだな。

 

「イッセー、抱っこ」

 

「はいはい」

 

そうせかされ、俺はオーフィスを抱き抱える。

 

こいつは・・・・・完全に子供だよね。

 

初見の人は元龍神さまって言われても信じられねーよ。

 

「でも、まぁ、あれだよな。たまにティアが龍王ってこと忘れる時があるわ」

 

「む? なんだと?」

 

「だって、さっきのティアなんて完全なお姉さんだったぞ。普段もそういうとこあるしな。そこが良いんだけど。頼れるお姉さんって感じでさ」

 

俺の身の回りにそういう人ってティアしかいないもんなぁ。

 

「ひどーい、私だって頼れるお姉さんでしょ?」

 

などと実体化したイグニスが言うが・・・・・・

 

「あんたはお茶目過ぎるお姉さんだろ・・・・・・」

 

究極のシリアスブレイカーじゃねぇか!

 

そりゃ、戦闘になれば頼りにはなるよ!?

 

でもね、毎回毎回のシリアスブレイカーについていけない時があるんだよ!

 

ドライグどころか俺の精神もやられるわ!

 

「テヘ☆」

 

「んー・・・・・可愛くしても評価は変わらねーよ!?」

 

可愛いのは認めるけど!

エッチなところも最高です!

 

『結局はそこか』

 

うん!

 

部屋のシリアスが崩れかけたどころで先生が息を吐く。

 

「あー、なんでこうもシリアスが続かないのかね、おまえさん達は・・・・・・。まぁ、何はともあれ、水面下でテロ集団が何かを企んでいるようだ。また、嫌なことが起こるかもしれないと覚悟だけはしておいてくれ」

 

先生の最後の一言に全員が頷いたところで、今日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

早朝。

 

早くに目が覚めた俺は兵藤家の地下にある大浴場でシャワーを浴びていた。

 

美羽達は気持ちよさげに寝ていたから起こさないように注意してからここに来ている。

 

俺はシャワーのお湯を頭にかけながらここ数日のことを思い出していた。

 

 

―――フェニックス関係者に接触をはかる魔法使い

 

―――フェニックス家産でないフェニックスの涙

 

―――吸血鬼に聖杯、その所有者がギャスパーの恩人

 

―――ヴァーリチームと遭遇する『禍の団』構成員、魔法使い

 

 

こんな短期間にこれだけの情報が俺達の元に届いている。

 

何かの偶然か。

 

それとも・・・・・・・。

 

そういや、先生が『禍の団』残党を纏めている輩がいるって言ってたな。

 

そいつが関係しているのか?

 

まぁ、流石にギャスパーの恩人が聖杯の所有者だったのは偶然だろうけど。

 

ったく、英雄派の連中倒して、少しは平穏な日々を過ごせると思った途端にこれだ。

俺の平和って続かないよなぁ・・・・・。

 

 

ガラララッ

 

 

ふいに大浴場の扉が開く。

 

顔を向ければ―――――

 

「・・・・・・イッセーさま?」

 

「レ、レイヴェル?」

 

こいつはミスったな・・・・・・。

まさかレイヴェルが起きてくるなんて・・・・・。

 

いや、確かにレイヴェルとは何度も風呂場で遭遇したりするが・・・・・・それは他の女子も一緒の時だ。

 

流石にレイヴェルと二人っきりってのは初めてで・・・・・。

レイヴェルも緊張するだろうし、ここはあがった方が良いかも。

 

 

しかしだな・・・・・・

 

 

全裸のレイヴェル!

 

小柄の身体なのに、しっかりと女性のからだつきをしている!

 

おっぱいだって結構ある!

 

いつものドリルロールもおろしていているから、印象もかなり違ってて・・・・・・・

 

これはこれで・・・・・・って違ぁぁぁぁうぅぅぅぅぅっ!

 

マネージャーとはいえ、レイヴェルは客分だぞ!?

 

変な気を起こすな、俺!

 

「わ、わるい・・・・。俺はあがるから・・・・・」

 

そう言って大浴場から出ようとする俺だが――――

 

「お、お背中をお流しします!」

 

「・・・・・・・え?」

 

 

 

 

 

というわけで

 

 

 

 

「・・・・・・いかがですか?」

 

「うん、気持ちいいよ」

 

レイヴェルに背中を流されている俺。

タオルで優しく背中を擦ってくれている。

 

・・・・・ライザーを更正させた時は「イッセーさまのエッチ!」って炎の翼で燃やされたから、それも覚悟してたんだけどね。

 

これは予想外だった。

正直、戸惑ってます!

 

背中を流してもらっている間、俺達は昨日の吸血鬼について話していた。

 

「・・・・私、生まれて初めて純血の吸血鬼と出会いましたけれど・・・・・・まだ理解できないところもあって・・・・・。お友だちのギャスパーさんを取引の条件に指定したこともありますけれど、自分達以外はどうでもいいという姿勢が・・・・・・。ですが、これは政治。悪魔も合理的で純血を尊びますわ。私も純血の悪魔です」

 

「純血、か・・・・・。それって誰かを傷つけてまで誇るものなのかな? 俺から言わせればそんなものよりももっと大事なものがあると思うけどな」

 

「大事なもの、ですか?」

 

「そう。俺の場合は家族だったり仲間だ。まぁ、それは人それぞれだとは思うけどな。それでも誰かを一方的に傷つけてまで誇れるものなんてないと思うぜ?」

 

家を誇るのもいい、純血を誇るのもいい。

 

だけど、自分以外はどうでもいいと考えてしまうものなら捨ててしまえ。

 

そんなものは誇りじゃない。

そうでなくてはならないと決めつけてしまう、ただの呪縛だ。

 

俺はそう思う。

 

「・・・・・昨晩、アリスさんにも驚きましたが、あの美羽さんまでもが荒々しいオーラを纏っていて・・・・・・。他の皆様も吸血鬼へ思うところがあるといった表情でしたが、それでもあのお二方は少し違っているように思ってしまったのですが・・・・・・」

 

よく見てるな。

 

昨日、俺の背後でピリピリしたオーラを放っていたのはアリスだけじゃない。

美羽も静かに、だけど触れれば火傷するようなオーラを纏っていた。

 

あの時は何も言わずに堪えていたようだが・・・・・・。

 

俺は大きく息を吐いた。

 

「実はさ、俺も美羽もアリスも戦争を体験しているんだ」

 

「・・・・戦争を、ですか?」

 

レイヴェルは少し驚いた表情で聞き返してくる。

 

俺は一度頷いて、続けた。

 

「俺とアリスは実際に戦場に立って、そこで色々なものを見てきた。当然、辛い経験もしてきたし、悲しいこともあったよ。美羽は戦場には立ってないけど、大切な人を亡くした。だからさ、俺達には和平って言葉の重みが分かる。そこに辿り着くことがどれだけ困難なものか知っている。――――だからこそ、あんな風に和平を交渉の材料にしてくるのは許せないんだ」

 

和平を盾に自分達の要求を通す。

 

そんなやり方は許せなかった。

 

あの場でアリスの発言を許した理由のひとつがこれだ。

 

「まぁ、そういうわけで、俺もあの二人もそういうことには敏感なんだよ。普段は結構だらしないところが多いんだけどね」

 

俺は苦笑しながらそう付け加えた。

 

レイヴェルはというと、疑問に思うところとあるようだけど、それ以上に俺の言葉について考えているようにも見えた。

 

まぁ、レイヴェルがそんなに深く思い悩む必要はないと思うけどね。

誰かを想うことができるなら十分なんだからさ。

 

俺は重くなった空気を軽くするため、話題を変えてみる。

 

「それにしても、アリスと美羽にも困ったもんだよ。二人とも勉強はできるのに、ああいう書類仕事は本当に嫌いでさ。あの二人もいつかは魔法使いと契約を結ぶことになるだろうし・・・・・。先行きが不安だよ」

 

本当にそう思う。

 

なんで毎回毎回、眠っちゃうのかね?

 

特にアリスは一国の王女だったんだろう?

それなのになんで、資料読み出して数分でダウンするんだ・・・・・・。

 

お湯で背中を流してもらった後、レイヴェルが訊いてくる。

 

「イッセーさまは・・・・・そ、その、残りの眷属は決めておられるのですか?」

 

「一応、何人かは決めてあるよ。まぁ、本人にはまだ伝えてないし、了承も得ないとダメなんだけど・・・・・・。仮に全員がOKを出してくれても、まだ駒は余るだろうし、どうしようか考えているところなんだよね」

 

一人は駒を複数消費するだろうけど、それでも余る。

 

うーむ、どうしたものか・・・・・・・。

 

腕組みしながら、考える俺だが・・・・・、こういうのって考えて解決できる問題じゃないしなぁ。

 

と、そこまで思ったときだった。

 

 

――――そうだよ、こんなに近くにいるじゃん。

 

 

 

俺が眷属にしたいと思える子が。

 

この子がいてくれたら、どれだけ心強いか。

 

「なぁ、レイヴェル。あのさ――――」

 

俺がそこまで言いかけた時だった――――

 

 

ザバッ!

 

 

「我、三十分潜れた」

 

・・・・・オーフィスが風呂から出てきた。

 

いつからそこにいたんだよ・・・・・・・。

 

つーか、脱衣所にオーフィスの服なんてなかったぞ!?

 

まさかと思うが、部屋から真っ裸で来たのか!?

 

俺の思考がそこへ至ったときだった。

 

 

ザバッ!

 

 

「やったー! 私の勝ちー!」

 

オーフィスと同じくイグニスまで風呂から出てきやがった!?

 

「何やってんの!?」

 

「我とイグニス、どちらが長く潜れるか競争してた」

 

「そんでもって私の勝ちよ♪」

 

こちらにブイサインを送ってくるイグニスだが・・・・・・。

 

競争って・・・・・・そんなことしてたのかよ・・・・・・。

 

 

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・

 

 

盛大にため息が漏れた。

 

ったく、龍神さまと女神さまは本当に自由ですね!

仲が良くて大変よろしいよ!

 

 

 

この後、既にレイヴェルに流してもらった背中をロリロリ龍神さまとナイスバディの女神さまにもう一度流してもらうというイベントが起こった。

 

で、なんだかんだで四人で入浴することになったんだが・・・・・・・。

 

やっぱり、女の子との混浴って最高だわ。

 

 

 

 



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6話 留守番任されます!

吸血鬼との会談から数日が経過した。

 

会談の翌日にはエルメンヒルデから連絡があり、今日の深夜にリアス達は日本を発つ。

目的地はルーマニアの山奥だそうだ。

 

その日、学校を終えた俺は美羽とアリスを連れて修行に打ち込んでいた。

リアスの準備が整うまでの時間はそれなりにあるし、手伝いは朱乃達がやってくれている。

 

男子の俺はもちろん、こちらの裏の世界に疎い美羽とアリスでは準備の邪魔になるだろう。

 

そういうわけで、俺は二人と修行することに。

 

「はぁっ!」

 

「なんの!」

 

物凄い勢いで飛んできた槍の穂先をサイドステップでかわす。

 

アリスの攻撃を避けるときは割りと大きめに動かないといけないんだ。

槍にも白い雷を纏ってあるからギリギリのところで避けると感電するしね。

 

避けたとしてもこいつを相手に気を抜くなんてことはできない。

こちらの動きに即座に対応して連続の突きを繰り出してくる。

こちらの動きを先読みしながらの攻撃だ。

 

攻撃力とスピード。

白い雷を纏った状態のアリスはそれが桁違いに上がる。

しかも、悪魔化で『女王』となったから、更に出力が上がっている。

 

「っ!」

 

俺は気の残像を残してアリスの動きを撹乱。

 

こいつは目で追うのは無理だからな。

流石のアリスでも見失う。

 

アリスの背後に回り、手刀を繰り出す。

ベストなタイミング。

これならどうよ!

 

しかし、アリスを捉えた瞬間、アリスの姿がぐにゃりと歪み、そのまま消えた――――

 

こいつは・・・・・・

 

「幻影かよ!」

 

「油断大敵だよ、お兄ちゃん」

 

周囲を見渡すと、俺を囲むように無数の魔法陣が展開されていた!

 

一つ一つの大きさは小さいが、数えるのがバカらしくなるくらいの数だ。

 

我が妹ながらにやってくれるぜ。

 

しかも、美羽の方を見ると側にアリスがいて不敵な笑みを浮かべてやがる。

 

なるほど・・・・・・、俺が背後に回った瞬間に幻影を作り出すと共にアリスを強制転移させたってわけだ。

アリスの足元で輝いてる転移魔法陣がその証拠だ。

 

美羽も悪魔化で『僧侶』となり、その方面で色々と能力が向上している。

特に今みたいなサポート系の技に能力を伸ばしているようだ。

 

こうして模擬戦を通すことで、二人と駒の相性は良かったことがよく分かる。

 

と、この状況から抜け出さないと俺もマズいな。

 

俺を囲んでいる全ての魔法陣から砲撃が放たれた瞬間――――

 

俺は咄嗟に『領域(ゾーン)』に突入。

色彩が消え、スロー再生されたような世界に入り込む。

 

俺へと放たれる全ての攻撃の軌道が見える――――

 

 

ドドドドドドドドドドドドッ!!!

 

 

俺がいたところが弾けて砂埃が舞う。

 

なんとか避けきった俺は額の汗を拭い、息を吐いた。

 

「はぁ・・・・・。やっぱ、鎧なしの状態でおまえら二人相手取るのはキツいな。つーか、コンビネーション良すぎだろ」

 

「今のを避けきる、あんたも相当よ」

 

「完全にいけたと思ったんだけどね」

 

アリスに続き、美羽もそう言う。

 

いや、今のはマジで危なかったぞ。

 

ってか、幻影と強制転移を同時にするってどーよ!?

全く気づかなかったんだけど!?

 

「全く、戦闘に関しては心強くて仕方がないな。事務職やらせたら不安しかないけど・・・・・・」

 

結局、魔法使いの審査も俺とレイヴェルだけでやってるし。

 

今後、俺の眷属に必要なのは仕事ができる子だな。

 

アリスと美羽はやればできる子だと思うんだけど・・・・・・。

コカビエルの時なんか、美羽はいつの間にか校舎の修理してるし。

この間の吸血鬼との会談でもアリスは上手くやってくれたし。

 

俺の呟きにアリスは少々むっとした表情で言い返してくる。

 

「仕方がないでしょ。ああいうの見ると眠たくなるんだから」

 

「それでも一国の王女か!?」

 

「そーいうのはニーナがやってくれてたし」

 

で、美羽はというと・・・・・・

 

「うーん、最初は面白かったんだけど・・・・・・・。色々見てたら皆同じに見えてきちゃって・・・・・・。ゴメンね」

 

そう少し申し訳なさそうに言ってきた。

 

な、なるほど・・・・・。

 

ハイレベルな魔法使いからの厳しいご指摘だ!

 

だけど、それってアザゼル先生達が言ってたように雑兵って言ってるのと同じだからね!?

 

まぁ、でも、美羽の言うことはごもっともなんだよね。

 

今のところ、目ぼしい魔法使いは見当たらない。

美人でエッチそうな魔法使いの人はいたけど・・・・・・。

 

そんなことを思っているとトレーニングルームに入ってくる人影があった。

 

「あ、赤龍帝さま、お邪魔してます」

 

「にゃはは、お邪魔してるにゃん」

 

ルフェイと黒歌だ。

 

この二人、あれ以来、本当にたまに兵藤家を訪れている。

特に黒歌!

勝手に家の冷蔵庫開けて、牛乳とか飲んでるんだぜ?

つーか、この間は俺が取っておいたプリン食われたしよ!

風呂上がりのデザートだったのに!

 

まぁ、黒歌が勝手をするたびに、ルフェイが必死に頭を下げて謝るから、俺も怒れないわけで・・・・・・・。

 

「ちょっと、このへん借りるにゃん」

 

そう言って黒歌が魔法陣を展開すると、そこから分厚い本が何冊も出てきた。

 

俺が黒歌に近づき、本の中身を確認すると、人体の図式と、手から発するオーラ的な絵が添えてあった。

 

「これって・・・・・仙術か?」

 

俺が訊くと黒歌がにんまりしながら頷く。

 

「さっすが、赤龍帝ちんにゃ。これはオーラとか仙術とか闘気のこととか、生命に関する本にゃ」

 

うん、そのあたりは何となく分かる。

 

俺も生命の根元たる『気』を扱ってるからな。

 

でも、黒歌は会得してるし、今更この手の本を読んでも仕方がないんじゃ・・・・・・?

新技でも開発するのかね?

 

首を傾げる俺にルフェイが小さく笑いながら言う。

 

「妹さんにどうやったらよく教えられるか、本を見て研究されているんですよ」

 

おぉっ、しっかりお姉さんしてるじゃないか!

 

黒歌が本の表紙をなぞりながら言う。

 

「白音は赤龍帝ちんが教えてくれていたから、『気』の基本的なところは分かってるみたいだけどね。赤龍帝ちんのと仙術は似ているけど運用方法が違うにゃん」

 

まぁ、そうだな。

 

仙術では硬気功なんてないし。

似ているようで違う。

微妙なところだけど、それは重要な差だ。

 

「小猫ちゃんのこと頼むよ。変なこと教えんなよ?」

 

「それってエッチなことかにゃ?」

 

うーむ・・・・・・、それはありかな?

 

小猫ちゃんも出会った頃と比べると大胆になったよね!

膝に座ったときのお尻の感触が最高です!

 

とりあえず、今はその話は置いておいておこう。

 

俺は本に目を通し始めた黒歌の頭にポンと手を置いて言った。

 

「前にも言ったけど、小猫ちゃんと仲良くしろよ? よりを戻すならいつでも協力するからさ」

 

この世にたった二人の姉妹だ。

よりを戻すなら、俺は協力を惜しまない。

 

まぁ、小猫ちゃんも何だかんだで分かってると思うけどね?

 

二人がまた笑顔で話せる日が来るのはそう遠くない。

俺はそう思っているよ。

 

俺の言葉を聞いて、黒歌は目を丸くしていた。

 

「・・・・・・・」

 

それから、可笑しそうに笑い出す。

 

「にゃははは。うんうん、にゃるほどねぇ。こりゃ惚れるわ。白音の気持ちも分かる気がするにゃん。赤龍帝ちんは下手なイケメンよりずーっと魅力的よ?」

 

「そりゃどーも」

 

そう言われるのは悪い気はしないが、赤龍帝やるのも大変なんだぜ?

 

ルフェイが話題を変えるように訊いてくる。

 

「魔法使いさん達との交渉はどうですか?」

 

「んー・・・・、微妙かな。人数も多くてなぁ。今は書類選考で落としてるんだけどね。あんまりパッとしない・・・・・と、こちらの魔法使いさんが」

 

「ええっ!? ボク、そこまで言ってないよ!? ね、アリスさん!」

 

「いやー・・・・・・、ほとんど言ってるも同じだったような」

 

「もうっ! お兄ちゃんもアリスさんも酷いよっ!」

 

「まぁまぁ、そんなに怒るなって。レイヴェルも似たようなことは言ってたしさ」

 

俺は笑いながらプンスカしてる美羽の頭をポンポンと頭を撫でてやる。

 

相変わらず、可愛い反応を見せてくれるな。

 

そんなやり取りをしていると、ルフェイが微笑んでいた。

 

「うふふ、いつも仲が良くていいですね」

 

「まぁな。ルフェイもアーサーとは仲が良いんだろう?」

 

「はい。兄はいつも良くしてくれますよ」

 

ヴァーリによるとアーサーも妹想いらしいからな。

 

黒歌曰くシスコンらしいが、それは黒歌も同じだろうと思う。

 

あ、俺もか・・・・・・。

 

そんなことを思っていると美羽がルフェイにお礼を言っていた。

 

「この間はありがとうね、ルフェイさん。すごく参考になったよ」

 

「いえいえ。私の術式がお役に立てたのなら何よりです」

 

話の内容からして魔法関連のことだろう。

 

「何か教えてもらったのか?」

 

俺が問うと、美羽は思い出させるように言った。

 

「ほら、あれだよ。例の件の」

 

例の件? 

 

あー、あれか。

 

色々不安になるような情報が入ってきたから一応ってことで美羽に相談しておいたんだけど、あれってルフェイを借りてたのか。

 

「あれは相手の虚を突くにはもってこいだと思いますが・・・・・・。美羽さんから相談を受けたときは驚きました。ご本人には知らせてないんですよね?」

 

「ああ、余計な不安はかけたくないしな。それに、その方が相手側も引っ掛かるだろうさ。まぁ、本当ならそんなことにはなってほしくないけどな」

 

出来ることなら、このまま何も起こらずに平穏が続いてくれればいいと思う。

 

だけど、何かが起こる可能性は十分にあるわけだ。

対策はしておくに越したことはない。

 

 

 

 

 

 

それから魔法関連の話は続き、話は俺の新しい使い魔スキーズブラズニルの話になったんだが・・・・・・

 

今、このトレーニングルームに出したスキーズブラズニルは小型船舶くらいには大きくなっている。

 

この成長ぶりを見た美羽とアリスは感嘆の声を漏らしていて、

 

「今度、どこかへ連れていってよ。この子に乗せてね」

 

なんてことを言ってきた。

 

まぁ、ちょっと海に行くぐらいなら良いかな?

 

スキーズブラズニルは俺のオーラに反応しているようで、これからまだまだ大きくなっていくそうだ。

 

今後の成長が楽しみでもある。

 

目指せ、空飛ぶハーレム御殿!

 

黒歌が訊いてくる。

 

「ところで、その子の名前は決まったのかにゃ?」

 

よくぞ聞いてくれました!

 

「こいつの名前は龍帝丸だ! 日本の舟ってそういうネーミングだろ?」

 

「ださ」

 

黒歌にバッサリ切られてしまった・・・・・・

 

うるせーやい!

 

こいつの名前は龍帝丸だもん!

 

変えるつもりはないからな!

 

などと抗議しようとするとトレーニングルームにアーシアが入ってきた。

 

「イッセーさん、皆さん」

 

「おっ、どうしたアーシア」

 

「リアスお姉さまがもう日本を発つそうです」

 

「予想より数時間早いな」

 

今日の夜に発つとは聞いていたけど、こんなに早いなんてな。

 

まだ夕方だぞ?

 

「天候が回復して、小型ジェットが飛べるようになったそうです」

 

なるほど、それでか。

 

「そんじゃ、ちょっと行ってくるわ」

 

俺は美羽達を連れてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

兵藤家地下にある巨大な転移魔法陣。

 

そこにオカルト研究部のメンバーとアリス、ソーナが集っていた。

 

リアスと木場、アザゼル先生を見送るためだ。

 

吸血鬼の領地を訪問するためには、まず兵藤家から魔法陣を介してヨーロッパまで飛ぶ。

そこから専用の小型ジェットをチャーターするとのことだ。

 

吸血鬼は独自の結界を張っていて、幾つかの移動手段を駆使しないと彼らの王国に入国できないらしい。

 

話ではルーマニアまで魔法陣、そこから小型ジェット、更に車に乗り換えて山道を登るそうだ。

 

荷物を持ち、魔法陣の中央に向かうリアス、木場、先生。

 

ヴラディ家を直接訪問するのはリアスと木場。

カーミラ側に一度接触してからヴラディ家に向かうのは先生だ。

 

リアスはギャスパーを抱き締める。

 

「ギャスパー、あなたのことは必ず守ってみせる。何も心配しなくていいわ。ヴラディ家とのことも私がきちんと話をつけてくるわ」

 

「はい、部長・・・・・」

 

ギャスパーもリアスの抱擁に甘えるようにしていた。

 

リアスが母性を発揮してるな。

 

ギャスパーが羨ましいっ!

 

・・・・・・・少し自重するか。

 

リアスは朱乃に顔を向ける。

 

「朱乃。皆のことは頼むわね」

 

「ええ、リアス」

 

俺は木場と拳を打ち付け合う。

 

「リアスのこと、頼むぜ。まぁ、おまえがいれば問題ないと思うけどな」

 

「もちろんだよ」

 

今の木場だったら、大丈夫だろう。

ま、更に言えばリアス自身も腕を上げてるしな。

 

先生の方はというと、ソーナとロスヴァイセさんに笑みを向けていた。

 

「じゃ、学校の方は頼むわ。ソーナ会長♪ ロスヴァイセ先生♪」

 

「「忙しいので早く帰ってきてください」」

 

「んだよ、つれない反応だな」

 

二人の素っ気ない反応に先生は不満げだ。

 

学校のスケジュール的にはもうすぐ年末突入だもんな。

その時期に教師が一人いなくなるのは学校に深く関わるこの二人からすれば困ったものなのだろう。

 

「遊ばないで下さい、ね?」

 

「お、おう。わーってるよ」

 

レイナが笑顔の圧迫をかけている!

 

先生があっちで外遊びなんてこともあり得るしなぁ・・・・・。

 

レイナちゃんはしっかりと見張り役の仕事を果たしているわけだ。

 

先生が皆に伝えてくる。

 

「例のフェニックス関係者を狙っている魔法使いどもが不気味だ。気を付けろよ」

 

『はい!』

 

返事をする俺達。

 

「アーシア、オーフィス」

 

先生がアーシアとオーフィスを呼ぶ。

 

「アーシア、例の件だが後はおまえ次第だ。オーフィスにアドバイスをもらいながら進めてみろ。龍神のおまえが側にいればなんとかなるだろう。龍神のありがたい加護ってのを頼むぜ?」

 

「はい、と、とても恥ずかしいけど、が、頑張ります」

 

「我、アーシアのこと、きちんと見る」

 

先生の言葉にアーシアとオーフィスが応じていた。

 

アーシアが顔赤くしてるけど・・・・・・・気になる・・・・・。

 

アーシアとオーフィスで何かしてるのか?

 

その後、リアス、木場、先生の三人は皆と最終確認と別れを述べ、転移魔法陣の中央に並ぶ。

 

「それじゃあ、いってくるわね」

 

魔法陣が輝きを放つ。

 

朱乃が魔法陣の術式を最後に確認した後、転移の光が室内に広がり、弾けた―――――

 

光が止むとそこには三人の姿はない。

 

三人ともこっちは任せてくれ。

 

留守はしっかり守るよ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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7話 獣耳は癒しです!

前々から書いてみたかった話です!


リアス達を見送ったその日の夜。

 

今日から就寝を共にしていたリアスがいないってのも寂しいものだ。

 

リアスが家に住むことになってからというものの、ほぼ毎日のようにくっついて寝ていたからなぁ。

リアスの抱き枕として。

 

俺の過去を知ってからは物凄く甘えてくるようになってさ。

それはもう美羽みたいに甘えモードで接してくるわけで。

 

お姉さまキャラが目元を潤ませながら乙女になってくるんだぜ?

可愛いのなんの。

そのギャップに何度やられたか。

 

うーむ、しばらくはあの温もりと離れることになるのか・・・・・。

 

出来るだけ早く帰ってきてぇ!

・・・・・・なーんて言えるわけないよなぁ。

 

俺、歳上だし・・・・・。

 

ま、駄々をこねてもしょうがないし、どうにもならないよね。

 

リビングでテレビを見ていた俺だが、あくびも出てきたし、時計の針も夜の十一時を過ぎたくらいだ。

いつもより早いけど、寝よう。

 

程よい眠気を感じた俺はテレビを切って自室へ。

 

階段を上がり、自室のドアの前に立つ。

 

すると――――

 

『ね、ねぇ、美羽ちゃん・・・・・。やっぱり、これ少し恥ずかしいんだけど・・・・・。いつものやつに変えていい?』

 

『え~、すっごく似合ってるよー?』

 

『あ、そんなに抱きつかないで・・・・。くすぐったいから・・・・・』

 

『アリスさん、可愛い~♪』

 

『もう・・・・・。というより、これはパジャマなの?』

 

『そうだよ。気持ちいいし、寝やすいでしょ?』

 

『それはそうだと思うけど・・・・・』

 

んー・・・・・・、何やってんだ?

 

聞こえてきた話だと美羽がアリスに抱きついているらしいが・・・・・・。

 

パジャマ?

 

恥ずかしいパジャマってどんなのだよ?

 

リアスが着ているような透け透けのネグリジェか?

 

ネグリジェ姿のアリスか・・・・・・。

 

ああ言うのってリアスや朱乃あたりが着るとすっごく似合ってるんだよね。

エロさが倍増する。

 

でも、アリスのそういう姿も見てみたいと思っちゃう!

 

俺は少し期待を抱きながらもドアノブに手をかけ、そのまま部屋の中へ。

 

 

そこには―――――

 

 

俺は言葉を失った。

 

ベッドの上にいたのは下着姿でもネグリジェ姿でもない。

ましてや全裸でもない二人の姿。

 

それはエロとは全く違うものだった。

 

「なんだ、それは・・・・・・」

 

俺はつい、そう声を漏らした。

 

ベッドの上にいたのは―――――二人の猫。

 

いや、正確には猫の着ぐるみパジャマを着た美羽とアリスだ。

 

パジャマといっても袋状になっている衣類にすっぽりと体を入れ、顔だけ出ているタイプのやつ。

しかも、フードには猫耳がついていて、手先足先には可愛らしくピンク色の肉球!

 

「あ、お兄ちゃん。見て見て、アリスさんのすっごく可愛いでしょ?」

 

美羽に言われてアリスの方に視線を向ける。

 

アリスが着ているのは白猫パジャマ。

後ろから黒猫パジャマの美羽に抱きつかれた状態で恥ずかしそうに目元を潤ませながらこちらを見てきている。

 

「うぅ~・・・・・・。あんまり、見ないでよ・・・・・・」

 

などと声も少し震え気味だ。

よほど恥ずかしいのかかなり赤面している。

 

俺は下着姿や全裸のアリスを何度も見てきているし、アリスの体で知らないところはないって言うくらいに、その体も見ちゃってるんだけど・・・・・・。

 

どうやら、今回は恥ずかしさの方向が少し違うらしい。

 

「どうかな?」

 

美羽がアリスに抱きついた状態で再度訊いてくる。

 

どうかな・・・・・だと?

 

そんなもの、決まってるじゃないか・・・・・・!

 

俺はゆっくりと二人に近づき――――

 

「な、なぁ・・・・・・」

 

「・・・・・なによ?」

 

「ギュッてして・・・・・いいか?」

 

「えっ?」

 

突然の言葉に呆けた表情で聞き返してくるアリス。

 

首を傾げると同時に動くフードの猫耳。

 

あぁ、これは我慢できん・・・・・・!

 

「えぇい! こいつは『王』命令だ! 抱きつかせろぉぉぉぉぉ! モフモフさせろぉぉぉぉぉ!」

 

俺はたまらず二人に抱きついた!

 

そのままベッドに押し倒して二人の体に顔を埋めてモフモフする!

 

「ちょ、えぇっ!? なに!? どうしたのよ!?」

 

「ちくしょう! なんでそんなに可愛いかな! おまえら、俺の予想を越えすぎだぞ!」

 

エロとは全く違う、これは―――――癒しだ!

 

初めて見る二人の猫パジャマ姿!

 

これは・・・・・これは・・・・・・これはヤバイ!

 

なんというか・・・・・・ヤバイ!

 

「ひゃあっ! く、くすぐったいよぅ・・・・んっっ・・・・・んやぁぁっ」

 

あぁ!

いつも可愛い美羽も数倍増しで可愛いな、ちくしょうめ!

 

猫パジャマ・・・・・・こいつは強力だな!

 

俺の理性をいきなりぶっ壊してくれた。

 

心の底から癒される。

 

ここまでモフモフさせてほしいと思ったのは初めてかもしれない。

 

二人の体の柔らかさや猫パジャマの肌触りもあって、最高に気持ちいい。

 

しかも、恥ずかしがってるアリスが・・・・・いい!

 

「ちょ、ちょっと! 落ち着きなさいって!」

 

「ゴファッ!」

 

調子に乗ってると、アリスのパンチ――――いや、猫パンチが飛んできた!

 

久しぶりにくらったが、流石の威力だ!

すごく痛いぞ!

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・。あんたねぇ、どれだけ興奮するのよ」

 

「す、すまん・・・・・。想像を越えた可愛さについ・・・・・。あまりにも似合いすぎてて・・・・・」

 

俺は鼻血を拭いながら言った。

 

いやー、これは衝撃過ぎたな。

 

多分、買ったのは美羽だと思うが、これは超グッジョブだぞ。

 

普段、猫耳は小猫ちゃんで見ているが、これはこれで別の可愛さがあるんだよなぁ。

 

「二人にお願いがある」

 

「・・・・・なによ?」

 

アリスが少々身構えながら聞き返してくる。

 

俺は喉をごくりと鳴らせながらお願いしてみた。

 

「――――にゃーんって言ってみてくれ」

 

「は、はぁっ!? な、なんで!? そういうのは小猫ちゃんに頼みなさいよ!」

 

確かに俺は小猫ちゃんの「にゃん」を聞くたびに癒されている!

猫耳小猫ちゃんもマジで可愛いんだ!

保護欲が掻き立てられるんだよ!

可愛くて可愛くてたまらないんだよ!

 

でも・・・・・でもな・・・・・・!

 

「今の俺は! 二人のにゃーんが聞きたいんだよ!」

 

俺はたまらずそう叫んだ!

 

そう!

俺は!

今この場で、二人のにゃーんが聞きたいんだ!

 

もう聞きたくて聞きたくてしょーがない!

 

我慢できんのだ!

 

俺は手のひらを合わせて頼み込む!

 

「頼む! 二人のにゃーんを聞かせてくれ・・・・・!」

 

「っ!?」

 

にゃーんのためにここまでしてくるとは思わなかったのだろう。

 

美羽は呆然とし、アリスは少し引き気味だ。

 

しかし、そこはなんだかんだで聞いてくれる我が眷属達。

 

美羽とアリスは俺の正面に座ると、照れくさそうに猫の手振りをつけながら二人で―――――

 

「「にゃ、にゃ~ん・・・・・」」

 

―――――っ。

 

その瞬間、俺の中を電流のようなものが駆け巡った。

 

か、かわゆい・・・・・!

 

きゃわいい・・・・・・・!

 

萌える・・・・・・!

 

今まで見たことがない、この光景は・・・・・萌える!

 

 

ブフフッッ

 

 

ヤベッ・・・・また鼻血出てきた。

 

これはしょうがない。

 

だってきゃわいいんだもの。

 

この瞬間を俺は永遠に忘れないだろう。

ちゃんと脳内データとしてインプットしてある。

 

ふぅ・・・・・・・。

 

とりあえずは深呼吸っと。

 

改めて状況を見返してみるが・・・・・・・。

 

猫パジャマ姿の美羽とアリスがベッドの上にちょこんと座る姿はかつてないもので―――――

 

「「?」」

 

まじまじと見る俺を怪訝な表情で見てくる二人。

 

二人揃って可愛く首を傾げるところなんて、たまらないものがあって。

 

ベッドの上を移動して、俺は二人の背後に回ると二人を後ろから抱き寄せる。

 

それから、もう一度二人の胸に顔を埋めてみた。

 

「わっ。・・・・・・ど、どうしたの?」

 

「いやー・・・・・・。こうしてると、最近の疲れが取れていくようでさ。すっげー癒される」

 

先程の暴走状態とは変わって、今度はゆっくり二人からの癒しオーラを堪能。

 

ここ数日は魔法使いの選考とかで忙しかったし、他にも色々考えることがあって心身が疲弊してたからな。

 

よくよく考えてみるとアリスがこういう格好をするのってレア過ぎるんだよね。

 

まぁ、こちらの世界に来てからはリアス達の影響なのか、かなり大胆になってたけどさ。

 

それでもこれはレアだ。

 

ポフッと俺の頭に何かが乗っけられる。

 

見れば二人が微笑みながら頭を撫でてくれていた。

 

「ここのところ忙しかったもんね。お疲れさま、お兄ちゃん」

 

「まぁ・・・・・これであんたの疲れが吹き飛ぶってことなら、またこれ着てあげるわよ?」

 

皆さん・・・・・俺は今、猛烈に感動しております!

 

俺、この二人を眷属に出来てよかった!

 

多少の問題はあるけど、そんなもん余裕でチャラにできるぞ!

 

可愛くて優しい眷属!

最高だ!

 

 

ガタンッ

 

 

ドアの方から物音がしたので見てみるとそこにはパジャマ姿の小猫ちゃんがいて、

 

「そ、そんな・・・・・お二人が猫耳に・・・・・!」

 

こちらの状況というよりも、美羽とアリスが猫パジャマを着ていることにショックを受けているようだった。

 

しばらくは固まったまま動かない小猫ちゃんだが、次第にその小さな体をプルプル震わせていき、目も少し涙目だ。

 

「こ、小猫ちゃん・・・・・?」

 

俺が声をかけてみると、何も言わずにこちらに近づいてきた。

 

ベッドの上に乗ったと思うと――――そのまま、俺に抱きついてきた!

 

猫耳を出して、俺にしがみつくような格好となる!

 

「ど、どうしたの?」

 

「・・・・・美羽先輩とアリスさんにまで猫耳になったら、私は圧倒的に不利じゃないですか」

 

「えっ?」

 

ついつい聞き返す俺だが、小猫ちゃんは潤んだ目でこちらを見上げてきて―――――

 

「・・・・・私だって猫耳です。私もギュッとしてください」

 

はうっ!

 

こ、これは・・・・・・・!

 

なんということだ!

 

小猫ちゃんが本家猫耳として対抗してきたぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

こんなお願いされたら・・・・・!

 

「うんっ!」

 

抱き締めるしかないじゃないか!

 

「にゃぁぁ」

 

頬を赤くしながらブンブン尻尾を振る小猫ちゃん。

 

喜んでくれているのかな?

 

やっぱり、小猫ちゃんは・・・・・・・きゃわいいなぁ!

 

ここにアーシアまで来たら癒しの空間がヤバイことになりそうだ。

 

「イッセーさん、起きていらしゃいますか?」

 

――――と、ここにアーシアが参上!

 

ピンク色の可愛らしいパジャマで部屋に入ってきた。

 

「美羽さんとアリスさんのパジャマ、可愛いですね」

 

「ありがとー。アーシアさんも着てみる?」

 

「私ですか? 私は・・・・・・・」

 

アーシアはこちらの状況を確認して、言葉を詰まらせた。

 

ベッドの上の状況を説明しよう。

 

猫パジャマの美羽とアリスが俺の両サイドに座り、猫耳を出した小猫ちゃんを俺がギュッとしているという、猫耳満載の空間。

今にもポワポワという効果音が俺の顔から出てしまいそうだ。

 

「ず、ずるいですぅ! 皆さんだけ猫耳なんて! 私も負けていられませんっ!」

 

そう涙目で叫ぶとアーシアは部屋から飛び出していった。

 

部屋にいた俺達は互いの顔を見合わせながら頭に疑問符を浮かべていた。

 

「・・・・・・な、なんだ?」

 

「さ、さぁ・・・・」

 

私も負けてられないって・・・・・・もしかして、アーシアも猫パジャマを?

 

アーシアも持ってるのか?

 

そんなことを思っていると――――

 

 

ドタドタドタドタ

 

 

廊下から足音が聞こえてくる。

 

戻ってきたのか。

 

「イッセーさん!」

 

と、部屋に再び入ってきたのは―――――頭にウサギ耳をつけたアーシア!

 

美羽達が着ているタイプのウサギバージョン!

 

猫パジャマならぬウサギパジャマだと!?

 

「えいっ!」

 

ウサギアーシアが俺に飛び付いてくる!

 

アーシアちゃんも積極的だ!

 

つーか、アーシアにウサギが似合いすぎるだろ!

 

「それって誰のチョイス?」

 

「リアスお姉さまです。似合い・・・・・・ますか?」

 

リアス、ナイスチョイス!

 

グッジョブだぜ!

 

感動すら覚える!

 

なんだ、この最強とも言える癒し空間は・・・・・!

 

猫耳の美羽にアリスに小猫ちゃん、ウサギ耳のアーシアだと・・・・・・・!

 

これ以上の癒しがあるだろうか!

 

 

バタンッ

 

 

突如、部屋のクローゼットが勢いよく開く。

 

な、なんだ!?

 

すると―――――

 

「我も着てみた」

 

そこには犬の着ぐるみパジャマを着たオーフィスがいた。

 

うん、やっぱり獣耳って萌えるな。

 

 

 




というわけで、今回は癒しと萌えのお話でした!



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8話 日常の崩壊

リアスが日本を発って数日が経つ。

 

とりあえず、リアス達はルーマニアには無事に到着したようで、今は目的地まで移動しているようだ。

吸血鬼の住む領域が人里離れた場所にあるため、そこまで行くのが中々に大変だという。

 

まぁ、一応の許可はもらってるとはいえ、正規のルートでいかないとダメみたいだしな。

転移で一発なんてのは許してくれないんだろう。

元々、吸血鬼の領域ってのは外部との接触を避けた閉ざされた領域だって話だし。

 

今はリアス達の無事を願いながらも吉報待つしかない。

 

「にしても、流石にこの季節は寒いなぁ」

 

「兵藤くんに一票。せめて体育館にしてほしいものだ。グラウンドは風が冷たいからな」

 

俺の意見に賛同するのは元浜だ。

 

これから体育の時間なのでジャージに着替えてグラウンドに移動するところだった。

 

季節は冬。

 

グラウンドの運動は中々に辛い季節だ。

運動し初めてからはそうでもないが、するまでがね・・・・・・。

 

「体育はイッセーの独壇場だからな。チームを組むのはいいが、敵に回ると嫌になる」

 

そうぼやく元浜。

 

まぁ、こちとら異世界で魔王を相手にしてたし、悪魔化してからは龍王相手にスパーリングしてるから身体能力に差があるのは当然だ。

 

一応、加減はしているが、それでも一般の人間と比べると差ができる。

体育でサッカーしてる時とか、運動神経抜群の松田でも軽くあしらえるしな。

 

美羽にしてもそうだし、元々運動が苦手なアーシアでも体力でいえば男子生徒よりもずっとあるだろう。

 

実際、京都では元浜の方がアーシアよりバテてたしな。

 

いや、あれは単に元浜のスタミナが無さ過ぎるのか?

 

それにしても・・・・・・・美羽とアーシアか。

 

・・・・・・むふふ。

 

「なににやけてんだよ、イッセー?」

 

俺がニヤニヤしてると松田が気持ち悪いものを見たといった表情で訊いてきた。

 

なんとも失礼なやつだ。

 

俺はそんな松田に対して指を突きつけて言ってやった。

 

「おまえら・・・・・・獣耳の素晴らしさってわかるか?」

 

「「っ!?」」

 

俺の言葉に衝撃を受けたように顔を強ばらせる二人。

 

ふっ・・・・・察しのいい奴らだ。

 

自然とその視線が美羽達にいってやがるぜ。

 

「猫パジャマ・・・・・あれは良いものだな」

 

アーシアはウサギパジャマだったけど。

 

あれからとというもの、俺は毎夜のごとくあのパジャマを着た美羽達と癒されながら寝ているのだ!

 

アーシアウサギもたまらなく愛くるしいし、何度も何度もギュッてしたさ!

 

当然、アリスも小猫ちゃんもオーフィスも!

 

皆に抱きつき、抱きつかれで、メチャクチャ癒されてます!

 

俺は斜め四十五度、キメ顔で二人に告げた。

 

「俺は・・・・・新しい属性に目覚めてしまったよ」

 

前々から小猫ちゃんには萌えてたけど。

 

だけど、先日の一件で改めて強く認識することができた!

 

獣耳は・・・・・・・・いい!

 

「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「許せぇぇぇぇぇぇん! 成敗してくれるわぁぁぁぁぁ! 美羽ちゃんと何をしていたぁぁぁぁぁぁ!?」

 

おっと、悪友共が血涙を流して突っかかってくるぜ。

 

ふふん、日頃から例の撲滅委員会とやらには監視されてるし、何度も追い回されたからな。

こっちも変なストレスは感じてたんだよ。

 

こいつらが撲滅委員会の幹部だというのは割れている。

 

今回は今までの仕返しだ!

 

ふはははははははっ!

 

羨むがいい!

俺のニャンニャンな生活を!

 

「イッセー! おまえ、後で美羽ちゃんファン及び委員会に滅せられるぞ!」

 

「いや! 今この場で俺達が滅びを与えてくれる!」

 

「上等だぁ! かかってこいやぁ!」

 

委員会がなんぼのもんじゃい!

 

今までは逃げていたが、もう俺は逃げん!

 

返り討ちにしてくれるわ!

 

兄の力の恐ろしさ、存分に見せつけてくれる!

 

「「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」」

 

俺は悪友二人による血涙の攻撃を捌きながらグラウンドへと向かったのだった。

 

ちなみにだが、俺に新しい属性が目覚めたと知った朱乃達がそっちの方向で何やら研究をし始めている。

 

あのメンバーだとエッチな感じになりそうなんだが・・・・・・それも良いよね!

 

癒しでもエッチな感じでも俺は嬉しい!

 

 

 

 

 

 

「ぜーはーぜーはー・・・・・・・」

 

「元浜、おまえバテすぎだろ」

 

元浜にツッコミを入れる松田。

 

松田の言うことも最もで、教室からグラウンドまで少しばかし激しい追いかけっこをしただけで、死にそうになってる。

 

松田は少し肩を上下させているが、それでもバテているという程ではない。

 

・・・・・・本当に体力がないのな、元浜よ。

 

「元浜、日頃から運動しないからそうなるんだぞ。そんなことじゃあ、彼女ができても守れんぞ」

 

おおっ、松田が格好良いこと言ってる!

 

「うっ・・・・・。か、彼女ができた時には運動も出来るようになってる! ・・・・・・はず」

 

おいおい!

最後に余計な言葉がついたぞ!

 

本当に大丈夫なのか!?

 

「いっそのこと運動部に入ったらどうだ?」

 

「いやー、二年ももうすぐ終わりだし、そこから運動部ってのもなぁ。こいつのレベルだと筋トレして引退だぞ」

 

「わかる。そんな感じだな」

 

「うるせー!」

 

俺と松田の会話に未だ肩を上下させながら抗議してくる元浜。

 

すると、松田がふいに口にする。

 

「そういや、中学の時の田岡って覚えてるか?」

 

「あー、女子の体毛に妙に熱かったな」

 

と、俺が思い出す。

 

非常にマニアックな奴で、女子の毛について語りまくってた。

 

俺は・・・・・・分野が違いすぎて全く理解できんかったけど。

 

俺はおっぱいだったもんな。

 

松田が続ける。

 

「あいつの兄ちゃんが今度独立して店持つんだって。でな、一緒に店を立ち上げた仲間が仲の良かった部活のマネージャーなんだって」

 

「ほうほう。女子マネージャーとな? 男と女の関係が見え隠れしていますなぁ」

 

元浜がエロい顔で呟く。

 

・・・・・・こいつ、エロ思考で復活しやがったぞ。

 

松田が肩をすくめる。

 

「まぁ、それはわからないけどな。学生時代からずーっと支えてきてもらっていたんだとさ。で、『いつか店を持って独立するから、付いてきてほしい』って口説いたんだと。それでそのマネージャーさんは田岡の兄ちゃんに付いていくことに決めたんだって」

 

「良い話じゃないか。学生の頃の仲間と店を持つってのも熱いな」

 

「だろう? 将来の約束を誓い合うっていいよな。俺もそういうマネージャーがほしい!」

 

マネージャー、か。

 

俺にはレイヴェルがついてくれている。

 

今も魔法使いの選別を手伝ってくれているし、昇格試験の時とかもすごくサポートしてくれた。

冥界のおっぱいドラゴンのイベントでも積極的に支えてくれた。

 

一生懸命に俺を支えようとする気持ちが伝わってくるんだ。

 

・・・・・・風呂場でレイヴェルに言いそびれてからはまだ言えてないんだよな。

 

『(うーん、流石に悪いことしたわ。良い雰囲気邪魔しちゃって)』

 

気にするなよ、イグニス。

 

あの時から時間経ってるのに言えてないのは俺の責任だしな。

 

まぁ、何だかんだで忙しかったってのもあるんだけど。

 

いきなり言うのもあれだし、今後でタイミングを見ながらってところか。

 

その時が来たら伝えよう。

 

俺の―――――

 

 

その時だった。

 

 

「―――――っ!」

 

この学園内に複数の悪意、敵意が現れた。

 

今の急に現れたような感じ・・・・・転移してきたのか!?

 

俺は感覚を鋭敏化して学園内の状況を探る。

 

おいおい・・・・・なんだ、この数は!?

 

三、五・・・・・・十・・・・・・二十だと!?

 

それに、この気の質からして悪魔とか堕天使じゃないな。

かといって天使でもない。

 

異形の者じゃないってことか?

 

「お、なんだあれ? コスプレか?」

 

松田がとある方向に指を指した。

 

「ほんとだ。魔法使い的な?」

 

元浜も続いてそちらを見やる。

 

そこには―――――魔法使いのローブのようなものを着込んだ者達複数人。

その足元には魔法陣が輝いている。

 

そいつらがフードを取り払うと異国の顔立ちの男が六人。

 

男達がこちらに気づくと、笑みを浮かべながらこちらへと手を突きだした――――

 

「美羽!」

 

「っ!」

 

俺の叫び声を聞いた美羽は直ぐに反応して行動に移す。

 

突然の俺の行動に松田達は驚いていた。

 

「お、おい、イッセー! どうした・・・・・って、あれ?」

 

松田はそこから意識を失ったかのように、その場に倒れた。

 

いや、松田だけじゃない、元浜も俺達の周囲にいた生徒、先生までもが意識を失いグラウンドに倒れ伏した。

 

美羽が魔法で眠らせたんだ。

 

「美羽は皆を安全なところへ! 俺はっ!」

 

俺は眼前の六人の方へと駆け出した。

 

あいつら、魔法使いか?

 

どういうことだ?

 

この一帯は三大勢力の同盟圏内、特殊な結界が張られている。

入るにはそれなりの資格、審査を通ってこないと無理だ。

 

仮に侵入者がいた場合はこの町にいる三大勢力のスタッフが駆けつけ、対処してくれることになっていたはずだ。

 

それが、なぜ・・・・・・・。

 

分からないことだらけだが、まずは魔法使い達を松田達から引き離す。

 

とにかく人のいないところへ誘導しないと!

 

奴らも俺が目標なのか追ってきてくれた。

 

「仲間を庇うか、赤龍帝!」

 

「ハハッ! 甘っちょろいんだな!」

 

「だが、協会が出した若手悪魔のランクでは若手の域を超えていた! 破格なんてものじゃないぜ!」

 

協会?

 

まさか、メフィストさんのところの・・・・・・・・・いや、それはないか。

一度しか会ってないが、あの人がこういうことをしてくるとは思えない。

 

となると、はぐれ魔法使いってところか・・・・・・。

 

――――っ

 

いや、待てよ。

 

確か、フェニックス関係者に接触していたのは――――

 

 

ドゴォォォォォン!!

 

 

新校舎の方から激しい爆発音!

 

この揺れと規模・・・・・・結構な魔法を使いやがったな!

 

俺が急いで新校舎の方へと向かおうとすると、俺と魔法使い達の周囲に結界が張られる。

 

「おっと、行かせるわけにはいかないな」

 

魔法使いの一人が俺を制止する。

 

「おまえら、レイヴェルが目的か・・・・・っ!」

 

俺が訊くとそいつは口笛を吹き、笑みを浮かべる。

 

「あらら、気づかれちゃったぜ。ま、そういうわけよ。俺達の作戦が終わるまで、あんたはここで足止めだ」

 

こいつら・・・・・・!

 

レイヴェルを狙うだけでなく、昼間の学園を襲撃してきやがった・・・・・!

一般人までも巻き込みやがった・・・・・・!

 

「せいぜい遊んでくれよ!」

 

「俺達は赤龍帝のパワーとやらに挑戦しにきたんだからさ!」

 

せせら笑う魔法使い達。

 

手元に魔法陣を展開して炎の一撃を繰り出してくる。

 

「・・・・・てめぇらに構ってる暇はねぇんだよ!」

 

俺は低い声で言うと共に飛んできた炎の弾を握り潰す。

 

ああ、そうだ。

 

こいつらと遊んでやる時間なんて無い。

 

 

パキッ

 

 

俺の足元に落ちていた木の枝が弾けた。

 

次の瞬間、地面に亀裂が入り、木々が激しくざわめき始めた。

 

魔法使いが張った足止め用の結界にもヒビが入り、ガラスが砕けるような音と共に消え去った。

 

先ほどまでふざけた笑みを浮かべていた魔法使い達から笑みが消え、目を見開き、化け物を見るかのような目で俺を見てくる。

 

「・・・・・っ! おいおい、なんだよこれは!」

 

魔法使いの一人がそう叫ぶ。

 

こいつら、俺の情報持ってるんじゃないのかよ?

 

ま、そんなことはどうでも良い。

 

そんなもの知ったことか。

 

「おまえら・・・・・・無事に帰れると思うなよ?」

 

俺は一歩踏み出すと、瞬時に魔法使い達が取っていた陣形の中心に入り込む。

 

籠手は使わない。

俺が籠手を使えば、被害が大きくなるだろうからな。

 

こいつらなんぞ、素手で十分だ。

 

まずは正面。

 

いち早く俺に気づいた魔法使いの鳩尾に掌底をぶちこむ。

感触からして内臓が潰れたようだな。

そんなことは気にせずに勢いを上げて近くの木に叩きつけた。

 

次に左右の四人。

 

こいつらは防御魔法陣を展開して俺の攻撃を防ごうとするが、拳と蹴りを放って全て粉砕。

四人とも血を撒き散らせながら近くの物置小屋に吹き飛んでいった。

 

最後の一人。

 

何かを泣き叫んでいたが、そんなものは無視だ。

顔面を掴んでそのまま地面にめり込ませた。

 

全員、ピクリとも動かないが、殺しちゃいない。

ギリギリ生きている状態だ。

 

後で尋問に送るためにもここは生かしておく。

 

でも――――

 

「関係ない一般人を巻き込んだんだ。俺はダチに手を出されて黙ってるほど甘くはない」

 

それだけ言い残して、俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

俺が新校舎、一年生の教室があるフロアに着いた時にはもう全てが終わった後だった。

 

教室前の廊下。

激しく破壊され、廊下の窓側がぶち抜かれていて、外が丸々一望できるように変わり果てていた。

外気が容赦なく吹き込んでくる。

 

ここに来るまでも校舎のいくつかの場所が破壊されているのを確認できた。

窓際が大きく消し飛び、校庭にも穴が空いていた。

 

・・・・・・レイヴェルの気が感じられない。

 

いや、なぜか小猫ちゃんとギャスパーの気も感じられない。

見渡しても三人の姿は見当たらない。

 

俺は廊下に座り込む一年生女子に歩み寄り、話しかけた。

 

「大丈夫かい?」

 

その子は世にも恐ろしげな体験をしたかのように呆然としてい、全身を強張らせていた。

最初は反応がなかったが、片をゆすってもう一度声をかけてみた。

 

すると、その子は震える声でぼそりと呟いた。

 

「・・・・・変な人達に、私捕まって・・・・・小猫さんとギャスパーくんとレイヴェルさんが私を助けるために・・・・・・」

 

――――っ!

 

小猫ちゃん、ギャスパー、レイヴェル・・・・・・!

 

「小猫ちゃん達、魔法使いみたいな格好をした人達に光に包まれて、急に消えたんです!」

 

教室の扉から廊下の様子を伺う生徒が俺にもそう伝えてくれた。

 

・・・・・・人質を取られて、連行されたってのか!

 

くそったれ・・・・・・!

 

「お兄ちゃん!」

 

美羽が廊下の向こう側から駆けつけてきた。

 

「皆は?」

 

「大丈夫。皆、眠って安全なところに運んだから。念のために結界も張ってあるよ」

 

ってことは松田や元浜達は無事か。

 

そこだけは安心した。

 

俺がほっと胸を撫で下ろしていると美羽が尋ねてきた。

 

「小猫ちゃん達は・・・・・・?」

 

「・・・・・・俺が駆けつけた時には・・・・・・。レイヴェルと一緒に連れていかれた」

 

「っ!」

 

俺の報告を聞いて美羽は悔しそうに歯噛みしていた。

 

大切な後輩を連れていかれたんだ。

 

俺だって同じ気持ちだ。

 

だけど、ここで悔しがってるばかりにはいかない。

 

「美羽、あれをやる。いけるか?」

 

「・・・・・マーキングは生きてるね。いつでもいけるよ」

 

よし、それならまだ間に合う。

 

そうなると、俺達がすることはただ一つだ。

 

「あ、あの・・・・・小猫ちゃん達は・・・・・・」

 

先程、小猫ちゃん達が連れていかれたことを教えてくれた女子生徒が恐る恐る尋ねてきた。

 

この子達にとっては非日常的なことが起こったんだ。

しかも、目の前でクラスメイトが連れ去られた。

 

彼女の中では混乱することはかりだろう。

 

だから、俺達は微笑みを浮かべながら言った。

 

「大丈夫だよ」

 

「小猫ちゃん達は俺達が何とかするさ」

 

 

 

 

 

 

あの後、これ以上の混乱を避けるため、美羽の魔法で一年生を眠らせた。

 

そして、まずはアリスと合流するために一旦家に転移してきたんだが・・・・・・・。

 

 

 

「えっと、こんな感じかしら・・・・・・・にゃ、にゃ~ん・・・・・・」

 

 

 

ここはアリスの部屋。

 

鏡の前で猫っぽいポーズをつけながら、何やら確認しているアリス。

 

・・・・・・白い下着を身に付け、手首と足首には白くてフワフワのファーウォーマー、頭には猫のカチューシャという姿で。

 

夢中になっているのか、俺達が部屋に入ってきたことには気づいていない。

 

普段、この時間帯は家に誰もいないからな。

一人でこっそりやっているつもりなのだろう。

 

ポーズを崩し、顎に手をやるアリス。

 

「う~ん、最近は朱乃さん達も色々してるし・・・・・、やっぱり私もしないといけないわよね・・・・・・。イッセーの好みってこんな感じ・・・・・・? にゃ、にゃ~お・・・・・」

 

と、さっきとは違ったポーズを鏡の前で決めるアリスさん。

 

その姿にーーーーー

 

「「か、可愛い・・・・・!」」

 

兄妹そろって、ついつい感想を述べる俺と美羽。

 

あのアリスが自らこんな愛くるしいポージングをしてくれるとは!

 

しかも、純白の下着に猫耳!

今度はフワフワまでつけて!

 

こ、これは・・・・・・エロと癒しの融合・・・・・・!

 

エロさと可愛らしさ、そして癒しを含んだ最強の姿ではないだろうか!

 

これは萌える!

色々と元気になってしまう!

 

しかし、ここで感想を口にしてしまった時点で俺はアウトだった。

 

「な、なんで・・・・・・ここにいるの・・・・・・!?」

 

アリスは両手で肩を抱いて、後ずさる。

 

顔なんてもう真っ赤。

頭から湯気が出るほどだ。

 

この時、俺は思った。

 

あ・・・・・これは死んだな、と。

 

でも、ここで何も言い訳をしないというのもあれなので、俺は今起きている事態を伝えようとした。

 

「聞いてくれ、アリス! レイヴェル達がーーー」

 

ま、それも無駄なのは分かってたけどね。

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「ギャァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

白雷のアリスパンチが俺に炸裂した。

 

 

 



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9話 フェニックスの涙

[三人称 side]

 

 

何もない白い空間。

 

下も上も左右も真っ白な空間だ。

 

天井まではかなり高く、グレモリー領の地下にある修行用のフィールドに近い広さがある。

 

そこに駒王学園から連れ去られた小猫、レイヴェル、ギャスパーの三人がいた。

 

魔法によるロープで手首を縛られており、思うように身動きが取れない状態にある。

 

「くっ・・・・・小猫さん、ギャスパーさん、大丈夫ですか?」

 

「私は大丈夫。ギャーくんは?」

 

「僕も大丈夫です。・・・・・ここはどこなんでしょう?」

 

三人が辺りを見渡し、場所を把握しようとするが全く検討がつかない。

 

いるのは自分達をこの場所に連れてきた魔法使いのみ。

 

「これはフェニックス家の姫君。ようこそおいでくださいました」

 

空間に響く声。

 

声がした方向を向くと装飾がされた銀色のローブに包む者がいた。

フードを深く被っていて顔までは見えないが、声から察するに若い男性のようだ。

 

「あなたが・・・・・今回の首謀者ですか?」

 

「ええ、そうです」

 

レイヴェルの問いに即答するローブの男。

 

レイヴェルは更に問う。

 

「フェニックス家の関係者に接触していたのも、あなた達・・・・・・・?」

 

情報にあった自分達フェニックス家に関係者する者に接触をしていたのははぐれ魔法使いの集団と聞いている。

 

この場にいる魔法使い達は協会から追放された者と見て間違いないだろう。

 

そうなると、目の前の首謀者と名乗った男がそれの指示を出していたと考えられる。

 

「まずはこれを見てもらいましょう」

 

男が指を鳴らす。

 

すると、右手側の壁が作動して、下に沈んでいく。

 

徐々に壁の向こう側が見え、そこにあったのは大量の培養カプセル。

 

機器に繋がれた培養カプセルの中は液体で満たされ、更に何かが浮かんでいるのが確認できた。

 

(あれは・・・・・人?)

 

怪訝に思うレイヴェル達。

 

そこに浮いているのは人に見えた。

大人のような体格をした者もいれば、小学生くらいの者もいる。

 

共通しているのは全員、死んでいるかのように全く動く気配がないということ。

あとは体に何やら魔術刻印が施されていることぐらいだ。

 

男が言う。

 

「フェニックス家のご息女たるあなたなら知っていますよね? 『フェニックスの涙』の製造法を」

 

「・・・・・ええ、もちろんですわ」

 

男の問いにレイヴェルは頷いた。

 

 

『フェニックスの涙』

 

 

それは純血のフェニックス家の者が、特殊な儀式を済ませた魔法陣の中で、用意された同じく特殊儀礼済の杯の中に自らの涙を落とすことにより精製させる。

 

この際、注意すべきなのは心を無にして流す涙でなければ、『フェニックスの涙』にならないということ。

 

感情のこもった涙は『その者の涙』となり、『フェニックスの涙』へと変化しなくなるのだ。

 

当然、レイヴェルもこのことは知っていた。

 

「ここは次元の狭間に作った『工場』なのですよ。――――『フェニックスの涙』を製造するための」

 

『っ!?』

 

男の言葉に三人は驚愕した。

 

メフィスト・フェレスから裏のマーケットで偽の涙が流されているのは知っていたが、まさか、この場所がそれの製造場所とは思いもよらなかったのだ。

 

驚く三人に追い討ちをかけるかのように男は更に驚愕の事実を告げた。

 

「そして、あのカプセルの中にいるのは上級悪魔フェニックスのクローンです」

 

それは決して知りたくなかった事実。

 

特にフェニックス家の長女であるレイヴェルにとっては耐え難いもので、

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

震える声を出すレイヴェル。

 

それほどまでに男が告げたことはレイヴェルの心を深く傷つけたのだ。

 

「あれを使って涙を製造し、かなりの回復力を持つものを作り出すことには成功しました。ですが、やはり本物と比較すれば劣るのです。魔法使い達の研究にもフェニックスの特性をコピーするには限界があるようでして、最終手段としてフェニックス関係者をさらって直接情報を引き出そうとしたのです。それでも、結局は純血の者でなければ分からないこともあったようなので、あなたに来てもらうことになったのですよ」

 

坦々と続ける男。

 

感情のこもってない他人事のような言葉。

 

自分達フェニックスのクローンを作り、涙を製造するためだけの『物』としてしか見ていない言葉。

 

その言葉がレイヴェルの心を更に傷つけていく。

 

「・・・・酷い・・・・・そんなのって・・・・・・酷いよ・・・・・どうしてクローンなんて・・・・・・・」

 

いつもは気丈なレイヴェルだが、今はただただ涙を流していた。

 

ショックを受けるレイヴェルに対し、小猫達が声をかけるがレイヴェルの耳には入ってこない。

 

そんなレイヴェルを気にもせずに男は魔法使い達に命じた。

 

「さて、それでは早速始めなさい。丁重に扱うのですよ?」

 

それだけ言うと、その男はその場をあとにした。

 

命令を受けた魔法使い達は三人を囲み準備を始めていく。

 

魔法陣を展開し、計測に使うのであろう機器を取り出し、セッティングを始める。

 

「そんじゃ、やりますか」

 

数分後、準備が整ったのか、魔法使いの一人がレイヴェルに手を向けた。

 

「うわああああああああっ!!!」

 

その時、ギャスパーの瞳が怪しく輝き、魔法使いの動きを止めた。

 

先程まで、大人しくしていたギャスパーの突然の反撃に魔法使い達は驚きを隠せないでいた。

 

その隙をついてギャスパーが叫ぶ。

 

「小猫ちゃん! レイヴェルさんを連れて逃げて! ここは僕が!」

 

縛られてはいるが、小猫の怪力ならば何とか解けるだろう。

自分が魔法使いを停止している間に小猫が拘束を解き、レイヴェルを連れて逃げる。

 

仮に解けなくても、自分が魔法使い達を少しでも長く停止させていれば、いつか助けが来てくれはず。

そう考えての行動だった。

 

何よりも、この場で唯一の男子だ。

 

(僕が守らなきゃ・・・・・僕が二人を守るんだ!)

 

しかし――――

 

「この吸血鬼がっ!」

 

 

バキィッ!

 

 

それはあまりにも多勢に無勢。

 

ギャスパーの視界の外にいた魔法使いがギャスパーを殴り付け、停止は呆気なく解けてしまった。

 

「嘗めた真似しやがって!」

 

「あうっ・・・・・・!」

 

停止させられた魔法使いは倒れ伏したギャスパーの腹を思いきり蹴り上げた。

 

自身を襲う激痛にギャスパーはその場に踞る。

 

「ギャーくんっ!」

 

「ギャスパーさん!」

 

小猫とレイヴェルの悲鳴が白い空間に響いた。

 

魔法使いは舌打ちしながら、倒れているギャスパーを指差す。

 

「おい、その吸血鬼に目隠ししとけ。また止められたら敵わん。あと、その猫又の拘束も強くしておけ」

 

「へいへい。バカなやつだなぁ。こっちはちょっと調べるだけだってのに。暴れなかったら痛い目に合わずに済んだのによ」

 

などと言いながら、言われた通りにギャスパーの目を塞ぎ、小猫の拘束を強めていく。

 

小猫も抵抗してみるが、強化された拘束は解けそうにない。

 

何より、この場から、ギャスパーとレイヴェルを連れて脱する手段が見つからなかった。

 

「それじゃあ、気を取り直して。調べさせてもらうぜ、フェニックスのお嬢さん」

 

魔法使いが再びレイヴェルに手をかざした。

 

手元に魔法陣が展開され、そこに描かれた魔術文字が高速で回転していく。

 

 

その時だった―――――

 

 

レイヴェルの足元に魔法陣が展開されたのは。

 

それは魔法使いが展開したものではない。

 

怪訝に思う魔法使い達だが、その間にも魔法陣の輝きが一層強くなっていく。

 

その輝きが弾け、周囲を光が覆った。

 

光りが止んだ時、そこにはレイヴェルの姿は無く――――

 

「よくも大事な後輩を誘拐してくれたな。覚悟は出来てるか、くされ魔法使い共」

 

 

赤龍帝、兵藤一誠とその『女王』アリス・オーディリアの姿があった。

 

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

 

 

 

 

[美羽 side]

 

 

 

「こ、ここは・・・・・・?」

 

魔法陣の輝きが治まり、ボクの前に現れたのはレイヴェルさん。

 

いきなり自分のいた場所が変わって混乱しているのか、部屋を見渡していた。

 

そんなレイヴェルさんに声をかける。

 

「ここはボク達の家だよ。正確にはアリスさんの部屋だけど」

 

「み、美羽さん!?」

 

「うん。レイヴェルさんは大丈夫? とりあえず、それ解くね」

 

そう言ってレイヴェルを縛っていた魔法による拘束を解いてあげた。

 

拘束が解かれたレイヴェルさんは手首を押さえながら、小さい声で訊いてきた。

 

「あの・・・・私、さっきまで・・・・・。どうしてここに?」

 

「えっとね。簡単に説明すると、レイヴェルさんとお兄ちゃん、そしてアリスさんの場所を入れ換えたんだ」

 

そう、ボクがやったのはお兄ちゃん達とレイヴェルさんの場所を入れ換える、入れ替わりの転移魔法。

 

以前、お兄ちゃん達の昇格試験の時に英雄派が仕掛けてきたことがあったけど、あの時にルフェイさんと黒歌さんがヴァーリさんとフェンリルの場所を入れ換えていたという。

 

その話を思い出したお兄ちゃんがいざという時のための保険としてボクに提案。

 

ボクがルフェイさんに術式を習って、少しアレンジした後、レイヴェルさんにこっそりマーキングを施しておいたというわけ。

 

仮にレイヴェルさんがさらわれても取り戻せるし、お兄ちゃんが行くことで問題の根っこを断ち切ることができる。

 

「黙っててごめんね。一応の保険だったし・・・・・・レイヴェルさんに不安をかけ過ぎるのもあれだからって」

 

まぁ、今となっては保険をかけておいて正解だったと思えるよ。

 

まさか、昼間の駒王学園を・・・・・・一般生徒を巻き込んでくるなんて考えてなかったからね。

 

「で、ですが、それではイッセーさまは・・・・・・。それに小猫さん達も・・・・・!」

 

慌てるレイヴェルさん。

 

その理由も理解できる。

 

今回、想定外だったのは昼間の学園を襲撃してきたこともそうだけど、それからもう一つ。

 

それは小猫ちゃんとギャスパーくんまでもが連れ去られてしまったこと。

 

ボクが用意したのはあくまでレイヴェルさんを取り戻す手段だから。

 

だけど・・・・・・

 

「問題ないよ。向こうにはお兄ちゃんだけじゃなくてアリスさんもいるから。それにボクがこっちに残ったのも会長さん達にこの事を伝えるためだし」

 

安心させるように、微笑みながらそう言った。

 

あの二人がそうやられるとは思えない。

 

・・・・・・と言うより、あの二人を倒せる相手ってそんなにいないと思う。

 

お兄ちゃんの作戦は向こうで二人が戦っている間に、ボクがレイヴェルさんを保護。

それから、こちらの準備を整えてから加勢に向かうというもの。

 

あの二人にもマーキングは施してあるから、場所は把握できているしね。

 

とりあえず、第一段階は成功。

 

これから、皆にも知らせないといけないんだけど・・・・・・。

 

ボクはレイヴェルさんの状態をもう一度確認する。

 

拘束されていたこと以外は外見には変化がない。

駒王学園の制服だし、破れているところもない。

これといったケガも見当たらない。

 

魔術的なものも感じないから、多分、体に何かをされたというのはないと思う。

 

だけど・・・・・・レイヴェルさんの頬には涙の跡。

今も瞳を潤ませている。

 

あのレイヴェルさんがこんなにも涙を流すなんて・・・・・。

 

きっと辛いものを見た、もしくは聞かされたのだろう。

 

「・・・・・何が・・・・あったの?」

 

ボクが改めて尋ねるとレイヴェルさんは――――

 

「うぅ・・・・・・美羽さん・・・・・私・・・・・あんな・・・・・・っ!」

 

―――――っ

 

大粒の涙を流し始めるレイヴェルさん。

 

ボクの胸にすがり付き、大声で泣き出した。

 

一体、レイヴェルさんに何があったというのだろう?

 

普通なら一刻でも早く話を聞かないといけない。

 

だけど、今は・・・・・今だけは―――――

 

「ボクが受け止めるよ・・・・・」

 

震えるレイヴェルさんの背中に手を回して、そっと抱き締めた。

 

 

今回の騒動を起こした魔法使い達は思い知ることになる。

 

 

この子を泣かせた自分達の罪を―――――。

 

 

 

[美羽 side out]

 

 

 

 

 

 

 




今回はイッセーの出番が一瞬だけでしたが、次回は活躍する予定です!


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10話 越えてはいけない一線

俺とアリスが転移してきたのは白い空間。

 

辺りを見渡すと目の前には何かの機器を手に持った魔法使いの集団。

 

右手側の向こう・・・・・・あれは培養カプセル?

 

中には・・・・・・人か、あれは?

 

まぁ、とにかく成功はしたみたいだな、入れ替わりの転移魔法は。

 

今頃、レイヴェルは美羽に保護されているはずだ。

 

何人かの魔法使いが声を漏らす。

 

「お、おい・・・・・どうなってんだ!? なんで、フェニックスの娘が赤龍帝に変わってんだよ!?」

 

「あの女の方も見覚えがあるぞ。赤龍帝の眷属だったはずだ!」

 

アリスの情報も持ってるわけか。

 

そういや、俺が昇格早々に眷属を得たのは冥界中に知られてたっけな・・・・・・・アザゼル先生のせいで。

・・・・・・キスシーンを大々的に号外に載せられて、アリスも赤面しながらキレてたな。

 

もちろん、後でアザゼル先生には鉄拳制裁加えといたけど。(主にアリスが)

 

実力の方は・・・・・・多分、魔獣騒動の時に知られてるだろう。

 

俺がいない間は美羽とティアを含めた三人で巨大魔獣を相手取ってたみたいだし。

 

俺は狼狽してる魔法使い達に告げた。

 

「残念だったな。レイヴェルはこっちで保護させてもらった。ここの場所は向こうでも把握してるだろうから、すぐに援軍が来る」

 

俺とアリスにもマーキングは施されているから、美羽にはここの場所が把握できている。

 

直ぐにソーナに知らせてくれるはずだ。

 

「クソッ! フェニックスの娘と入れ替えの転移をしてきたというわけか!」

 

「そんな、バカな!」

 

「いや、でも、ちょっと待てよ・・・・・・」

 

魔法使い達は狼狽えながらも、俺を下から上へと視線を移していく。

 

そして――――

 

「「「「どうして、赤龍帝は既にボロボロなんだ!?」」」」

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

そこぉぉぉぉぉぉぉぉ!?

 

驚くところ、そこぉぉぉぉぉぉぉぉ!?

 

もうちょっと、違うリアクションがあるだろぉぉぉぉ!?

 

「言っとくけど、おまえらのせいだからな!? タイミングが悪いんだよ! ・・・・・・いや、ある意味良かったけど」

 

確かに今の俺はボロボロだ!

戦闘も始まってないのに!

 

アリスの恥ずかしさと怒りが混じったアリスパンチが強烈過ぎて、家の壁が何枚か崩壊したからね!?

 

ただ・・・・・・

 

あのタイミングでなければ、アリスのあんなエッチでキュートな姿は見れなかっただろう!

 

そこだけはグッドだった!

 

ありがとう!

 

「あ、あああああんたねぇ! わ、忘れなさいって言ったでしょーが!」

 

うおっ!?

 

アリスが赤面しながら槍を振りかざしてきたぁ!?

 

「ゴメン! やっぱ無理! あんなの忘れられねーよ! もうしっかり脳内にインプットされてるし!」

 

出来ればまたやってほしい!

 

可愛いんだもん!

 

アリスさん・・・・・・・いや、ここはあえて、アリスちゃんと呼ばせていただこう!

 

アリスちゃん、萌える!

 

いつからそんなにエッチで可愛いやつになっちまったんだ!

 

昔は問答無用でアリスパンチを繰り出してきていたじゃないか!

 

今となってはそのギャップが素晴らしく思える!

 

「その記憶消してやるぅぅぅぅ! 記憶が飛ぶまで殴ってやるぅぅぅぅ!」

 

いやぁぁぁぁぁ!

 

そんなに雷をバチバチさせながら寄らないで!

 

また焦げる!

丸焦げになっちゃうから!

 

あんなの何発も食らったら身がもたんよ!

 

俺が白雷を纏ったアリスに詰め寄られていると、魔法使いの一人が叫んだ。

 

「おまえら何しに来たんだよ! こんなところで夫婦喧嘩してんじゃねぇよ!」

 

「「まだ(・・)夫婦じゃない!」」

 

「「「キレ方が微妙に違う!?」」」

 

俺とアリスの反論にツッコミを入れる魔法使い達。

 

そりゃあ、アリスともずっと一緒にいるって誓ったけど、まだ結婚したわけじゃないからね!

 

もちろん、必ず嫁にはもらうけど!

 

誰にもやらねぇよ!

 

・・・・・・ちなみに、俺とアリスの関係が進んでからは美羽の時と同様に父さんと母さんが何やら動いているようで。

 

この間、美羽に続いてアリスにも色んなパンフレットを見せてるのを見かけたが・・・・・・。

 

ま、それは追々ということで。

 

「・・・・・イッセー先輩」

 

声をかけられ、振り向くとそこには手を縛られた小猫ちゃん。

 

それから・・・・・・同様に手を縛られた状態で床に踞るギャスパーの姿が。

 

「小猫ちゃん、大丈夫か? 今すぐに解いてやるからな。アリスはギャスパーを頼む」

 

「わかったわ。ギャスパーくん、大丈夫?」

 

そう言って、俺は小猫ちゃん、アリスはギャスパーの拘束を解いていく。

 

解放された小猫ちゃんは涙を浮かべながら抱きついてきた。

 

「・・・・・ゴメン、なさい・・・・っ! 私がもっと強ければギャーくんはこんな目に・・・・・・。それに、レイヴェルも・・・・・・!」

 

俺は小猫ちゃんの震える体を受け止め、頭を撫でながら尋ねた。

 

「・・・・・ギャスパーは一体?」

 

「・・・・・ギャーくんは私とレイヴェルを守ろうとして・・・・それで・・・・・っ!」

 

見れば、ギャスパーの頬は青く腫れていて、表情もぐったりしていた。

 

・・・・・そうか、ギャスパーは二人を守ろうとしたんだな。

 

おまえは、本当に強くなったよ。

ここぞというときに、どうしようもないくらい男を見せてくれる。

 

ギャスパーのことを理解したところで、俺はもう一つ小猫ちゃんに訊いた。

 

「それで、レイヴェルも・・・・っていうのは?」

 

はぐれ魔法使い達はレイヴェルをここに連れてきて何をしようとした?

 

そもそも、ここって一体―――――

 

「・・・・・ここは偽の涙を製造する『工場』で・・・・・レイヴェルはあれを見せられました・・・・・」

 

小猫ちゃんが指を指したのはあの培養カプセル。

 

あれがレイヴェルに関係しているのか?

 

怪訝に思う俺だが・・・・・・

 

「・・・・あの中にいるのはフェニックス関係者のクローンです」

 

「―――――っ!?」

 

あのカプセルにいるのが、フェニックスのクローン!?

 

まさか、あれを使って偽の涙を製造してやがったのか!?

 

なんてことを・・・・・・・!

はぐれ魔法使い共は命をなんだと思ってやがるんだ!

 

俺が驚愕に包まれるなか、小猫ちゃんは更に体を震わせていく。

 

「・・・・・レイヴェルは泣いてたんです・・・・・どうしてって・・・・・私、何も・・・・・」

 

「もう、いいよ。それ以上はもう言わなくていい」

 

俺は小猫ちゃんを強く抱き締めて、その言葉を遮った。

 

俺の制服は小猫ちゃんが流した涙で濡れている。

 

よっぽど悔しかったのだろう。

目の前で友達が傷つけられて、それを見ていることしか出来なかった自分が許せないんだ。

 

レイヴェルもあんなのを見せられて、どれだけ心が傷つけられたか・・・・・・。

 

そして、ギャスパーも・・・・・・。

 

握り締めた拳に血が滲む。

だけど、いくら爪が肉に食い込もうとも痛みは感じなかった。

 

それ以上に自身の不甲斐なさで一杯だったからだ。

 

こんなことなら、もっと・・・・・もっと警戒するべきだった!

 

昼間の学園だから・・・・・三大勢力の同盟圏内だからと心のどこかでは油断していたのかもしれない。

 

俺も・・・・・そんな自分が許せない・・・・・っ!

 

だから・・・・・・だからさ――――

 

「アリス・・・・・・」

 

「ええ。わかっているわ、イッセー」

 

俺とアリスはその場にゆっくりと立ち上がる。

 

振り返ると、いつの間にか増えていた魔法使い共。

増援を呼んだか。

 

ざっと、四、五十人はいる。

 

まぁ、そんなものは関係ない。

 

俺とアリスの足元に亀裂が入ると、それは俺達を中心にみるみる広がっていく。

 

「「―――――死にたいやつから前に出ろ」」

 

俺とアリスの声が重なる。

 

赤いオーラと白雷が膨れ上がり、周囲を破壊していく。

 

「ただし、五体満足でいられると思うな」

 

「せいぜい自分達が犯した罪の重さを感じることね」

 

俺達の殺気がこの空間を支配する。

 

こいつらは一線を越えた。

絶対に手を出してはいけない領域に触れてしまった。

 

そのツケはしっかりと払ってもらう。

 

魔法使いの一人が叫んだ。

 

「はっ! たった二人でこの人数を相手にしようってのか! そいつは傑作だ!」

 

その魔法使いが指を鳴らす。

 

刹那、この場にいる魔法使い全員が攻撃魔法の魔法陣を展開し始める。

 

「やれるものならやってみろよ! 赤龍帝さんよ!」

 

それが開始の合図となる。

 

怒濤のごとく、炎、水、氷、雷、風、光、闇、あらゆる属性の魔法がこちらに向けて放たれる。

 

使役している魔物の群れも突っ込んで来た。

 

放たれた魔法と魔物を合わせれば相当な数だ。

無数とも思えるほど。

 

「イッセー先輩!」

 

小猫ちゃんが悲鳴をあげる。

 

そんな小猫ちゃんに俺は微笑みを返してあげた。

 

大丈夫、何も問題はないさ。

 

俺は赤いオーラを全身から放った。

激しく、燃え盛る炎のように荒々しいオーラは先程よりも更に膨れ上がり、濃密なものとなっていく。

 

形作られるのは巨大な赤い龍。

封印される前のドライグを模した、雄大で威厳のある姿。

 

赤い龍は翼を広げるとアリスと後ろにいる小猫ちゃんとギャスパーを取り込む。

 

そして―――――

 

 

ゴアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

 

雷鳴のごとき赤い龍の咆哮。

それだけで、降り注ぐ魔法を消し去り、向かって来ていた魔物の群を吹き飛ばす。

 

「な、なんだよ、あれは・・・・・・・!? 今のを一蹴した・・・・・・!?」

 

辺りを爆煙が包むなか、所々から驚愕する声が聞こえてくる。

 

それを聞いてドライグが呆れるように言った。

 

『今の程度であの反応か。随分と下調べが荒いんだな、はぐれ魔法使い共は。いや、ここに来る前に倒した奴らの言葉から察するに・・・・・・分かっていて、面白半分で挑んできたのか? ふん、どちらにしろ愚かな奴らだ』

 

全くだな。

 

まぁ、今更後悔したところでもう遅い。

 

「今度はこっちからいくぜ」

 

「加減は?」

 

「あとで情報は聞き出したいしな。死なない程度で頼む」

 

俺の言葉に頷くとアリスは一歩前に出る。

 

一歩・・・・・・たった一歩だけだというのに凄まじい重圧が後ろにいる俺達にも伝わってくる。

 

それは当然、殺気を直接向けられている魔法使い共にも。

 

魔法使い共は白雷姫の逆鱗にも触れたようだ。

 

アリスは槍をくるくる回すと逆手に持って構える。

 

銀色の槍を白い雷が覆う。

 

アリスは腰を沈めると、更に踏み出した足に力を籠め――――

 

「――――白の槍砲(アスプロス・ヴリマ)ッ!!」

 

槍を投擲した!

 

ソニックブームと共に投げ出された槍は通過したところの床を大きく抉り、ミサイルのごとく定めた狙いへと突き進む!

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

槍が着弾した場所が大きく爆ぜた。

空間が激しく揺れて、小猫ちゃんですら尻餅をつくほど。

爆風と雷が巻き起こり、魔法使い共を包んでいった。

 

次第に煙は治まり、視界が開けていく。

 

見えてきたのは床に深々と突き刺さった槍とそれを中心にまるで爆撃でも受けたかのように崩壊した床面。

 

・・・・・・アリスのやつ、いきなり大技使ったな。

ほとんど砲撃じゃん。

 

「ゲホッゲホッ・・・・あいつら、化け物かよ!」

 

「おい! ボスを呼べ!」

 

「もう連絡してる! それより、どうすんだよ!」

 

魔法使い達の悲鳴が空間に響く。

 

ボス・・・・・?

 

今回の首謀者はここにいないのか?

 

「なぁ、小猫ちゃん。こいつらの親玉って見た?」

 

「はい。レイヴェルに目的を告げた後にどこかへ行ってしまいました」

 

そうなると、そいつが来るまで待つか?

 

多分、この場にいるのは下端だろうし、出来ることならそいつを取っ捕まえたいところなんたけど・・・・。

 

「なんにしても、まずは目の前の奴らを倒してからにしましょう」

 

そう言うアリスの手には雷でできた紐らしきものが握られている。

それを辿って行くと、槍の柄の部分とくっついていた。

 

アリスが紐をグイッと引っ張ると、それにつられて槍がアリスの手元に戻ってくる。

 

槍を手にしたアリスが言う。

 

「とりあえず、こちらの初手はこんな感じかしら?」

 

「こんなもんだろ。・・・・さて、今ので半分は片が付いたとして・・・・残りはざっと二十。左半分は任せた」

 

「了解よ、主様」

 

ハハハ・・・・主様、ね。

 

そういう風に言われるのは少しこそばゆいけど・・・・・ま、いっか。

 

「それじゃあ・・・・いくぞ!」

 

「オッケー!」

 

そう言うと俺とアリスは床を蹴って飛び出していく。

 

アリスの一撃で上手い具合に真ん中で戦力を分断できた。

 

俺は右半分の魔法使いを片付ける!

 

まずはこちらに手を突き出している魔法使い!

展開された魔法陣は召喚用!

数を増やされるのも面倒だからこいつを狙う!

 

「そらっ!」

 

気弾を放って魔法陣を破壊!

気弾はそのままの勢いで魔法使いに直撃して、壁の方まで吹き飛ばした!

 

「相手は一人だ! 囲んで一斉に狙え!」

 

ここにいるリーダー格らしき魔法使いの指示で他の魔法使いが散開し、俺を囲みこむ。

 

多対一の状況で個人の実力で劣るなら数の利を活かせばいい。

そして、数の利を活かすなら相手を囲みこむのが手っ取り早い。

 

その方がこちらは対処しづらいからな。

特に背後・・・・死角からの攻撃は反応に遅れが生じる。

 

良い判断だとは思う。

 

魔法使いたちは一斉に魔法陣を展開し始める。

それも自分たちの正面だけでなく、空中、更には俺の足元にも魔法陣が描かれていく。

 

四方八方、あらゆる角度から集中砲火するつもりなんだな。

 

『それにこの数だ。一人一人の実力は並よりも上だと言える』

 

そうか。

 

それでも、このレベルなら関係ないねぇ!

 

この程度なら―――――

 

「全て凪ぎ払えば済むことだ!」

 

気を纏わせた拳を横凪ぎに振るう!

 

生み出された衝撃波が降りかかる大岩、氷の槍、炎の雨、それら全てを破壊した!

 

「囲まれたくらいでやられるようじゃ、俺はとっくの昔に死んでるよ」

 

自分達の一斉攻撃が呆気なく防がれたのを見て、魔法使い達は呆然となる。

 

こっちは終わりに近いな。

 

アリスの方はというと―――――

 

「なんだよ、この女!」

 

「動きが速すぎて攻撃が当たらねぇ!」

 

という魔法使い達の焦りの声が聞こえてきた。

 

こちらは魔法使い達が列になって陣形を組み、あらゆる属性の攻撃魔法をマシンガンのごとく次々に連射していた。

 

しかし、それはアリスに全く当たる気配がない。

 

雷の残像を残す高速移動によって、完全に翻弄されていた。

 

「あんた達、その程度で私達に挑んできたの? 数で推せば倒せるとでも? 考えが甘いのよ。魔法使いのくせに頭が悪いのね。・・・・・あ、そっか。そんなだから協会から追放されたんだったわね。忘れてたわ」

 

ハハハハ・・・・スゲー毒舌吐いてるよ。

 

アリスって、こういう相手の時って容赦なく毒舌になるよね。

 

しかも、言われた方は間違いなく激情する言い方なもんで・・・・。

 

「このクソアマァァァァァァッ!!」

 

おーおー、挑発に乗ってる乗ってる。

焦りの中に明らかな怒りが見えるな。

 

やっぱりアリスって挑発するの上手いわ。

 

さっすが、元王女。

 

『・・・・性格が悪いのではないのか?』

 

いや、それはないな。

 

書類仕事サボる以外は良い子だもん。

いつもは優しくて可愛い性格してるぜ?

 

すると、アリスが叫んだ。

 

「書類は眠たくなるの! あれは私の天敵よ! あと、こんな時に優しくて可愛いなんて言わないで!」

 

「戦闘中になに人の心読んでくれてんの!? つーか、書類が天敵ってどういうことだ!?」

 

「天敵は天敵よ!」

 

「克服しろよ! 君、俺の『女王』なの分かってる!? 少しは同じ『女王』の朱乃を見習え!」

 

「そのうち!」

 

うわぁぁぁぁぁん!

 

ダメだ、この人!

克服する気ゼロじゃん!

 

やっぱり、これから俺の眷属に必要なのは仕事ができる子だよ!

 

つーか、アリスまでもが残念美人になりかかってない!?

 

いかん!

それはいかんぞ!

 

それだけは阻止せねば!

 

今度はそんな俺達のやり取りを聞いた魔法使いが叫んだ。

 

「おまえら! 何度、夫婦喧嘩すれば気が済むんだよ!」

 

それを聞いた瞬間―――――

 

 

 

「おまえらなぁ・・・・っ」

 

「何度言えば分かるのよ・・・・・っ」

 

 

 

「「まだ(・・)夫婦じゃないって言ってるでしょーが!」」

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

 

赤い砲撃と白い雷が魔法使い達を吹き飛ばした。

 

『いや、なぜそこで怒るのか、俺には全くもって分からんのだが・・・・』

 

んー・・・・なんとなく、かな?

 

今は恋人って感じで、そこは今後の目標というか・・・・。

 

まぁ、確かに最近ではお互いにしてほしいことが分かるようになってきたけど。

あれ取ってとか、これして、みたいな感じのことは言う前に分かるんだよね。

 

あ、それは美羽も同じか。

 

『それは・・・・・夫婦だな。熟年レベルの』

 

そっか。

それじゃあ、夫婦だな。

 

俺とアリスが大暴れしたことで、魔法使い達は壊滅。

全員が戦闘不能となった。

 

美羽がソーナ達を連れて転移してきたのはその直後だった。

 



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11話 黒幕、登場です!

本作の夜のシーンを別で書いてみました。
興味のある方はこちらもどうぞ(18歳未満はダメですよー)


「そういうわけで、学園の破損箇所は後程修復します。美羽さんの魔法で眠っていた生徒達を含め全校生徒は全て下校させました」

 

魔法使いを倒した俺は転移してきたソーナから報告を受けていた。

 

転移してきたメンバーは駒王町に残ったオカ研メンバーとシトリー眷属。

中にはレイヴェルもいて、表情は少し辛そうだが、隣に小猫ちゃんがいてくれているし、今はそちらに任せよう。

 

ソーナに続き、真羅先輩が口を開く。

 

「アザゼル先生が置いていかれた生徒の記憶をつかさどる装置が役に立ちました。魔法使いに襲撃されたという生達の記憶を『変質者が校内に侵入して、学校が臨時休校となった』というものに置き換えてあります」

 

アザゼル先生が抜け目ないおかげで、その辺りは問題なさそうだな。

 

ただ、この記憶の改変はあんまりやると記憶に悪影響が出るらしく、本来は限定条件をつけてやるそうだ。

それで、今回は変質者が「校内に侵入した」って設定に塗り替えたのか。

 

「破壊された場所については?」

 

「それは緊急の補修作業が同じ日に重なったというものに記憶を変換しています。・・・・あのような騒ぎがあったのに、学校から抜け出した者がいなくて幸いでした。携帯機器などで記録したであろうものについても三大勢力のバックアップでなんとかなりそうです」

 

と、ソーナは教えてくれた。

 

つまり、魔法使いや俺達の正体を含め、学園の裏の顔はバレずに済んだってわけか。

 

いや、でも・・・・・

 

真羅先輩が悔しそうにする。

 

「今回のことでショックを受けた生徒の心の傷は完全には消えません。記憶は変えられても体験した恐怖までは書き換えられませんから・・・・」

 

・・・・そうだよな。

 

あの人質にされた女子生徒。

 

魔法使いの記憶はなくなっても、怖い者に襲われたトラウマは残る。

きっと、家に帰った今でもそのことが頭から離れずに震えているかもしれない。

 

魔法使いのせいなのは間違いない。

 

でも、学園の生徒までもが被害を受けたのは学園が一般人に偽って運営していることが問題でもある・・・・か。

 

異形の存在が、一般人に紛れて生活をしている。

特に俺達のように前線で戦い続けて、敵の多い者達がそれをすることは、周囲を巻き込むことに繋がる。

 

今回はそれを深く痛感したよ。

 

そりゃあ、悪魔は悪魔らしく冥界にいれば、一般の人間を巻き込まずに済んだだろう。

 

でも、人間界で暮らしたい、勉強したいというリアスやソーナ達の気持ちは本物で・・・・・。

 

俺だって生まれ育ったあの町にいたい。

 

一般人からすれば勝手なわがままに聞こえるだろうけど、それでも俺達は―――――。

 

「えっと、ずっと気になってたんだけど、その二人は・・・・?」

 

などと考えていると美羽がとある二人を指さしてソーナに訊いていた。

 

視線を移すと大柄な男性とローブを被った小柄な何者か。

 

男性の方は灰色の髪をしていて、前髪が長く、目元が隠れている。

整った顔立ちだ。

 

・・・で、一番気になってたのがその横のローブの人。

 

仮面を被り、鎌を持った姿は完全に死神なんだよね。

 

ソーナが連れてきたってことは大丈夫なんだろうけど・・・・。

 

ソーナが答える。

 

「この二人は私の新しい眷属です。こちらの男性は駒王学園大学部に在籍するルー・ガルーさんです」

 

すると、男性は無骨そうな反応と言葉少なに、

 

「・・・・・ルー・ガルーだ。シトリー眷属の『戦車』をすることになった」

 

そう呟いた。

 

シトリーの『戦車』ときましたか!

そういや、新しい眷属がなんとかって聞いてはいたが、この人がそうだったのか!

 

つーか、大学部にこんな体格の良い人いたっけ!?

 

驚く俺に真羅先輩が言う。

 

「私達はルガールさんと呼んでいます。兵藤くんもそのように呼んであげてください」

 

「は、はぁ・・・・」

 

ルガールさんね。

 

うーむ、中々にテンション低めな人だが・・・・何か話す話題とかあるだろうか。

 

続いてソーナは死神の方の紹介をし出す。

 

「こちらは私の新しい『騎士』で、名前は―――」

 

《あっしはベンニーアと申します。元死神の悪魔ですぜ》

 

ベンニーアと名乗った死神が仮面を外すと――――そこにあったのは中学生くらいの女の子の顔だった!

 

いや、性別は気の流れで分かってたけど、今までのイメージってもんがあるからね!?

少し驚いたよ!

 

深い紫色の長髪と金の瞳。

眠たそうな目をした可愛い女の子!

 

よく見たら、死神の印の鎌には可愛いドクロの装飾がある!

そんなところでも女の子してるのか!

 

ロリっ子死神じゃないか!

 

「死神を眷属にしたの!?」

 

驚く俺に会長は頷く。

 

「ええ、ベンニーアは死神です。と言っても死神と人間のハーフ、半神ですが」

 

「最上級死神の一角、オルクスの娘なんだって。驚きだろう?」

 

匙が追加情報をくれた。

 

最上級死神の娘って・・・・・。

最上級死神のプルートは鎧を纏った先生と五分にやり合う実力者だったけど、そのオルクスってのが同レベルって考えると・・・・・。

 

こいつは、凄い力を秘めてたりするかもね・・・・。

 

真羅先輩が言う。

 

「元々『騎士』のあては別の人だったのですが、その方の都合がつかなくなりまして。そこに彼女が現れまして――――」

 

《あっしが名乗りでたんすよ。ハーデスさまのやり方についていけなくなったのでこっちに寝返ることにしやした》

 

な、なるほど・・・・・。

 

まぁ、あの骸骨神さま見てたらそういう人が出てもおかしくはないかなって思えるけど・・・・・。

 

「怪しさは凄まじいものでしたが、ある一点で信頼することにしました」

 

「ある一点?」

 

俺がソーナに問うと・・・・・ロリっ子死神が俺に色紙を突き出してきた。

 

《おっぱいドラゴンの旦那。あっし、旦那の大ファンですぜ。ほら、マントの裏はおっぱいドラゴンの刺繍って具合です。サインをひとつお願いできませんかね?》

 

あ、ほんとだ。

 

マントの裏に鎧の俺が刺繍されてる!

 

「これって自分で縫ったの?」

 

《もちろんですぜ。あっし、こう見えても裁縫は得意なんです。いやー、これから旦那の近くで働けるとなると胸が躍りやすぜ》

 

うん、この子、ルフェイと同じだわ。

ルフェイも初めて会った時にサインねだってきたしなぁ。

 

俺は色紙を受けとるとサラサラっとサインを書いていく。

イベントとかで書き慣れてきたから、サインも大分と上達したな。

 

《ありがとうございやす。こいつは一生の宝ですぜ》

 

ハハハ・・・・。

まぁ、そう言ってくれると素直に嬉しいよ。

 

さて、とりあえず現状の確認とソーナの新眷属の紹介は終わったな。

 

俺は魔法使いを拘束しているイリナに声をかける。

 

「イリナ、そいつら意識あるよな?」

 

「一応ね。・・・・まさか、二人で殴り込みかけるなんて。イッセー君って相変わらず無茶苦茶するよね」

 

息を吐きながら、少し呆れ気味に言う。

 

まぁ、このレベルなら問題ないしな。

アリスもいたから、楽だったし。

 

俺は項垂れている魔法使いに近づくと、目の前でしゃがんで問いただす。

 

「おい、おまえらが言ってたボスはどこにいる? この場には来ていないようだが?」

 

そう、こいつらを率いているというボス、つまりは今回の件の首謀者が未だに姿を現していない。

戦闘開始直後に連絡を入れていたのは確認できたが、それから時間は経っている。

 

「・・・・し、知らない。ボスの居場所は俺達、下の者には教えられてないんだって・・・・」

 

「・・・・本当、か?」

 

「ひっ・・・・ほ、本当なんだ!」

 

殺気をぶつけながら再度問うと震えながら答えてきた。

 

・・・・戦闘前とは別人だな。

 

でも、嘘は言ってなさそうだ。

それに下の者には出来るだけ情報は与えないっていう考えも理解できる。

 

そうなると、今回はミスったな。

 

首謀者捕まえて一気に終わらせたかったんだけど・・・・・

 

「噂通りですね」

 

―――――っ

 

突然の第三者の声。

 

俺達の正面、少し距離を置いたところに銀色の魔法陣が展開される。

 

そこから現れたのは装飾の凝った銀色のローブに身を包む何者か。

フードを深く被っているせいで、顔はわからないが声からして男だ。

 

この気の質、誰かに似ているような・・・・・。

 

その男の登場に小猫ちゃんが鋭い視線を向けているのが見えた。

 

俺はそいつに視線を向けながら立ち上がり、尋ねる。

 

「おまえが黒幕か」

 

「ええ、そうです」

 

即答か。

 

こいつが魔法使いが言ってたボスで間違いなさそうだ。

 

ソーナが男に問う。

 

「あなたは『禍の団』なのですか? フェニックス家の息女であるレイヴェルさんを拐った理由は・・・・あれを見れば一応の理解はできました。それを行ったあなた方の精神までは理解できませんが」

 

ソーナは培養カプセルの方を一瞥した後、男に嫌悪の視線を向ける。

 

「しかし、昼間の学園を襲撃した理由にはなりませんね。彼女を拐うなら私達がいる時よりも一人になった時の方が実行しやすかったのではありませんか?」

 

それはそうだ。

 

態々昼間の学園を襲撃しなくても、レイヴェルが一人になる機会を待てばいいだけの話だ。

 

その方がこいつらにとっても俺達と戦闘になるリスクが少なくて良いはずなんだ。

 

「まずは一つめの質問にお答えしましょう、シトリー家次期当主。私は現在『禍の団』をさせてもらっています。次に魔法使いが昼に攻撃を仕掛けたのは、単純に彼らが待ちきれなかっただけのことです。それと好奇心があった、といったところでしょうか」

 

「今回の襲撃はもしかして、協会が出した若手悪魔の評価が関連してますか? 兵藤一誠くんを襲った魔法使いがランクについて言及しながら、攻撃を加えてきたと聞いています」

 

「ええ、そうです。彼らは協会が出した若手悪魔の評価が気になったようでして。自分の魔法が通じるかどうか試したくなったそうです。本来なら、少し時間を置いた後にあなた方へ連絡を入れ、再度挑戦する予定だったそうですが、それは叶いませんでしたね」

 

俺とアリスが来なければ、こいつらは調子に乗ってそんなふざけたことをするつもりだった、と・・・・。

どこまでも身勝手すぎる。

 

男は続ける。

 

「若い魔法使いが多いため、自制が効きにくいところがあったのですよ」

 

それを聞いてソーナが納得したように頷く。

 

「『禍の団』で最大派閥を誇っていた旧魔王派、そして英雄派。この二大派閥が無くなり、組織の勢力図が乱れて、彼らの意見も通りやすかったということですね?」

 

「もはや、シャルバ・ベルゼブブと曹操はいませんので。今は私がその一部を指揮しているのですが・・・・それが中々に大変でして。今回は上の意向もあって、彼らのわがままを叶えた形になりました」

 

男の言葉に疑問を覚えた俺は二人の会話に口を挟む。

 

「ちょっと待て。上の意向だと? おまえが『禍の団』を纏めあげているやつじゃないのか?」

 

「ええ。私はある方より、指示を受けて動いているに過ぎません」

 

ある方・・・・・・?

そいつが先生が言っていた『禍の団』の残党を纏めあげている奴ってことなのか?

 

俺の疑問が更に深まる中、男はローブを翻して改まる。

 

「さて、今回の一件についてご理解いただいたところで、我々からの要求を聞いてもらいましょう。あなた達のような強者と戦いたいと願う者がいるので、お相手をしてもらえませんか? 私があなた方が揃うまで待っていたのはこの為なのですよ」

 

そう言う男は俺達との間に巨大な陣を作り出していく。

光が床を走り、円を描いて輝きだした。

 

お相手?

俺達と戦わせたいやつがいるってのか?

 

それから、あの魔法陣。

あれには見覚えがある。

 

あのでっかい龍王、ミドガルズオルムの意識を招き寄せた時に使ったのと似ている。

 

匙が声を漏らす。

 

龍門(ドラゴン・ゲート)?」

 

そう、それ!

力のあるドラゴンを招くってやつだ!

 

確か龍門って呼び寄せるドラゴンの色が出るはずだ。

 

ドライグは赤、アルビオンは白、ティアは青、ヴリトラは黒、ファーブニルは金、玉龍(ウーロン)は緑、ミドガルズオルムは灰色、そしてタンニーンのおっさんは紫だ。

 

目の前に展開されている龍門の輝きは緑。

 

「緑・・・・五大龍王の一角、玉龍? なんで、龍王がここにーーーー」

 

それに玉龍は初代孫悟空と一緒にいるはずだ。

『禍の団』に加担するような真似をするだろうか?

 

疑問に思う俺だが、ソーナが首を横に振った。

 

「・・・・・いえ、あの色は緑ではありません。更に深い・・・」

 

そう言われて見れば確かに色が濃い。

深緑?

 

「深緑を司るドラゴンっていたっけ・・・・?」

 

イリナがぼそりとそう呟いた。

 

『まさか・・・。いや、しかし奴は・・・・・』

 

ドライグには心当たりがあるようだ。

 

「いたのですよ。過去に深緑を司るドラゴンがね」

 

銀色のローブの男がそう言い放つと、龍門の魔法陣が輝きをいっそう深くして、ついに弾けた!

 

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

 

白い空間全てを震わせるほどの声量!

 

俺達の眼前に出現したのは浅黒い鱗をした二本足で立つ巨大な怪物。

太い手足、鋭い爪と牙と角、巨大な両翼を広げ、長く大きい尾を持ったドラゴン。

 

というよりは、ドラゴンの特徴を持った巨人って感じだ。

尾も羽もあるし、頭部なんて完全にドラゴンだ。

 

「伝説のドラゴン、『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデル」

 

突如現れた巨大なドラゴンのギラギラした戦意と殺気がこの空間を満たしていった――――――

 

 

 

 



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12話 邪龍と戦います!

先日投稿した本作の夜の情事を描いた小説なんですが・・・・・投稿初日でお気に入り数が100に達していて驚きました。
もうビックリです Σ(゚д゚;) ワオッ!!

今後は本編も書きながら、そちらの方も続けて投稿しようと思います。




『グハハハハ! 久方ぶりに龍門なんてもんを潜ったぞ! さーて、俺の相手はどいつだ! いるんだろう? 俺好みのクソ強ぇ野郎がよぉ!』

 

巨大なドラゴンが鋭い牙が並ぶ口を大きく開けて笑う。

 

大きさでいえばタンニーンのおっさんに匹敵するほどの巨体。

感じられる波動はどうみても龍王クラス・・・・・いや、それ以上だ。

 

ただ、タンニーンのおっさんやティアとは明らかに違う。

姿形は当然だが、それ以上に身に纏うオーラの質があまりに禍々しい。

見ているだけで邪悪さがうかがえるほどにドス黒いオーラを放っていやがる。

 

匙のかげから人間サイズの黒い蛇――――ヴリトラが現れる。

 

ヴリトラは目の輝きを濁らせながら、驚きに包まれた声音を漏らす。

 

『グレンデル・・・・・ッ!?』

 

『バカな・・・・。奴は初代英雄ベオウルフによってとうの昔に滅ぼされたはずだ。俺が滅ぼされるずっと前にな・・・・』

 

ドライグも驚きを隠せないようだった。

 

グレンデル・・・・その名前はつい最近聞いた名前だ。

俺が邪龍について先生に尋ねた時にこいつの名前を出していたからな。

 

ヴリトラと俺に視線を配らせる巨大なドラゴン――――グレンデル。

 

『こいつはまた面白ぇ。天龍、赤いのか! ヴリトラもいやがる! なんだよ、その格好はよ?』

 

興味深そうに銀の双眸を細めるグレンデル。

 

「二天龍は既に滅ぼされ、神器に封印されてますよ」

 

ローブの男がそう解説すると、グレンデルは哄笑をあげる。

 

『グハハハハ! んだよ! おめぇらもやられたのかよ! ざまぁねぇな! なーにが、天龍だ! 滅ぼされてんじゃねぇか! まぁ、確かに目覚めにはちょうどいい相手だっ!』

 

グレンデルはひとしきり笑った後、更にオーラを滲ませる。

 

こいつは俺も本気でやらないとマズいな。

 

俺は鎧を纏ってソーナに言う。

 

「ソーナ、拘束した魔法使い達を冥界に転送してくれ。巻き込んで死なれでもしたら、捕まえた意味がない」

 

「わかりました。椿姫、手伝ってください」

 

ソーナは頷くと真羅先輩と共に魔法使い達を転移させていく。

 

美羽とアリスが俺の隣に並び、構えを取る。

 

「ここにきて面倒そうな相手が出てきたわね」

 

「邪龍は相当しつこいってアザゼル先生もいってたし、ボク達もやるよ」

 

ああ、ドライグですらそんなこと言ってたな。

ついでに、アルビオンも同じことを思っているだろうとも。

 

ドライグがグレンデルに訊く。

 

『グレンデル、いったいどうやって現世に蘇った?』

 

『細けぇことはいいじゃねぇか。ようはよ、強ぇ俺がいて、強ぇおまえがいる。それならやることは一つだろ? ぶっ殺し合いの開始じゃねぇか!』

 

再び体勢を低くして、グレンデルはこちらに飛びかかる姿勢を整えた。

 

『相棒、奴はただ暴れるしか頭のない異常なドラゴンだ。やるなら徹底的に潰せ。微塵も情けをかけるな』

 

ドライグがここまで言うなんてな。

目の前のドラゴンはそれだけ頭のおかしいドラゴンってことか。

 

ドライグの言葉を聞いて、グレンデルは嬉しそうに言い放つ。

 

『言うじゃねぇか! おい、おまえら、気が変わったぜ。ドライグとサシでやらせろ』

 

・・・・・そうきたか。

 

いや、それはそれでありだな。

 

「やってやろうじゃねぇか。皆はあのローブの男を見張ってくれ。あいつはどこか不気味だ」

 

俺がグレンデルとやっている間、あの男にまで意識を回せるかと問われると微妙なところだ。

 

その間、ローブの男が何かをしてこないとは限らない。

 

「了解。主様のご命令じゃ従うわ。ね、美羽ちゃん?」

 

「でも、気をつけて。相手は強敵だよ」

 

分かってるさ。

 

奴が強いのは鎧越しに伝わるこのオーラで十分に理解できる。

 

俺はグレンデルと睨み合うと―――――床を思いっきり蹴って前方に飛び出した!

 

それを見てグレンデルは愉快そうに笑んだ。

 

『おほっ! いいじゃねぇかよぉぉぉぉ! 真正面からか! そうだよ、そういうのがいいんだ!』

 

グレンデルの巨大な拳が俺に飛んでくる!

 

このオーラの波動!

しかも、鋭い!

龍王クラスは伊達じゃないってか!

まともに受ければ、俺でもかなりのダメージは受ける!

 

だったら、避けるまでだ!

 

拳が当たる直前に残像を残して、上へと飛ぶ!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

拳が空を切り、体勢が前屈みになったその瞬間を狙って、気を纏わせた一撃をグレンデルの顔面目掛けてカウンター気味にぶちこむっ!

 

グレンデルは大きく後ろに吹き飛ばされるが、壁に衝突する一歩手前のところで踏ん張り、静止する。

 

タイミングは完璧だった。

それなりのダメージは与えたと思うが・・・・・

 

『・・・・んだよ、こんなもんかよ』

 

「なっ!?」

 

まともに入ったはずなのに、奴は平気な顔をして、口から少しばかり流れた青い血を拭っていた。

 

おいおい今のをくらってその反応かよ・・・・。

 

流石に倒すまではいかなくても、膝はつかせたと思ったんだが・・・・・。

 

グレンデルが鼻息を荒くして愚痴を吐き捨てる。

 

『そんな拳じゃ、俺には届かねぇよ! なぁ、ドライグ! 昔のおまえはもっとイカれた程に強かったじゃねぇか! 封印されて、雑魚くなったもんだなぁ、おい!』

 

雑魚、か・・・・。

そりゃあ、封印される前は地上最強の二天龍とさえ呼ばれたドライグと比べると俺は劣るだろうさ。

 

「なるほど、確かに邪龍ってのは面倒らしいな」

 

『だから言っただろう。嫌になったと。グレンデルは滅んだドラゴンの中でも最硬の鱗を誇っていた。生半可な攻撃は通じんぞ?』

 

ああ、たった少しのやり取りだったけど、よーく分かったよ。

 

こいつは――――全力で潰すしかなさそうだ。

 

「なぁ、おまえ、真正面からの殴り合いが好みなんだろ?」

 

『ああ、そうだぜ。だからよぉ、もっと強いやつをよこせよ!』

 

「・・・・・だったら見せてやるよ」

 

 

バチ バチチチッ

 

 

俺の周囲をスパークが飛び交う。

鎧が変化し、各所にブースターが増設されていく。

 

目の前の邪龍の防御力は並外れている。

それなら、こいつを倒すにはこれが適してるだろ。

 

「禁手第二階層――――天武。さぁ、来いよグレンデル! こいつで、てめぇを完膚なきまでに叩き潰す!」

 

俺の変化を見て、グレンデルが再び哄笑をあげた。

 

『おもしれぇ! 明らかにさっきよりも強くなったじゃねぇかよぉぉぉぉぉぉ!』

 

グレンデルが飛び出した!

想像以上に速い!

 

俺はグレンデルに挑むようにして前に出る!

やるなら真正面から!

 

 

パァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

俺の赤い拳とグレンデルの巨大な拳が衝突する!

 

力は互角!

完全に拮抗してる!

 

『いいじゃねぇかよぉぉぉぉっ!! そういうのを待ってたんだよぉぉぉぉぉぉっ!!!』

 

「はっ! この程度で満足するんじゃねぇ!!」

 

そう叫ぶと籠手に増設されたブースターからオーラを噴出させて、拳の勢いを上げていく!

 

確かにこいつのオーラは龍王クラス以上のものを感じる。

 

だがな、パワー勝負は俺の土俵!

こっちは龍王二体を同時に相手取って修行してたんだ!

 

『Accel Booster!!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

倍加により、上乗せされるパワー!

拳の勢いが遥かに増して、拮抗を破った!

 

グレンデルの拳が押し負け、俺の拳がグレンデルの顔面に炸裂する!

その威力にグレンデルの体が宙に浮いた!

 

だが・・・・・・

 

『痛ぇな! 最高に痛ぇじゃねぇかよっ!』

 

今のを食らっても狂ったような笑みを浮かべてやがる・・・・・!

 

殴った時の感触・・・・・確かにこいつの鱗は硬すぎる。

タンニーンのおっさんでも食らえば結構なダメージはいくってのに・・・・・。

 

なんて防御力の高さだ・・・・・っ!

 

『いくぜぇぇぇえ! ドライグちゃんよぉぉぉぉっ!』

 

グレンデルが空中で宙返りしたと思うと―――――口から巨大な火炎球を吐き出した!

 

「デカイッ!」

 

俺は迫る火炎球を右腕を凪いで弾き飛ばす。

 

あらぬ方向に飛んでいった火炎球は壁に衝突し、大爆発を起こした!

衝撃波が空間を大きく揺らす!

 

ちっ・・・・下手に戦えば後ろの皆にも被害がいくか・・・・。

美羽やアリス、ソーナもいるから大丈夫だとは思うが・・・・。

 

などと思慮していると―――――グレンデルが翼を大きく広げて距離を詰めていた!

 

デカイ拳を振り下ろしてくる!

上から飛行してくる勢いもプラスされていて、その凶悪さは見ただけで分かる!

 

こいつを受けるのは不味い!

 

瞬時にそう判断した俺は床を蹴って横に飛ぶ。

 

ここで避ければ奴は確実に床と衝突する。

 

その衝間を狙って蹴りをぶちこむ――――つもりだった。

 

『グハハハハハ! それで避けたつもりかよ!』

 

「なにっ!?」

 

奴は床と衝突する直前に急旋回して、こちらに向かってきやがった!

 

そして、そのままの勢いで巨大な拳が俺を襲う!

 

咄嗟に腕をクロスして防いだものの、その勢いで俺は近くの壁に叩きつけられた!

 

「ガッ・・・・どんな反応してやがるんだよ・・・! 無茶苦茶しやがる・・・・っ!」

 

『どういうわけか、奴は以前より強くなっている。元々高かった防御力もそうだが、攻撃力もスピードも増しているようだ』

 

パワーアップしてるってか・・・・・。

 

滅ぼされた邪龍が今こうして目の前にいて、しかもパワーアップまでしてる・・・?

 

どういうことだ・・・・・?

 

『ぺちゃんこになっちまぇよぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

壁にめり込んでいる俺にグレンデルが飛び蹴りを繰り出してくる!

 

ちぃっ!

 

考えるのは後だ!

今はこいつを倒すことに集中しろ!

 

 

ドンッ!!

 

 

俺は全身からオーラを噴出させて、それを全て前方――――グレンデルへとぶつける!

 

「おおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

咆哮と共にオーラの嵐が吹き荒れる!

 

『おおっ!?』

 

赤いオーラの嵐が突っ込んできていたグレンデルを吹き飛ばした!

 

「反撃いくぜぇぇぇぇぇっ!!!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

全身のブースターからオーラを噴射させて体勢を崩したグレンデルへと突っ込む!

 

アスカロン! 

おまえの力借りるぜ!

 

左腕の籠手に納められているアスカロンとオーラを同調させて、全身に龍殺しのオーラを纏わせる!

 

相手の鱗がいかに硬くてもドラゴンには変わりがない。

 

つまり、アスカロンの龍殺しの力には抗えない!

 

『Ignition Booster!!!!』

 

全身のブースターからオーラが爆発し、一気にグレンデルの懐に入り込んだ!

 

「まずは一発!」

 

下から抉るような鋭いアッパーがグレンデルの顎を捉えた!

グレンデルの口から青い血が吹き出す!

 

だが、こいつの防御力と邪龍の性質を考えれば、これで倒せるとは思えない。

 

横合いから何かが飛んでくる。

グレンデルの尾を使った反撃だ。

 

太く長い尾が鞭のようにしなって、そのまま振り抜かれ――――――――俺の体をすり抜けた。

 

『あぁ? どうなってん・・・・・ガッ!』

 

目を見開くグレンデルの言葉を遮るように俺は上からかかと落としを食らわせる!

 

「おまえが見てたのは残像だ。目だけで動きを追ってるようじゃ、まだまだだ!」

 

そこから腰の捻りを加えた回し蹴りをグレンデルの側頭部にぶつけ、床に叩きつける!

床が大きく陥没し巨大なクレーターが生じた!

 

グレンデルは直ぐに立ち上がり、

 

『いいな! いいじゃねぇか、おい! そいつが―――――』

 

「ぐだぐだ喋る暇があるのか? 余裕だな――――――――――プロモーション『戦車』ッ」

 

『戦車』への昇格で俺の攻撃力と防御力が底上げされた。

まぁ、今回必要なのは攻撃力だけで十分だけどな。

 

こいつの攻撃は威力もあるしスピードもある・・・・・が、当たらなければどうということはない。

 

俺は昇格すると同時に『領域』へと突入。

視界から色が消えた―――――――――――――――

 

「――――――当てられるもんなら当ててみろよ。今の俺が立つ場所はおまえの理解の外だ」

 

上下、左右、加えて前後。

グレンデルの周りを縦横無尽に駆け巡り、ありとあらゆる角度から攻撃を加えていく!

 

グレンデルが時折、反撃を仕掛けてくるが今の俺には全ての動きがスローに見える。

その巨大な拳が突き出された時には俺は既に奴の背後。

 

俺が拳打を浴びせるたびにグレンデルの硬い鱗が爆ぜ、血が噴出す!

 

ズキッと拳が痛み出した。

 

ちっ・・・流石に拳の方にもダメージが来てるな。

それだけこいつの鱗は硬く、突破しにくい。

 

更に言うなら、『領域』もまだまだ長時間はもたせられない。

 

―――――――――そろそろ決めるか。

 

 

カシャ カシャ

 

 

右腕の籠手、そこのブースターが大きく展開する。

すると、そこから赤い――――燃え盛る炎のようなオーラが発せられた。

右手が荒々しい紅蓮の輝きを放つ―――――

 

その手で全身から血を噴き出しながらよろめくグレンデルの頭を掴んだ。

 

「シャイニング・バンカァァァァアアアアアッ!!!!」

 

『Pile Period!!!!』

 

 

灼熱の炎が掌から巻き起こり―――――――――大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・・・ふぅ・・・・・」

 

天武を解いた俺は肩を上下に揺らしながら、大きく息を吐いた。

 

眼前の巨大なクレーターの中央には頭が半分消し飛んだ状態で倒れ伏すグレンデルの姿。

翼も片方失ってるし、肩のあたりなんて骨がむき出しだ。

 

わずかに気は感じられるが・・・・これで動けるかと聞かれれば、それはないだろう。

 

流石にここまで力を出すと疲れるな。

 

それに・・・・・

 

俺は籠手に視線を落とす。

 

殴ったこっちが痛くなるってどんだけ硬いんだよ・・・・・。

 

『どうやったかは分からんが、グレンデルの鱗の硬度は以前よりも遙かに強化されていたようだ。相棒の拳打を受けて笑っていたからな』

 

全くだ。

もう二度と戦いたくない相手だよ。

 

さて、残る問題は――――――――――

 

銀のローブの男に視線を移そうとした時だった。

 

・・・・・・俺の視界に信じられない光景が映る。

 

・・・・・・グレンデルが・・・・・立ち上がっていく。

 

奴はよろめきながら立ち上がると、首をこきこき鳴らせた。

 

右半分がない口からは壊れた蛇口のように青い血が流れ落ちている。

 

・・・・・おいおい、マジかよ!

そんな状態で立ち上がれるってのか・・・・!?

 

驚愕する俺にグレンデルは半壊した顔で笑みを浮かべた。

 

『いいぜ、おまえ・・・! 最高じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ! ああ、殺し合いはこうでねぇと面白くねぇよ! これだ! こいつが俺の求めていた殺し合いってもんだぁぁぁぁぁぁ! もっとだ! もっと、とことんまで、どっちの体が木端微塵になって死ぬまで、殺し合おうぜぇぇぇぇぇっ!!!!!』

 

邪龍はしつこいって聞いていたけど・・・・・これは異常過ぎる!

普通なら死んでもおかしくない状態なんだぞ・・・・・!?

しかも、龍殺しが効いてないのか!?

 

『今のを受けて、そのような状態で嬉嬉として立ち上がるというのか・・・・!? イカれたドラゴンめ・・・・!』

 

ドライグも吐き捨てるように奴を嫌悪していた。

 

おかしい・・・・!

こいつはどう考えてもおかし過ぎる・・・・!

 

奴は腹部を三度膨らませる。

 

また火炎を吐く気か!

 

俺は思考を切り替えて、再び戦闘態勢に入った。

 

しかし、グレンデルは体の向きを変えて――――――――

 

『でもよ、その前に予定変更だっ! てめぇら、全員ぶっ殺しだぜぇぇぇぇ!』

 

俺の仲間に特大の火炎球を吐き出した!

 

「やらせないよ!」

 

「私も続きますわ!」

 

「くっ!」

 

美羽に続き、朱乃とロスヴァイセさんが前に立っ強力な防御魔方陣を幾重にも展開し、一面に張り巡らせた!

 

「――――水よ」

 

静かで力強い青色のオーラを身に纏わせるソーナ。

その周囲に集まった水が仲間全員を覆い、壁となって巨大な火炎球から皆を守った!

 

四人によって張り巡らされた防御魔方陣と水の壁によって火炎球は何とか防がれたが――――――

 

俺はドスの利いた低い声音で言った。

 

「おい・・・俺とサシでやろうって言い出したのはおまえだろうが・・・・ッ!」

 

しかし、奴は醜悪な笑みを浮かべて、

 

『あぁ、そんなことも言ったなぁ。わりぃな、ぶっ殺すのが好きなもんでよぉ、適度に殺しを入れていかないと盛り上がらねぇんだわ。ま、防がれちまったがよ。おまえの仲間も強ぇじゃねぇかよぉ。やっぱり全員ぶっ殺しだぁ! 殴って! なぶって! 踏んで! いたぶり殺してやんぜぇぇぇぇぇぇぇ!』

 

・・・・・狂ってやがる!

 

頭半分消し飛んで、余計におかしくなったのか?

いや、元からかもしれないな。

 

「イッセー、私達も出るわ。いいわね?」

 

「もう一対一に付き合う必要はないよ」

 

俺の横に移動してきたアリスと美羽が構えながら言う。

 

「ああ、向こうがそのつもりなら、こっちもそれでいいさ。だが、気をつけろ。奴は既に死んでもおかしくない傷を負ってるのにあれだ。奴はとことん狂ってやがるぜ」

 

ここから先はこの場にいる仲間たちとグレンデルの戦い。

 

倒すことは可能だろうが、こいつは異常なドラゴン。

 

アーシアには後方から回復のオーラを送ってもらうとして、護衛には―――――――――――

 

 

 

そこまで思考を張り巡らせた時だった。

 

 

 

ボコッ ボゴッ

 

 

奇妙な音と共にグレンデルの足元・・・・・奴の血が染み込んだ床が盛り上がる。

 

数か所が俺の腰くらいの高さまで盛り上がると、そこから更に形を変えていく。

 

少しすると、それは二メートルほどの大きさになり、歪ではあるが頭、手、足、翼、尾とはっきりと形が分かるものになった。

 

 

「あれは――――――――」

 

 

俺の――――――いや、正確には俺と共にあいつと戦ったメンバーは目を見開いて声を漏らす。

 

目の前で起きた現象は完全に見覚えのあるもので―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「眷獣・・・・だと!?」

 

 

 




というわけで、本作200話目はイッセーとグレンデルの戦いがメインとなりました。


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13話 召喚! 黄金龍君!

俺の眼前では信じられないような現象が起きていた。

 

俺の攻撃によって良く言ってもズタボロになったグレンデル。

 

奴があの状態から立ち上がったこともそうだが・・・・。

 

奴の全身から噴水のように噴き出す青い血。

それが染み込んだ床が――――盛り上がり、頭や腕、足とはっきり分かるものが出来上がっていく。

最終的には二メートルほどの高さにまで大きくなった。

 

その姿は完全に小型のドラゴン。

 

それが八体。

 

今の現象には見覚えがあった。

 

「眷獣・・・・・だと!?」

 

そう、今の現象はあいつの―――――ロスウォードの眷獣が誕生するのと同じものだ。

 

まず頭に浮かんだ可能性としては、グレンデルもロスウォードと似たような能力が使えるということ。

 

しかし・・・・

 

『いや・・・・・違う。奴にはそんな能力はなかった。どういうことだ・・・・・?』

 

ドライグに完全否定された。

 

・・・・・だったら、どうしてだ!?

 

なんで、奴が眷獣を生み出したんだよ!?

 

突然のことに混乱する俺だが、小型のドラゴンの一体と目があった。

 

 

ドクンッ

 

 

「――――――っ!?」

 

いきなり、胸の奥が熱くなった。

 

なんだ・・・・これ・・・・・は・・・!?

体の内側が焼けるように・・・・熱い・・・・っ!

息が詰まる・・・・・!

 

あまりの苦しさに俺はその場に膝をついてしまった。

 

「お兄ちゃん!?」

 

「イッセー!?」

 

側にいた美羽とアリスが倒れそうになる俺を驚きながらも支えてくれる。

 

しかし、それでもこの苦しみが和らぐことはなく・・・・・

 

「はっ・・・はっ・・・・なん、だよ・・・・これ・・・・っ」

 

呼吸が乱れて、鎧まで解けてしまう。

 

ふと下を見ると赤いものが、俺から零れ落ちているのがわかった。

 

・・・・・・血だ。

 

 

「イッセー君!?」

 

俺の異変に朱乃達や冷静なソーナまでもが驚いているようだった。

 

ヤバい・・・・頭痛が・・・・目眩がする・・・・っ!

 

苦しむ俺を横目にグレンデルが銀のローブの男に問う。

 

『あぁ? んだ、こいつら? おい、おまえら、俺の体に何しやがった?』

 

グレンデルは知らない・・・・・?

それにおまえら・・・・?

 

ローブの男が答える。

 

「それはあなたの血を媒介にして作り出した魔獣の類いですよ。あの方に術の確認をするように言われていたのですが発動には問題なさそうですね。問題はどれほどの力を発揮するかですが」

 

『あぁ、あのガキかよ。勝手なことしやがってよぉ』

 

あの方・・・・・ガキ・・・・?

 

そいつが全ての黒幕・・・・?

 

 

 

――――やつは・・・・・まで・・・・ろ――――

 

 

 

頭の中に声が響いた。

上手く聞きとれなくて、何を言っているのか分からない。

 

ただ、敵意、殺意の籠った声だった。

覇龍を使った時に歴代の赤龍帝達は呪詛が籠ったような声を出すが、それとは違ってて・・・・殺意の強さも桁違いに強い。

 

それにこれは小型ドラゴン・・・・・いや、違う。

この場にいない者に向けられている・・・・・?

 

グレンデルが舌打ちをしながら言う。

 

『おい、あいつらは全員、俺がぶち殺すんだよぉ。こいつらは邪魔だ』

 

「ダメですよ。これも私が受けた指示なのですから。あなたは赤龍帝と戦えれば十分でしょう? それとも、また骸と化したいですか?」

 

『ちっ・・・・そいつを言われちまったら従うしかあんめぇよ。だがよ、ドライグとの殺し合いはやらせてもらうぜ』

 

「ええ。存分に」

 

骸?

どういうことだ?

 

苦痛に襲われながら疑問を抱える俺だが・・・・・・

 

そんな俺の元に小型ドラゴンが数体、その大きな顎を開いて襲いかかってきた!

 

クソッ・・・・体が動かねぇ・・・・っ!

 

「何してるのよ、あんたは!」

 

動けない俺の襟首を掴んでアリスと美羽が一度後方に下がる。

 

「あれの足止めをして!」

 

アリスの指示にゼノヴィアとイリナ、二人の剣士が飛び出し、一体の小型ドラゴンへと斬りかかる!

 

「イッセーはやらせん!」

 

「ええ! 幼馴染みは守ってみせるわ!」

 

ゼノヴィアが天閃と破壊の組み合わせで、剣速と威力を高めた剣戟を繰り出し、その首を斬り落とした!

そのまま宙に飛んだ頭を高速の斬戟で細切れにしていく!

 

動きが止まったところをイリナが氷の仕様にした量産型聖魔剣で本体を氷漬けにして完全に動きを封じた!

 

二人とも元教会コンビだけあって流石のコンビネーション。

あっという間に一体倒しやがった。

 

 

しかし―――――

 

 

パキンッという音と共に氷に亀裂が入った。

 

次第にそのヒビは大きくなり・・・・・遂には頭部を失った小型ドラゴンが氷の中から出てきてしまった。

 

「こいつも奴らと同じなのか・・・・!」

 

ゼノヴィアが剣を構えて舌打ちする。

 

「二人とも!」

 

「そこを離れてください!」

 

そこに撃ち込まれるのは朱乃とロスヴァイセさんの二人から放たれる特大の雷光と魔法のフルバースト!

 

ゼノヴィアとイリナは大きく横に飛んで回避。

 

まともに受けた小型ドラゴンは完全に塵一つ残さず消え去った。

 

そこから復活する気配はなし、か。

 

やっぱり、あいつらもロスウォードの眷獣と同じだ。

塵にするくらいの攻撃を与えないと止まらない。

 

それを見たソーナが口を開く。

 

「あれは・・・・・もしや、あなた達が向こうで戦ったという?」

 

「ええ。あれは頭が無くなろうと胸を貫かれようとも動き続ける怪物ですわ。今のように完全に消滅させなければ倒すことは出来ません」

 

朱乃が自分の体験を語った。

 

今ので一体は倒せたが、まだ七体もいる。

加えてグレンデルだ。

 

グレンデルは体が半壊しているような状態なのに戦意は未だに衰えていない。

 

『さっきの続きといこうぜぇ! ドライグゥゥゥゥゥ!』

 

グレンデルがこっちに向かってきた!

しかも、速い!

あいつ、本当に化け物かよ!

 

クソッ・・・・体が・・・・さっきの影響か・・・!?

力が入らねぇ・・・・!

 

この場の全員が体勢を整えようとするが、俺を守りながらじゃ、グレンデルの相手はキツイ!

 

しかも他の小型ドラゴンも一斉に向かってきている!

 

このままじゃ・・・・!

 

「私がイッセーさんを守ります!」

 

力の入らない体を無理矢理動かそうとした時だった。

思いもよらない者が前に出た。

 

―――――アーシアだ。

 

「アーシア!? ダメだ、下がれ!」

 

俺が驚愕しながらも、そう叫ぶがアーシアは首を横に振った。

 

そして、力強く呪文を唱え始めた!

アーシアの前方に金色に輝く魔法陣が出現する!

 

「――――我が呼び声に応えたまえ、黄金の王よ。地を這い、我が褒美を受けよ」

 

その呪文を受けて、魔法陣はいっそう輝きを強くした!

 

いきなりの光景にグレンデルと小型ドラゴン達も動きを止めている。

 

よく見るとその魔法陣は龍門だった。

金色の龍門。

 

まさか――――――

 

「お出でください! 黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)! ファーブニルさんっ!」

 

アーシアが呪文を唱え終わった瞬間、呼び声に応じた者が姿を現す!

 

黄金の魔法陣より出現したのは―――――金色の鱗を持つ、巨大な四肢動物のドラゴン。

雄大なオーラを放つ、全長十数メートルはある翼のないドラゴン。

 

って、ファーブニル!?

先生と契約してた、あの五大龍王の!?

 

驚く俺にソーナが説明してくれる。

 

「アザゼル先生は前線を引かれましたからね。龍王との契約を解除したそうです。ただ、そのまま返すのもなんだからとアーシアさんとの契約を促したそうです」

 

先生が前線を引くのは知ってたけど・・・・・いやはや、まさかアーシアに龍王と契約させるとはなぁ。

 

そういや、アーシアは魔物使いの才能があるって聞いたな。

それで、アーシアの壁役になる強い魔物を探してるってのも聞いてたが・・・・・。

 

ソーナは続ける。

 

「リアスから聞いていた通り、契約を結べたようですね。龍神オーフィスの加護を得られたのも納得できます」

 

「そういえば、別れ際にそんなことも・・・・」

 

「先生によるとアーシアさんのオーラにオーフィスの神通力らしきものが付与され始めたそうです。直接の能力向上はないものの、ご利益によって運勢やドラゴンとの相性が底上げされていたそうです。オーフィス自身も加護を与えている自覚は無かったようですから、無自覚のうちにアーシアさんに感謝の念を送っていたのでしょう」

 

へぇ、そんなことになってたのか。

 

「・・・俺には? いつも後ろに付いて来てるんだけど・・・・」

 

「・・・・イッセーくんの場合は加護というよりも憑かれたと言った方が適切でしょう」

 

何それ!?

 

俺、憑かれたの!?

龍神さまに憑かれちゃったの!?

 

ちょっと待て・・・・。

 

イグニスさんよ。

あんたは俺に加護とかないの?

女神なんだし、少しくらいなら・・・・・ね?

 

『加護がほしいの? じゃあ、おっぱいあげるわ』

 

それは加護じゃないと思うんですけど!

 

ダメだ!

聞いた俺が間違ってた!

 

ま、まぁ、とにかく、アーシアはファーブニルと契約を結べたんだな!

スゲーよ!

 

ファーブニルの角に巻いてある布らしきものはきっとまじないなんだろうな。

 

「アーシアって何か代価を支払ったのか? 龍王との契約だし、何かありそうなんだけど」

 

俺の場合はティアを使い魔にする際、戦闘を通して納得してもらったんだけど・・・・。

 

アーシアが戦って契約したってのはないだろう。

つーか、そんなアーシアは想像できん。

 

「・・・・そ、それは・・・・私の口からは・・・・」

 

俺の問いにソーナが口ごもる。

 

え、何その反応・・・・・。

 

まさかと思うが――――

 

「まさか命とか!? 何年か分の命を差し出したとか!?」

 

「いえ、そういうわけではないのですが・・・・・確かに代償は大きかったようですが・・・・」

 

「なっ!? それなら、尚更聞かないといけない! アーシアは俺の家族なんだ! 教えてくれ! アーシアは一体、何を犠牲にしたんのかを!」

 

「・・・・・ツ・・・・です」

 

「ゴメン、聞こえない! ハッキリとお願いします!」

 

頬を赤く染めるソーナに俺は再度問い出す!

 

すると、アーシアが恥ずかしさ満点で叫んだ!

 

「パンツです!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「なぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃ!?」

 

 

パンツ・・・・・!

 

アーシアのパンツだと!?

 

あ、あの角に巻かれている布!

あれ、女物のパンツだ!

 

ファーブニルが重い口を開いた。

 

『お宝、おパンティー、いただきました。俺様、おパンティー、うれしい』

 

 

 

・・・・・おパンティー

 

 

 

なんてこった・・・・・こいつは・・・・・こいつは―――――

 

 

 

変態だ!

 

 

 

 

 

パンツを代価に契約に応じる龍王だと!?

 

おかしい!

おかしいよ!

グレンデルよりおかしいよ!

 

「先生は何を与えてたんだ!? パンツか!? 先生もパンツなのか!?」

 

「先生はきちんとした宝物を与えていたようですよ」

 

それを聞いて安心した!

 

『安心できるかぁぁぁぁぁ!!! どうなっている!? なぜだ! 何があったんだ、ファーブニルよ!?』

 

ドライグさんが叫んだ!

 

いや、全くもってその通りだよ!

 

恥ずかしさに耐えながらアーシアはパンツ龍王に頼み込んだ。

 

「ファーブニルさん! イッセーさんを守っていただけますか?」

 

『いいよ。――――お宝、ちょーだい』

 

「・・・・わ、分かりました。契約の対価ですね・・・」

 

アーシアは恥辱に耐えながら、ポシェットから――――水色の可愛らしいパンツを取り出した。

 

それを見てゼノヴィアとイリナが叫ぶ!

 

「あれはアーシアのお気に入りのパンツだ!」

 

「アーシアさん、それあげちゃうの!?」

 

お気に入りだったのか!

 

レイナもアーシアの両肩を掴んで言う。

 

「お宝ならもっと他の物があるでしょ!?」

 

ごもっともだよ!

 

『アーシアたんのおパンティー、お宝。これ以上ないお宝』

 

うぅ・・・・!

それも・・・・・ごもっとも!

 

確かにアーシアのおパンティーはお宝だ!

 

「そこで納得しない!」

 

「ゴフッ!」

 

アリスパンチが俺の後頭部を捉えた!

動けないってのに容赦ねぇな!

 

「アーシアが差し出すことはない! 私のをやろう!」

 

イリナがゼノヴィアを制止する。

 

「待って、ゼノヴィア! その戦闘服の下にパンツ穿いてないじゃないの!」

 

「くっ! ファーブニル! 私の戦闘服じゃ不服か!?」

 

戦闘服を脱ごうとするゼノヴィア!

ゼノヴィアのアーシアへの友情は凄まじいものがある!

 

というより、それはそれでお宝だと思うぞ!

 

『俺様、金髪美少女のおパンティーがいい。パンツシスターのお宝欲しい』

 

「うちのアーシアちゃんはパンツシスターじゃありません!」

 

俺は力の入らない体で叫んだ!

 

酷いよ!

こんなのあんまりだ!

 

リアスとアリスはスイッチ姫の称号得ちゃうし、今度はアーシアがパンツシスターだなんて!

 

クソッ!

このままじゃ、俺はパンツによって守られることになるのか!

 

『相棒! 今すぐティアマットを呼べ! あんなのに守られるくらいなら、ティアマットに守られる方が遥かにマシだ!』

 

「いや、それもダメだ!」

 

ティアだって龍王なんだぞ!

ドラゴンに誇りを持ってるんだぞ!

 

同じ五大龍王がパンツ龍王だなんて知ったら、そのショックは計り知れない!

 

俺はティアを傷つけたくないんだ!

 

「え、ダメだった? もう呼んじゃったんだけど・・・・」

 

「・・・・・え?」

 

美羽の言葉に聞き返す俺。

 

俺達とグレンデル達の間に魔法陣が展開される。

 

それは青い龍門で―――――

 

「・・・・グレンデル、か。確か滅ぼされたはずだが・・・・。イッセー、無事か?」

 

ティアがこちらを振り向いたのはファーブニルがおパンティーを受け取るのと同時だった。

 



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14話 不死身の心

まず結論から言わせてもらおう。

 

 

 

 

ティアが参戦したことにより、グレンデルとグレンデルから生まれた小型ドラゴンは何とかなった。

 

グレンデルはティアとアリス、美羽の三人で相手取ったこともあり、未だに意識はあるものの、手足は切断されていて、俺と一対一でやり合った時から更にボロボロに。

 

眷獣と思われる小型ドラゴンはあれとの戦闘経験がある他のオカ研メンバーがオフェンスに回り、サポート力に優れるシトリー眷属が中衛、後衛を勤めることで難なく倒すことができた。

全て塵一つ残すことなく消え去った。

 

負傷したメンバーについてはアーシアがすぐに回復のオーラを送っていたので、重傷者はいない。

 

それはいい。

 

皆が無事で本当によかったと思う。

 

 

 

 

――――――代償は大きかったが。

 

 

 

 

「パンツ・・・・? パンツ龍王・・・・?」

 

ティアが精神的に大ダメージを受けてしまった!

 

俺の隣で!

体操座りで!

何かブツブツ言ってるんですけど!

 

「ご、ごめんね・・・・。変なタイミングで呼んじゃって・・・・・」

 

「げ、元気出してよ・・・・。うん、ティアさんはあんなパンツ龍王と違ってちゃんと龍王やってると思うわよ?」

 

うちの『女王』と『僧侶』がティアの背中を擦りながら慰めてる!

 

特にあのタイミングで呼んでしまった美羽は何とも言えない表情してるし!

 

『・・・・ティアマット・・・・その気持ち、分かるぞ』

 

『・・・・・昔のファーブニルはあんなのではなかったはずだが・・・・』

 

ドライグとヴリトラも相当にショックを受けているようだ。

 

そうか、昔はあんなのじゃなかったのか。

まともな龍王だったんだな。

 

「ティアはさ・・・・その、気にすることないって。今まで通りドラゴンの誇りを持って龍王を続けていってくれ・・・・・・な?」

 

たとえファーブニルがパンツ龍王になろうとも、ティアはティアだ!

これからも最強の龍王で俺の頼れるお姉さんでいいと思うんだ!

 

しかし・・・・

 

「ドラゴンの誇り・・・・? 龍王・・・・? ナニソレ、オイシイノ?」

 

「イッセェェェェェッ!! ティアさんが壊れたぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「しかも片言だよ!? 外国人タレントみたいになってるよ!?」

 

もうイヤだ!

なんでこんなことになってんの!?

 

意味がわからねぇ!

 

アーシアはパンツシスターになっちまうし、ティアは外国人タレントになっちまった!

 

全部あのパンツ龍王のせいだ!

 

『アーシアたんのおパンティー、くんかくんか』

 

「くんかくんかすんなぁぁぁぁぁっ!!」

 

あの野郎、鼻に引っ掛かったアーシアのおパンティーのニオイを嗅いでるよ!

鼻の穴を思いっきり広げて堪能してやがる!

すごく香りを楽しんでやがるよ!

 

何なの、あの龍王!?

 

あと、おまえが『アーシアたん』とか呼ぶな!

 

匙がゲンナリしながら、ヴリトラに訊く。

 

「な、なぁ、ファーブニルって本当に昔はまともだったのか?」

 

『うむ。黄金や宝剣といった宝には目がなかったが、それでもあんなのではなかった。・・・・・奴は一度滅ぼされて、北欧の神々に再生された。その時にバグが生じたのかもしれん・・・・』

 

と、ヴリトラは考察付きで教えてくれた。

 

そういや、ファーブニルって魔帝剣グラムで一度倒されたんだっけ?

今は木場がそれを持っているわけだが・・・・・。

 

なるほど、それならまだファーブニルに同情の余地はあるかもしれない。

 

だって復活させたのがあのオーディンのエロ爺さんが主神の神話だもん。

ありそうじゃん。

 

『もしくは、アザゼルが人工神器に封じる時に何かやらかしたか、だな』

 

「うん、それ超ありそう!」

 

あの人のことだから、『ドラゴンだし龍王だし頑丈そうだから色々試してみっか!』なんて言って無茶苦茶やりそうだよ!

 

ふざけ半分でやってそうだ!

 

すると、先程まで美羽とアリスに励まされていたティアがすくっと立ち上がった。

 

「ティア? ど、どした?」

 

(そうか・・・・)(そういうことだったのか・・・・)

 

何やらまだブツブツ呟いているが・・・・・・。

 

次の瞬間―――――

 

「アザゼルか! アザゼルがやったに違いない! おのれ、ドラゴンを侮辱しよって! ぶっ殺してやるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

ティアが暴走し出した!?

青いオーラが嵐のように吹き荒れてる!

 

いつも冷静なティアがキレてるよ!

 

「と、止めろぉぉぉぉぉぉ! 皆でティアを止めるんだ! 何やらかすか分からんぞ! つーか、このままじゃ確実に先生が死ぬ!」

 

 

 

 

~そのころのアザ☆ゼル先生~

 

 

 

「っ!?」

 

「どうしたの、アザゼル?」

 

「い、いや・・・・何かとてつもない殺気が俺に向けられたような気がして・・・・・」

 

「?」

 

「まぁ、気にすんな、リアス。・・・・多分、気のせいだとは・・・・思う」

 

 

 

それは気のせいではなかった。

 

 

 

~そのころのアザ☆ゼル先生、終~

 

 

 

「ふー・・・・ふー・・・・・」

 

 

息を荒くしながらも全員で止めに入ったこともあり、とりあえずは落ち着いてくれたティア。

 

こ、怖かった・・・・・。

 

あれが龍の逆鱗か・・・・・。

 

『くんかくんか』

 

「くんかくんかすんなよ! この変態龍王ォォォォォッ!」

 

あぁ・・・・・もうやだ、このパンツ龍王。

 

ツッコミきれねぇ・・・・。

 

ぼろ雑巾のようになったグレンデルを囲むように魔法陣が展開される。

 

「流石に龍王に二体も来られればこうなりますか。グレンデル、もう良いですね? ・・・・・と言っても既に戦うことは出来ない体ですが」

 

『・・・・チッ』

 

銀のローブの男の言葉に舌打ちで返すグレンデル。

 

あいつ、手足全てを失ってるのに、まだ戦うつもりだったのかよ。

 

「実験は成功していましたし、十分なデータは取れました。ここは引きますよ」

 

グレンデルを囲んでいた魔法陣が輝くと――――グレンデルの姿は消えていた。

 

それを確認して、ローブの男はフードを取り払った。

 

そこにあったのは銀髪の青年――――。

 

その顔にはどことなく見覚えがあって・・・・・どこかで会ったような・・・・・。

 

銀髪の男が言う。

 

「私はルキフグス。ユーグリット・ルキフグスです」

 

―――――っ!

 

ルキフグス・・・・・ルキフグス!?

 

「あんた・・・・グレイフィアさんの・・・・?」

 

「ええ。私はグレイフィア・ルキフグスの弟です」

 

なるほど・・・・・どうりで気の質も似ているわけだ。

 

「あんたがボスってわけじゃないんだろう? じゃあ、誰が『禍の団』の残党をまとめあげたっていうんだ!?」

 

匙が訊くが、男――――ユーグリットは目元を細めるだけだった。

 

「その正体はいずれわかりますよ」

 

ユーグリットの正体を聞いてソーナは何かを得心した。

 

「・・・・なるほど。この町に侵入し、魔法使いを招き入れたのはあなたですね? グレイフィアさまと同質のオーラを有する者であれば、結界を通過できてもおかしくはありません」

 

っ!

 

そうか・・・・そういうことか。

 

ユーグリットは静かに口を開く。

 

「グレモリーの従僕に成り下がった姉に伝えておいてください。――――あなたがルキフグスの役目を放棄して自由に生きるのであれば、私にもその権利はある、と」

 

それだけ言い残すと、ユーグリット・ルキフグスと名乗った男は魔法陣に消えていった―――――

 

それと同時にこのフィールドの端々が役目を終えたように崩れ出していく。

 

空間が崩壊し始め、次元の狭間特有の万華鏡の中身みたいな景色が見えだしていた。

 

あれだけ暴れれば、こうなるのも当然か。

 

「この領域は崩壊するようです! 早く脱出しましょう!」

 

「皆! 魔法陣に乗って!」

 

ソーナの指示のもと、美羽が展開した転移魔法陣の上に全員が飛び込む。

 

すると、レイヴェルが手元に小型魔法陣を発生させて培養カプセルの方に放っていく。

 

「せめて、これぐらいはさせていただきますわ」

 

「なるほど、そういうことですか」

 

ソーナもそれを見て、同様に小型魔法陣をカプセルのほうに投げていった。

 

あれは・・・・・

 

それに察しがついた時、俺達は転移の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

戦いを終え、無事に仲間を救出することができた俺達はあのフィールドから帰還。

 

今はオカルト研究部のある旧校舎に戻っていた。

 

俺はグレンデルとの戦闘もあるが・・・・・突然襲ってきた痛みのせいで疲弊。

今は部室のソファに寝転んで休息を取っていた。

 

・・・・あのグレンデルの防御力。

 

あれは異常だった。

 

「あのグレンデルはイッセーくんの攻撃はおろか、龍殺しの力を受けても、立ち上がってきました。何かを付与されているのは間違いないでしょう」

 

と、ソーナもそのように言っていた。

 

龍殺しの耐性でも付与したのか?

そんなことが可能なのか?

 

それから気になることはまだある。

 

グレンデルから生まれた眷獣らしき小型ドラゴン・・・・そして、それを見たときの俺の変化。

 

あれは・・・・・なんだったんだ?

 

頭痛や胸の苦しみもそうだけど、頭に響いたあの声。

 

――――殺意と敵意、激しい怒りが伝わってきた。

 

『・・・・・』

 

イグニスは何か分かったのか?

 

『あれはね・・・・。あの子の怒りよ』

 

あの子・・・・・?

 

イグニスはあれが何か知ってるのか?

 

『ええ。でも、今のイッセーが触れることは叶わないわ。それに・・・・・まだ確証が持てないのよ』

 

確証・・・・?

 

『ずっと昔に終わったはずなのに・・・・終っていなかった。多分、そういうことなのでしょうね。でも、それがどうして・・・・?』

 

そう言うと何やら考え出すイグニス。

 

イグニスには心当たりがあるのは間違いなさそうだが・・・・全然わからない。

 

終わったはずのものが終わっていない・・・・?

 

それってどういう――――――

 

「イッセーさま・・・・お茶を買ってきましたわ」

 

部室の扉が開き、学内の自販機で買ってきたのであろうお茶を握ったレイヴェルとそれに付き添う小猫ちゃんが入ってきた。

 

俺はレイヴェルから手渡されたそれを受け取った。

 

「小猫ちゃん、ギャスパーは?」

 

「救護班に運ばれていきました。アーシア先輩達も一緒です」

 

「そっか」

 

ソーナ達はこの町に常駐する冥界、天界スタッフの人達と話し合っている。

アリスと美羽も動けない俺の代わりにそちらへと向かってくれている。

 

・・・・・実はもう動けるんだけどね。

 

ただ、こっちに戻ってくるなり「あんたは寝てなさい」と言われてしまった。

強引なんだよね、結構。

 

少しの静寂。

 

すると、レイヴェルが言った。

 

「私、許せません」

 

はっきりとした口調だった。

 

先程まではぐれ魔法使い達が作った『工場』の有り様を見て泣いていたとは思えないほど、瞳は強く輝いていた。

 

「あんなこと、絶対に許せない」

 

「私もだよ、レイヴェル。・・・・いつでも力になるから」

 

小猫ちゃんはレイヴェルの手を取り微笑むと、この場をあとにする。

 

部室に残される俺とレイヴェル。

 

俺は頭を下げた。

 

「ごめんな。助けるのが遅くなって」

 

フェニックスのクローンについてはいずれレイヴェルの耳にも入ることになったかもしれない。

 

だけど、今回は状況が最悪だった。

 

クラスメイトを人質に誘拐され、不安と恐怖で一杯の中での残酷な告知。

それがレイヴェルをどれだけ傷つけることになったか。

 

もっと早く・・・・できれば連れ去られる前に助けたかった。

 

「嬉しかったです」

 

レイヴェルがそう言ってきた。

 

嬉しかった・・・?

 

レイヴェルは頬を染めながら続けた。

 

「・・・嬉しかったんです。イッセーさまが私のことを見ていてくださったこと・・・・。私のことを守ってくださったこと・・・・」

 

レイヴェルは左手首を撫でる。

そこには小さく魔法陣が描かれていて、俺の左手首にも同じものがある。

 

それは美羽に頼んでしてもらっていたマーキング。

レイヴェルの位置を補足して、俺と入れ替えるための刻印型の魔法陣だ。

 

普段は隠れていたが、術式を発動させたことで浮かび上がってきたのだろう。

 

「あー、それな。美羽から聞いたかもしれないけど、保険ってやつだ。メフィストさんからはぐれ魔法使いがフェニックス関係者と接触してるって聞かされてたから一応ね。まぁ、今回はその保険が役立ったわけだけど・・・」

 

「はい・・・・。だから、私、嬉しくて・・・・。イッセーさまに守られていたことが・・・・嬉しかったんです」

 

そう言うと目元を僅かに潤ませた。

 

「いや、そんな大袈裟な・・・・。レイヴェルにはいつも世話になってるし・・・・。それに、レイヴェルを守るのは俺の役目だからさ」

 

俺の大切な後輩で、マネージャーで、今では家に住む大事な家族だ。

 

そんなレイヴェルを守るのは当然のことだろう?

 

「それ、消さなくてもいいのか? 美羽に頼めば消してもらえるぞ?」

 

「いえ、これはこのまま置いておこうかな、と・・・・。イッセーさまが助けてくれた・・・・記念、といいますか・・・・」

 

なんてことを言うレイヴェルの顔はみるみる赤くなっていく。

 

ハハハ・・・・記念ですか・・・・・。

 

まぁ、レイヴェルがそう言うなら、それで良いかな?

 

一応、美羽がいれば発動は何度でも出来るから緊急時には役立つだろうし。

 

てか、これって・・・・・

 

「お揃いだな」

 

同じ術式だから当たり前なんだけど。

 

「お、お揃いですか・・・・・?」

 

「あ、ごめん。嫌だっ―――」

 

「い、いえ! 全然っ光栄ですっ!」

 

おおっ・・・・。

こちらが言い終わる前に言われてしまった。

しかも、すごい迫力だ。

 

レイヴェルはコホンッと咳払いしてから改めて口を開いた。

 

「少しだけ・・・・昔話をしてもいいですか?」

 

「昔話?」

 

俺が聞き返すとレイヴェルは頷く。

 

そして意を決したように言った。

 

「私は幼い頃、執事が読んでくれていた英雄譚に心を躍らせておりました。こんな英雄を支える女性になりたいと幼心に夢を膨らませていたのです。けれど・・・それは成長するにつれて、いつの間にか忘れてしまって・・・・・。ですが、イッセーさまを見ていて思い出したんです。幼いときに抱いていた夢を。性的だけど、熱くて、誰よりも仲間思いで、自分の守りたいもののために戦うその姿がとても耀いていて・・・・。その姿は私が憧れた英雄そのものでした」

 

レイヴェルは続ける。

 

「イッセーさまの側にいたい。これは私の勝手な幻想です・・・・ここに来たのだって私の身勝手な・・・・。でも、イッセーさまのマネージャーに任命されたのが本当に嬉しくて・・・・・。叶うことならこれからもお側でお仕事がしたいです・・・・・」

 

すこし驚いていた。

この子がそこまで言ってくれることが。

 

だけど、同時に嬉しく思ったよ。

俺の側にいたいって言ってくれたことが。

 

「俺もレイヴェルにいてほしい。今後もずっとずっとマネージャーをしてほしいと思ってる。頼めるかな?」

 

「もちろんですわ! これからもっと盛り上げていくという野望だって抱いています!」

 

心強いもんだぜ、この小柄なお嬢様は!

 

「でも、まずはフェニックスをないがしろにした奴らをぶっ飛ばす! あんなふざけたこと、これ以上させるわけにはいかねぇ!」

 

「はい! 私だってフェニックス家の長女として絶対に許しませんわ!」

 

レイヴェルが懐から一枚のメモ用紙を取り出した。

そこには複数の魔法陣と魔術文字が描かれている。

 

これって―――――

 

「もしかして、あそこにあった?」

 

「あのフィールドにあったカプセルや機器に刻まれていた魔術文字ですわ。既にこの町に常駐している冥界、天界スタッフ、そしてフェニックス家にも伝えてあります。これらの情報だけでもかなりのことが分かりますわ。それから、フィールドにあったあのカプセル。私とソーナさまの魔力でマーキングしておきました。フィールドが崩壊した今は次元の狭間を漂っているかもしれまん。もし存在しているなら私とシトリーの魔力を頼りに次元の狭間の探索をすることで見つけられるでしょう。時間がかかろうとも彼らの情報は出来うる限り回収します。ーーーー私達フェニックス家は彼らの目的を徹底的に追求しますわ!」

 

やっぱり、最後に放ってた小型魔法陣はマーキングだったんたな。

この娘も抜け目ないよね!

 

『禍の団』とはぐれ魔法使い達は知らないんだな。

 

この娘は不死身のフェニックス。

その精神まで不死のごとく、強くなろうとしているんだ。

 

レイヴェルを捕らえたことが奴らの運の尽きなのかもしれないな。

 

 

そんなことを考えていると―――――

 

 

 

バタンッ!!

 

 

 

部室の扉が勢いよく開かれた。

 

何事かと思ってそちらを見てみると――――息を切らしたライザーがいた。

 

「レイヴェル! 無事か!」

 

「お、お兄さま!?」

 

「連絡を聞いて駆けつけてきたのだ! ケガはないか!?」

 

「私は大丈夫です! んもー、少しは落ち着いてください!」

 

いやはや、ライザーもいい兄ちゃんしてるよ。

 

レイヴェルもいつもの調子に戻ったみたいで何よりだ。

 

 



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15話 新たなる波乱へ

ウィザード編、ラストです!


[アザゼル side]

 

 

吸血鬼の領地。

 

ルーマニアに入った俺達は車を借りて、山の道なき道を進んでいた。

舗装されていないため、何度も車体が跳ねる。

 

うーむ、こんなことなら専用の車でも作って持ってくれば良かったような気もするぜ。

 

リアス達とは途中で別れる予定だ。

 

俺はカーミラ、リアス達はヴラディ家を訪問する。

 

俺もカーミラとの話し合いがついたら、リアス達と再度合流するつもりだ。

 

現状だけでも、きな臭いことだらけだ。

イッセー達をこちらに呼ぶようなこじれた事態にならなければいいが・・・・。

 

さて、今頃アーシアとファーブニルはどうしているかね?

オーフィスの仲介があったとはいえ、まさか龍王クラスと一発で契約できるなんざ、あいつの魔物――――いや、ドラゴンを使役させる才覚は末恐ろしい。

 

そのうち、世界一のドラゴン使いなんてもんになったりしてな。

 

・・・・・まぁ、契約の代価がパンツというのも色々とおかしな話だが。

 

今更だが・・・・なんで、パンツなんだ!?

 

他にもあるだろう!?

 

俺の時は黄金、宝剣、宝石といったまともな代価を支払っていたんだぞ!

 

しかも、アーシアを見るなり『アーシアたん』だとか『ペロペロしたい』なんてこと言いやがるしよ!

 

一体、どこであんなことになったんだ?

 

確かに『ドラゴンだし龍王だし頑丈そうだから色々試してみっか!』とかなんとか言って無茶な実験はした記憶があるが・・・・・。

 

ま、俺のせいではないだろう・・・・・多分、きっと、恐らく、十中八九。

 

ラッセー、オーフィス、ファーブニル。

アーシアは生まれつきドラゴンを引き付ける何かがあるとしか思えんな。

日本に来てすぐにイッセーと出会ったのも必然だったのかもしれない。

 

アーシアの今後の成長に注目だな。

 

と、ルームミラーを覗くとリアスが何やら考え事をしているようだった。

 

俺は後部座席に座るリアスに話しかける。

 

「やっぱり想い人のことが気になるか?」

 

「・・・・ええ、そうね。私はあの二人に比べると遅れているもの。それに、他の子達もアプローチが積極的だから・・・・」

 

あの二人――――美羽とアリスか。

 

イッセーを取り巻く女子達の中ではあの二人は頭一つ二つは飛び抜けているからな。

 

リアス達との時間が薄いものかというと、そうではない。

端から見ても十分な信頼を築いていると言えるくらいの仲にはなっている。

イッセーを想う気持ちに優劣なんてないだろう。

 

・・・・ただ、リアスを含め、ほかの女子連中には悪いが、あの二人がイッセーと過ごしてきた時間は長く、濃密だ。

あの三人の関係と辿ってきた道のりを考えると自然とそうなるのは納得できる。

 

ま、それでもだ・・・・・

 

「帰ったら、抱きついてやればいい。おまえももう少し美羽を見習って自分から前に進まねぇとな」

 

「うぅ・・・・わかってるもん」

 

もん、ね・・・・。

 

こいつは大胆なのかよくわからん時があるな。

 

話じゃあ、母親に何やら言われたらしいが・・・・どうにもあと一歩が足りないような気がする。

 

その点、最初に関係を持った美羽は勇気を出したと言えるだろうな。

今まで義理とはいえ兄妹の関係だったのを、そこから想いを告げて関係を進めるとなれば、相当な覚悟を決めていたはずだ。

 

「ま、根性出せや。おまえもスイッチ姫なんだしよ」

 

「そ、そこでスイッチ姫は関係あるのかしら?」

 

「大有りだ。元祖スイッチ姫はイッセーのために母乳出してたろ。あいつはイッセー専用非常食になったわけだ。おまえも何か出してみろよ」

 

「何かってなに!?」

 

リアスの叫びが車内に響いた。

 

おーおー、顔真っ赤にしてやがる。

 

まぁ、心配せずともおまえもイッセーに抱かれるさ。

何て言ってもハーレム王を目指してるからな、我らが勇者さまは。

 

「・・・・あと十五分ほどで吸血鬼側の現地スタッフと落ち合う場所に出そうですね」

 

助手席に座る木場は地図を広げて悪魔専用の方位磁石とにらめっこ中だ。

 

ふいにリアスが訊いてくる。

 

「曹操はどうなったの? 昨日、何か連絡があったようだけれど?」

 

「あー、それな。インドラの野郎から事後報告があったのさ。英雄派の曹操、ゲオルク、レオナルドの神滅具所有者三名は全員、奴が処罰したんだと。で、槍だけ没収して、ハーデスのところに送ったそうだ」

 

報告にはなかったが、どうせ、絶霧と魔獣創造も野郎が所持してるだろう。

 

体裁的には帝釈天が英雄派にトドメをさしたってことになる。

散々手を貸しておいて、最後まで利用した挙げ句、神滅具を所持する理由も得やがった。

 

英雄派を処罰したのが帝釈天なら、帝釈天が神滅具を持っていても仕方がないってな。

 

一応、捕らえたヘラクレスとジャンヌから帝釈天の繋がりを吐いてもらってはいるが・・・・どこまで通じるのやら。

 

最後の最後でおいしいところを持っていきやがってよ!

あのクソ野郎!

 

「・・・・異形の毒を目指した彼が冥府行きとは」

 

木場がそう漏らす。

 

俺の脳裏にインドラの声が蘇る。

 

『HAHAHA、あの坊主は何になりたいか、それをはっきり決めずに動きまくったからいけねぇのさ。中途半端に英雄を騙ろうとしたから裏目にでたのさ。笑っとけ。あいつは最後で道化になった。――――怪物退治すんのは人間の英雄だ。人間を逸して俗物に転じたクソガキ程度じゃ何も成せねぇよ』

 

確かに、あいつがメデューサの眼なんぞに頼ろうとせず、人間を貫き通せば聖槍も力を貸していたかもしれない。

 

だが、俺が思うにそれでも奴はイッセーに敗れていただろう。

 

曹操には若さがあった。

英雄になりたいという願望。

 

何者かになりたいと思うのも若さがゆえだ。

 

 

――――だから、曹操は『英雄』の意味を履き違えた。

 

 

イッセーは知っている。

 

『英雄』が持つ真の意味を、そして――――背負うべき業を。

 

真に『英雄』の意味を理解しているイッセーと、ただ『英雄』になりたいと願っていた曹操では決定的な差だ。

 

その英雄願望を焚き付けたのもインドラだと思うが・・・・・。

 

リアスが訊いてくる。

 

「帝釈天は何がしたいの? 曹操を泳がせ、ハーデスを間接的に煽り、各勢力に混乱をもたらした戦の神。アザゼルは真意を聞いたの?」

 

「奴は破壊の神シヴァに対抗できる人材が欲しいのさ。戦乱がより良い強者を作り出すと信じこんでいやがる」

 

あのインドラのことだ。

シヴァに勝つためなら何でもやりそうだ。

 

『アザゼル監督、今よろしいですか?』

 

俺のもとに通信用魔法陣が届く。

 

駒王町に残っているレイナーレからだ。

 

定期的な報告は別で来るはずだが・・・・

 

「何かあったのか?」

 

『はい。実は―――――』

 

そこから、報告が入ってくる。

 

俺はその情報に耳を疑った。

 

「グレンデル・・・・ルキフグスだと・・・・?」

 

おいおいおい・・・・人が少し離れている間にまた訳のわからねぇことが起きたってのかよ!

 

グレンデルはすでに滅んだぞ!?

 

それに『禍の団』!?

 

『それからもう一つ。グレンデルから眷獣と思われる魔獣が出現しました』

 

「なっ!?」

 

予想外過ぎる報告につい声を漏らしてしまった。

 

眷獣って・・・・まさか、ロスウォードの?

 

グレンデルにそんな能力はなかった。

 

「それは確かなのか?」

 

『実際に戦いましたから、おそらくは・・・・。正直、こちらでも混乱してまして。この事は各方面には伏せています』

 

「ああ、それでいい。下手に漏れたら、面倒なことになりそうだしな」

 

頭の中でぐるぐると事柄が浮かんでいく。

 

聖杯を得た吸血鬼、はぐれ魔法使い、再編中の『禍の団』、ヴァーリの調査先で現れる『禍の団』の構成員、ルキフグスの生き残り、滅んだはずのドラゴン、そして――――

 

全て繋がっているのか?

偶然にしては、あまりにもタイミングが良すぎるだろう。

 

だとしたら、なぜ異世界の物がこちらの世界にある?

 

いや・・・・断定するのはまだ早い、か。

まだそれを決めてしまうには情報が少なすぎる。

 

だが、それを抜いたとしても厄介極まりないぞ、こいつは・・・・・。

 

そして、ユーグリット・ルキフグス。

 

以前、悪魔側のデータを閲覧したことがある。

 

過去に起きた悪魔の内乱――――旧政府とサーゼクスとアジュカをエースとした反政府側の抗争。

 

その際に生死不明となったグレイフィアの実弟、そいつがユーグリット・ルキフグス。

公式では既に死亡したものとされ、グレイフィア自身もそう語っていたのを耳にしたことがある。

 

ユーグリットが『禍の団』の新しいトップでないことは今の報告で分かった。

 

・・・・黒幕は誰だ?

 

この短期間に『禍の団』を纏めあげた中心人物・・・・。

 

ならず者を仕切るにはそれに相応しいカリスマ性、ボスの風格が必要となる。

それを有する者・・・・・。

 

奪ったオーフィスの力から、新しいオーフィスを作った?

 

それもあり得る。

実際、英雄派がしようとしていたことがそれだ。

 

だが、そうなると、今度はそれを操るだけの強固な存在が必要になってくる。

 

各陣営から忌み者が集まり、各勢力から憎悪の対象となる集団『禍の団』。

そんな奴らのトップを張るとすれば、傀儡と化す純粋な強者、もしくは頭のイカれたクソ野郎ぐらいだ。

 

何が起こっている?

 

今度は誰が『禍の団』を動かしている?

 

「リアス、木場、どうにも厄介なことになりそうだぞ」

 

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

 

 

「ガッ・・・ハッ・・・・・!」

 

血を吐き出し、膝を付く俺。

 

手で覆うもボタボタと指の間から滴り落ちていく。

 

こ、こいつは・・・・・っ!

 

「お兄ちゃん!?」

 

「イッセー!?」

 

倒れ伏す俺に美羽とアリスが駆け寄り体を擦るが、血は止まらない。

 

鼻血まで出てきた・・・・・。

 

口元を押さえている手が真っ赤に染まっていく・・・・・。

 

ヤバイ・・・・血が止まらねぇ・・・・。

 

目が霞む・・・・。

 

「二人とも・・・・ごめん。俺、ここまでみたいだ・・・・」

 

「そんな・・・・ダメだよ、こんなところで・・・・!」

 

俺の手を握りしめる美羽。

 

俺は目元から涙を流しながら首を横に振った。

 

「俺は幸せだったよ・・・・。こんな可愛い二人に・・・・看取られるなら・・・・本望だ」

 

「そんなバカ言わないでよ・・・・!」

 

ああ・・・・そうさ。

 

美羽にアリス。

 

俺の眷属。

 

そして愛しい・・・・。

 

俺はこんなにも可愛い二人とともにいられてよかった。

 

俺は・・・・幸せだ。

 

俺は震える声で二人に言った。

 

「・・・・ありが、とう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「猫耳下着姿くらいで大袈裟だって言ってんのよ!」

 

 

バキィッ!

 

 

「ガフッ!」

 

炸裂するアリスパンチ!

 

超痛いっ!

 

俺は未だに止まらない鼻血を押さえながら反論する!

 

「大袈裟なもんか! おまえらのそんな姿見たら萌え死ぬわ! 可愛すぎんだろ! 俺を殺す気か!?」

 

騒動の後始末を終えた俺達が家に帰ったのは数時間前のことだ。

 

夕食を済ませ、風呂に入り、部屋へと戻ると―――――

 

 

 

猫耳下着姿の美羽とアリスが!

 

 

 

そう!

レイヴェルが拐われた後、アリスと合流するために一度家に戻ってきた俺と美羽が見たあれだ!

 

白い下着を身に付け、手首と足首には白くてフワフワのファーウォーマー、頭には猫のカチューシャというとってもエッチでキュートな衣装。

 

今、俺の目の前にはその衣装を着た美羽とアリスがいるのだ!

 

俺が部屋に入るなり、二人揃って猫招きしながらの「にゃーん」だぞ!

 

それをくらった俺はたまらず吐血した!

鼻血も出した!

ついでに昇天しかけた!

一瞬、川の向こうで死んだじいちゃんが手振ってるのが見えたよ。

 

「こんなところで寝ちゃったら風邪引いちゃうよ?」

 

「ああ。・・・・でも、いきなりどうしたんだ? なんだって、そんな格好を・・・・・?」

 

俺は鼻にティッシュを詰めながら二人に尋ねた。

 

二人のこんな姿を見れたのは嬉しいが・・・・・。

 

すると、アリスが少し視線をそらしながら恥ずかしそうに答えた。

 

「・・・・あんたがまた見たそうにしてたから・・・・。それに下僕だから、主に奉仕するのは義務かなって・・・・」

 

うぅ・・・・っ!

 

なんて主想いなやつなんだ!

今度は感動で涙が止まらねぇ!

 

でもね、一つ言わせてくれる? 

 

俺、そんな悪代官みたいなことしないって。

そんな義務を眷属に課した覚えはないですよ、アリスさん。

 

いや、嬉しいんですけどね。

そりゃあ、もう最高に。

 

「美羽はなんで?」

 

「ボク? ボクはアリスさんに一緒にしよって頼まれ―――」

 

「いやぁぁぁぁ! それ言わないでぇぇぇぇ! 余計に恥ずかしくなるからぁぁぁぁぁ!!」

 

「アハハハ・・・・。まぁ、ボクもお兄ちゃんに見てもらいたかったから、良かったんだけどね」

 

なるほど、アリスが一人でやるのが恥ずかしくて美羽に一緒にやるように頼んだと。

 

アイドルのオーディション受けるときに恥ずかしいから、友達と一緒に受けるってパターンがあるけど・・・・・。

それと似たようなもんか。

 

俺は一度、洗面所で血を洗い落とした後、ベッドに腰をかけた。

 

「はぁ・・・・なんか一日の疲れが吹っ飛んだよ。二人ともありがとな」

 

「そんなお礼言われるほどのことじゃ・・・・ないし」

 

うーむ、モジモジするアリス・・・・・良いよね!  

 

美羽も衣装が似合ってる!

 

というか、少しサイズが合っていないのか・・・・胸が溢れそうになってる・・・・。

 

これはエロい!

 

眼福です!

 

ありがとうございます!

 

ま、なんにせよ、二人から元気をもらったのは確かだ。

 

俺はベッドをポンポンと叩いた。

 

「二人ともベッドに寝そべってくれるか?」

 

「別にいいけど?」

 

頭に疑問符を浮かべながらも言われた通り、ベッドに腹這いになる二人。

 

俺は二人の背中に手を置くと、気の流れを良くしていく。

 

ツボを圧しながら、俺の気を流しつつ二人の気の循環をよりスムーズにする。

 

俺式マッサージってやつだ。

 

「二人とも頑張ってくれたからな。主からのご褒美ってやつだ。まぁ、こんなもんでご褒美になるかはあれだけど・・・・」

 

「ううん。そんなことないよ」

 

「ポカポカする・・・・」

 

気の巡りを良くすることはリラックス効果もあるし、疲れも取れる。

 

今回は二人が眷属になっての初陣だったし、俺も助けられたからな。

二人にも十分に体を休めてもらいたいところだ。

 

「二人とも今日は良くやってくれた。これからも頼むよ」

 

「うん。もっとお兄ちゃんの力になれるように頑張るよ」

 

「まぁ、私が力になるんだから大船に乗った気でいなさいな」

 

ハハハ・・・・アリスのやつ、すごい自信だな。

 

でも、頼りにはしてるさ。

これ以上ないってくらいにな。

 

すると、美羽が訊いてきた。

 

「ところで、レイヴェルさんを眷属にしたいって話はしたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

し、しまったぁぁぁぁぁ!!

 

完全に言いそびれてたぁぁぁぁぁ!!

 

部室の時とか絶好のタイミングだったじゃん!

 

いい感じの雰囲気だったじゃん!

 

いや、でもあの時は俺の体の異変とかで、考え事してたし・・・・・。

 

アリスが呆れたように一言。

 

「ダメじゃん」

 

「す、すいません・・・・」

 

「でも、レイヴェルさんを眷属に迎えるとなると私達のこと言わないといけないんじゃない?」

 

今のところ、俺の周囲ではレイヴェルだけが異世界のことを知らない。

当然、美羽とアリスの素性も。

 

俺はマッサージを続けながら言う。

 

「いや、それについては眷属にするとかしないとかは抜きにして近いうちに話そうかと思う。今後もマネージャーを・・・・俺の側にいてくれるって言ってくれたしな」

 

あの子は俺を信頼してくれてるし、俺もあの子のことを信頼している。

レイヴェルには話しても良いと思うんだ。

 

少し軽率だと思われるかもしれないけど、俺はそう考えている。

 

あとは・・・・・

 

「あとはいつそれを話すか、なんだよなぁ」

 

いきなり、異世界のことを話してレイヴェルが信じるか・・・・。

 

少なくとも驚きはするだろうな。

 

「その辺りはなるようになるんじゃないかな? 一緒に住んでるんだし、機会はいくらでもあると思うよ?」

 

それもそうか。

 

それに、今後も魔法使いとの契約だとか、おっぱいドラゴンのイベントだとかでレイヴェルと話す時間は十分にある。

 

その中で言えば何とかなる・・・・・ような気がする。

 

「ねぇ、前からもお願いできるかな?」

 

「それじゃあ、私も」

 

「オッケー、そんじゃ仰向けになってくれ」

 

 

 

・・・・・と言ってみたんだが・・・・・

 

 

 

「んっ・・・・やぁぁ・・・・」

 

「あっ・・・・ふぁ・・・・そこっ・・・・」

 

体をくねらせながら甘い吐息を漏らす二人。

頬は赤く、体全体が柔らかくなっている。

 

お腹とか腕とか太ももとか、割りと普通のマッサージをしているはずなんだけど・・・・・。

そんな敏感なところを触ったとかでもないし。  

気の流れを変えて敏感にしたとかもない。

 

困惑する俺に気づいたのか、美羽が言う。

 

「・・・んっ・・・・お兄ちゃんに、ね・・・・あっ・・・・触れられるだけでこうなるんだ・・・・やぁ・・・・」

 

「いやいやいや、それは大袈裟だろ・・・・。てか、さっきまで普通だったぞ?」

 

「我慢してたんだよ・・・・? でもね、こうして向かい合ってると・・・・もう体が言うことを聞いてくれないんだ・・・・ほら」

 

美羽は俺の手を掴むと――――自身の胸へと持っていくぅ!?

 

しかも、下着の上じゃなく下から・・・・・生だと!?

 

美羽のもっちりとしててスベスベのおっぱいがぁぁぁぁぁぁ!!

 

「こんなに大胆になっちゃう・・・・」

 

大胆だよ!

 

大胆過ぎる!

 

やっぱり美羽のおっぱいは柔らかい!

指が沈んでいくもん!

 

俺の右手が美羽の豊かなおっぱいを堪能していると、その反対――――左手にも柔らかい感触が。

 

「私のも触ってよ・・・・」

 

アリスまで!?

 

しかも、こちらも同じく生だ!

 

なんということだ・・・・・アリスのおっぱいがまた大きくなってる!

 

「美羽ちゃんみたいに大きくないけど・・・・・私のだって成長してるんだから」

 

ぐはっ!

 

そんな潤んだ目でそんなこと言われたら―――――

 

 

 

止まらなくなっちゃうよぉぉぉぉぉぉ!!!!

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「イッセーさま、今日のことでお話が――――」

 

「「「え?」」」

 

「あ・・・・」

 

その瞬間、時が止まった。

 

 

・・・・・・・

 

 

え、うそ・・・・

 

 

マジか・・・・・

 

 

MA・JI・DE・SU・KA・・・・・

 

 

レイヴェルゥゥゥゥウ!?

 

レイヴェルが部屋に入ってきちゃったよ!

 

美羽とアリスのおっぱい揉んでるところばっちり見られたぁぁぁぁぁぁ!!

 

つーか、こんな状況なのに止められない止まらない!

手が勝手に二人のおっぱいを揉んでいく! 

 

なんてこったよ!

 

「も、ももももも申し訳ありません! お、おおおお取り込み中のところ! で、ででででで出直しますぅ!」

  

噛みまくりのレイヴェル!

顔なんてかつてないくらいに真っ赤に!

 

そりゃそうなるか!

 

レイヴェルはそのまま部屋を出ようとする!

 

まずい!

このままでは後々で更に気まずくなってしまう!

 

話題をそらせ、俺!

 

俺ならこの状況をなんとかできるはずだ!

 

考えろ!

脳ミソフルスロットルで考えるんだ!

 

そして、出た答えが―――――

 

 

「レイヴェル! 俺の眷属になってくれ!」

 

 

「「え!? この状況でそれ言うの!?」」

 

 

美羽とアリスから的確なツッコミをいただいた。

 

 

 



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閑話章 
1話 トレードします!


この章は原作15巻『陽だまりのダークナイト』に変わる章です。



魔法使いの集団に襲撃されて数日が経っていた。

 

俺は自室でルーマニアに発ったリアス達からの吉報を待ちながら契約相手の魔法使いについて選抜を進めていた。

 

「というふうに、この方は――――」

 

隣でレイヴェルが書類を見ながら説明をしてくれている。

 

相変わらず知識の浅い俺に対して分かりやすく教えてくれるので、すんなりと頭に入ってくる。

これは非常にありがたい。

 

「うーん、でもさ―――」

 

「ええ、仰る通りです。なので―――」

 

と、俺の意見にも頷きをくれ、賛成するところは賛成し、反対するところはその理由も細かく言ってくれている。

 

こうしているとレイヴェルは誰かに教えるのが本当に上手いと思うよ。

 

手渡された資料を一通り見通したところで、レイヴェルが言う。

 

「そろそろ休憩にしましょう」

 

俺は資料を机に置いて、深く息を吐く。

 

魔法使いの資料を見るのに疲れたってのもあるんだけど・・・・・それよりも色々と気になることがあるからさ。

 

リアスの方はヴラディ家との会談が進んでいるとの報告を受けているから、大丈夫だとは思う。  

何かあれば連絡はあるだろうしね。

 

問題は先日のグレンデル、そして――――ユーグリット・ルキフグス。

 

グレンデルが出した小型のドラゴン。

あれに関してはまだ眷獣と断定は出来ないし、似たような術式か何かが埋め込まれた、としか今のところ考えられない。

 

イグニスは何やら心当たりがあるそうだが・・・・こちらも今の段階では教えてくれそうにない。

 

それで、ユーグリットの方だが・・・・

 

こいつが先日の襲撃の主犯。

そして既に死んだとされていたグレイフィアさんの実の弟。

 

冥界の悪魔側上層部はやつの登場に騒然となったそうだ。

 

ルキフグスは前ルシファーの直属の配下である家で、今ではその生き残りはグレイフィアさんだけだとされていたのだから。

 

現在、グレイフィアさんは審問にかけられているそうだ。

 

当然、ユーグリットの生存についてたが・・・・、上層部はグレイフィアさんが弟の生死を偽ったのではないかと疑っているようだ。

 

旧魔王、特に『ルシファー』に関連するものに関しては悪魔上層部は過敏なほどに反応する。

 

今回も同様だ。

 

グレイフィアさんを疑うなんて馬鹿らしいとも思えるが、今回は状況が状況だけにな・・・・・。

 

ルシファーの側近であるルキフグスの生き残り、しかも『禍の団』の一員となっていたのだから、仕方がないと言えばそうなる。

 

朱乃の話ではユーグリットのことを知ったグレイフィアさんは相当狼狽えていたそうだ。

あの人のそんなところは想像できないが、それほどまでに衝撃だったのだろう。

 

「・・・・グレイフィアさまのことをお考えですか?」

 

「まぁね。やっぱりわかる?」

 

「マネージャーですもの。それに・・・・今はイッセーさまの『僧侶』ですし・・・・」

 

頬を少し赤らめるレイヴェル。

 

そう、レイヴェルはこの間の騒動の後、俺の眷属になってくれた。

 

俺の勧誘を受けてくれたレイヴェルは、すぐに仮の主である母親に連絡。

俺とレイヴェルは冥界、フェニックス領へ向かい、そのままトレードを行った。

 

そして、めでたく俺はレイヴェルを美羽に続く『僧侶』として眷属に迎えることができた。

 

・・・・・・できたんだけど、

 

「・・・・ごめん・・・・」

 

俺は両手で顔を覆いながら謝った。

 

・・・・・今となっては最低の勧誘だったと我ながら思ってしまう。

というか、とっても恥ずかしい!

 

だって、美羽とアリスのおっぱい揉みながら眷属になってくれって言ってしまったんだぜ?

 

正直、嫌われてもおかしくないことをしてしまったと切に反省してます・・・・。

 

「い、いえ・・・・た、確かに突然のことに驚きましたけど・・・・・。ノックを忘れていた私にも非はありますし・・・・」

 

多分、レイヴェルもあの時の状況を思い出してるんだろうな・・・・。

顔が更に赤く・・・・。

 

うん、すごーく気まずそうにしてたもんね。

 

でも、レイヴェルは悪くないよ。

悪いのは完全に俺だから。

 

本当にごめんね、レイヴェル。

 

しかし、レイヴェルはこう続けてくれた。

 

「ですが、私はイッセーさまから眷属のお誘いをしてもらえたこと、とても光栄に思っていますわ。これからはマネージャーとして、眷属としてイッセーさまを支えていきたいと思います!」

 

うぅ・・・・なんて良い子なんだ!

 

ヤバイ、良い子過ぎて涙が止まらんよ!

 

俺はレイヴェルの手を取る。

 

「ありがとう! 俺もレイヴェルのこと一生守ってみせるさ!」

 

今度またレイヴェルにちょっかい出すような奴らが現れたら全員ぶっ飛ばしてやる!

 

俺はこの子を絶対に守りきって見せるからな!

 

「い、一生ですか!? そ、それは・・・それって・・・ぁぁぁぁ」

 

「レイヴェル? 顔から湯気出てるけど・・・・大丈夫か?」

 

「だ、だだだ大丈夫でしゅ!」

 

うん、思いっきり噛んだな。

 

あー、そうそう。

レイヴェルには異世界、アスト・アーデのことは話したよ。

もちろん、美羽とアリスの素性もね。

 

リアス達に打ち明けたときと同じように、今まで俺達が体験してきたことをレイヴェルにも全て打ち明けた。

 

最初はかなり驚いていたけど、割りとすぐに受け入れてくれた。

理由としては美羽の魔法があげられる。

 

レイヴェル曰く、

 

「『黄金の夜明け団』の設立者の一人であるマグレガーさまでも見たことがない術式ですもの。異世界のものと分かれば納得がいきますわ」

 

とのことだった。

 

とにかく、これでレイヴェルには俺達の秘密を打ち明けられたし、レイヴェルも受け入れてくれた。

 

レイヴェルを眷属に迎えて、改めて俺の上級悪魔ライフがスタートだ!

 

すると、レイヴェルは面白いものを思い出したかのようにクスリと微笑んだ。

 

「しかし、あの時のお兄さまには驚きましたわ。まさか、あんなことをするなんて」

 

あー、あれか。

 

まぁ、確かに俺もあれには驚いたよ。

 

 

 

 

 

 

レイヴェルに勧誘した次の日。

 

俺とレイヴェルは冥界、フェニックス領に来ていた。

 

ライザーを更正する時とは少し違い、レイヴェルが展開した魔法陣で直接、人間界からジャンプしている。

家関係者専用の魔法陣のようだ。

 

で、今は城の前にいるんだけど・・・・・

 

「やっぱ・・・でかいよなぁ」

 

俺は前回と同じ感想を漏らす。

 

リアスの実家グレモリー家の城もでかいと思ったけど、レイヴェルの実家フェニックス家もそれに負けていない。

 

上級悪魔になるとこういう城とかも建てる必要があるのかな?

 

おっぱいドラゴン関連で相当な額は貯まっているけど・・・・このレベルは無理だろうなぁ。

 

などと考えていると、城門が重い音を立てながら開いていき、俺達は中へと進む。

 

少し進んだところに数人の使用人と一人の女性。

 

高貴そうな雰囲気と面持ちで髪もアップにしてアクセサリーをつけていた。

 

あの女性・・・・レイヴェルに似ているような。

 

「ただいま戻りましたわ、お母さま」

 

その女性に対してレイヴェルは軽く会釈する。

 

やっぱりレイヴェルのお母さんだったんだ。

ヴェネラナさんの時も思ったけど・・・・この人もかなり若いよね。

二十代ぐらいの顔つきだ。

 

成熟した悪魔は魔力で見た目を変化できるから、この人もそうなのだろう。

 

うーむ、それにしても若い!

そして美人だ!

 

「おかえりなさい、レイヴェル。そして、ようこそいらっしゃいましたわ、兵藤一誠さん」

 

「こちらこそ、今回は話を受けてくれていただき、ありがとうございます」

 

昨日の夜に言って、今日これだもんな。

こちらとしては話が急だったような気がするから、申し訳なく感じていたんだけど・・・・。

 

レイヴェルのお母さんは微笑みながら言う。

 

「こちらも願ったり叶ったり、ということなのですよ」

 

そう言うとチラリとレイヴェルの方に視線を移していた。

当のレイヴェルは顔真っ赤だ。

 

「立ち話もなんですから、どうぞ中へ」

 

 

 

 

 

 

それから俺が通されたのは中庭が見えるサンルームだった。

窓から見える中庭は広大で・・・・中庭というより、ほとんど広場だ。

 

サンルームの中央には装飾の施された円形のテーブルがあり、俺はそこでレイヴェルとその両親―――フェニックス家の現当主と先程の夫人の四人でテーブルを囲んでいた。

 

俺と向かい合う形で座るのはフェニックス卿。

ライザーをかなり朗らかにした感じで、顎髭をたくわえたダンディーな人だ。

 

「今日はよく来てくれたね、兵藤一誠くん。君の活躍はよく耳にしているよ。先日の一件ではレイヴェルをテロリストの手から救ってくれたようで、本当に感謝しているよ、ありがとう」

 

「いえ、レイヴェルは俺が守りたい一人なんで。家で話して、笑って食卓を囲む。一緒に暮らした時間は短いですけど、もう家族みたいなもんです」

 

まぁ、俺が一方的に思ってることかもしれないけどね。

 

・・・・・俺の話にレイヴェルのご両親がどことなくニヤニヤしているような気が・・・・。

その視線は完全にレイヴェルに向けられていて、当のレイヴェルは赤面しながら縮こまっていた。

 

・・・・なんかまずいこと言ったかな?

 

とりあえず、それは置いといて本題に入るか。

 

「それでですね。今日、こちらに伺ったのはレイヴェルを俺の眷属にしたいと―――」

 

「わかりましたわ。早速トレードいたしましょう」

 

はやっ!

俺が言い終える前にレイヴェルのお母さん、頷いちゃったよ!

 

それで良いんですか!?

 

驚くしかない俺にレイヴェルのお母さんは言う。

 

「こちらとしてもレイヴェルをあなたの眷属にしていただきたいと思っていたのですよ。何より本人の希望でしたから」

 

「お、お母さまっ!?」

 

「うむ、君のことを話すときのレイヴェルはとても楽しそうでね。いつも目をキラキラと輝かせていたのだよ」

 

「お父さま!? そ、それは言わないでください!」

 

両親の言葉にあわてふためくレイヴェル。

うん、可愛い反応だな。

 

ってか、俺のことどんな感じで伝わってるんだろう・・・。

そこのところが気になってしまうが・・・・。

 

「兵藤一誠さん。あなたの『僧侶』の駒は持ってきていますね?」

 

「はい、ここに」

 

俺はポケットから未使用の悪魔の駒―――『僧侶』の駒を取り出した。

 

それを確認したレイヴェルのお母さんは椅子から立ち上がり、床に魔法陣をオーラで描き始める。

トレード用の魔法陣かな?

 

「では、早速トレードを致しましょう。こういうのはパパッとしまうものですわよ?」

 

床に描かれた魔法陣。

 

端っこに俺とレイヴェルのお母さんが立ち、魔法陣の中央にはレイヴェルが立つ。

俺は持ってきていた未使用の『僧侶』の駒を手に持っている。

 

レイヴェルのお母さんが手を突き出してオーラを高める。

すると、床の魔法陣に書かれていた悪魔文字がぐるぐると回り出していく。

 

レイヴェルの体が光り、次に俺の体が光を放つ。

同時に手にしていた『僧侶』の駒も輝きだした。

 

魔法陣を介してオーラの流れが変わっていき、俺とレイヴェル、次に俺の持つ駒とレイヴェルのお母さんの輝きが同調。

 

輝きが治まると、レイヴェルのお母さんはオーラを止め、床の魔法陣も消えていった。

 

そして、レイヴェルのお母さんは俺の『僧侶』の駒をすくい上げ、ニッコリと微笑んだ。

 

「これでトレードは終わりです。レイヴェルはあなたの眷属になりましたわ」

 

あ、これで終わりなんだ。

思ってたよりあっさりしてたよ。

 

まぁ、何はともあれ――――

 

「レイヴェル、改めてこれからよろしく頼むよ」

 

「もちろんですわ。眷属としても、マネージャーとしてもイッセーさまのために尽くしますわ」

 

互いにそう言うと俺とレイヴェルは握手を交わした。

 

ああ、この子がいてくれるのは頼もしいよ!

俺もレイヴェルのマネージメントに応えられるように頑張らないとな!

 

フェニックス卿が握手を交わしている俺達の肩に手を置いた。

 

「レイヴェル、彼をしっかり支えるのだよ? 兵藤一誠くんも娘をよろしく」

 

「「はい!」」

 

俺達の元気の良い返事にフェニックス卿は満足そうに頷いた。

 

すると――――

 

「それで、兵藤一誠くん。孫もよろしく。私は男の子でも女の子でもどちらでもいいが・・・・」

 

「何を言っていますの、あなた。まずは式をあげるのが先でしょう。そちらの方もさっそく決めてしまいましょう。こういうこともパパッと決めてしまうもの―――」

 

「お、お父さま! お母さま! 早すぎますわ! せめて大学を卒業するまではお待ちくださいまし!」

 

慌てて両親に叫ぶレイヴェル。

顔真っ赤で涙目だよ・・・・・。

 

つーか、あなた達も孫ですか!?

レイヴェルのお母さん、何でもかんでもパパッと決めすぎだろう!?

 

・・・・俺の周りの大人はなんとも気が早い人ばかりのようです。

 

 

 

 

 

 

トレードが終わってからは普段のレイヴェルの生活とか、今後の俺の方針とかの話をしていた。

 

レイヴェルのご両親は悪魔歴の短い俺に対して色々とアドバイスをしてくれて、すごく参考になった。

 

フェニックス卿が思い出したように相づちを打つ。

 

「おお、そうだ。君に渡したいものがあるのだよ」

 

フェニックス卿は指を鳴らすと執事の人がこちらへ近づいてくる。

 

その手には何やら小さな箱を持っていた。

その箱にも豪華な装飾が施されていて、見ただけで高価なものだとわかる。

 

執事さんが箱を開けると中には二つの小瓶。

 

「これは・・・・」

 

「そう、フェニックスの涙だ。少し遅くなってしまったが、君の上級悪魔昇格の祝いとして受け取ってもらいたい」

 

「こんな高価なもの・・・・・いいんですか?」

 

ただでさえ高価な涙、しかも最近は少し落ち着いてきたとはいえ、テロリストの被害で需要が増しているような状況だ。

 

そんな状況下で二つも俺にくれるなんて・・・・。

 

フェニックス卿は微笑みながら頷いた。

 

「君は常に最前線で戦い続けていると聞く。今後のことを考えれば涙は持っておいて損はないと思う」

 

「あなたは何度も『禍の団』と戦い、冥界を守ってきてくれました。同じ冥界を支える悪魔として、これくらいはさせてくださいな」

 

うーむ、確かにこれからの戦闘を考えると涙はあると助かるんだよね。

・・・・また『禍の団』の連中が動き出しているみたいだしな。

 

ふとレイヴェルの方を見ると彼女も頷いていた。

 

俺も頷きを返して、その箱を受け取った。

 

「ありがとうございます。ありがたく使わせていただきます」

 

「これからも君の・・・いや、君達の活躍に期待しているよ」

 

 

 

 

 

 

それから時間も経ち、俺とレイヴェルは人間界に戻ることにした。

 

戻ってからは美羽とアリスに無事トレードが済んだことを報告して、魔法使いの選考を再開っと。

 

「戻ってからは心機一転して気合いを入れていきますわ!」

 

さっそく燃えているレイヴェル。

 

小さな体がとても逞しく見えてしまうのは気のせいではないだろう。

 

その時、俺達の前方から一人の男性が近づいてきた。

 

ライザーだ。

 

「おー、レイヴェル、それから兵藤一誠。トレードは終わったようだな」

 

「今日のこと、知ってたのか?」

 

「当然だ。・・・・というより、昨日レイヴェルから連絡を受けたときの父上と母上の喜びようを見ればすぐに分かるさ」

 

ハハハ・・・・なるほどね。

 

今日の話を聞いてて思ったけど、フェニックス家は前々からレイヴェルを俺の眷属として送り出したかったようだな。

 

俺としても嬉しいけどさ。

 

「父上に孫の顔を見せろとか言われたんだろう?」

 

「・・・・よくお分かりで」

 

「うちの両親はレイヴェルに甘くてなぁ。娘の幸福を常に願っているのさ。孫の顔を見せてほしいと言うのも、おまえとレイヴェルの愛の結晶とやらを見たいのさ」

 

「あ、愛の結晶・・・・。ま、まぁ、それは俺達が学生を卒業するまで待ってもらうとするよ」

 

「お、良かったな、レイヴェル。言質は取れたぜ?」

 

「もう、お兄さままで! からかわないでください!」

 

プンスカ怒るレイヴェルとそれを見てニヤニヤと楽しげに笑みを浮かべるライザー。

 

本当に仲の良い兄妹なことで。

 

今更だけど、初めてライザーと出会った時はこんな感じで話せるとは思わなかったよな。

まぁ、あの頃はレイヴェルを眷属にするとも思ってなかったけど。

 

すると、笑っていたライザーが急に真面目な顔でこちらを見てきた。

 

そして――――

 

「妹を任せる。ワガママなやつだが、俺達にとっちゃ可愛い妹なんだ。しっかり守ってやってくれ」

 

そう言って、僅かに・・・・本当に僅かにだけど頭を下げてきた。

 

これには俺だけでなく、レイヴェルでさえも驚きを隠せないようだった。

 

ライザー・・・・・。

 

やっぱり、こいつも妹の・・・・レイヴェルのことを大切に思ってたんだな。

見た目は不良っぽいけど、中身は家族思いの良いやつなんだ。

 

「ああ。レイヴェルのことは俺に任せてくれ。もうレイヴェルを泣かせたりはしないさ」

 

「言ったな? 泣かせたら燃やすからな?」

 

俺とライザーは互いに不敵な笑みを浮かべると拳をぶつけた。

 

本当、出会った頃のライザーとは大違いだ。

 

人って短期間でこうも変われるものなのか、それとも俺がライザーを見誤っていただけなのか。

 

どっちにしても、今のライザーは良い兄貴だと思えるよ。

 

「さて、レイヴェルの件はこれで良いとしてだ。兵藤一誠、時間はあるか?」

 

「ん? まぁ、あることにはあるけど・・・・」

 

「それはいい。ちょっとばかし付き合え。俺も修行とやらをしていてな。今は己を鍛えることに専念しているのさ」

 

「なるほどね。俺に手合わせしてほしいと」

 

「そういうことだ」

 

「良いのか~? 加減しねぇぞ?」

 

「望むところだ。でなければ、修行にならんからな」

 

その後、俺とライザーはフェニックス家が所有している専用のフィールドでスパーリングを行うことになった。

 

驚くことに以前よりもライザーの力がはね上がっていてだな、鎧を使わなかったとはいえ俺も少し苦戦することに。

 

どうやら、不死鳥の兄貴も一皮向けたようだ。

次にレーティングゲームでやり合うときは一筋縄ではいかないかもな。

 

ま、ライバルが増えるのは一向にかまわないけどな!

 

次も俺が勝つ!

 

 

 



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2話 美羽とアリス、初めてのお仕事

「レイヴェルも良いお兄ちゃん持ったよな」

 

「これもイッセーさまの影響だと思いますわ。イッセーさまと出会う前のお兄さまはあんなこと言う人ではありませんでしたから」

 

あと、自分にすごく甘い人だったとレイヴェルは付け加える。

 

俺の影響、ね。

 

でも、今となればあれがライザーの本来の姿なんじゃないかな?

特に理由はないけど、何となくね。

 

ま、出会った頃とは本当に別人じゃないかって何度も思ってしまうけど。

 

すると、ふいに部屋のドアが開かれる。

 

「順調に進んでいるかしら?」

 

入ってきたのはお茶を運んできてくれた朱乃と――――

 

「お邪魔しています」

 

なんとソーナだった!

これはまた珍しい!

 

あ、ソーナの冬服姿可愛いな。

淡い水色のレースブラウスにデニムという格好で、紺色のコートを手に持っている。

 

「いらっしゃい。今日はどうしたの?」

 

「ええ、今後について朱乃達と少しお話しようと思いまして。後で椿姫もここに来ます。お邪魔かもしれませんが、少しの間だけお話をさせてくださいね」

 

へぇ、副会長も来るのか。

 

《あっしもお邪魔させてもらってますぜ》

 

そんな声が天井から聞こえてくる。

 

見上げれば天井に魔法陣が展開していて、そこから逆さで小柄な死神が頭を出していた。

 

シトリーの新眷属、ベンニーアだ。

 

「ごめんなさい、イッセーくん。この子もどうしてもあなたのお家に来たいと言っていたので、連れてきてしまいました」

 

謝るソーナの横にロリっ子死神が華麗に着地を決める。

 

《おっぱいドラゴンの自宅・・・・これはあっしにとっちゃ桃源郷ですぜ》

 

目を爛々と輝かせて俺の部屋を見渡すベンニーア。

 

ハハハ・・・・そういや、この子も俺のファンだったね。

 

「まぁ、家でよかったらいつでも来てよ。歓迎するからさ」

 

《マジですかい? それじゃあお言葉に甘えさせてもらいますぜ》

 

「おう。テキトーにくつろいでくれていいよ。あと、出来れば玄関から来てくれ。天井から来られるとなんか怖いから」

 

ドクロの仮面被って逆さの状態で来られるとね・・・・ほとんどホラーだよ。

 

と、そんな俺とソーナのやり取りを見てレイヴェルが言う。

 

「そういえば、イッセーさまがリアスさまやソーナさまのことを呼び捨てで呼んでいる理由も先日教えていただきましたね。まさか、イッセーさまが二十歳だったなんて・・・・それが一番の驚きでしたわ」

 

そーなのか!?

 

俺もその事実に一番驚いたよ!

なんか、ショックだよ!

 

注目するところはそこか!?

 

つーか、リアス達もそこに食いついてたよね!

 

「実は私もです」

 

ソーナまで!?

 

君もか!

君もなのか!

 

もっと驚くところがあるでしょーが!

 

「でも、歳上のイッセーくんというのも良いものですわよ?」

 

そう言いながら朱乃が俺の腕に抱きついてきたよ!

 

「後輩なイッセーくんも可愛いのだけれど、歳上ならこうして甘えることができますわ♪」

 

俺の肩に頭を置いて、本当に甘えるようにしてくる!

 

いつもの大和撫子なお姉さまはどこへ!?

 

「ふふふ、これはリアスが見たら何て言うでしょうね?」

 

ソーナが微笑ましそうに見てくるが・・・・。

 

そうなれば、多分・・・・というより絶対に荒れるな。

リアスの朱乃への対抗心は強いからなぁ。

親友だからこそ譲れないものがあるっていうのかなんと言うのか・・・・・。

 

と、ここでソーナが俺とレイヴェルがカーペットに広げていた書類の数々に視線を配らせる。

 

「うちの眷属達もそこにちょうど選考しているところです。今頃皆で集まって苦慮しているところでしょう。私もアドバイスしていますが、できる限り自分で決めてほしいと思っています」

 

どうやら、匙達も絶賛苦戦中のようだ。

 

「魔法使いとの契約、か・・・・。魔法の研究成果ってのが悪魔にとってのメリットなんだよね?」

 

「ええ。魔力は悪魔の力であり、魔法はその悪魔の力を解析して人間が扱えるようにしたものです。精霊、北欧式など、今では多種多様な術式があり、中には神々が生み出したものがあります。一般的な術者が使うものの大半は大魔法使いマーリン・アンブロウジウスの流れを汲むものだといわれています」

 

朱乃がソーナに続く。

 

「魔法は独自の進化、変貌を遂げていて、中には悪魔ではできない力も生まれました。それは未だに変化し続けていて、底が見えない領域ですわ。そのため魔法の研究成果というのは冥界の技術発展に必要なものとなっているのです。マグレガーさまも魔法の研究で冥界に貢献なされてますわ」

 

レイヴェルがカーペットに広がっている資料を整理しながら頷く。

 

「今回の魔法使いとの契約、私達悪魔にとって魔法使いの才能を買うといっても良いでしょう。魔法使いへの先行投資のようなものです。だからこそ、選考は慎重にしなければならないのですが・・・・今のところ『天龍』『赤龍帝』のパートナーとして相応しい人物は見当たりませんわね」

 

つぶさに調べていたレイヴェルが言うのだから、その評価は概ね合っているのだろう。

 

ってか、美羽が皆同じに見えるとか言ってたし・・・・。

 

元々、美羽がハイレベルな魔法使いだからいっそのこと美羽をパートナーに・・・・・ってのはダメか。

 

「いっそのこと次回に持ち越そうか?」

 

俺が紅茶を飲みながら言うと、レイヴェルもうーむと頭を悩まさせていた。

 

「正直、私もそれでいいのではと思い始めています。短期でとっても良いのですが、新人ゆえのうっかりミスで変な評価を抱かれるのは避けたいですし・・・・」

 

「イッセーくんの場合は特にですね。おっぱいドラゴン、飛び級での昇格などであらゆる業界で注目を浴びていますから、少しのミスでも今後の活動に支障が出ることになるかもしれません」

 

うっ・・・・なんかすっごいプレッシャーが・・・・。

 

一度のミスが俺の今後に影響を及ぼす。

これが上級悪魔の現実、責任ってやつか・・・・!

 

胃が痛くなりそうだ・・・・・。

 

「胃薬・・・・買いに行こうかな」

 

「うふふ、そんなに気負わなくてもイッセーくんなら何とかなりますわ」

 

朱乃が肩にポンと手を置きながら励ましてくれた。

 

なんとかなるかぁ・・・・・。

まぁ、最初からミスを恐れて動かないってのもどうかと思うしな。

 

俺には支えてくれる皆がいるし、自信を持っていこう。

 

なんとかなる!

多分!

 

あ、今の話で思い出したけど・・・・・

 

「そういえば、この間捕まえた『ニルレム』の連中はどうなったんだ?」

 

ニルレムというのは『禍の団』に所属するはぐれ魔法使いの一派。

俺がレイヴェルのトレードを行っている間にアリスと美羽が捕縛したんだ。

 

「あの者達は現在、冥界の専門機関で尋問にかけられています。はぐれ魔法使いは仲間意識はそれほどないようで、次々と吐いているようです」

 

ソーナはそう教えてくれる。

 

まぁ、レイヴェル拐った連中もそんな感じだったしな。

我が身可愛さに情報を出しているのかもな。

 

レイヴェルが息を吐きながら言う。

 

「流石に驚きましたわ。まさか、はぐれ魔法使いの拠点を一つ潰してしまうなんて・・・・」

 

「私もですわ。・・・・イッセーくんのお得意様からの依頼を回しただけなのに、どうしてああなってしまったのでしょう?」

 

朱乃も苦笑していた。

 

うん、俺も経緯を聞いて思ったよ。

 

どうしてこうなった、と――――――

 

 

 

 

 

 

[美羽 side]

 

 

 

はぐれ魔法使いとの騒動があった次の日。

昨日の一件もあって、今日の授業はお休みです。

 

破壊されたところの修復は終わったんだけど、被害を受けた一般生徒を落ち着かせる意味も兼ねてのこと。

特に人質にされた子はね・・・・。

 

そういうわけで、今日も学校に顔を出しているのは先生方達と生徒会、それからボク達オカルト研究部くらい。

 

「ねぇ、これどうかな?」

 

部室に設けられていた試着室から出てきたのは駒王学園の制服を着たアリスさん。

何でも以前から着てみたかったということで、今日試着することに。

 

「よく似合ってるよ」

 

「アリスさん、すごく可愛いです」

 

「・・・制服がブランド物に見えてきます」

 

ボクに続いてアーシアさんと小猫ちゃんも感想を言う。

 

アリスさんって背が高くて足も長いからモデルさんみたいにスタイルがいいんだ。

だから、スーパーで買った安物の服でも格好よく着こなすんだよね。

 

ボクももう少し背が欲しいところなんだけど・・・・。

夜更かししてるからかなぁ。

 

ボク達の感想にアリスさんは少し照れながら言う。

 

「ありがとう。やっぱり制服って良いわね。向こうじゃこういうのは着たこと無かったから新鮮だわ」

 

「わかるよ。ボクも一緒だもん」

 

ボクもアリスさんも初めて制服を着たのはこっちの世界に来てからになる。

 

ボクが着たのは中学生からだけど・・・・今はもう着れないなぁ。

胸がおっきくなっちゃって・・・・。

 

最近はブラジャーもキツくなってきたんだよね。

やっぱり、お兄ちゃんに揉まれたり吸われたりしてるからなのかな?

 

ボク達がそんなやり取りをしていると部室の奥から朱乃さんが歩いてきた。

 

「今日も依頼が来ています。魔法使いとの契約もありますが、こちらも疎かにするわけにはいきませんわ」

 

リアスさんが吸血鬼の領土に行っていて不在だから、副部長である朱乃さんが部を仕切っている。

それで、朱乃さんがリアスさんの代わりに眷属の皆に届いている依頼を伝えていく。

 

ボクとアリスさんはまだ新米だからビラ配りしかしていない。

 

悪魔である以上、いつかは契約を結ばないといけないんだけど・・・・

 

「イッセーくんへの依頼ですが・・・・・、今は冥界に向かっていますし、誰に任せようかしら?」

 

朱乃さんが顎に手を当てて少し考え込んでいた。

 

お兄ちゃんはレイヴェルさんと一緒に冥界、フェニックス領に向かっている。

理由はレイヴェルさんのトレードをするため。

帰ってくる頃には眷属が一人増えることになるね。

 

そういうわけで、お兄ちゃんは不在なんだ。

 

となると、この中の誰かが代わりに行くことになるんだけど・・・・・。

 

すると、朱乃さんは何か思い付いたように言った。

 

「美羽ちゃんかアリスさんが代わりに行くというのはどうでしょう?」

 

「ボク達が・・・・ですか?」

 

「ええ。二人もそろそろビラ配りを卒業する頃ですわ。これも良い機会なので二人に契約を結んで来てもらおうと思います」

 

契約かぁ・・・・。

初めてのことだから緊張するけど・・・・大丈夫かな?

 

アリスさんが挙手する。

 

「それって二人で行っていいものなの?」

 

「ええ。二人のうちどちらかが契約を結び、残った一人はサポートという形にすれば問題ありませんわ」

 

「どちらか・・・・。うーん、そこはテキトーにじゃんけんで決めましょうか」

 

アリスさん・・・それはテキトー過ぎないかな?

 

それからボクとアリスさんはじゃんけんをした。

その結果、ボクが契約を結び、アリスさんがサポートとして契約に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

朱乃さんから指定された場所へとジャンプしたボク達。

 

お兄ちゃんのお得意様だもん。

失礼なことしないようにしなきゃ。

 

そう意気込んでいたボクの前に現れたのは――――

 

 

 

 

「・・・・いつもの悪魔さんと違うにょ」

 

 

 

 

巨木のごとき太さの上腕。

明らかにサイズの合わないマジカルな衣装を張り裂かんばかりの見事な分厚い胸板。

フリフリのスカートからはボクの腰よりもふとい足。

そして頭には――――猫耳。

 

この人をボクは知っている。

 

以前に一度だけ目にしたことがある。

 

お兄ちゃんと互角に渡り合える実力を持つ白龍皇ヴァーリ・ルシファーでさえも思わず二度見してしまうほどの存在・・・・・!

 

お兄ちゃん曰く、『地上最強の漢の娘』・・・・!

 

 

 

ミルたんさん!?

 

 

 

しばしの間停止していたアリスさんが声を漏らした。

 

「美羽ちゃん」

 

「うん」

 

「集合」

 

「うん」

 

それからボク達はその人に一時、背を向けてひそひそと話し合うことに。

 

(ねぇ、あの人なに!? イッセーのお得意様なの!? というより、本当に人なの!?)

 

(お、落ち着いて・・・・。お兄ちゃんのお得意様なのは間違いないよ。ボクも以前に少しだけ見たことがあるから。人だと・・・・思う) 

 

(その間はなに!? というより、何で猫耳!? 何でもあんなフリフリの格好してるの!?)

 

(え、えっと、魔法少女を目指してるとかで・・・・。ほら、アニメであるあれだよ)

 

(魔法少女!? 魔王の間違いでしょ!? そもそも性別違うじゃん! 少女じゃないじゃん!)

 

(そう、だよね・・・・・やっぱり)

 

明らかに拳法に重点を置いた体つきだもんね。

魔法戦士の方がまだ納得できるかも・・・・・。

 

「いつもの悪魔さんは来ないにょ?」

 

後ろから野太い声が投げ掛けられた。

 

う、うーん・・・・この人もお兄ちゃんのお得意様だし・・・・。

失礼のないようにしないといけないんだけど・・・・。

 

ボクはどうしたらいいの!?

教えてよ、お兄ちゃん!

 

 

 

 

 

~そのころのイッセー~

 

 

 

 

「っ!?」

 

「イッセーさま? どうかされました?」

 

「いや、今・・・・美羽が助けを求めてきたような気がして・・・・。」

 

「美羽さんがですか?」

 

「多分、気のせいだとは思うけど・・・・。美羽に何かあれば美羽は俺のところに強制転移してくるはずだし・・・・」

 

 

 

妹の叫びは兄に伝わっていた。

 

 

 

~そのころのイッセー、終~

 

 

 

 

心を落ち着かせるために一度大きく深呼吸した後、ボクは口を開いた。

 

「えっと、今日はお兄ちゃん・・・・・兵藤一誠は別件でこちらに来れなくて・・・・代わりにボク達が依頼を受けることになりました」

 

「それは残念だにょ。悪魔さんによろしく伝えといてほしいにょ」

 

「は、はい・・・・」

 

悪い人ではないんだよね・・・・・。

心はすごく純粋なんだと思う。

 

だけど、見た目の迫力というか、インパクトというか・・・・とにかくすごい。

 

オーラなんて、下手すればお兄ちゃんより強いかも・・・・本当に人間!?

 

「そ、それで依頼というのは?」

 

恐る恐る尋ねるとミルたんさんは部屋の奥へ。

 

少しすると手に何かを持って戻ってきた。

 

それは―――――

 

「この間捕まえた悪い魔法使いさんにょ」

 

「「・・・・・え?」」

 

ミルたんさんが手に持った人を見てみると、それは確かに人だった。

ローブを被っていて顔まではよく見えないけれど・・・・。

 

すると、ボク達の存在に気づいたのか、その人・・・・魔法使いはガバッと顔を上げで叫んできた。

 

「お、おまえ達は確か赤龍帝の眷属の・・・・! ちょうど良い! 俺を助けてくれ! 冥界でも何処でも良いから、この空間から救いだしてくれ! もう・・・・もうミルキーはもういやだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

滝のような涙を流して、懇願してくる魔法使い。

 

うん、ごめん・・・・全く状況が理解できないよ。

 

「すいません。状況の説明をお願いします」

 

「この間、ミルたんが森の中をさ迷っていると―――」

 

もうすでに意味がわからないよ!

 

なんで!?

なんで、森の中をさ迷ってるの!?

 

そこから、おかしいよ!

 

「何人かの魔法使いさんが村人を襲っていたにょ。それでミルたんが追い払った時にこの人を捕まえたにょ」

 

ミルたんさんは続ける。

 

「もう二度と悪いことをしないようにこの人にミルキーを見せて正義の魔法使いについてずっと語っていたにょ」

 

「もう嫌だ・・・・。こんな超生物が魔法少女を熱烈に語っているところなんてもう見たくないぃぃぃぃぃぃ!!」

 

魔法使いは再び絶叫をあげる。

 

その姿にどことなく同情してしまった。

よほど長々と語られたのかもしれない。

 

というか、ほとんど拷問だよね・・・・。

 

アリスさんが目元をひくつかせながら訊いた。

 

「と、とりあえず、はぐれ魔法使いを捕まえたって認識で良いのよね? それであなたの依頼というのは?」

 

色々と驚くことが多すぎて忘れてたよ・・・・。

ボク達がここに来たのはこの人の依頼を受け、その願いを叶えるためだった。

 

でも、この人の依頼って何だろう?

 

あ、もしかして、この魔法使いを引き取ってほしいとか?

 

この魔法使いからボク達悪魔に引き渡すように言われてボク達を呼び出したとかかな?

 

これから退治しにいく(・・・・・・・・・・)悪い魔法使いさん達を悪魔さんの世界に送ってほしいにょ」

 

・・・・・

 

んー・・・・・耳がおかしくなった、かな?

 

耳は良い方だったはずなんだけど・・・

 

今、これから(・・・・)って言った?

 

「あの、ごめんなさい。もう一度お願いできるかしら?」

 

言葉の意味が理解できなかったのか、アリスさんが聞き返した。

 

すると、ミルたんさんは巨大な手ではぐれ魔法使いの頭を撫でながら、

 

「この魔法使いさんが悪い魔法使いさん達が集まっている場所を教えてくれたにょ。正義の魔法使いを目指しているミルたんにとって、これは見逃せないにょ」

 

聞き間違いであってほしかった・・・・・!

なんなら耳が悪くなってた方がずっとましだったよ!

 

この人、なに考えてるの!?

一人で殴り込みに行くつもりだったの!?

 

どうしよう・・・・先日の一件もあるから、はぐれ魔法使いをほっとくわけにはいかないし・・・・。

流石にこの人を一人でそんな危ない場所に行かせるわけにはいかないし・・・・・。

ボクも契約とらないといけないし・・・・・。

 

う、うーん・・・・・・。

 

「美羽ちゃん・・・・私達もついていってあげるのがいいんじゃない? 私達でこの人を守りつつ、はぐれ魔法使いを捕縛すれば・・・・・」

 

「そ、そうだね・・・・。えっと、それじゃあ――――」

 

こうしてボク達は三人ではぐれ魔法使いが潜伏する隠れ家に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

それから十分後――――

 

 

 

 

「て、敵襲だと!?」

 

「相手は誰だ!? さ、三人!?」

 

「おいおい、あの二人って赤龍帝の眷属じゃねぇか!」

 

「いや、それよりもだ!」

 

 

 

「「「「あの怪物はいったい何者なんだ!?」」」」

 

 

 

 

はぐれ魔法使い達の絶叫が隠れ家に響き渡る。

 

ボク達が転移してきたのはとある山の洞窟の中だった。

 

転移したボク達にはぐれ魔法使い達は完全に虚を突かれた形で、既に混乱に陥っている。

 

初めはボク達の登場に驚いていたんだろうけど・・・・・今は完全に違うことに頭が持っていかれてると思う。

 

驚愕に包まれながらも、すぐに思考を取り戻したはぐれ魔法使いの何人かが魔法陣を展開し、炎、雷、水と様々な属性魔法をこちらに放ってきた。

 

それに対して、ボクとアリスさんは応戦しようとしたんだけど・・・・・

 

「悪い魔法使いは許さないにょ!」

 

と、叫んでボク達よりも素早く行動に移ってしまった!

 

飛来する魔法!

 

人間が生身でなんて無謀だよ!・・・・と警告しようとしたけど必要なかった。

 

「ミルキィィィィィィ・スパイラルボォォォォォムァァァッ!!!」

 

だって、拳で魔法を粉砕してるんだもん!

 

拳を振るった風圧で洞窟が激しく揺れた!

 

「ミルキィィィィィィィィ・サンダァァァァ・クラッシャァァァァァ!!!」

 

あの太い足から繰り出される蹴り!

 

その凄まじさでミルたんさんの前方に巨大なクレーターが!

 

吹き飛ぶはぐれ魔法使い!

 

その拳が!

その蹴りが!

ありとあらゆる魔法を粉砕していく!

 

本当にどういう人なの、あの人!

本当に普通の人間なんだよね!?

 

「ね、ねぇ・・・・私達、いらないんじゃない?」

 

アリスさんもそんなこと言い出しちゃった!

でも、ボクもそう思ってます!

 

すると―――ミルたんさんの真上に巨大な魔法陣が展開される。

 

そこからは無数とも言える光の槍が!

 

いけない!

あんなのをまともに受けたら!

 

「くたばれ、化け物ぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

はぐれ魔法使いが魔法を放つ!

 

 

しかし――――

 

 

「ミルキィィィィィィィィ・ブラスト・バスタァァァァァァ!!!!!」

 

 

ゴゥォォォォオオオオオオオオンッッッッッ!!!

 

 

天に向けて繰り出さられる剛腕!

そこから生まれる衝撃波!

 

それが降り注いでいた光の槍を全て消し飛ばすと同時に、洞窟の天井に巨大な孔を開けた!

 

穴から青空が見えた。

 

 

「・・・・・わぁ、空ってキレイ」

 

 

アリスさん!?

現実逃避してない!?

 

落ち着いて!

気持ちは分かるけど落ち着こうよ!

 

 

そして、ミルたんさんが最後の大技を放つ!

 

 

「これで終わりにするにょ!」

 

 

掌を合わせて、全身に力を入れていく。

 

腕が、背中が、足が、いっそう隆起して巨大に膨れ上がっていく!

 

オーラも今までの数倍・・・・ううん、これはもっと大きな・・・・・っ!

 

「悪魔さんに教えてもらったことを今、ここで使うにょ!」

 

悪魔さんに教えてもらったって・・・・・もしかして・・・・

 

 

もしかして―――――

 

 

 

グゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴツ・・・・・・

 

 

 

こ、これはミルたんさんの力に応じて山が・・・大地そのものが揺れている・・・!?

 

あれって――――

 

「錬環勁気功っ!?」

 

「あのバカァァァァァァ! なんてもんを教えてのよ! なにちゃっかり最強クラスの戦士生み出してるのよ!」

 

「戦士じゃないにょ。魔法少女だにょ」

 

こっちの声聞こえてたの!?

 

 

バジッ バジッ

 

 

ミルたんさんの体を何かが弾けていく――――

 

あ、これ、ダメなやつだ・・・・・。

 

「美羽ちゃん!」

 

「うん!」

 

「「逃げよう!」」

 

ボクとアリスさんはダッシュでその場から退避した。

 

洞窟の外へ出たと同時に―――――

 

 

 

 

 

「ミルキィィィィィィィィ・ファイナル・フラァァァァァァシュゥゥゥゥッッ!!!」

 

 

 

 

山が一つ跡形もなく消え去った。

 

 

 

 

この日、『禍の団』所属のはぐれ魔法使い集団ニルレムの構成員、その半数を捕らえることができた。

 

 

ちなみにボクが契約の代価として貰ったのはミルキーの限定フィギュアだった。

 

お兄ちゃんが昇格したお祝いも兼ねているとのことらしいです。

 

[美羽 side out]



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3話 あの時のやり直しを

先日、R-18の方で美羽&アリスの回を投稿しました。


と、そんなことがあったそうだ。

 

ミルたん、マジで何者なんだろう・・・・。

 

ただの人間ってレベル通り越してるよね。

 

錬環勁気功のほとんどさわりの部分しか教えてないのに、なんつー技開発してんだよ・・・・。

山一つ消えたって・・・・。

 

俺は・・・・とんでもない戦士を発掘してしまったのかもしれない。

 

あー、そうそう、美羽か代価としてもらった限定フィギュアだけど、あれは俺の部屋に飾られている。

まぁ、俺の昇格祝いも兼ねてるそうなので、ありがたく受け取っておくよ。

 

俺達は場所を移して、兵藤家地下プール場のプールサイドに設けてあるテーブル席で会話を続けていた。

 

魔法使いの書類のこともあるが、休憩ということでここに来ている。

時期も冬なので温水仕様だ。

 

俺は海パン一丁。

 

レイヴェルは泳がないのか、水着の上にTシャツを来てしまっているが・・・・・やっぱりレイヴェルも大きいよね!

服の上からでもそのボリュームがうかがえるぜ!

 

朱乃は肌色成分が多めの水着!

おっぱいがこぼれてしまいそうだ!

眼福です!

 

ソーナは柄の可愛いワンピースタイプの水着。

これはかなりレアだ!

 

「家族以外の男性に水着姿を見せたのはイッセーくんが初めてかもしれませんね」

 

なんと!

家族以外の男でソーナの水着を見たのは俺が初ですか!

 

匙、ゴメン!

とりあえず、ごめんな!

 

頼むから、呪いとかかけないでくれよ・・・・・?

 

ロリっ子死神のベンニーアは水着に着替えることなく、テーブルの下に潜っていた。

 

《あっしはここが一番落ち着くんですぜ》

 

と、俺達の足元でくつろいでる。

 

・・・・・やっぱり、変な子だ。

 

それで、この百メートルある地下プールで泳ぐのは―――

 

「イリナには負けん!」

 

「ゼノヴィアには負けないわ!」

 

先にプールに入っていたゼノヴィアとイリナが壮絶な水泳対決を繰り広げていた。

 

悪魔と天使のデッドヒート。

えらい勢いの水音と共に水しぶきを激しく立てている。

 

「どちらも頑張ってくださーい!」

 

プールサイドではスク水姿のアーシアが二人を応援している。

やっぱり、アーシアのスク水は可愛いな!

 

・・・・で、そのすぐ近くのプールには

 

『アーシアたんのスク水。俺様、アーシアたんの浸かったプールの水を飲み干したい』

 

パンツ龍王こと、ファーブニル。

黄金に輝くでっかいドラゴンが温水プールに浸かっていた。

 

・・・・・あの野郎、マジで変態だ。

 

ファーブニルの頭部にはオーフィスが座り、更にオーフィスの頭の上にはラッセーがいて・・・・・

 

なんだ、そのドラゴン三段構えは!?

 

「我、この三体合体なら、グレートレッドに挑戦できる、と思う」

 

できるか!

そもそも合体してねーよ!

三体のドラゴンが積み重なっただけだよ!

 

おい、ドライグさんよ。

何とかならないのか、あのパンツ龍王は?

 

『俺様、何も見えない』

 

ダメだ、こりゃ。

現実逃避してるよ・・・・。

 

気持ちは分かるけど。

 

「お茶持ってきたよ」

 

レイナがトレーにお茶を乗せて持ってきてくれた。

 

レイナは黄色のビキニに腰にパレオを巻いている。

露出は朱乃程ではないが、ついつい、おっぱいに目がいってしまう!

腰も細いし!

 

「サンキュー」

 

「イッセーくんも大変だね。魔法使いの選考もまだ決まりそうにないんでしょ?」

 

「まぁね。でも、レイナもレイナで忙しいだろ? 先生の監視役とか。あとグリゴリの仕事もしてるし」

 

そう考えればレイナって滅茶苦茶忙しいよなぁ。

俺の忙しさなんて足元にも及ばなさそうだ。

 

レイナは苦笑しながら言う。

 

「ほとんどアザゼル先生のことだけどね。あの人、勝手にグリゴリのお金使い込むし、変なUFO 作るし・・・後始末が大変よ・・・・」

 

アザゼル先生・・・・・あんた、どんだけレイナに苦労かけさせてんだよ。

 

「だから、今はすっごく肩の荷が降りた気分よ! 最高よ! 今が私のバカンスだわ!」

 

おおっ・・・レイナがはしゃいでいる・・・・。

 

過去にないくらいのはしゃぎようだ。

 

ま、まぁ、それだけ大変だと言うことだろう。

 

「俺にできることがあるなら、何でも言ってくれよ?」

 

アザゼル先生を絞めるなら、眷属総出でいこうじゃないか!

ついでにティアもつける!

あの人には色々と世話になったからな!

そのお返しをしてやるよ!

 

と、個人的なものもあるけど、レイナを手伝ってあげたいのは本音だ。

 

すると、レイナは少し頬を赤らめながら・・・・

 

「それじゃあ・・・・」

 

「ん? 何か頼みごと? じゃんじゃん言ってくれよ」

 

すると・・・・

 

「え、えと・・・・膝の上に座っていい?」

 

うーむ、そうきたか。

 

膝の上に座るって・・・・・小猫ちゃんみたいなことを言うな。

 

「良いよ? てか、そんなので良いのか?」

 

「う、うん。小猫ちゃん達を見てると私も座りたくなっちゃって」

 

ハハハ・・・・・俺の膝の上って本当に何なんだろうね?

 

小猫ちゃんが来て、レイヴェルが来て、ついにはレイナもお座り希望とは・・・・。

 

「それじゃあ、少しお邪魔するね」

 

そう言うと――――レイナは俺の膝上に座ってきた。

 

おおっ、レイナから伝わってくるこの肌の感触!

スベスベだ!

 

以前、先生から堕天使の女性は男を魅惑するためにエッチな体つきになると聞いたことがあるが・・・・わかる!

朱乃もレイナも良い体してるよ!

 

興奮する自分を抑えつつ、俺はレイナの頭を撫でてあげた。

 

照れてる顔がこれまた可愛いな!

 

そんな俺達を見ていた朱乃が頬に手を当てながら言う。

 

「あらあら、羨ましいですわ。イッセーくん、後で私にもしてくださる?」

 

「え? まぁ、良いけど・・・・・。俺の膝の上ってそんなに人気?」

 

「もちろん。今では隙あらば、ですわ。まぁ、その点で小猫ちゃんに勝てた試しがありませんが・・・」

 

うん、小猫ちゃん素早いもんな。

誰よりも速く、気づいたら膝の上に乗られているなんて良くあるし。

 

「それにしても、最近はレイナちゃんも積極的になってますわね」

 

朱乃のその言葉にレイナの体がビクッと震えた。

そして更に顔が赤くなり、ついには耳まで真っ赤に。

 

実は俺とレイナは少し前にデートをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものように早朝の修行を終えた俺は、汗を流した後、一人湯船に浸かっていた。

 

「あぁ~、今日の修行もハードだったなぁ」

 

ついつい年寄りのような声を漏らしてしまう。

 

お湯が体にじんじんと染み込んでくるようなこの感覚が疲れた体には程よく気持ちいい。

 

ちなみにだが、今日はいつもの大浴場じゃなくて、もう一つある一般家庭サイズの方を使用している。

いつも父さんが使ってる方だな。

 

広い大浴場を一人で占有するのもいいんだけど、たまにはこじんまりした風呂にも入りたくなる。

こっちはこっちで落ち着くんだ。

 

そんで、温泉の素を入れて一人で温泉気分!

うん、超庶民的だ!

 

なんだかんだで大豪邸に住むことになった俺だけど、やっぱりこっちの方が合ってるのかもしれないな。

 

「暫くはこっちの風呂にしようかな・・・・・」

 

などと呟きながらお湯を体にかけていると――――

 

『イッセーくん? 入ってる?』

 

と、洗面所の方から声をかけられた。

 

声から察するに・・・・・

 

「レイナか? ああ、入ってるよ」

 

『そっか』

 

「あ、もしかして使うのか? だったらすぐに上がるから―――」

 

俺がいい終える前に浴室の戸がガララッと開かれた。

 

「お邪魔します」

 

んー・・・・・

 

レイナちゃん、入ってきちゃったよ・・・・・。

 

大浴場の方で何度か一緒にってのはあったけど、こっちの狭い風呂では初めてだ。

 

「え、えーと・・・・こっち?」

 

「うん。たまにはいいよね?」

 

「あ、うん。俺は良いけど・・・・・」

 

レイナはそれでいいのか!?

 

俺、がっつり見ちゃいますよ!?

全裸のレイナ見ちゃってるよ!?

ぷるんぷるん揺れるおっぱいに釘付けになってますよ!?

 

いや、今までに何度も見てきてるけど!

それとは状況が違ってて、これはまた・・・・・眼福です!

 

想わぬ状況に少々驚きながらもおっぱいから目が離せない俺。

 

それを受けてか、少し恥ずかしそうにしながらも体を洗っていくレイナ。

 

眼前の光景を脳内保存している内に、流し終わったようでレイナは湯船に入ってくる。

追加で一人入ったことでザバァという音と共にお湯が溢れ出ていった。

 

「はぁ、いいお湯ー」

 

「レイナがこっちの風呂に来るのって珍しいな。俺も久々だけどさ」

 

「本当は大浴場の方に行くつもりだったんだけどね。イッセーくんがこっちに来るのが見えたから。たまにはこうするのも良いかなって。最近は皆バラバラに入ってるしね」

 

そういや、最近は美羽とアリスと三人だけで入る時間が続いてたな。

ま、他の皆も最近は忙しくて別々で入ることが多かったし、リアスも吸血鬼の領土に行ってるから仕方がないんだけどね。

 

・・・・・まぁ、そのおかげで色々できてしまったが。

 

眷属になってから、美羽が以前よりも俺を求めてくるようになった。

それは妹として可愛がってほしいとかじゃなくて、一人の女の子として見てほしいって意味で。

それに釣られてなのか、アリスも同じように求めてくるし・・・・。

俺も二人から潤んだ目で懇願されたら、抑えられなくなって・・・・・。

 

うーん、いつから二人ともあんなにエッチな性格になったんだろう・・・・。

 

「こうして密着するのは初めてかも」

 

レイナが少し恥ずかしそうに言う。

 

確かにレイナと風呂に入ったことはあるけど、ここまでぴったりくっついて入るのは初めてだな。

 

うぅ・・・・このむにゅっとした肌の柔らかい感触!

お湯に浮かぶ大きくて丸いおっぱい!

 

やっぱり女の子とこうして密着して風呂に入るって最高だ!  

 

しかも、狭いだけにあちこち当たってるから―――――

 

「あ、あの、イッセーくん・・・・おしりに・・・・あ、当たってる」

 

耳まで真っ赤にしながらレイナが呟いた!

 

「ご、ごごごごごめんっ! こ、これは勝手に!」

 

し、しまったぁぁぁぁぁぁ!!

 

おい、何やってんだ!

反応しすぎだろ!

いや、これで反応しない方がおかしいとは思うけどさ!

もう少し落ち着け!

慎みを持て!

 

「わ、私は気にしてないから・・・・・」

 

明らかに気にしてるよね!

 

ほんっとごめんなさい!

うちの愚息がごめんなさい!

もう、心の中で百回くらい土下座してます!

 

「ま、まぁ、それはともかく、こうしてイッセーくんを追いかけてきたのはお願いというか、話があったからなの」

 

「話?」

 

なんだろう?

態々風呂にまで追いかける必要がある内容?

 

うーん、ダメだ。

考えても分からないや。

 

すると―――

 

「こ、今度ね・・・・その、一緒に出掛けて・・・・デートしてくれないかなって」

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

駅前の広場、そこにある銅像の横で俺はいた。

 

今日はレイナとデート!

 

お天道様も配慮してくれたのか、空は雲一つない快晴!

気温もここ最近に比べると暖かく、絶好のデート日和といえるだろう!

 

ありがとう、神さま!

 

おっと、お祈りしたら頭痛が・・・・

うん、俺って悪魔だから当然だよね。

アーシアとゼノヴィアみたいに特例じゃないしね。

 

それじゃあ、魔王さまに感謝しとこう。

 

まぁ、それはおいといてだ。

 

今日、態々こうして待ち合わせをしたのには訳がある。

もちろん、デートなので家を一緒に出るより、こうして待ち合わせをした方が雰囲気があるってのもある。

ただ、この待ち合わせにはそれ以上の理由があるんだ。

 

「イッセーくーん!」

 

振り向けばレイナが向こうの方から手を振りながら走ってきていた。

こちらも手を振ってそれに応じる。

 

俺のところに到着すると、レイナは両ひざに手をつき肩を上下させる。

そこから一度深呼吸して、呼吸を整えると手を合わせてゴメンのポーズを取った。

 

「ゴメンね! 支度に手間取っちゃって!」

 

「俺もさっき来たところだし、女の子を待つのも良いもんだよ」

 

白のニットワンピースに、茶色のロングブーツ。

 

うんうん、季節に合わせたコーディネートで良く似合ってる!

それから、僅かに覗かせる太股も良いよね!

 

俺がまじまじと眺めていると、レイナはモジモジしながら上目使いで訊いてきた。

 

「ど、どうかな?」

 

「いいね。可愛いし、良く似合ってるよ」

 

「よかった。ありがとう」

 

俺が感想を述べるとレイナは胸に手を当ててほっと息を吐いた。

 

「さて、二人とも揃ったし、さっそく行くとするか」

 

「そうね。まずはお昼にする?」

 

時計を見ると十二時を少し回っていた。

昼食を取るにはちょうど良い時間だろう。

 

「レイナは何が良い?」

 

「この前、小猫ちゃんと行った喫茶店があるの。そこのサンドイッチが美味しかったから、そこにしない?」

 

「オッケー。それじゃあ、レッツゴーだ」

 

俺は頷くとレイナの手を取った。

 

「あ・・・・」

 

「ん? どうかした?」

 

レイナが頬を赤くしていたので、尋ねてみると「何でもないよ」と返してきた。

何やら嬉しそうだな。

 

ま、レイナが良いならこのまま行くとしようか。

 

 

 

 

 

 

レイナに連れられて入ったのはレトロな喫茶店だった。

 

「静かで良いところでしょ?」

 

「雰囲気は嫌いじゃないけど・・・・よく見つけたな」

 

町の端の端じゃん。

立地も悪いからか、客なんて俺達を含めて数人しかいない。

 

「小猫ちゃんと色々食べ歩きで見つけたの」

 

あー、そういや、そんなことしてたっけ。

 

休日になると町の美味しいもの探しの旅に出かける二人をよく見かけな。

 

「やぁ、いらっしゃい、レイナちゃん。今日は小猫ちゃんと一緒じゃないのかい?」

 

そう言ってテーブルに水の入ったグラスを置いたのはこの店のマスターらしき男性。

歳は・・・・六十代くらいかな?

中々にダンディーな人だ。

 

って、レイナと小猫ちゃん、常連さんになってる・・・・。

 

「あ、マスター。今日は・・・・」

 

レイナが言い終える前にマスターは俺の方を見てニッコリと笑った。

 

「今日はデートかい? いやー、中々に格好いい男の子じゃないか」

 

「ハハハ・・・・ど、ども」

 

「うんうん、良いなぁ。僕も若い頃を思い出すなぁ。若い男女の交際。青春だよー」

 

この人、見た目と合わないくらいテンション高いな・・・・。

フレンドリー過ぎるぞ。

 

「僕の時はねー、駅前で待ち合わせして、彼女の手を引いて、それで―――」

 

しかも、昔の自分について語り始めたよ!!

すいません、そんなこと聞いてません!

注文取ってもらって良いですか!?

 

しかし、マスターのお話はまだまだ続く!

 

「初めてキスをした時は夕暮れの公園でね。辺りには誰もいない。僕達だけ。そこでね、僕の方から―――」

 

そんなにこと細かく語らないで!

つーか、長いよ!

 

「うんうん・・・・」

 

ちょっと、レイナちゃん!?

なんかかなり真剣に聞いてない!?

 

注文は!?

美味しいというサンドイッチは!?

 

ここは俺が話を止めるしかないのか!?

 

いや・・・・ここまで熱烈に語ってくれているマスターを止めるのは・・・・・。

レイナも聞き入ってるし・・・・・。

 

誰か!

誰か助けてください!

俺はお腹が空きました!

もうペコペコです!

 

その時だった。

 

「あなた!」

 

店内に女性の声が響いた。

 

振り返ると店の奥からエプロンをかけた女性がツカツカとこちらへ歩いてきた。

 

その女性はマスターの頬をギュゥゥと引っ張る。

 

「まーた、そんな昔のことを若い子に話して! 恥ずかしいから止めてくださいと言ったでしょう?」

 

「いてててて・・・・しゅ、しゅみません・・・つい」

 

涙目で謝るマスター。

 

うん、やっぱりこの店、賑やかだわ。

賑やかすぎるな。

 

女性は引っ張るのを止めると俺達に言う。

 

「うちの人がごめんなさいね。注文はいつものでいいかしら?」

 

「あ、はい。それで・・・・」

 

「あなた、お客様からの注文よ。ちゃっちゃとしてもらえる?」

 

それだけ言い残すと女性は店の奥へと戻っていった。

 

マスターが頬を撫でながら苦笑する。

 

「今のが僕の奥さんでね。僕の初恋の人でもあるんだ」

 

「へぇ。それじゃあ、さっきの話の?」

 

俺が訊くとマスターは頷いた。

 

ということは、この人は俺達ぐらいの時からあの女性と一緒にいるってことなのかな?

 

「まぁ、今では完全に尻に敷かれてしまってるけどねぇ。それでも、後悔したことなんてないよ」

 

そして、俺とレイナの肩に手を置いて優しい目で言った。

 

「好きな相手の手はね、何があっても離しちゃいけないよ? 何年、何十年経ってもね。互いを想う気持ちさえあれば愛は続いていくものさ」

 

――――っ

 

分かってはいるけど、人生の先輩から言われるとやっぱり説得力があるな。 

 

手を離すな、か。

 

俺は――――

 

「あーなーたー!」

 

「す、すいませーーーーん!!」

 

アハハハハ・・・・・なんとも賑やかなご夫婦なことでで。

 

 

 

 

 

 

喫茶店を出た俺達はそれからショッピングへ。

洋服を買ったり、小物を買ったり・・・・・下着も選んだかな。

 

ま、まぁ、そんなわけで一日デートを楽しんだ俺達。

 

家へ帰る途中、俺達は公園に寄っていた。

 

夕方の人気のない公園。

ここは以前も二人で来たことがある。

 

そう――――レイナが堕天使であることを明かしたあの公園だ。

 

あの時のレイナは泣きながら俺に光の槍を投げてきたっけな。

 

なんてことを思い出してると俺の前を歩いていたレイナが振り返って俺の方を見てきた。

 

「イッセーくん、今日は私のお願いを聞いてくれてありがとう」

 

「いいさ。俺も楽しかったしな」

 

「でも・・・・あの時のやり直しがしたいって言ったときには驚いてたよね?」

 

あの時のやり直し。

 

俺とレイナの初めてのデートの終わりは最悪だった。

俺は殺されかけるし、レイナは泣いてたし。

 

今日のデート、待ち合わせをしたりしたのはあの時の再現って意味もあったんだ。

まぁ、全部が全部あの時のままって訳じゃないけどね。

 

「ごめんなさい」

 

ふいにレイナが謝ってきた。

 

「あの時が切っ掛けだよね。イッセーくんが私達と・・・・超常の存在と関わるようになったのは」

 

「そうなる、かな」

 

一応、ドライグから話は聞いていたし、一年の時から学園にいる悪魔の存在には気づいていたけど・・・・・。

レイナとの接触がなければ、今みたいに三大勢力とか他の神話勢と深く関わることなんてなかったかもしれない。

リアス達と接触したのもあれが切っ掛けだったしな。

 

「でも、なんで謝るんだ?」

 

「私があんなことしなかったら・・・・イッセーくんを危険なことに巻き込まなくて済んだのかなって時々思うの。だから・・・・」

 

すると―――レイナの足元に水滴が落ちた。

 

レイナが顔を上げると涙が頬を伝っていて、

 

「ずっと謝りたかったの・・・・でも、言い出せなくて。今になって遅すぎるよね・・・・・ごめんなさい・・・・ごめん、なさい・・・・」

 

そんなことを気にしていたのか・・・・。

 

俺は買い物袋を置くと、指でレイナの涙を拭った。

 

「謝る必要なんてないさ。あの始まりがあったからこそ、今の生活がある。父さん、母さん、美羽はもちろん。アーシアが来て、リアスが来て、オカ研の皆が家に住むようになった。レイナとの出会いがなかったら、今みたいに賑やかな生活はしてないと思うぜ?」

 

まぁ、賑やか過ぎるのはたまにキズだが・・・・。

 

いつの間にか俺のコレクション全部見られてたし、皆でエロゲーしてたら後ろから単語の意味を聞かれたりするし・・・・。

 

色々とプライバシーは無くなった気がするが、それでも今の生活に満足している。

 

俺はレイナの背中に手を回した。

 

「だからさ、謝らないでくれよ」

 

「・・・・・でも」

 

「おっと、それ以上は言わせないぜ? それ以上言ったら凄いことしちゃうからな?」

 

「・・・・イッセーくん、キャラ変わった?」

 

「変えたのさ。俺はレイナに泣いてほしくないからな。そのためなら少しくらいキャラも変えるよ」

 

「・・・・鬼畜キャラ?」

 

「そ、それはちょっと違うけど・・・・」

 

イグニスが「目指せ、鬼畜道!」なんてこと言って俺に変な修行させてきたけどさ。

今回のはそれとは関係ございません!

 

ま、まぁ、それはまた今度改めてだ。

 

「とにかく、そういうこと。レイナが気にする必要なんてないし、今となってはあの出会いに感謝してるくらいなんだよ」

 

「・・・・そっか。ありがとう、イッセーくん」

 

レイナは泣くのを止めて微笑みを浮かべてくれた。

うん、やっぱり笑顔じゃないとね。

せっかくの美人さんが台無しになるからな。

 

と、ここで俺の携帯が鳴った。

 

この着信音から察するに母さんか。

 

「もしもし、母さん?」

 

『あ、イッセー? 今どこにいるの? もうすぐ夕飯の時間よ?』

 

「あ、もうそんな時間? 分かったすぐに戻るよ。今日の夕飯はなに?」

 

『今夜はカレーよ。レトルトだけど』

 

「レトルトかよ!」

 

『冗談よ。アリスさんと一緒に作ったわ。食べないとアリスさんに振られるわよー』

 

「はいはい・・・・」

 

そう言って俺は携帯を切った。

 

アリスのカレーね。

あいつも料理頑張ってるなぁ。

苦手なものを克服しようとしているのは良いことだ。

 

・・・・・今日のカレーはジャガイモがかなり小さくなっているだろうけど。

 

「イッセーくんのお母さん? なんて?」

 

「今夜はカレーだから、早く帰ってこいってさ。いつの間にか真っ暗だしそろそろ帰ろうか」

 

いつの間にか夕日は沈み、あたりは真っ暗だ。

流石にこの時期は日が沈むのが早い。

 

「そうね。・・・・でも、その前に一つだけ良い?」

 

そう言うとレイナは改まった表情で俺と向かい合った。

 

「さっきの今で言うのもなんだと思うんだけど・・・・・」

 

そう言うとレイナは俺の胸に手を当てて、踵を上げた。

 

俺達の唇が重なる――――

 

「ん・・・・」

 

ほんの僅かな時間。

 

唇を離すとレイナは一歩下がる。

 

「私もね、イッセーくんのこと・・・・好きよ」

 

二度目の告白だった。

一度目の時とは違う、レイナの想いが籠った言葉で。

 

俺はレイナの手を両手で握って言った。

 

「俺も・・・・この手は離さないよ」

 

「うん・・・・!」

 

 

それから俺達はまた手を繋いで家路についたのだった。

 

 

 



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4話 踏み出せ! 新たな道へ!

「あらあら、そんなことがあったのですね。妬けてしまいますわ」

 

「アハハ・・・・」

 

赤面しながら苦笑するレイナ。

 

まぁ、俺としてはレイナの気持ちを改めて知ることが出来たし、今までよりもずっと絆を深くできたかなって思ってる。

 

こうして膝の上にお座りしてくるし!

 

あー、やっぱりレイナの体も柔らかいなぁ!

水着姿だから肌と肌が密着して・・・・女の子の香りが・・・・たまらんよ!

 

「ま、これからも色々あると思うけど、よろしく頼むよ」

 

俺もレイナも互いに助け合いながら、これからの苦難を乗り越えていこう。

それが『家族』ってもんだろ?

 

「色々って・・・・・」

 

あれ?

やたらと恥ずかしそうにしてるんだが・・・・。

 

レイナちゃん、何か勘違いしてないかい?

 

「レイナ?」

 

「な、なんでもない! ちょ、ちょっとトイレ行ってくるね!」

 

そう言うとレイナは膝から降りて向こうの方へと行ってしまった。

 

噛むぐらい我慢してたのかね?

 

「うふふ。レイナちゃんったら」

 

朱乃は朱乃で意味深な笑みを浮かべてるんだが・・・・。

 

すると、レイナのと入れ違いでこの地下プールを訪れる者がいた。

 

「にゃー、疲れたわ」

 

黒い着物のエロエロお姉さんの黒歌だった。

けだるそうな様子でプールサイドに入ってくる。

 

その後ろにはルフェイもいて、こちらは「ど、どうも」と丁寧に頭を下げてきた。

 

ソーナや朱乃が顔を険しくしているのは、未だ黒歌に思うところがあるからだろう。

 

「ただいまにゃー」

 

黒歌がふらふらしながら、俺に抱きついてきた!

 

もにゅんと大迫力のおっぱいが!

気崩れた着物のからきめ細やかで白い肌のおっぱいがこれでもかと主張してる!

 

「赤龍帝ちーん♪ ちかれたにゃー。癒してー」

 

そんなことを言いながら頬擦りしてくるよ!

 

くっそぉ、黒歌め!

なんて、ありがたいことをしてくれる!

 

こいつ、家に居候するようになってから、明らかに密着度を高めてきているんだが・・・・。

うん、これからも居候してくれてかまわんよ!

 

ま、まぁ、これを見ると朱乃が不安げな顔をするんだけど・・・・。

朱乃って、身内以外の女性が俺に近づくと不安がるんだよね。

そこが可愛く思ってしまうんだが!

 

「つーか、黒歌。おまえ、ヴァーリに呼ばれてあっちに行ってたんだろう?」

 

俺がすりすりしてくる黒歌にそう問う。

 

レイヴェル達が拐われて、はぐれ魔法使いの集団と一戦交えた時、黒歌達はヴァーリのところに戻っていた。

 

ヴァーリがこいつらを呼び戻すってことは、向こうでもそれなりのことが起こったのだろう。

 

すると、黒歌は息を吐きながら言う。

 

「そうなのよー。もうさー、アジ・ダハーカが襲ってきてねー。大変だったのよー」

 

『っ!?』

 

この場にいる全員がその言葉に驚いた。

 

アジ・ダハーカ。

 

先生が言っていた滅んだ邪龍の一匹。

相当凶悪なドラゴンだと言っていた。

 

ソーナが言う。

 

「千の魔法を操り、ゾロアスターの善神の軍勢に牙を向いた伝説の邪龍。英雄スラエータオナが封印に近い形で滅ぼしたと伝えられていますね。・・・・そのドラゴンもグレンデル同様に現世に甦った、ということでしょうか・・・・」

 

グレンデルに続き、アジ・ダハーカときたか。

 

『禍の団』、グレイフィアさんの弟は滅んだ邪龍を復活させている・・・・・?

 

『・・・・ここが正念場かもしれん。赤龍帝として、な』

 

ドライグが覚悟を持った声音でつぶやく。

そこまでのレベルの話だってことだな。

 

黒歌はほっぺを離して、目元を厳しくさせる。

 

「あの邪龍・・・・殴っても蹴っても斬っても笑って向かってきたわ。血を全身から噴き出しながらね。倒れる気配が全くなかったの。・・・・あれはまともじゃない。個人的には戦っちゃいけない部類だと思うにゃ」

 

こいつがチーム総掛かりでも倒れなかったのか・・・・。

グレンデル以上、そう考えていいかもしれないな。

 

・・・・・待てよ。

 

「なぁ、全身から血を噴き出しながらって言ったな」

 

「にゃ? そうだけど?」

 

「そいつの血から何か生み出されなかったか? 小型のモンスター的な」

 

「・・・・あれが何か知ってるの?」

 

やっぱりか。

恐らくグレンデルの時と同じやつに違いない。

 

なんだ?

邪龍以上に胸騒ぎがする・・・・・。

 

この感覚はいったい何なんだ?

 

俺は首を横に振って息を吐いた。

 

「悪いが今のところ全くわからん。グレンデルも同じだったから、もしかしたらって思ったのさ」

 

「そう。・・・・まぁ、あれとの戦いを喜んで迎えたヴァーリもどうしようもないバカちんにゃ」

 

呆れた口調で黒歌はそう言う。

 

それは分かる。

あいつ、骨の髄までバトルマニアだもんな。

もう少し、他のことにも興味もとうぜ、ライバルよ。

 

「赤龍帝ちんはあんなドラゴンになっちゃダメよ?」

 

「わーってるよ。俺は俺だ。ヴァーリとも邪龍とも違う。おっぱいドラゴンだぜ?」

 

『それはそれで泣けるんだが・・・・』

 

「良い子にゃ」

 

『俺の意見は無視か』

 

ドンマイだ、ドライグ。

あと、おっぱいドラゴンでごめんね。

 

すると、ルフェイが俺に尋ねてきた。

 

「そういえば、赤龍帝さまは禁手を別の次元へと昇華させていますよね?」

 

「そうだよ。第二階層の天武、天撃と第三階層の天翼。前者は俺のパワーアップに主眼を置いた形態で、後者は俺が持ってるイグニスの力を引き出すことに主眼を置いた形態になってる。・・・・それがどうかしたの?」

 

「ヴァーリ様は覇龍を昇華させて自分だけの覇龍としていましたから、赤龍帝さまはどうするのかなと気になってしまって」

 

覇龍を昇華、か。

 

ヴァーリの新しい力――――白銀の極覇龍。

 

鎧を纏った先生と互角にやりあえる最上級死神プルートを瞬殺したとんでもない力。

消耗が激しすぎるけど、その出力、パワーは俺のどの形態よりも上だった。

 

あの力の波動はよく覚えてる。

 

「覇龍は考えてないかな。あの力は俺には向いてないと思うし・・・・。それに、俺は今のままの力を高めていきたいと思ってるんだよね」

 

禁手の進化。

こいつは俺が可能にしたイレギュラーな現象。

まだまだ伸びる余地は――――進化する余地はあるんだ。

 

だったら、俺は今の力を更に伸ばしていきたい。

 

俺の言葉にルフェイは微笑む。

 

「それをヴァーリさまが聞けば喜びそうです」

 

「ハハハ・・・・確かに」

 

「ですが、神器の中に眠る歴代の思念・・・・怨念は何とかされた方が良いと思います。やはり、危険なものだと思いますから」

 

ルフェイの言うことは最もだ。

覇龍は使わないにしても、あの歴代赤龍帝の怨念は何とかすべきだ。

また、俺をそっち側へと引っ張るかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

でもね・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「実はもう解決してるんだぁ・・・・」

 

俺は遠い目をしながらそう言った。

 

『ううっ・・・・・』

 

そして、ドライグが泣いた。

 

俺達の反応に皆が怪訝な表情で見てくる。

 

あぁ・・・・思い出したくなかったよ。

 

これは俺とドライグにとって、語りたくなかったことだ――――

 

 

 

 

 

 

サイラオーグさんとのレーティングゲームが終わって少し日が経った頃のこと。

 

俺は神器の奥、歴代の赤龍帝達がいるあの白い空間に意識を潜らせていた。

 

「新しい可能性が見つかったのに、相変わらずこっちは変化なしだな」

 

テーブルを囲むように座る歴代達を見て、ため息をつく。

 

無表情だし、虚ろなは瞳はどこを見ているのやら・・・・。

いや、どこも見ていないのかもしれないな。

 

『仕方があるまい。それだけ歴代の怨念は強い。ちょっとやそっとじゃ、変わらんさ』

 

ちょっとやそっとじゃ変わらない、ね。

 

でもさ――――

 

「イグニスにおっぱい揉まれてた子は微妙に変化あったろ」

 

あれは修学旅行で京都に行く新幹線の中でのこと。

今みたいに意識を神器の奥に潜らせて、歴代の怨念と向き合おうとした時だ。

 

ひょっこり現れたイグニスが歴代の女性赤龍帝のおっぱいを次々に揉んでいったんだよね。

 

おかげでエルシャさんは軽くイカされたし・・・・虚ろな表情だった子もどこか恍惚とした表情に・・・・。

 

ドライグも唖然としていたのをよーく覚えてる。

 

『それは・・・・うぅっ・・・・』

 

泣くなよ、ドライグ。

気持ちは分かるけどさ。

 

でも、思うんだ。

 

「あのイグニスのアホみたいな行動が怨念を解く鍵になるんじゃないのか・・・・・?」

 

そう呟いた時だった。

 

「そのとーり!」

 

 

パンパカパーン!

 

 

ファンファーレがこの空間に響き渡る。

それと同時に姿を現したのはイグニス。

 

「どんな悩みもちゃちゃっと解決! 最強のお姉さん、ここに見参!」

 

・・・・・なんか、変なポーズしてる!

 

どこのヒーローだよ!?

 

あれか!?

悪の秘密組織に改造されたやつか!?

 

だったら全く似てねーよ!

もう少し再現できるようになってから来なさい!

 

って、そんなことはどうでもよくてだな。

 

俺は歴代を指差しながらイグニスに問う。

 

「なんとかできるのか?」

 

「もちろんよ。とっくに解決する方法は見つけてるわ」

 

マジか!

そんないつの間に!

無駄におっぱいをもみもみしていなかったと言うことなのか!

 

くっ・・・・不覚にも頼れるお姉さんだと思ってしまったぜ!

 

こちらに送ってくるブイサインとドヤ顔! 

 

最強のお姉さんは伊達じゃない!

 

しかし、イグニスは表情を厳しくさせて冷静な声音で言う。

 

「でもね、これは私だけじゃダメなの。イッセーの協力は必須よ」

 

「この人達は俺の先輩だ。だったら、現赤龍帝の俺が解決しないとダメだろ?」

 

「そう、それもあるわ。だけどね、イッセーがここでしないとあなたは新しい一歩を踏み出せないのよ」

 

「・・・・?」

 

それって、例の新しい可能性のことか・・・・?

 

まぁ、何にしても俺がやらなきゃいけないってことには変わりがない。

 

俺は掌に拳をぶつけて言った。

 

「やるぜ。もうあんな怨念なんざ、俺は聞きたくない。それに・・・・あの人達も本当はあんなの望んでなかったはずだ」

 

歴代の赤龍帝達は守りたいもののために力を求め、そして呑まれてしまった者もいる。

その結果、その守りたかったものまでも自分の手で壊してしまった。

 

そんなのは悲しすぎる。

 

「だからさ、あの人達を俺は助けたい」

 

俺の言葉にイグニスは微笑む。

 

「よろしい。だったらさっそく始めましょうか」

 

イグニスが指をならす。

 

 

すると―――――

 

 

十字架がいくつもこの空間に出現した。

 

『おい、あれはなんだ・・・・?』

 

「何って・・・・磔台だけど?」

 

 

・・・・・・

 

 

『「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」』

 

俺とドライグの叫びが響く!

 

は、磔台!?

 

「な、なんで、磔台!?」

 

「えっと、とりあえず・・・・」

 

イグニスは歴代の男性一人のうでを掴むと―――

 

「こうするのっ!」

 

な、投げたぁぁぁぁぁ!?

 

宙を舞う男性!

磔台に衝突、そのまま縛り付けられた!

 

それからイグニスは歴代の男性達を次々に磔台目掛けて投げていく!

 

つーか、なんで男だけなんだ!?

 

「イッセー、女の子達はこっちよ」

 

ふと見ると磔台から少し離れたところに大きなベッドが置かれていた。

十人以上は余裕で寝れるくらいの大きさだ。

 

・・・・なんでベッド?

 

どっから持ってきたんだよ・・・・・。

 

とりあえず俺は言われるまま、女の子達をベッドに運んだが・・・・・なんか、すっごく悪いことしてるような気がする。

 

「あのさ・・・・これ、どうするつもりだよ?」

 

うん、想像がつかない。

 

これ・・・・歴代の怨念を解く話をしていたのに方法が全く見えてこない。

というか、完全に別のことさせる気だろ・・・・これ。

 

イグニスはテンション高めに言った。

 

「よくぞ聞いてくれたわ! 今からするのはね、歴代の怨念を解くと同時にあなたの新しい扉を開く特訓をするの!」

 

「は、はぁっ!?」

 

え、この人何言ってんの?

 

俺が戸惑うなか、上からウィーンという機械音と共に大きなプレートが降りてきた!

 

どっから持ってきたんだよ!

 

「この空間はね、私がせんき・・・共有してるからこれくらい何とでもできるのよ」

 

『おい、今、占拠と言いかけただろ! 占拠したのか!?』

 

「まーまー、細かいことは気にしない気にしない」

 

『気にするわ! 貴様、一体なにをした!?』

 

「もー、静かに! また、縛っちゃうわよ?」

 

『・・・・アレダケハカンベンシテクダサイ』

 

あのドライグが屈した!?

なんで片言!?

 

それに縛るって・・・・おまえは何をされたんだ!?

 

「さぁ、イッセー。ここに書かれていることを読んでみて」

 

「え、えっと、『兵藤一誠、鬼畜化プロジェクト! ~あの子もこの子もアハーンウフーン~』・・・・・ってなんじゃこりゃ!?」

 

なにこのアホみたいなタイトル!?

 

テレビ番組なら絶対に視聴率悪いだろ!

俺だったら見ねーよ!

 

つーか、鬼畜化プロジェクトってなに!?

 

「これはね・・・・あなたを鬼畜にする計画よ」

 

「説明になってねーよ! もう少し噛み砕いてくんない!?」

 

それでも理解できるか不明だけど!

 

俺の言葉にイグニスは「しかたないわねー」と話始めた。

 

「まず、イッセーの回りにいる女の子。美羽ちゃんは当然、アリスちゃんもリアスちゃんも、他の女の子達もそう。皆がイッセーに好意を抱いているのは分かってる?」

 

「う、うん・・・・」

 

ま、まぁ、あそこまで積極的にアプローチされたらね・・・・。

 

「それで、この間の京都でイッセーは美羽ちゃんとしたでしょ? あれを受けて皆はより積極的になったのも理解してるわよね?」

 

「そ、そうだな・・・・」

 

確かに。

修学旅行から帰ったその日の夜なんて軽く襲われかれたし・・・・・。

 

皆、可愛くて良い子だから嬉しいんだけどね・・・・パワフル過ぎる。

エロの権化と言われた俺が着いていけないレベルの時もある。

 

「この先もイッセーを求めてくるでしょう。そして、イッセーもそれに応えると思うわ。だけどね、その時イッセーは本当に皆を気持ちよくできる?」

 

「え?」

 

「美羽ちゃんだけでも手一杯だったのに、この先、3P、4P、5P・・・・・下手すれば10Pの時だってあるかもしれない」

 

「おぃぃぃぃぃぃ! あんた仮にも女神だろ! とんでもないこと言ってるの分かってる!?」

 

「あ、ティアちゃんと私入れたらもっといくわね」

 

聞いてねぇ!

この駄女神、人の話聞いてねぇ!

 

「仮にそうなった時、イッセーは皆を気持ちよくできる自信はある?」

 

「うっ・・・・それは・・・・」

 

美羽の時で結構ヤバかったから・・・・そうなると俺、死ぬかも。

 

そんな俺を見てイグニスはプレートを叩いて熱烈に語り出す!

 

「そこでこの鬼畜プロジェクト! イッセーの内側に眠る鬼畜を呼び覚ますのよ! 今のあなたはまだリミッターがかかってる。それを外すことであなたはベッドの上では無敵になれる!」

 

内側に眠る鬼畜ってなんだよ!?

 

意味がわからねぇ!

 

ツッコミが止まらない俺の肩にイグニスは手を置き、優しい瞳で言う。

 

「大丈夫。あなたには才能があるわ。この間のレーティングゲームで確信できた。あなたは――――真の鬼畜になれる」

 

「あれはあんたがやらせたんだろうがぁぁぁぁぁぁ!」

 

「さぁ! 開きましょう! 新しい可能性が扉を! 今、ここで!」

 

「うわぁぁぁぁぁん! この人、話聞いてくれないよ! ドライグゥゥゥゥゥ!」

 

『・・・・・俺は・・・・逃げる』

 

あっ、あいつ、奥に逃げやがった!

相棒を見捨てる気か!

 

ちくしょう!

今度、アスカロンの代わりに籠手にエロ本入れてやろうか!

 

つーか、誰かこの駄女神止めてぇぇぇぇぇぇ!!!

 

いや、それもあるけどさ・・・・

 

「・・・・ま、まぁ、そのプロジェクトについては分からないけど分かった。で、それと歴代の怨念を解くのにどう関係するんだよ?」

 

そもそも、俺達はレーティング怨念を何とかしたいって話をしていたはずだ。

 

どう見ても関係ないよね。

 

すると――――

 

「とりあえず、イッセーは女の子達を気持ちよくさせて、怨念を消し去りなさい。私は男の子を担当するから」

 

そう言うと、イグニスの体を炎が覆い――――

 

イグニスの服装が何故か軍服に変わっていた。

マントを羽織り、手には鞭。

 

おいおい・・・・・それってまさか・・・・・

 

 

パシィンッ!

 

 

俺の思考がそこに行き着いたと同時にイグニスが鞭をしならせ、男性の一人に一撃を加えた!

 

「おいぃぃぃぃぃぃ! あんた何やってんの!?」

 

「こうすることで、意識が戻るのよ」

 

アホだ! 

アホがいる!

 

そんなんで戻るか! 

そんなんで歴代の意識が覚醒すると思ってんのか!

 

「・・・・・(いい)

 

・・・・・ん?

今、声が聞こえたような・・・・・。

 

イグニスも聞こえたのか、笑みを浮かべていた。

 

「もう一押しね。さぁ、さっさと起きないか! 二等兵!」

 

 

ベチンッ!

 

 

再びしなる鞭!

鋭い一撃が男性に!

 

その時、俺の目の前であり得ない光景が!

 

「あああああっ! 何という一撃! これは!・・・・これはいいぃぃぃぃぃっ!」

 

あれぇぇぇぇぇ!?

さっきまで無表情だった人がイグニスの鞭で目覚めちゃったよ!

覚醒早々にとんでもないこと言ってるよ!

 

目が覚めた男性にイグニスは近より、男性の顎をくいっと上に上げさせる。

 

「ようやく起きたわね。じゃあ、教えてもらおうかしら? あなたは何で力に呑まれたの?」

 

なるほど。

 

意識を目覚めさせた後に話を聞いてあげて、それで怨念を消し去ろうというのか。

 

起こし方はともかく、流れとしては悪くないのかもしれない。

 

イグニスに問われた男性はポツリと呟くように語り出した。

 

「・・・・僕には親友がいました。昔からの友人です。何をするにも一緒。通う学校も、成績も、趣味も何もかもが同じでした」

 

「それで?」

 

「親友だと思ってました。あの時裏切られるまでは・・・・!」

 

そうか。

 

この人はその親友に裏切られて、力を暴走させたんだ。

それだけ深く傷つけられたのかもしれない。

 

しかし――――

 

「あの野郎! 僕より先に童貞捨てやがった! くそったれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

そんな理由で!?

 

使ったんか!?

そんな理由で覇龍使ったんか!?

 

最低だよ、この人!

 

ってか、ドライグに聞いてた話と違う!

 

「よく言った! 軍曹ぉぉぉぉぉ!!!!」

 

バシィン! バシィン!

 

何度も振るわれる鞭!

 

二等兵じゃないのか!?

その階級はいったいどういう基準なんだよ!

 

「あふんっ! あぁああああ! ダメな僕をもっとぶってください! 女王さまぁぁぁぁぁ!」

 

「バカ者ぉ! 教官と呼べぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「失礼しました、教官んんんんんんっ!!」

 

ただのSMプレイじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!

 

なにこれ!?

 

「むぅ、あれを見たまえ、イッセーくん」

 

「あ、ベルザードさん。いたんすね」

 

いつの間にか横にいたベルザードさんの指す方向にはSMプレイ中の軍服姿のイグニスと歴代の男性。

 

「あの男性の怨念が薄まってきているだろう?」

 

「えっ!?」

 

そう言われて目を凝らしてみる。

 

あっ、ホントだ!

 

さっきまで黒い霧みたいなのが渦巻いてたのに、もうほとんど消えてる!

 

マジか!

SMプレイで怨念って消えるもんなの!?

 

「的確なポイントに的確な一撃。それらが快感を生み出し、怨念を吹き飛ばしているのだろう」

 

ベルザードさんが考察をくれる。

 

はぁぁぁ・・・・・

 

もうツッコミに疲れました・・・・。

キリがねぇ。

 

ガックリ肩を落としていると、手を引っ張られた。

 

「イッセーくん。こっちこっち」

 

「え、エルシャさん?」

 

俺はエルシャさんにベッドの上に連れてこられると、なにやらメモらしきものを渡された。

 

「イグニスさんからの特訓メニューよ。あなたは今からこの歴代の女の子達を怨念から解放するの。同時に内に眠る鬼畜を解放する・・・・らしいよ?」

 

「疑問形になってるんですけど・・・・」  

 

「いやー、私もよく分からないのよね。とりあえず、おっぱいだって」

 

テキトーじゃないか。

 

なんだよ・・・・とりあえず、おっぱいって。

 

そりゃあ、俺はおっぱいドラゴンだけどさ・・・・。

 

「んぉぉぉぉ! 女王さまぁぁぁぁぁ!」

 

「何度も言わせるな! 教官と呼べぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

後ろから聞こえてくるイグニス達のなんとも楽しそうな声。

 

あの駄女神・・・・ノリノリじゃないか。

なりきってるじゃないか。

 

こんな状況で俺は・・・・

 

いや、でもイグニスの言ってることは分からなくもないような気もするし・・・・・歴代の女の子達も怨念から解放してあげたい。

 

俺は・・・・俺は―――――

 

 

 

 

新たな道へと踏み出した。

 

 

 



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5話 マスター・美羽

「うぅぅ・・・・・」

 

『ぐすっ・・・・・』

 

プールサイドで涙ぐむ一人と一匹。

 

あの時のことは思い出したくなかった・・・・。

俺達の反応に話を振ってきたルフェイもどこか申し訳なさそうな表情に。

 

黒歌が俺のティーカップを勝手に取って口をつけた後、訊いてきた。

 

こいつ、なにげに俺の膝上に座ってるな。

 

「ふーん、それで歴代の怨念はどうなったのかにゃ?」

 

「それ・・・・聞くのか?」

 

「だってそこが肝心じゃない」

 

「・・・・さっきも言ったけど、なんとか怨念は晴らせたよ」

 

そう、怨念は晴らせた。

だから、二度と俺を引きずり込もうとはしてこないだろう。

それはいい。

 

 

『ご主人様ぁ。もっと調教してください~』

 

『もう我慢できな~い』

 

『もっと気持ちよくしてぇぇ』

 

頭に響いてくる複数の女性の声。

歴代の女性先輩方だ。

 

あの後、俺はイグニスの指導に従って女性の先輩達に色々した・・・・・というよりさせられた。

おっぱい触ったり、揉んだり、吸ったり・・・・他にも・・・・。

 

結局、あのプロジェクトで俺は夜のテクニックを磨くことになったわけだ。

おかげで、美羽とアリスの時にはそれが実践できたと思う。

 

でも、代償は大きかった・・・・!

 

歴代は怨念から解放された女性の先輩達は俺をご主人様と呼ぶように・・・・・!

俺が神器に潜る度にお尻を振ってくるんだぞ!?

 

ま、まぁ、女性の方は割りと静かな方だから千歩くらい譲ってよしとしよう。

 

 

『長官んんんんんんっ!! 僕をぶってください!』

 

『ののしってくださいぃぃぃぃぃ!』

 

『駄犬とお呼びくださいぃぃぃぃぃ!』

 

 

さっきからうるせぇよ、ドM先輩共!

 

イグニスに鞭でぶたれ続けた男性の先輩達も変な方向に目覚めちまった!

 

こいつら定期的にイグニスとSMプレイしないと騒ぎ出すんだ!

もううるさいから眠っててくんない!?

 

『はっはっはっ。いやー、賑やかになったねぇ』

 

『ホント。これからは退屈せずにすみそうね』

 

ベルザードさんにエルシャさん!

あんたらまともな方なんだからそいつら黙らせて!

三百円あげるから!

 

『それは難しいな』

 

『私達が何言っても聞かないもんね』

 

『ねー』

 

うわぁぁぁぁぁん!

もうやだ!

 

全然頼りにならねぇ!

 

『うぅ・・・・なんでこんなことに・・・・・クズッ』

 

つーか、ドライグ!

 

おまえも何で言わなかった!

先輩があんなに変態だったことを!

 

『そんなの・・・・言えるわけがないじゃないかぁぁぁぁぁ! というより、俺が知ってる変態はあいつと相棒だけだったんだぞ!? 俺も驚きを隠せんのだぁぁぁぁぁ!』

 

さりげに俺を変態扱いしやがったな、この野郎!

俺はSMの趣味はないし、あそこまで変態じゃないやい!

おっぱいが大好きなだけだい!

 

『ウソをつくなぁぁぁぁ! 相棒だって、歴代の女共を縛ってる時、少し楽しそうな顔してたじゃないか!』

 

おまえ、奥に逃げながら見てやがったな!?

 

あの時は色々麻痺してたの!

あのおかしすぎる状況に脳ミソが完全に痺れてたの!

精神半分壊れてたの!

それぐらい分かれよ!

 

『分かりたくないわぁぁぁぁぁ!』

 

「おまえ、それでも相棒かぁぁぁぁぁ!」

 

しばらくの間、俺達のケンカは続いた。

 

 

 

 

 

 

十分後―――――

 

 

 

『ふんだ! 相棒のおっぱい野郎!』

 

「ふんだ! ドライグの赤トカゲ!」

 

俺達が未だ口論していると、向こうの方からティアとイグニスが歩いてきた。

 

二人とも水着姿で、ティアは青いビキニに腰に青いパレオ。

イグニスは赤いビキニに赤いパレオを腰に巻いていた。

 

イグニスがクスクスと笑う。

 

「なーにケンカしてるの? 仲良くしないとダメでしょ」

 

「『ほとんどおまえのせいだろうがぁぁぁぁぁ!』」

 

俺とドライグの声が重なった!

 

そーだよ!

もともとこの駄女神があんな方法取るからいけないんだ!

 

『そうだ! あの駄女神が諸悪の根源だ!』

 

分かってくれるか、ドライグ!

 

『ああ! 分かるぞ、相棒!』

 

「『俺達はあの駄女神に抗議する! 訴えてやるぅぅぅぅぅぅ!』」

 

俺達の叫びがプールに響く!

 

この挑戦を聞いてイグニスは不敵な笑みを浮かべた。

 

「ふっふっふっ! いいでしょう! 相手になってあげるわ! さぁ、縛られたいやつから前にでなさい!」

 

『・・・・スイマセン。チョーシノッテ、ホンットスイマセン』

 

ああっ!

またもドライグが屈してしまった!

 

つーか、はえーよ!

マジで何されたんだよ!?

あと、なんで片言!?

 

「フッ、ドライグは分かってるみたいね。さぁ、イッセーはどうする? 今からベッドでも行く? ――――ベッドの上で私に勝てるなんて思っちゃダ・メ・よ?」

 

なんてこと言いながらウインク送ってきやがる!

 

そんなもので、この俺が・・・・・

 

俺が屈するわけが――――

 

「・・・・すいません。ちょーし乗ってホンットすいません」

 

ごめん、屈するわ!

 

だって、勝てる気しないもん!

あのお姉さん、目がマジなんだもん!

 

くっ・・・・やはり最強のお姉さんは伊達じゃない!

 

「イッセー・・・・おまえ・・・・」

 

ティアが額に手を当ててため息をついていた。

 

はぁ・・・・なに、この無駄な疲労感。

 

「・・・・・むにゃむにゃ」

 

隣の席では黒歌が寝ていた。

よっぽど俺達のケンカがどうでも良かったんだろうな。

 

ま、しょーがないけど。

 

俺は息を吐いて改めてルフェイに言う。

 

「というわけで、歴代の怨念はなんとかなったよ」

 

「ざ、斬新なやり方ですね・・・・」

 

「ヴァーリ・・・・アルビオンには黙っててね。泣くから」

 

『俺からも頼む・・・・』

 

「は、はい」

 

俺とドライグのお願いにルフェイは快く(?)頷いてくれた。

 

とにもかくにもこれで万事解決だろう!

うん、そういうことにしよう!

 

「・・・・んにゃ・・・・泳ぐにゃ」

 

黒歌が寝ぼけながらも起き上がる。

 

ふらふらとプールの飛び込み台に移動すると、着物を大胆に脱いでしまい、全裸で温水プールに飛び込んだ!

 

ぶるんぶるん揺れる生乳に目が釘付けになってしまった!

流石にエロい!

ってか、着物の下は何もつけてないのかよ!?

 

「小猫の姉はいなくなったのだな。ちょうどいい。はぁはぁ」

 

などと、息をあげながら登場したのは競泳水着姿のゼノヴィア。

イリナとの勝負を終えたのか、びしょ濡れのまま俺達の元に足を運んできた。

 

「失礼するぞ」

 

そんなことを言うと、今度はゼノヴィアが俺の膝上に座ってきた!

足に伝わってくるゼノヴィアの柔かな太ももと尻肉の感触!

 

膝上に座るゼノヴィアは濡れた髪を弄りながら言う。

 

「イリナと勝負で賭けていたんだ。勝った方がイッセーの膝上に座るとな」

 

マジでか!

そんな賭けをしていたと!?

 

驚く俺の前に同じく競泳水着姿のイリナが登場して、水泳キャップを外す。

長い髪がファサッと現れた。

縛ってない長髪のイリナも可愛い。

 

「いいないいな! 私もイッセーくんのお膝の上に座りたいな!」

 

そんなに涙目になってまで求める価値があるのか!?

言ってくれたらいつでも座っていいんですよ!?

 

すると、イリナがテテテッと小走りで俺の背後に回ってきた。

 

そして――――

 

「えいっ!」

 

かけ声と共に後ろから抱きついてきた!

むにゅんと天使のもっちりおっぱいが背中に!

 

「背中は私がゲットよ、ゼノヴィア!」

 

「やるな、イリナ!」

 

よくわからん勝ち負けにこだわるおバカな二人。

だが、そんなところが可愛いと思える!

 

「はぅ! イッセーさんが満員御礼状態になってますぅぅ! 私もやります!」

 

アーシアが涙目で駆け寄ってきた!

 

教会トリオはいつでも一緒なんだな!

前も背中も左腕も三人に押さえられてしまった!

いやー、まいったね!

身動きが取れないぜ!

 

女の子の柔らかい感触!

いいね!

グッジョブ!

 

この最高の状況にイグニスが微笑む。

 

「ウフフ、そうしてるとハーレムの王さまね」

 

俺もそう思う!

 

美少女最高!

おっぱい万歳!

 

「しかし、眷属はどうした? 珍しいな、あの二人がいないのは」

 

と、ティアが辺りを見渡しながら怪訝な表情で言った。

 

ま、確かにあの二人が一緒にいないってのは珍しいのかもね。

 

「あの二人は買い物に行ってるよ。生活用品揃えにね」

 

「生活用品?」

 

「あっ、そっか。ティアは知らないんだっけな。実は昨日―――――」

 

俺がそこまで言いかけた時だった。

 

「ただいまー」

 

と屋内プールの入り口から声が聞こえてくる。

見ると美羽が水着に着替え、こちらに手を振りながら歩いてきていた。

 

「おかえり。買い物は終わったか?」

 

「一通りね。まぁ、最低限のものしか買えてないけど」

 

「昨日の今日だからな。・・・・あいつは?」

 

「アリスさんと一緒に水着に着替えてるよ。ボクは先に着替えて来たんだけど・・・・・あ、来たよ」

 

美羽の視線の先。

 

そこにいたのは白いビキニに着替えたアリス。

 

そして―――――

 

「マスター、お待たせしました」

 

美羽の傍らで膝を着く長く淡い紫色の髪を後ろで束ねたスリムな女性。

こちらも水着に着替えているが、髪と同じ紫色のビキニが似合っている。

 

見るとルフェイはその女性の登場に目を丸くしていた。

 

その女性の対応に美羽は苦笑を浮かべる。

 

「その『マスター』ってやめてよ。なんか固いし・・・・。そんなかしこまらなくてもいいって・・・・ディルさん」

 

そう、こいつは京都で戦った英雄派の構成員の一人。

英雄の魂を引き継いだという女性―――――ディルムッドだ。

 

「私はあなたにお仕えすると決めたのだ。あの感動は忘れられない」

 

「え、えっと・・・・そんな大層なことしてないよね?」

 

あの危険なオーラしか感じなかったディルムッドがなんで美羽にこういった態度を取っているかというと・・・・・こうなったのは昨日のことだ。

 

 

 

 

 

 

「いいかー、各自進路については考えておくよーに」

 

『はーい』

 

HRが終わり、今日一日の授業が終わった。

 

先生が教室から出ていくと同時に生徒が一斉に帰りの支度をし始め、椅子の音やら話し声やらが教室にこだましはじめた。

 

「さてさて、帰りますか」

 

俺は首をコキコキさせながら、そつ呟いた。

 

今日のオカ研の活動はない。

朱乃とレイナはグリゴリに行くらしいし、木場も用事があるとのこと。

部長も副部長もいないんじゃ、特に活動することなんてないしな。

部活動会議もない。

 

悪魔の仕事はあるけど、それにしては時間が早すぎるので今日は一旦帰ることに。

 

「アーシアさん、ゼノヴィア、今日も来るんでしょ?」

 

「はい、ご一緒します」

 

「ああ」

 

と、教会トリオが話し込んでいるのが目にはいった。

 

ここのところ教会トリオは町の教会――――天界の支部に足を運ばせているようだ。

最初はイリナの職場見学で行っていたようだが、アーシアとゼノヴィアは特例として、ミサに参加できるようになったとか。

 

まぁ、二人とも信仰心が強かったからな。

教会の儀礼に参加できるのは嬉しいんだろう。

ミカエルさんのお陰でお祈りも出来るようになったし、こういうところでも三大勢力の和平を実感できるよね。

 

今の話からだと、三人はそのまま教会か。

 

「今日は二人で帰ろっか」

 

美羽も三人の声が聞こえていたらしい。

既に支度を整えて、俺の机の前に立っていた。

 

「だな」

 

俺が頷き、支度を始めると美羽が思い出したかのようなか言う。

 

「あ、そうそう、買い物があるんだったね。帰りにスーパーに寄らないと」

 

「そうなのか? そんじゃ、買い物がてらにデートとするか? 久しぶりに」

 

「ホントに? それじゃあ、早く行こうよ。時間は限られてるんだし」

 

そう言って俺と腕を組む美羽。

 

なんか美羽のテンションが上がったなぁ。

それと同時に教室中から視線があつまってきたんだが・・・・。

 

男子の反応。

 

「よし、今度イッセーを殴ろう」

 

「うむ。これはリンチではない。制裁だ」

 

「くっそぉ、なんで俺には可愛い妹がいないんだ!」

 

どうやら、近々、俺は男子に襲われるようだ。

 

ふっ・・・・どっからでもかかってきなさい。

 

もう以前のようには逃げ回らんぞ!

兄の力、見せてくれる!

委員会がなんぼのもんじゃい!

 

で、女子の反応。

 

「やれやれ、お熱いねー」

 

「義理とはいえ、兄と妹のイチャラブ・・・いける!」

 

「兵藤くん×木場くんも捨てがたいけど・・・・・兵藤兄×兵藤妹で良いのが書けそうな気がするのよね」

 

・・・・うちの女子って変な子が多いよね。

 

つーか、俺と木場のネタはまだあったのかよ!

やめてくんない!?

男には興味ないから!

 

あと、書くってなにを!?

 

最後に悪友二人。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「こんのシスコンがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「「俺と代われぇぇぇぇぇぇぇえ!!」

 

うん、血の涙と共に殴りかかってきたな。

予想通りだ。

 

シスコン?

何とでも言うがいい。

 

だけどな―――――

 

「誰が代わるか、ボケぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 

美羽は俺のだ!

誰にもやらん!

 

 

 

 

 

 

スーパーで買い物を終えた帰り道。

 

俺達は近くの公園に寄って、さっき買ったコロッケを食べていた。

揚げ立てだからアツアツのホクホクだ。

 

ベンチに座った俺達は二人とも揚げ立てゆえの熱さに少々苦戦しながらもその味を堪能している。

 

ちなみに俺のはビーフコロッケで美羽のはクリームコロッケ。

衣はサクッとしてて、ほのかな甘味があって美味い。

 

「買い食いでコロッケって、やっぱり良いもんだよな」

 

「定番だもん。それに最近は冷えてきたし、尚更美味しくなるよ」

 

「その意見に一票。ほっぺにクリームついてるぞ?」

 

俺はそう言うとティッシュで美羽の頬を拭ってやる。

 

「エヘヘ」

 

なーんか、また嬉しそうにしてるなぁ。

 

ただ、その笑顔がたまらなく可愛いんだけどね。

この笑顔に何度癒されたことか。

 

俺が癒されていると、美羽がこちらに密着してきて、頭を肩に乗せてきた。

 

「美羽?」

 

「最近は色々あって二人きりの時間って少なかったからね。こういう時にしっかり甘えとかなきゃ」

 

最近は段々お姉さんになってきたと思ってたけど、やっぱり甘えん坊なところは変わらないや。

 

まぁ、でも、確かに最近は美羽と二人っていう時間は少なくなってたかな。

アリスを含めて三人って時間は多かったけど。

 

美羽とこうしているところを見られたら、またアリスが拗ねそうだ・・・・。

 

美羽が言う。

 

「ここ、誰もいないね」

 

「んー、そうだな。夕方だし、子供も帰ったんだろ」

 

この季節の夕方だとそれなりに暗いし、風も冷たい。

 

普段は小さい子供の遊び場であり、中高校生の溜まり場になるこの公園も今は人気がない。

 

「・・・・誰も見てないなら、いいよね?」

 

美羽の顔が近づいてくる。

 

ハハハ・・・・ここでですか。

 

美羽ちゃんってば、本当に大胆だよ。

 

ま、まぁ、誰も見ていないし・・・・いいかな?

 

俺も応じるように顔を近づけていく。

 

二人の唇が重なる。

 

 

 

その時だった――――――

 

 

 

 

 

 

ぐぎゅるるるるるるるるるるるるるるる・・・・・

 

 

 

 

 

「「え?」」

 

突然聞こえてきた腹の虫。

 

「お、お兄ちゃん?」

 

「い、いや、俺じゃないって」

 

怪訝な表情で美羽が見てきたので、俺は掌を振って無罪を主張した。

 

流石に今からキスをしようかって時にそんなムードを壊すようなことはしません!

 

って、今のは美羽でもない・・・・・?

 

それじゃあ、誰が――――――

 

 

ガササッ

 

 

突然、後ろの草むらが揺れた!

 

まさか、誰かそこにいたのか!?

 

俺と美羽は互いに頷くと、その草むらを覗く。

 

そこにいたのは――――――

 

 

 

「ふむ、よく眠れたが、今度は腹が減ったな」

 

 

 

と、背中を伸ばしている女性の姿が。

 

長く淡い紫色の髪を後ろで束ねた美女。

一見モデルとも思えるような容姿だが・・・・・

 

その姿には見覚えがあった。

 

「デ、ディルムッドォ!?」

 

素頓狂な声を出す俺!

 

京都でゼノヴィアとやり合った、あの二槍使い!

 

なんで英雄派のこいつがここにいる!?

どうやって三大勢力の結界を潜ってきた!?

先日のはぐれ魔法使いの侵入以来、結界は強化されていたはずだ!

それなのにどうやって・・・・・

 

様々な疑問が次々に浮かび上がってくるが、その中でも飛びっきりに気になったことがある。

 

それは――――――

 

「なんで、ダンボールで寝てるんだよ!?」

 

夕暮れの公園に響き渡る俺のツッコミ!

 

そう、なぜかこいつはダンボールで組み立てられた家らしきもので寝ていた!

 

何度も目を擦って確認してみるが、現実は変わらない!

どう見てもあれはダンボールハウスだ!

 

ディルムッドも俺達の存在に気づいたのか、こちらに話しかけてきた。

 

「むっ、おまえは赤龍帝か。そうか、おまえはこの町に住んでいるのか? となると、ここは三大勢力の拠点、駒王町だったのか」

 

「知らなかったんかいぃぃぃぃぃ!」

 

この人、知らずに結界の内側に入ってきてたの!?

何やってんだよ!?

 

「すまんが、何か食い物はないか?」

 

「緊張感無さすぎだろ! 敵が目の前にいるんだぞ!?」

 

「腹が減ってはなんとやらだ。美味いものを頼む」

 

「贅沢だな、おい!」

 

「唐揚げが良い。好物なんだ」

 

「話聞けよ!」

 

こいつ、敵に食い物ねだってきたよ!

しかも、リクエストしてきやがった!

 

唐揚げ!?

唐揚げ好きなの、この人!?

意外すぎる!

 

いやいやいや、そんなところにツッコミを入れてる場合じゃない!

それ以上に聞かないといけないことがある!

 

俺は警戒を強めながらディルムッドに尋ねた。

 

「質問に答えてもらうぜ? どうやって結界の内側に入った? 侵入すれば、三大勢力のスタッフに気づかれるはずだ。それからもう一つ。この町に来た目的は?」

 

「さっきからうるさい男だな。まぁ、いい」

 

ディルムッドは息を吐くと、手を前に突き出す。

 

すると、そこの空間が捻れていき―――――赤い槍がディルムッドの手に握られた。

 

「ゲイ・ジャルグ。この槍の能力は魔術や魔法の類いを無効化することだ。この能力を使えば他者に感知されずに結界内に入り込むことなど造作もない」

 

魔術、魔法を無効化する槍、か。

美羽やロスヴァイセさんには最悪の相性だな。

 

「で? この町に来た目的は? さっきの反応からするに俺とやり合いに来たってわけじゃないんだろう?」

 

最初は俺が狙いだとも思った。

京都ではこいつと曹操で俺の取り合いをしてたからな。

 

だけど、こいつはこの町が俺が住む町だと知らなかったようだった。

そもそも、ここが駒王町だと言うことも知らなさそうだったけど・・・・。

 

ディルムッドが再び口を開く。

 

「英雄派が瓦解してからは私の食事処が消えてな。各地を転々としていたらこの町についた。それだけだ」

 

う、うーん・・・・

 

そういや、ルフェイが言ってたな。

ディルムッドは英雄派の飯が美味いから所属してるって。

 

それを考えれば納得できるようなできないような・・・・・

 

今度は美羽が尋ねた。

 

「え、えーと、なんでダンボールで寝ていたの?」

 

「生憎、どこかに泊まる宿賃も無くてな。仕方がなくこれで寝ていたんだが・・・・・ダンボールは良いものだぞ? 組み立て方次第では適度に暖かく、寝心地も悪くないからな」

 

ギャスパーみたいなこと言ってるし!

 

ダンボールヴァンパイアの次はダンボール娘かよ!

 

勘弁してくれ!

ダンボールキャラはもう間に合ってるから!

 

 

 

ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ

 

 

 

 

「うっ・・・・だが、ダンボールでは空腹は満たされない」

 

「そりゃそうだろ!? まさか、食った!? ダンボール食ったのか!?」

 

「何をバカなことを。ここ最近の私の食事はファミレスで済ませている」

 

「ファミレス!?」

 

「やはり日本の食事は美味い」

 

おいおいおい!

またキャラに合わないことを!

おまえはゼノヴィアか!

 

つーか、ファミレス行く金はあるのかよ!

 

・・・・・初対面の時のあの強烈な殺気はどこへやら。

 

残念だ!

残念すぎる!

残念美人だ!

 

「ね、ねぇ、よかったら家、来る? 今日の夕食、唐揚げだし・・・・・」

 

「み、美羽!? おまえ――――」

 

「是非ともお邪魔させてもらおう」

 

「即決か! おまえ、ここが敵地なの理解してる!?」

 

「腹が減ってはなんとやらだからな」

 

「それ、さっきも聞いた!」

 

あー、もう!

マジで何なのこの人!

 

俺が頭を抱えていると美羽が言った。

 

「流石に女の子がダンボールで寝るのもどうかと思うし・・・・お腹すいてるみたいだし・・・・。それに、多分悪い人じゃないよね?」

 

「・・・・・頭は悪いみたいだけどな」

 

まぁ、美羽が言わんとすることも分からなくはない。

 

こいつはテロ活動にはほとんど参加せず、所属していた英雄派からは『タダ飯ぐらい』の称号を得ているほどだ。

このまま放っといても害はないだろう。

 

ただ・・・・女の子が屋外でダンボールハウスで寝るという、あってはいけないような絵。

これは放置しておくわけにはいかない。

 

俺は深くため息をついた。

 

「ったく、美羽に感謝しろよ?」

 

俺はディルムッドを家に招くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ると案の定の結果になった。

 

「イッセー! おまえは何を考えているんだ!」

 

突っかかってくるゼノヴィア。

 

こいつは実際に戦ってるからな。

この反応も納得だ。

 

「まーまー、落ち着けって」

 

「イッセーくん、これは私もどうかと思いますよ? なぜ英雄派のメンバーを家に招き入れているのですか?」

 

ロスヴァイセさんもこの反応。

 

うん、分かってた。

こうなるのは分かってたよ。

 

だって、たとえテロ活動に参加してなくても、テロ組織に属していたのは変わらないしね。

下手すれば色々と問題になる行動だ。

 

でもなぁ・・・・流石に女性がダンボール暮らしをしているところを見ると・・・・・。

 

俺が皆から質問攻めにあっていると美羽が言った。

 

「お兄ちゃんは悪くないよ。悪いのは言い出したボクだから・・・・お兄ちゃんを責めないで」

 

庇ってくれる美羽だが、俺は首を横に振った。

 

「いや、最終的に決めたのは俺だ。責任は俺にあるさ。・・・・・皆もここは目を瞑ってくれないか? 確かにディルムッドはそれほど悪いやつじゃないと思うんだ」

 

俺はそう言って頭を下げた。

 

しかし―――――

 

「うむ! この沢庵は美味いぞ! おかわりをくれ!」

 

「は、はい」

 

冷蔵庫から引っ張り出してきた沢庵をつつきながら、アーシアにご飯のおかわりを要求してるディルムッド!

 

「俺が頭下げてんのに何してんだ、おまえはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「見れば分かるだろう? ご飯のおかわりをしている」

 

「俺が言ってるのはそういうことじゃねーよ!」

 

なに、家に着くなり勝手に飯食ってんの!?

さっきから沢庵ポリポリさせてさ!

 

いい加減にしないと摘まみ出すぞ!

 

アーシアもご飯よそがなくて良いから!

 

「・・・・いいんじゃない? 私は大丈夫だと思う」

 

イリナがそう呟いた。

 

いいの!?

今ので納得してくれたの!?

 

もしかして、俺の説得いらなかった!?

 

「ですね」

 

「うん、いいんじゃないか」

 

あれ!?

 

ロスヴァイセさん!?

ゼノヴィア!?

 

今の今まで反対してたじゃん!

なんで、もうどうでもいいみたいな顔してるんだ!?

 

「ところで唐揚げはまだか?」

 

 

 

 

 

 

それから少しして―――――

 

 

「っ! これは・・・・・!」

 

夕食の席。

 

いつもとは少し違ったメンバーで囲む食卓でそれは起こった。

 

ディルムッドが唐揚げを口に入れると、目を見開き箸を落としたんだ。

 

その様子を皆が怪訝な表情で見ている。

 

な、なんだ・・・・・?

 

すると、ディルムッドは立ち上がり、俺達を見渡しながら言う。

 

「この唐揚げを作ったのは誰か」

 

か、唐揚げ?

 

それを作ったのは・・・・・

 

「え、えっと、ボクだけど・・・・口に合わなかった?」

 

美羽が恐る恐る手を上げ、そう答えた。

 

美羽の唐揚げが不味かった?

いや、そんなことは無いはずだ。

この唐揚げは絶品で、俺の好物でもある。

皆も美味い美味い言いながら食べてるし・・・・・。

 

ディルムッドの視線が美羽に移る。

その瞳には何やら熱いものが宿っているように見えた。

 

ディルムッドはテーブルの反対側に座る美羽の元まで来ると――――――膝をついた。

 

「今後、私のことはディルとお呼びください、マスター。私はあなたの下僕となりましょう」

 

 

 

その時、食卓の時が止まった気がした。

いや、確かに止まった。

 

 

 

 

・・・・今、こいつ、なんて言った?

 

 

 

・・・・マスター?

 

 

 

美羽が・・・・・マスター?

 

 

 

はっ!?

 

 

 

「えええええええええええええええええええ!?」

 

美羽の驚愕の声が家に響き渡った。

 

 

 

 



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6話 集う若手

「・・・・てなわけなんだよね」

 

「・・・・・」

 

昨日の経緯を説明してみたけど・・・・ティアは何とも言えない表情をしていた。

 

うん、そうなるよね。

 

初対面ではあんな危ない人だったのに、まさか美羽の唐揚げで餌付けされるとは・・・・・。

 

それでいいのか、英雄の子孫!?

ご先祖様泣いてるよ!?

きっと血の涙を流してるよ!?

 

「マスターの唐揚げは私が求めてきた味だった。あの衣、あの肉汁。なんと言っても肉の下味が完璧だった。これはそう―――――運命だ」

 

なんかすっごいこと言ってるように聞こえるけど、内容はおかしいからね?

食レポになりかけてるの気づいてる?

 

「誉めてもらえるのは嬉しいけど・・・・。やっぱり『マスター』って呼ばれるのはちょっと・・・・」

 

美羽が困り顔で言った。

 

まぁ、美羽の性格からして誰かを従えるなんてことは出来なさそうだしね。

つーか、唐揚げ食べただけで下僕になるとか・・・・。

 

そりゃ、美味いけどさ。

 

「では、なんとお呼びすれば?」

 

「普通に美羽で良いよ。皆にも名前で呼ばれてるし」

 

「そんな・・・・主に対して無礼なこと・・・・」

 

「いや、主になった覚えはないよ・・・・」

 

ですよね!

美羽からすれば唐揚げ振る舞っただけだもんね!

そんなので『主』とか『マスター』とか呼ばれたら誰だって困っちゃうよね!

 

ってか、ディルムッドのやつどんだけショック受けてんだよ!

そんなに『マスター』って呼びたいのか!?

 

アリスが息を吐く。

 

「ねぇ、これどうするの?」

 

「・・・・美羽に任せるよ」

 

「ええっ!? なんとかしてくれないの!?」

 

美羽はかなり驚いている様子だけど・・・・・。

 

俺は親指を立てて、

 

「が、頑張れ?」

 

「うわーん! 丸投げされたー!」

 

「マスター、また唐揚げが食べたいです」

 

「作ってあげるけど、マスターはやめてー!」

 

うん、なんだかんだでまた兵藤家は賑やかになりそうだ。

そんでもって、しばらくは唐揚げが続きそうな気がするよ。

 

「姉さま!」

 

いつのまにかプールサイドに入ってきていた小猫ちゃんとギャスパー(女の子水着ver)が黒歌を捕まえていた。

 

「にゃー、白音とギャーくんじゃん。一緒に泳ぐ?」

 

とうの黒歌は既に一泳ぎした後で、着物を上から羽織るだけという大胆な格好で休んでいるところだった。

 

「修行をお願いします! 姉さまがここに滞在できるのもそれが大きいのですから!」

 

「こ、小猫ちゃん、僕はいつでもいいんだよ?」

 

「ギャーくんはイッセー先輩と同じぐらい姉さまに甘いよ」

 

おっと、これは手厳しい。

そうかそうか、俺は黒歌に対して甘いのか。

まぁ、あのおっぱいに誘惑されたらね。

 

でも、小猫ちゃんは黒歌と修行している時は楽しげなんだよね。

言葉には出さないけど、心の中ではお姉さんと過ごせるのが嬉しいんじゃないかな?

 

小猫ちゃんとギャー助に連行されていく黒歌が俺の前を通りすぎる寸前なか思い付いたかのように言った。

 

「ねーねー、赤龍帝ちん」

 

「ん? どした?」

 

俺が聞き返すと、黒歌はルフェイに指を指す。

 

「ルフェイを赤龍帝ちんの契約相手の魔法使い候補にはできないの?」

 

『―――――っ!』

 

思いがけない提案にこの場のほとんどが驚愕する!

驚いてないのはティアとイグニスのお姉さまコンビぐらいだ。

 

まさか、ルフェイを俺の契約相手に推薦してくるとは・・・・・。

 

「黒歌さん!?」

 

驚いていたのはルフェイも同様だった。

ルフェイにとっても想像していなかったことだったのだろう。

 

黒歌は濡れた髪をかきあげながら続ける。

 

「この子、やり手の魔法使いだし、名家の出よ? んでもってあんたのファンだし、申し分ないんじゃないかにゃー?」

 

黒歌の意見に美羽も頷いていた。

 

「ボクもルフェイさんの魔法には色々勉強になるところがあるね」

 

美羽でもこう言うレベルだし、俺も実力は相当なもんだと思うけど・・・・・。

 

黒歌は肩をすくめながら更に続けた。

 

「そりゃ、アーサーは家宝であり、国宝であり、至宝でもあった聖王剣を持ち出して、強者求めてこっちの世界に飛び込んじゃった問題児だけどね。でも、ルフェイはそんなお兄ちゃんを心配して追ってきちゃったのよ。本来ならペンドラゴン家の魔術師としてつとめを果たすはずだったのにねー」

 

そんなことがあったのか・・・・。

 

ルフェイはモジモジしながら言う。

 

「お父さまとお母さまもお兄さまのことを心配されてましたし・・・・」

 

なんてお兄ちゃん想いの妹なんだ!

 

俺がアーサーの立場だったら土下座して家に戻るね!

こんな可愛い妹に心配かけたくないもん!

 

まぁ、でも、それを聞けば納得だ。

ヴァーリチームの中ではこの子は浮いていたしな。

明らかにテロリストには向いていない性格だ。

 

しかし、俺の眷属兼マネージャーのレイヴェルは異を唱えた。

 

「大変心苦しいですが・・・・あなた方はテロリスト。既に脱退し、追われる立場になったといえども『禍の団』に加担していたという事実は覆すことはできません。どの勢力にも迷惑をかけてお尋ね者なのは周知のことでしょう? 私はイッセーさまの立ち位置を最優先しなければいけない立場なのであえてキツいことを言わせていただきました」

 

レイヴェル・・・・。

こんなにも俺のことを考えてくれているなんて・・・・俺は感動が止まりません!

 

・・・・と同時に申し訳なく思ってしまった。

 

良く良く考えれば俺、テロリストを家に招き入れたもん。

 

「マスター、また美味しい物をお願いします」

 

「マスターはやーめーてー!」

 

・・・・・今はただの残念美人と化してしまったが。

 

つーか、美羽に対して完全に敬語じゃん。

恐るべし、餌付けの効果!

 

レイヴェルの意見に黒歌は苦笑していた。

 

「まーねー。それを言われちゃったらどうしようもないわよねー。それにこの子が以前在籍していた魔法使いの組織からも除名されているだろうし」

 

黒歌は手を合わせて可愛く懇願する。

 

「でもさぁ、とりあえず、口頭で軽く面接だけでもしてあげてよー、小鳥ちゃん♪」

 

「レイヴェルですわ! もう、イッセーさまの契約相手がテロリストだなんて考えたくもありませんのに!」

 

「まーまー、俺も興味あるし、ルフェイには世話になったこともある。話を訊くだけでもいいじゃないか」

 

俺は怒るレイヴェルにそう言った。

 

ルフェイは悪いやつじゃないし、それに黒歌がこうして頼み込んでくるのも理由があると思うんだよね。

 

多分、同じ妹を持つ者としてアーサーの気持ちが分かるんじゃないかな?

 

俺の勝手な想像だけど、アーサーは自分を追ってきてしまった妹には表の世界で平穏に過ごしてもらいたいと考えていると思う。

黒歌もその想いを理解したから、こういう行動に出たんじゃないだろうか?

 

少なくともヴァーリチームよりは俺の周囲の方がまだ安全だと思うしね。

 

レイヴェルは口元を可愛くへの字にしながら渋々頷いてくれた。

 

「・・・・分かりましたわ。イッセーさまがそう仰るなら・・・・ルフェイさん!」

 

「は、はい!」

 

「私の質問にお答えくださいましね!」

 

「わ、分かりました!」

 

 

 

 

 

 

ルフェイの面接を行って数分後。

 

「・・・・魔法の形式は黒も白も北欧も精霊もいける、と。契約している存在は・・・・・ふ、フェンリル!? ご、ゴグマゴグ!? あり得ませんわあり得ませんわ・・・・!」

 

そりゃ、驚くよね。

 

契約相手がフェンリルだもんな。

あんなおっかない最強クラスの魔物と契約したとか、単純にスゲーよ。

 

まぁ、その点ならアーシアと負けてないけど・・・・

 

『アーシアたんのスク水、食べたい』

 

うぅっ・・・変態だ!

変態がいるよ!

 

ダメだ、あっちの声は耳に入れないようにしよう。

 

ようやくペンを置いたレイヴェルだが、その表情は信じられないといった感じだ。

 

「・・・・なんてことでしょう。ルフェイさんは私が設けた基準を遥かに超えてますわ。今までに見てきた魔法使い達のステータスよりも優秀な面が多々見受けられますわね・・・・」

 

「まぁ、選考にあった魔法使いはパッとしないって美羽も言ってたし」

 

「言ってない言ってない! ボクが言ったのは皆、同じに見えるって言ったの!」

 

「・・・・ほとんどストレートよ、それ」

 

「マスターは天然か」

 

アリスさんに一票。

あと、ようやくディルムッドがまともなこと言ったな。

 

レイヴェルは続ける。

 

「家柄も良し、実力も良し。テロリストという点を除けば理想的な契約相手となりますわ」

 

「・・・・ですが『禍の団』に荷担していた事実は重いですね」

 

ソーナが冷静にそう漏らしていた。

 

問題は一点だけ。

だけど、その一点が重すぎるってところか。

 

兄を心配してのこととはいえ、各勢力に目の敵にされている組織にいたことが盛大に引っ掛かったな。

 

「・・・・・」

 

ルフェイも複雑そうな面持ちだ。

 

黒歌が重い空気を吹き飛ばすようにカラカラと笑う。

 

「ま、今はそんな評価でいいんじゃないかにゃ? 契約なんて後でもできるわけだし、その頃にはなんとかなってるかもだしー。ところで白音、あんたの縄張りが取られているけど、いいのかにゃ?」

 

黒歌が小猫ちゃんにそう訊く。

 

俺の膝上にはゼノヴィアが座ってるもんな。

小猫ちゃんにとって俺の膝上は縄張りなのか・・・・。

 

「後で座り直せば問題ないです。あそこは独立自治区なので」

 

独立自治区!?

そんな場所なの、俺の膝上って!?

 

テーブルの下にいたベンニーアが何やらメモをしていく。

 

《おっぱいドラゴンの膝上は独立自治区・・・・と。今日は新事実ばかりで勉強になりやすぜ。特に鬼畜に目覚めたところは興味深いですぜ》

 

「そんなのメモしないで! 泣くよ!?」

 

「うふふ、イッセーくんの鬼畜プレイ。味わってみたいですわ。イッセーくんに縛られて、あんなことやこんなことまで・・・・・」

 

朱乃を縛ってあんなことやこんなこと・・・・・。

そ、それは・・・・やってみたいような・・・・。

 

 

 

『あぁんっ・・・・ダメですわ、そこは・・・・っ』

 

『もうこんなになってる。縛られて感じてるのかな? 朱乃はエッチな子だ。ほら、ここも――――』

 

『イッセー・・・くん、そんなところぉ・・・・はぁぁんっ』

 

 

 

 

いかんいかん、つい想像してしまった。

 

あれ・・・・やっぱり俺、Sに目覚めてる・・・?

 

「ふふふ」

 

ああっ、イグニスが意味深な微笑みを!

 

全てがあの駄女神の掌の上だとでもいうのか!

なんということだ!

恐るべし、最強のお姉さん!

 

と、そこに新たに来訪者の声が。

 

「地下にプールだなんてとても楽しそうですね」

 

皆がそちらに視線を送ると、そこにはシスター服のお姉さん、グリゼルダさんがいた。

シスターの後ろに男性が二人いるけど・・・・

 

「申し訳ございません。お宅を訪問いたしましたら、兵藤一誠さんのお母さまがおむかえくださいまして、ここに通されたしだいです」

 

あ、母さんが通したのね。

 

「ごきげんよう」

 

グリゼルダさんは丁寧な挨拶と微笑みを俺達にくれるが・・・・

 

グリゼルダさんの登場に表情を強ばらせる者がいた。

ゼノヴィアだ。

 

ちなみに、イリナは既に俺から離れて姿勢を正していた。

天使のおっぱいが離れてしまった・・・・。

 

グリゼルダさんが微笑みながらゼノヴィアの頬を引っ張る!

 

「昼間から殿方の膝上に乗っているなんて・・・・随分と破廉恥な子になったようですね、ゼノヴィア?」

 

「ひゃ、ひゃい、ごめんなひゃい・・・・」

 

あらら、ゼノヴィアが涙目で謝ってら。

 

うーむ、本当にグリゼルダさんには頭が上がらないようで、何とも可愛いらしい顔を見せてくれる。

 

と、グリゼルダさんはコホンと咳払いをしてから、頭を下げる。

 

「申し訳ございません。グレモリーさんとシトリーさんがお話をするということで、私達もお邪魔しようと思いまして・・・・」

 

テーブル席の一つに腰をおろすグリゼルダさん。

 

だけど、俺の興味は違うところ――――彼女が連れてきた二人の男性にあった。

 

一人は神父服、金髪にグリーンの瞳という端正な顔立ちの青年。

俺とそう変わらない歳だろう。

 

もう一人は日本人でこちらもイケメンだと思う。

 

こちらの男性の傍らには大型の黒い犬がいた。

漆黒の毛並みに金色の瞳。

 

纏うオーラから異形の類なのは分かるが・・・・。

 

俺がその犬を見ていると、神父服の男性が挨拶をくれた。

 

「ども、初めまして。自分、デュリオ・ジェズアルドといいまっす。お見知りおきを~」

 

「デュリオ・・・・ということはあんたが天界の切り札、ジョーカーってわけか」

 

俺がそう言うと男性――――デュリオは笑顔で答える。

 

「そうっすよ。いやー、かの有名な赤龍帝殿に名前を覚えられてたなんて光栄っすね~」

 

うーん、なんというかマイペースだな。

 

デュリオはうちの女子メンバーに視線を配らせ、うんうんと頷いた。

 

「赤龍帝殿は美人の嫁さんをたくさん持ってるって有名だけど、マジだったんすね。羨ましい限りだ、うんうん」

 

「デュリオ? あなたは天界の切り札たるジョーカーなのですよ? 失礼のないようになさい」

 

グリゼルダさんはデュリオの耳を遠慮なく引っ張っていく。

 

「いてててて。・・・・あはは、グリゼルダ姐さんには敵わないっす」

 

どうやら、グリゼルダさんはゼノヴィアだけでなく、デュリオも管理しているらしい。

 

ジョーカーの話は何度か耳にしたことがあるけど・・・・。

まさか、こうも早くに会うことになるとはね。

 

デュリオの紹介を受けていると黒歌が楽しげに言った。

 

「これは珍しいにゃん。うちのヴァーリがいたら喜んだかもね」

 

「知ってるのか?」

 

俺が訊くと黒歌はニンマリと意味深に笑んだ。

 

「―――刃狗(スラッシュ・ドッグ)。『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』の所有者で、曹操以外でヴァーリに覇龍を使わせた『人間』にゃ」

 

「マジで!?」

 

この人がそうなのか!?

 

実力者なのは雰囲気で分かってたけど、ヴァーリに覇龍を使わせるって・・・・。

とんでもない人が来たもんだ。

 

男性が挨拶をくれる。

 

「初めまして、幾瀬鳶雄といいます。今日はアザゼル元総督の代行でここへ来ました。こっちは刃。神滅具そのものだと思ってください。こいつは独立具現型の神器だから、意思を持ってるんだ。今後は裏方要員として皆さんのサポートに入ります」

 

ついでに犬の紹介もしてくれたが・・・・・。

 

独立具現型の神器。

サイラオーグさんところのレグルスみたいな感じなのか?

いや、後天的になった向こうとは違うのか?

 

レイナが幾瀬さんに話しかける。

 

「幾瀬さんもこちらに来ていたんですね」

 

「連絡いってなかったかな? てっきりアザゼルさんから伝わっていると思ってたんだけど・・・・」

 

「はぁ・・・あの人、私への報告雑すぎ! 今度、お説教よ!」

 

先生、戻ったらレイナちゃんからのお説教があるそうです。

この感じだととっても長いと思います。

 

自業自得だけど。

 

そういえば、この二人って顔見知りなんだな。

同じ組織に所属しているから、過去に何度か会ったことがあるのかも。

 

ソーナが眼鏡をくいっと上げる。

 

「三大勢力の神滅具所有者が集ってしまいましたね」

 

そうなるな。

 

俺は悪魔側、デュリオは天界、幾瀬さんは堕天使側だもんな。

ここにサイラオーグさんまで来たら三大勢力の神滅具所有者は全員集合になっちまう。

 

しかし、この二人が増援として来てくれるとなると心強い。

なにせ相手は凶悪な上にしぶとい邪龍だからな。

強いメンバーがいてくれると非常に助かる。

 

幾瀬さんが言う。

 

「アザゼルさんから君達のトレーニング相手になってほしいと頼まれているだけど、どうかな?」

 

「あ、俺もミカエルさまからそんなこと命じられてたかも。赤龍帝殿、グレモリー方々、俺も練習相手にどうかな? まぁ、赤龍帝殿はメチャ強いって話だから俺だと力不足かもしんないけど」

 

幾瀬さんの言葉にデュリオも思い出したようにそう言ってきた。

 

神滅具所有者が修行相手なのはありがたい。

 

今までの戦いからだけど、神滅具ってのはどれも強力だ。

聖槍にしろ、絶霧にしろ、その出力はもちろん、強力な能力ばかりだった。

 

今までは敵方だったから、修行なんて出来なかったけど、今度は味方として修行に付き合ってくれる。

こんな機会はめったにないだろう。

 

俺は立ち上がって二人と握手を交わした。

 

「刃狗にジョーカー。二人が付き合ってくれるなら俺も良い経験になりそうだ。よろしく頼むよ」

 

「そう言ってもらえると俺も嬉しいかな。あ、俺のこと呼び捨てで良いからね。俺もイッセーどんと呼ぶからさ」

 

イッセーどん・・・・そんな呼び方をされるのは初めてだ。

ま、いいけどね。

 

「それじゃあ、主共々私達もよろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

アリスと美羽も二人と握手を交わす。

 

「私も修行しますわ!」

 

レイヴェルも手を挙げていた。

 

俺の眷属になってからはレイヴェルも強くなろうと本格的に修行に参加している。

現段階では美羽、アリスよりも数段劣っているけど、これからぐんぐん伸びるだろう。

 

まぁ、心配なのは無理に鍛えようとしているところか。

同じ眷属である他の二人との差を意識しているところが多々見られるんだよね。

 

オーバーワークにならないよう、しっかり見てやらないとな。

 

俺のすぐ横ではゼノヴィアとイリナが燃えていた。

 

「これはいいぞ。トレーニング相手が神滅具所有者複数だなんて、そうあることじゃない!」

 

「そうね、私も天使パワーを高めたいわ!」

 

「そうだな、自称天使は天使というものをジョーカーに習った方がいい」

 

「もう! ゼノヴィアこそ、刃狗さんからテクニックを覚えればいいんじゃないかしら!」

 

「お二人も張り切ってますね! 私もファーブニルさんとの連携を鍛えます!」

 

ゼノヴィアとイリナに続き、アーシアも燃えている!

教会トリオもレベルアップしそうだな!

 

ソーナも挙手する。

 

「よろしければうちのヴリトラ使いも参加させたいのですが、いかがでしょうか? そろそろあの子を禁手に至らせたいと思っていますので」

 

「いいんじゃないっスかねぇ。龍王も追加ってことで」

 

「私もか。では噂のジョーカーに鍛えてもらうとしようか」

 

「いやいやいや、おまえは鍛える側だろ」

 

ニヤリと笑みを浮かべるティアにツッコミを入れる俺。

 

ティアはどう見ても教える側だよね。

俺もティアにはまだまだ教わるところもあるし。

 

力もそうだけど、それだけティアは経験が多いってことだ。

 

「フフフ、私も・・・・本気を出す時が来たわね!」

 

「おまえが本気出したら全部燃え尽きるからやめようねー」

 

顎に手をやり格好よく決めてるつもりかもしれないけど、やらせねーよ。

駄女神の本気はマジで怖いからやめてくれ。

 

まぁ、でも、このメンツなら何とか匙を至らせることができる・・・・・かも。

 

禁手に至るには劇的な変化が必要だからな。

どれだけ修行してもただのパワーアップで終わるパターンもある。

匙の中で何か強い想いがあれば・・・・・。

 

俺の場合はアリスのおっぱいだったわけだけど。

 

「・・・・・なんで私の胸見てるのよ」

 

「いや、なんというか・・・・・禁手に至らせてくれてありがとう」

 

「とりあえず、グーで良い?」

 

「すいませんすいません! ごめんなさい! だから、バチバチさせないで!」

 

うちの『女王』はおっかない!

 

デュリオと幾瀬さんの好意に皆が活気づくなか、グリゼルダさんが言う。

 

「テロリストの動きが不気味な以上、各勢力の強化が必要なのですが・・・・・残念ながら、各陣営の実力者の大半が上役であり、政治的な意味合いで動きにくい立場にあります。特に神を失う事態になっては世界に影響を及ぼします。ですから、あなた方のようにいつでも動ける強い若手が必要なのです。負担を強いることになるのは重々承知です。・・・・どうか、三大勢力だけでなく、各神話体系のため、そして人間界のために力を貸してください。私達も最大限尽力致します」

 

頭を深く下げるグリゼルダさん。

 

そんな彼女に俺は言う。

 

「頭を上げてください。お願いなんてされなくても、俺達は動きますよ。自分の守りたいものを守るために、な?」

 

俺が振り返ると皆も頷いていた。

 

ここにいるメンバーはそれぞれ守りたいものを持っているはずだ。

それを守るために、全力でぶつかっていく。

これまでも、これからも。

 

「ま、無茶だけはするなよ?」

 

「あんたが言うか」

 

「イテッ」

 

アリスのチョップが俺の額を捉えた。

 

ま、まぁ、確かに俺が一番無茶してきたかも・・・・。

ハハハハ・・・・・。

 

俺は額を擦りながら言った。

 

「それじゃあ、デュリオと幾瀬さんの歓迎会でもするか? せっかく来てくれたんだしな」

 

「お、いいねぇ。流石はイッセーどん。美味しいものがあると俺は嬉しいよ」

 

「それなら任せとけ。うちの飯は美味いぞー」

 

「そりゃあ、楽しみだ」

 

俺とデュリオがそんな会話をしていると、ソーナが冷静に一言。

 

「その前に今後についての話し合いです」

 

 

それから俺達は話し合いをした後、二人の歓迎会を開いたのだった。

 

やっぱり平和が一番ってね。

 

 

 

 

 

 

深夜。

 

悪魔の仕事を終えた俺は一人、風呂に入っていた。

大浴場ではなく、一般家庭サイズの方。

 

今日はお得意様からの依頼が四件入って、それを俺と俺の眷属である三人で分担したんだ。

 

俺は森沢さんからの依頼だったんだが、アニメについて長々と語り合っただけだった。

結局、四時間ぐらい話してたおかげで風呂に入るのもこんな時間になっちまった。

 

ま、休日だからいいんだけどさ。

 

美羽達も今ではちゃんと契約を取ってくる。

最初の契約のお陰で不安は無くなったとか。

 

アリス曰く、

 

『あれ以上のことって起きないでしょ?』

 

だそうだ。

 

まぁ、はぐれ魔法使いの拠点を潰すようなことは早々起きないだろう。

 

いや、しかし・・・・依頼者がミルたんの場合、何が起きるか分かったもんじゃない。

 

あれ?

 

そういや、俺、ミルたんに関して何か忘れているような・・・・。

 

確か、松田と元浜が――――――

 

「・・・・ないな。うん、ないない」

 

俺は首を横に振って、それを否定した。

 

そんな光景、見たくない。

想像しただけで恐ろしい・・・・・。

 

その記憶を消し去った俺は風呂から出ようとした。

 

 

 

その時――――――

 

 

 

「お、お邪魔します・・・・・」

 

と、タオルで前を隠しながらレイナが入ってきた。

ほとんど先日と同じ状況だ。

 

「起きてたの?」

 

「うん。・・・・というより、イッセーくんが帰ってくるのを待ってた」

 

「待ってた? こんな遅くまで?」

 

用事があるにしても、結構な時間だぞ?

俺が家に戻った時には深夜一時を過ぎてたからな。

 

よほどのことなのだろうか?

 

「・・・・・」

 

などと考えた俺だ、よく見るとレイナの頬は赤く染まっていて、瞳も潤んでいるようだった。

 

「レイナ?」

 

怪訝に思った俺は声をかけてみる。

 

 

すると―――――

 

 

「イッセーくん・・・・」

 

レイナはタオルを床に捨てて全裸で抱きついてきた!

 

むにゅんとおっぱいが俺の胸に押し当てられる!

乳首が乳首に当たってる!

 

なんだなんだ!?

 

どうしたんだ、レイナちゃん!?

 

「・・・・・()

 

「て?」

 

なんて言ったんだ?

声が小さすぎて、密着してるのに聞き取れなかった。

 

『て』がなんだって?

 

すると、レイナは顔を上げて更に潤ませた瞳で―――――

 

 

 

 

 

「・・・・・抱いて」

 

 

 

 

 

あ、あれ・・・・・

 

今、なんて言った・・・・?

 

いや、雰囲気からして分かるけど・・・・流石に唐突すぎると言うか・・・・・。

 

俺は何とか声を絞り出した。

 

「な、何があったんだ?」

 

「・・・・・・もう・・・・出来ないの」

 

「出来ないって・・・・?」

 

「・・・・我慢」

 

が、我慢?

 

ダメだ、余計に分からなくなってきた。

 

「私・・・・前に言ったよね。イッセーくんが・・・・美羽さんとアリスさんがしちゃってるところ・・・・見たって」

 

「う、うん」

 

あれには心臓止まるかと思ったよ。

 

まさか、見られてるとは思わなかったもんで・・・・。

気付かなかった俺も俺だけど・・・・。

 

「あれを思い出す度に・・・・その・・・・一人で慰めてて・・・・今日もトイレでこっそり・・・・」

 

そんなことしてたの!?

 

トイレって・・・・俺の膝から降りた後のあれか!?

 

なんてカミングアウトなんだ!

衝撃過ぎる!

 

「でも、もう我慢できないから・・・・イッセーくんにしてほしいなって」

 

「マジ・・・・?」

 

「マジよ。・・・・この間のデートで気持ちを受け取ってもらえたのが嬉しくて・・・・。でも、そしたら、余計に我慢できなくなっちゃった」

 

レイナはそう言うと俺の手を取って自身の胸に当てた。

 

手を通して、レイナの鼓動が伝わってくる。

 

「もうこんなに高鳴ってるの」

 

確かにレイナの心臓は強く脈打っていた。

体も火照っているのも分かる。

 

いや、でも・・・・

 

「私は魅力ない・・・・? こんなエッチな私はイヤ?」

 

「そんなことないさ。誰にも渡したくないくらい魅力的だし、エッチな女の子も大歓迎だよ」

 

俺だってレイナにここまで迫られたら、我慢できない。

その証拠に愚息が天に向かってファイト一発してるし。

 

でも、毎度のごとくアレを所持していない。

アレを持っている美羽も今は寝ているから、入手する術がない。

 

となると、俺はレイナにも言わなくてはいけない。

 

「このまましたら赤ちゃんできちゃうだろ? 学生の間は流石に、な?」

 

「あ、それなら・・・・」

 

レイナはそう言うと一度、風呂場から出て洗面所で何やらごそごそし出した。

 

おいおい・・・・この展開は・・・・・

 

まさか・・・・

 

まさか――――――

 

「ゴムならここにあるわ」

 

洗面所の引き出しから引っ張り出してきたぁぁぁぁぁ!?

 

なんでだ!?

なんでそこにあるんだ!?

 

しかも、レイナが持ってきているのはそれだけじゃなかった!

 

「そ、そのボトルは?」

 

「ローション」

 

「なんであるの!?」

 

「美羽ちゃんがここにあるって言ってたから」

 

美羽ぅぅぅぅぅ!?

 

なんで用意してたんだ!?

 

また桐生か!

また桐生経由なのか!?

 

「あとマットもここに」

 

そう言ってレイナはピンク色のビニールのマットを洗面所から持ってきた!

 

用意よすぎだろ!

 

どこにあった!?

そんなのどこにもなかったぞ!?

 

ってか、美羽に聞いたってことは・・・・

 

「もしかして、美羽はこのこと知ってる?」

 

「『ファイト!』って応援もらったわ」

 

美羽・・・・・おまえ・・・・。

そんなエールまで送ってたのか・・・・・。

 

どうやら、俺は妹の手によってハーレム王に近づいていくようです。

 

俺はレイナのおでこにキスをした。

そして、レイナの手を取って宣言する。

 

この宣言は二度目になる。

それでももう一度言っておきたい言葉だった。

 

「この手は絶対に離さない。この先何があってもね」

 

「私もよ。―――――イッセーくん、大好き」

 

 



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7話 首謀者の影

閑話章ラストです!


[アザゼル side]

 

俺は吸血鬼カーミラ派のテリトリー内に足を踏み入れていた。

 

カーミラの中心とも言える城下町。

この町は中央に真祖たるカーミラの城を円上に囲むようにして現代的な建物が並んでいる。

住宅街の民家も今風のものばかりだ。

 

他にもちょっとした土産屋やカフェなんかもちらほら見られる。

流石にゲームセンターのようなものはないがな。

 

吸血鬼が住む町だけあって、日の光を遮るようにどの建物にも窓は少なく、あっても戸は閉められている。

 

まぁ、これだけ濃い霧に包まれているようじゃ、日の光なんて昼間でも町まで届かないだろうがな。

 

現在は昼間なので、夜の住人たる吸血鬼は睡眠タイムだ。

昼間でも動いている者はいるが、肌を露出しないように厚い服装で防備していた。

 

町の設備や住人の持ち物は人間界とさほど変わりはない。

住人の大半が元人間だからだろうな。

 

この町を覆っている霧だが、こいつは吸血鬼の能力だ。

吸血鬼は霧を操り、それを結界とし、索敵に使用したりもする。

 

英雄派ゲオルクの絶霧ほどの特異性はないだろうが、それでもこの町を丸ごと覆えるのはその吸血鬼が相当な実力を有しているということだ。

 

リアス達と別れた俺は一人でカーミラ側の領地に入った。

人里離れた山間部に広大な結界を張った人間界はおろか、他の神話勢とも隔絶した閉ざされた空間。

それがここだ。

 

で、そんな場所にあるカフェで俺は注文したコーヒーを飲みながら外の景色を眺めている。

 

「やれやれ・・・・」

 

俺がこうして一人カフェにいるのは理由がある。

 

実はカーミラ派のトップ、カーミラ本人との面会しようとしたんだが・・・・どうにもタイミングが悪くてな。

女王さまは会議中とのことだ。

 

しかも、かなり長々話し合ってるため、ここを訪れてから数日が経っている状況だ。

どうやら、ツェペシュ側で動きがあったようでな、それの対抗策を練っているみたいなんだ。

俺との面会は後になる。

 

っと、さっき一人と言ったのは少し訂正だ。

 

少し離れたところに座る男。

監視役だ。

そんな気配が町に出てからムンムンしてる。

 

だが・・・・そんな監視役の気配が唐突に途絶えた。

 

ちらりと視線をそちらへやると、監視役の者はテーブルに突っ伏していた。

 

やれやれ・・・・

 

「ったく、こんなところにまで何の用だ? ――――ヴァーリ」

 

俺の席に近づいてきたのはヴァーリだった。

 

「この近くを通りかかったら見知った気配を感じたものでね」

 

ヴァーリの後ろには美猴とアーサー、そしてフェンリル。

 

「やーやー、総督おひさー。あー、いまは監督だっけか?」

 

「相変わらずだな、おまえも。眠らせたのか?」

 

俺が監視役の吸血鬼へ視線を配らせると、イタズラ猿は楽しそうに笑んだ。

仙術、もしくは妖術で眠らせたのだろう。

 

こいつらがこの霧の中で何事もなく動けるのは潜入に長けてるからだ。

伊達に各神話勢からの追っ手を撒いてないってことだな。

それだけ猛者の集まりだ。

 

「で、何か用があるんだろう?」

 

「ああ。邪龍のことだ」

 

ヴァーリが話始めたのは、こいつらが出会った邪龍について。

 

アジ・ダハーカ、か。

グレンデルに続いてまたまた厄介なドラゴンが甦ったもんだ。

 

諸々のことを聞いた俺は息を吐き、改めて問う。

 

「アジ・ダハーカは強かったか?」

 

「少なくともプルートよりは楽しめそうだ」

 

少なくともアジ・ダハーカはプルートよりも強いということだな。

 

美猴が続く。

 

「つーか、強ぇよ、あのイカレドラゴン。今までやり合った中じゃ抜群に強ぇ。一向に倒れる気配がねぇんだぜ? ありゃ、参るわ」

 

「中々に楽しめましたけどね」

 

アーサーもヴァーリに負けないくらいのバトルマニアのようで。

 

だが、強者を求めて世界中を旅するこいつらがここまで言うのだからアジ・ダハーカの力は郡を抜いていたようだ。

 

アーサーが言う。

 

「そちらではグレンデルが出たとか」

 

「情報が早いな。まぁ、こっちは撃退出来たようだが苦戦したようだ。イッセーの手札をほとんどフルに使ってもグレンデルは立ち上がったんだとよ」

 

イグニスの力なら跡形もなく消し去ることが出来るだろうが・・・・あいつの力はそう容易に使っていい代物じゃないからな。

周囲への影響もそうだが、イッセーの腕が焼けてしまう。

本当にここぞと言うときにしか使えない。

 

・・・・それに気になるのはグレンデルの血から生まれたという小型のドラゴン。

そして、それを見たときのイッセーの異変、か。

 

俺は実際に見たわけでも、イッセー本人から話を聞いたわけでもないから何とも言えないが・・・・

 

「とにかく、現状は相当不味い状況にあるってところか」

 

ヴァーリが片眉を少し上げて訊いてくる。

 

「やはり、邪龍の復活は聖杯か? あれは生命をいじるのだろう? 死んだ者の蘇生も可能なのか?」

 

その考えに行き着くよな。

俺もヴァーリと同じ考えを持っている。

 

神滅具の聖杯は使いようによっては命の理を狂わせる。

 

「魂の在り処、行き着く先ってのは各宗教ごとに違う。だが、キレイさっぱり元通りで復活ってのはありえない。一度魂が逝っちまったら、そう簡単に現世に戻ってこれないからな」

 

それだけ、肉体から魂が離れるってのは尊いことなんだ。

 

もちろん例外はある。

悪魔や天使の転生システムによる復活とかだな。

ただ、この二つは死にたてホヤホヤじゃないと使えない。

 

ヴァーリは目を細める。

 

「邪龍は別、か?」

 

「奴らはしぶといからな肉体も、その魂も。あれほど肉体と魂を切り刻まれたヴリトラが神器を寄せ集めただけで復活を遂げたぐらいだぜ? そこから推測して神滅具である聖杯の力があれば―――――」

 

「しかも亜種の禁手ともなれば次元も変わるだろうな」

 

続いたヴァーリの言葉に俺は頷いた。

 

美猴が頬杖をつきながら言う。

 

「そうなっと、聖杯を持つ吸血鬼の一族は『禍の団』と繋がってるってことかい?」

 

「普通に考えればそうなるな」

 

聖杯を持つツェペシュ側の吸血鬼と邪龍を復活させた『禍の団』。

これまでの話をまとめればこの二つは自然と繋がってくる。

 

カーミラ派はそこまでの情報を得ていたのだろう。

そして、この二つを自分達では抑えきれない。

 

そう判断したからこそ、今まで交流を断絶していた俺達に近づいてギャスパーを得ようとした。

ヴァレリーと交流のあったギャスパーなら、相手も隙を見せるかもしれないと踏んだからだ。

 

まぁ、あの特使の娘はイッセーの嫁二号にコテンパンにされてたけどな。

 

しかし、ギャスパーよ。

おまえの恩人はとんでもないことに巻き込まれているのは確かみたいだぜ?

 

最悪の事態にならなければいいがな・・・・。

 

と、今更ながらに気づいたことなんだが、

 

「あの悪猫と魔女っ子はどうした?」

 

黒歌とルフェイの姿がチームになかった。

 

俺の問いにヴァーリは肩をすくめる。

 

「兵藤一誠のところだ」

 

「なんだなんだ? 振られたのか? きちんとかまってやらないからあいつに取られたんだぞ?」

 

「そうかもな」

 

冗談混じりで言ったが、こいつは気にもとめない。

 

あー・・・・・こいつ、本当に大丈夫かよ?

 

ヴァーリの女への関心の無さは異常と言うか・・・・ガキのころから恋愛ごとに興味がないんだよなぁ。

 

女嫌いなわけではないのは分かってるんだが・・・・。

 

頼むからそこのところ何とかしてくれないかねぇ。

マジで心配しちまう。

 

イッセーは続々と嫁を増やしてるのを見てるとなぁ・・・・。

 

ただ、そうなるとあいつの子供が何人くらいになるのか気になってくる。

 

美猴が笑う。

 

「黒歌もルフェイも何かあったら駆けつけてくれるんでねぃ。それにあいつら、赤龍帝と遊ぶのが楽しいってよ。こっちの兄ちゃんも安心らしいぜ?」

 

美猴の言葉にアーサーも頷く。

 

「ええ。赤龍帝殿の傍にいる方がルフェイも安全でしょうからね。未だに私は、妹は俗世に戻った方が良いと思っておりますし。完全に戻れなくとも特例区域とも言える赤龍帝殿のご自宅にいれば近しい生活はできるはずです。元総督殿もその辺りはご配慮してくれそうですしね」

 

「おまえさんも抜け目がないな。まぁ、心配しなさんな。あそこにいる限りは誰も手出しできないようにはしてやってるさ」

 

「感謝します」

 

律儀に頭を下げてくるアーサー。

 

こいつも中々にシスコンのような気がするが・・・・俺の周囲にいるシスコンに比べれば遥かにまともか。

 

そんなことを思っていると、美猴が荷物から何やら取り出す。

 

カップ麺だった。

 

「元総督はどれがいいんだい? 赤いのか? 緑のか? 焼きそばとラーメンもあるぜぃ」

 

テーブルに並べられていくカップ麺。

 

ほうほう、中々に揃えてるな。

しかも全部日本製だ。

確かに日本のカップ麺が一番美味い。

 

「緑をくれ。そばが好きなんでな」

 

「おっ、日本慣れしてんねぃ。ヴァーリとアーサーはどれさ?」

 

美猴に問われ、ヴァーリは焼きそばをアーサーは赤いのを取っていく。

 

「しかし、白龍皇さまご一行のお食事がカップ麺とはな。誰か料理の一つでもできないのか?」

 

美猴が手をぶっきらぼうに振る。

 

「ルフェイが作れるけどねぃ。あの子がいないとうちは途端にインスタント食品さね。ま、俺っちは麺類好きだし、この二人もこだわらないからねぃ」

 

ふと見ると、フェンリルの前にカップ麺がぞんざいに置かれていた。

フェンリルからは明らかに不服というオーラが放たれているが、こいつらは完全にスルーしてやがる。

 

元の巨獣サイズから小さくなってはいるが、伝説の魔獣だぞ?

扱いが雑すぎる・・・・。

 

おかしいな・・・・・なんか涙出てきた。

 

イッセーは三食手作りの愛妻、愛人料理食ってるのになぁ・・・・・。

 

やはり俺の育て方が悪かったのだろうか・・・・・。

 

「どうした、アザゼル?」

 

「過去の己を責めているところだ・・・・」

 

「?」

 

気にするな、ヴァーリ。

おまえはまだ若いんだ。

この先で何とかなる・・・・・と思いたい。

とりあえず、女の一つでも作れよ。

 

ここで、俺は別の話題を振った。

 

「話は変わるんだが・・・・アルビオンの様子はどうだ?」

 

ヴァーリの神器に封じられている白い龍、アルビオン。

 

ドライグの『おっぱいドラゴン』に続き、『ケツ龍皇』と呼ばれたかわいそうなドラゴン二号。

 

そう呼んだのはオーディンの爺さんだが。

 

「いつか、再び兵藤一誠と戦う時が来るだろう。その時までには慣れてほしいと・・・・・願う」

 

ヴァーリが瞑目しながら無茶ぶりを言いやがった。

 

対してアルビオンは――――

 

『・・・・無理でござる』

 

語尾にござるがつくほど無理らしい。

 

「紹介したカウンセリングはどうだったよ?」

 

以前、ヴァーリに相談を受けたため俺はツテを頼ってドラゴンの心理カウンセリングをしてくれる者を探した。

 

苦労したぜ、ドラゴンのカウンセリングなんて聞いたことなかったんでな。

 

探した結果、見つかったのは栴檀功徳仏―――――三蔵法師だった。

 

ヴァーリが焼きそばをすすりながら言う。

 

「話は聞いてもらえたし、薬も処方してもらった。――――赤龍帝ドライグはアルビオンと同じ苦しみを持つ同士だそうだ」

 

『・・・・ドライグと語り合うのが良いとも言われた。ドライグは私と同じ苦しみ・・・いや、それ以上の悩みを持つとも』

 

あー、そう言われると確かに。

 

あっちは『おっぱいドラゴン』に加えて、いじめてくる駄女神がいるからな。

話じゃ、縛られてドラゴンSMプレイをさせられたらしいぞ。

その心労はアルビオン以上だろう。

 

まぁ、『おっぱいドラゴン』に関しては俺も一枚噛んでるから何も言えないがね。

 

アルビオンがイグニスに会えば・・・・されることは同じだろう。

 

つーか、ドラゴンSMプレイって何だよ!

そんなプレイ聞いたこともねぇ!

 

「ま、今度ドライグと話してみるといいさ」

 

『う、うむ。そうだな・・・・私は目をそらさず、向かい合わなければならないのだ』

 

アルビオンは自分に言い聞かせるように呟いた。

 

どうやら話し合うことにしたようだ。

 

もしかしたら、二天龍のケンカが終わるんじゃないか?

まさか、こんなことでその日が見えてくるとはな・・・・・。

 

すると、途端にヴァーリが表情を渋いものにさせた。

 

「アザゼル、今回の件だが・・・・・ユーグリッド・ルキフグスとやらから直接伝えられた。――――黒幕についてな」

 

「なに・・・・?」

 

奴ら、ヴァーリには教えたというのか?

 

ヴァーリは珍しく瞳に憎悪の炎をたぎらせて、憎々しげに吐いた。

 

「・・・・奴だよ。あのクソのような者が、今回の首謀者だ・・・・っ!」

 

こいつがこれほどまでに憎しみを露にする者はただ一人。

 

それが真実だとすれば、今回の件、どれほどの被害が出るか分かったもんじゃない・・・・っ!

 

だが、解せない。

なぜ今頃になって表舞台に出てきた?

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

 

デュリオ達と邂逅した翌日、リビングにて。

 

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

無言で見てくる教会トリオ。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

同じく無言で見てくる小猫ちゃん&レイヴェル。 

 

「あらあら・・・・」

 

朱乃は頬に手を当てて微笑んでいるが・・・・妙に迫力がある。

 

く、空気が・・・・・重い!

なんて重圧なんだ!

 

今日のところずっとだぞ!?

精神的によろしくない!

 

なんか、こう・・・・・チクチクするような視線が今朝からずーっとだ。

 

そして今、俺とレイナはソファの上で正座させられていた。

ちなみに、俺の膝上にはオーフィスが座っていてバナナを食べていた。

 

「皆さん、どうしたんでしょうか?」

 

「ルフェイ。色々あんのよ。ねー、赤龍帝ちん?」

 

ルフェイは部屋の空気に戸惑っているが、黒歌は明らかに気づいてやがるな。

つーか、そこで問いかけないで!

 

今、この場で平然としてるのは美羽とアリス、それからティアとディルムッドぐらいだ。

 

ちなみにロスヴァイセさんは朝から百均に行っていて、家にはいない。

なんでも、新しい百均が近くの町にできたとか。

 

百均に命かけてんなぁ、あの人・・・・・。

 

ゼノヴィアが沈黙を破った。

 

「・・・・このような光景を以前に見たことがあるな」

 

アーシアも続く。

 

「修学旅行のときですね」

 

更にイリナも続いた。

 

「あの時は美羽さんだったわね」

 

こ、この三人組・・・・・目がマジだ!

 

頼むから微笑んでくれ、アーシアちゃん!

そんな目で見ないで!

なんで真顔なの!?

 

朱乃が俺に問いかける。

 

「イッセーくん、正直に答えてくださいね?」

 

「は、はい」

 

「昨晩、レイナちゃんと何をしていましたか?」

 

うっ・・・・ストレートだ。

ものすんごいストレートで来たよ・・・・・。

 

美羽に視線を送ると、親指を立ててエールを送り返してきた。

何のエール!?

 

アリスに視線を送ると、こちらはテレビを見ていた。

ダメだこりゃ!

 

まぁ、隠してもバレるんだよね。

特にこの手のことにうちの女性陣は鋭い。

今日も俺とレイナの雰囲気だけでここまで追い詰められたからな。

 

・・・・分かりやすかったのは否定しないが。

 

朝からレイナはご機嫌だったもんな。

しかも、俺に抱きついてきてたし。

 

 

 

俺とレイナは皆を見渡して――――――

 

 

 

「「昨日は二人でヌルヌルになってました」」

 

 

 

この後、俺達は昨晩の詳細を包み隠さず話すことになった。

 

 

 

 

 

 

~昨晩のリーアたん~

 

 

 

「っ!?」

 

「どうかされましたか、部長?」

 

「いえ・・・・なんでもないわ」

 

「?」

 

リアスは首を振ってごまかすが、明らかに何かあったという顔だ。

 

(今の感じ・・・・まさか、イッセーがまた誰かと・・・? ま、また、私は・・・・・)

 

なぜか日本にいるイッセーの状況を感覚で把握してしまったリアス。

 

また遅れてしまったことに落ち込むが・・・・・

 

(いいえ、何を落ち込んでいるの! 次よ! 日本に帰ったらイッセーに迫るんだから!)

 

と、異国の地で一人燃えていた。

 

 

 

~昨晩のリーアたん、終~

 

 

 

 

 

 

 




最後のリアスはニュータイプ的なあれです(笑)

次回より新章に入ります!


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第十四章 課外授業のデイウォーカー
1話 新モード発動!?


「おおおおおおおお」

 

俺の膝の上で変な声を出してるオーフィス。

どこで見つけてきたのやら、父さんの電動肩たたき機を持ってきて現在使用中だ。

 

どうやら気に入ったようで、かれこれ一時間近くこの状態。

 

本当に子供みたいだ。

いや、実際、心は子供のように純粋なんだけどね。

 

「イッセー、バナナ食べる?」

 

たまにこうしてバナナを分けてくれる。

 

いやー、うちの龍神さまはなごむね!

もう兵藤家のマスコットだよ!

 

まぁ、たまにスッポンポンで家の中をうろちょろする時があるのは色々と問題ありだとは思うが・・・・。

うちの女神さまと風呂に行くときなんか二人揃って裸だもんなぁ。

 

「眼福なくせにぃ」

 

「そりゃあもう! って心を読むない!」

 

「オーフィスちゃん、ポテチ食べる?」

 

「食べりゅ」

 

「オーフィスは口の中のバナナを飲み込んでから喋りなさい」

 

ったく、この二人が揃うと平和なんですね!

平和空間広がってるもん!

 

そんな感じで平和空間にいた俺のもとにやって来る者がいた。

ゼノヴィアだ。

 

「ここにいたのかイッセー。少しいいかい?」

 

「ん? 別にいいけど?」

 

俺がそう答えるとゼノヴィアは俺の腕を掴んで立たせようとする。

 

「では、オーフィス、イグニス、イッセーを借りるぞ」

 

「「はーい」」

 

「え、ここじゃないのか?」

 

「そうだ。ちょっと来てくれ」

 

そのまま俺はゼノヴィアに引っ張られてリビングから出た。

 

 

 

 

 

 

夏に地上六階地下三階の大豪邸にリフォームされた兵藤家。

階ごとに部屋数も多いから入居者が続々と増えている現在でも部屋はまだまだ余ってる。

 

リビングから連れ出された俺はその空き室のひとつに連れ込まれた。

 

ほぼ何も置かれていない部屋にノートパソコンだけが床に無造作に存在し、俺は皆をその前に座らせられていた。

 

部屋にはアーシアとイリナもいて、俺が入った瞬間に鍵をかけられてしまい閉じ込められたんたけど・・・・。

 

「おい、これはいったい・・・・?」

 

不安しかない俺がそう訊く。

 

「うん、実はイッセーに見せたいものがあってね」

 

「み、見せたいもの・・・・?」

 

なんだか、ゼノヴィアのやつ、目を輝かせているんですけど・・・・・。

 

ふ、不安が増していく・・・・・。

こういう時のゼノヴィアは大概ろくでもないことをしでかすからな。

 

ゼノヴィアは一つ頷くとノートパソコンの裏からあるものを取り出した。

 

―――――それはゲームソフトの箱。

 

しかし、それは格ゲーやシューティングゲームのようなものではなくてだな・・・・

 

「桐生に頼んで新しい『エロゲ』を入手してきたんだ」

 

そう、それはどう見ても『エロゲー』!

パッケージにはエロエロな女の子が前面に押し出されている!

 

ゼノヴィアは嬉々としてそれを俺に見せつける。

 

「その名も『堕天使シスターズ ~信仰と肉欲の狭間で~』だ! タイトル通り、敬虔なシスターを次々と辱しめる内容の『エロゲ』のようだ。まったく、これだから日本人は無宗教過ぎるんだ。シスターは尊ぶべき神の従僕なんだぞ」

 

今度はゲームの箱を見ながら不満を漏らしてやがる・・・・。

 

まぁ、それは今はいいとしてだ、

 

「・・・・で? なぜに俺はこの部屋に閉じ込められた上にそれを見せつけられているんだ? ・・・・まさかと思うが、それを皆でプレイしようなんて言い出すんじゃないだろうな?」

 

目の前には電源の入ったノートパソコン、エロゲー、そしてアーシア、ゼノヴィア、イリナの教会トリオ。

 

この状況を見れば嫌でもその答えが出てくる。

 

その答えが間違っていることを切に願う俺だが・・・・

 

「流石はイッセーだ。話が早い。これを私達三人とイッセーだけでプレイして子作りの研究会としゃれこもうと思ってね」

 

その場で頭を抱える俺。

 

・・・・やっぱりかよ。

 

なんで!?

なんで、俺を巻き込んだ!?

プレイするなら三人でしてくれ!

 

おまえはエロゲーのことを分かってない!

 

エロゲーってのは一人でこっそりやるから良いんだぞ!?

男子が女子に囲まれながらするもんじゃないからね!?

 

「エロゲーは静かに一人でするもんなの!」

 

心からの叫び!

しかし、ゼノヴィアはそれをスルーして切々と語る。

 

「美羽、アリスときてついにはレイナまでもがイッセーと子作りしてしまった」

 

いや、子供は作ってない!

ゴムはしてるから!

 

「明らかに私達は遅れている。しかも、私達の前にはまだリアス部長と朱乃副部長がいる。このままでは・・・・っ!」

 

拳を握り、体をワナワナと震わせるゼノヴィア。

 

なにをそんな悔しがってるの!?

 

「そこでだ! 私達はイッセーを拘束するという強硬手段に出た! なぁ、そうだろう、アーシア、イリナ?」

 

「ゴメン! 意味分かんない!」

 

拘束しなくていいじゃん!

エロゲーしなくていいじゃん!

 

つーか、エロゲーで子作りの研究するのも間違ってるからね!?

 

訊かれたアーシアはもじもじしながら言う。

 

「た、確かに遅れてはいますけど・・・・。今はイッセーさんと楽しくお話しできれば・・・・」

 

イリナも赤面しながら続いた。

 

「えっと、わ、私もまだ・・・・昔のことを思い出しながら楽しめればいいかなーって」

 

やっぱりこの二人は純粋な面が強い。

レイナとのことを知ったときは真顔だったけど。

 

だが、それを聞いたゼノヴィアは語気を強めた!

 

「生ぬるいぞ! そんなことだから私達は次々と先を越されるんだ!」

 

「でも、やっぱり健全ではないわ! エッチなゲームをする以外にもイッセーくんと交流を深める術はあると思うの!」

 

うんうん、イリナの言う通りだ!

 

しかし、ゼノヴィアは目元をキラリと光らせる。

 

「そうは言うがイリナよ。私は知っているんだぞ?」

 

「な、何よ・・・」

 

生唾を飲み込むイリナにゼノヴィアは不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「ふふっ、天界に訊いているそうだね。悪魔と一線を越えても堕ちない方法とやらを。ミカエルさまが真剣にご一考中というじゃないか」

 

な、なんだと!?

 

イリナのやつ、そんなことを天界に訊いているのか!

しかも、ミカエルさんが真剣に考えているだと!?

 

「わ、わわわ私はっ!」

 

耳まで真っ赤になるイリナ。

 

アーシアがそれを訊き驚愕していた。

 

「イ、イリナさんはそこまでお考えだったのですね!」

 

「そうだぞ、アーシア。イリナは既に子作りのことまで視野にいれている。だが、アーシアについても私は知っている」

 

ゼノヴィアはアーシアの肩に手を置いた。

 

「なんでも、例の疑似空間でイッセーに嫁入り宣言をしたそうじゃないか。そして、イッセーもそれを受け入れたと」

 

確かに嫁に貰うって言ったな。

 

リアス、朱乃、アーシア、レイナの四人が同時に「お嫁さんにしてください」って言ってきたっけ。

 

それを聞いて今度はイリナが驚いていた。

 

「アーシアさん、それホント!? お、おおおお嫁さん!?」

 

そういや、ゼノヴィアとイリナはあの場にいなかったな。

疑似空間から先に脱出して天界と冥界に非常事態を伝える役目だったし。

 

「アーシア、イリナ。どんなに取り繕っても分かるものはわかる。二人ともイッセーと子作りしたいのだろう? 私はしたい! だからこそ『エロゲ』なんだ! 『エロゲ』で子作りを研究し、先の三人を超える子作りをする!」

 

おかしい!

おまえはどんな子作りをするつもりなんだ!?

 

ゼノヴィアの決意を聞いて二人に変化が訪れる。

 

「わかりました! 私も『エロゲ』をプレイして研究していきます!」

 

「ええ! 私も来る時に向けて勉強するわ!」

 

「流石は私の親友達だ。さぁ、『エロゲ』をするぞ!」

 

いかん!

 

アーシアとイリナが流されている!

ほとんど洗脳じゃないか!

 

って、ゼノヴィアが服を脱ぎ始めたぁぁぁぁ!?

 

下着姿になったゼノヴィアがアーシアとイリナに言う。

 

「ところで知っているか? 『エロゲ』は本来全裸でやるそうだ。これも桐生から仕入れた情報なんだ」

 

―――――っ!

 

え、エロゲーを全裸でプレイだと!?

 

た、確かに聞いたことがあるが・・・・・それにしても女子が全裸でエロゲーってどうなの!?

 

それはやめよう!

ダメなやつだって!

 

アーシアもゼノヴィアの発言に驚く。

 

「ええっ!? げ、ゲームを裸でするのですか!?」

 

「そうだ。私も驚いたが、これも日本の様式美というやつなのだろう。」

 

そんな様式美はない!

万国共通でエロゲーを全裸でやるなんて様式美は存在しねぇよ!

 

イリナも衝撃を受けていたようだが、ワナワナと体を震えさせて叫んだ。

 

「わ、分かったわ! 私も脱ぐ! それが日本人なのよね!」

 

おいぃぃぃぃぃ!

 

おまえも日本人だろ!?

間違ってることに気づけ!

 

ああっ、イリナまでもが脱ぎ出した!

 

イリナの行為にゼノヴィアは頷く。

 

「流石はイリナだ。こうと決めれば勢いがいい。さて、アーシアはどうする?」

 

ブラを外し、豊満な乳をぶるるんと解き放ちながら、ゼノヴィアはアーシアに問う。

 

「私も脱ぎますぅ! 脱いでイッセーさんと『エロゲ』をしますぅ!」

 

アーシアまで脱いじゃったよ!

 

眼前には生まれたままの姿の三人!

 

なんということだ・・・・・このままじゃ・・・・!

 

 

――――全裸でエロゲーをプレイすることになっちまう!

 

 

「さぁ、イッセーも脱ぐんだ」

 

 

俺の服にゼノヴィアの手がかけられる。

 

 

 

その時、俺の中のスイッチが入った。

 

 

 

あぁ、やっぱり俺ってこうなるんだな。

 

 

 

こいつはもうしないと封じたことなのに―――――

 

 

 

俺はゼノヴィアの手を掴むと、強引に引き寄せる。

 

すると、ゼノヴィアは胡座をかいた俺の中にスッポリと収まる形に。

 

「イッセー・・・・?」

 

怪訝な表情を浮かべるゼノヴィア。

 

そんなゼノヴィアに俺は――――

 

「勝手に服を脱がせてくるようなゼノヴィアには――――お仕置きだ」

 

ゼノヴィアの耳たぶを甘噛みした。

 

「あっ――――――」

 

その瞬間、ゼノヴィアの体がビクンッと跳ねた。

 

 

 

 

 

 

数分後。

 

 

 

「あっ・・・・はぁっ・・・んっ・・・・ぁぁっ」

 

 

 

俺の横で体をビクンビクン震えさせているゼノヴィア。

顔は赤く、呼吸も荒い。

しかも、ゼノヴィアの周囲はびっしょり濡れているという状況。

 

耳たぶからたっぷり俺の気を流して、感覚をこれでもかというぐらいに鋭敏化させた。

 

そう、サイラオーグさんとのレーティングゲームで俺がコリアナさんにしたやつ・・・・・のもっとスゴイやつをゼノヴィアにくらわせたんだ。

 

これは夜の時にしか使わないと決めてたのにな・・・・

 

『鬼畜モード』が発動しちまったか。

 

イグニスとの修行の成果―――――その名も『鬼畜モード』。

俺の中の内なる鬼畜を呼び覚ました状態・・・・らしい。

イグニスに従ってたらこうなっちまった。

 

「イ、イッセーくんってドS・・・・?」

 

「イグニス曰く、内なる鬼畜だってさ。ま、まぁ、少しやり過ぎたかな・・・・」

 

今のゼノヴィアを見てるとそう思う。

 

くっ・・・俺はまだ鬼畜モードの制御が出来ていないというのか!

 

「はわわわっ・・・・ゼノヴィアさん凄いことになってますぅ! ゼノヴィアさん、大丈夫ですか!?」

 

「待て、アーシア! 今のゼノヴィアは――――」

 

ゼノヴィアに触れようとするアーシアを止めようとするが間に合わない。

 

アーシアがゼノヴィアの肩に触れた瞬間、

 

「んあっ!・・・あ、アーシア・・・・今、触られると・・・・うぁぁっ」

 

ゼノヴィアの体が大きく仰け反った。

 

とてつもなく敏感な状態だから、触るだけでこうなるんだよね。

 

うん、やっぱりやり過ぎた。

今度、鬼畜モードを制御する修行をつけてもらおう。

 

とりあえず謝っとくか。

ゴメンね、ゼノヴィア。

 

「風呂に入れてあげてくれ。このままじゃ、風邪ひいちまう」

 

「やったのイッセーくんだけどね」

 

「ま、まぁね」

 

本当にやり過ぎました!

ゴメンなさい!

 

ゼノヴィアが震える声で言う。

 

「イ、イッセーが・・・・入れてくれ・・・・んっ。ちゃんと・・・・体の隅々まで洗ってくれると・・・・嬉しい・・・・!」

 

「おまえ・・・結構余裕あるのな」

 

その時、ふと部屋の扉が開けられる。

 

そこから現れたのは俺の横で『僧侶』にしてマネージャー―――――レイヴェルだった。

 

「イッセーさま、皆さん、ここにいらっしゃいます―――っ!?」

 

レイヴェルはそこまで言いかけると、言葉を詰まらせた。

 

部屋には男と裸の女子三名、内一名はびしょ濡れ状態だもん!

色々アウトだよ!

 

やったの半分俺だけど!

 

「え、あの・・・・ゼノヴィアさんはいったい――――」

 

やっぱりそこに目が行くよね!

 

俺は話をそらすように大きな声で訊いた。

 

「レイヴェル! 何か報告があるんじゃないのか?」

 

「あっ、そうでした! イッセーさま、皆さん、アザゼル先生から直通の回線が開かれましたわ! 事態が変化したそうです!」

 

どうやら、向こうで動きがあったようだ―――――

 

 

 



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2話 ルーマニアへ! 課外授業スタートです!

ゼノヴィアを風呂に入れた後、俺は兵藤家上階にあるVIPルームに移動した。

 

そこには既にオカ研メンバー、ソーナ、真羅副会長、グリゼルダさんとデュリオが集まっていた。

 

遅れてきた俺とゼノヴィアにアリスが訊く。

 

「遅いわよ、イッセー。何してたの?」

 

「いや、ちょっと風呂にね・・・・」

 

「お風呂? ゼノヴィアさんと二人で?」

 

「ま、まぁ・・・・ね」

 

言えないよなぁ。

こんな時にゼノヴィアの体洗ってましたなんて・・・・。

 

ゼノヴィアが前に出る。

 

「イッセーに絶頂させられて、びしょ濡れになったんでね。隅々まで洗ってもらっていんだ」

 

「うぉぃっ! それ、ここで言うなよ!」

 

そりゃあ、ゼノヴィアのご要望通り隅々まで洗わせていただきましたよ!

あーんなところもこーんなところも洗わせていただきましたよ!

 

俺がゼノヴィアをびしょ濡れにさせたのも事実だよ!

 

でも、こんなところで言わなくてもいいんじゃない!?

ほとんど公開処刑じゃん!

 

家に住んでるメンバーだけならともかく、そうじゃない人もいるんだよ!?

 

ゼノヴィアは俺の腕に抱きついてくると、頬を赤らめながら小さく言った。

 

「あれは・・・良いな。また、やってくれないか?」

 

はうっ!

 

ゼノヴィアが上目使いだと!?

しかも、そんなに瞳を潤ませるなんて!

 

あの男勝りなゼノヴィアがこんな・・・・!

このギャップは強烈だ!

 

つーか、やってほしいってなに!?

 

「あ、ああれは一応、お仕置きだからね!? 分かってる!?」

 

「分かっている。だから、またお仕置きしてくれ」

 

「それもうお仕置き違う!」

 

あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

ゼノヴィアが何かに目覚めちまった!

やっぱりあの鬼畜モードは危険だ!

 

女の子を変な方向に目覚めさせてしまう!

 

「あのさぁ、とりあえずアザゼルさんの話聞かない?」

 

アリスからのチョップを食らった。

 

 

 

 

「リアス達が?」

 

俺達は魔方陣から映し出される立体映像の先生から事情を聞いて驚いた。

 

俺の驚きに先生も頷く。

 

『ああ、どうにもツェペシュ側で何か動きがあったようでな。ツェペシュ、カーミラの境界線で一時混乱状態になった。あちらでクーデターが起きたと見て良いだろう。リアスと木場はそれに巻き込まれた可能性が高い。というより今は拘束されているだろう。こちらから通信ができんからな。そちらも同様じゃないか?』

 

突然の報告に全員が息を呑んだ。

 

朱乃が通信用魔法陣を展開してリアスに通信を送るが・・・・。

朱乃は首を横に振った。

 

ダメか・・・・・。

 

「・・・・あぅぅ・・・・そ、そんな・・・・」

 

ギャスパーが顔を強ばらせていた。

 

こいつにとっちゃ故郷の大事だ。

しかも、そこには恩人がいる。

 

恩人を助けに行くと意気込んでいたところにこれだ。

心中穏やかではないだろう。

 

アリスが先生に訊く。

 

「クーデター、ね。それで、ツェペシュ側はどうなったの?」

 

『カーミラ側の幹部の話では、今回のクーデターでツェペシュのトップが入れ替わったそうだ』

 

『―――――っ!?』

 

全員がその一報に表情を激変させる。

 

トップが入れ替わった!?

 

先生が追加情報をくれる。

 

『現在、ツェペシュの当主、つまり男尊派のツェペシュの大元たる王が首都から退避したとのことだ』

 

「えらく早いわね。クーデターが起きて、そんな短時間でトップが入れ替わるなんて・・・・・。しかも、王が逃げた・・・・」

 

アリスが顎に手を当てて考え込んでいた。

 

確かにそうだ。

あまりに動きが早すぎる。

 

それに王さまが逃げ出すなんて、相当なことが起きた証拠だ。

 

ソーナが言う。

 

「おそらく、聖杯に関与した件で『禍の団』の介入があったのでしょう。ツェペシュは『禍の団』に裏から支配されたと見ても言いと思います」

 

現『禍の団』が滅んだ邪龍を連れている以上、生命の理を司るという聖杯を持つツェペシュと繋がりがある可能性が高い、というのは俺も報告を受けていた。

 

『禍の団』がツェペシュに接触し、聖杯の力を得た。

その力で邪龍を復活させた。

 

そう考えるのが自然だと、各陣営共通の見解だった。

 

『ああ、裏で奴らが手引きしたのは間違いないだろう。カーミラにしろ、ツェペシュにしろ、吸血鬼の連中は他勢力との接触を避けてきた閉鎖的なやつらだった。だからこそ、『禍の団』も付け入る隙を見つけたのだろう。現政権を疎む連中なんざ、どの勢力にも必ず一派はいるもんだ。そいつらを通して、裏からじわじわと浸食したんだろうぜ』

 

「ちょっと待って。過激派の動きに全く気付かなかったわけでもないんでしょう? いくら閉鎖的だからって他に救援を呼ぶこともしなかったの?」

 

アリスがそう言う。

 

まぁ、普通は気づくよな。

全貌までとは言わなくても、一端くらいは掴めていたはずだ。

 

それなら何らかの対処は講じるだろう。

自分達ではどうしようもなかったなら、助けを呼ぶことぐらいする。

 

しかし――――

 

『自分達のことを至高の存在と位置づけ、誇りとやらを重んじた結果だろう。死んでも他に助けを求めたくなかった。または聖杯の存在を意地でも他に漏らしたくなかったってところだろう』

 

それを聞いたアリスは額に手を当てて盛大にため息をつく。

 

「・・・・アホね。国を背負ってる者がその誇りで国を混乱させてどうするのよ。そんなもんより、民を優先させなさいっての! 大体ね、純血の吸血鬼ってのはどいつもこいつも誇り誇り言ってるけど、意味を履き違えているわ。あいつらのはただの錘よ」

 

アリスの吸血鬼への当たりが強いな・・・・・。

どうにも前回の会談から吸血鬼へのイメージは最悪らしい。

 

まぁ、こいつも一国を率いてたもんなぁ。

 

書類関係はニーナに投げてたけど。

 

先生もアリスの意見に苦笑していた。

 

『まぁ、そういうわけだ。俺はカーミラに向かう。ツェペシュの本拠地が気がかりなんでな。リアス達も心配だ』

 

立体映像の先生が俺達を見渡す。

 

『おまえらを召喚することになる。てなわけで直ぐに飛んでこい。リアス達と合流しつつ、ツェペシュ側の動向を探らなければならん。おまえ達の戦力は必要だ。どうにもヤバい連中が絡んでいるようだからな』

 

ま、そうなるよね。

 

ったく、穏便に済んでくれればと願っていたんだけど、どうにも俺達は波乱に巻き込まれる運命のようで。

 

だが――――

 

「リアス達が危ないなら行くしかねぇよな! それにギャスパーの恩人も助けねぇと!」

 

「はいっ! ヴァレリーは僕が助けてみせますぅ!」

 

「違うぜ、ギャスパー。そこは俺達だろ? おまえの恩人だ。俺達も協力するぜ。なぁ、皆!」

 

『もちろん!』

 

全員が合意してくれた。

 

そうさ、こいつが行くって言うなら、俺達も行かなきゃダメだろう?

 

『だが、戦力をこちらに集中させるわけにもいかん。そこは一度襲撃を受けているからな。こちらに来るのはグレモリー眷属とイリナとレイナーレだけでいい。シトリー眷属とグリゼルダ、ジョーカー、鳶雄は町に待機してもらう』

 

「アリスと美羽はどうします?」

 

俺が問うと先生は表情を渋くさせた。

 

『んー・・・・美羽はともかく、そっちの王女さまはなぁ・・・・。こっち着くなり吸血鬼の政権に殴り込みに行きそうで恐いんだが・・・・』

 

「失礼ね! ・・・・・ちょっと刺すだけよ」

 

『アウトだろ! ダメだ不安しかねぇ! 置いてこい! そいつだけは置いてこい!』

 

「うわーん! あのおっさんがいじめるー! 私をのけ者にするー!」

 

アリスが泣きついてくるんだが・・・・・。

 

うん、置いていこうかな。

こいつ、何しでかすか分からないもん。

 

悪魔と吸血鬼の関係を最悪にしそうで恐い。

 

だけど、戦力としては申し分ないんだよなぁ。

 

「え、えーと、アリスの面倒は眷属全員で見るんで、連れて行っていいですかね?」

 

『そこはおまえが見るんじゃないのかよ・・・・?』

 

「後が恐いので・・・・」

 

だって、アリス怒ると恐いんだもん!

丸焦げにされそうなんだもん!

 

俺は美羽とレイヴェルの肩に手を置いて真剣な眼差しで言う。

 

「頼んだぞ。『女王』の暴走は皆で止めような?」

 

「う、うん」

 

「わ、わかりましたわ・・・・」

 

「酷い! 私、今晩泣くからね!? イッセーの横で!」

 

なんで、俺の横限定!?

 

慰めてほしいのか!?

頭撫でてやろうか!

 

こんな俺達のやり取りに先生はため息を吐く。

 

『なんで毎回毎回、こうもシリアスが続かないのかねぇ。・・・・まぁ、いい。とりあえず、神滅具所有者が複数いる以上はそっちとこっちで分散させた方がいいだろう』

 

俺は先生の言い方に引っ掛かった。

 

「もしかして、そっちにも味方の神滅具所有者が?」

 

『ああ、ヴァーリがこちらに潜入している。そっちにジョーカーと刃狗、こっちに二天龍。こんなときにあれだが、豪華すぎてワクワクするぞ』

 

吸血鬼の領域にヴァーリがいるのか・・・・。

 

聖杯か、それとも邪龍に絡んだことか。

いや、両方か?

 

あいつならあり得そうだ。

 

そんな風に思慮していると、ソーナが挙手した。

 

「いい機会です。うちの新人二名も連れていってもらえないでしょうか?」

 

「ベンニーアとルガールさんを?」

 

「ええ、彼らはまだ悪魔としての戦いの経験が不足しています。それに今回の一件、彼らの力は役立つはずです」

 

経験値稼ぎってところか。

 

ベンニーアは死神だけど、ルガールさんの能力は分からないんだよね。

今回はそれが分かるのかな?

 

先生は顎に手をやり、うんうんと頷いた。

 

『確かにな。特にルガールは戦力になりそうだ。送ってくれるなら助かる』

 

「では、連れていってもらいましょう」

 

ルーマニアにベンニーアとルガールさんも参戦か。

中々の面子が行くことになったな。

 

先生が俺達を再度見渡す。

 

『詳しいことは現地で話す。準備ができしだい、こちらに飛んでくれ。カーミラ側に受け入れ用の転移魔法陣を敷く。―――――状況開始だ』

 

『はいっ!』

 

 

 

 

 

 

「ルーマニアって寒いんだよな? カイロも入れとこ」

 

などと言いながら旅行鞄に必要物品を入れていく俺。

あの後、すぐに解散となって各々出立の準備を急ぎで進めていた。

 

しっかし、クーデターと来ましたか・・・・。

本当に俺達って訳のわからんことに巻き込まれるよなぁ。

 

息を吐く俺。

 

すると、部屋のドアがノックされた。

 

入ってきたのは匙だった。

 

「おー、見送りに来てくれたのか?」

 

「まぁな」

 

匙は頷くと椅子に座る。

 

その表情は困惑しているようだった。

 

「・・・・吸血鬼がクーデターとはな。まったく、いろんなことが起こるもんだ」

 

「ああ。リアスがあっちに行っている間にそんなことが起きるなんてな」

 

「ギャスパーくんの秘密を訊こうとしていたんだろう?」

 

「そうだ。リアスからの報告じゃ、ヴラディ家との交渉は上手く続いているようだったんだけどな・・・・」

 

多分、それもクーデターによって中断されているだろう。

通信も出来ないし・・・・・。

 

「そういや、シトリーの方はどうなんだよ? ベンニーアとかルガールさんとか」

 

新メンバーが増えて色々と変化があっただろうし。

 

匙が机に頬杖をつきながら言う。

 

「新しいフォーメーションは定まってきたよ。まぁ、俺達はそれ以上に重要なものが本格スタートしようとしてるけどな」

 

「へぇ、なんだそりゃ?」

 

「会長が出費した学校の建設だよ。今度、正式に着工することになってさ」

 

「学校? あ、レーティングゲームのか。そいつはスゲーな! 確か、上級も下級も関係なく悪魔なら誰でも入れるところだろ?」

 

ソーナは誰でも通えるレーティングゲームの学校を建てることが夢だったもんな。

 

匙はそこの教師になるのが夢だった。

 

「ああ、第一号がようやくな。サイラオーグの旦那の協力もあって予定を早めることができたんだ」

 

サイラオーグさんも協力してたのか。

 

いや、サイラオーグさんだからこそなのかもな。

 

あの人がソーナの夢を聞いて共感しないわけがない。

 

「階級関係なしで募集し始めていてよ、魔力に乏しい子供達も受け入れようってことになってる。もう、親御さん達が子供を連れてきてさ、入学も希望してくれている」

 

匙は嬉しそうにその話をしながらも語気に勢いがなかった。

 

複雑そうに深く息を吐きながら匙は続ける。

 

「冥界の学校の教師になるのが俺の夢なんだけどさ・・・・。いざ、話が現実味を帯びてくると怖くもなってさ。もし、その学校が建ったら、将来ちゃんと教師になれっかなって・・・・。最低でも中級悪魔にならないとあっちで教員の免許が取得できないって言うんだ。俺、まだ下級だしな・・・」

 

「おいおい、下級だのなんだのはこれからどうにでもなるだろ。おまえは中級の実力は十分にあるぜ? 試験受けたら通るって」

 

俺がそう言うと匙は「ありがとよ」と返してくるが・・・・。

 

匙は目を細めて続けた。

 

「それだけじゃないんだ。・・・・俺さ、分からないんだ。子供達に何を教えていいのか・・・・。サイラオーグの旦那は魔力の乏しい子供達に体術を教えるって張り切ってる。俺は・・・何を教えたらいいんだろうな・・・・」

 

悩める匙は自身の手のひらを見つめる。

 

「神滅具所有者達との合同訓練でも俺は・・・・禁手に至れないヘタレだしさ」

 

匙が言うように俺達は合同でデュリオや幾瀬さんとトレーニングをした。

 

使い手であるデュリオと幾瀬さんは噂以上の実力で、俺も苦戦した。

能力の相性が悪いんだろうな。

中々に懐に入らせてくれないもんで・・・・。

 

といっても、本気でやったわけではない。

 

本気を出したら互いに無事に済まないし、何よりトレーニングルームが吹き飛ぶ。

本気でやるなら、ヴァーリとの模擬戦みたいに専用に強固な空間を用意する必要がある。

 

で、匙は俺達に混じってトレーニングに付き合ったものの、禁手には至れていない。

 

「禁手ってのはそう簡単に至れるもんじゃないからな。ただ力をつけるだけじゃダメだ。それは俺が体験したことだから、よく分かる」

 

師匠のところで無茶苦茶な修行をして強くなった俺だが・・・・・修行中に禁手に至ることはなかった。

 

俺が至ったのは戦場で、敵に追い込まれた状態でアリスの胸を押したからだ。

 

そう、禁手に必要なのは―――――

 

「おまえの中でまだ劇的な変化がないんだろうな。まぁ、焦ることはない。今は力を蓄えていけよ。そしたら、いざ禁手に至れたときにはその蓄えたものが一気に爆発するからさ」

 

「・・・・そうだな。悪い、俺どうにも焦っててさ」

 

ったく、こいつらしくもない・・・・。

 

俺は匙に指を突きつけて言ってやった。

 

「いいか? おまえにはおまえの強さがある。思い出せよ、レーティングゲームで木場とやりあった時のことを。あの時のおまえはメチャクチャ強かったじゃねぇか」

 

レーティングゲームの時の匙はただただ、ソーナを勝たせるために突き進んでいた。

実力差のあった木場に涙を使わせるくらいの力を発揮したんだ。

 

俺は匙の胸に拳を当てて、続けた。

 

「難しく考えすぎなんだよ。禁手のことも学校のことも。悩んでいるなら原点に戻ってみろ。おまえは何のために強くなりたい? おまえはなんで子供達に教えたいと思ったのか。それが答えだろ」

 

「―――――っ」

 

俺の言葉に匙が目を見開いた。

 

匙は熱い男だ。

それだけに誰よりも努力して前に進もうとする。

今回はそれが空回りしてるんだ。

 

「一度、頭を冷やして戻ってみるのも悪くないぜ?」

 

「・・・・兵藤、おまえ・・・・やっぱ年上の言うことは違うな」

 

「おうよ。こちとら三年分、おまえらよりも経験積んでるんでな」

 

俺がニッと笑うと匙も苦笑を浮かべる。

 

すると、少し吹っ切れたような表情で匙が言う。

 

「今度、皆と学校を見に来てくれよ! 兵藤達が来る頃にはいい感じに工事も進んでいるだろうからさ」

 

「それは楽しみだ。ああ、皆で行くさ」

 

「だから、リアス先輩を連れて帰ってこい。ギャスパーくんの秘密を探ってさ」

 

「ああ、もちろんだ」

 

必ず全員で行くぜ。

シトリーの夢が詰まった学校にな!

 

 

 

と、なんとなく思ったんだが・・・・

 

 

 

俺は人差し指を上に向けて指すと匙に言った。

 

「――――ソーナのおっぱいをつつけば匙も禁手に至れるんじゃないだろうか」

 

こいつも結構なスケベだからな。

以前、ソーナとできちゃった婚をするのが夢だと語ってたし。

 

もしかしたらと思ったんだが・・・・・。

 

すると、匙は顔を真っ赤にしながら―――――

 

「んなっ!? か、かかかか会長のおっぱいを、お、おおおおお俺がぁぁぁぁぁ!?」

 

直後、匙は噴水のように鼻血を噴き出したのだった。

 

 

 

 

 

兵藤家地下にある巨大魔法陣。

その中央にルーマニア出発組が集結していた。

 

それを見送るのは母さん、ティア、ソーナ、匙、グリゼルダ、黒歌、ルフェイ、ディルムッド、オーフィス。

 

転移先はカーミラの領土。

 

本来は複雑なルートを通って入らなければいけないんだけど、今回は直接あちらの本拠地に転移できるように先方が配慮してくれた。

 

ま、リアス達が出発する時からそうしてくれれば良かったのにと思うが・・・・。

 

でも、今回は緊急の召喚。

吸血鬼側も危機感を持ったからこそ、特例として俺達の本拠地直入りを認めたのだろう。

 

「サジ、それはどうしたのですか?」

 

ソーナが鼻にティッシュを詰めた匙を見て、そう訊く。

 

「い、いえ! こ、転んだだけです! なにも疚しいことは考えてません!」

 

「?」

 

焦りすぎだろ、匙よ。

ま、おまえもいつかはつつけるさ。

男になれ、匙!

 

美羽がディルムッドに言う。

 

「ディルさん、家のことお願いするね」

 

「了解です、マスター。ここは私にとって最高の食事処。死守します」

 

そっかぁ・・・・。

ディルムッドにとって、家は食事処なんだな。

こんなことになるなら、京都の時から餌付けしとけば良かったかも。

 

俺はティアに言う。

 

「ティアもこっちは任せるよ」

 

「それは構わんが・・・・私も行った方がいいのではないか?」

 

「こっちもそれなりに戦力はあるしな。それにヤバくなりそうなら、その時に改めて呼ぶよ。それまでは母さん達を頼む」

 

「分かった」

 

俺は視線を黒歌とルフェイに向ける。

 

「黒歌、ルフェイもこっちのこと頼むぞ」

 

「にゃはは♪ ま、私もこの家だけは死守してあげるにゃん」

 

「あちらでヴァーリさまや兄に会うことがありましたら、よろしくお伝えくださいませ」

 

「了解」

 

頷いた俺は次にオーフィスに視線を移す。

ラッセーを頭に乗せた龍神さま。

 

「イッセー、邪龍はしつこい」

 

・・・・オーフィスはなんとなく俺達が邪龍と遭遇する予感があるのかもしれないな。

 

俺もそんな気はしてるけど。

 

「わかってるよ」

 

今回の一件、『禍の団』が絡んでいる以上、邪龍と戦う可能性も十分ある。

 

邪龍のしぶとさはグレンデルで学習済み。

気を引き閉めないとな。

 

最後に母さんへと視線を移す。

 

「それじゃあ、行ってくるよ」

 

「気を付けるのよ? 皆も無事に帰ってくること。いい?」

 

『はい!』

 

母さんの言葉に皆も応じた。

 

「あ、イッセー。お土産もよろしくね」

 

俺にだけは平常運転だな!

ったく、こんなときにお土産かよ!

ぶれないな、うちの親は!

 

朱乃が転移魔法陣を操作すると、光が強くなり――――弾けた。

 

うーん、お土産何にしよう・・・・・・・。

 

 



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3話 吸血鬼領に到着です!

光が止んだ先は石造りでできた部屋の中だった。

壁には松明がいくつも設置されていて、その炎が部屋を照らしている。

 

「よう、来たか」

 

俺達の前にはアザゼル先生。

 

先生は歩み寄りながら言う。

 

「さっそくで悪いが移動するぞ。詳しい話は車内でする。エルメンヒルデ、案内を頼む」

 

先生がそう言うと、傍らに姿を現したのは先日会談を行った吸血鬼の少女。

 

「かしこまりました。皆さま、カーミラの領地までよくぞお越しになられました。――――手前どもはギャスパー・ヴラディだけでよろしかったのですが」

 

「悪いな。俺達は仲間を守りに来たのさ」

 

俺達を邪魔そうに見てくる彼女に対して、俺は間髪入れずにそう返す。

 

・・・・だって、そうでもしないとうちのアリスさんがキレそうなんだもん。

 

ほら、今だってエルメンヒルデを半目で見てるし!

呆れてるのか、怒っているのか分からねぇ!

 

ま、仲間を守りに来たってのは事実だし嘘は言ってない。

 

エルメンヒルデは俺に何か思うところがあるといった感じだが、話を進めていった。

 

「・・・・到着早々で申し訳ございませんけど、車まで案内致しましょう」

 

言うやいなや、俺達は転移してきた部屋を抜けて階段を上がる。

どうやら、今の部屋は地下にあったらしい。

 

防寒着を着てきてはいるんだが・・・・寒いな。

さっきの部屋は少し温かったんだけど、部屋を出たとたんに一気に寒くなった。

 

石造りの建物内を歩き、外に出ると――――真っ白な景色が広がっていた。

 

辺り一面が雪に覆われていたんだ。

 

日本と同じ季節を巡るが、ルーマニアの方が寒いとのこと。

しかも、吸血鬼の領地は人里離れた山奥にある。

 

そりゃ寒いわな。

カイロ持ってきておいて正解だった。

 

エルメンヒルデはこの寒さの中でも白い息一つ吐かない。

純血の吸血鬼は寒さとは無縁らしい。

 

で、うちの段ボールヴァンパイアは・・・・

 

「さ、寒いですぅ・・・・」

 

ぶるぶると大いに震えていた。

純血とハーフの差ってこういうところにも出るようだ。

 

確かに寒いけどな。

他にも震えているやついるし。

 

「さ、寒っ! 想像してたより寒いんだけど!」

 

うちの『女王』さまもブルブル震えてます。

 

オーディリアは比較的温暖な国だったもんなぁ。

旅の時もここまで寒い地域はいかなかったし。

 

アリスにとってここまで寒い地域に来るのは初となる。

 

ちなみに俺と美羽は中学の時にスキーに行ったことがあるので、このレベルの寒さは体験済み。

 

「「わぁ・・・・」」

 

感嘆の声を漏らすアーシアと美羽。

 

二人の視線の先には――――城下町。

中央に建つ立派な城を囲むように建物が立ち並んでいた。

周囲を雪山に囲まれているとう光景はどこか幻想的だった。

 

こんな光景はそう見れたもんじゃない。

 

よく見ると近代的な建物もあったりする。

吸血鬼も人間の文化に感化されている面もあるんだろう。

 

ゼノヴィアが雪景色を城下町を見ながら呟く。

 

「あれが教会が長年探し求めていた吸血鬼の本拠地か。教会の戦士だった頃はその尻尾すら掴めなかったというのに、まさか悪魔になってからこの地に足を踏み入れることになるとはね」

 

それだけ当時と各勢力の関係が変わったということだろう。

 

俺達が出てきたのは監視用の塔だったようだ。

外敵の侵入を察知するためのね。

その地下に転移用の魔法陣を展開したらしい。

 

俺が周囲を見渡していると・・・・・

 

「あー、寒っ!」

 

なんか勝手に俺の防寒着の中に入ってきたんだけど!

 

ちょっと、アリスさん!?

 

「なにしてんだよ・・・・」

 

「寒いの苦手なの! 暖めてよ!」

 

「おまえもそれ着てるだろ!?」

 

「それでも寒いものは寒い!」

 

あー・・・・・ダメだこりゃ。

 

そこまで密着されると歩きにくいんだけど・・・・ま、いっか。

 

どうせ言っても聞かないし。

 

「アリスさん、ズルいです! 私も暖めてください!」

 

アーシアも入ってきたよ!

アリスの反対側に入ってきたんですけど!

 

すいません、寒いです!

俺、前が全開なんで超寒いです!

それなりに着込んできたけど、防寒着がないとやっぱり寒い!

ダブル金髪美女美少女にくっつかれるのは嬉しいけど、とにかく寒い!

 

誰か俺を暖めてぇぇぇぇぇ!

 

「なにしてるんだか・・・・。おまえら、早く来いよ」

 

先生が白い息を吐きながら呆れていた。

 

 

 

 

この時、俺は気づかなかった。

 

 

俺を見ている者がいたことを――――――

 

 

 

 

 

塔を抜け出た俺達は用意されていた二台のワゴン車に分譲して乗り込んだ。

運転は先生とロスヴァイセさん。

ロスヴァイセさんは運転免許をきちんと持っている。

 

ちなみに俺はバイクの免許なら持ってる。

先生が上級悪魔への昇格祝いだなんて言って、ごっついバイクを作ってくれたが・・・・まぁ、それはまた今度で。

 

「・・・・悪魔の趣味は理解できませんわ」

 

エルメンヒルデをはじめ、吸血鬼達がルガールさんを見たときの反応に驚いた。

皆一様に畏怖と嫌悪の表情をしていたからだ。

 

ルガールさんって一体・・・・

 

そんなことがありつつも俺達はカーミラの吸血鬼に別れを告げて出発。

 

車の中で俺達は説明を受けた。

 

「ツェペシュの新しいトップが・・・・ヴァレリー!?」

 

俺は驚愕の声を車内で吐き出していた。

 

クーデターでトップが入れ替わったとは聞いていたけど・・・・そのトップがギャスパーの恩人だなんて・・・・。

 

「ヴァ・・・ヴァレリーが・・・・」

 

ギャスパーの狼狽も半端じゃなかった。

 

こうなるのも当然だ。

救おうとしていた恩人がツェペシュのトップになってるんだからさ。

 

こうなることは誰も予想できなかった。

 

そもそも――――

 

「ツェペシュってのは男尊なんですよね? そのトップがハーフで、しかも女の子って・・・・・」

 

「ああ、そうだ。『禍の団』が裏から奴らを誘導してそういう状態を作り出したんだろう。『禍の団』と手を組んだのはツェペシュの反政府グループだ。現政府への不満と、聖杯による『弱点克服』の恩恵に目がくらみ、テロリストどもの甘言に乗った。そんなところだろう。おそらく、強化した吸血鬼をカーミラ側にぶつけていたのもそいつらだ」

 

こいつは相当ヤバくなりそうだな。

ツェペシュに入っているリアス達が心配だ。

 

先生が言う。

 

「流石にツェペシュの政府側もテロリストと結託した反政府グループには対処できなかったのか、カーミラに援助を求めてきた。ツェペシュの王に貸しを作るのはカーミラとしても願ったり叶ったりだろう。俺もツェペシュを探りに行くことにしたんだが、俺だけじゃなんともしがたいんでな」

 

「それで、リアス達を迎えに行くのを含めて、私達を緊急召喚した。そういうわけですね?」

 

朱乃の言葉に先生も「そうだ」と頷く。

 

「さっそく荒事になりそうだ・・・・」

 

俺の呟きに先生も同意する。

 

「悪いな。まずは話し合いをするつもりだが、戦闘になる可能性も十分にある。何せ、カーミラ側も今回のクーデター沈静に参戦するってんだからな。報復の相手も断定できたんで、カーミラ側もやる気だ。既にツェペシュの城下町を囲むようにカーミラのエージェントが配置されつつある。俺達はその中に飛び込み、内情を探る。場合によっては中央突破も考えなければならん。・・・・あの野郎が関わっているなら、高い確率でろくでもないことになるだろうからな」

 

あの野郎・・・・・?

先生は裏で関わっている存在を知ってるのか?

 

アリスが息を吐く。

 

「残念ながらお土産買う時間はなさそうね」

 

そりゃそうだろ。

母さんのあれはほとんど無茶振りだし。

だいたい、ルーマニアのお土産なんて何があるのか知らないし。

 

「ま、パパっと終わらせましょう。とりあえずはリアスさんと木場くんと合流。それからヴァレリーさんを連れ出すってところかしら?」

 

「ヴァレリーは僕が・・・・!」

 

俺の隣でギャスパーが覚悟をきめているようだった。

 

俺はギャスパーの頭にポンと手を乗せて言う。

 

「そう気負うな。おまえの恩人は皆で助けるからさ」

 

「イッセー先輩・・・・。はいっ!」

 

 

 

 

二時間ほどの移動を終えた俺達は、とある山の中腹にあるゴンドラ乗り場に到着した。

 

乗り場に到着したゴンドラの扉が開くのを見て、先生が言う。

 

「これがカーミラ側が確保したツェペシュ城下町に続くルートの一つだ。このゴンドラはツェペシュ派が敷いた多重結界を通れる特別製なんだと」

 

先生の解説を聞きながらゴンドラに乗り込む。

 

ゴンドラが動きだし、深夜の雪山を登り始めた。

 

「流石に何もないね」

 

「雪山ばかりだもんな」

 

村でもあれば遠目に様子を探ろうかとも思えるんだが・・・・本当に雪山ばかりだ。

 

各自、ゴンドラの中で待機していると、ふと俺の視界に本を読むゼノヴィアが映った。

 

あれは単語帳か?

 

「なにしてんだ?」

 

俺が訊くとゼノヴィアは単語帳を見せながら言う。

 

「ん? ああ、これか。日本の難しい文字、漢字を覚えるため単語帳だよ」

 

「へぇ。おまえが単語帳を使ってまで覚えるなんてな。国語のテスト悪かったのか?」

 

「国語は苦手だが平均点は超えているよ」

 

そういや、オカ研メンバーって皆、テストの点数が良いんだよな。

世俗にうとい戦士のゼノヴィアやイリナも高い点数を出してる。

 

ゼノヴィアは単語帳をめくりながら言う。

 

「やりたいことができたんだ。そのためにも知識が必要になってね」

 

「やりたいこと?」

 

ゼノヴィアがそうまでしてやりたいこと・・・・。

なんだろう?

 

俺が疑問に首をかしげているとアーシアが教えたくれた。

 

「ゼノヴィアさん、実は学校の行事にとても関心があるようで、学生の立場をもっと堪能したいと仰っているんです」

 

あ、そういや、ゼノヴィアって学校のイベントには毎度楽しそうに参加してたな。

授業も楽しんでいるようだし。

 

今までの教会生活で出来なかったことばかりだから、ゼノヴィアとってはどれも新鮮なんだろうな。

 

俺がそんな風に思っているとイリナが横から出てきてゼノヴィアに言う。

 

「うふふ、私で良かったら日本の言葉を教えてあげるわ」

 

しかし、ゼノヴィアは手を出して即座に拒否した。

 

「遠慮するよ。イリナの日本の知識は怪しいところが多々ある。独学か、他のメンバー・・・・リアス部長か朱乃副部長、もしくは美羽に訊くほうが確実だ」

 

あ、俺は入ってないのな。

なにげにショックを受ける俺。

 

ゼノヴィアの反応にイリナは不満の声を漏らす。

 

「何よ! 失礼しちゃうわね!」

 

ゼノヴィアは嘆息する。

 

「この間、盛大に四字熟語の意味を間違えていたじゃないか。『弱肉強食』は弱者でも強者でも平等に焼き肉を食べられる権利を持つ、という意味ではないそうだぞ?」

 

それは・・・・酷いな。

なにを勘違いしたらそうなるんだ。

 

アリスがこちらを見てくるんだが・・・・・。

 

俺はそんな間違いはしません!

つーか、国語は毎回良い点とってるし!

 

俺が苦手なの数学だし!

それでも最近は成績も上がってるし!

 

イリナが目を泳がせる。

 

「うっ・・・・。そ、それは焼肉定食のパロディと間違えただけよ!」

 

「自称『日本育ち』か。ここまでくると凄いと思えるよ」

 

あーあ、自称がまた増えちまった。

 

えーと、自称天使と自称幼なじみと自称日本育ち・・・・これで三つ目か。

 

俺が指をおって数えているとイリナが涙目で訊いてくる。

 

「イ、イッセーくん!? なにを数えているの!?」

 

「いや、また自称が増えたなーって」

 

「酷いもん! 自称じゃないもん! 天使で幼なじみで日本育ちだもん!」

 

「はいはい、わかったよ。焼肉定食のA(エース)

 

「うえーん! ゼノヴィアがいじめるわ! アーシアさーん!」

 

アーシアに泣きつくイリナ。

 

「え、えーと・・・・今度、一緒に日本語の勉強をしましょうね、イリナさん」

 

「そんな! アーシアさんまで! 美羽さん、あなたなら分かってくれるよね!」

 

と、今度は美羽に泣きつくが・・・・

 

「うん、頑張ろうね! ボクが日本語を教えてあげるよ!」

 

美羽は親指を立てて微笑みながらそう返す。

 

美羽よ、それが一番ダメージでかいぞ?

 

異世界人の美羽が日本育ちのイリナに日本語を教える・・・・。

なんともまぁ・・・・。

 

「美羽さんって天然ですわ」

 

レイヴェルが苦笑していた。

 

そんなレイヴェルに俺は訊く。

 

「そういや、知ってるか? シトリー出資の学校が建てられてるの」

 

「ええ。フェニックス家にもその話は届いていますわ。兄達も興味を持っているようでした」

 

へぇ、フェニックス家にも伝わっていたのか。

 

レイヴェルの兄っていうと、ライザーぐらいしか話したことはないが、長男がレーティングゲームの上位ランカーで、次男が報道関係で働いてるって聞いたな。

 

「真ん中の兄は職業柄、冥界初の階級を選ばない学校として注目していますし、他の兄はレーティングゲームに出場している身として、ソーナさまの学校に期待しているようですわ」

 

「へぇ、ライザーもなのか」

 

「ええ。たとえ下級でも、魔力を持たなくても強くなれる。その学校で冥界の子供達の将来がどうなっていくのか、今から楽しみだと」

 

レイヴェルは少し嬉しそうに教えてくれた。

 

ライザーのやつ、そんなこと言ってたのか。

 

それを聞いて、アリスが感心したように言う。

 

「前回会ったときとは大違いね」

 

「だろ? でも、まぁ、俺もライザーの意見には同意するよ。ソーナの学校で子供達がどう成長していくのか楽しみだ」

 

もしかしたら、とてつもない逸材が見つかるかもしれない。

そうなったら、冥界はどんどん盛り上がっていくだろう。

 

すると、ロスヴァイセさんが会話に参加してきた。

 

「実は会長さんから将来的にその学校の教師にならないかとオファーをいただきました」

 

「マジですか!? それは知らなかった」

 

いや、あり得る話か。

 

ロスヴァイセさんは魔法の使い手だし、今は駒王学園で公民の教師として活動している。

生徒からは分かりやすいと評判でもある。

 

それを考えると魔法の先生として声がかかっても不思議じゃない。

 

「それでロスヴァイセさんはどう返事を?」

 

俺が問うとロスヴァイセさんは難しそうに眉を寄せた。

 

「まだ考え中です。断る理由もなかったものですから。確かに駒王学園で教員になって、教職の楽しさを感じているのも事実ですからね。今度、その学校が建ったら一度見学に行こうと思います」

 

「それじゃあ、今回の騒動が終わったら皆で行きましょうか」

 

「ええ、そうですね」

 

俺がそう言うとロスヴァイセさんも笑顔で頷いてくれた。

 

それにしてもあれだな。

 

サイラオーグさんが体術、ロスヴァイセさんが魔法を教えるとなると、ソーナは良い人材を確保したことになるな。

 

すると、レイナが言ってきた。

 

「イッセーくんも何か教えてみたらどうかな? ほら、体術だって凄いし、気も操れるし」

 

「イッセー先輩は教えるの上手いと思います。・・・・錬環勁気功を教えてみるのはどうですか?」

 

小猫ちゃんもそう続く。

 

俺は腕を組んで頭を悩ませる。

 

「うーん・・・・どうだろうなぁ」

 

錬環勁気功の修行って最初は地味だからなぁ・・・・。

筋トレで体力作りと座禅がメインになるし・・・・。

 

今でこそ、気弾撃ったり水面を走ったりできるけどさ。

そこに至れるまでが長いんだよ。

 

相手は小さい子供。

面白くない授業だと続かない可能性が・・・・。

 

あと、俺が受けた修行をそのまま教えるわけにはいかないだろう。

崖から蹴落としたりだとか絶対にダメだ。

 

 

そんなことしたら・・・・・・

 

 

「そんなことしたらPTAが出てくる!」

 

「冥界にPTAってあるの?」

 

「ありますわ」

 

・・・・・あるんだ。

 

 

 

 

ゴンドラに揺られること三十分。

 

山をいくつか越えて着いたのは、ツェペシュ城下町のゴンドラ乗り場。

 

ゴンドラから降りた俺達を吸血鬼が数名現れる。

その内の一人が俺達を確認すると訊いてきた。

 

「アザゼル元総督とグレモリー眷属の皆様ですね? 我らはツェペシュ派の者です」

 

俺達は無言で頷く。

 

どうやら連絡は届いていたらしい。

 

彼らは紳士的に招き入れる姿勢でこう述べた。

 

「こちらへどうぞ。リアス・グレモリーさまはツェペシュ本城でお待ちです」

 

クーデターが起きたばかりだというのに、あっさり通してくれるんだな。

 

もう新政権が安定しているのか?

 

町もパッと見だけど、クーデターが起きたとは思えないほど静かだ。

 

それと、リアスはツェペシュの城にいるのか。

ヴラディ家にいると思ってたんだけど・・・・。

 

今回の騒動でそちらに連れていかれたのか・・・・。

 

そう思慮していながら吸血鬼の後ろをついていくと、案内されたのはゴンドラの外に待機している馬車だった。

豪華な装飾が施され、いかにも貴族専用って感じだ。

 

これで城まで行くつもりだろう。

 

それはそうと―――――

 

「ベンニーアとルガールさんは?」

 

あの二人、ゴンドラから降りると同時に姿を消したからな。

 

俺の問いに朱乃が耳打ちする。

 

「・・・・お二人は別行動ですわ。独自に市街の様子を探るそうです。いざというときの脱出用のルートも確保しておきませんと」

 

なるほどね。

そりゃそうだ。

 

吸血鬼たちは俺達の数が合わなくなったことで戸惑いの声をあげ、上に報告していた。

 

だけど、俺達を通すことを優先されたためか、渋々と馬車に乗るように促してきた。

 

俺達は馬車に乗り込み、ツェペシュの城へと向かった。

 

 

 

 



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4話 傀儡の女王

城までの道中、馬車から町を眺めるが、やっぱりこれといって破壊されたあとがあるわけではなかった。

住民も大騒ぎしているわけでもなく、町中を普通に歩いてる。

 

ただの平和な町って感じだ。

 

「静かですね」

 

「ああ。おそらく、住民に知られぬよう最低限の行動でクーデターを成功させたんだろう」

 

「となると、クーデターを起こした連中は内政の深くにまで侵食していたようね」

 

アリスの言葉に先生は頷く。

 

「聖杯を餌に貴族の上役を丸め込んだのかもしれないな」

 

多分、相当数の上役が反政府側についたんだろうな。

そうでなきゃ、そんなスムーズにクーデターが成功するわけがない。

 

ま、今回のクーデターで唯一誉められるのは町に住む一般の吸血鬼を巻き込まなかったことぐらいか。

余計な血を流さずに済むならそれに越したことはない。

 

・・・・この先もそうであってほしいと切に願う。

 

町を通り抜け、ツェペシュの城が近づいてくる。

巨大な正門の壁が上に上がり、馬車が入場を果たす。

 

城はグレモリー城に引けを取らない規模の大きさ。

石造りの古めかしい趣だ。

 

馬車から降りた俺達はそのまま城の内部に通されて、仰々しい扉の前に連れてこられた。

扉には魔物を象った見事なレリーフが刻まれてある。

 

「ここでしばしお待ちください」

 

案内をしてくれた執事さんがそう告げて去っていく。

 

美羽が呟く。

 

「この先が玉座なのかな?」

 

「だろうな」

 

扉の両脇には昔の騎士風の鎧を着た兵士。

これがいかにもって感じだ。

 

数分ほど待っていると、俺達のもとに声がかけられた。

 

「イッセー! 皆!」

 

そちらに顔を向けるとメイドに付き添われたリアス。

その後ろには木場の姿も。

 

俺も近寄り、とりあえずリアス達が無事でよかったと胸を撫で下ろす。

 

「リアス、木場。二人とも無事で良かった」

 

そう言うとリアスも笑顔で頷いた。

 

すると、リアスは俺の手を握って安心するように息を吐く。

 

「・・・・やっぱりダメね、私。イッセーと少し会えなかっただけで・・・・。少しイッセー成分を吸収させてもらうわ」

 

イッセー成分・・・・そんなのがあったのね。

 

まぁ、俺もリアスがいなくて寂しかったけどな。

 

リアスは少しの間、イッセー成分とやらを吸収すると頭を切り替えて、先生に言う。

 

「クーデターのことは察知したようね」

 

「何か起こるだろうと思ってな。こいつらを召喚してここまで連れてきた。文句はないだろう?」

 

「ええ。私も何とかして皆を呼ぼうと思っていたから。ただ、この城に軟禁されていて、動けない状態だったのよ。・・・・・王にお招きいただいた割りに今まで謁見もできなかったわ。そうこうしていたら、先ほど『お客さまが来たからついて来てほしい』と言われて、ここに来たというわけ」

 

それを聞いて俺が言う。

 

「それじゃあ、クーデターが起きている間、二人は結構平和だったんだな」

 

木場が肩をすくめる。

 

「拍子抜けするほど僕達には何もなかったよ。内部で争っていてこちらにまで手を出すほど、暇ではなかったんだと思う。・・・・少なくとも今の今まではね」

 

そう言いながら木場は扉の側に立つ兵士に視線を送る。

 

・・・・なるほど、役者が揃ってからまとめて面会ってわけだ。

リアスと面会しなかったのも、俺達が来ることを見越していたからかもね。

 

兵士の一人が俺達を確認すると言う。

 

「では、新たな王への謁見を―――――」

 

そう言うなり、彼らは巨大な両開きの扉を開けていく。

 

先生が先に進み、その後ろを俺達がついていく。

 

室内は広大で、足元には血のように真っ赤な絨毯。

扉の側にレリーフと同じデザインの魔物の刺繍がされていた。

 

絨毯の先、一段高いところに玉座が置かれていた。

 

玉座に座るのは若い女性。

その傍らには若い男性。

この部屋には今の二人のほか、兵士が数名と貴族服を着た者が数名。

 

あの貴族達が吸血鬼の上役なんだろうけど・・・・。

 

なるほど、やっぱり相当なところまで食い込んでいたらしいな。

それも『禍の団』の協力があってこそ、なんだろうけど。

 

再び玉座へと視線を移す。

そこには砂色の色合いが強いブロンドを一本に束ねた女性。

歳は俺と変わらないくらいか。

 

あまり派手さのないドレスに身を包み、優しそうな微笑みを浮かべていた。

 

エルメンヒルデのように人形じみた感じではなく、人間味が感じられるのは純血ではないからだろう。

美女といってさしつかえない。

 

ただ・・・・この人の目は虚ろだった。

 

女性が挨拶をくれる。

 

「ごきげんよう、皆様。私はヴァレリー・ツェペシュと申します。いちおうツェペシュの現当主――――王さまをすることになりました。以後、お見知りおきを」

 

声音もその微笑みと同じく優しさを感じられる。

 

けど、その瞳は俺達を写していない。

視界には入っているんだろうけど、見ているのは別の――――

 

彼女は唯一見知った者を捉えて視線を定めた。

 

「ギャスパー、久しぶりね。大きくなったわ」

 

「ヴァレリー・・・・。会いたかったよ」

 

「私もよ。とても会いたかったわ。近くに寄ってちょうだい」

 

招き寄せるヴァレリー。

ギャスパーは彼女に寄っていく。

 

周囲の吸血鬼も特に止めようとはしない。

 

ヴァレリーはギャスパーを抱き寄せると一言漏らす。

 

「元気そうでよかった」

 

「うん。悪魔になっちゃったけど・・・・元気だよ」

 

「ええ、報告は受けているわ。あちらでは大変お世話になったそうね」

 

「うん。友達や先輩も出来たんだ」

 

ギャスパーの視線が俺達に向けられると、ヴァレリーも俺達を見て微笑んだ。

 

「まぁ、ギャスパーのお友達なのですね。・・・・あら」

 

ヴァレリーはふとあらぬ方向に顔を向ける。

 

すると―――――

 

「―――――――。―――――――」

 

聞いたこともない言語を口にして、何もない空間に一人話しかけていた。

 

悪魔に転生した俺は全ての言語を共通のものとして捉えることができる。

それなのに、俺は全くその言葉を理解できなかった。

 

他の皆も同様のようで、怪訝な表情を浮かべている。

 

悪魔でも理解できない言語、か。

 

途端に彼女は表情を明るくさせた。

 

「そう、そうよね。・・・・・けど、それは―――――本当? そうよねぇ」

 

何もない空間に一人楽しげに話続ける恩人の姿にギャスパーも戸惑いを隠せないでいた。

 

先生がぼそりと言う。

 

「おまえ達、あれを真正面から捉えるな。聖杯に魂を引っ張られるぞ。特に教会出身のアーシア、ゼノヴィア、イリナ。おまえ達は視線を外しておけ」

 

先生の言うことを即座に理解した三人は視線を床に移す。

 

レイナが先生に訊く。

 

「あれはいったい・・・・?」

 

「・・・・あれはな、聖杯に取り憑かれた者の末路だ。決して見えてはいけないモノが見えてしまうのさ。詳しい話はあとだ」

 

パンパンと手を鳴らす音が部屋に響く。

 

手を鳴らしたのはヴァレリーの近くに待機していた若い吸血鬼の男性。

 

「ヴァレリー、その『方々』とばかり話していては失礼ですよ? きちんと王として振る舞わねばなりません」

 

男性の注意にヴァレリーは笑顔で相づちを打った。

 

そして、虚ろな瞳のまま、笑顔でこう続けた。

 

「うふふ、ごめんなさい。でも、私がツェペシュの王である以上は平和な吸血鬼の社会を作れるそうなの。ギャスパーもここに住めるわ。だーれもあなたや私をイジメることなんてしないもの」

 

今の言動は良いように騙されているのだと分かった。

言葉に心が入っていないんだ。

 

虚ろな瞳に空っぽの言葉。

 

聖杯の影響、か・・・・。

 

「・・・・ヴァレリー」

 

恩人の姿にギャスパーはただ涙を流す。

 

先生が若い吸血鬼の男性を睨んだ。

 

「よくもまあここまで仕込んだものだ。それを俺達に堂々と見せるおまえさんの趣味も悪い。この娘を使って何がしたい? 見たところ、おまえさんが今回の件の首謀者なんだろう?」

 

若い男性は人形のような端正な顔立ちを醜悪な笑みで歪ませる。

 

「首謀者といえば、そうなのでしょうね。おっと、そういえば、ごあいさつがまだでした。私はツェペシュ王家、王位継承第五位マリウス・ツェペシュと申します。暫定政府の宰相兼神器研究最高顧問を任されております。どちらかと言うと後者の法学部本職なのですが、叔父上方に頼まれましてね。一時的に宰相となっております。一応、家系図的にはヴァレリーの兄にあたりまして、ツェペシュの新たな王位となった妹をそばで見守りたいと思っているのですよ」

 

こいつも王族かよ。

で、ヴァレリーの兄だと。

 

誰が聞いても嘘だと取れるほど軽い言葉を並べてくれるぜ。

ヴァレリーを見守る?

利用するの間違いだろ。

 

先生が言う。

 

「こちらがカーミラと接触しているのは知っているのだろう? ここまで招き入れていいのかよ?」

 

「新政府はこれまでと違い、他勢力とも友好的に交渉を進めるつもりなので。といっても私は政治などに興味はありませんが。それはクーデターに乗った私の同士に任せますよ。ただ、今回はヴァレリー女王があなた方に会いたいと仰ったものですし、私もあなた方には興味があったのですよ。協力者からあなた方のお噂を伺っているものですから」

 

「協力者、ね。――――なぜクーデターを起こした? あの野郎の立案か?」

 

「私は自分が聖杯で好き勝手できる環境を整えているだけですよ。神滅具――――聖杯とは実に面白い代物でしてね、興味が尽きないのです。それで、色々と試せる環境が欲しかった。そのためには前王である父や兄上達が邪魔でしたので退陣していただきました。・・・・総督さまが仰る『あの野郎』とは、あの方を指しているのでしょうが・・・・今回は我々が起こしたことです」

 

・・・・こいつはとんだ屑だったようだ。

 

ふとヴァレリーに視線を戻すと、今のを聞いてもなお微笑みを浮かべたまま。

 

ヴァレリーの心を完全に操っているのか・・・・。

 

今の発言でこの場にいる吸血鬼の貴族達もざわついた。

 

「マリウス殿下! それはいまここで話すべきことではございませぬ!」

 

「こ、ここは仮にも謁見の間です! ざ、暫定の宰相といえど、慎んでいただきたい!」

 

「相手はグリゴリの元総督とグレモリー次期当主なのですぞ!」

 

マリウスの大胆な発言に慌てて嗜めようとする貴族達。

とうの本人は笑みを浮かべるだけだ。

 

少なくともここにいる貴族達はマリウスには頭が上がらないって感じだな。

こんな状況なのに誰一人止める者がいないってのは異常だぜ。

 

「・・・・酷いです。こんなの酷すぎます」

 

優しいアーシアはこの現状に涙を流す。

 

「ヴァレリー・ツェペシュは解放できないのね?」

 

「ええ、当然です」

 

リアスの問いにマリウスはそう返すだけ。

 

「話し合いは無駄だよ、リアス部長」

 

今までにないくらい冷たい表情で、マリウスを睨むゼノヴィア。

既に殺気に満ちていて、デュランダルを取り出そうとしていた。

 

「こいつを消してさっさと帰ろうじゃないか。このヴァンパイアは生きていても害にしかならない」

 

ついにはデュランダルを亜空間から取りだし、切っ先をマリユスへと向けた。

 

「ねぇ、イッセー。こいつら丸焦げにしてもいいかな? いいよね?」

 

アリスも既にキレていた。

ニコニコしているが、殺気が・・・・周囲で放電現象が・・・・・。

怖いよ!

笑ってるところが!

 

まぁ、でも、二人の気持ちは分かる。

 

俺も膓煮え繰り返ってるからな・・・・・!

目の前の屑野郎を今すぐ殴りたい・・・・!。

 

「おやめなさい、ゼノヴィア! ・・・・相手は宰相なのよ」

 

たしなめるリアス。

 

今ここでマリウスを始末するのは簡単だ。

 

だが、マリウスは殺気を受けても平然と笑みを浮かべるだけ。

 

「怖いですね。では、私のボディーガードを紹介しましょう。私が強気になれる要因の一つをね」

 

指を鳴らすマリウス。

 

刹那――――――

 

『――――っ!?』

 

とてつもないプレッシャーが俺達を襲った!

 

一瞬で全身の毛穴が開き、身体中を冷たいものが通り抜けていく!

 

こいつは―――――

 

視線の先に現れたのは黒いコートに身を包んだ長身の男性。

金色と黒色が入り乱れた髪。

その瞳は右が金で、左が黒というオッドアイ。

 

体に纏うオーラはとても静かなものだが、かなり濃密だ。

 

そいつは俺達・・・・いや、俺に視線を向けているようだった。

 

このオーラの質からして・・・・ドラゴンか。

 

ドライグが俺の内に語りかけてくる。

 

『(ああ、そうだ。人間の姿をしているが一目で分かったよ。―――――三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)、クロウ・クルワッハ。邪龍の中でも最強と称されるドラゴンだ)』

 

――――っ!

 

おいおい、マジかよ!

邪龍と遭遇する可能性は考えてたけど、いきなり邪龍最強ときたか!

 

『(奴の相手は相棒だけではかなり厳しいぞ)』

 

だろうな。

 

戦わなくても分かるさ。

これだけ濃密なオーラを見せられたらよ。

 

俺は息を吐きながらマリウスに言う。

 

「確かにこれだけ強力なボディーガードがいるんじゃ、強気にもなれる」

 

「でしょう?」

 

俺が納得したのを見て、得意気に笑みを見せるマリウス。

 

だがな・・・・・

 

俺は皆に視線を送るとほんの一瞬だけ、イグニスを召喚した。

それは瞬きをする間の出来事だ。

赤い光が室内を照らしたのは。

 

人的被害はないし、家具にも損害も与えていない。

 

ただ、部屋を急激な気温の上昇でかなり熱めのサウナに変えただけ。

 

「っ!?」

 

目を見開くマリウスと貴族達。

クロウ・クルワッハも興味深げにこちらを見ていた。

 

俺は挑発するような笑みを浮かべる。

 

「これは今日通してくれた礼だ。こっちは真冬で寒いだろう? 少し暖まってくれ」

 

といっても純血の吸血鬼は寒さに強いみたいだけどね。

 

ちなみに俺を除いたメンバーとヴァレリーには美羽が結界を張ってくれたのでこの温度変化は感じていない。

現にヴァレリーは俺が何をしたのか理解できていないようだからな。

 

あのロスウォードを倒せるほどの力を秘めたイグニスだ。

いかにクロウ・クルワッハが強くてもこの炎には抗えないだろう。

 

少し室温が下がったところで、俺は口を開く。

 

「ま、そういうことだ。うちのメンバーが失礼したな。あとでお仕置きしとくから、この場はここでは良いだろう?」

 

口にはしないが、よっぽどの馬鹿じゃなければ意味は分かるだろう?

 

マリウスは表情を戻して言う。

 

「ええ。今日はここまでにしましょう。これ以上いたら蒸し焼きにされそうですしね。お部屋をご用意してあります。皆さまもしばらくご滞在ください。ああ、ヴラディ家の当主様もこの城に滞在しておりますので、お会いになるといいでしょう」

 

謁見はその言葉をもって終わりを迎え、俺達は王の間から退室した。

 

部屋を出るときにチラッと見えたが、吸血鬼の貴族達は慌てて窓を開けていたよ。

よっぽど暑かったらしい。

 

それにしても、クロウ・クルワッハか。

いきなりヤバそうなのが出てきたもんだ。

 

 

 



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5話 ルシファーの息子

王の間を出た俺達は用意された部屋まで案内されていた。

 

「いきなりイグニスさんの力を使うなんて・・・・あんたも大概ね」

 

アリスが半目で俺を見ながらそう呟いた。

 

俺は苦笑で返す。

 

「あの手の輩にはあれくらいしないとな。つーか、何もしなかったらおまえらは納得しないだろ」

 

クロウ・クルワッハがいたとはいえ、ゼノヴィアとアリスはマジギレしてたからな。

 

マリウスに対してそれなりの脅しをかけないと、この二人のイライラが溜まりそうでなぁ。

 

ゼノヴィアが息を吐く。

 

「あの場であの男を滅ぼしてしまいたかったよ」

 

「気持ちは分かりますが、私達がここへ来た目的はリアスさまと木場さんとの合流、それからヴァレリーさんの保護です。あの場で戦うのは悪手ですわ」

 

レイヴェルがゼノヴィアを宥めるように言った。

 

そういうことだ。

 

あの場でクロウ・クルワッハとやり合ってたら間違いなくこの城は吹き飛んでた。

そうなるとヴァレリーも危ないし、この城にいるというヴラディ家の当主にも話を聞けなくなる。

 

マリウスとのやり取りで不機嫌な調子だった先生がぼそりと言う。

 

「・・・・吸血鬼とは思えない異端の男だったな」

 

リアスも頷く。

 

「誇りや血筋よりも己の欲求を満たすために動く吸血鬼なんてそういないわ」

 

さっき話しただけだったけど、エルメンヒルデとは違う性質だと思った。

吸血鬼の伝統やらはどうでも良くて、自分の欲求を満たすために行動しているようだったしな。

 

先生が目を細める。

 

「だからこそ、あの手合いは厄介だ。己の欲望のためなら、吸血鬼のルールなんざ全速力で突き破ってくる。今回のクーデターもそこから始まったんだろう。で、それに乗った者達があそこにいた貴族どもってわけだ。マリウスは己の欲求のため、あいつに乗ったお偉いどもは聖杯による強化と、現政府への不満を解消させるため。聖杯によって蘇らせた邪龍がいれば王側の打倒も容易かっただろうよ。・・・・それを行わせた切っ掛けは『あの野郎』なんだろうがな」

 

先生が言ってる『あの野郎』ってのが気になるところだが・・・・。

 

廊下を歩きながら俺はリアスに訊く。

 

「本来のツェペシュの王はどこにいるんだ?」

 

「瀕死の重症を負って、今はこの領土から退避しているそうよ」

 

どうやら、よほどの交代劇があったらしい。

 

俺は一応、先生に訊いてみた。

 

「ツェペシュの王側はカーミラ以外に助けを呼んでないんですか?」

 

「ああ、呼んでないだろう。『禍の団』が裏で関わっている以上、他の勢力も介入しようと交渉しているが叶っていない。俺達は特例で迎え入れられたがな」

 

何に拘っているのかは知らないけど、呆れるぜ。

結局、それで自分達の首を絞めてるじゃないか。

 

俺達と彼らでは価値観が違うんだろうけど、ここまで来るとな。

 

ふと思い出すのはヴァレリーが何もない空間に話しかけていた件。

 

「・・・・彼女は何と話していたんですか?」

 

先生は目元を厳しくして言う。

 

「・・・・あの世の亡者どもさ」

 

「それは・・・・冥府や冥界に行った人間の魂とかですか?」

 

「人間のものもあれば、それ以外の異形のもの・・・・混在しすぎて元が何なのかすら分からない存在と話していたんだよ。・・・・あれは不味い。聖杯を酷使したせいで精神が相当汚染されているな」

 

精神汚染。

そう言われればなんとなく理解できる。

 

あの人の瞳はそれほど虚ろだった。

 

「ヴァレリーにいったい何が・・・・」

 

ギャスパーが表情を曇らせながら呟く。

 

一番ショックを受けていたのはこいつだろう。

ヴァレリーの顔を見たときからずっと泣きそうな顔をしている。

 

先生が言う。

 

「聖杯の影響だ。生命の理に触れ、命とは、魂とは、それらがどういうものなのか、神器を使うほどその『作り』を強制的に知ることになる。命の情報ってのは果てしなく膨大だ。聖杯を使うたびに生きた者、死んだ者、様々な者達の精神、概念、そんなものを取り込んでしまうのさ。自身の心、魂にな。無数の他者の意識が心に流れ込み、浸食してきてみろ。・・・・そいつの心は壊れちまう」

 

「それじゃあ、彼女は・・・・」

 

「致命的な領域まで精神汚染が進んでいるな。亡者どもと楽しげに話しているのがその証拠さ。・・・・マリウスはヴァレリーに聖杯を相当使用させたな。滅んだ邪龍を現世に蘇らせるほどだ。その使い方は大胆かつ乱用も極まりない」

 

やっぱり、かなり危険なところにまで突入してるのか・・・・。

 

マリウスの野郎・・・・自分の欲求のためにヴァレリーに無茶な力を使わせやがったのか・・・・・!

 

まずは彼女の精神汚染をなんとかしないと、今の話じゃ一刻を争う事態のようだからな。

 

俺は先生に問う。

 

「先生、助ける方法はないんですか?」

 

「そうだな。・・・・まずは聖杯の活動自体を――――」

 

先生はそこまで言って口をつぐんだ。

前方から歩いてくる誰かに気付いたからだ。

 

・・・・廊下の先から歩いてくる銀髪の中年男性。

歳は四十代ほどだろう。

 

その男性は―――――サーゼクスさんと同じ魔王の衣装を身に付けていた。

こちらは真紅ではなく、銀色が目立つものとなっているが・・・・。

 

それに誰かに似ているような・・・・。

 

先生が両目を見開き忌々しそうな表情で男性を迎えようとしていた。

 

男性がこちらを視界に映すなり、無邪気な笑みを作り出す。

 

「およよ? こいつぁ、奇遇だな♪」

 

想像以上に軽い口調で話しかけてきた。

 

先生が溜まっていたものを吐き出す勢いで言う。

その声音は明らかに怒気が含まれていた。

 

「・・・・やっぱり、てめぇなのか・・・・!」

 

「んちゃ! おっ久しぶりだな、アザゼルのおっちゃん! 元気そうじゃん?」

 

・・・・先生の知り合いなのか?

 

いや、先生の反応を見るに良い関係でないのは確かだ。

 

オーラの質から悪魔だというのは分かるが・・・・

 

「・・・・アザゼル、誰なの?」

 

リアスにも覚えがないようで、先生に確認を取っていた。

 

「・・・・リゼヴィム。若いおまえでも、この名は聞いたことがあるはずだ。グレモリーであれば知っていて当然の男だろう」

 

「っ!? ・・・・ウソ・・・・でしょ?」

 

声が震えるほどに驚くリアス。

 

・・・・リゼヴィム?

 

先生とリアス以外は名前に覚えがなく、グレモリー眷属で古株の朱乃ですら知らないようだった。

 

疑問符を浮かべる俺達に先生が男性の紹介を始める。

 

「・・・こいつのクソったれな顔は忘れられねぇよ。なぁ、『リリン』。いや――――リゼヴィム・リヴァン・ルシファーッ!」

 

ルシファー・・・・・!?

 

このリゼヴィムって人がルシファーだって!?

 

ルシファーってのは魔王しか名乗れない。

今の冥界でそれを名乗れるのはサーゼクスさんだけだ。

 

・・・・いや、待てよ。

 

俺の中でもう一つの可能性が浮かび上がった。

 

ルシファーを名乗れる男を俺はもう一人知ってる。

 

そいつは俺の―――――

 

そうか、この人はあいつの――――――

 

「先生、もしかしてこの人は・・・・・ヴァーリの?」

 

「ああ、そうだ。こいつは正真正銘の前ルシファーと悪魔にとって始まりの母たる『リリス』の間に生まれた息子。『リリン』として聖書に刻まれた者。―――――そして、ヴァーリの実の祖父だ」

 

ヴァーリの祖父・・・・・この人が・・・・・。

 

確かにどことなく面影がある。

ヴァーリの祖父と言われれば納得できる。

 

しかし、そのヴァーリの祖父さんがなぜこんな山奥、吸血鬼の領土にいるんだ?

 

すると、先生の口からとんでもない情報がもたらされた。

 

「そして、こいつが今の『禍の団』の首領だ。俺がここに来るまでに言ってた『あの野郎』ってやつだ」

 

『――――っ!?』

 

ここにいる全員が驚きで言葉を失っていた。

 

このおっさんが現『禍の団』のトップ!?

ユーグリッドが言っていた新しいボスってのがヴァーリの祖父さんだってのか!?

 

前魔王ルシファーの息子が『禍の団』の首領・・・・。

 

そうなると、ここにいるのはおかしくない。

 

リアスが呟く。

 

「過去、まだ前魔王の血族が冥界を支配していた頃、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーは当時のお兄さま――――サーゼクス・グレモリーとアジュカ・アスタロトさまと並び『超越者』として数えられていたわ」

 

―――――『超越者』。

 

先生からかつてそう呼ばれる悪魔が三名だけ存在したと耳にしたことがある。

 

あまりに他とは違う桁違いの能力を持ち、本当に悪魔であるのかさえ疑わしいとされるイレギュラーな存在。

 

現悪魔世界には『超越者』と呼ばれたサーゼクスさんとアジュカさんが魔王として活躍している。

 

魔獣騒動の折、先生はサーゼクスさんと共にハーデスを牽制するために冥府へと向かった。

その時、ハーデスの要求でサーゼクスさんは真の姿を披露したそうだが・・・・・。

その時のサーゼクスさんの魔力は少なくとも前魔王ルシファーの十倍はあったそうだ。

 

それを聞いた時にはぶったまげたよ。

 

それだけ強大な力を持つ『超越者』のうち、一名が姿を眩ませていたそうだが・・・・このおっさんがその一人だってのかよ・・・・!

 

先生が忌々しそうに言う。

 

「こいつが姿をくらませてから、二名の『超越者』――――サーゼクスとアジュカが現悪魔の世界を引っ張ってきた。こいつは元々前魔王一派の中心人物だったんだ。平和、種の存続を願うサーゼクス達と話が合う道理はねぇよな」

 

そりゃ、テロリストの頭になってるぐらいだしな。

 

先生はリゼヴィムに問う。

 

「姿を消したおまえがなぜ、今頃になって出てきた? 旧魔王派の連中のごとく現悪魔政府への怨恨ではないんだろう?」

 

「うひゃひゃひゃひゃ、ま、やりたいことができたから帰ってきたっつーわけだわ。シャルバくんや他の前魔王の血族みたいに憎悪やら、怨恨やらで動いているわけじゃねぇさ。悪魔の政治なんざ、サーゼクスくん達で十分だろうし? 俺も悪魔の政治なんざに今更興味はないんでね。俺は組織を使ってやりたいことを実行したいだけなんだよー?」

 

不快な笑いをしながら、リゼヴィムはそう答える。

 

言葉の一つ一つが軽くて邪気を含んでいるが、言ってることは本当らしい。

シャルバのように冥界の覇権だなんだは眼中にないようだ。

 

先生がこめかみに青筋を浮かべて言う。

 

「・・・・ここでおまえをぶん殴ってそれの邪魔をするってのもアリなんだが・・・・この国は俺達と正式な協力関係を結んでいないからな。簡単に手を出すわけにもいかないか。どうせ、この国では表面上正体を偽ってVIP扱いをうけてるんだろう?」

 

その問いにリゼヴィムはいっそう不快な笑いを発する。

 

「うひゃひゃひゃひゃっ、そうそう、その通り。俺はマリウスくんの研究と革命の出資者なんでね。今の暫定政権にとっては国賓扱いなのですよ。ここで俺に手を出すのは得策じゃねぇわな。まぁ、負けるつもりもねぇけどよ?」

 

「っ!」

 

いつの間にかリゼヴィムの背後に小さな少女が立っていた。

 

その子は黒いドレスに身を包んでいて・・・・・

 

「・・・・マジか」

 

俺はその姿につい声を漏らしてしまう。

 

その子は―――――オーフィスにそっくりだった。

 

リゼヴィムはオーフィスそっくりの少女の頭に手を置く。

 

「奪ったオーフィスの力を再形成して生み出した我が組織のマスコットガール――――リリスちゃんだよー♪ よろしくね~♪ 俺のママンの名前をつけてみたのよ。いいっしょー」

 

曹操がサマエルの力で奪ったオーフィスの力・・・・。

先生達の方でも行方を探していたそうだが・・・・・こんな少女の姿に変えられていたのか!

 

「・・・・」

 

無言と無表情のリリスと名付けられた少女。

 

オーフィスは出会った頃に比べると表情が分かるようになってきたけど・・・・・。

 

この子は何も感じられないくらい無表情だ。

 

リゼヴィムが言う。

 

「この子、ちっこいけど、腐ってもオーフィスちゃんなんでめっちゃ強いよ? 僕ちゃんの専属ボディカードでもあるのよ~。いいでしょ? ちっこい子が強いってロマンに溢れるよね♪」

 

少女から滲み出る言い様のないプレッシャー。

 

『超越者』の一人である前ルシファーの息子のボディカードがもう一人のオーフィス・・・・。

 

とんだ組み合わせだ。

 

リゼヴィムの視線が先生から俺に移る。

 

「ふんふん、君が異世界帰りの現赤龍帝かぁ。会いたかったよ、見たかったよ~」

 

『っ!?』

 

驚愕する俺達。

 

しかし、リゼヴィムは俺から更に視線を移していく。

その視線は俺の後ろに向けられていて―――――

 

「で、そっちの黒髪のお嬢ちゃんが異世界の魔王の娘さんで、そっちの金髪のおねーさんが王女さまだっけ? 赤龍帝眷属は面白いメンツが揃ってるじゃないの」

 

再びリゼヴィムの言葉から信じられないような言葉が次々と並べられていく。

 

こ、この野郎・・・・なんで異世界のことを知ってる!?

 

情報が漏れていた?

ロキの件で俺と美羽のことが露呈されたから・・・あの時のが・・・・・。

 

いや、それでもおかしい。

アリスに関してはバレようがないんだ。

 

俺達を含めアリスのことを知っているのは限られている。

外部に情報が漏れるタイミングもないはずだ。

 

だったらなんで――――――

 

俺は声を低くしてリゼヴィムに問う。

 

「あんた・・・・誰と組んでる・・・? ロキか?」

 

「わー、怖い怖い。そんな怖い顔すんなって♪ ロキじゃねぇよ。そもそも、ロキは北欧で拘束されてんだろ?」

 

「ああ。だから分からねぇんだよ。なんで、あんたがそこまで俺達の事情を知ってるのか・・・・」

 

俺がそう言うとリゼヴィムは不快に笑う。

 

「うひゃひゃひゃひゃ、気になる? まー、俺が言わなくても、すぐに会えんじゃない? あの坊っちゃんも君に会いたがってたしねー」

 

会いたがってる?

俺に?

 

そいつがリゼヴィムに俺達のことと異世界のことを教えた?

そいつがロキとも繋がってたのか?

 

あらゆる可能性を張り巡らせていると、リゼヴィムが楽しげに目を細めた。

 

「君達三人、うち来ない? 歓迎するぜぇ? VIP待遇で迎えてやんぜ? 君達がいれば俺の野望も近づくだろうし♪」

 

「行くわけねぇだろ、ボケ」

 

「行かないよ、絶対」

 

「耄碌してんじゃない? 頭に電流流すわよ?」

 

ふざけた勧誘に間髪入れずに拒否する俺達。

 

それを見てリゼヴィムは愉快そうに笑う。

 

「あらら、そりゃ残念♪」

 

不快な笑みを残してリゼヴィムは廊下を進んでいく。

 

去っていくなかで先生がリゼヴィムに告げる。

 

「リゼヴィム、ヴァーリがおまえを狙ってるぞ」

 

「あーあー、そういや、俺っちの孫息子くんをアザゼルのおっちゃんが育ててくれたんだっけな」

 

リゼヴィムが振り返り、先生に訊く。

 

「ちったぁ、強くなったん? 俺っちの愚息――――あいつの父親よりは強かったけどさ」

 

「いずれ、おまえの首も取れるさ」

 

「わーお、そりゃ、おじいちゃんとしてはむせび泣きそうだわ」

 

そう言うとリゼヴィムは再びリゼヴィム背を向けて歩いていく。

 

後ろ手に手を振りながら――――――

 

「カーミラと結託してクーデター返しするなら、いつでもいいぜぇ♪ すんげぇ期待してっから」

 

最後までふざけた口調のリゼヴィム。

 

―――――と、盛大な破砕音が廊下に響き渡る。

 

珍しく先生が怒りを抑えることができずに廊下の壁を拳で破壊していた。

 

「・・・・ヴァーリ、おまえの気持ちが理解できて仕方ないよ」

 

先生は奴に対して怒りが治まらないらしい。

 

だが、俺も色々とヤバい奴に狙われてそうだ。

 

「お兄ちゃん・・・・」

 

「イッセー・・・・」

 

美羽とアリスが不安げに俺を見てくる。

 

・・・・・いったい、誰だ?

 

いつ、どこで、そいつは俺達のことを知った?

 

そいつはリゼヴィム率いる『禍の団』とどういう関係を持っていやがる?

 

「―――――っ」

 

この時、俺は誰かの視線を感じた。

 

だけど、辺りを見渡してもそれらしい姿はない。

 

・・・・・何が起ころうとしているんだ?

 

 

俺は不気味なものを感じてしまった。

 

 

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

 

ツェペシュの城。

 

そこに用意されたVIPルームにその者はいた。

 

そして、この部屋から先程のリゼヴィム達のやり取りを覗いていた。

 

少年はモグモグと口を動かしながら言う。

 

「リゼヴィムのおじいちゃん、僕のこと言わなかったね。別に言ってくれても良かったんだけど」

 

室内だというのにパーカーのフードを深々と被ったその少年。

ポリポリとクッキーを食べるその姿はどこにでもいそうなごく普通の子供だ。

 

そんな子供が吸血鬼の城、それもVIPルームにいる。

側に控えていたメイドは上からの指示でこの少年をもてなしてはいるが、この状況に疑問しか浮かばない。

 

メイドが淹れた紅茶に口をつけると無邪気な笑みを浮かべた。

 

「まぁ、おじいちゃんがああ言っちゃったし、そろそろ僕も動かないとね。アハハ、楽しみだなぁ。彼はどんな顔をするだろうね? あ、メイドさーん、紅茶のおかわりちょーだい♪」

 

 

[三人称 side out]

 

 



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6話 ギャスパーの真実

今回はキリの良いところで終わらせたので少し短めです。


城の中は静かで、歩いていてもすれ違うのはメイドや巡回中の兵士ぐらい。

 

・・・・この様子だけ見てると、クーデターなんてなかったように思えるな。

 

俺達はギャスパーの父親が閉じ込められているという地下の部屋に来ていた。

 

リアスとギゃスパーはヴァレリーが面会したいとのことで、王の部屋へ。

先生はマリウスの息がかかった上役の吸血鬼についていった。

 

前者は単にヴァレリーの話し相手だろう。

 

後者は先生から神器についての話を聞きたいんだろうな。

吸血鬼にも神器を研究する機関はあるみたいだし、そこへ神器研究の第一人者である先生が来たとなると話を聞きたくなるだろう。

 

で、俺達は部屋で待機していたんだが、ギャスパーパパとの面会は許されていたので、会いに行くことに。

 

明かりを持ったメイドさんが先導していき、石造りの階段を下りていく。

 

少しすると、広い空間に出た。

扉がいくつも存在し、その一つにメイドが歩み寄った。

 

「ここがヴラディ家当主さまがおられる客室でございます」

 

貴族を迎え入れるにしては大分質素な場所だ。

 

まぁ、質素といっても普通に綺麗な場所なんだけどね。

グレモリーやフェニックスの城を見てるから、あれと比べて見劣りするだけだ。

 

メイドはノックのあと、「お客さまがお見えです」と中の者に報告する。

 

すると、部屋から応答があり、メイドが俺達にお辞儀をして下がっていく。

 

俺達は頷き合って入室していく。

 

中は随分と豪華な造りだった。

天井にはシャンデリア、部屋の家具も全てが高級感溢れるものばかり。

 

ソファに座る人物が俺達を捉えると立ち上がった。

 

若い金髪の男性。

歳は三十代ほどだろう。

どこかギャスパーに面影がある。

 

・・・・・この人がギャスパーの父親か。

 

「はじめまして、私達はリアス・グレモリーさまの眷属悪魔です。私はリアス・グレモリーさまの『女王』、姫島朱乃と申します」

 

「同じくリアス・グレモリーさまの『兵士』そして赤龍帝眷属の『王』、兵藤一誠です」

 

と、朱乃に続き俺も挨拶をする。

 

リアスが不在時は『女王』の朱乃がグレモリー眷属の長なんだけど、俺も一応『王』なので挨拶しておいた。

 

昇格してからはリアスの眷属としてだけでなく、こういう場面でも上級悪魔として前に出ないといけないんだよね。

 

男性はひとつ頷くとソファに座るように促してくれた。

 

「どうぞ、お座りください。―――――アレ、いえ、ギャスパーについて話をしに来たんですよね?」

 

用件はすぐに理解してくれたようだ。

 

朱乃と俺がソファに座り、その後ろに美羽達が並ぶ。

 

ギャスパーの親父さんと向かい合うが・・・・よく見てみると純血の吸血鬼なんだなって思えた。

 

ギャスパーに面影があるけど、生気が感じられないし、顔立ちも人形のようだ。

影もない。

 

ギャスパーの親父さんが口を開く。

 

「既にリアスさまとは話をしましてね。お互いにアレの情報を交換しあいました。今後のアレの処遇を巡ってグレモリーとヴラディでどうすれば良いのか。しかし、話し合いを進めるなかで、私はこの城に召喚されまして・・・・。情けない話ですが、幽閉されたのですよ。まさか、こんなにも静かにクーデターが起こり、ツェペシュ王が退かれるとは想像すらしていなかったのでしてね」

 

話の内容の割には、これといって動揺しているようには見えないな。

この状況を受け入れているのか・・・・。

 

まぁ、それはいい。

さっきから気になっていることがある。

 

俺は静かに問う。

 

「アレ・・・・ですか」

 

この人は先程からギャスパーのことを『アレ』と口にしている。

 

「アレは・・・・ギャスパーは悪魔として機能しているのですね。リアスさまからそれを聞き、正直驚きました」

 

また、『アレ』か。

 

実の父親がそう口にするなんてな・・・・・。

 

朱乃が訊く。

 

「ギャスパーくんのお母さまはやはり・・・・」

 

「ええ、既に亡くなっております。アレを産んだ直後にね」

 

「難産だったと?」

 

朱乃がそう問うと、ギャスパーの親父さんは首を横に振った。

 

目元を細め、厳しい表情を浮かべて・・・・何か思い出したくないような顔だった。

 

そして、小さく口を開いた。

 

「・・・・・ショック死です」

 

ショック死・・・?

出産でそんなことあるのか?

 

特に医学の知識があるわけでもないか、そのあたりは分からないけど・・・・・。

 

ギャスパーの親父さんは手を組み、恐ろしげに話を続けていく。

 

「彼女の腹から産まれたのは――――禍々しいオーラに包まれた何か別のモノでした」

 

「何か・・・・とは?」

 

朱乃もその言葉の意味がよく理解しきれずにいる。

俺や他の皆もそうだ。

 

ただ、この親父さんは純血だとかハーフだとか、そんな視点でギャスパーを見ていないことは何となく分かった。

 

もっと違う・・・・・俺達の知っているギャスパーとこの人が語ろうとしているギャスパーでは全く別物のように思えてならない。

 

親父さんは絞り出すように口にしていく。

 

「・・・・・生まれたとき、アレは・・・・・人の形をしていなかったのです。人でもなく、吸血鬼でもない・・・・黒く蠢く不気味な物体として。・・・・怪物とも言えぬものが自分に宿っていた。アレの母親はそれを目の当たりにして精神に異常をきたし、そのまま死に至ったのです」

 

思考がついていかなくなった。

 

・・・・・黒く・・・・蠢くものって・・・・。

何だよ、それは・・・・。

 

本当にギャスパーの話なのか・・・・・?

 

まるで、怪物・・・・化け物の出産に立ち会った話をしているかのようじゃないか。

 

親父さんは続ける。

 

「その場に居合わせた産婆を含めた数人の従者達もそれから数日のうちに次々と変死しました・・・・・呪殺、なんでしょうね」

 

変死・・・・?

出産に立ち会った者が?

 

しかも、呪殺って・・・・・。

 

「ギャスパーが呪いを放った、と?」

 

俺がそう尋ねると親父さんは頷いた。

 

「ええ、無意識のうちに振り撒いた呪いなのでしょう。産まれて数時間ののち、普通の赤ん坊の姿に変化したのですが、もうその時にはアレの母親はショック死した後でした」

 

想像を遥かに超えた事実が明らかになっていく。

 

今の話を聞いて思ったことなんだが・・・・・

 

「ギャスパーは神器の・・・・停止の邪眼せいで誰からも受け入れられなかった、俺もそう思っていました。今の話を聞くまでは。どうやら、違うみたいですね」

 

「事情を知らない近縁者はそうでしたが、真相を知っている者にとってみれば時間を停止させる力など可愛いもの。・・・・・アレの正体はそれほど畏怖すべきものだったのです。だから私達はアレを遠ざけた」

 

なるほどな。

 

今までギャスパーを迫害してきた奴らだと、ギャスパーの家族をそう思ってきたが・・・・。

確かに、そんな状態で産まれてくるのを見れば、そうなるのかもしれない。

 

現に母親がショック死するレベルだ。

この人達も相当パニックに陥ったはず。

 

朱乃が問う。

 

「それをギャスパーくんは知っているのですか?」

 

「・・・・いえ、知らせていません。何が切っ掛けで真の姿に戻るかわからなかったものですから」

 

親父さんは顔を手で覆って重々しく言葉を発する。

 

「・・・・我々はアレを吸血鬼としても人間としても認識できないのです・・・・。アレをハーフとして一応の扱いとさせましたが・・・・・それが正しかったのさえ分からないのです。そして、正体が判らぬままアレを外に出してしまった・・・・!」

 

・・・・今思えばギャスパーをハーフとして見たのは、父親なりの優しさだったのかもしれない。

 

どう扱えばいいのか分からない存在をハーフとはいえ吸血鬼として見ようとしたのかもな・・・・。

 

困惑の顔色が濃い親父さんに俺は正面から言う。

 

「昔のあいつがどうだったのか、どういう存在だったのかは分かりません。けど、今のギャスパーは悪魔です。リアス・グレモリーさまの下僕で、俺の後輩です。たとえ、体が闇にまみれようとも俺はギャスパーを信じますよ。―――――仲間ですから」

 

美羽が続く。

 

「ギャスパーくんは強い子です。自分と向き合うと覚悟を決めました。だから大丈夫ですよ。何があっても」

 

そうだな。

 

あいつは自分と向き合うために前に進みだした。

自分の力に向き合おうと、引きこもりっ子から根性のある男になったんだ。

だから、大丈夫だよな。

 

小猫ちゃんも一歩前に出る。

 

「ギャーくんは私の大事なお友だちです。初めて出来た、同い年のお友だちなんです」

 

誰よりもギャスパーと仲良しの小猫ちゃんだからこそ、率直に言えるものがある。

 

当主が一言訊く。

 

「あなた方はアレの正体をご覧になられたのでしょう?」

 

影を操り、闇に塗れたギャスパーのことか。

 

俺は話でしか知らないから、実際に見たことがない。

だから、どれ程のものかは分からない。

 

それでも―――――

 

「あいつはあいつです。真の姿が闇だろうと何だろうと俺達の仲間、ギャスパー・ヴラディですよ」

 

俺の言葉に皆も頷いた。

 

親父さんは苦笑する。

 

「やはり、グレモリー眷属なのですな。リアスさまも同じことを問い、同様のことを言われました」

 

『人間でもなく、吸血鬼でもないなら、ギャスパーは悪魔です。なんせ、私がこの手で悪魔に転生させたのですから。正体がなんであれ、紛れもなく、あの子はグレモリー眷属の悪魔ですわ』

 

リアスはそう告げたという。

 

ははっ、やっぱりリアスは最高だよ。

それでこそ、俺達の主ってね!

 

親父さんは小さく笑みを作りながらこう漏らす。

 

「・・・・我々には理解しがたい感情ですが、なるほど。あの力を見た上でそう仰るなら、アレは少なくともあなた方に救われたと思ってもいいのでしょうな」

 

・・・・・この人は畏怖しながらもギャスパーのことをどこかでは想っていたのかもしれない。

 

そうでないと、『救われた』なんて言葉は出ないだろう。

 

もし、ギャスパーが普通にハーフとして生まれていれば、この人は普通に父親として接していたのかもしれない・・・そう思ってしまった。

 

それから親父さんとの会話はしばらく続いたが、ギャスパーの正体を掴めそうなことはそれ以上分からなかった。

 

ただ明確に理解したのはヴラディ家はキャスパーの存在を歓迎していない・・・・・いや、出来ないといった方が正しいか。

やはり、ギャスパーの真実を知る者にとってギャスパーは畏怖すべき存在らしい。

 

リアスとの会談も恐らくグレモリー側であいつを正式に預ける格好で話が進んでいたと思う。

 

つまり、ギャスパーの居場所は吸血鬼の地にはないということだ。

 

俺はそれでも良いと思ってる。

 

あいつの居場所は俺達だから――――――

 

 

 



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7話 ヴァレリーとお茶会

ギャスパーの親父さんとの話を終えた後、俺と美羽、小猫ちゃんは城の上階にある屋内庭園に連れてこられていた。

 

窓は一つもない空間だが、照明のおかげで室内は明るい。

色彩鮮やかな花々や穏やかに流れる水の音が目に耳に飛び込んでくるので、室内であることを忘れそうになる。

 

俺達がここに来たのはヴァレリーが俺達を呼んでいるとメイドさんが教えてくれたからだ。

 

庭園の中央にはテーブルが置かれ、既にリアスとギャスパー、ヴァレリーが席に座っていた。

 

「ようこそお出でくださいました。どうぞお座りください」

 

俺達三人はヴァレリーに勧められるまま空いている席に座る。

 

俺は椅子に腰かけながら視線を横へやる。

 

視線の先―――――クロウ・クルワッハが壁に背を預けている。

無言でこちらに一瞥したあと、すぐに目をつむってしまった。

 

ヴァレリーがクスクスと小さく笑う。

 

「あちらは私のボディガードさんのクロウ・クルワッハさんです」

 

最強の邪龍がボディガードね。

 

どうせ、やつを配置したのはマリウスだろう?

いや、リゼヴィムか?

 

ルシファーの息子にして『超越者』のボディガードにオーフィスの分身、こちらは最強の邪龍。

 

流石に手が出しづらいな・・・・。

 

俺の前にカップが置かれ、ヴァレリーが紅茶を注いでくれる。

 

ヴァレリーが微笑みながら言う。

 

「リアスさまから日本でのギャスパーの生活を訊かせていただいたの。日本はとても平和な国だそうですね」

 

「ええ。美味しい料理はもちろん、静かな場所も賑やかな場所もあって良い国ですよ、ヴァレリー陛下」

 

と、俺は敬語でそう返す。

色々な思惑でなったとはいえ、ヴァレリーはこの国のトップだもんな。

 

しかし、ヴァレリーはクスクスと笑う。

 

「敬語はやめてください、兵藤一誠さん。リアスさまにも普通に接してくれるようにお願いしているのよ。ヴァレリーと呼んでくださいね。兵藤美羽さんと塔城小猫さんもそのように」

 

「ええ、三人ともそうなさい」

 

リアスもそう言ってくれる。

ま、当人のお許しが出たのであれば、遠慮なくそうしよう。

 

「じゃあ、そうするよ。ヴァレリーも俺のことはイッセーって呼んでくれ」

 

「ボクのことも美羽でいいよ」

 

「私も小猫と呼んでください」

 

二人もそう続く。

 

「イッセーさんに美羽さんに小猫さん。うふふ、わかったわ」

 

とても可愛らしい微笑みを浮かべるヴァレリー。

 

気のせいか、王の間で見たときよりも表情が普通になっているような・・・・・。

虚ろな瞳も少しマシになってるようにも思える。

 

ヴァレリーが小猫ちゃんに問う。

 

「小猫さんは美味しいお菓子をたくさん知っているのでしょう? 日本にはどういうのがあるのかしら」

 

「えーと、私が好きなのは―――――」

 

そこから俺達は他愛のない会話を続けていった。

 

俺達からすれば、日常の何気ないことでもヴァレリーにとっては新鮮で興味が惹かれるものが多かったようだ。

予想もしないところからの好奇の質問も飛んできたほどだ。

 

ヴァレリーは昔のギャスパーについての話をしてくれる。

 

「そうなの。ギャスパーが女の子の格好をするのは小さい頃に私が着せて遊んでいたからなのよ。最初は嫌がっていたのだけれど、いつの間にか自分から着るようなかなったの・・・・うふふ♪」

 

「も、もう! それは言っちゃダメだよぅ!」

 

「そういえば、ぬいぐるみを抱かないと寝られない癖は直ったのかしら?」

 

「そ、それは・・・・」

 

「うふふ、まだなのね。ギャスパーらしいわ」

 

二人の様子はとても和むものだった。

 

ヴァレリーも端から見てると弟を弄る姉って感じで二人とも自然に会話していた。

 

俺達と話すときも普通の女の子と同じ反応を示してくれる。

 

ただ―――――

 

「――――そうよね。・・・・・―――――わかるわ」

 

このように何もないところに話しかけていくことがある。

 

聖杯の力を通して俺達には見えない亡者と話しているのだろう。

 

小猫ちゃんが話しかけてくる。

 

「イッセー先輩・・・・」

 

「ああ、わかってるよ。・・・・嫌な気が流れてるな」

 

ヴァレリーが話しかけているところには嫌な気が流れていた。

 

王の間では気づかなかったけど、ここまで近づいてようやく分かった。

 

ふとヴァレリーが天井を見上げた。

 

「・・・・ギャスパーはお日さまを見たことがあるのよね」

 

「うん。僕はデイウォーカーだから・・・・・ヴァレリーだってそうじゃないか」

 

「そうよね。・・・・・けれど、私は外に出たことがないの。許してもらえなかったから・・・・。一度でいいから、お日さまの下でギャスパーとお茶がしたいわ。ピクニックってとても愉しいものなのでしょう?」

 

・・・・外に出たことがない、か。

 

生まれてからずっと城に幽閉されていたんだっけ。

聖杯の力に目覚めてからは更に拘束も強まっただろう。

 

日の下で生きる。

 

そんなのは俺達にとって当たり前のことだ。

それでもヴァレリーにとっては羨むほど、非日常のことで・・・・・。

 

リアスがそれを聞いて微笑みながら提案する。

 

「それなら、皆で行きましょう。オカルト研究部のメンバー・・・・いえ、どうせならソーナ達も呼んで大勢で日本の行楽地に行きましょうか。きっとヴァレリーも楽しめるわ」

 

「いいね。春になったら、お弁当も持っていって、お花見するのもいいかも」

 

リアスの提案に続き、美羽もそう提案する。

 

二人の提案にヴァレリーは目に輝きを取り戻して笑った。

 

「まぁ、それは素敵だわ。お日さまの下で皆とピクニック。とても楽しそう。桜って見たことがないの。とてもキレイなのでしょう?」

 

こんなに素敵な微笑みを浮かべられるんだな。

 

ああ、そうだ。

皆でヴァレリーを日本を案内してやればいい。

 

ギャスパーが勢いよく立ち上がる。

 

「そうだよ、ヴァレリー! 僕と一緒に日本に行こう! 女王さまになったばかりで大変かもしれないけど・・・・・落ち着けばお暇をいただけるかもしれない! その時は僕が迎えに来るよ! 日本はとても優しい人ばかりで、とてもキレイで、美味しいものもたくさんあるんだよ!」

 

おおっ、テンション上がってるな!

 

しかも、こいつ何気に――――――

 

俺はイタズラな笑みを浮かべてギャスパーに言う。

 

「ほほう、あの引きこもりっ子が女王さまをデートにお誘いとはなぁ。ギャスパーも大胆になっもんだ。ヴァレリー、お誘いだぜ?」

 

「うふふ♪ ギャスパーにデートのお誘いをもらえるなんて思わなかったわ」

 

と、ヴァレリーも口許に手を当てて楽しげに微笑む。

 

ギャスパーは顔を真っ赤にしながらプンスカしていた。

 

「も、もも、もう! イッセー先輩! ひ、冷やかさないでくださいよぉ! ヴァレリーも! ぼ、僕は真剣なんだからね!」

 

「ダメだよ、お兄ちゃん。ギャスパーくんは必死なんだよ?」

 

「そうです。ギャーくんの人生初のデートのお誘いなんです。冷やかし厳禁」

 

あたたた・・・・・

 

美羽と小猫ちゃんがほっぺを引っ張ってくるんだが・・・・

 

いやー、ごめんごめん。

 

「うふふ」

 

リアスもおかしそうに笑っていた。

 

だけど、ここに来てわかったことがある。

 

ヴァレリーは聖杯に囚われている。

それでも、まだ普通の女の子としてのヴァレリーが残っているんだ。

 

こうして普通に話して、笑い合えることができる。

 

精神汚染が進んでいても、これならまだ―――――

 

俺達が楽しく会話していたところで、その流れを裂くように第三者の声が介入してくる。

 

「何が楽しいのかな?」

 

この庭園に入ってきたのはマリウスだった。

 

作った微笑みでこちらに歩み寄ってくる。

 

悪意を服のように着こんでいるように見える。

ここまでくると逆にすごいよ。

 

マリウスの登場に合わせるように、ヴァレリーの瞳から一瞬で輝きが失われていった。

 

・・・・こいつ、ヴァレリーに何かしているのか?

 

洗脳的な・・・・?

 

「マリウスお兄さま。ギャスパーとリアスさま方とお話をしていたのです」

 

マリウスは俺達に改めて挨拶をくれた。

 

「これはどうも、失礼します。ヴァレリーがお客さまと面会されていると聞いて、顔だけでもと思いまして。お邪魔でしたかな?」

 

うん、すっごく邪魔。

 

つーか、邪魔しにきたんだろ?

 

わざとらしく聞いてきやがって。

 

俺達が変な横槍を入れないよう監視しに来たってところか。

 

俺は微笑みを浮かべながら皮肉げに返す。

 

「ええ、今までヴァレリーと会話が弾んでいたものですから。どうぞ、お気になさらずに」

 

少々殺気もこめて。

ほんの僅かな殺気をマリウスにぶつけてみる。

 

マリウスは作った微笑みを微妙に崩したが・・・・・。

 

チラッと横に視線を移すと、クロウ・クルワッハは未だに目を閉じたまま壁にもたれていた。

 

・・・・本気でないと分かっているのか、見向きもしないか。

 

「先程は眷属の『騎士』がご無礼なことをしまして大変ご迷惑をおかけしました」

 

「うちの『女王』も失礼したな。とりあえず、きつく言っといたよ」

 

ゼノヴィアとアリスの非礼を改めて謝罪する俺とリアス。

 

きつく言ったってのは全くのウソだし、こいつに申し訳なくなんてこれっぽっちも思ってない。

 

あの二人を叱るぐらいなら、二人の頭を撫で撫でしてから、こいつを殴りとばすわ!

 

マリウスは苦笑した。

 

「いえいえ、下界の者がこの世界に飛び込めば分からないこともおありでしょう」

 

肩を竦めるだけで特に糾弾はしてこなかった。

 

すると、ギャスパーが意を決した表情でマリウスに言う。

 

「あ、あの!」

 

「何かな、ギャスパー・ヴラディ」

 

マリウスの問いにギャスパーは臆することなく、真っ直ぐに言った。

 

「・・・・ヴァレリーを解放してもらえませんか? 僕にできることがあるのなら、なんでもします! だから! どうか、ヴァレリーをこれ以上、苦しめないで・・・・」

 

ったく、こいつは本当に男として成長したな!

かっこよく思えたじゃないか!

 

もしかしたら、将来的にこいつが俺達の中で男気溢れるナイスガイになるのかもな。

 

・・・・・あんまり想像できないけど。

 

男の娘だし。

 

言われたマリウスは暫し考えるように顎に手をやる。

 

そして、ニッコリと微笑んでこう答えた。

 

「わかりました、解放しましょう」

 

「随分あっさりOKなんだな」

 

俺がそう言うとマリウスは頷く。

 

「ええ、ヴァレリーはここまで十分に役目を果たしてくれましたからね。そろそろ聖杯から『解放』されてもいいでしょう」

 

「ほ、本当ですか?」

 

ギャスパーが恐る恐るそう尋ねるとマリウスは再び微笑み頷く。

 

「ただし、少しだけ時間をください。何せ政権が移り変わったばかりですから、女王になったばかりのヴァレリーがいきなり降りるのは体裁が悪い。しばし、お時間をいただければヴァレリーをあなた方にお渡し致しましょう」

 

「ありがとうございます、マリウスお兄さま。ギャスパー、私、日本に行けそうよ」

 

「うん! 本当によかった! ありがとうございます!」

 

手を取り合い、喜び合うギャスパーとヴァレリー。

 

ギャスパーがマリウスに頭を下げる。

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

「いいえ、いいのですよ、ふふふ」

 

意味深な笑みを浮かべるマリウスに俺、リアス、美羽、小猫ちゃんは口をつぐんでいた。

 

・・・・・怪しいなんてレベルじゃない。

 

こいつが聖杯を手放すなんてあり得ないだろう。

だが、こいつはハッキリ『解放』すると言った。

 

マリウスの言葉を疑うことなく、ただただ喜ぶギャスパーとヴァレリー。

 

―――――『解放』、か。

 

この言葉の意味するのはいったい・・・・・

 

俺達は疑心を抱きながら、ヴァレリーとのお茶会を終えることになる。

 

 

 

 

 



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8話 出会い

「案外、普通だな。吸血鬼の町って」

 

俺の眼前に広がるのは真っ白な雪に覆われた町。

 

よくテレビで見かけるヨーロッパ風の造りの建物がずらりと並んでいた。

 

俺とアリス、レイヴェル、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセさんの七人は深夜の城下町に視察という名目で軽い下見に来ている。

 

というのも、あのヴァレリーとのお茶会から既に二日ほど過ぎており、その間、目立った動きがなかったため、暇をもて余していた俺達にリアスがそう提案してくれたんだ。

 

それで、出てきたのはこの七名。

 

他のメンバーはというと、先生は吸血鬼の神器研究機関に連れていかれたまま。

この二日間会っていない。

レイナはそんな先生が気になったのか、そちらへ向かった。

 

リアスと朱乃は地下室にいるギャスパーの親父さんと話を進めている。

木場は護衛も兼ねてそちらに付き添っている。

 

なんでもリアスはヴラディ家からギャスパーを正式に引き取る形で話を進めているそうだ。

 

当のギャスパーは美羽と小猫ちゃんと共に連日ヴァレリーとお茶会をしている。

 

おかしな話なんだが、暫定女王であるヴァレリーの自由時間は多い。

 

普通、クーデター直後のこの状況下で新たなトップが暇なはずがないんだが・・・・・。

政権をマリウスが握っているとはいえ、王を自由にさせすぎだろう。

 

マリウスが語った『解放』ってのも気になる。

どう考えても不吉だし、それにこの二日間、目立った動きがないのも気になる。

 

早いとこ先生の意見も聞きたいところだけど・・・・。

 

このままヴァレリーの危険を見過ごすわけにもいかないしな。

 

さて、どうしたものか・・・・。

 

まぁ、それより気になるのは――――――

 

「おまえ・・・・何してるの?」

 

「寒いから暖まってる」

 

半目で問う俺にそう返すアリス。

 

来たときと同じように俺の防寒着の中に入り込んで小さくなってる。

 

寒いのは分かるけど・・・・

 

「俺のやつ貸そうか?」

 

防寒着の襟元を指先で摘まみながら言う。

 

流石に歩きにくいし・・・・こんな中途半端な状態じゃそれほど温もれないだろう。

 

それなら、少しごわごわするかもしれないけど、二枚重ねにして着た方が温いと思うんだ。

 

しかし、アリスは首を横に振った。

 

「いいわよ、それだとイッセーが寒いだろうし。・・・・この方が色々暖まるし・・・・」

 

頬を少し染めながらぼそぼそと呟いているんだが・・・・。

 

うん、もう何も言わないでおこう。

 

役得と言えばそうだしな。

 

そんなやり取りをしているうちに繁華街に到着した。

 

様々な店の看板が出ており、服屋から雑貨屋まで何でもそろっていそうだった。

飲食店もある。

 

人間から吸血鬼になった者は血以外にも人間の食事をとることが可能だ。

ただ、純血に近いほど血を多くとらないといけないらしいが。

 

ギャスパーはハーフなんで血も飲まないといけないけど、食事自体は人間のものが多い。

・・・・ニンニクを使ったものは苦手なようだけど。

 

町を歩いていると俺達に視線を送られていることに気づく。

それは監視の視線じゃなくて、町を行き交う人達のものだ。

 

すれ違う度にちらりとこちらを伺ってくる。

 

「余所者だとわかるみたいだね」

 

ゼノヴィアがそう言った。

 

イリナも肩をすくめる。

 

「城下町とはいえ、閉鎖された世界だもの。やっぱり外の世界から来た人って空気が違うんじゃないかしら? ほら、私達が任務で外国に行くと浮いてたじゃない?」

 

「そういえばそうだな。教会で育った者が任務先の地でぶつかるのは異文化の壁だね」

 

この二人の言うことも分からなくはないが・・・・・俺はこの二人に問題があるような気がしてならない。

 

だって、町中でお祈り捧げてるんだぜ!?

変なおっさんの絵をひっさげて!

 

誰でもおかしい娘だと思うわ!

こいつら、他の国でも変なことしてただろ!

 

アーシアが二人に続く。

 

「私も日本に来たばかりの頃は知らないものだらけで戸惑いました」

 

アーシアも日本に慣れるまではいろんなものに驚いてたな。

食事もそうだけど、生活面でね。

特に家電製品の便利さにはビックリしてたっけ。

 

美羽もアリスも最初は機械製品に中々に苦戦していたな。

今となっては自動ドアも克服できたようだし、何よりだ。

 

「イッセー、あそこのお店行かない? 面白そうなものがあるわ」

 

と、俺を店へと引っ張ろうとしてくるほど。

 

こうなると自由に振る舞っちゃうんだよね。

もうあちこちの店に俺を引っ張っていく。

 

はしゃいでるなぁ、アリスのやつ。

 

ふと町を見てみると、ここの住人も車やバイクなどの移動手段を使っているのが分かる。

店の中にはレジもあるし、おまけに入り口は自動ドアだ。

 

閉鎖された世界とはいうが、冥界の悪魔と同じで便利な物は取り入れる柔軟な部分も吸血鬼は持ち合わせているらしい。

 

「うむむ、吸血鬼の世界には『おっぱいドラゴン』は広まっていないのですね。これはマネージャーとして何とかしなければ・・・・」

 

レイヴェルが店を見ながらそんなことを言っていた!

 

気持ちは嬉しいけど、無理に広めなくていいから!

 

町に出てからやけに注意深く見てると思ったら・・・・そんなことを気にしてたの!?

 

頑張りすぎだよ、マネージャー!

 

ゼノヴィアがふいに息を吐く。

 

「・・・・・後をつけられるのは好きではないんだけどね」

 

そう、ゼノヴィアの言うように俺達の後を何名かつけてきている。

あれは城から派遣された監視役だ。

 

最初からその旨は伝えられているんだけど・・・・まぁ、気になるよね。

 

俺は肩をすくめて言う。

 

「吸血鬼からすれば、俺達は他勢力の存在だ。外出許可が出ても最低限の監視はするさ」

 

まぁ、そんな監視を全く気にしていない人もいるけど。

 

「イッセー! これ面白いわ! ここを押すとウネウネ動くの!」

 

全力で楽しんでますね、アリスさん!

 

あと、寒かったんじゃないのか!?

いつの間にか一人で自由にあちこち行ってるし!

 

つーか、その手に持ってるやつなに!?

明らかにいかがわしいものじゃないか!

おまえ、それが何か知らないで触ってるだろ!

 

置いてきなさい!

こんなところまで来て、そんなもんに興味をもつな!

 

「ほう、これは私も知っているぞ。『エロゲ』でこれを使ったプレイを見たことがある」

 

ああっ!

なんか、ゼノヴィアもそっちに食いついたよ!

 

「な、なんて卑猥な動き・・・・。イッセーくんって、こんなのを使うの?」

 

「わ、私はそれでも構いません!」

 

うわぁぁぁぁぁ!!

教会トリオが全員そっちに行っちゃったよ!

 

なんで、その店に興味を持つ!?

 

そもそも、なんで吸血鬼の町にそんな店があるんだ!

そこも柔軟なのか、吸血鬼よ!

 

「他にもありそうだ。店内に入ってみよう」

 

『おおー!』

 

ゼノヴィアを先頭に店の中へと突入した!?

 

それで良いのか!

ルーマニアにまで来て、入る店がそれで良いのか!?

 

帰ってこい!

後悔する前に帰ってこい!

 

「わ、私も行った方が良いのでしょうか・・・・?」

 

レイヴェルまでもがそんなことを言い出した!

あいつらに合わせようとしないで!

 

ロスヴァイセさんが俺を指差して言う。

 

「イッセーくん! 教育的指導ですよ!」

 

「なんで俺なんですか!?」

 

さっきからツッコミが止まらない俺の視界に驚くべきものが映り込んだ。

 

―――――オーフィスの分身体の少女が露店の前で座り込んでいたからだ。

 

「・・・・・・」

 

じーっと露店に出ている品を見ていた。

 

どうやらアクセサリーのお店のようで、赤いドラゴンの形をしたアクセサリーを見ている様子だった。

 

「・・・・えーと、お嬢さん、どれが欲しいんですかな?」

 

露店の主も無言で品物を見るだけの少女への対応に苦慮しているようだ。

 

周囲を見渡しても怪しい奴はいないし・・・・一人で買い物に来ているのか?

 

「イッセーさま・・・・あれは・・・・」

 

レイヴェルとロスヴァイセさんも予想外の人物に当惑を隠せないでいるようだが・・・・

 

俺は息を吐いて、リリスのもとに歩み寄る。

 

そして、リリスの見ていた商品を指さす。

 

「・・・・これ、欲しいのか?」

 

問うと、こちらに気づいて俺の顔をじっと見るリリス。

相も変わらず無言だ。

 

俺は店主に言う。

 

「これ、ください」

 

リアスから受け取っていたこの国で使えるお金で赤いドラゴンのアクセサリーを購入。

そのままリリスに渡した。

 

「ほい。これが良いんだろう? それじゃあ、行くよ」

 

それだけ言い残して皆の元に戻ろうとする俺だが・・・・。

 

振り返った途端に服を引っ張られた。

 

見ればリリスが裾を掴んでいた。

 

「ど、どした?」

 

問う俺だったが、リリスは無表情でこう言った。

 

「・・・・おなか、へった」

 

腹が減った、ね・・・・・。

何とも可愛らしいお願いだと思うが・・・・・。

 

その直後、アリスが顔を真っ赤にしながらトボトボと戻ってきた。

 

・・・・・本当にどういう店か知らなかったのな。

 

 

 

 

目の前でパクパクとロールキャベツやグリルされた肉などを口に運んでいくリリス。

 

俺達はこの子を連れて近くの料理屋に入ることにした。

 

テーブルに並ぶルーマニア料理。

中には日本の料理もある。

 

どうやら、多国籍な料理が楽しめるようだ。

 

まぁ・・・・味はいまいちなものがたまにあったりする。

豆腐もあったんだけど、正直微妙だった。

 

もちろん、美味しい料理もあるので俺はそちらをメインで食事を楽しんでいる。

 

「・・・・入る前に止めてくれてもよかったじゃない」

 

未だに赤面しながら料理を口に運ぶアリスが恨み言を吐いていた。

 

「いや、何となく分かるだろ・・・・・店の雰囲気とかで」

 

「だって・・・・テンション上がってたんだもん。見たことないものばかりで面白そうだったんだもん」

 

もんって・・・・・。

 

経験あるんだから、何となくででも察してほしかったよ、そこは・・・・・。

 

どうやら店内には色々と過激なものも多かったようで、ゼノヴィア曰く、日本でも売ってそうなものがあったらしい。

 

イリナとアーシアも真っ赤になりながら、ゼノヴィアと共に最後まで店内を見て回っていたけど・・・・・。

イリナのやつ、よく堕天しないな・・・・・。

 

ま、済んだことだし、飯食って忘れなさい。

 

俺はアリスから視線をリリスに戻して訊く。

 

「うまいか?」

 

「・・・・わからない」

 

簡素に答えるリリス。

 

いつの間にか口元は食べかすやらソースやらでえらいことになってるし。

 

「口にソースがついちゃってます」

 

アーシアがナプキンで口についたそのソースを拭いてあげていた。

 

「はい、キレイになりましたよ」

 

口元がキレイになると食べるのを再開して・・・・また汚れていく。

 

うーむ、オーフィスも子供みたいな感じだけど、こっちもその辺りは似たようなもんか。

 

この光景を見て、ゼノヴィアがパスタを食べながら言う。

 

「これがオーフィスの分身とはね。・・・・色々とチャンスか?」

 

チャンス。

 

新生『禍の団』の情報を聞き出したり、この子自身をどこかに連れ出してリゼヴィムから引き離す、ということを言っているのだろう。

 

確かに悪くはないけど・・・・

 

イリナがため息を吐く。

 

「・・・・やめといた方がいいんじゃない? いちおう、監視されているんだし、下手に行動するのは面倒なことになりそう」

 

そういうこと。

 

付け加えれば、リゼヴィムはこの国ではVIP扱い。

それの関係者に手を出したとなると、今のこの国では行動しづらくなるだろう。

 

「それにヴァレリーさまのことを考えるとそれは悪手ですわ」

 

レイヴェルもそう付け加えた。

 

まぁ、この子もめちゃくちゃ強いだろうし、抵抗されれば俺やアリスでも抑えられないと思う。

 

そこは何と言ってもオーフィスの分身体だし、リゼヴィムがボディガードにするくらいだしな。

 

食事が落ち着いたのか、フォークを置いたリリスは突然俺を嗅ぎだした。

くんくんと俺の体を嗅いでまわる。

 

・・・・え、えーと・・・・なんだなんだ?

 

何か臭う?

などと思った俺は自分のニオイを確認してみるが・・・・。

 

リリスは言葉少なに言う。

 

「・・・・リリスと同じニオイする」

 

無表情だが、首を可愛く首をかしげていた。

 

リリスと同じニオイ・・・・あー、なるほど。

 

「オーフィスのニオイが移ってるのか?」

 

オーフィスの分身体ならリリスも同じニオイを持っててもおかしくない。

 

それに俺ってオーフィスに憑かれているらしいし・・・・。

 

「会長さんが憑かれていると言ってましたしね」

 

あ、ロスヴァイセさんにも言われた。

 

ど、どうせなら、加護が欲しかったかな・・・・。

 

俺はコホンとひとつ咳払いすると、リリスに自己紹介を始めた。

 

「俺は兵藤一誠だ。こっちはアリス、そっちはアーシア、ゼノヴィア、イリナにレイヴェル。そんで、ロスヴァイセさん」

 

皆も「よろしく」と笑顔で対応した。

 

「ひょうどう、いっせい・・・・ひょうどう・・・・いっせい・・・・」

 

「覚えづらかったか? イッセーでいいよ」

 

「・・・・」

 

あらら、また無言になっちまった。

 

やっぱり、オーフィスよりも更に表情がないな。

オーフィスは微笑んだりもするが・・・・・。

 

『禍の団』・・・・いや、リゼヴィムの野郎は奪ったオーフィスの力でどんな作り方をしやがったんだ?

 

空腹を満たし、満足したのかリリスに席を立つ。

 

「帰るのか?」

 

俺が訊くとリリスは振り返ることもなく、

 

「リゼヴィム、まもる、リリスのやくめ」

 

と述べるだけだった。

 

 

 

 

 

 

「さて、この後はどうする?」

 

食事を済ませ、支払いを終えた俺達は店を出た。

 

俺が皆に訊くとレイヴェルが時計を見ながら言う。

 

「そろそろ良い時間ですし、城の方へと戻りましょう。あまり、リアスさま達と離れるのもどうかと思いますわ」

 

それもそうか。

 

今のところ動きがないとはいえ、いつマリウスが動くかも分からないからな。

 

先生はどうか分からないけど、リアス達はギャスパーの親父さんとの話し合いから戻ってるだろうし。

 

「そんじゃ、ぼちぼち帰るか」

 

皆が頷き、城への帰路につく。

 

町を行き交う吸血鬼とすれ違いながら、帰りもあれやこれやと面白そうな物を売っている店を眺めていく。

 

ロスヴァイセさんが、ここに百均が無いことに不満を漏らしていたが・・・・・。

 

そんな中―――――俺の視界にフードを深く被った少年が映った。

これだけ人がいる中で、なぜかその少年に目が離せなくなってしまったんだ。

 

その少年から感じる気配は吸血鬼のものではなく、明らかに普通の人間(・・・・・)のものだった。

 

この地に吸血鬼以外の存在がいること自体、珍しいことなのは町中を歩いている時に理解できた。

 

それなのに、その少年には誰も見向きもしない。

それどころか、アリス達もその少年に気づいていないようだった。

 

・・・・・胸の内側から沸き起こる不安。

 

何か得体の知れない存在と向き合った時のようなこの感じは・・・・・。

 

一歩、また一歩と近づく度に嫌な汗が流れていく。

 

そして、すれ違う瞬間――――――

 

 

「―――――やっと会えたね。勇者くん?」

 

 

――――――っ!

 

こ、こいつ・・・・まさか――――――――

 

その言葉に俺は立ち止まり、そのまま通り過ぎていく少年の背中を睨んだ。

 

何事もなかったように歩いていく、白いパーカーの少年。

 

ほんの一瞬だったけど、不気味な笑みが浮かんでいるのが見えた。

 

ヤバい・・・・よく分からないけど・・・・あいつはヤバい・・・・!

 

ただすれ違っただけなのに、俺の中の危険信号が全力で赤色を発している。

 

突然立ち止まった俺を皆が怪訝な表情で見てくる。

 

「イッセーさん? どうしたんですか? すごい汗ですけど・・・・・」

 

アーシアが心配そうに俺の頬を伝う汗をハンカチで拭ってくれた。

 

「あ、ああ・・・・大丈夫だよ、アーシア。皆、悪いけど先に戻っててくれないか?」

 

「いきなりだな。どうしたんだ?」

 

俺のお願いにゼノヴィアは首を傾げながらそう尋ねてくる。

 

城に戻るはずだったのに、いきなりこんなことを言い出すんだから疑問に思われても仕方がないか・・・・・。

 

「ちょっと用事を思い出したんだ。すぐに戻るよ」

 

俺はそう言って皆に背を向けて、先程の少年のあとを追った。

 

 

 

 

 

 

俺が行き着いた先は町の端にある小さな広場だった。

 

レンガが敷かれ、真ん中には噴水。

寒さのせいで、噴水に張られた水は薄く凍りついていた。

 

周囲は街灯があるものの、町の端にあるせいか、薄暗く不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

そんな広場の中央―――――噴水の前に立つ白いパーカーを羽織った少年。

 

背の丈はオーフィスよりも少し大きいくらい。

顔立ちも幼く、一見、小学生にも見える。

 

特徴的なのは小猫ちゃんのような白髪くらいで、他は特に気になるところがない普通の子供だ。

気配も人間のそれだ。

 

それなのに、俺はこの子に危機感を覚えてしまった。

不気味な・・・・まるで心臓でも握られたような・・・・。

 

そもそも、吸血鬼の国にこんな人間の子供が一人でいることもおかしなことだ。

 

だが、それ以上に――――――

 

こいつは俺のことを知っていた。

 

俺は少年に話しかける。

 

「おまえ・・・・何者だ? リゼヴィムの協力者か?」

 

思い当たるのはリゼヴィムが言っていた『坊っちゃん』。

 

俺のことを知っていて、このタイミングで姿を現すとしたらそいつしかいないだろう。

 

少年はニッコリと微笑み、答えた。

 

「アハハ♪ はじめましてだね、勇者くん。僕はアセム。アセムでも、ムーくんでも好きなように呼んでねー」

 

軽い口調で話すアセムと名乗った少年。

 

敵意は感じない。

リゼヴィムのような悪意も今のところ感じない。

 

俺が注意深く見ていると、アセムは信じられないような言葉を口にした。

 

「それでね、僕は元々アスト・アーデの神で君が倒したロスウォードの創造主なんだよー」

 

「な・・・・・にっ・・・・・!?」

 

想像もしていなかったその言葉に、俺は目を見開き、声を漏らした。

 

こいつが・・・・あいつの・・・・ロスウォードを創った悪神の一人だってのか・・・・・!?

 

そんな・・・・そいつらはロスウォードに殺されたって・・・・。

 

いや、仮に生きていたとして、なぜこっちの世界にいる!?

 

 

ドクンッ

 

 

心臓が大きく脈打った。

それと同時に胸が焼けそうなくらい熱くなる・・・・!

 

こいつはあの時と同じだ。

グレンデルから出てきた小型ドラゴンを見たときと同じ・・・・・!

 

怒りが・・・・恨みが・・・・怨念とも言える強烈な感情が内側から湧き出てくる!

 

「ガッ・・・・んだ、よ・・・・これ・・・・っ」

 

あまりの苦しみにその場に膝をついてしまう。

 

突然の俺の変調にアセムは、

 

「あれれ? どうしちゃったのかな? あっ、そっかー、君の中の彼が騒いでるんだね。まぁ、彼からすれば僕は恨むべき相手だろうし? 前の時は本気で殺されかけたからね。―――――ねぇ、ロスウォード」

 

ロスウォード・・・・!?

 

俺の中に・・・・奴がいるってのかよ!?

 

ここで俺はハッとなる。

消える直前、あいつは俺に何かをした。

もしかして、最後に俺にしたことって・・・・。

 

「一目で分かったよ。勇者くんの内側から向けられてくるその殺意。いやー、懐かしいなぁ」

 

特に顔色を変えることなく過去を懐かしむように語るアセム。

 

ふと思い出すのはイグニスの言葉。

 

 

『ずっと昔に終わったはずなのに・・・・終っていなかった。多分、そういうことなのでしょうね』

 

 

あれはこういうことか。

 

ロスウォードの奴が殺したはずの悪神は実は生きていて、俺の中に移した奴の何かがアセムの力を感じ取って騒いでいた。

 

あいつは自分を創った神々を恨んでいたからな。

そうと分かれば色々と納得できるところも出てくる。

 

アセムは微笑みを浮かべながら言う。

 

「僕はね、君をずっと見てきたんだよ。君があっちの世界に現れた時から、ずっとね」

 

「・・・・どういうことだよ?」

 

「言葉通りの意味だよ。そうだね、分かりやすいように最初から話そうか―――――」

 

 

 



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9話 業

三連投稿アターック(笑)


「僕があっちの神で、ロスウォードを創ったまでは理解しているね?」

 

アセムの問いに俺は小さく頷きを返す。

 

「・・・・創った理由までは理解できてないけどな。なんで自分達の世界を滅ぼすようなやつを創った? そんなことをして何の意味がある?」

 

ロスウォードを創った神々はあいつの手で殺されたと師匠から聞かされた。

 

こいつは生きていたようだが、それでも殺されかけたと言っていた。

 

そんな制御の利かないやつを創って、しかも、ロスウォードに永遠に破壊活動を行わせるような呪いをかけてまで、こいつらは何をしようとしたのか。

 

アセムは白い息を吐く。

 

「んー、まぁ、アレを創ったのは他の神が話を持ちかけてきたからなんだけどね。なんでもアスト・アーデの世界を、神層階を自分達のものにしたいとかでさ。欲が深い夢だよねぇ。・・・・いや、神だからこそなのかな? で、僕はその神々に力を貸してあげたってわけ。制御できなかったのは単なるミスかな。あそこまでの力を持ったモノが出来るとは思わなくてさー」

 

「・・・・なんでその神々に力を貸したんだ?」

 

「え? いや、楽しそうだったから」

 

「・・・・は?」

 

あっさりと返された言葉の意味を理解できなかった俺は聞き返してしまう。

 

楽しそうだったから・・・・・だと?

 

アセムはニンマリと笑みを浮かべる。

 

「だって、他人が争うところを見るとワクワクするでしょ? 僕はね、自分で戦うよりもそっちの方が好きなんだ。世界を一つ、人も魔族も神も巻き込んでの戦いって聞いただけで面白そうだと思わない?」

 

「てめぇ・・・・・!」

 

「アハハ♪ 怒った? まーまー、もう過ぎた話だし良いじゃん。で、話の続きだけどさ。僕はロスウォードに殺されかけた後、神層階から逃げるために下界へ降りたんだ。あのままじゃ、生きていても君のところの師匠あたりに拘束されていたかもだしね」

 

だろうな。

 

それだけのことをしでかしたんだ。

たとえ消滅させられなくても、他の神から拘束されるのは当然だ。

ロキですら、北欧でオーディンの爺さんやら他の神の手で拘束されているんだ。

 

しかし、それでか・・・・。

 

唯一生き残ったこいつは死にかけギリギリの体で下界へ降りた。

力の弱まった状態で神層階を出たのなら、師匠達にも感知されなかったは分かる。

 

「下界に降りたのはいいものの、全身痛いし、いつ消滅してもおかしくなかったんだよね。でもね、そこに現れたのさ。まさに九死に一生を得たってやつだったのかな?」

 

「現れた・・・・? 何が?」

 

誰かがこの野郎を助けたってのか?

死にかけのところを保護して治療した、とか?

 

しかし、こんな俺の考えは全く外れたもので――――

 

アセムは自身を指差しながら言った。

 

「この体の持ち主だよ。この体はね、君と同じくこの世界からあっちに飛ばされた人間の体なのさ」

 

「なっ!?」

 

俺と同じ・・・・?

 

人間の体・・・・?

 

待てよ・・・・それじゃあ、こいつは・・・・・

 

「おまえ、その子の体を乗っ取ったってのか!?」

 

「そういうこと♪ 代償に力を大きく失ったけどね。それでも、こうして生き延びることができた。いやー、目の前に現れてくれて助かったよ。これぞ運命! なーんてね」

 

なんてことしやがる!

こいつの体から人間の気配がするのはそのためか!

 

アセムは楽しげに語り出した。

 

「そこで僕は初めて異世界の存在に気づいたんだよ。この体のおかげで僕はこれまで何度もこちらの世界に来たりしていたからね。時間のズレはどうしようもなかったけど」

 

それからのアセムはこちらの世界とあちらの世界を研究し出したという。

自分自身を実験台に何度も行き来を繰り返す。

 

長い時の中で限界を迎えそうになった体は、体の構造を定期的に入れ換えて持たせていたとも。

 

そんなことを一人でしていた、ある時。

 

俺がアスト・アーデに飛ばされた。

 

「僕は君のような存在を待っていたんだよ。僕自身を使っての実験はしてたけど、この体の子のように自然と飛ばされた人間は現れなかったからねぇ」

 

「俺のことを待っていたと?」

 

「そーいうこと。君はあちらに飛ばされた時から僕が観察していたんだよ。君が元の世界に戻ろうとした時、『剣聖』が方法を見つけたでしょ? あれは僕が仕向けたことなんだよ。僕と同じ方法で君が本当に元の世界に戻れるのか知りたくてね」

 

なるほど・・・・どうりで都合良く見つかったわけだ。

 

そんなあるかないか分からない方法が、俺が飛ばされてから割りと早くに見つかっていたしな。

 

こいつが仕向けていたというのは事実なのだろう。

 

しかし、とアセムは続ける。

 

「まさか君が神層階に行くとは思わなかったかなー。あんな怖い目にあったんだから、すぐに戻ると思ってたんだけどね」

 

「仲間を放って逃げるわけねぇだろ」

 

「そうそう、それそれ。だから、僕は君に別の興味を抱いた。異世界とかそんなのは関係なしで、君個人に。この先、君を驚異に曝したときどうなるか・・・・。気になっているんでしょ? ロキがどうやって異世界について知ったか。ロスウォードがどうやって君のような存在を知ったか」

 

「・・・・・この状況で考えられるのは一つしかないだろ。どうせ、おまえが裏で糸を引いていたんだろ?」

 

俺がそう答えるとアセムは両手を勢い良く上にあげて、頭の上で丸を描いた。

 

「ピンポーン! 正解! ご褒美は何がいい? お菓子? アメならあるよ? サイダー味」

 

「・・・・じゃあ、くれ」

 

「あれ? 貰っちゃうんだ? 意外だね~」

 

「ああ、ちょっとイライラしてきたからな。糖分とらないと、このままおまえを殴ってしまいそうだ」

 

「怖い怖い♪ いいよー。これ、日本の百均で買ったただのアメだし。何も仕掛けてないから。毒盛ったりそんなつまらないことはしてないよ」

 

アセムはパーカーのポケットから袋を取り出すと、その中からアメを一つ取り出して俺に投げ渡してくる。

 

受け取った俺はそれをそれを少し眺めた後、口に放り込んだ。

 

うん、普通のアメだ。

普通にうまい。

シュワってしてる。

 

「日本のお菓子って美味しいよね」

 

アセムもそう言うとアメを一つ口へと運び、口の中で転がし始める。

 

とりあえず、今回、こいつと話して今まで謎だったものが大体繋がったか。

 

こっちの世界に戻るための資料が都合良く見つかった件、ロキが異世界のことを知っていた件、それからロスウォードの件。

 

まだ、少し理解できないところもあるけど、これまでのことが明らかになってきた。

 

つーか、こうもいきなり、色々話されると頭が混乱しそうになる。

アメもらっといて良かったかも。

 

無言でアメを舐め続けて数分。

 

全てを溶かしきったところで、俺は会話を再開させる。

 

「納得できないところは多いが、過去のことはこの際置いておく。・・・・・なんで、出てきた? 今までの話だと、おまえは裏でこっそり動いていたんだろう?」

 

「まぁね。僕は表立って動くことはあまり好きじゃないし。ただ、リゼ爺が面白そうなことをするって知ってね。僕もその話に乗ったってわけ。それと、僕は良い機会だと思ったんだ。君とは少しおしゃべりしたかったしね」

 

面白そうなこと、ね。

ろくでもないことは確かだ。

 

リゼヴィムにアセム。

とんでもない奴らが組んだものだ。

二人とも悪意の塊みたいなもんじゃないか。

 

この先、どんな被害が出るか分からねぇぞ・・・・!

 

俺は内側で発する危険信号を抑えながら、アセムに問う。

 

「で? 俺に会いたかったんだろ? 実際に会ってどう思った?」

 

こいつは俺に対して深い興味を持っているようだ。

異世界に飛ばされた存在としても、それを抜いた俺個人としても。

 

まぁ、男に興味を持たれるなんざ、俺としてはまっぴらごめんだけどな。

 

アセムはポケットから別の袋を取り出すと、そこからクッキーを何枚か摘まんで口に運ぶ。

 

モグモグと口を動かしながら俺の問いに答えた。

 

「やっぱり面白いと思うよ、君。ロスウォードが何を君に渡したかは知らないけど、アレから信頼されるなんてね。大したもんだよ。シリウスくんからも娘さんを託されたみたいだし? 今は美羽ちゃんだっけ? というか、まさかシリウスくんが負けるとは思わなかったな~。あの段階で君が勝てるとは思ってなかったし」

 

あの段階で、か。

 

まぁ、確かにそうだよな。

俺もイグニスのあの空間で再会するまではわからなかったけど・・・・・。

 

俺もドライグもシリウスの力を測り間違えていた。

 

俺とシリウスがまともにやり合ったのは最後のあの時だけ。

あの時、シリウスは魔王クラスだった。

 

だが、シリウスは俺と戦う前に自身の力の半分をイグニスの中に封じ込めていた。

 

つまり、あいつの本当の力は―――――

 

いや、今ここでその話をしても仕方がないか。

 

あいつはそれだけの覚悟で俺に後を託してくれた。

今はそれでいい。

 

すると、アセムは思い出したかのように相槌を打った。

 

「あ、そうだった。君には一つ確認することがあったんだよ」

 

・・・・・確認?

 

「これから僕達は色々とぶつかるだろうからね。その前に君をチェックしときたいんだ。自分のことを理解しているかをね」

 

「・・・・・?」

 

怪訝に思う俺だが、アセムはこちらを指差しながら言う。

 

「君はこれから僕やリゼ爺と正義を胸に向かってくるだろうけどね。君は自分の罪を理解しているのかな? 自分の犯してきた罪を理解しないまま正義を語る奴ほどバカな奴はいないからね。だから、今からちょっとしたテストをさせてもらうよ」

 

そう言うとアセムは指をパチンッと弾いた。

 

その瞬間―――――――世界が黒く染まった。

 

 

 

 

 

 

なんだ、これ・・・・。

 

あいつが指を鳴らしたと思ったら、急に空が、地面が真っ黒に・・・・・。

広場にあった噴水や街灯、周囲の木々も消え、完全な黒い世界。

それが俺の視界に広がっていた。

 

目の前にいたはずのアセムの姿も見えない。

 

これは結界・・・・か?

 

だとしたら、よくあんな一瞬で仕掛けることが出来たな。

広場にもそれらしい雰囲気はなかったし、俺もあいつのオーラ、行動に注意を払っていたんだけど・・・・。

 

にしても、なんなんだこいつは?

あいつはテストと言っていたけど、その意味が分からない。

 

俺の何をテストしようってんだよ。

 

そんな疑問が次々と出てくるなか、突然、ヌルリとしたものが俺の肌に触れた。

 

風だ。

 

生暖かい、気味の悪い風。

しかも、血生臭い。

気分が悪くなるほど、濃い血の臭いがその風には含まれていた。

 

 

ガシャン

 

 

俺がその場から動こうとすると何かが崩れるような音が足元から聞こえてきた。

 

視線を下に向けると――――――屍があった。

 

俺が立っていたのは数多くの屍が転がる戦場跡のような場所だった。

いや、戦場跡なのだろう。

 

壊れた鎧や剣。

大きく抉れ、赤く染まった地面。

 

そして、血塗れの兵士達。

その一人一人に俺は見覚えがあった。

 

いつの間にか赤黒く染まっていた空から声が降ってくる。

 

『そこに倒れる人達が誰だか分かるかな? そう、それはね――――――君が殺してきた人達だよ』

 

俺は周囲をぐるりと見渡してみる。

 

あの人も、この人も全て。

 

――――――俺が戦場で命を絶った人達。

 

アセムの声が四方から響いてきた。

 

『君は誰よりも前に立って戦い、その姿から多くの人に勇者と呼ばれた』

 

『君は紛れもない勇者だよ』

 

『でもね、戦場で名をあげた人は人間だろうと魔族だろうと殺人者だよ』

 

『そう、君は誰よりも数多くの魔族を殺してきたんだ』

 

『君を勇者と称える一方、恨みを持つ人もいっぱいいるとは思わない?』

 

・・・・・俺はそれを否定しなかった。

 

なぜなら、それは紛れもない事実だから。

 

皆は俺を戦争を終わらせたと、誰よりも前で戦ったと、魔王を倒した勇者だと称えてくれる。

それも事実。

 

だけど、俺が人を殺してきたというのも変わらない事実だ。

 

魔族の長老、ウルムさんは俺を認めている者もいると言ってくれた。

それも本当なのだろう。

 

それでも、俺に愛する人を奪われた人はいるわけで。

 

ガシャン、ガシャンと誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。

 

そちらを向くと倒れていた兵士が死に体を引きずって、こちらへ手を伸ばしてきていた。

 

 

《・・・・死にたくない》

 

 

その兵士が涙を流しながら、そう呟く。

 

震えた、本当に小さな声だ。

それでも、俺の耳にはしっかり伝わってくる。

 

それを切っ掛けに倒れていた他の兵士もよろよろと弱々しく立ち上がり、苦悶の声と共に呟き始めた。

 

《・・・・父さん・・・・母さん》

 

《・・・・痛い・・・・怖い・・・・》

 

《嫌だ・・・・まだ、死にたく・・・・》

 

《家に・・・・帰り・・・・たい》

 

全員が家族の名前を、大切な人の名前を呼び、血塗れの手を俺に伸ばし、すがってきた。

 

ある者は泣き、ある者は叫び、ある者は願う。

 

その声が想いが、全て俺に向けられていた。

一般人でなくとも気が狂いそうになる光景が眼前で広がっている。

 

今の俺の心情を察したのか、アセムがクスクスと笑う。

 

『分かるかな? これが君の罪。君は多くの者を守る代わりに多くの者から奪ってきた。それを理解―――――』

 

「してるさ」

 

俺はアセムの言葉を遮って、そう答えた。

 

一度大きく息を吐く。

 

「それくらい理解してないとでも思ったか? 甘く見るなよ。確かに俺は戦場で多くの人達を手にかけてきた。それぐらい言われなくてもな、とっくにわかってんだよ」

 

そう続けると、俺は俺にすがってきていた兵士達の手を強く握る。

 

この人達の最期の声はしっかりと俺に届いている。

 

だからこそ、俺は拳を振るい続けた。

少しでも早く、平和な世界を築けるように。

 

あんな悲しみが、あれ以上続かないように。

 

俺はこの人達の分まで・・・・・託されたものを守り続けなきゃいけない。

 

俺は顔を上げ、赤黒い空に向かって言う。

 

「こいつは俺が背負うべき業だ。おまえなんぞにあれこれ言われる筋合いはねぇな」

 

 

 

その時だった―――――

 

 

 

―――――― 違うわよ、イッセー ――――――

 

 

 

バリィィィィィィィン

 

 

 

赤黒い空がガラスが砕けるような音と共に崩れ去った。

それと同時に俺にすがりついていた兵士達は消え、先程までいた元の世界に戻ってくる。

 

目の前にはニッコリと微笑むアセムの姿。

 

そして、後ろには――――――

 

「あんたが背負うべき業じゃない。私達(・・)が背負うべき業よ」

 

銀の槍を握るアリスの姿があった。

 



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10話 吸血鬼、動き出します!

バチバチと火花を散らせながらこちらへ歩み寄ってくるアリス。

 

既に戦闘モードに入っているのか、髪も金から純白に変わってる。

 

俺は息を吐く。

 

「先に戻るよう言ったろ?」

 

「お生憎さま。私はあんたの『女王』よ? 『王』たる者、常に『女王』を傍らに置くものってリアスさんに言われてなかったかしら?」

 

アリスは肩を竦めながらそう返してくる。

 

それは・・・・言われたような、言われてないような。

 

あ、グレイフィアさんに言われたか。

 

「あんたがああいう顔してる時は何かある時。それくらい私でなくても分かるわよ」

 

「ハハハ・・・・・。皆は?」

 

「皆には城に戻ってもらったわ。大勢で動くと大事になりかねないし。あんたもそのつもりだったんでしょ?」

 

どうやらお見通しのようで。

 

吸血鬼に監視されている以上は出来るだけ大きな騒ぎは起こしたくない。

そう思っていたのは事実だ。

 

自身の気を消すことで、監視役から俺の存在を認識できなくすることは出来る。

俺はそうやって監視を撒いた。

 

もちろん、俺を見失ったことで騒がれるだろうから、出来るだけ早くに戻る必要があるけどね。

 

・・・・ちょっと待てよ。

 

アリスが皆と別れて、ここにいるってことはアリスにも当然、監視がつくよな。

 

もしかして、こいつ。

 

「おまえ・・・・監視は?」

 

「んー・・・・あそこ」

 

アリスが指差す方を見ると・・・・・吸血鬼が一人、ベンチの上でのびていた!

 

おいおいおいおいおい!

 

「おまえ、何した!?」

 

「なにって、軽く手刀決めただけだけど?」

 

そう言って、手を上下に動かしてジェスチャーするアリス。

 

手刀決めたの!?

 

相変わらず、無茶苦茶しやがるな!

手荒すぎるだろ!

 

あの吸血鬼、白目むいてるけど・・・・死んでないよね!?

大丈夫なんだよね!?

あとで吸血鬼殺しなんて呼ばれたりしないよね!?

 

マジで勘弁してくれ!

あとで色々言われそうで怖いよ!

 

いくらマリウスでも流石にこれは言い返す自信ないよ!?

 

「ま、小さいことは気にしない気にしない。男ならドーンとかまえなさいよ」

 

「おまえはドーンってしすぎ!」

 

「それが私の良いところ!」

 

「あ、こいつ、自分で言いやがった!?」

 

確かに君はドーンと構えてるよね!

良い意味でも悪い意味でも!

 

ちくしょう、そんな胸張って堂々と言いやがって!

おっぱい揉んじゃうぞ!?

 

「でも、私を見失って騒がれるよりはマシでしょ?」

 

「そりゃ、そうだけど・・・・。いや、一人連絡が取れなくなったって余計に騒ぎそうな気がする」

 

「あー、それはあるかも。よし、その時は期待してるわよ、主様!」

 

「全責任を擦り付けられた!?」

 

ひでぇ!

 

都合の良い主様だな、おまえのは!

君、完全に俺を舐めてるよね!

 

よし、決めた!

騒動が終わって、日本に帰ったらお仕置きだ!

 

帰ったら、おっぱい揉んでやるぅぅぅぅうう!

 

『良く言ったわ! それでこそ、イッセーよ!』

 

なんで、シリアスな空気で黙ってたのに、この空気になった途端に口を開くんだよぉぉぉぉぉぉ!

 

イグニスの出番、いくらでもあったじゃん!

異世界の話とか、ロスウォードの話とか、おまえが話すところあったじゃん!

 

『だって、シリアスな空気に私はお邪魔かなーって』

 

このバカちん!

この駄女神!

そんなところに気使わなくていいわ!

 

アリスが赤面しながら胸を突き出した。

 

「い、いいわよ! 好きなだけ揉めばいいじゃない! お仕置きすればいいじゃない! 私は・・・・あんたがしたいなら・・・・いつでも・・・・はぅぅぅぅ」

 

おーい!

声が段々小さくなってますけど!?

涙目になってますけど!?

 

なにアーシアみたいな声だしてるの!?

可愛いけどさ!

 

胸がキュンってときめいちゃったじゃないか!

 

おまえがそんな声出したら、ついつい抱き締めたくなるんだよ!

 

・・・・あ、今はダメか。

 

火花飛び散らせてるし、抱きついたら黒焦げになっちまう。

 

「へぇ、これが噂のシリアスブレイカーなんだ。面白いね~」

 

アセムが何か言ってる!

 

「噂なの!?」

 

「そうだよ~。『禍の団』の構成員の間では『赤龍帝眷属が関わるとどんなシリアスも粉々に破壊される』って恐れられてるからね~」

 

なにそれ!?

俺達、そんな風に恐れられてるの!?

初耳なんですけど!?

 

なんか、ゴメン!

良く分からないけど、本当にゴメン!

テロリストに頭下げるのはどうかと思うけど、それに関しては謝る!

マジでゴメン!

 

「アッハッハッハッ♪」

 

アセムのやつ、爆笑してやがる!

 

腹立つけど、この空間を作ったのは俺達だから何も言えねぇや!

 

くそったれ!

 

ここしばらくシリアスが続いてたと思ってたのに、ここに来てこれか!

涙が出てくるぜ!

 

『・・・・そろそろ話を戻した方が良いんじゃないか? 流石に脱線しすぎだ』

 

ナイス指摘だ、ドライグ!

これ以上いくと戻れなくなりそうだもんな!

 

俺はコホンと強く咳払いした後、アセムを見据える。

 

アリスもそんな俺を見て表情を真剣なものにした。

 

「あの子供は・・・・何者なの?」

 

目を細め、そう訊いてくる。

 

最大限に警戒を強めているな。

 

まぁ、さっきのを見ればそうなるだろうし、こいつが醸し出すオーラは不気味だ。

 

俺は声を低くして答えた。

 

「あいつの名前はアセム。アスト・アーデの神の一角だ。そして―――――ロスウォードの産みの親の一人でもあるらしい」

 

「っ!?」

 

その情報に目を見開き、言葉を失うアリス。

 

「あんたが・・・・・あんたがアレを作った・・・・?」

 

「そうだよー。僕をメインにした複数の神々ってのが正確な答えだけどねー」

 

「・・・・・なんでよ」

 

そう呟くと、アリスは悲痛な声で続けた。

 

「なんで、あんなのを作ったのよ・・・・! アレのせいで私達の国は滅茶苦茶になった・・・・!」

 

「んー、まぁ、そうだね。でも、そこの勇者くんが頑張ったおかげで、壊滅はしなかったんでしょ? ならいいじゃん。君がここにいるのも、国の復旧が進んだからなんでしょ?」

 

「ふざけないで! そのせいで、民は傷ついた! 私達の親しかった人達も死んだわ! イッセーだって・・・・!」

 

そうだ、俺は一度ロスウォードに殺された。

アスト・アーデの人達もたくさん傷ついた。

 

たとえ、それがあいつの意思でなくとも。

こいつらが施した呪いのせいで、あいつは力を振るい続けることになった。

 

しかし、アセムは軽い口調で、

 

「アハハ♪ 最終的には片付いたんだし、いいんじゃない? 中々見れるものじゃないよー? 人も魔族も、そして神までもが一つになれる瞬間なんてね。貴重なものが見れたし、よかったじゃん」

 

その瞬間――――――

 

アリスから莫大な白いオーラが放たれた!

 

アリスから放たれる殺気が白い雷となって、広場を抉っていく!

木々がざわめき、敷き詰められたレンガが弾け飛ぶ!

 

「ふ・・・・ざけるなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

カッと目を見開き、殺気全開でアセムに急接近する!

 

あいつ、この場でアセムを殺す気だ!

 

大切な国をあれだけ無茶苦茶にされたのに、未だに楽しそうにしているこいつを見て、アリスが怒らない訳がない。

 

だけど、迂闊すぎる!

あいつ、怒りに呑まれてやがるぞ!

 

アリスの槍がアセムを貫こうとした、その直前―――――

 

横合いから何かがアリスに向けて突っ込んできた。

 

「っ!」

 

それに気づいたアリスは咄嗟に槍でガードするものの、勢いまでは殺せず、吹き飛ばされてしまう!

 

ちぃっ!

 

俺は瞬時に領域(ゾーン)に突入し、先回り。

アリスが家屋に突っ込む前に何とか受け止めることができた。

 

「バカ野郎! 乗れば思う壺だぞ!」

 

俺は声を荒くした。

 

今の・・・・ギリギリのところで防げたから良かったものの、少しでも遅ければ危なかった。

 

「ご、ごめん・・・・・」

 

それが分かったのか、アリスは申し訳なさそうに謝る。

 

「・・・・おまえにケガがないなら、いい。・・・・誰だ、そいつは?」

 

俺は視線をアセムの・・・・隣に立つ者に移す。

 

浅黒い肌にアセムと同じ髪色の長髪。

背もアリスくらいで高く、顔立ちも中々の美女。

 

布面積が少なめの黒いドレスを着ていて、エッチな体つきが良くわかる。

眼福だけど、よくあれで動けるな。

寒くないのかな・・・・・?

 

手には禍々しい装飾が施された黒い槍。

 

その女性はふふんと笑う。

 

「お父さまに手を出そうなんて千年早いわよ、小娘」

 

「お父さまは止めてよー。どう見ても君の方が年上なんだからさ。おっと、紹介するよ。この子はねー」

 

アセムがそう言うと、女性はくるくると槍を回してニッコリと微笑む。

 

「やっほー、噂の勇者さま♪ 私はアセムお父さまの娘。『武器庫(アセナル)』のヴィーカよん♪ よろしくー」

 

ヴィーカと名乗った女性。

 

む、娘・・・・?

 

怪訝に思う俺にアセムが言う。

 

「この子はね、僕が作った下僕の一人だよ。ロスウォードと比べると力はかなり劣るけど従順で良い子なんだ」

 

ロキがヘルを作り出したみたいな感じか。

 

「あと、たまに夜伽もしてくれるんだー」

 

「はぁっ!?」

 

ついつい、その情報に反応してしまう俺!

 

え、なに、こいつ・・・・

 

「娘に何させてんだよ!?」

 

「いや、娘というより、下僕だからね?」

 

「いや、それでも問題あるだろ!?」

 

俺がそう言うとアセムは少し困り顔で言った。

 

「んー、最初はそんなつもりじゃなかったんだけど・・・・。やっぱり人間の体を使ってるだけあって、元気になっちゃうんだよね。いやー、参った参った♪」

 

うっ・・・・それは分かる!

 

そうか、元気になるのか!

それは仕方がない!

男の子の宿命だもん!

 

「なんで、そこでうんうん頷いてるのよ」

 

おっと、アリスさんが半目で見てくるぜ。

 

でも、あんな子供があんなお姉さんに夜のお相手をしてもらえるのは羨ましい!

 

俺だって小学生の時はそれに憧れたんだよ!

 

ちくしょう、俺の小学生の時の夢を叶えやがって!

許さねぇ!

 

ヴィーカもおっぱい大きいじゃないか!

 

揉んだのか!?

吸ったのか!?

挟んだのか!?

 

子供の癖に生意気だ!(神だけど!)

 

「あーもう! あんた、どれだけ反応してるのよ!」

 

「ぐべらっ!」

 

ぐぅぅぅぅ・・・・アリスパンチが顎に・・・・

 

超痛い!

 

この光景にアセムが笑う。

 

「アハハ♪ いいね、君達♪ 見ていて飽きないよ」

 

俺は顎を擦りながら答える。

 

「イテテテ・・・・。そりゃ、どうも。・・・・おまえ、さっき下僕の一人(・・)って言ったな? 他にもいるのか?」

 

「まぁね。一応、この町にも連れてきているよ。ヴィーカ、あの子達は?」

 

アセムがヴィーカに問う。

 

「今頃、その辺りの店でのんびりお茶してるんじゃないかしら? こっちは私だけで十分だって言って、どこかに行ったから」

 

自由だな、こいつら・・・・。

 

アセムの下にヴィーカ、それから他にも何人かいるのか・・・・。

 

このヴィーカって女性、かなりラフな雰囲気だけど・・・・強い。

周りが見えていなかったとはいえ、アリスを吹き飛ばしたぐらいだからな。

 

他の下僕とやらもヴィーカと同じレベルと見た方が良いだろう。

 

警戒を強める俺とアリス。

 

ヴィーカが言う。

 

「あら? やる気? 私はいいけど?」

 

「ダメだよ、ヴィーカ。今は戦うためじゃなくて、話すために来たんだから。それにボチボチ、リゼ爺も動くだろうし、勇者くん達もそっち行かせてあげないとね」

 

「なに・・・?」

 

俺はアセムの言葉に片眉をあげた。

 

「リゼヴィムが動くのか?」

 

そう問うとアセムは微笑みを浮かべる。

 

「あれ? 君達は気づいてなかったんだ。あれを見てごらん」

 

アセムが指差す方向――――――城の方を見ると、巨大な光の壁が城を覆うように発生していた!

 

あれは・・・・魔法陣の光か?

 

「マリウスくんはヴァレリーちゃんの聖杯を抜き出すんだって。そんなことをすれば、どうなるか・・・・分かるよね?」

 

―――――っ!

 

そうかよ・・・・・!

あの『解放』という言葉の意味はそういうことか!

 

となると、あれは神器を――――神滅具を抜き出す術式魔法陣の光ってことか?

 

この場に先生がいれば、それもハッキリするけど・・・・。

 

どのみち急ぐ必要がある!

 

以前、先生から聞いた話では適切な処置をしなければ、神器を抜かれた者は死ぬ。

神器は魂と結び付いているから、ちゃんとした方法で取り出さないとダメだそうだ。

 

マリウスがそこまで気を使うとは思えない!

 

アセムが軽い口調で言う。

 

「早くしないと間に合わなくなっちゃうよ? リゼ爺のショーにもね。アハッ、楽しみだよ。君達の驚く顔が見れそうでね」

 

「あんたねぇ・・・・!」

 

アリスが憎々しげに睨み付けるが、ここでこいつらを相手にしている時間はない。

 

俺はアリスの手を引いて叫ぶ。

 

「アリス! 今はヴァレリーのところに急ぐぞ! 皆も動いているはずだ!」

 

「了解!」

 

俺達はその場を離れ、城へと急行した。

 

アセム達は追ってくる様子もなく、それどころか、こちらに手を振って見送ってくるぐらいだ。

 

アセムが言っていた『ショー』ってのが気になる。

 

リゼヴィムは一体、何をしようとしているんだ?

 

嫌な予感しかしねぇ・・・・!

 

俺は走りながら、ティアへ緊急の連絡を入れた。

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

一誠達が広場を去り、その背中を見送るアセムとヴィーカ。

 

ヴィーカがアセムに問う

 

「行かせて良かったの?」

 

「まぁね。ここで彼と戦っても良かったけど、それだと面白くない。今の彼には勝てるし」

 

そう言うと、アセムは手のひらを一度握って、開いた。

 

確かに自分の力はこの体に乗り換えた時に大きく削がれた。

それでも、長い時の中で失われた力も回復しつつある。

 

今、真っ正面から戦えば勝つのは間違いなく自分だろう。

 

しかし、それはアセムの性格上したくなかった。

 

「勝敗の見えてる勝負ほどつまらないものはないよ。今は彼の成長を楽しもうかな♪」

 

「そうですか」

 

「あれ? 不満かな?」

 

「いいえ、お父さまがそれで良いのなら」

 

アセムは唇を尖らせる。

 

「もー、お父さまは止めてよ~。見た目的にはヴィーカの方がお姉ちゃんなんだからさぁ。あ、でも、戦いたいなら別にいいよ? これは僕が勝手に言ってることだし。それを君達にまで強制はしないよ」

 

「あら、お見通しでしたか」

 

手を口許に当ててうふふと笑むヴィーカ。

 

アセムは背を伸ばす。

 

「さてさて、僕達も戻るとしようか。・・・・・ところでさ、寒くないの?」

 

アセムは今のヴィーカの格好を見て、そう訊く。

 

今のヴィーカの格好は薄着。

しかも、露出も多く、胸元が大きく空き、へそも丸出しだ。

 

この極寒の地で寒くないはずがない。

 

しかし、ヴィーカは笑んだ。

 

「大丈夫です。この通りカイロ持ってきてますから♪ へっくち!」

 

「・・・・・・僕のパーカー、貸そうか?」

 

 

[三人称 side out]

 

 



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11話 出撃! オカルト研究部!

[木場 side]

 

 

時は少し遡る。

 

これはヴラディ家当主との交渉を終え、部屋に戻った後のことだ。

 

《外とここを繋げるのに時間がかかりやしたが、なんとかなってよかったですぜ》

 

そう言うのはシトリー眷属の新メンバー、ソーナ会長の新しい『騎士』のベンニーア。

 

ここに来る途中で朱乃さん達と別れたとは聞いていたけど、どうやら脱出ルートの確保は上手くいったようだ。

 

そして、

 

「ごきげんよう、皆さま。お元気ようで何よりですわ」

 

そう挨拶をくれるのは以前、カーミラからの特使として部室に現れたエルメンヒルデ。

 

この人もベンニーアや同じくソーナ会長の新しい『戦車』のルガールさんと共にこの部屋に転移してきたんだ。

 

・・・・・ただ、天井に転移してきたため、この人は盛大に尻餅をついてしまっていたけど。

 

部長がエルメンヒルデに尋ねる。

 

「あなたもこの国に潜入していたのね?」

 

「当然です。町で城へのルートを工作員と決めかねている時にそこのベンニーアさんと裏路地でお会いできたものですから。―――――お知らせすることがありますわ」

 

改まる彼女は、真剣な表情でこう伝えてきた。

 

「―――――間もなく、マリウス・ツェペシュ一派は聖杯を用いた一連の行動を最終段階に移行するとの密告がありました」

 

『―――――っ!』

 

それを聞いて僕達は表情を厳しくする。

 

「最終段階・・・・・まさか」

 

先生のその一言にエルメンヒルデはこう言う。

 

「ヴァレリー・ツェペシュから聖杯を抜き出し、この国を完全に制圧するようです。付け加えるなら、聖杯の力を用いて、この城下町の住民全てを作り替える計画を発動させる、と」

 

そんな・・・・・聖杯を抜き出すなんて。

 

それに住民を作り替えるというのは・・・・・。

 

先生が顎に手をやり、目を細めた。

 

「聖杯のことは予想できた。リアスから伝えられたマリウスの『解放』という言葉。つまり、はなからそのつもりだったと言うわけだ。・・・・しかし、住民を全員弱点のない吸血鬼にするつもりか。それはすでに吸血鬼と呼べる存在なのか?」

 

エルメンヒルデも嫌悪の表情を浮かべていた。

 

「おぞましい限りです。聖杯の力で吸血鬼の特性を持った他の生物に変える気なのですから。我々、町に潜入したカーミラの者はもうすぐツェペシュ派の政府側と共に反政府側の打倒を開始するつもりです」

 

彼女達はすでにクーデター鎮圧のために行動を始めているということか。

カーミラもツェペシュの政府側も今回の一件を重く見ているようだね。

 

図らずも真実を知ってしまったギャスパーくんは・・・・小柄な体を震わせて、曇った表情となっていた。

 

震えた声でギャスパーくんが訊く。

 

「・・・・あ、あの、聖杯を抜き出されたら、ヴァレリーは・・・・」

 

「死ぬ。奴は最初から抜き出す計画だったのだろう。抜き出して手元に置けば損失の心配をせずに使えるからな」

 

ハッキリとした先生の言葉にギャスパーくんは床に崩れ落ちる。

 

「・・・・そ、そんな・・・・マリウスさんは解放してくれるって・・・・日本に行ってもいいって・・・・全部、嘘だったの・・・・」

 

ボロボロと涙を溢すギャスパーくんの肩を部長が優しく抱いた。

 

「あそこまでの卑劣漢もそういないものよね。――――不愉快極まりないわ」

 

「だね。ここは早くヴァレリーさんを連れ出し――――」

 

美羽さんがそう続こうとした矢先、窓から目映い光が室内に入ってきた。

 

朝というわけではない。

そもそも霧に覆われたこの町にここまで明るい陽の光はは届いてこない。

 

となると・・・・・

 

僕達は窓から外の様子を伺うと・・・・巨大な光の壁が城を覆うように発生していた。

 

これは魔法陣の光!

しかも、これだけの規模!

 

これは――――――

 

先生がその光景に舌打ちした。

 

「先手を取られたか! おそらくカーミラ側の動きが察知されているな。奴ら、この時点で聖杯を抜き出す儀式を始める気だ! これは・・・・かなりオリジナルの紋様が刻まれているが、神滅具を所有者から抜き出す時に描く術式で間違いない!」

 

神滅具を抜き出す術式魔法陣の光!

 

急がないと、手遅れになってしまう!

 

ベンニーアが城の外と繋げている魔法陣の中央にエルメンヒルデが立つ。

 

「私は外から仲間と共に行動します。あなた方は早く脱出してください」

 

先生がエルメンヒルデの言葉に嘆息する。

 

「おいおい、この状況をおまえさん達だけで解決できると思っているのか? 相手はテロリストと絡んでいる。間違いなく、邪龍も出てくるぞ?」

 

「ええ、吸血鬼の問題は吸血鬼が―――――と、言いたいのですが、我らが女王カーミラもあなた方の援助をお認めになられています。私も今更、あなた方のやり方に口を挟むつもりはございません」

 

少々、不満な口調で言うエルメンヒルデ。

 

どうにも彼女達は極力、他人の力は借りたくないのが見てとれる。

 

「それではごきげんよう。お手数ですけど、外と繋げてください」

 

ベンニーアに転移魔法陣の再度展開するよう願うエルメンヒルデ。

 

すると―――――足元に展開された魔法陣からスポッと落ちていってしまった。

 

「きゃぁあああああ―――――」

 

魔法陣の先から彼女の悲鳴が聞こえてくるけど・・・・。

 

ベンニーアが舌をチロリと出した。

 

《繋げた先もどっかの屋内の天井ですぜ》

 

ハハハ・・・・今頃、また尻餅をついてるだろうね。

 

なんというか、気の毒だよ。

 

ギャスパーくんが強い瞳で訴える。

 

「僕、ヴァレリーを救いたいです! 皆さん! どうか・・・・どうか! 僕に力を貸してください!」

 

――――っ!

 

やっぱり、ギャスパーくんは変わったよ。

 

これもイッセーくんの影響かな?

 

まぁ、僕も大いに彼の影響を受けているけどね。

 

美羽さんがギャスパーくんの肩に手を置いた。

 

「もちろんだよ! ボクはギャスパーくんのためなら、喜んで力を貸すよ? 一緒にヴァレリーさんを助けよう!」

 

小猫ちゃんもギャスパーくんの手を握る。

 

「・・・・友達の友達は私の友達。ギャーくん、私も手伝うからね」

 

「私も喜んでお手伝いしますわ。ギャスパーさんは私のお友達ですもの」

 

レイヴェルさんもそう言う。

 

ゼノヴィアがデュランダルを担いで不敵に笑う。

 

「私も力を貸そう。おまえは私の後輩だからな。先輩を頼れ、パワー勝負ならいくらでも披露してやる」

 

僕もそれに続いた。

 

「それじゃあ、僕はテクニック勝負かな。強化された純血の吸血鬼を相手にどこまで試せるか、グレモリーのナイトとしてぜひ参戦したいね」

 

「そうそう、一年生を助けてこその二年生よね! 私も天界代表として悪いヴァンパイアを断罪しちゃうわ!」

 

「なら、私は堕天使代表でいかせてもらおうかな。私もギャスパーくんの先輩だし!」

 

「はい! 私も頑張ります! い、いざとなったら、パ、ファーブニルさんを呼びますし!」

 

イリナやレイナさん、アーシアさんもそう答えた。

 

朱乃さんがギャスパーくんを優しく抱き締める。

 

「うふふ、私もお手伝いしますわ」

 

そして、部長がギャスパーくんに力強く宣言した!

 

「いきましょう、ギャスパー。グレモリー眷属は、オカルト研究部は困った部員をほっとけるはずがないのだから!」

 

ギャスパーくんは皆の戦意に涙ぐむが、それを我慢した。

 

「皆さん・・・・。はい! 僕、頑張ります!」

 

シトリーのベンニーアとルガールさんも言う。

 

《あっしらも手伝いますぜ。ねぇ、ルガールの兄ちゃん》

 

「うむ、ソーナ殿からの命を果たしてこそのシトリー眷属だろう」

 

僕達が意気込みを高めるなか、先生とロスヴァイセさんが少し離れたところで僕達を眺めていた。

 

「いいねぇ、若いもんは。なぁ、ロスヴァイセ先生」

 

「私も若いのですが。まぁ、私も存分に魔法を振るわせてもらいましょうか」

 

「そんじゃ、俺も久々にやるか。ところで、美羽、レイヴェル。おまえらの『王』と『女王』はまだ帰ってこないのか?」

 

先生が首をポキポキと鳴らせながら美羽さんとレイヴェルさんに尋ねた。

 

イッセーくんはゼノヴィア達と一緒に城下町の下見に行っていたんだけど・・・・・戻る際に、用事があると言い残して皆と別れてしまったらしいんだ。

 

アリスさんはそんなイッセーくんを追いかけていったそうなんだけど・・・・・。

 

美羽さんが答える。

 

「さっきから連絡を入れてるんだけど、反応がないんだ。多分、通信が届かない場所にいるか・・・・」

 

「通信が出来ない状況にあるか、ですわね。・・・・心配ですわ。別れた時のイッセーさまはとても恐い顔をされていましたので・・・・」

 

レイヴェルさんもそう続いた。

その表情はとても心配している様子だ。

 

イッセーくんが皆に知らせず一人で動く。

 

『禍の団』に関することなら、誰かに伝えてから行動するはずだ。

 

それをしなかったとなると―――――

 

「異世界関連でしょうね」

 

部長がそう呟いた。

 

先生も頷く。

 

「リゼヴィムが言っていた『坊っちゃん』とやらがイッセーの前に現れたと考えるのが自然か。あいつのことだから無事に戻ってくるとは思うが・・・・」

 

「大丈夫だよ」

 

先生の言葉を遮って美羽さんが口を開いた。

 

皆の視線が美羽さんへと向けられる。

 

「一人で行ったのは、問題ないと判断したからだと思う。お兄ちゃんがそう判断したなら大丈夫だよ。それに、アリスさんもいるなら、ね?」

 

だから、と美羽さんは続ける。

 

「今は先を急ごう。お兄ちゃん達もすぐに戻ってくるはずだからね。皆で、ヴァレリーさんを助けよう!」

 

『おおっ!』

 

皆が拳を挙げた。

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、結界張ったから外部から侵入されることはないし、盗聴もできないよ」

 

「ご苦労だ、美羽。ま、外からカーミラと結託した政府側の者達が攻め込んでくるだろうから、そっちに主な人員を割くだろうけどな。一応の警戒は必要だ」

 

と、先生が言う。

 

先生が言うようにこちら側に兵士達が来る様子も気配も感じられない。

 

仮に来たとしても美羽さんの強固な結界があれば容易に防げるだろう。

 

外からは激しい爆音や叫び声が聞こえてくる。

既に戦闘は始まっているようだ。

 

窓を覗けば町の建物の幾つかが破壊されていた。

 

先生は懐から一枚の図面を広げる。

 

「くすねてきた城の見取り図だ。城の地下深くに広大な空間があり、四つの階層に別れている。あの魔法陣が城を中心に展開したということは―――――」

 

先生がとある階層を指差す。

そこは最下層にある祭儀場だった。

 

「この祭儀場で聖杯の取り出しを行っていると見て間違いない」

 

「ここに『禍の団』もいるわけだね」

 

ゼノヴィアがそう言い、先生も肯定する。

 

「クーデターに関与した上役とその近衛兵はここにいるだろう。んで、俺達が向かうのはここになる」

 

「イッセーくん達に知らせないとですね。今、どの辺りにいるのかしら?」

 

レイナさんが窓の外を見ながらそう呟いた。

 

町は今頃、勃発した戦闘で混乱状態になっているだろう。

その中を切り抜けてくるとなると、少し時間がかかるかもしれない。

 

イッセーくんのことだから、住民を守りながら来るだろうしね。

 

「それに関しては・・・・・美羽、どうだ?」

 

「連絡はつかないけど、ボク達の位置は定期的に送れるよ」

 

「なら、それでいい。イッセーはその気になれば町全体に気の探知をかけられる。ある程度の場所さえ分かれば向こうもこちらに追い付ける」

 

それに加えて僕達が戦闘に入れば、それの気配で僕達の居場所がイッセーくんに伝わるだろうしね。

 

僕は見取り図に赤ペンで×印をつけながら言う。

 

「この二日間で城に待機している兵士の活動範囲はだいたい把握しました。一応、地下までは兵士と遭遇しないルートは用意できそうです」

 

ただ、この非常事態で兵士の首尾配置も変わっているだろうけどね。

 

まぁ、遭遇したとしても、ここのメンバーなら容易に退けられるだろう。

 

問題は・・・・

 

「――――地下。僕達がここへ向かう以上、強敵とぶつかるのは必然ですね」

 

重要な聖杯の取り出しを行っている以上、マリウスもその近辺の重鎮、兵士、そして・・・・・邪龍もここに集まっているだろう。

 

駒王町でレイヴェルさんが拐われた時、イッセーくん達が戦ったというグレンデル。

 

そのグレンデルは本気のイッセーくんの攻撃を受け、肉体が半壊したような状態になったにも関わらず、立ち上がってきたという。

 

今回はどうなるか分からないけど、少なくともクロウ・クルワッハはこの地にいる。

 

「ボク達って、こういうの多いね」

 

美羽さんが深く息を吐いた。

 

先生が美羽さんの頭に手を置く。

 

「ま、だからこそ、著しい成長を遂げたんだろうさ。おかげで、こいつらも出会った時とは比べ物にならないほどの高火力と突破力を持つことができた」

 

それは僕も同意見かな。

 

これまでの激戦、激闘。

強敵と出会い、それらに対抗する力を身につけるための日々の修行があったからこそ僕達は成長できたと思うよ。

 

先生が見渡すようにして皆に告げる。

 

「目的は聖杯の抜き出しを阻止することだ。残酷なことも言うが、最悪、取り出しがされた後でもマリウスは捕縛する。マリウス以外の上役は・・・・出来るだけ生き残らせろ。テロリストどもは問答無用で構わん。俺が許す。邪龍の件もあるが、攻めが難しくなった場合はヴァレリーと聖杯だけ確保して、後は逃げの一手だ。無理に倒そうとするな。グレンデルとやり合ったメンバーは理解していると思うが、それだけ邪龍はしぶとい。余計な消耗は避けろ。良いな?」

 

『はいっ!』

 

ヴァレリーさんと聖杯の確保。

それが僕達が必ずクリアしなければならないミッション。

 

「ぼ、僕はヴァレリーを取り戻します!」

 

ギャスパーくんが立ち上がり、気合いの入った一言!

 

『もちろん!』

 

皆がそれに笑顔で応じた。

 

僕達は一同に立ち上がり、客室を飛び出した。

 

オカルト研究部、出撃だよ!

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

~ほんの少し前のイッセー達~

 

 

城下町にある空き家にて。

 

「とりあえず、準備は整えたからティアは転移してきてくれ」

 

『承知した』

 

ティアマットをこちらに呼ぶための魔法陣を敷いた一誠とアリス。

 

町からは爆音と悲鳴が聞こえてくる。

 

カーミラ派とツェペシュ派の政府側がクーデターの鎮圧に乗り出したのだ。

 

アリスが言う。

 

「これは早いところ合流しないとマズいわね」

 

「ああ。とりあえず、ティアが転移してきたら城に向かいつつ―――――」

 

一誠がそこまでいいかけた時だった

 

空き家の天井に魔法陣が展開された。

 

そして、そこからは―――――

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「えっ!? のわっ!?」

 

突如と降ってきた何か。

それは一誠の顔面に直撃。

 

 

ドスンッ!

 

 

一誠が倒れた衝撃で床に溜まっていた埃が舞う。

 

「え、ちょ・・・・なに!? イッセー!?」

 

宙に漂う埃を払いながら一誠の名前を呼ぶアリス。

 

すると、声が聞こえてきた。

 

「ま、また天井からだなんて・・・・。なんて不親切な・・・・」

 

一誠がいた場所には見覚えのある人物がいた。

 

アリスはその人物に指を指しながら叫ぶ。

 

「あ、あんた・・・・あの憎たらしい吸血鬼!」

 

「なっ!? いきなりなんですか! 失礼ですわ! エルメンヒルデです! ・・・・なぜ、あなたがここに? 確か、あなたは赤龍帝と―――――ひぁっ!」

 

エルメンヒルデがそこまで言いかけた時、妙な感覚が彼女を襲った。

こそばゆいような、妙な感覚が自分の股の間から伝わってきたのだ。

 

エルメンヒルデは恐る恐る自分のスカートの中を見る。

 

そこにいたのは―――――――

 

「むぐぐぐぐ・・・・・ぐるじぃ・・・・! な、なんだぁ!?」

 

自分の下でもがき苦しむ一誠の姿。

 

そう、彼女が尻餅をついた場所は―――――一誠の顔の上だった。

 

つまり、一誠の顔にはエルメンヒルデの下着が直で当たっている・・・・・というより、顔が下着にめり込んでいる状態だ。

 

その状況を認識した途端に、純血の吸血鬼特有の血の気のない顔が一気に赤く染まった。

 

「な、ななななななな・・・・・・!」

 

人形のような作りの顔がみるみる恥じらいを帯びた少女のような顔へ。

 

「ぷふぁ! な、なんなんだよ、いったい・・・・。あ、あれ、クマさんがいる・・・・」

 

一誠がそう口にした瞬間―――――――

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

エルメンヒルデの悲鳴がこの空き家に響き渡った。

 

ティアマットが転移してきたのはそれと同時だった。

 

 

 

 

~ほんの少し前のイッセー達、終~

 

 

 

 



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12話 シトリーニューフェイスの実力!

[木場 side]

 

 

地下への階段を下りていく僕達。

 

ここまで来るのに小さな戦闘は二度だけだったけど、今のところ苦労なくここまで来れた。

 

外からは激しい戦闘の音が聞こえてきて、どんどん苛烈になっているのが分かる。

その攻防戦の流れ弾が飛んできて、城のあちこちを壊していた。

 

「ま、地下には流れ弾は来ないだろう」

 

先生が苦笑しながら言う。

 

実はさっきも、僕達が廊下を進んでいると、窓ガラスを突き破って流れ弾が飛んできたんだよね。

少し危なかったよ。

 

地下への階段をしばらく歩いていくと、最初の階層に出た。

 

開けた空間。

天井の照明で奥まで光が届いていて、意外と部屋の中は明るい。

 

そして、僕達の視線の先には―――――空間の半分を埋め尽くす吸血鬼の兵士達。

全員が鎧を着込み、手には剣や槍といった得物を握っている。

 

赤い瞳を輝かせ、殺気をこちらに放ってくる。

 

百はいるだろう。

 

彼らは元人間の吸血鬼。

その証拠に影もあるし、肌にも生気が感じられる。

 

吸血鬼としての特性は純血の吸血鬼に比べると劣るが、その身体能力は高い。

 

先生が手元に光の槍を作り出して言う。

 

「さて、誰が行く? 結構な数だ。この先に手練れがいると考えると、ここで無駄な体力は使いたくない」

 

「アザゼルは後でお仕事があるのですから、ここで無駄に消耗してもらっては困りますわ」

 

と、朱乃さんが言う。

 

聖杯にたどり着いた際、それを何とか出来るのはアザゼル先生だけだ。

 

神滅具はかなり繊細な物と聞く。

それを扱うとなると、その方向に明るい先生の力が必須。

つまり、ヴァレリーさんを救うためには先生の技術と知識が必要になるということ。

 

「監督は前線を引いた身。こういう集団戦の時は後方で指揮してくれた方が良いと思います」

 

レイナさんもそう言った。

 

アザゼル先生は頼もしいものを見るようにして答える。

 

「それじゃあ、ここは若いもんに任せようか」

 

ゼノヴィアがデュランダルを肩に担ぐ。

 

「私が開幕の合図としてデュランダルのオーラを出したいところだが、それはよした方がいいんだろう?」

 

部長が頷く。

 

「ええ。あれはそう連発出来るものではないのでしょう? なら、邪龍クラスに使うのが妥当だわ」

 

「ゼノヴィア、ちょっとは考えて。テクニックも少しは身につけたと思ったのに、やっぱりパワーなんだから!」

 

イリナもそう続く。

 

それに対してゼノヴィアが首をかしげた。

 

「どうもな、やっぱり木場がいると私は細かいことをしなくて良いように思えてな」

 

いや、その理屈はおかしいよゼノヴィア・・・・・。

 

君も『騎士』なんだからテクニックを全部僕に丸投げしようとするのはやめてくれないかな・・・・。

 

はぁ・・・・。

 

「祐斗先輩、頑張ってください」

 

小猫ちゃんがそう励ましてくれた。

 

ありがとう、小猫ちゃん。

僕、頑張るよ。

 

イリナが僕に謝ってくる。

 

「ごめんなさいね、木場くん。ゼノヴィアは昔からこうなの。人手が足りないときは率先して穴を補おうとするんだけど・・・・人手が足りている時は途端に抜けちゃうの」

 

ああ、そういうことだったんだね。

最初のクールだったイメージが日に日に消えていったのはそういうことなんだね。

 

ゼノヴィアがこめかみをピクピクさせて口を尖らせた。

 

「失敬な! これでも私は日々考えているんだぞ!」

 

なんて説得力のない言葉なんだ!

初対面の時の君ならいざ知らず、今の君からは威厳を感じないよ!

 

美羽さんがゼノヴィアに訊く。

 

「ちなみに、どんなことを考えてるの?」

 

「そうだな・・・・。どうすれば、イッセーと良い子作りができるか、とかだ」

 

やっぱり考えてないじゃないか!

 

部長が額に手を当てて言う。

 

「・・・・この状況どうしましょうかね。各個撃破が良いのかしら? 倒せるにしてもこの数は少し時間がかかりそうね」

 

すると、一歩前に出る二人の影があった。

 

「・・・・問題ない」

 

《ま、ここはあっしらってことで》

 

ルガールさんとベンニーアだった。

 

二人でこの数を相手取ろうと言うのか。

 

僕は二人の戦っているところを見たことがないから、その実力は分からないが・・・・・。

 

そんな風に思っているとベンニーアは手元に自身の身長よりも長い鎌を亜空間から出現させる。

 

《あっしも働かないとこっちに来た意味がなくなりやすからね~》

 

緊張感のない声音で言う彼女は―――――音もなく飛び出していく。

走るというよりは滑るといった感じで、吸血鬼の兵士に斬り込んでいく。

 

《ほらほら死神っ娘のお通りですぜ》

 

軽い口調の彼女は残像を作りながら高速で吸血鬼へと迫る。

その分身の数に彼らも狙いを定められずにいるようだ。

 

数名の兵士が斬りかかるが、分身を切り払うだけで実体にダメージを与えることは出来ていない。

 

・・・・あの残像は魔法でも魔力でもない。

超高速の動きによって出来たものだ。

 

実際に捕まえようとしてもそう容易くはいかない動きだ。

 

《死にやすぜ・・・・あっしの姿を見たら死んじまいやすぜ》

 

ベンニーアが鎌で兵士を切り刻む―――――が、外傷らしきものは見えない。

しかし、鎌で斬られた兵士は例外なくその場で崩れ落ちていく。

 

先生が言う。

 

死神の鎌(デスサイズ)。あれに斬られた者は外傷もなく、魂だけが刈り取られる。魂に与えるダメージ量は持ち主の技量にもよるが・・・・。聖杯で強化された吸血鬼を一太刀で沈めるということは、ベンニーアの実力は相当なものだってことだ。最上級死神の娘ってのは伊達じゃないな」

 

僕達も死神とは戦ったことがある。

冥界で英雄派に襲撃された時、ハーデスから派遣された死神達とね。

 

ベンニーアは少なくともあの死神達よりは上の実力を持っているようだ。

動きも速く、鎌の一太刀が鋭い。

 

更には『騎士』の駒でスピードも底上げされたとなると・・・・・

 

「本人の資質と『騎士』の駒は好相性だ。ゼノヴィア、よく見ておくんだよ」

 

「・・・・それは皮肉か?」

 

ハハハ・・・・。

ゼノヴィアも速いとは思うんだけどね・・・・・。

 

ベンニーアが斬り込んでいるなか、ルガールさんがコートを脱ぎ捨てた。

シャツの上からでも鍛え上げられた肉体が見てとれる。

 

「・・・・・いくぞ」

 

そう、一言呟くと―――――彼の体の節々が脈動し、隆起していった!

 

盛り上がっていく彼の肉体に、衣類が耐えきれず破れていく。

 

ルガールさんの口には鋭い牙が生えそろい、獣のように口が突き出ていく。

爪が鋭利に伸び、全身に灰色の体毛が出現していった。

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオン・・・・・!

 

 

地下室に響き渡る獣の咆哮。

 

そうか、彼の能力・・・・いや、正体は――――――

 

変化したルガールさんが首をコキコキと鳴らす。

 

『俺もシトリーの者としてやらせてもらう』

 

構えるルガールさんを見て、吸血鬼達にどよめきが生まれた。

 

「狼男だと!?」

 

「まさか! 悪魔に転生した狼男がいたというのか!」

 

そう、彼の正体は狼男。

 

彼らがここまで動揺するのも無理はない。

 

吸血鬼と狼男は

古くから争いあっている仲。

つまりは、お互いに天敵同士。

 

自分達の天敵がいきなり現れたとなれば、動揺もするだろう。

 

『吸血鬼を相手にするのは慣れている。容赦はせん』

 

そう言うなり、ルガールさんは高速で飛び出していき、吸血鬼達をその鋭い爪で引き裂いていく!

 

「おのれ!」

 

吸血鬼達が剣や槍で攻撃を仕掛けるが――――ルガールさんの肉体には傷ひとつついていない。

逆に刃が欠けているほどだ。

 

狼男は獣人の中では上位種。

身体能力も肉体強度も高い。

そこに『戦車』の特性が追加され、高い防御力を持ったのだろう。

 

そう考察していると、ベンニーアが鎌を振るいながら言った。

 

《ルガールの兄ちゃんはただの狼男じゃありやせんぜ》

 

見るとルガールさんの両腕に魔法陣が浮かび上がっていた。

 

魔法陣が輝きを見せルガールさんの手元に炎が出現した。

手に炎を纏わせながら、吸血鬼を豪快に殴り付けていく。

 

彼は魔法まで使えるのか!

 

驚く僕達にベンニーアが言う。

 

《高名な魔女と、灰色の毛並みで有名な狼男一族の間に生まれたハイブリッドっつーチートウルフガイですぜ》

 

それは確かにとてつもないね・・・・。

 

「・・・・とんでもない逸材を『戦車』に据えたものよね、ソーナったら」

 

部長もルガールさんの戦闘力に舌を巻いていた。

 

強力な攻撃力に堅牢な肉体。

それに加えて魔法も使えるとは・・・・・。

動きも狼男だけあって、軽やかでスピードもある。

 

いや、ルガールさんに目が行きがちになってしまうが、ベンニーアも相当な実力だ。

ルガールさんが取りこぼした相手を次々に狩っていっているからね。

 

会長は本当に良い人材を手に入れたと思うよ。

 

と、ここで僕達の後方から複数の足音が聞こえてくる。

 

先生が舌打ちした。

 

「ちっ、増援か・・・・。こんなときに面倒だ」

 

「それじゃあ・・・・」

 

美羽さんが後方――――扉の方へと手をかざした。

 

大きな魔法陣が展開したと思うと、次の瞬間―――――

 

『ぐおおおっ!? なんだ、これは!? か、体が・・・・!』

 

そう複数の吸血鬼達の苦悶の声が聞こえてきた。

 

美羽さんがウインクしながら言った。

 

「重力魔法で足を止めさせてもらったよ。といっても、長続きはしないけどね。先のことを考えると力は温存しておきたいし」

 

「よくやった。相変わらず、おまえの魔法は便利なこった。ベンニーア! ルガール! こっちは任せても良いか?」

 

先生が二人に問う。

 

ベンニーアは鎌を振るいながら答える。

 

《もちろんですぜ。そのために派遣された面がありやすからね》

 

『さっさと悪魔としての戦いに慣れろということなのだろう。我が主はスパルタだ』

 

ルガールさんも吸血鬼を引きちぎりながら頷いた。

 

僕達は頷き合い、戦闘の合間をぬって戦場を駆け抜ける。

 

奥にある地下への階段にたどり着いた僕達。

 

部長が振り返りながら、戦う二人に言った。

 

「ここを頼むわ、ベンニーア、ルガール!」

 

ベンニーアとルガールさんは親指を立てて応じてくれた。

 

なんて頼もしい二人なんだ。

 

僕達はシトリーの新人にこの場を任せて、次の階層へと向かった。

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

ティアをこちらに召喚し、町を駆ける俺とアリス、ティア。

 

そして――――――

 

「・・・・・」

 

顔を真っ赤にしながら涙目で俺を見てくるエルメンヒルデ。

 

そ、そんなに睨まれても・・・・・。

まさか、上から降ってくるなんて思わなかったし・・・・。

 

「え、えっと・・・・その・・・・ゴメンな?」

 

「・・・・・」

 

一応、謝ってはみるが無言のままだ。

 

何かを言うどころか、更に睨んできたんだけど・・・・。

 

お、俺、悪くないよね?

だって、降ってきたのはエルメンヒルデだし・・・・。

 

いや、これを言うのは止めておこう。

彼女もある意味、被害者だし。

 

話を聞けば、ベンニーアが彼女を転移させたらしいしな。

後で、ベンニーアはお説教だ。

 

俺は苦笑しながら言う。

 

「その、なんだ・・・・可愛いよな、クマさん」

 

「~~~~っ!」

 

あ、ヤベ・・・・地雷踏んだ。

 

俺の隣を走っていたアリスが吹き出した。

 

「プークスクス! クマさんって! あんた、随分可愛いの履いてるのね!」

 

おおーい!

それを今、言ってやるなよ!

 

エルメンヒルデも顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

 

「い、いいじゃないですか! わ、私がどんな下着を身に付けようと勝手でしょう!?」

 

「別に悪いなんて言ってないわよ。ただ・・・あんな上から目線の発言する割りには、お子さまパンツ・・・クスクスクス」

 

「こ、このぉ・・・・! わ、笑わないでください!」

 

おおっ、エルメンヒルデがキレた。

なんというか、この場面にきて随分年頃の女の子らしくなったな。

 

あの上から目線の高慢な振る舞いをしていた彼女はどこへやらだ。

 

こっちの彼女の方が可愛いと思えるけどね。

 

まぁ、俺は良いと思うよ、クマさん。

 

あと、色々ごちそうさまでした。

まだ顔に感触が残ってます。

 

「せ、赤龍帝! さ、先程のことは忘れなさい! いいですね!?」

 

わ、忘れろと言われましても・・・・それは無理かな。

あのクマさんはしっかり目に焼き付いてます。

 

アリスが嘆息しながら言う。

 

「あー、これにそんなこと言っても無駄無駄。今も走りながら、あんたの太ももの感触でも思い出してるわよ」

 

うっ、鋭い!

 

た、確かにエルメンヒルデの太ももはひんやりしてて、スベスベでした!

ありがとうございます!

 

「ま、そういうこと。イッセーの上に落ちてきたのが運の尽きよ」

 

「何その言い方!?」

 

ひでぇ!

 

確かにエルメンヒルデとしてはショックだったと思うけど!

そこまで言わなくていいじゃん!

 

『うーん・・・・・』

 

俺がアリスにツッコミを入れていると、俺の中でイグニスが何やら悩んでいた。

さっきからずっと真剣に考え込んでいるんだ。

 

珍しいな、イグニスが頭を悩ませるなんて。

 

やっぱりアセムのことが気になるのか?

 

『それもあるんだけど、それよりも深刻な問題よ』

 

深刻な問題?

 

何かあったのか?

 

『ええ。どうしよう・・・・イッセーの属性が増えてしまうわ』

 

は?

 

『考えてみなさい。シスコン、おっぱい、ケモミミ好き、鬼畜、それに加えてラッキースケベまで・・・・。今後、他の属性も増えたら・・・・キャラが定まらなくなるわ』

 

そんなことで悩んでたの!?

 

なんだよ、キャラが定まらなくなるって!

 

つーか、鬼畜にしたの、おまえ!

あの鬼畜化プロジェクトのせいだろ!

 

しかし、イグニスは続ける。

 

『ラッキースケベは前々からあったけど・・・・今回はまさかの顔面騎乗。これは私も予想外だったわ。イッセー、あなたにはラッキースケベの才能があるわ』

 

ラッキースケベの才能ってなんだ!?

それって才能なの!?

 

『決めたわ! 日本に帰ったら、ラッキースケベの修行よ! もう、この際ありとあらゆる属性を身に付けましょう! それがハーレム王へと繋がるわ!』

 

すいません、ラッキースケベの修行なんて聞いたことがないです!

 

そもそも、それってラッキーじゃなくなるじゃん!

ほとんどわざとじゃねぇか!

 

ええい、どこまでもマイペースな駄女神め!

 

「おまえ達はぶれないな・・・・。いや、分かってはいるが」

 

ティアがやれやれと息を吐く。

 

ゴメンね!

シリアスに入れなくてゴメンね!

 

「クーマーさーんーパーンーツー♪」

 

「どこまで言うんですか!」

 

アリスのやつ、ここぞとばかりにエルメンヒルデを弄ってる!

 

その辺にしとこうよ!

 

いいじゃん、クマさんパンツ!

貴族の女の子がクマさんって意外な組合せだけど、可愛いじゃん!

 

「エルメンヒルデ! 俺はクマさんパンツはアリだと思うぞ!」

 

「そんな大きな声で言わないでください! もおー! 泣きますよ!? 私、泣いちゃいますよ!?」

 

エルメンヒルデが手で顔を覆いながら叫んだ!

 

ティアが俺とアリスを嗜めるように言う。

 

「アリス、どんな下着を履こうと人の勝手だ。イッセー、そんなに大きな声で女子の下着について語るものではないぞ」

 

「「ご、ごめんなさい・・・・」」

 

全くもってその通りだよ。

 

こんな公然の場でクマさんだのパンツだのを大声で言うもんじゃないよね。

 

俺がうんうんと頷いているとティアは人差し指を立てて真顔でこう言った。

 

「ちなみに私はノーパンだ」

 

「「「えええええええええええっ!?」」」

 

重なる俺とアリス、エルメンヒルデの驚愕の声!

 

マジでか!?

ティア、履いてないの!?

ノーパンなの!?

 

そんな衝撃のカミングアウトをこんな状況でしてくるとは!

 

嘘だと言ってよ、バーニィ!

 

「冗談だ」

 

「冗談かよ!」

 

「なんてな」

 

「え!? どっち!? 履いてるの!? 履いてないの!?」

 

「ふっ・・・・」

 

いや、そんなクールに笑われても困ります!

 

とりあえず、そこだけはハッキリさせてよ!

 

履いてるんだよね? ね!?

 

つーか、ティアもふざけ始めたよ!

唯一の良心が!

 

あー、もう!

ここは俺が話を変えるしかない!

 

「エルメンヒルデ! とりあえず、城への近道はあるか? 美羽から地下へ向かうって知らせがあったんだけど」

 

「それでしたら、この近くに城へ続く隠し通路があります。それを使えば追い付けるでしょう」

 

「了解だ! 案内を頼む!」

 

俺達は戦場と化した町を駆けていった。



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13話 白音モード発動!

[木場 side]

 

 

階段を進み、再び開けた空間にたどり着いた僕達。

 

城の地下は最下層を含めて四つの空間があり、ここはその二つ目ということになる。

 

到着した僕達を待ち受けていたのは―――――

 

「来た来た。主殿が仰った通りだ」

 

「うむ、噂のグレモリー眷属」

 

「強化された我々にとっては良い相手になりそうだ」

 

明らかに上階の兵士達よりも格上であることがわかる。

兵士の鎧ではなく、普通の衣類を身に纏っているが、全身から放つプレッシャーは兵士達の比じゃない。

 

数は先程よりは数は少ないが・・・・・

 

「クーデター派側についた上役直属の戦士だろう。純血ではないだろうが、吸血鬼の特性を色濃く継いでいる者達だ。吸血鬼の気配が濃い」

 

先生がそう呟く。

 

なるほど、やはり下層に行くほど強敵が待ち構えているようだね。

 

僕は手元に聖魔剣を一振り造り出す。

 

「ここは僕が先陣をきります」

 

この場にいるメンバーで、先生を除けば僕が最も速く動ける。

 

僕が敵を撹乱しつつ、皆が攻撃を仕掛ければ―――――

 

その時だった。

 

「いや、ここは」

 

「私達に任せて!」

 

僕の横を通りすぎていくゼノヴィアとイリナ。

 

二人は敵との距離を一気に詰め寄ると、デュランダル、量産型聖魔剣を交錯させて吸血鬼の戦士達に斬りかかる!

 

「くっ! 聖剣か!」

 

毒づく吸血鬼は身を霧に変えて、初太刀を回避する・・・・しかし、二人の攻撃はそれだけでは終わらず、刀身から聖なる波動を繰り出していた!

 

「ちっ!」

 

後方に位置していた吸血鬼は自身をコウモリに変化させて、間一髪で回避。

 

「伸びろっ!」

 

ゼノヴィアはデュランダルの刀身を鞭状に変えて、横の吸血鬼に斬りつける!

 

「ぬわっ!」

 

僕はついその光景に感動してしまった。

 

ゼノヴィアが・・・・テクニックを見せてくれた!

デュランダルの砲撃ではなく、エクスカリバーの能力を活かした攻撃をしてくれた!

 

「祐斗先輩、なんで涙目なんですか?」

 

気にしないでいいよ、ギャスパーくん。

これは嬉し涙だからね。

 

しかし、僕はゼノヴィアに斬りつけられた吸血鬼を見て表情を厳しくした。

 

・・・・・傷は負っているものの、聖剣のダメージが通っていない。

 

吸血鬼は悪魔同様、聖なる攻撃に弱い。

たとえ、斬り傷が浅くても傷口から聖なる力の侵食を受ける。

 

それがない。

つまり、あの吸血鬼は聖なる力によるダメージを受けていないということ。

 

先生が目を細める。

 

「・・・・聖杯によって、聖なる力への耐性をつけたか」

 

ゼノヴィアとイリナが息を吐く。

 

「うーん、軽く振っただけとはいえ、吸血鬼にデュランダルが効かないのは遺憾だね」

 

「けど、勝てないわけじゃないわ。一撃一撃加えていけば確実に勝てる。・・・・問題は時間をかけられないってことよね」

 

そう、今の攻防で分かったことはこのまま戦ったとしても眼前の強化された吸血鬼には勝てるということ。

 

しかし、聖なる力が効かないのは面倒な話であり、僕の聖魔剣も効果はないだろう。

 

地下という空間を考えると、派手な攻撃はできないため、地道に攻撃を加えるしかない。

 

時間もないため、僕が残って戦うという選択肢もあるが・・・・・下の階層にはおそらく邪龍が控えているだろう。

 

クロウ・クルワッハとオーフィスの分身であるリリス。

 

それに『禍の団』が関わっているということは、イッセーくん達が戦ったというグレンデルなどの他の邪龍がいる可能性がある。

 

ここは一人一人の消耗を避けるなら全員でかかるべきか・・・・。

 

最善の一手を模索しているなかで小猫ちゃんが一歩前に出た。

 

「・・・・ここは私に任せてください」

 

そう言うなり、彼女は目を閉じて、深く息をし始める。

 

「・・・・姉さまに教えてもらったものがここでお役に立ちそうです」

 

そう言う小猫ちゃんの体に淡い白い光が集い始める。

それは小猫ちゃんの小柄な体を覆い、彼女自身も呼応するように闘気を発生させていく。

 

闘気を纏い、全身から光を放つ小猫ちゃん。

 

その光は膨れ上がり、大きくなっていった。

 

光が収まった後に現れたのは・・・・・白い着物を着た女性だった。

歳は僕達よりも歳上に見える。

頭部には猫耳があり、二股の猫の尻尾を生やしていた。

 

その女性が口を開く。

 

『近隣に存在する自然の気を集めて、自身の闘気と同調させることで強制的に成長させました』

 

―――――小猫ちゃんの声だった。

 

この女性があの小猫ちゃんだというのかい?

 

これには驚きを隠せないメンバーが何人かいるようで、アーシアさんやゼノヴィアも目を丸くしていた。

 

事情を知っているのか、部長が言う。

 

「あれは外部の気を体内に取り込むことで、猫又の力を自在に扱えるように一時的に小猫を大きくさせる仙術よ。―――――白音モードだと小猫は言っていたわ」

 

仙術で強制的に成長させたというのか。

小猫ちゃんはお姉さんからそんな技を教えてもらっていたんだね。

 

「・・・・小猫ちゃんの胸が大きくなってます」

 

「ああ。私から見ても大きいと思うぞ。黒歌くらいはあるんじゃないか?」

 

「イッセーくんが喜びそうね!」

 

アーシアさんとゼノヴィアは複雑そうな表情で白音モードとなった小猫ちゃんを見ていた。

 

僕もイリナの意見には同意かな?

この場にいれば、イッセーくんはとても喜んでいただろう。

 

「こ、小猫さんが・・・・そんな・・・・・!」

 

同じ学年であるレイヴェルさんは信じられないといった表情で小猫ちゃんの胸と自分の胸を交互に見ていた。

 

・・・・心配しなくても、イッセーくんなら大丈夫だと思うよ?

 

美羽さんがレイヴェルさんの肩に手を置く。

 

「大丈夫。お兄ちゃんはレイヴェルさんも可愛く思ってるからね。それにレイヴェルさんもまだまだ大きくなると思うし、小猫ちゃんと合わせて余計に喜ぶんじゃないかな?」

 

「そ、そうですよね! わ、私も小猫さんに負けず、大きくなって見せますわ! 毎日、牛乳だって飲みますわ!」

 

・・・・・すごい気合いの入れようだ。

 

成長した姿の小猫ちゃんが音もなく前方に進んでいく。

そのまま右手を横にすると、その先に大きな車輪が出現した。

その車輪が白い炎に包まれていく。

 

『――――火車。猫又が操る能力の一つです』

 

火車・・・・その名前は聞いたことがあるね。

 

確か―――――

 

「火車は死者をあの世に誘う妖怪で、猫又のもう一つの姿とも言われている。死者から起き上がって吸血鬼となった奴等にとっては、技の特性上、必殺の一撃となるだろう。問題は聖杯で強化された奴等に効くかどうかだが・・・・」

 

先生が顎に手をやりながら言う。

 

小猫ちゃんは宙にいくつもの火車を出現させると、それを吸血鬼の戦士達に向けて放っていく。

 

火車は勢いよく回転しながら、高速で彼らのもとに飛んでいく!

 

「見知らぬ技だが、この程度!」

 

不敵な笑みと共に火車を回避するが――――避けた途端に火車は軌道を変えて縦横無尽に吸血鬼を追い回していく!

 

そして、ついには吸血鬼の一人を捉えた!

火車の直撃を受けた吸血鬼が白い炎に包まれていく!

 

「う、うわあああああああっ!」

 

絶叫をあげながら、その吸血鬼は灰と化していく。

 

その光景に他の吸血鬼が驚愕していた。

 

「な、なぜだ!? なぜ燃える!? 我らは聖杯により、炎すら寄せ付けない体を手にいれたはずだぞ!?」

 

そんな彼らに小猫ちゃんが無慈悲に言う。

 

『いくら強化しようと無駄です。その炎は死者を燃やし尽くすまでは決して消えることはありません。仙術の応用により、取り込んだ自然の気を浄化の力に変えていますから。弱点どうこうの理屈ではありません。あなた達の存在理由、真理そのものを根源から作り替えない限り、炎はあなた達を燃やし尽くします』

 

浄化の力。

小猫ちゃんはそのような力を使えるようになっていたのか。

 

お姉さんとの修行でレベルアップしていたようだけど、ここまでのものとは・・・・・。

 

先生がうなる。

 

「匙の黒炎とは対極のものだな。あちらは負の力で永遠に呪い、こちらは正の力で清めてしまう」

 

清めの力。

 

であれば、魔の存在である悪魔の僕達も容易に触れることは避けた方が良さそうだ。

 

美羽さんが先生に訊く。

 

「イグニスさんの炎は?」

 

「あれは単なる火力だろ。ま、魂まで燃やし尽くすような馬鹿げた火力だがな。つーか、あの女神の力は底が見えん。あれで一部なんだろう? 本来の力はなんだってんだよ・・・・」

 

そう言って、先生は深く息を吐いた。

 

・・・・小猫ちゃんの火車や匙くんの黒炎も怖いけど、真に恐ろしいのは異世界の女神なのかもしれない。

 

 

 

~そのころのイグニスさん☆~

 

 

 

『へっくち!』

 

「イグニスがくしゃみなんて珍しいな。風邪か? つーか、おまえって風邪引くの?」

 

『さぁ? 誰かが私を呼んでるのかもね。私の出番かも☆』

 

「あー、それは歴代の先輩だな。ぼちぼちSMが切れてきてるから騒ぎ出すぞ?」

 

『まっかせなさーい! 私の究極の鞭捌きで彼らを天国へ送ってあげるわ!』

 

「いや、既に死んでるからね? 残留思念だからね?」

 

『そういえばそうね。あ、そうそう。一つだけ言っておくわ』

 

「なんだよ?」

 

『私はいつでもノーパンよ♪』

 

「それは知ってる」

 

 

異世界の女神さまはいつでも平常運転だった。

 

 

 

~そのころのイグニスさん☆、終~

 

 

 

「なら、攻めるまでだ!」

 

吸血鬼の一人が回避を諦め、小猫ちゃんに一撃を加えようとする。

 

だが―――――拳が小猫ちゃんに触れた瞬間に、その吸血鬼は灰と化していった。

 

『今の私は浄化の力そのものです。あなた達は触れただけで消滅します』

 

小猫ちゃんが操る無数の火車は一人一人確実に、その白い炎で吸血鬼を灰にしていった。

 

「ちくしょおおおおおおおおっ!!!」

 

最後の一人も絶叫をあげ―――――消滅した。

 

片付いたのを確認して、息を吐く小猫ちゃん。

顔には少々疲労の色が見える。

 

小猫ちゃんは胸に手を当てて呟いた。

 

『・・・・イッセー先輩・・・・・おっきくなりましたよ。この姿を見せられなかったのは残念ですけど・・・・。いつか、この姿になって先輩のお嫁さんに―――――』

 

そこまで言ったところで彼女を包んでいた光が止み、元の小柄な小猫ちゃんへと戻ってしまった。

 

途端に力が抜けたように崩れ落ちていく。

 

僕は慌ててそれを受け止めると、小猫ちゃんは穏やかな寝息を立てていた。

 

「実戦での初使用だったからな。体力が一気になくなっちまったんだろう。慣れていけばより長時間かつ、消耗も少なくできるだろうさ」

 

先生がそう分析する。

 

イッセーくん、小猫ちゃんはかなり大きな進歩を遂げているよ。

 

「お疲れさま、小猫」

 

部長が小猫ちゃんの頭を優しく撫でる。

 

小猫ちゃんの奮闘のおかげで、かなり短時間でここを抜けることができた。

 

僕達は小猫ちゃんを抱いて、次の階層へ向かっていく。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

「この地下道を進めば、城の地下へと辿り着けますわ」

 

エルメンヒルデがツェペシュ派の政府側から入手していたという城の見取り図を見ながら、そう教えてくれる。

 

俺達はクーデター派の兵士達を薙ぎ払いながら、戦場と化した城下町を駆け抜け、城に繋がるという隠し通路の入口に辿り着いていた。

 

元々は非常時の脱出用なんだろうけど・・・・。

まさか、こういう風に使われることになるとはね。

 

カーミラ側や俺達に知られることになったのは政府側にとっても痛いだろうに。

 

ま、今回はそんなこと言ってる場合じゃないけどさ。

 

俺は戦場の声に耳を傾けた後、エルメンヒルデに言った。

 

「エルメンヒルデはこれからカーミラ側の人達と合流するんだろう?」

 

「はい。カーミラさまより任されているので」

 

「それじゃあ、ティアもついて行ってやってくれ。ティアもいれば、外側の連中は速攻で片がつくだろう?」

 

「それはそうかもしれんが・・・・良いのか? この先にはクロウ・クルワッハがいるのだろう?」

 

それはそうなんだけどね。

 

皆が向かうのは最下層にある祭儀場。

そこに辿り着くまでにいくつかの階層を通る必要がある。

 

下に行けば行くほど強者を配置するのが妥当なところ。

それを考えると祭儀場の近辺にクロウ・クルワッハがいる可能性は大きい。

 

リリスって可能性もあるが・・・・できればそちらは考えたくないな。

オーフィスと瓜二つってのもあるんだけど、リゼヴィムに利用されてるって考えるとな・・・・。

 

それでも戦わないと進めないなら戦うしかないんだけどさ。

 

エルメンヒルデが城の見取り図を手渡してくる。

 

「これを渡しておきますわ。この通路を進んでいけば辿り着けると思いますが・・・・念のため」

 

「そっか。ありがとな。アリス、行くぜ」

 

「了解。それじゃあ、さっさと美羽ちゃん達と合流しましょうか」

 

俺とアリスはここで二人と別れ、地下へと繋がる通路を進んでいった。

 

 



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14話 邪龍、再び!

活動報告にも書いたのですが、進路関係で忙しくなってきたので、更新スピードが落ちます。

一日一話のペースは無理なので・・・・・早くて一週間に一話のペースかな?



[木場 side]

 

 

下の階層に辿り着く直前に、その気配を捉えることが出来た。

 

重々しい邪悪なオーラの波動。

部長や他の皆も察知したようで、一様に表情を厳しくさせていた。

 

僕達が三つ目の階層の扉を開くと、その者はいた。

 

『グハハハハハッ! この間ぶりだなぁ、おまえら!』

 

黒い鱗に銀色の双眸を持つ巨大なドラゴン!

 

ゼノヴィアが叫ぶ。

 

「グレンデル・・・ッ!」

 

僕はその一言に眼を細めた。

 

あれがイッセーくん達が戦ったという伝説の邪龍・・・・!

天武の攻撃を受けてもなお立ち上がったというドラゴン・・・・!

 

『そうだぜぇ! おまえらをぶっ殺したくてたまんねぇ、グレンデルさまだぜぇぇっ!』

 

くっ・・・・強烈な悪意の波動を放ってくれる!

明らかに龍王かそれ以上のオーラだ!

 

グレンデルは僕達を順に見渡した後、首を傾げた。

 

『んだぁ? なんだよなんだよ! ドライグがいねぇじゃねぇかよぉ!』

 

ドライグ・・・・ここではイッセーくんのことを言っているのだろうけど・・・・。

 

美羽さんが呟く。

 

「あのドラゴン・・・・お兄ちゃんにすごい執着してたからね。自分と真正面から戦えるのお兄ちゃんだけだったし」

 

「でも、残念ながらイッセーはここにいないわ。ここは私達だけで何とかしなければいけないわね」

 

部長も魔力を高めながら、グレンデルに鋭い視線をぶつける。

 

こんなところで足止めを食らうわけにはいかない。

 

僕があれを使えば・・・・

 

「祐斗、まだ第二階層(ツヴァイセ・ファーゼ)は使ってはダメよ」

 

「わかっています。後のことを考えると・・・ですね?」

 

僕の返しに部長は頷く。

 

この後に控えているだろうクロウ・クルワッハやリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

イッセーくんがいるとはいえ、目の前の邪龍か、それ以上の者がこの先には待ち受けている。

 

僕は会得してからの日が浅いこともあり、一度なってしまうと、その後の消耗が凄まじい。

ここで使ってしまえば、僕は後で確実に足手まといになってしまう。

この場で使うのは得策じゃない。

 

かといって、目の前の邪龍は手を抜いて良いような敵でもない。

 

ここはチームで挑むべきだろうね。

 

僕は聖魔剣を聖剣に変えて前に飛び出す。

 

もう一つの禁手により龍騎士を複数体造り出した後、龍騎士達にはジークフリートから得た魔剣群を持たせた。

 

そして、僕の手には聖剣ともう一振りの剣。

魔剣の王にして凶悪な龍殺しを持つ魔帝剣グラム。

 

話では龍殺しの耐性を持っているかもしれないとのことだったけど、グラムならどうだろうか?

 

僕を追うようにゼノヴィアとイリナも駆けつけてた。

 

三人による同時攻撃!

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

「とりゃぁぁぁぁぁっ!」

 

ゼノヴィアとイリナがデュランダルと量産型聖魔剣を勢いよく振るうが―――――

 

『軽いな!』

 

グレンデルの体にはかすり傷程度のダメージしか与えられていない!

デュランダルの斬れ味でもこの程度なのか!

 

「デュランダルの大きなオーラでなければ・・・・!」

 

自身の攻撃が通らなかったことに、ゼノヴィアは歯噛みしていた。

 

「はぁぁっ!」

 

イリナが空中で天使の翼を広げて、手元に強大な光を生み出す。

それを、グレンデル目掛けて放つが―――――

 

『グハハハハハ! なんだよ、こりゃ! 効かねぇな!』

 

ほとんどノーダメージに近い状態だった。

今のはかなりの光力が籠められていたはずだが・・・・。

 

デュランダルでも、量産型聖魔剣でも、光力でもダメ。

 

ならば――――

 

「グラムならどうだい!」

 

グラムの刀身に魔の波動を纏わせ、グレンデルに斬りかかる!

龍騎士達も僕に続いて魔剣を振るっていく!

 

龍騎士達の魔剣がグレンデルの腹を切り刻み、正面からグラムで大きく斬りつけた。

 

並の相手ならこれだけで、オーバーキルだろう。

 

しかし・・・・グレンデルには小さな傷が数ヵ所に渡って出来ただけだった。

傷口からは青い血が流れてはいるが・・・・・。

 

僕が使いこなせていないとはいえ、龍殺しのグラムでこの程度とはね・・・・・。

 

「ちっ・・・・どうやら相当な強化がされているらしいな」

 

先生が手元に光の槍を出現させながら、舌打ちしていた。

 

「なら、これならどうかな?」

 

美羽さんが手元に幾重にも魔法陣を展開。

 

掌に七色の光が集まっていき、この空間を目映く照らしていく。

 

あれは確か、ゲオルクの疑似空間から脱出する時に見せてくれた―――――

 

「貫通力ならお兄ちゃんにも負けないよ! スター・ダスト・ブレイカー!」

 

放たれる七色の閃光!

規模こそは大きくないものの、かなりの力が濃縮されているようだ!

 

美羽さんが放った閃光は僕とゼノヴィアの間を抜けて、グレンデルに直撃した。

直撃した部位が弾け、青い血が吹き出る。

 

現段階では一番ダメージを与えられただろう。

 

・・・しかし、グレンデルは嫌な笑みを浮かべていた。

 

『グハハハハハ! 痛ぇな! やるじゃねぇか、小娘がよぉ!』

 

「・・・・本当なら体を突き抜けているはずなんだけど・・・・。もしかして、前回よりも防御力が上がってる・・・・?」

 

「魔法に対する耐性が付与されているのかもしれませんね。それも異常なほどの強化がされているのでしょう」

 

美羽さんが眉を潜め、ロスヴァイセさんがそう考察する。

 

龍殺しの耐性に魔法への耐性。

 

『禍の団』は聖杯を使ってどれほどの強化を施したと言うんだ・・・・?

 

『どうしたどうした! なに休んでんだよ! もっとこいや! そんなもんじゃ、俺の相手にならねぇよ!』

 

確かに今のままではこの邪龍は倒せない。

あの異常なまでの防御力にこちらの攻撃が通らないのだから。

 

さっき、部長にはああ言ったけど、ここで時間をかけるわけにはいかない。

 

やはり、ここは――――――

 

と、僕が覚悟を決めたところで、部長が口を開いた。

 

「ひとつだけ、あのドラゴンに致命傷を与えられる技があるわ」

 

部長の言葉に朱乃さんが反応した。

 

「リアス、あれを使うつもりなのね」

 

「ええ、朱乃。あれしかないと思うわ。けれど、あれを使うには時間が必要なの。魔力を練るだけの時間が稼げれば勝てる見込みは増すわ」

 

少し前に部長に見せてもらったことがある。

 

それは明らかに強大で強烈な威力を含んだ滅びの力。

レーティングゲームでは使用禁止になるレベルの圧倒的な滅びの力だった。

 

命中すれば、防御なんて無視で致命傷を与えられるだろう。

 

美羽さんが頷く。

 

「ボク達の役目は時間を稼ぐこと、だね?」

 

「そうね。お願いできるかしら?」

 

「もちろんだよ」

 

応じる美羽さん。

 

僕もそれに続く。

 

「ええ、時間稼ぎぐらいならいくらでも」

 

「うん、部長に秘策があるのなら、それに任せるべきだ。ここで無駄な消耗は避けたいからね」

 

「やりましょうよ、リアスさん!」

 

ゼノヴィアとイリナも声を揃えてくれた。

 

「私は前衛の援護で」

 

「では、私も」

 

「ボク達は後衛組だからね」

 

「うふふ、私もいきますわ」

 

「私も参りますわ」

 

レイナさんとロスヴァイセさん、美羽さん、朱乃さん、レイヴェルさんが後衛で僕達の援護。

これほど心強い後衛もそういない。

 

「では、皆。お願いするわ」

 

部長はそう言うと、足下に魔法陣を展開させて、自身の魔力を練り始めた。

同時に部長の頭上に滅びの魔力が集中していく。

 

この段階でも凶悪な力を放っているのに、これが更に高められるのか。

 

とにかく、僕達の役目はアレが完成するまで時間を稼ぐことだ。

 

「アーシア、ギャスパー、小猫を守る結界障壁も作ったことだし、俺も参戦すっかな」

 

先生も上着を脱いで僕達の横に並んだ。

 

全員が揃ったところで、僕達前衛組は飛び出していく!

 

ゼノヴィアとイリナのコンビが左右から攻め、僕は死角を突いて斬りかかる!

 

隙を見て美羽さん達後衛メンバーが次々と魔法、光、雷光、炎を放っていく。

 

『おもしれぇぇぇぇ! どんどんこいっ! どんどんよぉぉぉぉぉっ!』

 

グレンデルは僕達のチーム攻撃を嬉々として受け入れて、巨体からは想像できないほどの軽やかな体捌きで迎撃に出てくる!

 

後衛からの攻撃は防がず、そのまま受けながら、僕達に巨大な拳を繰り出してくる。

一撃一撃の威力が高い。

 

僕は足下を狙って斬りかかるが、グレンデルは軽く上に飛んで、これを回避。

そこから僕目掛けて火炎を吐き出した!

 

「くっ!」

 

僕はグラムで火炎を斬り裂くと、宙に七つの聖魔剣を作り出した。

 

手をグレンデルに突き出し、号令を出す。

 

「いけっ!」

 

僕の指示に従い、七つの聖魔剣は高速でグレンデルに迫り、その身を斬り刻んでいく。

 

正直、これでグレンデルの体につけられるのは本当にかすり傷程度。

グレンデルはこんなものはものともしないだろう。

 

だけど、グレンデルの目を攪乱することは出来る!

 

「ゼノヴィア!」

 

「ああ! 分かっている!」

 

僕とゼノヴィアはグラムとデュランダルを構え、床を蹴る!

 

『おらおらぁ! 潰してやるぜぇぇぇぇ!』

 

グレンデルの尾が横凪ぎに僕達に迫る・・・・が、それは僕達に当たることはなかった。

 

見れば、グレンデルの尾は魔法陣によって動きを抑えられていた。

 

「攻撃は通らなくても、動きは封じれるからね。ロスヴァイセさん!」

 

「はい!」

 

ロスヴァイセさんが魔法陣を展開させて、そこから装飾が施された銃が出現する。

 

あれはリーシャさんから譲り受けたという、魔装銃!

 

銃口に魔法陣が幾重にも展開され、光が収束されていく。

 

ロスヴァイセさんがトリガーを引くと極太のレーザーが放たれた!

 

レーザーはゼノヴィアに繰り出されていた、拳に命中。

その軌道を大きくズラすことに成功した。

 

「ダメージを与えられなくても、弾くことは出来ます。木場くん達への攻撃は私が弾いてみせましょう」

 

ロスヴァイセさんはそう言うと次弾を装填し始める。

 

ロスヴァイセさんのレーザー攻撃に体勢を僅かに崩したグレンデル。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

そこにゼノヴィアが大きく振りかぶったデュランダルを振り下ろす!

刀身には濃密な聖なるオーラが纏わせられている!

 

グレンデルの肩口に大きな斬り傷が生まれた!

 

僕は背後に回り、ゼノヴィアと同じく魔のオーラをこれでもかと言うぐらいに纏わせ、横凪ぎに斬りつける!

 

裂けるグレンデルの背中。

傷口から青い血が流れ、石の床を染めた。

 

『痛ぇな! 痛ぇよ、おまえら!』

 

だが、これでは倒れない。

 

それは分かっている。

 

このドラゴンの鱗は恐ろしく硬い。

その上にこのしぶとさ。

 

いくら斬りつけようとも、倒れない。

そんな風にも思えてしまう。

 

ならば――――――

 

僕は宙に浮かぶ聖魔剣を操り、今の攻撃で生じた傷に突き刺していく。

 

傷口に深々と突き刺さる七つの剣。

 

そこに―――――――

 

「どいてちょうだい!」

 

朱乃さんの声が響き、僕達はグレンデルから距離を取る。

グレンデルに龍の形をした雷光が三匹飛んでいき、その全身に巻き付いていった!

 

『グガガガガガガガガガガガッ!!』

 

痺れるグレンデル。

 

傷に突き刺さった聖魔剣を通して、体の内側にも雷光が流れていき、外と内の両方から邪龍の体を感電、その身を焦がしていく!

 

雷光が止んだ後、グレンデルは大きな口から煙を吐き出した。

 

いくら外側が硬くても内側はそうはいかない。

 

そして、ここから!

 

「いこうか、ゼノヴィア!」

 

「ああ、こういう時の破壊力だからな!」

 

魔帝剣グラムとエクス・デュランダルの刀身から絶大なオーラを放つ!

 

伝説の剣二本から放たれた聖と魔の極大の波動は感電中の邪龍を包み込んでいった!

 

『グオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

悲鳴をあげるグレンデル!

 

グラムとエクス・デュランダルの特大の砲撃だ。

 

ただの強者なら、ここまでの攻撃を受けて立っていることは難しいだろう。

だけど、目の前の邪龍はそうではない。

 

今の攻撃がどこまで効いているか・・・・・。

 

僕とゼノヴィアの砲撃が止み、そこにあったのは―――――全身から煙をあげ、血を吹き出すグレンデルの姿。

 

そして―――――

 

ズンッという重々しい音を立てて、グレンデルが床に膝を落とした!

 

効いている。

今までの僕達の重ねに重ねた攻撃がグレンデルに膝をつかせたんだ。

 

しかし、グレンデルは口元を不気味に歪ませた。

 

『・・・・いいじゃねぇか! 楽しいぜ! ああ、クソみてぇに楽しいなぁぁぁぁぁああああ! グハハハハハハハハッ!!』

 

全身傷だらけになり、焦げ付かせながらもグレンデルは笑って立ち上がってくる!

 

この光景に僕達は絶句する。

 

「・・・・このダメージで立つっていうの・・・!?」

 

「・・・・心底楽しそうだ。死をも笑って受け入れるというのか・・・!」

 

「・・・・戦いを忌避すべきだと言われるわけですわ」

 

イリナ、ゼノヴィア、朱乃さんもグレンデルの異常なまでの戦闘意識に顔を強ばらせていた。

 

この邪龍は死ぬことすら楽しんでいる!

 

「んじゃ、こいつも喰らっとけ」

 

先生が特大サイズの光の槍を作り出して、グレンデル目掛けて投げつける!

 

『おほっ! こいやぁぁぁぁ!』

 

真っ正面から迎え撃つグレンデルだが・・・・光の槍は直撃する寸前に四散して、無数の細かい矢となって襲いかかる!

 

グレンデルの腹部に数えきれないほどの光の矢が突き刺さった!

 

形状変化する光の槍。

流石はグリゴリの元総督というべきだろう。

 

「レイヴェルさん、ボクに合わせて」

 

「分かりましたわ」

 

美羽さんが魔法陣を前面に展開、レイヴェルさんが炎の翼を広げる。

 

すると、レイヴェルさんの炎が美羽さんの魔法陣と混ざり――――――

 

魔法陣から特大の炎の渦が放たれる!

 

美羽さんの風の魔法とレイヴェルさんの炎を組み合わせた技!

 

薄暗い空間を真っ赤な炎が照らし、熱気を生む。

 

炎の竜巻は石の壁を焦がしながら、傷だらけのグレンデルを呑み込んでいった。

 

暴風と火炎が収まり、目を開けるとグレンデルは壁に叩きつけられていた。

 

鱗も焦げて、炭化している箇所も見られる。

 

フェニックスの炎はドラゴンの鱗にすら傷をつける。

それが魔法と組合わさり、強化されるとこれほどの威力と熱量を発揮するのか。

 

イッセーくん、赤龍帝眷属の『僧侶』は『王』と『女王』が不在の時も良い活躍を見せてくれているよ。

 

美羽さんもだけど、レイヴェルさんもね。

 

 

 

~そのころの赤龍帝眷属『王』&『女王』~

 

 

 

「ねぇ、イッセー」

 

「ん?」

 

「残念なお知らせがあるの」

 

「なんだよ?」

 

「・・・・・迷ったわ」

 

「・・・・・マジ?」

 

「・・・・・マジ」

 

 

赤龍帝眷属『王』と『女王』は地下通路で迷子になっていた。

 

 

 

~そのころの赤龍帝眷属『王』&『女王』、終~

 

 

 

『熱いじゃねぇか! これだよ、これ! こういう一撃をもっと撃ってきやがれぇぇぇぇっ!』

 

っ!

体を焼かれて、まだ向かってくるか!

 

グレンデルは体を起こすとこちらに向かって火炎を放ってくる!

それも複数!

 

僕達は火炎を斬り裂く、または横に跳んで避けるなどをして回避するが、その隙にグレンデルがこちらへと迫っていた!

 

なんというスピードだ!

これだけの傷を負って、これほどの動きを見せるとは!

 

僕達はそこから更にグレンデルと激しい攻防戦を繰り広げていく。

こちらの攻撃はことごとく、相手に当たる。

誰かが傷を負えば後方からアーシアさんが回復のオーラを送ってくれる。

 

普通ならもう倒していてもおかしくない。

 

・・・・それなのに、一向に終わりが見えない。

 

傷は確実に負わせているのに・・・・!

 

『焼けちまいなぁぁぁぁぁ!』

 

グレンデルが今までよりも大きな火炎を吐き出した!

かなり広範囲だ!

この狭い空間では・・・・・!

 

「四壁封陣・小型バージョン!!」

 

美羽さんがそう叫ぶと、グレンデルを四方から囲むようにクリアーブルーの障壁が作られる。

そして、その障壁はグレンデルの火炎を防ぎきり、グレンデルは自ら放った火炎に焼かれていく。

 

しかし、それでもグレンデルの火炎は強力なようで、障壁を維持する美羽さんの頬に汗が流れていた。

 

『ちぃっ! 面倒な魔法を使いやがる!』

 

グレンデルは火炎を吐くのを止め、障壁を殴り付けた。

 

フルスイングからの一撃はあまりに強力で、美羽さんの障壁にヒビを入れる。

 

「くぅっ・・・・! これ以上は暴れさせない! キミにはそこで大人しくしてもらうよ!」

 

美羽さんは右手を横に伸ばすと、そこに新しく魔法陣を展開。

魔法陣に描かれる魔術文字らしきものが高速で動いていく。

 

「あれは・・・・こちらの魔術文字とは違いますね。あちらの世界の術式でしょうか」

 

ロスヴァイセさんがそう漏らす。

 

アスト・アーデの魔法――――――

 

魔法陣が完成し、美羽さんが右手を天にかざす。

 

「今のボクでどれだけ使えるか分からないけど・・・・!」 

 

すると、グレンデルの頭上に美羽さんが右手に先程展開したものと同じ紋様の魔法陣が展開される。

 

そこから、何かが複数飛び出してきて、グレンデルに降りかかる。

 

あれは・・・・鳥居のようにも見えるけど・・・・。

 

その鳥居のようなものが、グレンデルの尾、足、腕、胴、首と次々に降っていき、その巨体を床に縫い付けた。

 

『・・・・ッ! んだっ、こいつは・・・・! 体が動かねぇ・・・・ッ!!』

 

「はぁ・・・はぁ・・・・。それはキミと再戦することを考えて、練習しておいた魔法だよ。倒すことは出来なくても、動きを封じることができれば・・・・。そのスピードを抑えるだけでも、かなり違うからね」

 

邪龍を想定した魔法・・・・というよりは確実に相手の動きを封じるための魔法なのだろう。

 

ただ、相当な力を使うのか、かなり疲労してしまっているようだ。

 

これはチャンスだ。

動きを完全に封じられている間に決定的なダメージを与えることが出来れば―――――

 

「―――――ありがとう。もう大丈夫よ。ものは出来上がったわ」

 

部長の声が届いた。

 

振り返ると――――――そこには強大な滅びの球体を生み出した部長の姿。

 

離れているのに感じるこの悪寒。

あれに触れれば、跡形もなく消し飛んでしまう。

見ただけでその危険性が伝わってくる。

 

部長は滅びの球体と共にこちらに移動しながら嘆息する。

 

「私の攻撃が効かない相手が多くて嫌になるわ。けれど、いつまでも眷属や後輩に格好悪いところを見せてはいられないものね。―――――だから、私も作ってみたの。必殺技っていうのをね」

 

「皆、離れて! リアスの後ろに下がりなさい!」

 

朱乃さんの一声に皆がグレンデルから一斉に離れた!

 

魔法を維持しているせいで動けない美羽さんを先生が抱え、全員が部長の背後にまで後退する。

 

「さぁ、いくわよグレンデル。―――――消し飛びなさい!」

 

部長が強大な滅びの魔力を前方に放った!

 

ゆっくりと前に進む球体。

宙を移動するだけで、床まで削りきるほどの威力を持っているが、遅い。

 

容易に避けられるレベルだ。

 

滅びの球体がグレンデルの近くに辿り着くと、部長が美羽さんに言う。

 

「美羽、もう魔法を解除してもいいわ」

 

「え? でも・・・・」

 

「大丈夫。あれから逃れることは出来ないから」

 

美羽さんは怪訝な表情を浮かべるが、部長の指示通りに魔法を解除。

 

押さえ付けられていたグレンデルが解放される。

 

『あっ? どういうつもりだよ?』

 

グレンデルも間の抜けた声を出すが・・・・・。

 

注意深く見ると、球体は徐々に内部で紅と黒の魔力のオーラを渦巻かせていくのが分かった。

 

そして―――――グレンデルの巨体が球体に引き寄せられていた。

 

グレンデルもそれに気づき、抵抗するが、無駄だった。

巨体がどんどん引き寄せられていき、ついには宙に浮いてしまう。

 

『ぐおっ!? なんつー吸引力だ!』

 

次第にグレンデルと球体が接触し始める。

 

グレンデルの鱗が球体に触れた瞬間―――――弾けた!

 

『グオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

絶叫をあげる邪龍!

 

あのグレンデルの体が滅び球体によって崩されていく!

 

部長が紅色の髪を払って言った。

 

「―――――『消滅の魔星(イクスティングイッシュ・スター)』。耐性だとか弱点だとか、そんなものは一切関係なくあらゆるものを滅ぼす塊よ。――――――消え去りなさい」

 

巨大な滅びの球体が輝きを増していき、邪龍を包み込んでいった―――――――。

 

 

 

[木場 side out]

 



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15話 皆の気持ちが一つに!!

[木場 side]

 

 

滅びの球体が消えた後に残ったのは―――――頭部の半分しかなくなったグレンデルの変わり果てた姿だった。

 

なんという消滅の力だ・・・・。

あのグレンデルをここまでにするなんてね。

我が主ながら恐ろしい技を編み出したものだよ。

 

ただ、真に恐ろしいのは邪龍のしぶとさだと思った。

 

そう、グレンデルは体を失ったのにまだ生きていたんだ。

残った頭部の半分だけの状態でグレンデルは嫌な笑みを浮かべていた。

 

『・・・・なるほどよ。ユーグリッドの野郎が言った通りだ。バアル家の血筋が持つ滅びの魔力ってーやつぁしぶてぇ邪龍の意識、魂すらも削るってな。こりゃ、効いたぜぇぇぇっ! グハハハハハ!』

 

哄笑をあげるグレンデル。

 

しかし、次に僕達にとって嫌な情報がグレンデルの口から発せられた。

 

『なーに、また体を新調すりゃいいだけの話だ! 何せ、魂さえ無事なら、俺らはいくらでもボディを取り替え可能だからよぉぉぉぉ! 聖杯ってのは本当に便利なもんだぜぇ!』

 

―――――っ!

 

聖杯を使って再び体を再構築出来るのか・・・・。

 

いや、元々滅んだ邪龍をこうして復活させることが出来るんだ。

肉体を回復・再構築することぐらいは出来るのだろう。

 

グレンデルは牙を覗かせて不敵に漏らす。

 

『でもよぉぉぉっ! こんな状態でやるっつーのも乙かもしれねぇよなぁぁぁぁぁ! 一匹でも多く噛み殺してから消滅ってのも楽しそうじゃねぇか! グハハハハハッ!!』

 

『・・・・・っ!』

 

戦意か一切薄れない・・・・・いや、それどころか増している。

そんなグレンデルに僕達は戦慄していた。

 

頭しか残っていない状態でまだ戦おうと言うのか・・・・!

まともじゃない!

 

部長が前に立ち、手元に滅びの魔力を作り出す。

 

「流石に私達はもう戦いたくないわ。あなたのような邪悪な存在は消し飛んでしかるべきよ。今の私の力なら魂まで削れるはず。魂までしぶとい邪龍に対してどこまで効果があるか分からないけど、当面復活は出来ないはずよ」

 

部長がとどめの一撃を放とうとした――――――その時だった。

 

この空間に現れる新たな気配。

 

このプレッシャーには身に覚えがある。

 

全員がそちらへと視線を注ぐと、そこには黒ずくめの男が立っていた。

 

「・・・・・クロウ・クルワッハ、か」

 

先生が目を細めて、そう呟く。

 

クロウ・クルワッハ。

邪龍最強の一角と恐れられるドラゴン。

 

黒ずくめの男が歩きながら言う。

 

「――――グレンデル、一度ひけ」

 

『おいおい! これからどこまでやれるか挑戦しようってのによ! あんた、邪魔するってーのかよ!?』

 

「その体ではどちらにしても長くは保たん。さっさと体を乗り換えろ」

 

『うるせぇぇぇぇよっ! 黙っててくれや! おらぁ、こいつらと殺し合いしてんだよ! 殺し合いてぇんだよ! せっかく盛り上がってきたんだ! 邪魔しねぇでくれよぉぉぉぉぉ!』

 

頭部だけでも啖呵を切るグレンデル。

 

・・・・どこまで戦いたいんだ。

 

グレンデルの叫びに僕達は背筋に薄ら寒いものを感じながらも警戒を強めていく。

 

しかし、クロウ・クルワッハは鋭い眼光を向けて、

 

「意思を通したければ、俺を倒さねばならない。――――ということになるが? 俺とやるか? 俺はそれでも構わん」

 

『・・・・ッッ!』

 

その迫力に僕達だけでなく、グレンデルさえも言葉をつぐんだ。

 

しばし無言の後、グレンデルは口を開く。

 

『チッ。ここで旦那とやり合おうなんざ思っちゃいねぇよ。やるならベストな状態で殺し合いてぇしな。いいぜ、交代してやんよ』

 

あのグレンデルが言うことを聞いた。

 

僕達の攻撃をどれだけ受けても、部長の技で頭しか残っていない状態になっても戦意を衰えさせなかったのに・・・・。

それだけの存在感と強さがあの男にはあるという証拠なのだろう。

 

すると、男の姿が瞬時に消えた。

 

驚く僕達は辺りに視線を配る。

 

クロウ・クルワッハはいつの間にかグレンデルの近く――――僕達の眼前に移動していた。

 

・・・・動きが見えなかった。

動作の前兆も気配の動きも捉えられなかった・・・・。

 

クロウ・クルワッハが指を鳴らすと、グレンデルの下に転移魔法が展開される。

 

「逃げる気か! そうはさせん!」

 

ゼノヴィアがデュランダルの莫大なオーラを放つが、クロウ・クルワッハは片手で防いでしまった。

 

転移の光に包まれながら、グレンデルが吠える。

 

『おい、クソガキども! 運がねぇな。おまえらじゃ、束になってもクロウの旦那には勝てねぇ。ま、生き残ったら、またやろうや。殺し合いってやつをよ! グハハハハハハッ!』

 

それだけ言い残して、グレンデルはこの場から消えてしまった。

 

あそこまで追い詰めたと言うのに逃がしてしまうなんてね・・・・。

体を回復して、襲ってくるとなると・・・・考えるだけでも嫌になる。

 

残ったクロウ・クルワッハが僕達に言う。

 

「ここから先を通すわけにはいかんのでな」

 

「押し通させてもらおう。聖杯をこれ以上好き勝手にさせるわけにはいかないからな」

 

「堕天使元総督か。ならば、俺を倒すことだ」

 

「ちっ、グレンデルよりは話が出来ると思ったが・・・そう言うわけでもないか」

 

先生は舌打ちすると、光の槍を作り出して構える。

 

その身からは薄暗いオーラを滲み出させて、こちらも凄まじいプレッシャーを放っている。

 

前線を引いたとは言え、流石は元総督。

聖書に記されし堕天使の長。

 

しかし、先生のプレッシャーを受けてもクロウ・クルワッハは薄く笑みを浮かべるのみ。

 

僕も剣を構え、クロウ・クルワッハと対峙。

 

このまま戦っても間違いなくやられる。

仮に騎士王の姿になっても彼に剣が届くかどうか・・・・。

 

その時だった。

 

「何か来ますわ!」

 

レイヴェルさんがそう叫んだ。

 

僕達も急速に接近してくるそれに気づき、とある方向を見る。

 

扉が勢いよく破壊され、それが飛び込んできた!

この広い空間に閃光が飛来する!

 

僕達の前に目映い白い光が舞い降りた。

 

光が止み、そこに立っていたのは―――――ヴァーリだった!

 

既に鎧姿となっているヴァーリはクロウ・クルワッハに視線を向けた。

 

「おまえがクロウ・クルワッハか」

 

「ああ、そうだ。現白龍皇」

 

無言で見つめ合う両者。

 

ヴァーリもクロウ・クルワッハも体から戦意に満ちたオーラを滲み出させて、今にも激戦が繰り広げられそうな空気だ。

 

先生がヴァーリに言う。

 

「遅かったじゃねぇか、ヴァーリ。カーミラの領地から俺より先にでたのに、なぜ到着が遅れた?」

 

「色々とね。途中で妨害されていたのさ。あのルキフグスの男―――――ユーグリット・ルキフグスにな」

 

―――――っ!

 

ユーグリット・ルキフグス!

 

グレイフィアさんの実の弟!

レイヴェルさんを拐った集団の黒幕!

 

ヴァーリはユーグリットと戦っていたから、遅れたのか。

 

先生は再度問う。

 

「美猴たちは?」

 

「はぐれ魔法使い集団『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』。そこに所属しているという聖十字架使いに捕まってな。あいつらはその女の相手をしている」

 

「・・・・やれやれ、聖十字架も『禍の団』に本格的に協力ってか・・・・。聖槍といい、聖杯といい、今度は聖十字架。神滅具の聖遺物(レリック)は全部テロリストに関与してるじゃねぇか・・・・」

 

先生は苦虫を噛み潰した様子で吐き捨てる。

 

他の皆も同じ心境だよ。

聖遺物が聞いて呆れるというか・・・・聖書の神が知ればどんな顔をするだろうね?

 

聖遺物のどれか一つぐらいは正しく使ってもらいたいものだ。

 

僕はそんなことを思いながらヴァーリに問う。

 

「ここで来てくれたのはありがたいけど、君はクロウ・クルワッハに勝つ自信はあるのかい?」

 

「どうだろうな。・・・・だが、出来るだけ消耗は避けたいと思っている。俺はそれでもこの先にいるであろう者に用があるのでな。このドラゴンを追い求めてはいたが、それはそれだ。今の俺はどうしても奴に会わなければならない」

 

この先にいる者・・・・?

 

マリウス・・・・いや、おそらく、リゼヴィムのことを言っているのだろう。

先生の話では、ヴァーリは自身の祖父に恨みを持っているという話だからね。

 

二人の間に何があったのかは定かではないが・・・・。

 

とにかく、ヴァーリも消耗はしたくない。

それは僕達も同じだ。

 

それに、先程の戦闘で消耗してしまった。

出来る限り、回復させたいところだ。

 

ここにいるメンバーで眼前に立つ最強の邪龍を退ける、または何とか潜り抜けて先に進むには・・・・。

 

先生が部長に問う。

 

「リアス、さっきのもう一度撃てるか?」

 

「あれを使えばダメージは与えられるでしょうけど、そのためには少し休まないと無理ね」

 

「了解だ。なら、おまえは後ろで休んでいろ。木場、ゼノヴィア、イリナ。前衛いけるか?」

 

「僕は大丈夫です」

 

「正直に言えば、少し回復したいところだが・・・・」

 

「そんな悠長なことは言ってられないしね」

 

ここで何もせずに休むなんて出来ない。

その間にもマリウスの思惑はどんどん進んでいくのだから。

 

次に先生はヴァーリに視線を移すが、ヴァーリは先生に問われる前に首を横に振った。

 

「悪いが、極覇龍は使えない。先程、それを使える分の体力は消耗してしまったのでね」

 

ユーグリットとの戦いでそこまで消耗していたのか・・・・。

 

最上級死神のプルートを瞬殺したあの圧倒的な力があれば・・・・とも思ったんだけどね。

 

でも、消耗したくないと言っていたから、どのみち白銀の鎧は使えないか。

 

「ぼ、僕も戦います! 僕の力が通じるか分からないけど、やれることはあると思うんです!」

 

ギャスパーくんが必死の表情でそう叫ぶ。

 

ギャスパーくんにしても、この場で停滞するわけにはいかないからね。

恩人を――――ヴァレリーさんを助けるためにも、彼はここまでやってきたんだ。

 

そんな彼に僕は微笑みながら言った。

 

「分かっているよ、ギャスパーくん。後輩がここまで言っているのなら、多少の無理はしないとね。グレモリー男子としては、先輩として魅せないと後でイッセーくんに怒られそうだ」

 

「木場、おまえもイッセーの影響受けてんな」

 

「ハハハ、でも、彼の近くにいて影響を受けない人はいないと思いますよ?」

 

それに、僕はイッセーくんが不在の時は皆を守るって約束しているしね。

ここはグレモリー男子としての根性を出さないと。

 

「いかせてもらうよ」

 

剣を逆手に構えて力を高めると、聖のオーラと魔のオーラが僕の体を包み込んでいく。

 

後で動けなくなるのが問題だけど、ここで使わなければ先に進めない。

それなら使うしかないだろう。

 

それに、動けなくなっても、そこは根性で乗りきればいい。

 

僕が騎士王の姿になろうとした。

 

 

 

その時だった―――――――

 

 

 

ドッゴォォォォォォォォォォオオオオオオンッ!!!

 

 

 

クロウ・クルワッハの後方、右側の壁が突如として崩壊した!

石が崩れる轟音と震動がこの空間を激しく揺らす!

 

その揺れの激しさに僕達の後ろではアーシアさんとギャスパーくんが尻餅をついているほどだった。

 

新手・・・・いや、このオーラは・・・・・!

 

この空間を埋め尽くす程の砂埃の向こうに二つの影が見えた。

 

その存在を確認したヴァーリは笑みを浮かべ、クロウ・クルワッハも振り向き注目している。

 

 

砂埃が止み、そこにいたのはもちろん――――――

 

 

「ゲッホッゲッホッゲッホッ! お、おまえなぁ! 無茶苦茶し過ぎだっての!」

 

「あんたがこの方向に皆の気を感じるって言ったんでしょ!」

 

「確かに言ったよ! でもな、もう少し方法考えろよ!」

 

「別にいいじゃない! 壁ぶち抜いた方が早いんだから!」

 

「アホかぁぁぁぁ! 誰がここまで無茶苦茶しろっつたよ!? 見ろよ! 俺達、砂埃で真っ白になってるじゃねぇか!」

 

「後で洗えばいいじゃない! ゲッホゲッホゲッホ!!」

 

「咳き込んでんじゃねーか! ゲッホゲッホゲッホ!!」

 

「うー、喉痛い! 煙たい! 服の中がジャリジャリするぅぅぅぅ!」

 

「俺もだよ! 背中とか凄いことになってるし! 痛い! 痒い!」

 

「何とかしてよぉぉぉぉ!」

 

「それ、ゲッホ、俺のセリフ!」

 

「ゲッホ、あ、皆いる!」

 

「ホントだ! ゲッホゲッホ! やっと合流できたな!」

 

「やっぱり壁ぶち抜いて正解だったでしょ! ゲッホ!」

 

「よく胸張って言えたな! ゲッホゲッホ!」

 

「ゲッホ! 言っちゃう!」

 

「ゲッホ! 言わんでいい!」

 

「「ゲッホゲッホゲッホゲッホゲッホゲッホ!!」」

 

咳き込むイッセーくんとアリスさん。

 

・・・・・いや、なんとなく分かってたよ。

君達が揃うとこうなるって。

 

それでも一言だけ言わせてほしい。

 

イッセーくん、アリスさん。

 

あのね――――――

 

 

 

「「「シリアス返せぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」

 

 

 

今、皆の気持ちが一つになった。

 

 

 

[木場 side out]

 

 



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16話 赤龍帝&白雷姫 vs 暗黒龍!

遅くなりました!
大学院の研究室訪問とかしてたら、時間がなくて・・・・。

とりあえず、どうぞ!


ほんの少し前。

 

俺とアリスは地下通路で迷子になっていた。

 

正直、ミスったと思ってる。

アリスに地図を渡してしまったのは失敗だった。

 

「・・・・なんで迷うんだよ」

 

「アハハハハー・・・・。さ、さぁ・・・・」

 

「アリスくん。こっち見なさい。話すときは人の目を見て話すもんだ」

 

「イッセー先生、怖いんだもん」

 

大丈夫大丈夫。

イッセー先生は怖くないよ。

 

ほら、こんなにも笑顔じゃん。

ちょーっと、青筋浮かんでるけど笑顔じゃん。

 

・・・・俺が受け取った見取り図を奪って、先にドンドン進んでいった挙げ句、道に迷っただけだもんな。

 

うん、それだけだから、イッセー先生は怖くない。

 

「・・・・とりあえず、弁明があるなら聞こうか」

 

「・・・・認めたくないものね。若さ故の過ちというものは」

 

「よし、お説教の時間だ」

 

「なんでそんなにニコニコしてるのよ!? ゴメン! ほんっとゴメン! 許してよぉ・・・・。ちょっと道に迷っただけじゃない・・・?」

 

「・・・・ここがどこだか教えてもらえるか?」

 

「え、え~と・・・・」

 

俺が問うとアリスは見取り図とにらめっこしながら、図面を指でなぞっていく。

 

周囲の通路や歩いた順から現在地を割り出しているのだろう。

 

少しすると、顔を上げるアリス。

 

そして、ペロリと舌を出してこう言った。

 

「わかんない!」

 

「よし、お仕置きだ」

 

時間ないのに何してくれてんだよ!?

この方向音痴!

 

なんで俺から見取り図パクった!?

 

勝手にドンドン進んでいくから、俺にも現在地は分からんよ!

 

くそったれめ!

 

「ぅぅ・・・。私だって・・・・イッセーの役に立とうと思ったんだもん・・・・」

 

そんな体を縮めて、涙目になったところで・・・・!

 

可愛いじゃないか、ちくしょうめ!

 

悶えそうになるわ!

 

ん?

 

今、アリスがちろっと舌を出したのが見えたような・・・・。

 

「おまえ、俺がそれに弱いと分かってやってるだろ?」

 

「あ、バレた・・・?」

 

こいつ、素に戻りやがった!

 

なんてやつだ!

 

「純情な俺を弄びやがったな!?」

 

「どこが純情!? このドスケベ勇者!」

 

「やかましい! 今のトキメキを返せ!」

 

「無理っ!」

 

そう言うとアリスは「ん~」と背中を伸ばす。

 

「まぁ、迷ったのは悪かったわよ。でも、ここでそれをとやかく言う時間はないんじゃない?」

 

「開き直りやがった!?」

 

「うん」

 

「しかも、あっさり認めた!?」

 

こいつ・・・・マジでなめとるな。

 

『女王』ってこんな感じだっけ?

眷属ってこんな感じだってけ?

 

朱乃やグレイフィアさん。

あと、ライザーのところのユーベルーナさんもそれらしくしてたような・・・・。

 

いや、別にアリスに主従関係を求めるつもりはないけど・・・・流石にこれは・・・・。

 

おまえも残念美人と化したのか・・・・グスッ。

 

俺が肩を落としていると、アリスが訊いてくる。

 

「あんたなら皆の場所分かるでしょ? 気の位置で。さっさと探しちゃってよ」

 

「へいへい・・・・」

 

尻に敷かれてるな、俺・・・・。

 

とりあえず俺は感覚を強化して、探索網を広げていく。

地下だから平面だけじゃなくて、上と下にも広げないといけないんだよね。

 

これが割りと大変な作業だったりする。

 

少ししてから、皆の気を見つけた。

 

そこには身に覚えのある気もあってだな。

 

「グレンデルもいるのか・・・・」

 

「あの邪龍も?」

 

「ああ。急ぐぞ」

 

「オッケー。で? どの方向よ?」

 

アリスに問われた俺は、感じ取った方向を指差した。

 

薄い壁一枚ならぶち抜けばいいだけの話なんだが・・・・この感じからして、そういうわけでもないんだよな。

 

多分、城の土台的な・・・?

 

ま、あんまり無茶苦茶するとえらいことになりそうだ。

 

急ぐとは言ったけど、ここは近い道を探して―――――

 

「イッセー、そこどいて」

 

「え?」

 

アリスに言われ、振り向くと―――――アリスが白雷を纏って槍を構えていた。

 

ちょっと待て。

 

おまえ、何を―――――

 

白の槍砲(アスプロス・ヴリマ)ッ!!!」

 

「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

俺の制止も虚しく、アリスの槍は放たれたのだった。

 

 

 

 

 

 

そして、今に至る。

 

俺とアリスは砂埃で真っ白になってしまっていた。

 

俺達の前には美羽達と鎧姿のヴァーリ。

それからクロウ・クルワッハ。

 

どうやら超ドシリアスなところに俺とアリスは突っ込んできたらしい。

皆に『シリアス返せ』って言われたし。

 

いや、本当にゴメンね。

俺もこんなことになるとは思ってなかったんだよ。

 

先生が言う。

 

「おいおい、イッセー・・・・。随分遅かったじゃねぇか。つーか、なんつー登場の仕方しやがる・・・・。何してた?」

 

「え、えーと、リゼヴィムの協力者に会ってました・・・・。それで、異変に気づいてティアをこっちに呼んで・・・・それから――――」

 

『エルメちゃんのクマさんパンツを堪能してたのよねー♪』

 

「「「えっ・・・・・」」」

 

イグニスの言葉に反応する女性陣。

 

こっ・・・・この駄女神がぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

な、なに言ってくれてんだよぉぉぉぉぉ!!!

 

リアスが叫ぶ!

 

「イッセー!? こんな時にエルメンヒルデのパ・・・下着を堪能していたの!?」

 

「してないしてない!」

 

ゼノヴィアが続く!

 

「子作りか! 子作りしたのか! あの吸血鬼とやったのか!」

 

「やってないやってない! つーか、なんでそこに繋がるんだよ!? おまえの頭の中はそれだけか!?」

 

「エルメンヒルデさん、クマさんなんだ。なんか意外・・・・」

 

美羽がそう呟く。

 

それには同意!

確かに意外だった!

 

先生が眉を潜める。

 

「リゼヴィムの協力者だと?」

 

「ええ。・・・・質の悪そうなやつでしたよ。詳しくは後で話します。今は―――――」

 

俺はそこまで言って、視線を眼前に立つ黒ずくめの男――――クロウ・クルワッハに向けた。

 

ここに来る前に察知したグレンデルがいないということは、皆は何とかグレンデルを退けたようだ。

 

そこにクロウ・クルワッハとヴァーリが現れたってところか。

 

クロウ・クルワッハが口を開く。

 

「来たか、現赤龍帝」

 

「ああ。・・・・おまえがここにいるということは皆の足止めか?」

 

「そうだ」

 

そりゃ、またとんでもないやつが足止めに来たもので。

 

俺はクロウ・クルワッハから僅かに視線を剃らし、皆の様子を伺う。

 

先生はともかく、他のメンバーはそれなりに消耗しているな。

 

グレンデルに続いてクロウ・クルワッハと戦わせるのは無謀か。

いや、万全の状態でも皆の攻撃が邪龍最強に通じるかと言われると、それは難しいな。

 

ヴァーリはというと・・・・・

 

俺はヴァーリに問いかける。

 

「ヴァーリ。この邪龍を相手取れるか?」

 

「今の俺に極覇龍を使えるだけの体力はないな」

 

「マジか」

 

「ここに来る前にユーグリット・ルキフグスに妨害されたのでね」

 

そう言ってヴァーリは肩を竦める。

 

ユーグリットと一戦交えたってか。

この口調とヴァーリの様子から察するにユーグリットは倒してなさそうだな。

 

ただ、お互いに本気でやったというわけでもないだろう。

ヴァーリが本気を出したのなら、それに俺が気づかないはずがない。

 

「それから、俺はここでこれ以上の消耗は避けたい。この先にいるであろう者に用がある」

 

「・・・・リゼヴィムか?」

 

「そうだ」

 

俺が聞き返すと、ヴァーリはそう一言だけ返してきた。

 

ヴァーリとリゼヴィムの間に何があったかは知らないけど、ヴァーリはあいつと戦うつもりらしい。

 

バトルマニアとして強者と戦いたいって気持ちじゃなさそうだが・・・・。

 

ま、それは今はおいておこうか。

 

とりあえず、美羽達は休息が必要でヴァーリは力を使いたくない。

 

先生は聖杯を扱うことを考えると、ここで何かあってもらっては困る。

 

となると・・・・

 

「こいつは俺が相手する」

 

その言葉に真っ先に反応したのはクロウ・クルワッハだった。

 

「赤龍帝が俺の相手か」

 

「ここに来るまでに皆は頑張ったんだし、そろそろ俺もやらないと格好がつかないだろ?」

 

皆が戦ってる間、俺はというと・・・・エルメンヒルデのクマさんとかティアのノーパン疑惑とかで・・・・・。

 

うん、ぼちぼち俺も参戦しないとマジで申し訳が立たねぇ。

 

先生が俺に訊く。

 

「イッセー。やれるのか?」

 

「ま、出来るだけやってみますよ。皆をこれ以上消耗させるわけにはいかないですし」

 

「それじゃあ、私もいこうかしら。活躍してないのイッセーと私だけだし」

 

アリスも槍をクルクル回して構えると、俺の顔を見てクスリと笑う。

 

俺もそれに応えるように笑みを浮かべる。

 

「そんじゃ、ここは赤龍帝眷属の『王』と『女王』でかっこよく決めますか」

 

「そうね。・・・・じゃないと、流石に美羽ちゃんやレイヴェルさんに申し訳がたたないわ・・・・。ほとんどサボってたし」

 

いや、サボってはないけどね?

 

でも・・・・どうやら、こいつと考えることは同じらしい。

 

それはそれで良しとするか。

 

俺はアリスに合図を送ると、鎧を纏って駆けた。

 

クロウ・クルワッハの眼前にまでつめ、真正面から殴り付ける―――――と見せかけて、残像を残して背後に回る!

 

後頭部目掛けて殴り付ける!

 

すると、クロウ・クルワッハは首を傾げて俺の拳打をかわし、俺の腕を掴んだ。

 

そして、背負い投げの要領で俺を床へと叩きつける!

 

「なんの!」

 

が、俺は叩きつけられる直前に両足で踏ん張ってそれを阻止!

 

そのままの状態で膝蹴りを奴の胸へと叩きつける!

 

避けられないと判断したクロウ・クルワッハは俺の腕を放して、後退するが―――――そこを待ち受けていたのはアリス。

 

金色の髪が純白に変わり、白き雷を纏う白雷姫。

 

槍の穂先に恐ろしい質量の白雷を集中させて、後退したクロウ・クルワッハへと鋭い突きを繰り出していく!

 

「黒焦げになりたくなかったら、私に触れないことね!」

 

空中に白いラインを描きながら繰り出されるアリスの槍術!

 

高速の突きから横凪ぎ、石突きによる殴打と一本の槍を変幻自在に操り、クロウ・クルワッハを攻め立てる!

 

クロウ・クルワッハはアリスの白雷に当たらないように少し大きめにかわしていくが、その表情は余裕そのもの。

 

閃光のような一撃を避けると、瞬時にアリスの背後に回り、拳を放つ。

 

「させるかよ!」

 

俺はアリスを庇うように間に割り込むと、その拳を受け止める。

 

それから、受けとめた拳を強引に引いて、クロウ・クルワッハの態勢を崩す!

顔面目掛けて、鋭いアッパーを放った!

 

クロウ・クルワッハは空いている方の手で俺の拳を掴み取り、俺達は互いの手を塞ぐ状態になった。

 

そこから始まるのは蹴りの応酬。

互いの膝が衝突し、胴へ、足へと蹴りを次々と放っていく!

 

超至近距離での蹴りだけの攻防戦!

 

ぐっ・・・・鎧を通して伝わってくるこの重さ!

 

一撃が重いぜ!

 

俺の拳を難なく受け止め、蹴りを受けても動じないんだからな。

対してこっちは、蹴られた部位にヒビが入ってる。

 

少なくとも今の俺よりこいつの方が上手だ。

流石に普通の鎧じゃ分が悪い。

 

だから俺は鎧を変える!

 

「禁手第二階層―――――天武! 格闘戦で派手にいくぜ!」

 

クロウ・クルワッハ真正面から蹴り飛ばし、俺は一度大きく後ろに飛ぶ。

 

着地と同時に全身のブースターからオーラを噴出させて、もう一度距離をつめる!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

『Ignition Booster!!!!』

 

後方にソニックブームを発生させながら、俺はクロウ・クルワッハの懐に潜り込む!

 

奴は俺が懐に入った瞬間に合わせて、拳を放ってくる。

その拳に纏うオーラ、振り下ろされるそれは巨大な拳にも見えて―――――

 

こいつをカウンターとして受けるのはよろしくないな。

 

だから、俺は脳に錬環勁気功を使用。

領域(ゾーン)に突入した。

 

高速で迫っていた拳がまるスロー再生されたように、ゆっくりと近づいてくる。

 

俺はそれを屈んでかわして――――――クロウ・クルワッハの顎に強烈な一撃を加える!

 

もちろん、アスカロンの龍殺しも乗せてな!

 

「くっ・・・!」

 

クロウ・クルワッハの体が宙に浮いた!

 

俺は宙に浮いたクロウ・クルワッハの背後に回り込んで、背中に蹴りをくわえる!

 

天井に飛ばされるクロウ・クルワッハだが、衝突の直前に宙返りすると、天井を蹴って俺に突っ込んできた!

 

流石に速い。

しかも、今のところダメージを受けているように見えないのが・・・・。

 

まぁ、グレンデルでもあんだけやっても倒れなかったんだ。

こいつがそう簡単に倒れるとは思えない。

 

最低でも、グレンデルの時以上の一撃を放たなければこいつに通りそうにない。

 

「はぁっ!」

 

床の石が砕けるほどの重い踏み込みを入れながら、アリスが横合いからクロウ・クルワッハを狙い打つ。

 

クロウ・クルワッハは俺を蹴り飛ばすと、即座にそれに対応。

 

スウェーバックで槍をしのぐと、その体勢から槍を蹴り上げ、アリスの槍を弾き飛ばす。

槍がアリスの手から離れてしまう。

 

クロウ・クルワッハが静かに言う。

 

「得物がなくなったな」

 

「ええ、そうね。槍を弾かれたのは久しぶりだわ。イッセー!」

 

「おうよ!」

 

俺はアリスの合図を受けると、空中で回る銀の槍を掴み、それを持って斬りかかる!

 

槍の刃が奴の体を掠めた!

黒い衣服が破れ、腕から血が滲み出ている!

 

「アリス、これ返すぜ! それから――――」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

アリスに槍を投げると同時に倍加をスタート。

 

手元に倍加したオーラを集めていく。

 

「受けとれぇぇぇぇ!」

 

オーラを放ち、アリスに命中する!

 

そして――――――

 

『Transfer!!』

 

アリスに倍加した力が譲渡された!

 

アリスのオーラが膨れ上がり、白雷に赤いオーラが加わる!

 

「受け取ったわ! さぁ、行きましょうか!」

 

「俺達のタッグを見せつけてやるか!」

 

赤と白の閃光がこの空間を流れていく。

 

俺の拳が、アリスの槍が、二人のコンビネーションがクロウ・クルワッハを襲う!

 

前線で磨いてきた俺達のコンビは二年という時間が経っても健在だ!

 

俺はアリスの、アリスは俺の呼吸を読んで、言葉を交わさなくても次にどう動けばいいか、どう立ち回れば良いのかが分かる!

 

それからも俺とアリス、クロウ・クルワッハの激しい攻防戦は続いていく。

 

「そらっ!」

 

拳に赤いオーラを乗せてクロウ・クルワッハの顔面目掛けて放つ・・・・が、クロウ・クルワッハはそれを手で流していく。

 

赤い拳が空を切ったところにクロウ・クルワッハの拳が脇腹にぶちこまれてきた!

 

「ガハッ・・・・! ちぃっ!」

 

舌打ちしつつも、体を捻って回し蹴りを繰り出してみるが、読んでいたかのようにあっさりかわされる。

 

なんというか・・・・こいつの戦い方は洗練されているな。

 

グレンデルは力任せのただの暴力だった。

攻撃も高く、防御もうんざりするほど高い。

それにスピードもあった。

 

だが、あいつはそれに頼ってる分、隙だらけだった。

 

だから、少し戦えば奴の攻撃パターンは読めたし、とりあえずは重症を与えることもできた。

 

対して目の前の邪龍はというと―――――

 

「あんた、どっかで武術でも習ったのかよ? 動きに無駄がないな」

 

「長く修行をしてきたのでな。これくらいは身に付く」

 

修行ね・・・・。

 

滅ぼされる前はこいつも努力してたってことなのかね?

 

聖杯でいくら強化されようとも、技術――――体捌きや呼吸、経験までもが身に付くわけじゃない。 

何百、何千と繰返し修行して、自身の体に覚えさせることで本当に得ることができる。

 

こいつの動きはそうして培われたものから繰り出されているのはすぐに分かる。

 

「聖杯使って強化しているとはいえ、やっぱ強ぇな」

 

クロウ・クルワッハの攻撃をかわしながら、そう漏らす俺。

 

すると、クロウ・クルワッハはそれを否定した。

 

「聖杯で強化? 俺はそんなものは使っていないが?」

 

「なに? あんた、聖杯で復活して、強化されたんじゃないのか?」

 

グレンデルはあれだけ強化しておいて、こいつだけ強化をしないってのは無いだろう。

 

駒として使うのなら、強化しないわけがない。

 

しかし、クロウ・クルワッハは――――

 

「おまえは思い違いをしている。俺は一度たりとも滅ぼされたことはない」

 

「なに?」

 

俺は眉を潜めて、聞き返す。

 

アザゼル先生は滅ぼされたって・・・・。

俺はそう聞いたんだけど・・・・。

 

クロウ・クルワッハはふぅ、と息を吐くと言う。

 

「確かに俺はキリスト教の介入が煩わしくてかの地を去ったのは事実だがな」

 

「じゃあ、今の今まで何してたんだよ?」

 

アザゼル先生でも誤解してるってことは他の勢力でも「最強の邪龍は滅んだ」って認識されていると見ていい。

そうなると、こいつは滅んだと認識されるまで何をしていたんだよ?

 

クロウ・クルワッハは言う。

 

「修行と見聞を兼ねて人間界、冥界、世界中を見て回っていた」

 

「――――っ! おいおいマジかよ・・・・」

 

つまり、こいつは今に至るまで滅ぼされることもなく、ずっと一人で修行に打ち込んできたと・・・・。

 

そして、今の力は聖杯で強化されたものではない。

 

こいつはとんでもねぇドラゴンだぞ・・・・!

 

グレンデルなんか比じゃない。

 

己の意思で己を高めてきた。

それもかなり長い時をかけて。

そういう奴は例外なく強い・・・・!

 

先生達と俺達の戦いを見ていたヴァーリが笑う。

 

「くくくっ。はははははっ。なるほど、戦いを司るドラゴンとはよく言ったものだ。どうやら、俺以上に戦闘と探求を追い求めるドラゴンがいたようだな。リゼヴィムのもとにいるのも、強者と戦うためだな?」

 

ヴァーリの言葉にクロウ・クルワッハも口元を笑ます。

 

「ドラゴンが行き着く先を見たいのでね」

 

「俺と似たタイプか。ますます興味を持ったよ、クロウ・クルワッハ。ここは俺も戦った方が良かったか?」

 

おまえ、さっきは消耗したくないって言ってたじゃん!

だから、俺とアリスで引き受けたのに!

 

ええい、ヴァーリといい、クロウ・クルワッハといい、頭の中はバトルだけか!?

   

あー、戦いしか興味ないやつは嫌だ嫌だ!

 

俺は戦いよりも、女の子とのイチャイチャを選ぶね!

つーか、それ一択!

 

『だが、相棒。強化なしの状態で龍殺しの拳を受けてあれだ。奴は俺やアルビオンが神器に封じられた後も、人間界、冥界に潜り研鑽し続けた。既に天龍クラスにまで登り詰めた可能性がある』

 

天龍クラス・・・・生前のドライグやアルビオンと同レベルってことかよ。

 

そうなると、このままやり続けるのは得策じゃないな。

 

『出来ることなら、この場は引くことを勧めるが・・・・無理か』

 

ああ、無理だな。

 

やれやれ、こいつは難儀なこった。

 

仮に天龍クラスだとしたら、この場の全員がかかっても勝てるか微妙だな。

 

いや、ここでこれ以上やり合ったら時間がなくなるか。

 

ここは何とかして皆を通してやりたいところだが・・・・。

 

美羽が心配そうな声音で言う。

 

「お兄ちゃんとアリスさんを同時に相手取ってるのに・・・・。」

 

ああ、全くだ。

 

俺とアリスのコンビで大した傷がつけられないっての刃な・・・・。

 

こいつの戦闘技術の高さと強靭な肉体には舌を巻くよ。

 

さてさて、どうしたものかな・・・・・。

 

すると―――――先生がアーシアの肩に手を置いた。

 

「これ以上、時間をかけるわけにはいかん。アーシア!」

 

「は、はい!」

 

「こうなったら仕方がねぇ。ファーブニルを呼べ!」

 

 

 

―――――――マジか。

 

 

 




パンツ龍王、再び!


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17話 龍達の変化です!

そんな・・・・ここで呼ぶのか!?

 

 

 

せっかく、俺とアリスが久しぶりにシリアス決めてるときに・・・・・呼ぶのか!?

 

 

 

―――――――あのパンツ龍王を!?

 

 

「は、はい! わかりました!」

 

あぁ、アーシアちゃんが応じちゃった!

 

手を組んで黄金の輝きを放つ龍門を展開させちゃった!

 

「我が呼び声に応えたまえ、黄金の王よ。地を這い、我が褒美を受けよ! お出でください! 黄金龍君! ファーブニルさんっ!」

 

召喚の呪文を唱えると、魔法陣の輝きが強くなっていく。

光が弾けた後に現れたのは黄金の鱗を持つ巨大なドラゴン。

 

アーシアと契約をかわした五大龍王の一角、ファーブニル。

 

ファーブニルは辺りを見渡すと、その大きな口を開いた。

 

『・・・・おパンティータイム?』

 

・・・・いきなりか。

 

俺は盛大にこけた。

 

だって、いきなりだもん。

 

いや、わかってましたよ。

 

「いえ、ちが、そ、そうです! おパンティータイムです!」

 

アーシアが否定しようとして、肯定した!

 

アーシアの口から「おパンティータイム」なんて言葉が発せられるなんて!

 

「・・・・なんだ? 何が起きようとしている?」

 

ヴァーリが首を傾げている!

 

「ヴァーリ! やめろ! 気にするな!」

 

ヴァーリに見せられる光景じゃないよ!

見ちゃダメだ!

 

ドライグが叫んだ。

 

『アルビオン! 絶対に耳を傾けるな! 死ぬぞ、心が!』

 

『ど、どういうことだ、赤いの・・・・? ま、まさか、乳か!? また、乳なのか!? はぁはぁ・・・くるちぃ・・・・』

 

おおーい!

 

アルビオン、おまえもか!

おまえも中々に酷いことになってませんか!?

 

『違う! ち、乳ではないが・・・・ファーブニルは俺達が知っている昔のファーブニルではない! 目の前にいるのはただの変態だ!』

 

ただの変態と来ましたか!

 

いや、分かるよ!

 

前回が酷かったもん!

 

ティアが精神崩壊しかけたし!

 

 

 

~そのころのティアさん~

 

 

「ふっ、あまいな」

 

放たれる極大の閃光。

 

魔法による砲撃がクーデター派の吸血鬼を一掃していく。

 

いかに強化された吸血鬼といえども龍王の一撃の前には無意味。

 

ティアマットは眼前の兵士達を挑発するように手招きする。

 

「そら、どうした吸血鬼の誇りを忘れた吸血鬼共。このティアマットの首、取れるものなら取ってみるがいい。私は逃げも隠れもしない。どこからでもかかってくるのだな」

 

『――――っ!』

 

その言葉に戦慄を覚える兵士達。

 

明らかに自分達を小馬鹿にした言葉だ。

怒りを覚えないはずがない。

 

しかし、足が前に動かない。

ジリジリと後ろに下がってしまう。

 

強化されたはずの同胞が一瞬で塵となったのだ、尻込みするのも無理はない。

 

そんな様子にティアマットは息を吐く。

 

(やれやれ・・・・なんと情けない。ま、こいつらは何とでもなる。問題はこの後に起こるとされるリゼヴィム・リヴァン・ルシファーの計画とやらと―――――)

 

ティアマットは周囲に視線を向ける。

 

気になるのは一誠から聞かされた存在。

 

(異世界の神、か。今のところそれらしき動きはないが・・・・・今回は静観するつもりか? どこかで見ている? その神の下僕とやらも見ないが・・・・。こちらとしてはその方がありがたいがな。まぁ、今は――――)

 

ティアマットは視線を兵士達へと戻す。

 

「さぁ、かかってこい―――――雑魚共」

 

不敵な笑みと共に敵を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

(にしても、寒いな。流石に今回は履いてきた方が良かったか・・・・? かなりスースーする・・・・)

 

迎え撃つと同時に履いてこなかったことを後悔しているティアマットだった。

 

 

 

~そのころのティアさん、終~

 

 

 

先生がファーブニルに言う。

 

「ファーブニル! おまえと契約しているとき、おまえにいくらかアイテムをやったろう? あの中に魔弾タスラムのレプリカがあったはずだ! あれを出せ! クロウ・クルワッハがいるんでな、同じ神話出身であるあれが効くはずだ!」

 

そっか、先生が契約している時はまともなお宝を与えていたと聞いていたけど、そんなものがあったのか。

 

クロウ・クルワッハ攻略のアイテムになるなら心強い!

 

このままじゃ、力押しで負けるだろうからな。

 

先生の願いにファーブニルは応じる。

 

『いいよ。でも、俺様、欲しいものがある』

 

「パンツだな! パンツなんだろう! よーし、アーシア! おまえのお宝パンツをくれてやれ! それでタスラムを貸してもらえるなら、安いものだ! ふはははっ!」

 

全然安くないよ!

 

考えてみろ、金髪美少女シスターのアーシアちゃんのパンツだぞ!?

超お宝じゃないか!

高級品だよ!

俺なら断然そっちを選ぶね!

 

「は、はい!」

 

アーシアはポシェットをごそごそ探りながら、一枚のパンツを取り出した。

ピンク色の可愛らしいデザインのパンツだ。

 

あのパンツを履いたアーシアの姿を何度か見たことがある。

 

くっ・・・・あれをファーブニルにやろうってのか!

 

しかし、ファーブニルはパンツを見るなり不服そうに頬を膨らませる。

 

『違う。俺様、今日はおパンティーって気分じゃない』

 

その反応に多くのメンバーが驚き、目玉が飛び出しそうになっていた!

 

おパンティーじゃないだと!?

 

気分次第なのか!?

 

つーか、さっき、おパンティータイムって言ってたじゃないか!

 

今日一番驚いていた様子の先生が問う。

 

「マジか!? じゃ、じゃあ、アーシアの何が欲しいってんだ!? ブラジャーか!?」

 

「ちょ、アザゼル! アーシアはランジェリーショップじゃないのよ!? パンツもブラジャーもそう簡単にあげて良いものじゃないわ!」

 

「全くですわ! 乙女の下着をなんだと思っていますの!?」

 

抗議の声をあげるリアスと朱乃!

二人にとってアーシアは妹のような存在だ!

当然の抗議と言える!

 

「女の子の下着は大切な物なんだよ!? そんなにほいほいあげていい物じゃない! 女の子の下着は好きな人に見てもらったり、脱がせてもらう物なんだから!」

 

美羽が熱烈と語ってる!?

 

確かに女の子の下着は大切だけど、恥ずかしいって!

顔から火が出そうだよ、俺が!

 

で、でも、美羽とアリスの三人でした時、二人ともあの勝負下着つけてたっけな・・・・。

二人の下着を脱がせていくのは・・・・興奮したな。

あ、ヤベ・・・・あの時のことを思い出すと・・・・。

 

つーか、女性陣が美羽の言葉にうんうん頷いてる!

「勉強になるなぁ」って表情してる!

 

そんな中、先生が再びファーブニルに問う。

 

「ファーブニル! 何が欲しい! 言ってみろ! おまえはアーシアの何が――――」

 

先生がそこまで言いかけた時だった。

 

『アーシアたんのスク水が欲しい』

 

・・・・・そ、そうきたか。

 

中々にマニアックというか、なんと言うか・・・・うーん、予想外!

変態だよ、このパンツ龍王!

とりあえず、滅ぼしてやろうか!

 

つーか、こんな場所でスク水!?

ここでスク水希望するの!?

市民プールでも海水浴場でもないんだよ!?

吸血鬼の根城だからね!?

 

「バカ野郎! スク水なんて持ってきてるわけがねぇだろうが! 取りに行けってか!? ふざけんのもの大概に――――」

 

しかし、アーシアが叫ぶ!

 

「ありますぅ! 持ってきてますぅぅぅ!!」

 

ポシェットから取り出されるスク水!

「あーしあ」と刺繍されたネームがチャームポイント!

 

プール開きでも着用していた、あのスク水だ!

 

『なにぃっ!?』

 

流石に全員が驚いていた!

苦笑していた木場でさえ、目玉が飛び出しそうになってる!

 

なぜだ!?

なぜ、ここにスク水がある!?

 

ゼノヴィアがアーシアの肩を掴んで真剣に問う。

 

「なんでスク水があるんだ、アーシア!? 泳ぐつもりだったのか!?」

 

アーシアは切なそうな声で言う。

 

「・・・・ソーナ会長さんがここに来る時に仰っていたんです」

 

 

 

『おそらく、ファーブニルは次の宝物にアーシアさんのスクール水着を所望するはずです。あのプールで並々ならぬ視線をアーシアさんに向けていましたからね。彼が欲しているのはスクール水着と見て間違いありません。――――持っていきなさい。きっと、役に立つはずです』

 

 

 

俺達はそれを聞いて絶句するしかなかった。

 

な、なんと・・・・・!

ソーナはそこまで読みきっていたというのか!

 

言われて見れば、『俺様、アーシアたんの浸かったプールの水を飲み干したい』なんてこと言ってたような・・・・。

 

確かにこの変態龍王はアーシアのスク水を求めていた!

 

リアスが強く唸る。

 

「流石はソーナ! そこまで読んでいるなんて・・・・!」

 

その隣でゼノヴィアが感嘆の叫びを発する。

 

「さすが生徒会長だ! なんて冷静で的確なアドバイスなんだ!」

 

「私、ソーナ会長を尊敬しちゃうわ!」

 

イリナも感動で涙が溢れていた。

 

ああ、確かにソーナはスゴいよ!

誰がこの展開を予測できただろうか!

俺やアリスも観察眼は持っているつもりだが、これは予想できなかった!

 

でも、一言―――――酷い!

 

最強の邪龍とバトル中だよ!?

なにやってんの!?

 

「ファーブニルは泳ぎたいのか」

 

クロウ・クルワッハは変な誤解をしている!

どうやら、状況を理解できていないらしい!

 

でも、それでいいよ!

理解しないで!

 

ドラゴンの行き着く先を知りたいとか言ってる真面目なドラゴンにこんなものを理解してほしくない!

絶対に傷つくから!

 

それは流石に申し訳なく思ってしまうよ!

 

お願いだから、勘違いしたままでいてぇぇぇぇ!!

 

「あげます!」

 

意を決したアーシアがスク水をファーブニルに献上する。

 

ファーブニルは巨大な顔を近づけて――――――

 

『アーシアたんのスク水ぱっくんちょ』

 

アーシアのスク水、食べやがった!

 

もごもごさせた後、ゴクンと喉を鳴らして一言。

 

『なめらかかつ爽やかな口当たり』

 

そーですか!

アーシアたんのスク水はなめらかで爽やかな口当たりなんだな!

 

もうやだ、この変態龍王!

 

ティアをこっちに連れてこなくて良かったよ!

また精神に異常をきたしそうでさ!

 

 

 

~そのころのティアさん・パートつー~

 

 

 

「・・・・・・? なんだ、今のは・・・・・? 何か嫌な感じが・・・・・。なんかこう・・・」

 

「うおおおおおお!」

 

「うるさい、邪魔だ」

 

「ぐああああ!」

 

「ちっ、次から次へと沸いてくるな。あ、そうだ。アザゼル見たら殴っておくか。・・・・それにしても、スースーするな・・・・。今からでも履こうか?」

 

 

と、吸血鬼の兵士を片付けながらも、何かを感じ取っていた。

 

 

~そのころのティアさん・パートつー、終~

 

 

変態龍王の姿にアルビオンの声が深刻の度合いを強める。

 

『・・・・パ、パンツ・・・・パンツ、ケツ、尻! わ、私はケツ龍皇などではない・・・・! は、はぁ、はぁはぁ・・・!』

 

『しっかりしろ! しっかりするのだ、白いの!』

 

ドライグがアルビオンの正気を保とうとする。

 

アルビオンは掠れた声で言う。

 

『・・・・聞いてくれ、ドライグ。こんな時に言うのはどうかと思う。だが、私の想いを・・・・』

 

『なんだ、アルビオン』

 

『―――――おっぱいドラゴンで苦しむのはおまえだけではない。私も辛いのだ』

 

『――――っ! ぅぅ、アルビオン! わかってくれるか・・・・・!?』

 

『ああ、もちろんだ。乳だの尻だの、二天龍と称された我々がなぜここまで思い悩まねばならぬのか。一時はおまえや兵藤一誠を恨みもした。だが、兵藤一誠やヴァーリだけが悪いのではないのだろう。―――――おそらく、我々にとってこの時代が悪いのだ』

 

『うぅ、わかる! わかるぞ、アルビオン! そうだ! この時代は我らにとってあまりに辛辣だ! ファーブニルもあのザマだ!』

 

『そーよそーよ。ドライグ達にとって、この時代が悪いの。だから、私は悪くないわ!』

 

いや、おまえは百パー悪いだろ!

何、どさくさに時代のせいにしてんの、この駄女神!?

 

おまえはどうみても有罪だよ!

 

しかし、ドライグとアルビオンはそんな駄女神を無視して話を進めていく。

 

『うむ、お互いの心が癒えるまで話し合おうではないか』

 

『それがいいのかもしれんな。・・・・アルビオン、俺の悩みも聞いてくれるか?』

 

『もちろんだとも。この際、お互いの悩みを打ち明けよう』

 

あれれ?

なんだか、二天龍のケンカが終わりそうな雰囲気なんですけど・・・・・。

 

「俺はともかく、ヴァーリは悪くないんじゃ・・・・」

 

ヴァーリの場合、オーディンの爺さんがあんなこと言うからだし・・・・。

なんとなく、尻って答えただけだし・・・・。

 

俺がそう言ってみるが、ドライグはというと

 

『すまんな、相棒。しばらくアルビオンと話をさせてくれ。今の俺にはこの会話が何よりも大事なのだ』

 

『うむ。ヴァーリも当分は私を放っておいてもらいたい。ドラゴン同士でしかわからぬものもあるのだよ』

 

「そうか・・・・別に構わないが・・・・。それより、この状況はなんなのだ?」

 

「俺に聞かないで・・・・。つーか、気にしないで。スルーしてくれ。お願いします」

 

「・・・・そうか」

 

うん、頷いてくれてよかった。

 

訊かれても答えられないし。

 

『ドラゴン同士の会話! 面白そうね! 私も参戦しよーっと!』

 

やめんかい! 

おまえが行ったら状況が悪くなるわ! 

なんだ!? 

アルビオンまで縛るつもりか、この駄女神! 

絶対にダメだからな!

 

『ダメなの!?』

 

なんで驚いてんの!? 

バカだろ! 

やっぱり、バカだろ!

 

これ以上、二天龍を追い詰めないで!

 

スク水を堪能したファーブニルが口を大きく開けた。

 

『あーん。今週のビックリドッキリアイテム発進』

 

そんなこと言って口から出てきたのは、大きな筒・・・・バズーカのようなものだった。

 

先生がそれを手にして肩に担ぐ。

 

「こいつがタスラムのレプリカさ! さーて、クロウ・クルワッハにどこまで効くのか試してみますかね!」

 

先生が狙いをつけて、トリガーを引いた!

 

打ち出された砲撃は意思を持つように空中でジグザグに動き回り、クロウ・クルワッハ目掛けて飛んでいく!

 

「ほう、タスラムか。必中する魔の弾。回避は不可能。懐かしいものが出てきたものだ。昔の俺であれば脅威だっただろう。だが、今の俺なら―――――」

 

クロウ・クルワッハが両腕を構えると―――――その両腕が盛り上がり、巨大なドラゴンの腕となっていく!

 

正面から飛び込んでくるタスラムの弾を受け止める気か!

 

巨大な掌で弾を捕らえようとした瞬間――――タスラムの弾は軌道を変えて、下から潜り込むようにクロウ・クルワッハの腕から逃れていった!

 

隙が生まれた顎先にタスラムの弾が衝突!

激しい爆音が鳴り響く!

 

生じた黄金の輝きに目がくらんでしまうが・・・・光が止むと、そこにいたのは頭部から爆煙をあげる邪龍の姿。

 

・・・・やったか?

 

全員がその様子を固唾を飲んで見守るが――――――

 

煙が消えて見えてきたのは―――――巨大なドラゴンの口でタスラムの弾を噛んで受け止めるクロウ・クルワッハ。

 

先生が呆れるように息を吐く。

 

「・・・・止めたのか・・・・」

 

クロウ・クルワッハはタスラムの弾を床に吐きつけると、両腕と顔を人間のものに戻す。

 

そして―――――

 

「・・・・頃合いか。これまでのようだな」

 

と、俺達に背を向けて、近くの壁に寄りかかってしまった。

戦意も完全に消え失せている。

 

「やめるのか?」

 

訝しく感じたので俺が代わりに問うと・・・・

 

「最低でも十数分だけ時間を稼げと言われただけだ。これ以上はつまらないからな。―――――ここは俺達が戦うには狭すぎる。次会うときは本気でやりあいたいものだ」

 

なるほどね・・・・・。

 

確かにクロウ・クルワッハは本気じゃなかった。

俺はかなりの力を出していたけど、天撃や天翼、イグニスの力は一切使ってないしな。

 

・・・・となると、次戦うときは覚悟しないとヤバイかも。

 

それ以降、クロウ・クルワッハは話すことも止めて、無言となってしまう。

 

本当に戦う気がないと判断した俺達はその場を足早に立ち去った。

 

ふと見ると奴はギャスパーに視線を送っていたが・・・・なんだ?

 

ギャスパーに気になることでもあるのかね?

 

 

 

 



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18話 闇の獣

最下層への階段を下りていく俺達。

 

「ヴァレリー、もうすぐだよ!」

 

いつの間にか先頭を走っているギャスパー。

このすぐ下にヴァレリーがいることを感じ取っているのだろう。

 

階段を下りると、装飾の凝った巨大な石造りの扉が現れる。

俺達はそれを豪快に開け放った。

 

ここは地下の最下層にある祭儀場。

中には儀式に使うのであろう怪しげな像や書物など様々なものが置かれている。

 

その中で俺達の視線は一ヶ所に集まっていた。

 

祭儀場の中央。

床には巨大な魔法陣が描かれ、魔法陣の中央には寝台が置かれていた。

 

そして―――――そこにヴァレリーが寝かされていた。

 

「ギャ・・・ギャスパー・・・・・?」

 

俺達に気づいたのか、ヴァレリーが首をこちらに傾けて掠れた声を漏らす。

 

顔色が悪い。

ヴァレリーはハーフだけあって、人間のように血の気のある肌をしていたが・・・・いまのヴァレリーにはそれがない。

 

「ヴァレリィィィィィィ!!」

 

叫ぶギャスパーが魔法陣に近づこうとするが、障壁に阻まれて近寄ることが出来なかった。

 

ギャスパーが魔法陣の中で術式を操る男―――――マリウスを視界に捉える。

 

「やめてくださいっ! ヴァレリーを苦しめないで! もう、彼女を解放してあげてくださぃぃぃぃ!!」

 

ギャスパーの必死の懇願にマリウスは嫌な笑みで答える。

 

「ええ、だから、約束通りに『解放』してあげようとしているのですよ。ほーら、もうすぐ彼女を蝕んでいた聖杯が取り出されますよ」

 

「いやぁぁぁぁぁああああああ!」

 

魔法陣の輝きが強くなり、ヴァレリーが絶叫を発する!

 

体から何かが出現しようとしていた!

 

「くっ!」

 

「斬れないか!」

 

木場とゼノヴィアが障壁を断ち切ろうとするがビクともしない。

 

ならば、俺が・・・・と、思ったがイグニスに止められた。

 

『待ちなさい。術式が起動している以上、下手に攻撃するのは悪手よ。破壊できたとしても、ヴァレリーちゃんにも影響が出るわ』

 

ちっ・・・・!

 

下手すればヴァレリーも危ないってか!

 

くそったれめ!

 

先生が手元に小型の魔法陣を展開させて、相手の術式を調べていたが、すぐに舌打ちした。

 

「このプロテクトコードは・・・・聖書の神のものだ! なぜ、俺も知らないコードをおまえが知っている!? リゼヴィムからの提供か!?」

 

先生の疑問にマリウスは笑う。

 

「彼らには感謝していますよ。おかげで聖杯の研究は飛躍的に進み、滅んだはずの邪悪な魔物を復活させるレベルまで漕ぎ着けましたからね。それに加えて、ヴァレリーの聖杯は過去の所有者と比べ、突出した部分がありましてね。主に生物にとっての弱点を可能な限り薄めるという面が優れていたのです」

 

吸血鬼達が強化され、グレンデルに龍殺しが効きづらいのはヴァレリーの聖杯がその分野に強かったためか。

 

マリウスが術式の操作を止める。

 

「ふふふ、無事に完了致しましたよ」

 

魔法陣が更に強い光を生み、ヴァレリーを包み込む。

 

これから聖杯を抜き出すんだ。

 

クソッ・・・・・ここまで来て、俺達は手が出せないってのかよ・・・・!

 

何も出来ない状況に俺達が拳を震わせるなか、ヴァレリーの体から小さな杯が現れた。

 

黄金に輝く小さな杯。

あれが神滅具のひとつであり、聖遺物たる聖杯。

 

「あぁ・・・」

 

ヴァレリーは神器を取り出されたことで、生気を完全に失い、寝台にぐったりと横たわってしまう。

 

マリウスがヴァレリーから出てきた聖杯を手に取り、頭上に掲げる。

 

「これが神滅具『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』。しかも禁手の発動条件も揃った代物です」

 

魔法陣の輝きが収まり、障壁がなくなったところで、ギャスパーがヴァレリーに駆け寄る。

 

皆が悲痛な面持ちでギャスパーの背中を見るが、先生だけは違っていて、

 

「・・・・妙だな。神滅具の抜き出しにしては・・・・」

 

今の光景に何か引っ掛かるところがあるようだ。

 

ぐったりするヴァレリーを抱き抱え、ギャスパーは彼女の名を呼ぶ。

 

「ヴァレリー・・・・」

 

その声に反応するようにヴァレリーはうっすらと目を開けて、ギャスパーを真っ直ぐ見つめる。

 

涙を流すギャスパーの顔をヴァレリーは優しく撫でた。

 

「・・・・泣き虫ね、ギャスパーは・・・・。ちっちゃい頃から泣いてばかり・・・・強くなったのでしょう・・・?」

 

「・・・・ごめんね・・・・僕・・・・キミを助けることが・・・・できなかった・・・・っ」

 

嗚咽を漏らすギャスパー。

 

ヴァレリーは首を小さく振った。

 

「・・・・私は助けてもらったわ。ギャスパーに・・・・こうしてもう一度会えた。・・・・最期にあなたに会えて・・・・私のたった一人の友達・・・・家族・・・・・。ねぇ、ギャスパー・・・・・」

 

「なに?」

 

天井を見上げるヴァレリー。

 

ヴァレリーは目に涙を浮かべながら言う。

 

「・・・・お日さま・・・・見たかったわ。皆で・・・・ピクニックに行けたら・・・・どんなに・・・・」

 

「・・・・見れるよ。僕が連れていってあげるから。ピクニックも行こう」

 

ギャスパー・・・・・。

 

また光景だ。

 

何度も見てきた。

 

助けたくて、守りたくて・・・・でも、できなくて・・・・・。

 

届きそうだったのに・・・・・あと一歩で守れたはずなのに。

 

ギャスパーには同じ想いをさせたくなかった。

 

それなのに・・・・・!

 

ヴァレリーはギャスパーの頬を一撫でした後に、ギャスパーの胸元に手を添える。

 

語りかけるように口を開く。

 

「・・・・ここにね、もう一人のあなたがいるの・・・・。最期にお願いしなくちゃ・・・・・」

 

彼女は消えそうな声で言う。

 

「・・・・あなたともお話ししたかったわ。・・・・あなたも、ギャスパーなのだから、皆とお話ししなきゃダメよ・・・・? 大丈夫。皆はあなたを受け入れて・・・・・」

 

ヴァレリーの手がギャスパーの頬から離れ―――――下に落ちた。

 

彼女の瞼がゆっくりと閉じていく。

 

「・・・・皆と仲良くできますように・・・・」

 

それが彼女の最期の言葉だった―――――。

 

ギャスパーは首を何度も振り、ヴァレリーの体を抱き締めた。

 

あまりに悲しい光景。

 

しかし―――――――

 

「いや、中々に泣ける光景だ」

 

耳に入ってくる不快な声。

 

それを聞いた瞬間に俺達に殺意がわく。

 

マリウス・ツェペシュ。

 

こいつは・・・・・この外道は許せねぇ・・・・!

 

「マリウス・・・・おまえは・・・・。ギャスパーがどんな気持ちで・・・・。この二人はただ平和に暮らしたかっただけなんだぞ・・・・? それなのにおまえは・・・・っ!」

 

「神器を抜き出した、ですか? そのようなこと、あなた方、三大勢力はこれまでに幾度も行ってきたではありませんか。罪のない人間を手にかけ、神器を取り出す。あなた方の常套手段でしょう?」

 

「そんな三大勢力に属している奴に言われたくないってか? ざけんな、クソ野郎。俺はな、おまえみたいなやつは許せねぇんだよ」

 

「いいでしょう。それでは私に攻撃してみてください」

 

「なに・・・・?」

 

こいつはマジで言ってんのか?

 

わざわざ攻撃しろだなんて普通言うか?

 

くらっても無事でいられるという絶対の自信があるのか・・・・それとも、罠か・・・・。

 

俺が警戒していると、マリウスは笑む。

 

「罠など仕掛けていませんよ。そのあたりはご安心を」

 

「・・・・そうかよ。なら、加減は無しだ。――――アグニ」

 

俺は右の掌をマリウスに向けると極大の閃光を放った!

 

さぁ、どうでる?

 

地下ってこともあって、規模は抑えているが、相応の威力は持ってる。

 

まともに受ければ消え去るが・・・・・

 

しかし、マリウスは防ぐ動作すらせずにそのまま赤い奔流に呑み込まれていった。

 

・・・・あとに残ったのは宙に浮かぶ聖杯と奴の下半身のみ。

上半身は完全にアグニによって消し去られていた。

 

これで終わりかとも思えたけど・・・・ここでマリウスの意図が分かってしまった。

 

下半身の断面から肉が盛り上がり、形を作っていく。  

少しすると、マリウスの上半身が完成し、完全に復活しやがった。

 

宙に浮かぶ聖杯を再び手にしながらマリウスはうなる。

 

「瞬時に回復する特性も得ることが出来ました。これも所有者の体の中にあった頃よりも抵抗なく力を放出できているおかげなのでしょうね。上半身を消されて少し焦りましたが、下半身に残留する魂があれば、この程度の損傷は復活できるレベルのようですね」

 

この状況を見て、パチパチと拍手が起こる。

 

祭儀場の奥から人影が複数現れる。

 

「やはりそうだ」

 

「再生能力が向上している」

 

「まるでフェニックスのようですな」

 

現れたのは中年、初老の男性達。

 

全員が純血の吸血鬼、それも王族かそれに近しいお偉いさんだろう。

 

マリウスに荷担した上役の者達だ。

 

男性達の登場にマリウスは口元を笑ます。

 

「これは叔父上方。準備は整いました。どうされます? さっそく更なる強化を施しますか?」

 

そう問うマリウス。

 

男達は語りかけるように言う。

 

「夜の住人たる吸血鬼はとてもとても弱点の多い種族でした」

 

「日の光、流水、十字架、聖水。人間よりも優れた種族であるのに、それらを抱えるせいで彼らの隆盛を許してしまった」

 

「聖杯を用いて我々は吸血鬼を遥かに超越した存在に作り替える!」

 

「そして、人間共に代わり、この世界を支配せねばならん! 我ら上位種に支配されてこそ、人間達は本来の家畜としての本懐を遂げられるのだ!」

 

「放逐された家畜が無駄に増えるのは仕方のなかったこととはいえ、永いものでしたな」

 

「あとは現王と憎きカーミラを始末すれば全てを新たに始めることができる」

 

「せっかく、我が国に聖杯がもたらされたというのにあの王は現状維持を訴え、吸血鬼の進化を否定した。あまりに愚鈍であった」

 

男達の言葉にマリウスはうんうんと頷き、微笑みを俺達に向ける。

 

「まぁ、このような具合なのですよ。私は聖杯を使って研究が出来ればいいだけのことですが」

 

ちっ・・・・こいつら、どいつもこいつも身勝手だ!

 

マリウスは自分の欲のためにヴァレリーを殺し、ギャスパーを傷つけた。

周りの吸血鬼共はわけのわからん願いのためにマリウスに荷担した。

 

腐ってやがる。

こいつら全員、性根が腐ってやがる。

 

俺は一歩前に出ると低い声音でマリウスに言う。

 

「とりあえず、その聖杯は渡してもらう。これ以上悪用されないためにもな。そんでもって、おまえら全員覚悟しろ」

 

「覚悟? それは死への覚悟ということでしょうか? その必要はありませんよ。見たでしょう? 今の回復を。聖杯を持つ私は魂が消滅しない限り何度でも復活します」

 

聖杯があれば何度でも復活・・・・。

 

ま、確かにその通りなんだろうよ。

 

聞けば、グレンデルも似たようなことをほざいていたらしいしな。

 

でもな―――――

 

「弱点を克服? 魂さえあれば復活できる? そんなもんで強くなったつもりか? だったらアホだぜ、おまえら」

 

「なんだと?」

 

「それからもう一つ。力で支配しようとする奴はな、より大きな力に支配されるんだぜ? 覚えとくんだな」

 

俺は赤いオーラを放ちながら、一歩、また一歩と歩いていく。

 

美羽とアリスもそれに続いた。

 

多分、リアスも先生も聖杯を引き渡すよう、一応の交渉はするつもりだっただろうけど、こいつらには何を言っても無駄だ。

 

こいつらは自分達のことを至高の存在と決めつけ、自分達のすることは何でも許されると思ってる勘違い野郎の集まり。

 

こっちの言葉は聞こえても受け入れることはないだろう。

 

「――――俺の後輩泣かせた罪、しっかり償ってもらおうか」

 

俺が、皆が殺気を強め、眼前の吸血鬼共を片付けようとした時だった。

 

《ありがとう、イッセー先輩・・・・。だけど、ここは僕がやるよ・・・・・》

 

この祭儀場に声が響き渡った。

 

とてつもなく低い声。

俺でも身震いするような不気味さがその声には含まれていた。

 

振り向けば―――――ギャスパーが立っていた。

 

全身から黒いオーラが生み出されていき、徐々に室内を覆っていく。

 

ゆっくりと、肩を左右に揺らしながらギャスパーは俺の隣を通りすぎていった。

 

この世の危険な輝きを放つ瞳でマリウスと吸血鬼の上役を激しく睨みながら。

 

祭儀場が闇に染まっていく―――――。

 

《おまえたちが言う超越した存在とやらを僕に見せてみろ―――――》

 

その瞬間、室内は完全に黒く染まった。

上も下も全てが黒。

 

闇を生み出していたギャスパーの体にも変化が起こり、巨大な魔獣のようなフォルムへとなっていく。

長く太い四肢、鋭い爪、背中から生える幾つもの翼。

頭部も鋭い爪牙がそろい、角も生え、真っ赤な瞳が怪しく輝く。

 

その姿は漆黒のドラゴンのようだった。

 

《コオオオオオオオオォォォォォォ・・・!!》

 

獣の咆哮が闇の世界に響き渡る。

 

・・・・これがギャスパーの真の姿?

 

だとしたら、何だこの力と規模は・・・・・。

 

ギャスパーにここまでの力が秘められていたってのか?

 

「この現象は・・・・」

 

神器に詳しいアザゼル先生すらこの有り様に眉根を寄せていた。

 

ギャスパーの変化に上役達は声を震わせる。

 

「こ、これは・・・・!?」

 

「なんだというのだ・・・・!?」

 

マリウスだけは冷静にギャスパーを観察するように見つめている。

 

「落ち着いてください、叔父上方。これが報告にもあったギャスパー・ヴラディの本性なのでしょう。しかし、進化した吸血鬼たる我々がハーフの持つ力ごときに屈するようでは笑いの種にもなりませぬ」

 

「そ、そうだ。そうだったな」

 

「我々は聖杯にて超越した力を得た吸血鬼。次のステージに進んだ我らがハーフごときに遅れを取るはずが――――」

 

そこまで言いかけた吸血鬼が突如、下から生まれた大きな口に飲み込まれて姿を消した―――――。

 

《次のステージが・・・・・なんだって?》

 

ケラケラと笑うギャスパー。

 

あいつ・・・・性格まで変わってやがる。

 

闇の世界の至るところから、見たこともない黒い生物が生まれていく。

三つ首の龍、トカゲのようなフォルムの蝶、一つ目の巨人、頭が九つもある鳥。

 

それらが、ゆっくりと吸血鬼たちのもとに歩み寄っていく。

 

この光景に身震いする上役の吸血鬼達。

 

しかし、一人の男性が怒りに顔を歪めながら、自身の体から虫や獣を生み出していく。

 

「その手の芸当は貴様だけの能力ではないぞ! たかが、闇に包まれた獣ごときが―――――」

 

ヒュッという風を切る音と同時に、今の男性が滑空してきた鳥の魔物に連れ去られていった。

 

運ばれた先で魔物の群れに囲まれて――――――。

 

「や、やめろぉぉぉおおおおおおおっ!」

 

抵抗むなしく一方的に喰われていった―――――。

 

喰われていく様は、あまりに酷いもので・・・・それと似た光景が少し離れた場所でも繰り広げられていた。

 

「ひ、ひぃっ!」

 

「く、来るな! 来るなぁぁぁぁ!」

 

「なぜだ! なぜ力が使えん!? 我らは聖杯によって強化されたはずだ!」

 

必死に抵抗する吸血鬼達だが、自分達の能力が上手く使えないらしく、恐怖すると共に戸惑っているようだ。

 

そんな彼らに獣と化したギャスパーは無慈悲に告げる。

 

《それは、僕がおまえ達が聖杯によって強化された力を停止させているからだ》

 

―――――っ!

 

能力を停止!?

 

そんなことが出来るのか!?

 

ついに吸血鬼達は足を取られ、全身を闇で絡め取られてしまう。

 

「くっ! この卑しい『もどき』がぁぁぁぁ!」

 

「近づくな下賎な生き物がぁぁぁ! わ、私達には高貴な血が・・・・貴様には到底想像もつかない歴史と伝統が―――――」

 

《――――いいよ、喰らい尽くせ》

 

吸血鬼が言い終える前に出される合図。

 

その合図に闇の魔物は上役達に次々に飛びかかり、その肉を引き裂き、食らっていく。

 

あまりに悲惨な光景にアーシアは目を瞑り、美羽は俺の上着の袖をぎゅっと握ってくる。

 

能力だとかそういう話じゃない。

 

眼前で繰り広げられる一方的な殺戮をあのギャスパーがやっているのか・・・・?

 

俺達が知っているあのギャスパーが・・・・・?

 

上役の吸血鬼が全て闇の魔物に食われた後、一人残ったマリウスは未だに余裕な表情を浮かべていた。

 

「素晴らしい。昨今、ハーフの間で異質な力を持つものが生まれていますが、君はその中でも屈指だ。聖杯に匹敵するポテンシャルと見た。どうだろう? 私の研究に協力してくれないだろうか?」

 

《・・・・ヴァレリーのようにか?》

 

「怒っているのかな? まぁ、聞きたまえ。そもそも―――――」

 

その瞬間、ギャスパーが横凪ぎに腕を凪いだ。

 

高速で放たれたそれにマリウスは反応できず、左腕を吹き飛ばされた。

 

「おっと・・・・これは凶暴ですね。しかし、この程度、聖杯の力で強化した肉体には―――――」

 

無意味、と続けたかったのだろう。

 

だが、マリウスは自身の体の変化に首をかしげる。

 

―――――左腕が再生されない。

 

「ん? なぜだ? 腕が再生しない? 聖杯の力が弱まった・・・・わけでもない。ではいったい・・・・」

 

《・・・・・》

 

ギャスパーが無言で再び腕を凪ぐ。

 

マリウスは後ろに飛び退き、回避しようとするが、下から何かの生物の口が現れて右足に噛みつき、それは叶わなかった。

 

ギャスパーの腕がマリウスの右足を破壊する。

 

「くっ! 今度は右足か。この程度―――――」

 

尻餅をつきながら、マリウスは肉体の再生を試みるが―――――やはり右足は再生されない。

 

聖杯がいくら輝こうとも、左腕も右足も再生を始めない。

 

―――――ここでマリウスの余裕は完全に無くなった。

 

「・・・・なぜだ? なぜ再生しない!? 腕も足も! どうして再生しないのだ!? 吸血鬼としての変化も起きない! コウモリに、虫に、獣に、なぜ変化することができない!? あり得ない! 叔父上達はともかく、直接聖杯を持つ私までが能力を停止させられるなど!」

 

マリウスは喚き、そして驚愕した。

 

彼の腕と足、それらの傷口が黒い何かに包まれていたからだ。

 

「・・・・き、傷口が・・・・闇に浸食されている? 闇が私の再生を阻んで・・・・バカな! 君の力は聖杯すら超えるというのか!?」

 

《どうした? 再生するなら早くしろ。そこをまた僕が消せばいいだけの話だ》

 

一歩、また一歩。

闇の獣と化したギャスパーがマリウスとの距離を詰めていく。

 

どうしようもない事態にマリウスは焦りだし、ギャスパーを嗜めようとする。

 

「ま、待て、落ち着きたまえ・・・・。そうだ! この聖杯でヴァレリーのクローンを作ってあげましょう! 魂もどうにかしてサルベージすればいい! 悪い話ではないだろう? クローンを連れて日本に戻りなさい。それで君は満足のはずです!」

 

などと言うが・・・・・そんなものはギャスパーの怒りを更に激しくするだけだ。

 

ギャスパーはドスの利いた低い声を発する。

 

《・・・・もうしゃべるなよ。ヴァレリーが甦る可能性とおまえが助かる理由は一緒じゃない。―――――おまえはここで死ぬべきだ》

 

また一歩、ギャスパーは距離を詰める。

 

マリウスは這いずりなかまら、逃げようとする・・・・が、最後の希望でも見つけたように俺達の方を見て言った。

 

「リアス・グレモリー! これはあなたの眷属だろう!? なら、止めてくれ! 聖杯は引き渡す! だから―――――」

 

「・・・・・」

 

情けなく叫ぶマリウスの言葉にリアスはただ瞑目するだけ。

 

俺は息を吐きながら、マリウスに告げる。

 

「散々やってくれたんだ。おまえはヴァレリーの、ギャスパーの心を深く傷つけたんだ。自業自得だろ」

 

「・・・・・っ!」

 

ギャスパーがマリウスの眼前に立って真正面から言う。

 

《おまえだけは、この世に肉片ひとつすら遺すことを許さない。魂まで闇に喰われて死に果てろ》

 

それがギャスパーがマリウスに放った最後の言葉だった。

 

同時にそれは完全な死刑宣告。

 

闇の魔物が一斉にマリウスに群がり―――――

 

「あ、あ、あああああああああああああっ!」

 

宣告通り、マリウスを喰らっていった。

 

肉片ひとつ、魂まで残らないほどに。

 

 



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19話 動き出した悪意

今回は長めです。


クーデターに荷担した上役の吸血鬼達とマリウスが闇に呑まれ完全に消え失せた後。

部屋を覆っていた闇は晴れていき、残ったのは魔物と化したギャスパーだけだった。

 

先生は闇が完全に晴れたのを確認するとすぐにヴァレリーのもとに駆け寄り、小型魔法陣を展開して彼女の体を調べ始めた。

 

「・・・・なるほど。そういうことか」

 

先生が頷き、何か納得しているようだった。

 

「どうしたの?」

 

リアスが問う。

 

先生はヴァレリーを指して説明を始めた。

 

「この娘の聖杯、どうやら元々亜種のようだ。本来一つの聖杯が、この娘の中にもう一つ残ってるんだよ。つまり、ヴァレリーの聖杯は二つで一つとカウントされる特殊なもののようだ」

 

『――――――っ!?』

 

その先生の言葉に全員が驚いていた!

 

ヴァレリーの聖杯が亜種!?

しかも、二つで一つ!?

 

「神滅具でそんなのあるんですか?」

 

俺が先生に訊く。

 

いや、実際に目の前にあるようなんだけどさ・・・・。

以前聞いていた、神滅具は二つ以上存在しないってのがね・・・・・。

 

先生も顎に手を当てる。

 

「俺も驚いている。なにせ過去に前例がないからな。詳しく調べてみれば何か分かるかもしれんが・・・・。どうりで、神滅具の抜き出しにしちゃ、静かだと思ったぜ。俺の研究では神滅具の抜き出しはもっとド派手なものになると結論づいているからな。おそらく、半分しか抜き出されなかったため、比較的静かに済んだのだろう」

 

レイナが先生に訊く。

 

「では、抜き出された方を元に戻してあげれば――――」

 

「ああ、それで解決するはずだ。ヴァレリーはまだ死んだわけじゃないからな。・・・・やれやれ、本当に今世の神滅具所有者はわけがわからん」

 

息を吐く先生の言葉に皆が安堵していた。

 

なんでヴァレリーの聖杯が亜種だったのか、そんなものは俺には分からないけど・・・・・よかった。

 

ヴァレリーは死んでない。

 

それなら、ギャスパーと二人でお日さまの下を歩くこともできるし、ピクニックも行けるわけだ。

 

本当によかった。

 

「その聖杯をこちらへ。とりあえず、それを戻す」

 

先生がマリウスに抜き取られた聖杯をヴァレリーに戻す術式を始めた。

 

アリスがほっと胸を撫で下ろすと同時に呟いた。

 

「これで一件落着・・・・ってわけにはまだいかない、か・・・・」

 

「ああ。リゼヴィムが何か企んでいる分、急がないとな。アセムの野郎の言葉からして嫌な予感しかしねぇ」

 

とりあえず、ティアを外に置いてきているから対策にはなると思うけど。

 

急ぎたいところだけど、とりあえず先生の術式が終わるまではここで待機だ。

 

その間、俺は――――――

 

「でかくなったなぁ・・・・」

 

黒い獣と化したギャスパーに声をかけた。

 

ヴァレリーの復活作業を見守るギャスパーは低い声音で笑った。

 

《ふふふ、まぁね。いつも、僕はあなたを見上げる側だった》

 

「そりゃそうだ。普段のおまえはこんなもんだったしな」

 

と、俺は掌を腰の辺りで水平にして普段のギャスパーの背の丈を示す。

 

いや、あのちっこいギャスパーがなぁ・・・・。

まさか、俺を上から見下ろしてくるとは・・・・。

 

ま、まぁ、議論すべき点はそこじゃないけど・・・・。

 

リアスがギャスパーに問う。

 

「あなた、ギャスパーではないわね?」

 

《いいや。僕はギャスパーだよ。ただ、ギャスパーであり、ギャスパーでないとも言える。この少年が母体にいたときに宿ったのは、バロールの断片化された意識の一部さ》

 

それを聞いた先生が顔をひきつらせていた。

 

「バロール!? ケルト神話の魔神バロールか!?」

 

バロール・・・・バロールって確か、ギャスパーの停止の邪眼の名前にかかっているよな?

 

「先生、そのバロールってのとギャスパーの神器に関連があったりするんですか?」

 

「・・・・バロールは邪眼の持ち主として一番有名な神だ。クロウ・クルワッハを操った神としても有名だ。『停止世界の邪眼』はバロールの眼に倣って命名されたと聞く。・・・・だが、バロールが宿るなど信じられん。タスラムがおまえに反応しなかったのはレプリカだからか?」

 

《僕はバロールの意識の断片だからね。神性は既に失われて、魔の力だけが残った。本来のバロールはルー神によって滅ぼされたからね。僕はバロールであってバロールではない。『ギャスパー・ヴラディ』さ。でも、神器とは面白いものだよ。伝説のドラゴンから、魔物、そして魔神の力すら宿らせることができる。神器を作り出した「聖書の神」は本当に恐るべき存在だったんだろうね》

 

「なるほどな。全くだ」

 

う、うーん、先生は頷いているが・・・・その会話についていけている奴が何人いることか・・・・。

 

少なくとも俺は分からんかった・・・・。

 

(ね、ねぇ、どういうこと? 後で私に教えてよ)

 

(ごめん、ボクも・・・・)

 

などとアリスと美羽が耳打ちしてくるが・・・・俺に聞くない!

俺も教えてほしいわ!

 

そんな俺達を見て、ギャスパーが苦笑する。

 

《とりあえず、僕はギャスパー・ヴラディということで見てくれればいいさ》

 

「あら、そうなの」

 

「じゃあ、今まで通りギャスパーくんで」

 

き、切り替え早いなぁ、こいつら・・・・。

 

いや、俺も普通にギャスパーとして接してるけどさ。

 

だって、目の前のギャスパーは闇の獣になるまえに俺のこと『イッセー先輩』って呼んでたしな。

それだけで、こいつはギャスパーなんだなって思えた。

 

ま、少々、性格も変わっていて驚きはしたけど。

 

ギャスパーはヴァレリーの横に立つと横たわる彼女の頬を優しく撫でた。

 

《僕はなぜか、この聖杯の少女を救わないといけないと感じた。強く、強くね。それはもう一人の僕が感じている恩義とは別の感情だ。・・・・これがなんなのか、僕にもよくわからない。だけど、おそらく、聖杯の力に完全に目覚める前から、彼女はその力を無意識に使っていたのかもしれない。僕のもととなったバロールの意識の断片。それを聖杯の力で呼び出して・・・・僕を作った・・・・?》

 

「ギャスパーを生み出したのは幼い頃のヴァレリーだと言うのか? リアスがギャスパーを転生できたのも、神性を失ったバロールの断片だったからこそか・・・? 停止の邪眼がギャスパーに宿ったのはバロールの力に引き寄せられた・・・・? 模倣したものが本物に宿るなんざ、冗談のような出来事だ」

 

先生も一人でぶつぶつとこの結果にあれこれ考えているようだ。

 

ギャスパーが先生に言う。

 

《少なくともこの状態は神器とバロールの融合が生み出したものだ。禁手でもあり、そうでないとも言える。――――『禁夜と真闇(フォービトゥン・インヴェイド・) 翳の朔獣(バロール・ザ・ビースト)』とでも名付けようか》

 

「名付けるんだ」

 

「名付けるんだね」

 

それ言わないであげて!

 

俺の三形態もドライグと二人で決めてるんだからさ!

 

つーか、美羽とアリスが平常運転過ぎる!

 

先生がギャスパーの状態に目を向けてぼそりと呟く。

 

「・・・・これはもう準神滅具クラス・・・・いや、神具クラスとみていいレベルか。すでに『停止世界の邪眼』とは別の神器となっている。十四番目の神滅具か」

 

「マジっすか!?」

 

「まぁ、そのあたりはグリゴリに帰ってからになるがな」

 

と、ここで魔獣と化したギャスパーの闇が晴れていく。

 

《おっと、もう限界みたいだ。あとは皆に任せて、僕は少し眠らせてもらうよ》

 

闇が剥がれていき、いつものギャスパーに戻っていくなかで、もう一人の人格は大きな獣の口を笑ませながら話を続ける。

 

《僕は全てを闇に染める存在だ。けれど、あなた達には絶対に危害を加えないと約束する。もう一人の僕を通して、ずっと見ていたからね。――――――皆は僕の大事な仲間だから―――――》

 

それだけを伝え終わった後、闇は完全に消失して、ギャスパーはその場に倒れ、気絶してしまった。

 

いつもの姿となったギャスパーを抱き寄せるリアス。

目元を潤ませていた。

 

「・・・・その通りよ。あなたは私の眷属。とても大切な・・・・・ねぇ、ギャスパー」

 

ああ、ギャスパーは俺達の大事な仲間で、俺の大事な後輩だ。

全てを闇に染める存在だろうが、何だろうが、そこは変わらない。

 

先生の術式が終わり、目映い閃光を放ちなから、取り出された聖杯がヴァレリーの中に戻っていく。

 

「これで目を覚ますはずなんだが・・・」

 

先生はそう言うが・・・・・ヴァレリーは一向に目を覚ます気配がない。

 

先生が怪訝に思い、彼女の様子を調べる。

 

「・・・・息はある。だが、意識だけが戻らない・・・・? 何かまだ足りないのか?」

 

 

 

その時――――――

 

 

 

「あー、もしかしたら、これも戻さないと意識は戻らないかもねぇ」

 

第三者の声。

 

その者の登場にヴァーリが憤怒の形相を浮かべる。

 

「会いたかったぞ。リゼヴィム・リヴァン・ルシファーッ!」

 

俺達の前に姿を現したのは、ふざけた笑いと口調が特徴のあのおっさんだった。

 

俺達はリゼヴィムの側に浮かんでいるものを見て、目を見開いた。

 

それもそのはず。

 

――――――聖杯が奴の側にあるのだから。

 

リゼヴィムは口元を笑まして続ける。

 

「ヴァレリーちゃんが持つ亜種の聖杯は全部で三個だ。三個でワンセットっつー規格外の亜種神滅具なのよん。で、俺達が先に一個抜き出していてねぇ。マリウスくんは聖杯が複数あることさえ気づかなかったんだぜ? 自称聖杯研究者が聞いて呆れるぜ!」

 

なっ・・・・!?

聖杯が・・・・・三つ!?

しかも、リゼヴィムが既に一つ抜き出しているだと!?

 

ゲラゲラと笑うリゼヴィムは改めて軽快に挨拶し始める。

 

「んちゃ♪ うひょひょーぅ! リゼヴィムおじいちゃんだよー? じゃあ、ここから愉快なお遊戯タイムになりまーす! 良い子の皆はおじいちゃんのお話に注目してねー」

 

 

 

 

 

 

 

聖杯を側に浮かせる銀髪の中年男性、リゼヴィム。

そこ傍らにはオーフィスの分身体、リリス。

 

リゼヴィムは醜悪な笑みを浮かべてヴァーリに視線を送る。

 

とうのヴァーリは今までに見たことがない、怒りの表情を浮かべていた。

 

こいつがここまで怒っている姿は始めて見る。

 

ヴァーリの怒気を見て、リゼヴィムが哄笑をあげる。

 

「うひゃひゃひゃひゃ! きゃわいい孫にそんな眼されちゃうとおじいちゃんイッちゃいそうになっちゃうよ!」

 

ヴァーリとリゼヴィムの関係。

 

それは単なる孫と祖父って関係じゃなさそうだ。

 

リゼヴィムはいったいヴァーリに何をしたんだ?

 

「先生、二人に一体何が・・・・?」

 

俺の問いに先生は険しい表情で言う。

 

「奴は自分の息子、つまりヴァーリの父親に『ヴァーリを迫害しろ』と命じたんだよ」

 

「っ! なんだよ、それ・・・・」

 

それを聞いたリゼヴィムが唇を尖らせた。

 

「聞き捨てならないにゃー。俺はバカ息子に『怖いならいじめろよ』って的確なアドバイスをしてあげただけなんだぜ? ま、魔王の血筋で白龍皇なんてもんが生まれたら、あのビビりなバカ息子の豆腐メンタルじゃ耐え切れんわな」

 

自分の息子の・・・・ヴァーリの卓越した才能に脅威を抱いたってのか?

 

リゼヴィムがせせら笑う。

 

「結局、ヴァーリきゅんはお父さんの仕打ちに耐えられずに家出しちゃったんだよねー。ま、アザゼルくんに育ててもらってよかったねぇ。アザゼルおじさんは面倒見がいいもんねー」

 

先生も憎々しげにリゼヴィムを睨んでいた。

 

ヴァーリがリゼヴィムに問う。

 

「・・・・あの男はどうした?」

 

「ん? あ、パパのことかなー? うひゃひゃひゃひゃ、俺が殺しちゃったよ! だって、ビビりなんだもん。見ててイラついちゃってさ☆ あんれー、ショックだったかな? パパ殺されて怒っちゃったー?」

 

「別に。俺も消そうとしていただけだからな。―――――ただ、俺は嬉しいよ」

 

ヴァーリの全身のオーラが戦意をもって膨らんだ。

 

「俺は貴様を一番殺したかったからな・・・・ッ。貴様は『明けの明星』と称された魔王ルシファーを名乗っていい存在ではない・・・・・!」

 

白いオーラが荒々しく燃え上がる。

 

リゼヴィムはヴァーリの強烈な殺意を受けてただ嬉しそうに笑う。

 

「いいじゃん。チョーいい目付きだ。いい育て方してんよ、アザゼルちん。ぶっちゃけ、俺の愚息よりはかなりマシじゃん。うんうん、あのメソメソ泣いてた孫がこんなにいい殺意を向ける青年にビフォーアフターなんて感動するじゃんかよ!」

 

今にも飛び出しそうなヴァーリを手で制した先生は改めてリゼヴィムに問う。

 

「・・・・リゼヴィム。聖杯を使って何をするつもりだ? 邪龍を従え、異世界の神と手を組んでまで何を企んでいる?」

 

アセムのことはこの祭儀場に来るまでに皆に話しておいた。

当然、アセムの存在に皆も驚愕するなんてもんじゃなかった。

何て言ってもあのロスウォードを創造した神の一人なんだからな。

 

そして、アセムがリゼヴィムに協力していることも。

 

・・・・ただ、こいつらが一体何をしようとしているのかまではわからない。

 

ろくでもないことは確かだが・・・・・。

 

新生『禍の団』とアセムの本当の目的とは――――――

 

リゼヴィムが聖杯に視線を向けながら高々と言う。

 

「うひゃひゃひゃひゃ! その様子じゃ、アセムのお坊ちゃんには会ったのかな? でも、俺達の目的までは聞いていないようだねー。いいよいいよ、分かってんじゃん。やっぱり、こういうのはギャラリーが多いときにパーッと公開する方がいいよね!」

 

リゼヴィムは人差し指を立てると、一から解説するように話始める。

 

「初めて『異世界』の存在が明らかになったのは悪神ロキが日本に攻め込んだ時だ。ま、あんだけ盛大に叫んでりゃ、情報統制しても漏れるわな。で、そこのおっぱいドラゴンくんが『異世界』から帰還し、そこの黒髪のお嬢ちゃんを連れて帰って来ていたことが判明した」

 

ああ、そこは分かってたよ。

 

どんなに厳しく情報を制限したもしても、あれだけ大々的に言われてしまえば俺と美羽の存在はバレる。

 

今のところ、それ関係で問題が生じてこなかったのは一重に先生やサーゼクスさん達が俺達に手出しできないようにしてくれていたからだ。

 

リゼヴィムは更に続ける。

 

「この『世界』に伝わるあらゆる神話体系とは関連を持たない未知の世界。聖書でもねぇ、北欧神話でもねぇ、インド神話でもねぇ、日本神話でもねぇ、全く知らない世界だ。アスト・アーデだっけか? その『異世界』の存在ってのは異形の世界の研究者の間じゃ、こいつはかなりの衝撃だったのさ」

 

似たようなことを先生やドライグからも聞いていた。

 

下手すれば美羽に危害が及ぶ。

だからこそ、俺は俺の過去と美羽の素性を隠してきたわけだが。

 

リゼヴィムはうんうん頷きながら言う。

 

「でな、俺は思ったわけよ。―――――なら、攻め込んでみようぜ? ってな! 俺の邪龍軍団を使ってな!」

 

なっ!?

攻め込む、だと!?

 

いや、でも待てよ・・・・・。

 

俺は衝撃を受けながらも、頭を切り替えてリゼヴィムに問う。

 

「あんた正気か? アセムと関わってるってことは次元の渦なんてものも知ってるんだろ? だが、あれは偶発的に生まれるのを待つか、美羽のように向こう側に繋がりを持つ何らかの因子が必要なはずだ。仮に次元の渦に巻き込まれて、あんたが向こうに行ったとしても攻め込めるほどの戦力は連れていけないはずだ」

 

アスト・アーデにも神はいる。

ロスウォードとの戦いで数を減らしたとは言え、俺の師匠みたいにむちゃくちゃ強い神はまだまだ残ってる。

 

仮にどちらかの方法で行けるようになったとしても、師匠達を倒せるような戦力は連れていけないだろう。

 

・・・・神層階にまで攻め込むつもりがないなら、分からないけどな。

 

リゼヴィムは頬をかきながら、頷く。

 

「ま、それもそうだ。一度、そこのお嬢ちゃんを拐ってみてもいいかなーなんて考えたんだけどね。アセムくん曰く、おっぱいドラゴンくんみたいに特殊な技が使えねーと一緒に行けないらしいんだわ。そうなると向こうの世界に邪龍共を連れて行けないじゃん? かといって渦が起こるのを待つ? そんなもんかったりーわ。いやー、まいったね」

 

リゼヴィムはわざとらしくため息をつくが、再び醜悪な笑みを浮かべた。

 

「そこでよ。俺は別のルートで行くことにしたのよ。でもでも、それも今のところ叶わないんだわ。なぜなら、こちらの『世界』を守護するとんでもないドラゴンがいる。そう、グレートレッドさんです」

 

その言葉に先生が得心して叫ぶ。

 

「そうか、おまえはグレートレッドを!?」

 

先生の反応にリゼヴィムは嬉しそうに満面の笑みを作り出した。

 

「イェス! 流石はアザゼルくん! 察しがいいね! 俺はグレートレッドを倒して、あっちの世界にいく予定でーす!」

 

次元を守護するグレートレッドを除くことが出来れば、向こうの世界にも行ける・・・・?

 

でも、そんなことが可能なのか!?

あのグレートレッドを倒すなんてことが!?

 

「ま、グレートレッドを倒すなんざ俺には無理だわ。だって、めちゃめちゃ強いじゃん? オーフィスでもけしかけてぶっ倒そうにも曹操のクソバカ小僧が龍神ちゃんを半分にしちゃって、それも無理。じゃあ、分けたもん同士をくっつけりゃいいかと言われるとそう上手くならんよな?」

 

リゼヴィムはリリスの頭をポンポン撫でる。

 

リリスはずっと無表情のままで、動く気配もない。

 

「んじゃ、グレートレッドを倒せるのは誰よ? 復活させた邪龍共? 無理無理。なら、サマエル奪っちゃう? それも望み薄だわな。サマエル、フルボッコにされたみたいだしー? つーか、こっちの世界じゃ、どこの神様でも倒せんだろ、あれ。となると、一つしかねぇ。――――黙示録の一節を再現しようぜってよ?」

 

黙示録の一節を・・・・・再現?

 

今一ピンとこない話だが・・・・・唯一先生だけが、顔色を青くさせていた。

 

「・・・・『666(トライヘキサ)』・・・・!」

 

聞き覚えのない言葉を出す先生。

 

リゼヴィムはまたまた嬉しそうに先生の答えに満足していた。

 

「正解だ、アザゼルくん。座布団が欲しいか? それともアメリカ旅行? いいねぇ、回答要員って素晴らしいよね。うんうん、話しがいがあるよ。そうさ、黙示録に記された伝説の生物は赤龍神帝グレートレッドだけじゃねぇよな? ―――――『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)666(トライヘキサ)。あいつならグレートレッドといい勝負ができるとは思わないかね?」

 

俺が先生に問う。

 

「そのトライヘキサってのは?」

 

666(スリーシックス)って数字が不吉で有名なのは知っているな? それの大元になった化け物がそれさ。黙示録じゃ、グレートレッドとセットで語られている」

 

グレートレッド級のモンスターってことかよ!

 

黙示録は俺も少しだけ読んだことがあるが、確かにグレートレッドの横にデカい不気味なモンスターがいた。

 

あれがトライヘキサか!

 

先生が続けて問う。

 

「あれは存在の可能性があるだけでどこにいるのかも各勢力で議論中のはずだ!」

 

「んーふふふ、それがねぇ。いたのよ。聖杯を使って生命の理に潜った結果、俺達は見つけちゃったのよねー。だがねぇ、どうにも先にトライヘキサくんを見つけて、かたーく封印した方がいたんだなぁ、これが。誰だと思う?」

 

リゼヴィムは聖杯に投げキッスしながら言った。

 

「―――――聖書の神さまさ。あんの神さまはすごいね。俺らより先にトライヘキサ見つけて何千という神ですら死ぬ禁止級の封印術式で封じてたんだからよ。聖書の神さまの死亡原因ってこっちかもねぇ。あんなのをした後に三大勢力で戦争すりゃ、普通死ぬわな」

 

聖書の神さまが死んだのはトライヘキサを尋常じゃないレベルの封印を施したから?

 

先生がヴァレリーが横たわっている寝台の辺りに視線を送る。

 

「マリウスが抜き出しに使ったあの術式はトライヘキサの封印術式から再現したのか」

 

「おおさ! 現在、必死こいて封印をひとつひとつ解いてる途中だっぜ! 結構大変なのよ、これが。聖槍あればもうちょい楽に解けるんだろうけどよ。まぁ、聖杯と聖十字架の協力もあって事は順調に進行中ッスわ」

 

「なんてことを・・・・!」

 

先生が激しく舌打ちする。

 

マジでなんてことをしやがるんだ、こいつは・・・・!

 

グレートレッドとそれに匹敵する存在が争うことになればどれだけの被害が出ると思ってんだよ!?

 

リゼヴィムは宣言していく。

 

「つーことで! 俺達はトライヘキサくんを復活させて、グレートレッドをぶっ倒したら、トライヘキサくんと邪龍軍団を連れて異世界に行ってきまーす! これだけの戦力なら、向こうの人間も魔族も神々も蹂躙できるっしょ!」

 

嫌な笑いをあげるリゼヴィム。

 

アリスと美羽が叫ぶ。

 

「ふざけないで! あんたのそんなお子様思想で私達の故郷を無茶苦茶にしようっていうの!?」

 

「ようやく平和になれたのに、なんでそんなことするの!?」

 

アスト・アーデは長かった争いが終わって、ようやく平和になろうとしてる。

それが、こいつのくだらねぇ考えで無茶苦茶にされようって言うんだ。

 

俺だって我慢できない!

 

「おまえもそれに協力しているアセムもとんだクソ野郎だ! 絶対にさせねぇ! 俺が・・・・俺達がそのくだらねぇ企みを潰してやる! 今ここでな!」

 

させねぇ!

アスト・アーデにこいつらを行かせるわけにはいかねぇ!

ようやく取り戻した仲間の、皆をやらせるわけにはいかねぇんだ!

 

俺は掌をリゼヴィムに向けると気を溜めると同時に倍加をスタート!

 

『Accel Booster!!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

突き出した右腕が赤いオーラを放ち、スパークが舞う!

 

容赦はしねぇ!

 

こいつは・・・・ここでぶっ潰す!

 

「待て、イッセー! そいつの能力は―――――」

 

先生が俺を制止させようとするが―――――極太の赤い光の奔流が放たれる!

 

本気のアグニだ!

 

消し飛びやがれっ!

 

放たれたアグニが奴を呑み込んで――――――霧散した。

 

「っ!? なん、だと・・・・!?」

 

アグニが消えた?

 

リゼヴィムに当たった瞬間、あれだけの力を籠めたアグニが消された・・・・?

 

今の感触は・・・・相殺されたとかそんな感じではなくて・・・・・。

 

驚愕する俺に先生が言う。

 

「いいか、イッセー。そいつの能力は悪魔の中で唯一の異能―――――『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』だ。神器によるいかなる特性、神器によって底上げされた力は全て奴には効かない。おまえの赤龍帝の力も、木場の聖魔剣の力も神器である以上は、その男に一切ダメージを与えられん・・・・!」

 

『―――――っ!?』

 

先生の言葉にヴァーリ以外の全員が驚愕した。

 

神器の能力が無効化される・・・・!?

そんなのアリか!?

 

ヴァーリはこのことを知っていたのか?

 

「だったら、これならどう!」

 

美羽が手元に七色の光を集束させていく。

 

スター・ダスト・ブレイカー。

 

現在、美羽が放てる最強の一撃。

 

この技は神器を使っているわけじゃない。

神器を使った攻撃が効かないなら、そう考えての攻撃だろう。

 

その考えは恐らく間違っていない。

 

しかし――――――放たれた七色の光はリゼヴィムが魔力を纏わせた手を横に凪いで弾かれた。

 

「うひゃひゃひゃひゃ! 残念でしたー! これでも魔王の息子だから、神器無効化がなくても結構強いんだよね!」

 

「っ!」

 

流石の美羽もこれには歯噛みしていた。

 

見れば、ヴァーリも心底悔しそうな表情だった。

俺の攻撃を見て、自分の力も効かないと判断したのだろう。

 

俺達の反応にリゼヴィムはいっそう笑みを深める。

 

「サーゼクスくんの眷属がなぜ非神器所有者で構成されてるか知ってるかな? ま、色々と理由はあるがね、その中でも一番大きな意図は俺と直接対決した時に役に立たねーからなんだよねー。おかげでおいそれとこの聖杯にも触れられないんだけどさ!」

 

そう言うなりリゼヴィムは手元の空間を歪ませて、聖杯を亜空間に収納した。

 

・・・・確かに不思議だと思ってたんだ。

あれだけ強力な力を持つサーゼクスさんの眷属には神器所有者が誰一人いなかったことに。

 

でも、理由を聞けば納得だ。

 

こいつを相手取るには神器を使わずに戦える者かつ、それだけの力量を持つ者じゃないと難しい。

 

クソみたいな野郎だが、腐っても超越者ってことかよ!

 

聖杯の奪取に苦慮する俺達を見てリゼヴィムは愉快そうに笑い、うんうんと頷いた。

 

「ま、とりあえずこのへんにして、見せたいものがあるのよ」

 

そう言ってリゼヴィムが指をならすと、この祭儀場の宙に立体映像が出現した。

 

雪が降り積もる町の光景だった。

 

この光景に見覚えがある。

 

「カーミラの城下町?」

 

リアスがそう口にする。

 

リゼヴィムが大いに頷いた。

 

「正解! カーミラの城下町でございます! さぁさぁ、ご注目! これから起こるのは楽しい楽しいライブですぞ~。俺が今から指を鳴らすとね―――――」

 

などと口にしながら、再び指を鳴らすリゼヴィム。

 

・・・・が何も起こらない。

映像に流れるのはただ静かな雪の積もる町だ。

 

リゼヴィム本人も何も起こらないためか、首を傾げる。

 

「あんれー? おっかしいなぁ。ぼちぼちのはずなんだけど・・・・あっ、来たね! うん、上手くいったじゃん!」

 

目を凝らすと、雪の風景に黒くて大きなものなひとつ、またひとつと飛び回り始めたのが確認できた。

 

それは黒いドラゴンだった。

複数の黒いドラゴンがカーミラの城下町に出現したんだ。

 

「はい! 謎の黒いドラゴンが大量に出現しましたね! ここからあの子達が大暴れしちゃいます! おっ、さっそく火を噴いた! いいねぇ!」

 

その黒いドラゴンはカーミラの町を破壊、次々に火を噴き町を焼き払い始めていた!

 

先生が問い詰める。

 

「どういうことだ、リゼヴィム!」

 

「カーミラにもな、ツェペシュの弱点のない吸血鬼になりたい!ってやつがいたのよ。そいつらには裏でカーミラの情報を流すように契約しておいて、体を強化してあけたんだわ。特典つきでね!」

 

「特典だと?」

 

「イェス! 彼らは改造されまくりでな、俺が指を鳴らすとね――――――量産型の邪龍に変身しちゃうのよ! どう? すごいっしょ!」

 

じゃあ、つまり・・・・あそこで暴れてる黒いドラゴンって・・・・。

 

「ここまで言えば分かりますね! そう! あれは伝統と血を重んじる吸血鬼くん達の成れの果てですっ! ほら、吸血鬼が起こした問題は吸血鬼が解決って言うじゃん? だから、吸血鬼の町壊すのも吸血鬼が良いかなーって。まぁ、『元』吸血鬼なんですけど!」

 

「っ! アセムが言ってやがったのはこういうことかよ!」

 

「アセムお坊ちゃんも楽しみにしてたよ。今頃、クッキーでも食べながら観戦してるんじゃないかな?」

 

やられた・・・!

まさか、こんな事態になるなんて!

 

カーミラの戦闘要員はほとんどクーデターの鎮圧に出ているそうだから、目立った戦力なんて残ってないんじゃないのか!?

 

このままじゃ、あの町は―――――

 

その時だった。

 

嫌な気配をツェペシュの町から感じ取れた。

 

「おいおい。まさかと思うが、その特典・・・・こっちでもやってるんじゃないだろうな!?」

 

俺が脂汗をかきながらそう言うとリゼヴィムはほくそ笑む。

 

「おー、さっすが勇者赤龍帝くんだ。そうそう、こっちでも豪華特典は発動するんだよ。言うの忘れてたわ。ごめんねー」

 

響いてくる轟音、地下まで聞こえてくる悲鳴。

 

なんてこった!

やっぱり、クーデター派の吸血鬼も邪龍と化して暴れてるのかよ!

 

リゼヴィムがもうひとつの立体映像を展開させる。

そこに映し出されたのはカーミラの城下町同様、炎上するツェペシュの町だった。

 

ティアがいるとは言え、この規模と数は・・・・!

 

「なんということだ・・・・!」

 

怒りに体を震わせる先生。

 

「おーおー、派手にやってるねー。こりゃ、壊滅も時間の問題だ。ま、映像だけじゃあれなんで、サービスだ。直接見に行こうぜっ!」

 

リゼヴィムが指を鳴らす。

 

すると、俺達の足元に巨大な魔法陣が展開された。

 

そして、魔法陣は目映い輝きを発して弾けた―――――。

 

 



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20話 悪神の下僕達

光が止み、目を開けると俺達は外にいた。

城にある塔の一つ、その頂上に俺達は立っていた。

 

眼前に広がるのは燃える町。

数多くの邪龍によって破壊されているツェペシュの町だ。

 

高い建物はほぼ倒壊していて、町には逃げ惑う一般の吸血鬼達。

 

マズいな・・・・早く助けねぇと!

 

「・・・・リゼヴィムの野郎は?」

 

辺りに目を配る先生。

 

ヴァーリが空中を睨みつける。

 

「リゼヴィムッ!」

 

「やっほー、ヴァーリきゅん♪ お祖父ちゃんが遊んであげるぞい☆ 肩叩きしてくれると嬉しいな!」

 

空を飛ぶリゼヴィムはリリスを抱き抱えて無邪気に手を振る。

 

ヴァーリは光翼を展開させて、奴の方に飛び出していく!

あいつ、怒りで頭が一杯になってやがる!

 

挑発に乗ってリゼヴィムと空中戦を始めやがった!

 

先生は怒気を吐く。

 

「クソッ! どうしようもねぇな、この状況じゃ! リアス! イッセー! 手分けして量産型とかいう邪龍共を殲滅、住民を避難させるぞ! 上の連中がどうであれ、ここに住む者達に罪はない!」

 

俺も大いに頷いた。

 

「分かってます! アリスは俺と来い! 美羽とレイヴェルは住民の避難をメインに邪龍を撃退だ!」

 

「オッケー! こんなことさっさと終わらせてやるわ!」

 

「分かった!」

 

「了解ですわ!」

 

俺の指示に三人が頷く。

 

リアスも木場達に指示を出す。

 

「皆、出来るだけツーマンセルでお願い! 私と朱乃、ロスヴァイセとレイナ、ゼノヴィアとイリナさん、祐斗は一人で当たれるわね?」

 

「もちろんです」

 

木場もリアスの指示に応じる。

 

ああ、今の木場ならあの程度の邪龍は一人でやれる。

 

リアスはゼノヴィアとイリナ、アーシアに目を配る。

 

「ゼノヴィアとイリナさんはまずアーシアと気絶している小猫とギャスパーを連れて町の外に退避させてちょうだい」

 

先生が続く。

 

「なら、東門の先にしろ。地下シェルターがあったはずだ」

 

「では、その後、そこを緊急避難場所にするわ。各自住民をそこへ誘導すること! アーシアはケガをした住民の回復をお願いするわ!」

 

「了解」

 

「任せて!」

 

ゼノヴィアとイリナは応じるとそれぞれ気絶している小猫ちゃんとギャスパーを抱き抱える。

 

「はい! 回復は任せてください!」

 

アーシアも気合いを入れていた。

 

先生も光の槍と黒い翼を出現させる。

 

「俺も一人で当たる! いくぞ、おまえら!」

 

『はいっ!』

 

俺達は素早くその場から散開した――――――。

 

 

 

 

 

 

「ドライグ! フェザービット、シールドモードだ!」

 

『任せろ!』

 

鎧を天武から天翼に変えた俺は邪龍に襲われている住民をフェザービットのシールドで覆い保護。

ピラミッド型に形成されたオーラの盾が住民達を邪龍の脅威から守っていく。

 

その間にアリスと組んで邪龍を一掃していった。

 

この量産型の邪龍とやらの強さは少なくとも中級悪魔クラス以上はあるが、俺達の相手ではない。

グレンデルのようなしぶとさもないし、クロウ・クルワッハのように卓越した戦闘技術があるわけではない。

 

俺の拳、アリスの槍の一撃で余裕で倒すことができている。

 

他のオカ研のメンバーもこのレベルなら平気で相手に出来るはずだ。

 

ただ、問題は数だな。

もう町の至るところにうじゃうじゃいやがる。

いったい、どれだけの吸血鬼が聖杯で改造されたのやら。

 

こういうのは天撃でまとめて吹き飛ばしたいところだが・・・・流石に町のど真ん中でそれをするわけにはいかないか。

逃げている最中の住民もいるわけだしな。

 

「東門の先に避難場所がある! そこまで走るんだ!」

 

「は、はい! あ、ありがとうございます!」

 

礼を述べて避難する吸血鬼の住民達。

 

「アリス、何匹倒した?」

 

「今ので十強くらい。・・・・どんだけいるのよ・・・・」

 

アリスは町を見渡しながら息を吐く。

 

これだけの数の吸血鬼がリゼヴィム側についていたことにかなり呆れているようにも見える。

 

これが進化を願った吸血鬼の成れの果て、か・・・・。

 

「いやぁ、呆れるよねぇ。進化と改造を勘違いしてるんだからさ」

 

――――――っ!

 

突然、背後から聞こえてくる声。

 

この声は・・・・・!

 

俺とアリスはその声がした方を向くと同時に殺気を放った。

 

そこにいるのはリゼヴィムの協力者。

アスト・アーデの神、アセム。

 

その隣には娘のヴィーカも控えていた。

 

「吸血鬼・・・・まぁ、一部の貴族なんだろうけどさ。無駄に高いプライドを持ってるだけで、自分達の力じゃなーんにも出来ないバカばっかりだよ。ほんと笑っちゃうよね。進化ってのは他人の力でするものじゃない、自らの強い意思と自らの力で成し遂げるもの。そうは思わない?」

 

俺はアセムのその言葉を聞いて頷いた。

 

「ああ、その意見には同意だ。確かにクーデターに荷担した吸血鬼の上役共はアホばっかりだったよ」

 

「でしょー。血と伝統を重んじるとか言っといてさ、結局は自分でそれを踏みにじってるんだもんねー」

 

「全くだ。・・・・で? そんなことを言うためだけに俺の前に再び出てきたのか?」

 

「いやいや。君に声をかけたのは偶々近くを通りかかったからだよ。言っておくけど、基本的に僕自身が直接手を出すことはない」

 

「・・・・ってことは間接的には手を出すってことじゃねぇか」

 

「アハハハ、まーねー。一応、協力者だし?」

 

本当に読めない奴だな・・・・・。

 

ふざけているようも見えるが、ずっと俺の内側を探るように見てきている。

 

悪意の塊・・・・リゼヴィムならこの一言で済むだろうが、こいつは何か違う。

 

もちろん、悪意もあるのかもしれないが・・・・・。

 

どのみち、こうしてリゼヴィムに協力している以上は危険な存在には変わりないか。

 

高まる俺とアリスのオーラを見て、ヴィーカが口元を笑ます。

 

「ふふふっ、すんごくやる気みたいね? さっきから抑えられてないみたい」

 

「馬鹿ね。抑える気がないだけよ。こうして対峙しているなら、やることはひとつじゃない」

 

「あら、怖い。そうね、それじゃあ軽く相手してあげようかしら」

 

そう言うとヴィーカは槍を構え、黒いオーラを滲み出させる。

 

アリスも不敵に笑みを浮かべて、槍の切っ先をヴィーカへと向けた。

白いオーラが荒々しく燃え盛る。

 

「ええ、ぜひそうしてもらうわ。軽くやるついでに潰してあげる」

 

「そういうのはあまり言わない方が良いわよ? 弱く見えるわ」

 

そして、二人は同時に飛び出し――――――衝突した。

 

白と黒のオーラが町でぶつかり、その余波で建物を次々に破壊していった。

 

ヴィーカの実力。

まだ、その片鱗すら見せていない。

能力も不明だ。

 

だが、強い。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

アリスの鋭い突き。

切っ先に雷を集中させて、破壊力を大きく上げた一撃だ。

 

大抵のやつならアリスのスピードに着いてこれず、槍に貫かれてアウトだ。

 

それをあのヴィーカは平気な顔で捌いていた。

 

「あらあら。すごいわ、この子。私、殺されそう♪ そんなに怖い顔してるとシワが増えちゃうぞ☆」

 

「うっさい!」

 

怒声と共に横凪ぎに槍を振るうアリス。

宙返りしながら、後退するヴィーカを更に追いかけていく。

 

ヴィーカはアリスの槍を受け止めなると、アリスの胸と自分の胸を見比べながら言った。

 

「それにしてもペタンコよねぇ。勇者くんは大きなおっぱいが好みって聞いていたのだけれど・・・・」

 

「う、うううううるさーい! なんで、そんな憐れむ眼で見るわけ!? これでも最近は育ってるんだから!」

 

「えっ!? 育ってそのサイズなの!?」

 

「こ、このぉぉぉぉ! その胸もいでやるぅぅぅぅ!」

 

・・・・あいつ、挑発に乗ってないよね?

 

なんか、アリスが涙眼になってるし・・・・・。

いや、動きは格段に上がってるけどさ。

 

なんというか・・・・ヴィーカの胸の辺りに攻撃が集中している気がする・・・・。

 

怒り(主に胸に関することだろう・・・・)によって攻撃の手が激しくなったアリス。

 

その槍さばきは次第にヴィーカを追い詰めていき―――――ついにその槍を弾き飛ばした!

 

得物を失ったヴィーカ。

 

眼前に迫るのは白雷に身を包むアリス。

 

アリスの一撃を生身で応じるのはヴィーカでも厳しいはずだ。

 

「これで終わりよ、この巨乳娘ぇぇぇぇえ!」

 

明らかに個人的な恨みが籠められた一撃!

 

アリスの槍がヴィーカへと迫る。

 

しかし――――――

 

「ざ・ん・ね・ん☆」

 

 

バァン!

 

 

突然鳴り響く炸裂音。

 

その音はヴィーカから聞こえてきて―――――

 

アリスは音が聞こえると同時に弾かれたように横に跳んでいた。

 

頬は何かで切ったように、赤い血が流れていた。

 

俺はヴィーカの手元に視線をやると何かが握られていることに気づいた。

 

「け、拳銃・・・・?」

 

それは俺達がよく知るリボルバー式の拳銃だった。

 

銃口から煙があがっていて、つい先程、弾丸を放ったのが分かる。

 

ヴィーカは指でくるくると拳銃を回しながら感心したように言う。

 

「へぇ、今のを避けちゃうんだ。距離もタイミングもバッチリだったんだけど」

 

アリスは頬の血を拭う。

 

「今ので死んでるくらいなら、私はとっくに死んでるわよ。・・・・その銃どっから出したのよ? 槍が届く瞬間まで出す素振りすらしなかったのに・・・・いつのまに・・・・」

 

俺もヴィーカの動きは追っていたけど、アリスの言うように何処から出したのか分からなかった。

 

気づいたら、銃をぶっ放されていたんだ。

 

ゼノヴィアがデュランダルを亜空間から取り出すように、ヴィーカもそれと同じことをした?

 

でも、それとはどこか違っているような・・・・・。

 

「気になる? そんなに気になるのなら、おしえてあげる」

 

怪訝に思う俺とアリスを見て、ヴィーカは笑みを浮かべ、指を鳴らした。

 

すると、その背後の空間がぐにゃりと歪み始める。

空間が捻れ、渦を生じさせながら開いていき、大きな穴が出現した。

 

そして、見えてくるのは棚や箱に詰められた剣や槍、ヴィーカが握っているような拳銃からライフル。

他にも様々な武器があった。

 

ヴィーカは俺達がそれを確認したのを見ると、拳銃を持つ逆の手を横に突きだす。

そこに出現するのは刃の部分がやたらと長い剣。

 

「改めて自己紹介といきましょうか。私は『武器庫(アセナル)』のヴィーカ。ご覧の通り、ありとあらゆる武器を創り、貯蔵するのが私の能力よ。あなた達の仲間に剣を創造する子がいたと思うけど、それと似たようなものね」

 

木場の魔剣創造の拡大版って感じか。

 

「んー、反応薄いわね。まぁ、あなた達からすれば割りと見慣れた能力だろうから、しかたないと思うけど。まぁ、でも――――――」

 

ヴィーカの周囲の空間が再び歪み始め、小さな穴が無数に出現する。

 

そこから現れたのは――――――

 

アリスが顔をひきつらせる。

 

「ちょ・・・・なに、それ・・・・?」

 

「あら、知らないの? ガトリングガン」

 

「いや、そういうことじゃなくて―――――」

 

アリスが言い終える前に無数の穴から出現したガトリングガンが火を噴いた!

 

全砲門から弾丸がアリスに向けて斉射される!

 

それはまさに弾丸の雨!

あまりの多さに先が見えないほどだ!

 

しかも、この弾丸・・・・

 

「アリス、絶対にくらうな! 一発一発に聖なる力が籠められてるぞ!」

 

「わかってるわよ! ったく、もう! こんなのアリぃぃぃぃぃ!?」

 

絶叫をあげならがら、アリスは弾丸に当たらないよう駆けていく。

 

そこにヴィーカが迫る!

 

「ほら、そっちにばかり集中してると私に首切られるわよ?」

 

「ええい! めんどくさい能力持ってるわね! 私はこれ一本なのに!」

 

再びぶつかるアリスとヴィーカ。

 

しかし、先程の衝突と違うのはヴィーカは剣から槍に、槍から弓に、弓から銃へと武器と戦法を変えてきていることだ。

 

あまりに変幻自在過ぎる戦い方、それを為すヴィーカの技量にアリスも表情を厳しくしている。

 

―――――アリスが圧され始めた。

 

「アリスッ!」

 

俺はアリスに加勢しようと飛び出していく。

 

しかし―――――

 

 

ドォォォォォォォォンッ

 

 

俺の前に何かが降ってきた!

 

衝撃で巨大なクレーターが生まれ、砂埃が舞い上がる!

 

砂埃のせいで、視界が完全に遮られ辺りは灰色の世界しか見えない。

 

そんな中、眼前に黒い影が現れる。

 

ゆっくりと動く影は―――――俺に攻撃してやがった!

 

砂埃の向こうから巨大な拳が突き抜けてくる!

 

「ちぃっ!」

 

俺は舌打ちしながらも、それを回避。

影に向けて気弾を放ってみるが、倒れた様子がない。

 

砂埃が収まり、視界が開けてくる。

 

俺の視線の先にいたのは―――――――

 

「はぁ。ここまでする必要はなかったでしょう? 見てください、私の服がこんなになってしまった」

 

「ガハハハハ! そんな服ぐらい気にすんなって! せっかくの挨拶なんだから盛大にしねぇとな!」

 

服についた砂を払いながら文句を言う茶髪の男性と豪快に笑う巨大な男。

 

英雄派のヘラクレスよりでかいんじゃないのか?

三メートル近くあるぞ。

 

アセムが二人の男に声をかける。

 

「遅いよー。どこに行ってたのさ?」

 

「申し訳ありません、父上。ラズルがまた道に迷いまして」

 

「おいおい! なに人のせいにしてんだよ!? つーか、おまえがあの店が良いだの、この店が良いだのつって、うろちょろすんのが悪いんだ!」

 

「私は時間に間に合うようには行動していたのです。私の言う通りの道を進んでいれば、集合時間の五分前には到着していた。それを『こっちが近道だぁ!』なんて言って私から地図を奪うから・・・・・はぁ」

 

「う、うるせぇ!」

 

その話どっかで聞いた・・・・って言うか体験したな。

 

アセムが喧嘩する二人を宥めるように言う。

 

「まーまー、二人とも。別に遅れたことは気にしてないよ。集合時間作ったのヴィーカだし」

 

「さっすが、親父殿! ヴァルスと違って懐がでけぇ!」

 

「誰の懐が小さいと?」

 

「君達って本当、よく喧嘩するよねぇ。・・・・まぁ、それは置いといて、勇者くんに自己紹介してよ。彼も君達のこと気になってるみたいだしさ」

 

アセムはため息をつきながらそう促す。

 

その言葉に二人は「そうだった」と思い出したようにこちらを向いた。

 

まず名乗ったのは茶髪の男性。

長身痩躯で、髪を後ろで括っている。

 

腰に帯剣していることから剣士っぽいけど・・・・・。

 

「これは始めまして、勇者殿。私は『覗者(ヴォアエリスムス)』のヴァルスと申します。以後、お見知りおきを」

 

続いて名乗るのはラズルと呼ばれた巨漢。

 

「おうおう! 俺は『破軍(バリアント)』のラズルだぁ! よろしくたのまぁ! ガハハハハ!」

 

「この子達もヴィーカと同じで、僕が作り出した下僕だよ。ま、話の流れで分かるよね~」

 

と、アセムが軽い口調で言った。

 

『覗者』のヴァルスと『破軍』のラズル。

 

ヴァルスは丁寧な言葉遣いで物腰も柔らかそうだが、その眼は全くの別物。

 

アセムのように・・・・・それ以上かもしれない。

俺のことをじっくり観察するような眼で見てくる。

 

ラズルはそういう感じは皆無だが、纏うオーラがあまりに荒々しい。

 

二人ともどういう能力を持っているかは分からないけど・・・・・。

 

ラズルが俺に指を突きつけて叫ぶ。

 

「さぁ、戦おうぜ! 俺ぁ、おまえと戦いたかったんだ!」

 

「・・・・なんで、俺なんだよ?」

 

「そりゃあ、親父殿がおまえのことを語っていたからだよ! 最強の魔王シリウスを、そして親父殿を殺しかけたロスウォードを倒した男! そんなスゲェ奴の話を聞いて、大人しくしてられっかよ!」

 

あぁ・・・・こいつもバトルマニアなのか・・・・。

 

なんで、こんな奴ばっかり、俺の周囲に集まってくるんだ!

 

そんな熱い視線で俺を見ないで!

暑苦しい!

 

「出来れば、私とも手合わせ願いたいですね。あなたの力、私も気になっているので」

 

おまえもかぃぃぃぃぃぃ! 

 

嫌がらせか!? 

 

これは俺に対する嫌がらせか!? 

 

なんで、アセムの下僕の男二人は俺に興味津々なんだよ!? 

 

せめて、ヴィーカにしてくんない!?

 

俺が抗議の眼をアセムに向けた時だった―――――

 

「・・・・解析完了(アナライズ・コンプリート)

 

「―――――っ!?」

 

いつの間にか俺の背後に一人の少女が立っていた。

 

幼い顔立ち。

背丈からして中学生くらいだろうか?

 

真っ白な肌に足元まである真っ白な髪。

何もかもが白い少女。

 

その少女は俺の鎧に触れていた。

 

俺に気づかれずに―――――――。

 

得体の知れないその少女の存在に俺は思わず、その場から大きく飛び退いてしまう。

 

・・・・・いったい、いつ俺の背後に回ったんだ?

 

声がするまで全く気付かなかった。

 

アセムがその少女に声をかけた。

 

「やぁ、ベル。途中で別れちゃったけど・・・・どこに行ってたんだい?」

 

ベルと呼ばれたその白い少女は顔をあげて、アセムの方を見ると一言。

 

「・・・・おしっこ」

 

「・・・・・」

 

無言になるアセム。

 

えっ!?

 

そこで無言なの!?

 

何か返してあげないの!?

 

「「・・・・・・」」

 

あっ!

 

ヴァルスとラズルも黙りやがった!

 

何で黙るの!?

 

暫しの沈黙を経てアセムが口を開く。

 

「まぁ、そういうことで・・・・」

 

「えっ!? 何がっ!?」

 

「分かると思うけど、この子は僕の最後の下僕にして、最強の下僕、『絵師(マーレライ)』のベル。可愛いでしょ~?」

 

「スルーして勝手に紹介しないでくれる!? つーか、まさかと思うがおまえ、その子とも・・・・・!」

 

「アッタリー♪ 毎晩お世話になってます♪」

 

「そんなロリっ娘とだと!? そこにヴィーカは交ざるのか!?」

 

「おおっ、よく分かったね」

 

「こんの変態神がぁぁぁぁ!」

 

「いや、おっぱいドラゴンの君に言われてもねぇ」

 

この野郎!

歳上お姉さんとロリっ娘から同時に相手をしてもらっているのか!

なんて神だ!

 

クソォ・・・そんな子供の姿してるくせに!

 

小学生の俺が見たら血の涙を流してるところだぞ!

 

はぁ・・・はぁ・・・・お、落ち着け、俺!

 

俺には皆がいるんだ!

 

べ、べべべ別に羨ましがることはない!

 

大人の体だからこそ出来ることもあるんだからな!

 

美羽なんか、いつもチュッチュッしてくれるし!

 

『それだけじゃないけどね~』

 

ま、まぁ、それは言わない・・・・。

 

『放課後の保健室で美羽ちゃんと・・・・! あれはドキドキするわよね!』

 

それ言っちゃダメだろ!?

 

なんでおまえがドキドキしてる!?

 

「まぁ、とにかく、これで僕の下僕達は全員紹介できたかな? これが『アセムくんの四天王!』なんてね」

 

『武器庫』ヴィーカ、『覗者』ヴァルス、『破軍』ラズル、そして『絵師』ベル。

 

アセムの作り出した下僕達。

 

今のところヴィーカしか能力が割れてない。

 

ほかの三人はどういう――――――

 

真っ白な少女―――――ベルが小さな口を開く。

 

「パパ・・・・解析できた。もう召喚できる」

 

この子はさっき、俺の鎧に触れて解析完了と言っていた。

どう解析したのかは分からないけど、おそらく俺の力をを解析したのだろう。

 

ただ・・・・召喚だと?

 

俺を解析して、召喚?

 

あの子はいったい何を・・・・・

 

その言葉にアセムは笑みを浮かべた。

 

「うん、ありがとう。ラズル、ヴァルス。君達には悪いけど、勇者君の相手はまた今度ね」

 

「そりゃねぇぜ、親父殿! ここに来てお預けかよ!?」

 

「ゴメンゴメン。ちょっと試したいことがあってね。ベル、早速お願いできるかな?」

 

「・・・・うん」

 

ベルはコクリと頷くと右手の人差し指を突きだした。

 

人差し指が怪しく輝き、空中に何かを描いていく。

 

少しして、出来上がったのは――――――鎧姿の俺の絵だった。

 

「・・・・俺?」

 

怪訝に思う俺。

 

そんな俺を無視して、ベルは呪文を口していく。

 

「汝、我が人形となりて形なせ。一時の空想より、姿を現せ―――――」

 

その呪文が唄われ、宙に描かれた鎧姿の俺が強く輝き始める。

 

その絵は形を崩して光の塊と化し、繭のようにも見えた。

 

そして――――――

 

光の塊がガラスが割れるような音と共に砕け散った。

 

「なっ・・・・・!?」

 

俺は繭から出てきた物を見て、眼を見開いた。

 

なぜなら、それは――――――

 

解析召喚(アナライズ・サモン)――――赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)

 

――――――赤龍帝の鎧を纏う俺が目の前に出現した。

 

 

 

 

 




ユーグリットは次回で!


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21話 クリフォト

「おいおい・・・・何だよ、その能力は・・・・!?」

 

俺は眼前に立つ者を見て、驚きを隠せないでいた。

 

アセムとその下僕、『絵師』のベル。

 

そして―――――赤龍帝の鎧。

 

ベルが描いた絵から生み出されたそれは紛れもなく、赤龍帝の鎧だった。

この力の波動も正に赤龍帝のそれだ。

 

『馬鹿な・・・・!? まさか、神滅具を・・・・俺の魂を複製したというのか!?』

 

ドライグですら、この反応だ。

 

アセムがベルの手を握りながら言う。

 

「この子の主な能力はね、描いた存在を具現化することなんだよ。だから『絵師』。分かりやすいでしょ? 今のは君の、いや、君達の力とオーラを解析することで、君達のコピーを生み出したのさ」

 

『なんだと!?』 

 

「当然、この能力にも限界はあるけどね。とりあえず神格持ちはコピーできないし、勇者くんレベルの力を一度に複数召喚することはできないし」

 

『だが、俺の魂はどうなのだ!?』

 

「ドライグ君の魂は複製できていないよ? 複製したのはあくまで、解析した段階での能力と力のみだからね。ま、君がこっちの鎧に入ってくれるなら? こっちの鎧が本物になるのかな?」

 

『何を馬鹿なことを・・・!』

 

ふざけた口調で言うアセムに憤りを覚えるドライグ。

 

しかし、なんてことだ・・・!

 

俺の力を複製されただと!?

あの一瞬でそんなことが出来るのかよ!?

 

「チートかよ!」

 

「だから言ったでしょ? この子、本当に強いよ? ねー」

 

「・・・・ねー?」

 

アセムを真似てか、可愛く首を傾げるベル。

 

気のせいか、リゼヴィムもアセムも強いロリっ娘を保持しているような・・・・・。

 

リリスもオーフィスの分身だけあって強いだろうし、ベルも能力的にはチートの部類だ。

 

この光景を側で見ていたラズルが口を開く。

 

「ベルの複製能力が親父殿の試したかったことかよ? そんなもん前々から出来てたじゃねぇか」

 

「父上、私もそう思います。確かに勇者殿の能力は興味深いですが、父上が興味を抱いているのは彼そのものでしょう? 魂を複製できないのでしたら・・・・」

 

ヴァルスもそう続く。

 

「まぁ、そうなんだけどね。今回は複製だけじゃないんだよ。―――――ねぇ、ユーグリットくん?」

 

アセムがそう言うと――――――その背後に降りてくる者がいた。

 

銀髪の男性。

銀色のローブを身に付けたその男。

 

レイヴェルを拐ったはぐれ魔法使い達を指揮してやがったあのクソ野郎だ!

 

「ユーグリット! おまえがここで出てくるのか!」

 

「先日ぶりですね、赤龍帝。用事を済ませてここに来ましたら、ちょうど準備が整っていたようなので」

 

そう言うとユーグリットは冷たい視線で燃え上がる町を見渡す。

 

「しかし、因果なものです。弱点を無くしたかった吸血鬼が、邪龍となって祖国を襲っているとは。彼らは吸血鬼であることを誇りに感じながらも吸血鬼の生き方を嫌った。その結果がこれです」

 

「嫌うにしても、他の道を選べば良かったのにねー。楽に進化するなんて考えるからこうなるんだよ」

 

俺は二人の言葉に怒気を含ませながら言う。

 

「おまえらの言うことは分かる。さっきも言ったがな、吸血鬼の上役連中はろくでもない奴らばっかりだったよ。・・・・だがな、関係ない人達まで巻き込んでんじゃねぇよ!」

 

上役連中やそれに荷担した吸血鬼共は自分勝手な都合で、ギャスパーを、ヴァレリーを傷つけた。

やろうとしていたことだって、多くの人を傷つけるろくでもないことだった。

 

そんな奴らは滅んでしかるべきだ。

邪龍になったのも半分自業自得みたいなもんだ。

 

だからと言って、罪のない人達を巻き込んでいいことにはならない!

 

「俺はここでおまえらをぶちのめす! この馬鹿げた騒ぎも早急に終わらせてやる!」

 

赤いオーラを迸らせながら、俺は一歩前に出た。

 

ユーグリットは銀色のローブを脱ぐと、アセムに問う。

 

「アセムさま。よろしいですか?」

 

「うん、いいよ。僕もどうなるか見てみたいし。ベル、やってあげてよ」

 

「・・・・うん」

 

アセムに指示されたベルは魔法陣を展開。

 

俺の複製とユーグリットの背中に手を当てる。

 

赤いオーラと銀色のオーラが膨れ上がっていき、徐々に融合し始めて――――――

 

ユーグリットが赤龍帝の鎧を纏いやがった!?

 

鎧を纏ったユーグリットは鎧の感触を確かめるように手を握ったり開いたりしている。

 

ユーグリットの力が混ざったせいか、所々に銀色になっているが・・・・・。

 

アセムが言う。

 

「ふんふん、いい感じに定着したじゃん♪ 勇者くんの力はどんな感じかな?」

 

「素晴らしいですね。力が溢れてくるようです」

 

「それはそうだろうねー。なにせ、君の力に勇者くんの力も上乗せされてるんだし?」

 

マジかよ・・・・!?

 

ユーグリットに俺の力が上乗せ!?

 

ってことは、錬環勁気功まで使えるんじゃ・・・・。

 

だとしたらマズい!

こいつらのアスト・アーデ侵略が近づいてしまう!

 

内心、かなり焦る俺だが、そんな俺を見透かしたようにアセムが笑う。

 

「この複製体では、錬環勁気功は使えないよ。ベルがコピーできるのはその段階で解析対象が持ってる『力』と『能力』までだからね。錬環勁気功は能力じゃなくて『技』だ。複製の対象外だよ」

 

そ、そうか・・・・対象外なのか。

 

それを聞いて安心したぜ。

 

いや、それでもベルの能力は脅威だが・・・・。

一度、解析されれば複製せれてしまうからな。

 

「まぁ、仮に複製出来たとしても、あれは神層階で確立された神の技だ。そう簡単に使えるような技じゃない。・・・・だからこそ、それを会得した君は凄いと思うよ、本当」

 

お褒めに預り光栄ですってか・・・・。

 

いやはや、何とも面倒な・・・・。

 

こうなれば、この先の展開は自然と読めてくる。

 

アセムが掌を叩いた。

 

「さぁ、赤龍帝同士でやってみてよ。こんな機会は滅多にないよ~?」

 

やっぱ、そうくるよな。

 

ユーグリットもそれを受けて構える。

 

「ええ。私も存分にこの力を使ってみたいと思っていましたから。―――――いきますよ、兵藤一誠」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

ユーグリットの鎧から倍加の音声が鳴り渡り、奴のオーラが飛躍的に増大した!

ユーグリットが赤と銀のオーラを纏わせながら突っ込んでくる!

 

かなり早い!

 

『気をつけろ、相棒! 今のユーグリット・ルキフグスは奴の力に相棒の力が加わっている! それが事実だとすれば―――――』

 

ああ、分かってる!

 

単純計算で、今のユーグリットの方が強い!

 

だからって退けるかよ!

 

俺は鎧を天翼から格闘戦特化の天武に変えてユーグリットを迎え撃つ!

 

「でぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

俺とユーグリット、互いに突きだした拳が衝突!

 

俺達は拮抗するが、それはすぐに崩れた。

 

押し勝ったのは俺だ。

 

奴の鎧は通常の赤龍帝の鎧だ。

対して、俺はそこから更に進化させた鎧。

 

倍加の速度はこちらの方が圧倒的に速い。

 

それなら、奴が倍加してきても、力の差を埋めることが出来るはずだ。

 

そして、その予想は的中。

 

ユーグリットは押し負けたことを受けて、感嘆の声を漏らす。

 

「ふむ、これが禁手を進化させたあなただけの力ですか。今の私を押し返すとは・・・・・。ですが―――――」

 

奴がそこまで言うと、奴の周囲にスパークが飛び交い始めた。

鎧が赤と銀色の輝きを放ち、その形態を変え始める。

 

それを見て、俺は大きく眼を見開いた。

 

「それは・・・・・!?」

 

「ええ。あなたの力です。禁手第二階層、天武と言いましたか」

 

「っ!」

 

ちぃっ・・・・今日はやけにビックリドッキリイベントが多くないか!?

 

確かに俺の力を複製して作られた鎧を纏ってはいたが・・・・まさか、天武まで使えるなんて!

 

「では、もう一度拳をぶつけ合ってみましょう」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

今度は奴の鎧から加速された倍加の音声が発せられる!

 

本当に天武の性能を発揮しているのか!

 

再び、俺とユーグリットの拳がぶつかり、先程よりも強い衝突が生まれる。

余波で周囲の雪が吹き飛び、建物が崩壊するほどだ。

 

そして、今度は俺が押し負けた。

 

あまりの衝撃に吹き飛ばされ、後方の建物に突っ込んでしまう!

 

今ので右腕が痺れてしまった。

いや、恐らく骨に達してるな、この痛みは。

 

右腕を抑える俺にユーグリットが言う。

 

「姉のグレイフィアと比べても自分の力が劣ったと思ったことなどありません。そこにあなたの力が加えられれば、こうなることは必然でしょうね」

 

グレイフィアさんは魔王クラスと称される冥界最強の『女王』。

それと同等の悪魔に俺の力が加算された。

 

こいつはかなりヤバいな・・・・。

 

「天武が使えるってことは天撃も使えるんだろう?」

 

「そのようですね。ただ、あなたがつい先程まで使用していた鎧までは再現できないようですが」

 

天翼は再現できないのか?

 

近くで俺とユーグリットの戦いを見ていたベルが首を傾げながら言う。

 

「うん、そこまで解析出来なかった。だから、そこだけは省いた」

 

解析できなかった?

 

『天翼には私の力が混じってるからじゃないの?』

 

なるほど。

イグニスの力は解析出来なかったのか。

 

ま、それが分かったところで、ピンチなのは変わらないか。

 

俺は瓦礫を押し退けて立ち上がるとユーグリットを見据える。

 

まともにやり合えば、無駄に消耗するうえにこちらがやられる、か。

 

まいったね。

 

俺は鎧を天武から天翼に変えて、ユーグリットと向かい合う。

 

「鎧を変えましたか」

 

「今のままじゃ、どうやっても力負けするだろ。力で敵わないなら技で勝負だ」

 

そう言って俺はフェザービットを展開!

 

ユーグリットと共に上空へと飛翔する!

 

始まる空中戦!

 

「ドライグ、ビットの制御頼んだ!」

 

『任せろ!』

 

フェザービットを操り、あらゆる角度からの砲撃をユーグリット目掛けて放っていく。

 

逆にユーグリットが砲撃してきたら、シールドモードに変えてバリアーを張る。

 

天翼は攻防一体の力。

その仕様のおかげで天武の鎧を纏うユーグリットとギリギリのところで戦えていた。

 

しかし――――――

 

「なるほど。これは厄介です。ならば、これならどうでしょうか」

 

奴は天武の鎧を天撃に変えて全砲門を展開した!

 

六つの砲門から放たれる極大の砲撃が、フェザービットを呑み込み、次々に破壊していく!

 

俺の防御が崩れた瞬間、天武に切り換えたユーグリットが俺の懐に潜り込んできて――――――

 

俺の腹部に奴の拳がめり込んだ。

 

鎧が破壊され生身に衝撃が伝わる。

 

「ぐはっ・・・・!」

 

体をくの字に曲げながら、血を吐き出す俺。

 

凄まじい衝撃が俺の体を突き抜ける!

 

「クソッ・・・・!」

 

痛みを堪えながら、横凪ぎに腕を振るうが、ユーグリットはそれをかわして蹴りを入れてきた!

 

グレイフィアさんと同等と言うだけあって、流石に強い!

 

アセムと他の下僕との戦闘も考えて温存していたが、そんなことをしている場合じゃねぇ!

 

俺は即座に領域(ゾーン)に突入!

俺の動きが数段階上がる!

 

ユーグリットの拳を受け止め、全力で殴り返した!

 

「ここに来て動きが変わりましたね。まだ上の力があるのですか」

 

「随分余裕だな、この野郎!」

 

こっちは必死だってのによ!

 

「いえいえ、これでも動揺していますよ。なにせ、今の私とこうして渡り合える。普通に考えれば、私が圧倒できるはずなのに。流石は異世界で魔王を倒し、勇者と呼ばれるだけはあります」

 

こいつ、さっきから俺のことを誉めているのかもしれないけど・・・・・どうにも、その言葉にイラつく。

 

その言葉に何も感じられないからか・・・・?

 

そうして、格闘戦を繰り広げると、俺とユーグリットは互いの掌を合わせて押し合う形となった。

 

そこで、俺は天撃に変更!

全砲門をユーグリットに向ける!

 

「ゼロ距離だ! こいつでくたばりやがれっ!」

 

その言葉と共に砲門が鳴動し始め、オーラをチャージしていく!

 

この距離なら・・・・!

 

すると、ユーグリットも俺に合わせるように鎧を天撃に変えて砲門を展開。

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

奴の鎧から加速された倍加の音声が響き渡る。

 

「ドラゴン・フル・ブラスター、でしたっけ?」

 

「てめぇ・・・・っ!」

 

ゼロ距離で放たれた二つの砲撃が空を赤と銀色に染めた―――――。

 

 

 

 

 

「ゲホッ・・・・ガハッ・・・・」

 

 

ユーグリットの砲撃に呑み込まれた俺は地上に落ちた。

 

鎧は完全に砕け散り、全身から血を吹き出している。

 

あの野郎、ほぼチャージなしでドラゴン・フル・ブラスターを呑み込むほどの攻撃を放ちやがった。

 

この威力・・・・俺の力が上乗せされているだけじゃない。

奴自身の力も強力なんだ。

 

倒れ伏す俺の前にユーグリットが降りてくる。

 

俺の攻撃も通っていたのか、奴の鎧もそれなりに損傷している・・・・が、明らかに俺よりダメージが少ない。

 

「どうやら勝負ありのようですね、兵藤一誠。私もダメージを受けてしまいましたが、あなた程ではない。そうですね・・・・あなたが倒れたら、私が赤龍帝を名乗りましょうか? 本物の赤龍帝を倒したのだから、それぐらいはいいでしょう」

 

その言葉に俺よりも先に反応する者がいた。

 

ドライグだ。

 

『・・・・貴様が赤龍帝を名乗るだと? 舐めるなよ、若僧が!』

 

激しい怒りが籠められた声。

 

その声音でドライグは俺を叱咤する。

 

『立て相棒! 確かにあの者が纏うのはおまえの複製かもしれん。だが、おまえではない! あれは偽物だ! あのような者が赤龍帝を・・・・二天龍を名乗るなど俺は許せん! 二天龍は俺とアルビオンだけでいいのだ!』

 

ドライグは怒りと共に自信の籠った声で叫ぶ!

 

『俺が見てきた相棒はこの程度では負けんっ! いいか! 俺と兵藤一誠こそが赤龍帝なりっ! 貴様ごときが赤龍帝を名乗るなど片腹痛い! 真の赤龍帝は俺達だぁぁぁぁぁ!』

 

――――っ!

 

そうだな。

そうだよな。

 

俺は・・・・俺達は今までどんな困難も乗り越えてきた!

激戦を潜り抜け、今日まで生き残ってきた!

 

俺は限界に近い体に鞭打って立ち上がる。

 

「分かるぜ、ドライグ! 俺とドライグ、二人揃っての赤龍帝だ! おまえが赤龍帝を名乗る? ふざけんじゃねぇ! ああ、こいつは負けられねぇ。 負けられねぇよ!あんなふざけたこと言われたらよ!」

 

『その通りだ! 貴様のような偽物に乳だの尻だのドラゴンSMなどで悩む俺達二天龍の辛さが理解できようはずもない! 俺はようやくアルビオンと分かり合えてきたのだ! 俺達以外の二天龍など、そんざいしていいはずがない!』

 

・・・・・格好よく吼えてるけどさ、前半の内容は違うような・・・・。

 

つーか、それここで叫ぶことなの!?

 

ツッコミ入れる俺だが――――――突然、俺の体に変化が訪れる。

 

傷だらけで限界に近かった俺の体から赤いオーラが吹き出してきた。

力が・・・・溢れてくる。

 

これは・・・・ドライグの方から流れ込んできたのか?

 

『今しがた思いの丈を吐き出した瞬間にアルビオンの声が聞こえてきたのだ。そして、こう言ってきた』

 

 

―――――我らは二体だけの二天龍。おまえの痛みは私の痛み、私の痛みはおまえの痛み。我らは一体ではない! お互いに苦難を乗り越えようぞ!

 

 

ドライグは涙声で続ける。

 

『俺は一体ではないのだ。もう乳も尻も怖くない』

 

なんか、最後に余計な言葉がついていたような・・・・。

 

ってか、おっぱいドラゴンによる辛さを二天龍で分かちあったの?

 

う、うーん・・・・ま、まぁ、それで二人の悩みが解決するなら・・・・。

 

ドライグが威厳のある言葉で言う。

 

『そういうわけだ。故に! 軽々しく天龍を名乗ろうとするあの者に敗れるなど、あってはならないのだ!』

 

そういうわけなのか・・・・・?

 

ま、あいつに負けられないってことだな!

 

意気込む俺達にユーグリットが言う。

 

「満身創痍の体で何をするつもりです? 仮に力が回復したとしても、私達の間には力の差がある。どうしようにもない」

 

「そこは気合いで乗り切る!」

 

とは言ったもののどうやって倒そうか。

 

ドライグさんが精神的に復活したけど・・・・・。

正直、スタミナが残り僅かだし、結構血を流してるんだよね。

 

・・・・今、流れてきた新たな力を試してみてもいいが、スタミナが全然足りない。

 

力が回復したとはいえ、この状況をひっくり返せるほどでもない、か。

 

俺が現状を打破する糸口を探っている時だった。

 

「――――そこまでにしようか」

 

この戦いを終わらせる声がこだました。

 

声の主はアセム。

 

未だアリスと戦闘中のヴィーカ以外の下僕を引き連れ、こちらに歩み寄っていた。

 

「アセムさま。そこまでとは?」

 

ユーグリットに問われたアセムは空を指差して笑った。

 

「いやぁ、このまま君達の戦いを見ているのも良いんだけどね? あんなのが来ちゃったら、赤龍帝対決にならないだろうし?」

 

そう言われて空を見上げると、空が闇に包まれようとしていた。

 

町が、城が、道が、建物が、全てが闇に染まっていく―――――。

 

この現象には見覚えがある!

 

さっき地下で見たばっかりだからな!

 

「ギャスパーか!?」

 

俺が周囲に目線を配ってそう口にすると、真横の空間が歪み始めた。

 

次第に空間から暗黒が出現してきて、形を成していく。

 

―――――あの闇の獣と化したギャスパーだった。

 

ギャスパーは俺の横に位置すると言う。

 

《イッセー先輩、加勢するよ》

 

「目覚めたのか?」

 

《まぁね。事情はアーシア先輩から聞いた。・・・・ゆっくりと寝てもいられないんだね》

 

怒気を孕んだ声音でそう低く発するギャスパー。

 

目が怪しく不気味に光ると―――――この一帯、城下町全体が、黒く、常闇に包まれていった。

 

・・・・な、なんつー規模だよ!?

 

この町全体を闇で支配できるのか!?

 

こりゃ、確かに神滅具クラスだわ!

 

町で暴れていた量産型の邪龍が闇の波に呑み込まれていく光景は圧倒的だった。

 

ギャスパーが邪眼を輝かせると、町中で暴れている多くの邪龍が一斉に停止してしまう。

そして、例外なく闇に呑まれていく。

 

しかも、炎まで消してる!

 

《ヴァレリーから得た力をこれ以上悪用されるのは我慢ならないからね》

 

「ああ、まったくだ」

 

ここでギャスパーが来てくれて、かなり助かった。

 

このギャスパーがいれば、ユーグリットに勝てる算段がかなり上がる。

 

「アハハ♪ いやー、これぞ本当のチートってね。あの男の娘ヴァンパイアくんがここまで凄いとはねぇ。世の中何があるかわかったもんじゃない。・・・・そこが良いんだけどね」

 

楽しげに笑うアセム。

 

「気をつけろ、ギャスパー。あいつが異世界の神だ」

 

《ということは、僕達の敵。ヴァレリーの敵なんだね》

 

ギャスパーの闇が伸びていきアセムを呑み込もうとする。

 

闇が眼前に迫ってもニコニコ顔のアセム。

笑みを浮かべたまま、ゆっくりと腕を横に薙いだ。

 

――――――その動作だけで、迫る闇をかき消した。

 

「僕は君に食べられる気はないよ」

 

《――――っ!》

 

あまりに簡単に闇を払われたことに絶句する俺とギャスパー。

 

霧使いのゲオルクですら手も足も出なかったというギャスパーの闇を・・・・・。

こいつは一体、どれだけの力を持っているんだ!?

 

「ユーグリット!」

 

こちらに向かってくる銀髪の男、リゼヴィム。

 

「リゼヴィムさま」

 

リゼヴィムはユーグリットの横に位置すると、笑いながら辺りを見渡す。

 

「そろそろ撤退じゃい。うひゃひゃひゃ、この闇はやべーな。邪龍にも襲いかかってやがるぜ。クロウ・クルワッハは?」

 

「彼はもうこの町にはいないと思いますよ」

 

「いやー、自由だねぇ、あの邪龍さんは。うひゃひゃひゃ」

 

この状況でも笑うリゼヴィム。

 

アセムがリゼヴィム問う。

 

「もういいのかい?」

 

「なんだか、うちの孫もしつこくてさ。おじいちゃん疲れちった☆」

 

「僕の方もそろそろ切り上げるつもりだったから丁度いいね。ヴィーカは先に帰ったみたいだし」

 

アセムがそう続けていると、こちらへヴァーリが光翼を煌めかせて飛び込んでくる。

 

「リゼヴィム! まだ終わってはいない!」

 

それを見てリゼヴィムがケラケラ笑った。

 

「ま、あんな感じなんだわ。町も大分壊したし、おいとましようや。ユーグリットくん、強制転移でよろしく♪」

 

ユーグリットが素早く転移魔法陣を展開させた。

 

そこへ俺とヴァーリ、ギャスパーが一気に詰め寄っていく!

 

「待て、リゼヴィム!」

 

「逃がすかよ、アセム! ユーグリット!」

 

《ヴァレリーの聖杯を返せ!》

 

三人から放たれる波動。

 

しかし、それはリゼヴィムが突きだした手に触れた瞬間に霧散していく。

 

神器無効化か!

 

リゼヴィムは指を左右に振ってチッチッチッと舐めたようにする。

 

「残念♪ その力が神器に関わっている以上、俺には効かないぜ?」

 

神器に関する力が効かない!

 

だったら――――――

 

「こいつならどうだ!」

 

俺はイグニスを召喚!

 

刀身に全てを焼き尽くす炎を纏わせて振るった!

 

こいつは神器の力じゃないから、リゼヴィムには通じる!

 

これで―――――

 

「おっと、危ない危ない♪」

 

イグニスの炎はリゼヴィム達に届く前にアセムが張った結界に遮られてしまった。

 

「うんうん、いい判断だよ。その剣って本当に強いからね。でも、完全に使いこなせていないみたいだし? 僕に届かせるなら、あの大きな怪獣を消し飛ばした技ぐらいで来ないと」

 

「んなもんここで使ったら、町が消し飛ぶわ!」

 

クソッ!

 

アセムはアセムで単純に強い!

流石はロスウォードの生みの親か!

 

転移の光に消えていく中で、リゼヴィムが最後に宣言する。

 

「あ、そうだ。俺達の名を教えとくぜ。――――『クリフォト』、いい名だろう? 『生命の樹セフィロト』の逆位置を示すものだ。セフィロトに冠する聖杯を悪用するってことで名付けてみた。悪の勢力って意味合いもあるよん♪ ちゃお☆」

 

リゼヴィム、ユーグリット、リリス。

そして、アセム達は転移の光に消えていった―――――。

 

最後の瞬間、アセムは俺に意味深な笑みを送ってきたが・・・・・。

 

ヴァーリが悔しそうに全身を怒りに震わせる。

 

「・・・・俺の夢はグレートレッドを倒すことだった。・・・・クソッ、俺の夢は奴と一緒なのか! 違う! 俺は・・・俺は・・・・あいつとは違う!」

 

ここまでの感情を吐き出すヴァーリを俺は初めて見た。

それだけ憎い相手なんだろう、あの男は。

 

俺も俺でアセム達の危険性を考えていた。

 

あいつは・・・・あいつは一体なんなんだ?

 

ユーグリットと戦っている間、奴は俺のことをずっと観察するように見ていた。

 

上手く言えないけど・・・・何かを待っているような・・・・そんな眼で。

 

「・・・・・あいつは一体、なんなんだ?」

 

小さく呟いた声が僅かにこだました。

 

 




アセムの下僕♂の能力は次章で!


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22話 ギャスパーの宣言!

キリの良いところで終えたので短めです。


アセム達が去り、邪龍変化した吸血鬼の襲撃も収まったツェペシュの城下町。

 

ギャスパーの闇は晴れたが、その様は酷いものだった。

 

道も建物も何もかもが破壊し尽くされ、俺達が訪れた時とはまるで別物だ。

 

現在、ツェペシュとカーミラ、生き残ったエージェント達は住民の避難、誘導に尽力している。

東門にある地下シェルターでは、アーシアを中心としたメンバーが負傷者の治療に専念しているところだ。

 

俺は元に戻ったギャスパーの付き添いで城に戻っている。

当然、城も邪龍の攻撃で滅茶苦茶だ。

 

周囲を見渡す俺に美羽とレイヴェルが近づいてきた。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

「疲弊はしてるけど、大丈夫だよ。美羽もレイヴェルもよくやってくれた」

 

そう言って二人の頭を撫でる。

 

美羽はレイヴェルと組んで住民の保護をメインに邪龍の討伐に当たってもらっていた。

 

服はところどころ焦げたり破れたりしていたが、二人とも特にケガをしているところはない。

 

だが・・・・・

 

レイヴェルは深刻そうな表情で訊いてくる。

 

「アリスさんの具合は・・・・・?」

 

この場にアリスの姿はない。

理由は東門の地下シェルターでアーシアの治療を受けているからだ。

 

アセム達が去った直後、皆と合流するために町の中を移動した俺だったが、そこで信じられない光景を目の当たりにした。

 

―――――全身血塗れで倒れ伏すアリス。

 

辛うじて息はあったものの、傷が深く、虫の息だったのは目に焼き付いている。

 

やったのはアリスと戦っていたヴィーカだ。

 

強いとは分かっていたが、まさかアリスをあそこまで痛め付けることが出来るなんてな・・・・・。

 

アリスはアスト・アーデにおいて、『白雷姫』の二つ名を持つほどの猛者。

 

そのアリスを倒すヴィーカの力は半端じゃない。

 

・・・・他の下僕もヴィーカと同レベルとすると、こいつはかなりマズいな。

 

「さっき、アーシアから連絡あったけど、とりあえずは回復して今は眠ってるそうだ。少し休養を取れば完全回復するだろう。アーシアにはマジで感謝しないとな」

 

「そっか・・・・。よかった」

 

ほっと胸を撫で下ろす二人。

 

アリスが無事で本当によかった。

心からそう思う。

 

しかし、アリスが下された事実に俺達は衝撃を隠せないでいた。

 

「・・・・イッセーさま。一つご報告することが・・・・」

 

「報告?」

 

「・・・・はい。ベルと名乗る女性についてなのですが・・・・」

 

「―――――っ! まさか・・・・触れられたのか?」

 

「はい・・・・」

 

ということはレイヴェルも解析されたことになる。

 

ベルの能力は解析した対象のその段階での『能力』と『力』を複製するもの。

 

いや・・・・アセムの口ぶりからするに能力の一つと言った方が正しいか。

 

とにかく、レイヴェルが解析されたとするとその目的は一つだろう。

 

「あいつら、前回の失敗を取り返しにきやがったな。複製したレイヴェルを基にフェニックスの涙を製造するつもりか・・・・!」

 

やられた・・・!

 

ギリッと歯噛みする俺にレイヴェルが深々と頭を下げる。

 

「申し訳ありません・・・・! 私、イッセーさまの足を・・・・!」

 

頭を下げるレイヴェルの足元にポタポタと滴が落ちていく。

 

レイヴェルは主である俺の足を引張ったと思っているのだろう。

 

俺は涙を流すレイヴェルを抱き寄せる。

 

「・・・・いや、レイヴェルのせいじゃ・・・・あんなチート能力持った奴がいるなんて想像できなかったからな。それに今回の件で一番足を引張ったのは俺だ。・・・・俺は実際に複製されたからな」

 

下手すれば、量産型の赤龍帝なんてものを作ってきそうだ。

しかも、天武、天撃に変身可能なやつをな。

 

今の段階の俺の力は自分で言うのもあれだが、相当なもんだ。

 

仮に量産されたとなると・・・・・頭が痛くなってくる。

 

幸いにも俺クラスの力を持った存在を同時に何体も複製することは無理みたいだが、それは時間をかければ数を創れると言ってるのも同義。

 

早急にベルを倒すなり、捕まえるなりしないと厄介極まりない。

 

俺はそんなことを考えながら、レイヴェルに言う。

 

「全く気にするな、とは言わない。それを言ってもレイヴェルは気にしてしまうだろ? だからさ、失敗をしたと思うなら次で取り返せばいい。失敗を糧にして次に活かすんだ」

 

「イッセーさま・・・・」

 

「だけど、一人で無茶はするなよ? 皆で取り返すんだ。これは主命令だ。破ったらお仕置きするからな?」

 

「はいっ・・・・!」

 

強く返事を返してくるレイヴェル。

 

・・・・こうして言った以上、俺も一人で無茶は出来ないな。

 

まぁ、今回の相手はあまりに強大だ。

端から一人でどうこうできるなんて思ってないけどね。

 

ふと俺の視界に地面にへたり込んでいる女性が目に飛び込む。

 

―――――エルメンヒルデだ。

 

「そんな・・・・裏切り者がいて・・・・邪龍と化して祖国が・・・・? 私はどうすれば・・・」

 

茫然自失したかのようにそのようなことをぶつぶつと口にしていた。

 

彼女の体を支えている女性エージェントからカーミラの城下町でも邪龍の襲撃があったことを伝えられたのだろう。

 

先生の話では天界の御使いが無理矢理介入して邪龍を撃退したというが・・・・やはり被害は甚大なものらしい。

 

ツェペシュもカーミラも立て直しには相当な時間を要するだろうというのが先生の見解だ。

 

・・・・カーミラ側にも聖杯の誘惑に負けた裏切り者がいて、あげく量産型の邪龍と化して町を襲った。

カーミラ側の行動がマリウス達にリークされていたことも、彼女は知ってしまったんだと思う。

 

彼女の祖国を思う気持ちは本物だ。 

 

そして、同じカーミラ側に属する吸血鬼達も自分と気持ちを共にしている、そう思っていたはずだ。

 

・・・・その信頼が裏切られた。

 

彼女の心は今、非常に混乱しているはずだ。

 

俺が声をかけたところで、耳に入らないだろう。

ここはそっとしておくのがベストだと思う。

 

そんな中、城の地下からギャスパーが戻ってくる。

背中にヴァレリーを背負った状態で。

 

俺達がギャスパーを手伝おうとした時だった。

あいつの前に立つ者がいた。

 

―――――ギャスパーの親父さんだ。

 

「・・・・・」

 

無言でギャスパーを見つめる親父さん。

 

ギャスパーは臆せず真っ直ぐに宣言する。

 

「僕はリアス・グレモリーさまの眷属悪魔! 『僧侶』のギャスパーです!」

 

ギャスパーは親父さんに深く頭を下げる。

 

「いままでお世話になりました。けど、僕は二度とここには戻りません。ヴァレリーも連れていきます」

 

ギャスパーはすれ違いざま、こう最後に告げた。

 

「――――僕達のお家は日本にありますから」

 

「・・・・・」

 

親父さんは何も言わない。

 

しかし、ギャスパーが完全に通りすぎた後、その背中をじっと見つめていた。

 

そして、俺達を一度見た後、瞑目してきた。

 

やっぱり、親父さんも心のどこかでは――――――

 

俺達も瞑目して返し、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

襲撃から数時間が経ち、もう日の出の頃だ。

 

この時間帯は吸血鬼達が眠りに入る時間らしく、ほとんどの住民が地下シェルターで休むことになる。

 

俺達は町の中央広場に集まっていた。

ここにはベンニーアとルガールさんもいる。

 

ヴァーリはどこかに消えてしまった。

 

どこに行ったのかは知らないが、最後の悔しそうな表情のヴァーリはよく覚えている。

先生が後でもう一度呼ぶと言っていけど・・・・。

 

アリスは俺が抱き抱えている状態だ。

 

ボロボロだった体はアーシアの治療のおかげで綺麗になっていた。

今は穏やかな表情で眠っている。

 

こりゃ、暫くは起きないな。

 

先生が再度ヴァレリーの様子を伺って言う。

 

「やはり、ヴァレリーの意識を戻すには、リゼヴィムに奪われた分の聖杯もなければダメだ。もともと、三個でワンセットの亜種の聖杯だ。そのうち一つを抜かれた時まではギリギリ意識を保てていたようだが、二つ目で完全に意思が止まってしまったのだろう。・・・・やはり、ヴァレリーの意識を覚まさせるには奪われた聖杯を取り戻すしかないな」

 

となると、リゼヴィム率いる『クリフォト』と名乗る新生『禍の団』をどうにかするしかないか。

 

俺が疑問を口にする。

 

「でも、三個ある内、一つしか抜き出さなかったのはどうしてなんでしょうね?」

 

リゼヴィム達はマリウスと違い、ヴァレリーの聖杯が亜種で三個でワンセットだということに気づいていた。

 

その上でなぜ一つ以上望まなかったのか。

 

「・・・・吸血鬼側を泳がせるため、とか政治面も思いつくが・・・・・。一つで十分・・・・いや、一つ以上の制御は難しいと判断したんだろう。奴らの話しぶりでは一つでも禁手に至れるだろうしな。おそらく、マリウスがヴァレリーに使わせていた時も一つしか機能していなかったはずだ。二つ以上の使用は彼女の体がもたなくて、ヴァレリー自身が無意識に発動を抑えていたのかもしれん。まぁ、真相はこれからだな」

 

なるほど、一個以上では扱いが難しいと判断したのか。

 

でも、先生の予想が事実なら聖杯の能力って本当に凄いものだ。

一つで吸血鬼の強化から邪龍の復活まで成し遂げているのだから。

 

先生は息を吐く。

 

「ヴァレリーのこともそうだが・・・・。アセムとその下僕達。話だけでは信じられん能力だ。まさか、神滅具をその場で複製してしまうとは・・・・」

 

「実際に目の当たりにした俺でもまだ驚いてますよ。しかも、俺の力――――第二階層まで使用可能ときてるんですから」

 

「・・・・今後、おまえの複製が量産される可能性は十分にある。そうなれば、地獄だぜ。一体一体が魔王クラスなんだからな。早急に各勢力に話をつけて、龍殺しの力を持つ戦士を揃える必要がある。木場、おまえは龍殺しの聖魔剣を創れたな?」

 

先生の問いに木場は頷く。

 

「はい。龍殺しの聖魔剣のデータ、ですね?」

 

「そうだ。知っての通り、天界では既に量産型の聖魔剣の生産体制が整いつつある。その量産型聖魔剣に龍殺しを付与できれば複製イッセーの対策になる」

 

複製イッセー・・・・・なんか嫌な呼び方だな。

 

でも、俺の特性がそのままコピーされているなら、龍殺しの聖魔剣を量産するのは対策の一つになり得るだろう。

 

美羽が顎に手を当てて言う。

 

「ベルの複製能力は神以外なら使えるんだよね? だったら、下手に強者をぶつけるわけにはいかないよね」

 

「その通りだ。それも通知する必要があるな。・・・・異世界の悪神とやらは規格外だ。正直、聖書の神すら超えてるんじゃないか? 生み出した手下共が強力過ぎる」

 

ティアもそう続いた。

 

規格外、か。

 

アスト・アーデの神アセムとその下僕四人。

 

俺は、俺達はあいつらを相手にどう戦えばいい?

 

悩む俺を置いてギャスパーがヴァレリーの頬をやさしく撫でる。

 

「ヴァレリーを見てくれてありがとうございます、アザゼル先生」

 

ギャスパーは先生にお礼を述べた後、立ち上がって皆を見渡す。

 

強い眼差しで、真っ直ぐな瞳でギャスパーは口を開く。

 

「僕、決めました。―――――僕は聖杯を取り戻します」

 

登りつめた朝日に照らされるギャスパー。

 

その姿はこの場にいる誰よりも雄々しく、凛々しいものだった。

 

「誰よりも強くなって、聖杯をあいつらから取り戻して・・・・必ず、ヴァレリーを・・・ヴァレリーともう一度最初から・・・・。ヴァレリーは必ず、絶対に・・・・!」

 

言葉を詰まらせながらも涙をぐっと堪えて、ギャスパーは宣言した。

 

「ヴァレリーは僕が救う!」

 

・・・・こいつ、一気に成長したな。

 

強い眼だ。

今までで一番強い眼だ。

 

もう、怯えて泣いていたギャスパーの面影はない。

 

男の顔だった。

 

こいつなら、絶対に強くなれる。

恩人の女性を取り戻すと決めたギャスパーなら。

 

今よりももっと、遥かに――――――。

 

 




次回で現在の章のラストです(予定)


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23話 D×D結成です!

ツェペシュとカーミラの城下町で起きたテロによる壊滅的被害から五日が過ぎた。

 

俺達は日本に戻り、各神話勢力の出方を待っていた。

 

『リリン』として聖書に記されし者、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーと異世界の神、アセム。

 

この二人の登場、思想に冥界も天界も他の勢力の神々の間で大混乱となっている。

 

邪龍を使い世界規模で大混乱をもたらそうとしている上に、伝説の魔獣トライヘキサまで蘇らせようとしている。

しかも、最終的には異世界への攻撃を宣ったのだから。

 

これを受けて、各神話体系の主神は、この事態を過去最高の危険レベルと断定。

 

和平を結んだ勢力同士で『クリフォト』に対する対抗策を協議することが決まったそうだ。

今回の一件、各神話体系において、史上初となる宗教、思想を超えた国際問題に発展しようとしていた。

 

異世界が絡むということで、当然、俺も上層部の会議に呼ばれた。

俺が異世界から帰還し、美羽やアリスが向こうの住人であったことは今回の騒ぎで完全に露呈されたからな。

 

俺が疑問を話したのは基本的にアスト・アーデという世界についてだ。

向こうはどんな世界で、どんな神がいて、どのような事情を持っているのか。

会議に参加した上層部、神、魔王、全員が興味深く聞いていたよ。

 

・・・・中には美羽とアリスを調べさせろ、なんて言う奴もいたけどな。

 

そんなもん即却下だ。

 

興味本意であいつらの体を弄られるのは我慢ならないからな。

 

まぁ、そのあたりはサーゼクスさんやアザゼル先生、ミカエルさんの三大勢力トップ陣がフォローしてくれたので一応の解決はした。

俺も軽く脅しを入れておいたけどね。

 

あれから、リゼヴィム達は行動を起こしていないが、各勢力、各主要拠点の警戒体勢は解かれていない。

 

深夜、駒王学園に集まる面々。

 

オカ研メンバー、生徒会メンバー、アザゼル先生、グリゼルダさん、デュリオ、ティア、幾瀬さんの他にサイラオーグさん、シーグヴァイラ・アガレス、更に初代孫悟空にヴァーリチーム。

 

すごい面子が揃っていた。

 

まさか、ヴァーリチームに加えて初代孫悟空のじいさんまで来るとはね。

 

ここには各勢力の名うての先兵が集まったって感じだ。

 

全員が顔を合わせたところで、リアスが先生に問う。

 

「上の反応はどうなの?」

 

「流石に今回の件は無視できないとして、非協力的だったところも話し合いに応じると言ってきている。リゼヴィムとアセムの思想は危険だ。現に無視できない規模の破壊を吸血鬼の領土で出してしまったからな」

 

あいつらはツェペシュ、カーミラの城下町のテロで甚大な被害をもたらした。

死傷者も少なくない。

 

しかも、これはあいつらにとって始まりに過ぎないんだ。

 

先生はため息を吐く。

 

「とある神話からは武力による介入も辞さないと過激な発言も出ている。今はオーディンやゼウスなどの主神がその神話体系に忠言を発しているようだが・・・・これ以上、テロが続くとどうなるかわからん。何せ各神話で危険視され滅ぼされた邪悪なドラゴン共が一斉に暴れ回り出したんだからな。しかも、それを指揮しているのが前ルシファーの息子ときている。冥界で起こった魔獣騒動はあくまで冥界側の被害で対岸の火事と高をくくっていた連中もヤバいと感じたのさ。―――――トライヘキサが復活して、グレートレッドと戦えば全世界が崩壊するかもしれん」

 

『―――――っ!』

 

先生の告白に全員が言葉を失っていた。

 

・・・・・やっぱりそうなんだな。

 

なんとなく予想はしていたよ。

グレートレッド級の魔物が二体も暴れたらそうなるのも頷ける。

 

もしグレートレッドが倒され、次元の狭間を守護する存在がいなくなればどうなるか・・・・・。

どんなことになるのかは想像できないが、ろくでもないことが起こるのは確かだろう。

 

しかし、俺は先生の言葉に疑問を覚えた。

 

「その過激発言している連中が危険視しているのはリゼヴィムと邪龍だけなんですか?」

 

「・・・・おまえの言いたいことは分かる。おまえの話を聞いてアセムとその一行に最大限の警戒する者もいるが、中には未知の存在であるアセムよりもリゼヴィムに対する警戒を強める者もいる。・・・・未だ半信半疑なんだろうな」

 

先生の言葉にティアが舌打ちする。

 

「ちっ・・・どこのどいつだ、そんなことを言っている奴は」

 

「でも、仕方がないと言えるわ。リゼヴィム・リヴァン・ルシファーの危うさは各勢力のトップ間で知れ渡っている程のものだと聞くわ。どんな存在かも分からないアセムよりはそちらの対処を優先するでしょうね」

 

リアスも息を吐きながらそう続けた。

 

リアスの言うことも理解はできるんだよ。

 

そもそも、今までは異世界なんて存在自体あるかどうかって問題だったんだ。

それが、異世界の神が既にこちらの世界に来ていて暴れようとしている、なんて言われても信じられる者は少ないだろう。

 

ま、リゼヴィムも十分に危険なんだけどさ。

 

先生は苦笑する。

 

「そんな顔すんなって。俺達が他勢力から攻撃を受けるわけじゃない。ただ、再び共通の敵をどの勢力も持っちまったことに問題があるだけだ」

 

グリゼルダさんも続く。

 

「ミカエルさまも主の代行として、他勢力と交渉しております。過激な発言をした神話体系もミカエルさまからの指示で落ち着いたところもありますよ」

 

おおっ、流石は天使長!

 

やっぱり、ミカエルさんもできる人だな!

 

先生が指をひとつ立てる。

 

「それとひとつ、各勢力の首脳から提案がされている。それは対テロ組織チームの設立だ」

 

対テロ組織チーム?

 

全員が先生の言葉に注目して、耳を傾けていた。

 

「吸血鬼の領土でのテロを受けて、各勢力が警戒を強めているのは先に話した通りだ。もちろん、どの神話にもクソ強い神はいるが、おいそれと自ら赴いてテロリストと戦うのもあらゆる体裁が付きまとってできないときている。そこで、リゼヴィム達とまともに張り合え、すぐに動ける実力者を集めたチームが必要になったというわけだ」

 

なるほど、それは必要だな。

 

仮に各勢力の神が戦って消滅でもしたら、えらいことだしな。

 

それで、ここで俺たちにその話をするってことは・・・・

 

先生が集うメンバーを見渡して言う。

 

「そのチームは各勢力の自由が利いていて強い者ほど都合がいい。もう分かるな? そう、ここにいるおまえ達が対テロリストの混成チームとして挙がっている。ここに集うメンバーは実力としては申し分ない上に、物凄く動きやすい」

 

『若手四王』、アザゼル先生と刃狗にレイナ、転生天使のイリナ、グリゼルダさん、デュリオ、龍王達、初代孫悟空。

 

ここにいるメンバーは破格とも言えるだろう。

 

皆も反対する気配は微塵もない様子で、 

「私は賛成よ。こんなときだからこそ、皆で力を合わせるべきよ」

 

リアスの賛成に他のメンバーも続く。

 

「問題ないでしょう。俺もリアスや兵藤一誠達と共に戦わせてもらおう」

 

「異論ありません」

 

「こちらも。主に後方支援になりそうですが」

 

サイラオーグさん、ソーナ、シーグヴァイラさんも同意した。

 

「儂も別にないぜぃ。年寄り一人より若いもんとやったほうが楽じゃい」

 

初代も賛成してくれた!

すげぇ、あの孫悟空と共闘だ!

 

皆がチーム結成に賛同する中、デュリオだけは「うーん」と首を捻っていた。

 

先生が問う。

 

「どうした? 何か不満か?」

 

「いえね、名前が必要じゃないかなーって思って。折角チーム作るんですし」

 

あー、名前ね。

 

確かにチーム名的なものはいるかな。

テロ対策チームってだけじゃね。

 

すると、小猫ちゃんがぼそりと呟いた。

 

「―――――『D×D(ディー・ディー)』」

 

小猫ちゃんの呟きに全員の視線が集まった。

 

小猫ちゃんも注目され驚いていたけど、そのまま恥ずかしそうに続ける。

 

「異形達の混成チームなのでなんとなく・・・・」

 

リアスが問う。

 

「『D×D』の意味は? グレートレッドを指しているのかしら?」

 

「いえ、デビルだったり、ドラゴンだったり、堕天使の堕天、ダウンフォールだったり・・・・色々です」

 

それを聞いて先生がうんうんと頷いた。

 

「名前が必要だってのは確かなことだ。しかし、なるほど、『D×D』か・・・・。『D×D』たるグレートレッドを守るという意味でもわかりやすい。俺はそれでいいと思うが?」

 

「変な名前じゃなければいいんじゃないスかね?無難だと思いますよ」

 

と、デュリオ。

 

「儂はどうでもいいさね。まぁ、そのへんは若いもん達に任せるわい」

 

初代はどうでも良いらしい。

 

他のメンバーも「まぁ、無難だろう」という感じでOKを出した。

 

・・・・こうして、チームを組むことで他の勢力で嫌な顔をする者が出るかもしれないけど、そこは仕形がないんだろうな。

 

ってか、自分達が動けないから俺達が動くということになったんだ。

 

そのあたりは我慢しろってね。

 

などと考えていると先生がデュリオに指を突きつける。

 

「リーダーはおまえな、デュリオ」

 

「・・・・・・」

 

突然の振りにデュリオは反応できず、無言になるが―――――

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? じ、自分すか!? な、なんで!? いや、マジでなんで!?」

 

かなり驚いているな。

 

どうやら、デュリオはこういうのを振られるのは苦手らしい。

 

デュリオは焦りながら、俺を指指して続けた。

 

「リーダーなら、イッセーどんでしょ!? 異世界帰りだし、なんか向こうで勇者とか言われてたんでしょ!? 断然、リーダー向きじゃないすか!」

 

お、俺かよ・・・・。

 

あー、そうそう、この場にいるメンバー全員、俺の秘密を知っている。

 

ま、もう既に秘密ではなくなってるんだけどね。

 

先生がデュリオに言う。

 

「おまえの言わんとすることは分かる。異世界が絡む件も含めてイッセーがリーダーだと何かと都合がいい。だがな、悪魔や堕天使がリーダーってのは体裁的にまずいんだよ。世間的に悪役イメージで固まってる。その点、天使ならいいイメージで満載だ。特に人間から天使になったってところもポイントが高い」

 

まぁ、そうだよね。

体裁を考えるなら、天使の方がイメージが良い。

 

でも、デュリオは納得できないようで、

 

「えー・・・・、そんな感じで決めちゃうんですか? 俺、そういうのは・・・・」

 

うん、リーダーをやるのは嫌って感じだな。

 

すると、グリゼルダさんがデュリオにもの申した。

 

「デュリオ、これは大変名誉なことです。歴史に名を残せるのかもしれないのですよ? やっておきなさい。・・・・いえ、やりなさい。『切り札』を体現した役職者にいる以上、やるべきです」

 

おおっ、最終的に命令しちゃったよ!

 

グリゼルダさん怖い!

 

その迫力にデュリオも断ることができず、ついに折れた。

 

「・・・・うぅ、姉さんには敵わないなぁ。わかりましたよ! やりますです、はい!」

 

皆の前に立って、デュリオが改めて挨拶する。

 

「えー、まぁ、そんなわけでして。俺がリーダーってことでよろしくです」

 

うん、全然やる気が感じられねぇや!

 

しっかりしろい、リーダー!

 

実力と役職は完璧なんだから、期待するしかないか!

 

先生が初代に視線を向ける。

 

「サブリーダーは初代に任せたい。副職で申し訳ないんだが・・・・」

 

「ええよええよ。勢いのある若いもんが頭になるほうがよかろうて」

 

初代がサブリーダーを引き受けた!

 

リーダーが天界の切り札で、サブリーダーが初代孫悟空か!

 

それだけで、このチームの凄さが分かる!

 

次に先生はヴァーリに視線を向けた。

 

「ヴァーリ。リゼヴィム達の計画の抑止力として、おまえ達のチームをこの混成チームへ参加させるべきと主張する。それによって、おまえ達への不信感を少しでも払拭させるつもりだ」

 

今は違うといえ、ヴァーリチームは『禍の団』に所属していたため、各勢力から危険視されている。

今回結成されるチームに参加させることで、それを緩和させたいのだろう。

 

何よりヴァーリ程の戦力は今後必要になってくるだろうし。

 

ヴァーリがアルビオンに問う。

 

「アルビオン、アザゼルが言っているが、宿敵と組むことに不満はないのか?」

 

『私はかまわん。それよりも赤いの、今度は千年前の戦いについて語ろうか』

 

『うむ、俺もかまわんぞ、白いの。いやー、昔話は楽しいなぁ』

 

二天龍はチーム結成よりも、二人での話し合いの方が大切らしい。

 

・・・・・うーん、マイペース!

 

「・・・・ずいぶん、仲がいいな」

 

ヴァーリも若干戸惑ってる!

 

ですよね!

 

俺もだし!

 

アルビオンとドライグが元気に答える。

 

『我らが揃えば乳だの尻だのもう怖くないのだ! なぁ、赤いの!』

 

『ああ、おっぱいだろうがヒップだろうがドンと来いというもの! 俺達はそんなものには屈しない!』

 

『『ねー』』

 

おいおい!

 

この性格の変化はなに!?

 

「ねー」って言った!

 

二天龍が「ねー」って言った!

 

『むっふっふっふっ。それじゃ、仲直りの印に私が二人まとめて縛ってあげる! さぁ、来なさい! 新しい世界へ連れていってあげるわ!』

 

『『イヤァァァァァァァァッ!』』

 

おいぃぃぃぃぃぃぃ!

 

何してんだ、この駄女神はぁぁぁぁぁぁ!?

 

なんか、悲鳴聞こえたって!

 

やめてあげて!

 

今は二人を放っておいてあげて!

 

「兵藤一誠。縛る、とは?」

 

「聞かないで! おまえにそんなこと教えられない! とりあえず、ごめん! うちの駄女神がほんっとごめん!」

 

ヴァーリにドラゴンSMなんて教えられないよ!

 

つーか、ドラゴンSMってなに!?

 

俺も分かんない!

 

「・・・・こんなところで、二天龍の長年の因縁に決着がつくとはな・・・・。わからんものだ」

 

サイラオーグさんも首を傾げていた。

 

ですよねー・・・・・しかも、原因が俺みたいだし・・・・。

 

ほんっと、世の中何が起こるか分かんないぜ☆

 

「ですが、ヴァーリ・ルシファーとその仲間達が『禍の団』に荷担していたことは大きいのでは?」

 

と、ソーナが挙手して先生に問う。

 

先生は頬をかきながら言う。

 

「あー、そのことなんだが、オーディンのじいさんが全て承知の上でヴァーリを養子として受け入れたいと申し出てきた」

 

「マジですか! って、そこは先生じゃないんですね。一応、育ての親なんでしょう?」

 

俺がそう言う。

 

しかし、先生は首を横に振った。

 

「さっきも言ったが悪魔、堕天使ってのは天使や他の神に比べると体裁が悪いんだ。俺は堕ちた天使の頭をやっていた者。そんな俺よりはオーディンのじいさんの方がずっと良い。あのじいさんは古い神の一角。オーディンが養子に迎え入れるとなれば、アースガルズ神族も他の勢力の神々もおいそれと文句は言えんだろう。・・・・それでも条件と制限はつくだろうが、今よりは身軽に動けるようになる。どうだ、ヴァーリ?」

 

先生の問いにヴァーリはしばし考えた後、

 

「お互いに利益が出そうな時は協力しよう。あとは独自にやらせてもらう」

 

「それは合意と見て良いんだな?」

 

直接は返さないヴァーリだけど、これはOKということだ。

 

ヴァーリがオーディンのじいさんの養子ねぇ・・・・凄い肩書きになったもんだ。

 

ヴァーリは黒歌とルフェイに視線を送る。

 

「黒歌とルフェイは基本的にそちらに預ける。こちらでも必要になったら呼ばせてもらうが。黒歌、ルフェイ。ここは任せる」

 

「任せられたにゃ」

 

黒歌は敬礼ポーズで了承した。

 

俺は息を吐く。

 

「ってことは今まで通り、家の食客ポジションか」

 

「んーふふふ、よろしく頼むにゃ、赤龍帝ちん♪」

 

「へいへい。あ、そうだ、黒歌。おまえ、また俺のアイス食っただろ」

 

「あー! あれ、あんたの仕業だったの!? 私のも食べたでしょ!?」

 

俺の一言にアリスが便乗する。

 

そう、こいつは風呂上がりの楽しみをいつも奪っていくんだ!

 

許せん!

 

「いやー、ついね? テヘペロにゃん♪」

 

こいつ、全然悪く思ってねぇ!

 

黒歌とそんなやり取りをしていると、アーサーがルフェイに話しかけていた。

 

「ルフェイ」

 

「は、はい、お兄さま」

 

「良い機会です。あなたはこのチームに参加しなさい。今回の恩赦を受けるべきです。――――赤龍帝」

 

俺に視線を送るアーサー。

 

「なんだ?」

 

「現在、契約する魔法使いを探していると聞いています。妹と契約していただけませんか? 冥界の英雄であるあなたと契約を結べばルフェイは家に戻れるでしょうから」

 

「あー、その件な。了解だ。いいだろ、レイヴェル?」

 

俺は近くに立つレイヴェルに話をふる。

 

レイヴェルも頷いた。

 

「今回の混成チームに参加することで、『禍の団』に関与したことがある程度晴らせるのであれば、問題ないと思いますわ」

 

流石は我がマネージャー!

話が分かるぜ!

 

「てなわけだ。今すぐにって言うわけではないけど、近く契約を取りたいと思う。ルフェイはどうだ?」

 

「あ、私ですか・・・・? 私は赤龍帝さまと契約できることは・・・とても、その、光栄です!」

 

ルフェイも恐縮しながらも頷いてくれた。

 

それを受けてアーサーが珍しく感情のある微笑みを浮かべていた。

 

「心より感謝します。この借りはいつか返しましょう」

 

「・・・・にしても、おまえもルフェイを大切に思ってんだな」

 

「ええ。たった一人の妹ですから」

 

「うん、それ分かる」

 

・・・・・何か、アーサーとは分かりあえるような気がした。

同じ妹を持つ兄として。

やっぱり、妹って可愛いし大切にしたいよね!

 

気づけば、俺とアーサーは握手を交わしていた。

 

そんな中、美羽が先生に訊く。

 

「これって組織した後はどう動くの?」

 

「普段通りにすれば良い。この大所帯をおいそれと全員を動かせるわけにもいかないだろう。皆、それぞれの役職を持っているしな。事件が起きたときに動ける者同士で連絡を取り合って協力すれば良いんだ。そのための編成だからな」

 

「そっか。それもそうだね」

 

こちらとしても生活をいきなり変えられたんじゃ、かえって動きにくいしな。

 

状況に合わせて動くって感じか。

 

初代が一歩前に出て言う。

 

「さて。若いもんで強くなりたい奴はおるかねぇ」

 

「それはどういうことでしょう?」

 

リアスの質問に初代はしわくちゃな口元を笑ます。

 

「おまえさん達は儂が一から鍛えるでな。―――――全員、最低でも上級悪魔、上級天使、上級堕天使クラスに成長してもらわんとこれを結成した意味がないぞぃ。ゆくゆくは最上級クラスになってもらうわけじゃい」

 

初代が俺達を鍛えるのか!

確かに、俺も修行相手になってもらえるのはありがたい!

初代っていろんな技を持ってそうだし!

 

っと、俺も皆に言うことがあったんだ。

 

「俺も皆に習得してもらいたいものがある。―――――領域(ゾーン)。極限の集中状態、これに入れるか入れないかで戦いのレベルが変わってくる」

 

領域は集中力を極限にまで高めることで入れる世界。

自分を相手と異なる時間軸に置く技だ。

 

今後の敵のレベルを考えると必須になるだろう。

 

「もちろん、無理な指導はしない。こいつは脳にかなりの負荷をかけるからな。下手すりゃ、自滅も有り得る諸刃の剣だ。だから、一人一人のレベルに合わせた修行をするつもりだ」

 

「それは・・・・アセム達を警戒してのことだな?」

 

先生の問い。

 

「はい。少なくともヴィーカは入れるかと。それからベルも」

 

「ったく、手下でそのレベルなんだから、頭が痛くなるぜ」

 

先生が額に手を当てながら息を吐く。

 

いやー、俺も頭が痛いです・・・・・。

 

初代が見渡すように言う。

 

「邪龍との戦い方は儂が一から教えてやるわい。特に今回は相手が相手。神とも戦えるようにならんとのぉ」

 

 

 

 

 

 

 

会議を終え、家に戻った後。

 

俺は一人、家の屋上にいた。

 

屋上の手すりにもたれかかり、夜の駒王町を眺める。

 

「静かだな。・・・・夜中だから当たり前か」

 

吸血鬼の町では夜中に激戦だったからな。

多分、それもあって余計に静かだと感じてしまうのかもしれない。

 

 

――――テロ対策チーム『D×D』

 

 

今回結成されたこのチームは各勢力がテロに対抗するための象徴とも言えるチームだ。

 

俺は・・・・俺達はこのチームと共にリゼヴィムと、アセムと戦っていく。

 

 

 

―――――復活した邪龍

 

 

―――――奪われた聖杯

 

 

―――――トライヘキサ

 

 

―――――前魔王ルシファーの息子

 

 

そして――――――

 

 

「アスト・アーデの神・・・・アセム。おまえの好きにはさせねぇ。この世界も向こうの世界も無茶苦茶にされてたまるか。絶対に止めてやる」

 

俺が一人、改めて決心している時だった。

 

屋上に入ってくる人物がいた。

 

「ベッドにいないと思ったら、こんなところにいたのね」

 

アリスだった。

 

パジャマ姿にサンダルを履いた状態でこちらに歩み寄ってくる。

 

「おまえ、寝てなかったか?」

 

「さっきまではね。目が覚めたのよ」

 

そう言って、アリスは俺の隣に立つと同じような格好で手すりにもたれかかった。

 

「テロ対策チームなんてものが結成されて、かなり大事になってきたわね」

 

「ああ。今回は今までのテロとは変わってくるからな。トライヘキサが復活して暴れたら、世界が崩壊しかねないんだ。誰もが必死になる。もっとも、前々からこういうチームがあれば、京都でも魔獣騒動の時でももうちょいやりやすかったかもしれないけどな」

 

まぁ、そんな過ぎた話をしても仕方がないのだけど。

 

「モーリス達には知らせるの?」

 

「ああ。今度、向こうに行くぞ。おまえと美羽には着いてきてもらう」

 

「・・・・そうよね。万が一のこともあるし、向こうでも何か対策を打ってもらう必要があるわね」

 

「万が一が無いのが一番ベストなんだけどな。・・・・いや、その万が一を絶対に防がなきゃいけないんだ」

 

俺は強く拳を握る。

 

すると、アリスがその拳に手を重ねてきた。

 

「私も同じ気持ちよ。絶対に防いでみせる。何がなんでも」

 

強い決意の籠った瞳。

 

重ねられた手に力が入っていた。

 

そんなアリスに苦笑しながら言う。

 

「だけど、無理はするなよ? ・・・・また、ボロボロのおまえを見るのは嫌だぜ?」

 

「うっ・・・。心配かけて・・・・ごめん」

 

ばつの悪そうな顔で謝罪してくる。

 

いつも、ボロボロで周囲に心配かけまくってきた俺が言えることじゃないけどさ。

 

アリスが血塗れで倒れている姿を見たときは心臓が止まるかと思った。

気の流れが分かる俺はアリスが生きていることは分かっていたものの、それでも衝撃だったんだ。

 

俺は夜空を見上げながら言う。

 

「ヴァレリーの聖杯が抜かれた後のギャスパーを見て改めて思い出したよ。・・・・失うことの怖さってやつをな」

 

決して忘れていたわけじゃない。

その恐怖は常に俺の中にあった。

 

でも、動かなくなったヴァレリーを抱きしめて涙を流すギャスパーが昔の俺と重なったんだ。

 

そして、ユーグリットとの戦闘の後、血塗れのアリスを見つけて・・・・。

 

「アリスが生きていることが分かった時は、力が抜けそうになった。――――生きていてくれて、本当にありがとう」

 

俺の言葉を聞いて、アリスは目元に涙を浮かばせるが、それを堪えて言ってくる。

 

「もう二度と、あんたにそんな恐怖を感じさせないように私も強くなる。もう誰にも負けない。あ、言っとくけど、無理はしないからね? あんたに止められそうだし」

 

「ハハハ、頼むぜ――――――俺の『女王』」

 

「任せて―――――私の主さま」

 

俺達が互いに微笑み合っていると、屋上に冷たい風が吹いた。

 

その風に触れたアリスの体が震える。

 

「へっくち!」

 

「おいおい・・・・そんな薄着じゃまーた風邪ひくぞ? 部屋に戻った方が良いんじゃないか?」

 

「あははは・・・・もう少しここにいるわ。せっかくだし」

 

「せっかくって・・・・どういう意味?」

 

「気にしない気にしない。そういえば、温かそうな上着着てるじゃない」

 

「そりゃあ、夜は冷えるからな・・・・ってまさかおまえ・・・・」

 

アリスの企みを察した俺は半目でアリスを見るが・・・・・アリスはイタズラな笑みを浮かべて―――――

 

「そのまさかよ♪ 大人しく私を入れなさいな」

 

「はぁ・・・・。ま、いいけどさ」

 

俺が了承すると同時に、俺の上着の中に入ってくるアリス。

 

その表情はどこか楽しげで、嬉しそうにも見えた。

 

やれやれ・・・・うちの『女王』さまも中々に甘えん坊のようで。

 

俺とアリスは暫しの間、夜の町を眺めていた。

 

 

 

 




というわけで、『課外授業のデイウォーカー』は完結となります。

伏線の回収やら新キャラの投入やらで思っていたより長く、『異世界召喚のプリンセス』に次ぐ話数となりました。

それにしても・・・・・メインヒロイン、アリスだったっけ!?
ダブルヒロインで来てますけど、今回は完全にアリスがヒロインでしたね。

さて、新たな章に入る前に、次回は番外編を描こうと思ってます。
内容はまだ決まっていないので、少し間が空くかもしれません。



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番外編 赤龍帝眷属、温泉へ行く! 前編

すいません、滅茶苦茶早く書けました(笑)


テロ対策チーム『D×D』が結成された次の日のこと。

 

兵藤家のリビングにて。

 

「イッセー。今度の休日は暇?」

 

と、母さんが訪ねてきた。

 

母さんはちょうど買い物から帰ってきたところで、テーブルには買い物袋から出された食品が並べられている。

 

母さんの手元に目をやると何かの雑誌・・・・いや、あれはパンフレットか?

他にもチケットらしきものが握られていた。

 

俺は母さんに問う。

 

「それ温泉? どうしたの?」

 

「いえね、買い物の帰りに商店街で福引きを引いたのだけれど、当たったのよ。温泉旅行、一泊二日」

 

「また当てたんだ。母さんってそういうの強いな」

 

「そりゃあ、日頃の行いが良いからよ」

 

あ、自分で言ったよ、この人。

 

母さんはこういう福引きとかではよく当たりを引く。

宝くじもほぼ毎回、一万円くらいなら当ててたりする。

 

この人の運の良さは一種の異能なんじゃないかと思うときがあるんだよね。

 

「前も温泉旅行当ててなかった?」

 

「そうそう。だからね、今回はイッセーに譲ろうと思うのよ。どう?」

 

「どう、と言われてもな・・・・。まぁ、俺は空いてるけどさ。ちょっと、それ見せてよ」

 

俺は母さんからチケットとパンフレットを受け取って内容に目を配らせる。

 

ふむふむ・・・・料理は海の幸、と。

おおっ、蟹もついてんじゃん!

蟹鍋だ!

 

部屋は和室で、露天風呂付き!

 

部屋からは海が見えるのか、そいつはいい!

 

で、人数は・・・・・四名一組か。

 

「四名一組・・・・俺が行くとしてあと三人。誰を誘うか」

 

「アリスさんなんて良いんじゃない? こっちに来てから遠出したことなんてほとんどないでしょう?」

 

あー、なるほど。

 

冥界にはちょくちょく行ってるけど、普通に人間界で遠出したことってないな。

 

いいとこ、隣町くらいだ。

 

うん、母さんの言う通り、これは良い機会かもしれない。

 

「よし、アリスは連れていこう。どうせ暇だろうし」

 

などと呟いていると、後ろから声をかけられた。

 

「呼んだ? というか、『どうせ』ってなによ、『どうせ』って」

 

アリスが半目でこちらをジトーと見てきていた。

 

どうやら、俺の呟きはバッチリ聞かれていたらしい。

 

俺はパンフレットをアリスに見せながら事情を説明する。

 

「母さんが温泉旅行を当ててな。四人一組なんだ。アリスはこっちの世界に来てこういうところに行ったことないだろ? 良い機会だから誘おうと思ってたんだよ」

 

「へぇ、温泉・・・・。わぁ、この料理美味しそう。良いわね。お言葉に甘えて連れていってもらおうかしら」

 

アリスはパンフレットに載っている色鮮やかな料理に心を踊らせているようだ。

 

とりあえず、アリスは決まりっと。

 

あとの二人だが・・・・・。

 

どうするか・・・・・。

 

すると、パンフレットを眺めていたアリスが思い付いたように言った。

 

「ねぇ、これ行けるのは四人までなのよね?」

 

「ん? ああ、そうだよ。俺とおまえは確定として、あと二人だ」

 

「それじゃあさ、美羽ちゃんとレイヴェルさんを誘えば良いんじゃない? ほら、私達の眷属ってちょうど四人だし。赤龍帝眷属の親睦を深めるって名目でもアリだと思うわ」

 

あー、なるほど。

そういう考えもあるな。

 

これから、俺達は『D×D』として忙しくなるし、こんな旅行も滅多にできるものじゃないだろう。

特に異世界に絡む案件が出てきた場合の忙しさは半端じゃないはずだ。

なにせ、うちのメンバーは四人中三人が異世界関係者だからな。

 

それに、俺達、赤龍帝眷属だけで出掛けたりすることってしたことないしね。

 

眷属の親睦を深める。

アリスの意見は俺もアリだと思う。

 

俺も眷属の三人にはくつろげる時間を作ってあげたかったし。

 

「あ、いたいた。アリスさん、このコスプレ衣装なんだけど・・・・」

 

「イッセーさま。今度、冥界で行われるイベントについてお話が」

 

と、図ったかのように美羽とレイヴェルが登場。

 

つーか、美羽が持ってるきわどいメイド服はなに!?

 

「み、美羽ちゃん! そ、その話は今はなし!」

 

アリスが慌てて美羽からメイド服を取り上げるが・・・・それ、おまえの!?

 

アリスがメイド服!?

 

それは是非見てみたい!

 

後でお願いしてみよう!

 

おっと、少し脱線したな。

話を元に戻そうか。

 

「二人ともちょうど良いところに来てくれた。実は―――――」

 

俺は温泉旅行について二人にも声をかけてみた。

 

で、二人とも即OK。

 

こうして俺達、赤龍帝眷属だけの温泉旅行兼親睦会が決定した。

 

 

 

 

 

 

出発当日の朝。

 

「全員集まってるな?」

 

俺は家のガレージ前に集合している美羽、アリス、レイヴェルの点呼を取る。

 

三人とも・・・・特にアリスとレイヴェルは人間界で初の遠出になるので、わくわくしてるようだ。

 

目元に若干隈が・・・・眠れなかったのな。

 

俺と美羽はぐっすり眠れたので、すこぶる快調だ。

 

「えーと、とりあえず現地まではこいつで行く」

 

俺は後ろに着けていたものをポンポンと叩く。

 

それはバイクだ。

 

全長が三メートル近くある超大型のバイク。

SFに出てきそうな近未来的な曲線のボディで、カラーは俺をイメージした鮮やかなメタリックレッド。

サイドには赤龍帝の紋章が描かれていて、なんとも中二心を擽られるデザインとなっている。

 

こいつがアザゼル先生お手製俺専用バイク『スレイプニル』。

 

スレイプニルって名前はオーディンのじいさんが乗ってる軍馬から取っているとのこと。

 

で、その性能なんだが・・・・・普通に音速を超えて走ることができる。

しかも、空は飛べるわ、水上は走れるわ、次元の狭間に飛び込めるわで、ハイスペックだ。

 

見た目も性能もお化けなバイクなんだ。

 

正直、普通の高校生が乗るようなバイクではない。

 

大体、俺はまだ大型の免許は持っていないんだが・・・・このバイクは明らかに大型の部類に入る。

 

外国ではどうか分からないけど、少なくとも日本ではアウトだ。

 

それを先生に言ったところ、

 

 

『人間の法律は悪魔には適用されないのさ!』

 

 

と、胸を張って言われた。

 

うーん・・・・あの人、この町に住んでるけど大丈夫か?

 

美羽が言う。

 

「すっごく目立つよね」

 

見た目ハデだし、何よりデカいからな。

 

つーか、音速超える時点で色々とおかしい。

 

だけど、そこは先生。

手は打っていてだな。

 

俺はシートの前に着いているいくつかのボタンを指差した。

 

「ここのボタンを押すと透明になって、ここを押すと人間の認識に入らなくなるらしい」

 

つまり、視界に入っていてもそれが気にならなくなるということだ。

 

「・・・・本当に多機能だね」

 

「だろ? これでも先生に言って機能を減らしてもらったんだぜ? 最初はボタンを押したらミサイルが出てきてだな・・・」 

 

「うん、すっごく多機能! ミサイルなんていらないよね!?」

 

「だから、先生に言って作り直してもらったんだよ。あの人、無駄な機能を付けすぎだ」

 

実は他にも色々と機能が着いていたりした。

 

一番ヤバかったのはサテライト兵器だったか。

 

ボタンを押すとレーダーみたいなのが出てきて、『半径一キロ範囲にいる友軍は退避してください』なんて音声が流れてきた。

 

で、それを見た俺は―――――

 

 

『はずせぇぇぇぇえ! マジではずせぇぇぇぇえ!』

 

 

と絶叫したのは今でも鮮明に覚えている。

 

つーか、サテライト兵器ってなに!?

 

いや、サテライト兵器自体は知ってるよ!

アニメとかでも出てくるし!

 

だけど、バイクにサテライト兵器の起動スイッチをつけた意味は!?

 

いらないよね!?

 

・・・・・まぁ、そんな感じでこのバイクを受けとる際に色々とあったんだよね。

 

ちなみに、このスレイプニル。

燃料は俺のオーラなので環境にやさしい。

 

つまり、スレイプニルはエコな乗り物なのだ。

 

すると、レイヴェルが言う。

 

「転移魔法陣で行くものと思ってました」

 

レイヴェルの言う通り、転移魔法陣で行った方が確実で速い。

 

いくらこのバイクの性能がぶっ飛んでいても、転移魔法陣で行けば一瞬だしな。

 

今回、バイクで行くと言い出したのは俺のちょっとしたワガママだ。

 

「先生が昇格祝いで作ってくれたしな。俺もこいつに乗って遠出がしたいと思ってたんだよ。あ、人数的には問題ないからな? この間、先生に頼んでサイドカー着けてもらったから、四人で乗れる」

 

バイクの横に接続されたサイドカーを指差す。

 

こちらも本体に合わせたデザインとなっていて、全体的に見た時の迫力が凄いことに。

 

・・・・正直、「超かっけぇ!」と思っている俺がいる。

 

いやー、こういうのに乗るのって憧れはあったんだよ!

 

色々と無駄な機能は着いていたけど、先生、ありがとう!

 

「今更だけど、ボク達だけ旅行って他の皆に申し訳ないね」

 

美羽が苦笑しながら言う。

 

うっ・・・・それは・・・・。

 

現にリアス達に「いいなぁ」って感じで見られてたもんな。

 

その時、この場に現れる者がいた。

 

リアスと朱乃だ。

 

「気にしないでいいわ。眷属との親睦を深めることも大切なことよ。存分にはねを伸ばしてきなさい」

 

「うふふ、こちらは任せてくださいね?」

 

「その代わり」

 

「次は私達と行ってもらえると嬉しいですわ」

 

おおう、交互に言われてしまった!

 

ま、まぁ、美羽達だけってのもね。

 

「了解。今度は二人と行こうか」

 

俺の返しに二人は頬を染めて嬉しそうにしていた。

 

ハハハ・・・・こりゃ、アーシアやゼノヴィア達とも約束させられそうだ。

 

うーむ、どこに連れていってあげようか?

 

時計を見ると良い時間になっていた。

 

「さて、そろそろ出発するわけだけど・・・・三人はどうする?」

 

「どうするって?」

 

「サイドカーに座るか、俺の後ろに座るか。そこは三人に任せるよ」

 

俺がそう言った瞬間。

 

三人の目の色が変わった。

 

「アリスさん、レイヴェルさん」

 

「ええ、分かっているわ」

 

「僭越ながら私も参加しますわ」

 

 

 

そして――――――――

 

 

 

「「「じゃんけん・・・・ポンッ!」」」

 

 

 

壮絶なジャンケン合戦を繰り広げ始めた!

 

この光景に見覚えがあるぞ!

 

あれは・・・・・そう、体育祭の二人三脚、俺とのペアを組むときにも同じことが起こった!

 

三人のあいこ続いていく!

 

「くっ・・・・美羽ちゃん、今日は譲らないのね!」

 

「お兄ちゃんの後ろに乗ったことがないからね! 今日は久しぶりにいかせてもらうよ!」

 

「いつも遅れを取っていますから、今日ぐらいは勝ちに行きますわ!」

 

な、なんか熱いなぁ・・・・。

 

燃えてる・・・・。

 

楽しい旅行日なのに、目がマジだ。

 

それからしばらく・・・・約五分ほど、じゃんけんの攻防戦が続いた。

 

その勝者は――――――

 

「やりましたわ! 私が勝ちました!」

 

レイヴェルだった。

 

右手をチョキのまま天に向かって突き出して、すごく爽やかな顔をしてるな。

 

敗者となった美羽とアリスは心底悔しげに自ら出したパーに対してぶつぶつうらみごとを吐いていた。

 

俺は苦笑しながら言う。

 

「そんなに落ち込まなくても、また乗せてやるって。とりあえず、美羽とアリスはサイドカーに乗ってくれ」

 

「「はーい」」

 

二人は返事をして順にサイドカーに乗車。

 

乗車した二人にヘルメットを渡す。

 

で、レイヴェルにも乗車しようとしたのだが・・・・・ここで一つ問題が発生した。

 

「え、えーと・・・・」

 

バイクに乗ろうとして、四苦八苦するレイヴェル。

どうも、この手のものに乗るのは初めてらしい。

いや、レイヴェルの身長に対して、このスレイプニルというバイクが大きすぎるのも一つの原因か。

 

それでも何とかして乗ろうとする姿は可愛らしく思えてしまった。

 

ただ、このままだと転びそうなんだよなぁ。

 

「レイヴェル、ちょっと待った」

 

俺はレイヴェルに近づくと――――――抱き抱えた。

お姫様抱っこで。

 

「「あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

リアスと朱乃が叫ぶ!

 

そんなにショックか!?

 

俺はレイヴェルを抱き抱えた状態からシートに乗せて、ヘルメットを被せてあげる。

 

「今度、練習するか?」

 

「あぅっ・・・・は、はい」

 

めちゃくちゃ顔真っ赤になってるな。

上手く乗れなかったのが恥ずかしかったのか、お姫様抱っこが恥ずかしかったのか。

 

ただ言えることは、うちのレイヴェルちゃん可愛い!

 

まぁ、また乗る機会があるかもしれないし、練習は必要かな。

 

「「じゃんけん、ポンッ! あいこでしょ! あいこでしょ!」」

 

うおおおおおい!

 

なんで、リアスと朱乃はじゃんけんしてるの!?

 

「朱乃、これは譲れないわ!」

 

「こちらの台詞ですわ!」

 

「「お姫様抱っこは譲れない!」」

 

いやいや、俺のお姫様抱っこごときで争わないで!

まだどこに行くかさえ未定なのに!

 

とりあえず、滅びの魔力と雷光は抑えよう!

滲み出てる!

滲み出てるって!

 

「お兄ちゃん、女の子にも色々あるんだよ?」

 

「そ、そうか・・・・色々あるのか、そうなのか」

 

俺は乙女心の難しさを改めて実感しながらもヘルメットを被り、バイクにまたがった。

 

エンジンをかけると、ドッドッドッと大きなエンジン音が鳴り始める。

 

「レイヴェル、しっかり捕まっておけよ?」

 

「は、はい!」

 

レイヴェルは俺の腰に手を回して、しっかりと抱きついてくる。

 

うおおっ、レイヴェルのおっぱいが!

レイヴェルのおっぱいが押し当てられて!

相変わらずボリューミーなことで!

 

お兄さん、朝から色々元気になっちゃうぜ!

 

「それじゃあ、行ってくる!」

 

俺はリアスと朱乃に手を振った後、スレイプニルを走らせたのだった。

 

 




というわけで、今回は赤龍帝眷属一行の温泉旅行です!

アザゼル発明のイッセー専用バイク『スレイプニル』も出せました。

次回は後編です!


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番外編 赤龍帝眷属、温泉へ行く! 中編

書いてたら長くなったので、三編構成にしました(笑)

今回もほのぼのしてます。


兵藤家を旅立って数時間後。

 

俺達は目的地に到着していた。

 

言っとくけど、音速は出してないからな?

ちゃんと日本の法定速度は守ってここまで来たよ。

 

旅館は木造の純和風で、古いけどボロいという印象はない。

むしろ古風で趣を感じる。

歴史のありそうな所だった。

 

「見て見て! 海が綺麗だよ!」

 

「私、人間界の海って初めて見ましたわ!」

 

「良い眺めじゃない」

 

俺がチェックインしている間にテンションを上げていく眷属の三名。

 

さっそく盛り上がっているようで。

 

「お部屋へご案内します」

 

旅館の人に案内され、俺達の部屋へと向かう。

 

階段を上がり、長い廊下を進んでいく。

 

観光客も結構来ているようで、部屋にたどり着くまでに多くの人とすれ違った。

 

・・・・どうにも注目されてるんだよね。

 

理由はもちろん、美羽達だ。

 

全員が美女美少女なので、観光客・・・・主に男性からの視線が集まってくる。

 

よーし、変な奴が言い寄って来ないように注意しておくか!

これも主の勤めだ!

 

案内された部屋はパンフレットに載ってた通りの綺麗な和室だった。

真新しい畳が敷かれ、冷蔵庫にテレビ、テーブルが備え付けられている。

 

部屋に入った俺達がしたこと、それは―――――

 

荷物を置いた俺達は部屋の奥に進み、扉を開ける。

 

「「「おおっ!」」」

 

視界に入ってくるのは海が見える露天風呂!

うーん、見事な眺め!

檜の良い香りが漂ってくる!

これを俺達で一日独占できるというのだから、最高だ!

し、しかも、これは混浴出来るんじゃないのか!?

だって、美羽が手握ってきてるし!

温泉旅館で一緒に温泉に入るってのは、いつもとは違う興奮があるな!

 

母さん、ありがとう!

当ててくれて、ありがとう!

感謝、感激、感動だよ!

 

待て、落ち着け俺!

今は昼を過ぎた頃、風呂にはまだ早い!

お風呂タイムまで待つんだ!

 

俺は今からお風呂タイムが待ち遠しくて仕方がなかった。

 

 

 

 

お風呂は夕食の後に入ることにした俺達。

夕食までにはまだ時間があるということなので、それまではのんびり過ごすことにした。

 

 

そして、現在―――――

 

 

「ふっ。私の勝ちね、イッセー。大人しく負けを認めなさいよ」

 

「おいおい、勝負ってのは最後まで分からないもんだぜ?」

 

「ふふん、そんなこと言ってもこの状況をどうやって覆すのよ? 私とあんたの差は歴然。勝てると思ってるの?」

 

「勝ってみせるさ。俺には――――――切り札がある」

 

不敵な笑みを浮かべながら対峙する俺とアリス。

 

互いの視線がぶつかり、バチバチと火花を散らせている。

 

俺は右手を高く上げて、最高の切り札を召喚する!

 

「うおりゃぁぁぁぁ! 必殺のドローフォーじゃぁぁぁぁい!」

 

繰り出される一枚のガード!

 

この圧倒的な差を埋める必殺の切り札!

 

アリスが悲鳴をあげる。

 

「うっそぉぉぉぉぉ!? え、これ何枚!? 何枚引けばいいのよ!?」

 

「えーと・・・・ボクとレイヴェルさん、それから今ので・・・・十枚だね」

 

「えええええっ!? ちょ、イッセー! なんてことしてくれたのよ!? 私、もうあがりだったのにぃぃぃぃ!」

 

美羽の報告に絶望の表情となるアリス。

 

俺達がやっているのは修学旅行では定番中の定番―――――『宇野』。

 

今回の旅行は俺達、赤龍帝眷属の親睦を深めるという名目もあるので、一応持ってきておいたんだ。

 

部屋の雰囲気を味わった俺達は各自浴衣に着替え、この『宇野』大会を始めることに。

 

現在、美羽→レイヴェル→俺→アリスの順にカードを出しているのだが・・・・。

 

美羽とレイヴェルが出したドローツーとドローフォー。

そこへ俺のドローフォーが加わり、ラスト一枚だったアリスのカードは一気に増えることに。

プラス十枚でアリスのカードは十一枚だ。

 

このゲームって公式ルールみたいなのがあるらしいんだけど、その辺りはよく分からないんだよね。

なので、俺達はいわゆるローカルルールでゲームを進めていた。

 

俺は枚数が増えに増えたアリスを見て高らかに笑う。

 

「ふっはっはっはっ! 言っただろ、勝負は最後まで分からないと!」

 

「うぅぅぅぅ! すぐにやられる悪役みたいに笑ってぇ! 覚えてなさいよ、この借りは必ず返すから!」

 

などと言いながらアリスがカードを出し、次に美羽、レイヴェルと順にカードを出して再び俺に回ってくる。

 

ふっ・・・・これはもう、アリスを倒せと言わんばかりに順調じゃないか。

 

俺は手元のカードを見ながらニヤリと笑う。

 

そんな俺の様子にアリスはごくりと喉を鳴らし―――――俺はカードを出した。

 

「ほーれ、スキップ」

 

「鬼ぃぃぃぃ!」

 

「ふははははははっ!」

 

泣き叫ぶアリスと悪役のように笑う俺。

そんな俺達に苦笑する美羽とレイヴェル。

 

「これ終わったら、卓球するわよ! 卓球!」

 

 

 

 

 

 

というわけで、

 

 

「とりゃぁぁぁぁ!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

アリスの希望で温泉旅行定番の卓球大会開幕。

 

旅館の一階にある卓球場で俺とアリスは激戦を繰り広げていた。

 

その動きは明らかに常人の域を遥かに超えていて、通りががった人が「なにあれ、すごい」なんて言葉を残していく程だ。

 

まぁ、俺達悪魔ですから。

それも鍛えてるだけあって並の悪魔のレベルすら超えているんだよね。

 

ちなみに、このラケットも卓球台もピンポン玉も美羽が魔力でコーティングしてくれている。

普通に使ったら間違いなく壊れるからな。

 

「二人とも頑張って」

 

「これ美味しいですわ」

 

俺とアリスが激しい攻防戦を繰り広げている横では美羽とレイヴェルがマッサージチェアに座りながら、売店で買った黒ごまアイスを食べていた。

 

ほのぼのしてるぜ!

 

・・・・・にしても、あれだな。

 

激しい動きで乱れていくアリスの浴衣。

その隙間から見える白い肌。

うなじが、胸元が、太ももがまぶしい!

 

眼福です!

 

俺がアリスの綺麗な太ももに見とれていると、アリスが鼻を鳴らす。

 

「ふふん♪ 中々やるじゃない! でも、これならどうかしら!」

 

その瞬間、アリスの動きが劇的に変化!

 

すさまじいスマッシュが放たれ、ビュンッという風を切る音と共にピンポン玉が俺の横を通りすぎていった!

 

「あ、このやろ、雷の魔力で強化しやがったな!?」

 

「己の全てをかけて相手を倒す。それが戦いよ!」

 

「かっこいいこと言ってるけど、たんなる反則だからね!?」

 

「テヘッ☆」

 

クッソォ・・・・・なめとるな、こいつ。

 

そこまでして勝ちたいか!?

 

「そんなズルッ子に育てた覚えはないぞ!」

 

「いや、育てられた覚えもないわよ!?」

 

アリスにツッコミで返された俺は飛んでいったピンポン玉を拾おうとして振り向き―――――

 

ピンポン玉が壁にめり込んでいるのを見つけた。

 

「ちょ、おいいいいいいっ! おまえ、どんだけ力入れた!? めりこんでるって!」

 

「あちゃぁ、力の加減ミスったかも」

 

「なに呑気にしてんの!? 見つかったら怒られるの俺だからね!?」

 

「眷属の不始末は主の不始末!」

 

「ひでぇ! また俺に擦り付けるつもりか!?」

 

なんて奴だ!

 

こ、こうなったら道は一つしかねぇ!

 

俺はマッサージチェアでくつろぐ美羽のもとに駆け寄り――――

 

「お願い! バレない内に魔法で直してくれぇ!」

 

美羽に泣きついた。

 

 

 

 

 

 

「もう、二人とも羽目を外しすぎだよ? 楽しむのは良いけど限度があるからね?」

 

「「はい・・・・ごめんなさい」」

 

部屋に戻った後、俺とアリスは正座した状態で美羽に注意されていた。

 

うぅ・・・・年長者二人が揃って情けねぇ。

多分、端から見た時の俺達って母親に叱られる子供みたいな感じなんだろうな。

 

美羽がすごく大人に見えてしまう。

 

美羽が部屋の時計に視線を送る。

 

「それなりに時間潰せたけど、夕飯にはまだ時間があるね」

 

「そうなんだよな。・・・・こうなったら、一度風呂に入るのもありか?」

 

「だね。お兄ちゃん、一緒に入るよね? 背中流してあげる」

 

「おっ、それなら俺も美羽の体を洗ってやろうか? こんな感じで」

 

「わっ!」

 

美羽の体に手を伸ばしてこちらに引き寄せると、あぐらをかいた俺の上にすっぽりと美羽が収まる形に。

 

俺は浴衣の上から美羽の体をくすぐり始める。

 

「ひやぁん! くすぐったいよぉ。お兄ちゃん、ここに着いてからテンションあがりすぎ・・・・ふぁんっ!」

 

体をくねくね捩らせながら、甘い吐息を漏らす美羽。

 

うーむ、頬を染めながら弱々しく抵抗してくるところが可愛い!

 

・・・・ただ一つ気になることが。

 

「なぁ、美羽? 浴衣の下って何も着てないのか?」

 

俺がそう問うと、美羽はきょとんとした表情で、

 

「そうだけど?」

 

やっぱりか・・・・。

 

いや、確かに修学旅行の時も美羽は浴衣の下には何も着ていなかった。

 

おそらく、浴衣の下に下着を着けるのは邪道派閥なんだろうな。

 

「美羽、最低でも部屋から出る時はちゃんと下着をつけなさい」

 

「え? なんで?」

 

俺の言葉に聞き返してくる美羽。

 

俺は大きく息を吐いた後、語り出す。

 

「考えても見ろ。浴衣の下は肌。ということはだ・・・・何かの拍子で浴衣が気崩れたら他の男に美羽のおっぱいを見られるかもしれないじゃないか!」

 

もし、さっき美羽が卓球をしていたら!

アリスのように浴衣が気崩れていただろう!

そうなったら、その動きの一つ一つに大きく揺れる美羽のおっぱいなんて容易にさらけ出されていたはずだ!

 

揺れる胸、胸の谷間を流れる汗、艶やかな肌、綺麗なピンク色の乳首!

想像するだけでもう・・・・!

 

俺以外の男が美羽のおっぱいを見るなんてこと・・・・許しません!

お兄さんは許しませんよ!

 

「とにかく、そういうことだ」

 

「アハハハ・・・・まぁ、お兄ちゃんがそう言うならそうするよ。・・・・ボクもお兄ちゃん以外の男の人に見られるのはちょっと、ね?」

 

おおっ、分かってくれたか!

流石は我が妹!

 

などと俺達が戯れている時だった。

 

「やれやれ、どこに行ってもおまえ達は変わらんな」

 

第三者の声が部屋に聞こえてきた。

 

見上げると、そこに立っていたのは浴衣を着た二人の女性。

 

一人は青く長い髪を持ち、もう一人は燃え盛る炎のように鮮やかな赤色の髪色をした女性。

どちらもかなりの美女。

 

・・・・・っていうか、毎日会ってるよね。

 

「ティア!? イグニス!? 何してんの!?」

 

現れたのはお姉さんコンビだった!

 

イグニスは基本的に俺の側にいるから良いとしても、ティアはなんでここにいるんだ!?

 

つーか、なんで二人とも浴衣!?

 

驚く俺達を置いて、ティアとイグニスは遠慮なく座っていく。

 

ティアが室内を見渡しながら言う。

 

「ふむ、中々に良いところじゃないか。窓から見える眺めも申し分ない」

 

「そうなんだよ・・・・って、そうじゃなくてだな」

 

「なんだ? 私達が混ざることに不満か?」

 

「いや、不満じゃないけどさ・・・・。なんでここにいるの?」

 

「今回は赤龍帝眷属の親睦会を兼ねた旅行と聞いてな。そういうことなら、是非参加させてもらおうと思った次第だ」

 

ティアの言葉にイグニスがうんうんと頷きながら続く。

 

「私達、眷属じゃないけど、ティアちゃんはイッセーの使い魔だし、私はイッセーの剣でもあるんだから参加してもオーケーかなーって。・・・・というより、蟹が食べたい!」

 

絶対、最後のが本音だろ・・・・。

そうですか、原初の女神様は蟹をご所望ですか・・・・。

相変わらず欲望に正直なやつ!

 

いや、二人の参加が嫌なわけじゃないよ?

むしろ全然ウェルカムだ。

 

だけど、こうして二人がいることは自然と問題が生じる。

 

「あのさ・・・・俺達、四人でここ予約してあるんだ。部屋もそれ用だし、何より二人分の食事は出ないぞ?」

 

もし、二人がこの部屋に無断で宿泊するなんてことがバレたら旅館の人になんて言われるか・・・・。

 

仮に宿泊許可が出ても二人分の食事が出るか・・・・。

 

流石に夕食抜きの二人の目の前で美味い飯を食うのは気が引ける。

 

すると、ティアは二ヤリと笑った。

 

「その心配は無用だ。なぜなら・・・・私達もこの旅館で部屋を取っているからな!」

 

「なにぃ!?」

 

驚愕する俺達!

 

美羽やアリスがこっちを見て来るんだが、俺はぶんぶんと首を横に振る。

 

俺も初耳なんだって!

 

イグニスが手を挙げて言う。

 

「発案は私でーす! 宿泊費はティアちゃんもちだけど♪」

 

「貯金は十分にある。それぐらいはお安い御用だ」

 

「「イエーイ!」」

 

テンション高めにハイタッチするお姉さん二人。

イグニスはともかくティアがここまでノリノリとは・・・・これはこれで珍しい。

 

レイヴェルが苦笑する。

 

「まさかお二人も参加するとは・・・・予想すらしていませんでしたわ」

 

「なに、参加と言っても食事を共にするぐらいだ。就寝は私達の部屋でするさ。・・・・若い者たちでしたいことも色々あるだろう?」

 

「ふふふ・・・」

 

意味深な笑みを浮かべるティアとイグニス。

 

若い者たちでしたいことって・・・・・。

 

あー、うちの眷属三人の顔が真っ赤に・・・・。

特に経験のないレイヴェルはすごい狼狽えぶりだ。

 

お姉さん二人はいつでもどこでも余裕だなぁ。

 

ティアは膝を叩いて言う。

 

「ま、そういうことだ。少しの間、お邪魔させてもらおう」

 

「OK。ま、こういうのは人数が多いほど楽しいしな。ティア達の夕食はこっちに持ってきてもらえるよう旅館の人に頼んでみるか」

 

「それも心配ない。もう頼んだ」

 

「はやっ!」

 

なんて行動のはやさ!

 

流石はお姉さん、先手先手を行くな!

 

イグニスがテーブルに置いてある茶菓子をポリポリ食べながら訊いてくる。

 

「イッセー達はどうするの? 夕食まで時間あるから、私とティアちゃんは外の足湯にでも行こうと思うのだけど」

 

足湯か。

 

それも良いな。

 

俺は膝を叩いて立ち上がる。

 

「よっしゃ! それじゃあ、足湯行くか!」

 

そんなこんなで、俺達の親睦会はティアとイグニスも急遽参戦することに。

 

俺達は足湯に向かうべく、部屋を後にした。

 



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番外編 赤龍帝眷属、温泉へ行く! 後編

書いてたら少し長くなりました!

色々と詰め込みすぎたかなぁ・・・・


ティアとイグニスが参加したことにより、急遽、六名での親睦会となった『第一回赤龍帝眷属親睦会』。

 

いやはや、まさかこの二人もこの旅館を予約していたとは・・・・ここ数日、全く気づかなかった。

リアス達とは違い、二人とも普通にしてたし。

 

発案がイグニスで、出費はティア。

なんだかんだで良いコンビしてるような気がするよ、俺達のお姉さんは。

 

つーか、ティアも貯金あったのな。

 

そういや、アジュカさんの仕事の手伝いしてるとか言ってたな。

それで稼いでるのか?

 

そんなことを考えながら、俺達は旅館の外にある足湯へ。

 

旅館で借りたサンダルを脱いで湯に足をつけると、冷えた足がじーんとしながら温まっていく。

 

アリスが息を吐く。

 

「ふぅ、足湯ってのも中々良いものよね。向こうにはこんなの無かったし、初めての体験だわ」

 

確かにアスト・アーデの町には公衆浴場みたいなのはあったけど、こういうのは無かったな。

 

・・・・男湯から女湯を覗こうとしてアリスに殴られたっけ。

 

「ぷはぁ! ビールが美味しい!」

 

「おいおい、こんな時間から酒かよ? 夕食の時も飲むんだろう?」

 

「いいではないか、イッセー。こんな機会は中々ないのだぞ?」

 

「そーそー! ティアちゃん分かってる! ほら、ティアちゃんの分も買ってきておいたから」

 

「お、気がきくな。いただくとしよう」

 

イグニスから受け取った缶ビールを受け取るティア。

蓋を開け、イグニスと乾杯してる。

 

浴衣姿でお酒を飲む美女二人。

後ろに見える海も合わさって絵になるな。

 

それを見てアリスがゴクリと喉を鳴らしているのが見えた。

 

「飲みたいんだろ?」

 

「え、あ、いや・・・・アハハハ、まぁね」

 

「いいよ。財布貸してやるから買ってきな」

 

そう言って俺は懐から小銭入れを出してアリスに手渡す。

 

「いいの?」

 

「どうせ、こっちの世界では俺が未成年だからって気を使ってたんだろ? 変な遠慮すんなって」

 

「やった! ふふふ、ありがと、イッセー! 愛してる!」

 

おおっ、なんかすっごいテンション上がってる。

そんなに飲みたかったのか・・・・・。

 

残像が残るほどの猛ダッシュで旅館の中に入ってしまった。

 

あいつ、本当に酒が好きだなぁ。

前みたいに酒に飲まれなければ良いけど・・・・。

酒に酔ったアリス・・・・なんというか、エロいんだよね。

 

アリスが飛び込んで行った旅館の入り口を見ながら美羽が微笑む。

 

「アリスさん、ここに来てからすごく楽しそうだね」

 

「あいつにとっちゃ、何もかもが新鮮だろうからな。中学の時の美羽もあんな感じだった」

 

「そうだっけ?」

 

「そうだよ。目に写るもの全部に反応してただろ?」

 

機械類に対してはあれだったけど・・・・。

自動ドアとか、ね?

 

「でも、アリスさんが楽しいのはそれだけじゃないと思うな」

 

「分かりますわ。多分、アリスさんも私達と同じ気持ちだと思います」

 

「・・・・?」

 

首を傾げる俺。

 

「皆で来たからか?」

 

「それもあるよ。でもね、お兄ちゃんと一緒に来れたことが一番嬉しいんだよ。他の人だったら、ここまで楽しめなかったかもしれない」

 

美羽の意見にレイヴェルも頷いて同意した。

 

俺と一緒だから、か。

 

・・・こうして面と向かって言われると、ちょっと恥ずかしいけどさ。

 

俺は美羽とレイヴェルを抱き寄せて、二人の頭を撫でる。

 

「それは男冥利に尽きるってもんだな。俺もおまえ達と一緒で楽しいよ」

 

「えへへ・・・・」

 

美羽もレイヴェルも頬を染めながら嬉しそうに笑んでいた。

 

ったく、二人とも可愛すぎだ。

 

俺達三人の姿にイグニスが微笑む。

 

「あら、三人ともラブラブね。微笑ましいわ」

 

「イッセーの周りにいる女は皆そうなるさ。スケベではあるが楽しいからな」

 

「スケベなところもイッセーの魅力よ?」

 

「そうかもな。・・・・そういえば、イッセー。ドライグはどうした? アルビオンと和解したそうだが?」

 

ティアはビールに口をつけながら、訊いてくる。

 

あー、ドライグね・・・・。

 

あいつは―――――

 

「今もアルビオンとお話し中だよ。昔話に花咲かせて、こっちには不参加だそうだ」

 

一応、赤龍帝(・・・)眷属の集まりだから、赤龍帝たるドライグにも参加してもらいたいところだったんだが・・・・ま、宿敵と和解したばかりだしな。

向こうは向こうで楽しんでいるのだろう。

 

ってか、ここのところ、ずーっとアルビオンと話してるような気がする。

流石のヴァーリも苦笑してたぞ。

 

「・・・・変われば変わるものだな」

 

全くだ。

 

俺とティアがうんうんと頷いてると、レイヴェルの耳元に魔法陣が展開した。

小型の通信用魔法陣だ。

 

レイヴェルは魔法陣から聞こえてくる声に頷きながら、しばしの問答を繰り返した後、魔法陣を切った。

 

レイヴェルはふぅと息を吐く。

 

「どうしたの?」

 

「大公アガレスさまからですわ。この辺りにはぐれ悪魔が潜伏しているとの情報でして、それの討伐または捕縛を命じられました」

 

えー・・・・このタイミングではぐれ悪魔かよ。

勘弁してくれよ・・・・せっかく温泉旅行に来たってのに・・・・。

 

ティアが言う。

 

「このあたりを縄張りにしている者もいるのだろう? なにも休暇中のイッセーに依頼しなくてもいいじゃないか。というより、三大勢力の誰かにやらせろ。貴重な時間を使わせるな」

 

おおっ、ティアも休みを妨害されるとのことでお怒りだ!

 

本音を言えば、流石の俺も今は働きたくないかな・・・・。

ティアの言うように今は貴重な休暇。

 

今日一日は美羽達とキャッキャッウフフな一日を過ごしたい!

 

ティアの迫力ある意見にレイヴェルは困り顔になりながらも答える。

 

「私もそう伝えてみたのですが、そのはぐれ悪魔の実力的に難しいそうでして・・・・。そこで私達に命がくだったのです」

 

「ほぉ、そのはぐれ悪魔は少なくとも上級クラスはあるということか?」

 

「そのようですわ。そのはぐれ悪魔による被害も増加しているとか」

 

マジでか。

そいつは見逃せないな。

 

美羽が問う。

 

「人間を襲っているの?」

 

はぐれ悪魔は人間を襲って食らう者もいる。

 

俺がリアスの眷属になったばかりの時とかはそういう奴も結構見てきた。

どれもが人間の形をしてなくて、怪物と化していた。

 

もし、今回もそのケースなら、今日中に解決する必要があるだろう。

 

「え、えっと、襲っているといいますか、なんといいますか・・・・。幸いにも死傷者は出ていないようですわ」

 

あ、けが人も死者も出てないんだな。

それは良かった。

 

しかし、随分言いにくそうだな。

 

一体どういう被害が出ているのだろう?

 

「その・・・・被害に遭っているのは観光客・・・・女性の方でして。浴衣姿の女性がいつの間にか身に付けている下着を盗まれるそうなのです」

 

「なっ・・・・!?」

 

下着を盗むはぐれ悪魔だと!?

しかも、浴衣姿の女性が身に付けているものを・・・・!?

 

俺がレイヴェルの知らせに驚愕していると後ろの方から―――――

 

 

「私の下着が無くなってる!?」

 

「あっ、私も! やけにスースーすると思ったら!」

 

 

なんて悲鳴が聞こえてきた!

 

なんてこった!

マジで気づかぬ内に下着を盗まれているのか!

 

俺は拳をワカワナと震わせる。

 

こんな被害が増えるようでは浴衣姿の女性が減ってしまう!

温泉地に来て、浴衣姿の女性が見れなくなるじゃないか!

浴衣女性を見るのも温泉旅行の醍醐味なんだぞ!

 

これは・・・・これは死活問題だ!

 

俺は拳を強く握りしめ立ち上がった!

 

「今すぐそいつをぶっ飛ばしに行くぞ! そんな俺の楽しみを奪うような奴は許せん!」

 

「自分の欲望が出てる・・・。でも、ボクも女の子を困らせるような人は許せないかな。せっかくの旅行が台無しになるし」

 

「同感ですわ。せっかくのお休みですけど、ここは私共で解決しましょう!」

 

流石は我が眷属!

 

俺に続いてくれるか!

 

「はぁ、私も動くとするか。速攻で終わらせなければ、夕食の時間に間に合わんからな」

 

「そうね。楽しみの蟹を奪うような人は―――――燃やすしかないわね」

 

最強の龍王と最強の女神も出陣だ!

 

こりゃ、はぐれ悪魔死ぬな。

 

俺は皆を見渡して拳を振り上げた。

 

「よし! 赤龍帝眷属、出撃だ!」

 

「「「おおー!」」」

 

全員が拳を振り上げた!

 

 

その時だった。

 

 

「さっきからしつこいのよ、あんた達!」

 

その怒声と共にズッシャァァァと地面に顔から落下してきた男二人。

 

いかにもチャラそうな兄ちゃんだが・・・・

 

「「ひぇぇぇぇぇ!」」

 

と、体をブルブルと震わせていた。

 

その視線の先には缶ビールを握りしめた物凄い剣幕のアリス。

 

今一状況を呑み込めない俺はアリスに問う。

 

「・・・・なにしてんだ?」

 

「こいつら、さっきから私を誘ってくるのよ。こっちは連れがいるって言ってるのに」

 

あー、ナンパされたのか。

 

どうりで戻ってくるのが遅かったわけだ。

 

で、ここで震えているチャラい兄ちゃん二人はしつこく迫ったせいで、アリスの怒りに触れたと。

 

アリスは震える兄ちゃん二人を一瞥した後、俺の腕を組んで―――――

 

「この通り、私には夫がいるの。分かったらさっさと失せなさい。次は―――――殴るわよ?」

 

と、ニコニコ顔で告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

旅館から少し離れたところに小さな山がある。

 

そこにはぐれ悪魔の根城があるらしい。

 

その情報を受けた俺達はその山を訪れていた。

 

「さっきのアリスさん、すごかったね・・・・迫力が」

 

「私は他のことに驚きましたわ」

 

美羽とレイヴェルが苦笑しながら、さっきの出来事を思い出していた。

 

アリスがプンスカしながら言う。

 

「だって、しつこいんだもの。あの手の男は退くことを知らないのかしら?」

 

アハハ・・・・アリスは女優顔負けに美人だからな。

男としては是非ともご一緒したかったんだろう。

向こうの世界でも言い寄ってくる王族は結構いたようだし。

 

まぁ、でも・・・・うちの嫁に手を出すとは許せん!

 

俺も軽く締めとけば良かった!

 

すると、アリスは美羽にばつの悪そうな顔で言う。

 

「美羽ちゃん・・・・。さっきはその・・・・ゴメンね?」

 

「え? なんのこと?」

 

「いや、なんか・・・・美羽ちゃん差し置いて・・・堂々と言っちゃったし」

 

恐らくアリスは俺のことを『夫』と言ったことを気にしているのだろう。

 

どうにもうちの女性陣の中では美羽が『正妻』ということになってるらしく、絶対的な存在らしい。

それはアリスも同じように感じているようなんだ。

 

「ボクは気にしてないよ? だって――――」

 

美羽はそう言うと俺とアリスに抱きついてきて、

 

「ボクもアリスさんもお兄ちゃんのお嫁さんだもん♪」

 

ぐはっ!

 

なんて可愛いこと言ってくれるんだ!

 

うぅ、俺はこんな可愛いお嫁さんをもらえるなんて、俺は幸せ者だ!

 

俺も二人を抱きしめて宣言する。

 

「おう! 二人は俺のお嫁さんだ! アリス、次ナンパされたら俺に言え! 旦那として何とかしてやる!」

 

「イッセー・・・・・。うん、わかったわ。ありがと、イッセー」

 

さっき、すごい剣幕を浮かべていた人とは思えないほど頬を染めながらモジモジするアリス。

 

うーむ、浴衣姿も相まって可愛さ倍増だな!

 

「・・・・・」

 

後ろではレイヴェルが何か言いたそうにしていたのだが・・・・。

 

「ここだな」

 

俺がレイヴェルに声をかけようとする前にティアが言った。

 

目の前には小さな洞窟。

人払いの結界が入り口に張ってある。

 

中には・・・・はぐれ悪魔らしき気配も感じる。

 

どうやら、ここらしいな。

 

俺達は頷き合うと洞窟の中へと入っていく。

 

奥へと進むとあちこちに火が灯されていて、入口付近よりも明るい。

 

更に奥に進むと家具が置かれているのが見えた。

 

あれは・・・・タンスかな?

 

やけに収納用の家具が多い。

 

その時―――――

 

「誰だ!」

 

若い男性の声が洞窟内にこだました。

 

そちらを見ると眼鏡をかけた華奢な男性がこちらを睨み付けていた。

 

悪魔の気配。

 

おそらく、こいつが件のはぐれ悪魔だ。

 

はぐれ悪魔は俺達に指を突きつけると叫ぶ。

 

「貴様ら、私を掴まえにきたんだな!? ふん、返り討ちにしてくれる!」

 

体にオーラを纏わせていくはぐれ悪魔。

肉体が膨れ上がり、身につけていた服がビリビリと破れていく。

最終的には俺よりも一回り大きい巨漢となった。

 

・・・・なるほど、確かにそれなりの実力は持っているらしい。

 

上級悪魔クラスはあるようだ。

 

俺ははぐれ悪魔に問う。

 

「おまえ、なんで主を裏切ったんだ? おまえ程の実力者なら主も重宝しただろうに」

 

報告によれば、このはぐれ悪魔は主を殺しておらず、突然姿を消したと言う。

こいつの主だった上級悪魔も特に眷属を強いたげるようなことはしない穏やかな人柄だとも聞いている。

 

良い主に恵まれ、なに不自由しなかったはずなのに、こいつは主のもとを去り、こんなところにいる。

 

俺の問いにはぐれ悪魔は―――――

 

「・・・・確かに我が主には悪いことをしたと思っている。しかし、私には夢が出来てしまったのだ」

 

「夢? それは一体・・・・」

 

「―――――死ぬ時は女性の下着の中で死にたい」

 

「・・・・は?」

 

こいつ・・・なんて言った?

 

え、えーと、女性の下着の中で死にたい?

 

自身の耳を疑う俺だったが、はぐれ悪魔は熱烈と語り始める。

 

「特に! 湯上がりの女性が身につけた物は良い! あのほんのりと残る女性の残り香! その中で死ねるなら本望と思わないかね!?」

 

「いえ、思いません。俺、死ぬなら女の子のおっぱいに囲まれて死にたいです」

 

「くっ! 貴殿はおっぱい派だったか! 確かにそれも分かる! だが、私は・・・・女性が身につけた下着の中で死にたいと思ったのだ!」

 

それからも、はぐれ悪魔は長々と語り出した。

 

要約するとこうだ。

 

このはぐれ悪魔は大昔に人間から転生して永く主に仕えてきたのだが、唯一不満があったそうだ。

 

それは周囲に男しかいなかったこと。

 

上級悪魔の眷属となれば、戦いにも駆り出されるし、いつか戦いの中で命を落とすかもしれない。

 

長い悪魔の生とはいえ、死ねばそこまで。

 

そこで、このはぐれ悪魔は思ったそうだ。

 

――――いつか死ぬのであれば、女性の残り香が残る下着に囲まれて死にたい、と。

 

どうやら、このはぐれ悪魔は匂いフェチらしい。

ただ、実際に女性を襲うのは善心が痛んだらしく、やむを得ず下着を盗む行為に出た。

 

この場にいる女性陣はそれを聞いて―――――

 

「変態!」

 

アリスが自らの肩を抱いて叫んだ!

 

うん、確かに変態だ!

どこか心根は優しい人だと思えるから、よけいに残念だよ!

 

美羽とレイヴェルなんて顔を青くして俺の後ろに隠れ出したよ!

 

俺は目元をひきつらせながら、はぐれ悪魔に告げる。

 

「え、えーと・・・・とりあえず、大人しく捕まってくれないか? 誰一人殺してないのなら、軽い罰で済むだろうし」

 

「断る! ここで捕まればせっかく集めた下着達はどうなる!?」

 

「持ち主に返すんだよ!」

 

「嫌だ! 私は最後まで戦うぞ!」

 

もうやだ、この人!

 

なんでこうも頑ななの!?

 

すると、はぐれ悪魔は俺の後ろ―――――美羽に視線を向けた。

 

「ふむ、そこの女人・・・・良い香りがしそうだな。どれ」

 

はぐれ悪魔は一つ頷くと、手元に魔法陣を展開。

 

魔法陣の輝きがこの洞窟内を照らし――――弾けた。

 

しかし・・・・

 

「・・・・?」

 

特に変化がみられない。

 

はぐれ悪魔に視線を向けられた美羽にも何もない。

 

アリスもティアも訝しげに首を傾げている。

イグニスやレイヴェルも同様だ。

 

全員が疑問符を浮かべている中、はぐれ悪魔はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ふふふ、これは可愛らしいデザインをしているな」

 

その手には―――――一枚の白いパンツ。

 

俺は目を見開いた。

 

そのパンツには見覚えがあった。

 

そのパンツは・・・・・!

 

「ああ! それボクのパンツ! 返してよ!」

 

美羽が真っ赤になりながら叫んだ!

 

そう、あれは美羽のパンツだ!

 

あの野郎、美羽からパンツを剥ぎ取りやがったな!?

 

はぐれ悪魔は笑みを更に浮かべる。

 

「これぞ私が編み出した魔法『スティール』よ! この魔法の前ではどんな女性の下着でもこうして剥ぎ取れる! さて、どんな香りがするのか。さっそく――――」

 

はぐれ悪魔は美羽のパンツを顔に近づけていき―――――

 

その瞬間、俺の中で何かがキレた。

 

「なにさらしとんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

必殺ライダーキックがはぐれ悪魔に炸裂した。

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・・・とんでもない目にあったよ・・・・」

 

涙目になりながらそう呟く美羽。

 

あの後、俺ははぐれ悪魔をフルボッコにして冥界に転送してやった。

文字通り、洞窟内に血の雨を降らせてな。

 

あの変態野郎、俺の美羽からパンツを奪っただけでなく、嗅ごうとしやがったんだぞ!?

 

どこの変態龍王!?

 

とにかく、元の顔が分からないほどに往復ビンタくらわせて徹底的に締め上げてやった。

 

ちなみに、これまで奪われてきた下着も冥界に送ったので、後で持ち主に返されるだろう。

 

「はぁ、あんなことになるなら、俺一人で行けば良かったな」

 

マジでそう思う。

 

下手すりゃ、美羽にトラウマを刻むことになるところだった。

 

「でも、ギリギリのところでお兄ちゃんが何とかしてくれたし、もう平気だよ?」

 

「そっか・・・・。それなら良いんだけど・・・・」

 

うん、せっかくの温泉旅行が台無しにならずに済みそうだ。

 

ほんっと、ギリギリのところでパンツ取り返せたもんな。

 

「それにしても、良い湯加減だね」

 

美羽はお湯をちゃぷちゃぷしながら言う。

 

今、俺達がいるのは部屋に備え付けられていた露天風呂だ。

 

はぐれ悪魔を冥界に転送した後、俺達は旅館に戻り、夕食を取った。

 

蟹鍋に、お刺身に、地元の料理の数々!

どれもが絶品で箸が止まらなかったよ。

美羽もアリスもレイヴェルも、目をキラキラさせながら、いっぱい食べていたな。

ティアとイグニスのお姉さんコンビも出された日本酒を飲みながら陽気になってたっけ。

 

それからは本日のメインイベントとも言えるお風呂だ!

 

もちろん混浴!

 

さっきは眷属の三人と背中を流しあったんだぜ!

俺も三人の体を余すところなく隅々まで洗わせていただきました!

 

そして、現在。

 

美羽は俺の胸に背中を預け、アリスとレイヴェルは俺の両サイドに座った状態。

俺はアリスとレイヴェルの肩に手を回して露天風呂を満喫しているところだ。

 

露天風呂から見える景色も、この湯加減も最高だ。

 

だが、やはり密着する三人の肌の感触が何よりも良い!

 

ふと視線を下にやるとお湯に浮かぶ美羽の豊かなおっぱい!

右にやれば、小柄な体型だがボリュームのあるレイヴェルのおっぱいが!

更に左にやれば、アリスの透き通るようなキレイな肌!

うなじがたまらん!

 

ここは理想郷か、桃源郷か!

 

もうね、温泉最高!

混浴万歳!

 

駒王町にいるお母さま!

福引きを当ててくれてありがとうございます!

 

このご恩は一生忘れません!

 

美羽が言う。

 

「今頃ティアさん達もお風呂かな?」

 

「多分な。イグニスのやつ、結構飲んでたけど・・・・大丈夫かな?」

 

 

 

~そのころのイグニスさん~

 

 

 

 

「いつ見てもティアちゃんの髪ってキレイね。肌もスベスベだし」

 

「なにを言う。おまえもキレイな髪をしているじゃないか」

 

「おっぱいだって大きくて、お湯に浮いてるし。えーい、揉んじゃう!」

 

「あっ、馬鹿・・・・調子に乗り・・・んんっ・・・そ、そこ・・・・酔っているのか?」

 

「うふふふー♪ それはどうかなー?」

 

「あんっ・・・す、吸うなぁ・・・」

 

 

いつもよりパワーアップしているイグニスさんだった。

 

 

 

~そのころのイグニスさん、終~

 

 

 

「今頃ティアのおっぱいでも揉んでるんじゃない?」

 

「アハハハ・・・・あり得そう」

 

「イグニスさんですものね」

 

お酒が入ってるからもしかして・・・・・。

 

ティア、大丈夫かな・・・・?

いつも軽くあしらってるけど・・・・。

仮にイグニスがパワーアップしていたとすると・・・・心配だ。

 

「あーあ、明日には帰るのよね。一泊ってあっという間だったなぁ。あと何日かここにいたいわ」

 

それは分かる。

 

一泊ってのは一瞬なんだよね。

もう少し、こうしていたいところなんだが・・・・そうもいかないか。

俺達ってそんなに休んでいられないし。

 

美羽が微笑む。

 

「でも、良い思い出にはなったよね。確かに短いとは思うけど、また皆で来ればいいよ」

 

「お、それじゃあ、『第二回赤龍帝眷属親睦会』の開催も考えておくか? 定期的にこうして俺達だけで旅行するのもありだろ」

 

「うん! 今度はどこに行こうか?」

 

「そうだな―――――」

 

それから俺達は次、こうして旅行する時の候補地を挙げていった。

美羽もアリスもレイヴェルも、今からウキウキしているようで、次から次へと意見が出てくる。

 

今回の温泉旅行は三人から日頃の忙しさを忘れ去れさせる良い機会になってくれたようだ。

 

さて、山だの海だの温泉巡りだの、色々な意見が出ているけど、次はどこにしようかね?

 

こいつは改めて会議を開く必要がありそうだ。

 

俺は楽しげに語り合う三人を見ながらふっと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

お風呂からあがり、布団を敷いた俺達。

 

どの位置に布団を敷くのか、修学旅行ではよくある話し合いをしたのだが――――

 

「えーと・・・・なんで?」

 

密着してくる三人。

 

最初は色々話し合って、自身が寝る位置を決めてたのだが・・・・。

少し時間が経つと三人とも布団からコロコロと転がり出て、俺の布団に入ってきた!

 

俺の右サイドを固めるレイヴェルが頬を染める。

 

「あ、あの・・・・こういう機会も滅多にないものですから・・・・。ダ、ダメでしょうか?」

 

「いや、ダメってことはないけど・・・・。布団をくっつければ良いんじゃないか?」

 

今の現状はこうだ。

 

俺の左サイドには美羽。

右サイドにはレイヴェル。

そして、レイヴェルの更に外側にアリス。

 

俺を中心に計四人が一枚の布団に入っている状態だ。

 

どう見ても定員オーバー。

 

一番外側のアリスなんて布団からはみ出てるよ!

 

「まぁ、そんなことは気にしない気にしない」

 

「おまえ、また風邪引くぞ?」

 

「その時はイッセーに看病してもらう。頼んだわよ、旦那様」

 

「ダーメーだ。ちゃんと布団は被れ」

 

ったく・・・・言うこと聞かないとおっぱい揉んじゃうぞ?

 

俺がやれやれとため息をついていると、レイヴェルがボソリと言った。

 

「あ、あの・・・・」

 

「ん? どうした?」

 

「わ、私も・・・・」

 

「私も・・・?」

 

「私も・・・・娶って・・・いただけますか・・・?」

 

レイヴェルは今までにないくらい顔を赤くしながらそう言った。

 

娶る・・・・娶るってことはつまり――――

 

「わ、私もイッセーさまのことをお慕い申しています。その・・・主としてもですが・・・一人の男性としても心から・・・・」

 

レイヴェルは俺の浴衣をギュッと握って――――

 

「わ、私もイッセーさまのお嫁さんにしていただけますか・・・・?」

 

・・・・逆プロポーズされた。

 

これははぐれ魔法使いの一件の後にマネージャーとしての誓いを立てた時と似ているようで違う・・・・そこから更に踏み込んだものだった。

 

よっぽど緊張しているのか、俺の浴衣を握るレイヴェルの手か震えている。

耳まで赤く染まり、呼吸も大きくなっていた。

 

俺は上半身を起こしてレイヴェルの方を向くと、暫しの沈黙を後、口を開いた。

 

「・・・・レイヴェル」

 

「は、はい!」

 

レイヴェルも慌てて上半身を起こして、正座して俺と向かい合った。

 

「出来の悪い俺のことだから、色々と問題もあるかもしれない」

 

レイヴェルが生粋のお嬢様なのに対して俺は平民育ちの庶民だ。

上級悪魔になったとはいえ、悪魔の世界の知識も、貴族悪魔としての知識もまだまだ足りない。

 

そんな俺だから、レイヴェルに迷惑をかけることもあるだろう。

 

だけど―――――

 

俺はレイヴェルに近づいて、

 

「俺、頑張るよ。だからさ、俺のお嫁に来てくれるか?」

 

プロポーズをプロポーズで返した。

 

目を見開くレイヴェルだが、次第に目元から雫がポロポロと零れ落ち始める。

 

そして、涙を流しながらも、かつてないくらいに幸せそうな笑顔で―――――

 

「はい! ふつつか者ですが、よろしくお願いしますわ!」

 

「よかったね、レイヴェルさん!」

 

「イッセー。あんたも物怖じしなくなったわね。昔は押しに弱かったくせに」

 

「アハハハ・・・・」

 

ま、まぁ、なんと言いますか・・・・美羽のお陰でその辺りの根性もついたのかな?

 

今でもパワフルな女性陣には負けるけど。

 

それでも、女の子の想いを受け止めるだけの度胸は以前よりも着いたと思うよ。

 

ってか、今思ったけど、レイヴェルを嫁にもらうってことはライザーが俺の義兄になるのか・・・・。

なんか変な感じだ。

今のライザーなら別に嫌って訳じゃないんだけど。

 

そんなことを考えていると、美羽に抱きつかれているレイヴェルは人指し指を合わせて、モジモジしながら言う。

 

「え、えっと、それでですね・・・・。もうひとつ・・・・」

 

「ん?」

 

「み、美羽さんもアリスさんも・・・・イッセーさまのご寵愛を受けてますし・・・・わ、私も」

 

レイヴェルは息を吸い込んで、大きな声で言った。

 

「わ、私も――――――大人の女性にしてください!」

 

大人の女性・・・大人の女性・・・美羽とアリス・・・。

 

ここまでキーワードを並べられて分からないほど俺は鈍感ではない。

 

ただ・・・・

 

「良いのか? レイヴェルって、貴族のお嬢さまだし、フェニックス家の一人娘だろう? 約束したとは言え、まだ嫁入り前だし・・・・そういうのはノリでするものじゃないぞ?」

 

「ノリではありません。イッセーさまだからこそです。それに・・・・お父さまもお母さまもお兄さま達も・・・・相手がイッセーさまなら問題ないと思いますわ」

 

マジでか。

俺、フェニックス家の人からすごい信頼されてるんだな・・・・。

ま、まぁ、そうでなきゃ、大切な一人娘を俺に預けようなんてしないと思うけどさ・・・・。

 

そういや、レイヴェルの親父さんから孫をお願いされたっけな。

 

ハハハ・・・・。

 

ふむ、ただひとつ問題がある。

 

これは毎回恒例とも言って良い。

 

正直、今回はレイヴェルがいるからと、配慮して持ってきてないんだよね、アレ。

 

しかし――――――

 

ふと見るとレイヴェルが美羽から何かを受け取っていた。

 

「これは?」

 

「学生の間は赤ちゃんはお預け、だよね?」

 

美羽がニッコリと微笑みながら俺の方を見てくる。

 

な、なんて用意の良い妹なんだ・・・・!

 

つーか、するつもりだったの!?

 

確かに温泉旅行で、旅館でってのは憧れるが・・・・。

 

あれ!?

 

アリスもなんか鞄をごそごそし出したよ!?

 

それってまさか―――――

 

「なるほどね、このタイミングでするのね?」

 

「なんでおまえも持ってんの!?」

 

「事前に美羽ちゃんから受け取ってた。・・・・する機会もあるかなって」

 

おまえもかいぃぃぃぃぃ!

 

え、ちょっと待って・・・・アリスが出したやつとレイヴェルが受け取ったやつと美羽が握っているやつを合わせると―――――四箱!?

 

「一個は予備で・・・・」

 

「それにしても多くない? ねぇ? それにしても多くない?」

 

「お兄ちゃんなら出来るよ!」

 

「どんな信頼!?」

 

流石に全部使いきるのは無理だからね!?

 

俺、干物になっちゃう!

 

「まぁ、なんとかなるんじゃない? ・・・・私と美羽ちゃんの時は使いきったし」

 

確かに使いきったね!

あの時は朝までしてたもんね!

 

でも、君達分かってる!?

 

俺、帰りの運転あるからね!?

 

「あ、あのイッセーさま・・・・」

 

レイヴェルは受け取った箱と俺を交互に見てくる。

 

その目には期待するような何かがあってだな・・・・。

 

美羽が言う。

 

「今日の主役はレイヴェルさんだよ?」

 

「優しくしてあげなさいよね。・・・・わ、私達は後でいいから」

 

アリスも顔真っ赤でそう続けた。

 

よし・・・・ここは覚悟を決めよう。

 

俺はレイヴェルの浴衣に手をかけて、ゆっくり脱がしていく。

 

『第一回赤龍帝眷属親睦会』は夜の部へと突入した―――――。

 

 

 

 

~そのころのリーアたん~

 

 

 

「はっ・・・・この感じ・・・・まさか!」

 

「どうしたんですの?」

 

「ええ、朱乃。おそらく、イッセーがまた・・・・。この意味分かるわよね?」

 

「っ! そうですか・・・・。リアスの勘が正しければ後輩に先を越された、ということになりますわね」

 

「そうね。祝福してあげたい気持ちもあるけれど・・・・本音を言えば、悔しいわ」

 

「そうですわね・・・・」

 

「「はぁ・・・・」」

 

ため息をつくリアスと朱乃であったが・・・・リアスは(ニュー)タイプへと順調に覚醒しつつあった。

 

 

 

~そのころのリーアたん、終~

 

 

 




次回は新章に入るか番外編をやるか悩んでいます。

・・・・が、新章で書く予定の一部を公開!




―――――目覚めなさい


―――――ここにはアリスちゃんのおっぱいと


―――――リアスはちゃんのおっぱいと


―――――おっぱいドラゴンがいるのだから!


           《真焱の女神》イグニス



―――――俺をあの時の俺だと思うなよ?

―――――俺はまだまだ進化する!

       《異世界帰りの赤龍帝》兵藤一誠




ー ECLIPSE ー


ー XENON ー


ー AGIOS ー


そして―――――




まぁ、あくまで予定です(笑)


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第十五章 教員研修のヴァルキリー
1話 お願いされました!


先日、R18版でレイナとの情事を投稿しました~


「うーん、今日も働いたなぁ」

 

と、俺の胸に背中を預けながら腕を伸ばすのは美羽だ。

 

現在、俺達は二人で地下の大浴場にいる。

お互いの背中を流しあった後はこうして仲良く入浴中だ。

 

契約を取るようになってからというものの、美羽は次々に契約を取ってくるようになった。

駆け出しだった頃の俺を余裕で越える件数だ。

 

俺の時と同じくアンケートを依頼人に書いてもらうのだが、

 

『愛想が良くて可愛い』

 

『すごく話を聞いてくれて、親身に接してくれる』

 

『とにかく可愛くて優しい』

 

『次もお願いしたい』

 

という風にかなりの好評価をいただいている。

 

特に引きこもりの人のように人付き合いが苦手な人にとっては話し相手として美羽が良いらしい。

 

ギャスパーが引きこもってた時も美羽のおかげで、あいつは一歩進めたもんな。

 

俺は後ろから抱きしめるようにしながら美羽に訊く。

 

「悪魔の仕事にも慣れたか?」

 

「うん。悩みの相談がメインだけど、それも立派な仕事だしね。人の役に立ててるようで嬉しいかな」

 

「そっか」

 

美羽の感想を聞いて、俺は微笑みながら頭を撫でてやる。

 

最初は美羽が変なことさせられていないかとか不安もあったんだけどね。

そういうのは無いみたいだし、今は安心して送り出せている。

 

美羽も依頼人の悩みを無事に解決できているようだし、何よりだ。

 

美羽が誉められるとさ、ついつい頬が緩んでしまう。

 

「アリスさんはどんな感じなの?」

 

美羽に尋ねられる俺だが・・・

 

「あー・・・・。ま、まぁ、何とかなってるかな」

 

「・・・・?」

 

アリスも契約を取り始めている。

こちらも美羽に負けず劣らずそれなりの数を取ってくるんだ。

 

ただ、この間一つ問題が起きてな・・・・。

 

どうにも依頼人がアリスを見た瞬間に求婚して来たらしいんだよね。

当然、アリスは断ったんだが、あまりにしつこいので背負い投げしちゃったんだ。

 

アリスから報告を受けた俺はすぐに現場に駆けつけて事態の収集を図ったんだが・・・・大変だった。

 

あれは依頼人の方に問題があったから、その問題自体は直ぐに収まった。

ただ、アリスが俺の手を煩わせたって言って結構気にしちゃって・・・・そっちを何とかする方が大変だったよ。

 

ま、まぁ、それ以外では特に問題なく契約活動を続けている。

 

レイヴェルも上手くやってる・・・・っていうか、実質上、眷属全体の総監督だからな。

起きた問題に対しては大小関わらず、迅速に解決してくれている。

 

うーん、流石はデキるマネージャー!

 

眷属全体のマネージメントも完璧だよ。

 

改めてレイヴェルの優秀さを感じていると、美羽が尋ねてきた。

 

「・・・・ねぇ、あんなところに扉あったっけ?」

 

「へ?」

 

美羽が指す方向、それはこの地下大浴場の奥。

よく見ると確かに扉がある。

 

はて・・・・あんなところにあったかな?

少なくとも昨日はなかったと思うんだが・・・・・。

 

俺と美羽が怪訝に思いながら首を捻っていると、大浴場に入ってくる者がいた。

 

「あら、イッセーに美羽。先に入ってたのね」

 

リアスだった。

 

リアスに続いてアリス、朱乃、教会トリオ、レイナ、レイヴェル、小猫ちゃん、オーフィスが次々に入ってきた。

 

ちょうど良いと思った俺はリアスに尋ねてみる。

 

「あのさ、あそこに扉があるんだけど・・・・あれってなに?」

 

「え? あぁ、あれね」

 

リアスは見知らぬ扉を見て心当たりがあるようだった。

 

微笑みを浮かべて、

 

「入ってみましょうか。きっと面白いと思うわ」

 

 

 

 

 

 

「まさか、こんなところがあったんてね・・・・」

 

美羽が辺りを見渡しながら感嘆の声を漏らしていた。

 

見知らぬ扉を潜り抜けた先にあったのは―――――新たなお風呂だった。

 

今まで使っていた大浴場よりも広く、天井、壁、器具に至るまで煌びやかで豪華な造り。

ジャングル風呂のように熱帯植物も繁茂している。

ドラゴンを模した彫像の口からお湯が溢れ、小さな滝ようなものまで存在する。

柱のひとつひとつにまで細かな飾りがあり、グレモリーの紋様が象徴的に新大浴場の各所に印されていた。

 

その神々しささえ感じる場所にリアスや朱乃、レイヴェル以外のメンバーは呆気に取られる始末だ。

 

リアスが微笑みながら言う。

 

「このお家、アジュカ・ベルゼブブさまお抱えの建築家がデザインしたらしいの。そのデザイナーはアジュカさまのように隠し要素を施すのが好きみたいなのよ」

 

「ってことはこの家には他にも・・・・?」

 

「そうね。まだまだ隠されたものがありそうよ」

 

マジか!

この家にはまだ俺の知らない場所があると!

 

他にどんな隠し要素があるのか気になるな!

 

「おそらく、時間の経過で開放される造りになっていたのでしょうね。ほら、もう冬なわけだし、それに併せて新たなお風呂場が出現するようになっていたのよ」

 

リアスはお湯に浸かりながらそう口にした。

 

時間経過で解禁する設備・・・・。

この家、夏に改築されたわけだけど、そんな設備がどれだけ隠されているんだよ?

 

まぁ、それはおいておこう。

 

とりあえず今は目の前の絶景を楽しもうじゃないか!

ここには全裸の女の子達がいっぱい!

いつも見ているではないかと言われればそうなるが、この光景は飽きないぞ!

 

背中を流し会う教会トリオの微笑ましい姿。

ゴシゴシと手を動かすたびに揺れるおっぱいは素晴らしいな!

ゼノヴィアやイリナも相変わらずいい乳をしているし、アーシアもどんどん成長している!

 

その近くではアリスとレイナが女子トークをしている。

 

珍しい組み合わせだとは思うが、これはこれでアリだな。

 

小猫ちゃんとレイヴェルも小さめの浴槽に浸かりながら仲良くお話し中だ。

 

・・・・レイヴェルとの関係は当然(?)ながらバレた。

なぜか分からないが、リアスが察知していたらしい。

温泉旅行から帰った後、色々と質問責めを受けた。

 

それを知った小猫ちゃんも最初は拗ねていたんだが・・・・

 

「・・・・おっぱいを大きくしたら、その時はお願いします」

 

と言って、今は普通に接している。

 

うーん、巨乳の小猫ちゃんか!

 

先日聞いた話だが、白音モードなるものを発動した小猫ちゃんは黒歌並みのナイスバディになっていたらしい。

 

クソッ、俺も見たかったよ!

いったいどんな美女になったというんだ、小猫ちゃん!?

 

消耗が激しいらしいけど・・・・今度見せてもらおうかな・・・・。

 

何にしても後輩二人が仲良くしているのは微笑ましい。

 

レイヴェルと言えば、後でルフェイとの契約について話し合わないとな。

 

テロリスト対策チーム『D×D』が結成されてから、黒歌とルフェイも正式にこの家に住むことになった。

 

・・・・ま、正直、以前とあまり変わらないんだけどさ。

基本、黒歌は自由にしてるし。

 

で、ルフェイとの契約だが、五年契約で組むつもりだ。

 

ルフェイは掛け値なしに良い娘で美羽が認めるほど優秀だ。

一、二年では短いし、十年だと俺が将来どうなっているか不安なんだ。

その辺りはルフェイも同じ様に考えているようだ。

 

そこで、レイヴェルの提案により五年という二人にとって調度良く感じられる期間での契約となった。

五年後もお互いに有益なら延長契約を結べばいいらしいので、その時が来たら改めて考えようってことになってる。

 

まぁ、俺としては契約相手がルフェイで良かったと思う。

可愛いしな!

 

「うふふ、やっぱり、皆でお風呂に入るのは楽しいですわね」

 

と、いつのまにか俺の隣に来ていた朱乃。

 

「うん。混浴って良いもんだよ」

 

俺はついつい本音で答えてしまう!

 

だって、こんなキャッキャッウフフな空間が広がってるんだぜ?

本音も出るさ!

 

うーむ、それにしても朱乃のおっぱいは相変わらずもっちりしてそうだ!

 

ふと視線を前方にやると、オーフィスが仰向けのまま、すいーっと浴槽内を潜水していた。

 

「オーフィスさん、お風呂で泳いじゃダメだよ?」

 

美羽が注意するものの、オーフィスはそのまま通りすぎていく。

龍神さまは自由ですね。

 

吸血鬼の領地で出会ったオーフィスの分身体――――リリスのことはオーフィスに話してみた。

案外反応は薄かったけど、一言だけ、

 

「イッセーの敵になるなら、我がどうにかしたい。友達に迷惑、かけたくない、かも」

 

どうにかしたい、か・・・・。

 

俺のことを大切に思ってくれているのは嬉しいが、それでもオーフィス同士で戦うところなんて見たくないな。

何より、オーフィスには今みたいに平和で、のんびりしていてほしい。

 

ただ、俺が思うにリリスはこちら側に招けると思うんだ。

リゼヴィムに利用されているけど、元がオーフィスであれば心根は同じはず。

 

それなら――――――

 

ま、そのあたりはやってみないことには何とも言えないか。

 

すると、俺の目に切なそうな表情のリアスが飛び込んでくる。

いつもなら、皆の入浴を微笑ましそうに見守るか、俺に甘えてくるかの二択なんだが・・・・・。

 

俺は何となく理由を察した。

 

「グレイフィアさんのこと?」

 

俺がそう問うと、リアスはハッと気づき苦笑いを浮かべる。

 

「・・・・ごめんなさいね。分かってしまうわよね。ええ、そうよ。お義姉さまのことを考えていたの」

 

グレイフィアさんは弟であるユーグリッドの登場により、苦しい立場が続いている。

現在はグレモリー城に軟禁状態となっているほどだ。

 

サーゼクスさんの公務の手伝いから、グレモリーでのメイド仕事も禁止。

現悪魔政府の政からは遠ざけられている。

 

こうなったのも現政府の上役達がグレイフィアさんを疑っているからだ。

弟の生死を偽り、裏では夫であるサーゼクスさんを騙しているのではないか。

リゼヴィムと繋がっているのではないか、と。

 

俺達からすれば馬鹿馬鹿しい考えだと思う。

そもそも、サーゼクスさんが惚れた人だぞ?

それこそあり得ないだろう。

 

ただ、古い悪魔達にとって旧ルシファーとそれに繋がる存在ってのはそれだけ脅威であり、畏敬の対象なんだ。

 

俺には理解できないが、グレイフィアさんを疑うのもそれだけ今回の事態を重く見てるってことなんだろうな。

 

「あれから連絡は来てないんだよな?」

 

「ええ。・・・・あのようなことがあったから、上役のお義姉さまへの風当たりも強いでしょうし、今はお兄さまに連絡を取ることも叶わないわ。お父さまとお母さまは心配するなと仰っているけれど・・・・」

 

軟禁場所がグレモリー城ってのが救いだよな。

リアスのご両親もそばにいてくれるなら安心もできる。

グレイフィアさんも寂しくはないだろう。

 

でも、悲しみと不安、動揺はしているだろうな。

死んでいると思っていた弟が生きていて、今はテロリストをしているわけだから。

 

ユーグリットは何を考えてリゼヴィム側についたのか・・・・。

そこが今一理解できない。

 

ユーグリット・ルキフグスか・・・・・。

 

「あいつは・・・・多分、また俺の前に来るだろうな」

 

「あっちも赤龍帝の鎧を得ているからね?」

 

リアスの言葉に俺は頷いた。

 

アセムの下僕の一人、ベルの手によって複製された赤龍帝の鎧。

通常の鎧だけでも面倒なのに、天武、天撃まで使える豪華仕様だ。

 

そいつをユーグリットは纏った。

 

あいつは妙に赤龍帝の力に関心を得ていたような・・・・そんな気がする。

 

それが何故だかは分からん。

 

ただ、言えることは――――――

 

俺はリアスの肩を抱き寄せ、宣言する。

 

「俺があの男を倒してサーゼクスさんの前に突き出す。そうすれば、グレイフィアさんもなんとかなるはずだ。だから、心配すんな。俺が何とかするさ」

 

ああ、あの野郎は俺がこの手でぶっ潰す。

 

赤龍帝の名を軽んじ、姉を悲しませるような奴は俺が―――――

 

「・・・・イッセー」

 

リアスの頬が染まり、瞳が潤む。

 

リアスの顔が徐々に近づいてきて――――――

 

「うふふ、今のイッセーくんのお顔にときめいてしまいましたわ」

 

むにゅんと極上の感触が俺の背中を襲った!

 

朱乃が抱きついてきたぁぁぁぁ!

吸い付くような柔肌が俺の背中にぃぃぃぃ!

 

あ、ヤバい・・・・元気になっちゃう!

 

リアスが朱乃に抗議する!

 

「ちょっと、朱乃!? 今のは私が抱きつくところでしょう!?」

 

「あらあら、油断は禁物よ? 私だってイッセーくんを狙っているのですもの」

 

「そうだとしても! ちょっとは空気を読んでちょうだい!」

 

アハハハ・・・・。

いつものリアスに戻ったというか何というか・・・・・。

 

俺が苦笑しているのをよそに二人の言い争いは激しくなっていく。

 

「私だってイッセーに迫りたいのに、朱乃は邪魔ばっかり!」

 

「私だってそうですわ! 私だってイッセーくんに抱かれたいのよ!」

 

おいぃぃぃぃぃ!

 

ちょっと落ち着こうか!

皆が見てる前でそんなこと言っちゃダメだって!

 

なんか、温泉から帰ってから二人の勢いが増したというか・・・・。

 

いや、俺はいつでもウェルカムだよ?

もう昔みたいなヘタレじゃないし!

 

ただ、二人が来る時ってタイミングが悪いというか・・・・。

 

そうこうしていると、言い争う二人の元に美羽が寄っていく。

 

「まぁまぁ、二人とも落ち着こうよ。お兄ちゃんはいつでもOKだからね? そんなに慌てなくても大丈夫だよ?」

 

「皆が次々にイッセーくんと越えていくものですから・・・・私も、と。」 

 

「・・・・美羽は・・・・その、イッセーと何度もしてるじゃない?」

 

「だからそこアドバイスできることもあるよ? リアスさんも朱乃さんも、二人とも――――――」

 

な、なんか美羽がアドバイスしてる!

リアスと朱乃を前に俺に対する接し方をアドバイスしてる!

 

二人もうんうん頷いて美羽の話に聞き入ってるし!

 

あぁ!?

アーシア達教会トリオと小猫ちゃんもそこに参加するのか!?

 

「レイナさんはどうだったの?」

 

「え、えっと私の時は―――――」

 

「まぁっ、そんなことをしたのですか? そ、それは興味深いですわ」

 

アリスとレイナ、レイヴェルの三人は少し離れた所で俺との夜について語り合ってるし! 

 

俺は天井を見上げ、思った。

 

―――――義妹によって進められるハーレム計画、か。

 

よくよく思い出してみれば、アリスもレイナもレイヴェルも美羽が切っ掛けを作ったようなところもある。

 

こりゃ、ひょっとすると・・・・・。

 

その時だった。

 

俺のもとに近寄ってくる人がいた。

 

それはバスタオルを巻いたロスヴァイセさんだった!

 

ロスヴァイセさんが混浴するなんて珍しいな。

 

過去に数回程度、それも偶々お風呂で遭遇した時とかは入った時もあるが、ロスヴァイセさんからこちらへ近づくなんてことはなかった。

 

ロスヴァイセさんってこういうの厳しいからね・・・・。

 

それにしてもロスヴァイセさんも見事なプロポーションをしているよ。

バスタオル越しでも分かるほどだ。

 

ロスヴァイセさんは少々難しい表情をしているが・・・・。

 

ロスヴァイセさんは美羽に言う。

 

「美羽さん。イッセーくんをお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「お兄ちゃんを? お兄ちゃんが良いのならボクは別に構わないよ?」

 

美羽がそう答えるなり、ロスヴァイセさんは俺の方へと向き直る。

 

「・・・・イッセーくん、お願いがあるのですが」

 

「え? お願い、ですか? 俺に?」

 

頷くロスヴァイセさん。

 

お願いごとをするために態々混浴してきたと?

 

疑問符を浮かべる俺にロスヴァイセさんが頬を赤く染めながらも真っ直ぐに告げてきた。

 

「わ、私の・・・・彼氏になってください」

 

「え・・・・・」

 

そのお願いにこの場の時が止まった―――――――

 

 

 



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2話 学生生活も頑張ってます!

十二月、それは二学期の終わり。

 

 

そして――――――

 

 

「どうだった? き・ま・つ・テ・ス・ト」

 

そう訊いてくるのは松田。

 

期末テスト。

学期最後の行事にして学生なら誰もが嫌うもの。

 

そして、今。

テストの結果を一通り知ったところで、俺の席に悪友二人が来ていた。

 

俺はふふんと鼻を鳴らして自慢げに言う。

 

「今回は結構良かったぜ? 一応平均八十越えだ」

 

正確には八十一。

今回の期末テストで過去最高の点数を叩き出していた。

 

美羽やリアス、朱乃に徹夜で勉強を見てもらい、先輩に貰った過去問を解いたのが功を奏した。

 

いやー、やっぱり過去問は必要だわ。

今までは過去問収集とかしてなかったしな。

 

もちろん、三人の教え方が上手かったのもあるけど。

 

松田は悔しがり、元浜は眼鏡をくいっと上げる。

 

「くっそぉ、俺と同じぐらいだと思ってたのに!」

 

「ほほう、やるではないか」

 

ふっふっふっ、もう赤点は取らないぜ!

俺はやればデキる子だからな!

 

まぁ、それでも美羽には及ばなかったけど。

 

「美羽ちゃんはどうだった?」

 

「ぼちぼちかな。平均八十後半だったよ」

 

「それはぼちぼちとは言わないと思う」

 

いや、松田よ。

美羽にとってはこれがぼちぼちなんだ。

 

だって、一ヶ月足らずで中学三年分の勉強をマスターする頭脳の持ち主だぞ?

俺みたいに徹夜で勉強せずにこれだからすごいんだよ。

 

つーか、今回のテスト、ほとんど俺の勉強見て終わっていたような・・・・・。

 

「へぇ、あんたも中々にやるじゃん」

 

ひょっこり現れたのは金髪の美女―――――制服姿のアリス。

 

そう、こいつはつい最近・・・・・というか今日から正式にこの駒王学園の生徒となった。

しかも、このクラスの。

 

どうやら、リアスに裏から手を回してもらって、このクラスにしてもらったらしいんだが・・・・。

 

当然、アリスの転校は学園中の噂となった。

なんせ女優顔負けの金髪美女。

スタイルだってスレンダーで良い(胸はまぁ・・・・)

 

そんなアリスが突然、この駒王学園に入ってきたんだ。

注目されないはずがない。

 

今朝、教室に入ってきた時は盛り上がるを通り越して、男女問わず全員が魅了されていたほどだ。

 

だが・・・・問題は起きた。

 

というより、アリスが起こした。

 

自己紹介の時にこいつ・・・・・

 

 

『アリス・オーディリアです。そこの兵藤一誠の嫁ってことでよろしくお願いします』

 

 

なんて言いやがった!

 

いや、合ってるよ!?

合ってるけどね、時と場所を考えてほしかった!

 

そうなると動き出すのが学園の男子共!

 

もうあちこちから鋭い殺気が・・・・!

 

今だってほら・・・・

 

「ぬぅぅぅぅん! やっぱ、ゆるせぇぇぇぇん!」

 

「おまえはあれか! 俺達から次々に女神を奪ってそんなに楽しいかぁぁぁぁ!」

 

松田元浜がキレてる・・・・。

 

もう、こいつら怖いよ・・・・何してくるか分からん雰囲気だもん。

いや、こいつらに限った話ではないけどさ。

 

とりあえず、だ。

 

「美羽、アリス。二人とも俺の側を離れないでね」

 

この二人が側にいれば、委員会もそれ以外の男共も襲ってこないから。

 

今の委員会連中はマジで怖い。

かつてないくらいの殺気を放ってるから。

 

「オッケー! こんな感じかしら?」

 

アリスは面白そうに笑うと俺に抱きついてきた!

 

「「「「あぁぁぁぁぁぁあああっ!?」」」」

 

絶叫をあげる男共!

 

こ、こいつ、分かっててやってやがる!

なんて質の悪い!

アリスめ、俺を困らせてそんなに楽しいか!?

 

「大丈夫。骨は拾ってあげるから」

 

「俺に死ねと!?」

 

ひでぇ!

なんてやつだ!

 

おまえ、俺の『女王』なの分かってる!?

もう少し、俺を支えてくれない!?

 

はぁ・・・・ま、そんなこと言っても今更か。

 

とにかく、今日からアリスも駒王学園の生徒だ。

ちなみに歳も誤魔化してるっぽいです、はい。

 

「あんたがOKなら私もOKでしょ」

 

うん、俺の心を読んでかこんなこと言ってくるし。

 

つーか、俺の場合仕方なかったからね!?

向こうでの三年がこっちでは一瞬だったんだからよ!

 

・・・・そんなことを言ってもこいつは聞かないか。

 

「へいへい。ま、よろしく頼むぜ、十七歳のアリスさん?」

 

「任せなさいな、十七歳のイッセーくん?」

 

こいつ、絶対に俺より歳上になりたくなかっただけだろ・・・。

 

ま、うちのクラスにいてくれた方が俺としても面倒を見やすくて良いけどね。

 

すると、教室の端っこにいる女子達が賑やかにしていた。

 

「ん? 何かあったのか?」

 

俺が視線を向けると、それに気づいたアーシアが駆け寄ってくる。

 

「イッセーさん! ゼノヴィアさんがすごいんです!」

 

続くようにイリナが言う。

 

「期末試験の結果なんだけど、ゼノヴィアったら全教科平均で九十点突破してるのよ!」

 

「マジっ!?」

 

九十点台ってかなりのもんだぞ!?

しかも、外国からの転入というハンデつきでその結果かよ!

 

ゼノヴィアってパワープレイのせいでお馬鹿に見られがちだが、なんだかんだで頭が良いんだな・・・・。

 

いや、これは努力の結果というべきか。

 

吸血鬼の領地に行った時も単語帳で暗記してたもんなぁ。

 

ゼノヴィアは特に偉ぶる様子も見せずに言う。

 

「自分がどれぐらい出来るのか試したくなっただけだよ。流石に国語だけは一番点数が低かったけどね」

 

ただ、その国語も俺より少し下なだけで大差ないという・・・・。

 

うーん、これは見事しか言いようがない。

 

「私はゼノヴィアやアーシアさんよりもちょっと低かったけどね」

 

恥ずかしそうに言うイリナだが、それでも平均点は俺より上!

アーシアも二学期の中間テストから平均八十後半をキープ!

 

アーシアも日本に来てから一年も経っていないというのに、国語の成績も良い!

 

「アーシアすごいね。私もまだまだってところかな?」

 

レイナもそう言って会話に参加するが・・・・テスト結果をみればアーシアとイリナの中間くらいだった!

 

やっぱ、オカ研メンバーって全員頭良いな・・・・。

で、俺が一番の劣等生・・・・オカ研の劣等生、ね。

 

今回のテスト結果に満足していたが、これでは足りないと言うことなのか!

 

さっきまでの自分が恥ずかしい!

 

だって、ゼノヴィアよりも遥かに下の点数で自慢してたんだもん!

 

俺が自分自身に嘆いているとメガネ女子の桐生が、

 

「あんたらの子供、父親に似たら悲劇よね」

 

なんてからかってきやがった!

 

うるせーやい!

確かに女子の方が圧倒的に成績は良いよ!

 

すると、この場にいる女性陣は、

 

「そんなことないよ。お兄ちゃんだって頑張ればデキる子だもん」

 

と、美羽。

 

「なに、教育と環境次第ではどうにかできるさ」

 

「うんうん、その通り!」

 

「愛があれば良い子に育ちます!」

 

ゼノヴィアもイリナもアーシアもそのように返す!

 

「イッセーくんって決して勉強ができないわけじゃないと思うな。ほら、咄嗟の判断力とかすごいし。子供にもその辺りは受け継がれるかも?」

 

レイナもそう言ってくれる!

 

君達、嬉しいけど場所を選んで!

ほらほら、まーたクラス中の視線が集まってきてるから!

男子共の殺気に満ちた視線が!

アリスとの一件で膨らんだ殺気が更に!

 

俺がクラス中の男子共から殺気を向けられる中、ゼノヴィアが力強く頷いた。

 

「しかし、これで私の目標実現に弾みがついた。やはり、真剣に取り組んでみるべきだな」

 

目標、か・・・・。

 

ゼノヴィアが勉強に真剣に取り組んでる姿をよく見かけるんだが・・・・それ以外にも色々行動しているみたいなんだよね。

たまに部活休んで生徒会の仕事を手伝うようになってたし・・・・リアスとソーナのもとを訪れて何か相談しているようだった。

 

それは別にオカ研が嫌になったとか、シトリーの方が居心地が良くなったとかではなく、ゼノヴィアに出来た『目標』なるものが関係しているようだが・・・・。

 

この件はリアス、朱乃、アーシア、イリナ、そしてソーナしか知らず、他のメンバーは知らないんだ。

リアス達に聞いても「ゼノヴィアが話すまでは内緒よ」と返されるだけだった。

 

ゼノヴィア本人も「まだ秘密だ」と教えてくれなかったし。

 

まぁ、そこまで言うなら俺はゼノヴィアが話してくれるまで待つけどね。

 

そんなことを思っていると松田と元浜がふいに聞いてきた。

 

「そういや、イッセー。冬休みはどうするんだ?」

 

「そうだぞ。そろそろ予定を訊きたいところだ。どうなんだ? どこか行けそうか?」

 

冬休み・・・・。

期末テストを終えた駒王学園ももうすぐ冬休みに入る。

 

俺も学生だ。

悪友二人と遊びたい気持ちはあるが―――――

 

「いやー、すまん。オカ研の部活動ありそうだし、まずはリアス部長に都合を訊かないことにはな・・・・」

 

「うちって、結構忙しいもんね」

 

と、美羽も続く。

 

悪魔稼業もあるが、一番の理由は俺達は『D×D』参加メンバーであること。

いつどこで『クリフォト』が動き出すか分からない状況だ。

俺達は常時出撃できるように構えておく必要がある。

 

松田が更に訊いてくる。

 

「大晦日と三が日でもダメか?」

 

「うーん、流石にそこは空きそうだけど、まだ分からないな」

 

俺は曖昧にそう返す。

 

今年の元旦は三人て「今年こそ彼女ができますよーに!」って拝んだよなぁ。

俺は叶ったと言えるが・・・・・。

 

元浜が息を吐く。

 

「最近、忙しそうだな。この間は久し振りにカラオケに行ったが・・・・」

 

「あの時の美羽ちゃんノリノリだったな。ウルトラソウル」

 

「アハハハ・・・・・」

 

松田の感想に苦笑する美羽。

 

あれは吸血鬼の領地に行く前だったか。

俺と美羽、松田、元浜の四人でカラオケとボーリングに行ったんだが・・・・最近で遊んだのはそれぐらいだ。

 

休日を修行に費やす今の俺はこいつらにとって付き合いにくい友人となっているのは間違いない。

ただ、それでもこいつらは友人として接してくれる。

それは嬉しかった。

 

松田が言う。

 

「うーむ、イッセーがそういうことなら、この冬休みはコンクールに向けての素材を探すとするかな」

 

現在、松田は写真部に所属している。

コンクールとは来年に開かれる写真のコンクールのことだろう。

 

「松田くん、コンクール出すの?」

 

「まぁ、せっかく入ってるし。良い成績は残したいなーって。あ、美羽ちゃん、モデルしない!?」

 

「う、うーん・・・・」

 

「美羽の写真を撮っていいのは俺だけだ」

 

「ちょっとくらい良いだろ、このシスコン!」

 

却下だ。

 

などと話していると、元浜が思い出したかのように言った。

 

「そういや、話は変わるが、最近ロスヴァイセちゃんを図書室でよく見るって噂、知ってるか?」

 

「あー、知ってる知ってる。なんか、本を見てはため息をついてるって話だろ? えーと、聖書関連の本だって聞いたな。何か知ってるか、イッセー?」

 

ロスヴァイセさんが聖書関連の本を・・・・?

 

俺達は聖書関連とは縁が深い。

一度、その辺りのことも勉強する必要がある。

 

でも、北欧出身とはいえ、ロスヴァイセさんは才女だし、聖書は既読のはず。

正直、俺なんかよりも知識は広く深い。

 

それが今更どうして?

 

つーか、ロスヴァイセさん無茶するなぁ。

聖書関連の本を読めば悪魔である俺達は頭痛がするのに・・・・。

 

あ、でも、ロスヴァイセさんならその手の防御魔法も習得してそうだな。

聖剣を短時間とはいえ、手にできる魔法とかも使っていたし。

 

改めて認識しておきたいことでも出来たのか、それとも気になることがあったのか・・・・・。

 

「うーん、わからん」

 

「そうか。オカ研のおまえなら知っていると思ったんだが・・・・ロスヴァイセちゃんのファンはけっこう心配しているから、解決できるならオカ研の皆で話してみてくれよ」

 

「おう、了解だ」

 

ロスヴァイセさんの悩み。

そういや、ロスヴァイセさんから相談とか受けたことないな。

 

まぁ、俺で解決できるようなことなんて限られてくるけどさ。

 

「オカ研繋がりといえば、次は誰が新部長なんだ? そろそろ決めておかないとリアス先輩も引退できないだろえ?」

 

元浜がそう口にし、俺と美羽は顔を見合わせた。

 

そっか、もうそんな時期なんだな。

 

この時期ともなると、新しい世代へ受け継ぐ部活動も出てくる。

このクラスにも新部長もしくは副部長に任命された奴がいる。

 

当然、オカ研にも世代交代があってもいい頃だ。

流石にリアスが卒業してからも部長、なんてことはあり得ないしな。

 

そうなると気になるな。

 

誰が新部長で、オカ研を引張っていくんだ?

俺達二年の中で一番オカ研のことを把握しているのは木場だけど・・・・。

 

リアスがそんなストレートに選択するだろうか?

 

だけど、そうなると想像がつかないな。

 

ロスヴァイセさんのことといい、オカ研の新部長のことといい、年の瀬を目の前に何かが起こりそうな気が・・・・する。

 

そうこうしている内にチャイムがなり、生徒は各自の席につく。

 

ガララッと教室の扉が開き、先生が入ってきた。

 

「テメーら席つけー。兵藤ー、イチャイチャは即刻止めろー」

 

「してませんよ!?」

 

今は普通にしてるでしょーが!

 

しかし、俺の抗議をスルーして先生は本を開く。

 

「ブリーチ二十巻を開け」

 

「ねぇ、イッセー。私、そんなの持ってないんだけど。見せてくれない?」

 

「俺も持ってねーよ」

 

真面目に受け止めるアリスに俺はそう返したのだった。

 




とうとうアリスが駒王学園の生徒になりました!


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3話 新しい可能性を求めて

領域(ゾーン)――――それは極限の集中状態。

 

自身の時間軸を高位のレベルに上げることで、相手とは違った世界での行動を可能にする。

ここに辿り着けると戦闘のレベルが数段上がると言ってもいい。

 

グレモリー城の地下にあるおなじみの修業空間に俺達は集っていた。

 

各自、修業に取り組んでいるが、俺はというと・・・・

 

「おらおらぁ! そんなんじゃ、やられちまうぞ!」

 

「くぅ・・・・ぅっ!」

 

今日は木場に対して領域(ゾーン)に意識的に入れるように修業をつけていた。

 

今の木場は第二階層――――騎士王状態にあり、俺も天武の鎧を纏って対峙している。

 

皆にはレベルに合わせて修業をつけると伝えておいたけど、俺は殺す気でかかっている。

それぐらいしないと至れないからだ。

 

木場が新しい禁手を得ようとした時も殺す気でやったが、今回はそれ以上。

 

ここまで追い詰める理由は生死の狭間を実感させるためだ。

それを実感することで、更なる高みに至れる。

 

まぁ、実際に殺したりはしないからね?

死んだらアウトだし・・・・・。

修業もくそもないし・・・・・。

 

「はぁぁぁっ!」

 

木場が残像を残しながら横合いから斬りかかってくる!

 

白と黒のオーラをたぎらせながら、振り下ろされる全力の一太刀。

破壊の特性も入っているせいか、以前の木場よりもはるかに攻撃力が増している。

 

左腕でそれを受け止めると、刀身から発せられた冷気によって籠手を凍らされた!

 

「まだだっ!」

 

それを勝機とは見ず、更なる追撃をしかけてくる!

 

刀身には―――――水と雷!

 

内側から焦がすつもりか!

しかも、水もあるから余計に感電しやすい!

 

「あめぇ!」

 

右腕の籠手、そこに搭載されているブースターが大きく展開し、炎を放つ!

 

俺はその手で日本刀型の聖魔剣の刀身を掴む!

巻き起こる炎が水と雷を呑み込み、消し去った!

 

木場は――――既に聖魔剣を手放しており、その代わりに手にはグラム。

 

「いい判断だ」

 

「あのままじゃ、死んでいただろうからね」

 

俺の言葉に木場は苦笑する。

 

使えない、危険だと判断した段階で武器を手放し、新たな武器に持ちかえる。

戦場じゃ良くあることだ。

 

ただ、念のためにもう一度言っておくが、実際に殺したりはしない。

今のだったら、木場が全身大火傷をするレベルなので、アーシアの治療で一瞬で完治する。

 

さて、木場も大分天武の動きが分かってきたみたいだし、俺も変えるか。

 

俺は鎧の形状を変更。

 

「禁手第三階層――――天翼。さぁ、こっからが本番だ」

 

「・・・・今までは本番じゃなかったのかい?」

 

「天武のままでも良いんだけど、おまえを相手取るなら天翼の方が良いだろ?」

 

天武は格闘特化だけあって近距離戦がメインとなる。

それに対して天翼ならオールレンジでの攻撃から攻防一体の戦闘まで幅が広い。

 

木場を追い詰めるなら天翼の方がもってこいって訳だ。

 

「気を抜くなよ? 一瞬でも気を抜けば―――――死ぬぜ?」

 

「っ!」

 

俺の殺気をぶつけられた木場はグラムを構える。

 

俺は地面を蹴って―――――瞬時に背後へと回り込んだ。

 

「くっ!」

 

木場は振り返り様にグラムを横に薙ぐが、虚しく空を切る。

 

「遅いっ!」

 

その隙を狙って掌底を鳩尾に叩き込む!

 

木場は咄嗟に後ろへ飛ぶが回避に間に合わず、半分ほど食らってしまう。

 

ヴァーリやサイラオーグさんなら、これを受けても平気で返してくるだろう。

しかし、防御力の薄い木場なら、今の威力でも相当なダメージ。

 

吹き飛びながら、口から血を吐き出していた。

 

俺はフェザービットを展開し、更に追撃をしかけた。

 

「木場ァ! 敵は待ってくれねぇぞ!」

 

「わかっているよ! この程度で倒れるわけにはいかないね!」

 

なんとか持ちこたえた木場は左手にグラムを持ち、右手に日本刀型の聖魔剣を創造。

二刀流の構えとなって、俺を迎え撃つ。

 

木場はフェザービットの砲撃をかわしながら駆け抜けていく。

 

この砲撃の嵐の中を潜り抜けるとは・・・・・流石に速い。

 

俺はフェザービットを両手に持つと、オーラを流し込む。

すると、赤いオーラで形成された刃が現れた。

 

こいつがフェザービットのソードモード。

 

赤い二振りの剣を握り、木場目掛けて飛翔する。

 

衝突する互いの剣。

流石に剣の質では木場の方が上だ。

 

魔剣の王と呼ばれるグラムもそうだが、騎士王状態の木場が造り出す聖魔剣もかなりのもの。

聖と魔、相反する力をぶつけ合い出力を上げている。

 

水と雷、風と火のように相性の良い属性を組み合わせての攻撃も鋭い。

更には幻影も作り出せるようになっているようで、能力の幅もどんどん広がっているようだ。

 

俺の剣戟を受けた木場は大きく後ろに飛ぶと聖魔剣を大きく振る。

 

すると―――――無数の剣が聖魔剣の刀身から飛び出てきた!?

 

「んなっ!? そんなこともできんのか!?」

 

俺は回避しながら、驚愕の声をあげる。

 

だって、滅茶苦茶な数が降ってくるんだぜ!?  

 

驚く俺に木場は不敵な笑みを浮かべる。

 

「切り札は最後まで取っておくものだよ」

 

「ええい、言ってくれるな、イケメン王子! だがな、俺の天翼の特性を忘れてるぜ!」

 

フェザービットを操作して正面にシールドを展開!

降り注ぐ全ての剣を防ぎきる!

 

巻き起こる砂塵。

 

その時、俺の背後に気配!

 

「これで取った!」

 

振り下ろされるグラム。

龍殺しの一撃を受ければ俺もタダではすまない。

 

だから―――――

 

「なっ!?」

 

今度は木場が驚愕の声をあげる。

 

なぜなら―――――俺の姿が赤い粒子に変わり、宙に消えたからだ。

 

その光景に動きを止めてしまう木場。

 

そんな木場の背後からアスカロンの刃を首筋に当てて、

 

「こいつで終いだ」

 

「は、ハハハ・・・・まいった。流石だよ」

 

 

 

 

 

 

 

「気を抜くなって言ったろ」

 

「抜いたつもりはないんだけどね・・・・というより、あれを見たら誰でも動きを止めると思う」

 

「だから、動き止めたら死ぬって。戦場でもそれ言うつもりか?」

 

「うっ・・・・イッセーくんは手厳しいね」

 

先程の失敗に深くため息をつく木場。

 

ま、最後の最後で問題ありだったけど、良くついて来ていると思う。

以前の木場とは比較にならないほどの進歩だ。

 

成長の速いグレモリー眷属の中でも木場は頭一つ二つ抜けているのはいつも実感してること。

 

このペースだと、少ししないうちに領域に至れそうだ。

 

ふと上を見上げると上空で白い閃光がジグザグに動き回っていた。

光翼を羽ばたかせる鎧姿のヴァーリだ。

 

あいつも修業に参加しているのだが、模擬戦の相手はあの初代孫悟空のじいさん。

 

幼稚園児ほどの背丈の白い猿のじいさんが、雲――――觔斗雲に乗りながら、最小限の動きだけでヴァーリをいなしていた。

 

ヴァーリの魔力、魔法攻撃を如意棒で打ち消し、ありとあらゆる妖術を使って翻弄していく姿は流石としか言いようがなかった。

 

もっとも、どちらも本気ではないのだが・・・・それでも初代の実力の凄さが伺える。

 

数分の攻防の末にヴァーリが鎧を解除して下に降りてきた。

初代のじいさんも戻ってくる。

 

ヴァーリは肩をすくめた。

 

「・・・・悔しいが、当たらないものだな」

 

「いやいや、おまえさんも流石の白龍皇じゃて。おまえ達二天龍の攻撃をまともに受ければ儂とて塵と化すわい。攻撃の威力だけなら、儂よりもおまえさん達の方が上だぜい?」

 

「そうは言っても中々当たらないんですけどね」

 

俺は苦笑する。

 

俺も相手をしてもらったが、ヴァーリと同じく中々当てることが出来なかった。

 

妖術と仙術を極めた伝説の妖怪、初代孫悟空の名は伊達じゃない。

 

ま、持ってるテクニックもそうなんだけど、経験の差がありすぎるんだよね。

 

当たれば勝てる。

だけど、当てるまでが遠い。

 

初代は煙管を吹かしながら笑む。

 

「そうは言うが、赤龍帝の坊主も中々やるぜぃ? 流石に異世界で戦場を駆け巡ってきただけはある。現段階では赤いほうが白よりも僅かに上かのぅ。スピードもパワーも互角じゃが、技の多彩さで赤が勝ると言ったところじゃろう」

 

なるほどなるほど。

初代から見た俺達はそう言う評価なのね。

技ってのは錬環勁気功のことを言ってるんだろうな。

 

まぁ、それでも・・・・。

 

俺は息を吐きながら言う。

 

「ヴァーリが白銀状態になれば、ごり押しでやられそうだけどな。テクニックがあっても圧倒的過ぎる力の前では潰されるし」

 

例えば曹操。

あいつは俺以上のテクニックを持ったテクニックタイプの極みとも言える存在。

 

ただ、その曹操が無限だった頃のオーフィスに勝てるかと問われるとまず無理だろう。

何しろ攻撃が効かないし、オーフィスが全力で攻撃なんてすれば、その余波だけで致命傷を受けるかもしれない。

 

今のは極端な例かもしれないが、ヴァーリの極覇龍もそれが言える。

あの白銀状態のヴァーリの戦闘力は俺の三形態よりずっと上だからな。

 

まぁ、勝機がないわけじゃない。

 

ヴァーリが自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

「知っての通り極覇龍は使い勝手が悪すぎてね。総合的なバランスでは君の三形態の方が上だろう」

 

「極覇龍はスタミナの消耗が激しすぎるからな。俺が勝てるとすれば、使いきったその後だ」

 

「そこに持ち込まれればこちらは手も足も出なくなるだろうな」

 

ヴァーリはそう言うが・・・・その時はその時で何かしてきそうだけどな。

以前の模擬戦の時のようなとんでもない技編み出してたりして。

 

初代が煙管を吹かした後に言った。

 

「極覇龍とやらは覇龍よりはマシじゃけどねぃ、潜在能力を一時的に全て解放する点では一緒でのぅ。つまりは負担が異常なレベルなんじゃい。いくら覇龍より危険を取り除いたとしても、おいそれと連発も維持も出来たもんじゃないじゃろ。白龍皇の課題は有り余るパワーを必要に応じて出力できるようになることだろうねぃ」

 

続けて初代は話す。

 

「赤龍帝は倍加と譲渡、白龍皇は相手の力を半減した上でその力を自分のものにすること。歴代の二天龍の宿主はこれらの力を駆使して戦っておった。それらの力を珍しい使い方をしていた者はおったが・・・・おまえさんらのようにデタラメなパワーアップをした者は一人としていなかったはずだぜぃ?」

 

デタラメなパワーアップか。

 

ヴァーリは才能によって白龍皇の力を引き上げようとしているが、俺は様々な要素の元で禁手を別の次元に進化させてきている。

 

ま、木場もそこへ至れたわけなんだけどさ。

 

何にしても禁手を第二、第三へと上位の次元に向かわせているのは事実だ。

 

それに・・・・・

 

初代が言う。

 

「デタラメなパワーアップもそうじゃが、どうやら天龍本来の力が解放されたようじゃの? ドライグとアルビオンは神器の奥から帰ってこんのじゃろい?」

 

初代の言うようにドライグとアルビオンは神器の深奥へと出かけている。

 

先日、ユーグリットとの戦いでドライグの方から流れ込んできた力。

あれはドライグが持っていた天龍本来の力らしい。

 

ドライグとアルビオンの意識が共鳴したことで解放されたのか、もしくは別の理由があるのか・・・・。

それははっきりと分からないが、新たな力が目覚める可能性が出てきたことは確か。

 

それはアルビオンの方でも同じようだ。

 

そこで、二人は意識を繋げて神器の深奥へと潜り、新たな可能性を探ることにしたのだが・・・・・。

 

ヴァーリが言う。

 

「存外、アルビオン達は苦戦しているようだ。・・・・意見を問いたい歴代白龍皇達は赤龍帝を嫌悪しているそうだからな。むろん、それは積年の恨みとは別に兵藤一誠への不快感を表している」

 

う、うん・・・・それを言われると大変申し訳なく思ってしまう。

 

歴代の白龍皇達は神器の内部で『赤龍帝被害者の会』を設立してしまい、ドライグとアルビオンの和解後も断固として不快感を訴えているそうだ。

 

ま、まぁ、確かに原因は俺だよね・・・・おっぱいドラゴン。

 

でも、ケツ龍皇って名付けたのはオーディンのじいさんだってことはご理解いただきたい!

 

ドライグも白龍皇の神器に意識を移動させて、歴代の残留思念の話を聞いているんだが・・・・アルビオンが間に入っても苦戦しているとのことだ。

 

どうしたものか・・・・。

 

『私が行っちゃいましょう! 説き伏せてくる!』

 

やめてくんない!?

 

あんたが動くとろくでもないことになるだろ、この駄女神!

 

『心配しないで。ちょーっと縛って、ちょーっと鞭で会話するだけだから』

 

なにが『ちょーっと』だ!?

 

許さん!

許さんぞ!

SMで説き伏せるとか無しだからな!?

 

『ぶー』

 

拗ねた!?

拗ねたの!?

 

そんなにSMプレイしたいのか!?

 

すると、イグニスは実体化して俺達の前に現れる。

 

「良いもん、イッセーのけちんぼ」

 

石を蹴る仕草をするとイグニスは視線をヴァーリに移し――――――

 

「ヴァーリくん、私と遊ぼ~♪」

 

「やめてぇぇぇぇ! ヴァーリを巻き込まないでぇぇぇ! 逃げろ、ヴァーリ! おまえはこんな駄女神と関わっちゃいけない! おまえまでこっち側に来る必要はないんだ!」

 

「・・・・しかし、兵藤一誠は彼女の力もあり新たな強さを得たと聞く。ならば、俺も―――――」

 

「早まるな! そこで真面目に考えないでくれぇぇぇぇ!」

 

「うんうん、ヴァーリくんは分かっているわね。なら、私が新しい扉を開いてあげる!」

 

「開かんでいい!」

 

俺は必死になってイグニスを羽交い締めにする!

 

ヴァーリまでシリアスブレイカーにしてたまるか!

 

俺のライバルにはシリアスのままでいてほしい!

 

なんとかして駄女神を押さえつける俺だが・・・・何か柔らかいものに触れた。

 

見ると俺の両手はイグニスの胸を鷲掴みにしていて―――――

 

中々の感触だ!

 

女神さまのおっぱい!

この柔らかさとこの弾力!

流石です!

 

「いゃん♪ イッセーのエッチ♪ なーんだ、ヴァーリくんに取られるのが嫌だったんだー? ふふふ、そうなの、そういうことなの」

 

「お、おい・・・・おまえ、何を・・・・?」

 

目もとをひきつらせる俺を見て楽しげに笑むイグニス。

 

「皆が見ている前でなんて流石は鬼畜☆」

 

「いや、おまえには言われたくない!」

 

「でも、まだまだね。私の力を見せてあげる! ヴァーリくん! これがイッセーを鍛えた私の実力よ!」

 

「ほう、それは興味深い。異世界の女神の力、見せてもらおうか」

 

「興味持つな! って、ギャァァァァァァ! 犯されるぅぅぅぅ! たぁぁぁすぅぅぅけぇぇぇてぇぇぇ!!」

 

俺はイグニスに襲われた。

 



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4話 皆、頑張ってます!

サブタイが浮かばない~


俺は初代とヴァーリを見送った後、他のメンバーの修業を見て回っていた。

 

騎士王を限界まで使った木場は流石に領域の修行はキツいため、今は軽い筋トレをこなしているところだ。

 

「おっ、イッセーか」

 

「木場くんの修行は終わったの?」

 

ゼノヴィアとイリナが歩み寄る俺に気づく。

 

「ああ、木場も限界だからな。次はゼノヴィアだ」

 

俺も自身の修行も行うが、基本はいつもと同じく指導側だ。

特に剣士組である木場、ゼノヴィア、イリナの三人に領域に自在に入れるようにするための修行をつけている。

 

修行形式は一対一。

剣士組の三人をローテーションしながらの指導だ。

 

剣士組の他にも色々な組があり、魔力魔法組にはリアス、朱乃、ロスヴァイセさん、アーシア、レイヴェルそしてレイナといった後衛のメンバーが主だ。

 

黒歌が付き添っている小猫ちゃんとギャスパーの組。

小猫ちゃんにも領域の修行をつけてやりたいところだが、今は白音モードの方を優先してもらっている。

小猫ちゃんの新しい力はその特性上、邪龍対策になるからだ。

 

邪なものを浄化………スケベな俺が触れたら浄化されるのだろうか?

それは恐ろしいな………。

 

で、美羽とアリスの組もあるんだが、こちらはと言うとだ、

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

「やぁぁぁぁぁっ!!」

 

離れたところで激戦を繰り広げていた!

 

実はこの二人、もう領域に入れるんだよね。

恐ろしいスピードで会得しやがった!

 

アリスは前回、ヴィーカに敗北したことから尋常じゃないレベルのメニューをこなし、美羽もそれに付き合う形で修行に打ち込んだ。

 

その結果、二人の成長がとんでもないことに………。

 

「これならどう!」

 

アリスが槍の穂先に白雷を纏わせて横凪ぎに振るう。

 

放たれた白雷が弧を描きながら美羽を襲い、防御魔法陣の上からでもダメージを与えていく。

美羽のジャージが焦げ、ボロボロになるほどだ。

 

しかし、美羽も負けてはいない。

 

素早く新たな魔法陣を縦横無尽に展開し、風の弾丸を斉射していく!

バスケットボール大の弾がアリスへと降り注いだ!

 

巻き起こる爆煙。

離れている俺達の元にまで砂塵が飛んでくる。

 

辺りが茶色く染まる中、白い閃光が俺の視界に写った。

 

「そこよ!」

 

その声が聞こえたと思うと、今度は暴風がこのフィールドに吹き荒れた。

周囲を覆っていた砂塵を一瞬で吹き飛ばす。

 

視界が開け、目に写ったのは衝突するアリスの槍と美羽が展開した分厚い防御魔法陣。

 

二人とも息を荒くしているが、不敵な笑みを浮かべ、

 

「よく見切ったわね」

 

「アリスさんの方こそ。ボクの攻撃が中々当たらないんだもん」

 

そう言うと二人は大きく後ろに跳び―――――再びぶつかり合う。

 

轟く雷鳴、全てを切り裂くような風の刃。

 

いつも仲の良い二人とは思えないほどの激しい戦い。

 

これ、修行だよな…………?

修行と言うより殺し合いに見えてしまうんだけど…………本気の。

 

ふと隣を見るとポカーンとするゼノヴィアとイリナ。

 

「なんというか………別次元ね」

 

「あ、ああ。正直、今の私で勝てる気がしない」

 

自信を無くさないで!

そんなに落ち込むなよ、ゼノヴィア!

いつもの無駄に自信のあるおまえはどこに行った!?

 

俺は苦笑しながら言う。

 

「ま、まぁ、あいつらは元々が最上級悪魔クラスはあったんだ。そいつが領域に突入すればああなるさ。…………それにしても激しすぎるような気もするけど」

 

ケンカしたわけじゃないよね?

 

修行する前は二人で仲良く宿題してたし。

 

う、うーん…………やっぱ、対テロチームに所属してるってことで気合い入れてんのかなぁ?

 

などと考えていると、イリナが天使の羽を羽ばたかせて俺の元に近寄る。

 

「見て見てイッセーくん!」

 

そう声を弾ませながらイリナは空中でくるりと軽やかに飛び回ると、特撮ヒーローのようなポーズを決めた。

 

そこで、俺はイリナの変化に気づく。

 

「あっ、イリナの翼が四枚になってる」

 

「よくぞ、気づいてくれました!」

 

イリナはそう言うとえっへんと胸を張る。

 

うーむ、相変わらず良いおっぱいだ。

 

「うふふ、今朝、私の天使としてのレベルが上がったという天啓が降りたの! いざ、翼を出してみたら、この通り! ああ、これも日頃の私の行いを見守ってくださったミカエルさまからの恩恵なんだわ!」

 

あー、すんごくお目々を輝かせてお祈りポーズしてら。

 

そっかそっか、イリナの天使としての格が上がりましたか。

ま、当然と言えば当然だと思うけど。

 

イリナも俺達と共に激戦をくぐり抜け、強敵達に打ち勝つために修業を積んできたんだからな。

それに、仮にもミカエルさんのA(エース)だし。

 

ゼノヴィアが感心するように頷いた。

 

「これで天使として扱える力が広がったんじゃないか?」

 

「ええ。天界で保管している聖なる武器なんかも使用許可が容易になったわ。今まではいくつか審査が必要だったのだけれど、今ならそれらを省略できるの!」

 

そんな審査が必要だったんだ。

初めて知ったぞ。

 

でも、これでイリナは天界のアイテムを呼び寄せやすくなったわけだ。

 

ゼノヴィアが目元を手で覆う。

 

「うぅ………自称天使などと言われていた友人がようやく羽ばたきはじめたか! 友としてこれほど誇らしいこともないぞ…………!」

 

いや、それ言ってたのおまえ!

 

「もう、ゼノヴィアったら、大袈裟よ! 照れるじゃない!」

 

イリナも突っ込めよ!

なっちゃいないよ!

 

「「はぁぁぁぁぁっ!!」」

 

 

ドッゴォォォォォォォォォォンッ!!

 

 

二人が熱い友情を繰り広げている横で爆音が聞こえてきた。

 

ほんっと激しいなぁ…………。

 

 

で、更にその近くでは――――――

 

 

「よいではないか♪ よいではないか♪」

 

「あーれー」

 

イグニスとオーフィスがなんかやってる!?

 

おまえら、その着物と帯どっから持ってきた!?

 

つーか、どこで覚えたその遊び!?

 

 

 

 

ゼノヴィアとイリナの相手を終えた後。

 

俺の視界に眩い光が入り込んでくる。

 

顔をそちらに向ければ、上空に輝く天使が一人。

十枚にも及ぶ純白の翼を広げ、右手には巨大な炎の塊、左手には極太の氷の槍。

その頭上には雷雲が生じており、雷鳴を轟かせていた。

 

―――――ジョーカー・デュリオ。

 

デュリオの神器『煌天雷獄』は天候を操り、自然に存在する火、風、水、土、いかなる属性をも支配する能力を持つ上位神滅具。

 

デュリオの眼下にいるのは黒いジャージ姿の匙。

全身に黒い炎を纏い、デュリオと対峙している。

 

匙も俺達の修業に参加している。

禁手に至るために。

 

神滅具所有者の相手、もしくはグレモリー眷属と修業すれば、禁手に至れるのではないか、そうソーナが提案して皆も応じて協力している。

龍王の力を持つ匙が禁手に至れば、かなりの戦力になるだろう。

 

しはらく、匙とデュリオの手合わせを見守っていたのだが、ついにデュリオの容赦のない炎、氷、風、雷の各種属性にる連続攻撃で匙の黒い炎が打ち消されてしまい、決着がつくことに。

 

匙の能力はラインによる各種様々か付加能力、黒い炎による直接攻撃、炎の壁による封殺と多彩だ。

パワー重視の俺と比べるとテクニック方面が強い、

 

ただ、流石は天界の切り札と称されるジョーカー。

デュリオは匙の攻撃をかわし、あるいは払い、その動きを完封してみせた。

 

イリナが言う。

 

「ジョーカーは性格的にあまり自分から攻撃を繰り出すタイプではないと聞いているわ。やろうと思えば大掛かりな攻撃もできるでしょうけど」

 

修業中のデュリオは回避しながら相手の虚を突く難易度高めの戦法を選んでいるようにも見える。

 

多分、あれがデュリオなりの修業なんだろう。

自らに制限をつけて、その中で動く。

聞けばデュリオは接近戦が苦手のようだから、そこを克服したいんだろうな。

 

匙が戦闘後のストレッチで体をほぐした後に俺達の元にやってくる。

 

「やー負けた負けた。まだまだ俺じゃ天界の切り札さまに一泡吹かせられないぜ!」

 

悔しそうではあるが、色々と課題を見つけたって顔だな。

 

俺は匙にタオルを放る。

 

「おつかれさん。どんな具合だ?」

 

「少しずつ力が着いている実感はある。…………けど、中々に至れないもんだな」

 

まぁ、最近では禁手のバーゲンセール状態になってるけと、元々は禁手自体が稀有な現象だ。

世界の流れに逆らうほどの強い意思と、劇的な変化が己の中で生まれないと至れない、って先生が言ってたのを思い出す。

 

ま、そう簡単に至れるものじゃないってことだな。

 

匙が俺達のほうに向けて言う。

 

「今日も特訓に参加させてくれてありがとな。じゃあ、俺は『学校』に行ってくる!」

 

匙が言う『学校』とはソーナがようやく建てることができた誰もが通えるレーティングゲームの学舎、その第一号だ。

 

まだ、生徒募集はしていないが、オープンスクールを実施しており、冥界全土から興味を抱いた親子が訪れているそうだ。

連日、人も入っているようで、シトリー眷属は大忙し。

 

匙に言う。

 

「リアスも今度の休日に手伝いに行くって言ってたから、俺達も行くぜ」

 

「それは助かる。いやー、初心者の俺達じゃ十分に対応できなくてさ。いちおう、今日からサイラオーグの旦那も駆けつけてくれるし、講演する講師の方も呼んだんだ」

 

「そういや、この間通信で張り切ってたな、あの人」

 

サイラオーグさんもかなりノリノリだった。

どんな風に教えればいいか、相談も受けたっけな。

 

「じゃ、また今度頼むぜ!」

 

匙は別れの言葉を残して転移の魔法陣へ消えていった。

なんか、すごくイキイキしてるな、匙のやつ。

 

空から降りてきたデュリオ。

 

懐からドーナツを取り出してモグモグしていた。

そういや、食べ歩きが趣味だっけ?

 

「俺って、スイーツ補給がないと生きていけないんだよね」

 

ジョーカーは自由だな。

 

すると、俺のところに飛び付いてくる者達がいた。

 

「あー! つーかーれーたー!」

 

「うーごーけーなーいー! おーなーかーすーいーたー! おーふーろーいーれーてー!」

 

模擬戦を終えた美羽とアリスだった。

二人ともジャージがボロボロで、大事なところしか隠せていない。

ほぼ全裸に近い姿だった。

 

そんな二人が後ろから俺に抱きつき、ヘトヘトの体を支えていた。

 

「ハハハ…………、おつかれさん」

 

俺は苦笑して二人の頭を撫でてやった。

 

 

 

 

皆の特訓も一段落し、汗を流した後は、ミーティングタイムだ。

 

「以上が、私達ウィザード組からの報告。私の必殺技は溜めの時間を減らせずじまい。朱乃は腕輪なしでも堕天使化が可能になりつつあるわ」

 

リアスと朱乃からの報告を受けて、今回のミーティングも終わりとなる。

 

「…………」

 

リーダーたるデュリオは…………半分寝ていた。

 

毎度、特訓に顔をだすものの、ミーティングタイムとなると眠気にうっつらうっつら支配されてしまう。

 

イリナがゴメンなさいのポーズをする。

 

「ジョーカーがこの手のものに参加するだけ奇跡だってシスター・グリゼルダも仰っているから許してあげて?」

 

リアスも息をついて、と苦笑する。

 

「いいわよ、イリナ。実力は本物でしょうから、今更疑うつもりもないし、注意もしないわ」

 

俺もうんうんと頷いて言う。

 

「そうそう。まだ半分意識あるだけマシだって。こいつらなんて、ほら」

 

俺は自分の両隣を指差す。

 

「スー…………スー…………」

 

「スピー…………」

 

俺にもたれ掛かる美羽とアリス。

美羽は俺の肩に、アリスは俺の膝に頭を乗せて絶賛熟睡中であります!

ミーティング中も寝息がこだましてました!

何度か揺すったけど起きませんでした!

ほんっとごめんなさい!

 

つーか、こいつら、ミーティングが始まる前からこれだもん!

参加する気ゼロじゃねえか!

 

レイナが言う。

 

「ま、まぁ、あれだけ激しく動いてたから…………。それにしても気持ち良さそうに寝てるわ」

 

「お二人が羨ましいです」

 

アーシアは美羽とアリスに羨望の眼差しを向けていた。

 

他のメンバーも苦笑する者と美羽達を羨ましがる者がいてだな…………。

 

うちの眷属、真面目に参加しているのは俺とレイヴェルしかいねぇ…………。

こういうのって『女王』が『王』をサポートしたりするんだよな?

全然ダメじゃん。

 

「レイヴェル…………おまえには苦労をかけるよ」

 

「アハハハ…………お任せください」

 

うん、うちのレイヴェルちゃんもこの反応だよ。

ほんっとゴメンね。

 

リアスが俺達を見渡しながら話題を切り替えた。

 

「先日伝えた通り、今度の休日にソーナの建てた学校へ行くわ。オープンスクールの手伝いにね。ただ、その前に講師の方を迎えることになったの。今夜、兵藤家を訪れるそうよ」

 

講師?

あー、匙が言ってた人かな?

 

にしても、今日か…………えらく急だな。

 

疑問に思う俺だが、とある視線に気づく。

―――――ロスヴァイセさんが俺の方に視線を送っていたんだ。

 

俺がそちらを向くと、ロスヴァイセさんはさっと視線を外してしまう。

 

う、うーん…………これってこの間のことが原因だよな?

 

 

――――わ、私の・・・・彼氏になってください。

 

 

いきなり言われて戸惑ったけど、まさかロスヴァイセさんがあんなことを言ってくるとは…………。

しかも、皆の前で。

 

「「…………」」

 

な、なんか、リアスと朱乃が切なそうな表情で見てくるんですが…………。

 

え、な、なに?

 

教会トリオもひそひそと話し出す。

 

「見ろ、やはり間違いない」

 

「それって、ロスヴァイセさんも参戦ってこと?」

 

「そ、そんな…………」

 

「アーシア、ライバルが増えること自体は問題ではない。ようは自分達がどう仕掛けるかだ。今度、三人で突撃しよう」

 

おいぃぃぃぃぃぃっ!

 

突撃ってなに!?

 

ゼノヴィア、おまえ、また何か企んでるな!?

またお仕置きするぞ!?

 

「と、突撃って…………」

 

「それがダメなら拉致でもいい」

 

「そ、そんな拉致だなんて! て、天使の私がそんなこと…………」

 

「既にエロ天使と化しているイリナがそんなこと言っても説得力はないぞ。イッセーの部屋に行くときは常にノーブラじゃないか。戦意満々だね、イリナ」

 

「そ、それは、ノーブラ健康法だもん!」

 

「そんな風に情けなく目を泳がすぐらいなら、腹を決めるんだ。アーシア、イリナ、こういう時は―――――」

 

ああっ、なんか円陣組んで更に話し合い始めた!?

 

って、イリナ、やっぱりノーブラだったのか!

どうりで妙に弾みと動きがあるおっぱいだと思ったぜ!

着けるもの着けてなきゃプルプル動くよね!

 

その横からは黒歌と小猫ちゃんの会話が聞こえてきた。

 

「白音。やっぱ、あんたも攻勢に出なさいよ。そんなんじゃ、いつまでもお子さま扱いよ? 小鳥ちゃんを見習ってドーンとぶつかってみないと。子供を作るのはダメでも妊娠しなきゃ大丈夫よ♪」

 

「……………………」

 

「あ、今、それならって思ったでしょ? エロエロにゃ。エロエロにゃ」

 

「え、エロエロじゃ、ありません!」

 

「猫又はエロくてなんぼよ?」

 

「もう、姉さまなんて知りません! ギャーくん、あっち行こう!」

 

「え? あ、うん」

 

あーあ、こっちはこっちでまた…………。

小猫ちゃんがギャスパー連れてあっち行っちゃったよ。

 

黒歌も余計なこと言わんでいいって…………。

 

木場が苦笑いしながら、俺の肩に手を置く。

 

「がんばってね」

 

うん、俺、頑張る。

 

身がもつかどうか分からないけど…………。

 

「むにゃ、天界モンブラン食べ放題…………」

 

寝言を放つデュリオ。

 

幸せそうですな、リーダーは。

 

「よいではないか、よいではないか。我、帯を引っ張る」

 

「あ~れ~♪ やん、これ楽しい♪」

 

うちの龍神さまと女神さまは自由だな!

 

 

 



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5話 おばあちゃん、来訪!!

家に戻った俺達は兵藤家に戻って、講師の方を迎える準備をしていた。

家に住んでいるメンバーだけで十分なので、木場とギャスパーには自宅で休んでもらっている。

 

だが…………

 

「マスター。こんな感じでよろしいか?」

 

「うん。ありがとう、ディルさん」

 

ディルムッドも準備を手伝っていた。

今はテキパキと手を動かし、お茶の準備などをしてくれている。

 

こちらとしても動いてくれるのは助かるが、なぜ英雄派では『タダ飯ぐらい』の称号を得るほどだった奴が働いているのか。

 

試しに聞いてみたところ―――――

 

 

「マスターが働くというのなら、私もそれに付き従うのは当然のことだろう」

 

 

とのことだ。

 

こいつの美羽への忠誠心は何なんだろう…………。

 

うーん、これも唐揚げ効果なのだろうか?

だとすれば、餌付け効果抜群だな。

 

と、こいつがこうして動いていることにも色々と疑問はあるが、もうひとつ気になることが。

 

それは―――――

 

「あのさ………その服、どうしたの?」

 

俺はディルムッドを指差して問う。

 

今のディルムッドの服装。

 

それは―――――メイド服!

 

黒の網タイツを履き、更にはフリフリのメイド服という、もう百点満点をあげたいほどの組合わせ!

しかも、なんかエロい!

 

特に露出が多いというわけではない。

 

だが、スカートからの覗かせるスラッとした脚!

そこに黒い網タイツが合わさり、なんともエロいことに!

 

ディルムッドが言う。

 

「これはマスターに用意していただいたのだ」

 

「すっごく似合ってるでしょ? イグニスさんのアドバイスもあるんだよ?」

 

うん、すっごく似合いすぎて怖いくらい!

ディルムッドの冷たい雰囲気と長い紫色の髪も合わさって独特の魅力を発揮してるよ!

 

つーか、イグニスのアドバイスなのか!

やはり、あの女神は侮れない!

流石っす!

 

「あら、これ美味しい」

 

「うまうま」

 

「お二人とも、それ食べちゃダメですぅ!」

 

「食べるならこちらにしてください!」

 

お客さん用のお菓子を食べるイグニスとオーフィス。

そして、それを注意するアーシアとレイヴェル。

 

…………和むな。

 

お客を迎え入れる用意が整ったちょうどその時だった。

 

「お客さまがいらっしゃいましたわ。地下の転移室まで行きましょう」

 

と、朱乃が呼びに来てくれた。

 

俺達はお客さんを迎えるために地下へ――――。

 

 

 

 

地下の転移室へ移動した俺達。

 

ここには何人かいないメンバーがいる。

 

黒歌、ルフェイ、オーフィス、イグニスだ。

 

理由はルフェイを除くこのメンバーでは粗相を仕出かしかねないからだ。

 

ルフェイは黒歌のお目付け役として、黒歌と共に自室へ。

オーフィスとイグニスは俺の部屋にいると思うが…………何してんだろ?

 

 

 

~そのころのイグニスさん~

 

 

 

「オーフィスちゃん、勝負よ!」

 

「我、負けない」

 

「ふっふっふー。言ったわね? 最強の女神の力! 見せてあげる!」

 

 

イグニスは手を振り上げ――――

 

 

「じゃんけん、ポン! やった! 私の勝ち!」

 

「我、一枚脱ぐ?」

 

「そうそう♪ まずは―――――」

 

お姉さんな女神さまとロリっ子な龍神さまは暇なので野球拳をしていた。

 

 

 

~そのころのイグニスさん、終~

 

 

 

…………きっと、ろくでもないことしてんだろうな。

 

あの二人にも監視役をつけておくべきだったか?

 

ま、まぁ、お客さんを迎え入れるVIPルームには入るなと言ってあるし大丈夫かな?

 

転移室の床が北欧の術式で光輝いて魔法陣を作っていく。

 

転移の光が強くなるのを見てアリスが訊いてくる。

 

「今から来る人ってどんな人なの?」

 

すると、それにはリアスが答えた。

 

「今回、ここに来られるのはロスヴァイセのお祖母さまなの。魔法の使い手として、北欧の世界―――――アースガルズでも有名だと聞いているわ」

 

なんと、ロスヴァイセさんのお祖母さんでしたか!

そりゃ、驚きだ!

 

皆も驚き、ロスヴァイセさんの方に視線を向けており、視線が集まったロスヴァイセさんは複雑極まりないといった表情だ。

 

そうこうしている内に転移の光が強まり、一気に弾けた。

 

転移の光が止み、姿を表したのは紺色のローブを着た初老の女性だった。

精悍な顔つきで、背丈もロスヴァイセさんほど。

背筋もピンっとしていて、少し厳しそうな雰囲気を持つ人だった。

 

この人がロスヴァイセさんのお祖母さんか………。

 

ロスヴァイセさんのお祖母さんは俺達を見渡すと、口を開く。

 

「はじめまして、日本の皆さん。そこの孫がお世話になっているようで」

 

視線を向けられた孫のロスヴァイセさんは口元をへの字に曲げていた。

あまり歓迎していないのか、それとも緊張しているのか。

 

ロスヴァイセさんはお祖母ちゃん子だったそうだし、今でも仕送りをしているそうだから、苦手っていうわけではなさそうだけど…………。

 

ロスヴァイセさんのお祖母さんが改めて自己紹介する。

 

「私はゲンドゥル。ロスヴァイセの祖母です。以後、お見知りおきを」

 

 

 

 

俺達はゲンドゥルさんをVIPルームへと案内。

お茶とお菓子を振舞い、互いにあいさつを済ませた。

 

「というわけで、ゲンドゥルさんは今度、アガレス領で行われる魔法使いの集会に参加予定なのよ」

 

と、リアスが説明してくれた。

 

なんでも、名うての魔法使い達がアガレス領で魔法について話し合う集会を開くらしい。

 

悪魔以外の者が冥界に行くには特別な許可が必要。

その許可を取るのもかなり高難度だ。

つまり、その集会に集まる魔法使い達はそれだけレベルが高い人達だと言うこと。

 

悪魔に転生する前の美羽やアリスは比較的自由に冥界に足を運んでいたが、それはちゃんとした許可を得ていたから。

グレモリーという大きな後ろ楯と信用があってこそだ。

 

あっ、あと父さんと母さんも冥界に来たな。

俺の昇格の儀式の時に。

母さんはヴェネラナさんとお茶をしに、たまに行ってたりするみたいだが…………。

 

で、その名うての魔法使いが話し合う内容は珍しい術式、古代の魔法、禁術とされるばかりだそうで、聞くだけで難しい話をすることが分かる。

 

「ボクも参加しようかな…………」

 

うん、美羽なら聞いて理解できるかもね。

美羽は美羽で興味津々と言ったところだ。

 

ただ、この集会の内容を聞いて、思うところがあった。

 

「確か、各勢力で古代の魔法、禁術レベルの魔法を知ってる術者が行方不明になってるって報告があったよな? 今回のはそれに関係してるのか?」

 

俺がリアスに問う。

 

はぐれ魔法使いが動いているのか、それとも『禍の団』――――リゼヴィムが手を引いているのかは不明だが、そういう事件が多発しているとの報告があったんだ。

 

リアスは頷く。

 

「ええ。今回の集会が開かれるようになったのは術者が一度顔を合わせて意見交換したいという意識が高まったのも一つの要因よ」

 

静かに口を閉ざしていたゲンドゥルさんがゆっくりと話始める。

 

「これも外部には出していない情報なのだけれど、実は今回の集会で、一度お互いの研究テーマ、得意としている術を一時的に封じる方向で話を進める予定なのです」

 

「術を………魔法を封印するということですか?」

 

レイヴェルの問いにゲンドゥルさんは頷く。

 

「己の生涯をかけて高めてきたものを誰とも知らない悪辣な者に利用されるぐらいならば、ということです。少なくとも一連の事件が解決するまでは」

 

ゲンドゥルさんは続ける。

 

「堕天使の組織、グリゴリはアンチマジックについても研究が盛んだと聞き及んでいます。今回の件で私達の術の封印を堕天使に一任させていただくつもりです。己で封印したところで、拉致され催眠をかけられては破られかねませんし、他の術者に施してもらったところで、盗まれてしまう懸念もあるでしょう。それならば、現状世界で信頼を高めている堕天使の研究機関ならば良い妥協点となります」

 

「はい。アザゼル前総督を始め、アンチマジック専門のアルマロスさまも動いています。私共にお任せください」

 

ゲンドゥルさんに視線を向けられたレイナはそう返した。

 

なるほどなるほど、グリゴリの評判は上がってきているのか。

 

でも、まぁ、今じゃ色んな勢力に和議を唱え、自分達の技術を提供しているからな。

以前の悪役的なイメージは薄れつつあるのだろう。

 

ゲンドゥルさんは言う。

 

「その封印をする前に意見交換をしようということになったのです。集会への参加を拒否した者もいますが、それでも今回の集まりは貴重な時間となるでしょう。それに私はソーナ・シトリーさんからの招待を受けておりますし」

 

リアスが続く。

 

「ゲンドゥルさんが今回、来られたのはそういうことなのよ」

 

ゲンドゥルさんは魔法使いの集会とソーナの学校で講師をするために来たと。

 

その後、今後のスケジュールの確認を行った。

 

ゲンドゥルさんは数日、この町で過ごした後、俺達の休日に合わせて冥界入りすることになる。

 

 

 

 

 

 

予定の確認を終えた後は会話も砕けた内容となった。

 

「ゲンドゥルさんはヴァルキリーの一人としても数えられていたのよ」

 

リアスがそう教えてくれた。

 

ということはロスヴァイセさんはお祖母さんの影響でヴァルキリーになったんだろうな。

 

しかし、ゲンドゥルさんのコメントは辛口だった。

 

「要領が悪いのだから、向いてないと散々言ったんですよ。この子は抜けているところがありますから」

 

あー…………、昔からそうだったのか。

 

うん、学園でもロスヴァイセ『先生』じゃなくてロスヴァイセ『ちゃん』って呼ばれるくらいだしな。

たまにドジるよね。

戦闘中はそうでもないんだけど。

 

それを受けてロスヴァイセさんは恥ずかしそうに頬を染めて目を伏せてる。

 

テイーカップを置いたゲンドゥルさんはロスヴァイセさんに改めて問う。

 

「ロセ、私がここに来た理由のひとつ。おまえなら分かるね?」

 

…………ロスヴァイセさんって『ロセ』って呼ばれてるんだ。

 

「ここには男性が一人しかいません。彼が――――そうだと思っていいんだね?」

 

俺に視線を移しながらゲンドゥルさんはロスヴァイセさんに問いかける。

 

その瞬間、この場にいる全員の視線が俺へと向けられた。

 

…………お、俺ですか?

 

疑問符を浮かべる俺だが、ロスヴァイセさんは立ち上がって、大きく深呼吸した後に言った。

 

「そうです。彼が私の彼氏、兵藤一誠くんです」

 

…………。

 

 

……………………。

 

 

………………………………。

 

 

…………そ、そうきたかぁ。

 

な、なるほど、この間の風呂場の告白はここに来るわけか…………。

 

あれですか、故郷にいるお祖母さんにこっちで彼氏が出来たとか言ったんですか、ロスヴァイセさん!?

 

ゲンドゥルさんが言う。

 

「ロセ、おまえは勝手に家を出て、勝手に悪魔に転生し、勝手にこちらで人間界の教員など始めた。私に心配ばかりかける悪い孫娘です」

 

「うっ………そ、それは…………」

 

言い返せないでいるロスヴァイセさんをリアスが援護する。

 

「ゲンドゥルさん。それは私が勧誘したことも起因していますわ。ロスヴァイセばかりお責めにならないでください。責任は私にもあります」

 

「いいえ、リアスさま。悪魔になったことも、教職についたことも問題ではないのです。いえ、正確に言えば問題なのですが、それよりも勝手に、勢いで生き方を変える孫に一言言いたいのですよ」

 

「…………耳が痛いな」

 

クッキーをポリポリ食べてるゼノヴィアがそう呟いた。

 

うん、おまえはよーく聞きなさい。

勢いだらけだから。

 

自身の語気が強まっていることに気づいたゲンドゥルさんは一つ咳払いをする。

 

「まぁ、オーディンさまがおまえを忘れてきたことも原因の一つです。それに関しては私も意見を申し上げておきました。よって、不問とします」

 

あー、オーディンのじいさん、怒られたんだな。

 

自分のお付きを忘れるとか酷すぎるもんなぁ。

オーディンのじいさんが忘れずに帰ってたら今頃、ロスヴァイセさんもヴァルキリーとして活動していたはずだし。

 

確かに全ての元凶はあのじいさんだ。

 

ゲンドゥルさんはロスヴァイセさんに言う。

 

「私は心配なのですよ。勉強や魔法は出来ても要領が悪くて大いに抜けているおまえがこの極東の地でしっかりとやっていけているのか…………。そこで私がおまえか彼氏でも作っていれば安心できると常々言っていたのです。そうしたら、いると言うものですから…………」

 

…………そういう背景があったのね。

 

お祖母さんに心配をかけないために彼氏がいると伝えていたと…………。

う、うーん、そういうことなら事前に伝えてもらいたかった。

 

つーか、お祖母さんの来日が決まって、勢いで俺にしたよね!?

お祖母さんの言うとおり、この人もたいがい勢いで物事決めてるよ!

 

ロスヴァイセさんは俺の隣に寄り、腕に捕まってきた。

 

「い、イッセーくんは頼りになる男性です! で、伝説の赤龍帝だし、も、もう上級悪魔ですし…………そ、そそそそれに異世界では勇者と呼ばれる人なのですから!」

 

お、おいぃぃぃぃぃぃぃ!?

 

さ、最後の!

最後のはダメだろう!?

 

い、いや、異世界のことも俺のことも全勢力に知られているけどさ!

あまりそれを言わないでぇぇぇぇぇ!

 

「「「…………………」」」

 

なんか、部屋の空気が重たいことにぃぃぃぃぃぃ!?

 

ニコニコしてるのは美羽くらいか!?

 

え、なんか口パクで言ってきてるんだけど…………

 

なになに…………

 

お 嫁 さ ん が 増 え た ね…………?

 

それが伝わった俺はガクッと肩を落とした。

 

あぁ、やはり俺は妹によってハーレム計画を進められているのか!

嬉しいけど、なんか複雑!

こっちに親指立てて、グッジョブってしてるし!

 

「ご、ごめんなさい! お茶を取り替えてきますわ!」

 

朱乃が耐えきれなかったのか、辛そうな表情で立ち上がる!

 

「お茶ならここにあるぞ?」

 

あ、それをメイド姿のディルムッドが阻止しやがった!?

朱乃の逃げ道を塞いだのか!?

 

つーか、おまえも真面目にメイドさんの仕事してたんかぃぃぃぃ!

 

『英雄派のタダ飯ぐらい』はどこへ!?

 

俺が心の中でツッコミを入れまくっていると、ゲンドゥルさんは懐から新聞を一部取り出した。

 

あれは…………冥界の新聞か?

しかも日付が古い。

今日のやつじゃないのか?

 

この場の全員が怪訝に思っているとゲンドゥルさんは新聞を開いてテーブルに広げる。

 

そこには―――――デカデカと俺とアリスのキスシーンが!?

 

「「え、ええええええっ!?」」

 

俺とアリスの絶叫が重なる!

 

そう言えば、マグレガーさんが新聞に載ってたとか言っていたが…………あの写真はアザゼル先生が撮ったやつか!

 

な、なんで、ゲンドゥルさんがそれを!?

 

「赤龍帝殿には既に想い人がいるのではないですか? そこの彼女。赤龍帝殿の『女王』となられたとか。なのにおまえは赤龍帝殿を彼氏と言っている。これはどういうことか説明してもらいましょうか」

 

ですよね!

この流れだとそう来ますよね!

 

でも確かにあの新聞が出回っている以上、俺を彼氏として紹介はしにくい!

厳格そうなゲンドゥルさんだから「ハーレムなんて不純だ」とか言いそうだ!

 

「あっ…………う…………」

 

ロスヴァイセさんはその辺り考えてなかったの!?

 

言葉が出ないロスヴァイセさん!

 

打つ手なし、そう思われた時、美羽が挙手して口を開いた。

 

「大丈夫です! お兄ちゃんはハーレム王になりますから!」

 

爆弾投下した!?

 

いや、ハーレム王は目指しているよ!?

でも、相手を考えてくれ!

 

ロスヴァイセさんがピンチになっちゃうから!

 

焦る俺だが、美羽は続ける。

 

「この場にいる女の子達はお兄ちゃんを心から慕っています。ボクもお兄ちゃんのことが大好きで、この体も捧げました。それでも…………ボクはお兄ちゃんを独占しようなんて思いません」

 

「それはなぜです? 好きな人には自分だけを見てほしいと思わないのですか?」

 

ゲンドゥルさんが表情を変えることなく静かに問いかける。

 

それに美羽ははっきりとした口調で答えた。

 

「―――――大きすぎるから」

 

「大きい?」

 

「お兄ちゃんは心がとても大きな人なんです。この場にいる女の子全員でも受け止められるか分からないくらいに。エッチだけど、誰よりも優しくて、かっこよくて…………。それでいて、誰よりも悩んで…………それでも、今まで多くの人達を守って生きてきた。そんなどこまでも真っ直ぐな人だから。想ってくれるなら、ボクはそれだけで幸せなんです」

 

すると、側にいたアリスも立ち上がる。

 

「私も美羽ちゃんと同じ意見です。そういう人だからこそ私も兵藤一誠に心を奪われました。この場にいる全員―――――そして、ロスヴァイセさんも、きっと」

 

…………多分、二人ともロスヴァイセさんに助け船を出したのだろう。

だけど、二人の言葉は間違いなく本心で…………。

 

照れくさいような嬉しいような…………胸の奥がすごく熱くなる。

 

やべっ…………泣きそう。

 

二人の言葉に感動を覚える俺だが、ゲンドゥルさんは黙りこんだままだ。

 

しばらくの沈黙の後、ゲンドゥルさんが口を開く。

 

「…………英雄色を好む、とは言いますがそれはその男性にそれだけの魅力があってのことです」

 

ゲンドゥルさんは再び俺の方に視線を移す。

 

「彼もそれだけの魅力がある、ということなのでしょう。そうでなければ、ここまで想いの籠った言葉は出てきませんから」

 

あ、あれ…………?

新聞を畳んで仕舞ってしまったぞ?

ハーレムは認めてくれた感じなの?

 

ゲンドゥルさんはティーカップに口をつけるとロスヴァイセさんに問う。

 

「付き合ってどれくらいだい?」

 

「さ、三ヶ月です!」

 

「――――ということは、既に男女の関係も結んでいると思っていいんだね?」

 

ちょ、直球だぁ…………ドストレートだぁ…………。

 

ロスヴァイセさんも固まっちゃったよ!

 

しかし、なんとか持ちこたえて顔を真っ赤にして声を震わせる。

 

「そ、それは…………まだ結婚をしているわけでもないし…………。だ、だいたい! 私の貞操観念は、ばあちゃ…………お祖母さんが私に植え付けたものです!」

 

「私は別に嫁ぐ前に関係を持つなとは言っていない。変な男に引っ掛かって無駄に体を許すんじゃないと言ったんだよ」

 

 

すると――――――

 

 

「わ、わたすだって、男の子とエッチなことしてぇさっ!」

 

「そっだら、さっさと身を固めちまえばいいって言ってんでしょが!」

 

んんっ!?

 

方言!?

方言出たよ!?

祖母孫揃って方言出たよ!?

 

この場の空気があらぬ方向に行っていると気づいたゲンドゥルさんは再び咳払いをする。

 

「彼氏さん」

 

「は、はい!」

 

「その子を大切にできますか? 心から愛せますか?」

 

これまたドストレートな問いだな!

 

俺とロスヴァイセさんは付き合ってるわけじゃない。

だが、これはロスヴァイセさんがゲンドゥルさんを心配させまいと考えた末の結果だ。

 

しかし、この人に付き合ってるなどと俺が言えば、言葉の軽さゆえにバレるだろう。

 

だから、俺は本音を言うぜ。

 

「俺は守ると決めたものは何が何でも守り抜きます。当然、ロスヴァイセさんも必ず守ります――――命をかけて」

 

ロスヴァイセさんは俺の仲間で、家に住む家族みたいな存在だから。

 

必ず守りきる。

こいつは嘘偽りのない俺の本音。

 

俺の言葉を聞いたゲンドゥルさんはふっと優しげな微笑みを浮かべると一言。

 

「交際を許可します」

 

「…………へ?」

 

その一言にロスヴァイセさんは反応できず間の抜けた声を出す。

 

「へ? じゃない。私は良しと言ったのです。これで好きな男性と想いを遂げられるのだろう? ほら、今度逢い引きでもしてみんさい」

 

「い、いや、で、でも!」

 

「今度会うときに改めてその辺のことを訊くからね。おまえと彼氏さんからもね。皆さん、今日はありがとうございました。私はこれで失礼します」

 

それだけ告げるとゲンドゥルさんはソーナが用意しているという宿泊施設に向かうため、この場をあとにする。

 

お祖母さんが去ったあとは、なんとも言えない空気に。

 

ロスヴァイセさんが俺の手を掴み、紅潮した表情で懇願してくる。

 

「…………すいません。ちょっとだけでいいので、ご協力ください。…………もう後に引くことが出来ないんです…………っ!」

 

「あ…………はい」

 

こうして、俺とロスヴァイセさんはデートすることが決定。

 

ちなみにこの後、ロスヴァイセさんは助け船を出してくれた美羽とアリスに頭を下げてお礼を言っていた。

 

 

 

 



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6話 契約結びます!

ゲンドゥルさんが兵藤家を訪れた翌日。

 

俺は上階にある空いている部屋でルフェイとの最終的な契約の手続きをしていた。

 

契約に関してはこれまでサポートしてくれたレイヴェルが間に入り、書類やら専用の魔法陣やらを用意してくれている。

本当にレイヴェルには世話になっているよ。

 

「ここまでスムーズにこれたのもレイヴェルのおかげだな」

 

「いいえ、良い契約相手に恵まれたからこそ、これほどまでにスムーズに事が進んでいるのです」

 

レイヴェルにそう評価され、ルフェイはもじもじと恥ずかしそうにしていた。

 

契約書となる悪魔文字が書かれた書面。

そこに自身の血で名前を書く。

 

ナイフで指を軽く切って、悪魔文字で署名。

ルフェイも同様に自身の血で名前を魔術文字で書いていった。

これで書類の面は完了。

 

次に俺とルフェイは動物の血で描いた契約用魔法陣の中に入り、契約のための呪文を互いに口にしていく。

 

魔法陣が怪しく輝きを放ち始める。

 

「我、ルフェイ・ペンドラゴンの名において、グレモリー眷属が『兵士』兵藤一誠に願う。我と盟約を結びて、盟友となれ」

 

今回の魔法使いとの契約活動は赤龍帝眷属の『王』としてではなく、リアス・グレモリーの眷属『兵士』として進んでいたからね。

ルフェイとの契約もリアスの眷属として行われる。

 

俺も暗記した呪文を口にする。

 

「リアス・グレモリーが眷属『兵士』兵藤一誠の名において、汝、ルフェイ・ペンドラゴンと盟約を結ぶことをここに誓う。まぁ、よろしく頼むよ」

 

俺が微笑みながら手を差し出すと、ルフェイもニコリと可愛い笑顔で手を握ってきた。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

俺とルフェイの額にグレモリーの紋様が浮かび、役目を終えた魔法陣の輝きと共に消えていく。

 

「これで終わりなの?」

 

あまりに簡単に終わってしまったので、一応、レイヴェルに確認を取ってみる。

 

「はい、よろしいですわ。これでイッセーさまとルフェイさんはお仕事のパートナーです」

 

書類審査の時はけっこう苦労したが、決まるときは一気に行くもんなんだな。

 

まぁ、契約を結んだと言ってもなぁ。

 

「仕事のパートナーって具体的に何をすれば?」

 

契約を結んだし、さっそくパートナーらしく魔法の研究…………ってわけでもないだろう。

 

レイヴェルが答える。

 

「それはルフェイさん次第ですわ。今から実験をされるのでしたら、今からイッセーさまと作業に取りかかりますし、明日に実験をされるのでしたら、明日イッセーさまを呼べばいいだけです。今回は五年契約です。五年の間に良い成果をみせてくだされば、イッセーさまにとっては万々歳となりましょう」

 

「あ、やっぱりそんな感じなのな」

 

今はとりあえず契約を結びましたってことでいいんだな。

 

五年の間でルフェイと魔法研究の成果を出せば良いんだけと…………どうすっかな。

俺って魔力も砲撃以外で使うことってほぼ無いし、魔法の術式もよく知らないんだよね。

 

そのあたりも今後でルフェイと話し合っていくか。

 

すると、部屋の扉がノックされ開かれた。

 

「契約は終わったみたいだね。お茶淹れたよ」

 

美羽がお茶を淹れて持ってきてくれたようだ。

 

俺達は端に寄せていた折り畳み式のテーブルを組み立てて、その周りに座る。

美羽が紅茶の入ったティーカップを置いていってくれた。

 

俺はティーカップに口をつけると美羽に言う。

 

「良いタイミングだったな」

 

「うん。ずっと待機してたからね。かれこれ十五分くらい」

 

「マジっ!?」

 

「うふふ、冗談だよ。時計見て、ぼちぼちかなって思ったから」

 

こんにゃろぉ~、兄をからかって楽しんでるな!

なんて悪い妹だ!

 

だけど、美羽なら許せちゃう!

可愛いもん!

妹万歳!

撫で撫でしちゃうぞ!

 

そこからは俺とレイヴェル、ルフェイ、それから途中参加の美羽の四人での会話となった。

 

いくつか話しているうちにルフェイが言った。

 

「しかし、ロスヴァイセさんのお祖母さまがかの高名なゲンドゥルさまだとは思いも寄りませんでした」

 

「有名なんだよな?」

 

「はい、北欧に伝わる魔術、特にルーン式、精霊魔術ガンドル式、降霊魔術セイズ式の使い手として有名です」

 

レイヴェルが続く。

 

「ロスヴァイセさんはルーン式に『ヴァルキリー』が独自に編み出したという術式系統を組み込んで使っていましたわね。そこにご自身で考案した術式を取り入れて使用していると仰っていましたわ」

 

「それ、ボクも聞いたよ。ボクはこっちの世界の魔法に関しては勉強中だから、ロスヴァイセさんに教えてもらってるんだけど、結構オリジナルが入っているみたいなんだ」

 

「でも、オリジナルを組み込むのって美羽もやってるだろ?」

 

俺が訊くと美羽は頷きながら続ける。

 

「まぁね。多分、こっちの世界の魔法使い達も元になるベースの術式に独自の術式を組み込んで改良したり、発展されたりしてると思うんだけど…………オリジナルを組み込むにもそれなりの技量がいるんだよ?」

 

「というと?」

 

「浅いものならともかく、長い時間をかけて編み出された魔法は凄く完成度が高いものなの。すっごく頭の良い人達が一生をかけて、構築してきたものだからね。それを簡単に改良できると思う?」

 

「そりゃ難しいな。下手すれば改悪になるんじゃないのか?」

 

「その通り。それで、ロスヴァイセさんの術式なんだけど、北欧魔術の本に載ってたものよりも、ずっと計算されていて、無駄のない術式になってるんだ。簡単に言えば超低燃費」

 

美羽の言葉にレイヴェルが続く。

 

「黒歌さんも言ってましたわ。ロスヴァイセさんの術式は魔法力の燃費を極限にまで抑え、それでいて効率の良い攻防力向上を追求したものだと。人間界のゲームで例えるなら本来、消費MPが10の魔法をMP5で、しかも威力はそのままに放っている、と」

 

黒歌のやつ、RPGで例えるとは…………。

 

しかし、分かりやすい。

 

いつも魔法のフルバーストをばかすか撃ってるロスヴァイセさんだが、あの一つ一つが計算し尽くされたものだったということか。

そして、ロスヴァイセさんはそれを成せる才女だと。

 

あれ…………それじゃあさ。

 

「美羽の魔法って完全オリジナルあったよな?」

 

「あるよ? 一から構築したやつがいくつか。あれもね、まだまだ改良の余地はあるんだ。威力も燃費も良いんだけど、発動までに時間がかかるから…………そこをどうしようか考え中。ルフェイさん、なにか方法ないかな?」

 

「異世界の術式を読みきれるか分かりませんが、見てみましょうか?」

 

そこから美羽とルフェイは互いに術式を開いて、あーだこーだと魔法論議に入ってしまった。

第四項目が~とか、なんちゃら術式を入れてみては~とか言ってるが全然理解できん。

 

話のレベルが高すぎて着いていけない…………。

 

俺どころかレイヴェルもちんぷんかんぷんといった表情で苦笑いしてるし…………。

 

うん、ここにいる二人の魔法使いも負けず劣らずの才女だったということか。

 

話が進むなかでふと思うことがある。

 

ロスヴァイセさんってゲンドゥルさんと同じ魔法を習得していないんだろう? 

ルーン式やガンドル式はともかく、セイズ式って使っているところを見たことがない。

 

ルーン文字や精霊についてはロスヴァイセさんに習ったこともあるけど…………。

 

お祖母さんがそれだけの使い手で、お祖母さんに憧れてヴァルキリーになったと聞いたから、てっきり同じ魔法を使うものだと思ったんだけどね。

 

そんなことをかんがえていると、レイヴェルがコホンと咳払いした後に言ってくる。

 

「ところでイッセーさま。この後はロスヴァイセさんとお出かけをされるそうですわね」

 

そう、ルフェイとの契約が済んだので、この後はロスヴァイセさんとお出かけ――――デートをすることになっている。

ロスヴァイセさんも退くに退けなくなり、昨日の今日というドタバタで決まることに。

 

お祖母さんがこの町にいる間に成果を見せつけてやりたいという思いと破れかぶれでお願いしてきたんだ。

 

まぁ、断る理由もないし特に用事もなかったから、俺は別に良いんだけどさ…………他の女性陣が、ね?

 

美羽が言う。

 

「ロスヴァイセさんとのデートも良いけど、リアスさんと朱乃さんのこともキチンと見てあげてね? …………あの二人、すっごく焦ってるから」

 

「う…………うん」

 

美羽、アリス、レイナ、そしてレイヴェル。

俺が色んな女の子と関係を持ち始めてからあの二人の調子がどうにも…………。

 

レイヴェルが頬を染めながら、恥ずかしそうに呟く。

 

「え、えっと…………今になればリアスさま達を差し置いて大胆だったかな、と…………。申し訳ないような気がします…………」

 

「でも、後悔はしてないんでしょ?」

 

美羽の問いにレイヴェルはずいっと前に乗り出しながら答えた。

 

「それはもう! 後悔なんてするはずがありませんわ! むしろ、私は幸せ者だと感じているぐらいです! あの時のイッセーさまはいつも以上に優しくて、私を…………あっ」

 

自分が何を言おうとしているのか気づいたレイヴェルは勢いを失い、まるで風船が萎むかのように小さくなった。

顔なんて耳まで真っ赤に。

恥ずかしさで一杯なのか、涙目でこちらをチラッと見てくる。

 

うん、可愛い。

可愛いから撫で撫でしちゃう。

 

その光景に美羽は微笑み、ルフェイは苦笑を浮かべていた。

 

美羽が言う。

 

「とにかく、リアスさんと朱乃さんもちゃんと見てあげてね? あの二人、強引そうで案外押しに弱かったり、ここぞと言う時にタイミングが悪かったりするから」

 

「…………よく見てるな」

 

「もちろん!」

 

「何がもちろんなのかは分からないけど…………まぁ、了解だ。今度、二人をデートにでも誘ってみるよ」

 

そうだな…………温泉旅行に行く際、スレイプニルに乗りたがってたし、タンデムでドライブに行ってもいいな。

 

これがゼノヴィアとかだったら、音速を出してくれなんて言いそうだが…………。

 

うん、とりあえず、今度二人を連れてどこか行こう。

 

ふと視線を上げるとルフェイが小さく挙手していて、

 

「…………」

 

ちょっと言いにくそうというか、言い出せないでいるようだ。

 

俺は微笑みながら頷く。

 

「ルフェイとも行くよ。というか、この際、下宿してる皆と買い物に行くさ。年末の買い出しって必要だろうしな」

 

「やった♪」

 

俺の言葉に嬉しそうに声を弾ませるルフェイ。

 

女の子は男以上に年末年始の物の入り用が発生するだろうしね。

 

こりゃ、松田や元浜と遊ぶ時間はなさそうだな。

いや、一日ぐらいは遊びたいところだけど…………どうしたものかね?

 

 

バタンッ!

 

 

 

「我も買い物行く」

 

「私もー!」

 

クローゼットから飛び出してくる龍神さまと女神さま!

 

あんたら何してんだ!?

 

いつからそこに入ってた!?

 

「かくれんぼしてました!」

 

敬礼のポーズで元気よく答えるイグニス。

 

か、かくれんぼ…………?

二人は逃げてる側だとして鬼は?

 

などと思っていると、部屋に入ってくるメイドさんが一人。

 

「むっ、オーフィスとイグニス発見」

 

「やん、見つかっちゃった♪ ディルちゃんの勝ち~」

 

悔しそうにするイグニスだが…………俺のツッコミが部屋に響く!

 

「おまえかいぃぃぃぃ! え、おまえが鬼なの!? つーか、こんなのに参加するようなキャラだっけ!?」

 

「暇だったのでな」

 

「だとしても! 最初のイメージなんてもう砕け散ってるんですが!?」

 

「人は変わるものだ」

 

「変わりすぎだろぉぉぉぉぉ!?」

 

最初のイメージ返して!

 

ディルムッドは美羽を見るなり、こちらに寄ってきて美羽の隣に座り込む。

 

「マスター、今日の夕食は何ですか?」

 

「今日はブリの照り焼きかな。ディルさん好きだよね?」

 

「…………やった♪」

 

ニヤけ顔でガッツポーズを決めるディルムッド。

 

こ、こいつのキャラはよく分からんな…………。

 

 



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7話 ロスヴァイセの過去

ルフェイとの契約を終えた俺は外出用に着替えて玄関で待機していた。

 

玄関にはロングブーツが準備されているんだが…………ロスヴァイセさんのかな?

美羽やアリスはこういうの持ってなかったはずだし、リアス達のものでは無さそうだ。

 

少し経つと階段から降りてくる人が。

 

そちらを見てみると――――――タッチコートに短いフレアスカートという出で立ちのロスヴァイセさんが!

今時の十代女子っぽくバッチリ決めている!

いつもはスーツかジャージという両極端な人が、オシャレしてる!

 

なんてこった…………レアだ!

レアすぎる!

 

などと思っているとロスヴァイセさんが半目で訊いてくる。

 

「…………今、少し失礼なこと考えてませんでしたか? 私だってたまにはこういう格好をしますよ」

 

「い、いえ! 似合ってるなぁ、と思いまして!」

 

ブンブンと首を振りながら言う俺。

 

うーん、心の中読まれてた!

顔に出てましたか!?

 

「それじゃあ、行きますか?」

 

俺がそう言った時だった。

 

こちらへ歩いてくる人影が二つ。

 

―――――リアスと朱乃だ。

 

少々不安げというか悲しげな二人だが…………。

 

リアスが言う。

 

「夜までには帰ってきなさい。冥界に行く前のミーティングもあるし」

 

「了解だ」

 

「わかりました」

 

返事をする俺とロスヴァイセさん。

 

デートの予定は二人で軽く買い物して、食事も外で済ませてくるというなんとも大雑把なものだ。

まぁ、昨日の今日だから仕方がないと言えばそうなるんだけど。

 

すると、リアスが苦笑しながら言った。

 

「ゼノヴィア達には二人の邪魔をしないように言って聞かせておくわ。私達も後を追うようなことはしないから」

 

あー、そういや、朱乃との初デートの時は皆追いかけてきてたなぁ。

何人かは別で買い物に行ってたみたいだけどさ。

 

あの時のことを思い出している俺だが、その間にもリアスと朱乃の表情は益々重くなっていく。

 

ふ、二人にとって俺達のデートはあまりよろしくないらしい…………。

 

俺は息を吐くと、二人に言った。

 

「リアス、朱乃。今度、ドライブに行こうか。もちろん、二人の予定が合えば――――」

 

「「うん!」」

 

おおっ、言いきる前に返事をされてしまった!

 

さっきの半分黒に染まっていた表情はどこへやら。

今では目をキラキラ輝かせて、眩しいくらいの笑顔だ。

 

二人に別れを告げ、玄関を出た俺とロスヴァイセさんは家のガレージへ。

 

シャッターを開けてスレイプニルを起動させる。

 

ちなみに、今回はサイドカーは外してある。

二人だし。

 

ロスヴァイセさんが訊いてくる。

 

「バイクで行くのですか? てっきり電車で行くものだと」

 

「まぁ、電車でも良いんですけどね。遠出の時は出来るだけ使いたいというか…………。こっちの方が圧倒的に速いですし」

 

「アザゼル先生のお手製ですから、人間界の電車よりは速いのでしょうけど…………。スピード違反はダメですよ?」

 

「アハハハ…………分かってます」

 

免許の種類的にはアウトなんだけどね。

それを言ったら色々言われそうなので黙っておこう。

 

俺はヘルメットを被るとロスヴァイセさんにもヘルメットを渡し、スレイプニルに跨がる。

 

「ロスヴァイセさん、乗ってください」

 

ロスヴァイセさんは頷き、俺の後ろに座る。

 

すると―――――分かっていたけど、ロスヴァイセさんのおっぱいの感触!

 

女の子とタンデムって最高だな!

 

よぅし、これからも女の子を後ろに乗せていこう!

おっぱいを楽しむために!

 

こうして、俺とロスヴァイセさんのデートはスタートした。

 

 

 

 

デートの場所だが、スレイプニルを走らせるだけあってこの町ではない。

 

俺達が訪れたのは日本の首都、大都市東京。

なんでも、ロスヴァイセさん的に東京に用があるらしい。

 

目的の場所近くの駐車場にスレイプニルをとめた俺達は徒歩でその場所へ向かう。

ちなみに認識できない用のボタンを押してきた。

スレイプニル、デカいし派手だ。

それに何かあった時はこちらに転移させるから、その時に見られるのは不味いからね。

 

流石は東京、人が多い。

 

そんな中で俺達は…………いや、ロスヴァイセさんは凄く目立っていた。

 

「…………外国のモデルさんかな?」

 

「すっげぇ美人…………」

 

道行く人がすれ違う度にロスヴァイセさんへ好奇の視線を向けてくる。

 

まぁ、当然か。

元々、美人なロスヴァイセさんがこうしてオシャレしてるだ。

周囲にキラキラしたエフェクトが見えるほど美女オーラを放ってる。

 

ただ、人を寄せ付けないほどのオーラを放っているため、逆に誰も声をかけようとはしてこなかった。

 

当のロスヴァイセさんは視線が集まるなか、若干恥ずかしそうにしていた。

 

「…………ジャージやスーツ姿だったら、こんなに目立たなかったのでしょうか…………」

 

「そんなことはないですよ。ロスヴァイセさん、美人ですから、どんな格好でも目立ちますって」

 

率直な感想を述べてみたが、ロスヴァイセさんはというと、

 

「…………」

 

頬を赤く染めて黙りこんでしまった!

 

あ、あれぇぇぇ!?

いつものクールなロスヴァイセさんはどこに行ったの!?

なんで、そんな乙女顔してるの!?

 

歩くこと十分。

 

着いたのは駅ビルのとあるフロア。

ここがロスヴァイセさんの目的の場所。

 

それは――――――百均だった。

 

フロアひとつ丸ごと百円均一という大型ショップ。

 

着いた途端、ロスヴァイセさんが歓喜の表情を浮かべていた!

 

「ここが夢にまでみた女性向け百円均一の大型店…………『ベラ』っ! このブランドはまさに女性向けのオシャレなアイテムをラインナップしてるんです! 百円とは思えない高機能で実用性の高い商品を取り揃えいることで有名でして! ああ、あれなんてもう…………!」

 

…………一人で熱く語り、商品を手に取り始めてしまった。

 

楽しんでいるようで良かったけど…………残念だ!

いや、人の趣味をどうこう言うのはあれだと思うが…………。

 

う、うーん…………。

 

「見てください、イッセーくん! これもそれもあれも全部百円です! 二百円とか三百円なんて商品は一つもないんですよぉぉぉっ!」

 

やはり、ロスヴァイセさんはロスヴァイセさんだった。

 

 

 

 

 

 

買い物も一段落して、俺とロスヴァイセさんは近くのカフェのテラス席で休憩していた。

 

「す、すいません…………調子に乗ってしまって」

 

申し訳なさそうな顔で謝るロスヴァイセさん。

 

なぜかって?

 

それはね…………

 

「本当に良いんですか? 私の買い物にお金を出してもらって」

 

「まぁ、これもデートですし。男が出す方が格好がつきますよ」

 

「でも一万円分も…………」

 

うん、確かに財布が悲鳴をあげかけたよ。

 

まさか百アイテムも購入するなんて思わなかったもん。

いきなり一万円も出費することになるとは予想外過ぎた…………。

 

お金、持ってきておいて良かった。

 

ちなみに購入した物は近場にあった配送業者で配達してもらうことにした。

流石に多すぎたもんで…………。

 

まぁ、お金のことは良いんだけどさ、若い娘さんが態々東京にまで来て、この買い物で良かったのだろうか?

 

美羽と買い物に行くときは「この服可愛い!」とか「似合ってるかな?」なんてことを訊いてくるのだが、ロスヴァイセさんの場合、「これで百円!?」とか「見てください! これも百円ですよ!」とかだ。

 

一体、何度『百円』という言葉を聞いたか…………。

 

この先、ロスヴァイセさんは大丈夫だろうか。

心配になってくるよ。

 

「あ、あの…………つまらなかったですか? す、すいません、一人だけハイテンションになってしまって」

 

俺が難しそうな顔をしていたためか、ロスヴァイセさんが気まずそうな顔でそう漏らした。

 

俺が考えているのはそっちじゃないんだけどね。

 

「まぁ、ハイテンションのロスヴァイセさんを見るのも面白いですよ。普段はクールに決めてますし。なんかこう、新鮮でした」

 

普段は見られそうにないところを見せてもらってるだけで、こちらとしては退屈しない。

つまらないなんてことはなかった。

 

ロスヴァイセさんはカップのコーヒーに口をつけた後に言う。

 

「思えば、男性とのデートなんてこれが初めてです」

 

「そうなんですか? というより、初デートの相手が俺で良かったんですか?」

 

正直、女性のエスコートなら木場の方が上手いし、アザゼル先生ならもっと面白い場所に連れていったりしてくれるだろう。

 

俺も何度かのデート経験はあるけど、普通レベルだ。

 

ロスヴァイセさんは照れくさそうに続ける。

 

「も、もし、周囲の男性でデートの相手を一人選べと言われたら、イッセーくんを選ぶでしょうし…………。か、勘違いしないでくださいね! 『もし』です! 『もし』の話ですから!」

 

アハハハ…………そんなに必死になって強調しなくても…………。

 

俺が苦笑していると、ロスヴァイセさんは息を吐いて表情を曇らせた。

 

「私は学生時代はずっと勉強ばかりしていましたから…………。周囲のヴァルキリー候補生達はヴァルハラの戦士と化したカッコいい英霊達の話で盛り上がっている時も勉強で…………。同級生が異性にうつつを抜かしている間に一歩でも前進しようとただひたすらに机に向かっていました」

 

ロスヴァイセさんは遠い目をしながら続ける。

 

「青春を勉強に費やしたおかげでヴァルキリーになることが叶いましたけど、今思えばもう少し遊んでおけば良かったかな、なんて振り返ることもあります」

 

「何言ってんですか。まだ青春を謳歌できる十代なんですし、今からでもいけますよ。…………俺なんて気づいたら十代終わってますし」

 

青春を謳歌できる十代。

その貴重な十代のうち三年は異世界にいて、修業するか戦場にいたもんな、俺。

なんとも血みどろ臭い青春だった…………。

 

否!

 

それでも、俺は青春を送ると決めたんだ!

実年齢を誤魔化し、十七歳の高校生として!

 

俺は青春を謳歌してみせるぞぉぉぉぉぉ!

 

「ま、そういうわけで、ロスヴァイセさんはまだまだ青春できますよ」

 

「どういうわけですか…………?」

 

そういうわけです。

とりあえず、ロスヴァイセさんはまだ十代なんで余裕で青春できます。

断言できます。

百均好きは少々あれですが、美人で性格も可愛いので全然いけます。

 

「それに若くして主神のお付きだなんて凄いことじゃないですか」

 

「…………置いていかれましたけどね」

 

「あ、あれはあのじいさんがボケてるだけなんで…………気にしない方が」

 

「…………そうします」

 

うっ…………地雷踏んじまった!

ロスヴァイセさんが更に落ち込み気味になってしまった!

 

でも、俺としてはそのおかげで仲間になってくれたから良かったと言えばそうなのかもしれない。

 

ロスヴァイセさんが憂いのある表情を浮かべる。

 

「…………それに私はイッセーくん達が言うほど大した者でもありません」

 

そう言うと、ロスヴァイセさんは懐からワッペンを取り出した。

幾重ものルーン文字を円形に列ねた独特の形。

 

これは…………ゲンドゥルさんの転移魔法陣と同じ紋様だ。

 

ロスヴァイセさんが続ける。

 

「これは私の家に伝わる家紋みたいなものです。家の長子たる者はこれを代々受け継ぎ、心と体に刻んで後世に繋げていきます。…………私は、長子でしたがこの紋様を…………受け継げなかったんです」

 

アースガルズに住まう半神の一族はそれぞれの家で独自の魔法、技術、伝統を作り研磨して、後継に継承していくそうだ。

そして、代替わりをしていくときに家の跡目を継ぐ証として、独自の紋章を心と体に刻ませる。

これはロスヴァイセさんの家も例外ではなかった。

 

当然、長子たるロスヴァイセさんも受け継ぐ予定だったのだが…………どんなに儀式をしてもロスヴァイセさんの心身に紋章は宿らなかったという。

 

ロスヴァイセさんには兄弟がいなかったため、その紋章は親戚が引き継ぐことになり、その人はすんなりと継承儀式が済んでしまった。

 

ロスヴァイセさんがワッペンを持ちながら言う。

 

「相性が悪かったのでしょうか。私の家の者はルーン、ガンドル、セイズをバランス良く使いこなしてきたのですが、私はセイズ式に未だ馴染めず。その代わりにヴァルキリーの間で使われていた戦闘用の攻撃魔法ばかり習得できてしまって…………今では一族屈指の攻撃魔法の使い手となってしました。私だけが異端児なんです。幸い、ヴァルキリーになれたのですが、成績は現役時代の祖母と比べると散々なものでした…………」

 

落ち込み気味にロスヴァイセさんはそう告白してくれた。

 

「我が家の代々の術者は精霊との交信、降霊術を得意としてきましたが、私だけ突出して攻撃魔法をスポンジのように吸収してしまいまして…………。あげく、効率化や燃費の見直しもできるほどに明るくなってしまいました。父も母も誉めるを通り越して、呆れてしまったようです」

 

「それでも十分凄いことだと思いますよ? 美羽も言ってました。ロスヴァイセさんの技術力と才能は凄いって」

 

「そんなことはありません。子供の頃は一族が引き継いだものを継承し、祖母と同じようにヴァルキリーになると当たり前のように思っていました。周囲もそれに期待していた。でも、叶わなかった」

 

ロスヴァイセさんはワッペンをしまうと、空を見上げてため息をついた。

 

「故郷で青春を謳歌しないまま飛び級で卒業して、ヴァルキリーになれたものの、家の紋章は継承できず。ヴァルキリー時代は特に目立った成績も出せずにいたものの、オーディンさまのお付きになれた。…………オーディンさまの付き添いで日本に来たら、悪魔に転生して人間界の教員になってしまった。…………改めて振り返ると転々とし過ぎて、何がしたいのか、よく分かりませんね。私は一体、何になりたいのか、未だに分からないんです」

 

言われてみれば確かに転々としているな。

他のグレモリー眷属も中々に波瀾万丈な人生送ってきてるし、リアスのもとにはわけありの者が集まっているような気がする。

 

「祖母には申し訳ない気持ちがあるのは確かなんですけどね。期待に応えられていたとは思ってませんし…………」

 

家の紋章を受け継げなかったことを本当に申し訳なく思ってるんだな。

 

ロスヴァイセさんは俺の顔を見て、ハッと気づいたように謝りだした。

 

「…………ごめんなさい。イッセーくんに私の半生を長々と話してしまって…………。イッセーくんは私なんかより、もっと大変な過去を持ってますし、こんなのただの愚痴にしかなりませんよね…………」

 

「いえ、内に抱え込むものを吐き出してくれて良かったと思ってますよ。愚痴でも良いです。俺ならいつでも聞きますよ?」

 

ロスヴァイセさんもあまり自分のことは語らないしね。

今回はロスヴァイセさんを知る良い機会になったと思う。

 

愚痴でも何でも良い。

こうして話してくれたことは嬉しく思うかな。

 

俺は頬をかきながら言う。

 

「何になりたいのかなんてちゃんと理解している人なんて少ないと思いますよ? 俺だってただがむしゃらに生きてきたっていうか…………。まぁ、あれです。何がしたいのか、何になりたいのかが分からないなら、『今』何が楽しいのかを探してみればいいんじゃないですか?」

 

「『今』ですか?」

 

「ええ。どんなに悩んだところで、将来のことなんて大雑把にしか見えません。それなら、『今』の自分が何に夢中になっているのかを見つめてみるんです。それが将来、自分がしたいことに繋がるかもしれません。ロスヴァイセさんは楽しんでいることはありますか?」

 

俺の問いにロスヴァイセさんは暫し黙りこむ。

 

そして、顔をあげて口を開いた。

 

「…………教師としての仕事。人に物を教えるということが、あんなにも楽しいとは思ってなくて」

 

生徒からのロスヴァイセさんの評価は高い。

もちろん、容姿とか性格も含まれているんだけど、ロスヴァイセさんの授業は分かりやすいんだ。

要点を絞って伝えているために担当クラスの成績は高い。

 

先輩教員の方にも可愛がられているようで、破天荒なアザゼル先生に一言もの申せる存在としても一目置かれているようだ。  

 

俺は微笑みながら言う。

 

「それなら、とりあえず今は教師を続けてみたら良いんじゃないですか? きっとこれからのロスヴァイセさんにとっても貴重な時間だと思うんで」

 

「…………そう、ですね。イッセーくんの言う通りかもしれません。悪魔としての生は長いですし、今の教師としての仕事を楽しむのもありかもしれませんね。…………それにしても、イッセーくん」

 

「なんです?」

 

「私と一つしか違わないのに…………人生相談上手いですね」

 

「アハハハ…………。カッコいいこと言ってますけど、さっきの全部モーリスのおっさんの受け売りです」

 

あのおっさん、色んな人から相談受けてたりするからね。

側で聞いてたら覚えてしまった。

 

俺も色々相談受けてもらったっけな。

 

いやー、懐かしいぜ。

 

 

 

~そのころのモーリス~

 

 

 

「おじさま、おじさま」

 

「ん? どうした、ニーナ」

 

「お姉ちゃんの部屋を整理してたら、こんな日記見つかったんだけど…………この間、渡しそびれちゃって」

 

「どれどれ…………こいつは旅の時につけてた日記か。ほほぉ」

 

「どうする? 見てもいいかな?」

 

「ま、内容は大体予想できるがな。見ても良いんじゃないか? 多分」

 

「多分って…………」

 

「バレなきゃ良いだろ。つーか、おまえは気になって気になって仕方がないんだろう?」

 

「まぁね。おじさまも見る?」

 

「おー、見る見る。暇だしな」

 

ニーナは日記をそっと開く。

 

そこには――――――

 

「これ…………お兄さんの観察日記?」

 

「やっぱりな」

 

モーリスとニーナはニヤニヤ顔でアリスのマル秘日記のページを捲っていった。

 

 

 

~そのころのモーリス、終~

 

 

 

「そういえば、ソーナからのオファーは受けるんですか?」

 

ロスヴァイセさんからソーナが建設した学校の将来の先生候補としてオファーが届いていると話を聞いていた。

 

魔法の教師として求められているようだ。

 

「まだ考え中です。もちろん、すぐにというわけではないようなので…………。今度、その学校に行きますし、見学しながら考えてみようかなと」

 

まぁ、それもそうだな。

こういうことはしっかり自分の目で見て判断した方が良いに決まっている。

 

「私に何ができるか、まだ分かりません。ですが、教えるということは好きです。いえ、好きになりました。ですから、今度のお手伝いも楽しみにしているんですよ」

 

微笑むロスヴァイセさん。

 

俺はコーヒーに口をつけた後、言った。

 

「俺にできることがあるなら言ってください。できる範囲で」

 

「ふふ。では、また買い物にお付き合いしてもらいましょうか。イッセーくんとの百均巡りは悪くありません。祖母への言い訳にもなりますし」

 

「アハハハ…………百均好きですね」

 

その辺りは全くぶれないんですね。

いえ、もう分かってますけど。

 

 

 

さて…………

 

 

 

「どういうつもりだ? クリフォトってのは人のデートの邪魔するほど暇なのかよ? なぁ―――――ユーグリット・ルキフグス」

 

俺は後ろの席に座る者に声をかける。

 

ロスヴァイセさんは俺の言葉に驚いて俺の背後にいる者に警戒の構えを取っていた。

 

その者―――――銀髪の青年、ユーグリット・ルキフグスが感心するような声を漏らす。

 

「おや、気付かれてしまいましたか。気配は消していたのですが。しかし、その割りには容易に背後を取らせてくれましたね?」

 

「それぐらいで俺がやられるか。つーか、こういうのは背後取ったとは言わねーよ。…………何の用だ?」

 

俺は低い声音でユーグリットに問う。

 

白昼堂々と東京に現れたことには面を食らったが、こうして俺達の元に現れたということは何か用があってのことなのだろう。

 

俺の問いにユーグリットはフッと小さく笑う。

 

「今日はあなたに会いに来たのではありませんよ、兵藤一誠。そちらの方に用事があるのです」

 

ユーグリットは立ち上がると、ロスヴァイセさんに近づき、手を差し出した。

 

「――――ロスヴァイセ、私達のもとに来ませんか?」

 

はぁっ!?

こいつ、ロスヴァイセさんを勧誘に来たのかよ!?

 

でも、なんでロスヴァイセさんなんだ…………?

 

疑問が次々に浮かんでくる俺だったが―――――ロスヴァイセさんは顔面蒼白となっていた。

 

なぜ自分なのか、心当たりがあるのだろうか?

 

ユーグリットが目を閉じて謳うように口を開く。

 

「―――――ここに知恵がいる。思慮ある者はその獣の数字を数えよ。その数字は人間を表している。その数字とは『666(スリーシックス)』である」

 

うっ…………頭痛がしやがる。

こいつが謳ったのは聖書に記されている文かよ。

 

謳った本人も頭痛がするようで、額を押さえていた。

 

「ご存知の通り、今のは黙示録の一節ですよ。…………頭痛がするので、あまり口にしたくないのですが」

 

「全くだ。悪魔が急にそんなもん口にすんなよ」

 

俺の指摘にユーグリットは苦笑する。

 

黙示録…………グレートレッドも記されているというヨハネの黙示録。

そこには666(スリーシックス)たるトライヘキサも記されていた。

 

ユーグリットはロスヴァイセさん視線を合わせたまま続ける。

 

「アースガルズでの学生時代、あなたは一つの論文を書いたそうですね。タイトルは『黙示録の獣について』」

 

――――――っ!

 

ロスヴァイセさん、トライヘキサについての論文を書いていたのか。

 

そうか、松田達が言っていた図書館でのロスヴァイセさんって…………過去に書いた論文のことを思い出してのことだったのか。

 

ロスヴァイセさんは声を震わせながら言う。

 

「あ、あれは結論がまとまらなかったために破棄しました。提出したのは違う論文ですよ。それをなぜ…………。まさか…………」

 

ロスヴァイセさんはそこまで言うと何かに気づいたようにハッとなる。

 

「あの論文の内容を当時のルームメイトに話したことがあります。あなた達、あの子に何をしたのですか…………!」

 

「記憶を探らせていただいただけですよ。断片しか拾えなかったので、こうして勧誘という手に打って出たわけです」

 

「っ! あの子を襲ったのですね!? なんて外道! ここで私が――――」

 

ロスヴァイセさんが右手を突き出そうとして…………俺はその手を掴んで制した。

 

一瞬何か言おうとしたロスヴァイセさんだったが、周囲を見てから渋々右手を降ろす。

 

確かにこいつらがしたことは許せないだろうけど、ここでドンパチやるわけにはいかない。

 

ここには無関係の人が大勢いる。

こんなところで暴れれば間違いなく巻き込んでしまう。

 

ユーグリットは笑みを浮かべながら言う。

 

「彼女は無事です。特に人質にもしていないので安心してください。ただ、これだけは」

 

ユーグリットはロスヴァイセさんの横を少し通り過ぎたところで立ち止まり、ロスヴァイセさんの髪をすくう。

 

「私はあなたの能力が欲しい。あなたは素晴らしい力をお持ちだ。――――それにこの銀の髪は美しい。まるで…………」

 

…………なんだ?

 

今のロスヴァイセさんを見るユーグリットの眼に違和感を感じてしまった。

 

能力だけが目的じゃないのか…………?

 

まさか―――――いや、でも…………。

 

「ごきげんよう、兵藤一誠、ロスヴァイセ。また会いましょう。それまでに答えを決めておいてください」

 

それだけ言い残して、ユーグリットは俺達の前から去っていった。

 

俺は深くため息をついた後、リアスに連絡を取り、予定より早いが帰宅することにした。

 



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8話 共通点

「まさか東京に現れるなんてね。迂闊だったわ」

 

家に戻った俺とロスヴァイセさんは改めてリアスに経緯を説明。

ユーグリットとの遭遇を聞いたリアスは目を細めていた。

 

俺も白昼堂々、奴と出会うとは予想外だった。

 

「あいつらクリフォトは人間界に被害を出すことを何とも思ってなさそうだ」

 

「目的のためなら、ってことね」

 

イリナの言葉に俺は頷く。

 

今後は、この町だけじゃなくありとあらゆる場所で警戒をしておかないと、また同じことが起こりそうだ。

 

まぁ、それを行うのは中々に難しいところではあるんだが…………。

人手の問題もあるしな。

 

何らかの探索網を各地に敷ければ良いんだけど…………それでも奴らは潜り抜けてきそうだ。

 

朱乃が言う。

 

「今回の侵入で彼らへの警戒レベルは上がったわ。元々高かったものが更に過敏になった、と言うべきなんでしょうね。少くとも次、東京への侵入は難しくなっているわ」

 

一度目の侵入で警戒が強まると、当然二度目は更に難易度が上がる。

奴らも今後は東京は動きづらくなっただろう。

 

そんなことは誰にでも分かること。

 

問題は…………。

 

「あちら側はリスクを負いながらもロスヴァイセさんに接触してきた…………。それだけ、ロスヴァイセさんが学生時代に書かれた論文が彼らにとって相当な代物だということですよね?」

 

レイヴェルがロスヴァイセさんに視線を配りながら、そう呟く。

 

そう、ユーグリットはリスクをおかしてまでロスヴァイセさんの勧誘に来た。

それはつまり、ロスヴァイセさんの論文があいつらにとって、それだけの価値があるということ。

 

リアスも続く。

 

「そう考えるのが自然でしょうね。ちょうど、アザゼルから定期連絡が来る時間だから、合わせて訊いてみましょう。ロスヴァイセ、アザゼルに話してみてちょうだい」

 

「はい」

 

リアスの指示にロスヴァイセさんは頷いた。

ユーグリットと出会ってからロスヴァイセさんはずっと考え事をしているようで、難しい表情をしているのだが…………。

 

それから数分後。

アザゼル先生からの定期連絡が来た。

 

現在、アザゼル先生は冥界に戻っていて、神器のことや、クリフォトの動向についてグリゴリの研究者達と連日に亘る話し合いを続けている。

 

そのため、今はこの町にはおらず、映像越しによる連絡となる。

 

連絡用の魔法陣に映し出されるアザゼル先生に事情を一通り話してみた。

 

すると、先生は顎に手をやりながら目を細める。

 

『…………なるほど、ロスヴァイセが狙われたか』

 

「あまり驚いていないようね? こうなることが分かっていたの?」

 

先生の落ち着いた様子にアリスが問う。

 

『いや、驚いてはいる。だが、一通りの話を聞いて合点がいった。…………おまえら、名うての魔法使いが行方不明になっている事案は知っているな?』

 

「ええ、まぁ。そういう報告は受けてます」

 

先日、ゲンドゥルさんが家を訪れた時も話題にあがったしね。

 

アザゼル先生は頷くと、話を続けた。

 

『その魔法使い達には一つだけ共通点があってな。――――全員、「獣の数字」666(スリーシックス)に関する研究を行っていた。それも、一般的な見方とは違う方面から攻めた研究者達さ。集会に集う者達もそれの研究をしているそうだ』

 

…………一気に繋がったか。

 

ユーグリット曰く、ロスヴァイセさんは学生時代に666に関する論文を書いた。

そして、行方不明になっている魔法使い達の共通点も666に関する研究をしていた。

 

つまり、奴らは――――――

 

リアスが言う。

 

「つまり、彼らは『獣の数字』に関する情報を握る術者を手当たり次第に拐っているというわけね?」

 

『そういうことだ。黙示録の内容と聖書の神について知っていれば、ある程度、聖書の神が施したであろう封印術式が特定できる。一応、クリフォトの連中が解除するのに手間取っているであろう強力な封印術式は二十三まで想定が立てられてな。そこから逆算して、トライヘキサの復活までどれくらいの猶予が残されているか、こっちで協議しているところだ。復活させる気はないが、最悪のケースも念頭に置いておかないといけないからな。…………仮に復活してグレートレッドと戦い始めたら、それこそ手に終えなくなるだろう』

 

…………世界規模でヤバい事態になることは確かなんだろうな。

 

不安しか感じ得ないこの状況で陽気に微笑む人物が一人。

 

「まぁまぁ、皆も今からそんなに考えても仕方がないじゃない?」

 

イグニスだ。

一人、缶ビールを開けてグイッと豪快に飲んでいる。

 

な、なんて緊張感のないやつ…………。

 

「おまえ、呑気すぎない?」

 

「フフン。だって、今すぐ世界滅亡! なーんてことにはならないんでしょう? それなら、出来ることをするしかないじゃない? まぁ、その結果どうしようもなくなったら、その時は―――――」

 

そこで一度言葉を止めるイグニス。

 

「…………その時は?」

 

俺が問うと、イグニスはフッと微笑んで、

 

「――――私が出張るわ。とりあえず、軽く絞めれば良いのよね? まっかせなさい。まぁ、世界中が火の海になるかもしれないけど♪ まずは私自身に施した封印を解いて―――――」

 

「先生、絶対に防ぎましょう! 第三勢力がここにいます! この駄女神、何しでかすか分かりませんよ!?」

 

『お、おう…………。グレートレッド、それと同等と思われるトライヘキサ。その二体が暴れるだけでもヤバいってのに、そこの女神さままで加わったら世界終わるぞ、マジで』

 

先生は目元をヒクつかせ、この場にいるオカ研メンバーも顔面蒼白になっていた!

だって、イグニスさん、目がマジなんだもん!

 

そもそも、イグニスの全力が想像できない。

『イグニス』としての力だけでも強大すぎるのに、それはまだ本来の力の一部だって言うし…………。

 

本当の名前を解放したら、どんなことになるのか。

 

この女神は未知数過ぎる。

 

「あらら? アリスちゃん、またおっぱい大きくなったんじゃないの~?」

 

「あんっ、ちょ、やめ…………ちょっと、イッセー! この人、酔ってる! 酔ってるんですけど!? ひぁっ」

 

「うふふ♪ よいではないか、よいではないか♪」

 

「いーやー! 誰か助けてぇぇぇぇぇ!」

 

あーあ…………アリスがイグニスに捕まってしまった。

酔った状態でアリスのおっぱいを揉みまくってるし…………。

 

色んな意味で未知数だな、あの駄女神。

 

「お兄ちゃん、助けてあげないの?」

 

「…………俺も捕まるだろ」

 

捕まったら何されるか…………。

 

ほら、アリスなんて服に手突っ込まれて半脱ぎ状態になってるし。

 

他の皆も危険を察知してかイグニスから遠ざかっていく。

どうやら、皆も我が身可愛さにアリスを見捨てる方向のようだ。

 

うん、ここはアリスに頑張ってもらおう。

 

『ま、まぁ、確かに深刻になるには早いな。一応、おまえら以外にも「保険」は作る予定だ』

 

保険?

先生には何か秘策的なものがあるのだろうか?

 

『こっちの協議の末に出た答えもどこまで信用できるか見当もつかん。捕らえられた術者が持つ情報がどれほどトライヘキサの封印術式に影響を及ぼすか分からんからな…………』

 

そう言うと先生はロスヴァイセさんに視線を移す。

 

『一つだけ訊く。ロスヴァイセ、おまえは「666」の数字をどう読み解こうとした?』

 

「…………私は異説である『616』の方で研究していたんです。そちらの数字で各種関連書物、歴史上の出来事と照らし合わせながら数式、術式を組み立てていました」

 

『―――――っ! そうか、やはりな…………』

 

どうやら、先生はロスヴァイセさんの回答をある程度予想していたらしい。

 

ただ…………616って何だ?

 

666って数字が不吉な数字ってのは聞いたことがあったけど、616は初耳だ。

 

疑問符を浮かべる俺に先生が言う。

 

『数ある黙示録の研究者達は「666」という数字を本来の解釈として研究を行っている。ただ、研究者の中には異説である「616」という数字からのアプローチをする者もいてな。今回、拉致された術者の全てが「616」から「獣の数字」を調べていたもの達なのさ』

 

先生は顎を擦りながら続ける。

 

『俺達グリゴリも黙示録の研究を行ってきたが、「666」を本来の解釈とし「616」は異説としてきた。…………それでも奴らがこう動いたということは聖書の神は「616」でトライヘキサの封印術式を組んだということなのか…………?』

 

俺達に説明するというよりは、自分の仮説に驚きながらも自身に対して疑問を投げ掛けるようにぶつぶつ呟く先生。

 

しばし独り言を呟いた後、先生はロスヴァイセさんに言う。

 

『ロスヴァイセ。とりあえず、おまえが学生時代に書いたと言う論文を覚えている限り書き出してこちらに回せ。その論文がどこまでトライヘキサに関して触れているのか、こちらで調査する必要がある』

 

「…………少し前から書き起こしてありました」

 

そう言うロスヴァイセさんの手には難しい魔術文字、術式が書かれたレポート用紙の束が握られてあった。

 

帰ってきてから、さほど時間が経っていないのになんて仕事の早い…………。

これは流石と言うべきだろうか。

 

ロスヴァイセさんはレポート用紙の束を小型転移魔法陣に乗せて転移させる。

 

すると、連絡用魔法陣に映されているアザゼル先生の手元にロスヴァイセさんの書き起こした論文が光と共に現れた。

 

レポートを受け取った先生はページをパラパラと捲りながらロスヴァイセさんに言う。

 

『確かに受け取った。…………しかし、おまえも大したもんだ。自然と祖母と同じものを調べていたとはな。血は争えないというやつなんだろう』

 

…………そうか、今度の魔法使いの集まりは666について調べていた魔法使いが集まってくる。

つまり、ロスヴァイセさんのお祖母さん―――――ゲンドゥルさんも666に関する研究を行っていた。

 

そして、狙われている魔法使いの共通点は666を研究しているということ。

 

ロスヴァイセさんが複雑な表情をしていた理由の一つがこれか…………。

 

『さて、ロスヴァイセの論文とユーグリットの件はここで置いておこう。今度の魔法使いの集会についてだが―――』

 

先生が話題を切り返え、今後の予定について話を進めていく。

 

「…………」

 

しかし、ロスヴァイセさんは複雑な表情を浮かべたまま、口を開くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ミーティングを終えた後は解散となり、各自いつも通りに過ごしているのだが…………ロスヴァイセさんは自室に籠り、調べものをしているようだ。

 

おそらく、過去の論文をもとにもう一度666について調べ直しているのだろう。

今も聖書関連の書物を読み返している。

 

…………まさか、ロスヴァイセさんが学生時代に書いた論文がこういう形で使われるなんてな。

本人も予想外だっただろうに。

 

「お茶淹れたよ。はい、お兄ちゃん」

 

「サンキュー」

 

美羽は俺の前に湯飲みを置くと、俺の隣に座る。

 

俺は湯飲みに口をつけると軽く息を吐く。

 

「はぁ…………。ユーグリットとやつ、俺とロスヴァイセさんのデートを邪魔しに来るとか最悪だな。今度会ったら今日の分含めてぶちのめしてやる」

 

「アハハハ…………。いきなり過激な愚痴だね。ユーグリットと遭遇する前まではどうだったの?」

 

「ん? まぁ、それなりに楽しかったかな。…………まさか、百均で一万円も使うことになるとは思わなかったけど。明日、百個ぐらい届くからな?」

 

「…………ほんとに百均好きなんだね。いや、確かに安くて便利だけど…………」

 

美羽の言いたいことはよーく分かるぞ。

 

基本、百均で済ませようとする人だし、百均に関しては知らないことはないってくらいだ。

あの人の百均好きはマニアの域に達しているような気がする。

 

若くて美人だし、能力だって高い。

それなのに…………残念だ!

 

「あとはあれだな。ロスヴァイセさんの人生相談かな?」

 

「人生相談?」

 

人差し指を立てて言う俺に美羽は首を傾げて聞き返してくる。

 

「まぁ、人生相談って言うほどのものじゃないけどね。ロスヴァイセさんの過去を聞いて、今後のためのアドバイスをしたぐらいで。しかも、そのアドバイスもモーリスのおっさんの受け売りだし」

 

本気で人生相談するなら、アザゼル先生とかの方が良いと思うけどね。

あの人も長く生きてきて、色々なものを見てきたと思うし、何より人にアドバイスするのが上手い。

 

俺が出来るのは基本、愚痴を聞くぐらいだろう。

 

俺が苦笑していると、美羽は微笑んで言う。

 

「いいじゃん。例え誰かからの受け売りでも、それを伝えることも大切だと思うよ? …………って、これはお父さんの受け売りなんだけど」

 

…………俺達、受け売りばっかりしてるな。 

でも、その通りと言えばその通りか。

 

ここでふと気になることがある。

 

「そういや、美羽って将来の夢的なものはあるのか?」

 

「え? なんで?」

 

「ロスヴァイセさんが自分は何がしたいのか、何になりたいのか分からないって言っててな。まぁ、大半の人がそんなものだろうとは思うんだけど…………。俺なんて将来の夢なんて考えずにただがむしゃらに生きてきたからさ」

 

俺の言葉に美羽は「ああ、なるほど」と相槌を打つ。

 

美羽がこちらの世界に来てからずっと一緒にはいるけど、美羽の将来の夢って聞いたことがないんだよなぁ。

 

「こっちに来る前までは魔族の姫って立場だったし、自分の力を使いこなせるように必死だったから、これといって夢はなかったかな。昔はお父さんの後を継ぐのかな、なんて思ってたし」

 

小さい時は自分の力を上手く扱えず苦労したって言ってたし、それどころじゃなかったと言う感じか。

 

しかも、一国の姫という立場。

そう自由に決めることなんて出来なかったのだろう。

 

「でも、今はあるよ?」

 

「どんな?」

 

俺が聞き返すと美羽は満面の笑みを浮かべて、

 

「お兄ちゃんのお嫁さんかな。お兄ちゃんの側にいて、支えることが出来たら、それで幸せかなって」

 

エヘヘ、と頬を染めて恥ずかしそうにする美羽。

 

そっかそっか…………俺のお嫁さんが将来の夢か。

 

お兄さん、嬉しい!

 

ってか、それって―――――

 

「それってほとんど叶ってるような…………。もう結構支えられてるし」

 

「そう? ボクはまだまだお兄ちゃんを支えるには力不足だと思ってる。だから、もっと自分を磨いて、お兄ちゃんに相応しい人になる。これがボクの夢…………というより、今の目標なんだ」

 

うーん、美羽ちゃん、俺のことをすっごく評価してくれてるよね。

この間のゲンドゥルさんの時もそうだったし。

 

俺ってそこまで大きい人間かな?

 

「ここにいたのね、美羽ちゃん」

 

と、ここで母さんが俺達のところに現れた。

 

「あ、お母さん。どうしたの?」

 

「ちょっとね、見せたいものがあるのよ。こっち来て、こっち♪」

 

妙に弾んだ声で手招きする母さん。

 

俺と美羽は顔を見合わせて首を傾げるが、美羽は席を立って母さんに着いていく。

 

先導する母さんがスキップしてるんだが…………何があったのだろう?

 

 

 

 

 

 

美羽がリビングに戻ってきたのはそれから一時間後のことだった。

 

「なぁ、美羽。母さんの用って…………」

 

 

美羽の気配を感じたので振り返ると――――――

 

 

「うぅ………うぇ…………うぅぅぅぅぅっ!」

 

 

なんか号泣してた!?

 

 

「え、ちょ、なんで泣いてるの!?」

 

「お兄ちゃん…………ボク…………ボク…………うぇぇぇぇぇぇぇんっ!」

 

「何があったぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 



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9話 冥界の学校へ!

冥界のアガレス領。

 

ここにソーナの宿願であった「誰もが通えるレーティングゲームの学校」がある。

 

シトリー家次期当主の願望なのだから、シトリー領に建設されるのが筋かと思うのだが、そうでないのは政治的なものが絡んでくるからだ。

 

特に古くから血筋を重んじる上役にとってはソーナが言う「階級に関係なく誰でも通えるレーティングゲームの学校」というのは決して面白くないもの。

 

以前の若手悪魔の会合の時だって、ソーナの夢を聞いて笑ってたぐらいだ。

実現するとなれば、反対意見、圧力も降りかかってくる。

 

そうなれば、ソーナの夢を応援するセラフォルーさんは必ず異を唱える。

 

するとどうなるか。

 

ソーナの夢はセラフォルーさんの政治活動の一つと判断されることになるんだ。

実に馬鹿馬鹿しいけど、上役の連中はそういう風に見てくる。

 

リアス――――グレモリーがおいそれと援助出来なかったのもここに理由があった。

グレモリー、つまりサーゼクスさんの意思まで絡むと上役に思われては、四大魔王の各派閥争いはヒートアップしてしまう可能性を孕んでいたからだ。

 

そのため、リアスは目立たない程度の協力しか出来なかった。

 

ソーナはこの夢を諦めることも真剣に検討したそうだ。

姉の政治に影響を及ぼすのは、シトリー次期当主がしてはならない愚行だと。

 

しかし、そんなソーナに手をさしのべる人がいた。

 

 

「では、間を取って我が領土で建設して、上役のご機嫌を見ながら慎重に運営してみましょう」

 

 

そう声をかけてくれたのが、アガレス家現当主。

 

各魔王の派閥に属する政治家からの大公アガレスへの信頼は大きい。

血筋の中では最上位に位置する大王家の指示すら勝ち取った上で、「誰もが通えるレーティングゲームの学校」第一号がアガレス領に建設されたんだ。

 

大公アガレスの援助が無ければ、第一号ですら建たなかったかもしれないな。

 

そういう背景で建てられたソーナの学校第一号に俺達オカ研メンバーは訪れていた。

というのも、体験入学の手伝いをするためだ。

 

学校が建てられたのはグレモリーとバアルがレーティングゲームを行った空中都市アグレアスから目と鼻の先にある町―――――アウロス。

 

俺達はグレモリーの城から数回の転移を経てアウロスにやって来た。

転移した先は町の中心にある監視塔の最上階。

 

転移魔法陣の前で待ってくれていた町の役員の方に連れられて、俺達は監視塔を降りていく。

 

下で待っていたのは―――――

 

「よう、兵藤」

 

「来たぜ、匙」

 

匙だった。

 

出迎えてくれた役員から匙にバトンタッチして、俺達は町を進んでいく。

 

目に入ってくるのは畑と風車小屋、ヨーロッパ風の住宅。

 

完全な田舎町。

静かでのどかな町だった。

 

匙が言う。

 

「いいところだろ?」

 

「ああ。平和そうで、のんびり出来そうな町だな」

 

「おまけに、近くにはレーティングゲームの大舞台アグレアスもある。ここからの眺めも中々のものだぞ」

 

確かに。

ここから見る浮遊島ってのは迫力がある。

これはこれで絶景で、神秘的な眺めだな。

 

「私、将来こういうところで畑をやってみたいです」

 

「私もだ。うん、アーシアと畑作りをするのもいいな。永い悪魔の生だ。たまには剣士生活を忘れて農耕に従事するのもいいだろう。アーシアが暮らすとなるとイッセーも着いてくるだろうしね。私もついていくとしよう」

 

アーシアとゼノヴィアはそんなことを言いながら目を輝かせていた。

 

アーシアが田舎で暮らす、とか言い出したらついて来ちゃうかもね。

アーシアと田舎で畑仕事。

そこにはゼノヴィアもいて…………いいじゃないか。

 

そういうのんびりした生活も送ってみたいものだ。

 

イリナも空を見上げながら言った。

 

「私も将来田舎生活してみようかしら。でも、冥界に天使が住むというのは難しそうだし、冥界に出張がてらイッセーくんやアーシアさんの畑を手伝うのもいいのかな」

 

「案外、住めるんじゃないか? 三大勢力の和平が結ばれてからは交流も深まってるし。ってか、サーゼクスさんとアザゼル先生とか二人でラーメン食いに行ってるぐらいだしな」

 

「もしそうなら、私もアーシアさん達と住んで畑仕事するわ! ミカエルさまもお許しになられると思うし!」

 

うん、ミカエルさんなら即OKくれそうだな。

 

「なんだか、この町に魅了されちゃってるわね。でも、私もたまにはこういう場所でのんびりしたいわ」

 

レイナも微笑みながらそう続けていた。

 

他愛のない会話を続けながら匙についていくこと十数分。

新造の建築物が現れる。

 

その建築物は―――――駒王学園そっくりの学舎だった。

 

規模は駒王学園よりも若干小さめだが、体育館とおぼしき建物や運動場の位置などは同じ配置だ。

 

校門の表札には悪魔文字で「アウロス学園」と記されている。

 

「この町の名前をつけたのか」

 

「無難だろ?」

 

俺の言葉に匙は苦笑する。

 

シトリーやバアルの名前を出せば小うるさい人達が口を挟んできそうだし、確かに無難だな。

 

校門を潜り、本館へと進む。

 

運動場では子供達が走ったり、魔力の競い合いをしたりしているのが見えた。

その側にはシトリー眷属やバアル眷属のメンバーがいて、何やら教えているようだった。

 

あの子供達が体験入学に参加しているのだろう。

 

本館に入ると、玄関でソーナが出迎えてくれた。

 

「会長、オカルト研究部の皆さんをお連れしました」

 

「サジ、ご苦労さまでした。担当のところへ戻ってくれてかまいません」

 

「わかりました。それじゃあ、兵藤。あとでな」

 

「おう」

 

匙はこちらに手を振りながら足早に消えていった。

 

俺はぐるりと校舎内を見渡してみる。

 

新築だけあって、中はピカピカだ。

それにこの玄関や中の造りは駒王学園を踏襲しているところが多く見受けられる。

 

リアスが手を差し出し、笑顔で一言告げる。

 

「改めておめでとう、ソーナ」

 

「ありがとう、リアス。まだ第一号で開校は大分先だけれど、体験入学を実施するまでには形にできました。皆さんもよく来てくれましたね」

 

ソーナはリアスと握手をかわしながら、俺達にも微笑みを送ってくれる。

すごく嬉しそうだ。

 

「さぁ、中を案内しましょう」

 

ソーナの先導で学内を歩いていく俺達。

 

廊下は子連れの親御さん達が行き交い、バアル眷属やソーナが呼び寄せた特別講師が中心になって子供達に何かを教えているようだ。

子供達はとても興味深そうに講師の話に耳を傾けていた。

 

シトリー眷属のメンバーはそれのサポート。

ま、生徒会メンバーは学生だし、大手を振って教える側には回れないか。

 

他にもボランティアで募ったスタッフ達も校内で忙しく動き回っている。

 

ここに来ている子供達は大体、十歳前後。

たまに十代半ばの少年少女もいるが、小学生ぐらいの子供達が主だった。

 

リアスがソーナに問う。

 

「どのぐらい来ているの?」

 

「口コミで噂が広がってからの体験入学ですから、思っていたよりも人が集まりました。今日だけで子供は百五十名ぐらいは来ているでしょう」

 

おおっ、大盛況だな!

親御さんを含めるともっとじゃないか!

 

ソーナの学校が注目されている証拠だ。

 

ただ、裏を返せば学校に通いたいのに通えない子がこれだけいるってことなんだよな…………。

 

是非ともソーナの学校に通ってほしいと思う。

 

ここに通うことで、未来の選択肢が広がるはずだしな。

 

体育館に入ると中から活気のある声が聞こえてきた。

 

「いいか! パンチというのは腰をおとして、体全体から打ち出すように一直線に前へ突きだすのだ!」

 

「「「はいっ!」」」

 

体育館ではサイラオーグさんが子供達に正拳突きを教えていた!

 

子供達もサイラオーグさんの突きに合わせて元気にパンチを繰り出していた。

 

うーん、子供達も張り切ってるけど、サイラオーグさんもすんごい張り切ってる!

滅茶苦茶笑顔だもんな!

 

子供達を指導していたサイラオーグさんが俺達に気づく。

 

構えを解いて、こちらに手を振ってくれた。

 

「おおっ、リアス達も来てくれたか。見ろ、おっぱいドラゴン達が来てくれたぞ?」

 

サイラオーグさんが子供達にそう言うと、子供達は一斉にこちらを向いた。

 

「すっげぇぇぇ! おっぱいドラゴンだぁぁっ!」

 

「スイッチ姫もいる!」

 

「あっ! ダークネスナイト・ファングもいるよ! 戦うのかな!」

 

猛ダッシュでこちらへ集まる子供達。

 

やっぱ、こうなるよね。

 

まぁ、これもソーナの狙いの一つでもあったりする。

簡単に言えば、子供達へのサプライズって言ったところだ。

 

サプライズは見事に成功したようだが…………一気にテンションを上げた子供達をどう落ち着かせるのか。

 

ソーナが落ち着かせようと声をかけてるけど、耳に入ってないよね…………。

 

すると―――――

 

「ここは私にお任せを!」

 

俺と子供達の間に入るのは我が『僧侶』にしてマネージャー!

 

レイヴェルがこの場を静めてくれるのか!

 

流石は―――――――

 

「握手とサインは順番に並んでくださいね! 椅子とテーブルを用意してください! イッセーさま、リアスさま! これ、サインペンです! 皆さーん! おっぱいドラゴンもスイッチ姫も逃げませんよ! 並んでくださーい!」

 

あ、そっちなのね…………。

 

こうして、おっぱいドラゴンのイベントが急遽開催されることとなった。

 

 

 

 

 

 

急遽開催されたおっぱいドラゴンのイベント。

 

握手にサインに加えショーも披露することになり、突発のイベントにしては、中々のイベント会となった。

 

子供達も喜んでくれていたようだしな。

 

イベントを終えた俺は一人休憩中だ。

 

他のメンバーはそれぞれ分かれて授業のサポートに向かってる。

ちなみに美羽は魔法の授業、アリスは体を使う授業の手伝い。

レイヴェルは授業よりも全体の運営関連のサポートに向かってくれた。

 

俺も後でどこかに配置してもらわないと。

 

「ここにいたか、兵藤一誠」

 

と、話しかけてくるはサイラオーグさんだった。

ソーナと真羅副会長もいる。

 

ソーナが学校を見渡しながら訊いてくる。

 

「イッセーくん、先ほどはありがとうございました。子供達も多いに楽しんでくれたようです。それで、どうですか? イッセーくんから見たこの学校は?」

 

「いいところだよ。見学に来ている子供達はやる気に満ちていて、教えている側の人達もやりがいがあるって顔してる。周囲の環境も穏やかで最高だと思う」

 

真羅副会長が言う。

 

「ここにはレーティングゲームの授業を受けたい子供達の他にも、全ての教育機関から入学を拒否された子供達も来ています」

 

「入学を拒否?」  

 

「はい。…………能力が足りず、魔力が不得手というだけで、身分が低いというだけで、未来を閉ざされた子供達もいるのです」

 

サイラオーグさんが続く。

 

「家の階級はあれど、魔力が乏しく周囲に追い詰められ退学した者もいれば、才能はあれど、家の階級が低く入学出来なかった者もいる、ということだ。ここにいる子供達の中には複雑な事情を抱えて、藁にもすがる気持ちで来た者もいるのだろう」

 

なるほど…………。

 

悪魔の純血を重んじる上役の貴族にとって『下級』や『才能のない者』達の育成は賛成できるものではない。

むしろ、拒否するぐらいだ。

 

それは能力や才能が開花し、自分達貴族よりも強い悪魔に育ってしまうことを畏れているから。

自分達貴族の立ち位置を危うくすると考えているからだ。

 

ソーナがぼそりと漏らす。

 

「…………日本はいい国です。これまで日本で学んできて、それを実感しました。誰にでも学ぶ権利がある、これがどれだけ素晴らしいことか。イッセーくんや椿姫達が育った国は冥界よりもずっと教育が行き届いた場所なのですよ」

 

「この学舎の建造という事例の意義は大きい。いずれ、各領土にも波及してくれることを願う。いや、そうさせなければならないだろう」

 

校舎を見上げるソーナとサイラオーグさんの瞳は強い輝きに満ちていた。

 

すると、サイラオーグさんがふいに笑んだ。

 

「――――体術を教えているのだ」

 

「体育館でパンチの打ち方を教えてましたね」

 

「ああ。…………教職の真似事など、初めてだがな。本を読みながら見よう見まねだ。教え方が合っているのかなど正直言って分からん。それでも…………子供達は一生懸命に拳を打ち出してくれる」  

 

その笑みは楽しそうだった。

心底、子供達に体術を教えるのが楽しいのだろう。

 

サイラオーグさんが自身の拳を見ながら言う。

 

「この大きくごつごつした不恰好な拳は、ここに辿り着くためにいじめ抜いてきた殴るための代物だった。…………だがな、子供達に体術を教えている中で、ようやく少しだけ理解したのだ。―――――滅びの力を持たずして生まれた俺はこれを教えるために生まれてきたのかもしれない、と。この手に価値を見出だせることが幸せだと思えたのだ。大げさかもしれんがな」

 

サイラオーグさんは運動場で体を動かす子供達を見て、過去の自分を思い出しているようだった。

 

 

――――足りなければ、他で補えばいい。

 

 

サイラオーグさんが幼い頃にお母さんのミスラさんに言われた言葉だ。

 

それは腕力でも、知力でもいい。

魔力がなかろうと、滅びの力がなかろうと、諦めなければいつか必ず勝てる。

 

この言葉はサイラオーグさんの中に強く残っている。

 

そして、今度はそれを子供達に伝えようとしているんだ。

 

ソーナがもう一度学校を見渡す。

 

「頑張りましょう。まだスタートもしていないのですから。これからも一つ一つ壁を突破していきます」

 

まるでリアスのようなことを言う。

それだけ、この学校に意気込みを注いでいるということだな。

 

すると、向こうの方で何やら騒がしくなっていた。

先ほどまで熱心に授業を受けていた子供ですら、そこへ集まっていく。

 

「…………なんだ?」

 

首を傾げながらそう呟く俺だが、その隣では、

 

「お越しになられたみたいですね」

 

「ああ」

 

ソーナとサイラオーグさん、真羅副会長は知っているようだ。

 

三人がそちらへと歩いていくので、俺もついていく。

 

そこにいたのは―――――

 

「やぁ、見学に来たよ」

 

俺達に気づき手をあげる男性。

灰色の髪と瞳が特徴的なその男性は爽やかに微笑んだ。

 

レーティングゲーム現王者にして、皇帝(エンペラー)と称される者。

 

―――――ディハウザー・べリアル。

 

サイラオーグさん、ソーナが王者と握手を交わす。

 

「ディハウザーさま、今回はお越しいただき、まことにありがとうございます」

 

礼を口にするサイラオーグさん。

 

王者は微笑み、校舎を見渡す。

 

「いい学校だ。それにいい生徒も集いそうだ」

 

王者の登場に大興奮する子供達を見て、優しげな笑みを浮かべている。

 

しかし、まさか現王者が訪問してくるとはな…………。 

流石に驚いた。

 

呆気にとられる俺を見て察したのか、真羅副会長が耳打ちしてくる。

 

「実は、明日アグレアスでディハウザー・べリアル氏主演の映画撮影があるそうです」

 

へぇ、映画に主演か!

どんな感じの映画になるのか気になるな。

 

俺は特撮の主演たけど、ちょっと違うような気もするし…………。

 

でも、こうしてレーティングゲームの王者が直々に足を運ぶとなれば、この学校の宣伝になりそうだ。

もしかしたら、今日よりももっと志願者が増えるかもしれないな。

 

王者は真っ直ぐな瞳で俺達に言った。

 

「私も出来うる限り支援しよう。未来あるゲームプレイヤーが誕生するの素晴らしいことだからね」

 

俺や真羅副会長にも握手をしてくれた王者。  

 

うーん、流石は王者!

華があるな!

 

 

 

 

 

王者と少し話した後のことだ。

 

ソーナが王者を案内することになり、それに真羅副会長も付き添いで行ったので、ここに残ったのは俺とサイラオーグさん。

 

俺もぼちぼち授業のサポートに出向こうかと思った時だった。

 

サイラオーグさんがこう言ってきた。

 

「兵藤一誠。おまえも講師として子供達に教えてみるのはどうだ? 俺と違い、師に教えてもらったのだろう? それを伝えてみたらどうだ」

 

「…………俺ですか?」

 

そういえば、吸血鬼の領地に行った時にもレイナと小猫ちゃんに言われたっけな。

 

「うむ。先程も言ったように俺は見よう見まねだ。実際に教えてもらったこともないからな。実際に師を持ち、指導を受けたおまえなら、と思ったのだ」

 

なるほど…………。

誰かに教えてもらった経験がある人なら、そのやり方で自分も伝えていくという手もある。

 

「おまえも最初は力を持っていなかった。それがこうして英雄と呼ばれるほどになったのだ。子供達もおまえが行ってきた修業には興味があるかもしれんぞ?」

 

俺も殆ど無の状態から修業を始め、師匠の指導の元で今の強さを手に入れた。

力の入れ方から、戦闘技術も根本から叩き込まれた。

あの修業があってこその今の俺だ。

 

ここにいる子供達はキラキラした目で俺を見てくる。

中には「どうやったら、おっぱいドラゴンみたいに強くなれますか?」なんて訊いてくる子供もいるくらいだ。

ただの憧れじゃなくて、本気で強くなりたいと思っているのは目でわかった。

 

でもね、流石にそのままのやり方で教えるのは無理がある。

 

 

だって…………

 

 

『ほぉれ! 気合いじゃ気合い! 三秒で崖を登ってこんか!』

 

『いや、無理無理無理ぃぃぃぃぃ!』

 

 

とか

 

 

『魔法の鉄拳マジカル☆パンチじゃ!』

 

『ただのパンチじゃねぇか! って、ぎゃぁぁぁぁ! 山が消しとんだぁぁぁぁ!? 死ぬぅぅぅぅ!』

 

 

とか

 

 

『あの女子のスリーサイズを当ててみぃ』

 

『えーと、上から―――――』

 

 

とか。

 

 

うん、そのまま教えたら子供達、絶対泣くな。

親御さんからクレームが来そうだ。

 

だからね、

 

「俺、簡単な体術だけで良いですか? 師匠の指導方法でいくと、この学校…………スタートする前に終わっちゃうと思うんで」

 

「…………?」

 

冷や汗をかく俺に首を傾げるサイラオーグさんだった。

 

 



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10話 信じろ!

サイラオーグさんと並んで体術の授業を終えた俺は他のメンバーの様子を見に行っていた。

 

まず視界に入ったのは匙だった。

 

「わかったかな? 人間や人間とのハーフには、こういう神器っていう悪魔とは違う特殊な能力を持った者がいるんだ」

 

グラウンドの隅で子供達に神器について教えているようだった。

右腕に神器である黒い蛇を幾重にも出現させて説明をしているようだ。

 

匙の神器実演の後は講師として来ているバアル眷属のメンバーが話を始める。

バアル眷属の神器所有者兼魔法剣士のリーバン・クロセルさんだ。

ここでの匙の授業サポートは神器の実演らしい。

 

役目を終えた匙は俺の方にやって来る。

 

「お疲れさん」

 

「ああ、そっちもな。体術教えてたんだろ?」

 

「まぁ、簡単なやつだけどな」

 

「そっか」

 

俺達は互いに受け持った授業内容や子供達の反応を話し合いながら校舎の方へと向かっていく。

話しているときの匙は楽しげだった。

 

匙は学校を誇らしげに見上げながら呟く。

 

「…………なぁ、兵藤」

 

「ん?」

 

「…………子供達がさ、俺を『先生』って呼んでくれるんだ。…………俺を『先生』って。俺なんてまだまだなのにな」

 

少し恥ずかしそうにしているが、匙は嬉しそうだ。

 

こいつの夢はレーティングゲームの学校で先生になること。

そのためにも、いつかは教員免許を取得したいと言っていた。

 

「兵藤、俺、ここで子供達の対応をしてきて再認識できたよ。俺は絶対に『先生』になる。まずは中級悪魔にならなきゃいけないけどさ。それでも、絶対になるぜ」

 

「その意気だ。なーに、おまえなら中級なんて直ぐさ。おまえなら出来る」

 

俺が匙の背中を叩きながら言うと、匙は気恥ずかしそうに頬をかいた。

 

と、そんな俺達の前方に何やら賑わっていた。

 

そこにいたのはアーシア達教会トリオ。

 

「きんいろドラゴン出して! きんいろドラゴン!」

 

そう口々に言うのはアーシア達に群がる子供達だ。

 

「はい、いいですよ」

 

アーシアも微笑みながらそれに応じ、召喚の呪文を唱える。

黄金の魔法陣から現れるのは黄金の龍王。

 

大きなドラゴンの登場に子供達の興奮は高まっていく。

 

アーシアはファーブニルに言う。

 

「ファーブニルさん、子供達と遊んでくれますか?」

 

『いいよ。けど、俺様、PP(パンツポイント)が足りない』

 

アーシアのお願いに変態はそう返した。

 

最近、あの変態が設定したパンツポイントってのは、あいつが働くために必要なエネルギーらしい。

アーシアのパンツ成分で構築されており、足りないと力が抜けていくと言う…………。

 

うーん、この場で滅ぼしてやろうか!

 

「パ、パンツですね…………分かりました」

 

赤面しながらも頷くアーシア!

 

子供達の目の前であげちゃうの!?

 

アーシアはポシェットからパンツを取り出してファーブニルに与えてしまう!

 

ファーブニルはパンツを―――――頬張り始めた。

 

それを見て子供達は爆笑してる。

 

「すっげぇ、パンツ食べてる!」

 

「アハハハ! おパンツドラゴン!」

 

うわぁぁぁぁぁ!

子供達の中でまた新しいドラゴンが誕生してしまった!

 

おっぱいドラゴンの次はおパンツドラゴンかよ!?

 

「…………うふふ、なんだか、最近、ひどく疲れるんです」

 

ああっ、アーシアが倒れ込んでしまう!

間一髪のところでゼノヴィアが受け止めるが、目が死んでいる!

 

ゼノヴィアとイリナが叫んだ。

 

「アーシア! 君はよくやっているぞ!」

 

「そうよ! おパンティーが大好きなドラゴンで体験学習というのも子供達の良いお勉強になるわ!」

 

うぅ…………子供達のために自らを犠牲に…………!

 

ゼノヴィアの言う通りだ!

アーシアは良くやっている!

 

俺、後でアーシアを一杯甘えさせてあげよう!

 

俺が涙している横では、

 

「…………ヴリトラがファーブニルは変わったってよく言うんだよな」

 

 

 

 

 

 

校舎の中を進むと、とある教室から子供達の元気な声が聞こえてきた。

 

見れば、子供達が廊下に溢れるほど大盛況になっているようで、親御さん達まで立ち見しているほど。

 

「ここは魔法の学科だよ。魔法も人気のある科目でな。レーティングゲームの授業と並んで希望者が多いから、この二つは回数と講師を増やして対応するほどなんだ」

 

匙が教えてくれた。

 

この大盛況振りを見るに魔法は子供だけでなく、大人も興味津々って感じなのだろう。

 

人の隙間から覗き見してみると、

 

「ロスヴァイセ先生!」

 

「見て見て! 火が出たよ!」

 

子供達に囲まれるロスヴァイセさんの姿。

その近くには美羽もいて、ロスヴァイセさんのサポートをしているようだ。

 

子供達は簡単な魔法を覚えて、実際に放てているようだ。

 

あちこちで小さな火の玉が飛び交ってる。  

 

「人に向けちゃダメだよー」

 

と、美羽が微笑みながら注意している姿は中々に微笑ましい。

 

魔法が使えるようになってはしゃぐ子供達。

 

そんな中で、一人離れた場所で必死に手を突き出して念じている男の子がいた。

上手く発動せず、苦戦しているようだ。

目にはうっすら悔し涙まで浮かべている。

 

あの男の子には見覚えがある。

 

名前は確か…………リレンクス。

おっぱいドラゴンのイベントがあった時に会場に入れず泣いていた子だ。

 

そっか、あの子もこの学校に来ていたんだな。

 

ふと背後に気配を感じる。

 

振り向くと、そこにいたのは―――――ロスヴァイセさんのお祖母さん、ゲンドゥルさんだった。

 

「こちらに来ていたんですね」

 

「ええ。着いたのはつい先程ですが。彼氏さんも授業を行っていたようですね」

 

「まぁ、簡単なものを少しだけ…………。でも、子供達も頑張ってました」

 

俺がそう言うとゲンドゥルさんは微笑みを浮かべて頷いてくれた。

 

こちらも気配を察したのか、ロスヴァイセさんがこっちにやって来た。

 

「ば、ばあちゃ…………お祖母さん、来ていたのですか」

 

「ここで特別講師をする約束だからね。明日の集会前にいい気分転換にもなります」

 

明日は例の魔法使いの集会だったな。

そこ前にここで講義を行うってことなのだろう。

 

その時、教室内に緑色のオーラに包まれた小さな妖精が出現し始めた。

妖精は子供達の間を軽やかに飛び回ると、教壇の上に降りていく。

 

その教壇にはゲンドゥルさんが立ち、妖精を優しく撫でた。

 

一瞬で子供達の視線を集めてしまう。

 

ゲンドゥルさんはそれを確認すると、優しい笑みを浮かべながら静かに口を開く。

 

「皆さんは魔法がどのように生まれたか知っていますか?」

 

ゲンドゥルさんの問いに一人の子供が元気よく挙手して答える。

 

「占いや呪術だって聞きました!」

 

「そう、その通りです。魔法は占いやおまじないから誕生したのです。こんなことが知りたい、あんなことになったらいいな、あの人のために、誰かのために、たくさんの人を助けられる方法が欲しいと願った術者達が作り上げたものなのです」

 

ゲンドゥルさんの語り口は耳にすんなり入ってくるもので、この場にいる全員が聞き入ってしまっていた。

 

「現代の魔法には様々なものがあり、複雑なものです。ですが、これだけはまず最初に覚えておいてほしいのです。―――――どのような魔法にも必ず誰かの役に立ちます。この世に意味のない魔法なんてないのですから」

 

にっこりと慈愛に溢れた笑顔。

 

…………この世に意味のない魔法なんてない、か。

 

「良い言葉だね」

 

いつの間にか横に来ていた美羽がそう呟いた。

 

俺も静かに頷く。

 

ふとロスヴァイセさんの方に視線を向ければ、微笑んでいるようにも見えた。

 

「彼女の中でも何か変化があったのかもしれないわね」

 

と、これまたいつの間にか実体化していたイグニスがそう言った。

 

今回の手伝いがロスヴァイセさんの中で何か一つの答えが見つかれば良いな。

 

それからもゲンドゥルさんの講義は続いていく。

子供も大人もうんうんと頷きながら意欲的に取り組んでいる。

 

そんな授業を見守っているとイグニスが、

 

「…………うーん、私も授業してみようかしら」

 

「…………一応、聞いておくけど…………どんな?」

 

「イグニス先生の小学生から始める性教育。初級はディープキスからね」

 

「匙、どうよ?」

 

「却下に決まってんだろ!? つーか、ツッコミはおまえの役目だろ!?」

 

「俺ってそういう認識だったの!?」

 

「ちなみに上級は――――――」

 

 

 

 

 

 

その日の深夜。

 

一日のプログラムを終えて、グレモリー、シトリー、講師の方々と夕食タイムを取り、明日の日程を確認を済ませた後で個別の自由時間となった。

 

俺達が泊まるのは学校の敷地内にある学生寮となる建物。

内部は整備が整っていて、各室の備品も良いものばかり。

共同の大浴場まで完備してある。

 

俺は男子寮の大浴場に一人浸かっていた。

 

「ふぃー。なんとか、終わったか…………」

 

体術の講義の後は、各授業のサポートに回っていたわけだが…………思ってた以上に大変だった。

 

子供に教えるのって中々に難しいもので、どうすれば上手く伝わるのか、結構頭を使うんだよね。

 

ただ、子供達も熱心に聞いてくれるので、こちらも何とかしたいと思えるわけで…………。

 

人に教えることって、やりがいのあるものだと思えたかな。

 

今後、俺に何が出来るか分からないけど、可能な限り手伝えたらと思う。

今日、サポートに回っていたメンバー全員が同じ意見だったりする。

 

…………イグニスの性教育は無しだけどね。

 

つーか、性教育とかレーティングゲーム関係ないし!

 

そんな風に思っていると浴場の扉が開く音が聞こえてきた。

 

木場かキャスパー、匙辺りかと思ったんだが…………。

 

「…………イッセーくん、ですか?」

 

ロスヴァイセさんだったぁぁぁぁ!?

 

ちょ、え、えええええ!?

 

女子の風呂は女子寮にあったはず!

家の時みたいに偶然バッタリというわけではないだろう!

 

ということは、ロスヴァイセさんは態々、男子風呂に入ってきたことになる!

 

あのロスヴァイセさんがまさか、そんな…………。

 

色々な思考が張り巡らされる中、ついついそのお体に目が行ってしまう!

 

スレンダーなのに豊かなおっぱい!

細すぎるということもなく、ラインが整った美脚!

 

うーん、ロスヴァイセさんのお体は神秘的なものを感じさせるな!

いや、待てよ…………ヴァルキリーは半神。

神々しいお体でもおかしくはないのか…………。

 

うーむ、これはずっと眺めていたい!

 

そんか気持ちで一杯になりながらも俺は口を開いた。

 

「ここ…………男子用の風呂ですよ? 女子用は女子寮にあると聞いてるんですけど…………」

 

「そ、そのはずだったのですが…………女子寮のお風呂のお湯が出なくなったとのことで、一時的に男子寮のお風呂を使うように言われまして…………。今なら誰も入っていないと聞いたのですが…………」

 

なるほど、女子寮の風呂が壊れましたか!

これは他の女子も入ってくるのではなかろうか!

 

つーか、俺、普通に使ってます!

誰だ、今なら誰も入ってないとか言った奴!

おかげで素晴らしいものが見れちゃったじゃないか!

ありがとう!

 

まぁ、でも、こういうことには厳しいロスヴァイセさんだ。

出ていくかも――――――なんて思っているとロスヴァイセさんは体を洗い始めた!

 

「…………時間もありませんから、素早く入ってしまおうと思います。あまり、じろじろ見ないでくださいね?」

 

と、ロスヴァイセさんは恥ずかしそうにしながらもシャワーを浴びていく。

 

体を洗い終えたロスヴァイセさんは、そのまま浴槽に入り、俺と少し離れたところに。

 

「め、冥界のお風呂も悪くないですね」

 

「そ、そうですね」

 

ロスヴァイセさんと二人で入るなんて初めてだから地味に緊張するな…………。

 

「魔法の授業、盛況でしたね」

 

「ええ。人手が足りなくて、中々休めませんでした」

 

「でも、子供達は皆楽しそうでしたよ?」

 

「それはそうなのですが…………一人だけ、初歩の魔法が発現できない子がいまして、それが気になってしまいました」

 

リレンクスのことか。

 

あれから、美羽やロスヴァイセさんが教えていたみたいなんだが…………どうにもコツが掴めず、苦戦を強いられていたようだった。

 

「…………」

 

「…………」

 

で、始まりました無言タイム。

そういや、アリスと初めて混浴した時もこんな感じだったな…………。

 

これはなんとかして話題を探さねば…………!

 

えーと…………あ、そうだ。

 

「ひとついいですか?」

 

「なんでしょう?」

 

「ロスヴァイセさんの論文のことです。どうして666について調べようと思ったんですか?」

 

「…………イッセーくんもご存じでしょうけど、トライヘキサは伝承のみの存在。未だ発見には至っていません。けれど、同じ黙示録に記されたグレートレッドは存在します。だから、調べてみたくなったんです。見つけることは到底無理でした。各神話の神々でも見つけられなかったのですから、当然と言えばそうなのですが…………。でも、トライヘキサがどんな存在なのかぐらいは知りたくて、666や616という数字を調べ始めたんです」

 

先生も言ってたな。

トライヘキサは各勢力から「いるかもしれない」程度の認識で、本当に存在するのか、存在するならどこにいるのか。

それは長く議論され続けていたことだと。

 

ロスヴァイセさんは苦笑する。

 

「…………答えなんて出なかったんですけどね。…………ですが、解答出来なかったあの計算、術式の組み方に彼らが欲する答えが隠されていたのかもしれません」

 

実はオーフィスにもそれとなくトライヘキサについて訊いてみたんだ。

グレートレッドを求めるオーフィスなら何か知ってるかもしれないと思ってね。

 

しかし、オーフィスは首を横に振った。

 

オーフィスでもトライヘキサについては知らなかったらしい。

 

でも、オーフィスが知っていれば旧魔王派や英雄派はトライヘキサについて訊きだして自分たちの武器にしていただろうし…………。

オーフィスの分身を連れているリゼヴィムもトライヘキサは聖杯に潜ることで発見できたって言ってたしな。

 

ロスヴァイセさんはぽつりと漏らした。

 

「イッセーくん…………。もし、私が彼らに利用されそうになったら…………私を殺してくれますか?」

 

「は…………?」

 

あまりに唐突過ぎる頼みに俺はつい聞き返してしまう。

 

「…………彼らに利用されて、仲間に、世界に迷惑をかけるぐらいなら、私は死を選びます。私なんかのせいで、皆が死ぬなんて耐えられませんから…………」

 

悲哀に満ちた表情…………それでも、意志は固そうな瞳。

 

俺は無言のまま、ロスヴァイセさんに近づき口を開いた。

 

「…………本気で言ってるんですか?」

 

「本気です。皆に迷惑をかけるぐらいなら、私が――――――」

 

「――――――ふざけんな」

 

ロスヴァイセさんの言葉を遮って俺は一言そう言った。

とても低く、怒気を含んだ声で。

 

突然の声音の変化に伏せ気味だったロスヴァイセさんは顔を上げて戸惑った表情で俺を見てくる。

 

俺はその声音のまま続けた。

 

「死を選ぶ? 軽々しくそういうこと言うな。――――――次言ったら、マジで怒るぞ」

 

「軽々しく口にしたつもりは…………! それに、私があのユーグリット・ルキフグスに捕えられたら、きっと利用されて――――――」

 

「その時は俺が全力で奪い返す。利用なんてさせない」

 

「そんなに都合よく…………」

 

「だぁぁぁ! もうっ! いいか、よく聞け!」

 

俺はロスヴァイセ(・・・・・・)の肩を掴んで叫んだ。

 

「俺はおまえを連れていかせないし、ユーグリットの野郎は俺がぶちのめす! 利用もさせない! 都合が良かろうが悪かろうが、ロスヴァイセは必ず守りきってみせる! 約束だ! だから、死ぬなんて言葉、二度と言うんじゃねぇ! いや、言わせねぇ!」

 

語気を荒げる俺。

一通り叫んだ後、深呼吸して息を整える。

 

最後に深く息を吐いた後、笑みを浮かべた。

 

「この間、ゲンドゥルさんに言ったこと、あれは本心だ。俺は守ると決めたものは守りきる。おまえも必ず俺が守る。俺は曲がりなりにも勇者とか英雄とか言われてきた男だぜ?」

 

それに、

 

「おまえについているのは俺だけじゃない。仲間もいる。仲間に迷惑をかける? 迷惑を掛け合うのも仲間の特権だぜ。世界に迷惑をかける? その時は全員で尻拭いしてやるさ! だからさ―――――信じろよ俺を、仲間を」

 

そこから更に念を押すように言った。

 

「もう一度言う。ロスヴァイセは連れていかせないし、利用もさせない。だから、死ぬなんて言うな。おまえが死ねば、皆泣くぜ?」

 

グレモリー眷属は仲間想いなやつばっかりだからな。

特に眷属を大切にしているリアスがさっきの発言を聞けば、自分を責めてしまうだろう。

 

俺だって仲間が死ぬ姿なんてもう見たくないしな。

 

「あ、あの…………イッセーくん」

 

「ん?」

 

「…………そろそろ、離してくれますか? 流石に…………恥ずかしい、です」

 

そう言われて俺はハッとなる。

 

俺、いつの間にかロスヴァイセさんを抱き締めてたぁぁぁぁぁ!?

 

俺は慌ててロスヴァイセさんを離して、素早く後ろに下がる!

 

なんか調子に乗って…………色々、恥ずかしい!

 

ロスヴァイセさんも顔真っ赤だよ!

 

「…………初めて、イッセーくんに呼び捨てされましたね」

 

「あ、いや、その…………す、すいません」

 

「いえ、別に…………学園では生徒と教師という立場ですが、実際はイッセーくんの方が歳上ですし…………」

 

うん、そうなんだけどね………。

普段の立場もあるし…………ロスヴァイセさんの方が大人っぽいから。

 

リアスと朱乃に関してはすんごく甘えてくるから、もう気にせずに呼び捨てだし、敬語もなしだ。

まぁ、普段の学園生活では先輩として見ているけど。

 

ロスヴァイセさんは顔を赤くしながら、大きく息を吐いた。

 

「ありがとう、イッセーくん。少し気が楽になりました」

 

ロスヴァイセさんがそう言った時だった。

 

再び浴室の扉を開く音が聞こえてきた。

 

「まさか女子のお風呂が壊れるなんてね」

 

「ええ、ですがこれでイッセーくんのお背中を流すことができますわね。脱衣所に服がありましたし」

 

と、リアスと朱乃を先頭にオカ研女子部員が全員入ってきたぁぁぁぁ!

歩く度にぶるんぶるん揺れるおっぱい達!

 

うーん、絶景なり!

 

女子達の登場に心踊らせている俺だが…………

 

「あ、ロスヴァイセさんだ。ロスヴァイセさんも入ってたんだね。気づかなかったよ」

 

「「「え?」」」

 

美羽の発言に女子全員が硬直する!

 

「ろ、ロスヴァイセ!? あなた、二人きりでイッセーと混浴を!?」

 

「り、リアスさん!? ち、違います! これは偶々――――きゃっ!」

 

慌てて立ち上がったものだから、ロスヴァイセさんが足を滑らせてしまう!

 

ちょうどその後ろには俺がいて――――――

 

「のわっ!?」

 

「ひゃあ!? い、イッセーくん!? どこを触っているのですか!?」

 

「わざとじゃないです! 不可抗力です!」

 

「ちょ、そこは…………あっ、んんっ…………だ、ダメですぅ…………!」

 

浴槽の中で揉みくちゃになる俺とロスヴァイセさん!

 

そんな光景に皆は―――――――

 

「「「私も一緒に入る!」」」

 

ドボンと全員が浴槽に飛び込んで来たのだった。

 

 

 

 

 

 

お風呂でも大忙しだった俺。

 

風呂を上がり、用意された部屋に戻ったところでようやくゆっくりできることに。

 

「今日はお疲れさま。気持ちいい?」

 

「うん、美羽の太ももの寝心地は良いなぁ」

 

はい!

美羽に膝枕してもらってます!

 

この柔らかさ、この弾力。

加えて美羽の笑顔が俺を心から癒してくれる。

 

あぁ、美羽に頭を撫でられるのも相変わらず気持ちいい。

 

「いつもは甘えさせてもらってるからね。たまにはボクにも甘えてくれると嬉しいな」

 

なんてことまで言ってくれるんだ。

 

もうね、幸せだわ。

ついつい太ももに顔を埋めたくなってしまう。

 

俺が美羽の太ももに頬をスリスリすると、

 

「やんっ。お兄ちゃんのエッチ」

 

うーむ、反応も可愛いなぁ。

 

やっぱり、こうして兄妹だけの時間を作ることって必要だよね。

 

寝るまでの間だけでも、この癒し空間に包まれていたいぜ!

 

と、ここでとあることを訊いてみる。

 

「なぁ、この間のことだけどさ。秘密なのか?」

 

この間のことというのは、母さんに呼び出された美羽が号泣しながら帰ってきたことだ。

 

詳しいことは教えてくれなかったんだけど、どうやら、あの涙は嬉し泣きだったらしい。

まぁ、母さんが美羽を傷つけるようなことをするとは端から思ってなかったけどね。

 

それで、気になった俺は母さんと美羽に何度か訊いてみたんだけど…………。

 

「まだ秘密かな。お母さんにもそう言われたし」

 

「…………秘密にされると気になるんだよなぁ」

 

美羽があれだけ号泣してたのも気になる理由の一つなんだけど。

 

「いつ教えてくれるんだ?」

 

「お母さんしだいかなぁ。もう少し時間かかるって言ってたしね」

 

時間がかかる…………?

 

母さん、何してんだろ?

 

訝しげに首を傾げる俺だが、美羽は微笑んで言う。

 

「まぁ、もうちょっとだけ待ってね。お兄ちゃんもきっと驚くと思うから」

 



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11話 迫る悪意

(んっ)………(は、んんっ)………」

 

 

…………なんだ?

 

意識がぼんやりとする中、声が聞こえてきた。

 

早朝。

時計を見たわけでもないのに分かるのは普段からの習慣で、体内時計が割りと正確になっているからだ。

 

昨日はあれから美羽とおしゃべりして、早々に眠ることに。

子供達に授業をするという慣れないことをしたせいか、少し疲れてたんだよね。

美羽も用意された部屋には戻らず、俺と寝ることになった。

 

まぁ、それは置いておこう。

 

今気になるのは手に伝わるむにゅんとした、とてつもなく柔らかな感触と…………口の中にあるほのかに甘いもの。

 

それを飲むと不思議と体の底から力が沸いてくる。

 

 

―――――もっと欲しい。

 

 

そう思うと同時にぼんやりしていた意識も少しずつ覚醒してきて―――――

 

「あぁんっ…………ダメよ、イッセー………そんなに激しく………んんっ」

 

聞こえてくる甘い吐息。

 

視界に入るのは大きな二つの丸いものと、紅髪。

 

俺が手を、口を動かす度に紅髪の女性のからだはビクンと跳ねて―――――

 

「り、りりりリアスゥゥゥゥゥゥっ!? ちょ、なんでここに!? つーか、俺…………」

 

リアスのおっぱい吸っちゃってたぁぁぁぁぁぁ!?

 

おいおいおいおい!

朝から寝ぼけて何してんの、俺!?

 

ここ、ソーナの夢がかかった学校の寮だよ!?

子供達の未来を作る場所だよ!?

 

慌てて俺は口を離して起き上がる!

 

どれだけ吸っていたのだろう…………リアスのお体がもうすんごいビクンビクンしてる…………。

 

半分脱げた薄いネグリジェと、リアスの呼吸に合わせてぶるんと揺れるおっぱい。

先っちょは俺の唾液で濡れていて…………。

 

リアスはそれを指先で拭いながら微笑む。

 

「もう、イッセーったらあんなに夢中になって…………。赤ちゃんみたいだったわよ? そんなに美味しかったの?」

 

うぅっ…………寝ぼけてたとは言え、これは恥ずかしい。

いや、美羽のも寝ぼけて何度か吸ってたりするけど…………。

 

あと思ったんだけど、

 

「リアスも出るんだ…………」

 

「私も今知ったのよ。これでアリスさんに少しは追い付いたかしら?」

 

あー、なるほど。

スイッチ姫だから、出るようになったと。

ということは、アリス同様に俺限定で出るのかな?

 

アリスの場合は空腹が回復したけど、リアスの場合はオーラが回復するって感じなのかな?

体の内側から力が沸いてくるような感覚だ。  

 

ついにリアスもスイッチ姫としてこのステージに来たということか…………。

 

うーむ、俺は朝からリアスの一番搾りをいただくことになろうとは!

 

俺は一度息を吐いた後、根本的なところを訊いてみた。

 

「いつここに?」

 

昨日、寝るときまではリアスはいなかった。

ということは俺と美羽が眠っている時にベッドに潜り込んだことになる。

 

「昨日の夜、ゼノヴィアとイリナがアーシアを連れて男子寮に入り込んでいたのよ。偶々、それを見つけた私と朱乃、レイヴェルがそれを追跡したら、この部屋に入り込もうとしていたから声をかけたの。どうやら、イッセーの寝込みを襲うつもりだったらしいわ」

 

あいつら俺の寝込みを狙ってきてたの!?

 

それはそれで嬉しいが、あいつらのその手の襲来はろくなことにならないんだよなぁ。

 

つーか、鬼畜モードが自動で炸裂してもしらないぞ!?

イリナなんて堕天しちゃうぞ!?

それでもいいのか!?

 

「それで私達はじゃんけんをしたのよ。――――勝った者がイッセーと寝ると。そして私は勝利したわ。あの時、チョキを出した自分を誉めてあげたいくらいよ」

 

リアスは誇らしげに語った。 

 

んー…………なぜ、じゃんけんになったのか分からないけど、それでリアスがここで寝ていたのね。

 

そっかそっかと頷いていると途端にリアスが俺の首に手を回して抱きついてきた。

 

リアスのおっぱいが…………!

むにゅうって…………むにゅうってしてる!

流石はリアス!

この感触はたまらん!

 

朝からもう色々と元気になってます!

 

「ど、どうしたの?」

 

そんな興奮を理性を総動員して抑えながら尋ねてみるが、リアスは無言のままだった。

 

それから少しすると、リアスは離れていく。

 

「イッセー成分の補給よ。適度にイッセーに甘えないと生きていけないのよ」

 

ニッコリと微笑みながそう言うリアス。

 

…………以前も思ったんだけど、イッセー成分って何なんだろう?

 

まぁ、俺もリアス成分を吸収できたような気がするけど。

 

リアスはネグリジェを直すとベッドから降りる。

 

「今日も午前中から授業があるのだけれど、昨日よりも参加者が増えるようなの。イッセーもよろしく頼むわね」

 

「了解だ。今日は気についての話でもしてみようかな?」

 

「ふふふ、張り切ってるみたいね。私もソーナから頼まれているから頑張るわ」

 

そう言うとリアスは俺の頬にキスをしてから、部屋を後にした。

 

うん、今日も一日頑張れそうだ!

 

 

 

 

 

 

朝食後、朝のミーティング前に俺はアーシア、匙とあることについて話していた。

 

「それじゃあ、ファーブニルもアルビオンのところに行ってるのか」

 

「はい、なんでも歴代の白龍皇さん達の残留思念を説得するのに苦戦しているそうでして、ドライグさんとアルビオンさんが呼んでいるから意識を飛ばして行ってくると昨夜ファーブニルさんが夢に出てきたんです」

 

匙もアーシアに続く。

 

「俺も夢にヴリトラが出てきてさ、二天龍から珍しく助成を頼まれたとか言って、あっちに行ってな。朝起きてから呼び掛けてもでてこないから、マジなんだなーって。神器はいつも通り使えるけど、ヴリトラがいないと制御で困る面もあるんだわ」

 

匙も大分と神器を扱えるようになってきてるけど、それでもヴリトラがいないと細かい制御は難しいらしい。

 

俺は息を吐いて、頭を下げた。

 

「なんか、すまん…………」

 

「気にすんなって。兵藤にも修業を見てもらったりしてるからな。それに子供達の前で実演するぐらいなら、ヴリトラの助けがなくても十分使える。こっちで何か起きたら帰ってくるだろ」

 

そう言ってもらえると助かる。

 

でも、匙の言う通りこちらで何か起こらない限りは大丈夫だろう。

それまでにドライグ達が何とかしてくれると良いんだが…………。

 

「最終手段は私ね」

 

実体化したイグニスが後ろから抱きつきながら言ってくる。

 

…………なんでそんなワクワクした顔してるの?

 

まさかと思うが、歴代の白龍皇相手にSMプレイするんじゃあるまいな?

 

そんなこと断じて許しませんよ、俺は。

 

『教官んんんんんっ! そろそろぶってくださいぃぃぃぃぃ!』

 

『踏んでください!』

 

『罵ってください!』

 

…………歴代の白龍皇達までこんなことになると思うと…………!

 

ヴァーリにツッコミが出来るとは思えないし。

つーか、ツッコミを入れるヴァーリとか想像できん。

 

「とりあえず、おまえは歴代の先輩達を黙らせてくれない? もう鞭でもロウソクでもいいから」

 

「いや、まだ早いわね。もう少し焦らすわ」

 

「焦らしプレイしてんのか!?」

 

あー…………もう疲れた。

 

息を吐く俺にイグニスが訊いてくる。

 

「それよりイッセーも歴代の女の子達の調教は?」

 

「…………もうした」

 

朝から騒ぐんだもん!

朝飯食う前からお望み通りにお尻ペンペンしてきましたよ!

なぜか用意されてた縄で縛って、なぜか用意されてたバイブ使いましたよ!

 

なんで、神器の中にそんなもんがあるんだ!?

 

『あれってイグニスさんが置いていったのよね?』

 

『ああ。他にも色々と揃ってるね。流石はイグニスさんと言ったところか』

 

うぅっ…………比較的まともなエルシャさんとベルザードさんですらこれだ!

 

お願いだから、あんた達もツッコミ入れてよ!

 

『『ごめん、無理』』

 

即答!?

 

もうやだ!

誰か俺の代わりにツッコミ入れてぇぇぇぇ!!

 

ふと横を見るとアーシアが頬を膨らませながら、こちらを見ていた。

 

…………え、なに?

 

イグニスが微笑む。

 

「あら、アーシアちゃんもイッセーとくっつきたいの?」

 

「私も…………イッセーさんに甘えたいです」

 

「それなら、ちゃんと言わなきゃダメよ? イッセーったら、未だに鈍感なところがあるから。イッセーももっと見てあげないとダーメ」

 

うーむ、最近はそうでもないと思ってたんだけどな。

やはり、俺はまだまだだと言うことなのだろうか?

 

とりあえず、アーシアちゃんも色々と心労が溜まってるし(主に変態龍王のせい)、いっぱい甘えさせてやろう。

 

俺はアーシアの肩を抱き寄せて、頭を撫でてあげる。

 

すると、さっきまで頬を膨らませていた顔も笑顔に変わり、俺に甘えるようにもたれかかってくる。

 

「アーシア。俺にやってほしいことがあれば、遠慮なく言ってくれよ? これぐらいなら、いつでもしてあげられるからな」

 

「はい! 私、イッセーさんにいっぱい甘えようと思います!」

 

うん、機嫌を直してくれたようでなにより。

 

でも、頬を膨らませているアーシアちゃんも可愛いんだよなぁ。

それを見るとかまってあげたくなるんだ。

 

「くっ…………朝から見せつけてくれるな、おまえは! これも異世界での経験の差というやつなのか!?」

 

横で見ていた匙が頭を抱えていた。

 

これに異世界はあんまり関係ないかも。

 

やっぱり、女の子を知って大人になったから、かな?

美羽のおかげでその辺りの根性がついたような気がする。

 

俺は苦笑しながら匙に言う。

 

「ソーナとはどうなんだよ?」

 

「…………ぜんっぜん。キスどころか手すら繋いだことがねぇよ」

 

「告白は?」

 

「…………まだ。つーか、俺は会長に相応しい男になれているのか!? 今の俺じゃダメなんじゃないのか!? ぐぉぉぉぉ! 俺はどうすればいいんだぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「青春か…………」

 

「なにお爺さんみたいな顔してるのよ、イッセー? あなたも美羽ちゃんやアリスちゃんをはじめ、家に住む女の子達とイチャイチャしてるじゃない。二十歳で青春送ってるじゃない」

 

「アハハハ…………。まぁね」

 

出来れば二十歳は出さないでほしいなぁ。

 

そこに皆との差を感じてしまうから。

自分が十代でないことに、なぜだか泣けてくるから。

 

まぁ、アリスも二十歳なんだけどさ。

 

俺は未だに頭を抱えている匙に訊く。

今日の予定についてだ。

 

「そういや、午前はバアル眷属がいないんだよな? 何があるんだっけ?」

 

「ああ、それな」

 

匙は食堂の窓を指さす。

 

その先の風景には例の空中都市アグレアスが望める。

 

「アグレアスで皇帝(エンペラー)が映画の撮影するって話があっただろう? サイラオーグの旦那とその眷属は友情出演で撮影に協力するんだと。ちなみにアガレス家次期当主さまもあそこにいるそうだ。バアル眷属と共に撮影だってさ」

 

へー、サイラオーグさんとシーグヴァイラさん達も王者出演の映画に出るのか。

 

サイラオーグさんはレーティングゲームでの繋がりもあったからそれでなんだろうな。

シーグヴァイラさんは撮影場所がアガレス領ってこともあるのだろう。

 

グレモリーにシトリーにバアル、そしてアガレス。

若手四王(ルーキーズ・フォー)がこの地域に集結したことになるのか。

 

と、リアス、朱乃、ソーナ、真羅副会長という三年生四人組が食堂に入ってくる。

 

リアスは俺と目が合うと頬を染めながら、こちらに手を振ってくれた。

 

…………やっぱり、早朝のあの一件は思い出すと恥ずかしいよね。

 

 

 

 

 

 

俺は体術の授業をメインとして受け持っているが、他のオカ研メンバーも散会して各自担当の授業をサポートしていく。

 

まずは、ゼノヴィアと木場組。

 

二人はグラウンドにて『騎士』についての授業に参加していた。

 

ゼノヴィアは刀剣を片手に子供達に力説する。

 

「いいか? 剣は己を表す鏡のようなものだ。自身の迷いがあれば、それが刃にも出てしまう。常に平常心は、保って剣を構えなければならない。それとやられる前にやる。特に敵が話しかけてきた瞬間に問答無用で剣をぶつけるんだ!」

 

…………最後のはどうだろう…………。

 

木場も刀剣を実際に振りながら、ゼノヴィアとは違う側面から『騎士』を語った。

 

「でも、力に頼って剣を振るうのは危険だからね。『騎士』は技能とスピードが重要。戦場を誰よりも駆け回って相手を翻弄する。そして、隙を見つけて、的確に突く」

 

対照的な二人の話に子供達も関心をよせていた。

 

イリナとレイナは特別抗議として、天使と堕天使について語った。

 

特に天使は冥界ではレア中のレア。

子供達は天使を見たことがなかったようで、天使の真っ白な翼と頭上の輪はとても不思議で新鮮だったようだ。

 

「すっげぇ! 本物の天使だ!」

 

「お父さんが言ってた! 悪い子は天使に連れていかれるって!」

 

興味津々の子供もいれば、若干怖がる子もいる。

堕天使であるレイナもイリナほどではなかったが、少し怖がられていた。

 

同盟を結んだとは言え、まだまだ一般の悪魔には天使も堕天使も恐怖の対象のようだ。

 

イリナは力強く語る。

 

「そんなことしないわ! 天使は天に仕える皆の味方なの! さぁ、皆も一緒に祈りましょう! アーメン! さぁ、手作り自家製パンも配っちゃうわ! 食べると信仰が深まるの!」

 

あのパンはあれか!

以前、教会トリオが三人で秋葉原に行ったときに買ったというパン製造器『ホームベーカリー』で作ったパンか!

 

ホームベーカリーは材料を入れるだけでパンを作れるとのことで、教会トリオは心底驚愕し、それと同時に思ったそうだ。

 

 

―――――これで迷える子羊達が救える、と。

 

 

ホームベーカリーは三万円ほどで、高校生であるイリナ達にとっては少々お高い商品であったが、天界のクレジットカードを使うことでなんとか買えたらしい。

 

ただ、パンの材料費はイリナ達で払うように言われたとのことだったんだが…………。

あの配ってるパンを見るに自腹で出したんだろうなぁ。

 

しかし、自称パン屋天使による布教活動が始まってしまい、親御さんからのNG。

イリナによる特別講義『天使』編は中々のカオスぶりを見せた。

 

で、その後のレイナによる特別講義『堕天使』編はというと――――

 

「――――と、このように私達グリゴリでは神器の保管から研究、そして人工神器という神器を習って開発したものもあり、シトリー眷属の方々もこれを使用しています」

 

と、ホワイトボードや予め用意していた資料を用いてのまともな授業を行っていた。

 

親御さんはうんうんと頷きながら興味深そうに聞いていたが、子供達にとっては少し授業が真面目すぎたようで、反応はいまいちだった。

 

授業後、落ち込むレイナを見かけたので、そっと缶コーヒーを渡してあげた。

 

他にもアーシアは教会で得たエクソシストの知識を、キャスパーは吸血鬼、小猫ちゃんは妖怪としての、それぞれの立場で特別講義を担当。

 

ロスヴァイセさんは引き続き魔法の授業を担当し、美羽もこちらに着いている。

 

オカ研部長リアスと副部長朱乃は一番大事な授業ともいえる『王』と『女王』について子供達に語っていた。

 

「眷属の『王』の『女王』の関係はプライベートでも、レーティングゲームでもとても重要よ。『王』は『女王』に常に傍らについてもらうことで―――――」

 

二人は講師として、というよりは先輩としての話を子供達に語りかけていた。

 

二人ともまだ若手で学ぶことが多いので初めは謙遜もしていたけど、今までの経験、知識を伝えられるだけ伝えようとしていた。

 

レーティングゲームを学ぶためにこの学校を志望した子供達にとって、二人の話は貴重なもので、真剣に聞き入っていた。

 

俺とアリスも休憩時間を使って話を聞きに来ていたんだが、やはり先輩だけあって、勉強になる話だった。

 

俺は隣で話を聞いていたアリスに言う。

 

「おまえもよーく聞いておけよ? 『女王』は『王』に自分が起こした不祥事を擦り付けたりしないんだぜ?」

 

「えー、なんのことー? 私、イッセーが何言ってるのか全然分かんなーい。それよりもイッセー」

 

「ん?」

 

「これよろしく!」

 

ドンッと俺の腕に乗せられるプリントの束…………というよりプリントの山。

 

すんごく重い。

 

「…………これは?」

 

「さっきボランティアの人に頼まれちゃったんだけど、疲れたからイッセーよろしく!」

 

「これ全部!? 手伝うんじゃなくてか!?」

 

「もちろん!」

 

「あ、このやろ、どこ行くつもりだ!?」

 

「…………じゃ、そういうことで」

 

「おいぃぃぃぃぃ!」

 

この時、俺は絶対にお仕置きしようと心に誓った。

 

 

 

 

 

 

用意された教室で俺も授業の真似事してみた。

傍らにはレイヴェルもいて、おれをサポートしてくれている。

 

俺は体術や気についての話もしていくなか、これまでの経験について語ったりもしていた。

 

異世界については伏せておいたけどね。

世界中に知られてしまったとはいえ、それを知っているのはあくまで各勢力の上層部。

一般には情報が出回っていないからだ。

 

で、話の内容なんだが……………俺がどういう理由で力を得ようとしたのか、どんな想いで力を振るってきたのか。

子供達には少し難しい話かもしれないが、これだけは伝えておきたいということを話していた。

 

教卓の前に立って、俺をじっと見る子供達やその親御さんを見渡しながら口を開く。

 

「ま、そういうわけだ。強くなるのは良いことだ。より大きな力が手に入るからな。………だけどな、力を振るうにはそれに見合う覚悟と責任が必要だ。むやみに力を振るうようでは大切なものを守るどころか逆に壊してしまうことになりかねない」

 

俺の言葉に真剣に耳を傾ける子供からノートにメモをする子供。

よく見ると親御さん達もとても真剣な表情で聞き入ってくれていた。

 

俺は言葉を続けていく。

 

「強くなりたいなら、自分が何のためにそうなりたいのかよく考えてくれ。そして、それを決して忘れちゃダメだ。それがあれば迷っても、悩んでも、挫けそうになっても真っ直ぐ歩いていける。その先に本当の強さがあると俺は思う。…………っと、中々難しい話になったな。レイヴェル、そろそろいいか?」

 

「はい。それでは、これからは『おっぱいドラゴンの質問コーナー』に移ろうと思います! おっぱいドラゴンに質問のある方は挙手を!」

 

レイヴェルが元気よく声をかけると、先程までの真剣な表情から変わって子供達も元気よく手を挙げていく。

 

「はいはいはい! どんなおっぱいが好きですか?」

 

「いい質問だ! 俺は小さくても大きくても好きだぜ! おっぱい大好きだからな!」

 

「アハハハハハハ!」

 

俺が親指を立てながら笑顔で返すと教室に爆笑が響く。

だが、この気持ちは男の子には伝わってほしいものだ!

 

この後も質問が次々に降り注いでくる。

 

「おっぱいを吸ったことはありますか?」

 

というおっぱい関連の質問から、

 

「いつもどんなトレーニングをしてるんですか?」

 

「おっぱいドラゴンも契約したりするんですか?」

 

という、普段の生活や悪魔の仕事についての質問まで。

 

子供達が俺のどんなところに興味を持っているのかよく分かる質問コーナーだった。

 

一通りの質問に答えた後、今度は俺から訊いてみる。

 

「皆はなりたいものはあるか?」

 

そう訊くと再びあちこちから元気よく手が上がる。

 

「おっぱいドラゴンになりたい!」

 

「レーティングゲームのチャンピオンになりたいです!」

 

「私は魔王領の研究所で働きたいです!」

 

「魔王さまの近衛兵になりたい!」

 

子供達は次々に夢を語る。

 

皆、なりたいものがあるんだ。

 

夢を持つ―――――。

 

そこに人間も悪魔も関係ない。

 

「僕はここの生徒になりたい!」

 

それを聞いた子供達は「僕も!」「私も!」と同調していく。

 

そうだよな、それがこの場にいるこの子達の一番の望みであることには違いない。

 

この学校は子供達の夢を叶える、そのための大きな一歩になるはずだ。

一人では無理でもその子の可能性を引き出してくれる人がいれば、より夢へと近づける。

 

俺だって師匠がいなけりゃ、どうなってたことか…………。

 

だから、俺は願う。

 

この子供達がこの学校に通えますように―――――。

 

 

その時だった。

 

 

全身に気味の悪い寒気が走った。

 

妙な感覚に捕らわれた直後、冥界特有の紫色の空が白く塗り替えられていくの怪現象が起こる。

 

突然のことに学内にいた全ての者が空を見上げて驚愕していた。

 

次第に紫色は消えていき、空は真っ白に。

 

 

これは何かのイベント…………なわけないか。

 

 

もしそうなら、予め連絡があるはずだし、ここまで大がかりなことをするのだから、今朝のミーティングでも確認があったはず。

 

レイヴェルが俺に寄ってくる。

 

「イッセーさま、これは…………」

 

「ああ、そうなんだろうな」

 

この町では魔法使いの集会が行われている。

そこに集まるのはトライヘキサについて研究していた者ばかり。

 

そして、彼らは拉致される可能性が高かった。

 

その拉致を行う相手は―――――

 

『グラウンドにいる体験入学生、父兄の方、講師、スタッフの皆さんは速やかに構内に入ってください。繰り返します。グラウンドにいる体験入学生、父兄の方、講師、スタッフの皆さんは――――――』

 

思慮する俺の耳に構内放送が届いてくる。

 

「レイヴェル。まずは子供達を避難させよう。誘導を頼む。俺はリアス達と連絡を取る」

 

「了解しましたわ」

 

 

 

 

 



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12話 悪意の矛先

オカ研、生徒会のメンバーは職員室に集まっていた。

 

レイヴェルが言う。

 

「子供達、と父兄の方々の確認は終わりましたわ。皆さん、体育館に集まってもらっています」

 

「了解だ。リアス、連絡は取れそうか?」

 

俺がリアスにそう訊ねる。

 

リアスには外と連絡が取れるか確認してもらっていたんだが…………リアスは首を横に振った。

 

「ダメね」

 

転移魔法陣を床に描いていた朱乃も息を吐いた。

 

「こちらもダメですわ。遠くへジャンプできません」

 

外への連絡と転移はダメか…………。

完全に外部と遮断されたと言うことか?

 

京都の渡月橋と昇格試験―――――英雄派の襲撃の時はゲオルクが霧で俺達を別の空間に転移させていたが…………。

 

今回はそういうわけでもなさそうだ。

 

単純にこの地域一帯を結界で覆ったと見るべきか。

 

ソーナが連絡用魔法陣を展開しながら言う。

 

「アグレアスと町の集会場には繋がりました。映像を出します」

 

ソーナが魔法陣を操作すると、職員室内に立体映像が二つ浮かび上がる。

 

一つはアグレアスにいるサイラオーグさん、もう一つは町の集会場にいるゲンドゥルさんだ。

 

映像のサイラオーグさんが言う。

 

『これはどうなっている?』

 

その疑問にゲンドゥルさんが答える。

 

『この地域一帯丸ごと、敵の結界で覆われたと考えていいでしょう。いま、総動員で各々使役している使い魔に確認をさせてますが、どうやらこの町とアグレアスを楕円形にすっぽり覆っているようです』

 

この町だけでなく、アグレアスも…………。

なんつー規模で仕掛けてきやがる。

 

『加えて、私達術者は魔法の大半を封じられてしまっているのです。この通り』

 

額を指差すゲンドゥルさん。

そこには…………禍々しい輝きを放つ魔法陣。

 

魔法を封じられている?

 

ゲンドゥルさんの言葉を聞いた美羽が試しに魔法を発動させてみるが、普通に使えている。

 

他のメンバーも魔力や神器、光力を使ってみるが問題はなかった。

 

ここにいる者達にこれといった変化はない。

 

アリスが顎に手を当てて呟く。

 

「ここにいる皆に変化がないということは、集会場にいる魔法使い限定で力を封印された…………ということかしら」

 

『おそらく。まるで気配を感じさせないとは…………おそろしい者がいたものです』

 

集会に集まっていた魔法使い限定…………明らかに狙ってきているな。

 

「こんな大規模で大胆なことが出来るやつが敵にいるってのかよ…………」

 

匙が顔をひきつらせながらそう漏らす。

 

「ああ、規模もさることながら、前兆が感じられなかったことも驚異だぜ」

 

俺の脳裏に浮かぶのはあの白髪の少年――――異世界の神、アセムとその下僕達。

 

あいつらの力は強大で未知だ。

俺達の知らない術式でこれを成した…………とか?

 

すると、ゲンドゥルさんは思い当たったようで、静かに口を開いた。

 

『千以上の魔法を操ったという伝説の邪龍―――――「魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)」アジ・ダハーカ。かの邪龍ならば、魔法使いを封印する術も知っているでしょう』

 

―――――アジ・ダハーカ。

 

ヴァーリが襲撃を受けたという伝説の邪龍か。

 

邪龍アジ・ダハーカを復活させたのは新生『禍の団』――――クリフォト。

聖杯の力で邪龍を復活させ、量産型の邪龍まで作り出している者達。

 

この白い空もゲンドゥルさん達魔法使いの封印もアジ・ダハーカがやったというのか。

 

ここでイリナが疑問を口にする。

 

「しかし、規模があまりに…………。いくら伝説の邪龍だろうと、名だたる魔法使い達の封印と同時に土地を丸ごと封じるなんて…………」

 

確かに強化された邪龍だとしても逸脱しているような気もする。

広大な土地に外部と完全に遮断す結界を張り、その上に強力な魔法使い達の封印だからな。

 

だが、方法がないわけではない。

 

俺は舌打ちしながら呟く。

 

「あいつら、俺の複製を使いやがったな。力と能力を完全にコピーできているなら、譲渡の力も使えるはずだからな」

 

くそったれめ…………!

 

俺の…………赤龍帝の力をこんな風に悪用されるのは胸くそ悪い。

 

無性に腹が立つが、それと同時に脅威を感じてしまう。

アセムの下僕の一人…………あのベルって子を何とかしないと俺の複製を量産されそうで恐ろしい。

 

「俺が誰かに力を譲渡して解呪の魔法を増大しても…………」

 

「そうくるのはあちらも想定済みでしょう。多分、カウンターの術式も用意されているはずです。下手にこの状況を打破しようとすると大惨事もあり得ます」

 

ソーナがそう続けた。

 

…………だよな。

 

俺は息を吐く。

 

「あの時、俺がベルに触れられてなければこうはならなかった、か…………」

 

少々落ち込みぎみに呟くとアリスが俺の肩に手を置いた。

 

「それは仕方がないわ。触れただけで対象をコピーできるなんてチートな能力、誰も想像できないもの。それに、私も…………あのヴィーカには一度負けているもの」

 

ベルにヴィーカ。

アセムの下僕四人のうち、能力が割れているのはこの二人。

もしかしたら、他にも能力を持っているかもしれないが…………。

 

「まずは相手の狙いを探るべきね」

 

リアスがそう言う。

 

ゲンドゥルさんが自身の胸に手を添えた。

 

『ひとつは私達、666に関する研究をしていた術者達でしょうね。彼らの狙いは私達にあります。しかし、彼らはアグレアスまで結界で覆った。他にも意図があるのでしょう』

 

あいつらはこの町とアグレアスを楕円形の結界で覆った。

集会に集まる魔法使いを狙うのであれば、この町だけで良いはずだ。

 

ゲンドゥルさんの言うように他にも狙いがあるのだろう。

 

「―――――旧魔王時代の技術」

 

レイヴェルがぼそりと呟く。

 

ソーナも頷いた。

 

「あのアグレアスには旧魔王時代の技術が使われています。未だ解明できていない部分もあり、アジュカ・ベルゼブブ様の研究機関が島の深部を調査中です。前魔王ルシファーの息子であるリゼヴィム・リヴァン・ルシファーはあの島にある何かを狙っているのかもしれません」

 

『旧魔王時代の遺産、あるいは兵器の類でしょうか。それとも666に繋がる何かがあるのかもしれません』

 

ゲンドゥルさんが顎に手をやりながら考え込むように言った。

 

…………まぁ、空中都市ってだけで何か秘密がありそうな気がするよね。

冥界を壊せる超破壊兵器とか?

 

サテライト兵器は…………ないか。

ありゃ、アザゼル先生だ。

 

「外部と遮断されているとはいえ、これだけの規模だ。結界の外にいる誰かが異常を察しているんじゃないか?」

 

アグレアスは冥界の観光名所。

観光客も大勢いる。

中には誰かと連絡を取っていた人もいるはずだ。

 

それが突然途絶えたら必ず不審に思う。

 

しかし、ソーナは眉間にしわを寄せる。

 

「そうなるのも彼らの想定内でしょう。おそらく、外の者達に気づかれぬよう時間と空間を歪めて外と遮断させている可能性があります」

 

「…………時空を歪める。こちらの一時間が結界の一分だったなんて魔法の事案でよく聞く話だけれど…………。それでも、高度な術者が念入りに下準備を整えてようやく実現できるレベルだわ。…………神滅具と禁術使いの邪龍が組むとここまで厄介な行動が出来るようになるのね」

 

リアスが続いた。

 

…………時空を歪める、か。

 

俺が次元の渦に巻き込まれてアスト・アーデに行ったときは向こうでの三年がこちらでは一瞬だったが…………。

今思えば、あの渦が二つの世界の時空を激しく歪めているのかもしれないな。

 

まぁ、今回の件はそこまでじゃないにしろ、厄介なことには変わりがない。

 

『ここまで大規模な術はドラゴンであろうと確実に心身を削ります。命を削ってもおかしくありません』

 

「だけど、向こうには聖杯があります。いくら命を使おうと何度でも復活させることが出来る」

 

『つまり、何度でも今回と同じことが出来る、というわけですか…………。神滅具とは恐ろしいものですね。聖杯が彼らの手元にある限り、今後の対策も難しくなるでしょう』

 

聖杯…………ヴァレリーのこともあるが、早急に奴らから奪取しないと後々で面倒なことになるな。

いや、既に面倒なことになってるか。

 

奴らの目的を話し合っていると、この職員室の扉が勢いよく開かれた。

 

何事かと思い、そちらに目をやると息を切らしているスタッフの姿。

 

「どうかしたの?」

 

リアスが怪訝な表情で訊く。

 

スタッフは息を整えた後、窓を指差して答えた。

 

「上空に映像が映し出されています」

 

 

 

 

 

 

スタッフからの報告を受けた俺達は一斉に校庭に飛び出した。

 

上空を見上げると花畑が空一面に広がっており、

 

「…………しばしお待ちください? ふざけてんの、あれ?」

 

アリスが空に浮かぶ悪魔文字を指差して、そう呟いた。

 

…………ふざけてるんだろうな、多分。

 

皆が身構えるなかで、空からふざけた口調の声が聞こえてくる。

 

『え? なになに? もう放送始まってんの? マジで? ちょっと待ってよ~。おじさん、まだお弁当全部食べてないって』

 

『それじゃあ、僕が食べといてあげるよ。そのお肉美味しそうだし』

 

『あ、それ楽しみにしてたやつだから、一切れだけね? あー、ちょっと待ってって。すぐ行くすぐ行く』

 

そんな軽いノリのやり取りが聞こえた後、爽やかな映像から移り変わり銀髪の中年男性が映し出された。

 

その後ろにはモグモグ口を動かしている白髪の少年。

 

リゼヴィム・リヴァン・ルシファー…………それにアセムの野郎か!

 

つーか、あいつ、いつも口に何か入れてない?

 

リゼヴィムがウインクしながら話始める。

 

『んちゃ♪ うひゃひゃひゃひゃひゃ! どもども、リゼヴィムおじさんです☆ 皆、はじめまして、あるいはお久しぶり! いきなりのサプライズで皆、ビックリしてるかな? そんな君達にネタバレしてあげようかなーって思ってます! ほら、敵方が説明するのってあるじゃん? こっちが不利になっても種明かしするのがお約束じゃん?』

 

相変わらずふざけた野郎だ。

 

『まぁ、なんとなーく分かってると思うけど、この辺一帯を結界で覆ってまーす! やってくれたのは俺達の協力者、邪龍軍団のラードゥンさんです!』

 

奴の背後に巨大な生物が見える。

 

ドラゴンの形をした木…………?

いや、木のドラゴンなのか?

 

『まぁ、彼も俺達のキーアイテム「せい☆はい」で復活したわけなんだけど、うーん、流石は伝説の邪龍! 彼の持つ強力な結界はすんごいねぇ! そこにベルお嬢ちゃんが複製した赤龍帝くんの譲渡の能力で倍プッシュですげーのよ!』

 

リゼヴィムの傍らに立つユーグリットの姿が映し出される。

 

その手には聖杯が握られていた。

 

「…………ッ!」

 

俺の近くではギャスパーが双眸を危険なほどに輝かせて奥歯を激しく噛んでいた。

闇のオーラも滲み出ているほどだ。

 

今のこいつにとって、この映像は耐え難いものなのだろう。

 

『そして、この町にいる諸君! そこも結界で包囲したあげくに名だたる魔法使いの皆の魔法力を封じちゃいました! 封じたのは千の魔法を操る邪龍、アジ・ダハーカさん! こちらもお見事! もちろん、複製した赤龍帝くんの力で強化済みです!』

 

リゼヴィムの背後にもう一体の巨大なドラゴンが現れる。

 

三つ首のドラゴン。

…………あれがアジ・ダハーカか。

 

話じゃ、あのクロウ・クルワッハと同格と称された最強の邪龍の一角。

ヴァーリチームの攻撃を受けても全く倒れる気配が無かったというほどの実力。

 

こうも次々、強力な邪龍を復活されるとな…………。

 

リゼヴィムは嬉々として続ける。

 

『なお、外界からは時間ごと隔絶されているから、外にいる者達には気づかれてないよん。援軍なんて来ないってわけ! うひゃひゃひゃひゃひゃ!』

 

やっぱり、そうなのか。

となると、この場にいるメンバーでこいつに対処するしかないってわけね。

 

『でよ、なーんでこんなことをしたか気になってるでしょ? 理由は簡単♪ そこにいる魔法使いの皆が俺達に協力してくれないなら、邪魔になりそうだし、まとめて吹っ飛ばしちゃおうかなって! あと、アグレアスの技術もちょいと盗ませもらおうと思った次第なのよ。まぁ、僕のパパ達が作ったものだし? 息子の俺が相続してもいいでしょ?』

 

リゼヴィムが愉快そうに目を細めながら、俺達に指を突きつけた。

 

『そこに俺達の打倒を企てて結成したって言う「D×D」がいるんだろう? それなら、今ここで勝負といこうぜ? 量産型邪龍軍団と、伝説の邪龍さまがそちらとアグレアスに向かう。蹂躙するためだ。俺達の打倒を掲げるなら止めてみろよ』

 

指を鳴らすリゼヴィム。

 

刹那、町を覆うように紫色の巨大な火柱が天高く立ち上がった!

 

なんだ、あれは!?

しかも、この肌を刺すような感覚は…………!?

 

「紫炎ですか。厄介な者が絡んできましたね」

 

その声に振り返ると、ゲンドゥルさんがいた。

集会場からここに移動してきたようだ。

 

ゲンドゥルさんは忌々しそうに紫色の巨大な火柱を見上げていた。

 

その火柱は――――十字をかたどっていた。

 

「これは『紫炎際主による磔台(インシネレート・アンセム)』! 所有者がクリフォトに協力しているとは聞いていたけど…………まさか、ここに来るなんて!」

 

レイナが火柱を見上げながらそう叫んだ。

 

『紫炎際主による磔台』の所有者ははぐれ魔法使い集団『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』に所属する魔法使いだったはず。

 

あれは聖遺物の一つで、あの紫炎に触れれば悪魔は必滅を免れないと聞く。

 

リゼヴィムが横に一歩動くと映像にはアセムとヴィーカが映し出された。

 

アセムはこちらに手を振ってくる。

 

『やっほー♪ 吸血鬼の一件以来だね、勇者くん。僕もここに来ちゃった☆ リゼ爺のお弁当が美味しそうで、つい釣られちゃったよー』

 

『お父さま、お弁当はもういいですから…………。口にケチャップ付いてます』

 

『アハハハ♪ ゴメンゴメン。長々話すのもあれだから、簡潔に言うよ? 今回はね、僕の下僕達も参加するからよろしくね。前回、君と戦えなかったーって文句言われてさ。とりあえず相手してあげてちょーだい』

 

ちっ…………邪龍と神滅具所有者だけでも厄介なのにあいつらまで参加かよ。

 

しかも、話からして俺を狙ってくるか。

 

ヴィーカがこちらにピースサインを送ってくる。

 

『ウフフ、貧乳ちゃんは元気してる? 前回はボロボロになってたけど、今回はどうなるかしら?』

 

「貧乳言うなー!」

 

『つるぺた?』

 

「あいつ嫌い! ねぇ、私の胸、つるぺたじゃないよね? まだあるわよね? ね? ねぇねぇねぇ?」

 

アリスが涙目になって俺にすがりついてくるんだけど…………。

 

うん、アリスはつるぺたではないかな。

 

ヴィーカもそこばかり言うの、止めてあげてくんない?

アリスのおっぱいも日々成長してるんだぜ?

 

そりゃあ、スタイル抜群のヴィーカと比べると小さいけどさ。

 

空に映し出されるヴィーカが口許に手を当てて不敵に笑む。

 

『私が言ったことを覚えていれば、今回はもう少し楽しめると思うけど。まぁ、頑張ってちょうだいね』

 

「…………っ! ええ、良いわよ…………楽しませてあげる!」

 

その言葉にアリスが怒りのオーラを放っていた。

 

ヴィーカに向けられた怒りというよりもアリス自身に向けられているような…………。

 

何を言われたんだ?

 

ヴィーカがその場から退いて、再びリゼヴィムの姿が映りこむ。

 

『てなわけで! 三時間後に行動開始だから、頑張ってくれよ! うひゃひゃひゃひゃひゃ!』

 

 

 

 

 

 

上空に映し出された映像が終わった後。

 

俺達はすぐに行動を始めていた。

 

『そうか、既に避難は始まっているのだな』

 

サイラオーグさんがリアス宛に連絡用魔法陣を飛ばしてきて、俺とリアスが対応していた。

 

リアスが言う。

 

「ええ。今、ソーナが住民を学校のシェルターに案内しているわ。この町の人口はさほど多くもないから、三時間もあれば避難は完了するはずよ」

 

『町からの脱出はどうだ?』

 

「この町は一帯を覆う結界とは別に障壁か張られているわ。加えてあの紫炎の十字架も囲んでいる。つまりは三重のシールドが張られているのよ。攻撃で吹き飛ばしてもすぐに修復されてしまったわ。解呪しようとしたけど、結果は同じ」

 

ちなみにゼノヴィアが地面を掘って障壁の外に出ようとしたんだが、炎の十字架は地下にまで伸びているらしい。

 

俺達だけなら、ともかく住民を連れてとなると結界の外へ出るのは難しい。

 

仮に俺達の誰かが結界の外に出て、援軍を呼んだとしたも結界の外と内で時間の流れが異なるため間に合うか…………。

 

つまり、脱出に関しては原状手詰まり。

 

だが、脱出の準備はしている。

集会に集まった魔法使い全員が学校の地下シェルターで新しい転移型魔法陣の構築中なんだ。

 

封印されていない術式を応用して、そんなことが出来るのはやはり、呼ばれていた魔法使いの人達の実力の高さ故だろう。

 

サイラオーグさんが息を吐く。

 

『こちらも似たようなものだ。アグレアスを覆う障壁の破壊は出来るが、瞬時に修復してしまう。この都市にいる者達を運び出すことすら叶わん。それに―――――既に邪龍に囲まれているようでな』

 

サイラオーグさんが一つの映像を展開してくれた。

 

空一面が黒く覆われた映像だった。

 

その黒は邪龍の群れ。

百や二百じゃきかない数がそこにあった。

 

なんて数を出して来やがるんだ…………!

 

それに気になるのは邪龍の中心にいる、明らかに別格のオーラを放つ三つ首のドラゴン。

六枚の大きな翼を羽ばたかせてアグレアスの眼前に待機している。

 

アジ・ダハーカはアグレアスに向かったのか。

 

『こちらは俺達バアル眷属とシーグヴァイラ・アガレスとその眷属、それにディハウザーさまのチームも滞在している。ただではやられん。特にシーグヴァイラは大公の臨時代行として動いてくれていてな。頭の固い委員会の年寄り達とアグレアスの市長を説き伏せて都市機能の実権を握ってくれた。これで少しは楽に動ける。彼女は本当に有能だよ』

 

なるほど、シーグヴァイラさんは既に動いてくれているのか。

 

うーむ、最初の印象が怖かったから、未だに厳しそうなイメージがあるんだよね。

 

サイラオーグさんが俺を真正面に捉えて言う。

 

『兵藤一誠、正念場だ。俺達はアグレアスを、この町を、そこにいる子供達を守らねばならん』

 

「もちろんです。何がなんでも守りますよ。それが俺達の役目ですよね?」

 

『ああ。冥界の希望を守ることが「D×D」を結成した俺達の役目だ。誰一人として死なすわけにはいかない。そして、奴らを誰一人として許すわけにはいかない。向かってくる者は全て薙ぎ倒すぞ。それが力を持つ俺達の宿命だ!』

 

俺はサイラオーグさんのその力強い言葉に笑みを浮かべた。

 

「こっちが片付いたら、必ず駆けつけます」

 

『俺もだ。早急に終わらせるとしよう』

 

 



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13話 防衛戦開幕!

作戦会議を行うため、地下シェルターの会議室へ向かっていると廊下で一組の男女と出会った。

 

おそらく、子供達の親御さんだろうが………女性の方には見覚えがある。

 

えーと、確か………。

 

男性が俺を見かけるなり、歩み寄って聞いてくる。

 

「あ、あの………この学校はどうなってしまうんでしょうか?」

 

不安げな表情と声音だ。

 

俺は男性の肩に手を置きながら言った。

 

「大丈夫ですよ。今、魔法使いの方々が転移用の魔法陣を構築してますし、その間は俺達が皆さんを守りますから。心配はいりません、必ず脱出できます」

 

俺の言葉を聞いて、夫婦は幾分か表情を和らげてくれた。

 

と、ここで、俺は女性のことを思い出した。

 

「えっと、確か、リレンクスのお母さんですよね?」

 

「は、はい。息子のこと、覚えていてくれたのですか?」

 

「ええ。リレンクスが一生懸命、魔法を練習していたので思い出しました」

 

驚くお母さんに俺は微笑む。

 

すると、お父さんが呟いた

 

「………息子が笑ったんです」

 

「笑った?」

 

「はい。………息子は生まれつき魔力に恵まれませんでした。しかし、周囲の子供は当たり前のように魔力が使える。自分が他の子供達と違うと気づいた時から、あの子から笑顔が消えたのです」

 

………サイラオーグさんと同じ境遇か。

悪魔なのに魔力が使えず、周囲との差を感じてしまったのか。

 

しかし、お父さんは涙交じりに続けた。

 

「けど、ここに来て………この学校に来て………笑ってくれたんです。こんなことはおっぱいドラゴンを知ったとき以来です。だから、この学校は無くならないでほしいのです………息子のためにも。私達のためにも」

 

魔力に恵まれなかった子を持つ親。

子供を持ったことがない俺では分からない苦労を抱いて生活してきたのだろう。

 

この学校はこの両親の希望になろうとしている。

 

こちらに近づいてくる気配がするので、振り返ると子供とロスヴァイセさんの姿があった。

 

その子供とはリレンクスだ。

 

リレンクスは両親の胸に飛び込み明るい声で言う。

 

「お父さん、お母さん、見て見て!」

 

リレンクスがその場で手を突き出すと、かすかな火が一瞬だけ現れた。

 

「火の魔法だよ! ほら、火が出たよ!」

 

両親は驚いたあと、笑みを浮かべて自分の息子を抱いた。

 

「あ、ああ………よくやったな」

 

「頑張ったわね………すごいわ、リレンクス」

 

夫婦の目からとめどなく流れる涙。

 

今の光景はいままで、この親子が見たくても見れなかったものだろう。

 

悪魔にとって普通であるものに、この親子は届かなかった。

それが、ようやく『普通』に届いたに違いない。

 

俺はリレンクスの頭を撫でてやる。

 

「頑張ったな。すごいぞ、リレンクス」

 

「うん! もっともっと頑張って、僕もおっぱいドラゴンみたいに強くなる!」

 

「そっか。リレンクスならきっとなれる。いや、俺なんかよりも強くなれるさ。ね、ロスヴァイセさん?」

 

俺は側で見ていたロスヴァイセさんに振った。

 

ロスヴァイセさんも微笑みながら頷いた。

 

「ええ。きっと強くなれます。その歳で諦めずに何度もチャレンジするなんて、とても凄いことなのですから。リレンクスくん、これからもいっぱい頑張りましょうね。私もお手伝いしますから」

 

「はいっ! ロスヴァイセ先生!」

 

元気よく返事をするリレンクス。

 

両親は我が子と手を繋ぎ、地下シェルターへと戻っていく。

 

その後ろ姿を見ながらロスヴァイセさんが言った。

 

「………どのような魔法でも必ず術者と他の誰かの役に立ち、この世に意味のない魔法なんてない。祖母から繰り返し聞いてきた言葉。理解できていたようで、理解できていなかったのかもしれません。………でも、今ならなんとなく、言葉の真意が分かる気がします」

 

どこか晴れやかな表情のロスヴァイセさんだった。

 

 

 

 

 

 

リゼヴィムが指定した三時間後というタイムリミットまであと三十分となった。

 

俺達は最後の作戦会議を終えた後、各々戦闘準備に入っている。

 

俺達の戦いはシンプル。

 

地下で魔法使いの方々が新たに作り出している転移魔法陣が完成するまでの間、この学校を死守する。

正確には学校の地下シェルターにいる子供達やこの町の住民だ。

サイラオーグさんが言っていた通り、誰一人として死なせるわけにはいかない。

 

学校の外に出るため、廊下を歩いているとあるものが視界に映る。

 

廊下の壁だ。

 

そこには体験入学を終えた子供達が書き残したメッセージと絵が張り出されてあった。

 

『レーティングゲームのチャンピオンになりたいです!』

 

『この学校に通えますように!』

 

『おっぱいドラゴンと会えて嬉しかったです!』

 

『また、ここに来たい!』

 

『入学したいです!』

 

…………たまらなくなるよな、これを見ると。

 

絶対に守らなきゃいけない。

あの子達が笑顔でこの学校に通えるようにするためにも、絶対に負けられないな。

 

皆もそれを見て士気が高めていると、俺達のもとに近づくいてくる者達がいた。

 

兵士の鎧を着た男性達。

ただし、この町の兵士ではなく、子供達のお父さんだった。

 

皆、覚悟を決めた顔だった。

 

「我々も戦います」

 

「この町は戦える住民が少なく、兵も駐留していないと聞きます」

 

「戦闘以外でもお役に立てることがあるはずです。逃げ遅れた住民もいるかもしれませんからね」

 

戦闘要員は俺達だけだ。

もし、彼らの言うように逃げ遅れた住民が残っていたとしたら、そこまで対処できるかどうか分からない。

 

あの紫炎の十字架が町を囲んでからは気が読みづらくなった。

もしかしたら、俺でも捉えきれなかった住民がいるかもしれない。

 

リアスが厳しい表情で告げる。

 

「しかし、相手は量産型とはいえ邪龍よ。生半可な相手ではないわ。伝説の邪龍すらもいるでしょう。死戦になるわ」

 

その言葉を聞いても彼らは戦意を薄めず、逆に微笑んだ。

 

「それでも行かせてください」

 

「確かに私達には強大な力など持っていません。ですが、子供達ぐらいは守りたいのです」

 

「子供達が夢を見いだしたこの学校は私達にとっても希望となりました。命をかけるには十分でございます」

 

子供の夢のため、家族の希望のためにこの人達は死ぬ気で戦うつもりなんだ。

 

この人達はおそらく戦闘経験はない。

それでも、相手の強大さはなんとなく理解はしているはずだ。

 

それでも行くと言うのだ。

守るために。

 

その光景にアリスが苦笑する。

 

「これは言っても聞きそうにないんじゃない?」

 

「そうね…………。いいわ、けれど、一つだけ約束して」

 

見渡しながらリアスが強く言いつける。

 

「絶対に死んではダメ。あなた達はあの子達の行く末を見なければならないのだから。いいわね?」

 

「「「はっ!」」」

 

 

 

 

 

 

見上げると、このアウロス学園の上空にも漆黒の邪龍が滞空し続けていた。

空一面、真っ黒だ。

 

アグレアスと同様、こちらも百や二百じゃきかない。

下手すれば千はいるんじゃないかと思える。

 

時間になったら、あれが一斉に襲いかかってくるとなるとげんなりする。

 

流石に勇ましかったお父さん達も空を埋め尽くす邪龍の群れを前にして戦慄していた。

 

作戦立案のソーナが一歩前に出て言う。

 

「作戦通り、この学園を中心に八方に散らばってもらいます。基本的にはツーマンセルで敵を迎え撃ってください」

 

俺達はアウロス学園を中心に散らばり、飛来してくる邪龍を迎え撃つ。

 

メンバーは基本、二人一組で前衛後衛で展開できるようになっている。

 

ソーナとギャスパーは校庭に陣を取る。

闇化したギャスパーが獣を出来るだけ量産して、ソーナの指示のもと、全方位に配る予定だ。

 

増援のお父さん達は家々を回ってもらい、まだ避難できていない住民がいないか見てもらう。

邪龍が襲いかかってきたら、やれる範囲で相対しなければならないが、出来るだけ逃げるように言ってある。

 

皆が対邪龍作戦の中で動く中、俺達赤龍帝眷属の俺、アリス、美羽は別の行動を取ることになっている。

 

それは――――――

 

「アセムの下僕が出てきたら俺達で相手をする。こう言ってしまうのは悪いが、皆では相手をするのは難しい。騎士王状態の木場でもギリギリのレベルだろう」

 

そう、アセムの下僕であるヴィーカ達の相手だ。

 

おそらく、俺を狙ってくるのだろうが、四対一は流石に無理だ。

となると、他のメンバーに相手取ってもらうことになるんだけど、リアス達では太刀打ちできない。

 

そこでヴィーカ達が攻めてきた場合は俺、アリス、美羽の三人で迎え撃つことにした。

それでもヤバい時は状況に応じて木場、もしくはギャスパーに駆けつけてもらう予定になっている。

 

ソーナが頷く。

 

「それが良いでしょう。アリスさんを破ったという相手の力量を考えると私達では難しいでしょうし。もし、彼らが攻撃をしてきたら、そちらを優先してください。その間に私達で邪龍を退け、手が空いた者から駆けつけます」

 

「それで頼むよ」

 

俺はそう言うと話を進めるため、ある者を出現させた。

 

小型船舶ほどの大きさの船。

俺の使い魔―――――龍帝丸だ。

 

リアスがアーシアに言う。

 

「アーシアはこれに乗って戦場を駆け回ってちょうだい」

 

「はい!」

 

「ただ、動き回る回復役なんて狙われやすいでしょうから、護衛は作戦通り―――――」

 

ロスヴァイセさんに視線を向けるリアス。

 

それを受けて、ロスヴァイセさんは一歩前に出る。

 

「私ですね。アーシアさんの盾になりつつ、後方より援護射撃しましょう」

 

防御魔法でアーシアを守りつつ、飛び回る龍帝丸の上から遠距離攻撃を放つ。

ロスヴァイセさんが適任だろう。

 

シトリーの新人、ベンニーアとルガールさんの会話が聞こえてくる。

 

ベンニーアが苦笑していた。

 

《眷属になったばかりなのに激戦続きとはついてませんぜ》

 

「…………それもまた宿命だ」

 

相変わらず表情の少ないルガールさん。

 

まぁ、確かについてないかもね。

宿命ってもあってる。

 

強敵との遭遇は俺達の中では当然みたいな感じになっているから慣れてほしいところ。

 

最終確認を終えたところで、校庭に魔法陣が展開される。

連絡用のものだ。

 

魔法陣は輝きを放つと、一人の女性を映し出した。

その女性は紫色のゴスロリ衣装を着こんでいて、ゴシック調の紫色の日傘をクルクル回している。

 

「…………趣味悪」

 

アリスがぼそりと呟いた。

 

うーん、オーフィスもゴスロリ衣装着てるけどあれとは違うんだよなぁ。

 

女性はにこりと微笑んで挨拶をくれる。

 

『ごきげんよう、悪魔の皆さん。わたくし、「魔女の夜」幹部のヴァルブルガと申しますのよん。以後、お見知りおきをん♪』

 

なるほど、この女性が『紫炎のヴァルブルガ』と呼ばれる神滅具『紫炎祭主による磔台』の所有者か。

 

ゲンドゥルさんから話は聞いたていたけど、こうして挨拶をしにくるとは…………。

 

ヴァルブルガがニッコリとしながら続ける。

 

『リゼヴィムのおじさまの命令で邪龍の皆さんと一緒にぃ、あなた達を燃え萌えにしにきましたわん。わたくしに萌えてくださると、燃やしがいがあるというものですわね』

 

耳に障るきゃぴきゃぴ声だが、身を包むオーラは悪意そのものだ。

 

俺の後ろではアリスが美羽に訊ねていた。

 

「え、なに、ああいう話し方がこっちの世界ではあるの?」

 

「それは違うと思うな…………」

 

うん、アリスは何か勘違いをしている!

こういう人も世の中にはいるってことでご理解いただきたい!

 

『もうじき、戦闘を開始する予定なのですが、皆さんは準備はよろしいのかしらん?』

 

一様にヴァルブルガを睨むメンバー。

 

それを見てヴァルブルガはわざとらしく怖がるふりをする。

 

『いやーん、怖いですわねん。悪魔の皆さん激おこですわ♪ うふふ、楽しくなりそう♪』

 

そう言うヴァルブルガは醜悪な笑みを見せた。

 

…………ああ、なるほどね。

この女は躊躇わず人を殺せる女だ。

 

ヴァルブルガは俺達を見渡して言った。

 

『ロスヴァイセさんってどなたかしら?』

 

…………ロスヴァイセさんだと?

なぜ、ヴァルブルガがロスヴァイセさんを探している?

 

指名を受けたロスヴァイセさんが口を開く。

 

「私ですが、何か?」

 

『あのねん、一応、あなただけは無事に連れてくるよう言われているのん』

 

「…………誰にですか?」

 

『ユーグリットさんよん。彼ね、あなたが欲しいんですってん。いやーん、イケメンくんのご指名なんてうらやましいわねん♪』

 

あの野郎、そこまでロスヴァイセさんが欲しいってか。

 

あいつの話し振りから察するにロスヴァイセさんを求めているのは才能があるというだけではないだろう。

俺の予想が正しければ、多分―――――。

 

ロスヴァイセさんは首を横に振る。

 

「行きません。戦います」

 

『ま、そうよねん♪ では、皆さん。よいバトルをしましょうねん』

 

ヴァルブルガがスカートの裾をあげて、別れの挨拶をすると魔法陣は消えていった。

 

あれが紫炎のヴァルブルガ、か。

ああいう奴は殺す相手の顔を見ておいて喜ぶタイプだ。

 

あの手の奴は女とはいえ、容赦はしない。

いや、容赦などをしてはいけない。

 

俺は皆を見渡しながら言う。

 

「さて、ぼちぼち始まるわけだが…………気を付けろよ? あいつら、何をしてくるか分からないからな。細心の注意をもって、事に当たってくれ」

 

俺の注意にオカ研メンバー、生徒会…………特にお父さん達は緊張に包まれた表情で頷く。

 

向こうにはリゼヴィムやアセムの他に伝説の邪龍、更にはヴァルブルガまで。

 

こちらを潰すためなら何でもしてきそうな奴らばかりだ。

 

それでも俺達は勝たなきゃいけない。

 

今から始まるのはただの戦いではない。

子供達の未来をかけた防衛戦だ。

敗北は許されない。

 

だからさ――――――

 

「絶対に守りきるぞ! いいな!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

俺達は指定のポイントに散らばっていった。

 

 

 

 

 

 

俺とアリス、美羽が向かったのは学校の南側。

最も邪龍の数が多い地点だ。

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!』

 

 

空から響き渡る邪龍達の咆哮。

 

指定された三時間になった合図だろう。

 

滞空してきた無数とも思える邪龍達が一斉に飛来してきた!

 

俺は赤いオーラをたぎらせて、この戦況に最も相応しい形態へと鎧を変える!

 

「禁手第二階層―――――天撃(エクリプス)!!」

 

翼、籠手、腰に二門づつ。

計六門の砲門が一斉展開される!

 

やっぱ、天撃はこういう状況でこそ真価を発揮できるよな!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

俺は砲門に魔力と気を高めてチャージしていく!

 

そして――――――

 

「消し飛びやがれ! ドラゴン・フルブラスタァァァァァァ!!」

 

『Highmat FuLL Blast!!!!』

 

放たれる極大の砲撃は空の向こうまで伸びていく!

六方向へと放たれた赤い光が邪龍の群れを呑み込んでいった!

 

今のでかなりの数を消し飛ばせたはずだ!

 

「一気にいくよ!」

 

「大掃除といきましょうか!」

 

俺の砲撃が終わると同時に美羽とアリスが飛び出す。

 

美羽は魔法陣を展開すると巨大な竜巻を発生させた。

それも一つや二つじゃない。

竜巻は地面に降り立った邪龍を土地ごと抉り、空に浮かぶ邪龍をことごとく切り裂いていった。

 

アリスは竜巻から逃れた邪龍に迫り、槍で頭を貫いていく。

白雷を纏ったアリスはまるで白い閃光。

光の軌跡を残しながら、量産型の邪龍を屠っていった。

 

吹き荒れる嵐、轟く雷鳴。

 

やはり戦闘となると、この二人は頼もしすぎるぜ!

 

遠くでもドーンドーンと激しい衝撃が巻き起こっている。

皆も大暴れしているようだ!

 

アグレアスの方に視線を向ければ、そちらでも数えきれないほどの爆発が巻き起こっているのが見えた。

サイラオーグさん達もあちらで戦っているのだろう。

 

と、俺達の影から出現する何かがあった。

 

闇で作られた巨大な生物が俺達三人の足元の影から現れて、邪龍と対峙していく。

ギャスパーが闇の獣を作り出して送ってくれたようだ。

闇の獣も俺達と共に邪龍へ攻撃を仕掛けてくれる!

 

本当ならルーマニアで見せた町を覆うほどの闇を展開できれば楽なのだが、あれは消耗が激しいらしく、そう何度も使えるものではないらしい。

 

相手の数を考えれば、無理に消耗してリタイヤされるよりも、闇の獣を生み出して邪龍にぶつけた方が効率がいいんだ。

 

俺と美羽の広範囲攻撃で一度に百以上は余裕で消せる。

そこにアリスとギャスパーの闇の獣が加われば更にだ。

 

…………ただ、やっぱり多いんだよなぁ。

 

「早く全部片付けて、他のメンバーのところに行きたいところなんだけど………もう少しかかりそうだね」

 

美羽が竜巻を操りながらそう呟く。

 

物量差でいくとこちらは圧倒的に不利。

アーシアがいるとはいえ、誰かが負傷すればこちらはたちまち推されてしまう。

 

それはまずい。

 

あ………そっか。

 

もっと楽に邪龍共を一掃できる方法あるじゃん。

 

「美羽、この周囲に出来るだけ巨大で強固な結界を展開してくれ」

 

「いいけど………何か手があるの?」

 

「ああ。最近、まともに出番がなかったからな。たまには活躍してもらう」

 

「?」

 

俺の言葉に首を傾げる美羽だが、素早く新たに魔法陣を展開する。

 

辺り一帯を覆うほどの巨大な魔法陣が展開され―――――そこからクリアーブルーの障壁が四枚現れる。

 

「四壁封陣。これを展開しちゃうと、維持するために他のことが出来なくなるんだけど………良いの?」

 

「おう。とりあえず、これでこの辺の邪龍共は囲めただろ? あとは俺の―――――いや、女神さまの力で焼き払う」

 

「それって………ボク達が危ないんじゃない?」

 

「だから、美羽とアリスは俺の後ろに下がっててもらう」

 

俺はそう言うと鎧を天翼(アイオス)に変更。

同時にイグニスを展開する。

 

さて、イグニスさんよ。

久し振りに大暴れしてもらうぜ?

 

『それはいいけど、ロンギヌス・ライザーはダメよ? 邪龍どころか、この町一帯………下手すれば他の町まで地図から消えることになるわ』

 

いやいやいや、それはしないって!

 

あれ撃ったら俺もダウンするし!

それに、量産型の邪龍を片付けるのにイグニスの全力出す必要ないし!

 

つーか、さらっと地図から消えるとか言わないで!

怖いよ!

 

『だってホントだもーん』

 

俺は美羽とアリスに結界の外に出てもらった後、結界の中央部―――――邪龍が集中しているところに移動した。

 

邪龍はこの結界内から出ることは出来ない。

それが分かってか、結界の内側にいる邪龍共は全て俺に向かってくる。

 

全ての邪龍が俺を取り囲んだ時、俺はニッと笑みを浮かべた。

 

「この時を待ってたんだ! イグニス!」

 

『ええ! やっちゃいましょう!』

 

俺は地面に深々とイグニスの刀身を突き刺す!

 

そして――――――

 

「『インフェルノッ!!』」

 

その瞬間、俺の周囲の地面から灼熱の炎が噴き出した!

 

これがイグニスの力を使った新しい技『インフェルノ』。

 

全てを焼き尽くす紅蓮の炎が俺を中心に広がっていく広範囲用の技。

いつだったか、ゼノヴィアが木場との模擬戦で使ってみせた技を参考に編み出したんだ。

 

炎が僅かにかするだけで、邪龍は炭となり灰になっていく。

 

―――――イグニスの炎が結界の中に閉じ込められた無数の邪龍を跡形もなく消していった。

 

 

 

 

 

 

 

美羽の結界とイグニスの炎のおかげで、学校の南側にいた邪龍の群れは一掃できた。

それも僅かな時間で。

 

ただ……………

 

「ちょっとやり過ぎじゃない?」

 

アリスが辺りを見渡してそう呟く。

 

俺達の視界に広がるのは―――――焼け野原だった。

 

黒く焦げ、炎が消えた今でも高熱を持つ土。

それが俺達を中心にかなり広範囲に広がっていた。

 

俺は土に触れながら呟く。

 

「これ、後で問題にならない? ここ、もう何も育たないよね?」

 

これだけ土が焼けてしまって、作物なんて育つのだろうか?

 

土がほとんど灰みたいになってるんだけど。

 

『大丈夫大丈夫。畑として使えなくても子供達のグラウンドとして活用できるから!』

 

「うわぁぁぁぁん! 後でソーナに怒られるぅぅぅぅぅ!」

 

俺が頭を抱えると耳に入れてたインカムから声が届く。

 

ソーナからだった。

 

『イッセーくん? 何か問題でも起こりましたか?』

 

「え、あ、いや………問題と言えば問題のような………で、でも、大丈夫! こっちの邪龍は一掃したから!」

 

『この短時間でですか? 流石です。あなたがこの場にいてくれて本当に良かった』

 

うっ………なんだか罪悪感が………。

 

俺、広大な畑を丸々焼け野原に変えちゃったんだけど………何てお詫びしようか。

 

ガックリと項垂れていると肩に手を置かれた。

 

振り向くとアリスが微笑んでいた。

 

「こういうとき、全てが丸く収まる方法があるの。知ってる?」

 

「それって………どんな?」

 

俺が訪ねるとアリスは数歩前に出て辺りを見渡す。

 

そして――――――

 

「全ては邪龍のせい――――そういうことにしましょう」

 

「不正!? 俺に不正しろってか!?」

 

「たまには不正も必要よ」

 

「よくそれで国のトップしてたな!? したんか!? 不正したんか!?」

 

「私は不正なんてしたことないわよ。これ言ってたのモーリス」

 

「あのおっさん、何教えてんだぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

~そのころのモーリス~

 

 

 

「おっ、リーシャじゃねぇか。今日は休みか?」

 

「ええ。この間、休日出勤したので」

 

「そうかそうか。ところで、おまえはアリスの日記について知ってるか? この間、ニーナが発見してな」

 

「日記………旅の時に書いていたイッセーの観察日記のことですね? 知ってますよ。こっそり見たことがありますから。………フフフ、中々可愛いこと書いてましたね。『イッセーに胸をつつかれた。あのバカ、あとでもう一回殴ってやる』とか。『どうしよう………イッセーにお姫様だっこされちゃった! 恥ずかしいけど、すごく嬉しい!』とか」

 

「おまえ、内容全部覚えてるのかよ?」

 

「もうバッチリ☆」

 

リーシャは親指を立ててウインクする。

 

モーリスは皆の姉貴分の記憶力に苦笑するだけだった。

 

 

~そのころのモーリス、終~

 

 

 

とにかく、俺達が担当した地区は片付いた。

 

速く他のメンバーのところに向かわないと。

 

「ここからは三手に別れるか。俺はリアス達のところに行く。美羽は木場達のところ、アリスは小猫ちゃん達のところに行ってくれ」

 

「オッケー。その後は随時、連絡を取りつつってところかしら?」

 

「そうだな。このペースでいけば、量産型程度ならすぐに片がつく。問題は―――――」

 

そこまで言いかけたときだった。

 

 

――――――ッ!

 

 

俺達は一様に表情を厳しくする。

 

突然、凄まじいプレッシャーが俺達に向けられたからだ。

 

この野獣のような………強烈なプレッシャー………!

 

この気には身に覚えがある!

 

こいつは………この気は………!

 

「ガハハハハ! ザコ邪龍共は片付いたようだなぁ!」

 

大気を揺らすような大きな声。

 

声がした方向、そちらに視線を送れば三メートル近くある巨体を持った男が一人。

 

男は俺と視線が合うなり、その大きな口を開いた。

 

「よう! この間振りだなぁ! 俺様のこと、覚えてるかよ? ガハハハハ!」

 

アセムの下僕の一人――――――『破軍(バリアント)』のラズルが豪快に笑っていた。

 



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14話 下僕達の力

この強烈なプレッシャー。

野獣のようなオーラ、それもかなり濃密だ。

 

奴の放つものによって地面が揺れ、歩を進める度に亀裂が入っている。

 

前回は拳を交えずに終わったが………ここで、こいつが出てくるのか。

 

美羽が静かに口を開く。

 

「お兄ちゃん………もしかして、あの人が?」

 

「ああ、そうだ。奴がアセムが従える四人の内の一人。名は―――――」

 

俺がそこまで言いかけると、それを遮って目の前の巨漢は不敵な笑みを浮かべた。

 

「おうよ! 俺が親父殿の息子が一人ィ! 『破軍(バリアント)』のラズルだぁ! よろしく頼むぜ、シリウスの娘さんよぉ! ガハハハハ!」

 

奴――――ラズルは改めて名乗ると豪快に笑った。

 

相変わらず元気のいいおっさんだ。

声もでかいし。

 

アセムの下僕達は全員何らかの能力を持っている。

 

武器庫(アセナル)』のヴィーカは木場のように創造し、貯蔵した武器を使用する。

創造できる武器は槍や剣といったものからガトリングガンという現代兵器までと、幅が広い。

しかも、そこに属性まで加えられるというもの。

 

絵師(マーレライ)』のベルは描いたものを具現化することが主な能力だとアセムは言っていた。

俺が目の当たりにしたのは触れた相手の力を解析し、複製するというもの。

実際に俺の力を複製された。

ベルには他の能力もあるのかもしれない。 

 

俺が知っているのはこの二人だけ。

目の前のラズルと『覗者(ヴォアエリスムス)』のヴァルスの能力はまだ知らない。

 

俺は能力を警戒しながら口を開く。

 

「おまえがここに現れたのは………俺狙い、だよな?」

 

「そうだぜ。前にも言ったはずだ。シリウスを倒し、ロスウォードをも倒した勇者殿に俺は――――挑みに来たんだよ!」

 

なんて気迫だ………。

オーラが更に膨れ上がりやがった。

 

ラズルは言う。

 

「そのためにあの量産型邪龍とかいうザコ邪龍が片付くのを待ってたんだ。あんなもんいたら、邪魔でしょうがねぇからな」

 

なるほど………こいつはサシで真正面からやりあうタイプか。

どこまでも真っ直ぐに強者との戦いを臨む典型的なバトルマニアってところか。

 

その時、複数の気配が俺達を囲むように現れる。

 

「もぉー、先々行かないでよ。邪龍が消えるなり突貫するなんて急ぎすぎよ」

 

俺達の右手側に浅黒い肌に長い白髪の美女。

『武器庫』のヴィーカ!

 

「言っても無駄ですよ。ラズルですから」

 

左手側には長身痩躯で、茶髪を後ろで括った男性。

『覗者』のヴァルス!

 

そして、俺達の背後には中学生くらいの背丈の少女。

真っ白な肌に足元まである真っ白な髪。

何もかもが白い少女がいて、

 

「………おしっこ、したい」

 

『絵師』のベル!

 

アセムの下僕達が勢揃いしやがった!

 

つーか、またか!?

またおしっこか!?

 

ヴィーカがベルの元に猛ダッシュで駆け寄った!

 

「もう! だから、来る前に済ませておきなさいといったでしょ!?」

 

「………だって、皆が行っちゃうから」

 

「ラーズールゥ! あなたが先に行くからよ!?」

 

「俺のせいかよ!?」

 

「まぁ、そうでしょうね」

 

「ヴァルス!? おまえもそっち側!?」

 

「いえ、そっち側とかあっち側とかではありません。どう見てもラズルのせいでしょう」

 

「そうよそうよ!」

 

んんんんんん!?

なんか内輪揉め始まったぞ!?

 

俺達、囲まれているのに蚊帳の外なんですけど!?

 

これ、攻撃するチャンスなの!?

全然攻撃出来ないよ、空気的に!

 

ギャーギャーと三人が口論を続けるなか、ベルがヴィーカのそでを引っ張った。

 

「………ヴィーカ」

 

「とうしたの、ベル?」

 

ヴィーカが問うとベルは潤んだ瞳で一言。

 

「………もれる」

 

その瞬間――――――俺達の間で戦慄が走った。

 

時が止まったような感覚に陥り、ベルの言葉が脳内で反復する。

 

 

………もれる。

 

………もれる?

 

………え、もれるの?

 

………あ、もれるんだ。

 

 

それって―――――

 

 

ラズルが叫ぶ!

 

「おいぃぃぃぃ! なんとかしろぉぉぉぉ!」

 

「我らの妹が危機です! ヴィーカ! 早くお手洗いに!」

 

「ええええ!? こ、この辺りにトイレってあるのかしら!? 勇者くん!?」

 

「俺に振るのかよ!? 敵に助けを求める気か!?」

 

「仕方がないでしょう!? 今は敵とか味方とか言ってる場合じゃないの! このままではロリッ子のお漏らしプレイを見ることになるわよ!? それとも見たいの!? なんて鬼畜!」

 

「誰もそんなこと言ってねぇぇぇぇぇぇ!」

 

おまえら、シリアス返せぇぇぇぇえ!

 

なんで、緊張感溢れる戦場が別の戦場に変わってんだよ!?

 

人のことシリアスブレイカーとか言ってたけど、おまえらも十分シリアスブレイカーじゃねぇか!

 

「………限界………出る」

 

ああっ!?

ベルがスカートを抑えながら腰をくねらせたぞ!?

 

これ、マジなやつだ!

ヤバイやつだ!

 

すると、ヴィーカがベルを抱き抱えて俺達から距離を取った。

 

そこにラズルとヴァルスも集まると、ラズルは穴を掘り、ヴァルスが魔法で塀を作り始める。

 

腰の高さくらいになった塀の向こうからヴィーカの声が聞こえてくる。

 

「もうここでしちゃいなさい! 今なら誰も見てないから!」

 

「勇者殿! しばし休戦を!」

 

「頼む! 今は色々ピンチなんだ!」

 

なんか懇願されちゃったよ!

 

妹分のピンチに休戦申し込まれたよ!

 

これ、おまえ達が仕掛けてきた戦いなの分かってる!?

 

「………なんかアットホームだね」

 

「ええ。ここまでアットホームな敵って始めてだわ」

 

美羽とアリスの呟きが小玉する。

 

この後、水の流れるような音が聞こえてきたのだが、俺は美羽とアリスに耳を塞がれた。

 

 

………とりあえず、木場呼ぶか。

 

 

 

 

 

 

「えーと、何があったんだい?」

 

こちらに駆けつけてくれた木場が開口一番にそう言った。

 

その視線の先ではヴィーカ達がベルの下着を変えるという戦場ではまずあり得ない光景があったからだ。

 

どうやら、微妙に間に合わなかったらしい。

 

俺は木場の肩に手を置いて言う。

 

「とりあえず、あれについては触れないでいてあげてくれ。敵とはいえ、女の子だから」

 

「あ………うん。見なかったことにしておくよ」

 

流石はイケメン紳士木場!

瞬時に状況を理解して、頷いてくれた!

 

事を終えたヴィーカ達が額の汗を拭う。

 

「ベル、次は出撃前にちゃんとトイレに行くこと。いい?」

 

「………うん」

 

可愛くコクりと頷くベル。

 

ラズルとヴァルスがこちらに手を振ってくる。

 

「いやー、待たせて悪かったな。こっちでも想定外過ぎる事態でよ」

 

「シリアスを壊してしまい、大変申し訳ありません。………これでは私達も人のことは言えませんね」

 

全くもってその通りだよ!

 

これからは俺達のことをシリアスブレイカーと呼ぶのは止めてもらおうか!

 

ま、まぁ、とにかくだ。

これで戦闘が始められるんだよな?

 

ラズルは腕をぐるぐる回した後、首をコキコキ鳴らす。

 

「そんじゃ、色々あったが、始めるとするか。おまえら、勇者殿の相手は俺がする。いいな?」

 

「私は別に構わないわ。私はつるぺたちゃんとするし♪」

 

「つるぺたじゃないもん! もう少しあるもん!」

 

ヴィーカの言葉に反論するアリス。

 

そろそろそれはいいんじゃない?

 

ヴァルスが木場に視線を向ける。

 

「では、私は聖魔剣の彼とやりましょう。剣士同士………まぁ、私は魔法も使いますが、ここは一つ尋常に」

 

「………じゃあ、ベルはあのお姉さん?」

 

ベルが美羽を指差して可愛く首を傾げた。

 

 

俺とラズル。

 

アリスとヴィーカ。

 

木場とヴァルス。

 

美羽とベル。

 

全員一対一か。

まぁ、いきなり数で不利だったから木場を呼んだのもあるんだけどね。

 

俺達も互いに頷きあって、それぞれの相手の前に立つ。

 

まず動いたのはアリスとヴィーカだった。

 

「こんの巨乳娘! 今度こそその胸もいでやる!」

 

「ウフフ、やってごらんなさい!」

 

前回同様………いや、前回よりも激しい撃ち合いが始まる。

 

アリスは既に領域(ゾーン)に入っており、ヴィーカの剣戟と銃撃を潜り抜けながら、攻撃を仕掛けていく。

 

「はぁぁぁっ!」

 

「おっと、危ない危ない♪」

 

あれから、アリスは相当腕を上げたというのにヴィーカは余裕の表情だ。

 

アリスの鋭い一撃を受け止め、流し、その隙をつく。

 

やはり、次々に得物を変えられると間合いが取りづらいようで今回も苦戦しているな。

 

ただ、前回である程度覚えたのか、今は拮抗できている。

 

激しい金属音を鳴らせながらヴィーカは笑む。

 

「うんうん。やるようになったじゃない。彼のために負けられない?」

 

「そうね。もうあいつの足を引っ張るのはごめんだわ!」

 

二人は激しい攻防を繰り返しながら、この場から遠ざかっていった。

 

その様子を見ながら木場と対峙しているヴァルスが剣を抜いた。

 

「ヴィーカも張り切っているようで。私もやりましょうか――――聖魔剣の木場祐斗殿」

 

ヴァルスの言葉に応えるように木場もオーラを高めていく。

 

白と黒、聖と魔の力が高まり、木場を覆う。

 

オーラが静まり現れるのは黒いコートを羽織り、日本刀の形状をした聖魔剣を握る木場の姿。

 

禁手第二階層―――――双覇の騎士王。

 

この状態になるとスピードが数段上がるほか、剣戟に破壊力が乗り、複数の属性の攻撃を一振りで繰り出すことができる。

テクニックタイプである木場の能力を更に伸ばした形態だ。

 

木場はまだ領域(ゾーン)には至れていないけど、幅の広い能力で上手く立ち回ってもらいたいところ。

 

木場は剣を構えると言う。

 

「イッセーくん、ここは何とかして抑えるよ」

 

「頼む」

 

木場は頷くと前に飛び出した!

 

幾重にも残像を作り出し、ヴァルスの周囲を取り囲む。

 

あれは………高速移動による残像だけじゃないな。

剣による幻術効果も含まれているのか!

 

既に百………いや、それ以上の残像がヴァルスを包囲。

目で追うには辛い数になっている。

 

それを見てヴァルスが感心したように呟く。

 

「なるほど。噂以上の腕前のようですね」

 

そう言うとヴァルスは剣を前に突き出して、目を閉じた。

 

そして次の瞬間――――――

 

 

ギィィィィィンッ!!!

 

 

激しい金属音が鳴り響いた。

 

後方から仕掛けた木場の一撃がヴァルスの剣に防がれている!

 

「惜しい」

 

「………ッ!」

 

不敵に笑むヴァルスに戦慄する木場。

 

だが、そこは流石の木場。

 

受け止められたと同時に刀身から冷気を発生させ、ヴァルスの剣を凍らせようとする。

 

ヴァルスは剣を引いてそれを回避するも、木場は追撃をしかけていく!

 

前から、左右から、時には背後から。

あらゆる属性も交えてヴァルスに斬りかかる。

 

………強い。

 

それは木場じゃない。

ヴァルスの方だ。

 

もちろん木場も強い。

だけど、木場が全力を出しているのにも関わらず、ヴァルスは微笑みながら、木場の斬戟を流しているんだ。

 

しかも―――――

 

「………どういうつもりだい?」

 

木場がヴァルスに問う。

 

問われたヴァルスは首を傾げる。

 

「どういうつもり、とは?」

 

「君はさっきから受けてばかりで、自分から仕掛けてこない。それに………君は元の立ち位置からほとんど動いていないじゃないか」

 

そう、木場の超高速の連戟を受けながらもヴァルスは戦闘を開始した場所からほとんど動いていない。

 

剣とほんの僅かな体捌きで全ての攻撃をいなしている。

 

木場の問いを受けて―――――ヴァルスはニッコリと笑んだ。

 

「いや、申し訳ない。実はあなたの疑問は聞く前に分かっていました」

 

ヴァルスは自身の胸に手を当てると、俺の方に視線を移す。

 

「勇者殿は先程から私がどんな能力を使っているのか気になっているようですね」

 

「ああ」

 

「実はもう使っているのですよ」

 

「っ!?」

 

もう能力を使っている!?

 

そんな………一体どこで………。

俺は木場の戦いを見ていたが何も感じられなかったぞ?

 

ヴァルスは苦笑する。

 

「私の能力はヴィーカやベルほど派手なものではありません。私の能力は二つ。相手の心の内を探る能力と一瞬先の未来を見る能力です。………あまり強そうには見えないでしょう?」

 

………強そうには見えない、だと?

 

何を言ってやがる………!

滅茶苦茶厄介な能力じゃねぇか!

 

心の内を読むと言うことはこちらの手が全て読まれるということ。

つまり、どんな攻撃を仕掛けようか考えれば、それは相手に筒抜けになっているということだ。

 

それに一瞬先の未来を見るって能力。 

こちらも面倒だ。

 

攻撃が当たるのは偶然、というときもある。

それが勝負の決め手になったりもするのだが………ヴァルスにはそれが通じない。

 

一見、地味な能力ではあるが非常に強力な能力であることには違いない。

 

………それに奴の強さはそれだけじゃない。

 

剣術、体術もかなりレベルが高い。

おまけに魔法も使える。

 

「いやぁ、そこまで見ていただけているとは光栄です」

 

「心の内を読まないでくれる!?」

 

クソッ、戦闘以外でも使えるのかよ!

 

作戦立てても直ぐにバレるじゃねぇか!

 

「ええ、仰る通りですよ。学校の地下シェルターで新たに転移用魔法陣を構築していることも知っています」

 

「仮に隠密で接近しても………」

 

「私には無意味ですね」

 

地味そうな能力だけど面倒過ぎる!

 

ジミーって呼ぶぞ、この野郎!

 

「それは酷い! これでも傷つきやすいんですよ!?」

 

「心の内聞いて傷つくってなに!?」

 

「ガラスのハートなのです!」

 

ダメじゃん!

 

なにこいつ、心の中で悪口言ったら倒せるんじゃない!?

 

やーい、ジミー!

 

「うぅっ………ジミーって言わないでください!」

 

「木場! 今なら倒せるぞ!」

 

「ははは………」

 

 

ドォォォォォォン!

 

 

少し離れたところで轟音が鳴り響いた。

 

そちらに視線を向けると美羽がベルに向けて極大の魔法砲撃をぶっ放していた。

 

「この!」

 

風、炎、雷とあらゆる属性の魔法がベルに降り注ぐ。

 

ベルは防御魔法陣を展開して、全て防ぎきっているようだ。

 

防御魔法陣で防いでいる間にベルは魔力で宙に何かを描いていく。

あれは………何か獣のようにも見える。

それが複数体。

 

描き終わるとベルは呪文を口にする。

 

「形なきところより、形なせ。我が空想より、姿を現せ」

 

ベルが描いた獣の絵が輝きを放ち―――――大地が激しく揺れた!

立つことも難しいほどの揺れだ!

 

いったい、何をしやがったんだ!?

 

すると、ベルの足元の地面が盛り上がり始める。

 

それはどんどん大きくなっていき―――――――

 

 

『ゴガァァァァァァァァァァァッ!』

 

 

巨大な魔獣を生み出した!

 

人形の魔獣、獅子の魔獣、それから鳥の魔獣。

現れた三体の魔獣は全てが巨大で、体長は百メートルほどだ。

 

………まるで魔獣騒動の時の超巨大魔獣みたいだ。

 

それが美羽の前に立ちはだかった!

 

「こんなものをあんな一瞬で………!」

 

美羽も目を見開き、その表情は驚愕に包まれていた。

 

それもそうだ。

あんな短時間でこれだけの魔獣を生み出したんだからな!

 

人形の獣が拳を振り上げ、美羽に襲い掛かる!

 

腕を振り下ろす動作で地響きが響き渡った。

 

「美羽!」

 

「分かってる………よっ!」

 

美羽は悪魔の翼を広げると同時に風の魔法で素早く宙を飛ぶ。

 

そこへ巨大な鳥の魔物が大きな嘴を開けて突っ込んでいく!

巨体のくせに想像していたよりも速い!

 

「くっ!」

 

避けきれないと判断した美羽は咄嗟に手元に幾重にも魔法陣を展開。

 

魔法陣に七色の光が集束し―――――巨大な一撃を放った!

 

現時点の美羽の最高火力、スターダスト・ブレイカー。

 

七色の光は鳥の魔物を貫き、撃ち落とした。

 

危機をだっしたものの、肩で息をする美羽。

 

しかし―――――

 

「………まだまだ作れる、よ?」

 

新たに絵を描き、追加で魔獣を生み出すベル。

 

撃ち落とした鳥に代わり、今度は巨大なドラゴンを二体。

 

減るどころか逆に増えた魔獣に流石の美羽も焦りの表情を浮かべていた。

 

「なんなの、この能力………! こんなの続けられたら、もたないよ!」

 

あれがアセムの下僕の中で最強と言われるベルの力………!

魔獣を生み出しながらベル自身も魔法攻撃を放ってやがる!

 

いくら美羽でもあれはキツい!

 

「お兄ちゃん! ボクは少し離れるよ! ここじゃ、学校にまで被害がいっちゃう!」

 

「………っ! 分かった! だけど、無理はするな! ヤバくなったら退けよ!」

 

「うん!」

 

そう言うと美羽はここから更に南側へと移動。

ベルと生み出された魔獣達もそれについていった。

 

アリス、木場、美羽………なんとか持ちこたえてくれよ!

 

三人の無事を祈りながら、俺は目の前の巨漢――――ラズルと向かい合う。

 

ラズルは笑みを浮かべる。

 

「そろそろ俺達もやりあおうぜ!」

 

「さっさと終わらせるぜ。こいつは色々とヤバそうだからな!―――――天武(ゼノン)ッ!」

 

俺は鎧を天武へと変え構え、ラズルも構えを取った。

 

俺とラズルの荒々しいオーラがぶつかり合い、地面を深く抉っていく。

 

前に出たのは―――――俺だ。

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』 

 

拳にオーラを集中させ、全てを砕く勢いで殴り付ける!

 

こいつの能力が何なのかは知らないが、早く終わらせないと皆がヤバい!

 

「おうおう! やっぱ、真正面から来るよなぁ! それでこそだぁぁぁぁぁ!」

 

ラズルも嬉々として前に出る!

 

互いの拳が衝突する!

 

「であぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

俺達の拳は拮抗―――――しなかった。

 

俺はラズルの拳の勢いに負け、吹き飛ばされた!

地面を大きくバウンドして、家屋を突き抜けていく!

 

家屋をいくつも倒壊させた後、ようやく止まったが………ダメージが大きい………!

 

俺は血反吐を吐きながら驚きを隠せないでいた。

 

「ガッ………ハッ………天武の拳が押し負けた………!?」

 

俺だって鎧を纏えば魔王クラスの力を発揮できる。

それの格闘戦特化の鎧を纏った俺が押し負けた。

 

これはあまりに衝撃だった。

 

瓦礫を押し退けながら立ち上がろうとした時だった。

 

―――――体が引っ張られる。

何かに吸い寄せられるように。

 

俺の体が勝手に浮き、吹き飛ばされた場所へと戻っていく。

 

これは………っ!

 

「驚いたか! こいつが俺の能力! 引力と斥力を操るのさ! ガハハハハハ!」

 

ラズルは拳を振り上げ――――――引き寄せた俺の顔面を殴り付ける。

 

あまりの威力に兜が砕け、脳が揺れた!

 

「ぐあっ………!」

 

ラズルは俺の首を掴んで言う。

 

「言っとくがさっきの拳は何の能力でもないぜ? ただの拳だ。―――――我が拳は幾千、幾万の兵を凪ぎ払うってな。俺の拳は一振りで神をも殺す。それ故に俺は『破軍』を与えられたのさ」

 

 



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15話 援軍来ました!

「言っとくがさっきの拳は何の能力でもないぜ? ただの拳だ。―――――我が拳は幾千、幾万の兵を凪ぎ払うってな。俺の拳は一振りで神をも殺す。それ故に俺は『破軍』を与えられたのさ」

 

ラズルの言葉が耳に入ってくる。

 

幾千、幾万の兵を凪ぎ払う。

一振りで神をも殺す………か。

 

俺は奴の言葉を脳内でリピートしながら、あの拳の威力を思い出す。

 

格闘特化の天武(ゼノン)の拳が圧倒された。

拮抗すらしなかった。

 

繰り出した左の腕なんて痺れて上手く動かせないほどだ。

下手すりゃ、骨までいってるな。

 

「ガフッ………」

 

俺は内側から込み上げてくるものを吐き出した。

血反吐が口から流れ、俺の首を掴んでいるラズルの手の上に落ちる。

 

そんな俺の様子にラズルは口を開く。

 

「なんだぁ? もう終わりかよ? だったら期待はずれにも程があるぜ」

 

もう終わり………?

 

期待はずれ………?

 

その言葉を聞いた俺は右手をラズルの顔に向けて―――――

 

「アグニッ!」

 

ゼロ距離でアグニを放つ!

赤い極大の光がラズルを襲った!

 

回避しきれなかったラズルは後ろにぶっ飛び、俺はラズルから解放される。

 

鎧の壊れた部位を修復し、爆煙に包まれるラズルに言ってやった。

 

「舐めんな。この程度でダウンするかよ」

 

結構なダメージは受けてしまったが、戦えないほどじゃない。

 

まだ拳は握れる。

まだ体は動く。

 

この程度で倒れてるようじゃ、赤龍帝は名乗れないさ。

 

煙の向こうから笑い声が聞こえてくる。

 

「ガハハハハハ! そうこねぇとな! これしきのことでおまえが倒れるわけねぇよなぁ!」

 

巻き起こる煙を振り払いラズルが姿を現す。

 

服や肌が多少焦げてるけど………思ったよりダメージが少ないな。

 

攻撃力だけじゃなく、防御力も並外れているらしい。

 

こいつは………かなりの強敵だ。

 

俺はラズルを睨みながら、構えを取る。

 

「とんでもねぇ破壊力に引力を操る能力か。おまえ達の能力は厄介すぎるぜ」

 

「まぁな。だがよ、うちのベルに比べちゃ可愛いもんだろ?」

 

そう言うとラズルは親指で向こうの方を指差す。  

 

その先にあるのは巨大な魔獣の群れを率いるベルの姿と魔法のフルバーストをぶっ放している美羽。

 

今のところダメージを受けているようには見えないが、消耗はしているようだ。

対してベルは殆ど消耗しているように見えない。

 

あれだけの超巨大魔獣を生み出しておいてスタミナ切れしないなんてな………。

下手すりゃ、ベル一人でもまた魔獣騒動を起こせそうで恐ろしい。

 

俺はベルの能力の危険性を改めて感じながらもラズルと対峙する。

 

助けに行きたいところだが、まずは目の前の敵を何とかしないと話にならないんだよね、これが。

 

構えたまま、ジリジリと距離を詰めていく。

 

「………いくぜ!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

全身のブースターからオーラを噴出して、真正面から突っ込む!

 

倍加した力は全て推進力に回す!

領域(ゾーン)にも突入済み!

 

ラズルの攻撃をまともに受ければ、防御してもその上から砕かれる!

 

だったら――――――

 

「当たらきゃ良い話だろうがッ! おおおおおおおおっ!」

 

「うおっ! 速いな! 滅茶苦茶速ぇじゃねぇか! だが、俺も速いんだぜ!」

 

ラズルも高速で動き出す!

 

こいつも図体でかいくせになんつー速さだ!

俺に着いてきていやがる!

 

俺はラズルの巨大な拳の間を掻い潜りながら、攻撃を繰り出していく!

 

繰り出される度に暴風が巻き起こり、掠めるだけで鎧が砕けていく!

こいつをもうまともに食らうわけにはいかない!

次に食らえばこっちがもたない!

 

「おらおらどうしたぁ! こっちには大して響いてねぇぞぉ!」

 

「うるせぇ! これから砕いてやるから黙ってろッ! プロモーション『戦車』!」

 

『戦車』に昇格することで攻守が上がる!

 

ここからが俺の新しい切り札!

格闘戦特化の天武のパワーを更に向上させる!

 

「いっくぜぇぇぇぇぇ! 昇格強化!」

 

『F-Drive!!』

 

昇格強化。

ずっと探していた悪魔の駒と神器の最高の同調。

駒の昇格により、神器のパワーを最も効率よく、最大にまで引き出すための強化。

 

俺があまり駒の昇格を使わなかったのはこの同調が上手くいってなかったからだ。

 

それがつい先日、ドライグの調整が済んだことにより使用可能に。

 

「『戦車』への昇格は天武の力を更に高位の次元へと引き上げる!」

 

赤いオーラが全身から迸り、赤い稲妻が全身の宝玉から放出される!

ブースターも大きくなり、出力も数段階上の領域に至った!

 

俺はラズルの豪腕をかわして懐に入り込む!

 

「倍返しだ! この野郎ぉぉぉぉぉぉ!」

 

赤いオーラを放つ拳がラズルの顎を捉え、全身の急所に連打を撃ち込んでいく!

超高速の拳の嵐!

一発一発、的確に、抉り込むように!

 

「ぐおっ!? 拳の威力だけじゃねぇ………スピードも上がってんのか!?」

 

「ああ、そうだ! おまえみたいに頑丈で一撃が必殺になりうる奴には手を出させず、手数で圧倒するのが一番だからな!」

 

「なるほどなぁ! だがな! 俺の能力を忘れてるぜぇ!」

 

その瞬間、俺はラズルから見えない力で遠ざけられた。

ラズルが俺を殴ったわけではない。

 

この壁に押されるような感覚………こいつは!

 

「言ったろ! 俺は引力と斥力を操るってな! 斥力を操れば防御にも出来るんだよ! そんでもって―――――」

 

ラズルは屈むと掌を地に当てる。

 

すると―――――

 

俺は地面に引き付けられた。

立てなくなり、その場に膝をついてしまう。

 

体が重く、まるで錘を背負っているみたいだ………!。

 

「ぐっ………!? おまえ、まさか………!」

 

この現象の理由に気づいた俺はハッとなる。

 

その様子にラズルが笑んだ。

 

「そういうこった! 俺はな、こうして物質に引力や斥力を付与できるんだ! 地面に引力を付与すれば、それは重力となる!」

 

物質に引力と斥力を付与!?

こいつも大概反則級の能力じゃねぇか!

 

クソッ………地面に体が引かれて動きが………っ!

 

重力に引かれて動きの取れない俺にラズルが迫る。

 

「どうだ動けねぇだろ? さぁ、どうするよ勇者殿?」

 

そう言いながらゆっくりと近づいてくるラズル。

 

このまま動けなかったら俺は奴の拳の餌食になる!

それは何としてでも回避しないと、ヤバい!

 

こうなったら―――――

 

「ごめん! 町の人達! この畑、もう使い物にならなくなるかもしれない!」

 

心からの謝罪と共に俺は掌を地面に向けて―――――特大のアグニを放った!

 

俺の下にあった地面は消し飛び、谷のように深い穴が生まれる。

 

引力を付与された地面が消えたことで俺にかかっていた強烈な重力も無くなり、体が軽くなる。

 

それと同時に俺は大きく後ろに跳んでラズルとの距離を取った。

 

ラズルがニッと楽しそうに笑む。

 

「いやはや、咄嗟にそこまで頭が回るとは。流石に戦いなれているな。ま、こんだけデカい穴を開けてしまえば畑としては機能しなくなるだろうけどな。つーか、ここに学校建てるんだろ? ガキがこの穴に落ちたら死ぬんじゃねぇの? どうすんだよ?」

 

「この戦いが終わったら埋めるから良いんだよ! ………って、意外だな」

 

「意外? 何が?」

 

聞き返してくるラズル。

 

「おまえ、今、子供達の心配しただろ? なんか以外だなって思ってな」

 

なんと言ってもリゼヴィムに協力しているような奴の下僕だしな。

 

てっきり、「学校を破壊しに行く」とか言い出したりするかと思ってたんだが………。

まぁ、その場合は何がなんでも阻止するけどさ。

 

俺の言葉を聞いてラズルは頭をボリボリかきながら盛大に笑った。

 

「ガハハハハハ! なるほど、そういうことか! なぁにその辺りの心配はいらねぇよ。んな、ガキなんざ潰して何が面白い? それだったら、ガキが成長するのを待って、強くなってから潰した方が良いに決まってんだろ?」

 

ラズルはここから見えるアウロス学園の校舎を指差す。

 

「レーティングゲームの学校だっけか? 良いんじゃねぇの? 俺の楽しみは強い奴とこうしてサシで戦うことだ。あそこに通って強い奴が出てくるなら俺は大歓迎だぜ!」

 

「………心の底からバトルマニアだな、おまえ」

 

「おうよ! 言っておくが、俺だけじゃねぇぞ? ヴィーカもヴァルスも同じだ。………まぁ、ベルはちと違う気もするがな。あいつは何も考えてないというか………。ま、まぁ、とにかくだ! 俺はおまえみたいな強い奴と戦えればそれで十分! 弱い奴には興味はねぇ! ガキはガキで今のうちから鍛えとけ! そしたら、いつか楽しめる日が来るかもしれねぇからよ! ガハハハハハ!」

 

豪快に笑うラズル。

 

俺はその光景に息を吐く。

 

やれやれ………とんだバトルマニアに狙われたもんだ。

 

こいつは敵。

それも最悪とも言える奴らの仲間だ。

 

それでも、あの学校の価値を分かってくれているような………そんな気がした。

 

とりあえず、こいつを含めアセムの下僕四人があの学校に攻め込むのはなさそうだな。

まぁ、それもアセムの指示がない場合に限ると思うけど。

 

俺は深呼吸した後、首を鳴らして構えた。

 

「今の言葉信じるぜ? 子供達には手を出すなよ?」

 

「ガハハハハハ! 今しがた言ったろ! 俺は強い奴にしか興味はねぇってな! 少なくとも俺があの学校に手を出すことはねぇよ。リゼヴィムとか他の邪龍は知らねぇけどな」

 

「そうかい。なら、さっさとおまえを倒して、邪龍共を片付けないとな」

 

俺とラズルは互いに笑みを浮かべ――――――激突した。

 

 

 

 

 

 

 

[美羽 side]

 

 

 

「これならどう!」

 

ボクは手元に魔法陣を展開すると共に周囲にも魔法陣を無数に張り巡らせていく。

 

全てが攻撃魔法!

全属性フルバースト!

 

魔法陣から放たれる攻撃魔法の雨はベルとベルが生み出した超巨大魔獣に降り注いだ!

 

ボクの魔法が直撃した魔獣達は何とか倒せる。

 

今のところ、しぶとさという点では冥界の魔獣騒動の時に戦った豪獣鬼や超獣鬼の方が圧倒的だ。

 

ただ………数が多い。

 

倒しても倒してもベルが新たに生み出してしまう。

 

やっぱり倒すには本人を叩くしかない………。

 

だけど、行く手を魔獣達に阻まれ、攻撃が届いたと思ってもベルが張った防御魔法陣に防がれてしまう。

 

ベル本人も相当な魔法の使い手。

それに加えて、この能力。

 

正直言って、ボクは圧されている。

 

こっちはあの魔獣を一体倒すのにかなりの力を使う。

それなのに、向こうは平然としながら次々に生み出し、魔法攻撃をしかけてくる。

 

この戦い………明らかに向こうに分がある。

 

『グオオオオオオオオオオッ!!』

 

獅子の形をした魔獣の一体が巨大な腕を横に凪いで、襲い掛かってくる!

 

ボクは咄嗟に上空へ飛ぶが、そこにドラゴンの形をした魔獣が迫ってくる!

 

またこのパターン!

 

避けたら避けたで、追撃が止まない!

 

「こん………のぉ!」

 

ボクは手元に風の刃を作り出し、ドラゴンの首を切り落とした。

 

すると、ドラゴンは砂が崩れていくようになり、サラサラと宙に消えていく。

 

ベルが言う。

 

「………お姉ちゃん、限界?」

 

「まだだよ。ボク達は負けられないからね。ボクがここで倒れたらこっちが不利になる」

 

「………そう」

 

口数が少ない子だね。

 

………思ったんだけど、この子はあの学校には興味がない?

 

今のところ、あの学校に攻撃をしかける様子も魔獣を向かわせる素振りもない。

 

怪訝に思っていたのが表情に出ていたのか、ベルが首を傾げて聞いてくる。

 

「………どうしたの?」

 

「ううん。何でもない」

 

もしかしたら、ボクが口にすることで学校に攻撃するかもしれないし………ここは黙っておく方がいいよね、多分。

 

それにしても、どうやって攻略しようか。

今のところ完全に手詰まり。

 

何か良い方法は………。

 

ボクがこの状況を打破する作戦を考えていた時、耳に入れていたインカム代わりの魔力装置から声が届く。

 

ソーナ会長だった。

 

『北側より、聖十字架使いが襲来しました。リアス達だけでは相対するのは厳しいでしょう』

 

聖十字架使い!

あの紫炎に触れれば、悪魔は必滅するというボク達悪魔には天敵のような相手!

 

リアスさん達も強いけど、あの炎に触れたら―――――

 

『一旦、防衛範囲を狭めて四人一組もしくは三人一組を作ってください』

 

『すまん! 今は手を離せそうにない! そっちは何とかして持ちこたえてくれ!』

 

ソーナ会長の声に続き、お兄ちゃんの声がインカム代わりの魔力装置を通して聞こえてくる。

お兄ちゃんも苦戦を強いられているようだ。

 

恐らくアリスさんや木場くんも同じはず。

 

こっち側の主要戦力とも言えるメンバーがアセムの下僕四人によって身動きがとれなくなっている。

この状況はかなりマズい。

 

 

ドゴォォォォォォォン!

 

 

学園の南西方向から爆音と黒煙が上がった!

あれは十字架でもない!

 

一瞬、お兄ちゃんかアリスさんとも思ったけど、場所が違う。

 

あれは―――――

 

すると、ボクの耳に小猫ちゃんの叫び声が聞こえてくる。

 

『こちら、南西方向担当の小猫です。………邪龍グレンデルとラードゥンが出現しました!』

 

―――――ッ!

 

このタイミングで出てくるなんて!

 

いや、このタイミングだからこそ、出てきたのかもしれない。

 

北から神滅具所有者、南西からは伝説の邪龍が二体!

 

南西は小猫ちゃんと匙くんの担当!

二人だけじゃ、グレンデルともう一体の相手は無理!

 

だけど、ボクやお兄ちゃん達は目の前の敵で手が離せない!

 

とうすれば………!

 

焦るボクの足元に巨大な魔法陣が展開される。

 

白く輝くこの魔法陣は―――――

 

ベルが口元に指を当てて呪文を呟いた。

 

「白の檻、黒の沼。贄をもって、鎖せ」

 

その瞬間、ボクの足元がぬかるみ、足を引きずり込まれていった!

 

これは罠!

誰かが足を踏み入れることで発動するトラップ魔法!

 

いつの間にこんなものを………!

 

ボクは慌てて脱出しようとするが、

 

「魔法が………使えないっ!?」

 

ボクは目を見開いて驚愕した。

 

何度魔法陣を展開しようとしても展開しきる前に霧散してしまう………!

 

「………ん。お姉ちゃんの魔法、もう使えない。その魔法陣はお姉ちゃんの力を吸い取るから」

 

「そんな………!」

 

魔法を使おうとすれば力を奪われ、力を使わなければ、このまま引きずり込まれる。

 

このままじゃ、ボクは………!

 

何とかしないと………!

ここで倒れたら………皆が!

 

足掻けば足掻くほど力が奪われていく。

何も出来ないまま、膝元まで引きずり込まれた。

 

 

その時だった。

 

 

ヒュン、という風を切る音が耳に入ってきた。

 

見ればボクの目の前に――――――赤い槍が深々と突き刺さっている。

 

ボクを縛っていた魔法陣はまるでその槍に打ち消されたかのように霧散していく。

 

この赤い槍には見覚えがあった。

 

これは………この槍は――――――

 

「ご無事ですか、マスター?」

 

現れたのは女性。

 

腰まである紫色の髪。

服装はボディーラインが浮き彫りになる暗い紫色の戦闘服に黒色の袖無しのコート。 

腰には二振りの剣。

 

女性は地面に突き刺さっている赤い槍を引き抜くとボクに微笑みをくれた。

 

ボクはその人の登場に普通に驚いた。

 

「え、ええええええ!? ディルさん!? なんでここに!?」

 

ディルさん、ずっと家にいるんじゃなかったの!?

 

今朝も「昨日のお昼は明太子スパゲティを食べました!」なんて報告くれてたじゃん!

微笑ましかったよ!

 

それなのになんでここにいるの!?

というより、どうやってここに来たの!?

 

この町に張られている結界は強固だし、外と隔絶されているから結界の内側と外側で時間の流れが違うはず………。

 

それなのに、どうやって………?

 

ボクは疑問を口にする。

 

「え、えっと、どうしてここに………?」

 

すると、ディルさんは空間を歪ませてそこに手を入れた。

 

ディルさんが亜空間から出したもの。

 

それは―――――

 

「差し入れです。マスターの母上殿に持っていくよう頼まれました」

 

おにぎりの山だった!

 

お母さんんんん!?

なんてタイミングで差し入れ!?

 

「うむ、マスターの料理上手は母上殿譲りなのですね。これも美味しいです」

 

ディルさん、差し入れのおにぎりを頬張っちゃったよ!

それ、差し入れだよね!?

食べちゃダメとは言わないけど差し入れだよね、それ!?

 

ツッコミが止まらないボクの元にもう一つの気配が現れる。

 

振り替えると長い青髪を持った女性がいた。

 

「遊びに来たのだが………なんとまぁ、派手にやってくれる」

 

「ティアさん!? ティアも来てたの!?」

 

「ああ。私はディルムッドの付き添いだ。私も母上殿に頼まれてな。ほれ、手紙だ」

 

そう言うとティアさんは一通の手紙を渡してくる。

手紙というよりはメモ帳に書いて渡したという感じのものだ。

 

そこには、

 

『これ食べて授業頑張ってね♡ 母より』

 

お母さん………。

 

ありがとう、なんだかすごく元気が出たよ。

 

ボクは改めて問う。

 

「どうやって中に入ったの? というより、よくこの事態に気づけたね」

 

ティアさんが答える。

 

「気づけたのは偶々だ。元々私達は母上殿より差し入れを頼まれてここに来たのだが、なぜか中に入れなくてな。それで調べてみたところ、魔法によって結界が張られているのに気づいたのだ。そこで―――――」

 

「私がこのゲイ・ジャルグを使って一時的に結界を無効化して中に入ったのです。まぁ、すぐに修復されてしまいましたが」

 

あの赤い槍、ゲイ・ジャルグは魔法や魔術の類いを無効化する。

その力を使って結界の中に入ったと。

さっきボクを捕らえていた魔法陣もその能力で無効化したんだ。

 

「それじゃあ、あの紫炎は?」

 

ボクはこの町を囲む紫炎の壁を指差して尋ねる。

 

この町は結界と紫炎、それからアグレアスとこの町を覆う楕円形の結界の三重構成の壁によって囲まれている。

 

ゲイ・ジャルグでは結界を無効化できてもあの紫炎は無効化できないだろう。

 

ティアさんが答えた。

 

「ああ、あれな。普通にぶち抜いた。流石に全てを消すのは無理だが、私達が通るくらいの穴なら作れる。ま、あれもすぐに修復されてしまったがな」

 

うーん、流石は龍王最強!

頼りになるお姉さんだよ!

 

「………誰?」

 

ボク達の様子を魔獣の上から眺めていたベルが尋ねてくる。

 

そういえば、ベルはこの二人のことを知らないんだった。

 

吸血鬼の町にティアさんは来てたけど出会ってないし、ディルさんは家にいたし。

 

ディルさんは槍の穂先をベルに向けて告げた。

 

「私か? 私はマスター・美羽のメイドだ!」

 

「そうだったの!?」

 

「私の敬愛するマスターに刃を向けるなど万死に値する。覚悟してもらおうか」

 

あ、あれ………ディルさんの中でボクってどういう存在なんだろう?

 

なんかすごく敬われているような気がする………。

 

か、唐揚げ作っただけでここまでされると………申し訳なく思えてくるよ。

 

ティアさんが言う。

 

「私はイッセーのところへ行く。ディルムッド、ここは任せるぞ?」

 

「任された。マスターは何がなんでも守ってみせる」

 

「あははは………。ありがと、ディルさん」

 

ボクがお礼を言うとディルさんはどこか嬉しげだった。

 

 

 

[美羽 side out]

 

 

 



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16話 激戦続きます!

[美羽 side]

 

 

予想外の援軍。

 

一人は英雄の魂を引き継ぐディルさん、もう一人は龍王最強と言われるティアさん。

 

この二人の登場には本当に驚かされたけど、心強い援軍には間違いない。

 

もしかしたら、この危機的な状況を引っくり返すことが出来るかもしれない。

そう思えるほどに。

 

ティアさんがお兄ちゃんの元に向かった後、この場にいるのはボクとディルさん。

 

そして―――――

 

「………メイドさん?」

 

ディルさんの言葉を信じちゃってるベル。

 

メイドさん………間違ってはないかもしれないけど………。

あのメイド服が気に入ったのか、ディルさんって家にいる時は基本あの格好だし。

 

ま、まぁ、メイドさんってことで良いのかな?

ディルさんがそう言ったしね。

 

ディルさんが訊いてくる。

 

「マスター、あの娘の能力は?」

 

「基本的には魔獣の召喚。あと触れた相手の複製能力。他にも魔法の攻撃かな。今のところ」

 

「なるほど。となると私が前に出て隙を作りましょう。私の得物ならあの娘の魔法・魔術の類いは無効にできる」

 

そう言うとディルさんは手に握る二本の槍の内、黄色い槍―――――ゲイボウを亜空間に仕舞う。

そして、腰の鞘に納めている柄が金色の剣を引き抜いた。

 

左手に槍、右手に剣という構え。

 

ディルさんは腰を落とすと鋭い眼光をベルに向ける。

 

「――――いくぞ、娘」

 

それだけ言い放つと地面を蹴って駆け出した!

身を屈めながら、疾風の如く魔獣に迫る!

 

ベルが新たに生み出した魔獣の一体が巨大な腕をディルさん目掛けて振り下ろす。

 

ディルさんはそれを紙一重でかわすと、その腕の上に乗り、魔獣の頭目掛けて突貫した!

 

「獣よ、貴様の頭を割ってやろう」

 

ディルさんの手に握られた金色の柄の剣が魔獣の頭に振り下ろされ―――――その言葉通り、真っ二つに割った!

 

一撃であの魔獣の一体を仕留めてしまった!

なんて破壊力!

 

「我が剣の一つ、モラルタ。この剣は一振りで岩山を両断する。さぁ、獣共。消えたい奴から前に出よ」

 

その言葉に応じるかのようにベルの獣達が次々に襲いかかる。

だけど、ディルさんは宙を華麗に舞いながらモラルタで頭蓋を砕いていく。

 

鋭い殺気、無駄のない動き。

剣を振るう姿は初めて出会った頃のディルさんだ。

 

………道理で英雄派のメンバーもおいそれと追い出せなかった理由が分かったよ。

 

だって、戦ってる時のディルさん別人だもん。

 

曹操に勝てるかは分からないけど、他のメンバー――――ヘラクレスやジャンヌでは相手にならなかっただろうね。

 

『グオオオオオオオオオオッ!!』

 

新たに生み出された魔獣!

今までのよりも一回り大きい、首が九つもあるドラゴン!

 

ドラゴンは四枚ある翼を羽ばたかせると、ディルさんに極大の火炎を吐き出した!

 

「ディルさん! サポートするよ!」

 

「承知」

 

ボクは風の防御魔法陣をディルさんの前面に展開すると、ディルさんの足元に風の渦を作り出す!

 

「そのままいって!」

 

防御魔法陣は魔獣の炎からディルを守って、風の渦はディルさんを天高く飛ばす。

 

ディルさんの体がドラゴンの頭を越えた。

 

ドラゴンの目とディルさんの目があった瞬間、ディルさんは不敵な笑みを見せる。

 

「貴様は耐えられるか?」

 

空中で腰を捻り、回転の勢いを利用した斬戟。

 

モラルタの刃が頭の一つに届くと――――ドラゴンの頭は容易に砕かれた。

血が噴き出し、ディルさんの顔に返り血が飛ぶ。

 

頭の一つを失ったことで、ドラゴンの動きが荒々しくなる。

 

血走った大きな目でディルさんを睨み付けるけど、そっちばかりに気がいっているとね。

 

「下ががら空きだよ」

 

ボクは手元に大きな魔法陣を幾重にも展開。

 

七色の光が終息していき―――――極大の閃光を放った。

 

光に呑み込まれたドラゴンは跡形もなく消えていく。

 

「………お姉さん達、強いね」

 

召喚したばかりの魔獣が倒されて、そう呟くベル。

 

その表情は特に焦っているわけでもなく、余裕を見せているわけでもなく………全くと言っていいほど表情に変化がなかった。

 

無尽蔵とも思える召喚能力。

あれだけの数を生産しておいて、疲労の様子がない。

 

…………この子はいったいどれだけの力を秘めているのだろう?

 

そんな疑問を持っているとベルが言った。

 

「………ベルも強い、よ?」

 

「………ッ!?」

 

ボクは目を見開いた。

 

ベルのオーラが徐々に膨らんでいく。

濃密で静かなオーラ。

 

細く白いベルの指が宙に何かを描いていった。

 

すると―――――

 

地面が激しく揺れてベルの足元が大きく隆起する!

 

巨大な魔法陣が六つも展開されて、そこから何かが姿を現す!

 

姿を見せたのは百メートルはゆうに越える巨人。

それが六体。

 

今まで召喚していた魔獣とは一線を画すこのオーラ。

明らかにレベルが上がっている。

 

六体の巨人の頭上に浮かぶベルはそこから更に絵を描いていく。

 

描いた絵は魔法陣のように輝きを放ち―――――六体の巨人の胸にも同じ紋様の魔法陣が出現した。

 

「………ベルはね、神様は作れないの。でもね、こうやって―――――」

 

ベルが魔法陣を操作すると、魔法陣の輝きがいっそう強くなり、巨人達の胸に描かれた魔法陣の輝きも激しくなる。

 

目映い光が一帯を照らし――――――

 

 

『ゴオオオオオアアアアアアアアアッ!!』

 

 

辺り一帯を震撼させる太い声。

 

目を開けたボクの前にいたのは禍々しいオーラを放ち、腕が十二本もある一体の巨人。

いや、これは巨大な魔神だ。

 

腕の一本一本に巨大な剣を携えた魔神。

 

これは………まさか―――――

 

「………こうしてくっつけるとね、神様みたいに強くなるんだよ?」

 

ボクの背中を冷たい汗が流れた。

 

 

[美羽 side out]

 

 

 

 

 

 

 

衝突する俺とラズル。

ラズルの拳を避け、隙が生じたところに連撃を叩き込む。

 

今のところ五分―――――いや、俺が圧されているな。

 

俺の鎧は所々が壊れ、生身にも決して浅くないダメージが蓄積されている。

 

ラズルは全身から血を流しているものの………、

 

「おらおら、もっとこいよぉ! そんなんじゃ、俺を倒すことはできねぇぜ!」

 

一向に倒れる様子がない。

 

というよりは、遊んでいるようにさえ見える。

 

………さっきから能力をあまり使ってこない。

 

俺が懐に入り込めば斥力の盾で防げば良いし、自分の攻撃を当てたいなら、引力で引き寄せれば良い話だ。

 

それなのにこいつは能力を使わず、俺とただ殴り合うことを楽しんでいる。

 

俺はラズルとの距離を取った後、問う。

 

「どういうつもりだ?」

 

「あ? 何がだ?」

 

「何がって………おまえ、能力ほとんど使ってないだろ。最低限の使用範囲で留めている。そのぐらい、何度も殴り合ってたら分かる。………ふざけてんのか?」

 

俺がそう訊くとラズルは大きな口を開けて豪快に笑う。

 

「ガハハハハハハ! ぶざけてる? んなわけねぇだろ! 俺はな、こういうのが好きなだけだ。己の拳で殴り、殴られる。相手が魔力や魔法をメインの奴なら普通に能力を使ってるだろうがな。………ま、おまえがどうしても使えって言うなら使ってやるぜ?」

 

「いや、別にそこまで言ってない」

 

ただの拳だけでも圧されているのに、ここに能力をフルで使われたんじゃ、一気に圧しきられる。

 

今、俺に言えることは出来るだけ早くにこの戦いを終わらせて、学校の南西―――――小猫ちゃん達の援護に往かないといけないってことだ。

 

さっき、小猫ちゃんから通信があった。

 

 

――――南西方面にグレンデルとラードゥンが現れた、と。

 

 

量産型ならともかく、グレンデルとラードゥンの二体の邪龍をあの二人で相手にするのは正直無理だ。

 

リアス達も量産型邪龍の応戦で手が離せない。

 

闇の獣と化したギャスパーに向かってもらうか………いや、それでは他のメンバーのところに闇の獣が行き届かなくなるかもしれない。

 

焦りが俺の中で生まれていた。

 

かと言って、焦りに呑まれれば、たちまちラズルの拳の餌食になってしまう。

 

………ドライグが帰ってきてくれたら、突破口を切り開ける可能性もあるんだけど。

 

ドライグはまだアルビオンの神器から戻ってきていない。

未だ、歴代白龍皇の説得中のようだ。

 

イグニスを使えればまだマシなんだが………。

 

ラズルの能力を考えると、使おうとした瞬間に斥力で吹っ飛ばされるだろうな。

長時間の戦闘になれば、天翼の状態でも俺の腕が焼ける。

 

やっぱ、イグニスの難点は長く使えないことだな。

 

『そんなこと言っても、これでセーブしてるのよ?』

 

うん、知ってる。

 

何とかしてこの場を切り抜けて小猫ちゃん達を助けに行きたいところなんだが………どうしたものか。

 

「どうしたよ? 手が止まってるぜ?」

 

ラズルが構えながら訊いてくる。

 

俺も構えを取る。

 

「どうやったら、おまえを倒せるか考えていたのさ」

 

「んで? 作戦は立てれたか?」

 

「さっぱり。こっちの土俵でこうも圧されたらな」

 

結構な力を使っている俺に対して向こうはまだまだ余力を残している。

 

格闘戦でこうも苦戦したのは久し振り………でもないか。

今まで苦戦だらけだったし。

 

ラズルの手がこっちに向けられると――――ぐんっと俺の体が奴に引き寄せられる!

 

クソッ、またこれか!

 

このまま格闘戦を続けても拉致が明かねぇ!

 

だったら!

 

「禁手第二階層―――――天撃! からのプロモーション『僧侶』!」

 

鎧を天撃に変更!

ついでに内の駒も『僧侶』に変えた!

 

俺の魔力が増大する!

 

「昇格強化!」

 

『S-Drive!!』

 

天撃の力が底上げされる!

 

キャノン砲が更に増設。

翼、籠手、腰に二門ずつ追加される!

 

合計十二門の砲門が全てラズルへと向いた!

 

俺は引き寄せられながらラズルに叫ぶ!

 

「超連射だ! くらいやがれぇぇぇぇぇぇ!」

 

『Highmat FuLL Blast!!!』

 

強化された砲撃が一斉に放たれた!

止まることなく、ひたすら撃ち続ける!

永遠に続くとも思える砲撃の嵐!

 

昇格強化によって、ドラゴン・フルブラスターの威力は上がり、連射性能も大幅に向上している!

 

「こいつを受け続けられるかよ!」

 

「ぐうっ! 流石にやる!」

 

止まらない砲撃にラズルは引力を解き、完全に防御に徹している。

 

このままいけば!

 

「オオオオアアアアアアアアッ!!」

 

ラズルが吼える!

 

すると、ラズルを襲っていた砲撃の嵐が途端に届かなくなった。  

 

こいつは………斥力のフィールド!

 

強力な斥力の壁を前面に展開することで俺の砲撃を防いでやがるのか!

 

砲撃を受け続けたせいで外見は既にボロボロ。 

それでもラズルは嬉々として、

 

「今のはヤバかったぜ! やっぱり、おまえは油断できねぇな! こっちが勝っていると別の切り札を切って逆転しようとするからな!」

 

「それを簡単に防いでる奴に言われたくねぇよ!」

 

「誉めてるんだから、ありがたく受け取っとけや!」

 

「やかましい! 誉められてる気がしねぇ! つーか、こっちにはそれをありがたく受け取る余裕もねぇ!」

 

どれだけ切り札を切っても倒れる気がしないんだから嫌になる!

 

「とりあえず倒れてくんない!? 三百円あげるから!」

 

「三百円で何を買えってんだ!?」

 

「知るか! 百均にでも行ってろ!」

 

「昨日行ったよ! ベルとおやつ買いに!」

 

「行ったんかぃぃぃぃぃ!」

 

世界中から危険視されてるのに何で百均におやつ買いに行ってんの!?

 

呑気すぎるだろうが!

 

余裕なの!?

それともバカなの!?

 

こいつらの場合、どっちとも取れそうな気がするぞ!

 

「ベルとおやつ買いにって………アットホームだな、おまえら!」

 

「可愛いから良いんだよ! うちの妹の可愛さ舐めんなよ!」

 

「なにを! うちの美羽の方が可愛い!」

 

「んだと、ゴラァ! うちのベルの方が可愛い!」

 

激しい攻防戦を繰り広げながら、俺達は言い争う。

 

確かに能力の凶悪さとか所属とかは置いておいて、ベルは可愛い。

あの眠たそうな目といい、幼さ全開なところも全然ありだ。

 

だがな――――――

 

「うちの美羽舐めんなぁぁぁぁぁぁ! 甘えてくるし、膝枕もしてくれるんだぞぉぉぉぉぉ!」

 

「あぁ!? こっちは肩車したら喜ぶんだぞぉぉぉぉぉ! あの微笑んだときのヤバさがおまえに分かるかぁぁぁぁぁ!?」

 

「なにそれ、超見たいぃぃぃぃぃ!」

 

くっ………まさか、ここで妹自慢バトルになるとは!

 

予想外だぜ!

 

こいつは………こいつは本当に強敵だ!

色々な意味で!

 

俺は砲撃を止めると、再び天武の鎧を纏って前に出る!

ラズルも斥力の盾を消して突貫してくる!

物凄いオーラを全身から放出してやがる!

 

右手のブースターが大きく展開、炎を噴き出す。

 

「シャイニング・バンカァァァァァアアアッ!!」

 

炎を従えた俺の右腕と凄まじいパワーを秘めたラズルの拳が衝突する!

 

二つの強大な力がぶつかる余波で周囲の地面が悲鳴を上げながら変形、巨大なクレーターを作り出していく!

 

「でぇぇぇえああああああああ!」

 

「うおおおおらああああああっ!!」

 

俺達の力は完全に拮抗している。

押しては押され、押されたら押し返す。

その繰り返しが続く。

 

一瞬でも緩めば一気にこの拮抗は崩れるだろう。

 

昇格強化した天武の最大出力でも制することか出来ないのか………!

 

ラズルの底無しとも思えるパワーに舌打ちする。

 

 

その時だった。

 

 

横合いからラズル目掛けて何かが飛んできた!

 

流石のラズルも今のは反応に遅れ、吹き飛ばされた!

 

突然のことに驚く俺だが、目の前で華麗に着地を決める人物を見て、目が飛び出しそうになった。

 

「よう。中々苦戦しているようだな」

 

こちらに手を向ける青髪の美女。

 

「テ、ティアァァァァァァ!? え、なんで、ここに!?」

 

「あー、その反応、さっきも見たからいいって」

 

「何その適当な返し!? ちゃんと説明願います!」

 

俺がそう言うとティアはやれやれとため息をつきながらら答えた。

 

「おまえの母上殿に差し入れを持っていくように頼まれたディルムッドの付き添いで来たら、偶々結界が張られているのを発見。魔槍ゲイ・ジャルグで結界を一時無効化して中に入って今に至る。分かったか?」

 

「分かるかぁぁぁぁぁ!!」

 

俺のツッコミが辺り一帯に響き渡る!

 

差し入れ持ってきたって何!?

付き添いで来たら、偶々結界張られてるの見つけたってどんなタイミング!?

 

つーか、ディルムッドのやつ、差し入れ頼まれたのかよ!

よく引き受けたな!

 

それで良いのか英雄の魂を引き継ぐ者よ!

 

「ディルムッドの姿が見えないけど、どこに?」

 

「あいつは美羽のところに残って戦ってる。向こうもかなり苦戦しているようでな」

 

やっぱり、美羽も苦戦を強いられていたのか。

次々、超巨大魔獣を生み出してたもんな。

 

今でも美羽の気を感じる方向から地響きが聞こえてくるし。

 

「んだぁ!? 誰だよ、俺の邪魔する奴は!?」

 

ティアに蹴り飛ばされたラズルが体についた土を払いながら戻ってくる。

 

派手に吹き飛ばされたようだけど、ダメージはほとんど無いな、あれ。

 

俺はラズルの様子を見ながら、ティアに耳打ちする。

 

「なぁ、来て早々悪いけど………ここを任せていいか?」

 

「なに? どういうことだ?」

 

「………グレンデルとラードゥンが現れたみたいでな。小猫ちゃん達だけじゃ相手取るのは無理だ」

 

「グレンデルにアジ・ダハーカ。ラードゥンまで甦らせたのか………。ルシファーの息子め、やってくれる」

 

伝説の邪龍が次々に復活させられていることに舌打ちするティア。

一体でも面倒な邪龍をこうも簡単に蘇らせられたら、そうなるよな。

 

ティアは頷く。

 

「いいだろう。ここは私に任せて行け」

 

その言葉にラズルが文句をつける。

 

「なんだよ、勇者殿は行っちまうのか?」

 

「悪いな。仲間がピンチなんだ。行かせてもらうぜ」

 

ティアが続く。

 

「なに、案ずるな。私は龍王最強と称されるティアマットだ。私が相手でも満足できると思うが?」

 

暫し睨み合うティアとラズル。

 

しかし―――――

 

途端にラズルは掌をこちらに向けて振ってきた。

 

「やめだ。勇者殿が行くなら俺は帰る。こんな中途半端な入り方されたら、盛り下がっちまうだろうがよ。あーあ、折角テンション上がってたのになぁ。………ティアマットだっけか? おまえと戦うとしたら次だ。そん時にやり合おうや」

 

そう言ってラズルはこちらに背を向けてしまい、足元に転移魔法陣を展開し出した。

 

いきなりの展開に驚いた俺はラズルに問う。

 

「いいのかよ? ここで退けばアセムに何か言われるんじゃないのか?」

 

「俺達は自由に動いているからな。基本的に親父殿が俺達を束縛したり、何かを命じたりすることはない。俺達がここに来たのも自分達の意思だ。退くときも自分の意思に従うまで」

 

なに………?

 

アセムのやつ、従えるために下僕を作ったんじゃないのか?

そんな勝手に動くような下僕を作って何の意味があるってんだよ………?

 

ラズルの言葉に疑問を持つ俺だが、ラズルはそんな俺を無視して言ってくる。

 

「ま、そう言うこった。また機会があればやり合おうや。そこの姉ちゃんもな」

 

それだけ言い残してラズルはこの場から消えていった。

 

あまりにもあっさり退いてくれたのでポカンとする俺とティア。

 

ティアがぼそりと呟く。

 

「………変わった奴だ」

 

「………あ、ああ。なんていうか、敵っぽくない。本当にリゼヴィム側にいるのか疑いたくなるくらい真っ直ぐな奴だった。………つーか、全体的にアットホーム」

 

「リゼヴィムとアセム………。奴らは一枚岩というわけでもないのかもしれん。まぁ、アセムはイッセーに関心があるようだから、おまえ限定で何かしてくるかもしれんが………」

 

「やめてくんない、そーいうこと言うの。男に興味持たれるとか………最悪じゃん」

 

興味持たれるなら女の子一択!

 

「さて、ラズルも去ったことだし、俺は小猫ちゃん達のところに行くよ。ティアは――――」

 

 

ドゴォォォォォォォォオン!!

 

 

突然、轟音と巨大な地響きが俺達を襲った!

 

な、なんだぁ!?

 

俺とティアは驚きながらも、その轟音が聞こえてきた方を見る。

 

俺達の視線の先には――――――

 

「おいおい………なんだありゃ!?」

 

十二本の腕を持つ巨人が剣を振り回して大暴れしていた!

 

あの場合には美羽がいる………ってことはあれはベルが召喚したのか!

 

あの巨人は魔王クラス………下手すりゃ、それよりも上だ。

 

神クラスは作れないんじゃないのかよ!?

 

ティアが目を細目ながら言う。

 

「あれは美羽とディルムッドだけでは抑えきれまい。仕方がない、私が行くとしよう。また戻ることになるがな」

 

「いいのか?」

 

「私が行けば何とかなるだろう。それよりもおまえはグレンデルを潰してこい。弱者にも牙を剥けるドラゴンの風上にもおけん奴だ。―――――必ず始末しろ。いいな?」

 

「了解だ。まぁ、端からそのつもりだけどな」

 

俺がそう答えるとティアはふっと笑みを見せた。

 

ここで俺達は別れ、俺は小猫ちゃん達がいる学校の南西へ、ティアは美羽達の元へと向かった。

 

 



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17話 邪龍倒します!

風邪でのどが痛い!
でも、書いちゃう!




学園の南西部。

空にも地にも邪龍の群れがうじゃうじゃしている。

 

「どきやがれっ!」

 

俺は向かってくる量産型の邪龍を仕留めながら前に進んだ。

 

進む方角からは邪悪なオーラが二つ。

 

片方は今回が初だが、もう片方は知っている。

 

―――――邪龍、グレンデル。

 

このしつこそうなオーラは間違いない。

 

あいつは天武の鎧の一撃を食らって、体が半分になっても向かってきやがった。

 

木場達から聞いた話ではリアスの新必殺技を受けて、頭だけになっても戦おうとしたという。

 

頭のネジが飛んだイカれたドラゴン。

 

攻撃的で残虐。

戦うことよりも殺すことに喜びを見出だす奴だ。

 

今回は逃がしやしない。

 

今日、ここで必ず仕留める。

二度と復活できないように。

 

拳を振るいながら、グレンデルを確実に仕留める方法を考えていた。

 

その時―――――視界に巨大な火柱が映った。

 

紫色の炎。

巨大な火柱は十字架を形作っていて――――――

 

「なっ………!? おいおい、なんでこっちにあれが上がるんだよ!?」

 

通信では学校の北側、リアス達と交戦中のはずじゃ………。

 

まさか、態々こっちに移動してきたのか………?

 

クソッ………嫌な予感しかしねぇ!

 

胸騒ぎがした俺は飛行スピードを上げて、現場へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

あの紫炎を見てから、直ぐのことだ。

 

現場へと到着した俺は――――――言葉を失った。

 

「このっ………!」

 

「なんで砕けないのよ!」

 

球状の結界らしきもものに囚われ、動きを封じられている小猫ちゃんとシトリー眷属の一年生、仁村さん。

結界を内側から殴り付けているがびくともしていない。

 

「こい、邪龍め!」

 

「我らが相手だ!」

 

「あの学校には行かせないぞ!」

 

槍や剣を握り勇敢に立ち向かおうとする鎧姿のお父さん達。

全員、鎧も原型を留めないぐらいボロボロだ。

 

そして―――――

 

「………っ」

 

全身から煙をあげる匙の姿があった。

 

匙は言葉もなくその場に倒れこんでしまう。

 

まさか、直撃を受けたのか!?

 

俺の耳に高笑いが聞こえてくる。

空からだ。

 

上を見上げると宙に展開する魔法陣の上に人影が一つ。

 

「おほほほ、ごめんあそばせ。ついつい超強めの十字架を放ってしまいましたわん」

 

紫炎のヴァルブルガッ!

 

あいつが………あいつが匙をやったのか!

 

匙の近くにいたグレンデルが上空を見上げて、文句をつける。

 

『おいおいおい! 人が楽しんでるところに横槍は止めてくれや! クソ魔法使いがよ!』

 

「あらあらん。ちょっとぐらいいいじゃない? だってぇ、そこの悪魔くん、すんごく必死なんだもの。私もいじめたくなりましたわん」

 

地に倒れ伏す匙は全身から煙を上げて、動く気配を見せない。

 

あの炎は聖遺物!

俺達悪魔にとって猛毒どころか必殺技に等しい効果を出す!

 

それの直撃を受けてしまえば匙は………!

 

「匙ぃぃぃぃぃぃっ!」

 

俺は降りかかってくる邪龍共を蹴散らし、匙に駆け寄った。

 

倒れる匙を抱き抱えると………。

 

「………兵、藤………来てくれた………のか?」

 

今にも消えそうな弱々しい声だった。

 

肌は焼けただれ、全身から赤い血を流れ出ている。

見れば、左足は青く腫れ上がっていて、明らかに折れていた。

 

それに紫炎を受けたせいで………消滅しかかっている!

 

「しっかりしろ、匙! おい、聞こえてるのか!? 返事をしろ! 待ってろ、今、治してやるからな!」

 

俺は懐を探る。

 

取り出したのはフェニックスの涙だ。

これはレイヴェルをトレードした時に俺の昇格したお祝いにとレイヴェルの親父さんがくれたもの。

 

こいつで匙を――――――

 

「ちぃっ!」

 

俺は咄嗟に匙を抱えて、その場から飛び退く。

 

ついさっきまでいた場所に巨大な紫炎の十字架が立ち上がった。

 

俺は上空を睨み付けながら叫ぶ。

 

「邪魔すんじゃねぇよ、ヴァルブルガ!」

 

「だってぇ、狙うなら今だと想いましたしぃ。まぁ、外してしまいましたけどねん」

 

そう言ってヴァルブルガは匙を抱える俺に向けて紫炎を次々に放ってくる!

 

ええい、くそったれめ!

 

こちとら、あんな嫌な女にかまってる暇はねぇんだよ!

 

俺は即座に鎧を天翼に変えて、フェザービットを展開。

 

五つのビットがクリアーレッドの障壁をピラミッド状に組み、俺達を攻撃から守る。

 

今ならいける!

 

俺は小瓶の蓋を開け、匙に振りかけた!

 

こいつを消滅させてたまるかよ!

 

こいつには夢がある!

 

「匙! 死ぬんじゃねぇ! 先生になるんだろうが! こんなところで寝てる場合じゃねぇだろ!」

 

俺は必死になって匙に声をかけた。

 

ふいに俺の視界に匙の左手が映った。

左手の甲には神器が装着されていて、一本のラインが出ていた。

 

そのラインを追っていくと、グレンデルの足に繋がっているのが分かった。

 

俺の脳裏に匙の言葉が蘇っていく―――――。

 

 

―――――なぁ、兵藤。

 

―――――子供達がさ、俺を『先生』って呼んでくれるんだ。………俺を『先生』って。俺なんてまだまだなのにな。

 

―――――兵藤、俺、ここで子供達の対応をしてきて再認識できたよ。俺は絶対に『先生』になる。まずは中級悪魔にならなきゃいけないけどさ。

 

―――――それでも、絶対になるぜ。

 

 

匙が掠れた声で言う。

 

「あいつら………学校を潰すって………あそこには………あそこには………」

 

ぼそりぼそりと呟きながら、立ち上がろうとする。

 

フェニックスの涙で傷が塞がり、消滅の危機をなんとか脱したとはいえ、紫炎の………聖遺物によるダメージは大きすぎる。

 

動けるような状態じゃない。

 

まだ、意識も朦朧としているはずだ。

 

それなのに………!

 

「………行かせられるか、行かせるかよ………っ」

 

こいつは………匙はあの学校を、子供達を守ろうと………前に出る………!

 

グレンデルに立ち向かおうとする!

 

俺はそんな匙の肩を掴んで止めた。

 

「バカ野郎………! おまえってやつはよ………! そんなになってまで………!」

 

匙、今のおまえの脳裏にはあの子達の笑顔が浮かんでいるんだろう?

だから、守ろうとして、敵わないとわかっている相手にも立ち向かおうとするんだろう?

 

俺は涙を流しながら、匙に言った。

 

「おまえはよくやった………! よく、俺が来るまで持ちこたえてくれた! あの学校はおまえが守ったんだ、匙!」

 

だからさ―――――

 

「ここから先は俺に任せろ。おまえが守ったあの学校と子供達には一切手は出させねぇよ」

 

 

 

 

 

 

俺はフェザービットの障壁で匙を覆った後、グレンデル達の前に出た。

 

グレンデルが大きな口を吊り上げながら言う。

 

『よう、赤龍帝、久し振りだなっ! 調度いいところに来てくれたぜ! そこのクソガキじゃ物足りなかったんでな!』

 

その横にはドラゴンの形をした木………いや、巨大な木のドラゴンが立つ。

 

顔と思われる部位が大きく裂ける。

あれが口で、窪みの中で赤く輝くのが眼ということなのだろう。

 

木のドラゴンが俺を捉えて声を発した。

 

『初めましてですね、現赤龍帝。「宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)」ラードゥンと申します。主に結界・障壁などを担当しておりまして………以後、お見知りおきを』

 

こいつがこの周辺丸ごと結界で覆ったドラゴンか。

防御、封印に関するものに長けているらしいな。

 

確か、初代ヘラクレスの試練の一つで、毒蛇であるヒュドラの毒を口に放り込まれて倒されたと聞いた。

 

まぁ、そんな便利アイテムなんて持ってないし、あったとしても聖杯で強化されているから効かないだろう。

 

俺はグレンデル、ラードゥンと上空にいるヴァルブルガを見渡して問う。

 

「………一応、聞いておく。なんで学校を狙った?」

 

その問いにグレンデルが答える。

 

『その学校ってのを壊そうとすると、本気になって俺様と遊んでくれるって聞いてたからな。まぁ、そこのクソガキ程度じゃ遊びにもならなかったけどな! ヴリトラがいりゃ、マシだったかもしれねぇけどよ? 神器くっつけた程度のザコじゃあ俺の相手は無理だぜ! ゴミくずみてぇに踏んでやったよ! グハハハハッ!』

 

………そんなことだろうとは思ったよ。

 

そんなことを言われたら匙は退けない。

何がなんでも足を止めようとしたはずだからな。

 

俺は球状の結界に閉じ込められている小猫ちゃんと仁村さんに近づいていく。

 

二人とも泣きそうな表情をしていた。

 

「イッセー先輩………」

 

「兵藤先輩………匙先輩は………?」

 

「大丈夫だ。フェニックスの涙を使ったから何とかね」

 

俺がそう答えると仁村さんは心の底から安堵していた。

 

さて、二人を覆うこの結界だが………。

 

俺が結界に触れると、ラードゥンが言う。

 

『その結界は半端な攻撃では破れません。噂の「D×D」メンバーの攻撃力を試したかったのですが………そこの二人では破ることは出来ませんでしたね。あなたはどうです、現赤龍?』

 

すると、小猫ちゃん達を覆っているものと同じ結界が俺に張られ、俺を封じ込めた。

 

なるほど………確かに防御、封印が得意とだけはある。

瞬時に強固な結界を俺に張りやがった。

 

小猫ちゃんの闘気を込めた拳や仁村さんの蹴りでも壊せないのはそれだけ硬いということ。

 

まぁ、でも―――――

 

「これくらいで封じ込めると思うなよ?」

 

俺は渾身の拳を打ち込み――――――結界を破壊した。

 

バリンッというガラスが割れるような音と共に砕け散る。

 

俺は解放されたと同時に小猫ちゃんと仁村さんを覆っていた結界も破壊し、二人を助け出した。

 

この様子にラードゥンは感嘆の声を発する。

 

『ほう、私の結界をこうも容易く。流石は若くして魔王クラスと称されるだけはありますね。あなたに対しては少々手を抜きすぎたようです。………しかし、現代の若手悪魔というのは中々の力をお持ちのようですね』

 

ラードゥンが魔法陣を展開する。

 

すると、宙に映像が映し出された。

 

そこに映っているのは――――――

 

『ふんっ!』

 

黄金の獅子を纏うサイラオーグさんの姿だった。

拳を振るい、迫る邪龍の群れを次々に蹴散らし、飛んでくる魔法を撃ち破っていた。

 

魔法を放っているのは三つ首の邪龍アジ・ダハーカ。

 

サイラオーグさんはアジ・ダハーカと戦闘中なのか!

 

『滅んでもらうぞ、邪龍共ッ!』

 

闘気を大量に放出し、アジ・ダハーカに向かっていくサイラオーグさん。

 

サイラオーグさんも町と学校を守るために、巨大な敵に立ち向かっている。

 

子供達の未来を奪おうとする邪悪な存在を滅ぼすために。

 

だったら、俺も滅ぼそう―――――目の前の邪悪なドラゴンを。

 

俺は赤いオーラをたぎらせる。

 

「小猫ちゃんと仁村さんは匙とあそこで戦っている人達を守りながら量産型を叩いてくれ」

 

「………イッセー先輩はどうするんですか?」

 

「俺は………こいつらを始末する。イグニス、手伝ってもらうぜ」

 

『オッケー。今回ばかりはお姉さんも張り切っちゃう。匙くんも頑張ってたしね。私達も何がなんでも守るわよ?』

 

俺は仁村さんが仁村さんが倒れている匙を保護したのを確認するとイグニスを呼び出す。

 

匙を守っていたフェザービットはイグニスの刀身にくっつくとカシャカシャという音と共に変形し、イグニスと合体。

 

出来上がるのは刀身が三メートル近くはある超巨大な剣だ。

 

『なんだ? 見たことねぇもん持ってるな。そのバカでけぇ剣で俺とやり合おうってか? 面白ぇ!』

 

哄笑をあげながら俺を迎え撃とうとするグレンデル。

 

俺は奴の言葉を無視して言う。

 

「グレンデル。………おまえ、匙のことザコだって言ったな?」

 

『あっ? それがどうしたよ? ザコにザコって言って何が悪い? 実際、そこのクソガキは俺に手も足もでなかったぜえぇぇぇ! グハハハハ!』

 

口を大きく開き、一層大きな声で笑うグレンデル。

 

「――――取り消せ」

 

『なんだと?』

 

「取り消せよ、その言葉。あいつのどこが弱い? 見てみろよ、おまえの足に未だに繋がってるラインを! 意識すら戻ってない状態で! あいつはおまえと戦っているんだよ! そんなあいつのどこが弱いってんだ!」

 

あいつの左手から伸びるラインはグレンデルの足にずっと繋がっている!

 

足を折られても!

全身ズタボロにされても!

聖遺物の炎で消滅の危機に瀕しても!

 

死んでもおかしくない状態で、あいつは一人でグレンデルに立ち向かっていた!

子供達を守るために!

 

だから、俺は許せねぇ!

 

「あいつをザコ呼ばわりするんじゃねぇよ!」

 

俺はそう叫ぶと地面を蹴って駆け出した!

 

『はっ! ゴタゴタうるせぇよ!』

 

グレンデルの口から巨大な火炎が放たれる!

 

このままいけば直撃コース!

俺はグレンデルの炎をまともに受けることになる!

 

だけど、俺は避けない!

 

「あいつが受けたのは痛みはこんなもんじゃねぇ!」

 

俺は迫る火炎を拳でぶち抜き、高く跳躍する!

 

上空で腰を捻り、回転の勢いをプラス。

 

超巨大剣をグレンデルの頭上から振り下ろす!

 

「てめぇはここで終わりだ!」

 

『そうね。あなたは魂のまで―――――』

 

「『燃え尽きろ!』」

 

 

紅蓮の斬戟がグレンデルを真っ二つに切り裂いた―――――。

 

 

 

 

 

ズゥゥゥゥン

 

 

地響きをたてながら、真っ二つになったグレンデルの体が倒れた。

 

体の断面にはイグニスの炎が燻っていて、現在進行形でグレンデルの肉体を焼いている。

 

『んだよ……これはよ!? 魂が………俺様の魂が薄れて………消されていくのか!?』

 

体が半壊しても、頭だけになっても戦意を失わなかったグレンデルが驚愕し、激しく動揺していた。

 

それもそのはず。

 

今までグレンデルは聖杯によって何度も肉体が再生できるという前提で戦っていた。

だから、体がどれだけ壊れようとも向かってきた。

 

しかし、復活できるのは魂があってこそだ。

 

つまり、聖杯があっても魂が消滅してしまえば、復活はできない。

 

「おまえは炎に焼かれて消える。肉体だけじゃない、魂までな」

 

イグニスが続く。

 

『その炎は消そうとしても無駄よ。私の意思がない限り消えないから。どんな術を使おうともあなたの消滅は確定よ、邪龍グレンデル』

 

「つまり、もうおまえは復活はできない。ここで終わりだ」

 

俺は紅蓮の炎に燃やされ、消え行くグレンデルにそう告げた。

 

グレンデルは息も絶えそうな声を漏らす。

 

『クソッタレ………マジ、かよ………。この俺が………? ちくしょう………なんで俺が………』

 

それだけ言い残すと邪龍グレンデルという存在はこの世から完全に消滅した。

肉体も、魂までも―――――。

 

大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデル。

 

以前戦った時にイグニスを使えていれば、もっと楽に事が運んだのかもしれないが………それは言っても仕方がない。

 

とりあえず、これが『D×D』結成後の初戦果ってところか。

 

俺はイグニスを仕舞いラードゥン達の方を振り返る。

 

すると―――――

 

「次………って、いねぇ。あいつら逃げやがったな」

 

辺りを見渡してもラードゥンとヴァルブルガの姿はなかった。

 

おそらく、俺とグレンデルがやり合った一瞬に逃げたのだろう。

 

『んっふっふっー。私の力に恐れをなしたわね』

 

イグニスが実体化し、俺の横にお姉さんが現れる。

 

まぁ、そうでしょうね。

 

あんたの力はマジでヤバい類いだから。

単純に出力が違いすぎる。

 

サマエルでも焼死するレベルだからね。

 

「どう? 今回の私は駄女神じゃなかったでしょ? 子供達を守るために、必死になって邪龍と戦う匙くんの姿に心を打たれて力を発揮する私………! かっこいい………!」

 

「自分で言う!?」

 

つーか、この人、自分で『駄女神』って言ったぞ!?

自覚あったのか!?

 

イグニスは俺に抱きつき、頬擦りしてくる!

 

「私、久しぶりに女神したから疲れちゃった。私、シリアスになると疲れるのよねぇ」

 

「シリアスになると疲れるってなに!?」

 

「シリアスモードはもって三分ね。それ以上は続かなーい。というわけで、お姉さんはシリアスブレイカーになっちゃうぞ♪」

 

うわぁぁぁぁぁぁん!

 

やっぱり、この駄女神ダメだぁぁぁぁぁぁ!

 

ちょっと前まではカッコよかったのにぃぃぃぃぃ!

 

少しでもそう思った俺がバカのか!?

俺が悪いのか!?

 

「ちょ、ここ、まだ量産型いるから! こんなことしてる場合じゃないって!」

 

「えー、ケチー」

 

「えー、じゃない! とにかく―――――のわっ!?」

 

イグニスを引き剥がそうとした俺だが、バランスを崩し、倒れてしまう。

 

あー………俺、何やってんだろ………。

皆、戦ってるのになぁ。

 

などと思いながら起き上がろうとすると――――――

 

 

むにゅん

 

 

やわらかい感触が俺の手に。

 

ふと視線を下ろすと――――――イグニスのおっぱい揉んでた!

 

くっ………なんてやわらかさ!

相変わらずの女神おっぱい!

最高です!

 

イグニスは特に驚くことなく、

 

「いゃん♪ このタイミングで揉んでくるなんて、流石はラッキースケベね。私の見込みに間違いはなかったわ」

 

「見込みってどんな見込み!?」

 

 

俺のツッコミが辺りに響く――――――。

 

 

「………何やってるんですか、ドスケベ先輩」

 

小猫ちゃんが邪龍をこっちに投げてきた。

 

 

 

 

 

 




今回使った超巨大剣はクアンタのバスターソードのイメージです。


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18話 黒龍、覚醒!

[アリス side]

 

 

「こん………のぉ!」

 

私が槍を振るう度に金属の打ち合う音がこだまする。

 

私、アリス・オーディリアはアスト・アーデの神アセムの下僕の一人、ヴィーカと戦闘真っ最中だった。

 

「ウフフ、今回は粘るじゃない。短期間で腕をあげてくるなんて………流石というべきかしら?」

 

ヴィーカは周囲に展開した魔法陣から創造した剣や槍を放出、私が避けたところをヴィーカ本人が攻撃してくるという戦法を取っていた。

 

前回はヴィーカの術中に嵌まり、遅れを取ってしまった。

 

だって………マシンガンとかいうこっちの世界の武器使ってくるし!

あんなの知らないわよ!

なんであんなゴツい銃あるの!?

なんであんなに撃てるのよ!?

 

おまけに、ヴィーカも得物をころころ変えてくるし!

 

ほんっと、やりにくいわね!

 

私は繰り出された槍の一撃を捌きながら言う。

 

「お誉めにあずかり光栄ってところかしら? あんたに誉められても全然嬉しくないけど!」

 

「あら残念♪」

 

ヴィーカは槍を捨てると、銃を二丁呼び出し両手で握る。

 

「じゃあ、弾丸をあげるわ。聖なる力付きでね」

 

銃の引き金が引かれ、二丁の銃が火を噴いた!

 

くっ………また、これ!

 

ただの銃なら弾切れを待つところだけど………この女の場合、それは無駄。

 

下手に受けてしまえば、悪魔になった私はダメージが大きい!

 

もう、悪魔ってめんどくさい体してるのね!

 

………あ、でも、イッセーといたくないってわけではなくて………。

 

ずっと一緒なら、それでも………って戦闘中に何考えてるのよ、私!?

 

「あああああああ! 後で一発殴ろう! うん、そうしよう!」

 

「………何、一人で騒いでるの?」

 

「なんでもないわよ! あんたには関係ないことだから気にしないで!」

 

さっきまでの思考を振りきるように私は横凪ぎに一閃。

 

穂先に雷を纏わせて振るったため、余波で前方の地面が弾け、深く抉れていく。

 

ヴィーカは大きく後ろに飛び、今のを回避していた。

 

ヴィーカが口許に手を当てて笑む。

 

「もしかして、愛しの勇者さまのことを考えてた? いゃん♪ 王女さまったらラブラブゥ!」

 

「うううううっさい!」

 

一々ムカつく女ね!

とりあえず、一発殴るまでは引けない!

 

ただ………中々それが出来ないのよね。

 

容易に突っ込めば、四方に展開された魔法陣からヴィーカが創造した武器が飛んでくる。

仮にそれを避けても、ヴィーカの卓越した戦闘技術でかわされ、下手すればカウンターをもらう。

 

どうにも攻めにくい。

 

………というより、このヴィーカという女、まだ何か隠している気がするのよね。

 

それが何か分からない内は無闇に仕掛けるのはダメ。

 

前回の轍は踏みたくない。

 

そんなことを考えているとヴィーカが口を開く。

 

「さっきから私のことジロジロ見てきてるけど………あなたまさか………」

 

どうやら、私の心の内を知られたようね。

 

ヴィーカの奥の手を探っているのがバレたとなると、彼女はどう出るか………。

 

奥の手を隠し通してくるか、もしくはこの場で披露してくるかの二択だと思うのだけれど。

 

しかし、ヴィーカが次に口にした言葉は―――――

 

「あなたまさか………レズなの?」

 

「は?」

 

「いえね、さっきから私の体を舐め回すような視線で見てくるから………。まぁ、自分で言うのもなんだけど? 私はこの通りナイスバディだし? あなたと違っておっぱいも大きいし?」

 

などと言ってヴィーカは胸を強調してくる!

腕で胸を持ち上げてこれ見よがしに谷間を見せてくる!

 

ムカつくぅぅぅぅぅぅぅぅ!

この女、ほんっとムカつくぅぅぅぅぅぅぅぅ!

 

「わ、私だってね! 胸くらい………そんな谷間くらい………………………………グスッ」

 

「………泣くくらいなら意地を張らなければ良いのに」

 

「うるさいわね! ちょっとくらい夢見ても良いでしょ!? というか、これから育つし! 大きくなるし! 谷間ぐらいできるしぃぃぃぃぃ!?」

 

言ってて悲しくなるけど、言わずにはいられない!

それでも、何か言い返したい!

 

涙目になる私を憐れむような目で見てくるヴィーカ。

 

お願いだから、そんな目で見ないで!

惨めになるから!

 

ヴィーカは息を吐く。

 

「まぁ、冗談はここまでにしておいて………。あなた、私の能力………奥の手でも探ってるんでしょ? 隠しても無駄よ。前回よりも攻めが慎重になっているもの」

 

「あら? 気づいているのなら話は早いわね。見せてもらえるのかしら?」

 

「奥の手は最後まで取っておくから奥の手なのよ? そう簡単に見せるわけないでしょ?」

 

………だと思った。

 

まぁ、そんなホイホイだすような奥の手って既に奥の手じゃないものね。

 

となると、ここからはより慎重に手を考えないといけない。

 

さて、どうしましょうか?

 

ムカつく女だけど、ヴィーカは強い。

更に他に手札があるとすれば厄介ね、ほんっとムカつくけど。

 

私は槍を構えてヴィーカと睨み合う。

 

その時、この場に近づいてくる気配があった。

 

現れたのは長身痩躯で、茶髪を後ろで括った男性。

『覗者』のヴァルス。

 

確か、木場くんと戦っていたと思うのだけど………まさか!

 

私はヴァルスが何かを担いでいることに気づいた。

 

それは―――――血塗れの木場くんだった。

 

「木場くん!?」

 

私が名前を呼ぶが、返事がない。

 

いや、返事が返ってこないことなど、ああして担がれている時点で分かっていた。

 

ヴァルスが木場くんを地面に下ろす。

 

「ご安心を。彼は死んでいませんよ。このまま放置すれば命を落とすでしょうが、今すぐ治療すれば問題ないでしょう」

 

「………っ!」

 

見たところヴァルスに傷が見当たらない。

体にも服にも一切。

 

騎士王状態の木場くんを完封したというの………?

 

ヴァルスの能力は相手の心の内を読むことに加え、一瞬先の未来を見るという反則級の能力。

 

それにしたって、木場くんの剣を掠めることもせず、ただ一方的に仕留めたその技量は恐ろしい。

 

「いえ、仕留めてはいませんから。彼は死んでいませんって」

 

「………さりげに心の内を読まないでくれる?」

 

女性の心を探るなんてデリカシーに欠けるわね、ジミー。

 

「心の内で悪口言うのやめくれませんか!?」

 

はいはい、分かったわよ、ジミー。

 

「泣きますよ!?」

 

あ、ジミーが泣いた。

 

私は地面に横たわる木場くんに視線を移す。

 

確かに呼吸はあるようだし、死んではいない。

アーシアさんの治療を受ければ問題ない。

 

だけど、この状況………。

 

私はヴィーカと戦闘中。

正直、こちらが劣勢。

 

そんな状況でヴァルスが現れた。

 

今、二対一なんてされたら、厳しいところ………。

 

すると―――――

 

「ヴィーカ、今日はここまでにしましょう」

 

ヴァルスが言った。

 

ヴィーカも頷く。

 

「ええ。彼女もそこに倒れてる子が気になってしょうがないみたいだし? ここまでにするわ」

 

そう言ってヴィーカは展開していた全ての武器を仕舞った。

 

怪訝に感じた私は二人に問う。

 

「………どういうつもり?」

 

すると、私の問いにはヴァルスが答えた。

 

「簡単に言えばあなた方を見逃した、ということですよ」

 

「なんですって?」

 

私が聞き返すとヴァルスは血塗れの木場くんを見下ろす。

 

「ここで彼を殺すのは簡単です。………が、それは惜しい。彼はこれからまだまだ伸びるでしょう。その果てを見ずしてここで絶つのは実に惜しいことです」

 

ヴィーカも続く。

 

「今のあなたは彼が気になって仕方がないんでしょ? そんな状態で十全の力は発揮できないでしょ? だから、私は帰るわ。また、手合わせしましょうね♪」

 

二人はそれだけ言い残すと、この場から去って行った。

 

………なんなのよ、あいつら。

舐めてる………って感じでもなさそうだけど………。

 

私は色々な疑問を浮かべながらも、木場くんを担ぎ、アーシアさんのところへと急いだ。

 

 

[アリス side out]

 

 

 

 

 

 

襲い来る量産型邪龍を蹴散らしながら俺、小猫ちゃん、匙、仁村さんの四人は学校の眼前に到着した。

 

俺の視界には奮闘する仲間達の姿。

 

「遅かったね、イッセーくん!」

 

「山場に駆けつけるなんて、まるで物語の主人公だな!」

 

レイナとゼノヴィアか息をあげながらも邪龍を撃退していた。

 

ふと視線をやれば、向こうの方で邪龍の一体が飛び上がった。

 

いや………飛び上がったにしては不自然だ。

 

不自然な飛び上がりをするのは一体だけではなかった。

次々と上空に打ち上がっていく。

 

巨大な邪龍達が上に投げ飛ばされたような光景が展開していて、その奇妙な現象は徐々にこちらへ近づいてくる。

 

俺の視界に―――――立ち上る極大の闘気が映り込む。

 

「待たせてすまない。アグレアスの戦闘はこちらが優勢になったのでな。俺だけでもと送り出されてきた」

 

サイラオーグさんが邪龍の群れを殴り飛ばしながら不敵に笑んだ。

 

そうか、アグレアスはこっちが優勢なのか!

それを聞いた皆も笑みをかえし、気迫に満ちた攻撃を仕掛けていく!

 

リアスがサイラオーグさんに駆け寄る。

 

「サイラオーグ! 来てくれたのね!」

 

「ああ。向こうはシーグヴァイラ・アガレス達に任せている。相手側の手が薄れたのでな。アジ・ダハーカが退いた理由が気になるのだが………」

 

サイラオーグさんは少し引っ掛かるといったような表情を浮かべていた。

 

サイラオーグさんはアジ・ダハーカと戦っていたようだけど、この言い方だと向こうが不利になったから退いたという感じでは無さそうだ。

 

俺はリアス達に言う。

 

「こっちはグレンデルを完全に倒した。うちの女神さまがやってくれたよ」

 

「どう? すごいでしょ? 魂まで燃やし尽くしたから、もう二度と復活しないわ」

 

実体化したイグニスがえっへんと胸を張る。

 

この報告に皆が歓喜する。

 

まぁ、イグニスの炎に触れたら何でも消え去るよね。

 

皆に一通りの説明をしていると、近くで白い閃光が煌めき、量産型邪龍の群れを一気に蹴散らしていった。

 

更にその近くでは巨大な竜巻が巻き起こり、邪龍達を吸い込んでいく。

 

俺達の前に姿を現したのはもちろん――――

 

「お待たせ、イッセー。こっちは何とか無事よ」

 

アリスとアーシア、ロスヴァイセさん。

それから、アリスに肩を貸してもらっている木場の姿。

 

木場のやつ、ボロボロなんだが………まさか、ヴァルスにやられたのか!?

 

「お兄ちゃん達は無事?」

 

こっちはティアに担がれている美羽とディルムッド。

三人とも疲労が激しそうで、同じくボロボロ。

 

俺は今合流してきたメンバーのもとに駆け寄り、事情を聞く。

 

アリスが言う。

 

「ヴィーカもヴァルスも帰っちゃったのよね。まぁ、あの場で帰ってくれたのはありがたかったけど」

 

「ごめん、イッセーくん。こっちは手も足も出なかったよ」

 

木場が申し訳なさそうに謝ってくる。

 

いや、木場は悪くない。

 

ヴァルスの能力が反則なだけだ。

相手の心の内を読むということはカウンターを放つことなんて簡単だし、先手を打つことも余裕だ。

 

ある意味最強のテクニック殺し。

 

木場では相性が悪すぎる。

 

かといって、俺がやって勝てるかと聞かれると微妙なところだ。

 

こちらの動きが読まれるなんて、対策のしようがない。

 

大規模攻撃で一気に吹き飛ばすことが出来れば良いが………チャージしている一瞬に斬られそうだ。

 

俺は美羽達に視線を移す。

 

「ベルは?」

 

「退いたよ。他の三人が帰ったから帰るって。あのまま続けられてたら結構不味かったかも」

 

美羽が疲弊した体でそう言った。

確かに美羽達が戦う余波は俺のところにまで届いていたけど………。

 

ベルの力はとんでもないな………。

いや、アセムの下僕全員に言えることだけどさ。

 

「…………」

 

ふとイグニスの方を見ると美羽とアリスを見つめて何か考えていた。

顎に手をやり、珍しく真剣な顔つきだ。

 

イグニスの視線に気づいた二人は怪訝な表情を浮かべて、

 

「どうしたの?」

 

と聞いてみるが、イグニスは何も答えずただじっと二人を見る。

 

………何を考えているんだ?

 

暫しの沈黙の後、

 

「ねぇ、美羽ちゃん、アリスちゃん。二人とも――――」

 

 

ドゴォォォォォォォォォォン!

 

 

イグニスがそこまで言いかけた時、轟音が鳴り響く!

 

見れば空から量産型邪龍がこれでもかというぐらいに降ってきていた!

 

「話は後だ! アリスとティアは前衛、美羽は後衛だ! 木場は消耗が大きすぎるから少し休んでいろ! ディルムッドは――――」

 

「私はマスターを守るだけだ」

 

そっけなくそう返すディルムッド。

 

俺はフッと笑みを浮かべるとその場を駆けだした。

 

 

 

 

「………消えてもらいます」

 

白装束の猫耳お姉さん――――白音モードとなった小猫ちゃんが火の輪っかを飛ばして邪龍を塵に変えていく。

 

初めて見る白音モード。

 

邪な存在は塵にされると聞いていたが、効果は抜群だな!

 

つーか、小猫ちゃんが成長するとあんなにおっぱいが大きくなるのか!

しかも超美人!

あのロリロリな小猫ちゃんがあんなお姉さんになるなんて感動だよ!

うーん、これは良いものが見られたかも!

こんな時になんだけど!

 

とりあえず、俺も負けてられねぇ!

 

「おらおらぁ! 消え去りやがれ」

 

『Highmat Full Blast!!!!』

 

天撃の鎧となっている俺は砲撃の嵐を量産型邪龍共にお見舞いして、消し飛ばしていく!

 

「ふんっ!」

 

「くらいなさい!」

 

サイラオーグさんやリアスも単独で複数の邪龍を相手取り、蹴散らしていた。

 

「イッセーくん! 剣士の誰かに譲渡を!」

 

「了解だ!」

 

ソーナはこの学校の周囲を丸ごと水の結界で維持しながら、全員に的確に指示を送っていた。

 

そのソーナを守るように回復したばかりの匙とシトリーの『僧侶』二人組である花戒さん、草下さんが配置されている。

 

「回復を!」

 

回復役のアーシアも懸命に動き、傷ついた仲間を癒していた。

こちらも疲労の色が強いが、それでも倒れずに回復の光を飛ばしてくれている。

 

戦闘が続くなか、学校の方でまばゆい閃光が溢れ出し始める。

 

あれは………転移の光!

魔法使い達の術式が完成したのか!

 

転移の光が学校全体を包み込むように大きく広がっていく。

 

転移魔法陣で避難している住民や子供達が町の外へ避難できれば、あとはこの一帯を覆う結界がなくなるまで持ちこたえればいい。

 

奴らの術式も永遠に続くというわけではないからな。

 

しかし―――――

 

「………? 転移が始まらない?」

 

美羽がそう口にした。

他の皆も一向に転移が始まらない状況に訝しげに首を傾げている。

 

「………様子がおかしいですね。下で何かあったのかもしれません」

 

ソーナが地下シェルターの魔法使いに連絡を取ろうとした時だった。

 

転移魔法陣が怪しい輝きを放ち、一筋の光をとある方向に飛ばした。

 

その光の先にあるのは――――――空中都市アグレアス!

 

予想外の光景に全員が仰天していると、高笑いが辺りに響いた。

 

その声が聞こえるのは上空。

 

そこに立つのは紫炎のヴァルブルガ!

 

「おほほほ、残念でしたわねぇ。アグレアスとここを攻めるというのは建前ですのん」

 

ソーナが何かに気づいたようだ。

 

「なるほど。本当の狙いはアグレアスそのもの、ですね? あれは旧魔王時代から存在する浮遊島です。未だ島の原理をアジュカ・ベルゼブブさまが解析中のものでした。旧魔王――――つまり、前ルシファーの息子たるリゼヴィム・リヴァン・ルシファーはあの島自体を欲したということですか」

 

「おほほほ、ええ、そのとーりですのん。リゼヴィムおじさまはあの空に浮かぶ島自体に興味がおありのご様子でしてねん。今回、このような方法でいただくことにしましたのよん。―――――この町に集う名だたる魔法使いの皆さんの転移魔法を利用することで。あの魔法使い達の中には私達と通じている者がおりましてよん! 今まさに発動するというギリギリの瀬戸際で、皆で作った魔法陣をアグレアスに向けて放つように調整しましたのよーん! 作戦は成功みたいですわねん」

 

リアスが苦虫を噛み潰したように言う。

 

「………最初から計画されていたのね。このタイミングでこの一帯全てを囲うことも、この町で集会を開いたのも、全てあのアグレアスを外に転移させて奪うため………!」

 

普通にやったんじゃ、アグレアスは奪えない。

だから、集会に集まる名うての魔法使いの力を利用した。

魔法使いに奴らの仲間を潜り込ませ、その上で魔法使いの魔法を一部だけ封じてそこを囲えば、中ではなんとか脱出しようという話になる。

 

奴らが三時間と指定してきたのも転移魔法陣の完成を見越してのこと。

 

全てがアグレアスを奪うためだったのかよ………!

 

いや、でも、だからって………。

 

俺の隣にいたレイヴェルが言う。

 

「前魔王を支持する悪魔は多く、特にルシファーとなれば、惜しみなく力を貸す者が出てもおかしくありませんわ」

 

リゼヴィムが前ルシファーの息子だから力を貸したヤツがいるってか………!

あの野郎、自分の血筋をフルで使ってきやがる!

 

ソーナは花戒さんと草下さんに地下シェルターの様子を見に行かせた後、ヴァルブルガに問う。

 

「アグレアスで何をするつもりなのですか? いえ、あそこには何があるというのですか?」

 

ヴァルブルガがアグレアスの方に視線を向ける。

 

アグレアスが転移の光に包まれて―――――消えていった。

空中都市丸ごと転移させたのか!

 

「それは―――――」

 

ヴァルブルガが嬉々として話そうとしたその時だった。

 

突如、白い空にヒビが入った。

 

そのヒビは次第に広がり――――結界が砕けていった!

 

結界が壊された!

 

ディルムッドのように一時的に解除したのではなく、完全に破壊された!

 

一体誰が―――――。

 

俺達の眼前に一条の閃光が流星のごとく降った。

その閃光は学校の校庭に突き刺さる。

 

俺は校庭に突き刺さったものをみて驚愕した。

 

 

―――――黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)

 

 

おいおい、ここでその槍が降ってくるのかよ!?

 

そいつの宿主は―――――――。

 

しかし、いつまで経っても聖槍の持ち主は姿を見せない。

すると、聖槍は転移してこの場から消えていく。

 

またまた予想外の光景に皆が言葉を失っていた。

 

ヴァルブルガが嘆息する。

 

「………まさか、ここでこんなことになろうとは。けれど、もう遅いですわん」

 

ヴァルブルガが指を鳴らすと空に転移魔法陣が無数に展開され、新たに量産型邪龍が姿を現した!

 

「作戦が成功したのに、まだ来るの!?」

 

「わたくし、殲滅するのが大好きですのよん。お疲れのようですけれど、もう少しわたくしと遊んでくださいましねーん♪」

 

「………嫌な女!」

 

全くだ!

 

女だけど、俺、あいつ嫌いだ!

とことんまでふざけやがって!

 

サイラオーグさんが飛び出していく!

 

「やるぞ、リアス、兵藤一誠、ソーナ・シトリー! ここで止めねば末代までの恥だ!」

 

俺達は頷きサイラオーグさんに続き飛び出していく!

 

俺は邪龍の群れの中心に突貫して、内側から邪龍を吹き飛ばしていく!

 

消耗は大きいが、こいつら程度なら数がいても同じだ!

 

「作られた邪龍風情がまとわりつくな!」

 

ティアも龍王の力を使い、多くの邪龍を消滅させていった!

 

他の皆も体にむち打って立ち向かっていく。

 

その時、俺の視界に嫌な動きが映り込む。

 

ヴァルブルガが手元を―――――学校の方へ向けた!

 

刹那、校庭に紫炎の十字架が上がり、一部の施設を吹き飛ばした!

 

「学校が! ダメェェェェェ!」

 

ソーナが悲鳴に近い声を上げて校庭の方に走っていく!

 

「待て、ソーナ!」

 

俺が声を荒げるもソーナの耳には届いていない!

 

あの聖遺物の紫炎を受ければソーナは………!

 

そんなことは普段のソーナなら分かるはずだ。

しかし、いつもの冷静なソーナはそこにはいなかった。

 

宿願だった学校が目の前で燃やされる。

それがたまらなく嫌だったんだ。

 

ヴァルブルガがソーナに向けて紫炎を放つ――――――

 

 

「させるかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

大気を震わせるほどの大声をあげながら、匙がソーナと紫炎の間に入る!

 

黒い炎を身に纏い、ソーナの盾となる匙!

 

聖遺物の炎を抑え込もうとしているが、相殺しきれず――――

 

「があああああああああああああああっ!!」

 

紫炎に焼かれ、匙は苦痛の声を荒あげる!

 

「逃げなさい! サジ! このままでは死んでしまいます!」

 

ソーナが叫ぶが、匙は退かない!

 

それどころか―――――一歩前に出た。

 

その光景にヴァルブルガは笑みを浮かべる。

 

「あらあらん。さっきの悪魔くんじゃない。また私に燃え萌えさせられにきたのかしらん」

 

手を匙に向けて次々に紫炎を放っていく!

 

その全てが匙に直撃した!

次々に襲い来る紫炎に黒炎が押されていく!

 

しかし―――――

 

「退けるかよ………!」

 

匙は身を焦がしながらも前に進む。

 

よろめいても倒れず、激しい痛みの中でも鋭い眼光をヴァルブルガに向けていた。

 

「………この学校は! 会長の………俺達の夢なんだ! そう簡単に壊されてたまるかよ………っ! 」

 

押されていた黒い炎が少しずつ少しずつ、盛り返していく。

 

「俺は………『先生』になるんだ! あの子達に! あの子達に教えたいことがあるから! だから、俺は退くわけにはいかねぇんだ!」

 

「おほほほほほ! 無駄ですわよん! だって、今すぐ、あなたとその学校はわたくしに燃え萌えさせて燃え尽きてしまうんですものん。さ、燃えちゃいましょうね♪」

 

ヴァルブルガが十字架の出力を上げていく!

あいつ、本気で匙を消滅させる気だ!

 

匙を覆っていた紫炎がゴウッと音を立てて、より熱く、より巨大になっていく!

 

それでも、あいつは――――

 

「燃えるのはてめぇだ………! 俺は何が何でも守りきるぞ………! 兵藤みたいに全てを守れる力はねぇ。 だけど、それでも俺は………俺は――――――」

 

匙は思いの全てを叫ぶ!

 

「俺は惚れた女を! 惚れた女の夢を! 俺達の夢を守りたい! おまえなんかに燃やされてたまるかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

ん………?

 

んんんんんんん!?

 

あいつ………匙のやつ………公開告白しやがったぁぁぁぁあ!?

今の、完全に告白だよね!?

 

名前言ってなかったけど、誰に向けられているかは明らかだよね!?

 

ソーナも匙の後ろで一瞬ポカンとしてたけど、みるみる顔が真っ赤になっていったよ!?

 

匙の横に黒い大蛇が出現する!

ヴリトラだ!

 

『遅くなったな、我が分身よ』

 

「ヴリトラ!? 帰ってきたのか!?」

 

匙の言葉にヴリトラは目を輝かせ、不敵な笑みを作る。

 

『ああ、今しがたな。しかし、少し見ない間に随分と成長したようだ。見違えたぞ』

 

「………ああ、今ならいけそうだ。悪かったな、遅くなっちまった」

 

匙の体を異様なオーラが包み込む!

紫炎を消し去り、黒いオーラが膨れ上がる!

 

まさか………あいつ………!

 

ヴリトラが吼える!

 

『聖遺物の使い手よ! 我が分身の漆黒の炎を抑え込もうなど舐めてくれるなっ! 行くぞ、我が分身よ!』

 

「ああ、いこうぜ、ヴリトラ! 今の俺なら、おまえと―――――」

 

『さぁ、見せつけてやろうぞ! 「黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)」と称されし、邪炎の力を!』

 

匙とヴリトラが黒いオーラを爆発させ、漆黒の炎を身に纏う!

 

 

そして――――――

 

 

「『禁手化(バランス・ブレイク)』ッ!!」

 

 

黒いオーラが一気に弾け、そこに現れるのは暗黒の鎧を纏った匙。

 

全身から黒い触手のようなものをいくつも生やし、漆黒の炎をたぎらせていた。

 

暗黒の鎧を纏う匙が叫ぶ。

 

『―――――「罪科の獄炎龍王(マーレボルジェ・ヴリトラ・プロモーション)」。地獄の業火に等しい俺――――いや、俺達の黒炎とあんたの聖なる紫炎。どっちが強いか勝負といこうぜ!』

 

 

 

 




ついに匙、覚醒&公開告白!


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19話 絶対に助けます!

『―――――「罪科の獄炎龍王(マーレボルジェ・ヴリトラ・プロモーション)」。地獄の業火に等しい俺――――いや、俺達の黒炎とあんたの聖なる紫炎。どっちが強いか勝負といこうぜ!』

 

匙の声はヴリトラと混ざったものとなっていた。

 

そうか………二人は同化したのか!

二人の想いが重なったからこそここに至った!

こういう禁手化もあるのか!

 

リアスが教えてくれる。

 

「マーレボルジェは地獄の最下層の一つ上の階層のことよ。悪意を持って罪を犯した者が行き着くという場所なの」

 

その地獄の階層の名前が禁手の名前に入っている。

つまり、匙の黒炎は地獄の炎そのものということか!

 

『さぁ、邪龍共! 覚醒した俺達の力、存分に味あわせてやる!』

 

暗黒の鎧を纏った匙が飛び出していくと、次々に量産型邪龍が飛び掛かっていく。

 

しかし――――匙の鎧に生える無数の触手が向かってくる邪龍を捕らえる。

 

触手に繋がれた瞬間、邪龍共はオーラの全てを吸われていき一瞬で塵と化していった!

ラインの力が大幅に向上されているのか!

あの触手に触れられたら力だけでなく生命力まで吸われるということなのか!?

 

匙の周りには視認できるほどの呪詛が浮かび上がり、空一面に広がっていった!

 

真羅副会長が恐々としながら言う。

 

「あれほどの呪いを放つ禁手………! うかつに近寄れば呪殺されるわ!」

 

事実、呪詛に取りつかれた量産型の邪龍共は糸が切れたように次々に地面に落下していく!

 

あれほどの出力………! 

黒邪の龍王の力!

神滅具クラスはあるんじゃないのか!?

 

これはアザゼル先生が見たら喜ぶかも!

 

『俺が惚れた女を泣かせたあんたは絶対許さねぇ! あんたの紫炎と俺の黒炎! どちらが上か決めようかっ!』

 

「おもしろいわ! おもしろいわねん!」

 

嬉々としてそれを受け入れたヴァルブルガ!

上空で匙とヴァルブルガの炎対決が巻き起こり始めた!

 

ヴァルブルガの放った紫炎を匙の黒炎が容易に相殺している!

神滅具所有者と互角にやり合っている!

 

それにしても、大胆!

 

禁手に至ったからなのか、公開告白したからなのか、もうあいつ隠す気ねぇ!

本人聞いてるし!

 

「サジ………あなたは………! リアス、私はどうすれば良いのですか!?」

 

ほら!

ソーナも顔真っ赤だよ!

普段クールなソーナが顔真っ赤でどうすればいいか困惑してるんですけど!

 

予想外の問いかけにリアスも慌てて手を振る。

 

「え、ええ!? ここで私に聞くの!?」

 

「幼馴染みでしょう!? あなたはイッセーくんに想いを告げたのではないのですか!?」

 

「いや、私はまだ………って、ソーナ!? あなた、そんなキャラだった!?」

 

幼馴染み同士で年頃の女の子みたいになってます!

 

ま、まぁ、弟みたいな存在と思ってたやつがこうもハッキリ想いを告げたんだ。

身を呈して自分を守りながら。

 

さっきの匙はマジで男だったぜ!

 

「なんか………匙くんもお兄ちゃんに似てきたね。あの鎧姿もそうだけど、今の発言とか特に」

 

「そうよねぇ………。イッセーの周りの男の人ってかなりイッセーの影響を受けるわよね」

 

「お兄さまもその部類ですわ」

 

うちの眷属達がなんか言ってる!

 

そうですか、俺の周囲の男達は俺の影響を受けますか!

複雑な思いです!

 

俺は上空でヴァルブルガと戦う匙に叫ぶ。

 

「匙! そっちは任せたぞ!」

 

『おう! 任されたぜ!』

 

匙の黒いオーラが更に増大し、ヴァルブルガを攻め立てる!

この分なら向こうは大丈夫そうだ!

 

俺も匙に負けじと邪龍共を蹴散らそうとした時だった。

 

アーシアが声を張った。

 

「ファーブニルさんのオーラを感知しました! おそらく、ドライグさん達と共に神器の深奥から帰還されたのだと思います!」

 

そうか、ヴリトラが帰ってきたということは、他のドラゴン達も戻ってきたということ。

 

俺の宝玉も点滅した。

 

『今戻ったぞ、相棒』

 

おお、待ってたぜ!

 

それで向こうはなんとかなったのか?

 

『まぁな。詳しくは後で話す。ここを突破したら話し合おうか』

 

了解だ!

そんじゃ、とっとと片付けますかね!

 

アーシアもファーブニルを呼ぶために龍門を展開する!

 

「――――我が呼び声に応えたまえ、黄金の龍よ。地を這い、我が褒美を受けよ! お出でください! 黄金龍君! ファーブニルさん!」

 

召喚の呪文が終わり、魔法陣の輝きが強くなる!

 

黄金のオーラと共に現れたのは―――――クッキング帽を被ったファーブニルだった………!?

 

え………なんでクッキング帽!?

なんで、それを被ってるんだ!?

 

すると、この戦場に場違いな軽快なBGMが流れ出す。

それは、さながらお昼の料理番組を思わせるものだった。

 

ファーブニルが口を開いた。

 

『こんにちわ、ファーブニル三分クッキングにようこそ』

 

などと言って隣に調理場を出現させるファーブニル!

 

なんでキッチン!?

 

頭がおかしくなったのか!?

 

あ………元からか。

 

いやいやいや、それでもだよ!

何をしようってんだ、変態龍王!

 

ん………ちょっと待て。

 

ファーブニルの横に立つ女性を見て、俺は唖然となった。

 

「どうも~、助手のイグニスお姉さんです☆」

 

おいぃぃぃぃぃ!?

なんで、おまえもそこにいるんだ、この駄女神ぃぃぃぃぃ!?

そのエプロンどっから持ってきたぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

イグニスは微笑みを浮かべながらファーブニルに訊く。

 

「ファーブニル先生、今日のお料理は?」

 

『今日のお料理は「ディアボラ風アーシアたんのおパンティー揚げ」です』

 

「まぁ、それは美味しそうですね」

 

………言葉もない俺達を置いて、ファーブニルは材料が書かれたフリップを見せる。

 

『材料はこちら』

 

 

○ディアボラ風アーシアたんのおパンティー揚げ

 

材料

・アーシアたんのおパンティー 適量

・玉ねぎ一個 みじん切り

・ニンニク一個 みじん切り

・オリーブオイル

・赤唐辛子一本 みじん切り

・塩コショウ 少量

・唐揚げ粉 

 

 

………ダメだ、理解が追い付かねぇ。

 

何をしようとしてんだ、あんた達は!?

いや、変態なことが起ころうとしているのは分かるよ!

 

「?」

 

「??」

 

『?????』

 

疑問符だらけの俺達だが………見れば、量産型の邪龍すら首を傾げて見守っていた!

 

こんなことでこいつらの攻撃って止まるの!?

 

ファーブニルはキッチンに立ち、用意された材料を目を輝かせただけでみじん切りにしていく。

 

『まずはおパンティー以外の材料をみじん切り』

 

次にアーシアに言う。

 

『アーシアたん、おパンティーちょーだい』

 

「は、はい」

 

アーシアも応じるしかなく、ポシェットからパンツを一枚取り出してファーブニルに差し出してしまう!

 

『このように材料は産地直送です』

 

「それは素晴らしい。とっても新鮮で安全ですね。今ならアーシアたんの残り香もあるかも♪」

 

『その通りです。なので、おパンティーを一通りくんかくんかします。その後、唐揚げ粉をまぶします』

 

俺達の目の前でパンティーを嗅いで、粉をまぶしていく………。

 

その間にイグニスが鍋に油を入れて自身の炎で油を暖めていた。

 

「先生、油が暖まりましたよ」

 

『では、おパンティーを高温で一気に揚げてしまいましょう』

 

カラッと戦場に小気味のいい油の音が響いていく。

 

匙とヴァルブルガは激戦を繰り広げている中、それ以外の者達は完全に手が止まっていた。

 

量産型邪龍ですらも―――――うん?

 

なんだか、何匹かの邪龍が予想以上に食いついてうんうん頷いている!?

この料理番組は邪龍が魅了される何かがあるってのか!?

 

油に投入したパンツを頃合いを見て取り出すファーブニル。

 

黄金に輝く衣に包まれたパンツをファーブニルが皿に置き、イグニスが先程切った材料を盛り付けていく。

 

『できました。俺様式、「ディアボラ風アーシアたんのおパンティー揚げ」です』

 

 

パチパチパチパチ

 

 

食いつくように見守っていた邪龍達が拍手を送っていた!

 

「では、先生。お味の方を」

 

『はい。いただきます。ぱっくんちょ』

 

口に入れて咀嚼した後、奴は一言。

 

『―――――ありのままでいてほしい』

 

 

ぶわっ。

 

 

拍手を送っていた邪龍達が号泣している!?

 

なにこれ!?

何がどうなってこうなった!?

 

「流石はファーブニル先生、深い言葉ですね。この番組をご覧の皆さんも一度挑戦してみてください。それでは、また明日~」

 

イグニスがそう締めてファーブニルの料理番組は終わった。

 

と、同時に………。

 

「しっかりアーシア! 気をしっかり持つんだ!」

 

「………私は蟹になりたいです」

 

「待て、アーシア! それは蟹ではなく貝だったはずだ!」

 

「流石は期末テスト平均九十点台の優等生! ゼノヴィアは物知りね!」

 

倒れたアーシアをゼノヴィアが支え、イリナがゼノヴィアを称賛していた。

 

………ダメだ、全く理解できなかった。

 

いや、理解できない方が正解なのだろう。

 

ところで、ドライグ。

邪龍の動きが止まっているから聞いとくけどさ、歴代の白龍皇達は説得できたのかよ?

 

『………あ、ああ、ま、まぁな………』

 

おいおい、なんだその返しは………。

 

『そ、そうだな、一応、記録したものがあるからそれを見た方が早いだろう。………あまり薦められたものではないが………』

 

………とりあえず見ようか。

 

俺は瞑目して神器の内部に潜る。

 

すると、ドライグが記録してきたという映像を見せてくれた。

 

映像に晴れやかな表情の歴代白龍皇の方々が移る。

 

『こんにちは、現赤龍帝。我々は歴代白龍皇の残留思念だ』

 

おおっ、とっても気さくじゃん!

被害者の会を設立したとは思えないほどだ!

 

『君の起こした様々な行いに、我らは遺憾を感じざるを得なかった』

 

いや、ほんっとごめんなさい。

俺だけのせいじゃないけど、根本的な原因は俺だものね。

 

『それゆえ、我らは被害者の会を設立したのだが………どうやら我々は思慮が足りなかったようだ。――――我々はファーブニルにより、真理に行き着いた』

 

………ちょっと待て。

 

最後に超不安になる名前が出てきたんだが………。

 

その不安は直ぐに言葉となって俺の耳に入ってくる。

 

『――――そう、おパンティーの素晴らしさ』

 

………。

 

言葉を失う俺。

 

思考が停止した俺に彼らは悟りを開いたような表情で続ける。

 

『我らには女性の臀部に並々ならぬ関心を寄せるという共通点があった』

 

『しかし、白龍皇の手前、それは否定せねばならない事項だった。白龍皇に性癖などあってはならぬと』

 

『だが、ファーブニルは我々に見せてくれたのだ。――――至極の逸品、アーシアたんのおパンティーを』

 

そう言うと歴代の白龍皇達はアーシアのパンティーを広げた!

 

受け取ったのかよ!?

 

『現代の俗世にはこのように素晴らしい臀部を包む布製品があるのだと気づかされた』

 

『形状、役割、肌触り。そしてお尻に着けたときのヒップライン』

 

『この素敵な宝物によって、我らは自らを偽ってきたのだと衝撃を覚えた』

 

『被害者の会を設立し、君達に抗議してしまったことを詫びよう』

 

『そして、この言葉をもって和解の宣言としたい』

 

彼らはお互いの肩を抱き合い、爽やかな表情で言った。

 

 

『『『アーシアたんのおパンティー、くんかくんか』』』

 

 

………。

 

………………。

 

………ドライグ、ひとついいか?

 

『………なんだ?』 

 

これ、イグニスが行っても良かったんじゃないのか?

 

そのほうが比較的短時間で事が済んだと思うんだ。

 

『い、いや、それだけは勘弁してやってくれ。………ついでにアルビオンが縛られる』

 

そうか………。

どうしよう、泣けてきた………。

 

和解してくれたのは良かったけど、これはあまりにも………酷い。

 

今ごろヴァーリの心の中はどうなってんのかなぁ。

 

 

~そのころのヴァーリ~

 

 

「………」

 

『………』

 

「………アルビオン」

 

『………なんだ、ヴァーリ』

 

「………これはどういうことだ?」

 

『………』

 

二人の間に暫く沈黙が続いた。

 

 

~そのころのヴァーリ、終~

 

 

「しかし、邪龍を止めるとは………二天龍と龍王達は読めませんね」

 

聞き覚えのある声が俺達の元に届く!

 

赤い閃光が俺達の横を通りすぎて、ロスヴァイセさんがいる場所に降ってきた!

 

赤い閃光はロスヴァイセさんを包み込む。

 

光が止むと複製した赤龍帝の鎧を纏うユーグリットの姿が!

 

奴はロスヴァイセさんを抱き締めていた!

 

ロスヴァイセさんが抵抗しようとも強く掴まれているため、逃れることが叶わずにいた!

 

「ごきげんよう、『D×D』の皆さん。現赤龍帝」

 

「このタイミングで出てくるか、ユーグリット………!」

 

奴はロスヴァイセさんを抱き、ふざけたことを口にする。

 

「ロスヴァイセとアグレアスは我々『クリフォト』が活用させてもらいます。さて、アグレアスの転移も済みましたし、結界が解けた今、冥界の軍が来てしまうのも時間の問題。とっととおいとまさせてもらいたいところですが、そうはさせてくれないでしょうね」

 

「あたりまえだろうが! ロスヴァイセさんを放しやがれ!」

 

リアスも怒りを向ける。

 

「私達はあなたを捕らえてお兄さまとお義姉さまのもとに突き出さなければならない!」

 

リアスの言う通り、こいつはサーゼクスさんとグレイフィアさんのもとに突き出す!

グレイフィアさんはこいつのせいで、未だに容疑が晴れていない!

こいつを突き出せば、そんな容疑はすぐに晴れる!

 

ユーグリットはクスリと笑う。

 

「それは怖い。では、ささやかな抵抗はしましょうかね」

 

ユーグリットは指を鳴らす。

 

ふると、ファーブニルの料理番組によって手を止めていた邪龍達が号泣している我に返って、再び戦闘を開始する!

 

だが、俺の影響で仲間達は勇ましく立ち向かう!

 

木場も教会トリオもレイナも小猫ちゃんもそれぞれが力を発揮し邪龍達を前に戦っていた!

 

「イッセー、そっちはあんたとリアスさんに任せるわ」

 

「こっちは数が多いからね」

 

「私も頑張りますわ!」

 

うちの眷属達が俺の背後に立ってそう言う。

 

全く………頼もしいことで!

 

俺は三人と視線を合わせる。

 

「ああ………こっち(・・・)は任せるぜ? 多分、まだあるだろうからな」

 

「………でしょうね。それもひっくるめて引き受けるわ」

 

俺の言葉の意図が分かったのか、アリスは頷き、美羽とレイヴェルを引き連れて駆けていく。

 

それを確認した俺とリアスは改めてユーグリットに詰め寄った。

 

その時、ユーグリットの方に魔法の矢が飛んでいった!

 

矢を放ったのは―――――ゲンドゥルさんだった!

酷く疲弊した様子で、体をよろめかせながら手を前に突き出している。

 

「孫を………返してもらいます!」

 

「下で私達の仲間が暴れまわったのでしょう? それの対応で酷くお疲れのご様子と見受けいたしますが?」

 

頑と強い意思を向けるゲンドゥルさんにユーグリットは言う。

 

下でこいつらと通じていた魔法使いと一戦交えて力を使ってしまったのか。

裏切り者の魔法使いも相当な実力者。

 

ゲンドゥルさんも無茶をしたのだろう。

 

ロスヴァイセさんがゲンドゥルさんに叫ぶ。

 

「ばあちゃん! やめて! 力を使い果たして動けないんでしょう!?」

 

「………黙っていなさい。おまえを救うぐらいは出来ます!」

 

ユーグリットは呆れるように息を吐く。

 

「魔法を封じられ、疲弊したあなたでは私の相手は到底無理でしょう」

 

そう言うとユーグリットは足元に転移型魔法陣を展開する!

野郎、ロスヴァイセさんを連れて転移する気か!

 

しかし、そこへゲンドゥルさんが力を振り絞って渾身の矢をぶつけた!

 

瞬間、ユーグリットの魔法陣が乱れ、霧散してしまった!

 

「………転移封じ。中々、こざかしいことをしてくれますね」

 

ユーグリットは忌々しそうに漏らすと、ドラゴンの翼を羽ばたかせて逃亡しだした!

 

追おうとする俺とリアスにゲンドゥルさんはその場に崩れ落ちながら言った。

 

「………赤龍帝殿、リアス姫。………どうか、どうか、私の孫を、ロスヴァイセを助けてください。どうか、どうか………」

 

俺とリアスら笑みを浮かべて告げた。

 

「もちろんです」

 

「俺達の大切な仲間ですから」

 

俺はリアスと頷き合うと、ユーグリットの後を追った。

 

必ず助けるさ―――――絶対に。



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20話 真の赤龍帝

リアスと共にユーグリットを追っていくと暫く進んだ先で奴が待ち構えていた。

 

ユーグリットはロスヴァイセさんを抱えたまま、指で下を指す。

 

………降りろってか。

 

俺とリアスはそれに応じてユーグリットと共に降下していく。

 

俺達が降り立ったのは町から離れた荒れた土肌の土地だった。

周囲には何もなく、建物も人影もない。

 

こいつとドンパチやるにはもってこいの場所だ。

 

ユーグリットと対峙した俺は奴に問う。

 

「ユーグリット、おまえは何を考えている? 消息を絶っていたおまえが、なぜ今頃になって現れた? それもテロリストとして、だ」

 

まさかと思うが自分の消息を絶ったのは最初から悪魔政府へ反逆を起こすため………なんてことはないよな。

流石に時間を掛けすぎていると思うし。

 

ユーグリットは語る。

 

「諸々ありますよ、兵藤一誠。現政府への不満、姉への問い、膨大な時間をかけて自問し続けました。兵藤一誠、答えてください。―――――悪魔とはなんです?」

 

「………この世界に存在する一つの種族、じゃないのか?」

 

「なるほど………あなたはそう考えますか」

 

「………? 他に何があるってんだ?」

 

俺が聞き返すとユーグリットは人指し指を立てて答えた。

 

「リゼヴィムさまは私にこう仰いました。悪魔というのは邪悪で、悪鬼で、畜生で、悪道で、外道で、邪道で、魔道で、鬼畜で、悪辣であるべきだと。我々、悪魔は『悪』で『魔』の存在であるべきだと」

 

『悪』で『魔』の存在、か。

 

聖書関連の書物では悪魔は悪役。

邪悪な存在として描かれている。

 

俺も子供の頃は漫画とかゲームとかで、悪魔は悪いやつだというイメージは持っていたよ。

多分、世の中の大半の人間はそういうイメージなんじゃないかな?

 

「その思想には賛同できないな。俺は自分の目で今の冥界を見てきた。それはほんの一部かもしれないがな。俺にとっての悪魔は決して『悪』で『魔』の存在じゃあない。もしそうだったら、俺はリアスの眷属になっていないさ」

 

リアスだからこそ、俺は悪魔に転生してもいいと思えた。

朱乃や木場、小猫ちゃんという悪魔の先輩がいたからこそ、悪魔という存在について今まで持っていたイメージを変えることができた。

 

それだけじゃない。

ソーナやサイラオーグさんという純血の上級悪魔の中でも一本の芯がある存在と出会えた。

 

サーゼクスさん達のように冥界の未来を真剣に考える優しい魔王にも出会えた。

 

ライザーも変わった。

レイヴェルなんてこんな俺を支えてくれると約束してくれた。

 

俺が見てきたものは冥界――――悪魔のほんの一部。

 

それでも紛れもない事実。

 

俺はユーグリットに問う。

 

「おまえはリゼヴィムの思想に賛同して、従っているということか?」

 

「思想は人それぞれです。あなたのような思想もあれば、リゼヴィムさまのような思想もある。ですが、あの方の考えは私の問いに必要不可欠だと判断しました」

 

ユーグリットが深く息を吐く。

 

「私は悪魔とは人間や多勢力にとって『悪魔』であることが最も大事だと思うのです。それは単純にどの生物よりもどの存在よりも邪悪であるべきだということ。ここまでは私とリゼヴィムさまの意見は同じですね。しかし、ここからが私だけの答えです」

 

ユーグリットは両手を広げる。

 

「――――私はリゼヴィムという男を通して全勢力に『悪魔』を見せます。知らしめます。どれだけ凶悪か、どれだけ危険か、『悪魔』という種そのものが全勢力にとって邪悪であると知らしめたいのです。支配や政治などこの際関係ありません。最終的には人間界にも『悪魔』を見せたいところですね」

 

リアスがユーグリットの発言に顔を歪ませた。

 

「悪魔そのものを全勢力から、人間界からも遠ざける気なの………!」

 

遠い目をするユーグリットは胸に手を当てて続ける。

 

「姉は………私にとって憧れでした。女性でありながら、誰よりも強く、誰よりも勇敢だった。私にとって憧れであり誇りでした。姉を支えることこそが私の生きる道だと信じていたのですよ。その姉が『ルシファー』に尽くすルキフグスの定めに反した。しかも、悪魔とも言えない異形の者に心を許した。これが私にとってどれだけの衝撃、価値観の崩壊をもたらしたか………。リアス・グレモリー、あなたは想像できますか?」

 

リアスに問いかけたユーグリットは俺に指を指す。

 

「私は長らく心の均衡を崩し、精神的にも肉体的にも屍と変わらぬ状態でしたが、兵藤一誠――――あなたを知って思い至ったのです」

 

「俺?」

 

「ええ、そうです。好き勝手に振るまい、冥界に新しい風を吹き込むあなたを知った。そこで私はあなたから学ばせてもらいました」

 

天を仰ぐユーグリット。

その表情はどこか晴れやかなもので、

 

「『ああ、そうか。自分も好きに生きればいいんだ』――――と」

 

………は?

 

俺を見て、俺を知って、好きに生きればいいと分かった?

なに、ふざけたことを言ってんだよ、こいつ?

 

リアスが怒気を含んだ声で言う。

 

「それがこのザマだというの!?」

 

「単純な思いでした。悪魔が英雄を持つ。その悪魔を子供達が見て、影響を受ける。ですが、それは悪魔らしくない。だったら、私は子供達に『悪魔』を見せたいとね」

 

「………歪んでいるわ! 種の存続そのものが危ない状況で、平穏ではなく、混沌をもたらそうとするなんて! あなたも冥界の状況を理解していないわけではないでしょう!?」

 

リアスの怒号が続くが、ユーグリットは首を傾げる。

 

「歪む? リアス・グレモリー、歪むとはどこからどこまでを指しているのでしょうか? 私の行い? 魔王達の消滅? 私達の存在は本来の聖書、その関連書物から逸脱した『エキストラ』。つまりは番外の者です。神話が崩れてしまったからこそ、あなたのお兄さま――――サーゼクス・ルシファーやアジュカ・ベルゼブブというイレギュラーな存在が生まれてしまったのでしょう? ………いえ、神話が崩れてしまった以上、私達はもう『聖書の悪魔』ですらないのかもしれませんね」

 

長々と語ってくれたユーグリット。

 

こいつ………。

 

俺はロスヴァイセさんに視線を移しながら訊ねた。

 

「ロスヴァイセさんを狙ったのは? トライヘキサに触れそうだったからか? にしても、東京に現れたのは大胆過ぎるぜ」

 

あの時は流石に驚きを隠せなかったよ。

いくらなんでも大胆すぎたからな。

 

一度ミスをすれば捕まる可能性もあり、次の侵入の難易度は一気に上がる。

 

よほどの理由がない限り、正気の沙汰とは思えない行動だ。

 

ユーグリットはロスヴァイセさんに視線を配らせながら言う。

 

「この人は賢明です。才能もある。私達の元に来た時はその才能を十二分に活かせるでしょう。何せ、彼女が導きだそうとしていたものはトライヘキサの封印を解除する術ではなく、封印を施すものだったのですから」

 

―――――っ!

 

ロスヴァイセさんが論文にしようとしていたのはトライヘキサの封印を施すためのものだったのか!

 

………となると、ロスヴァイセさんが書き起こした論文を読んだアザゼル先生も驚いているだろうな。

 

仮にトライヘキサが復活したら、ロスヴァイセさんが切り札になるかもしれない。

 

驚く俺とリアスを横目にユーグリットはロスヴァイセさんの銀の髪を撫でながら続ける。

 

「それに彼女は………ロスヴァイセは似ているのですよ。とても似ている」

 

その言葉にリアスが訝しげな表情で問う。

 

「………誰に似ているというの?」

 

「―――――姉のグレイフィアにです。………この人は私の姉になれるかもしれないのです。それはとても重要なことです」

 

ユーグリットは薄く笑みを浮かべながらそう言った。

 

………ロスヴァイセさんがグレイフィアさんに似ている。

 

まぁ、確かに銀の髪と雰囲気はどことなく似ているような気もするが………。

 

はじめて会ったときも「姉に伝えろ」と言っていた。

 

東京で出会った時もロスヴァイセさんに向ける視線は能力に牽かれてというよりはもっと別のものだと感じていた。

 

………なんとなく、そうかなって思っていたけど、まさか本当にそう来るとは………。

 

俺は深くため息を吐いた後、鼻で笑った。

 

「はぁ………。さっきから全勢力に『悪魔』を見せるとか『悪魔』らしくあるべきとか大層なこと言ってくれたけどよ。なんだよ、結局はそこじゃねぇか」

 

呆れるように言う俺。

 

ユーグリットが怪訝な表情で問う。

 

「………? 何が言いたいのです、兵藤一誠」

 

「軽いんだよ、おまえの言葉は。聞くが、全勢力に『悪魔』を見せてどうするつもりだ? 子供達に『悪魔』を見せてどうするつもりだよ? 仮に悪魔を全勢力から切り離したところで、何の意味がある? 答えてみろよ」

 

「それは全勢力に悪魔がどれほど邪悪であるべきあるかを理解させ、我々が本来あるべき姿を取り戻すためですよ」

 

「で? 取り戻したらどうなるってんだ? 悪魔にとって何か良いことでもあるのか? そういうわけでもないだろう? おまえはただリゼヴィムの思想を語ってるだけでおまえの言葉じゃないだろ」

 

「………」

 

口を閉ざし沈黙するユーグリット。

 

そんな奴に俺は指を突きつけて言う。

 

「おまえは姉であるグレイフィアさんに見てもらいたくてこんなバカな真似に出た。違うか? あーだこーだと思想を語ってくれたが、おまえの頭の中は何もない。ただのシスコンだ。あげくの果てには、似ているからってロスヴァイセさんを拉致しようとする変態シスコンだよ。呆れてるぜ」

 

たとえどんなに容姿が似ていようとグレイフィアさんはグレイフィアさんで、ロスヴァイセさんはロスヴァイセさんだ。

それ以上でもそれ以下でもない。

 

代わりを求めるなんて無意味なこと。

そんな簡単なことをユーグリットは分かっていない。

 

俺はユーグリットに向けて続ける。

 

「俺もシスコンだ何だと言われてる。大好きな姉や妹を他の男に取られれば嫉妬もするし落ち込む。――――だがな、本当に想うならその人の幸せを願ってやれよ」

 

「………そんな簡単な問題ではないのです。姉はルキフグスの役目を………」

 

「あー、そういうご託はいらん。どうせ、おまえもルキフグスの役目とか言ってるだけで、要するにサーゼクスさんにグレイフィアさんを取られたことがショックなだけだろ、このシスコン」

 

「………っ!」

 

ここに来て、ようやく表情が変わったな。

 

『だが、相棒………。あまりシスコンを連呼するのは………ほとんどブーメランなのではないか?』

 

良いんだよ。

そこはもう開き直る!

 

つーか、俺が許せないのは唯一の肉親である姉を泣かせるこいつの性根が気にくわないだけだから。

 

仮に美羽が他に好きな男が出来たとしよう。

 

その時、俺は………泣く。

何日も塞ぎ混む。

部屋に引きこもって一年くらい出てこないかもしれない。

 

それでも、美羽が幸せになれるのなら、その道を応援する!

それが真の兄というものだ!

 

ユーグリットがワナワナと拳を震わせる。

 

「………それ以上言うのであれば、この場で殺しますよ、兵藤一誠」

 

「やってみろよ、ド三流」

 

「大した自信ですね。ふはははは、ではあなたを殺す前にこうしましょうか!」

 

指を鳴らすユーグリット。

 

すると、奴の手元に小型の魔法陣が一瞬浮かんで消えた。

 

そして―――――

 

「………おかしいですね。何も起こらない………?」

 

ユーグリットが怪訝な表情で学校の方に視線を送った。

 

それから何度か同じ魔法陣を展開してみるが、結果は同じ。

 

何も変化はなかった。

 

俺は奴に言い放つ。

 

「どうしたよ? 調子でも悪いのか?」

 

意味深な笑みを浮かべる俺。

 

ユーグリットが冷静な口調で言う。

 

「………忍び込ませた魔法使いが捕まった際、爆発するように仕掛けをしておいたのですが………。あなた、何かしましたね?」

 

俺は得意気な顔で言った。

 

「残念だったな。おまえらのことだから、何かを仕掛けてくるとは思ってたぜ。敵に捕まった手駒はすぐに切り捨てる。おまえらがやりそうなことだ。………その辺りは学習済みってな」

 

ここに来る前のアリス達とのやり取りはそういうこと。

 

今頃、美羽あたりが裏切り者の魔法使い達に施された自爆する仕掛けを解除しているはずだ。

 

「やってくれますね」

 

「そりゃあな。俺の仲間が命を張ってまで守ろうとした学校だ。壊させてたまるかよ」

 

さて、そろそろこいつを倒すとしますか。

 

俺は赤いオーラを全身から放って奴の前に立つ。

 

纏うのは天翼の鎧。

 

「リアス、離れていてくれ」

 

「けれど………」

 

不安げなリアス。

 

俺は不敵な笑みを浮かべて告げた。

 

「心配すんなって。すぐに終わるさ」

 

そう言うとリアスは小さく頷き、一歩引いてくれた。

 

ユーグリットもロスヴァイセさんに魔力の縄をかけてから解放する。

 

二度目の対峙となる本家赤龍帝と複製赤龍帝。

 

向こうはユーグリット本人の力に俺の力が上乗せされている状態。

 

前回は負けた。

 

それでも―――――

 

「ロスヴァイセさんは返してもらうぜ」

 

「それはできません。彼女は私が使うことで真の実力を示せるでしょう」

 

「そんなわけねぇだろ。その人がおまえなんかのために力を使うことはない」

 

ロスヴァイセさんが決意をした表情で言う。

 

「私ごとこの男を倒してください!」

 

「ったく、まだそんなこと言ってるのか? 言ったはずだぜ。俺は何がなんでもおまえを守る。………あ、またそんなこと言ったから後でお仕置きな」

 

『うふふ、イッセーも鬼畜が様になってきたわね♪』

 

悲しいことにね………。

 

まぁ、でも、守りきって見せるさ!

 

「私とあなたの間にある力の差。それは前回で思い知ったはずです」

 

そう言うなりユーグリットは天武の鎧を纏う。

 

奴の周囲にスパークが発生し、吹き荒れるオーラで地面が抉れていく。

 

確かにユーグリットは強い。

魔王クラスと称されるグレイフィアさんと同等と言うだけある。

そこに俺の力が上乗せされている。

 

だが、それは過去の俺の力(・・・・・・)だ。

 

「俺をあの時の俺と思うなよ? 俺は守るために、勝つために常に進化を続ける。なぁ、ドライグ」

 

『その通りだ。ユーグリット・ルキフグスよ。いかに貴様がその力を振るおうとも、その程度で兵藤一誠に勝てると思うな』

 

ユーグリットは俺たちの言葉を聞いて笑う。

 

「ならば、倒してみなさい。………行きますよ!」

 

「BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!」

 

奴の鎧から倍加の音声が鳴り響き、奴のオーラを高めていく!

高めた力を拳に乗せて奴はこちらへと向かってくる!

 

あの一撃をまともに受ければダメージは免れない。

なんだかんだ言っても今のユーグリットの力は強大だ。

 

だけど―――――

 

「当たらなければどうってことはねぇ! プロモーション『騎士』! 昇格強化!」

 

『E-drive!!』

 

天翼の鎧に騎士の力が付与され、翼が二枚から四枚に増えた!

四枚の翼、羽の間から大量の赤い粒子が放出されていく!

 

『騎士』の駒による昇格強化は天翼と相性が良く、機動力、回避能力を劇的に上げる。

そのスピードは天武、天撃では出せないもの。

 

昇格強化を済ませた俺は赤い閃光となって奴の懐へと入り込む!

 

ユーグリットは俺のスピードに反応しきれていない!

 

「おまえじゃ、俺には勝てない!」

 

奴が拳を突き出す前に鳩尾に俺の拳を叩き込む!

 

ユーグリットの鎧が砕け、生身にダメージが届いた!

俺はそのまま上空へと殴り飛ばす!

 

ユーグリットは血を吐き出しながら、こちらに手を向け極大のオーラを放ってくるが、今の俺にそんなものは当たらない。

 

ドライグ、ビットの制御は任せるぜ!

 

『応っ!』

 

俺は空を駆けながらフェザービットを全基展開。

 

その数は十六。 

翼が増えたことにより、フェザービットの数も増えたのさ!

 

ただ、数が増えた分、扱いが難しい。

そのため、ドライグの助けなしではビットの操作が上手くいかないんだけどね。

 

十六基のフェザービットは縦横無尽に空を駆け巡り、あらゆる角度からユーグリットに砲撃を放っていく。

 

ユーグリットはいくつかの攻撃は避けることができたが、死角からの攻撃までは避けきれず、受けてしまう。

 

攻撃が命中する度に奴の鎧は砕けていく。

 

「避けることができないのなら、撃ち落とせばいいだけです!」

 

ユーグリットが鎧を天撃に変えて全てを撃ち落とそうとするが………無駄だ。

 

『騎士』の特性はビットにも付与され、俺と同じスピードで動き回る。

 

俺の動きを捉えられないようでは、十六基のビットを撃ち落とすことなんてできない。

半分のビットは砲撃を放ち、残り半分のビットはオーラの刃を形成してユーグリットを切り刻んでいった。

 

遠距離からの砲撃と近距離からの斬撃。

 

更には俺の拳打が奴を徹底的に追い詰めていく。

 

前回は奴が上回っていた。

だけど、今回はどうか。

 

手も足も出ない状況にユーグリットは信じられないように首を振る。

 

「バカな………こんなことが………っ!」

 

「言ったろ、今の俺をあの時の俺と思うなってな。ま、他の形態でももう負ける気はしないけど。ラズルの方が遥かに強かったぜ」

 

おそらく、今のユーグリットとラズルがやり合えば一瞬で決着がつくだろう。

 

一応、俺は今回の戦いでラズルと渡り合えた。

ここでユーグリットの空っぽの力なんぞに遅れを取ってたまるかよ。

 

俺は気を高めて、錬環勁気功の奥義を発動。

周囲に漂う気を体内に取り込み、体内で循環と圧縮を高速に繰り返していく。

 

赤いオーラの外側を金色のオーラが包みこみ、力が増大していった。

 

「さぁ、決着をつけようか!」

 

俺はソードモードのビットを掴みユーグリットへと迫る!

 

ユーグリットは反撃しようとするも、間に合わない!

 

赤い刃がユーグリットを斬り裂く!

空中に鮮血が舞う!

 

「前に言ってたな、俺を倒したら自分が赤龍帝を名乗ると!」

 

『なんともふざけたことを言ってくれたものだ!』

 

俺とドライグの叫びが響く。

 

「おまえは赤龍帝になれない!」

 

『赤龍帝の名を持って良いのは貴様ではない!』

 

ビットを引き抜き、拳を、蹴りを放っていく!

 

奴が攻撃しようとも俺には当たらない。

掠りもしない。

 

全てを避けきり、的確に抉りこむように拳を打ち込んでいく

 

昇格強化した天翼の力に錬環勁気功の奥義を掛け合わせた俺にユーグリットは為す術がない。

 

ユーグリットの鎧は修復が間に合わず、砕け、ほとんどがなくなっていった。

 

奴がよろめいたところで、俺はユーグリットの顎に鋭いアッパーを放つ!

 

「ぐはっ!」

 

苦悶の声と共に浮かび上がるユーグリット。

 

俺は飛翔して奴の先に周りこむ!

 

「俺が!」

 

『俺達こそが!』

 

拳が凶悪な程、赤いオーラを放つ。

 

眩い光が辺り一帯を照らしていった。

 

そして―――――

 

「『赤龍帝だぁぁぁぁぁぁぁ!』」

 

俺とドライグの叫びと共に、赤く輝く拳がユーグリットの顔面を捉え――――

 

怒りの鉄拳が奴の全てを打ち砕いた。

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

「アハハ♪ 本当に倒しちゃったよ。シスコン対決ってすごいねー。まぁ、ユーグリットくんじゃ勝てないのは当然か」

 

異世界の神、アセムは映像越しに一誠とユーグリットの戦いを観戦していた。

 

そして――――

 

「うん、試しにやってみようかな。ちょっと早い気がするけど、せっかく作ったしね♪」

 

後ろにある『赤』を見て笑みを浮かべた。

 

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 




イグニス「次回、ラストバトル! T・O・S発動よ!」

イッセー「T・O・Sってなに!?」


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21話 T・O・S発動!!

イグニス「さぁ、スタンバイよイッセー!」

イッセー「なにを!?」


地面に転がる銀髪の男―――――。

 

俺の鉄拳を受けて、奴は鎧を完全に消滅。

全身から血を流し、立ち上がる気配がない。

 

見れば気絶しているようだった。

 

ユーグリットの周囲は俺の拳の余波で巨大なクレーターが出来ていて、完全に地形が変わっていた。

 

『スッキリしたな』

 

ドライグも滅茶苦茶キレてたからなぁ。

 

とりあえず、ぶちのめしておいたからオーケーだろ。

 

赤龍帝は俺達だけだ………だろ、相棒?

 

『ああ。その通りだ。赤龍帝を名乗れるのは世界で俺達だけだ』

 

ドライグの声はどこか嬉しそうだった。

 

「イッセーくん………」

 

そこにロスヴァイセさんが歩み寄ってくる。

 

ユーグリットがかけた魔法の縄は解かれていた。

リアスが解いたのだろう。

 

俺は鎧を解除した後、笑顔で言った。

 

「終わったよ、ロスヴァイセ(・・・・・・)。帰ろうか、俺達の仲間のところに」

 

「っ! はい!」

 

今のロスヴァイセさんは憑き物が取れたような表情だ。

 

っと………足元がふらふらする。

 

よろめいた俺をリアスが支えてくれた。

 

「大丈夫、イッセー?」

 

「あはは………奥義使ったから結構ヤバいかも………」

 

奥義は限界を超えて体内に気を取り込むから、使った後がね。

しばらく体を休めないこと。

 

「あれだけ無理な力を使っていたもの。しょうがないわ。ロスヴァイセ、イッセーの右側を任せていいかしら?」

 

「あ、は、はい!」

 

リアスに言われてロスヴァイセさんが俺の肩を担ごうとした。

 

 

その時だった―――――。

 

 

「うんうん。流石は勇者くん。あっという間に倒しちゃったね」

 

この場に響く第三者の声!

 

振り返れば、そこに立っているのは白髪の少年――――アセム!

 

俺は冷や汗をかきながら、アセムを睨む。

 

「このタイミングで出てくるのかよ………!」

 

こいつ、リゼヴィムと一緒にいたんじゃないのか!?

 

いや、それよりも………この状況で出てこられたことが一番辛い!

 

力を使い切った俺にこいつを相手取る体力は残っていない。

リアスやロスヴァイセさんでは太刀打ちできないだろう。

 

警戒すると共に焦っている俺にアセムが笑顔を向ける。

 

「大丈夫大丈夫。僕が直接戦うのはまだ早いからね」

 

「………だったら何しに来たんだ?」

 

「んー、ちょっとした………エクストラステージってやつ?」

 

アセムがそう言うと空に魔法陣がいくつも展開する。

それは召喚用の魔法陣。

 

魔法陣が輝きを放つと、そこから何かが現れる。

 

それを見て、俺達は言葉を失った。

 

「なんてこと………! もうこんなにも量産していただなんて………!」

 

リアスが目を見開きながら言った。

 

俺達の目の前に広がるのは―――――赤龍帝の鎧。

その数は二十。

 

もうここまでの数を複製されていたのか!

 

アセムがクスリと笑う。

 

「今回、最後の戦いだよ。君は乗り越えられるかな? それじゃあ、頑張ってね~」

 

そう言って、奴は転移型魔法陣で姿を消す。

 

くそったれめ………!

 

こちとら、奥義使ってヘトヘトだってのに!

 

ロスヴァイセさんが前に出る。

 

「私が残ります! リアスさんはイッセーくんを!」

 

「何を言っているの! 複製とはいえ、一つ一つがイッセーの力を持っているのよ!? ここは―――――」

 

リアスがそこまで言いかけると、複製体の一つがこちらに攻撃を仕掛けてきた!

 

赤い魔力弾を撃ち込んでくる!

 

咄嗟にロスヴァイセさんが防御魔法陣を展開するが、あれでは防ぎきれない!

 

俺は悲鳴を上げる体にムチ打ってロスヴァイセさんとリアスを抱えて後ろに跳ぶ!

 

何とか回避できたが………。

 

「ぐあっ………!」

 

激痛が体に走った。

 

やっぱり、奥義を使った代償は大きいか………!

 

「イッセー!」

 

後ろから声が聞こえてくる。

 

振り向けばアリスと美羽、レイヴェルがこちらに飛んできていた。

 

三人は着地すると駆け寄ってくる。

 

「アリス、向こうは?」

 

「あっちはもう大丈夫よ。邪龍もあと少しだけだったからこっちに来たのだけど…………いいタイミングで来れたみたいね」

 

アリスは上空に浮かぶ二十体もの赤龍帝の鎧を見て、表情を厳しくする。

 

ある程度の予想はしていたけど、こうも早く量産されているを見せられるとな。

 

鎧を纏った俺の複製体が二十。

それはつまり魔王クラスが二十人いるに等しい。

 

美羽の頬を汗が伝う。

 

「こんなの………どうすれば………! ここにいるメンバーだけじゃ!」

 

俺はこの通り力を使い切った。

他のメンバーも疲弊している。

学校の方にいるメンバーが来ても逆転は難しいか………。

 

冥界の軍が到着するまで時間がある。

 

どうする………どうすればいい………!

 

この場の全員がこの状況を切り抜ける方法を模索していた。

 

 

その時―――――。

 

 

『ご主人様ご主人様!』

 

ん?

なんか歴代の女性赤龍帝の人が話しかけてきたぞ?

 

えーと、どうしたの?

今、結構ピンチなんですけど………。

 

今度は歴代の男性赤龍帝が言う。

 

『大丈夫です! こんな時こそあなたの真価を発揮するとき!』

 

エルシャさんとベルザードさんがそれに続く。

 

『あなたの進化の源はいつもそこにあった』

 

『君はそれによって何度も危機を脱してきた。今回も同じじゃないのかな?』

 

おいおい………まさかと思うがそれって―――――。

 

『『『そう! 今こそおっぱいに触れる時! 乳力(にゅーパワー)によって更なる進化を遂げる時!』』』

 

おいいいいいいい!?

 

俺が言うのもなんだけど、あんたら正気か!?

確かにアリスのおっぱい突いて禁手に至ったけど!

アリスとリアスのおっぱい突いて新しい可能性を得たけど!

 

つーか、乳力ってなに!?

初めて聞いたわ、そんなパワー!

 

ツッコミが止まらない俺を見て、怪訝に思ったのかリアスが訊いてくる。

 

「イッセー? どうしたの?」

 

「………落ち着いて訊いてくれる?」

 

「ええ。こんな状況だからこそ冷静でいなければならないもの」

 

「………歴代の先輩たちがさ………おっぱいの力を借りろってさ」

 

「………」

 

ああっ!

リアスがフリーズしてる!

 

ですよね!

そうなりますよね!

 

アリスが俺の胸ぐらを掴んでくる!

 

「あんたはまた胸!? また同じ過ちを犯す気なの!?」

 

「待って! 俺じゃない! 言ったの俺じゃないからぶたないでぇぇぇぇぇ!」

 

この弱り切った状態でアリスパンチ受けたら死ぬ!

死んでしまう!

 

涙目になる俺だが、先輩達は構わず次々に言ってくる。

 

『そして今は絶好の機会!』

 

『今はスイッチ姫が二人いる! ダブルスイッチ姫!』

 

『こんなにも心強いことは無いだろう!』

 

言葉に熱が入っていませんか!?

 

すると、イグニスが何かに気付いたかのように言う。

 

『………まさか、アレをしろと言うのね? アレはまだ机上の空論。成功するかどうかなんて分からないとういうのに………』

 

『いえ、女神さま! 彼らならできます! 私達が信じる彼らならきっと成功させます!』

 

すいません、話が見えてこないんですけど………。

 

君達は俺に何をさせようとしているの?

今までみたいに普通に突けっていう雰囲気じゃないよね?

 

『そうね………。アリスちゃんとリアスちゃん。次元を越えて揃ったダブルスイッチ姫。そして不可能を可能にしてきたおっぱいドラゴン、イッセーなら………』

 

イグニスの声がいつになく真剣だ。

それが逆に恐ろしい。

何かとんでもないことを考えてそうで………。

 

イグニスは実体化し、俺の横に現れると、俺、アリス、リアスの順に見渡して言ってきた。

 

「三人とも、いい? この状況を変えるには三人の協力しかないの。私の言うことを良く聞きなさい」

 

イグニスは一拍置くと真っ直ぐな瞳で告げた。

 

「イッセー、二人のおっぱいを吸いなさい。二人同時に」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

思考が完全に停止する俺達。

 

思考停止数秒後―――――

 

「「「えええええええええええええええええ!? ここで!? しかも吸うの!?」」」

 

俺達三人の声が重なった!

 

だってそうだろう!

今ここで吸えって言ってくるんだもの!

しかも、二人同時に!?

 

俺は疑問をそのまま口にする。

 

「なんで吸うの!? それも二人同時って何!?」

 

「私が立てた理論―――――T・O・S(ツイン・おっぱい・システム)。二人のスイッチ姫のおっぱいパワー………いえ、乳力を同調させることで、乳力を二倍にするのではなく二乗化させる。今までの乳力とは比べ物にならない出力を叩きだすというものよ。まだ理論段階だけど、私の計算ではそう出ているわ」

 

「よくそんな意味わからんことを真剣な口調で言えるな!? 乳力を同調させるって何!? つーか、計算したの!? あんたの頭の中はどうなってんだ!?」

 

「二人の母乳を同時に飲めばオーケーよ。ちゃんと舌で絡めて味わいなさい」

 

「表現が生々し過ぎる!」

 

この駄女神ぃぃぃぃぃぃぃぃ!

 

マジで何考えてんだ!?

 

見ろよ、おまえの妙な迫力に押されて二人が!

 

「え、えっと、リアスさん………どうする?」

 

「そ、そうね………それしかないというのなら、するしかないと思うし………イッセーなら………」

 

二人とも流され始めてるよ!

 

マジで良いのか!?

こんな場所で!?

 

すると、レイヴェルが叫んだ!

 

「イッセーさま! 複製体が!」

 

言われて空を見上げると、全ての複製体が天撃の鎧となって全砲門をこちらに向けていた!

あいつら一斉に撃つつもりか!?

あんなもん撃たれたらこの地域が丸ごと吹き飛ぶぞ!?

 

イグニスが叫ぶ!

 

「早くなさい! この状況を変えられるのはT・O・Sしかないわ!」

 

そのT・O・Sって言うの止めてくんない!?

何だよ、ツイン・おっぱい・システムって!?

 

だが、早く動かないとあいつらが撃った余波で学校の方にも被害が…………!

 

クソっ、こうなったらヤケじゃぁぁぁぁぁぁぁぁい!

 

俺はアリスとリアスの肩を掴んで言った。

 

「アリス! リアス! 二人のおっぱい、吸わせてくれ!」

 

 

 

 

 

 

「やぁっ………リアスさんの乳首が擦れて………んっ」

 

「あ、アリスさん………そんな、動いたら………あんっ」

 

服を脱いだアリスとリアス。

 

二人は互いの胸をくっつけるようにして寄り添っていた。

それは俺に同時に吸わせるため。

 

豊満なリアスのおっぱいとようやく成長し出したアリスのおっぱい。

二人のおっぱいが密着し、呼吸で震える。

 

頬は紅く染まり、瞳は潤んでいる。

恥ずかしさもあるんだろうけど、これから自分たちがされることを想像したからかもしれない。

 

幸いこの場にいるのは俺以外は皆女性。

それだけが唯一の救いかもな。

 

あ、でも………。

 

「こ、こんなところで………! うわぁ………は、ハレンチだぁ………エロエロだぁ」

 

ロスヴァイセさんが顔を手で覆いながらも指の間からバッチリこちらを見ていた。

しかも、方言。

 

俺は二人の腰を抱くと引き寄せる。

 

「………二人とも、いいか?」

 

「は、早くしてよね………」

 

「あまり、時間をかけられると………恥ずかしくて、私………」

 

甘い吐息を漏らしながら二人は見つめてくる。

 

俺は静かに頷くと―――――二人のおっぱいを同時に吸った。

 

二人の声が周囲にこだまする。

 

 

 

 

 

―――――さぁ、目覚めなさい

 

 

 

 

 

―――――ここにはアリスちゃんのおっぱいと

 

 

 

 

 

―――――リアスちゃんのおっぱいと

 

 

 

 

 

―――――おっぱいドラゴンがいるのだから!

 

 

 

 

赤く光と紅い光、そして白い光。

 

三つの輝きがこの地域全てを照らした―――――。

 

 

 

 

 

 

俺の中で何かが大きく動いた。

 

体の底から………いや、魂の底から力が沸き出てくる。

 

温かい。

 

優しい熱が俺を包み込んでいく。

 

それに、二人の力を俺の中に感じる。

 

 

そうか、これが―――――

 

 

ドライグ、もう一戦いけるな?

 

『ああ、派手に暴れてやろうではないか』

 

赤と紅、そして白いオーラが籠手の宝玉から放たれ、俺を包み込んでいく。

 

この力なら皆を守れそうだ。

 

『ECLIPSE!!』

 

翼、腰、籠手にキャノン砲が増設される。

 

天撃の力が俺を纏う。

 

『XENON!!』

 

脚や肩、腕に大型のブースターが出来る。

 

天撃の上に天武の力が重ねられる。

 

『AGIOS!!』

 

翼の形状が鳥類を思わせる赤い翼へと変わる。

 

天武と天撃の力をまとめるように天翼の力が覆った。

 

「融合進化ァッ!!」

 

『EXA Promotion!!!!』

 

天撃(E)天武(X)天翼(A)の三形態が融合を果たす!

 

融合進化―――――こいつが俺の新たな力!

 

体から溢れ出る力はどの形態よりも遥かに濃密で強大!

吹き荒れるオーラでこの地域一帯が激しく揺れる!

 

複製体達から放たれた極大の砲撃は新形態に至った余波で全て相殺された!

 

俺は後ろにいる皆に顔だけ向けて言う。

 

「皆はここにいて、結界を張って身を守ってくれ。ここから先は俺一人で十分だからよ!」

 

俺は天翼の翼を大きく広げて飛翔する!

 

複製体を眼前にしてフェザービットを全基展開!

 

行くぜ、ドライグ!

ビットの制御は任せた!

 

『任せろ! だが、あまり時間はかけられんぞ。この形態は方向性の違う力を強引に合わせたものだ。強力な反面不安定でもある』

 

なるほど、確かに力の中に僅かにだけどズレがあるな………。

了解だ!

 

それじゃあ、さっさと終わらせましょうかね!

 

俺は天撃のキャノン砲も展開し、照準を定める!

 

天撃の力と天翼の力!

存分に味あわせてやるぜ!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

向こうもかなりのスピードで動いてる。

 

『赤瞳の狙撃手』リーシャほど狙い撃つ力があれば最小限に済ませられるだろうけど、俺にはそんな狙撃力は無い。

 

 

だからさ―――――

 

 

「乱れ撃つぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

空を駆けるビットによる砲撃と天撃の砲身から放たれる砲撃!

 

あらゆる角度から放たれる赤い砲撃が複製体を襲う!

 

まともに受けた複製体は消滅していった。

 

―――――まるで滅びの魔力を受けたかのように。

 

下で見守っているリアスが叫んだ。

 

「あれは私の消滅の魔力! イッセー、あなた私の力を!?」

 

「それだけじゃないわ! あいつ、私の力まで!」

 

アリスも驚愕していた。

 

そう、今の俺の中にはリアスの滅びの魔力とアリスの白雷の力が宿ってる。

 

恐らく二人のおっぱいを吸ったからだろうけど。

 

でも、今までアリスのおっぱいは何度も吸ってきたし、この間、リアスのも寝ぼけて吸ったけど、そういう変化はなかった。

今回に限ってなんでだろう?

 

T・O・Sってやつの効果か?

 

まぁ、そのあたりは分からないけど、今ならこういうことも出来る。

 

俺は右手に滅びの魔力を、左手に白雷を纏う。

 

両拳を胸の前で合わせると―――――滅びの魔力と白雷で構成された巨大な魔弾が出来上がる!

 

「くらいやがれ! 滅雷球!」

 

俺は魔弾を殴りつける!

 

魔弾は複製体に命中すると、跡形もなく消滅させた!

更に、そこを中心に白雷が周囲に広がり、近くにいた複製体を焦がしていく!

 

俺が遠距離からの攻撃をしていると、奴らは近距離戦に持ち込もうと天武の鎧に変えて突貫してくる。

 

奴らの籠手のブースターが大きく展開し、炎が噴き出す。

 

―――――シャイニング・バンカー。

 

そうか、そんな技まで使えるのか。

人の力を無断で惜しみなく使ってくれる。

 

そんな奴はぶっ潰さないとな!

 

俺の籠手のブースターが展開。

そこから炎が噴き出すと同時に滅びの魔力が集中する。

 

俺は真正面から迎え撃ち―――――

 

「エクスティンクト・バンカァァァァァッ!」

 

衝突する複製体の拳と俺の拳!

僅かに拮抗するが―――――滅びの魔力が複製体を炎ごと消滅させた!

 

よし、ラスト五体!

 

俺が振り向くと、残りの五体は天撃の状態でドラゴン・フルブラスターを撃つ格好となっていた。

残った奴らで一気に俺を仕留めるつもりか!

 

だけど、それは願ったり叶ったりだ。

こっちも一気に片付けることが出来るからな!

 

俺は周囲にビットを一斉展開。

全砲門を開き、赤い竜の力と滅びの魔力、白雷がチャージされていく。

 

俺と奴らのチャージ完了時間は全く同時。

 

となれば、あとは力の押し合いだ!

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

『EXA Full Blast!!!!』

 

放たれる極大の砲撃!

俺とアリス、リアスの力が合わさったこの力!

強力な力だが、向こうも五体の砲撃が合わさってるだけあって強い!

 

俺達の砲撃は拮抗していた!

 

だけど、負けられない!

こんなところで負けられない!

 

俺が負ければこいつらは学校に向かうだろう。

そうなったら、匙が守ろうとした学校や子供達が!

 

だからこそ!

 

「負けられるかよォォォォォォォォッ!」

 

獣のような咆哮!

 

EXAの砲撃は勢いを増し―――――全ての複製体を完全に消滅させた。

 

 

 

 




イグニス「ツイン・おっぱい・システム。長いと感じたらツイン・システムと呼びましょう」

イッセー「カッコいいけど中身はおかしいからね!?」


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22話 まさかの立候補です!

戦闘後の処理となったアウロス。

 

町は至るところに邪龍の爪痕が残っている。

 

特に俺達赤龍帝眷属がメインで対処したアセムの下僕達との戦いの痕跡は大きく、あちこちを更地に変えていた。

 

この町にはもうまともな家屋や畑はほとんど残っていない。

 

学校の方は美羽達がユーグリットの仕掛けを解除してくれたお陰でそこまで大きな被害は出なかったものの、ところどころで損傷が見られる。

中にはヴァルブルガが吹き飛ばした施設もあるので、完全な状態で守りきった………とはいえないだろう。

 

今は駆けつけた冥界の兵隊達が学園と町内で調査及び瓦礫の撤去作業を行ってくれている。

 

こちらでは三時間以上経過していたが、外では三分ほどしか経っていなかったそうだ。

 

そうなるとティアとディルムッドは本当に絶妙のタイミングで現れていたことになる。

 

うん、母さんマジでありがとう。

あの二人がいなかったら、もっと危なかったかもしれない。

 

奴らの主犯格であるユーグリットは先程、魔王領へと転送された。

あいつにはまだ言い足りないこともあるが、あとはサーゼクスさん達に任せよう。

これでグレイフィアさんの容疑も晴れるはずだ。

 

聖十字架の魔女、ヴァルブルガはあの後、残った量産型邪龍と共にすぐに転移型魔法陣で退散したそうだ。

 

あの聖遺物の炎は悪魔にとってかなり厄介なもの。

何とか対策を考えたいところだが………。

 

俺にはやることがある。

 

聖十字架の対策よりも今は――――――

 

「えっと………と、とりあえず、こっち向いてくんない?」

 

俺はこちらに背を向けるアリスとリアスに声をかけた。

 

俺の複製体を倒した後、二人に話しかけようとしたんだが、二人共顔真っ赤で一言も話してくれなかったんだ。

 

………恥ずかしかったのはわかるよ!?

 

俺も今回ばかりは恥ずかしかったもん!

 

でもね、しょうがないじゃん!

うちの駄女神がツイン・おっぱい・システムしかないとか言うんだからさ!

あの状況でああも熱く言われたら、それに賭けるしかなかったんだよ!

 

アリスとリアスが呟く。

 

「………イッセー、あんたさ………どさくさに紛れて私達のお尻触ってきたでしょ? む、胸吸いながら、お尻も揉んできたわよね?」

 

「うっ………!」

 

「………胸もあんなに吸って………必要以上に吸われたような気がするのだけれど。………途中から同時にとか関係なく吸ってきたし………」

 

「ううっ………!」

 

た、確かに二人のおっぱい吸いながらお尻も触っちゃったかも………。

おっぱいもいっぱい吸っちゃったし………。

 

「だ、だって、二人の声が………そ、その可愛くて………つ、つい………」

 

などと言い訳をしてみるが………、

 

「………」

 

「………」

 

二人共、耳まで赤くして顔を伏せてしまった!

 

だ、ダメだ………。

下手な言い訳で事態を改善することなどできないか!

 

いや、でも、二人の声が色っぽくて可愛かったのは事実なんだ!

二人の甘い吐息!

ビクンと震える体!

 

興奮しないわけないじゃないか!

あんな状況だったのにそういう気分になっちゃったんだよ!

戦場じゃなかったら押し倒してましたよ!

 

そこだけはご理解していただきたい!

 

しかし………それを二人に言えばこの事態は悪化しそうだ………!

 

ならば、どうするか。

 

使うしかないだろう、あの技を。

 

全てを丸く納めるモーリスのおっさん直伝のあの技を………!

 

「アリス! リアス!」

 

俺は大きな声で二人の名を呼ぶ!

 

一瞬、二人がビクッとするが、そこを俺は見逃さない!

 

俺は地を蹴って高く跳躍!

空中で高速回転し―――――二人の前で両膝と両手で着地を決める!

 

「ほんっと、すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

必殺『ムーンサルト・ジャンピング土下座』が炸裂した。

 

 

 

 

「派手にやられたな」

 

聞き覚えのある声に振り返るとアザゼル先生がいた。

 

「悪かったな、今回は参戦できなくて」

 

「いえ、俺達もこんなことになるとは思ってなかったですし………。今回はある意味運が良かったと思いますし」

 

俺はアーシアを慰め中のティアと美羽に付き従っているディルムッドの方に視線を向けながら言った。

 

先生も二人のタイミングの良さには苦笑するだけだ。

 

………リゼヴィム達はうまい具合にアグレアスを丸ごと持っていってしまった。

話では都市にいた住民やアガレス眷属、バアル眷属といったこちら側の陣営の者は全て地上に転移させられていたそうだ。

つまり、都市だけ奪い去ったことになる。

 

俺は先生に問う。

 

「………あの空中都市の何が目的なんですかね?」

 

空中都市アグレアスは旧魔王時代の技術が使われていて、未だ解明できていない未知の部分があるという。

前ルシファーの息子であるリゼヴィムはその秘密を知っているんじゃないかとソーナ達は言っていた。

 

先生が息を吐きながら言う。

 

「………実は巨大兵器かなんかで、変形でもするのかね。………あそこを担当していたアジュカ・ベルゼブブが何か知っているかもしれない。訊いてみた方が良いな」

 

先生も皆目見当がつかない様子だった。

 

奴らの目的はアグレアスとトライヘキサだ。

 

ユーグリットはロスヴァイセさんの論文についても語っていたな。

 

先生も同じことを考えていたのか、それを口にする。

 

「ロスヴァイセの例の論文、ある程度解明できた」

 

「トライヘキサの封印法ですよね?」

 

「なんだ、ユーグリット辺りが話したか? そうだ、ロスヴァイセの論文はトライヘキサの封印解除ではなく、封印そのものの術式に行き着こうとしていたのさ。ユーグリットじゃないが、あいつは本物の才女だよ。当時、興味半分で手を出して、その可能性に触れるなんてな」

 

「となると、これからはやっぱり?」

 

「ああ、あいつの術式解析が鍵を握る。まさか、ロスヴァイセが俺達の切り札になりそうだとは………世の中、何が起こるかわかるもんじゃないな」

 

ため息を吐く先生。

 

まぁ、確かに。

うちの眷属仲間ってすごいのばかりだな………。

 

先生が俺の頭を手でわしゃわしゃかき回す。

 

「帝釈天からの伝言だ。初代孫悟空が天帝のもとで行っていた対『禍の団』の先兵、その後釜が曹操となった」

 

なるほど………やっぱ、あの時の聖槍はそういうとなのか。

 

こりゃ、近いうちにまた会いそうだ。

下手すりゃ、前よりパワーアップしてそうだぞ。

 

「それと複製イッセーだが………まさか、もう量産してくるとはな。戦闘技術までは反映できていないようだが、パワーはおまえそのものなんだろう? 一体一体が魔王クラスとか………胃が痛いぜ」

 

「いや、その通りなんですよね………。今回は何とかなりましたけど」

 

「何とかするおまえもある意味恐ろしいぞ。何だよツイン・おっぱい・システムって………。なにちゃっかり、魔力とも光力とも違う未知のパワー引き出してんだよ。つーか、魔王クラス二十体を一人で片付けるとかどんだけだよ!」

 

「そ、それはうちの女神さまに言っていただけると………」

 

乳力(にゅー・パワー)だもんな………。

多分、世界中………異世界探しても俺しかいないんじゃないのか、使える奴。

 

でも、あの力――――EXA形態は強力だ。

 

方向性の違う三形態の能力を合わせる上に、リアスの滅びの魔力とアリスの白雷を使えるんだからな。

しかも出力も桁違いと来ている。

 

おっぱいパワーの二乗化は半端じゃないね。

 

ドライグが言う。

 

『だが、不安定でもある。つまり出力が安定せず、思いもよらぬところで解ける可能性もある。使いどころは限られてくるぞ』

 

イグニスがそれに続く。

 

『それにリアスちゃんの力とアリスちゃんの力はあの形態でないと使えないから要注意ね』

 

あ、やっぱり?

 

さっき、試しに使おうとしたら全然ダメだった。

 

『それはそうよ。二人の力を取り込んだとはいえ、あれはT・O・S としてイッセーの中に組み込まれているもの』

 

うーん、何となく予想はしていたけど………。

 

普段から使えるんだったら、対リゼヴィムの切り札になるかなって考えもあったんだけどね。

 

そうなると別の手を考える必要があるか。

神器ではない別の力を。

 

………それはそうとドライグは平気なのかよ?

 

『なにがだ?』

 

いや、今回もおっぱいで劇的パワーアップしちゃったし………ショック受けてないかなって。

 

『………ショックは受けているぞ。だが、俺はもう一人ではないのだ! 痛みを分かち合える者がいる! だから、後でアルビオンのところへ行ってくるぞ!』

 

………そっか。

アルビオンによろしく伝えてくれ。

 

アルビオン………ドライグの愚痴、聞いてあげてね。

 

遠い目をする俺の横で先生が険しい目をしていた。

 

「………あとは今回の事件を招いた者が把握できるかどうかだな」

 

………事件を招いた者。

 

アグレアスでは時間と空間によるテロ対策が進んでいなかった点、この町に名だたる魔法使いが集められた点。

この二つは確実に繋がっているだろう。

 

そうでなければ、脱出用の転移型魔法陣を利用してアグレアスをジャンプさせるなんて大掛かりで大胆なことは出来ない。

しかも、ゲンドゥルさん達魔法使いの術式まで封印していく念の入れよう。

 

裏で糸を引いていた者がいるはずだ。

 

「ま、おまえのおかげで裏切り者の魔法使いは全員捕縛できた。それを辿れば何か掴めるかもしれん。その辺りはこっちに任せてくれ」

 

「はい」

 

先生の言葉に頷きを返す俺。

 

と、ここで息をあげてデュリオが到着した。

 

「遅れてすみませんっ! なんというか………戦後処理頑張ります!」

 

流石の天界の切り札も三分間の出来事には対応出来なかったようだ。

 

 

 

 

俺は校庭に設置された臨時テントへ向かう。

 

消耗の激しかったメンバーは全員ぐったりしていて、各自パイプ椅子の上でおやすみ中だ。

 

うちの眷属では美羽がアーシアと肩を寄せて熟睡していた。

ギャスパーもスヤスヤ眠っている。

 

アリスとレイヴェルは戦後処理に出ているのか、この場にいない。

 

………一番、消耗が激しかった匙が見当たらないんだけど………どこ行ったんだろ?

 

俺も流石に疲労が溜まっているので、一休みすることに。

パイプ椅子の一つに腰を下ろして一息吐く。

 

「………なんか、最近バトル多くない?」

 

特に夏休み明けてから怒濤のごとく有事が起こりまくったよね。

 

旧魔王派にロキだろ、アスト・アーデにも行ったし、英雄派。

吸血鬼の一件以降はアセムとリゼヴィム。

 

あー………俺の高校生活が戦いで埋まっていく………。

俺の平和はいったいどこへ………。

 

すると、俺の隣に座ったリアスが言ってきた。

 

「冬休み、皆で集まりましょうか」

 

「冬休みの合同特訓的な?」

 

「大変な時期でもお休みさせてあげたいのは山々なのだけれど、冬休み前に教会………いえ、天界から援助を求められているのよ」

 

「天界から?」

 

悪魔が天界から援助を求められるってのも変な感じだな。

これも三大勢力の関係が良好になったということかね。

 

しかし、そうなると冬休み前は天界に行くことになるのか?

 

リアスが微笑む。

 

「師走の終わりは天使達と過ごすことになりそうね。その辺りは天使側――――イリナやシスター・グリゼルダともろもろ固めているところよ」

 

へぇ、そうだったのか。

つーか、俺にその辺りの情報が回って来てなかったんだが………。

 

と、ゼノヴィアがテントに入ってくる。

 

「ここにいたのか、部長」

 

「どうかしたの、ゼノヴィア?」

 

頷くゼノヴィアは俺達を見渡しながら言う。

 

「うん、そろそろ、話しておいた方が良いと思ってね」

 

「ん? それは前に言ってた秘密のことか?」

 

俺がそう問うとゼノヴィアは頷く。

 

「流石はイッセーだ。察しが良いね」

 

ゼノヴィアは改めて俺達を見渡しながら言う。

 

「三学期に入ったら来年度生徒会の総選挙があると聞いた」

 

「ああ、ソーナや真羅先輩も卒業だしな。新しい生徒会役員を決めないと………って、おまえ………」

 

俺はとある想像に行き着いた。

 

ここまで来たら確実にそうだろう。

つーか、ゼノヴィアのやつ、自信満々に腕組みしてるしな!

隣にいるイリナまで「えっへん!」と胸を張ってる理由は謎だが………。

 

ゼノヴィアは天に指を突き上げて宣言する!

 

「イッセー、私は今度の選挙に立候補する。――――私は生徒会長になりたいんだ」

 

「ええええええええええええええっ!?」

 

俺、木場、小猫ちゃん、レイナが仰天する!

 

寝ている美羽、アーシア、ギャスパーはともかく、驚いていないのはリアス、朱乃、ロスヴァイセさんぐらいだ。

 

マジか!

生徒会長に立候補か!

そういや、勉強や学校行事に興味津々だったのはそういうことか!

 

リアスが言う。

 

「私たちも相談された時は驚いたわ。まさか、ゼノヴィアが生徒会長になりたいなんて………。最近、学校行事に並々ならぬ関心を寄せていたのはそういうことだったのよ」

 

ゼノヴィアはうんうんと頷きながら続ける。

 

「三学期に入ったら選挙活動をするつもりだ。………オカ研を抜けることになりそうだが、どうしても生徒会長になりたいという野望をもってしまったんだ。どうか、ご了承を願いたい」

 

お、おおおおお………。

 

あのゼノヴィアが生徒会長に立候補とは………。

ソーナの後釜候補になるんだが、ゼノヴィアが生徒会長になったらどうなるんだろう?

全く想像がつかない。

 

………まぁ、賑やかにはなりそうだな。

 

リアスが皆に言う。

 

「まだ日もあるし、冬休み前から対策を立てましょう」

 

すると、いつのまにか起きていたアーシアがゼノヴィアに抱きつく。

 

「ゼノヴィアさん! 私、お手伝いします!」

 

イリナもゼノヴィアに飛び付いた。

 

「もちろん私もよ! 布教とか得意だし!」

 

「ああ、二人共よろしく頼む! 私は生徒会長になるぞ!」

 

張り切る教会トリオ。

 

布教って………それは微妙に違うような………。

 

ふとリアスに視線を向けると若干寂しそうな表情で呟いた。

 

「………オカ研も新しい部長を決めなくてはならないわね」

 

「誰にするのか決めているの?」

 

俺が問うと口に指を当ててウインクした。

 

「まだ秘密よ。けれど、朱乃と話し合ってもう決めてはいるの」

 

秘密なのね。

 

うーむ、誰が部長になるんだ?

二年でなりそうなのは………木場とか?

ありえそうだが、リアスがそんなストレートに来るかな?

 

他は………うーん………。

 

リアスが手を叩いて皆に言う。

 

「さて、冬休み前にもう一仕事しましょうか。まずはここの処理よ」

 

冥界の兵士達のほとんどが町の修復に向かっている。

 

………俺がラズルとの戦いで開けた巨大な穴とか埋めてくれてるらしい。

イグニスの炎で焼けた畑も何とかしてくれるそうだ。

 

俺達は学校の修復かね。

 

皆が立ち上がり、それぞれの持ち場に戻ろうとすると――――イリナが俺の袖を引っ張ってきた。

 

妙に笑顔だった。

 

「ところでイッセーくん。もうすぐ約束の時期だね」

 

「へ? 約束?」

 

間の抜け間返事をする俺だが、イリナはニッコリしながら続けた。

 

「………ちっちゃい頃に決めた約束、クリスマスになったら思い出すって信じているからね♪」

 

 




次回でこの章のラストかな?
番外編は………ネタが決まってないなぁ(苦笑)


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23話 提案

ヴァルキリー編ラストです!


「本当によろしいのですか?」

 

「ええ、ここでかまいませんよ」

 

リアスの問いにそう返すゲンドゥルさん。

 

ゲンドゥルさんは現在、学校の隅にあるスペースで転移魔法陣を展開していた。

 

今回の件でゲンドゥルさんは酷く消耗したため、一度冥界の病院で診てもらうことに。

医療班のスタッフさんに転送を任せるか、付き添ってもらうのが良かったんだけど、一人で行けると言って申し出を断ってしまったんだ。

 

それを見送るのは俺とリアスとロスヴァイセさん。

 

「………」

 

「………」

 

特に会話のないゲンドゥルさんとロスヴァイセさん。

なんとも言えない空気に俺とリアスは苦笑いを浮かべるしかなかったのだが、こちらに駆け寄ってくる気配が複数。

 

見れば、子供達が手を振りながらこちらに向かってきていた。

リレンクスの姿もそこにある。

 

「ロスヴァイセ先生!」

 

「おばあちゃん先生!」

 

子供達は二人の元に集うと寂しそうに言った。

 

「先生、帰っちゃうって本当?」

 

「もう、この学校にこないの?」

 

「もっと魔法をおしえてほしいです!」

 

そんな子供達の頭を撫でながらゲンドゥルさんは言う。

 

「私はまた来ますよ。それにロスヴァイセ先生だっていつかまた必ず来てくれるはずです」

 

その言葉に子供達は最高に輝いた笑顔を見せ、心から喜んでいた。

 

ゲンドゥルさんがロスヴァイセさんに真っ直ぐな瞳で言う。

 

「ロセ、おまえが辿ってきた道は確かにうちの家系とは異なるものだった。でも、間違ったものではないんだよ。その答えはここにあるだろう?」

 

ゲンドゥルさんの視線の先には子供達の笑顔。

 

「この子達の笑顔はおまえが辿ってきた先に出来たものだよ。それは今のおまえだからこそ、出来たもの。もっと自分を誇りなさい。――――おまえは私の自慢の孫です」

 

「………はい。ありがとうございます」

 

ロスヴァイセさんは口元を手で押さえ、こみ上げてくるものを必死に抑え込もうとしていた。

それでも、ゲンドゥルさんの言葉に涙が溢れてくる。

 

ゲンドゥルさんはそれを確認して魔法陣の魔法力を高めようとする。

 

しかし、何を思ったのか一度中断して俺の前に立った。

 

じっと俺の目を見てくるんだけど………なんだろう?

 

怪訝に思っていると、ゲンドゥルさんは俺の手を握ってきた。

 

「彼氏さん、ロセをよろしくお願いしますね。あなたに任せるのが一番安心できますので」

 

「あ、はい………」

 

俺が頷くと、ゲンドゥルさんはニッコリと微笑んで続けた。

 

「出来れば、ひ孫もお願いしますね? 男の子でも女の子でも私は一向に構いませんので」

 

「「ぶふぅぅぅ!?」」

 

予想外の言葉に吹き出す俺とロスヴァイセさん!

 

ひ孫ですか!?

 

それって、ロスヴァイセさんとそういう関係になるってことで………いやいやいや!

この人、やっぱりストレート過ぎるよ!

 

「ば、ばあちゃん!? な、何を!? わたすとイッセーくんはそこまでの関係じゃ………」

 

ロスヴァイセさんが顔を真っ赤にしながら方言混じりで抗議するが、ゲンドゥルさんは無視して魔法陣の輝きを強くさせていく!

 

「それでは私はこれで。次会うときを楽しみにしています」

 

ゲンドゥルさんは微笑みを浮かべて転移の光に消えちゃったよ!

 

なんで、俺の周囲の大人達は孫とかひ孫を期待するのぉぉぉぉぉぉ!?

急ぎすぎだろぉぉぉぉぉぉ!?

 

ゲンドゥルさんもそういう人だったの!?

もっと厳しい人だと思ってたのに!

 

つーか、次会うときを楽しみにしてるって………その時までにひ孫作れってか!?

 

「あ、あの………ロスヴァイセさん?」

 

「す、すいませんすいません! まさかあんなことを言い出すとは思わなかったので!」

 

あー………ロスヴァイセさんが耳まで赤くなってる………。

 

ですよねー………。

そうなりますよねー………。

 

だって、いきなりすぎるもんね。

 

すると、ロスヴァイセさんは銀の髪を指先でクルクルしながら、恥ずかしそうに言った。

 

「え、えっと………かっこよかったです。そ、それに………嬉しかったです。私を追いかけてくれて………」

 

「当然です。ロスヴァイセさんは俺の大切な仲間ですし。それに約束しましたから。これから先、何があっても守り続けますよ」

 

「~~~~~っ!」

 

あ、れ………?

なんかすんごい顔になってる………。

俺、そんなにおかしなこと言ったかな?

 

ロスヴァイセさんは顔を伏せてしまうが、ぼそりと呟いた。

 

「………プ、プライベートの時は………ロセと呼んでください………」

 

「え………?」

 

「え、っと………あの………その………イッセーくんの方が歳上ですし………その………さん付けもどうかと思ったので………。イッセーくんなら公私の区別はつけてくれそうですし………。け、敬語もなしで、お願いします………」

 

ぼそぼそとそう呟くロスヴァイセさん。

 

ロセ、か………。

 

ま、まぁ、愛称で呼ぶ方が親しみやすくて良いのかな?

 

俺は微笑みながら頷いた。

 

「わかった。それじゃあ、普段はロセって呼ぶことにするよ」

 

「あ、ありがとう………ございます」

 

小さい声だけど、どこか嬉しそうなロセだった。

 

 

 

 

ゲンドゥルさんを見送った後、俺とリアスは町の復興作業に取りかかるつもりだったんだけど、俺達はまだ学校の敷地内にいた。

 

なぜならとある光景が俺達の目に入ってきたからだ。

 

その光景とは―――――

 

「か、会長! お、おおおおお俺!」

 

学校の端。

人気の感じられない場所に立つ一組の男女。

 

滅茶苦茶噛みまくってる匙とその前に立つソーナの姿。

ソーナは顔を伏せているせいで表情が見えない。

 

そう、俺とリアスはばったり匙の告白現場に出会してしまったのだ。

 

流石に出ていく訳にはいかず、俺もリアスは近くの草むらに隠れることに。

 

以前、黒歌と初めて出会った時はリアスの気を隠すのを忘れて気づかれてしまったので、今回は俺とリアス二人分の気はバッチリ消してるぜ!

 

まぁ、ソーナも匙も気を感知する能力は持ってないけど………一応ね?

 

「まさか、幼馴染みが告白される現場に遭遇するんて………今日一番のイベントかしら?」

 

真剣な顔で言うリアス。

 

今日一番のイベントって………ま、まぁ、リアスからしたらそうなるのかな?

誰かが告白されている現場………特に親しい者が告白される現場なんてそう見ることはないだろうし。

 

匙が緊張し過ぎて、震えた声でソーナに言う。

 

「お、おおおおお俺! は、初めて出会った時からか、会長に惚れてて………。さ、さっきは勢いで言っちゃいましたけど、俺、本当に会長のことが………すすすす好きです! ずっと惚れてます!」

 

おおっ、言ったぞ!

匙のやつ、真正面から「好き」って言ったぞ!

 

今朝とは全然違うな!

 

やっぱり、あれか!

禁手に至ったことで、男も一段階上に至ったか!

 

「………ソーナはどう答えるのかしら? ソーナったらあまり恋愛事に興味がないから………。そういう話も聞かないし………。匙くんのことは弟のように見ていたし………」

 

あははは………リアス、すごい心配してるな。

 

以前、ソーナにそれとなく訊ねたら匙のことは弟みたいな感じだと言っていた。

多分、今日の公開告白の直前まではそうだったのだろう。

 

それが、あそこまでの男を見せたんだ。

ソーナの認識も変わっているとは思うけど………。

 

さて、匙の告白にソーナはどう答えるか。

 

………あ、ヤベ………こっちまで緊張してきた。

 

つーか、リアスも明らかに緊張してるよね。

さっきから俺の手を握りしめてくるし。

瞬きしてないし。

 

匙の告白聞いてからソーナが黙ったままなんだが………この無言の時間が苦しい!

 

お願いだから何か答えて!

見てるこっちがハラハラするから!

俺もリアスも手汗びっしょりだから!

 

おっ、ソーナが顔を上げた!

 

さぁ、ソーナの答えは―――――

 

ソーナが思い口を開く。

 

「………正直、突然のことで戸惑っています………。まさか、サジが私のことをそういう風に見ていたなんて………気づきませんでした。私は眷属のことをしっかりと見ていると思っていたのですが、まだまだということでしょうか」

 

ソーナは深く息を吐く。

 

そして、頬を染めながら続けた。

 

「………そ、その………今日はありがとう、サジ。あなたに私は救われました。あなたがいなければ、私と私の夢は今頃どうなっていたか………」

 

「い、いえ! 会長を守るのは俺の役目と言いますか………その………当然のことをしたまでです!」

 

匙は首をぶんぶん横に振る。

 

そんな匙にソーナは微笑む。

 

「今日のサジは格好よかったですよ。本当にありがとう。しかし………ダメですね」

 

「えっ………!?」

 

だ、ダメ!?

 

ま、まさか、匙の告白は失敗か!?

この流れで失敗とかありか!?

 

やっぱり、ソーナは厳しいのか!?

 

ソーナは匙の手に触れると、その手を優しく撫でる。

 

「命は張っても命を捨てる行為だけはしてほしくなかった。たとえ私を守るためだとしても。あそこであなたに死なれたら、私は立ち直れなかったかもしれません。いえ、仮に立ち直れたとしても、この先を今まで通りに生きていけるか………」

 

「す、すいません………。気づいたら勝手に体が動いていたというか………何が何でも守らないとって………」

 

「今日は生き残ることが出来ましたが、次はどうなるか分かりません。これからは気を付けるのですよ」

 

「は、はい………」

 

んー………なんだか、半分お説教に変わってきているような気がするんだけど………。

 

リアスも額に手を当ててるし………。

 

結局のところ、ソーナの答えはどうなんだろう?

 

匙が問う。

 

「そ、それで会長………。あの返事の方は………」

 

その問いにソーナは一瞬動きを止める。

 

そのまま匙の瞳をじっと見つめて――――振り返った!

 

振り返ったまま、向こうに歩いていくぞ!?

 

え、ええええええ!?

 

あのソーナさん!?

返事の方は!?

 

ここでまさかの未解答ですか!?

 

「か、会長!?」

 

流石の匙も慌ててソーナを呼び止める!

そりゃあ、ここまで来て返事なしじゃ消化不良も良いところだよ!

 

お願い、ソーナ!

お願いだから、何か答えて!

 

匙もそうだけど、俺もリアスも消化不良になっちゃうから!

 

すると、数歩進んだところで、ソーナは立ち止まる。

 

そして、くるりと匙の方を振り向くと見たことがないくらい可愛いスマイルで―――――

 

「まずはプライベートの時に『会長』は止めなさい。二人で出掛ける時も『会長』と呼ぶつもりですか? 公私を分けることも魅力的な男性のポイントの一つですよ?」

 

「………そ、それは………。も、もしかして………」

 

匙が絞り出すように声を出す。

 

ソーナは笑顔のまま、一つ頷く。

 

「これからも公私共によろしくお願いしますね、サジ」

 

暫しの沈黙が続く。

 

そのままの体勢で制止すること数秒後――――――

 

「や、やった………やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 本当に良いんですね!? かい………じゃなかった! ソーナさん!」

 

拳を振り上げる匙!

 

ソーナも頬を染めながら頷いた!

 

やりやがった………あいつ、本当にやりやがったぁぁぁぁぁぁ!

 

あー………もう心臓に悪い!

ソーナがこんなに伸ばすから!

 

いやぁ、でも、めでたいな!

 

リアスが微笑みながら言う。

 

「ふふふ、あんな顔したソーナを見るのは初めてかしら」

 

「そうなの?」

 

「ええ。さっきも言ったようにソーナはこの手のことにはまるで興味を示さなかったのよ。でも、良かったわ。本当に良かった」

 

うーむ、今日一日とんでもイベントがあったけど、こういうめでたいイベントがあると良いよね!

 

匙、よくやった!

本当におめでとう!

とりあえず、今度の休みにデート行ってこい!

 

そして、その時の話を聞かせろ!

 

………なんか俺、モーリスのおっさんみたいだ………。

 

「………今度は私が頑張らないとね」

 

幼馴染みを祝福しながらも真剣な瞳でリアスが呟いた。

 

ふと俺と視線が合うと、頬を紅潮させて視線を戻してしまったけど………どうしたんだろう?

 

この後、俺とリアスは町の復興作業へと向かうことに。

 

作業中に出会った匙からは告白が成功したと報告があった。

ただ………それを俺に報告した途端に気絶するように眠りについてしまったんだよね。

 

グレンデルやヴァルブルガにやられた傷や初めての禁手を無理して動いてたから仕方がない。

 

告白も済んだし、今はゆっくり休めよ、匙!

 

 

 

 

町の復興作業の手伝いを終えた俺達は一先ず帰宅したのだが、俺とリアス、ソーナの三人は身仕度を整えて冥界上層部のところへ。

 

そこにはサイラオーグさんやシーグヴィアラさんもいて、今回の騒動の当事者として事の全てを話すことに。

 

これも上級悪魔――――『王』としての仕事だ。

 

リゼヴィムや邪龍、捕まえた裏切り者の魔法使い達とユーグリット。

そして、アセムとその下僕達。

 

彼らの戦力や目的を分かった範囲で説明した。

 

流石の上層部も俺の複製体については恐怖を覚えたようだ。

なんせ、向こうは魔王クラスを量産できる。

 

それを聞けば誰でも恐れるさ。

 

まぁ、そういうわけで、俺達は上層部で一通り話した後、ようやく帰宅。

 

皆よりも少し遅めに夕食を済ませ、今は風呂だ。

 

「うー………流石に疲れたなぁ………」

 

兵藤家地下の大浴場。

そこにある備え付けのサウナに俺はいた。

 

とりあえず、サウナでいっぱい汗を流した後に水風呂に入る!

それから、風呂上がりにフルーツ牛乳を飲むという算段だ!

 

これで気分爽快にして、一日を終えたい!

 

リゼヴィム達のせいでやることが増えてしまったが、今日はしない!

明日する!

 

もう今日は働きたくないです!

 

サウナ風呂に入り、ぼーっとすること十分ほど。

 

汗もほどよく全身から流れていた。

 

そろそろ出ようかなと思った時だった。

 

サウナ室の扉が開かれ―――――

 

「あら、イッセーじゃない」

 

リアスが入ってきた!

バスタオル一枚纏わない生まれたままの姿で!

 

どうしよう、出たくなくなっちゃった!

 

リアスはそのまま俺の隣に座ってくる。

 

「リアスは今から?」

 

「ええ、ついさっきまでソーナと話していたのよ。ほら、匙くんのことでね」

 

リアスがウインクしながら楽しげに言った。

 

あー、なるほど。

幼馴染みに報告ですか………。

 

そういや、リアスも俺とデートしたこと、ソーナに話してたっけ。

 

本当に仲が良いよな。

 

普段は学園のお姉さま。

悪魔の世界では上級悪魔で名家の次期当主。

 

それでも、普段の生活では年頃の女の子で。

 

うん、二人とも可愛いぜ!

 

リアスは足を組ながら、濡れた髪を優雅に払う。

足を組む瞬間が艶かしくてついつい見ちゃう!

 

それに………リアスの呼吸に合わせて揺れるおっぱい。

 

俺、あのおっぱいを吸ったんだよなぁ………。

 

いかんいかん。

思い出したら、色々元気になってしまいそうだ。

 

「久しぶりに二人きりね」

 

「ん? まぁ、そうかな」

 

リアスと二人きりになったのは………バアル眷属とのレーティングゲーム前に一緒にお風呂に入った時と、ゲーム後のデートぐらいか。

 

リアスは寄り添ってくると俺の手を取り―――――自身の胸に当てた。

 

「イッセーは………私といてドキドキする? 私はあなたと二人でいると、こんなにもときめいているわ」

 

手からリアスの鼓動が伝わってくる。

 

明らかに鼓動が早く、強くなっていた。

 

リアスは潤んだ瞳で顔を近づけてくる。

 

「あの時、あなたに胸を吸われて………体の奥が熱くなって………。あんなに激しくされたら………私、我慢出来ないわ」

 

リアスは俺の膝上に股がり、抱きついてくる。

リアスのむっちりとした肌が、おっぱいが俺の体に押し当てられた。

腕に、胸に、腹に、足に全てにリアスの柔らかい肌が密着している。

 

綺麗な紅髪から女性特有の甘い香りがして、俺の理性を壊しに来た。

 

リアスは艶のある表情を見せる。

 

「イッセーは私のこと好き? 私は大好きよ。あなたになら、私の全てを捧げられる。心も体も―――――」

 

だから―――――

 

「このまま私を押し倒して………。あなたになら何されても良いから………」

 

潤んだ瞳、甘い吐息、早まる鼓動。

 

その言葉を耳にした瞬間―――――俺はリアスを押し倒した。

 

サウナ室で。

リアスの上に四つん這いになって。

 

俺はリアスの頭を撫でながら言う。

 

「俺もさ………凛としたリアスも好きだし、今みたいに可愛いリアスも好きだよ。………でもさ、このままいくと俺が初めてを貰っちゃうわけで………」

 

「私は初めてをイッセーに捧げられるなら幸せよ?」

 

「そう言ってくれるのは嬉しい。でもさ………ここ、サウナ室だよ?」

 

ここでしたらすごいことになりそう………。

とにかく汗だくで抱き合うとか、初めてにしては激しいような気もするが………。

 

いや、それはそれで魅力的と言いますか何と言いますか………。

 

リアスはクスッと微笑むと俺の頬に手をそっと手を当てる。

 

「ええ、良いわよ。ここで私を愛してくれるかしら?」

 

あっ………いいのね。

 

そ、それじゃあ………。

 

俺はリアスに顔を近づけるとそのまま口づけを――――

 

 

その時だった。

 

 

「あっ………」

 

「「あっ………?」」

 

突如として聞こえてきた第三者の声!

 

俺とリアスは恐る恐るその声がした方へ首を向ける。

 

そこには――――――

 

「り、リアスさん!? イッセーくん!? な、なななななな何をしてるんですかぁぁぁぁぁぁ!?」

 

銀髪の女性―――――ロスヴァイセ………いや、ロセが入ってきたぁぁぁぁぁ!?

 

ちょ、ええええええええええ!?

 

なんてタイミングで入って来てるのぉぉぉぉぉぉ!?

 

俺達より先に風呂に入ったんじゃなかったのぉぉぉぉぉぉ!?

 

ていうか、俺達の状況バッチリ見られたぁぁぁぁぁ!?

 

今、ロセの視界に映るのはリアスを押し倒している俺という構図!

 

俺とリアスは慌てて手を振る!

 

「こ、こここここれはだな! 今からその………ね?」

 

「え、ええ! そ、そうよ! これは今からその………ね?」

 

「説明になってなってねぇべ! 何が『ね?』だぁ!? 二人ともエッチなことするつもりだっただな!?」

 

方言んんんんんんんん!!

方言でちゃってるよぉぉぉぉぉ!?

 

慌てすぎて方言出てるって!

 

「イッセー………。私の初めてなのに………初めてなのに………うぅぅぅっ!」

 

ああっ、リアスが涙目になってる!?

いい雰囲気で、これからというところに乱入されて涙目になってるよ!

 

気のせいか、今のリアスがアーシアに見える!

 

「ちょ、とりあえず二人とも落ち着こう! な!? な!? ほーら、二人とも深呼吸! 吸ってー吐いてー! 吸ってー吐いてー!」

 

二人とも俺の声に合わせて深呼吸する。

 

こんな時になんだが、リアスのおっぱいもロセのおっぱいも揺れている!

眼福だ!

 

何度か深呼吸して落ち着いたところで、俺はロセに問う。

 

「えっと………ロセはお風呂に入ったんじゃ?」

 

「わ、私は例の論文をもう一度見直してまして………そうしたら、入るのが遅くなってしまって………。たまにはサウナも良いかなと思って入ったら………そ、その………お二人があんな状態で………」

 

そ、そっかぁ………。

家に帰ってからも調べてくれていたのか。

 

うーん、これは悪いことをした!

 

流石にこれには文句を付けられず、リアスも複雑な表情に。

 

重たい空気がサウナ室に漂う。

 

ど、どうしよう………俺もリアスもその気になってたし………ここで止めてしまうのはちょっと………。

 

でも、ロセの前では………。

つーか、ロセに申し訳ない。

 

すると、ロセが頬を染めながら口を開いた。

 

「あ、あの!」

 

「どうしたの?」

 

「こ、このままだとお二人に申し訳ないと言いますか………あれなので………そ、その………私も………」

 

「え?」

 

「わ、私も混ぜてもらっても………良いですか?」

 

時が止まること一秒。

 

俺にはその一秒が何時間にも感じられて―――――

 

「「えええええええええええ!?」」

 

俺とリアスの驚愕の声が響く!

 

え、うそ!?

 

ここでロセ参戦!?

 

俺はロセの肩を掴んで言う!

 

「お、おおおお落ち着け! 勢い良すぎだ! これは勢いで決めていいことじゃないぞ!?」

 

「わ、分かってます! で、でも、お祖母さんにひ、ひ孫を………」

 

「いやいやいや! それでもだよ! ひ孫はまだ早い!」

 

「そ、それなら練習だけでも………」

 

「練習って………そんなに軽い考えでしちゃダメだって!」

 

「………イッセーくんは………私じゃダメですか?」

 

「っ!」

 

「………わ、私だって軽い考えで決めたわけじゃないです。………そ、そういう、関係になるならイッセーくんが良いなと………。イッセーくんは私じゃ嫌ですか?」

 

そ、それは………そんな風に言われると……!

 

確かにロセも魅力的な女性だ。

彼女にしたいかと言われれば即、首を縦に降る。

リアスだってそうだ。

 

特にリアスは俺に好意を持ってくれていることも知っている。

  

ロセはこの手のことには厳しいくらいなのに、こうして言ってくるということは本音なのだろう。

 

そうなると俺は二人の気持ちに応えたくなる。

応えたい。

 

言葉を詰まらせる俺にリアスとロセが潤んだ瞳で熱い視線を送ってくる。

 

 

これは………これは―――――。

 

 

俺は何も言わずに二人を押し倒した――――――。

 

 

 

 

[美羽 side]

 

 

アウロス学園から帰宅後。

 

ボクとアリスさんはイグニスさんに呼ばれて、今はアリスさんの部屋に集まっていた。

 

部屋に入ると先にイグニスさんがいて、

 

「美羽ちゃんおーそーいー。待ちくたびれて、もうビール二つも飲んじゃったじゃなーい」

 

「あははは………。アリスさん、これは………?」

 

「見ての通りよ。美羽ちゃんが来るまで話は始められないって言って、それでね。でも、美羽ちゃんも遅かったわね。何してたの?」

 

「ボク? ボクはお風呂場にちょっと用があって」

 

「お風呂に? とっくに入ってたのに?」

 

「えっと、お兄ちゃんに続いてリアスさんが入って行くのが見えて………」

 

「あ、なるほど………そういうこと」

 

今ので納得してくれたんだ………。

 

ボクが遅くなったのはお兄ちゃんに続いてリアスさんがお風呂に入って行くのが見えたから、用意をしておいたんだ。

 

リアスさんが今晩辺り、お兄ちゃんに迫るかなって思ってね。

 

お兄ちゃんに胸を吸われてから、お兄ちゃん見るときの視線がそれだったし。

 

イグニスさんが言う。

 

「さっすが、美羽ちゃん♪ 気が利くぅ!」

 

「気が利き過ぎてるような気もするけどね」

 

アリスさんもビール片手にそう言う。

 

まぁ、必要なかったかもしれないけどね。

 

保健室でして以来、お兄ちゃんもゴムは個有の亜空間に仕舞うようにしてるし。

 

ボクがベッドに座ると、アリスさんがコップを渡してくる。

 

「美羽ちゃんはオレンジジュースでいい?」

 

「うん、ありがとう」

 

アリスさんが注いでくれたオレンジジュースに口をつけて、ボクはイグニスさんに訊ねた。

 

「それで、ボク達に話ってなんなの?」

 

「そういえば、アウロス学園で何か言いかけてたけど、それと関係することかしら?」

 

アリスさんも続く。

 

あの時のイグニスさんはとても真剣な表情で何かを考えていて、ボク達に何かを伝えようとしていた。

でも、邪龍の対応もしないといけなくて、聞きそびれちゃったんだよね。

 

………もしかして、おっぱいドラゴン関連なのかなぁ?

 

お兄ちゃんの複製体が出てきたときも真剣な顔しながら、とんでもないこと言ってたし………。

 

イグニスさんはビールを机の上に置くと、ボクとアリスさんの目をじっと見てくる。

 

………なんだろう?

 

今のイグニスさん、いつもと少し違う?

 

アリスさんも同じことを思ったのか怪訝な表情を浮かべていた。

 

すると、イグニスさんが口を開く。

 

「ねぇ、二人とも。ヴィーカちゃんとベルちゃんと戦ってみて勝てると思った?」

 

「「――――っ!」」

 

突然の質問だった。

 

ボク達があの人達に勝てるか………。

 

その質問の答えは、考えるまでもなく―――――

 

「今のボク達じゃ、無理だね」

 

「そうね………。悔しいけど、相手はかなりの強敵よ」

 

アリスさんは唇を噛み、悔しそうにしていた。

 

アリスさんはヴィーカに一度、完全に敗北している。

 

その時は命までは取られなかったけど、ヴィーカは去り際にこう言い残していったそうだ。

 

 

―――――このままだと、勇者くんの足を引っ張るわよ?

 

 

この言葉はアリスさんにとって屈辱的なもので………紛れもない事実だった。

 

もしもあの時、アリスさんが人質に取られたら?

アリスさんが洗脳されて、お兄ちゃんと敵対するようなことになっていたら?

 

間違いなくお兄ちゃんの足手まといになる。

 

これはボクにも言えることで、あのまま一人でベルと戦っていたら確実に負けていた。

 

イグニスさんは言う。

 

「相手の真の実力は神クラスとみても良いんじゃないかしら? まぁ、能力の方向は決まっているのだけれど。それでも強力な力を持つということには変わりない。今のあなた達の中で唯一対抗できるのがイッセーだけ。今回の戦いで得たEXA形態なら勝機は十分にあるでしょう。だけど、それではイッセーの負担が大きすぎるわ。このままいけば―――――いつかは倒れてしまう」

 

―――――っ!

 

ボクとアリスさんは目を見開く。

 

確かにお兄ちゃんは強い。

だけど、一人では限界がある。

 

だから、ボク達で支えていこうと誓ったのに………。

 

それなのに、ボク達は役に立てていない。

 

「もう、落ち込みすぎよ。あなた達が役に立ててないなんてことはないわ。今でもイッセーの支えにはなってる。………だけど、今後の敵を考えた時に今のままだと力不足ってだけ」

 

「でも、それだと、イッセーの足を引っ張ることになるわ。………そんなのは嫌よ」

 

「ボクだって………お兄ちゃんが倒れるところなんて見たくないよ」

 

もうボク達の力不足でお兄ちゃんを失うことになるなんて嫌だ。

 

守られてばかりではなく、ボク達が守りたい。

 

そのためには――――――

 

「強くなりたいわよね?」

 

ボク達の心の内を見透かしたようにイグニスさんは言う。

 

「今よりももっと。イッセーを守れるくらいに強くなりたい、でしょ?」

 

「そうね」

 

「うん」

 

ボク達が頷くと、イグニスさんはニッコリと微笑んだ。

 

そして、ボク達の肩に手を置いた。

 

「その気があるなら十分よ。あなた達には素質がある。美羽ちゃんは魔王の血を引く者。そして、アリスちゃんは霊槍『アルビリス』に選ばれし者だもの」

 

―――――霊槍アルビリス。

 

アリスさんが使っている銀の槍。

 

アリスさんの国、オーディリアは火、水、土、風を司る神に近い存在である四大神霊の加護を受けた国。

 

そのオーディリアに伝わる伝説の武具がアルビリスだ。

アルビリスは四大神霊の力で作られたとされていて、その力は強大。

極めれば貫けない物はないというほど。

 

まぁ、ボクが知っているのはこの程度なんだけどね。

 

アリスさんはというと、

 

「私は普通の槍だと私の力に耐えられなくてすぐに壊れるから、この槍を使ってただけなんだけど。へぇ、選ばれてたんだ、私」

 

て、テキトー過ぎる!

いや、アリスさんらしいといえば、そうだけど!

 

「アリスちゃんの場合、選ばれてるんだけど、真の力は使わせてくれてない感じね。とにかく、そういうわけで、二人には素質があるの。ここで私からの提案! これはあなた達にしか出来ないことよ」

 

ボク達にしかできないこと………?

 

魔王の血族であるボクと霊槍に選ばれたアリスさんだからこそ出来ること。

 

それは一体………。

 

ボク達はゴクリと喉を鳴らす。

 

そして――――――

 

「あなた達、『神』になってみない?」

 

「「………へっ?」」

 

それは予想を遥かに越えた提案だった。

 

 

[美羽 side out]

 




というわけで、イグニスにより提案がなされました!
これが美羽とアリスをどう強化していくかは今後で!

次回は番外編を予定していますが、ネタは考えてません(笑)


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番外編 追憶の美羽

番外編のネタが決まったので投稿します!

あと、異世界帰りのコラボ作品を別で投稿していますので、よろしければこちらもどうぞ!
現在はMr.エメトさんの『ハイスクールD×D~アルギュロス・ディアボロス~』とのコラボ中です!



[美羽 side]

 

 

アウロス学園の一件から二日が経った日のこと。

 

授業が午前中で終わったボクは一足早く家に帰っていた。

 

「ただいまー!」

 

玄関で靴を脱いだところで、お母さんが洗面所からひょっこり顔を出す。

 

「あら、今日は早いのね。イッセー達はどうしたの?」

 

「今日の授業は午前で終わりだったからね。お兄ちゃん達は部室に寄ってから帰るって言ってたから、一時間くらいしたら帰ってくるんじゃないかな? ………ボクはやることあるから一足先にね?」

 

そう、ボクにはやるべきことがある。

使命と言っても過言ではない。

今日中に終わらせてしまおう、そう決めたのだ。

 

足早に自室に向かったボクは鞄を机に置くと、三角巾を頭に被り、気合いを入れる。

 

―――――よし、やろう。

 

ボクの目も前にあるもの。

これが標的。

何度も立ち向かい、何度も挫折してきた。

 

今日こそはこれに勝ちたい。

 

ボクが挑むもの。

 

 

それは―――――

 

 

「やっぱり貯まるよね………マンガって」

 

 

 

 

マンガ――――それは、この世界に来てからハマったものの一つ。

 

お兄ちゃんの持っていたものを読んだのが切っ掛けだった。

暇潰しに読んだのが全ての始まり。

 

初めてマンガというものに触れた時は衝撃を受けた。

 

―――――この世界にはこんな面白いものがあるのか、と。

 

アスト・アーデにはマンガという文化は無かった。

特に魔王の娘で、魔族の姫として育ったボクはこの手の娯楽に触れる機会がなかったんだよね。(………というより、お父さんが厳しかったのが最大の原因)

 

あまり娯楽に触れてこなかったボクにとってはマンガとの出会いは革命的だったんだ。

 

こっちの世界に来てからはお小遣いを貰う度に本屋さんに駆け込む、もしくは古本屋さんで買い集めた。

シティーハ○ター、ハガレ○、ワ○ピースといったバトル系のものから、こ○亀や○魂のようなギャグ、ToL○veるようなラブコメまで幅広く。

 

最近ではマンガ以外に小説にも手を出している。

 

その結果………。

 

「うぅ………、どうしよう………本棚がいくつあっても足りない………」

 

ボクが所有するマンガは五百は軽く超えている。

小説を合わせればもっとある。

多分、千近く。

 

目の前の本達を見て、思う。

 

………どうして、こんなに貯まったのだろう。

 

本棚に入りきらず、ついには床に並べてしまっているこの状況。

 

なんで………なんで、こんなに増えてるの!?

 

確かにお小遣いのほとんどはマンガに費やしてるし、お兄ちゃん達が全巻セットをプレゼントしてくれたけど!

ボクもつい甘えちゃったけど!

 

ちょっとした本屋さんが開ける数じゃないの、これ!?

 

何度もお別れしようと思った。

でも、出来なかった………!

だって、また読みたくなるから!

 

そらならばと、整理しようとも思った。

何度も何度も取り組んだ。

だけど、一向に整理が進まない………!

 

整理中に読んでしまうから!

 

手に取った本を読んでしまったら最後。

気づいたら全巻読破してしまっている!

 

ボクはなんて意思が弱いのか………!

 

でも、今日こそは!

今日こそはこの本達を整理してみせる!

 

もう自分に負けない!

負けていられない!

 

ボクは赤龍帝眷属の『僧侶』!

お兄ちゃんを支える下僕の一人!

 

これくらい出来なくてお兄ちゃんの眷属は名乗れないよ!

 

ボクは再度気合いを入れ、床に置いてあるマンガに手を伸ばした―――――。

 

 

 

 

「ううぅ………何度見てもこのシーンは泣けるなぁ………グスッ。………って、ちがーーーう! ボクはなにやってるのさ!?」

 

本棚から一度、本を下ろし整理し始めたのは良かったんだけど………また読んでしまった………!

読み込んでしまった!

五冊も読んでしまった!

 

ふと壁に掛かっている時計を見てみると………既に一時間が経過している。

 

整理状況は………ほとんど進んでいない。

 

本棚の本を一度下ろしてしまったことで、むしろ悪化している。

床にはボクのコレクションがずらりと並べられていて………。

 

ボクはガクリと膝を落とす。

 

こんなはずじゃなかった。

予定なら半分くらいは進んでいるはずだったのに………。

 

あれ………目の前が見えないや。

目が勝手に潤んで………グスッ。

 

このペースで今日中に終わるのだろうか?

 

お兄ちゃんに頼めば手伝ってくれるかもしれない。

読んでしまわないように注意してくれると思う。

 

でも、それは完全なる甘えで………。

というより、こんなことでお兄ちゃんの手を煩わせたくない。

 

心の汗が止まらない。

 

その時、ボクの視界にとあるものが映った。

 

「これ………」

 

それを手に取り、中を開くと――――――ボクとお兄ちゃんが写った写真があった。

 

そう、これはボク達のアルバム。

お兄ちゃんがボクとの思い出のために作ってくれたもの。

 

パラパラとページを捲っていくと、懐かしい写真がいっぱい貼ってある。

 

二人で海に行った時のもの、遊園地に行ったときのもの。

家族でお祭りに行った時のものもある。

 

「あ、松田くんと元浜くん。………四人でカラオケに行った時のだ」

 

他にも何気ない日常の中を捉えた写真がいくつもある。

 

これを見る度に、お兄ちゃんに大切にされてるんだなって思えるよ。

 

と、ここでとあるページで手が止まる。

 

そのページにあったのは噴水を背景にして写るお兄ちゃんとボク。

ボクの表情がどこか恥ずかしそうにしていて………。

 

何となく気になったので、写真の裏を見てみる。

 

裏側には撮った日の日付が記されていて―――――。

 

「これ………この世界に来てから一週間くらいだっけ?」

 

あの時はまだイッセーのことを『お兄ちゃん』って呼べてなかったなぁ。

家族が出来て嬉しかったけど、そう呼ぶのが恥ずかしくて………。

 

なんで『お兄ちゃん』って呼べるようになったんだっけ?

 

 

 

 

――――三年前の夏。

 

 

「美羽、今日は東京に行ってみるか?」

 

朝食の時にイッセーがそう言ってきた。

 

ボクはパンを飲みこんだ後、聞き返す。

 

「東京?」

 

えっと、確か日本の首都………だっけ?

 

この世界に来てから一週間。

イッセーやお父さん達はこの世界の勉強にと色々な場所に連れて行ってくれる。

 

それは近くの公園だったり、学校だったり、商店街だったり。

家の近くにあり、イッセー達にとっては見慣れた当たり前の光景。

 

それでも、ボクにとっては見たことがない物ばかりで、目に映るもの全てが新鮮だった。

 

………自動ドアっていう勝手に開く扉には慣れないんだけど。

というより、なんか怖い。

 

イッセーは頷く。

 

「そう、東京。近場は大体回っただろ? だからさ、試しに大きい町に出てみたらどうかなって」

 

「いいんじゃないか? あまり同じ場所を回るのもどうかと思っていたところだ。この際、遠出するのも悪くないだろう」

 

お父さんもそう続く。

 

しかし、お母さんは頬に手を当てて不安げな表情を浮かべる。

 

「でも、少し早くないかしら? この町でもまだ慣れていないのに………」

 

「大都会に行けば、この町なんて大したことなくなるだろ。それにイッセーと一緒なら安心できる。迷子になってもイッセーなら場所は分かるんだろう?」

 

「まぁね。美羽の気の位置は常に補足してるから、仮に美羽が迷子になっても見つけられるよ」

 

イッセーは微笑みながら、ボクの頭を撫でる。

 

この頭を撫でられる感じ………少し恥ずかしいけど、どこか心地良いんだ。

何と言うか………安心する………。

 

魔王シリウス――――本当のお父さんはたまにしか撫でてくれなかったけど、あの時の安心感に似ているんだよね。

 

………でも、未だに呼べないんだよね………。

本当はそう呼んでみたいのに………恥ずかしくて言えないというか………。

いきなりそんな風に呼んで、変に思われたりしないかなって不安もあって………。

 

イッセーが話を進めていく。

 

「そういうわけで、母さん。美羽はしっかり守るから大丈夫。兄貴として妹は守らないと」

 

「ふふっ、美羽ちゃんが家族になってから、イッセーが凄い成長したように見えるわね。いえ、異世界で三年分の成長をしたのだから当然なのかしら?」

 

「んー………、そうかも? で、美羽はどうだ? 日本の大都会、行ってみたくないか?」

 

イッセーにそう訊かれ、ボクは首を傾げて考えてみる。

 

東京………。

この駒王町でもすごいと感じたのにもっとすごい町なんだよね?

 

ちょっと不安もあるけど、ボクのために提案してくれているわけだし………。

 

イッセーが一緒なら大丈夫だよね………多分。

 

「ボク、行ってみる。よろしくね、イッセー」

 

「おう!」

 

 

 

 

その日の昼。

 

最寄りの駅から電車で揺られること一時間ほど。

 

ボクが連れてこられたのは―――――

 

「どうだ! ここが秋葉原だ!」

 

イッセーが両手を広げて楽しそうに言った。

 

ボクは目の前に広がる光景に圧倒されていた。

 

見たことがない建物!

見たことがないお店!

様々なものが混じりあって、一つの町を形成している!

ここが日本の大都市、東京!

 

「わぁ………」

 

「おっ、あまりの迫力に圧倒されたか?」

 

イッセーがニヤリと笑みを浮かべながら訊いてくる。

 

ボクは素直に頷くしかなかった。

 

だって、本当にすごいんだもん。

 

「町もそうだけど、人も多くて………まるで別世界」

 

「いや、ここ本当に別世界だって」

 

ボクの漏らした言葉にイッセーが軽くツッコミを入れるけど、そんなのは耳に入ってこない。

 

こんな場所が世界にはあるんだ………。

魔族の姫だったボクは町に出る機会が少なかったけど、多分、アスト・アーデ全体を見渡してもこんな活気に溢れた町はないんじゃないかな?

 

「ここには美羽の好きなマンガもいっぱいあるぞ? ほら、あそこのアニメ絵が描かれた看板あるだろ? あの店はかなり大きい本屋でな。マンガもたくさん置いてある」

 

「ホントに!?」

 

マンガ………この世界の言葉を勉強するのも兼ねて、イッセーが持っているのを貸してもらったけど、すごく面白いんだよね。

 

おかげで、結構日本語は覚えてきたと思う。

 

「そんじゃ、適当に店に入ってみるか。美羽の好きなもん選んでくれていいぞ? 父さん達も美羽のためならっていっぱいお小遣いをくれたからな! つーか、息子のことも可愛がってくれよ! 俺への小遣いは無しかい! 息子と娘の間で扱いに差があるような気がするんですけど!?」

 

一人で天に向かって叫ぶイッセー。

 

あははは………。

なんていうか、イッセーって賑やかな人だよね。

まぁ、この一週間でその辺りは分かってきたけど。

 

すると、イッセーはボクの手を引いてきた。

 

「行こうぜ、美羽。せっかく来たんだ。この世界の勉強もいいけど、楽しもうぜ」

 

「あっ………う、うん!」

 

なんだか、顔が熱くなってきた………。 

 

 

 

 

「くはー、歩いた歩いた」

 

町のはずれにある広場。

ボクとイッセーはそこのベンチに腰かけていた。

 

イッセーの足元には大きな紙袋。

 

ボクは申し訳ない気持ちになりながら、頭を下げた。

 

「えっと………ゴメンね。いっぱい買ってもらっちゃって………」

 

秋葉原についてから三時間くらい町を探索したけど………その間に服やマンガ、その他、ボクが興味を持ったものをイッセーは買ってくれて、紙袋の数が凄いことになっていた。

 

しかも、その紙袋はイッセーが持ってくれている。

 

イッセーは微笑む。

 

「まぁ、少し買いすぎたかもしれないけどな。でも、必要経費だろ。父さんにも何でも買ってやれって言われてるし」

 

「………でも、無駄遣いにならない? こんなにたくさん………」

 

「ならないならない。これは美羽にとって、この世界に馴染むために必要なものだ。それは無駄じゃない。だから心配すんな。………逆にこれくらい買っておかないと、俺が父さんに叱られそうだ」

 

そう言ってイッセーは苦笑する。

 

うーん、そうなのかな?

 

イッセーはさっき、自動販売機で購入したお茶を飲むとボクに手渡してくる。

 

「喉乾いたろ?」

 

「あ、ありがとう………」

 

ペットボトルを受けとり、口をつけようとして―――――ボクは気づいた。

気づいてしまった。

 

これって―――――か、かかか間接キスになるよね………!?

 

………イッセーは分かってるのかな?

 

ふとイッセーの方を見てみると―――――。

 

「ふぁぁぁ………。あー、寝不足だな、こりゃ」

 

盛大にあくびしていた。

 

ボクがこんなにドキドキしてるのに!

一人で舞い上がって、バカみたいじゃないのさ!

 

ボクはお茶を一口飲むとイッセーに問う。

 

「眠れなかったの?」

 

イッセーは苦笑しながら頬をかく。

 

「いや、調べものしててさ。今日、どこに連れていこうかなって考えてて………。一応、美羽が楽しめるコースにしたつもりなんだけど………どうだった?」

 

「………っ!」

 

今更気づいたけど、イッセーの目元には薄っら隈が出来ていた。

夜遅くまで起きていた証拠だ。

 

ボクのためにそこまでしてくれていたんだ………。

 

それを知ると、申し訳なく思う気持ちと嬉しい気持ちの二つが心の中に出てきて………

 

「えっと………ありがとう、イッセー」

 

「ん?」

 

「今日はすごく………楽しかった」

 

「そっか。それなら良かった」

 

イッセーはフッと笑むと立ち上がり、腰を伸ばす。

そして、ボクの頭にポンッと手を置いた。

 

「本音を言うとさ、結構不安だったんだ。こうして女の子と一緒に出掛けたことってあんまりなくてさ。美羽が楽しんでくれたのなら、その一言だけで頑張った甲斐があったよ」

 

優しい笑顔。

ボクはこの顔を知っている。

以前にも見たことがある。

 

魔族の姫だった頃、城でお父さんの臣下であるウルム達が赤龍帝、兵藤一誠について話しているのを聞いたことがあった。

 

―――――誰よりも前に立ち、誰よりも勇敢で高潔な戦士。

 

それがウルム達のイッセーに対する評価。

 

敵なのにそれほどまでに言われる人ってどんな人なんだろう?

気になったボクは望遠の魔法で何度か戦場を覗いたことがあった。

 

そこに映っていたのは魔族の人達を助ける赤い龍。

たまにエッチな技を繰り出して女の人に殴られていたけど、それでも戦えなくなった人には手を差しのべていたんだ。

それが敵であっても。

 

間違っていると思えば、味方を止めてまで、敵である魔族を助ける。

戦場でそんなことをするのは普通に考えれば間違っている。

だけど、そんな真っ直ぐな姿にボクは惹かれていたのかもしれない。

 

今のイッセーの顔はその時のものと同じ。

とても優しくて温かい。

頭に置かれた手からイッセーの気持ちが伝わってくる。

 

今なら………言えるかな………?

 

ボクは手をギュッと握ると、小さく呟く。

 

「え、あの………あ、あのね………」

 

「ん? どうした? 他に行きたいところがあるなら、連れていくけど?」

 

「え………えっと、そうじゃなくてね………そ、その―――――」

 

心臓の鼓動が早くなっていく。

自分でも緊張しているのが分かる。

 

恥ずかしい。

急に呼び方を変えて、変に思われたりしないだろうか。

そんな想いがボクの中で渦巻いていく。

 

それでも………ボクは呼んでみたい。

 

「………お、お兄………ちゃん」

 

「………へ?」

 

ボクの漏らした言葉に間の抜けた表情となるイッセー。

 

時間が止まったような感覚。

一分が一時間に感じられるほど長い硬直。

 

我に返ったイッセーが声を震わせる。

 

「い、いいい今、おおおおおおお兄ちゃんって………」

 

「う、うん………。イッセーのこと………お兄ちゃんって呼びたいなって………」

 

「………っ!」

 

目を見開くイッセー。

まるで信じられないものを聞いたような表情を浮かべている。

 

………どうしょう、やっぱりダメなのかな?

 

でも、いきなり、呼び方を変えられたらそうなるよね。

それに………血が繋がっていない人からそう呼ばれるのって抵抗がある………よね。

 

自ら行った行為に落ち込み、後悔しかけた―――――その時だった。

 

「い、イッセー………? な、泣いてるの?」

 

「うぅぅぅっ! まさか、こんな………! 『お兄ちゃん』と呼ばれることがこんなに感動的だっただなんて! うおおおおおおおおん!」

 

「え、ええええええ!? イッセー!?」

 

滝のような涙を流しているんだけど!?

 

そんなに泣くようなことなの!?

 

「ああっ、ダメだ! 涙が止まらねぇ! クソッ、ハンカチが足りねぇや!」

 

「そんな大袈裟な………」

 

「大袈裟なもんか! 俺はな! 美羽にそう呼んでもらえて………なんというか心が震えたんだよ! もう嬉しくて嬉しくて感動が止まらねぇんだ! 可愛すぎるだろ、コンチクショウ!」

 

「うわっ!」

 

突然、イッセーに抱き締められた。

背中に手を回して、力を籠めてくる。

 

「好きなだけ呼んでくれ! つーか、呼んで! 出来ればワンモアプリーズ!」

 

えー………。

イッセーってこういう感じなんだ。

 

イッセーの新たな側面が見えたような気がした。

 

でも、ボクの気持ちに応えてくれたのはすごく嬉しくて、

 

「お兄ちゃん………」

 

「うん! もう一回!」

 

「お兄ちゃん」

 

「泣けるな! もう一回お願い!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「ああっ………もう死んでもいいかも………」

 

「なんで、そうなるのさ!?」

 

「よーし、これは記念だ! 初お兄ちゃん記念! 写真撮っていこう! そこに並べぇぇぇぇぇい!」

 

 

この日からボクはイッセーのことを『お兄ちゃん』と呼べるようになった。

 

 

 

 

「あははは………あの時のお兄ちゃんって帰りの電車でも嬉し泣きしてたっけ………」

 

周囲の人からの視線がすごかったことはよく覚えているよ。

 

まさか、あそこまで喜ばれるとは思ってなくて………。

流石に恥ずかしかったかな………。

 

でも、後悔はしてないよ。

あの時に言えて良かったと思ってる。

 

ふふっ、やっぱり思い出って大切だね。

記憶の中の思い出も大切だけど、こうして形に残すことも大切なんだと思えるよ。

これからもボク達の思い出は増えていくと思うけど、それも残していかないとね?

 

悪魔になったボク達の寿命は長い。

何十年、何百年、何千年とお兄ちゃんと共に歩み続けていく。

どんな未来が待っているか分からないけど、お兄ちゃんと一緒ならどこまでも――――――。

 

そんなことを考えていると、部屋の扉が開かれた。

 

「片付けは進んでるか?」

 

入ってきたのはお兄ちゃんだった。

鞄が無いところを見ると、一度自室に戻ってからここに来たみたいだ。

 

「あ、お帰り。片付けはこの通り―――――」

 

そこまで言いかけてボクは気づいた。

全く進んでいないことに。

 

しまった………アルバム見てる場合じゃなかったよ!

 

本棚の本も整理したくて、全部下ろしたから床がすごいことに!

 

「うわぁぁぁぁぁん! またやっちゃったよぉぉぉぉぉ!」

 

頭を抱えるボク!

どうしよう!

早く帰ってきたのに全然進んでないよ!

 

自分の愚かさに涙が止まらない!

 

そんなボクを見て、お兄ちゃんは苦笑する。

 

「アハハハ………。俺も手伝ってやるから、な? そしたらすぐに終わるだろ?」

 

「いいの!? ありがとう、お兄ちゃん! 大好き!」

 

この後、ボクのコレクション達は綺麗に整理できました。

 

 

[美羽 side out]

 

 




気づいたら260話………!
結構な話数になりましたねぇ………((  ̄- ̄))


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番外編 設立! 兵藤一誠眷属事務所!

「ねぇ、イッセー。あなた、自分の事務所を立ち上げてみない?」

 

オカルト研究部の部室、俺が膝上に乗っている小猫ちゃんを愛でていると、唐突にリアスがそう言ってきた。

 

あまりにも唐突過ぎる言葉に俺はポカンと口を開けること十秒ほど。

 

俺は小猫ちゃんのフワフワした猫耳を指で撫でながら、口を開いた。

 

「俺の………事務所?」

 

いきなり、事務所を立ち上げてみないかと訊かれてもね………。

この場合の事務所というのは俺が上級悪魔として活動するための拠点のことを指しているのだろう。

 

確かにこの駒王町を預かっているリアスとソーナは各々、自分の拠点というものを持っている。

リアスの場合はこの駒王学園、オカルト研究部部室が悪魔活動の拠点だし、ソーナは生徒会室と他にもう一つある。

 

聞いた話では自分の眷属を持つ上級悪魔は必ず自分の活動の拠点というものを持っていて、人間界で活動する悪魔はその拠点を人間界に持っているらしい。

 

で、同じく人間界で活動する上級悪魔の一人である俺なんだが………。

 

「事務所って言われてもな………。お金はおっぱいドラゴンで入ってきたお金があるから良いとして、場所とかってどうすればいいの?」

 

悪魔にしろ神にしろ縄張りとかにうるさいからね。

下手に拠点を置いてしまうと後々面倒なことになる。

 

ただでさえ、ドンパチやることが多いんだから、こういうところでは極力争い事は避けたい。

 

リアスが言う。

 

「場所については問題ないわ。イッセーには私が管理している場所の三分の一を任せるつもりだから。問題は事務所を開く場所なのだけれど―――――」

 

「それは俺に任せな」

 

リアスの言葉を遮って、魔法陣で姿を現したのは我らがオカ研顧問、アザゼル先生。

 

あれ………この人、まだ職員会議の時間じゃなかったっけ?

 

「先生、会議は終わったんですか?」

 

「長いから体調不良を理由に抜けてきたぜ!」

 

「またか!? あんた、また抜けてきたのか!?」

 

「教頭の話が長すぎるのが悪いのさ。なんだ、ありゃ? 一々言われなくても分かってるつーの。まぁ、そういうクソ真面目な話はロスヴァイセに任せるのが一番ってな」

 

うわー、この人、またロセに押し付けてきたのかよ………。

こりゃ、後でロセがプンプンしながら入ってきそうだ。

 

そんなことは気にしないといった顔で先生は話を進めていく。

 

「話は聞かせてもらった。イッセーの事務所を新たに作るそうだな?」

 

先生の問いかけにリアスが頷く。

 

「ええ、イッセーも上級悪魔。『王』として自分の眷属を引っ張っていく身。昇格して少し時間が経っているわけだし、そろそろ自分の拠点を持っても良いと思うのよ」

 

「確かに上級悪魔は各々、活動の拠点を持つ。イッセーもいつか、冥界の領土を任せられることを考えれば、今のうちに学んでおいた方がいいだろう。それに、『D×D』の拠点を増やす意味でもイッセーが事務所を創設する意義はある」

 

なるほどな。

仮にこのオカ研部室が使えなくなったりした場合は代わりに集まれる場所が必要になる。

以前、旧校舎が補修工事で使えなくなった時は、家に集まって話し合ったもんな。

 

また、そういうことが起こることも考えると、集まれる場所が複数あることは良いことだ。

 

リアスが先生に問う。

 

「それで、イッセーの事務所を置く場所なのだけれど、アザゼルはいい場所を知っているの?」

 

「おうよ。俺がラボの一つとして使ってた場所でな。グリゴリの事情で引っ越しすることになったから、そこをイッセーに譲るのさ。器具だの家具だのはもう運び出しているから、後はイッセーが事務所内のレイアウトを決めてしまえばいい」

 

おおっ、マジでか!

俺が懸念していたことが次々に解決されていくな!

 

事務所のレイアウト。

具体的に決めるのは実際に中を見てからだけど、どうしようか?

事務所って言うと机があって、来客用のソファがあって………他には………。

 

あまり地味な感じにはしたくないな。

うちの眷属は今のところ、全員が女の子だしね。

少しくらい華がある方が居心地が良いだろう。

 

 

 

 

それから一時間後。

 

兵藤家から徒歩二十分ほどのところにある学習塾。

その地下に俺達は来ていた。

 

「この塾はグリゴリが裏で買い上げていて、その地下にラボを作ったのよ」

 

と、レイナが説明してくれる。

 

へぇ、俺の家の近くでそんなことになってたのか。

 

この塾のエレベーターには専用の顔認証システムがあり、そこに関係者であることを承認させると地下へ降りることが出来る。

今のところ登録しているのは先生とレイナだけなので、この場を譲り受ける俺は後で登録をする必要がある。

 

エレベーターを降りると――――――そこは何もないだだっ広い空間だった。

壁は打ちっぱなしのコンクリート。

照明は最低限のものしかなく、部屋は薄暗い。

 

………なんと言うか、お化けでもでそうな雰囲気だ。

 

「言った通り、既に引っ越しは済んでいてな。この通り、この場所は今のところ何もない。ここをおまえに譲る」

 

「は、はぁ………」

 

「なんだ? あまりノリ気じゃないって顔だな」

 

「いや………、思ったよりも物がなくて………。先生のラボだから、もっとオシャレな感じなのかなって」

 

この町にある先生の家は高級マンションで、家具もオシャレだったしね。

ハデ過ぎず、地味過ぎず、大人なデザインの内装だったから、それとのギャップが………。

 

先生は苦笑する。

 

「そんなことかよ。言ったろ、ここにあったものは全て持ち出したってな。というか、ここから立ち退くと決めた時からおまえに譲ろうとは思っていたんだよ。理由は部室で話したとおりだ。だからこそ、俺はこの場所にあった物………家具から壁まで全て取り除いたのさ」

 

「………?」

 

家具はわかる。

それは先生が使う物だしな。

だけど、壁まで取り除く必要があるのだろうか?

 

先生の意味不明な行動にリアスも怪訝な表情を浮かべていた。

 

すると、先生はニヤリと笑む。

 

「ここはおまえの拠点、つまりはおまえの城になる場所だ」

 

「ええ、まぁ」

 

「男なら―――――自分の城くらい、自分の手で設計したくないか?」

 

―――――っ!

 

俺はそこまで言われてようやく先生の意図が読めた。

 

そうか、そういうことだったのか。

 

自分の城を自分の手で作る。

それはロマンがあり、男の夢の一つだろう。

 

俺には建築みたいな家を設計するための知識はない。

それでも、「こんな家に住みたい」という夢はあった。

 

まぁ、夏にグレモリー家によって改築されてからは夢に描いていたもの以上のものが出来上がっていたので、そんな夢はもう無くなってしまったけど。

 

でも、この事務所にしても同じだ。

俺がこれから根城として使う場所。

どんな空間にしたいのか、一から考えてみたい。

 

―――――自分の思い描く場所を作る。

 

先生はその機会を俺にくれたんだ。

 

「資金面は気にしなくていい。俺やサーゼクスに言えば好きなだけ出してやる。おまえはテロ対策チームの一員として危険な場所に赴かなければならない身。多少のワガママぐらいは許されるだろ。――――作ってみろよ、おまえの城を」

 

な、なんて男前なことを言ってくれる先生なんだ!

こういうところがあるから、この人は嫌いになれない!

 

俺の城!

なんていい響きなんだ!

 

こんな機会は滅多にない!

せっかく先生がこう言ってくれたんだ!

甘えさせてもらおう!

 

「はい! 俺、自分の城を作ります!」

 

こうして、俺の事務所作りは始まった。

 

 

 

 

家に戻った俺は眷属である美羽、アリス、レイヴェルを集め、兵藤家上階にある空き室の一つに集まっていた。

 

先生のラボがあった場所の平面図が描かれた紙を四人で囲み議論に入る。

紙の上側には『赤龍帝眷属事務所(仮)』と赤ペンで書かれている。

 

「それじゃあ、『赤龍帝眷属事務所(仮)』の設計案を考えていこうか。とりあえず、エレベーターの位置からして入り口はここだろ。とりあえず皆の意見を聞かせてくれ。出来るだけ取り入れていくからさ」

 

と、俺は鉛筆で図面に書き込みながら話を進めていく。

最初は誰がどう見てもそうだろうと思える簡単な内容だ。

入り口のこととか、最低限必要な家具とかね。

 

家具に関してはレイヴェルが集めてくれた冥界及び人間界の商品カタログを参考にしている。

 

美羽が腕を組ながら唸る。

 

「うーん、やっぱり地味な感じは嫌だよね。少し華がほしいと言うか」

 

「そうね。ハデ過ぎては事務所っぽくないし、地味過ぎると仕事への意欲が失せるわ」

 

………アリスの場合、書類系の仕事に関しては場所とか関係なくヤル気がないような気もするけど。

 

書類とにらめっこした直後に寝るしな!

下手すりゃ、俺に投げてくるし!

 

「やはり、イッセーさまの机は大きい方が良いですわね。イッセーさまは私達、赤龍帝眷属の『王』。『王』らしく堂々した物が良いですわ」

 

レイヴェルもカタログを捲りながら意見を口にしていく。

 

俺は普通のサイズで良いと思ってたんだけどね。

これは言ったら即却下されそうだ。

 

しかし、この場所。

事務所としてはいささか広すぎるんだよなぁ。

仮に駒が全部揃ったとして、それで眷属全員分の机を置いてもまだ余る。

 

来客用のソファなんざ、そんなに数を揃えても仕方がないし、そもそもそこまで来ないだろ。

 

ではどうするか。

 

俺が頭を悩ませていた、その時―――――

 

「これはあれね。事務所兼自宅にするべきね」

 

そう言ってきたのは実体化したイグニス。

後ろから俺に抱きつきながら、図面をまじまじと眺めている。

 

「自宅って………。そこまでする必要あるか? 家から徒歩で通える距離なのに」

 

「あー………自宅というのは少し言い過ぎたわね。私が言いたいのはちょっと違うわ」

 

イグニスはそこで一拍置く。

 

そして、次の瞬間―――――。

 

「自宅じゃなくて事務所兼女の子を連れ込む場所ってことよ」

 

「ブフゥゥゥゥゥッ!!」

 

俺は口に含んでいたお茶を盛大に吹き出した!

 

こ、この駄女神、なんつーことを提案しやがるんだ!

 

ここ事務所だよ!?

悪魔の仕事をする場所だよ!?

そこんところ理解しているのか!?

 

た、確かにオフィスで女の子とってのはある意味、夢があるよ!

でもね、先生達の支援をそういう風に使うのはどうかと思うんだ!

 

しかし、イグニスは続ける。

 

「この家じゃ、他の女の子もいるからそう好きにはできないし、エッチをする度に声が漏れないように結界を張らないといけない。でも、この場所ならそんなことを気にせずにできる! しかも、あらゆるシチュエーションを試すことができるわ!」

 

イグニスはビシッと図面を指差す。

 

そこは倉庫と書かれた部屋。

 

「たとえばこの倉庫! 薄暗い場所、狭い空間で男女はいけない気分に! そして、イッセーは女の子の服を一枚一枚脱がしていくの! 次に!」

 

次にイグニスが指したのは事務所のオフィススペース。

つまり、俺達が実際に仕事を行う場所だ。

 

「スーツ姿の女の子をデスクに押し倒す! または来客用のソファに押し倒して、おっぱいやお尻を触っていく! 想像してみなさい、職場でイッセーに抱かれる自分の姿を!」

 

何を熱く語ってるんだ、この駄女神ぃぃぃぃ!!

 

って、イグニスに言われて美羽達が想像しているぅぅぅぅぅ!?

目を閉じた状態で頬を染めているよ!

 

ちょっと君達!?

帰ってきて!

妄想の世界から帰ってきて!

 

この駄女神の言うことなんて聞かなくていいから!

 

「そして、この事務所に必要なものは大きなベッドのある寝室とガラス張りの浴室ね。二つの部屋は繋がっているの。一仕事終えた後、浴室で互いの体を洗い合う。そのままベッドインしてもう一仕事。どう? 素敵じゃない?」

 

イグニスが顎に手を当ててニヤリと笑んだ。

 

次の瞬間―――――

 

「ベッドはこのサイズにしましょう!」

 

「うん! お風呂は広すぎず、普通のものよりも少し大きいくらいで!」

 

「え、えっと、照明はどうしよう? やっぱりムードがある方が、ね?」

 

全員流されたぁぁぁぁぁぁぁ!

 

ああっ、物凄いスピードで図面に線が入っていく!

さっきまで悩んでいた部屋の配置が次々に決まっていく!

カタログに印をつけて壁紙や家具のチョイスまでされていくぅぅぅぅぅ!

 

「倉庫はここで、事務室はここだね」

 

「ソファは人一人が寝転べるサイズが良いわ」

 

「問題ありませんわ。既にチェックしています」

 

「流石、レイヴェルさん! 仕事が速い!」

 

盛り上がってるのは良いけど、俺の意思は!?

俺の意思は無視ですか!?

君達の意見を取り入れるとは言ったけど、盛り込みすぎてないですか!?

俺の意見、ほとんど取り入れられてないんですけど!?

 

「かなり良い感じになってきたわね。ああっ、今から目に浮かぶわ。お仕事でミスをした美羽ちゃんやアリスちゃんがベッドの上でイッセーにお仕置きされる姿が………フフフッ」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁん! 俺の城が駄女神に穢されていくぅぅぅぅぅ!」

 

「何言ってるの。あなたは穢す側でしょ?」

 

「そろそろ怒るよ!? マジで怒るよ!?」

 

「いゃん♪ イッセーに剥かれちゃう♪」

 

俺の事務所設計は眷属達の手によってハイスピードで進んでいった。

 

 

 

 

数日後。

 

部活を終えた後、俺達、赤龍帝眷属はそのまま例の場所へ。

イグニスの意見により美羽達がハイスピードでデザインした事務所の工事が今日完成したということで、他の皆よりも一足早く見に行くことにした。

リアス達は後で見に来るそうだ。

 

俺の城………なんだけどなぁ………。

まぁ、何だかんだでデザイン案は良く、最終的にゴーサインを出したのは俺だけどね。

 

塾のエレベーターに俺の顔を認証させて、地下へ。

 

エレベーターから降りて、廊下を少し進んだ先には『兵藤一誠眷属事務所』と記された札のかかった扉。

 

札を指でそっと撫でて、現実であることを確認する。

 

「これが俺の………」

 

うーむ、こうして見るとなんか感動するな!

本当に自分の城なんだって感じでさ!

 

俺が一人感動していると、後ろから急かす声が。

 

「早く入ろうよ、お兄ちゃん」

 

「とりあえず感動するのは中に入ってからでもいいでしょ?」

 

「そうですわ。まずは全てを確認してからです」

 

ハハハ、三人とも後ろでワクワクしてる。

どうやら、中が気になってしかたがないようだ。

 

俺は頷くと、先生から渡された鍵で扉を開ける。

 

すると―――――

 

「「「おおっ!」」」

 

入るとそこにあったのは俺達(ほとんど女子達)が設計した通りの空間だった!

 

木目調の床に白くて清潔感がある壁。

 

部屋の奥にはドーンと構えた大きなデスク。

アンティーク調でシンプルだけどカッコいい。

あれが俺専用の机か!

テンション上がるな!

 

皆の机も俺専用の物よりは少し小さめだけど、デザインを合わせているので全体的に統一感がある。

 

他にも報告書作成用のパソコンやらコピー機、FAXといった機器も一通り揃えられている。

 

事務スペースの左右の壁にはいくつかの扉があり、湯沸し室………というよりは完全なキッチンも事務スペースのすぐ横に備えつけられていた。

湯沸し室にしては大きいし………カウンターテーブルもついてるしな!

 

「これなら、夜遅くなっても夜食とか作れそうだね」

 

美羽がカウンターテーブルを撫でながら言う。

ちなみにこのキッチンの案を出したのは美羽だったりする。

 

美羽が事務室をぐるっと見渡したところで向かったのが一番奥にある鮮やかな赤色の扉。

倉庫やトイレなどの扉は黒なのにそこだけが赤く、扉には『休憩室』と書かれていた。

 

 

まさか―――――。

 

 

扉が開かれ、中の様子が目に映る。

 

その部屋は俺が予想した通りで………。

 

「わぁ………本当にガラス張りなんだ」

 

美羽が感嘆の声を漏らす。

 

そこは寝室と浴室がくっついた部屋!

寝室には大きめのベッドと怪しげに輝くランプ!

更には浴室の壁はガラス張りという、いかにもな雰囲気を醸し出していた!

 

「フッフッフッ。流石は私がデザインしただけあってエロいわね」

 

得意げに笑みを浮かべるのは実体化したイグニス。

 

そう、この部屋だけはイグニスが手掛けた部屋になっていてだな………他のスペースとは完全に別世界。

完全にそういうことをするための部屋と化していた。

 

………マジで形になりやがった。

いや、ゴーサイン出したの俺だけど。

つーか、ゴーサイン出すしかなかったんだよね。

そこだけ『変更不可』って図面に書かれてたし。

 

イグニスは俺の肩に手を置いてニッコリと微笑む。

 

「これで女の子は連れ込み放題よ」

 

「出来上がって言うのもあれだけど、ここ職場だからね!? 分かってる!?」

 

「職場だからこそ燃えるんじゃない! あ、私を連れ込んでも良いのよ? ティアちゃんも交えてお姉さん二人でしてあ・げ・る♡」

 

「ティアを巻き込まないでくれる!?」

 

ああ………ダメだ。

俺にはこの駄女神を止められない。

イグニスって本当はエロを司る女神とかじゃないの?

 

俺は深くため息を吐きながら、休憩室を出た。

あの休憩室に関しては一旦おいて置こう。

 

寝室を出た俺は事務スペースの奥、自分のデスクに座り、改めて部屋を見渡す。

この大きな机も今の自分には不相応だとは思うけど、『王』として堂々と構えていてほしいというレイヴェル達の想いも籠められているんだ。

もっと努力して、その想いに応えないとな。

 

ふと時計を見るとボチボチ、悪魔として活動する時間になっている。

いつの間にか休憩室から出てきた美羽、アリス、レイヴェルの三人が目の前に立っていて、その顔はどこか張り切っているようにも見えた。

 

俺は三人を見渡すと、フッと笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ、悪魔のお仕事といきますか。今日から心機一転、頑張っていこうぜ!」

 

こうして、俺、兵藤一誠は悪魔として新たな一歩を踏み出すことになった。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに―――――

 

 

 

 

 

 

 

あの『休憩室』は結構な頻度で使われることになる。

 

 



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番外編 アリスさんと一緒

ある日の早朝。

 

今の時刻は四時半とかなり早い。

 

なぜ、ここまで早く起きれたかというと、単純に昨日寝た時刻が早かったからだ。

確か………九時半ぐらいだったかな?

おかげでよく眠れた。

 

ベッドには美羽やリアス達もいるが、全員熟睡中。

まぁ、この時間はまだ寝てるもんね。

 

………一人足りないけど………どこ行ったんだ、あいつ?

 

いつもより早く目が覚めた俺は皆を起こさないように注意しながら、一度リビングへ。

 

寝癖の立った髪を手で押さえながら階段を下りていると、リビングの方から何やらガチャガチャと音が聞こえてくる。

 

怪訝に思いながらもリビングの扉を開けると――――。

 

「えっと………塩と醤油とあとは………」

 

エプロンを着けたアリスが一人、キッチンで本とにらめっこしているのを発見した。

 

すごい集中しているのか、俺が見ていることにも気づいていないようだ。

 

「おはよう、アリス。何してんだ?」

 

「あっ!? い、イッセー!? お、おはよ………。え、えーと………これは、あの、その………」

 

アリスは本を胸に抱えながら後ずさりしていく。

顔を赤くして、ごにょごにょと口ごもっているんだけど………どうしたんだろう?

 

すると、アリスの腕の隙間から本のタイトルが見えた。

 

「………『彼氏の胃袋を掴んじゃおう! 愛妻弁当レシピ百選』?」

 

「わー! タイトル読むな、バカァッ!」

 

「ゴファ!?」

 

フライパンが飛んできたんですけど!?

おでこに直撃したから超痛いっ!

俺、何か悪いことしましたか!?

 

俺がおでこを押さえて踞るとアリスが駆け寄ってくる。

 

「あっ………ご、ごめん! だ、大丈夫!?」

 

「全然大丈夫じゃない………。朝から何すんだよ………超痛ぇ………」

 

「ご、ごめん………咄嗟に………」

 

「咄嗟でフライパンを投げるなよ………。母さんとかだったら即アウトだぞ?」

 

「投げたのはあんただからよ」

 

「酷い!」

 

こいつ、実は俺のこと嫌い………ってことはないと思うけどさ。

 

多分、俺には見られたくなかった。

そんなところだろう。

 

で、アリスが持ってる本とこの状況からして、これは――――。

 

「お弁当作ってるのか?」

 

俺が問うとアリスはみるみる顔を赤くする。

 

そして、小さく頷いた。

 

「う、うん………。あんたのお弁当って、いつも美羽ちゃんとかリアスさんが作ってるじゃない? 私も作ってあげたいなって思って………」

 

しかし、とアリスは顔を伏せて続ける。

 

「私………料理下手だし………作れても他の子達みたいに上手く作れないし………。だから、朝早く起きて練習してたのよ」

 

そう言ってアリスは先ほどの本を見せてくれた。

 

出されたページにはごく一般的なお弁当の写真が乗っていて、そのレシピも書いてある。

よく見ると注意点には赤ペンで線が引かれていて、所々にメモ書きしてあった。

………これは過去に失敗した時の原因かな?

『火の加減に注意!』とか『塩と砂糖を間違えない!』とか書いてるし。

 

アリスは母さんから料理を教わっているみたいだけど、元々その方面に弱かったせいか、中々前に進めていないようだ。

それでも昔に比べれば大分良くなったとは思うんだけどね。

 

しかし………。

 

俺がじっと見ていると、アリスは少し拗ねた様子でぶつぶつと呟く。

 

「な、なによぅ………。ど、どうせ、私が作るより美羽ちゃん達の方が美味しいわよ………。で、でも………」

 

「バーカ、誰もそんなこと言ってないだろ? ………ありがとな。俺のために頑張ってくれてるんだろ? この本見りゃ、どれだけ努力しているのか分かるよ」

 

俺は微笑みながらアリスの頭を撫でてやる。

 

正直に言って、俺のために頑張ってくれているのは滅茶苦茶嬉しい。

苦手なものを克服しようと不器用なりに努力しているアリスの姿はどこか微笑ましくもあり、可愛らしい。

 

アリスは顔を赤くしたまま俯いてしまい、何も言わないが………。

 

「それで? 今は何を作ろうとしてたんだ?」

 

「これ………卵焼き」

 

アリスが指差したのは卵焼きの載っているページ。

表示されているレシピの中で一番赤ペンが多く入っている料理だ。

 

「………卵割ろうとしたら殻が入っちゃうし………、焼こうとしたら、上手く巻けなくてぐちゃぐちゃになるのよ」

 

気落ちしながらアリスは言う。

 

あー………なるほどね。

卵焼きって料理初心者なら誰もがぶつかりそうな壁だよな。

小学生の時に家庭科の授業で作ったことはあるけど、俺も似たようなミスしてたっけ?

 

俺は料理本片手に立ち上がると言う。

 

「よーし、二人で作ってみっか」

 

「え?」

 

「俺が教えてやるよ。美羽達ほど料理が出来るわけじゃないけど、卵焼きなら出来るしな」

 

「あんたも料理できるんだ………。なんかショック………。女子力で負けたような気が………」

 

「出来るって言っても大した物は出来ないぞ? まぁ、なんだ………アリスはコツさえ掴めば何とかなるんじゃないか? とりあえず、やってみようぜ。俺でも出来たんだから、アリスも出来るって」

 

「う、うん………ありがと」

 

 

 

 

「いいか? 火は弱火で、卵は薄く流せよ? あと、流す前にしっかり油を敷くこと」

 

「う、うん」

 

俺の指示に従いながら、アリスは熱した卵焼き用のフライパンに油を敷いて、その上に溶いた卵を少しずつ流していく。

 

緊張しているのか、手が僅かに震えていて………見てて、なんか怖い。

卵割る時も力入れすぎてグシャってなってたしなぁ。

やっぱり肩に力が入りすぎているのかね?

 

俺はアリスの後ろから前に手を伸ばし、そっと手を添える。

 

アリスの体がビクッと震えた。

 

「な、なに?」

 

「いやー………見てて、危なっかしいというか………見てるこっちがヒヤヒヤしてな。ちょっと力入りすぎだぞ? もう少し力抜けって」

 

「そ、それは分かってるんだけど………。この体勢って………」

 

「嫌か? まぁ、少し我慢な? この方が教えやすいし」

 

「………嫌ってわけじゃなくて………。むしろ、この方が良いというか………。それに、今の私達って………」

 

「ん?」

 

俺が聞き返すとアリスは弱々しい声で呟いた。

 

「………なんか、新婚夫婦みたい………じゃない?」

 

「あー………」

 

まぁ、そう見えるのかな?

 

フライパンを握るアリスの後ろから俺が手を回していて、その手を支えているこの状況。

 

他人が見ればそう見えなくもないのかも。

しかも、かなりラブラブな感じで見られるかもね。

 

『何を今さら。この熟年夫婦め』

 

うん、ドライグさんは黙っててくんない?

ちょっと、良い感じだから。

良いムード出てるから。

 

イグニスお姉さん呼んじゃうぞ?

 

『俺が悪かった! 俺が悪かったからそれだけは止めてくれ!』

 

とにかく言えることは、こういうシチュエーションも悪くない………いや、ある意味、最高とも言える!

すごくドキドキする!

 

アリスの髪から漂ってくる香りも、伝わってくる鼓動も体温も。

これだけ密着していると、アリスの全てが感じられてだな………。

 

アリスが呟く。

 

「ねぇ、イッセー………」

 

「なに?」

 

「イッセーの手、温かい」

 

「アリスの手も温かいよ」

 

アリスは溶いた卵が入った容器を置くと、俺の腕の中でくるりと半回転。

俺と向き合う形になる。

 

超至近距離にある互いの顔。

息遣いまで聞こえてくるこの距離。

 

アリスのプルンとした唇。

潤んだ瞳が俺を見つめてくる。

 

こんなに近いと―――――。

 

「………そういえば、おはようのキスしてなかったよね?」

 

「して………ないな」

 

「今から………する?」

 

「今から………しよっか?」

 

二人の顔が少しずつ、ゆっくり近づいていく。

 

そして――――――。

 

 

シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ

 

 

「「へ?」」

 

突如、聞こえてきた何かが焼ける音。

同時に焦げた臭いもしてきて―――――。

 

ふと見るとフライパンの中にあったはずの黄色い卵はどこにもなく、真っ黒なダークマターが誕生していた。

 

「「ああああああああああああっ!?」」

 

キッチンに響く俺とアリスの悲鳴!

 

完全に忘れてたぁぁぁぁぁぁ!?

俺達、卵焼き作ってること完全に忘れてたよ!

 

なにこの暗黒物質!?

卵どこいった!?

黄色の部分が見当たらねぇ!

 

アリスが泣く!

 

「もう! イッセーのバカァ! あんたがこんなことするから!」

 

「俺のせいかよ!?」

 

「そうよ! あんたのせいよ! って、キャァァァァッ! ダークマターが燃えてるぅぅぅぅぅ!」

 

「おまえ、弱火にしてなかったな!?」

 

「してたわよ! でも、あんたが後ろから抱きついてくるから、手が滑ったのよ!」

 

「それ関係なくね!? ちょ、フランベみたいになってるから! 火! 火消せ! このままだと火事になるから! 急いで!」

 

「分かってるわよ! あと、フランベって何!?」

 

「だぁぁぁぁ! それは後で教えてやるから、とりあえず火消せぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

朝から大騒ぎの俺達だった。

 

 

 

 

午前の授業が終わり、昼休み。

 

「………なんとか形にはなったな」

 

「………なんとか形になったわね」

 

互いに弁当箱の蓋を開けて呟く俺とアリス。

 

そこにはあの料理本に載ってたお弁当と同じものが………とまではいかないけど、それらしいものが詰められていた。

 

卵焼き………ダークマターを片付けた後、俺とアリスは再チャレンジ。

二度目はなんとか成功させることができた。

まぁ、形は少し不格好ではあるが、料理が苦手なアリスが作ったにしては上出来だろう。

 

卵焼きが出来てからは割りと順調に進み、たこさんウインナーからアスパラベーコンといった料理も制作。

おにぎりも二人で握った。

 

今回のお弁当は二人で作ったこともあり、盛り付けはお揃いだ。

 

俺達の弁当を見て、松田が言う。

 

「二人ともお揃いかよ………」

 

「今日は朝から二人で作ったからな」

 

「新婚夫婦か!? 一度盛大に爆発しろ!」

 

「地獄に落ちろ! この裏切り者!」

 

「アハハハ………」

 

松田と元浜の叫びに苦笑するアリス。

 

周囲の男共からの視線が鋭いな………。

殺気が籠ってる………。

 

ちなみにだが、リアス達にファンがいるようにアリスにもファンがいたりする。

しかも、男だけでなく、女子のファンがいるほどだ。

どうにも、アリスの凛としたところが良いらしくリアスや朱乃と同じく『お姉さま』と呼ばれていたりする。

 

まぁ、それは置いておこう。

 

「いただきます」

 

手を合わせた後、本日の成果を確認する。

もちろん朝に味見はしたが、改めてだ。

 

まずは最も苦労した卵焼きからだ。

 

箸で掴み、そのまま口へ運ぶ。

 

「ど、どう?」

 

アリスが恐る恐る聞いてくる。

 

俺は何度か咀嚼して味わった後、ゴクンと飲み込み――――。

 

「すごく美味いよ」

 

「そう………。よかった………」

 

「朝早くから頑張ったもんな」

 

「ううん。イッセーのおかげよ。私一人じゃ出来なかったわ」

 

互いに微笑み合う俺達。

 

努力家なアリス。

苦手な料理を俺のために克服しようとしてくれている。

 

………もうね、可愛いわ。

 

たまにグーパンチやら今朝みたいにフライパンが飛んでくることもあるけど、やっぱり可愛いわ。

 

アリスはモジモジしながらボソリと言った。

 

「私、もっと頑張る………。イッセーがもっと美味しいって言ってくれるように頑張るわ」

 

うーん、なんて可愛いことを言ってくれるのか!

これからも努力を続けていけば、アリスの腕も上達するだろうし、その時の料理が今から楽しみだぜ!

 

 

 

 

[アリス side]

 

 

ゆさり ゆさり。

 

ゆっくりと等間隔のリズムで体が揺れている。

揺り籠の中で揺られているような感覚。

 

………あ、れ?

私、寝てた?

 

確か………お弁当を食べた後………午後の授業が始まって………。

先生の番書をノートに写していたけど、朝早すぎる時間に起きてたから、眠くなって………そのまま………。

 

体に心地良い温もりが伝わってくる。

この温もりが心地よくて………安心できて。

体をずっと預けたくなる、そんな感覚。

 

しかし、ここはどこなんだろう?

 

閉じていた瞼をゆっくりと開けていく。

 

 

すると―――――

 

 

「………い、イッセー?」

 

「ん? ああ、起きたか。おはよう、アリス」

 

微笑み返してくるイッセーの横顔。

 

ここでようやく気づいた。

今、自分がどこにいるのか。

 

私がいたのはイッセーの背の上。

いつの間にか眠りこけていた私はイッセーの背中に抱きつくような形で背負われていた。

 

………。

 

………。

 

………。

 

………はっ!?

 

「わ、わわわわわ私、え、ええええ!? ここどこ!?」

 

「うぉっ!? いきなり、耳元でデカイ声出すなよ!? 今は俺達の事務所に向かってる、その道中だよ。おまえ、午後の授業丸々寝てただろ? 声をかけても揺すっても起きないかったからな。最終手段でおんぶだ」

 

「んなっ!?」

 

辺りを見渡せば、夕方の駒王町。

行き交う町の人達とすれ違う。

中にはお店で買い食いしている学生の姿もあって、今が放課後だということがわかる。

 

ま、まさか、午後の授業丸々熟睡してたっていうの!?

何してんのよ、私!?

 

………ないわ。

これは流石にないわ。

 

あぁっ………恥ずかしい………。

 

自分でも分かるくらい顔が熱くなってる………。

頭が沸騰しそう………。

 

イッセーが苦笑する。

 

「おまえ、ちゃんと寝たか? 完全な睡眠不足だろ、これ。しっかり睡眠取らないと、まーた体壊すぞ?」

 

「うぅっ………」

 

ぐうの音も出ない。

 

昨日は朝早く起きれるように目覚まし合わせたけど、上手くお弁当が作れるかどうかで緊張して眠れなくて………。

まぁ、結局はイッセーと二人で作ることになったんだけど。

 

「ありがとな」

 

「へ?」

 

突然、イッセーがお礼を言ってきた。

 

私、何かお礼を言われるようなことしたかしら?

迷惑なら現在進行形でかけていると思うのだけど………。

 

「いや、おまえのことだからさ。今日のお弁当作りが上手くいくかどうかで緊張して眠れなかったんだろ?」

 

うっ………鋭い。

 

「あまり無理はしてほしくないけど、素直に嬉しいよ。アリスが作ってくれたお弁当、本当に美味しかった」

 

「本当? 本当に美味しかった?」

 

「嘘ついてどうするよ。今朝の味見の時も昼にも言っただろ? 美味しかったよ。また作ってくれるか?」

 

そっか………美味しかったんだ。

 

料理下手な私。

美羽ちゃん達に比べると格段に下手な私にそう言ってくれる。

それだけで、今日頑張った甲斐があって………。

 

私はイッセーの背中に体を預けて、後ろからぎゅっと抱きついた。

 

「うん………また、作ってあげる」

 

「おう。楽しみにしてるよ」

 

 

[アリス side out]

 

 

 

 

「それじゃあ、悪魔くん! また、語り合おうじゃないか!」

 

「もちろんすよ! また依頼がある時は呼んでください! それじゃ、また今度!」

 

届いた依頼をクリアした俺は転移魔法陣で事務所に戻る。

 

今日、俺に届いた依頼は三件。

一件目は迷子になった猫の捜索。

二件目は仕事で疲れた体のマッサージ。

三件目はアニメ・ゲームについて語り合うというもの。

 

上級悪魔になっても依頼内容は相変わらずこんな感じだ。

ほとんどが悪魔になった時からの常連さん。

 

しかも、男ばっかり………泣ける!

 

二件目のマッサージはある意味、辛かった!

だって、ムキムキのおっさんの体をマッサージするんだぜ!?

どうせマッサージするなら女の子が良かったよ!

 

木場なんて相変わらず女性客が多いし!

クソッ、やはりイケメンが良いのか!?

イケメンが良いのか、コンチクショウ!

 

たまには女性客もきてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

 

とまぁ、こんな嘆きを胸の奥に仕舞いつつも依頼は全部クリアしたさ。

なんだかんだで、お客さんとの会話も楽しいしね。

 

魔法陣の輝きが俺を包み込み、依頼人の家から事務所へ。

 

転移の光が止み、事務所に戻った俺。

 

そこで俺を待っていたのは―――――。

 

「お帰りなさい、あなた♪ ごはんにする? お風呂にする? それとも――――わ・た・し♪」

 

裸エプロン姿のアリスだったぁぁぁぁぁ!?

おたま片手に良くありそうな言葉を言ってる!

 

ヤベッ………鼻血が………!

鼻血が止まらないぃぃぃぃ!

 

「ちょ、ええええええ!? あ、アリスぅぅぅぅぅ!? そんなの、どこで覚えてきたぁぁぁぁ!?」

 

テンションがおかしいことになってる俺!

だって、帰ってきたと思えばとんだサプライズなんだもん!

 

エロい!

エロいよ、アリスさん!

 

フリフリのエプロンといい、少し恥ずかしがっているところといい、百点満点………いや、千点あげたい!

 

アリスはモジモジしながら言う。

 

「え、と………どうしたら、あんたが喜ぶかなって考えてたら、イグニスさんが教えてくれて………。今の台詞も付け加えたら良いって」

 

イグニスぅぅぅぅぅ!

また、あんたかよぉぉぉぉぉ!

 

素晴らしいチョイスじゃないっすか!

流石っす!

流石っすよ、イグニス姉さん!

 

今回ばかりはお礼を言わずにはいられない!

ありがとうございます!

 

仕事終わりにこれは最高のおもてなしだ!

 

疲れなんか余裕で吹っ飛ぶぜ!

 

俺が興奮しているとアリスは人差し指を合わせながら、小さい声で言ってきた。

 

「ど、どうする? 一応、お風呂の用意とお夜食の用意は出来てるけど………?」

 

お風呂とごはん………それも魅力的だ。

 

 

しかし、この場合の選択は――――――。

 

 

「お風呂でアリスをごはんにする!」

 

「もう………欲張りなんだから」

 

この後、美味しくいただきました。

 




今回はアリスとひたすらイチャイチャするお話でした(笑)

ー追記ー

美羽のイラスト(制服姿)を活動報告にあげました。
あまり絵心がないので、あれですが………気が向いたら見てみてください。


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第十六章 聖誕祭のファニーエンジェル
1話 クリスマスプレゼント貰いました!


平和な時間。

 

何でもない、ごく普通の当たり前の時間だが………これは必ずしも当たり前とは限らない。

人によってはこの平和な時間を勝ち取るために戦い続ける人もいる。

この当たり前の時間が手に入らない人もいる。

 

俺もまたこの当たり前の時間というのを得るため、日々戦い続けてる。

 

戦って戦って、やっと訪れた平和な時間。

これはかけがえのないもので、大切にしなきゃいけないんだ。

 

そして今も――――。

 

「平和だなぁ………」

 

「平和だね………」

 

「平和よね………」

 

自室のベッドで大の字になっている俺に続き、美羽とアリスが声を漏らす。

二人もベッドの上にいて、俺の左右を固めるようにして寝転がっている。

 

部屋には俺達三人しかおらず、静かな時が流れていた。

 

ただただベッドの上で寝転がるだけ。

普通ならこの時間を別のことに使えれば有意義なんだろうけど、今はこうしていたい。

 

ただ三人でのんびりしたいんだ。

 

美羽とアリスは二人とも俺の腕を枕にして、ピッタリとくっついていて、二人の呼吸が聞こえてくる。

 

美羽が言う。

 

「そろそろクリスマスだね」

 

今は十二月。

怒濤の二学期ももうすぐ終わり、冬休みが始まろうとしている。

 

となると、近づいてくるのは十二月のイベント、クリスマスだ。

 

アリスが訊いてくる。

 

「その『クリスマス』ってなんなの?」

 

あー、アリスはクリスマスを知らないんだよな。

この世界に来たのは二学期が始まってからだったし。

向こうの世界にはクリスマスなんてなかったもんな。

 

美羽がそれに答える。

 

「簡単に言うと、お祭りかな? クリスマスの日にはね、恋人と一緒に過ごしたり、家族とゆっくりしたりする人もいるんだよ。あと、小さな子供はサンタさんからプレゼントを貰えるんだ」

 

「サンタって誰?」

 

「白い髭を生やしたお爺さん」

 

「………?」

 

う、うーん、その説明でアリスに理解させるのは無理があるような………。

今の説明だと、見ず知らずのお爺さんが小さい子供に物を配るということになるわけで………。

 

「………ストーカー?」

 

ほら、こうなる!

 

違うから!

サンタさん、ストーカー違うから!

そんなサンタさんの名誉を傷つけるような発言しないで!

天界から苦情来るよ!?

 

俺は目元をひきつらせながら言う。

 

「ま、まぁ、あれだ。大切な人と過ごす日って認識でいいと思う。大切な人と一緒にいて、何か物を贈ったりするんだ。ちなみに去年、俺と美羽は普通に家族で過ごしたかな。ご馳走食べて、プレゼント贈った」

 

ちなみに俺が美羽に贈ったのはマンガ全巻セット。

美羽が読みたがってたやつを贈った。

 

俺が美羽から貰ったのは手編みのマフラーだったりする。

今でも大切に使ってる………というか俺のお宝だ。

 

「美羽は今年は何がいい?」

 

「んー、今は特に無いかな?」

 

「本当に? 何でも良いんだぞ?」

 

そう尋ねると美羽は顎に指を当てて暫く考えた後、ニッコリと微笑んだ。

 

「いつもお兄ちゃんに可愛がってもらってるし、それで十分。毎日『思い出』ってプレゼントもらってるもん」

 

ぐっ………なんて可愛いことを天使スマイルで言ってくれるんだ!

良い子過ぎる!

可愛さのあまり吐血しそうになったぜ!

 

「じゃあ、俺も毎日もらってるな。美羽とこうしているだけで十分だ」

 

「お兄ちゃん………!」

 

「美羽………!」

 

仲良く抱き合う兄妹。

美羽は俺の胸に顔を埋め、俺は美羽の頭を優しく撫でる。

 

良いなぁ!

平和だなぁ!

やっぱりこういう時間こそが大切だよね!

最高に幸せだ!

 

俺は美羽の頭を撫でながら、アリスにも訊ねてみる。

 

「アリスは何か欲しいものあるか? 何でも良いんだぞ?」

 

「私? 私も今は特にないわね」

 

うーん………この二人、無欲か。

誕生日プレゼントとかも結構考えないと難しいぞ、こりゃ。

 

などと思っていると―――――。

 

「………というか、もう貰ったし」

 

「貰った? 何かあげたっけ?」

 

「貰ったわよ。いっぱい………ね?」

 

アリスは頬を赤く染めて、自分のお腹に手を当てて撫でた。

 

あー………なるほど。

そっちか。

 

先日、俺がアリスを背負って事務所に行った日のこと。

俺はアリスと例の『休憩室』を使ったんだが………。

 

アリスが嬉しそうに呟く。

 

「ある意味、本当の初めてを貰えたわけだし………それもあんなに………」

 

「まぁ………あんなこと、言われたら………な?」

 

あの日、俺がアリスを抱こうとした時、アリスはこう言ってきたんだ。

 

 

――――イッセーの初めては私が欲しかった。

 

――――美羽ちゃんが良い子なのは分かってるし、あの子がイッセーのことを想っているのは分かってるけど………。それでも、悔しくて。素直になれなかった自分が、勇気を持てなかった自分に悔しくて………。

 

――――私、あんたの本当の初めてが………ほしいの。

 

 

潤んだ瞳であんなこと言われたから、俺は何も言えなかった。

 

そして、俺達は―――――。

 

「ありがとね………。私、すごく嬉しかった。………ただ」

 

そこまで言って、アリスは人差し指で俺の鼻を突いてくる。

 

「流石に飛ばしすぎだったわ。おかげで足腰立たなくなったじゃないの」

 

「あ、ハハハ………調子に乗ってすいませんでした」

 

………あの時は俺も半分暴走してたからね。

終わった後、アリス、立てなくなってたもんね。

 

ほんっと、ごめんね。

 

それだけ、アリスが可愛かったってことで許してください!

 

「でも………美羽ちゃんには申し訳ないわ。一番最初に勇気を出したのは美羽ちゃんなのにね」

 

アリスが申し訳なさそうな表情で謝るが、美羽は首を横に振った。

 

「気にしてないよ。ボクもアリスさんを差し置いてお兄ちゃんの初めて貰っちゃったし、お会い子かな? あ、でも、良いの? もし赤ちゃんできたら、学校は………」

 

「それは良いの。学校に通うって言ったのはイッセーとの時間を増やすためだったし」

 

アリスは頬をかきながらそう言った。

 

………目の前で改めて言われると………恥ずかしい!

 

顔から火が出そうなんですが!?

ちょっと君達、オープン過ぎませんか!?

いや、今更かもしれないけど!

 

「フッフッフッ、やはり私の案は完璧だったようね。さっそくフル活用してるじゃない」

 

と、ここでイグニスが実体化してくる。

 

うん、言い返せないね。

結果的に使ってるわけだからね。

 

イグニスの策略(?)通りになってしまった!

お仕事した後にもう一仕事してしまう!

今のところ使ったのアリスとだけだけど………。

 

「それで? あの部屋の感想は?」

 

「「………よかったです」」

 

「でしょ♪」

 

顔を真っ赤にして答える俺達にイグニスは楽しげな笑みを浮かべてブイサインを送ってきた。

 

やっぱり、最強の女神さまには敵わんね………。

 

すると、イグニスは途端に真剣な表情となる。

 

「そうそう、例の件だけど、こっちの準備は整ったわ。ついさっきね。あとはあなた達三人の都合次第よ」

 

「―――――っ!」

 

その報告に俺達は目を見開いた。

 

例の件………そうか………。

イグニスの方は準備が済んだのか。

予想より遥かに早かったな。

 

となると、時間がある日を探さないといけない。

イグニスが言うには例の件を成すには結構時間がかかるらしい。

 

ふと美羽とアリスの顔を見ると、二人とも真剣で、覚悟を決めたような雰囲気だった。

 

「なぁ、イグニス。あのさ―――――」

 

改めて確認を取ろうとした時だった。

 

部屋の扉がノックされて開かれる。

 

入ってきたのは母さんだった。

 

「いたいた。イッセー、美羽ちゃん、二人とも来てくれる? 見せたいものがあるのよ」

 

その言葉に美羽が反応する。

 

「………お母さん、もしかして―――――」

 

「ええ。ついに、ね?」

 

 

 

 

兵藤家三階。 

ここに母さんの趣味室があるんだが、その部屋の前に俺は立っていた。

 

母さんにここで待つように言われたんだが………美羽だけ中に入ることを許されたんだよね。

 

待たされてるってことは俺には見せられないということではないだろう。

となると、美羽と一緒に何かの準備をしていると考えるべきなんだろう。

 

しかし、気になるな。

 

美羽は母さんの意図が分かっていたみたいだし………二人で何をしているんだ?

 

ここで待たされてから既に十分ほどが経っている。

 

思っていたより長いので扉に耳を当てて、中の様子を伺うと―――――。

 

『わぁ! すごいすごい!』

 

『でしょ? うんうん、よく似合ってる!』

 

テンション高めの美羽と母さんの声。

 

な、何をしているんだ?

気になる!

 

「か、母さん? そろそろ入っていいかな?」

 

『あ、ごめんなさい。イッセーのことすっかり忘れてたわ』

 

「忘れてたんかい!」

 

酷ぇ!

呼んだの母さんだろ!?

普通忘れるか!?

 

それとも何か!?

息子より娘の方が可愛いですか!?

 

それはそれで納得できるが………。

 

『イッセーも入ってきなさい。うふふ、きっと驚くわ』

 

お許しが出た俺は息を吐きながら扉を開ける。

 

そこで俺を待っていたのは――――――

 

「え……?」

 

純白。

一切の曇りがない白を身に纏う女性の姿そこにあった。

綺麗で神秘的にも思えるその光景に目を奪われ、誰なのか分からなかった。

 

「え………み、美羽か………?」

 

「うん。そうだよ」

 

「それって………その、あれだよな? ウェディングドレス………だよな?」

 

そう、美羽が着ているのは純白のウェディングドレスだ。

 

チュールやレースを幾重にも重ねたスカート。

胸から胴にかけては全体的に刺繍が施され一見派手にも見えるが、清楚な雰囲気を出している。

肩紐がないデザインで首筋や胸は広く露わになっている。

頭にはヴェールを被り、首にはキラキラと輝く銀のネックレス。

 

美羽は頬をほんのり染めて、少し恥ずかしそうに訊いてきた。

 

「えっと………どう、かな?」

 

「どうって………綺麗だよ、とっても。………あれ、おかしいな………涙出てきた………」

 

なんでかよく分からないけど涙が………涙が止まらない。

 

美羽が可愛いのもあるし、綺麗なのもあるし………美羽のウェディングドレスが似合いすぎて………。

 

美羽はこちらに歩み寄ってくると、ハンカチを取り出して流れる涙を拭ってくれた。

 

「もう、お兄ちゃんったら大袈裟だよ? でも、綺麗って言われたのは嬉しいな。お兄ちゃん、あのね」

 

「なに?」

 

「ボクね、お兄ちゃんのお嫁さんになりたい。このドレス着て、小さい場所でも良いからお兄ちゃんと結婚式してね………それでね………あれ、涙出てきた………」

 

うるうると潤ませた瞳から大粒の涙を零していく美羽。

それでも、これまでにないくらい幸せそうな笑顔を浮かべていて。

 

兄妹揃って号泣する俺達を見て母さんが苦笑する。

 

「泣くのはまだ先でしょ? その涙は本番までとっておきなさい」

 

「「うん………うぇぇぇ」」

 

「いや、余計に泣いてるわよ?」

 

「「嬉し過ぎて涙が止まらない………うぅっ………グスッ」」

 

「あらあら………しょうがないわねぇ」

 

母さんは苦笑しながらも、止めどなく流れ続ける俺達の涙をハンカチで拭いていく。

 

それから少しして、ようやく落ち着いた俺は母さんに訊いた。

 

「このドレス、どうしたの?」

 

あまりの感動に訊くのを忘れていたけど、このドレスは一体どこから持ってきたのだろうか。

買ったのか………もしくはレンタルしたのか。

 

すると、母さんは得意げな笑みを見せた。

 

「ふっふっふっ、このウェディングドレスはね………私のハンドメイドよ!」

 

「な、なにぃ!?」

 

このドレス、母さんが作ったっていうのか!?

刺繍も一つ一つ自分で縫ったと!?

完成度高すぎだろ!?

 

母さんはシャキーンと裁縫道具を構えて高らかに笑う。

 

「この私、兵藤咲の手にかかれば朝飯前よ! 時間かかったのは材料集めくらいかしら?」

 

「ボクもね、この間見た時は驚いちゃって。採寸とかも一切なしでピッタリだったから」

 

「採寸なし!? よく作れたな!?」

 

「私の眼を甘く見ちゃダメよ? 私は見ただけでスリーサイズから腕の太さ、足のサイズまで把握することができるわ。前の職場では『神眼の咲さん』と呼ばれた程よ」

 

「初耳なんですけど!?」

 

母さんって能力者か何かですか!?

あるいは神器所有者!?

裏の世界でも中々いないと思うよ!?

 

「ちなみに今は第二弾製作中! 次はアリスさんよ!」

 

バンッと机を叩く母さんの手元には方眼紙が置かれてあり、ウェディングドレスのデザイン画が描かれていた!

第二弾製作!?

ということはアリスのスリーサイズも把握しているんだな!?

 

あっ、よく見たら美羽が着ているドレスとデザインが違う!

デザインから考えているのか!

しかも、絵上手!

 

裁縫が得意なのは知ってたし、結婚する前はそういうところで働いてたのも聞いてたけど………想像を遥かに越えていた!

 

うちの母さん、マジスゲェ!

 

「とりあえず目標はイッセーのお嫁さん全員のドレスを作ることかしら? ふふふ、腕が鳴るわ♪」

 

楽しそうですね!

つーか、どれだけ作る気なの!?

 

やはり、母は偉大ということなのか!

 

美羽が俺に抱きついてくる。

 

「今年のクリスマスプレゼントはこれだね♪」

 

いや、本当にそう思う。

一生の宝になるよね。

 

母さんが言う。

 

「本当はクリスマスに渡したかったんだけど、イッセー達はお仕事があるんでしょ? それで、完成した今日に披露しようかなってね」

 

母さんの言う通り、クリスマスの日は俺達はおしごとだ。

 

その仕事というのは――――――。

 

ふいに部屋の扉がノックされて開かれる。

入ってきたのはレイヴェルだ。

 

「失礼しますわ。こちらにイッセーさまがいらっしゃるとお聞きして―――――」

 

ウェディングドレスを着た美羽が俺に抱きついているというこの状況を確認したレイヴェル。

 

完全に不意打ちだったのだろう。

口をポカンと開けて硬直してしまった。

 

そして、時が経つこと三十秒後。

 

「そ、そそそそそれはもしや、ウェディング………美羽さん!?」

 

「エヘヘ………お母さんが作ってくれたんだ」

 

「なっ!?」

 

うん、そうなるよね。

驚くよね、普通。

 

再び硬直するレイヴェルの後から別の影が。

 

「イッセーくん! もうすぐクリスマス大作戦よ! さっそく話し合いを―――――」

 

はい、飛び込んできたイリナもフリーズっと。

 

分かってたよ、こうなるの。

 

で、こうなったら最後―――――

 

「ええええええええええええ!?」

 

イリナの驚愕の声が兵藤家を揺らした。

 

悲鳴を聞いたリアス達が駆けつけて、ちょっとした騒ぎになるのは当然の流れとも言えよう。

 




さりげにイッセー母の名前を出しましたwww


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2話 冬休み、入ります!

イグニス姉さんを書いてみました。

【挿絵表示】


どうせなので、主要なオリキャラは書いていこうかな………なんて思ったり思わなかったり。



二学期の終業式の日。

 

今日で長かった二学期も終わりだ。

 

まぁ、今年の二学期はアスト・アーデに行ってたりもしたからその分長く感じるわけでして。

 

今年の二学期は長い上に怒涛の二学期だった。

 

体育館での終業のあいさつを終えて教室に戻ってきた俺達は担任が戻ってくるまでの間、松田、元浜と美羽達女子メンバーと年末の予定について話していた。

 

ため息混じりに松田が言う。

 

「んじゃ、やっぱり年末年始もイッセーは忙しいのか」

 

「すまん。やっぱり部活やら何やらで手が離せそうになくてな。それにオカ研の新体制をどうするか話し合ってるところだ。リアス部長や朱乃さんが安心して後輩の俺達に任せられるよう決めておかないと、な?」

 

俺が話を合わせるように美羽達の方に話を投げ掛ける。

 

察してくれたアーシアが続く。

 

「はい。私達二年生が中心にならなければいけませんし、イリナさんも正式に入部という形になりましたから」

 

そう、アーシアの言うようにイリナはオカ研の正式な部員となることになった。

今までイリナは生徒を救済するとかいういかにも怪しげな部活を立ち上げようとしていたが、結局、部員は集まらずじまい。

オカ研もリアスと朱乃が抜けるということで、イリナが入部することになったんだ。

 

それにゼノヴィアが生徒会選挙で当選したら、抜けてしまうことになるので、それもイリナが入部を決めた一つの理由でもあったりする。

 

「上の二人が抜けちゃうし、私も今までお世話になってたことだし、もう三年生だしってことで腰を据えようと思うのよね」

 

イリナはうんうん頷いている。

 

………まぁ、あの怪しげな部活を立ち上げるために部員を集めるのも限界があるだろうしな。

 

「可愛いけど、変な子」というのが全校生徒のイリナへの認識だ。

………それを考えると今後の部員確保は難易度が高いだろう。

 

元浜が訊いてくる。

 

「新部長と新副部長は決まっていないのか?」

 

「まぁな。リアス部長は既に決めているような感じだったけど、今はまだ秘密らしい」

 

うーむ、誰がオカ研新部長に就任するのか………気になるが、秘密と言われたしなぁ。

 

いつ発表する気だろう?

 

松田はゼノヴィアの方に視線を向けた。

 

「俺はゼノヴィアちゃんの生徒会選挙立候補の方が驚きだったぜ。てか、学園全体が話題騒然となってるしな」

 

ゼノヴィアの生徒会――――生徒会長への立候補の件だが、松田が言うように学園中に広まっている。

 

アウロス学園での一件の後、すぐに手を挙げたからな。

学校側もそれを認めて、ゼノヴィアは正式な候補者となった。

 

気合いを入れるゼノヴィア。

 

「冬休みから選挙活動の内容を詰めていくつもりだ。年明け早々から行動を開始しないといけないからね」

 

「うんうん、私も手伝うわよ。ゼノヴィアっちが会長だなんてチョー面白そうじゃん」

 

桐生も楽しそうにしている。

 

こいつは友人として支えると共にゼノヴィア会長の生徒会が学園を面白くしそうだという好奇心もあるのだろう。

 

どんな学園になるのかは想像が出来ないが、賑やかになるのは間違いないと思う。

 

「やっぱり、イッセー達は何だかんだで大変そうだな。久し振りに野郎三人で紳士の鑑賞会でもしようかと思ったんけどな」

 

「………というより、美羽ちゃんが妹になってからそっちばっかりだよな」

 

「そりゃあ、美羽の方が大事だからな!」

 

「「このシスコンめ! そのポジションよこせぇ!」」

 

「誰がやるかボケェ!」

 

うちの美羽ちゃんは誰にも渡しません!

俺の妹にして、お嫁さんです!

このポジションは死守する!

 

しかし………暫くの間はDVDは必要ないかな?

最近では鑑賞よりも実践の方が多いもんで。

 

俺の事務所に作られたイグニスデザインの『休憩室』。

アリスと使ったけど、見た目以上に雰囲気が出る場所なんだ。

 

そのおかげで、マジでフル活用されることになってて………。

この間は事務所の視察と称してリアスが来て一泊。

その次の日にはレイナがお手伝いと称して遊びに来て一泊。

スーツ姿だったレイナを押し倒すことに。

 

更にその次の日にはロセまでもが訪れて、最初は「き、教師として不純な行為をしていないか見に来ました!」なんて言っていたが、結局は『休憩室』に入ってしまい………一泊。

 

当然と言うべきなのか、美羽とも使用してだな………。

 

うーん、イグニスさん効果は凄まじい!

俺、枯れちゃいそう!

その内、女子メンバー全員が来そうで怖いよ!

嬉しいけど!

 

ちなみにだが、最後にDVDを見たのは………ヴァーリが家に遊びに来た日だ。

 

少し前、あいつはいきなり家に現れて、こう言ってきたんだよね。

 

「兵藤一誠。アザゼルから言われて来たのだが、性的興奮を覚える映像を見せてもらえないだろうか?」

 

歴代最強の白龍皇さまの予想外すぎるその発言にフリーズした俺。

 

原因はアザゼル先生なわけだが………なんでもヴァーリにこう言ったそうだ。

 

『いいか、ヴァーリ。おまえが理解を超えた力を得たいと思うなら、イッセーからヒントを得てみろ。あいつはT・O・S(ツイン・おっぱい・システム)なんていう一見バカに見える力だが、強力な力を得てしまった。超強力だ。何せ複製体とはいえ、二十体の魔王クラスを一人で消し飛ばしたんだからな。―――――神すら滅ぼす乳の力とも言えるだろう。もし、魔力でもなく、ドラゴンの力でもないパワーを知りたいとしたら、それは同じ二天龍であるイッセーの生活………いや、性活か? まぁ、あれだ、イッセーから学ぶといい』

 

その時の先生はどこか遠い目をしていたという。

 

結果、力の探求に余念がないヴァーリは生真面目に俺のもとに来たわけだ。

 

………なんと言うか、アホだよね。

 

なに、ヴァーリにわけの分からんアドバイスしてんの!?

T・O・Sって発案者イグニスだし!

イグニスに聞けや!

 

と、心の中で何度ツッコミまくったか。

 

迫力を放ちながら詰め寄るヴァーリを断りきれなかった俺はそのまま二人―――――二天龍でエロDVDを視聴することに。

 

画面の向こうで「いやーん」とか「あーん」とあえぎ声を出すお姉さんを前にヴァーリは

 

「それでこれのどこに注目すればいい? 乳か? 尻か?」

 

なんてクソ真面目な顔で俺に訊いてきやがる!

俺も何だかんだで解説してしまったんだが、ヴァーリも真剣に考え込んでしまうんだよね!

 

しかも、途中からイグニスが登場して俺以上に熱く語り出しちゃったんだよ!

 

「この子はお尻が良いわよね。腰から太ももにかけてのラインが最高じゃない? あと声も可愛いわ。でもね、ヴァーリくん。こういう時はパーツ単位で見るんじゃなくて、女の子全体を見て感じるものなのよ?」

 

ヴァーリもそれを聞いて、

 

「ふむ………なるほどな。よく分からないが、そう言うものなのか」

 

と、より深く考えていたしな!

 

最終的にはイグニスがヴァーリにこんな提案をして――――

 

「ねぇ、ヴァーリくん。私ね、新しい力の理論を組み立てているのよ。T・O・S(ツイン・おしり・システム)って言うの。これはね―――――」

 

なんてこれまた訳の分からん解説をしてしまったんだ!

 

なんだよ、ツイン・おしり・システムって!

意味が分からねぇよ!

乳力の次は尻力ですか!?

 

で………ヴァーリは結局、

 

「わからんが、兵藤一誠がこれの研究に余念がないのは理解できた。勤勉の結果なのだろう。そこに異世界の女神の理論が加わり強大な力を得た。ドラゴンの力はまだ未解明の部分が多いな」

 

なんて意味不明の自答を得て帰っていった。

 

もうね、あの日はかなりの体力を持っていかれたよ。

女神さまの暴走を止めるのにね………。

 

とにかく、その日を最後にエロDVDは見ていないな。

 

すると、桐生が目を光らせながら話題を変える。

 

「それよりももうすぐクリスマスよね」

 

「ん? まぁ、そうだな」

 

あと数日でクリスマスを迎えるわけだが………桐生のこの目………。

 

桐生はいやらしい表情を浮かべる。

 

「兵藤、あんた、今年はどんなプレゼントをもらうのかしら?」

 

クリスマスプレゼントなら少し早いけど母さんから凄いものをもらったよね。 

美羽のウェディングドレス………あれは過去最高のプレゼントと言えるだろう。

 

もうね、美羽のウェディングドレス姿は感動して………思い出す度に感動の涙が流れる。

 

この間、イリナの絶叫を聞き付けたリアス達が母さんの趣味室に駆け込んできたけど………全員、絶句してたな。

 

暫しの間、目を見開いたまま固まって全員で再度絶叫。

 

美羽が母さんの手作りだと言うと、全員が「私のも作ってください!」とお願いをしたから母さんも張り切っちゃって。

 

今日も材料を集めにいくなんて言ってたな。

 

まぁ、それは置いておいて………今の桐生の問いだけど、明らかにエロい答えを待っているよね。

絶対そうだよね。

 

こいつ、修学旅行の時から何かとギリギリの発言をしてくるからヒヤヒヤするんだ。

たまに美羽に話を聞いたりしてるみたいだし!

 

しかし、今の桐生の視線は教会トリオの方に向いている。

 

目を爛々と輝かせるゼノヴィア。

顔を真っ赤にして俯くアーシアとイリナ。

 

………このメガネ、何か吹き込んだな。

 

ゼノヴィアが俺の肩に手を置く。

 

「うむ、桐生に聞いたぞ。日本のクリスマスは家族ではなく、仲の良い男女が過ごすもので子作りするそうじゃないか。しかも、そのまま子供を天から授かれると聞いた。日本のクリスマスは子供を欲する者にはありがたい祭日だね」

 

うぉい!?

そんなことを堂々と言うんじゃない!

確かにクリスマスは大切な人と過ごす日で、カップルで過ごす者もいるけど!

 

そのまま子作りに結び付くなんて―――――いや、そういうこともあるか………。

人によっては結び付くこともあるかも………。

 

アーシアとイリナがモジモジしながら言う。

 

「………日本のクリスマスの習わしに照らすと、イッセーさんへのプレゼントは私自身なんですよね? わ、私なんかで良ろしければ!」

 

「し、しばらく離れているうちに日本のクリスマスも変わってしまったようね………。で、でも、自分自身を与えるというのはクリスチャン的には理解できなくもないし、イッセーくんが欲しいと言うなら………!」

 

三人とも勘違いしてるよね!

確かにそういうクリスマスもあるかもしれんが、日本全体がそうだと思うなよ!?

 

あと、くれるなら貰います!

よろこんでいただきます!

 

松田と元浜が恨めしそうに俺をにらみ、涙ながらに叫ぶ。

 

「うぅ、イッセーのバカ野郎! 大事なところが腐ってとれてしまえばいいんだ!」

 

いやー………それは困るな。

美羽と子作り出来なくなる!

 

「美少女の入れ食いか! そんな聖なる夜が性なる夜になるような奴は十字架に張り付けられてしまえばいいんだ! この悪魔め!」

 

うん、悪魔だよ?

十字架に張り付けられるのは悪魔的に大ダメージを受けそうだ。

 

「「おまえにはエロDVDもエロゲーも貸さん!」」

 

奴らは肩を組んで、号泣しながら俺に言い放ってくる。

 

いいもんね!

こっちには美羽達がいるもん!

 

 

ガララッ

 

 

教室の扉が開き、担任の坂田先生が白衣に手を突っ込んだ状態で入ってくる。

 

「テメーら席つけー。あと、松田と元浜はうるさいから廊下に立ってろー」

 

「「理不尽だ!」」

 

この後、先生から冬休みの諸注意やプリントが配布され、今年の授業は終わりとなった。

 

 



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3話 クリスマス企画、始動します!

終業式が終わったその日の午後。

 

俺達オカ研メンバーは兵藤家の上階にあるVIPルームに集まっていた。

終業式後の仕事を終えたアザゼル先生やロセ、それとこの地域に派遣されている天界スタッフを纏めているグリゼルダさんも集合している。

 

とりあえず集まれるメンバーが揃ったので、イリナが代表して今回の集会の主題を口にする。

 

「そのようなわけで、クリスマスの日にこの駒王町の皆さんにプレゼントを配るの!」

 

リアスが続く。

 

「この町は三大勢力の和平の象徴であり、重要拠点の一つ。けれど、それ以前にこの町に住む人達の大切な場所よ。普段からこの町を利用させてもらっているのだから、お礼も兼ねてクリスマスは住民の人達をお祝いしましょう」

 

「そうそう! そこで天界と冥界がタッグを組んで、この町にいる皆にプレゼントを配るのよ! そして、配るメンバーが―――――」

 

イリナが俺達に視線を配る。

 

俺が言う。

 

「『D×D』を中心にした俺達ってわけね」

 

「その通り! もちろん、クリスマスらしくサンタクロースの格好で配るわ!」

 

この町では今年に入ってから色々なことが起きた。

 

下手すれば町が丸ごと消滅してもおかしくない事件も起こり、はぐれ魔法使いの一件では実際に学園の生徒が被害を受けた。

 

俺達がこの町にいることで住民の皆さんに多大な迷惑をかけてしまっている。

それでは本拠地を他に移せばいい………と言いたいところだが、そう簡単にはいかない。

一度、ここまで設備を展開してしまってはおいそれと引っ越こすことは難しい。

更に言えば、今の状況下で下手に動けば、その隙を突かれてしまう可能性も十分にある。

 

ならば、クリスマスぐらい住民にプレゼントを渡しても良いのではないか、という意見が若手を中心に案があがった。

 

まぁ、これぐらいで俺達がかけている迷惑をチャラにできるわけではないのだが、それでも日頃のお礼とお詫びも兼ねて何かしたい。

そういう気持ちでこのプロジェクトが企画された。

 

この企画は各勢力のトップ陣も快く賛同してくれていて、資金も全面的に支援してくれている。

日頃のお詫びとお礼も兼ねているので、俺達もポケットマネーから出しあっている。

 

プレゼントは事前にリサーチをかけて住民の欲しいものをリストアップしたかったのだが、残念ながらそこまでの時間がなく、当たり障りの無いものだけど、もらうと嬉しいものがプレゼントの中心となる。

 

小さい女の子だったら、児童アニメの魔女っ子変身セット。

働くお父さんにはネクタイやマッサージ店のサービス券など。

 

あまり大それたプレゼントを贈ってしまうと、超常現象として大騒ぎされそうなので、先生のアドバイスのもと無難な線をいくことに。

 

「ま、都市伝説になるぐらいの内容でいいだろう」

 

先生はそう付け加えるが………。

 

イグニスが言う。

 

「思春期の男の子にはお姉さんが○○○(バキューン)とか×××(ズドーン)とか△△△(ドガーン)とかしてくれる淫夢をプレゼント!」

 

「却下でーす」

 

「ええっ!?」

 

「なんで驚いてんの!? ダメに決まってんだろ!?」

 

「夢だからギリギリセーフでしょ? 本当なら大人の階段を登らせてあげたいところなのよ? 保健体育で百点採らせてあげたいじゃない」

 

「バカだろ! あんた、やっぱりバカだろ! エロ女神!」

 

「エロこそ力! エロこそ正義よ! エロは私の力の一部!」

 

「どっかで聞いたな、その台詞!」

 

「イッセーだって、聖なる夜を性なる夜として過ごすつもりのくせに~」

 

「ぐっ………! それを言われると………!」

 

「なんでそこで詰まるのよ!?」

 

アリスのツッコミが部屋に響く。

 

うん、このエロ駄女神は放置しよう!

一々かまっていたら話が進まねぇ!

 

と、とにかく、プレゼント内容はそういう感じで決まった。

 

この企画を受けて、皆もテンション高めとなっている。

自分がサンタクロースになってプレゼントを配る側になることなんて、そうあることじゃない。

 

まぁ、クリスマスというものに触れたことがないアリスは首を傾げているけどね。

 

悪魔がサンタの格好をしてもいいのか、という疑問もあるが「たまにはいいだろう」という意見で一致した。

うーん、結構テキトーだよね、

 

「うふふ、こちらがサンタのコスチュームですわ」

 

朱乃が用意したサンタの衣装サンプル。

男性用のものと女性用のものがあり、女性用のものはスカートが長いものと短いものがある。

 

これはミニスカート一択だろう!  

 

サンプルを手に取りながらゼノヴィアがイリナに訊く。

 

「トナカイも用意するのか?」

 

「トナカイって飛べるようにするんでしたっけ?」

 

イリナがグリゼルダさんに訊くと、グリゼルダさんは頷く。

 

「ええ。飛べるように魔法をかけます」

 

おおっ、本格的だな。

ということはソリを引きながら夜空を飛び回るトナカイの姿が見れるということだな。

 

「サンタクロースになれるなんて光栄だね」

 

「でも、サンタさんのお仕事を奪ってしまいそうで気も引けるわ。これってサンタさんにとっては営業妨害よね?」

 

などと話しているゼノヴィアとイリナ。

 

俺はふと思ったので訊いてみる。

 

「やっぱりサンタって実在してるんだよな? 俺、見たことないけど」

 

小さい頃にプレゼントもらったけど………あれって父さんだったし。

寝ている俺の枕元にそっと置いていく姿を目撃しちゃったんだよね。

 

………あの時の父さん、サンタのコスチューム着てたけど、今思えばあれって母さんが作ったのかね?

 

この間のウェディングドレスを見たらそう思えてしまう。

 

リアスが笑みを浮かべて言う。

 

「ええ、いちおうね。まぁ、その話は別の案件になってしまうから、説明は省くわ」

 

へー、やっぱりいるんだな。

 

ま、悪魔や天使もいるし、なんとなくそんな気はしてたよ。

 

そっか、いるのか………会ったことないけど。

 

「………サンタさんはエロい子のもとには来なかったんですね」

 

小猫ちゃんの痛烈なツッコミ!

 

そうだね!

エロい子供のところには来ないよね!

 

だって、欲しがってたのがエロ本とかエッチなDVDだもん!

サンタさんも配りにくいわ!

どんな顔して配りゃ良いのか困るよね!

 

リアスが俺達を見渡して言う。

 

「クリスマスは悪魔の稼ぎ時でもあるわ。後でそのあたりのミーティングもするから、眷属は集まってちょうだいね」

 

「了解」

 

まぁ、俺達赤龍帝眷属は別行動だろうけど。

リアス達と話し合ったら、改めてこっちでも話し合わないとな。

 

木場が俺に言う。

 

「悪魔の仕事的にもクリスマスは忙しいからね」

 

クリスマスの時期、忙しいのはサンタだけではない。

悪魔も中々に忙しいそうだ。

 

と言うのもクリスマスの時期は寂しく過ごす住民から依頼が多く届くそうだ。

それも普段の十数倍にも及ぶという。

 

クリスマスに悪魔を召喚するというのは何とも言えないが、それだけ暇か、それだけ寂しいということだ。

 

「せっかく、この日を空けてくれていたお客さんのもとには赴かないといけないわ」

 

リアスが微笑みながらそう言う。

 

まぁ、俺も去年みたいにのんびり皆と過ごしたかったけど、この分だと今年はお預けになりそうだ。

クリスマス企画と悪魔の仕事だけでいっぱいになるだろうし。

 

「そういや、ソーナ達は今はアウロス学園でしたっけ?」

 

ふと思い出した俺は先生に訊く。

 

ソーナ達シトリー側は今回の企画、ギリギリまで話し合いに参加できないとなっていた。

話からするにあっちはぶっつけ本番になりそうだ。

 

「ああ、今はアウロスの修復、修繕中だからな。魔力で形は直せても事件が起きた以上、それに対する備えも必要となる。アグレアスを奪ったから、リゼヴィム達がもう一度あそこを攻めるとは考えにくいが、今後のためにも一から改装案を練り直しているそうだ」

 

クリフォトの襲来によりアウロスの町は甚大な被害を受けた。

田舎町そのものの備えの見直しが必要となり、現在は兵士が駐屯で警備している。

更にはテロ対策用に術式防壁も改めて張り巡らされたので、以前よりも強固になっている。

 

相手が相手だけに、それでも不安はあるが………先生の言うようにもう一度あの町を攻めてくる可能性は低いだろう。

 

ちなみにだが、あの事件の後、アウロス学園に対する体験入学募集は以前よりも応募が殺到しているそうだ。

 

匙に聞いた話では、既に予約で数年待ちの状態らしい。

 

「あの事件は冥界全土で大々的に報道されたからな。『若手悪魔、テロリスト集団を相手に大活躍。夢と希望の学園を死守!』、こんな見出しの新聞や報道が世間を巡れば、否応にも注目を集める。特に転生悪魔であるおまえ達や魔力に乏しいサイラオーグが伝説の邪龍相手に大暴れだ。下級、中級悪魔にとっちゃ、英雄譚にも等しい。ま、上役連中は面白くないだろうがな」

 

先生の言うようにあの戦いを生き残り、生の戦闘を目の当たりにした父兄の人達は、その光景をメディアに向けて興奮しながら語っていた。

それもあってアウロス学園の知名度は一気に上がり、今では知らない者はいないほど。

 

シトリー眷属がこの企画の話し合いに参加できないのは町の改修だけでなく、メディアの取材や応募の対応に追われているのも一つの原因だったりする。

 

レイヴェルが息を吐く。

 

「こちらにも取材の申し込みは来ていますが、今のところお断りさせていただいてますわ。ソーナさまが動けなくなった状態で私達まで動けなくなるのは問題なので」

 

シトリー以外にもあの事件の当事者である俺達にも取材は来ている………が、レイヴェルが言うように全部お断りしている。

 

理由としては『D×D』として動かなければならない以上、取材に時間を費やしている暇はないからだ。

 

で、そのお断りの対応はデキるマネージャーにして眷属であるレイヴェルがやってくれている。

ほんっと、この子は敏腕だよね。

 

 

 

 

企画についてのミーティングを行った後、当日の衣装合わせとなった。

女性陣を中心に楽しげにサンタの衣装への意見を出しあっていく。

 

そんな光景を見ていた先生が苦笑いしながら言う。

 

「働き者だよな、おまえら。体張ったり、学校行ったり、今回みたいな企画にまで参加して、その上で己の仕事もきちんとこなす。若手ながら、俺は大したもんだと賛辞を送っちまうよ」

 

「そう思うなら、自分も働いてくださいね? ほら、こんなに書類貯まってるんですから」

 

と、レイナが魔法陣を展開して山のような書類を机の上に召喚する!

 

ちょっと貯まりすぎじゃない!?

 

「おいおい! 明らかに俺の分じゃないやつもあるよな!? どういうことだよ!?」

 

「先日、私に投げましたよね? ねぇ? 投げましたよね? 私、今回はこっちで忙しいので私の分の書類もお願いしますね?」

 

「はぁ!? おまえな――――」

 

「――――この間、グリゴリの資金で変なロボット作ってましたよね? あれ、シェムハザさまに報告しますよ?」

 

「すまん、俺が悪かった。喜んで引き受けよう」

 

あ、あの先生がレイナに屈した!

あのレイナちゃんが先生を脅したよ!

 

つーか、組織の金でロボット作ったんですか!?

何やってんの!?

 

ガックリと肩を落とす先生。

 

そんな先生を放置して、レイナは試着室へ。

 

少しするとサンタの衣装に身を包んだレイナが現れた。

 

「ねぇねぇ、イッセーくん。これ、どうかな? やっぱりスカートはミニの方が可愛いかな?」

 

そう問われ、俺は足元からじっくりと見ていく。

 

スラッとした足!

ミニスカートから覗かせる眩しい太もも!

腰には布がなく、おへそが丸だし!

胸の谷間もしっかり見えてだな!

 

うーむ、これは可愛い!

 

「うんうん! よーく似合ってる! 可愛いぞ!」

 

「ホント? やっぱり当日はこれかな? ちょっと寒いけど、その辺りは魔法でなんとかできるし」

 

そう言うとレイナは俺に近づいてきて、耳元で―――――

 

「………この企画が終わったら、イッセーくんだけのサンタクロースになろうかな? また『休憩室』で………ね?」

 

頬をほんのり染めての上目使い!

 

俺だけのサンタさん………だと!?

しかも、また『休憩室』ですか!?

 

いったい、どれだけ休憩するつもりなんだ、レイナちゃんは!

また押し倒しちゃうぞ!

 

ちなみに、赤龍帝眷属事務所の『休憩室』は二十四時間営業中だ!

 

俺とレイナがそんなやり取りをしている横では先生がリアスに話しかけていた。

 

「リアス、グレイフィアはどうだ?」

 

「………なんとも言えない状況みたいね」

 

リアスは目を細めて、そう答える。

 

現在、グレイフィアさんは捕らえられたユーグリットの尋問を行っている。

実の姉が直々にというのは普通はないのだが………なんでもユーグリットが希望したらしい。

 

当然、冥界の上層部もその申し出には反対したそうだが、サーゼクスさんが許可したおかげで、姉弟での尋問が叶った。

 

「本人はとてもご機嫌だと聞いたわ。よほど、姉とのお話が楽しいのでしょうね。けれど、お義姉さまの尋問は実の弟にするとは思えない苛烈なものだと聞いたわ」

 

リアスはそう教えてくれるが………。

 

あいつ、それでも喜んでいるのかよ………。

やっぱりとんだシスコン………いや、とんだ変態だな。

 

「俺もシスコンだけど、あいつとは同一視されたくないな………」

 

「こいつ、自分で言いやがったよ………」

 

「だって、姉もしくは妹とは楽しくおしゃべりしたいじゃん! 先生にはそれが分からんのですか!」

 

「分かるか! この重度のシスコン! サーゼクスとセラフォルーと妹談義でもしてろ!」

 

「しますよ! 『シスコン同盟』なめんな!」

 

「なんだよ、その同盟!?」

 

「俺とサーゼクスさんとセラフォルーさんで立ち上げたただひたすらに妹を愛でる会です! あと、アーサーも誘ってます!」

 

「メンバーが常軌を逸してるな! ほとんど一つの勢力じゃねぇか! つーか、アーサー誘ったのか!? バカだろ、おまえらバカだろ!」

 

うるせーやい!

妹を愛でて何が悪い!

 

今は互いに時間が取れなくて妹談義できないけど、いつかは!

平和になったら、語り合うんだ!

俺達はそう決めたんだ!

 

先生は息を吐く。

 

「まぁ、シスコンは置いといてだ。ユーグリットがぽつぽつ話始めたという情報では、クリフォトの隠れ家がいくつもあるようでな。既に各勢力はエージェントをそこに送り込んでいる。そろそろ本格的な奇襲が始まるだろうな。俺もシェムハザから『殲滅』の命を出したと報告をもらった」

 

「それでもリゼヴィムが捕まるってことはないですよね」

 

「当たり前だ。隠れ家にいるのは組織の末端だ。本隊は既にアグレアスに移っているはずだ。そして、そのアグレアスが現在、行方知れずだからな………」

 

………今のアジトはあの浮遊島ってわけか。

 

都市が一つ、丸々奪われたわけだから食料から機材、兵器の類いも相当な数を持っていかれたはずだ。

そこにあいつらが持ち込んだ分、量産型の邪龍も含めると………面倒なんてレベルじゃない。

 

「あれだけ大きな島がどこに行ったんですかね?」

 

「擬態でもして風景に融け込ませているんだろう。俺達の索敵に引っ掛からない仕様で術式を組んでな」

 

「もしかしたら、この町の上空にいたりするかもしれませんね」

 

「それもありうる話だ。灯台もと暗しなんて言うしな。………アグレアスの詳細だが、それを知っているアジュカとその眷属と連絡が取れないでいる。話ではあっちもあっちでろくでもない連中に絡まれたんだと」

 

ろくでもない連中ね。

魔王も敵が多いってことなのかな?

 

「………先生はアグレアスのことで、気づいていることがあるんじゃないですか?」

 

俺が訊くと先生はにんまりと笑んだ。

 

あ、これは何かを察知している顔だわ。

 

「まぁな。だが、いま話したところで、俺の予想に過ぎん。正式にアジュカの報告を受けてから、俺の推察も語ってやるよ」

 

………あの浮遊島にどんな秘密があるのやら。

リゼヴィムが欲するくらいだから、かなりの物が隠されているとは思うが………。

 

と、ここでグリゼルダさんが時計を確認した後、皆に言った。

 

「まずはこの後、一度皆さんを天界にお連れいたします。そこで、企画の確認とミカエルさまから年を明ける前のご挨拶をいただける予定です」

 

そっか、この後、俺達は天界に行くんだった。

 

悪魔が天界に行く。

普通ならあり得ないことだが、これも三大勢力の和平のお陰ってね!

 

天界ってどんなところなのか気になるよね。

 

「んじゃ、ミカエルによろしくな」

 

「あれ? 先生は行かないんですか? いや、この場合は戻らないんですかって訊いた方が良いんですかね?」

 

「今更戻れると思うか? ま、昔の研究施設を始末させてもらえるなら、行っても良いけどよ。企画には協力するんで、あとは若者に任せるさ」

 

先生はそれだけ言い残して、この場を後にした。

 

先生が行かないとなると、行くのはオカ研メンバーだけか。

 

天界へは地下の魔法陣を使って行くことになっているのだが―――――。

 

「イッセー、私も着てみたがどうだ?」

 

と、声をかけられたので振り返ってみると―――――

 

サンタのコスチュームを着たティアとイグニスのお姉さんコンビが立っていた!

 

ティアのやつ、いつの間に来たんだよ!――――っとツッコミたいところだが、俺の思考は既にそんなところにない!

 

だって、二人が着ているサンタのコスチュームがエッチなんだもん!

おへそ丸出しの赤いチューブトップに赤いミニスカート!

布面積が少ないサンタのコスチューム!

 

そのコスチュームどこにあったの!?

サンプルにそんなのあったっけ!?

 

俺の疑問を読んだのか、ティアが口を開く。

 

「これはおまえの母上殿の作品だ。一瞬でこれを作り上げてしまったのだが……あれは何かの能力者か?」

 

龍王に能力者と疑われる母さんだった。

 

 



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4話 天界、行きます!

地下の転移室。

 

そこに描かれているのは、いつもの悪魔文字で展開する転移型魔法陣ではない。

 

イリナとグリゼルダさんがお祈りのポーズで聖書の一節のようなものを口にしていく。

 

「あたたた………」

 

と、アリスがこめかみを押さえている。

俺も含めて他の悪魔メンバーも同様に頭を重そうにしているので、多分、あれは聖書の一節なんだろうな。

 

「皆はこれをつけてね! これをつけることで天界で動けるようになるから! 頭上にかざせば大丈夫よ!」

 

イリナに渡されたのは輪っかだった。

 

言われた通りに頭上にかざすと―――――浮いて光だした!

おおっ、天使になったみたいだな!

 

これで天界で天使以外の種族が動いても、神さまが遺した『システム』にさほど影響を与えなくなるという。

神さまの不在を知っていたり、『システム』に影響を出しそうな者が天界の門を素通りしてしまうと、何かと面倒が起こりかねないそうだ。

 

この輪っかを通すことで、それを限りなく薄めることができるとのこと。

 

輪っかには俺達のIDみたいなのが登録されてあるから、無くすのは厳禁だ。

 

こんな風に悪魔でも天界に行けるようになったのも、グリゴリや悪魔側からの技術提供があったからこそ。

つまり、和平が成立したからこそ生まれたアイテムだ。

 

この輪っかを着けて喜んでいる者がいて―――――

 

「アーシア! て、天使になった気分だ!」

 

「はい! とても光栄です!」

 

ゼノヴィアとアーシアだ。

 

二人は生粋の信徒だならね。

この輪っかは二人にとって嬉しいものなのだろう。

 

目、キラキラしてるし。

 

イリナが二人に言う。

 

「じゃあ、天界に入る前に記念として三人でお祈りしましょう!」

 

「はい!」

 

「ああ!」

 

「「「ああ、主よ!」」」

 

三人のいつものお祈りポーズ!

 

何とも微笑ましい光景だ。

 

………しかし、悪魔でも天界に入れるこのアイテム。

 

これが作られた背景の一つは天界で何かあった際、すぐに駆けつけられるようにってのもあるのだろう。

天界も攻め込まれる可能性を憂慮しているということだ。

 

そうこうしていると転移室に巨大な両開きの扉が現れる。

白亜で出来た立派な扉だ。

 

扉が音を立てて開いていく。

 

「ほらほら! 皆も早く! これ、上まで行く天使用のエレベーターなの! 遠慮なく入ってちょうだい!」

 

一足早く中へと入ったイリナがテンション高めに促してくる。

 

俺達を天界に招けることが嬉しいんだろうな。

 

今回のクリスマス企画もイリナが一番気合いを入れていた。

町の皆に天使として奉仕できることが嬉しそうで、誇りを抱いているようにも見える。

 

門を潜ると白い空間に出る。

 

全員が潜ったところで、足元に金色の紋様が浮かび、輝き出していく。

 

ふいに浮遊感が訪れ――――――周囲の光景が一変した。

神々しい光が俺達を照らす。

 

周りを見渡すとそこは雲の上だった!

 

今の一瞬で、地下から飛ばされたのか?

 

前方には巨大な門があり、ゆっくりと開いていく。

 

グリゼルダさんとイリナが開かれる門を背に俺達に行った。

 

「「ようこそ、天界へ」」

 

 

 

 

巨大な門―――――天界の前門を潜ると、そこにあったのは白い石畳の道、ずらりと並ぶ石造の建物。

建物は空にも浮かんでおり、そこを純白の翼を持った天使たちが飛び交う。

 

幻想的な光景だな!

空が白く輝いているのもあるけど、天使や建物、道ですら光っている見える!

 

先導するグリゼルダさんが説明をくれる。

 

「天界は全部で七層あります。ここは第一層――――第一天と呼ばれるところです。最上部である第七天は神の住まう場所とされていました。今は神の奇跡を司る『システム』だけが存在しております」

 

ここに来る前にイリナからも説明を受けたが、この第一天が天使が働いているところで、前線基地のような場所らしい。

イリナもグリゼルダさんも基本的にはここで勤務しているそうだ。

 

イリナが空を指差す。

そこは雲の上に建っている建物だった。

 

「あの建物がミカエルさまの『御使い(ブレイブ・セイント)』が集う場所なの! 私もよく顔を出すわ!」

 

へー、あれがイリナの職場の一つなんだな。

 

「ミカエルさまや他のセラフの方々は第六天にいらっしゃるわ。天界の本部もそこにあるの」

 

イリナは続けて説明してくれた。

 

ミカエルさんがいるのが第六天。

つまり、俺達が向かう場所もそこだな。

 

リアスが興味深そうに辺りを見渡しながら言う。

 

「昔と随分階層の構造が変わっていると聞いているけれど………。アザゼルは堕天前、第五天にいたというのを聞いたことがあるわ」

 

グリゼルダさんが頷く。

 

「ええ。天使だった頃のグリゴリメンバーは第五天にいました。現在は研究機関の多い階層となっております。『御使い』のカードやその輪もそこで製造されました」

 

それからも俺達は様々な施設の解説を受けながら先に進んでいく。

 

しばらく進むと再び分厚い扉が現れ、警護の天使による厳重なチェックを受けた。

チェックが済んだ俺達は扉を潜り抜ける。

そこには先程体験したエレベーターがあり、それを使って更に上の階層へ。

 

階層ごとに巨大な門とチェックがあり、上に上がるためには相当な資格が必要となるとのことだ。

 

「第二天と第三天は見ることが出来なかったけど、どんな場所なんですか?」

 

美羽がグリゼルダさんにそう訊ねる。

 

今の二つの階層は門を潜るとすぐにエレベーターがあったため、ゆっくり見る時間がなかったんだ。

 

グリゼルダさんが説明してくれる。

 

「一般的な天国と呼べる場所は第三天に存在します。ここが一番広い階層であり、広大すぎるため端がどこにあるのか分からないとさえ言われています。申し訳ないのですが、悪魔がそこに行くと信徒の魂が騒ぎそうなので、今回の見学は遠慮していただく方向です」

 

第三天が天国か。

となると、死んだじいちゃんの魂もそこにいたりして。

会ってみたいが………騒ぎになるというのなら仕方がない。

 

まぁ、天国って神話体系の数だけ存在するらしく、ここはキリスト教圏の天国ということになる。

 

あれ………そうなると、うちのじいちゃん、ここにはいないんじゃ………。

仏門だし。

 

イリナが言う。

 

「第四天は別名エデンの園。アダムとイヴのお話か有名よね」

 

アダムとイヴの話は有名だよな。

第四天がその場所なのか。

 

見てみたいけど、俺達はそこを見ることなく上の階層へ。

 

エデンの園の上の階層――――第五天は聞いていた通り、研究所らしき建物が多く並んでいて、研究者らしき天使達もたくさんいた。

 

ここが先生の元職場だというのは興味深いな。

 

第五天を通った俺達は次のエレベーターへ。

 

いよいよ目的地の第六天が見えてくると思った時だった。

グリゼルダさんが思い出したかのように言う。

 

「天界のルールなのですが、人間界や冥界ほど俗世のものに強くはありません。つまり、邪なものに酷く脆いのです」

 

あー、そういや、イリナもたまにエロ以外で翼を白黒点滅させてるよね。

何でもないことで堕天しかけたりすることがある。

 

………俺と美羽の初体験を語らされた時は一番やばかったな。

あの時は堕天の一歩手前だったっけ?

 

「………要するにイッセー先輩はエロエロなことを謹まないといけないということです」

 

小猫ちゃんの鋭い指摘!

 

だよね!

ここ、天界だもんね!

エロ思考は駄目だよね!

 

しかし、アリスは肩をすくめる。

 

「無理でしょ」

 

「うん、お兄ちゃんだもん。エッチだもん」

 

はうぁ!

アリスと美羽から『無理』と言われてしまった!

 

おまえら、俺を舐めとるな。

 

俺だってな、エッチな思考をやめることぐらい………できる!

多分!

きっと!

恐らく!

 

第六天に到着すると、今まで見てきたものよりもずっと大きい門が現れる。

見渡す限り壁で、門も百メートル以上はありそうだ!

 

そのとてつもなく巨大な門が開き、俺達は中へ。

 

しかし、この門………かなりの分厚さだ。

 

流石はミカエルさん達、熾天使(セラフ)がいる場所。

最上部の第七天に次ぐ階層だけあって頑丈そうだ。

 

門の潜り抜け、見えてきたのは金色に輝く光輪を背にした神殿。

建物事態が聖なる波動を放ち続けていて、その光量もすさまじい。

 

グリゼルダさんが建物に続く道を歩きながら説明をくれる。

 

「あそこが熾天使の方々が住まわれている現天界の中枢機関『ゼブル』です。建物のこともそう呼んでおります。ここより上の階層、つまり、最上層である第七天は熾天使以外立ち入り禁止になっています。ですから、基本的に私達が足を踏み入れられるのもここまでとなっています」

 

俺達はそのまま『ゼブル』へ―――――と、思っていたら、グリゼルダさんとイリナは途中で道を曲がって『ゼブル』に続く正面の道から外れていく。

 

「実は、現在『ゼブル』は内装工事中でして。ミカエルさまは別のところでお待ちなのですよ」

 

あの建物、工事中なのね。

うーん、中を見れないのは残念だ。

 

更に進むこと数分。

 

俺達が着いたのは中庭のような場所。

多種多様彩り鮮やかな草花が咲き誇り、水が流れていて、ゆったりした空間になっていた。

 

テラスとなっている小屋のテーブルに据わる人が一人。

その人はこちらを確認すると立ち上がり、柔和な笑みを見せる。

 

「これは皆さん。お久しぶりです」

 

金色の翼を持つ美男子―――――ミカエルさんだ。

 

こうして会うのは、各勢力のトップ陣に対して異世界について話をした時以来か。

 

「お久しぶりです、ミカエルさま。この度はご招待いただきまして、まことにありがとうございます」

 

リアスをはじめ、他のメンバーも挨拶をする。

 

「こちらこそ、遠路はるばるありがとうございます。さぁ、お掛けください」

 

そう促され、俺達は着席していく。

 

ミカエルさんが俺達に問う。

 

「どうですか、天界は?」

 

「神々しいですね。冥界とはまるで違う雰囲気で………」

 

「素敵なところですわ。人間の魂が死後、ここに運ばれてくるというのなら、それはまさに楽園なのでしょうね」

 

俺に続き、リアスもそう漏らす。

 

その返しにミカエルさんは一つ頷くと微笑みながら、

 

「まぁ、亡くなった方の大半は地獄に行ってしまわれるのですけどね」

 

それってジョークですか!?

笑うところなんですか、ミカエルさん!

 

死んだ人の大半は地獄ですか!

そーですか!

 

あまり知りたくなかった事実だよ!

 

ミカエルさんが手をあげると天使の女性が俺達にお茶を入れてくれる。

 

………ミカエルさんのお付きなんだろうけど………可愛いな、あの子!

やっぱり天使って清楚な感じだよね!

 

「改めて、今年一年、本当にお疲れさまでした。あなた方がいなければ、今の天界、冥界が無かったのも事実。このように天界で悪魔とお茶が出来るなど一年前は想像も出来ませんでした。これも、あなた方、次代を担う若者達が命懸けで戦って下さったおかげです。本当にありがとうございました」

 

天使のトップから労いの言葉をもらい、俺達も改めて頭を下げる。

 

「ゼノヴィアは以前ここにいらしたことがありましたね」

 

「はい、ミカエルさま。英雄派の首魁にデュランダルを破壊された時に、ここへ修復しにまいりました」

 

あれは昇格試験の直後だったか。

曹操に破壊されたエクス・デュランダルの修復と天界へ事態の報告に向かうイリナの護衛として先にゲオルクが造った疑似空間から抜け出したゼノヴィア。

 

そこでアーサーが持っていた最後のエクスカリバーも加わり、デュランダルと真のエクスカリバーが揃うことになった。

 

激戦の度にエクス・デュランダルはここにメンテナンスに出されている。

 

伝説の聖剣同士の融合はまだ研究段階であり、天界側も色々と調べたいことがあるそうだ。

 

この後、クリスマス企画のプレゼントについて、ミカエルさんから内容の一覧表を見せてもらい互いに意見を出し合い、企画内容を詰めていった。

 

ミカエルさんが言う。

 

「そろそろ現地に今回の企画立案者が到着するはずです。あとはその方と最終的な打ち合わせをしていただければ問題ないかと。何か足りない物が分かれば、言ってください。こちらで用意しましょう」

 

その言葉で天界でのクリスマス企画の打ち合わせは終了となった。

 

打ち合わせも終わり、後は和やかな雰囲気でお茶会を続けていると、こちらに近づいてくる人が一人。

 

「ミカエルさまぁ」

 

若干間延びした女性の声音。

 

そちらに視線を向ければウェーブのかかったブロンドの髪を持つ美女の姿!

背中の翼の枚数もミカエルさんに並ぶほど!

 

そんな美女がサンタクロースのコスチュームで柔和な笑みを浮かべながら登場した!

 

「おや、ガブリエル」

 

「ガブリエルさま」

 

ミカエルさんとグリゼルダさんがその美女の名を呼んだ。

 

そう、この人こそ、天界一の美女と称される四大セラフのガブリエルさん!

 

一度話したことがあるが、やっぱり美人!

しかも、普通のサンタコスを着ているのに分かってしまうほどグラマーなお体!

 

揺れてるもん!

サンタコス着てるのに揺れてるのが分かるもん!

 

一度、生で見てみたい!

 

きっと、ご利益に満ちていることだろう!

 

「あら~、グリゼルダちゃんに皆さまも。赤龍帝さんは異世界の報告を受けた時以来ですね」

 

「はい。お久しぶりです、ガブリエルさん」

 

俺はそう挨拶を返すが………やはり、おっぱいに目がいってしまう!

 

だって、揺れてるんだもん!

動く度に揺れてるもん!

 

その時、俺の体を覆うように幾重もの天使文字で描かれた魔法陣が展開される!

 

「な、なんだ、こりゃ!?」

 

俺が突然の結界らしきものに驚くなか、ミカエルさんは苦笑する。

 

「すいません。それは天界で必要以上の煩悩が発生した場合に自動で展開する結界――――堕天防止用の結界なのです。本来、煩悩が高まった天使のために発動するのですが………赤龍帝にも発動してしまったのですね」

 

なんと!

つまり、俺が天使だったら、堕天の危機だったということですか!

 

「………イッセー先輩、ガブリエルさまの胸元をいやらしい目付きで見てました」

 

小猫ちゃんから本日二度目の鋭いツッコミ!

 

すいません、見てました!

ガン見してました!

 

気になって気になって仕方がないんです!

ガブリエルさんのおっぱい!

 

「やっぱりあれくらい巨乳の方が良いんだ………。そうよね………どうせ、私なんて………グスッ」

 

あ、あれぇぇぇぇぇ!?

アリスが………アリスさんが涙目になってる!?

 

ガブリエルさんと自分を見比べて、自分に絶望した表情になってるぅぅぅぅぅ!?

 

確かに服の上からでも揺れてるの分かるけど!

サンタコスなのにすんごい揺れてるけど!

 

そこでアリスが落ち込む必要なんてなんだよ!?

 

「お、落ち着け! 俺は小さくても………アリスのおっぱいは可愛いぞ! 敏感だし、柔らかいし! アリスのおっぱいは最高だぞ!」

 

「そんなこと人前で言うな、バカァァァァァ!」

 

「グボァッ!」

 

アリスの渾身のアッパーが炸裂!

俺の顎を的確に撃ち抜いた!

 

天界でもいただきましたアリスパンチ!

 

宙を舞う俺の体!

地面でバウンドし、ゴロゴロと転がっていく!

 

痛ぇっ!

超痛ぇっ!

顎割れたんじゃね!?

 

痛みのあまり地面で悶えていると、俺は何かにぶつかった。

 

「おんや? イッセーどんじゃないか。………顔、血で染まってるけど大丈夫?」

 

聞き覚えのある声に目を開くと、そこにはデュリオが立っていた。

 

どうやら、俺はデュリオの足にぶつかったらしい。

 

「デュリオ、散歩は終わったのですか?」

 

ミカエルさんの問いにデュリオも頭を下げる。

 

「あ、どうも、すみません。こんな時期に気分転換の時間なんていただいて」

 

「いえいえ。こんな時だからこそ、休息を取る時間も必要でしょう。それにデュリオも今回のクリスマス企画に参加してくれるのですよね?」

 

「はい。プレゼントを配るのは得意ですからねぇ。俺もサンタの格好で配らせてもらいますよ」

 

あ、デュリオも参加するのな。

打ち合わせにいなかったから、参加しないものかと思ってた。

 

と、ここでグリゼルダさんがミカエルさんに進言する。

 

「ミカエルさま、例の件をお知らせした方が良いのでは?」

 

「そうですね。私もそのつもりでした。実は現在は、教会の役員が襲撃を受ける事件が発生しています」

 

「っ! 教会の役員が、ですか?」

 

俺がそう聞き返すとミカエルさんは頷く。

 

「はい。ヴァチカン本部の幹部だけではなく、支部の重要人物にまで死傷者が出ているのです。詳細はまだ調査中なのですが、どうにも邪龍の気配を感じ取れた、ということなのです。おそらくは――――」

 

「クリフォト、ですね?」

 

リアスがそう続き、ミカエルさんも首を縦に振る。

 

「十中八九。警戒はしておいてください。彼らの目的が分からない以上、怠れば隙を突かれるでしょう」

 

………邪龍の気配。

 

クリフォトが教会の関係者を襲う。

奴らはテロリストだから、やりそうだけど………。

 

ただ、リゼヴィムがやるにしては大人しいような気もする。

あいつなら、量産型邪龍使って殲滅とかしそうだし。

 

それに教会関係者を襲うってのも目的が見えないんだよな。

 

一体、奴らにどんな思惑があるのか………。

 

皆が一様にシリアスな表情になった。

 

 

その時だった―――――。

 

 

「ひゃんっ」

 

シリアスな空気が漂うこの空間に響く可愛らしい声。

 

皆の視線がそこに向けられ―――――。

 

「うーん、これはかなりのおっぱいね………。流石は天界一の美女。良いおっぱいしてるわ」

 

「あ、あのぅ………そんなに………揉まれると………あぅぅっ」

 

最強の女神ことイグニスが天界一の美女と称されるガブリエルさんのおっぱいを揉んでいた。

後ろから抱きつきながら、服の上からガッツリ。

あの巨乳を下から持ち上げるようにして堪能している。

 

服の上から堪能したのか、イグニスはサンタコスのボタンを一部外し(もちろんガブリエルさんに無断で)、服の中に手を突っ込み始め―――――。

 

「なんて羨ましいことぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

「その反応間違ってるからぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

俺の絶叫とアリスのツッコミが天界に響いた。

 



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5話 天界のドアノブ

天界から戻ってきた俺達。

 

地下の転移室から上がり、リビングへ行くと――――

 

「いやぁ、懐かしいですね」

 

「でしょう? この頃のイッセーったら―――――」

 

母さんが中年の男性と楽しげに話していた。

………俺のアルバムを開いて。

 

また、そのアルバムかよ!

俺の恥ずかしい過去を掘り起こさないで!

 

………男性の方には見覚えがある。

牧師の服を着た栗毛の男性だ。

 

朧気だけど、確かに記憶に残っている。

 

それにあの髪の色は………。

 

男性は俺達に気づくと、優しげな笑みを見せた。

 

「やぁ、先にお邪魔させてもらっていたよ」

 

男性がそう言うと、俺の横を通り抜けて飛び付く者がいた。

 

「パパ!」

 

「おおっ、マイエンジェル! 元気にしていたかな?」

 

イリナと抱き合う男性。

 

そうか、やっぱりだ!

この人、イリナのお父さんだ!

 

昔、イリナと遊んでいた時に何度も会ったことがある!

 

イリナも嬉しそうに父と抱擁を交わす。

 

「もちろんよ! パパこそ、元気にしてた?」

 

「もちろんだよ」

 

母さんが微笑ましく見ている中で、俺に言う。

 

「イッセーはイリナちゃんのお父さんを覚えてる? 急にこっちに戻ってこられて、驚いちゃったわ。今度のクリスマス企画で一緒に活動するのよね?」

 

マジか!

ミカエルさんが言ってたエージェントってイリナのお父さんのことだったのかよ!

 

驚く俺にイリナのお父さんが手を差し出す。

 

「やぁ、イッセーくん。私のことを覚えていますか?」

 

「ええ、朧気ですけど、なんとなく。小さな頃の記憶なんで、あれなんですけど………」

 

「いえいえ、とんでもない。君もイリナも幼かったからね。仕方のないことです。………しかし」

 

イリナのお父さんは俺のことを足元から視線をゆっくり上に移していき、パンパンと俺の両肩を叩く。

 

そして、微笑みを浮かべた。

 

「あの少年がこんなにも逞しく育つなんてね。時の流れというのは早い。君のことは聞いています」

 

「――――っ! ………ということは、俺の過去を?」

 

「はい。ミカエルさまから伺っています。それと、君のお母さんからも先程ね」

 

そっか、イリナのお父さんも俺が異世界に渡ったことは知ってるのね。

まぁ、全勢力に知られている以上、既に隠すことではない。

こちらの事情を知ってくれているのなら、美羽達のことも紹介しやすい。

 

ミカエルさんもその辺りを考えて俺のことを伝えたのだろう。

 

母さんがイリナのお父さんに訊く。

 

「イリナちゃんのお母さんは今はイギリスに?」

 

「ええ。イギリスで和食の小料理店を営んでいます。彼女も私と同様、娘が天使に転生したことも知っていますよ」

 

ご両親とも、イリナの天使化は知っているのか。

家の両親も悪魔のこととかは知ってるし、似たようなもんだな。

 

イリナのお父さんはにんまりとしながら告げてくる。

 

「さて、お仕事のお話もあるのだけど、それは後でしましょう。お土産を持ってきましたよ」

 

お土産………?

 

イギリスのお土産かな?

 

「イリナちゃんのお父さんも夕飯を食べていってくださいね? もうすぐ出来ますから」

 

「おおっ、それはありがたい」

 

それから俺達は夕飯を共に食べることになったんだが………。

 

食事の席でイリナのお父さんは娘の自慢話をしたこともあって、とうのイリナは顔を真っ赤にして耐えていた。

 

まぁ、俺としてはイギリスに行った後のイリナの様子も知れて面白かったけどね。

 

 

 

 

「もう! パパったら、私の赤裸々な過去を話しちゃうんだから!」

 

「ハハハ、ごめんごめん。パパはイリナちゃんの可愛らしさを語れればそれで良かったんだけど、つい、ついね!」

 

ぷんぷんと頬を膨らませて怒るイリナ。

 

俺は笑いながら言う。

 

「いやいや、中々面白かったぞ? まさか、イリナが――――」

 

「イッセーくんも言わないでぇぇぇっ!」

 

顔を手で覆いながらイリナが叫ぶ。

 

うん、やっぱりイリナのこういうところは可愛いね。

 

「おう、天界から帰ってきたようだな」

 

アザゼル先生が転移魔法陣から姿を現す。

 

「あんたがイリナの父親か。俺はアザゼルだ」

 

「これは元総督殿、はじめまして。プロテスタントの牧師兼エージェントをやっております、紫藤です。イリナがいつもお世話になっておりまして………」

 

握手を交わす二人。

イリナのお父さんから見れば、先生は堕天使組織グリゴリの元総督でもあり、娘の通う学校の教師に当たるんだよな。

 

先生も集まったところで、俺達はVIPルームにて企画について話し合うことに。

 

「では、改めまして。クリスマス企画の立案者である紫藤トウジです。プロテスタント側の牧師をしております」

 

「パパって、昔は教会の戦士だったのよ」

 

イリナがそう付け加えてくれた。

 

教会の戦士ってことはエクソシストだったのか。

イリナのお父さん―――――トウジさんも昔は戦っていたんだな。

 

「そのようなわけで、今回の発案理由と細かな確認だけして、当日に備えるようにしましょう」

 

そこから、トウジさんによる発案に至った経緯、企画の注意点などが説明される。

内容は今までの確認といったところだったので、特に新しいことが聞かされる訳ではない。

 

今回の説明で驚いたのはトウジさんがプロテスタント側の局長という結構なポジションにいたことだ。

 

つまり、イリナのお父さんは教会側のお偉いさんだったということだ!

 

一通り、クリスマス企画の打ち合わせを終えた後、

 

「そうそう、お土産があるんでした」

 

そう言って、トウジさんは鞄の中を探りだした。

 

取り出したのはドアノブだった。

 

………なぜにドアノブ?

 

お土産ってドアノブなの?

 

皆が首を傾げて視線を注ぐなかで、トウジさんはVIPルームのドアノブを交換しだした。

 

「これをどこでも良いので、扉に取り付けてください。このように今あるドアノブを一旦取り外して、これをつけて開くと―――――」

 

開いた先にあったのは―――――見知らぬ広々とした一室。

室内側から開けたのに廊下に出ないのは………あのドアノブを通して別の空間に出たということなのだろうか?

 

部屋は広く、改装された俺の部屋よりもずっと広い。

 

天使の像やら聖人の絵画など、ご利益のありそうな装飾が部屋中に施されている。

何より目立つのは部屋の中央にある天蓋つきの大きなベッド。

明らかに俺の部屋のものより大きい。

 

それ以外で部屋にあるのは椅子とテーブル、時計ぐらいだ。

 

しかし、部屋に入ってから妙な波動を感じてならない。

天使の光力に似ているというか………でも、微妙に違ってて………。

 

怪訝に部屋の様子を見渡す俺達にトウジさんが言う。

 

「この部屋は天使と悪魔が子作りしても何ら問題がないように作られた特別な部屋です。このドアノブが専用の異空間に繋げてくれるのですよ」

 

『―――――っ!?』

 

その言葉に皆が驚いた!

 

だって、この部屋が悪魔と天使が子作りしても大丈夫な部屋だとか言うんだもの!

 

お土産というのはこの子作り部屋のことか!

 

トウジさんは娘の肩を抱いて、力強く良い放つ!

 

「イリナちゃん、遠慮なくこの部屋でイッセーくんとの愛を育んでおくれっ!」

 

「え………ええええええええええええっ!?」

 

「な、なにぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

イリナに続いて俺まで叫んじまった!

 

俺ですか!?

俺とイリナ専用ですか、この部屋は!?

 

仰天する俺達を置いて、トウジさんは涙を流しながら語り出す。

 

「………うぅ、イリナちゃんが天使になった時、もう孫の顔は見られないと諦めていたんだ………! これも信仰のためだと、自らの夢を捨てようとしていた………!

しかし、大天使ミカエルさまの慈悲深きご配慮によって、孫の顔を見られる機会をいただけた………! 何度、感涙したことか! ああ、これも主のご加護なのでしょう! アーメン!」

 

お祈りのポーズをとりながら、トウジさんはミカエルさんのありがたいお言葉とやらを代弁する。

 

『天使イリナ、兵藤一誠くん。この部屋では何をしても何も問題はありません。色々なことを試してみてください。若い男女ですしね、何事も経験と挑戦です。そういう信仰もあるのでしょう』

 

「どういう信仰!?」

 

ついツッコミを入れてしまった!

 

いや、俺は間違っていない!

 

つーか、何をしても良いって………何を言っているんですか、ミカエルさん!?

色々なことを試すってなに!?

 

あんなプレイやこんなプレイですか!?

 

って、そういや、ゼノヴィアがイリナとあーだこーだと言っているときに口にしてた!

イリナのためにミカエルさんが一考してるって!

 

それの完成がこれか!

 

あぁっ………冥界だけでなく、天界まで変な方向に技術を使い始めたよ!

 

子作りルームのために天界の技術を使っていいんですか、ミカエルさん!?

 

号泣するトウジさんは俺の肩に手を置く。

 

「………イッセーくん………孫を………孫をよろしくお願いします!」

 

あなたも孫ですか!

 

どうして俺の周囲の大人は孫やらひ孫をお願いしてくるんだ!

この間はゲンドゥルさんだったよね!

 

ロセなんて、期待されちゃったから練習するとか言い出したし!

そんでもって、練習しちゃったし!

 

「え、えーとですね………」

 

「うんうん! 私は男の子でも女の子でもどちらでも嬉しいよ! いや、むしろ、たくさん子作りに励んで、どちらの孫の顔も見せておくれ! 女の子はイリナちゃんに似てとても愛らしいんだろうなぁ………。天使の子供だから、超天使? 男の子はイッセーくんに似て勇ましい子になるのだろうか………ドラゴンで勇者………ああ、今から期待に胸が膨らむよ!」

 

………ダメだ、この人、人の話聞かない人だ!

 

イリナの癖は父親譲りだったのか!

悪いところが遺伝しちゃったんだな!

 

これを受けてとうのイリナは―――――

 

「………バカバカバカバカ! パパのバカ! ミカエルさま! なんでパパに渡しちゃうんですか!? もうイヤ! イッセーくんに嫌われちゃう!」

 

恥ずかしさのあまりにVIPルームの隅で縮こまっていた!

 

だよね!

実の父親から持ってこられて、しかも孫の話までされたらそうなるよね!

 

俺も父さんと母さんに美羽との孫を見せろと言われたときは恥ずかしかったよ!

 

「これで、イリナさんも出来るんだね。ううん………イリナさんが、となると………アーシアさんとゼノヴィアさんも………」

 

「まさか………四人で………。あ、でも、イッセーは経験済みよね」

 

美羽とアリスが何か言ってる!

 

教会トリオをまとめて抱けと!?

 

「今度借りよう、アーシア」

 

「か、覚悟を決めるお部屋ですね!」

 

気合い入ってるゼノヴィアとアーシア!

 

「………例の『休憩室』の雰囲気も良かったのだけれど、ここもまた………」

 

「そ、そうですね………」

 

「わ、私ったら破廉恥なことを………! ああっ、でも、もうイッセーくんとは………」

 

リアス、レイナ、ロセは事務所の『休憩室』のことを思い出してるし!

 

確かにあの部屋と似たようなもんだよね!

入ったらすること決まってるもんな!

 

「姉さまには明かしたくない部屋です」

 

「連れ込まれたら、イッセーさまが干からびるまで解放しそうに………。いえ、逆にイッセーさまが解放しないかも………?」

 

「あ、それって鬼畜モードのイッセーくん? それなら、黒歌さんが足腰立たなくなるかも。あの時のイッセーくん、Sだし」

 

「あー………分かる。それにイッセーって暴走すると止まらなくなるから」

 

小猫ちゃんとレイヴェルの会話にレイナとアリスが入っていったよ!

 

鬼畜モードの俺はSですか!

ごめんね、あの時は調子に乗って!

足腰立たなくして、ごめんね!

 

「………なるほど………こうきましたか。リアスもロスヴァイセさんも交わったなら………。私もそろそろですわ」

 

朱乃が何か覚悟を決めた表情だ。

 

そろそろって何ですか!?

 

「………うーん、イリナちゃんとドッキングできるようになったのは良いのだけど………何か………」

 

いつの間にか実体化していたイグニスは顎に手を当てて何やら考え込んでいる。

 

な、何を考えているんだ………?

あの真剣な顔はエロいことを考えている時の顔だ………。

何かとんでもないことを………。

 

つーか、ドッキングって言い方止めてくんない!?

俺は合体ロボじゃねぇんだよ!

 

イグニスに恐れを抱く俺の肩にアザゼル先生が手を回す。

すんごいいやらしい顔つきだ。

 

「やったな、イッセー! 悪魔やドラゴンが天使を堕天させずに抱けるなんて、そうないぞ! いやー、この色男!」

 

「え………そ、そうなんでしょうけど………」

 

「ん? 何か不満があるのかよ?」

 

「いや………そうじゃなくて………俺、干からびるんじゃないかって………。事務所の『休憩室』もありますし………」

 

「そこは気合いと根性だろ」

 

「それで何とかなるんですか!?」

 

「おまえなら出来る!」

 

他人事だと思いやがって!

このラスボス先生め!

 

『休憩室』にこの部屋まで加わったら、マジで干からびるって!

どんだけ搾り取られるんですか!?

 

「なーに、心配するなよ。おまえに死なれちゃ、こっちも困るんでな。手助けはしてやる」

 

「手助け………ですか?」

 

「おうよ。グリゴリ開発の特性精力剤と特性媚薬を用意してやるから使ってみな。効果は抜群だぜ?」

 

な、なんつーもんを開発してるんですか!?

やっぱり、この人達、真面目な方向に技術使わないよ!

 

でも………

 

「それ………箱でくれますか?」

 

 



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6話 幼い日の記憶

トウジさんが兵藤家を訪れたその日の深夜。

 

今日は珍しくアリスと二人で寝ている。

 

美羽は依頼の対価として貰った小説を読むとかで、自室に籠っているので今はいない。

………また美羽のコレクションが増えることになったな。

 

「………イッセー、赤ちゃん……笑ったよ………」

 

俺を抱き枕にしながら寝言を言うアリス。

 

俺の赤ちゃん、ね………。

まぁ、俺とアリスは実際に避妊具なしでしたので、その可能性はあり得るわけでして。

 

アリスの夢の中では男の子なのか女の子なのか。

 

俺はどっちでも良いかな。

可愛いだろうしね。

 

それにしても………猫パジャマ姿のアリスは可愛いなぁ!

 

最初は恥ずかしがってた猫パジャマだけど、なんだかんだ寝心地が良いらしく、今ではアリスの愛用品となっていたり。

 

白猫の姿で俺に抱きつきながら寝ているアリスの寝顔はどこか幸せそうだ。

 

頭を撫でてやると更にギュッと抱きついてきて、

 

「………お弁当………また、作るから………頑張るから………いっぱい………食べて………」

 

なんてことを言ってくれる!

 

もうね………嬉しいし、可愛いし、癒される!

 

アリスのお弁当、楽しみにしてるよ!

 

いや、また一緒に作るのもアリかもしれないな。

下手でも、ああやって二人で料理を作るのって楽しかったし。

 

そんなことを思いながらアリスの金色の髪を撫でていると、部屋に入ってくる一つの気配が。

 

気配がする方を見ると、そこには寝巻き姿のゼノヴィア。

 

その登場に俺が気づいたことを知ったゼノヴィアは指を立てて、静かにするように促してきた。

 

(こんな夜更けにどうした? 眠れないのか?)

 

アリスが起きないように小声で訊く俺。

 

(いや、そういうわけじゃないんだ。………アリスは寝ているのか?)

 

(この通り)

 

俺は熟睡しているアリスを指差す。

穏やかな寝息を立てて幸せそうな寝顔をしている。

 

(………なるほど、よく寝ているな)

 

(それで、どうしたんだ? 俺に用があるんだろう?)

 

俺が訊ねるとゼノヴィアは頷く。

 

(来てくれ、見せたいものがあるんだ)

 

(見せたいもの?)

 

そう言われた俺はアリスを起こさないように細心の注意を払いながら、ベッドから降りる。

 

俺が離れたとき、少し不安げな寝顔になったので、頬を撫でてやると安心したようにスヤスヤと眠り始めた。

 

………ほっぺにチューぐらいしたいところだが………。誰かがいる前でするのは流石に恥ずかしいので、ここは我慢した。

戻ってきたらしよう。

 

部屋を出て、上階にあるゼノヴィアの自室前に辿り着く。

 

………深夜にゼノヴィアの部屋、か。

 

あれか?

部屋に入ったらゼノヴィアに押し倒されるとか?

 

なんとなく思ったことだけど、すごくありそうだよね。

 

「さぁ、イッセー。開けてくれ」

 

「俺が?」

 

自分の部屋なのに俺に開けさせるという、不思議なことを言ってくるゼノヴィア。

 

俺が聞き返すと、ゼノヴィアはコクリと頷く。

 

いまいち呑み込めない俺だが、指示された通りにドアノブを回して扉を開く。

 

すると―――――

 

そこにあったのはゼノヴィアの部屋ではなく、例の子作り部屋だった!

 

「おいおい、これって………」

 

言い終える前に、俺は背中を押されて入室を果たしてしまう!

 

同時にガチャっという扉が閉まる音!

 

俺はドアノブを回そうとしたが、なぜか回すことができず、開けることができなかった。

 

………あのやろ、俺を閉じ込めやがったな。

 

よーし、後でお仕置きだ。

後でいっぱいいじめてやろう………フッフッフッ。

今から涙目になるゼノヴィアが目に浮かぶぜ。

 

―――――なんてことを考えてしまう俺はやっぱりSなんだなぁ。

イグニス教育の賜物だ………悲しいことに。

 

俺ってこんなキャラだったかなぁ………。

 

 

まぁ、とりあえず―――――

 

 

「ゼノヴィア、後でお仕置きだからな? 覚悟しとけよ?」

 

『イッセーならいいぞ、うん。いっぱいいじめてくれ』

 

「………声が嬉しそうなのは気のせいだろうか?」

 

『き、気のせいだ………。と、とにかく、相手は待っているぞ、イッセー』

 

………相手は待っている?

 

怪訝に思って、後方を振り返ると―――――。

 

「………こんばんは、イッセーくん」

 

髪を下ろして、ネグリジェ姿のイリナがいた!

 

もじもじと恥ずかしそうにしながら、イリナはうつむき加減で言った。

 

「え、えっと………えっとね………」

 

イリナはどこか緊張した様子で、足下をふらふらさせながらもベッドの端に座る。

 

「………こっち来て、ちょっとだけ話さない?」

 

「え………あ、うん」

 

俺は促されるまま、イリナの隣に座る。

 

座ったのだが………。

 

「………」

 

「………」

 

無言の俺とイリナ。

 

話をしようにも何から話せば良いのか………。

 

まず、どういう意図でゼノヴィアが俺をここに連れ込んだのか。

どういう意味でイリナがここにいるのか。

 

この二つは明確。

ストレート過ぎて少し困惑するけど………。

 

………まさか、さっき紹介されたものをこんなにも早く使ってくるとは思わなくて………。

昨日の今日なんてレベルじゃないよね。

 

横にいるイリナを見ると緊張しているのがハッキリと分かる。

というより、顔に出てる。

 

しかし、ネグリジェ姿のイリナか………。

 

普段はパジャマのイリナがネグリジェ。

しかも、透けてる。

 

今のイリナはノーブラだから、先端まで見えていて………。

うん、やっぱり形の良いおっぱいしてるよね!

戦士だから引き締まっているところは引き締まっていて、それでも出るところしっかり出ていて………。

 

これは………元気になってしまう!

 

だけど、今必要なのは会話だ。

流石にこの感じで押し倒すわけにはいかん。

 

何か話題は―――――。

 

………そうだ、あれだ。

 

「子供の頃、クリスマスに約束したこと、思い出したよ」

 

イリナはそれを耳にして、気恥ずかしさを忘れたかのようにこちらに顔を向けた。

 

「―――――一緒にサンタクロースを倒して、プレゼントを二人で山分け! だったよな?」

 

「覚えてくれていたんだ。私だけ覚えてて、イッセーくんは忘れてるのかなって思ってた」

 

満面の笑みを浮かべるイリナ。

俺が覚えていたことがよほど嬉しかったのか、目元が潤んでる。

 

俺は苦笑しながら言う。

 

「いや、忘れてたよ。でも、イリナや皆とクリスマスの準備をしているうちに何となく思い出したんだ」

 

「そうなんだ。それでも思い出してくれたのは嬉しいわ」

 

イリナは思い出し笑いをする。

 

「小さい頃は無邪気というか………無謀なこと、よく閃いたものよね。あの頃はイッセーくんと男の子の遊びや考え方をして楽しんでいたわ」

 

「町外れの公園の森とか二人でよく遊びに行ったよな。虫とり網持ってさ」

 

「うん。二人で自転車漕いで遠くまで行ったよね」

 

「遠くって言っても、隣町とかが限界だったけどな。あの時はガキだったし」

 

「でも、別世界に行ったみたいで楽しかったよね」

 

「まぁな。あの頃は本当に二人でよく遊んだ。近所で同い年だったから何をするにも一緒だったような気がするよ」

 

再開するまでは忘れていたけど、こうして二人で話していると次々思い出が甦ってくる。

二人で駄菓子屋も行ったし、ヒーローごっこもしたし、クリスマスも一緒に過ごした。

 

無謀なことにも挑戦した。

その結果、母さんに怒られたことも今では懐かしい記憶だ。

 

すると、イリナは小さく漏らした。

 

「………今はイッセーくんの方が三つも歳上なんだよね」

 

「あー………。それは、まぁ………どうしようもないというか。でも、戸籍上はイリナと同い年だからね?」

 

戸籍上は。

俺だって二十歳で高校生活なんて、泣けてくるんだよね………。

 

イリナはふっと小さく笑むと天井を見上げる。

 

「イッセーくんと別れて私は教会の戦士になった。主のために働けることは嬉しかったけど、イッセーくんとは違う世界の人間になっちゃったのかなって、少し寂しい気はしてたんだ」

 

イリナが教会の戦士としての教育を受けたのは俺と別れてイギリスに渡った後。

イリナが戦士として育成されている時の俺はというと、普通に学校に行って、友達と遊んでって感じだったと思う。

 

まぁ、それも中三の夏までだけど。

 

「でも、イッセーくんは私よりも凄いことしていて。まさか異世界に行っていて、そこで勇者って呼ばれていただなんて思いもしなかったわ。正直、悪魔に転生していたことよりビックリよ」

 

「まぁ………ね」

 

今でも、なんで自分が異世界に飛ばされたのかって疑問に思うときがある。

 

これは後悔とか運命を呪うとかそういうことじゃなくて、単純な疑問だ。

 

あの時、俺が渦に呑み込まれたのはなぜか。

そもそも、なぜ渦が俺の部屋に現れたのか。

偶然なのか、必然なのか。

 

考えたところで答えなんて出ないんだけど、つい考えてしまう時がある。

 

「………私がいない間に美羽さんなんて可愛い妹さんが出来てるし。しかも、アリスさんを強引に連れて来ちゃうし」

 

「強引にはしてないよ!? 一応、合意は得たからね!?」

 

「あんな風に誘ったら、誰も断れないよ」

 

………そ、そうなのかな?

 

イリナは微笑む。

 

「美羽さんとアリスさん。二人ともすごく良い人だよね。二人ともお姫さまなのに親しみやすくて、私みたいな一般出とも仲良くしてくれるわ」

 

「あの二人は立場は姫だけど、中身はそうじゃないからな」

 

俺は苦笑しながらそう答える。

 

美羽は大人しくて人懐っこいし、アリスは自由奔放のお転婆娘だから。

 

「私ね、皆から良く訊かれるの」

 

「何を?」

 

「イッセーくんの子供の頃のこと」 

 

「あ、そっか。俺の小さい頃の記憶を唯一共有しているのはイリナだけだからな」

 

美羽もアリスも付き合いは長いけど、俺の小さい頃のことは知らない。

母さんからアルバムを見せられたり、話を聞いたりはしているだろうけど、それ以外のことは知らないはずだ。

 

イリナは頷く。

 

「うん。きっと、私だけイッセーくんの子供時代を知っているから、羨ましかったのかなって。それでね、ゼノヴィアやアーシアさん以外の人とも会話が増えたの。皆とも仲良くなれた。お友達になれた。………でもね」

 

イリナはうつむき、頬をいっそう赤らめた。

 

「イッセーくんの子供時代のことを話すたび………私のなかでね、『これ以上話したくない』『これだけは私だけの記憶にしたかった』って思ってしまったの」

 

イリナが身を寄せてくる。

僅かにあった俺達の間を詰めて、俺と身を合わせてきたんだ。

 

「ああ、そうか、私はいつの間にか―――――」

 

イリナは俺の手を取ると―――――自身の胸に誘導していく!

五本の指がイリナのもちもちのおっぱいへと埋まっていく!

 

イリナのもちもちおっぱい!

スベスベにプラスしてのこの感触!

 

これが天使のおっぱいか!

 

イリナは目を潤ませて、艶のある表情を見せてくれていた。

いつも天真爛漫なイリナがこんな顔をするなんてな………。

 

「………こんなことをしても、翼が点滅しないんだね」

 

イリナが言うように背中の翼は白いままだ!

いつもなら、ここで白黒点滅させているだろうに!

 

この部屋、マジで天使が子作りしても大丈夫な部屋なのか!

 

そんな感想を抱いていると、イリナが俺を押し倒してくる!

 

ベッドに横倒しになった俺にイリナが覆い被さるようにしてきた。 

長い栗毛がバサッと俺の顔にかかり、シャンプーの香りが漂ってくる。

 

切なそうな顔でイリナがつぶやく。

 

「ここなら、私、イッセーくんとエッチなこと出来ちゃうんだ………」

 

イリナの顔が徐々に近づいてくる。

俺も吸い寄せられるように顔を近づけていく。

 

互いの唇が触れようとした―――――。

 

その時、ガチャっという物音が聞こえてくる。

 

ちらりと視線を送れば、ドアの隙間から好奇の視線を放つ瞳が複数!

 

「………イリナ、立派になって………涙すら出てくるぞ………!」

 

「………本当にイリナさんは………!」

 

ゼノヴィアとアーシア!

 

「………この部屋、いかがわしい限りです」

 

「そう言いながら白音は夢中で見てるにゃ」

 

小猫ちゃんに黒歌の猫又姉妹!

 

「………うーん、やっぱりそうなるわよね………」

 

紅髪の主さま、リアス!

 

「………やはり、私もそろそろ仕掛けるべきかしら。ですが、イッセーくんに抱かれるならあそこで………うふふ」

 

朱乃!?

あそこってどこですか!?

 

「………わ、私は教師としてどうしたら………!?」

 

「こ、ここは見守るべきだと思いますわ………!」

 

ロセにレイヴェル!

 

見守らなくていいからね!?

 

「堕天使用の部屋も作ってもらおうかしら?」

 

レイナちゃん!?

これ以上、子作り部屋を増やさないで!

 

つーか、事務所の『休憩室』堪能してたでしょーが!

 

「あわあわあわ………こ、こんなお部屋まで天使は造るのですね!」

 

「イッセー、繁殖中?」

 

ルフェイとオーフィスまでいるのかよ!

 

繁殖中とか言わないでくれる!?

 

「おいおいおいおい! なに覗いてんの!?」

 

「そうよ! も、もうちょっとだったのにぃぃぃ!」

 

「「「いえ、お構い無く続けてください」」」

 

「「続けられるかぁぁぁぁっ!」」

 

俺とイリナ、幼馴染みによるダブルツッコミが部屋に響く!

 

俺達は盛大にため息を吐いて、ガックリと肩を落とす。

 

ああっ………なんてこった。

せっかく良い雰囲気だったのに………。

 

イリナが苦笑しながら言う。

 

「ムードが壊れちゃったね………」

 

「うん、流石にこれは………」

 

この空気で続けるほど、俺の心は大きくないって………。

 

いや、俺じゃなくても続けないと思うけど。

 

『私はいけるわ。どうせなら、この場の全員まとめて相手を―――――』

 

できるか!

俺を何だと思ってるんだ、この駄女神!

 

この後、子作り部屋の見学会なんてものが実施されることに。

 

この時分かったことだが、お風呂場と冷蔵庫が備えられていて、ベッドは回転するようになっていたんだ。

しかも、枕元も七色の照明を放つ仕様。

 

ミカエルさん………いらぬ技術を投入しすぎです。

 

 

 

 

ちなみに………。

 

見学会を終えて、自室に戻ってきた俺だが………部屋に入るなり動きを止めてしまった。

 

あるもの見てしまったからだ。

 

俺が見たもの、それは――――――。

 

「………エヘヘ………」

 

ニヤケ顔のアリス。

俺がこの部屋を離れる前と同じように熟睡している。

 

熟睡しているのだが………それはベッドの上ではない。

 

アリスが寝ているのは―――――床。

 

白い猫が床の上をコロコロ転がっている。

 

………こいつ、ベッドから落ちたな。

 

一体、どんな夢を見てたらここまでコロコロ転がれるのか。

 

床の上をローリングするアリスは次第に部屋の入り口―――――俺の方に近づいてくる!

 

マジでどんな夢見てんの!?

今日のアリス、寝相悪すぎだろ!?

 

あまりの寝相の悪さにため息を吐く俺だが、足に柔らかい感触が。

 

見れば、転がってきたアリスが俺の足に抱きついていた。

 

「………イッセーに捕まっちゃった………」

 

捕まってるの俺なんですけど!?

 

ガッチリホールドしてるよね!?

 

「………世話が焼けるなぁ」

 

俺は足にしがみついているアリスを抱き抱えると、そのままベッドに運ぶのだった。

 



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7話 星夜の世界

翌日。

 

俺と美羽、アリスの三人は午前中からとある場所に籠っていた。

 

ここは次元の狭間に設けられた空間で、アザゼル先生にお願いして作ってもらったものだ。

 

レーティングゲームのフィールドを参考にしていて、かなり強固な作りになっているのだが、特に広大というわけではない。

広さで言えば、改築前の俺の部屋より少し広いぐらいだろう。

 

床も壁も天井も真っ白な空間。

空間の隅に壺が一つ置かれているけど………。

 

そんな場所に俺達三人はいる。

 

いや、訂正しよう。

俺達三人に加えて――――実体化したイグニスがここにいる。

 

前に立つイグニスは俺達を見渡しながら言う。

 

「よく集まってくれたわね。それじゃあ、始めましょうか。今日ここであなた達は更なる次元へと進む」

 

真剣な表情に真剣な声音。

 

イグニスの言う通り、俺達は新たな扉を開く。

 

今のままではアセム達に対抗できない。

ラズル、ヴァルス、ヴィーカ、ベル。

アセムの下僕の力は前回、アウロス学園襲撃の時に戦ってよく分かった。

 

あいつらは強い。

能力もそうだが、単純に強いんだ。

 

一対一で戦えば、ごり押しで負ける。

 

それならば、味方と組んで戦えばいい………という考えもあるが、必ずしも近くに味方がいるとは限らない。

 

それに、あいつらは俺を標的にしているみたいだしな。

 

至り方はともかく、EXA形態が俺達の中で唯一抵抗できる力だろう。

 

だけど、あれは長くはもたない。

 

そこで、イグニスが美羽とアリスのパワーアッププランを立てた。

 

 

そのプランとは――――――

 

 

「『第一回美羽ちゃん&アリスちゃん、子作りプロジェクト! ~二人同時に孕ませちゃえ☆~』開幕ぅぅぅぅ! イエーイ!」

 

「イエーイ!………じゃねぇよ! この駄女神ぃぃぃぃ!」

 

部屋に響くツッコミ。

どこから出したのか横長の大きな段幕にデカデカと大きな文字が書かれている。

 

これはあれだ………例の『鬼畜化プロジェクト』の時と同じやつだ。

 

そんなことを思いながら、俺は更にツッコミを入れる。

 

「間違ってるよね!? これ、明らかに間違ってるよね!?」

 

「あ、もしかして回のところ? これは間違ってないわよ? だって、3Pで『生』は初めてでしょ?」

 

「もう少しオブラートに包めよ!」

 

「じゃあ、種付け?」

 

「アウトォォォォォ! つーか、俺が言いたいのそこじゃねぇし!」

 

「イッセーったら、ワガママねぇ。それじゃあ、中だ―――」

 

「おぃぃぃぃぃ! 言わせねーよ!? 絶対に言わせねぇよ!? つーか、修正する度に酷くなってるし!」

 

もうヤダ、この人!

ボケが多すぎて一人じゃ捌けないよ!

 

美羽とアリスもツッコミ入れてよ!

 

助けてもらおうと、二人の方に視線をやると――――――

 

「イグニスさん………ボク、お兄ちゃんと子作りしたい!」

 

「わ、私も! ………ま、まぁ………この前、しちゃったけど………」

 

ああっ!

二人が駄女神側に回った!

おまえらもそっち側!?

 

イグニスは二人の手を取り、慈愛に満ちた表情で告げる。

 

イグニスの背後に眩い光が見える………!

 

「あなた達の気持ちは分かっているわ。私に任せなさい。最強のお姉さんの加護をあげるから。大丈夫、二人の子供は元気いっぱいで生まれてくるわ」

 

「「おおっ………」」

 

おおっ………じゃないよ!

 

目をキラキラ輝かせている場合か!

ツッコミ入れろよ!

 

「元気な子供を生むためにも、最高の子作りをしないとね。さぁ、私に着いてきなさい。共に行きましょう――――青少年保護育成条例の向こう側へ」

 

「もう良いよね!? もう散々ボケたよね!? ぼちぼち本題に入ろうよ! 話が先に進まないから!」

 

「いい? まずはイッセーを―――――」

 

「無視かぁぁぁぁぁ! 人の話、聞けやぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

一時間後。

 

「それじゃあ、今日の本題! 『第一回美羽ちゃん&アリスちゃん神化プロジェクト』開幕ぅぅぅぅ! ドンドンパプパフ~!」

 

どこから出したのか、タンバリンを叩きながらイグニスが宣言する。

 

入り方はともかく、ようやく本題に入れた………。

 

なんだろう、この疲労感………。

一人でツッコミまくってたから………体力が………。

 

こんな調子で大丈夫なのかね………?

 

まぁ、気を取り直して。

イグニスが言っていた美羽とアリスの強化プラン。

 

それは―――――二人を『神』にすること。

 

俺も話を聞かされた時はあまりにぶっ飛びすぎた提案だったので、話が見えなかったほどだ。

 

初めは冗談を言っているのかと思ったけど、イグニスがいつになく真剣だったので詳しく話を聞いてみた。

 

それで、二人を『神』にする具体的な方法なんだけど………。

 

イグニスが説明を始める。

 

「これから美羽ちゃんとアリスちゃんにはイッセーと繋がってもらうわ。あ、言っとくけど下半身じゃないからね? まぁ、下半身繋げても良いけど………今度は私も繋がっちゃおうかしら♪」

 

「うん、それは良いから話進めてくれる?」

 

「んもー、イッセーったら冗談が通じないんだから~」

 

こいつの場合、冗談じゃないよね!

マジで繋がる気だよね!

下半身で!

 

「繋げるというのは魂――――それも魂の奥底、最も深い部分で繋げるの。でも、これは第一段階」

 

「第一段階?」

 

美羽が首を傾げる。

 

「そう、第一段階。繋がった後はイッセーの中にあるものを二人に分けるわ」

 

イグニスが言う、俺の中にあるもの。

 

それは――――――。

 

「ロスウォードがイッセーに与えたあの子が持つ神の力――――疑似神格。これを分割して二人に移す。これが今回行う儀式の大まかな流れよ」

 

疑似神格とは神が持つ神格に限りなく近いものだとイグニスは言う。

 

神は特別な存在だ。

火や水、雷といった属性から破壊や再生など、一人一人が特定の力を司り、一定の領域を守護している。

そのため一人でも消滅すれば、世界に大きな影響を与えることになる。

 

そして、神格というのは神の力、地位、存在そのものと言って良い。

 

しかし、疑似神格というのは少し違う。

何かを司ることもなければ、守護しているわけではない。

消滅しても、世界には影響しない。

 

神の波動を持ちながら、神とは異なる存在。

 

俺やアザゼル先生が初めてロスウォードに会ったとき、奴を『神』と判断したのは神が持つ特有の波動を放っていたからだ。

その波動を生み出していたのが、ロスウォードが持っていた疑似神格。

 

「あの子の疑似神格は作り出された物とは言え、他の神よりも遥かに上の波動を持っているわ。あの力を見たのだから、それは分かるでしょう? そして、あの子は最期に自分の力をイッセーに託した。恐らく、自分の生みの親とイッセーが戦うことを予期したからでしょうね。実際、その通りになった」

 

あいつはこうなることを考えて、俺に力を託した………そう言うことだったのか。

 

アセムに出会ったとき、俺の内側で騒いでいたのはロスウォードの力………いや、魂というべきか。

あいつの魂が怒り、強烈な殺意を放った。

破壊しか出来ない自分を作り出した、その恨みを籠めて。

 

イグニスが俺の両肩に手を置く。

 

「本来ならイッセーがあの子の力を解放できれば良いのだけど………それじゃあ、あなたの体がもたないわ。あの子の魂が怒っただけで、イッセーの体は悲鳴をあげた。あれはイッセーの魂があの子の力に耐えられなかったから。それは分かるわね?」

 

「ああ」

 

「体は鍛えれば強くなれる。だけど、魂というのはそうはいかない。今のイッセーの魂ではあの子の力を受け止められない。あの子の力を分割する理由は力を解放した時に一人当たりの負担を減らすためよ」

 

なるほど。

俺一人じゃ無理でも美羽とアリス、二人と合わせればなんとか受け止められると言うことなのだろう。

 

しかし………。

 

「でも、あのロスウォードの力だぞ? 俺達三人の力を合わせたところで受け止めきれるか?」

 

あれほどの力を振るったロスウォードの力だ。

『イグニス』の力を解放した状態でもギリギリだった。

あの時、アスト・アーデに住む人達や師匠達、神層階の神々の協力がなければ勝てなかっただろうし。

 

それを考えると俺達の力を合わせたところで、焼け石に水のような気もするが………。

 

「それはこれからのあなた達次第よ」

 

「………というと?」

 

俺が聞き返すと、イグニスは俺の胸に人差し指を当てた。

 

トントンと指先で叩きながら言う。

 

「イッセーの魂はまだ持てる力を解放しきれていない。これまで辿ってきた中で受けた様々な因子があなたの内に眠ってる。それを呼び覚ますことが出来れば、あなたの魂は更に上の次元へと行ける」

 

美羽が何かを察したようで、挙手する。

 

「ボク達がお兄ちゃんと繋がる理由ってもしかして………」

 

「そう。美羽ちゃんとアリスちゃんと繋がってもらうのはあの子の力を分散させる意味とイッセーと連動して二人の魂を上位へ引き上げる、この二つの意味があるの」

 

つまり、今回の儀式は俺と美羽、アリスの魂を連動できるようにすることと、ロスウォードの力を三分割するために行うと………。

 

………イグニスも何だかんだで結構考えてくれてるんだな。

 

今回の儀式の意図を理解しつつ、感心していると、イグニスはこの白い空間の隅に置かれていた壺を手にする。

 

アリスが壺を指差しながら問う。

 

「ずっと気になってたんだけど………それは?」

 

「これはね、アザゼルくんに頼んで用意してもらった水銀よ。………そういえば、言っていたものは用意してる?」

 

イグニスに問われた俺は懐を探り、あるものを取り出した。

 

それは理科の授業とかで使うガラス製の試験管。

それが三本。

 

試験管の中は三本とも赤い液体に満たされていて、ゴムで蓋をされてある。

この赤い液体は俺達の血だ。

 

一本一本にそれぞれの名前が書かれたテープが貼っているので、どの血が誰の血なのか分かるようになっている。

 

この血なんだけど、ここに来る前にアザゼル先生の研究所で抜いてもらったんだ。

 

………まぁ、美羽がまた暴れかけたんだけどね。

 

注射を見た瞬間に魔力を暴走させかけたので、俺が気絶させたけど。

 

あ、美羽のやつ、思い出して涙目になってる。

 

うーん、やっぱり、美羽には注射を克服させないとなぁ………。

注射の度に暴走してたら、またお医者さんがケガするぞ………。

 

イグニスは頷くと、俺から試験管を受けとる。

 

「イッセーのはこれね………」

 

そう呟き、俺の血が入った試験管の蓋を開け、壺の中に入れた。

壺の中に入ってた棒をくるくる回して俺の血と水銀を混ぜていく。

 

混ぜ終わると、次に美羽の血、その次にアリスの血を投入して同じように混ぜていった。

 

「これでよしっと。さて、さっそく魔法陣を描いていきましょうか」

 

そう言うとイグニスは空間の中央に立ち、目を細める。

 

壺を傾けると、壺の口から赤と銀色の混ざった液体が床に零れ落ちていった。

 

壺を持つ腕を素早く動かし、機械のような正確さで魔法陣を描いていく。

 

数分後、その魔法陣が完成したのだが………それは見たこともない複雑怪奇な魔法陣だった。

 

俺の隣で見守っていた美羽が呟く。

 

「なに………これ………。こんなの見たことないよ」

 

アスト・アーデでは最高レベルの魔法が使える美羽でさえこの反応だ。

 

俺もアリスも見たことがなくて当然だ。

 

イグニスは微笑みながら言う。

 

「それは当然よ。だって、私がこの間考えた魔法陣だもーん。私以外誰も知らないわよ」

 

「あー………やっぱり、そうなんだ」

 

「ま、そんなことはどうでも良いから。魔法陣の中に三つの円があるでしょ? そこに立ってくれる?」

 

イグニスが描いた魔法陣の中央には三角形の頂点に人一人が立てるサイズの円があり、三角形の真ん中にそれより少し大きめの円が描かれていた。

 

俺達はイグニスの指示に従い、三角形の頂点に位置する円の中に立つ。

 

それに続いてイグニスが少し大きめの円の中に立った。

 

「それじゃあ、いってみよー!」

 

「軽いな!?」

 

これ、かなり重大な儀式だよね!?

なんでそんなに軽いの!?

 

そんな俺のツッコミを無視してイグニスは何かを口にする。

そして、指を鳴らした。

 

 

すると―――――

 

 

床に描かれた魔法陣が虹色の光を放った。

 

 

 

 

――――温かい。

 

とても温かい、何かに身を包まれるような感覚。

この感覚はイグニスの中に潜った時と同じものだ。

 

………ここはイグニスの中か?

 

心地よい温かさを感じながら、ゆっくりと目を開けていく。

 

そこにはいつもの真っ白な空間――――――はなかった。

 

視界に広がるのは黒い空間。

広大な黒の世界。

 

だけど、完全な闇というわけじゃない。

 

あちらこちらに輝くものがあって、空をいくつもの光が流れていく。

 

星空………いや、宇宙にいるような感じだ。

 

あの流れていく光は流星だろうか?

 

「あれ、お兄ちゃん………?」

 

「ここは………どこなの?」

 

声がした方ので、振り返るとそこには美羽とアリスの姿。

二人ともここがどこだか分からず、少し困惑しているようだ。

 

「俺も分からないんだ。………イグニスの中だとは思うんだけど………こんな場所じゃ無かったし」

 

 

その時―――――

 

 

『ウフフ、ここはいつもの場所じゃないわ。ここはね、あそこから更に進んだ私本来の世界よ』

 

若い女性の声がこの星夜の空間にこだまする。

 

イグニスの声………でも、少し違っているような………。

 

空から虹色に輝く粒子が降ってくる。

 

それと同時にこの粒子と同じ、虹色に輝く髪を持つ女性が俺達の前に現れた。

温かな光を纏い、とても神秘的に見えた。

 

その女性はいつも見ている人と同じ顔をしていて。

 

「イグニス………なのか?」

 

そう、その女性はイグニスと同じ顔をしていた。

 

だけど、雰囲気は違うというか………。

 

女性は優しげな微笑みを見せる。

 

『そうね、いつもはそう名乗っているけど、今の私は《真焱》の《イグニス》ではないわ。私は――――の―――――よ』

 

聞き取れなかった。

 

恐らく今のがイグニスの本来の名前なのだろう。

その部分が全く聞き取れなかった。

まるで何かにかき消されたかのように。

 

見れば美羽やアリスも俺と同じだったようて、怪訝な表情を浮かべていた。

 

虹色の髪を持つその女性は微笑みながら言う。

 

『今のあなた達では私の名前は聞き取れないでしょう。それは仕方のないこと。まだその時じゃないもの。だから、いつもの様にイグニスと呼んでくれて構わないわ』

 

「………それじゃあ、イグニス。さっき言ってたけど、ここが本来の世界ということは………これが本来の力を表しているのか?」

 

俺がそう問うとイグニスは星空を見上げる。

 

『イッセー達から見て、この世界はどう感じるかしら?』

 

どうと言われてもな………。

 

俺達は当たりを見渡して考えてみる。

 

黒い空間、その中で輝く無数の星。

いつの間にか俺達の足元には大きな星があって、青く美しい光を放っていた。

 

「………絶景、かな?」

 

「うん………宇宙にいるみたい」

 

「見たことがなくて、とても綺麗だわ………。それ以外の言葉が出てこないくらいよ」

 

俺に続き、美羽、アリスと感想を述べていく。

 

本当にそれしか言葉が出てこないくらいに圧巻で、美しい光景だった。

 

『ありがとう、そう言ってもらえるのは嬉しいわ。………この世界で輝く星達はね、色々な人の心の光を表しているのよ』

 

「心の光………?」

 

『そう。人の想い、魂の輝きはどこまでも熱く、どこまでも輝ける。その人の想いが、魂が強いほど星は輝けるの』

 

イグニスはこちらに歩み寄ってくると俺達三人の手を取る。

 

『私はこれからもあなた達の心の光を見ていたい。あなた達の心はどこまでも美しくて、強い。そんな輝きをこれからも、ずっと―――――』

 

俺達の手を握るイグニスの手に光が集まってくる。

 

その光は徐々に大きくなっていき、バスケットボール大の球となった。

それが三つ。

 

三つの光の球は宙に浮かび、俺達三人の胸の前に移動してくる、

 

恐らく、これが―――――。

 

『それがあの子の――――ロスウォードがイッセーに託した力よ。これを三人に分けるわ』

 

イグニスがそう言うと光の球は俺達の中に入ってくる。

 

その時、ドクンッと俺達の体が強く脈打った。

 

ただ………それ以降は体に変化が起きたわけでもなく、力が満ちていくような感覚もない。

 

美羽とアリスも怪訝な表情で自分の体を見ている。

 

イグニスがそれを確認して言う。

 

『美羽ちゃんとアリスちゃんにも入ったわね。これで二人も疑似神格は得たわ。それを活かせるかどうかはあなた達次第よ』

 

そして、イグニスはニッコリと微笑み、俺達三人を抱き締めた。

 

『頑張りなさい。あなた達なら、その力を正しく使えると信じているわ』

 



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8話 復讐者

儀式を終えて家に戻ってきた俺達。

 

儀式を終えたばかりだからか、体が少し怠い。

まるで、体に錘でもぶら下げているような感覚で、頭が重い。

 

アリスと美羽も同様だった。

 

というわけで、俺達は兵藤家リビングのソファで団子になっている。

 

「うー………クラクラするぅ………」

 

「同じく………」

 

「ボクも………」

 

アリスに続き、俺と美羽が呻く。

 

これも疑似神格とやらを体に埋め込んだ影響か。

 

いや、美羽やアリスはともかく、俺の中にあったものなのに、なんで俺がダメージ受けてるんだ?

 

すると、そんな俺の疑問を察したのか、向かいのソファでカルピスを飲んでいたイグニスが言う。

 

「前にあの子に託された時も倒れたでしょう? 五日間も眠ったままだったじゃない」

 

「あれって、戦った疲労と一度死んだ時の影響じゃないのか?」

 

「それもあるわ。あの時のイッセーは極限まで疲弊した状態で受け取ったから、身がもたなかったのよ。だから五日も眠りっぱなしだった。今回は三つに分割したし、体力もあったから、頭がクラクラする程度で済んでいるのよ。まぁ、今日一日は続くでしょうけど」

 

なるほど………。

あの時はそういう背景があったのな。

 

まぁ、おかげで美羽や他のメンバーの看護も受けれたし、役得だったかな?

 

「皆に心配かけておいて、役得はないでしょ」

 

「すまん………って、ナチュラルに心読まないでくれる?」

 

アリスめ、こめかみを押さえながらもしっかり心を読んでくるな!

 

「ううん、今のは顔に出てたよ、お兄ちゃん」

 

「マジか………って、今のは完全に心読んだよね?」

 

美羽なんて俺の膝に顔を埋めながら読んできたし!

表情見ずにどうやって心読んだ!?

 

以心伝心が一方通行過ぎてませんか!?

 

俺のプライバシーはないと!?

 

「「「ないない」」」

 

「君達、そこでハモらないでくれる!? しかも、二回言いやがったな!?」

 

そーですか!

俺のプライバシーはありませんか!

泣ける!

 

イグニスが思い出したように言う。

 

「あ、禁手も一日は禁止ね?」

 

「マジで?」

 

「だって、神器は魂と直接結びついてるでしょ? その疲れは肉体じゃなくて魂から来るもの。そんな状態で神器を使うのはダメ。もし使ったら………」

 

「もし使ったら………?」

 

イグニスはこちらをじっと見ると一言。

 

「頭パーンってなるわよ?」

 

頭パーンってなに!?

どういう状況なの、それ!?

とりあえず、怖いことになるのは確かだよ!

 

そんなやり取りをしていると、テーブルにコップが三つ置かれた。

 

「マスター、水をお持ちしました」

 

そう言ってくるのはフリフリメイド服のディルムッド――――ではなく、なぜかサンタコスのディルムッドだった!

 

頭には定番のサンタクロースの帽子を被っているが………。

 

肩紐のない赤いベアワンピースに網タイツという、なんともセクシーなサンタ姿となっている!

 

僅かにワンピースのサイズが合っていないのか、胸の谷間が強調される形になっていて、スカートの下からは艶かしい太ももが覗かせている!

肩から鎖骨にかけてのラインも綺麗だ!

 

出るところは出ていて、引き締まるところは引き締まっている!

ディルムッドも良いお体してるよね!

 

とりあえず一言………エロい!

 

ディルムッドの無表情も相まって不思議なエロさを醸し出している!

 

よーし、感想を述べたところで、質問タイムだ!

 

「なんで………サンタ?」

 

俺が問うと、ディルムッドは素っ気ない表情で、

 

「マスターの母上殿に作ってもらった」

 

「可愛いでしょ?」

 

美羽が水の入ったコップに口を着けながら言うが………。

 

可愛いというより………エロいです。

強調されるべきところが強調され過ぎだもの。

 

母さんが作ったってことはサイズは合ってるんだな。

となると、胸のところはわざとそういう風にしたと。

 

母さん………ナイス。

 

ディルムッドはプレートに乗せていたおしぼりを美羽に手渡す。

 

「これも。冷やしてあります」

 

「わーい。ありがと、ディルさん」

 

感謝の気持ちを述べる美羽と、それを受けて嬉しそうにするディルムッド。

 

………いつも思うけど、仲良いよね、この二人。

 

ディルムッドも美羽以外にこんな表情は見せないし………。

 

「ディルさんもおいでよ。一緒に座ろ?」

 

「はいっ」

 

美羽に促され、その隣に座るディルムッド。

滅茶苦茶、嬉しそうなんだが………。

 

これって甘えてるの?

 

「えっとさ………ディルムッドって、美羽好きだよな?」

 

「当然だ。心から敬愛している」

 

何がディルムッドをそこまでさせたんだ!?

 

唐揚げか!?

唐揚げなのか!?

だとしたら、効果絶大過ぎるだろう!?

 

流石の美羽も苦笑してるし!

 

「アハハ………大袈裟だよ」

 

………こいつが、美羽に拘る理由って何なんだろう?

 

可愛いから?

 

確かに美羽は可愛いし、可愛いし、可愛いし、可愛いし、可愛いし、可愛いし、可愛いし………超可愛いし。

初めて『お兄ちゃん』と呼ばれた時は感動のあまり、涙が止まらなかったほどだ。

 

でも、ディルムッドはそれとは違う理由だろう。

 

………となると、やはり唐揚げか………?

空腹というスパイスが効いて、餌付けされたのか?

 

そんなことを考えているとアリスがイグニスに問う。

 

「そういえば、さっきの儀式のことなんだけど、私達三人で繋がったのはイッセーの魂が上位に上がるのと連動して、私達の魂も上位に上げるためなのよね?」

 

「ええ、そうよ」

 

「それなら、逆に私か美羽ちゃんの魂が上位に上がることでイッセーの魂が上位に上がったりはしないの?」

 

なるほど、逆のパターンか。

 

俺が切っ掛けを作り、それに二人が連なる形だけじゃなくて、二人のどちらかが切っ掛けを作る、と。

 

イグニスは頷く。

 

「それも可能よ。ただ、イッセーの方が切っ掛けを作る可能性が高いと思うわ。イッセーは美羽ちゃんのお父さん―――――シリウスとも繋がっていたし、ロスウォードから疑似神格を直接渡された。更に禁手の第三階層には私の力も組み込まれている。至る要因としてはイッセーの方が多いわ」

 

その解説に俺達は「へぇ」と言うしかなかった。

 

『神』になることの感覚が掴めないでいるからだ。

疑似神格を得たとはいえ、それがどのように発動するのか。

発動した場合、どうなるのかが全く予想できない。

 

イグニスは微笑む。

 

「まぁ、今はまだそんな感じでしょうね。人………あなた達の場合、悪魔だけど。それが『神』になるなんていくら頭で考えようとも理解できるものではないわ。でも、その時が来れば理解できると思う。その時まで頑張りなさいな♪」

 

イグニスはウインクすると、コップに差してあるストローを咥え、ちゅーっとカルピスを吸っていった。

 

頑張りなさい、か………。

 

まぁ、結局はそうなるんだよね。

 

鍵は得た。

後は俺達次第ってところか。

 

ふと時計を見ると午後一時を過ぎていた。

 

「こんな時間か………。そろそろ他の皆と合流しないとな」

 

「アーシアさん達のグループだっけ?」

 

「そうそう」

 

この後、俺達はクリスマス企画のために動き出す予定だ。

 

俺達は疑似神格を移す儀式をしていたので、遅れているが、他のメンバーは既に行動していて、各グループでプレゼントの下調べをしている。

 

俺達が合流するのはこの町の駅から二つ先に町に赴いているアーシアの班だ。

 

アーシア班は教会トリオとロセ、そしてトウジさんというメンバー。

 

今頃、その町の大型家電量販店や品揃えのいい本屋でプレゼントの下調べをしているだろう。

 

実際に流行のものを確認して、店員さんに品物について訊く。

クリスマスで配るプレゼントで決めかねているものは、今回の下調べを参考に用意していこうと皆で判断したんだ。

やっぱり、ある程度新しくて需要のあるものの方が、プレゼントされて嬉しいだろうからね。

 

今回の下調べは住民にリサーチ出来なかった代わりでもあったりする。

 

「まだフラフラするし………一時間ぐらいしたら出るか。コスプレ衣装置いてる店にも行くとか言ってたし、間に合うだろ」

 

なんでも、サンタのコスチュームのデザインを見に行くらしい。

女性が多いので、その辺りも気にするとのことだが………。

 

「お母さんに作ってもらうのが一番早そうだよね………」

 

「それは同意。一人一人に合ったデザインかつサイズピッタリのやつ作るぞ、あの人」

 

他の皆は流石にそこまで迷惑はかけられないと遠慮していたが………実は母さんはノリノリだったりする。

材料さえあればなんでも作ってみせると豪語しているほど。

 

ちなみに母さんの昔の二つ名は『神眼の咲さん』らしいが、他にも呼ばれていたようで………。

 

『ゴッドバンド咲』

 

『衣装の錬金術士』

 

という二つ名まであったそうだ。

これ、父さんから聞いた話。

 

アリスが言う。

 

「さっき、トイレ行ったときにお母さまとすれ違ったんだけど………。手に何枚も図面持ってたわよ? 赤い布と一緒に」

 

マジですか………。

母さん、既に製作段階に入っていると。

 

まぁ、この間はティアとイグニスの衣装作ってたし、ディルムッドが今着てるやつも母さん作だし………。

 

今年のクリスマスは母さんが製作した衣装を着たオカ研女子部員が見られそうだ。

 

「さてと………」

 

俺は一旦部屋に戻ろうとして、立ち上がる。

 

しかし、まだ体がフラフラするせいか、足元が於保つかずにバランスを崩してしまう。

 

 

そして―――――。

 

 

むにっ

 

 

顔に伝わる柔らかい感触!

目の前にはプックリとした綺麗なピンク色!

 

恐る恐る視線を上にやるとディルムッドと目があった。

 

なるほど、どうやら倒れた拍子にサンタコスを掴んでしまったらしい。

しかも、肩紐がない衣装なのでそのままズレて、おっぱいがぶるんといったと。

 

うーん、ディルムッドのおっぱいは初めて見たけど、これは中々………!

瑞々しいおっぱいなことで!

 

など感想をいだいているが、ディルムッドは無言のまま。

 

ディルムッドは暫くじっとこちらを見てくるが………次第に顔が赤くなり、プルプルと体を震わせていく。

 

え、これ………怒ってる?

 

そう感じた俺はとりあえず謝ってみる。

 

「え、えっと、ごめんな………?」

 

 

すると―――――

 

 

「~~~~~~ッ!!」

 

涙目になってる!?

 

ちょ………ポタポタと水滴が零れていってるんですけど!?

 

う、うそぉ!?

 

あのディルムッドが泣いてる!?

 

俺は慌てて飛び退き、謝罪する!

 

「ご、ごごごごごめん! わざとじゃないんだ!」

 

すると、美羽がディルムッドを庇うように抱き締め、ぷんぷん怒り始めた!

 

「もう! お兄ちゃん、ディルさん泣かしちゃダメでしょ!」

 

「わざとじゃないんだ! 不可抗力だ! つーか、この娘、この手のハプニングに弱いのな! 意外すぎる!」

 

「そうだよ! だって、ディルさん、まだ十五歳だもん! 中学生だもん!」

 

「「えええええええええええええええ!? う、うそぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」」

 

美羽から告げられた新事実に俺とアリスは驚愕するしかなかった。

 

 

 

 

「あー………こりゃ、傘持ってきておいて正解だったな」

 

「出る前に天気予報見ておいてよかったね」

 

俺と美羽、アリスの三人は土砂降りの中を歩きながら言う。

 

家を出た俺達三人は電車で二つ先の駅まで移動。

 

そこから徒歩でアーシア達と合流する予定なんだが………この雨だとどこかで雨宿りしてるかもね。

傘持っていってなかったし。

 

一応、家を出る前に天気予報を見てみたところ、雨マークが着いていたので人数分の傘は持ってきてある。

 

しかし………。

 

俺は家を出る前のことを思い出す。

 

「ディルムッドって十五歳だったんだな………」

 

気の質で歳が近いことは分かっていたけど………まさか、中学生だったとは。

あのスタイル、あの雰囲気、あの言葉使いで中三って………未だに信じられん。

 

特にショックを受けているのがアリス。

 

「………五つも歳下の娘に負けた………五つも歳下なのに………あんな………グスッ」

 

さっきから自分の胸をペタペタ触りながら涙目になっております。

 

うん、今回は俺もなんて言っていいか分からないね。

俺も衝撃だったし。

 

「美羽は知ってたんだな。………まぁ、おまえが一番会話してるけど」

 

「家に来た少し後にね、色々お話ししたんだ。その時、知ったの」

 

な、なるほど………。

 

もしかしたら、ディルムッドにとって、美羽はお姉ちゃん的な存在だったりするのかな?

美羽にはすごいなついてるし。

 

もしかしてだけど………あいつが、美羽になついている理由って………。

 

まぁ、単なる想像だから何とも言えないけど。

 

中三………十五歳かぁ………。

あの容姿で十五歳は反則だろ………。

 

少なくとも美羽よりは歳上だと思ってた。

 

美羽をこちらの世界に連れてきた時、十四って聞いて驚いたけどさ。

今回はそれ以上だ。

美羽はまだ顔つきが幼かったし………。

 

いやはや、最近の若者は発達が………って、俺もまだ若いけど。

 

それにしても意外だったのが、ディルムッドが割りと乙女なところを残していたという点だな。

 

………再会した時はダンボールハウスで暮らしてたし、餌付けされるしで乙女の純情なんてもんは消え去っているものと勝手に思ってた。

 

そういえば、ディルムッドの水着姿は見たことがあるけど、裸は見たことがないな。

 

つまり、女の子の部分を生で見られるとああなってしまうと。

いや、本来ならあれが正しい反応か。

うちの女性陣が大胆過ぎるだけで。

 

………うん、今回はどう考えても俺が悪いな。

 

「帰ったらもう一回謝ろう」

 

「そうしてあげてね? ディルさん、恥ずかしがり屋だから」

 

………あれで恥ずかしがり屋と言われても説得力の欠片もない気がするけど。

 

やっぱり、あいつはよく分からん………。

特に恥ずかしさの基準が。

いや、今回のは正常だと思うけど、それ以外がね?

 

アリスが訊いてくる。

 

「皆と待ち合わせてる場所って、この近く?」

 

「うん。ただ、この雨だから、どこかで雨宿りしてるだろうけど。傘持ってなかったし」

 

デュリオでもいれば天候を晴天に変えてもらうんだけど………。

ま、流石にそれはダメか。

 

「ま、そこまで大袈裟にしなくてもいいか………――――っ!」

 

そこまで言いかけて、俺は言葉を詰まらせる。

 

突然、妙な波動が俺達の元に届いたからだ。

 

「これは………邪龍か?」

 

「そうね。あの感覚に似てるわね。………だけど、こんな町中で? しかも、こんな日中に?」

 

一瞬、自らの感覚を疑ってしまう俺とアリスだが、その可能性はすぐに消した。

 

奴らなら昼間の人間界でも堂々とやりかねない。

 

「―――――クリフォト、だね?」

 

美羽の言葉に俺は頷く。

 

あいつらは一度、昼間の駒王学園を襲撃してる。 

二度目がないなんてことはないだろう。

 

方角は―――――。

 

「待ち合わせ場所の近くか!」

 

となると、アーシア達と戦っているのか!

 

ええい、昼間からやってくれる!

 

こちとら、儀式の影響でまだ体が怠いってのによ!

 

「走るぞ!」

 

俺達は傘をたたんで全速力で走る。

 

美羽の風の魔法で濡れないように体をコーティングして、町中を駆け抜けた。

これなら、見られても少し足の早い三人組がいたぐらいの話にしかならないから問題ない。

 

気配を辿って駆けること五分。

 

俺達は待ち合わせ場所の公園に到着する。

 

そこでは――――――。

 

八つの頭部を持つ巨大なドラゴンがいた。

真っ赤な血の涙を流し、大きな顎を凶暴なほど、開き無数の鋭い牙を覗かせている。

 

ただ、そのドラゴンは生身ではなく、どす黒いオーラが形を成したようなもので、その首を辿っていくと辿り着くのは―――――一本の剣。

 

禍々しいオーラを放つ剣とそれを握る長い黒髪の男性。

 

『相棒、あの邪龍は『霊妙を喰らう狂龍(ヴェノム・ブラッド・ドラゴン)』八岐大蛇だ。あれが持つ牙や血には猛毒が含まれている』

 

八岐大蛇!

また、伝説の邪龍かよ!

 

クリフォトのやつら、ほいほい復活させやがって!

 

なんにしてもゼノヴィア達が戦っているんだ!

加勢しないとな!

 

「ゼノヴィア! イリナ! ロセ!」

 

「イッセーか! 良いタイミングで来てくれた!」

 

俺達の登場に歓喜するゼノヴィア達。

 

どうやら、相手は相当な手練れのようで、邪龍の力も相まって苦戦しているようだ。

 

男性は俺を見ると目を細める。

 

「………赤龍帝か。やはり、この一帯は知らないうちに魔境と化しているか」

 

男性の持つ剣のオーラが膨れ上がる!

禍々しいオーラが邪龍の体をより大きく、より強大にしていく!

 

ちぃっ………。

美羽が即席の結界を張ってくれたとはいえ、こんな場所でド派手な攻撃はできない!

 

禁手を使えば楽かもしれないが………頭パーンは嫌だ!

生身でやるしかない!

 

『気を付けろ。八岐大蛇の毒は危険だ。受ければ相棒でもやられるぞ』

 

毒に注意ね………了解だ!

 

「やるぞ、アリス!」

 

「ったく、こっちは本調子じゃないってのに! 面倒ね!」

 

アリスは毒づきながらも槍を構えて白雷を身に纏う。

長い金髪が純白に変わり、戦闘体勢に入った。

 

俺も腕に気を纏い、籠手からアスカロンを引き抜いた。

 

俺もアリスも美羽も疑似神格を移した影響で絶賛不調中。

正直、戦うのはキツいところがある。

 

なんてタイミングの悪い!

 

男性が剣を振るい、八つある首のうちの一つが襲いかかってくる!

 

「こなくそ!」

 

俺は後ろに飛び退きながら気弾を放つ!

 

真正面から気弾をくらって八岐大蛇の首は吹き飛ぶが―――――何事もなかったようにすぐに再生しやがった!

 

再生機能もちかよ!

 

剣の持ち主を狙おうとすると複数の首が男性を守る!

本体狙いも想定済みってか!

 

ゼノヴィア達が苦戦するわけだ!

 

男性が俺に言う。

 

「邪魔しないでもらおうか、赤龍帝。これは復讐なんだ」

 

「復讐………?」

 

「そう、復讐だ。僕と彼女を殺した彼らへ報いを」

 

男性の視線の先にはアーシアの傍にいるトウジさんに向けられていた。

 

強い憎悪の籠った瞳。

仇敵に出会ったような目をトウジさんに向けていた。

 

トウジさんが呟く。

 

「八重垣くん………君は………!」

 

「今さら何を言っても無駄ですよ。あなたは………あなた達は僕とクレーリアの仇だ! 僕にはあなた方を殺す権利がある!」

 

「………っ!」

 

男性――――八重垣と呼ばれた男性のそのことばにトウジさんは苦し気な表情を浮かべ、何も言えなくなっていた。

 

僕とクレーリアの仇………?

 

俺は疑問に思いながらも、アスカロンを振るって迫る巨大な首を捌いていく。

 

死角から気弾を放てば他の首がそれをカバーして、こちらが一度防御に回れば複数の首で一気に攻め立ててくる。

 

首の一つ一つが意思を持っているようだ。

しかも、俺達の動きに順応してきている。

 

アリスの雷も、ゼノヴィアの斬戟も俺の気弾も邪龍によって相殺されていく!

 

舌打ちしながら、八岐大蛇の首の一つと対峙する俺だが、視界に怪しげな光景が映り込む。

 

首の一つが地面に突っ込んでいる!

 

間に合わないと判断した俺はアーシアに叫んだ!

 

「アーシアァァァッ!! ぱ………ファーブニルを呼べぇぇぇぇっ!」

 

すぐにアーシアが龍門を描こうとするが、地面を盛り上げながら邪龍は地中を突き進んでいく!

 

「させん!」

 

ゼノヴィアがデュランダルから聖なる波動を放つ。

聖なる波動は地面を抉り、地中を進む邪龍を見事分断した!

 

しかし、分断されてもそれは猛スピードで突き進む!

 

『相棒! 強烈な意思があれば、具現化した邪龍は首を斬られても動くぞ!』

 

邪龍ってのは面倒なのばっかりだな!

 

あの首が向かう先はアーシアとトウジさんのもと!

アーシアの召喚は間に合わない!

 

「ゼノヴィア! ここは俺達で抑える!」

 

「分かった!」

 

他の首を俺とアリスで抑えている隙に、ゼノヴィアが駆ける!

 

「ハハハハハハ! 紫藤局長! あなたの魂でもって僕達の怒りを精算させてもらいます!」

 

地面から勢いよく飛び出した邪龍の首!

 

即座に間に入ったロセが魔法陣を飛ばす!

 

「させません!」

 

その魔法はアーシアとトウジさんを襲う瞬間、直撃した。

 

邪龍の頭部が破裂していく。

 

だが―――――飛び散る牙の一つがトウジさんの肩を掠めた。

 

「くっ………!」

 

それを見た八重垣は涙を流すほど歓喜する表情となった。

 

「………これでいい。これでいいさ。苦しめ。苦しみ抜くんだ」

 

アーシアがトウジさんの傷を塞ぐが―――――トウジさんはその場に膝をついて、体を激しく震わせた。

 

「毒か!」

 

しまった………!

 

「パパッ! ………よくもパパを!」

 

怒りに打ち震えるイリナを見て、八重垣は満足げな表情となる。

 

「………ふふふ。それが怒りというものだ。大事な者を傷つけられた者が抱くもの。たとえ天使だろうと身内を傷つけられた激情は抑えられないだろう?」

 

「………っ!」

 

言い返せないイリナ。

 

八重垣は醜悪な笑みを見せた後、足元に魔法陣を展開する。

 

「局長! 僕は必ずあなたと天界、そしてバアル家に復讐します! 僕は絶対にあなた方を許さない! 絶対だ!」

 

転移の光に包まれていく中、八重垣は俺達に言った。

 

「君達がいる楽園という名の駒王町は多くの犠牲の上に成り立った世界だ。あの町を継いだバアルの血を引きし悪魔とその眷属。よく覚えていくと良い」

 

それだけ言い残すと、八重垣は転移していった――――。

 

 

 

 

八重垣が転移した直後、アリスが言ってくる。

 

「追わなくて良かったの?」

 

「今の俺達じゃ、キツいだろ。それにトウジさんの毒を何とかしないと」

 

邪龍の毒に対してどれ程の効果があるかは分からないが、俺の錬環勁気功で肉体の治癒能力を上げる。

それで幾分はマシになるはずだ。

 

俺は踞るトウジさんに駆け寄ろうとして、足を滑らせた。

 

 

そして―――――。

 

 

むにゅん

 

 

「あ………れ………?」

 

手に伝わる柔らかい感触。

 

ギギギと首を上げると――――――俺はロセのおっぱいを真正面から鷲掴みしていた。

両手で。

 

やはり柔らかい。

できれば、このまま揉み揉みしたい。

ここがベッドなら押し倒したい。

 

でも、こんなことしてる場合じゃないよね。

 

ロセの顔はみるみる赤くなっていき――――――。

 

「こんな時に何やってるんですかぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃっ!」

 

これも疑似神格の影響なんだ!

不可抗力なんだ!

 

そこだけはご理解いただきたい!

 




この間、260話達成したばかりなのにもう270話………。
何話までいくんだろう………(-_-;)


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9話 引き裂かれた二人

遠出先で襲撃された俺達は負傷したトウジさんを連れて駒王町にある教会側の医療施設に転移した。

 

トウジさんはすぐにメディカルチェックとなった。

 

肩に受けた傷自体はアーシアの治療で塞がっているが………問題はダメージを受けたときに体内へ入った八岐大蛇の毒。

 

医療施設に『D×D』関係者が集う。

 

イリナは廊下の椅子で俯いていた。

 

………父を守れなかったことが、イリナの心を酷く傷つけているんだ。

そして、イリナも自身を責めている。

 

「………パパを守れなかった………。天使になって、パパも喜んでくれたのに………私、パパを守れなかった………守れなかった………」

 

「………イリナさん」

 

アーシアが隣についてイリナを見てくれている。

 

しかし、ゼノヴィアはイリナから離れていた。

 

「私は………今のイリナに対して叱咤してしまうだろう。だが、それは今のイリナにとって辛いもの。ならば、私よりもアーシアがついていた方が良い」

 

ゼノヴィアはそう言っていた。

 

ゼノヴィアとイリナの間には彼女達だけに流れる独特の心情がある。

この場で自分が傍にいることは逆効果、そう判断した。

これもゼノヴィアの優しさなのだろう。

 

トウジさんがいる病室前に集う俺達のもとに、二つの影が近づいてきた。

 

リアスとアザゼル先生だ。

 

「ごめんなさい、大事な時にいなくて」

 

「事情は聞いた。クリフォトの対処と紫藤局長の解毒について、教会側と協議してくる」

 

先生はそのまま廊下の奥へと消えていった。

 

残ったリアスに事の顛末を話していると、病室からグリゼルダさんと担当の医師が出てくる。

 

グリゼルダさんが俺達に言う。

 

「………局長の体には、邪龍の毒が入り込んでいます」

 

それを受けてドライグが皆に聞こえる声で言った。

 

『八岐大蛇の毒は厄介だ。放っておけば数日のうちに魂まで毒で汚染されて息絶える。相棒が肉体の治癒能力を限界まで引き上げているが、それでも解毒はできないだろう』

 

その言葉に俺は頷く。

 

「肉体の治癒能力を上げることで、解毒は出来る。だけど、魂まで響くとなると話は変わってくるな。それって呪いに近いんだろ?」

 

『ああ、そうなる。肉体は保っても、魂が保たない。先に魂が汚染されてしまえばそこまでだ。完全に解毒するには限られた術者か、施設のみだろう』

 

グリゼルダさんが続く。

 

「はい。ですので、局長をこの後、天界にお連れするつもりです。天界の解毒法ならば、たとえ八岐大蛇の毒であろうとも治すことができましょう。――――ただ、その前に局長から皆さんにお話があるようです」

 

 

 

 

「パパッ!」

 

ベッドに横たわる父親を見て、イリナが駆け寄る。

 

「ごめんなさい………。私………パパを守れなかった………」

 

「ハハハ、イリナちゃんが謝ることなんてないんだよ? それにまるで死んじゃうみたいな雰囲気はやめておくれ。パパはこのあと天界で治療を受けるし、イッセーくんの処置もあって、この通りさ」

 

トウジさんは腕をムンッとさせる。

 

確かに肉体の治癒能力を限界まで引き上げたおかげで、毒の進行が遅れている。

パッと見は大丈夫そうにも見える。

実際、肌の色も良い。

 

だけど………明らかに辛そうな表情を浮かべている。

イリナの手を取り、ニッコリと微笑んではいるが無理をしているのは誰の目から見ても明らかだ。

 

トウジさんは俺達を見渡すと重い口を開いた。

 

「………天界へ行く前に少しだけお話ししたいことがあります。彼についてです」

 

トウジさんは一度俯く。

 

「彼の名は八重垣正臣。教会でも名うての戦士であり、かつて私の部下だった男です」

 

「………『だった』? それは所属が変わったという意味ですか?」

 

俺が聞き返すと、トウジさんは首を横に振った。

 

「彼はもう亡くなっているのです。………教会側が彼を粛清したのですから」

 

『―――――ッ!』

 

その事実に全員が驚いた。

 

あの八重垣って人は既に死んでいる………?

 

それがなぜ―――――。

 

いや、奴らなら出来るか。

生命の理を弄くれる奴らなら………。

 

リアスが口を開く。

 

「聖杯ね………。聖杯を使って八重垣という人と八岐大蛇を復活させた」

 

「彼が持っていた剣―――――天叢雲剣は折れて修復中だと聞いていたが………。どうやら、あの剣を強奪した後に邪龍を宿らせたんだろうね」

 

ゼノヴィアもそう続けた。

 

天叢雲剣。

 

日本神話に出てくる有名な聖剣だ。

八岐大蛇の尾から出現したと言われている。

その剣に八岐大蛇を宿らせたのか………。

 

トウジさんは続ける。

 

「教会の役職にある者達が襲撃を受けている話は皆さんもご存じですね?」

 

「ええ。ミカエルさんから話は聞きました」

 

「………その襲撃も彼がやったのでしょう。彼にはそれだけの動機がある。そして、殺された者達は皆、かつての私の同僚ばかりです」

 

告げられる事実に俺達は言葉を失った。

 

トウジさんの同僚ばかりが襲われている………?

 

そして、八重垣という男にはそれだけの動機がある、と。

先程の戦闘で復讐だと言っていたな………。

 

過去に何があったというのか………。

 

すると、リアスが深く息を吐いた。

 

「実はね、今、バアル家の関係者が襲われているの」

 

「なに………? それは本当か?」

 

「ええ。バアル家そのものには被害者は出ていないのだけど、大王派の政治家が襲撃を受けているそうなの。すでに死者も出ているわ」

 

その報告を聞いて、俺はふと思い出した。

 

あの八重垣という男、去り際にバアル家について触れていた。

 

 

―――――あの町を継いだバアルの血を引きし悪魔とその眷属、と。

 

 

あの町の悪魔ではなく、『バアル』の血を引きし悪魔。

態々、その名を出してたということは、まさか――――。

 

俺は顎に手を当てて呟く。

 

「そのバアル関係者の襲撃も八重垣が………?」

 

「おそらく。彼にはそれを行うだけの理由がある」

 

トウジさんは天井を見上げながらそう答えた。

 

リアスが問う。

 

「この町で何があったのですか? 私の前任者である悪魔、バアル家の縁者――――母方の身内が取り仕切り、教会とのいざこざを起こして解任されたと聞いていますが………」

 

その言葉にトウジさんは納得したかのように頷いていた。

 

「………そちらではそのようになっているのですね。………こちらでも、表向きはそのような説明で済ませていますが………。お父上、もしくは兄上から、この町で起こったことは聞いていないのですね?」

 

「はい。………おそらく、父は知らないと思います。私にそのような隠し事をする方ではありませんので………。兄は立場上の都合もありますから、わかりませんが………。ただ、この後、大王バアル家の者から説明があるそうです」

 

「………そうですか。彼らも話すのですね。ならば、詳しい事情は大王側から伺った方が良いでしょう。ただ、私からも少しだけ。………八重垣くんは、この町を縄張りにしていた上級悪魔の女性と………恋に落ちたのです」

 

トウジさんは口元を手で覆い、大粒の涙を流した。

 

「その女性はべリアル家の分家に当たる方でした。名前はクレーリア・べリアル。………私達は彼らを引き裂いたのです………ッ。………私は彼に斬り殺されても文句は言えません………! それだけのことをしてしまった………! 殺されて当然なのです………! すまない………八重垣くん………! 本当に………すまない………!」

 

 

 

 

トウジさんを見送った後、俺達はグレモリーの城を訪れていた。

 

ここに来たのはオカ研メンバー全員だ。

つまり、リアスの眷属、俺の眷属、イリナとレイナ。

 

訪れた理由は、ここにバアルの使者が来ていると聞いたからだ。

 

バアルの使者が来ているという応接室に向かう途中、俺はリアスに訊ねた。

 

「………リアスはクレーリア・べリアルって女性悪魔のこと、知ってた?」

 

「………いいえ。私はバアルの分家筋に当たる方が前任者だと聞いていたわ。いただいていた資料にもそう記されていたし、実際にその方にもお会いして駒王町についての経験談も語ってもらっていたの。………全て仕組まれていたのね」

 

リアスが受けていた情報は全て捏造。

リアスが会ったという前任者も用意された者なんだろうな。

 

リアスがドアをノックする。

 

「お父さま、ただいま到着致しました」

 

『入りなさい』

 

中からリアスのお父さん――――ジオティクスさんの声が聞こえてきた。

 

リアスは扉を開いて一礼した後に中に進んでいく。

俺達もそれに続いた。

 

応接室の中には装飾が施されたソファとテーブル、暖炉があった。

 

ソファにはジオティクスさんと初老の男性が座っている。

男性は貴族服を身に纏い、紫色の瞳と黒い髪をしていた。

穏やかな目付きではあるが、隙が見えない。

………威厳のある雰囲気を全身から放っていた。

 

「よく来てくれた。かけてくれたまえ」

 

ジオティクスさんが立ち上がり、迎え入れてくれる。

 

俺とリアスは促されるまま、男性の向かいに座った。

 

男性が口元を少しだけ笑ませる。

 

「ごきげんよう、リアス姫、それから赤龍帝殿」

 

ジオティクスさんが俺達に告げる。

 

「リアス、イッセーくん、ごあいさつなさい。このお方はバアル家――――初代当主さまであらせられる」

 

『―――――ッ!?』

 

その言葉に全員が驚愕した。

 

バアル家の………初代当主!?

 

つまり、この目の前に佇んでいる男性が聖書に記されているバアル、その人ということ!

『バアル』と称される悪魔の源となった人!

 

大物中の大物じゃないか!

 

そんな超大物が直々に話をするって………どれだけの秘密があの町にはあるのか………。

 

バアル家の初代当主とされる初老の男性は改めて言う。

 

「はじめまして、私の名はゼクラム・バアル。まぁ、私のことは聖書や関連書籍を見ていただければ十分だろう」

 

「………はじめまして、お話だけは………私も書物で知っております」

 

初代バアルの登場に流石のリアスも予想外だったのか、少々萎縮気味だ。

 

ここに来るまでの間、バアル家現当主の部下、あるいは眷属が来るものだと思っていた。

それが、初代バアルという超大物が直々に来たんだ。

 

今回は完全な不意打ちだ。

 

初代バアルが俺達を見渡す。

 

「グレモリー眷属の皆々。活躍は私の耳にも届いている。我が家のサイラオーグともよくしてくれているそうで………礼を述べよう。さて、私に訊きたいことだが………。リアス殿、貴殿の前任者について、でよいな?」

 

「………はい。『クリフォト』に手を貸す者の一人が『天界、そしてバアル家に復讐する』、と」

 

初代バアルはそれを聞いて目を細める。

 

「ふむ、どこから話したものか………」

 

顎髭を擦りながら、自身の記憶を探っているのだろう。

 

すると、イリナが一歩前に出て言った。

 

「お願いします。聞かせてください。パパ………私の父も関与していたと聞きました。今、その父はテロリストに命を狙われています。………私は………父に何があったのか知りたいんです。………あの町で起こったことをお聞かせください!」

 

頭を下げて必死の声で訴えるイリナ。

 

そんなイリナを見て、初代バアルは何かに気づいたようだった。

 

「………貴殿は天使か。父………もしや、当時の教会から派遣されていたエージェント………紫藤という人間の?」

 

「はい。私は紫藤イリナ。紫藤トウジの娘です」

 

その名を聞いて、初代バアルは大きく息を吐いた。

 

「………これも縁か。よもや、あの人間の娘がこうして私に話を聞きに来ることになろうとは。………リアス姫、あの土地と我らの関係についてはご存じかな?」

 

「はい、今はグレモリーの統括ですが、古くはバアル家とグレモリー家が共同で治めていたと聞いております」

 

それは初耳だな。

 

駒王町はリアスの前………いや、もっと昔からバアルとグレモリーの縄張りだったということか?

 

初代バアルが言う。

 

「貴殿達が利用している物の大半が我らが関わっていたのだ。主にグレモリーが工面していたがね。貴殿らが拠点としている駒王学園もしかり。だが、一時だけ、あの地を他の貴族の子息、子女の経験のためにと短期間貸し与えていた時期もあったのだ。………あの娘もその一人だった」

 

初代バアルは貫禄のある低い声で語りだしていく。

 

駒王町は一時期、上級悪魔べリアル家の分家出身の女性が縄張りにしていた、と。

名はクレーリア・べリアル。

この女性がリアスの前任としてあの町を仕切っていた。

 

そして、その女性はレーティングゲームの王者ディハウザー・べリアルさんの従姉妹だという。

 

最初の段階からリアスが聞かされていた事情と全く違っていた。

 

「クレーリアの運営は順調であった。特に問題が起こるわけでもなく、どこにでもある上級悪魔が取り仕切る町の様相を見せていた。ところが、偶然が重なりクレーリアは人間の男と通じてしまったのだ。古来より、悪魔が人間と一時の関係を持つことはそう珍しいことではい。――――所詮、人間は我々よりも短命の存在。永生なる悪魔にとって、一時の戯れとして付き合うには十分な素材だ」

 

一時の戯れ………素材、か。

 

俺がその言葉に眉を潜めていると、初代の目元が少しだけ険しくなった。

 

「それ故に、人間と関係を持つこと自体は咎めることでない。………ただし、相手が教会側の人間となれば、話は別となる」

 

初代の視線がイリナを捉える。

 

「今でこそ、この場に天使が同席するということが許されているが、当時では悪魔と教会の者が会合する、ましてや恋愛するなど、考えられぬことだった。堕として傀儡とするなら良いだろうが、真剣に愛し合うなど、禁忌とも言えた」

 

「………べリアルの女性と教会の戦士は………」

 

イリナの問いに初代が頷く。

 

「あってはならぬことだ。我々にとっても、教会側にとっても。そのため、我々はそれぞれの立場から二人の説得を試みた。………が、彼らの間柄は既に深いところまで行っていた。クレーリアは………遊びを違えて、過ちに身を投じた。このままでは特例を許してしまうことになる。そう考えた我々と教会側は彼らを強引に引き離すことを考えた。皮肉にも、敵対していた我々がその時だけは結束したのだよ。お互いの体裁を守るという意味合いで。ふふふ、我らも彼らも業の深い存在だとは思わないかね」

 

リアスが訊く。

 

「その結果、二人は………亡くなった。………粛清したのですね?」

 

その問いに初代バアルは淡々と語る。

 

「最後まで説得を試みた。だが、業を煮やした教会側………いや、我らの方が先に手を出したのかもしれないな。お互いがお互いの不備を正すことになった」

 

関係を持ってしまった二人を粛清した結果、あの町を縄張りにしていた悪魔は一時的にいなくなった。

 

主であるクレーリアさんを守ろうとした眷属悪魔も主同様に始末され、生き残った者は十分な「褒美」を受け取り冥界の僻地に飛ばされたという。

 

教会側も人事異動という名の整理が行われる。

駒王町の教会にいた関係者はトウジさんを始め、事件に関わった者全てが海外への異動となった。

 

イリナがイギリスに渡ることになった背景がこれだった。

 

ある者は役職を得て、ある者は自らの手で仲間の粛清を行ったため、自己の正義と神への信仰の狭間で苛んでしまう。

中には心を崩した者もいたそうだ。

 

俺が初代バアルに問う。

 

「この事を知っている者は?」

 

「あの時関与したほんの一握りの者達だ。我々悪魔にとっても教会側にとっても秘匿すべきことだったからね。おそらくミカエル殿の耳にも届いていないだろう」

 

ミカエルさんも知らないのか。

 

初代バアルの話を聞いて、ジオティクスさんが静かに口を開いた。

 

「まさか、娘の縄張りにそのような事案があったとは………。リアスの代になるまでバアル側にお任せしていた我らにも責任はありますが、一言いただきたいところでしたな」

 

「過去を捏造し、あの地をリアス姫に紹介したことは謝罪しよう。しかし、早めに後任者を決めねばいらぬ邪推が飛び交うことになる」

 

「………リアスは現魔王ルシファーの妹。バアル家の血も宿す。それ故にリアスを?」

 

その問いに初代バアルは笑む。

 

「たとえ明るみに出ようとも、リアス姫のように有望な若手であれば、実績を積み、過去を十分に清算できるだろう。――――と、思ったのだが、有望すぎて想像を遥かに越えてしまったよ。あの地は三大勢力の和平の場所になってしまったのだから」

 

確かに、リアスを後任者にしたのは大当たりだったのだろう。

現にリアスはあの地で大活躍。

大物ルーキーの一翼と数えられるほどにもなった。

 

事件が明るみに出たところで、三大勢力の重要拠点となった今では些細なこと。

「今更」と言われてもおかしくないんだろうな。

 

しかし、リアスは首を横に振った。

 

「当時の政治が絡んだのでしょうから、それについては私が言えることは何もありませんわ。ですが、どうして―――――」

 

「どうして、真実を偽ったのか? なぜ、語らなかったのか? グレモリー卿を騙してまで―――――かね?」

 

「………」

 

言いたいことを言われ、リアスは不満げに口を閉ざす。

 

初代は構わずに言った。

 

「私はサーゼクス殿には話した。伝わっていなかったとしたら、それは彼の『愛情』だ。可愛い妹に余計な気苦労をかけたくなかった。そうは思えないかね? 彼が我らバアルの意思と妹への愛情の狭間で葛藤したことについては謝罪しよう」

 

その言葉に俺達の会話が一時、途切れることになった。

 

リアスに伝わっていなかった経緯は分かった。

 

サーゼクスさんが伝えなかったのも分かる。

そこは初代が言うようにサーゼクスさんの優しさ、リアスへの愛情なのだろう。

 

だけど………なんとも胸くそ悪い話だった。

 

教会の人間と悪魔が関係を持ったから、互いに二人を粛清した―――――。

 

人間と悪魔が互いを想って何が悪いんだ、と言ってしまいたい。

例え敵同士の関係でも、二人は愛し合っていた。

なんで、それを理解してやらないんだ、と本音をぶつけてやりたい。

 

―――――感情的に言えば。

 

しかし、当時は和平前。

悪魔、天使、堕天使の三勢力は緊張状態。

何が切っ掛けで再び戦争になるか分かったもんじゃない。

俺も悪魔になりたての頃は、リアスから教会には近づくなと言われていたくらいだ。

 

今でこそ、三勢力は互いに手を取り合い、平和を目指して進んでいるが、当時とは関係がまるで異なる。

 

それを考えれば、特例を許すことがどれだけ危険なことだったかというのは分からなくはない。

理解は出来る。

 

理解はできるが………。

 

チラッと後ろに視線を送ってみる。

俺の視線の先にいるのはアリスだ。

 

アリスの性格ならここで一言もの申しそうだが、目を細めて深く考えているようだった。

 

………多分、俺と同じことを考えているのだろう。

 

感情的に考えるか、それとも―――――。

 

初代バアルは俺の考えていることを察したのか、俺の目を真っ直ぐに見ながら言ってくる。

 

「赤龍帝殿。貴殿の言いたいことは理解しているつもりだ。和平後の今を生きる貴殿ら若者からすれば、我々が行ったことは非道だと感じているだろう。もっと他の方法は無かったのか、そう考えているのではないかね?」

 

「ええ、まぁ。………当時のバアル、教会側の考えも理解出来なくはないんです。だけど、粛清する以外にも方法はあったような気がしてならないんです。それが何なのかは………分からないんですけど。ただ………」

 

「ただ?」

 

「………やっぱり、粛清は間違っていたとは思います。その結果が今のこの現状ですから。彼の憎しみがテロリストに利用され、その刃が向けられた。冥界にも教会にも被害者が出ている。あなた方の誤った判断が今の現状を作り出した、違いますか?」

 

具体的な方法を提示できずにこんなことを言ってしまう俺は子供なんだろう。

 

鼻で笑われてもおかしくない。

 

だけど………当時、粛清と称して二人の命を奪わなければ、こんな事態になっていなかったのは確かで………。

 

二人が生きてさえいれば、和平が成立した今なら愛し合うことも許されていたはずだ。

 

俺の考えは全部結果論。

そんなものは分かっている。

 

それでも―――――。

 

「俺は………お互いの体裁を守るためと、二人から命を奪った当時のあなた方のやり方を認めることは出来ません」

 

俺は初代バアルの目を真っ直ぐ見ながら、そう言った。

 

それを聞いて初代バアルは笑む。

 

「ふふふ、若いな。まったくもって若い。許さないではなく、認めることができない、か………。赤龍帝殿」

 

「はい」

 

「将来、魔王でも、やってみたらどうかね? 貴殿なら、魔王をやっても面白いのかもしれんよ」

 

「俺が………ですか?」

 

「そうだ。貴殿なら十分に狙えるだろう。うちのサイラオーグですら狙えるポジションなのだから」

 

「サイラオーグさん『ですら』、ですか………。確かにサイラオーグさんの夢は魔王になることですが、あの人はバアル家次期当主ですよね?」

 

問う俺に初代バアルは頷く。

 

「ああ、サイラオーグは次期当主だ。優秀で領民からも慕われている」

 

「だったら―――――」

 

「だが、大王バアルは今も昔も滅びの魔力を持った者が跡取りなのだよ。故にサイラオーグには当主になってもらった後、いくつかの功績を与えてから魔王か、それに次ぐ役職に移ってもらう。そして、彼の弟を次代の当主とする」

 

ハッキリと言ってくれるな。

 

………だけど、この人はサイラオーグさんを見下している、というわけでは無さそうだ。

あの人の力も魅力も認めている。

 

だけど、あくまで大王は滅びの力を持つ者が継ぐ。

それがこの人の中では絶対なんだろうな。

 

………この人と言葉を交わしていて思うことがある。

 

年齢を重ねた古い悪魔はどうしても生に無頓着になり、精神的に無の方に向かうとされている。

 

だけど、初代バアルからはまるでそんな気配を感じられない。

未だに何かを成そうとしているのが言葉に乗って伝わってくる。

 

すると、初代バアルは小さく笑んだ。

 

「リゼヴィム坊っちゃんとルキフグスの忘れ形見が『悪魔』を語ったそうではないか。―――――邪悪であれ、と」

 

俺達を見渡して初代バアルは鋭い眼光を放ちながら言葉を発する。

 

「これからの世代、若き世代の中心になるであろう貴殿達にもよく心してもらいたい。真の悪魔とは、古くから伝わる上級悪魔の血縁者を指す。それ以外は『平民』と『転生者』であり、本当の悪魔ではない。邪悪かどうかはその者の価値観によって変わるだろうが、私は悪魔が邪悪である必要性はないと思っている。そして、悪魔の役目はこの貴族社会を未来永劫存続させることだと考えている」

 

純血の貴族以外は悪魔ではない、ね。

古いしきたりを重要視する大王派のトップらしい物言いだ。

 

ただ、悪魔が邪悪である必要性はないってところは俺と同意見か。

 

初代は息を吐いた後、立ち上がる。

 

「あの町についての事情を話すだけのつもりだったのだが………私も若者に感化されているようだ。すまなかったね」

 

苦笑する初代バアルだが、そこから言葉を続ける。

 

「今回の件だが、貴殿ら『D×D』に任せよう。どうやら、バアル家の動きを伺っている者がいそうなのでね。本来なら我らも動くべきなのだが、下手に出るのは悪手と見た。………あの町について語らなかったこと、改めて謝罪する。申し訳なかった。―――――では、私はここでおいとまさせていただこうか」

 

 



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10話 これからも笑顔で!

初代バアルからの説明を受けた後、俺達はジオティクスさんと話し合った。

その結果、襲い来る危機を退けてから、過去を探ろうという意見で一応の決着を見た。

 

グレモリー城をあとにした俺達は、駒王町に戻り、アザゼル先生に初代バアルから聞いた話を伝えた。

 

先生もなんとも言えない表情をしていたが、

 

「………もう少しリアスを信用しても良かったのかもしれんと思う面もあるが………和平前はな、どうしようもない出来事なんて、割りとよく起こったよ」

 

多くは語らないが、先生も色々な物を体験したのだろう。

 

………どうしようもない、か。

 

俺も………俺達もそんなことはたくさんあったな。

ここでの意味合いとは少し違うかもしれないけどさ。

 

先生はリアスに言う。

 

「リアス、サーゼクスを恨むなよ? あいつはあまちゃんだ。兄バカ、究極のシスコンだ。だが、大王バアル派との折り合いでこの町以外をおまえに与えられなかったのだろう。でもな、この町は良い場所だ。駒王学園といい、その他の設備といい申し分ない。サーゼクスはできうる限りの配慮を尽くしたんだと思うぞ」

 

それを受けてリアスは頷く。

 

「わかっているわ。私はこの町で楽しい日々を送った。何の不自由もなく。………今回の件でそれがお兄さまの愛情だったのだと、改めて痛感したわ。たとえ、過去を捏造され、真実を語られなかったとしても………私にお兄さまを恨む権利なんて、微塵もないわ」

 

駒王学園もサーゼクスさんがリアスのために下準備してくれていたのだろう。

妹が何事もなく、平穏に生活を送れるために―――――。

 

俺は初代バアルの話を聞いて、彼らがしたことは間違っていたと言った。

今でもその気持ちは変わらない。

 

だけど、それとは全く違う疑問が話を終えた後に浮かんできた。

 

 

――――もし、その事件がなければ、どうなっていたのか。

 

 

過去にその事件がなければ、イリナとは一緒にいることは出来ただろう。

 

だけど、リアスはこの町ではなく、他の土地に行っていたはずだ。

 

そうなれば、俺はリアスと出会わなかったかもしれない。

アーシア、朱乃、木場、小猫ちゃん、レイナ、ギャスパー、ゼノヴィア、ロセ、アザゼル先生と出会うことはなかったかもしれない。

今みたいに皆で生活なんてしてなかっただろう。

 

更に言えば、アリスをこちらの世界に連れてくることも出来なかったはずだ。

ロスウォードとの一件も皆の力がなければ、どうしようもなかった。

 

八重垣って人とクレーリアさんの事件があったからこそ、今がある。

 

そんなことを考えているとリアスが怪訝な表情で訊いてきた。

 

「イッセー………? どうかしたの?」

 

俺はリアスの瞳をじっと見つめる。

 

過去の事件がなければ………こうしてリアスと話すこともなかったのかもしれない。

 

俺は小さく口を開く。

 

「リアスはさ………俺と出会って良かったか?」

 

「………っ」

 

目を見開くリアス。

 

おそらく、俺と同じことを思ったのだろう。

今があるのはその過去があるからだと。

 

リアスは一度、俯くと顔を上げて、真っ直ぐに俺の瞳を見て言った。

 

「ええ、もちろんよ。イッセーと出会えて私は幸せよ」

 

「………そっか。そうだよな。………俺もだよ、リアス」

 

俺はフッと小さく笑んだ。

 

―――――君達がいる楽園という名の駒王町は多くの犠牲の上に成り立った世界だ。

 

八重垣って人の言葉が脳内で再生される。

 

ああ、その通りだよ。

俺達の今は犠牲の元に成り立っている。

それは間違いない。

 

だからこそ守る。

今を守り、未来を作るために。

 

八重垣さん………あなたの恨みも憎しみも否定はしない。

 

俺は認めた上で―――――あなたを止める。

 

 

 

 

翌日。

 

俺達はトウジさんが運ばれた天界の第一天を訪れていた。

 

過去の事件の当事者であるトウジさんから改めて話を聞くというのもあったけど、あちらもこちらへ渡したいものがあるというのだ。

 

第一天の医療施設は人間界の電子機器のようなものがあると思えば、宙に浮かぶ寝台などがあり、近代的な様相と幻想的な造りが交錯しているような場所だった。

 

天使の看護婦さんに連れられて、トウジさんの病室に通された俺達。

 

昨日の今日だが、天界の治療もあって、毒はかなり和らいでいるうだ。

昨日みたく、無理をしている様子もないからね。

 

俺達は初代バアルから聞いた内容を伝えた。

 

話を聞き終えたトウジさんが上半身を起こして皆に言う。

 

「………我々は最後まで八重垣くんの説得を続けました。当時の概念………いえ、今でも根強いと思いますが、悪魔と信徒の恋愛は許されるものではありませんでした。相手は分家とはいえ、上級悪魔べリアルの者。………べリアルそのものも敵対してしまうことになる。現べリアルといえば………」

 

「レーティングゲームの王者ディハウザー・べリアル。その実力は魔王と並ぶと称されています」

 

リアスの言葉にトウジさんは頷く。

 

「………もし、失敗をすれば、皇帝が出てきてしまう。そうなれば、小競り合いどころではなくなるかもしれない………。だが、どうにもそれは悪魔側も同様だった。バアル派の悪魔が接触してきたのです。――――こちらも穏便に済ませたい、と」

 

戦争をしたくないのは教会側も悪魔側も同じ。

 

だから、当時の教会側―――――トウジさん達とバアル派の悪魔は裏で一時的な協力関係を築いた。

 

その結果、他者に知られることなく、内々に『反逆者』を始末することに成功した。

 

トウジさんは悲壮な面持ちで言う。

 

「………イリナちゃん。パパはね、とても手が汚れているんだ。天使のイリナちゃんの父親を名乗ることが出来ないぐらいに汚れているんだよ………。黙っていて、悪かった。パパが不甲斐ないばかりに………。もっと上手く生きることが出来ていれば、イッセーくんと離れることなんてなかっただろうに………。本当にすまなかった………本当に………すまない」

 

涙を流し、何度も謝り続けるトウジさん。

両手で顔を覆っても手の隙間から大粒の涙が零れ落ちていた。

 

そんな父親の手を取り、イリナは首を横に振った。

 

「………やめてよ、パパ。私だって………戦士なんだよ? その時のパパがどうしようもなかったって、わかるもの………。私、パパを守るわ。パパが過去に罪悪感を抱いていたとしても、私はパパを守るしかないもの。――――だって、家族だもん」

 

「………イリナ」

 

娘の言葉にトウジさんは何も言えなくなり、ただ涙を流し続けた。

 

リアスがトウジさんに言う。

 

「過去の出来事は………当時の両陣営の事情があったとはいえ、悲しい出来事です。ですが、クリフォトの力を借りてテロ活動をしている以上、捨て置くわけにはいきません。――――止めます。どんな結果になろうとも、今止めないと悲劇と憎悪は増えていくだけですから」

 

リアスの強い覚悟。

それに俺達は応じて頷いた。

 

トウジさんもそれを受けて、涙を拭う。

 

「イリナちゃん、パパはね、クリスマス企画のためだけに来日したわけじゃないんだ。イリナちゃんに渡したいものがあったから、来たのだよ」

 

言うなり、トウジさんはベッドの横に置いていた細長いケースを取り出した。

 

イリナにそれを渡し、開けるように促す。

 

ケースのロックを解除して、開けると――――――

 

「これは―――――」

 

中身を取り出すイリナ。

 

静かに聖なる波動を放つ、一振りの剣だった。

 

トウジさんが言う。

 

「デュランダルの持ち主だったローラン。そのローランの親友であり、幼馴染みであったオリヴィエが持っていた聖剣――――――オートクレール。これを君に」

 

聖剣オートクレール!

 

デュランダルの持ち主の親友が持っていた剣か!

ゼノヴィアとイリナの関係から、運命的なものを感じてしまうな!

 

トウジさんがオートクレールの刀身を見つめながら続ける。

 

「真に清き者以外は触れられないとされた剣。斬った者の心ですら洗い直してしまうとされる。適正の結果、イリナちゃんが一番適していると結論づけられた。もちろん、天使になったことが因子の力を後押ししたようだけどね。それに、デュランダル使いのゼノヴィアさんの相棒を長く務めていたのも作用したのだろうと、研究者は言っていたよ」

 

そう言われて、お互いに見つめ合うゼノヴィアとイリナ。

 

デュランダルを持つゼノヴィアと新たにオートクレールに選ばれたイリナ、か。

 

こうなったのは、マジで運命だったのかもな。

 

トウジさんが言う。

 

「………イリナ。これで、八重垣くんを止めてくれ」

 

オートクレールを受け取り、強い目で頷くイリナ。

 

「ありがとう、パパ。私………あの人を止めるよ!」

 

 

 

 

イリナがオートクレールを受け取った後、俺達は暫し会話をした。

 

報告と見舞いも終わり、皆が退室していく中、ふいにトウジさんが俺に言った。

 

「………申し訳ないのだが、イッセーくんだけは残ってもらえないだろうか。話したいことがあるんだ」

 

そう告げられた俺は視線でリアスと無言の合意をして、部屋に残った。

他のメンバーはリアスと共に退出していく。

 

………俺に話したいこと、か。

 

ちょうど良い、俺も言っておきたいことがあったからな。

 

二人になった病室。

 

トウジさんが一拍開けた後、口を開く。

 

「………イッセーくん、天使となったイリナちゃんはその特性上、普通の女の子としての生活は出来なくなってしまった。天使は純白で、清楚であることが必然なのだからね。しかも、天使長ミカエルさまのA(エース)。二度と普通の女の子には戻れない」

 

「ええ」

 

天使は欲を持つことが出来ない。

欲を持ってしまえば、堕天してしまうからだ。

 

イリナはミカエルさんのA。

そのようなことになるわけにはいかない立場だ。

 

つまり、イリナは女の子として当たり前のことができなくなってしまった。

 

しかし、トウジさんは厳しい言葉の後に微笑みを浮かべた。

 

「――――でも、例外を得られた。あの子は君の前でだけ、普通の女の子になれることを許されたんだ」

 

トウジさんは俺の手を取り、懇願した。

 

「どうか………どうか、イリナを大切にしてあげてほしい。あの子は………幼い頃から教会の思想に育った。女の子として知らないことが多い。それを得られる機会があるのなら、どうか………見せて上げてほしい。感じさせてほしい。君達なら、きっと思想や立場を越えて仲良くできると信じているよ」

 

トウジさんは肩を震わせて、止めどなく涙を流す。

 

俺の手を握る力が強くなった。

 

「………私は………どうして、こんな簡単なことを彼に………八重垣くんと彼女に言ってあげられなかったのか………。たとえ、それが私達のルールに反していたとしても………。どうして、私は………何も出来なかったんだ………」

 

震える手。

 

俺はその手にそっと手を重ねた。

 

「種族なんて関係ないです。イリナが何者でも、俺の大切な幼馴染みの大切な女の子ですから。――――俺達はずっと側で笑い合えます。それはイリナだって分かってるはずです。おじさん………一つ俺と約束をしてくれますか?」

 

「………なんだい?」

 

涙に濡れる顔を上げるトウジさん。

 

俺はトウジさんの目をじっと見た後、口を開いた。

 

「―――――復讐を受け入れて、死ぬ………なんてことは絶対にしないでください」

 

「………っ」

 

言葉を詰まらせるトウジさん。

 

トウジさんはずっと悔いていた。

過去に自分がしたことを。

八重垣さんとクレーリアさんを引き裂いたことを。

 

彼に殺されても文句は言えない。

それだけの理由があると、言っていた。

 

今もその贖罪の気持ちでいっぱいになっている。

 

もし、八重垣さんがこの場に現れて、剣を向ければ、トウジさんは受け入れてしまうだろう。

 

だけど、それは――――――。

 

「ここで復讐を受け入れたら、イリナは………一生消えない心の傷を負います。父親を………大切な家族を守れなかったと」

 

俺は胸を抑えて続ける。

 

「俺も………失うことの辛さも苦しみも散々味わってきました。大切な人を目の前で失って………。その光景は今でも目に焼き付いています。その時、負った傷は俺のここにずっと残っていて、思い出す度に胸が締め付けられるんです………。多分、この先もずっと………」

 

「………イッセーくん。君は………」

 

トウジさんが何かを言いかける。

 

だけど、俺はそれを遮って言った。

 

「だけど、イリナはまだ間に合う。おじさんは生きてますから。俺はイリナが泣く姿なんて見たくありません。俺の幼馴染みには笑っていてほしいから………。だから………死のうとしないでください」

 

「………だが、私は………彼は………」

 

「分かってます。当時の事情もあったのも理解しています………。だけど、おじさん達がしたことは間違っていた。俺もそう思ってます。復讐されても文句が言えないのも分かってます。だから、背負ってください。向き合ってください、自分の罪と。―――――生きて、彼に償い続けてください。それがおじさんがするべきことだと俺は思います」

 

贖罪の方法なんて分からない。

どうすれば、許してもらえるか。

もしかしたら、許してもらえる方法なんて無いかもしれない。

 

それでも、生きて自分の罪と向かい合う。

 

それが、こうして生きている自分に唯一出来ることだから―――――。

 

 

 

 

「イッセーくん、ちょっといいかな?」

 

病室を出た俺を待っていたのはイリナだった。

 

俺はイリナのおでこを指で押した。

 

「こーら。女の子が立ち聞きなんてはしたないぞ、って誰かに言われるぞ?」

 

「立ち聞きなんてしてないよ。話は聞こえなかったし。というか、それって誰よ?」

 

「知らん」

 

「もう、相変わらずテキトーね」

 

俺達は第一天にある高い建物の屋上に移動した。

 

そこからは第一天の風景が一望でき、ある意味名所だと思った。

 

天使の前線基地とはいえ、人間界や冥界の都市部のように建物がずらりと並んでいる。

空には宙に浮かぶ建造物。

 

幻想的であり近代的な場所だよな、ここって。

 

屋上の手すりに身を任せながら、イリナが訊いてくる。

 

「ねぇ、イッセーくん。この間のこと覚えてる? 皆に私達の子供時代の話をしたってこと」

 

「ああ。そうしているうちに皆と仲良くなったってやつか?」

 

「うん。あの町に戻ってから友達がいっぱいできたわ。オカルト研究部の皆だけじゃなくて、クラスメイトとも、他の学年の人とも。龍神のオーフィスさんともお友達になれた」

 

「そうだな。イリナは色々な人と分け隔てなく仲良くなれる。ある意味、才能なんじゃないかな? あの自然な接し方は見習いたいところだよ」

 

俺がそう言うと、イリナは表情を陰らせた。

 

「………本当は心の中で『この人と仲良くなれるのかな?』って不安ばかりなのよ? けれど、私はミカエルさまのA。誰とでも隔てなく接することができないといけない。私は………ミカエルさまの慈悲を少しでも体現しなくてはいけないから。………でもね、一つだけ思うところがあるの」

 

「思うところ?」

 

俺が聞き返すと、イリナは頷く。

 

「うん。………もし、私もゼノヴィアと一緒にあの町に残っていたらどうなっていたのかなって。………今と違ったのかなって。イッセーくんは悪魔で、私は天使。子供の頃は同じ人間だったのに、今では種族が違うね」

 

異世界に行ったりと色々あったものの、俺は今年の四月までは人間だった。

イリナも夏頃に天使に転生した。

 

………種族が違う。

 

イリナは駒王町で起きた過去の悲恋を気にしているのだろう。

悪魔の俺と、天使である自分を重ねている。

 

俺はイリナの隣に行くと手すりに手をかける。

 

「種族が違う、か。それがどうした。俺とイリナの仲だぜ? そんなもんが関係すると思うか?」

 

俺はそう問いかけるとイリナの顔を見る。

 

「人と人を繋ぐのは種族なんてもんじゃない。互いを想う気持ち――――絆だ。とっくに絆で繋がっている俺達に禁じられた関係なんてものはない。もし、そんなこと言い出すやつがいたら往復ビンタして蹴り飛ばしてやるぜ」

 

ニッと笑みを見せる俺。

そんな俺を見てイリナもクスリと笑った。

 

しかし、途端に顔を俯かせて―――――

 

「もし………もしだよ? イッセーくんの大切な人と私に危険が及んだら―――――」

 

「全部だ」

 

俺はイリナが言い終える前にハッキリと断言した。

 

だって、そんなもの決まりきった答えだったから。

 

「俺は俺が守りたいやつは全部守る。それが答えだ。無茶だと、無理だと言うなら、世界の法則ねじ曲げてでも守って見せる」

 

「………すっごい発言したよね、今」

 

「おう。って言うかさ………」

 

俺はイリナの頭をポンポンと撫でると抱き寄せた。

 

イリナの頭が俺の胸に当たる。

 

「今の質問、答えは最初から一つじゃないか。イリナだって、俺の大切な人の一人なんだからさ」

 

正直な答えだ。

イリナは俺の幼馴染みで、大切な女の子。

守りたい人だ。

 

イリナは声を震わせる。

 

「………イッセーくんってズルいよね………。そんなこと言われちゃったら………ダメじゃん………っ。ずっと、そばにいたくなっちゃうよ………!」

 

「じゃあ、いろよ。まぁ、離れようとしても逃がさないけどな?」

 

「やっぱり、強引だよね………イッセーくんって」

 

「最強の女神さまから鬼畜教育受けてるんだ。強引にもなるさ。――――これからも、この先も、ずっと一緒に笑いあおうぜ」

 

「………うん!」

 

 

 

 

しばらく屋上にいた俺達は皆がいる休憩所へと向かうため、建物の階段を下りていた。

 

建物の中は天使の人でいっぱいで、色々と書類を運んでいる人の姿も見えた。

 

流石に前線基地だけあって忙しそうだな。

 

建物の中を眺めながら階段を降りていく中、イリナが言う。

 

「ありがとう、イッセーくん」

 

「ん? 何が?」

 

俺が問うとイリナは頬を赤くしてモジモジし始める。

 

「え、えっとね………私のこと、大切な人って言ってくれて………嬉しかった」

 

「当然だろ? イリナも家族みたいなもんだし。大切な女の子だからな」

 

俺は微笑みながらそう答える。

 

すると、イリナの顔がますます赤くなって………。

 

「あ、あのね、実は昔―――――きゃっ!」

 

イリナが何かを言いかけたと思えば、足を滑らせやがった!?

 

ここ、階段の上だよ!?

 

こんなところで転げ落ちたら、結構なケガするぞ!?

 

「ちょ、まっ、危ねぇ!」

 

俺は慌ててイリナを庇おうとして――――――。

 

イリナと一緒に階段から落ちた。

腰から思いっきり。

 

ギリギリのところで庇えたと思うけど………。

 

あー………腰痛ぇ………。

 

「イテテテ………。イリナ、大丈夫か?」

 

「わ、私は大丈夫! ご、ごめんね! 私の不注意で――――ひゃぁっ!」

 

途端にイリナが嬌声をあげた。

 

何事かと思ったが、よくよく見てみると―――――――

 

イリナが半裸………ほとんど裸になってるんですが!?

服のボタンは全て外れてパンツもズレ落ちてる!?

 

これやったの、俺か!?

あの一瞬で何がどうなればこうなるんだ!?

 

俺の右手はイリナのもっちりとしたおっぱいを鷲掴みにし、左手はイリナの下半身に―――――

 

「い、イッセーくん………こんなところで………わ、わたしを堕とす気なのね………? はぅんっ!」

 

左手の指を動かすとイリナの体がピクンっと跳ねた!

 

これはまずい!

 

「こ、こここここれはわざとじゃないからね!? 助けようとして………不可抗力だ!」

 

ちょ、人集まってきてるから!

幸いにも男性天使は見当たらないが、女性天使が集まってきてるから!

 

敵を見るような目で俺を見てくるんですが!?

 

………あれ?

見知った気配が………俺の横にいるんですけど………。

 

ギギギと錆びたネジのように首を横に回すと―――――そこにいたのは仁王立ちのアリスさん!

 

目元をひくつかせて、怒りのオーラを纏っていらっしゃる!

 

「あんたねぇ………」

 

「ちょい待ち! 落ち着こう! とりあえず、俺の話を聞こう! 暴力からは何も生まれないぞ!? これは不可抗力………事故なんだ!」

 

「事故で裸になるかぁぁぁぁ! 場所を選べぇぇぇぇぇぇえ! このドスケベ勇者ぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ギャァァァァァァァァァァァッ!」

 

俺の悲鳴は第六天のミカエルさんにも届いたそうです。

 




最後のはリトさん的なあれです(笑)


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11話 揺れる天界

活動報告にもかきましたが、キャラ紹介に美羽のイラストをあげました。

他のオリキャラの紹介もまた今度のせるつもりです~。


第一天の公園のような場所で一息ついていた俺。

 

あの後、リアスと朱乃、イリナの三人は人間界から上がってきたグリゼルダさんと話があるとのことで今は席を外している。

 

「もう少し手加減してくんない?………走馬灯がみえたんですけど………」

 

俺は頬を擦りながらアリスに言う。

 

階段から転げ落ちながらイリナの服を脱がすという行為を行ってしまった俺も俺だけど………あれ、わざとじゃないからね?

無意識だからね?

 

「へー………」

 

その半目でじーっと見てくんの止めてよ!

地味に辛いんだぞ!?

 

アリスさん、冷たいよ!

泣いちゃうぞ!?

 

「ふふふ、ついにイッセーのラッキースケベも磨きがかかってきたわね! 今度はぶつかった拍子に女の子を押し倒しておっぱい吸っちゃいましょう!」

 

実体化していたイグニスが笑む。

 

ラッキースケベなの、あれ!?

 

つーか、ぶつかった拍子に押し倒すってなに!?

そんな状況でおっぱい吸うとか故意だよね!?

ラッキーじゃないよね!?

 

あと、さっきから気になってたことなんだけどさ………。

 

「その天使の娘、どこから連れてきた!?」

 

こいつ、さっきから天使の女の子のおっぱいを揉みまくってるんですが!?

 

しかも、初対面の娘だよね!?

会ったことない娘だよね!?

 

「はふぅ………はぅぅっ………」

 

ほら、天使の娘も涙目だよ!

逆らえずにされるがままだよ!

 

イグニスは楽しげに微笑む。

 

「そこを歩いていたからハンティングしてきたの!」

 

「ハンティング!?」

 

「他の天使のおっぱいはどんな感じかな~って。ほら、イリナちゃんもそうだけど、ガブリエルちゃんのおっぱいももっちりしてたし? 他の女の子はどんなか気になるじゃない?」

 

ガブリエルさんの揉んだのおまえだけ! 

俺は知らん!

 

そーですか!

天界一の美女のおっぱいはもっちりしてたのか!

羨ましい限りだよ、まったく!

 

俺だって揉んでみたいわ!

 

「とりあえず、その娘、解放してあげろよ! 堕天しちゃうから!」

 

「とことんまで堕とす! 私色に染め上げてみせるわ!」

 

「ひぁっ………あ、あのぅ、そんなに………ふぁぁっ………」

 

「ちょ、マジでやめてあげて! 堕ちる! 堕ちちゃう!」

 

俺はイグニスを羽交い締めにする!

 

これ以上は問題になりかねん!

いや、もう問題かもしれないけど!

 

イグニスにおっぱいを揉まれまくっていた天使の女の子はダッシュでこの場から逃げていった!

 

よし、そのまま全速力で逃げるんだ!

もう二度と駄女神に捕まっちゃダメだよ!

 

「あー! 私のおっぱいがぁぁぁぁ!」

 

「あんたにもおっぱいついてるだろ!?」

 

「自分のじゃなくて、他人のが良いんじゃない。良いわよ、もう。他の女の子ハンティングしてくるから。おっぱいハンター、イグ☆ニスさん、出撃!」

 

「出撃しないで!」

 

ええい、どこまでも平常運転な駄女神め!

 

天界から苦情来るわ!

和平ぶち壊すつもりか!?

 

「ミカエルさんに怒られるからマジやめてくんない!?」

 

「大丈夫! 私を止められる者なんて、この世に存在しないもの! 原初の女神だもん! 偉いんだもーん!」

 

「うわぁぁぁぁん! 誰か、この駄女神止めるの手伝ってぇぇぇぇぇぇえ!」

 

 

 

 

「いいですか、アンセルムスさん、キュリロスさん、グレゴリオスさん、シメオンさん。天界ではお行儀よくしてくださいね。あと、皆さんのことを少しだけ調べたいそうですから、天使の方々の指示にしたがってください。怖いことは一切しないそうですから、何も心配はありませんよ」

 

『リョーカイ』

 

『ギョイ』

 

『オーケイ』

 

『ダー』

 

微笑みながら言うアーシアにそう応じるのは四体の黒いドラゴン。

 

あの四体のドラゴンは―――――邪龍だ。

 

天使の研究者数人が、恐る恐るアーシアが召喚した邪龍を相手に調査を始めていく。

 

その光景にゼノヴィアが感嘆の息を漏らす。

 

「………量産型とはいえ、邪龍を手懐けるなんてね」

 

そう、あの四体の邪龍はリゼヴィム率いる量産型邪龍だったドラゴン。

ファーニブルが行ったパンツ料理教室に号泣しながら拍手を送っていた邪龍達だ。

 

あの四体はアウロス学園防衛戦の後で、アーシアに近づいてきたんだが………驚くことに邪気が一切消失していた。

 

この結果には現場にいたティアやアザゼル先生でさえ呆気に取られていたのは記憶に新しい。

 

………邪龍すらも手懐けるアーシア、か。

 

邪龍達のアーシアを見つめる安心しきった眼!

なついてるよね、完全に!

アーシアも聖母のような微笑みで邪龍達を撫でてるし!

 

端から見てると、飼い主に撫でられて喜ぶペットみたいだよ!

 

ちなみに邪龍の名前はキリスト教の聖人から取ったそうだが………それってアリなのか?

 

俺はぼそりと漏らす。

 

「そういや、ティアが言ってたな。アーシアの名前がドラゴンの世界で広まってるって………」

 

あの龍王ファーニブルと契約した悪魔の少女。

それだけですんごいことなんだが………。

 

木場も頷く。

 

「アザゼル先生から聞いた話だと、邪龍を手懐けたことで、アーシアさんの名は飛躍的にドラゴンの間で広まるだろうって。過去に邪龍を何体も使役したのは悪神や邪神の類いだけだからね」

 

マジですか………アーシアちゃんのドラゴンを使役する才能は神クラスと………。

 

うーん、流石はアーシアというか、何というか………。

とにかくすごいよね。

 

ロセも言う。

 

「今はリゼヴィムが邪神や魔神のようなことをしていますが、それでもアーシアさんの龍使いの才能は抜きん出ているということでしょう」

 

将来的に伝説の龍使いとして名を残しそうだな………、

いや、現段階でも十分すごいんだけど、今が発展途上だとすると………。

 

………ドラゴンに囲まれて微笑むアーシアが眼に浮かぶな。

 

まぁ、アーシアを称賛したロセもかなりスゴいんだけどね。

 

ロセが過去に書いたという論文の方も調査が進んでいて、現在はグリゴリと共に進めているそうだ。

 

このままいけば強力な切り札としてクリフォトに強く出られると先生も言っていた。

 

………むろん、どこまで通じるかは未知数だという。

封印対象のトライヘキサ自体が未知数だからだ。

 

ふとゼノヴィアが口にする。

 

「………いいな、アーシアは」

 

アーシアを見る目はどこか羨ましそうだった。

 

アーシアが頬を染める。

 

「そ。そんな………ゼノヴィアさんも私と一緒にドラゴンさんと契約する術を学びませんか? そうすれば、ゼノヴィアさんも―――――」

 

「いや、そうじゃない。アーシアは皆から愛される。その誰からも敬愛される姿が私も欲しいと思えたんだ」

 

「ゼノヴィアさんは私よりもずっと魅力的な方です! イッセーさんもそう思いますよね?」

 

おっと、話を振られたぞ。

 

急な振りだったけど、俺は首を縦に振った。

 

「ゼノヴィアはゼノヴィアの魅力があると思うぞ? というか、ゼノヴィアって後輩とかに慕われているだろ、実際」

 

駒王学園にて、ゼノヴィアは人気者だ。

人気の理由は美少女ってところもあるんだけど、ゼノヴィアの人柄が好かれていることが大きな要因だろう。

 

困っている人を見るとすぐに助けに行く。

重い物を持っていたら持ってあげているし、探し物があるなら一緒に探してあげている。

 

そんなゼノヴィアの姿をよく見かける。

 

「アーシアより上だとか下だとかってのは分からないけど、ゼノヴィアは皆から慕われていると思うぞ? 俺もゼノヴィアのこと好きだしな」

 

俺の言葉にゼノヴィアは微笑む。

 

「ありがとう、イッセー。君にそう言ってもらえるのは本当に嬉しい。だが、私はもっと自分を磨くぞ。そうでなければ年明けの生徒会選挙に勝つことなんて出来ないだろう」

 

「あー、そういえば年明け早々か。選挙には現生徒会メンバーも参加するんだったな。匙は副会長に立候補するとか言ってたっけ。会長職よりも副会長になって、会長を支える役の方が性に合ってるんだと」

 

あいつは根っからのサポーターなんだろうな。

あいつ自身もそれが分かってるから実力の出せるポジションにつく。

 

それで、肝心の会長職なんだが、ゼノヴィア以外に立候補した者も当然いる。

 

現生徒会からは『僧侶』の花戒さんだ。

彼女の堅実な思想と、これまで裏から生徒会を支えてきた実績は生徒から強い支持を受けている。

 

ゼノヴィアが言う。

 

「一般生徒からも何名か立候補している者もいる。ライバルは多いな」

 

そんなこと言ってるけど………燃えている!

瞳がメラメラ燃えてるよ!

やる気十分だな!

ゼノヴィアって、難易度が上がるほど燃えるタイプなんだな!

 

美羽が首を傾げながら訊く。

 

「そういえば、悪魔以外の生徒が当選したらどうするの? ボク達の正体を明かすわけにはいかないよね? もしくは、一応、伝えたりするとか?」

 

あー、確かにそうだよな。

 

今の生徒会メンバーは全員悪魔だから問題にはならなかったけど、メンバーが変わるならそうなってくるよな。

 

その質問には木場が答えた。

 

「そのあたりはリアス部長とソーナ会長で色々考えているみたいだよ。まぁ、それを含めて今度の生徒会選挙は面白くなりそうだね」

 

俺も木場もゼノヴィアに勝ってほしいと思っている。

だけど、今回の生徒会選挙はソーナの後釜に誰がつくのか予想が出来ない。

そこが面白くもあり、好奇心を煽られるよね。

 

アーシアがゼノヴィアに飛び付く。

 

「私はゼノヴィアさんのお手伝いをします! 一緒に選挙活動します!」

 

「ありがとう、アーシア! イリナもそう言ってくれた。………うぅ、私は良い友を持ったな! 心強すぎて涙が出る!」

 

アーシアとイリナがゼノヴィアの選挙運動の手伝いか。

年明け早々から教会トリオの微笑ましい光景が見れそうだ。

 

「僕達も応援かな。同じ部員で、眷属だものね」

 

「ですね」

 

「うん! 私も応援頑張っちゃう!」

 

木場も小猫ちゃんもレイナも応援する意思を見せた。

もちろん、俺や美羽、アリスも応援だ。

 

アーシアと熱い抱擁を交わすゼノヴィアだったのだが、ふと何かを思い出したように俺の方を見てきた。

 

「そうだ、イッセー。さっき聞いた話なんだが………」

 

「ん? 何かあったのか?」

 

俺が聞き返すとゼノヴィアは頷く。

 

そして、一拍おいた後、口を開いた。

 

「さっき、公衆の面前でイリナを剥いたと言うのは本当か?」

 

「ぶふぅぅぅぅぅっ!?」

 

盛大に吹き出す俺!

 

こ、こいつ、なんでその話を今持ち出してくるんだ!?

 

「剥いたって言い方止めてくれる!? あれ、事故だからね!? 俺がイリナを辱しめるようなことする男に見えるか!?」

 

「うん」

 

「即答!?」

 

「いや、私には………その、なんだ………色々してきただろう? イリナやアーシアの前で股を開かせたり………。二人の前で盛大に絶頂させたり………」

 

「ここでそういうこと言うの止めてくれる!? あれは俺であって、俺じゃないから! 鬼畜モードの時の俺だから!」

 

「そうか………。あの時のイッセーは………良いものだな。またやってくれ。イッセーに苛められるのは………体の奥がゾクゾクして、たまらない。あの時のことを思い出すと体が火照るんだ」

 

「おいぃぃぃぃぃ! 公衆の面前でそんなこと言っちゃいけません!」

 

ほら見てよ!

周囲にいた天使達の視線が俺に集まってきているから!

 

何やらヒソヒソ話してるけど………

 

 

『おい、聞いたか』

 

『ああ、人が見ている前でそんな………なんて破廉恥な』

 

『いや、鬼畜だ。破廉恥を通り越して鬼畜の部類だ』

 

『あれって、冥界の赤龍帝でしょ? 噂には聞いていたけど、なんて鬼畜なの!』

 

『私は触られたら失禁させられるって聞いたわ』

 

『なにそれ、怖い………』

 

 

………なんて会話が聞こえてくる!

 

誰だ、俺が鬼畜だという噂をばら蒔いた奴は!

徹底的にお仕置きしてやる!

 

つーか、触れられたら失禁ってなに!?

俺をどういう風に見てるの!?

 

そんなヒソヒソ話はこの場のメンバーにも聞こえていて………。

 

レイナが顔を赤くしてボソボソと呟く。

 

「あながち………間違いじゃないよね。私は………イッセーくんに………させられたし………。お風呂場で………」

 

「イッセー………あんた、レイナさんに何したのよ?」

 

「いや………普通に………。その、あの時は調子乗ってすいませんでした………」

 

「う、ううん! いいの! やっぱり、私もイッセーくんになら………苛められてもいいかなって………ね?」

 

いや………そう言われましても………。

 

「そういえば、ボクはお兄ちゃんの鬼畜モードは体験してないなぁ………」

 

「私もですわ」

 

「美羽ちゃんとレイヴェルちゃんは何かんがえてるのかな! 二人とも希望しないで!」

 

アーシアがあわてふためく。

 

「はわわわわ………皆さんはイッセーさんとどんなことをしたのでしょう………!?」

 

「落ち着くんだ、アーシア。大丈夫だ。私達が抱かれる日も近いと見た。今度、イリナと交えて三人でイッセーに詰め寄ろう」

 

ゼノヴィアが先を見据えた眼をしている!?

おまえの眼にはいったい、どんな景色が見えているんだ!

 

「イッセー先輩はやっぱり、ドスケベです。………私だって、先輩と………避妊具さえつければ………」

 

小猫ちゃんんんんんん!?

前半と後半で言ってることが違うような気がするんだけど!?

 

「大丈夫だよ、小猫ちゃん。ボクに言ってくれればいくらでもあげるから」

 

美羽が小猫ちゃんの肩に手を置いて何か言ってる!

 

つーか、マジでどれだけ持ってるの!?

配れるほどの在庫があると!?

 

「こ、ここは教師として注意すべきなのてじょうけど………出来ない………! わ、私も………その………あんな………はふぅ………」

 

ここは注意してもいいんだよ、ロセ!

 

とりあえず止めて!

この空間を何とかしてくれ!

お願い!

今度、百均ショップに連れていってあげるから!

 

「………イッセーくんの体がもてば良いけど………」

 

「イッセー先輩! 僕はイッセー先輩のこと、一生忘れません!」

 

木場とギャスパーは不吉なこと言ってないで、ツッコめ!

 

俺、腹上死するの!?

あり得そうで怖いよ!

 

「木場ぁ! おまえ、最近、ツッコミの仕事してねぇぞ!」

 

「それ、僕の仕事なのかい!?」

 

そーだよ!

 

ツッコミはおまえの重要な仕事なんだよ!

俺だけで捌けると思ってんのか!?

 

 

………ちょっと待てよ。

 

 

この空間にいそうな奴がいない。

 

絶対に入り込んでくるはずの内容なのに一言も交じっていない………だと?

 

おかしいと感じた俺は辺りを見渡す。

 

 

すると――――――

 

 

「はうぅっ………あ、あの………ひゃんっ………そ、そんなに揉まないで………くださいぃ………」

 

「なんて揉み心地。なんて感度。うーん、やっぱり天使の女の子には清純な子が多いわね。これは………燃えるわ!」

 

イグニスが天使の女の子をハントしていた。

ベンチに押し倒して、服の下から女の子のおっぱいを揉みしだいている。

 

その光景を視界に捉えた俺はその場を駆け出し、

 

「何やってんだぁぁぁぁぁぁ! この駄女神ぃぃぃぃぃ!」

 

俺の全力のツッコミがこの第一天に響いた時だった。

 

―――――天界が大きく揺れた!

まるで地震でも起きたかのように!

 

アリスが叫ぶ。

 

「地震!? イッセー、あんたのツッコミ、どれだけ激しいのよ!?」

 

「俺かよ!?」

 

俺のツッコミが天界を揺らしたと!?

そんなバカな!

 

途端に空一面に警戒を知らせる赤い天界文字が点滅を繰り返しながら、幾重にも大きく飛び交い始めた!

 

イグニスが言う。

 

「ほら~、イッセーが大きい声出すから~。うるさいって天界側が怒ったんだわ、きっと」

 

「いやいやいや! 怒るとしたらおまえだよね! 注意されるとしたらおまえだよね! つーか、この事態の中で呑気すぎるだろ、この駄女神!」

 

「そりゃあ、お姉さんはいつでも平常運転だもん☆」

 

「可愛く言ったら何でも許されると思うなよ!? あと、そろそろ解放してあげて! その女の子ビクビクしてるから!」

 

警報が鳴り続けるなかでも、イグニスにおっぱいを揉み続けられる天使の女の子!

もう体がビクンビクンしてるから!

恍惚な表情で、息づかいも荒いんですけど!

 

堕ちちゃう!

堕ちちゃうから、そろそろ解放してあげようよ!

 

ツッコミが止まらない俺の元に警備の天使が走り寄ってくる。

 

「………邪龍が………クリフォトが天界に攻めて参りました………!」

 

その報告に俺達は戦慄した―――――

 

 

 

 

 

「はふぅ………あぁっ………ら、らめれすぅぅっ………。こんなの………んぁっ」

 

「ふふふ………。さぁ、そのまま、お姉さんに身を任せなさい。どこまでも気持ちよくしてあ・げ・る」

 

どこまでもぶれない駄女神に俺達は別の意味で戦慄した――――――。

 



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12話 D×D、天界でも出撃です!

久しぶりの投稿です!(先日、R18は投稿したけど! レーティングゲーム後の朱乃へのお仕置きシーンです!)

いやー遅くなって申し訳ないです。
活動報告にも書いたように院試の関係で書けずにいました。

院試の合格発表まだですけど、今回は息抜きに書いてみました!


第一天にある作戦司令室。

 

そこに俺達『D×D』のメンバーと第一天に待機していた『御使い(ブレイブ・セイント)』の面々が集合していた。

 

部屋の中央にある台には立体映像が映し出され、それにより各階層の様子が確認できた。

 

各階層では邪龍が大暴れしており、第二天、第三天、第四天の三つの階層では天使の兵団と激しい攻防戦が繰り広げられている。

 

「敵は第三天―――――信徒の魂が行き着く場所である『天国』から侵入したようです!」

 

『御使い』の一人がそう報告をくれた。

 

映像に巨大な浮島が映し出される。

その様子にこの場のメンバー全員が絶句した。

 

「おいおい………アグレアスごと入ってきやがったのかよ」

 

冥界から奪われた空中都市アグレアス。

奴ら、その島ごと侵入してきたってのか!

 

しかも、アグレアスからは邪龍の大群が沸いてきやがる。

 

更には―――――

 

「ラードゥン、紫炎のヴァルブルガ、クロウ・クルワッハまでいるようね」

 

天使を打ち倒していく、ラードゥンとヴァルブルガの姿!

あいつら、好き勝手に暴れてやがる!

 

あの時、グレンデルと一緒に燃やしとけば良かった!

 

………クロウ・クルワッハだけは天使の攻撃をいなすだけで自分から仕掛けようとはしていなかった。

向かってくる敵だけを倒すといった感じだ

 

アリスが映像を見ながら眉を潜める。

 

「………本当に邪龍が襲撃してきたようね。でも、一体どこから侵入してきたのかしら? 天界ってそんな容易に侵入できる場所でもないでしょう? セキュリティも厳しいようだし」

 

確かに。

俺達が天界入りしたときもいくつかの手続きがあったようだし、専用の天使の輪がなければ入ることを許されなかっただろう。

それほど天界のセキュリティというのは厳しい。

 

冥界ほど、侵入ルートは多くないとも聞いている。

 

その疑問に答える者がいた。

台の一角に新たに立体映像が映し出される。

 

『おそらく、冥府から入ってきたんだろう』

 

地上にいるアザゼル先生からだった。

 

リアスが訊く。

 

「アザゼル、そっちはどうなの?」

 

『ダメだ、天界への入口がこっちからも閉じていてな。増援は送れそうにない。………ちっ、面倒だぜ。天界側からも、地上からも門が開けないとなるとな………。原因は不明か?』

 

先生の問いにグリゼルダさんは頷く。

 

「はい。現在、セラフの方々が原因を究明されておりますが、それ以上に第七天への影響を抑えようと尽力されていまして………。『システム』に問題が生じれば、あらゆる場所に影響が出てしまいますから。現在は門だけでなく、天界の全エレベーターも機能が停止中です」

 

この事態にミカエルさん達、天界の上役は『システム』がある第七天への守護結界を強化しているそうだ。

 

もし、上に攻め込まれたら、本当にアウトだ。

神器はもちろんのこと、天界や宗教の根底すら崩壊しかねない。

そうなる前に食い止めたいとこだが………。

 

先生が話を続ける。

 

『天界に入り込むには手段は限られる。おまえ達のように正規に門をくぐるか、死後に教会の使徒として迎え入れられるか。もしくは他から上がってくるか。――――辺獄と煉獄。奴らはそこから侵入したんだろうな』

 

「辺獄と煉獄?」

 

『そこは信徒が死後にたどり着く、天国とも地獄とも違う場所だ。その二つは特殊な事情を抱いたまま亡くなった者のために用意されてな。行き着いた者はそこで身を清めた後、天国に誘われる。そう、どちらも天界に入れる扉があるのさ』

 

――――!

 

つまり、クリフォトの連中は辺獄か煉獄のどちらから天界に侵入したってことか!

 

『教会で辺獄、煉獄は「ハデス」とも言う。聖書の神は冥府を参考にしてそれらを定義したとされているからだ。………あくまで推測だが、冥府の神ハーデスは辺獄か煉獄に侵入できる方法を知っていた、あるいは生み出した可能性がある』

 

その時、一名の天使が報告を持って現れた。

 

「報告です! 煉獄から第三天へ通じる扉が破壊されているとのことです!」

 

先生の予想が的中していたのか!

 

………なるほど、あの骸骨神さまがクリフォトに協力した、と。

 

あの神さまは悪魔や堕天使を嫌っていた。

冥界の魔獣騒動――――あれを引き起こしたシャルバに協力していたくらいだ。

クリフォトの中心が前ルシファーの息子だろうと、こちらへの嫌がらせのために力を貸すこともあり得るな。

 

グリゼルダさんが言う。

 

「聖杯で復活した伝説の邪龍の一体――――アポプスが冥府に降りたという報告は受けていました」

 

「伝説では、アポプスは冥府との関連性が強いドラゴンの一体とされているわ。冥府に降りたとしても不思議ではないのだけれど………」

 

リアスもそう続けながら、俺の方を見てくる。

それに合わせて、先生や他のメンバーも俺へと視線を移した。

 

俺は息を吐く。

 

「あんの骸骨神は俺の………俺とサーゼクスさんの警告を無視したわけだ。先生、ちょっと冥府で暴れてきます。軽くロンギヌス・ライザーぶちかましてきます」

 

「ふっふっふっ………いけない神にはお仕置きが必要だわ」

 

イグニスも俺に抱きつきながら不敵な笑みを浮かべた。

 

先生が慌てて言う。

 

『待て待て待てぃ! 気持ちは分かるが落ち着け、おまえら!』

 

「待たない! 私のおっぱい揉み揉みタイムを邪魔するなんて万死に値するわ!」

 

『そっちか!? その気持ちだけは分からん! つーか、天界で何してた!? 天使供のおっぱい揉んだのか!?』

 

「さっきも一人堕としてきたわ♪」

 

『おぃぃぃぃぃ! 誰か! 誰か、その駄女神を止めろぉぉぉぉぉ! ミカエルから苦情出る前に止めろぉぉぉぉぉ! クリフォトやハーデスよりも危険だ!』

 

先生の叫びが映像越しに響く。

 

グリゼルダさんも非常に困った顔で、

 

「………もうその方の天界入りはお断りしてもよろしいでしょうか? 天使は他の種族に比べて数を増やしにくいので………このままでは種の存続が危ぶまれそうなのですが………」

 

ですよね!

そうなるよね!

女の子堕ちちゃったら、天界ピンチですよね!

いや、ほんっとすいません!

うちの駄女神がすいません!

 

………ちなみに、イグニスに捕まってた天使の女の子は堕ちる前に救出したので堕天はしてない。

間一髪だったけど。

 

先生が大きく咳払いする。

 

『状況的にハーデスが関わっているのはほぼ間違いないだろう。だがな、今の状況では奴を言及するのは難しい』

 

「それハーデスが関わったという証拠が揃っていないからですか?」

 

俺が問うと先生は頷く。

 

『ユーグリットから聞き出した最新の情報でな、復活させた邪龍の中でリゼヴィムの支配を受け付けなくなってきたものが出てきているそうだ。それが邪龍筆頭格の三体、クロウ・クルワッハ、アジ・ダハーカ、アポプス。どいつも化物クラスだ。奴らは………リゼヴィムと取り引きをし始めていると言っていた』

 

「取り引き?」

 

『ああ。――――「条件を呑めば、解放してやってもいい」ってな。内容は知れなかったが、おそらく「どの勢力でもいいから神クラスの存在と契約しろ」というものだろう。他の二体は分からんが、アポプスはハーデスと契約を結んだそうだ。そこから、アポプス経由でハーデスから天界への侵入経路を得た。俺はそう見ている』

 

「………クリフォト的には『アポプスは解放した』とか『逃げ出した』とか理由をつけて、勝手に神と契約したと言い訳をするつもり………ですね?」

 

『んでもって、ハーデスは「逃げ出した邪龍と契約しただけで、クリフォトには協力していない」とでも言うつもりだろうよ。つまり、決定的な証拠でも無い限り、ハーデスを追求することはできん』

 

くそったれめ………!

 

ハーデスの野郎、とことんやってくれるな………!

 

仮にも世界を支える神の一角だろう!?

そいつがテロリストに協力して平気な面している………!

しかも、何かと言い訳して認めようとしない!

 

いつか冥府に殴り込んでやる!

 

『そういうわけだ。リゼヴィムはともかく、ハーデスは世界にとっても必要な神。下手に消滅させるわけにもいかん。それに今はそんなことをしている場合でもない。俺達はこっちから、天界の門をどうにか開けようと思う。そちら側からも開門できるように試みてくれ』

 

先生の言葉に『御使い』達が頷き、この部屋から去る。

 

「奴らの目的はなんだ………?」

 

「『システム』でしょうか?」

 

ゼノヴィアとアーシアが疑問を浮かべる。

 

『いくら奴らでもそう簡単には入り込めんよ。あそこは基本的にセラフ以外が足を踏み入れることが出来ない。異物が入り込むと、別の場所に強制転移させられるのさ』

 

「経験があるみたいですね」

 

『昔、神に黙って踏み入ろうとしたら、人間界の僻地に飛ばされてな。ちょっと神器のシステムを見ようとしただけなのに、あの神ときたらケチでなぁ………』

 

先生は過去に入ろうとして、強制転移を食らったと。

『システム』の守りはかなり強力なものらしいな。

 

………ただ、ここで俺は一つの可能性が頭に浮かんだ。

 

「………アセムなら入れると思いますか?」

 

『異世界の神か………。神滅具を容易に複製する者、ありとあらゆる武器を創る者、格闘戦でイッセーを圧倒できる者、相手の心の内を読む者。どれもこれもが強力で厄介な能力の持ち主だ。そいつらを生み出したアセムの力は正直、未知数。異世界の術式などを用いて『システム』の領域に入り込む………なんてこともあり得るかもしれん。だが、今はミカエル達が最上層の守りを固めている。たとえ異世界の神だとしても、入り込めるとは思えんが………』

 

先生の返しは非常に曖昧なものだった。

 

だけど、先生の考えていることは分かる。

 

―――――アセムの実力は『聖書の神』すらも上回っているかもしれない。

 

それだけ、あいつの力は底が見えない。

 

相手の力が未知数である以上、絶対に大丈夫とは言えない。

それに今はクリフォトの邪龍共が暴れまわっている。

こんな状況じゃなおさらだ。

 

先生は俺に問う。

 

『おまえから見て、アセムの行動はどう思う? 奴は何の目的があって動いていると思う?』

 

アセムの目的………。

正直、今の俺には見当もつかない。

 

一体、奴は何がしたいのか。

どういう意図であんな強力な下僕を生み出したのか。

 

「アットホームな敵だもんね………」

 

美羽がそう呟いた!

 

だよね!

アットホーム過ぎるよね、あいつら!

アウロス学園じゃ、とんでもないシリアスブレイクしてくれたもんな!

 

マジでアセムの意図が分からねぇ!

あいつ、バカなの!?

 

「………実は何も考えてない、とか?」

 

『そ、それはそれでやりにくいな………』

 

先生も目元をひくつかせてるよ!

 

「ま、まぁ………あいつは俺に興味があるようなんで、多分、俺のところに来ますよ」

 

『だろうな。というより、おまえのところしか行っていないだろう、実際』

 

吸血鬼の町でも、この間のアウロス学園でもそうだ。

アセムは俺の元にしか姿を見せていない。

 

………リゼヴィムに協力しているらしいが、ほとんどそういうところが見られないんだよな。

ラズル達も自由に動いてるみたいだし。

 

アリスが顎に手をやる。

 

「アセムのことは置いておきましょう。クリフォトの目的は何だと思う?」

 

『いくら奴らでも上がれる階層は限られるだろう。………第三天か、第四天、バベルの塔関係者が囚われている第二天って線もあるが………。グリゼルダ、第三天にある生命の樹と第四天ことエデンの園にある知恵の樹はどうなっている?』

 

「どちらも樹自体は健在ですが、実は久しく生ってません。主が亡くなられて以来、果実の生育は止まったままです」

 

グリゼルダさんの報告に先生は考え込む。

 

「………先生?」

 

俺が訝しげに問うが、先生は独りぶつぶつと呟く。

 

『生命の樹の逆位置となる「クリフォト」を名乗る奴らだ。狙っていてもおかしくはない。あれらの実があればトライヘキサの封印解呪も早まるだろうしな………』

 

敵の目的を探る俺達。

 

すると、台の立体映像にとある光景が映し出された。

 

―――――例の天叢雲剣を持つ男性が、第五天である研究所周辺に足を踏み入れていた!

 

それを見て、グリゼルダさんが目元を厳しくした。

 

「………いけません。現在、第五天には解毒の最終段階のために紫藤局長が上がっています!」

 

『―――――っ!?』

 

マズい!

相手はトウジさんを狙っている!

 

このままじゃ、確実に――――――。

 

「イッセー! あれ!」

 

アリスがとある映像に指を指す。

 

そこには―――――。

 

「アセム………!」

 

第四天ことエデンの園にアセムとその下僕であるラズルの姿があった!

 

奴らも既にこの天界に入り込んでいる!

 

美羽が言う。

 

「行こう、お兄ちゃん。あの人達を止められるのはボク達だけ。それにイリナさんのお父さんも助けないと!」

 

「ああ、分かってる! 行くぞ、皆! 俺達は対テロリストチーム『D×D』だ! やることは決まってるだろ!」

 

リアスも続く。

 

「その通りよ! イリナ、あなたは第五天まで行きなさい! そこまで私達が道を開くわ!」

 

その心強い一声にイリナは大きく頷いた。

 

「ええ! 私はミカエルさまのA(エース)! 邪龍達を倒して、パパも救うわ!」

 

『俺も天界の門が開き次第、増援を送る! おまえら、気張れよ!』

 

『了解!』

 

先生の声に皆が応じた!

 

俺達がやることはこの天界を守り、トウジさんを救うこと!

それだけだ!

 

皆が戦闘に向かおうとした、その時だった。

 

『ぎゃふん!』

 

映像に映し出されていた先生が横合いから何かに弾き飛ばされた。

 

先生の変わりに映し出されたのは―――――。

 

『マスター、ご無事ですか?』

 

紫色の髪が特徴的な女性―――――ディルムッドだった!

 

頭にサンタ帽を被り、口をモグモグさせている!

 

美羽が戸惑いながら答える。

 

「え、えっと、今は大丈夫だけど………。ディルさん、何食べてるの?」

 

『バナナです』

 

「え?」

 

『バナナです』

 

そういって見せるのは皮が剥かれた食べかけのバナナ!

 

こいつ、何してんの!?

今、すんごい緊急事態なんだよ!?

そこんところ分かってる!?

 

ディルムッドはゴクンと口の中のバナナを飲み込むと一つ頷いた。

 

『私もそちらに向かいますので、後ほどお会いしましょう』

 

「え………? どうやって来るつもりなの………?」

 

『それでは後ほど』

 

「ええっ!? ディルさん!?」

 

あいつ、通信を切りやがったよ!

 

え………ちょ、あいつ、どうやって来るつもりなの!?

 

ディルムッドの言葉に戸惑う中………。

 

「あのスタイルで十五歳………グスン」

 

アリスさんが俺の隣で涙し、アーシアと小猫ちゃんも自身の胸に触れて大きくため息を吐いたのだった。

 

俺は三人の頭をそっと撫でてあげた。

 




次回はいつになるかは分かりませんが、のんびり待っていただけると助かります~。

(。・ω・。)ノシ


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13話 聖槍の帰還 

最近はペース遅めで申し訳ないです。

とりあえず、院試の合格発表まで待ってね(。・ω・。)!


トウジさんがいる第五天まで行くにはそれぞれの階層の門を通る必要がある………が、第三天から侵入した奴らは第二天と第四天に通じる門を占拠しており、そこから更に第五天に通じる門まで奪おうとしているらしい。

つまり、第二天から第五天まで攻め込まれているということだ。

 

第二天は天使達の前線基地たる第一天に近いため、天使の軍勢にて持ちこたえている。

だが、第三天から第五天まではクリフォト側が優勢だろうとグリゼルダさんは見ている。

 

天使の本拠地がある第六天はミカエルさんをはじめとしたセラフの人達が待機しているため、侵入はされていないとのこと。

また、第五天にセラフの何名かが援軍として向かっていると報告があった。

おそらく第五天も持ちこたえられるはずだ。

 

ただ、邪龍の数がアウロス防衛戦の時よりも遥かに多い。

こっちは援軍が見込めない以上、天界に残った戦力で当たらなければならない。

 

「あいつらの戦力ってどうなってんのよ………。数、多くない?」

 

アリスが邪龍を凪ぎ払いながら呻く。

 

俺達は第二天を駆け抜け、第三天へ通じる門を目指していた。

 

第二天は暗闇が支配する世界。

主に星を観測する場所であり、罪を犯した天使が幽閉される場所だそうだ。

どこまでも暗い世界が続くが、プラネタリウムのごとく、空には星々が輝いているので、完全な闇というわけではない。

 

そんな第二天の空を邪龍の群れが飛び交う。

 

「あいつらは聖杯を持ってるし、おまけに複製した俺の力も持ってる。それを使ってるんじゃねぇの!」

 

向かってくる邪龍を殴り飛ばしながら、アリスの疑問に答えてみる。

 

数千単位で邪龍が第三天から侵入してくるのを見ていると、俺の考えも外れではないだろう。

譲渡の力と聖杯を組み合わせたのなら、これだけの数を揃えるのも容易だろうしな。

 

「イグニスさんの炎で焼いちゃってよ。一瞬でしょ?」

 

「そうしたいところだが、この乱戦模様じゃな………。あと、天界でイグニスを使うのは禁止だ。『システム』に何が起こるか分かったもんじゃない」

 

イグニスの力を使えば、この戦況ぐらい一気に押し返せる。

ただ、この邪龍も天使も入り交じっている状況でイグニスを使うのは味方も焼くことになるからダメだ。

それに、常軌を逸したイグニスの熱量が天界に………『システム』に何らかの影響を出すかもしれない。

 

だから、天界でのイグニスの使用は控えるよう、ここに来る前にアザゼル先生から言われている。

 

美羽が魔法をぶっ放しながら苦笑する。

 

「大き過ぎる力って結構考え物だよね………」

 

「全くもってその通りだ」

 

『これでもかなり力を落としてるんだけどねー』

 

「「うん、チートだよ! チート過ぎるよ、この人!」」

 

兄妹の叫びが第二天に響く!

 

分かってたよ、この女神がチートだってことぐらい!

前々から知ってたよ!

でもね、改めて口に出して言われると叫びたくもなるわ!

 

もうあんたが出張ってくれよ!

そしたら、ソッコーだろ!?

 

『もちろんよ。でも、色々焼けちゃうけど大丈夫? 多分、この天界は原形止めないと思うけど』

 

ゴメン!

言った俺が間違ってた!

お願いだからやめて!

 

と、とにかく!

天界ではイグニスの力は厳禁!

 

俺達が邪龍を吹き飛ばしながら進んでいくと、その途中で『御使い(ブレイブ・セイント)』達が飛び出していった!

 

立ちはだかる邪龍の群れの前で陣形を組み―――――

 

「いくぞ! フォーメーション! フルハウスッ!」

 

「「「はっ!」」」

 

それに応じた札の番号が宙に浮かんで輝きだす!

 

刹那、莫大な光が『御使い』達を包み込んでいく!

 

フルハウスの手札となった『御使い』は邪龍の群れに飛び込み、一気に屠り去っていった!

 

「天界の『御使い』達は陣形を組むことで強大な力を発揮するとは聞いていたけれど、これはかなりのものね」

 

今の光景にリアスが感嘆の声を漏らす。

 

確かにあの特性は驚異的だ。

ポーカーなどのトランプゲームの持ち札に倣って役が出来るとあれほどまでに力を引き上げるからな。

 

レーティングゲームなんかで使われると厄介そうだ。

 

まぁ、天使とレーティングゲームするなんて、かなり先のことだろうけど。

 

グリゼルダさんが立ち止まり、俺達に言う。

 

「私がここに残って戦線の指揮をします!」

 

その言葉に頷くと俺達は第三天へと通じる門を目指す。

 

そして、突き進んだ先に門が見えてきた。

 

しかし―――――。

 

門を前にして暗闇の中から邪悪な気配を感じ、俺達は立ち止まった。

 

『これはこれはお久しいですね』

 

現れたのはドラゴンの形をした樹。

アウロス学園ではグレンデルと共に現れた邪龍の一体。

 

「ラードゥンか………」

 

『ええ。前回ぶりですね、現赤龍帝』

 

ラードゥンの周りには邪龍の大郡がいて、門を完全に塞いでいやがる。

 

俺は嘲笑うかのように笑みを浮かべ、奴に言う。

 

「そういや………前回は逃げたんだったな、おまえ。伝説の邪龍が聞いて呆れる」

 

『逃げた………まぁ、そうでしょうね。ですが、あなたの切り札を見れば、誰でも同じ判断をすると思いますが?』

 

「そりゃそうか。………で? 今回はやろうってか?」

 

『ええ。天界であれば、あれは使えないでしょう? あれほどの質量の力は『システム』に影響を及ぼすでしょうしね』

 

向こうもこちらがイグニスという切り札を使えないと踏んで出てきたか。

リゼヴィムかアセムの入れ知恵なんだろうな。

いや、両方もあり得るか。

 

どちらにしても、今はラードゥンと邪龍の大軍を退けないといけない。

 

奴のオーラから察するに前回よりも強化されているのは明らかだ。

簡単には通してくれないだろう。

 

奴の得意なのは防御と封殺。

奴の結界がどれだけ強くなっているか………。

 

ここにいるメンバーなら、ラードゥンと門を塞ぐ邪龍達を片付けることは可能だ。

 

だが、今は一刻を争う事態。

ここで時間をかけている暇などない。

 

ここは―――――。

 

すると、リアスが前に出た。

 

「ここは私達で抑えるわ。イッセーは眷属とイリナ、それからアーシアとゼノヴィアを連れていきなさい」

 

リアスの考えが分かっていたように木場や朱乃達もそれに付き従う。

 

「この先の階層にはアセム達もいるのでしょう? いえ、他にもクロウ・クルワッハや紫炎のヴァルブルガまでいるわ。それを考えるとイリナだけでこの先を進むのは難しい」

 

「アーシアを付けるのはもしもの時のことを考えてのことか?」

 

「そう。ゼノヴィアも行かせるのはアーシアの護衛の意味もあるし、何よりイリナとコンビを組んでいたもの」

 

なるほど、リアスはこの先の展開を読んでいるわけだ。

 

ここを抜けたとしてもアセム達強敵が待ち受けている。

この中であいつらの相手を出来るのは俺達ぐらいだ。

 

俺達がそこに残り、イリナ、アーシア、ゼノヴィアを先に行かせてトウジさんを救わせる。

アーシアがファーブニルを呼べば、トウジさんを助けられる確率はぐんと上がるだろうしな。

 

だが、この数。

 

天界の軍勢がいるとはいえ、リアス達だけで押しきれるか………。

 

そんな俺の心配が分かったのか、リアスは笑む。

 

「心配いらないわ。あれくらいの敵で怯んでいるようでは、『D×D』のメンバーは名乗れない。それに」

 

リアスは全身から滅びの魔力をたぎらせる。

 

それは今までのリアスよりも一回りも二回りも大きく見えて――――。

 

「覚悟しなさい、邪龍ラードゥン。イッセーに抱かれた私は―――――強いわ!」

 

………。

 

………。

 

………ん?

 

え、ちょ………リアスさんんんんんん!?

 

それはここで関係あるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

ああっ!?

なんて魔力を放ってやがる!?

リアスの背後に滅びの龍が見える!

 

「………り、リアス?」

 

俺は恐る恐る声をかけてみると、リアスはニッコリと微笑んで、

 

「だから大丈夫よ、イッセー」

 

すいません! 

全然大丈夫じゃないです! 

別の心配をしてしまうんですが!?

 

いや、リアスとロセとのことは既にバレてるけど!

 

「なるほど………イッセーと子作りするとパワーアップできるという特典もついてくるのか! よし、こんな騒ぎは早く終わらせて、子作りするぞ!」

 

ほら、こんなことを言い出すやつが出てくる!

 

「ゼノヴィア! おまえは何、意味分からんことを言ってるんだ!? つーか、子作りまでは行ってない!」

 

避妊具はつけてました!

子供は作ってません!

そこは大人になってから!

 

「もちろん、アーシアとイリナも一緒だ!」

 

「は、はい! イッセーさん、よろしくお願いしますぅ!」

 

「そ、そうね! ミカエルさまがせっかく作ってくれたんだもん! 使わなきゃ!」

 

三人を同時に相手しろってか!

 

嬉しいよ!?

嬉しいけどね、そういう発言は場所を選んでくれ!

 

ふと俺の両手が握られる。

 

見ると右手を朱乃、左手を小猫ちゃんが握っていた。

 

「私もお願いしますわ」

 

「赤ちゃんはダメですけど………練習なら今の体でもできます………」

 

二人も混じってきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

小猫ちゃん!

モジモジしてるところはすごく可愛いけど、ここはツッコミを入れるところ!

 

あっ、そういえばツッコミ要員が働いてねぇ!

 

「木場ァ! ツッコめぇぇぇぇぇ!」

 

「そこで僕に振るのかい!? メインは君だろう!?」

 

「メインとかないし! 最近サボりがちだぞ、おまえ!」

 

「僕、結構ツッコミ入れてるけど!?」

 

「じゃあ、ギャスパー! おまえもツッコミ要員に入れ!」

 

「ぼ、僕ですかぁ!? む、無理ですよぉ!」

 

「無理なんかじゃない! おまえなら出来る!」

 

「そうだよ、ギャスパーくん! 君は苦難を乗り越えてきたじゃないか!」

 

「「これからはツッコミ要員として頑張っていこう!」」

 

「ひぃぃぃぃぃぃ! 祐斗先輩のキャラが崩壊してますぅぅぅぅぅ!」

 

よし、ギャスパーのツッコミをいただきました!

やれば出来るじゃないか!

 

その調子でこれからはおまえがツッコミを入れていくんだ!

 

ツッコミ役を次の世代へ引き継ぐ時が来たんだよ!

 

「そんな世代交代は嫌ですぅぅぅぅぅ!!」

 

「心読まないでくれる!?」

 

 

 

―――――こうして、ツッコミ要員ギャスパーが誕生した。

 

 

 

って、こんなことしてる場合か!?

ラードゥンと邪龍軍団忘れてたよ!

 

俺は慌ててラードゥンの方を見る。

 

 

すると―――――

 

 

「………久しぶりの登場なんだが………。相変わらずのシリアスブレイカーだな、赤龍帝、それにグレモリー眷属」

 

―――――っ!

 

俺達はその男の登場に心底仰天した。

 

漢服を羽織った若い男が一人、聖なる波動を放つ槍を肩でトントンとしながら、ため息をついていた。

 

聖槍―――――神滅具のひとつ『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』。

 

前回のアウロス学園防衛戦でも、あの槍が突如降ってきて、町を覆っていた結界を破壊した。

 

そして、今回はその持ち主たる男までそこに立っている!

 

俺達は口を揃えて―――――

 

 

「「「「いつ来たの!?」」」」

 

「今だよ! って、その反応、間違っていないか!?」

 

曹操のツッコミが第二天の空に響いた―――――。

 

 



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14話 先に行け! 

今回はシリアス!


第三天に通じる門を塞ぐラードゥンを筆頭にした邪龍軍団。

 

リアスが俺に先に行くよう言った直後のことだった。

 

あの男が再来したのは。

 

漢服を羽織った若い男。

異様な雰囲気を纏う、その男の手には聖なる波動を放つ槍。

 

最強の神滅具―――――『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)

 

俺はその男を見て目を細めた。

 

「――――曹操。話には聞いていたけど、戻ってきたか」

 

そう、俺達の眼前にいるのは元英雄派の首魁――――曹操!

 

こいつは俺に敗れた後、冥府に堕とされた。

その後、自力で冥府から上がってきて、帝釈天の尖兵となったと先生から聞いている。

 

俺が潰した右目には眼帯をつけていた。

 

俺は曹操に問う。

 

「どうしてここに? つーか、どうやって上がってきた?」

 

奴は嫌味な笑みを見せる。

 

「邪龍狩りに興じようと思ってね。奴らと同様煉獄の門から上がってきたのさ」

 

なるほど………煉獄か。

ハーデスのところにいたときに、煉獄に通じる道を見つけたとでもいうのかね?

 

………もしかしたら、ディルムッドも煉獄から上がってくるのか?

通信では特になにも言わなかったけど………。

 

曹操が槍をくるくる回して、その切っ先をラードゥンに向けた。

 

「ここの邪龍を俺も引き受けよう。だが、君は英雄――――ヒーローなんだろう? なら、悪の幹部を倒すべきだ。俺を倒したようにね」

 

「おまえは悪の幹部ですらなかったよ。あの時のおまえはただ英雄の意味を勘違いしていたアホだ」

 

俺の辛口コメントに曹操は苦笑する。

 

「ああ、その通りだ。俺は『英雄』の血に縛られ、そうでなくてはならないと思っていた。………そんな考えなど君が粉々にしてしまったけどな」

 

「それで? 今のおまえは何だ? まだ英雄を名乗るか?」

 

こいつがそれでもなお、英雄を名乗ろうとするのなら俺はこの場で―――――。

 

しかし、曹操は首を横に振った。

 

「いや、本物の英雄にああ言われてはね。―――――異世界より帰還した勇者。それが君なんだろう? 道理で勝てないわけだ。でき損ないの紛い物が本物に勝てる道理がない」

 

曹操は聖槍から聖なる波動を解き放つ。

 

それを邪龍の群れに向けると―――――極大の爆発と共に邪龍の群れが一気に吹き飛んだ!

 

相変わらず………いや、以前よりも聖槍の威力が上がっているのか?

 

曹操は槍を回しながら、不敵に言う。

 

「今の俺はただの曹操だ。それ以上でもそれ以下でもない。人間であることの誇りと聖槍を持ったただの人間さ」

 

「そうかい。なら、この場は任せる。リアス! 皆! 俺達は先に行く!」

 

俺は皆にそう告げると眷属とアーシア、ゼノヴィア、イリナを連れて先を急いだ。

 

曹操の横を通り過ぎるとき、奴は俺に告げた。

 

「今度はただの曹操として君に挑もう」

 

挑戦か。

 

俺に関わった男共はどうして、俺に挑んでくるのかね!

 

まぁ、でも―――――

 

「ああ、いつでもかかってこい」

 

 

 

 

 

 

門を潜り、第三天―――――天国のある階層に辿り着いた俺達。

 

俺達が走るのは第三天の中央通り。

この道を真っ直ぐに進めば、次の門に辿り着く!

 

途中で邪龍共が襲ってくるが、

 

「邪魔!」

 

先陣を切るアリスの一撃で四散していく。

 

このレベルの邪龍なら俺達の相手にはならない。

アーシアを除いた他のメンバーも襲いくる邪龍を次々に屠っていく。

 

量産型邪龍の厄介な点は強さじゃない。

その数だ。

 

クリフォトの連中がどんな生産の仕方をしているのかは知らないが、湯水のように次から次へと沸いてくる。

それこそ、数百、数千単位で。

下手すれば万単位で襲ってきそうだ。

 

中央通りを駆けていると、美羽が言ってくる。

 

「ねぇ、少し変じゃない?」

 

「変? 何が?」

 

イリナが首を傾げながら訊く。

 

「さっきから襲ってくる数が疎らというか、妙に少ない気がしない?」

 

確かに。

 

奴らは大群で来ているのだから、ここは数を揃えてから襲う方が定石だろう。

 

それが、この階層に着いてから襲ってくる数は多くても十程度。

妙に少ない。

 

違和感を覚えながらも、俺達は次の門を視線の先に捉えた。

 

だが、

 

「おほほほほ♪ こんにちは~♪ 燃え萌えさせにきたわよん」

 

ゴスロリ衣装の魔女がいた。

紫炎のヴァルブルガだ。

 

「相変わらず趣味悪」

 

ヴァルブルガを見てのアリスのコメントがそれだった。

 

あー、ヴァルブルガのこめかみに血管が………。

自分の趣味を言われるのは嫌なのかね?

 

まぁ、俺もあれはないかな………性格も悪いし。

 

俺達の前にもう一つの影が現れる。

 

「今日はねぇ、クロウさんも来てくれているのん」

 

ヴァルブルガの横に黒コートの男が立った。

 

―――――邪龍クロウ・クルワッハ。

 

俺とアリスが二人でかかっても倒せなかった………いや、僅かに傷を負わせた程度だった。

 

そうか、ここでこいつが来るか。

 

「おほほほほ♪ 今日は二人で相手しちゃうわねん!」

 

ここで二人を相手にしている暇はない………が、やるしかないか。

 

クロウ・クルワッハの能力は知らないが、単純に強い。

今の俺では勝つのは難しいだろう。

 

………EXA形態を使えば何とかなるかもしれないが、後のことを考えると、早々に使うのはダメだ。

 

ヴァルブルガの紫炎は俺達悪魔にとって必殺。

こちらは相性が最悪。

 

この場にいるのは俺、アリス、美羽、レイヴェル、イリナ、アーシア、ゼノヴィア。

 

少なくとも教会トリオだけは先に進ませてやりたいところ。

 

そのとき――――――

 

 

「いんやー、これはまた大変なことになってんね」

 

軽口を叩きながら現れたのは――――――ジョーカー・デュリオ!

翼を広げて宙を飛んできた!

 

デュリオは俺達のもとに飛来してくる。

 

その登場にヴァルブルガが笑みを見せる。

 

「わーお♪ もしかして、ジョーカー? これはこれはすんごいのに遭遇しちゃったん♪ ねぇ、この第三天にいた邪龍くん達は?」

 

ヴァルブルガがデュリオにそう訊く。

 

すると、デュリオは遠くを指差した。

 

遠目に巨大な雷雲が見える。

そこから、いくつもの激しい雷が落下していた。

 

「今も攻撃しているよ。残骸ぐらいは残るかもね」

 

――――っ!

 

逆方向に目をやると、そちらでは巨大な竜巻が邪龍を呑み込んでいた。

 

雷雲と竜巻で広範囲に攻撃を仕掛けていたのか!

 

第三天に入って感じた違和感はデュリオが一人で邪龍を片付けていたからなのか。

 

デュリオの神器は天候を操る。

その真価がこの戦場で発揮されている。

 

規格外だ。

その能力も、それを操るこの男の力量も。

 

これが天界の切り札の力――――――。

 

デュリオがヴァルブルガに言う。

 

「ここは天国だ。静かにしなきゃ、ここにいる魂が可愛そうじゃん? せっかく、現世でのお役目を終えたんだから、ここでは静かに過ごさせないとさ」

 

軽口を叩いているように見えるが、デュリオの目は真剣そのもの。

 

グリゼルダさんが語ってくれたことが脳裏によぎる。

 

 

『デュリオは戦災孤児です。とある国の内乱で両親を失い、幼い頃から教会の施設で暮らしていました。神器に目覚めたのもその頃です』

 

神器、しかも上位神滅具を宿していたデュリオの生活は一変した。

力に目覚めた後、すぐに施設を出て戦士育成機関で教会の戦士としての訓練を受けた。

 

非凡すぎる才能と能力は幼いデュリオを戦士として覚醒させる。

 

『教会の施設には特異な力を先天的に有し、それに対する抵抗力を持たない子供達もいるのです。デュリオは同じ境遇ゆえにその子達を「弟」「妹」と呼んで可愛がっています』

 

異能を持った子供達の中には育つ前に宿した力に呪い殺されることもあるそうだ。

そして、デュリオはそれをずっと見てきたという。

 

『彼がジョーカーになった一番の理由は………天国に行き着いた子供達の魂に会えるからです。天界の切り札とされるジョーカーであれば、その領域に足を踏み込めますから。あの子は教会一の実力者でありながら、教会一優しすぎる青年なのです』

 

グリゼルダさんは涙を流しながらそう教えてくれた。

 

改めてデュリオを見ると翼を広げて、黄金のオーラを纏っていた。

とても静かな波動だけど、相手を食い止めるという強い意思が感じられて――――。

 

「この先は通すわけには行かないんだよねぇ。ここは俺の弟と妹達が何も苦しい思いをすることなく、走り回れる唯一の場所なんだ。だからさ、ここであんた達を暴れさせるわけにはいかない。―――――天国は天使が守ってなんぼさ」

 

次の瞬間、ヴァルブルガの目が怪しく輝いた。

 

デュリオの周囲に紫炎の火柱が上がる―――――が、それをデュリオは手を横凪ぎにしただけで凍りつかせた!

 

デュリオはイリナに言う。

 

「さ、Aのイリナ。先に進んでちょ」

 

「ジョーカーさま! 私たちも―――――」

 

イリナは自分達も戦うと言いたかったのだろう。

 

しかし、俺はそれを止めた。

 

「イリナ、おまえは先に行け」

 

「イッセーくん!? なんで!?」

 

「おまえが今するべきことはなんだ? 皆が俺達を先に行かせた意味は分かるだろう?」

 

「っ!」

 

リアス達が俺達を―――――イリナを先に行かせた理由はトウジさんを救わせるためだ。

 

イリナは天使として天界を守らなければいけない。

でも、今は一人の娘として父親を救うことが優先だ。

 

仮に天界を守れても、トウジさんを守れなければイリナは一生後悔する。

 

そうさせないためにも、

 

「ここは―――――」

 

俺が残る、と続けたかった。

 

だけど、その言葉は阻まれた。

 

「私達が残るわ。イッセー、あんたも先に行きなさいよ」

 

アリス、美羽、レイヴェルがクロウ・クルワッハの前に立った。

 

三人とも体からオーラを放ち、ヤル気まんまんといったところだ。

 

「おいおい………」

 

アリスは槍をくるくる回しながら言う。

 

「別に選択的には間違ってないでしょ? 目の前の邪龍は別格。ここで足止めを食らうわけにはいかない」

 

「そりゃそうだけど…………」

 

「それにあの悪神の下僕達に会ってもあいつらはバトルマニア。多分、一対一しか仕掛けてこないと思う。そう考えれば………ね?」

 

アリスの言う通り、ラズル達は強者と戦うことを望むバトルマニアだ。

弱者は相手にせず、ただ強い者と戦うことを楽しみにしている。

 

こう言ってしまってはあれだが、現段階でラズル達はイリナたちのことは見向きもしないだろう。

 

そう考えると………。

 

俺は頷いた。

 

「分かった。任せるぞ、おまえら」

 

そう言うと、レイヴェルが言う。

 

「私の力がどこまで通じるか分かりませんが………サポートなら何とかなると思います」

 

「頼む。―――――無茶すんなよ?」

 

「分かってるよ」

 

俺の言葉に三人は頷いた。

 

眷属を信じるのも主の役目。

 

なら、俺がするべきことはこいつらを信じて先に進むことだ!

 

「イリナ! 行くぞ! 親父さんを助けるんだろう!」

 

「う、うん! ありがとう、皆!」

 

俺達はそう言い残すと、駆け出した。

 

クロウ・クルワッハもヴァルブルガも追いかけてくる気配はない。

 

途端、背後から激しい戦闘の音が鳴り響いた。

 

デュリオはヴァルブルガ、アリス達はクロウ・クルワッハ。

 

デュリオはともかく、アリス達が心配ではあるが………俺は眷属を信じて先に進む。

 

 

 

 

第三天の門を潜った俺達は第四天―――――エデンの園に突入した。

 

見渡す限り、色鮮やかな草木が咲き誇り、遠くに見える小山や木々も盛観だった。

 

今が戦闘中でなければ、寝転がって昼寝でもしたいと思える。

それほどに静かで美しい場所。

 

ここがアダムとイブの話で有名なエデンの園か。

 

第四天に入って感じたことは違和感だった。

 

………邪龍が入り込んだにしては綺麗すぎる。

 

グリゼルダさんからは第三天から第五天まではクリフォトが優勢だろうと聞いていた。

 

上の階層から部下を率いて出陣したというセラフの人達が入り込んだ邪龍を殲滅した、とも考えられるがそれもないだろう。

 

この第四天は戦った痕跡がまるでない。

 

どういうことだ………?

 

妙な感覚を覚えながら、辺りを見渡す。

 

すると、第三天と第四天をつなぐ門から少し離れたところから覚えのある気配を感じ取った。

 

この野獣のようなオーラは………!

 

奴がいる―――――!

 

俺はその方向を睨んだ。

 

 

そこには――――――

 

 

「ベル、口にケチャップついてるわよ?」

 

「ん……。ありがと、ヴィーカ」

 

「ベルはもう少し女性としての自覚が必要ですね」

 

「ガハハハ! 今更だろう! つーか、ベルには今のままでいてほしい!」

 

シートを広げて、その上でお弁当を食べてる微笑ましいファミリーの姿があった。

 

 

ズッシャァァァァァァァァァァァッ!

 

 

俺、イリナ、ゼノヴィアは盛大にヘッドスライディングを地面にかました。

 

アーシアだけはポカンとしているが…………。

 

「おまえら、ピクニックかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

なんで………なんでこうなる………!

 




すいません、前書きウソです。


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15話 理不尽   

最近、眠すぎて筆が進まないぃぃぃぃぃ!


俺は膝をついた。

その光景のあまりの衝撃に。

 

なんでだ……なんでなんだ……!

 

なんで……こうなる……!

 

 

「ラズル、食べる?」

 

「おう! 食う食う!」

 

「のどかなところね~」

 

「安らぎますね。なんとも美しい場所です」

 

 

俺は仲間にその場を任せ、教会トリオを連れて第四天まで上がってきた。

襲いくる邪龍を退け、トウジさんを助けるという想いでだ。

 

それなのに……!

 

 

「……ふぁぁ。……眠い」

 

「あらあら、ごはん食べたら眠くなっちゃった?」

 

「お腹を満たすと眠くなるものです。ベルはまだまだ子供ですから、なおさら」

 

「ま、こればかりは仕方がねぇな」

 

 

その光景に俺は心の底から叫んだ。

 

 

「おまえら、ピクニックかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

第四天――――エデンの園に心からの悲鳴が響く!

 

だってそうじゃん!

 

ここまでほぼシリアスだったじゃん!

少なくとも敵は!

 

なのになんで、ここに来てピクニック!?

 

シート広げて、のんびりお弁当食べてさ!

 

ベルに至ってはヴィーカの膝を枕にして眠り始めたよ!

 

こいつら緊張感なさすぎだろう!?

 

「おまえら、バカだろ! 絶対バカだろ!」

 

俺達に気づいたヴィーカがこちらに手を振ってくる。

 

「あら勇者くん。おひさ~。登場早々にツッコミとはやってくれるわね。流石よ」

 

「いや、登場早々にボケてる奴に言われたくねぇ! なんでピクニック!?」

 

「だって、ここに来たのはこのためだもの」

 

「はぁっ!? ピクニックするために第四天まで上がってきたのか!?」

 

「もちろん。こんな綺麗な場所でピクニックなんてそうできるものじゃないわ」

 

「つーか、俺達、今日はオフだから。戦う気はねぇぞ? 今日の俺は―――――」

 

ラズルはそう言うと―――――ごつい一眼レフのカメラをどこからか取り出した。

 

馴れた手つきでピントを合わせていき、

 

「今日の俺は『破軍』のラズルじゃねぇ………ただのお兄ちゃんだ。 だからさ―――――」

 

 

パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ

 

 

「撮りまくるぜぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

眠ってるベルに連写しだしたよ!

 

あれぇぇぇぇぇぇぇ!?

 

こいつ、強いやつと戦うことが趣味じゃないの!?

前回が前回だけに、俺見たら仕掛けてくると思ってたんですけど!?

 

心の中で叫んでいるとヴァルスが言ってきた。

 

「ラズルはこう見えてもシスコンですからね。オフの時の彼はこんな感じですよ。そして、私も―――――」

 

ヴァルスはラズルの横に立つ。

 

すると―――――。

 

「私も今日は一人の兄です!」

 

 

パシャシャシャシャシャシャシャシャ

 

 

凄まじい勢いで連写し出した!

 

「おまえもかいぃぃぃぃぃぃ!」

 

ヴァルスもシスコンなの!?

 

新事実に俺が驚愕するなか、ヴィーカが苦笑する。

 

「まぁ、二人はこの子を溺愛しているから。普段はこんな感じよ」

 

ヴィーカは眠ってるベルの頭を撫で、頬に触れた。

 

そうですか……普段はこんな感じなのね。

 

ラズルとヴァルス……この二人、バトル以外は妹のことしか頭にないのね。

 

「まぁ、私もなんだけど」

 

 

ピロリン ピロリン

 

 

「おまえもか!? つーか、おまえはスマホかい!」

 

「だって、この体勢だもの。こっちの方が撮りやすいじゃない。勇者くんも覚えがあるんじゃないの?」

 

た、確かに覚えがある!

美羽が俺の膝上に頭を乗せて寝たときは携帯で撮っていた!

 

くっ……俺とこいつらは同類ということか!

妹萌え……妹ラブなのか!

 

ベルちゃんの寝顔、可愛いもんね!

その気持ちだけは理解できる!

 

俺が共感していると、ラズルが一冊の本を出してきた。

 

ま、まさか……まさか……それは!

 

「ベルの写真集だぜ!」

 

「なんとぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

ヤバい!

わかっていたけど、こいつはヤバい!

 

写真の中のベル………可愛すぎんだろぉぉぉぉぉぉぉ!

 

いや、俺も負けてらんねぇ!

ここは退けない!

 

負けられっかよぉぉぉぉぉぉぉ!

 

「俺だってなぁ、美羽の写真持ち歩いてるんだい!」

 

展開する美羽の写真!

携帯の中にもいっぱい入ってる!

 

シスコンドラゴンなめんな!

 

『おっぱいドラゴンではないのか!?』

 

ドライグの的確なツッコミ!

 

それじゃ、おっぱいシスコンドラゴンで!

 

『長すぎるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

「俺はおっぱいも好きだけど、美羽も好きなのぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

~ そのころの美羽 ~

 

 

「…………」

 

「美羽さん? どうかしましたか?」

 

「えーと、多分だけど………お兄ちゃんがボクの自慢をしてるなぁって」

 

「それは……妹センサー的な感じですか?」

 

「うん」

 

美羽は巨大な魔法を放ちながらも、妹センサー全開で一誠を感じ取っていた。

 

「あいつ、何してんのよ!? イリナさんのお父さまは!?」

 

アリスのツッコミが響く―――――

 

「…………妹センサー? 赤龍帝にはそのような力があるのか?」

 

クロウ・クルワッハは三人の攻撃をいなしながら、首を傾げていた。

 

 

~そのころの美羽、終~

 

 

 

「話には聞いていたが………あれが異世界の悪神の下僕………?」

 

「アットホームよね……。というか、この世界の強い人ってシスコンが多い…………?」

 

「皆さん目が輝いてます」

 

ゼノヴィア、イリナ、アーシアがそう感想を述べていく!

 

だよね!

アットホームだよね!

嫌になるよ、こんなアットホームな敵!

しかも、バカみたいに強いし!

 

ゼノヴィアが言う。

 

「このまま通っても良いのか?」

 

「い、良いんじゃないのか? やる気なさそうだし………」

 

向こうも今日は戦う気ないみたいだし。

つーか、オフって…………。

 

お花畑でピクニックとかアットホームにもほどがある。

 

まぁ、ここで足止めされないのはありがたい。

 

…………しかし、こいつらの中に肝心のアセムがいない。

 

映像にはアセムの姿もあったはずだが…………。

 

「いやー、お待たせお待たせ。思ったよりも時間かかっちゃったよー」

 

無邪気な声と共にひとつの気配がこの場に現れる。

 

振り向くと、そこには白いパーカーを着た白髪の少年がいた。

 

少年は俺の顔を見るとニッコリと笑んだ。

 

「やぁ、勇者くん。この間ぶりだね」

 

「アセム……! 出やがったな、この野郎」

 

「そんな虫が出たみたいに言わないでよー。それからそんなに敵意剥き出しにされても、今回、僕達は手を出す気はないよ?」

 

そう言うアセムからは敵意は感じないが、不気味な雰囲気は醸し出していた。

 

不用意に手を出せばやられる。

そう思わせるほどの不気味さを目の前の神は持っていた。

 

後ろの三人もアセムの登場に身構える。

 

手を出さないとは言っているが、気を抜けばどうなるか分かったものじゃない。

 

俺は三人に言う。

 

「イリナ、ゼノヴィア、アーシア。三人とも先に行け。こいつには聞きたいことがある」

 

「イッセーさん………?」

 

アーシアが心配そうな表情でこちらを見てくる。

 

俺が無理をしないか心配なんだろうな。

 

俺はアーシアの頭を優しく撫でてやる。

 

「大丈夫。俺もすぐに追いかけるからさ。イリナはこんなところでのんびりしている場合じゃないだろう? ゼノヴィアとアーシアはイリナをサポートしてやってくれ」

 

「イッセーくん………。分かったわ! 私、絶対にパパを助ける!」

 

「私も付き合うぞ! イッセー、待っているからな!」

 

「イッセーさん! 後で合流しましょう!」

 

駆けていく三人。

 

イリナ、絶対に親父さんを守れよ?

 

俺もすぐに駆けつけるからさ。

 

俺は三人の背中を見送った後、アセムに視線を戻す。

 

「アセム、おまえの目的はなんだ? どうして、おまえらはこんなところまで来た? リゼヴィムと一緒になって天界に攻め込んで来た………ってわけでもないんだろう?」

 

こいつもヴィーカ達も今回は手を出さないと言っている。

おそらく、嘘ではない。

 

だけど、そうなるとこいつらの目的が分からない。

 

まさかと思うが本当に第四天までピクニックしにきた………というのもおかしいだろう。

 

いや、ヴィーカ達は全力でピクニックしてるけどさ。

 

だけど、少なくともアセムは何か目的があったようだ。

 

それはいったい―――――。

 

アセムは口元を笑ませながら、言った。

 

「僕の目的は天界の最上階。第七層にある『システム』を見ることさ」

 

「な………にっ!?」

 

驚愕に目を見開く俺。

 

『システム』を見る!?

 

通信でアザゼル先生と可能性の話としてアセムが第七天に入れるかどうかを話していたけど、本当に行きやがったのか!?

 

アセムは続ける。

 

「僕が興味を持ったのはね、『システム』の神器のプログラムさ。様々な能力を有した神器、特に神をも屠る力を秘めた神滅具。これらを作り出した聖書の神の力は興味深かったからね。これを機に一度見ておこうと思ったわけ」

 

「第七天はセラフの人達が結界を張っているはずだろう!? そんなことが………!」

 

天界が襲撃を受けてからミカエルさん達セラフはすぐに結界の構築に取りかかった。

 

結界が間に合ったかどうかは分からないけど、少なくともこいつが着いた頃にはミカエルさん達と鉢合わせするはずだ。

 

それなのに――――――。

 

「出来るから、僕はここにいるんだけど?」

 

「っ!」

 

こいつ、平然と言いやがった!

 

アセムは指を立てて言う。

 

「君の疑問はもっともだと思うよ? でもね、世界は広い。『絶対』なんてほとんどないくらいだ。そして、今回はそのパターン。天界の長でも僕の存在を認識できなかったみたいだよ。まぁ、僕が認識できないようにちょっと工夫したんだけど」

 

「おまえは第七天に侵入したというのか! だが、入った者は強制転移で飛ばされるはずだ!」

 

アザゼル先生もそう言っていた。

 

しかし、こいつは、

 

「あー、あれ? あんなの一時的に解除すれば良い話だよ。ただ、騒ぎになるとゆっくり見ることが出来なくなるから、今回は天使長同様、『システム』に僕の存在を認識できないようにしたけどね。おかげで思ってたより時間がかかってねぇ。流石に疲れちゃったよ」

 

アセムは肩をぐりぐり回しながら息を吐いた。

 

つまり、こいつはありとあらゆる者達から自分を認識できないようにしたということか!?

 

そんなことが可能なのかよ!?

 

だが、こいつの力は未知数。

もしかしたら、本当に聖書の神を越えて………。

 

『いや、下手したら更に上の次元に立っているかもしれん。天龍すら越えた………。流石に無限だった頃のオーフィスやグレートレッドには届いていないだろうが、それでもこいつの力は異質だ』

 

ドライグまでアセムの力を不気味に感じているようだ。

 

すると、俺の横に赤い粒子が集まっていき、人の形を成した。

 

イグニスが実体化したんだ。

 

イグニスは髪を払うと口を開く。

 

「こうして会うのは初めてね、アセムくん」

 

イグニスの登場にアセムは目を丸くするが、顎に手をやり興味深げにイグニスを見た。

 

「君は………そうか、この感覚。あの剣に宿っている者。僕達アスト・アーデの神でさえ存在を忘れた神。原初の神とはあなたのことか」

 

「ええ、今は(・・)イグニスと名乗っているわ」

 

「今は………ということは本来の名前があるんだね?」

 

「その通りよ。まぁ、その辺りは良いでしょう。現段階では明かすわけにはいかないもの」

 

そう言うとイグニスは俺の方に視線を送った。

 

イグニスが本当の名前を明かしていないのは俺がイグニスの力を十分に扱いきれていないからだ。

 

イグニスにとって本来の名前を明かす時は、自らの封印を解く時。

そのレベルに俺が達しない限り、イグニスは名前を明かすつもりはないようだ。

 

イグニスはアセムに問う。

 

「ねぇ、アセムくん。あなたはなぜ、リゼヴィムに手を貸すの? なぜ、悪神達に手を貸したの? ―――――元々、善神だったはずのあなたが」

 

「なっ………!?」

 

アセムが元々、善神………だと!?

 

「どういうことだよ!?」

 

明かされる新たな事実に驚愕する俺。

 

アセムは悪神じゃないのか!?

 

イグニスが言う。

 

「彼は本来、人々を導き、栄えさせる神よ。神としてはかなり若かったから、特に世界に影響を与えたというわけでもなかったけれど」

 

「それ、早く言ってくんない!?」

 

「忘れてた☆」

 

「おい!」

 

「テヘ☆」

 

舌を出してウインクするイグニス。

 

こ、この駄女神ぃ………なんつー肝心なことを忘れてやがる!

 

色々言いたいことはあるけど、もうこの際、それは置いておこう!

今更だし!

 

「だったらなんで、ロスウォードなんて作った!? アスト・アーデを崩壊させるようなことをしたんだ!? 前に聞いた話と繋がらなくないか!?」

 

「それよ。そこが分からないの。だから、今、こうして改めて聞いているわけ」

 

師匠は悪神達がロスウォードを作ったと言っていた。

 

そして、アセムは吸血鬼の町では自分がロスウォードを生み出した、自分は創造主と言った。

ほかの悪神に話を持ちかけられ、面白そうだったからというふざけた理由つきでな。

 

俺の中にいたというロスウォードの力の欠片が反応したのだから、そこに間違いはないと思う。

 

もし、イグニスの言うことが正しいというのなら、もう訳がわからん。

 

アセムはしばし黙りこんだ後、小さく口を開いた。

 

「あなたは原初なんでしょう? 僕に何があったのか知っているはずでは?」

 

「残念ながら全てを知っているわけではないわ。私だって万能じゃないもの。ロスウォードくんが世界で暴れまわるまで、私は神層階の最奥にいた。よって、ある程度の過程と結果しか知らないの。あなたに何が起きて、何が目的で動いたのかまではわからないわ」

 

「そうですか。………僕からも一つ訊いても?」

 

「ええ」

 

「原初。あなたは世界についてどう思う?」

 

「いきなり大雑把すぎる質問ね」

 

「それは申し訳ない。だけど、原初。あなただからこそ僕は問いたい。あなたは世界をどう捉えている? この世界も………アスト・アーデも含めて」

 

いつになく真剣な表情のアセム。

 

イグニスは瞑目してしばし黙る。

 

そして、目をゆっくり開いた。

 

「世界はままならないもの。力があっても、知恵があっても、想いがあっても、思い通りにはならない。個人の意思ではどうしようもない。一言で言えば理不尽。それはどこの世界も同じ」

 

確かにそうだ。

俺は今までその理不尽を見てきたし、実際に体験してきた。

 

どんなに願っても、どんなに力をつけても叶わないことがある。

アスト・アーデでも、この世界でもままならないことの方が多い。

 

世界は理不尽だ。

 

しかし、イグニスはそこから続けた。

 

「世界はありとあらゆる理不尽に満ちているわ。だからこそ、人々は互いの手を取り、想いを繋げることで理不尽に立ち向かう。一人では無理でも皆で力を合わせれば立ち向かえる」

 

「それはあまりに甘い考えだ。そう簡単に人々が手を取り合うことは難しい」

 

「そうね、あなたの言う通りだわ。人も神もそれぞれに感情があり、考えがある。分かり合うのは難しいでしょうね。だけど、不可能じゃない。私はその可能性を信じるわ」

 

「それでも全てを乗り越えられるとは思えない」

 

「当然よ。それが理不尽というものだから。でも、いくつかの理不尽は減らせると思わない?」

 

「………」

 

イグニスの考えにアセムは再び黙りこんだ。

 

近くにいるヴィーカ達はどこか複雑そうな表情でアセムに視線を送っていた。

 

互いに手を取り、分かり合うことで理不尽に立ち向かう、か。

身に覚えがある話だ。

 

だから、イグニスの言うことは理解できる。

人は想いを繋げることで未来を切り開いていけるんだ。

 

アセムが口を開く。

 

「あなたの考えは分かった。その上で僕は宣言しよう。――――僕はこの世界において、理不尽の一つになる」

 

「なんだと………?」

 

すると、アセムの背後にヴィーカ達が立ち――――その場に跪いた。

 

その光景は今までのふざけた雰囲気と違い、こちらに畏れを抱かせるものだった。

 

「これから僕達はこの世界の神々を相手に暴れるとしよう。北欧、日本、ギリシャ、インド。あらゆる神話勢力を攻める」

 

「正気か………!?」

 

「正気さ。この世界の神々はリゼヴィム・リヴァン・ルシファーを危険視しているようだけど――――真に警戒すべきは誰かを教えよう。まず僕達を影から監視している者。あそこから攻めようか」

 

口調もオーラも変わったアセム。

なんて濃密なオーラを放ってやがる………!

 

それに気になることを言ったな。

 

アセムを監視している者だと?

そんな奴がいるのか?

 

それは一体――――――。

 

アセム達の足元に魔法陣が展開される。

 

ここから離れるつもりか!

 

「逃がすかよ!」

 

こいつをこの場で逃がせば、どうなるか分かったもんじゃない!

 

アセム………こいつは危険だ。

ここで逃がせば、どこかの神話勢力が相当な被害を受けちまう!

 

俺は鎧を天武に変える!

 

領域(ゾーン)に突入し、アセムに殴りかかろうとして―――――

 

「今の君では僕の相手にならない。ここで戦うべきではないと思うよ?」

 

「っ!?」

 

気づけば、アセムは俺の懐に入っていた。

 

馬鹿な。

いつの間に………!

 

俺はこいつから目を離していなかった。

それなのにこうも簡単に懐に入られた。

 

しかも、領域に入った状態でだ。

 

アセムは俺の胸に手を当てる。

 

「ほら、こうすれば―――――君の心臓に手が届きそうだ」

 

 

ゾクッ

 

 

凄まじい悪寒を感じた俺は咄嗟に後ろに飛んで距離をとった。

 

嫌な汗が背中を伝う。

心臓は激しく脈打ち、全身が警報をならしていた。

 

なんだよ、今の感覚は………!

心臓を握られた気分だ………!

 

クソッ、ここでビビって逃げるわけにはいかねぇ!

 

ドライグ、あれをやる!

サポート任せた!

 

『仕方あるまい! やるぞ!』

 

俺は全身の気を高めて――――――

 

『ECLIPSE!!』

 

『XENON!!』

 

『AGIOS!!』

 

籠手の宝玉から音声が鳴り響く。

 

そして――――――

 

「融合進化ァ!」

 

『EXA Promotion!!!!』

 

天撃、天武、天翼の三形態が融合を果たす!

現段階における最強形態!

 

「アセム! ここでおまえを倒すぞ!」

 

俺の力にアセムは楽しげな笑みを見せた。

 

 

 



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16話 悪神と勝負です! 

やっちまった………!
ついにやっちまった………!


弾ける稲妻、巻き起こる旋風。

俺を中心に力の嵐が吹き荒れていた。

 

イグニスによって提案され、実現した俺の現段階における最強形態―――――EXA形態。

 

天翼(E)天武(X)天撃(A)の三形態の力を併せ持つと共にリアスの滅びの魔力とアリスの白雷を宿している。

こいつの力は俺の複製体二十体を殲滅できるほどの出力を誇る。

 

今のアセムの力は聖書の神が残した『システム』に容易に介入できるほどの力を持つ。

そうなると、こいつに対抗できるのはこれしかないだろう。

 

アセムが俺の姿を見て、笑んだ。

 

「なるほど。前回の戦いで君は新たなステージに進んだんだったね。君ならなんとか出来ると思ってたけど―――――」

 

アセムは手元に魔法陣を展開する。

魔法陣が輝くと、空中に映像が映し出された。

 

俺は目を見開いた。

 

 

そこに写し出されたのは―――――

 

 

『んんっ………! ちょ、イッセー! 吸いすぎ………あぁん!』

 

『い、イッセー………。あっ、お尻までそんなに揉んでは………ふぁぁぁっ』

 

官能的な声を漏らすリアスとアリス。

そして、二人のおっぱいに夢中になってる俺の姿だった。

 

俺の口は二人のおっぱいに、手は二人のお尻を揉みしだいていて―――――。

 

「おぃぃぃぃぃ! なに、録画してくれてんの!?」

 

「アハハハ♪ だって、面白すぎでしょ、これ。これ撮るとき大変だったんだよ? 笑い声抑えるの必死でさ」

 

あっ、音声に微妙にアセムの声が混じってる!

 

このやろ、本当に録画しながら笑ってやがったな!?

俺達が必死であの場を切り抜けようとしてたってのに!

 

「その動画どうする気だ!? まさかと思うが、あちこちにばら蒔くなんて陰湿な嫌がらせをするわけじゃないだろうな!?」

 

「いやいや、そんな嫌がらせはしないって。君のところのアザゼルくんに送りつけるだけだって」

 

「アウトォォォォォ!」

 

 

~そのころのアザゼルくん~

 

 

「総と………監督!」

 

「おいおい、総督はシェムハザだぜ? そろそろなれろよ。で、どうした?」

 

「アザゼルさま宛に荷物が届いています」

 

「俺宛? なんだ、こりゃ………ビデオテープ? いったい誰から………」

 

「中をご覧になられますか?」

 

「そうだな。とりあえず見てみるのが手っ取り早いかもしれん」

 

アザゼルはビデオテープをデッキに入れて、再生ボタンを押した―――――。

 

 

~そのころのアザゼルくん、終~

 

 

「世の中で一番見せてはいけない人に送ったなぁぁぁぁぁっ!」

 

俺の絶叫がエデンの園に響き渡った!

 

だって、そうじゃん!

アザゼル先生に送りつけるとか、確信犯も良いところだよ!

 

「うん! アザゼルくんの暴露癖に期待だね☆」

 

「ええ、全く! アザゼルくんプロデュースのおっぱいドラゴンでどう活躍するか見物だわ! 新商品だって出せちゃう!」

 

「「ねー」」

 

意気投合するアセムとイグニス!

 

こいつらバカだ!

鬼畜だ!

 

つーか、なんでイグニスがそっち側にいるんだよ!?

 

新商品とか開発されそうで怖いわ!

あの人ならやりかねん!

 

「ちなみにおっぱいドラゴンのグッズは全部持ってるよ☆」

 

アセムがどこからか缶バッチやら帽子といったおっぱいドラゴングッズを出してきた!

 

「買ったの!?」

 

「もちろん! 手に入れるの苦労したよー」

 

「なんで集めてんの!?」

 

「趣味! というより、おっぱいドラゴン面白すぎでしょ、あれ。フツーにファンしてるよ、僕達」

 

くっ………こいつもおっぱいドラゴンファンだったのか!

自由すぎる!

 

イグニスといい、アセムといい、うちの師匠といい、アスト・アーデの神さまって自由すぎじゃない!?

 

ん………ちょっと待て。

 

こいつ、今――――。

 

「僕………()?」

 

俺がそう問うとアセムは「あー」と思い出したように答えた。

 

「うちのベルちゃんも毎週見てるよ? 録画もしてるし。他の三人は特に見ているわけじゃないかなー。ラズルは格闘技見てるし、ヴァルスはアニメ、ヴィーカはドラマ見てるかな。あ、でも、基本的にはベルにテレビ譲ってるね」

 

「………そっか」

 

今、俺は心底安堵した。

 

良かった…………ラズルとかヴァルスとかじゃなくて良かった。

 

ベルは見た目………というか、中身も子供みたいなもんだから、まだ………ね?

 

って、基本的にテレビはベルですかそうですか。

どこまでもアットホームな奴らめ。

 

「ちなみにベルとヴァルスは一緒にアニメ見てることも多々」

 

「聞いてないぞ!?」

 

『おまえらそろそろ戦えよ!』

 

ドライグのツッコミが炸裂した。

 

 

 

 

気を取り直して対峙する俺とアセム。

 

俺は現段階における最強形態。

アセムは今まで通りの少年の姿。

 

………不気味で濃密なオーラを放ってやがる。

 

あれだけ強力な下僕を生み出し、更には聖書の神の力にまで介入できる。

さっきは領域(ゾーン)に入っていた俺が知覚出来ないほどの動きを見せた。

 

まるで底が見えない。

 

ハッキリ言って、アセムの力は未知数。

 

だからこそ、

 

「端から全力………フルパワーでいかせてもらうぞ!」

 

天翼の翼からフェザービットが勢いよく飛び出していく。

 

それと同時に俺もアセムめがけて飛び出していった!

 

能力も力量も不明。

そんなやつに真っ向勝負なんてするべきじゃない。

 

だから、俺は気の残像を生み出しながらアセムの撹乱に出た。

いくつもの残像と共にアセムへと迫る!

 

それでもアセムは笑みを浮かべたまま。

 

「その余裕面に一発叩き込む!」

 

俺はアセムとの間合いを摘めると、そのまま拳を放つ!

周囲の大気を巻き込んで打ち出される嵐のような一撃!

更には滅びの魔力をも纏っているから強力だ!

 

「アハッ♪ 怖い怖い♪」

 

アセムは笑みを浮かべたまま後方に下がる。

 

俺はそれを追いかけていく。

 

「全然怖いって顔じゃねぇだろ! 余裕こきやがって!」

 

「いんや~怖いよ? 君の魂の炎がね♪ 触れれば火傷しそうなほど熱く燃えてるじゃん」

 

「それ、攻撃自体は怖くねぇってことだろ!」

 

「うん☆」

 

ブイサイン送ってきやがる!

マジで余裕か、この野郎!

 

だけど、こいつ、俺のスピードに余裕で着いてきているのは確かだ。

 

間合いを詰めて拳を繰り出そうとも、のらりくらりかわされてしまう。

 

なら―――――

 

「手数を増やす!」

 

射出したフェザービットをアセムを囲むように配置。

全砲門から一斉に砲撃を放つ!

 

縦横無尽に動き回る八つのビット。

あらゆる角度から繰り出される砲撃と斬撃がアセムを攻め立てる。

 

………が、アセムは僅かな動きだけでそれら全てを回避していく!

身のこなし良すぎるだろ!

 

しかも、こいつの動き………

 

「おまえ、その体捌きは!」

 

「あ、気づいた? 君の動きだよ~♪ 凄いでしょ?」  

 

「人の動きパクりやがったな!?」

 

「何言ってんのさ。武術の伝承は模倣から始まるものでしょ」

 

「そりゃそうか!」

 

アセムのその意見には同意せざるをえない!

 

だけど、こいつのは模倣どころじゃない。

明らかに俺の動きを更に洗練させてやがる!

 

手を出しているのは俺だけで、アセムは体捌きだけでありとあらゆる攻撃を捌いてやがる。

 

悔しいが、近接戦でもこいつは強い………!

 

ドライグ、あれをやる!

ビットの制御は任せるぞ!

 

『ほう、あれか。そういえば、リアス・グレモリーから指導を受けていたな』

 

ああ!

リアスのあの技はえげつないからな!

 

俺はビットの制御を全てドライグに渡すと、手元に滅びの魔力をチャージし始める。

 

俺はイグニスが発案した力の理論―――――T(ツイン)O(おっぱい)S(システム)を体現した、その副次的効果でリアスの滅びを扱えるようになった。

 

それでもリアスのように滅びの魔力を扱える訳じゃない。

まぁ、元々俺は魔力の才能は皆無だったし、リアスは何年も滅びの魔力を使ってきたんだ。

それは当然のこと。

 

魔力操作も滅びの力もリアスの方がずっと上。

 

リアスの技を普通に使おうとすれば、時間がかかるわ、威力は低いわで使い物にならないだろう。

 

だがな、俺は赤龍帝だ。

 

「強引に上げりゃ、いけんだろ!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

『Transfer!!』

 

増大した力を手元の滅びの魔力に譲渡!

 

すると、俺が作り出した滅びの球体は巨大に、より濃密な滅びのオーラを放ち始めた!

 

俺は滅びの球体を殴り付ける!

 

「リアス! 君の技を借りるぜ! ――――消滅の魔星(イクスティングイッシュ・スター)ァァッ!」

 

放たれる滅びの塊は強力な吸引力で辺りを巻き込みながらアセムへと迫る!

 

この技は普通の攻撃よりスピードが遅いため、避けられる可能性が大きい。

 

「ドライグ!」

 

『任せろ!』

 

五基のビットがピラミット状のフィールドを形成して、アセムと滅びの球体を内側に閉じ込める!

逃げ道はない!

 

球体の内部で赤と黒の魔力のオーラが渦巻いていくと、アセムを取り込もうと、更に吸引力を上げていく。

 

アセムの体が球体に引き寄せられていく。

 

「へぇ、紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)の必殺技まで使えるとは驚きだねー。このままいけば、僕はこれに取り込まれて消滅するのかな? まぁ、でも―――――」

 

アセムは右手にオーラを纏わせ、横凪ぎに払い――――――

 

 

バァンッ!

 

 

弾ける音と共に滅びの球体が消し飛ばされた!

ビットのバリアーも吹き飛んでやがる!

 

あの挙動だけで、消し去ったというのか!?

 

「チートかよ………」

 

「いやいや、君についている原初の女神さまほどではないよ。それに今の君でも十分に強いと言える。ただ、僕の方が君より強いだけさ」

 

アセムはそう言うと―――――俺の眼前まで距離を詰めてきた。

 

それはあまりに一瞬のことで、

 

「さぁ、次は僕の番かな?」

 

アセムの右手に黒いオーラが集まり、長い剣を作り出した!

黒いオーラで形成された剣が俺の首目掛けて振るわれる!

 

「アハッ♪ かわすねぇ!」

 

「このやろ………!」

 

俺は上体を反らしてギリギリのところで回避。

それと同時にビットを二つ、ソードモードに切り換えて、柄を握った。

赤いオーラの刃が形成される。

 

アセムが振るう一撃を受け止めながら、もう一方で仕掛けていく。

 

重さは対して無い。

だが、速い。

刀身が見えないほどの速さで剣を振るってきやがる!

 

しかも、最悪なことにアセムはまだまだ本気を出していない。

 

「ほらほら防戦ばっかりじゃ、僕には勝てないよ?」

 

「そうだな。それじゃあ―――――」

 

 

バチッ バチチチッ

 

 

鎧の各所から白雷が迸る。

 

それを刀身に乗せて―――――

 

「痺れてろ!」

 

全力で振り下ろす!

 

凄まじい勢いで弾ける白い稲妻!

雷撃が辺り一帯丸ごと覆った!

 

雷が落ちた場所は丸焦げになり、黒い煙が上がる。

 

アセムの姿はない。

 

あいつは―――――

 

「上かっ!」

 

上に気配を感じた俺は空を見上げる。

 

しかし、そこにもアセムの姿はなかった。

 

すると、

 

「残念♪ 後ろだよ~」

 

「っ!?」

 

俺は背後を振り返ると同時に――――――

 

「ガッ………ハッ………!」

 

肩から腹にかけて大きく斬り裂かれた。

 

砕かれた鎧と赤い鮮血が飛び散るのが目に映る。

 

俺は一旦後方に大きく跳んで、その場に膝をつく。

 

「ちぃっ……速すぎんだろ………!」

 

傷口から流れる血が草花を赤く染めていく。

 

呼吸をすると胸に激痛が走る。

こりゃ、骨まで達してるな。

 

俺は自分の体の状態を把握しながら、アセムに視線を向ける。

 

奴は剣を八の字に振り回して、肩に当てた。

 

「思ったより出血が少ないね。僕の予想としてはもう少し深く斬れると思ったんだけど………。あっ、そっか。君が使う技には気で体の表面を硬化させるものがあったね。うんうん、あの一瞬でそんなことが出来るなんて、流石だよ」

 

面白そうに、興味深そうにこちらを見てくる。

 

………流石なのはどっちだ。

斬り裂かれる瞬間、硬気功で防いだことを看破しやがった。

 

いや、防げたとはいえないか。

硬気功の上からバッサリいかれたからな。

 

それでも、ギリギリ発動が間に合ったお陰で少しではあるけど、ダメージは減らせた。

 

量子化は………あのタイミングでも出来ないことはなかったけど、あれをしてしまうと一気にスタミナと精神力を持っていかれる。

後のことを考えると今使うべきではない。

あれは本当にここぞというときだ。

 

アセムが訊いてくる。

 

「さて、どうする? このまま続けるかい? この場で君を倒してしまうのは簡単だけど、それは面白くない。君の先を見たいからね」

 

「………ずっと気になってたことがある」

 

「なんだい?」

 

「おまえ、俺に何を期待しているんだ? おまえの目は俺を侮っているわけでも、見下しているわけでもない。何かを待っているという目だ」

 

以前、アセムはずっと俺のことを見ていたと言った。

俺がアスト・アーデに飛ばされてから、今に至るまでずっと。

 

俺を殺したいなら、いつでも出来るはず。

仮に俺を異世界侵略の手駒にしたいなら、どこかで捕まえて洗脳だって出来るはずだろう。

 

アセムは空いている掌をじっと見る。

何度か開いたり閉じたりし始めた。

 

「期待もあり、嫉妬もある。君は僕がなれなかったものになった。折れなかった。先に進んだ。―――――君は僕にとって可能性そのものといったところかな」

 

「それってどういう………」

 

「いや、何でもないよ。今、君に話したところでどうなるわけでもないしね。それに今、君がすべきなのはこの状況をどうするかだろう? 何か解決策は浮かんだかい?」

 

そうだ、こいつの言う通りだ。

 

圧倒的に押されているこの状況。

逃げ出すのも………ありだな。

 

『たが、それは………』

 

ああ、このままだと、こいつは全勢力の神々にしかけるらしいからな。

それはやらせるわけにはいかんだろ。

 

本当なら、一旦引いて体勢を整えるべきなんだろうけど………そうも言ってられないな。

 

俺は鎧を修復すると、ゆっくり立ち上がる。

 

実力差は明らか。

このままやっても勝てる気がしない。

 

ならば、多少………かなり強引な手に出るか。

 

「おや、まだやる気かな?」

 

「悪いな、俺は――――諦めが悪いんだ」

 

俺は意識を己の内側に集中させる。

体内の気を高速で循環と圧縮を繰り返していく。

 

――――やるか。

 

『お、おい、相棒! まさかと思うがあれをやる気なのか!?』

 

まぁな。

ここで逃がすわけにはいかないからな。

 

『だが、調整が済んでいないのだぞ!? しかも、元々不安定なこの形態で使うなど………!』

 

「悪いな、ドライグ! しのごの言ってる暇はねぇんだ! プロモーション『女王』! からの昇格強化!」

 

悪魔の駒が『女王』に切り替わり、EXAの力と同調する!

更に、限界まで高めた気とも交わった!

 

鎧の各部に強く赤い光の筋が走ったと思うと、全身が紅蓮に輝いていく!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!!』

 

全身の宝玉からけたたましい音声が発せられると、その宝玉の容量限界まで力がチャージされていった!

 

『Full Charge!!』

 

『Full Boost!!』

 

 

そして――――――

 

 

『Trans-am Drive!!!!』

 

その音声が響いた瞬間、このエデンの園全体を照らすほどの光が放たれる!

 

翼は二つから四つに、肩や足のブースターは大きく展開し、赤い粒子を大量に撒き散らしていく!

 

「さぁ、続きといこうか! アセム!」

 

 




切り札登場!(というよりやってみたかっただけ!)
昇格強化『女王』!

不安定な力に調整が間に合っていない力の組み合わせ!
さぁ、どうなる!



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17話 償いの道 

とうとう280話まで来たか………!


「へぇ………まだそんな切り札を持っていたんだね。これは少し………いや、かなり驚いたよ」

 

訂正を入れながら、笑みを見せるアセム。

 

―――――昇格強化『女王』。

 

昇格強化は兵士の駒が昇格した際、俺が持つ三形態に合うように独自の調整を行ったもの。

通常の昇格よりもより力を引き出す代物だ。

 

天武は『戦車』。

ブースターが大型化して、拳の威力、手数が増える。

 

天撃は『僧侶』。

キャノン砲が増設され、砲撃の威力と連射性が上がる。

 

天翼は『騎士』。

翼が一対から二対になり、その分、フェザービットの数も増える。

機動力が上がるほか、ビットにも『騎士』のスピードが付与される。

 

『女王』はこのEXA形態の力を一気に底上げできる。

 

EXA形態は天武、天撃、天翼の三形態の力を併せ持つ。

そして、『女王』は『戦車』『僧侶』『騎士』の能力を併せ持つ最強の駒。

 

この二つの力が重なったときの出力は桁が違う。

 

赤い光を放ちながら、俺はアセムを睨む。

 

「第二ラウンドだ。――――――いくぞ」

 

俺は地面を蹴って、飛び出す!

動いた衝撃で辺り一帯が吹き飛んだ!

 

「っ! 速いっ!」

 

かつてない初速、加速にアセムも初めて驚愕の表情となった。

 

アセムが俺を迎え撃とうと構えるが―――――俺は瞬時に背後に回り込む!

 

「後ろだっ!」

 

繰り出す紅蓮の拳!

触れれば燃え付きそうな荒々しいオーラを纏わせた拳がアセムの顔面を捉える!

 

初めてアセムに俺の攻撃がヒットした!

 

アセムは地面に叩きつけられて、激しくバウンド。

遠くの方まで転がっていく。

 

「くっ! この速さと力は!」

 

アセムは飛び起きると、空高く飛び上がる。

 

「逃がすかよっ!」

 

俺はフェザービットを全基展開して、追撃を仕掛ける!

 

EXA形態の鎧にはいくつもの宝玉が埋め込まれているわけだが、現在、その一つ一つに増大した力を圧縮貯蔵している。

 

EXAの余りあるパワーは『女王』に昇格強化した際、一気に増えるわけだが………それでは無駄が多すぎる。

 

そこで、増えすぎた余分なパワーを宝玉に溜め、戦闘時に爆発させることで、かつてない超パワーを発揮させているんだ。

 

一時的ではあるが、今の俺の力は―――――

 

「今の俺の力はさっきの三倍だ! そう簡単にやれると思うなよ!」

 

「君はいつも新しい力を出してくるね!」

 

「戦う度に強い奴らが出てくるんだ! 何かしら新技なり強化なり作らねぇとこっちがやられるんだよ!」

 

「そうだとしても、それを毎回実現する君は流石としか言えないよ。それでこそだけどね!」

 

アセムは横、下、上とあらゆる角度から迫るビットを破壊しながらも、俺の攻撃をかわしていく!

 

こいつ、これだけのスピード、これだけの手数で攻めてもそれを避けきるかよ!

マジでどんだけだ!?

 

だけど、これだけの手数で攻めていれば、いつかは隙が生まれる。

そこを狙わせてもらうぜ!

 

俺は籠手、腰、翼のキャノン砲を全て展開。

全砲門をアセムへと向ける!

 

圧縮したエネルギーを前面に解放。

砲門に凄まじいエネルギーが集まっていく!

 

「くらいやがれぇぇぇぇぇ!」

 

『EXA Full Blast!!!!』

 

解き放たれる赤き光の奔流!

砲門の一つ一つから極大のエネルギーが放たれ、アセムを呑み込もうと突き進む!

 

「うわっ!?」

 

迫り来る砲撃をアセムは横に飛んで間一髪で避けやがった!

あのタイミングで避けるのかよ!?

 

俺はアセムの回避能力の高さに舌を巻きつつも、ようやく出来た隙を逃さない!

 

砲撃を止めて、アセムの頭上に飛んだ!

 

手にはアスカロン!

 

アスカロンに赤いオーラを乗せてアセム目掛けて振り下ろす!

 

完全に捉えた!

 

刃がアセムに届く――――――その時だった。

 

『Burst』

 

それは鳴ってはならない音声。

倍加がキャパシティを越え、籠手の機能が停止したことを表している。

 

鎧が解除され、全身から力が抜けていき、俺は地面に落ちた。

 

…………。

 

…………。

 

…………は!?

 

…………え?

ちょ…………なんで!?

 

俺、まだいけるぞ!?

全然戦えるんですけど!?

 

ちょ、あの………ドライグさん!?

どうなってんの!?

 

すると、ドライグの呆れたように言った。

 

『はぁ………。今のは相棒が限界を迎えたわけではない。神器の方がもたなかったのだ』

 

マジでか!?

俺じゃなくて神器の方が限界来ちゃったの!?

 

『だから止めろと言っただろう。不安定な力に調整が済んでいない力を掛け合わせるなど無理にも程がある。………危うく神器が壊れるところだったぞ』

 

………ロスウォードと戦った時はそんな感じじゃなかったじゃないか。

 

まぁ、後でしばらくの間、使えなくなったけどさ。

 

『あの時は僅かな時間であったこと、それにシリウスとイグニスの協力もあってまだ安定していたからな。今回は力そのものが不安定過ぎたのだ』

 

………さ、最悪だぁ………。

 

このタイミングで神器が逝きましたか、そうですか………。

 

『いや、逝ったわけではないぞ? 機能が停止しただけだ』

 

どのみち最悪だよ!

 

俺、絶賛バトル中なんですけど!?

あと一歩でアセムの野郎に強烈な一撃ぶちこめたんだぞ!?

 

地面に落ちて動けなくなっていると、アセムが俺の横に降り立った。

 

「いや~危なかった危なかった♪ さっきのを貰っていたら、かなりの傷を負っただろうね」

 

そう言うとアセムは手に握っていた剣を消した。

 

俺は地面に大の字になりながら、アセムに問う。

 

「………トドメをささないのか?」

 

「してほしいの?」

 

「いや。ただ、このまま何もしないのかと思ってな。ま、その時は全力で抵抗するけど。窮鼠猫を噛む的な感じで」

 

「ん~。まぁ、僕と君は敵だしねぇ。普通ならここで痛めつけたりするんだろうね。リゼ爺とかしそうだし」

 

「あー………。あいつは絶対にするな」

 

リゼヴィムとか、相手を一方的に痛めつけたりするの好きそうだよなぁ。

 

あいつ、性格悪そうだし。

いや、中身は単なるガキか。

 

「君はまだまだ伸びる。僕は君の先を見たい。ならば、ここで君を殺してしまうのは勿体ないだろう? 時が来るまで待つさ」

 

「………それで、俺がおまえを倒すことになってもか?」

 

「アハッ♪ そうなればいいけどねぇ。さっきの君を見ていると期待が膨らむかな♪ ま、何度でも挑んでくるがいいさ」

 

アセムは楽しげに笑んだ。

 

………相変わらず、こいつは読めないな。

 

まさか、こいつもロスウォードと同じ………?

いや、でも、あいつとこいつは違うだろう?

 

アセムが言う。

 

「もしかして、僕がロスウォードと同じように死にたがってると思ってる?」

 

「一瞬、それも考えたけど違うだろ?」

 

「まぁね。その辺りはその時が来たら教えてあげるよ♪ じゃあ、僕は帰るよ。せっかく『システム』の中身を見せてもらったわけだし、早速創らないと♪」

 

………創る?

 

いったい何を―――――。

 

アセムの企みを考えていると、奴はくるりと体を反転させてテクテク歩いていった。

 

「あ、おい! 待ちやがれ!」

 

「待たない~。そろそろ、おっぱいドラゴンの放送時間だから~。今週はスペシャルだから見逃せないんだよね~。一応、ブルーレイに録画してるけど~」

 

こいつ、それがあるから早く帰ろうとしてたの!?

 

つーか、ブルーレイ!?

買ったの!?

買ったのか!?

 

あ、マジで帰りやがった!?

 

「なんで、俺の敵は変人が多いんだぁぁぁぁぁぁ!?」

 

『それは相棒が変人だからだろう』

 

その意見には反論できねぇよ!

くそったれめ!

 

はぁ………やれやれだ。

 

俺は痺れる体に鞭打って立ち上がろうとすると、ズキンと胸の奥が激しく痛み、つい膝をついてしまった。

 

アセムに斬り裂かれた傷口から大量の血が垂れ、足元の花を赤く染める。

 

「ぐっ………かなり響いてんな………。だけど、ここで休んでもいられねぇか」

 

―――――イリナ、今行く。

 

 

 

 

 

[イリナ side]

 

 

私、紫藤イリナはイッセーくんと別れた後、ゼノヴィア、アーシアさんと共にエデンの園を駆けた。

 

初めて見た…………。

あれが異世界アスト・アーデの悪神。

イッセーくんを狙っているという強大な敵。

 

見た目はどこにでもいるような普通の子供なのに身に纏うオーラは言い知れぬ不気味さを持っていて………。

 

ゼノヴィアが言う。

 

「イリナ、考えていることは分かるが今は父君を助けることが先決だ。そのためにリアス部長もイッセーも残ってくれたんだからな」

 

「ええ、分かってるわ。私はパパを助けて見せる!」

 

しばらく走り、もうすぐ第五天へと通じる門が見えてきそうになった時だった。

 

私の視界に二つの影が見える。

 

一つは禍々しい波動を放つ剣を有した、あの八重垣という男性。

 

そしてもう一つは―――――

 

「パパ!?」

 

「第五天から連れ出したというのか!」

 

パパは第五天で解毒の最終段階に入っていたはず!

 

あの人は解毒中のパパを無理矢理連れてきたというの!?

 

そんな…………!

 

八重垣という男性がパパの髪を乱暴に掴んだ。

 

「紫藤さん、僕は思っていたんですよ。この楽園と言われた地で復讐を完遂しようとね。信徒にとって極限の願いであるエデンでの殉職。僕と彼女を裁いたあなたには過ぎるほどでしょうか」

 

パパは毒による苦しみに耐えながら、彼に言う。

 

「私は………君には私を殺す理由がある。私はそれだけのことをしたんだ。殺されて当然の身だ」

 

「パパ!? なんでそんなこと―――――」

 

私が叫びかけた時だった。

 

パパは私の顔を見た後、八重垣さんに視線を戻す。

 

「………私は生きる。生きて罪を償う」

 

その言葉に八重垣さんが激昂する。

 

「何を言っている………! あなたは! 僕とクレーリアを! 生きて罪を償うなど、そんなことで僕達の怒りがおさまると思っているのか!」

 

「………そんなことは思っていない。だけどね、私はある男の子に言われたんだ。―――――生きて罪を償えと。贖罪の方法なんて分からない。どうすれば、許してもらえるか。許してもらえる方法なんて無いかもしれない。それでも、生きて自分の罪と向かい合う。それが、こうして生きている自分に唯一出来ることだと」

 

―――――っ!

 

それは………その言葉は………。

 

パパがイッセーくんと病室で二人になった後、私は部屋の前でイッセーくんを待っていた。

イッセーくんに話したいことがあったから。

 

その時、ふいに病室から聞こえてきたのがその言葉だった。

 

私はイッセーくんが私のことを想ってくれていたことを嬉しく思った。

だけど、同時になんて厳しいことを言うんだろうとも思った。

 

死んで償うのではなく、生きて罪と向かい合う。

答えなんて分からない。

もしかしたら無いかもしれない。

そんな残酷な旅をイッセーくんはパパにさせようとしていたのだから。

 

でも、パパはその覚悟を決めていた。

人生をかけて罪を償う方法を探すと。

 

「………っ! 僕は………僕達は愛し合っていたんだ! 僕は彼女を愛していた! 彼女も愛してくれた! 僕達は種族が違っていても分かり合えた! 愛し合えた! それなのに………あなた達は………! ぬ………うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!」

 

………怒りと悲しみの籠った叫び。

 

彼の想いに呼応してか、邪龍と一体になっていた天叢雲剣から八つのドラゴンの頭が噴き出してきた!

 

アーシアさんが叫ぶ。

 

「以前に見たときよりも大きくなってます!」

 

「ああ。だが、前よりも不安定になっていないか?」

 

ゼノヴィアにそう言われて、改めて剣から現れた邪龍を見てみる。

 

前に戦った時よりも大きく、それでいて禍々しいオーラを放ってる。

でも、確かにどこか揺らぎがあるというか………。

 

力が定まっていないような気がする。

 

ゼノヴィアが続ける。

 

「………あの男の想いに迷いが………? イリナの父君の覚悟に推された………?」

 

パパの目には強い覚悟が宿って見えた。

私でも分かるくらいに強い意思が、パパの表情から見てとれる。

 

少し前のパパなら、彼の復讐を受け入れたかもしれない。

 

今でもどこか弱々しく感じる。

でも、少し前のパパとは明らかに違う。

この先も生きて、生き抜いて、一生をかけて罪を償うという覚悟―――――灯が宿っていた。

 

その灯をつけたのは――――――イッセーくん。

 

気づいたら私は白い翼を羽ばたかせて、一人突貫していた。

パパを助けたい、守りたいという一心で。

 

八岐大蛇の頭の一つが大きな口を開けてパパを呑み込もうとする。

 

だけど、それは後方から飛んできた聖なるオーラによって完全に吹き飛ばされる。

 

「行け、イリナ! 援護するぞ!」

 

「私もサポートします!」

 

ゼノヴィアがデュランダルを構えてそう言ってくれる!

アーシアさんもファーブニルを召喚して私を送ってくれる!

 

私は二人のサポートを受けてパパの救出に成功!

パパを連れて、邪龍から距離を取る。

 

「パパ、大丈夫?」

 

私は直ぐにパパの容態を確認しながら、無事を確かめる。

 

僅かに残る毒の影響か、汗をかいていて顔色が悪い。

それに所々にかすり傷がある。

 

すると、パパは私の肩を掴み、体を震わせて言った。

 

「イリナちゃん………。お願いだ。本当ならパパが向き合わなければいけないこと。だけど、今の私には彼を止める術がない。だから………お願いだ。彼を………八重垣くんを止めてあげてくれ………!」

 

イッセーくんの言葉が脳裏に過る。

 

第四天の門を潜っている時、イッセーくんは私にこう言った。

 

 

―――――この先にいるのは強敵だ。おそらく、俺はそこに残ることになる。

 

―――――その時はイリナ、トウジさんはおまえが助けるんだ。自分の手で大切な人を守るんだ。

 

 

分かっているわ、イッセーくん。

 

大切な家族、大好きなパパ。

 

私は―――――パパを守り抜いてみせる!

 

「任せて、パパ」

 

私はそう言うとオートクレールを構えた。

 

「お願いオートクレール。私に力を貸して。パパを守る力を。皆の助けとなれる力を、そして――――彼を止める力を!」

 

刹那、オートクレールから目映い光が放たれた!

聖なるオーラがどんどん膨らんでいく!

 

「イリナ、終わらせるぞ! 私達であの男を止める! デュランダル!」

 

ゼノヴィアの声に応えるようにデュランダルも極大の聖なるオーラを解き放つ!

 

私のオートクレールとゼノヴィアのデュランダルが共鳴を起こし、一回りも二回りも大きくなっていく!

次第に二つの聖剣の光は辺り一帯を照らす巨大な光の柱になった!

 

私とゼノヴィアは黄金の輝きを身に纏って駆けていく!

 

「八重垣さん! あなたは………! あなたの想いは間違っていないわ!」

 

「だが、こんなことをしていては悲しみが繰り返されるだけだ! だからこそ、私達はおまえを止める!」

 

襲いくる八岐大蛇の頭を斬り裂きながら、私達は八重垣さんに迫る!

 

「………主よ。イリナさんに、ゼノヴィアさんに………そして、あの方に………! どうか………! どうか…………!」

 

アーシアさんが主に祈りを捧げていた。

 

すると、アーシアさんの横にいたファーブニルの瞳が輝き―――――私達に黄金のオーラを送ってくれた。

 

黄金の龍王の加護というべきなのか、それは私達三人を守るかのように包み込んだ。

きっと、ファーブニルも私達の想いに応えてくれたのね。

 

私とゼノヴィアは刀身に黄金のオーラを纏わせて突き進む。

 

荒れ狂う邪龍を全て消し去り、八重垣さんの眼前に立つ。

 

そして―――――私達は聖なる波動を放った。

 

彼は何の抵抗も見せないまま、呑み込まれていく――――。

 

その時、彼を優しく抱き寄せる女性が見えた気がした。

 

 

[イリナ side out]

 



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18話 悪意、再び  

アセムとの戦闘を終えた後、第五天に繋がる門を目指した俺。

 

門が見えかけた時、複数の影を見つけた。

 

イリナとアーシアとゼノヴィアの教会トリオにトウジさん。

 

そして―――――

 

「終わったか………」

 

地に倒れ伏す八重垣さんの姿があった。

傍らには彼が使っていた天叢雲剣。

 

『八岐大蛇の反応が消えているな』

 

ドライグの言う通り、あれだけ放っていた邪気が完全に消えている。

邪龍の気配もない。

 

俺の視界に神々しい輝きを放つ二振りの聖剣が映った。

 

イリナのオートクレールとゼノヴィアのデュランダルが聖なるオーラを纏っていた。

 

普通、聖剣がこれだけの力を放っていると肌を刺すような痛みがあるはずなんだが、今は心地よさを感じる。

心が落ち着く。

 

イグニスが言う。

 

『オートクレールは斬った相手の心まで清めるんでしょ? その効果かもしれないわね』

 

なるほど。

 

イリナの持つオートクレールは相手を清めるという聖剣。

そのオーラに触れた天叢雲剣は綺麗に浄化されたということか。

 

俺は痛む胸の傷を抑えながらイリナ達の方へと歩み寄る。

 

すると、俺を見たアーシアが悲鳴をあげた。

 

「その傷は!? 大丈夫ですか、イッセーさん!?」

 

「ああ………さっきやられてな。悪いけど、回復頼める?」

 

「はい! すぐに治療します!」

 

アーシアはそう言うと俺の胸に手をかざして、淡い緑色のオーラを傷口に当てた。

 

骨まで達していた傷もアーシアの治癒にかかれば一瞬だ。

治療開始してから数秒もせずに傷は完璧に塞がった。

 

「ありがとな、アーシア」

 

俺はアーシアにお礼を言った後、イリナに視線を向ける。

 

「イッセーくん………」

 

「親父さんは助けられたようだな」

 

「うん………」

 

イリナは憂いに満ちた表情で視線を移す。

 

その視線の先には仰向きに倒れ、天を仰ぐ八重垣さんと、その隣で膝をついて涙を流すトウジさんの姿だった。

 

「八重垣くん………私は………私がしたことは何度謝ったとしても許されることじゃない。さっき私は生きて償うと言った。それは君からすれば甘いことを言っているようにしか思えないかもしれない。………それでも、私は………!」

 

大粒の涙を流して言葉を紡いでいくトウジさん。

八重垣さんは黙ったまま、天を見つめたままだ。

 

俺は八重垣さんの隣に立つとその場に片膝をついた。

 

八重垣さんの視線が俺に移る。

 

「………赤龍帝か」

 

俺は静かに頷く。

 

小さく息を吐いた後、俺は口を開いた。

 

「………昔、俺も大切な人を失ったし、逆に奪う行為もしてきた。俺も咎人だ。だから、あなたの気持ちもトウジさんの気持ちも分かるつもりだ」

 

病室で俺はトウジさんに罪と向き合えと言った。

でも、それは自分自身に言い聞かせた言葉でもあった。

 

どんな事情があったにせよ、俺もトウジさんも罪を犯した。

トウジさんは八重垣さんを、俺は戦場で多くの人を傷つけたし、殺してきた。

 

吸血鬼の町で初めてアセムと出会った時、あいつは俺に殺人者と言った。

あれは全くもってその通り。

 

「俺やトウジさんが犯した罪は多分、消えることはないと思う。それでも、俺達はそれを背負っていくと決めた。――――俺達にとって簡単に死を選ぶことは逃げなんだよ」

 

償うために死ぬ?

 

確かに死ぬことは怖い。

死ぬのは嫌だ。

 

でも、死は一瞬だ。

果たして、それで犯した過ちを償えるのだろうか。

 

 

――――死ねばそこで終わりだ。だが、それで世界が変わるのか? 違うだろ。おまえが死んでも世界は続いていく。自分は何のために戦っている? 何のために剣を取った? 

 

 

――――償うつもりがあるのなら、死を受け入れるのではなく、死ぬ気で償え。

 

 

――――生きて、生きて、生き抜いて、自分に何が出来るかを考えろ。そして、その罪を心に刻め。逃れようとするな。真正面から受け止めろ。

 

 

昔、モーリスのおっさんが騎士団の人達に話していたことだ。

騎士団の若い人達は戦場で人を殺めた結果、相手の命を絶ったという罪悪感で心が押し潰されそうになっている人もいたんだ。

あのおっさんはそんな人達によく言い聞かせていた。

 

当時、力の無かった俺は近くで聞いていただけだったけど、今ならこの言葉の本当の意味が分かる。

 

だから、俺は死ごとき(・・・)で償えるなんて思っていない。

 

それからもう一つ。

俺は八重垣さんに言いたいことがあった。

 

「八重垣さん………。あなたは確かに教会も大王派の悪魔を恨んでた。だけど、一番許せないのはクレーリアさんを守れなかった自分じゃないのか?」

 

こんな問い、下手すれば激昂されることだってある。

 

でも、八重垣さんは静かに耳を傾けてくれていた。

 

そして、ゆっくり口を開いた。

 

「………君の………言う通りだよ。………僕達を引き裂いた教会が、大王派の悪魔が憎い。今でも恨みはある」

 

「ええ」

 

「でも………あの時、僕が彼女を守れさえしていれば、こんなことにはなっていなかったと思う。クレーリアさえ守ることが出来ていれば、僕は復讐に剣を取ることもなかっただろう」

 

八重垣さんはそう漏らすと、どこまでも白い天をじっと見つめた。

 

過去の自分を思い出しているんだろう。

 

恨みもある。

でも、それ以上に愛する人を守れなかった後悔。

今考えてもどうしようもないことを頭の中で永遠と問答し続ける。

 

――――あの時、自分はどうすればよかったのか、と。

 

今の八重垣さんの顔はそんな顔だ。

 

「君に一つ訊きたい」

 

「なんだ?」

 

「君に愛する人はいるかい?」

 

「いるよ」

 

「もしだ。君とその人を引き裂く者が現れたら、君は―――――」

 

「守るさ」

 

俺は八重垣さんがいい終える前に、その問いに答えた。

そんなこと分かりきった、迷う必要のない答えだったから。

 

「全力で守る。次元ねじ曲げても、世界の理を崩してでも守りきるさ」

 

俺を愛してくれている人がいる。

美羽もアリスもリアス達もこんな俺を好きだと言ってくれた。

 

俺も彼女達のことが好きだ。

守ると、この先ずっと一緒だと誓った。

だから、何が来ようとも守りきる。

 

八重垣さんの視線がイリナに向かう。

 

「では、悪魔である君は、そこの天使も助けることができるか?」

 

「できる。今しがた言った通りだ。次元ねじ曲げても世界の理崩してでも守る。イリナだって、俺の大切な人なんだからさ。―――――天使だとか悪魔だとか、そんなもんは関係ない。人は想いさえ通じていれば、分かり合える。理解し合える。大切なのは相手を想う『心』だ」

 

種族の違いなんて些細なこと。

 

想いが通じていれば、分かり合える。

ある意味、それが全てじゃないかな?

 

八重垣さんの目元から―――――涙が流れていた。

 

「………そうだな………その通りだよ。僕達だって――――」

 

俺は八重垣さんに手をさしのべる。

 

「俺達とあなたも分かり合える。もう互いの想いは通じただろう?」

 

「ああ、僕達は―――――」

 

八重垣さんが俺の手を取ろうと身を起こそうとして―――――。

 

俺は即座にアスカロンを籠手から引き抜いた。

 

フルスイングで後ろに振るうと、俺の背後で爆発が起こる。

 

イリナもゼノヴィアもアーシアも何事かと慌てるが――――。

 

「ありゃりゃ? バレちったかよ?」

 

もう聞くだけで不快になる声が俺の耳に届いた。

 

俺は声のした方へ顔を向ける。

そこには、銀髪の中年男性が不思議そうな顔でこちらを見ていた。

 

「あめぇよ。俺の虚を突きたかったら完全に気を消すことだな。――――リゼヴィム」

 

そう、この空気を潰すように現れたのはリゼヴィム・リヴァン・ルシファー!

新生『禍の団』の首領にして、吸血鬼の町に壊滅的な被害をもたらせたクソ野郎だ!

 

「様子見にきたら、美しい復讐の喜劇が、なーんか感動の場面になってたからさ。合いの手を入れてみたんだけどよ」

 

「空気読め、クソジジイ。今のはどう見てもおまえが手出ししていい雰囲気じゃなかっただろうが」

 

「彼は大王派と天界に起こった事件の真相を語る役と天叢雲剣の宿主という役目を立派にやり遂げたんだ。もうお役御免でしょ。それにぃ」

 

リゼヴィムは八重垣さんに指を向ける。

 

「その人、もともと死人だぞ? 殺しても問題ないっしょ! うひゃひゃひゃひゃ!」

 

「………」

 

そんな勝手な理由で八重垣さんを殺そうとしたのか。

聖杯の力で甦らせたと思えば、それを今度は簡単に消そうとする。

 

どこまでも命を弄びやがる………!

 

「吸血鬼の町、冥界の学校、そして今回もそうだ。おまえは何のためにこんなことをする………?」

 

ヴァレリーも冥界の学校に来ていた子供達もただ幸せになりたいと願っていた。

そのために動いていた。

 

それをこいつは全て台無しにしようとする。

 

リゼヴィムは平然と答えた。

 

「んー、そりゃ、おじさんが楽しむだけだよぉ」

 

「………」

 

ヴァーリ、おまえの気持ちが良く分かった。

 

………心の底から殺したいと、消したいと思えるな。

 

こんなやつなら、誰でも殺したいと思うよな………!

 

俺も目の前のクソ野郎は今すぐに消したいよ………!

 

すると、

 

「………なんで、僕を守ったんだ?」

 

後ろにいた八重垣さんがそう声を漏らした。

 

「彼の言う通り、僕は一度死んでいる。聖杯の力を使ってあの世から戻ってきた死人だ。そんな僕を君は………」

 

俺はその問いに答えた。

 

「あなたは今、生きてるじゃないか」

 

「―――――っ!」

 

この言葉に目を見開く八重垣さん。

 

俺は言葉を続ける。

 

「聖杯の力で甦ったとしても、今は生きて、こうして俺と話している。守る理由はそれだけで十分だ」

 

そう言って、俺は前に出る。

全身から赤いオーラを放って、リゼヴィムの前に立った。

 

ドライグ、神器の具合はどうだ?

 

『ギリギリといったところか。禁手は何とかできる。第二、第三階層も使える。だが、EXAと昇格強化は無理だ』

 

上等だ。

思ってたより調整が早くて助かるよ。

 

それで、例の『透過』はどうなった?

 

『悪いが、間に合わないだろう。神器の調整でそれどころじゃなかったからな。…………だから、トランザムは使うなと言っただろうに………』

 

呆れた口調で言うドライグ。

 

うん、それに関してはマジでゴメン。

心の底から謝るよ。

 

『大体な、最近の相棒は神器の使い方が荒くなってないか!? その度に調整する俺の身にもなれよ!? 今回なんてな結構ハイスピードでの調整だったから大変だったんだぞ!』

 

うぉぉぉぉぉい!

ドライグさんが怒り心頭でいらっしゃるよ!

そんなに大変だったの!?

 

いや、ほんと………すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!

 

心の中で土下座する俺!

 

調整終わるまでトランザムは使いません!

 

………と、『透過』は使えないのか。

 

『透過』――――生前のドライグが持っていた能力の一つ。

相手の能力を無視して攻撃を通せる能力だ。

 

ドライグの話だと、リゼヴィムの神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)ですらすり抜けることが可能だろうとのことだったが………。

間に合わないのでは仕方がない。

 

「んー、赤龍帝くんはおじさんと遊んでほしいのかなぁ? うひゃひゃひゃひゃ! いいぜ、勝負してやんよ!」

 

指をコキコキ鳴らせながら、リゼヴィムが俺の挑戦を受けた。

 

俺は禁手になり―――――鎧を天翼に変えた。

 

翼を広げて、瞬時に奴との距離を詰める。

拳を握り、憎らしいこいつの顔面を――――――。

 

殴る寸前で、奴が俺の鎧に軽く触れた。

 

刹那、俺の体から力が抜けていく。

鎧が一瞬で解除となり、生身の俺となった!

 

「無駄だねぇ。神器で高められた力は一才合切おさばさんには効かないのよ? もう忘れたのかなぁ? んじゃ、ルシファーパンチ! とかどうかな?」

 

ふざけた口調をしながら、奴が俺に拳を放つ。

 

「なんの!」

 

腹に突き刺さる前に俺は膝蹴りで奴の拳を阻止。

後ろに宙返りして、距離を置いた。

 

………なるほど。

 

奴に触れられると、その部位だけでなく、全身が解除されるわけね。

 

奴の能力、神器無効化はよく分かっていないことが多い。

どういう理屈でそんなことが出来るのかは当然、効果範囲すら分からない。

 

前回、俺のアグニを消し去ったことから、ビットを展開してオールレンジで仕掛けても無駄。

直接触れられると無効化される。

 

なら、次に試すことは………。

 

フェザービットを全基展開。

全砲門を奴に触れられると向ける。

 

リゼヴィムが嘲笑うように言う。

 

「んー? さっき言ったこと忘れたのかな? 神器に関係する力は俺には効かねぇって」

 

「…………だろうな!」

 

俺は前に飛び出すと同時にビットから砲撃を放つ!

 

八つの赤いオーラが奴に触れると案の定、霧散した!

 

しかし、俺は消されても消されても何度もビットからの砲撃を繰り返す。

 

その隙に奴との距離を詰めて―――――

 

「とりあえず、一発殴らせろ!」

 

赤いオーラに包まれた拳!

 

触れられたら、鎧は消えて力が抜ける。

そんなことは分かってる。

 

だから、俺は―――――触れられる直前に籠手の部分を消した。

 

そうすると現れるのは自身の気で高められた拳。

 

これは籠手の力は一切使わない攻撃。

奴の能力の対象外だ。

 

「まずは一発!」

 

叫びと共に再び、リゼヴィムの顔面を殴り付ける!

 

しかし、俺の拳は真正面から受け止められた。

 

「一応、ルシファーの息子なんでねぇ。神器無効化なしでも十分強いのよ。神器ないと、君ってザコ悪魔じゃん?」

 

「言ってくれるな。なら、今からそのザコ悪魔に負けるおまえはクソザコ悪魔になるよな!」

 

俺はそこからあらゆる体術で奴を攻め立てる!

拳、蹴りを交ぜた連続攻撃!

 

天翼の鎧でスピードを上げて、当たる直前にその部位を消す。

 

一発一発に練り上げた気を纏っているから、鎧を纏った時よりは劣るけど、かなりの破壊力があるはずだ。

現に攻撃を放った衝撃波が大気を揺らしている。

 

俺の素の実力は最上級悪魔に匹敵すると言われている。

つまり、この攻撃は最上級悪魔による攻撃と同じ。

 

それでも、目の前のクソジジイは、

 

「うひゃひゃひゃひゃ! おじさんの運動には調度いいじゃん!」

 

平然と受け止めていやがる!

 

前魔王ルシファーの息子。

あまりに他者とは違う桁違いの能力を持ち、本当に悪魔なのかさえ疑わしいとされるイレギュラーな存在――――『超越者』の一人。

 

性格はゴミだが、流石に強い!

俺のスピードでついてくるし、攻撃を余裕で受け止めてくる!

 

「だったら!」

 

俺は奴の拳を流し――――――

 

「アスカロン!」

 

『Blade!!』

 

籠手からアスカロンの刃を出す!

 

突如として飛び出した聖剣の刃がリゼヴィムの頬を掠めた!

 

「いってぇ! やりやがったな、このクソガキ!」

 

「ちぃ! 掠めただけか!」

 

その結果に俺は舌打ちする。

 

しかし、聖剣のダメージは僅かながらも通っているようで、リゼヴィムの頬にできた切り傷から煙が上がっていた。

 

『超越者』と称されていても、悪魔は悪魔。

やはり聖なる力には弱いらしい。

 

すると、俺の背後から飛び出してくる影か二つ。

 

「イッセー!」

 

「援護するわ!」

 

ゼノヴィアとイリナも互いに得物を握って飛び込んできた。

 

俺とゼノヴィア、イリナの三人でリゼヴィムに迫る!

 

「はっ!」

 

「これなら!」

 

ゼノヴィアとイリナが斬りかかるが、八重垣さんとの戦闘で相当な力を使ったのか、全快時に比べて動きにキレがない。

 

リゼヴィムは聖剣二振りの攻撃を両手の指で挟んで止めてしまう!

 

「デュランダルにオートクレール! うーん、この二本が同時に振るわれるなんて、懐かすぃ! しかも、エクスカリバーも加味してあってこれは…………いい感じ♪」

 

「そうかい! なら、そこにアスカロンも付け加えるこった!」

 

俺はアスカロンを握りリゼヴィムの頭上から振り下ろす!

 

「はっはー! これでも斬ってなぁ!」

 

リゼヴィムは腕を振るって強引にゼノヴィアとイリナを俺に投げつけてくる!

 

俺はそれまでの動きをキャンセルして、二人をキャッチした。

 

そこに―――――

 

「ほい、ルシファービームっと♪」

 

奴は指先から魔力の光線を放って、俺の左肩を貫いた。

 

濃密な魔力に貫かれたためか、体に激痛が走る。

 

「ぐっ…………!」

 

「イッセー!」

 

「イッセーくん!」

 

ゼノヴィアとイリナが心配してくれるが、俺は二人に叫んだ。

 

「今は俺よりも目の前の敵に集中しろ!」

 

奴はまだ――――――。

 

「その通り♪ ここで、俺から視線を外すのは良くないなぁ」

 

瞬時に詰め寄ってきたリゼヴィム!

 

その動きに目を見開くゼノヴィアとイリナだが、二人はリゼヴィムの放った魔力弾の直撃を受けてしまう!

 

アーシアが俺達に回復のオーラを送ってくれるので、傷はすぐに塞がるが………。

 

リゼヴィムは立ち上がろうとする俺の胸を踏みつけてくる!

 

「回復しても、何度も致命傷を負わせりゃどうよ?」

 

掌をこちらに向けて、マシンガンのごとく魔力弾を撃ち込んでくる!

 

強烈な攻撃が生身の体を撃ち抜いていく!

 

撃ち抜かれた箇所が深く抉れ、血が噴き出していく。

 

アーシアが遠方から傷を癒してくれるが、リゼヴィムに踏みつけられているせいか回復できずに傷が酷くなっていく一方だ。

 

「ガッ……! この………野郎!」

 

「この傷のお礼ってな! ここは念入りに痛めつけとこうかな! うひゃひゃひゃひゃ!」

 

血まみれになる俺を見てほくそ笑むリゼヴィム。

 

動けない状態で傷つき、苦しむ俺を見て、楽しむかのように腕、足、腹と体のあちこちを魔力弾で貫いていった。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉ!」

 

「イッセーくんを離して!」

 

ゼノヴィアとイリナが俺を助けようと同時に斬りかかる。

そこでようやくリゼヴィムは俺から足を退けた。

 

ゼノヴィアは天閃と破壊を混ぜて、高速で剣を振るうがそれを余裕で捌いていくリゼヴィム。

 

「これならどうだ!」

 

ゼノヴィアは擬態の力で刀身を鞭に変えてるが、それを手で捕まれてしまい、奴に引き寄せられて、腹へまともに蹴りを浴びてしまう!

 

「がはっ…………!」

 

口から血を吐き出しながら、ゼノヴィアは遥か彼方に吹っ飛ばされていく!

 

「ゼノヴィア! よくも!」

 

イリナがオートクレールの聖なる波動を高めて、リゼヴィムに斬りかかるが、それすらもリゼヴィムは受け止める。

 

「太刀筋はいいよ。でも、この程度じゃ、俺には届かんわな」

 

そう言うなり、リゼヴィムは回し蹴りをイリナの体にめり込ませた。

 

「かはっ………!」

 

イリナもゼノヴィア同様、勢いよく吹き飛ばされていった。

 

俺もゼノヴィアもイリナも少なくないダメージを負ってしまう。

 

特に俺は全身を撃ち抜かれて、穴だらけ。

あの野郎、たかだか掠り傷負わされた程度でここまでやるか。

 

奴がイリナとゼノヴィアに掌を向けた。

 

「とりあえず、悪魔っ娘とエンジェルちゃんも痛めつけとっか!」

 

魔力が渦巻いていき、二人を狙う。

 

そこへ―――――

 

「おいおい、それが生き返らせてあげた恩人にたいしてすることかねぇ?」

 

「あなたは恩人などではない。僕の、いや………僕達の敵だ」

 

天叢雲剣を握った八重垣さんがリゼヴィムに刃を向けた。

 




原作とちょっと流れを変えます。


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19話 変化の予兆 

「八重垣くん………! 君は………!」

 

トウジさんが毒に犯された体を苦しげな表情を浮かべながら持ち上げた。

 

八重垣さんが天叢雲剣の刃をリゼヴィムに向ける。

これはこの場の誰もが予想できなかったこと。

それはリゼヴィムも例外ではなかった。 

 

リゼヴィムは不思議そうに首をかしげながら八重垣さんに問う。

 

「へぇ、俺は君の敵ね。そんじゃ、そこの神父はどうよ? 君から愛する者を奪った憎き仇じゃないの? それこそ、君の敵だろう? ほら、毒に犯されて苦しんでる今がトドメをさすチャンスだぜ?」

 

リゼヴィムはトウジさんを指差して、八重垣さんの復讐心を煽り出す。

 

八重垣さんも視線だけトウジさんに向けて、目を細めた。

 

………八重垣さんがトウジさんを恨む気持ちは消えてはいないだろう。

今でも教会、大王派の悪魔を恨む気持ちがあると言っていたから。

 

それでも、八重垣さんはリゼヴィムに刃を向けたまま。

 

「確かに僕は局長が憎い。おそらく、この先何年経っても許せるとは思えない」

 

「だったら殺しちゃえよ♪ その剣で貫いたら一発だろ? 他の奴が邪魔ならおじさんが足止めしといてやんよ」

 

ふざけた口調で告げるリゼヴィム。

 

この状況で奴が本気で俺達を足止めしようとすれば、それは可能だろう。

八重垣さんがトウジさんを殺す時間ぐらい余裕で稼げるはずだ。

 

しかし、八重垣さんは瞑目して首を横に振った。

 

「いや、彼は殺さないことにした。………死は一瞬。それではダメなんだ。局長にはこの先も生きて、僕達に対して行ったことを思い出し続けてもらう。それに………」

 

八重垣さんはその視線を倒れ伏す俺とイリナに向ける。

 

そして、微笑みを浮かべた。

 

「僕と彼女は結ばれなかった。時代がそれを許さなかった。だけど、彼らはそれが許される時代に生きている」

 

「だったら、余計に許せんでしょ? それが普通の反応じゃね?」

 

「確かに彼らが許されるこの時代は僕にとっては羨むものだ。もう少し………もう少し早ければと何度も思う。正直、悔しいよ。でも………いや、だからこそだ。僕は今の時代に生きる彼らを見届けることにした」

 

―――――自分は愛する人を守れなかった。

 

―――――君は本当に彼女を守りきれるか?

 

八重垣さんの目は俺にそう言っている。

そんな風に感じてしまった。

 

この激動の時代。

各神話体系で和平が結ばれる裏では様々な思惑が飛び交ってる。

 

思わぬところからとんでもない悪意が俺達を襲ってくるかもしれない。

 

その時、俺は本当に大切な人達を守りきれるか。

 

「心変わり早すぎだろ」

 

「自分でもそう思うよ」

 

リゼヴィムが鼻で笑うが、八重垣さんも自嘲気味に笑んだ。

 

天叢雲剣が光の―――――聖なるオーラを刀身に纏いはじめた。

八岐大蛇の邪気が消え、聖剣としての本来の力を取り戻したのか。

 

「邪龍より生まれた聖剣が魔に堕ちた。僕も教会の信徒から復讐者へと成り果てた。それが今、堕ちた聖剣は本来の力を取り戻し、元教会の戦士である僕とこうして魔王の息子と対峙している。実は僕とこの剣は良いコンビなのかもしれないな」

 

そう言うと八重垣さんは飛び出していく!

聖なる波動を刀身から解き放ち、リゼヴィムへと駆けていった!

 

「魔に堕ちた聖剣と元教会の戦士が俺に向かってくるか。せっかく生き返らせてあげたのにねぇ。おまえさんじゃ、俺には勝てんぜ?」

 

リゼヴィムが迫る八重垣さん目掛けて魔力弾を数発打ち出した。

 

濃密な魔力が籠められた弾丸が八重垣さんを貫こうとする。

 

すると、天叢雲剣から漏れ出していた聖なるオーラがうねり、リゼヴィムの魔力弾を呑み込んでいった。

 

それを見てリゼヴィムが驚愕の声をあげる。

 

「聖なるオーラが龍の形になっただと? それに八つの頭………マジかよ」

 

天叢雲剣を覆うオーラは八つの首を持つ龍を形成していた。

 

それはまるで神々しく輝く八岐大蛇。

 

八重垣さんは天叢雲剣を振るいながら言う。

 

「八岐大蛇の邪悪な気は消えた。だけど、天叢雲剣は覚えていたみたいだ」

 

天叢雲剣が八岐大蛇が宿っていた時のことを学習した………?

聖なる力を持つドラゴンとして、その力を使えるようになったということか?

 

その手のことに疎い俺では理由は分からないが………。

 

聖なる波動を放つと八つの首が一斉にリゼヴィムに襲いかかる。

 

リゼヴィムが魔力を放って首を消しても、その首はすぐに再生。

死角に回り込もうとすれば、他の首がそれを逃さない。

 

俺達と戦った時と同じだ。

 

聖なる龍が魔王の息子を追いかける―――――。

 

「こりゃすげぇな。どこまでも追いかけてくるじゃん。おじさんも大変だわ。それでもだ。堕ちた聖剣とその主ごときじゃあ、倒せないんだよなー」

 

リゼヴィムは八つの首を潜り抜け、八重垣さんとの距離を詰める!

 

天叢雲剣を持つ手を抑え、八重垣の顎に掌底を打ち込んだ!

 

上へと打ち上げられる八重垣さん。

 

宙に浮いた、そのタイミングでリゼヴィムの蹴りが深々と腹部に突き刺さる!

 

「かはっ!」

 

地面を何度もバウンドして転がっていく八重垣さんの口から血反吐が吐き出される。

 

今の一撃はかなり大きいはずだ。

 

聖杯で蘇ったとはいえ、彼は人間。

『超越者』と称される魔王の息子の一撃はそれだけで致命傷に成り得る。

 

それに、ゼノヴィアやイリナとの戦闘でかなりの体力を失っているはず。

彼の体はとっくに限界を迎えているだろう。

 

「感動の復活早々で悪いけどさ。お兄さんじゃ、おじさんの運動相手にもならなかったねー! うひゃひゃひゃひゃ!」

 

相変わらずかんに触る笑い方だな………!

 

リゼヴィムは不快な笑いと共にアーシアへと視線を移した。

 

「そっちのお嬢さんはどうする? おじさんと遊ぶ?」

 

楽しげに近づくリゼヴィム。

 

アーシアの前に黄金の龍―――――ファーブニルが立ち塞がった。

 

『アーシアたん、守る』

 

「おんや、龍王じゃん。俺の前に立っちゃうかい? それも面白そうだねぇ。ひとつ、やりあってみるかい?」

 

リゼヴィムが魔力弾をファーブニルに放つ。

 

ファーブニルは避けることすらせずに、アーシアの盾となって、奴の一撃を正面から受けた。

 

ドラゴンの鱗は固い。

それも龍王のものとなれば相当なものだ。

 

しかし、魔王の息子の一撃は強力で、受けた部位は弾け、血が噴き出ていた。

 

「ファーブニルさん!」

 

アーシアがすぐに傷を癒す。

 

リゼヴィムはファーブニルの行動を面白く思ったのか、俺の時みたく、連続で魔力弾を打ち出していく!

 

着弾する度に肉が弾け、血が噴き出させるファーブニル。

全身から煙をあげて、かなりの深手を負ってしまう。

 

それでもファーブニルは一切退かなかった。

 

 

―――――アーシアが後ろにいるからだ。

 

 

アーシアが飛び出して、ファーブニルを庇おうとする。

しかし、ファーブニルはアーシアを尾で覆って、それを拒んだ。

 

アーシアが出てくれば、リゼヴィムは嬉々としてそこを狙うのは分かりきっている。

ファーブニルもそれを理解している。

 

「ファーブニルさん! 逃げてください! このままじゃ…………!」

 

『大丈夫、俺様、アーシアたん守る。絶対、守る』

 

号泣するアーシアを安心させるかのようにファーブニルは告げた。

 

ダメージに膝をついても、倒れない。

何がなんでもアーシアだけは守りきる。

 

その光景にリゼヴィムが哄笑をあげる。

 

「うひゃひゃひゃひゃ! あの龍王さまが主の美少女ちゃん守るために体張るなんてな! そんなの見ちゃうと、おじさん楽しくって、もーっと痛め付けたくなっちゃうな!」

 

苛烈になる奴の魔力攻撃!

一発一発が更に強烈になり、ファーブニルの体をより深く抉っていく!

 

横合いから聖なるオーラで形成された龍が現れ、リゼヴィムを呑み込もうと巨大な顎を開く。

 

「んー、おじさんはこっちで楽しんでるから、邪魔すんな♪」

 

しかし、それをリゼヴィムは片手を振るうだけで打ち消してしまう!

 

「くそっ………!」

 

八重垣さんも必死の攻撃があっさり消されたことに毒づいた。

 

「やめてください! どうして、そんな………! ファーブニルさん!」

 

アーシアが叫ぶ。

 

魔力弾を浴びるなかで、ファーブニルは言った。

 

『………俺様に微笑んでくれた女の子、アーシアたんが初めて。―――――だから、守る。俺様、いつアーシアたんのために死んでも良いように生きてる』

 

「…………!」

 

その言葉に口許を抑えるアーシア。

 

ファーブニルは血を吐きながらも続ける。

 

『………俺様、頑丈で大きな体と、他のドラゴンより力が強いだけ。いつの間にか龍王になってた。誇りとかよく分からない。でも、女の子一人―――――アーシアたんは守れる。きっと、それが俺様の誇りなんだと思う』

 

ファーブニル…………おまえ、そんな覚悟で…………。

 

いつもはあんなだけど、それでもアーシアだけは………そんな決意でアーシアの傍にいたってのか………!

 

血塗れになるファーブニルの決意にアーシアは嗚咽を漏らしていた。

 

「………お願いです。もう、立たないで…………逃げてください…………お願い…………」

 

アーシアが何度そう言っても、ファーブニルは聞き入れない。

リゼヴィムの攻撃からアーシアを守り続けた。

 

たまらなくなったアーシアは、ついにファーブニルの尾を振り払ってリゼヴィムの前に立った。

 

両手を広げて、今度はアーシアがファーブニルを守る格好となる。

 

「もう、やめてください…………! どうして、こんな酷いことばかりするんですか…………?」

 

「俺は魔王の息子よ? 悪いことするのは当然っしょ」

 

「………私もイッセーさんも皆さんも、ただ平和に暮らしたいだけなんです…………!」

 

「うんうん、そうだねぇ。皆平和に生きたいよねぇ。それがどうしたんだろうね?」

 

パチンと乾いた音が響いた。

 

リゼヴィムがアーシアを叩いたからだ。

 

「きゃっ!」

 

倒れるアーシア。

 

その光景は俺の…………俺達の中では絶対に許せないもの。

 

………あいつ、アーシアを………アーシアを殴りやがった。

 

俺もゼノヴィアもイリナもボロボロ。

だからって、寝ていられるか?

 

「リゼヴィム…………! てめぇは…………!」

 

「よくもアーシアを!」

 

「許さない…………!」

 

俺達三人はアーシアの危機に立ち上がる。

 

リゼヴィムはそんな俺達にただただ笑う。

 

「うわぁお、すんごい殺気。皆の愛されキャラ殴ったらキレちゃった? そんじゃ、こぉんな風にするとどうなるかな?」

 

倒れるアーシアに掌を向けるリゼヴィム。

 

俺は悲鳴をあげる体を無視して飛び出した!

 

させるか…………!

 

させてなるものか…………!

 

アーシアは俺の家族だ…………!

 

「させるかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

俺が吠えた時だった―――――。

 

 

『………許さない』

 

すさまじい…………全身が震えるほどの殺気が周囲に満ちた。

 

危険なオーラが俺の視界に映る。

 

血濡れの黄金の龍が立ち上がり、リゼヴィムを激しく睨んだ。

 

『………おまえ、アーシアたんを泣かせた。…………アーシアたんを傷つけた! 許さない…………許さない!』

 

受けたダメージで、体力など底をついていてもおかしくない状態。

そんな状態でファーブニルは飛び出していった。

 

大きな顎を開いて、狂暴な眼光で魔王の息子に襲いかかる!

 

『アーシアたんを泣かせた…………! アーシアを泣かした…………!』

 

リゼヴィムの足元の影から小さな人影が現れる。

オーフィスの分身体のリリスだ。

 

このタイミングで現れたということは、リゼヴィムの危機に応じて出てくるようになっているのか。

 

リリスはリゼヴィムの前に立ち、防御障壁を展開するが、ファーブニルはそれを噛み砕いてしまう!

 

ならばと、リリスは直接ファーブニルの顔面を殴り付けるが、ファーブニルはものともせず、前足でリリスをぶっ飛ばした!

 

分身体とはいえ、リリスはオーフィスの片割れ。

その実力は群を抜いて強い。

それを一撃で吹っ飛ばしやがった!

 

ファーブニルは極大の火炎をリゼヴィムに吐き出す!

 

リゼヴィムは容易にかき消してしまうが、ファーブニルは止まらない!

 

天高く飛び上がり、口からありとあらゆる武器を吐き出した!

あの一つ一つが伝説の武具だ!

 

「うひゃひゃひゃひゃ! すんげぇ重圧だな、おい!」

 

かなりの速度で突貫してくるファーブニルにリゼヴィムは笑みを浮かべて極大の魔力弾で迎え撃とうとする!

 

しかし―――――リゼヴィムを目前にしてファーブニルの姿が消えた。

 

「幻影だと!?」

 

リゼヴィムが目を見開く。

 

その背後から巨大な影が一直線に奴へと向かった!

 

リゼヴィムは咄嗟に防御魔法陣を展開するが、刹那―――――

 

「…………っ! 嘘だろ…………!?」

 

リゼヴィムの左腕が宙を舞った。

 

ファーブニルの顎はリゼヴィムの防御魔法陣を容易く砕き、腕をもいだ。

 

 

―――――『逆鱗』。

 

以前、アザゼル先生が言っていた。

 

ドラゴンは決して怒らせてはいけないものだと。

下級のドラゴンでさえ、それに触れればどうなるか。

 

龍王の『逆鱗』にリゼヴィムは触れてしまった。

傷つけてはいけないものを容易に傷つけてしまった。

 

それが奴の最大の過ち。

 

『その通り。理屈なんて関係ないのよ。守りたいという気持ちもそう、怒りもそう。想いは理屈を越えた力を発揮させる。それをリゼヴィムは理解してないのよ』

 

『ああ、そうだな。それで相棒はどうする? 相棒の精神も燃え盛る炎のごとくだが?』

 

いくさ。

ファーブニルもボロボロの状態で食らい付いてるんだ。

 

だったら、こんな傷、動かない言い訳にはならないだろう?

 

俺はイリナとゼノヴィアに歩み寄る。

 

「イリナ、ゼノヴィア。今からあのクソジジイに鉄槌を下す。二人の力を―――――オートクレールとデュランダルを貸してくれ」

 

「それはいいが、どうする気だ?」

 

「聖なるオーラを取り込んで、俺の内側で魔力とぶつけて爆発させる。相反する力をぶつけることで二つの力は高まっていくはずだ」

 

少し前にアザゼル先生が昔作ったという人工神器を見せてもらったことがある。

 

そのうちの一つ――――――『閃光と(ブレイザー・シャイニング)暗黒の龍絶剣(・オア・ダークネス・ブレード)』。

 

名前は………まぁ、あれだけど、こいつはかなりの破壊力を持っていてだな。

光の属性と闇の属性を高出力で同時発生させてぶつけているらしい。

 

今回はそれを参考にさせてもらう。

 

普通にやるなら危険な賭けだけど、天翼ならいけるはずだ。

力のコントロールに長けているからな。

 

それに―――――

 

『イッセーはまだ天翼の力を十全に発揮できているとはいえないわ。あれは私の力も混じっているけど、フルに使えていれば、私の力の一端くらいは使えるはずだもの』

 

と、イグニスは言っていた。

 

もし、ここで天翼に隠されたイグニスの力を発揮できればあるいは…………。

 

「分かったわ」

 

「使ってくれ。私達の分まで頼む」

 

「ああ、任せろ!」

 

俺は二人からオートクレールとデュランダルを受けとる。

 

すると、八重垣さんがふらふらした足取りでこちらに歩いてきた。

 

「………天叢雲剣も使ってくれ。なにかの力になるはずだ」

 

そう言って、八重垣さんは天叢雲剣を差し出してくる。

 

俺と八重垣さんの視線が交錯する。 

 

「ありがとうございます」

 

それだけ述べると俺は天翼の鎧を纏い、右手の籠手に天叢雲剣をはめた。

 

アスカロンを籠手と融合させた時と同じ感じだ。

通常時、籠手は左手にしかないし、既にアスカロンが収納されているから、これは禁手の時しか使えないけどな。

 

両手にデュランダルとオートクレール。

左の籠手にアスカロン、右の籠手に天叢雲剣。

纏う鎧は天翼。

 

俺は再びリゼヴィムの前に立つ。

 

それを見て奴は笑った。

 

「うひゃひゃひゃひゃ! 聖剣握っても無駄だっての!」

 

俺は哄笑をあげるリゼヴィムを無視して、静かな声音で奴に告げた。

 

「おまえ、人の大切なもんを壊して楽しいか?」

 

「あ? 楽しいに決まってるっしょ? 泣いたりしてくれるとおじさん嬉しいぜ!」

 

「…………そうかい。………リゼヴィム、おまえは『想い』ってやつを何も分かっちゃいねぇな」

 

「うひゃひゃひゃひゃ! 想い? そんなもんで何ができるよ! くっだらねぇな、赤龍帝の坊主!」

 

嘲笑うリゼヴィム。

 

俺は一歩踏み出した。

 

「―――――『想い』の力、舐めんな」

 

天翼の翼が大きく広がる。

 

いつもなら、赤い粒子が羽の隙間から発生するはずだが、この時だけは違っていた。

 

代わりに虹色に輝く粒子が放出されて、辺りを満たしていく。

 

 

―――――その時、皆の『声』が聞こえた気がした。

 

 



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20話 声が聞こえる 

声が聞こえる。

 

 

――――――消し飛びなさい!

 

 

――――――ここで断つ!

 

 

――――――浄化の力で!

 

 

――――――雷光よ!

 

 

――――――行かせません!

 

 

第二天で戦うリアス達の声。

 

 

――――――さぁ、いくと良いリアス・グレモリー眷属。君たちが決めるべきだ。

 

 

曹操の声も聞こえる。

 

 

――――――こんの! なんでこんな強い奴ばっかり来るわけ!?

 

 

――――――アリスさん、下がって!

 

 

――――――援護しますわ!

 

 

アリス、美羽、レイヴェル。

 

 

――――――悪いね。俺の弟、妹達のためにもちょいとばかし力をだすよ。

 

 

デュリオも戦っている。

 

 

なんだ、こりゃ………?

なんで皆の声が聞こえる?

しかも、リアス達はこの場にいないのに………?

 

虹色の粒子が俺達の周囲を、エデンの園全体に広がって行く。

 

「なに、これ………? ねぇ、ゼノヴィア………」

 

「あ、ああ………。私にも聞こえたぞ、戦う皆の声が………」

 

イリナとゼノヴィアにも聞こえたらしい。

二人とも不思議そうな表情で辺りを見渡していた。

 

トウジさんも同様だった。

 

しかし、八重垣さんだけは三人と反応が違っていた。

 

彼は頬に涙を伝わせていた。

 

「………聞こえた。彼女の…………クレーリアの声が………。ああ、そうだね。君は………僕は…………」

 

クレーリアさんの声が聞こえた?

俺には聞こえなかったものが八重垣さんには聞こえたということなのか?

 

「んだ、こりゃ………!? 声が頭に響いてやがる………? 何しやがった………!?」

 

リゼヴィムも珍しく狼狽していた。

その反応はファーブニルに腕をもがれた時と同等かそれ以上に見える。

 

正直、俺もこの不思議現象には驚きを隠せてはいない。

なんでこんな現象が起きたのか、その理由は不明だ。

 

だけど、不思議と力が沸いてくる。

そんな感覚だった。

 

俺はデュランダルの切っ先をリゼヴィムに向ける。

 

「おまえにも聞こえたか? 不快に思っているようだな」

 

「坊主か、この訳のわからねぇ現象を起こしたのは? 何しやがったんだ? 頭に耳障りな声が響いてくる………!」

 

「耳障りか。俺はそうは思わねぇな。理由はわからないけど、俺には心地いいね。これが不快に思うなら、おまえの耳はおかしいぜ」

 

デュランダル、オートクレール、アスカロン、そして天叢雲剣。

四本の聖剣が共鳴するかのように聖なるオーラを高めていく。

 

光の力が俺の中に流れ込んで、内側の魔力とぶつかり合う―――――はずだったが、少し予想外のことが起きた。

 

ぶつかり合うどころか、二つの相反する力が混ざり合っていく。

これは………聖の力と魔の力が俺の中で共存しだした………?

 

まるで、木場の聖魔剣のようだ。

 

またまた不思議現象が起きたようだけど、結果的には問題ない。

むしろ、俺にとってはありがたいものだ。

 

聖なる力と魔の魔力が高まっていく―――――。

 

「リゼヴィム。おまえは痛みを知るべきだ」

 

俺は虹色の粒子を翼から放出しながら、リゼヴィムに突撃した!

愚直なまでの真正面からの突貫!

 

リゼヴィムは口の端を笑ましながら、俺を迎え撃つ!

 

「聖剣持ったところで、神器の力を失えば無駄ってね!」

 

「だったら触れさせなければいい!」

 

俺の鎧の更に外側。

赤いオーラを覆うように聖剣から溢れ出る聖なるオーラがリゼヴィムの手を弾いた。

 

「鎧に直接触れられなければ、神器の力は失われることはない!」

 

俺はリゼヴィムに肉薄して、デュランダルを振り下ろす!

 

奴は咄嗟に横へ飛んで、ファーブニルに飛ばされた腕を回収。

魔力で腕を固定すると、懐から小瓶を取り出した。

 

―――――フェニックスの涙!

 

奴が傷口に涙を振りかけると、煙を上げて傷が塞がっていく!

 

「ユーグリッドくんが失敗したけど、アセムくんの協力のおかげで、純正の涙をたんまり作ることが出来たんでね。こちらにも回復アイテムはたんまりあるのさ」

 

ちっ…………やっぱり、レイヴェルを解析されたのは痛いな。

こいつら、貴重なフェニックスの涙まで量産してやがる!

 

なおさら、ここでこいつだけは仕留めねぇと!

 

「ボコボコにしてやるよ、クソジジイ!」

 

「うひゃひゃひゃひゃ! やってみな、クソガキ!」

 

ぶつかり合う、俺とリゼヴィム!

 

奴は濃密な魔力の塊を複数作り出して、一斉に放ってくる!

 

俺はデュランダルとオートクレールの力を高めて、それらを両断していく!

ついでにアスカロンと天叢雲剣から聖なる斬戟を繰り出す!

 

「デュランダル! おまえの本来の相棒はゼノヴィアだ! だけど、今だけは俺に力を貸してくれ!」

 

すると、俺の想いに呼応するようにデュランダルの刀身から莫大な聖なるオーラが噴き出していく!

神々しく輝く光の柱が天を貫いた!

 

「オートクレール! おまえも俺に力を! あのクソジジイをぶちのめすために!」

 

オートクレールもデュランダルと同じく、輝きだす!

 

俺は二振りの聖剣を振りかざして、リゼヴィムに詰め寄る!

奴が放つ魔力を斬って、斬って斬りまくる!

 

「リゼヴィム! 散々やってくれたんだ、覚悟はできてんだろうなぁ!」

 

同時に振られるデュランダルとアスカロンの刃がリゼヴィムの腕と頬を掠めた。

 

どちらも掠り傷。

だけど、高められた聖なるオーラでつけられた傷は悪魔にとっては大ダメージだ。

 

傷口から聖なる力によるダメージ、煙が上がり始める!

 

奴の顔が苦痛に歪む。

 

「ちぃっ! この程度の傷で!」

 

確かに高い魔力を持つ悪魔なら体内を蝕む光力を魔力で無理矢理抑え込むこともできる。

『超越者』と呼ばれるリゼヴィムにとっては雑作もないことだろう。

精々、動きがほんの僅かに悪くなるだけ。

 

だが―――――それが致命的な隙になる。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

獣のような咆哮と共に周囲の気を取り込み、体内で練り上げていく!

 

高められる身体能力!

燃え盛る炎のごときオーラを放つ聖剣達!

 

それら全てを駆使してリゼヴィムを追い詰める!

 

リゼヴィムの体の至るところに聖剣によるダメージが現れる。

 

「こんのクソガキががぁぁぁぁぁぁっ!」

 

リゼヴィムは手元に巨大な魔力の塊を作り出した。

 

今までよりも遥かに濃密で巨大。

とんでもない魔力が籠められているのが一目で分かる。

 

あれを受ければ、鎧を纏っていても致命傷を負うのは間違いない。

 

しかも、リゼヴィムは超至近距離でそれを放とうとしていた。

 

「うひゃひゃひゃひゃ! この距離なら避けられねぇだろ! 消えろや、赤龍帝のクソガキ!」

 

下卑た笑いと共に放たれる魔力の塊!

 

至近距離での格闘戦を繰り広げていたこの状況では避けきれない。

 

 

―――――普通なら。

 

 

奴の魔力弾が俺に触れる直前、俺の体は虹の粒子となって宙に消えた。

 

「んなっ!? 曹操のクソガキにやったつう、訳のわからねぇ技かよ!」

 

「その通りだ!」

 

俺はリゼヴィムの背後に体を形成し―――――そのまま奴の両腕を背後から両断した。

 

両の腕を斬られた激痛もあるだろうが、その過程にリゼヴィムは驚愕しているようだ。

 

「この俺が、こんなクソザコ悪魔に…………!?」

 

「はっ! てめぇは相手を見下しすぎなんだよ! だから足元を掬われる! 言ったよな、覚悟しろって。これで終わりと思うなよ!」

 

俺はデュランダルとオートクレールを振り返ったリゼヴィムの腹に深々と突き刺した!

 

奴の体がよろめき、後ろに下がる!

 

「おまえは痛みを知らないから、人の大切なものを平気で壊す!」

 

両腕の籠手から生えるアスカロンと天叢雲剣で奴の胸を十字に斬り裂く!

 

夥しい量の血が宙を舞う!

 

「おまえみたいな悪意の塊はな! 消えてなくなれぇぇぇぇぇぇ!」

 

左手の籠手を解除して、奴の顔面を素手で殴り付ける!

 

奴の鼻を折り、顔の形が変わるほど何度も!

 

そして―――――

 

「アグニッ!」

 

極大の赤い光の奔流がリゼヴィムを呑み込み―――――大爆発を起こした。

 

 

 

 

爆発の煙が漂う中、俺はその場に膝をついた。

 

最後のアグニは籠手の力を使わずに、己の気と周囲に漂う気を練り混ぜて放ったもの。

神器無効化の対象外の攻撃だから、リゼヴィムにかなりのダメージを与えられたはずだ。

 

だけど…………

 

「はっ、はっ、はっ…………くっ…………!」

 

禁手が解けて、鎧が消えてしまう。

 

量子化した上に籠手を使わないアグニ。

それ以前に体力をかなり消費していたからな。

今の戦闘でかなりの無茶をやった。

 

「イッセーさん!」

 

「イッセーくん!」

 

「大丈夫か!」

 

アーシアとイリナ、ゼノヴィアが駆け寄ってくる。

 

俺は汗だくの状態で、無理矢理、笑みを作った。

 

「あ、ああ………なんとか………」

 

傷はアーシアが癒してくれるとはいえ、失った体力が大きすぎる。

正直、今の俺には立つ力すら残っていない。

 

一陣の風が吹き、爆発の煙を吹き飛ばしていく。

 

煙の中から現れるのは、

 

「ぐへっ! ぶはっ! ………んだよ、あのガキの力はよ!?」

 

胴体と両腕から血を流すリゼヴィムだった。

聖剣のダメージで、傷口からは煙が大きく上がっている。

 

…………生きてやがったか。

最後の一撃は殺すつもりで撃ったんだけどな。

 

悪魔の翼が出されているところを見ると、あれで防いだんだろうな。

 

奴は俺に両断された腕を魔力で引き寄せると、元通りにくっつけてしまう。

しかも、またフェニックスの涙を使用して完璧に元通りだ。

 

「いったい、いくつ持っているんだ…………!」

 

ゼノヴィアがその光景に激しく舌打ちする。

 

やっぱ許せないよな、テロリストがフェニックスの涙を所有してるなんてさ。

 

傷を治した奴は立ち上がると、俺を激しく睨む。

 

俺はそんな奴を嘲笑うように言った。

 

「おーおー、そんなに怒っちゃって。どうだ? クソザコ悪魔にボッコボコにされた気分は? 最高かよ?」

 

「赤龍帝…………!」

 

「余裕がなくなったか? やっぱ、おまえはその程度か。アセムの方がずっと強かったぜ」

 

この程度で余裕がなくなるようじゃ、底が知れてるな。

 

しかし、ここでリゼヴィムは睨むのを止めて、何かに思い至ったような表情になる。

 

「なるほどねぇ………。こいつが異世界に渡り、英雄、勇者とまで呼ばれた男の力かよ。…………ヴァーリ、おまえの心が憎悪だけじゃない理由はこれかよ!」

 

叫ぶリゼヴィム。

 

ドライグが奴に言った。

 

『ルシファーの息子よ。おまえは何を敵に回したと思っている? 聖書の神が忌み嫌った力の塊――――ドラゴンだ。俺も白龍皇もファーブニルも決して舐めてくれるなよ? 我らはその気になればただの暴力だけで世界を何度でも滅ぼせるのだ。それをしないのはおまえよりも自分の生き方を楽しめているからだ。―――――神ごときが、魔王ごときが、俺達の楽しみの邪魔をしてくれるなよ?』

 

それはいつかドライグが語ってくれた言葉。

三大勢力の戦争の時に二天龍が神と魔王に吠えた口上に似た言葉だった。

 

イグニスもそれに続いていく。

 

『それにあなたは「想い」の力を否定したわね。あなたが受けた力。それが「想い」の力よ。良いこと? 「想い」とは可能性よ。強ければ強いほど、そこには無限の可能性がある。それを理解しないあなたはかなりの愚か者よ、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー』

 

へへっ、いつもシリアスブレイカーなお姉さんが真剣な口調で言ってくれると、無駄に説得力を感じられるな。

 

俺はイリナとゼノヴィアに肩を貸してもらいながらも立ち上がる。

 

「リゼヴィム。おまえは俺達には勝てねぇよ。断言するぜ」

 

そう、俺達には絶対に―――――。

 

背後から心強い波動が伝わってくる。

 

「お兄ちゃん!」

 

「イッセー!」

 

「イッセーさま!」

 

美羽にアリス、レイヴェル!

 

「イッセー!」

 

「イッセーくん!」

 

リアスと木場、他のメンバーも駆けつけてくれた!

曹操もいる!

 

「いやー間に合った間に合った」

 

「いんや、ギリ間に合ってないよ」

 

「なんで俺だけそんな反応!?」

 

「冗談だって。よく来てくれたよ、リーダー」

 

デュリオも来てくれた!

 

アリスやデュリオが駆けつけてくれたということはクロウ・クルワッハも何とかなったということかな?

 

勢揃いする『D×D』メンバーにリゼヴィムは笑みを漏らす。

 

「うひゃひゃひゃひゃ! 『D×D』ご一行さまがご到着か。つーことは、ラードゥン先生も量産型グレンデルくんもやられたのかい。おっそろしいねぇ、その突破力!」

 

…………量産型グレンデル?

 

こいつらそんなものまで作ってたのか。

 

対峙する俺達のもとに第三者の影が現れる。

 

空から黄金の翼を羽ばたかせて舞い降りたのは天使長のミカエルさん!

 

「遅くなりました。天界の各所にかけられていた封印結界をようやく解きました。彼らが天界の各門を支配できたのはアジ・ダハーカの禁術を用いたからでしょう。『システム』に影響を出さずに解呪するには時間がかかりましたが…………。第七天に厚い守護結界を張り巡らせたので、もうクリフォトは私達が死んでもあそこに入ることはできないでしょう」

 

…………そうか、ミカエルさんはやっぱり気づいていないのか。

 

アセムが第七天に侵入して、誰にも知られることなく、しかも、全く影響を出さずに『システム』を覗いたことを。

 

伝えなければいけない………が、今は目の前の悪意の塊を処理する方が先だ。

 

ミカエルさんがリゼヴィムに顔を向ける。

 

「久しいですね、リリン。先の戦争以来ですね。この聖なる領域に土足で踏み入った以上、それ相応の覚悟はしてもらいます。…………といっても、すでにやられているようですが」

 

ミカエルさんが俺に微笑みを向ける。

 

アハハハ…………まぁ、聖剣四本駆使して斬り刻みましたから。

 

傷はフェニックスの涙で癒しても、失われた体力やオーラの回復までは出来ていない。

リゼヴィムの消耗は大きいだろう。

 

すると、リゼヴィムの横にオーフィスと瓜二つのリリスが立った。

今のリゼヴィムではミカエルさんや俺達全員を相手取るには厳しいと判断したのだろうか?

 

リゼヴィムはリリスの頭を撫でると、笑む。

 

「あらら………こりゃ、この場は退くしかねぇな。ま、こっちは目的を終えたからいいんだけどよ」

 

そう言うと奴は懐から何かを取り出した。

 

二つあるけど、あれは…………何かの果実?

 

「――――それは!」

 

ミカエルさんがそれを見て酷く驚いている様子だった。

 

リゼヴィムはその果実のような物を俺達に見せる。

 

「これは知恵の実と生命の実だ」

 

―――――っ!

 

それって…………まさか…………!

 

いや、しかし―――――。

 

「どうして、その実を!? もう生っていないはずよ!」

 

イリナは俺の思ったことをそのまま口にした。

 

リゼヴィムは二つの果実を指で撫でながら言う。

 

「ああ、もう生ってはいないよな。――――が、『保存』されていたとしたら、話は別だ。我が母リリスは昔、人間だった頃、エデンの園にいた。それはこの場の全員が知っているだろう?」

 

アリスが俺の耳元で囁く。

 

(そうなの?)

 

(後で説明してあげるから、少し黙ってなさい)

 

(はーい)

 

気を取り直してリゼヴィムの話の続きを聞こう………。

 

「私は幼少の頃から母に聞かされていたよ。『神の目を盗んで、生命の実と知恵の実をある場所に隠してやった』と。母は自慢気に語っていたよ。で、実際にその場所を探してみたところ―――――あった。ただし、時が経ちすぎていて干からびてはいるが………」

 

リゼヴィムの言葉にミカエルさんが続く。

 

「それを聖杯の力で復活、力を取り戻すと。しかし、どこに隠されていたというのです?」

 

「煉獄だ。煉獄の奥地。冥府に繋がる隠れ道に隠してあったのさ。んで、天国に通じていると聞いたから、実を探すついでにアグレアスで来た、というわけだ」

 

ついで…………。

 

ついででここまで攻めこんでくるこの野郎はやっぱり悪意の塊だ…………!

 

ここで俺が―――――。

 

俺が強引に体に力を入れる………が、体が言うことを聞かなかった。

 

それどころか、全身から力が抜けていく。

 

『仕方があるまい。無茶をし過ぎだ。だからトランザムは使うなと言っただろうに…………』

 

ぶつぶつと文句を言うドライグ。

 

ドライグさん、まだ怒ってたのね。

 

リゼヴィムは動けない俺に笑みを見せながら、足元に魔法陣を展開する。

 

「赤龍帝は動けず、か。んじゃ、おじさんは帰るわ。流石に疲れたし」

 

ここで逃がすのは悔しいが、俺はこの通り全く動けない。

他のメンバーが動けないのはリリスの存在が大きいだろう。

 

ミカエルさんが手を出さなかったのはリリスの存在もあるだろうが、もう一つの存在が側にいたからだろう。

 

クロウ・クルワッハが近くに姿を見せていた。

 

「リリス、クロウ、帰還しようか」

 

リゼヴィムがそう声をかけるが、クロウ・クルワッハは応じない。

 

どうやら、クロウ・クルワッハはリゼヴィムの元に戻るつもりはないらしい。

 

「ま、それもいい」

 

リゼヴィムは首を横に振って、それを受け入れた。

 

転移の光に包まれていく中、俺はリゼヴィムに言った。

 

「リゼヴィム。―――――次は生きて帰れると思うなよ?」

 

鋭い殺気を籠めて。

 

俺は容赦はしない。

次会うときは必ず――――――。

 

リゼヴィムは楽しげな笑みを浮かべながら、転移の光に消えていった。

 




イッセーがリゼヴィムにした最後の攻撃。

イメージはエクシアのセブンソード・コンビネーションです。


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21話 分かり合います!

クリフォトがアグレアスと共に去った後、俺達は第四天で一息ついていた。

 

トウジさんだけは解毒の途中だったので、第五天の医療施設に運ばれることになったが、掠り傷以外で目立った外傷は特にないので解毒の続きをやるそうだ。

 

クリフォトを離れた八重垣さんは現在、重要参考人として天界側で取り調べを受けている。

共闘したとはいえ、テロリストとして教会の要人やバアル関係者を殺害したことには変わりはないため、天叢雲剣は取り上げられ、拘束はされているが…………。

 

残った邪龍の群れもアグレアスと共に消えた。

天界側の被害も相当なもの。

 

で、肝心の『システム』への影響なんだが………。

 

ミカエルさんが言う。

 

「先程、『システム』の様子を見てきましたが特に影響を受けた様子はありませんでした。…………異世界の神の力…………恐ろしい限りです。私も含め、セラフの誰もが感知できませんでした。それに『システム』を覗き見ることに成功するなど、私達の理解を越えた力を持っているとしか言いようがありません」

 

ミカエルさんの報告にこの場のメンバー全員が息を呑んだ。

 

アセムのやつ、マジで何の痕跡も残さずに第七天に侵入していたのか…………。

 

まぁ、第七天に侵入したと嘘を言っている可能性もあるけど…………あの口調じゃ、それはないだろう。

 

ミカエルさんが俺に訊いてくる。

 

「かの神は何が目的なのでしょう?」

 

「あいつは神器システムについて感心を持っているようでした。それに………去り際、あいつは『創る』という言葉を残していきましたから…………おそらく――――」

 

「神器に似た何かを作ろうとしている、ですか」

 

俺はミカエルさんの言葉に頷いた。

 

何のために、どんな物を創るかは分からないけどね。

 

現段階であれほどの力を持っているのに、更に力を求めているのか…………?

 

いや………あいつの場合、興味本意かもしれんが………。

つーか、そっちの方があり得そうで逆に怖い。

 

ミカエルさんが壁にもたれている曹操に視線を移した。

 

「帝釈天さまからの加勢、ありがとうございました」

 

曹操も今回は味方としてラードゥンや量産型グレンデルとかいう新型の邪龍と戦ってくれた。

おかげでラードゥンも無事撃破、封印することができたそうだ。

 

「こちらも天界に入ることができるとは思っていなかったものでね。これでも俺は咎人ですよ。それに今回の加勢はハーデスさまからのタレコミです」

 

その報告に全員が驚いていた。

 

ハーデスからの情報?

今回、クリフォトに天界への裏口を教えたのは奴なんだろう?

 

「………ハーデスはこれでイーブンだと思っているのかしら? それとも、両陣営の邪魔をして楽しんでいるだけ?」

 

リアスは一人、考え込むが…………。

 

どっちにしても最低な神さまには違いないよ。

とりあえず、一発殴ってやりたい。

そうじゃないと、こっちはおさまらないからな!

 

ミカエルさんが曹操に言う。

 

「一応、あなたは聖槍に選ばれし者。敵意がないのであれば、無下にはできませんよ」

 

「ふふふ、聖槍はイエスを貫いたんだがな。天使長殿は寛大のようだ」

 

曹操は踵を返す。

 

「ではな」

 

「おう、お疲れさん」

 

俺がそう返すと曹操は不思議そうな表情を浮かべた。

 

「やけにあっさりしているな」

 

「まぁな。ミカエルさんが言った通りだ。敵じゃないのなら、仲間に危害を加えないならそれでいいさ。あと、『英雄』の意味を理解したのなら。なぁ、ただの曹操」

 

俺はそう言うと笑む。

 

奴も苦笑する。

 

「そうか。そうだな。今の俺はただの曹操。英雄でもなく、異形の毒でもない、ただの一人の人間だ。その上で君に挑むよ。君は俺の好敵手であり、目標のようだ。リベンジをさせてもらう」

 

「ああ、いつでも来いよ。汚い真似をしなけりゃ、俺も真正面から殴ってやるさ」

 

「それは怖いな。君に殴られるとそれだけで致命傷だ」

 

ま、人間のこいつからすれば、俺の拳は一撃必殺になり得るからな。

何としても避けたいところだろう。

 

リアスが問う。

 

「他の神滅具所有者は?」

 

「ゲオルクとレオナルドか? 彼らはまだ冥府だよ。ゲオルクは冥府で死神が使う術の研究をしている。というよりもあそこは過去に送られた著名な魔術師の魂がいてね、彼らと魔法の議論に没頭しているさ。レオナルドもあそこの空気が気に入ったようで、ゲオルク同様戻ってくる気はないそうだ」

 

自ら冥府に残っていると。

英雄派の連中も変人が多いような…………。

 

あれ…………?

 

そういや、あいつ来てなくね?

 

元英雄派のタダ飯ぐらいは…………?

 

俺が辺りをキョロキョロ見渡すと、美羽が言った。

 

「もしかして、ディルさん探してる?」

 

「あ、うん。あいつ、来たのか? こっち来るみたいな感じだったけど」

 

「ううん。来てないよ。というより、さっき気になって連絡したら、途中で道に迷って迷子になったって」

 

「はぁ!?」

 

 

~少し前のディルムッドちゃん~

 

 

「…………ここはどこだ?」

 

天界に向かうため、冥府を通り煉獄へ向かうはずだった。

 

しかし、いる場所は…………全く違う場所。

 

「………迷子になったか」

 

頭上でカラスが鳴いた。

 

 

~少し前のディルムッドちゃん、終~

 

 

「あいつ何やってんだぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

全力のツッコミが天に響く!

 

迷子!?

加勢にくるんじゃなかったの!?

天界に上がる道を知ってたから、あんなこと言ってたんじゃなかったの!?

 

しっかりしろよ!

 

美羽が苦笑しながら言う。

 

「今は家にいるって。なんでも親切なおばあさんが道を教えてくれたそうだよ?」

 

「しかも、帰り道案内されてんじゃねぇか! 親切なおばあさんって誰よ!?」

 

「町内会の西村さん」

 

「あー、あの人…………って、バカ! あいつ、どこで迷った!? まさかと思うが駒王町でうろちょろしてたんじゃあるまいな!?」

 

「そこまで酷くないよ。隣町まで行ってたみたいだし」

 

「それほとんど違わねぇよ!」

 

なに、あいつ、隣町で迷子になってたの!?

アホの子だったの!?

 

御先祖さまが泣いてるぞ!

 

俺の肩にポンと手を置かれた。

 

振り返ると曹操が遠い目をして、微笑んだ。

 

「ドンマイ………」

 

「おまえ、他人事だと思ってやがるな!?」

 

「まぁ、元は同じ英雄派だったが………俺の苦労、分かってくれたかな?」

 

「分かるよ! こいつに関しては共感できちゃうよ!」

 

英雄派のリーダーも大変だったんだな!

そりゃ、苦労するよ!

働かないし、迷子になるし、大飯ぐらいだし!

 

美羽の手元に魔法陣が展開される。

通信用の魔法陣が光を放つと、美羽の掌の上に小さな立体映像が映し出される。

 

そこに映っていたのはどこかしょんぼりしたディルムッドだった。

 

美羽が気遣うように声をかける。

 

「ディルさん、そんなに落ち込まなくても………」

 

『いえ………マスターのお役に立てなかった私は………くっ! 下僕失格です!』

 

「下僕にした記憶ないよ!?」

 

このやり取りを見るのは何回目だろう…………。

 

曹操がディルムッドに話しかける。

 

「久しいな、ディルムッド。君は相変わらずといったところか」

 

ディルムッドは曹操の顔を見ると、少し目を細めた。

 

元英雄派としては久し振りに会う元リーダーに思うところがあるのかもしれない。

 

ディルムッドはじっと曹操を見つめて、一言。

 

『あぁ、おまえか。そ…………劉備』

 

「惜しい! 国が違う! というより、今、『そ』って言っただろう!? わざとか!」

 

『孫権と間違えた』

 

「それも違う! なんで残した!?」

 

『じゃあ、夏侯惇』

 

「国は同じだよな! でも、違うから! 曹操だ!」

 

『ギャーギャー喚くな。漢字の名前は難しくて覚えにくいのだ。張飛』

 

「君、実は結構、三國志知ってるだろ………!?」

 

うーん、今日の曹操はツッコミが冴えてるな!

次から次に繰り出されるボケに的確なツッコミ!

 

こいつ、やはりツッコミの才能が!?

 

「ディルムッド、君は俺のことが嫌いだろう?」

 

『それはそうだ。唐揚げ君をくれなかった恨みは大きい』

 

「いつの恨みだ!?」

 

…………曹操って唐揚げ君とか食べるんだ。

 

なんか意外だな。

 

立体映像のディルムッドが手を振る。

 

『私はこれで失礼する。ではな、曹仁』

 

「いや、曹操ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

曹操のツッコミ空しく、ディルムッドはそのまま映像を切ってしまった。

 

ちなみに家に帰ってから調べたんだが、曹仁は曹操の従兄弟らしい。

 

嵐のようなボケとツッコミの応酬が終わり、静まり返るこの場所。

 

俺やリアスはもちろん、ミカエルさんをも含めた全員の視線が曹操に集まる。

もちろん、皆の目は哀れみと同情で満ちていた。

 

………お気の毒に。

 

復活して早々にこれか。

 

まぁ、それはともかく――――――

 

「「ツッコミキャラ確定、おめでとう」」

 

俺と木場はそっと曹操の肩に手を置いた。

 

 

 

 

曹操が泣きながら去った後、天使の兵隊を退けながら、こちらに進んでくる影があった。

 

俺の前に邪龍、クロウ・クルワッハが立つ。

 

「………おまえはドラゴンか? それとも悪魔か?」

 

「へ?」

 

………いきなり、わけの分からん質問をされた。

 

まぁ、俺は悪魔だし、赤龍帝だからドラゴンでもあるけど………。

 

どう答えるべきか悩む俺に、クロウ・クルワッハは続ける。

 

「俺はドラゴンの行く末を見届けることを宿願としている。おまえは、俺の答えなのか?」

 

「知らん。俺にそんな答えを求められても困る」

 

「そうか」

 

納得したように頷くクロウ・クルワッハ。

 

しかし、次の瞬間。

 

「俺と戦え」

 

「………は? 今から………?」

 

聞き返す俺に黙って頷く最強の邪龍さま!

 

え、えぇ…………今から戦えって………。

これまた無茶な要求をしてくれる。

 

俺、そんなに動ける体力ないよ!?

 

「無理! もう疲れたから!」

 

とりあえず正直に言ってみる!

 

他の邪龍と違って、こいつはまだ話を聞いてくれるはず!

頼むから聞き入れてくれよ!

 

今からドンパチとか絶対無理だからな!

 

すると、クロウ・クルワッハは無言のまま踵を返した。

 

「…………では、俺は帰る」

 

おぉっ、聞いてくれたよ!

結構素直じゃないか!

 

「クリフォトに帰るのか?」

 

「いや、もうあそこには興味がない。好きに潜るさ。人間界は慣れている」

 

それだけ言い残して、奴は静かにこの場を後にした。

 

うーん、やっぱりドラゴンって変わった奴が多いよなぁ…………。

 

俺の周りでまともなドラゴンってタンニーンのおっさんとティアくらい?

 

『おい、なぜ俺が入っていないのだ?』

 

…………ドライグは…………うーん…………。

 

『そこで悩むなぁぁぁぁぁぁぁ! 泣くぞ!?』

 

『まぁまぁ。ドライグも落ち着きなさいな。ドライグはおっぱいドラゴンだから仕方がないわ♪』

 

『うぉぉぉん! うぉぉぉん!』

 

あ、ドライグさんが泣いた。

元気だせ、ドライグ。

 

俺がドライグを宥めていると、ミカエルさんがイリナに微笑んでいた。

 

「イリナ、よく戦ってくれました。さすがは私のA(エース)です」

 

尊敬する天使長に誉められて、頬を赤く染めるイリナ。

 

ふと、イリナが気になったようにミカエルさんに訊いた。

 

「ミカエルさま、こんなときにお訊きするのは恐れ多いことなのですが………」

 

「なんでしょう?」

 

「どうして、私をAにお選びになられたのですか?」

 

ミカエルさんがイリナをAに指名した理由か。

それは興味深い。

 

他のメンバーも気になるようで、視線をミカエルさんとイリナに注ぐ。

 

ミカエルさんはニッコリ微笑むと指を一本立てた。

 

「人間界でトランプの箱の封を切ると最初に目にするカードはなんでしょう?」

 

「………スペードのA」

 

「そうです。私はそのカードには他の何者よりも転生天使――――『御使い(ブレイヴ・セイント)』を体現できる者が良いと考えました。あなたは天真爛漫で、実直であり、敬愛の精神を持った敬虔な信徒です。そして、誰とでも打ち解けられる。あなたはこれからの天使を現す者として一番適任だったのです」

 

なるほど………。

そう説明されれば、イリナの人選は納得できるものがあるな。

 

三大勢力が和平を結ぶ前は仕方がないにしても、和平後は仲良く接して来てくれた。

 

学校の方でもそうだ。

信仰を広めようとしたりして、不思議な娘だと思われがちではあるが、それでもどんな生徒とも仲良くしている。

 

イリナをAに選んだのはミカエルさんの願いが籠められていたということか。

 

ミカエルさんが改めてイリナに言う。

 

「これからも『御使い』の顔であることを願います」

 

「はい! こちらこそ、精一杯お仕え致します! アーメン!」

 

真実を知って感動の涙を流すイリナ。

 

これで万事解決………にはまだ早いか。

 

天使の一人がミカエルさんに何やら報告する。

 

「兵藤一誠くん、天使イリナ。彼の取り調べが終わったようです」

 

 

 

 

俺とイリナはミカエルさんに連れられて、八重垣さんが収容されている施設に向かった。

 

収容所と言っても、他の施設みたいに真っ白な建物で中はかなり綺麗だ。

 

「こちらです」

 

廊下をしばらく歩いていくととある部屋に案内される。

 

中に入ると長机と複数の椅子。

そして、椅子の一つに腰かける八重垣さんの姿があった。

 

もう彼に反抗の意思はないだろうが、一応とのことだろう。

手には光力による手錠が掛けられていた。

 

俺達は八重垣さんと向かい合うように席につく。

 

ミカエルさんが言う。

 

「八重垣殿。あなたはクリフォトの手先となり、教会の信徒を殺害しました。これは許されることではありません」

 

しかし、とミカエルさんは続ける。

 

「時代が時代であったとはいえ、教会があなた方に行ったこともまた許されるものではありません。本当に申し訳ありませんでした」

 

ミカエルさんは深々と頭を下げた。

 

教会の信徒と悪魔が関係を持つ。

当時の状況からすれば、とんでもないこと。

下手すれば、それが火種になって再び争いが勃発したかもしれない。

 

それでも………やっぱり、他の道があったと思えてならない。

 

俺はミカエルさんに訊いてみた。

 

「ミカエルさん。八重垣さんの処遇はどうするつもりですか?」

 

「彼にそれだけの理由があったとしても、テロリストとして動いていたことには変わりありません。罰は受けてもらいます。ですが、それは暫しの拘束で済むでしょう。彼が手を貸したこともリゼヴィムを退かせる要因の一つになったようですから。これは大きいことです」

 

その言葉に俺は胸を撫で下ろす。

 

…………そっか。

軽い罰で済むのか。

 

それを聞いて安心した。

 

俺が安堵していると、八重垣さんが口を開いた。

 

「………どんな理由があったにせよ、罪は罪。僕は復讐を果たしたが…………彼らの親しい者からすれば、僕はただの人殺し。一度失った命を僕は新たに得た。これからは償うために生きていくよ」

 

「はい。俺も八重垣さんには生きてほしいです。クレーリアさんの分まで」

 

「彼女は悪魔だから、その分まで生きるとなると難しいだろうけどね」

 

そう言って、八重垣さんは苦笑する。

 

………良かった。

俺達はこうして笑いあえた。

 

今の八重垣さんからは以前の狂気は感じられない。

復讐にとりつかれた彼はいないようだ。

 

すると、八重垣さんが頭を下げてきた。

 

「君達にお礼が言いたい」

 

「お礼?」

 

イリナが首を傾げた。

 

お礼なんて言われることしたかな…………?

 

「今日、僕は二度、彼女に会えた。一度目は局長の娘さんが放った聖なる力に呑み込まれた時。二度目はあの虹色の粒子が漂う空間。二度目は彼女と………ほんの少しだったけど話すことができたよ」

 

「―――――!」

 

やっぱり八重垣さんはクレーリアさんの魂と話せたのか。

 

悪魔であるクレーリアさんの魂が天界…………それも第四天に運ばれたというのは考えにくい。

 

そうなると、彼女の魂はずっと彼に付き添っていた………?

死後、八重垣さんがそれに気づいてなかったのは復讐にとりつかれていたから………?

 

仮にそう考えると、イリナの持つオートクレールの力が二人を引き合わせたということなのだろうか?

 

そして、虹色の粒子が漂う空間。

 

あれは…………なんだったんだろう?

 

皆の声が頭の中に直接聞こえてきた。

不思議な感覚だったけど、すごく安心を覚えたというか………。

 

俺だけでなく、あの場にいたイリナやゼノヴィア、アーシア、八重垣さん。

それにリゼヴィムまで聞こえてたようだったし………?

 

イグニスが知っているようだったので、聞いてみたんだが…………。

 

『うふふ♪ 今はまだ不完全なようね。でも、大丈夫。一度、使えたのならまた使えるようになるわ♪ イッセーならいつかはって思ってたけど、私の見込みに間違いはなかった。―――――革新なさい。ゆっくりでいい。皆の想いを繋ぐために』

 

とのことだ。

 

………結局あれが何かは具体的に教えてもらえなかったけど、どうやら天翼に隠されたブラックボックス的な力らしい。

となると、以前に言ってたイグニス本来の力、その一端があれになるわけだが………。

 

俺は頭を切り換えて八重垣さんの顔に目をやる。

 

八重垣さんは優しげな表情で俺を見ていた。

 

「赤龍帝。君は彼女を守るんだ。僕が出来なかったことを君は―――――。心配はいらない、君ならできる。それに、君達は許される時代に生きているのだから」

 

 

 

 

八重垣さんとの面会後。

 

俺達は先程の場所で休んでいる皆の元へと戻る途中のことだ。

 

イリナが施設の窓から空を見上げて呟いた。

 

「あの人達は分かり合うことができたんだね」

 

「ああ」

 

頷きを返す俺。

 

ふいにイリナが頬を染めて訊いてきた。

 

「私達は………どうかな? 分かり合えてる、かな?」

 

イリナと俺か。

 

またあの二人と俺達を重ねているんだろうけど…………。

 

俺はニッと笑って言ってやった。

 

「もちろん!」

 

分かり合うことに種族なんて関係ない。

 

心さえ、想いさえ通じていれば大丈夫。

 

もちろん、それだけで解決するには難しい問題もある。

だけど、互いのことを理解出来ていれば、それも何とかなると思うんだ。

 

 

―――――繋がることで、世界は廻っていくのだから。

 

 

そんなことを思っていると、俺は何かに躓いてしまう!

 

いかん…………!

今回の戦いで無茶しまくったから、それの影響が!

 

この流れは―――――

 

 

むにゅん

 

 

俺の両手に伝わる柔らかい感触。

 

躓いた拍子に、俺はイリナを廊下に押し倒してしまい――――おっぱいを鷲掴みしてしまっていた!

しかも両方!

 

イリナめ、この感触はまたノーブラだな!

最高に柔らかいじゃないか!

 

って、感動してる場合じゃねぇ!

 

 

この場には―――――

 

 

「いやぁ、若いって良いですねぇ」

 

ミカエルさんが微笑ましそうに見てくるぅぅぅぅぅ!

 

違うんです!

これは転んだ拍子に偶然、偶々!

 

『流石はラッキースケベ! やっぱり〆はおっぱいなのね! 分かってるぅ!』

 

おまえは黙ってろや、駄女神ぃぃぃぃぃ!

態々、ミカエルさんに聞こえる声で言わないで!

お願いだから!

 

「い、イッセーくん………。そっか、戦いの後にもう一汗流すつもりなのね………? わ、私はイッセーくんが求めるなら…………」

 

あぁぁぁぁぁぁぁぁ!

イリナが両腕を開いて完全受け入れ体勢にぃぃぃぃぃ!

 

嬉しい!

嬉しいよ!?

でも、場所を選ぼう!

 

ミカエルさん見てるって!

ニコニコ顔でこっち見てきてるって!

 

「天使と悪魔の架け橋が誕生するのも時間の問題ですね。これは主も見守ってくれていることでしょう」

 

「ミカエルさんんんんんん! お願いだから、神々しい光出さないでぇぇぇぇ! 見守らないでぇぇぇぇ!」

 

 




次回が本章のラストになるかと。


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22話 聖なる夜に 

本章ラスト!


「「「メリークリスマス!」」」

 

乾杯する俺達オカ研メンバー、生徒会メンバー、そして企画参加者たち。

ついでに黒歌とルフェイも。

 

そう、今日は少し遅めのクリスマスパーティーだ。

 

広い兵藤家地下に長机がいくつもおかれ、その上には様々な種類の料理が所狭しと並べられている。

出前もあるが、母さんや参加したメンバーで作った料理もあったりする。

 

天界の一件から数日、俺達は無事にクリスマス企画を為し遂げ、プレゼントも配り終えた。

 

もちろん、配る際はサンタコスで全員がサンタの格好!

空飛ぶトナカイにも乗ったぜ!

オカ研メンバーの可愛くてエッチなサンタ姿は脳内保存しております!

 

アリスがビールをぐいっと飲み干す。

 

「プハァー! あー、生き返る! ここ数日、書類溜まってたから、お酒が美味しい!」

 

「………おまえ、報告書を俺に丸投げしといて良く言えるな。滅茶苦茶大変だったんですけど」

 

「あ、このポテト美味しい!」

 

「聞けよ!?」

 

アリスさん、君、俺の『女王』だよね!?

デスクワークでは機能停止してるんだけど!?

 

こいつ、天界の騒動の報告書、俺に丸投げしたんだぜ!?

鬼か!?

おっぱい揉むぞ!?

 

………あれ、そういや、アリスのおっぱい…………。

 

「アリス………おまえ、まさか………!」

 

俺は指を震わせながら、アリスの胸を指を指す。

 

アリスはビールをテーブルに置いて、胸を張る。

 

「ふっふっふっ………また大きくなってたわ! ブラが合わなくなってたもん! ほら!」

 

アリスは俺の手を取ると自身の胸に当てた!

 

むにゅんと極上に柔らかいものが俺の指に触れる!

 

こ、この感触はノーブラか!

いや、それ以上にこのサイズは………!

 

「アリス………グッジョブ!」

 

「でしょ!」

 

感動の涙を流す俺とアリス!

 

あぁ………最近のアリスのおっぱいの成長は著しいなぁ!

 

この成長スピードでいくと、ゼノヴィアやイリナ、レイナクラスになるのは近い!

 

アリスはほのかに頬を染めながら言う。

 

「………イッセー好みのスタイルに近づけてるかな?」

 

 

ブハッ

 

 

くっ………なんで急に可愛くなるんだ!

いや、いつも可愛いけど!

 

「お兄ちゃん、これどうかな?」

 

そう言って、サンタコスの美羽が腕に抱きついてきた!

 

肩紐のないタイプのコスチュームで、胸の谷間がこれでもかと強調されている!

しかも、今はそのおっぱいが腕に押し当てられて………腕を挟んできている!

 

やべぇ………涙が止まらねぇ!

 

「可愛いぞ! 後で写真撮ろう! 俺のお宝コレクションに加える!」

 

「えへへ」

 

少し照れ顔で微笑む美羽。

 

あぁ、今日も今日とて我が妹はかわゆい………。

 

シトリー眷属からは、

 

「うん、兵藤兄妹は完全にカップルだよね」

 

「まぁ、前からだけどね~」

 

などという声が聞こえてくるが、否定はせん!

 

美羽は俺の妹にして、俺のお嫁さんだから!

またウェディングドレス姿の美羽を見てみたい!

 

と、ここで俺の視界に教会の人達と楽しげに話す教会トリオが映る。

多分、クリスマス企画とか信仰の話をしてるんだろうけど、グリゼルダさんが混じってきた途端にゼノヴィアがタジタジになりだした。

 

やっぱり、グリゼルダさんには頭の上がらないゼノヴィアか。

 

………根性を見せたファーブニルはアーシアにケガを治してもらった後、深い眠りについた。

死んだわけではないが、ダメージが大きすぎたようで、しばし休むとのことだ。

なので、いずれは目が覚めるらしい。

 

アーシアはそれを聞いて安心していた。

 

先日の一件で、俺はファーブニルにドラゴンの意地を見た。

いつもはパンツ龍王だけど、やるときはやる誇り高い龍王の一角なのだと改めて認識した。

 

トウジさんは解毒の予後を見るため、無理はできないとプレゼント配りは娘に任せることになった。

今日は検査ということで、残念ながらこのパーティーには出席できていない。

 

ただ、通信で話したところ、八重垣さんと改めて話をしているそうだ。

 

許されなくても、償うために生きていく。

その覚悟を改めて聞いてもらっているとのこと。

 

今の八重垣さんならトウジさんの後悔と懺悔を聞くことができると俺は思う。

 

皆が食事に舌鼓を打っていると、リアスと朱乃が前に出た。

 

二人が言う。

 

「皆に聞いてもらいたいことがあるの」

 

「うふふ、こんなときに突然かと知れませんけど、あえてクリスマスというタイミングたからこそ、お伝えしようとリアスと決めてましたわ」

 

二人が頷き合うと、改めて俺達に言った。

 

「――――オカルト研究部の新部長と新副部長について、発表するわ」

 

――――っ!

 

このタイミングで発表か!

 

これには俺達オカ研メンバーだけでなく、生徒会メンバーも驚いているようだった。

 

唯一驚いていないのはソーナぐらいだ。

 

リアスが言う。

 

「私はオカ研を立ち上げて三年間、部長を続けてきたけれど、特別、強いルールを下の世代に残さないようにしてきたわ。それはこれから継いでいく部員達にも覚えていてほしいことなの。オカ研はその時々のルールで動いて運営していった方がいいわ」

 

それを踏まえた上で、とリアスは断って咳払いする。

 

そして、ついに人事を発表した。

 

「新しい部長はアーシア、副部長は祐斗よ」

 

そ、そうきたか…………!

 

木場はともかく、アーシアが部長!

これは予想外の人選だ!

 

俺を含めた他のメンバーも驚いているが、とうのアーシアが一番驚いているようだった。

というか、あまりに予想外だったためか、ポカンと口を開けて、状況を呑み込めずにいる!

 

リアスが人選の理由を語りだす。

 

「アーシアにした理由は、きっとこの中で一番新しいオカ研を作ってくれそうだと思ったから。私とは違う方向で部を動かしてくれそうで、面白そうだと考えたからよ」

 

「祐斗くんが副部長なのは、単純に二代続けて部長と副部長を女性で固めてしまうのも、という面もありましたし、男子との架け橋になってくれるのではという理由もあります。それに、今の二年生の中では一番の古株ですので、アーシアちゃんのサポートには向いてると考えました」

 

朱乃がリアスに続いて、新副部長の人選理由を言った。

 

木場が男子との架け橋………。

イケメン過ぎて逆に恨まれそうだが………。

 

まぁ、オカ研の活動を一番知っているのは木場だし、新部長のサポートとしては適任だろう。

 

リアスが俺に視線を移す。

 

「イッセーもどうかと考えたのだけれど、ただでさえ忙しい身だから………」

 

「うん。うちの『女王』が仕事してくれないんだぁ………」

 

俺は遠い目でそう返す。

 

アリスはというと………、

 

「エヘ☆」

 

こいつ、今後も仕事しないつもりだな!?

 

なんてやつだ!

 

やはりここは―――――

 

「レイヴェルゥゥゥゥ! うちの事務は君にかかってるよ! これからも頼むぅぅぅぅぅ!」

 

レイヴェルに泣きつく俺!

 

レイヴェルがいなくなったら、俺達は終わりだ!

事務的に!

多分、仕事終わんない!

 

だからこそ、レイヴェルにはずっと側にいてもらわなければ困る!

 

「あ、あははは………お任せください、イッセーさま」

 

苦笑しながら、俺の頭を撫でるレイヴェルだった。

 

まぁ、ともかく、リアスが新部長にアーシアを指名したのは今までにないオカ研を作ってくれそうだったということね。

 

リアスが二人に言う。

 

「それで、二人は引き受けてくれるかしら?」

 

「僕はかまいません。光栄なくらいです」

 

木場は快く応じた。

 

アーシアはというと、

 

「わ、わ、わ、私は………そ、その………はぅっ!」

 

「ダメ、かしら?」

 

「い、いえ! 本当に私で良いのかなって思ってしまいまして………。他の皆さんの方が向いてると思いますし………。人見知りの激しい私なんて、きちんと勤められるのか、不安で………」

 

まぁ、リアスの後を継ぐとなるとアーシアは上手くできるか不安になるよな。

 

でも、問題はないだろ。

 

俺はアーシアの肩に手をおいた。

 

「心配すんなって。アーシアは俺達全員でサポートするしさ。それにアーシアが部長ってのは可愛いから皆で支えてあげたくなるんだよな」

 

「あら、私は可愛くなかったのかしら?」

 

あぁっ!

リアスが半目で見てくる!

 

俺は慌てて首を横に振った!

 

「いや、リアスも十分すぎる程、可愛いって! 嫁にほしいって! で、でも、アーシアとは可愛さのベクトルが違うというか何というか………」

 

慌てる俺にリアスはクスッと笑む。

 

「うふふ、分かってるわ。ありがとう、イッセー」

 

そう言って、ちょんと指先を俺の鼻に当ててくる。

 

その微笑みはどこか母性があって………。

 

うーむ、やっぱりリアスは学園のお姉さまって感じだよな。

俺の方が実年齢上なんだけど………。

 

アリスがアーシアに言う。

 

「ま、私でも一国の王女できたしね。私も昔は人見知りだったし? 大丈夫よ、アーシアさん」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「いや、それは嘘だぞ、アーシア。アリス! おまえは人見知り違うだろ! モーリスのおっさんから聞いてるからな! このお転婆娘め!」

 

「あれは………勉強が嫌だっただけよ! キリッ」

 

「アリスさん、『キリッ』って口で言うものじゃないと思うな。あと、使うタイミングも違うような………」

 

さりげにツッコミを入れる美羽。

 

しかし、美羽もアリス同様、アーシアに言った。

 

「でも、誰にでも初めてはあるし、失敗しても良いんじゃないかな? それに、アーシアさんならやり遂げられると思うよ?」

 

木場もそれに続く。

 

「そうだね。僕も副部長としてアーシアさんと皆を支えていくつもりだよ」

 

ゼノヴィアがアーシアの肩に手をやる。

 

「良い機会だ。やってみるのもいいと思うぞ? 部活の部長なんて二度と出来ないかもしれない」

 

「うんうん! 私もアーシアさんのためなら張り切っちゃう!」

 

イリナも合意の様子だ。

 

「アーシアが部長………。なんだか、嬉しくて涙が………」

 

「レイナ先輩、泣くのは大袈裟と思います。でも、アーシア部長という響きは良いと思います」

 

「僕もアーシア先輩………アーシア部長のためなら頑張れますぅ!」

 

「私も問題ありませんわ」

 

レイナ、小猫ちゃん、ギャスパー、レイヴェルも賛成のようだ。

 

「俺も良いと思うぞ、アーシアさんが部長!」

 

匙を初めとしてシトリーの面々からも賛成の声が上がる。

 

「マスター! このフライドチキンは美味です!」

 

料理を片っ端から食べてるディルムッド。

 

うん、おまえは黒歌と静かに食べてなさい。

 

さて、全員から賛成の声が出ているということは、あとはアーシアの意思だけだ。

 

アーシアはしばし考えた後、笑顔で頷いた。

 

「わ、わかりました! 慎んでお受けいたします! 若輩者の私ですが、一年間よろしくお願い致します!」

 

「「「はい、部長!」」」

 

頭を下げるアーシアに皆で一斉に答えた。

 

こうして、次世代なオカ研部長、副部長が決定した。

 

部長はアーシア、副部長は木場。

 

三学期が始まってから、この二人がオカ研の中心になって部活が動いていくわけだが、どうなるか…………。

 

それを想像するのも楽しいだろう。

 

 

 

 

少し疲れたとうことで、俺が部屋の隅に置かれた椅子に腰を下ろしている時。

 

ワイワイと賑やかに過ごす皆の姿を眺めている時だった。

 

――――――。

 

「………?」

 

気のせいか、何かの声が頭に過った気がした。

 

これは………あの時の感覚に似ている。

リゼヴィムと戦った時、あの虹色の粒子が漂う空間で体験したあれと。

 

天翼のブラックボックス―――――イグニスの本来の力の一端。

 

元々、天翼はイグニスの力も混じって生まれた力、俺の可能性だ。

 

だから、イグニスの力を発現してもおかしくはないんだけど…………。

 

すると、後ろから抱きついてくる者がいた。

 

実体化したイグニスだ。

 

「うふふ~♪ 楽しんでいるかしら、イッセー?」

 

「まぁな。そう言うイグニスはかなり楽しんでるな」

 

このお姉さん、ビールからワインから日本酒までありとあらゆるお酒を飲み続けてるからな。

 

顔も赤いし、テンションも上がってる。

 

イグニスは俺にほっぺをスリスリしてくる。

 

「そりゃあ、これだけ楽しい場所にいるんですもの。こっちだって楽しまなきゃ損でしょ。それに、皆の温かい想いがお姉さんの中に流れ込んできて~、お姉さんはハイになってます!」

 

「それ、お酒じゃね!? 酔ってる!?」

 

「大丈夫! 私、女神だもん! 酔わないもん! だから、裸踊りしまーす☆ イエーイ!」

 

「絶対酔ってるだろ! って、脱ぐなぁぁぁぁ!」

 

美女の裸体を見れるのは嬉しいが、流石に今はいかん!

皆、そういう感じじゃないから!

 

必死でイグニスを止める俺!

 

「えぇい! 脱がせてなるものか!」

 

「ふっふっふっ、甘いわね、イッセー!」

 

イグニスは俺の羽交い締めから脱出すると、俺を床に押し倒して脱がし始めた!

一瞬で服持ってかれたよ!

 

こいつ、マジで何してんだぁぁぁぁ!

 

「人呼んで、イグニススペシャル!」

 

「なにそれ!? 初耳なんだけど!?」

 

「あえて言おう、お姉さんはイッセーを食べちゃうと!」

 

そう言って、イグニスは俺の顔をガッチリホールド!

強引に唇を重ねてきた!

 

「「「「ああああああああああっ!?」」」」

 

この光景に悲鳴をあげる女性陣!

 

ゼノヴィアが駆け寄ってくる!

 

助けてくれるのか!

 

「そのイグニススペシャルとやら、私に教えてくれ!」

 

「そっちかいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

この後、泥酔したイグニスをティアが引きずっていくことで、事態は収拾した。

 

 

 

 

後片付けが済むと、楽しかった宴も終わる。

 

家に集まっていたメンバーはそれぞれの家に帰宅し、俺達も各自で一休みだ。

 

………イグニスはティアの部屋で爆睡してた。

 

あのお姉さんは…………はぁ…………。

やっぱり駄女神だわ。

 

イグニスの様子を見た後、俺は一人、兵藤家屋上にいた。

 

この時期だから、流石に夜は冷えるが………それも良い。

 

だって、今日は―――――。

 

「―――――雪だね」

 

声がした方を振り向くとパジャマ姿のイリナが立っていた。

 

俺は微笑みながら言う。

 

「ホワイトクリスマスってやつだな。天気予報じゃ、晴れ時々曇りだったけど」

 

そう、俺が屋上に来た理由はこれ。

 

雪が降る町の風景を眺めにきたんだ。

 

いつからかな………昔はこういうのはあまりしないタイプだったけど、今ではこういう光景をぼんやり眺めるのも悪くないと思っている。

 

イリナは俺の横に来ると雪の降る空を見上げた。

 

「クリスマスの約束どうしよっか」

 

「あー、サンタの襲撃な。子供の頃の約束とはいえ、流石に過激だよなぁ。というか、今の俺達じゃ成し遂げられそうで怖い」

 

今の俺達ならサンタ襲撃して、プレゼントの強奪までやってのけるぞ、多分。

 

まぁ、サンタがどこにいるかは知らないんだけどね。

 

俺が苦笑していると、イリナが呟く。

 

「あのね、イッセーくん」

 

「ん? なんだ――――」

 

そちらに顔を向けた時だった。

 

―――――イリナの唇が俺の唇と重なった。

 

…………。

 

…………ん?

 

固まる俺を置いて、イリナは頬を赤く染めて言う。

 

「えっと………天使のキッス。こんなシチュエーションだし、良いよね?」

 

…………ま、まぁ、雪が降る中で天使が微笑むってのも最高のシチュエーションだと思うけど…………。

 

完全な不意打ちだ…………!

 

イリナは更に続ける。

 

「実はセカンドキスだったりするのよ? 初めてもイッセーくん」

 

「なぬっ!? いつ!?」 

 

「うふふ、子供の頃にね。私の家で寝ているイッセーくんにキスしちゃったの」

 

イタズラな笑みを浮かべるイリナ!

 

マジでか………!

となると、俺のファーストキスって………!

 

幼馴染みがその相手だったとは…………俺もビックリだよ!

 

とりあえず、俺は…………。

 

「イリナ―――――」

 

俺は肩に手を置いて―――――イリナに唇を重ねた。

 

今度はイリナが固まる。

 

「え………い、イッセー、くん…………?」

 

「二回ともイリナからだったからな。今度は俺からだ」

 

ニッと微笑みながら言った。

 

イリナの顔はさっきよりも赤くなり、頭から湯気が出ている程だ。

 

イリナは指先で自身の唇をなぞる。

 

「こ、こんなの………イッセーくんって、やっぱり大胆よ」

 

「アハハ………ま、まぁ、そうなるよね」

 

「ねぇ、イッセーくん。………ちょっと来てくれる?」

 

「…………え?」

 

 

 

 

俺がイリナに手を引かれて連れてこられた場所。

 

そこは―――――

 

「あ、あのー………イリナさん、これは?」

 

俺が問うとイリナは頬を染めてモジモジしながら言う。

 

「え、えっとね………。わ、私も超特急だとは思うんだけど…………その、ミカエルさまのご期待もあるし………イッセーくんと、その………天使と悪魔の架け橋になっちゃおうかなって」

 

俺達がいるのは例のドアノブの部屋―――――子作り部屋だ。

天使の放つ光力に似た波動が伝わってきており、ご利益のありそうな雰囲気を醸し出していた。

 

俺はイリナにこの子作り部屋に連れてこられたわけだが…………。

 

「い、いや…………あのさ、なんでこの二人までいるの? というか待機してたの?」

 

俺が指差したところには―――――下着姿のアーシアとゼノヴィア!

 

ベッド上で既に戦闘モードに入ってるんですけど!?

 

なにやってんの!?

 

ゼノヴィアが無駄に堂々としながら言う。

 

「なに、イリナが覚悟を決めたからね。私達も覚悟を決めたわけだ」

 

「………そ、その………私も、イッセーさんの…………赤ちゃん生みたいです!」

 

途切れ途切れの言葉でかなり恥ずかしそうにしているが………なぜかものすごい覚悟を決めた目をしていた。

 

つーか、赤ちゃんですか!

こうもハッキリ言われると、どう返せば良いのか分からねぇ!

 

ゼノヴィアが俺をベッドに引きずり込んでくる!

 

「私達は決めていたんだ」

 

「決めていた………? 何を………?」

 

俺が聞き返すと、ゼノヴィアは一つ頷く。

 

そして―――――

 

「生まれた場所、時は違えど―――――イッセーに抱かれる時は一緒だ!」

 

「どこの三国志だぁぁぁぁぁぁ!」

 

桃園の誓いですか!?

なんつー誓いを立ててんの!?

 

三人同時に抱けと言うことですか!?

 

君達、全員初めてだよね!?

初めてにしてはレベル高すぎませんか!?

 

「ああ、出来ればイクときも一緒がいいな」

 

「難易度高すぎだろぉぉぉぉぉ!?」

 

すると、この部屋に一つの気配が現れる。

 

それは俺達の傍に表れて、

 

「いえ、頑張ればできるわ! イッセーなら!」

 

イグニス登場!

寝てたんじゃないの!?

 

つーか、登場と同時に無茶苦茶なこと言ってるよ!

 

「さぁ、イッセー! いきましょう! 4P!」

 

「なんでテンション高いの!? まだ酔ってる!?」

 

ツッコミを入れる俺だが、イグニスはそれを無視。

 

俺の両肩にそっと手を置いて微笑んだ。

 

「繋がることで、世界は廻っていく。分かり合うことが大切。そうよね?」

 

「あ、ああ」

 

「なら繋がりましょう―――――下半身で」

 

「この人、最低なこと言ったよ! おまえ、本当に女神か!?」

 

「身体で分かり合う。そんな相互理解もあるわ」

 

この駄女神ぃぃぃぃぃぃぃぃ!

 

言ってることはマジで最低だよ!

 

下半身で繋がるとか、完全にアウトじゃん!

分かり合うってそういうことじゃないと思うんだ!

 

しかし、この場において俺のツッコミなど通じる訳もなく…………。

 

「イッセーさん…………私、イッセーさんと分かり合いたいです」

 

「そうだぞ、イッセー。繋がることで分かることもある」

 

「イッセーくん! 私達…………分かり合えてるんだよね? 私の気持ちも…………わかる、よね?」

 

…………っ!

 

そ、そんな潤んだ瞳で詰め寄られたら…………!

 

えぇい、ままよ!

 

俺だって、この三人のことを…………!

 

俺の覚悟を見たのかイグニスが微笑む。

 

「それじゃあ、私は行くわ。四人には女神さまからのご加護を」

 

イグニスの手から赤いオーラが放たれ、俺達を包み込む。

 

温かいオーラが…………俺達の心に溶けていく―――――。

 

聖なる夜は長くなりそうだ。

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

時は少し飛ぶ。

 

年が明け、駒王学園では三学期を迎えた後のことだ。

 

ゼノヴィアの生徒会選挙、アーシア率いるオカルト研究部がスタートしている中、新たな波乱が彼らに迫っていた。

 

しかし、それとは関係ない場所でも嵐が巻き起ころうとしていた。

 

 

冥府―――――。

 

 

それは冥界の下層に位置する死者の魂が選別される場所。

 

ギリシャ勢力の神、ハーデスが統治する世界だ。

 

そこに踏み込む者がいた。

 

《と、止まれ…………!》

 

「アハッ♪ 止まれと言われて止まる人ってあんましいないよねー」

 

白いパーカーの少年が手を横に凪ぐと彼を制止させようとした死神は消え去る。

 

上級死神が子供の一振りで消されたのだ。

 

その事実に少年を取り囲む死神達は戦慄する。

 

少年は動揺する死神達を無視して歩を進めていく。

向かうは神殿の最奥。

 

そこにいるのは当然―――――

 

《ほう………これはまた予想外の訪問だな。貴様は――――》

 

冥府の神ハーデスは不気味な眼光を放ちながら、その少年を見る。

 

世界でもトップクラスの神が放つ殺気だ。

並みの者………いや、実力者であってもその殺気に推され、冷や汗を流すだろう。

 

しかし、少年はフードの下から余裕の笑みを見せる。

 

「やぁ、冥府の神ハーデス。僕はアセム…………って、自己紹介はいらないよね? ずーっと、僕のこと覗いていたみたいだし」

 

少年―――――異世界の神アセムはニッコリと微笑みながらそう言った。

 

「アポプスくんから契約を結ぶ条件の一つとして、僕の居場所を聞き出したんでしょ? 監視してくるなんて、ストーカーかい?」

 

《なに、世界の脅威となろう者がいるのだ。それを監視するのは当然のこと。…………して、何用か? 貴殿も私と契約でも結びにきたか?》

 

「まさか。僕はね、ストーカー気質の陰険なおじいちゃんにお仕置きしにきたのさ」

 

アセムがそう告げた瞬間、周囲の死神の殺気が膨れ上がった。

中級や上級はもちろん、最上級死神までもがそれぞれの武器を構え、アセムに斬りかかろうとしている。

 

《ファファファ………中々面白いことを口にする。私に仕置きか。だが、貴殿の力は耳にしている。果たして仕置きで済むかどうか》

 

「アハハ♪ 大丈夫大丈夫♪ おじいちゃんだから手加減してあげるって♪ ここで消したら、各勢力の神に僕の危険性を伝えられないでしょ? おじいちゃんには僕の広告になってもらうよ」

 

愉快に笑うハーデスとアセム。

 

ふとハーデスが訪ねる。

 

《貴殿の目的はなんだ? 異世界の神がこの世界に来てまで何をしようとしている?》

 

「んー、気になる? それじゃあ、少しだけ教えてあげよう。―――――思い上がりの激しい神には破滅を、知らぬ振りをする弱者には現実を見せる。この世界は変わる必要があるんだよ。あっちの世界のように」

 

その時、アセムの左手に黒い籠手が現れる。

 

それはまるで―――――。

 

「この間、天界で『システム』を覗いたんだけど、それを参考にしたんだ♪ ベルの力でも神器の全てを明らかにするのは難しくてねぇ。いやー、聖書の神さまは凄い技術を持ってたんだねぇ。この世界の神さまも中々にやる。ま、それは置いといてだ。―――――君、半殺しで良いよね? ストーカーさん♪」

 

冥府に破滅の蝶が羽ばたいた――――――。

 

 

[三人称 side out]




これにてファニーエンジェル編完結です!
次回は番外編かな~。

コラボもぼちぼち進めていきまーす(。・ω・。)


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番外編 遅めのクリスマスプレゼント!? 

黒猫美羽と白猫アリスを描いてみました。
猫パジャマです。


【挿絵表示】


おそらく、前よりは上達した…………と思いたい!


クリスマスパーティーが行われた、その二日後。

 

俺はグリゴリの研究施設、その一角にある真っ白な実験室の中にいた。

 

『3………2………1………もういいぞ』

 

スピーカーから聞こえてくるアザゼル先生の合図で俺は力の放出を止めた。

 

赤く輝きを放っていた鎧はその輝きを止め、荒々しいオーラも徐々に静まっていく。

完全にオーラが収まった後、俺は鎧を完全に解いた。

 

一度息を吐いた後、俺はその実験室を出る。

 

待っていたのは白衣を着た、いかにも研究者っぽい出で立ちのアザゼル先生。

 

「おつかれさん。計測は終わりだ」

 

そう言って、先生は汗をかいている俺にタオルを手渡してくる。

 

俺はタオルを受け取り、頬を伝う汗を拭う。

 

すると、先生がパネルのようなものを取り出して、そこに映されたグラフを見て呆れたように言った。

 

「ったく、なんだこのデタラメな数値は? おまえ、何したらこんな数値が出るんだよ? 元々、十分すぎる力を持っていたのに、そのスペックを三倍に引き上げるとか無茶苦茶にも程があるだろう?」

 

今日、俺がグリゴリの実験施設を訪れた理由。

 

それはこの間の戦闘で初投入したEXA形態と昇格強化『女王』の組み合わせ―――――トランザムの問題を挙げ、その解決策を考えることにある。

 

アセムとの戦闘では、一瞬とはいえ、あいつを追い詰める程のパワーとスピードを獲得できた。

しかし、元々不安定な力に未調整な力を掛け合わせたことにより、神器が異常をきたす事態に陥ってしまった。

 

リゼヴィムの戦いまでにはドライグが神器の調整を超特急でしてくれたから、良かったものの………今後、あのような事態になれば、色々と不味い。

 

ドライグによると、『女王』の昇格強化の調整は終わったものの、やはりEXA形態との掛け合わせは止めた方が良いとのことだ。

ドライグでもEXA形態だけはどうにもならないらしい。

 

そこで、俺は神器研究の第一人者であるアザゼル先生に助けを求めることにしたんだ。

 

先生はパネルを操作していくつものグラフを画面に出していく。

その内の一つに赤い折れ線グラフがあり、激しく上がり下がりしているのが見えた。

 

先生はそのグラフを指差す。

 

「こいつがEXA形態とトランザムとやらの掛け合わせだ。爆発的に力が上がってはいるが、力の起伏が激しいだろう? 低いときにはほんの一瞬ではあるが、トランザムを使う前よりも出力が下がってる。無茶苦茶な強化の結果、力が安定してないんだよ」

 

先生は懐に手を入れると、黄金の短剣を取り出した。

 

先生がファーブニルと契約していた時に使っていた人工神器だ。

 

「こいつの禁手は神器をバーストさせ発生させた擬似的なものだ。使い捨てってこともあって、通常の神器より不安定なものとなっている。で、おまえがやってるのはそれよりももっと酷い。下手すりゃ、マジで神器が使えなくなっちまうぞ?」

 

うっ………ドライグにも同じこと言われたな………。

 

神器が使えなくなるのはマジでヤバい。

これからの敵を考えると特にだ。

 

「ま、おまえがそこまでせんと勝てそうにないアセムが異常なだけか。生前のドライグ、アルビオンを越えてるんじゃないのか?」

 

「………ですね」

 

アセム………あいつの力は異常だった。

 

ふざけた奴だけど、実力は本物。

あいつと戦うには、やっぱり、それだけ無茶をしないといけない。

 

………ふと、思い出したんだけどさ。

アセムって…………。

 

嫌な予感がしながら、俺は先生の顔を見る。

 

案の定、先生はいやらしい顔をしていてだな………。

 

「しっかし、あれだよな。おまえも大胆になったというか………リアスとアリスの乳をあんな場所で吸っちまうとはなぁ」

 

「うぁぁぁぁぁぁぁっ! なに、しみじみしながら言ってるんですか!?」

 

「いや、教え子の成長が………。この場合、ある意味劣化か? 人として」

 

「俺だって、あの状況であんなことになるとは思ってなかったんですよ! うちの駄女神とか歴代の変態共が訳のわからんこと言うし!」

 

「そんなこと言ってるわりには、結構ガッツリいってたよな? ほら」

 

先生がどこからか取り出したリモコンのボタンを押す。

 

すると―――――

 

 

『んんっ………! ちょ、イッセー! 吸いすぎ………あぁん!』

 

『い、イッセー………。あっ、お尻までそんなに揉んでは………ふぁぁぁっ』

 

 

アセムが見せてきた映像ががががががが!

 

「やめてぇぇぇぇぇ! 流石に俺も恥ずかしいから!」

 

「あーあ、こりゃ、必要以上に吸ってるよな? 少し楽しんでるよな、おまえ」

 

「ちょ、ズームにしないでぇぇぇぇぇ!」

 

ああっ!

リアスとアリスの顔がモニター一杯に!

二人とも恍惚とした表情でビクンビクンしてる!

 

エロい!

二人ともエロい!

 

だけど、こんな二人の映像は俺の脳内メモリーで十分!

態々、モニターに出さないで!

 

「消してください! これバレたら、間違いなく二人に殺される!」

 

「なんだ、まだ二人にこの録画のこと言ってないのか?」

 

「言えるわけないでしょ!? 二人とも恥ずかしすぎて死んじゃいますよ! まず、俺はアリスに殴られる!」

 

「ま、そこんところはおまえが何とかしろよ、ハーレム王。とりあえず、この録画は残す。後で特撮に使うからな」

 

「はぁ!? あんた何するつもりだ!?」

 

「ツイン・おっぱい・システムを特撮でも使うんだよ。それにアリスもスイッチ姫として出す。そうすりゃ、グッズも売れるだろ!」

 

なんで、そんなに目輝かせてるんですか!?

駄女神システム使わないでくださいよ!

 

「おっぱいドラゴンって、子供達向けの番組ですよね!? そんなの使ったらR18指定されますよ!?」

 

「何を今さら。俺達はとことんまでやるぜ! 漫画でも限界ギリギリ狙うやつあるだろ? ハーレム計画のやつ」

 

「ギリギリ過ぎる!」

 

この人、本気で限界狙うつもりだ!

 

親御さんから苦情が出るぞ!

その苦情が俺に向かってきそうで怖いよ!

 

放映したら、リアスとアリスが『恥ずか死』とかなるんじゃないのか!?

 

アザゼル先生は一度咳払いする。

 

「商品化のことは改めて話すとしてだ。今はおまえの無茶苦茶を何とかせにゃならん。………が、どうしたものかね」

 

先生は額にしわを寄せて、唸り始める。

 

暫しの沈黙の後、顎を擦る。

 

「先も言ったように神器が所有者の力に耐えられなくなるなど、あり得ないことだ。神器は所有者の想いに応えて力を発揮するからな。単純に考えるなら、神器側がおまえの想いに、進化の速度についていけていないということになる」

 

「やっぱり、T・O・Sですか?」

 

「だろうな。ベースの三形態は安定しているんだろう? となると、それしかないだろう。だが………本当に神器側の問題なのか? ドライグが言うには神器の調整ではどうにもならんとのことだしな…………」

 

先生はぶつぶつと一人考え始めた。

 

ツイン・おっぱい・システム―――――イグニスが構築した新しい力の理論。

アリスとリアス、二人のスイッチ姫の乳力(にゅー・パワー)を同調させ、乳力を二倍ではなく二乗化するというなんともバカらしい発案。

 

ただ、結果を残しちゃってるんだよなぁ…………。

恐ろしいレベルで。

 

俺と先生が頭を悩ませていると、傍に人影が一つ現れる。

 

「おっぱいの可能性は無限大ということね! あと、新しい理論を構築しちゃう私って凄い!」

 

テンション高めで実体化してきた最強の女神さま。

 

うん、それには同意せざるをえない。

 

この女神さま、マジで半端ないよ。

 

 

―――――なんで、パイロットスーツ着てるの!?

 

 

唖然とする俺と先生にイグニスが敬礼のポーズで言う。

 

「作ってみた!」

 

「作った!? なんで!?」

 

「いえね、歴代の赤龍帝達と新しいシチュエーションでやってみようかなって」

 

「新しいシチュエーションってなに!? なんで、パイロットスーツ!?」

 

「だって、発進シーンとか再現できるじゃない。―――――イグニス、イキます!」

 

「おいぃぃぃぃぃ! 逝ってるのはあんたの頭! バカなの!? ねぇ、バカなの!?」

 

「ちなみに、さっき五人ほど逝かせたわ!」

 

「聞いてねぇよ! 逝かせたってなに!? 死んだ!? 歴代の先輩五人ほど死んだ!?」

 

「ええ、彼らは………真っ白な灰になったわ」

 

「燃え尽きてんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

立て!

立つんだ、先輩!

こんなところで燃え尽きて良いのか!?

 

『燃え尽きちゃって――――イイんです!』

 

『ベリーグー!』

 

ベルザードさんんんんんんん!?

エルシャさんんんんんんんん!?

 

何言ってるか、分からん!

ベリーグーって何が!?

 

というか、あんたら、駄女神と仲良いのな!

T・O・Sの時もそうだったし!

 

『私達はイグニス教徒』

 

『女神イグニスの教えを貫く者』

 

『『エロこそ力! エロこそ正義!』』

 

せ、洗脳されたぁぁぁぁぁぁぁ!

歴代のまともな先輩が駄女神に洗脳されたよ!

最悪じゃねぇか!

 

『現在、入信者募集中!』

 

『今なら、イグニスさまのおっぱいが揉み放題!』

 

「入る!」

 

「入るのかよ!」

 

即答する俺にツッコム先生。

 

だって、イグニスの女神おっぱいって、超柔らかいんだもの!

駄女神だけど、女神おっぱいは最高なんです!

 

「良く言ったわ! 流石はイッセーよ!」

 

イグニスが俺の顔に胸を押し当ててくる!

 

ピチピチのスーツ着てるからほとんどダイレクトだよ!

最高です!

 

このまま、暫くおっぱいに顔埋めていても良いですか?

 

『おまえら、さっさと解決策探せやぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

ドライグの嘆きのツッコミだった。

 

 

 

 

ドライグのツッコミで一旦落ち着いた俺達は話し合いを再開。

研究室の奥にある和室に移動して、解析したデータなどから現状の確認を行っていく。

 

和室があるのはアザゼル先生の趣味だそうだ。

 

「思ったんだが………神器ではなく、そのT・O・Sとやらの方に問題があるのではないか?」

 

と、ティアが思い付いたように言った。

 

なぜここにティアが来たかというと、

 

「今日は暇なんだ」

 

とのことらしい。

 

今日一日は特にすることがなく、暇で暇で仕方がなかった結果、俺のところに来たそうだ。

 

うーん、ティアも自由だよね。

いや、ドラゴンという種族そのものが基本的に自由な性質なのかも。

 

自由すぎて、今なんか、俺の耳掃除してくれていたりする。

ティアに膝枕してもらって、耳の中を綺麗にしてもらってます。

 

「どうだ、気持ちいいだろう?」

 

「うん、ティアって耳掃除上手いのな」

 

「意外か?」

 

「意外と言えば意外かな。あ、でも、ティアってしっかり者で家事とか出来そうな雰囲気あるし、そうでもないかも」

 

なんてほのぼのな会話をしてみる。

とりあえず、言いたいこととしてはお姉さんの膝枕は最高ということだ。

 

アザゼル先生が息を吐く。

 

「おらおら、イチャつくな、そこの二人。ここはおまえらの家じゃねーんだよ」

 

「いいではないか。あまり細かいことを言うと嫁が貰えんぞ、未婚オタク元総督」

 

「んだと、ゴラァ!」

 

「よし、イッセー。次は反対側だ」

 

「無視か!」

 

相変わらず、ティアは先生の未婚を弄っていくのね………。

 

で、話を元に戻していくんだが…………。

 

「なるほど。EXA形態は元々、アリスちゃんとリアスちゃんの乳力によって誕生した形態。乳力が安定すれば、自然と神器の方も調整が可能になるかもしれないわね。イッセーの魂と神器は直結している。そして、イッセーの魂と乳力も直結している。となれば、神器ではなく、それとは別の………乳力の方を何とか調整するのが良いかもしれないわ」

 

イグニスがそう発案する。

 

一見、またまたバカなことを………と、思ってしまうが、それが正しく思えてしまうのが怖いところ。

 

アザゼル先生がイグニスに訊く。

 

「だとしても、そんなもんどう扱えば良い?」

 

「内側からの調整は難しいでしょう。こちらはイッセー自身が変化しないと無理でしょうし。現状、内側からの調整が無理。だったら、外側から調整すれば良いんじゃない? アザゼルくん、あなたは神器を制御する道具が作れたわね?」

 

今度はイグニスがアザゼル先生にそう聞き返した。

 

確かに、アザゼル先生は神器を研究する過程で、それを制御する道具も開発していたはずだ。

それを提供することで、神器を上手く制御できずに困っている人達の助けになっているとか。

 

しかし、なるほど。

内側からがダメなら、外側か。

 

イグニスは続ける。

 

「補助装置を作りましょう。少しは安定するはずよ。もちろん、それで長時間扱えるとか、そういうことにはならないでしょうけど」

 

「無いよりはマシ、ということ?」

 

「そうそう」

 

俺の問いに頷くイグニス。

 

そして、俺は更に問いかけた。

 

「それで、方法はどうするの?」

 

「そうね、まずはスイッチ姫二人の乳力の解析が必要ね。というわけで、イッセーは二人のおっぱい搾ってきてくれる?」

 

…………。

 

……………………。

 

………………………………。

 

…………………………………………はっ!?

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!? ちょ、おま、何言ってんの!?」

 

「だって、あの二人のおっぱいがT・O・Sの要なのよ? イッセーは二人のおっぱい吸って至ったんじゃない。それを改めて解析するのは当然でしょ?」

 

「いやいやいや、だとしても! 他に方法は!?」

 

「ないわ」

 

即答かよ!

 

二人のおっぱいを…………って、どんな顔で頼めば良いんだよ!?

頼んだ瞬間にフリーズする二人が目に浮かぶわ!

 

慌てる俺の肩にイグニスが両手を置く。

 

その表情は慈愛に満ちていて―――――。

 

「大丈夫。イッセーからの頼みならあの二人は喜んで協力してくれるわ。―――――『休憩室』に連れ込みなさい」

 

「結局、そこかよぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

思ったんだけど、アザゼル先生もティアも何も言ってくれない!

 

諦めてるの!?

それとも、納得してるの!?

というか、決定なんですか、これ!?

アリスとリアスのおっぱい搾ってこいってか!?

 

ここで、先生が顔を上げた。

 

「あー、そうそう、今ので思い出した。イグニス、例の物は完成してるぜ?」

 

 

 

 

先生に連れて来られたのは別の研究室だった。

 

先程の部屋と同じく、広くて白い部屋で、あちこちに機材が置かれている。

 

ただ、一つ違うのは部屋の真ん中に大きな金属製の箱があること。

 

箱………というよりは部屋なのかな?

 

銀色の壁の一枚に入り口がある。

  

「はいってくれ」

 

先生に連れられて入ると、箱の中は十畳程の広さの空間だった。

天井は三メートルくらい。

 

扉の横には何かの装置らしきものがあって、モニターといくつかボタンがついている。

 

先生が言う。

 

「この部屋はな、イグニスの提案で天界と冥界………つまり、三大勢力の技術力を集めて作ったんだ」

 

三大勢力の技術を集めて作った………それだけ聞くなら、和平が成立したからこそ、完成したものと感動できるのだろう。

 

だけど、イグニスの名前が出てきた時点で嫌な予感しかしない。

 

………まぁ、一応、解説だけは聞いておこう。

 

もしかしたら、真面目なものかもしれない。

 

先生は装置のボタンを押す。

 

すると――――――部屋の中にいたはずの俺達は外に立っていた!

 

俺達がいるのは白い砂利が敷き詰められた場所。

 

「………日本庭園?」

 

そう、ここは見覚えがある。

修学旅行で実際に見た場所だ。

 

転移したのか………?

 

でも、そんな感じじゃなかった。

観光客の気配もないし。

 

先生はニヤリと笑んだ。

 

「こいつはな、この装置を操作することによって、ありとあらゆる場所を再現できる装置さ」

 

「場所を再現?」

 

「おう。レーティングゲームのフィールド技術を応用しているから、建物、フィールドの広さを自由に設定できる」

 

先生が再び、装置を弄る。

 

すると、俺達はどこかの教会の中にいた。

もちろん、人の気配はない。

 

次に草原、その次は山小屋。

更にその次は駒王学園の教室。

教室の机を触ってみるが、感触はある。

窓を開けると、風が入ってくる。

 

本当にありとあらゆる場所が再現されていた。

 

なるほど、この装置がどういうものなのかは分かった。

 

「でも、これがイグニスの提案なんですか? それにこれって悪魔側の技術だけで出来るんじゃないですか?」

 

「そうでもない。この装置には悪魔側のレーティングゲームのフィールド技術と空間系神器の技術、そして、天界のドアノブの技術を投入している」

 

んー…………今、最後に明らかにおかしい技術が混じってたよね。

 

天界のドアノブの技術…………?

 

もしかして…………もしかして――――――。

 

イグニスがブイサインで言った。

 

「ここはね、天使も悪魔も堕天使も関係ない。ありとあらゆるシチュエーションで子作りができる部屋よ! その名も『ラブルーム』!」

 

「だと思ったよ! なんつーもん作ってんだ!?」

 

「私はね、あのドアノブを見て思ったの。あれではイリナちゃんがイッセーとエッチなことが出来る場所が限られてしまう。毎回、同じシチュエーション。美羽ちゃんの時みたく、保健室でなんてことは出来ない。それでは刺激が足りない。だから、私はミカエルくんに直訴したの。―――――ありとあらゆるシチュエーションでエッチできる部屋を作りましょう、と」

 

「ミカエルさんんんんんんんん!? なんで、応えちゃったんですかぁぁぁぁぁぁぁ! 先生も! なんで!?」

 

「おいおい、サーゼクスが抜けてるぜ。いや、技術提供はアジュカか」

 

「あの人もかよ!?」

 

「それだけ、三大勢力はおまえらに期待してるのさ。種の繁栄はおまえらにかかってる。…………つーか、搾り取られていくイッセーとか面白すぎんだろ」

 

なんか悪役みたいな笑顔だ!

 

結局、あんたは楽しんでるよね!?

俺で遊んでそんなに楽しいか!?

 

イグニスが両手を広げる。

 

「この部屋は事務所の倉庫の奥に取り付けるわ。さぁ、イッセー! 存分に使いなさい! これなら、屋外から教室まで、様々な場所を再現できる! 刺激的な子作りをいざ! これがあなた達に送る少し遅めのクリスマスプレゼントよ!」

 

…………俺では駄女神の暴走を止められなかった。

 

 

 

 

後日、『ラブルーム』は本当に事務所の倉庫に設置されることに。

 

イリナも含めた女性陣に、割りと高い頻度で連れ込まれる俺であった。



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番外編 年末に向けて! 前編

ある日のこと。

 

俺はリアスと朱乃の三人で駒王町から離れた町の大型ショッピングモールに来ていた。

クリスマスも終わり、年末に入るとのことであちこちの店で年末特売セールの旗が掲げられている。

 

今日、ここに来たのは年末の買い出し………もあるが、以前の約束を果たすためでもある。

 

赤龍帝眷属の親睦会で温泉旅行に行く直前に、二人と約束したあれだ。

二人をアザゼル先生お手製の俺専用バイク『スレイプニル』に乗せてデート。

 

買い出し自体は地元のショッピングモールでも十分なんだけど、デートということでスレイプニルに乗って三人で離れた町まで来たんだ。

 

来るときは朱乃をサイドカーに乗せて、リアスが俺の後ろに座ったんだけど…………。

 

抱き付かれたときにおっぱいが密着して…………しかも、リアスが頬を染めながらも押し付けてきたもんで…………。

 

『………やっぱり、イッセーの背中は大きくて温かいわ』

 

なんて言われたりして、運転中、元気になりっぱなしだった。

 

今日買ったのは年末の食糧から日用品、そんでもって二人の服がメイン。

二人の下着も撰ぶことになったのだが………美羽とアリスの時みたく、中に連れ込まれた。

 

スタイル抜群の二人が目の前で生着替えして、下着姿を見せてくる光景は圧巻で………眼福でした!

脳内メモリーにインプット済みです!

 

そして、二人の服を選ぶついでに俺の服も選んでもらったりもした。

二人とも流石にセンスが良く、次から次へと服を取ってきて、俺に合う物を選んでくれた。

 

まぁ、少々言い合いにもなってたけど………そこは何とかしておさめた。

俺、頑張ったよ。

 

今は買い物を一通り終えて、ショッピングモール内のカフェで一休み中だ。

 

「これで買い物は全部?」

 

俺が訊くとリアスがティーカップに口をつけて言う。

 

「ええ。後は帰るだけよ。だけど………」

 

「せっかくですから、もう少しドライブに行きたいですわ」

 

リアスに続き、朱乃がそう言った。

 

俺としては別に構わない。

美少女連れてドライブなんて男冥利に尽きると言うもの。

 

スレイプニルの中には色々収納できる空間があって、かなりの量を詰め込める。 

前回の温泉旅行の時もそこに鞄を詰めた。

 

今日買ったものだって、そこに入れておけばドライブの邪魔にはならない。

 

俺はその申し出を受けた。

 

「了解。もう少し遠くまで行こうか」

 

「うふふ、お願いしますわ。今度は私がイッセーくんの後ろですわよ?」

 

「分かっているわ、朱乃。ここは平等にいきましょう」

 

リアスも朱乃もニコニコ顔で頷いた。

 

買い物中なんて学園の二大お姉さまの姿はそこになく、年頃の女の子、完全な乙女モードだったんだよなぁ。

紅髪のお姫さま、大和撫子なお姉さん………本当の顔は超乙女な女の子です!

 

それから、三人でたわいのない話をしていたところ、リアスが思い出したように言った。

 

「そういえば、朱乃。近々、神社の大掃除をすると言ってなかったかしら?」

 

「神社の大掃除?」

 

俺が聞き返す。

 

すると、それには朱乃が答えた。

 

「イッセーくんも以前、来たことがあるでしょう? ミカエルさまからアスカロンを受け取った時に」

 

あー、あそこか。

 

神主が亡くなった後、無人になった神社。

リアスが朱乃のために確保した場所で、朱乃が家に住むようになる前まではあそこに住んでたんだっけな。

 

俺があの神社を訪れたのはミカエルさんからアスカロンを受け取ったあの時だけ。

そもそも、呼び出される前まではあんな場所に神社があったことすら知らなかった。

 

朱乃が続ける。

 

「あの神社は先代の神主が亡くなってからはあまり人が来なくなりましたが、それでも近くに住む人達が訪れることもあります。特に年が明けた後は初詣に来る人もいるのですよ」

 

「なるほど。それで大掃除」

 

「管理しているのは私ですので、定期的に行ってはいるのですが………最近は忙しくて」

 

夏休みに入ってからは若手悪魔の会合に修行、レーティングゲーム。

おまけに今では対テロリストチーム『D×D』のメンバーだもんな。

 

「そこで、比較的時間のある冬休みの間に大掃除をしようと考えたのです。一応、明日する予定なのですが………」

 

「俺も手伝おうか?」

 

「助かりますわ。流石に一人でするのは大変ですので」

 

「それじゃあ、明日は手の空いてるメンバーで神社の大掃除といきましょう。私も手伝うわ」

 

リアスの言葉に俺と朱乃は頷いた。

 

この後、ショッピングモールをぶらりと歩いた後、駐車場へ。

 

買った物をスレイプニルの収納空間に入れていくんだが、大量の紙袋が入る入る。

まるで四次元ポケットのようだ。

 

来るときはリアスが俺の後ろだったので、今度はサイドカーに座る。

ヘルメットを被せて、こちらは準備オーケー。

 

それで、今度は朱乃の方なんだが………。

 

とうの朱乃は上目使いでこちらを見ていてだな…………。

 

うん、行きのリアスと同じだわ。

 

俺は朱乃に近づくと―――――抱き上げた。

そう、お姫さま抱っこだ。

 

以前、レイヴェルにしたことなんだが、リアスも朱乃もそれがご所望のようで…………。

どうにも女の子にとって、お姫さま抱っこは一種の憧れらしい。

 

今の朱乃の満足そうな表情ときたらもう…………可愛い! 

 

俺はそのまま朱乃をスレイプニルのシートに乗せて、ヘルメットを被せてあげる。

 

俺もヘルメットを被って、スレイプニルに乗り、エンジンをかけた。

 

「よっしゃ、ちょっとだけドライブしてから帰ろうか」

 

「うふふ、その間、私はイッセーくんに抱きついていますわ」

 

おぉぅ!

朱乃のおっぱいが………おっぱいが背中にぃぃぃぃ!

服の上からでも分かるこの柔らかさ!

なんという柔らかさなんだ!

 

女の子とタンデムはやっぱり最高だよ!

 

つーか、甘えてくる朱乃が………乙女顔で…………!

 

俺は背中に伝わる感触に元気をもらいながら、スレイプニルを走らせた。

 

 

 

 

翌日。

 

俺は袴姿に竹箒という格好で例の神社の庭にいた。

 

袴ってのはあまり着たことないけど、意外と動きやすいもんだな。

 

今日、神社の大掃除に来たメンバーは俺、リアス、朱乃、小猫ちゃん、レイナ、アーシア、イリナ、美羽、アリス、レイヴェル、ディルムッド、ティア、そしてオーフィス。

それから木場とギャスパーの野郎二人。

つまり、ゼノヴィアを除くオカ研メンバー+α(ディルムッド、ティア、オーフィス)だ。

 

ゼノヴィアはグリゼルダさんに呼ばれて町の教会に行っている。

………どうやら、ゼノヴィアがグリゼルダさんから呼び出されたらしい。

 

ゼノヴィアはどうにも行きたくなさそうな顔をしていたが、電話から聞こえるグリゼルダさんの声に屈した結果、呼び出しに応じることに。

 

………ゼノヴィア、本当にグリゼルダさんに弱いな。

 

まぁ、グリゼルダさんも妹と色々話したいこともあるのだろう。

 

どんな話をしてるんだろう?

 

 

~そのころのクァルタ姉妹~

 

 

「聞いてくれ、シスター! この間、イッセーと子作りしたぞ!」

 

「…………」

 

グリゼルダは無言で目を開いた。

 

この後、ゼノヴィアは色々と問いただされることになる。

………が、後日、一誠も問いただされることになるのは言うまでもない。

 

それから、一つゼノヴィアの言葉を訂正しておこう。

一誠と教会トリオは()ではしていないので、子作りにはなっていない。

練習止まりである。

 

 

~そのころのクァルタ姉妹、終~

 

 

まぁ、なんだかんだで、仲の良い姉妹だと思うし、微笑ましい会話になっているだろう。

 

ちなみにロセは学校。

教職なので俺達学生とは違い、今日もお仕事だそうだ。

社会人は学生と違って休みが少ないから大変だよな。

 

俺は俺と同じく袴姿で箒を持つ木場に訊いてみる。

 

「木場はここに来たことあるのか?」

 

「毎年、年末になると大掃除するからね。去年は部長と小猫ちゃんと僕の四人で朱乃さんを手伝ったかな」

 

「初期オカ研メンバーで手伝ってたわけか。毎年、着替えてるのか?」

 

「神社は神聖な場所だからね。それなりの格好をする必要があるんだ。掃除も魔力ではなく、こうして自分の手を動かして綺麗にするんだよ」

 

あー、やっぱりそういう感じなんだ。

 

まぁ、神聖な場所で魔力使うってのもなぁ。

色々とバチが当たりそうだよね。

ここは特殊儀礼済ませてるから、大丈夫だとは思うけど。

 

「まぁ、ここは特殊儀礼すましてあるから何かバチが当たるというわけでもないんだけどね」

 

と、俺が思ったことと同じことを木場も補足した。

 

その時だった。

 

「お待たせ、お兄ちゃん、木場くん」

 

美羽の声がしたので、振り返ると――――――巫女服姿のオカ研女性陣(ゼノヴィアは除く、ギャスパーは含む)の姿だった!

 

白衣に緋袴という白と赤のコントラスト!

清潔で神々しい雰囲気を醸し出している!

 

巫女服と言うと俺は黒髪のお姉さんを思い浮かべるんだけど、黒髪美少女である美羽、朱乃、レイナの三名はバッチリだな!

長い黒髪と巫女服が最高のマッチングを果たしている!

 

しかし、黒髪ではないメンバーもすごく似合っていてだな。

清楚な中にも色気があって、リアスやアリス、ティアに関しては色気が半端じゃない。

 

アーシアや小猫ちゃん、それにオーフィスも巫女服を着ているわけだが、こちらは色気よりも可愛らしさがプッシュされていると言ったほうが正しいだろう。

 

「我も着てみた」

 

「おう。可愛いぞ、オーフィス」

 

頭を撫でてやると抱っこをせがんでくる龍神さま。

俺は求められるままに抱っこすることに。

 

「どうだ、私も着てみたぞ。このような服を着るのは初めてだが………似合うか?」

 

ティアがそう訊いてくる。

 

さっきも言ったが、巫女服姿のティアから感じる色気は半端じゃない。

大人のお姉さんのそれだ。

青い髪と巫女服の組み合わせはどこか神秘的でもある。

 

「ティアって元々が神秘的な雰囲気持ってるからさ、不思議な感じがするな。あなたは女神さまですか?」

 

「私は龍王だぞ? だが………フフフ、褒めてもらえるのは素直に嬉しいぞ」

 

ティアは笑みを浮かべて、俺とオーフィスの頭を撫でる。

 

ああ………やっぱり、ティアは俺達のお姉さんなんだなぁ。

もう一人のお姉さんとは違うぜ。

 

「ひっどーい! 私だって皆のお姉さんよ! ――――――とうっ!」

 

さりげに俺の心を読みながら、登場するのは巫女服姿のイグニス!

建物の中から跳躍して、華麗に着地を決める!

 

が………こいつだけ皆と巫女服が違う。

 

胸元が大きく開いた白衣に、ミニスカートのような袴!

エロさに特化した巫女服姿のイグニスだった!

 

「イグニスお姉さん、巫女服バージョンで参☆上!」

 

うん、来ると思ってたよ。

 

ティアがいる時ってイグニスも出てくるからなぁ。

何気にこのお姉さんコンビはセットなんだよね。

 

ティアが息を吐きながら言う。

 

「イグニス………そういう格好は美羽達のような娘が着るからこそ魅力があるのではないのか? 歳を考えろ、歳を」

 

ティアからの鋭いご指摘だ。

 

まぁ、俺はお姉さんが着ても問題ないとは思うんだけどね。

イグニスもかなりの美女だし。

 

ティアの指摘にイグニスは――――――不敵な笑みを浮かべていた。

 

「確かに。その意見に関してはティアちゃんの言う通りだわ。――――――だから、今日は皆をビックリさせてあげる。女神パワーを侮っちゃダメよ♪」

 

刹那、イグニスの体が赤く輝いていく――――――。

放つ光は少しづつ強くなっていき、目を開けられない程のものになった。

 

光りが止み、ようやく目が開けられるようになった俺の視界に映ったのは赤い髪のお姉さん――――――ではなく、赤い髪の少女だった。

 

「イグニスお姉さんロリッ娘バージョン!」

 

「「「「ええええええええええええええええええええッ!?」」」」

 

俺達の絶叫が境内に響く!

 

だって、ダイナマイトボディのお姉さんがロリッ娘になったんだぞ!?

見た目はオーフィスに近く、ツルペタおっぱいだ!

 

赤髪の少女はブイサインしながら、説明しだす。

 

「説明しよう! イグニスお姉さんは女神パワーによってロリッ娘に変身する技を得たのだ! ちなみにこの巫女服は私の体に合わせて調整可能! イグニスちゃんって呼んでね☆ ブイブイ☆」

 

「ちょ、え、おま、なんで!?」

 

「新しい趣味!」

 

「趣味!?」

 

「ロリッ娘の可能性を探ろうと思ったのよ。例えば――――――」

 

赤髪の少女――――――イグニスちゃんがミニスカートの裾を指で摘まんで持ち上げた。

 

スカートの下には何もなく――――――。

 

「ロリッ娘がこうすると背徳感があっていいでしょ☆」

 

俺は同意せざるを得なかった。

 

 

 

 

「えーい!」

 

「我、イグニスに負けない」

 

 

ドタドタドタドタドタドタ

 

 

と、廊下を雑巾がけするロリっ娘二人。

ロリイグニスとオーフィスが雑巾がけで競争していた。

 

普段から女神さまと龍神さまは仲良かったけど、まさかこんなことになるとは…………。

 

可愛いんだよ?

可愛いんだけどね、それ以上に驚きが大きすぎる。

 

あとロリイグニスが走る度にスカートが捲れて…………。

あの駄女神、マジで履いてないから時たま見えるんだよね…………。

 

木場なんか、気を使いすぎて建物の外で落ち葉集めてるし。

 

 

ドタドタドタドタドタドタ…………ドンッ!

 

 

…………ん?

なんだ、今のドンッて音は…………?

 

気になったので、そちらを見てみると――――――

 

「いったーい! 滑っちゃったー!」

 

ロリイグニスがひっくり返っていた!

 

雑巾がけで転ぶことはあるよ!

でも、今の格好でそれはマズいだろう!?

丸見えになってますけど!?

 

ロリイグニスは俺の視線に気づいたのか、イタズラな笑みを浮かべて、

 

「うっふふふ~。イッセーのエッチ♡ ロリっ娘の体に興奮してるのかな~?」

 

「おまえ、ここ神社! 神聖な場所なんだよ!?」

 

「私、女神だもん。問題ないもん」

 

「駄女神に訂正しろい!」

 

ええい、この駄女神め!

 

ロリっ娘姿になってから、やりたい放題…………いや、前からやりたい放題ではあったか。

 

と、とにかくだ!

この駄女神は放置しておけん!

 

ここは――――――

 

「ティアァァァァァ! この駄女神なんとかしてぇぇぇぇぇ!」

 

俺は柱を磨いているティアに泣きついた!

 

暴走する駄女神を何とかできるのは頼れるお姉さんことティアしかいない!

 

「やれやれ………これも使い魔の仕事か?」

 

「頼れるお姉さんがティアしかいないの! ティア姉ぇぇぇぇぇぇ!」

 

「よしよし、泣くな泣くな。あの駄女神はお姉ちゃんが何とかしてやるから、な?」

 

ティアは俺の頭をポンポンと撫でた後、ロリイグニスの襟を掴んでズルズル引きずっていく。

 

ロリイグニスが引きずられながら抗議の声をあげる。

 

「えー! ティアちゃん、私をどこに連れていくつもり!?」

 

「おまえは下着を履け」

 

「下着を履かないのがポイントなのにー! ロリっ娘のノーパンよ!? イッセーなんてスカート捲れる度にガン見してたんだから!」

 

それ言っちゃう!?

つーか、俺が見てるの分かってたの!?

 

「バカ者。イッセーならロリだろうがなんだろうが、女の体はいつでもガン見だろう」

 

ティア、それはフォローなの!?

だとしたら、フォローになってないよ!?

 

事実だけど!

女の子はガッツリ見ちゃうけど!

 

すると、ロリイグニスが思い出したかのように言う。

 

「そういえば、ティアちゃんってイッセーに『ティア姉』って呼ばれるとほっぺた赤くなるよね~? さっきもすんごい嬉しそうだったし~」

 

「…………そ、そんなこと…………ないもん」

 

…………『もん』って言った!?

 

ティアが『もん』って言ったよ!

 

照れてる!

完全に照れてる!

 

そんなにうれしかったですか、ティア姉!

 

「うぁぁぁぁぁぁぁ! や、やめろぉぉぉぉぉ! そんな風に呼ばれると…………デレてしまうぅぅぅぅぅ!」

 

「うぉい!? ティアァァァァァ!? デレるの!? あと、俺の心の声読むの止めてくんない!?」

 

ロリイグニスを引きずったまま走り去っていくティア!

 

あ、あのティアがあんな…………。

 

う、うーむ、そんなに嬉しかったのか…………。

よし、今度からティアはティア姉と呼ぶことにしよう。

デレるらしいからな。

 

「ティアマット、デレる?」

 

「あ、ああ。らしいな。………って、オーフィスは何食べてるの?」

 

「バナナ。イッセーも食べりゅ?」

 

もぐもぐしながらバナナを差し出してくるオーフィス。

龍神さまも自由だよね。

 

「あら、イッセーくん。ちょうど良いところに」

 

と、ここで朱乃が俺を呼び止めてきた。

 

「今から倉の整理をしようと思うのですけど、手伝ってもらえますか?」

 

 

 

 

本殿とは少し離れた場所に倉がある。

 

ここには祭具から木像、絵巻、屏風、縁起書、古い書簡、出土物などが修められているらしい。

神主がいなくなったとはいえ、元々は大きい神社だから貴重なものが結構あるとのことだ。

 

倉に入ると中は木製の棚がいくつかあって、そこに木箱が置かれている。

 

「この箱はこっちでいいの?」

 

「ええ、そこにお願いしますわ」

 

朱乃の指示通りに本殿から運んできた物を木箱にしまって、整理していく。

 

俺は箱を置いてから、一息吐いた。

 

「神社の大掃除も中々に大変だな」

 

「ですが、去年までよりは随分と捗っていますわ。今年はイッセーくん達がいますから」

 

朱乃は笑顔でそう言う。

 

まぁ、去年はこれを四人でやってたんだ。

今年は俺を含めそれなりの人数が集まっているし、それを考えると大分楽なんだろう。

 

朱乃が棚の上の方を指差して言う。

 

「あそこの箱を取っていただけますか?」

 

「えーと、あれか。梯子とかある?」

 

「ええ」

 

俺は朱乃から梯子のある場所を聞いて、それを見つけたんだが…………かなりボロい。

 

この神社って全体的に綺麗で備品とかの状態も良かったはずなんだけど、この梯子だけかなりボロい。

 

木の色が変色していて、今にも朽ち果ててしまいそうな雰囲気だ。

ギリギリ使えるかと言ったところか。

 

「これしかなったんだけど…………」

 

「もう一つ新しいものがあったはずなんですが…………誰か使っているのかしら?」

 

頬に手を当てて、首を傾げる朱乃。

多分、他のメンバーが持っていってしまったのだろう。

 

無いものは仕方がない。

これ使うか。

 

俺は梯子を棚にかけて、登っていく。

足をかける度にギシギシいってるけど、まぁ、大丈夫だろ。

 

ふいに朱乃が呟いた。

 

「…………そういえば、イッセーくんはアーシアちゃん達ともしたのですよね?」

 

「へ………? あ、まぁ………うん」

 

俺は言葉を詰まらせながらも頷いた。

 

な、なぜにこのタイミングでそんなことを…………?

 

確かにアーシア達としちゃったけど…………。

そして、例のごとく翌朝にはバレたけど…………。

 

戸惑う俺を見上げながら、朱乃は言った。

 

「次は―――――私とお願いしますわ」

 

「っ!」

 

突然の言葉に目を見開く俺!

 

今にも壊れそうな雰囲気の梯子を何とか降りることに成功した俺は木箱を床に置いて、朱乃と向かい合う。

 

朱乃も潤んだ瞳で俺を見上げていて―――――

 

「リアスも、アーシアちゃんもイッセーくんと交わったのよね? 私も………イッセーくんに愛されたいですわ」

 

「あ、朱乃………?」

 

「それとも………私は魅力がありませんか?」

 

「そ、そんなことないぞ! エッチだし、可愛いし十分過ぎるほど魅力的だ!」

 

だけど、展開が急すぎないかい!?

 

ほら、今だって俺の手を取って自分の胸に誘導してるし!

朱乃に誘導された俺の手は巫女服の上―――――ではなく、その隙間へと入れられていく!

 

指に伝わるこの感触!

こ、これは…………!

 

「下着………つけてないの?」

 

「巫女服は下着を着けないのが基本ですわ」

 

基本なんですか、そうですか…………。

 

いや、しかし…………この手に伝わる柔らかいものは………!

あぁっ…………人差し指が何かコリッとしたものに当たったよ!

 

その瞬間、朱乃の体がピクンと跳ねた。

 

「んっ………イッセーくんの手、温かくて………。ねぇ、イッセーくん。このまましてみない?」

 

朱乃の言葉が理性を揺さぶってくる!

 

薄暗く、狭い空間!

目の前には巫女服を着た黒髪美少女、朱乃!

しかも、ここには俺と朱乃しかいない!

 

俺はゴクリと喉を鳴らして、朱乃の巫女服に手をかける。

スルッと何の抵抗もないままに白衣が朱乃の肩を流れていき―――――

 

 

ガララッ

 

 

と、いきなり倉の扉が開いた!

 

来たな、お約束!

 

いったい誰が――――――

 

「いるのか、朱乃? 近くに寄ったから、様子を見に来たのたが………」

 

立っていたのはスーツを着たガタイの良い男性。

朱乃のお父さん――――――バラキエルさんだった。

 

この時、俺は血の気が引いていくのが感じられた。

 

 

 

…………お、終わった。

 

 




イグニス姉さん、まさかのロリ化です。


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番外編 年末に向けて! 後編  

[美羽 side]

 

「レイナさん、そっち持っててくれる?」

 

「分かったわ」

 

レイナさんと一緒に少し重たい物を運ぶボク。

 

今のところ、大掃除は何事もなく捗ってる。

今日来れたメンバー全員が協力して取り込んでるからね。

分からないところは過去に経験があるリアスさん、朱乃さん、小猫ちゃん、木場くんに聞いて動いているし。

 

「マスター、この供え物はどこへ?」

 

「あ、それはあっちだって言ってたよ」

 

ディルさんも手伝ってくれている。

 

彼女も巫女服姿なんだけど、すごい似合っているんだ。

不思議な魅力が出ていて、神秘的に思えてしまうほど。

 

「ディルさんの巫女服姿、可愛いね」

 

「ありがとうございます。ですが、マスターには及びません。マスターは神々しくもあり、可愛らしさも兼ねてますので。私にはそこまで着こなせる自信はありません」

 

ディルさんは謙遜気味に言うけど…………。

 

そうかな?

ボクはディルさんの方が着こなしていると思うんだけど…………。

 

ディルさんって、見た目はボクよりも大人っぽいし。

 

まぁ、でも…………。

 

「マスター! ここにある物は食べても良いのですか?」

 

「ダメだよ!? それ、食べちゃダメなやつだからね! お腹壊すよ!?」

 

食いしん坊なところは相変わらず。

 

ボクからすれば可愛いんだけどね。

なんか、こう妹ができたみたいな感じで。

 

お兄ちゃんがボクを妹として受け入れた時もこんな感覚だったのかな?

 

「こら! 待て、イグニス!」

 

「やーん! ティアちゃんに脱がされるぅ♪」

 

ドタバタと畳の上を駆けていくのは小さくなったイグニスさんとそれを追いかけるティアさん。

 

イグニスさんの巫女服がはだけていてほとんど裸なんだけど…………。

 

ティアさんが叫ぶ。

 

「誰がだ! 脱いだのはおまえだろう! さっさと下着を着ないか!」

 

「私は下着は着けない派なの。こっちの方が開放的じゃない」

 

「開放しすぎだ! 場所と時間を考えろ! まだ夕方にもなっていないぞ!? そういうのは夜にしろ!」

 

「明るいときにさらけ出す! だから燃えるんじゃない!」

 

「えぇい! この露出狂め!」

 

「あらん、今ごろ気づいた? いっそのこと、ティアちゃんも脱いじゃいましょう! 半脱ぎの巫女服なんて、そそるじゃない!」

 

イグニスさんが逃げるのを止めて、ティアさんに飛びついた!

ティアさんの白衣に手をかけて、整っていたものを乱していく!

 

「バカ、止めないか!」

 

「良いではないか♪ 良いではないか♪」

 

「どこの悪代官!?」

 

「うーん、ティアちゃんのおっぱい、モチモチのふにふに~」

 

「あぁん! こら、そんな………んんっ! そこ、摘まむなぁ!」

 

…………ティアさんがイグニスさんに捕まっちゃった。

 

助けにいきたいところだけど、行ったら行ったで巻き添えをくうのは目に見えてるからね。

 

他のメンバーもボクと同じことを考えているのか、せっせとお掃除再開。

 

すると、ティアさんの体から青いオーラが吹き荒れた。

莫大な力を解き放ったことで、イグニスさんとの立ち位置が逆転。

 

ティアさんは息を荒くしながらも、不敵な笑みを浮かべる。

 

「はぁ……はぁ……。ふっふっふっ………私がそう簡単に堕ちると思うなよ、イグニス! このティア姉の力! とくと見せてくれるわ!」

 

「あれれ!? ティアちゃん、顔がマジよ!?」

 

「私はマジだぁぁぁぁ!」

 

ティアさんはそう叫ぶと、小さいイグニスさんを脇に抱えて全力で走り始めた!

 

「いやーん! ティアちゃんに犯されるぅぅぅぅ♪」

 

イグニスさんの声がこだまするけど…………なぜだろう、楽しんでいるようにしか見えない。

最後の絶叫のようで、絶叫じゃなかったもん。

 

いったいどこまで行こうというのか、ティアさん達の姿は遥か遠くまで行ってしまった………。

 

ボクの視界にリアスさんと話をするアーシアさんとイリナさんが映る。

 

イリナさんがリアスさんに言う。

 

「というわけで、私達は教会に行きます」

 

「ええ、分かったわ。二人とも今日はありがとう。とても助かったわ」

 

リアスさんは微笑みながら、そう返しているけど………。

 

気になったボクは二人に声をかけてみる。

 

「アーシアさんとイリナさん、帰っちゃうの?」

 

「はい。すいません、美羽さん」

 

「さっき、シスター・グリゼルダから私達に呼び出しがかかったの。何でもダーリンのことで聞きたいことがあるって」

 

ダーリン………。

イリナさん、最近、お兄ちゃんのことを『ダーリン』って呼び始めたんだよね。

お兄ちゃんに聞いたところ、かなり昔に流行った呼び方らしいんだ。

 

それを聞いたアリスさんも『ダーリン』って呼ぼうとしたら、お兄ちゃんに止められてたのをこの間、見かけたけど。

 

それで、二人がグリゼルダさんから呼び出されたとのことだけど…………。

この時点で察するよね。

お兄ちゃんのこと聞きたいって、それしかないよね。

 

ゼノヴィアさん………なに話したんだろう?

 

この後、二人はすぐに着替えて、教会に行ってしまった。

 

うーん………お兄ちゃん、大丈夫かな…………。

 

「…………」

 

ふいに小猫ちゃんの表情が陰る。

 

レイナさんもそれに気づいたのか、小猫ちゃんに訊く。

 

「どうしたの?」

 

すると、小猫ちゃんは一度、この場にいるメンバーを見渡して呟いた。

 

「………皆さん、イッセー先輩と………その、したんですよね? 美羽先輩もアリスさんも部長もレイナ先輩も………レイヴェルも…………。私、遅れてます」

 

その言葉にボク達は互いの顔を見合わせる。

 

先日、アーシアさん達がお兄ちゃんとベッドインしたから、オカ研女子部員で抱かれていないのは朱乃さんと小猫ちゃんの二人だけになる。

 

ボクなんて何度も…………。

気持ちいいのもあるんだけど、お兄ちゃんに愛されてることをより実感できるから………ね?

 

リアスさん達も自分達のことを思い出したのか、頬がほんのり赤い。

アリスさんに至っては皆に感づかれない程度にお腹を擦ってるし。

 

小猫ちゃんは呟く。

 

「やっぱり、私、魅力がないのでしょうか? 皆みたいに胸が大きくないから…………。それに、アリスさんやアーシア先輩のような魅力もありませんし………」

 

自身の胸に手を当てて深く落ち込み始める小猫ちゃん。

 

ボクはそんな小猫ちゃんの前に屈んで、両肩に手を置いた。

 

「そんなことないよ。小猫ちゃんだって可愛いし、お兄ちゃんだってそう思ってる。魅力なんて人それぞれだよ」

 

「ですが………」

 

「ボクを含めて、お兄ちゃんから求められたわけじゃないよ? ボク達からお兄ちゃんにお願いしたんだ。自分の気持ちをぶつけて、どれだけ好きなのか伝える。これが第一関門だよ?」

 

最初は必ずボク達から求めてる。

………まぁ、二度目以降はお兄ちゃんから求めてくることもあるけど。

 

「小猫ちゃんだって、一度はプロポーズしてるんだし、アタックしてみようよ。大丈夫、お兄ちゃんは絶対に受け止めてくれる。お兄ちゃんの夢はハーレム王だもん」

 

「最近は美羽ちゃんがハーレム計画進めてるような気もするけどね」

 

アリスさんが何やら言ってるけど、そこはスルーしよう。

 

ボクは続ける。

 

「順番なんて関係ないよ。小猫ちゃんは小猫ちゃんのタイミングでアタックしよう。はい、これ」

 

ボクは小猫ちゃんに一つの箱を渡す。

 

箱には『30個入り+1個増量』の文字。

 

「赤ちゃんはまだダメだけど、練習なら大丈夫! 小猫ちゃん、ファイトだよ!」

 

ボクは親指を立ててウインクを送った。

 

うん、小猫ちゃんなら大丈夫!

絶対に大丈夫!

 

「………いつも思うけど、美羽ってどこから入手しているのかしら?」

 

リアスさんの疑問だけど…………お店に買いにいくのは恥ずかしいので、基本的に通販です。

桐生さんからオススメのサイトを教えてもらいました。

 

 

[美羽 side out ]

 

 

 

 

絶体絶命。

 

困難・危険から、どうしても逃れられないさま。

追いつめられ、切羽詰まったさまを意味する。

 

俺はこの絶体絶命という状況に何度も遭遇してきた。

危うく命を落としかけた経験もあるし、アスト・アーデでは一回死んだ。

 

絶体絶命という言葉は俺にとって馴染み深い言葉でもある。

 

…………しかし、現在、俺は過去に経験したものとは違う『絶体絶命』を体験していた。

 

畳の敷かれた部屋。

ここは以前、朱乃が堕天使の血が混じっていることを明かしてくれた部屋だ。

 

そして、俺はその部屋でバラキエルさんと向かい合っていた。

 

「お茶を淹れましたわ」

 

「すまんな」

 

「あ、ありがと………」

 

朱乃がテーブルに湯呑を置き、バラキエルさんと俺がお礼を言う。

 

ば、バラキエルさんからの重圧………プレッシャーが半端じゃねェ!

そりゃ、そうなるよね、大切な一人娘を脱がそうとしてたんだもん!

何をしようとしてたかなんて、言うまでもないよ!

 

「…………」

 

じっと俺を見て、目を細めてるけど…………睨んでる!?

睨んでるんですか、バラキエルさん!?

 

この無言の時間が辛い!

けど、こちらから何かを言ったりするのも…………無理!

無理無理無理!

 

一言でも言葉を発すれば、雷光が飛んできそうだよ!

特大の!

 

だ、誰か…………この心身共に押し潰されそうな空間から俺を救い出してぇぇぇぇぇ!

 

朱乃が口を開く。

 

「父さま、今日はどうなされたのですか?」

 

「副総督としての仕事でな。アザゼルに用があったのだ。近くに寄ったので、少し顔を見に来たのだ。朱乃、元気そうで何よりだ」

 

朗らかに笑うバラキエルさんと朱乃。

 

以前のような雰囲気はなく、仲の良い親子の会話だった。

うんうん、関係が修復できたみたいでなによりだ。

 

と、思っているとバラキエルさんの視線が俺を捉えた!

鋭い視線が俺を射抜く!

 

「………久しぶりだね、兵藤一誠くん」

 

「お、おひさしぶりです、バラキエルさん」

 

「君も元気そうで何よりだ」

 

「は、はい………。バラキエルさんもおかわりなく………」

 

こ、怖い!

言葉の一つ一つにとんでもない重みを感じてしまう!

 

朱乃に助けを求めたいところだが、少しでも視線を外せば雷光が飛んできそうで怖い!

 

バラキエルさんが言う。

 

「………先程の件だが、君は朱乃に何をしようとしていたのかね」

 

ぐはっ!

す、ストレートだ!

言葉のボディーブローを思いっきり決められたよ!

 

「あ、お、俺はその…………」

 

「なんだね? ハッキリと言いたまえ」

 

ダメだ、下手に言い淀めばそれだけ俺の印象は悪くなる!

こ、これは正直に言うしかない!

 

「俺は朱乃と…………子作りしようとしていました!」

 

「ブフゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 

あ、あれ?

バラキエルさんがお茶を噴き出したぞ!?

 

バラキエルさんは咳き込みながら、苦しげに言う。

 

「き、君! もう少しオブラートには包めないのか!? あと、いきなり子作り!? 最近の若者はそこまで進んでいるのかね!?」

 

あ、バラキエルさんの時は超特急ではなかったんだな。

 

俺の回りの女の子って皆、超特急だから…………。

 

バラキエルさんは袖で口許を拭う。

 

「朱乃はまだ高校生だぞ! 来年は大学生、つまり学生だ! もし子供が出来たら、朱乃は満足のいく学生生活を送れなくなるではないか!」

 

「そ、そこは練習です! 避妊具は着けます! ちゃんとした子作りは学生を終えてからするつもりです!」

 

「そ、そうなのか! い、いや、そ、そもそも、私は君と朱乃の交際を認めた記憶はないのだが!?」

 

「あ…………」

 

そ、そういえばそうだったぁぁぁぁぁぁ!

 

そうだよ!

俺と朱乃って親公認じゃなかったよ!

それなのに俺は『子作り』を連呼してしまった!

 

 

バチッ バチチチチチッ

 

 

バラキエルさんの体が黄金のオーラを纏っていく!

雷光がバチバチいってるぅぅぅぅ!

 

ヤバい!

バラキエルさんが戦闘体勢に入り始めたよ!

 

「兵藤一誠くん…………君は朱乃のことをどう思っているのかね?」

 

体をプルプル震わせながらバラキエルさんが訊いてきた。

 

俺が朱乃のことをどう思っているか?

 

その答えは決まっている!

 

「好きです! いつも素敵な微笑みを見せてくれる女性です! 傷つきやすいけど、俺達と一緒に強くなろうとする心を持った魅力的な人です! だからこそ、俺は朱乃を守りたいと思っています!」

 

心から思っていることだ。

 

普段の朱乃は大人っぽくて、後輩や年下のメンバーを導くグレモリー眷属の『女王』。

しかし、本当は年相応の女の子で少しのことでも傷つきやすい繊細な心の持ち主でもある。

 

堕天使の血を受け入れる前は特にそうだった。

 

だけど、今は一緒に強くなろうとしている。

体もだけど、それ以上に心を。

 

俺はそんな朱乃を傍で守りたい。

 

「だが、君は複数の女性と関係を持っていると聞いた」

 

「誰からですか!?」

 

「アザゼルだ」

 

あんの暴露癖はぁぁぁぁぁぁ!

他にも俺の印象を下げるようなこと言ってるんじゃあるまいな!?

ツイン・おっぱい・システムとかバラキエルさんに言ってないだろうな!?

 

「君はハーレム王を目指しているそうじゃないか。も、もしだ。朱乃がそこに加わった時、君は朱乃をどう見るつもりだ? ハーレムを築く者の中には女性を己の欲を満たすための物として見る者もいる。君は―――――」

 

その言葉に俺の中で何かがキレた。

 

己の欲を満たすための物?

ふざけるなよ…………!

 

「そんなことするわけないでしょうが! 俺は俺を想ってくれる女性には全力でその想いに応えます! 全力で幸せにします! 全力で守ります!」

 

美羽達は心の底から俺を想ってくれている!

こんなスケベでダメダメな俺をだ!

 

俺の回りの女の子達は俺にはもったいくらいに全員が魅力的だ!

俺なんかじゃ釣り合わないだろうと思うときだってある!

それでもだ!

こんな俺を好きだと言ってくれる!

 

俺も皆が好きだ!

だからこそ!

 

「俺は朱乃を幸せにしてみせます! この先ずっとです! だから、バラキエルさん―――――いえ、お義父さん!」

 

俺は必殺の『ムーンサルト・ジャンピング土下座』を決め、頭を畳に擦り付けた!

 

そして――――――

 

「娘さんを―――――朱乃を俺にくださいぃぃぃぃぃぃ!」

 

言った!

言ってやったぞ!

バラキエルさんに渾身の一撃を入れた!

『ムーンサルト・ジャンピング土下座』は奥の手――――モーリスのおっさん直伝の必殺技!

これ以上の武器は俺にはない!

 

頼む!

届いてくれ、この想い!

 

「イッセーくん…………!」

 

朱乃が手で口元を押さえて、涙を流しているのが見えた。

朱乃が必死になって声を押さえようとするものの、僅かに漏れる声が静かになった部屋にこだまする。

 

それから、室内に沈黙が訪れた―――――。

 

障子から夕日が差し込んできたと思えば、日は沈み、空は暗くなる。

十分、三十分、一時間、二時間と時間が流れていくのを体で感じながら、俺は畳に頭を擦り付けた状態でバラキエルさんの言葉を待った。

待ち続けた。

 

そして、遂にその時が訪れる。

 

「―――――何人だ?」

 

ようやく出てきたバラキエルさんの言葉がそれだった。

 

え…………何人?

 

「あ、あの………何人とは?」

 

恐る恐る聞き返すと、バラキエルさんは、

 

「孫は何人見せてくれるのだ?」

 

孫ですか!

しかも、その『何人』!?

あなたも孫を見せろと急かす人なんですか!?

 

いや、しかし、この場合、なんと答えるべきか………。

 

一人………二人………いや、三人と答えるべきなのか?

 

回答に困る俺だったが、朱乃が涙を拭いながら微笑んで答えた。

 

「ベタですけど、サッカーチームを作れるくらいというのはどうでしょう?」

 

サッカーチームですか!?

 

え、あれ………サッカーチームって何人いれば作れるんだっけ?

とにかく子沢山なのは間違いないか!

 

つーか、そんなに作るの!?

 

ま、まぁ、朱乃って安産型だと思うけど………。

いや、そもそも悪魔は出生率が低いからそれって…………それだけ励めということですか!?

 

じっと見てくるバラキエルさん!

 

俺の答えを待ってる!?

 

「え、えっと、頑張ります」

 

「よし」

 

よしって言ったよ!

マジでサッカーチームをご所望ですか!?

 

…………いったい、どれだけ励めば良いんだろう?

毎日が運動会になりそうな気がする…………。

美羽達もいるし。

 

…………俺、死ぬかもしれないけど、頑張る!

 

途端にバラキエルさんがぶわっと滝のような涙を流し始める。

 

「あぁ………朱璃よ。私達の娘がこんなにも立派な男を連れてくるようになったぞ…………。あの幼かった私達の娘が………うぅ………うぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

お、男泣きしてる…………。

 

まぁ、でも、これが父親ってものなのかな?

俺も子供を持ったわけじゃないし、まだ先だと思うけど…………自分の娘が恋人を連れてきた時は俺も男泣きするのかな?

 

「もう、父さまったら」

 

朱乃も頬を染めて、恥ずかしいようで、嬉しそうな、そんな表情をしていた。

 

すると、次の瞬間―――――

 

 

バンッ!

 

 

痛いほど力強く、俺は両肩をバラキエルさんに叩かれた!

 

「兵藤一誠くん!」

 

「は、はいっ!」

 

「娘を………私達の娘を頼む!」

 

「はい!」

 

「あと、サッカーチームも頼む! 朱璃に見せたい!」

 

「あ………は、はい!」

 

俺、頑張る。

 

 

 

 

バラキエルさんが帰った時には外は真っ暗になっていた。

 

携帯を見てみると、美羽から先に帰るというメールが送られていた。

更に、追伸のところに…………

 

『今夜はファイトだよ! 美羽より♡』

 

我が妹は全てお見通しらしい。

 

一応、返信はしておいた。

 

時間も時間とのことで、俺は今日は神社に留まっていくことに。

 

夕食は朱乃が作ってくれた和食。

 

そして、その後は――――――

 

「うふふ、こうして旦那さまのお背中を流せるのは…………幸せですわ」

 

俺の背中をタオルでゴシゴシしながら、声を弾ませる朱乃。

 

俺達は二人で神社のお風呂に入っていた。

 

檜風呂なので、木の良い香りが浴室に漂っているが…………それ以上に朱乃の姿が刺激的だった!

 

朱乃は裸ではなく―――――薄い白装束を身に纏っているのだ!

お湯に濡れてあちこちが透けてる!

肌に張り付いてボディーラインもくっきりしていて…………正直、裸よりエロいよ!

 

暫く、背中をゴシゴシされていると、朱乃が背中に手を添えて頬を当ててきた。

 

「嬉しかった。………あんな風に思っていてくれたなんて…………。父さまに真正面からあんな………」

 

「アハハ………。滅茶苦茶緊張したけどね」

 

下手すりゃ、殺されると思ったもん。

マジで死ぬかと思った。

 

俺が苦笑していると、朱乃は俺の前側に回ってきた!

 

憂いのある表情を浮かべていて―――――

 

「今夜は………。ようやく私の初夜………。私、あなたに抱かれるなら、この場所だと決めていたんです」

 

「この場所………この神社で?」

 

俺が聞き返すと朱乃は頷く。

 

「ここはイッセーくんが私を受け入れてくれた場所。私を怒ってくれた場所。あの時、私の心は完全に奪われてしまいました。だから、私はこの場所であなたと―――――」

 

そ、そうか………。

以前、朱乃が言っていた『あそこ』ってこの神社のことだったのか。

そして、その背景にはあの時のことがあると。

 

まぁ、受け入れるもなにも、俺は元から朱乃のことは優しい女性だと思ってたし、大したことを言ったつもりはないけど………。

朱乃にとっては嬉しかったのだろう。

 

その時―――――浴室の扉が開いた。

 

何事かと驚く俺と朱乃だったが、そこに立っていたのは―――――。

 

「あの、イッセー先輩。私も………私もお願いします」

 

白装束姿の小猫ちゃんだったぁぁぁぁぁぁ!?

白装束に猫耳!

お尻からは尻尾がふりふりしてる!

 

とってもラブリーな姿の小猫ちゃんがいた!

 

「え、えええええ!? 小猫ちゃん!? 帰ったんじゃなかったの!?」

 

「一度、帰って夕食を済ませた後に戻ってきました」

 

「なんで!?」

 

「そ、その………朱乃さんが今夜、その………イッセー先輩と………ゴニョゴニョ………だそうなので………私もと思いまして………。美羽先輩から、これも貰ってますし」

 

そう言って小猫ちゃんが取り出したのは一つの箱だった。

その箱には見覚えがある!

 

だって、箱には―――――

 

 

『30個入り+1個増量』

 

 

リアスとロセの時に使ったやつじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!

 

美羽ちゃーん!?

君、用意よすぎだろう!?

 

つーか、『今夜はファイト』ってこういうこと!?

 

「美羽先輩もアリスさんもリアス部長も…………それにレイヴェルもイッセー先輩とエッチなことしてます。………私だけのけ者は嫌です」

 

「い、いや、のけ者にしたわけでは………」

 

「朱乃さんには悪いと思ってます。でも、これ以上、のけ者は嫌です。………イッセー先輩!」

 

突然、小猫ちゃんが抱きついてきた!

胸にしがみつくようにして、俺を上目使いで見てくる!

 

「前の時みたいに本能じゃありません。私も………イッセー先輩が好きです。大好きです。………弱かった私を強くしてくれました。体だけじゃありません。心も強くなれました。私を変えてくれたのはイッセー先輩です」

 

――――――っ!

 

そういえば、小猫ちゃんも少し前までは自分を受け入れられずに悩んでいた時期があったな。

猫又の力は使いたくない。

使えば自分はどうなるか分からないって、自分の力に怯えてる時があった。

 

自分を受け入れられなかった。

だけど、今は受け入れて前に進んでいる。

 

朱乃と小猫ちゃんに共通しているところだ。

その点では二人は似た者同士なのかもしれない。

 

ふと小猫ちゃんの体が白い光を放ち始め―――――白音モードに変身した!

 

うぉぉぉぉぉぉ!

ナイスバディな小猫ちゃんが目の前にぃぃぃぃぃ!

 

成長したおっぱいが白装束を押し退けて、俺の目の前で揺れる!

 

「この体なら乱暴にしてくれても耐えられます。浄化の力も抑えてあります。…………これでも、ダメですか?」 

 

ダメってことはないが…………。

 

俺は横に視線をやると、朱乃が微笑んでいた。

 

「うふふ、イッセーくんと二人っきりでないのは残念ですが、ここは似た者同士で仲良くいきましょう。それに二人だと何かと安心もしますし」

 

ま、まぁ、二人とも初めてだからね。

初めてって結構不安あるよね。

 

ゼノヴィアはそうでもなかったようだけど…………。

 

朱乃と白音モードの小猫ちゃんが俺に詰め寄ってくる。

 

「イッセーくん…………」

 

「イッセー先輩…………」

 

 

 

 

翌朝。

 

朝起きると、俺は布団の上。

朱乃と小猫ちゃんが俺の腕を枕にして寝ていたんだが、二人とも穏やかな寝息をたてていて、幸せそうな顔をしていた。

 

もう可愛いのなんの。

 

二人の寝顔に癒されながら、俺はもう一度眠りについた―――――。

 




ロリイグニスを描いてみました~。
見た目的には小学生くらいです~。


【挿絵表示】


イラストを書くのが結構楽しくなってます(笑)


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第十七章 総選挙のデュランダル
1話 初詣………の前に災難来ます! 


新章突入です!


元旦。

 

無事に新年を迎えることがてきた俺達オカルト研究部のメンバーは、どこかに初詣に行こうという話になり、正月早々から遠出することになった。

 

俺達が初詣に向かった場所、それは―――――

 

「イッセー! 久しぶりじゃな!」

 

鳥居の向こうから走ってきたのは金色の髪と尾を持つ少女――――九重。

 

俺達が訪れていたのは、京都の伏見稲荷神社だった。

ここに来るのは修学旅行以来となる。

 

相変わらずの鳥居の多さだ。

それに、初詣に来ている人の数も合わさって、迫力が何割か増しで見える。

 

流石に人目につくのはまずいので、俺達は人払いの結界の中での再会だ。

 

「おっす、久しぶりだな。元気だったか、九重?」

 

「うむ! イッセーも元気そうで何よりじゃ! 皆の参拝はここの主祭神であらせられる宇迦之御魂神大神さまもお喜びになられるに違いないぞ」

 

んー………俺達、悪魔だから喜んでくれるかは微妙な気がする。

 

あ、でも、日本神話勢とも和平交渉は上手くいってるらしいし、そこは寛大な心で迎えてもらいたいものだ。

 

「今日は電車ではないのか?」

 

「この時期は人が多いからなぁ。転移してきた方が楽なんだよ」

 

そういや、修学旅行の帰りは九重が新幹線のホームから見送ってくれたっけ。

 

あいさつを軽く済ましていると、九重が走ってきた後からお供の妖狐を複数伴った官能的なお姉さんが登場する。

九つの尾を持つ京妖怪のトップ。

そして、九重のお母さんの――――――

 

「遠路はるばるようお越しになられましたなぁ」

 

八坂さんの登場だ。

 

着物の間から見える胸の谷間が…………!

妖艶な美しさと合わさって、これまた…………眼福デスッ!

新年早々に拝んでしまうぜ、そのおっぱい!

 

「こちらこそ、いずれ改めてご挨拶をしようと思っていたところですわ。中々、都合つかずじまいでしたから、初詣の折りにご挨拶をと」

 

八坂さんと挨拶を交わすのは振り袖姿のリアス!

 

長い紅髪も結っていて、雅な雰囲気を出していた。

 

他の女性陣も振り袖姿で美羽、アリス、レイヴェル、朱乃、アーシア、小猫ちゃん、レイナ、イリナ、ゼノヴィア、ロセも振り袖だ!

ギャスパーまで振り袖なのはこの際置いておくが…………振り袖って良いなぁ!

和な美しさがあるよね!

 

振り袖組は朝から母さんに着付けてもらっていたが、お披露目の時は思わず見とれてしまったほとだ!

年末に皆の巫女服姿を見たときも思ったけど、リアスの紅髪やアーシア達の金髪も和服と合うんだよね、これが!

 

うんうん、皆の振り袖姿がキラキラ輝いてるぜ!

 

ちなみに、俺、木場は普通の格好。

伏見稲荷に行くなら、歩きやすい格好が良いとのことで意見は見事に一致。

なんとも前衛組らしい意見だと我ながら思ってしまう。

 

ゼノヴィアも初めは俺や木場と同じ意見で、普通の格好で行くつもりだったのだが、途中で心変わりして振り袖に。

 

アリスも前衛組なんだけど、それはそれ。

アリス自身もこちらの服には興味があって、本日は振り袖を選択。

リアス達同様、長い金髪は結ってある。

 

とりあえず、俺の言いたいこととしては皆、可愛いということかな。

お披露目の時にも素直な感想を述べたのだが、皆、顔を赤くして照れてたっけ。

 

 

…………でも、ちょっとした災厄が俺に降り注いでだな。

 

それは数時間ほど前のことだ。

 

 

 

 

数時間前。

 

その時は皆の振り袖姿がちょうどお披露目されている時だった。

 

「お兄ちゃん、どうかな?」

 

「可愛いぞ、美羽! ああ………また、俺のお宝コレクションが増えてしまう!」

 

美羽の振り袖は去年も見た。

毎年、家族で初詣に行っているからな。

美羽が家族になってからは四人で行くのが恒例となった。

 

そして、思う。

 

―――――なんて可愛いのか、と。

 

幼い顔立ちと振り袖の大人な雰囲気が出す絶妙なバランスが俺の心を刺激する!

これは美羽だからそこ出せるものなのだろう!

 

今年も美羽の可愛い姿が見られる…………!

兄として感動です!

 

いや、今年から少し違うな。

兄妹として、そして―――――恋人として。

 

その想いが内側で高まり、爆発しそうになりそうになる。

 

そんな感動を覚えていると、アリスが言う。

 

「美羽ちゃんばかり見てないで、私達のも見てよ………」

 

そう言うアリスはどこか恥ずかしげな表情だ。

 

俺は改めてアリスの全身を見ていく。

 

足から、腰。

腰から胸。

胸から顔へ、じっくりと確認。

 

そして―――――

 

「母さん…………」

 

「どうしたの、イッセー? 何かおかしなところでもあった?」

 

訝しげに首を傾げる母さん。

 

俺は母さんの手を取り、

 

「―――――完璧です。さすがっす…………!」

 

泣いた。

新年早々に泣いた。

両目から止めどなく涙が流れていく。

 

おかしなところ?

そんなのあるわけがない。

 

『ゴッドハンド咲』の異名を持つ我が母の作品だぞ?

 

おかしなところを見つける方が難しい………否、そんなことは不可能だ。

 

俺はリアス、アーシア、朱乃、小猫ちゃん、レイヴェル、レイナ、イリナ、ロセと順に見ていくが―――――どれもこれもがパーフェクト。

 

泣ける…………!

感動の涙が止まらねぇ…………!

 

母さんが胸を張って言う。

 

「イッセーのお嫁さんになる子達だもの。そりゃあ、私も全力で挑むわ。この咲、娘のためなら一肌も二肌も脱ごうじゃない。ふふふふふふ………。あれ、涙出てきた。…………イッセーのお嫁さんがこんなに………! こんな可愛い娘ができるなんて………!」

 

あ、母さんも泣き始めた。

 

でも、まぁ、これだけ可愛い女の子達が娘になるって聞いたら感動するよな。

俺もこんな可愛いお嫁さん達を貰えるとなると―――――

 

 

ダァァァァァァァァァァァァァ…………

 

 

涙が………涙が止まらないぃぃぃぃぃぃ!

 

リアスが苦笑する。

 

「もう、イッセーもお母さまも大袈裟すぎます」

 

「大袈裟じゃないわ、リアスちゃん!」

 

「そうだぞ、リアス!」

 

俺、悪魔に転生してよかった!

上級悪魔になれてマジでよかった!

 

俺と母さんが感涙していると、横で見ていたゼノヴィアがふむと考えていた。

 

イリナが訊ねる。

 

「どうしたの、ゼノヴィア? 難しい顔しちゃって」

 

「いや、伏見稲荷に行くというので、動きやすい格好の方が良いと考えていたんだが…………。私もイリナ達と同じく振り袖にしようか………」

 

ゼノヴィアがそう漏らす。

 

なるほど、皆の振り袖姿を見て、心が揺らぎ始めたか。

 

ゼノヴィアの振り袖もまた可愛いんだろうなぁ。

ボーイッシュな美少女が可愛い格好をすると、違った華があると思う。

 

俺がそんなことを思っていると、母さんがゼノヴィアの手を掴んだ。

 

「よし! ならば、ゼノヴィアちゃんも着付けてあげる! さぁ、こっちに来て!」

 

「え………ぁぁ………母上殿?」

 

戸惑うゼノヴィアを他所に着付け部屋へと連行していく母さん。

 

母さんの横顔はもうニコニコで………。

 

「…………有無を言わさず、連れていったわね」

 

イリナの言葉がリビングにこだました。

 

それから待つこと数分。

 

母さんが引き連れ来たのは、淡いピンク色をベースにした花柄の振り袖を着たゼノヴィアだった。

 

ゼノヴィアの表情は呆然としていてだな…………。

多分、何かを考える間もなく、母さんに着替えさせられたんだろう。

 

御愁傷様、と言ってもいいかもしれないが、流石は母さん。

今のゼノヴィアは普段の男前な雰囲気からは想像できないほどに可憐だった。

 

ゼノヴィアは指で髪を弄りながら、訊いてくる。

 

「ど、どうだろう? 私にはこのような格好はあまり似合わないと思っていたのだが…………」

 

「いんや、そんなことはないぞ? 滅茶苦茶可愛いよ、ゼノヴィア。イケてる」

 

俺は親指を立ててそう返した。

 

イリナもどこか新鮮といった表情で、

 

「へぇ、あのゼノヴィアがこんな風に変わるなんて。私もビックリだわ。お化粧もしてるのよね?」

 

「あ、ああ」

 

見れば、確かに軽くお化粧もしてあった。

 

簡単なお化粧で済ませているようだが、それでもゼノヴィアの魅力を引き出すのには十分なほど。

 

「ゼノヴィアちゃんもそうだけど、素材が良いから、軽くするだけでも十分なのよね」

 

と、母さんも感想を述べる。

 

まぁ、ゼノヴィアも他の皆も誰がどう見ても美少女だもんな。

 

ゼノヴィアも珍しく照れているようだ。

 

この後、木場達と合流する予定なんだけど、時間まで少し余裕がある。

 

 

―――――この時間は皆を写真におさめるしかないんじゃかいか?

 

 

そう思い、カメラを取りに行こうとした時だった。

 

こたつでくつろいでいたイグニスが―――――

 

「どうせなら、イッセーも振り袖着てみたら? ほら、アザゼルくんの性転換銃で女の子になって」

 

とんでもないこと言い出したよ!

 

性転換!?

あれを使えってか!?

 

やめてくんない、その思い付きの提案!

おまえが思い付いたことは大概、とんでもないことになるんだからさ!

 

つーか、俺も振り袖かよ!

 

美羽が言う。

 

「それ良いんじゃない? 女の子になろう! 振り袖着ようよ、おに………お姉ちゃん!」

 

「おぃぃぃぃ! 今、言い直したよね!? お姉ちゃん確定か!?」

 

「着てみろ、イッセー。おまえなら着こなせるはずだー」

 

「ティア!? なんで棒読み!?」

 

「こたつは人を堕落させるのさ。おい、ディルムッド。ミカン食うか?」

 

「食う」

 

ティアがこたつにやられた!

そんなにこたつが気に入りましたか!?

 

「こたつ………こいつは危険だな。まるでブラックホールだ。私のやる気を吸いとっていく」

 

「あー、これってアザゼルくんの発明品だしねー。ただただ堕落するための道具なんだってー」

 

イグニスがとんでもないこと言ったよ!

 

それ、家のこたつじゃなかったの!?

アザゼル先生の発明品!?

そんな話聞いてないよ!?

 

イグニスが追加情報をくれる。

 

「今朝、送ってくれたのよ。皆でだらだらできるこたつが欲しいって言ったら作ってくれたの」

 

「あの人、なんつーもん作ってくれてんだァァァァァァ!」

 

周囲で唯一まともなドラゴン、まともなお姉さんだったティアが!

ティアがだらだらしてるぅぅぅぅぅ!

こたつでミカン剥いて、お正月のテレビ番組見てるぅぅぅぅぅ!

 

「ミカン、うま」

 

「しっかりするんだ! ティアはもっとしっかりしたお姉さんだったはずだ! ボケキャラじゃなかったはずだ!」

 

「もう、ツッコミ役は疲れたのさ…………。イグニスの手綱を握るのも疲れたのさ…………」

 

うわぁぁぁぁん!

ティア姉がぁぁぁぁ!

ティア姉がこたつにやられたぁぁぁぁ!

なんか、悟った顔してるし!

 

嘆く俺の横でリアスが口を開く。

 

「性転換銃はどこにあるのかしら?」

 

「俺の女体化は確定なんですか!?」

 

「だって…………女の子のイッセー、可愛いんだもん」

 

「その期待の籠った目はなに!? イタズラする気だな!?」

 

「もちろんですわ。女の子のイッセーくん…………ふふふ」

 

朱乃の笑みが怖い!

 

だが、この場にあの銃はないはずだ。

あれはアザゼル先生が持っていて、当の先生はこの場にいない。

ならば、俺が女体化するなど、無理な話―――――

 

「ここにあるわよ~」

 

イグニスがこたつの中から出した物を見て、俺は目を見開いた。

 

それは…………!

そのアニメや漫画でありそうな独特の形状の銃は…………!

 

紛れもなく、あの悲劇を生み出した悪魔の銃―――――。

 

「なんでだぁぁぁぁぁ! なんであるの!?」

 

「アザゼルくんから借りたから」

 

「なんで借りたの!?」

 

「イッセーで遊ぼうかなって。イッセーを女の子にして、○○○(バキューン)とか△△△(ドキューン)とか×××(チュドーン)とかしよーかなーって」

 

な、なんて恐ろしいことを………!

放送禁止用語のオンパレードじゃないか!

 

イグニスの計画に戦慄する俺だったが、そんな俺に銃口が向けられる!

 

そして――――――

 

 

ビビビビビビビビビビビビビビビビッ!

 

 

 

「ぎゃっ!」

 

銃から光が放たれ、俺に命中する!

 

光に覆われたと思うと、体が次第に小さく丸みを帯びていった。

 

光が止むと、着ていた服が大きくなっていることに気づく。

髪も腰の位置まで伸び、前髪も僅かに目にかかる。

何より目を引くのが、プルンと弾む大きなおっぱい。

 

俺は目をひくつかせて――――――

 

「またこれぇぇぇぇぇぇ!?」

 

俺の叫びが兵藤家に響く!

 

俺に抱きついてくる複数の影。

 

「やーん! お兄ちゃん、可愛い!」

 

「全くだわ! さぁ、着ましょう! 振り袖を着るのよ、イッセー!」

 

「うふふ、気付けは任せてください。私が手伝いますわ」

 

美羽、リアス、朱乃のテンションが上がってる!

 

いや、この三人だけじゃない。

 

他のメンバーも…………、

 

「イッセーくん! また私の服貸してあげる! 着よう! 明日も休みだし!」

 

「レイナちゃーん! 君は何をするつもりなのかなぁ!? 明日も休みって、夜通しで何をするつもりなのかなぁ!?」

 

「そ、そんなの…………恥ずかしくて言えないわ!」

 

「うん、わかった! 恥ずかしくて言えないことをするつもりだということは、よーくわかった!」

 

レイナちゃんのムッツリ!

後でお仕置きしてやる!

 

「イッセーさん、可愛いです。女の子のイッセーさんも魅力的だと思いますよ?」

 

「うんうん」

 

「確かに。普段とのギャップもあるのだろう」

 

教会トリオは純粋で良かった…………。

後で撫で撫でしよう。

 

「…………やっぱり納得いかないです」

 

「イッセー…………。なんで、あんたの胸がこんなに大きくなるのかしら? そこのところ、説明願うわ」

 

 

むんずっ 

 

 

冷たい目と共に小猫ちゃんとアリスが俺のおっぱいを掴み、力を籠めてくる!

 

「いだだだだだだだ! もげる! 乳もげる! 小猫ちゃん!? アリスさん!?」

 

「「もげろ、にせ乳」」

 

無情な一言だった。

 

この後、前回と同じく、俺は皆の着せ替え人形と化した。

当然のごとく、振り袖もだ。

 

俺は新年早々に改めて性転換銃の恐ろしさを知ったのだった。

 




久々に登場、性転換銃!


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2話 いざ、初詣! 祈願します!

…………ということがあってだな。

俺は初詣を前にして酷い目にあったんだ。

 

なんとか銃を奪って元に戻ったはいいものの…………あの銃は俺が厳重に封印しておこう。

 

家の女性陣は信用できないからな。

元に戻った時も残念がってたし。

 

「たまには『お姉ちゃん』でも良いんじゃない?」

 

「………美羽よ。あれは勘弁してくれ」

 

美羽ちゃんもノリノリなんだよね………。

そこまでお姉ちゃんになって欲しいですか?

 

「だって可愛いんだもん」

 

と、リアスと同じことを言う美羽であった。

 

アザゼル先生や黒歌達も参拝に誘ったんだけど、先生はトップ同士の会合があるようで来れないという。

 

黒歌達(黒歌、ルフェイ、ティア、ディルムッド)はアザゼル先生お手製のこたつでかなり寛いでいる。

今頃、ミカンとモチでも食ってるんだろうな。

ちなみにルフェイは三人のお目付け役。

 

………まさか、ティアがこたつにやられるとは思ってなかった。

 

九重が俺の手を引っ張る。

 

「イッセー、次はいつ会えるのかのう?」

 

「おいおい、今会ったばかりだろう? 次のことは早すぎるんじゃないか?」

 

「うぅむ………。そうなのじゃが、イッセーは忙しいと聞いている。イッセーと遊べないのは寂しいのじゃ」

 

あははは………。

完全になつかれてるなこりゃ。

 

まぁ、このぐらいの年頃だと年上の人にかまってほしいからね。

俺がその対象ってところかな?

 

「そういえば、フィス殿は来ておらんのか?」

 

九重はきょろきょろと俺達メンバーを見渡す。

 

フィスというのはオーフィスのことだ。

 

九重は一度、兵藤家に遊びにきたことがあるんだ。

その時は龍神であるオーフィスを祀る社を兵藤家に建てようという話になって、その関係で来てもらったんだ。

 

九重はオーフィスと仲良くなったんだが、流石に正体は明かせないため、ドラゴンの女の子『フィス』として紹介したんだ。

 

「フィスは家でお留守番だ。少し風邪気味らしくてな。ティアが面倒をみているよ。フィスも九重に会いたがっていたよ」

 

俺は嘘をついた。

というのも、オーフィスを外に出すわけにはいかないからだ。

 

ティアが面倒を見ているという点と、九重に会いたがっていたという点は嘘じゃないけどね。

 

オーフィスが来ていないことに残念がる九重だが、すぐに気を取り直す。

 

「龍の風邪は厄介と聞くぞ。裏の京都特性妙薬を用意するから待っておれよ!」

 

そう言うなり、ぱたぱたと奥に向かって走っていった。

 

薬を取りに家に戻ったのだろうが、友人としてオーフィスのことを心配してくれているようだ。

九重達を見ていると、いつか、オーフィスも自由に外出できるようにしてやりたいと思えるな。

 

その様子を見ていた八坂さんが朗らかに微笑む。

 

「ほほほ、赤龍帝殿、うちの九重と仲良くしてもらっているようじゃな」

 

「ええ。うちの子も仲良くしてもらってますしね。九重も素直で良い子ですよ」

 

俺は九重が走っていった方向を眺めながらそう返した。

 

すると―――――八坂さんは官能的な微笑みと共に俺の耳元に顔を寄せてきた!

大人の女性が放つ香しい匂いが俺の脳みそを刺激してくる!

 

「赤龍帝殿、九重が大きくなるまでしばし待ってもらえぬかえ? 待てぬならば、わらわがお相手しても良いのじゃが………。ほほほ、九重も兄弟が欲しいとせがむものじゃがらのぅ。それに若い男の肌は久しくてのぅ」

 

白く細くしなやかな指で俺の頬を撫でる八坂さん!

 

な、なんと…………九重の兄弟ですか!

そ、それはつまり…………!

 

艶のある声とその内容についついゴクリと喉を鳴らしてしまう俺!

 

しかし…………、

 

「母上! ご冗談が過ぎまするぞ! これは私が先約したのです!」

 

猛ダッシュで帰ってきた九重が俺の足にしがみついてきた。

可愛らしく八坂さんを牽制している。

 

「ほほほ、独占欲の強い子じゃ。その歳で『女』をしておるわ。わらわに似たのかもしれんのぅ」

 

娘の行動を余裕のある表情で微笑ましく見る八坂さん。

 

それを見た美羽が俺の横で、

 

「ふむふむ………八坂さんと九重ちゃんも…………と」

 

何かをメモってる!

 

そして、更にその横ではいつのまにか実体化していたイグニスがいて、

 

「母娘丼ね!」

 

親指を立てて楽しげにしていた!

 

母娘丼とか言っちゃいけません!

魅力的な響きだが、ここには小さい子供がいるんだぞ!?

 

「九重ちゃんが大きくなるまで…………あと十年くらいかしら? その頃が食べ頃ね!」

 

「食べ頃とか言うなやぁぁぁぁ!」

 

「食べ頃? イッセー、何を食べるのじゃ?」

 

「それはね―――――」

 

「やめんかい! エロ女神!」

 

えぇい、駄女神はやはり子供の教育にはよろしくない!

こんなのが近くにいたら小さい時から保険体育で満点取ってしまう!

 

「大丈夫! 思春期迎えたら自然と保険体育満点取れるわ! ねぇ、九重ちゃん。お―――――」

 

「やめい!」

 

何かとんでもないこと言おうとしたので、その口をガムテープで塞いでやった。

 

俺が駄女神の口を封印している横ではリアスと八坂さんが何かを話していた。

 

「リアス姫、例の件、よいのかえ?」

 

「はい、こちらとしても断る理由もありませんわ」

 

笑顔で応じるリアスに俺は訊く。

 

「何かあるのか?」

 

「ええ、九重が来年度から駒王学園の初等部に転入するのよ。その準備を進めているの」

 

「マジでか!」

 

へぇ、いつの間にそんな話になってたんだろう?

 

驚く俺に得意気な表情で九重は言う。

 

「ふっふっふっ、私もそろそろ人間界の生活を勉強しなければならないのじゃ。できるなら、妖怪が紛れ込んでも問題のない学舎が良いと思うてな!」

 

つまり、今年の春から九重も駒王町に来るのか。

 

まぁ、あの学校って悪魔、天使、堕天使から陰陽師、魔物使い、元ヴァルキリー、狼男に死神と多種多様だからな。

 

あれ………そうなると、九重も家に住むのかね?

 

う、うーん………そうなると色々と対策が………。

家ってお子さまの教育には色々アウトだと思うし………。

特にうちの事務所はダメだな。

R18指定空間だから。

『休憩室』とか『ラブルーム』はぜーったいに見せられない!

 

マジでどうしよ………。

 

俺が頭を悩ませていると、見知ったメンバーと遭遇した。

 

「あら、リアス達もようやく来たのですね」

 

ソーナをはじめとしたシトリー眷属だった!

こちらもジャケット姿のベンニーアを除いた女子メンバー全員が振り袖姿だった!

 

「ソーナ。京都に来るとは聞いていたけれど、ここにも来ていたのね」

 

「ええ。十分ほど前にここに到着しました」

 

幼馴染み同士で立ち話するリアスとソーナ。

 

匙が挨拶をくれる

 

「よっ、兵藤。明けましておめでとう」

 

「おう、匙。明けましておめでとう。そっちも初詣か」

 

「まぁな。ここで四件目だ。あと二つほど回ったら戻る予定。同盟のおかげで一部の悪魔なら初詣が出来るようになったのは役得だよな」

 

一部の悪魔というのは、主に俺達『D×D』メンバーとその協力者のこと。

対称者限定で京都の観光地が開放されている。

匙の言う通り、役得ではあるな。

 

しかし、シトリーメンバーは新年から京都観光か。

 

俺達は帰ったら自宅でのんびりだ。

とりあえず、俺はティアをこたつの魔力から解放してやらないと…………。

 

「副会長当選祈願か?」

 

「まぁな。でも、俺だけじゃないんだな」

 

匙が視線を横にやる。

 

ふと見れば、ゼノヴィアとシトリーの『僧侶』花戒さんが妙な迫力を放っていた。

お互いに熱い視線をかわし、バチバチと無言で火花を散らせている。

 

この二人は次期生徒会長の席を巡って争っている。

いわば、ライバルだ。

 

「負けるつもりはないわ、ゼノヴィアさん」

 

「ああ、桃。こちらこそ、やるからには絶対に勝つ」

 

握手を交わす二人。

 

良い感じにライバルオーラが出てるな。

冬の寒さなんてお構いなしに燃えてるよ。

 

匙が言う。

 

「見ての通り、俺以外にも当選祈願するメンバーがかいるのさ」

 

そういや、シトリーメンバーからは匙と花戒さん以外にも生徒会メンバーに立候補してたっけ。

 

それから少し話した後、シトリーメンバーは下山していった。

 

別れたところで、俺達も頂上目指して登ろうとした時だった。

 

イリナが俺の右腕に絡み付いてきた。

 

「うふふ、お正月の京都なんて風流よね。ダーリン♪」

 

「…………」

 

冬休み…………というより、あの夜を越えてからイリナは俺のことを「ダーリン」と呼んでくるようになった。

 

スキンシップも増してきていて、お風呂でも背中を流しにくるようになったし、ベッドへの侵入回数も増えてる。

 

年末、俺が事務所に『ラブルーム』が設置された日。

ちょうどその時にイリナが事務所に遊びに来てだな………。

『ラブルーム』の存在とその経緯を知ったイリナと使用することになった。

それが『ラブルーム』初使用だったりする。

 

それはともかく、最近では料理の勉強も始めているようだ。

 

俺は息を吐く。

 

「…………学校でその呼び方は止めてくれよ? ハニー」

 

「えー、ダメ?」

 

「ダーメー」

 

「ダーリンのケチ」

 

「言うこと聞かないとお仕置きするぞ、ハニー」

 

というのが最近の俺とイリナの間でのノリ。

 

出来れば「ダーリン」は止めてほしいところだが、イリナが呼びたいのであれば、仕方がない…………というより、半分諦めだな。

 

イリナとそんなやり取りをしていると、反対の腕にも絡み付いてくる者が。

 

「あらあら。でしたら、私も旦那さまとお呼びしようかしら」

 

ニコニコ顔の朱乃だった。

こちらもイリナと同じくらい超ご機嫌といった感じだ。

 

「ズルいわ、朱乃。私だって、イッセーと!」

 

そう言って、リアスも俺の腕に抱きついてくる!

朱乃と俺の腕を奪い合う形だ!

 

「あらあら、早い者勝ちですわよ?」

 

「それを言うなら、私の方が早いわ。ねぇ、イッセー。私のしょ――――」

 

「リアスゥゥゥ!? それ言っちゃダメ! ここ、他の人もいるから!」

 

周囲には上を目指す一般客もいるんだ!

こんなところで、そんな単語は使わないよ!

 

リアスと朱乃が俺の左腕を巡るなか、反対側では教会トリオが集結していた!

 

「イリナ、ここは三人で分けるべきなのではないか?」

 

「そうですよ。私もイッセーさんと―――」

 

「アーシアちゃん、それ以上はダメぇぇぇぇ!」

 

俺の心からの叫びだった。

 

左腕をリアス&朱乃、右腕を教会トリオ。

気づけば前を小猫ちゃん、後ろをレイナ&レイヴェルが押さえていた。

 

美少女に囲まれるのは嬉しいが、これは…………。

歩きにくい上に、この上なく目立つ。

周囲からの視線が…………。

 

後ろでは狐耳と尻尾を隠した九重が悩んでいる様子で、

 

「うーむ、あの中に入るには…………どうすればいいのじゃ?」

 

「九重ちゃん。こういう時はね、おんぶだよ」

 

「美羽ちゃん、それは無理があると思うわ…………」

 

アリスの指摘はごもっとも。

これにおんぶまで加わったら何かの要塞になっちまうぞ、俺。

 

「わ、私は…………我慢します…………」

 

ロセの我慢は正直、ありがたかった。

 

 

 

 

そんなこともありつつ、ようやく頂きの社に着いた俺達は手を合わせていた。

 

俺の願いは皆がケガなく、元気で過ごしてくれたら、それが一番かな。

今年は出来るだけ平和に過ごしたいものだ。

 

あとは今年も皆とエッチな生活ができたらいいな!

 

隣には参拝しながら話をするメンバー。

 

「願いを込めるとき、きちんと住所と名前も心の中で神様に伝えた方が良いんだよ? 知ってた、ギャーくん?」

 

「え!? そうなの、小猫ちゃん!? もう一度やらないと!」

 

「あとね、神社にも色々と系統があって、ここは稲荷系だから、商業に関するお願いをした方が良いんだよ。私達は今年の秋に修学旅行でここに来るからそのときでも良いと思うけど」

 

「修学旅行が楽しみですわ! 冬の京都も良いですけれど、秋の京都も回ってみたい!」

 

レイヴェルが白い息を吐きながらも瞳を輝かせていた。

 

小猫ちゃん、ギャスパー、レイヴェルは今年の春から二年生だから、秋には修学旅行がある。

おそらく、俺達と同じく京都だろう。

 

その時は襲撃なんて受けないと思うけど…………。

 

まぁ、その時はその時だ。

多分、アザゼル先生も着いて行くことになるだろうし、俺達も援軍として駆けつければ良い。

 

「早くファーブニルさんが治るようにお願いしてきました」

 

そう述べるのはアーシアだ。

 

ファーブニルはアーシアを守るため、重症の体でリゼヴィムに立ち向かった。

その後、力を使い果たして、一時的な休眠状態に陥っているのだが…………。

 

ゆっくりでも良い。

回復した姿をアーシアに見せてやれよ、ファーブニル?

ここにおまえの帰りを待っている女の子がいるんだからさ。

 

俺の横で深くお願いをしているゼノヴィア。

 

「何をお願いしているんだ?」

 

「…………今年こそ、イッセーの子供をだな」

 

「おいおい! ここは子宝のご利益はないと思うぞ!? あと、そこは学生終わってからと言っただろう!?」

 

「分かっているさ。イッセーがそう約束してくれたからな。今は練習だけで留まるつもりだ」

 

「そんなことは言わんでいい!」

 

練習だけって…………こいつ…………。

 

ゼノヴィアはおかしそうに笑う。

 

「ふふふ。まぁ、真面目な話、選挙の合格祈願かな。ここの神が悪魔の願いを叶えてくれるかは分からないけどね」

 

「でも、実力で取りたいって思ってるんだろう?」

 

「無論だ。勝利はもぎ取ってこそ、意味があるからな!」

 

不敵な笑みを見せるゼノヴィア。

 

さっき、ライバルと邂逅したのもあると思うけど、かなり気合いが入ってる。

新年から生徒会選挙に全力投球するつもりなんだろうな。

 

いつもの大胆不敵なゼノヴィアがそこにいた。

 

皆がそれぞれの思いを願い終える中、美羽とアリスが未だに何かを強く願っていた。

 

「美羽? アリス? そろそろ行くけど………まだ、何か願ってるのか?」

 

俺が問うと、二人は目を開けてこちらを振り返る。

 

二人とも晴れやかな表情で微笑んだ。

 

美羽が言う。

 

「今年も皆で賑やかに過ごせますようにって」

 

「そっか」

 

このメンバーなら今年どころか来年も、その次も賑やかに過ごせそうだけどな。

美羽も平和に楽しく過ごしたい、そう願ってたわけだ。

 

アリスも美羽に続く。

 

「書類が溜まりませんようにって。面倒な仕事はイッセーが請け負ってくれますようにって」

 

「このバカチン! なに願ってんだぁぁぁぁぁ!」

 

うん、今年も賑やかだわ。

 

 



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3話 新学期スタート! 色々暴露します!

冬休みも終わり、駒王学園も三学期へと突入。

 

進路関係もあり、自由登校となった三年生以外はいつも通りの登校だ。

 

今日は始業式のため、昼で授業は終わりとなる。

そして、昼からは新体制のオカルト研究部が始動する!

 

部室には一年生と二年生が集い、新部長のもと、活動方針を決めることに。

レイヴェルが淹れてくれたお茶を全員が受け取り、話し合いがスタート。

 

………のはずなんだが、部室には沈黙が漂っていた。

 

というのも、新部長アーシアが中々音頭を取ってくれないからだ。

 

訝しげに感じた俺がアーシアに声をかける。

 

「部長? 三学期はどうするんだ?」

 

「…………」

 

あらら………。

こりゃ、自分が呼ばれてるなんて思ってないんだろうなぁ。

 

「アーシアぶちょー。おーい」

 

俺はアーシアに手を振りながら改めて声をかけてみる。

 

すると、ようやく気づいたようで慌ててアーシアが立ち上がる。

 

「す、すいません! 私のことだとは思ってなくて…………」

 

「まぁ、始まったばかりだしな。ついこの間までリアスが部長だったし」

 

それに、先代部長であるリアスとアーシアはかなり対照的だ。

どちらも優秀であるが、リアスは先陣を切るタイプで、アーシアは誰かを支えるタイプ。

今のアーシアではちょっと勝手が分からないのかもしれない。

 

アリスが言う。

 

「まぁ、ほんなに気張らない方が良いんじゃない? 空回りすることもあるし。私だって、昔は――――」

 

「おまえのは参考にならないから、止めなさい。アーシアに悪影響が出そうだ」

 

「ひどい! 私の華麗なるサボり術を披露しようと思ったのに!」

 

「せんでいい! つーか、アーシアに何教えようとしてんだ!?」

 

「まずはイッセーを顎で使うところから!」

 

「おぃぃぃぃ! マジでなに教えようとしてんだぁぁぁぁぁ!」

 

こいつ、サボることしか考えてねぇのか!

よくそれで王女務まったな!

 

「えー、ダメー? それじゃあ、私の華麗なる交渉術は? こちらが優位に立てる必勝法」

 

「なにそれ。超知りたい」

 

この時、部室にいるメンバーの想いは一致したそうな。

 

まぁ、その話をこの場でしたら長くなりそうだし、かなり脱線するから、また今度。

 

それから新副部長である木場のサポートもあり、話は進んでいく。

その中で前任の部長、副部長のリアスと朱乃の話が出てきた。

二人とも部活を引退したとはいえ、二人の気配が近くに感じられないからだ。

 

「お二人は気が向いたら顔を出すと言ってました。ソーナ前会長と真羅先輩も連れて三年生の教室でお話しするそうです」

 

小猫ちゃんがそう教えてくれた。

 

木場も続く。

 

「リアス前部長は基本的なことは僕達に一任するそうだよ。顔を出すと新体制の邪魔になりそうだから、僕達の方針が決まった頃に行くようにすると言っていたよ」

 

なるほどなるほど。

つまり、それまでは三年生で思い出を語りつつ、俺達の様子見ってところか。

 

ま、その方が良いのかもしれない。

リアスがいると、何かと聞いてしまいそうだしな。

 

「どうしても聞きたいことがあれば、相談にも乗ってくれると思うし、ここはボク達で頑張っていこうよ」

 

「そうだね。美羽さんの言う通りだよ」

 

美羽の言葉に全員が頷きを返す。

 

リアス達が卒業してもいなくなる訳じゃない。

二人は卒業後、大学部に通うことになっているが、大学部は高等部からものすごく近い場所にある。

歩いて着く距離だ。

二人とも来ようと思えばいつでも来られる。

 

もっと言えば、家に住んでるからいつでも会えるしね。

家に住んでいない木場とギャスパーだって、リアスの眷属なんだし、しょっちゅう顔を会わせることになる。

 

先輩二人は良いとして、問題は次―――――新入生だ。

 

アーシアが部長席に視線をやりながら、口を開く。

 

「リアスお姉さま達の卒業もそうですけど、新一年生の新入部員さんが入ってくるんですよね…………。なんだか、一年って早いです。私がここに転入してきたのが去年の春頃でしたし…………」

 

アーシアと出会ったのが、去年の春、四月の暮れだった。

あと数ヵ月であれから一年となる。

 

「うーん、分かっていたけど、一年って早いよなぁ」

 

「わかる。歳を食うごとに早さが増してるわよねぇ」

 

「俺なんか、一年がモーリスのおっさんが振るう剣並みの早さに感じるぞ」

 

「そうそう。私なんか、目の前をリーシャの狙撃が通り抜けるくらいに感じる~」

 

「イッセーくんもアリスさんも若いんですし………。それに表現が独特すぎるよ………」

 

俺とアリスの会話にツッコミを入れる木場。

 

はい、新学期初の木場のツッコミいただきましたっと。

 

「そんなカウントしてたの!?」

 

「心の声読むなよ!?」

 

ま、まぁ、とにかく、一年って経つのが早いよね!

 

それで話を戻すけど、新入部員のことだ。

 

「新入部員って確保するのか?」

 

生徒会もそうだけど、オカルト研究部も悪魔、天使、堕天使の集まりだ。

一般生徒とか入ってきたらどうするんだろう?

そもそも、入れていいのか?

 

俺の疑問に小猫ちゃんが答えた。

 

「候補はいます」

 

「あ、いるんだ。誰?」

 

「ルフェイさんとベンニーアさんです」

 

なるほど、と俺は相づちを返した。

そういや、ルフェイに関しては転入の話が上がってたな。

俺の専属魔法使いとして同居してるし、年頃の女の子が家にいるだけってのは不健全かなって話があったんだ。

兄のアーサーからも勧められているそうだし。

 

そうなると一つ疑問が出てくる。

 

俺はその疑問を美羽に投げ掛けた。

 

「ディルムッドはどうするんだ? あいつも十五………ルフェイと同い年なんだろう?」

 

そう、見た目からは想像できないが、あいつ、実は十五歳の女の子だったんだ!

見た目はスタイル抜群のお姉さんなのにだ!

しかも、あの言葉遣い!

誰も中三だなんて思わねぇよ!

 

………まぁ、意外に純情と言うか、乙女の恥じらいは残してたけど。

おっぱい見られたりしたら泣くし。

 

この間、トイレに行ったら、あいつが入っててだな。

パンツを下ろして座っている状態のところに出くわしたわけだ。

あいつが鍵を閉め忘れたのが原因でもあるんだが………泣いちゃったんだよね。

後で美羽に怒られた。

 

「ディルさんも少し考えてるみたい。一応、勉強見てあげてるけど、レベル的には問題ないんじゃないかな? あとはディルさんの意思次第って感じ」

 

マジでか。

あいつ、勉強出来たのか………。

 

もし、あいつが駒王学園に入学したらどうなるんだ………?

まず、制服姿は………似合うだろうけど、モデルにしか見えん。

つーか、クラスでやっていけるのか!?

 

「ディルさんの制服姿、見てみる? 画像あるよ?」

 

「あるのか。ちょっと拝見………」

 

俺は美羽から携帯を受け取り、画面を覗いてみた。

 

そこに映し出されているのは制服姿のディルムッドなんだが………。

 

それを見たメンバー………アリス、アーシア、小猫ちゃんは沈黙した。

 

 

 

 

数時間に及ぶ話し合いを終えて、一息つく新オカ研メンバー。

 

方針としては『いきなり改革なんてしないで、その都度臨機応変に対応していこう』ということで決まった。

 

結局はリアスの頃の体制を維持ということになるのだが、仕方がないだろう。

新部長のアーシアもまだ自信がなく、皆の意見を聞くことしか出来ない。

 

今日はまだ初日だし、これからだろう。

 

ただ、アーシアがアリスに人の引っ張り方を聞こうとしたのは阻止した。

何を教えるかわかったもんじゃないからな。

 

さて、オカ研の方はこれで良いとしてもう一つの方が気になるな。

 

今日、この場にゼノヴィアとイリナはいない。

理由は選挙活動のためだ。

 

ゼノヴィアは既に行動を開始していて、旧校舎の別室でイリナと選挙の相談をしている。

イリナは完全なサポート役。

更にクラスメイトの桐生もサポート役としてゼノヴィアについている。

桐生も別室で選挙活動の話し合いに参加中だ。

 

本格的な活動は明日かららしいが、どうするのかね?

 

そんなことを思っていると、部室の扉が勢いよく開かれる。

 

現れたのは別室にいるはずのゼノヴィア、イリナ、桐生。

 

桐生が高らかに宣言する。

 

「ゼノヴィアっちの勝負服をセレクトしたわ!」

 

「ふっ、似合うかな?」

 

ニヒルに決めるゼノヴィアの格好は中世ヨーロッパ貴族が着てそうな衣装だった。

しかも男用。

 

「男装………。ゼノヴィアには結構似合ってると思うよ? でも、なんで、それをチョイスしたんだ?」

 

「ふっふっふっ、ゼノヴィアっちなら、この衣装が似合うし、会長っぽいじゃん」

 

「すまん、俺にはどこぞのエレガント閣下に見える」

 

「そう? まぁ、良いじゃん。これで校門前に立って演説決めれば女生徒からは黄色い声援が貰えるわ」

 

いやー………コスプレはダメだろう。

普通にアウトだろう。

つーか、その格好だと『私は敗者になりたい』的な感じに見えるぞ。

割りと本気で。

 

すると、美羽が、

 

「それじゃあ、『あえて言おうカスであると!』的な感じは?」

 

「使いどころ間違ってる! なんで、そのセリフ出てきた!?」

 

「昨日見たから。『ガ○マは死んだ! なぜだ!』は?」

 

「坊やだからさ! って、ダメダメ! 確かに演説ではあるけど、内容的にボツ!」

 

美羽め、夜遅くまでディルムッドとテレビを見ていると思ったら、なんて懐かしいものを!

 

 

~そのころのディルちゃん~

 

 

「やらせはせん! やらせはせんぞぉぉぉ!」

 

「むっ! ディルちゃん、中々やるにゃん!」

 

「あはは………ディルムッドさんってこんな感じだったかな?」

 

テレビゲームで対決するディルムッドと黒歌。

 

そして、その様子を見守るルフェイだった。

 

 

~そのころのディルちゃん、終~

 

 

なんて会話をしていると、桐生が言った。

 

「まぁ、演説はともかく、ゼノヴィアっちも魔力で魅力(チャーム)とか出来れば無敵なんだけどね~」

 

「いや、それはまずいだろ。一般生徒にそんな―――――」

 

…………ん?

 

あ、あれ…………?

 

今、こいつ、なんて言った…………?

 

「………き、桐生さん………今、魔力とか魅力とか言った?」

 

「言ったけど?」

 

んー………平然と返されてしまったぞ。

 

落ち着こう、ステイクール。

桐生は一般生徒で、俺達のことを知らないはずだったよな………?

 

それを前提として………俺は視線をゼノヴィアに向けた。

 

「説明願おうか」

 

「桐生は私の常連だぞ。むろん、私達の正体も知ってる」

 

「…………うん、思ってた通りの答えだわ。いつから?」

 

俺の問いに桐生は思い出すかのように口にしていく。

 

「十二月に入った頃だったかしら。駅前でチラシもらって、試しにやってみたら、ゼノヴィアっちが出てきたのよ。で、話したらリアス先輩が登場して、あれこれ話して事情を知ったのよ」

 

十二月………先月か。

 

確かに俺達は駅前でチラシを配ったりしているから、学園の誰かが俺達を召喚することも考えられた。

その場合、俺達の主であるリアスが出て何とかすることになっていたが…………。

 

どうやらこの様子だと知っていたのは教会トリオとリアスのみって感じだな。

木場も少し驚いてたし。

 

桐生がカラカラ笑いながら言う。

 

「心配しなくていいって。誰にも話したりなんかしてないし、松田や元浜には言ってないから。リアス先輩や友達のアーシア達の頼みだし、誰かに話すわけにはいないじゃないの。その辺、案外口が硬いわよ、私」

 

「ああ、まぁ、おまえが口硬いのは知ってるよ」

 

俺と美羽のこと、なんだかんだで黙っててくれてるし。

 

ただ、俺が思っていることは―――――

 

「桐生()俺達のこと知ってたんだなぁ」

 

俺は窓の外を見ながら言った。

 

その言葉に美羽、アリス、レイヴェル以外のメンバー、つまり、俺の眷属以外のメンバーが首を傾げている。

 

レイナが訊いてくる。

 

「イッセーくん。今、桐生さん()って言った?」

 

「言った」

 

「それって、他にもいるってこと…………だよね?」

 

そう、その通り。

俺達のことを知っている一般人はいる。

 

その人物とは――――――

 

「うちの担任の坂田先生。あの人、俺の常連になったんだぁ」

 

「「「えええええええええええええ!?」」」

 

 

~そのころの坂田先生~

 

 

「バッカ、おめ、ちげぇよ! ペガサス流星拳の構えはこうだって!」

 

「おまえこそ違うって! あれはペガサス座の軌跡を描いてんだよ! おまえのメチャクチャじゃねーか! あと、この間のラーメン代、そろそろ返せよ!」

 

校舎裏でペガサス流星拳の構えについて議論するアザゼル先生と坂田先生だった。

 

 

~そのころの坂田先生、終~

 

 

ちなみに坂田先生の依頼は毎週発売されるジャンプを届けること。

あと、糖分が切れたときに甘いものを届けることだ。

 

「そういうわけで、あの人も俺達のこと知ってるから」

 

「いやいやいや、そういうことは早く言ってほしかったよ」

 

「すまん。俺達も衝撃過ぎて言うの忘れてたわ」

 

もっともなことを言う木場に謝る俺。

 

うん、もう少し早く言うべきだったわ。

 

ちなみに坂田先生が俺達のことを知ったのは今月からだ。

 

「まぁ、先生も口が硬いらしいから、大丈夫だって」

 

俺はそう言ってこの話題を締めくくった。

 

 



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4話 戦士達の不満 

オカルト研究部の方針が決まり、ゼノヴィアの選挙活動の進捗も確認できた後のこと。

 

俺はレイヴェルに訊いた。

 

「ライザーと王者のレーティングゲームがあるだろ? やっぱり、レイヴェルはこっちに残るのか?」

 

先日、ライザーの復帰戦が決まった。

しかも、相手は現王者のディハウザー・べリアル。

その力は魔王に匹敵し、皇帝(エンペラー)とまで称される最強のチャンピオンだ。

 

本来なら、王者とライザーが対戦するなんてカードは組まれない。

それはレートに差があるからだ。

 

レーティングゲームは人間界のチェスのレーティングゲーム同様、レート―――――つまり、ポイントでランキングを決める。

 

この間、知ったんだけど、王者は3500台でぶっちぎり。

ライザーは2000台にも乗っていない。

二人の間にはこれだけの差がある。

 

それなのに、なぜ二人が対戦することになったのか。

 

それはライザーの復帰記念の意味合いと王者の『皇帝べリアル十番勝負』という特別企画が重なったからだ。

 

『皇帝べリアル十番勝負』という企画は、いわばエキシビションマッチ。

テロ続きで不安がっている冥界の人々に王者の勇姿を見せ、安心させようというのが狙いだ。

 

この報告はレイヴェルからだけでなく、ライザー本人からも受けていた。

 

というか、たまにだけど、ライザーの特訓に付き合わされていてだな…………。

あいつと会う機会は結構多い。

で、その時にレイヴェルとの進捗具合を聞いてきたりするんだ。

 

ま、まぁ、自分で言うのもなんだけど、イチャイチャしてますよ。

 

その辺りを報告すると、ライザーも満足そうにしていた。

うん、あいつもお兄ちゃんしてるわ。

 

それで話を戻すんだけど、王者とのレーティングゲームに当たって一つ問題が出てきた。

それはライザーの眷属が揃っていないことだ。

 

ライザーはレイヴェルか抜けた分の『僧侶』一枠が埋まっていない。

そこで、元眷属であるレイヴェルを一時的にトレードしようかという話にもなったんだが………。

 

なんと、ライザーはそれを断ってきた。

 

なんでも、

 

『レイヴェルはおまえの眷属で、おまえの傍にいたがっている。なら、妹といえど、俺の事情に巻き込む訳にはいかんさ』

 

とのこと。

 

そうなると、ライザーは一人足りないままの出場になってしまうが、それを言うと、

 

『リアスも眷属が揃っていない状態で俺とゲームをしたんだ。しかも、俺はプロ、あいつは未経験。おまえがいたとはいえ、リアスは挑んできた。それならば、俺も今のまま王者に挑むまでだ。たとえ勝てなくとも、良い試合をしてみせるさ』

 

そう返してきたんだ。

 

なんというか…………ライザーが男前になってた。

 

特訓で手合わせもしてみたけど、あいつの力はみるみる伸びてきている。

攻撃の一つ一つが重く、鋭くなっていた。

それに中々の格闘術を身に付け始めていて、俺(生身)と格闘戦をしてもそれなりに打ち合えるようになってきた。

最近では出来るだけ不死の特性に頼らないように特訓しているので、上達が早い。

 

このままいけば近い将来、最上級クラスまで上り詰めるんじゃないだろうか。

そんなことを思わせる程、今のライザーは強い。

 

「私はイッセーさまの『僧侶』として生きていくことを決めていますし、ライザーお兄さまも私の想いを組んでくれてます。お兄さまには申し訳ないのですけど、イッセーさまの傍にいようと思いますわ」

 

レイヴェルは胸に手を当てて、そう言ってくれた。

 

うん、そんなことを言ってくれるとね…………撫で撫でしたくなってしまう。

 

というわけで、早速、レイヴェルの頭を撫でる。

 

「エヘヘ………」

 

あ、今の笑顔はいかんよ………反則じゃん。

 

「…………」

 

おっと、小猫ちゃんがぶすっとし出したぞ。

 

レイヴェルばかり可愛がると、小猫ちゃん拗ねるんだよね。

 

こういう時は無言で膝上を開けると解決できるんだ。

ソファに座って、膝上をポンポン叩くと、速攻で乗ってくる。

 

うーむ、小猫ちゃんのお尻の感触は相変わらず、柔らかい!

 

「にゃあ………」

 

んもー、後輩二人が可愛すぎて辛いよ!

 

後輩二人にデレデレする俺だった。

 

 

 

 

それから少し時間が経つと、リアス、朱乃、アザゼル先生に続き、シトリー眷属が部室にやって来た。

全員、表情が固めで、何かが起こったというのは明らかだ。

 

アーシアが別室にいるゼノヴィアとイリナを呼び、グレモリー眷属とシトリー眷属が部室に揃う。

一般人である桐生には別室で待機してもらっている。

 

先生が全員の顔を確認すると、重い口を開く。

 

「新学期早々で悪いが、あまり良くないニュースだ。最悪ってほどじゃない。………が、おまえらも知っておくべきだろう」

 

「何があったんですか?」

 

俺が問う。

 

まぁ、良くないってことは分かってるし、こういうことは早めに知っておきたい。

 

先生は一度息を吐く。

 

「教会側の一部の信徒………主に戦士達がクーデターを起こしたのは去年の暮れに話したよな?」

 

現在、教会側で戦士達を中心にしてクーデターが起こっているんだ。

 

三大勢力が和平を結んだ後、教会側では『悪魔、堕天使と敵対するな』というお達しが流された。

教会に属する戦士達はそれぞれ理由は異なるが、悪魔、堕天使に良くない感情を抱いて生きてきたため、このお達しには不満が出たそうだ。

 

不満を抱えながらも動いていたのは、吸血鬼や魔物を討伐していたため。

しかし、その吸血鬼とも和平を結ぶことになった。

 

これに対して安堵する者もいれば、面白くないと感じる戦士もいた。

 

そして、今回は戦士達の不満が爆発してクーデターに繋がったという。

 

先生が言う。

 

「教会の戦士からすれば、戦う理由を奪われたに等しい。怨敵への復讐、生活の糧、生き甲斐を奪われたのも同義だ」

 

「主のため、教会のため、魔の存在と戦うために生きてきた戦士が突然戦う理由を奪われたら、どう生きて良いのか分からなくなるのも仕方のないことだ」

 

ゼノヴィアがそう漏らす。

 

ゼノヴィアも元は教会の戦士。

悪魔、堕天使………魔の存在と戦うために育った彼女だからこそ、彼らがクーデターに至った理由も理解できるようだ。

 

しかし、これに対してうんざりな表情を浮かべる者もいる。

 

「…………そんなのただのワガママじゃない」

 

窓の外を眺めながら、小さく呟いたのはアリス。

おそらく、俺しか今の呟きを聞き取れなかったのだろう。

皆の視線は先生に集まったままだ。

 

………ワガママ、か。

確かにそうとも言えるな。

 

――――戦う理由を奪われる。

 

そもそも戦う理由ってなんだ?

なんで戦うんだ?

 

多分、俺やアリスとクーデターを起こした戦士達とではそこが違う。

戦うことに対する考え方が違うんだ。

 

俺は意識を先生へと戻す。

 

「教会側のクーデターだが、大半が収拾している。暴動を起こした者達の大勢が既に捕らえられた。しかし………クーデターの首謀者とされる大物三名は未だ逃亡中だ。多くの戦士がそれに付き従っている」

 

ソーナが首謀者の名を挙げる。

 

「首謀者は司教枢機卿であるテオドロ・レグレンツィ猊下、司祭枢機卿であるヴァスコ・ストラーダ猊下、そして助祭枢機卿であるエヴァルド・クリスタルディ猊下です」

 

それを聞いてリアスが顎に手をやり唸った。

 

「………大物ばかりね」

 

確か………司教枢機卿はカトリックで教皇の次に高いポスト。

司祭枢機卿がその一つ下で、助祭枢機卿が更にその一つ下。

教皇がトップとすると、教会の二番目、三番目、四番目の役職の者達が揃ってクーデターを起こしたことになる。

 

…………マジで大物じゃん。

 

この報告に教会出身のアーシア、ゼノヴィア、イリナはかなりの衝撃を受けているようだった。

特に戦士であるゼノヴィアとイリナは挙がった名前に緊張しているように見える。

 

ゼノヴィアが絞り出すように言う。

 

「…………ストラーダ猊下とクリスタルディ先生か」

 

「知っているのか?」

 

俺が問うと、ゼノヴィアから返ってきた言葉は予想外のもので、

 

「当然だろう。――――ストラーダ猊下はデュランダルの前所有者なのだから」

 

『――――っ!』

 

その言葉に俺を含む事情を知らない一部メンバーは言葉を失う。

 

…………つまり、ゼノヴィアの先輩がクーデター首謀者の一人ということか!

 

アザゼル先生が言う。

 

「ストラーダは歴代のデュランダル使いの中でも英雄ローランに迫るとも、超えたとも言われた程だ。戦士出身の中でも異例の出世をした者でもあってな。戦士教育機関の必要性を説いた男で戦士達の主導者でもある。ゼノヴィアとイリナも世話になったはずだ」

 

その言葉にゼノヴィアとイリナは頷く。

 

二人とも教会の戦士だったわけだし、ゼノヴィアに至ってはその人からデュランダルを継いだんだからな。

世話になっているのも当然か。

 

「ストラーダ猊下は御年八十七になられるわ」

 

「マジでか! 八十過ぎてクーデターとかハッスルし過ぎじゃね!?」

 

おじいさんなんだから、もう少し落ち着こうよ!

あれですか、『若い者にはまだまだ負けん!』的なあれですか!?

だったら、元気すぎるだろう!?

 

「年齢のことは忘れた方がいい。あの方は………生きる伝説だ。未だ肉体は衰えていないぞ」

 

「あの若造はマジで強い。昔、コカビエルが一戦交えたが、相当追い詰められていたからな。老体の今でも衰えずなら、相当な相手と見ておけ」

 

ゼノヴィアに続きアザゼル先生も険しい表情で告げた。

 

コカビエルが追いつめられるって…………つまり、最上級悪魔レベルでもボコボコに出来る力があるってことか。

そりゃ、半端じゃないな。

 

ストラーダという人物の力量に驚いていると。アリスが耳打ちしてくる。

 

「モーリスならいけるんじゃない?」

 

「あのおっさんはチート」

 

 

 

~そのころのモーリス~

 

 

 

オーディリア国のとある港町にて。

 

「あ、いたいた。ようやく見つけましたよ団…………団長!? ちょっと団長!? 何やってるんですかぁ!?」

 

「ん? あぁ、ちょいと新技の稽古しただけだ。大したことはしてねぇよ」

 

笑顔で返すモーリスの前方には―――――真っ二つに割れた海。

覗いてみると海の底すらも望める。

上を見上げると空も二つに割れ、軋むような音と共に空間が歪んでいた。

 

天変地異でも起こったような光景だった。

 

「新技って………。何したらこんな………」

 

「気合いだ」

 

「どんだけ気合い入れてんですか!? って、ここ一般の港ですよ!? 町の方で大騒ぎになってんじゃないですか! 悲鳴上がってますよ!?」

 

「あ、マジで? こいつぁ、ミスったな。…………よーし、面倒になる前におじさんは逃げる。後は頼んだぜ!」

 

「ちょ………おぃぃぃぃぃぃ! 逃げるな、クソジジイィィィィィ!」

 

「誰がシジイだぁぁぁぁ! まだまだ若い連中には負けねぇぇぇぇぇ!」

 

「若い連中であんたに勝る奴なんていないと思うけどぉぉぉぉぉぉ!?」

 

若い騎士を置いて逃亡するモーリスだった。

 

ちなみに、町の住民達を落ち着かせるのに若い騎士達がかなりの苦労をしたのは言うまでもない。

 

 

~そのころのモーリス、終~

 

 

あのおっさん、今も強くなってるだろうし…………生身じゃ勝てん。

つーか、剣技で勝てた試しがない。

気づいたら向こうの剣がこちらに届いてるなんてしょっちゅうだ。

 

まぁ、あのチートおじさんは置いておこう。

 

イリナが言う。

 

「個人的にはクリスタルディ先生とは会いたくないわ。私達にとって恩師だもの」

 

「ああ。私も先生の授業で悪魔や吸血鬼との戦い方を一から叩き込まれたな」

 

「ヴァチカンを訪れる度に、エクスカリバーの使い方を良く教えてもらったわ。確か、クリスタルディ先生って現役時代に六本のエクスカリバーのうち、三本を同時に使ってたって聞いたけど………」

 

イリナの言葉をアザゼル先生は肯定する。

 

「そうだ。エヴァルド・クリスタルディは俺達グリゴリの間でも話題の逸材だった。奴なら三つだけでなく、全てのエクスカリバーを使えたのではないかと言われてもいる。ヴァスコ・ストラーダとエヴァルド・クリスタルディ。この二名はどちらも怪物だよ。多くの戦士の育成したことも相まって、戦士出の聖職者としては二大巨頭だ」

 

教会の戦士に大きな影響を与える二人の大物。

それで、今回のクーデターに大勢の戦士が加わったのか。

 

しかも、大物二人は元デュランダル使いと元エクスカリバー使い。

奇妙な縁を感じてしまうな。

 

先生は首謀者三名のうち、最後の一人の名をあげる。

 

「テオドロ・グレンツィは最年少で司教枢機卿にまで上り詰めた異例の逸材だったな」

 

その名前に心当たりがあるのか、アーシアが口を開く。

 

「私もお会いしたことがないのです。カトリックの上層部でも謎多き方と耳にしました」

 

「私もだ」

 

「私も。名前だけで拝見したことはないわ。たぶん、シスター・グリゼルダも知らないと思う」

 

転生天使でも顔を知らないのか。

本当に謎だ。

………正体を隠す必要でもあるのか?

 

まぁ、その辺りは今後で明らかになるだろう。

 

この話にはまだ続きがあるようだからな。

そして、その内容は―――――。

 

「何となく察しただろうと思う。クーデターを起こした首謀者三名とそれに付き従う戦士達の狙いは―――――ここだ。捕らえた戦士によると、奴らは同盟の象徴でもある『D×D』と会ってみたいそうだからな」

 

「それは話し合いですか? それとも―――――」

 

「後者だろうな」

 

俺の問いに即答する先生。

 

うん、そんな気がしてたよ。

 

しかし、そうなると、もう一つの問題が出てくる。

 

「クリフォトは仕掛けてきますかね?」

 

「可能性はある。あいつらからすれば、今回の騒ぎは狙い目だからな。噂じゃ、事の始まりはリゼヴィムの野郎が教会上層部を煽ったのが原因とも言われているからな。あの男は扇動の鬼才だ。相手を焚き付けるだけなら一級品だよ」

 

あのクソ野郎が絡んでるってか………。

 

ちっ………天界で逃したのが悔しい限りだ。

 

俺が歯噛みしていると、匙が呟いた。

 

「…………この学園って、本当に聖剣と縁があるよな」

 

確かに。

俺もそれは感じていた。

 

コカビエルの件から始まり、今に至るまで。

聖剣に関する事柄や使い手が集まってくるもんな。

 

「…………」

 

ここで視界に映るのは深く考え込んでいる木場。

 

こいつも聖剣に関係してたな…………。

 

匙が罰が悪そうな表情で木場に謝る。

 

「わりぃ。軽率に言っちまったな」

 

「気にしてないよ。僕もあれ以来は吹っ切れているところもあるし、聖剣に関与する者憎さで動いたりはしない」

 

そう言う木場だが…………未だ聖剣に関して思うところがあると言った表情なんだよな。

 

先生が言う。

 

「聖剣に縁があるってのはその通りだろうよ。――――ゼノヴィア、イリナ、木場。聖剣に関わる者としては先達を越えてこそだ。もし、その時が来たら全力で越えて見せろ。『D×D』に名を連ねる以上、それが出来てこそ、悪どい連中への切り札となる」

 

その言葉に、三人は瞳に強い光を浮かべて頷いた。

 

この日はこれで解散となった。

 

 



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5話 姉の愛情  

今回は挿絵付き!
リクエストがあったので描いてみました!


その日の夕方。

 

「そっち行ったよー」

 

「へいへーい」

 

兵藤家地下にある屋内プール。

 

俺は美羽が投げたボールを手で弾いて、アリスに渡す。

 

部活から帰った俺達は息抜きに水球をしていた。

 

俺達以外のメンバーも集まっていて、家に住むメンバーに加えギャスパー、それからグリゼルダさんも遊びに来ていた(ゼノヴィアの様子を見に来た)

 

「あっぷ………! 泳げませぇぇぇぇぇん!」

 

悲鳴をあげるのはギャスパー。

 

水球に参加しているのは俺、美羽、アリス、小猫ちゃん、レイヴェル、黒歌、ルフェイ、ディルムッドそしてギャスパー。

 

で、ギャスパーは足を滑らせて溺れかけていた。

 

「ギャスパー! 男ならそれぐらい泳いでみせろ!」

 

「無理ですぅぅぅ! ヴァンパイアは水が苦手なんですぅぅぅぅ!」

 

なんて叫んでいるが…………水球やってたじゃん!

水に入って動いてたじゃん!

 

「ハーフだからいけるだろ! つーか、足ついてんじゃねぇか!」

 

「あ、そうだった」

 

思い出したように足をつくギャスパー。

 

こいつ、男らしくなったと思えば…………。

水着も女物だし!

ワンピースだし!

 

「うふふ、ギャーくん可愛いにゃ♪」

 

ギャスパーの頭を撫で撫でする黒歌だが………かなり際どいビキニのため、おっぱいがぶるんぶるん揺れてるんだよね!

水球で動こうものなら、そりゃあもう半端ないくらいに!

 

白音モードの小猫ちゃんを見ても思うけど、やはり猫又姉妹はエッチな体つきだよ!

まぁ、通常モードの小猫ちゃんもまさに癒しキャラって感じで最高なんだけどね。

 

それから、ディルムッドも中々のお体をしていてだな…………。

黒歌ほどではないが、おっぱいも大きいし、スタイルがいい。

髪と同じ紫色のビキニがあいつの魅力を引き立たせていて、こちらも中々に眼福だ。

 

もちろん、美羽やアリス、レイヴェル、ルフェイ、小猫ちゃん達の水着も可愛くて最高。

 

さっきなんて、美羽の水着が取れてポロリするアクシデントがあり、ガン見してしまった。

 

「ボクの裸なんていつも見てるでしょ?」

 

「そうなんだけど………ああいうアクシデントが結構良いんだよね」

 

「そういうものなの?」

 

「そういうものなのだよ」

 

ふぅんと首を傾げる美羽。

 

裸もいい、コスプレもいい。

しかしだ、ポロリイベントなどのアクシデントもまた良いものなのだよ。

これは男にしか分からないと思う。

 

あ、でも、

 

「やっぱり、ポロリは良いわよね! 分かるわ、イッセー! ほらほら、もっと動いてポロリといこう!」

 

プールサイドでビール片手にご機嫌なイグニス。

 

うん、こいつにはポロリの良さが分かると思ってたよ。

エロいもん。

俺よりスケベだもんな。

 

すると、イグニスは続けて――――――

 

「イッセーもポロリいこう! 今ならいけるわ!」

 

男のポロリなんて何が嬉しいんだよ! 

…………とツッコミたいところだが、今この場においてそのツッコミは適切でない。

 

美羽が俺の腰に抱きついてきた。

 

「うーん、やっぱり可愛い! しばらく、このままでいない? ね、お姉ちゃん(・・・・・)

 

…………今の俺の状況を説明したいと思います。

 

俺が着ているのは男用の水着ではなく、女用、それもビキニだ。

 

腰まである髪、前髪はやや目にかかるほど。

丸みを帯びた体に動くとポヨンと揺れる胸。

括れた腰から太ももにかけてのラインが艶かしい。

指も細くしなやかで、体を構成する要素が全て女性特有のもの。

 

もう分かったよね?

 

――――――今の俺の体は女の子、つまり女体化していた。

 

俺は天を仰ぐ。

 

「なんでこうなったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

 

部活を終え、帰宅した俺達は各自でゆったりとした時間を過ごしていた。

 

俺は久し振りに部屋に籠ってプラモデル制作活動。

兵藤家の空いている部屋を一つ占拠して、そこを俺専用のプラモデル部屋としているんだが、一部屋丸々使っているので、かなりの工具や塗料も置けるんだ。

この間はガラスケースを購入したので、作ったプラモデルを飾れるスペースが増えた。

 

で、今はアザゼル先生に譲ってもらったエアブラシに塗料を入れて、コンプレッサーを起動。

パーツを塗装中だ。

 

吹きすぎないように注意してっと………。

 

「うむ、我ながら良い感じじゃん」

 

塗りムラもなく、下地処理も完璧。

 

ふっふっふっ………1/60スケール、二万円もしたんだ。

今回はLEDも仕込んで完璧に仕上げてやるぜ。

 

そんな感じで一人ほくそ笑んでいると、部屋に入ってくる者がいた。

美羽だ。

 

「お兄ちゃん、見っけ。って、うわー、シンナーの臭いが………」

 

「ん? 臭い籠ってるか?」

 

「籠ってる籠ってる。しっかり換気しないと頭パーンってなるよ?」

 

「前から思ってたんだけどさ、『頭パーン』ってどういう状況?」

 

しかし、籠ってたか。

窓も開けてるし、塗装ブースのファンも回してるんだけど…………やっぱり、長時間やってると気にならなくなるんだよね、こういうの。

 

美羽は小さな魔法陣を指先に展開すると部屋の角に配置する。

すると、魔法陣から微風が発生して、部屋の空気を外と入れ換え始めた。

 

「これでよしっと」

 

「サンキュー。さて、こっちは大分進んだぜ」

 

ズラリと並べられているのは塗装済みのパーツ達。

帰ってきてからずっとやってたから、かなりのパーツを塗り終えることができた。

完全に乾くまでしばらく放置だ。

 

「んー………、やっぱ、座りっぱなしってのは体に悪いな。腰が………。足も痺れてら」

 

「それじゃあ、一緒にプールいかない? 新しい水着買ったんだ」

 

「新しい水着? この時期に?」

 

「家って時期関係ないしね」

 

まぁ、そう言われるとね。

屋内プールだし、温水も出来るし。

 

しかし、この直後、美羽は気になる一言を漏らした。

 

「着てみてよ。お兄ちゃんなら絶対に似合うって」

 

「…………俺?」

 

水着を一緒になって選ぶことはあるけど、買ってくるなんてことあるだろうか?

俺は美羽からそんな話は聞いてないし………。

 

大体、女子が男子の水着を選んで購入するなんて、店員から変な目で見られるんじゃないか?

 

そんな疑問を浮かべる俺だったが、美羽はニッコリと微笑んで続けた。

 

「そう、お兄ちゃんの。着たら絶対に可愛いって」

 

可愛い…………? 

男物で………?

 

いや、ちょっと待てよ………。

この美羽の笑顔。

何かを企んでいるこの可愛い笑顔。

 

まさか………まさか――――――。

 

「ほら、これ! 絶対絶対ぜーったい、似合うって! お兄…………お姉ちゃん!」

 

美羽が何処からか取り出したのは―――――赤いビキニ!

露出高めのセクシーな水着だった!

 

「ちょ、おま、女物じゃん! これ着るのか!? 俺が!?」

 

「そう! お姉ちゃんになったお兄ちゃんなら完璧だと思うんだ! ほら、ちゃんと性転換銃もあるし!」

 

「おいおいおいおい! どこで見つけてきた!? ちゃんと隠してあっただろう!?」

 

「お兄ちゃんの思考パターンを読めないボクじゃないよ!」

 

「えぇい、流石は我が妹と言ったところか! だが、そんなものを何度もくらう兄ではないぞ!」

 

「それはどうかな! とうっ!」

 

そう叫ぶと共に美羽は宙に舞い、俺に飛び付いてきた!

 

これが敵ならいざ知らず、美羽を避けるなど俺には出来ん!

俺の体は無意識に美羽を真正面から受け止める!

 

「つっかまえたー♪ お兄ちゃんならボクを受け止めてくれると思ってたよ!」

 

「謀ったな!?」

 

ちぃっ!

俺の弱点を突いてきよったか!

 

あぁ………美羽は柔らかくてフワフワしてて…………可愛いなぁ!

 

「うふふ♪ それじゃあ、お姉ちゃんでレッツゴー!」

 

 

 

 

…………なんてことがあった。

 

至近距離から、しかも抱きつかれた状態で撃たれてはどうしようも出来ず、俺はまた女の子になってしまった。

 

女の子にされてからは美羽にやりたい放題されて、俺は抵抗できないまま、美羽が買ってきたビキニを着ることに。

 

「サイズもピッタリだね♪ 流石にお母さんの目は凄いよね。この間の一件で女の子になったお兄ちゃんのスリーサイズを見抜くんだもん」

 

「なっ…………」

 

言葉も出なかった。

 

前回の騒動で母さんは女体化した俺のサイズを見抜いたというのか!

しかも、美羽は母さんと組んでこの水着を…………。

 

恐ろしい。

この先、俺は一体どうなるんだろう?

 

隠しても美羽によって発掘され、仮に破壊しても美羽達の依頼でアザゼル先生が新しい銃を作ってしまう。

俺はこうして、これからと美羽達に遊ばれる運命なのか…………。

 

「もー、かーわーいーいー。お姉ちゃん、可愛い。おっぱいだって大きいよ?」

 

「いや、俺、男だし………。自分の胸じゃあなぁ」

 

「でも、今は誰がどう見ても美少女だよ?」

 

「ひゃあ!?」

 

いきなりの刺激にビクンっと跳ねる俺の体。

自分の声とは思えないほど、可愛らしい声で悲鳴をあげてしまった。

 

美羽が俺の脇腹をくすぐっていたんだ。

 

「ほら、今のお兄ちゃんは可愛いお姉ちゃんです!」

 

「なんで、そんなにハイテンション!? ふひゃ、く、くすぐったいって! こ、こんのぉ!」

 

俺は美羽の手を掴むと、瞬時に後ろに回り込む!

そして、仕返しとばかりにくすぐり返す!

 

やられたらやり返す!

倍返しだ!

 

「ひぁっ! ふ、ふにゃぁ! お、お姉ちゃん、そこ、ふぁぁ!」

 

「誰がお姉ちゃんだぁぁぁぁぁ!」

 

「うやーん! お姉ちゃんが怒ったー!」

 

俺の手を逃れて水中へと逃げる美羽!

逃がすかよ!

 

俺も水中にダイブして美羽を追いかける!

 

こうして始まるのが兄妹による水中での追いかけっこ。

 

美羽は魔法使い、ウィザードタイプではあるが並の悪魔より身体能力はずっと高い。

日頃の修行の成果と言える。

 

だが!

肉体を扱うのはこっちが本業!

俺には敵わねぇ!

 

水飛沫をあげ、猛烈なクロールで追い付いた俺は美羽を捕獲!

今度は逃がさないぜ!

 

「さぁて………捕まえた」

 

「あ、あれぇ………お姉ちゃん? 顔が怖いよ………?」

 

「気のせいだって。ほら、こんなに笑顔じゃん」

 

ニッコリと微笑む俺。

 

訪れる僅かな静寂。

 

そして―――――――。

 

「おいたをする美羽にはくすぐり地獄の刑だ!」

 

「あぁん……そこ、はぁ! ら、らめぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

 

 

「は、は、はっ………んんっ………いっぱい揉まれちゃった………」

 

俺にお姫様抱っこされた状態で体をビクンビクンさせる美羽。

 

割りと本気でくすぐりにいったからな。

水着の上からだけど、おっぱいもお尻もいーっぱい揉んだ。

 

というのも美羽の反応が可愛いもんで、ついついやり過ぎてしまったところもある。

まぁ、兄の体で遊ぶような悪い妹にはちょうど良いお仕置きだったかもしれない。

 

俺は甘い吐息を漏らす美羽をプールサイドにある長椅子に寝かせるとその横に座って一息ついた。

 

プールの中では小猫ちゃん達が俺達兄妹を放置して水球を再開。

あちらはあちらで盛り上がっているようだ。

 

「うわっぷ! 溺れるぅぅぅ!」

 

あ、ギャスパーがまた転んだ。

あいつには水泳の特訓が必要だな、うん。

 

「うーん、やっぱり、女の子のイッセーくんって可愛いと思うのよね! 普段とのギャップがあるから尚更!」

 

レイナちゃんが後ろから抱きついてきた。

 

…………なんで、俺の女体化はここまで好評なんだ?

着せ替え人形に出来るから?

レイナの言うように男が女になることで出るギャップ?

 

でも、アリスや小猫ちゃんには不評なんだよなぁ………。

主に胸の件で。

 

とりあえず、レイナちゃんのおっぱいが俺の後頭部に押し当てられているので、今は幸せだ。

 

ふいにプールサイドの一角で話し合うメンバーを見つけた。

 

ゼノヴィアとアーシア、イリナの教会トリオ。

ゼノヴィアが真剣な表情なので、生徒会選挙について話し合っているものと思われる。

 

「ゼノヴィアは変わりました」

 

と、俺に話しかけてくる人がいた。

 

振り向けばビキニ姿のグリゼルダさんだった!

普段、シスター服を着ているから分からなかったけど、むっちりとしたおっぱいがそこにあった!

 

エロい格好をしない清楚の塊がビキニなんて………しかも、そんなにおっぱいを強調されては!

まぶしい!

グリゼルダさん、まぶしいよ!

 

グリゼルダさんは俺の横に来る。

 

「………斬り姫。戦士時代のゼノヴィアの呼び名です。一誠さんもご存じですよね?」

 

「ええ」

 

ゼノヴィアはエクスカリバーとデュランダルを用いて、教会の敵となる存在――――悪魔、堕天使、吸血鬼、魔物を断罪してきた。

 

容赦なく相手を斬り伏せる姿と、何を考えているか分かりにくい性格から、いつしか『斬り姫』と揶揄されるようになる。

 

「手間のかかる子でした。同じ施設の出のため、私はあの子の世話役に抜擢されたのですが、何をやっても雑な子で、最低限のレディとしての振る舞いを教えるだけでも精一杯でした」

 

「あはは………。何となく察します」

 

「笑い事じゃありません。本当に手のかかる子だったんですから」

 

なんてことを言っているが、グリゼルダさんの表情は温かみのある笑みを浮かべていた。

口調も姉が妹を語るそれだ。

 

「ようやく年頃の女の子らしくなってきたのが、戦士イリナと出会ってからでしょうか」

 

「確か、ゼノヴィアと組むことが出来たのが唯一、イリナだけだったんですよね?」

 

「はい。あの子の思想と戦い方に順応できたのが戦士イリナだけだったのです。戦士イリナには感謝しています。あの子の傍にいてくれたこと。彼女がいなければ、今のゼノヴィアはいないでしょう。…………悪魔になったと聞いた時は卒倒しましたけど、あんな風に困って、笑って、温かい友人に囲まれて過ごすことができている。あの子の選択は間違っていなかったのだと思えます」

 

グリゼルダさんの視線の先にはあーだこーだと話し合う教会トリオ。

三人で笑いあっている微笑ましい光景が彼女の瞳に映っていのるだろう。

 

「生徒会長を目指していると聞きました」

 

「ええ。頑張ってますよ。放課後も仲間と残って選挙に関しての作戦会議をしてます」

 

「学校が本当に楽しいのでしょうね」

 

グリゼルダさんはゼノヴィアの変化を心の底から喜んでいる。

普段はゼノヴィアに対して厳しいけれど、実の妹のように可愛いのだと思う。

 

グリゼルダさんは俺に改まって言う。

 

「一誠さん、どうか、あの子のことをよろしくお願いします」

 

「ええ、もちろんです。あいつは俺にとっても大切な家族ですから」

 

「うふふ。あの子が好きになった男性があなたで良かった。………あの子の純潔を奪ったのですから、本当に大切にしてあげてくださいね?」

 

「は、はい!」

 

ぐ、グリゼルダさぁぁん! 

目が!

目が笑ってないよ!

 

年末、グリゼルダさんに呼び出されたけど、ゼノヴィアが色々すっ飛ばして話したせいで、ややこしいことになりかけてたんだよね!

 

………ま、まぁ、アーシアがちゃんと説明してくれたようで助かったけど。

 

と、とにかく!

 

「ゼノヴィアは大切にします! 幸せにします!」

 

 

俺がそう宣言すると、向こうの方から―――――

 

 

「イッセー! もう一度! 今のをもう一度言ってくれるか!」

 

「こっちの話聞こえてんのかい! あー、もう! 幸せにするよ! とりあえず、おまえは選挙頑張れ! 全力で応援してやるからさ!」

 

「うぉぉぉぉ! 燃えてきたぞ! 私は生徒会長になってみせるぞぉぉぉぉぉ!」

 

叫ぶゼノヴィア!

ものすごいオーラだ!

瞳に炎が宿ってるし!

 

流石のグリゼルダさんも苦笑するだけで、

 

「あの子はまったく…………。そういえば、一誠さん」

 

「あ、はい」

 

「あの子と結ばれるとすると、私は一誠さんの義姉になるんでしょうか?」

 

「そ、そうなりますか…………ね」

 

た、確かに。

ゼノヴィアとそうなるということはグリゼルダさんは俺の義姉になるということで………。

 

グリゼルダさんは暫し考えると、小さく呟いた。

 

「………私にも姪が出来るのでしょうか? それとも、甥?」

 

「へ………? あ、あの、今………何と?」

 

「い、いえ。何でもありません」

 

「は、はぁ」

 

な、何か期待してませんか?

 

いや、グリゼルダさんがそんな………まさかな。

 

「しかし、あれですね………」

 

グリゼルダさんは俺と向かい合うと下から上へと視線を移していく。

 

そして―――――

 

「今の一誠さんが幸せにすると言うと、変な感じになってしまいますね」

 

「そ、それは言わないでください」

 

そうだった。

今の俺って女の子だったわ。

 

俺はちょっとだけ泣いた。

 




というわけで、今回は女体化イッセー(水着ver)を載せました。
今回は可愛くというよりはイッセーの叫びを重視しました(笑)
いかがだったでしょうか?

またリクエストがあれば描こうと思います。


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6話 選挙活動見守ります!

翌日、昼休みのことだった。

 

「次期生徒会長を目指すゼノヴィアさんの主張を纏めたチラシでーす!」

 

「はーい、よろしくねー。ゼノヴィア氏に一票をよろしくお願いしまーす!」

 

「清き一票をどうぞよろしくお願いいたします! どうか、お願いいたします!」

 

道行く生徒にチラシを配るイリナ、桐生、アーシア。

 

現在、駒王学園では次期生徒会メンバーを選出する選挙が本格的に行われている。

今のようなチラシ配りもそうだが、廊下にも手製のポスターが貼られていたりするんだ。

 

聖母マリアの格好したゼノヴィアの写真で『駒王学園に真の平和をもたらします! 清き一票をお願い致します!』という文字がデカテカと記されたポスターだ。

 

初めて見た人からすれば、胡散臭さ全開だけど、ゼノヴィアのことを知っている者からすると、「らしいよね」という評価を受けている。

 

まぁ、外国からの転入生ってのと、彼女の性格、それから信仰心が強いことも知られているからね。

確かに『らしい』と言えばそうなる。

 

そんなアーシア達の選挙活動を中庭で弁当を食べながら見守る俺、美羽、アリス、レイナ。

アーシア達は選挙活動するから、速攻で済ませちゃうんだよね。

なので、暫くは別々で食べることになる。

 

レイナがストローでジュースを飲みながら言う。

 

「張り切ってるね。私も手伝いたいところなんだけど…………」

 

「レイナも忙しいんだろ? グリゴリの仕事。外交局の副長だったよな?」

 

「ううん。今は財務局に勤めてるの。まぁ、忙しいことには変わりないんだけど…………。はぁぁぁ…………アザゼル先生がね、変なロボットとか作るでしょ? 私って、あの人のお目付け役だから、その辺りの監視には調度良いって言われて回されて…………グスッ」

 

「苦労………してるな」

 

「うん………甘えていい?」

 

「………出来る範囲で受け止めます」

 

「…………やった♪」

 

肩に頭を乗せてくるレイナちゃん。

 

この娘ったら、本当に苦労してるよね。

まだ若いのに…………。

 

とりあえず、撫でてあげよう。

俺で癒せるのならしっかり癒してあげないと。

 

俺がレイナの頭を撫で撫でしていると、アーシア達を伴いながらゼノヴィアが中庭に登場した。

名前を記したゼノヴィアは道の真ん中に立って演説を始める。

 

「えー、こんにちは、駒王学園の皆。このたび、生徒会長に立候補した二年のゼノヴィアだ。ぜひ、私の言葉に耳を傾けてほしい。私が生徒会長になった暁には―――――」

 

ゼノヴィアのスピーチが始まる。

生徒達も足を止めてゼノヴィアのスピーチを聞き入っていて男子からも女子からも声援が届く。

 

「ゼノヴィアさん、がんばれ!」

 

「期待してるわよ、ゼノヴィアちゃん!」

 

という応援の声以外にも………。

 

「ゼノヴィア先輩! 応援してます!」

 

「ゼノヴィアお姉さま! 絶対に一票入れます!」

 

一年生の女子からは熱い視線が注がれている。

 

ゼノヴィアお姉さま…………ね。

あいつ、後輩女子から人気あったんだな。

 

「一年女子から見てゼノヴィア先輩はカッコいい女性として大人気です」

 

解説と共に現れたのは小猫ちゃん。

レイヴェルとギャスパーもいて、オカ研一年が集合していた。

 

「よろしいですか?」

 

「いいよ。空いてるしね」

 

俺達が席を詰め、小猫ちゃん達が座る。

三人も弁当を手に持っているところを見ると、今から昼食らしい。

 

小猫ちゃんは弁当の包みを広げながら言う。

 

「ゼノヴィア先輩は学内でも知らない人がいないほどですから、スピーチをすれば自然と人が集まります」

 

小猫ちゃんの言うように、ゼノヴィアの周囲はスピーチを聞きに来る生徒で一杯だ。

 

特に見られるのが一年の女子生徒だろう。

先程から「ゼノヴィアお姉さま」という単語が聞こえてくるし。

 

運動神経抜群で頭も良い(戦闘に関しては脳筋が目立つけど)。

誰とでも分け隔てなく接する姿勢。

そこにボーイッシュなところも加わって、女子生徒からはカッコ良く見えるんだろうな。

 

レイヴェルが言う。

 

「それだけでなく、ソーナ前会長とは毛色が全く違うという意味でも注目を集めてますわ」

 

「あ、なるほど」

 

堅実な運営でありながら、生徒の意見を取り入れて柔軟にこなしていたソーナ。

体育会系で活動的なゼノヴィア。

仮にゼノヴィアが生徒会長になれば今までと全く違う運営をしていくだろう。

 

ゼノヴィアが注目されている理由に納得していると、とある生徒が視界に入った。

 

偶然通りかかったもう一人の生徒会長立候補者である花戒さんが生徒達と挨拶を交わしていた。

 

「頑張ってね、花戒さん。応援してるわ」

 

「一票いれるからね」

 

同級生の女子生徒から声援を受ける花戒さん。

花戒さんも落ち着いた微笑みで「ありがとうございます」と返していた。

 

花戒さんを支持するのは優等生が多いって耳にしたな。

 

「今の二人の支持具合って分かる?」

 

ふと気になったので聞いてみる。

 

ゼノヴィアの相手は生徒会でソーナの傍らにいた花戒さんだ。

ソーナの仕事ぶりを傍で見てきている分、ソーナ同様、堅実な運営をしていくとは思うけど………。

 

小猫ちゃんが言う。

 

「新聞部のクラスメイトに聞いてみたんですけど、現状は六対四でゼノヴィア先輩が不利です。やはり、ソーナ前会長のもとで働いていた実績は大きいです」

 

「四割か………。まぁ、現段階でそれだけの支持を受けているのなら、まだまだいけるな」

 

「はい。それにゼノヴィア先輩を支持する、その半分は投票が揺らがないと聞いています」

 

「そうなの?」

 

「支持する大半がゼノヴィア先輩に助けられた女子運動部の人や学校生活で助けてもらった者ばかりだからです。ゼノヴィア先輩は困った人を見かけると放っておけない性格をしていますから、助けられた生徒は多いんです」

 

「生徒会長に立候補する前の一生徒の時から、陰でこの学校に気を配っていたということですわ」

 

なるほどな。

確かにゼノヴィアはよく女子運動部に助太刀していたし、困っている生徒を助けていた。

そんなシーンを俺もよく見かけたよ。

 

アリスがスピーチをしてきるゼノヴィアの方を見ると、笑んだ。

 

「ふふふ。この選挙、最後まで勝負は分からないわね。面白くなりそう」

 

「おまえ、昔のこと思い出してる?」

 

「うちの国は王政で世襲だし、選挙なんてなかったわよ? まぁ、よっぽど私に問題があればニーナがトップになってたと思うけど…………。ふっ、日頃の行いが良かったからね」

 

「…………」

 

「…………その目はなによ?」

 

「…………いや」

 

「アハハ…………」

 

俺とアリスのやり取りに苦笑する美羽だった。

 

 

 

 

放課後。

 

部活を終えた俺はグリゴリの施設にいた。

そこで――――――。

 

 

ズズッ………ズズズズッ…………

 

 

「ぷはっ」

 

蕎麦をすすっていた。

 

ざるに盛られた艶のある麺を箸ですくい、めんつゆへ。

そして、一気にすする。

 

うん、カツオの風味があって美味!

 

「どーよ。ここ最近じゃ一番の出来なんだぜ?」

 

そう訊いてくるのは俺の隣で同じく麺を啜るアザゼル先生。

 

実はこの蕎麦、先生が打ったものなんだよね。

めんつゆも先生お手製なんだとか。

 

「神器を弄る以外にも趣味は持っていてな。最近は手打ち蕎麦に凝ってる。昔は釣りにハマって、それで数年費やしたこともある」

 

なるほど。

堕天使の生も悪魔同様に果てしなく永い。

何かに没頭して、それを極めるというのもありなのかもな。

 

俺も趣味でプラモデルは作っているけど、別の趣味を見つけてみるかね?

 

すると、先生は苦笑して俺と更に反対側の人物に目をやる。

 

「まさか二天龍に手打ち蕎麦を振る舞うことになるとは思わなかったけどな」

 

そう、先生を挟んで反対側の席で俺達と同じく蕎麦を啜るのは白龍皇ヴァーリだ。

 

確かに今まで争ってきた二天龍がこうして堕天使の長が打った蕎麦を食べる光景なんて、誰も見たことがないと思う。

 

ヴァーリは熱めのお茶に口をつけると、

 

「流石はアザゼルだ。麺にコシがあって、かつ歯切れも良い。これで一儲け出来るんじゃないか?」

 

食レポみたいなこと言い出したよ!

あのヴァーリからそんな言葉が聞けるとは!

結構貴重な経験かも!

 

「いんや、日本の老舗に行ってみろよ。もっと美味いって。店を出すにはもっと腕を上げねぇとな」

 

「出すんですか!?」

 

「冥界でも日本食は広まりつつあるからな。海外でも日本食が流行っているだろう? あんな感じだ」

 

そういや、ファーストフード店とかあったな…………あれは日本食じゃないけど。

 

ひょっとすると、冥界の町にも回転寿司とか出来るんじゃないか?

この人ならやりかねないな。

サーゼクスさんと組んで、店開きしそうだ。

 

ヴァーリが言う。

 

「しかし、今日は良いものを見れたな。兵藤一誠の新しい力を実際にこの目にできた」

 

今日、俺がグリゴリに来た理由はEXA形態を安定させるための外付け装置の動作確認と調整を行うためだ。

 

それで、実験施設で動作確認をしているところ、偶々、グリゴリを訪れていたヴァーリと鉢合わせることに。

 

俺のEXA形態を見て楽しそうな笑みを浮かべていたヴァーリはハッキリと覚えている。

 

………滅茶苦茶燃えてるんだよなぁ。

 

もう闘志がみなぎっててさ、今すぐにでも戦いたいって顔してたんだよね。

いつぞやの挑戦もあるし、どこかで再戦があるんだろうなぁ。

 

ちなみに俺を除いたオカ研メンバーは隣町にある美味しいと評判の鯛焼き屋に行っている。

情報元は小猫ちゃんで、アリスが食べたいと言ったので、皆で食べに行くことになったそうだ。

 

今度、俺も連れていって貰おうかな。

 

「先生、蕎麦湯あります?」

 

「あるぞ、ほい」

 

「どうも」

 

残っためんつゆを蕎麦湯で割って飲む。

冬に飲むと暖まるよね。

これぞ日本人!

 

なんて感想を抱きながら、ヴァーリに言う。

 

「言っとくけど、EXAは不安定だからな? あんまり期待すんなよ?」

 

「そうは言うが、あれほどの力だ。気にならない訳がない。しかも、力を三倍に引き上げるなど面白すぎる」

 

「相変わらずのバトルマニアだな………。先生、調整はどんな感じなんですかね?」

 

話を先生に振る。

 

基本的に先生が解析して調整を施している。

で、その進捗具合を俺が確かめるって流れになってるんだけど…………。

 

先生は蕎麦湯で割っためんつゆを飲み干すと、一息ついた。

 

「まずまずといったところか。今のところ順調だな。後は微調整を繰り返して、完全にフィットさせるだけだ。分かっていると思うが、あれはあくまで安定させるための補助装置だ。継続時間が伸びる訳じゃない」

 

「分かってますよ。そこは俺の体力次第ですよね?」

 

「そういうこった。………しかし、あれだな。イグニスがスイッチ姫二人の乳力(にゅー・パワー)を解析してきた時は驚いたぜ。…………おまえ、搾ったのか?」

 

うっ…………それを聞きますか。

 

正直に言うとだな…………搾りました。

 

『休憩室』にアリスとリアスを連れていって、搾らせてもらいました。

そんでもって、ちょっと休憩していきました。

 

『二人のおっぱい、搾らせてください!』って言ったときはアリスに殴られたっけ。

 

あぁ………駄女神のせいでまた…………。

 

だが、悔いはない。

二人とも可愛かった。

 

すると、俺の背後に赤い髪のお姉さんが現れる。

 

「二人とも何だかんだで喜んでたわよねー。それに、最後なんて二人でイッセーを搾ってたんだし、お会い子――――」

 

「実体化早々にそんなこと言うの止めてくれる!? 俺達、飯食ってるんですけど!?」

 

「食べ終わってるじゃない」

 

「いや、ヴァーリまだ食ってるから!」

 

黙々と蕎麦食ってるから!

 

つーか、他の人がいる前で俺達の夜を語らないで!

流石に恥ずかしい!

 

イグニスは俺の隣に座る。

 

「アザゼルくん、ビールある? あと枝豆~」

 

「そういう注文はもう少し早く言ってくれよ。飯食う前に実体化出来ただろう?」

 

「しょーがないじゃん。さっきまで歴代相手にしてたんだし~」

 

「…………またSMかよ」

 

「うん! 今回は蝋燭垂らしてみました! 現在、女の子達は拘束してバイブ責めしてます!」

 

「おいぃぃぃぃ! そんな詳細聞いてねぇよ! 止めて! ヴァーリにそんな生々しい情報聞かせないで!」

 

「テヘッ☆」

 

俺のツッコミにペロッと舌をペロッ出す駄女神。

 

こ、こいつ………いつでもどこでも平常運転だよな!

 

「…………バイブ?」

 

「ヴァーリィィィィ! おまえは気にしなくていい! つーか、気にするな! おまえはこっち側に来たらダメだ!」

 

『アルビオン! 耳を塞げ! あるいは神器の奥へと逃げろぉぉぉぉぉ!』

 

俺に続きドライグの叫びが響く!

 

聞かせられない!

絶対絶対ぜーったい聞かせられない!

 

駄女神のお話は基本R18指定だから!

それにアルビオンが聞けば、また精神崩壊起こすぞ!?

 

アザゼル先生は俺達のやり取りにやれやれといった様子で、机に何かの装置を置く。

そして、その横には枝豆。

 

「先生、それは?」

 

「枝豆を作る人工神器。程よい塩加減で作ってくれる酒のお供にはかかせない神器だ」

 

「無駄なところに技術詰め込むなよ!?」

 

「無駄とは失礼な。これを開発するのにどれだけ時間かけてたと思ってんだよ? あと、最高の卵かけご飯を作るための人工神器もある」

 

「マジで無駄だな!」

 

どこに最新技術詰めこんでんだ!?

 

そりゃ、レイナが苦労するわけだ!

必要ない物を作りすぎだろう!?

 

すると、ヴァーリが立ち上がった。

 

「アザゼル。カップ麺の待ち時間を無くす神器はないのか?」

 

「そこぉぉぉぉぉ!? ヴァーリ、おまえもボケキャラ!?」

 

「空腹の時にあの待ち時間は煩わしいんだ。あの三分…………あれは辛い」

 

「分かる! 分かるけど、おまえの口からそんな言葉は聞きたくなかった!」

 

すると、先生は懐から何かの装置を取り出した。

 

嫌な予感がする。

 

まさか…………まさか――――――。

 

「ったく、しょうがねぇな。あるぜ。これを使えば瞬時にカップ麺が程よい状態になる」

 

「あるんかいぃぃぃぃ!」

 

「忙しいときにあの三分…………あれは辛いんだ」

 

「あんたら親子だな!」

 

アザゼル先生はヴァーリの育ての親と聞いていたが、変なところが似てしまったらしい!

ヴァーリのやつもカップ麺専用の人工神器をありがたく受け取ってるし!

 

つーか、カップ麺専用の人工神器ってなに!?

 

「他にも天然パーマを治す人工神器もある」

 

「絶対いらん!」

 

このボケの数、いよいよ一人で捌ききれなくなってきた。

 

その時だった――――――。

 

俺の耳元に通信用魔法陣が展開される。

相手は美羽だった。

 

俺は魔法陣から聞こえてくる声を聞いて目を見開いた。

 

美羽達がクーデターを起こした教会の戦士達と接触したそうだ。

 



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7話 巨頭現る!

初めてノーパソを購入して、ややテンション高めのヴァルナルデス!


[美羽 side]

 

放課後、リアスさんや朱乃さん、ゼノヴィアさんと合流したボク達オカルト研究部。

お兄ちゃんがグリゴリの研究施設に用があるとのことで一緒じゃないのは少し残念だけど、ボク達はスイーツトークをしながら隣町の鯛焼き屋さんに向かっていた。

予定なら、皆で鯛焼きを味わいつつ、お喋りして、お兄ちゃんの分の鯛焼きも買って家路につく。

そのはずだった―――――――。

 

住宅街の一角を通り過ぎるときに感じたプレッシャー。

殺意じゃない。

それでも敵意が全くないというわけでもない。

 

「………なんだ、この感覚は………? デュダンダルが反応している………?」

 

ゼノヴィアさんの手が震えている。

右手が震え、それを左手で抑えようとするけど、その左手も小刻みに震えている。

頬を見ると汗が伝っていた。

ゼノヴィアさんも自身の異変に戸惑いを隠せないようだった。

 

その時、アリスさんがとある方に視線を向けた。

 

「………ずいぶん大胆ね。人払いの結界も張り終えてるなんて準備がいいじゃない」

 

目を細め、そう呟くアリスさん。

 

彼女の視線の先には―――――祭服を身に纏ったお爺さんが一人立っていた。

顔だけ見れば八十過ぎの外国の人。

 

でも、顔から下は老人とは思えないほど逞しい体があった。

太い首、分厚い胸板、巨木の幹のような両腕、そして一般的な男性の腰よりも太い脚。

身長も二メートルはあると思う。

 

そんなお爺さんがボク達の前に立っていた。

 

「ヴォン・ジョールノ、悪魔の子らよ。私はヴァチカンから来たヴァスコ・ストラーダというものだ」

 

――――――っ!

 

このお爺さんがクーデターを起こした大物の一人!?

確かにおっきいけど………って、そうじゃなくて。

 

その名乗りに全員が驚愕する中、お爺さんの姿が音もなく一瞬で消える!

 

そして、現れたのはボク達の正面。

かなり離れていたはずだったのに、今は手を少し伸ばせば触れられるような距離にいる。

 

―――――速い!

 

見失いそうになったけど、何とか目で追えたボク。

このメンバーの中で今の動きが見えたのはボクとアリスさんだけのようだ。

 

でも、ボクもアリスさんも驚きは隠せていない。

目では追えた。

しかし、反応できなかった。

 

油断もあったのかもしれない。

それでも、このお爺さんの動きは驚異的で、相手が武器を持っていれば、反応できていたとしても斬られていたと思う。

 

ヴァスコ・ストラーダはゼノヴィアさんに視線を送る。

 

「戦士ゼノヴィアよ。悪魔になったそうだな」

 

「お久しぶりです、ストラーダ猊下………」

 

脂汗をかきながら返すゼノヴィアさん。

いつも強気で男勝りなゼノヴィアさんが言葉を発するだけで精一杯という表情をしていた。

 

………今の動きを見ただけでわかる。

これが前デュランダル使い。

アザゼル先生が評していた通りの………ううん、それ以上の人物だ。

 

―――――強い、それも桁違いに。

これが人間、それも八十を過ぎた老人の放つプレッシャーだろうか。

 

そのしわだらけの顔は実は特殊メイクで、その下には顔の怖いおじさん………とかだったらまだ信じられるかも。

 

………とりあえず、お兄ちゃんを呼んだ方がいいよね。

ボクは不可視の魔法陣を展開するとお兄ちゃんに通信を入れる。

ついでにボクの声が聞かれないようにして、これでボクが連絡をしていることは誰にも気づかれない。

 

お爺さんに注意が行がちだけど、ボク達を囲む気配がいくつもあるしね………。

 

ヴァスコ・ストラーダは懐から何かを取り出す。

それは封筒だった。

 

「今日、ここに来た理由はこれを渡すためだ」

 

お爺さんはリアスさんに封筒を向ける。

 

リアスさんはそれを恐る恐る受け取った。

 

「こ、これは………?」

 

「挑戦状だ。私達は貴殿らに挑戦状を叩きつけに来たのだ」

 

『――――――ッ!?』

 

首謀者自ら、挑戦状!?

 

なんて豪胆で命知らずな………。

周囲に人員を配置しているようだけど、単独で姿を見せたのはボク達の度肝を抜くためか、一人でもボク達を相手どれるという自信からなのか、もしくは――――――。

 

リアスさんが肩を震わせて、怒りの声で言う。

 

「冗談ではないわ! 今がどういう状況にあるのか分かっていないわけではないでしょう!? あなたは―――――」

 

リアスさんが言い切る前にお爺さんは人差し指を向けて、その言葉を遮った。

 

「魔王の妹よ。――――若いな。若すぎる」

 

「っ!」

 

すると、指を突き出したままでいるお爺さんに問いかける者がいた。

 

アリスさんが、一歩前に出てリアスさんとお爺さんの間に入る。

 

「若い、か。あなたに比べれば私達は若いでしょう。ここにいるのはまだ十年と少しを生きた者たちだもの。最年長の私でさえ二十年よ。八十を過ぎたあなたに比べればひよっこも同然。でも、リアスさんが言うこともまた事実。様々な思惑があるとはいえ、今は各勢力が足並みを揃えてクリフォト――――――リゼヴィム・リヴァン・ルシファー、そして異世界の神アセムから力無き人達を守らなければいけない。それは教会の上役でもあるあなたも分かっているのでしょう?」

 

リゼヴィムの危険性もアセムの力も実際ったことのあるボク達だからこそ分かるものがある。

恐らく他の誰よりも理解していると思う。

 

ヴァスコ・ストラーダは頷く。

 

「確かに彼の者達の話は聞き及んでいる。魔王ルシファーの息子のことも、異世界の神のことも」

 

「そう。つまり、今回のクーデター、そしてこの挑戦状も全てを理解した上で行っていると。そういう認識で良いわけね?」

 

「その通りだとも」

 

ヴァスコ・ストラーダは再度頷くと、近づいてきた時と同様に音も無く一瞬で、かなり距離を取ったところに移動していた。

何という凄まじい身のこなしなんだろう。

 

お爺さんはとある方向に顔を向けて言った。

 

「さぁ、レグレンツィ猊下。宣言をお任せ致します」

 

その一言を受けて、この場に現れる小さな影。

 

小学生高学年ほどの黒髪の少年だった。

祭服を纏っていて、幼い顔立ちの中にも凛々しさがある。

 

しかし、ヴァスコ・ストラーダが口にした少年の名前もつい最近聞いた覚えのあるもので、

 

「あなたがテオドロ・レグレンツィ?」

 

「そうだ。私がテオドロ・レグレンツィだ」

 

リアスさんの問いに少年は頷いた。

 

つまり、あの少年がクーデターの首謀者の二人目であり、正体不明とされていた教会のナンバーツー!

まさかこんな幼い少年だったなんて!

 

驚くボク達。

 

そんなボク達に向けて、少年枢機卿は緊張で声を震わせながらも、大きな声で言ってきた。

 

「わ、私はエクソシストの権利と主張を守る! そなたらが『良い』悪魔だろうとも、『邪悪な』悪魔や吸血鬼もいるのだ! 彼らから一方的に悪を断罪する役目を奪うなど納得できない! 私達の主張が主や大天使ミカエルさまの意思に反していようともこれだけは………これだけは納得できないのだ!」

 

少年の声に呼応するように隠れていた気配が一斉に出てくる。

男性の神父もいれば女性の戦士もいて、敵意を剥き出しにしてボク達を取り囲んでいた。

 

数は数十じゃ利かない。

数多くの戦士を引き連れているとは聞いていたけど、これほどの数がいたなんてね。

 

この場で戦闘………それはまずい。

人払いの結界を張っているようだけど、ここは住宅地。

力を使えば一般の人にも被害が及ぶ。

 

かと言って、ヴァスコ・ストラーダは手加減してどうこうできる相手じゃないのは明白。

 

すると、ゼノヴィアさんが亜空間からデュランダルを抜き放って構えた。

 

「ちょ、ゼノヴィアさん――――――」

 

アリスさんが止めようとするけど、ゼノヴィアさんの耳には届いていない。

 

ゼノヴィアさんにデュランダルを向けられたお爺さんは笑みを浮かべるだけ。

 

「戦士ゼノヴィア。デュランダルは使いこなせているかね?」

 

「――――――参ります!」

 

ヴァスコ・ストラーダの一声にゼノヴィアさんはデュランダル持って突進していった!

 

「なるほど、言葉よりも行動。デュランダル使いはそれでこそだ!」

 

「こんなところでそんなの使わせる発言しないでよ!?」

 

デュランダルは破壊力の塊。

そんなデュランダルを今のゼノヴィアさんは全力で奮おうとしている。

 

こんな住宅街で使わせるわけにはいかない!

 

アリスさんがゼノヴィアさんを追いかけようとして駆けた時だった――――――――。

 

アリスさんのすぐ前に赤い魔法陣が展開される。

 

赤い光と共に転移してきたのは――――――――。

 

「ったく、こんな場所で挑戦状を叩きつけてくるなんて―――――――」

 

「イッセー!?」

 

「へ? アリス――――――」

 

 

その時、とっても鈍い音がしました。

 

 

[美羽 side out]

 

 

 

 

「ぬ、ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………」

 

「く、くぅぅぅぅぅぅぅ………」

 

地面でゴロンゴロン転がって、後頭部を抑えながらもがき苦しむ俺。

そして、おでこを抑えながら蹲るアリス。

 

美羽の報告を受けて転移してきた俺だったが、なぜかアリスが突っ込んできて、俺の後頭部に直撃。

今、頭が割れるような猛烈な痛みが俺を襲っていた。

 

俺は半分泣きながら、同じく半分泣いているアリスに抗議する。

 

「痛ってぇ! マジ痛ってぇ! なんであそこで突っ込んでくるんだよぉ!?」

 

「うっさい! あんたこそなんであそこで転移してくんのよ!? 超痛いんだけど!?」

 

「だって、クーデターの首謀者達と接触したって聞いたから! 慌てて来たんだぞ!?」

 

「だからって、私の目の前に転移してくる必要ある!?」

 

「いや、転移の光でわかるだろフツー!」

 

「あんなタイミングで避けられるわけないでしょーが! とりあえず殴らせて! 一発だけ殴らせて! それで許してあげるから!」

 

「え!? 俺が悪いの!? 俺が悪い感じなの!? マジで!?」

 

「あんたが悪いことにしておきなさいよ! 男でしょ!?」

 

「なんて理不尽な! って、ギャァァァァァァ! それ拳じゃねーし! なにちゃっかり槍構えてんの!? 刺すの!? 殴るんじゃなかったの!?」

 

「あとでアーシアさんが治療してくれるわよ! とりあえずいっぱぁぁぁぁぁぁつ!」

 

「ひぇぇぇぇぇぇ! アーシアァァァァァァ! 助けてくれぇぇぇぇぇ! ヘルプ! ヘルプミー!」

 

アリスの槍を間一髪で避けて、アーシアの背後に隠れる俺!

 

それを高速で追いかけてくるアリス!

あのやろ、白雷まで纏ってマジで追いかけてきやがる!

 

「あ、あの、イッセーさん、こんなことしてる場合じゃないと思うんですけど………」

 

アーシアが困り顔で向こうの方を指さす。

 

そこにはやたらとデカい爺さんが指先一つでゼノヴィアのデュランダルを受け止めている信じられない光景があった!

 

「あのじいさん何者だ!? つーか、ゼノヴィア! こんな街中でなんつーもん振り回してんだ!?」

 

「私が止めようとしたのよ! それをあんたが邪魔するから!」

 

「それは悪かった! けど、あれは事故だろ!?」

 

アーシアを中心にその周りをグルグル走る俺とアリス。

 

少しでも追いつかれれば、丸焦げにされる………!

 

とにかく俺は必死に逃げた。

未だズキズキする後頭部を抑えながら。

 

そんな俺達を無視してなのか、それとも関わらないようにしているのか。

状況は俺とアリスだけを放置して動いていた。

 

「猊下! 失礼を承知でいきます!」

 

イリナが白い翼を羽ばたかせてデカい爺さんに突っ込んでいく!

その手には聖剣オートクレール!

 

爺さんにイリナが攻撃を仕掛ける直前、その間に入る一つの影。

祭服を着た黒髪の中年男性が一人、正面からイリナの攻撃を受け止めた。

 

自身の攻撃を受け止めた相手に、イリナが酷く狼狽する。

 

「クリスタルディ先生ッ!」

 

クリスタルディ!?

あのクーデターを起こした首謀者三人のうちの一人、エヴァルド・クリスタルディか!

元エクスカリバーの使い手!

 

となると、デュランダルを指先で止めている爺さんが前デュランダル所有者のヴァスコ・ストラーダ!

 

エヴァルド・クリスタルディは手に持った聖なる波動を放つ剣でイリナを押し返す。

 

「視野を狭めてはいけないな、戦士イリナよ」

 

その時、飛び出していく影が一つ。

 

聖魔剣を構えた木場がエヴァルド・クリスタルディに向かって駆けていく!

 

「元エクスカリバーの使い手! いざ、勝負!」

 

おまえもかい!

 

あぁ、もう!

なんでこんな住宅街でドンパチ始めるのかね、こいつらは!

 

バカなの!?

怒るよ、俺!

 

木場はそのスピードで教会の戦士達の師に斬りかかる!

しかし、男は高速の斬戟を体捌きだけで避けていた!

無駄のない動きで、木場の剣を避け、時には剣で流してしまう!

 

第二階層じゃないとはいえ、あの木場の剣を余裕で捌ききるなんざ、並の使い手じゃ不可能だ。

 

エヴァルド・クリスタルディ、これほどの者か!

 

「聖魔剣か。君が噂の聖剣計画の生き残りだな? 良い波動だ。しかし――――――」

 

男が剣を激しく振り下ろす!

その一撃で木場は路面に叩きつけられた!

 

その余波で道路が崩れて、クレーターが生じる!

 

「が…………っ!」

 

「私をフリードのような下の下と比べてもらっても困るぞ?」

 

エヴァルド・クリスタルディは苦しむ木場を一瞥して、剣を鞘に収めた。

 

あの高速の剣捌き、木場に与えた破壊力…………。

あの剣ってもしかしてエクスカリバーに関係していたり…………?

 

あちら側の戦闘が硬直した、その一方では――――――。

 

「必殺! …………パァァァァンチッ!」

 

「ぶべらっ!? おま、技名叫ぼうとして、結局浮かばなかったな!?」

 

『パンチ』ってそのまんまじゃん!

必殺に近い威力はあるけど!

滅茶苦茶痛いっ!

 

えぇい、どんな時でもアリスパンチ半端ということか!

 

「もう! お兄ちゃん! アリスさん! 向こうとこっちで別の空気になってるよ! 向こうはシリアス継続中なのに、こっち崩壊してるからね!? ちょっと、ここで正座!」

 

「「はい…………ごめんなさいです…………」」

 

プンスカ怒る美羽の前に正座するバカ二人。

アスファルトが膝に食い込んで痛い…………。

 

あれ………前もこんな光景があったような気がする………。

 

―――――美羽のお説教開始。

 

「二人ともぶつかったタイミングは悪かったけど、今はどういう時か分かってるよね? こんな時に―――――」

 

「「はい………うん。…………うん、ごめんなさいです…………すいませんでした」」

 

『僧侶』に揃ってお説教される『王』と『女王』。

こんな光景は他の眷属では見られないだろう。

 

レイヴェルの方に視線を向けると、こっちすら向いていなかった。

うん、だよね…………。

 

ヴァスコ・ストラーダがリアスに言う。

 

「グレモリーの姫君、私達は戦争をしに来たのではない。最後の訴えをしにきたのだ。それだけは分かってもらいたい」

 

「………なら、お互いに矛は収めた方がいいでしょうね」

 

リアスもそれに応じる。

 

それを合図にあちらの戦士達は引き、朱乃達も構えを解いた。

 

元デュランダル使いと元エクスカリバー使いは傍らに立つ少年と戦士達を率いて踵を返す。

 

「では、また相まみえよう。若き悪魔の子達よ」

 

それだけ言い残すと彼らはそのまま去っていった。

 

残されたのは悔し気に肩を震わせるゼノヴィアと木場、悲し気に肩を落とすイリナの三人。

 

そして―――――――。

 

「え………っと、俺って何しにここに来たんだっけ………」

 

報告受けて、慌てて来てみれば、転移直後にアリスと頭ごっつんこして、アリスにグーパンチされて。

挙句の果てには美羽にお説教されて。

 

誰からもツッコミを入れられることなくただただスルーされた。

 

「お願い! 誰かツッコミ入れてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

夕焼けの空に虚しい叫びが響いた。




かなりふざけました………あ、いつものことか


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8話 挑戦受けます!

クーデターを起こした教会の戦士達と邂逅して数時間後。

 

兵藤家のVIPルームに集う『D×D』のメンバー。

その中でも集まっているのはオカ研、生徒会、グリゼルダさん、デュリオと、この地を拠点にする者達だ。

 

「おまえさぁ、なにやってんだよ? あれから転移していったと思えば、無駄にシリアス壊しただけじゃねぇか」

 

呆れ顔で言ってくるアザゼル先生。

 

申し訳ないとしか言えない。

 

ただ、あれは事故だったんだ!

まさかあんなタイミングでアリスが突っ込んでくるとは思わなかったんです!

 

ま、まぁ、その後が滅茶苦茶だったけど…………。

 

ほんっとごめんなさいです。

 

部屋の中央には通信用魔法陣が展開されており、そこから宙に投影されているのはミカエルさんの立体映像だ。

 

ミカエルさんは今回のクーデターに関して語り出す。

 

『彼らの要求は「D×D」との一戦です。特に駒王町に住まうあなた方との一戦を所望しているのです』

 

「この町は三大勢力が和平を結んだ地。そして、各勢力同士で行っている同盟の始まりとなった地でもある。今回クーデターを起こした者達にとっちゃ複雑な思いを抱く場所だろうよ。そんでもって、おまえ達はその事件に関わってきている。和平の象徴でもある『D×D』はあいつらにとっては複雑極まりなく、また憎々しい相手に違いない」

 

アザゼル先生の言葉にグリゼルダさんも続く。

 

「はい………。今回のクーデターに関与した者の大半が家族を悪魔や吸血鬼に殺められたり、人生を狂わされた者ばかりです。復讐のため、あるいは二度と同じ悲劇を繰り返さないため、彼らは教会の戦士となりました。三大勢力の和平が結ばれた際、誰よりも異を唱えたのは彼らを育てた教会上層部の方々でした」

 

悪魔や吸血鬼に大切な者を殺された人からすれば、この同盟も和平も歓迎できるものではなかった、か………。

 

いつぞやの自分を見ているようだぜ。

 

目の前であいつを………ライトを殺された時、心が黒く染まったよ。

もちろん自分を責めたし、俺の勝手な行動があいつを殺したと思ってる。

 

でも、やっぱり親友を目の前で殺されたら恨みも持つ。

一時は魔族を恨んだよ。

 

まぁ、客観的に見れば戦争に善も悪もない。

お互いに傷つけ傷つけられ、恨みが憎しみが何度も何度も繰り返されていく。

それがアスト・アーデで起きた戦争の歴史。

 

そして、俺もその一つになろうとした。

 

でも、復讐は単なる自己満足に過ぎない。

復讐したところで、失った者が帰ってくるわけでもない。

 

仮に果たした場合、一瞬はスッキリするだろう。

しかし、その後は?

残るのは血に塗れた自分と更なる復讐の芽だ。

じゃあ、その芽を刈り取るか?

 

―――――それは全ての破滅だ。

 

復讐は相手だけじゃない、自分を想ってくれる人達をも傷つける。

自分が手を汚す度に、自分を想ってくれる人の心も痛め付ける。

そんな行為だ。

 

ただ、理屈では分かっていても、憎しみというのは中々に消えてくれないんだよな。

大切な人を殺した奴を徹底的に痛めつけてやりたいと思う者の方が多いだろう。

 

許せとは言えない。

憎むなとも、恨むなとも言えない。

 

どこかで耐えないといけないんだ。

自分の負った痛みを後に続く人達にまで受け継がせないためにも。

 

まぁ、俺と教会の戦士達とじゃあ、情勢もかなり違うと思うけどね。

 

…………つーか、世界が違うか。

異世界での出来事だし。

 

でも、一つ言えることは恨むのなら、『個』であり『種族全体』ではない。

 

あの少年―――――テオドロ・レグレンツィが言ったそうだ。

 

 

―――――『良い』悪魔もいれば『邪悪な』悪魔もいる、と。

 

 

その通りだ。

善がいれば悪もいる。

ならば、悪があるなら善もいるという考え方にもなるはずだ。

 

どこの世界、どんな種族にもクソッタレな奴はいるもんさ。

悪魔にも堕天使にも、そして人間にも。

どうしようもないくらいに『悪』な奴は確実にいる。

そういう奴らをのうのうとのさばらせておく気は俺にもない。

 

でも、どの種族にもそれを何とかしようとする人達がいるということを忘れてはいけない。

和平だってそういう人達の強い願いがあったからこそ、これ以上無駄な血が流れないようにしたいという想いがあったからこそ成り立ったものだ。

 

その辺りは分かってほしいと思う。

 

でも、こう言うのは無理矢理分からせても仕方がないこと。

彼らが気づくのを待つしかない。

 

「起こってしまったのはしょうがないか」

 

俺の呟きに先生も頷く。

 

「そういうこった。前にも言ったが、あいつらは死人を出す気はないようだ。今回の一件はようするに内輪揉めだ。ま、こっちには勇者さまもいるわけだし、なんとかなるだろ。イッセーなら一人でも存分にあいつらの鬱憤を受け止めててくれるさ」

 

「俺かよ!? 俺は怒りのサンドバッグじゃないんですけど!?」

 

「だってよ、『D×D』メンバーとしてサイラオーグとシーグヴァイラも呼びたいところだが、そうはいかないだろう? あいつらにも持ち場があるからな。それにクリフォトが相手ならともかく、これに大王家と大公家の次期当主を呼び出すとなると、あちらのお偉いジジイどもが文句言ってきそうだろ」

 

「それは分かりますけど…………俺一人にサンドバッグ役を押し付けるってのはどういうことなんすかね!?」

 

「普段から殴られ慣れてるだろ、おまえ」

 

「そんな理由!?」

 

酷い!

確かに普段からアリスパンチは受けてるけど!

今日だって理不尽な暴力に晒されたけど!

 

教会の戦士達のサンドバッグを俺一人にさせるのは流石に鬼だろ!

 

とりあえず、このおっさんを殴ろう!

殴っても許されるはずだ!

 

ミカエルさんが険しい表情で言う。

 

『………我々の管理が行き届かなかったことがそもそもの原因。私達の力を以て―――――』

 

「待て、おまえは動くな」

 

先生がミカエルさんの言葉を遮った。

 

「ミカエル、おまえは天界の象徴であるべきだ。ここで厳しい決断を下すのもトップの役目だと俺は思う。だがな、さっきも言ったがこれは内輪揉め、ようするにケンカだ。複雑な事情があろうとも無理矢理抑え込めば禍根は残るだろう。だったら、今回の落としどころはきちんとつけさせた方が良い」

 

すると、アリスが挙手して二人の会話に入っていく。

 

「あのね、一つ気になることがあるのよ」

 

「気になること?」

 

アザゼル先生が聞き返す。

 

この場の視線がアリスへと集まった。

 

アリスは一つ頷くと話を続けていく。

 

「いくら戦士達が和平に不満を持っているとしても、今がどういう状況なのか、戦うべき相手は誰なのか、それぐらい見極められなければ上役は務まらないでしょう? っていうか、戦うべき相手ならまだまだいるし」

 

そりゃそうだ。

タイミングによっちゃ、余計な横槍で丸々潰されるなんてこともあり得るからな。

 

そして、同盟の折、悪魔と吸血鬼と敵対するなというお触れが回り剣を向ける相手がいなくなったというが、現状はそうではない。

 

クリフォトという強大な敵がいる。

そしてそれを率いるのは前ルシファーの息子のリゼヴィムだ。

あいつの部下には旧魔王派の残党だっている。

 

悪魔を敵視するなら同盟で複雑な関係になった俺達よりも絶好の敵だろう。

 

「あのストラーダとかいうお爺さん。あの人は現状を理解した上で態々このタイミングで私達に仕掛けてきた。………戦うべき相手はクリフォトという悪の塊みたいな奴ら。それを理解して、それでも一応は味方である私達に挑んできた。…………何か別の思惑があるんじゃない? 戦士達の最後の訴えをする以外の別の何かが」

 

戦士達の不満を訴える以外の思惑………。

 

あのストラーダというじいさんは本当に不満をぶつけるだけに俺達のところに来たのか。

 

アザゼル先生もアリスの意見に賛同する。

 

「それは俺も気になっていた。あのストラーダとクリスタルディがただ闇雲に教え子に担がれてクーデターを起こしたとは思えん。奴らに何か考えがあるというのはミカエル、おまえも何となく気づいているんだろう?」

 

『………どちらも幼い頃から見てきていますから、彼らがどれほど敬遠な信徒か、よく知っていますよ。何より純粋で、何よりも人間を愛してきた者達です。おそらく、回りくどいようで真っ直ぐな想いを抱いているのだと思います………』

 

真っ直ぐな想い、か。

 

ヴァスコ・ストラーダとエヴァルド・クリスタルディは教会の二大巨頭。

多くの戦士を育ててきた超大物。

そんな二人がただ暴れまわるだけってのは流石にないだろう。

 

その二人は置いておいて、気になるのはもう一人の首謀者、テオドロ・レグレンツィの方だ。

あの少年がそうだと聞かされたときは驚いたけど………。

 

ミカエルさんが言う。

 

『若き枢機卿、テオドロ・レグレンツィは「奇跡の子」の中でも最も秀でた能力を持った子です。それゆえ、若くしてあの地位に抜擢された経緯があります』

 

『奇跡の子』という単語に俺、美羽、アリス以外のメンバーは合点がいったようだ。

 

俺達三人には全く聞き覚えのない単語だ。

 

先生が俺に言う。

 

「『奇跡の子』ってのは天使と人間のハーフだ」

 

「天使と人間のハーフ!? そ、それって、あの部屋で子作りした人が他にも!?」

 

「アホか。あれはおまえら専用………つーか、あれしかねぇよ」

 

あ、そっか。

あのドアノブってイリナがミカエルさんにお願いして作ってもらったやつだし………。

 

天使と人間のハーフはあり得ない現象とされている。

天使は欲を持てば堕天する。

人間と関係を持つ場合、その多くが快楽に溺れて堕天使となってしまう。

 

………アザゼル先生も童貞失って堕天したんだよなぁ。

 

「んだよ」

 

………うん、この人なら堕ちるわな。

 

ま、それはさておき、特殊な儀礼と専用の結界を用いれば天使と人間は交わることができるとされ、その際、お互いが肉欲に溺れず純粋な愛を持って行為に臨まなければならない。

 

………俺、イリナとしちゃったけど…………あれは堕ちるわ。

あの部屋が無ければ確実に堕ちるわ。

もちろんイリナに対する想いも強いんだけど…………。

 

すると、映像のミカエルさんが俺とイリナに視線を送り、訊いてくる。

 

『………こんなときに訊くのも野暮ですが、使ってますか? 例の部屋と冥界の技術も借りて製作した部屋。意外と………結構期待しているのですが…………』

 

最後言い直したよ!

滅茶苦茶期待してるじゃないですか、ミカエルさん!

 

ホントになんつータイミングで訊いてくるんだろうね、この大天使さまは!

 

流石に俺もイリナも恥ずかしいわ!

 

しかし、イリナは顔を真っ赤にしながら上司に報告する!

 

「そ、その、練習はしてます! ま、まだ学生ですから………ね?」

 

イリナの視線が俺に移る!

 

俺も報告しろと!?

 

あぁっ!

ミカエルさんの視線までこっちにぃぃぃぃぃぃ!

 

だが、イリナも頑張ったんだ!

男の俺が言わないでどうする!

 

「そ、その………イリナもまだ学生を楽しみたいとのことですし、今しかできないこともあると思うので………。学生を終えた後に………」

 

すると、ミカエルさんは満面の笑みで、

 

『そうですか、それは良かった。二人はまだ学生。これから色々なことを学んでいかなければなりません。今この時にしか出来ないことも多くあります。今はたくさん学んで、たくさん練習してください。それがあなた達の将来に繋がるでしょう。―――――期待していますよ?』

 

念を推された!?

どれだけ期待してるんですか、ミカエルさん!?

何気にプレッシャーだよ!

 

つーか、たくさん練習!?

それはあれですか、たくさん励めということですか!?

 

そ、そりゃあ、イリナは可愛いし、幼馴染みとのエッチは昂るものがあるけど………!

 

って、いつの間にかイリナが接近してるぅぅぅぅ!

いつの間にか俺の横にいるぅぅぅぅ!

 

なんで、袖掴んでるの!?

 

「こ、今晩………する?」

 

ちょ、ここでその発言はまずいよ!

 

上司の前だよ!?

皆の前だよ!?

 

ほら、リアス達の視線が妙な感じになってるから!

 

『うんうん。若いって良いですね。青春ですよね』

 

ミカエルさんはそんな微笑ましい表情しないで!

なにをうんうん頷いちゃってるんですか!

 

困惑する俺の肩に手を置いて先生が言う。

 

「ま、イッセーの子作りについてはマジで時間の問題だろ。三大勢力の将来はこいつにかかってると言っても良い」

 

「どれだけ期待されてるの!?」

 

「良いじゃねぇか。あれだろ? バラキエルに約束したんだろ? 朱乃とサッカーチーム作るって。当然、美羽やリアス達も続くわな。となるとだ、家族でリーグ戦が開けることになる。―――――ミカエル、冥界と天界の未来は明るいぞ…………!」

 

『おおっ………!』

 

拳をグッと握りしめるアザゼル先生とミカエルさん!

二人ともどんな未来を思い描いてるんだ!?

 

「俺、死ぬと思うんですけど…………」

 

「心配すんなって。つーか、この前、グリゴリ印の媚薬と精力剤を事務所に送ってやっただろう? あれで乗り切れ。あれ効果半端ないから」

 

そ、そりゃ、そうですけど…………。

確かに効果絶大でしたけど…………。

 

すると、先生は何か思い出したように言う。

 

「そういや、媚薬の方は原液で使ってないだろうな?」

 

「え、ええ。注意書にかいてあったんで。薄めて使ってます」

 

「なら良い。…………原液で飲ませるとヤバいことになるからな」

 

ヤバい!?

そんなの使わされてたの!?

 

 

 

~一方その頃、事務所では~

 

 

「この時間なら事務所にいると思って様子を見に来たんだが………。家の方か?」

 

事務所に転移してきたのは青い髪を持った美女。

龍王ティアマットだ。

 

彼女は今しがた冥界から人間界へ戻ってきたばかりで、そのまま一誠の事務所に遊びに来ていたのだが………。

 

当の一誠は自宅でミーティング中のためおらず、ティアマットはその事を知らない。

 

「それじゃあ、家の方に行くとして………。喉が渇いたな」

 

ティアマットは事務所のキッチンに行き、冷蔵庫の扉を開く。

 

彼女はたまにこうして遊びに来ることがある。

それは一誠とスキンシップを取るため。

 

その際、一誠は事務所を好きに使って良いと彼女に言っている。

冷蔵庫の中のものも好きにしていい、と。

 

いくつか飲料がある中でティアマットは一つの瓶を手に取った。

蓋を外すと良い香りが漂ってくる。

 

「花の香り………ジュース?」

 

何となく気になった彼女はそれをコップへと注ぎ、飲んだ。

 

飲んでしまった――――――――。

 

 

~一方その頃、事務所では 終~

 

 

「原液で飲むとな、効果が半端無さすぎて性格が変わったのかと思うくらいに意中の男を求めてくる。まぁ、原液で飲まなければ問題ないさ」

 

うん、絶対に飲ませないでおこう。

 

開封後は要冷蔵って書いてたから事務所の冷蔵庫で冷やしてるけど、誰かが誤って飲んだら大変なことになりそうだ。

 

「話を戻すが、あいつらの挑戦。悪いが受けてもらいたい。まぁ、天界と教会の尻拭いってやつだ。いつも貧乏くじを引かせて悪い」

 

『申し訳ありません』

 

先生に続き、ミカエルさんまで済まなそうにしていた。

 

トップ陣たる二人にお願いされたとあれば、引けないな。

それに俺達も和平に関係している分、ある意味責任がある。

 

俺達は彼らの挑戦を受けなければならない。

 

挑戦を受けた俺達は彼らとの決闘の日を三日後に決めた。

 

 

 

しかし――――――。

 

 

 

この時、誰も知らなかった。

 

今回の一件とは全く関係のない場所でとんでもない事態が起きようとしていることを。

 

 




前章のラストが関係してきます


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9話 最強の切り札

教会の戦士達の挑戦を受けた翌々日。

 

俺達の元を訪れる者がいた。

それはなんとタンニーンのおっさんだった!

 

「今日は済まんな」

 

「それはいいけど、おっさんが家に来るなんてどうしたの?」

 

兵藤家地下にある転移型魔法陣を通ってきたミニドラゴン姿のおっさんに訊ねてみる。

 

「実は頼みがあるのだ」

 

「おっさんから頼られるとはこれまた珍しい」

 

「うむ。俺の領民は大半が人間界から平穏を求めて流れてきたドラゴン達なのは知っているな?」

 

その話は以前聞いたことがある。

そもそも、タンニーンのおっさんが悪魔に転生したのはドラゴン達を守るためだと聞いているし。

ドラゴンアップルという果実の研究とかもしてたっけ。

 

「領民の一種族に『虹龍(スペクター・ドラゴン)』と呼ばれる希少種がいてな。それが此度たまごを生んだのだ」

 

ほう、たまごですか。

そいつはめでたい。

 

俺と美羽、アリスの三人がへぇとおっさんの話を聞いている横ではほかのメンバーが度肝を抜かれていた。

 

リアスが慌てふためいて言う。

 

「虹龍!? た、確か、個体数が数えるほどしか残っていないと聞いているわ」

 

「その通りだ。だからこそ、今回生まれたたまごがどれ程待ち望まれていたものか。だが、虹龍の孵化は難しくてな………。冥界の風はたまごに良くないのだ。このまま冥界で孵化を待てば、孵化の前に腐ってしまうかもしれん」

 

「それじゃあ、ここに来たのは―――――」

 

リアスの言葉におっさんは頷く。

 

「たまごにとって人間界の空気は冥界のものよりも環境がいい。そこでこの町の地下にある空間を借りようと思ったのだ」

 

「でも、ここって結構危ないぞ? クリフォトに狙われてるし」

 

三大勢力の会談の時と、ユーグリッドの時だな。

今では結界も強化されて、以前よりも安全にはなっているけど、それでも完璧とは言い難い。

 

俺の問いにおっさんは指であごをかいた。

 

「人間界で他に妥当な場所がなかったのだ。希少なたまごゆえにクリフォトや他の者にも狙われる可能性がある。ここ以外の場所ではどうもセキュリティ面で不安でな。確かにこの町はクリフォトに狙われている場所ではあるが、強固な結界がある。孵化するまでの間だけでも預かってもらいたいと思ったのだ」

 

リアスが問う。

 

「どのくらいで孵化するのでしょうか?」

 

「人間界であるなら思いのほか早いだろう」

 

「わかりました。私達もできうる限り見守りましょう」

 

「すまないな。礼はする」

 

俺達がたまごを預かることを了承すると、おっさんは魔法陣を開く。

 

たまごを持ってくるという係の者に連絡を入れたとのことだ。

 

待つこと数分。

転移の光と共に虹色の光沢を持つ大きなたまごを抱えた者が現れた。

 

それは黒いコートの男。

そいつはよく知ってる………というより、やりあったことがある奴だった!

 

「クロウ・クルワッハ!? なんでおまえが!?」

 

そう!

虹色のたまごと共に現れたのはクロウ・クルワッハ!

最強の邪龍さまだった!

 

まさかの相手にかなり焦る俺。

リアスたちも構えるが………。

 

俺はふと考える。

こいつは他の邪龍と比べて話も分かる。

それにタンニーンのおっさんがこうして連れてきているということは――――――。

 

「とりあえず、説明頼んでいい?」

 

「………うーむ、話すと長くなるのだが………クロウ・クルワッハは俺の食客になっているのだ」

 

『ええええええええええええええええええええええええ!?』

 

大声を出して驚愕する俺達!

 

ちょっと、これは予想外すぎる!

クロウ・クルワッハがおっさんの食客!?

なにやってんの!?

 

最強の邪龍さまは淡々と言う。

 

「俺は今タンニーンに衣食住を提供してもらっている。今はその礼を果たしているに過ぎん」

 

「クロウ・クルワッハは邪龍ではあるが、生粋のドラゴンだ。同じドラゴン同士なら通ずるものもあると思ってな」

 

タンニーンのおっさんの言葉に静かに頷くクロウ・クルワッハ。

 

いやはや、何と言いますか………。

天界から降りた後は冥界に移動して、タンニーンのおっさんと出会って、同じドラゴン同士で意気投合したと。

ま、まぁ、タンニーンのおっさんが大丈夫と言うのなら、大丈夫なんだと思う。

それにこいつはそんなに質が悪い奴ではないのは俺も感じていたことだ。

 

『言わんとすることは分かるが、油断はしないことだな』

 

ドライグは一応の忠告をする。

 

「うむ、肝に銘じておこう。だがな―――――」

 

タンニーンのおっさんがクロウ・クルワッハに視線を送る。

 

とうのクロウ・クルワッハは我が家のマスコットことオーフィスと対峙していた!

 

戦闘大好きな最強の邪龍さまと無垢な龍神さまがぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

ちょ、ここでドンパチは始めないでね!?

二人が戦い始めたら家どころか町そのものが吹き飛ぶわ!

 

クロウ・クルワッハはたまごを床に置いてバナナを握るオーフィスに言った。

 

「オーフィスか。俺と勝負しろ」

 

「無理。我、ケンカしないようにイッセーたちと約束してる」

 

「………そう、なのか? ならば、どういう手順を踏めば可能となる?」

 

「わからない」

 

「………そうか」

 

そのやり取りののち、クロウ・クルワッハは再びたまごを抱えて無言となった。

オーフィスは興味深そうにたまごをペチペチ触り始めた。

 

う、うーん………なにこの不思議空間。

 

最強の邪龍さまが龍神さまにケンカ売って、ソッコーで拒否られて………。

 

「やっぱり強いドラゴンって変人が多いのかな?」

 

「そうねぇ………イッセーもおっぱいドラゴンだし」

 

美羽とアリスが何か言ってる!

 

そうだね!

俺もドラゴンだったね!

 

強いドラゴンは変人が多いって、俺も含まれてるのな!

 

と、ふと気になったんだけど――――――。

 

「おっさんはオーフィスを見ても驚かなかったな」

 

「ああ、魔王殿から聞いているのでな。心配せずとも、誰にも言わんさ。それにおまえ達と共にいるというのなら、それだけで安心できる」

 

「そいつはかなり買ってくれてるんだな」

 

「俺は実際におまえ達を見てきたからな。現にオーフィスはあんな感じだ」

 

タンニーンのおっさんはオーフィスを見て笑んだ。

 

オーフィスは………バナナの皮を剥いて二本目に突入していた。

どっから出した、その二本目!?

 

うん、うちの龍神さまは微笑ましい限りだよ!

 

タンニーンのおっさんはクロウ・クルワッハのことを語りだす。

 

「クロウ・クルワッハは人間界を長く見てきたようだ。俺もこの歳まで各世界を見てきたが、そのおかげなのか、奴の心情も何となくわかるのだ。時代の移り変わり、人間の文化、人間の善悪、それに応じた異形たちの変化。それらを永い年月をかけて見てくれば、強いドラゴンといえど、価値観は変わってくる。人間も短い生の中で変わっていくだろう? ドラゴンも同じということだ」

 

「なるほど」

 

確かにそうだよな。

 

おっさんたちに比べると、僅かな時しか生きていない俺でも色々なものを見て、経験して、そして変わってきた。

人間も悪魔もドラゴンも常に同じというわけじゃない。

何かに触れることで変わる。

それが良い方向なのか悪い方向なのかは分からないけどな。

 

俺は………とりあえず、これまでは良い方向に変わってこれたと自分では思ってる。

そして、これからもそうでありたいと思う。

 

すると、タンニーンのおっさんが何か気になったようで訊いてきた。

 

「ところで………ティアマットはなんで、部屋の隅にいるのだ?」

 

おっさんが指さす方――――――部屋の角には青髪のお姉さん、ティアがいた。

特に何をしているわけでもなく、ただ立っているだけ………なのだが、遠い。

部屋の隅でこちらの様子を見守っている。

 

俺と視線が合うと、顔を赤くして目を反らされた。

 

「おまえを避けているようにも見えるのだが………仲違いでもしたか?」

 

「い、いや………そういうわけじゃないんだ。な、なんと言うか………」

 

そこから言葉を続けようとする俺だが――――――――。

 

 

 

なんとも言えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 

 

 

媚薬飲んで発情したティアとエッチしたなんて言えるかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

媚薬の効果を散らせるためにひたすら合体してました、なんて言えねぇぇぇぇぇぇよ!

 

事務所に行ってみたら、ティアが汗びっしょりの状態で一人で慰めていたんだよ!?

その時の俺の衝撃が分かるか!?

 

俺を見たとたんにティアは抱きついてくるし、更には「滅茶苦茶にしてくれ」なんて言ってくるし!

注意書見たら、媚薬を原液で飲んでしまった場合、ひたすら気持ちよくさせるとしか書いてなかったし!

 

悪魔の仕事も何もかもキャンセルして、『休憩室』に突撃したわ!

 

しかも、途中から実体化したイグニスまで参加してくるし!

俺とイグニスでティアを相手にしつつ、俺は二人に絞られました!

二十四時間フルコースでした!

 

最強の龍王と最強の女神さまの腰遣いは半端じゃなくて、このままではと感じた俺は精力剤飲んで―――――トランザム!

 

「うふふ♪ あの時のイッセー凄かったわぁ。ね、ティアちゃん♪」

 

「ぅぅぅっ………すまない。わ、私があの時確認しておけば………。そ、その、うぅぅぅぅぅ」

 

涙目になって申し訳なさそうにするティア!

あのティアが顔真っ赤でアーシアみたいな声出してる!

 

「気にしないでくれ! 俺が悪いんだ! 俺があんなところに仕舞ってたから!」

 

「だ、だが………わ、私は………あんなに乱れて………」

 

「イッセーにおっぱい吸われて悦んでたもんねー♪」

 

「トドメをさしてどーする!?」

 

「ぅぅぅぅぅ………。は、恥ずかしぃ………」

 

ああっ、ティアがプルプル震えだした!

可愛い反応だけど、この場でそれはダメだ!

 

「ティアマット、乳吸われると嬉しい?」

 

オーフィスは何を訊いているのかな!?

今のティアにそんな質問しないで!

 

つーか、さっきまでたまごの方に興味津々だったじゃん!

なんでおっぱいに反応した!?

 

「………ティアマットも、変わったな」

 

おっさんんんんんん!

その『変わった』は意味が違うから!

あれ、媚薬のせいだから!

 

イグニスが微笑む。

 

「ティアちゃんは変わってないわ。元々、エッチなのよ」

 

「エッチじゃないもん! ティア、エッチな子じゃないもん!」

 

「エッチな龍王?」

 

「エッチな龍王じゃないもん!」

 

どうやら、ティアには心のケアが必要らしい。

『もん』って言ったしな………。

 

こうして、なんやかんやありつつも、俺達はたまごを預かることに。

たまごは駒王町に設けられた地下空間に安置された。

 

 

 

 

それから数時間後のことだった。

 

俺はサーゼクスさんに呼び出され、冥界の魔王領、サーゼクスさんの職場を訪れていた。

 

いきなり通信で「今すぐ魔王領に来てほしい」なんて言ってくるあたり、かなりの緊急事態と見える。

 

………まさかの妹談義だったら、それはそれで最高だけど。

 

「私まで来ても良かったの?」

 

そう訊いてくるのはアリス。

今回の冥界入りはアリスを伴ってのものだ。

 

「おまえも俺の『女王』だしな…………一応」

 

「一応ってなによ、一応って」

 

半目で見てくるアリス。

 

こいつ、『女王』としての仕事ほとんどしてないじゃん。

何度も言ってるが、書類系の仕事はほぼ投げてくるし。

 

そりゃ、戦闘の時は心強いけど…………。

 

やっぱり、こいつも脳筋?

 

俺は浮かんだキーワードを頭を横に振ってすぐに否定した。

 

うちのアリスは脳筋じゃないもん!

作戦会議とか交渉の場ではしっかり働いてくれるし、脳筋ってことはない!

ちょっとサボり癖が強いだけ………だよな!

 

そんな俺の心中など知らないアリスは周囲を見渡していた。

 

「それにしても、派手ね~。流石は魔王の職場?」

 

俺達が案内された部屋は床には赤いカーペット、天井にはシャンデリアがあり、家具も高級感漂うものばかりだ。

確かに派手だと思う。

けど、どこか重厚感もあってだな………。

なんと言うか、流石は魔王って感じだ。

 

しかし、一つ気になることがあって………。

 

「なんで窓がないのかしら?」

 

そう、この部屋には窓がない。

外の景色が伺えない…………いや、これは外から中の様子を伺えないようにしているのか?

 

今回の話はそれだけ機密性の高い話ということだろうか?

 

二人でそんな疑問を抱いていると、部屋の扉が開かれる。

 

入室してきたのは紅髪のイケメン、サーゼクスさんだ。

 

「やぁ、イッセーくん。それからアリスくん。よく来てくれた」

 

「よー、イッセー。悪いな」

 

「お待たせしてすいません、兵藤一誠くん」

 

なんと、サーゼクスさんに続いて入ってきたのはアザゼル先生とミカエルさんだった!

 

アザゼル先生は何となく予想してたけど、ミカエルさんまで来るとは想定外過ぎる!

 

まさかまさかの三大勢力トップ集合!

この三人が映像越しでなく、こうしてテーブルにつくシーンを見るのは三大勢力の会談以来じゃないのか!?

 

三人に続き、グレイフィアさんも入室してくる。

 

ティーポッドとかティーカップが置かれた台を持ってきているところを見ると、グレイフィアさんは給仕係のようだ。

 

グレイフィアさんが紅茶を入れ、この場にいる五人の前に置いたところで、俺は口を開いた。

 

「この密閉された部屋に、しかも、ミカエルさんも直接来たということは………内容は………」

 

「うむ、これから話す内容はまだ各勢力のトップ陣しか知らないことだ」

 

サーゼクスさんは静かに言った。

 

サーゼクスさんを始め、アザゼル先生とミカエルさんの表情に何やら緊張が見てとれる。

 

この三人がそれほどと感じることなのか?

 

「それで俺だけを呼んだのはどういう…………?」

 

「それは今回の件に対して最も対処できるのがイッセーだと考えたからだ」

 

「俺が、ですか?」

 

「そうだ」

 

各勢力のトップ陣しか知らない情報。

そして、その件に対して対処できるのが俺。

 

まさか………まさか――――――。

 

「………アセムが動いた、そういうことなんですね?」

 

あいつらと戦闘経験があるのは俺と俺の眷属だけだ。

いや、正確には木場とティアもいるけど。

 

だけど、この三人の表情と今の言葉を合わせると頭に浮かぶのは奴の存在だ。

 

天界で会った時、あいつは各勢力の神に殴り込みにいくみたいなこと言ってた。

もしかして、どこかの神がやられた…………?

 

すると、ミカエルさんが真剣な表情でこう言った―――――。

 

「―――――冥府が異世界の神によって蹂躙されました」

 

「「なっ!?」」

 

驚愕の声を漏らす俺とアリス!

ミカエルさんからの報告はあまりに予想を越えたものだったからだ!

 

冥府が蹂躙されたってことは冥府の神ハーデスがやられたということ。

 

ハーデスはトップ陣の中でも上位に入る実力者。

その周囲には死神達もいるはず。

特に最上級死神ともなると、ファーブニルの鎧を纏った先生と互角にやりあえるクラスだ。 

それを考えれば冥府の戦力はかなりのものと言える。

 

アザゼル先生は顎に手を当てる。

 

「ハーデスは今、ゼウスのオヤジのところにいる。他の死神も連れてな。………あと一歩で消滅するところだったそうだ。俺個人の意見としちゃ、今まで散々やってくれた分、ざまぁみろって感じだが…………流石に見過ごすことは出来ん」

 

「はい。冥府の神ハーデスは世界にとっても影響力の強い神です。消滅を免れたから良かったものの、仮に消滅していればどれだけの影響が出たことか」

 

死神達の報告によれば、相手は一人。

フードを被った小さな少年が攻めてきたとのことだ。

 

相手はたった一人の子供。

それなのにハーデスを含め、死神達は手も足も出なかったとか。

 

…………あの野郎、ヴィーカ達の手も借りずに一人で冥府を潰したのか。

規格外も良いところだぜ。

 

アリスが顎に手を当てて考え込む。

 

「態々一人で行ったのは何か理由が………? 一人でも余裕だから? それとも、下僕達は別で動いていた、とか?」

 

 

 

~その頃、冥府では~

 

 

「親父殿! 一人でやるこたぁねぇだろ!?」

 

「そーですぞ! 私も戦いたかった!」

 

「まーまー、そんなに怒らなくてもいーじゃん」

 

声を荒げてアセムに突っかかるラズルとヴァルス。

そして、それを宥めるアセム。

 

二人はアセムが一人でハーデス達と戦ったことに不満があるらしい。

 

なぜ、彼らがいなかったのか。

 

その理由は――――――。

 

「私達がTSUTAYA行ってる間にそんな………ズルい! あ、父上!? 逃げないでください! 父上ぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

~その頃、冥府では 終~

 

 

 

「下僕達の行動か。確かにそれも気になるな。あいつらは一騎当千の猛者ばかり。バラバラに動かれても中々に面倒なところがある」

 

一人一人が厄介な能力と強大な力を持つ。

そんな奴らがついに動き出した、か。

 

しかも、アセムに関してはたった一人、僅かな時間で冥府を潰した。

 

「これで各勢力のトップ陣はアセムの恐ろしさを知ることになりましたね。………あいつの強大さはリゼヴィムの比じゃありません」

 

「その通りだ。今まではリゼヴィムばかりに目がいきがちだった奴らも今回の一件でかなりの衝撃を受けていてな。早くも冥府を奪還しようという動きも出てきている」

 

アザゼル先生はそう教えてくれるが…………。

 

むやみに突っ込むのは悪手だ。

各勢力のトップ陣が直々に行って、奴らに消滅させられる事態になるのは避けたい。

かといって、並の実力者じゃ話にならない。

なんせハーデスをボコボコにできる奴だしな。

 

なるほど、つまり俺が呼ばれたのは――――――。

 

サーゼクスさんが言う。

 

「イッセーくん。君を呼び出したのは他でもない。冥府へと向かってほしい。現状、彼らと戦えるのは実際に戦闘経験のある君達だけだと私達は考えている。もちろん、出来る限りのバックアップはする。用意して欲しいものがあればすぐにでも手配しよう」

 

「ええ、それは構わないのですが…………。俺達が冥府に入っても良いんですか? あとでハーデスとかが文句言ってきません? まぁ、そんな事態でもないんですけど」

 

「それに関しては今、ギリシャ勢力と協議中だ。すぐにでも許可が降りるだろう。なんせ、『D×D』は各勢力公認の対テロリストチームだ。こんな時だからこそ、その権利をフルで活用できる。だが…………」

 

先生はそこまで言うと難しい表情を浮かべた。

 

「おそらく、冥府へ向かってもらうのは明日になる。その翌日には教会の戦士達と一戦。まぁ、それに関しては互いに死人を出さない方向で動くだろうから、心配はしてないんだが…………。問題はクリフォトの横槍だ。どのタイミングで、どれだけの手勢を連れてくるのかが分からん。強力な力を持つ赤龍帝眷属の力ならもしもの時でも押し返せるだろうと考えていたんだが………」

 

「俺達は冥府に行かなければいけない。戻ってくるにしても、果たして間に合うか………と聞かれると、間に合わないでしょうね」

 

「俺もそう思う。おまえ達が抜けた分をどいつで補うか………」

 

「ヴァーリは冥府に連れていきますよ? あいつの戦力はデカいですから」

 

「それは別にいい。つーか、あいつが教会とのいざこざに関わるとマジの殺し合いになりそうでな」

 

ま、まぁ、ヴァーリチームって血の気多いしなぁ。

 

サイラオーグさんとシーグヴァイラさんは冥界の守護がある。

黒歌、ルフェイ、アーサーは駒王町に残って教会の戦士達との戦いに参加。

黒歌とルフェイはバックアップらしいけど。

 

ミカエルさんが言う。

 

「予めこちらの軍勢を配置しておくことも出来ますが、裏をかかれることも考えられます。そうなると、誰を配置するべきか………」

 

手薄になったところを狙われる可能性もある、か。

リゼヴィムなら、手薄になったところに邪龍軍団送ってきそうだよな。

 

下手に動けない中、俺達が抜ける分を補う戦力。

クリフォトがどんな手を打ってきても対処できる猛者。

 

 

―――――やっぱ、あの人しかいないか。

 

 

「イッセー? なにニヤついてんだよ、気持ち悪い」

 

「ニヤついてました? いえ、まぁ、あれです。ここら辺りで投入するっていうか…………アセムが動き出した以上、必要な戦力といいますか。ともかく、いますよ。俺達の切り札」

 

俺の発言に三大勢力のトップ達は興味深げにこちらを見てくる。

 

ああ、いるさ。

最強とも言える切り札が。

 

俺はついついニヤリと笑みを浮かべながら、三人に言った。

 

「まぁ、任せてください。マジでチートですから」

 

 




というわけで、今回の章は少しばかり流れが変わります。


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10話 ゼノヴィア、吹っ切れます!  

翌日。

 

教会の戦士達との決闘が明日の午前0時。

そんでもって、俺が冥府に向かうのが今日の夜九時頃だ。

 

早く奪還したいという声もあるが、慌てていくと痛い目を見るのはこちらだ。

出来るだけベストな状態で事に取り組まないと取り返すどころか、逆に失ってしまう。

 

俺がサーゼクスさん達に伝えた切り札のこともある。

さてさて、どういう布陣で行くべきか………。

 

そんなことを考えながらも俺はいつものように学校に登校。

旧校舎の一室を借りて、選挙当日に行うスピーチの内容を確認していた。

 

「えー、私が生徒会長に立候補した理由は………」

 

プリントを確認しながら、暗記するように呟いていくゼノヴィア。

その横ではアーシア、イリナ、桐生の姿もあって三人でゼノヴィアの言葉をチェックしている。

当日に話すポイント、公約の重要性、話す順番はどうなるかの予想など思い付く限りの案を出してホワイトボードにメモっていく。

 

ゼノヴィアはもちろんのこと、サポートの三人の表情も真剣そのものだ。

 

話もある程度まとまったところで一旦休憩となる。

 

俺はお茶の用意する桐生に何となく聞いてみた。

 

「桐生もさ、悪魔が実在するって知ったときは驚いたか?」

 

「そりゃそーでしょ。今までアニメ、漫画、ゲームの中の存在だと思ってたのよ? ファンタジーすぎるでしょ、あんたら」

 

ま、それもそうだ。

 

俺も昔は桐生と同じように………ってか、それが一般常識で、悪魔とか天使とかってのは創造の産物、フィクションだと思ってたよ。

 

俺の場合はドライグがいて、そういうことを教えてくれていたから、初めて異形と呼ばれる存在に会っても動揺しなかったけど。

 

いや、それ以前に異世界の経験もあるか。

今思えば俺の存在ってそのファンタジーの中でも更にファンタジーなんだよなぁ。

 

「悪魔が生徒会長になること、おまえはどう感じる?」

 

悪魔が生徒会長をする学校、それがこの駒王学園だ。

前会長のソーナもそうだし、これからなろうとしてるゼノヴィアも花戒さんも悪魔だ。

 

一般生徒である桐生はそれをどう思うのか。

 

ただ、こうしてゼノヴィアを手伝ってくれているということは、俺の心配も杞憂だと思うんだけどね。

 

俺の問いに桐生は即答した。

 

「別に良いんじゃない? ゼノヴィアっちも花戒さんも私達を取って食おうなんて思ってないだろうし。あんたらも悪魔っていうけど、そういうわけじゃないんでしょ? というか、アーシアなんか逆に食べられそうじゃん」

 

「それ意味違くね?」

 

「あ、そっか。あんたが食べたんだっけ?」

 

「おぃぃぃぃぃ! なんで知ってる!?」

 

「ふっふっふー! 私の目は誤魔化せないわ! そんなのアーシア達の雰囲気見れば分かるのよ」

 

な、なんて奴だ…………!

まさか、こいつは見ただけで処女かそうでないか分かるというのか!?

 

桐生は俺の肩に手を置くとスケベな笑みを浮かべて、

 

「で? 感想は?」

 

「…………美味しくいただきました。めっちゃ、可愛かったです」

 

「だってさ。良かったわね、アーシア」

 

話を振られるアーシアだが、その顔は真っ赤だった!

 

だよね!

そうなるよね!

俺も恥ずかしすぎて死にそう!

 

顔真っ赤の俺達の様子を楽しむように眺める桐生はニパッと笑う。

 

「話を戻すけどさ、人間とか悪魔とかって生物的な違いな訳でしょ? 人間社会に準じようとしているところなんて健気というか、ありがたい話じゃん。何より、人間よりめちゃ強い悪魔さんがいざというときに守ってくれるかもしれないんだからさ、私は大アリだと思うわよ?」

 

桐生はアーシア、ゼノヴィア、イリナの教会トリオを見渡す。

 

「ゼノヴィアっちもアーシアもイリナちゃんも友達よ。悪魔だって聞いて驚きはしたけどそこまで。それ以外は何も変わらないわ。だって、あの三人はあの三人じゃない。あんたのことだってスケベな奴って認識は変わらないし」

 

「それ以外の認識は!?」

 

「んー………あんたが世界のために戦ってるって聞いたけどスケール大き過ぎて追いつけないって言うか………。ま、どのみちスケベってのはハズレてないしいいじゃん」

 

俺の評価酷ぇ………いや、スケベってのはハズレてないけど。

 

しかし、桐生が好意的に俺達を見てくれているのは嬉しかった。

悪魔だと知ってもアーシア達を変わらず友達と言ってくれる。

 

種族が違っていてもこうして分かり合える。

こっちの世界でもそれを感じることができた。

異形と異形だけでなく、異形と人間もこうして―――――。

 

いつかは俺達異形の存在と人間が互いを認めあう日が来るのかもな。

 

「桐生」

 

「ん?」

 

「ゼノヴィアのサポート、これからも頼むわ」

 

「任せなさいよ。最善は尽くしてあげる」

 

 

 

 

帰宅した俺は一度シャワーを浴びて汗を流すと、自室に一人籠っていた。

 

さっき、アザゼル先生から連絡が入った。

どうやら冥府へ入る許可が正式にギリシャ勢力から下りたらしい。

まぁ、昨日の段階で俺の冥府入りはほぼ決まっていたようなものだし、今更な報告だったんだけどね。

 

俺はベッドに寝転んだ状態で、掌を天井に向けた。

 

………いまいちアセムのやりたいことが分からない。

最初はリゼヴィムと手を組んでいる時点でとんでもない悪だと思ってたし、あいつの言動も悪そのものだった。

 

ただ………今までの行動を思い返すとどうだろうか?

 

吸血鬼の町では、崩壊していく町を見て笑い、邪龍に変えられた吸血鬼達を嘲笑っていた。

まぁ、あれは吸血鬼の上役達の自業自得とも言える行動だったけどさ。

 

次に冥界のアウロス学園。

ベルが複製した俺の力を使って町全体に結界張るは魔法使い達を封印するわで散々やってくれた。

町の防衛戦ではラズル達が出てきて戦うことになったし、あれで相当消耗することになった。

しかも、最後に量産した俺の複製体までぶつけてきやがった。

 

先日の天界での件。

ラズル達は………まぁ、置いておく。

あいつらピクニックしに来てただけだから。

アセムは『システム』の中に入り込み、その中身を探った。

 

そして、冥府。

今度は奴自身が出向き、ハーデスを消滅の一歩手前まで痛め付け、冥府を蹂躙するというとんでもないことをしてくれた。

 

どれもこれもが世界を混乱に貶める行為。

 

しかし………冥府の件を除けば、実質的な被害を出しているのは殆どリゼヴィム率いるクリフォトじゃないのか?

 

リゼヴィムに協力はしているのだろうが、アセムからすれば微々たる力だろう。

本気でリゼヴィムに協力していれば、もっと酷い被害が出ているはずだ。

少なくとも吸血鬼の町もアウロス学園も天界も壊滅は免れなかったと思う。

 

 

――――僕はこの世界において、理不尽の一つになる。

 

 

天界でイグニスの言葉を聞いたアセムはそう言った。

 

理不尽の一つになる…………圧倒的な力で世界征服でもしようと言うのかね?

その足掛かりが冥府なのか?

 

「分からねぇ………。あいつの目的が…………俺に何を期待しているのか………」

 

今回の冥府入りでその辺りを聞き出せればいいが………。

 

ふと時計を見ると出発まであと四時間ほどたった。

 

今は体を休めて、万全の状態に持っていかないとな。

そういうわけで、一眠りしようとした俺だったが………。

 

『イッセー、いるかい?』

 

「ゼノヴィア?」

 

扉を開けて入ってきたのは部屋着姿のゼノヴィアだった。

短パンにタンクトップとかなりラフな格好で、ベッドに寝転がる俺のところに寄ってきた。

 

「選挙活動の話し合いは終わったのか?」

 

「とりあえずはね。アーシア達の助けもあって順調に進んでいるよ」

 

「そっか。そりゃ良かった」

 

「ああ。………美羽達はいないのかい?」

 

「美羽とアリス、それからレイヴェルは風呂だ。俺はさっき上がってきたところ。今のうちにある程度体を休めておかないといけないからな」

 

「………そうか。イッセー達は夜に出るんだったな」

 

俺達赤龍帝眷属が冥府に向かうことはリアス達はもちろん、他の『D×D』メンバーも知っている。

アセム達と戦うことを知って不安になったのか、かなり心配してくれた。

 

一応、大丈夫とは伝えているけど………気休めにもならないか。

 

ゼノヴィアもそれは同じで、

 

「私は実際に戦ったことはないが、木場がやられた件やイッセー達の話でどれだけの相手なのかは分かるつもりだ。………本当に大丈夫なのか?」

 

「百パーセント大丈夫とは言えないけど、絶対に帰ってくるさ。つーか、おまえも戦わなきゃいけない相手がいるんだから、そっちに集中しろよ。確かに今回のは内輪揉めで、殺し合いになんてならないと思う。でも、実際に剣を交える以上、もしものことも考えられるんだ。一瞬の油断が生死を分けることになるのはおまえも知っているだろう?」

 

「それは分かっている。相手はあのストラーダ猊下だ。油断なんて出来ない………」

 

「不安か?」

 

俺が問うと、ゼノヴィアは真剣な表情で訊いてきた。

 

「………私は超えられるだろうか? ソーナ前会長を、ストラーダ猊下を」

 

ゼノヴィアが越えなければならない相手。

ソーナもヴァスコ・ストラーダも強敵だろうな。

 

「私は………やる以上は前任者を超えたいと思っている。戦士としても、駒王学園の生徒としても」

 

不安には思っているけど、やるからには勝つって顔をしている。

こいつはいつも勝ち気で何事にも全力で突っ込んでいくからな。

 

「今更なんだけどさ、どうして生徒会長になりたいなんて思ったんだ?」

 

本当に今更だけど俺は訊いてみた。

 

今までゼノヴィア達の選挙活動を見て来たし、ちょっとした手伝いもしてきたけど肝心なところを訊いてなかったんだよね。

ゼノヴィアがあまり自分からそういうことを話さないってこともあるんだけどさ。

 

ゼノヴィアは暫しの沈黙の後に口を開いた。

 

「………私は教会で育った。だから、学校に通うのは初めてだったんだ。授業も、休み時間にクラスメイトと話すことも、部活動も、学校の行事も修学旅行も全てが新鮮でやりがいがあって楽しかった。私はあの学園が………駒王学園が大好きなんだと思う。あんな楽しい場所があっていいのだろうかとさえ思ってしまうんだ。私は………恩返しがしたいんだと思う。いや、私はあの学校に何かを残したいんだ。それで生徒会長になって、学校のために尽力したいと思ったんだ」

 

学校に通うことは俺にとっては当たり前のことだった。

小学校、中学校、そして高校と、授業を受けてクラスメイトと話して。

それが当たり前だった。

 

でも、ゼノヴィアにとってはそうじゃなかった。

教会で育ち、戦士として育成された彼女にとって学校はそれほどまでに楽しいと感じられるものだったんだ。

 

ゼノヴィアがベッドの上に大の字になって寝転がる。

その表情は何かに気づいた様子だった。

 

「そうか。これを皆に伝えればいいんだ―――――私の想いを。回りくどいことなんて、必要なかったんだ………」

 

「不安は消えたか?」

 

「ああ」

 

「そっか」

 

短い言葉で返す俺達。

 

ゼノヴィアがそう言うんなら、俺は何も言わない。

ただこいつを信じるだけだ。

 

俺はゼノヴィアの頭をワシャワシャ撫でると微笑んだ。

 

「頑張れ。おまえなら出来る」

 

「ああ、私はやるぞ。………ところで、イッセー」

 

「ん? おわっ!?」

 

ゼノヴィアに腕を引っ張られ、ベッドの上に転ばされる俺!

そして、俺の上にまたがるゼノヴィア!

 

なんだなんだ!?

 

ゼノヴィアはおかしそうに笑う。

 

「ふふっ、隙だらけだったぞ? イッセーは油断が多すぎるな」

 

「家でくらい油断させてくれよ………」

 

ゼノヴィアの言い分に俺は唇を尖らせる。

 

家くらいゆっくりしたいもんですよ。

ま、まぁ、油断しすぎて色々と事故が起こる時もあるけど。

 

「私は本気だ。会長になることも、戦士としても、そして恋もな。いつか私はイッセーと本気の子作りをする!」

 

「最後ので良いセリフが台無しだぞ!?」

 

ったく、本当にこいつは…………。

こいつらしいと言えばそうだけど。

 

ただ、ゼノヴィアが本気だと言ってくれることは嬉しいかな。

 

「ゼノヴィア」

 

「どうした、イッセー…………っ!?」

 

俺はゼノヴィアの肩を掴むとそのまま抱き寄せると、ちょうどゼノヴィアの顔が俺の胸の位置にくるように体が重なった。

 

ニヤリと笑みを浮かべながら言う。

 

「さっきのお返しだ」

 

「むぅ………やるな」

 

自身の油断を突かれたことが少し悔しいのか、ゼノヴィアの頬がぷくっと膨らむ。

こいつのこういうところって滅茶苦茶可愛いと思うんだ。

 

俺はゼノヴィアの青い髪を撫でながら時計を見る。

 

「さてさて………俺はこの後、冥府だし、予定通り一眠りとするか」

 

「ならば、私も付き合おう。というより、イッセーに抱き締められていたい。ここでイッセー成分を吸収しておこう」

 

「その成分、結局なんなの………?」

 

ゼノヴィアの温かさや鼓動が心地良い。

ゼノヴィアが来る前まではアセムのことで色々と考え込んでいたけど、そんなものは初めから無かったかのように、この温もりにかき消されていく。

 

俺はゼノヴィアを抱き締めたまま瞼を閉じた―――――。

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

駒王町にはグリゴリの施設がある。

 

そこは俺のラボだったり、堕天使側の事務所的な場所で簡単に言うとグリゴリの駒王町支部ってやつだ。

 

そこで俺はとある者達を迎え入れていた。

数は二人………いや、正確には四人か。

 

「まさかあんた達が来てくれるとはな。だが、助かる。これ以上ない戦力だろうよ」

 

俺がそう言うと、四人のうちの一人、中年の男が笑みを浮かべながら返してくる。

 

「なーに気にするこたぁねぇ。こっちもかなり世話になったんだ。これくらい当然だ」

 

「ええ。それにあの子のお願いとなれば聞かないわけにはいきません」

 

男に続き、微笑む若い女。

 

イッセーの奴め、やってくれる。

確かにこれほどの戦力ならどんな事態にも対処してくれるだろうよ。

 

なんせ俺は実際にこいつらの実力を目の当たりにしている。

その腕は信用できるものだ。

 

ただ気になるのは残る二人…………いや、二人とカウントして良いものだろうか。

 

「こいつらは一体?」

 

俺が指差すと、残る二人のうち一人が言ってきた。

 

「こいつって言わないでくれる? それに人を指で指しちゃいーけないんだ! おっさん!」

 

「こら。初対面の人にそんなこと言っちゃダメでしょ? 申し訳ありません、この子ったらあまり礼儀を知らないもので」

 

「あ、ああ。気にしてない。こっちこそ悪かったな…………」

 

もう一人の方が深く頭を下げて謝ってくるので、そう返すが………。

 

しかし、この二人は何なんだ?

以前はこんな奴ら見たことないんだが…………。

 

若い女は指先でその二人の頭を撫でながら答える。

 

「アザゼルさん、この子達は仲間です。こう見えても、とっても心強いんですよ?」

 

「そーだそーだ! 心強いんだぞ、おっさん!」

 

このちっこいの、初対面なのに俺のことおっさんおっさん言い過ぎじゃね!?

いや、おっさんだけどよ!

 

中年の男が訊いてくる。

 

「それで? 俺は(・・)ここに残っていざという時に出ていけば良いんだな?」

 

「ああ。教会の戦士達との戦いは言わば内輪揉めだからな。部外者であるあんた達が出ていくのは不味い」

 

そう、この男は保険だ。

クリフォトの横槍が入ってきた時にそれを真正面から潰せるだけの力を持った保険。

 

教会とのいざこざには使えない。

 

まぁ、出来ればそうならないのが一番だが、ほぼ確実に狙ってくるだろう。

 

ちなみにこのメンバーについては俺とイッセー達赤龍帝眷属しか知らない。

他の『D×D』メンバーには知らせていない。

 

というのも、他のメンバーには教会の戦士達の相手に集中してもらいたいという理由ともう一つ。

クリフォト側にこちらの余裕がないと見せるためでもある。

つまり、クリフォトの油断を誘うためだ。

 

リアス達は…………結構、顔に出るからな。

 

俺は真っ直ぐに四人の目を見る、頭を下げた。

 

「今回の件、力を借りることになる。―――――頼む」

 

『おうっ!』

 

 

[アザゼル side out ]




次回、冥府突入!


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11話 冥府乗り込みます!

冥府入りの許可が正式に下りたその日の夜―――――。

 

冥府に向かうメンバーは兵藤家地下室に集合していた。

向かうは赤龍帝眷属メンバーの俺、美羽、アリス、レイヴェル。

そして、ヴァーリチームからはヴァーリと美猴だ。

 

「異世界の神との戦い。楽しみだ」

 

「ま、俺っちも一応『D×D』のメンバーだしねぃ。たまには働かないと初代にどやされる」

 

ヴァーリのやつ、すんごい楽しそうだな………。

美猴も何だかんだで楽しみにしてるようだし………。

 

こうなるのは最初から分かってたけどね。

声かけた時も喜んで参加してきたし。

 

こちらとしてもこの二人の戦力は心強いから、参加してくれるのはありがたい。

 

実は冥府入りのメンバーにはもう一人いる。

 

「マスター、バナナはおやつに含まれるでしょうか?」

 

「ディルさん!? 遠足じゃないんだよ!?」

 

うん、今のやり取りでも分かるけど、ディルムッドも参戦。

美羽が行くとのことで、こいつも今回の冥府入りに手を挙げた。

 

確かに相手の魔法攻撃に対して、ディルムッドの槍は相性が良い。

何て言っても無効化してくれるからな。

ディルムッドの腕も相当なものだし、戦力として申し分ないんだけど…………。

 

リュックサックにバナナを詰め込んでいるところを見てると…………不安だ。

 

今回、俺はこのメンバーを率いる訳だが…………色々心配になる。

いや、戦闘とか全く関係ない方向で。

 

アリスが訊いてくる。

 

「彼女は?」

 

「今回は裏方だからな。俺達とは別ルートで冥府に入ることになってる。その辺りは先生が手配してくれているよ」

 

今回の件にあたり、助っ人は二人いる。

いや、呼んだのは四人なんだけどね。

他の二人はちょっと違うって言うか、彼女のサポートだしね。

 

この町には助っ人のうち一人だけ残していくけど、十分過ぎるだろう。

 

再会した後に少しだけ手合わせしたが…………生身じゃ太刀打ち出来ないほどに強くなってた。

鎧でもギリギリ…………いや、向こうはセーブしてあれだったから、下手すりゃこっちがやられてたな。

 

俺達の見送りには家に住む女性陣。

ヴァーリ達もいるためか、黒歌やルフェイもいる。

 

リアスが申し訳なさそうな表情で口を開く。

 

「ごめんなさい、イッセー。あなた達だけにこんな危険なことを任せてしまって………」

 

「気にするなって。こっちこそ、残れなくてごめん。………さっきも言ったけど、十分に気を付けてくれ。殺し合いにはならないと思うけど、それも絶対じゃない。向こうも必死で来るからな」

 

「ええ、分かっているわ。イッセー達も、あまり無茶をしてはダメよ? アザゼルからも話は聞いているけど、今回は最悪、調査でも良いとのことだったわ。お兄さまも、相手が相手だけにくれぐれも無茶はしないようにとのことよ。お願いだから、無事に帰ってきて」

 

「もちろん」

 

こういう会話をしていると死亡フラグが立ちそうで怖いけど、絶対に帰ってくるさ。

 

リアスが言った通り今回の冥府入りは最悪、向こうの状況だけ把握できれば良い。

流石に上層部も必ず奪還してこい、なんて無茶は言ってこなかった。

むしろ冥界の戦力を失わないためにも生きて帰って来いって言われたよ。

 

あの陰険な上層部がそんな心配をしてくれるとは、逆に驚いたよ。

それほど冥府の神ハーデスがボコボコにされたことが衝撃だったらしい。

 

足元の魔法陣が輝き、部屋を照らす。

 

俺は見送りに来ているメンバーの顔を見渡した。

 

「そんじゃ、行ってくる!」

 

転移の光が俺達を包み込んだ――――――。

 

 

 

 

冥府に行くためのルートはいくつかあるらしい。

今回、俺達が使ったルートは一度、冥界に転移して、そこから冥府へとジャンプするというもの。

 

冥界に転移した時、その場所にはサーゼクスさんとグレイフィアさんがいた。

そこで少し今回の任務について話した後、いくつかの念を押され、なんとか用意できたという人数分のフェニックスの涙を渡された。

クリフォトのテロ行為が頻繁に行われているこの状況下でよく用意してくれたと思う。

 

そして、今。

 

「ここが冥府………。何にもないわね」

 

アリスがあたりを見渡しながら、そう呟いた

 

見渡す限り荒れ地。

どこまで行っても何もない世界が俺の視界に広がっている。

 

こういうのが死の世界って言うんだろうな。

何もないし何もいない。

 

美猴が如意棒を肩でトントンとしながら笑う。

 

「な? マジで何にもないだろう? 俺ってば娯楽がない世界は嫌いでねぃ。あんまし冥府は好きじゃないんだわ」

 

その意見には同意する。

絶対に退屈するだろうな、この場所。

 

周囲に注意を払いながら、目的の場所を目指す。

冥府は冥界ほどの広大さはないらしいが、それなりに広い。

目的地―――――アセムがいると思われる、『ハーデス神殿』は冥府の最奥。

そこには話に聞いていた古代ギリシャ式の神殿が見える―――――――はずだった。

 

「おいおい………なんだい、ありゃ? あんなもんあったかね?」

 

美猴が思わずそう口にした。

冷や汗を流し、心底驚愕しているのが見てわかる。

 

小高い丘の上に立つ俺達の先にあるのは―――――――巨大な城だった。

いや、要塞と言った方が正しいか。

 

中央に巨大な城、それを囲むようにこれまた巨大な城壁。

そして、更に外側には大きさが百メートルくらいはある人型の超巨大魔獣の群れ。

頭には六つの目玉と剥き出しの牙、腕は六本もあって、背中には翼まで生えている。

それが少なくとも五十はいやがる。

 

………どれだけ頑丈な守りにしてるんだよ。

こいつを崩すには軍隊一つや二つじゃ足りないぞ?

 

美猴に続き、俺やアリスも冷や汗を流す中、こいつは―――――

 

「ふふふ、はははっ。これはかなり期待できるじゃないか。これが異世界の神とやらの力か! どうやら俺の想像遥かに超えているらしいな! ああ、今すぐにでも戦ってみたいものだよ」

 

ヴァ―リだけは笑みを絶やさなかった。

 

バトルマニアもここまでくると病気だな………。

美猴ですら呆れるほどだ。

 

美羽が訊いてくる。

 

「どうする? 真正面から行くの?」

 

「できるだけそれは避けたいとこだな。周りの魔獣、あいつらも相当厄介そうだし。魔獣達に察知されないように城の中に潜り込んで、それから――――――」

 

俺がそこまで言いかけた時だった。

 

城の方から声が聞こえてくる。

 

『やぁ、来ると思っていたよ、勇者君。まぁ、ちょっと予想より早かったけど』

 

その声と共に空中に映像が映し出された。

アウロス学園の時のように空中にアセムの顔が現れる。

 

アセムはこちらを捉えるとニッコリと微笑んだ。

 

『やっほー。この間ぶりだね。元気してた?』

 

アセムが挨拶しながら、手を振ってくる。

 

しかし、その後ろでは―――――――。

 

 

 

『ペドロ、お願い力を貸して! 妹が迷子になって………あの子きっと一人で泣いてるわ! 私どうしていいかわからないの!』

 

『アレ…警察とか電話したかお前』

 

『お願いペドロ!』

 

『ウチ今電話とめられてるからな』

 

『お願いペドロ!』

 

『お前らでもアレだな、困った時だけペドロペドロってさぁ。調子いいよね。こないださ、ウチピンポンダッシュしてったろ? おじさん知ってんだからな全部』

 

『だまれペドロ!』

 

『コラ! 大人に何てこというんだ! コラッ!』

 

 

 

 

「話す前にテレビを切れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

俺のツッコミが天をぶち抜き、冥府に響き渡る!

 

大音量でうるせぇんだよ!

なに敵を前にしてのんびりテレビ見てるんだよ!

 

つーか、なんつーもん見てんだ!?

 

舐めてるの!?

バカなの!?

 

「敵とかもどうでもいいからさ、殴っていい!? 殴っていいよね!? というか、殴らせてくんない、三百円あげるから!」

 

『なんで三百円?』

 

「知るか!」

 

俺の訴えを聞いてくれたのか、アセムはリモコンのボタンを押してテレビの電源を切る。

映像越しに大音量で流れていた音声が消えて、粗ぶっていた俺の心も落ち着きを取り戻した。

 

「いきなり、こちらのペースを乱すか。―――――これが異世界の神」

 

ヴァ―リが深読みしてる!

 

考察してるところ悪いけど、あれにそんな作戦はありません!

何も考えてないただのバカです!

見てた番組からしてただのバカです!

 

空からのんきな声が聞こえてくる。

 

『いやーゴメンゴメン。こんなに早く来るなんて思ってなくてさ。………で、君達がここに来たのは冥府の奪還かな?』

 

「まぁな。随分守りを固めてるじゃねぇか。攻めは上手くても守りは弱いのか?」

 

『あ、それ? それはある意味テストかな? そんな魔獣ごときを倒せないようじゃ、僕は倒せないし。無駄に時間を使うくらいなら、テレビでも見てた方が百倍良いよ』

 

テスト…………。

そりゃ、かなり合格点が高いことで。

 

多分、他の神話勢が攻めてくることを考慮して配置したんだろうけど、かなりの実力者揃いじゃないと突破は難しいだろうな。

そして、こいつらを『ごとき』と呼ぶアセムには各勢力の精鋭ですら手玉に取れるほどの力があるということ。

 

ま、それでも――――。

 

「そうかい。だったら、こいつらぶちのめすついでに、おまえも止めてやるよ。覚悟しとけよ?」

 

俺の言葉にアセムは不敵な笑みを浮かべる。

 

『へぇ。だったら僕のところまでおいでよ。そしたら相手してあげるからさ。―――――待ってるよ』

 

それだけ言い残して、上空に映し出された映像は途切れた。

 

――――――上等だ。

 

今度こそ俺はおまえを倒すぞ。

とりあえずは今までの借りを返させてもらう。

そんでもって、おまえの企みを聞かせてもらうからな。

 

『グォォォォォォォォォッ!』

 

巨体魔獣の一体が咆哮をあげ、ギョロりと六つの目玉でこちらを睨む。

どうやら、俺達を敵と認識したらしく、地響きをたてながら、こちらに向かってくる。

その大きさだけに一歩踏み出すだけで、大地が激しく揺れる。

それが五十体以上同時となれば、ほとんど地震。

怪獣大進撃だよ。

 

「面白い。俺は先に行かせてもらうぞ」

 

「そんじゃ、俺っちもリーダーに着いていくわ」

 

あ、ヴァーリと美猴が先に行っちまいやがった!

ヴァーリは光翼、美猴は觔斗雲に乗ってガンガン進んで行く!

 

あいつら協調性なしかい!

 

だけど、こうなったら俺達も行くっきゃないか!

 

「俺達も行くぞ!」

 

「あのデカいの相手にしないといけないのね…………」

 

「まぁ、こうなった以上しょうがないよね。レイヴェルさんはお兄ちゃんをサポートしてくれる?」

 

「はい! 任せてください!」

 

「では、私はマスターのお手伝いを」

 

「ははは………よろしくね、ディルさん」

 

言葉を交わすと各自、巨大魔獣へと向かっていく。

 

既に先行したヴァーリ達も戦闘に入っていて、轟音が轟き始めていた。

 

ヴァーリは鎧を纏うと濃密な魔力を手元に溜めて、攻撃を開始する。

以前よりも魔力の密度が上がっていて、一発一発が強力さを増していた。

 

「おらよっと!」

 

美猴も如意棒を巨大化させて、魔獣の頭上から振り下ろしていた。

 

二人の攻撃で表面が爆ぜる…………しかし、魔獣自体は大したダメージではないと言わんばかりに火を吐き散らし、豪腕を振るってくる。

 

俺もアグニを数発撃って、対応してみる。

赤い光の奔流は魔獣の腕を呑み込み、消し去った。

だが、ヴァーリ達と同様に魔獣は真っ直ぐこちらに向かってくる!

 

『ガァァァアアアアアアアア!』

 

数体の魔獣が空へ飛ぶ!

空に上がった魔獣達は一斉に火球を吐き出してくる!

 

この攻撃、超獣鬼(ジャバウォック)並か!

 

俺は即座に鎧を天翼(アイオス)に変えると、フェザービットを射出!

八基のビットを操作して頭上に防御障壁を展開した!

 

クリアーレッドの障壁と灼熱の球体がぶつかる!

 

「ちぃ………! やっぱ、このテスト難易度高くね!? レイヴェル!」

 

「はい!」

 

レイヴェルは俺の指示に応じると、炎の翼を広げて、お返しの火球を放って応戦に入る。

 

修業の成果もあって、レイヴェルの力は眷属になる前と比べると飛躍的に伸びた。

今放っている火球もかなりの熱量を持っていて、触れれば炭になってしまうだろう。

 

そんな業火球を受けても、空飛ぶ人形の魔獣は延々と火を吐き続けてくる。

 

…………レイヴェルの炎でも表面が焦げる程度かよ!

 

すると、レイヴェルが叫んだ。

 

「イッセーさま! あれを!」

 

レイヴェルが指差す先には俺が腕を消し飛ばした一体の魔獣。

腕の断面から触手が伸び、無くなった腕を再生させていった!

 

この魔獣、再生機能持ちかよ!

 

更に厄介なことにこいつら――――――。

 

「お兄ちゃん、後ろ!」

 

「分かってる!」

 

正面の炎を受け止めている中、背後から迫ってくる魔獣!

こいつら、連携を取って攻撃を仕掛けてくる!

 

高い攻撃力に高い防御力。

スピードもあり、再生能力もある。

 

「面倒な奴らね!」

 

白雷を纏ったアリスが破壊力に満ちた一撃で魔獣を横から吹き飛ばす!

 

冥府入って早々にこんな怪獣共との激戦になるなんてよ!

こんなことなら、タンニーンのおっさんでも連れてこれば良かったか!?

ティアはアジュカさんのところで、タイミング悪いし!

 

「兵藤一誠、あれは?」

 

「あれ?」

 

ヴァーリに言われて、そちらに視線を移す。

 

すると、巨大な城から何か…………赤い群れがこちらに向かってくるのが見えた。

 

それは――――――。

 

「俺の複製かよ! どんだけ投入してきてんの!? 鬼か!」

 

そう、複製赤龍帝の大群がこちらへと向かってきていた!

百や二百じゃきかねぇ!

あいつ、俺の力をほんっと好き勝手に使ってくれるな!

 

よし、絶対に後で殴る!

 

そのためにも絶対にここは突破しないといけない!

出来るだけ使いたくなかったが、背に腹は代えられない!

 

「アリス! 先に謝っとく! ゴメン! ほんっとゴメン!」

 

「え!? なに!? なにが!?」

 

「今謝ったから後で殴らないでくれよ!」

 

「あんた、一体何するつもり!?」

 

とりあえず謝った!

今謝ったから、アリスパンチは来ない…………と願いたい!

 

「全員、後ろに下がって伏せろぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

「「「っ!」」」

 

俺の叫びに全員が飛び退くように後方に下がった。

 

「前方の敵を消滅させる!」

 

それを確認した俺はイグニスを召喚。

刃を眼前の魔獣の群れと複製赤龍帝の群れに向ける!

 

フェザービットが頭身にくっつくと、カシャカシャという音と共に変形、イグニスと一つになる!

 

「ロンギヌス…………ライザァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

刀身から放たれる莫大な紅蓮のオーラ!

巨大過ぎる紅蓮の刃が眼前の敵を呑み込んだ!

紅蓮の刃を横に振るって、残りの敵を追いかける!

 

「オォォォォォォォォッ!!」

 

獣のごとき咆哮と共にロンギヌス・ライザーの光は巨大な魔獣共と俺の複製体を一瞬でこの世から消し去った――――――。

 

 

 

 

「はぁ………はぁ…………ぐっ!」

 

ロンギヌス・ライザーを放った俺は案の定、フラフラになっていた。

全身から力が抜け、鎧も解除される。

 

俺が地面に降り立つと、後ろに下がっていた皆が駆け寄ってきた。

 

美羽が俺の汗をタオルで拭いながら訊いてくる。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

「あ、あんまり………大丈夫じゃないかも…………」

 

お兄さん、早速限界です………。

初っぱだと言うのに、全力の技をぶちかましたから、体力をごっそり持っていかれた。

 

「今のが兵藤一誠の全力か」

 

「おいおい、さっきの奴らが跡形もなく消え去ったぜぃ。なんつー技持ってんだか」

 

鎧を解除したヴァーリと美猴が辺りを見渡しながら言う。

 

さっきの魔獣はもちろんいない。

それに地表付近で放ったためか、辺り一帯の地面が灰になってしまっていた。

ついでに言うと城を囲っていた城壁も一部完全に消滅している。

 

流石はイグニスの力をフルで使う技だけあって、頑丈そうな壁もいちころだな。

 

………が、こっちも相応の代償を払うことになってしまった。

 

アリスがため息を吐く。

 

「いくらなんでもあんな大技を使わなくてもいいでしょ? フラフラじゃない。………まぁ、あれ以上長引かせるのも問題だったけどさ」

 

あのまま戦っていたら、完全に持久戦に持ち込まれていただろう。

そうなると、数に劣るこちらが痛手を受けていたに違いない。

 

突破できたとしても、後に控えているアセムやその下僕達を相手に戦えなくなる。

そんな甘い相手じゃない。

 

ここは俺一人が負担を負うのがベストだと考えたんだ。

 

ま、まぁ、俺には回復薬もあるし…………。

 

アリスが訊いてくる。

 

「で? さっきは何で謝ってきたのよ?」

 

「あ、うん………あの、ちょっとこっち来てくれる? あと、美羽も」

 

俺は美羽とアリスを連れて、ヴァーリ達から距離を取った。

 

美羽に空間遮断型の結界を張ってもらい、周囲からは俺達の姿も見えなくし、更には声も聞こえないようにしてもらった。

 

俺は周囲をキョロキョロ見回した後、アリスに一言。

 

「…………おっぱい、吸わせてください」

 

全力のアリスパンチが俺の顔面を撃ち抜いた。

 

 



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12話 突入! アセムの城!

ついに300話達成!
これも本作を読んでくださる皆さんの応援のお陰です!
今後もよろしくお願いします!



「うぅぅ………っ」

 

「そ、そんなに怒らないでくれよ………」

 

「あんたね………私の胸はあんたの回復ツールじゃないんだからね!?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

涙目でお怒りのアリスに土下座で謝る俺。

 

ロンギヌス・ライザーでかなりの力を消費してしまった俺はアリスに頼んでおっぱいを吸わせてもらった。

吸わせてもらったのだが…………案の定、怒りのアリスパンチが炸裂。

回復する代わりに大ダメージを負ってしまうことに。

 

ここで「殴らないでって言ったのに…………」なんてことを言うのはなしだ。

全面的に俺が悪い。

 

ま、まぁ、何だかんだで吸わせてくれたし、あの一発で済んだのだから良しとしよう。

 

アリスが胸を抱きながら言う。

 

「一体どれだけ吸うのよ………。胸が萎むかと思ったじゃない」

 

結構長いこと吸ってたもんな。

それだけ消耗が激しかったということなのだが…………。

 

実は途中からアリスが可愛くて夢中になってたのもある。

美羽に結界張ってもらってるし、誰にも見られないから良いかなって。

 

ただ、そんなことを言ってしまうと、アリスパンチがもう一発飛んできそうなので黙っておくよ。

 

「えっと………とりあえず、アリスのお陰で回復できたよ」

 

「あれだけ吸っておいて回復してなかったら、もう一発殴るところよ。………ベッドの上ならいくらでも良いのに………」

 

「………ま、マジ?」

 

目を見開く俺!

ベッドの上ならいくらでも良いだと………!?

 

そ、そんな………あのアリスがそんな………。

 

俺の反応にアリスはぷいっと向こうを向いてしまうが、

 

「だって………今さらじゃない」

 

確かに今更だよ!

今更だけどね、改めて言われるとこっちも色々張り切っちゃうの!

 

アリスさん、耳まで真っ赤だよ!

えぇい、殴られてもやっぱり可愛いものは可愛いか!

アリスさん最高!

 

すると、ヴァーリが呟いた。

 

「ドラゴンを回復させる方法…………やはり、乳にその秘密が?」

 

「いやいやいや、あれはおっぱいドラゴンだけじゃね?」

 

美猴の言う通りだよ!

この方法は俺限定です!

ヴァーリまで乳で回復しようとしないで!

 

つーか、ヴァーリのやつ、意味分からずにそういうこと言ってるだろう!?

そういうことに興味を持つのはおっぱいの素晴らしさに気付いてからにしなさい!

 

あと、アリスは俺のだならな!

絶対にあげないからな!

 

おまえは別でそういう女性を探しなさい!

アザゼル先生も心配してたし!

 

俺が心の中でツッコミを入れまくっていると、美羽が訊いてくる。

 

「お兄ちゃんはもう全快したってことで良いの?」

 

「いや、流石に全快とまではいかないかな。三分の二ってところか」

 

精神的には全快したけどね。

リアスもいれば、体力的に全快までいったんだろうけど、リアスは向こうだし。

 

俺達は灰と化した地面を踏み締め、アセムのいる城へと向かう。

魔獣が完全消滅したためか、俺の複製体が向かってくる様子もない。

 

こいつはアセムの言うテストを合格したってことで良いのかね?

 

崩れた城壁を抜けると、眼前には巨大な黒い城。

グレモリーやフェニックスの代よりも大きいんじゃないだろうか。

ただし、特に飾り気があるわけでもなく、黒一色でいかにも悪役が住んでそうな場所だ。

 

城の至るところに大きな入り口のような場所が見られるが…………。

 

「あそこから兵藤一誠の複製体が出てくるのが見えた」

 

ヴァーリの言うように、あそこから俺の複製体が出現した。

カタパルトデッキみたいな感じなのかね?

その必要性は特にないように思えるけど…………。

 

しかし、あそこから出てきたということは、あそこから攻めるのは避けた方が良いんだろうな。

敵の軍勢のど真ん中に突っ込むようなものだし。

 

周囲を警戒しながらも、そんなことを考えていると―――――。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。

 

 

高さが十メートルほどある巨大な鉄の門が動き始めた。

地響きを立てながら、俺達を迎え入れるように開く門。

 

これはアセムからのメッセージだろう。

だって――――――。

 

美羽が呟く。

 

「『ようこそ、アセムくんハウスへ!』………?」

 

門が開いた先には立て札があって、イラスト付きでそんな言葉が書いてあるんだもん!

イラストが結構上手いところが微妙に腹立つ!

 

あの野郎、絶対に楽しんでる!

俺達は遊びに来た友達じゃねーんだよ!

 

「見ろよ、ヴァーリ。左に進んだら食堂らしいぜ?」

 

「マスター…左…もぐ………に進みましょう。……もぐ……左が怪しいです」

 

「ディルさん、とりあえずバナナ飲み込もう。お行儀悪いよ?」

 

「ふぁい」

 

右手には槍、左手にはバナナ!

ディルムッドのやつ、戦いに来たの!?

遠足に来たの!?

つーか、左に進むって、おまえが何か食いたいだけだよな!

見え見えだから!

 

やべーよ、この面子だとツッコミが追い付かなくなりそうだ!

ドライグ、おまえだけが頼りだ!

 

『アルビオン、そっちに遊びに行ってもいいか?』

 

『いつでも来るといいさ。また昔話に花を咲かせようではないか』

 

ドライグがアルビオンのところに逃げたぁぁぁぁぁ!

ツッコミを放棄するつもりか!?

 

あと、おまえら、本当に仲良くなったな!

ついこの間まで喧嘩してたのによ!

別に良いことなんだけどさ!

 

アリスが言う。

 

「入って早々、左右と正面に分かれ道。ここはグループを三つに分けるべきかしら?」

 

「出来れば固まって動きたいところだけど、その方が良いか」

 

探索する時間なんてない。

あと数時間後には駒王町で教会の戦士達との決闘が始まる。

それ自体にはそこまで心配はしていないが、注意すべきなのはクリフォトの動きだ。

 

ま、最強の助っ人を置いてきているから、大丈夫だと思うけどね。

 

教会との件もそうだけど、あまり時間をかけるとアセム達がどんな手を使ってくるか分からない。

そういう面でも短時間で済ませたい気持ちはある。

 

こうなると問題はどういうグループに分けるかだが………。

 

ヴァーリが言う。

 

「俺と美猴は正面から行かせてもらう」

 

「ま、そっちはそうなるよな」

 

連携を考えると俺とヴァーリはともかく、それ以外はあまりよろしくないだろう。

この場のメンバーなら、即興のチームでも合わせられるとは思うが、相手が相手だ。

可能な限りベストなメンバーかつ、戦力を均等に分けたい。

 

ヴァーリチームは決定として、残るは俺達赤龍帝眷属+ディルムッドをどう分けるか。

 

ディルムッドが美羽の傍に立つ。

 

「私はマスターと共に行く」

 

「だろうと思った。………そんじゃ、俺とアリスのチーム、美羽とディルムッドとレイヴェルのチームにするか。俺はアリスが一番連携取りやすいし、そっちのチームなら、ディルムッド前衛で美羽とレイヴェルが後衛で組めるだろ」

 

俺とアリスは長いこと一緒に戦ってきただけあって、眷属の中でも一番息が合っている。

しかも、俺のアリスは二人とも前衛と後衛を切り換えることもできる。

 

美羽達はというと、ディルムッドは完全な前衛。

美羽は全体的なサポートから強力な魔法攻撃もできる。

レイヴェルは美羽と合わせて後方からの攻撃で前衛をサポート出来るだろう。

美羽とレイヴェルは『僧侶』同士で合わせ技も訓練してるし、何だかんだでディルムッドと美羽の連携も良いんだよね。

 

なんと言うか、ディルムッドの美羽愛が日に日に増しているような気もするんだが…………。

仲が良いのは良いことなので、今は置いておく。

 

「じゃ、俺とアリスは右で美羽達は左、ヴァーリ達は正面の通路だ。何かあったらインカムで連絡してくれ。直ぐに駆けつけるからよ」

 

 

 

 

美羽達と別れて三十分ほど経った頃。

 

「ねぇねぇ、主様」

 

「なんだい、アリスさん?」

 

「私達って、なんでこんなことなったんだっけ?」

 

穏やかな口調で会話する俺とアリス。

声だけ聞けば縁側でのんびりお茶でも飲んでそうな感じだ。

あぁ、そんなのんびりした生活が送れたらなぁ。

 

こんなことを思ってしまう俺は間違っているだろうか。

今の状況は少しでもそんな願いを持ってしまった俺への罰なんだろうか。

 

天国にいるじいちゃん、教えてください。

どうしたら、俺はのんびりした生活がおくれますか?

 

 

「ぬぉぉぉぉぉぉ! 走れぇぇぇぇぇ! 全力で走れぇぇぇぇぇ!」

 

「走ってるわよ、バカァァァァァァ!」

 

薄暗い通路に響く俺とアリスの絶叫!

俺達は背後から迫る物から逃れようと全力で走っていた!

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!

 

 

大きな音を出しながら転がってくるのは巨大な球!

さっきから俺達をどこまでも追いかけてくる!

 

「アセムのやつ、こんなベタな仕掛け施しやがってぇぇぇぇぇ!」

 

「イッセー! あんた、何とかしなさいよ!」

 

「何とかできるなら、とっくにそうしてるわ! つーか、おまえがあんな紐引っ張るからだろ!? 見え見えの罠だったじゃん! 明らかに罠だったじゃん!」

 

「『人はなぜ紐を引っ張るのか…………それはそこに紐があるから』という言葉を知らないの?」

 

「知らない! そんな言葉知らない! 『山』なら知ってるけど『紐』は知らない!」

 

あぁ、もう!

なんでこんなことになった!?

なんで敵地に乗り込んで、こんなギャグみたいな罠に追い詰められてるんだよ!?

 

後ろから転がってくる球。

破壊しようとしても、ビクともしなかった。

 

多分、アセムが強力な術か何かで作ったんだろうけど…………。

仮にそうだとしたら、あいつ、どれだけくだらない罠に本気だしてんだ!?

 

その時、通路のスピーカーから声が聞こえてきた。

 

『ブッ……ハハハハハ! ま、まさか、あの紐、本当に引くとは思わなかったよ! さ、流石はシリアスブレイカー! くっ……ひぃひぃ………わ、笑いすぎてお腹いたい!』

 

「うるせぇぇぇぇぇ! アセム、てめぇ、なんつーベタな罠仕掛けてんだよ!?」

 

『だって、ダンジョンとかでこういうのはお約束じゃん? あ、もうすぐ新しい罠くるよ?』

 

その瞬間、俺が踏んだ石がガコンッと沈む。

 

すると――――――。

 

天井に大きな穴が開き、そこから槍やら剣が大量に降ってきやがった!

しかも、全部が聖剣やら魔剣の類い!

 

降ってきた槍が俺の足の真横に突き刺さった!

 

「キャァッ! あんたも罠踏んでるじゃない!」

 

「今はそんなこと言ってる場合じゃねぇ! 走れ! とにかく走れ! あのでっかいのまだゴロゴロきてるから!」

 

上から降ってくる刃の雨。

背後から迫ってくる巨大な球。

しかも、球はアグニをぶちこんでも壊れないときている!

 

逃げるしかねぇぇぇぇ!

 

「くだらねぇことに力使いやがって! 余裕のつもりか!?」

 

『くだらないと思えることにも全力を尽くす………それがプロフェショナル』

 

「深い! だけど、今は必要ない名言! つーか、おまえはただの遊び人だろ!」

 

『よく分かったね。そう、僕はRPGする時、ミニゲームに結構時間を費やす方なのさ!』

 

「知るか、ボケェェェェェ!」

 

叫びもむなしく、未だゴロゴロ転がってくる球。

 

どこか、どこか逃げ込めるところは………。

逃げ道を探す俺の視界に一つの扉が映った。

 

通路右手側の壁にある扉!

 

「アリス! あそこの扉に飛び込め!」

 

「っ!」

 

俺の言葉に反応したアリスが白雷を纏って、かつてないスピードで扉に飛び付いた。

 

アリスが扉を開け、そこに俺は飛び込んだ―――――。

 

 

 

 

「はぁはぁはぁ………なんでこんなことに…………」

 

床に膝をついて、肩で息をする俺とアリス。

 

部屋に飛び込んだ俺達は何とかあの巨大な球から逃げることが出来た…………が、疲労が半端じゃない。

主に精神的な疲労が…………。

 

「私…………もうぶら下がってる紐なんて引かない…………」

 

うん、もう絶対に引かないでね。

こんな展開、もう二度とゴメンだから。

あんなベタ過ぎる罠にかかるなんて絶対にゴメンだから。

 

漫画でしか見たことない罠を仕掛けてくる相手も相手だけどさ…………。

 

あいつ、絶対に楽しんでるよ。

どこまでも楽しむつもりだよ…………。

 

呼吸を落ち着けたところで、辺りを見渡す。

 

ここは広い部屋だった。

冥界で行われるパーティーの会場ほどの広さ。

天井には豪華なシャンデリア、床には大理石、壁は白く塗られていて、通路と違い室内はかなり明るい。

 

ここからアセムのいる場所までどう行けば………?

そもそも、あいつはどこにいるんだよ?

 

「どっかに地図とかないか?」

 

「あるわけないでしょ。一応、敵地よ?」

 

「そりゃ、そうなんだけどさ」

 

感覚を広げて気で居場所を探ろうとしても、アセムの居場所だけは掴めない。

美羽やヴァーリ達の現在地なら把握出来るんだけど…………。

この城自体に何かしらの仕掛けをしているのか?

それとも、自身の気を覚られないように完全に消しているのか。 

 

どっちにしろ、あいつを見つけないことには始まらないか。

 

今いる部屋から移動しようとした時、この部屋に一人の気配が現れる。

 

「お久しぶり、勇者くん。それと王女様。いえ、ここは明けましておめでとうと言った方が良いのかしら? 前に会ったの先月だし」

 

アセムと同じくのんびりした声と共に現れたのは、浅黒い肌に白色の長髪をした美女――――――ヴィーカだ。

ヴィーカは部屋の真ん中に立ち、こちらに微笑みを向けていた。

 

俺はヴィーカに言う。

 

「明けましておめでとう………というには少し日にちが過ぎてるような気もするけど、久しぶりだな。一人か?」

 

「ええ、そうよ。さっき、ラズルは………ヴァーリくんだったかしら? あのリゼヴィムおじさまのお孫さん。彼のところに行ったわ」

 

ラズルはヴァーリのところか。

向こうには美猴もいるから二対一で数ではこちらが有利だけど…………あまり意味ないか。

それにラズルもヴァーリもバトルマニアだし、サシで殴りあってる気がする。

 

アリスが一歩前に出る。

 

「それで? あんたは私達の相手をしにきたってことで良いのかしら?」

 

「まぁ、そうなるんだけど…………流石の私でもあなたと勇者くんの二人を相手にするのはキツいわ。ベッドの上なら三人でも良いんだけど。いっそのこと、ベッドの上で一戦交える?」

 

ヴィーカはスカートの裾を持ち上げ、艶かしい太ももをチラ見せしてくる!

俺を誘惑してくるつもりか!

 

そんな手に俺がかかるとでも――――――。

 

「マジでか!」

 

「あんたは一々そこに反応するんじゃないの! って、ガッツリ引っ掛かってるじゃない! このスケベ勇者!」

 

「ゴフッ!」

 

白雷のアリスパンチが俺を撃ち抜く!

超痛いが、いつもの痛みだ!

 

俺は流れる鼻血を手で押さえながら苦し気に言った。

 

「わ、悪いけどベッドの上はなしで…………」

 

「あら残念♪ やっぱり、王女さまに怒られる? あれでしょ? 王女さまってあなたの前ではデレデレになってるんでしょ? そこのギャップが良いとか?」

 

ふっ………分かってるじゃないか。

 

うちのアリスさんはなぁ!

普段だらだらしたり、グーパンチとんでくるけど、甘えてくる時は超可愛いのさ!

 

お休みのキスとおはようのキスを求めてくる時なんて…………マジ乙女!

 

「もうね、可愛くてしゃーないんだ!」

 

「こ、声に出して言わないでよ…………バカ」

 

顔を赤くして俺の服の袖を握ってくるアリス!

こういうところがまた良いよね!

 

と、話が脱線したな…………。

 

ヴィーカが俺とアリスの二人を相手取るのかという話だった。

本人はキツいって言ってるけど、実際はどうだか。

 

ヴィーカ達はまだ何か俺達に見せていない奥の手がありそうなんだよな。

 

ヴィーカが訊いてくる。

 

「どうする? 私は一人でも二人でもいいけど?」

 

ヴィーカから放たれるプレッシャーがパーティー会場のように広いこの部屋を満たしていく。

 

この雰囲気だと、マジで俺達を相手に戦えそうだな。

それだけの手札を持っていると言うことかね?

 

その時、耳にはめたインカムからレイヴェルの声が聞こえてきた。

 

『イッセーさま、大変です! 美羽さんが―――――』

 



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13話 世界の在り方

[アリス side]

 

「行かせて良かったの?」

 

ヴィーカがとある扉を見つめながら、そう訊いてきた。

 

開かれた扉は時間が経った今でも前後に揺れていて、開けた者がどれだけの勢いで開いたのかが良く分かる。

良く見れば扉の金具が僅かに変形していて…………。

 

急ぎすぎ…………なんて言えないか。

 

私は一度目を閉じると深く息を吐く。

 

「良いのよ。あいつがそうしたいのなら、私はそれを支えるだけ。私はイッセーの『女王』。だったら、あいつが通る道を切り開いてあげるのは私の役目でもあるもの」

 

「随分とラブラブね。でも、二対一なら私を倒せたかも知れない。そのチャンスを逃したことにもなるわ」

 

確かにイッセーと二人がかりなら、倒せる確率は倍以上になる。

EXA形態のイッセーなら、一人でもヴィーカを倒せるだろう。

 

ヴィーカの言う通り、私は絶好の機会を逃したことになる。

相手の戦力を削ぐのなら勝てる確率か高い方を選ぶべきだ。

 

それでも、美羽ちゃんはあいつにとってかけがえのない存在だもの。

行かせてやりたいじゃない。

 

それに――――――。

 

「私があんたを倒せば何も問題ないでしょ?」

 

白いオーラを纏い、稲妻が迸る。

体から発っする白雷で周りを焦がしながら私は槍を構えた。

 

そう、私が一人で倒せば何も問題はない。

そもそも、こいつは一人で倒すつもりだった。

 

ここまで何度も矛を交えてきた。

今のところ二戦中一敗と一引き分けで私が負け越している。

そろそろ勝ち星を増やしたいところなのよね。

 

ヴィーカは手元に槍を創り出す。

 

「うふふ、いい目じゃない。女の意地ってやつかしら?」

 

「残念。これに関しては違うわ。――――――騎士としての意地よ」

 

黒いオーラと白いオーラが衝突した――――――。

 

 

[アリス side out]

 

 

 

 

[美羽 side]

 

 

時は少し遡る。

 

ボクとレイヴェルさん、ディルさんのチームはお兄ちゃん達と別れた後、薄暗い通路を真っすぐに進んでいた。

人の気配もなく、何かが襲ってくる気配もない。

 

さっき、何かの紐が天井からぶら下がっていたけど…………明らかに罠だったから引っ張らずに放置した。

 

レイヴェルさんが呟く。

 

「あんな見え透いた罠に引っかかると思ってるんでしょうか?」

 

「誰も引っかからないだろうな。引っかかる者がいるとすればただの馬鹿だ」

 

バナナ片手にディルさんがそう返す。

 

ディルさん、冥府に入ってからずっと口が動いてるよ………。

そんなにお腹すいてるのかな?

………晩御飯食べてきたのに。

 

二人が言うようにあんな罠に引っかかる人はいないとボクも思う。

だって見え見えだもん。

あれ引っ張たら、巨大な球が転がってくるとかだよ、絶対。

アニメとかでよくあるし。

 

そんな会話をしながら更に進んでいくと、とある広間に出た。

そこはかなりの広さを持つ円形の広間だった。

石畳が敷き詰められた床に、上を見上げればドーム型の天井がある。

壁には鮮やかな色合いのステンドグラスが嵌められていて、外からの光を中に取り込んでいるようだった。

 

いや、外の光にしては明るすぎる。

多分、魔法か何かで明るくしているんだと思う。

 

周囲の様子を伺うボク達の前方、二十メートル程離れた場所に一つの影を見つける。

 

幼い少女がそこにいた。

真っ白な肌に足元まである真っ白な髪。

何もかもが白い少女。

 

絵師(マーレライ)』のベル!

 

ここで彼女に出くわすなんて!

 

強敵を前にして、ボク達は一斉に構えた。

彼女の実力はアウロス学園防衛戦の時に実感している。

触れた相手のコピーを産み出す能力、描いた物を具現化する能力、具現化した魔獣達を融合させる能力。

更に相手の力を封じる魔法まで使ってくる。

 

あの時は援軍に来てくれたディルさんのお陰で窮地を免れたけど、今回も上手くいくとは限らない。

 

凶悪な能力を持っているなんて想像できない程、可憐な少女は首を可愛く傾げた。

 

「あの時のお姉ちゃん達だ。…………一人知らないお姉ちゃんがいるけど…………誰だっけ?」

 

ベルの視線の先にはレイヴェルさん。

 

あれ………?

レイヴェルさんって、確かベルと一度遭遇してるよね?

コピー取られた、あの時に。

レイヴェルの複製からフェニックスの涙を量産してるって聞いてるけど…………。

 

視線を向けられたレイヴェルさんは肩を震わせると、胸に手を当てて叫んだ。

 

「レイヴェル・フェニックスですわ! あなた、私のコピーを作っておいて忘れるとはどういうことですか! フェニックスの涙まで勝手に量産して!」

 

「あ、そっか。あの時の小さいお姉ちゃん」

 

「うぬぬぬぬ! 人が気にしていることを………! こ、これでも毎日牛乳飲んで努力しているんですから! いつか高身長のレディになってみせますわ!」

 

「………ふーん」

 

「なんですの、その全く関心がないという態度は!?」

 

「ま、まぁまぁ、落ち着こう、レイヴェルさん。レイヴェルさんもきっと大きくなれると思うよ? まだ成長期なんだし」

 

レイヴェルさんの肩に手を置いて、何とか落ち着かせるボク。

 

………でも、レイヴェルさんに身長抜かれたらちょっとショックかも。

ボクも牛乳飲んでるんだけど、中々伸びないんだよね。

 

って、そんなことは今はどうでも良くて、今はベルを何とかしないと。

 

ボクはベルに問う。

 

「ボク達と戦うつもり?」

 

ボク達が彼らの根城に乗り込み、ボク達を待つようにベルがいた。

訊くまでもなく彼女は戦うつもりでここにいるはず。

だけど、彼女から殺意も敵意も悪意も感じないんだよね。

 

まぁ、それは前回もなんだけど。

そもそも彼女にはそんな意思はない………と思う。

 

すると、彼女は小さな口を開いた。

 

「うん。ヴィーカ達も戦ってるし、ベルも戦うよ?」

 

「周りの人が戦うから、君も戦うってことなのかな?」

 

「うん。それにパパの願いを叶えてあげたいの」

 

パパ………彼女たちの生みの親であるアセムの願い?

 

お兄ちゃんも気になっているけど、結局のところアセムの目的は何なんだろう?

リゼヴィムに協力してる時点で敵………なんだけど、どういうわけかベルやヴィーカ達からは悪意なんてものは伝わってこなかった。

 

例えばアウロス学園でお兄ちゃんと戦ったラズル。

彼はリゼヴィムやユーグリッド、邪龍たちのように子供や父兄たちを相手にしようとしなかった。

そこにあるのはただ強い者と真正面から戦いたいという闘志。

 

………単なるバトルマニアとも言えるけど。

 

とにかく、アセムとその一行は敵らしくない敵だと感じるボクがいる。

 

 

その時だった――――――。

 

 

「まぁ、あまり無理してほしくないって親心はあるんだけどね~」

 

その声は突如として、後ろからやってきた。

 

あまりに予想外の声にボク達の反応は遅れる。

 

流れる汗、速くなる鼓動。

視界がぐらつくほどの緊張がボクを襲う。

早く………早く後ろを向いて対応しなきゃいけないのに動けない。

 

ボクだけじゃない、レイヴェルさんも…………ディルさんでさえも同じだった。

 

ようやく後ろを向けたと思うと、そこにはニッコリと微笑みを浮かべた少年がいて――――――。

 

「そんなに怯えなくてもいいよ? なにもとって食おうってわけじゃないんだからさ。それに――――――僕は結果の見える勝負はしないんだ。あ、もちろん例外はあるけどね?」

 

「「「――――――っ!?」」」

 

今回の冥府入りで最大の敵。

ボク達が冥府に入るきっかけを作ることになった存在。

冥府の神ハーデスを倒した異世界の神――――――。

 

「やっ♪ いきなりドッキリ、アセムくんでーす♪」

 

な、なんて軽い挨拶………。

 

でも、それ以上に驚くべきことは声を掛けられるまで接近に気づけなかった………!

気配を全く感じさせずにここまで近づいてくるなんて………!

一体どれだけの力を持っているのだろうか。

 

「さて、とりあえず君に来てもらおうかな。シリウス君の娘さん?」

 

「――――――えっ?」

 

気づけば、アセムはボクの懐に立っていて――――――――。

そのままボクは光に包まれていった―――――――。

 

 

 

 

光が止み、目を開けると――――――。

 

「リビング………?」

 

フローリングの床にテーブル、ソファ、テレビ。

それにキッチンまであるこの部屋はよくある住宅と同じつくりだった。

 

………なんでリビング?

なんでこんなゆったりした空間があるの?

 

ツッコミを入れるべきなんだろうけど、色々と思考がついてこない。

 

そもそもなんでボクはここに連れてこられたんだろう?

 

「テキトーに座ってよ。お茶ぐらいは出すからさ」

 

声がした方を見るとアセムがキッチンでお湯を沸かしていた。

 

う、うーん………なんて緊張感のない………。

 

少しすると、アセムは紅茶を淹れたティーカップを二つ持って来た。

 

「そんなに警戒しなくても良い………って言っても無理か。僕って敵だし~」

 

「………なんで、ボクをここに?」

 

「君はあのシリウス君の一人娘だからね~。一度話してみたかったんだよ~。ほら、勇者君とは話したことあったけど、君とは話したことないじゃん? あ、そういえば王女様とも話したっけ」

 

確かに………。

お兄ちゃんやアリスさんは彼と直接話したことがあるらしいけど、ボクは一度もない。

一度しか話したことのないアリスさんはアセムを悪意の塊って言ってたけど、お兄ちゃんはよく分からないと言っていた。

 

 

――――――初めて話した時はリゼヴィムと同類だと思った。でも、何か違うんだ。あいつは………悪い、俺もあいつが何がしたいのか分からないんだ。今回、それが分かれば何歩か前進すると思うんだけどな。

 

 

元々はアスト・アーデの善神だって話だし、彼がこの世界に牙を剥く理由が分かるかも………?

 

ボクは無言でアセムの向かい側の席に腰かけた。

 

「うん、いい反応だね」

 

ボクの行動にアセムは微笑みを浮かべ、ティーカップに口をつけた。

 

ボクはアセムに問う。

 

「単刀直入に訊くね? 君は何のためにこの世界で動いているの? アスト・アーデの神であるはずの君が、なんでリゼヴィムに協力しているの? まさかと思うけど、君も異世界侵攻なんて考えているの?」

 

「いきなり質問攻めだね。とりあえず、最後の質問から答えておくけど僕は異世界侵攻なんて考えてないよ? そもそもリゼ爺ごとき(・・・)じゃアスト・アーデは崩せないよ。たとえ邪龍軍団を使おうともね」

 

今、『ごとき』って言った………?

協力関係にあるはずなのに?

 

アセムはクッキーをポリポリ食べながら続ける。

 

「少し前のアスト・アーデなら墜とされただろうけど、今のアスト・アーデは世界そのものが一つになった。人間も魔族も、そして神ですらも。その証拠にあのロスウォードを倒しただろう? 直接戦い倒したのは勇者君だとしても彼だけでは倒せなかった。そう、世界が一つになったからこそあの子(・・・)を倒すことができたんだ」

 

あの時、イグニスさんの力を発現したお兄ちゃんの力によってアスト・アーデという世界はロスウォードから守られた。

だけど、それはお兄ちゃん一人の力では為しえなかったこと。

人間と魔族、神層階も含めた世界中の人々の協力があったからこそ。

 

アセムの言葉に同意すると同時にボクは少し違和感を覚えた。

 

以前、お兄ちゃん達から聞いた雰囲気と違う………?

吸血鬼の町でまるで物を扱うような発言をしていたそうだけど、今はそんな雰囲気は感じられなくて………。

 

「それだけ繋がった世界をリゼ爺が墜とせるはずがない。断言しよう、仮に向こうの世界に行けたとしても返り討ちにあうだろうさ」

 

「それなら――――――」

 

「それなら、どうしてリゼ爺に協力しているか――――かい?」

 

「………」

 

彼の問いにボクは無言で頷きを返した。

 

アセムは紅茶を飲み干すと、ニッコリと笑みを浮かべる。

 

「そうだね………その問いに答える前に僕も質問してみようかな。ねぇねぇ、美羽ちゃん。君はこの世界をどう思う?」

 

「えっ?」

 

この世界をどう思うかって………。

どうしよう、そんな質問をされるとは思ってなかった。

 

ボクの周りにいる人はお兄ちゃんをはじめ、お父さんもお母さんもリアスさん達もとっても優しい人ばかり。

もちろんそれぞれに欠点もあるけど、温かい人ばかりだと思う。

 

でも、アセムが訊きたいのは狭い世界じゃなくて、この世界全体についてだ。

 

今のこの世界は各神話勢力が同盟を結び、一歩一歩平和に近づこうとしている。

そのためにアザゼル先生やリアスさんのお兄さんであるサーゼクスさん達が一生懸命になっているわけで。

 

ボクの考えていることを見透かすかのようにアセムが言う。

 

「この世界はアザゼルくん達の働きによって、良い方向に廻ろうとしているね。でも、それだけじゃ不十分なんだよ。神がいなくても世界は廻るなんて考えもあるけどね、それは違う。――――――神も人間もそれ以外の存在も世界の一部だ。それぞれの存在があるからこそ世界は動いていく。この世界の存在はそれを分かっていないんだよ」

 

―――――神も人間もそれ以外の存在も世界の一部。

 

ボクもお兄ちゃんもリアスさん達も学校の皆もこの世界で生きている。

それだけじゃない、アザゼル先生にサーゼクスさん、北欧の神オーディンだってこの世界で生きている。

この世界で生きる者一人一人がこの世界を構成する一部だ。

 

そして、そのことを理解していない人達がいるということもまた事実なのだろう。

 

「無駄に力を持つ者は思い上がるし、くだらないことに固執する者もいる。そして弱者はその地位に甘えて自分は無関係だと世界から自身を切り離す。こうした人達が他者を否定し、閉じ籠り、分かり合おうとしなくなる。そして生まれるのが一方的な理不尽が許させる世界。そんな世界、おかしいと思わない?」

 

「………それじゃあ、君はこの世界のあり方を変えるために?」

 

「いいや。実際にこの世界を動かしていくのはあくまでこの世界で生きる者達だ。僕は彼らに気づかせるまでかな。―――――気付かなかったら、その時はこの世界はいずれ崩壊する。それだけさ」

 

「それは君が手を出すから?」

 

「まぁ、本気になれば数日で取れると思うよ? ワンサイドゲームだろうね」

 

数日でこの世界を墜とせる、ということは各神話勢力の神々を相手取ることを考えても、それら全てを屈伏させるだけの力を持っているということ。

 

こちらの世界でも神の力は絶大。

それこそ、世界に多大な影響を与えることだって可能だ。

 

そんな神々に対して今の発言、余裕の笑み。

 

本当に底が見えない。

ロキと戦った時、神の力の凄まじさを実感したけど、目の前にいる神はまるで底無しのように感じてしまう。

 

――――――アセムという神は神という次元すら越えている、そんな風にすら思ってしまった。

 

ボクは生唾を飲み、息を整える。

 

「それだけの力を持っておいて、どうして君は動かないの? リゼヴィムに協力するくらいなら、自分で動いた方が早いんじゃ………。冥府征服してるけど………」

 

そう訊くとアセムは人差し指を立てて、チッチッチッと横に振った。

 

「それは違うね。ハーデスを倒したのは彼には僕の広告塔になってもらうため。クリフォトも僕の目的のために必要ではあるのさ。僕が動くのは――――――ピースが埋まった時だ」

 

 

ドッゴォォォォォォォォォォォン!

 

 

アセムの言葉の直後、奥の壁が粉々になって吹き飛んだ!

 

え、な………なに!?

 

驚くボクに対してアセムは待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべて、もうもうと舞う煙の向こう側に視線を送っていた。

 

煙を振り払い、現れたのは―――――――。

 

「アセム、てめぇ…………俺の妹になにしてんだぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

[美羽 side out]



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14話 祭りの直前

先日活動報告に投降した美羽のイラストを初めてPCで描いてみました。


【挿絵表示】



「ぜーはーぜーはー………ゲッホゲホッ!」

 

肩で息をしながら咳き込む俺。

鎧なんてあちこち割れてるし、体のあちこちから真っ赤な血が流れてる。

 

全身ボロボロの俺を見て、美羽が悲鳴をあげた。

 

「お兄ちゃん!? ケガしてるの!?」

 

「いや、大したことないさ。ちょっと妨害にあっただけだよ」

 

「妨害って………」

 

「美羽の気を追ってここに来るまでの間、俺の複製やら邪龍やら魔獣の群れに襲われてな。そいつらを相手にするのに時間がかかっちまった。それより、美羽は無事か?」

 

俺が通ろうとすると、待ってましたと言わんばかりに出てくるんだもんな。

数で圧倒してくるから、マジでヤバかった。

 

美羽は俺に駆け寄ると自身のフェニックスの涙を振りかけようとするが、俺はそれを拒んだ。

 

フェニックスの涙は瞬時に傷を癒してくれる回復ツールだ。

これぐらいの傷で使うには勿体なさすぎる。

使うならもう少し後、その時までとっておくべきだ。

 

美羽は頷くと涙の使用をやめ、俺に回復魔法をかけてくれた。

もちろんフェニックスの涙やアーシアの回復速度には劣るが、それでも俺の傷を確実に治してくれる。

 

回復が終わり、傷が塞がった俺は美羽の頭を優しく撫でた。

 

「ありがとな。助かったよ」

 

「ううん………ボクのために無茶をしたんでしょ………? ボクのせいで………」

 

「良いんだよ。妹のために無茶が出来るのは兄貴の特権みたいなもんだ。それに、おまえを失う方が俺は辛い。………さて」

 

俺は美羽にそう告げると、優雅にティーカップに口をつけているアセムへと視線を移した。

 

「アセム、俺の妹に手を出すなんて良い度胸してんじゃねぇか…………と、言いたいところだが、特に手を出したわけじゃないみたいだな」

 

テーブルに置かれた二つのティーカップ。

一つはアセム、もう一つはアセムの向かいの席に置かれている。

そして、そこは先程まで美羽がいた場所だ。

 

あの紅茶はアセムが出したんだろうけど…………まったりし過ぎだろ!

 

アセムが言う。

 

「そりゃそうだよ。最初から彼女に攻撃しようなんて考えてないんだもん。今回はちょっとお話ししてみたかっただけだし。彼女を連れてきた時点で来るとは思ってたけど、かなり早かったねー。僕の予想だと結構時間かかると思ってたんだけど」

 

「美羽が連れていかれたって聞いてのんびりしてられるか」

 

「うはーシスコン全開じゃん」

 

否定はしない。

 

美羽が拐われたのなら、火の中、水の中、どこへだって追いかける。

地獄の果てまで追いかけて取り戻してやるぜ。

 

それが妹を愛する兄の勤めなり!

 

『シスコン…………』 

 

ふっふっふっ、今更だなドライグ!

付き合いの長いおまえなら分かるだろう?

 

『それはそうだが…………流石に今回は無茶苦茶し過ぎだ。ここに来るまでにEXAまで使ったではないか。あれはアセムまで取っておくんじゃなかったのか?』

 

使わなかったらここまで来れなかっただろうが。

それに出来るだけ消耗は抑えたしまだまだ余裕はあるぞ?

 

………まぁ、EXAだけじゃアセムに届かないことは前回で判明してるしな。

 

『アレの調整はまだ終わっていないのだろう?』

 

今もアザゼル先生がやってくれてるよ。

あと少しで終わると思うんだけど…………。

 

とりあえず、それに関しては先生からの連絡待ちだな。

 

俺はアセムに訊いた。

 

「なんで美羽を狙った? いや、なんで美羽と話をしようと思ったと訊いた方が良いか」

 

「おろろ? その口調だと僕達の会話は聞いていたみたいだね?」

 

「まぁな」

 

美羽のインカムを通して二人の会話は聞かせてもらった。

まぁ、こっちは足止め役の邪龍やら何やらとやりあってたから一言一句全てを聞き取れたわけじゃないけどね。

それでも要所要所は聞き取れることができた。

 

色々聞きたいことはあるが、その前になんで美羽なのか。

俺が一番気になったのはそこだった。

 

アセムが言う。

 

「一言で言うなら彼女は………いや、君達二人は特別だったからかな」

 

「特別?」

 

「そう、特別。理解しているか知らないけど、君達は今のアスト・アーデを象徴する存在なんだよ? 長年争いあった者達が手を取り合う世界。それが今のアスト・アーデだ。違う世界の人間とは言え、人間側で戦い続けた勇者くんと魔王の娘たる彼女」

 

アセムは俺と美羽を指さす。

 

「親友を魔族に殺されても、恨むでもなく、憎むでもなく未来のために力を振るった勇者くん。実の父を失い家族を失っても、父と彼の想いを受け止め、前を歩くことを決意した美羽ちゃん。普通なら互いに剣を向けあってもおかしくないだろう。でも、君達は違う。全てを理解した上で受け止め、信頼し合っている。君達はあの世界の象徴なのさ。だから、話してみたかった。―――――良い目だよ」

 

アセムの言葉に俺達兄妹は顔を見合わせた。

 

俺と美羽が向こうの世界の象徴、か。

そんな風に思ったことなんてなかったけど…………言われてみればそうなるのかもしれない。

 

俺も………美羽を託された時、思ったことがあった。

実の父を死に追いやった俺はいつか、この子に――――――ってな。

 

でも、美羽は違っていたんだ。

 

俺とシリウスの想いを受け止め、俺と歩んでいくと言ってくれた。

頼ってくれる。

心からの笑顔を見せてくれる。

俺の家族になってくれた。

 

俺にとって美羽は託された存在であると同時に本当に大切な――――――。

 

俺は視線をアセムへと戻す。

 

「それにしては俺の時と随分雰囲気が違うみたいだけどな」

 

俺と初めて会った時と今回では口調は同じでも雰囲気がまるで違う。

愉快犯的なアセムはここにはなく、何かを見据えるような…………そんな目だ。

 

すると、アセムは机の上のクッキーに手を伸ばしながら、意味深な笑みを浮かべて、

 

「さて、そうだったかな? ………どちらにしろ、僕は君の敵でこの世界に仇なす存在だ。君にとって僕は倒すべき存在じゃないかな?」

 

「―――――っ!」

 

アセムの体を薄く包むオーラの膜。

ごくわずかに視認出来る程度なのにこのプレッシャー。

 

その時、アセムの左手に何かが現れる。

 

それを見て俺は目を見開いた。

 

「それは…………っ!?」

 

アセムの左手に現れたのは――――――黒く染まった赤龍帝の籠手。

僅かに形状が異なるが、紛れもなく赤龍帝の籠手だった。

 

アセムは右手で籠手の表面をなぞりながら笑む。

 

「これはね、君の複製をベースに『システム』の中を探って得た僕専用の神器さ」

 

ドライグが驚愕の声を出す。

 

『貴様…………、まさか俺の複製を!?』

 

「いやいや。この籠手は何かを封じたものじゃない。これには僕自身の力が籠められていると言うべきかな。ほら、ロキだってレーヴァテイン作ってたじゃん? あんな感じだよ。勇者くんの複製をベースって言ったけど、参考にしたの形状くらいだし。中身は全くの別物と考えてくれて構わないよ」

 

「………そんなもん作ってどうする気だよ?」

 

こいつは武器なんてもたなくても十分すぎる程の力を持っている。

美羽との会話を訊いた感じじゃ、やろうと思えばマジで神々ですら手玉に取れそうな感じだ。

 

更に力を求めた理由って一体…………?

 

驚愕すると共に怪訝に思う俺。

 

しかし、アセムから発せられた言葉は俺の予想外のもので――――――。

 

「これはね、君と戦うときのことを考えて作ったのさ」

 

「なに………?」

 

「今はまだまだだけど、いつか君は届く。君は素質があるしね。ま、これの真価はその時までのお楽しみってことで。―――――来なよ。ここにいるのは世界を滅ぼすかもしれない悪い神様さ。止めてみなよ、僕を」

 

「…………」

 

俺は一度瞑目した。

 

今のこいつの姿は誰か…………そう、あいつだ。

ロスウォードに似ているところがある。

全く同じという訳にはいかないけど、どこかあいつを連想させる。

 

ドライグ、本日二回目だ。

いけるな?

 

『俺は問題ない。しかし、どう戦う? 奴の力は底が見えん。奴が全力を出せばどうなるか………』

 

そんなことは百も承知だ。

それでもやるしかないだろ。

 

俺は赤いオーラを纏って奴の前に出る。

 

鎧はEXA形態―――――今の俺の最強形態だ。

 

…………アザゼル先生、急いでくれよ?

 

俺は一度大きく息を吸った。

 

「おまえの真意、今度こそ見せてもらうからな」

 

「アハッ♪ 届かせてみなよ、その拳」

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

イッセー達が冥府に入って数時間が経つ。

 

俺は兵藤家地下にある部屋にいた。

ここには俺以外にオカ研メンバー、シトリー眷属、シスター・グリゼルダ、ジョーカーがいる。

 

ついに教会のクーデター組の指定した時間となった。

 

俺は一歩前に出て今回の件の概要を説明する。

 

「この一戦は教会のクーデター組とのケンカだ。場所はこの転移魔法陣の先に設けたレーティングゲーム用のバトルフィールドで行う。相手も了承済みだ。よって、おまえらは派手に暴れることが出来る」

 

今回のフィールドは普通のやつと違ってちょいと特製なんだけどな。

まぁ、使うことにならないのが一番良いのだろうが…………本音を言えばデータを取るためにも使いたいところ。

 

ソーナが言う。

 

「深夜零時ちょうどに開始となっています。相手方もこちらの魔法陣を通ってフィールドに来るでしょう」

 

匙がそれを受けて言う。

 

「しかし、相手もよく了承しましたね。転移先が実は牢獄だったとか、結界だったとか、あるいはフィールド自体が罠だとか、そういうのは考慮しなかったんでしょうかね?」

 

匙の言うことも一理ある。

 

なんせ、場所を選べると言うこちらにとって有利な条件だ。

やろうと思えばいくらでも細工を施すこともできる。

 

だがな、

 

「おまえらはそれを思い付いたとして今回の一件に実行したか? 俺は思い付いたが結局は実行しなかった。つまりはそういうことだ。あっちもこちらが正々堂々、真正面から来ると踏んでいるのさ。ここでこじれれば禍根は深く残るからな。さっきも言ったが、これはケンカだ。ストレートな奴らにはストレートで応えれば良いんだよ」

 

こいつらは意識してなのか無意識なのか、そこのところを理解している。

向こうもそれが分かっている。

 

ストラーダがリアス達に直接挑戦状を叩きつけたのは案外、その辺りを確認するためでもあるのかもな。

 

そして、ストラーダとクリスタルディが信じたからこそ、付き従う戦士達も真っ向から挑んでくる。

 

俺は一度大きく息を吐いた。

 

「おまえらばかりに貧乏くじを引かせて申し訳ないと思っている。たが、ストラーダとクリスタルディ、この両名がただイタズラに不満を抱いた戦士をここまで連れてきていないだろう。戦士達の憤りを俺達にぶつけたいのが本音だろうが、枢機卿三名の真意は他にある。…………ヴァチカン本部からある程度の情報は得ていてな。あいつらは本当の大馬鹿野郎だったよ」

 

俺は苦笑しながらリアス達にそう告げた。

 

…………ストラーダとクリスタルディ。

何か狙いがあると思って調べてみれば案の定。

 

どこまでもストレートに来やがるぜ。

 

ソーナが視線で自身の『女王』である真羅を促した。

 

真羅が魔力で宙に大きな鏡を出現させると、そこには今回のフィールド全体が写し出されていた。

 

「フィールドのモデルは駒王町です。学園を中心に半径十キロの周辺地域を再現したフィールドが戦場となります。フィールドの形成にはロスヴァイセ先生のご協力がありました」

 

そう、今回のフィールドにはロスヴァイセの論文から得られた情報を元に色々と術式を織り込んでいる。

 

ロスヴァイセが言う。

 

「例のトライヘキサ用に研究中の封印術の応用を今回のバトルフィールドに用いています。…………良い結果が得られれば良いのですが…………」

 

ロスヴァイセが少々不安げだが…………。

 

まぁ、今回に関しては問題はないだろう。

一応、いくつかのテストをしてからの実装だ。

 

問題なのはトライヘキサという未知の怪物にどれだけ有効なのかだが…………。

それに関しては全く分からん。

なんせグレートレッド級と考えられる相手だ。

その効果は『聖書の神』しか分からないだろうな。

 

その『聖書の神』もとっくに死んじまったがな…………。

 

真羅が報告を続ける。

 

「相手は中隊規模の部隊を二つに分けるようです。主にエヴァルド・クリスタルディとヴァスコ・ストラーダをリーダーとした二つの部隊となります」

 

ソーナが続く。

 

「私達も二つにチームを分けます。エヴァルド・クリスタルディ側に『ジョーカー』デュリオ・ジェズアルドさんを中心として、シスター・グリゼルダさん、紫藤イリナさん及び『御使い(ブレイブ・セイント)』の参戦メンバー。そこにサジ以外の私達シトリーがサポートに入ります」

 

「そうなると私達グレモリーと匙くんがヴァスコ・ストラーダ氏の部隊を相手するということになるわね」

 

そこに俺が追加の報告を入れる。

 

「黒歌、ルフェイ、刃狗(スラッシュ・ドッグ)が裏でのサポートに入る」

 

裏のチームプレーもこれだけいりゃ、かなり豪華だろう。

それに強力な助っ人もいる。

 

クリフォトが来たら、その時は一網打尽にする構えだ。

 

すると、ソーナの前に出てくる者がいた。

 

―――――木場だ。

 

「ソーナ前会長、僕もジョーカー側に付いてもいいですか?」

 

「…………エクスカリバー、ですね?」

 

「はい。クリスタルディ氏は元エクスカリバーの使い手と聞いています」

 

「ええ。現役を退いたとはいえ、数少ない天然のエクスカリバー適合者です。話では若かりし頃には三本のエクスカリバーを同時に使いこなしていたと聞いています」

 

ソーナの言葉にシスター・グリゼルダは頷いた。

 

「エクスカリバーのレプリカを教皇聖下から賜った唯一の方でもあります」

 

エクス・デュランダルを鍛え直す際、アーサーの持っていた最後のエクスカリバーが加わったことで、七つに別れていたエクスカリバーは一つになった。

 

それを天界が解析してその力を再現したのがクリスタルディが持つレプリカだ。

力は本物の五分の一にも満たないだろうが、奴なら性能以上の力を発揮できるだろう。

 

ちなみにストラーダもデュランダルのレプリカを持っている。

こちらも性能は本物に劣るが使い手が奴だからな。

 

そんなことを考えている俺の前で木場はソーナに訴えた。

 

「………戦わせてください。僕はもう一度エクスカリバーを、エクスカリバーの使い手を超えたいと思っています。復讐ではありません。これは…………挑戦なんです!」

 

『聖剣計画』の被験者だった木場。

エクスカリバーに適合できず棄てられ、リアスに拾われた。

コカビエルのバカがやらかしてくれた件ではフリードが扱うエクスカリバーに打ち勝ったが…………。

 

再びエクスカリバーの使い手が目の前に現れたことで、残っていた火が大きくなったか。

憎悪ではないが、どこか危なっかしい奴の目をしている。

 

木場の願いに苦慮するリアスとソーナ。

 

そこへ第三者の声が入り込む。

 

「やらせてあげてもよろしいのでは?」

 

肯定を促す意見と共に現れたのはヴァーリチームの一員、アーサー。

 

今回、こいつはヴァーリと共に冥府へは向かわず、今回はこちらに参加することになっている。

 

アーサーは笑みを浮かべて言った。

 

「剣士のこだわりは剣士にしか癒せませんよ。ねぇ、木場祐斗くん?」

 

「…………」

 

無言の木場。

しかし、両者の間には通じるものがあったようだ。

 

アーサーは胸に手を添えて言う。

 

「代わりと言っては何ですが私がヴァスコ・ストラーダとの戦いに参戦いたしましょう。長年、興味がありましたから。最強のデュランダル使いと称されたご老体の力にね」

 

アーサーはグレモリー側に参加か。

まぁ、イッセーもいないし、その上、木場まで抜けるとなれば誰かをそちらに回す必要があると思っていたから良いんだけどよ。

 

………アーサーめ、この状況をガッツリ楽しむつもりだな?

バトルマニア揃いのヴァ―リチームメンバーだから、この聖剣祭りとも言えるケンカに参加してくるのは分かるけどよ。

 

こいつ、助っ人の戦いぶりとか見たら挑戦しに行くんじゃね?

そんでもって、向こうも喜んで受けてしまいそうだ。

 

アーサーの意見を聞いたリアスは大きく息を吐いてからソーナに言った。

 

「………ソーナ、そっちに入れてあげてちょうだい」

 

「いいのですか、リアス?」

 

確認されたリアスは木場に真っすぐに告げた。

 

「祐斗、今度こそあなたの気持ちに決着をつけてきなさい」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

リアス達『D×D』メンバーと教会のクーデター組が用意された駒王町を模したフィールドに転移した直後のこと。

 

彼らは気づかなかった。

この時、既に彼ら以外の存在がこのフィールドに入り込んでいることに。

 

彼は気配を完全に消し、とある建物の上から彼らの様子を眺めていた。

 

「いよいよ始まりますね。ふふふ………この剣祭り、一剣士として見逃すわけにはいきません。父上に頼んでせっかく来たのです。ええ、楽しみます! 今日は存分に楽しみますぞ!」

 

男――――――『覗者(ヴォアエリスムス)』ヴァルス。

今日、彼はアセムに頼み込み、一人でこのフィールドに潜入していた。

目的はただ一つ、『D×D』と教会の戦士達の一戦を観戦するため。

それだけである。

 

魔法も扱うとはいえ、彼も一人の剣士。

聖剣が集うこの戦いに興味を惹かれたのである。

 

彼の傍にはコンビニのビニール袋。

中にはチーズかまぼこ、ビールと楽しむ気満々だ。

 

元デュランダルの使い手ヴァスコ・ストラーダと元エクスカリバーの使い手エヴァルド・クリスタルディ。

聖魔剣の木場祐斗、現デュランダルの使い手ゼノヴィア・クァルタ、オートクレールの使い手紫藤イリナ。

そしてそこに聖王剣のアーサー・ペンドラゴンまで加わる。

 

まさに聖剣祭り。

 

「父上によるとリゼヴィム殿が横槍を入れるとのことですが………。いやはや、本当に空気の読めない方だ。無粋にもほどがあるでしょう。そんなことだから………彼は――――――。討たれる覚悟もない者が余計な真似をするからあのようなことになるのです。彼はそろそろ用済み、ということでしょうか、父上?」

 

ヴァルスは造られた夜空を見上げながら、チーズかまぼこを食す。

 

その時―――――――。

 

 

「まさか、そんな………!」

 

 

彼は気づいてしまった。

自分の失態に。

 

それは彼にとってあまりに大きな失態で――――――――――。

 

 

 

「ターミ〇ーター返すの忘れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

[三人称 side out]

 

 



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15話 開幕

R18で朱乃&小猫投稿しましたー。
次回はティア姉&イグニス姉さんの予定です。


[木場 side]

 

 

転移型魔法陣により決戦のフィールドへ移動して数分。

 

エヴァルド・クリスタルディ率いる部隊と戦う僕達のチームは既に戦場に立っていた。

こちらの戦場はあの廃墟と化した教会とその周辺。

アーシアさんの件で堕天使達が居城にしていた場所でもあり、イリナさんのお父さんが過去に所属していた場所でもある。

 

戦闘開始まであと少し。

もうすぐ、僕達の相手が現れるだろうという時、待機していた僕のもとにジョーカーであるデュリオさんが話しかけてきた。

 

「いやー、まさか木場きゅんと一緒の戦線に立つなんてねぇ」

 

「いえ、こちらこそ光栄ですよ」

 

「木場きゅんはさ、複雑な事情を抱えてるって聞いていたから、俺と組むのは嫌かなーなんて思ってたんだけどね」

 

「憎むべき相手ぐらいはわきまえているつもりです。僕達のリーダーを恨むなんてことはしませんよ」

 

僕は彼と何度か接触してきた。

そこで分かったことは、彼は僕が思っていた以上に軽く、優しい青年だったということだ。

 

彼は僕の言葉に苦笑した。

 

「そっか。木場きゅんの話は聞いていたからさ、今日は殺気むんむんかなーって心配してたんだ。………よく、ねぇんだよね、わだかまりがあろうとも、今身内で争うのはさ。今だけは我慢の子が一番なんだよな」

 

そう言うと、彼は懐からなにかを取り出した。

 

それは――――――折り紙で折られた鶴だった。

 

「今度、駒王町の近くの教会施設で神器の解呪術式が行われるんだ」

 

デュリオさんは鶴の頭を指で撫でながら続ける。

 

「………脚の不自由な子がいるんだ。車椅子生活の長い子でさ。どうやら、脚に関する神器を持っているようなんだけど、その子の抵抗力が弱くてさ。どうにも悪い方向に能力が作用しちゃったみたいなんだ。神さまからの贈り物でもある神器が持ち主の枷になっちゃうなんてさ。神器って怖いところもあるんだよねぇ」

 

「その子の解呪術式が?」

 

「そうそう。グリゴリの技術が浸透してきたおかげでね。まだ完璧ってわけじゃないけど、それでもその子は解呪を受けることにしたのさ。阻害していた面が弱くなって普段通りの生活が出来る、かもしれない。ま、元総督の技術なんだから成功するでしょ。俺は信用しちゃってるけどね」

 

にんまりと微笑むデュリオさん。

 

心よりアザゼル先生に信頼を寄せている証拠だろう。

元々敵対していたとはいえ、先生が真摯になって取り組んでいた同盟の訴えは一部の者に怪しまれながらも、一つずつ確実に信頼を寄せている。

 

かく言う僕達もその内の一つだ。

 

堕天使の総督という肩書きだけで胡散臭く感じてしまっていた時もあったけど、今はそんな考えは消え去ってしまっている。

あの人はどこまでもお人好しなんだ。

 

デュリオさんは立ち上がる。

 

「その子は歩けるようになったら遊園地に行きたいって言うんだよ。自分の脚でアトラクションを全部回って見たいってね。…………普通なんだよ。神器を持っていようと普通の子供なんだよ。だからさ―――――」

 

彼が折り鶴を空へ放る。

すると、鶴は風に乗って空高く飛んでいく。

宙を一回りした後、再び風に乗って彼の手元に帰ってきた。

 

「俺は、あの子達の素朴な夢が守れりゃ上々かなって思うんだよね」

 

彼は折り鶴を懐に仕舞うと、一言漏らす。

 

「さ、ケンカの時間だ。おっかない先生との再会だ」

 

その言葉に呼応するように、僕達の眼前に戦士の一団が現れる。

数は百近くはいるだろう。

神父服を着た者から、ゼノヴィアやイリナさんと同じ戦闘服を着ている女性もいる。

 

その全員から敵意が向けられる。

 

戦士達から一歩前に出たところにエクスカリバーのレプリカを携えた祭服の男性―――――エヴァルド・クリスタルディが立っている。

 

戦士達の師であり、ゼノヴィアやイリナさんにも剣を教えた人物。

アザゼル先生ですら、彼の実力の凄まじさを語っていた。

 

「これは先生。お久しぶりっすね」

 

手を上げながら気軽に話しかけるのはデュリオさん。

 

声をかけられたエヴァルド・クリスタルディは険しい表情を変えず、重々しい口を開いた。

 

「この再会、喜ぶべきか、嘆くべきか。デュリオよ、そして転生した天使達よ。私を師と呼ぶのであれば、問答無用で我らの剣を受けてはくれまいか?」

 

「こっちも訊きたいことが山ほどあるんすけどね。でも、まぁ、話し合いができるならそれに越したことはないように思えるんすよ」

 

彼は身内で争うことに苦言を呈していた。

言葉で振り上げられた手が下ろせるなら、それが一番なのは誰もが思っていることだろう。

 

しかし、エヴァルド・クリスタルディはこう返してきた。

 

「近々、この地の施設で神器摘出の儀が執り行われるようだな」

 

「その通りです」

 

どうやら、僕が先程聞いた話はクーデター側も情報を得ていたらしい。

エヴァルド・クリスタルディは嘆息しながら言う。

 

「しかし、その施設には『悪魔的な儀式』が根付きつつある。それは罪深いところだ。断罪せねばならない。…………という過激な発言をする者もいる。私も敬遠な信徒。否定しきれない面もある」

 

「………それはあの施設を壊すと? じゃあ、あそこの子供達はどうするつもりで?」

 

「辺獄にて罪は浄化されるだろう。――――と、言ったらどうする?」

 

その言葉を聞いた途端、笑みを絶やさなかったジョーカーの表情が一変する。

 

「………冗談でもそれは俺の前で口にしちゃいけねぇってやつですよ、先生」

 

怒気を含んだ声。

 

これは挑発だ。

そんなことはデュリオさん自身も分かっているはずだ。

しかし、それでも今の発言は無視できなかったのだろう。

 

エヴァルド・クリスタルディは嘆くように言う。

 

「デュリオ、おまえのように優秀な戦士がなぜ気づかない? ジョーカーという立場に至りながらもなぜ気づかない? 同盟を組もうとも罰せなければならない悪はいるのだ!」

 

「ええ。そんなことは俺にだってわかりますよ。どうしようもねぇ悪い奴がいるってことくらいね。ですがね、あの子達には関係のないことですよ。同盟だとか悪だとか、そんなことはね。あの子たちは何があっても守らなきゃならねぇんですよ」

 

煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)は、おまえの力は世界の均衡を崩すことができるのだぞ? それでも、おまえは――――――」

 

「それでもです。俺はね、世界をどうにかしたいなんてことは、今の今まで一度だって考えたことありませんよ。俺はいつだって一つのことを実践してきただけに過ぎないんすよ」

 

彼は両手を広げて、抱きしめる仕草をした。

 

「俺の手の届く範囲にいるガキんちょどもの笑顔を守る。俺はそのために強くなった。ジョーカーになった。それは今でも変わりはしねぇんですよ」

 

その言葉に師であるエヴァルド・クリスタルディも、その背後に控えている戦士達も複雑な表情となっていた。

 

―――――守るために強くなった。

 

彼もまたイッセーくんと同じなのかもしれない。

戦う理由、強くなった理由。

それは大切なものを守るため。

 

ジョーカーの話す言葉から、彼らも感じるものはあったようだ。

 

シスター・グリゼルダさんも一歩前に出る。

 

「クリスタルディ猊下、互いに言葉は無粋となりましょう。これ以上、何を言ったところで、この子の心は動きません」

 

シスターの言葉を受けて、エヴァルド・クリスタルディは天を仰ぐ。

 

「相変わらず、馬鹿正直な男だ」

 

どこか呆れるような師の言葉に、優しいジョーカーは笑んだ。

 

「俺一人くらいバカな天使がいてもいいんじゃないすかね? 罰は来ないでしょ」

 

「そうか、ならば私も己の意思を貫くとしよう。敬う神が同じだとしても『正義』を違えてしまったのならば、正せねばならない」

 

エヴァルド・クリスタルディはエクスカリバー・レプリカの切っ先をこちらに向けて高らかに吼えた。

 

「これ以上の言葉は無粋………確かにその通りだ。おまえも私も戦士ならば、互いの得物をもって意思を押し通すまで。――――――戦士達よ! 天より許された一戦だ! 思いのたけを今日この場ですべて吐き出せ!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

この一帯を揺らすほどの声量が戦士たちから発せられる!

 

エヴァルド・クリスタルディは天高く上げた剣を一気に振り下ろした!

 

「死んでも後悔はするな! 罪からくる報酬は――――――死なのだから!」

 

それが開戦の狼煙となり、戦士たちは叫びと共にこちらに向かって駆けだしてくる!

 

耳にはめたインカムからソーナ前会長の声が聞こえてきた。

 

「それでは皆さん、始めましょうか。私達の意思の全てをぶつけましょう!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

 

『椿姫、翼紗は前に出て盾を形成しなさい!』

 

「「はい!」」

 

ソーナ前会長の指示で最初に動いたのは『女王』真羅先輩と『戦車』由良さん。

 

真羅先輩はカウンター型の神器『追憶の鏡(ミラー・アリス)』を使って、前方に鏡を形成した。

彼女の神器の能力は鏡が破壊された衝撃を倍にして相手へ返すもの。

後衛に並ぶ戦士達が光力が込められた銃弾や遠距離型の神器で一斉射撃をしてくるが、宙に展開された無数の鏡がそれらの衝撃を倍にして相手へ返していた。

 

真羅先輩の横では由良さんが人工神器『精霊と栄光の盾(トゥィンクル・イージス)』を構えた。

こちらは契約した精霊の属性に応じて多様な攻防手段を生み出す。

今も契約した精霊の力によって、炎の障壁を作り出している。

真羅先輩の鏡をすり抜けてきた攻撃を由良さんの炎の盾が焼き尽くす。

 

先手を取ったはずの戦士達の攻撃は、シトリー眷属の『女王』と『戦車』によって完全に防がれる結果となった。

 

また、二人が直接狙われないように『僧侶』花戒さんの人工神器による結界が二人を守っている。

 

遠距離攻撃が完全に防がれた戦士達が次に出る手段は前衛による攻撃。

得物を握った戦士達が雄叫びと共に突貫してくる。

 

ソーナ前会長の指示が飛ぶ。

 

『こちらもアタッカーで応えましょう』

 

その指示で動くのは『兵士』仁村さん、『騎士』巡さんとベンニーアさん、『戦車』ルガールさん。

ここに僕とイリナさん達『御使い』のメンバーが参戦する。

 

僕達前衛は教会の戦士達と剣を交える。

 

身のこなしで、どの戦士もある程度の場数を踏んできた者達だと理解できる。

しかも、手に持つ得物は光の剣や槍、聖水から十字架と悪魔がダメージを受けるものばかり!

 

しかし、僕達だって何度も死線を潜り抜けてきたんだ。

目の前の戦士達のレベルなら――――――。

 

「今の僕の相手じゃない!」

 

僕は聖魔剣を振るって数名を一度に倒した。

 

倒したと言っても刃は潰してあるため、殺したわけじゃない。

彼らはクーデターで死者をだした訳ではない。

むろん、斬られても文句は言えない立場。

彼らの武器も抜き身の刃だ。

 

それでも、殺さずに済むならそれに越したことはないだろう。

復讐の怨嗟を絶ち切るためにも、極力死人は出したくない。

 

《あー、けっこうめんどうっス》

 

「これも一つの試練なのだろう」

 

高速で動くベンニーアさんと魔法の炎に包まれた両腕を豪快に振るうルガールさんがそう呟いていた。

この場において、ベンニーアさんは鎌の刃のない部分で相手を攻撃している。

ルガールさんもかなり力を抑えている。

 

ベンニーアさんの死神の鎌は斬った相手の魂を削ることになり、死に至らしめる可能性がある。

また、狼男であるルガールさんは凶悪な攻撃力を有する魔法戦士だ。

二人ともその気になれば、相手を容易に殺すことが出来る。

 

そう、ここにいる僕達は自ら力を抑えて戦っている。

これは相手からすれば『手加減』に他ならない。

 

戦士達の後ろでただただ戦場を見詰めているエヴァルド・クリスタルディもそのことには気づいているだろう。

 

真羅先輩が吼えた。

 

「会長! 条件が整いました!」

 

『ええ、椿姫。至りなさい。全員、後方に下がって!』

 

至る…………?

 

まさか――――――。

 

僕達はソーナ前会長の命令のもと、真羅先輩から距離を取る!

 

同時に真羅先輩が力ある言葉を発した!

 

「―――――禁手化(バランス・ブレイク)!」

 

すると、鏡から三体のモンスターが現れた!

帽子を被った魔物、大きなネズミ、洋服を着た二足歩行の兎だ!

 

『あれが椿姫の禁手、「望郷の茶会(ノスタルジア・マッド・ティー・パーティ)」。禁手には発動条件があり、それは鏡で一定回数カウンターすること。鏡から現れたモンスターはそれぞれが特異な能力を発します』

 

大きなネズミが戦士たちの元に行き、口からガスを吐き出した。

ガスに包まれた戦士達は足取りをふらつかせたと思うと次々に地面に倒れていく。

 

『「冬眠鼠(ドーマウス)」は一定範囲内に存在する全ての相手を強制的に眠らせます』

 

強制的に眠らせる能力!

確かにあのネズミの周囲にいる戦士達は完全に眠りこけていた!

 

「ひゃはぁぁぁぁ!」

 

「おおおおおおっ!」

 

正気を失ったように叫ぶ戦士達!

服を着た兎が跳ねる度に広がる波紋が戦士達に触れた瞬間、その戦士達は狂ったように暴れ始めていた!

 

『「三月兎(マーチ・ラビット)」は一定範囲内の者達を意識を凶暴化させます。そして―――――』

 

ソーナ前会長の視線が最後の一匹、帽子を被った細身の魔物へと向けられる。

その魔物の目が戦士達を捉えた瞬間、彼らは虚ろな目となり―――――。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「あ、い、いやぁぁぁぁぁあ!」

 

何かに怯え始めた。

見えないなにかに向かって武器を振り回し始める。

 

『「帽子屋(マッド・ハッター)」は一定範囲内の相手に幻覚を見せます。これら三つの能力を受ければどのような相手でも戦いから除外できます。これから逃れられる相手は強靭すぎる精神を持っているか、最初からそのような感情とは無縁の相手でしょう。少なくとも、この場において、そんな異常な相手はいません。直接的なパワーはありませんが、相手の戦力を削ぐ方法はパワーでなくとも良いのです』

 

なんという恐ろしい能力だ。

 

鏡の中から現れる多様な能力を持つ魔物達。

この三体の他にもいるのだろう。

なんせ、魔物の名称はルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』から取った名前なのだから。

 

「これは次にゲームで当たると怖いですね。明らかに僕達グレモリーとは相性が悪い」

 

この能力は『ハメ手』の類いだ。

 

真羅先輩の禁手もそうだが、匙くんや他のシトリー眷属は多くがテクニック、ウィザードタイプだ。

だけど、禁手に至った匙くんやルガールさんのようにパワーでも押せるメンバーが属している。

 

以前、アザゼル先生が眷属のバランスとしてはシトリーの方が上だと称していたが、本当にその通りだと思う。

パワーとテクニックの両面に強いイッセーくんがいるにしても、僕達はパワーの方面に傾きすぎているからね。

 

すると、僕の呟きにソーナ前会長は、

 

『ふふふ、次は負けませんよ、木場くん』

 

うん、これは本腰入れてゼノヴィアに技術面を磨いてもらわなければ!

もっとテクニカルな相手への対処方法も覚えてもらわないと!

ようやくテクニックを身に付けてきたと思えば、最終的にはパワー押しだしね!

 

『ですが、木場くん。もっと恐ろしい対戦相手が近くにいるのではないですか? ―――――イッセーくん達赤龍帝眷属は現段階で異常ですよ?』

 

「ハハハ………それは…………否定できませんね」

 

上級悪魔になったイッセーくんはこれから、『王』として自らの眷属を率いて、レーティングゲームに参加できる。

まだまだ駒は揃っていないけど…………現時点でおかしいことになってるよね。

 

そうか………なぜか考えてなかったけど、いずれはイッセーくんともぶつかることになるのか。

 

その時、僕はどこまで戦えるのだろうか…………。

 

僕達が教会の戦士を次々と倒していき、真羅先輩の禁手が戦線崩壊の決定打となったところで、ついにその男は剣を握った。

 

「―――――下がれ」

 

低く、重い声音は戦場を一瞬で静まりかえらせた。

 

それまで剣を振り上げていた戦士達がその剣を下ろし、彼らの師が通る道を開ける。

 

「ここからは私が出る」

 

――――――元エクスカリバーの使い手、エヴァルド・クリスタルディが動く。

 

 

[木場 side out]




原作でも思ったけど真羅先輩の禁手能力怖いですよね。

次回はもう少しオリジナルを入れたいところです。


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16話 エクスカリバー

[木場 side]

 

一歩、また一歩とエクスカリバーのレプリカを携えた男がこちらに進軍してくる。

 

相手はたった一人だ。

しかし、その歩みから伝わってくるプレッシャーは戦士の一団が一斉に攻めてきた時よりも遥かに上だった。

こうして向かい合っているだけで嫌な汗が噴き出してくる。

 

デュリオさんが半笑いで言う。

 

「………木場きゅん、分かっているだろうけどクリスタルディ先生は元エクスカリバーの使い手。そんでもって、今手にしているのがレプリカ。本物よりは劣るけど七つの能力全てを有している。イメージしている最強の聖剣使いの四つ上は覚悟してほしい」

 

「想定の範囲をはるかに越えた剣士、ということですね」

 

「そーいうこと」

 

最強の聖剣使いの四つ上、か………。

 

聖剣使いではないけど、最強の剣士というと異世界で出会ったあの騎士団長。

彼に稽古をつけてもらってけど、こちらの剣は最後までかすりすらしなかった。

 

彼なら目の前の剣士とどう戦うだろうか。

まぁ、彼と僕とでは戦い方も実力もまるで違うんだけどね。

 

ソーナ前会長がインカムを通じて言う。

 

『戦士の相手は私たちシトリー眷属と「御使い」のメンバーで引き続き行います。エヴァルド・クリスタルディはの相手はデュリオ・ジェズアルドさんを筆頭にイリナさん、グリゼルダさん、そして木場くんに当たっていただきます』

 

「「「「了解」」」」

 

エヴァルド・クリスタルディと対峙するデュリオさん、シスター・グリゼルダさん、イリナさん、そして僕。

転生天使の三人は天使の象徴たる純白の翼を出し、僕は聖魔剣を構えた。

 

エヴァルド・クリスタルディはゆっくりと近づいてくる中で――――――無数の分身を出現させた!

 

これはかつてフリードが使っていた………いや、予備動作もなく分身を生み出したのでどうやって生み出したのかは分からない。

天閃の高速移動によるものか、夢幻の力によるものなのか。

 

僕たちの中で最初に動いたのはシスター・グリゼルダさんだった。

 

「クリスタルディ先生! いかさせていただきます!」

 

彼女は手元に光の粒子を作り出すと、光球を複数出現させる。

一発一発が濃密な光力に満ちており、悪魔が受けてしまえば大ダメージを受けてしまうだろう!

 

放たれた光球が分身を撃ち抜くと、その分身は形を崩して消えていった。

しかし、その中に光球を剣で弾き返して、こちらに向かってくる一体がいる!

 

今の分身は夢幻によるもの!

突っ込んでくるあれが本物か!

 

僕とイリナさんがそれに対応しようとするが、後ろでデュリオさんが叫んだ。

 

「それは擬態だ!」

 

その報告に反応した僕は横に飛び退くが、イリナさんは勢いに乗せてオートクレールを振り下ろした!

オートクレールによって斬られた分身体は形を崩してヒモ状に変わる!

 

ヒモを追っていくとその先には、グリゼルダさんの光球を受けて四散した幻術の中から現れるエヴァルド・クリスタルディ。

その手にはヒモ状から再構築されて一本の剣へと戻るエクスカリバーのレプリカ。

 

先程の分身は夢幻の力だけでなく、擬態によるものも混ぜていたのか!

しかも、本人は透明の能力で姿を隠していた。

 

この僅かな戦闘の中で、自然に夢幻、擬態、透明の三つの能力を使ってくるなんて…………!

 

エヴァルド・クリスタルディは擬態による分身を斬り裂いたイリナさんへと斬りかかる。

 

イリナさんも先程の擬態は見抜いていたのか、姿を現したエヴァルド・クリスタルディによる一撃を刀身で受け止めた。

 

見事に防ぎったと思った。

 

しかし、受け止めたイリナさんは膝をつき、その足元には小さなクレーターが生まれる!

破壊による一撃か!

 

受け止めたとはいえ、破壊の一撃を受けてしまったイリナさんの口元には血が滲んでいる。

それでも、イリナさんは不敵な笑みを見せた。

 

「………先生、破壊力だけならゼノヴィアの方が上だと思います」

 

「ああ、わかっているとも。だが、破壊だけでエクスカリバーを語るな」

 

エヴァルド・クリスタルディは笑みを浮かべると、懐から十字架を複数取り出して、天に放る。

彼が何かを念じたその瞬間、十字架は宙で散らばり僕達を囲むように地面に突き刺さった。

 

そして、十字架から莫大な聖なる波動が生み出され、僕達を囲む十字架の結界が形成される!

 

エヴァルド・クリスタルディは言う。

 

「祝福の特性で十字架の結界の力を底上げしている。暫くは誰も近づけない。また、天使でもこの結界はそう撃ち破れるものでもない。高速で逃げることも、空を飛んで逃げることも無理と言うことだ」

 

…………祝福の力を使って、僕の足と転生天使組の飛行を封じたということか。

更にシトリーからの助勢も禁じる結界。

 

ダメージから回復したのか、イリナさんが勢いよく師の剣を押し返す。

 

エヴァルド・クリスタルディは飛び退き様に聖なる波動を幾重にも打ち出してきた!

 

僕とイリナさんは剣を振るって聖なる波動を相殺する―――――が、手応えがない。

いや、手応えのある波動もあった。

 

つまり、今のは本物の波動と共に幻術による波動を混ぜていたということ。

幻術の波動は気配すら本物と同じで、瞬時での判断が難しい!

 

イッセーくんほどの防御力なら受けても問題ないだろうけど、僕の場合、避けるのが最善だろう。

 

そう考えて、飛んできた聖なる波動を避けることでやり過ごすが―――――聖なる波動は後方で軌道を変えて、再度僕達を襲撃してきた!

 

「私の時代には無かったとはいえ、支配もそこそこには使えるのだよ」

 

支配の特性で打ち出した波動を自在に操れるということか!

避けても避けても軌道を変えて追いかけてくる!

これほど厄介なものはない!

 

僕は咄嗟に宙に七つ剣を作り出して聖なる波動へとぶつける!

僕にも自在に操れる剣はある!

 

「甘いな、聖魔剣の剣士よ」

 

エヴァルド・クリスタルディは更に多くの聖なる波動を打ち放ってくる!

 

幻術の特性により聖なる波動は無数とも思える数となり、七剣では相殺しきれなくなってきた!

避けることで何とかやり過ごそうとするが、僕へと迫る!

 

「―――――俺もいるんすよ」

 

その瞬間、僕に迫っていた聖なる波動はデュリオさんから放たれた雷撃によって吹き飛ばされてしまう。

それだけじゃない、彼による後方支援は僕とイリナさんを苦しめていた聖なる波動全てを打ち消した。

 

彼のサポートもあり、危機を脱した僕とイリナさんだが…………。

 

レプリカのエクスカリバーをここまで自在に操れるのか。

一回の攻撃で最低でも二つの特性を混ぜて放ってくる。

しかも、使いどころが上手すぎる。

 

今はこうして間合いを取っているけど、眼前のエクスカリバー使いが本物かどうかすら疑いを持ってしまう。

擬態なのか、幻術なのか。

 

ここまでのやり取りでよく分かった。

 

今のままでは一方的な戦いとなってしまう。

後方からデュリオさんとシスター・グリゼルダさんがサポートしてくれるとはいえ、前衛で剣を交える僕とイリナさんは彼の戦術に乗せられてつづけるだろう。

 

―――――やはり、使うしかない。

 

僕は聖魔剣の切っ先を天に向けて胸元で構える。

すると、白と黒のオーラが刀身から溢れだし、次第に僕の体を包んでいく。

 

オーラが止んで現れるのは黒いコートを纏い、日本刀の形状をした聖魔剣を握る僕だ。

 

禁手第二階層―――――双覇の騎士王(パラディン・オブ・ビトレイヤー)

 

イッセーくん達との修業で継続時間が延びてきたとはいえ、やはり消耗が大きい。

だからギリギリまで使いたくなかったのだけど、そんな甘いことを言っている場合じゃないのはここまでのやり取りで分かった。

 

「ならば、僕の全力で!」

 

僕は今出せる最高速度でエヴァルド・クリスタルディへと斬りかかる。

 

目の前の男は真正面から僕の剣を受け止めた!

この手応え、分身ではなく本物!

 

僕の剣を受け止めながら、エヴァルド・クリスタルディは目を細める。

 

「それがイレギュラーとされる禁手の更に奥の領域か。速さがこれほど上がるとは」

 

やはり、このイレギュラーな力の情報もクーデター組には伝わっている。

 

禁手の第二段階。

イッセーくんに続き、僕が発現したこの力。

 

この双覇の騎士王ならば、異なる属性を同時に扱うこともできる!

 

聖魔剣の刀身から冷気が溢れ出ると、エクスカリバー・レプリカの刀身を氷付けていく!

同時に暴風を起こして、周囲に吹雪を起こさせた!

 

「はっ!」

 

僕は破壊の属性も混ぜて、エクスカリバーを押し返す。

そして、相手の体勢が崩れたのを狙って全力の突きを繰り出した!

 

聖魔剣が深々とエヴァルド・クリスタルディの胸を貫いていく――――――。

 

しかし、次の瞬間。

エヴァルド・クリスタルディの肉体はヒモ状となって崩れていく!

 

馬鹿な、今のも擬態による分身だと言うのか!

 

確かに剣の手応えはあった。

まさか、剣を受ける瞬間に分身体へと変わったのか!?

 

「天閃と擬態、夢幻そして透明を使えば受けた瞬間にあれくらいの分身は作れるのだ」

 

「――――――っ!」

 

横合いから声が聞こえてくる。

 

慌ててそちらを振り向くと、既に分身したエヴァルド・クリスタルディが複数立っていた!

 

競り合う瞬間に四つの能力を用いてきただと!?

実際に剣を合わせていた僕にそのことを気づかせないなんて!

 

いや、今は驚いている場合じゃない。

この分身は擬態か、夢幻か。

 

僕とイリナさんは剣を構えて斬りかかってきた分身に対応するが――――――同時に剣を受け止めることに成功してしまう!

どちらも本物だというのか!?

 

僕とイリナさんは高速こ剣戟を繰り広げて、目の前の分身を斬り伏せる。

しかし、どちらが斬った分身も霧散してしまう!

 

本物でも、擬態でもない!?

 

霧散したはずの分身はその場で再構築して再びクリスタルディの姿となる!

 

「天閃と夢幻の組合せだ。高速と幻術により質量を持った残像は作り出されるのだよ。聖魔剣の剣士よ、ただ速いだけでは私は斬れんぞ?」

 

「っ!」

 

今の僕は先程までと比べると速度は飛躍的に向上している。

剣戟も同様だ。

 

しかし、このエクスカリバー使いはその能力を十全に活かして、簡単に捌いてしまう!

 

「他にもエクスカリバーの使い方はある」

 

その声は背後から聞こえてきた。

僕とイリナさんが振り返った時には既に距離を詰められていて―――――。

 

「強力な悪魔であるキミ達にはまるで効果を示さないであろう聖水といえど―――――」

 

僕の眼前に小瓶が放られる。

それをエヴァルド・クリスタルディは横凪ぎにした剣で破壊。

中の聖水が僕の全身にかかる。

 

エヴァルド・クリスタルディはそれを確認して念じた。

 

次の瞬間――――――。

 

「――――――ッ! くぁ………!」

 

激痛が僕を襲った!

聖水による聖なる力が悪魔である僕の体を焦がしていく!

肉体を精神を焼き切られるような激痛が広がり、僕はその場に膝をついてしまう!

 

「祝福の特性でここまで高めることができる。祝福された聖書での朗読を聞かせても良いのだがね?」

 

祝福の特性で聖水を強化。

僕達悪魔にとっては恐ろしすぎる力だ。

 

「先生!」

 

イリナさんが僕を助けようと横からオートクレールを放ち――――――師の首を斬り飛ばした!

 

「っ!?」

 

首の無くなった胴体を見て酷く狼狽するイリナさん。

自分の一撃が師の頭を吹き飛ばすとは思わなかったのだろう。

 

「――――甘いな、紫藤イリナ」

 

その声はイリナさんの背後から発せられた。

 

彼女が振り替えれば、そこには剣を振り下ろそうとする師の姿!

教え子に自分の死という幻術を見せて狼狽えさせたのか!

 

振り下ろされたエクスカリバーをイリナさんはオートクレールで受け止めるが――――――。

彼女はその重圧に耐えられず、地に倒されてしまう!

破壊の一撃!

 

「俺のことも忘れないでくださいって!」

 

後方からデュリオさんが神器の力で生み出した炎の球体と氷の槍を同時に放つ。

彼の攻撃がエヴァルド・クリスタルディに直撃する、その瞬間に不自然に軌道を変えて全く関係のない場所に着弾してしまう。

 

デュリオさんは更に氷柱を周辺に地面から生やすが、エヴァルド・クリスタルディの周囲にだけ氷柱は生まれなかった。

 

その結果に驚愕するシスター・グリゼルダさん。

 

「ジョーカーの攻撃を支配したというのですか!?」

 

「支配の力を以てすれば、神滅具であろうとも―――――と言いたいところだが」

 

彼の視線が自身の祭服へと向けられる。

目を凝らしてみると、衣装が僅かに破れているのに気づく。

 

「流石に逸らすだけで精一杯だ。天使化の恩恵に救われたな、デュリオよ」

 

いくら、デュリオさんが本気でないとはいえ、たった一人を相手にこの戦況………!

 

「ここまでのものか、天性のエクスカリバー使い………!」

 

「だから言ったろ? 俺達が相手にするのは教会でもバケモノと称された二大巨頭の一人なんだからさ。技のクリスタルディ、力のストラーダとはよく言われてたねぇ。いやはや、我が師ながら恐ろしいよ」

 

デュリオさんはそう言って苦笑する。

 

確かに凄まじい力の持ち主だ。

だが、彼の持つ剣はレプリカ。

これが本物だとしたら、いったいどうなってしまうというんだ…………?

 

「………僕がグラムを解放します。今の僕なら、エクスカリバーの使い手であろうとあなたが隙を突けるだけの時間は稼げ――――――」

 

僕がそこまで言いかけた時だった。

 

 

―――――――身に纏っていた黒いコートが消え、聖魔剣の形状が元に戻ってしまった。

騎士王の状態が僕の意思に反して、勝手に解かれてしまったのだ。

 

 

それはあまりに予想外のことで、僕は驚きを隠せなかった。

 

「なっ………! なぜだ………!? 僕はまだ戦える! まだ剣を握れる! それなのに―――――」

 

確かに疲労もある。

受けた聖水のダメージだって小さくない。

 

それでもこの状態を保つことはまだ出来たはずだ。

 

………神器が、魔剣創造が僕を否定した?

 

冥界の魔獣騒動の際、イッセーくんと戦った曹操は最後、自身の神器に拒まれ、力を奪われた。

 

それと同じことが僕にも起こっている…………?

 

困惑する僕の肩にデュリオさんが手を置いた。

 

「イッセーどんから聞いているよ。さっきの力は禁手よりも特殊なんだろう? 発動条件は分からないのも聞いてる。だけど、その時の状況はイッセーどんも木場きゅんも似てるものがあるって言ってたさ。…………神器はそんなことのために君に力を貸したんじゃない、そう言ってるんじゃないかな?」

 

「そんなこと…………? でも! このままじゃ、僕は…………! エクスカリバーを越えることが出来ないじゃないか!」

 

僕は人生をエクスカリバーに狂わされた。

僕だけじゃない、多くの同士が巻き込まれ命を落としていった。

 

バルパー・ガリレイの死と三大勢力の和平で一応の決着はついた。

 

でも…………でもだ!

 

目の前に天性のエクスカリバーの使い手がいて、レプリカといえどエクスカリバーが握られている!

僕の目の前で敵として立ちはだかっている!

勝ちたいじゃないか!

越えたいじゃないか!

僕に達のあの施設での出来事が幻でなかったと、無駄ではなかったと…………証明、したいじゃないか…………!

 

お願いだ、魔剣創造…………!

僕に、もう一度あの力を…………!

エクスカリバーを越えるために、あの力を!

 

必死に自身の内側の神器に願う僕。

そんな僕の頭をデュリオさんさ優しく撫でた。

 

「君が命をかけて戦う相手は違うだろう? 木場きゅん―――――いや、祐斗。君は教会出身だ。だったら俺の弟みたいなもんさ。お兄ちゃんとしては弟の無茶は許容できませんてっね」

 

そう言うとデュリオさんは前に出た。

 

僕の前に出て、自らの師の前に立った。

 

「ま、これでもチーム『D×D』のリーダーだ。お兄ちゃんに任せてくれよ」

 

 

[木場 side out]

 

 

 



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17話 終わる戦い、続く激戦

[木場 side]

 

デュリオさんが前に出る。

師であるエヴァルド・クリスタルディの前に立った、

 

エヴァルド・クリスタルディは弟子に問う。

 

「デュリオ、教会最強と称されたおまえは何のために戦う?」

 

「―――――皆が平穏に暮らせるために。それが唯一絶対の理由でいいじゃないっすか」

 

師の問いに彼は満面の笑顔でそう返した。

どこまでも優しい笑顔で。

 

十枚にも及ぶ純白の翼を広げ、黄金のオーラを纏った天界の『切り札』と呼ばれた男は手元に光を終結させていく。

 

それは光の槍でも剣でもなかった。

 

現れたのは―――――七色に光るシャボン玉。

 

シャボン玉はデュリオさんの手元を放れると無数に広がり、結界内だけでなく結界の外にまで広がっていった。

 

七色のシャボン玉が一帯を覆う幻想的なその光景にこの戦場にいる者達全ての動きが止まる。

 

デュリオさんが言う。

 

「『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』の応用技――――『虹色の希望(スペランツァ・ボッラ・ディ・サポネ)』」

 

スペランツァ・ボッラ・ディ・サポネ。

イタリア語で「希望のシャボン玉」を意味する。

 

シャボン玉が僕の手に落ちて儚く弾けて消えてしまう。

刹那、僕の脳裏に懐かしい記憶が甦る。

 

 

それは―――――僕が過ごしたあの施設での記憶だ。

 

 

 

『ねぇ、この施設を出たら、皆は何になりたい?』

 

僕達は夢を語った。

外に出たら、何になりたいか。

何がしたいか。

 

『僕は画家かな。イェスさまの絵を描いて表彰されたいな』

 

『私はシスターになりたいわ。あ、でも、お花屋さんにもいいなって』

 

『わ、私は皆と一緒に仲良く暮らせたら、それでいい…………かな』

 

僕も彼女と同じことを口にした。

 

そう、皆と一緒にいられればそれで――――――。

それで良かったんだ。

 

エクスカリバーのことなんてどうでもよかった………!

皆、夢があって、希望があって、普通の子のように生きていければそれでよかったんだ…………!

 

聖剣だとか、適正だとか…………それは僕達の夢のための要素のはずだった…………!

 

僕はこんな…………こんなことすら忘れていた。

一度は彼らの想いを受け取りながら、それなのに僕は忘れてしまっていた…………!

 

彼らは復讐なんて望んでいなかった…………!

ただ生きたかっただけなんだ…………!

 

そして、僕に託したものも…………!

 

僕は…………僕は…………!

 

あの人の声が脳裏に甦る。

 

『私のため、そして、自分のために生きなさい』

 

僕を救ってくれた紅髪の女性。

僕の幸せを願ってくれた、姉のような大事の人。

 

『本当に大切なものは何なのか、頭冷やして良く考えてくるんだ。それから帰ってこい。俺達はいつでも、おまえを待ってるからさ』

 

いつか、彼に言われた言葉だ。

エクスカリバーへの復讐心に囚われた僕に彼は言ってくれた。

 

僕は…………一体、彼の背中から何を学んできたんだ…………!

理解したつもりで、全く理解できていなかった…………!

大切なことを二度も忘れてしまっていた…………!

 

…………リアス…………姉さん、イッセーくん…………僕は本当に…………本当に大馬鹿野郎でした…………。

 

見れば、この戦場にいる誰もが号泣していた。

武器を地面に落として、ただただ泣いていた。

 

デュリオさんが言う。

 

「そのシャボン玉は触れた者に大切なこと大切な人を思い出させる。それだけの能力さ。けど、俺が一番欲しかった能力はこれだったから、応用で作り出したんだ」

 

あの虹色のシャボン玉にはそのような特性があったのか…………。

 

誰よりも優しい能力。

神滅具の力を破壊には使わず、全く別の能力として彼は――――――。

 

しかし、このシャボン玉を受けても剣を握る者がいた。

エヴァルド・クリスタルディは涙を流しながらも、その手にエクスカリバーを握っていた。

 

「だとしてもだ! 一応の決着を見なければ我らの決起は無駄になるのだよ! デュリオ!」

 

「―――――ならば、決着をつけましょう」

 

シスター・グリゼルダさんが六枚の翼を広げて、手元に光を集めて弓矢を作り出す。

 

一度、耳にしたことがある。

ハートのQが持つ独自の能力で、それは攻撃ではなく―――――。

 

イリナさんも呼応して立ち上がる。

 

「オートクレール、力を貸してね! エクスカリバーを使っていた者としては一矢ぐらいは報いたいから!」

 

イリナさんも四枚の純白の翼を広げて飛び出していく!

 

僕は彼女の背中を見ながら、自分の内側へと意識を向けた。

 

その時だった――――――。

 

体から聖と魔、二つの力が溢れ出てきた。

それは魔人と化したジークフリートと戦った時―――――禁手を越えた新たなステージへ至った時と似ている。

 

でも、決定的に違っていた。

 

この溢れ出る力は今までよりも澄んでいて、聖と魔の相反する力がより一つになって、新たに顕現する。

 

僕は再びその領域に至る。

見た目は変わっていない。

だけど、今までよりも静かに淀みのないオーラを纏っていた。

そして、聖魔剣の刀身も一点の曇りもなく、創った本人の僕が美しいと感じてしまうほどだった。

 

僕は呼吸を整えて、目を開く。

 

地面を蹴って前に出る。

体が、心が軽い。

どこまでも飛んでいけそうな、そんな気すらした。

 

突っ込んでいく僕とイリナさんに対して、エヴァルド・クリスタルディは分身を幾重にも作り出して僕達を翻弄しようとする。

 

ダメージを受けて、万全じゃないはずなのにイリナさんの身のこなしは戦う前よりも軽くなっていて、次々に分身を斬り倒していく。

 

僕は高く跳躍し、分身体の頭上を飛び越えて一体の分身へと斬りかかった!

 

その分身体が驚愕する。

 

「バカな…………! 見切ったというのか!」

 

見切った………というのは少し違う。

ただ感じた。

 

どれが分身で、どれが本体なのか。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

僕はただ真っ直ぐに剣を振り下ろす!

 

激しく衝突する聖魔剣とエクスカリバー!

 

聖魔剣を受け止めた瞬間、エヴァルド・クリスタルディは苦しげな表情を浮かべていた。

今の一撃、破壊の力を籠めた一撃が相当響いたのだろう。

 

「―――――っ! レプリカとはいえ、エクスカリバーにヒビを入れるか!」

 

彼だけでなく、エクスカリバー・レプリカにもかなりのダメージを与えられたようだ。

 

鍔競り合う中、驚くべきことが起きた。

 

エクスカリバーの聖なるオーラを僕の聖魔剣が吸いとり、逆に僕の聖属性が強化されたのだ。

聖なるオーラが聖魔剣と僕の体を包み、その出力を更に上げていく。

 

エヴァルド・クリスタルディは更に驚愕の声を漏らした。

 

「エクスカリバーの聖なる波動を魔剣の力で吸いとり、自身の聖属性を高めたというのか!?」

 

聖魔剣により聖なる波動を一時的に全て吸いとられたエクスカリバーは、刀身に生じたヒビを更に広げていく。

 

そこにイリナさんがオートクレールを振り下ろした!

 

「オートクレールよ! 浄化の力を!」

 

主の想いに応えたオートクレールがその特性を解き放つ!

 

オートクレールは浄化の力を持つ。

それを真正面から受ければ戦士達の偉大な師であろうと戦意を消し去られる。

 

しかし―――――。

 

「ハッ!」

 

エヴァルド・クリスタルディは気合いの一閃を放ち、その場をやり過ごす!

 

情念を失われつつあるなか、気合いで凌いだのか!

彼の気合いに応えるようにエクスカリバー・レプリカも失われた聖なる波動を取り戻していく。

 

その時、背後から特大の光力が籠められた矢がこちらに飛んできた。

それはイリナさんの背中に撃ち込まれると、彼女の体は莫大な光を放ち始めた!

 

「私の矢は天使の力を高めます!」

 

そう、シスター・グリゼルダさん、ハートのQが持つ能力だ。

彼女によって矢を撃ち込まれた天使は一時的にその力を飛躍的に向上させる。

 

イリナさんの力が高められたことで、オートクレールも強さと特性を増す。

 

僕の聖魔剣によって聖なる波動を吸いとられたところに、強化されたイリナさんの一撃。

 

その一撃により、エクスカリバー・レプリカは限界を迎える。

――――――エクスカリバーの刀身が上下に分かれた。

 

「―――――先生、いきます」

 

デュリオさんがそう告げる。

 

空には広大な雷雲。

周囲には鋭い冷気が流れ、エヴァルド・クリスタルディの足と砕けてもなお握られるエクスカリバーを氷で覆う。

 

そして――――――。

 

上空から降ってきた極大の雷は十字架の結界を破壊し、戦士達の師を包み込んでいった―――――。

 

 

 

 

地面に横たわるエヴァルド・クリスタルディ。

ジョーカーの一撃を最後のとどめに、戦士達の師は倒れた。

 

部下の女性戦士の回復を受けたおかげで、彼は致命的なものは回避したようだが、神滅具の威力は凄まじく、立つことが出来ないでいる。

 

師が倒れたこともあり、他の戦士達は既に戦意を失っている。

 

結果的にこの勝負は僕達の勝ちに終わった。

 

横たわりながら、エヴァルド・クリスタルディはデュリオさんに言う。

 

「…………最初からあのシャボン玉を作ればもっと楽に勝てただろうに。いや、禁手になれば、私達を容易に一網打尽に出来たはずだ」

 

彼の言う通りだ。

 

デュリオさんがあのシャボン玉を出していれば、戦士達の戦意は早々に失われていただろうし、禁手になれば、戦況は一気にこちら側に傾いただろう。

 

しかし、それでは―――――

 

「剣で語れなきゃ戦士ってのは満足できないって思ったんで。ある程度経ってから使おうって決めてただけです。不完全燃焼よりは出しきれた方が良いでしょ? それに俺の禁手はどうしようもなく聞き分けのない相手か、まったく反省の色も見えない悪者に使うって決めてるんで」

 

「…………まったく、甘いな、おまえは…………。昔からそうだ。…………デュリオ、おまえの勝ちだ。好きにするがいい。だが、あいつらは見逃せ。あくまで私が連れてきたのだ。私にこそ咎がある」

 

全てを受け入れると言った表情のエヴァルド・クリスタルディ。

今回の罪を全被りするつもりなのだろう。

 

その言葉に戦士達が異を唱える。

 

「待ってくれ、デュリオ!」

 

「殺すならば我らを殺せ! 先生は私達の想いに応えてくれただけなんだ!」

 

「咎を受けるべきは俺達だ!」

 

必死に師を包み込んで庇おうと立ち上がる戦士達。

この光景だけて、この男がどれだけ敬われているかが分かる。

 

しかし、彼らの師は首を横に振った。

 

「…………ここにいる皆は悪魔や吸血鬼に人生を狂わされた者ばかりだ。私もそうだったよ。それらを倒すことでしか生き方を見いだせなかったたけだ。…………さあ、私だけを罰せよ。この子達はここから生き方を変えられる」

 

彼の表情はこれまでの厳しいものと違い、とても温和なものだった。

これがこの男の本来の顔つきなのだろう。

 

「…………なにもしないっすよ?」

 

ため息を吐いたデュリオさんはその場に座り込んでしまった。

 

師は訝しげな表情で問う。

 

「なぜだ?」

 

「先生を倒したら、そっちの方が恨まれるに決まっているでしょう? それに生きてりゃ美味いもん食い放題っす。…………世の中、それがどれだけ尊いか、知らない奴が多すぎなんです」

 

師の問いにカラカラと笑いながら弟子は答えた。

まるで今までの戦闘が嘘だったかのような、そんな優しげな笑みで。

 

エヴァルド・クリスタルディの目にうっすらと涙が浮かぶ。

 

「…………甘い。おまえは本当に…………甘いな」

 

 

[木場 side out ]

 

 

 

 

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺の悲鳴が辺りに響く。

俺は強烈な一撃をくらい、瓦礫の下敷きになっていた。

 

今の俺の姿は鎧のあちこちが壊れ、赤く染まった生身が晒されている状態。

 

俺は完全に追い込まれていた。

 

「ほらほら、もっと頑張りなよ。そんなんじゃ、いつまで経っても僕は倒せないよー?」

 

空から聞こえてくる呑気な声。

 

見上げると宙には黒い城を背にして俺を見下ろす青年(・・)が一人。

 

その容姿はどこかヴァーリに似ているような気がする。

白いパーカーを被っているあたりは相変わらずだが、左腕には黒い籠手。

パーカーの下からは青年の青い瞳がこちらを捉えていた。

 

そう、あの青年はアセムだ。

 

あいつは状況に応じて体を変えられるらしく、今は戦闘用の肉体らしい。

幼い少年の姿から変わり、今は俺とそう変わらない青年の姿をしている。

 

「アハハッ♪ パワーは凄いけどまだまだだねぇ。せっかく君の得意な肉弾戦で受けてるのにさ」

 

俺達の戦いは先程までいた部屋を突き抜け、城の外で繰り広げられているのだが、完全に俺が押されていた。

こっちはEXAまで使っているのに全く歯がたたない。

しかも、純粋な格闘戦で圧倒されている。

こちらの攻撃は一切当たらず、一方的な戦いになっていた。

 

楽しげな笑みを浮かべるアセムは手元にテニスボールサイズの黒い球体を作り出すと、こちらへと投げてきた!

 

今くらったダメージで俺は動くことが出来ず、真正面から受ける形になる!

 

両手で受け止めているのに…………押されている!

こんな小さいエネルギー弾なのになんて重さだ!

リゼヴィムの比じゃねぇぞ!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

倍加した力の全てを使ってエネルギー弾を食い止める。

しかし、それでも、じわりじわりと俺の体は後ろに下がってしまっていた。

 

足が地面にめり込み、潰れそうになる!

 

俺は全身の力に籠めて全てを出し尽くすように叫んだ!

 

「ぐぬ………うぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

何とか体を反らし、エネルギー弾の軌道を上空へと変える。

軌道を変えたエネルギー弾は弧を描いて遥か遠くの地に着弾。

 

そして―――――――。

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォン!

 

 

冥府全体を揺らす大爆発を起こした!

巨大なキノコ雲が発生し、衝撃波がこちらまで伝わってくる!

核ミサイルかよ!?

 

アセムは少し感心したような表情で言った。

 

「あらら、今のを流すとはね。致命傷ぐらいは与えるつもりだったんだけどね」

 

「はっ、はっ、はっ………致命傷で留めるつもりだったのかよ、今ので………」

 

「そう? 今の状態で(・・・・)出せる力の半分ぐらいは使ったんだよ?」

 

「おいおい、嫌な情報だな、それ………」

 

今の状態、しかもその半分の力であの威力。

あの籠手は俺の複製体や『システム』を覗いて参考にしたっていうくらいだから、おそらく禁手(バランス・ブレイカー)に似た何かがあるはずだ。

 

つまり、あいつのてっぺんはまだまだ見えないってことだ。

 

マジで嫌になるぜ。

EXAでも手が届かないなんてな…………!

 

俺は飛び上がると、アセムがいる高さまで飛翔する。

 

城のあちこちから爆音が聞こえてくる。

 

皆もまだ戦ってるんだろうな。

 

アリスはヴィーカ。

 

美羽はディルムッド達のところに向かわせた。

ベルの相手はディルムッドとレイヴェルだけじゃキツいからな。

 

…………こっちに残るって言ってきたけど、今の美羽じゃ俺達の戦いには着いてこられない。

ま、俺も相当ヤバイんだけど。

 

で、ヴァーリは――――――。

 

「ガハハハハ! オラオラ、もっとかかってこいよ、白龍皇さんよぉ!」

 

「いいだろう! 『破軍』のラズル! おまえとの戦いは心が躍るな!」

 

うん、ラズルと場外戦やってるわ。

滅茶苦茶楽しそうにしてやがる。

あいつらは好きにやらせておこう。

バトルマニアめ!

 

皆の戦いの気配を感じながら、俺はアセムへと突貫する。

 

フェザービットを全基展開した後、気の残像を生み出しアセムを翻弄するように軌道を変えて接近していく。

 

ビットによる全方位からの砲撃。

加えて、接近戦で繰り出す拳。

 

打ち出すだけで大気を揺るがす程の威力を持った拳だが、アセムはそれを難なく受け止めていく!

 

「良い拳だよ。受け止める度に響いてくる。だけど―――――僕を倒すには威力不足だ」

 

奴の左の拳、黒い籠手に黒いオーラが集まっていく。

すると、奴の掌に薄い紫色をしたガラス球のようなものが作り出される。

 

「―――――結晶球」

 

奴は俺の腕を掴んで引き寄せると、ガラス球を俺の腹に撃ち込んできた!

 

回避しようと右手で庇うが、ガラス球は俺の手を飲み込み、次第に全身を覆ってしまう!

 

俺は大きくなったガラス球に閉じ込められてしまった!

 

しかも最悪なことに――――――。

 

「くっ………! 動けねぇ…………!」

 

閉じ込められた俺は指一本動かせなくなっていた。

どれだけ力を籠めようともガラス球はびくともしない。

 

まるで、全身をコンクリートにでも固められたような感覚だ。

 

「ほーら、早くしないと撃っちゃうよ? 三数える前に抜けないとキツい一撃が君を襲うよ?」

 

「っ!」

 

「はい、イーチ」

 

その瞬間、奴から放たれたエネルギー弾がガラス球ごと俺を吹き飛ばした!

ガラス球は砕けて、俺は脱出できたものの、今の衝撃で更にダメージを負ってしまった!

 

つーか、あの野郎…………!

 

「二と三は!?」

 

「知らないねぇ、そんな数字は。男は一だけ覚えていれば生きていけるんだーよ。…………って、アニメでやってた」

 

「またアニメかよ!」

 

ちくしょう、ふざけやがって!

こんなふざけた奴に俺はやられてるの!?

泣けてくるわ、色々と!

 

ええい、リゼヴィムとは別の方向で腹立つけど、やっぱ強ぇ!

 

アセムは腕を組みながら不敵に笑う。

 

「さてさて、このままじゃどう見ても一方的だ。決着もつけようと思えばいつでもつけられる」

 

「だったら、なんでそうしない?」

 

俺が問いかけると、アセムは楽しいことを思い出したような表情で答えた。

 

「天界で君が見せてくれただろう? あれを待っているんだよ。あれなら今の僕(・・・)になら届くからねぇ。なんでしてこないの? 君も分かってるだろう?」

 

あれか………。

 

俺もあれが出せるならとっくに出してるよ。

今の状態だと出せないから、ここまで苦労してるんだろうが。

 

俺は無言のまま構えを取った。

 

アセムが言う。

 

「あれ? やっぱり出さない感じなの? もしくは前回みたいに途中で止まってしまう感じ? まぁ、どちらにしても僕にとっては残念な話なんだけどね」

 

アセムはゆっくりと腕を上げて、掌をこちらに向けた。

そこに黒いオーラが、先ほどの核ミサイルみたいな威力を持ったエネルギー弾がチャージされていく。

 

「それじゃあ、今日はここで終わり―――――」

 

アセムがこの戦いの終わりを宣言し、俺を倒そうとしたその時だった。

 

俺の耳元に通信用魔法陣が展開される。

 

連絡を取ってきた相手、それは――――――――。

 

『おう、イッセー! 生きてるか?』

 

アザゼル先生だった!

 

いきなり生存を訊いてきたよ、あの人!

生きてるわ!

ボロボロだけど!

 

魔法陣の向こうからアザゼル先生の声が続く。

 

『そっちの状況は分かってる。結構やばそうだな。だが、何とか間に合ったぜ』

 

「間に合った? 先生、それはまさか――――――」

 

俺の声に、先生は自信に満ちた声で返してきた。

 

『ああ。おまえのEXA、乳力(にゅー・パワー)を安定させるための装置の調整が今しがた終わった。今からそっちに送る!』

 

すると、俺とアセムから離れたところに魔法陣が展開される。

それは転送用の魔方陣。

 

魔法陣から現れたのは―――――――一機の戦闘機のようなものだった。

 

大きさは俺の上半身よりやや大きいくらい。

全体が赤く、機体の各所に赤龍帝の鎧にある宝玉が埋め込まれてある。

 

あれが――――――。

 

『そうだ。そいつが乳力安定補助装置。その名も―――――』

 

 

 

 

先生はその名を告げた。

 

 

 

 

 

『―――――――オッパイザーだ!』

 

 




シリアスブレイク投下ぁぁぁぁぁぁ!


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18話 狙撃手、再び 

『――――――オッパイザーだ!』

 

その名を告げる先生の声が俺の中でリピートされた。

 

オッパイザー…………。

 

そうか、オッパイザーっていうのか。

 

オッパイザー…………。

 

オッパイザー…………おっぱい、ざー…………。

 

おっぱい…………おっぱい…………?

 

何度も何度も『おっぱい』という単語が再生された。

 

そして―――――。  

 

「もうちょっとカッコいい名前はなかったのかぁぁぁぁぁぁ!?」

 

天を仰ぐ俺!

 

あれってそんな名前だったのぉぉぉぉぉぉ!?

機体は何度か見てきたけど、その名前は今初めて知ったわ!

 

なんで、よりによって『オッパイザー』!?

他にも名前は考えられたでしょ!?

 

確かにおっぱい好きだけども!

おっぱいドラゴンだけれども!

 

酷いネーミングだよ!

 

『酷いとは酷いわ。名付け親には私も入ってるのよ?』

 

おまえかい、駄女神! 

なんつー名前つけてんだ!?

 

『だってイッセーはおっぱいドラゴンだもの! アザゼルくんと一生懸命考えたんだから!』

 

そのまんまじゃねーか!

努力の方向性が間違ってるぞ!

 

耳元の通信用魔法陣からアザゼル先生の声が聞こえてくる。

 

『本当ならもっと小型にしたかったんだがな、そのサイズで限界だった。乳力(にゅー・パワー)の力が大きくてなぁ。俺の持てる技術の枠を越えてきたんだ』

 

『おっぱいの力は偉大ということね。でも、アザゼルくん。これで新商品も決まったんじゃない?』

 

『そうだな。これは売れる。冥界どころか、各神話勢、おっぱいドラゴンファンのもとに届けようじゃねぇか!』

 

『ええ!』

 

なんか、未婚元総督と駄女神が新商品を目指してるんですけど!?

あんたらの商魂逞しすぎるだろう!?

つーか、商品化するってことは特撮でも出す気だな!?

 

イグニスが言う。

 

『さぁ、ドッキングするわよ、イッセー! あなたの真の力を見せてあげなさい!』

 

『そうだ。そのために猛ダッシュで調整したんだからな。一泡吹かせてやれや、イッセー!』

 

二人が俺を促す。

 

ここまで来たら機体の名前なんて置いておこう。

商品化も自由にしてくれ。

 

―――――今、俺が欲するのは目の前の敵を殴れる力だ。

 

青年の姿となったアセムが笑む。

 

「アハッ♪ ここに来て、面白いのが出てきたね。―――――君の準備が整うまで待とう。さぁ、君の全力を僕に見せてごらんよ。僕が知りたいのは、望むのは、今の君が持つ全てだ」

 

準備が出来るまで待つ、か。

なんともサービス精神の良い神さまなことだ。

 

だが、手を出してこないのは俺としてはありがたい。

 

それに、向こうがご所望なら魅せてやらないとな。

―――――俺の全てを。

 

俺はアセムを一瞥すると空高く飛び上がる。

ぐんぐん高度を上げて、冥府の雲を突っ切った。

俺を追うようにアザゼル先生から送られてきた赤い機体も空高く舞う。

 

赤い機体が俺の背後に位置した時、俺は叫んだ!

 

「―――――ドッキングする!」

 

すると、背中の装甲がカシャカシャとスライド。

背中に宝玉が現れる。

 

鎧の宝玉と機体に埋め込まれた宝玉から音声が響く。

 

『Docking Sensor!』

 

『Oppaiser Docking Mode! Oppaiser Docking Mode!』

 

機体が変形し、接続部のようなものが現れる。

そこにも宝玉が埋め込まれていて、背中の宝玉と光線のようなもので結ばれる。

 

オッパイザーが背中に接続されて俺と一体化すると、EXAの鎧はより適した姿へと変わり始めた。

各部のブースターは小型化され、籠手に収納されていたキャノン砲が無くなる。

その代わり、背中の翼が一回り大きくなった。

 

天武と天撃、天翼の鎧を無理矢理くっつけたEXAはその力にどこかズレがあった。

それが今、修正されていくのを感じる。

 

―――――乳力の歯車が完全に一致した。

 

全身の宝玉から眩しい輝きが放たれ、冥府を照らす!

 

宝玉の一つ一つには『∞』の文字が浮かび上がっている。

 

これは………無限の力を表しているのか?

 

そんな疑問にイグニスが答えた。

 

『いえ、それは無限を意味しているんじゃなくて、おっぱいを表しているの』

 

おっぱいかよ!

とうとう宝玉におっぱいが浮かび上がってきたよ!

確かに見えなくもない…………って、よく見たら円の中に点がある!

二つの円、それぞれの中心に点がある!

これ、おっぱいだ!

 

『この瞬間、イッセー中にあったアリスちゃんの乳力とリアスちゃんの乳力が完全にフィットしたのよ。ダブルスイッチ姫の力があなたの中で噛み合った。乳力をフルで使える今の姿は――――――ダブルオーッパイザーってところね』

 

なんで伸ばした!?

なんでおっぱいを伸ばした!?

そこはダブルオッパイザーじゃダメなのか!?

 

『なんとなく!』

 

毎回毎回適当すぎるだろ、この駄女神は!

 

 

 

~その頃のダブルスイッチ姫~

 

 

一誠がオッパイザーとドッキングを果たした頃、アリスとリアスにも変化があった。

 

その変化は誰の目にも明らかで、アリスと激突しているヴィーカにも、リアスの周囲の者達にも認識できた。

 

その変化とは―――――。

 

「「なに、これ…………!? 私の乳首が………光ってる!?」」

 

駒王町を模したフィールドと冥府。

離れた場所にいるはずの二人の言葉は奇跡的にタイミングも一致していた。

 

 

~その頃のダブルスイッチ姫 終~

 

 

 

なにはともあれ、これで俺の中にあった乳力は安定したんだな!

 

しかし…………不思議なことに、ドッキングした瞬間、全身に受けていたダメージが消えたんだ。

しかも、体力まで全快している。

 

これは一体…………。

 

俺の疑問が読めたように先生が通信を送ってくる。

 

『オッパイザーにはな、おまえが搾ってきたアリスとリアスの母乳が搭載されている。そのおかげでおまえは力を取り戻したはずだ』

 

「マジですか!? こいつにそんな機能が!?」

 

『ま、提案したのはイグニスだ。実際に回復しているようで俺も驚いてる。しかし、一つだけ言っておくが、その回復が使えるのは一回のドッキングにつき一回だけだ。つまり――――――』

 

アザゼル先生の言葉を続けるようにイグニスが言った。

 

『つまり、使う度にアリスちゃんとリアスちゃんのおっぱいを搾らないといけないってことね♪』

 

な、なんですとぉぉぉぉぉぉ!?

 

ドッキングする度に二人のおっぱいを搾れと!?

また『休憩室』に二人を連れ込めと!?

 

そ、それはちょっと嬉しい特典のような気が…………。

多分、アリスパンチが飛んでくると思うけど、それがあっても良いかな…………。

 

う、家に帰ったらまたお願いしてみようかな…………。

 

二人の可愛くエロい光景を思い浮かべているとアザゼル先生が追加情報をくれる。

 

『いいか? オッパイザーはあくまで乳力を安定させるものに過ぎん。その状態の継続時間は通常のEXA形態とさほど変わらん。まぁ、出力自体は上がっているかもしれないけどな。とにかく、おまえの体力が切れるまでの勝負だ。体力が尽きればドッキングも解除されるから注意しろ』

 

「解除されるんですか? シトリー眷属の人工神器的な感じじゃないと?」

 

『確かにオッパイザーは人工神器の技術を使用しているが人工神器とは似て非なるものだ。しかも、EXA形態専用で非常に限定された代物となっているからな。他の形態には使えんぞ』

 

あー、なるほど。

まぁ、あくまで乳力安定補助装置だもんな。

そう考えれば納得はできるような…………。

 

先生は続ける。

 

『こっちの戦闘は今のところ順調だ。だが、冥界、天界から援軍を送ることが出来ないのは申し訳なく思っている…………』

 

「大丈夫ですよ。こっちはこっちで気張るんで先生はリアス達を見てあげてください。―――――俺もあいつに一発叩き込むんで」

 

下から俺を見上げるアセムへと視線を移す。

奴は変わらず、ニンマリと笑みを浮かべている。

 

俺は一度、大きく息を吸って――――――

 

「いくぜ、アセム! こっからが第二ラウンドだ! ドライグ!」

 

『おう! 色々残念だが、今なら使えるぞ! やれ、相棒!』

 

ドライグからの許可は得た!

 

俺は内側の駒を『女王』に昇格!

同時に昇格強化でこの形態と駒の力を最高のレベルで同調させた!

 

「―――――トランザム!」

 

『Trans-am Drive!!!!』

 

籠手の宝玉から発せられる力強い音声!

 

鎧が赤く――――紅蓮の輝きを放ち、大きく広げられた両翼からは赤く煌めく粒子が大量に放出される!

 

俺はアセムに指を突きつけて叫んだ。

 

「EXA改めダブルオーッパイザー! 俺の全力、受けてみやがれぇぇぇぇぇぇ!」

 

赤い粒子を放出しながら俺は急降下!

EXAの時よりも遥かに速いスピードでアセムへと突貫する!

 

対するアセムは黒い籠手を突き出して、本日一番の笑みを見せてくれる!

 

「アハッ♪ それだよそれ! 君の新しい可能性を見せてくれ!」

 

異世界の神との第二ラウンドに突入!

 

俺達の拳が衝突すると、互いのオーラが激しく火花を散らす!

巻き起こる稲妻が周囲を破壊し始める!

 

「ぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇあっ!」

 

「アハハハハハハハハハハ!」

 

俺の咆哮とアセムの笑い声が混ざる。

 

合わさる拳を中心に空間が歪み、渦が発生し始める。

地面が割れ、雲が歪み、渦に引き寄せられていく!

 

剥がれた地面が浮かび上がってきた瞬間、弾かれたように俺とアセムは後ろへと飛んだ。

それと同時に空間の歪みが収まり、剥がれた地面は重力に引かれて落ちていく。

 

俺は翼を広げると、落下中の地面を蹴って前に出る。

光の軌跡を描いてジグザクに宙を漂うアセムへと殴りかかった!

 

対するアセムはフードの下から笑みを覗かせると、無数の残像を生み出した。

残像の全てが掌を向けて、黒いオーラを集中させていく。

 

「さぁ、見切れるかな?」

 

そう言うとアセムの残像全てからエネルギー弾が放たれる!

百や二百を遥かに上回る数のエネルギー弾!

 

さっきのアセムの言葉から察するに幾つかはダミー。

幻影が混じっているようだ。

 

だけど、全てのエネルギー弾から危険な感じがしていて、区別がつかない!

 

区別がつかないなら――――――。

 

「全部撃ち落とすまでだ!」

 

俺は身を縮めて力を溜めると―――――一気に解き放った!

全方位へと広がる衝撃波!

 

赤い波動が黒い球体を相殺、空中で大爆発を起こす!

空一面が火の海となる!

 

俺は赤い粒子を撒き散らしながら、翼を羽ばたかせて、火の海の中を突っ切っていく。

 

燃え盛る炎を飛び抜けた先にいるのはアセム!

奴もこの火の海の中を抜けてきたらしく、猛スピードで迫ってきていた!

 

再びぶつかる拳と拳!

 

俺は紅蓮のオーラをたぎらせ、ラッシュを仕掛けた!

 

アセムは余裕の笑みを浮かべて全てを避けきっている――――ように見えた。

見ると頬には切ったような跡があり、血が滲んでいる。

他にもアセムのトレードマークともいえる白いパーカーも所々が破けていた。

 

それはつまり―――――アセムが俺の拳を避けきれなくなってきていることを示している。

 

それまで掠りともしなかった俺の攻撃を徐々にではあるが、体が反応しきれなくなっている。

 

俺はというと、アセムの攻撃は受けているものの、受けるダメージはかなり減っている。

しかも、受ける数も大幅に下がっていた。

 

そして――――――。

 

「オォォォォォォォォッ!」

 

「ッ…………!」

 

アセムの頬にめり込む拳。

ついに俺の攻撃がアセムを完全に捉えた。

EXAでも届かなかった拳がようやく届いたんだ。

 

「ここから一気に押しきってやるぜ!」

 

籠手のブースターが火を吹く。

小型化したブースターだけど、出力は前よりも上がっている。

 

おそらく、俺の中の力が安定する前までは無駄に力を放出してしまっていたのだろう。

それが安定したことで力を集中できるようになった。

 

しかも、トランザム状態の今なら、スピードもパワーも三倍!

 

勢いを増した拳はアセムを遥か彼方まで吹き飛ばす!

 

俺はここぞと追撃に出る。

 

しかし、ここは流石のアセム。

力を放出すると、その場で宙返り。

空中で体勢を整えやがった。

 

アセムは頬を拭いながら笑う。

 

「うん、これは予想以上だね! これがおっぱいパワーなのかな?」

 

「そういうこった!」

 

結果的におっぱいだもんな!

否定は出来んよ!

 

アリスさん!

リアスさん!

…………おっぱいをありがとう!

心からお礼を言わせてもらうよ!

 

無事に帰れたら、二人に抱きつこう!

 

俺はアリスとリアス、二人のスイッチ姫を思い浮かべながら、二人の力をこの手に顕現する。

右手に滅びの魔力、左手に白雷。

力が安定したことで、俺の中の二人の力もより強く扱えるようになっていた。

 

例えば―――――。

 

翼から勢いよく飛び出る八基のビット。

高速で動くビットは砲門をアセムへと向ける。

 

砲門に溜められるのは――――――滅びの魔力だ。

 

「フェザービット! あいつにぶちかませぇぇぇぇ!」

 

一斉に放たれる滅びの球体!

赤龍帝の力で高められた滅びの力がアセム目掛けて迫る!

 

前回は手で払われたが、

 

「おっと、これは避けた方が良さげだね!」

 

アセムはその場から飛び退き、回避する。

 

アセムが避けたことで滅びの魔力はそのまま地面に落ちて――――――地面をごっそり消し去った!

 

巨大なクレーター………というより、かなり深い穴だ。

滅びの魔力は地面を消し去りながら、地下深くまで突き進んでいったようだ。

 

続けて接近戦を挑む俺が纏うのは白雷だ。

ビットを二つ手に握って、白雷で形成された刃を出現させる。

 

「ちょっとでも触れれば丸焦げだぜ!」

 

「うはー、怖っ! 今のまま直接触れるのは不味そうだね。なら、僕も剣を出そうか」

 

そう言うとアセムはオーラを集中させて黒い剣を二つ作り出す。

 

互いに二刀流となって、剣を振るう俺とアセム。

ぶつかるたびにそこを起点に空間にヒビが入る。

俺達の力に周囲の空間が悲鳴をあげていた。

 

超高速で繰り広げられる剣戟。

 

しかし、それも長くは続かなかった。

 

激しく撃ち合った末に――――――俺の剣がアセムの剣を砕いた。

 

この結果にアセムは驚いた様子で、

 

「僕が力負けしているなんてね…………!」

 

「ああ、今なら力押しでもなんとかなりそうだ!」

 

だが、こっちには制限時間がある。

トランザムももう長くは続かないだろう。

 

だから―――――ここで決める!

 

俺はビットを手放すとアセムの腕を掴み、腹に強烈な一撃を叩き込む!

衝撃がアセムの肉体を突き抜けた!

 

「カハッ………!」

 

アセムの体がくの字に曲がり、口から空気を吐き出す。

 

俺はアセムを全力で上に放ると、翼と腰に折り畳まれているキャノン砲を展開。

持てる力の全てを籠めた。

 

「こいつで終いだぁぁぁぁぁぁ!」

 

そう叫んだ瞬間、翼から放出されていた赤い粒子が変化した。

赤から――――――虹色へ。

そう、天界で起きたあの現象だ。

 

 

その時、俺の頭に二つの人物の顔が浮かんできた。

 

 

―――――優しく微笑む知らない女性。

 

 

―――――ボロボロの姿で横たわる、知っている少年。

 

 

ふいにアセムの顔を見ると――――――笑みを浮かべていた。

それは今まで見たことのない穏やかな笑みで―――――。

 

『EXA Over Blast!!』

 

放たれた莫大な砲撃がアセムの体を包み込んだ―――――。

 

 

 

 

 

冥府の空が紅蓮に染まっている。

 

オッパイザーと奥の手であるトランザムよって超強化された俺の力はアセムの力を上回った。

 

でも、それも最後の一撃で終わり。

 

時間切れとなった俺は鎧も通常のものに戻り、オッパイザーも分離。

魔法陣が展開され、オッパイザーはどこかに転移してしまった。

 

イグニスが言う。

 

『限界が来たらオッパイザーは自動的にアザゼルくんの研究施設に転移されるわ。残ってても仕方ないし』

 

そりゃそうか。

あくまでEXA対応だもんな。

 

俺の限界が来たらオッパイザーも使えなくなるってアザゼル先生も言ってたし。

 

俺は未だ紅蓮に包まれる空を見上げる。

 

持てる全ての力を使いきった。

今から戦っても圧倒されて終わるだろう。

出来れば、今ので終わってほしいと願うが…………。

 

空を覆っていた紅蓮が収まり、元の色を取り戻していく。

 

 

すると―――――。

 

 

「アハハハハハ! これは予想を遥かに越えてきたね! パワー、スピード、今の僕を上回っている! いいね! 凄まじい成長だよ!」

 

楽しげな笑いと共に露になっていく黒い影。

 

そこにいたのは――――――禍々しい色の蝶だった。

 

あらゆる色が混ざった暗い色の蝶の羽。

それがアセムの背中から大きく広げられている。

 

見ればアセムも傷だらけで、それなりのダメージは負っているようだが…………。

 

アセムは蝶の翼を羽ばたかせて、俺と同じ高さまで降りてくる。

 

「いやはや、凄いよ君は。僕がここまでボロボロにされたのはロスウォードくんにやられて以来かな? まぁ、あの時は死にかけたけどね」

 

「…………あれ受けてピンピンしてやがんのかよ」

 

俺がげんなりしながら言うとアセムは首を横に振った。

 

「結構ダメージは大きいよ? 生身であれを受けたからねぇ。これぞおっぱいドラゴンの力ってね。ふふふ、その姿がテレビ放映されるのが楽しみだよ♪」

 

こいつ特撮のこと考えてるんですけど!?

やっぱりピンピンじゃねーか!

 

トランザムで三倍強化してこれかよ!?

 

「うんうん、順調に成長しているようで何よりだよ。今、一瞬だけど発動していたあの力。リゼ爺はあれを気味悪がってたけどね。僕としては嬉しい進化だよ。…………ピースが埋まるのも近いかな?」

 

アセムは何やら笑顔でうんうん頷いている。

 

…………ピース、か。

 

そういや、美羽にも言ってたな。

自分が動くときはピースが埋まった時だと。

 

俺はインカムを通して聞いていたアセムの言葉を思い出しながら訊いた。

 

「………おまえは美羽に言ってたな。今の世界はおかしいって」

 

「言ったよ。今、この世界は色々動き出してるね。でも、不十分なんだよ。彼女にも言ったことだけどね、神も人間もそれ以外の存在も世界の一部だ。それぞれの存在があるからこそ世界は動いていく。この世界の存在はそれを分かってないのさ」

 

「結局、おまえは世界を一つにしたいってことなのか? だけどな、この世界はようやく和平に向けて動き出したんだぜ?」

 

この一年で世界の情勢は劇的に変化している。

 

長年争ってきたもの同士が同盟を結ぶ。

当然、不満や反発の声が出てくる。

今回の教会でのクーデターもそれが爆発したものだ。

 

アザゼル先生たちもそれを理解しながらも、世界を良い方向に動かそうとしている。

 

それを…………。

 

しかし、アセムは首を横に振った。

 

「不満や反発? それは当然さ。今、教会でクーデターを起こしている者達がいるだろう? 彼らは自らの想いを声に出し、行動に移し、君達にぶつけた。君達もそれに応えている。そうして互いの信念や想いをぶつけることも世界を廻すには必要なことだ」

 

「だったら、おまえは―――――」

 

アセムは俺の言葉を遮って続ける。

 

「僕が言っているのはそこじゃない。僕はこうも言ったはずだよ。―――――『無駄に力を持つ者は思い上がり、くだらないことに固執する。弱者はその地位に甘えて自分は無関係だと世界から自身を切り離す。こうした人達が他者を否定し、閉じ籠り、分かり合おうとしなくなる』ってね。最初から自分達の想いを伝えようともしない、相手を分かろうともしない」

 

アセムは左右の手を広げると交互に視線を移す。

 

「世界は自分達のもの? 自分達を中心に動いてる? それは間違いだ。自分は関係ない? それも間違いだ。この世界にはそういう考えの者が多すぎる。神も人もそれ以外も。意識してか、無意識なのかは知らないけどね。―――――僕は気づかせてやりたいのさ、『自分達は世界の一部である』ことを」

 

その言葉を聞いて、俺の頭に一つの考えが浮かぶ。

もしかして、こいつ…………最初に出会った時のあの態度、あの口調はまさか――――――。

 

しかし、そうだとしてもまだ疑問となる点がある。

 

「おまえの目的は何となくだけど、分かってきた。だがな、なんで、アスト・アーデの神であるおまえがこの世界でそれを成そうとする?」

 

そう、こいつはあくまでアスト・アーデの神だ。

それが態々こちらの世界で…………クリフォトと手を組み、神々に喧嘩を売ってまで成そうとするのか。

 

その理由が分からない。

 

すると、アセムは―――――。

 

「―――――約束だからさ。ずっと昔にした、ね。この世界からすれば、あまりに自分勝手な理由だと思うけどね」

 

…………約束?

こいつが…………誰かと…………?

 

そいつはもしかして、さっきの…………。

 

 

その時だった――――――。

 

 

冥府一帯に魔法陣が無数に展開された。

空を埋め尽くすほどの魔法陣。

その紋様は――――――クリフォトのものだ。

 

アセムが空を見上げて呟く。

 

「やれやれ、リゼ爺も余計なことを…………。よっぽど勇者くんに殴られたのが腹立ってたんだろうねぇ」

 

魔法陣から現れたのは邪龍だった。

夥しい数の邪龍が空を埋め尽くす。

しかも、ただの量産型じゃない。

   

「グレンデルとラードゥンだと!? あの野郎…………!」

 

天界で量産型のグレンデルはいたけど…………ラードゥンまで量産したのかよ!

 

って、俺への嫌がらせかよ!?

なんて小さい奴!

 

アセムが言う。

 

「いくら今は協力関係でもこれは…………。僕の楽しみを邪魔するなんて、彼も良い度胸………いや、バカなのかな? さて、どうする勇者くん? ここにいる邪龍は君に差し向けられたものだ。当然、君を狙ってくる」

 

アセムが言い終えると同時に邪龍が咆哮をあげて、一斉に飛びかかってきた!

 

この数、アセムとやりあった直後で捌ききれるか…………?

 

俺が構える―――――が、ここで異変が起きる。

 

俺に迫っていた邪龍が撃ち落とされたんだ。

 

―――――遥か彼方から飛んできた光線によって。

 

アセムが驚愕する。

 

「僕の感知の外からの攻撃…………!? そんなこと…………。そうか、勇者くん。君は彼女を―――――」

 

アセムは分かったらしいな。

 

今の攻撃―――――狙撃が誰の手によって行われたのか。

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

「よっし! 一匹命中! さっすが!」

 

ガッツポーズで笑う一人の少女がいた。 

テンション高めの活発そうな雰囲気を持った赤毛の少女だ。

 

「でも、まだまだ数はいるのよ? 今のだけで喜んでいる場合ではないわ」

 

赤毛の少女にそう言うのはもう一人の少女。

赤毛の少女とは対照的に大人しそうな見た目をした、淡い水色の髪色の少女だ。

こちらは髪を後ろで束ねている。

 

どう見ても違う二人であるが、共通点がある。

 

それは明らかに人ではないのだ。

 

彼女達の身長は一般的な人間の掌サイズ。

背中にはキラキラと輝く二対の翼を持っている。

 

その姿はまさに妖精。

 

そんな二人は一人の女性の肩に乗っていた。

 

女性は言う。

 

「フィーナの言う通りですよ、サリィ。イッセーはかなりの力を使ってしまったようですし、アリス達も戦闘中。ここは私達の出番と言うわけです」

 

「言われなくてもわかってるよ! んもー、二人はいつも細かいなぁ」

 

「サリィがいつも適当すぎるのですよ」

 

「私のどこが適当なんだよ、フィーナ!」

 

「全部ですね」

 

「泣くぞ!? 泣いちゃうぞ、私!」

 

ワイワイと女性の肩の上で賑やかにする二人の妖精のような少女。

 

女性は手に握る銃を構えて、二人に言う。

 

「二人とも、そろそろいきますよ? こういう非常時のために私達はここにいるのですから。―――――ライフルビットとシールドビットの展開をお願いします」

 

「「了解! ――――――任せて、リーシャ!」」

 

[三人称 side out ]

 

 




赤瞳の狙撃手&新キャラ登場!


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19話 深まる絆!

[アリス side]

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

気合いと共に火花が散る。

 

私がヴィーカと戦い始めてから、それなりに時間が経っていた。

 

互いに無傷…………ではなく、ところどころに傷がある。

頬、腕、足に切り傷がいくつも出来ていた。

 

見た目だけなら互角に見えると思う。

 

だけど―――――。

 

「うふふ。光力の攻撃は悪魔のあなたには効果抜群でしょ?」

 

ヴィーカは槍の石突きで床をトントンと突きながら笑みを浮かべる。

 

そう、見た目は同じくらいでも受けたダメージはこちらの方が圧倒的に大きい。

 

ヴィーカの握る槍からは光のオーラ―――――聖なる力が滲み出ている。

 

ヴィーカは言う。

 

「少し掠めただけでも傷に見会わないダメージを受けてしまう。強い悪魔は光の力を抑えられるらしいけど、私の力も強い。いくら王女さまでも何度も受けてしまえば抑えきれないわ」

 

「…………っ!」

 

傷口から侵入した聖なる力は私の中に留まり、内側から身を焦がしていく。

最初は平気だったけど、一度、二度三度と重ねられる度に内側から焼けるような痛みが強くなっていった。

 

今も何とか耐えてはいるけど、嫌な汗が全身から流れている。

 

私は袖で額の汗を拭うと強気な笑みを浮かべる。

 

「全然っ。この程度ならまだまだ余裕よ?」

 

痩せ我慢だ。

今にも膝をついてしまいそうなのに、私は槍を構えた。

 

私が無理をしているのはヴィーカだって分かっているだろう。

 

でも、今の言葉は痩せ我慢であると同時に自分を奮い立たせるためのものでもあった。

 

私は立っている。

こうして槍を構えることができている。

 

なら――――――戦え!

 

私は槍を振り回してヴィーカに突撃する!

真正面から、何かを細工することもせずに!

 

ヴィーカは左手に槍を持ち変えると、右手に銃を握った。

彼女は銃口をこちらに向けて言う。

 

「いいわね♪ そういうのは好きよ♪」

 

引き金が引かれると、弾丸が撃ち出される。

弾丸は回転しながら真っ直ぐに突き進んでくる。

 

迫る弾丸を私は真っ二つに斬った。

 

両断され、私の白雷で黒焦げになる弾丸!

次々に撃ち出される弾丸を私は斬って斬って斬り裂き続けた!

 

ヴィーカは弾切れになった銃を捨てると、今度は魔法陣を展開。

そこから飛んでくるのはいくつもの投げナイフ!

 

投げナイフのくせに、銃弾よりも速い!

 

「でも、見切れないわけじゃないわ!」

 

領域(ゾーン)に入る私。

視界から色彩が消えて、全てが遅く見える。

 

ゆっくりと迫る投げナイフの隙間を潜り抜けると、私はヴィーカの眼前に迫った!

 

「こんの巨乳娘ぇぇぇぇぇ!」

 

全力で槍を振るう私!

ヴィーカもそれに応じて、槍を振るってくる!

 

ヴィーカは私の攻撃を捌きながら首を傾げる。

 

「王女さまもちょっとは大きくなってるし良いんじゃない?」

 

そう…………私の胸は大きくなってきた。

ブラのサイズも変わってきている。

ようやく訪れた胸の成長期。

今が延び盛りなのだ。

 

それは私もイッセーも分かっている。

 

でも…………でもね―――――。

 

「まだあんたほど揺れないのよぉぉぉぉ! なんで毎回毎回露出の高い服着てるわけ!? 特に胸元! 嫌味!? 嫌味なの!?」

 

こいつ、いっつも胸元大きく開いた服着てくるのよ!?

戦ってる時も無駄に揺らしてくるし!

さっきだって、イッセーの視線はヴィーカの胸にいってたし!

 

「そんなつもりはないのだけど…………。強いて言うならエッチな格好の方が敵役ぽいじゃない?」

 

「そんな理由なの!?」

 

「そうそう。そして、それを着こなす私。所謂ボンッキュッボンッてやつね」

 

そう言うとヴィーカは胸を張って、腰をくねらせて、お尻を突き出す。

 

「これ使って勇者くんを誘惑するのも面白いかも♪ 彼って結構イケてるし、強いし、あっちの方も凄そうだし。あなた達から奪って一人で独占するのもいいわね♪」

 

…………イッセーを独占?

 

こいつが…………この娘が…………?

 

イッセーを取られちゃう?

 

そんな…………そんなこと――――――。

 

「ダメェェェェェ! そんなの絶対ダメェェェェェ!」

 

私は半泣きで槍を振るった!

全力で!

痛みなんか忘れて!

 

私の一撃の重さにヴィーカは驚愕する。

 

「あらら? これは変なスイッチ入れちゃったかも?」

 

「確かにあいつは他の女の子とも仲良くしてるけど! エッチなこともしてるけど! それでも、独占してないし! 皆のイッセーよ! あんたなんかに独占なんてさせない!」

 

「エッチなことって…………やっぱりしてるのね。勇者くん、大丈夫なの? 勇者くんの周りって結構な数の女の子いたような気がするけど…………」

 

「大丈夫よ! あいつ底なしだもの!」

 

というか、最近は向こうから来ることも少しだけど増えたてきたし…………。

寝ぼけて色々されちゃったこともあるし…………。

 

と、とにかく!

この娘にイッセーを独占なんてさせない!

 

激しく撃ち合う私達。

刃を交える度に激しさを増していく。

二度目は一度目よりも強く、三度目は二度目よりも強く。

高速かつ連続で続く槍の衝突音は絶え間なく部屋に響き渡る。

 

すると、ヴィーカは間合いを深く詰めてくる。

槍の柄を私の手元に当てて絡めるように槍を回す。

 

ヴィーカの思惑を察知した私はそれに逆らうように槍を回した。

 

力の流れが急激に変化した結果、槍は自分達の手から弾かれて宙を舞う。

くるくると回転する槍は弧を描いて落下し、丁度私達の背後の床に突き刺さった。

 

普通なら両者共に後ろへと飛び退いて、自分の得物を取り戻すだろう。

 

だけど、目の前の敵はそんなことをする必要がない。

 

「これで終わりかしら? 今回も私の勝ちね!」

 

ヴィーカの手には彼女が創り出した聖剣!

切っ先を天に向けると、そのまま私を斬り裂こうと真っ直ぐ振り下ろしてくる!

 

得物を失った私はそのまま彼女の斬戟を―――――。

 

「受けるわけないでしょうが!」

 

私は両の手に白雷を纏わせて刃を受け止めた。

 

ヴィーカが目を見開く。

 

「白刃取り!?」

 

私は不敵に笑う。

 

「残念だったわね。私に戦い方を教えたのはあの『剣聖』よ? 得物がなくなったくらいでやられるような鍛え方はされてないの。それに―――――」

 

私はヴィーカの腹に蹴りを入れて吹き飛ばす!

 

壁に叩きつけられたヴィーカを追って――――――。

 

「私はあいつの『女王』! いつまでも負け越しじゃいられないのよぉぉぉぉ!」

 

白雷を纏った拳がヴィーカを捉えた――――――。

 

 

 

 

「ふぅ! スカッとしたっ!」

 

大きく息を吐く私。

 

やっと強烈な一発を入れてやったわ!

 

「これで私も一矢報いたわね」

 

そう呟いた後、私は床に突き刺さっていた槍を回収。

もうもうと煙が立つ場所に視線を送る。

 

…………とりあえずは一発入れたけど、今ので参るような相手じゃないのは過去の戦闘で分かってる。

 

煙が収まり、クレーターの咲いた壁に埋もれているヴィーカが見えてくる。

 

「カハッ…………!」

 

彼女は口から血の塊を吐き出して、その場に膝をついた。

 

少なくないダメージを受けた体でヴィーカは笑んだ。

 

「うふ、ふふふ…………。やるじゃない。…………一つ良いかしら?」

 

「なによ?」

 

「…………女の子が女の子にグーパンチってどうなの?」

 

「心配するとこそこ!? あんた、結構余裕ね!?」

 

そ、そりゃあ、一般的な女子は平手だと思うけど…………グーパンチの方が強いし…………。

いかに女子とは言え、相手は敵だし、加減する必要なんてないと思うし…………。

というか、加減できるような相手じゃないし…………。

 

「脳筋ね」

 

「う、うううっさい!」

 

脳筋じゃないもん!

ひ、否定できないところあるけど、それでも私は脳筋じゃないもん!

 

ヴィーカは新たに槍を呼び出すと、それを杖にして立ち上がる。

そして、一度息を吐いた。

 

「ここまでやられちゃったら、私も奥の手出すしかない…………と言いたいところだけど、今日はここまでのようね」

 

「…………なんですって?」

 

「余計な横槍が入ったからよ。外が騒がしいでしょう?」

 

「―――――っ!」

 

そう言われて私は窓の外を見る。

 

すると、そこには空を埋め尽くす程の邪龍の群れがいた。

 

「これって…………あんた達がやった、訳ではないのよね?」

 

「ええ。ここにも何体か邪龍はいるけど、あれは違うわ。リゼヴィムおじさまの仕業ね」

 

ここであのおっさんが出てくるのね…………!

本当に忌々しい限りだわ…………!

 

ヴィーカは続ける。

 

「多分、勇者くん狙いね。おじさま、天界でボコボコにされたらしいし? きっと、お父さまとの戦いで弱っているところを狙ったのね。戦術的には正しいけれど…………あまり余計なことはしてほしくないわ。正直言って邪魔なのよ、こういうの」

 

そう言うとヴィーカは大きくため息を吐いた。

 

 

[アリス side out]

 

 

 

 

空を覆う邪龍が咆哮をあげる。

黒一色の空が落ちてくるような感覚を覚えるほどの数が俺めがけて迫ってくる。

 

限界まで力を使い、弱ったところへの襲撃。

 

嫌なことをしてくれる…………!

 

舌打ちする俺だが、そこへ――――――。

 

『イッセー、ここは私達に任せてください』

 

耳にはめたインカムから通信が入る。

 

次の瞬間、遥か彼方からいくつもの光線が飛んできて、邪龍を撃ち落としていった!

アセムの感知範囲すらこえる距離からの狙撃!

 

光線を辿った先にいたのは――――――。

 

「サリィ、フィーナ。二人ともいきますよ?」

 

「了解! ライフルビット展開するぜ!」

 

「了解です。シールドビット展開します」

 

淡い緑色の髪をした女性とそれに付き従う赤髪と水色の髪の妖精。

 

二人の妖精の声に応じて、複数の魔法陣が展開される。

赤い魔法陣からは魔装銃、水色の魔法陣からは宝玉を嵌められた板…………いや、盾が召喚された。

それぞれ六つずつ。

 

魔装銃は縦横無尽に空を駆け回り、銃口から炎を吐き出した!

炎は複数の邪龍の体を貫き、その巨体を燃やしていく!

量産型とは言え、ドラゴンを燃やすその火力。

そして、感知範囲外からの狙撃。

 

女性の登場に邪龍の視線がそちらへと移る。

 

殺気の籠った目で次々と飛びかかっていく。

 

すると、水色の魔法陣から出てきた盾が女性と邪龍の間に入りこんだ。

宝玉が輝くと――――――盾の周囲に冷気が漂い、氷の板を形成した!

氷の盾が邪龍の攻撃を意図も簡単に防いでいく!

 

淡い緑色の髪をした女性は氷の盾で防いでいる間に自身の持つ魔装銃の引き金を引く。

 

現れた彼女達の介入により、量産型の邪龍達は早くも混乱状態に陥っていた。

 

女性は俺の側までくると、優しい微笑みを浮かべた。

 

「お待たせしました、イッセー」

 

「いいや、良いタイミングだったよ――――――リーシャ」

 

そう、この女性の名前はリーシャ。

 

アスト・アーデにて俺を支えてくれた仲間!

俺とアリスのお姉さん的存在!

 

そして―――――。

 

俺はリーシャの肩に乗る二人の妖精に視線を移す。

 

「サンキューな、サリィ、フィーナ。助かったよ」

 

「だろ! ナイスだろ、私!」

 

「うふふ、ご無事で良かったです。イッセーさん」

 

赤髪の活発そうな妖精の女の子がサリィ。

水色の髪の大人しそうな妖精の女の子がフィーナ。

 

簡単に言うと彼女達はリーシャと契約した使い魔的な存在。

戦闘ではリーシャをサポートしてくれるそうだ。

 

俺も知ったときは驚いたけど、この二人…………実はオーディリアの四大神霊に仕えていた精霊だったりする。

四大神霊は神に近いとされる存在で、それぞれ火、水、土、風を司っている。

 

そのうちサリィは火、フィーナは水の神霊に仕えていた。

よって、サリィは火をフィーナは水の力を使えるそうだ。

 

…………久しぶり会いに行ったらリーシャがすんごい存在と仲良くなってて驚いたよ。

 

ま、まぁ、もう一人はもっと凄かったけど…………。

 

リーシャが言う。

 

「イッセーに加勢しようと思ったのですが、二人の動きが速すぎて撃てませんでした」

 

「気にしなくて良いって」

 

自分で言うのも何だけど、あれに着いていけるような奴ってとんでもない存在だと思うし。

 

「しかし、彼が去ったのは何故なんでしょう?」

 

「へ…………?」

 

去った…………?

 

俺は後ろを振り返る。

 

――――――アセムが消えてる!?

いつの間に!?

 

驚く俺。

その時、空に大きく映像が映し出される。

 

そこに映っていたのはいつもの少年の姿に戻ったアセムだった。

 

『いやー、変な横槍が入ると萎えちゃうんだよねぇ。と言うわけで僕はベストキッドでも見ておくから頑張ってね☆』

 

「はぁ!?」

 

『リゼ爺とは協力関係だけどさー。楽しんでる時に邪魔されるとやる気なくなるんだよねぇ。ま、協力関係だから、邪魔してきた邪龍を消すことはしないけどね。その代わり僕もこれ以上は戦わない。今日のところはね。あとは君達と邪龍達でランデブーでもすればいいさ』

 

「おい、待てこらぁ!」

 

『待たない~。ベストキッド始まったからね~。今日は楽しかったよ、勇者くん♪ 次回はお互いに全力で戦えると良いね。それじゃあ、まったねー』

 

そう言い残して、奴は映像を切った。

 

あの野郎、マジでベストキッド見に帰りやがった!

だって、役者さんの声聞こえてくるし!

音楽流れてきたし!

 

「おいぃぃぃぃ! 映像消すなら、音声も消せよぉぉぉぉ!」

 

『あっ、いっけね』

 

何が「いっけね」だ!

 

さっきまで結構シリアスだったじゃん!

戦ってるときは珍しくシリアスだったじゃん、アセムは!

 

なに、いつものラフな感じに戻ってるの!?

 

「ベストキッドってなに? 私も見たい!」

 

サリィがベストキッドに興味を牽かれてる!

止めて!

これ以上シリアスを壊さないで!

 

次の瞬間、俺の鎧が解除されてしまった。

 

「あれ…………?」

 

限界まで力使って、普通の鎧になってたけど…………まだ鎧は保てたはず。

 

ドライグさん、これはどういうこと?

 

すると――――――。

 

『うへへ、うへへへへ。おっぱいがひとーつ、おっぱいがふたーつ、おっぱいがみっーつ』

 

ドライグ!?

お、おい、どうしたんだ、急に!?

 

先輩のベルザードさんの声が聞こえてくる。

 

『いかん! さっきまで耐えていた分、反動が大きいんだ!』

 

『我慢していたのが、今になって一気に来たのね! ドライグ、しっかり! …………ドライグ? ねぇ…………ドライグ? ドライグ?』

 

エルシャさんがドライグの名を呼んだ。

 

しかし、ドライグの声はない。

 

『『ドライグゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』』

 

何があったぁぁぁぁぁぁぁ!?

ドライグに何があったんですか!?

 

ダメだ!

オッパイザーとのドッキングはドライグへのダメージが大きすぎる!

 

吸血鬼の町で『乳も尻も怖くない』とか言ってたのに!

 

『ドライグ、しっかりしろ! 私が側にいるぞ!』

 

アルビオン!?

おまえ、ヴァーリを置いてこっちに来たの!?

 

『ヴァーリは一人でも問題ない。しかし、今はドライグが心配なのだ! 我らは二天龍! 互いに支えあい、この辛辣な時代を乗り越えると誓ったのだ! 我らは乳も尻も怖くない! そうだろう?』

 

『アル、ビオン…………』

 

おおっ、ドライグが復活した!

ちょっと声が弱々しいけど意識を取り戻した!

 

しかし、次にドライグが発した言葉は衝撃的なもので―――――。

 

『乳が…………迫ってきたんだ。大量の乳が迫ってきて、俺を包み込んだんだ…………』

 

『っ! それは…………!』

 

『戦っている時は何とか耐えた…………。しかし、戦闘が終わり、気が抜けた瞬間…………恐ろしくなった…………あの恐怖が俺を…………ぁぁぁぁぁぁ!』

 

心を乱すドライグ!

ドッキングしてる間、そんなことになってたの!?

 

アルビオンが叫ぶ!

 

『しっかりしろ! 心を落ち着けるのだ! その話、私がゆっくり聞いてやる! 受け止めてやる! 共にその恐怖、切り抜けようぞ!』

 

『アルビオン…………! おまえ…………!』

 

あ、あれ…………なんか二人が涙声になってるんですけど…………。

なんか絆が更に深まったみたいなんですけど…………。

 

イグニス…………オッパイザーの調整、もうちょっと何とかならない?

ドッキングする度にこれじゃ、ドライグがマジで昇天しまいそうなんですけど…………。

 

『うーん、まぁ、やってみましょうか。ようするに溢れだした乳力が神器を侵したって話だし。何とかなるんじゃないの?』

 

頼む…………!

ドライグのためにも…………!

 

『でも、スイッチ姫補給は必要よ。うふふ、帰ったらお楽しみね♪ アリスちゃんとリアスちゃんとの絆を深めちゃえ♪』

 

…………うん。

 

 




オッパイザー、再調整決定!(笑)


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20話 借りたものは返そう 

やっべぇ、サブタイが浮かばなかったぜ☆


[木場 side]

 

「祐斗! ゼノヴィア! イリナ! そっちはもう終わったの?」

 

僕とゼノヴィア、イリナさんの姿を見たリアス前部長がこちらに声をかけてきた。

 

エヴァルド・クリスタルディとの戦闘を終えたボク達三人は駒王学園(レプリカ)に移動していた。

前デュランダル使いことヴァスコ・ストラーダ率いる戦士の一団と戦闘中であるリアス前部長達に加勢するためだ。

 

僕たちが到着したちょうどその頃、戦闘が行われているはずの校庭では戦況に変化が起きていた。

 

――――――駒王学園の周囲一帯をあの虹色のシャボン玉が覆っていたんだ。

 

戦士の一団だけでなく、仲間の皆も一様に泣いていた。

 

デュリオさんが神器の力で生み出したこの虹色のシャボン玉はこちらにも届いていたらしい。

 

リアス前部長が訊いてくる。

 

「このシャボン玉はこちらの陣営のものなの?」

 

「このシャボン玉はジョーカーが作り出したもので、相手の大切なものを思い返させて戦意を鈍らせるものだそうです」

 

その問いに答えたのはイリナさん。

 

このシャボン玉を作り出したデュリオさん本人は今も向こうに残っている。

師であるエヴァルド・クリスタルディや戦士達と話したいことがあるようで、 僕たちをこちらに送ってくれたんだ。

 

このシャボン玉に触れてしまえば誰もが戦意を失う。

エヴァルド・クリスタルディですらそうだった。

 

しかし、この状況下に置いても一切戦意が薄れない者がいた。

 

「これはこれは………キレイなシャボン玉ではないか」

 

しわくちゃな顔に笑みを浮かべるヴァスコ・ストラーダ。

その手にはデュランダルのレプリカ。

 

………この戦場の様子を見るに皆はまだ彼と戦っていないようだ。

 

ヴァスコ・ストラーダは祭服を脱ぎ捨てる。

服の下にあったのは、齢八十を超える老人のものとは思えない分厚い筋肉の鎧。

長身も相まって、彼から感じる重圧は凄まじい。

 

 

――――――ストラーダ猊下は正真正銘の怪物だ。

 

 

こちらに来る直前、エヴァルド・クリスタルディが僕に言い残した言葉だ。

 

怪物とさえ思われたあの男を以てしてもそう言わしめる力。

こうして向き合っていると分かる気がする。

 

一歩、彼が前に出るだけで寒気が走る。

これが本当に人間の力なのか………そんな疑問すら浮かんできてしまう。

 

ヴァスコ・ストラーダは手を広げて、彫りの深い笑みで言った。

 

「では、教義の時間といこうか。悪魔の子らよ、学んでいきなさい」

 

解き放たれる濃密な重圧。

いったいどれほどの………。

 

ゼノヴィアが言う。

 

「デュランダルのレプリカ。力は本物の五分の一に満たないと聞くが………猊下が持つ以上、その限りではないだろう」

 

エクスカリバーのレプリカもそうだった。

エヴァルド・クリスタルディの振るっていたエクスカリバー・レプリカは僕の想像を遥かに超える力を発揮した。

目の前の剣士はそれと同等、いや、それ以上の力を持つと見て良い。

 

最初に仕掛けたのはゼノヴィアとイリナさんだった。

 

ゼノヴィアは悪魔の翼を、イリナさんは二対の純白の翼を広げて高速で駆ける。

 

ヴァスコ・ストラーダは特に動く様子を見せず、構えすらしない。

油断でも余裕を見せているわけではない。

その表情はまるで――――――。

 

ゼノヴィアがデュランダルを振るう!

 

だが…………。

 

「っ!」

 

デュランダルは先日のように指だけで受け止められてしまう!

 

「猊下、失礼を!」

 

ゼノヴィアに続いて、イリナさんがオートクレールで斬りかかる。

 

しかし、こちらも人差し指と中指で挟んで止められてしまう!

 

二人とも渾身の一撃だったはずだ!

それを指だけで止めるとは…………!

 

剣を捕まれた二人ははそのまま豪快に放り投げられてしまった!

 

「ならば魔法で!」

 

後方からロスヴァイセさんが無数の魔法陣を展開して、各種属性が入り乱れるフルバーストを撃ち込んだ!

 

人間相手にそんなことをすれば跡形も残らない。

しかし、それすらも避けようとはしなかった。

 

魔法が直撃する瞬間、指を一本出す。

突き出した指で魔法の一つ一つに高速で触れていく。

 

その瞬間―――――――触れられた魔法は霧散してしまった!

 

この結果にロスヴァイセさんは驚愕する。

 

「………術式そのものを崩したというのですか!?」

 

「魔法とは計算だ。方程式を崩す理をぶつければ相殺、破壊は可能なのだ。特に若い使い手は洗練されておらず、形だけ、見た目だけのものが多い。僅かなほころびを見つければ、この通り」

 

「………っ!」

 

言葉も出ないといった表情のロスヴァイセさん。

 

ヴァスコ・ストラーダの理屈は理解できる。

しかし、ロスヴァイセさんの術式は洗練されたものだ。

今の一瞬でその僅かなほころびを見つけたというのか………!?

 

驚愕しながらも僕は地面を蹴り、今出せる最高速度でヴァスコ・ストラーダへと斬りかかる。

 

エヴァルド・クリスタルディとの戦いを経てかなりの消耗はしたものの、聖魔剣は更に研ぎ澄まされた。

刀身はどこまでも澄んでいて、騎士王の力もより高くなっている。

 

僕の突貫にヴァスコ・ストラーダは笑むとデュランダルのレプリカを握る。

 

「良い面構えだ、若き剣士よ」

 

その瞬間、僕の聖魔剣とヴァスコ・ストラーダのデュランダル・レプリカが火花を散らす!

 

ぶつかると同時に襲いかかってくる力の波動!

受け止めただけだと言うのに腕が持っていかれそうになる!

 

だけど、聖魔剣は聖と魔の入り交じったオーラを衰えさせていない。

むしろ、どんどん強くなっていっている。

 

デュランダル・レプリカから聖なるオーラを吸いとって自らの聖属性を高めているんだ。

 

僕が高速で動くと、ヴァスコ・ストラーダも齢八十を越えているとは思えない身のこなしで剣を振るってくる。

 

僕達の剣は何度もぶつかり、空中に火花を散らす!

 

少し前の僕ならここまで打ち合えてはいないだろう。

 

今、こうして怪物と称された男と剣を交えていられるのは魔剣創造が僕の想いに応えてくれているからだ。

 

魔剣創造は一度、僕から力を奪った。

それはデュリオさんの言ってた通りで、僕がこの力に至った時のことを愚かにも忘れてしまっていたから。

 

この力は守るためにある。

僕の大切な人を、大切な仲間を。

 

だから、僕は――――――。

 

「我が主のために、仲間のために―――――守るために剣を振るおう!」

 

そう叫ぶと僕は刀身から火と風を発生させる!

聖魔剣を中心に火炎の嵐が巻き起こった!

 

しかし、火炎が完全に包み込む前にヴァスコ・ストラーダは目にも止まらぬ速さで抜け出しまう。

 

―――――ここだ!

 

聖魔剣を高く振り上げ――――――一気に振り下ろす!

 

刀身から放たれる無数の剣!

火、水、雷、風とあらゆる属性を持った聖魔剣の雨が一斉に降り注がれる!

 

移動し、止まった瞬間は次の動作へ移るときに僅かな遅れが出る。

 

これなら―――――。

 

ヴァスコ・ストラーダは迫る剣の雨を前にしてうんうんと頷いた。

 

「良い太刀筋だ。剣にどれだけの『心』を乗せているかが伝わってくる。だが―――――素直すぎる」

 

ヴァスコ・ストラーダはデュランダルのレプリカを地面に突き刺すと、右拳を引いた。

右腕の筋肉があり得ないほど肥大する。

 

「ふんっ!」

 

気合いと共に右の正拳が打ち出される!

 

拳による拳圧が地面を抉り、剣の雨を粉々に破壊する!

それだけでは足らず、剣の雨を放った僕の方にまで突き進んでくる。

 

僕は大きく横に飛んでそれを回避するが、避けた先の建物が拳圧の衝撃によって崩壊する!

 

「拳の余波だけで!? サイラオーグ並だというの!?」

 

リアス前部長が驚愕の声をあげる。

 

ゼノヴィアが語る。

 

「猊下のパンチは『聖拳』と呼ばれるものだ。パンチにすら聖なる力が宿っている。悪魔である私達が受けてしまえば大ダメージだぞ!」

 

拳の勢いだけで建物を破壊する…………。

サイラオーグ・バアルやイッセーくんのように圧倒的なパワーの持ち主なら可能だが…………それを人間の老人がするのか…………。

 

いや、人間だからと言って『あり得ない』と決めつけるのは間違った考え方なのだろう。

僕が今まで見てきた人間の中には強靭な肉体を持つ悪魔であろうと、それを上回る人物がいた。

 

悪魔に転生する前のイッセーくんだって、その段階でリアス前部長や僕よりも強かった。

黄金の輝きを放つ槍の持つ英雄、異世界の剣士。

 

僕の…………僕達の想像を越える人間は何人も見てきた。

目の前の老人もその一人ということなのだろう。

 

《僕が行こう!》

 

闇の獣と化したギャスパーくんが飛び出していく!

 

イッセーくんの影響なのだろうか、この状態のギャスパーくんは好戦的で真っ向からの打ち合いを好む。

毎日の修業ではイッセーくんに肉弾戦で食らいついている。

彼の成長には僕もイッセーくんも驚くばかりだ。

 

ヴァスコ・ストラーダの『聖拳』を掻い潜って懐に近づくギャスパーくん!

ヴァスコ・ストラーダはデュランダルのレプリカを構え、刀身に濃密な聖なるオーラを迸らせる!

 

闇の獣と化したギャスパーくんがその巨体から拳を打ち出していく!

 

しかし、ヴァスコ・ストラーダはデュランダル・レプリカの刀身で、あるいは体捌きで軽々と受け流してしまう!

 

ギャスパーくんがデュランダルを抑えようとするが、莫大な聖なる波動に圧されてしまい、しかも、闇の衣が一部剥がされてしまう!

剥がされた部位からは生身のギャスパーくんを少しだけ覗かせた。

 

《なんだ、この聖剣の力強さは…………!?》

 

飛び退くギャスパーくん。

剥がされた闇の衣を修復しながら、彼はその怪しく輝く赤い瞳を開かせていた。

 

『じゃあ、俺が行くぜ!』

 

漆黒の鎧を纏った匙くんが邪炎をたぎらせる。

 

アウロス防衛戦の際、ついに至った彼の禁手。

その力は神滅具の紫炎すらも押し返す力を持っている。

 

匙くんは複数のラインを飛ばしてヴァスコ・ストラーダの体に接続しようとする。

 

それを受けてヴァスコ・ストラーダはデュランダル・レプリカを薙いだ。

 

伝わってくる強烈な悪寒!

僕達は慌てて体勢を低くした!

 

すると、僕達の頭上を何かが高速で通りすぎて―――――。

 

 

ズズゥゥゥゥゥゥン…………

 

 

音がした方へと視線を送れば、このフィールドに造り出されている建物の何棟かが崩れていた。

 

ただ崩れたんじゃない。

上と下で綺麗に切られている。

斜めに入った切り口…………それによって、切り口の上側にあった部位が滑り落ちて崩れたんだ。

 

なんという切れ味の鋭さだろうか。

 

ゼノヴィアがデュランダルを振るうところを僕は近くで見てきたが、これほどまでに鋭利な波動を見たことがない。

 

レプリカであろうとも、それがデュランダルであれば本来の性能以上の力を発揮している…………!

 

『クソッ!』

 

怖じけず匙くんは特大の邪炎を何発も放つが、ヴァスコ・ストラーダは軽々と防いでしまう。

刀身と拳に宿る聖なる力で、あの邪炎をことごとく霧散させていく!

 

邪炎のことごとくを払い除けられた匙くんが叫ぶ。

 

『なんだ、このジジイ!?』

 

うん、その反応は間違ってないよね…………。

 

ヴァスコ・ストラーダは首を横に振りながら言う。

 

「貴殿らは神器の力に頼りすぎているのだ。私の力に理屈なんてものはない。愚直なまでの鍛練と無数の戦闘経験が私の血となり肉となっただけだ。一心不乱なまでの神への信仰と己の肉体への敬愛を忘れなければ、パワーは魂にすら宿るのだよ」

 

そう告げるとヴァスコ・ストラーダはデュランダル・レプリカの刀身に聖なる莫大なオーラをたぎらせて一気に振るう!

 

ゼノヴィアが放つものよりも遥かに濃密で大きい!

 

極大の波動は凄まじい勢いで僕達へと迫る!

 

「盾よ!」

 

ロスヴァイセさんと朱乃さんが強力な防御魔法陣を幾重にも張り巡らせた!

 

強固な魔法障壁がデュランダル・レプリカによる聖なる波動に一枚、また一枚と破壊されていく!

僕は咄嗟に聖魔剣で構成された壁を魔法障壁の前に幾重にも重ねて展開するが、それすらも呑み込んでしまう!

 

ロスヴァイセさんと朱乃さんが更に魔法障壁を張り巡らせたところで、ようやく聖なる波動は消え去った。

 

残っていた魔法障壁は僅か数枚。

 

…………ロスヴァイセさんだけでなく、朱乃さんも防御魔法陣を張り、僕が聖魔剣による壁を作ってこれか。

止めたとはいえ、あの波動を抑え込むのにどれだけの力を使ったことか。

 

見ればヴァスコ・ストラーダにはまだまだ余裕がありそうだ。

 

「まだだ!」

 

ゼノヴィアが再び突貫を仕掛ける!

 

エクス・デュランダルを握り、天閃と破壊を重ねた状態で振るう!

 

ゼノヴィアの一撃をデュランダル・レプリカで受けながら、ヴァスコ・ストラーダは楽しそうに笑む。

 

「そうだ! それでいい! 何も考えてはいけない! いいか、戦士ゼノヴィアよ! たとえ、エクスカリバーと同化しようともデュランダルの本質は純粋なパワーだ! だからこそ、貴殿は選ばれた! 否定するな! 力を否定してはいけない!」

 

ゼノヴィアと剣を交える彼の言葉は、まるでデュランダルの使い方を教授しているようだった。

先代として、現所有者であるゼノヴィアに。

 

何度か打ち合った後、本物とレプリカがつばぜりあう。

その中で、先代は現所有者へと問うた。

 

「だが、パワーの表現は一つではない。戦士ゼノヴィア、この剣の姿は貴殿が求めるものなのか?」

 

「―――――ッ!」

 

その問いにゼノヴィアの動きが止まる。

一旦後ろに退いた後、エクス・デュランダルに視線を向けた。

 

師の問いに感じたところがあったのだろうか?

 

エクス・デュランダル…………エクスカリバーとデュランダルのハイブリット。

その力は確かなものだが…………。

 

今のエクス・デュランダルはゼノヴィアが求めるものとは違うということなのだろうか…………?

 

すると、リアス前部長が前に立った。

 

「これならどうかしら?」

 

頭上に浮かぶのは巨体な滅びの塊―――――消滅の魔星(エクスティングイッシュ・スター)

 

堅牢なグレンデルの肉体ですら消し飛ばすリアス前部長の必殺技!

 

「避けないと死ぬわよ!」

 

警告をしながら、特大の一撃を放った!

 

スピードは決して速いとは言えないが、あの吸引力と消滅の力は絶大だ。

受けてしまえば無事ではいられない。

 

あえて警告をしたのは彼に避けてほしいからだろう。

 

しかし、ヴァスコ・ストラーダは避けるそぶりを見せない。

ただただ愉快そうに微笑んで滅びの球体に視線を向けていた。

 

「これはこれは…………老体にはちと厳しい代物だ。―――――しかし」

 

ヴァスコ・ストラーダはデュランダル・レプリカの切っ先を天に向ける。

刀身には莫大で濃密な聖なるオーラ。

 

 

―――――一閃。

 

 

眩い光に視界を奪われてしまう!

 

次に目を開けた時に映ったものは――――――。

 

「…………っ。嘘でしょ…………?」

 

リアス前部長がついそう漏らした。

 

なぜなら―――――必殺の滅びは真っ二つに両断されていたからだ。

 

あまりの光景に戦場の時が止まった気がした。

ヴァスコ・ストラーダ以外の者は口を開けてただ目の前の現象を理解できないでいる。

 

リアス前部長が笑みをひきつらせる。

 

「こういう時って笑うしかないのかしらね」

 

ヴァスコ・ストラーダは言う。

 

「いいかね? デュランダルは『全て』を斬れるのだ。たとえそれがバアルの滅びであろうと例外ではない」

 

全てを斬る…………。

デュランダルを真に極めればここまでの力を発揮するか…………。

 

「もう教会はこのおじいさんだけで十分のような気がします」

 

「うんうん…………コカビエルさまが追い込まれたのも頷けるわ…………」

 

小猫ちゃんもレイナさんはなかばやけくそになりかけてるような表情でそう呟いた。

 

その気持ちは僕も同意かな。

 

怪物と呼ばれたエヴァルド・クリスタルディですら怪物と呼ぶ程の力。

圧倒的な力の塊。

 

僕は彼と剣を交えて、その怪物振りを実感したつもりだったけど…………どうやらあれは彼の力の一端でしかなかったらしい。

 

 

その時だった―――――。

 

 

「―――――さて、次は私の番ということでよろしいでしょうか?」

 

そう言って現れたのはメガネをかけた一人の青年。

背広姿で、相変わらず笑みを浮かべている。

 

その手に握られているのは聖剣の王コールブランド。

 

アーサー・ペンドラゴンが前デュランダル使いの前に立った。

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

駒王町を模したフィールドの一角。

 

そこで『D×D』メンバーと教会の戦士達の決闘を観戦していたヴァルスは耳元に通信用の魔法陣を展開していた。

 

「ほう、そちらに邪龍を送ってきましたか」

 

『そうなんだよー。全く余計なことしてくれるよねーリゼ爺ったらさ。ここからって時にだよ? もしかしたら、あそこから僕を驚かせることを彼はしてくれたかもしれないのにね。生え際が三センチくらい後退する呪いでもかけてやろうかな?』

 

「それは…………地味に辛い呪いですね、父上」

 

『もしくは前頭部から後頭部にかけて真ん中だけ毛根が死ぬ呪いとか?』

 

「ブフッ!」

 

『あ、今想像したでしょ。爆笑してるじゃん』

 

「い、いえ…………く、くくくっ…………」

 

肩を震わせて口許を抑えるヴァルス。

どうやらかなり奇抜な髪型を想像したらしい。

 

ヴァルスは何とか笑いを抑えながら、アセムに問う。

 

「そちらに送ったので、こちらには来ない…………というわけではないでしょうね」

 

『そりゃそうでしょ』

 

その答えにヴァルスはげんなりする。

 

「私は純粋に剣士達のぶつかり合いを見に来たのです。それを邪魔されるのは不愉快ですな」

 

『まぁ、気持ちは分かるけどね。ただ、そんな君に嬉しい情報をあげよう』

 

「嬉しい情報?」

 

『そう。勇者くんに加勢があったんだけどね。来たのは――――――リーシャ・クレアスだ』

 

「それは…………なるほど、そういうことですか」

 

『そういうこと。こっちにはいなかったから、もしかしたら、そっちにいるかもしれないよ?』

 

アセムの情報にヴァルスはついつい笑みを浮かべてしまう。

心の奥から沸き起こる高揚。

リーシャがこの世界に来ているということは自然とそこへ思考は辿り着く。

 

一誠がリーシャだけをこちらの世界に呼ぶだろうか?

否、それはあり得ないだろう。

彼女達を呼んだのは自分達に対抗するためなのだから。

 

アセムは続ける。

 

『リゼ爺の手勢が現れた時に彼女は現れた。そちらでも同じなんじゃないかな?』

 

「しかし…………そのタイミングで私が出るとなると、リゼヴィム殿と同じになってしまうのでは?」

 

『ま、一応協力関係だしね。主義思想は違うとはいえ周りから見れば同じ穴のムジナさ。そんなこと言うのは今さらだよ。―――――それに言ったはずだよ。僕は君達を縛り付ける気はないと。自由に動いていいと。君が一戦交えたいと言うのなら、行くがいい。どうせ、一対一をのぞむんだろう?』

 

「当然です」

 

ヴァルスは静かに、それでいて激しく闘志を燃やす。

 

 

そして――――――。

 

 

『あ、借りたDVDの延滞料金はヴァルスが払ってね? 忘れたのヴァルスだし。借りたものはちゃんと返そうね』

 

「父上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

無情な(かつ当たり前の)一言に涙した。

 

 

[三人称 side out]

 

 



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21話 訴え

[木場 side]

 

 

「ほう…………。まさか、この歳になって見ることが叶うとは…………」

 

ヴァスコ・ストラーダは感嘆の息を漏らした。

 

彼の視線の先には莫大で濃密なオーラに包まれた聖剣。

伝説の中の伝説とさえ言われる聖剣の王―――――コールブランド。

 

聖剣の王の主は不敵に言う。

 

「あなたの持つ剣が本物でなくて残念ですが―――――そのパワーだけでもこの身に受けたいと思いましてね」

 

静かに歩み寄っていくアーサー。

それに応じてヴァスコ・ストラーダも歩み始める。

 

互いの間合いの圏内に入っても構える素振りはない。

眼前まで距離を詰めたところで二人は足を止める。

 

和やかな表情の若い紳士と老戦士。

しかし、その和やかな表情が今は不気味に思える。

二人から放たれるプレッシャー。

濃密な力がぶつかり合いったことで、両者の間の空間が歪み始めていた。

 

そして―――――二人は音もなくその場から消え失せる!

 

僕は何とか二人の動きが見えていた。

 

彼らは瞬時に上空に跳んだんだ。

上空で激しい剣戟を繰り広げながら降下してくる二人!

二人の滞空時間は僅かなものだろう。

しかし、その間に何十、何百と二振りの聖剣は衝突していた。

上段から下段、横凪ぎに突き、ありとあらゆる剣の型が僅か数秒の間に濃密な攻防戦が繰り広げられる。

 

二人の剣戟はただ速いだけではない。

剣が、聖なるオーラがぶつかる衝撃で周囲の建物は崩れ去っていた。

 

「…………すごい」

 

「ああ…………」

 

イリナさんとゼノヴィアはこの戦いに息を呑んでいた。

僕も二人と同じ。

 

瞬きすら許さない、これを見逃すことは剣士として恥。

そんな風にすら思える。

 

ようやく着地したアーサーとヴァスコ・ストラーダだが、その後も止まることなく二人は地を蹴り、駆けながら剣を交えていく。

 

アーサーの背広には斬られて裂けた部分が多々見られ、ヴァスコ・ストラーダの鍛え上げられた肉体にも切り傷が幾重にも刻まれていた。

それでも、二人は止まらない。

狂喜の表情で、荒々しく聖剣を振るう。

 

アーサーはふいに聖王剣をあらぬ方向に突き刺した。

空間に穴を穿ち、刀身がそこへ沈んでいく。

 

すると、ヴァスコ・ストラーダは上半身を後ろに大きく逸らす。

そこには空間を貫いて横合いから剣が飛び出していた!

 

空間に穴を開けて、そこを介しての攻撃。

聖王剣にはそんなことが可能なのか…………。

 

アーサーは次々に空間に穴を開けて、聖剣を突き刺していく。

上、下、横、後ろとありとあらゆる方向から聖なるオーラを纏う刀身が突き出て、ヴァスコ・ストラーダを襲う。

 

だが、老戦士はそれらを全て捌いて見せる!

 

死角からの攻撃ですら完全に避け、更にアーサーへ剣戟を繰り出し、余裕を見せていた。

 

…………二人ともまだ本気ではない。

 

二人の動きは見える。

足さばきから剣の軌道。

動きは見えているんだ。

 

だが、今の僕があそこに立った時…………はたして着いていけるだろうか?

あの剣を捌き、己の一撃を決めることができるだろうか?

 

おそらく、今の僕では二人に届かない。

 

歴代でも最高と称される元デュランダルの使い手ヴァスコ・ストラーダ。

幾つもの猛者と渡り合ってきたヴァーリチームの剣士、聖王剣の主、アーサー・ペンドラゴン。

 

「これほどのものか…………!」

 

悔しい…………。

一人の剣士として…………あの場に立てないことが。

 

僕が拳を握りしめ、歯噛みしていると戦況は急激に変化した。

 

二人の剣士は大きく火花を散らせると、一度後方に飛んだ。

剣を構え直す二人だったが…………アーサーが剣を降ろしたんだ。

 

アーサーはメガネを直すと笑顔で言う。

 

「素晴らしい。…………が、止めましょう。これ以上は私がショックで立ち直れなくなる」

 

「…………すまないな、若き剣士よ」

 

ヴァスコ・ストラーダも剣を降ろし、苦笑する。

 

アーサーはフッと笑むと寂しげな表情で

 

「…………あと、三十年、いや、二十年早く出会えれば、最高の戦いが出来たでしょう。これ以上は…………悲しくなるのでね」

 

―――――っ。

 

そうか…………そういうことか。

 

アーサーが退いた理由を僕は何となく察してしまった。

あの寂しげな表情に先程言い残した言葉。

 

僕の考えが正しければ…………それは一人の剣士としては悲しいことだ。

 

「さて、どうしたものかしらね…………」

 

リアス前部長がそう漏らす。

 

アーサーが退いたため、ここからは再び僕達とヴァスコ・ストラーダの戦いとなる。

常軌を逸した強さを持つ剣士を相手に僕達はどう戦うか。

 

すると―――――。

 

「―――――私が出る」

 

前に出たのはゼノヴィアだった。

 

一歩一歩、しっかりした足取りで師の前に、先代の前に立つ。

 

彼女はエクス・デュランダルを前に出すと―――――二本に分割した。

デュランダルとエクスカリバーに分けたんだ。

 

右手にデュランダル、左手にエクスカリバー。

 

あのエクスカリバーは天閃でも破壊でも擬態でもない。

七つに分けられたエクスカリバー、それらが再び統合され、真のエクスカリバーになったんだ。

 

つまり、今のゼノヴィアはデュランダルと真のエクスカリバーの二刀流。

そして、エクスカリバーで抑えていたデュランダルを解放したことになる。

 

これを見て、ストラーダは全身を震わせた。

 

「そうだ。それでいい! デュランダルの使い手だった私からすればエクス・デュランダルは疑問の塊だった。デュランダルはそれそのもので完成されている。エクスカリバーもまた同じ。なぜ既に完成している両者を組み合わせる必要がある? それは貴殿がデュランダルに翻弄されて、『補助』という愚行をエクスカリバーに課せたからに他ならない! 貴殿は一刀でも二刀でも戦える戦闘の申し子。―――――否定するな。パワーを信じてこそ、力は本物になる!」

 

ゼノヴィアは元々二刀流で戦うスタイルを好んでいた。

破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)とデュランダル、デュランダルとアスカロン。

時には僕が創った聖剣とアスカロンという組み合わせもあった。

 

今、ゼノヴィアは昔の…………いや、本来のスタイルに戻ったと言える。

 

刹那、本来の姿に戻った二振りの聖剣は濃密な聖なるオーラを滲み出し始めた。

過去にない、彼女が持つパワーを体現するかのように、デュランダルとエクスカリバーはその力を高めていく。

 

ストラーダは目を潤ませていた。

 

「…………ようやく、再会できたな、デュランダルよ。さぁ、戦士ゼノヴィアよ。何も考えず、ただ来るが良い。デュランダルの真実は破壊の中にしかないのだ」

 

「…………はい!」

 

破壊と破壊。

パワーを体現した二人の剣士が距離を詰めていく。

両者が近づけば近づくほど、聖剣の放つ波動は力強くなっていった。

 

そして――――――

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

「はあああああああああああああああっ!」

 

ゼノヴィアの二刀とヴァスコ・ストラーダの一刀が閃光と火花を散らせながら激突する!

破壊の余波だけで駒王町を模したフィールドは震えだし、二人の周囲は崩壊し始めた!

二人を中心に破壊の嵐が巻き起こり、地面、道、建物、二人の周りにあるものは全てことごとく破壊されていく!

フィールドには穴が開き次元の狭間の万華鏡のような模様まで見えてしまっていた!

 

純粋な破壊と破壊による衝突は離れた場所にいる僕達にも影響を及ぼし、炎のように燃え盛る聖なるオーラによって、体に痛みが走り出す。

 

見れば匙くんの漆黒の鎧にもヒビが入っていた。

それほどまでに凄まじい撃ち合いが繰り広げられている!

 

今代と先代のデュランダルの所有者。

本物とレプリカ。

二人の剣が交錯する――――――。

 

ゼノヴィアがデュランダルとエクスカリバーを振り上げてクロスさせると、破壊に破壊を乗せた一撃をヴァスコストラーダへと振り下ろした!

 

ヴァスコ・ストラーダはレプリカで受け止める!

 

「がああああああああああああああっ!」

 

こちらもまた破壊の権化。

破壊の一撃を力で押し退ける―――――が、その代償は大きかった。

 

レプリカの刀身にヒビが入った。

それだけでなく、ヴァスコ・ストラーダは息を荒くして、その場に膝をついてしまったのだ。

 

明らかに体力切れ。

 

怪物と呼ばれた男も老いには勝てなかったということだろう。

いくら規格外の力を持っていたとしたも人間という種族には代わりはない。

歳をとれば肉体は体力は衰える。

凄まじい力を持つヴァスコ・ストラーダも全盛期と比べると、やはり衰えていたということだ。

 

先程、アーサーが言っていたのはこのことだ。

 

ゼノヴィアは膝をつくヴァスコ・ストラーダに歩み寄る。

勝負が決まる…………という時に二人の間に入る者がいた。

 

テオドロ・レグレンツィ。

あの少年枢機卿だ。

 

彼は顔を涙でくしゃくしゃにして、ヴァスコ・ストラーダの盾になる格好で、ゼノヴィアの前に立つ。

 

流石のゼノヴィアも少年の行動に困惑し、歩みを止めた。

 

少年は涙を流しながら訴える。

 

「…………ストラーダ猊下を許してやってくれ。全ては私が…………私が悪いのだ」

 

「テオドロ猊下…………お下がりください。この老骨が全てを決めますゆえ」

 

ヴァスコ・ストラーダはデュランダル・レプリカを杖に立ち上がろうとする。

 

それを少年枢機卿は制止する。

 

「もういい! もういいのだ! ストラーダ猊下までいなくなったら…………私は…………私はどうすればいい!」

 

少年枢機卿は改めて僕達の方を向くと、背中から純白の翼を出した。

それは天使の翼―――――『奇跡の子』の証。

 

「わたしの…………父と母は…………悪魔に殺された。…………悪魔は許さない! 許すわけにはいかないのだ!」

 

震える声で叫ぶ少年。

 

彼の…………この小さな枢機卿の両親は悪魔に殺されたというのか。

 

ヴァスコ・ストラーダは悲哀に満ちた表情で少年を抱き寄せた。

 

「…………同盟もいい。それもも一つの平和の形だ。だがね…………それでは救われない者、憤りを感じる者もいるのだよ。テオドロ猊下も、我々に付き従った戦士達も生き方を魔なる存在に歪められて剣を取ったのだ」

 

その言葉に僕は…………僕は―――――――。

 

「僕達は!」

 

気づけば、僕は少年枢機卿の前に立っていた。

 

「僕達は…………ただ平穏に暮らしたいだけなんだ。あなた達はあなた達の正義があり、あなた達の価値観があるのだろう。けれど…………ここにいる仲間、この町にいる多くの仲間達は修羅場を潜り抜けてきた仲間だ」

 

ゼノヴィアも僕に続いた。

 

「お互いに支え合って、命がけで戦い抜けてきた大切な仲間だ。たとえ、ストラーダ猊下とテオドロ猊下がそれをお認めにならなくても私達にはここまで戦ってきた誇りがある! それに不満を覚える者達が出たとしても、私達は私達が信じた者達のためにこれからも戦う! 戦い続ける!」

 

僕達は想いの全てを叫んだ。

 

たとえ、彼らにとって認められないものでも、僕達にとっては大切なもの。

僕達は仲間と共に信じるもののために戦う。

 

僕達の声にヴァスコ・ストラーダは満足そうな笑みを浮かべた。

 

「なるほど。いい目をしている。リアス・グレモリー姫よ。良い『騎士』を持たれましたな」

 

「ええ、自慢の『騎士』たちよ」

 

すると、イリナさんも僕達の横に立った。

 

「ストラーダ猊下、テオドロ猊下。私も悪い悪魔はいると思います。滅せなければならない悪はあると思います。けれど―――――良い悪魔もいます。心の暖かな悪魔もいるんです。善もあり、悪もある。それは人間も一緒で…………他の神話体系では善神もいれば、悪神もいます」

 

イリナさんの言葉を聞いてヴァスコ・ストラーダは豪快に笑った。

 

「はっーはっはっはっ! なるほどなるほど。戦士イリナ。天使となった貴殿が異教の神を語るとは…………。これが同盟の結果であり、新たな時代の幕開けを意味するのだろうか。しかし―――――」

 

ヴァスコ・ストラーダは再び剣を手にした。

 

「一度振り上げたものは落としどころを見つけなければならぬ。テオドロ猊下、お下がりくだされ。この老いぼれの最後のデュランダル、お見せしましょう」

 

「もういい! 私はもう十分だ! あなたやクリスタルディ猊下、戦士達が戦ってくれただけで…………私の想いを、不満を、直接この者達に伝えられた時点で、退けば良かったのだ。…………『D×D』の者達よ、私が罰を受ける! この命をもって償おう!」

 

少年枢機卿、テオドロ・レグレンツィがそう叫んだ。

強い決心を感じる表情。

この少年は覚悟を決めているのだ、全ての罰を受ける覚悟を。

 

ヴァスコ・ストラーダは柔和な笑みで、少年を優しく撫でた、

 

「子供が不平や不満を訴えるのはいつの時代もあること。あなたの訴えは何より尊く純粋だった。だからこそ、我々は剣を取ったのです。そして、何より見て欲しかった。あなたや戦士達の意思を払いのけてまで作り上げられた彼らを。彼らは一切我らを排せず、受け入れ、亥を汲んでくれた。そして、真っ直ぐに我々の想いを受け止めてくれた。彼らが我々の想いを踏みにじらずに受け入れてくれた、その時点で私達は負けていたのですよ」

 

「―――――っ」

 

ヴァスコ・ストラーダは少年枢機卿と戦士達を見て笑んだ後、僕達に言った。

 

「此度の一件、私とクリスタルディの首を以て、天に許しを請おう。テオドロ猊下も戦士達もまだ若い。これは私が蜂起させたものなのだ。罰を受けるのはこの老人だけで十分」

 

彼の告白に戦士達が悲鳴をあげる。

 

「なりませぬ、猊下!」

 

「猊下、我らの命であれば、喜んで差し出しましょうぞ!」

 

「煉獄に行く覚悟はできております!」

 

戦士達は皆一様に涙を流し、師を止めようとしていた。

エヴァルド・クリスタルディの時と同じだ。

 

この老枢機卿はこれほどまでに敬われ、慕われている。

 

ヴァスコ・ストラーダは罰を受けると言ったが、僕達もこれ以上は…………と思っている。

互いの想いはぶつけ合った。

 

アザゼル先生もミカエルさまも彼らの死を望んでいるわけじゃない。

むしろ、戦士達と同じ気持ちのはずだ。

 

「ヴァスコ・ストラーダ猊下。私達は―――――」

 

リアス前部長が口を開きかけた。

 

 

その時だった―――――。

 

 

「私がころころしてあげるわよーん♪」

 

突如、この場の誰でもない第三者の声がこだまする!

 

その声か聞こえてきた場所へと視線を向けると――――――そこにはゴシック調の衣装に傘という格好の女性。

 

リアス前部長がその名を叫ぶ。    

 

「――――――紫炎のヴァルブルガ!」

 

全員が構え、彼女を睨む。

やはり来たのかクリフォトの横槍が…………!

 

ヴァルブルガは愉快そうに笑う。

 

「最後の最後、美味しいところを横合いから取っちゃう♪」

 

そう言うとヴァルブルガの足元に無数の魔法陣が展開し始める!

これは転移魔法陣!

この光景には見覚えがある!

これは――――――。

 

転移の光が止み、現れたのは――――――量産型邪龍の群れ!

三桁は軽く越えるほどの数、周囲を黒く染めるほどの数が僕達を囲む!

 

まずは(・・・)邪龍の皆に活躍してもらおうかなーん♪」

 

邪悪な笑みでヴァルブルガが邪龍に指示を送ろうとする。

 

「―――――そうくると思ってました」

 

ロスヴァイセさんが指を鳴らした。

 

刹那、フィールド全体が銀色の光を発した!

建物、道、この空間にある全てが銀色に輝く!

 

「…………これって…………どういうことなのん!?」

 

ヴァルブルガが驚愕する。

 

なぜなら―――――フィールドが輝いた瞬間、転移してきた邪龍の全てが力を失ったようにその場に倒れ伏したからだ。

 

これは…………事前の説明にあった仕掛けというやつだろうか?

 

ロスヴァイセさんが不敵な笑みを浮かべながら言う。

 

「あなた達がここに侵入することも、邪龍を召喚することも想定済みです。アーシアさんが手懐けた量産型邪龍を解析した結果をもとにこのフィールドに特殊な結界を張りました。私が合図すると彼らの動きを停止させるという術式を織り込んだのです」

 

なるほど…………そういえば天界で調査をしていたね。

あのアーシアさんが手懐けた四体の邪龍がこのように役立つとは…………。

 

これを受けてヴァルブルガは悔しげな表情を浮かべる――――と思いきや、彼女はまだ笑みを浮かべていた。

 

「あらあらん♪ なーるほどねぇ。邪龍くん達を止められちゃったことは予想外たけどぉ、こっちもまだ手札はあるのよねん♪」

 

彼女はロスヴァイセさんのように指を鳴らした。

空に先程のものとは違う転移魔法陣が幾重にも出現する。

 

まだ来るのか…………!

 

転移の光が周囲を照らし、現れるのは―――――無数の赤だった。

 

赤い龍を模した鎧…………!

 

「まさか、イッセーくんの複製!?」

 

朱乃さんが叫んだ。

 

ヴァルブルガは頬を指でなぞりながら嫌な笑みを浮かべる。

 

「そうそう♪ リゼヴィムおじさまが、アセムきゅんの保有しているデータをベースに作り上げたのよん♪ 更に――――」

 

彼女の背後、そこに一際大きな転移魔法陣が展開された。

 

暗く、妖しい輝きを放つ魔法陣から何か黒いものがぬうっと出てきた。

 

それはゆっくりと魔法陣の向こうから姿を現し、巨大な肉体を出現させる!

 

『ゴァァァァァァァァァァァァァァァァッ!』

 

その怪物は咆哮をあげた!

その叫びにフィールドが揺れ、周囲を破壊する!

 

鼓膜が破れるかと感じた僕達は両手で耳を塞ぎながら、それを見上げた。

 

一言で言えば、それは巨大なドラゴンだった。

体長は百メートルほど。

剥き出しの牙、巨大な両翼、三つに別れた尾、腕は四本ある。

ギョロギョロと動く巨大な目が僕達を捉えた。

 

ヴァルブルガが言う。

 

「これはねぇ、赤龍帝くんの複製体で聖杯を強化してぇ、超おっきい邪龍くんを作ってみましたのよん♪ ちなみに、ベルちゃんの作った怪物を参考にしてるわん♪」

 

なんということだ…………!

 

クリフォトは…………リゼヴィムはこんなものまで作り出したというのか!

異世界の神の力を取り入れ、ここまで巨大な…………。

 

もし、これが量産されるようなら、また魔獣騒動が起こされるかもしれない!

リゼヴィムならそれぐらいやってくるだろう!

 

「それじゃあ、萌え燃えしちゃおうかしらん。やっぱり、美味しいところを持っていくのはわ・た・し♪」

 

この場にいる者全てが眼前の強大な悪に動けなくなっていた。

 

これはあまりに…………!

 

強大な邪龍の口が開き、赤く光る。

 

 

キンッ

 

 

ふいに金属音が響いた。

それは誰もが気にも止めないほどの小さな金属音だ。

 

次の瞬間、巨大邪龍の動きが止まった。

口に溜まっていた赤い炎が消え、ギラギラしていた目からも光が消えていた。

 

巨大邪龍の頭、その真ん中に小さな線が入る。

その線は少しずつ大きくなっていた。

 

そして――――――巨大邪龍は真っ赤な血の雨を降らせながら、真っ二つに割れた。

左右に別れた巨体が地響きを立てながら、崩れていく。

 

あまりに予想外過ぎる現象にヴァルブルガはおろか、僕達ですら口を開け、言葉を発することが出来なくなってしまっていた。

 

静まり返る戦場。

 

そこに―――――。

 

「悪いな嬢ちゃん」

 

男性の声だった。

 

その声に反応したのは僕達オカルト研究部員。

 

気配を感じた先には一人の中年男性。

白いマントを翻した彼の右手には―――――剣。

 

その男性の登場に僕は度肝を抜かれた。

 

彼がこの場に―――――この世界にいるなんて思ってもなかったのだから。

 

「―――――美味しいところを持っていくのは俺らしい」

 

異世界アスト・アーデ最強の剣士―――――『剣聖』モーリス・ノアが不敵な笑みを浮かべていた。

 

[木場 side out]




チートおじさん登場!


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22話 おじさん、暴れます!

[木場 side]

 

 

今日一番の驚きかもしれない。

 

僕だけじゃない。

彼を知っている者は全員が自分の目を疑った。

 

彼を知らないメンバー…………匙くんと教会の戦士達からすれば見知らぬ剣士の登場だろう。

だけど、彼らは僕達と違った動揺を見せている。

 

クリフォトが開発した新型の邪龍―――――百メートル級の巨大邪龍を真っ二つにした。

この事実に彼らは唖然としている。

 

僕はその人物を凝視する。

 

そして、まず浮かんでくるのは疑問だ。

 

なぜ…………なぜ、彼がここにいる!?

 

「モーリス…………さん?」

 

恐る恐る声をかけてみる。

 

完全に疑問形だ。

そもそも、目の前の彼が僕達が知っているあのモーリス・ノアなのか。

もしかしたら、別人ではないのか。

 

そんな考えすら浮かんだからだ。

 

男性はこちらを向くとニッと笑んだ。

 

「おう、久しぶりだな、祐斗!」

 

その口調、その笑顔。

間違いない。

少しの間、生活を共にしただけだけど、彼は間違いなく『剣聖』と呼ばれた男だ。

 

それを理解した僕は改めて問う。

 

「な、なぜ、あなたが!? なぜ、ここにいるのですか!? そもそも、どうやって…………あなたは…………」

 

「ん? あー、騎士団の方か? 心配すんな! 有休取ったから問題ねぇさ!」

 

「いや、そういう話じゃなくて!」

 

有休とかどうでも良いんですが!?

 

モーリスさんはボリボリと頭をかきながら言う。

 

「どうやってこっちに来たか、か? んなもん簡単な話だ。イッセーが俺達に会いに来て、助けを乞うてきた。俺達はそれに応えて、こっちの世界に来た。それだけだ」

 

イッセーくんはもう一度向こうの世界に…………アスト・アーデに行ったというのか! 

 

おそらく…………冥府の一件が絡んでいるのだろう。

異世界の神、アセムが冥府を蹂躙し、その調査にイッセーくんが向かったのは聞いている。

イッセーくん達が抜けた分を補う何かが必要だとは感じていたけど…………やはり手を打っていたんだね、イッセーくんは。

 

それが異世界アスト・アーデにおいて最強と呼ばれたこの剣士なのだろう。

 

すると、唖然としていたリアス前部長が口を開いた。

 

「ちょっと待って…………今、俺()と言ったかしら? それってつまり…………」

 

その問いにモーリスさんは頷いた。

 

「おうよ。リーシャもいるぜ。あとサリィとフィーナもな。…………そういや、おまえらもサリィとフィーナは知らないんだったな。後で紹介してやるよ。あいつらは冥府、イッセーの加勢に行ってるさ」

 

リーシャさんまで来ているのか…………。

 

それに知らない名前が挙がった。

サリィとフィーナという人物。

僕達は知らないけれど、リーシャさんと行動を共にするぐらいだ。

きっとかなりの実力者なのだろう。

 

しかし、一つ腑に落ちない点がある。

 

リアス前部長が訊く。

 

「イッセーはどうして黙っていたのかしら?」

 

すると、モーリスさんは苦笑しながら答えた。

 

「そいつはアザゼルがな。クリフォトだっけか? そいつらの油断を誘うため、だとよ。俺達の世界の神が絡んでいるのなら、俺やリーシャの顔を知っている可能性がある。おまえらが戦った後、消耗しているところを狙ってくる可能性が高い。相手の油断を誘うなら俺達の存在は隠すべきだった。…………で、おまえらに言ってしまえば顔に出る」

 

「…………アザゼル」

 

リアス前部長は額に手を当ててため息を吐いた。

 

だけど、アザゼル先生の考えも分からなくはない。

これほどの戦力が控えているとなれば、僕達は間違いなく危機的状況を前に平静を保っていられる。

相手の油断を誘うなら、それはダメだ。

 

…………しかし、アザゼル先生も人が悪い。

それとイッセーくんもね。

 

モーリスさんは僕とゼノヴィア、イリナさんの方に歩いてくる。

 

僕達の目の前で立ち止まると、いきなり頭を掴んでわしゃわしゃと撫でてきた。

 

「おまえらの戦いは見てた。良い戦いだった。まだまだ甘い部分も多いが、今回の戦いで成長したな。あとはおじさんに任せて、休んでな。リアス達と、そこのじいさん、それからそこの戦士達もな」

 

彼は白いマントを翻すと宙に浮く赤龍帝の複製体に視線を移した。

 

彼の言葉に僕は反対する。

 

「まさか、一人で相手取るつもりですか!? 無茶だ! あれは一つ一つがイッセーくんの力を持っているんですよ!?」

 

「あー、らしいな。全くとんでもねぇ奴がいたもんだ。…………つーか、俺を複製してもらって、仕事分けられねぇかな? 楽できそうで欲しいんだが…………」

 

な、なんて緊張感のない人だ…………。

 

ベルの複製能力で楽しようとしている…………!

アリスさんのサボり癖はこの人の影響だと思うよ!

 

ヴァルブルガとモーリスさんの視線が合う。

ヴァルブルガの表情はまるで異物を見るようか感じだった。

 

「おじさまは誰かしらん?」

 

「俺か? 俺ぁ、通りすがりのおじさんだ」

 

「ふざけないでくれる!?」

 

「おいおい、こんな冗談にマジでキレるなよ? 将来、シワが増えるぜ?」

 

モーリスさんは息を吐く。

 

「俺はオーディリア国騎士団団長モーリス・ノア。…………と、名乗ってみるが、嬢ちゃんからすれば『誰?』って感じなんだろうな。簡単に言うとだ、俺は異世界から来た剣士。そんでもって、嬢ちゃんの敵だ」

 

そう告げた瞬間、ピリッとした空気が漂い始めた。

ヴァルブルガは殺気を剥き出しにして、モーリスさんを睨みつける。

だが、先程の巨大邪龍を両断したことから、どう出るか探っていると言った様子だ。

 

対してモーリスさんは彼女の殺気など気にも止めないようで涼しい顔をしている。

 

すると、ヴァルブルガは一転して笑みを見せた。

 

「おじさまが何者かなんてどうでもいいわん。だってぇ、今からころころすることには変わりないものねん!」

 

ヴァルブルガが手を突き出すと赤龍帝の複製体がモーリスさん目掛けて飛翔!

高速で突っ込んでくる!

 

モーリスさんに迫るのは十数体程度。

数だけで言えば大した数じゃない。

 

しかし、モーリスさんにも告げたが、あれはイッセーくんの力をそのまま使ってくる。

戦闘技術までは反映できていないらしいが、それでも彼の強大なパワーを保有している。

 

いくらなんでも無茶だ!     

 

僕達は加勢に入ろうとするが、モーリスさんが左手で制した。

 

この状況でも一人でやるというのか…………!?

 

モーリスさんはただただ笑みを浮かべて、ゆったりとした表情で迫る複製体を見る。

 

複製体がモーリスさんへ肉薄した―――――。

 

だが、複製体の拳がモーリスさんを捉えることはなかった。

 

モーリスさんと擦れ違ったと思うと、複製体達は上半身と下半身で真っ二つにされていたんだ。

 

『―――――っ!』

 

この戦場にいる全員が目を見開いた。

 

いつ斬ったんだ…………!?

彼の剣は未だ切っ先を下に向けている。

 

まさか、交錯したあの一瞬の間に全て斬ったとでも言うのか!?

 

「ゼノヴィア…………見えた?」

 

「いや、全く…………」

 

イリナさんやゼノヴィアもこの反応だ。

 

彼の凄まじさは知っている。

特殊な能力を持っているわけでもなく、聖剣や魔剣を持っている訳でもない。

彼の得物は良く斬れる程度の剣だ。

 

それなのに彼は僕の聖魔剣とゼノヴィアのデュランダルを軽く捌いて見せた。

真正面から打ち合って見せた。

 

そして、今。

イッセーくんと同等の防御力を持つであろう複製体の鎧を一瞬で両断した。

 

これがどれほどのことか。

彼の剣技は僕達の理解を遥かに越えている。

 

モーリスさんは剣を肩に担ぐと息を吐く。

 

「イッセーの複製らしいが、てんで大したことねぇな。確かにあいつのパワーやスピード、防御力を持っているらしいが…………その程度じゃ話にならん。あいつがなぜ強いか。そいつはあの馬鹿みたいなど根性と折れない魂から来ている。それが再現できてないようじゃ、程遠い。不良品だ」

 

モーリスさんは鞘に収まっていたもう一本の剣を引き抜く。

ゼノヴィアと同じ二刀流の構えだ。

 

すると、二振りの剣に変化が起こった。

 

彼が握る剣、その刀身が黒く染まったんだ。

 

…………なんだ、あれは?

聖なるオーラでも魔なるオーラでもない。

かといってドラゴンでもない。

魔法的な何か…………いや、それとも雰囲気が違う。

 

疑問に思う僕だが、モーリスさんは構わず剣を振るった。

いや、振るったのだろう。

気づけば彼の剣は振り下ろされていた。

 

僕が見たのはあくまで結果。

振るったという過程はまるで見えなかった。

 

いつの間にか剣先が違う方向を向いていたんだ。

 

彼が剣を振るったとして、彼は一体なにを――――――。

 

「こいつで嬢ちゃんだけか?」

 

モーリスさんが口を開く。

 

次の瞬間、宙に浮かんでいた何十体もの複製体は先程と同じく、上半身と下半身で別れていた!

 

ヴァルブルガが叫ぶ。

 

「な、なにをしたの!?」

 

「斬ったんだよ。剣圧でな。知りたいなら、やり方教えてやるぜ? 一から叩き込んでやる。俺の指導は厳しいぞ? うちの若い奴らもひぃひぃ言いながら素振りしてるぜ、はっはっはっ」

 

剣圧…………斬戟を飛ばして斬ったということか。

それすらも見えなかった。

 

―――――圧倒的。

 

モーリスさんを一言で表すならそれだろう。

 

目にも映らぬ剣技、堅牢な赤龍帝の鎧すら容易く斬り裂く力。

彼の剣技にはアーサーもヴァスコ・ストラーダすらも見入っていた。

異世界の剣士の力は実力者である彼らにとっても規格外と感じられるものらしい。

 

ヴァルブルガの旗色が一気に悪くなる。

 

以前、ソーナ前会長が言っていたことだけど、彼女は不利と見ると早々に引くタイプとのことだ。

普段の彼女なら、直ぐにでも転移魔法陣を展開して逃げるだろう。

 

しかし、今の彼女は動かない―――――動けない。

 

魔法陣を開いた瞬間に斬られる、そんな未来が彼女には見えているのかもしれない。

 

このまま、ヴァルブルガを倒す…………そういう空気の中で新たな気配がこの場に現れた。

 

「これは皆さま、少し失礼します」

 

礼儀正しく、お辞儀をしながら現れたのは一人の男性だった。

長身痩躯で、茶髪を後ろで括った男性だ。

 

その男は僕も一度剣を交えたことがあって―――――。

 

「『覗者(ヴォアエリスムス)』のヴァルス! なぜここにいる!?」

 

僕はそう叫んだ。

 

彼とはアウロス学園襲撃の際、実際に戦った。

 

手も足も出なかった…………!

掠りもしなかった…………!

 

ヴァルスは僕の方に視線を向ける。

 

「木場祐斗殿、先日以来ですな。――――素晴らしい成長振りです。あの時とはオーラの質が違う。若い剣士が壁を乗り越え、新たな次元に至る。見ていて心地が良い。観戦しにきたかいがあったというもの」

 

観戦しにきた…………?

 

ふいに僕の視界にとあるものが映った。

ヴァルスの左手、そこにコンビニのビニール袋が下げられていて、中には空き缶といくつかゴミが入っている。

 

それを見て僕は…………僕は――――――。

 

「僕達の戦いはサッカーの試合じゃないんですよ!?」

 

ついついツッコミを入れてしまった!

イッセーくんがいない今、ツッコミ役が僕に回ってきているんだもの!

 

というより、あの人、本気で観戦しにきているよね!?

そのままの意味で観戦しにきてるよね!?

ビール飲みながら、何か食べながら観戦してましたよね!?

 

ヴァルスは親指を立てて爽やかに微笑んだ。

 

「素晴らしい戦いでしたよ。見ていてワクワクが止まりませんでしたからね。今日この場で戦った若者達に言いたい―――――ありがとう、と」

 

ダメだ、僕ではツッコミが追い付かない!

今の僕ではこれ以上のツッコミは難しい!

 

「祐斗先輩、ファイトです」

 

膝をつく僕を小猫ちゃんが励ましてくれた!

ありがとう!

 

ヴァルスの視線が僕からモーリスさんに移る。

 

「本当は出てくるつもりは無かったのですが…………。『剣聖』、あなたがいるとなれば話は別です。―――――私と手合わせ願いたく、参上しました」

 

「ほぉ…………俺とやり合うってか。サシか?」

 

「当然」

 

先程の緩い空気から一変、ヴァルスの表情が真剣なものとなる。

ヴァルスはゴミの入ったビニール袋を魔法で飛ばして、ゴミ箱に入れる。

 

…………結構、真面目だよね。

 

モーリスさんとヴァルスから濃密なプレッシャーが放たれ、ぶつかり合う。

 

その時、ヴァルブルガがヴァルスに言った。

 

「あらあらん、ヴァルスきゅんじゃない。わたしを助けに来てくれたのかしらん? そのおじさまを一緒に燃え萌えしちゃう?」

 

ヴァルスと組んでモーリスさんを討とうというのか…………。

 

しかし、ヴァルスから返ってきたのは―――――。

 

「一対一と言ったはずです。邪魔をするのならば―――――消しますよ」

 

鋭い視線と怒気の籠った返答だった。

ヴァルスの殺気に木々が揺れ、地面に亀裂が入る。

 

一歩、一歩とモーリスさんとヴァルスは近づいていく。

その光景はアーサーとヴァスコ・ストラーダの戦いを彷彿させた。

 

先に仕掛けたのは―――――ヴァルスだった。

 

剣を引き抜き、モーリスさんに斬りかかる。

 

速い。

抜き放ってから斬りかかるまでの動作に無駄がない。

彼の強さは能力によるものだけじゃない。

剣技、そして魔法。

この二つもハイレベルなんだ。

 

しかし、モーリスさんはヴァルスの高速の剣戟を軽く流していた―――――その場から殆ど動かずに。

 

「良い太刀筋だ。どうよ? うちに来ねぇか?」

 

「それは光栄です。が、まだまだこんなものではありませんよ?」

 

ヴァルスの姿が消える!

 

まるで気配を感じさせない。

上を見上げても周囲を見渡してもヴァルスの居所を掴めない。

 

甲高い金属音がなる。

 

見れば、振り下ろされたヴァルスの剣をモーリスさんが受け止めていたんだ。

 

モーリスさんは剣を流すと反撃に出る。

 

左右の腕を振るい、二刀流でヴァルスを攻め立てる。

僕では彼がどんな攻撃をしているのかまるで分からない。

速すぎて捉えられないんだ。

 

ただ、分かるのは――――――ヴァルスの体に傷が刻まれ始めているということ。

 

高速で動くヴァルスを的確に捉え、肩、腕、太ももに僅かではあるが切り傷を作っていく。

 

…………どういうことだ?

 

ヴァルスの能力は相手の心を読むものと、一瞬先の未来を見るというもの。

どちらも回避はもちろん、攻撃、防御においても恐ろしい効果を発揮する。

 

ヴァルスは一度構え、自身の傷を見る。

 

「まさか、私に傷をつけるとは…………」

 

モーリスさんが言う。

 

「確かおまえさんの能力は相手の心を読み、一瞬先の未来を見る…………だったか? イッセーからそう聞いてるが」

 

「ええ、その通りです」

 

「だったら、攻略法は簡単だ。―――――心を読まれても、一瞬先の未来を見られても避けられない速さで剣を振るえば良いのさ」

 

「…………」

 

唖然とするヴァルス。

 

…………不覚にもヴァルスの心情が分かってしまった。

そしてそれに同意してしまった。

 

―――――この人、無茶苦茶だ!

 

モーリスさんは左手に握る剣を地面に突き刺した。

 

「ま、せっかくこうして挑んできてくれたんだ。俺の取って置き、見せてやるよ」

 

モーリスさんの体から濃密なオーラが溢れ出る。

ゆっくりと大きく呼吸をし、内側で何かを練っているようだ。

同時に彼の剣が再び黒く染まった。

 

この感覚…………そうか。

以前、教えてもらった『剣気』というやつだ。

 

モーリスさんは腰を鎮め、両手で柄を握る。

 

 

そして―――――――。

 

 

「―――――『黒刀(こくとう)神斬(かみきり)』」

 

 

一瞬…………ほんの一瞬、モーリスさんの腕が動いたような気がした。

何が起きたのか、この場の誰もが理解できていないだろう。

 

濃密な剣気が放たれたのは確かだ。

しかし、彼は一体何を―――――。

 

次の瞬間。

 

 

グオォォォォォォン…………。

 

 

このフィールド全体…………フィールドそのものが不穏な音を出し始めた!

まさかと思うけど、彼は…………!

 

ロスヴァイセさんが叫ぶ。

 

「このフィールドを斬ったというのですか!? そんな馬鹿な!?」

 

「ん? 一応、修復できるって聞いたけど? ダメだったか?」

 

「そういう問題ではありません! 無茶苦茶過ぎます!」

 

ほ、本当にこのフィールドそのものを斬っていたのか…………。

 

とりあえず、一言言いたい。

 

「あなたは本当に人間ですか!?」

 

「もちろん。五十を前にしたただの(・・・)おじさんだ。最近、小便のキレが悪くてなぁ」

 

それ、前も聞きましたよ!?

あと、ただの(・・・)というところは全力で否定したい!

 

「あ、危なかった…………もう少しで私は左右に分裂させられるところでしたよ」

 

ヴァルスが汗を拭いながら言った。

 

あれを避けたのか…………。

彼の表情からするにギリギリのところだったようだが…………。

 

ヴァルスは体勢を戻すと、モーリスさんに訊く。

 

「以前、あなたの剣を遠目ですが見たことがあります。…………明らかに力が増していますね。一体どこまで行こうと言うのです?」

 

その問いにモーリスさんは静かに答えた。

 

「どこまでも。…………俺はライトを死なせた。イッセーを一度死なせちまった。これ以上、若い奴らが命を落とすところなんざ、見たくないのさ。これからの時代は若い奴らだ! ジジイがでしゃばるな! なーんて思われたりするかもしれないがな」

 

苦笑するモーリスさん。

 

彼は自身の剣を見つめると、天に向けた。

 

「この命、続く限り剣を握り続けてやる。極め続けてやる。大事なもん失わねぇためにな」

 

 

[木場 side out]




チートおじさん、大暴れでした!(笑)


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23話 クロス・クライシス 

[木場 side]

 

「なるほど…………。本当にあなたはどこまでも極め続けていきそうだ」

 

ヴァルスはフッと笑んだ。

 

イッセーくんだけじゃないんだ。

過去を背負っているのは。

彼だけが後悔している訳じゃないんだ。

 

モーリスさんもまた、後悔していた。

助けられなかった己の無力さを恨んだ。

 

もう二度と失わないために、彼は更に高みを目指す。

ただ大切なものを守るために。

今度こそ失わないために。

 

恨みや後悔に呑み込まれるのではなく、その先を見る。

守るために剣を振るう。

それがどれだけ難しいことか。

 

僕は目の前の剣士に騎士として在るべき姿を見たような気がした。

 

モーリスさんは剣を降ろすとヴァルスに訊く。

 

「さて、どうするよ、兄ちゃん。俺はこのまま続けてもいいぜ? クリフォトって奴らの戦力はあそこの厳つい嬢ちゃんだけだ。俺が手を出さずとも終わる」

 

クリフォトの横槍は予想していたとはいえ、その戦力は想像以上だった。

量産型邪龍、赤龍帝の複製体、更には新型の巨大邪龍。

 

ロスヴァイセさんの構築した結界とモーリスさんの加勢がなければ危なかっただろう。

仮に押し返せたとしても相当の被害が出たはず。

 

…………ま、まぁ、始終モーリスさんの無茶苦茶っぷりが目立っていたけどね。

 

誰が想像できただろうか。

フィールドそのものを斬る、そんな無茶苦茶な行為が行われるなんて。

 

もう一度聞きたくなるよ。

あなたは本当に人間ですか?

規格外にも程があると思う。

 

ふいに恐ろしい考えが僕の脳裏に過る。

 

リアス前部長も僕と同じことを考えてしまったようで、

 

「…………モーリスがイッセーの眷属になったらどうなるのかしら? あと、リーシャも。…………レーティングゲームのバランスが崩れてしまうような気がするのだけれど」

 

「え、ええ…………。特殊ルールならともかく、プレーンなルールなら敵なしになってしまうかもしれませんね」

 

朱乃さんもそう続いた。

 

以前、イッセーくんは何人か眷属の候補がいると言っていた。

…………モーリスさんとリーシャさんがその候補という可能性はかなり高いだろう。

 

今のメンバーでも常軌を逸しているのに二人まで加わったらどうなってしまうのか。

もし、僕達がイッセーくん率いる赤龍帝眷属と戦った時、僕達は勝てるのか。

 

「おまえさん、強い奴と戦うのが好きなんだろう? 今の俺は強いぜ? 神でも斬れる自信がある。なんなら、世界ごと斬ってやろうか? いや、それは流石に無理か? はっはっはっ」

 

…………全員でかかっても、この騎士一人に手も足も出ないような気がする。

 

というか、世界ごと斬るってなんですか!?

どういう状況なんですか、それは!?

よく分からないけど、あなたなら本当に実現してしまいそうで怖いですよ!

 

にこやかに笑うモーリスさんと青ざめていく周囲。

 

「…………イッセーくんの師匠の一人だもんね。おかしいわよね、色々と…………」

 

レイナさんの呟きにオカ研メンバーは一様に頷いた。

 

それと気になることがもうひとつ。

もし、本当にモーリスさん達がイッセーくんの眷属になった場合、駒はどうなるのか。

見ている限り、モーリスさんは剣士だけど機動力を活かして戦うという僕のスタイルとは異なる。

どっしり構えて、相手の攻撃を捌き、自らの剣を叩き込むというもの。

 

そうなると…………。

 

まぁ、そのあたりはイッセーくん次第だけどね。

 

モーリスさんとヴァルスが剣戟を繰り出し、戦闘を再開する中、一人笑みを浮かべる者がいた。

先ほど、モーリスさんに視線を向けられたヴァルブルガだ。

 

「うふふ、ヴァルスきゅんがやってくれてる間に、お暇しましょうかしらねん♪ このままだと怖いことになりそうだし」

 

モーリスさんがヴァルスの相手をしている間に逃げるというのか!

 

ヴァルブルガは足元に転移魔法陣を展開して逃げようとする。

…………しかし、その魔法陣は輝きを失い、消えてしまった。

 

「…………発動しない? 転移が封じられている?」

 

訝しげにそう漏らすヴァルブルガ。

 

そこへ――――――。

 

「―――――いや、経路を全て断っただけだ」

 

男性の声。

そちらへ顔を向ければ、黒い狗を従えた『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』幾瀬鳶雄さんの姿。

 

幾瀬さんの姿にヴァルブルガは仰天した。

 

「―――――『刃狗』っ!」

 

「やぁ、久しぶりだ。紫炎の魔女。あんたに継承された聖十字架はどんな塩梅かな? 悪いが、あんたがフィールドの外に事前に用意していた脱出用魔法陣の術式は全て斬らせてもらった」

 

彼の視線に釣られて、天井を見上げると―――――数えきれないほどの黒い刃が氷柱のように生えていた。

 

…………この広大なフィールドの天井全てに刃が生えているのか…………?

 

歪な刃は禍々しい輝きを放っていて、その刀身にも強力な呪力が籠められているようだった。

 

それを見てヴァルブルガは狼狽する。

 

「じょ、冗談じゃないわ! 術式はランダムに数万単位で組んだのよ!? それを私が侵入してからの僅かな時間で―――――」

 

「ああ、全て断った。裏方要員なんでね、仕事はするさ」

 

「…………あんた、本当に人間…………!?」

 

数万に及ぶ術式を断った…………。

それがどれだけ異常なことか。

 

これがアザゼル先生の切り札の一つ、『刃狗』の実力の一端…………。

 

今日は驚くことばかりだ。

 

邪龍や赤龍帝の複製、新型の邪龍という手札を失い、退路も断たれた。

 

「ふふふ…………はははは! これが『剣聖』! どこまでも私を昂らせてくれる!」

 

「はっ! 楽しんでるようじゃねぇか、兄ちゃん!」

 

協力関係にあるはずのヴァルスもモーリスさんとの斬り合いを心から楽しんでいるようで、ヴァルブルガを助ける気は更々ないらしい。

 

僕が思うにヴァルスとヴァルブルガ――――異世界の神アセム一派とリゼヴィム一派はそこまで深い関係じゃないのかもしれない。

手を組んでいるようだが、両者はまるで違う。

少なくともアセム一派はリゼヴィム一派を仲間とは思っていない…………。

これまでの彼らを見ているとそんな気がしてしまう。

 

すると、ヴァルブルガは自身の胸に手を当てた。

 

「まだ試作段階…………。これだけは使いたくなかったけど、しょうがないわねん」

 

刹那、ヴァルブルガの体から黒いオーラが放たれ、彼女の体を覆った!

黒いオーラ、そして、彼女が持つ紫炎が混ざり、禍々しい色へと変貌する!

 

まだ手札があるのか!

 

見れば、ヴァルブルガの肉体にも変化が起きていた。

血管が浮かび上がり、頬には禍々しい紋様が浮かび上がっている。

 

…………これと似たような現象に覚えがある。

 

『英雄派』ジークフリートとジャンヌが使っていた『魔人化(カオス・ブレイク)』。

魔王の血によって作られた神器のドーピング剤、それを使った時とよく似ている。

 

あれは使用者の力を劇的に引き上げる。

僕も『魔人化』を使ったジークフリートに殺されかけたくらいだ。

 

ただ異なる点がある。

ヴァルブルガはあの注射器のようなものを使っていない。

どちらかと言えば、三大勢力の和平会議がテロにあったとき、旧レヴィアタン―――――カテレア・レヴィアタンが使っていたオーフィスの蛇と似ている。

 

クリフォトはオーフィスの分身体、リリスを連れているし、『英雄派』の研究データを持っていても不思議ではないが…………。

 

「おほほほ! あぁ、力がみなぎってくるわん! さぁ、誰から燃え萌えしちゃおうかしらん!」

 

ヴァルブルガの背後に巨大な紫炎の十字架が現れる。

 

その熱が、波動が僕達の体を焦がしていく!

離れているのにこの熱量!

強化された聖遺物…………あれの炎をまともに受けてしまえば、悪魔である僕達はひとたまりもないだろう!

 

僕達が身構えた、その時―――――。

 

離れたところの空間に大きな斬れ目が入った。

ガラスが割れるような音と共に空間の欠片が地に降り注いでいく。

裂けた空間の向こうには次元の狭間特有の万華鏡を覗いたような景色、そして―――――このフィールド全体を覆う熱。

 

ヴァルブルガの紫炎を遥かに越える熱。

この暖かなオーラは―――――――。

 

「―――――どうやら、ギリギリ間に合ったみたいだな!」

 

イッセーくん達、赤龍帝眷属の帰還だった。

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

フィールドをイグニスで斬り裂いて中に突入した俺達赤龍帝眷属とディルムッドとリーシャ。

 

目の前にいたのはリアス達とあのストラーダのじいさん。

こっちの援軍だったモーリスのおっさん。

 

そして、ヴァルスとヴァルブルガ!

 

やっぱりあったか、クリフォトの横槍!

 

ヴァルスはモーリスのおっさんと現在交戦中!

木場が一太刀も入れれなかったヴァルスの体に傷をつけているおっさんも半端じゃないが、あのおっさんと打ち合えているヴァルスもその実力の高さが伺える。

もうどっちが凄いのか分からん!

 

で、リアス達と対峙するのは紫炎のヴァルブルガ!

こっちはまだ戦った雰囲気ではないが…………ヴァルブルガの体に奇妙な紋様が浮かび上がっていた。

身に纏うオーラも以前会った時よりも禍々しく濃密になっている。

 

…………なにしたんだ?

 

リーシャが目を細める。

 

「…………危険な波動ですね。禁忌に近い力を感じます」

 

「どーせ、変な薬でもしたんでしょ? 平気でそういうことする奴らよ、クリフォトは」

 

盛大にため息を吐くアリス。

 

ま、その考えは十分にあり得るな。

短期間でここまで力が上がるとは考えにくいし。

 

俺達がヴァルブルガの力について考察していると、リアスが叫んだ。

 

「イッセー! 無事だったのね!」

 

「結構ふらふらだけどね、何とか」

 

俺が苦笑しながらそう返すと、その横でアリスが呟いた。

 

「…………私の胸、また吸ったくせに」

 

うん、ごめん!

 

アセムに続いて、邪龍軍団相手にした俺は限界だったんだけど…………。

ヴィーカとの戦いを切り上げてアリスが戻ってきたのでお願いしてみたんだ。

 

とりあえず、アリスパンチが降ってきたけど…………吸わせていただきました。

 

「…………ごちそうさまでした」

 

「…………バカ」

 

頬を染めてそっぽ向くアリス。

 

えっと…………ホントごめんね。

それから、ホントありがとう。

 

アリスのおっぱい…………最高。

 

「イッセー…………くん」

 

ヴァルキリーの鎧を装着したロセが声を漏らした。

どこか瞳が潤んでいて、手で口許を押さえている。

 

うーん…………心配させちゃったのかな?

 

「ただいま、ロセ。大丈夫だよ。この通り、俺は―――――」

 

無事を伝えようと俺が両腕を広げると、ロセは肩を震わせて――――――。

 

「もうっ! あなた達は私の構築した結界に恨みでもあるんですか!?」

 

「…………へっ?」

 

いきなり怒り出したロセ。

何やらプンスカしている。

 

え、えーと、俺って何かしたかな…………?

結界…………?

 

「モーリスさんは結界斬るし、イッセーくんまで結界に穴開けて帰ってくるし! 師弟揃って何してくれてるんですかぁぁぁぁぁぁ!」

 

「そっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

俺のこと心配してくれてたんじゃなかったのぉぉぉぉぉ!?

ちょっショックだよ!

 

つーか、おっさんも結界斬ったんかい!

あの技使ったな!?

 

とりあえず、謝るよ!

ごめんなさい!

 

モーリスのおっさんと剣を交えながらヴァルスが聞いてくる。

 

「これは勇者殿。父上の方に向かっていたのでは? リゼヴィム殿の横槍があったとか」

 

「ああ。その通りだよ」

 

邪龍を片付けた俺達だったが…………そこからアセムに再挑戦するには色々と崩れてしまったのでこちらに戻ってくることにした。

城に入ろうとしても強力な結界が張ってあって入ることも出来なかったしね。

 

まぁ、今回はあくまで冥府の調査。

一応の目的は達成できたと言える。

 

冥府から撤退する際、アセムが言ってきたことが気になるが…………。

そのあたりは後でいいだろう。

 

今は――――――。

 

「よう、ヴァルブルガ。なんか厳つくなってるな」

 

「あらん、赤龍帝くんじゃない。ふふふ、この姿はあまり好みではないのだけど…………強くなったのは確かだわん」

 

「どうせ、変な薬使ったんだろ。勝つためなら手段は選ばないってか」

 

嫌な笑みを浮かべるヴァルブルガ。

 

うん、俺、やっぱりあいつは嫌いだわ。

性格悪すぎ。

おっぱいは大きいけどね!

 

「…………あんた、またあの女の胸見たわね?」

 

「んん!? 見てない! 見てないよ!?」

 

鋭いよ、アリスさん!

 

大丈夫!

俺はヴァルブルガのおっぱいよりもアリスのおっぱいの方が好きだから!

アリスのおっぱい、可愛いもん!

成長してきて美乳になってきてるもん!

 

あ…………そう言えば…………。

 

あることを思い出した俺はアリスとリアスを交互に見た。

 

…………そうだった。

俺、後で二人にお願いしないといけないんだった…………オッパイザーの補給。

 

よし、この戦いが終わったら必殺のムーンサルト・ジャンピング土下座でお願いしよう!

また可愛い二人が見れる!

たとえ殴られても構わない!

俺は二人と補給したい!

 

そのためにもさっさと終わらせないとな!

 

「私がやろう。いまなら、いけそうだ」

 

大胆な言動と共に前に出たのはゼノヴィア。

右手にはデュランダル、左手にはエクスカリバー。

 

どうやら、エクス・デュランダルを二つに分けたらしいな。

一つになっていた聖剣を本来の姿に戻したようだ。

 

二振りの聖剣からかつてないほどの聖なるオーラが滲み出ている。

神々しく輝く聖なる力はゼノヴィアの体をも包み、輝きを増していく。

 

あれが今のゼノヴィア。

この戦いで何か掴んだみたいだ。

 

ゼノヴィアの姿を見たヴァルブルガは高笑いする。

 

「あーはっはっはっはっ!」

 

両腕を広げるヴァルブルガ。

その背後で燃え盛っていた紫炎の十字架が勢いを増す。

黒いオーラと紫炎が混ざり、禍々しさが激しくなっていった。

 

「じゃあ、見せてあげるわよんっ! 私と禁手をねっ!」

 

ヴァルブルガの戦意が高まり、それに呼応して紫炎が膨張していく。

膨れ上がった紫炎は形を変えて、とある姿を形成し始めた。

 

それは――――――ドラゴン。

 

二百メートルはある超巨体なドラゴン!

しかも、頭が八つ!

 

「八岐大蛇か!」

 

ヴァルブルガが紫炎で作られた八つ首のドラゴンを背にして言う。

 

「これが私の亜種禁手、『最終審判(インシネレート・)による覇焔の裁き(アンティフォナ・カルヴァリオ)』よん♪」

 

炎の十字架に磔にされた邪龍を見て、ストラーダが言う。

 

「現聖十字架の使い手は磔にしたモデルによって、その姿と特性を変えると聞く。此度のモデルは八つ首の邪龍ということなのだろう」

 

ヴァルブルガがそれを受けて語る。

 

「八重垣くんに持たされた剣には『八岐大蛇』の魂が半分だけ入っていたの。残りの半分は私が紫炎に取り込んだわ。この神滅具の真の姿は独立具現型なのよん♪」

 

あの聖十字架が独立具現型…………。

つまり、幾瀬さんが連れているあの狗と同じタイプってことか。

 

しかし、よりにもよって邪龍とは…………。

磔にしたモデルの特性を変えるらしいけど、八岐大蛇の毒なんて持ってないだろうな?

 

俺はゼノヴィアの横に立つと宙に浮くヴァルブルガを見上げる。

 

「そんじゃ、俺はゼノヴィアのサポートに入ろうか。いいな、ゼノヴィア?」

 

「ああ。イッセーが共に戦ってくれるのなら、これほど心強いことはない」

 

俺とゼノヴィアのオーラが高まっていく。

 

ヴァルブルガが叫ぶ。

 

「二人だけで私をどうにか出来ると思って!」

 

ヴァルブルガが手をこちらに突き出すと無数の魔法陣を展開!

攻撃魔法の雨と紫炎の八岐大蛇のブレスを吐き出してくる!

 

天翼の鎧を纏った俺はフェザービットを展開。

ビットの砲撃でブレスを相殺、あるいはビットが展開したシールドで魔法攻撃を防いでいく。

 

俺は天翼の翼を羽ばたかせて空を飛ぶ!

 

「おまえこそ、俺達に勝てると思うなよ!」

 

八つの首が襲いくるが、全ての首をビットで撃ち落とす。

しかし、紫炎の邪龍はすぐに回復、元の姿に戻ってしまう。

更にパワーアップしたヴァルブルガの魔法攻撃は一撃が重くなっていて、それが当たった地面には深い穴が出来てしまうほど。

 

…………流石に今の俺があれを受けてしまうときついか。

アセムとの戦いで体力使いすぎたしな。

 

ま、それでもあいつのサポートくらいはできるさ。

ゼノヴィアのやつ、ヤル気満々だしな!

 

「いくぞ、イッセー。勝負を決めよう!」

 

ゼノヴィアが構える二本の聖剣は高密度、高濃度のオーラを放ちながらも安定していた。

 

ゼノヴィアは言う。

 

「私はデュランダルの攻撃性を扱いこなせず、エクスカリバーで制御することで一応の使い手となった。そして、エクスカリバーの各特性を取得しようとして技術を学んだ。けれど、デュランダルと私の本質はあるがままに動くこと。元来のスタイルこそが真実だった」

 

しかし、とゼノヴィアは続ける。

 

「ただがむしゃらにパワーを求めるのもまた本質には遠かった。遠回りして、見つめ直して、あらためて本来のスタイルを思い直すことができた」

 

幾つもの戦闘を重ね、ようやく戻ってきた本来の姿。

しかし、今のゼノヴィアは過去の彼女とは数段違っている。

 

荒々しく、でも静かなオーラ。

 

ようやくデュランダルの力を制御出来るようになったのか。

 

ゼノヴィアは二振りの聖剣を十字にクロスして叫ぶ!

 

「これまでの経緯、経験があったからこそ、戻ってこられたんだ! 全てが私の血肉となったからこそ、私はデュランダルを受け止められるようになったんだ! さぁ、暴れようかデュランダル! そして、エクスカリバー! デュランダルと共に私を支え、高めてくれ!」

 

解き放たれるデュランダルとエクスカリバーの聖なるオーラ!

眩い光がフィールド全体を照らし、オーラを空高く立ち上らせる!

 

ヴァルブルガがさせまいと紫炎の邪龍と魔法攻撃を放つが、仲間がそれを防ぐ!

俺達の仲間はやらせないってな!

 

「私達は三つで一つの剣! さぁ、共にいこうっ!」

 

ゼノヴィアはクロスさせた聖剣を一気に振り下ろした!

極大の聖なるオーラが十字を作り、放たれる!

 

聖なるオーラの前にあるものは全て呑み込まれ、斬られていく!

ついには巨大な紫炎の八岐大蛇を十字に斬り裂いてしまう!

 

だが、聖なるオーラはまだ止まらない。

そのまま、紫炎の先にいたヴァルブルガへと迫る―――――。

 

「―――――クロス・クライシス、とでも名付けようか」

 

紫炎の魔女はゼノヴィアの放った一撃に呑まれていった―――――。

 

 



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24話 戦士達の父 

ヴァルブルガを倒し、クリフォトによる横槍は完全に制圧することに成功した俺達。

 

残るはモーリスのおっさんとやりあってるヴァルスだけなんだが…………。

 

ヴァルスはモーリスのおっさんから距離を取ると剣を鞘に納めた。

 

「紫炎の彼女は倒されてしまいましたか。これで残るは私一人。このままここに残って剣を振るい続けるというのも魅力的ですが…………」

 

ヴァルスの視線がモーリスのおっさんを捉える。

 

すると、モーリスのおっさんもヴァルスと同じく二振りの剣を鞘に納めた。

 

「今日はここまでだ。行きな、兄ちゃん。たとえ敵でもおまえさんのような奴は嫌いじゃねぇ。また機会が巡ってきたらサシでやり合おうや」

 

「ええ。あなたにそう言っていただけるのは一人の剣士として誇りに思いますよ、剣聖殿。…………それでは、これにて」

 

ヴァルスは手を正面に翳す。

すると、空間が歪み、魔法陣が展開された。

魔法陣の輝きが強くなり、周囲を照らす。

 

目を開けた時にはヴァルスの姿は消えていた。

 

「…………帰ったか。つーか、なんであいつがここに?」

 

俺の問いに木場が答える。

 

「えーと…………どうやら、僕達の戦いを観戦しにきたみたいなんだ?」

 

「は………?」

 

「彼がここに現れたとき、手にビールの空き缶とおつまみの袋を持ってたからね」

 

「あいつ、舐めてんのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺の渾身のツッコミがフィールドに響いた。

 

 

 

 

ヴァルスがアセムの元へ戻ったことで、今度こそ全てが終わった。

 

リアス達と戦っていたクーデター組の教会の戦士達は武器を捨てて素直に投降した。

首謀者であるエヴァルド・クリスタルディ、ヴァスコ・ストラーダ、テオドロ・レグレンツィも同様に投降する。

 

「私達の敗けだ。抵抗はせん」

 

ストラーダのじいさんは審問を受けるため、専用の魔法陣の方に足を進める。

エヴァルド・クリスタルディとテオドロ・レグレンツィも彼に続く。

 

ゼノヴィアが倒したヴァルブルガだが、直撃の瞬間、防御魔法陣を展開したようで、ボロボロの状態だったが生きていた。

こちらは気絶している間に捕縛して冥界の専門機関に転送済みだ。

 

ヴァルブルガを捕縛した時に気づいたことだが、彼女の傍らに紫色の種火を見つけたんだ。

 

それを見た幾瀬さんは専用のランタンを取り寄せて回収していた。

幾瀬さん曰く、

 

「この神滅具は通常起こる次代所有者の継承とは別に己の意思で主を渡り歩くことがあるんだよ。話ではこの神器自体に何者かの意思が宿っていて、次々に宿主を変えることが出来るそうなんだ。だから、こうやって回収しておかないと、彼女から離れたとしても、次の主を求めてさまよってしまう」

 

とのことだ。

 

アザゼル先生の話を聞いたりしているんだが、神器ってのは本当に様々な種類がある。

能力なんかもそうだけど、あの紫炎のように神器が自ら所有者を選ぶ、そんな神器もあるんだな…………。

 

何者かの意思が宿ってる…………。

そういえば、曹操の聖槍にも『聖書の神』の意思が宿ってるんだったか。

聖遺物には他にも不思議があるのかもしれないな。

 

「そっちは上手くいかなかったらしいな」

 

そう声をかけてきたのはモーリスのおっさんだった。

マントと服を脱いで、上半身裸の状態で汗を拭っている。

鍛え上げられた肉体は相変わらずだ。

 

ふと見るとおっさんの体に僅かにだが、切り傷がいくつか出来ていた。

それに肩にかけている服にも何ヵ所か裂けている箇所がある。

どれも浅く、よほと傷とは言えないレベルのものだったが…………。

 

「…………おっさんに傷を負わせていたのか」

 

「ま、これくらい傷の内にも入らねぇが…………。あの兄ちゃん、強いぜ。俺に剣を届かせた奴なんざ、久方ぶりだ」

 

そう言うおっさんの表情はえらく楽しげで、強敵の登場に高揚しているようだった。

 

おっさんも根っからの剣士だからなぁ…………。

敵でも、ヴァルスみたいに正面から挑んできて、なおかつ自分に剣を届かせる実力者は大歓迎なだろうな。

 

ちなみに、俺はおっさんに手傷を負わせたことは過去に一度たりともない。

まぁ、普通の禁手しか使ってないけどさ…………。

 

そのおっさんに僅かにでも傷を負わせたヴァルス。

 

おっさんは言う。

 

「あの兄ちゃん、後半から動きが一気に変わってきてな。俺の剣に対応してきやがった。次やる時は更に力を上げてくるかもしれねぇな」

 

「随分楽しそうだな、おっさん」

 

「そりゃな。おっさんになるとな若い連中と戯れるのが楽しくなるのさ」

 

…………あれだけの剣戟の応酬が戯れで済むとは到底思えないけど…………。

 

そんな会話をしていると、ストラーダのじいさんが俺達の横で足を止めた。

 

「ここを離れる前にやらねばならないことがある」

 

そう言うとストラーダのじいさんは懐を探り出す。

取り出したのは封筒の束だった。

 

ストラーダのじいさんはアーシアに声をかけた。

 

「聖女アーシア。私のことを覚えているだろうか?」

 

「はい、一度だけごあいさつを」

 

「うむ、貴殿は本当に敬虔な信徒であり、優しい少女であった。―――――これを受け取りなさい」

 

封筒を渡すストラーダ。

 

アーシアは怪訝な表情で受けとる。

 

「これは…………」

 

「それは貴殿の力にて治してもらった者達からの感謝の手紙だ」

 

「―――――っ」

 

目を開き、言葉を失うアーシア。

 

アーシアの力で治してもらった者達…………つまり、聖女時代にアーシアが癒したという人達からの手紙ということだろう。

 

ストラーダのじいさんは続ける。

 

「貴殿が教会からいなくなった後もその手紙はずっと送られ続けていたのだ。いつか貴殿に渡そうと私が預かっていたのだが………此度、それがようやく叶った」

 

ストラーダはアーシアの手を取り、優しく微笑んだ。

 

「…………貴殿が追放される旨を聞いた折、どうにかして隠棲先を探したのだが…………間にあわなんだ。申し訳なかった」

 

その一言にアーシアは涙を溢れさせた。

肩を震わせ、受け取った封筒をぎゅっと抱き締めた。

 

ストラーダのじいさんはアーシアの頭を撫でた。

 

「落ち着いてからでいい、その手紙の主達にぜひ返信してあげてほしい。あるいは訪問してくれてもいいだろう。貴殿の優しさに救われた者は多いのだ。きっと喜ぶだろう。私がその件をすでに手配している。教会に言ってくれれば、いつでも面会は可能だ」

 

アーシアは声を詰まらせて号泣していた。

 

アーシアの癒しは、優しさはちゃんと伝わっていたんだ。

この封筒の束がその証拠だ。

アーシアに救われ、感謝している人達がこれほどまでにいる。

 

それが分かっただけでも俺は嬉しい。

 

そして、その手紙を預かってくれていたストラーダのじいさん。

間に合わなかったとはいえ、アーシアを救おうとしてくれていた。

やっぱり教会にもアーシアを分かってくれている人がいたんだ。

 

と、ここにアザゼル先生が姿を現した。

先生は戦闘終了後に何やら動いているようだったが…………。

 

モーリスのおっさんがアザゼル先生に問う。

 

「おう、そっちも終わったか」

 

「まぁな。…………つーか、モーリスよ。おまえさんが、やらかしてくれたお陰で余計な仕事が増えちまったぜ」

 

苦笑する先生。

 

先生の言葉にストラーダのじいさんが言う。

 

「元総督殿。その様子ですと、我らに付いていた背信の徒はあぶり出せたようですな」

 

「ああ、おかげさまでな」

 

先生は頷くと俺達に改めて説明をくれる。

 

「リゼヴィムの野郎がクーデターを扇動していたのは少し話しただろう? で、そうなると、教会内に奴と通じていた裏切り者がいるってことにもなる。今回のクーデターとケンカの一戦でそいつをあぶり出そうとしたのさ。案の定、あのフィールドにヴァルブルガが入ってきただろう? それはつまり裏切り者がフィールドに入る魔法陣を奴らに流したってことだ。俺達はそこまで読んで準備して、裏切り者が誰なのか、特定するまで踊らせていたのさ」

 

ストラーダのじいさんが続く。

 

「今回の件でここまで来たのも、その者をあぶり出すためでもある」

 

「なるほどね。…………それで、アザゼル。モーリスの件はどういうことかしら? 話してくれていても良いじゃない」

 

リアスが納得しながらも半目で先生に視線を送った。

 

ま、まぁ、最後まで黙ってたもんね。

俺も伝えてなかったし。

 

アザゼル先生は頬をポリポリかきながら言う。

 

「敵を騙すなら味方からってな。モーリスとリーシャについてはある意味こちらの切り札にしたかったのさ。奴らがどんな手札を持っているかは分からんからな。出来るだけ情報を伏せておきたかったのもある」

 

「…………本当にそれだけ?」

 

「本音を言えば、おまえらが驚く顔を見たかった」

 

「アザゼル…………あなたねぇ…………」

 

額に手を当てて盛大にため息を吐くリアスと苦笑する周囲のメンバー。

 

その中でただ一人落ち込んでいる者も…………。

 

「…………まさかフィールドを斬られるなんて…………。術式を見直さないといけませんね…………」

 

ロセだ。

 

あのフィールドはあり得ないほどに強固な作りになっていて、ロセの封印と結界術が織り込まれていたそうなのだが…………。

 

「斬っちまって悪かったな。ま、済んだことは良いじゃねぇの」

 

モーリスのおっさんはフィールドを真っ二つに斬ったそうなんだよね。

アザゼル先生達が裏で修復したから良かったものの…………。

 

つーか、このおっさん、全然悪いと思ってねぇ!

 

リーシャがロセの両肩に手を置いた。

 

「まぁまぁ。これがモーリスですから。あまり気にしない方が良いですよ? 少し前なんて、空と海を斬ってしまって大騒ぎを起こした程ですから」

 

「あの時はうちの若い連中が苦労してたっけな。いやー、やっちまったな!」

 

「「「「…………」」」」

 

口を開けて唖然とするオカ研メンバー&生徒会メンバー。

 

何となくだけど…………ごめんなさい。

うちのチートおじさんが滅茶苦茶でごめんなさい。

 

ストラーダのじいさんが再び懐を探り、一つの小瓶を取り出した。

 

「元総督殿。此度の騒動の代価の一つとしてあなたにお渡ししたいものがあります」

 

小瓶を受けとる先生。

その小瓶の中には陶器の欠片らしきものが入っていた。

 

それを見た先生は目を見開く程に驚き、唸った。

 

「こいつは…………本物の聖杯の欠片か」

 

『―――――っ!?』

 

先生の言葉に『D×D』メンバー全員が驚いた!

 

本物の聖杯の欠片!?

それってかなり貴重品なんじゃないのか!?

いくら今回の騒動の代価としても…………それって良いのかよ!?

 

先生が確認するようにストラーダに問う。

 

「そういうことなんだな、ストラーダ?」

 

「ええ」

 

ストラーダは頷く。

 

…………何かあるのか?

教会にとって貴重であるはずの物をこちらに渡す、それによるメリットが。

 

俺にはまだ分からないが…………。

 

ストラーダの視線がリアスと木場に移る。

 

「リアス・グレモリーの『騎士』よ。―――――イザイヤ。施設にいたときにはそう呼ばれていたと聞く」

 

「―――――っ! なぜ、その名前を?」

 

驚く木場。

 

イザイヤ…………それが教会の施設にいたときの木場の名前。

俺達にも教えてくれたことはなかったんだが…………。

 

「繰り返された実験の中で帰って来なかった子が何人もいたと聞く。だが、一名だけ例外がいたのだ。トスカという名に覚えがないだろうか?」

 

「…………トスカ…………。まさか…………っ!」

 

トスカという名前を口にした木場は目を見開き、何度も頷いた。

 

ストラーダが配下の者に視線を配る。

すると、戦士の一団の中から一人の少女が姿を現した。

 

白い髪をお下げにした、歳は十二、三歳くらい子だ。

 

彼女は木場を見るなり、口元を押さえた。

 

「…………イザイヤ?」

 

「…………そ、そんな…………! 本当に、トスカ…………なのかい?」

 

「…………うん」

 

言葉もない木場。

 

そんな木場にストラーダは語る。

 

「彼女は強固な結界術型の神器を持っていたのだ。実験の中でそれが発現し、バルパー達も手が出せなくなった。所有者である彼女が仮死状態になっても結界が解かれることはなく、研究員達も仕方なく施設の隠し部屋の奥深くに置いておくしかなかったそうだ。彼女を見つけた我々も結界を解くことは叶わなかった」

 

ストラーダはしかし、と続けた。

 

「同盟の折、堕天使側から提供された技術により、ようやく解くことが出来たのだ。結界内で仮死状態だったゆえ、成長は止まっており、衰弱も見られた。そのため、この国に連れてくるには時間を要したのだ」

 

ストラーダのじいさんの言葉に耳を傾けながらも、木場はゆっくりと少女に歩み寄った。

彼女もまた木場へと近づいていく。

 

トスカと呼ばれた少女は木場の頬を撫でた。

 

「イザイヤ、こんなに大きくなっちゃったんだね。…………私はあの頃のままなのに」

 

「…………いいんだ。いいんだよ………」

 

二人は再会の抱擁を交わす―――――。

 

「イザイヤが生きていてくれて、良かった」

 

「…………っ! そうか…………そうだった…………。君も、君達も、僕も…………それが全てだったんだ…………っ! 生きることが!」

 

木場は涙を流しながら、強く、強く彼女を抱き締めた。

 

復讐なんて願っていない。

それは俺達もそうだし、彼女も…………おまえに託した他の皆もそうだ。

 

木場、おまえも心の中では分かってたんじゃないか?

おまえの剣が何よりの証拠だろ?

 

ストラーダのじいさんが二人を優しい瞳で見守りながら言う。

 

「彼女を連れていきなさい。教会にいては何かと利用する者が出るやもしれん。何より、彼女もそれを望んでいよう」

 

「ストラーダ猊下…………僕は…………」

 

木場が何かを言おうとするが、ストラーダは首を横に振る。

 

「決して私を許すな。許せば貴殿の斬れ味は鈍る。聖と魔の狭間こそが貴殿の力の根源となろう」

 

ストラーダは次にゼノヴィアへと視線を向け、彼女の頭をその大きな手でわしゃわしゃと撫でた。

 

「戦士ゼノヴィアよ。赤龍帝ボーイと共に戦った姿はまことに優雅であったぞ。恋せよ、乙女ゼノヴィア。デュランダルは愛にこそ寛容なのだ」

 

「―――――はい」

 

ゼノヴィアはただ一言だけそう返す。

 

たた一言だけど、その中にはゼノヴィアの誇りや想いが全て籠められているような気がした。

 

このじいさんは最初からアーシアへの手紙も、木場の同士のことも全てを用意してから戦いに臨んだ。

戦士達の想いをぶつける機会を設けると同時にアーシアと木場も救っていった。

 

…………なんて、じいさんだよ。

 

ふいにストラーダのじいさんと目があった。

 

じいさんはただ笑みを浮かべるだけだが、俺も自然と笑みを浮かべて頷きを返した。

 

モーリスのおっさんが息を吐く。

 

「やれやれ…………とんだじいさんがいたもんだ」

 

「ふふふ、それはこちらの台詞ですな、異世界の剣士殿。貴殿の言葉、この老体にも染みましたぞ」

 

「そうかい。ま、俺が一つだけ言いたいことがあるとすれば…………じいさんよ、あまり死に急ぐもんじゃねぇぜ? 今回の件、俺ぁ、アザゼル達の話を聞いたに過ぎん。こっちの事情もそこまで分かってねぇ。…………だがな」

 

モーリスのおっさんの目は教会の戦士達、ストラーダの弟子達に向けられた。

 

「じいさんが死んで悲しむ奴がいる、泣く奴がいる。だったら、あんたは死ぬべきじゃねぇよ。あんたがこれからしなきゃいけないのはあいつらの行く末を見守ることだろう? それが俺達、こいつら若者の先を生きる者がすべきことじゃねぇかい?」

 

おっさんはそう言うと俺の頭をポンポンと叩いた。

 

その感触はいつだったか…………昔もこうしておっさんに頭を撫でられたことがあった。

その大きな手で。

 

「死ぬなら天寿全うして、弟子に見送られながら笑顔で死んでやろうぜ。それが弟子孝行ってな」

 

そう言うとおっさんはニッと笑んだ。

 

ストラーダのじいさんもしわくちゃの顔に笑みを浮かべて返す。

 

ストラーダのじいさんは審問を受けるために転移魔法陣の方へ足を進めていく。

じいさんが乗ると、魔法陣の輝きが増し、転移の光が強くなる。

 

転移の瞬間――――――じいさんは笑みと共に右の拳を天高く上げた。

 

ヴァスコ・ストラーダ―――――教会の戦士達の父。

その男はあまりに大きな存在だった。

 

 

 

「へっくちょい!」

 

「おっさん、そろそろ上着ろよ。風邪ひくぞ? 俺はまだあんたを見送る気はないからね?」

 

「バカ野郎、俺もまだまだ見送られる気はねぇよ」

 

 



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25話 ゼノヴィアの想い、そして――――  

デュランダル編最終話!


『えー、僕が生徒会の副会長に立候補した理由は―――――』

 

マイクを通してスピーチをするのは匙だ。

 

あの戦いから数日が経ち、駒王学園では生徒会選挙の本番たる立候補者達のスピーチが行われていた。

全校生徒が体育館に集められ、立候補者の最終スピーチを聞き、最後に投票していく。

 

今は匙の番なんだが、内容としては無難なものだった。

時折、野次も飛んで爆笑を生んだが、概ね好評だった。

 

『ということもあり、僕は支取前会長の方針を継承しつつも柔軟な対応で運営していきたいと思います。運動部の皆さん。特に男子! 僕に投票しても、言うことを聞いてくれないと困りますんで、当選したら三つのうち二つぐらいは聞いてください』

 

最後まで笑いをもたらして匙のスピーチは終わる。

こりゃ、副会長は決定かね?

 

そういや、今回の選挙とは全然関係ないけど、匙とソーナは進んでるのか?

少し前に俺とリアス、匙とソーナでダブルデートしたんだが…………。

あれ以降、二人がどこまで進んでいるのか知らないんだよね。

 

俺とリアス?

そりゃあ、イチャイチャしてますよ!

 

書記から始まり、副会長立候補者達のスピーチが終わると次はいよいよ生徒会長立候補者のスピーチだ。

 

まずは花戒さんの番で、彼女はマイクの前に立つと、静かに語りだした。

 

『私が生徒会長に立候補した理由は前会長である支取蒼那先輩の姿を間近で見ていて、前会長の意思を受け継ぎつつも新しい駒王学園を皆さんと作りたいと思ったからです』

 

花戒さんはソーナを見てきて感じたこと、思ったことを素直に話し、そこから見えてきたことをわかりやすく語ってくれた。

次代の生徒会の在り方、駒王学園の新しいビジョン。

彼女がどれだけ生徒会を、駒王学園を愛しているかが伝わってくるスピーチだ。

 

『以上が、私、花戒桃の掲げる新しい駒王学園生徒会の姿です。どうぞ、皆さん、よろしくお願いいたします』

 

花戒さんのスピーチが終わると、生徒たちから多くの拍手が起こった。

流石としか言いようがないな。

 

次はいよいよゼノヴィア。

しかも、本日最後の登壇者だ。

 

花戒さんの次で緊張する………なんてことはしないと思うけど。

 

こいつらと違って。

 

「ゼノヴィアちゃん、大丈夫だよな!」

 

「お、俺はゼノヴィアちゃんに投票するからな!」

 

松田、元浜………なんでおまえらが当人以上に緊張してるんだよ………。

 

俺が半目で悪友二人を見ていると、美羽が言ってきた。

 

「ゼノヴィアさんがこの手のもので緊張するとは思えないけど………大丈夫かな?」

 

「それはスピーチ内容?」

 

実は昨日、ゼノヴィアのスピーチの内容を見せてもらった。

アーシア、イリナ、桐生のフォローもあって綺麗にまとまっていて、内容も無難だった。

 

でも………。

 

「なんというか………ゼノヴィアさんらしさがなかったというか………」

 

美羽の言う通り、俺もなにか違和感というか、ゼノヴィアならもっと違う………あいつにしか言えないことがあると思うんだ。

 

まぁ、それを言ったところで変な内容になってしまっては元も子もないんだけどさ。

書き換える時間もなかったし。

 

ゼノヴィアはマイクの前に立ち、全校生徒を一望する。

懐からスピーチ用の用紙を取り出して、読もうとする。

 

しかし、ゼノヴィアは口を開きかけたところで、黙り込む。

そして、そのスピーチ用の用紙を再び懐に仕舞い込んだ。

 

『私はこの歳になるまで教会の施設で育った。そのため、この学園に通うまでは学生というものに無縁だった。これまで私は学校に通わず、教会で勉強をしてきた』

 

それは俺が見せてもらった内容とは全く異なるものだった。

ゼノヴィアのフォローに回っていた三人もその内容に互いの顔を見合わせている。

 

ゼノヴィアは続ける。

 

『私が生徒会長に立候補したのは、この学園での生活が楽しかったからだ。生まれて初めて通った学校は一度たりともつまらないなんて感じたことはなかった。授業もクラスメイトとの雑談も、体育祭や文化祭などの行事も、修学旅行も、そしてオカルト研究部での部活も。全てが新鮮で心から楽しいと思えた。私は…………この学校が好きなんだと思う。こんなに楽しいと思える場所があっていいのか、そんなことすら思ってしまう。私はこんな自分を助けてくれたこの学校の皆に感謝の気持ちを伝えたい。世間知らずだった私と仲良くしてくれて、本当にありがとう。私が生徒会長に立候補した理由は、この学校と、この学校の皆に恩返しをしたいからなんだと思う』

 

それは今まで選挙活動で掲げてきた目標とはまるで違う。

とてもスピーチなんてものではなく、ゼノヴィアのこの学校に対する感想だ。

 

それでも、この場にいる生徒達はゼノヴィアの言葉に耳を傾けてくれていた。

 

『私はこの駒王学園に何かを残したいんだ。とても貴重なことを教えてくれた、伝えてくれたこの学校に。それが生徒会長になって、この学校のため、この学校に通う皆のために尽力することだと、そう行き着いたんだ。単純な考えだと思われるかもしれないし、私自身、至らない部分も多いと思う。私が生徒会長になっても支取前会長とは違った生徒会長になるだろう。…………でも』

 

ゼノヴィアはもう一度、全校生徒に視線を送る。

生徒の一人一人と視線を交わす。

 

俺とも目があった。

彼女の瞳には熱が籠っていて、

 

『私はこの学園のために力を尽くしたい。文句があれば遠慮なく言ってくれ。不満を漏らしてくれ。私は全力で応えてみせる! この学校に通う皆を守ってみせる! 私はこの一年間、皆には私が学校に通えなかった十年分の楽しさを教えてもらった。だからこそ、残りの一年間、全力でこの学校を守りたい! 生徒の皆を守りたい! 誰からも愛される駒王学園にしたい!』

 

心の底から訴えるゼノヴィア。

この一年間で感じたことを全て打ち明け、生徒にその想いを伝えた。

 

最後にゼノヴィアは今までのどの時よりも素敵な笑顔となる。

 

『皆、楽しい駒王学園にしよう。いや、私がしようと思う。だから、こんな私をどうかよろしくお願いします』

 

頭を下げるゼノヴィア。

 

その時、特大の声援と拍手がこの体育館を覆った。

 

「ゼノヴィアちゃーん! 最高だぁぁぁぁ!」

 

「カッコいいです! ゼノヴィアせんぱーい!」

 

「頼りにしてるぜ、ゼノヴィアさーん!」

 

生徒のほとんどが立ち上がり、ゼノヴィアに声援を送る。

 

…………ゼノヴィアの想いはしっかり伝わったみたいだ。

ゼノヴィアの生徒達と学園への愛はしっかりと。

 

 

 

 

 

スピーチが終わり、投票がすんだ俺は体育館を出ようとした。

すると、その途中に見知った人影を見かけた。

 

「あ、グリゼルダさん。来てたんですね」

 

そう、その人物とはグリゼルダさんだった。

彼女はハンカチで目元を拭っていた。

 

どうやら、ゼノヴィアのスピーチを聞いていたらしい。

 

「あの子の演説で泣いてしまうなんて…………私も涙もろくなったものです」

 

グリゼルダさんは涙を拭いながら続ける。

 

「無愛想で、誰彼構わず突っ込んでいたあの『斬り姫』があんな眩しい笑顔を見せるなんて…………本当にあの子は変わりました」

 

「いいスピーチでしたよ」

 

「はい。自慢の『妹』ですから」

 

グリゼルダさんはどこか誇らしげだった。

 

 

 

後日、生徒会選挙の結果が発表された。

 

新生徒会長は――――――ゼノヴィアとなった。

 

 

 

 

 

 

ゼノヴィアの当選が発表されたその日。

俺達オカルト研究部員はアザゼル先生の研究ラボに集っていた。

 

ラボの奥に行くと俺達は治療室の前にたどり着く。

 

ガラス越しに確認できたのは無数の機器類に繋がれている女性。

ギャスパーの幼馴染み、ヴァレリーだ。

 

クリフォトに奪われた聖杯がまだ戻っていないため、彼女の意識は目覚めないまま。

あの機器類の一部には彼女の体を保たせる役割も有るようだ。

 

その治療室に入るのはアザゼル先生と―――――ギャスパー。

 

ギャスパーは二日に一回はここを訪れて、眠ったままの彼女に日々の出来事を語りかけていたという。

いつか彼女にも自分が体験したことをさせてあげたい、それがギャスパーの目標でもある。

 

アザゼル先生は手に持っていたアタッシュケースを台の上で開く。

中から取りだしたのは一つのペンダントだった。

 

そのペンダント、実は先日ヴァスコ・ストラーダから譲り受けた本物の聖杯の欠片を中心に作られたもの。

そして、これはヴァレリーの意識を目覚めさせるためのものだそうだ。

 

まさか、あの欠片でそんなことが可能だったとは…………。

話を聞かされた時は驚いたもんだ。

 

先生はペンダントを持って、眠っているヴァレリーの横に立つ。

 

室内の会話はスピーカーを通して俺達にも聞こえてくるようになっていて、ギャスパーの声が聞こえてきた。

 

『これで…………ヴァレリーが?』

 

『ああ、このペンダントはこの娘の足りない聖杯の代わりになる。これを首にかければおそらく―――――』

 

静かに首にペンダントをかける先生。

全員が息を飲んだ。

静寂の中、その光景を見守っていると――――――。

 

『…………うーん…………ぁ…………あれ?』

 

ヴァレリーの両目がゆっくりと開き、そう声を漏らした!

おおっ、本当に意識が戻ったんだ!

 

その光景に治療室の外にいる俺達は喜びの声をあげた。

 

ギャスパーはというと、涙で顔をくしゃくしゃにしながらも、精一杯の笑みでヴァレリーを迎えていた。

 

『…………ヴァレリー、わかる? 僕だよ?』

 

『…………ええ、分かるわ。おはよう、ギャスパー』

 

ぼけっとした口調。

それは吸血鬼の国で会った時のヴァレリー。

だけど、瞳は虚ろなものではなく、目の前のギャスパーをしっかりと捉えていた。

 

『ヴァレリー…………ヴァレリィィィィィィ!』

 

想いを堪えきれなかったギャスパーはヴァレリーの胸元で泣いた。

 

胸で泣くギャスパーをヴァレリーは優しく撫でる。

 

『うふふ、ギャスパーったら、どうしたの? また泣いてるの? 泣き虫さんは変わらずよね』

 

これで、ようやくヴァレリーと話せるようになったなギャスパー。

ようやく…………ようやくだ。

 

吸血鬼の国の一件からさほど時から数が月。

さほど長い時ではないが、彼女が眠っている時間はあまりにも長く感じられた。

 

それがようやく終わったんだ。

 

ギャスパーとヴァレリーはまた普通に話せる。

あいつがそれをどれほど待ち望んだことか。

 

先生が安堵の息を吐いた。

 

『けっこう賭けだったんだがな。応急処置にしちゃ、上手くいった方だろう。いいか、ギャスパー。これだけは気を付けろ。まず、そのペンダントは常につけておけ。外せばどうなるか、俺も保証はできんからな。それと、奪われた聖杯を取り戻すまでは外に出すな。このあと、兵藤家とおまえと木場が暮らすマンションを含めた一帯に特例の結界を張る。その中では現状を維持できるだろう』

 

なるほど、だから応急処置なのか。

 

本当に彼女が自由になるためには奪われた聖杯を奪還しなければならないと。

 

…………ストラーダのじいさんはこの事まで見越して、聖杯の欠片を持ってきていたのか?

 

すると、俺の疑問に答えるように先生が言った。

 

『これはな、保険なんだよ』

 

「保険?」 

 

『そうだ。奪われた聖杯を奪取出来ない場合、最悪、破壊するという選択肢も生まれるだろう。奴らに悪用されるくらいならってな。だが、リゼヴィムのことだ。ヴァレリーの聖杯を盾にしてくることだってあるはずだ。ストラーダはな、その辺りも見越して聖杯の欠片を俺達に託してくれたのさ』

 

その言葉を聞いて、リアスが頷く。

 

「教会上層部が聖杯の欠片を提供したのは、ヴァレリーの聖杯を盾にされるという場面に直面したとき、こちらの躊躇いを薄れさせるためってことね」

 

『その通り。「D×D」構成員の決心を鈍らせるのに比べたら、聖遺物の一片くらい安いものだとストラーダ達は判断したのさ』

 

まぁ、それで俺達がクリフォトを止められず、世界崩壊…………なんて事態になったら聖杯どころじゃないしね。

 

そう考えた結果ということか。

 

だが、これは大きい。

とりあえずとは言え、ヴァレリーはこうして意思を取り戻した。

仮に奪われた聖杯を破壊する事態になっても、今後の研究次第ではヴァレリーも自由に外を出歩けるようになるかもしれない。

 

『聖杯の欠片も「聖剣計画」の生き残りも教会内部の機密事項だ。タダでくれてやるわけにもいかないだろうさ。そこで、教会の内乱を利用しての譲渡を計った。食えない奴さ、ストラーダは』

 

呆れるような口調だったが、どこか感服しているような先生。

 

ま、確かに感服するしかないよな。

アーシアのことも木場のことも、そしてヴァレリーのことも一気に解決することになったんだし。

 

とうのストラーダのじいさんは尋問の末、エヴァルド・クリスタルディと共に投獄された。

本人達は一切の言い訳をせず、裁きに身を任せるとのことだが…………。

彼らの首をはねるような馬鹿な真似は上層部もしないだろう。

それこそ、また内乱が起きる。

 

ふと先生が木場に問う。

 

『で、木場よ。再会した同志とはどうなんだ?』

 

「え、えーと、とりあえずこの数年間の間の出来事と駒王町のことを話して、皆に紹介しました。分からないことだらけだと思うので、これから色々教えていくつもりです」

 

再会した同志―――――トスカさんは木場の住むマンションと兵藤家を行き来して、色々と学び始めている。

教会の施設から出たことがない彼女はカルチャーショックも多く、その点は同じ経験をしてきた教会トリオがフォローしてくれている。

 

木場の表情は憑き物が取れたように温和な表情となっている。

今回の一件で色々と吹っ切れたようだ。

特にトスカさんとの再会は大きかったようで、生涯、彼女を守ることを決意していた。

 

そんな木場に俺はちょっとほっとしている。

 

これで…………ホモホモしい言動が無くなる!

というのは冗談…………いや、三分の一くらい本気か。

 

ま、まぁ、でも、守りたい存在が出来るってのは良いことだ。

それは俺がよーく知ってるからな。

 

あ、そうだ。

うちの剣士組に伝えておかないと。

 

俺は木場とゼノヴィア、イリナに視線を配る。

 

「木場とゼノヴィア、それからイリナ。あとシトリー眷属なんだけど…………モーリスのおっさんがしごいてやるってさ」

 

「「「…………え?」」」

 

「おっさん、暫くはこっちの世界に留まるから、その間はおまえら剣士組を相手することにしたらしいんだわ。暇だから」

 

「そこなのかい!?」

 

「うん。だから、まぁ…………頑張れ?」

 

剣士組の悲鳴がラボに響き渡った。

 

 

 

 

その日の夜。

 

先生のラボから出た後、ゼノヴィアの当選祝いと応急処置とはいえ、ヴァレリーの意識が戻ったことを祝ってパーティが行われた。

兵藤家にオカ研メンバーとアザゼル先生、それからモーリスのおっさんとリーシャが集まり、我が家はかなり賑わった。

よく俺の視界に入ってきたのは木場とトスカさん、そしてギャスパーとヴァレリーのペアだ。

 

木場もギャスパーも彼女たちをよくエスコートしていたと思う。

特にギャスパーがヴァレリーを楽しませようと頑張る姿は微笑ましいものがあった。

 

今はパーティも終わり、就寝前ともあって兵藤家は静かでゆったりした時が流れている。

 

皆が各自部屋でくつろぐ中、俺はガレージにいた。

というのも、今からプチドライブしたくなったからだ。

 

今回の一件で色々なことが解決し、喜ばしいことが続いた。

俺の心の中は晴れやかなもになっている………はずなんだ。

 

だけど、俺の中にはモヤモヤしたものがあった。

その原因は分かっている。

 

それは俺が冥府から引き上げる時、アセムが言ってきたことが原因。

 

 

―――――――君は変革しつつある。それは人間でも悪魔でもドラゴンでもなく、そして神でもない。君は全く違う存在に変わろうとしている。僕の予測が正しければその力はこの世界を………。

 

 

「変革、ね………」

 

俺はガレージの外、夜空を見上げてそう呟いた。

 

人間でも、悪魔でもドラゴンでもない。

そして神でもない、か。

 

それがいったい何なのかは全く予想できない。

………心当たりはある。

だが、それがどういう形で俺を変えていくのか。

 

あいつは俺との戦いの中で何かを感じ取ったというのかね?

 

そんなモヤモヤした気持ちを吹っ切るためにも、スレイプニルに乗って風を浴びよう。

夜も深いし、人は少ないだろう。

適当にそのあたりをぐるっと走ってくるかな。

 

すると、一つの影がガレージに現れた。

 

「お、ゼノヴィア」

 

「やぁ、イッセー。こんな夜更けに出かけるのかい?」

 

「ただのドライブだよ。たまには走らせておかないとな」

 

そう言って俺はスレイプニルのボディを撫でた。

 

俺はゼノヴィアに訊く。

 

「ゼノヴィアはどうしてここに?」

 

「さっきイッセーが外に出ていくのを見かけてね。それで付いてきたんだ」

 

「そっか」

 

俺はそう言うと改めてゼノヴィアを見た。

 

何かを期待しているような表情。

ジャケットにジーパンという格好。

 

俺は苦笑すると、ゼノヴィアにヘルメットを渡す。

 

「………いいのかい?」

 

「良いも何もそのつもりだったんだろう? 乗せてやるよ。当選祝いと言っては何だけどな、どこでも好きなところに連れって行ってやる」

 

俺がそういうとゼノヴィアは頬をほんのり染めて、嬉しそうに笑んだ。

 

俺はスレイプニルに跨るとエンジンをかける。

そして、俺の後ろにゼノヴィアが座った。

 

ゼノヴィアは俺の腰に手を回してぎゅっと力を籠める。

 

「じゃあ、イッセー。この町を私に見せてくれ」

 

「了解。しっかり掴まってろよ、ゼノヴィア」

 

俺達は互いに微笑みを交わす。

 

俺とゼノヴィアは二人で夜のドライブに繰り出した――――――。

 




というわけでデュランダル編はこれにて完結!
次回は番外編かな?
そろそろ特別編にも番外編を投稿しようかなーなんて考えてます。


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番外編 剣聖の手ほどき  

早朝。

この時間帯は朝の修業時間なので体内時計で起きることが出来る。

いつもなら、美羽の寝顔に癒されながらも体を起こし、ランニングへと向かうのだが…………。

 

この日はいつもと違っていた。

 

それは――――――。

 

「あ、起きた! イッセー、おっはよー!」

 

「おはようございます、イッセーさん」

 

腹の上にロリっ娘が二人いた。

活発そうな赤髪の女の子と大人しそうな水色の髪色の女の子。

歳でいえば、小学二年生くらいだろうか。

そんな二人が腹に跨がり、朝の挨拶をくれた。

 

「え、えーと…………おはよう、サリィ、フィーナ。…………何してるの?」

 

そうこの二人はリーシャと契約している妖精の二人組だ。

二人は自身の魔力で体を大きく出来るらしく、手のりサイズから小学低学年くらいまでなら姿を変えられるとか。

この二人はこう見えて神霊に仕えていたそうだから、こういうことが出来ても不思議じゃない。

 

そのため、二人が大きくなっていても特に驚くことではない。

 

俺が疑問に思うとすれば、そう…………。

 

「なにしてんの?」

 

「イッセーのお腹に乗ってる」

 

見りゃわかるよ!

そうじゃなくてね!

 

フィーナが苦笑しながら言う。

 

「えっとですね、この時間に起きられると聞きましたので、起こしにきたと言うか…………。そしたら、サリィが…………」

 

「あーそーんーでー!」

 

そう言ってサリィが抱きついてくる。

パジャマを引っ張り、髪の毛をいじくり回してきやがった。

 

…………子供か!

いや、見た目子供だけど!

別に違和感ないけど!

 

仮にも神霊に仕えてたんでしょ!?

 

つーか、この時間から遊ぶの!?

まだ五時前だよ!?

元気良すぎるだろう!?

 

そんな感じで早朝ツッコミを入れていると、隣で寝ていた美羽がまだ眠たそうな眼を擦りながら起きてきた。

 

「ん~………ふぁぁぁ…………。んん………お兄ちゃん…………おはよ?」

 

胸元のボタンが外れているため、あくびと共にポヨンと弾むおっぱい。

しかも、ノーブラのため生だ。

さきっちょなんて見えそうで見えなさそうで…………ギリギリ見えてる。

綺麗なピンク色がはだけたパジャマの間から覗かせていた。

 

…………朝から眼福です!

ありがとうございます!

あぁ…………美羽のおっぱいも相変わらず大きいなぁ!

お兄ちゃんは嬉しいよ!

 

瞼を擦る美羽と俺の腹の上に乗っているサリィ&フィーナの目があった。

 

そして――――――。

 

「お兄ちゃんがロリッ娘属性に………? というか、朝這い!?」

 

「なんで前、外れてるの!? あ、もしかしてセッ――――」

 

「サリィ! 朝からそんなこと言っちゃダメです!」

 

早朝からちょっとした騒ぎが起きた。

 

ちなみにだが、美羽のボタンが外れていたのは…………俺が寝ぼけて外したみたいです。

 

 

 

 

そんなこともあり、早朝から精神を磨り減らした俺。

今は朝の修業を終えて、朝食タイムだ。

 

先日の教会のクーデター組との一件を終えてから、こうして食卓を囲むメンバーが増えた。

 

それはもちろん、俺がアスト・アーデから連れてきたメンバー、モーリスのおっさんとリーシャ、そしてサリィとフィーナの四名。

 

初め、モーリスのおっさんは家に住むとなった時、遠慮していたんだ。

というのも、

 

『ここはおまえのハーレムみたいなもんだろ? 若いもんの中におっさんが住むってどーよ?』

 

と、俺達に気を使って、別の住みかを探そうとしていたんだ。

 

ま、まぁ、俺以外は全員女の子(両親は除く)、美女美少女達と一つ屋根の下ってところにおっさんが入り込む…………。

そう考えると何とも言えないものがある。

 

だけど、おっさんは俺の恩人だし師匠の一人だ。

そんな理由で追い出したりは流石にしない。

 

ただ一つ、俺が殺意を持ってしまったとすれば―――――。

 

『俺もハーレムに組み込まれるのか…………』

 

と、冗談でもそんなことを言ってきた時にはマジで殴ってやろうかと思った。

あと、吐き気がしてきたので、トイレに駆け込んだね。

 

それから、おっさんが家に住むことになった理由としては父さんと母さんの希望によるところが大きい。

俺が世話になった人にお礼をしたいというところと、向こうでの俺の話をおっさんの視点で聞きたいそうだ。

 

最近では、父さんと母さん、それからモーリスのおっさんの三人で酒を酌み交わすことが多くなった。

 

父さんがおっさんに言う。

 

「いやー、昨日は楽しかった。まさか、イッセーがあんなことをしているとは」

 

あんなこと!?

それはどんなことだよ!?

 

「まぁな。ま、こいつもそれなりに頑張ってたってことだな」

 

おっさんもニヤリと笑むが…………何を話した!?

 

その隣ではリーシャがニコニコ顔で味噌汁を啜っていた。

 

「うふふ。あのアリスが、あんな風に大胆になるなんて思ってもみませんでした。成長しましたね」

 

リーシャが言う『大胆』というのは、昨日、風呂場でアリスが俺の背中を流していたことだ。

 

最近では普通の光景になってきたけど、よくよく考えれば昔のアリスではあり得なかった。

…………確かに大胆になったよなぁ。

 

それで、俺もアリスに関して一つ驚いたことがある。

それはだな…………。

 

リーシャが微笑みながら言う。

 

「まぁ、あの日記にはイッセーへの気持ちをこれでもかと綴ってましたから。成就してくれたのは姉としては何よりです」

 

「イヤァァァァァァァ! それ言っちゃダメェェェェェェ!」

 

「『イッセーと添い寝しちゃった! ドキドキが止まらない!』って書いてたけど、今はどうなの?」

 

「やめてぇぇぇぇぇぇぇ! そんな暴露しないでぇぇぇぇぇぇぇ! 死ぬ! 心が死んじゃうぅぅぅぅぅ!」

 

微笑むリーシャと絶叫するアリス。

首をブンブン振りながらリーシャの口を塞ぎにかかってる。

 

日記…………旅の途中で書いていたのは知ってたけど、まさかあんな内容だったとは。

リーシャ曰く、

 

『ほとんどイッセーの観察日記でした』

 

とのこと。

 

その…………俺をそういう風に見てくれていたのは正直嬉しいが、少し恥ずかしい思いもあるかな。

手を繋いだとか、俺に背負われたとか、日常の何気ないところまで書き込んでいたようで…………。

 

「はぅぅぅ…………」

 

くっ…………!

恥ずかしがってるアリスが可愛すぎる!

俺を悶死させる気だな!

 

「なんつーか、少し見ない間にこいつも変わったな…………。ニーナが見たらどんな反応するやら」

 

モーリスのおっさんが沢庵をポリポリさせながら半目で呟く。

 

ニーナが今のアリスを見たらどんな反応するか。

多分…………いじりに来るな。

姉のこの変わりよう、妹としてはいじらずにはいられないだろう。

 

と、ここでモーリスのおっさんが皆を見渡しながら言った。

 

「そうだ。後で修業つけてやるよ。祐斗も呼んどけよ?」

 

その発言にオカ研メンバーの顔が青ざめていくのだった。

 

 

 

 

「よーし、集まったな」

 

帯剣したモーリスのおっさんが俺達を見渡す。

 

ここはグレモリー地下の修業用の空間。

そこにジャージ姿のオカ研メンバーと生徒会メンバーが集合していた。

本当なら他の『D×D』メンバーも呼ぶつもりだったんだけど、今日は都合が悪いらしく、ここにはいない。

我らがリーダー、デュリオに関してはまた一人で食べ歩きに出掛けただけだけどね。

 

おっさんが言う。

 

「先日の戦闘を見させてもらった。全員中々の動きだった。おまえらの歳を考えると十分過ぎる実力だろう。………だが、相手はおまえらの成長を待ってはくれん」

 

クリフォト―――――ヴァルブルガか率いてきた邪龍軍団の中には俺の複製体や新型の邪龍もいたという。

あの場にいたメンバーだけでも対処は出来ただろうが…………犠牲が出たかもしれない、というがあの場にいたリアス達の感想だった。

 

クリフォトの連中も奪った聖杯や複製した赤龍帝を使って力を着けてきている。

今後の戦闘は益々激しいものになっていくだろう。

 

「そこでだ。今日からおまえらをみっちり鍛えることにした。短期間で力をつけるのは難しいが、おまえらの足りないところを俺が見てやる。というわけで、祐斗、ゼノヴィア。それから、イリナ。まずはおまえらからだ」

 

おっさんの視線はまず、木場とゼノヴィア、イリナの三人に向けられた。

 

向こうの世界に行ったとき、木場とゼノヴィアがおっさんに相手をしてもらっているところは見たことがある。

それに俺が師匠のところへ行っている間、イリナもおっさんに相手をしてもらっていたそうだ。

 

今回、おっさんが三人を指名したのはその関係もあるのだろう。

 

「はい」

 

「ああ。よろしく頼む」

 

「前は全然歯が立たなかったけど…………今回はそうはいかないわ!」

 

三人はおっさんの前に立つとそれぞれ、獲物を握る。

木場は第二階層へと至り、手には日本刀の形状をした聖魔剣。

ゼノヴィアはデュランダルとエクスカリバーの二刀流、イリナはオートクレール。

先の戦いを経て、三人は足りないところを見つけ、更に成長した。

 

向こうの世界に行ったときと比べると実力はかなり上がっているだろう。

 

シトリーの『騎士』巡さんが訊いてくる。

 

「…………この三人を一度に相手するの? 兵藤くん、これは流石に無茶なんじゃ…………」

 

そういや、匙以外のシトリー眷属はおっさんの戦いを直接見たんじゃないんだっけか。

 

オカ研メンバーの剣士組の実力は彼女達も十分知っている。

正直、上級悪魔とだって余裕でやりあえるレベルだ。

特に木場に関しては騎士王を使えば更に上のレベルに手が届くだろう。

 

でも…………。

 

「いや…………あれでも足りないかな」

 

俺は苦笑しながらそう返した。

 

そうこうしている間におっさん対オカ研剣士三人組の戦いが始まる。

 

まず飛び出したのは木場。

思わず見入ってしまうほど綺麗な刀身の聖魔剣を握り、『騎士』のスピードでおっさんへと迫る。

真正面から撃ち合っては勝てないと踏んだのか、ジグザグに駆け、おっさんを翻弄しようとする。

 

剣が届く距離まで詰めた木場はおっさんの手前で残像を生み出した。

姿を消し、次に現れたのはおっさんの左手側。

 

「はぁっ!」

 

気合いと共に一閃する――――――。

 

が、いつの間にか抜刀されていたおっさんの剣がそれを阻む!

 

「っ!」

 

驚く木場。

抜刀の瞬間が見えなかったこともそうだろうが、今のスピードを容易に見切られたことに驚きを隠せないみたいだ。

 

剣を受け止めながら、おっさんは笑む。

 

「確かに前よりは速くなった。…………が、いくら速くなろうが今のままじゃ、どこから来るのか丸分かりだぞ」

 

そう告げると、おっさんの右手が動いた。

 

右手の剣はちょうど斬りかかっていたゼノヴィアの剣を上へと弾いた。

 

今のはデュランダルとエクスカリバーに濃密な聖なるオーラを纏わせ、破壊力を上げた状態で繰り出された剣戟だった。

それを意図も簡単に弾き返しやがったんだ。

 

ゼノヴィアは目を見開くが、不敵に笑んだ。

 

ゼノヴィアの背後から――――――オートクレールを構えたイリナが突貫をしかけていた!

天使の翼を羽ばたかせ、オートクレールに聖なるオーラを纏わせる。

あれに斬られたら戦意を失ってしまうそうだ。

 

エヴァルド・クリスタルディはギリギリ耐えたそうだが、それでもオートクレールの浄化の力に戦意を持っていかれそうになっていたとのこと。

 

いかにおっさんと言えども、オートクレールに斬られれば剣を降ろしてしまうだろう。

 

―――――斬られればの話だが。

 

「そいつも丸分かりだな」

 

おっさんは右手の剣を構えると鋭い突きを繰り出した。

おっさんの握る剣の切っ先がオートクレールの切っ先を捉える。

そして――――――イリナのオートクレールが弾き飛ばされた。

 

オートクレールがくるくると回転しながら、宙を舞い、離れた場所に突き刺さった。

 

「ウソッ!?」

 

「イリナ、気配がだだ漏れだ。そんなことじゃ、ゼノヴィアの後ろに隠れていても意味はねぇ。そんでもって――――」

 

おっさんがイリナに話している隙に木場とゼノヴィアが同時に剣戟を繰り出していく。

高速かつ破壊力の籠った剣が、あらゆる包囲からおっさんを襲う。

 

だが、そらは全て弾かれてしまう。

ただの二振りの剣によって。

 

「速い。高速で動くのは相手を翻弄する一つの手だろう。だがな、相手を翻弄するのにあちこち動き回る必要はないぜ?」

 

刹那、おっさんの体がぶれた。

 

ゼノヴィアが勢いに任せて斬る…………が、彼女の剣は虚しく空を斬った。

 

「なに…………っ!」

 

目を見開くゼノヴィア。

 

「ほれ、こっちだぜ」

 

そう言うおっさんが立つのはゼノヴィアの右手側だ。

 

端から見れば今のはただおっさんが横に動いただけ。

単純な動きだ。

 

しかし、そんな単純な動きをゼノヴィアは見失った。

 

「翻弄なんてのはな、最小限の足捌きでできるもんさ。肝心なのは相手の認識をずらすことにある。ま、幻術とか使えたら楽なんだけどよ」

 

そこへ、オートクレールを再び握ったイリナが上段からの一撃を放つ!

木場もそれに合わせておっさんの動きを止めようとする。

 

おっさんが言う。

 

「祐斗、受け身取れよ?」

 

「なっ―――――」

 

おっさんは剣を地面に突き刺すと、木場の間合い、その内側へと入り込んだ。

木場の手首を掴み、動きを封じ、そのまま足を払う。

 

バランスを崩した木場の体は宙で一回転。

地面に叩きつけられた。

 

「カハッ」

 

木場の口から空気が漏れる。

 

大したダメージは受けていないだろう。

その証拠に木場はすぐに立ち上がり、おっさんと距離を取った。

だけど、戸惑いは隠せていない。

 

おっさんは魔法の類が使えない。

最低限の魔法………転移や通信といったものなら使えるが、それ以外は全く使えないそうだ。

保有している魔力量が低い上、魔法に対する適正がないかららしい。

 

だから、おっさんは魔力、魔法に頼らずに勝てるように自らを鍛え上げた。

それが剣術、そして――――――体術だ。

 

「剣士ってのはただ剣を鍛えれば良いってもんじゃない。状況に合わせて動ける力が必要だ。得物が無かったら戦えない………ってのは論外だ。おまえらはもうちょい体術の方も鍛えた方がいいな。それと………」

 

おっさんの視線がイリナを捉えると、剣を引き抜いた。

 

次の瞬間、イリナが剣を上に構えて防御の構えを取る。

上からの攻撃を防ぐためだ。

 

だが―――――おっさんの剣はイリナの脇腹に触れていた。

イリナを横に斬り裂く、その直前で刃は止められていたんだ。

 

イリナが戸惑いの声を漏らす。

 

「どうして………!? 確かに上から来ていたのに………!」

 

その問いにおっさんはニヤリと笑んで答えた。

 

「おまえさんに見えていたのは俺の殺気が見せた幻覚みたいなもんだ。本物は上段からではなく、この横凪の一撃。ここで止めてなかったら今頃真っ二つだぞ?」

 

殺気のコントロール。

おっさんは殺気を操って、相手の認識を狂わせることができる。

 

今のように本当は横凪に剣を振るっているのに、相手は上からの一撃と誤認してしまう。

ほんの僅かに見せる殺気による幻覚。

これがどれだけ厄介なことか………。

 

おっさんは剣を収めると俺達を見渡して言う。

 

「いいか? あのストラーダのじいさんが言った通り、おまえらは神器の力に、剣の力に頼りすぎているところがある。頼るなとは言わん。神器や剣、使う獲物は言わば相棒だ。俺で言えばこいつらだな」

 

納刀した二振りの剣に視線を移した。

 

あの二振りは亡くなった親父さんから受け継いだ剣ではあるが、デュランダルやオートクレールのような聖剣でもなければグラムのような魔剣でもない。

良く斬れること以外は普通の剣だ。

 

それでも、今のように聖魔剣、デュランダル、エクスカリバー、オートクレールといった伝説に名を残す剣を相手にしても互角以上に渡り合った。

 

「武器は己の相棒だ。相棒は頼ってもいい。だが、頼りすぎれば相棒ばかりに負荷をかけることになる。そして、相棒ばかりに頼っているようじゃ、更なる高みは目指せん。つまりだ、相棒の力を引き出せるようにしつつも、己自身の力を高めていけ。そうすれば、おまえらはまだまだ強くなるぜ」

 

相棒の力を引き出せるようにしつつ、己自身の力も高める………。

 

おっさんが言うと説得力があるな。

剣本来が持つ力を遥かに超える力を振るってるもんな。

 

先日の戦いの記録映像を見せてもらったが、あのストラーダのじいさんとエヴァルド・クリスタルディも凄まじかった。

デュランダルのレプリカとエクスカリバーのレプリカ。

レプリカの力は本物の五分の一にも満たないと聞いているが、彼らは性能以上の力を引き出していた。

俺も彼らの動きに色々と学ぶべきところがあった。

 

おっさんの言葉に剣を交えた三人以外のメンバーも思うところがあるようで、頷き、考え込んでいた。

 

モーリスのおっさんは俺達の表情に笑む。

 

「ま、出来る限りの範囲でそれを教えてやるよ。いずれはおまえらも――――――」

 

収めた剣の一振りを引き抜く。

すると、刀身が濃密な剣気に包まれて―――――――黒く染まった。

 

おっさんが軽く剣を振るう。

 

その瞬間、このフィールドの地面が真っ二つに裂けた。

 

おっさんの立っている地点からフィールドの端まで。

断面は鋭利な刃物で斬られたように綺麗で、地中深くまで続いている。

 

おっさんは爽やかな笑顔で、

 

「これくらいは出来るようになるぜ」

 

「「「「それは無理ッ!!」」」」

 

 

 

 

 

 

おっさんによる修業が終わった後。

 

修業用のフィールドに横たわる複数の屍達(グレモリー眷属とシトリー眷属の近接戦メンバー)

おっさんのしごきを受けたメンバーは全員が汗だくになり、フラフラになっていた。

 

当のおっさんはというと、

 

「はっはっはっ。やっぱり若い奴らは元気があって良いな!」

 

と、ものすごく爽やかな笑顔を浮かべていた。

 

いやいや、その若者よりも元気そうじゃん!

おっさんの相手をした若者の方が死にかけてるんですが!?

 

木場なんて自慢の足がプルプル震えてるからね!?

 

「あぁ、トスカ………。僕はもうダメみたいだ………」

 

「おい、木場!? しっかりしろ! トスカさんを一人置いて逝く気か!?」

 

「………川の向こうに………同志たちが見えるよ………あ、あははは」

 

「木場ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

木場が壊れたよ!

渡るなよ!?

その川、絶対に渡るなよ!?

 

修業はおっさん一人対グレモリーとシトリーの近接戦メンバーの全員(俺とアリスは除く)で行われたんだが、誰の攻撃も掠らず、超絶的な足捌きに翻弄されまくっていた。

たまに飛んでくるおっさんの斬撃(手加減)に冷や汗を流し、攻撃すれば手足を掴まれて投げられる。

この繰り返し。

 

ボロボロになった匙が言う。

 

「こ、ここのところ、とんでもないジジイばかり相手にしているような気がする………」

 

龍王の鎧を纏った匙の攻撃も一蹴されてたな。

ラインは全て斬られるし、邪炎を放っても剣圧(手加減)で相殺されてたな。

鎧もスパスパ斬られてたし。

 

見学していたウィザード組はもう何と言ったらいいか分からないという表情だ。

 

リアスが呟く。

 

「何と言うか………滅茶苦茶ね」

 

「これが異世界の剣士、イッセーくんの師の力ですか………」

 

ソーナも眼鏡を直しながら、汗だくで倒れている眷属たちに視線をやる。

 

ふいにソーナが訊いてくる。

 

「イッセーくん、一ついいかしら?」

 

「どうしたの?」

 

「彼は………モーリスさんを眷属にする予定はあるのか気になってしまいまして。そこのところを聞かせてもらえますか?」

 

その質問にこの場の全員の視線が俺に集まった。

見学していたメンバーも、屍のように倒れているメンバーも。

 

確かに俺が眷属にしたいと思っているメンバーの一人はモーリスのおっさんだ。

ただ、おっさんは騎士団のことがあるから、受けてくれるか微妙なところなんだよね。

 

試しに訊いてみるかね?

 

「おっさん、俺の眷属になってくれないかな? おっさんがいてくれると心強いなんてレベルじゃないんだけど」

 

「ん? ああ、良いぜ」

 

………二つ返事で頷いた。

 

あ、あれ………?

俺としてはもうちょっと悩んだりするかと思ったんだけど………。

断られることも考えてたし………これはかなり予想外だ。

 

「ま、マジ?」

 

「んだよ? 眷属にしたいんじゃないのか?」

 

「い、いや、騎士団の方は? おっさんが抜けても大丈夫なの?」

 

「あ~、それか。それなら問題ねぇよ。近く団長の座を後進に譲るつもりだったからな。いつまでも俺が居座ってたら、後の奴らが経験を積めんだろう?」

 

マジでか。

おっさん、引退するつもりだったのか。

 

「俺も最近は衰えて来たしなぁ」

 

「どこが!?」

 

バリバリ現役じゃん!

体力も力もチートじゃん!

むしろ全盛期だろうが!

 

「ま、そんなわけよ」

 

「ちなみに次の騎士団長は誰が?」

 

「アーデルハイドだ。あいつなら実力もあるし、頭も切れる。騎士としても一流だ。問題はないだろうよ」

 

アーデルハイド………アーデルハイド・シルヴァスさんか。

 

女性だけど槍の達人で、剣を握っても強い。

炎の魔法を得意としていて、その実力はモーリスのおっさんを除けば騎士団でもトップ。

騎士団長ともなれば、その役職上、政治的なことにも取り組む必要があるけどアーデルハイドさんって頭いいもんな。

 

おっさんが団長の座を譲るのも納得の人選だ。

 

おっさんは言う。

 

「手続きとかがまだだからな。今すぐ眷属になるのは無理だが、それが済んだらなってやるよ。そのためには一旦向こうに戻る必要があるな」

 

そうなると、俺もおっさんについていった方が良いか。

 

今後の予定にふむふむと頷く俺。

 

 

 

とりあえず――――――――。

 

 

 

「えーと、なんかOKらしいです」

 

固まる皆の表情。

 

そして――――――。

 

「「「「えええええええええええええええええええええええええっ!!!!!」」」」

 




モーリス、眷属入り決定!
さて、どの駒になるかな~。


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番外編 勧誘します!

先日、特別編にも番外編を投稿しましたー。
オーフィスとお出掛けしてます~。


グリゴリの研究施設は冥界だけでなく、日本の各所に展開されている。

もちろん日本神話勢力からは施設を設置する許可は得ており、代わりにグリゴリの技術を提供することになっているそうだ。

 

関東に新設されたという研究施設に俺は訪れていた。

 

専用の転移魔法陣で転移したその場所は人里離れた山の中で周囲には結界が張られてある。

そのお陰で一般人がここに辿り着くことはないらしい。

 

で、俺がグリゴリの研究施設を訪れた理由なんだが、簡単に言えば付き添いだ。

 

俺がいる部屋の隣にはガラス越しに白い空間が設置されている。

隅に機材が置かれている以外は何もない広い空間だ。

 

俺の目の前でアザゼル先生がマイクを通して語りかける。

 

「準備はいいか?」

 

その声は白い空間の中央に立つ人物へかたりかけたものだ。

 

その人物―――――リーシャが頷く。

 

『ええ、お願いします』

 

彼女の肩には二人の妖精、サリィとフィーナ。

そして、リーシャの両手にはそれぞれ魔装銃が握られていた。

 

いつも使っている物よりやや短めの魔装銃。

これはリーシャの新たな戦闘スタイルに合わせて先生が作り上げたものだ。

 

先生が機材を操作すると白い空間のあちこちにバレーボール大の光球が浮かび上がった。

その数は数百はあるだろう。

赤、青、緑、黄とカラフルな輝きが空間を照らしている。

 

それを確認すると、サリィとフィーナも動き出す。

 

魔法陣を展開し、そこから魔装銃と盾を六つずつ召喚する。

先日、冥府で使っていた空飛ぶ銃と空飛ぶ盾なんだが、これにもアザゼル先生が少し手を加えている。

 

今日、グリゴリの研究施設を訪れた理由はリーシャの装備、そのテストのためだ。

 

アザゼル先生が言う。

 

「始めるぞ」

 

そう言うと、空間に浮かび上がっていた光球が強く光を発する。

 

次の瞬間―――――光球から無数の光線がリーシャ目掛けて放たれた!

 

リーシャは宙返りで光線をかわしながら、握った二丁の魔装銃を構える!

 

『さぁ―――――いきますよ!』

 

引き金が引かれ、銃口からレーザーが放たれる!

二丁同時に放たれたレーザーは見事に光球を撃ち抜いた!

それも複数同時にだ!

 

撃ち抜かれた光球はブンッという音と共に消え去る。

 

残っている光球は上下左右と縦横無尽に高速で動きながら次々に光線を放っていく。

 

あまりの多さに避ける場所すら無くなりそうだ。

 

水色の盾が動き、リーシャへ迫っていた光線を防いでいく。

同時に空飛ぶ魔装銃は正確に動き続ける光球を撃ち抜いていった。

 

それを見て俺は呟く。

 

「反応が以前見たときよりも機敏だな…………」

 

アザゼル先生が言う。

 

「あのライフルビットとシールドビットはそれぞれあのチビ共が動かしている…………が、正確に動かすにはリーシャの持つ空間認識能力が必須。今回、俺はあいつらのリンクを高めてやったのさ」

 

「それであの動きを?」

 

「そうだ。リーシャの空間認識能力の高さは異常だよ。ま、それがあの超遠距離射撃を可能にしてるんだろうがな。とりあえず、あれらは異世界アスト・アーデの技術と俺が持つ人工神器の知識によってより高い制御が出来るようなったんだ。…………二つの世界の技術が混ざる。面白いと思わないか?」

 

うわー、先生ったら目がキラキラしてら。

こういう技術系の話になると、本当にワクワクが止まらないよね、この人。

 

 

―――――『赤瞳の狙撃手』

 

 

それがリーシャの二つ名だ。

 

遠距離射撃を得意としていて、百発百中の命中率を誇っている。

その秘密があの『眼』、そしてリーシャが持つ高い空間認識能力。

 

リーシャの後方支援には何度も助けられたっけ。

 

だけど、今のリーシャは少し違う。

本来なら後方からの攻撃を担当しているリーシャだが、今は完全に前衛から中衛の戦い方。

乱戦下での戦闘を想定した戦闘スタイルだ。

 

少し前なら狙撃銃一本で狙い打ちしていたが、現在は二丁スタイル。

更にはサリィとフィーナの助けもあって、ライフルビットとシールドビットという遠隔操作できる新装備を携えている。

 

狙い打ちから速打ち…………いや、乱れ撃ちかな?

 

ガラスの向こうでは連続で放たれたレーザーが幾つもの光球を捉え、消滅させている。

 

乱戦スタイルでも一発も外さないのは流石と言うべきか。

 

やがて、室内を埋め尽くしていた光球は全て撃ち抜かれ、完全に消滅した。

僅か二分足らずのことだった。

 

終了のブザーが鳴るとリーシャの瞳が赤色から元の青色へと戻る。

 

リーシャは銃を仕舞うと白い空間から出てきた。

 

俺はタオルを手渡す。

 

「お疲れ。はい、これ」

 

「ありがとうございます」

 

リーシャはお礼を言って、タオルで額を拭う。

 

うーむ、さっきからそうだったんだけど…………動き回っていたお陰でおっぱいが弾む弾む!

もうね、思わず目がそっちにいっちゃうんだよね!

向こうの世界でもリーシャのおっぱいには何度、目を奪われたことか!

 

サリィが俺を指差した。

 

「あー! イッセーがリーシャのおっぱい見てるー! ガン見してるー!」

 

「んんっ!? バレたか!」

 

「バレるも何もずっと見てるじゃん! エッチ! スケベ!」

 

からかうように言ってくるサリィ!

 

言い返せん!

だって、エッチでスケベだもの!

おっぱいドラゴンだもの!

 

リーシャが微笑む。

 

「うふふ。イッセーは相変わらず女性の胸が好きなんですね」

 

大好きです!

 

昔からリーシャってば、スケベなことに寛容だよね。

何かこう…………弟を見る姉の眼なんだよね。

 

アザゼル先生が言うリーシャ達に訊く。

 

「具合はどうよ? 見ている感じじゃ、悪くなかったが」

 

「もうバッチリです。速射性も連射性も前より上がっていましたから」

 

「はい。リーシャさんとのリンクも大分上がっていました。こちらでも操作しやすかったです」

 

リーシャに続き、フィーナがそう返す。

 

アザゼル先生がスクリーンに映像を映す。

そこには先程のリーシャの姿が映し出されていた。

 

「ライフルビットとシールドビットは俺が作った人工神器といくつか似たような点があったからな。調整はしやすかった」

 

「それはシトリーの、由良の人工神器ですかね?」

 

俺の問いに先生は頷く。

 

シトリーの『戦車』由良の人工神器『精霊と栄光の盾(トゥインクル・イージス)』は精霊と契約することでその能力を付与できるという特性を持っている。

 

ライフルビットはサリィの、シールドビットはフィーナの力を付与しているため、確かに似ているな。

先程の動きでも出力が上がっているように感じられたし。

 

リーシャが先生に言う。

 

「この感じで行けば、ビットの数を増やせそうですね」

 

「増やすのか? 今のままでも十分な気がするが…………」

 

「まだまだ余裕がありますからね。現在の保有している分の調整が完了した後、それぞれ十四基まで増やす予定でしたし」

 

「「十四!?」」

 

俺と先生の声が重なった!

 

それぞれ十四基って…………合わせたら二十八基じゃないか!

聞けば、シールドビットも防御だけでなく攻撃の手段としても使えるらしいし…………。

ライフルビット十四基にシールドビット十四基、手持ちに二丁の魔装銃。

 

え、えげつない数だな…………。

俺とドライグが力を合わせてもそこまでの数の遠隔操作武装は制御できないぞ?

 

ドライグが言ってくる。

 

『まぁ、フェザービットは一つに複数の能力を保有しているから、その分扱いが難しいのだが…………確かにその数は異常とも言える。話を聞いていれば、空間の認識事態はリーシャがやっていると言うではないか。恐るべき認識能力だ』

 

二天龍も驚きの空間認識能力を持つリーシャって…………。

おっさんもチートだけど、リーシャも大概なんだよなぁ。

 

「ここまできたら地獄の管理人―――――『乱れ突く者(サバーニャ)』とでも言うのかね」

 

先生が苦笑しながら、そう漏らした。

 

 

 

 

「うおー、スゲー!」

 

「こら、サリィ。走っちゃダメでしょ?」

 

目をキラキラさせながら廊下を走るサリィとそれを注意するフィーナ。

二人は今、幼女モードで研究施設の見学をしている。

 

「ここが神器を管理、計測する部屋となります」

 

グリゴリの研究員の一人がそう説明をくれる。

 

部屋の中では白衣を着た複数の男女と神器を発現している一人の男性がいた。

どうやらあの男性のデータを取っているようだ。

 

「「おおー」」

 

見たことのない機材の数々にサリィだけでなく、大人しいフィーナまで目を奪われているようだ。

 

なんというか、何から何まで子供の反応だよな。

見た目通りで。

 

まぁ、でも…………。

 

「凄いですね。これほどの機材…………! あぁ、私もあんなのが欲しい…………!」

 

なんか、リーシャも目を輝かせてるぅぅぅぅぅ!

ガラスにへばりついてキラキラオーラ出してるぅぅぅぅぅ!

 

欲しいの、あれが!?

仮にもらってもどこで使うんだよ!?

 

「銃のメンテに使います」

 

「うん、なるほど! って、心読んだね!?」

 

俺のツッコミが響く!

 

しかし…………。

 

「私もイッセーの考えてることわかったよ!」

 

「すいません、私も分かっちゃいました」

 

サリィとフィーナもかよ!

 

増えた!

俺の心を読むメンバーが増えてしまった!

 

そんなに分かりやすいですか!?

これって何補正!?

『イッセーの心読める補正』ですか!?

 

「そのままじゃん」

 

「うん、それは自分でも思った!」

 

と、とりあえず、異世界から来たこの三人はグリゴリの研究施設を楽しんでいるようだ。

 

そういや、モーリスのおっさんもこの世界の技術に驚いてたな。

 

 

――――――この世界の便座って温いのかよ!

 

 

それがこっち世界に来て、おっさんが一番興味を引かれたことだった…………。

 

確かに最近の便座は暖かいけど!

冬場も快適だけど!

もうちょっと違うことに驚いてほしかったよ!

 

ちなみにだが、新たにこの世界に来た四名は自動ドアを特に怖がる様子はなかった。

 

今だって…………、

 

「魔法使ってないのにドアが勝手に空く!」

 

「私達の世界には無い技術ですね!」

 

妖精ロリ二人組は自動ドアすら楽しんでいた。

何度も出たり入ったりして、動作確認すらしている。

 

…………あの反応は美羽とアリス限定だったんだな。

改めてあの二人の可愛さを認識したような気がする。

 

でも、リーシャに抱きつかれなかったのは少し残念かな?

 

リーシャが言う。

 

「うふふ、この世界にも面白いものか沢山あるのですね」

 

「美羽とアリスも来た頃は驚いてばかりだったかな。今度、町の案内をするよ。きっと面白いものがもっと見られるはずたから」

 

「そうなのですか? それは楽しみです」

 

微笑むリーシャ。

 

町の案内をする時はあの妖精二人組も一緒だな。

ゲーセンとか連れていったらはしゃぎそうだ。

特にサリィが。

 

リーシャの顔を見て、俺は何となく呟いてしまう。

 

「それにしても、おっさんもリーシャも強くなったよな。まぁ、元々強かったんだけど…………」

 

『剣聖』、『赤瞳の狙撃手』として名高い二人。

人間、魔族を合わせた中ではトップクラスの実力者だった。

 

それが再会したら更に強くなっていた。

その力の伸びように驚くしかなかった。

 

すると、リーシャが俺の頬に触れた。

 

「それは…………ロスウォードの件があったからですよ、イッセー」

 

「ロスウォード?」

 

俺か聞き返すとリーシャは頷いた。

 

「あの時、私達は何もできなかった。あなた一人に任せてしまいました」

 

「でもあの時は…………」

 

「分かっています。あの時はあなたに任せる他なかった。ですが、私にもっと力があれば、あなたを死なせずに済んだかもしれません。私は…………いえ、私達は何度も自分の無力を呪いました。また同じことを繰り返すのか、と」

 

リーシャは俺の背中に手を回すと―――――ギュッと抱き締めてきた。

 

そして、俺の髪を撫でながら言った。

 

「私はイッセーを弟のように思ってます。モーリスだって、あなたを弟子と言っていますが、あなたを息子のように大切に思ってます。もう二度と、家族一人に無茶をさせるわけにはいきません」

 

リーシャは顔を上げると、優しい微笑みを浮かべていた。

 

だから、とリーシャは続ける。

 

「今度は皆で戦います。イッセー一人だけなんてことはさせません。…………もし、あなたが一人で行かなければならない、そんな時が来たら―――――」

 

リーシャは真っ直ぐな瞳で告げた。

 

「私達がイッセーの道を切り開きます。どこまでも狙い撃ってみせます。そのために私は強くなったのですから」

 

…………俺の、俺達の『姉』は優しすぎるようだ。

 

どこまでも狙い撃つ、か…………。

リーシャなら世界の果てまで狙い撃ちそうだ。

 

 

 

 

それから少し後。

俺とリーシャは施設の休憩所で休んでいた。

 

もう用事も済んだから帰っても良いんだけど…………。

 

「ふふふ、サリィとフィーナはよっぽどここが気に入ったようですね」

 

俺達がここにいるのはあの妖精二人組が戻ってくるのを待つためだ。

あの二人、施設のあちこちを見学して回っているようで、あと二時間ぐらいは帰ってこなさそうな雰囲気を出している。

 

流石に二人を置いていくわけにはいかず、俺達は待つことになった。

 

アザゼル先生に送ってもらっても良いんだけど…………。

 

あ、ダメだ。

あの人のことだから、色々と見せてしまいそうだ。

下手すりゃ、今日一日は先生の神器紹介が行われるかもしれない。

 

とりあえず、今、二人を案内してくれている研究員の人に任せるのが一番だな。

 

ふいにリーシャが言ってくる。

 

「先日、私を眷属に迎え入れたいと言っていましたね」

 

「え? あ、うん」

 

モーリスのおっさんに続いて勧誘したのがリーシャ。

 

リーシャも俺が眷属にしたいメンバーの一人だったんだ。

二人を勧誘した理由としては、もちろん実力もあるが、何より一緒に戦ってきた仲間というところが大きい。

 

それで、リーシャにも声をかけたんだが…………。

 

「私としてはイッセーの誘いは嬉しいですし、受けたいと思っています。ですが…………」

 

「魔法学校、だよね?」

 

「ええ」

 

リーシャは頷いた。

 

リーシャは新米の講師としてオーディリアの魔法学校で勤めている。

座学だけでなく、実戦訓練も見たりするそうだ。

 

「私はまだ新米のため、それほど多くの仕事を任せられているわけではありません。…………が、イッセーの眷属になるということは、こちらの世界に住むということ。そうなると、退職する必要があります。学園長――――母には話を通さなければいけません」

 

そりゃ、そうだよな。

仕事だし。

 

しかし、そうなると一つ気になることが出てくる。

 

「リーシャは先生を止めても良いの? 夢だったんだろ?」

 

「その点に関しては問題ありません。ソーナさんが開いたというレーティングゲームの学校、そこで講師にならないかというお誘いがありましたから」

 

マジでか。

いつの間にそんな話が…………。

 

リーシャは出されたお茶を飲みながら言う。

 

「私達の世界では魔法は当たり前のもの。そのため、講師の数は十分足りています。しかし、ソーナさんの話ではこちらの講師の数は不足しているとのことでした。それならば、私はこの世界で魔法を教えることもありかなと。―――――私は魔法の素晴らしさをもっと広めたい、そのために教師になりました。魔法は相手を傷つけるだけじゃなく、誰かを助けるための力になる。それを教えていきたいのですよ。魔法を行使して戦ってきた私が言うのもなんですが」

 

「やっぱり勧誘したのはソーナ?」

 

「そうですよ? ロスヴァイセさんも勧誘を受けているようで。上手く行けば同じ職場になりますね♪」

 

ウインクするリーシャ。

 

まぁ、その辺りはちゃんとリーシャのお母さんに話を通してからだな。

まずはそこからだ。

 

「おっさんも手続きがあるらしいし、一旦、三人で戻らないとな」

 

おっさんは騎士団長の引き継ぎ、リーシャは魔法学校の退職願い。

なんか、俺のために無理をさせてないか心配になるけど…………その辺りは今後、しっかり話し合っていこう。

悪魔に転生すれば、もう二度と戻れない。

 

リアスが俺にしてくれたように、二人にもしっかり考えて決めてもらおう。

 

すると、リーシャが思い出したように言った。

 

「全てが上手く行っていれば、こちらに戻ってくる時はイッセーを含めて四人…………いえ、五人になっているかもしれませんね」

 

「え、よ、四人? 五人?」

 

俺にモーリスのおっさん、リーシャ。

これで三人。

 

あとの二人って…………。

 

その時、俺の脳裏にとある二人が浮かび上がる。

 

 

――――――お兄さん♪

 

 

――――――イッセーさまは相変わらず変態ですね

 

 

あ、あれ…………?

なんだかものすごい波乱が起きそうな気がする…………。

 

リーシャに視線を戻すと、お姉さんは相変わらず優しい微笑みを浮かべていて、

 

「うふふ♪」

 

「あ、あはは…………」

 




リーシャ眷属入り…………仮決定!


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第十八章 進路指導のべリアル
1話 兄の行方


新章突入!


[三人称 side]

 

 

つい先日、ディハウザー・べリアル主催のレーティングゲーム・イベント企画「王者十番勝負」が行われた。

 

一番目、二番目と行われたゲームでは二つとも王者が華麗に勝利し、ファンを沸かせた。

磨きあげられた戦術と魔王クラスと称される力による勝利。

変わらない王者の姿はテロが横行し、不安に感じていた冥界市民を安心させるものだった。

 

イベント企画はこのまま何事もなく、進む。

誰もがそう確信していた。

 

しかし―――――三番目の試合にて、それは起こった。

 

ディハウザーの相手はフェニックス家の三男ライザー・フェニックス。

このゲームはライザーにとっては復帰戦。

相手がかの皇帝であるため、勝敗は見えていたようなものだったが、それでもライザーは試合への意気込みを事前のインタビューで語っていた。

 

ゲーム当日。

 

ゲームのバトルフィールドは地下深くに設けられた古代遺跡という設定のフィールド。

 

試合開始から三十分経過した頃にはライザー側の眷属は軒並み倒されており、『王』自ら進軍する他なかった。

 

ライザーにとってはある程度想定していたことだった。

べリアル眷属は『王』だけでなく、その眷属も高い実力を持っている。

 

立ち直ってからは眷属と共に厳しい修業に打ち込んできたが、短期間で覆せるような実力差ではない。

 

ライザーは心の中で自らの眷属にここまで戦ってくれたことを感謝しながら洞窟を歩いていった。

 

洞窟の中央、ドーム状にひらけた場所に出ると、そこで待ち構えていたのは王者ディハウザー・べリアル。

 

ライザーは王者と向き合うと口を開いた。

 

「ディハウザー殿。良き試合を展開させていただき、心より感謝致します。私の元にはもう眷属は残っておりませぬ。私の敗北は必至でしょう。不躾ですが、最後に『王』同士による一騎打ちを願いたく馳せ参じたしだいです」

 

勇ましい姿のライザー。

そこには過去のライザーの姿はなく、新たに生まれ変わった有望な若手の姿があった。

 

しかし、ディハウザーは意味深に笑んだ。

 

「良い試合…………か。ライザー・フェニックス殿、良い試合とは…………何を指すのだろうか」

 

「…………?」

 

王者の問いに怪訝な表情のライザー。

 

ディハウザーは言葉を続ける。

 

「終始巧みな戦術による絶対の試合運びで完封することか、最後の最後で大逆転を繰り広げることか、それとも拮抗した戦力の者同士がお互いの全力を出し切って勝利をもぎ取ることか。私はこれまでのゲームで、とりあえずは全て堪能したつもりだ。…………いや、嘘だな」

 

最後に自らの言葉を否定するディハウザー。

彼は首を横に振ると息を吐いた。

 

「私は圧倒以外の試合は全てそのように演じてきただけだ。逆転、あるいは拮抗した戦いになるよう、あえてそのような試合運びをしただけにすぎない」

 

当惑するライザー。

 

「…………ディハウザー殿、俺には貴方の言葉の意味が分かりません」

 

「ライザー殿。私は生まれてこの方、負けたことがないのだ。レーティングゲームという遊戯でも負けを見たことがない」

 

「ディハウザー殿、私には貴方の真意が計りかねますな。…………だが、一つお訊きしたい。なぜ、それを俺に? この試合にこの会話は必要だったのでしょうか?」

 

ライザーの言葉にディハウザーは自嘲気味に笑む。

 

「…………無粋、と言いたいのだろう? 確かにそうだ。私のこの心情はこのゲームに持ってくるものではない。ゲームプレイヤーにとって神聖なゲームに余計なものを挟むなど、侮蔑以外の何物でもない。私は王座に君臨しておきながら、今、それをしている。まったく、酷い王者だ」

 

ディハウザーの体をオーラが包み込む。

手を前に突きだし、濃密な魔力の塊を放った。

 

あまりに高速で打ち出された魔力に対応できなかったライザーは、体を撃ち抜かれてしまう。

 

普通なら炎と共に傷が塞がっていくだろう。

それがフェニックスの特性なのだから。

 

しかし――――――。

 

「ガハッ…………っ」

 

ライザーは血の塊を吐き出し、その場に踞った。

撃ち抜かれた腹部からは夥しい量の血が流れ出ている。

 

激痛がライザーを襲うが、それ以上にライザーの頭にあったのは傷が塞がらないという点。

 

「なぜ…………っ?」

 

「…………不死身であろうとも、私の『無価値』の特性からすればその限りではないということなのだろう」

 

――――無価値。

 

それがべリアル家の特性。

その名の通り、相手の特性を一時的に「無価値」で意味のないものに転じてしまう。

 

今回はフェニックスの特性である「不死身」を「無価値」にして、ライザーの再生能力を消し去ったのだ。

 

ディハウザーは倒れ伏すライザーに語りかける。

 

「ライザー・フェニックス殿。貴殿は不思議に思われたことはないか? 『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』についてだ。『兵士』が八、『騎士』『僧侶』『戦車』がいずれも二、そして『女王』が一。本来あるはずのものがなぜないのか。なぜあの石碑が用いられているのか」

 

ディハウザーは懐から何かを取り出す。

 

「それは…………」

 

薄れる意識の中、ライザーはそれについて問う。

 

ディハウザーは手に持つ物を見せながら言った。

 

「これは悪魔の駒―――――『王』の駒だ」

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

兵藤家上階にあるVIPルーム。

そこにグレモリー、シトリー、『御使い』、アザゼル先生のチーム『D×D』メンバー。

加えてモーリスのおっさんとリーシャが集まっていた。

 

俺達がこうして集まった理由、それはモニターに映し出されている映像にあった。

この場の全員が食い入るようにモニターを見ている。

 

冥界のチャンネルが開くようになっているモニターには、冥界のニュース番組を映している。

その内容は――――――。

 

『レーティングゲーム中に突然の事故!?』

 

『王者べリアルが試合中に消息不明!』

 

『フェニックス家三男も王者と共に行方知れずに!』

 

先日、ライザーは王者とのレーティングゲームに挑んだ。

あいつの復帰戦ということもあり、注目していたのだが…………。

 

ライザーと王者の試合中に事故が起こったらしい。

試合の途中、フィールドに設置してあるカメラの死角――――ドーム状の洞窟で戦闘を継続していたライザーと王者は突然、消息不明となった。

 

俺達も情報を知らされてから、一度ニュースを確認して、それから問題となったゲームの記録映像を見始めた。

カメラの死角であったため、洞窟内で何があったのかは分からなかった。

 

ただ…………一つだけ俺が気になったことがある。

映像では洞窟の入り口から青い光が漏れ出ていた。

 

あの輝きには見覚えがある。

 

もしかしてあれは…………いや、だとするとなぜ連絡がないんだ?

俺の予想が正しければ、俺の元に連絡が来てもおかしくはないんだが…………。

 

消えた二人の行方は依然つかめないまま。

ゲームの運営側、冥界政府、軍、警察をも動員する事態となっている。

 

俺も今回の事件に心穏やかではいられなかった。

 

ようやく、ライザーも復帰戦に臨めるようになったんだ。

俺も何度か手合わせして、あいが今回の復帰戦にどれだけ燃えたいたかは知っている。

ライザーは王者とのゲームを誰よりも心待ちしていたんだ。

 

しかし、俺よりも、誰よりも不安に押し潰されそうになっている者がいる。

 

「…………お兄さま…………ライザーお兄さま…………!」

 

レイヴェルだ。

 

妹として家族として、兄のことを誰よりも心配している。

知らせを聞いた時のレイヴェルは状況を呑み込めずにいたほどだった。

 

レイヴェルもライザーと話すときは少々ツンとしたところが見える。

だけど、レイヴェルは兄想いの子だ。

閉じ籠っていた時のライザーでさえ、心から心配していた。

 

今は不安で不安で仕方がないはずだ。

 

俺が支えになってやらないといけない。

ここで下手に動いてしまえば、レイヴェルの不安や悲しみはより大きくなってしまうからだ。

 

レイヴェルは握りしめた手を震わせる。

手の甲に雫がこぼれ落ちた。

 

「私が…………お兄さまに付いていれば…………! お兄さまは…………!」

 

涙を流し、声を震わせるレイヴェル。

 

「レイヴェル…………」

 

小猫ちゃんがレイヴェルの手にそっと手を重ねた。

震える体を抱き締めて、少しでも支えになろうとしている。

 

俺は小猫ちゃんに任せると、アザゼル先生に問う。

 

「ライザーと王者は共に行方不明。足取りも掴めていない、ということですね?」

 

「ああ。だが、一つだけ確かなことがある。二人が消える少し前にゲーム運営側の緊急用プログラムが発動したとのことだ」

 

「緊急用プログラムが………?」

 

そう聞き返すと先生は頷いた。

 

俺やリアス、ソーナを始め、一部の者は知っているようだが、多くのメンバーは要領を得ない表情をしていた。

 

まぁ、俺も昇格してから知ったんだけどね。

 

ソーナが皆に説明する。

 

「本来、プロのレーティングゲームの試合にはあらゆる事象が起きても良いように数多くの対応プログラムが用意されています。たとえば、フィールドを破壊するほどの試合があった場合、その場でフィールドを補修するためのプログラムが発動します」

 

「イッセーが毎回フィールドぶち壊してるだろ。その時に起こるあれだ」

 

先生の補足に皆は「ああ、あれか」という反応を示す!

俺って毎回毎回フィールド壊してますか!?

そこまで破壊魔じゃないですよ!?

 

と、とにかく!

想定していない出来事に対応するためのプログラムで、それがライザーと王者のゲームで発動されたということだ。

 

「何が起きたの?」

 

「まさかと思いますけど、クリフォトが襲撃した、とか?」

 

リアスに続いて俺も尋ねる。

 

先生は一拍あけて、言った。

 

「その線も探っているが、現在わかっていることは――――ゲーム中に不正行為があった可能性が高い」

 

『―――――ッ!?』

 

この報告には全員が驚いた!

 

不正行為が行われた………?

つまり、ライザーか王者がそれを行ったということか………?

 

レイヴェルが立ち上がって言う。

 

「まさかお兄さまが!? そんなはずはありませんわ! お兄さまはいい加減なところはありますが、ゲームで不正を働くなど、するはずが…………!」

 

俺もレイヴェルの意見に同意で、ライザーが不正をしたという選択肢はすぐに外した。

 

あいつの修業に付き合った俺だからこそ、あいつのゲームへの想いは理解している。

確かにプライド高いし、傲慢なところもある。

それでも、ゲームに対しての熱は本物だった。

 

それは近くで見てきたレイヴェルもそう感じているようだ。

 

皆の視線が自分に集まっていることに気づいたレイヴェルは再び座り、俯いた。

 

「申し訳ありません…………取り乱してしまいましたわ…………」

 

落ち込んだ様子のレイヴェル。

 

俺はそっと彼女の頭を撫でてあげた。

 

「分かってる。あいつが不正するなんてあり得ない」

 

「そうよ、レイヴェル。ライザーはようやく、再起するために立ち上がったのだから」

 

俺もリアスもあいつが不正をするなんて思っていない。

 

そうなると…………。

 

「では、皇帝が………?」

 

木場が顎に手をやりながらそう漏らした。

 

解せない表情をしている。

 

木場は俺よりもプロのレーティングゲームに明るい。

特に王者ともなれば、注目度と認知度は高く、木場も彼の試合を何度も見ている。

俺も木場に誘われて王者のゲームを見たことがあるほどだ。

 

木場曰くら試合内容も真摯であり、戦術も洗練されていて、奇手よりも王道を好む文字通りの王者に相応しいものだとのことだ。

 

ライザーか、それとも王者か。

どちらも不正を行ったとは思えないが…………。

 

しかし、そうなるとだ。

なぜ、ゲーム中に不正行為が行われたという可能性が浮上してきた?

 

朱乃がアザゼル先生に問う。

 

「今回の件、アザゼル先生には何か心当たりがあるのではありませんか?」

 

全員の視線が先生に集まった。

 

先生は腕を組んだまま黙るが、その後、深く息を吐いた。

 

「今は言えん。あくまで予想だからだ。だが、俺の予想が正しければ行方知れずのフェニックス家の三男の安否はそれほど悪いものではないだろう」

 

「本当ですか!?」

 

レイヴェルがアザゼル先生に詰め寄った。

 

先生はレイヴェルを宥めながら答える。

 

「ただ、あくまで俺の予想だ。現時点で具体的なものを言ってやれないのは申し訳ないが…………。レイヴェル、おまえは兄の無事を信じてやってくれ」

 

「…………っ!」

 

どこか希望を見つけたような表情のレイヴェル。

 

今まであらゆる状況に関して対応し、対処してきた先生だ。

そして、先生の予想は良くも悪くも的中する。

今回の予想は良い方向で的中するかもしれない。

先生がそう言ってくれるだけで、こちらもその気になれるというものだ。

 

リアスの耳元に小型の通信用魔法陣が展開される。

そこから伝わる情報に頷きを返すと、リアスは皆に告げた。

 

「お兄さまからも連絡が届いたわ。彼らの行方は魔王側でも探るそうよ」

 

サーゼクスさんも動いてくれるんだな。

 

…………俺も動ける範囲で探るとするか。

もしかしたら、彼女が何かを知っているかもしれないしな。

 

俺はレイヴェルの前にしゃがむと、その手を取った。

 

「大丈夫だ。ライザーはきっと無事だ。あいつは不死鳥―――――フェニックスだぜ? 俺とも殴りあったんだ。きっとあの業火を燃やして帰ってくるさ」

 

涙に濡れるレイヴェルと俺の目が合う。

 

「待とう。あいつが帰ってくるのを。それが今の俺達にできることだ」

 

 




というわけで、今回はシリアスパートでした。

本作もこの章を含め、あと二章で完結予定です。
最後まで頑張りまーす!


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2話 眷属、増えます!

[木場 side]

 

先日の集まりから二日が経った。

 

あれからライザー・フェニックスと王者ディハウザー・べリアルの件に関しては全く進展がない。

冥界、魔王さま方まで動く程の事態になったが、二人の発見には至っていないそうだ。

 

カメラの死角で何が行われていたのか、僕達には全く検討がつかないけど、イッセーくんの言うように今はただ無事を信じることしかできない。

 

僕達は対テロリストチーム『D×D』。

有事の際には動かなければならない身だ。

冥界が混乱している今だからこそ、落ち着いた対処が僕達に求められる。

 

そうは言ってもレイヴェルさんは実の妹だ。

僕達以上に心配しているだろう。

 

しかし、レイヴェルさんは普段通りに生活を送っていた。

早朝のトレーニングに励み、学校に通い、放課後は部活に顔を出す。

契約活動の方でもいつも通りの成果を挙げているようだ。

 

イッセーくん曰く。

 

『レイヴェルは俺達が思っているより強い。だから大丈夫だ。…………それに受け止める時はしっかり受け止めるからさ。それも俺の役目だ』

 

とのことだった。

 

後で美羽さんに訊いてみたところ、先日の集まりの後、一人泣きじゃくるレイヴェルさんをイッセーくんはずっと抱きしめていたらしい。

何も言わず、ただ優しく、彼女の不安や悲しみを受け止めるように。

 

レイヴェルさんがいつも通りに過ごせているのはそのお陰だろう。

 

そうして、いつも通りの生活を送ってきたこの二日だったけど、今日はちょっとしたイベントがあった。

 

それは―――――。

 

「そんじゃ、ちょっくら行ってくるよ」

 

イッセーくんが僕達を見渡してそう言った。

 

僕達オカルト研究部とアザゼル先生は再び、兵藤家上階にあるVIPルームに集まっていた。

 

実は今日、イッセーくんは異世界アスト・アーデに向かう。

理由はモーリスさんとリーシャさんを眷属にするため。

二人は向こうの世界でそれぞれ役職を持っている。

眷属にするためにはまず、それを何とかしなければならない。

 

そういうわけで、イッセーくんはモーリスさんとリーシャさんの三人で向こうの世界へ一旦戻るそうだ。

 

アザゼル先生が言う。

 

「結局、三人で行くのか?」

 

「一応。何かあった時のためにアリス達は置いていきます」

 

「まぁ、次元の渦ってのは何もかも不明なことだらけだ。毎回同じとは限らんしな」

 

次元の渦。

それに呑み込まれた者は異なる世界へ行けるというもの。

向こうで過ごした時間はこたらでは一瞬という何とも不思議な現象が起きる。

先生曰く、次元の渦によって強烈な時空の歪みが生じた結果、時間の流れがそこで変化しているのではないかと考えられるそうだ。

 

アウロス学園の際、クリフォトが使用した結界は覆った町と、その外での時間の流れを変えていた。

結界の内側では数時間経っていたにも関わらず、結界の外では数分だった。

次元の渦による時間のズレはこの歪みを更に強めたものだろう、とのことだ。

 

あくまでアザゼル先生の推測ではあるが。

 

前回は美羽さんが持つあちらの世界への指向性を利用したが、今回はモーリスさん達が鍵となる。

 

イッセーくんがアリスさんに言う。

 

「こっちは任せる。美羽とレイヴェルも」

 

「了解了解。こっちは私がいるから何も問題ないわ」

 

「…………本当に?」

 

「な、なによぅ…………わ、私だってね、やるときは殺るのよ!?」

 

「字が違う! 殺るってなに!? 不安しかねぇ!」

 

「どれだけ信用ないのよ、私!?」

 

あ、相変わらず二人は仲が良いと言うか…………。

 

でも、こんな二人の光景はもう見慣れてしまった。

レイヴェルさんも苦笑しているが、このような日常的な光景が彼女をほっとさせる要因の一つなのかもしれないね。

 

実はイッセーくん達もそれを分かっていたりして。

 

イッセーくんは咳払いすると改めて言う。

 

「ま、おふざけはこの辺で。すぐに帰ってこれると思うけど、頼んだぜ『女王』」

 

「任せときなさいな、主さま」

 

ドタバタから一転、笑みを浮かべる二人。

 

イッセーくんはモーリスさんとリーシャさんの二人と手を繋ぐと前回の時のように円陣を組んだ。

 

ジェットエンジンのような甲高い音が室内に響き始め、三人を光が包む。

 

やがて、その光は目を開けられないほど強くなって――――――。

 

「行ってくる!」

 

甲高いイッセーくんがそう言ったのが聞こえた。

 

それから少しして、光がおさまっていくとようやく目が開けられるようになる。

 

 

 

その時、僕の目に映ったのは―――――。

 

 

 

「皆さん、お久しぶりです! ニーナ・オーディリアです! これからお世話になります!」

 

…………なぜか人数が増えていた。

 

 

[木場 side]

 

 

 

 

向こうの世界で数日過ごしてきたけど、こっちの世界では一瞬の出来事だった。

それは前回と変わらず。

 

そして―――――。

 

『…………』

 

帰ってきてから早々に開かれた家族会議。

沈黙がリビングを支配している。

 

なぜこんなことになったのかは言うまでもない。

向こうに行って、帰ってきたらメンバーが増えていたのだ。

当然だろう。

 

しかも、新たに連れてきたのは…………。

 

「改めまして。アリス・オーディリアの妹、ニーナ・オーディリアです」

 

「イッセーさまのお父さま、お母さま。そして、皆さま。オーディリア家のメイド長、ワルキュリア・ノームでございます。この度、こちらの世界で暮らすこととなりしまた。よろしくお願いいたします」

 

アリスと同じキラキラと輝く金髪の少女とロスヴァイセさんのような長い銀髪が特徴的なメイド服姿のお姉さんがお辞儀をする。

 

そう、俺が新たに連れてきたのはニーナとワルキュリアだ。

 

このことはアザゼル先生ですら、口を開けて唖然としている。

美羽やリアス達、そして、父さんと母さんもポカンとしていた。

 

驚いていないのはアリスくらいだ。

 

沈黙が支配する中、リアスが口を開いた。

 

「えっと………ニーナさん?」

 

「はい、リアスさん。あと、ニーナでいいですよ? リアスさんの方が歳上ですし」

 

「それじゃあ、ニーナ。その………国の方は良いの? アリスさんの跡を引き継いだんじゃ…………?」

 

リアスの質問にニーナは胸を張って答えた。

 

「それなら問題ないです。オーディリアは王政を廃して、民主主義国家になりましたから」

 

「民主主義…………?」

 

少し飲み込めていない様子のリアス。

いや、ニーナの言葉の意味は理解しているのだろうけど、なぜそうなったのかが分からないと言った感じだな。

 

すると、アリスが立ち上がってニーナの後ろに立った。

ニーナの肩に手を置いて言う。

 

「これはずっと前から考えていたことなの。かつての王が選択した戦争への道が、国を深刻な不安に陥らせて、国民の命を危険に晒してしまったわ。だから、私とニーナは決めていたの。戦争が終わり、安定した後で国のあり方を変えていこうって」

 

「国の行く末を、王じゃなくて国民が選べるようにね。その答えがそれだったの」

 

俺が美羽を連れてこちらの世界に戻ってきた後。

アリスはまずは長年争ってきた魔族との真の和平に向けて動いていた。

各国を説得し、幾度の交渉を経てようやくそこへ漕ぎ着けたんだ。

 

そして、ある程度世界が安定した後、オーディリアの民主化へと動き出したそうなのだが…………。

 

アリスがため息を吐く。

 

「そしたら、ロスウォードが出てきて、それどころじゃなくなったのよね」

 

ニーナも続く。

 

「そうそう。それで、お姉ちゃんがお兄さんとこっちの世界でラブラブしている間に私が残りの仕事を引き継いで完遂させたということなの」

 

「なっ…………!? ラブラブなんか…………!」

 

「してないの?」

 

「ぅぅ…………それは…………。ぅぅぅ…………イッセー…………」

 

妹に追い詰められたからって、こっちに助けを求めるなよ!?

つーか、押しに弱くなってないかい!?

 

アリスの反応にニッコリと微笑むニーナ。

なんか、すごく満足そうな顔だな…………。

 

モーリスのおっさんが言う。

 

「ま、アリスを嫁に出すってことで、あの時は議会の奴らに話をしたんだがな…………。まぁ、すんなり決まったのなんの。これも国民から愛されてるゆえなのかね」

 

「そうだよねぇ。お姉ちゃん、何だかんだで人気あったし。やっぱりツンデレが良いのかな?」

 

「いや、今のアリスはツンデレじゃないぞ? ツンデレデレだからな」

 

「え、そんなにデレデレしちゃてるの? うわぁ、貯まってた分、出てきちゃった?」

 

「この間なんて、イッセーの背中流していましたよ? それはもう新婚夫婦のようで。うふふ、私としては微笑ましくて良いんですけどね♪」

 

「リーシャお姉ちゃん、それほんと!?」

 

「ええ。朝なんておはようのキスをしているとのこと。もうデレッデレッです」

 

「そいつは初耳だぞ? もう昔の面影がねぇな、おい」

 

「ツンデレデレというより、ツンデレデレデレってことかな?」

 

「そこはツンデレデレデレデレデレだと思いますよ?」

 

「それなら、いっそのことデレだけで良いんじゃねぇのか?」

 

「いえ、私も最初はそう思ったのですが、やはりツンなところも残っているようで。まぁ、それがアリスの魅力なんでしょうね」

 

ニーナ、リーシャ、おっさんがアリスについて語っていく!

もう会話の全てに『デレ』が出てくるよ!

 

ワナワナと体を震わせるアリス!

 

「あんたら、デレデレデレデレうるさい! そんなにデレデレしてないわよ!」

 

「結局、デレしてるんだよね?」

 

「デレしてるってなに!?」

 

あははは…………。

何とも賑やかな姉妹なことで…………。

 

ま、まぁ、甘えてくるアリスは…………可愛い。

最高に可愛くて、一緒に弁当を作ったときはドキドキしたなぁ。

 

そういえば、とニーナが思い出したように手を叩く。

 

「お姉ちゃんって、お兄さんと子作りしたの?」

 

「はぁっ!? あんた、いきなりなんてこと聞いてくるのよ!?」

 

「え、だって、お兄さんが…………」

 

「イッセー!? あんた、話したの!?」

 

「俺かよ!? 話してない! 話してませんよ!?」

 

俺は全力で首を振って否定した!

そんなこと話すか!

 

アリスの反応にニーナはふっと勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「つまり、お兄さんとしたんだよね? うふふ~」

 

「ニーナ…………かまかけたわね…………っ!」

 

というか、君達…………こんなところでその話は止めてくれませんか?

父さんと母さんもいるし…………。

 

「「孫は近い…………!」」

 

「平常運転じゃねぇか! ツッコめ! 少しはツッコミしてくれ!」

 

「何を言っているの! 孫よ、孫!」

 

「そうだぞ、イッセー! 俺達は孫の顔が見たいんだ! 上級悪魔なのだろう? サッカーリーグくらいは面倒見れるのだろう?」

 

「あんたらもサッカーかよぉぉぉぉぉ!」

 

サッカーリーグって!

最初からリーグを求めてきたよ!

いったいどれだけ孫の顔が見たいんだ、あんた達は!?

 

と、ここでワルキュリアがアリスとニーナの間に入る。

 

「お二人ともこのような場所で男女の話はお止めください。元とはいえ、お二人は国を率いていた身。場所をわきまえてください」

 

おおっ!

流石はワルキュリア!

まともなお姉さん来たよ、これ!

 

しかし…………次の瞬間、ワルキュリアの鋭い視線が俺を捉えた。

 

「イッセーさま。アリスさまにどのようないかがわしい行為を行ったのか…………後でお聞かせ願います」

 

「聞くの!?」

 

「冗談です」

 

「心臓に悪いから、止めてくれる!? ワルキュリアが言うと冗談に聞こえないよ!」

 

微笑むワルキュリアだが、目が笑っていない!

どんなプレイしたと思われてるの!?

 

ふいにリアスがワルキュリアに訊く。

 

「メイド長のあなたがここに来たということは…………。他の使用人達はどうしたのかしら? あの城には結構な数がいたと思うのだけれど」

 

「それに関しても問題ございません。彼らには新たな働き口を用意してから、こちらに参りましたので。皆、優秀ですので、彼らを欲しがる者は多いのです」

 

 

 

 

ワイワイと賑わう兵藤家のリビング。

母さんとアーシアが全員分のお茶を注ぎ直したところで、話題を変えることに。

 

先生が訊いてきた。

 

「それで? こうして第二王女さままでお持ち帰りしたってことは、モーリスとリーシャの件も済んだってことで良いんだな?」

 

その問いにおっさんとリーシャは頷く。

 

「まぁな。こっちは無事に引き継ぎを終えてきた。これで、俺もお役御免ってわけだ」

 

「私もです。ただ、学園長である母からは、たまには帰って来るように言われましたけどね」

 

「そりゃそうだ。娘が次元越えて男のところに行こうって言うんだ。心配もするだろうさ」

 

そうだよね。

だから、これからはちょくちょく向こうの世界に行こうと思っている。

 

先生は顎に手を当てると呟いた。

 

「なんとかして、こちらの世界とあちらの世界を繋ぐことが出来れば良いんだが…………。時間のズレが生じるのも問題だが、何とかして安定させてやれば…………。二つの世界を繋ぐトンネルでも作れれば…………」

 

二つの世界を繋ぐトンネルか…………。

 

互いの世界が認知されている以上、二つの世界が交流を望む日が来るかもしれない。

もちろん、それはまだまだ先の話になると思う。

それまでに解決するべき問題も山積みだ。

 

でも、いつかは二つの世界が繋がりを持てる日が来るのかもしれないな。

 

先生は改めて俺に訊いてくる。

 

「とりあえず、おまえの眷属に加わるメンバーってことで良いんだな?」

 

「はい。四人とも俺の眷属になってくれると言ってくれましたから」

 

「…………ちょっと待て。四人………だと? まさか、この二人も―――――」

 

先生の視線がニーナとワルキュリアに向けられる。

とうの二人は微笑みながら頷いた。

 

ニーナが言う。

 

「だって、お兄さんと一緒にいたいですもの。お姉ちゃんともまた一緒になれますし」

 

ワルキュリアも続く。

 

「私の役目はアリスさまとニーナさまにお仕えすること。イッセーさまの眷属になるのは…………まぁ、ついでです」

 

ついで…………。

眷属になってくれるのは嬉しいけど、ついでって…………!

涙が出てくるよ!

 

ちなみにだが、ワルキュリアもそれなりの戦闘力を有している。

ありとあらゆる武器に精通していて、魔法も使える。

普段は薙刀を使っているけど、隠し武器とかも使っていてだな。

実力で言えば…………中級悪魔の上位クラスかな?

 

ニーナは戦闘力は皆無。

ただ、俺やアリスと一緒にいたいと言ってくれたので、眷属にすることにした。

多分、戦闘よりも事務の方で活躍してくれるだろう。

俺も大歓迎!

 

これを受けて先生が言う。

 

「厳しいことを言うがニーナに関しちゃ、戦闘では使えない。それは分かっているな?」

 

「もちろん。それでも俺はニーナを眷属にしますよ」

 

「…………ま、誰を眷属にするかなんて、そいつの自由だしな。当人同士の間で合意が取れているのなら尚更だ。おまえらがそれを望むなら俺は何も言わんさ」

 

先生はそう言うが…………。

 

リアスはむしろそれで納得みたいな表情をしていて、

 

「というより、モーリスとリーシャが加わるだけで十分ではないかしら?」

 

木場もそれに頷く。

 

「歴代最強の赤龍帝であるイッセーくん、白雷姫と称されたアリスさん、異世界の魔王の娘である美羽さん、不死のフェニックスであるレイヴェルさん。そこにモーリスさんとリーシャさん。既に常軌を逸したチームになっているね。…………ところで、駒はもう決めているのかい?」

 

「まぁな」

 

俺は家族会議が始められる前に持ってきていたケースを取り出す。

重厚なケースを開けると、中に入っているのは悪魔の駒だ。

 

現在、俺の手元に残っているのは『兵士』が八、『騎士』と『戦車』が二つ。

 

問題は誰に、どの駒を使用するかだが…………。

 

「モーリスのおっさんには『戦車』、リーシャとワルキュリア、ニーナは『兵士』を任せようと思う」

 

そう言うと、皆は少し首を傾げていた。

俺の駒の選択にやや疑問を抱いているらしい。

 

木場が訊いてくる。

 

「ニーナさんとワルキュリアさんは良いとして…………モーリスさんが『戦車』なのかい?」

 

「そうだ。知っての通り『騎士』は機動力を上げる。つまり、スピードを活かした奴が的確だろう。木場、おまえはその特性を活かして戦っているだろう?」

 

「そうだね。スピードが僕の持ち味だと思っているよ」

 

「じゃあ、おっさんはどうだ?」

 

俺が話をモーリスのおっさんに振ると、おっさんは首を横に振った。

 

「俺は祐斗みたいに駆け回るタイプじゃないだろ。こんなよぼよぼのおっさんが走り回るように見えるか?」

 

「どこがよぼよぼ!? あんたがよぼよぼなら、世界中よぼよぼだらけだよ! …………ま、まぁ、そういうわけだ」

 

俺も初めは『騎士』も考えたんだけどね。

でも、おっさんのスタイルに合わせるなら『戦車』がベストだと判断したんだ。

 

続いてリーシャだが…………。

 

「リーシャを『兵士』に考えた理由だけど、それはリーシャの新しい戦闘スタイルにある」

 

以前までの狙撃スタイルなら『戦車』を選んでいた。

そのまま、威力を底上げして一撃の威力を高めた方が良いと思ったからだ。

 

しかし、サリィとフィーナを従えた新しいスタイルは乱戦を想定したもの。

戦場を駆け回り、弾幕を張り、そして狙い撃つ。

 

「機動力、魔力量、そして攻撃力。これら三つを底上げするには―――――」

 

「プロモーション…………それで『兵士』の駒なんだね?」

 

「そういうこと。プロモーションして『女王』になれば、乱戦スタイルに合った強化になる。それにそのまま狙撃もできるしな」

 

「でも、ゲームでは特殊なルール…………例えばダイスとかでない限りは相手の陣地に入らなければ昇格できないよ?」

 

「まぁ、それはそうなんだけどさ…………。元々、リーシャの射程は長いし、魔力量だってかなりのものだ。これはおっさんにも言えることなんだけど…………」

 

俺の言葉を続けるようにロセが言った。

その表情はどこか呆れたような、諦めたような顔で、

 

「お二人とも駒の特性なしでも十分ということですね…………」

 

「うん…………」

 

再び部屋の空気が静まり返る。

 

主にグレモリー眷属の面々。

笑顔がひきつっている…………。

 

分かる…………言いたいことはよく分かるつもりだよ。

 

さて、どの駒にするかは良しとして…………。

 

「あとは駒の数だな」

 

「絶対、一つじゃ済まんだろ」

 

「ですよね…………」

 

とりあえず、俺はおっさんの前に『戦車』の駒を一つ置いてみる。

 

…………うん、案の定、反応ないや。

 

となると―――――。

 

俺は二つ目の駒をおっさんの前に置いた。

そこで、駒は赤く光を放ち、おっさんの体の中へと入っていった。

 

『戦車』の駒二つかぁ…………。

分かっていたけど…………。

 

「駒価値でいうと十………」

 

同じ『戦車』である小猫ちゃんがボソリと呟く。

 

これ、バアル戦のルールだと中々出せないよね。

駒価値十だもん。

 

おっさんは頭に疑問符を浮かべている。

 

「ん? 悪魔になったんだろ? 何か問題でもあるのかよ?」

 

「いや、なんでもないよ。これからもよろしくな、おっさん!」

 

「おう。任せときな。こらからもビシバシ稽古つけてやるよ! はっはっはっ!」

 

にこやかに笑うおっさん。

 

ま、これで良しとするか。

 

続いてリーシャだ。

リーシャの前に『兵士』の駒を一つずつ置いていく。

 

 

一つ…………反応なし。

 

 

二つ…………やっぱり反応なし。

 

 

三つ…………うん、分かってた。

 

 

四つ…………ですよね。

 

 

五つ…………う、うーむ

 

 

そして、六つめ。

ここで、ようやく『兵士』の駒が赤く輝いた!

 

六つの『兵士』の駒はリーシャの体内に入っていく。

そして、赤い輝きが収まり、リーシャは俺の眷属となった。

 

リーシャが胸に手を当てた。

 

「これで私もイッセーの眷属なのですね」

 

「うん。リーシャ、色々といたらない『王』だけどよろしくな」

 

「イッセーはもう立派だと思いますよ?」

 

俺とリーシャは握手を交わす。

 

さて、残るはニーナとワルキュリアだ。

 

俺は二人の前にリーシャと同じく『兵士』の駒を一つずつ置いた。

次の瞬間、モーリスのおっさん、リーシャと同じく『兵士』の駒は二人の中へと入っていく。

 

赤い光が収まると…………ニーナが抱きついてきた!

 

「やった! これで私もお兄さんと同じだね!」

 

おっぱいが…………!

あのニーナのおっきなおっぱいが顔に押し付けられて…………!

 

く、苦しい…………けど、嬉しい!

もっとこの柔らかさを堪能したいぜ!

 

ワルキュリアも少し安堵したような表情で呟く。

 

「まさか、私がイッセーさまの配下になるとは…………人生分かりませんね」

 

「俺もワルキュリアを眷属にするとは思ってなかったさ。でも、俺、頑張る。ちゃんとワルキュリア達の『王』を勤めあげてみせるさ!」

 

手をつき出す俺。

 

ワルキュリアは俺の手を取り、満面の笑顔で頷いた。

 

「ええ、よろしくお願いいたします。私も可能な限り、イッセーさまに力をお貸しします」

 

こうして、俺達赤龍帝眷属は新たなメンバーを迎え入れて、再スタートしたのだった。

 

 

 

 

赤龍帝眷属

 

王  兵藤一誠

女王 アリス・オーディリア

僧侶 兵藤美羽(変異の駒)

僧侶 レイヴェル・フェニックス

戦車 モーリス・ノア(駒二つ)

兵士 リーシャ・クレアス(駒六つ)

兵士 ニーナ・オーディリア

兵士 ワルキュリア・ノーム

 

 

 

 




赤龍帝眷属、増員!
ということで、駒はこんな感じです。

リーシャはサバーニャのトランザム思い出して、それで決めちゃいました(笑)
高機動狙撃兵(乱れ撃ち)!


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3話 賑やかにいこう

今回も結構平和です。


ニーナ達を眷属に迎え入れたその日の夜。

 

「………それは本当なんだな?」

 

『ああ』

 

自分の部屋にいた俺は通信用魔法陣を耳元に展開して、連絡を取っていた。

 

通信の相手―――――ティアは俺の問いに肯定を示した。

 

『フェニックス家の三男坊は無事だ。その事に間違いはない。現に私はそれを確認しているからな』

 

そうか…………ライザーは無事だったか。

 

俺の予想通り、ティアはライザーのことを把握していた。

あの映像の輝きはティアが使う転移魔法陣と同じ輝きだったから、気づけたわけだが…………。

 

俺はライザーの無事に安堵しながらも、疑問を覚えた。

 

「無事が確認できているなら、なぜ教えてくれなかったんだ?」

 

疑問は他にもある。

 

ティアが把握しているなら、冥界側も把握しているはず。

なぜ未だ行方不明ということになっているんだ?

 

それに一緒に消えた皇帝(エンペラー)はどこへ…………?

 

すると、通信用魔法陣の向こうからティアの重い声が聞こえてくる。

 

『すまないが、言えない』

 

「言えない…………? どういうことだよ?」

 

『そのままの意味だ。今はまだ(・・・・)教えることが出来ないのだ。おまえにも。少なくともあいつの許可を得るまではな』

 

あいつ…………?

ティアは誰かに口止めされているのか?

というか、根本的な話なんだけど、なんでティアがあの場に転移できたんだ?

 

しかし、今のティアの口調だとそれも教えてくれなさそうだ。

 

俺はティアの言葉に更に疑問を抱きつつも、別の質問をした。

 

「ライザーの無事を皆に教えても良いのか? 少なくともレイヴェルには伝えて起きたい」

 

『そうだな…………詳しいことは言えないが、ライザー・フェニックスが無事であることは教えても良いだろう。ただし、駒王町の「D×D」メンバーに限るがな。それ以外への通達は認められない』

 

「よっぽど、秘匿性が高い情報ってことらしいな」

 

『そうだ。今回の件には色々と面倒なことが絡んでいてな。簡単に表に出すわけにはいかないんだ』

 

ティアがそこまで言うか。

 

一体、今回の騒動の裏にどんな闇が潜んでいるのだろう?

話を聞く限りではかなりヤバそうだが…………。

 

俺は少し考えた後、返事を返した。

 

「了解だ。ライザーが無事なことが分かっただけでも大きいよ。ありがとな、ティア」

 

『礼には及ばない。それに連絡が遅れたことは申し訳なく思っている』

 

「いいさ。ティアにはティアの事情がある。それに面倒なことが絡んでいるのなら尚更だよ。本当にありがとう」

 

『それではこれで切らせてもらうぞ? 近々、そちらには改めて連絡がいくだろう。その時にまた会おう』

 

「分かった」

 

 

 

 

ティアとの通信を終えてからのこと。

 

俺は家に住む女性陣達と一緒に地下の大浴場にいた。

ニーナとリーシャ、それから小学生くらいの姿となったサリィとフィーナもいる。

 

皆の表情はこの二日間の暗さを感じさせないほど明るいものになっていた。

理由はもちろん、ライザーの無事を確認できたことを伝えたからだ。

 

伝えた時には皆一様に安堵しているようだった。

特にレイヴェルは今まで張りつめていたものが解かれたような表情をしていたな。

 

「もう、お兄さまったら本当に心配をかけて…………。でも、無事だということが分かって良かったです…………」

 

「ああ。本当に良かったよ。色々不明なところも多いけどさ、とりあえずは無事が確認できた。今はそれだけで十分だ」

 

「はい。…………しかし、お父さまやお母さま、他のお兄さま方にも知らせてはいけないのですよね?」

 

「………悪いな。今はまだダメらしい。だけど、ティアが言うには近々俺達に通知が来るらしい。もしかしたら、その時にライザーに会えるかもしれな」

 

「そうですか…………。ティアマットさまがなぜ、お兄さまの行方を知っているのか気になりますが、それでも気持ちがかなり楽になりましたわ。本当………」

 

「そうだな…………」

 

俺は風呂場に立つ湯気を見ながらそう呟く。

 

色々分からないところもある。

ティアが言っていた闇も気になる。

 

でも、今は、今だけはライザーの無事を喜ぼう。

今日はそれで良いだろう?

 

生きているならまた会える。

不敵な笑みを浮かべて業火を燃やす姿を見れる。

あいつとはもう一度戦おうと約束したしな。

 

ライザーを心配していたリアス達も疑問を抱きながらも、今日はただ無事を喜ぶことにしている。

 

俺はふっと笑みを浮かべた。

 

「今日は眷属も増えたし、ライザーの無事も確認できた。良いことづくめの一日だったなぁ」

 

モーリスのおっさんにリーシャ、ニーナにワルキュリア。

昔の仲間と今の仲間とでまた賑やかな日々を送れる。

 

うちの眷属もメンバーが増えたし、これからは本格的に動けるかな?

 

そんなことを考えていると…………。

 

「お兄さんの背中おっきいね♪」

 

背中にとてつもなく柔らかいものが押し付けられる!

コリッとしたものが当たっていて…………これは!

これはまさか…………!

 

ニーナが生おっぱいを押し付けてきたぁぁぁぁ!

 

「レイヴェルさんのお兄さんのことも良かったし、今日は遠慮なくお兄さんに甘えられるかな♪」

 

ニッコリと微笑むニーナ。

 

湯船ではアリスが悔しそうな表情で拳を握り、その横では美羽が苦笑している。

リアス達もどこか羨ましげな視線をこちらに送っていてだな…………。

 

とりあえず、今の状況を詳しく説明しよう。

 

俺は今…………ニーナとレイヴェルに背中を流してもらっています!

ニーナは背中、レイヴェルは腕をタオルでごしごししてくれているのだ!

 

少し前に女性陣がじゃんけんをしていたんだが、今日はこの二人が勝ったらしい。

 

ニーナが俺に抱きつきながら言う。

 

「私もお兄さんの眷属だもん。しっかりご奉仕しなきゃ。レイヴェルさん、これからよろしくね♪」

 

「こちらこそよろしくお願いしますわ、ニーナさま」

 

微笑みあう二人。

 

うんうん、我が眷属達は仲良くしてくれているようで何より!

 

ダブル金髪美少女に挟まれている俺の横ではリーシャがサリィの頭を洗ってあげていた。

 

「はい、流しますよ」

 

「ぷはぁ。サッパリした! ありがと、リーシャ」

 

プルプルと子犬のように頭を振るって髪の水滴を飛ばすサリィ。

 

お姉さんが子供の面倒を見ているような光景でこちらはこちらで微笑ましい。

 

サリィとフィーナって見た目通りの性格だから、ほんとに子供なんだよね。

何をするのにも二人一緒。

この間は二人でテレビゲームしてたっけな。

グリゴリの研究施設を見学していた時もそうだったけど見るもの全てが新鮮でいつも二人ではしゃいでいる。

 

もしかしたら、九重と仲良くなれるかも?

 

で、我らがお姉さんのリーシャなんだが…………。

 

体にタオルを一枚巻いただけの姿!

細くしなやかな四肢と、豊かなおっぱい!

上から覗けば先っちょが見えてしまいそうだ!

太もももただ細いだけじゃなくて、綺麗なんだよ!

腰から太ももにかけてのラインが最高!

 

そして、何より…………。

 

「うふふ、どうしたのですか、イッセー?」

 

このお姉さんスマイル!

 

あぁ…………いかん!

いかんよ、これは!

リーシャの裸なんて久しぶりだから、色々と元気になってしまう!

 

お、落ち着け、俺!

ここにはチビッ子もいるんだぞ!

 

それに――――――。

 

「なにをじろじろ見ているのでしょうか?」

 

フィーナの体を流しているワルキュリアが汚物を見るような視線を向けてくる!

 

そう、この場にはワルキュリアもいるのだ!

しかも、リーシャと同じくタオルを一枚だけ巻いたお姿で!

 

ワルキュリアが混浴している理由はニーナに誘われたからなんだが…………。

 

くぅぅ…………ワルキュリアも綺麗なんだよなぁ!

同じ銀髪美女だけど、ロセとはまた違った魅力があるんだよね!

 

ま、まぁ、あまり見ていると鋭い視線と共に毒舌が飛んでくるんだけど…………。

 

「混浴なので、見えてしまうのは仕方ありませんが…………あまり凝視されるのはいささか感心しませんね。先程からリーシャさまや私の体を舐め回すように見ているようですが」

 

「んな!? べ、別に舐め回すように見てなんか…………」

 

「…………」

 

「すいません、見てました! ごめんなさいです!」

   

「相変わらずイッセーさまは―――――ド変態ですね」

 

ぐはっ!

 

ナイフのように鋭い視線と心を抉るような口調が俺を痛め付けてくる!

 

ごめんなさい!

俺は変態です!

おっぱい大好き野郎でごめんなさい!

風呂に入ってから、お二人のおっぱいを凝視してました!

舐め回すように見てました!

揺れるんだもん!

 

あ、あれ…………?

俺ってワルキュリアの主になったんだよね?

立場、逆じゃね?

 

なんだろう、この躾られているような感覚は…………?

 

妙な感覚を覚えていると、ニーナが言ってきた。

 

「お兄さんお兄さん、こんなのはどうかな?」

 

ニーナは俺の背中に密着した状態で―――――体を上下に動かしてきた!

首だけ振り替えると、胸の谷間には石鹸!

 

泡立ち、ヌメリを持ったニーナのおっぱいが俺の背中を洗っていくぅぅぅぅぅぅ!

 

「んしょ、よいしょ…………。どうかな? ニーナの洗い方は?」

 

頬を赤らめながら微笑むニーナ。

 

ヤバい…………石鹸のヌメリとニーナの体の柔らかさ、体温が気持ちよすぎて…………!

 

すると、左手にも極上に柔らかい感触が。

こちらはレイヴェルが洗ってくれていた手で―――――。

 

「い、イッセーさま…………私もやってみたのですが…………。いかがでしょうか…………?」

 

れ、レイヴェルのおっぱいが俺の腕をサンドしている!

俺の左腕が左右から挟み込まれてごしごしされている!

二の腕から指の先まで、次々と制覇されてしまっている!

 

ダブル金髪美少女によるご奉仕!

最高じゃないか!

 

しかし、ここで動く者がいた。

 

「わ、私もイッセーさんのお体を洗いますぅぅ!」

 

「あ、アーシアさん!? わ、私もする!」

 

お湯につかっていたアーシアとアリスも参戦!

湯船から出てきて俺の元に駆け寄ってきた!

 

アーシアは俺の正面、アリスは俺の右手を押さえる。

 

二人とも俺に抱きつくような形で、ニーナ達と同じく体を動かし始めた!

 

「ど、どうですか、イッセーさん? わ、私だってこれくらいは…………」

 

アーシアが潤んだ瞳でそんなことを言ってくる!

 

「ニーナばかりにさせないわ…………。わ、私もやるもん…………。私は…………イッセーのお嫁さんだもん」

 

本日二度目のぐはっ!

上目使いのアリスとか反則過ぎる!

 

そんなアリスにニーナが言う。

 

「お姉ちゃん、本当にデレッデレッだね」

 

「う、うるさいわね…………。素直になれって言ったくせに…………」

 

ぷくっと頬を膨らませるアリス。

 

なんということだ…………。

前にアーシア、左にレイヴェル、右にアリス、そして後ろにニーナ…………だと。

四方を裸の金髪美少女達に囲まれ、その上、体を洗われている。

 

これが――――――金髪美少女達による楽園(ゴールデン・ハーレム)か!

 

「お兄さん? 泣いてる?」

 

「ああ…………感動にうち震えているのさ!」

 

今日は本当に最高の日だ!

 

もうこれで終わりで良いだろ。

眷属も新たに迎えて、ライザーの無事も分かった。

おまけに金髪美少女達によるご奉仕。

一日を締めるのには完璧だと思うんだ。

 

すると…………。

 

「あ、イッセーのタオルが盛り上がってる。それ、どうしたの?」

 

「サリィさま、気になさらない方が良いかと。イッセーさまはケダモノですから」

 

 

 

 

 

「今日はお兄さんと一緒に寝たいな」

 

風呂から上がった後、ニーナがそう言ってきた。

 

湯上がりでしっとり濡れた髪から落ちた滴が鎖骨のラインを通って胸元へ流れ落ちていく…………。

今までで一番色っぽいニーナにゴクリと喉がなる。

 

俺は飲み干した牛乳瓶を洗った後、ニーナの頭を撫でた。

 

「いいよ。今日は一緒に寝るか」

 

「うん!」

 

あぁ…………その天使スマイルが相変わらず可愛いなぁ!

まぁ、転生して悪魔になったんだけども。

 

寝ると言ってもまだ夜の九時。

就寝にはまだ早いだろう。

 

ということで、俺とニーナはリビングに出しているこたつに入り込む。

 

「ふぅ…………」

 

「はぁ…………」

 

二人揃ってこたつの暖かさに息を吐く。

 

ニーナは俺に甘えるようにして、肩に頭を乗せてくる。

そして、安心したような笑顔を見せた。

 

「うん、やっぱりお兄さんといると落ち着くなぁ。昔からね、お兄さんとくっついているとポカポカするんだよ?」

 

「ポカポカ?」

 

「うん。こうしてるとね、すっごく気持ちいいの。まぁ、お姉ちゃんの手前、我慢した場面もあったけど。でも、これからは存分に甘えられるね。お姉ちゃんも上手くやれているようで安心したよ」

 

「そっか」

 

やっぱり姉妹だもんな。

姉が去ったのだから、心配もするか。

 

それでも、ニーナはあの時、アリスの背中を押した。

俺の元へと送り届けてくれた。

 

「ニーナには色々と感謝だな」

 

「えへへ。だったら、ご褒美ほしいな」

 

「ご褒美?」

 

俺が聞き返すと、ニーナは頷く。

 

体を一旦起こすと―――――俺の膝に頭を寝かせてきた。

何ともニヤけた顔でニーナは、

 

「お兄さんの膝枕~」

 

くっ…………!

なんて可愛いおねだりなんだ!

この可愛さは美羽に通じるところがあるな!

 

すると、後ろから抱きついてくる者がいた。

 

「もうっ、ボクもかまってほしいな。ボクはお兄ちゃんの妹なんだから」

 

ぷくっと頬を膨らませてそう言うのは美羽。

 

「私もあんたの眷属なんだし、交ぜなさいな」

 

「私も参加しますわ」

 

こたつに侵入してくるアリスとレイヴェル。

 

「うふふ、今日はイッセーの眷属になった記念日です。色々とお話しするのも楽しいかもしれませんね」

 

「ゲームしよー! トランプ!」

 

「人生ゲームも面白そうです」

 

俺の向かいに座るリーシャと、こたつの上にトランプと人生ゲームを広げるサリィとフィーナ。

 

「では、お茶を淹れましょう」

 

キッチンに立ち、お湯を沸かすワルキュリア。

 

ふいにリビングの扉が開く。

部屋に入ってきたのはモーリスのおっさんだった。

 

「おいおい、おっさんをのけ者にするたぁ、寂しいことするじゃねぇの」

 

「のけ者って、おっさんは父さんと飲んでたんだろ?」

 

「おまえの親父殿は早々に寝ちまったよ。つーわけで、イッセー。一杯付き合えよ」

 

「あのなぁ、こっちの世界では俺は十七なんだよ。未成年は飲酒はダメだっての」

 

「バレなきゃ良いのさ。バレなきゃな」

 

うわぁ、絶対にアリスの性格を構成した一部はおっさんだわ。

だって、聞き覚えあるもの、そのセリフ。

 

と、ここで美羽の背後にディルムッドがいたことに気づく。

こいつ、いつの間に来たんだよ?

 

「マスター、ミカンはありますか?」

 

「ディルさん、あんまり食べると太っちゃうよ?」

 

「心配には及びません。肉がつきにくい体質ですので」

 

「なにその体質!? すっごく羨ましい!」

 

ワイワイと賑やかになるリビング。

 

賑やかな声を聞き付けてかリアス達も俺達の輪に参加。

こたつの周囲にも人が集まり、より賑やかになっていく。

 

異世界での仲間とこっちの世界での仲間、家族と笑顔で過ごす。

良いもんだよな、こういうの。

 

 

―――――――。

 

 

「ん?」

 

「どうしたの、イッセー?」

 

「何か…………いや、なんでもない」

 

「?」

 

この時、俺は気づいていたのかもしれない。

自分の体に起きている変化を。

 

でも、俺ははっきりとそれを認識できていなかった。

 

 

 

 

 

――――――君は変革しつつある。それは人間でも悪魔でもドラゴンでもなく、そして神でもない。君は全く違う存在に変わろうとしている。

 

 

――――――その力はこの世界を繋ぐ力だ。

 

 

 

――――――目覚めの時は近い。

 

 

 

 



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4話 進路相談します!?

数日後の朝。

朝食の席にて、母さんが俺に話しかけてきた。

 

「イッセー、明日は三者面談だけど、覚えてるの?」

 

「あー、そういや、明日だっけか」

 

明日は進路についてと三者面談が行われる。

 

母さんは呆れたような声で言った。

 

「もう、忘れてたわね? しっかりしてちょうだい」

 

うん、完全に忘れてました。

というか、俺の進路とかほとんど決まってるようなものでしょ。

まぁ、それは悪魔としての進路なんだけど。

 

母さんが美羽とアーシアに笑顔で言う。

 

「美羽とアーシアちゃんも私が対応するからね」

 

「うん。中学の時もそうだったね」

 

「はい、よろしくお願いします、お母さん」

 

頷く美羽と微笑むアーシア。

 

ゼノヴィアが茶碗を置く。

 

「進路相談か。来るとしたら、うちはシスター・グリゼルダだが…………忙しそうだし、期待はしないでおこう」

 

イリナも進路相談には思うところがあるようで、首を捻っていた。

 

「うちは…………パパもママもあっちにいるし、やっぱり、ゼノヴィア同様にシスター・グリゼルダが対応してくれるのかしら?」

 

レイナが続く。

 

「私はシェムハザさまに頼んでいるわ。と言っても担任の先生には私達の正体バレてるから、かなり気が楽なんだけど」

 

そうだよね…………。

三者面談は当人である俺達生徒、保護者、そして担任の三名で行われる。

うちの担任である坂田先生は俺達のことを知っている…………というか、俺のお得意様になっちまった。

 

正直、今回の面談で話すことってそこまで深くならないような気がする…………。

 

ちなみにアリスも三者面談はある。

そして、アリスの保護者としていくのは―――――。

 

「アリスは私が行きます。姉みたいなものですし」

 

「おっと、俺も行くぜ」

 

と、朗らかに言うのはリーシャとモーリスのおっさんだった。

そう、アリスの保護者として行くのはこの二人。

 

アリスが叫ぶ。

 

「なんで二人なのよ!? リーシャだけで良くない!?」

 

「あん? 何か聞かれちゃ不味いことでもあるのかよ?」

 

「そうじゃないわよ! 私、真面目だし!」

 

「だったら問題ないだろ。…………俺はなぁ、亡き国王陛下からおまえ達のことを託されちまった。それに、俺はおまえがこーんな小さい時から見ているから、もう娘みたいなものさ。だからこそ、親父としておまえの話を聞きに行くぜ!」

 

おおっ、おっさんが何か感動的な雰囲気を醸し出してる。

リーシャもハンカチを目元にあて、感涙しているようなしぐさを見せた。

 

しかし…………。

 

「嘘でしょ! あんた達、暇なだけでしょ!?」

 

「「あら、バレた」」

 

「あんた達ぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

うん、やっぱりこのメンバーは朝から賑やかだわ。

いつも以上に朝食が捗らないな。

 

ロセが言う。

 

「私はまだクラス担任を任されていませんが、資料集めなどでご協力させてもらっています。何はともあれ、進路は大事です。親御さんと相談しながら、自分の力に合った道を選択することが何よりも重要です」

 

うん、ロセが言うと重みがあるな。

ヴァルキリー時代、才能がありながら、芽が出ずにいた魔法の才女。

オーディンのじいさんのお付きになっても、能力全ては発揮できなかった。

リアスの眷属になって、ようやく才知が活かされ、開花した。

 

ロセもここまで来るのに色々なものを見てきたんだろうな。

 

母さんがリアスと朱乃に言う。

 

「リアスさんと朱乃さんはもう卒業を待つだけだものね。進路が決まっている分、春までゆっくりできそうよね」

 

「そうだと良いのですが、準備もありますので中々ゆっくり出来ませんわ」

 

「うふふ、華の女子大生ですので」

 

「そうね。大学生だものね。高校とはまた違うでしょうし、準備は大切だわ」

 

母さんの言葉にリアスも朱乃も微笑む。

 

大学…………キャンパスライフというやつだ。

俺も高校卒業後は大学に行くつもりなので、来年の今頃になれば、リアス達と同じ感じなのかな?

 

ゼノヴィアが小猫ちゃんに問う。

 

「小猫のところはどうなんだ?」

 

「…………私のところは」

 

そう言いかけたところで黒歌が会話に乱入する。

 

「私が行くわ♪ お姉ちゃんだもん」

 

「…………来なくて良いと言ったのですが、どうやら来る気まんまんでして」

 

半目で息を吐く小猫ちゃん。

 

黒歌はそんな小猫ちゃんの頭を撫でながら言う。

 

「つれないにゃん。任せておきなさいよ、私が『うちの子をどうぞよろしくお願いします♪』って誘惑してあげるにゃ。内申書も安泰ね」

 

うっ…………それは…………!

俺が担任だったら絶対に誘惑されてしまう!

黒歌の色気に釣られてしまう!

 

小猫ちゃんの内申を上げてしまうだろう!

 

あれ、でも、小猫ちゃんの担任って…………。

 

「…………うちのクラス、担任の先生は女性ですけど」

 

「ありゃりゃ、それは困ったにゃん」

 

言葉と裏腹に黒歌は特に困った顔もせずに玉子焼きを口に放り込む。

 

小猫ちゃんもああは言ってるけど、なんだかんだで嬉しそうだな。

姉妹の関係が以前のように戻ってきているということなのだろう。

 

小猫ちゃんはレイヴェルに話を振る。

 

「レイヴェルは?」

 

「私は一番上の兄が来ますわ。お父さまとお母さまは…………今は忙しいので」

 

言葉を濁すレイヴェル。

 

ライザーの無事はまだ家族には伝えていないようだ。

いや、俺がそうするように言ったせいだな。

ティアの話から、ライザーの件はそう簡単に話して良いものじゃない。

 

心苦しくはあるが、レイヴェルにはまだ黙ってもらっている。

 

ふぅと息を吐くリアスは在校生たる俺達を見渡して総括するように言った。

 

「色々と考え込むことも多いでしょうけど、進路相談はとても大事なことよ。他のことは自由登校でやることもない私と朱乃が受け持つから、あなた達は学校での生活と将来のことを考えなさい。いいわね?」

 

 

 

 

翌日の放課後。

その日は予定通り進路についての相談、三者面談が行われる。

生徒は順番が回ってくるまで学内で待機。

部活がある者は、時間まで部活動をしても良しということになっている。

 

とうの俺達は旧校舎の部室で各自、時間が来るまで待機中だった。

各部員の親御さんも旧校舎に集合ということになっており、順番が来るまで部室で待つことになっている。

 

他愛のない会話をしていると、部屋に部室の入ってくる者がいた。

 

それは―――――。

 

「これは皆さん、こんにちは。やぁ、イリナちゃん」

 

「パパ!? 来てくれたの!?」

 

素頓狂な声を出すイリナ。

父親の登場に仰天していた。

 

トウジさんはイギリスにいるはずだが…………。

イリナも父親に代わってグリゼルダさんが来るものと考えていたみたいだし。

 

トウジさんは朗らかに笑う。

 

「ハハハ、当然だろう。可愛い娘の将来の相談事だよ? お仕事サボって来日しちゃったよ!」

 

それはダメだろう!?

なにサボってるんですか!

どんだけ娘ラブなの、この人!?

 

「ミカエルさまかお怒りになられるわよ!?」

 

ぷんすか可愛く怒るイリナだが…………。

ミカエルさん的には全然許してくれると思う。

あの人、その辺りは寛大というか…………ゆるいというか…………。

 

娘に怒られたトウジさんは笑って誤魔化す。

 

「冗談さ。実は日本にちょっとした用事があったから、こちらにも寄ることができたんだよ。いやしかし、天使な娘の怒った顔も可愛いものだ、うんうん」

 

相変わらずだな、この人。

らしいと言えばそうだが、なんとも微笑ましい父娘なことで。

 

ふいにトウジさんが俺に近づいて、耳打ちしてきた。

 

(ところでイッセーくん)

 

(はい?)

 

(あれは………使ってくれたかな? どうだった?)

 

なんともいやらしい顔つき。

 

うん、これは十中八九あの部屋のことだよね!

天界が開発した天使と異種族がエッチできるあの部屋!

 

(あ、あ………なんていうか…………)

 

正直に言うと…………使ってます!

 

だって、誘ってくるんだもの!

美少女に誘われたら、ルパンダイブしちゃいますよ!

据え膳食わねば男の恥ってね!

 

ただね、一つ言いたい。

 

俺がトイレに行きたいときに、トイレの扉にあのドアノブを設置するのはやめてくれませんか!?

 

自室に戻ろうとした時や、悪魔の仕事で疲れている時、それはまだ良い!

俺が頑張れば良いだけの話だから!

 

でも、トイレだけはマジで勘弁してください!

これ、心からの叫び!

 

ちなみにあの部屋だが、イリナ、ゼノヴィア、アーシアとローテーションで使ってくる。

最近じゃ朱乃や黒歌が貸してくれとせがんでいるようだ。

 

あと、これは小耳に挟んだことなんだが…………レイナが専用の部屋を先生に相談したとのことだ。

つまり、レイナ専用のドアノブを求めているわけで…………。

 

俺、もつかな…………?

 

ま、まぁ、そういうわけで、あの部屋は使っている。

でも、それを親に報告するのは座する恥ずかしい!

 

(孫、期待しているからね!)

 

などと背中をポンと叩かれる俺。

 

…………周囲の大人達からの孫欲しいアピールが凄まじい。

アザゼル先生に関しちゃ、種族の命運まで託してくる始末だ!

あの人は楽しんでるだけだけどな!

 

「ちょっと、パパ! イッセーくんと何を話しているの?」

 

「ハハハ、あの部屋の具合を聞いていたんだよ!」

 

「も、もう! 娘と幼馴染みの前でそんなことを話題にしないでちょうだい!」

 

一層ぷんすか怒るイリナだが…………。

 

イリナって、結構エッチなんだよね。

天使なのにそれで良いのかって程に。

ま、まぁ、あの部屋のせいということにしておこう。

 

イリナの賑やかな父娘の会話を見ていたゼノヴィアが楽しそうにしていた。

 

「ふふふ、イリナのところは相変わらずだね」

 

無事、生徒会長に就任したゼノヴィアだが、当然、オカルト研究部に顔を出す機会は少なくなった。

だけど、仕事がなかったり、少ないときは部室を訪れてゆっくりしていくことがある。

 

今日は進路相談のためか、生徒会長の仕事を早めに切り上げて待機室でもあるここで順番を待っていた。

 

「ゼノヴィアはグリゼルダさんが来るんだろ?」

 

「ああ。だが、シスターも忙しい身の上だ。今日は私一人で―――――」

 

ゼノヴィアが言いかけた時、部室の扉が開いた。

入室してきたのはグリゼルダさんだった!

なんてタイミングの良さ!

 

「一人で、何でしょうか? ごきげんよう、ゼノヴィア」

 

「シ、シシシ、シスター・グリゼルダ!? ………来てくれたのか」

 

「当たり前でしょう。あなたの保護者なんて私ぐらいでしょうし。さぁ、三者面談の確認をしましょう」

 

言うなり、グリゼルダさんはゼノヴィアの腕を引いてソファの方へ連れていく。

…………連行されたな、ゼノヴィア。

 

「わ、私は別に確認するようなことなどないぞ? 将来のことは大体決まっている」

 

「その大体が心配なのです。あなたの大体は大雑把過ぎて要領を得ない事柄ばかりですから。いいから、こっちに来なさい」

 

有無を言わさぬ迫力………!

笑顔によるプレッシャーか!

 

これには流石のゼノヴィアも冷や汗を流して、

 

「うぅ…………シスターには敵わないな…………」

 

あっさり折れてしまった。

やはり姉には勝てないようで…………。

 

ここで、ふと気になったことがある。

俺は木場とギャスパーに訊いた。

 

「木場とギャスパーって誰が来るんだ? 木場は沖田さんとか?」

 

「師匠は忙しいからね。僕のところは毎年グレモリー家から、それらしい見た目の使用人の方がいらっしゃるよ。ギャスパーくんも同じだったよね?」

 

「はい」

 

なるほど。

グレモリー家には多くの使用人が雇われているから、木場やギャスパーの身内に見える人もいるかな?

 

コンコンと扉がノックされる。

 

「あの…………ここでいいのかしら?」

 

現れたのは母さんだった。

 

 

 

 

待つこと暫く。

三者面談が俺の番に回ってきた。

 

アーシア、美羽が先に面談を済ませ、美羽と交代する形で俺が入室する。

 

教室に入ると母さんと担任の坂田先生。

 

…………いつものように眼鏡も白衣も全てをだらしなく身に付けた、白髪天然パーマの坂田先生。

死んだ魚のような目も相変わらずだ。

 

「…………三者面談ですよね?」

 

「そーだよ。お見合いに見えますか、コノヤロー」

 

「お見合いにも見えねーよ、コノヤロー! 平常運転ですか!?」

 

「んなもん、一々取り繕ってられっかよ。めんどくせーよ。何がめんどくせーって…………あー、考えるのもめんどくせーよ」

 

「どんだけめんどくさいんですか!?」

 

ダメだ!

まともな三者面談じゃないよ、これ!?

 

母さんも何か言ってよ!

 

俺が目で訴えかけると、母さんは…………。

 

「これくらいフランクな方が話しやすくて良いんじゃない?」

 

「フランク過ぎるだろ!」

 

母さん、悪魔だ神だと交流を持ってから色々と毒されてませんか!?

もしそうだとしても、他の保護者は何も言わなかったのかよ!?

 

PTAから苦情来るぞ!

 

「来ねーよ。この世界はご都合主義でできてんだよ」

 

「なんつーこと言ってるんですか! つーか、あんたも心の声読むのやめてくれません!? 流行ってるんですか!?」

 

「知らね」

 

俺は床に両手をついた。

 

…………なんという教師だ。

普段から授業中にジャンプ読んでるし、テスト監督中も寝てるしで、それは分かっていたが…………!

 

アザゼル先生と仲が良いはずだよ!

 

「早く座れよ兵藤兄。俺は早く終わらせたいのよ、これ。早く帰らねーと、ラピュタ始まっちまうだろーが」

 

「…………はぁ」

 

俺は盛大なため息と共に着席。

 

やる気を全く感じられない担任を前にして俺の進路相談が始まる。

とりあえずは学校での俺の態度や成績について触れていくが…………。

 

「授業中、ツッコミ禁止な。志村だけで足りてるから。で、成績は―――――」

 

「他に言うことあるだろ!?」

 

「あー、そうそう。おまえ、苦情来てるぞ。主に男子から」

 

「へ? 男子から? 女子じゃなくて?」

 

エロトークとかしてるから、てっきり女子からだと思ってた。

でも、覗きに関してはきっぱり止めたし…………。

 

だって、美羽達がいるし!

俺は俺のお嫁さん達を大切にすると決めたのだ!

そういうわけで、覗きはしておりません!

学校にもエログッズは持ってきてません!

エロトークだけで済ませてます!

 

で、問題の男子からの苦情だが…………。

 

先生がプリントに書かれたことを読み上げていく。

 

「『妹とイチャイチャしすぎ』、『アーシアちゃんを返せ』、『レイナさんに膝枕してもらっていた。マジでむかつく』、『リアスお姉さまと腕組んでた。呪ってやる』…………」

 

「苦情ってそっちですか!?」

 

「ああ。まだある。一つ一つ聞いてたらきりがないから、苦情箱を設けたんだが…………」

 

「そんなのあったの!?」

 

「学園の男子ほぼ全員から苦情がきた」

 

「んなっ!?」

 

な、なんてこった…………!

学園の男子ほぼ全員から…………だと!?

普段は何気なく話している奴らが俺への不満を学校にぶつけているというのか…………!?

 

どこまで勢力を伸ばしているんだ、委員会!

 

先生は続ける。

 

「女子からの苦情もあるが…………『兄×妹、禁断の愛の話を聞きたい』、『木場きゅんとの関係が知りたい』だと」

 

「それ苦情なの!? リクエストの間違いじゃないの!?」

 

あと、俺と美羽は義兄妹なので禁断じゃないし!

イチャイチャしても問題ないし!

 

俺が言うのも何だけど…………おかしいよ、この学校の生徒!

俺と木場に何を求めてるの!?

 

次々と明かされる俺への苦情(?)に母さんは…………。

 

「イッセー、学校でもベッタリなのね。まぁ、予想はしてたけど。…………孫は近い」

 

あぁ…………もうイヤ…………。

三者面談早く終わらないかな…………。

帰って美羽に抱きつきたい、モフモフしたい…………。

 

そんなこんなで話は続き、ようやく俺の進路について話し合われる。

 

「兵藤兄の希望進路先はっと…………うちの大学部か」

 

「はい」

 

俺としても大学は出ておきたいと思っている。

せっかく大学部もある駒王学園に入ったし、エスカレーター式で行けるなら行きたいとも思っていた。

駒王学園の大学もレベルが高い大学なので、他に行こうとも思わない。

それに悪魔稼業のことを考えるとここの大学部に進学した方が何かと都合が良い。

 

これについては美羽、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、レイナ、木場、アリスとオカ研部員の二年全員が同じ考えを持っている。

 

それから、桐生と松田、元浜も駒王学園の大学部を目指すようだ。

 

つまり、普段からつるんでいるメンツが大学部でも揃うことになる。

 

「成績的には問題ないし、何とかなるんじゃね? ぶっちゃけ、勉強なんざ本人のやる気次第だろ」

 

まぁ、ごもっとも何だけど…………。

それを保護者の前で言うこの人は本当に教師なんだろうか…………。

 

「それで大学卒業後は…………まぁ、グレモリーのところで働くんだろうけど…………。具体的には決まってるのか?」

 

「ええ、大体ですけど…………。この先、俺はグレモリーの領地を任せられる予定なんで、今からそれに向かって勉強はしておこうかな、と。経営とか流通とか」

 

「経営? なんだ、経済学部に入るのか?」

 

「そのつもりです。今の冥界は人間界に倣っているので、その辺りも色々と共通点が多いんです。専門の人に任せることも出来るんですけど、やっぱり任される以上、自分でも分かるようにしておきたいんです」

 

俺の返事に先生は「なるほど」と頷きながらペンを走らせていく。

隣では母さんがどこか感心するような表情でこちらを見てきていた。

 

「そこまで考えてたのね」

 

「まぁね。大学も今までは何となくって感じだったけど、行かせてもらえるなら、何か目的を持とうかなって。もっと今の時間を大切にしようと思うんだ」

 

悪魔になりたてのころは「目指せハーレム王!」ってノリで上級悪魔を目指してたけど、こうしていざなってみると勉強することが多いんだよね。

いつかサーゼクスさんが言ってたように様々な特権が与えられる分、負わなければならない義務や責任が多くなる。

実際に領地を任せられるのはまだ先だけど、だからこそ、今のうちに勉強しておきたい。

 

今更だけど…………俺って目標達成したよね?

ハーレム王…………。

あんな可愛いお嫁さん達もらえることになったし…………。

 

ま、まぁ、半ば美羽の手で進められてるところもあるけど。

 

先生が言う。

 

「やりたい事が決まっているなら、それで良い。ダラダラ大学行くなんざ、時間の無駄だが、ちゃんとした目的、目標があるなら何とかなるだろう。悪魔のことに関しちゃ良く分からんけど、そういうことなら、俺も面倒を見れるってもんだ。とりあえず、学校側には進学後『グレモリー内定枠』での就職を志望してるってことで出しとくわ」

 

「お願いします」

 

グレモリー内定枠、ね。

そうなるとオカルト研究部の面々はほとんどがそうなるんだろうな。

 

シトリーもそういうのがあるんだろうか…………?

リアスとソーナの家はお金持ちという認識されているし。

 

俺の進路についての話し合いが終わり、そろそろこの三者面談も終わるかと思われた時。

先生はため息を吐きながら言ってきた。

 

「なぁ、兵藤兄」

 

「はい?」

 

「少し聞きたいんだけどよ…………天然パーマって魔力で治らないの?」

 

「は?」

 

天然パーマ?

それが俺の進路相談にいったい何の関係が…………。

 

ふいに俺の視線が先生の頭へと向けられる。

目に映るのはクリンクリンの天然パーマ。

 

「治しても治してもすぐもとに戻るんだよ。もう面倒ったらありゃしねぇ。そこで、相談なんだが…………なんか良いもんない? 速効で天パが治る方法!」

 

「あんたの相談かいぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

俺の三者面談はツッコミで始まり、ツッコミで終わった。




さんねーん…………Z組ぃぃぃぃぃぃぃ!


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5話 将来を考えよう

三者面談が終わった、その日の夕方―――――。

 

「おまえ、経済学部を目指すのか」

 

夕食の後、父さんがそう訊いてきた。

 

三者面談の様子を母さんから聞いた父さんはどこか感慨深げな表情を見せている。

 

俺は頷いて肯定する。

 

「まぁ、今のところはね。大学行くなら何を勉強したいかはっきりさせた方が良いと思ったし、今だからこそ学べるものもあると思うんだ」

 

「なるほどな。近頃の子供は何となく進学ってやつが多いと聞くが…………うんうん、おまえがそんな風に考えてくれているのは正直、嬉しいぞ」

 

「ええ、ほんと。あの性欲ばっかりのバカ息子が…………! 私、泣きそう!」

 

「ああ…………! わかるぞ、母さん!」

 

…………ものすごく失礼なことを言われているような気がする。

なぜここで性欲の話になるんだ…………。

 

性欲強いけど!

そこは否定しないけど!

 

父さんがビールをもう一杯開ける。

 

「よし、イッセー。飲め! 二十歳だからいけるだろう?」

 

「実年齢は二十歳でも、十七歳で通してるんだよ! やめてくんない!?」

 

俺がそう言うが、そこへモーリスのおっさんが、

 

「よし、飲め!」

 

「なんでだ!?」

 

「おっさんになるとな、若いやつと飲みたくなる日も出てくるのさ」

 

「知らねぇよ!」

 

どれだけ飲ませたいんだ、あんた達は!

 

すると、俺の隣に座っていたアリスが手を伸ばす。

 

「はいはいはい! 私が飲む!」

 

「おまえ、二本目だろ!?」

 

「良いのよ、別に! やけ酒よ!」

 

おっさんからもぎ取ったビールをぐびぐびと飲んでいくアリス!

何があった!?

 

アリスは半分泣きながら叫ぶ。

 

「リーシャ! よくもあれこれ話してくれたわね!」

 

「あら? 本当のことを言っただけですよ? アリスの進路はイッセーのお嫁さんで良いのですよね?」

 

「ぶふぅぅぅぅ!」

 

噴き出す俺!

 

三者面談でそれ言ったの!?

それはダメだろう!?

 

間違ってないよ?

間違ってないけどね!?

それでも、三者面談でそれはどうかと思うんだ!

 

アリスはテーブルに突っ伏す。

 

「もうダメ…………私、あの学校行けない…………」

 

おいおいおい!

どこまで話したんだ、リーシャは!

アリスがノックアウトされてるぞ!?

 

ロセが優しい微笑みを浮かべて言ってくる。

 

「目標を持つことは良いことです。早め早めに目標を持っておくと、勉強も捗りますからね。…………そ、その経営を学びたいんですよね?」

 

「そうだよ。将来的にはグレモリーの領地を任せられるわけだしね。全く知識がないというのはどうかと思ったんだ」

 

俺がそう答えると、ロセはこちらに歩み寄ってきて小さな声で…………、

 

「そ、その…………私もその手の知識は教えることが出来ますので…………か、家庭教師というか…………ま、マンツーマンで教えることも、出来ますよ?」

 

頬を染めながら俺にしか聞こえない声で言うロセ。

 

マンツーマン…………だと!?

それはあれですか、家庭教師プレイが出来ると!?

 

いやいや…………落ち着け、俺。

ロセは俺のために教えてくれるわけで、そんな邪な想いを抱くなど言語道断!

ロセに対して失礼だ!

 

しかし…………ロセの表情を見ていると何か期待しているようにも思えて…………。

 

勉強後のご褒美。

机にロセを押し倒して、そのまま…………!

 

おっと、いかんいかん!

 

俺は大きく咳払いする。

 

「うん、その時はよろしくな。まぁ、とりあえずは大学部への進学を決めないといけないんだけどね」

 

そう、何よりもまずは大学部に合格しなければならない。

今日の話は大学部への進学が確定しているということを前提にしているからな。

その前提を満たさなければ話にならない。

 

美羽達と勉強しているだけあって、幸いにも合格レベルはあるようだ。

今後もこつこつ勉強していきますかね。

 

ロセは顔を真っ赤にしながら、オホンと小さく咳払いした後に続ける。

 

「ここにいるほぼ全員は大学卒業後、グレモリー関連の企業に就職するのではないか、と予想されています。教員の中では『グレモリー内定枠』と言われているほどです」

 

「ちなみに『シトリー内定枠』もあるのよ?」

 

と、リアスが付け加えてくれた。

 

あ、やっぱりあるのね、シトリー内定枠。

そちらは主に生徒会、シトリー眷属なんだろうけど。

 

 

 

 

「やれやれ、うちの親も大袈裟だな。これでも将来のことは考えてるってのに。まぁ、そうしないといけない立場なんだけど」

 

風呂から上がった俺は同じく風呂上がりの美羽にそう漏らしていた。

 

俺の呟きに美羽も苦笑する。

 

「それだけお兄ちゃんのことを考えてるってことだよ」

 

「考えてる、ね…………。そういや、美羽の方はどうだったんだ? とりあえずは大学部に行くって言ったんだろ?」

 

「うん。その後はお兄ちゃんの手伝いって決まってるし、そこはそう伝えておいたよ。でも、お兄ちゃんも勉強することを決めてるなら、ボクも決めないとね」

 

顎に手を当てて考え込む美羽。

 

美羽も将来的には俺の眷属として色々と手伝ってもらうことになるだろう。

その時に向けて美羽も今から備えておこうと言うのだ。

俺としてはありがたく思う。

 

真剣な表情の美羽を見ていると、何となく気になったことがある。

 

俺は美羽に訊ねる。

 

「美羽も上級悪魔目指すんだよな?」

 

「うん。ディルさんと約束したもんね」

 

ディルムッドとの約束。

その約束とは、いつか、美羽が上級悪魔になった時に眷属としてディルムッドを迎え入れること。

 

つい最近聞かされた話で、どうやら二人とも真剣らしい。

 

美羽は嬉しそうに語る。

 

「ディルさんね、ボクのことを本当に家族だと思ってるって言ってくれたんだ。それはボクがお兄ちゃんに持っている想いと近いんだと思う」

 

「それは美羽のことをお姉ちゃんみたいに思ってるってことか?」

 

「うん、多分ね。………家に来てから笑うことが出来たって。忘れていたものを取り戻せた気がするって言ってたよ」

 

笑うことが出来た、か…………。

 

初めてあいつと出会った時―――――京都で見たあいつは誰も寄せ付けないオーラを出していた。

一応は仲間であるはずの英雄派にすら牙を剥くような危ない奴だった。

 

今では食い意地のはった、少し変わった女の子。

美羽と話している時にはよく笑っているのを見かける。

 

…………たまに乙女な(?)ところもあるけど。

トイレで遭遇した時は殺されるかと思った…………。

向こうも泣きながら槍を向けてきたし…………。

 

ま、まぁ、あいつも色々と変わることが出来たってことかな?

 

「お兄ちゃん、ボクね、上級悪魔になるよ。そして、自分の駒を貰ってディルさんを眷属にするよ。それがいつになるかは分からないけど…………」

 

「美羽ならすぐになれるだろ。実力もあるし、頭も良い。焦ることはないさ。それに…………いきなり飛び級とか、マジで大変だから。順を追って昇格した方が絶対に良い」

 

下級悪魔から上級悪魔への昇格推薦。

近年、昇格すること自体が稀な中、飛び級で受けさせてもらえるというのは物凄く光栄なことなんだと思う。

転生して一年も経っていない中での昇格だ。

混乱もあったが、当然嬉しくもあった。

 

しかし、昇格してから初めて分かることがある。

上級悪魔になったとき、自身のいる立ち位置。

それに伴ってくるもの。

 

冥界のことで知らないことが多い俺にはかなりの厳しいものだ。

今はリアスやレイヴェル、皆の支えもあって、何とかやってこれたが、一人だったまず無理。

これは断言できる。

 

だから、美羽が本当に上級悪魔を目指すのであれば、出来るだけ段階を踏んでから昇格してほしいと思う。

 

「もちろん応援はするけどな」

 

「うん、ありがと、お兄ちゃん」

 

美羽は微笑むと腕を組んできた。

 

美羽の髪、体から良い香りが漂ってくる。

それに美羽の体の柔らかさや熱も合わさって、なんとも心地いい。

 

よし…………部屋に戻ったらモフモフしよう。

 

そんなことを考えながら二階へと上がった俺だったが…………。

上がった通路の端に大きめの段ボール箱が置かれているのを見つけた。

 

「お兄ちゃん、あの箱何か知ってる?」

 

「いや…………誰のだ、これ? つーか、こんなもんここに置いてたっけ?」

 

段ボールで思い浮かぶのはギャスパーだ。

最近はそうでもないけど、俺の中ではギャスパーと段ボールはセットなんだよね。

 

しかし、俺が段ボールから感じた気はギャスパーのものではなかった。

 

「おいおい…………」

 

俺は息を吐きながら、段ボールに近づき、それを開けた。

 

そして―――――。

 

「なにやってるの…………ヴァレリー?」

 

段ボール箱の中に三角座りでちょこんと座っていた金髪美女―――――ヴァレリーにそう訊ねた。

 

赤い瞳が俺を捉えて、ニッコリ笑う。

 

「あ、ごきげんよう」

 

「「うん、こんばんわ」」

 

俺達兄妹がそう返すと、ヴァレリーはすっと立ち上がり、箱から出てくる。

 

教会から譲ってもらった本物の聖杯の欠片を加工して作られたペンダントによって、ヴァレリーはこうして意識を取り戻すことができた。

 

しかし、経過は慎重に見た方が良いと先生に言われており、行動は制限されていたはずだが…………。

 

とりあえずの疑問としては、

 

「なんで、段ボール?」

 

そう、なぜにヴァレリーが段ボールの中に入っていたか。

 

イタズラでもしようと思ったのか?

起きたばかりでそんなことを思い付くなら、この子もかなりのやんちゃ娘だ…………。

 

うちのアリスさんみたいに。

 

 

 

~そのころのアリス~

 

 

地下の大浴場にて。

 

「うわぁ、お姉ちゃんのおっぱい大きくなってる! 前はぺたんこだったのに」

 

「う、うるさいわね! ようやく胸にも成長期が来たのよ!」

 

「成長期~? 本当はお兄さんに揉まれてるからじゃないの? 知ってるよ、お姉ちゃん…………おっぱい出るんでしょ?」

 

「な、なななななんでそれを!?」

 

「お兄さんから聞いちゃった♪」

 

「あのバカぁぁぁぁぁぁ! なに話してくれてんのよ!?」

 

「それでそれで? おっぱい吸われるのってどんな感じ? やっぱりお兄さんに触られると良いの?」

 

「え、えっと、それは…………」

 

顔を真っ赤にしながら、一誠との夜について語るアリスだった。

 

 

~そのころのアリス 終~

 

 

今ごろアリスはニーナと姉妹で仲良くしてるだろうな。

 

と、それよりも今はヴァレリーか。

 

「ギャスパーの真似をしているところなの。この箱に入るとギャスパーは落ち着くそうだから、私も入ってみようかと思って」

 

ギャスパァァァァァァ! 

おまえ、なんつーもんを恩人に紹介してるんだよ!?

引きこもりの極意とか教えてないだろうな!?

つーか、今でも段ボールの方が落ち着くんかい!

 

俺が心の中でツッコミを入れていると、美羽が苦笑しながらヴァレリーに訊ねる。

 

「体の調子はどうかな?」

 

「ええ、おかげさまで転移魔法陣経由とはいえ、こちらのお家まで来ることが出来るようになったわ。今日はギャスパーと一緒にお邪魔させてもらってます」

 

まぁ、今はまだ直接歩いて移動するのは辛いだろうな。

魔法陣で移動する方が懸命だ。

 

ふいにヴァレリーは廊下のあらぬ方向に視線を向けつつも、首を傾げながら言った。

 

「そういえば『皆』の声が聞こえなくなってしまったのよね。不思議だわ」

 

『皆』…………彼女に宿る聖杯が起こす副作用。

この世にあらざる者達が見えてしまい、その声も聞こえてしまう。

 

先生曰く、それは本来、見ても聞いてもいけないものだそうだ。

 

まともに接触し続ければ、精神が汚染されて、イカれてしまう。

吸血鬼の町で出会った時のヴァレリーはまさにそれだった。

 

今のヴァレリーは聖杯を使用していないことと、本物の聖杯で作ったペンダントを首にかけているおかげで意識はハッキリしているし、瞳にも曇りがない。

 

そのことに安心感を思えながら、俺は笑顔で訊く。

 

「生活で困ったこととかあるか? 言ってくれたらサポートするよ」

 

「…………えーと、そうねぇ」

 

首を捻って考え込むヴァレリーだったが、彼女は笑顔で答えた。

 

「特にないかも。ギャスパーがいてくれるから、寂しくないわ」

 

ギャー助め、頼られちゃってまぁ…………これからも益々男が磨かれていくな!

 

うん、この感じなら問題無さそうだ。

ようやく、二人は安住の地を得んだ。

せっかく、目を覚ましたんだし、あいつと楽しまないとな。

 

「あー、ヴァレリー! ここにいた! あまり動き回っちゃダメだよ! まだ様子を見ているところなんだから!」

 

慌てながら階段を降りてきたのはギャスパー。

 

こいつもヴァレリーのことになるとハキハキしてるな。木場もトスカさんと二人でよろしくやってるし。

 

「オカ研男子部員の春なのかね」

 

「お兄ちゃんはずっと春だよ?」

 

そう言われるとね。

確かに春続きだよ。

 

でも、木場もギャスパーも守る存在が出来たというのは大きいだろう。

もちろん、これまでも主であるリアスのため、仲間のために力を振るってきたんだけど、それを越えて守るべき存在、女の子が出来た。

男として多少の無茶はするかもしれないけど、彼女達を残してしまうような真似はしないだろう。

 

今後の二人の成長に注目だな。

 

「動くときは僕と一緒って言ったでしょ!」

 

「うふふ、ギャスパーは厳しいわ」

 

なんとも微笑ましい二人だった。

 

 

 



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6話 父と母、息子と娘

今回はイッセー母と美羽達の会話がメイン!
というわけで、今回はシリアルはないかもです。


午前の授業が終わり、昼休みに入った時だった。

 

オカルト研究部の部室に急遽集められた『D×D』メンバー。

俺達が集まった理由はアザゼル先生から呼び出しがあったからだ。

 

先生は集まったメンバーを見渡してから言った。

 

「ティアマットから情報がいってると思うが、こちらでも確認できた。というより、通知があった。ライザー・フェニックスは無事だそうだ」

 

そう、今回呼び出されたのはライザーの件についてでだ。

ティアからは改めて通知があると言われていたけど、先生を通しての通知だったとは。

 

隣にいたレイヴェルは再度の知らせに胸を撫で下ろしていた。

先の知らせで安心はしていたものの、改めて無事だということか確認できたからだろう。

心から安堵しているようだ。

 

他のメンバーもレイヴェルと同じで安堵の息を漏らしている。

 

穏やかなムードになったところで、俺は先生に訊ねる。

 

「通知はティアからですか? いや、それなら直接俺に来るか…………」

 

「だろうな。俺にメッセージを送ってきたのはティアマットじゃない。―――――魔王アジュカ・ベルゼブブ。ライザーの身柄を確保したのはやつさ」

 

 

 

 

[美羽 side]

 

 

アザゼル先生から通知を受けたその日の夜。

『D×D』メンバーは一旦解散となった。

 

ライザーさんの身柄は後日、フェニックス家へと直接送られるらしいけど、その前に今回の件に関する説明があるらしく、ボク達『D×D』メンバーは魔王アジュカ・ベルゼブブと出会うことになった。

 

ボクはお兄ちゃんとお風呂に入った後に自室に戻った。

そして、今はリビングに向かっていた。

 

お兄ちゃんは自室に籠っている。

何やらすることがあるらしい。

 

階段を降りていくと、リアスさんとアーシアさんと鉢合わせする。

 

「二人とも、お風呂上がり?」

 

「ええ。美羽はもう入ったのかしら?」

 

「うん。さっき、お兄ちゃんとね」

 

「…………美羽、今度は譲ってくれないかしら? 私もたまにはイッセーの背中を流したいわ!」

 

「わ、私も! 私だってイッセーさんのお背中流したいです!」

 

「あはは………。それじゃあ、今度、順番決めよっか? 他の皆もいるし」

 

「ええ」

 

「そうですね。イッセーさんは皆のイッセーさんです」

 

ボクの提案に頷く二人。

 

お兄ちゃん、本当にモテモテだね。

まぁ、それだけお兄ちゃんに魅力があるってことかな?

ボクもその魅力に惹かれちゃったんだけど。

 

リビングに向かう途中、アーシアさんが言う。

 

「ライザーさん、ご無事で本当に良かったです」

 

ホッと胸を撫で下ろすアーシアさん。

 

リアスさんも微笑みながら言う。

 

「ええ、本当にね。一応、イッセーを通してティアマットの報告を受けていたけど…………。改めて確認できで良かったわ。…………それで疑問が晴れたわけではないのだけれど」

 

リアスさんのいう疑問。

 

なぜ、ティアさんがライザーさんの無事を知っていたのか。

なぜ、アジュカさんが彼を保護しているのか。

ティアさんとアジュカさんは一体どういう繋がりなのか。

 

そして――――――王者ディハウザー・べリアルはどこへ行ってしまったのか。

 

これらの情報は極秘事項らしく、極少数の者達にしか伝えられていない。

 

ティアさんもお兄ちゃんにですら、教えられないと言ったほどのことだ。

きっと、ボク達の予想を越える闇が隠されているのだろう。

 

おそらく、今度の邂逅ではその辺りが明らかになるはず。

お兄ちゃんはそう漏らしていた。

 

ボク達が湯上がりにアイスを食べようとリビングに入った時だった。

 

「あら、三人ともお風呂上がり? うふふ、アーシアちゃんの新しいパジャマ似合ってるわ」

 

お母さんがテーブルに色々と広げていた。

 

パジャマを誉められたアーシアさんは嬉しそうに微笑む。

 

「ありがとうございます、お母さん。…………ところで、何をなさっているのですか?」

 

「私? うふふ、これよ」

 

お母さんは一冊の本を広げて見せてくれた。

それはアルバムだった。

 

数多くのアルバムがテーブルの上に広げられていて、幼い頃のお兄ちゃんの写真が収まっていた。

 

「前にも見せたことがあったわね」

 

「あれは改築前、家で部活をしたときだね。リアスさん、すっごくテンション上がってた」

 

ボクが微笑みながら言うと、リアスさんは顔を真っ赤にして、

 

「そ、それは! 小さいイッセーがあんまりにも可愛かったからで! そ、それに私だけじゃないわよ!?」

 

うん、物凄くテンパってるね。

普段、凛としたリアスさんのこういうところは可愛いと思う。

同じ女子でリアスさんの方が歳上だけど、なんかこう抱き締めたくなっちゃう。

 

ボク達はソファに腰を下ろすと、それぞれアルバムを手にとってお兄ちゃんの過去を眺めていく。

 

あぁ…………ちっちゃいお兄ちゃん…………!

何度見ても可愛いなぁ!

ずっと見ていても飽きないよ!

 

実は以前、アザゼル先生にお兄ちゃんを小さくする道具を作ってもらったんだけど…………。

もう皆の反応が凄かった。

お兄ちゃん、ほとんどぬいぐるみ扱いだったもんね。

 

何度かこのアルバムを見たことがあるけど、その度に思うことがある。

アルバムの写真は事あるごとに撮られていて『イッセー、初めての○○』というタイトルで収められているんだ。

 

お兄ちゃんが作ってくれたボクのアルバムもそうだけど、かなり細かく成長を記録しているみたいで、

 

「お兄ちゃんって実はお母さんに似たのかな?」

 

「そうかもね。…………一人息子だもの。なんだかんだ言って、私にとってもあの人にとっても可愛い子供なのよ。だからかしら、たまにね、赤ちゃんの頃から最近の写真まで見たくなるの。あの頃は可愛かったなぁってね。今ではすっかり大きくなってしまって『本当に私のお腹に入っていたの!?』って思っちゃうわ」

 

冗談混じりに言うお母さん。

 

ずっとお兄ちゃんの成長を見てきたお母さんだからこその感想なのかも。

最初は抱っこ出来る大きさだったのに、今ではお母さんよりも大きくて、逆に抱き抱えることが出来るくらい。

それは当たり前のことなんだけど、お母さんからしてみれば、驚くことなのだろうね。

 

もし、ボクが母親になった時は今のお母さんのようになるのだろうか?

自分はどんな母親になっているのか気になってしまう。

 

一つ一つのアルバムに目を通していくと、ある物を見つけた。

アルバムとは別に置かれていたのは母子手帳。

 

リアスさんがそれを手に取った。

 

「これは………」

 

「それは母子手帳と言って、妊娠中から出産、その後の子供の成長や健康状態を記録するものなの。冥界や外国ではどうなっているかは知らないのだけれど、日本では母親になるとその手帳に記録していくのよ」

 

ページを捲ると一つのページにぎっしりと文字が詰められていた。

お腹の中の状態から、お医者さんの言葉まで。

 

「あ、そうそう。エコーの写真もあるのよ?」

 

そう言ってお母さんは別のアルバムを取り出した。

中にはお母さんのお腹の中にいる時のお兄ちゃんの写真がいくつも貼られている。

 

この写真を見せてもらったのは初めてかも。

 

母子手帳を捲っていくと、とある物が挟まれていることに気づく。

安産祈願のお守り。

それが二つ。

 

二つ…………?

 

ボクが首を傾げていると、お母さんが教えてくれた。

それはとても悲しそうな目で…………。

 

「これはね…………イッセーが生まれる前、私の中にいた赤ちゃんの分なの」

 

「え………?」

 

思わず聞き返してしまうボク。

 

リアスさんとアーシアさんもお母さんの言葉が何を意味しているか分からない、そんな表情だった。

しかし、時間が経つにつれてその言葉の意味を理解していく。

 

お兄ちゃんの生まれる前にお母さんのお腹にいた。

でも、お兄ちゃんの上には誰も…………。

 

つまり、それは―――――。

 

お母さんは深く息を吐くとボク達の目を見つめながら言った。

 

「これはイッセーも知らないこと。イッセーが生まれてからは話したことがなかったから…………。でも、いつかあなた達も子供を作る時が来る。だから、皆には話しておくべきなのかもね。いえ、母親になるなら知っておくべき事だと思う」

 

お母さんは語り始める。

お腹に手を当てて、昔を思い出すようにボク達に教えてくれた。

 

「私はね、生まれつき子供を宿しにくい体質だったの。それが分かったのは結婚してから数年後。なかなか赤ちゃんが出来なかったけど、ようやく出来たのよ。最初は私もお父さんも舞い上がったわ。ようやく、ようやくだってね。けれど…………」

 

途端、お母さんの表情は暗くなった。

 

「その後の検査でお医者さんに言われたのよ。お腹の子は諦めてくださいって。…………私がそういう体質だったから。お父さんは気にするなって言ってくれたけど、私はずっと…………。でも、それから二年後のことよ。また赤ちゃんが出来たの。その時のお父さんの喜びようはもうね」

 

その時のお父さんは物凄くはしゃいでいたらしい。

二人で本屋に行って、出産、育児関連の本を大量に購入したそうだ。

今思えば過剰に買いすぎたとお母さんは言うけど、それほどまでに待ち望んでいたことだったのだろう。

二人で本を読んでは、出産のために他の産婦人科…………いわゆるセカンドオピニオンもしたそうだ。

 

今度こそ、今度こそはきちんと生んであげたい。

その一心で二人は動いていた。

 

しかし、またも悲劇が二人を襲った。

その赤ちゃんを生んであげることが出来なかったのだ。

 

「あの時は本当に辛かった。お医者さんは私達だけじゃないと言ってたけど…………どうして私達なんだって。何でまた私達から赤ちゃんを奪うのって神さまを恨みさえしたわ」

 

それからは二人とも赤ちゃんは半ば諦めて、二人で生活することを決めた。

二人で旅行して、二人でショッピングをして、二人で釣りをして。

まるで新婚のようだったとお母さんは言う。

 

ふいにお母さんは母子手帳を手にとって、その表紙を撫でた。

 

「結婚してから八年。私達も諦めてたんだけどね、また赤ちゃんが私に宿ってくれたのよ。本当にあの時は涙で前が見えなくなるくらいに泣いたわ。それからはもう私もお父さんも鬼気迫るものがあって…………。ある日、お父さんが裸足で帰ってきたんだけど…………何してたのって聞いたら、何て返ってきたと思う?」

 

お母さんの問いにボク達は顔を見合わせた。

 

ボクだけでなく、リアスさんもアーシアさんも首を傾げてしまっていた。

ボク達三人の様子にお母さんは微笑む。

 

「お父さんね、裸足でお参りしてたのよ。雪が降るくらい寒い夜だというのに。それを聞いたときは流石に怒ったわね。『あなたが体を壊したらどうするの!』ってね」

 

「でも、それだけお父さんも必死だったってことだよね?」

 

「そう。その気持ちは本当に嬉しかった。本音を言えばちょっとプレッシャーもあったけど。またダメだったらどうしようって考えたこともあったわ。でも、今度こそ、今度こそは、三度目の正直で! って、嫌な考えは出来るだけ無くして、今度こそは生んでやるんだってね。そうして生まれたのが―――――」

 

お母さんは母子手帳に記された名前を指でなぞった。

 

お母さん達にとって三人目。

それが『兵藤一誠』。

 

「『一誠』って名前はお父さんが考えたのよ? 一番、誠実に生きてほしいって。…………まぁ、スケベすぎて名前負けしてるところはあるのが残念だけど」

 

その言葉には流石に苦笑しか返せない。

 

でも、お兄ちゃんは誰よりも優しい人になったと思うよ?

ちょっとエッチ過ぎるけど、その分、誰よりも優しい人。

 

お母さんもそれは分かってるんじゃないかな?

 

お母さんも微笑む。

 

「皆のイッセーへの反応を見ているとあながち名前負けでもないのかしら? あんなに逞しくなって、結構深く考えていて…………。私達の知らないところで大人になったのよねぇ。それでも、私の可愛い息子だということは変わらなくて…………不思議なものだわ」

 

「やっぱり産むときは大変だった?」

 

「そりゃあもう! ものすっごく痛かったわよ。『このままだと私が死んじゃう!』ってくらいには」

 

「そ、そんなに痛いんだ…………」

 

「でも、母親になるなら誰もが通る道。ヴェネラナさんもリアスさんを産むときは大変だったって言ってたわよ?」

 

「母とそのような話をされていたのですね」

 

「うふふ、ママ友ですもの♪ まぁ、ともかく、我が子っていうのはいつまで経っても可愛いものよ」

 

お母さんはウインクするとアルバムのページを捲っていった。

小さい時のお兄ちゃんから始まり、成長を記録した写真達。

 

お兄ちゃん一人を写したものから、三人並んだ家族写真まで。

 

すると、とあるページから人数が一人増えた。

そこにはボクがこの世界に来た日付が記されていて――――――。

 

お母さんは優しい瞳でボクに語りかけた。

 

「ここから娘が出来た。兵藤美羽―――――私達の娘。大切な、本当に大切な娘」

 

初めて出会った時、受け入れてもらえるか不安だった。

お兄ちゃん…………イッセーがいてくれたとはいえ、本当に不安で怖かった。

得体の知れない自分を受け入れてくれるのか。

 

でも、お父さんとお母さんは嫌な表情一つせずにボクを家族だと娘だと言ってくれた。

名前をつけてくれた。

 

ボクはアスト・アーデの魔王シリウスの娘、ミュウ。

それは今でも変わらない、変えたくない事実。

シリウス…………お父さんの娘だったことはボクの誇りだから。

 

でも、今、ボクを娘と呼んでくれるお父さんとお母さんも大切な家族なんだ。

 

お母さんはボクの頭を撫でると優しく微笑んだ。

 

「美羽、あなたは私達の娘よ。たとえ血が繋がらなくても、お腹を痛めて産んだ子じゃなくても、あなたは私達の大切な娘。いつでも、どこにいてもそれは変わらないわ」

 

その瞬間―――――ボクの頬を熱いものが伝った。

 

悲しい訳じゃない。

そんな感情は微塵もない。

 

ただ…………ただ嬉しかった。

もう何年も家族として過ごしてきたのに、改めて言われると嬉しくて…………嬉しくて…………!

 

お母さんがアーシアさんへと視線を移す。

 

「アーシアちゃんも。私達のこと、お父さん、お母さんって言ってくれた。そうね、私達にとってもアーシアちゃんも大切な娘なの」

 

「…………っ!」

 

真っ直ぐ『娘』と言われたアーシアさんも、止めどなく涙を流してしまっていた。

嗚咽を漏らし、お母さんに抱きつく。

アーシアさんはお母さんの胸の中で号泣し始める。

 

「はい…………! 私はお母さんの、お父さんの娘です…………! ずっと、一緒です!」

 

お母さんはアーシアさんの髪を撫でながら苦笑する。

 

「あらあら、こんなに泣いちゃって。イッセーに見つかったら怒られちゃうわ。でも…………今は本当に幸せよ。イッセーが産まれて、あんなに逞しくなって。美羽が来て、アーシアちゃんが来て、リアスさんが来て。今ではたくさんの娘が出来た」

 

お母さんは過去を振り替えるような目で呟いた。

 

「長かった。本当に長かった。でも、私達の人生はこの幸せのためにあったかもしれない。そう思うとここまで頑張ってきた甲斐があった…………なーんてね」

 

冗談っぽく言ってるけど、本当にそうなんだと思う。

お母さんの笑顔は本当に今を幸せだと感じている。

そうじゃなかったら、こんな笑顔は出来ない。

 

「…………」

 

…………リビングのドアの近くに影が見えたけど…………。

あれってもしかして…………。

 

その事に気づいたのはボクだけなのか、お母さんはボク達の肩を持って言った。

 

「イッセーをお願いね? あの子、結構頑固なところがあるから…………もしかしたら見えないところで無茶するかもしれない。私も本当はあの子の支えになってあげたい。でも、私達に出来るのはあの子の帰る場所を守ることだけだから…………」

 

息を吐くお母さん。

 

ボクは…………ボク達はその手を握った。

 

「大丈夫だよ。お兄ちゃんは皆を悲しませるようなことはしないよ。必ずボク達のところに帰ってくる。どんなときでも」

 

「そうですわ。私達もイッセーを支える仲間で家族です。彼には及びませんが、私達も共に戦ってきた仲ですわ」

 

「イッセーさんがケガをした時は私が治してみせます!」

 

 

 

[美羽 side out]

 

 

 

 

 

俺は自室に入ると一人、ベッドに突っ伏していた。

突っ伏して…………泣いていた。

 

たまたまリビングから聞こえてきた美羽達の会話。

話題が俺のことだったから、少し気になって立ち聞きしてしまったんだけど…………。

 

知らなかった。

父さんと母さんがどんな想いだったのか。

どんな想いで俺という一人息子を育ててきたのか。

 

俺が産まれる前、俺の兄、もしくは姉になる赤ちゃん達。

本当なら俺にも兄姉がいたのかもしれない。

 

母さんの話を聞いたら、色々な思い出が自然と沸き上がってきて…………涙を抑えられなくなっていた。

 

「…………泣いてるの?」

 

そう声をかけられたので、そちらを向くと赤い髪のお姉さん――――イグニスが立っていた。

 

俺は目元を袖で覆いながら呟くように言う。

 

「知らなかったんだ。母さんがどんな想いで俺を産んだのか…………。知らなかった。父さんがどれだけ俺が誕生するのを待ち望んでいたか。今日、初めて知ったよ」

 

「そう」

 

イグニスは頷くと俺の隣に腰を下ろした。

 

そして、俺の頬を撫でながら微笑む。

 

「親の愛情というのはとても深いもの。子供が感じている以上に親は子供のことを想ってる。母は強し、なんて言うけど、あれ本当のことなのよ?」

 

イグニスはクスリと笑う。

 

母は強し、か。

確かにその通りだ。

なんだか、一生かかっても勝てる気がしないや。

あ、それは父さんもか。

 

「イッセー、あなたは祝福されて生まれてきた。神とかそんなものではない。父に、母に愛されてこの世に生を受けた。これはとっても幸せなことなのよ?」

 

「そう、だな………」

 

「イッセーのお父さんもお母さんも、あなたが戦場に赴く度、心が締め付けられそうになっているわ。それでも止めないのは、それがイッセーが望まないことだから。止まってしまえばイッセーは必ず後悔する。それも一生消えない後悔。だから、二人は自分の気持ちを抑え込んでいる」

 

俺のため…………。

そういや、ロキが襲撃してくる直前にもそんな話をしたな。

 

母さんは泣いて俺を止めようとしたけど、父さんは俺の想いを汲んでくれていて…………。

父さんも母さんと同じくらい心が悲鳴をあげていたんだろうな。

 

「俺って、親不孝者だよな…………」

 

ボソリと呟いた俺だったが…………。

 

いきなり、イグニスが両の頬を摘まんで引っ張ってきた!

 

「イダダダダダダ! な、なにふんらよ(な、なにすんだよ)!?」

 

慌ててイグニスの手からのがれようとするけど、離してくれねぇ!

イグニスってこんなに力強かったっけ!?

 

しばらくもがいていると離してくれたけど…………うぅ、ヒリヒリするぅ…………。

 

俺が頬を擦っていると、イグニスは俺に指を突きつけて言ってきた。

 

「もう、分かってないわね。あなたが無事に帰ってくる。それだけで親孝行ってものでしょう? 二人にとってはイッセーと、皆と、家族と過ごす何気ない日常こそが幸せなんだから」

 

「…………っ!」

 

「良いこと? 二人に感謝しているのなら、これからも二人のそばで笑ってあげなさいな。それが何よりなんだから」

 

…………。

 

…………。

 

…………ヤバい。

俺、また泣きそうになった。

 

駄女神が女神してる!

エロエロお姉さんがちゃんとお姉さんしてる!

 

あ、ヤベッ、涙が止まらなくなってきた…………。

ちくしょう、ダブルパンチかよ…………!

 

俺は涙を拭うと笑顔で頷いた。

 

「ああ!」

 

俺の返事にイグニスはニッコリと笑みを浮かべて満足そうに頷く。

 

あぁ…………いかんね、涙もろくなってる。

俺も歳なのかな…………ってまだまだ若いじゃん、俺!

 

しかし、イグニスが良いこと言うと泣けるんだよなぁ。

良い意味で。

なんか、こう感動するんだよ!

 

 

 

 

 

…………これが俺の油断だったのかもしれない。

 

 

 

 

イグニスは微笑んだまま、いきなりベッドに押し倒してきた!

そして、どこからか出した鎖で俺の手足をベッドの角にくくりつけていく!

 

「な、なに!?」

 

「うふふ~。良い機会だから試してみようと思って☆」

 

イグニスが懐を探る。

取り出したのは―――――――性転換銃!?

 

「え、お、おい!? それ隠してただろ!?」

 

「え? あれで隠してたの? ふっふっふっー、私にかかればあの程度の隠し場所、隠してるとは言わないわ! あ、そーれ、性転換♪」

 

 

ビビビビビビビビッ!

 

 

「ギャッ!」

 

銃口から放たれたビームが俺を捉える!

 

次の瞬間、髪は伸び、体つきは丸みをおび…………おっぱいも大きくなってしまった!

また女の子ですか!?

最近、そいつの出番、多くないですか!?

 

女体化した俺を見て、イグニスは舌なめずりをした。

 

ゾクリと体に悪寒が走る…………!

 

「さてさて…………女の子イッセー…………」

 

じわりじわりと寄ってくるイグニス!

俺は後ずさりしようとするが、繋がれた鎖のせいで動けない!

 

「いや…………いやいや…………ま、待て! お、落ち着け! 俺が喘いで需要あると思うか!?」

 

「私にはある!」

 

「バカ! この間、ティアを襲っていただろう!?」

 

「それはそれ、これはこれよ。そ・れ・に、女体化したイッセーって可愛いんだもーん。おっぱいも大きいし~、食べごたえがあるっていうか~。ま、そういうわけで…………」 

 

「お、おい…………ば、バカ…………や、やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

「いっただっきまーす!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 

 

 




またやっちゃった☆


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7話 少しの進展

翌朝…………といってもまだ三時なので、まだ夜か。

 

イグニスに襲われた俺だったが、悲鳴を聞いて駆けつけてくれた美羽達の手により、なんとか救い出された。

 

女体化していたことにより、少々問題が…………というか、朱乃やレイナがイグニスに便乗しようとしてえらいことになる直前までいった。

 

止めてくれたのは主に美羽とリアス、アーシア、それからロセ。

この四人の手によって、俺の処女は奪われずに済んだ。

この時、俺は後で四人を全力で甘えさせると心に誓った。

 

まぁ、そんなことがあった後、昨日は美羽と二人で寝ることになったんだが…………。

 

美羽の寝顔を見ると昨日の母さん達の会話を思い出して、内から何かが込み上げてくる。

 

母さん達が俺をどんな気持ちで産んでくれたのか。

どんな気持ちで育ててくれたのか。

そして、どんな気持ちで俺の帰りを待ってくれていたのか。

感謝と同時に日頃から心配をかけている申し訳なさもある。

 

でも、イグニスが言った通りで、俺が父さん、母さんに笑顔を見せることが親孝行になるというのなら、これからもそれを続けていきたい。

立場上、これからも危険な場所に赴くことがあるだろう。

それでも、何事もなかったように二人の元へ帰りたい。

改めてそう思えた。

 

それからもう一つ。

美羽達を改めて『娘』と言ってくれたことが自分のことのように嬉しかった。

 

父さんも母さんも娘には甘々だ。

美羽のことも家に来てからは実の娘のように可愛がってる。

アーシアも、リアスも、他の皆も。

それは俺も分かってた。

 

でも、昨日の感動は一晩経った今でも消えていない。

ずっと心の中にあるんだ。

 

目が覚めた俺は隣でぐっすり眠っている美羽の黒髪をそっと撫でた。

相変わらずツヤツヤしてて綺麗な黒髪だ。

何より寝顔が可愛い。

朝、こうして寝顔を見ることは俺の癒しとなっている。

 

しばらく撫でていると、美羽がゆっくりと目を開けた。

 

「んっ………お兄ちゃん………?」

 

「あ、わりぃ。起こしちゃったか」

 

「ううん………。ボクは良いけど…………まだ三時だよ? 起きるの早くない?」

 

「あー………。まぁ、そうなんだけどね………。なんていうか、あまり眠れなかったというか………」

 

「それって………昨日のことで?」

 

「………うん」

 

俺が頷くと、美羽は上体を起こして俺と向かい合った。

 

そして、なんとも嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

「………ボクもね、お母さんに『娘』って言われて嬉しかった。分かってた…………お母さんもお父さんも血の繋がりのないボクを家族として見てくれている。でも、改めてああ言われると………すごく嬉しかったんだ」

 

「俺もだよ。母さん達の想いを改めて知ることができた。それだけで胸が一杯になった。実は………イグニスにイタズラされそうになる前にさ、俺、一人で泣いてたんだわ」

 

「え………?」

 

聞き返す美羽。

 

恥ずかしくなった俺は頬をかきながら小さな声で言った。

 

「男が一人、部屋で泣くなんてさ。恥ずかしいけど、それでも涙が止まらなくて………もちろん嬉し泣きなんだろうけど………」

 

「変じゃないよ? ボクだって泣いたもん」

 

美羽は可愛く首を横に振りながらそう言ってくれた。

 

「親って大きいよね。普段は口にしないけど、ずっとボク達のことを見てくれてる」

 

「だよな。………俺さ、今まで色々なこと経験してきて、昔に比べたら成長したとは思ってたんだ。だけど、昨日わかったよ。俺はまだまだなんだなって。たくさん修業して強くなって、色々なものを見てきて、複雑な考えも出来るようになって…………。それでも、まだまだ子供なんだよな…………」

 

そう、俺はまだまだ子供なんだ。

どれだけ図体がでかくなろうと、どれだけ力が強くなろうと、どれだけ頭が切れるようになっても、親からすれば俺は子供なんだ。

 

俺はベッドの上で大の字になった。

見上げた先にあるのはこの大きなベッドに取り付けられている天蓋。

ベッドに残った熱とサラサラしたシーツの感触が心地いい。

 

俺は天蓋を見つめながら呟いた。

 

「今のままじゃ、父さんや母さんに追い付けないんだろうな。もし、俺達が追い付けるとしたら、その時は―――――」

 

「ボク達が親になった時、だね?」

 

美羽が言葉の続きを言う。

 

俺は一つだけ頷いた。

 

「多分、きっとな。………俺達が親になる、その時が来たら、初めて今の父さん達の気持ちが分かると思う。子を持つ親の気持ちってやつが」

 

「そこで追い付いているかは分からないけどね? うちの両親は偉大すぎるもん」

 

「だな」

 

あはは、うふふと俺達兄妹は苦笑を漏らす。

 

美羽は俺とぴったりくっつくように横になった。

俺の腕を枕にして、体を寄せてくる。

 

そして、満面の笑顔で言った。

 

「ボク、この家の娘になれて良かった。イッセーの妹で、お父さん、お母さんの娘で。………でもね、昨日のお母さんの話を聞いてたら、ちょっと欲が出てきちゃった」

 

「欲?」

 

俺が聞き返すと、美羽は―――――。

 

「お兄ちゃんのお嫁さんになって、赤ちゃんを産む! そして、お母さん達にボク達が幸せになっているところを見せる! まぁ、前から口にしてるから今更な感じはするかもしれないけどね。でも、今よりももっと幸せになって、ボク達の笑顔をお母さん達に見せてあげたいなって」

 

「………そっか。そうだよな」

 

うちの親にしかり、イリナのお父さんにしかり、バラキエルさんにしかり。

なんだか、色々な人から孫をせがまれてるけど、今ならなんとなくだけど、その気持ちが分かる気がする。

 

俺は美羽の手を握った。

 

「俺も美羽と同じだよ。でさ………俺も少しだけいいかな? これも今更って思われるかもしれないけど。というか、何度か似たようなこと言っちゃってるけど…………」

 

「なに?」

 

見つめ合う俺と美羽。

 

俺は徐々に顔を近づけながら言った。

 

「美羽…………結婚しよう。俺、美羽が好きだ。大好きだ」

 

「…………! うんっ!」

 

美羽は目元を潤ませて笑顔で頷いてくれた。

 

俺も美羽も、たくさん親孝行したい。

そして、それは俺達が幸せになったところを見せることなんだと思う。

 

美羽は目元を拭いながら苦笑する。

 

「もうっ、お兄ちゃんったら、ちょっと不意打ちだよ」

 

「そ、そうかな? 前から似たようなこと言ってると思うけど…………」

 

「こうして面と向かって、改めて言われると嬉しいものなの。特に大好きな人から言われるとね。あ、それ、リアスさん達にもしてあげてね? ボクだけじゃ、不公平だし。皆もお兄ちゃんのこと大好きなんだから」

 

「あはは………。そのつもりだよ。というか、皆からされてばっかりじゃ………男として格好つかないだろう? 改めて俺からも…………ね?」

 

少し照れながら言う俺に美羽は微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

朝食を済ませた後のこと。

 

俺はアーシアとある場所を訪れていた。

 

駒王町の地下にある広大な空間。

ドーム状に広がる空洞は厳重に結界が敷かれており、その中央には大きな丸い物体―――――ドラゴンの卵が置かれてある。

 

この卵は以前、タンニーンのおっさんから任された希少種のドラゴン『虹龍(スペクター・ドラゴン)』のものだ。

 

おっさん曰く、冥界の空気は卵に悪いらしく、空気の綺麗な人間界に置くことにしたらしい。

そして、他の場所よりも厳重な警備がされているこの町を選択したそうだ。

 

この卵は駒王町にいる『D×D』メンバーで順に様子を見に来ていた。

今日は俺とアーシアの番なのだが…………。

実は俺達以外にも卵を見に来ている者がいる。

 

「おまえが卵の面倒を見るなんてな」

 

俺の目の前には大きな卵を抱き抱えるオーフィスの姿。

 

「我、子育てしたことない。興味津々」

 

実を言うと、オーフィスは毎日ここに通いつめている。

どうにも「卵」「孵化」「ドラゴン」というキーワードが重なり、興味をひかれているそうだ。

 

長く生きてきたオーフィスも卵からドラゴンが生まれる瞬間というのは見たことがなかったらしい。

 

「ひっひっふー」

 

誰だオーフィスにラマーズ法なんて教えたやつは………。

それ、すでに生まれた卵にするのは違うと思うんだが…………。

 

「…………」

 

実はこの空間にはもう一人、来訪者がいた。

 

少し離れた位置で座り込み、オーフィスにジーっと視線を送り続ける黒いコートの男。

クロウ・クルワッハもここにいるのだ。

 

オーフィスがここに訪れていることを知った奴は、何度かオーフィスの行動を観察するために足を運んでいるそうだ。

 

………端から見てると幼女をじっと見ている感じで、一般人が見たら通報されそうな絵面だけど。

 

タンニーンのおっさん経由での来訪なので、ここに来ることは特に問題とされていない。

一度は敵対した存在だったが、何度か話して分かったことがある。

 

この邪龍はどこまでもドラゴンなんだ。

グレンデルとは違う、ただただ自由に生きている。

そして、ドラゴンという種がどこへ向かっているのかを探求しているだけなんだよな。

 

良く分からんところもあるけど…………。

 

すると、アーシアがクロウ・クルワッハの方に歩み寄って行く。

 

「あ、あの、これ、良かったら食べてください」

 

アーシアが手提げ袋から取り出したのは一房のバナナ。

それはいつもオーフィスがおやつで持ち歩いていたやつだ。

時折、ファーブニルや邪龍四兄弟にも与えているようだが…………。

 

アーシアの中では「ドラゴン=バナナ」という謎の方程式が出来上がっているのだろうか…………?

 

…………いや、他にもいたか。

家に居候している、あの食いしん坊英雄。

あいつもオーフィスと並んでバナナ食ってたな…………。

 

「バナナといいます。おいしいですよ?」

 

「…………」

 

微笑むアーシアと無言でバナナを受けとるクロウ・クルワッハ。

クロウ・クルワッハは少々困った表情をしているが…………。

 

バナナを渡すと、アーシアは一礼してこちらに戻ってくる。

アーシアが言う。

 

「私もたまにオーフィスさんとここに様子を見に来ていたんです」

 

アーシアはオーフィスと仲良しだ。

 

天界に言った時にもその話題になったが、アーシアのドラゴン使いとしての才能は世界に広がりつつある。

龍王と契約をし、邪龍すらも手懐けてしまうほど。

過去に邪龍を従えたのは悪神や邪神の類いだけとのことだから、アーシアのドラゴン使いとしての才能は神クラスなのかもしれない。

 

アーシア本人はただ友達になったという感覚なのだろうけど。

いや、そのアーシアの純粋さこそ、ドラゴンが惹かれている要因かもね。

 

と、ドラゴンのことで一つ気がかりなことがあった。

 

「…………ファーブニルの様子はどうだ?」

 

天界での一戦でアーシアを庇い傷つき、そのアーシアのために猛烈な攻撃を仕掛けた龍王。

あいつは龍の逆鱗を俺に見せてくれた。

 

しかし、リゼヴィムの攻撃を受け続けた結果、ファーブニルは重症を負い、眠り続けることに。

アーシアの治療のおかげで、傷自体は治ったが…………。

 

アーシアは悲哀に満ちた表情で首を横に振った。

 

…………相変わらず反応はなし、か。

アーシアの召喚に応じないのは体力と意識が戻っておらず、応じられないのではないかと皆は言っている。

 

あれほどの傷だし、それも考えられるけど…………。

 

ふいにオーフィスが言葉を発する。

 

「心配無用。ファーブニルは戦っている」

 

「奴も龍王だ。引くようなタマではあるまい」

 

と、クロウ・クルワッハも真剣な顔つきでそう続けた。

…………バナナを持ったままで。

 

俺とアーシアはドラゴン二体が言っていることに皆目見当もつかず、顔を合わせて頭に疑問符を浮かべてしまっていた。

 

ファーブニルは戦っている…………?

 

今の状態で?

何と、どこで?

 

あいつが牙を剥くとすれば、アーシアを傷つけたリゼヴィムだが…………今の状態で奴に仕掛けているとは思えない。

そこまでの体力はないはずだしな。

 

そんなことを考えていると、時間は正午になっていた。

 

俺はオーフィスに言う。

 

「そろそろ昼飯だな。オーフィス、おまえはどうする? 今日の昼はスパゲティーらしいぞ」

 

名残惜しそうに卵をひとなでした後、オーフィスはこちらに小走りしてくる。

 

「我、ご飯は逃さない」

 

やれやれ、食い意地の張った龍神さまなことで…………。

 

まぁ、そこが可愛いところでもあるんだけどね。

流石は我が家のマスコット。

 

俺はオーフィスを肩車してっと…………。

 

「こうしてると本当に子供だよな」

 

「我、ここ好き」

 

ほほう、龍神さまは気に入りましたか、肩車。

今まで何度かしてきたが、そのせいか膝の上以外にも肩車を望むようになったんだよね。

 

さて、俺達は引き上げるとして、もう一人の邪龍さまはどうしたものかと思い、そちらを向くと…………。

 

「あいつ、いつの間に帰ったんだよ…………?」

 

クロウ・クルワッハの姿はそこにはなかった。

オーフィスが帰ると分かれば、即引き上げですか…………。

 

「帰るか、アーシア」

 

「はい」

 

俺達はその場を後にした。

 

ちなみに、クロウ・クルワッハはバナナもちゃんとお持ち帰りしたようだ。

 

 

 




今回は平和な回でしたー。


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8話 魔王ベルゼブブとの邂逅

いよいよレーティングゲームの闇が…………!


アジュカさんとの邂逅の日。

 

今日は休日で、時間までにはまだまだ時間があるため、俺達は各自で過ごしていた。

この後、互いに準備を済ませてから兵藤家地下にある転移魔法陣の部屋からアジュカさんの指定した場所に転移する予定になっている。

 

喉が渇いた俺はお茶でも飲もうかと、リビングに入った時だった。

ソファで釣り竿を磨いている父さんから話しかけられた。

 

「おう、イッセー。これから釣りにいかないか? 父と息子で親子水入らずってやつだ」

 

ニッコリと笑顔でそう誘ってくれる父さん。

 

父と息子の親子水入らず、か。

そういや、久しく父さんと釣りに行ってないな。

 

最後に行ったのは…………美羽がこちらに来てからすぐのこと。

美羽に色々なことを経験させてあげようと、俺と父さん、母さんの三人でプランを立てたんだが、その内の一つに釣りがあったんだ。

だから、最後に行ったのは中三の夏のことになる。

 

しかし、流石にそこまでの時間は俺にはない。

今からアジュカさんと大事な話がある。

『D×D』メンバーであり、眷属を率いる身となった俺が抜けるわけにはいかない。

 

俺は後頭部をかきながら、申し訳ない気持ちで言った。

 

「悪い、これから魔王さまとお話があるんだ。結構大事な話でさ、俺が行かないわけにはいかないんだ」

 

「………そうか。そうだな。今や社会人の俺よりも忙しい身だしな。たまには息抜きにいいんじゃないかと思ったんだが…………すまん」

 

少しだけ寂しそうな表情を浮かべる父さん。

 

俺は慌てて首を振った。

 

「いやいや、父さんが謝ることないって。こっちこそ、誘ってくれたのにごめん」

 

「いいさ。また今度行けばいいしな! あ、いっそのこと、家族全員で行くか! 二人だけってのもあれだしな」

 

「うん。また時間がある日は言うよ。その時に一緒に行こう」

 

「わかった。魔王さまによろしくな」

 

魔王さまによろしくって…………。

父さんもかなり逞しくなったというか…………。

 

父さんに断りを入れたところで、母さんが近寄ってきた。

 

「お父さんも最近はあんたとの会話が減ってたから、寂しいのよ。まぁ、高校生にもなって親子でってのはあまりないと思うんだけど。でもね、たまには父と息子、男同士で話したいこともあるのよ。私が美羽達と話すみたいにね」

 

「………そう、だよな」

 

「でも、あんたにはあんたの事情がある。今日のところは私がお父さんに付き合うから、そっちは用事を済ませてきなさい」

 

コップを手に取った俺に母さんは続ける。

 

「忙しいのも分かるけど、時間がある時で良いから、お父さんの相手をしてあげてね? あれでも結構寂しがりだから」

 

 

 

 

時間が来た。

 

地下室に集まったのは俺達赤龍帝眷属、グレモリー眷属、シトリー眷属、グリゼルダさんにアザゼル先生だ。

 

デュリオは天界の警備、幾瀬さんは別の任務でここにはいない。

ヴァーリチームも来ておらず、黒歌とルフェイはそちらに収集されており、この二人も今は外出中だ。

 

食いしん坊英雄ことディルムッドはお留守番、我が家のマスコットであるオーフィスはさっき、リビングでミカンを食べていたが、後で卵を見に行くそうだ。

 

新しく赤龍帝眷属に加わったメンバー、俺の『戦車』になってくれたモーリスのおっさんが訊いてくる。

 

「今更だが、俺達も行って良いのかよ? 悪魔としてはペーペーだぜ?」

 

「俺の眷属になるってことは『D×D』メンバーに組み込まれるってことだしな。おっさん達も『D×D』メンバーである以上は話を聞いておいた方が良い」

 

「とりあえず冥界の事情だの、この世界の現状だのは頭に入れてるが………。いきなり魔王に挨拶とか緊張するじゃねぇか」

 

「ウソつけ! 鼻ほじってる姿のどこが緊張してるんだよ!? 調べてこい! 緊張って文字の意味調べてこい! つーか、めんどくさいだけだろ!?」

 

「お、流石は我が弟子。分かってるじゃねぇか。どちらかと言うと俺も釣りに行きたかった」

 

「おいおい! やっぱり、アリスのサボり癖はあんたのせいか!」

 

俺がそんなツッコミを入れていると、アリスが言ってきた。

 

「そう! そうなのよ! だから、私は悪くないもーん」

 

「だまらっしゃい! お仕置きするぞ!?」

 

「お仕置き? お兄さんのお仕置きってどんなの? 私、受けてみたい!」

 

「ニーナちゃん、そんなことに興味持っちゃいけません!」

 

「えー………。まぁ、いっか。………うふふ♪ ベッドの上でのお兄さんってすっごく優しく見えるよね。いつも優しいんだけど♪」

 

ちょ、ニーナちゃん!? 

それダメ! 

 

ここには――――。

 

「………ニーナさま、それは初耳でございます。………イッセーさま、いつ、どこでニーナさまをその毒牙にかけたのですか? そのあたり、詳しくお聞かせ願います」

 

ほら、ワルキュリアが入ってきたよ!

ものすごい眼光でこっちを見てくるぅぅぅぅ!

眷属が主に向ける目じゃないよ!

敵を見る目だよ!

 

「ちょ、おち、落ち着いて! 落ち着いてください! あのワルキュリアさん…………その手のナイフはいったい…………?」

 

「ニーナさまの純潔まで奪われたのです。その節操なき得物を刈り取ろうかと」

 

「去勢する気か!?」

 

「ちなみに、私の時はお姉ちゃんも一緒だったよ♪」

 

「ニーナちゃんんんんんん! 広げないで! ほら! ワルキュリアさんが鎖分銅振り回してるから!」

 

「イッセーさま、ご覚悟を。その貧相なモノにお別れを」

 

ひいいいいいいい!

去勢されるぅぅぅぅぅぅ!

ワルキュリアが俺の愚息を刈り取りに来ているぅぅぅぅぅ!

 

すると、ゼノヴィアとイリナがワルキュリアの前に立った!

おおっ、助けてくれるのか!

 

「待て! 今、刈り取られたら私が困る! それに一つ言っておくが、イッセーのモノは貧相ではない! 聖剣だったぞ!」

 

「いいえ! どちらかと言うと、あれは魔剣よ、ゼノヴィア!」

 

「おまえら、そういうこと言うの止めてくんない!?」

 

このおバカ!

こいつら、後でお仕置き決定!

 

「くの一プレイというものをしてみたいのだが」

 

「勝手に心読んでリクエストしないでくれますかね!?」

 

そーですか、ゼノヴィアはくの一プレイをお望みですか!

なんつー場所でリクエストしてんだ、このやろう!

 

…………一応、考えとくよ!

 

「ゼノヴィア………あなたって子は…………!」

 

「あ………待ってくれ、シスター! これには…………」

 

「待ちません! 後でお説教です!」

 

あ、ゼノヴィアがグリゼルダさんに連行された。

顔の形が変わるくらいに頬を引っ張られてる…………。

美少女の顔が無惨なことに…………。

 

あの人が俺の義姉になるのか…………。

ゼノヴィア限定だと思うけど、容赦ないよね。

 

「うふふ、イッセーと一緒だと賑やかで楽しいですね」

 

微笑みながら俺達を見守るリーシャ。

 

うん………眷属増えたら賑やかさも倍増したよ。

ツッコミの量もね。

 

先生が半目で深くため息を吐いた。

 

「あのよ………今から魔王に会いに行く空気じゃないんだが? おまえの眷属はあれか、総出でシリアスを壊しにかからないと気がすまないのか? シリアスブレイカー症候群にでもかかってるのか? つーか、シリアスブレイカー症候群ってなんだよ」

 

「知りませんよ! 先生がつけたんでしょ!? とりあえず、ごめんなさい! うちの眷属が賑やかすぎてごめんなさい!」

 

シリアスな空気になるはずが、それをぶち壊してしまった俺達。

この空気のまま、俺達はアジュカさんの待つポイントに転移するのだった…………。

 

 

 

 

転移の光に包まれた俺達が次に立っていたのは―――――砂浜の上だった。

 

目の前には広大な海が広がり、穏やかな波の音が周囲にこだましている。

空は暗く、夜であることが分かる。

 

冥界には海はない。

巨大な湖はあるそうだから、これは湖…………?

しかし、空の模様が冥界とは異なる。

 

となると、ここは人間界…………?

 

そう考えた俺だったが、その考えはすぐに否定された。

理由は空に浮かぶ月だ。

 

「月が………二つ?」

 

そう、この空に浮かぶ月は二つ。

となると、ここは人間界でもない。

地球から見える月は一つしかないのだから。

 

皆が冥界でも人間界でもないことに気づいて周囲に視線を配らせた。

その時だった。

 

「―――――ここは『異世界』とされる別次元の世界の一部を再現したフィールドだ」

 

ふいに声をかけられた。

 

声のした方向に目を送ると、砂浜の一角に椅子があり、そこに座る一組の男女がいた。

一人は妖艶な雰囲気を持つ男性―――――現魔王ベルゼブブ、アジュカさん。

そして、もう一人は長く綺麗な青髪を持つ美女、ティアだった。

 

ティアがこちらに手を振る。

 

「来たか。久しぶりだな、イッセー」

 

「久しぶり………ってほど時間空いてないけどね。この間の通信以来か」

 

アジュカさんは読んでいた本を閉じて挨拶をくれる。

 

「久しぶりだ、グレモリー眷属の諸君。………いや、今は『D×D』だったな」

 

一歩前に出たアザゼル先生は立ち上がったアジュカさんに手を差し出して握手を求める。

 

「冥界でちょっと会って以来か」

 

アジュカさんは先生の手を取ると小さく笑みを作った。

 

「こうやって他のVIP抜きに会うのは初めてかもしれませんね、アザゼル元総督殿」

 

「って言うよりは、この対面は用意されたと思った方が良いんだろう?」

 

「我々の会合は各勢力でも危険視するでしょうからね。たとえ、間にチーム『D×D』が入ろうとも」

 

苦笑するアジュカさん。

 

そのアジュカさんの目が先生から俺へと移る。

 

「やぁ、兵藤一誠くん。この間の冥府調査の件、ごくろうだったね」

 

「いえ、これも俺の役目ですから…………。あまり良い報告はできませんでしたけど」

 

「いやいや。冥府を蹂躙するほどの相手だ。仕方ないだろう。それよりもよく生きて帰ってきてくれた。君の戦力は既に冥界にとって必要不可欠なものだ。ここで失うのは大きすぎる」

 

朗らかに笑うアジュカさん。

 

優しげな笑みだが、その瞳は俺を、俺の内側を探るようなもので…………。

この人は全ての現象を数式、方程式で操りきる絶技を有すると言われている。

サーゼクスさんと並ぶ『超越者』の一人。

 

異例と言われる俺の力に興味を持っているのかもしれないな。

…………その力の源がおっぱいで申し訳なく思うけど。

 

「新たに眷属を増やしたそうだね」

 

「ええ。彼らです」

 

俺は後ろに立っているモーリスのおっさん達を紹介する。

モーリスのおっさんが前に出た。

 

「なるほど…………。話には聞いていたが随分若いな、こっちの魔王は。だが、それだけの力を持ってるってことか。あまり相手にしたくない類いだ」

 

「改めて名乗ろう。俺はアジュカ。魔王の一人をやらせてもらっている。………ふふ、異世界人か。実に興味深い。先日の教会との一件の資料と録画データ見せてもらった。人間の身でありながら、あれほどの力を有しているのはそういない。この世界とそちらの世界では『人間』の在り方が違うのかもしれないが」

 

興味深そうにおっさんを見るアジュカさんだが………。

 

すいません、あれはおっさんが異常なだけなんです。

確かに向こうの世界では魔法とかが一般にも普及していて、違う点も多いけど…………。

その中でもおっさんは異常過ぎるんで、あまり過剰な期待はしないでください。

 

アジュカさんがおっさんに問う。

 

「異世界人たるあなた達から見てこのフィールドはどうだろうか?」

 

「どうって言われてもな…………。俺達のいた世界にこんな場所あったか?」

 

おっさんがリーシャ達に話を振る。

 

リーシャは首を傾げながら答えた。

 

「いえ…………。私には心当たりありませんが………」

 

「私も。というより、私って基本、城にいたから、アスト・アーデの全てを知ってる訳じゃないんだよね」

 

「私もです」

 

リーシャに続き、ニーナ、ワルキュリアがそう答える。

 

俺もこんな場所は見た記憶がない。

そもそも、向こうの世界も月は一つだ。

 

すると、アジュカさんは意味深な笑みを浮かべて、

 

「なるほど。そうなると、やはり俺の推測は当たっているか」

 

何か面白いことを見つけたような表情を浮かべるアジュカさん。

 

推測…………?

彼の発言に疑問符を浮かべる『D×D』メンバーだったが、一人、アジュカさんの前に立つ者がいた。

 

レイヴェルだ。

 

「アジュカさま。その…………兄は?」

 

そういえば、ライザーの姿が何処にもないな。

てっきり、この場で会えると思っていたんだが…………。

 

「ライザー・フェニックスは一足先にフェニックス本家に運ばせた。本来ならば、ここで君に会わせるか、君をフェニックス本家に向かわせるべきなのだろうが…………。君は『D×D』メンバーだが、彼はそうでない。今から話す内容は立場的に『D×D』たる君達にしか聞かせられないのだよ」

 

「いえ、ありがとうございます。兄が無事であれば、それで…………」

 

胸を撫で下ろすレイヴェル。

ここでライザーの顔を見ることが出来ないのは残念だが、魔王の言葉を聞いて安心しているようだった。

 

先生が追加情報をくれる。

 

「実はな、うちのエージェント―――――刃狗(スラッシュ・ドッグ)のチームがライザーの護衛をしている。何があるか分からんからな」

 

なるほど。

幾瀬さんの任務というのはライザーの護衛だったのか。

 

しかし、グリゴリでも最上位のエージェントである幾瀬さんのチームが派遣されるって…………。

今回の件、ライザーはそれだけ重要だということか?

 

………もし、レイヴェルがライザーと一緒にゲームに出ていたらどうなっていたんだろうな。

その時、俺は気が気でないと思うが…………。

 

ふと俺はアジュカさんの隣に立つティアに視線を向けた。

 

「そういや、ティアは今回の件の全てを知ってるんだよな? 口止めされてるって言ってたけど、もしかして…………」

 

俺がそう訊ねると、ティアはアジュカさんの方を向く。

アジュカさんは苦笑すると、一つ頷いた。

 

それが許可の合図だったのだろう。

ティアは口を開く。

 

「そうだ。以前にも言ったことがあるが、私はアジュカの手伝いをしている。その一つが―――――レーティングゲームの裏の審判者だ」

 

「なっ!?」

 

予想を越えたティアの発言にこの場のほとんどの者が目を見開いた。

この世界に来て日が浅いモーリスのおっさん達はともかく、アザゼル先生は顎に手を当てて「なるほどな」と頷いているが…………。

 

ティアは続ける。

 

「本来ならば、この事は教えることができないのだが、今回は事情が事情だからな。レーティングゲームの公式戦及び特別試合にて、運営側が想定したものよりも逸脱した事態が起きた場合、それに合った緊急処置がとられるのは知っているな?」

 

「ああ。大体はプレイヤーの強制転移で済ませるって話だけど…………」

 

「その通り。しかし、それが何らかの形で叶わない場合、特例の審判者が試合に介入し、それに対処することになっている。そして、この役を担うのが私ということだ」

 

アジュカさんがティアに続く。

 

「彼女には百五十年ほど前より、その任に着いてもらっている。この事態のケースは極めて稀有でね。過去に二度しか起こっていないのだよ。…………少し思い出したんだが、ティアマット」

 

「なんだ?」

 

「以前、誰にも仕える気がないと言っていたが…………あの話はどうなったのかな? 赤龍帝くんとは使い魔の契約をしているようだが」

 

マジでか…………。

ティアって誰にも仕える気がなかったのね。

使い魔契約を結ぶ際に実力テストがあったけど、今思えば、よくあれだけで使い魔になってくれたと思うよ。

五体しかいない龍王の一角だもんな。

 

アジュカさんの言葉にティアは―――――。

 

「し、しょんなこといったか!? き、記憶にないにゃ…………っ」

 

顔を真っ赤にして、滅茶苦茶噛んでるぅぅぅぅぅ!

 

え、なに…………恥ずかしがってるの!?

かなり挙動不審になってますけど!?

 

と、ここで、俺の側にイグニス姉さんが実体化する。

そして―――――。

 

「仕えるどころか、初めてもあげたもんね♪」

 

「うぉい!? なに、暴露してくれてんの!?」

 

「は、はわわわわわ! ば、バラすなぁぁぁぁぁぁ!」

 

ティア姉が駄女神の口を塞ぎにかかる!

しかし、イグニスはそれを華麗にかわす!

 

「もう、ティアちゃんったら、照れちゃって♪ かーわーいーいー♪ ティアちゃんってね、こう見えて、すっごくエッチなのよ? あの時はイッセーの―――――」

 

「うわぁぁぁぁぁ! や、ヤメロォォォォォォォ!」

 

半分泣きながらイグニスを追いかけるティア。

 

…………ティアってあんなキャラだったかな?

頼れる凛としたお姉さんが、どんどん可愛くなっているような気がする…………。

キャラが崩壊しているような…………。

可愛いけど。

 

アジュカさんが呟く。

 

「…………彼女も変わったな」

 

「す、すいません。た、多分、うちの雰囲気に毒されたんだと思います…………」

 

「気にすることはない。もしかしたら、あの姿こそが本来の彼女だったりするかもしれない、なんて思っているよ。君と出会ってからは楽しそうだからね」

 

アジュカさんが微笑ましい視線を向ける先では、未だにおいかけっこをしているお姉さん二人。

 

うん…………確かに楽しそうだよ。

ティア姉、半分泣いてるけど。

 

あ、追いかけてたはずのティアがイグニスに捕まった。

 

「うっふっふ~♪ 久しぶりのティアちゃんおっぱい…………いただきます♪」

 

「あっ、バカ…………こんなところで…………あんっ!」

 

「おいいいいいい! どれだけテンション上げてんだ、この駄女神!」

 

「だって、ティアちゃんと触れあうの久々なんだもーん。スキンシップしなきゃ♪」

 

「いや、それただのセクハラぁぁぁぁぁぁ!」

 

砂浜に俺のツッコミが響く。

 

おかしいな…………。

俺達、ここに超真面目な話をしに来たんじゃなかったか?

なんで、お姉さん達のレズプレイ(一方的なハント)を見せられてるわけ?

 

アジュカさんが俺達に言う。

 

「君達と元総督殿をここに連れてきたのは今回の件について伝えるためだ。そろそろ話を始めるとしよう」

 

ティアを放置してそう切り出したアジュカさんは、懐から一つの駒を取り出した。

 

…………ティア、とりあえず話が終わったら助けに行くからね。

それまでは耐えてくれ…………!

 

で、今は目の前にある駒なんだが…………。

 

アジュカさんは『悪魔の駒』を作り出し、レーティングゲームの基礎理論を作り上げた人物。

そのため、目の前の駒は『悪魔の駒』だと思ってしまうのだが…………。

 

「この駒が何か分かるかな? 『悪魔の駒』だということは分かると思うが」

 

駒から伝わる波動は間違いなく『悪魔の駒』のもの。

リアスの眷属となり、自分の駒を持った今の俺にとっては、馴染み深いものだ。

 

しかし、俺が知っているもののどれとも形状が合わない。

『兵士』でも『騎士』でも『僧侶』でも『戦車』でも『女王』でもない。

となると―――――。

 

俺の脳裏に一つの可能性が出てくる。

だけど、それは無いはずだ。

純血の上級悪魔であるリアスやソーナ、レイヴェルからも、それは無いと聞かされている。

本人達もそれが常識という認識だったはず。

 

しかし、アジュカさんはそれを口にした。

 

「これは―――――『王』の駒だよ」

 

それはあまりに衝撃的な情報だった。

 




すいません、今回はレーティングゲームの闇じゃなくて、ティア姉さんの初めてがイッセーだったことが暴露されちゃいました…………(R18では明らかにされてたけど!)


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9話 レーティングゲームの闇

今回は真面目にレーティングゲームの闇を語ります!


「これは―――――『王』の駒だよ」

 

『―――――っ!?』

 

アジュカさんのその一言に俺達は目を見開き、驚愕してしまう。

 

悪魔の駒…………それの『王』!? 

 

あれを出された時に何となく、その可能性は頭に浮かんだ。

何故なら、俺達が知っている悪魔の駒のどれとも形状が違うからだ。

 

しかし、それは冥界で常識とされてきたものを覆すもの。

上級悪魔になると、各領の領主の城、または魔王領の魔王の城のみに存在する『石碑』に触り、『王』であることを登録する。

そうすることで、眷属を有する権利と悪魔の駒を渡される。

俺もそうやって上級悪魔になった。

 

『王』の駒はないと俺達は教えられて来たんだ。

リアスやソーナ、レイヴェルでさえも。

 

俺達が『王』の駒の存在に驚くなか、一人だけ冷静に見ている人がいた。

―――――アザゼル先生だ。

 

「………噂には聞いていたが、見るのは初めてだ」

 

「………知っているんですか、先生?」

 

「噂だけならな。もっとも、悪魔側と協定を結んでからは、俺の中で日に日に真実味を帯びていったがな」

 

昔から噂はあった、と。

 

しかし、リアスは信じられないという面持ちでアジュカさんの持つ駒を見つめていた。

 

「………『王』の………駒? そんな、『王』の駒は作成の技術が未だ確立できず、『王』の登録を石碑に済ませることでシステムを動かすことになったと聞いているのですが…………」

 

「そう、『王』の駒は本来あり得ない。悪魔の駒のシステム上、『王』とは登録制だった。…………いや、登録制にあえてしたのだ。この『王』の駒を表に出さないために。それと眷属悪魔が昇格した時、既に内にある駒と『王』の駒の重複及び融合を懸念した面もある」

 

アジュカさんは駒を手の中で遊ばせながら続ける。

 

「この駒の特性は単純な強化だ。ただし、それは力が二倍や三倍というものではない。少なくとも十倍から百倍以上の強化が可能なのだよ。文字どおり力が跳ね上がる。そのため、『王』の駒は使用を禁止にした。力を得ることで政府に害意、邪な感情を抱く者が出てしまうことを恐れてね。絶大な力とは、それだけ目を曇らせる」

 

単純な強化…………十倍から百倍…………。

効果で言えば、オーフィスの蛇と同等の効果ってことか。

 

絶大な力は人の目を曇らせる―――――。

それが己の鍛練の末に得られた力ならともかく、楽に力を得たとなるとそうなるんだろうな。

オーフィスの蛇を使った旧魔王派とかはまさにそれだ。

あいつらは完全に力に溺れていた。

 

もし、この『王』の駒が公表され、使用も認められていたら絶対に使う奴が出てくるだろう。

…………ディオドラとか、間違いなく使っていただろうな。

あいつもオーフィスの蛇もらって調子に乗ってたし。

 

アジュカさんは手元に小型の魔法陣を展開させる。

すると、この砂浜に数十名の人物データが表示される。

 

「ここに映し出されているのはレーティングゲームのトップランカーだ。共通点は元七十二柱―――――純血の上級悪魔の出身者ということ。そして彼らは―――――この『王』の駒を使用した者達なのだよ。冥界の上役達の思惑によってな。当然、公表などはしていない。結果、使用した者の中には、いわゆる最上級悪魔クラス、または魔王級と言っても過言ではないレベルに達した者が出たほどだ」

 

『王』の駒は使用者の力を跳ね上げる。

それも十倍から百倍以上…………。

そのことを考えるとそれだけの力を持っても不思議ではない。

 

生唾を飲み込んだ後でソーナが訊ねる。

 

「………では、ここに映し出された現トップランカーの実力は………」

 

「彼らは公表されていないルール外の力によって実力を向上させている。ゲーム運営の執行委員の大半は真っ黒でね。『王』の駒の使用に留まらず、賄賂、八百長などの不正は当然のように行っている。今のレーティングゲームは非常に不誠実な競技となっているのだよ。むろん、実力でトップランカーに上り詰めた者もいる。元龍王タンニーン、リュディガー・ローゼンクロイツなど、主に転生悪魔に見られる傾向だ」

 

確かにこのデータの中にタンニーンのおっさんはない。

 

まぁ、おっさんが使うとは思えないけどね。

おっさんはドラゴンの中のドラゴン。

誇り高い龍の王だ。

そんな恥知らずな真似はしないだろう。

 

モーリスのおっさんが言う。

 

「変な思惑が絡んでいるからとはいえ、こいつらは作られた力で勝って嬉しいのかね? ………場合によっちゃ、俺も使うとは思うが」

 

「なっ!?」

 

おっさんの爆弾発言に全員が硬直した。

 

目の前に『王』の駒があったら使うのか!?

そんな…………俺に剣を教えてくれたこの人がそんなこと………。

 

俺は信じたくない。

おっさんの剣はどこまでも高潔で真っ直ぐなもの。

偽りの力で満足するような人じゃない。

 

俺達の表情におっさんは呆れたような表情となる。

 

「おいおい、場合によるって言ったろ。―――――本当にどうしようもなくなった時。それを使わないと大切な物を守れないという状況ならどうだ? そうなったら、俺は最後の手段として使わせてもらう。俺が恥をかくことで救えるなら安い取引だからな」

 

その言葉にリーシャが笑む。

 

「うふふ、モーリスらしいですね」

 

「ま、使った後は剣を捨てて、ひっそりと暮らすことになると思うがな。恥を掲げて人前を歩けるほど俺ぁ、図太くはない。今流行りの孤独死してやる」

 

おっさんのため息混じりの言葉に全員が息を吐いた。

 

ったく、そういうことかよ…………。

変な気を使わせやがって。

 

でも、本当にそんな時が来たらおっさんは使うんだろうな。

きっと、苦渋の決断になるだろう。

死ぬほど悩んで、あがいて、何をしても通用しない。

それでもどうしようもなくなった時が来たら―――――。

 

俺はおっさんの肩に手を置く。

 

「大丈夫だって。おっさんはしっかり見送ってやるから。今は悪魔になったから、寿命かなり長いんだけどね?」

 

「そうかい。そんじゃ、使わなくて済むように鍛えとくわ」

 

おっさんがこれ以上鍛えたらとんでもないことになる気がする…………。

つーか、今の段階で『王』の駒使ってる者と渡り合えるよね?

余裕で渡り合えるよね?

 

あれ…………俺、おっさんを悪魔に転生させる際に『戦車』の駒を二つ使ったけど…………。

何気に最強の『戦車』にしてしまったような………。

 

というか、この間、模擬戦したら負けたんですけど………。

 

おっさんの答えに先生は苦笑する。

 

「おまえさんのような精神の持ち主ばかりなら、その駒も公表しても良かったと思うが、残念ながら世間はその逆だ。絶大な力に酔いしれる者の方が多いのさ。………思ったんだが、おまえが『王』の駒を使わざるを得ない時って相当ヤバい時だろ。世界の終末ぐらいか?」

 

「知らね。ロスウォード級が来たときぐらいじゃね?」

 

…………うん、それって単機で世界滅ぼすレベルの相手だよね。

そんな敵が来てたまるか!

 

アジュカさんが俺達を見渡して言う。

 

「狭き門とはいえ、実力さえあれば誰でもレーティングゲームで大成できる可能性がある。これは嘘ではないが…………今のトップランカー達を砕くには君たちのように突出した異例中の異例でない限り、不可能となっている」

 

「では、トップランカーのランキングがあまり動かないというのは…………」

 

「そういう拮抗状態になるよう絶妙なバランス調整がされているだけだ。裏で利権を貪っている古い悪魔達によってな。トッププレイヤー同士の試合はそれだけで莫大な金を生む。試合を操作できればその分旨みも大きいのだ。いくら転生悪魔が目立ってきているとしても、『王』の駒を使用し、古い悪魔達の思惑が絡んだトッププレイヤー達に挑むのは多くの挑戦者にとってあまりに高すぎる壁だ」

 

その最後の一言にソーナはその場に膝をついた。

 

「なんてこと…………!」

 

誰もが通えるレーティングゲームの学校の設立を目指す、ソーナにとって語られた事実は猛毒。

彼女の頬には汗が伝っていた。

 

匙は咄嗟にソーナを支えるが、こちらも苦悶の表情を浮かべていた。

他のシトリー眷属も同様。

 

そうだよな…………ソーナの夢は匙達の夢でもあるんだ。

 

『王』の駒の使用。

加えてトッププレイヤーのランキング操作。

 

これはあまりに衝撃的で、許しがたい事実。

 

アザゼル先生がアジュカさんに訊く。

 

「サーゼクスもこいつを動かすのは辛いってか」

 

「表向きは上手く回っているように見えますからね。下手に介入すれば冥界のバランスは崩れ、内部抗争は加熱してしまうでしょう。切っ掛けがあれば一気に崩せるかもしれませんが、相手は老獪な古い悪魔。彼らは貴族社会と利権を得られるなら何でもしますよ。超越者と呼ばれる俺とサーゼクスも政治面では一進一退を余儀なくされている」

 

レーティングゲームは古い悪魔達の利権争いの場になっているということか。

裏で政治的なものが絡んでいるのはバアル戦でも聞かされていた。

しかし、あれは若手悪魔のゲーム。

プロのゲームとなれば、更に闇は深く…………。

 

アリスが目を細めて呟く。

 

険しい表情のリアスが訊ねる。

 

「しかし、なぜその情報を私達に? いくら『D×D』といえど、これは魔王クラスでもない限り知ることが許されない極秘事項なのではないでしょうか?」

 

すると、その問いに答えたは――――――。

 

「そ、それは………知ってはならない者が、あえて知らされなかった者が、あんっ………その事実をしってしまったのだ………はぅ!」

 

砂浜に押し倒され、駄女神に揉みくちゃにされているティアだった。

 

…………あの駄女神、緊張感ゼロか!

 

あぁっ………ティアがあられもない姿に…………!

服が剥ぎ取られて…………!

おっぱいなんて鷲掴みされてるし!

 

「なんて、うらやま…………ゲフンゲフン! なんてうらやましい!」

 

「お兄ちゃん、全然隠せてないよ!? ハッキリ言っちゃったよ!?」

 

おわっ!?

ハッキリ言ってしまったか!

ええい、俺も欲望に忠実だというこだな!

 

って、そうじゃなくて!

 

俺は改めてツッコミを入れる!

 

「ちったぁ、自制しろやぁぁぁぁぁぁぁ! 駄女神ぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

「我輩の辞書に『自制』という文字はない!」

 

「なんて自分勝手な辞書!」

 

「我輩の辞書には『○○○(バキューン)』とか『×××(ドカーン)』とか『△△△(チュドーン)』という文字しかない!」

 

「放送禁止用語ばかりじゃねぇか!」

 

それ、もう辞書じゃないし!

ただのエロ本だし!

 

もういや!

あいつ、全然、今回の話の重さが分かってねぇ!

 

「だって、『王』の駒とか使ったところで、お姉さんの方が強いもーん♪ ベッドの上なら圧勝出来る自信があるわ!」

 

「知ってる! あんたに勝てる奴を見つけてくる方が難易度高いわ!」

 

「私に暗い話は似合わない! というわけで、ティアちゃんのおっぱい揉み揉み~♪」

 

「あっ、はぁんっ! そこ、摘まむ………なぁ………っ。は………ひゃうっ!」

 

やめて!

それ以上はやめてあげて!

ティアのお体がビクンビクンしてるから!

 

つーか、唐突にシリアス壊すの止めてくれる!?

怒るよ!?

 

………と、とりあえず話を戻すか。

 

それで、ティアが言う知ってはならない者とは―――――。

 

先生が言う。

 

「ディハウザー・べリアルか。ディハウザーは生粋の?」

 

「ええ、彼は純粋なまでに突出した才能で王者になった悪魔です。『王』の駒を使わずに頂点に上り詰めた本物。それゆえに先日の行動を起こしてしまった。―――――リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。彼がアグレアスを強奪出来たのも王者の助力があったからだ。全ては真実を知るためだろう」

 

『―――――っ!?』

 

皇帝がリゼヴィムに協力していた!?

あの日、映画の撮影があるからとついでにアグレアスへと足を運んだようだが…………。

あの時には既にリゼヴィムと通じていたのか。

 

俺は疑問を口にする。

 

「しかし、真実を知るための方法は他にもあると思います。態々、テロリストに荷担しなくても………」

 

「その辺りは彼にも事情がある。………突き詰めれば、古い悪魔達のせいだと言える。年寄り達の思惑は少しずつ、だが、確実に冥界の屋台骨を歪めていった。そして、限界が訪れていたところに楔を打ち込んだのが、王者だったということだ」

 

「冥界を敵に回すだけの理由があったということですか?」

 

俺の問いにアジュカさんは瞑目して頷いた。

 

あの人にそれだけの理由があった。

冥界のバランスを崩しすことになっても、動かなければならない事情があった。

…………リゼヴィムに協力しているのもそのためなのか…………?

 

しかし、そうなると次に浮かんでくる疑問は…………。

 

レイヴェルが訊ねる。

 

「ディハウザーさまはなぜ兄との試合で動いたのでしょうか?」

 

「俺を呼ぶためだろうね。彼は『無価値』という特性事態を無効化してしまう力を有するのだが、レーティングゲームのシステム、リタイヤを無効化してしまった。ゆえに緊急時のプログラムが発動した。………ティアマットが裏の審判者として動いたのはそのためだ」

 

なるほど、それが今回の不正行為の真実か。

 

…………とうのティアはおっぱい揉みまくられてるけど。

どれだけ激しいスキンシップしてるの、あの駄女神は!?

そんなに寂しかったの!?

 

「王者がなぜそのような行為に走ったのかが気になって、俺もその場に転移させてもらった」

 

「では、そこで話を聞いたんだな?」

 

アザゼル先生の問いにアジュカさんは頷く。

 

「ええ。『王』の駒と、リゼヴィムに協力していることを打ち明けてくれました。………だが、それだけではその場にいたライザー・フェニックスに危険が及ぶ。レーティングゲームは運営側、上役が確認するための監視カメラがある。おそらく、俺と彼の会話は上役に見られただろう。そうなると…………」

 

「その場にいたライザー・フェニックスの関与が疑われる、か。おまえ達の会話は上役にとって極秘事項のオンパレードだろう。下手すれば処分されることになる」

 

「処分………! そんな…………」

 

非情な言葉にレイヴェルの体がぐらつく。

咄嗟に俺が支えるが…………。

 

その場に居合わせただけで、身内が処分される。

しかも、上役達は手段を選ばないとなれば…………。

 

アジュカさんは続ける。

 

「年寄り達は体裁を保つためなら、何でもやる。過去に『王』の駒の真実に辿り着いた者を容赦なく始末していたからな。それを恐れた王者はライザー・フェニックスを利用した上で、身柄を俺に預けた。年寄り達も俺には手を出せないと踏んでね。結果、彼の思惑通りに進んだわけだ」

 

「それでは…………兄が行方不明とされていたのは…………」

 

「彼の無事を確保できるまでは解放できなかったからだ。未来ある若者が年寄り共の思惑で殺されるのは納得できないのでね」

 

………この人はライザーを庇ってくれていたのか。

ティアも。

そして、今回の騒動を起こした王者も。

 

王者とは一度、話してみる必要があるみたいだが…………それは置いておく。

 

俺の中ではまだ疑問が解決されていない。

 

「でも、それならどうしてライザーとの試合で? 他の相手でも良かったのでは?」

 

そう、今の話だとライザー以外でも良かったはずだ。

一番目の試合でも実行できたはず。

 

ゲームフィールドの関係だろうか?

観客からは見えない場所である必要があったみたいだしな。

 

すると、アジュカさんは小さく笑みを作った。

 

「それについてはいずれ分かる。彼は意外とめざとい」

 

その答えに俺もレイヴェルも首を傾げる。

 

ライザーでないといけない理由が他にあったということなのだろうか。

今はまだ分からないが、いつかそれが分かる………?

 

この人がそう言うのだから、それは俺達にとって害となることではないと思うが…………。

 

まぁ、でも―――――。

 

レイヴェルは深く頭を下げた。

 

「アジュカさま、この度は兄を………ライザーを救っていただき、ありがとうございます…………! このご恩は一生忘れません………!」

 

「気にしないでくれ。俺は俺の役目を果たしたに過ぎないからね」

 

深々と頭を下げるレイヴェルにアジュカさんは微笑みを浮かべた。

 

 

 

 




真面目だった…………かな?


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10話 悪意はどこまでも

ライザーが行方不明となっていた経緯は分かった。

 

しかし、王者は未だに行方を掴めていない。

おそらく、リゼヴィムの元にいると思われるが…………。

 

気を持ち直したソーナは立ち上がりながら、目を細めていた。

 

「アジュカさま、それで姿を見せない王者がしたいこととは?」

 

核心についての質問だ。

 

リゼヴィムと通じ、アグレアスの強奪まで援助し、アジュカさんと会うためにライザーを利用した。

真実を知った上で王者は何をしようというのか。

 

その問いにアジュカさんは―――――。

 

「今ここで話したことを冥界全土、各勢力に至るまで打ち明けることだろう」

 

『………っ』

 

皆が一様に息を飲んだ。

 

冥界に住まう人達が真実を知れば、冥界の価値観はひっくり返る。

レーティングゲームには可能性があり、下級、中級悪魔の夢、希望となっていた。

それが実は真っ黒なもので、ランキングすらも操作されていたものだと知れば、ここまで夢を抱いて生きていた者達が…………将来の夢にしていた子供達でさて、希望を失ってしまう。

 

上級悪魔の中でも立ち上がったライザーのようにゲームと真っ直ぐ向き合っていた者達からすれば許せないことだ。

これまで自分達の誇り、魂をかけたゲームは何だったのか、そんな疑問すら浮かび上がってもおかしくはない。

 

ランキング一位、絶対王者たる皇帝べリアルの口から語られる真実は重く受け止められるだろう。

 

その後に待ち受けるものは――――――。

 

「………今まで以上の犠牲が出るかもしれませんね」

 

苦渋に満ちた表情でソーナが言う。

 

そう、真実を知った者達が暴動を起こす可能性が出てくる。

そして、その被害は現時点の被害よりも大きく、凄惨なものになるだろう。

 

アジュカさんが息を吐く。

 

「相応の犠牲はあるだろう。特に今回は無理矢理に事が進んだ。アグレアス強奪の件といい、失われたものは無視できない」

 

アザゼル先生が問う。

 

「しかし、監視カメラの映像を見られたということは、古い悪魔達はおまえさんと皇帝べリアルの会話を聞いたということだ。利権だの何だのと煩い連中にとっては危惧すべきことだろう」

 

「ええ。なので、あの場の出来事はある程度改竄しておきましたよ。もう年寄り達は勘づいて行動しているでしょうが」

 

「相変わらず抜け目ないな。その様子だと、王者が事を起こしても、良い対策案があるのだと見える」

 

「一応、悪魔の王なのでね。それにサーゼクスが出来ないことをするのが、俺の仕事だと思ってます。表はあいつ、裏は俺ですよ」

 

「なるほど、そりゃそうだ。だが、事が起きるにしても出来るだけ犠牲は少なくするべきだ」

 

「それは重々承知の上です。罪のない民から犠牲を出すわけにはいきませんから」

 

しばし、意味深に見つめ合うアザゼル先生とアジュカさん。

VIP、種族の長同士、思うところがあるようだ。

 

アザゼル先生は笑む。

 

「ま、ライザーの事改めて礼を言う。これでうちの教え子も安心するだろうからな」

 

先生はそう言ってレイヴェルの頭を撫でた。

 

ライザーがフェニックス家に届けられたことにより、とりあえずは一段落というところだろう。

少なくともレイヴェルを含めたフェニックス家の皆さんはライザーが帰ってきてくれたことで、安心が出来るというもの。

 

この話し合いが終わったら、レイヴェルを一度、フェニックス家に返すべきだろう。

ライザーに会わせてやらないとな。

その時は俺も着いていった方が良いのかな………?

 

アジュカさんも笑みを浮かべる。

 

「それぐらいはしますよ、元総督殿。せっかく有望な若手が出てきたのだから、死なせるわけにはいかない。今のレーティングゲームの状況は俺の見通しが甘すぎた故の結果だ」

 

「ま、人間界の国際競技と似たようなものだろ。おまえさんはゲームの発案者だが、発案者というものはどの時代も製作したものから一歩離れただけで厄介者扱いされる。こう言ってはなんだが、仕方がないところもあったんだろうな」 

 

先生の言葉にアジュカさんは肩をすくめる。

 

「そう言われてしまえば、そこまで…………というわけにもいかないんですよ。俺も出来る範囲で手を出さなければ、事態は悪化の一途を辿るでしょうからね。ですが―――――」

 

そこでアジュカさんは俺達『D×D』のメンバーを見渡した。

リアスとソーナ、そして俺へと視線を配らせる。

 

「現在の若手、特に君達は冥界でも力を持った存在だ。ライザー・フェニックスも、君達若手悪魔も今後のレーティングゲームを変えられる逸材だと俺は考えている」

 

「いっそのこと、こいつらをプロ入りさせて、上役共の鼻をへし折るのも一興だろうな。こいつらなら今の実力でも上位に食い込めるはずだ」

 

先生は笑いながらそんなことを言うが…………。

冗談…………ではないな。

結構本気の目だ。

 

先生の提案にアジュカさんも面白いといった表情を浮かべた。

 

「それは楽しそうだ。その時の老人共の顔を拝んでみたくはあるな。そうだ、赤龍帝くん」

 

「なんでしょう………?」

 

「君、プロにならないか? 今の君なら、君の眷属の実力なら上位陣、トップランカーですら容易に打ち砕けると思うのだが?」

 

な、なんて提案をしてくるんだ、この人は…………。

 

う、うーん…………プレーンなルール、ガチンコ勝負なら何とかなりそうな気もするけど、特殊なルールが入るとなぁ。

 

俺ってゲーム経験少ないなんてレベルじゃないもん。

サイラオーグさんとの一戦、あれだけしか出場してないし。

 

ま、まぁ、そこは頼れる眷属、頼れるマネージャーであるレイヴェルに頼るか。

レイヴェルならライザーの眷属としてプロの試合も何度か出てるし。

うちの眷属の中では一番、レーティングゲームに詳しいし。

 

俺はレイヴェルに話を振ろうとするが、その前にアザゼル先生が首を横に振った。

 

「いや、やっぱり止めておこう。こいつが出たらレーティングゲームのパワーバランスが崩壊する」

 

「んなっ!? ちょっとそれ酷くないすか!?」

 

「おまえな、『王』は乳力(にゅー・パワー)だの何だのでデタラメ進化する赤龍帝、『女王』『戦車』『兵士』にはアスト・アーデという異世界で名を馳せた猛者。『僧侶』は異世界の魔王の娘に不死のフェニックス。どう考えてもチートだろうが。若手のレベルじゃねーよ」

 

すると、モーリスのおっさんが、

 

「ちょっと待て、アザゼル。俺のどこが若手だよ? どう見ても良い歳したおっさんだろ」

 

「悪魔の寿命からしたら、おまえさんは若手だよ。言っておくが、アジュカの方がおまえより遥かに歳上だぜ?」

 

「マジか」

 

あ、そういえば、そうだな。

 

モーリスのおっさんって、人間で言えば十分おっさんだけど、悪魔でいえばまだまだ若いんだよな。

見た目若いサーゼクスさんやアジュカさんでも何百年と生きてるわけだから、今更ながら色々と感覚がおかしくなりそうだ。

 

改めて自分が若いことを知ったおっさんは顎を擦りながら言う。

 

「なるほどなぁ。つまり、今なら俺でもレッツパーリィできるわけだ」

 

「おうよ。何なら俺が良いとこ、連れてってやろうか? レッツパーリィ出来るぜ」

 

「おー、行く行く」

 

なんか、おっさん二人が握手してる…………。

 

レッツパーリィって、あんたら何するつもりだ!?

 

あ、レイナちゃんが物凄い視線を先生に向けてる。

明らかにレッツパーリィを阻止しようとしてる。

きっと、仕事が溜まってるんだなぁ…………うんうん。

 

俺はそんな光景を横目にアジュカさんに言う。

 

「えーと、一応考えてみます…………」

 

「何も今すぐにという訳ではないよ。ゲームに出場している暇もないだろうしね。だが、君達のゲームは見てみたいと思っている」

 

なんだか、すごい期待をされているような…………。

 

ま、まぁ、今すぐじゃないしね。

時間があればレーティングゲームの勉強でもしておこう。

 

先生達の言うように真っ黒に染まった運営や上役の鼻をへし折るのもアリだろうしな。

公式のゲームで、正々堂々、真正面から打ち砕くのは楽しそうでもある。

 

アジュカさんは微笑を浮かべる。

 

「若手の君達には多大な迷惑をかけるだろうが、どうか乗り切ってほしい。上のことは上で対処させてもらう。これから何が起ころうとも、君達は暴れるところで暴れ、守るべきところで守ってくれるだけでいい」

 

なんとも分かりやすいことを言ってくれる。

 

今の俺達が何かを言ったところで上役連中が変わることはないだろう。

それならば、俺達は俺達で出来ることをすればいい。

 

と、ここでアザゼル先生が指を一本立ててアジュカさんに問う。

 

「ひとつだけ教えてくれ。――――現存する『王』の駒はいくつある?」

 

「生産ライン自体は初期ロットでストップさせてます。製造方法を知らせていないどころか、製造自体が俺しか出来ないため、新たに作り出すことは不可能です。たとえ、異世界の神であろうと。したがって、現存しているの初期ロットで製造した分のあまり。把握しているのはここにある分を含めて九つ。王者から受け取った分もありますので、俺の手元にあるのは全てで四つ」

 

いつの間にかアジュカさんの手に二つ目の『王』の駒が握られていた。

これが王者から受け取ったという駒だろう。

 

この答えに先生は険しい顔つきとなる。

 

「つまり、残りの五つは上役連中の手元か。意外に多いな。いざというとき、十分に状況を覆せる数だ。使用した者次第では魔王クラスが生まれる程のものだ。残りの五つの駒でどんな悪魔が生まれるか分かったもんじゃない」

 

「俺は数千年かかろうとも全て回収するつもりです。製造した手前、それぐらいはしなければ」

 

王者から受け取ったのは回収する意味もあったようだ。

使用者の力を劇的に引き上げる驚異の駒だから、当然なんだけどね。

 

ふいに俺の中で疑問が生まれる。

 

「リゼヴィムは『王』の駒の存在について知っているんですかね?」

 

「おそらくは。だが、『王』の駒はあまりに強すぎる者、あるいは特異な能力を持つ者が使用するとオーバーフローを起こすようでね。最悪、命の危険が生じる。助かっても良いことはないだろう。そういう点では同様の効果を持つオーフィスの蛇の方が使い勝手が良い。あちらはこれといったリスクが存在しないからね」

 

なるほど…………。

驚異的ではあるが、その反面、リスクが存在するのか。

それも命に関わるようなリスクが。

 

性格はガキだけど、リゼヴィムは『超越者』の一人に数えられるほどの実力者。

『王』の駒を使えば死ぬ可能性がある。

 

奴もその点は理解していたから、『王』の駒について知っていても、使おうとしなかったのだろうか?

 

流石の奴も死ぬリスクを背負ってまでパワーアップはしないか………。

 

そんな疑問を浮かべていると、アジュカさんが先生に言う。

 

「アザゼル元総督殿、こちらからも一つ」

 

「なんだ?」

 

「気を付けた方が良いでしょう。正直な話、俺が敵ならば『D×D』打倒のために真っ先に狙うのはあなただ」

 

―――――っ。

 

この発言には皆も思うところがあるようで、二人に視線を集中させていた。

 

アジュカさんは続ける。

 

「あなたは有能すぎます。腕利きのアドバイザーとして、チーム『D×D』だけでなく、各勢力にとってもね。それゆえにあなたは狙われるでしょう。…………といっても自覚はおありのようだが」

 

先生は苦笑しながら、肩をすくめる。

 

「………ちょっと前に破壊神にも同じことを言われたよ。………まぁ、自衛の策はいくつか用意しているがな」

 

先生を狙う、か。

 

力だけなら、チーム『D×D』は先生抜きでも十分と言える。

しかし、俺達がここまでやってこれたのは、先生がいたからこそ。

先生は各勢力との橋渡しだけでなく、その知識、頭脳を活かしてあらゆる手回しを行ってきた。

先生の存在は俺達や各勢力のVIPにとって重要なもの。

 

だからこそ、狙われる。

敵にとって、何よりも厄介な存在だから。

 

………お願いだから、あまり無茶はしないでくれよ、先生。

俺達には無茶をするなと言いながら、陰で無茶をする人だからな、この先生は。

 

アザゼル先生は逆にアジュカさんに問う。

 

「そういうおまえさんも大分おかしなことに首を突っ込んでいると聞いているぞ? 残る神滅具―――――『蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)』と『究極の羯磨(テロス・カルマ)』の行方をほぼ捉えているんだろう? 自前の『ゲーム』で対応しているそうだが…………この空間もそれに関与しているってことか」

 

突然挙げられた神滅具の名前。

その神滅具二つがこの空間に関係している…………?

 

アジュカさんは首を横に振った。

 

「申し訳ないが、これは俺の領域だと思っている。たとえ神器に明るいあなたでもあれらを捉えるのは無理でしょう。なにせ、この世界の理の外にあるのですからね」

 

「そうかい」

 

先生は苦笑した後、息を吐いた。

 

その時―――――。

 

アジュカさんとアザゼル先生の耳元に小型の連絡用魔法陣が同時に展開された。

魔法陣の向こうからくる情報に耳を傾ける二人。

 

アジュカさんは目を細め、先生はその連絡に言葉を失っていた。

 

アジュカさんはこちらを振り向くと、一言告げてくる。

 

「すぐに戻りたまえ」

 

「何があったのですか?」

 

突然のことにリアスが問い返すと、アジュカさんは衝撃的なことを口にした。

 

「オーフィスが邪龍に襲われたそうだ。更に―――――」

 

アジュカさんの視線は俺と美羽を捉える。

 

すると、先生はそれと合わせたかのように俺と美羽の肩を掴んできた。

 

「イッセー、美羽、落ち着いて聞いてくれ」

 

「何があったんですか………?」

 

俺の問いに先生は深呼吸した後、一泊おいて―――――。

 

「オーフィスが襲撃を受ける直前、外出していたおまえ達のご両親も襲撃を受けた。そして………ディルムッドが瀕死の重傷だそうだ」

 

 




原作から展開が変わってきます~。


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11話 英雄となった少女

[三人称 side]

 

 

チーム『D×D』のメンバーが魔王アジュカ・ベルゼブブからライザーの身におきた事態について、レーティングゲームの闇について聞かされている時のこと。

オーフィスが襲撃を受ける少し前のことだ。

 

一誠の父と母は二人で外に出掛けていた。

二人で釣りをするため、駒王町の外に出ていたのだ。

 

釣竿をセットし、釣糸を垂らす二人。

本来なら、父と息子の水入らずで釣りをしたかったのだが………。

 

「たまには夫婦水入らずも良いだろう」

 

ふぅと息を吐く一誠の父。

慣れた手つきで魚をおびき寄せる餌を蒔いていく。

 

「イッセーも色々と忙しいのよ。何て言っても我が家の出世頭よ? 息子に抜かれたわね」

 

「ここまで遠く突き放されるとな。我が息子ながら中々やる」

 

冗談っぽく息子について語り合う。

 

地位的には一誠は自分よりも遥かに上になっただろう。

 

上級悪魔――――――。

眷属を従え、自身の領地を持つ。

加えて冥界の下級、中級悪魔とは比べ物にならない権限がある。

 

一誠の父からすれば、企業の社長という感覚だ。

 

波に揺れる釣糸を眺めながら呟く。

 

「上級悪魔、か………。今は慣れてしまったけど、冗談みたいだよな。ファンタジー過ぎるぞ」

 

「初めて聞かされた時…………というか、イッセーが美羽を連れてきた時も頭の整理がつかなかったわよ。一晩たったら、いきなり大きくなってるわ、女の子連れてきてるわで」

 

一誠が異世界から帰ってきた日。

不思議なことに向こうでの三年はこちらでは一瞬。

その原理はまだ解き明かされていない。

 

そのため、夫婦からすれば目を疑う事態だったのは間違いない。

 

息子が家族を連れてきてから三年の月日が流れた。

 

「悪魔とか堕天使とか話を聞くだけなら、ファンタジーだけど、実際に触れあってるとそうでもない。あの子達は普通の女の子とそう変わらない。―――――俺達の娘だ。………そういえば、昔のこと話したんだったな」

 

その言葉に母は頷く。

 

「あの子達もいつかは親になる。そのためには知っておいた方が良いと思ったのよ。ふふふ、知ってる?」

 

「なにを?」

 

「イッセーったら、美羽にプロポーズしたんですって。まぁ、今更かもしれないけど、すっごく喜んでたわ」

 

「ははは、こりゃ、結婚式も近いのかね?」

 

息子達の将来の姿を思い描きながら、夫婦は談笑する。

 

このまま穏やかな時が流れてほしい。

帰ったらいつものように息子達を待っていよう。

そんな想いでいた。

 

 

その時だった―――――。

 

 

「…………?」

 

突然、周囲の空気が変わった。

 

人間である二人に気配を読んだり、オーラを探る力はない。

当然、その手の訓練をすれば身に付くだろうが、今のふたりはただの人間なのだ。

 

そのただの人間でも感じとることが出来るこの違和感。

 

「なに、この臭い…………」

 

異臭を感じた一誠の母は鼻を抑えた。

 

明らかにおかしい。

何が起きたのか、周囲を確認すると…………。

 

それはいた。

 

《グヘヘヘ、おめがドライグのおっとうとおっかあだな?》

 

黒い鱗と黄土色の蛇の腹。

細長い蛇の形状をした怪物。

巨大な四肢に翼が四つ。

 

大きく開かれた口からはよだれのようなものが延々垂れ流れている。

巨大な手には何かを握っているようだが、暗闇ではっきりと確認できない。

 

怪物の名はニーズヘッグ。

北欧に生息していた伝説の邪龍。

 

「ひっ………ば、化け物…………!」

 

ニーズヘッグの巨体に、その醜悪な姿に夫婦は後ずさった。

 

異形の存在と交流があるとはいえ、二人が出会ってきたのはリアス達のような者達。

人型でなくとも、触れてきたのはファーブニルのような比較的大人しい存在だ。

 

しかし、目の前の邪龍は違う。

明らかに自分達に害を成そうとしている。

自分達に害意、敵意を向けてくるような異形は夫婦にとって初めてだったのだ。

 

ニーズヘッグは醜悪な笑みと共に言う。

 

《ルシファーの息子がよ? おめらを捕まえたらオーフィスは何も出来なくなるって言うからよ? 捕まえにきたんだぁ》

 

「「…………!」」

 

自分達を捕まえにきた。

そして、同居しているオーフィスの名。

 

全てを理解できたわけではないが、本能で察知した。

 

 

―――――自分達を人質にするつもりなのだと。

 

 

一誠からは現状を聞かされていた。

そのため、ある程度の状況は理解できる。

 

ニーズヘッグは手に握っていた何かを放り投げた。

 

それは―――――血塗れの堕天使。

夫婦の護衛にと、アザゼルが手配した者だった。

しかし、その護衛も既に息絶えている。

 

それを確認した瞬間、強烈な恐怖が襲い掛かってくる。

 

「ぁぁ………ぁぁ………っ!」

 

恐怖のあまり、声が出ない。

逃げなければいけないのに、脚が動いてくれない。

 

一誠の母が恐怖に膝を着こうとした時、一誠の父はその手を掴んだ。

 

「に、逃げるぞ! 立つんだ!」

 

「ぁぁ、脚が………!」

 

「ちぃ! 俺がおぶる! とにかく逃げるんだ! ここで掴まればイッセーの足を引張ってしまうだろ!」

 

自身の認識の甘さを恨んだ。

なぜ、釣りなんかに来てしまったのか。

自身達が狙われることを考えなかったのか。

 

後悔したところで、もう遅い。

 

だから、今はただ逃げることを選んだ。

目の前の怪物から。

連れ合いと共に。

 

一誠の父は脚が動かない母を背負うと、走った。

とにかく全速力で、隠れるところを探しながら。

 

しかし、相手は伝説の邪龍。

 

ただの人間が逃げ切れる訳がない。

 

《グヘ、グヘヘヘ。逃がさねぇぞぉぉぉっ》

 

巨体とは思えない俊敏な動きでニーズヘッグは夫婦の先の回り込む。

ニーズヘッグが手を伸ばせば余裕で届く距離に夫婦はいた。

 

―――――絶望が夫婦を襲う。

 

このまま掴まってしまうのか。

息子達の足を引っ張ってしまうのか。

自分達が掴まることで、息子達が傷つくのなら、いっそのこと―――――。

 

そこまで思考が及んだ、その時。

 

ヒュンッと風を切る音が聞こえた。

次の瞬間、夫婦の目の前に一振りの剣が突き刺さる。

 

そして、その剣は夫婦を囲むようにドーム状の障壁を展開。

ニーズヘッグの手を阻んだ。

 

予想外の事態にニーズヘッグも首を傾げる。

 

ふいに声が聞こえてくる。

 

「させん」

 

女性の声だった。

 

ニーズヘッグがその声に振り向いた瞬間――――――鋭い斬戟がニーズヘッグを襲う。

 

横凪ぎに飛んできた一撃は硬い鱗を切り裂き、ニーズヘッグの顔に一文字を刻み込んだ。

 

《な、なんだぁっ!?》

 

ニーズヘッグは咄嗟に後ろに飛び、敵を確認する。

 

すると――――――。

 

「その方々に手は出させない」

 

紫色の髪を後ろで束ねた女性。

その手には一本の槍と一振りの剣。

 

女性の姿に一誠の父は声を漏らす。

 

「ディルムッド…………さん?」

 

「遅くなり、申し訳ありません。嫌な予感がしたので来てみれば…………どうやら、当たったようで。マスターの父上殿、母上殿。その剣から離れないようにしてください」

 

―――――ベガルタ。

 

ディルムッドが持つもう一振りの剣。

一定の範囲に結界を張り、盾となる。

 

ニーズヘッグを阻んだのはこの剣の能力だ。

 

ディルムッドは夫婦の側に立つとニーズヘッグを睨む。

 

「『外法の死龍(アビス・レイジ・ドラゴン)』ニーズヘッグ。リゼヴィム・リヴァン・ルシファーの手駒か。命が惜しくば退くことだ。この方々に指一本触れさせはせん」

 

《あぁっ? なんだ、おめ。そいつらの娘か?》

 

「…………娘………か。私には贅沢な言葉だ」

 

自嘲気味に笑むディルムッド。

 

ニーズヘッグが指を鳴らす。

すると、周囲にいくつもの魔法陣が展開される。

その数は三十といったところだ。

 

そこから現れたのは量産型の邪龍。

しかし、ただの量産型ではない。

 

《グヘヘヘ、量産型のグレンデルだとよぉ。ルシファーの息子には出来るだけ使うなって言われたけどよ、おめさ相手するなら、これくらいいいよなぁ?》

 

一人に対して敵は三十を越える邪龍。

 

よりにもよって、グレンデルの量産型。

本物程でないにしろ、その防御力の高さは凄まじい。

リアスのように滅びの魔力を練れるのであれば楽だろうが、ディルムッドとは相性が悪い。

 

一誠の父が叫ぶ。

 

「だ、ダメだ! 俺達のことは良い! あなたも逃げてくれ!」

 

若い、美羽達よりも年下の女の子が自分達のために危険に身を晒す。

子を持つ親としては我慢ならないことだった。

 

しかし―――――。

 

「あなた達に何かあればマスターが悲しみます。あの笑顔を曇らせるわけにはいかない」

 

ディルムッドはそれだけ告げて、駆け出した。

槍と剣を握り、邪龍の群れの中へ――――――。

 

 

 

 

少女はイギリスのとある田舎で生を受けた。

父と母、姉の四人家族。

 

一家は代々人里離れた山奥で生活していたため、他の者達と交流は少なかったが、それ以外はどこにでもある普通の家庭だった。

 

優しい父に優しい母、そして優しい姉。

今は滅多に笑うことがない少女だが、この頃はよく笑う普通の少女だった。

 

少女が慕っていたのが三つ歳が上の姉。

困ったときは助けてくれる、落ち込んでいるときは励ましてくれる。

そんな優しい姉が好きで、いつも後ろをついて回っているほど。

 

平和な日々。

 

しかし――――――ある日、その平和は脆くも崩れ去った。

 

はぐれ悪魔が家を襲ったのだ。

 

狙いはその一族が持つ秘宝。

ケルトの英雄、ディルムッド・オディナが使っていた魔槍と魔剣。

 

はぐれ悪魔は家に押し入ると母を殺し、父を殺した。

 

姉は少女をとある部屋に隠し、魔剣ベガルタによる結界で少女を覆った。

 

そして、囮になるべく、少女をその部屋に隠しはぐれ悪魔の前に出た。

 

本来、二本の魔槍と二振りの魔剣は姉が受け継ぐはずだった。

だが、この時の姉はまだ完全に使いこなせているわけではなく、唯一使えるのがベガルタ。

そのベガルタは少女を守るために使ってしまい、武器は持っていたとはいえ、はぐれ悪魔にとっては丸腰も同然。

 

―――――姉は抵抗虚しく父母同様に殺されてしまう。

 

屋敷のどこを探しても秘宝を見つけられなかったはぐれ悪魔はその場を去る。

 

はぐれ悪魔が去ったことを知った妹は部屋を出た。

そこに広がっていたのは無惨な姿にされた肉親。

 

親は既に息絶えて、姉は辛うじて息があったが、手遅れなのは明らか。

 

姉は最後の力を振り絞って、少女に託した。

自分が受け継ぐはずのものを。

 

 

『それがあなたを守ってくれるわ。生きて、生きて、生き延びなさい。私の分まで。そうすればきっと―――――』

 

 

それが姉の最後の言葉だった。

 

泣いている暇など少女にはなかった。

槍と剣の存在を知ったはぐれ悪魔が再び襲ってきたのだ。

 

少女は逃げて、逃げて、必死で逃げた。

頼れるものは自分と姉から託されたこの槍と剣のみ。

姉の最後の言葉を守るためにはどうすれば良いか。

 

逃げた末にたどり着いた答えが――――――強くなることだった。

 

感情を捨て、害成す者を斬り伏せる。

 

他にも道はあったのかもしれない。

だが、それまでに闇を見すぎた。

はぐれ悪魔もそうだが、自分を利用しようとする人間、その他異形の存在。

 

少女は生きるために非情になった。

 

英雄派に声をかけられたのはそんな時だった。

 

異形に対して牙を剥く者達の集まり。

そこに勧誘されたのだ。

 

特に行く宛もなかった少女は誘いに乗った。

しかし、英雄派が行うテロ活動に手を貸す気はなかった。

 

それは英雄派のやり方が気に食わなかったのもあるが、それ以上に人間も異形と同様に裏の顔を持つことを知っていたからかもしれない。

 

月日が流れ、英雄派は瓦解。

 

少女は再び流浪に出ることに。

その矢先に出会ったのが――――――歴代最高の赤龍帝と称される男とその妹だった。

 

 

 

 

「私に…………まとわりつくな!」

 

ディルムッドは槍を振り回しながら、過去のことを思い出していた。

 

なぜ、自分はここにいるのか。

なぜ、血の繋がらない者のために戦っているのか。

 

どうみても分が悪い。

一人ならなんとか出来ただろうが、今は守りながらの戦闘。

結界で二人を保護しているとはいえ、やはり負担が大きい。

 

それなのに、どうして――――――。

 

ディルムッドは邪龍の攻撃を捌きながらふいにそちらへと視線を向ける。

結界の中で自分を心配する夫婦。

 

なぜ、この者達のためにここに来たのか。

 

 

―――――よかったら家、来る?

 

 

―――――へぇ、ボクより年下なんだね。

 

 

―――――ディルさんって呼んでいい?

 

 

―――――ディルさんディルさん、今日の晩御飯は何が良いかな?

 

 

脳裏に黒髪の少女が浮かび上がった。

いつも笑顔で語りかけてくる少女。

彼女といると不思議と心が安らいだ。

 

それが不思議だった。

 

でも、日々を過ごしていくうちにその理由がようやく分かってきた気がする。

 

姉と似ていたのだ。

顔も似ていないし、声も違う。

しかも、自分よりも幼く見える。

 

――――――彼女の優しい笑顔は姉とそっくりだった。

裏のない、心からの笑顔。

それに牽かれたのかもしれない。

 

「くっ………っ!」

 

ディルムッドは一体の邪龍を仕留めると、大きく後ろに跳んだ。

 

戦闘開始から十分。

着ている服は破れ、白い手足には赤い血が流れている。

こちらの攻撃は通りにくい上に、守りながらの戦い。

流石のディルムッドでも無傷というわけにはいかなかった。

 

最悪なことに、一体減ると新たに魔法陣が展開されて新たに邪龍が送られてくる。

どうやら、大規模に呼ぶと三大勢力に属する者に感づかれると考えているようだ。

 

一度に数百という数を相手にしなくて済むので、その点だけは救いと言える。

 

それでディルムッドの不利が逆転するわけではないが。

 

「もういい…………! もう良いんだ…………!」

 

彼女の後ろ、結界の中で一誠の父が涙を流していた。

 

「俺達のために、命をかける必要はない! お願いだ! お願いだから逃げてくれ………!」

 

「そうよ! ディルさんだけなら、逃げることも出来るのよね? だったら、私達を置いて早く…………!」

 

傷ついていく少女の姿に耐えきれなくなった二人は泣いて叫んだ。

 

二人にとってはディルムッドも娘のような存在。

少々愛想が悪いが、本当は食いしん坊で、一誠のラッキースケベに泣くようなところもあって、実は甘えん坊なところもある、そんな娘。

 

その娘が自分達のために傷ついていく。

 

やめてくれ、と何度も叫んだ。

 

だが、ディルムッドは首を横に振った。

そして―――――見たことのない優しい笑顔で二人に言った。

それは彼女本来の笑顔で――――――。

 

 

「――――心配しないで。何があっても私が守るから。絶対に守りきってみせるから。絶対に大丈夫だから」

 

 

ディルムッドは再び槍を構え、剣の切っ先をニーズヘッグへと向けた。

傷だらけの体で、それでも両の足で地を踏みしめる。

 

静かで濃密なオーラを纏い、英雄は立つ。

 

「我が名はディルムッド。ケルトの英雄ディルムッド・オディナの魂を引き継ぎし者。北欧の邪龍よ、作られし邪龍共よ、この二人には指一本たりとも触れさせはせん。―――――さぁ、来るが良い。私は死んでも守りきってみせよう」

 

 

[三人称 side out]




ただの食いしん坊じゃありません!


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12話 見つけた居場所

駒王町には三大勢力共有の施設がある。

それはつい最近出来た真新しい施設で町の外れに設置されている。

 

アジュカさんと話していたフィールドから帰ってきた俺達はそこにデュリオも加えて集まっていた。

 

部屋にはベッドが二つあり、そこに色々な医療器具に繋がれたディルムッドとオーフィスが横たわっている。

二人とも服はボロボロとなっており、現在、アーシアが治療しているところだ。

 

こちらに戻ってきた時、二人とも無残なほどズタボロ状態だった。

 

ディルムッドは片腕をちぎられ、全身の肉を抉られており、オーフィスも四肢を砕かれ、顔も見られないほどに滅茶苦茶にされていた。

 

なぜ、二人がこんなことになったのか。

それはクリフォトの襲撃によるものだ。

 

奴らは――――――父さんと母さんを襲撃しやがったんだ…………!

 

アザゼル先生が険しい表情で俺に告げる。

 

「イッセー、おまえのご両親は無事だ。今は落ち着いてもらうため、他の部屋で寝てもらっている。………町に展開しているスタッフが現地に駆けつけた時、二人の周りには邪龍の死骸の山。そして、この剣が地面に突き刺さっていたそうだ」

 

先生が取り出したのは一振りの剣。

銀色に輝く両刃の剣だった。

 

「魔剣ベガルタ。こいつの能力は強力な盾、防御結界を張ることだ。この剣がご両親を守っていたそうだ。奴らの物量の前に力尽きても、結界は維持されていた。ただ、かなり強く張っていたみたいでな。内側にいたご両親を完全に閉じ込める形になっていたようだ。現地に向かったスタッフ総出で結界の解除をすることになったよ」

 

俺はその剣を受け取り、剣の腹を指でなぞった。

 

おそらく、父さんと母さんが結界の外に出てしまうと考えたんだろうな。

二人が目の前で娘の一人が傷ついているのに飛び出さない訳がない。

だから、内側からも外側からもそう簡単には崩せないように結界を張った、か。

 

…………ディルムッド…………おまえ、こんなボロボロになってまで父さんと母さんを…………っ!

 

握りしめた拳から血が滴り落ちる。

爪が肉に食い込んでも、それ以上の激情が俺の中で渦巻いていた。

 

モーリスのおっさんが先生に問う。

 

「だが、ディルムッドは例の地下空間で見つかったと言うじゃねぇか。そこの坊主が発見したんだろう?」

 

おっさんが指差したのはデュリオだ。

 

そう、今回、傷ついたディルムッドとオーフィスを保護したのはデュリオ。

 

皆の視線が集まるなか、デュリオは言った。

 

「………何やら不安を感じてさ。俺があそこに行った時は邪龍が逃げるところだった。先にそこのクロウ・クルワッハが駆けつけていたようだけどね」

 

「…………」

 

デュリオが指す方向には部屋の壁に背中を預ける格好のクロウ・クルワッハの姿。

 

デュリオが方向を続ける。

 

「オーフィスは………『虹龍(スペクター・ドラゴン)』の卵を庇う形で倒れてたよ。そして、ディルムッドもその場に捨てられたような形でいた。きっと、クロウ・クルワッハの登場に驚いたんだろうね。彼女を放り捨てて逃げたようだよ」

 

デュリオがそう言うと先生が懐からリモコンを取り出した。

ボタンを操作すると、この部屋に取り付けられていたモニターに映像が映し出される。

 

そこは例の地下空間の記録映像だ。

タンニーンのおっさんから大事な卵を預かる以上、不測の事態に備えて監視をしなければならなかったのと、希少種ゆえ、孵化の瞬間を映像に収めたかったという理由であそこにはいくつかの監視カメラを設置していた。

 

………映し出されたのは突如として地下空間に現れた一体の邪龍とオーフィスが対峙し、そして無残に暴虐の限りを浴びせられている様子だった。

 

黒い鱗を持った細長い蛇の形をしたドラゴン。

口からはよだれなのか、毒液なのか、分からないものが延々と垂れ流れており、不気味に浮かべる笑みと合わさって醜悪きわまりなかった。

 

このドラゴンに覚えがあるのか、嫌悪の表情でロセが言う。

 

「『外法の死龍(アビス・レイジ・ドラゴン)』ニーズヘッグ。北欧に生息していた伝説の邪龍です。討伐しても、何度も蘇る非常にやっかいなドラゴンです。あまりに執念深いため、ラグナロクが来ても生き残るだろうとさえ、言われています。…………記録では最後に討伐されたのが数百年前のこと。自力で蘇ったのか、それとも聖杯か」

 

アザゼル先生が続く。

 

「どちらにせよ、聖杯による強化はしているだろうな」

 

そのニーズヘッグが無抵抗のオーフィスに暴力を振るい続ける。

巨大な前足で何度も殴り付け、切り裂き、幾度も踏み潰す。

更には大きな顎で噛みついたりもしていた。

 

有限になったとしても、邪龍程度、今のオーフィスでも十分に撃退できる。

なぜ、オーフィスは抵抗しなかったのか。

 

その理由はニーズヘッグが掴んでいる――――――血塗れのディルムッドだ。

 

先生が苦い顔で言う。

 

「奴らは本来、先にイッセーの両親を拉致してオーフィスの元に行く予定だった。それを阻止したのがディルムッドだったというわけだ。奴らはディルムッド一人に邪龍の群れを当てている。しかも、グレンデルの量産型。死骸だけで百は越えていた。あれだけの邪龍を一人で、二人を守りながら相手にするのはディルムッドでも厳しかったんだろうな。だが―――――」

 

先生はディルムッドに視線を移して、目を細めた。

 

「こいつはイッセーの両親を守りきった。最後までな。大した奴だよ、こいつは。…………奴らとしても、そこまで時間をかけるわけにもいかず、力尽きたディルムッドを代用したってことだ。―――――人質としてな」

 

映像では地下空間に現れたニーズヘッグとオーフィスが対峙し、何かを話している様子だった。

ニーズヘッグが足に掴んでいたディルムッドをオーフィスに見せつける。

すると、オーフィスは構えを解いて、邪龍の暴虐の甘んじて受け入れていた。

 

オーフィスは家に住むメンバーを大切に思っていた。

表情では分かりにくいが、気づけば誰かと一緒にいることも珍しくない。

それはディルムッドも同様だった。

 

オーフィスはディルムッドを守るためにあえて抵抗しなかったというのか…………っ。

 

「…………卵も狙っていたようね。卑劣極まりないわ…………っ!」

 

リアスも怒りに打ち震えていた。

 

映像ではニーズヘッグが卵を狙う素振りを何度も見せていて、その度にオーフィスは卵の前に立ち、守ろうとしていた。

そこを―――――ニーズヘッグは無慈悲に暴力を繰り返していく。

何度も何度もオーフィスの体を傷つける。

 

無限だったころなら何ともなかっただろうが、今は有限。

強力な力を有していても、無抵抗のまま攻撃を受け続ければ傷つく。

 

「………しかし、どうやって入ってきたのでしょうか?」

 

冷静にそう問うグリゼルダさん。

 

この地下空間には特殊な結界が張られていた。

それは認められた者しか入れないようにするためだ。

 

そして、その結界を考案したのはアザゼル先生でもある。

 

「………リリス。オーフィスの分身体とオーフィスの繋がりのようなものを利用したのかもしれん。今、突破された結界の解析を行っているが…………こういうときに限って役にたたん結界だ…………!」

 

悔しそうに先生は目を細めて髪をかき上げる。

 

「デュリオの言ってた通り、転移してきたクロウ・クルワッハの気配を察知してニーズヘッグは逃げている。この時、ディルムッドを手放したのは不幸中の幸いだった。向こうに囚われずに済んだからな。………映像の反応を見るにクロウがオーフィスと接点を持っていて、あそこを度々訪れていたのは向こうにとって予想外だったのかもしれん」

 

先生が言うように、クロウ・クルワッハが転移したことで状況は一転。

ニーズヘッグがクロウ・クルワッハを見た瞬間に仰天。

 

クロウ・クルワッハがオーフィスの変化に気づいて、ニーズヘッグを睨んだところで、奴は即座に逃げていった。

 

この記録映像はクロウ・クルワッハがオーフィスに近寄り、デュリオが地下空間に入ってきたところで停められた。

 

映像が停められたところで、ベッドの上の二人を治療し終えたアーシアが会話に入ってくる。

その表情はとても苦しげだった。

 

「一先ずケガは治りました。オーフィスさんは休んでいれば、そのうち良くなります。ですが…………」

 

アーシアの視線はディルムッドに向けられた。

 

アーシアの治療のおかげで、ちぎれた腕は元通りに繋がれ、深く抉られていた箇所も綺麗に治っている。

…………が、ディルムッドの顔には嫌な汗が流れていて、呼吸も中々落ち着いてくれないでいる。

 

その様子にアザゼル先生が顎に手を当てて言った。

 

「ニーズヘッグの瘴気が原因だろう。正確には体内に奴の瘴気を流されてしまったことにより、肉体が異変を起こしている。八岐大蛇の毒ほどではないが、奴の瘴気を受ければ悪魔でも体に異変を起こす。人間なら尚更な」

 

ディルムッドは強い。

曹操には及ばなくても英雄派の中でも上位の実力を持っていた。

しかし、身体能力は高くても人間であることには変わりがない。

 

悪魔でも体に異変を起こすレベルだ。

人間であるディルムッドにはかなり厳しい代物。

 

アザゼル先生は続ける。

 

「大量の失血に、ニーズヘッグの瘴気。すぐに治療を施したがいかんせん発見の時点で時間が経ちすぎている。今も解毒は続けているが、果たしてもつかどうか…………」

 

その言葉に激しく反応する者がいた。

 

美羽が涙を流しながら叫んだんだ。

 

「そんな! このままじゃ、ディルさんは…………! このまま弱っていくところを見るしかないんですか!?」

 

「………気持ちは分かる。今も必死で治療中だ。だがな、やはり人間の肉体では限界があるんだよ」

 

デュリオが見つけた時にはディルムッドは既に片腕を失い、全身が血塗れだった。

体力も血も失い、そこに毒ともいえるニーズヘッグの瘴気。

 

イリナのお父さんの時は俺達がすぐに運んだおかげで、応急処置とはいえ何とか解毒が間に合った。

 

しかし…………今回はあまりに遅すぎた…………。

 

弱い毒でも治療が遅れれば命を落とすことがある。

それと同じだ。

 

俺は…………!

俺達は…………このまま見ているしかないのか…………!

 

こんな姿になっても、父さんと母さんを守りきってくれた恩人に…………家族に…………何も…………。

 

俺はまた見ているしか出来ないのか…………。

 

ふいに赤い髪のお姉さんがディルムッドの額に触れた。

 

「ディルちゃん………生きたい?」

 

イグニスはディルムッドにそう訊ねた。

 

深い眠りについたままのディルムッド。

返事など帰ってくるはずもない。

 

それでもイグニスは問い続ける。

 

「生きたいのよね? ようやく、あなたが望むものが手に入ろうとしていたんだもの。暗い闇の中でやっと陽があなたを照らしてくれたんだもの。その陽を守るために頑張ったのよね? 美羽ちゃんの、イッセー達の陽を消させないために」

 

俺達の陽…………。

 

もし、ディルムッドが駆けつけていなければ、父さんと母さんはどうなっていたか分からない。

少なくともリゼヴィムの人質にはなっただろう。

 

俺が父さんと母さんの立場なら、俺は――――――。

 

 

「…………私は…………」

 

 

ディルムッドが…………言葉を発した。

弱り切った体で、僅かに言葉を発したんだ。

 

美羽が彼女の手を強く握る。

 

「ディルさん! 聞こえる? ボクが分かる…………?」

 

美羽の呼び掛けにディルムッドは目だけをそちらに向けた。

 

そして―――――。

 

「私は…………守れましたか? あの二人を…………守ることができましたか?」

 

「うん! お父さんもお母さんも、二人とも無事だよ! ディルさんが守ってくれたんだよ…………!」

 

「そう、ですか…………」

 

―――――ディルムッドの目から雫がこぼれ落ちた。

肌を伝い、ベッドに零れていく。

 

「………守られて…………逃げて逃げて逃げ続けて…………。でも、やっとあの日の、あの時の姉のように…………」

 

姉…………?

美羽…………いや、これは違うか?

ディルムッドの目は遠い日を思い出しているような…………。

 

イグニスがディルムッドの頬に優しく触れる。

 

「ディルちゃんはもう一人じゃない。こうして、心から想ってくれる人達がいる。あなたの苦しみや悲しみを理解してくれる人達がいる。あなたと喜びを分かち合える人達がいる。もう感情を捨てる必要はないの。―――――あなたの居場所はここよ。だから、生きなさい。強く望みなさい」

 

その言葉にディルムッドは弱々しくも、強く言葉を発した。

 

「私は…………まだ死ねない。死にたくない…………。この温もりを捨てたくない…………。やっと、やっとなんだ。ずっと求めていたんだ…………。だから、私は…………」

 

「そうだよ! ディルさんは死なない! ずっとボク達と一緒なんだ! ボクの、ボク達の家族なんだから!」

 

美羽が両手で強くディルムッドの手を握る。

 

二人の頬からは止めどなく涙が流れ落ちていく。

 

そうだ。

諦めてたまるか。

こいつは、俺達が守れなかったものを守って、傷ついて…………!

今も必死に生きたいと願っている…………!

 

俺は…………俺は――――――。

 

「美羽…………皆…………」

 

ふいに浮かんだ考え。

それでディルムッドを助けられるのかは分からない。

それでも、可能性があるのなら――――――。

 

俺は皆を見渡した後、一言だけ告げて背を向けた。

 

「ちょっとだけ待っててくれ。すぐに戻る」

 

あるものを取りに、俺は家へ戻った。

 




イッセー両親の拉致は阻止!
ディルムッドが体を張って守りきりました!


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13話 眷属、そして―――――

医務室を出てから十数分後。

 

俺は家にあるものを取りに行ってから、再び皆がいる医務室に戻ってきていた。

 

ベッドに目をやると横になっているディルムッドの顔色は更に悪くなっていた。

…………こいつは急がないといけないな。

 

戻ってきた俺にアザゼル先生が訊いてくる。

 

「イッセー、何か案があるみたいだが…………何をするつもりだ?」

 

俺は懐を探って、家から持ってきたものを取り出した。

それは重厚な雰囲気を持つ一つのケースだ。

 

皆の視線が俺の手元に集まる。

すると、ケースを見たリアスが察したようで、目を見開いた。

 

「悪魔の駒………? イッセー…………あなた、もしかして…………」

 

そう、このケースには俺が上級悪魔に昇格した際、渡された悪魔の駒が入っている。

この間、モーリスのおっさんに『戦車』を二つ、リーシャ、ニーナとワルキュリアの三人で『兵士』の駒八つを全て使ってしまったため、残るは『騎士』の駒二つ。

 

ケースの蓋を開けると赤い『騎士』の駒が二つ綺麗に納められている。

 

俺はその内の一つを取り出した。

 

「そう。俺は―――――ディルムッドを悪魔に転生させる。俺の眷属として」

 

『―――――っ』

 

この提案に皆は全てを理解したようだ。

皆の視線は俺の持つ『騎士』の駒と眠っているディルムッドを行き来する。

 

アザゼル先生は顎に手を当てて唸った。

 

「なるほどな。悪魔化すれば、肉体の強度だけでなく、魔の力に対する抵抗力も上がる。現在、ディルムッドの体内をニーズヘッグの瘴気が蝕んでいる状態だ。悪魔化により、肉体の抵抗力を上げてやれば、治療による回復も可能、か………」

 

俺は静かに頷いた。

 

そう、悪魔に転生すれば肉体の強度は飛躍的に上がる。

光に対しての抵抗力は大幅に下がるだろうが、魔に対する抵抗力は上がるだろう。

 

治療を始めるまでに時間が経ちすぎた。

人間のままでは解毒治療が間に合わない。

 

ならば―――――悪魔にしてから、治療したらどうだろうか?

 

これが俺の思い付いた手だった。

 

安易な考えかもしれない。

悪魔化したところで、間に合わないかもしれない。

 

それでも、可能性があるのなら、ディルムッドを助けることが出来るのなら――――――。

 

ソーナが眼鏡をくいっと上げた。

 

「ですが、イッセーくんはそれでよろしいのですか? 彼女を助けたい気持ちは分かりますが………。上級悪魔にとって、眷属の選定は重要です。駒は限られていますから」

 

「そんなことは良いんだよ。今はディルムッドを助けることの方が俺にとっては重要だから。もし、ここで何もしなければ、俺は絶対に後悔する………」

 

「そうですか…………。あなたらしい答えです」

 

ソーナはフッと微笑む。

 

確かに誰を眷属にするのかは上級悪魔にとって重要なことだろう。

自分がその人を従えていくんだし、能力や人を見てじっくり考える必要がある。

 

それよりも俺が気にしているのは…………ディルムッドを転生させるのが俺で良いのか、という点だ。

 

命がかかっている時にこんなことを議論するのはどうかと思うが…………ディルムッドは美羽の眷属になりたいと言っていた。

将来、美羽が上級悪魔に昇格して自分の駒を得た時に、美羽の手で悪魔に転生したかったはずだ。

 

美羽の手で悪魔になることはディルムッドの人生にとって、重要な意味があるはずなんだ。

 

仮に俺の眷属になっても、美羽が昇格した時にトレードするつもりだが…………本当にそれで良いのだろうか?

 

俺は浅い呼吸のディルムッドとその手を握る美羽に視線を移す。

 

俺は…………俺の選択は間違ってないのだろうか?

 

………って、何もしなければ後悔するって言ったはずなのになんで迷ってるんだよ、俺は…………。

 

俺は首を横に振ると改めて美羽と目を合わせた。

 

ディルムッドに意識はない。

だったら、美羽に訊くしかない。

 

「…………いいか?」

 

その一言だけを美羽に投げ掛けた。

 

美羽はディルムッドの顔を見つめた後、深く頷く。

そして、俺に真正面から言ってきた。

 

「お願い………。ディルさんを助けて………」

 

美羽はそう言うとディルの頬をそっと撫でて、後ろに下がる。

 

俺は手に握った『騎士』の駒を眠っているディルムッドの胸に置いた。

 

目を閉じ、強く念じる。

 

 

―――――生きろ、と。

 

 

「赤龍帝、兵藤一誠の名において命ず。汝、ディルムッドよ。我が下僕となるため、悪魔と成れ。汝、我が『騎士』として転生せよ!」

 

『騎士』の駒が赤く輝く。

赤い光がこの医務室を照らし始めた。

駒が軽く宙に浮き、ディルムッドの胸の中に入っていく。

 

その光景に俺は進路相談があった日、美羽と話したことを思いだした。

 

 

―――――ディルさんね、ボクのことを本当に家族だと思ってるって言ってくれたんだ。それはボクがお兄ちゃんに持っている想いと近いんだと思う。

 

―――――それは美羽のことをお姉ちゃんみたいに思ってるってことか?

 

―――――うん、多分ね。………家に来てから笑うことが出来たって。忘れていたものを取り戻せた気がするって言ってたよ。

 

 

こいつは無愛想だけど、最近はよく笑うようになった。

美羽のことを家族だと、姉だと思うようになった。

父さんと母さんを守ったのは美羽の笑顔を守るためでもあったんだと思う。

 

でも、でもよ…………!

 

「おまえがいなくなったら、泣くんだよ! 生きて生きて笑え! 美羽の妹だろ! 俺達の家族なんだろ! おまえの居場所はここだ! だから―――――死ぬなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

喉が焼き切れそうになるくらい、俺は必死に叫んだ。

叫びに応じるように、助けたいという気持ちに応じるように駒は赤く、熱く輝きを増していく。

やがてディルムッド自身の体も赤く光始めた。

 

すると―――――。

 

「これ…………」

 

部屋にいた誰かが声を漏らした。

 

ふと辺りを見渡すと―――――虹色の粒子が医務室に広がっていた。

いや、医務室だけじゃない………外まで広がっているようだ。

 

その発生源は―――――俺とイグニス。

いつの間にか俺達の体は輝いていて、その光から虹色の粒子が放出されているようだった。

 

イグニスは優しく微笑むと手を重ねてくる。

 

「イッセー、この感覚を覚えていなさい。感じるでしょう? 皆の想い、この熱を」

 

そう言われて初めて気づいた。

 

…………皆の想いが俺の中に流れ込んできている。

これは天界の時と同じ感覚だ。

リゼヴィムと戦っていた時………ゼノヴィアとイリナ、八重垣さんから聖剣を受け取った時と。

 

アザゼル先生でさえ不思議そうに辺りを見渡す中、イグニスは続けた。

 

「今はまだ不完全。でも、あなたは確実に変化――――進化しているわ。私の本来の力とあなたが持つ力が合わさっている。………アセムくんが望んでいたのはこのことだったのね」

 

「アセム………? なんで、ここでその名前が………」

 

「いずれ分かるわ。イッセーの中の可能性が完全に目覚めたその時に。でも………あの子も悲しい子ね。私の予想が正しければあの子は―――――」

 

イグニスは憂いに満ちた目で呟いた。

 

イグニスはアセムの考えが分かったのだろうか………。

冥府である程度の目的を話してくれたけど、あいつの計画にはまだ先がある…………?

 

そんなことを考えているうちに部屋を満たしていた虹色の粒子と赤い光は収まった。

 

悪魔の駒はディルムッドの体内に入り、彼女を悪魔に転生させた。

その証拠に彼女からは悪魔の気配を感じることができる。

 

「う……ん…………ん………?」

 

ディルムッドが目を開けた。

 

美羽が飛び付くように彼女の手を握る。

 

「ボクが分かる? ボクが見える?」

 

「………マスター。はい、見えていますよ」

 

フッと優しげな微笑みを見せたディルムッドに美羽は涙を流す。

 

アザゼル先生がディルムッドに繋いでいた医療器具、そのモニターを見て驚愕の声を漏らした。

 

「こいつは…………! どういうことだ?」

 

眉間にシワを寄せてモニターに映し出される数値を何度も確認していた。

 

そんな先生にリアスが問う。

 

「どうかしたの?」

 

「…………消えてるんだよ」

 

「消えている? なにが?」

 

聞き返すリアス。

 

先生は未だ信じられないといった表情で俺達に告げた。

 

「ディルムッドを蝕んでいたニーズヘッグの瘴気。そいつが完全に消えている」

 

『――――っ!?』

 

その報告に全員が仰天した!

 

ディルムッドの体を蝕んでいた瘴気が消えた………!?

喜ぶべきことだが、あまりにいきなり過ぎて俺達は唖然としてしまっていた。

 

リーシャが先生に訊く。

 

「私はあまり知らないので、なんとも言えませんが…………悪魔に転生したおかげなのでしょうか?」

 

「いや、悪魔に転生したからといって体を蝕む毒が消える訳じゃない。抵抗力が上がって、自然治癒することならあるかもしれないがな。だが、ニーズヘッグの瘴気はそこまで生易しいものじゃない。八岐大蛇の毒ほどでないにしろ、その毒性は極めて高いからな。…………なんだ? 何が起きたんだ?」

 

先生はディルムッドの脈を測ったり、改めてモニターの数値を確認するが、結果は変わらないようで、何度も首を傾げていた。

リアスやソーナ達も原因を考えているようだが、その理由が分からず先生と同じような表情を浮かべている。

 

唯一、分かっていそうなのが―――――。

 

「うっふっふ~♪」

 

いつものご機嫌な笑顔でピースサインを送ってくるイグニス。

 

瘴気が完全に消えた理由、か。

多分、あの虹色の粒子なんだろうな…………。

 

あの熱…………あの時、感じた熱がディルムッドを助けた?

ディルムッドを蝕んでいた瘴気を消し去ったのだろうか…………?

 

考えたところで、分からないな。

 

ディルムッドが少々掠れた声を発する。

 

「マスター………」

 

「なに?」

 

「お腹…………空きました。唐揚げ、食べたいです」

 

なんとも呑気なお願いだな。

意識が戻って早々に唐揚げ希望ですか。

 

その呑気さが場を和ませ俺達を安堵させた。

いつものディルムッドだと。

 

瘴気が消えたとはいえ、失われた血までは戻っていないようで、今も顔色が悪い。

でも、ディルムッドの表情はとても柔らかなもので、体が少し楽になったのだと認識できた。

 

美羽は涙を流したまま微笑み、大きく頷いた。

 

「うん! いっぱい作ってあげるからね! ディルさんのほっぺが落ちるくらい美味しいの作ってあげる!」

 

こりゃ、暫くは唐揚げが続くかな?

まぁ、たくさん食べて体力を戻してもらわないといけないからな。

ディルムッドが飽きるまで食べてもらおうかね。

…………飽きる日が来ない可能性もあるけど。

 

俺はディルムッドの前に立つ。

 

「ディルムッド………。もう気づいているかもしれないけど、おまえが意識を失っている間に俺は………」

 

悪魔に転生させようとしたことを伝えようとした時、ディルムッドは首を横に振った。

 

「何を気にしている? 私は救われたのだろう? 私は生きたいと願った。そして、おまえ達は私を救おうとしてくれた。………不思議な感覚だった。暗闇の中にいた私を温かな………とても温かな熱が包み込んでくれた。それが私を呼び戻してくれたんだ」

 

温かな熱………?

 

それってもしかして、さっきのやつか………?

意識を失っていたディルムッドもそれを感じていたのかな?

 

ディルムッドは重くなっているであろう体を起き上がらせようとする。

咄嗟に美羽が支えに入った。

 

「あまり無理しちゃダメだよ? すっごい大ケガだったんだから」

 

「ありがとうございます。ですが、これだけは伝えておかないといけませんから」

 

そう言うとディルムッドは俺達を見渡した。

 

一人一人、目を合わしていき………最後に俺の方を見てきた。

 

「―――――ありがとう」

 

…………っ。

こいつ…………反則過ぎる…………!

 

このタイミングでそんなこと言われたら、俺は…………!

 

ディルムッドは首を傾げて、

 

「泣いているのか?」

 

「バカやろ………! 泣くわ! おまえ、わざとだろ! ちくしょう、俺も涙もろくなっちまったよ!」

 

「おまえ、まだまだ若いだろうが」

 

モーリスのおっさんが軽くツッコミを入れてくる!

けど、なんだか涙が止まらないんだよ!

 

気づけば、リアス達も涙ぐんでいた。

 

ですよね!

そうなりますよね!

もうね、普段とのギャップというか何というか…………とにかく泣ける!

 

「もう! あんた泣きすぎよ! グスッ」

 

アリスがチョップを入れてくるが…………こいつも号泣していた。

 

おまえも泣いてんじゃねぇか!

 

あ、やべっ………。

泣きすぎて鼻水出てきた。

 

ディルムッドが言う。

 

「おまえの残りの駒は『騎士』だったな。つまり、私はおまえの『騎士』となったわけか」

 

「そうだ。まぁ、美羽が昇格して、自分の駒を持ったらトレードするつもりだけどな。おまえは美羽の眷属になりたいんだろう?」

 

そう問うとディルムッドは頷いた。

 

こいつも美羽好きだからなぁ。

本当に姉みたいに思っているようで。

 

美羽がディルムッドに抱きついた。

 

「ボク、絶対に昇格して、ディルさんを眷属にする! 頑張る!」

 

「はい。私もその時は必ず。それまでは赤龍帝眷属の『騎士』として力を振るおう」

 

「よろしく頼むよ」

 

俺は微笑むとディルムッドの頭を撫でた。

 

すると、ディルムッドは少し黙り込んで何かを考え始める。

抱きついている美羽を見て、俺の方に視線を移す。

それを何度か繰り返すと、ディルムッドは口を開いた。

 

「私は………マスターを姉のように思っています」

 

「うん。ボクもディルさんのこと、妹だと思ってるよ? あ、もうこの際、『お姉ちゃん』って言ってくれても良いんだよ? ボクが『お兄ちゃん』って呼んでるみたいに」

 

美羽がそう言うとディルムッドは途端に顔を赤らめる。

 

…………照れてるらしい。

前にも思ったけど、段ボールハウスに住んでいたとは思えないほど純情だな。

 

こいつの恥ずかしさの基準は未だによく分からないところがある。

 

「…………お姉………ちゃん」

 

ディルムッドが口をごもらせながら、そう呟いた。

 

その瞬間―――――。

 

「ディルさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

美羽が滝のような涙を流してディルムッドを抱き締めた!

滅茶苦茶感動してるよ、この子!

昔の俺じゃん!

 

うつった!?

俺のシスコンがうつったのか、我が妹よ!?

 

そんなことを思っていると、ディルムッドは俺をじっと見つめてくる。

 

「その………マスターの妹ということは…………赤龍帝の妹という…………ことなのか?」

 

「…………え?」

 

予想外の言葉に俺の時は止まった。

 

た、確かに…………美羽の妹になるということは俺の妹になるということになるかもしれない。

 

いや、それで良いのか?

いきなりだぞ?

あの無愛想だった娘がいきなり俺の妹?

 

それって…………いやいやいや…………。

流石にそれは…………。

 

なつくどころか、槍向けてきたからね、この十五歳。

………まぁ、俺が悪かったんだけど。

トイレに入ってること知らずに開けちゃったし。

 

脳みそがフル回転して、これまでのこととこれからのことを考えていると、ディルムッドは顔を真っ赤にしながら――――――。

 

「おに…………おに…………お兄ちゃん…………」

 

「ディルちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

俺は号泣してディルムッドに…………否、ディルちゃんに抱きついたのだった。

 

 

 

 

赤龍帝眷属

 

王  兵藤一誠

女王 アリス・オーディリア

僧侶 兵藤美羽(変異の駒)

僧侶 レイヴェル・フェニックス

戦車 モーリス・ノア(駒二つ)

騎士 ディルムッド

兵士 リーシャ・クレアス(駒六つ)

兵士 ニーナ・オーディリア

兵士 ワルキュリア・ノーム

 

 




というわけで、ディルムッドがイッセーの騎士になりました。
ここは皆さんの予想通りだったのではないのでしょうか?

ですが…………ディルちゃんの『お兄ちゃん』を予想できた人はいるかな?

ここ数話でディルちゃんの株が急上昇しているような気がします(笑)


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14話 いつもの家族に

うちの両親が医務室に入ってきたのはディルムッドの意識が目覚めてから数分後のことだった。

 

「ディルさん、大丈夫なのか!?」

 

「もう動いていいの!? 痛いところはない!?」

 

ベッドの上で上体を起こしていたディルムッドを見るなり、血相を変えて駆け寄ってくる二人。

 

………ディルムッドが結界を張ったおかげで二人は無事だったとはいえ、二人は目の前で傷つけられていくところを見せられた訳だからな。

 

自分達を守るために目の前で傷ついていく。

その時の父さんと母さんの心情は察するに余りある。

 

俺も………昔、同じことを経験したからな。

ただ違うのは今回、ディルムッドは助かったということだが。

 

ディルムッドは詰め寄る父さんと母さんに言う。

 

「大丈夫。もうケガは治りました。それに………」

 

ディルムッドは皆を見渡す。

そして、ニッコリと微笑んで改めて二人に言った。

 

「皆のおかげで私はこうして生きています。皆が私に居場所をくれたから。だから、私は今、こうして話すことができています。心配かけてごめんなさい…………お父さん、お母さん」

 

「「…………っ!」」

 

とてつもない衝撃を受けたのか、目を見開いたまま固まる二人。

初めて「お父さん」「お母さん」と呼ばれたことに驚いたのだろう。

 

父さんと母さんは何度も互いの顔を見合わせて、目をパチクリさせていた。

 

そして―――――。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉん! ディルさんが無事で良かったぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ええ………! 本当に…………! クズッ、あんなに大ケガして、連れ去られたから…………私、私…………ううっ!」

 

滝のような涙を流して、父さんと母さんはディルムッドを抱き締めた。

少しディルムッドが苦し気な表情を見せたが…………。

 

それだけ二人はこいつのことを心配していたということだ。

 

ディルムッド本人もやや強めの抱擁に苦い顔を浮かべるもどこか嬉しそうだった。

 

なんというか…………ディルムッドってこんなに可愛かったか!?

確かに美少女だった。

それでも初めて出会った時は誰も寄せ付けないオーラを纏っていて、家に来てからは…………。

 

これも美羽のおかげなんだろうな。

 

 

『おに…………おに…………お兄ちゃん…………』

 

 

脳内に先程の音声が再生された。

 

記憶の中のその声に俺は―――――。

 

「カハッ」

 

吐血した。

 

木場が慌てたように言う。

 

「イッセーくん!? どうしたんだい!?」

 

「い、いや…………さっき、ディルムッドが…………お兄ちゃんって…………お兄ちゃんって…………」

 

「さっきもそれで吐血してたよね!? まだデレてたの!?」

 

「バカ野郎! デレるわ! 血吐くくらいデレるわ! つーか、デレなかったら、お兄ちゃん失格だ!」

 

「そんなに!?」

 

だって、あのディルムッドがあんな可愛らしい表情で「お兄ちゃん」だぞ!?

顔を赤くして、モジモジしながらだぞ!?

 

普通にデレるわ!

感涙するわ!

 

これからは俺も『ディルちゃん』と呼ばせてもらう!

 

吐血する俺に美羽が親指を立てて言ってくる。

 

「ね? ディルさん、可愛いでしょ?」

 

「うん! ディルちゃんも美羽ちゃんも可愛い!」

 

俺は美羽とディルちゃんをギュッと抱き締めた!

 

ううっ………妹が増えた…………!

こんなにも可愛い妹が…………!

 

俺は…………俺はぁぁぁぁぁぁぁ!

 

「カハッッッ!!」

 

吐血した。

ついでに鼻血も出た。

 

「またなのかい!? さっきよりも多くなってるよ!?」

 

「お、おう…………。やっべ………俺、死ぬかも」

 

「シスコンが原因で死ぬとか聞いたことないよ!」

 

おおぅ、木場のツッコミが今日も冴えてるな。

 

俺が美羽とディルちゃんの可愛さにデレてると、ニーナが俺に飛び付いてきた!

 

「私もお兄さんの妹みたいなものだもん! …………そう、だよね?」

 

「もちろん!」

 

あ、本格的に血が止まらなくなってきた。

医務室の真っ白な床が真っ赤な鼻血によって染められていく。

 

いつからか。

こんなにも妹萌えになってしまったのは。

萌え過ぎて燃えそうなんですけど…………。

 

「美羽までシスコンになっちまうとは…………。シスコンは感染でもするのかね?」

 

アザゼル先生が半目でそう呟いた。

 

 

 

 

ディルムッドを蝕んでいた瘴気が消え、容態が安定したため、俺達は一度家に戻ることにした。

 

オーフィスもディルムッドも傷は治っているため、あとはゆっくり休んで体力を回復させるだけだ。

今はそれぞれの部屋でぐっすり眠っている。

 

二人が命の危機を脱してくれたことで落ち着いた俺達は兵藤家リビングで一息つこうとしていたのだが…………。

 

「イッセー………皆…………本当に済まなかった!」

 

父さんと母さんが俺達の前で土下座してきたんだ。

床に深く頭を擦り付けて。

 

「父さん…………?」

 

俺が呼ぶと、父さんは床に頭をつけた状態で口を開いた。

 

「俺が………俺が軽率な行動を取ったばかりに皆に迷惑をかけてしまった。ディルさんとオーフィスちゃんがあんなことになったのは俺のせいだ。俺がもっと………おまえ達の状況を理解していれば…………!」

 

「お父さんだけじゃないわ。私も………私もお父さんに着いていった。私も皆に…………っ!」

 

母さんが嗚咽を漏らしながらそう続けた。

 

リアスが慌てて二人に言う。

 

「そんな………! お二人のせいではありませんわ。私達こそ、もっと注意を払っておくべきでした。非は私達にあります」

 

「父さん、母さん。頭を上げてくれ。………今回の件は俺達の見通しの甘さが招いた事態だ」

 

俺がそう言うと壁に背を預けていた先生が二人の前に座る。

 

そして―――――先生は深く頭を下げた。

 

「申し訳ない。この事態はあなた方でもイッセー達のせいでもない。全ては俺の甘さが招いた結果だ。奴らがそういう手を打ってくる可能性はあった。だからこそ、護衛をつけておいたんだが…………。考えが甘過ぎた」

 

リゼヴィムが父さんと母さんを狙うという可能性はあった。

あのクソ野郎のことだ、人質を取ったりは平気でするだろう。

だから、俺も町にいる時は二人に注意していたし、父さんが仕事で町の外へ行くときは密かに護衛をつけてもらっていた。

 

だが…………今回は展開があまりに急すぎる。

 

アザゼル先生も険しい顔つきで呟く。

 

「人質を取る。…………奴らのやりそうなことだ。イッセーの両親を拐うことが、こちらにとって大きな痛手になることは間違いないからな。だが…………奴にしては些か性急過ぎるな」

 

家の両親を狙うのは分かる。

相手の弱点を突くのは戦いの基本。

…………俺達にとって、父さん達は弱点になる。

 

だが、どうしてこのタイミングだったんだ………?

もっと早くから動いていれば、向こうにとって色々と楽に行動できたはずだ。

 

色々と疑問は浮かんでくる。

 

ただ一つ、ハッキリしているのは―――――。

 

「あいつは…………リゼヴィムの野郎は絶対に許さねぇ」

 

父さんと母さんを襲い、ディルムッドを傷つけ、更にはそれを利用してオーフィスをも傷つけた。

 

あいつは…………あいつらだけは…………。

 

「―――――潰す。今度こそ確実にな」

 

逃がしはしない。

天界の時のように「また今度」という展開にはさせない。

徹底的に潰してやるよ。

この世に一片の欠片も残さないくらい、徹底的にな。

 

俺が強く拳を握りしめていると、リビングに入ってくる者がいた。

 

入室してきたのはヴァーリのところにいたはずの黒歌とルフェイ。

 

「ありゃりゃ? 取り込み中かにゃ?」

 

「こんにちは、皆さま」

 

軽い挨拶をしてくる二人にアザゼル先生が問う。

 

「黒歌、ルフェイ、どこに行っていた? ヴァーリと一緒だと聞いていたが?」

 

黒歌がツカツカと部屋に入ってきながら言う。

 

「まぁね。さっきまでは一緒だったわ。それより、有力な情報を掴んだから私達だけ一時的に抜けてきたの」

 

黒歌が皆を見渡すように言う。

 

「―――――アグレアス。奴らのアジトの場所はほぼ特定できたわ」

 

『―――――ッ!』

 

この情報に皆が驚愕した!

 

クリフォトが本拠地にしている浮遊都市アグレアス。

その場所を特定したというのか!

 

先生がその情報を耳にしてにんまりと笑った。

 

「グッドタイミングだ、黒歌。話せ、たまにはこっちから仕掛けないと割に合わんからな」

 

 

 

 

アグレアス攻略戦の作戦会議をアザゼル先生とソーナ達戦略家を中心にして行った後。

俺はモーリスのおっさんに呼び出されていた。

 

場所は兵藤家地下のトレーニングルーム。

 

「なんだよ、話って」

 

俺は先に待っていたおっさんに問いかける。

 

こちらに背を向けていたおっさんは振り替えると一本の木刀をこちらに投げてきた。

 

飛んできた木刀を俺はキャッチする。

これはゼノヴィアが鍛練用に使っている修業用の木刀だ。

 

「木刀…………? なんでこんなものを?」

 

見るとおっさんも一本の木刀を手にしていた。

 

おっさんが言う。

 

「構えろ」

 

「は?」

 

「いいから構えろ。一本勝負だ」

 

そう言うやいなや、おっさんは木刀を両手で握り、正眼に構える。

 

…………おっさんから放たれるプレッシャーが半端じゃない。

見た目はとても静かだ。

木場が纏うオーラよりも静か。

明鏡止水を体現していると言ってもいい。

 

だけど…………この圧迫感…………!

例えるならそう…………巨大な山を相手にしているような感覚だ。

 

これだけのプレッシャーを放っておいて、周囲に影響を出さないのは、それだけ自身の力を完全に掌握できているということ。

 

こうして向かい合う度におっさんの凄まじさを認識してしまう。

 

でも、なんで一本勝負なんだ?

これからアグレアスへ、クリフォトの本拠地に乗り込もうって時に。

 

疑問を抱きながらも、俺は言われたまま木刀を構えた。

 

それを確認したおっさんが言ってくる。

 

「いいか、全力でこい。こいつは俺からのテストだ。こいつに不合格した時は今回の作戦、おまえは置いていく。おまえを痛め付けてでもな」

 

「なっ!? なんでだよ!? この作戦は俺達が総出でかかるものだぞ!?」

 

「だからだよ。こんな簡単なテストに不合格にするようじゃ、おまえは足手まといだ。参加したけりゃ、俺にぶつけてきな。今のおまえがどれほどのものか、見てやるよ。…………ドライグ、おまえは手を出すなよ? こいつは俺とイッセーの勝負だ」

 

おっさんの言葉に反応して、俺の左手の甲に宝玉が現れる。

宝玉からドライグの声が聞こえてくる。

 

『いいだろう。相棒、この試験は自力でクリアすることだ』

 

おいおい………ドライグのやつ、相当な無茶を言いやがった。

 

神器無しでおっさんに勝てってことかよ…………。

鎧使っても怪しいのに。

 

だが…………。

 

「俺は行くぜ。何が何でもあいつは…………リゼヴィムのクソ野郎を許すわけにはいかない…………!」

 

俺の体から赤いオーラが噴き出す。

赤い輝きは全身を包み、木刀を覆った。

 

睨み合う俺とおっさん。

間合いを計り、相手の動きを見る。

少しの隙でも逃さない。

 

隙が出来た瞬間――――――斬る!

 

「オォォォォォォォォォォォ!」

 

獣のような咆哮と共に俺は床を蹴って駆け出す!

ただ真っ直ぐに、おっさん目掛けて突き進む!

 

おっさんは微動だにしない。

構えたまま、俺が間合いに入ってくるのを待っている。

 

俺は全力で木刀を振り下ろした!

この一撃に全力を籠め、己の全てをおっさんにぶつける!

 

俺が振るった木刀がおっさんを捉える―――――はずだった。

 

カランッという音と共がトレーニングルームにこだまする。

見ると―――――木刀の刀身の部分が根本から綺麗に切断されていた。

 

首に冷たいものが当てられる。

触れていたのはおっさんが握る木刀。

 

「俺の勝ちだな」

 

おっさんはそう言うと木刀を下ろす。

 

俺は木刀の切断面を見ながら思った。

いつ…………斬ったんだよ…………?

 

相変わらずおっさんの剣筋は見えない。

昔よりも、遥かに速く鋭くなっている。

 

呆然とする俺におっさんが言う。

 

「イッセー、おまえ…………呑まれてないか?」

 

「…………?」

 

「親父さんとお袋さん、それにあの二人が襲撃を受けた。怒る気持ちは分かる。怒らない方がおかしい。だがな、その怒りの炎に呑み込まれてないか?」

 

―――――っ!

 

俺はおっさんの言葉に目を見開いた。

同時に理解した。

おっさんが一本勝負を仕掛けてきた理由を。

 

おっさんがニンマリ笑う。

 

「ま、今の剣見てりゃ、俺の考えは杞憂だったみたいだけどな。おまえはたまに危なっかしい時がある。さっきのおまえの顔はちょいとばかし不安だったんだが………。予想以上に真っ直ぐで安心した」

 

「………真っ直ぐいったら、真っ二つに斬られてたけどね」

 

「そりゃな。剣で俺に勝とうなんざ四十六億年早ぇ」

 

「なにそれ!? 全く追い付ける気がしないんですけど!?」

 

「ふはははは! 俺ぁ、まだまだ先に行くからよ。必死で追い付いてこいや」

 

なにこの人!?

なにこのチートおじさん!?

 

俺、よくこんなチートおじさんを眷属に出来たな!

 

おっさんは俺の頭を掴んでわしゃわしゃ撫でてくる。

 

「端から勝ち負けを見るつもりはねぇさ。どうせ俺が勝つし」

 

「だよね! 俺もそう思ってたよ!」

 

「俺が見てたのはおまえの剣そのもの。ちょっとでもブレてたら失格だったが、ちゃんと真っ直ぐだったぞ。剣は己の魂、感情を映す。おまえが怒りに流されてたらブレてただろう」

 

「それじゃあ…………」

 

「合格…………と言いたいところだが、その前にもう一つ」

 

おっさんは無理矢理俺の首を回してくる!

 

今、ゴキッていった!

ゴキッって変な音したよ!?

 

おっさんに文句を言おうとする俺だったが、目に映ったものを見て、それを止めた。

 

いつのまにかトレーニングルームに父さんと母さんが入ってきていたんだ。

 

二人はこちらに歩み寄ってくると、口を開いた。

 

「イッセー………大丈夫なのか? 今から………あんな化け物みたいなのと戦いに行くんだろう? ………俺は分かってなかった。おまえがどんな奴らと戦っているのか…………分かってなかった」

 

「私達が止めればイッセーは後悔する。そう思って見守っていたけど…………。やっぱり、そんなの無理よ! 私の………私達の息子が、娘が、あんな恐ろしいものと命がけで戦うなんて…………!」

 

今回の件で父さんと母さんは初めてニーズヘッグという自分達に害をなす異形と出会った。

実際に恐ろしい経験をして、改めて俺達が何を相手にしてきたのかを認識したのだろう。

 

二人の目は俺に「行かないでくれ」と言っているようだった。

 

恐ろしい化け物と戦いに行く。

もしかしたら、俺達の誰かが命を落とすかもしれない。

 

父さんと母さんはそう考えている。

 

そして、その考えは間違ってはいない。

敵は強大だ。

その上、卑怯な手も使ってくる下衆な輩だ。

 

誰かが傷つかないなんてことはあり得ないだろう。

 

モーリスのおっさんが俺の肩に手を置く。

 

「言ってやれよ、親父さんとお袋さんに。おまえが、おまえの口からハッキリとな。俺は上に行ってるからよ」

 

それだけ言い残しておっさんはトレーニングルームから出ていった。

 

この場に取り残されたのは俺と俺の両親の三人だけ。

 

俺は不安そうな表情の二人を見て、息を吐いた。

 

「父さん、母さん。俺さ………美羽から聞いたんだ。母さんがどんな想いで俺を生んでくれたのか。父さんがどれだけ俺の誕生を待ち望んでいたのか。今まで俺は何も分かってなんていなかった」

 

俺は今まで親の気持ちってのをあまり考えてなかった。

いや、心配させたくないという気持ちはあったけど、それだけじゃ足りなかったんだ。

 

父さんも母さんも事あるごとに俺の事を心配してくれていた。

俺が大きな傷を負った時は泣いていた。

ずっと俺の事を想ってくれていたんだ。

 

「俺は訳のわからないまま異世界に飛ばされて、強くなって戦って。こっちに帰ってきてからも仲間を守るために戦ってさ。………今じゃ守りたいものが増えすぎて、やっぱり無茶なことしてしまうんだよね。………って、ゴメン。なんか余計に不安にさせること言っちまった」

 

俺は自嘲気味に笑う。

 

本当、何言ってるんだろうな。

ただ一言………ただ一言だけ言ってやれば良いんじゃないか。

 

俺は二人の手を取り、目を見ながら真っ直ぐに言った。

 

「―――――必ず帰ってくる。俺も皆も絶対に帰ってくるよ、この家に」

 

そうさ、必ず帰ってくる。

また家族全員で食卓を囲めるように。

また日常を過ごせるように。

また家族で笑いあえるように。

 

何があっても必ず。

 

もし無茶だと、無理だと言うのなら―――――世界の法則ねじ曲げても、次元をねじ曲げてでも守って見せる。

今のこの幸せを。

 

俺はフッと笑う。

 

「というか、俺と美羽達の晴れ姿見せるまで死ねるかよ。孫も期待してなって。あちこちの親から孫を期待されてるからな。家族でサッカーリーグ開けるぐらいにしてやるさ!」

 

うん、最後はかなりやけくそだけど。

 

美羽にアリスにリアスに…………えーと…………。

あれ………俺、大丈夫かな?

精力的にもつのだろうか?

 

………皆、その時になると結構エッチだから…………。

 

俺の宣言に父さんと母さんも吹き出すように笑う。

 

「ったく、俺達を安心させるために孫を持ってくるとは…………」

 

「反則よ! でも、約束してくれるのよね? 孫、見せてくれるのよね? 孫がひとーり、孫がふたーり、孫がさんにーん…………」

 

「おぃぃぃぃぃぃ! なにカウントしてんの!? やめて! なんか怖いからやめてぇぇぇぇぇぇ!」

 

出撃を前に俺達はいつもの家族に戻ったのだった。

 

 




次回、アグレアス突入!


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15話 アグレアス奇襲作戦開始! 

いよいよ、アグレアス突入です!


黒歌達から情報がもたらせてから半日が過ぎた頃。

 

兵藤家地下の巨大転移型魔法陣のある部屋に集う『D×D』メンバー。

赤龍帝眷属にグレモリー眷属、シトリー眷属、イリナ、グリゼルダさん、デュリオ、レイナ、刃狗の幾瀬さん、黒歌、ルフェイ。

 

今回の作戦は奇襲になる。

相手はこちらにアグレアスの場所を突き止められていないと思っているはずで、ほぼ間違いなくクリフォトにとって予想外の襲撃になるだろう。

向こうもいつ襲撃されても良いように対策ぐらいはしているだろうけど。

 

ともかく、今回は俺達にとっても初めての攻勢となる。

ヴァーリの執念がアグレアスの居場所を突き止めた格好で、これがなければ今回の作戦はなかった。

 

………よくもまぁ、各地を転移して移動している浮遊都市を見つけられたと思うが、ヴァーリにとってはそうまでしなければならない相手ということだ。

 

この場にいないサイラオーグさん率いるバアル眷属とシーグヴァイラさん率いるアガレス眷属は冥界で待機しており、いつでも出られるようにしてもらっている。

こちらも頃合いを見て、合流する予定になっており、一気にアグレアスに転移、相手を殲滅する作戦だ。

 

アザゼル先生が俺達を見渡しながら言う。

 

「黒歌からアグレアスが留まっている場所の座標は教えてもらった。アジュカの協力でアグレアスまで転移させてもらうことになっている。ただし、使用する転移型魔法陣は禁術の類らしくてな、一度に飛ばせる人員は限られている。まぁ、その禁術でもない限り、アグレアスに張られた結界を突破して転移するのは不可能らしいからな」

 

そういや、この魔法陣はいつもと模様が違うな。

いつの間に仕様を変更したんだか…………って、先生ならすぐに出来るか。

 

アジュカさんの協力で、この魔法陣が禁術の類なら遠くでこの魔法陣を操作してるんだろうな、あの人。

 

ティアはまだあの人と共にやることがあるって言ってたけど………。

魔王の仕事の手伝いだ、言えないこともあるのだろう。

 

先生が言う。

 

「部隊は大きく二つに分ける。まず一つ目が陽動部隊。その役は―――――」

 

ソーナとシトリー眷属の面々が前に出る。

 

「私と眷属が第一陣として向かいましょう。敵の目を引いて突破口を作るつもりです」

 

「俺も行くってね」

 

第一陣はシトリー眷属とデュリオ、グリゼルダさんと『御使い』の転生天使が数名。

都市部に現れて暴れだし、相手の注意を引き付ける。

 

先生がリアスと俺に視線を向ける。

 

「続いて第二陣。本隊はリアス、イッセー。おまえ達に任せる」

 

ソーナ達が相手の気を引き付けている間に俺達が第二陣として仕掛ける。

 

メンバーは俺が率いる赤龍帝眷属とリアス率いるグレモリー眷属、そしてイリナにレイナだ。

 

俺達の役目はクリフォトの戦力を確実に削ぎ、アグレアスを奪還すること。

ようするにリゼヴィムのクソ野郎をぶちのめす役だ。

 

リアスが頷く。

 

「ええ、分かっているわ。お義父さま、お義母さま、仲間を傷つけた彼らを許すわけにはいかない。ここで全てのケリをつけるわ」

 

その言葉に全員が首を縦に振って頷いた。

 

リーシャが言う。

 

「相手の本拠地を攻めるのです。私達が赴く場所には彼らが――――アスト・アーデの神とその眷属達がいる可能性が高いでしょう。その時は私達が相手をします」

 

「あの兄ちゃん達の相手は俺達がするべきだろうしな」

 

アセムやその配下であるラズル達が現れた時は、俺達が相手にすることになるだろう。

場合によっちゃ、本隊を俺とリアスで分けることになるかもしれないな。

 

ちなみに、うちの眷属で行くのは俺とアリス、美羽、レイヴェル、モーリスのおっさんとリーシャだ。

 

新しく『騎士』として眷属入りしたディルムッドは暫く安静にしなくちゃいけないため、無理はさせられない。

ニーナは元々戦闘要員じゃないし、ワルキュリアにはニーナの付き添いでこちらにいてもらう。

 

ニーナとワルキュリアには戦う以上にやってもらいたいことがあるんだ。

 

「二人とも父さんと母さんのこと頼むな」

 

俺達が戦っている間、父さんと母さんにはかなり心配をかけてしまうことになる。

ニーナとワルキュリアには二人の側にいて、少しでも不安を和らげてもらいたいんだ。

 

ニーナが胸を張る。

 

「任せて! 私のお父さんとお母さんになる人だもの。ちゃんと支えてみせるよ」

 

「ニーナさまと理由は異なりますが、こちらのことは心配なさらずに。私も役目を果たしましょう。ディルムッドさまとオーフィスさまのこともお任せを」

 

ワルキュリアもそのように答えてくれた。

 

ディルムッドとオーフィスは傷は癒えたけど、まだまだ体調が優れていない。

二人には看病もしてもらわないとな。

 

アザゼル先生が言う。

 

「それと鳶尾はリアス達と一緒に行ってすぐに単独行動で裏のサポートに回ってくれ。俺も後から行くつもりだ。アグレアスの深部、動力室にいく。停められるなら停めてくるさ」

 

なるほど、アグレアスそのものの動きを停めるつもりか。

確かにそれが成功すれば、アグレアスごと転移することは出来なくなるし、アグレアスの奪還は叶うだろう。

 

そのあたりは技術屋の先生に任せるのが一番良さそうだ。

 

アグレアスの奪還―――――あそこはレーティングゲームの聖地であり、冥界には色々な意味で重要な場所だ。

俺にとっても、初めてレーティングゲームに出場した場所で、サイラオーグさんと己の全てをぶつけ合ったところでもある。

これ以上、悪用させてたまるかよ。

 

先生がルフェイに訊く。

 

「ルフェイ、ヴァーリはどうした?」

 

「他のメンバーの方々と共にアグレアスの近くで待機しています。下手に動くとアグレアスごとヴァーリのお祖父さまが消えるかもしれないと」

 

黒歌がカラカラと笑う。

 

「攻めるなら、そっちを利用してまで一気に決めたいそうよ? ヴァーリったら、ようやく相手の尻尾を掴んだから、二度と逃がしたくないんだと思うにゃ」

 

今回の奇襲で一気にカタを着けると。

ここで逃がしたら次は難易度が一気に上がるだろうしな。

 

今回でケリを着けたいのは俺達も同じだ。

 

先生は頷きながらも、若干解せないような表情を浮かべていた。

 

「ヴァーリの執念が奴の居場所を掴んだ。それもあるのだろう。しかし、今回のリゼヴィムの行動は粗が目立つ。オーフィスを狙うのもイッセーの両親を拉致しようとするのも確かに効率的だ。だが、やはり性急過ぎる。焦っているようにしか思えん。それとも、こちらにそう思わせるのも奴の計算の内なのか………?」

 

リゼヴィムの野郎が何を考えて、俺の親を襲うという手段に出たのか…………。

そいつは今の俺には分からない。

 

だが、ディルムッドが必死の想いで守ってくれたおかげで何の心配もなく奴を殴れる。

 

先生は改めて俺達に告げてくる。

 

「奴が何を考えているかは分からん。だが、どちらにしろ、気を付けろよ? あいつがろくでもないことは確かなんだ。先日のヴァルブルガに使われていた強化のこともある」

 

木場が先生に問う。

 

「あれの正体はまだ?」

 

「ヴァルブルガが倒れた後、その強化剤は綺麗さっぱり消えていてな。映像でしか判断できなかったが………。おそらくはオーフィスの力が絡んでいる。ただ、丸っきり同じと言うわけではなく、何らかの調整はしているようだ。残念だが、現状で解っているのはここまでだ。実物が無いことにはなんともな………」

 

ヴァルブルガか使っていた強化剤、か。

 

オーフィスの蛇は使用者の力を一気に底上げできる。

旧魔王派の奴らも蛇を使って、力をあげていた。

シャルバなんて魔王クラスまで力を伸ばしていたしな………。

 

それを超越者のリゼヴィムが使う………。

しかも、何らかの調整まで施して。

 

嫌な予感しかしないな。

 

妙な不安を感じていたのだが、先生は笑みを浮かべて言った。

 

「色々の不穏な因子はある。だがな、これも頭に入れておけ。―――――奴は入っちゃいけない領域に土足で踏み込んだ。万死に値するだけの連中だ。絶対に許すな。倒せるなら、やっちまえ。俺が許す」

 

『はいっ!』

 

その通りだ!

あいつは………あのクソ野郎だけは何があっても許してはおけない!

絶対にぶっ潰す…………それだけだ!

 

第一陣たるシトリーチームが転移の準備を始め出した。

 

―――――アグレアス奇襲作戦が始まる!

 

 

 

 

「おーおー、さっそくやってるじゃねぇの。若い奴らは元気が良いこった」

 

モーリスのおっさんが遠くを眺めながらそう呟く。

 

本隊たる第二陣―――――俺達が転移した時には、既に至るところから炸裂音、爆音が鳴り響いていた。

ここからでも匙の黒炎が立ち上っているのが見える。

シトリーチームは相当派手にやっているようだ。

 

俺達が転移した場所は都市の中央広場から西部に位置するところで、ここは広大な公園となっており、緑が多く繁っている。

 

到着したと同時に刃狗(スラッシュ・ドッグ)の幾瀬さんが黒い狗―――――刃と共に一歩前に出た。

 

「悪いが、俺は俺の仕事をさせてもらうよ。――――健闘を祈る。君たちも大暴れしてやればいいさ」

 

頷く俺達。

 

それを確認すると刃と共に音もなくこの場を去っていく幾瀬さん。

幾瀬さんはアザゼル先生の指示で裏のサポートとして単独で動くそうだが…………。

 

あの人も人間なのか疑いたくなるレベルだよな。

この間だって、ヴァルブルガの転移を封じるために脱出ルートを全て断ったというし。

 

刹那、リーシャが魔装銃を取り出した。

一瞬で狙いを定めると引き金を引く。

銃口から光線が高速で放たれ―――――近くの空で飛んでいた量産型邪龍を五体ほど撃ち落とした。

 

赤い瞳のリーシャが言う。

 

「さぁ、行きましょう。皆さんはただ全力で進んでください。遠くの敵は私が狙い撃ちますから」

 

モーリスのおっさんが剣を引き抜いた。

 

「そんじゃ、俺は寄ってくる虫を斬っちまうかね」

 

神速を超えた神速。

超神速で振るわれる剣。

 

刀身から放たれた剣圧が周囲の緑を上下真っ二つに斬り裂いた。

すると、倒れる巨木の裏にこれまた胴体を真っ二つに別けられた邪龍がいた。

黒い巨体が血を噴き出しながら崩れ落ちる。

 

「俺達の転移場所が分かっていたのか、それとも偶然か。まぁ………この程度なら何も問題ないな」

 

「ですね」

 

不敵に笑むおっさんとリーシャ。

転移して早々やってくれるな、この二人。

 

なんだか、ラスボスを連れてボスを攻略しにきた気分だ。

 

木場が微妙な顔で言う。

 

「もうこの二人だけで十分な気がしてきたよ」

 

「うんうん」

 

レイナも何とも言えないといった感じだ。

 

…………なんか、ごめんね。

 

俺達はリゼヴィムがいるであろう浮遊都市アグレアスの庁舎を目指して駆け出した。

庁舎は公園を抜けて、北西へ暫く進んだところにあるという。

 

道に明るいリアスとレイヴェルを先頭に俺達は走っていく。

一応、目立たないように空を飛ばないようにしているが…………。

どうやら、先程、おっさんとリーシャが倒した邪龍は偶然、近くに居合わせただけらしい。

空を見上げれば、無数の量産型邪龍が陽動部隊のいる方角に飛んでいっているからな。

 

アリスが顔をしかめる。

 

「うわぁ………うじゃうじゃ。何匹いるのよ………? 万単位でいるんじゃない?」

 

「クリフォトの本拠地だもん。十万くらいはいるんじゃない?」

 

空を見上げる美羽がうんざりしているような表情で答えた。

 

聖杯の力に複製した赤龍帝の力を加えて数を増やしてるんだろうな。

下手すりゃ十万どころか、その十倍以上いるかもしれない。

 

相手の数を想像しながら進んでいると、公園の出口が見えてくる。

そこから向こうはビルや店が並ぶ市街地。

 

この向こうにリゼヴィムが―――――。

 

 

その時だった。

 

 

俺達の視界にある人物達が入ってくる。

 

公園の出口のすぐ横にある二つのベンチ。

そこに腰を下ろす四人組。

 

そのうちの一人、巨漢がこちらに手を振った。

 

「おっ、来たか。よー、勇者殿」

 

声をかけてきたのは『破軍』のラズル。

その他にもヴァルス、ヴィーカ、ベルとアセムの下僕達が勢揃いしていた。

 

俺達はそこで足を止めて、一気に警戒を高める。

 

俺は一歩前に出た。

 

「………ラズルか。やっぱいるよな、おまえらは」

 

「まぁな。一応は協力関係………って、もうこれは良いか。ぶっちゃけ、俺はあの爺さんが嫌いでな。端から協力なんて思っちゃいねぇ」

 

「だろうな。おまえの性格だと、そうなると思ってたよ」

 

どうにも、こいつらアセム一派はリゼヴィムと協力しているように見えるが、そこまで良い感情は持ってなさそうなんだよな。

もし、こいつらが本当に意気投合するような仲なら、被害は凄まじいことになっていただろう。

 

俺はそれを理解した上でラズルに問う。

 

「………で? おまえ達はまだ俺達の邪魔をしようってのか? ―――――生憎、おまえ達と遊んでいる暇はねぇんだよ………!」

 

俺の殺気に反応して、地面に亀裂が入り、周囲の木々がザワザワと騒ぎだす。

一陣の風が吹き、木の葉が激しく舞った。

 

ラズルはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「荒れてんな。おまえの両親が襲われたらしいじゃないか」

 

「その通りだ。………あいつは俺の家族を傷つけた。だからよ、俺はあいつをぶちのめしに行くのさ。そのためにここに来た」

 

俺がここに来た理由はただ一つ。

あいつを………リゼヴィムをぶん殴るためだ。

 

怒りに呑まれたりはしない。

だがな、怒りの炎は今もなお俺の内側で燃え盛ってるんだよ………っ!

あいつを燃やし尽くすまで、この炎は消えやしない………!

 

俺は地面を踏みしめて、ラズルに言った。

 

「退け! 邪魔するって言うのなら………潰すぜ?」

 

「はっ! 良いねぇ! やってみろよ………っと言いたいところだが―――――」

 

ラズルは道を開けた。

 

「いいぜ。行きな」

 

あまりに素直に立ち退いたので、俺達は呆気に取られた。

 

いや、確かに退けとは言ったけど…………。

ここまであっさり退かれるとな。

逆に罠だと思って警戒してしまう。

 

しかし、ラズルの言葉はどうにも嘘を言っているようには見えない。

 

すると、ラズルの隣にいたヴァルスが前に出てくる。

 

「此度の一件、我々は勇者殿(・・・)に手を出すつもりはありません。これはあなたとリゼヴィム殿で着けなければならないケリなのでしょう」

 

俺とリゼヴィムで着けるべきケリ。

そうだろうな。

その通りだ。

 

美羽もリアスもアーシアもうちの親を、オーフィスを、ディルムッドを襲われて悲しみ、怒っている。

他の皆もそうだ。

 

でもな―――――あのクソ野郎を殴るのは俺の役目なんだよ。

っと、ヴァーリも忘れちゃいけないな。

 

リゼヴィムはヴァーリにとってもケリを着けなければいけない敵なんだ。

 

俺は深く息を吐いた後、浮かんできた疑問をヴァルスに投げ掛けた。

 

「さっき、俺には手を出さないと言ったな? つまり、他の皆には手を出すと?」

 

ヴァルスは不敵に笑みを浮かべると、その視線をモーリスのおっさんへと移した。

 

「―――――剣聖殿。再び、私と剣を交えていただきたい」

 

「おいおい、俺にそんな暇があると思うか? ………っと、言うべきなんだろうな。――――良いぜ。こうも堂々と挑まれてしまえば、断る訳にもいくまいよ」

 

モーリスのおっさんは鞘に納めていた剣を引き抜き、ヴァルスの前に立った。

 

二人とも尋常じゃないレベルのオーラを身に纏うと、静かに一歩を踏み出した。

一歩、また一歩と間合いを詰めていく。

最終的に二人は振れば刃が届く距離まで近寄ってしまった。

 

そして――――――。

 

「「オォォォォォォォォっ!」」

 

その場で高速の斬り合いが開始される!

激しく鳴り響く金属音!

二人の間合いの間では幾重にも火花が咲き乱れる!

 

二人ともその場から動いてはいない。

ただ剣捌きだけで相手の攻撃をいなし、己の刃を届かせようと剣を振るう。

初めは目で捉えられる剣速だった。

それが一撃、二撃、三撃とぶつかり合う度に二人の剣速はギアを上げていった。

 

今となっては霞む程度にしか目に捉えることができない。

 

暫し撃ち合ったところで、二人は剣を振るうのを止めた。

 

おっさんが感心したように口笛を吹いた。

 

「この短期間でここまで腕を上げてくるたぁ、大したもんだ」

 

「フフフ……これくらいで驚いてもらわれては困りますな。私はまだ本気を出していませんよ?」

 

「だろうな。悪いが、俺もだ。こいつはウォーミングアップ、準備運動みたいなもんだ。―――――本当の斬り合いはここからだ」

 

次の瞬間―――――二人は俺達の右手へと駆け出した。

高速、神速の領域で剣を振るいながら、緑の中へと入っていく。

 

ズゥゥゥゥンと音を立てて、二人が入っていった周囲の木が倒れていく。

二人の振るった剣圧で斬られたのだろう。

次々と木々が薙ぎ倒されていく。

 

「ははははははっ!」

 

おっさんが笑いながら鞘に納めていたもう一本の剣を抜き放った。

 

同時に放たれる黒い剣圧!

 

ヴァルスはそれを体を捻って回避すると、お返しと言わんばかりに自らも剣圧を飛ばして応戦する。

 

………ヴァルスのやつ、以前よりも遥かに力を上げてやがる。

力だけでなく、剣技も。

 

しかし、ヴァルスの武器は剣だけじゃない。

魔法もあいつの力の一つ。

 

ヴァルスは後ろに飛び退くと、手元に魔法陣を展開。

 

「炎獅子よ!」

 

魔法陣から出現したのは炎で形作られた獅子。

炎の獅子が空を蹴って飛び出し、おっさんへと迫る!

 

かなりの熱量を持った炎だ。

『戦車』の防御力があるとはいえ、受ければ相当なダメージを受けるだろう。

 

おっさんは炎の獅子を前にして――――――。

 

「喝ッッッッッ!」

 

炸裂する気合い!

大気を伝って俺の肌をビリビリ刺激してくる!

 

その気合いを受けてヴァルスの放った炎獅子は霧散、かき消されてしまった。

 

気合いだけであの炎の魔法を………打ち消した………?

 

あまりの光景に絶句する俺達。

ヴァルスもどこか呆れた表情を浮かべ、言葉も出ないといった雰囲気で………。

 

「やれやれ………あなたはどこまで底無しなのです?」

 

悪神の下僕ですら呆れる『剣聖』の実力は、仲間の俺達にすら測れない――――――。



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16話 赤龍帝眷属VS異世界神眷属

アグレアスにある広大な公園。

緑豊かなこの公園は既に形を変えていた。

 

―――――二人の剣士によって。

 

「はっはー!」

 

「ぬぅ!」

 

獰猛な笑みを浮かべて己の得物をぶつけ合うモーリスのおっさんとヴァルス。

本格的に剣を交えて間もないと言うのに、周囲には斬り倒された木々が並ぶ。

 

地面は割られ、倒れる木々から落ちた木葉が二人の剣圧で舞う。

 

「こいつを凌げるか?」

 

おっさんは両手に握る剣のうち、左手側の剣を逆手に持ち変えた。

ぐっと膝を沈め、腰を捻る。

高速………いや、神速の領域で行われる斬り合いの中では大きすぎるモーション。

大きな隙になるはずだ。

 

しかし、ヴァルスは何かを察知して大きく後ろに跳んだ。

 

次の瞬間―――――。

 

おっさんを中心に黒い竜巻が出現した!

 

「――――黒刀・大竜巻。触れたら最後………微塵も残さずにこの世から消えるぜ?」

 

黒い竜巻が通った場所にあったものは全てが斬り刻まれていた。

最初は真っ二つだったものが、更に半分、そのまた半分とあっという間に細切れになり、次第に粉塵と化してしまう!

おっさんの近くにあった木や噴水は跡形もなく、消え去っていく!

 

ヴァルスは苦笑しながら、手を翳す。

 

「ふふ、あなたと剣を交える度に感じますよ。剣聖と称されるに至った経緯、剣に宿る意思。本当、どこまでも規格外な方だ。しかし―――――」

 

小さな魔法陣が幾重にも重なったような魔法陣をヴァルスは展開する。

見たことがない不思議な形状をした魔法陣だ。

 

ヴァルスが何かを念じると魔法陣は強い輝きを放ち―――――複数の黒い竜巻を生み出した。

 

うねり、交わる二人が生み出した竜巻。

 

すると、その交わりが深くなるほど二人の竜巻は弱くなり、小さくなっていった。

やがて完全に消滅する。

 

ヴァルスが人指し指を立てながら言う。

 

「いかに強大な力でも同じ規模で逆転の力をぶつけてやれば弱まり、消滅する。たとえ剣聖の剣撃だろうとそれは同じ」

 

それを受けてモーリスのおっさんは口笛を吹いた。

 

「やるねぇ、兄ちゃん」

 

互いに笑みを浮かべるおっさんとヴァルス。

 

すると、サリィとフィーナを肩に乗せたリーシャが俺の横に立った。

 

「さて、モーリスが戦ってますし、私も出ましょうか」

 

リーシャが視線を向けたのはラズル。

 

彼女は魔法陣を魔装銃をもう一丁引き抜いた。

彼女は両手に魔装銃を握る。

 

「ラズルと言いましたね。確か引力と斥力を操るとか。高い攻撃力に高い防御力。格闘戦でイッセーを上回った。とんでもない戦闘力です」

 

リーシャの静かな言葉にラズルは笑む。

 

「赤瞳の狙撃手に誉められるとは光栄だな。だがよ、あんたと俺じゃあ、相性が悪すぎるんじゃねぇか?」

 

あいつの言う通りだ。

 

リーシャは格闘戦もこなせるが、あまり得意としていない。

後方支援、狙い撃つのがメインの狙撃手だ。

 

対してラズルは格闘戦メインの近距離ファイター。

しかも、相手を引き寄せたり、斥力で攻撃を防いだり出来る。

 

リーシャはラズルと相性が悪すぎる。

 

しかし、リーシャはラズルの前に立った。

 

「ええ。確かに私とあなたでは相性が悪い。ですが、やりようはあります」

 

相手の手の内は俺達が知る範囲で皆に伝えてある。 

当然、ラズルの力量や技、能力も俺が体験したこともだ。

 

リーシャには何か考えがあるのだろうか?

 

ラズルもそれが気になるのか、一歩前に出た。

 

「そうかい。じゃあ、そのやりようってのを見せてもらおうじゃないか」  

 

ラズルは手を突き出し、例の能力を発動する!

遠くにいるものを引き寄せる引力の能力!

 

ラズルの突き出した手の軌道上、その先にいるのはリーシャ。

リーシャの体がふわりと宙に浮き、そのまま奴に引き寄せられていく!

 

リーシャの防御力ではあいつの拳は耐えられない!

そう判断した俺は間に入ろうとするが…………。

 

リーシャは特に焦る様子もなく、ただ腕を突き出して魔装銃の照準をラズルに合わせ―――――。

 

「―――――アイス・バレット」

 

引き金が引かれ、銃口が輝く。

 

すると―――――。

 

「ぐおっ!?」

 

悲鳴をあげるラズル。

ラズルは手を引いて、引力の能力を止めた。

 

何が起こったのかと、奴の顔を見てみると―――――奴の右目から血が流れていた。

それだけじゃない。

奴の右肩も赤く染まり始めている。

 

ラズルが右目を抑えながら笑う。

 

「なるほど…………こりゃあ、俺にとってもやりにくそうだ」

 

リーシャが告げる

 

「だと思いますよ。あなたが引き寄せる能力はある意味諸刃の剣。あなたがその能力を使うと同時に引き金を引けば、私の弾丸はその分威力を増す。それに、イッセーの拳打を受けて倒れないあなたの防御力、タフさは脅威ですが、眼球まではそうはいかないでしょう?」

 

「ほぉ………だがな、目はともかく、俺の肩を撃ち抜いたのはなんだ? 俺は勇者殿の砲撃にも耐えるんだがな」

 

そうだ、奴は昇格強化した天撃状態で放った砲撃にも耐える堅牢な肉体を持っている。

どうやって、リーシャは今の一瞬にそれを突破した………?

 

リーシャは撃ち抜いたラズルの肩を眺めながら、こう続けた。

 

「イッセーの砲撃の威力は凄まじいです。攻撃力、制圧力では及びません。しかし、貫通力なら私の方が上です。それに―――――全く同じポイントに何十発も撃てば、どんなに硬いものでもいつかは貫かれます。私があなたの肩を撃ち抜くのに引いた引き金の回数は二丁合わせて二十。それだけ撃てばあなたの防御は突破することが出来るというわけですね」

 

その言葉に全員が仰天する!

 

ラズルが叫んだ。

 

「あの一瞬でそんなに撃ったってのかよ!? かぁー!

剣聖もそうだが、あんたも大概だよな、おい!」

 

リアス達も何と言えば良いのか分からないといった表情だ。

 

―――――ワンホールショット。

目標物に貫通痕を残し、その弾痕を的として連続射撃する技術。

 

リーシャの得意技だ。

早撃ちかつ、二丁でそれを可能とする技量の持ち主はアスト・アーデにおいてリーシャしかいない。

 

しかし、驚くのはまだ早い。

リーシャにはまだプロモーションがある。

『女王』になった時にはいったいどれほどの戦闘力を発揮するというのだろうか。

 

ラズルの油断もあった。

それでも、今の早業は俺達の理解の外にある。

 

いきなり傷を負ったラズルは傷口を抑えながら肩を震わせた。

顔を上げると―――――高らかに笑い始める。

 

「くっくっくくくく…………あーはっはっはっはっ! この傷は自業自得ってな! あぁ、そうだ。あんたは油断しちゃいけない相手だったな! 俺がバカだったぜ!」

 

自分の愚かさへの笑いとリーシャという強者と対峙するという喜びの笑いが混ざったような声だ。

 

ラズルの体から荒々しいオーラが吹き出す。

野獣のようなオーラ。

獰猛な笑みと共にラズルは吼えた。

 

「我が名はラズル! 『破軍』の二つ名を与えられし者! 赤瞳の狙撃手殿、手合わせ願おうか!」

 

「良いでしょう。私の主――――弟の道を切り開くのも姉の役目。あなたを狙い撃ちます! サリィ、フィーナ、いきますよ!」

 

「「了解!」」

 

リーシャは妖精二人を肩に乗せ、悪魔の翼を出して飛翔する。

周囲にいくつもの魔法陣が展開され、そこから空飛ぶ魔装銃と空飛ぶ盾が出現する。

 

リーシャは構えながら呟く。

 

「数は揃っていませんが…………このままでいきます! プロモーション『女王』!」

 

刹那、リーシャから放たれるプレッシャーが数段上がる。

『女王』に昇格したことでスピード、魔力、攻防が強化されたんだ。

 

強化された状態で空中を飛び回り、ありとあらゆる角度からラズルを狙撃していく!

 

ラズルは雨のように降り注がれる氷の弾丸を拳で粉砕、あるいは斥力の盾で防ぎながら、地面を蹴って空へと躍り出た。

 

「らぁっ!」

 

拳を引くと、一気に繰り出す。

生まれた衝撃波が広範囲に広がり、リーシャを襲う!

 

空飛ぶ盾で防ぐが、完全には防ぎきれていない。

 

リーシャは衝撃波に呑まれて、後ろに飛ばされた。

 

「………遠当てですか…………厄介ですね!」

 

宙返りして態勢を立て直し、すぐに魔装銃を構える。

構えたと思えば、すぐに撃ち出される氷の弾丸。

加えて、ライフルビットからは圧縮された炎の弾丸が飛び出していく。

 

しかし、ラズルはそれら全てを打ち払い、リーシャへと迫る。

引力の能力を使わないのは下手に使えば、先程と同じ目に会うと分かっているからだろう。

ラズルは極力、引力は使わず、斥力と己の拳のみで戦っている。

 

ラズルが掌を胸の前で合わせる。

合わせた掌にオーラで形成された球体が作り出される。

 

それをラズルは投げた。

 

野球の球のように投げられた球体はカーブを描いて、右側からリーシャを狙う。

 

ここで目を凝らして見ると球体が徐々に大きくなっていることに気づく。

 

怪訝に思う俺だったが、次の瞬間―――――。

 

 

バァァァァァァァァンッ!

 

 

凄まじい炸裂音を出して、球体は弾けた!

球体を起点に衝撃波が広がり、辺り一帯を破壊していく!

 

ラズルが言う。

 

「どうよ! 俺は斥力を圧縮して放てるんだぜ! 更に―――――」

 

ラズルは地面に拳を叩きつける!

陥没し、抉れる地面!

板のように剥がれた舗装路が空中を舞う!

 

ラズルは舗装路の塊を殴り付けて粉砕。

割れた塊をリーシャの方へと飛ばす。

 

単なる牽制じゃない。

こいつは…………!

 

リーシャの周囲へと飛ばされた破片は空中に留まった。

その時、その破片に吸い寄せられるかのように周囲の瓦礫が集まっていく。

 

「能力の付与か! リーシャ、気を付けろ!」

 

「分かってますとも!」

 

反応したリーシャは展開していたライフルビットで引力の起点になっている塊を破壊する。

小さいものを数えれば相当な数だったが、あっという間に撃ち抜かれ、撃墜された。

 

リーシャがフィーナに指示を出す。

 

「フィーナ、あれをやります。いつでもいけますね?」

 

「はい。既にこの一帯は私の領域です。あとはサリィの力が加われば―――――」

 

フィーナの言葉にリーシャは頷く。

 

悪魔の翼を広げたリーシャは上空を目指し、ぐんぐん高度を上げていく。

 

当然、ラズルはそれを追いかけた。

斥力の球体を投げたり、拳圧を飛ばしたり。

 

ラズルの弱点は射程が短いことなんだろうな。

これまでの戦いやリーシャとの戦闘を見ていると、遠距離戦に持ち込まれると後手に回りやすい。

 

そういう意味でも、ラズルもリーシャとの相性が悪いと言える。

 

かなりの高さにまで達したリーシャはラズルを見下ろすと、両手に握る魔装銃を連結させた。

 

リーシャがラズルに問う。

 

「ご存じですか? 水は酸素と水素に分解出来るんです。それはこの世界でもアスト・アーデでも同じこと」

 

「なんだぁ? いきなり授業かよ? ………そういや、あんたは教師をやってたか。それくらいは知ってるぜ」

 

怪訝な表情で答えるラズル。

 

リーシャは意味深な笑みを浮かべた。

 

「では、続けて問いましょう。―――――そこに火を近づけるとどうなるか、知っていますか?」

 

「あ? そんなもん――――――っ!? まさか………!」

 

ラズルが周囲を見渡す。

特にこれといったものは存在しないが、ラズルは顔を青くしていた。

 

リーシャは笑みを浮かべたまま―――――二丁の引き金を引いた。

 

「―――――ブラスト・シューター」

 

 

次の瞬間――――――。

 

 

このアグレアス上空を覆うほどの大爆発が起こった。

 

 

 

 

モーリスのおっさんとヴァルス、リーシャとラズルの二組が激戦を繰り広げる。

 

公園のあちこちで金属のぶつかる音が聞こえ、木々が薙ぎ倒されて地響きがしている。

上空では未だ赤々と燃える爆炎。

 

二組の戦いを息を呑んで見守っていると、こちらの陣営から前に出る者達がいた。

 

――――美羽とアリスだ。

 

二人はそれぞれ、ベルとヴィーカの前に立った。

 

美羽が言う。

 

「とりあえずは何度も戦ってきてるしね。あの二人の相手はボク達がするよ」

 

「そろそろ決着をつけないといけないのよ。幾度とぶつかってきたからこそね」

 

美羽に続きアリスもそう述べた。

 

美羽とベル、アリスとヴィーカ。

この二組はいつの間にか因縁の相手のような関係になっていた。

アウロス襲撃の時も、先日の冥府調査の時も彼女達はぶつかってきた。

 

まだ幾つか手札を隠していると思われるが、こちらの陣営の中でベルとヴィーカの戦闘スタイルを理解しているのは美羽とアリスだ。

 

ヴィーカが頬に手を当てながら笑んだ。

 

「良いわね。この間はやられちゃったし………どっちが強いか、決める?」

 

「ええ、もちろん。どのみち戦わないといけない相手。この場で決めてしまいましょうか」

 

槍を構え、不敵に笑むアリス。

 

二組から莫大なオーラが解き放たれ、衝突する。

オーラが衝突する場所では空間が軋み、悲鳴をあげていた。

 

ふいに美羽がこちらを振り向く。

そして、笑顔で言ってきた。

 

「心配いらないよ? ここは任せてね、お兄ちゃん」

 

その笑顔に俺は―――――。

 

「任せる。眷属を信じるのも主の勤め。妹信じるのも兄の勤めだ」

 

「ちょっと、そこに嫁も付け加えてよ」

 

アリスがぷくっと頬を膨らませながらそう言ってくる。

 

こんな戦場でなんて緊張感のない…………って、思ってしまうけど、平常通りで逆に安心するな。

 

俺はため息を吐くと、ニッと笑んだ。

 

「おう。嫁を信じるのも夫の役目ってな。信じるぜ、美羽、アリス。約束は…………分かるな?」

 

俺がそう問うと二人は―――――。

 

「「一緒に家に帰る。約束だからね?」」

 

それだけ言い残して、二人は飛び出していく。

 

俺は二人の背中を見送りながら、再び息を吐いた。

四人には負担をかけることになっているのは分かる。

相手はそれだけ強い。

 

信じると言ったばかりだけど、やっぱり心配はするもんだ。

 

でも………それでも俺は信じた。

俺の眷属、家族を。

 

「イッセー………」

 

リアスが心配そうな表情で声をかけてきた。

 

「大丈夫だ。美羽たちなら、何も問題ないさ。―――――俺達は俺達の役目を果たそう」

 

俺達は美羽たちにこの場を任せた後、庁舎目掛けて駆け出していった。

 

 



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17話 ドラゴンとは

美羽達にあの場を任せた俺達は目的地であるアグレアスの庁舎を目指した。

 

公園を越えてから約十分ほどが経過。

後ろの方からは爆発音から雷鳴、地響きまで聞こえ、美羽達が激戦を繰り広げているのが、背中でも感じられた。

 

アーシアが心配そうな表情で俺を見る。

 

「イッセーさん、美羽さん達は…………」

 

「心配してくれてありがとな。でもな、あいつらとは約束した。一緒に家に帰るってな。だったら、大丈夫だ。美羽達も、俺も。もちろんここにいる皆も」

 

そう言って俺はアーシアの頭を優しく撫でた。

 

他の皆も時折、俺の方を見てくるけど、心配ないと目で伝えた。

約束した以上、美羽もアリスも約束は守る。

多少の無茶はしても、約束を破るようなことはしない。

 

まぁ、そうなると俺も約束を破るわけにはいかないんだけどね。

父さんと母さんとも約束したし。

 

そんな会話をしながら、進むこと更に数分。

俺達は高層ビルの前に辿り着いた。

曲線を使った特徴的なデザインの高層ビル、これがアグレアスの庁舎だ。

 

俺達は庁舎から少し離れた場所で辺りの様子を伺うことにした。

 

庁舎の周囲には量産型邪龍が大量に待ち構えていた。

建物の回りも空も黒一色だ。

中にはグレンデルやラードゥンの量産型までいて、かなり厳重に守られている感じだった。

 

「………さて、どうしたものかしらね」

 

庁舎に飛び込む一手を思案するリアス。

 

「予想の範囲内ではあるけどな。奇襲されれば、本陣をガッチリ固めるのは当たり前だし。………俺が天撃(エクリプス)で吹っ飛ばそうか? もしくはEXAで殲滅するとか?」

 

「いえ、イッセーには出来るだけ温存してもらいたいからEXAは使わない方が良いわ。あれは消耗が大きい………そういえば回復できたわね」

 

途端に頬を赤らめるリアス!

 

そうだね!

ここにリアスいるから消耗しても回復できるよね!

 

こんな事態にこんなこと考えるのもどうかと思うけど…………リアスのおっぱいで回復したいから、撃っちゃおうかな!

一帯ごと、邪龍共を殲滅しちゃおうかな!

 

なんて緊張感ゼロの思考に走る俺だったが、小猫ちゃんが鼻を押さえながら言った。

 

「………臭い。というか、気づかれてますね」

 

小猫ちゃんがとある一点を指差す。

無数の邪龍の間から細長い蛇タイプで黒い鱗のドラゴンが姿を現した。

量産型とは比べようにならないほど、濃密で強大なオーラを纏う邪龍――――――ニーズヘッグが俺達の前に現れた。

 

ニーズヘッグは建物の影に隠れている俺達の方を向くと、口を開く。

 

《グヘ、グヘへへへへ。出てこいよぉぉぉぉっ、いるんだろぉぉぉぉっ》

 

やっぱ、気づかれてるな。

それなら話は早いか。

 

俺達は頷き合うと皆がそれぞれ得物を手にした。

 

俺は生身のまま、ニーズヘッグの前に姿を見せる。

近くに来て分かったんだが…………ニーズヘッグの体から異臭が漂ってくる。

小猫ちゃんが鼻を抑えるわけだ。

他の皆も一様に嫌な顔になっていた。

 

ドライグが皆に聞こえる声で言う。

 

『ニーズヘッグか』

 

ドライグの声を聞いて、ニーズヘッグは醜悪な笑みを見せる。

 

《おめ、ドライグだろ? グヘへへ、見ない間に随分ちっこくなっちまったもんだ》

 

俺は一歩前に出ると、ニーズヘッグに話しかける。

 

「おまえがニーズヘッグ、か。おまえか、うちの家族に手を出したのは。父さんと母さんを襲い、ディルムッドとオーフィスを傷つけた」

 

《あぁ? あの娘か? そだよ、ルシファーの息子にうめぇドラゴンの卵があるって聞いてよ? そこに行く前におめのおっとうとおっかあを拐って行けって言うもんだから、その通りにしたのよ。そしたらよ、あの娘が邪魔しやがってよ?》

 

「それで大勢であいつをやったと」

 

《ルシファーの息子がよ、念の為って、量産型の邪龍をくれたんだぁ。でよ、あんまり時間かけるなって言われてたからよ? あの娘をボッコボコにして、オーフィスのところに行ったわけよ》

 

ニーズヘッグは醜悪な笑みをより一層深くする。

 

《でよ? オーフィスに卵くれって言ったら、ダメだっつーのよ。でも、美味そうな卵なもんだから、俺も強引にいっちまってよぉ。俺よ、オーフィスをぶ、ぶ、ぶん殴っちまった! で、でよ、オーフィスに仕置きでもされっかと思ったけど、されないもんだから、つい調子に乗ってオーフィスさ、もっともっと殴っちまった》

 

嬉々としてニーズヘッグはあの映像に映っていた通りの内容を話す。

 

こいつが…………こんな奴が俺の家族を?

父さんも母さんもこいつのせいで恐怖を植え付けられた。

ディルムッドは片腕を千切られて、死ぬ一歩手前までいった。

オーフィスも全身の骨を砕かれて、重症を負った。

ディルムッドと卵を守るために無抵抗のまま、こいつの暴力を受け続けた。

 

ニーズヘッグは楽しげに、愉快そうに口から毒液のような涎を撒き散らしながら続ける。

 

《あの無限の龍神さまがぜーんぜん抵抗さしてこねぇもんだから、楽しくなっちまってよぉぉぉぉっ! 殴って殴って蹴って蹴って踏んづけて噛んじまったよぉぉぉぉっ!》

 

不愉快な言葉を吐く邪龍に俺は一歩、また一歩と近づいていった。

 

奴の足元に立った瞬間――――――俺は領域(ゾーン)に突入した。

 

《グベェッ!?》

 

高く舞い上がるニーズヘッグの巨体。

領域状態の俺が放ったアッパーが奴の顎を抉り、上へと打ち上げたんだ。

 

背中から地面に叩きつけられるニーズヘッグ。

衝撃で地面に大きなクレーターが咲き、瓦礫でニーズヘッグの巨体が埋まる。

 

俺は無様な姿を曝す邪龍に告げた。

 

「来いよ、ド三流のクズドラゴン。俺の家族に手を出したツケ、利子つけてきっちり返してもらう」

 

一泊おいて、瓦礫をはね除けてニーズヘッグが火を噴いた。

 

《い、いでええええええええ! いでぇぇぇえええええええええよぉぉぉぉぉぉ!》

 

あいつの顎、変形してるな。

骨でも砕けたかね。

 

ニーズヘッグは頭に乗っていた瓦礫を落とすと、怒りの形相で俺を睨む。

 

《な、なにすんだ、こ、このクソちび悪魔がよぉぉおおおおお! 殺す! 食い殺してやっからなぁぁぁぁぁぁ!》

 

奴は怒りのまま、巨大な腕を振り下ろしてくる。

 

こいつは領域(ゾーン)状態の俺の動きに着いてくることが出来ていない。

どれだけ腕を振り回そうとも当たらなければ意味はない。

ニーズヘッグが腕を振る度にブゥゥンという音がするが、どれもが虚しく空振った。

 

こいつがディルムッドを傷つけた腕か。

こいつがオーフィスを殴った腕か。

 

こんなもんが――――――。

 

俺は避けるのを止める。

そして、振り下ろされた豪腕を片手で受け止めた。

 

………軽い。

軽すぎる。

 

俺は奴の指を両手で掴み―――――ニーズヘッグの巨体を持ち上げた!

 

「らぁっ!」

 

ニーズヘッグを空へと投げ飛ばす。

奴は翼を広げて、その場に留まるが、俺は既に奴の懐。

 

超至近距離から気を練り上げた拳を奴のデカい腹にぶちこんだ!

一発、二発、三発。

重く入っていく拳は回転速度を上げて、奴の肉体を破壊する!

ニーズヘッグは避けることすら出来ずに、俺の拳をくらい続けた!

 

俺がニーズヘッグを相手している傍らで、仲間達は量産型の邪龍の相手をしていた。

 

騎士王形態の木場が聖魔剣とグラムの二刀流で戦場を駆け、ゼノヴィアは二つに別れたデュランダルとエクスカリバーで破壊の嵐を起こす。

 

闇の獣と化したギャスパーは周囲に無数の闇の怪物を解き放ち、殲滅に入る。

 

イリナのオートクレールと小猫ちゃんの放つ火車は邪龍を浄化し、消滅させる。

 

レイナとレイヴェル、ロセは空を飛び、上から光の弾丸と火球、魔法のフルバーストで邪龍を焼いていく。

 

リアス、朱乃のコンビは後方から滅びの龍と雷光の龍を飛ばし、一斉に邪龍を屠っていた。

 

アーシアはリアスの傍らでいつでも皆の回復できるように回復のオーラを手元に溜めている。

 

ここまで多くの邪龍と戦ってきた仲間達の攻撃は猛烈で、頼もしいものだった!

 

皆も本当に強くなった。

初めて出会った時よりも強く逞しくなった。

今までの修業の成果が十分すぎるほど、この場では活かされている。

 

そんじゃ、俺もこいつを………目の前の邪龍を片付けますかね。

 

何度も同じ場所を殴り続けたことで、ニーズヘッグの腹には大きな穴が空いた。

傷から夥しい量の血が流れ出る。

 

《いでぇぇぇえええええええええよ! やりやがっだなぁぁぁぁぁぁっ!》

 

「喚くな、クソ邪龍! てめぇのやったこと、思い出しやがれぇぇぇぇぇ!」

 

《ぐぶぅっ!》

 

怒りの鉄拳を奴の顔面にめり込ませ、勢いに乗せて撃ち抜く!

ニーズヘッグの体が仰け反って体制を崩したところで、特大の気弾をぶちこんだ!

 

気弾は回転しながら奴の腹に命中。

墜落した後も気弾に押し潰されていく!

 

《げぇぇぇぇっ!》

 

悲鳴をあげ、だらしなく血反吐を吐くニーズヘッグ。

 

ドライグが聞いてくる。

 

『鎧は使わないのか?』

 

悪いな、こいつは俺の我が儘だ。

このクソ邪龍は俺の手で直接殴らないと気が収まらないんだよ。

 

それにこの程度の三流ドラゴン、赤龍帝が出るまでもないだろう?

ここはただの兵藤一誠で十分だ。

 

俺はニーズヘッグの尻尾を掴む。

 

「なぁ、どんな気分だ? 自分は痛い目に遭わないとでも思ってたんだろう? どんな気分だ? ちっぽけな俺に手も足も出ないこの状況によっ!」

 

力任せに奴の巨体を持ち上げ―――――叩きつける!

尻尾を振り回して地面に、建物に何度も!

 

こんなもんじゃ済まさない。

こいつはディルムッドの気持ちもオーフィスの気持ちも踏みにじったんだ。

自分のやったこと、後悔させてやるよ!

 

叩きつける度にニーズヘッグの体から血飛沫が飛び、奴は悲鳴をあげる。

 

「俺は大事なもんに手を出されて大人しくしているほど、優しくはない。特におまえみたいな下衆にはな。―――――うちの家族、泣かせんじゃねぇよ!」

 

赤いオーラを纏った拳が奴の顔面を撃ち抜き、庁舎の内部にふっ飛ばす!

 

建物の中からよろよろと這い出てきたニーズヘッグ。

俺の攻撃を一方的に受け続けた結果、満身創痍、ズタボロの姿に。

 

そろそろトドメを刺そうかというところで、ニーズヘッグの体が淡い光に包まれる。

そして、何事も無かったように立ち上がった。

 

《グヘへへへへ! 復活だぁぁぁぁ!》

 

嫌な笑みを浮かべるニーズヘッグ。

 

今の今まで受けていた体の負傷、ダメージが完全に消えていた。

 

「そういや、おまえらクリフォトはフェニックスの涙を持っていたな」

 

そう、奴らは外道と言える方法でフェニックスの涙を量産していた。

 

ニーズヘッグは意気揚々と手の中にある複数の小瓶―――――フェニックスの涙を見せびらかしてきた。

 

《便利なもんだなぁ、今の傷がすぐに治るなんてよぉぉぉぉ! もう許さねぇぇぇぞぉぉ、絶対になぁぁぁ!》

 

怒りと共に体中からどす黒い瘴気まで発し始めたニーズヘッグ。

 

なるほど、ディルムッドが死にかけた訳だ。

この瘴気をまともに受ければ、悪魔であっても体に異常をきたす。

アザゼル先生の言った通りだな。

 

そんなことを思い出していると――――俺の意思に関係なく鎧が展開された。

 

…………ドライグ?

 

『悪いな、相棒。ニーズヘッグのあのような姿を見ているとな、無性に怒りが沸いてきたのだ。ここからは俺も交ぜてもらおうか』

 

ドライグは奴にも聞こえる声でそう言った。

 

ったく、ドライグも参加ですかそうですか。

まぁ、良いさ。

 

ありがとよ、相棒!

 

赤き龍の鎧を纏う俺は復活したニーズヘッグの前に立つ。

 

「フェニックスの涙? そんなもん関係ないな。とことんまで潰してやるよ。―――――本物のドラゴンの力、見せてやる」

 

そう告げて、ニーズヘッグの方へ一歩踏み出した時だった―――――。

 

俺達のニーズヘッグの間に一人の男が割り込んできた。

 

「―――――ドラゴンらしい言葉だ。高揚してくるではないか」

 

黒いコートを着た男性―――――クロウ・クルワッハが現れた。

 

こいつ、なんでここに来ている?

疑問を感じる俺だったが、奴は構わずにニーズヘッグに詰め寄った。

 

「ニーズヘッグ………なんと、稚い気のことか」

 

瘴気を放つニーズヘッグの姿に嘆くクロウ・クルワッハ。

 

ニーズヘッグがクロウ・クルワッハを視界に捉えて言う。

 

《グヘへへへへ! クロウの旦那じゃねぇか! さっき会った時は思わずビビッちまったけどよ、一緒によ、俺とよ、こいつさ、食って―――――》

 

 

ドゴンッ!

 

 

ニーズヘッグが言い終える前に鈍い音が響く。

見れば、クロウ・クルワッハの右腕が巨大なドラゴンの腕と化していて、それをニーズヘッグの顔面に打ち込んでいた。

 

これにはニーズヘッグも虚を突かれたようで、間抜けな顔をしていた。

 

《い、いでぇぇぇよ!? いでぇぇぇじゃねぇかよ!? なんで俺を殴るんだよぉぉぉぉっ!》

 

口から血を撒き散らしながら喚くニーズヘッグにクロウ・クルワッハは目を細め、首をコキコキと鳴らす。

 

「………貴様が、貴様達が、あまりに小賢しい真似をするものだからな。俺はオーフィスを通してドラゴンを見ようとした。それを邪魔するならば―――――消し炭にするしかあるまい?」

 

クロウ・クルワッハは庁舎の最上階―――――リゼヴィムがいると思われる場所を見上げ、奴に向かって言う。

 

「リゼヴィム・リヴァン・ルシファー、見ているか? 多くの邪龍を手懐けたことで勘違いしたようだな。―――――真のドラゴンとは、生まれた時から死ぬ時まであるがままに思うがままに我が儘に生きるっ! それが、ドラゴンなのだ!」

 

断言するクロウ・クルワッハ。

 

あるがままに、思うがままに、我が儘に生きる…………か。

 

こいつはドラゴンというものを追い続けて長年生きてきた。

邪も天も神も関係なく、自由に生きる。

それがドラゴン。

 

説得力がありすぎるぜ。

 

ふいにクロウ・クルワッハが俺に視線を向け、庁舎の最上階を指差した。

 

「――――行け」

 

「いいのかよ?」

 

「赤龍帝、用があるのはあのルシファーの息子だろう? このような場所で時間を食っている暇があるのか?」

 

「………そりゃそうか」

 

納得した俺は奴の横に立って、ドラゴンの翼を広げる。

 

「そんじゃ、あとは任せるわ。―――――ドラゴンの面汚しに鉄拳制裁してやってくれ」

 

俺がそう言うとクロウ・クルワッハはフッと笑んだ。

 

こいつが笑うところ初めて見たかも………。

 

俺は振り返り、量産型邪龍と戦っている皆に言う。

 

「俺は先に行く! 皆、無茶はするなよ!」

 

『おうっ!』

 

邪龍を蹴散らしながら応じる皆!

頼もしいことだよ!

 

俺が飛び上がろうとすると、ニーズヘッグが攻撃型の魔法陣を展開し始めた。

 

《い、行かせねぇぞぉぉおおおおお!》

 

俺に攻撃魔法を放つつもりなのだろう。

 

しかし、俺は奴を横目に言ってやった。

 

「俺に攻撃する暇がおまえにあるのか?」

 

既にニーズヘッグの相手は交代している。

 

ニーズヘッグを阻むのは黒いコートの男。

 

「貴様の相手は俺だ」

 

俺達の間に入ったクロウ・クルワッハは強烈なオーラを解き放ち始めた。

 

「―――――久方振りだ、見せてやろう」

 

全身から凄まじいプレッシャーとオーラが解放され、この一帯を大きく揺らし始めた!

ここで戦闘をしているオカ研メンバー、量産型の邪龍達ですら、この変化に視線をクロウ・クルワッハに向けるほど!

 

全視線を集める中、クロウ・クルワッハの体に変化が訪れる!

腕が、足が、背中が、腹が、頭が本来の姿―――――ドラゴンの姿に戻っていく!

 

黒と金色のオーラを全身から放ちながら、両翼をバッと雄大に広げる一体のドラゴン。

元の姿を解き放った最強の邪龍が口から火の粉混じりの息を吐いた。

 

『―――――邪龍最凶と謳われたこの俺の力をな』

 

王道ともいえる姿をした漆黒のドラゴン。

威風堂々としたその姿は思わず見入ってしまうほどだ。

 

クロウ・クルワッハの真の姿にニーズヘッグは巨体を大きく震わせた。

 

《ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!》

 

情けない悲鳴を上げるニーズヘッグ。

 

クロウ・クルワッハが纏うオーラは本物。

圧倒的強者のそれだ。

 

俺は………逆に高揚してしまっていた。

 

これがドラゴンを追い求めたドラゴンの姿!

長き時の中で研鑽し続けて得た力!

 

クロウ・クルワッハは震えるニーズヘッグの手元を指差す。

そこにはフェニックスの涙が入った小瓶いくつか握られていた。

 

『そのフェニックスの涙をとやらはいくつある? 十か? 二十か? このクロウ・クルワッハを前にしたのだ。存分に使うがいい。―――――だが、俺は貴様を百以上殺し続けてやろうッ! せいぜい、意識が燃え尽きぬよう繋ぎ止めておくのだなッ!』

 

なんとも迫力のある声だ。

その深く重みのある声を聞けば誰でも畏縮してしまうだろう。

 

ニーズヘッグもあまりに桁違いの相手に震えが止まらないでいた。

しかし…………、

 

《ガ、ガァアアアアアアアアアアッ!》

 

涙と涎を撒き散らしながら、無様な格好でニーズヘッグは果敢にもクロウ・クルワッハに襲いかかる。

 

邪龍最凶のドラゴンは意にも介さず、真正面から豪快な拳でニーズヘッグを吹っ飛ばしてしまう!

吹っ飛ばされたニーズヘッグは幾つもの建物を倒壊させていく。

 

………半端じゃない威力だな。

まともに受ければアウトじゃないか?

 

ここでクロウ・クルワッハの戦いを見てみたい気持ちでもあるが………そんな時間はないか。

 

俺は上空に意識を向けるが、少しだけクロウ・クルワッハの方に視線を向けた。

 

「クロウ・クルワッハ―――――あんたとなら真正面から戦ってみたい。誰の邪魔の入らない、一対一で」

 

俺の言葉にクロウ・クルワッハは笑みを浮かべて、

 

『それは楽しそうだ』

 

そうして俺達は互いの相手の元に繰り出していく。

クロウ・クルワッハはニーズヘッグ、俺は―――――。

 

 

リゼヴィム―――――首洗って待ってろ………ッ!

 

 




なんとなく思い付いたので書いてみました。


~あとがきミニストーリー~


イッセー「ディルムッド、唐揚げ食べるか?」

ディルムッド「うん! ………おに、お兄ちゃん………」

イッセー「カハッ」

吐血するイッセーだった。


~あとがきミニストーリー 終~


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18話 王者の告白

庁舎の最上階を目指し、飛翔する俺だったが、先程から量産型邪龍が邪魔してくる。

俺を行かせまいと倒しても倒しても次から次へと沸いてくるんだ。

 

一体一体は弱いが………数が多いな。

いったい何体作っているのか…………。

 

『一匹出てきたら三十匹は出てくると考えた方が良いな』

 

ドライグさんよ、それゴキブリの考えじゃないだろうか?

まぁ、あながち間違ってないと思うけどね。

 

本当にキリがないから。

 

庁舎ビルの真ん中を過ぎたところで、邪龍の数は一層多くなる。

 

「あんまり時間をかけるのも問題か…………。この数が下に行けば、リアス達でも苦戦するかもしれないし」

 

そう呟くと、鎧を通常のものから天撃(エクリプス)に変更。

全砲門を展開。   

照準を上から降ってくる量産型邪龍に合わせた。

 

砲門が鳴動し、エネルギーの充填を終える!

 

「ドラゴン・フルブラスタァァァァァァァッ!」

 

『Highmat FuLL Blast!!!!』

 

六つの砲門から放たれる極大の赤いオーラ。

強力な殲滅力を持った天撃による一撃はそれだけで、邪龍の群れを呑み込み、消滅させた。

 

しかし、更なる量産型の邪龍の群れが遥か上空から向かってくるのが見える。

 

…………本当に何体いるんだよ…………。

 

少々げんなりした俺はガラスを割って庁舎の中へと侵入。

中にも邪龍の姿が見えるが、外に比べると遥かに少ない。

せいぜい十数体といったところだ。

 

少しばかり迂回ルートになるかもしれないけど、邪魔されない分、こちらの方が早く着くだろう。

 

俺は周囲を警戒しながらも、一気に中を進んでいく。

 

その時だった。

建物内にマイク音声が鳴り響く。

 

『ごきげんよう、冥界の皆さん。ディハウザー・べリアルです。私が消息不明となっているようですが、この通り、平穏無事です』

 

―――――っ!

 

ここで王者が出てくるか………。

この建物、上にいるってことか?

 

怪訝に感じた俺だったが、ふいにとある部屋の前で飛行を止める。

部屋の中にはいくつかのモニターが設置されており、その全てに皇帝べリアルの姿が映し出されていた。

 

こいつは…………中継されているのか。

しかも、先程「冥界の皆さん」と言っていた。

つまりこの放送は冥界全土に流されているということ。

 

王者が話す内容は――――――。

 

『今から皆さんにお伝えしなければならないことがあります。それは―――――レーティングゲームの闇だ』

 

アジュカさんの言った通りだ。

レーティングゲームの裏側、不正の数々をここで暴露するつもりなんだ。

 

俺は立ち止まっているわけにもいかず、最上階を目指して再び飛び出していく。

移動中にも王者の声は建物内に響いていく。

 

『私の世代は豊作とされるほど、実力のある若手悪魔が現れて、レーティングゲームの前線に立って試合を盛り上げてきた。現二位であるロイガン・ベルフェゴールとも、現三位のビィディゼ・アバドンとも互いに切磋琢磨して力を、ゲームを高めあってきた』

 

王者を含めたトップランカー達は長くレーティングゲームの場で活躍し続けた。

互いを強敵だと認め、より高みを目座していた。

 

それは冥界に住む者であれば、誰もが知っていることだろう。

 

『だが、とある筋から不穏な情報が耳に届いてきた。ロイガンもビィディゼも他のトッププレイヤー達も幼少の頃、才能に恵まれない悪魔であったと。最初はただのゴシップだと笑っていた。幼少時は平凡でも、成長してから才能を開花させる者も少なくない。才能を開花させた者を妬んだ輩が面白半分で書いたものだろうとね』

 

王者の声のトーンが低くなる。

 

『…………しかし、ある日のことだ。従姉妹であったクレーリアが私に面白い情報を仕入れたと言ってきたのだ。―――――『王』の駒を知っていますか、と』

 

クレーリア・べリアル…………リアスの前任者。

三大勢力が敵対関係の時代、教会側だった八重垣さんと恋をしたことで冥界の上役に粛清されてしまった女性――――。

 

ここで彼女の名前が出てきた…………?

 

『私は「ああ、都市伝説程度にはね」と返したのだ。だが、彼女はこう続けた。「私がいま管轄を任されている日本のエリアの近くに魔王アジュカ・ベルゼブブさまの隠れ家がある」と。アジュカさまが日本のどこかでご趣味の「ゲーム作り」をされているのは一部の者の間では有名な話だった。私は彼女に忠告した。「魔王の邪魔をしてはいけない。何があっても不用意に近づいてはいけないよ?」――――と』

 

だが、クレーリアさんは常々、トップランカー達のゴシップ話に興味を抱いており、独自に彼らの情報を仕入れていたという。

探れば探るだけ突然、情報が途絶えるその噂を彼女は背後に何か大きなものが隠れていると睨んだ。

 

『………彼女は、私のゴシップ話を払拭したかったのだろうね。私が長期間王者に留まり続けているものだから、冥界の記者が面白おかしく書いてくる記事を何よりも不快に感じていたのだよ。幼少の頃から私を見てきた彼女だ、私の力が本物であると証明したかったのだろう。………私にとって、大切な家族の一人だった。………実の妹のように想っていたよ』

 

悲哀に満ちた声の王者。

 

そして、王者はハッキリと告げた。

 

『結論から言えば、クレーリアは消されたのです。――――冥界政府、いや………古い悪魔の方々の意思によってだ。当時、従姉妹のクレーリアの死を知らされた私だったが、真相は伏せられていた。疑惑しかなかった。なぜ、彼女が死なねばならなかったのか、考え、悩み、苦しみ続けた。…………私はとある筋を頼り、この真相に辿り着いたのです』

 

ちょっと待て…………クレーリアさんは八重垣さんと恋に落ちたから消されたんじゃなかったのかよ………?

 

初代バアルから聞かされた話は、トウジさんから聞かされた話は事実だった。

リアスにも伏せられ、あの時ようやく知り得た事実だった。

 

…………それすらも更なる真実を隠すためのものだったというのか…………?

 

教会の人間であるトウジさんはともかく、初代バアルはこのことを知っていたのだろうか…………?

それとも初代バアルにすら隠されていたことなのか…………?

 

いや、おそらく知っていて黙っていたんだろうな。

この件は容易に口にして良い内容じゃない。

 

王者は続ける。

 

『結論から言えば「王」の駒は存在する。そして、いま、あなた方の前に開示されているだろう情報と、ゲームプレイヤーの顔ぶれ、彼らはその「王」の駒を使用して今の力を手に入れたのだ』

 

いま冥界に流されているであろう映像には俺達がアジュカさんに見せられた情報がそのまま開示されているのだろう。

 

アジュカさんが言っていた王者の事情というのはこの事だったのか。

クレーリアさんの真相とゲームの闇を知るため…………。

そのためにリゼヴィムに協力したと。

 

今頃、冥界中が混乱していることだろう。

消息不明とされていた王者がいきなり映し出されたと思えば、とんでもない内容を告白されたのだから。

 

それからと王者の告白は続く。

レーティングゲームの闇が次々と明かされ、その内容は俺達が聞かされたことと、ほぼそのままだった。

 

これは…………クレーリアさんを殺された王者の、古い悪魔達への復讐なんだろうな…………。

大切な家族を殺された王者の――――――。

 

最上階とされる展望台に到着した時には、王者による独占中継は終わりを迎えていた。

展望台に設置されたモニターには王者の姿は映っておらず、既に砂嵐となっていた。

 

俺がその場に足を踏み入れた時、王者は振り向くことなく訊いてきた。

 

「…………さて、赤龍帝くん。私はどうしたら良いと思う? この情報、真実を得て、大衆に伝えるためだけに私は罪を犯しすぎた。アグレアスも、ライザー・フェニックス氏とのゲームについても…………」

 

「………ディハウザーさん、あんたは―――――」

 

王者と話をしようと、口を開いた時だった。

 

「―――――そんなことはどうでもいい」

 

不快な声が耳に届く。

 

そちらに視線を送れば、銀髪の男性――――今日、俺が最も殴りたいと思っている奴が映像機材の陰から現れた。

 

「俺が――――否、このルシファーの息子たる私が許そうではないか、べリアル卿」

 

「………リゼヴィム様」

 

リゼヴィムが王者の肩を叩き、俺に視線を向けた。

 

「天界以来だ、赤龍帝」

 

「そうだな、ルシファーの息子さん。今まで散々やってくれたが、今回はいきなり過ぎて流石に俺の想定を遥かに越えてきたよ。………なんで、このタイミングでうちの親とオーフィスを狙った?」

 

俺の問いにリゼヴィムは肩を竦めた。

 

「急ぎでオーフィスの協力が欲しくなっただけだ。オーフィスというよりはリリスの力を高めるためにだが………。貴殿の両親を狙わせたのもそのため………だったが、邪魔が入ったようだ。仕方なく、邪魔をしてきたあの英雄の娘を人質にさせて、ニーズヘッグをアジ・ダハーカの魔法で例の地下空間に送ったのはいいが………こちらも邪魔が入ってしまった。貴殿らの親、もしくは友人が人質ならば、かの龍神も隙ができるだろう、とな」

 

「………やっぱり外道だよ、おまえ」

 

「私は悪魔だ。『悪』で『魔』の存在だ。それが普通だとは思わないかね?」

 

「思わないな。おまえの勝手なお子さま思想なんぞ、共感できるわけがない。―――――ケリを着けさせてもらうぞ」

 

赤いオーラをたぎらせて俺は一歩を踏み出した。

 

リゼヴィムは不敵な笑みを見せる。

 

「いいだろう。―――――と、その前にもう一人、大事な来客がある」

 

―――――っ!

 

展望台のガラス壁の向こうから覚えのある強烈なオーラが接近してくる。

一筋の閃光が遠方の空より来訪。

ガラス壁をぶち壊して大胆に参上したのは純白の鎧を着込んだヴァーリだった!

 

ヴァーリは到着するなり、リゼヴィムに対峙して言う。

 

「………追い詰めたぞ、リゼヴィム」

 

ヴァーリのドスの利いた声音にリゼヴィムも口の端を吊り上げた。

 

「私の可愛い孫だ。これにて今宵の主要メンバーは揃い踏みとなった」

 

この場にいるのは俺とヴァーリ、リゼヴィムと王者の四名。

ちょうど二対二だな。

 

俺はヴァーリに訊いた。

 

「アーサー達は?」

 

「今頃、そちらのメンバー達と外で暴れているだろう」

 

「ってことは、リアス達と合流したか」

 

「そちらも眷属はどうしたんだ、兵藤一誠?」

 

「今はアセムの下僕達と派手に暴れてるだろうよ」

 

ヴァーリがぶち破ってきたガラス壁の向こうではベルが作り出したと思われる超巨大魔獣の群れと嵐のような攻撃魔法が衝突していた。

その近くでは白い雷が煌めき、空を駆ける魔装銃が陣形を組、砲撃とも思える一撃を放つ。

少し離れたところでは、高層建築が豆腐のようにスパスパ斬られて、倒壊している。

 

耳を済ませばモーリスのおっさんとヴァルスの笑い声が聞こえてくる…………。

あのチートおじさん、マジで怖いんですけど!?

 

ま、まぁ、あのおっさんは放置しよう。

 

俺はリゼヴィムと王者に視線を戻す。

 

「仲間に余計な手出しはさせないってやつか。俺もあの野郎には用があるんだがな…………。二対二で数的にはちょうど良い。俺が王者を倒したら、合流させてもらうわ」

 

「あの皇帝を前にしてそんなことを言う若手は君ぐらいだろう。………承知した」

 

ヴァーリと意見を交わし、お互いに合意したところで、俺達二天龍はリゼヴィム達に構える。

 

とりあえずは俺が王者と、ヴァーリはリゼヴィムと。

俺もリゼヴィムの野郎をこのまま放置する気はない。

王者を倒したら、ヴァーリと共闘してリゼヴィムを叩く。

 

「………いつかは挑戦と思ってたけどな。こんな展開でやり合うことになるとは思わなかった」

 

俺はため息交じりにそう呟いた後、全身から赤いオーラを放出させた。

ヴァーリも白く輝くオーラをたぎらせて、俺の横に並ぶ。

 

俺とヴァーリは目で合図する。

 

そして―――――戦闘が始まった!

 

先に仕掛けたのはヴァーリ。

白龍皇の翼を広げて、前方のリゼヴィムに突貫。

莫大なオーラを纏う拳でリゼヴィムに殴りかかる!

 

直撃する寸前、神器で高まっていたヴァーリのオーラを霧散させるリゼヴィム。

 

ヴァーリは舌打ちする。

 

「………ちっ、神器が絡む以上、直接的なものはやはりだめか」

 

―――――神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)

 

リゼヴィムの持つ能力は俺達神器所有者にとって天敵。

どんな攻撃をしても瞬く間に無効化され、力は霧散する。

 

俺が天界でリゼヴィムに傷を負わせたのはゼノヴィア達の協力…………四つの聖剣によるものだ。

今回はそんなアシストはない。

 

さて、今回は奴とどう戦うか…………。

 

神器による力を無効化されてもヴァーリはリゼヴィムに挑んでいく。

高速で動き回り、拳打と蹴り、魔力攻撃を仕掛けていく。

どれもこれもが以前見たときよりも、格段に磨きがかかっている。

 

しかし、リゼヴィムは素でそれらを避けきっていた。

 

超越者に数えられるリゼヴィムは神器無効化を除いてもかなりの実力を有する。

その実力は鎧姿のヴァーリを圧倒できる程のものだ。

 

ヴァーリの拳をいなしたリゼヴィムは、がら空きになったヴァーリの腹に魔力の籠った拳を放つ!

 

拳が純白の鎧に触れた瞬間、神器無効化の効果によって霧散。

生身の腹に強烈な一撃がめり込む!

 

「ガッ………!」

 

かなりの衝撃だったようで、ヴァーリは声を詰まらせる。

口から血を滲ませながら、一度後退して体勢を立て直し、再び鎧を装着する。

 

やはり、真正面からでは無効化されてしまう。

 

今の俺なら『透過』も使えるようになっているから、向こうに参戦すれば勝機は生まれるだろうが…………。

 

その前に俺が相手にしなければいけないのはディハウザー・べリアル、レーティングゲームの王者だ。

 

俺の方も既に戦闘を開始している。

天武(ゼノン)の鎧を纏った俺は距離を詰めて、王者と攻防を繰り返していた。

 

俺は拳を繰り出しながら、王者に問う。

 

「眷属の方々はいないんですね」

 

ここに来るまでに王者の眷属を見ることはなかった。

周囲の気配を探っても隠れている様子もない。

 

つまり、今回の行動に眷属を一人も付き従わせずにこの場にいるということだ。

 

王者は言う。

 

「その通りだ。彼らには外れてもらった。ここまで付き合う必要はないとね」

 

「あくまで罪は一人で被ると?」

 

「今回の件は私情で動いている。そこに彼らを従えるわけにはいかない」

 

そんな会話を挟みながら格闘戦を繰り広げる俺達。

 

はっきり言って、強い。

パワーなら負けていないだろう。

 

だが、細かいテクニックで言えば王者の方が上か。

それも当然だ。

王者は長い時間の中で俺よりも遥かに多くの経験を積んできた。

俺も他の誰にも負けないくらい修業は積んだが、俺と王者の間にある時の差はあまりに大きい。

 

王者は俺の放つ蹴りも拳も最小限の動きでいなし、ダメージを受けないようにしていた。

それに加えて――――――。

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

加速した倍加が俺のオーラを高める!

赤いオーラを拳に纏い、撃ち込む!

 

………が、王者が正面から俺の拳に触れた瞬間、拳に宿った増大のオーラが消えた。

 

リゼヴィムの無効化とは違う。

奴に触れられた時、鎧は完全に消えるからだ。

今の状況は俺の増大の特性だけを消した形になる。

 

その様子に俺は呟いた。

 

「これがべリアルの特性、『無価値』ですか」

 

王者は頷く。

 

「べリアルの『無価値』は特性を消し去る。赤龍帝の特性である増大を消させてもらった」

 

ライザーの不死を消したそうだが、それもこの『無価値』によるもの。

なんとも厄介な特性だ。

 

だが―――――。

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

再び鳴り響く、倍加の音声!

左右の拳に赤いオーラを纏い、王者に迫る!

 

王者の繰り出した蹴りを掻い潜り―――――。

 

『Penetrate!!』

 

宝玉から鳴り響くのは倍加とも譲渡とも異なる音声。

 

王者は俺の拳に触れるも、その勢いを消すことが出来ず、まともに一撃を食らう!

 

腹に一撃を受け、体をよろめかせる王者。

苦し気な表情を浮かべながらも、驚いているようだった。

 

「なぜ………? 私の『無価値』が効かないのか?」

 

その問いに俺は、王者に一撃を入れた右の拳を見つめながら答える。

 

「これが赤龍帝の、生前のドライグが持っていた能力の一つ『透過』。俺の力をダイレクトにあんたに通した」

 

「『無価値』を通り抜けたということか………」

 

そういうことだ。

ドライグの力―――――『増大』『譲渡』そして『透過』。

 

修業で色々と試してみたが、実戦で使うのは今回が初めてだった。

王者の『無価値』をすり抜けられたということは、リゼヴィムの神器無効化もすり抜けられそうだな。

 

俺達の戦いは展望台を抜け出て、庁舎の上空に場所を移した。

それでも戦いに変化が起こる訳でもなく、ただただ単純な攻防を繰り返していくばかり。

 

…………本来ならもっと過激な戦いになったはずだ。

お互いに動きは速いし、一撃は重い。

ぱっと見では激戦に見えるかもしれない。

 

しかし、見る人が見れば、今の俺達の戦いは緩すぎると感じてしまうだろう。

 

ある程度、ぶつかったとこで王者は拳を下ろす。

 

「赤龍帝くん………君はなぜ本気を出してこない? 今の君は全力ではない。君が全力を出せば私とてもたないだろう」

 

確かに俺がEXAやその更に上の力を使えばごり押しで王者を降すことも出来るだろう。

本気ではなかったとはいえ、あのアセムに通じるほどの出力だしな。

 

もちろん温存の意味もある。

EXAから上は消耗が大きく、長時間の戦闘には向いていない。

王者にリゼヴィム、そして………どこかにいるかもしれないアセムとの一戦を考えるとここで使うのは避けたい。

 

しかし、俺がそれを使わない理由は――――――。

 

「ディハウザーさん、あんたの拳には迷いがある。あんたの方こそ本気じゃないでしょう?」

 

さっきから王者はあまり積極的に攻撃を仕掛けてこない。

特性である『無価値』と最小限の攻撃だけで俺と戦っている。

 

俺は王者に問う。

 

「俺も訊きたいことがある。―――――まだ、何か隠していることがあるんじゃないですか?」

 



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19話 二天龍の逆鱗

「俺も訊きたいことがある。―――――まだ、何か隠していることがあるんじゃないですか?」

 

「…………」

 

俺の問いに黙る王者。

 

既に王者の目的は達成された。

王者が明かしたレーティングゲームの闇。

今頃、冥界では様々な論争が飛び交っているだろう。

 

突然もたらされた情報を冥界の人達は偽りだと思うだろうか?

それはない。

冥界で絶大な支持を受ける王者本人による告白は重く真実味を帯びている。

 

「テロリストに力を貸してまで知りたかったことを知り、それを告白した。民衆はあんたの言葉を信じるはずだ。冥界の上役、古い悪魔達も大騒ぎだろう。目的を達成した今、あんたが俺と戦う理由はあるのか? このままリゼヴィムの元にいる意味はあるのか? 俺はあんたのことをほとんど知らない。だけど、これだけは言える。―――――あんたは完全な悪にはなれない」

 

俺は面と向かってハッキリとそう告げた。

 

この人は目的を遂げた今もなお、心の中でもがき苦しんでいる。

善と悪の狭間で葛藤している。

 

復讐のためとはいえ、彼がしたことは冥界を崩しかねないことだ。

暴動が起こり、冥界各地でこれまで以上の被害だって出るだろう。

 

一応、アジュカさんが対策を考えてくれているらしいが、必ずしも上手くいくとは言えない。

少なくとも被害がゼロになるということはないはずだ。

 

王者は己の行動が罪もない人々を傷つける結果になるかもしれないことを理解している。

 

俺の言葉に王者は暫し黙り混むと、目元を伏せながら口を開いた。

 

「私は…………どうすれば良い? ここまで来るために、多くの罪を犯した私はどうすれば良い? これまで犯してきた罪。それによって生じるであろう今後の事態に、私はどうすれば良いと思う?」

 

王者は上空からアグレアスの町を見渡した。

 

レーティングゲームの聖地として賑わっていたこの浮遊都市も今やテロリストの本拠地。

冥界の人達が観光で訪れたこの町は無数の邪龍が飛び交う魔境と化した。

 

現在はこの浮遊都市を取り戻すために俺の仲間達が戦っており、各所で爆発音や地響きが鳴る。

その音はまるでこの島の悲鳴のように聞こえた。

 

レーティングゲームの王者として、一人のプレイヤーとして、聖地がこのように荒れ果てている現状は心を痛めているだろう。

この事態を招いた要因が自分なのだから尚更だ。

 

俺は一度瞑目する。

 

「あんたが犯した罪が消えることはない。今も、これからも。どうすれば償えるかなんて、答えなんてない。だから、俺にはあんたがどうすれば良いのかなんて分からない」

 

目を開いた俺は王者と視線を交わし、続ける。

 

「でも、あんたは今回の行動に相応の覚悟をもって動いたはずだ。自分のしたことで、冥界が荒れると分かっていて、それでも動いた。だったら、その覚悟でこれからも動け。もがいて、苦しんで、あんただけの答えを見つけろよ。あんたにしか出来ないことがある。それがいつかは償いになるかもしれない。―――――生きろ。生きて罪を償え。それが俺があんたに言えることだ」

 

「………ここまでした私に死ぬなと言うのか。………君は誰よりも残酷だ」

 

俺は王者じゃない。

これから先、王者がどうすれば良いのかなんて誰にも分からない。

 

以前、トウジさんにも言ったことだ。

 

―――――向き合うしかないんだよ、自分の罪と。

どこまでも、死ぬまで、永遠に。

 

答えなんてない。

それでも探し続けるしかないんだ。

 

ふいに俺は天界での出来事を思い出す。

 

「八重垣さんを知っていますよね?」

 

「ああ。クレーリアが恋をした彼だね?」

 

王者の聞き返しに俺は頷いた。

 

「俺は直接は見ていませんが、彼と戦った仲間が見たそうです。―――――八重垣さんと、彼を抱き締める女性の姿を」

 

「………噂は聞いている。クレーリアは…………どんな顔をしていたか、聞いてはいるだろうか?」

 

「………優しい顔をしていたそうです」

 

八重垣さんは今も天界にいて、監視はつけられているが、ミカエルさんの下で活動しているそうだ。

時折、あのエデンの園に赴き、そこで彼女の顔や声を思い出しているという。

 

天を仰ぐ王者。

一筋の涙が頬を伝っていた。

 

「赤龍帝くん。一つ…………頼みたいことがある」

 

「頼みたいこと? 俺に?」

 

「そうだ。私は――――――」

 

「―――――っ!」

 

王者の語った内容に俺は目を見開いた。

 

そうか、そうだったのか………!

アジュカさんが言っていたことの意味は…………ライザーとのゲームの意味はそのために――――――。

 

一通り話したところで王者は改めて訊いてくる。

 

「………そういうことなのだ。頼めるだろうか?」

 

「ええ、もちろんです。だけど、少し………いえ、かなり痛いかもしれませんが、そこは我慢してくださいね?」

 

俺はそう告げた後、ある魔法陣を開く。

それは俺に与えられた特殊な召喚魔法陣。

 

本当ならここで使うべきじゃないだろうが、少し予定が変わったな。

 

赤く輝く魔法陣から現れるのは―――――。

 

「いくぜ、ドライグ。――――――ドッキングするぞ!」

 

俺は心の中でアリスとリアスに謝りながら、それを使った。

 

 

 

 

「ぜぇぇぇぇぇぇぇぇあっ!」

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!

 

 

壁を破壊して展望台へと戻ってきた俺。

そして、俺の足元で倒れている王者。

王者は全身から血を流し、ボロボロの状態で瓦礫の下に埋まっている。

 

ちょっとやり過ぎた感じはするが…………まぁ、良いだろう。

一応、確認は取ったしな。

 

展望台に戻った俺の視界に入ってきたのは床に倒れ伏すヴァーリ。

すぐに立ち上がり、鎧を着込む。

 

………極覇龍は使えないか。

あれは体力と魔力をバカみたいに消耗する。

相手が神器無効化を持っている以上、変身してもすぐに無効化されてしまう。

そうなれば、ただ無駄に力を消費するだけになってしまう。

 

「ふふふ、どうした、ヴァーリよ。こんなものではこの祖父には届かぬぞ」

 

リゼヴィムが威風のある態度でそう言うが、ヴァーリは不機嫌極まりない表情だ。

 

ヴァーリは右手の籠手を解除して、手元に幾重もの魔法陣を展開。

リゼヴィムに強力な攻撃魔法を放つ。

 

なるほど、神器を介さず、ただの魔法を打ち込めばリゼヴィムの神器無効化は意味を為さない。

禁手の鎧で身体能力の差を埋めて、ただの魔法、魔力による攻撃でリゼヴィムに詰め寄るつもりなのだろう。

 

俺は聖剣のオーラを外側に纏うことで、神器をコーティングする形にしたが…………。

 

しかし、流石に超越者。

ヴァーリの攻撃をものともせず、軽く体を動かして全ての攻撃魔法を避けていた。

 

ヴァーリは魔法を撃ち込み続けながら、不機嫌な口調で漏らす。

 

「…………全く、かんに触る口振りだ。ルシファーの息子として、リリンとして振る舞うことで壮麗たる姿を見せているつもりだろうが…………貴様の根底は、その体から滲み出ている陰険で悪辣なオーラと同じもの。リゼヴィム、貴様は生まれもっての悪、悪意そのものだ」

 

孫であるヴァーリにそう告げられたリゼヴィムはきょとんとするが、途端にいつもの醜悪な笑みを浮かべた。

 

「うひゃひゃひゃ。だったら、どうすんだよ、クソ孫くん? よぼよぼのお祖父ちゃんに一矢も報いることも出来ない雑魚ドラゴンの癖になぁ?」

 

ベロを出して、ふざけた態度を見せてくる。

 

倒れる王者を一瞥した俺はヴァーリの横まで歩みより、奴を睨んだ。

 

「そうかい。そんじゃ、その雑魚ドラゴンに追い詰められるおまえはクズ以下だな。なぁ、リゼヴィム」

 

俺の登場にリゼヴィムは一瞬嫌な表情を見せた。

 

天界でのことを思い出したのだろう。

視線を倒れている王者の方に移し、小さく舌打ちした。

 

「王者くんも使えないねぇ。もうちっと頑張ってくれると思ったんだがよ」

 

「今度はおまえの番だ、クソジジイ。ヴァーリ、約束だ。こっからは俺も参戦させてもらう。俺もこいつは許せないからよ…………ッ!」

 

俺はヴァーリにそう言うと殺気を放った。

全力の殺気だ。

 

ヴァーリはなんとも言えない表情だったが、無言で頷いた。

 

よし、確認は取れた。

こっからは俺も全力で潰させてもらう…………!

 

全身に赤いオーラを纏わせた俺は、ドッキングしたことにより一層大きくなった天翼の翼を広げ、真正面からリゼヴィムに挑む!

 

「うひゃひゃひゃひゃ! 忘れたのかよ! 神器を介している以上―――――無駄ってね!」

 

確かに普通にいけば、ヴァーリと同じく鎧を解除されてしまうだろう。

そうなると、強制的に今の状態も解除される。

 

だが―――――。

 

『Penetrate!!』

 

透過の音声が流れる。

あいつの手が俺の手に触れる―――――が、俺の拳は勢いを更に増して、奴の顔面にめり込んだ!

 

奴は正面から打撃をもろにくらい、石造りの床を大きくバウンドして壁に激突した!

 

鼻血を流すリゼヴィム。

 

「………なんだ、こりゃ…………」

 

信じられないような声音で、立ち上がったリゼヴィムは鼻血をぬぐう。

手にはべっとり赤い血がついていた。

 

俺はリゼヴィムの傷と拳の感触を確かめた後に言う。

 

「やっぱな。ディハウザーさんの『無価値』を通り抜けたからいけると思ってたけど…………。おまえの『神器無効化』はもう俺には効かねぇよ。俺が得た力、ドライグが生前に持っていた『透過』の力はおまえの異能すら通り抜ける」

 

「………っ! 俺の『神器無効化』を通り抜けたってのか!? んな、アホなッッッ!? 俺の『神器無効化』はな! どんな神器だろうと、神滅具だろうと、全部! ぜぇぇぇぇんぶ、無効化すんだよ!」

 

殴られてもなお、現実を信じられないリゼヴィムは俺に指を突き付けながら叫んだ。

 

俺は一歩、重たい一歩を踏み出す。

殺気を纏い、奴との距離を積めていく。

 

「信じようが信じまいが、そんなのはどうでも良い。さぁ、覚悟しろ。二天龍を前にして生き残れると思うなよ?」

 

ヴァーリも俺と並び立つ。

 

「二対一………か。逆なら好みなのだが………」

 

「我が儘言うなって。俺もあいつを潰したくて仕方がないんだ。ここは二人でやっちまおうぜ」

 

端から見れば二対一で卑怯だと思われる構図だが、この下衆にそんな甘い考えはいらない。

 

こいつは今まで何をした?

 

吸血鬼の町を壊滅させた。

アウロスの町を、子供達を襲った。

天界をついでで襲撃し、アーシアを傷つけた。。

 

そして、今回も俺の家族を――――――。

 

許せる訳がない。

ヴァーリが言った通り、こいつは『悪』そのものなんだ。

イタズラに周囲をかき回し、触れてはいけない領域に土足で踏み込んだ。

 

だからさ―――――。

 

「リゼヴィムッ! てめぇは『悪』の権化だ! てめぇが泣かせた人達の分まで俺が! 俺達がてめぇをぶん殴る!」

 

『Trans-am Drive!!!!』

 

籠手の宝玉から発せられる力強い音声!

 

鎧が赤く――――紅蓮の輝きを放ち、大きく広げられた両翼からは赤く煌めく粒子が大量に放出される!

 

俺は神速でリゼヴィムとの距離を詰め、奴の懐に入る!

そして、奴にアッパーを繰り出した!

 

『Penetrate!!』

 

透過の力で奴の無効化をすり抜け、三倍に引き上げられたEXAの力の全てがリゼヴィムに叩き込まれる!

 

打ち上げられるリゼヴィム!

 

そこへ、回転の力を加えた後ろ回し蹴りを追加でぶちかます!

 

「ぐばぁ! ………んだよ、それは!? んだよ、それッッ!?」

 

血を撒き散らしながら叫ぶリゼヴィム。

 

そのリゼヴィムの背後に待ち構えるのはヴァーリだ。

 

「兵藤一誠に気を取られている場合ではないぞ、リゼヴィム!」

 

ヴァーリは籠手の部分だけを解除して手に濃密な魔力を纏う。

魔力に纏われた手刀がリゼヴィムの首に打ち込まれた!

 

奴は展望台の床を破壊して、下階まで落下する。

それを追いかける俺とヴァーリ。

 

「ちぃっ!」

 

舌打ちしながら、俺達の追撃を逃れるリゼヴィム。

 

奴はガラス窓をぶち破り、庁舎の外へと逃げる。

狭い空間で俺達二人を相手にするのは不利と踏んだのだろう。

 

「逃がすかよッ!」

 

「貴様にはここで終わってもらうぞ!」

 

俺達が逃がすはずがない。

 

赤い龍と白い龍。

歴代でも最高と称された二天龍が奴を追いかける!

 

アグレアス上空で繰り広げられる格闘戦!

『透過』の力を戦闘の軸にして、俺とヴァーリはリゼヴィムに攻撃を繰り出していく!

 

俺の拳が、ヴァーリの蹴りがリゼヴィムの繰り広げる攻撃と衝突する!

その余波だけで、周囲の建物を破壊していくほど!

 

近くを舞っていた量産型邪龍は余波に巻き込まれて落ちていく。

 

俺達を同時に相手にしてここまでやれるのは流石としか言いようがない。

性格はクズだけど、実力は本物。

 

偽りの力で傲る旧魔王派の連中とは訳が違う。

 

「おらぁぁああああああああああ!」

 

空中でルシファーの翼を広げたリゼヴィムは巨大な魔力弾を無数に放ってくる!

一発一発に常軌を逸した魔力が籠められており、くらえば瀕死のダメージは余裕で受けてしまうだろう!

 

でも、三倍に力を引き上げられた俺なら話は別だ。

僅かな時間しかもたなくとも、絶大な力を発揮できる今なら、奴の攻撃だって崩せる!

 

展開したフェザービットがそれぞれオーラの刃を形成し、奴の魔力弾を切り刻んでいく!

 

真っ二つに分かれた魔力の塊はアグレアスの空を揺るがす程の大爆発を起こした。

 

俺がリゼヴィムの魔力弾に対処している間にヴァーリはリゼヴィムに詰め寄る。

 

「ハッ! 赤龍帝の透過には驚かせられたがな! おまえの神器は無効化できんだよッ!」

 

リゼヴィムがヴァーリの鎧に触れようと手を伸ばした瞬間―――――。

 

ヴァーリの体を赤いオーラが覆った。

そのオーラがヴァーリの盾となって、リゼヴィムの手を阻む。

 

そして――――――白い龍の拳が魔王ルシファーの息子に届いた。

 

ヴァーリの拳が深くリゼヴィムの腹に突き刺さり、リゼヴィムは体をくの字に曲げる。

 

空中でよろよろと後ずさるリゼヴィムは血を吐き出しながらも、大きく開いた目でヴァーリを睨む。

 

「んでだよ………ッ! なんで、おまえにも無効化が通用しない…………!?」

 

ヴァーリは自身を纏う赤いオーラに目をやりながら答えた。

 

「俺を覆っている兵藤一誠のオーラのお陰だ。この赤いオーラには彼の『透過』が付与されている」

 

そこに俺が説明を続ける。

 

「無効化できない俺のオーラがヴァーリを守る鎧となったってわけだ。つまり、俺がいる限り、おまえの『神器無効化』は俺にもヴァーリにも通じない」

 

自身の前に並び立つ俺達の姿にリゼヴィムは目元をひくつかせる。

やがて、忌々しそうな目で俺達を見てきた。

 

「…………今代の二天龍は異常、か。長年殺しあってきた赤と白がこうして、俺を前に手を組むなんざ、なんの冗談だよ………!」

 

ヴァーリとは戦ったこともあるし、共闘したこともある。

初めて共闘したのはロキの時だったか。

 

確かに今代の俺達は過去の二天龍からすれば、少し………いや、かなり外れた存在なのかもしれないな。

 

ドライグとアルビオンも和解しちゃったし。

 

籠手の宝玉が点滅し、ドライグの声が発せられる。

 

『魔王ルシファーの息子よ。言ったはずだ、俺もアルビオンも決して嘗めてくれるなよ、と』

 

アルビオンがドライグに続く。

 

『貴様はあまりに愚か過ぎた。かつてヴァーリに行ったことも、今回、兵藤一誠に対して行ったこともそうだ。彼らの………否、我らの逆鱗に触れるには十分過ぎた』

 

『二天龍の逆鱗に触れたのだ。―――――貴様を滅ぼす理由はそれだけだ』

 



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20話 リゼヴィムの切り札

必殺…………久々三連投降アターック!!!!


『―――――貴様を滅ぼす理由はそれだけだ』

 

ドライグがリゼヴィムにそう告げる。

 

そうだ、奴は俺達の逆鱗に触れるには十分すぎる非道を行った。

 

俺には俺の理由があり、ヴァーリにはヴァーリの理由がある。

だけど、目的は一つ。

 

 

―――――何がなんでも、こいつだけは、このクソ野郎だけはこの手で………!

 

 

だからこそ、俺達はこうしてリゼヴィムの前に立っている。

こいつが二度と立てぬよう、徹底的に潰す覚悟でここにいる。

 

目的のためなら手段を選ばない、という訳ではないが、俺とヴァーリにとってこいつは絶対に許せない相手であり、こいつは世界を混乱に陥れる『悪』の権化。

 

だったら、共闘してでも潰すしかないだろう?

 

俺とヴァーリ、赤いオーラと白いオーラが神々しい輝きを見せる。

二人のオーラは繋がり、混ざり、そして膨らんだ。

 

赤と白、相反する力が共存し、凄まじいプレッシャーをリゼヴィムに放っていた。

 

流石のリゼヴィムも俺達の放つプレッシャーに一歩後ろに下がった。

冷や汗を流し、喉を鳴らしている。

 

俺の『透過』によってリゼヴィムの『神器無効化』は通じなくなった。

それが無くても奴は強いが………今の俺なら、俺とヴァーリならやれるはずだ。

 

俺達の迫力に息を呑んでいるリゼヴィムだったが、途端に懐を探りだした。

 

懐から取り出した手に握られているのは幾つかの小瓶だった。

 

「うひゃひゃひゃひゃ。そんじゃ、持久戦といくか? 涙ならたんまりあるんでね。おまえらの体力がもつか、俺がやられるのが先か。いっちょ、根比べといこうかね?」

 

奴が取り出したのはフェニックスの涙を入れた小瓶だった。

これについては特段驚くことではない。

 

こいつが涙を所持しているのは天界の時から分かっていることだ。

 

―――――問題はそれに対してどう対処するのか。

 

リゼヴィムは小瓶の蓋をとると、

 

「では、一つ目をいただこうか」

 

そのままあおった。

 

フェニックスの涙の効果により、今まで受けた傷が回復する…………はずだった。

 

フェニックスの涙を呑んだリゼヴィムには何の変化も起きなかった。

 

「…………」

 

自分に回復が起こらず、眉根を寄せるリゼヴィム。

 

「…………どういうことだ? なぜ、傷が癒えない?」

 

何度も自分の体を確認して、リゼヴィムは疑問を口にする。

 

その時、

 

「…………本物でしたよ。今、その時までは」

 

展望台の方から声が聞こえてくる。

その声の主は――――――傷を負った王者だった。

 

彼の手元には小型の魔法陣が展開されている。

 

その一言に得心したのか、リゼヴィムは王者を睨んだ。

 

「………貴様、無効化したのか…………? フェニックスの涙の効果をなくしたというのか!?」

 

「………べリアルの特性『無価値』は本来対象者の能力にだけ働く。ですが、『物』も例外ではない。………構成されている物質と原理さえわかれば『無価値』にできます。今、あなた方が所有する全てを『無価値』にしました」

 

それを聞かされたリゼヴィムは全てを把握した。

 

「………フェニックス家とのマッチングは最初からこれを想定していたというのかッ!」

 

そう、王者は端からこれを狙ってライザーとのゲームを組んだ。

ライザーの魔力を解析して、涙の構成を知り、この時を待っていた。

 

そして、クリフォトが所持する全てのフェニックスの涙を無効化したんだ。

 

「ディハウザー………! 貴様、ここで裏切るというのか………ッ! この俺を、ルシファーの息子たるこの俺を………! 赤龍帝と組み、俺を裏切るのか………!」

 

「………」

 

激怒するリゼヴィムに何も答えない王者。

王者の裏切りは完全に想定外だったんだろうな。

リゼヴィムは明らかに焦っていた。

 

まぁ、俺もさっき話を聞くまでは全くの予想外だったんだけどね。

確かにめざとい人だ。

 

とにもかくにも、これでリゼヴィムは殆ど詰んだ。

 

俺とヴァーリの猛攻に相応の傷を負った上に回復手段は絶たれた。

そして、俺とヴァーリはどこまでもこいつを追いかける。

逃がすようなヘマはしないだろう。

 

ヴァーリが言う。

 

「本当なら一人で決着を着けたかったが、この際、もう我が儘は言わない。―――――消えろ、リゼヴィム。この世から一片の肉片も残さずにな」

 

ヴァーリの殺気が高まっていく。

籠手を解除した後、ヴァーリは手元に魔法で生み出した光の剣を握った。

 

これで終わり、この場の誰もがそう思った。

油断をしたわけじゃない。

この狡猾な野郎に油断なんて出来ないからな。

 

しかし――――――。

 

「くくくくくく…………ひゃひゃひゃ…………ふはははは……アーハッハッハッハッハッ!」

 

突然、リゼヴィムは狂ったように笑い始めた。

両手を広げ、空を仰ぎながら、高らかに笑う。

 

………気でも狂ったのだろうか?

 

追い詰められ、完全に詰んだと思われる状況。

一瞬、オーフィスの分身体であるリリスを呼ぶのかと思ったが、彼女を呼ぶ気配もない。

 

俺もヴァーリも王者も、三人全員が怪訝な表情を浮かべ、今もなお狂った笑いをするリゼヴィムに違和感を覚え始めていた。

 

何か………何か企んでいるのか?

この状況を逆転できる手がこいつに残されているのか?

 

警戒を高め、構える俺達。

 

ようやく笑うのをやめたリゼヴィムは深く息を吐く。

 

「やれやれ…………こいつだけはまだ使うつもりはなかったのだが…………致し方あるまい」

 

手に握った小瓶を捨て、再び懐を探るリゼヴィム。

次にその手に握られていたのは………試験管?

理科の実験で使うような試験管が一本、奴の手に握られている。

 

ガラスの容器の内側には何やら黒いものがうねうねと蠢いている。

 

それを見た瞬間、悪寒が走った。

俺の中で警戒警報が全力で鳴ったんだ。

 

「なんだ…………あの禍々しいものは…………?」

 

バトルマニアのヴァーリですら、奴の握るそれに強い警戒を示している。

 

リゼヴィムが試験管を空に掲げながら語りだす。

 

「オーフィスの蛇。旧魔王派の悪魔が蛇を使って強化していたのは知っているな?」

 

それは知ってる。

というか、実際に相手をしたからな。

 

オーフィスの蛇を使った奴は三流の力を一流に変える。

シャルバを魔王クラスにまで引き上げる程、凄まじい強化を与えた代物だ。

 

だが………オーフィスの蛇はそこまで禍々しい雰囲気を放つものじゃない。

使用者のオーラが禍々しくなるのは見たが………。

 

「こいつはな、生き残った旧魔王派の悪魔から蛇を抜き出し、俺専用に調整を行ったものだ」

 

「調整………?」

 

「リリスを強化しようと方法を模索する過程で、ついでに作ったものだ。英雄派の持つ研究資料と外法とされる禁術を重ねがけて作ったのがこれだ。効果は単純な強化という点では従来の蛇と同じ。だが―――――こいつの強化は従来の蛇を大きく上回る。軽く十倍くらいはあるだろう」

 

「「――――――っ!?」」

 

その言葉に俺とヴァーリは息を呑んだ。

 

十倍の強化…………!?

『王』の駒みたいなものか………?

 

『王』の駒は強すぎる者に対して使うと命の危険を伴う。

それに対してオーフィスの蛇はそのようなリスクがなかったはず。

 

だったら、なぜ、リゼヴィムは今になってそれを持ち出してきたんだ?

 

俺の疑問を見透かしたようにリゼヴィムは続ける。

 

「ま、改造し過ぎて、使うのに色々とリスクを伴うという欠点があるがな。ヴァルブルガに使わせたのも、そのリスクを確認するためだ。最も、確認する前に倒されてしまったが…………」

 

リゼヴィムは試験管の蓋を外す。

 

中で蠢いていたものが、試験管の外へと溢れだし、腕を伝ってリゼヴィムの体にへばりつく。

黒いそれは暫く蠢いた後、口からリゼヴィムの体内に入っていった!

 

刹那――――――。

 

 

ドクンッ!

 

 

リゼヴィムの体が大きく脈動する!

何度も跳ねた後、手足が震え始め、全身の血管が浮き彫りになっていく!

同時に奴が纏うオーラも禍々しさを増し、濃密で巨大な邪悪が俺達の目の前で広がっていった!

 

ルシファーの翼が大きく広がり、奴の肉体は服を引きちぎって膨張を始めた!

額からは二本の角が生え、その姿はまるで鬼のようにも見える。

 

一回り大きくなったリゼヴィムは口から瘴気を吐くと、変質した声音で不気味に笑いだす。

 

『うひゃ………ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!』

 

いつも以上に不快な笑いが周囲にこだまする。

 

なんだよ…………こいつは…………!

化け物じゃないか…………!

 

巨大で邪悪な…………『悪』と『魔』を体現したような存在!

 

リゼヴィムの深い紫色になった瞳が俺達を捉える。

 

『ちょいとばかし、イカつくなっちまったがよ。―――――こいつが真の「魔王(ルシファー)」だ』

 

そう言うと、奴の姿が音もなく消える!

 

完全に見失った俺達は奴を探そうと辺りを見渡すが、次の瞬間―――――背後から凄まじい衝撃を受ける!

 

後ろに回り込まれた!?

いつの間に!?

 

咄嗟に手刀を横凪ぎに放つが、俺の攻撃は虚しく空を切った。

 

「ガハッ!」

 

横からヴァーリの苦悶の声が聞こえてくる。

 

見ると、化け物と化したリゼヴィムの拳がヴァーリの純白の鎧を砕き、生身にダメージを与えていた!

 

リゼヴィムはヴァーリの腕を掴むと振り上げ、そのまま庁舎目掛けて投げつける!

庁舎の上階を崩壊させながら、ヴァーリは下の階まで突き抜けてしまった!

 

「てめぇ!」

 

俺はビットを展開し、奴に殴りかかる。

当然、拳にもビットにも『透過』は付与してある。

そうすれば奴の『神器無効化』をすり抜けられるからだ。

 

拳と蹴りを織り交ぜ、全力のラッシュをリゼヴィムに仕掛ける。

更にビットによる遠隔攻撃で、砲撃と斬撃を交ぜて手数を増やしていく。

 

だが、それすらもリゼヴィムは受け止め、流し、破壊していく!

 

しかも、こいつ…………!

 

「神器無効化を使わずに俺の攻撃を止めてやがるっ!」

 

『うひゃひゃひゃひゃ! 無効化なんざ、使わなくてもなぁ! 今の俺なら素手でその鎧をぶち抜けるんだぁよッ!』

 

奴の拳が俺の腹にめり込む!

 

内側から込み上げてきたものを吐き出すと、真っ赤な血が大量に溢れた。

 

一撃でこのダメージかよ…………!

 

「リゼヴィムッッ!」

 

翼を広げて急上昇してくるのはヴァーリ。

危険な程の荒々しい白いオーラをたぎらせてリゼヴィムに迫る。

 

リゼヴィムの翼が意思を持ったようにうねりだし、ヴァーリに降り注ぐ!

先端がドリルのように鋭くなり、ヴァーリを貫こうとする!

 

ヴァーリは高速で動いて、それらを交わしていくが、リゼヴィムの翼はヴァーリの動きを次第に捉えていく。

一度、腕を掠めてしまったと思うと、足、腹、肩と次々に掠められていく。

遂には腹を完全に貫かれ、建物に叩きつけられてしまう!

 

貫かれたヴァーリの腹からは夥しい両の血が流れ、純白の鎧を赤く染めてしまった。

 

ヴァーリを助けにいきたいところだが、そんな余裕は今の俺には無かった。

 

強化されたリゼヴィムはEXAの力をも超えてくる!

一体、どんな外法を使えば、ここまでの強化を可能にしたんだ!?

 

奴から放たれる拳と蹴りの威力は俺の理解を越えていて、掠めただけで、鎧を破壊されてしまう!

 

俺も全力で防御と回避に徹するが…………避けきれない!

 

イグニスを呼び出して、奴に振るうが、全く当たる気配を見せない!

巨大な力も当たらなければ意味がないってか!

 

リゼヴィムに足首を掴まれると、そのままヴァーリの倒れる近くに叩きつけらた!

全身に響く衝撃!

 

なんて力だよ…………!

 

俺達を見下ろすリゼヴィムは醜悪な笑みを見せる。

 

『クソ雑魚ドラゴン君たちはそこで永遠におねんねしてなぁぁぁぁ!』

 

リゼヴィムの翼がうねり、俺達目掛けて降ってくる!

避けようにも体が動かねぇ………!

 

俺もヴァーリも奴に貫かれようとした。

 

その時―――――。

 

俺とヴァーリを庇う者がいた。

俺達とリゼヴィムの間に立ち、俺達の代わりにリゼヴィムの翼に貫かれたのは―――――王者だった。

 

「ぐっ…………!」

 

腹と胸を貫かれ、よろめく王者。

 

リゼヴィムは蔑むような目で王者を見る。

 

『悪に染まりきる度量もない若造が。何の真似だ?』

 

「………これ以上、彼ら若者に重荷を背負わせる訳にはいかない…………」

 

『ハッ! 散々やっておいて、今更かよ! まぁ、良い。今更、おまえがそいつらを庇ったところで、死への時間を僅かに延ばしたに過ぎない』

 

リゼヴィムはそう言うと翼を引き抜く。

 

こうして、今のリゼヴィムを見上げていると、今のあいつは悪魔と言って良いものか………そんな風に思ってしまう。

いや、元々そういう存在だったのかもしれないけど、それをも超えた…………怪物。

 

力も容姿も化け物だ。

 

リゼヴィムが何か思い出したように相槌を打つ。

 

『そーだ、そーだ。一つだけやること忘れてたわ』

 

リゼヴィムが指を鳴らす。

 

すると、上空に歪みが生じる。

その歪みは徐々に広がっていき、この浮遊都市の空全体に広がっていった。

 

そこには何かが映し出されていて、何かの映像であることがわかる。

 

あれは…………町か?

 

あちこちに灯る明かり。

公園らしきものも見える。

 

映像全体を見渡していくと、俺の目に衝撃的なものが入ってきた。

それは学校。

見覚えのある形の校舎だ。

 

そこは俺達が普段通っている―――――。

 

「まさか…………!」

 

そこがどこなのか理解した俺。

 

俺の反応を見たリゼヴィムはニンマリと笑みを見せ、

 

『そうでーす! ここはおまえらが住んでる駒王町! 皆、おなじみだよね!』

 

両手を広げてふざけた口調で話すリゼヴィム。

 

この声の感じからするに、魔力か魔法かでアグレアス全体に発信しているのだろう。

つまり、奇襲作戦に参加した『D×D』メンバーに向けてメッセージを送っているということ。

 

嫌な予感がする…………。

この野郎、駒王町の映像なんて見せて何を…………?

 

『チーム「D×D」の本拠地、三大勢力の重要拠点! ここは大事だよねー? 親や友達だって住んでるし、とってもとっても大事だよねー? おじさんは今から君達の駒王町に邪龍軍団を送っちゃおうと思います☆』

 

「なっ………!?」

 

この野郎………あの町に、俺達の町に邪龍を送りつけよってのか!?

なんてことを…………!

 

だが、あの町は三大勢力で張った結界で守られている。

そう簡単に入ることなんて…………。

 

しかし、リゼヴィムは醜悪な笑みと共に続けた。

 

『皆、そんなこと出来ないと思ってるよね? それが出来ちゃうんだよなー! 考えてみろよ、オーフィスが襲われたのはどこだ? あの地下空間だろう? あそこに行くには駒王町に張ってある結界も突破する必要がある。つまり! あの町の結界ごとき、余裕で抜けられるってわけだ! ってなわけで』

 

リゼヴィムが再度、指を鳴らす。

 

それから数秒後。

映像に黒い群れが出現し始めた。

 

量産型の邪龍…………!

百や二百じゃきかないぞ!?

なんて数を送り込んできやがるんだ!

 

『うひゃひゃひゃひゃ! がら空きになった拠点を落とすのは当然のことだろ? だからよ、落とさせてもらうわ、おまえらの町をなぁ! ほれほれ、早く何とかしないと、邪龍にぶっ壊されるぜ!?』

 

下衆な笑いを響かせるリゼヴィム!

この野郎…………!

 

俺は咄嗟に通信用魔法陣を展開。

仲間に通信を送る!

 

「アーシア、ゼノヴィア、イリナ、レイナ、レイヴェル! おまえらは町に戻って邪龍共から町を守ってくれ!」

 

『了解だ!』

 

『ま、任せてください!』

 

アーシアなら町の人が大ケガをしても治療できるし、ゼノヴィアとイリナはアーシアを守ることにかけてはピカチイだ。

レイナとレイヴェルなら、邪龍を倒しつつ、すぐに堕天使、悪魔の両陣営に援軍を呼べるはず。

 

『イッセー! 私も行きます!』

 

『俺も行くってね!』

 

そう通信を送ってきたのはリーシャとデュリオだった。

一人で大勢を相手に出来る二人なら直ぐに殲滅出来るはず!

 

「だけど、リーシャはラズルと戦闘中じゃないのか!?」

 

『かなりの距離がありますから、彼に追い付かれる前に転移することは可能です。急がなければ、イッセーのお父様もお母様も危ないです!』

 

「…………っ! …………頼む!」

 

そう応じる俺。

 

すると、上空に映し出された邪龍達が次々に撃ち抜かれていくのが見えた。

リーシャが狙撃して撃ち落としたんだ。

デュリオが天候を操り、大量の邪龍を殲滅していく。

ゼノヴィア達も悪魔の翼を広げて邪龍を落としていった。

 

…………やられた…………!

この大騒ぎに町の人達が気づかない訳がない。

少なからず、何か異変が起きていることぐらいは察知されているはずだ。

 

リゼヴィムの野郎、俺達の町を攻めると同時に一般の人間に異形の存在を暴露する気か!

 

しかし、リゼヴィムの行動はそれだけにとどまらなかった。

 

アグレアス上空に赤い何かが現れる。

一つ、二つ、三つと増えていくそれは空を埋め尽くす程の数となる。

 

『赤龍帝軍団のご登場です! 只でさえ少ない戦力を二つに分けてしまったチーム「D×D」! 一体一体が魔王クラスの攻撃力を持つ赤龍帝の複製体を相手に生き残れるか! 見ものです!』

 

まるでゲームの実況でもするような口調のリゼヴィム!

とことんまでやるつもりか…………!

 

アグレアスの町へと降下していく複製体の群れ。

今も戦っているリアス達に襲いかかっていく…………!

 

駒王町ではゼノヴィア達と量産型邪龍の群れ。

この浮遊都市ではリアス達と複製体の群れ。

 

分断された上、数で圧倒されている………!

 

いくら下にモーリスのおっさんやクロウ・クルワッハがいるとはいえ、この数は…………!

 

 

 

―――――朱乃、危ない!

 

―――――リアス!? くぅ………! このままでは…………!

 

―――――こんのぉ!

 

―――――ギャスパーくん、こっちにも送ってほしい! 数が多すぎる!

 

――――――囲まれてしまいましたね………!

 

 

リアス、朱乃、ギャスパー、木場、ロセ………!

 

 

――――――こんな時に! 

 

――――――早くしないとお母さん達が…………!

 

――――――ちっ! 面倒なことをしてくれるぜ!

 

 

アリス、美羽、おっさん…………!

 

 

――――――アーシア! こっちも頼む!

 

――――――はい! 

 

――――――私達の町は絶対に守るんだから!

 

――――――そうよ! ここは私達の大切な場所なんだから! 

 

――――――イッセーさまに任されたのです! 守りきってみせますわ!

 

――――――弟に頼まれましたからね。ここから先は通しませんよ!

 

 

ゼノヴィア、アーシア、イリナ、レイナ、レイヴェル、リーシャ………!

 

ソーナや匙、デュリオの声まで届いてくる!

皆が戦っている声が聞こえる!

皆、命をかけて戦っているんだ…………!

 

あの町には父さん、母さん、松田、元浜、桐生、俺達の家族、友達も住んでいる。

守らないとダメなんだよ…………!

 

俺は約束したんだ。

皆と、絶対に帰るって。

また、皆と………父さん、母さん…………俺は!

 

 

リゼヴィム…………ッ!

てめぇの好きには………絶対に…………!

 

そんなこと…………!

 

 

 

 

 

「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

『―――――――Agios Burst!!!!!!!!!』

 

 

 

 




というわけで、本日はここまで!
ラストはあのシーン!
ネタ的にやっておかないとね!(笑)


~後書きミニエピソード~


イグニス「イッセー覚醒! 見て、イッセーの下半身がギンギンに――――――」

イッセー「うぉい!? それ違うから! それ違う覚醒………ってしてねーし!」

ティア「はぅぅぅ…………」

イッセー「ティア姉は何で恥ずかしがってるの!?」

イグニス「そりゃあ、ティアちゃんの初めてを奪ったのがイッセーの―――――」

イッセー「それ以上言うなよ!? それ以上言ったらマジで怒るからな!?」


~後書きミニエピソード、終~



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21話 偽りの神

[美羽 side]

 

虹が広がっている。

このアグレアスを包みように広がる虹の帯。

虹色に輝く粒子が世界を満たし、ボクの心まで満たしていく。

 

温かい…………心から落ち着く光。

この虹の輝きに触れるだけで安心する。

 

ボクはこの光を知っている。

ボクはこの温もりを知っている。

 

これはお兄ちゃんの………イッセーの光―――――。

 

ずっとボク達を守ってきてくれたものだ。

 

ボク達に襲いかかってきていた量産型の邪龍、そして、先程現れた複製赤龍帝の軍団。

 

アーシアさん達が駒王町に戻ったため、圧倒的な数の暴力で潰されると思った。

だけど、この虹の輝きがボクを、ボク達を守ってくれた。

 

邪龍と複製体の群れがボク達に襲いかかろうとした時、この虹の粒子がボクの代わりに防いでくれた。

虹の輝きが広がる場所ではどこも同じ様子で、虹に触れた瞬間に邪龍も複製体も押し潰されていく。

 

ボクと対峙しているベル、そしてアリスさんと対峙しているヴィーカは何ともない様子だった。

 

ヴィーカはこの虹色の輝きに薄く笑みを浮かべている。

 

「ふふふ、ようやくね。これでお父様の願いも………」

 

お父様…………アセムの願い?

 

もしかして、この輝きを待っていた?

お兄ちゃんが目覚めるのを待っていたというのだろうか?

 

上空に映し出された映像を見上げると、驚くことにこの虹色の輝きは駒王町にも広がっているようだった。

 

まさか………次元を越えて、この輝きは広がっていると言うの?

そんな馬鹿なこと…………無茶苦茶過ぎる。

 

そう思ったボクだったけど、ふいにお兄ちゃんの言葉を思い出した。

 

 

――――――次元ねじ曲げても、世界の理を崩してでも守りきるさ。

 

 

その言葉を思い出すと、自然と笑みがこぼれた。

 

だって、本当に次元をねじ曲げて守ってるんだもん。

強引すぎるよ…………!

 

でも、それがお兄ちゃん………兵藤一誠なんだよね。

 

ふと映像にあるものが映った。

それは虹色の輝きの中で強く輝く黄金のオーラ。

黄金の輝きは町全体に広がり、邪龍によって破壊された建物や木々をも元の姿に戻していく!

 

オーラの中心にいるのは―――――アーシアさんだった。

 

アーシアさんの声が頭に響いてくる。

 

 

―――――イッセーさんは私達を守ってくれました。私だって皆さんを守ります。お父さんもお母さんも学校のお友達も絶対に守りきってみせますっ!

 

 

強い覚悟の感じられる声だった。

 

彼女の背後に黄金のドラゴンが見える。

そのドラゴンはアーシアさんを守るように彼女を包み込んでいた。

 

そっか、ファーブニルも一緒に戦ってくれているんだ。

オーラとなって、アーシアさんを護ろうとしているんだ。

 

虹色の輝きと黄金の輝きが駒王町全体に広がり、邪龍の群れをことごとく弾いていく。

 

おそらく、あれがアーシアさんの禁じ手。

きっと、この輝きに触れてアーシアさんは至ったのだろう。

 

アリスさんが空を見上げながら言う。

 

「また、あいつに守られちゃった。あーあ………いつまで経っても、守られっぱなしなのは悔しいなぁ。私だって皆をイッセーを守りたいのに………」

 

「そうだね、分かるよ。ボクも同じ気持ちだから」

 

ボクは微笑みながらそう答えた。

 

ボク達はいつもお兄ちゃんに守られている。

これまでも、今現在も。

 

それじゃダメなんだ。

 

ボクも、ボク達もお兄ちゃんを守りたい。

お兄ちゃんの横で戦いたい。

 

そして、今がその時―――――――。

 

『美羽ちゃん、アリスちゃん、聞こえるかしら?』

 

脳裏にイグニスさんの声が聞こえた。

他の人には聞こえないのか、その声に反応しているのはボクとアリスさんだけ。

 

『イッセーは至ったわ。――――――今度はあなた達の番よ。今こそ、あなた達に眠る力を呼び覚ます時よ』

 

イグニスさんは優しい声でボク達に言った。

 

『唱えなさい。世界のためになんて事は言わないわ。ただ、あなた達が愛する人のために。あなた達の心にいつもいる彼のために』

 

ボクとアリスさんは目を閉じた。

 

―――――感じる。

ボクの中にある力を。

ボクに流れる血を。

 

内側に眠るボクの可能性。

ボク達だけに許された力。

それがようやく花開く時が来たんだ。

 

ボクはゆっくりと目を開き、呪文(うた)を謳い始める。

 

そこにはボクだけでなく、お兄ちゃんの声も交じっていて―――――。

 

「――――王の意思を引き継ぎし者よ」

 

黒い………星夜のような輝きを持った黒いオーラが体から溢れてくる。

それはボクの体を覆うと、発現する力に相応しい形に変化していく。

 

『――――魔なる力を以て夜を照らせ』

 

赤い龍のオーラが右手に集まっていく。

静かな波動を放つ赤いオーラは一本の杖を形成した。

龍を模した魔法の杖だ。

 

「――――我が父よ、赤き勇よ、我は汝らの想いを胸に至ろう」

 

この黒いオーラは魔王シリウスの…………お父さんのもの。

そして、この赤いオーラはお兄ちゃんのもの。

二人の想いがボクを優しく包み込んでいく。

 

『――――汝、偽りの夜の神となりて』

 

そして、ボク達は最後の一説を口にする。

 

「『顕現せよ――――――!』」

 

黒のオーラが弾けたと思うと、一瞬、ボクを中心に星空が広がった。

無数の星が輝く夜の世界。

 

ほんの一時だけ見せた夜は引いていく波のように消えていった。

 

ボクの姿にベルが口を開く。

 

「変わった………? お姉ちゃんの力が比べ物にならないくらい、上がってる………?」

 

首を傾げて疑問を口にするベル。

 

今のボクが放つ波動は――――――神のものだ。

例のロスウォードの疑似神格、あれをボクなりに発動したもの。

 

艶のある漆黒ドレスを纏い、天女のような黒い羽衣を羽織っている。

手には龍を模した魔法の杖。

先端には龍が赤い宝玉を掴んでいる。

 

「疑似神格発動―――――神姫化ってところかな。今のボクは神の力を持つ存在。この姿は魔王の血に宿る力を完全に覚醒させた、ボクだけのものだよ」

 

神姫化『黒星の魔姫(ミュスティカ・フュルスティン)』。

星夜を司る偽りの神。

 

ベルは驚きながらも、手元を動かし新たな魔獣を作り出していく。

 

「お姉ちゃん、すっごく強い。戦わなくても分かる。だから………」

 

彼女の周囲に複数の魔法陣が展開される。

そこから現れるのは百メートルクラスの人の形をした大型魔獣。

そして、彼女は更なる魔法陣を描き、今しがた作り出した魔獣を融合させていく。

 

魔法陣の輝きと共に顕現したのは禍々しいオーラを放ち、腕が十二本もある一体の巨人………いや、魔神だ。

腕の一本一本に巨大な剣を携えた魔神。

 

これはアウロス学園襲撃の際、ベルが見せた規格外の力。

神にも等しい力を持つ魔獣を作るという、ボク達の理解を越えた能力。

 

「ベルも力出す」

 

ベルが手をボクに翳して、魔神に命令する。

 

魔神は極太の腕を振り、その手に握る巨大な剣で襲いかかってきた!

 

その一振りで町を破壊できる威力を持った一撃。

まともに受ければボクの体なんて消えてなくなるだろう。

 

前回はティアさんとディルさんの協力でなんとかもったけど、一人ではどうにもならなかった。

 

ボクは杖を翳して巨大な魔法陣を展開。

魔法陣が魔神の剣をことごとく弾いていく。

たった一枚の防御魔法陣が町を破壊できる力を容易に防いでいるのだ。

何度も何十、何百と魔神の攻撃を受けてもビクともしない堅牢過ぎる盾。

 

しかも、今、ボクは全力を出しているわけではない。

まだまだ余裕がある。

 

これだけで疑似神格の凄まじさが、自分がどれ程の力を手にしたのかが実感できてしまう。

 

防御魔法陣を維持しつつ、ボクは杖を振るう。

先端の宝玉が赤く輝き、三つの魔法陣を展開する。

 

ボクを中心に三角形を描くように配置された魔法陣に魔神の剣が触れる。

 

すると―――――魔神の剣は砂のように崩れ去った。

 

「―――――ドゥルヒ・ゼーエン。この姿になって、ようやく使える分解魔法だよ」

 

以前、ディオドラ・アスタロトによって囚われたアーシアさんを助けるために使ったことはある。

だけど、あの時はお兄ちゃんに力の譲渡をされて、やっと使えるレベルだった。

しかも、使った後は強い疲労に襲われるという消耗具合。

 

あの時はまともに使えるレベルじゃなかった。

神姫化して初めてまともに使えるようになったんだ。

お父さんに教わったこの魔法を。

 

あらゆる物質・魔法を分解する究極の分解魔法。

直接触れていないと分解できないという点を除いては最強クラスの魔法。

まぁ、複雑な構成の物程、分解に時間がかかるんだけどね。

 

幸いなことに魔神の剣は一瞬で分解できるくらい単純な構成になっているようだ。

 

ただ、魔神本体を分解しようとすると、少し時間がかかりそうだから…………。

 

「この一撃で終わらせるよ」

 

頭上に幾重にも展開される黒い魔法陣。

重なっている枚数は百はあるだろう。

 

すると、この周辺一帯に影が映った。

影はかなり大きく、余裕で魔神の大きさを越えている。

 

空を見上げるベルはポカンと口を開けて、

 

「…………隕石?」

 

遥か上空からこちらに向かって降ってくる巨大な剣を岩。

灼熱の炎を纏って急降下してくるそれはどう見ても隕石だ。

 

隕石の落下コース上にいるのは目の前の魔神。

 

ボクは魔神を囲むようにクリアーブルーの障壁を四枚、張り巡らせる。

これで魔神は逃げることが出来ないし、他の皆を巻き込むことはないだろう。

 

………衝撃はいくだろうけど。

 

「―――――ミーティア・フォールライン。その魔神はもうボクには通じないよ」

 

遥か空から降ってきた隕石は魔神を押し潰し、結界の内側を灼熱の炎が満たしていった―――――。

 

 

[美羽 side out]

 

 

 

 

[アリス side]

 

 

アグレアス全体が激しく揺れた。

激しい揺れにより、都市の高層建築は幾つも崩壊している。

 

原因は言うまでもない。

美羽ちゃんが落とした隕石だ。

 

ヴィーカが目元をヒクつかせている。

 

「………シリウスの娘さんって、あんなに無茶苦茶する子だったかしら? もうちょっと静かに戦える子だと思っていたのだけれど…………」

 

それには激しく同意したい。

ちょっとやり過ぎてる感じはする。

事前に結界を張らずに落としてたら、アグレアスへの被害は尋常じゃないことになっていただろう。

 

………そう考えると、アグレアスが割れてないだけマシと言うべきかも………?

 

う、うーん………美羽ちゃん、戦い方が派手になったかな?

ま、まぁ、相手が相手だから、仕方がないんだけど。

 

虹の粒子で満たされているアグレアスの上空で神姫化した美羽ちゃんとベルが壮絶な戦いを繰り広げ始めた。

次から次へと生み出される強大な魔獣を一撃で屠っていく攻撃魔法の数々。

 

疑似神格を発動した美羽ちゃんの魔力は桁違いに底上げされていて、かなりの力を使っているはずなのに息切れを起こしていない。

 

これが神の力…………。

 

あの力が私にも―――――。

 

「それで、王女さまもあの力を使えるのかしら? 神の力。あなたにだけ許された力とやらを」

 

ヴィーカはどこか期待しているような笑みで訊いてくる。

 

…………見せてやろうじゃない。

私に与えられた力を。

 

私は目を閉じて、自分の内側に意識を集中させる。

 

 

――――いこうか、アリス。

 

 

ええ、いきましょう。

私の、私達の力と想いを見せてあげましょう。

 

「―――――神の槍に選定されし者よ」

 

槍から白金色の輝きが放たれる。

目映い光はこの一帯全てを埋め尽していく。

 

『―――――煌めく灯となり、闇を斬り裂け』

 

槍から発せられる光は私を覆い、背中に一対の翼を与えた。

黄金に輝く翼だ。

 

「―――――神槍よ、赤き勇よ、我は汝らと共に歩む者なり」

 

赤いオーラが現れ、私を後ろから抱き締めていく。

 

温かい………この温かさは間違いない。

いつものあいつの熱だ。

 

『―――――汝、偽りの光の神となりて』

 

神々しい輝きを放ちながら、私はイッセーと最後の一説を唱える。

 

「『降臨せよ――――――!』」

 

その瞬間、光の嵐が巻き起こった。

輝く風が私を中心に広がっていく。

巨大な光の柱が空を貫いた―――――。

 

ヴィーカの眼前に舞い降りた私はその名を口にする。

 

「疑似神格発動―――――神姫化『白雷神后(タキオン・ヴァスィリーサ)』」

 

白金色の輝きを放つ私に、ヴィーカは感嘆の声を漏らす。

 

「綺麗ね。その黄金の翼、天使でも最上位………セラフみたい。でも、雰囲気はまるで違う。プレッシャーも桁が違うじゃない」

 

セラフ、か………。

確かにこの背にある黄金の翼はセラフの翼のように見える。

 

私は天使になった訳じゃない。

美羽ちゃんと同様にロスウォードの疑似神格を自身に合わせて発現させた姿が今の私。

 

偽りの神。

光を司る偽りの神。

 

悪魔に転生した私が光を司るというのは変だけど………。

 

私は槍を構えて言う。

 

「いくわ。今まで通りに構えていたら―――――死ぬわよ?」

 

私は少しだけ足を動かした。

刹那、私は光の粒子を纏ってその場から消える。

 

次に姿を現したのはヴィーカの懐だった。

 

ヴィーカは全く反応できていない。

今の動きはヴィーカの理解の外側にあった。

 

白金色に煌めく稲妻を槍に纏わせ、鋭い突きを放つ!

 

「………っ!?」

 

ヴィーカは咄嗟に幾重にも剣を作り出して、それを盾にするが、紙のように崩れていく!

幾つもの剣を貫いた私の槍はそのまま、ヴィーカの左腕を斬り落とした!

 

「なっ………!? くぅ………!」

 

ヴィーカは離れた左腕を回収して後ろに飛ぶ。

 

しかし、その時、私は既に彼女の背後に立っていた。

 

「―――――遅い」

 

そう告げた私は白雷を彼女へと放つ。

ヴィーカは腰を捻って直撃は避けたものの、掠めてしまい、脇腹から血を流してしまう。

 

彼女は苦しい表情を浮かべながらも、背後に複数の魔法陣を展開。

そこから現れたのはガトリングガンと呼ばれるこの世界の兵器。

正確にはヴィーカが己の能力で作り出した物。

 

一度に大量の弾丸を撃ってくるあれは厄介極まりない。

更に言えば、弾丸の一発一発に聖なる力が籠められているから悪魔にとっては最悪の兵器とも言える。

 

それが百近く、その全ての銃口が私に向けられている。

 

「プレゼントよ!」

 

ヴィーカが指を鳴らすと、全ての銃口が一斉に火を吹いた!

聖なる力を籠められた弾丸が雨のように降ってくる!

 

しかし―――――。

 

弾丸は私に届く直前に阻まれ、消え去っていった。

 

この結果にヴィーカは目を開く。

 

「オーラだけで防いだというの!?」

 

正しく言えば、防いだのは私が纏うこの白金色の稲妻。

並みの者が触れたら最後、焼かれて、灰になり、完全に消滅する。

 

あの程度の武器なら槍を振るわずとも防げるようだ。

 

「これならどうかしら!」

 

ヴィーカが手元に聖なる波動を放つ槍を造り出す。

槍を握り高速でこちらに接近してくる。

 

「―――――アルビリス」

 

私は自身の槍の名を呼び、石突きで地面を叩く。

 

すると、槍は呼び掛けに応じて、凄まじい波動を放った!

波動は地面を大気を伝って広がっていき、周囲にあった物を全て破壊していく!

ヴィーカも大気の波に巻き込まれ、遥か後方へと吹き飛ばされていった!

 

「この力………! その槍の…………!?」

 

ヴィーカは体勢を何とかして整えるが、驚きは隠せていない。

 

私の持つこの槍―――――霊槍アルビリスは火、水、土、風を司る神に近い存在である四大神霊によって創られた神具。

簡単に言えば、この世界で言う神滅具のようなものだろう。

 

…………私はそんな事知らずに使い勝手の良さでこの槍を選んだんだけど。(だって、お父様はそんなこと教えてくれなかったんだもん………)

 

今のはこの槍が持つ『土』と『風』の特性を使って生み出した波動だ。

一定範囲に強烈な地震と暴風を起こして、ヴィーカを払った、それだけ。

 

私はヴィーカが構えたと同時に動き出す。

再び、光の粒子を纏って、彼女に迫る!

 

光すら超えた速さで私はヴィーカを追い詰めていく!

彼女が剣を振るえば、それ掻い潜って彼女を斬る。

彼女が銃弾を放てば、身に纏うオーラで全てを消し去った!

 

私から距離を取ったヴィーカは荒くなった息を整えながら訊いてくる。

 

「………速すぎるわね。それもあなたの能力かしら?」

 

「能力って程じゃないけどね。疑似神格の発動で私のスピードは劇的に引き上げられているわ。………まぁ、授けられた力だからあまり自慢できたものじゃないけど」

 

この力は借りた力。

私が修業で得た力じゃない。

 

イグニスさんが私にロスウォードの疑似神格を与え、イッセーが覚醒したことで、それに連動して発現できるようになった。

ここに私の努力は入っていない。

 

だから、私は今の力を己の力だと言うつもりはない。

 

ヴィーカは傷口に持っていたフェニックスの涙をふりかけ、切断された腕を繋げる。

シュゥゥ………という音と共に彼女の腕は完全に元通りとなり、至るところに出来ていた傷も治癒されていった。

 

彼女は腕が繋がったことを確認すると口を開く。

 

「良いんじゃない? それはあなたと勇者君の絆が実現させた力と言っても良いのでしょう? それなら、むしろ誇るべきよ。あなた一人の力じゃなくても、あなたと彼の力と言うのなら問題はないと私は思うけど?」

 

―――――っ。

 

なるほどね。

道理でこの女を嫌いになれないわけだ。

 

いや、正確には嫌いなんだけど…………。

胸のこと言ってくるし…………。

 

それでも、心から嫌悪したことはない。

 

多分、この女のこういうところがその理由なんだと思う。

 

私はふぅと息を吐く。

 

「そうね、そう思っておくわ。それなら、私もこの力を誇ることが出来る。一応、お礼を言っておくわ」

 

「あら、敵にお礼を言うなんて変わっているわね」

 

「人としての礼儀よ」

 

「あらあら、そういうところは流石に元王女さまなのかしら? でも、あなたのそういうところ、私も好きよ♪」

 

ヴィーカはそう言ってウインクしてくる。

 

自分の腕を斬った相手に言う言葉じゃないわね………。

まぁ、この女らしいというか、何というか。

 

ヴィーカは全身から光を放つ私を見つめながら、ふむと考え出す。

 

「さてさて………今のままだと何も出来ずに負けちゃいそうだし、私も奥の手使おうかしら?」

 

ヴィーカからのプレッシャーが膨れ上がる。

 

そう、ヴィーカにはまだ奥の手がある。

それがどんな能力でどれだけの力を秘めているのかは未知数。

 

しかし、このプレッシャーは今の私とひけをとらない。

 

神の力を得ても油断できないのが、アスト・アーデの神アセムとその配下達。

少し…………かなりシリアスを壊してくれる面々だけど、実力は本物。

 

どうくる―――――。

 

私が身構えた時、ヴィーカの耳元に小さな通信用魔法陣が現れる。

 

「お父様? どうなさったのですか、このような時に。今、かなり盛り上がってきたところなのですが………」

 

お父様………つまり、彼女達を従えているアセムのこと。

 

アセムがこのタイミングで彼女に連絡を…………?

今のところ姿は見ていないけど、どこかで見ているのだろうか?

 

「……そうですか。分かりました」

 

それだけ言って、ヴィーカは通信を切った。

 

彼女は深く息を吐く。

 

「残念だけど、今日はここまでね。せっかく盛り上がってきたところなのだけれど、帰還命令なのよ」

 

「帰還?」

 

「ええ。――――.全てのピースは埋った。後は彼がこの世界に示すことが出来ればそれで終わり、ですって」

 

全てのピース…………?

彼…………というのはイッセーのことだろう。

アセムはイッセーに関心を持っているようだし。

 

しかし、世界に示す…………って何のことなの?

イッセーに何を期待しているの?

 

ヴィーカは足元に転移魔法陣を展開する。

 

「それじゃあね。―――――今度出会う時は私達も決着を着けましょう。全力で。出し惜しみなんてしないわ。その頃には勇者くんとお父様も全ての決着を着けると思うしね」

 

彼女はウインクすると、この場から去っていった。

 

何なのよ…………あいつらは…………。

 

すると、私の横に美羽ちゃんが降りてきた。

 

「そっちも行っちゃったみたいだね」

 

「ええ。とりあえずは引いてくれたみたいだけど………。何がしたいか分からないわね。表向きはリゼヴィムに協力しているけど、目的は違うみたいだし………」

 

私がそう言うと美羽ちゃんは顎に手を当てた。

 

何か心当たりがあるような表情をしていて、

 

「多分、この世界を一つにする、とかかな………。同盟とか表面的なことじゃなく、もっと深い次元で………」

 

「でも、この世界は同盟に動き出したばかりよ? 私達の世界とは事情も全然違うし…………急ぎすぎじゃないかしら?」

 

「それはそうなんだけど…………」

 

言葉を濁す美羽ちゃん。

 

よくよく考えると、アスト・アーデでも、人と魔族は長年争ってきたのに、今は互いに平和を望み、共に歩んでいくことを決めている。

色々な要因はあるけど、和平への道を切り開いたその中心にいたのって…………。

 

アセムの狙いって、まさか―――――――。

 

思考がそこに至った時、庁舎のある方向から爆発音が聞こえてきた。

 

そうだ、ヴィーカ達が引いても戦いはまだ続いている。

今もこのアグレアスを覆っている虹の輝きがあるとはいえ、まだ皆は戦っているんだ。

 

「いこう、美羽ちゃん。イッセーのところへ」

 

「うん!」

 

私達は空を飛び、虹の世界を駆けていく。

 

待っててね、イッセー。

今すぐ行くから―――――。

 

[アリス side out]

 




~後書きミニエピソード~

イッセー「ガハッ!」

美羽「お兄ちゃん!? いきなりどうしたの!?」

イッセー「ヤバい…………美羽とアリスが…………神々しくて…………ガハッ!!」

アリス「あんた、最近、戦闘以外で血吐くの多くない!?」

イッセー「可愛いし、綺麗なんだもん! そりゃ、血くらい余裕で吐くわ! 美羽! アリス! 二人とも大好きだぁぁぁぁぁぁ! とりあえずモフモフさせてぇぇぇぇぇ!」

ディルムッド「あ、おね………お姉ちゃん………ちょっと良い………かな?」

美羽「カハッ!」

アリス「美羽ちゃんッッッ!?」


~後書きミニエピソード、終~


シリアスが続くので、後書きでほのぼのしてください~( ´・ω・)シ




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22話 変革せし者

ご存じの方もいると思いますが、R18の方も更新しました~。
ティア姉&イグニス姉さんの三話目です~。


『――――感じるでしょう? 皆の想いを、この熱を。今のあなたなら分かるはずよ、イッセー』

 

ああ、感じるよ、イグニス。

 

この熱、この熱さ。

俺の中に入ってくる皆の―――――。

 

力が溢れるというより、力に浸っているような感覚だ。

危うさはない。

どこまでも温かくて、心地良さすら感じる。

 

天界の時も、ディルムッドを救おうとした時も同じだった。

この虹の輝きが俺達を優しく包んでくれる。

皆の想いを繋げてくれるんだ。

 

異形の姿となっていたリゼヴィムは頭を抑えてもがき苦しんでいた。

 

『なんだ、こりゃ………!? 頭が………割れる………っ! 俺の中に何が入って………!? この輝きはおまえか、赤龍帝! おまえがこの訳の分からねぇ事象を起こしてるってのか!?』

 

リゼヴィムはこの虹の輝きに明らかな不快感を示していた。

まるで何かを吐き出しそうな表情。

涎を口から流すほど苦しみ、息を荒げている。

 

苦しむ奴に俺は静かな口調で言った。

 

「そうか。おまえには分からないんだな。この温かさが。この熱の意味が」

 

俺の言葉にリゼヴィムは顔を歪ませて叫ぶ。

 

『分かる分けねぇだろッッ! てめぇらのことなんざ知るかよ! 気持ち悪いんだよ、おまえ!』

 

リゼヴィムは手元に巨大な魔力の塊を作り出した。

それは今までのどれよりも濃密で強大。

周囲の建物はおろか、地形そのものを変えてしまうほどの威力は持っているだろう。

奴は俺の近くにいるヴァーリと王者ごと吹き飛ばそうというのか。

 

『消えろぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!』

 

リゼヴィムは魔力の塊を躊躇なく放ってくる。

放たれた側の俺としてはまるで隕石でも降ってくるかのような感覚だ。

 

どす黒いオーラを放つ魔力の塊は俺達を容赦なく襲った―――――。

 

巻き起こる爆風。

黒煙が辺り一帯を覆っていく。

 

煙が収まり、視界が明ける。

 

奴の前にいたのはボロボロの姿の俺。

鎧全体にヒビが入り、風が吹くとボロッと塊で崩れ去る。

 

俺の姿に奴は笑う。

 

『うひゃひゃひゃひゃ! まともにくらいやがった! ざまぁねぇな! 俺のクソ孫とそこの王者くんを庇ったか? どちらにしろ、そんだけボロボロになりゃあ、どれだけパワーアップしても意味がねぇ! いたぶり殺してやんよッッ!』

 

高らかに笑うリゼヴィム。

 

確かに俺は動けないヴァーリと王者を庇って、そのまま受けた。

しかし、奴は気づいていない。

 

ドライグが奴に聞こえる声で言った。

 

『ルシファーの息子よ。何を勘違いしている? 今の相棒を良く見てろ』

 

『なに?』

 

リゼヴィムは俺に視線を戻す。

 

確かに鎧は崩れ去っている。

全身に入ったヒビは大きくなり、砂のように脆く、風に流されていく。

 

しかし―――――これは奴の攻撃を受けて崩れているわけじゃない。

外側ではなく、内から沸き起こる力に鎧が耐えられず、それで崩れているんだ。

 

例えるなら脱皮のようなもの。

俺は今まで被っていた殻を破り、新たな領域へと足を踏み入れた。

 

崩れる鎧の隙間から虹色に輝くオーラが噴き出してくる。

やがて俺を覆っていた鎧は全て消え、全身から虹が溢れ出た。

 

目映い輝きは更に強く、激しく、それでいて穏やかに広がっていく。

 

『なんだ………その姿は………!? その瞳の色は………!?』

 

鎧を破り改めて生身となった俺を指差すリゼヴィム。

 

ふいに足元に落ちていたガラスの破片に目をやると、そこに映っていたのは――――――虹のオーラに包まれ、金色に輝く瞳を持った俺だった。

瞳の虹彩が金色に輝き、今までのものとはまるで違う雰囲気を出している。

 

自分の姿を認識して、ようやく分かった気がした。

 

イグニスが言っていた変化、アセムが求めた俺の覚醒はこれを言っていたんだと思う。

 

人でも悪魔でも、ドラゴンでもない。

ましてや神でもない。

 

イグニスがリゼヴィムに言う。

 

『――――変革者。限界を越え、新たな可能性に触れ、それを開花させた。今のイッセーはあなたでは理解することが出来ない領域に至った。進化したのよ、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー』

 

『変革者…………!? んだよ、それ!? ここにきて訳の分からねぇ進化したってのか………!?』

 

進化…………そうだな。

自分でもそれが分かる、実感できる。

 

俺は覚醒し、進化した。

 

イグニスは俺にしか聞こえない声で言う。

 

『いい? 覚醒したとはいえ、あなたはまだ力に慣れていないわ。体はともかく、精神が追い付かないかもしれない』

 

つまり、僅かな時間しかもたないんだな。

それは数秒か、数十秒か、数分か。

目覚めたばかりの今では扱いきれない、か。

 

ま、それは何となく予想はついてたさ。

様々な要因、力が混ざっているとはいえ自分の体。

それぐらいは分かる。

 

すぐにケリをつけよう。

 

俺は特に構えることなく、リゼヴィムと向き合う。

奴は身構えた瞬間―――――俺は既に奴の眼前に立っていた。

 

リゼヴィムの瞳は俺を映していない。

先程まで俺が立っていた場所を見たままだ。

 

俺は腕を引いて、腰を落とす。

拳を握って、尋常じゃないオーラを集めた。

 

そこまでしてもリゼヴィムは未だ、俺の立ち位置を把握できていない。

俺を認識できていないんだ。

 

繰り出した拳が空間すら反応できない速度でリゼヴィムの顔面にめり込む!

拳に捻りを加え、撃ち込むと同時に捻り込んだ!

 

俺の一撃を受けてリゼヴィムは幾つもの建物を突き抜け、遥か彼方まで飛んでいく!

 

地面を蹴った俺は超神速で先回りして、奴を待ち構える。

 

建物を突き破って出てきた瞬間―――――俺は奴の背に肘打ちを撃ち込み、地面に叩きつける!

 

真下の地面が周囲の建築物を巻き込んで大きく陥没する。

建築物が崩れ、あちこちから響く地響きが大気を揺らした。

 

見ると俺が辿ってきた場所では空間が歪み、悲鳴を挙げている。

時間差で空間が捻れたのか………。

 

『ぶへっ! がはっ! なんだ………こりゃあ………!? 俺が反応できなかっただと………!?』

 

土を払いながら這い出てきたリゼヴィムは血を吐き出しながら、理解できないといった表情を浮かべていた。

 

奴は立ち上がるが、大きくよろめく。

たった二発。

たった二発の拳打で膝が笑うほどのダメージを受けたことにリゼヴィムは、

 

『おいおい…………マジかよ………。こちとら、賭けまでしたんだぞ? こんな厳つい姿になったってのに、たった二発? こんなクソ雑魚悪魔に…………俺が?』

 

現実逃避するように笑いを漏らす。

 

オーフィスの蛇をベースに作ったという強化剤を飲んで見た目化け物と化したリゼヴィム。

そんな奴を見て、改めて思う。

 

「情けない姿だな」

 

『なんだと?』

 

俺の漏らした一言に片眉を上げるリゼヴィム。

 

「情けないって言ったんだよ。ヴァーリの言った通りだ。どれだけ大物ぶったところで、おまえの精神は今の醜い姿と同じだ。魔王ルシファーの息子? 聖書に記されしリリン? 笑わせんな、おっさん。おまえはルシファーの恥さらしだよ」

 

こいつにルシファーの名は必用ないだろう?

本当に必用なのは他にいる。

真にルシファーの名を継ぐべきなのはこいつじゃない。

 

俺は虹色のオーラを纏い、一歩踏み出す。

そして、指で奴を挑発した。

 

「かかってこいよ、三流魔王。俺達(・・)とおまえの格の差ってやつを見せてやる」

 

『………赤龍帝ッッッ!』

 

俺の挑発に奴は浮き上がった血管を更に浮き上がらせていく。

背にルシファーの翼を全て展開し、大きく広げた。

 

時間が限られているなら、さっさと倒してしまおう。

徹底的にやってやる。

 

虹の輝きを放つ俺は再び超神速で奴に突っ込んでいく。

フェイントも駆け引きも必要ない。

今の俺ならただのごり押しだけで、こいつを潰せる。

 

構えるリゼヴィムだったが、俺を捉えられないのなら意味はない。

 

構えの間を縫って、俺は突貫のスピードをプラスした膝蹴りを奴の腹に叩き込む!

 

『グハッ! ちぃっ………!』

 

吐瀉物を撒き散らしながらリゼヴィムは腕を強引に振るって攻撃してくる。

………が、既にそこには俺の姿はない。

 

俺がいるのはその反対側。

がら空きになったボディーに強烈な蹴りを入れ、遥か上空に吹き飛ばす!

 

浮き上がった奴の肉体に無数の拳と蹴りを叩き込んだ俺は手元に気弾を作り、リゼヴィムに放つ!

 

気弾の勢いに耐えることすらできなかったリゼヴィムは空高く上がり、雲を突き抜けていった。

 

その様子を確認した俺は近くにいるヴァーリと視線を合わせる。

 

「行ってくる。…………おまえの奴を許せない気持ちは分かるつもりだ」

 

「………」

 

「俺がリゼヴィムを屠ることは不服か? まぁ、不服だと思うよ。でもな、ここは俺に任せちゃくれないか? 必ずあいつを地に引きずり下ろしてやる」

 

「………そうか。君にも奴を討つ理由がある。ここは君に任せよう」

 

瞑目するヴァーリ。

 

こいつも何だかんだで素直な奴だな。

ま、それは良いとして。

 

「今度、ラーメンでも食いに行くか。良い店を知ってるんだ」

 

「二天龍でラーメンか………。それも悪くない」

 

互いに笑みを浮かべる俺とヴァーリ。

 

俺は一つ頷いた後、リゼヴィムを追った。

リゼヴィムがいるのはこの雲を越えた先。

虹の世界を抜け、アグレアス上空に立ち込める暗雲を突っ切る。

 

雲を抜けた先で待っていたのは腹を抑えてもがき苦しむリゼヴィムの姿だった。

 

『げはっ! ぐぉぉっ! うぐぅっ! 回復を………クソッ! あの若造がぁぁぁぁぁ!』

 

フェニックスの涙の入った小瓶を幾つも開けて、体に振りかけている。

しかし、リゼヴィムの受けた傷は回復する兆しを見せない。

 

クリフォトの所持するフェニックスの涙は王者の『無価値』によって全て無効化されている。

リゼヴィムが所持するフェニックスの涙はただの水滴に成り果てたということだ。

 

フェニックスの涙が無効化されたことは奴も分かっているはず。

それなのに頼ろうとするということは、それだけ焦っているということだ。

 

「諦めろ。手はない。おまえは詰んだ」

 

『うるせぇっ!』

 

奴はどす黒い魔力の塊を俺に投げつけてくる。

 

手を翳して、ボールをキャッチする感覚で魔力弾を掴まえ―――――握りつぶした。

 

この結果にリゼヴィムは目を開くが、直ぐに手を変えてくる。

翼を広げて、猛スピードでこちらに殴りかかってきた。

 

俺は僅かな動きで、奴の特攻を避ける。

瞬時にリゼヴィムの背後を取った俺は、奴の翼を根本から握った。

 

「この翼はルシファーのものだ。魔王の面汚しのおまえが持って良いものじゃない!」

 

俺は根本から奴の翼を引き抜いた。

ブチブチと嫌な音と共に鮮血が噴き出す。

 

『ぐぁぁぁぁぁっ! てめぇ、俺の翼を………!』

 

激痛に顔を歪ませて、俺を睨むリゼヴィム。

俺は手に握る奴の翼を、奴の目の前で消し去った。

 

肩を上下に動かして、呼吸を荒くしている。

背中は血で真っ赤に染まり、滴る血は奴の足先まで流れていた。

 

勝負はついた。

誰の目から見ても明らかだ。

自分に勝ち目がないことくらいリゼヴィムも分かっているだろう。

 

精神も肉体も徹底的に潰した。

 

もう――――トドメを指して良いだろう?

 

そう思い、奴に手をかざした。

その時だった。

 

『うひっ…………うひひひひひ…………』

 

突然、気味の悪い笑い声を出すリゼヴィム。

満身創痍の肩を震わせ、気が狂ったように笑い続けた。

 

怪訝に思う俺だったが、リゼヴィムは、

 

『あぁ、負けたよ。おまえには敵わんわ。おじさんのまーけ。でもなぁ…………』

 

リゼヴィムの視線は俺達の真下、アグレアスへと向けられる。

 

そして―――――。

 

奴は急降下を始めた!

 

あの野郎…………まさか…………!

 

俺の嫌な予感は的中する。

奴は急降下しながら、手元に巨大な―――――直径五十メートルはある魔力の塊を複数生み出した!

 

『うひひひ………ひゃーはっはっはっはっ! 赤龍帝! おまえがダメなら、おまえのお仲間を消してやるよ! この島ごと消してやらぁぁぁっ!!』

 

なんて往生際の悪い奴!

俺に勝てそうにないから他の皆を狙うかよ!

 

すると、イグニスが言ってくる。

 

『でも、無駄な足掻きってことは分かってるわよね?』

 

そうだな。

今、リゼヴィムが取っている行動は悪足掻き以外の何物でもない。

 

感じるんだよ。

あの二人が向かってきているのをな。

 

リゼヴィムが下衆な笑い声と共に、アグレアスそのものを消し去りそうな魔力の塊を放とうとする。

 

その時―――――下の方で黒と白の入り雑じる極大の光の奔流が煌めく。

その輝きは有無を言わさず、リゼヴィムを容赦なく呑み込んでいった―――――。

 

リゼヴィムを呑み込んだ砲撃を放った者とは…………。

 

「お待たせ、お兄ちゃん」

 

「良いタイミングだったでしょ?」

 

黒い天女のような姿になった美羽と黄金に輝く翼を持ったセラフのような姿のアリス。

疑似神格を発動させた二人が俺の元へとやって来た。

 

このオーラ………凄まじいな。

疑似とは言え、波動は神そのもの。

しかも、上位クラスの神のものだ。

 

何とか二人もその力を扱えているようだな。

 

「おう。ナイスタイミングだ。………それよりさ」

 

「なによ?」

 

下から上へと視線を何度も移動させ、ジロジロと二人を見る俺に、怪訝な表情を浮かべるアリス。

 

俺はゴクリと喉を鳴らして、

 

「二人とも…………すっごく綺麗になったな…………か、可愛い………」

 

「も、もうっ! そんなこと言ってる場合!? で、でも! ………ありがと」

 

「えへへ………」

 

顔をリンゴのように赤くしながら照れる二人だった。

 

 




~後書きミニエピソード~


イッセー「うんうん、アーシアも無事に禁手に至ったようだし何よりだよ! それに皆を守る力なんて、アーシアらしいよな」

アーシア「はい! これもイッセーさんや皆さんのおかげです! ファーブニルさんも私を助けてくれましたから!」

ファーブニル「アーシアたんのおパンティー、くんかくんか」

アーシア「はぅっ! こんなところでも私のパ、パンツを!」

イッセー「この変態龍王! おまえもか!? おまえも駄女神と同じなのか!?」

イグニス「アーシアちゃんのおパンティーは至上の一品! 金髪シスターのおパンティーなんて背徳感だらけで興奮するじゃない! そういうわけで―――――」

イグニス&ファーブニル「アーシアたんのおパンティー、くんかくんか」

イッセー「この変態コンビィィィィィィッッ!」


~後書きミニエピソード、終~


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23話 リリンの最期

美羽、アリスと合流した俺は上空から降りて、アグレアスの地に降り立った。

 

俺達のすぐ目の前には全身から血を噴き出して、踞るリゼヴィムの姿。

美羽とアリスが放った一撃はかなり効いたらしい。

 

ごふっと口から血を吐き出すリゼヴィム。

 

「クソがっ………! こんなごり押しで俺が突破されるってのかよ…………っ!?」

 

今気づいたことだが、奴の声が元に戻っている。

ドーピング剤で『悪』と『魔』を体現したようなあの姿は解けており、元の中年男性の姿に戻っていた。

 

ドーピング剤にも時間制限があったのか、もしくは美羽とアリスの砲撃を乗り切るために残った力を使いきったからなのか。

 

どちらにしろ、リゼヴィムはこちらを攻撃する程の力は残っていないだろう。

 

俺は地に伏せるリゼヴィムに言う。

 

「ごり押しで悪かったな。だが、それが一番早そうだったんでな。…………こいつは、この力は俺だけの力じゃない。おまえが手も足も出なかったのは、それを理解していなかったからだ」

 

そう、この虹色の力は俺だけのものじゃない。

美羽やアリス、リアス達の想いが俺の力となったから、リゼヴィムを圧倒できた。

俺一人じゃどうなっていただろうな。

 

イグニスが言ってくる。

 

『でも、これはあなたの力でもあるのよ、イッセー。あなただからこそ、皆の想いを受け止め、力に出来た。あなたにはそれだけの器がある。いえ、訂正しましょう」

 

そう言うとイグニスは実体化する。

 

いつものように赤い髪をなびかせる彼女だったが、少し違っていた。

イグニスも俺と同じく虹色の輝きを放っていたんだ。

 

イグニスは真正面からリゼヴィムに告げる。

 

「リゼヴィム・リヴァン・ルシファー、あなたを倒したのは「絆」の力よ。強い想いはやがて繋がり、どんな理不尽でも乗り越えられる。それを理解できないようでは、あなたはどんなに力を高めたところで、イッセーには、彼らには勝てない。人の心の光を信じないあなたでは―――――」

 

繋がることで強くなる。

決して揺るがない絆はどんな脅威だって押し退けられる。

 

今の俺達のように。

 

美羽とアリスが俺の横に立ち並ぶ。

俺と視線が合うと、二人とも強い目で頷いた。

 

リゼヴィムは瓦礫に手をかけて、それを杖にして体を起こす。

血反吐を吐き捨て、忌々しそうな目でこちらを睨んでくる。

 

「ごぶっ………。異世界の魔王の娘と姫君、そして異世界より帰還せし赤龍帝、か。………あぁ、そうだよ。こいつらを先に殺っておくべきだった………。こいつらが………こいつらさえ、いなければ………!」

 

リゼヴィムが怒りと焦りに彩られた表情でそう漏らした時―――――。

 

一陣の風が俺達の間に吹いた。

 

僅かに意識がそちらへと向けられた瞬間、俺達とリゼヴィムの間に一人の少年が現れる。

白いパーカーを羽織り、フードを深々と被ったその少年はいつも通り、楽しげな笑みを見せている。

 

俺はその少年の名を呟いた。

 

「………アセムか」

 

その少年―――――異世界の神、アセムはフードを脱ぐとニッコリと微笑む。

 

「やぁ、勇者くん♪ この間振りだねぇ。ふんふんふーん、いやぁ、良いオーラを放っているよ。実に心地良い波動だ。どうやら、僕の想像を超えてきたみたいだねぇ」

 

リゼヴィムと違い、俺の波動に何とも楽しそうにしているアセム。

心からそう思っているのか、それともリゼヴィムと違い余裕があるのか。

………こいつの場合、どちらでも取れそうなんだよな。

 

アセムの登場にリゼヴィムは今までの表情を一転、いやらしい笑みを作って何度も頷いた。

 

「おおっ、アセムきゅんじゃないか! うんうん、分かってたよ! おじさんのピンチに駆けつけてくれたんだよね! 今からこのクソ生意気なガキ共をぶっ殺してやろうぜ! なんなら、そこの小娘共をぶち犯してボロ雑巾みたいにするのもありだな! 心身共にズタボロにしてやろうや! うひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

 

アセムが現れたことで、形勢を逆転できると踏んだのだろう。

そして、その考えは間違いではない。

 

俺達は未だにアセムの実力を測れないでいる。

まるで底無し沼。

覚醒した俺達であっても、敵うかは分からない。

 

こいつはリゼヴィムとは明らかに違うからだ。

 

くるりと体の向きを変え、リゼヴィムの方を向くアセム。

その表情は変わらず、いつもの笑顔。

 

「やぁ、リゼ爺。随分、こっぴどくやられたもんだねぇ。勇者くんもダメだよー、お爺ちゃんは労ってあげなきゃ。これからの時代はお年寄りも増えていくみたいだし、必要なスキルだよ?」

 

にこやかに言うアセムは一歩、また一歩とゆっくりリゼヴィムに近づいていく。

 

なんだ………この違和感………。

あいつは何をしにここに来た………?

 

リゼヴィムは特に何も感じないのか、両手を広げて意気揚々とアセムを迎え入れる。

 

「そう! そうなんだよ! さっすが、アセムきゅんだ! だからよ、こいつらを―――――」

 

リゼヴィムがそこまで言いかけた時だった。

 

―――――鮮血が宙に舞った。

 

「へっ………?」

 

間の抜けた声を出すリゼヴィムは、視線を下へと移す。

 

自分の腹を深々と貫いたアセムの腕。

腕はリゼヴィムの腹を完全に貫通して、背中からアセムの手が見えていた。

真っ赤な血が白いパーカーを赤く染める。

 

「お年寄りはね、苦しめるんじゃなくて、楽に死なせてあげなきゃ♪」

 

いつもと変わらぬ口調でアセムは腕を引き抜いた。

ズルリとリゼヴィムの腸が引き抜かれる腕と共に外に出てくる。

 

リゼヴィムは未だに自分が何をされたのか理解出来ないようで、

 

「な、なんだ、こりゃ…………? ア、アセム………? おまえ、何を………?」

 

リゼヴィムの問いにアセムは、手にべっとり着いた血を拭き取りながら言う。

 

「あれ? リゼ爺は体もボケちゃったのかな? まぁ、あんな無茶苦茶なドーピングしてたら、感覚がおかしくなっても不思議じゃないけど」

 

血を撒き散らしながら、再び地に膝をつくリゼヴィム。

その目は苦痛と驚愕が混じっていて、薄く笑むアセムを捉えていた。

 

「おまえ………俺を、裏切るのかよ…………!?」

 

「んー、裏切るというのは半分正解で半分間違い。もう君は用済みなのさ。君の名と立場、そしてクリフォトは世界に対して共通の敵をもたらすにはちょうど良かったんだよ。上も下もない、全ての者の意識を向けるためにね。………でも、君の名前じゃ、神々の反応は微妙だったみたいだけど」

 

アセムはリゼヴィムの周囲をコツコツと足音を立てながら歩き回り、説明するような口調で続けた。

 

「――――聖書に記されし者、リリン。これだけじゃ、全勢力、全ての神を本気にさせるには至らなかったようだ。だから、僕は直接動いた。この世界の神々を本気にさせるためにね。結果、僕は君よりも警戒される立場になったというわけだ」

 

アセムは頬に指を当てて困ったような表情を浮かべた。

 

「結構悩んだんだよ? どのタイミングで僕が出ていくか。正直、この世界を滅ぼしたいなら、直ぐに出来たんだよ。でも、僕の目的はそこじゃない。この世界全体―――――人間から、他の種族、そして神々。ありとあらゆる種族、層に警戒を持たせて、意思を一つにするためには僕が一人で躍り出ても仕方がない。急いだところで意味がない。では、どうするか」

 

アセムは膝を着くリゼヴィムに指差した。

 

「まずは、君のように世界から既に認識されていて、危険視されている人物に動いてもらう。君という『悪』に対して世界が少しずつでも一つになれば…………と思ったんだけど…………」

 

アセムは途端にガックリと落としてため息を吐く。

 

「まぁ、ちょっぴり…………いや、かなり期待外れだったかなぁ? 君、勝手に動いて余計なことしちゃうし。おかげで僕は急がなきゃいけなくなったじゃないか。もー、ぷんぷんだよ。げきおこだよー」

 

ぷんぷんと、可愛らしく怒りを示すアセム。

僅かな時間で随分と表情豊かだな…………。

 

しかし………急ぐ?

リゼヴィムが行ったことで、アセムは急がなければならなくなった………?

 

アセムの言葉に怪訝に思う俺だったが、その間にリゼヴィムは震える声でアセムに問う。

 

「て、てめぇ…………いつからだ? いつから、俺を裏切るつもりで…………」

 

「いつから? 最初からだけど?」

 

きょとんとした顔で即答するアセム。

 

アセムは人指し指を立てて言う。

 

「頃合いを見て君は消すつもりだったよ、最初からね。僕が目指す先に君はいてはいけない存在だ。あ、でも、暗殺なんて面倒な真似はしないよ? 君程度なら、すぐ消せるしー」

 

「………っ!?」

 

目を見開くリゼヴィム。

 

組んでいたつもりが、最初から裏切るつもりだった。

しかも、自分を消す予定だったというのだから、その反応は納得できる。

 

突然、アセムはクスクスと笑い始める。

 

「悪魔は『悪』で『魔』の存在ねぇ。君のその思想を否定する気はないよ? 考え方は人それぞれだし。でもでも―――――」

 

アセムはリゼヴィムの前にしゃがみこむ。

 

そして、嘲笑うように言った。

 

「――――『悪』を名乗るなら、その分、討たれる覚悟を持ちなよ。自分は大丈夫だと思った? 自分は好き勝手やっても、その代償を払わなくても良いと思ってた? その結果がこの様だ。ねぇ、魔王の息子くん。君ってさぁ、ほんっと、どこまでも三流だよね」

 

「…………ッッッ!」

 

バカにするような口調にリゼヴィムは顔を真っ赤にして強く歯軋りをする。

ここまでバカにされたことは無いんだろうな。

 

奴のオーラが荒ぶり、その怒りの全てをアセムに向けている。

 

どこに残っていたのか、リゼヴィムは手元に魔力を集め、アセムに放とうとする。

 

しかし―――――。

 

魔力を放とうとしたリゼヴィムの腕は消し去られた。

アセムの背中から生える禍々しい蝶の翼によって。

 

アセムは笑う。

 

「アハッ♪ 君、勝てると思ってるの? ここは逃げるべきだと思うけどねぇ。あ、そうだ。ここまで利用させてもらったお礼に選ばせてあげるよ」

 

アセムは指を二本立てて、

 

「ここで僕に消されて死ぬか、それとも無様に逃げて別の者に殺られるか。――――どっちが良い?」

 

なっ………!?

こいつ、ここでリゼヴィムを逃がすってか!?

冗談じゃねぇ!

 

俺達はこいつを―――――。

 

飛び出しそうになる俺達をアセムは手で制する。

 

「まーまー、落ち着きなよ。どーせ、ここまで弱りきったお爺ちゃんじゃ、大したこと出来ないって。ま、不安だって言うなら…………」

 

蝶の翼が羽ばたく。

刹那、リゼヴィムの残っていた腕が飛び、砂のようになって崩れていった。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

 

悲鳴をあげるリゼヴィム。

 

激痛に悲鳴をあげて、地面を転がるリゼヴィムにアセムは言い放つ。

 

「もー、あんまり騒ぐと近所から苦情来るよ? 介護とかしてもらえなくなるよ? あの世のヘルパーさんが優しければ話は別だろうけど」

 

その凄惨な光景に美羽とアリスが息を飲む。

 

リゼヴィムがどれだけ痛め付けられようが、当然の報いだと思っている。

でも、アセムの目は、こちらが底冷えするほどに冷たく―――――。

 

アセムはリゼヴィムに問う。

 

「それで? どうするの? ここで死ぬ? それとも………おや? あーらら、グダクダしている間にお迎えが来たようだよ?」

 

アセムの視線が一点に向けられた。

 

そこに一つの龍門が開かれようとしていた。

龍門からは黄金のオーラが解き放たれる。

 

それを見て、リゼヴィムは酷く狼狽していた。

 

「………嘘だろっ!?」

 

龍門から姿を現したのは―――――一体の龍王。

巨体をよろよろと動かすその姿からは、天界で消耗した体力が元に戻っていないことが見てとれる。

 

しかし、強烈なまでの迫力、戦意、明確なまでの殺意を抱いて、黄金の龍王―――――ファーブニルは体を引きずらせながら、動き出す。

 

『………ようやく、見つけた』

 

眼前の仇敵を捉えたファーブニルからはとてつもないプレッシャーを感じる。

向けられていない俺達ですら、冷や汗をかくほどだ。

 

リゼヴィムは信じられない様子で、首を横に振りながら、恐れおののいていた。

それは俺が奴を追い詰めた時よりも、アセムが裏切りを示した時よりも強い反応だった。

 

「なんでだ…………! なんで、ここまで執拗に…………!? 夢の中にまで追いかけて来やがってよ…………!」

 

夢の中………?

ファーブニルが奴の夢の中に出たって…………。

 

俺の疑問に答えるようにアセムが言う。

 

「リゼ爺はねー、ファーブニルくんに呪いをかけられていたのさ。ファーブニルくんは毎夜毎夜、夢の中に現れて、リゼ爺を何十、何百、何千と殺し続けたみたいだよ?」

 

そうか、リゼヴィムの目の隈はそういうことだったのか。

 

毎夜、夢の中でファーブニルの襲撃を受けていた。

超越者の一人として数えられていても、夢の中では手足も出なかったと。

 

何となくわかったぞ、今回、リゼヴィムが行った杜撰な計画の背景が。

 

『…………おまえは、アーシアたんを泣かせた』

 

瞳を危険な色に輝かせるファーブニルは、体を引きずって、一歩、また一歩とリゼヴィムに近づいていく。

 

ここまで強烈な殺意を感じたのはいつ以来だろう。

いや、もしかしたら初めてかもしれない。

 

異様なまでの迫力にリゼヴィムは顔面蒼白となって後ずさる。

両腕を失い、体力も底を尽きた奴はまともに動くことが出来ず、その場に尻餅をついてしまう。

 

その間にもファーブニルはリゼヴィムへと迫り、ついには眼前にまで迫った。

 

リゼヴィムは無理矢理笑顔を作って、ファーブニルに言う。

 

「ま、待て! 待ってくれ! あれは………ほら! 演出だ! 盛り上げるための! 天界のあそこまで行って、ルシファーの息子が攻めたら―――――」

 

ズンッという地響きと共に生々しい骨の砕ける鈍い音が響いた。

 

ファーブニルの巨大な足が、リゼヴィムの両足を踏み潰したからだ。

 

「がぁぁああああああああああああっ!!!!」

 

絶叫をあげるリゼヴィムは激痛に上半身を跳ね上げるが、ファーブニルが両足を踏んでいる以上、逃げることは叶わない。

 

その様子にアセムはやれやれとため息を吐く。

 

「ここにきて命乞いとは…………。君ね、どこまで評価を下げる気だい? 情けないにも程があるだろう? 魔王の血は君にはもったいなさすぎるよ。君もそう思うだろう、勇者くん?」

 

「敵だけど、その意見には同意するよ、アセム」

 

どこまでも情けない姿を晒してくれる。

 

ファーブニルは憤怒の色に染まりきった大きな顔をリゼヴィムに近づける。

 

『おまえは、アーシアたんをいじめた。絶対に許さないッッ!』

 

ファーブニルはアーシアを大切に思っていた。

アーシアが微笑む度に、ファーブニルはどこか満足していた。

 

きっと、アーシアが微笑んでくれるのなら、それで十二分に幸せだったのだろう。

 

―――――それをリゼヴィムは遠慮なしに傷つけた。

 

アセムが冷たい言葉をリゼヴィムに告げる。

 

「傷つけるなら、それ相応の報いを受ける覚悟を持ちなよ、魔王の息子くん? 君は何も考えず、ただイタズラに触れすぎたのさ。まぁ、君と組んでいた僕が言うのもなんだけどね?」

 

アセムの言葉は届いたのか、届かなかったのかは分からない。

 

ただただ、リゼヴィムは迫る死に絶望していた。

両腕は消され、両足を砕かれた。

逃げる術などありはしない。

 

龍王の顎が奴を噛み殺したのと、この場にヴァーリが到着したのは同時だった。

 

リゼヴィムの最期の瞬間を目にしたヴァーリは一度、瞑目する。

 

「リゼヴィム、おまえはルシファーの名をあまりに辱しめ過ぎた。だが、安心しろ。ルシファーの名は俺が引き継ぐ。少なくとも俺はおまえのようなルシファーにはならないさ」

 

 

 

 




~後書きミニエピソード~

小猫「イッセー先輩は温かいです………にゃぁ」

イッセー「うぅ………小猫ちゃんはいつも………きゃわいいなぁ!」

黒歌「ありゃりゃ? 白音ばかりかまって、ズルいにゃん。 赤龍帝ちんは私には興味ないのかにゃ?」

イッセー「興味ないわけないだろ! 興味津々さ!」

黒歌「だったら、私も体験してみないかにゃ? ほら、猫又姉妹丼なんて、そう味わえるものじゃないわよ?」

小猫「姉さまには………イッセー先輩は渡しません。わ、私の先輩…………です」

イッセー「ガハッ!」

~後書きミニエピソード、終~


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24話 皇獣の復活

べリアル編ラストです!


「………手のひら返しが酷いと思うかい?」

 

ファーブニルの顎によって砕かれ、息絶えたリゼヴィムに視線を送りながら、アセムはそう訊いてきた。

 

こいつは今までリゼヴィムと組んでいた。

こいつらの協力が、クリフォトの戦力を強化し、厄介な存在へと変えたことは間違いない。

 

だが………。

 

「端から裏切る………というより、端から利用するつもりだったんだろ?」

 

「うん、まぁね。正直に言うと異世界侵攻なんて僕の目的じゃないんだよ。ただ、僕も少し油断してた。まさかまさか、リゼ爺のせいで駆け足になるなんて思ってなくてさ」

 

「駆け足………か。おまえ、この世界を一つにするのが目的なのか? なんでそこまで急ぐ必要があるんだよ? 急いだところで、ろくな結果にならないことはすぐに分かるだろう? 不平や不満は絶対に出るぞ」

 

先程、リゼヴィムに告げていた通り、こいつの目的はどうやら、この世界の意思を統一することにあるらしい。

 

…………が、それを急いでしまえば、間違いないなく反発の声は出る。

三大勢力内で起こったクーデターと同じように。

 

俺の言葉にアセムは苦笑する。

 

「そーなんだけどねぇ。そんなのんびり構える程、僕達(・・)には時間がないのさ。だけど、ここに来て最後のピースは埋まった。ねぇ、勇者くん?」

 

アセムの言葉に俺も美羽もアリスも、イグニスですら怪訝な表面を浮かべていた。

 

僕達………?

時間がない………?

その時間がないっていうのが、リゼヴィムのせい………?

 

ダメだ、いくら考えたところで、こいつが何を考えているのかが見えてこない。

 

何をそんなに急いでいるのか、何を俺に求めているのか。

こいつは俺に何を求め、どうしてほしいんだ?

 

少しずつ、このアグレアスを覆っていた虹も薄くなってきた。

俺の力が弱まってきたからだろう。

俺もそろそろ限界に近い。

 

アセムはこの浮遊都市を覆う虹の輝きを見つめながら、口を開く。

 

「君は………いや、君達は気づかなかったのかい?」

 

「気づく? 何に?」

 

俺が聞き返すとアセムはため息を吐く。

やれやれといった表情で、アセムは続けた。

 

「君達の住むこの世界、そしてアスト・アーデ。ここまで来て君達はまだ分からないかい? 既に異なる世界は二つある。ならば―――――」

 

アセムが何かを言いかけた時だった―――――。

 

 

グォォォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!

 

 

突如、俺達を激しい揺れが襲った!

 

こいつは…………アグレアス全体が揺れているのか!?

それに今聞こえたのって…………何かの咆哮?

いや、そんなでっかい化け物なんていたか?

 

クロウ・クルワッハが吼えたとは考えにくいし…………。

 

「これ…………瘴気っ!?」

 

美羽が声をあげる。

 

どこからか瘴気が漂ってきていた。

ニーズヘッグの瘴気なんて可愛く思えるほど、濃密で邪悪な………!

 

どこだ………?

どこから………?

この瘴気の持ち主はいったい………?

 

すると、アセムが小さく舌打ちした。

 

「リゼ爺か………。なるほど、やられたよ。そういう君の手回しの良さは尊敬できるね。………このタイミングであれを目覚めさせるとは………」

 

アセムの視線の先、そこに何かがいた。

 

それが何かとは断言できないし、俺は見たことがないので、それが何か分からない。

 

ただ、一つ分かることは………巨大で邪悪な何かということ。

濃密な瘴気を放ち、ゆっくりと姿を現す山のように巨大な怪物がそこにいた。

 

多くの邪龍を従えたそれは天に昇っていく―――――。

 

「何よ………あれ!?」

 

アリスは目を見開き、冷や汗を流していた。

アリスだけじゃない美羽も俺も、バトルマニアのヴァ―リでさえ、巨大な怪物に畏れを抱いてしまっていた。

 

この場で平然としているのはイグニスとアセムくらいだ。

 

「あらぁ、なんかすんごいの出て来たわね」

 

「でしょー? なんかすっごいの出て来たんだよねー。リゼ爺のせいでー」

 

「おまえら軽いな!?」

 

「「テヘペロ☆」」

 

イグニスとアセムが横ピースでウインクしてくる!

こいつらそういうところ、マジでそっくりだな!

似た者同士か!

 

ヴァ―リが唸る。

 

「これが異世界の神達か………!」

 

「違う! あいつらは異世界のバカ!」

 

ここに来てツッコミが止まらないよ!

おかしいよね、こいつら!

 

 

ピロリン ピロリン 

 

 

「おー写った写った。ヴィーカが作ったスマホも画質すんごい上がってるじゃん♪」

 

「おまえはとことんシリアスを壊さないと気が済まねぇのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

なにこいつ!?

なんであの怪物の写真撮ってるの!?

 

バカなの!?

とりあえず拳骨していい!?

 

ヴァ―リが再び唸る。

 

「これが………異世界の神か………!」

 

「ヴァ―リィィィィッ! おまえもボケに回るのやめてくれる!? 怒るよ!? 俺、そろそろ怒るよ!?」

 

なんで、次から次にボケが飛んでくるわけ!?

俺一人でどう捌けばいいんだよ!

ヴァ―リは天然なのか、わざとなのかはっきりしてくれないかな!?

 

その時――――。

 

「………っ!」

 

唐突に俺を強烈なめまいが襲う。

視界がぐにゃりと歪み、足元がおぼつかなくなった。

全身から力が抜けていき、崩れ落ちるように俺はその場に倒れてしまう。

 

「………あれ?」

 

床を眺めるしかない俺。

力を入れたくても指一本すら動かすことが出来ない。

 

「お兄ちゃん!?」

 

「イッセー!? しっかりして、イッセー!」

 

悲鳴をあげる美羽とアリス。

何か言葉を返したいが、言葉が発せない。

 

イグニスが実体化を解き、俺の中に戻ってくる。

 

『限界ね。これ以上はもう………』

 

そうか………限界か。

ここで限界なのか………。

 

アセムが俺の視界に入るように立った。

 

「勇者くん、僕はいつでも君を待とう。その時こそ――――――」

 

その時こそ………そうだな。

ああ、分かってる。

 

その時こそ、俺は―――――。

 

アセムは踵を返し、転移魔法陣を展開する。

転移の光が奴を包み込もうとした瞬間、奴は顔だけをこちらに向けて、

 

「一つ、僕が気づいたことがある」

 

アセムは真剣な表情で、俺に告げた。

 

「このアグレアス――――――ラピュタを思い出さない?」

 

それだけ言って奴は転移していった。

 

 

―――――なんで、ここでそれ言うの………。

 

 

それが気を失う前に入れたツッコミだった。

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

時は少し遡る。

 

アグレアスの内部に侵入した俺、アザゼルは大分奥に進んだところで黒いドレスを着た少女と対峙していた。

 

動力室に続く巨大な両開きの鉄の扉を前にして、その少女――――オーフィスの分身体、リリスは待ち構えていた。

 

「………なぁ、やっぱり、通してくれないのか?」

 

「むり。リゼヴィム、ここ、守れとリリスに言った」

 

「戦わんとダメか?」

 

「たたかう? リリス、つよい。とても、つよい」

 

「………まぁ、そうなんだろうが」

 

まともにやりあったところで、一方的に潰されるのは目に見えている。 

拳をシュッシュッと可愛く突き出してはいるが、その一撃は常軌を逸している威力だろう。

 

俺はこの奥にある動力炉に行かなければならない。

事前に用意していたアグレアスの内部地図のおかげで、いくつかのトラップはあったものの、ここまでスムーズに進めた。

そこまでは良い。

 

最大の難関は目の前のお嬢さん。

 

戦闘力的なことだけじゃなく、こいつとはどうも手合わせしたくないんだが…………。

 

イッセーなら、要領良く事を運びそうだ。

ドラゴン使いとして類稀なる才能を有した元聖女、アーシアなら、このドラゴンをどうあやすだろうか?

 

…………そこまで思慮して、俺はとあることを思い付く。

 

懐を探り、取り出したのは非常食として持ってきていたチョコバー。

袋を半分だけ破り、中身を露出させた。

 

「じゃあ、お菓子をやろう。どうだ?」

 

「―――――っ!」

 

お菓子を見た途端、目の色を変えやがった!

オーフィスも大概この手のものに弱いが、分身体も同じか?

いや、分身体だからこそ、同じなのかね?

 

俺はチョコバーを左右上下に動かしてみると、リリスの視線もそれに釣られて動いていた。

………これはこれで面白いな。

 

「欲しいか?」

 

俺がそう言うと、無言と無表情で生唾を飲み込むリリス。

 

目を潤ませたあげく、腹を鳴らしてやがる。

 

………なんか、こっちが酷いことをしているみたいで、気が引けるな。

 

「通してくれるなら、やる。どうだ?」

 

「………ほしい。でも、とおせない。…………リリス、どうすればいい?」

 

俺に聞かれてもな。

どうしたらいいんだろうな?

 

息を吐いた俺はリリスにチョコバーを突きだした。

 

「………わーったよ。おじさんが悪かった。とりあえず、これはやる。通してくれるかくれないかはそれ食ってから考えてくれ」

 

敵わんね。

これでも元は堕天使の総督だぜ?

そんな俺がチビッ子には勝てんとは…………俺もサーゼクスのことは言えないくらい、甘々だ。

 

俺からチョコバーを受け取ったリリスは無言でチョコバーを頬張り始める。

 

「美味いか?」

 

「…………」

 

俺の問いにリリスは無言で頷く。

随分満足そうにしているが…………。 

 

俺はリリスの横に座り込み、深く息を吐いた。

 

やれやれ、どうしたものか。

菓子でどうにか釣って、その場を離れてもらうか?

それができたら楽なんだろうが…………。

意外に頑固っぽそうだ。

 

果たして、俺の言うことを聞いてくれるかどうか。

 

天井から水滴が落ちてきた。

それは俺の目の前を通過し、足元で弾ける。

 

そこで、俺は先程起きた不思議体験を思い出した。

 

トラップを解除しながら、ここを目指していた時に出現した虹の粒子。

そして、頭に直接響いてきたイッセー達の声。

 

長く生きてきたが、あんなのは初めての体験だった。

 

もしかすると、あれはイッセーの覚醒によって生じたものなのかね?

あいつは色々な可能性を秘めているからな、どんな進化を果たすのかは俺にも予想できん。

 

………ちょっと聞いてみるか。

 

「なぁ、おまえさん、あの虹の輝きを見たか?」

 

「みた。声もきこえた」

 

「どう思った?」

 

俺はリリスの答えを期待しているのか。

元龍神オーフィスの分身体だ、もしかしたら、俺に捉えられない何かを捉えているのかもしれない。

 

ま、具体的に何かが分かるってことは無いだろうが。

 

「分からない。ただ………」

 

「ただ?」

 

「赤龍帝の叫びが聞こえた」

 

ふいにリリスのドレスにドラゴンのアクセサリーが着いているのが目に映った。

こいつは確かイッセーがリリスに買ってやったというあれか?

 

「そのアクセサリーは?」

 

「赤龍帝がくれた」

 

当たりか。

 

まてよ…………こいつはもしかすると…………。

 

「イッセー………赤龍帝と会いたくないか?」

 

俺がそう訊くとリリスの表情に反応があった。

無表情だった顔にほんの少しではあるが、変化が見える。

 

…………二天龍の話題になると、感情が動くのか?

 

俺はアクセサリーを指差す。

 

「それを貰ったのだろう? あいつなら、もっと良いものをくれるさ。リゼヴィムなんかより、ずっと良いものをな。イッセーだけじゃない、白龍皇やもう一人のおまえとも会わせてやろう。どうだ? 魅力的な話だろう?」

 

「………もう一人のリリス………赤龍帝………白龍皇………」

 

これは、かなり来てるんじゃないか?

 

なるほど、リゼヴィムがオーフィスを狙った理由が分かってきたぞ。

僅かなやり取りだったが、以前よりもリリスは不安定になっている。

いや、不安定というよりは感情というものが芽生え始めてきていると言った方が正しいか。

 

俺の推測にしか過ぎないが、リゼヴィムはリリスを作る際に感情が灯る要素を残しておいたんだろう。

そして、それが仇になった。

 

二天龍とオーフィスの名を少し出しただけで、これだけ反応を示していれば、奴の護衛としては使いにくいことになる。

 

奴はオーフィスを使ってリリスを強化、自分の身の安全をより確実なものにしようとしていたのかもしれないな。

 

ま、その辺りは本人に聞いてみないと分からんが………。

 

ともかく、今のリリスなら―――――。

 

「今なら菓子もつける」

 

これが決め手になった。

 

リリスはその場に頭を抱えて座り込んでしまう。

 

「………おかし……赤龍帝……もう一人のリリス………おかし………白龍皇…………二天龍………おかし………」

 

お菓子が着いてくるとのことで、完全に混乱しちまったな。

リゼヴィムの命令が絶対的で無くなった証拠だ。

 

これで、もう一度頼んだらどうなるかね?

ここまで来れば、案外楽に入れるような気がするんだが………。

 

と、そう思った時だった。

 

 

鉄の扉の向こうからドス黒いオーラが滲み出てきた。

禍々しく、触れるだけでこちらがやられてしまいそうなほど、濃密な瘴気………!

 

なんだ、これは………!?

 

「リゼヴィム…………死んだ?」

 

リリスが天井を見上げて、首を傾げながらそう呟いた。

 

リゼヴィムが死んだだと?

殺ったのはイッセーか、ヴァーリか。

とにかく、リゼヴィムが消えたのなら、奴の命令は無効となるはずだ。

 

俺は鉄の扉に触れ、重たい戸を開いた。

中に足を踏み入れた俺は動力炉の光景に言葉を失ってしまう。

 

地図によれば、アグレアスの最深部はぽっかりと超広範囲に空いた円形の空洞となっていた。

中心には動力炉たるどでかい結晶体があるはずなのだが…………。 

 

中に入った俺を迎えたのは七つの首と十の角を持つ、あまりに大きすぎる『獣』。

その巨体はゆうに数百メートルを越えており、グレートレッドよりも更に巨大だった。

 

首の一つ一つが、全て異なる生物を形作っていて、獅子、豹、熊、龍と統一感はない。

体の作りもあらゆる生物の特徴を有してり、異物感を放っている。

 

その巨大な獣が、今、目覚めようとしていた。

獣の目がゆっくりと開かれていく………!

掛けられていたであろう封印の術式が浮かび上がり、砕けていく………!

 

俺も実物は初めて見るが、間違いない。

 

 

―――――『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)』トライヘキサ。

 

 

トライヘキサが今まさに復活しようとしていた………!

 

このタイミングで目覚めるだと!?

異常だ………この解呪スピードはあまりに異常過ぎる!

 

やはり、天界で得た生命の実がトライヘキサを活性化させて、解呪を加速させたのか?

 

見ると、トライヘキサの肉体にはアグレアスの動力炉である結晶体が埋め込まれていた。

アグレアスの動力を解呪のために使っていたのか………!

 

親父の遺産は全て使い込むってか。

全く、ダメ息子らしい考え方をしてやがる………!

 

なんにしても、こいつを目覚めさせるのはまずい!

 

焦る俺はその場凌ぎの封印術を展開するが、トライヘキサを止められる気配はまるでない!

 

一つ目の首が完全に目覚め、咆哮をあげる!

 

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

 

鳴き声だけで、魂を掴まれたような感覚!

今の咆哮は都市部にも響いたはずだ!

上の連中も気づいただろう!

 

どうにかして、復活を止めようとする俺だったが、背後に複数の気配を感じ取った。

振り向けば、そこにいたのは二つの影。

 

現れたのは翼を生やした三つ首の巨大な黒いドラゴンと、黒い祭服を着た褐色の肌の美青年。

 

巨大な三つ首ドラゴンは『魔源の禁龍(ディアポリズム・サウザンド・ドラゴン)』―――――アジ・ダハーカ。

褐色の青年は人間の姿をしているが、おそらく『原初なる晦冥龍』―――――アポプスだろう。

 

青年――――アポプスが俺に言ってくる。

 

《初めましてだ、堕天使の元総督殿》

 

「アポプス………。この異常なまでの解呪スピードはなんだ? いきなり、封印が解けたような感じだったが………おまえらか?」

 

問う俺。

 

トライヘキサから放たれるこの瘴気。

ここまでの瘴気なら封印が解けていくにつれて、徐々に滲み出ていくはずだ。

 

しかし、これは先程になって、いきなり現れた。

何か特殊な術でも使ったのだろうか。

 

俺の問いにアポプスは首を横に振る。

 

《どうやら、リゼヴィム王子は自身が死を迎えた時に自身の魂をエネルギー源として強制的に段階を飛ばして封印を解呪するように仕掛けていたらしいな》

 

チッ………あの野郎………!

なんて無茶苦茶な真似をしてくれる!

 

舌打ちする俺だが、アポプスは構わずに続けた。

 

《早速で悪いが、我らの宣言を聞いてもらいたい》

 

そう言って、アポプスが懐から取り出したのは一個の盃、ヴァレリーの聖杯だった。

 

「聖杯………リゼヴィムから奪ったのか?」

 

俺が問うとアジ・ダハーカは『くくく』と笑う。

 

『まぁな。魔術の類なら俺の方が上手ってことだ。リゼヴィム固有の亜空間から抜き出しておいたのだ』

 

『ボクは大変魔法がお上手なのよ☆』

 

『あんなの余裕!』

 

そりゃあ、こいつは千の魔術を操ると言われた最強の邪龍の一角だ。

リゼヴィムが隠したところで、抜き出すなんて簡単だろうよ。

 

問題はこいつらがこの聖杯を何に使うかってことだ。

 

俺は二体の邪龍に言う。

 

「そいつを渡してもらおうか、アポプス、アジ・ダハーカ」

 

《それはできぬ相談だ、堕天使の長よ。言ったであろう? 我らは宣言をしにきたと。リゼヴィム王子ではないが、我らは我らで異世界への戦いに興味があるのだ》

 

「―――――っ! おまえら、まさか………!?」

 

目を見開く俺に二体の邪龍は薄く笑んだ。

 

アジ・ダハーカとアポプスは目覚めつつあるトライヘキサを見上げながら、口を開く。

 

『俺達はこのトライヘキサをいただいていく』

 

『もらっちゃうよ!』

 

『使っちゃうよ!』

 

《我らは邪龍だけの世界を冥界にも人間界にも異世界にも作りたいのだ。この黙示録の獣も、この聖杯もそれに利用させていただく》

 

そうこうしているうちにトライヘキサの頭部は最後の七つ目が目を覚まそうとしていた。

ドラゴンのような頭部が、目を開けていく―――――。

 

「おまえら、最初からリゼヴィムを裏切るつもりで………? いや、それでは、異世界の神アセムは………?」

 

問う俺にアポプスは言う。

 

《アセム殿は知らないが、我らは最初からという訳ではない。リゼヴィム王子があまりに情けないがために考えを改めただけのこと》

 

「おまえらとアセムは協力関係でないと?」

 

《少なくとも我らは関わりを持ったつもりはない。向こうもこちらに干渉するつもりはないようだ》

 

こいつら、互いに好き勝手にやるってことかよ………。

厄介にも程がある………!

 

俺の眼前で―――――七つ目の頭部が完全に目覚めるっ!

 

 

グォオオオオオオオオオオオッ!

 

ズオオオオオオオオオオオッ!

 

ギュオオオオオオオオオオオッ!

 

 

七つの首がそれぞれ咆哮をあげ、この都市部全体を大きく震わせていく!

声量だけでこれか………!

 

トライヘキサが巨体を揺り動かし、復活の余波で都市部の一部が崩壊していく。

 

頭部の一つが上空を見上げて、大きく口を開いた。

凄まじいまでのオーラ………そう、神クラスですら容易に屠るであろう濃密なオーラが口に集まっていく!

 

危険を感じた俺はリリスを脇に抱えて、壁際に非難し、全力で防御魔法陣を幾重にも張り巡らせた。 

 

刹那――――。

 

トライヘキサの頭部の一つが極大の火炎を吐き出した!

天井がそれを受けて、一瞬で消え去っていく!

 

余波だけで、展開した魔法陣が次々と砕かれていった!

 

首の一つが火を吐いただけでこれだと…………!?

 

驚愕する俺は再び背後に視線を向けると、既に邪龍二体の姿はそこにはなかった。

 

代わりに奴らの声だけが聞こえてくる。

 

《堕天使の長よ。最後の戦いといこう。貴公ら『D×D』と我ら邪龍の最後の戦いだ。来るならば、来るといい。我らはリゼヴィム王子のような小細工はしない。トライヘキサと共に眼前の敵を全て一切合切破壊するのみ》

 

『止めれるものなら、止めてみろよ。俺達も全力でいかせてもらう』

 

『全力! 全力!』

 

『本気でぶつかろうぜ!』

 

それが邪龍二体からの送られてきた最後の声だった。

 

火炎により、巨大な穴を開けられた天井。

トライヘキサが開かれた天井目掛けて、ゆっくりと飛び出していく。

それに付き従うように現れたのは無数の邪龍と赤龍帝の複製体。

赤と黒が空を埋めつくし、その中心にいるのは黙示録の獣。

 

666を冠した七つの頭部を持つ、あまりに巨大すぎる獣。

グレートレッドと並び、黙示録に記された伝説の皇獣が動き出す。

 

世界は混乱への道を歩み出す――――――。

 

 

[アザゼル side out]

 

 




~予告~

赤き英雄は戦場に立つ。
全ての決着をつけよう―――――。

僕は僕の約束を守るために、この世界の理不尽となろう―――――異世界の神、アセム

俺は俺の守りたいもののために戦う。これまでも、今も、これからもな。見せてやるよ、こいつが俺の―――――赤龍帝、兵藤一誠

繋がる想い。
開かれる可能性の扉。

一誠とアセムの最後の戦いが始まる――――。

最終章突入―――――。

~予告、終~


こんな感じで次章が本作最終章となります。
ラストスパート、頑張りまーす!


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最終章 終業式のブレイブ
1話 侵攻


お久し振りでっす!
ようやく卒論を乗りきれたので投稿再開しまっす!
お待たせして、すいませんでしたぁぁぁぁぁぁ!

というわけで、最終章『終業式のブレイブ』始まります!


―――――起きているか、イッセー?

 

 

声が聞こえた。

意識がぼんやりしている俺に語りかけてくるやつがいた。

 

 

―――――なんだ、寝ているのか。

 

 

懐かしい声だ。

俺はずっとこいつの背中を追いかけていた。

 

 

―――――今はまだ休むといいさ。おまえはずっと俺の代わりに力を尽くしてくれていたからな。

 

 

おまえの代わり、か。

 

 

―――――イッセー。俺がおまえに託したのは重荷か、それとも………。

 

 

声は次第に薄れて、やがて完全に聞こえなくなった。

俺はまどろみの中へと落ちていく―――――。

 

 

 

[木場 side]

 

 

「退避! 非戦闘員はすぐに退避しろ! 急げ!」

 

近くで白衣を着た男性が叫んでいた。

男性は手を回し、他の白衣を着た人達を必死の形相で誘導している。

 

ここは冥界、堕天使領。

グリゴリの研究施設が建ち並ぶ重要拠点の一つだ。

ここでは日夜、神器の解析から人工神機の開発、魔法・魔術の研究が行われている。

 

そんな場所が現在、大混乱に陥っていた。

その理由は空に浮かぶ巨大な魔物。

七つの首を持った全長数百メートルにもなる怪物が僕達を見下ろしている。

 

霊長類のような前のめりの姿勢で、極太の腕が四本あり、二本の足は腕以上に太い。

体を黒い毛が覆っており、所々に鱗のようなものがある。

また、全身のあらゆるところから赤い角のようなものも生えている。

奴が持つ七つの尾は全てが長く太く、そして、全ての形が違う。

獅子のものもあれば、ドラゴンの尾もある。

その怪物はあらゆる獣の特徴を有していた。

 

巨体から流れ出る瘴気はこれまで感じたことがないほど濃密で、異常なのは明らかだ。

少し触れるだけで悪寒が走る。

 

 

―――――黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)トライヘキサ。

 

 

アグレアス奪還作戦、イッセー君がリゼヴィムを倒し作戦は無事に達成される。

そう思われた直後、アレは現れた。

アグレアスを揺らし、島の最奥からゆっくりと姿を見せたトライヘキサは無数の邪龍と複製された赤龍帝の軍団を連れて飛び立った。

 

そして、復活を果たしたトライヘキサはその足でグリゴリの主要施設に攻撃を仕掛けてきたんだ。

 

『このわずかな時間でここまで食い込まれるなんて………!』

 

耳にはめたインカムからリアス前部長の苦渋に満ちた声が聞こえてきた。

トライヘキサの復活と侵攻を受けて、僕達『D×D』メンバーもアグレアスから現地に直接駆けつけていた。

 

僕達が駆け付けた時には現地は既に戦火に包まれていた。

数ある研究施設が軒並み破壊され、瓦礫の山と化している。

負傷者は数多く、死者も出ている。

 

トライヘキサが口を開けた。

その時、大混戦の中で誰かが叫んだ。

 

「来るぞォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」

 

刹那―――――トライヘキサから灼熱の業火が吐き出された!

冥界の空を火炎が駆け巡り、僕達の頭上を染め上げる!

 

上空で応戦していた堕天使の戦士達が成す術無く、消されていく。

あまりに広範囲に放たれた火炎に避けることが出来ず、咄嗟に防御魔法陣を展開した者ですら魔法陣を砕かれ、焼き尽くされてしまったのだ。

 

歴戦の堕天使ですら、容易に消し飛ばしてしまうのか………!

 

桁違い………あまりに桁が違う、違いすぎる。

グレートレッドと並ぶと称されるあれはきっと、神クラスですら、羽虫のように扱ってしまうのだろう。

 

だが、僕達の敵はトライヘキサだけじゃない。

 

「祐斗、斬りこむぞ!」

 

「はい!」

 

モーリスさんの声に応じて僕は駆けだした。

騎士王状態となった僕は聖魔剣を握り、邪龍へと迫る。

聖魔剣には対邪龍対策として、龍殺しの力を付与してある。

元々はジークフリートと戦うために編み出した能力だけど、やはり創れるようになっていて良かったと思える。

禁手の更に上の領域に至った今の僕なら――――――。

 

「ハァッ!」

 

真正面からの一刀両断。

量産型邪龍の体は左右に分かれ、崩れ落ちる。

 

それを横目に僕は更に加速していく。

すれ違う刹那の瞬間に剣を振るい、邪龍を斬り捨てた。

 

これで何体目だろうか。

アグレアスからの連戦、今日だけで一体何体の邪龍を斬っただろう。

恐らく百や二百じゃ利かないと思う。

 

「そらよッ!」

 

モーリスさんが刀身を黒く染めた二振りの剣を振るう!

 

巻き起こる黒い竜巻!

巨大な竜巻が空に浮かぶ邪龍を、複製体を細切れにし、跡形もなく消滅させた!

そこから、モーリスさんは黒い剣戟を飛ばし、前方の群れを薙ぎ払っていく!

 

これで前方がかなり開けることになった。

 

それを確認したモーリスさんがゼノヴィアに問う。

 

「ゼノヴィア! いけるか!」

 

僕達の後方には、二振りの聖剣―――――エクスカリバーとデュランダルを天に掲げるゼノヴィア。

刀身には凄まじい聖なるオーラが滾っている。

 

ゼノヴィアは不敵に笑み、

 

「ああ、もう十分だ。いくぞ、デュランダル、エクスカリバー!」

 

ゼノヴィアが二刀を振り下ろし、長時間チャージされていた聖なるオーラが解き放たれる。

僕とモーリスさんは横に飛び―――――強烈な砲撃が通り抜けていった!

 

大地を深く抉り、天まで届く聖なる斬撃!

近くにいた邪龍は当然、かなり離れた場所にいた邪龍、赤龍帝の複製すらも呑み込んでいった!

 

後に残ったのは伝説の聖剣が残した傷跡だけ。

ゼノヴィアの砲撃が通過した場所は煙を上げ、今の一撃がどれ程のものだったかを物語っている。

 

ゼノヴィアは肩で息をしながら言う。

 

「私もかなり派手になっただろう? 今のでかなりの数を減らせたと思うが」

 

君はずっと派手だよ。

まぁ、減らせたのは認めるけどね。

 

モーリスさんが苦笑しながら言う。

 

「すまんな、砲撃役に徹してもらって。悪いが、この面子じゃ、砲撃役が出来る奴は少ないんでな。今回ばかしは無理を承知で頼んでいる」

 

僕達三人はそれぞれ役割を分担をして戦っている。

いわゆる、スリーマンセルだ。

 

僕が先行し、持ち前のスピードと聖魔剣の多様性を活かして量産型邪龍を斬る。

モーリスさんは量産型邪龍を倒すと同時に強大な力を持った赤龍帝の複製体を彼の絶技を以て殲滅。

そして、僕達二人が戦っている間にゼノヴィアが聖剣の力をチャージして、遠方にいる敵を一気に屠る。

 

ただ、ゼノヴィアは毎回フルパワーでの砲撃を放っているため、消耗が激しい。

 

「気にすることなんてない。私は私に出来ることを最大限にやるだけだ。イッセーがいない今、彼の分まで力を発揮しようじゃないか」

 

ゼノヴィアは汗を拭いながらも、力強くそう答えた。

 

そう、彼女の言う通り、イッセー君はこの場にいない。

彼はクリフォトの首領リゼヴィム・リヴァン・ルシファーを降した後、倒れてしまったからだ。

異世界の神アセムと会話した後、気を失ったとのことだが………。

 

今はソーナ前会長の伝手でシトリー領にある病院に搬送されている。

何も問題がなければ良いのだが………。

 

モーリスさんはゼノヴィアの頭に手を置くと笑んだ。

 

「ま、あいつがそう簡単に死ぬとは思えん。問題ないだろ。何より、おまえさん達を残して逝くとは思えねぇ。あいつの夢はハーレム王なんだろう?」

 

確かにその通りだ。

イッセー君が美羽さんやアリスさん、リアス前部長達を悲しませるようなことをするとは思えない。

彼は次元すら越えて、その意思を貫いたほどだからね。

 

「さて、この辺りは粗方片付いたと思うが………」

 

モーリスさんは今も激戦が続く戦場を見渡した。

この近辺を襲撃していた敵戦力はほとんど倒したはずだ。

 

この後の行動としては戦況の厳しい場所に移動して、友軍を援護。

敵勢力の撃退なのだが………。

 

「アレをどう退けるかね? いや………他にもヤバイ奴がいるか」

 

モーリスさんの視線は僕達のいる場所の西へと向けられる。

そこの遥か上空では空半分を闇が覆い、その闇に対抗するようにもう半分を神々しい光が覆っていた。

 

光と闇、相反する力がぶつかり合っている。

二つの力の起点にいるのは一組の男女。

闇を放っているのは黒い祭服を着た褐色の肌の美青年、光を放っているのは黄金に輝く翼を広げた女性。

 

青年は直接面識があるわけではないので確証はないが、アザゼル先生から聞いた話から察するに『原初なる晦冥龍』アポプスだろう。

聖杯の力で復活した邪龍筆頭格の一体だ。

 

そして、そのアポプスと対峙している女性はアリスさんだ。

熾天使のような姿になった彼女からは神格の波動が感じられる。

 

―――――神姫化。

 

アグレアスの戦いでアリスさんは覚醒し、神の力を得た。

その力はアセムの眷属の一人、ヴィーカを圧倒するレベル。

 

だが………。

 

「推されてるな。アリスはかなりの力を出しているが、相手には結構余裕がある」

 

モーリスさんは厳しい表情で呟いた。

 

遠目でしか判断できないが、アポプスの表情には確かに余裕が見える。

そして、僅かにだがアポプスの放つ闇がアリスさんの光を侵食し始めていた。

二人の拮抗が崩れ始めたんだ。

 

神の力を得たアリスさんをも超える力を持っているというのか………!

 

もう一体の邪龍筆頭格アジ・ダハーカはトライヘキサの傍らで佇んで、戦場を眺めているだけだが………奴もアポプスと同レベルの力を持っているとすると、かなり厄介だ。

 

神を超えた力を持つ邪龍が二体。

これはあまりに脅威だ。

 

邪龍筆頭二体の脅威について考えていると、上空で邪龍を殲滅に出ていたリーシャさんとロスヴァイセさんが降りてきた。

リーシャさんの肩には二人組の妖精、サリィとフィーナ。

 

リーシャさんが目を細めて言う。

 

「アリスの援護に行きたいところですが、そう簡単にはいきませんね」

 

リーシャさんの視線の先にはトライヘキサ。

七つの首の内の一つが嘔吐き、大きく口を広げた。

 

また、火炎を吐くつもりか………!?

そう思って身構える僕だが、その予想は見事に外れた。

 

トライヘキサの口から吐き出されたのは――――――無数の量産型邪龍だった!

通常タイプの邪龍だけでなく、グレンデルタイプとラードゥンタイプの量産型邪龍もいる!

 

まさか、トライヘキサが量産型邪龍の生産まで担っているなんて!

 

ロスヴァイセさんが言う。

 

「これではトライヘキサを封じるか倒さない限り、邪龍は永遠と増え続けることになりますね。恐らく聖杯の力とトライヘキサの力を組み合わせて、その生産性を高めているのでしょうが………」

 

「トライヘキサをこの場で倒すのは不可能でしょう。圧倒的に戦力が足りません。では、聖杯を奪取する方法で行きたいところですが………所持しているのはあの邪龍筆頭格の二体の内どちらか。今のアリスですらアポプスには届かないことを考慮すると、現状、奪取することでさえ厳しいですね」

 

リーシャさんがそう続け、モーリスさんも深く息を吐いた。

この二人ですら、この感想なのか………。

 

量産型邪龍だけなら余裕で屠ることが可能だ。

この二人だけじゃない、僕達も激戦を潜り抜け力をつけてきた。

引けを取ることはないだろう。

しかし、その数が無尽蔵に来るとなれば話は別だ。

 

「祐斗、その状態を解いておけ。適度にペースを落とさないとすぐにバテるぞ」

 

モーリスさんの言葉に頷いた僕は言われた通り、騎士王形態を解いた。

 

トライヘキサが量産型邪龍の生産工場であることが分かった以上、ペース配分を考えないとすぐに体力を失ってしまうだろう。

禁手第二階層はそれだけ消耗が大きい。

僕はまだイッセー君のようにこの力を完全に扱えているわけではないからね。

 

モーリスさんがインカムを通じてリアス前部長に話しかけた。

 

「リアス、そっちの状況は?」

 

『正直、厳しいわね。サイラオーグ達も戦ってくれているから、戦況は保てているけど………これ以上数を増やされたとなると………』

 

「流石に手が回らないか。援軍の見込みは?」

 

『アザゼルに確認を取ったけれど、まだ時間がかかるそうよ。トライヘキサの復活というだけでどこの神話勢力も大混乱。一応、援軍の了承はしてくれているようだけれど、どれくらいの時間で到着するかは分からないみたいね』

 

グレートレッドと並ぶ皇獣が復活し、攻撃を仕掛けてきた。

そんな情報を受ければどこも混乱するだろう。

 

また、トライヘキサの襲撃を受けてから時間は僅かしか経っていない。

………増援はまだ厳しいか。

 

元々、ここはグリゴリの研究施設。

武闘派よりも研究職の堕天使の方が多い。

そのため、戦える戦士の数が限られている。

 

今、戦っているのは『D×D』メンバー以外では堕天使と悪魔、そして天界から派遣された天使達。

向こうは戦力をこの場で増やすことが出来るが、対してこちらは減っていく一方。

 

「早いところ何とかしないと、物量で押しつぶされそうです………ね!」

 

リーシャさんは上空に飛び上がると、両手に握る魔装銃を構え、遠くにいた量産型邪龍を狙い撃った。

彼女の周囲を幾つもの魔装銃と盾が飛び交い、狙撃と防御が同時に行われていく。

邪龍と戦い、危なくなっている味方を守り、迫る邪龍を次々と撃ち抜くリーシャさんの攻防一体の猛撃。

 

この戦いの間に『女王』へとプロモーションしたのだろう。

彼女は『騎士』の機動力で戦場を駆け回りながら、正確無比に邪龍を狙い撃つ。

 

あの妖精二人とのコンビネーションがあって、初めて成り立つ戦い方だとリーシャさんは言っていたが、その戦いぶりは華麗で鮮やかなものだった。

 

モーリスさんが空に浮かぶトライヘキサを眺めながら言う。

 

「いいか、おまえ達。この場で求められるのはあの怪物を倒すことじゃない。………いや、本来ならそれがベストなんだが、そいつは無理だ。不意を突かれた上にこれだけの戦力差。これを覆すには奇跡でも起きねぇ限りは難しいだろう。この場で俺達がやるべきことは、可能な限り戦えない奴を逃がすこと。そして、あの怪物が退くまで戦線を保たせることだ。あんまり前に出すぎるなよ?」

 

頷く僕とゼノヴィア。

 

僕は呼吸を整え、剣を構えた………その時だった。

 

トライヘキサと各地で暴れまわっていた邪龍達に変化が訪れる。

奴らの足元に魔法陣が展開されたのだ。

 

「あれは………」

 

ロスヴァイセさんが呟くと同時に、奴らの姿は魔法陣の光の中に消えていった。

 

この地域一帯を飛び回っていた邪龍も、複製体も、アリスさんと激戦を繰り広げていたアポプスも、そして………トライヘキサの姿も消えてしまっていた。

 

「転移した………?」

 

今の今まで激しい戦いが行われていたことが嘘であるかのように静まり返る戦場。

 

突然の撤退に戸惑う僕達。

周囲からも疑問と更に警戒を強めるよう注意する声が聞こえてくる。

 

僕達は警戒を強め、周囲を見渡す。

 

すると、インカムから声が聞こえてきた。

それはイリナからの通信で―――――。

 

『大変よ! 天界にトライヘキサが現れたって!』

 

 

[木場 side out]

 



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2話 混乱する世界

[アザゼル side]

 

 

トライヘキサが復活を果たしてから、五日が経過した。

 

俺はバラキエルと共に冥界、悪魔世界の首都リリスにある魔王城にいた。

そこにある作戦会議室にて、集まった悪魔側と堕天使側の首脳陣と共にトライヘキサの対策を話し合っている。

 

サーゼクスは別件で一時的に席を外しており、グリゴリの現総督シェムバザはグリゴリの本拠地で直接指揮を執っている。

 

五日前のクリフォトへの奇襲作戦は一応の成功は果たしたと言える。

クリフォトの首領であるリゼヴィムを討ち取り、アグレアスは奪還できたため、当初の目的は達した。

 

しかし、俺達を待っていたのは予想を遥かに越えた結末だった。

 

リゼヴィムは最悪なことにトライヘキサを復活させてしまったのだ。

自分の死を最後の鍵として、トライヘキサに掛けられていた封印術式を一気に吹き飛ばしてしまうという仕掛けを施していた。

 

復活したトライヘキサはアポプス、アジ・ダハーカの邪龍筆頭格、邪龍、複製赤龍帝と共に行動を開始。

復活したその足でグリゴリの施設を破壊していった。

 

………復活してすぐにグリゴリの施設を狙ったのは手っ取り早く壊せるからだろう。

 

で、冥界の堕天使サイドをやったら、次は同じ世界にある悪魔世界を襲うと思いきや、俺達の行動を読んでか、天界に空間転移だ。

虚を突いたなんてレベルじゃない。

 

………トライヘキサと戦った配下の大勢が戦死した。

幹部であるサハリエルとベネムネさえ重傷を負わされ、意識がない状態だ。

 

くそったれ………ッ!

破壊された施設には俺のラボもあったんだぞ。

あそこには研究途中のものもあった。

中にはかなり重要な資料もあったんだ。

今回の件で研究は遅れることになるな………。

 

何より、優秀な職員を、配下を失ってしまったのは大きすぎる………!

提出された死者のリストには昔から俺に着いてきてくれた奴らもいた。

若い頃から俺とバカやってた奴らだ。

 

………やっぱり慣れないものだな、失った時の喪失感ってやつは。

何百年経っても、この手の後悔は消えないものだ。

 

天界の被害も甚大だ。

セラフメンバー三名が重傷、四大セラフもラファエルが片足を失い、ウリエルは片腕を持っていかれたと報告が来た。

ミカエルですらトライヘキサの相手が出来ず、手負いとなっている。

天界のトップを務める奴がこの場にいないのも、現在、治療中であることと破壊しつくされた天界基地の復旧に当たっているからだ。

 

幸い『システム』は守り切ることが出来たようだが………その犠牲はあまりに大きい。

この僅かな時間でどれだけ多くの黒い羽と白い羽が散っていったことか。

 

グリゴリの施設同様、天界をある程度破壊した後、奴らは姿を消した。

俺達は姿を消した奴らをすぐに追跡したが、結局は見つけられず仕舞い。

 

俺達の索敵に引っかかる前に奴らが姿を見せたのは――――――。

 

「北欧の世界も火に包まれているというのか…………」

 

バラキエルが円卓に映し出されている映像を見て戦慄した。

 

そう、奴らは今、北欧に進撃している。

 

北欧の世界は三層になっており、最下層には死の国ヘルヘイムや氷の国ニヴルヘイムがあり、最上層には神々が住むアースガルズがある。

神々の住むその領域に七つの首を持った全長数百メートルの怪物―――――トライヘキサは姿を現した。

最下層に転移したトライヘキサはそこから破壊を始め、復活から五日目の今日、最上層に到達した。

 

恐るべき侵攻スピードだ。

現在、北欧の神々、ヴァルハラに仕える英霊達、ヴァルキリー部隊もトライヘキサ軍団を止めるため、死力を尽くして立ち向かっている。

 

だが、トライヘキサの吐く凶悪で強火な火炎は、その一撃で彼らの命を容赦なく奪っていく。

 

トライヘキサの傍らに漂う二つの影。

三つ首の邪龍『魔源の禁龍』アジ・ダハーカと人間態の『原初なる晦冥龍』アポプス。

こいつらも強力だ。

 

アジダハーカは空を埋め尽くす無数の魔法陣を展開し、そこからあらゆる特大の炎、氷、水、雷、暴風と、数きれないほどの属性魔法を超広範囲で撃ち放ち、ヴァルハラの英霊達を襲う。

 

アポプスは天空に特大の闇を作り出して、太陽を覆おうとする。

奴の術で太陽が覆われたらアウトだ。

アポプスの禁術が発動し、一帯全域を『原初の水』と呼ばれる暗黒の大河で飲み込んでいくからだ。

食らえば、神クラスであろうと抗えるかは分からない。

 

アポプスを止めようとヴァルキリーの大部隊が魔法陣を展開させる。

巨大な闇の球体が太陽を陰らせたところで、動きを止めた。

ヴァルキリー部隊とアポプスによる一進一退の術式戦が始まるが………。

 

アポプスには余裕がある。

やろうと思えば、ヴァルキリー部隊の術式を押し返し、直ぐにでも暗黒の世界を創れる。

それをしないのはこの状況を楽しんでいるからだろう。

 

アジ・ダハーカとアポプス。

この二体の実力はずば抜けている。

復活前よりも力を上げているのは聖杯の力か………?

いや、あの二体のことだ、復活後に自らを鍛え上げたという考えも出来るな。

どちらにせよ、奴らの実力は常軌を逸している。

 

魔王の一角、ファルビウム・アスモデウスが口を開く。

 

「何事もなく転移できているのはアジ・ダハーカの禁術かな。これは厄介だ。複製赤龍帝の力で強化できるとしたら………。結界なんてお構いなしだろうね。これでは勢力間で助け合いなんて無理だ。どこだって、急な襲撃に備えて自国を守る方を優先する」

 

セラフォルーも続くように口を開いた。

 

「邪龍くん達の行動は誰かの入れ知恵かしら? 無闇やたらに暴れまわっているように見えて、フットワークが軽いってイメージがあるのよね」

 

セラフォルーの言うように奴らには奴等なりの目測があると見える。

完全に破壊するのではなく、ある程度まで壊すことが出来ればそれで良しとしているようだ。

 

和平関係にある各勢力は被害を受けている神話体系のもとに援軍を送りたいところなのだが、世界間ごとの強固な結界をモノともせずに転移してくるトライヘキサ軍団に、どの勢力も自国の守りを固めるだけで精一杯なのだ。

 

とはいえ、冥界の悪魔側と堕天使側、加えて天界も送れるだけの戦力は派遣している。

テロ対策チームたる『D×D』も北欧に行ってもらっている。

映像でもリアス達が多くの邪龍を相手に勇敢に立ち向かう姿が映されていた。

 

バラキエルが厳しい表情で魔王達に問う。

 

「悪魔世界はどのような様子なのだ? かなりの混乱状態にあると聞くが」

 

冥界、悪魔側では俺達がいる首都リリスを始め、各主要都市に軍隊、警察官、上級悪魔、そして最上級悪魔も眷属を率いて待機してもらっている。

悪魔側の戦力をほぼ総動員している形だが、それでも足りないくらいだろう。

大抵ことならこれで乗り切れるが、今回は相手の桁が違うからな。

 

現在起きている事態は一般市民の悪魔達にも伝わっており、魔獣騒動の再来だと混乱に陥っている。

また、このどさくさに紛れて破壊活動をし始める輩もいるという具合だ。

その輩もすぐに鎮圧されていたが…………どこもかしこも大混乱だ。

 

トライヘキサと邪龍軍団。

教え子が、部下が、仲間が戦っているというのに、ここで指揮するしかない己が恨めしい。

 

………現役を引退したのはちょいとばかし早かったか。

 

だが、そんなことを愚痴っていても事態は好転しない。

俺は俺ができることをするまでだ。

 

そんな気持ちでいると、北欧の戦線に新たな増援が加わっていた。

 

「インド神話の神々………! 阿修羅神族まで来てくれたか………!」

 

猿の神ハヌマーン、象の頭のガネーシャ神が大勢の配下を連れての登場だ!

しかも、阿修羅神族から阿修羅王ヴァルナまでもが部下を引き連れて北欧に加勢にいきやがった!

 

各神話体系の中でもインド神話勢力はバケモノクラスが多い。

その中から駆けつけてくれた神々はその一撃だけで無数の量産型邪龍と複製赤龍帝を消し去っていく。

 

しかし、どれだけ削っても量産型の邪龍と複製赤龍帝は延々と増えていく。

 

トライヘキサの首の一つ、ドラゴンの頭部から吐き出される丸い卵のような物体。

そこから複製赤龍帝と邪龍が飛び出してくるのだ。

 

これが俺達が苦戦している要因の一つ。

 

リゼヴィムの野郎がそういう風に改造したのだろう。

トライヘキサはあの軍団の生産も担っていた。

 

生産者であるトライヘキサを止めようにも、奴は北欧の神々とインド神話の神々の猛攻を受けても気にも止めない。

僅かな傷は与えても、すぐに回復してしまう。

 

トライヘキサの頑強さには舌を巻くしかない。

これが黙示録に記された伝説の獣………!

 

多くの神々が参戦したこの戦場は終末の戦争としか思えない有り様だ………!

こんな局面は三大勢力の戦争、いや、それ以上の―――――。

 

そんな時、突如として、トライヘキサ側の攻撃の手が止まった。

同時に奴らを覆うように転移魔法陣が展開、奴らは転移の光に消えていく。

 

突然のことに戦場にいる者は驚き、呆気にとられている。

おそらく、奴らの目標は大体達することが出来たのだろう。

 

俺達は各自、配下に命じて奴らの次の転移先を探らせるが………無駄に終わるだろうな。

 

トライヘキサの軍団が姿を消して、数分。

奴らがどこかに現れたという情報は入ってこない。

 

そして―――――

 

『おおおおおおおおおおおおっ!!』

 

映像の中で勝鬨が上がる。

北欧はなんとか防衛できたということで良いのだろうな。

 

邪龍側の突然の退却、この理由は恐らく―――――。

 

ファルビウムは難しい表情となる。

 

「………聖杯かな?」

 

「だろうな。おそらく、聖杯が一時的な限界を迎えたんだろう。あれほどの数を生産しているが、それが無限というわけではない。とれだけ強化しようが、必ず限界はある」

 

無限なんてもんは全盛期のオーフィスのみを指すのだから。

 

北欧の防衛が成功したちょうどその時、会議室に入ってくる者がいた。

用事を済ませてきたサーゼクスだ。

 

「どうやら、北欧は守れたようだ」

 

「まぁな。とりあえずは防衛成功ってことで良いだろう」

 

サーゼクスは頷くと会議室の面々を見渡して、

 

「この事を冥界の皆に伝えようか」

 

魔王ルシファーは、不安を抱えている冥界の民衆に語りかけることにしたのだった。

 

 

[アザゼル side out]

 



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3話 切り札と結託

再開早々、連続投下ァァァァァァァァ!


[アザゼル side]

 

同じ建物にある放送スタジオにて。

現在、サーゼクスとセラフォルー―――――現魔王ルシファーと現魔王レヴィアタンによる緊急放送が始まろうとしていた。

 

俺はスタジオの脇でその様子を見守っている。

 

全チャンネルを使って、魔王二名が冥界全土に向けて今回の件について語る。

 

カメラが回り、まずはサーゼクスがモニターに映る。

 

『冥界の皆さん。現在、冥界全土、堕天使領を含め、この悪魔の世界に未曾有の危機が襲っております』

 

サーゼクスは語りかけるように今回の事件の経緯を国民に話しかけていく。

リゼヴィムが全ての元凶であったこと、邪龍を操りトライヘキサという伝説の魔物を復活させたこと。

そして、そのトライヘキサが各勢力の領域で大暴れしていること。

 

モニターにとある映像が流れていく。

それは俺達首脳陣クラス、現場の者達しか目にしていないであろう戦争の現実。

トライヘキサの軍団が冥界、天界、北欧の世界を襲撃している映像だ。

 

『ご覧になられている生物は伝説の魔獣トライヘキサであり―――――』

 

神クラスまで参戦している光景は俺が見ても世界の終わりを思わせてしまう。

一般の者ならば尚更だろう。

 

映像はトライヘキサ達が退き、勝鬨をあげる戦士達の姿が映し出した。

サーゼクスが北欧戦線の防衛に成功した映像をバックに語る。

 

『戦っているのは悪魔だけではありません。同盟関係にある堕天使、天使の方々、更には他の神話勢力からと心強い味方が駆け付けてくれています』

 

そこで一度話を切ったサーゼクスは瞑目した後、カメラを真正面に捉えて口を開く。

 

『敵はあまりに膨大です。今回は退けることかできましたが、すぐに姿を現し、破壊を再開させることでしょう。その規模はかつてない程に大きい。しかし、心を強く持っていただきたい。我々にはまだ希望がある』

 

映像が切り替わる。

新たに映し出されたのは若き精鋭達。

赤龍帝たるイッセー、滅殺姫の二つ名を持つリアス、大王次期当主であるサイラオーグ天界のジョーカーたるデュリオ等々。

冥界の国民も良く知るメンバーが次々に写し出されていった。

 

『テロ対策チーム「D×D」をはじめ、悪魔世界が誇る勇猛な戦士達が冥界を、皆さんを、各勢力を、そして世界を救うために命をとして戦ってくれています』

 

すると、サーゼクスの前に顔を出したセラフォルーが笑顔をカメラの向こうに送る。

 

『私も前線に立っちゃうんだから心配しないでね!』

 

サーゼクスも微笑みながらも、力強くこう述べた。

 

『必ずこの冥界と皆さんを守ります。この命を賭けても』

 

 

 

 

放送が終わり、席を立つサーゼクスとセラフォルー。

 

俺はセラフォルーに話しかける。

 

「いつも通りなんだな」

 

「こういう時だからよ。――――さて、そろそろ私も前に出ないとね」

 

勇ましい顔つきのセラフォルー。

普段の軽い雰囲気はそこにはなく、一人の魔王としての顔がそこにあった。

 

サーゼクスが小さく笑う。

 

「君と君の眷属にはいつも迷惑をかけるな」

 

「そんなつれないことは言わないでよ。長く、一緒にやってきた仲じゃない? こういう時に動いてこそ『魔王』でしょ。それにソーたんも戦ってる。だったら、私も前に出ないとダメじゃない? だって、お姉ちゃんだもの☆」

 

ブイサインと共にウインクするセラフォルー。

 

魔王の自覚は出てもシスコンは変わらずか。

まぁ、こいつらしいと言えばそうだが。

 

やれやれと苦笑を浮かべる俺だったが、一つ、先程の放送について話があった。

 

「異世界の神については話さなかったな」

 

そう、先程の放送では敵勢力として伝説の魔物トライヘキサと、それに従う邪龍、複製赤龍帝の軍団について挙げられた。

それに関する現状と今後の対策、そしてレーティングゲームの不正。

 

しかし、異世界の神についての話は一切出なかった。

いや、出さなかったと言った方が正しいのか。

 

サーゼクスは頷く。

 

「冥界はトライヘキサという神々ですら手に余る強大な魔物だけで混乱に陥っている。そこに異世界の存在が絡めば、いよいよ収拾がつかなくなってしまうだろう。今はまだその時でないと判断した」

 

「異世界アスト・アーデについては各勢力の首脳陣、幹部クラスしか知らないことだもの」

 

「ハーデスの件で異世界の神への認識が改められたが…………、異世界を認知する者の中には異なる世界そのものを危険視する者が出てくるかもしれない」

 

サーゼクスは冷静にそう語る。

 

確かにアセムの件で異世界アスト・アーデに対して危機感を持つ者も現れるだろう。

奴はそれだけの力を示してしまっている。

ハーデスの件もそうだが、今回、トライヘキサが引き連れている赤龍帝の複製体は奴らが生み出したものなのだから。

イッセーの技術や底なしのど根性まで反映できていないのは幸いだが、単純な攻撃力は魔王レベル。

あの複製体軍団だけで、どれだけ苦戦させれているか。

 

だが―――――異世界の存在は敵側にだけいるわけじゃない。

 

俺は北欧戦線の映像を思い出しながら言う。

 

「アスト・アーデ出身のメンバーが体を張って戦ってくれているんだ。あの姿を見ている奴らは大勢いる。その辺りは何とかなるだろう」

 

「そうね☆ 私も赤龍帝くんの妹ちゃんは可愛いと思うし、とっても良い子よ?」

 

セラフォルーが微笑みながらもそう言った。

 

美羽とアリスから始まり、現在ではモーリス、リーシャ、ニーナ、ワルキュリアと、赤龍帝眷属の大半のメンバーが異世界アスト・アーデの出身だ。

 

あいつらは北欧の戦場において、味方を守りながら、多くの敵を打ち倒していた。

トライヘキサの吐き出す業火を前にしても、あいつらはこの世界のために戦ってくれている。

 

映像を見て改めて思ったことだが、赤龍帝眷属のメンバーの殆どが異世界出身というのは、こういう面でも良かったのかもしれん。

異なる世界の存在がこの世界のために力を振るってくれる。

 

アセムによって、異世界を脅威として考えてしまうのは仕方のないことだろう。

だが、赤龍帝眷属の戦う姿は異世界への希望も見出だせるものだと俺は思う。

まぁ、俺は実際に向こうの世界を見てきたが。

 

セラフォルーがサーゼクスに問う。

 

「私は行くけど、サーゼクスちゃんはどうするの?」

 

「出るさ。私にも『魔王』をやらせてくれ」

 

サーゼクスが出るということは、真の姿になるんだろうな。

―――――あの滅びの化身に。

 

今回の敵はそれだけしないと勝てない相手だということだ。

 

「うん、そう言うと思ってたわ。それじゃあ、私は行くわね」

 

セラフォルーはこちらに手を振りながら、この場を足早に後にした。

 

後に残った俺とサーゼクス。

こうしてると、冥府に行ったときを思い出すぜ。

 

ただ………今のサーゼクスの言葉に俺は少し思うところがあった。

 

世界の終末みたいな状況だ。

本音を言ってみても良いかもしれんな。

 

俺はずっと言いたかったことを、サーゼクスに伝えてみることにした。

 

「なぁ、サーゼクス。おまえは本来のルシファーじゃない。真名は『サーゼクス・グレモリー』だ。別に悪い意味で言っているわけじゃないぞ? ただな―――――」

 

そこまで『ルシファー』を背負わなくても良いのではないか?

俺は常々そう思っていた。

 

こいつは悪魔としては若い。

一千年も生きていない若造だ。

ルシファーの家に生まれた者ではない。

ただ、力が強かっただけの貴族の坊ちゃんだ。

 

「フフフ、堕天使の長は優しいね。だがね、これは私が望んだことでもある。確かに私は本来の『ルシファー』ではない。偽りの魔王に過ぎない。それでも、この冥界を守りたいという気持ちは本物なのだ。それにグレモリーの家に生まれた私は元々、民を守る義務がある」

 

それを言われると何も言えなくなるじゃないか。

 

魔王として、グレモリーの者として、力ある者の一人としてこの冥界を守る。

そういや、イッセーに昇格推薦を出したときにも、そんなこと言ってたけな。

 

サーゼクスはにこやかに微笑む。

しかし、こいつの瞳は真っすぐで―――――

 

「戦うさ、私も。この命に代えても皆を守って見せる。それにね、義弟が、妹が戦っているのに兄が何もしないのでは格好がつかないだろう?」

 

「義弟ねぇ……。ま、そいつは確定しているようなもんか。この戦いが終わったら『お兄ちゃん』とでも呼んでもらえ。最近、『お兄ちゃん』と『お姉ちゃん』って単語を耳にする機会が増えてな。なぁ、サーゼクス………シスコンって伝染するのか?」

 

「フフフ………当然さ! 私も久しぶりに『お兄ちゃん』と呼んでもらいたいものだよ! もしくは『おにーたま』でも可!」

 

親指を立ててウインクを送ってくるサーゼクス。

 

うん、こいつは話を振った俺が悪いんだろうな。

こいつも底なしのシスコンだったわ。

なるほど、この非常事態においてもセラフォルー同様、こいつのシスコンはぶれないらしい。

 

妙な納得をしていると、俺達の目の前に現れる者がいた。

血のように赤い瞳をした、金髪の少女。

足元に影はなく、気配から吸血鬼だと認識できる。

 

俺はこの少女とは面識があった。

そして、この少女の登場を待っていたのだ。

 

「よく来てくれた―――――エルメンヒルデ」

 

俺の声にエルメンヒルデ・カルンスタインか軽く会釈した。

 

吸血鬼カーミラ派カルンスタイン家の娘、エルメンヒルデ。

吸血鬼サイドと協議をする際、駒王町へと赴き、吸血鬼の町では俺達の案内役を務めたあの高圧的な少女。

 

だが、以前のような高慢な態度は鳴りを潜めていて、今は儚い雰囲気を出していた。

 

祖国が壊滅的な被害を受け、一から再建しなければならない状況だしな。

国の危機とあって、カーミラはあちこちに援助を仰ぐようになっている程だ。

この娘はその尖兵として各地に派遣され、相当な気苦労をしているのだろう。

 

そんなエルメンヒルデに俺は訊ねた。

 

「どうだった?」

 

すると、彼女は俺に端子つきのメモリを一つ手渡してきた。

 

こいつは…………やはりな。

 

エルメンヒルデが言う。

 

「元総督さまの予想通りです。マリウス・ツェペシュが秘匿していた研究データが見つかりました」

 

俺は探していた。

リゼヴィムも知らないであろう聖杯の情報を。

 

マリウスは吸血鬼の王子でヴァレリーの聖杯を研究していた。

そんな奴もリゼヴィムに騙され、利用されるだけの器量しかなかった。

 

だが、純血の吸血鬼、しかも王家の血を引く者が他の種族にみすみす研究成果を渡してしまうものだろうか?

たとえ渡すとしても、それはすぐに分かるようなことだけで、核心に迫るような情報は隠しているではないだろうか?

 

そう考えた俺は調査員を派遣して、現地のカーミラ派と共同でツェペシュの王宮の隅々から、マリウスと関与した者達のプライベートまで全てを調査してもらった。

 

そして、俺の考えは的中する。

 

エルメンヒルデが言う。

 

「マリウス・ツェペシュの食料係………つまり、吸血鬼に血を与える人間の一人が未公開の聖杯の情報を持っていました。体に術式を刻まれる格好で、です」

 

「なるほどな。秘匿情報を術式として刻んだわけか」

 

「はい。リゼヴィム・リヴァン・ルシファーを国内に招き入れる直前にその者を食料係の任から解いて、国外追放していたようでして、探すのが難航しました」

 

「そりゃ、中々に用意周到だな。マリウスも利用されるだけの馬鹿じゃなかったってことか。苦労をかけたな、エルメンヒルデ。助かったぜ」

 

俺はメモリを見つめながら、エルメンヒルデに礼を言った。

 

………ふと思ったことなんだが、

 

「ついでにイッセーの顔を見ていくか? 近くの病院で入院中だが?」

 

俺がそう言うと、エルメンヒルデは顔を紅潮させる。

 

「ど、どどどとうして赤龍帝の名前が出てくるのですか!? わ、私と、か、か関係ありません!」

 

ほほう、これは面白い反応じゃないか。

年明けにイッセーと再会した時に色々あったと聞いてたんで、もしやと思い鎌をかけてみたら…………。

 

あいつ、また異種族の女を落としたのかよ。

悪魔に天使に堕天使、異世界の姫二人に吸血鬼。

 

なんというか、あいつって実は結構モテてるよな。

学園でも隠れファンなるものがいるらしいし。

 

エルメンヒルデは気を取り直した後、一礼してこの場を去っていった。

 

エルメンヒルデを見送りながら、サーゼクスが俺に言う。

 

「それでは、私は眷属と話し合ってくるよ」

 

「んじゃ、俺はあいつらと会ってくる」

 

リゼヴィムとの一戦から眠りっぱなしのイッセーの容態も気になるしな。

あれだけ滅茶苦茶な力を使ってたんだ、それだけ負荷も大きいだろう。

 

俺はサーゼクスとその場で別れた後、息を吐いた。

 

…………さて、早いとこ、こいつの解析を済ませますかね。

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

《貴公から接触してくるとはな》

 

アポプスは開口一番にそう言った。

 

北欧世界から引き上げたトライヘキサとその軍団。

彼らは一度、限界を迎えた聖杯を休ませた後、次の目的地へと侵攻する予定だった。

 

しかし、彼らの予定は変更となった―――――アスト・アーデの神、アセムの接触によって。

 

「いやぁ、良い感じに暴れているみたいだねぇ。リゼ爺と違ってストレートすぎる分、過激さもまた違っているねぇ。世界はもう大混乱じゃないか」

 

《そのようなことを言いに来たわけではないだろう? ………この場所はなんだ? ここが貴公らのいた世界、というわけではあるまい?》

 

アポプス達はアセムによってとある場所へと案内されていた。

そこはアポプスが見たことのない場所。

 

それは当然のことだった。

 

なぜなら―――――ここは完全なる別世界だからだ。

 

「まっさかー。アスト・アーデはこんなに寂しい場所じゃないよ。ここはね――――」

 

いつもの笑みを浮かべながら、アセムはこの場所について語りだす。

その言葉は邪龍筆頭格である彼にとっても想像を越えていて―――――。

 

《そのようなことが………。なるほど、異なる世界の神が持つ力、か。貴公に訊きたい。我らに接触してきた理由は想像がつく。貴公はこの戦いの先に何を見ている?》

 

アセムの目的は世界を滅ぼすことでも、自分のものにするためでもない。

そのようなことに興味はない。

 

アセムは血のように赤い、真っ赤な空を見上げて自嘲気味に笑んだ。

 

「なに、僕の願いなんて、君達が訊けば鼻で笑ってしまうような甘っちょろいことさ。世界はそんなに甘くない。それを分かっておきながら、僕は動いた。ほんの僅かな可能性に賭けてね」

 

《その可能性というのは今代の赤龍帝か?》

 

アポプスの問いにアセムは笑みで返した。

アポポスもそれ以上、踏み込むような問いかけはしなかった。

 

「君達には少しだけ僕に協力してほしい。ただ、その代わり、僕達も万全の状態で君達を支援しよう。―――――世界中の神達と、歴戦の戦士達、英霊達と真正面から全面戦争。僕と手を組めばこの戦いを更に激しく、もっと楽しいものになることを約束しよう。これは君達にとっても望むところじゃないかな?」

 

全ての勢力と全面戦争。

現状でも世界中を巻き込んだ戦いにはなっているが、こちらが仕掛ける一方で全面戦争というレベルには達していないだろう。

 

―――――更に激しく、もっと楽しく。

世界中の猛者達が集結し、かつてない戦いを繰り広げられる。

 

アセムの協力があれば、それが叶う。

この神はリゼヴィムよりもドラゴンというものを理解しているらしい。

冥府を一人で壊滅させた実績を持つことからも、その力は確かなもの。

アセムであれば、それだけの戦力を揃えることも可能なのだろう。

 

異世界の神の言葉は最強クラスの邪龍を高揚させるには十分だった。

 

《良いだろう。まずは貴公の話を詳しく聞かせてもらおうか》

 

「アハッ、そうこなくっちゃ♪」

 

[三人称 side out]

 



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4話 目覚めない英雄

[木場 side]

 

北欧世界でトライヘキサの軍団との戦闘を終えた僕達『D×D』メンバーは一度解散して、それぞれの部署に戻っていた。

 

デュリオさん、イリナ達天使組は修復中の天界基地へ、レイナさんはグリゴリの施設のある冥界の堕天使領へ戻り、修復の手伝いをしている。

サイラオーグ・バアルさんとシーグヴァイラ・アガレスさんは治療を終えた後、冥界で起きている暴動を治めるため、それぞれ眷属を連れて現地に急行した。

ソーナ元会長のシトリー眷属もそれについて行っている。

 

僕を含めたグレモリー眷属と赤龍帝眷属は首都リリスにある『セラフォルー記念病院』に足を運んでいた。

ここは冥界でも屈指の医療設備とスタッフが揃った高名な病院。

 

そこにイッセーくんが入院しているのだ。

 

入院と言っても、傷そのものはアーシアさんの治療によって完全に塞がっている。

しかし、完治したはずなのにイッセーくんは目を覚まさないんだ。

 

五日前のアグレアス奪還、及びクリフォトへの奇襲作戦。

あの戦いでイッセーくんはリゼヴィムを追い詰めた。

追い詰められたリゼヴィムはオーフィスの蛇を独自に改良したドーピング剤で肉体を強化、逆転を図ろうとした。

更には駒王町に量産型邪龍を送りつけるという非道まで行い、僕達をとことんまで追い込もうとした。

 

その時だ、イッセーくんが殻を破ったのは。

 

アグレアスだけでなく、駒王町にまで広がったあの虹の輝き。

イッセーくんから溢れ出た虹の輝きは次元を越えて、僕達とあの町を守ってくれた。

実際に目の当たりにしたにも関わらず、あの光景は夢だったのではないか。

あの戦いから時が経った今でもそう思えてしまう。

 

新たな領域に足を踏み入れたイッセーくんはそのままリゼヴィムを圧倒。

外法とも言える手段で強化されたリゼヴィムを撃破した。

 

ただ………やはり、強大な力の分だけイッセーくんへの負荷は凄まじいようで、彼はリゼヴィムの最期を見届け、異世界の神アセムと少しの会話をした後に倒れ、気を失ってしまった。

作戦の後、病院に運び込まれたイッセーくんは、すぐに全身をくまなく検査、診察をしてもらったのだが、どこにも異常は見当たらなかったとのこと。

 

彼の意識は回復していないけれど、トライヘキサは待ってくれない。

奴らは天界を破壊した後、北欧にその悪意の矛先を向けてきた。

 

僕達はテロ対策チーム『D×D』として、彼らと戦わなければならない。

意識がまるで回復しないイッセーくんを彼のご両親とニーナさん、ワルキュリアさん、そしてニーズヘッグの襲撃から体力の戻っていないディルムッドに任せて、僕達は北欧世界に赴くことになった。(ディルムッドの場合、美羽さんが強制的に待機させたとも言う)

 

そして、どうにか北欧世界の防衛に成功した僕達は、この病院に戻ってきたわけだ。

 

先程、サーゼクス様の緊急放送が院内のテレビに流されていたが、病院の受付近くでも不安なことを話し合う患者とその家族が目立つ。

『戦争』、『避難』という単語が常に聞こえてくる、そんな状態だ。

多くの神々が戦線に立つレベルの戦いに不安を抱くのは仕方のないこと。

そんな人達を守るためにも僕達は戦わなければならない。

 

受付を済ませたリアス元部長が僕達の元へと戻ってきた。

 

「受付は済んだわ。イッセーの部屋に行きましょう」

 

 

 

 

病院に入ると、そこにはベッドの上で未だ眠り続けるイッセーくんの姿と、彼のご両親。

イッセーくんの眷属となったニーナさんとワルキュリアさん、ディルムッドの姿もある。

 

………僕達が北欧に向かっている間に目覚めてくれれば、と思っていたのだけど………。

 

意識の戻っていない彼の様子にリアス元部長を初めとした女性陣は悲しげな表情となってしまう。

戦場では邪龍達に果敢に立ち向かっていた女性陣だが、やはり、愛する男性が目覚めてくれないというのは悲しいものなのだ。

 

真剣な表情でテレビを見ていたニーナさん達は僕達の入室に気づくと、安堵しながら迎えてくれた。

 

「皆さん、ご無事で安心しました。お姉ちゃんも大丈夫だった?」

 

「かなり激しかったけどね。なんとか無事よ、ニーナ。こっちで何か変わったことは?」

 

アリスさんの問いに答えたのはワルキュリアさんだった。

 

「イッセー様の容態は安定していますが、相変わらずです。他に変わったことと言えば、各地で暴動が起きたことぐらいでしょうか。大変混乱しているようで、抱え込む不安を何かにぶつけてしまいたいのでしょう。もう情報が入っていると思いますが、冥界の各地で同様の件が起きているそうです」

 

「まぁ、こんな状況じゃあね。どさくさに紛れて破壊工作している奴は絞めればそれで済むけど、そういう人達を一方的に押さえ込むのは逆効果とも言えるし………」

 

アリスさんは顎に手を当てて暫し考え込んだ後、深くため息をついた。

 

アリスさんの視線はベッドの上のイッセーくんに向けられ、憂いのある瞳で呟いた。

 

「もう………『おかえり』くらいは言って欲しかったわよ………バカ」

 

そう言って、彼女はイッセーくんの鼻を指先で突いた。

 

そんなアリスさんではあるが、戦闘時は凄まじい力を発揮していた。

『白雷姫』の二つ名を持つ彼女は持ち前のスピードと破壊力を活かして、多くの邪龍を凪ぎ払い、更には彼女が得た新たな境地―――――神姫化まで使って、戦線を支えていた。

 

他の女性メンバーも同じだ。

彼を想う一人一人が果敢に、華麗に戦ってみせたのだ。

 

グレモリー男子たるギャスパーくんに至っては「イッセー先輩の分も僕が殴る!」と言って、黒い獣―――――バロールの化身となって、多くの邪龍を豪快に殴り飛ばしていた。

本当に、彼の戦闘スタイルはイッセーくんの影響が色濃く出ているよ。

 

シトリー眷属もバアル眷属も他の『D×D』メンバーもイッセーくんの分まで暴れてやるって気概で北欧での戦いに臨んでいた。

 

僕だってそうだ。

 

病室の椅子に座っていたディルムッドは美羽さんの姿を見るなり駆け寄ってくる。

 

「マス………お、お姉ちゃん………大丈夫?」

 

「うん、ボクは全然大丈夫だよ? ほら、この通り」

 

そう言うと、美羽さんはその場でくるりと回って、自身の無事を彼女に示した。

 

無事を確認したディルムッドは息を吐いて、

 

「………良かったです。お姉ちゃんがケガなくて………」

 

「うふふ、心配してくれてありがと」

 

美羽さんは安堵するディルムッドを優しく抱き締めた。

その光景はまるで本当の姉妹のように見える。

 

いや、彼女達はもう姉妹なのだろうね。

血は繋がってなくとも、家族になれる。

イッセーくんが美羽さんを妹として迎え入れたように、美羽さんもまたディルムッドを妹として、家族として迎え入れたんだ。

 

美羽さんは髪をすくようにディルムッドの頭を撫でながら言う。

 

「ディルさんもお兄ちゃんとお父さん、お母さんの側にいてくれて、ありがとう。ニーナさんも、ワルキュリアさんもね。皆がここに残ってくれたから、ボク達は戦えたんだよ?」

 

そう言われたディルムッドは美羽さんの胸に顔を埋めて、目元を滲ませていた。

 

………初めて見たときの印象が完全に消えてしまったせいで、誰か分からなくなってきた………。

イッセーくんの家に住むようになってから、キャラは変わっていたけれど………。

うん、これ以上考えるのはやめよう。

なんだか無粋のような気がしてきたからね。

 

こうしてお互いの無事を確認した僕達はイッセーくんに意識を戻した。

 

穏やかな呼吸に安らかな表情。

一見すれば、心地よく眠っているようにも見える。

 

「しっかし、熟睡してやがるな………。よし、今のうちに落書きでもしてやるか。祐斗、そこの油性ペン取ってくれ。髭描いてやる」

 

「えっと、イッセー君も寝たくて寝ているわけじゃないんですし………」

 

この場を和ませようとしてくれたのか、モーリスさんが笑いながらそう言うが………本当に描いてしまいそうだ。

この人はこの人でイタズラが好きなようだしね。

 

しかし、イッセー君が目覚めないのはなぜなんだろう?

先ほどのワルキュリアさんの報告だと、僕達が北欧に言っている間も目を覚まさなかったようだし。

 

リアス前部長も疑問を口にする。

 

「イッセーが目を覚まさないのは、あの時使った力が関係しているのかしら? 強すぎる力の反動?」

 

リアス前部長がイッセー君の額に触れ、彼の体調を診ていると―――――。

 

「もしかしたら、他にも原因があるかもしれないぜ?」

 

聞き覚えのある声が扉の方からしてくる。

皆が振り返れば、そこにはアザゼル先生の姿があった。

 

アザゼル先生が室内に入ってくると、リアス前部長は怪訝な表情で訊いた。

 

「他にも原因があるというの?」

 

「悪いが、こいつは俺の単なる予想に過ぎん。それで良ければ話すが………。確かに覚醒したイッセーの力は絶大だ。俺も長く生きてきたが、次元を越えて広がる力なんざ、見たこともなければ聞いたこともない。そんな強大な力だ、当然負荷も大きいだろう。肉体だけでなく精神にもかなりの負荷がかかっているはずだ」

 

それはこの場の誰もが考えていることだ。

大きすぎる負荷が数日に渡ってイッセー君を蝕っている、と。

 

しかし、とアザゼル先生は続ける。

 

「俺は一つ気になっていることがあってな。ワルキュリア、ニーナ。ここ数日、イグニスの姿を見かけたか?」

 

アザゼル先生に問われた二人は首を横に振った。

 

「いえ、私は見かけておりません」

 

「私もです」

 

イグニスさんが姿を見せていない………?

彼女は仮とはいえ肉体を得てから、実体化したままでいる時間がほとんどだった。

ティアさんとお茶をしたり、イッセー君のご両親と何気ない会話をしたり………美羽さん達にセクハラをしたり。

基本的に誰かといた。

 

また、普段はかなりお茶目な人ではあるけど、今のような事態の時には女神としての顔を見せてくれる。

イッセー君が目覚めない今、彼のご両親やニーナさん達の不安を和らげたりしてくれているのだろうと思ったんだけど………。

 

アザゼル先生は言う。

 

「イッセーが目覚めないこのタイミングであの女神も姿を見せなくなった。もしかしたら、あの女神に訊けば原因が分かるかもしれん。ドライグは………俺達と会話できるのか?」

 

アザゼル先生がイッセー君――――――彼の左腕に話しかけた。

すると、彼の左手の甲に宝玉が現れた。

 

『ああ、俺は問題なく話せるぞ』

 

「そうか。なら聞かせてもらおう。今、イッセーとイグニスはどうなっている?」

 

その問いにドライグは―――――。

 

『簡潔に言おう。相棒の精神とイグニスはこの場にはない』

 

「いない? どういう意味だ?」

 

『言葉通りの意味だ。相棒の精神は完全に離れてしまっている。肉体には問題ないのだが、代わりにおまえ達の声は相棒には届かない。すまんが、俺も把握しきれていないのだ。ただ、一つだけ。イグニスからおまえ達に伝言がある』

 

「伝言?」

 

ドライグの言葉に美羽さんが訊き返す。

 

イグニスさんから僕達への伝言。

宝玉が点滅し、そこからドライグが記録したのであろうイグニスさんの声が聞こえてくる。

その内容とは―――――。

 

『――――イッセーはあなた達のもとに戻ってくるわ。皆の危機に登場してこその勇者でしょう? だから、今はただ想っていて。言葉は届かなくとも、皆の想いは届くから――――』

 

イグニスさんからの伝言はそこで終わっていた。

 

そこにはイッセー君の状態や目覚めない原因についての内容はなかった。

だけど、彼女の言葉は僕達を安心させるには十分だった。

 

イッセー君は必ず戻ってくる。

それを聞けただけで、自然と抱えていた不安が薄れていく。

 

美羽さんが微笑んだ。

 

「うん………イグニスさんがそう言うなら大丈夫だよね」

 

「ええ。普段は………まぁ、アレだけど。こんな時に冗談や嘘を言う人じゃないもの」

 

アリスさんも小さく息を吐きながらそう言った。

リアス前部長や朱乃さんも「そうね」「そうですわね」と表情を和らげて微笑んでいた。

 

アザゼル先生は一度瞑目すると、ベッドの隣に座るイッセー君のご両親に話しかけた。

 

「イッセーは必ず目覚めるだろう。あの女神がそう言うなら、俺は確信をもってそう言える。そして、目覚めたイッセーは再び戦場に立つことになると思う。自分の意志で。………申し訳ない」

 

深く頭を下げるアザゼル先生。

 

二度目の謝罪だった。

一度目はイッセーくんのご両親が拐われそうになった件。

今度はイッセーくんが今回の件。

 

「俺が不甲斐ないばかりに、息子さんに無茶を強いてしまっている。確かにイッセーは肉体も精神も強い。だが、強すぎるがゆえに、俺達上の人間は甘えてしまっていた。無茶をするなと言いながら、まるで反対のことをさせてしまっていたんだ………。俺の責任だ。あなた方の件、そして息子さんの件………本当に申し訳ない」

 

アザゼル先生の言葉は真摯で心の底から後悔の念を含ませていた。

 

すると―――――イッセー君のお父さんは首を横に振った。

 

「先生、頭をあげてください。私達の件に関しては私共に落ち度がありました。私共がもっとあなた方の事情を理解していれば、ああはならなかったでしょう。………イッセーのことも、これは息子が望んだことです。こいつは皆さんを守ることが出来て、これで良かったと思っているはずです」

 

イッセーくんのお母さんも続く。

 

「もちろん、息子には無茶をしてほしくない。その気持ちは今も昔も、これからも変わりません。けれど、この子に後悔はしてほしくないんです。それに………この子は約束してくれました。必ず皆で帰ってくるって。イッセーは馬鹿でスケベで変なところで頑固だけれど、約束は守る子です。だから、絶対に起きてくれます」

 

イッセーくんのお母さんがベッドで眠る我が子の手を握った。

優しく、包み込むようにイッセーくんの手を両手で覆う。

 

「私に出来ることがあるとすれば、これぐらいだから………。情けない話だけれど、私達にはイッセーのように戦ったり、皆を守る力なんてないわ。だから………だから………願いだけでも、想いだけでも、この子の支えになれば………」

 

イッセーくんのお父さんもそこに手を重ねて、祈るように目を閉じる。

 

それは僕の見間違いだったのかもしれない。

 

はっきりと見えた訳じゃない。

ただ、そう見えた気がしただけなのかもしれない。

 

イッセーくんのご両親が彼の手を握った時。

 

 

――――一瞬、イッセーくんの体を虹の輝きが覆ったような気がした。

 

 

[木場 side out]

 

 



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5話 動き出すアセム

[木場 side]

 

「リアス、朱乃、木場、ギャスパー、ロスヴァイセ、おまえらはちょっと来てくれ」

 

僕とリアス前部長、朱乃さん、ギャスパーくん、ロスヴァイセさんがアザゼル先生に呼ばれた。

他のメンバーにイッセーくんと彼のご両親を任せると、僕達は先生と共に病室をあとにして、同階の休憩フロアまで足を運ぶ。

 

そこには黒いジャケットを着た男性、『刃狗』こと幾瀬鳶雄さんと見知らぬ男女が数名いた。

 

幾瀬さんがアザゼル先生に言う。

 

「全員揃えました」

 

「悪いな、急に呼び出してしまって」

 

「いえ、俺達も『D×D』と共に前に出る時期かと思ってましたから。微力ながら協力させてもらいます」

 

そう言ってくれる幾瀬さん。

 

先生が改めて僕達に言う。

 

「うちの刃狗チームも今回は表のメンバーとして参戦してもらう。後で連携やらの相談をしてくれ」

 

グリゴリでもトップクラスの実力者チームが表舞台に出てくれるのか!

今回のような世界規模の戦闘だと一人でも多くの強者が必要だ。

彼らの参戦は本当にありがたい。

 

ここで朱乃さんがとある人物を見つけ、驚いていた。

 

その視線の先には朱乃さんとよく似た二十代前半の美しい女性。

 

女性は朱乃さんに微笑む。

 

「朱乃、元気そうね」

 

「朱雀姉さま!」

 

朱乃さんは駆け寄ると彼女と抱擁を交わした。

朱雀と呼ばれた女性は愛しそうに朱乃さんの頭を撫でる。

 

「しばらく顔を見られなくて心配していたけど、会えて良かったわ」

 

「こちらこそ、連絡もせずに申し訳ありませんでした」

 

「いいのよ。あなたの立場を考えれば仕方のないことだもの」

 

―――――朱雀。

 

その名前には覚えがある。

 

姫島朱雀、姫島宗家の現当主。

そして、血筋的には朱乃さんとは従姉妹に当たる人だ。

 

姫島家現当主にリアス前部長が微笑んで迎えた。

 

「お久しぶりね、朱雀」

 

「ええ、リアスさん。小うるさい家の者達は黙らせてきたわ。私も鳶雄達やあなた達と共に行かせてもらうわね。こういう時こそ、姫島家の者として力を振るうべきだと思うから」

 

姫島家当主の彼女が幾瀬さんと顔見知りなのは理由がある。

実は幾瀬さんも姫島の血を引いており、朱乃さんと現当主の朱雀さんとははとこの関係にあった。

 

朱雀さんは続けて言う。

 

「姫島だけでなく、他の四家からも術者が戦線に加わらせてもらいますね」

 

日本の地を古くより異形から守ってきた異能集団がある。

姫島家、百鬼家、真羅家、櫛橋家、童門家。

この五つの家は五大宗家と呼ばれている。

 

彼らも参戦してくれるとは………。

 

ここに更に一つの集団が歩み寄った。

 

「鳶雄、あんたが顔を出すとはな」

 

不敵に笑みながら、幾瀬さんに声をかけたのはヴァーリ。

 

そう、ヴァーリチームの登場だった。

 

リゼヴィムの最期を見た後、彼らは僕達と共に北欧の戦線に加わっていた。

彼らも苛烈な戦いで多くの邪龍を凪ぎ払ってくれていた。

防衛成功後はどこかへ姿をくらませていだが、再び集まってくれたようだ。

 

幾瀬さんがヴァーリに言う。

 

「まぁね。今回はうちのチームも表に出てトライヘキサの破壊活動を抑止するために戦う。君達のフォローもしながら、隣で暴れさせてもらうよ」

 

「久し振りにあんたの本気を見られるのか? ふっ、それだけの事態と言うことだな。出来れば、あんたとの再戦時にあれを見たかった」

 

「ははは、格好つける癖は相変わらずだな。――――やはり、君の出番のようだ」

 

不敵な物言いをするヴァーリに幾瀬さんはそう言った。

幾瀬さんの視線は彼の背後に向けられていて、その所作にヴァーリの表情が一変する。

 

「――――っ! まさか、連れてきているのか………?」

 

刃狗チームからとんがり帽子を被り、ローブを着た女性が姿を現した。

長い金髪に碧眼の美女だった。

彼女の服装から魔法使いであることは分かるのだが、彼女の登場で少し驚くことがあった。

 

女性はヴァーリの前に立つと、ニッコリと微笑む。

 

「また、わがままを言っているのですね?」

 

「………ッ! ラ、ラヴィニア………ッ!」

 

なんと、ヴァーリは後ずらりして頬をひくつかせていたのだ。

ここまで狼狽するヴァーリは初めて見た。

 

ラヴィニアと呼ばれた彼女はヴァーリの手を取る。

 

「メフィスト会長とアザゼル元総督から表に出ていいとお許しがでたのです。また、一緒に戦えるのです、ヴァーくん」

 

………ヴァーくん。

 

その呼び方でなんとなく分かってしまった。

以前、幾瀬さんに修業に付き合ってもらった時、ヴァーリのことをそう呼ぶ人がいると聞いたことがある。

なるほど、この女性がその人だったんだね。

 

「い、いや、しかしだなっ!」

 

「ヴァーくん………グリゴリを裏切って、一人でおじいさんを探しに行って、色んな人に迷惑をかけてしまったのです。そういうのは良くないのです。今回は皆と一緒に戦うのです。いいですね?」

 

ラヴィニアさんはヴァーリを胸元に引き寄せて、そのまま抱き締めてしまった。

 

「うっ、くっ………!」

 

あのバトルマニアのヴァーリが抵抗できずに顔を紅潮させている!

まさか、あのヴァーリがこんな反応を見せるとは!

 

初めて見るヴァーリの意外な姿に僕やリアス前部長は驚くばかりだが、アザゼル先生や刃狗チームはニヤニヤ顔でヴァーリをおかしそうに見ていた。

 

「さっすが、うちのリーダーが唯一頭の上がらない人にゃん」

 

「『氷姫』の気配を察すると逃げてばっかりだったからなぁ。今回は油断にプラスして、完全に気配を消されてたってわけだ」

 

ヴァーリチームもリーダーの姿に愉快そうにしている。

 

しかし、僕は美猴から出てきた単語に再び驚いてしまっていた。

 

 

―――――『氷姫のラヴィニア』

 

 

灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』に所属するメフィスト会長の秘蔵っ子。

最強の魔法使いの一角とされている、神滅具『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』の所有者。

 

彼女がその人だったとは、これまた驚きの展開だ。

 

『氷姫』の名に興味を引かれていると、黒歌とルフェイが小声で訊いてきた。

 

(ところで、赤龍帝ちんは大丈夫なの?)

 

(一応、情報はこちらにも入ってきていたのですが………。すぐに駆けつけることができなくて、申し訳ございません)

 

二人も兵藤家にご厄介になっている身。

それに、イッセーくんとは気を許せる間柄になっているから、心配していたみたいだ。

 

僕は小声で二人に状況を教える。

 

(今のところ命に別状はないみたいだけど………。やっぱりまだ目覚めてはくれないんだ)

 

(そう………)

 

二人は息を吐きながら残念そうな表情をしていた。

普段は軽い雰囲気の黒歌もイッセーくんが起きてくれないと、寂しいのかもしれない。

 

フロアに集うメンバーを見渡してアザゼル先生が言う。

 

「今回は皆の力を貸してもらう。トライヘキサに加えて、異世界の神まで絡んだおかげで世界中がヤバい。協力を拒んでいた勢力も出てくるほどだ。今こそ、一人一人の協力が重要になってくる。………それでだ。ロスヴァイセ、ギャスパー、聖杯につて新たな情報を得た。トライヘキサ対策のためにおまえらの意見と協力を仰ぎたい。この後、俺についてきてくれ」

 

「分かりました」

 

「はい」

 

先生の言葉に二人は力強く頷いた。

 

「リアス、グレモリー眷属は別命あるまでここに待機していてくれ。イッセーのこともある。モーリス達にも後で動いてもらう」

 

「ええ、分かったわ」

 

「ヴァーリ、鳶雄。おまえらのチームは魔王城で待機だ。何か動きがあったら――――――」

 

先生がそこまで言ったときだった。

 

「お、おい! な、なんだあれは!?」

 

通路の向こうから誰かの悲鳴が聞こえた。

声につられて院内にいた医師から看護婦、患者、お見舞いに来たと思われる人まで一様に窓のある通路へと集まり、ザワザワとざわめき出す。

 

一体、何が起きたのだろう?

 

怪訝に思った僕達はフロアの窓から外を覗く。

すると――――――。

 

「なんだ………あれは………!?」

 

僕は思わず声に出していた。

 

僕達の視線は空に向けられている。

通常なら冥界特有の紫色の空が広がっているはずなのだが、今回は違っていた。

 

一体、何百メートルあるのだろう。

巨大な―――――端が見えないほど広大な『穴』が空に空いていたのだ!

空にぽっかりと空いた穴は暗く、アニメやマンガで描かれるブラックホールに見えた。

 

あまりの出来事に思考を停止させていると、穴に変化が起きる。

真っ暗で何も見えなかったのだが、黒が徐々に薄れていき、穴の奥に景色が見え始めた。

 

完全に闇が晴れたとき、見えたのは町のような何かだった。

建物に見えるものも、よく見るとただの白く四角い物体。

材質が何なのかは分からないけど、低いもの………一軒家くらいのものもあれば、大きな高層ビルのようなものもあり、それらがランダムに並んでいる。

空は血のように赤く、月のようなものが不気味に浮かび、それらが一つの景色を作り出している。

 

そして、その中で一際目を引くのが一番奥に見える巨大な城のような建物。

黒く、禍々しいオーラがここからでも認識できる。

 

「アザゼルさま!」

 

このフロア、僕達の方に慌てて走ってくる者がいた。

スーツを着た男性で、堕天使の気配がすることからアザゼル先生の部下の人だと言うことが分かる。

 

おそらく、現在起きていることでアザゼル先生を呼びに来たのだろう。

そう思った僕だったが、その予想は外れることになる。

 

アザゼル先生が言う。

 

「あの穴のことか? あぁ、分かってる。俺も今――――」

 

「ほ、報告します! 現在、世界中に冥界と同様の事象が起きているとのことです! 北欧、ギリシャ、須弥山、エジプト、ケルトの領域――――人間界を含め全ての勢力圏に出現しています!」

 

『―――――っ!?』

 

男性の報告に僕達は驚愕した!

 

全勢力に同様の事態が起きているというのか………?

 

すると、空に再び変化が訪れる。

穴の横に魔法陣が描かれ、空に映像を映し出した。

 

そこに映っていたのは―――――どこか邪悪さを感じさせる闇色の衣服を纏った白髪の青年。

その青年は余裕のある笑みを映像越しにこちらに送ってくる。

 

『初めまして。そして、会ったことのある人達は久し振りと言っておこう。僕の名前はアセム。君達の世界とは異なる世界の神だ。そして、君達の世界に害なす者さ』

 

アセム………ッ!?

 

そうか、イッセー君が冥府でかの神と対峙した時、彼は青年の姿になっていたと聞いた。

あの姿がそうなのだろう。

 

彼のトレードマークとも言える白いパーカーではないのは………。

それにあの闇色の服はいったい………?

 

しかし、アセムという名を聞いて納得してしまった。

このタイミングで、世界規模でこれだけのことを出来る者といえば彼しかいないだろう。

 

実際に戦ったことはないけど、イッセーくん達の話から、彼の実力は未知数であることは分かっている。

 

強力な配下を生み出し、『システム』を覗いた者。

リゼヴィムに協力するふりをして、奴を利用していた異世界の神。

たった一人で冥府を手中にした神。

 

アセムは冷たい笑みを浮かべながら言う。

 

『突然のことで驚いていると思うから、とりあえずは現状を説明しておこうか。今、目の前に広がっている世界は僕が次元の狭間に構築した世界。擬似的な異世界と考えてくれて良い。規模は地球の三分の一くらいだ。この世界は各神話の領域、世界中と目の前の穴――――「(ゲート)」を介して繋がっている』

 

その言葉にアザゼル先生が眉を潜める。

 

「地球の三分の一………世界中と繋がってるだと………? 異世界の術………おそらくはレーティングゲームの技術も応用したんだろうな。あれも『禍の団』に流れていた。リゼヴィムを利用していたなら、奴にも技術が流れていても不思議じゃない。そういえば、奴は『システム』を覗いていたな。神滅具の一つ『絶霧(ディメンション・ロスト)』の力も使用したのか? だが、それにしても規模がでかすぎる………!」

 

あの空間には僅かにだけど、レーティングゲームのフィールドと似た雰囲気が感じられる。

先生の言うようにクリフォトから渡された技術を応用したんだと思う。

 

でも、これだけの規模で構築してくるなんて………!

 

先生は驚きながらも呟く。

 

「これはもうレーティングゲームの技術とは別物………世界構築と言って良いんじゃないか?」

 

リアス前部長がアザゼル先生に問う。

 

「一つの世界を構築したというの………?」

 

「ここまでの規模でやられたんじゃな………。それに奴は擬似的な異世界と言った。技術は使っているだろうが、レーティングゲームの技術などとはレベルが違いすぎる。もはや別物と言って良いはずだ」

 

アザゼル先生はそう考察するが………何にしても僕達の理解を越えていることには変わりがない。

 

これがアセムの力か………!

彼の真の力はいったいどれほどの………!

 

映像のアセムは続ける。

 

『さて、簡単に説明したところで、なぜ僕がこんな風に動いたのかを教えよう。それはね、今のお遊びをやめて、君達の世界を一気に落としてしまおうか、そんな風に考えたからだよ』

 

なっ………!?

これまでのことを『お遊び』の一言で片付けてしまう点にも驚きだけど、彼が本気で動くというのか………!

トライヘキサの襲撃だけでこの世界は大騒ぎだというのに!

 

いや、彼の発言で既に騒ぎは大きくなっている。

 

院内のあちこちから『異世界』という単語が聞こえてくる。

今までは上層部………各勢力の首脳陣しか知らなかったことがこの場で明かされてしまった。

一般の人達はまだ『異世界』という単語に疑問符を浮かべているが、後々、説明を求められることになるだろう。

 

その時、彼らがどんな反応をするか………。

 

『アポプスくん達は聖杯の力の関係上、ちまちま攻めていたけどね。彼らの急襲に君達は防戦一方だっただろう?神々も出てきて、いい具合に盛り上がってはいるが………このままではワンパターンで面白くない。そこで、僕はこの戦いをもっと大きくするために彼らに協力を持ちかけてみた。結果、彼らとは意見が合致したよ。そう、つまりだ。これからはトライヘキサと僕の軍勢が一度に君達の世界を襲う』

 

「………っ! ここに来て手を組んだのか!」

 

アポプス、アジ・ダーカとアセム一派はこれまで別々に動いていた。

アグレアス奪還作戦の折、アザゼル先生は邪龍筆頭格であるあの二体の邪龍と話したそうだが、その時は協力関係ではないと言っていたそうだ。

 

そんな奴らがここで手を組んだ。

それは本気も本気でこの世界に仕掛けるということだろう。

 

『もうチマチマやり合うのはそちらとしても面倒だろう? ここで全面衝突、最終決戦といこうじゃないか』

 

アセムが指を鳴らす。

すると、奥の城らしき建物の頂上が光輝いた。

 

刹那―――――全てを呑み込む極大の光線がこちらに向けて放たれてきた!

光線は空に空いた大きな穴――――『門』を通り抜け、冥界の空を駆け抜けていく!

 

遥か彼方へと消えていった光はどこかに着弾したのだろう。

見えなくなったと思った途端、この地域一帯を巨大な揺れが襲った!

あまりの大きさに院内の患者はおろか、僕達ですら立っていられず、必死に柱や手すりにしがみついていた。

 

「なんて威力だ………っ! どこに当たった!?」

 

アザゼル先生は膝をつきながら、部下の男性に問う。

 

男性は耳にはめたインカムから慌てて情報を仕入れ始める。

インカムの向こうから聞こえてくる声に何度か頷いた男性は目を見開き、開いた口が塞がらなくなっていた。

まるでその情報が冗談か何かと思ったように。

 

意識をこちらに戻した男性は乾いた声で僕達に言った。

 

「め、冥界は悪魔側にある山岳地帯が丸ごと消し飛んだとのこと………。その地域は誰も住んでいないようなので、死者が出た可能性は低いとのことですが………」

 

「ちょっと待て。冥界は(・・・)………だと? まさかと思うが………」

 

何かを察したような顔のアザゼル先生。

 

男性は報告を続けた。

 

「先程放たれた光は冥界だけにあらず………あの穴が出現している領域全て、とのことです………ッ!」

 

冥界だけじゃないのか!?

 

あの穴は各神話、世界中に出現していると聞く。

つまり、それは―――――。

 

「あの射程はかなりのものだ。もし、あの(ゲート)とやらが自在に場所を変えられるとするなら――――」

 

アザゼル先生が苦渋に満ちた表情で空を睨んだ。

 

「世界中の全てがあれの射程圏内だということだ………ッ!」

 

[木場 side out]

 




アセム君、ついに世界構築までやってしまいました。
構築した世界のイメージはブリーチ地獄篇の地獄です。


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6話 生き残るために

[木場 side]

 

「世界中の全てがあれの射程圏内だということだ………っ!」

 

『――――っ!』

 

先生の発言に僕達全員が息を呑んだ。

 

空に浮かぶあの『門』はアセムが構築した擬似的な異世界と繋がっている。

僕達が見たあの極大の光線は威力だけでなく、射程も規格外。

更に、あの『門』が自在に場所を変えられると考えた場合、自然とその答えは出てくる。

 

リアス前部長が呟く。

 

「今の一発はわざと人のいない場所に撃ったのかしら?」

 

アザゼル先生は頷く。

 

「おそらくな。自分の力を世界中に見せつけるためだろう。全世界、あらゆる神話、あらゆる種族。そんなものは関係ない。全てがあれのターゲットだということを理解させるための演出だ」

 

演出………。

地図を塗り替えるレベル、そんな攻撃を同時に複数箇所へと放つ。

ここまでの規模でそれを行った、それが演出だなんて………。

 

すると、アザゼル先生が聞こえてたかのように、映像の向こうにいるアセムは薄く笑んだ。

 

『今ので察してくれた人もいるようだね。そうだよ、これはただの演出。誰が、どこへ逃げようとも無駄なのさ』

 

逃げ切ることは不可能ということか。

 

アザゼル先生が疑問を口にする。

 

「奴はアポプス達と組んだと言っていたな。なら、トライヘキサも奴のところにいるはず。どこにいる………?」

 

トライヘキサと邪龍軍団は北欧の戦線から姿を消した後、こちらでは捕捉できないでいる。

考えられるとすれば、強化されたアジ・ダハーカの禁術によって追跡を逃れていることだ。

 

先生の言うように手を組んだというのなら、アセムの構築した世界にいてもおかしくはない。

 

そもそも、地球の三分の一ほどもある世界を構築したにも関わらず、誰にも悟られなかったこと事態が脅威であるのだが………。

 

映像や『門』から見える光景にトライヘキサの姿は見えない。

 

『さて、次に気になるのはトライヘキサの行方だよね? もちろん、僕達のところにいるよ』

 

アセムが再び指を鳴らした。

 

すると、空に魔法陣が描かれ、そこに別の映像が映し出される。

そこに映っていたのは血のように赤い空に佇む七つの首を持つ魔獣―――――トライヘキサ。

 

この騒動の主犯である邪龍筆頭二体と手を組んだことから分かっていたけれど………。

実際に目にすると、嫌な汗が流れてくる。

 

アセムのもとにトライヘキサがいる。

このことが、どれほど脅威であるか………。

 

ここで、映像のトライヘキサに変化が訪れた。

 

トライヘキサの肉体が一度、胎動した。

一瞬、巨体がぶれたと感じた、その時―――――。

 

トライヘキサの体が横へと広がり始めた!

 

七つの首、それぞれの間が広がり、やがては体一つ分くらいの間隔になった。

別れた体の隙間から筋肉の繊維のようなものが覗かせる。

伸びた繊維は真ん中あたりで、千切れると、それぞれが蠢き始める。

そして―――――新たに肉体を構築した。

 

これは…………!

 

アザゼル先生が目を見開いた。

 

「分裂しただと!? あの化け物め、首の数だけ体を分裂できるっていうのか!?」

 

七つの首を持つ最強の魔物が、体を七つに分裂させた。

これが意味することは―――――。

 

「異なる場所を同時攻撃できるということか………やってくれるぜ………」

 

驚愕から一転、冷静な口調でアザゼル先生は言った。

 

僕達はトライヘキサの常軌を逸した力を目の当たりにしている。

僕らの集中攻撃を受けても、神クラスの一撃を受けてもトライヘキサは平然としていた。

多少、体の表面を焦がすか、肉を爆ぜさせるだけで、すぐに体を再生させてしまう。

 

代わりに飛ばしてくる特大の火炎が地を大きく抉り、山々は消し飛び、味方陣営は痛烈な打撃を受けていた。

神々ですら、あの火炎に呑み込まれていった。

 

七つに分かれた分だけ、力が拡散しているのなら………。

いや、分かれている分だけ力が分散しているとしても、相手は無限だった頃のオーフィスや夢幻を司るグレートレッドに匹敵する怪物。

首一つになっても常軌を逸した存在であることは変わりないだろう。

 

しかも、随伴している量産型邪龍の数は膨大で、特に複製赤龍帝の軍団が強力すぎる。

あれらを相手取るだけでも厳しいと言うのに………!

 

空に浮かぶ巨大な穴――――『門』から見える光景に動きがあった。

白く四角い物体がランダムに並び立つ、その隙間から何かが浮かび上がってきた。

幾つもの巨大な―――――巨人と言っても差し支えない存在が立っていたのだ。

 

魔獣騒動の折、冥界全土を震撼させた超獣鬼、豪獣鬼と並ぶスケール。

六つの腕を持ち、それぞれの手に巨大な得物を握っている。

 

あれはベルが創造した魔神………!

美羽さんが幾度も苦しめられた怪物!

 

それ以外にも、量産型の邪龍から赤龍帝の複製体が魔神の傍に漂っている。

 

………一体、どれだけいるのだろう?

数えるのが馬鹿らしく思えてくる程に多い。

千や万どころではない。

 

異世界の神と邪龍の筆頭格、トライヘキサが繋がるだけでこれだけの数を揃えられると言うのか………!

 

『ちなみに、この擬似異世界の中心にあるシステムを完全に破壊しないと延々に増え続ける。なんと言っても、分裂したトライヘキサのうち、その一つを動力に使う予定だからね。ほとんど無限に産み出し続けることができる。そして、それを制御しているのはこの僕だ』

 

つまり、それは―――――。

 

アセムは人差し指を立てて告げた。

 

『つまりは、僕とトライヘキサの両方を倒さないとこの戦いは終わらないってことさ』

 

これから侵攻してくるトライヘキサ、邪龍・複製赤龍帝軍団、そして魔獣騒動と同等のレベルにある超巨大魔獣の軍団。

これらを退けるだけではこの戦いは終わらない。

たとえ、トライヘキサを倒せたとしてもアセムを倒さなければならない。

また、アセムを倒したとしても、トライヘキサも止めなければ僕達は生き残れない。

 

この場にいる全員が後の戦いの激しさに思考を持っていかれていた。

それでも、僕達の想像は追い付いていないと思う。

 

ここからの戦いは激戦も激戦。

生きるか死ぬか、これまでよりも遥かに激しいものとなる。

 

………想像しただけで嫌な汗が止まらなくなる。

 

この映像は世界中に流されている。

となると、一般の………人間界の混乱の方も大きくなりそうだ。

こちらの方も何か対策を打たないと………。

 

と、ここで複数の気配が近寄ってくるのを感じる。

 

「ここにいたか」

 

そう言いながら、僕達の前に現れたのはモーリスさんだった。

彼の後ろにはイッセー君の病室にいたメンバーもついてきている。

 

ふと、僕は違和感を覚えた。

この非常事態だからだろうか、モーリスさん、リーシャさん、アリスさん―――――特に美羽さんの表情が厳しいものになっていた。

 

気になったリアス前部長が美羽さんに話しかけた。

 

「美羽………? どうかしたの?」

 

皆の視線が美羽さんに集まる。

美羽さんは空に浮かぶ映像、アセムを見上げると目を細めた。

 

「あの服………彼が着ているあの服は―――――アスト・アーデの過去の魔王が着ていたものだよ。ところどころの装飾は違うけどね」

 

――――――ッ!

 

アスト・アーデ過去の魔王………つまり、美羽さんのご先祖様が着ていたもの。

いつもの白いパーカーではなく、魔王の服を身に纏うとは………。

 

モーリスさんが言う。

 

「奴さんは魔王として、この世界を落とすつもりなのかね? なんにしても、とんでもねぇ奴が出てきたな………。俺は初めて奴さんの力を見ることになるが、規格外もいいところだ」

 

規格外の力を持つこの人から見てもアセムの実力は異常ということか。

 

僕と同じことを思ったのかアザゼル先生がモーリスさんに問う。

 

「おまえさんでもあれは無理か? 人間版超越者みたいなおまえでも」

 

に、人間版超越者………。

確かにこの人を表現するならその言葉が一番しっくりくるのかもしれない。

 

「今の俺は悪魔だろう。やりあってみないことには分からんが、まともにやり合えば向こうの方が上手だろうな。奴は全力のイッセーに対してまだまだ余裕があっらしいじゃねぇか。流石の俺もフルパワーのイッセーは相手できんよ」

 

モーリスさんが言うフルパワーのイッセー君とはアザゼル先生が創った『オッパイザー』なるものと合体したイッセー君のことだろう。

名前はかなり酷いけど、絶対的な力を発揮できる。

 

しかし、それでもアセムの全力を引き出すには至らなかったと言う。

 

「『剣聖』にしてはえらく弱気な発言だな」

 

「おまえら、俺をなんだと思ってやがる。こんな弱々しいおじさんに期待しやがって」

 

「おまえが弱々しいなら、この世界の大半は死に絶えてるぞ。………とにかく、おまえでも難しいぐらいの化け物ってことか。いや、全力のイッセーを捌ける時点でそれは分かりきっていたことだ」

 

僕はモーリスさんの背中から空へと視線を戻す。

そこには変わらず、薄く笑みを浮かべた青年の姿。

彼の瞳がこちらを捉えた。

 

………心を、魂を捕まれているようなこの感覚は………!

彼と目を合わせただけで全てを見透かされる、そんな気さえしてしまう。

 

アセムは僕達がモーリスさんと合流したことを知っているのだろうか?

 

だが、あれは映像だ。

アセム本人はあの映像の向こうにいる。

 

この映像自体、世界中に向けられたものだ。

その中で僕達の状況を把握するなど不可能に近い。

 

アセムは笑みを浮かべたまま言う。

 

『―――――三日だ』

 

三日………?

唐突に告げられたその日数に僕達は怪訝な表情を浮かべていた。

 

『三日後、僕達は全世界に向けて進軍する。逃げるも良し、戦うも良し。下らないプライドにすがっても良いし、この状況から目をそらしても良い。門は開けておくから、直接、僕を倒しに来ても良い。時間が来るまで僕達の方から仕掛けることはない。準備を整えることだ』

 

アウロス学園が襲撃を受けた際、リゼヴィムは僕達に時間を与えた。

あの時はリゼヴィムがアグレアスを奪うために用意された時間だった。

 

では、アセムは何を企んでいるんだ………?

 

リアス前部長も怪訝な表情で言う。

 

「こちらに時間を与える目的は何かしら? 各地が混乱している今が絶好の機会であるはずなのに………。リゼヴィムの時と同じく裏で何か企んでいる………? 彼はまだ動けない状況にあるのかしら?」

 

「あれだけの数を率いておいて動けないってことは無いだろう。奴ら、その気になれば今すぐにでも歩を進めることは可能だ。考えられるとすれば………」

 

顎に手を当てて考えるアザゼル先生。

 

リーシャさんがアザゼル先生に言う。

 

「ただただ、こちらに時間を与えるだけが目的かもしれません」

 

「それも考えられるな。こちらを弄んでいるつもりか?」

 

彼はこれまで、こちらを弄ぶような発言や行動を取ってきた。

そのため、リーシャさんの考えもあるかもしれない。

 

世界中の神々に喧嘩を売って、更には時間を与える。

アセムにはそれだけの余裕があることは間違いないだろう。

 

『考えることだ。自分達が生き残るために、この世界が生き残るためにはどうすれば良いのか。一人一人が考え、己の役目を果たすことが、僕やトライヘキサを倒すことに繋がるだろう』

 

アセムは最後に世界へ向けてこう告げた。

 

『―――――今のままではダメなんだよ。変わらなければいけない、この世界も。でなければ、滅ぼされてしまうよ?』

 

そこで空に映し出されていた映像は途切れた。

空に開いた巨大な穴―――――『門』を残して。

 

 

[木場 side out]

 




このペースだと360話は越えそう…………。
長いなぁ(今更感www)


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7話 久しぶりに………です!

[木場 side]

 

アセムが世界へ向けて発信してから、十分が経過した。

冥界の空には未だ、巨大な穴が開いており、向こう側には血のように赤く染まった世界が広がっている。

 

ヴァーリチームは一時的にこの場を離れると言って、どこかへ行ってしまった。

残されたのは僕達グレモリー眷属、赤龍帝眷属、刃狗チーム、そしてアザゼル先生だ。

 

「三日………。それまでに彼らを止めるだけの戦力、もしくは対抗策を揃えなければいけないなんて………」

 

朱乃さんが空を見上げながら、そう呟いた。

 

三日―――――それが僕達に与えられた時間。

その時が来たら、アセムの手勢が、トライヘキサが、邪龍達が一斉に侵攻を始めてしまう。

あの『門』を通って、全世界を蹂躙しに来る。

世界中、全勢力圏………その中には人間界も含まれている。

 

アセムの声は人間界にも届いているはず。

今の冥界と同じかそれ以上に混乱していることだろう。

五代宗家のように異能を持っている者ならともかく、多くの人が異能・異形とは関わりを持たない一般人だ。

そこへ突然の宣戦布告。

巨大な怪物を見せられ、三日後には侵攻してくると言っているのだから、混乱になるのは目に見えている。

 

冥界もトライヘキサだけでも大騒ぎなのに、アセムの登場で彼らの混乱具合は更に上限突破。

普通に語りかけてもひたすらオロオロしているような状態だ。

 

つまり、人間界も異形の世界も大パニックというわけだ。

 

この三日の間に彼らへの対抗策を揃えると同時にこれらへの対策も考えなければならない。

 

リアス前部長が言う。

 

「相手にどんな思惑があるにせよ、三日という時間があるだけマシね」

 

「リアスの言う通りだ。破壊された場所の修復、各勢力と連携も取れる。他にも負傷者の治療、人間界へのサポートとやれることは多い。………まさかと思うが、そこがアセムの狙いか? いや、流石に向こうの思惑を考えている暇はない。まずは―――――」

 

アザゼル先生は通信用の魔法陣を展開して、各部署に指示を出していく。

僕達の元に報告をしに来てくれたスーツを着た男性もアザゼル先生の指示を受けて、颯爽と立ち去って行った。

 

人間界へのサポート………これが全勢力が最も苦労することになるだろうね。

一般人の記憶やデータの改ざんは必須になる。

………それでも何かしら超常的なことが起きたという認識にはなってしまうだろくけど。

 

朱雀さんも一度、人間界へ戻り、まずはそちらの対応に当たると言っていた。

現状でどこまで混乱を抑えられるか………。

 

ふと近くにあったテレビを見ると、そこには数分前とは違った映像が流れていた。

 

少し前まではレーティングゲームに関する件で怒りを露にしていた人達もアセムの登場にそれどころではなくなってしまっている。

それもそうだろう、何せあの光(・・・)を見せられたのだから。

 

突如と冥界の空にぽっかりあいた大きな穴。

そこから放たれた極大の光は遥か彼方で着弾し、この冥界を揺らした。

どこに逃げようとも無駄、隠れても無駄。

あの光はどこまでも追ってくる。

 

そう考えると怒りをぶつけている場合じゃない。

今は怒りをぶつけることよりも、アセム達をどうにかしないと全てが終わる。

戦っていない人でもそれを理解するのに時間はかからなかったようだ。

 

そうなると今度は怒りの感情よりも、死への恐怖が彼らを支配する。

 

一通りの指示を終えたところで通信を切ったアザゼル先生はロスヴァイセさんとギャスパーくんに視線を向けた。

 

「ロスヴァイセ、ギャスパー。今すぐ俺と来てもらう。聖杯対策にはおまえ達の力が必要だ」

 

「「はい」」

 

頷き、それに応じた二人を連れてアザゼル先生は歩いていく。

 

すると、モーリスさんがそれを止めた。

 

「アザゼル、少し待ってくれ。おまえさんに頼みたいことがある」

 

「頼みたいこと?」

 

「そうだ」

 

モーリスさんの視線は僕と後から来たゼノヴィア、この場にいる剣士二人に向けられた。

 

「今からこいつらを鍛える。今のレベルでも十分強いが、今度の戦いを生き抜き、勝つためには足りない」

 

アザゼル先生は指名された僕達を見渡すと頷いた。

 

「なるほど。つまりは修行場所が欲しいってことか。だが、三日では流石に時間が足りないだろう?」

 

確かに。

三日ではどれだけ急いでも、大きなレベルアップは見込めないだろう。

いくら異世界最強剣士『剣聖』が修業をつけたとしても。

 

しかし、モーリスさんが続けた言葉は僕達の思いもしなかったことで、

 

「ああ。だからこそ、おまえに頼むんだ。外界とは時間の流れの異なる修行場所。アザゼルなら創れるんじゃないかと思ってな。例えば、こちらの一時間がその修業場所なら一か月、とかな」

 

「―――――! そう来たか」

 

顎に手を当て、納得しているアザゼル先生。

 

僕もモーリスさんの提案に思わず唸ってしまった。

外と内で時間の流れが異なる場所。

それはアウロス学園襲撃時でクリフォトが仕掛けて来たものと同じ原理だと思うが、そこなら、十分な修業が可能だろう。

 

すると、リアス前部長が言った。

 

「一度、アスト・アーデに飛んで向こうで修行すれば良いのではないかしら? イッセーは向こうで三年過ごしても、こちらでは時間が経過していなかった。私達も同じだった。それなら―――――」

 

その提案にアザゼル先生は首を横に振った。

 

「俺も一瞬それは考えた。だが、イッセーが目覚めない今、その手は使えん。それに次元の渦の原理が解明できていないのが現状だ。二度、同じことが起きたからと言って、三度目も同じとは限らん。となると、モーリスの言うようにこちらで創ってやった方が確実だ。ラヴィニア、メフィストに頼んで術式を送ってほしい。その手の魔術はメフィストなら良いやつを知っているだろう」

 

「はいです。ですが、どれもこれも相当、力を消費するものばかりなのです。即席で出来るものではないですよ?」

 

時間を歪ませるという行為はそれだけで多くの魔法使いが必要であり、万全の準備を以て行うことだ。

アウロス学園の時にはアジ・ダハーカやアポプスといった伝説に名を残す邪龍が複製した赤龍帝の力を用いて結界を張っていた。

それだけ膨大な力が必要なのだが…………。

 

「だろうな。それも想定済みだ。美羽、アリス。おまえ達の力を借りる。神姫化したおまえ達の力なら、結界の維持もできるはずだ。範囲は限定的になるがな」

 

「うん、任せて」

 

「オッケー。大船に乗った気でいなさい」

 

神姫化した時の二人の力は上位クラスの神に匹敵する。

二人の神クラスの力があれば、それも可能ということか。

 

アザゼル先生は僕達を見渡すと改めて言った。

 

「この三日が勝負だ。俺とおまえ達………いや、この世界にとってな」

 

 

[木場 side]

 

 

 

 

[美羽 side]

 

 

アザゼル先生がロスヴァイセさんとギャスパー君を連れて、この場を離れてから一時間ほどが経った。

 

次の指示があるまで、ボクは送られてきた術式を確認して、必要な魔力量と強度などの計算をすることになっている。

今もお兄ちゃんの病室で、計算をしているんだけど…………。

 

「………これ、神姫化出来てなかったら、絶対に二人で何とかなるレベルじゃないよね」

 

分かっていたけど、この魔力量は尋常じゃないよね。

まぁ、規模と時間の歪みの強さにもよるんだけど………。

 

「うわぁ………。これ、キツくない? モーリス達が中で暴れるから、それなりの強度も必要だし………」

 

と、さっきの強気な発言とは真逆のことを言っているアリスさん。

 

ただ、結界を張るだけなら問題ない。

問題なのは中であのモーリスさんが剣を振るうこと。

内側から真っ二つにされそう………。

 

………でも、そんな無茶苦茶な人でもトライヘキサには通じなかったんだよね。

彼の剣戟を受けても、トライヘキサはすぐに再生してしまう。

向こうの数はどんどん増えていくから、トライヘキサだけを相手にすることも出来ない。

 

天界の修復に向かっているイリナさん、グリゴリの修復に向かっているレイナさんは合流までもう少し時間がかかるとのことだった。

 

怪我人が多いとのことで、アーシアさんとそのサポートとして小猫ちゃん、ゼノヴィアさんもグリゴリへと向かっている。 

こちらは後で天界にも向かうらしい。

 

他のメンバーはと言うと、冥界各地で混乱している市民の対応に追われていた。

『D×D』、特に上級悪魔グレモリー家の次期当主として、ボク達の中では最も知られているリアスさんにすがってくる人は少なくなく、リアスさんは対応に追われてしまっている。

朱乃さんや木場君もそれに付き従っているようだ。

 

もちろん、ボクとアリスさん以外の赤龍帝眷属メンバーも動いていて、レイヴェルさん先導のもと、各地で暴徒の鎮圧に赴いている。

ディルさんもそれについて行った。

 

ボクはふと浮かんだ疑問をアリスさんに投げ掛けてみる。

 

「ニーナさんも行っちゃったけど、大丈夫なのかな?」

 

ニーナさんはボク達のように戦う力を持っている訳じゃない。

だから、力任せに暴れる人を抑えることなんて、出来ないだろう。

 

まぁ、彼女に危害が及ぶことはないと思うけど。

一緒に動いているメンバーが異常だからね………。

 

「美羽ちゃんも思っただろうけど、モーリスとリーシャがいるんだから、ニーナがケガをすることはないわ。絶対ね」

 

「うん、ちょうど思ってたところだよ。でも………」

 

「ニーナがいて役に立つか、でしょ?」

 

ボクが質問を言い終える前に言われてしまった。

 

アリスさんは病室の天井を見上げると、過去を思い出すように語りだした。

 

「まだ戦争中だった頃。私とイッセー、モーリス、リーシャの四人は各地を動き回っていたわ。私達が動かないといけない状況だったから………。でも、それが出来たのはニーナが残ってくれたおかげなの。あの子が皆の不安を受け止め、オーディリアという国を支えてくれていたからこそ、私達は動くことが出来た。あの子は見た目はフワフワしてるけど、結構、芯がある子なのよ」

 

そういえば、初めてオーディリアで話したときもそんなことを聞かされた覚えがある。

 

ニーナさんが残ってくれたから、お兄ちゃん達は戦えた。

お兄ちゃん達が前線で戦っていなかったら、和平なんて無かったかもしれない。

ボクがこうして、お兄ちゃんの側にいることも無かったかもしれない。

 

そう考えれば、ニーナさんだって和平の立役者の一人なんだ。

 

アリスさんは嬉しそうに、それでいて誇らしげに言った。

 

「ニーナがいてくれるなら大丈夫。あの子の声は皆の心に響くから。あの子の優しい心の声がね」

 

アリスさんの言葉からは、瞳からは妹であるニーナさんを心の底から信頼していることが伝わってくる。

 

「たーまーにームカッとくるところもあるけど。なんで、ニーナの方が胸の成長速いのよ! 腹立つ! 妹のくせにぃぃぃぃぃ! しかも、これ見よがしに見せつけてくるし! あいつはヴィーカと同類なのかしら!?」

 

天を仰ぐアリスさん。

 

………アリスさんの胸も当初と比べると大きくなったと思うんだけど、まだ気にしてるんだ………。

ボクからすれば、良い感じの美乳になってきてるから、逆に羨ましくもあるんだけど。

 

というか、ニーナさんもアリスさんのこういうところが面白がってるんだろうなぁ。

うん、仲の良い姉妹だよ、本当。

 

姉妹………妹…………妹…………。

 

 

『――――お、おね………お姉ちゃん…………』

 

 

 

「カハッ」

 

ボクは前触れもなく吐血した。

 

「美羽ちゃん!? なんで!?」

 

「うぅぅ…………お姉ちゃん…………お姉ちゃんって…………いけない! ディルちゃん成分が足りないよ!」

 

「またなの!? 北欧でもたまに血吐いてたけど、またなの!? どれだけ、イッセーに似たのよ、この似た者義兄妹は!?」

 

「エヘヘ………照れるよ………」

 

「誉めてないんだけど!?」

 

どうしよう、ここにきて妹成分が足りなくなるとは!

流石に予想外だよ!

 

なるほど、ここ数日でお兄ちゃんの気持ちがすっごく分かってきた。

 

 

これが―――――シスコン道か………!

 

 

なにこれ、なにこの気持ち。

抑えきれそうにない。

今すぐ、ディルちゃんに抱きついてモフモフしたい。

 

でも、ディルちゃんも行っちゃったし………。

 

態々、ディルちゃんを呼び戻す訳にはいかない。

無い物ねだりはよくない。

 

では、この衝動をどうするか…………。

 

「あっ…………」

 

ここでボクの脳裏に素晴らしいアイデアが浮かんだ。

浮かんでしまった。

………いや、それは浮かんだと言うよりは今まで我慢していたと言うべきだろうか。

 

「よし」

 

「美羽ちゃん?」

 

立ち上がるボクを見て怪訝な表情を浮かべるアリスさん。

ボクは一歩、また一歩とベッドの方へ歩いていき―――――。

 

 

目を覚まさないお兄ちゃんにダイブした。

 

 

「ああっ!? ズルい………じゃなくて! なにしてるの!?」

 

「よくよく考えたら、ここ数日、お兄ちゃん成分を吸収してなかったからね。………この際に、ね?」

 

そう、ボクはこの数日、お兄ちゃんと話をしていない。

甘えてないし、お風呂も入ってない。

キスだって…………。

 

ボクの体はもう限界だった。

圧倒的にお兄ちゃん成分が足りていない…………!

 

「ボク、もう我慢できない」

 

「美羽ちゃん、それ、色々といけないことしてるみたいに聞こえるわ」

 

「欲求不満です」

 

「美羽ちゃん!?」

 

「お兄ちゃんに甘えたいよ!」

 

「あぁ、ブラコンの方だったの………」

 

ボクは眠っているお兄ちゃんに抱きついて、顔を埋めた。

 

あぁ………この感覚だ…………。

お兄ちゃんの鼓動が心地よくて…………。

 

この数日はトライヘキサの件で天界に行ったり、北欧に行ったりしていたし、他の皆もいるから我慢していたけど…………。

 

「皆の前ですると収集つかなくなりそうだからね」

 

「………私もいるんだけど………」

 

やれやれとため息を吐くアリスさん。

 

そんなアリスさんにボクは、

 

「アリスさんもする?」

 

そう問いかけた。

 

すると、アリスさんの顔は一気に赤くなり、頭のてっぺんから湯気が出てきた。

 

「わ、わわわわわ私も!? あ、あの、その、私はその別に良いって言うか………。うん、やっぱり、他の皆が頑張ってるんだし、ここでサボるのは皆に悪いって言うか…………。だ、だだから、私は今は遠慮…………」

 

「…………」

 

「…………ご、五分だけなら…………」

 

この後、アリスさんは赤面しながら、お兄ちゃんの眠るベッドに入ってきた。

 

 

[美羽 side out]

 




モーリス提案の修行場所は所謂…………アレです。
グレモリー眷属の更なる強化が始まります!

そして、久し振りのシリアスブレイク!


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8話 戻ってきた咎人

あの人物が参戦!


[木場 side]

 

「ひとまず、ってところね」

 

イッセー君が入院している病院に戻って来た僕とリアス前部長と朱乃さんの三名。

 

僕達は一度、グレモリー領に向かった後、混乱の収拾を図るため動いてきた。

リアス前部長の父――――つまりはグレモリー現当主の協力の元、領民への説明、避難誘導をしてもらった。

グレモリー領では今のところ滞りなく、避難は行われている。

 

まぁ、僕達が向かった時には既に動いていたんだけどね。

 

「流石はお母様。他の領地よりも混乱度合いは小さい。私の出る幕なんてほとんどなかった」

 

「うふふ、ヴェネラナ様ですもの。冥界であの方の手腕を上回る者などそうはいないでしょう」

 

リアス前部長の母、ヴェネラナ様はバアル最強の女性として勇名を馳せた。

しかし、彼女の凄いところはその武力だけじゃない。

彼女の持つカリスマ性、統率力は他の上級悪魔の貴族と比べても群を抜いている。

 

もしかすると、現魔王様方よりも『王』としての資質は高いんじゃないか、そんなことすら思える時がある。

 

ただ、グレモリーがこれだけ早く動けたのは他にも理由がある。

 

それはグレモリー現当主が異世界のことを認知していたこと。

サーゼクス様も異世界のことが一般に知れ渡るのを考慮して、予め事情を知る者達と連携を取っていたことが功を奏した。

本当なら他の領主にも異世界のことが伝わっていれば良かったんだろうけど、異世界については秘匿事項だったからね。

これは全勢力首脳陣の間でも共通事項だった。

 

まぁ、ヴェネラナ様のおかげで僕達は予想よりも早く戻れることになった、ということには変わらないんだけど。

 

朱乃さんの励ましに気を取り直したリアス前部長は真剣な顔つきで言う。

 

「バアル城に侵入した賊………ビィディゼ・アバドン。『王』の駒を使用した者。この事態に乗じて、不正の全責任を初代バアルとバアル現当主に押し付けようとした………か」

 

この混乱に乗じて動く者がいた。

それは各地で潜伏していた旧魔王派の残党であったり、『禍の団』の構成員だったりする。

 

しかし、それ以外にも邪な心を持って己の利のために行動している者もいたんだ。

その内の一人がレーティング・ゲームのプロプレイヤーにして、現ランキング三位、ビィディゼ・アバドン。

番外の悪魔、アバドン家の出身だ。

 

皇帝が冥界市民に向けて流した情報、つまり、『王』の駒を用いて不正を行っていた者の中にはビィディゼ・アバドンの名前があった。

現ランキング三位の不正は冥界市民に衝撃を与えるのには十分過ぎる。

当然、彼のファンは問いただすだろう。

 

しかし、不正の事実を覆すのは難しい。

それだけ皇帝の言葉というのは重みがあるのだから。

 

そこで彼がとった行動が不正の根源を絶つこと。

―――――大王の首を取ることだった。

 

自分は大王に利用されたのだと民衆に訴え、その上で大王バアルの首を以て一連の事件の根源を始末したと主張する。

不正の根源を正した元三位のプレイヤーとして、勇退すするために。

 

それがビィディゼ・アバドン………不正に手を染めきった男の思惑だった。

 

「己の名誉を守るために、『正義』を捏造するなんて………。英雄とまで称された人の本性がそれだなんて、あまり信じたくないわね」

 

「ビィディゼ・アバドンを止めた匙君とサイラオーグ・バアルは?」

 

ビィディゼ・アバドンの襲撃を止めるため、匙君はバアル城へと乗り込こみ、彼と対峙した。

 

だが、不正をして力を手に入れたとはいえ、相手は魔王クラスの実力者。

今の匙君では彼を相手取るには難しく、追い込まれてしまった。

 

そこに現れたのがサイラオーグ・バアルだった。

 

リアス前部長が言う。

 

「二人とも無事よ。流石に無傷とまではいかなかったようだけど、治療を終えて今も冥界各地で動いてくれているそうよ」

 

魔王クラスと称された現ランキング三位を止めるとは………。

 

いや、サイラオーグ・バアルはあのレーティング・ゲームで魔王クラスであるイッセー君と真正面から打ち合った猛者だ。

敗北してからは打倒イッセー君に燃えていると耳にしたことがあるし、今では恐ろしく強くなっているのだろう。

 

それに名誉欲に溺れた者に彼が劣るとは思えない。

あの男の拳はどこまでも真っすぐ、相手の魂まで届く。

 

実際に受けたことがある僕だからこそ言えることだ。

 

――――――サイラオーグ・バアルの拳がまがい物の力に屈するはずがない。

 

もちろん、彼の力だけでビィディゼ・アバドンを倒したとは言わない。

 

「最終的に倒したのはサイラオーグのようだけど、それまで持ちこたえた匙君の成長も凄まじいものがあるわね。………やっぱり、ソーナに告白したことも大きいのかしら?」

 

そう、ソーナ前会長に告白してから、匙君の伸びは目を見張るものがある。

何度も倒されているのに弱るどころか、彼の黒炎は激しさを増す。

恐らく、彼の黒炎はビィディゼ・アバドンを拘束し続けたことだろう。

 

朱乃さんが微笑みながら言う。

 

「彼にとってソーナは仕えるべき主というだけでなく、一人の守りたい女性。守りたい人がいるというのは、限界以上に力を引き出せるもの。うふふ、匙君も段々、イッセー君みたいになってきましたわね。というより、祐斗君もギャスパー君も、ライザー様も。彼に関わる男性は皆、彼の影響を強く受けていますわ」

 

ハハハ………うん、それは否定できないね。

自分でもそれは感じているよ。

 

僕は彼と出会い、彼の過去を知り、彼の生き様に憧れた。

彼の背中をずっと追い続けてきた。

 

一度………いや、二度か。

僕は道を見失い、忘れてしまった。

だけど、もう見失うことはない。

 

僕は彼とは違う、彼にはなれない。

それは分かっている。

 

それでも―――――僕は彼のように生きたい。

そして、僕なりの答えを見つけたい。

心からそう思っている。

 

「ウフフ」

 

「あらあら、祐斗君」

 

リアス前部長と朱乃さんが僕のことを微笑まし気に見てくる。

 

うーん………なんというか、お二人には敵わないね。

まぁ、それはいつものことかな?

 

そんな風に話しながら廊下を歩いていると、イッセー君の病室に着いていた。

 

中では美羽さんとアリスさんがメフィスト会長から送られてきた術式を見直しているはずだ。

予め彼女達から伝えられていた時間だと、そろそろ終わっている頃だと思うんだけど………。

 

リアス前部長が病室の扉を開ける。

 

すると―――――。

 

 

「エヘヘ………お兄ちゃん………」

 

「もう………早く戻ってきてよ………寂しいじゃない」

 

 

美羽さんとアリスさんが未だ目覚めないイッセー君に抱き着いていた。

ベッドに入り込み、意識のないイッセー君に頬ずりまでしていた。

 

「「あっ………」」

 

「「あっ………?」」

 

ハハハ………こんな時、僕はどうすればいいんだろうね………?

 

 

 

 

「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………」」

 

床に頭を着けて何度も「ごめんなさい」と言い続ける美羽さんとアリスさん。

彼女たちの土下座はそれはもう見事なもので。

 

二人の前にはご立腹のオカ研女子メンバー達。

天界、堕天使領に向かっていたメンバーも帰ってきている。

ロスヴァイセさんとギャスパー君だけはまだアザゼル先生といるようだが………。

 

そして、赤龍帝眷属も戻ってきていて………。

 

腕を組んだゼノヴィアが言う。

 

「抜け駆けとはいただけないな」

 

アーシアさんとイリナも頬を膨らませていて、

 

「お二人だけズルいですぅ!」

 

「私もダーリンとくっつきたいのにぃ!」

 

レイナさんと小猫ちゃんは半目で二人を見下ろしながら、

 

「まさかこんな時に………」

 

「油断大敵………なにしてるんですか」

 

レイヴェルさんも何とも言えない様子で、

 

「これは流石に弁護できませんわ」

 

と、美羽さん達と眷属仲間である彼女もこういう具合だ。

 

第一発見者であるリアス前部長と朱乃さんのお怒り具合は彼女達の比ではない。

お二人は体から紅の魔力と黄金の魔力を迸らせているほどだ。

 

「「………」」

 

無言のプレッシャーを放っている………!

この魔力の質と量は………危険だ………!

周囲に巻き散らしているわけではないが、後ろにいる僕まで息苦しくなってくる………!

 

「おいおい………なんつー魔力だよ。戦っている時よりもヤバいじゃねぇか」

 

モーリスさんですら冷や汗を流すレベル!

感じられる波動は既に最上級悪魔クラスに到達している!

お二人はイッセー君のこととなるとどれだけ力を発揮するというのだろう………?

 

よく見るとアーシアさん達まで凄まじい力を纏っていた。

 

リーシャさんが言う。

 

「これは二人がサボっていたことに対する怒り………ではなく、嫉妬が大きいのでしょうね。うふふ、微笑ましいです。青春ですね♪」

 

リーシャさん、これは青春と言えるんですか?

下手をすれば、イッセー君を巡って戦争が起こってしまいそうな勢いなんですけど………。

 

「リーシャ、お腹すいたー」

 

「もうお腹ペコペコです」

 

リーシャさんの手を握るサリィとフィーナは我関せずという雰囲気だ。

 

すると、ニーナさんが一歩前に出た。

彼女の顔はいつものように優し気な表情だが………例に漏れず、こちらも凄まじいプレッシャーを放っていた。

 

「ねぇ、お姉ちゃん」

 

「うん」

 

「一応、言い分を聞いてあげるね?」

 

その一言に美羽さんとアリスさんは顔を上げて、

 

 

「「色々、我慢できませんでした」」

 

 

この後、リアス前部長達によるお説教タイムが幕を開けた――――――。

 

 

 

 

「うぇ、うぇぇぇぇ…………ディルちゃん、ありがとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ………えぐっ」

 

「グスッ………怖かったよぉ………」

 

号泣しながら、ディルムッドに抱き着く美羽さん。

アリスさんも半分泣きながら、ディルムッドを抱きしめていた。

 

かれこれ一時間近く続いた二人へのお説教。

端から見ているだけだったけど、それはもう苛烈だった。

 

モーリスさんなんて、「ちょっくら、つまみ買ってくるわ」と言い残して病室を出てから戻ってくる気配がない。

きっと………いや、十中八九、逃げたんだろうね。

僕もついて行けば良かったと後悔している。

それほど激しく………長かった。

 

皆のお説教が第二ラウンドに突入しようとした、その時―――――ディルムッドが両者の間に入ったんだ。

 

彼女は美羽さん達を庇うように立つと、瞳を潤ませながら………。

 

 

『も、もう………お、お姉ちゃん達を………許して、あげて………?』

 

 

あの冷たい口調はどこに行ってしまったのだろうね………。

 

いつもはクールな雰囲気を出している彼女に言われてしまっては、もう何も言えなくなったのだろう。

何より、ここにいるメンバーの中では最年少であるディルムッドの願い。

皆もお説教を終えるしかなかったようだ。

 

………僕は未だにディルムッドが十五歳ということに衝撃を受けるけど………。

見た目的には小猫ちゃんはもちろん、リアス前部長よりも大人びて見えるからね。

 

リアス前部長が頬を赤くしながら、小さく咳払いする。

 

「ま、まぁ、二人の気持ちは分からなくもないし………。同じ立場なら、私も………。少し言い過ぎたかもしれないわね。私もイッセーに触れるのを我慢していたものだから………つい、ヒートアップしてしまったわ。ごめんなさいね」

 

「「うわぁぁぁぁぁぁんっ! リアスさん、ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! そして、ありがとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」

 

今度はリアス前部長に抱き着く二人。

これで事態は収拾した、ということで良いのかな?

 

僕は額に流れる汗を拭って、深く息を吐いた。

 

こ、怖かった………本当に怖かった………。

これが女性のパワーというものなのだろうか。

 

イッセー君、僕は君を目標に生きていくつもりだけど、女性関係については無理そうだ。

元々、ハーレム願望なんてないけど。

 

君はかなり苦労すると思うけど、どうか頑張ってほしい。

僕はいつも通り、陰ながら応援するよ。

 

ようやく場が収まったところで、病室の扉が開いた。

そこに立ったいたのは苦笑するモーリスさんとやれやれと言った表情のアザゼル先生。

 

「ようやく終わったか。女ってやつは恐ろしいねぇ」

 

「こいつらはここ数日、イッセーと触れ合ってないからな。イッセー成分なるものが枯渇していたんだろ。そこに美羽とアリスへの嫉妬。色々、爆発もするんだろうさ」

 

イッセー成分の枯渇………。

結局のところ、そのイッセー成分って何なんだろうね?

 

リアス前部長がアザゼル先生に言う。

 

「そちらの用は済んだの? ロスヴァイセとギャスパーは?」

 

「あいつらにはまだ作業してもらっている。万全の状態にしておきたいんでな。念入りに見てもらっているのさ。俺が戻ってきたのは、モーリスの提案に必要な場所の確保が出来たからだ。………だが、その話に入る前に会わせておきたいやつがいる」

 

「会わせておきたい………? それは?」

 

リアス前部長が聞き返す。

 

アザゼル先生は頷くと扉の向こうに声をかけて、部屋に入ってくるよう促した。

 

扉が開き、入ってきたのは一人の男性。

 

その男性の登場に僕達は目を見開き驚いた。

驚いていないのはイリナさんと彼を知らないメンバーぐらいだろう。

 

長い黒髪を後ろで束ねた男性は一礼すると部屋に入ってくる。

彼の腰には剣―――――聖剣が帯剣されていた。

 

男性は僕達を見渡すと、ベッドに眠るイッセー君へと目を移し、目を細めた。

 

「この中にははじめましての人もいるみたいだが…………久し振りだね、グレモリー眷属」

 

「あなたは………。なぜ、ここに?」

 

リアス前部長の問いに男性は―――――。

 

「ミカエル様のご命令でね。………過去の者が未来を得るために来た、と言えば君達はどう思うのかな?」

 

男性―――――八重垣正臣は自嘲気味にそう答えた。

 

 

[木場 side out]

 

 

 



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9話 過去と現在、未来のために

[木場 side]

 

―――――八重垣正臣。

 

かつて、教会の名うての剣士にしてイリナの父親、紫藤トウジさんの部下だった。

 

十年ほど前、駒王町で皇帝ベリアルの従妹にあたるクレーリア・ベリアルさんと恋に落ちてしまう。

しかし、当時の状況ではそれが許されず、粛清され命を落とした。

 

だが、時を経て聖杯の力により復活、復讐を果たすべく駒王町の教会にいた関係者やバアル家の関係者を含めて次々に襲撃し、最後の一人となった紫藤トウジさんを狙った。

そして、天界で治療を受けるトウジを狙いクリフォトと共に天界に攻め込み、魔人と化した状態でイリナ達と戦い、最終的にオートクレールの浄化の力を受けて敗れた。

 

イッセー君達と共闘してクリフォトの首領であるリゼヴィムを退かせたことにより、重い罰は避けられたものの、天界の収容施設に収監されることになった。

 

時折、イッセー君と連絡を取っていたようだけど………。

 

イリナは挙手すると僕達の前に出て言った。

 

「えっとね、アセムからの宣戦布告を受けて、ミカエル様が八重垣さんを派遣することに決めたの。この戦いには彼と彼が持つ聖剣の力がきっと力になってくれるだろうって」

 

彼が腰に帯びている一振りの聖剣――――――天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)

修復中だったところに『霊妙を喰らう狂龍(ヴェノム・ブラッド・ドラゴン)』八岐大蛇の魂を宿らされ、一度は魔に落ちた日本神話の聖剣。

今は復讐の念から解放された彼と同様に本来の姿を取り戻したようだ。

 

伝説の聖剣と聖剣に選ばれた者。

確かに戦力としては大きいだろう。

 

アザゼル先生が言う。

 

「アセムが展開している『(ゲート)』は冥界、人間界も含め全部で二十六。幸い、天界には展開されていない。そこで、ミカエルはこの男をこちらに寄越してくれたのさ。今は天界の復旧作業で手が離せないようだが、何とかして各勢力に人員を送ってくれるそうだ」

 

「だけど、相手が確実に天界を攻めてこない確証はないわよ? 今、天界を手薄にするのはマズいのではないかしら?」

 

「リアス、おまえの言うことは最もだ。当然、天界にもそれなりの人員を残しておく。だがな、奴はこちらの裏をかいたり、リゼヴィムのように姑息な手段は取らないだろう。新たに『門』を開いて天界を襲撃するなんてことはない。少なくとも、俺はそう考えている」

 

「なぜ、そう言い切れるの?」

 

リアス前部長の問いにアザゼルは窓の外―――――冥界特有の紫色の空にぽっかり空いた大きな穴を見つめながら口を開いた。

 

「簡単だ。そんな真似をしなくても、奴にはこの世界を潰せるだけの力があるからさ。圧倒的な戦力、力を以てこちらをねじ伏せることが出来る。向こうには既にそれだけの力が揃っている。それにな、アグレアスでアポプス、アジ・ダハーカと言葉を交わしたが、あの段階では奴らは手を組んじゃいなかった」

 

「つまり、アセムから邪龍達に接触を図ったと?」

 

「恐らくな。そして、イッセーから聞いているアセムの性格上、あの二体を力ずくで配下に置くことはしないだろう。そうなると、あの邪龍達は自らの意思でアセムと組んだことになる。―――――アポプスとアジ・ダハーカ。あいつらはグレンデルやニーズヘッグなんぞとは格が違う。ただ強者との戦いを望み、まどろっこしい真似を嫌う。そんな奴らが組んだ相手だ。アセムは宣言通り真正面から来るだろう。今更、新しい『(ゲート)』を創って奇襲を仕掛けてきたりはしないだろう。………なにより、だ」

 

アザゼル先生はベッドで眠るイッセー君に視線を移す。

 

「俺には奴がイッセーの成長を待っていたように感じる。おまえ達も思い当たる節はあるんじゃないか?」

 

そう言われ、皆はこれまでのことを思い出し始めた。

 

吸血鬼の町で接触してから、アウロス学園の一件、天界襲撃に冥府での戦闘。

更には先日のアグレアス。

特に天界では動けなくなったイッセー君に対して、何もせずに去っていったそうだ。

 

美羽さんが呟く。

 

「あの人は……アセムはお兄ちゃんをずっと待っていた。待ち続けていた。もしかしたら、今も待っているのかもしれない。あの『門』の向こうで」

 

その言葉にアザゼル先生が続ける。

 

「俺もそう思う。まぁ、真正面からぶつかることになる。シンプルな分、こっちの方が厄介ではあるがな。………っと、少し脱線したが、そういうわけで八重垣正臣も俺達と行動を共にすることになった」

 

八重垣さんは瞑目する。

 

「僕のことを快く思わない者もいると思う。僕は君達の敵だったのだからね。特に局長の娘である天使イリナは複雑な心境かもしれないね」

 

八重垣さんはベッドの方に歩み寄り、イッセー君の横に立った。

 

「僕は聖杯の力で蘇った。そして、赤龍帝の彼がいなければ、あの場でもう一度死人になっていただろう。あの時………僕はあの場で消えてもいいと思った。しかし、こうして生きている………生き残ってしまった」

 

天界で八重垣さんはリゼヴィムの手によって殺されるはずだった。

しかし、イッセー君がそれを阻んだ。

 

「僕は彼になぜ、僕を助けたのかと問うた。僕は死人だ。それがもう一度、死んだところで何も変わらないだろう。だけど、彼は言った―――――『あなたは今、生きてるじゃないか』とね」

 

八重垣さんは胸に手を当てて小さく笑んだ。

そして、僕達の方を向いて真っすぐに言ってきた。

 

「こんな僕でも生者として出来ることがある。戦うよ………いや、戦わせてくれ。あの町は僕とクレーリアにとって悲劇の場所だ。今でも時折、胸が痛む。だけど、あそこには彼女と過ごした記憶が、思い出があるんだ。彼女はあの町が好きだった。だからこそ今度は守りたい。復讐のためにではなく、守るためにこの剣を振るうさ」

 

彼の瞳は復讐に取りつかれた者の目ではなかった。

何かを守るために覚悟を決めた目、未来を見ている者の目だ。

僕はそう感じた。

 

すると、イリナが八重垣さんに手を差し出した。

 

「八重垣さん、よろしくお願いします。私もダーリン………イッセー君との思い出の場所を失いたくありません。必ず守ります」

 

「ああ。よろしく頼むよ、天使イリナ」

 

八重垣さんはイリナの手を取り、強く頷いた。

 

この場にいる者で彼のことを否定しようとする者はいない。

皆も笑みを浮かべて、力強く頷いていた。

 

この戦いは今と未来だけでなく、過去も守る戦いになりそうだ。

皆………特にオカ研メンバーは全員があの町に思い出がある。

僕もリアス前部長に救われてから、今に至るまで失いたくない記憶がある。

あの町は大切な場所なんだ。

 

八重垣さんの言葉は僕達の決意を新たにするには十分すぎる言葉だった。

 

 

 

 

「さて、顔合わせも終わったところで本題に入る」

 

八重垣さんとの再会を終えた後、アザゼル先生は僕達を見渡してそう言った。

 

アザゼル先生は指先に魔法陣を展開すると病室の壁に映像を投影する。

壁に映し出されたのは日本にあるグリゴリの研究施設、その一角だった。

 

「先に言った通り、場所の確保は出来た。日本の支部は今のところ被害ゼロだからな。十分なサポートが出来る。用意した空間は東京ドームの半分くらいのスペースだ。修業スペースとしちゃ十分だろう。どこかの剣聖様が無茶苦茶しなければな」

 

「そいつは保障できねぇな。相手はマジでヤバい連中だ。死ぬ気でやらんと短時間でのレベルアップは望めないぜ? 心配すんな、こっちも殺す気でいくからよ。なぁ、祐斗?」

 

え、えっと………心配しか出来ないんですけど………。

三日後の決戦を前に死ぬ可能性が出て来たよね?

モーリスさんの修業を受けることになっている僕とゼノヴィア、イリナは真っ青になっていた。

 

そんな僕達を置いて説明は続く。

アザゼル先生の視線は美羽さんとアリスさんへと向けられる。

 

「でだ、肝心の術式はどうなっている?」

 

「そっちは問題ないよ。僕とアリスさんが力を合わせたら、結界の規模と強度を考えて、大体、二時間…………結界の中では一ヵ月くらいの時間は取れると思う」

 

一ヵ月。

その期間内にどれだけレベルアップできるかは分からない。

それでも、元々、僕達に与えられていた三日という期間を考えれば、十分すぎる時間と言える。

 

「上出来だ。細かいサポートは俺達の方でやる。修行スペースには衣食住の空間も設けてある。食料もな」

 

「そいつはサポートが行き届いているな」

 

「だが、結界の内側に入ってしまえば、外部との連絡は一切取れなくなる。結界の術式上、内側から出ることは出来ない。出るときは美羽とアリスが結界を解いた時だけだ。まぁ、おまえさんなら、結界を斬ることも出来るだろうが………」

 

「そいつは俺が加減すれば良い話だ。何も問題ない。外と連絡を取れなくても、その分、修行に集中できるってもんだ」

 

外部との連絡が取れなくなる………か。

つまり、外で何か起きても僕達を呼び戻すには一度、結界を解除しなければならないということか。

 

今回使う結界はあまり使い勝手が良いとは言えないね。

まぁ、そうおいそれと出来るものではないと思うのだけど。

 

八重垣さんが言う。

 

「天使イリナ、君が結界の内側に入った後のことは任せてほしい。ミカエル様とシスター・グリゼルダも了承済みだ」

 

「祐斗、ゼノヴィア。あなた達もこちらのことは気にせず、修業に打ち込んでちょうだい。私達で何とかしておくわ。それから、アーシア」

 

リアス前部長は僕とゼノヴィアに声をかけた後、アーシアさんに話しかけた。

 

「あなたも結界の中で祐斗達をサポートしてあげてほしいの。それにあなたの禁手もそこで慣らしておいて。あなたの回復力はこちらの戦力に必須になるわ」

 

「はい、リアスお姉さま」

 

トライヘキサだけでも手に余るというのに、そこにアセム達が加わった。

今度の戦いはかつてないほどに激しいものになる。

命を落とす者も大勢出てくるはずだ。

 

その中でアーシアさんの回復の力は戦線維持の要になるだろう。

 

リアス前部長はアーシアさんの頭を撫でると抱き締めた。

 

「だけど、無理はしないでね? 祐斗もゼノヴィアもイリナも。モーリス、そこのところは分かってくれているのよね?」

 

リアス前部長の目がモーリスさんへと向けられる。

とうのモーリスさんは頭をかきながら、苦笑を浮かべた。

 

「わーってるよ。さっきは冗談で言ったが、本当に死んじまったら意味がない。俺は生き残らせるためにこいつらを鍛えるんだ。………まぁ、今までで一番、厳しくいくけどな」

 

「それなら良いわ。この子達を鍛えてあげてちょうだい。お願いするわ」

 

「任せときな。その代わり、イッセー達のことは頼む。美羽とアリスも結界の維持で動けなくなるからな。ニーナとワルキュリアもいるが、何かが起こらないとも限らん」

 

「もちろんよ」

 

話が纏まったところで、病室と扉が開かれた。

そちらに目をやると、イッセーくんのご両親がいた。

 

「もう入っても大丈夫かしら?」

 

「ええ、お母さま。というより、外で待っていらしたんですか?」

 

「何か重要そうな話をしていたから………入るタイミング分からなくて」

 

「俺達が入ると皆の気が散るかと思ってね」

 

苦笑しながら入室してくるお二人。

 

イッセー君のお父さんの手には大きな鞄がさげられている。

多分、イッセー君が目覚めた時用の着替えだったり、他の必要なものを揃えてきたのだろう。

 

すると、アリスさんがイッセー君のお母さんに話しかけた。

彼女の表情はとても真剣なもので―――――。

 

「お母さま、お願いをしてもよろしいでしょうか?」

 

「お願い? ええ、私に出来ることなら何でも言ってちょうだい」

 

その返しにアリスさんは頷き、こう言った。

 

「一つ、お母さまに作ってほしいものがあります」

 

 

 

 

数時間後。

 

全ての用意が整ったので、僕とゼノヴィア、イリナ、アーシアさん、美羽さん、アリスさん、そしてモーリスさんは東北の山奥にあるグリゴリの施設に移動していた。

 

白衣を来た研究員の人に案内されて、長い廊下を歩くこと五分。

 

僕達が案内されたのは施設の最深部にある、広大な空間だった。

そこにあるのは二階建ての仮設住宅のみで、他は何もない。

ただただ真っ白な空間が広がっているだけだ。

 

美羽さんとアリスさんは互いに頷くと、神姫化して魔法陣を展開し始める。

何十、何百という魔法陣が二人の前で回転し、少しずつ大きくなっていく。

 

暫くすると動いていた魔法陣は消え去り、代わりに僕達の前に巨大な魔法陣が新たに展開された。

それはこの広大な空間、床一杯にまで広がった。

 

魔法陣の輝きが強くなると、美羽さんが僕達に言った。

 

「それじゃあ、五人は入ってくれる?」

 

促された僕達は魔法陣の内側へと歩を進めた。

 

それを確認した美羽さんとアリスさんは呪文を唱え始める。

 

そして―――――。

 

「三人とも頑張って。…………モーリスの本気の特訓は本当にキツいから…………。心を強くもって…………ね?」

 

「「「…………」」」

 

という不吉なアリスさんの言葉を最後に、魔法陣が輝き、修業用の結界が発動された。

 

 

[木場 side out]



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10話 剣士達のレベルアップ

本日三話目投下ァァァァァァァァァ!


[木場 side]

 

「さーて、そんじゃ始めようぜ」

 

モーリスさんはマントをたたんで床に置くと、そう言った。

腕を伸ばしたり、屈伸をしたりと準備運動まで始めている。

 

「外では二時間に対して、この場所では一ヶ月。長い時間を得られたと思っているかもしれないが、そいつは間違いだ。たった一ヶ月、そう考えろ。俺達の相手はあの怪物共だ」

 

相手は神々ですら手に余る怪物。

トライヘキサと邪龍軍団。

加えてアセム。

 

一ヶ月の特訓で彼らに僕の剣が届くかと問われると、それは無理だろう。

次元が違いすぎる。

 

そう、僕達にはたった一ヶ月であの怪物達を相手に生き残れるだけの力を、大切な物を守れるだけの着けなればいけないんだ。

 

モーリスさんは僕に言う。

 

「祐斗、おまえは神器を二つ持っていると聞いたが、間違いないな?」

 

「はい」

 

僕が所有している神器は二つ。

魔剣創造と聖剣創造だ。

ありとあらゆる魔剣、聖剣を創ることができる。

 

「アザゼルから聞いた話だが、おまえの騎士王形態………禁手第二階層だったか。あの状態の出力は神滅具、もしくは準神滅具クラスに届くんじゃないか、だとよ」

 

「僕の神器の力が神滅具クラスに………?」

 

「らしいぞ。俺は神器のことは分からんが、おまえの力はいつか神に届く可能性を秘めているということだな。神滅具は神を滅ぼす可能性を持っているんだろう?」

 

魔剣創造はレアな神器ではあるが、神滅具ではない。

イレギュラーな禁手とされる聖魔剣ですらそうだった。

 

しかし、僕の禁手第二階層―――――『双覇の騎士王』なら届くというのか?

神をも滅ぼす領域に―――――。

 

考え込む僕にモーリスさんは笑みを浮かべながら言う。

 

「まぁ、おまえさんがその領域に達するにはまだまだ時が掛かるだろうがな。そいつは頭に入れておいて損はない。………でだ、おまえの修業内容だが………祐斗、おまえの強みはなんだ?」

 

僕の強み………それは騎士のスピードと多彩な能力の魔剣、聖剣。

第二階層へと至ってからはそこが更に強化された。

 

「そうだ。おまえの力はあらゆる状況に対応できる。だがからこそ、俺はそこを強化していきたい。ってな訳で、祐斗」

 

「はい」

 

「おまえ、聖剣創造も第二階層へと至らせろ。そんでもって、騎士王の力も更に引き出せるようになれ。この二つがおまえに与える最低課題だ」

 

「―――――ッ!」

 

聖剣創造を第二階層に………?

 

その考えは持っていなかった。

元々、神器を二つ持っていること自体、そうないことだ。

二つの神器を禁手に至らせることも普通はない。

 

そして、禁手を更に上の次元に至らせることがイレギュラーだった。

神器に明るいアザゼル先生ですら、あり得ないと口にしていた程だったからね。

 

それを………二つ目の神器の禁手を更に上へと引き上げる、だと………?

 

呆気に取られる僕にモーリスさんは言う。

 

「なにも絶対に出来ないわけじゃないだろ。おまえは既にイレギュラーを起こしている。だったら、もう一つや二つ、イレギュラーを起こしても問題ないだろ」

 

その言葉を受けて、イリナが言った。

 

「だけど、第二階層って意図的に至れるものなの?」

 

「知らね」

 

「な、なんて、テキトーな………。うん、この人、やっぱりイッセー君の師匠だわ。ところどころで似てるもの」

 

イリナの言葉には僕もつい頷いてしまった。

イッセー君の今の性格ってこの人の影響もあると思うんだ。

 

「そもそも、禁手ってやつも至る原因は個人によるんだろ。そんなこと俺に聞かれても答えられるわけがねぇ。だが…………」

 

モーリスさんは頭をかいた後、僕の胸に人差し指を当てて、トントンと叩いた。

 

「祐斗、おまえがイッセーの背中を追いかけるなら、己の限界を超えてみな。あいつにはまるで才能なんざ無かった。それでも今の領域に至れたのは、常に限界の壁をぶち破って来たからだ。あいつに出来て、おまえに出来ないってことはない。やってみろ。あのバカに追い付きたいのなら、まずはそれからだ」

 

「―――――はいっ!」

 

僕は力強く答えた。

 

やってみるさ。

己の壁を、限界を超えてみせる。

 

僕の返事にモーリスさんはニンマリと笑みを浮かべていた。

 

モーリスさんが次に話しかけたのはゼノヴィア。

 

「ゼノヴィア。おまえはストラーダの爺さんが言ってたように一刀でも二刀でも戦える戦闘の申し子。デュランダルとエクスカリバー、伝説の聖剣に選ばれた者だ。おまえの持つ潜在能力はかなりのものだろう」

 

かつてデュランダルとエクスカリバーの二刀を振るった聖剣使いはいなかっただろう。

ゼノヴィアはエクスカリバーの多種多様な能力を十全に使いこなせてはいないが、この先、彼女はそれを会得するはず。

 

「考えるな、感じろ。あの爺さんもそう言っていた。俺もそう思う。おまえは頭でどうのこうの考えるより、剣と体で戦場を感じ、持ち前の思いきりの良さで斬り開け」

 

「ああ。どんな相手だろうと私とデュランダル、エクスカリバーのパワーで―――――」

 

ゼノヴィアが意気揚々と言おうとすると、モーリスさんが掌を向けてそれを止めた。

 

「………分かっていると思うが、パワーって言うのは何も力任せに戦うことじゃないからな? 感覚でも良い、相手を理解した上でのパワーだからな? 闇雲に突っ込んでも無駄死にするだけだ。そこは理解しているよな?」

 

「わ、分かっているとも!」

 

「この間、それで俺にコテンパンにされたよな? 思いきりの良いところはおまえの良い点だが、思いきりが良すぎるのはおまえの悪いところだ。考えるなって言っても丸っきり考えないのはただのバカだ」

 

「むぅ………ぅぅっ」

 

指摘されたことに反論できないようだ。

赤面しながら黙り込んでしまった。

 

うーん、確かにゼノヴィアの猪突猛進振りは顕在というか………思いきりが良すぎるね。

 

ま、まぁ、モーリスさんの力が異常だとも思うんだけどね?

パワーが持ち味であるゼノヴィアも真正面から突っ込んで力負けしていたし………。

僕もモーリスさんを相手に一太刀も掠めることすら出来なかったし………。

 

………良く見ると半分涙目になっている。

最後の一言はゼノヴィアにかなり突き刺さったようだ。

 

そんなゼノヴィアにモーリスさんは苦笑しながら続けた。

 

「その辺りの感覚は今から磨いていけば良い。そのためにおまえを鍛えるんだ。その感覚を磨きあげた時、おまえのパワープレイは一味も二味も違ってくる。その第一歩として、おまえにはこいつを覚えてもらう」

 

モーリスさんは鞘に納められた剣の内、一振りを抜き放つ。

 

次の瞬間、刀身が黒く染まり―――――黒い斬戟が放たれた!

 

剣気による攻撃………。

剣を極めたモーリスさんが会得した絶技だ。

 

「こいつはイッセーが使う『気』や『闘気』と似ているが、少し違う。剣と共に歩み、共に戦う者だけが得られる技だ。こいつには理屈なんてない。感覚で放つものだからな。この三人の中じゃ、ゼノヴィアが一番会得が早いと俺は思う」

 

「私がか?」

 

「そうだ。おまえに細かい技術を頭ごなしに押し付けても身に付かん。剣の型や技を教えたところで中途半端に終わるだろうさ。そういうのは祐斗かイリナ向きだ」

 

「なぜか、酷く貶されたような気がするのだが………気のせいだろうか?」

 

「気のせいだ。もしくは被害妄想だな、そりゃ。脳筋………ゴホン、誰よりも感覚で戦うゼノヴィアにはそれに合った力を教えた方が良い」

 

「今、脳筋って言った! 脳筋って言ったぞ!」

 

「落ち着きなさいよ、ゼノヴィア。いつものことじゃない」

 

「いつものことなのか!?」

 

「今更!?」

 

そこからはいつもの展開。

『自称天使』と『自称剣士』という言葉が飛び交い始めた。

 

最初はテクニックのことやパワーといった戦闘についての内容だったんだけどね。

段々話がずれていって、どうでも良い日常のこととかを言い合い始めてしまった。

 

学校のこととか、家でのこととか。

 

その内容も通過すると、今度は―――――。

 

「私の方が胸は大きいぞ!」

 

「私と同じでしょ! イッセー君は私の方が柔らかいって言ってたもん!」

 

「張りは私の方が良いらしいぞ! つまり、イリナの胸はたるんでいるということだ!」

 

「たるんでないもん! 張りだってあるもん! ゼノヴィアのは張りじゃなくて、ただの筋肉でしょ!? やーい、頭もおっぱいも筋肉ぅ!」

 

イッセー君はともかく、他の男性の前でする話じゃないよね…………。

君達、ここに僕とモーリスさんがいることを忘れてないかい?

どういう反応をすればいいのか分からないんだけど………。

 

 

「祐斗、イッセーを叩き起こしてこい。これじゃ話が進まん」

 

「無茶言わないでくださいよ………。そもそも、ここから出られませんし」

 

 

五分後………結局、僕が二人の仲裁に入ることに。

 

落ち着いたところで、モーリスさんはイリナに言った。

 

「よし、最後にイリナ。おまえはゼノヴィアみたいなパワープレイも少ないし、木場のような超高速で多彩な剣を用いた戦いもない」

 

「いきなり全否定された!?」

 

「誰も全否定はしてねーよ。確かに二人に比べたら見所がないように見えるが―――――」

 

「ガーン!」

 

「いや、人の話を聞き終える前に落ち込むなって。おまえは真正面からも戦えるし、細かいサポートも出来る。光力を使った後方支援も出来る。戦士としては祐斗とゼノヴィアよりも幅が広い。所謂、オールラウンダーってやつだ。近接戦寄りだけどな」

 

そう言えば、イリナが量産型聖魔剣やオートクレールを得る前は光の槍を使って僕達の後方支援をしてくれていた。

今では前衛として戦うことが多いから、忘れていたけど、サポートとしての面でも彼女は活躍できるんだ。

 

モーリスさんはイリナさんの腰に帯剣されているオートクレールを指差した。

 

「加えて、そのオートクレール。斬った相手を浄化する力というのは邪龍や魔物にはかなり有効だ」

 

オートクレールの浄化の力は僕もこの目で見ている。

 

エヴァルド・クリスタルディ氏ですら、浄化の力を受けて、戦意を揺るがされていた。

 

モーリスさんはイリナに告げる。

 

「俺がおまえに与える課題はオートクレールの浄化の力を自在に扱えるようにするということ。ただ剣を振るって放つだけでなく、光の槍に纏わせて後方からも撃てるくらいにはな。そして、サポート役としての力をつけること」

 

「分かりやすいですね。木場君やゼノヴィアよりもアレなような………」

 

「そうでもないさ。前衛もこなせて、中衛、後衛もこなせる。戦場では臨機応変に味方をサポートする。………言うだけなら簡単だが、やれることが多いってのはそれだけ機転が利かないと難しいもんだ。それに戦況を理解し、広く見渡せる力が必要だからな。ある意味、おまえの修業が一番難しいかもな。………いや、これからやる修業は一人一人がハードなやつだ。本当に殺したりはしないが、命を懸けてもらう。アーシア、この修業にはおまえの力も必要だ。もしもの時には頼む」

 

「はい! ゼノヴィアさん達の傷は私が治します!」

 

気合を入れるアーシアさんの頭を優しく撫でるモーリスさん。

それからモーリスさんは前に立つと、僕達を見渡した。

そして、二本目の剣を鞘から引き抜いた。

 

「始めるぞ。俺達は前に出て、敵を斬る。そして、後ろにいる仲間を守ることが役目だ。俺達が倒れたら、仲間が危うくなる。だから、絶対に負けられないのさ」

 

モーリスさんの言う通りだ。

僕達は主の、仲間の剣であり盾でもある。

僕達の敗北は仲間の危機へと繋がるんだ。

 

「俺はおまえ達の力と覚悟、可能性を信じる。だからこそ、俺も本気でいかせてもらう」

 

―――――静かだ。

静寂がこの空間を支配している。

でも、圧倒的なプレッシャーが放たれていて………。

 

僕達三人はそれぞれの剣を握った。

 

僕達の姿にモーリスさんは笑みを浮かべ―――――。

 

「若き剣士たちよ――――――己の限界を超えていけ」

 

 

[木場 side out]

 

 




再開してから、十話目。
我ながら中々のペース(ニヤッ)


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11話 魔王の意思

フハハハハハー!
四連投稿アターック!

すいません、卒論終わってテンションがおかしくなってます(笑)


[美羽 side]

 

木場君達一行が結界の中に入ってから五分。

 

ボクとアリスさんは神姫化したまま、結界を維持している。

しているのだけど………。

 

「すいませーん! このおつまみ、おかわりー! あと、お煎餅もー!」

 

「は、はい!」

 

グリゴリの研究員の人におつまみのおかわりを要求するアリスさん。

 

床に座り込んだボク達はちゃぶ台を囲んで、のんびりお茶を啜っていた。

結界の中で厳しい修行に打ち込んでいる木場君達には申し訳ないけど、維持しているだけのボク達は結構暇だったりする。

 

研究員の人がおつまみとお煎餅を持ってくると、アリスさんはご機嫌な様子でそれを受け取っていた。

 

「ここのおつまみ美味しくて、いくらでもいけちゃう! お酒を飲めないことだけが残念!」

 

「い、一応、ボク達の役割も重要だからね?」

 

「分かってるって。だから、この場に留まってるんじゃない」

 

ボク達は結界を維持するためにこの場に留まる必要がある。

ここから離れると、結界の維持が難しくなってしまうからね。

 

だけど、そうなると結界の維持以外に出来ることはなく………かなり、まったりしてしまっていた。

 

皆、なんかゴメンね………。

 

「それにしても、木場君達は大丈夫かしら? モーリスの本気の修行って本当に厳しいからね。私も何度泣かされたことか………」

 

過去の自分を思い出して、薄っすら涙を浮かべるアリスさん。

 

え、えーと………アリスさんって相当強いよね?

『白雷姫』の二つ名を持つアリスさんが泣かされるって、どれだけ厳しい修行だったんだろう?

 

あまり結界の中のことは想像したくないなぁ………。

 

 

 

~そのころの木場くん達~

 

 

「おらぁ! そんなんじゃすぐにやられるぞぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

「ちょ、ちょっと待っ―――――」

 

「相手は待ってくれねぇんだよ!」

 

「す、少し休――――」

 

「休んでる暇なんてあるか、バカ野郎!」

 

「うぇぇぇぇん! ダーリン、助けてぇぇぇぇぇ!」

 

「フハハハハハァー! 残念ながら、イッセーはいないんでな! 自分の身くらい自分で守りなァッ!」

 

「「「この人、恐い! 鬼だ!」」」

 

超がいくつも付く、激しい鬼修行は木場、ゼノヴィア、イリナを泣かせていた。

 

そして―――――

 

「み、みなさぁぁぁぁぁん!」

 

アーシアの叫びが響いていた。

 

 

~そのころの木場くん達、終わり~

 

 

 

「………なんだろう、今、アーシアさんの悲鳴が聞こえたような」

 

結界の外と内では完全に隔絶されているから、聞こえるはずがないんだけど………。

時間の流れも違うし………。

 

「大丈夫よ。私も何か聞こえたから」

 

「それ大丈夫じゃないよね!?」

 

木場君達、本当に大丈夫なの!?

嫌な予感しかしないよ!

 

心配するボクを安心させるように、微笑みを浮かべた。

 

「心配しないで。死にはしないわ。ちょっと精神崩壊するだけよ」

 

「ダメじゃん!」

 

精神崩壊するような修行ってなにさ!?

 

怖いよ!

本当に怖いよ!

木場君達、何されてるの!?

 

アリスさんはお煎餅を齧ると、小さく息を吐いた。

 

「そんな『剣聖』ですら、美羽ちゃんのお父さん―――――魔王シリウスには敵わなかったんだけどね」

 

「えっ………?」

 

突然の言葉にボクはつい訊き返してしまった。

 

アリスさんは一度、お茶を啜ると話を続けた。

 

「もしかしたら、お父さんから聞いてるかもしれないけど、モーリスとシリウスは何度も剣を交えたことがあるのよ。戦場で幾度も剣を交え―――――決着がつくことはなかった」

 

「決着がつかなかったの? でも、さっきは………」

 

「シリウスは剣も魔法も恐ろしく強かった。それなのに当時、シリウスは剣技だけでモーリスと渡り合ったのよ。魔法は一切使わずにね。今思い出しても、物凄い戦いだったわ。私なんて介入する余地がなかったもの」

 

お父さんは最強の魔王と称されるほどの実力者だった。

ボクが教わった魔法にはアスト・アーデでも最高レベルのものがいくつもある。

 

ボクが神姫化して、ようやく使える魔法もお父さんは平然と使っていたことから、どれだけ強かったかが今まで以上に理解できる。

 

「『炎帝』ジース、『魔皇将』フォーエンハイム、『人形師』フェジテ、『氷雪の魔女』フィール………その他の魔族軍幹部。数えればきりがないほど魔族側には名だたる猛者が多かった。そんな彼らを束ねていたのが魔王シリウス。彼が最強と呼ばれた理由は武力だけじゃない、あのカリスマ性にあった。だからこそ、魔王シリウスが率いていた魔族は結束力が強く、数で勝っているはずの私達は劣勢だった」

 

懐かしい名前が出てきた。

今出てきた人の中にはもう亡くなっている人もいる。

強くて、好戦的で………でも、ボクに優しくしてくれた、そんな人達だ。

 

皆といた頃を思い出すと、悲しい記憶もあるけど、楽しかった記憶も出てくる。

 

でも………。

 

「どうして………今、その話を……?」

 

これまで一緒に過ごしてきて、お父さんだけじゃなく、他の幹部の人達の名前を出されたのは始めてだった。

前線で戦っていたアリスさんが彼らを知らないわけがない。

そこは分かっている。

 

どうして、このタイミングで………?

 

すると、アリスさんはボクの目をじっと見つめながら、口を開いた。

 

「美羽ちゃん、アセムの姿を見てからずっと考えてるよね? 彼がなぜ、魔王の服なんて着ているのかって」

 

「…………っ」

 

ボクは言葉を詰まらせた。

アリスさんの指摘は正解だったからだ。

 

あの時、魔王の服を着たアセムを見て、ボクは色々なことを思い出した。

 

戦場で戦うお父さんの姿、戦場から帰ってきた時のお父さん、そして………戦争を終わらせるために、命を差し出した時の………。

 

お父さんは自分を最後の魔王にしたかった。

戦争を終わらせるために、恐怖の象徴である魔王を消す。

そのために―――――。

 

そして、何よりも、お父さんはボクに魔王の座を継がせないために魔王という存在を消した。

ボクが平和な日常を歩めるように。

 

だけど、魔王は現れてしまった。

アセムがあの服を纏うことによって。

 

ボクは俯きながら、小さく頷いた。

 

「うん………。アリスさんの言う通りだよ。あれからずっと考えてたんだ。なんで、あの人が魔王の服なんて着ているのかって………。でもね、それだけじゃないんだ………」

 

ボクは拳を握りしめて、続けた。

 

「あの姿を見たとき、驚きもあったけど、同時に怒りが沸いてきて………。お父さんの覚悟を踏みにじられたような………そんな気がして………」

 

なんで………どうして…………。

 

ボクにはアセムの考えは分からない。

アスト・アーデの魔王を恐怖の象徴として復活させたかったの?

もし、そうだったとしたら、ボクは彼を許せそうにない。

 

でも、ボクがこうして落ち着いていられるには理由があった。

 

ボクの考えを見透かしたようにアリスさんは言った。

 

「アセムには何か目的があるかもしれない。美羽ちゃんはそう考えているのね?」

 

ボクは頷いた。

 

「彼が最後に言い残した言葉が気になってね。本気でこの世界を滅ぼしにくるなら、あんなこと言わないと思うんだ」

 

 

『考えることだ。自分達が生き残るために、この世界が生き残るためにはどうすれば良いのか。一人一人が考え、己の役目を果たすことが、僕やトライヘキサを倒すことに繋がるだろう』

 

 

アセムはボク達に考えろと言った。

生き残るために、そのためにはどうすれば良いのか。

それがこの戦いを終わらせることに繋がると。

 

アセムは魔王になり、この戦いの先に何かを見ている。

そして、あの人はお兄ちゃんが来るのを待っている。

 

赤い龍の勇者と勇者を待つ魔王―――――。

 

あれ………?

この構図って………。

 

ボクの脳裏にかつての光景が浮かび上がった、その時だった。

 

「アリス、美羽さん。こちらはどんな感じですか?」

 

そう言ってこちらに歩いてくるのはリーシャさん。

彼女の両サイドにはサリィとフィーナがいて、リーシャさんと手を繋いでいる。

 

アリスさんがリーシャさんに問う。

 

「あれ? なんでここにいるの? 冥界にいたんじゃないの?」

 

「そうだったんですけどね。私もこの施設には用があったのですよ。アザゼルさんに武器の調整をお願いしていまして。さっき、最終調整が終わりました」

 

そういえば、ビットの数を増やすんだっけ………?

 

サリィとフィーナの協力があるとはいえ、リーシャさんの空間認識能力ってずば抜けているよね………。

 

フィーナが言う。

 

「私達のリンクも今まで以上に仕上がりました。これで、どれだけ相手が来ようとも問題ないです」

 

「ふっふっふー! どんな敵でも私達が蹴散らしてやる!」

 

挑戦的な笑みのサリィ。

 

リーシャさんもこちらにウインクを送りながら、

 

「二人の言う通りです。私達の準備は万端です。あとは狙い撃つだけ。とりあえず、新技も撃てますし」

 

「新技? そんなのあったの?」

 

それはボクも初耳だ。

サリィとフィーナの力を使った技だと思うんだけど………。

 

アリスさんの問いにリーシャさんは微笑みを浮かべて答えた。

 

「ええ。これは取って置きです。イッセーが目覚めたら、使おうと思ってます」

 

「イッセーが目覚めたらって………目覚めのキス!?」

 

「うふふ♪ 正解です♪」

 

イタズラな笑みのリーシャさん。

 

目覚めのキスって…………それは新技なの?

まぁ、お兄ちゃんの別のところが目覚めそう…………。

 

そういえば、リーシャさんって―――――。

 

「リーシャさんって、お兄ちゃんのこと好き?」

 

「ええ、もちろん。イッセーのことは大好きですよ♪ 可愛いじゃないですか、エッチなところも年頃の男の子って感じで」

 

「それって弟みたいな?」

 

「そうですねぇ………。それ()あります」

 

「それ………も………? ということは――――――」

 

ボクの問いにリーシャさんは満面の笑顔で頷いた。

 

「一人の男性としても好きですよ。いつも一生懸命で、真っすぐで。誰かのために熱くなれる。そんなイッセーが私は好きです」

 

―――――っ。

 

そっか、リーシャさんもやっぱりお兄ちゃんのことを………。

 

ふむふむ、なるほど。

これは、これは――――――。

 

「メモしとかなきゃ」

 

「美羽ちゃん………なに書いてるの?」

 

「うふふ♪」

 

ハーレム計画は―――――まだまだ続くね!

 

 

[美羽 side out]

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

「父上はなぜ魔王の服を?」

 

「唐突だねぇ。どうしてだい?」

 

ヴァルスの問いかけにアセムは笑みと共に聞き返した。

 

「父上がどのような服を着ようとも勝手だとは思います。………が、そのお姿は魔王シリウスの意思に反するかと」

 

「不満かい?」

 

「ええ、不満です。理由を示してもらわなければ納得できませんね」

 

「そうかい」

 

アセムは掌を見つめると、ぐっと握りしめる。

すると、手の甲にとある術式が浮かび上がった。

 

複雑怪奇な文字が並べられたその術式はアセムが組み上げたオリジナルの術式。

―――――『システム』の中にあった情報を元にアセムが組み上げたもの。

 

天界で『システム』の中を覗いたのは単に赤龍帝の籠手を模倣するためではない。

あれはあくまでついでだ。

 

本当の理由はアセムが己の体に刻んだ術式、これにある。

 

アセムは自嘲気味に笑むと一言。

 

「これは………僕の覚悟、かな?」

 

「覚悟ですか?」

 

「初めて彼と話したとき、彼には覚悟を見せてもらった。なら、僕も覚悟を決めないとダメでしょ。この戦いは僕が始めたものだ。ならば最後まで責任を持つさ。………ヴィーカ達は上手く配置してくれたのかな?」

 

「とりあえず、父上の術式を各所に配しています。あとは父上が発動させれば…………」

 

「そっかそっか。上手くいけば良いけど………どうなるかな?」

 

「父上………あなたはこの戦いに何を掛けているのです?」

 

「そんなの言わなくても分かっているだろうに。何を掛けているか………それは僕の知識、記憶、技術、経験、そして命。僕の持てる全てをこの戦いに掛けよう」

 

アセムは踵を返して歩き出す。

その瞳は目の前の戦いよりも、更に先を見据えていて―――――。

 

すると、彼はふと思い出したように言った。

 

 

 

「あ、そうそう。ロッキー・ザ・ファイナル、TSUTAYAに返しといてくれない?」

 

「嫌です。自分でしてください」

 

「ぶー」

 

「可愛くしてもダメです」

 

 

[三人称 side out]

 

 




気づけば350話か………


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12話 追憶 勇者の背中

―――――起きろよ、イッセー。

 

 

声が聞こえる。

 

 

 

―――――そろそろ、時間だぞ?

 

 

もう少しこのままいたい。

俺は…………。

 

 

 

 

 

「起きろぉぉぉぉぉぉぉう! イッセェェェェェェェェイ!!」

 

「グボアッ!?」

 

凄まじい衝撃!

何かが腹の上に乗ってきた!

布団にくるまっていた俺は鈍い痛みで飛び起きる!

 

すると、目の前には―――――。

 

「起きろぉぉぉぉぉぉぉう! 朝だぞぉぉぉぉぉぉぉう! 修行だぞぉぉぉぉぉぉぉう!」

 

なんか、腹の上でゴロゴロしてるやつがいる!?

 

「ギャァァァァァァッ! 何してんだぁぁぁぁぁ!?」

 

朝って………まだ四時前ですけど!?

窓を見ても、ようやく日が登り始めたって感じなんですけど!?

鳥でもまだ寝てるわ!

 

俺の絶叫を聞いたそいつはベッドから飛び下り、華麗に着地を決めた。

 

俺と同じ茶髪、爽やかなイケメンフェイス。

そいつはいつもと変わらない爽やかな顔で、

 

「やっと起きたか」

 

「誰でも起きるわ! 殺す気か!?」

 

「あれくらいじゃ死なねーよ。なんだ? 折角、起こしにきてやったのに」

 

「頼んでませんけど!?」

 

反論する俺だったが、そいつは構わず、俺が着ている寝巻きの襟首を掴んだ。

そのまま力任せに引っ張り、俺をベッドから引きずり下ろすと、ご機嫌な様子で歩き始める。

 

「よっしゃ! 朝の修行といくぜ!」

 

「今から!? な、なぁ………もう少し寝かせてくんない? 滅茶苦茶眠いんだけど…………」

 

「問題ないぞ、イッセー。城下町十周くらいしたら、余裕で目が覚めるさ!」

 

「そのまえに俺が死ぬと思うんですけど!? 目が覚める前に天に召されるわ!」

 

「今日は朝一で市場に行かないといけないからな。良い魚が入ってくるんだよ。仕込みもあるし、新メニューを………」

 

「人の話聞けよ!」

 

「今日も一日元気に行こー! えいえいおー!」

 

「人の話聞けぇぇぇぇぇぇ! つーか、着替えさせてぇぇぇぇぇぇ! 俺、まだ寝巻きなんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

早朝から俺を引きずっていくこいつの名前はライト・オーヴィル。

俺がいた世界とは別の世界―――――アスト・アーデの勇者だ。

 

今までのやり取りから分かるようにこいつは………やたらとテンションの高い男だった。

 

「誰かぁぁぁぁぁぁ! たぁぁぁぁすぅぅぅぅけぇぇぇぇてぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

 

 

俺の名前は兵藤一誠。

少し前まで普通の中学三年生だった。

 

いや、俺自身は至って普通だ。

何かの力に目覚めたわけでもないし、凄い武器を持っているわけでもない。

俺自身はただの一般人だ。

 

では、何が普通でなくなったのか。

 

――――――それは俺が置かれた環境。

 

俺は俺がいた世界とは違う世界にいる。

いわゆる異世界ってやつだ。

 

自分の部屋でゴロゴロしていたら、何かに吸い込まれて、気づいたらこの世界にいた。

それから二週間ほどが経ったけど、今でも信じられない。

 

もしかしたらこれが夢で、目が覚めたらいつも通りの日常が待っている。

朝起きたら、父さんと母さんがいて、普通に朝飯食って学校に行く。

松田や元浜、クラスメイトと一緒に授業受けて、帰りに買い食いして。

家に帰ったら、母さんが夕食を作りながら「おかえり、イッセー」と言ってくれる。

夕食を食べた後は風呂に入って、宿題をして、ゴロゴロして、寝る。

 

そんな日常があると思っていた。

 

けど、それは叶わない。

俺が置かれたこの状況は紛れもない現実だったからだ。

 

今の状況を初めて理解した時は心底恐怖した。

 

―――――孤独。

 

この世界には俺しかいない。

家族も友達も、俺を知る奴は誰もいない。

そう考えたら、どうすれば良いのか、何をしたら良いのか分からなくて………怖かった。

 

それでも、こうして慌てふためくことなく生きているのは、この世界でも俺に手を差し伸べてくれる人達がいたからだ。

 

その内の一人が、こいつ。

 

「どーよ、イッセー! 新作メニューの味は!」

 

カウンターテーブルの向こうから顔をずいっと突き出しながら感想を訊いてくるライト。

 

こいつは常に明るい。

何をされても大概のことは笑って飛ばすような男。

 

そして、この世界の勇者様だ。

 

エプロン姿で華麗な包丁捌きで魚をさばいていく姿からは想像できないが…………。

板前にしか見えん………。

 

俺は箸を置いて、一言。

 

「八十五点」

 

「八十五!? 八十五だとぉぉぉぉ!? 残りの十五点はなんなんだ!」

 

熱いよ………。

見た目は爽やかイケメンなのに内面は熱血漢過ぎる。

今、朝の七時過ぎだぞ?

 

俺はコップの中の水を一気に飲み干すと叫んだ。

 

「朝から散々走りまわされて、こんな腹いっぱい食わされたら減点もしたくなるわぁぁぁぁぁぁ!」

 

早朝よりも早い時間帯から!

城下町をぐるぐる走りまわされて!

寝不足も加わって、吐いたわ!

路上でおえったわ!

 

そこに店の新作メニューだとか言って、皿一杯に乗せられた料理の数々!

 

美味いよ!

確かに新作メニューは美味かった!

だけどね、朝のストレスがそれを僅かに上回ったんだよ!

 

「俺、さっきから限界って言ってたよな!? もう腹パンパンなんですけど! それを無理矢理食わせてさ! 八十五点でもかなり譲歩したんだよ!」

 

「男なら限界を超えてこそだろう!」

 

「殴っていい!? マジで殴らせてくんない!? 一発だけでいいから!」

 

「お、やるかぁ! よーし、表出ろ! コテンパンにしてやらぁ!」

 

「ガチで殴り合って俺が勝てるわけねーだろ! おまえと違って、俺はただの一般人!」

 

「男が拳を交えるのに勇者も一般人もない! さぁ、こい!」

 

そんな暴論を言いながら、俺を引きずっていくライト!

こいつ、マジか!?

 

クッソ、こいつ力強すぎる!

振りほどけねぇ!

 

流石は勇者様!

俺と歳が違わないのに、ここまでの差!

 

俺とライトがギャーギャー叫んでいると――――――何かが俺達の側頭部目掛けて飛んできた。

 

「ぐはっ!?」

 

「ぎゃん!?」

 

頭を抱え床の上を転がりまわる俺達!

 

カランっと何かが床に落ちる音がしたので見てみると、それは二つのおぼんだった。

 

ふと気配を感じたので、そちらに顔を向けると、額に怒りマークを浮かべたライトのお母さん………エルニダさんがいた。

 

「あんた達! 店の中でうるさいわ!」

 

「か、母さん。こ、これは………」

 

「そ、そんなに目くじら立てなくても………。騒いで、悪かったって………」 

 

「ライト、さっさと仕込み終わらせな! イッセー、暇なら手伝っておくれ!」

 

「「は、はいっ! ただいま!」」

 

取っ組み合いから一転。

俺とライトは慌ててその場から散っていった。

 

うーん、この人にはすっかり頭が上がらなくなってしまった………。

こうして、俺はライトの実家、定食屋『山猫食堂』の手伝いをさせられていた。

 

買い出し行ったり、皿洗ったり、注文取ったり………。

 

「おら、イッセー! こいつを持っていってくれ!」

 

「あいよ!」

 

まぁ、こんな風に過ごせてるから、今となっては寂しさはかなりマシにはなったかな?

 

 

 

 

「くはぁぁぁっ、今日も多かったなぁぁぁぁぁっ」

 

俺は背筋を伸ばしながら、空を仰いだ。

 

―――――ランチタイム。

 

その時間帯はまさに戦場だった。

どれだけ動いても人が減る気配がない。

入り口に並ぶ行列を見る度に打ちのめされた気分になる。

 

ライトの家にある中庭に転がった俺はその場に大の字になった。

 

ライトは蛇口から直接水を飲んだ後に言う。

 

「昼は一日のピークだしな。まぁ、イッセーが来てくれたおかげで家は大助かりだ。家には人を雇う余裕もないしなぁ」

 

「そりゃどーも………。つーか、あれだけ人が入っていたら儲かるだろ? 人くらい雇えるぐらいには」

 

割と全うなことを言ったと思う。

あれだけ人が入っていて、人を雇う金がないってのは変な話だ。

むしろ、雇え、雇ってくれ。

 

あの忙しさは尋常じゃない。

下手すりゃ倒れるぞ、俺が。

 

しかし、ライトはチッチッチッと指を横に振った。

 

「甘いな、イッセー。人を雇う金があるなら、その分、良い食材を仕入れた方が万倍良いだろ。旨い飯を作るのが俺達の仕事、生き甲斐だからな!」

 

このクッキング勇者め。

こいつの食に掛ける情熱は半端じゃない。

 

なんだろうな………。

爽やかイケメンで、勇者って呼ばれるほど腕っぷしも強くて、料理も出来る。

これだけ聞けば家事の出来る完璧男子に思えるが………。

 

「なぁ、イッセー! また、新作を考えたんだ! 後で味見してくれよ! なっ! なっ! なっ!」

 

「わーったよ! そんなに顔を押し付けてくるな! 暑苦しい!」

 

………残念イケメンか。

 

こいつの頭には新作メニューのことしかないのか!?

 

「おまえ、女の子とかに興味ないの? おばさんが心配してたぞ?」

 

「ない。そんなことに興味持つなら、どこの市場に行けば幻の魚が入手できるか、とかの方がよっぽど興味がある」

 

おばさん………こいつはもうダメかもしれない。

お嫁さんは諦めた方が良いかもしれません。

 

「おまえ、勇者やるよりも、ここで新作メニューを考え続けた方が良いんじゃないか? その方がおまえも幸せだろうに」

 

何気ない俺の言葉だった。

 

料理している時のこいつは本当に楽しそうだ。

なにも血生臭いことをしなくても、ライトはここでおばさんと一緒に飯を作って、常連の人達と冗談を言い合って爆笑してる方が良いんじゃないか。

 

この世界に来て、こいつと過ごした時間はまだ短い。

 

そんな俺でもそう思ってしまうのだから、他の人だって同じことを考えてると思う。

 

すると、ライトはフッと小さく笑んだ。

 

「なぁ、イッセー」

 

「ん?」

 

「ちょっと俺と来てくれ。見せたいものがある」

 

そう言うとライトは俺の手を引いたのだった。

 

 

 

 

「おーい、まだかー………」

 

「もう少しだって。なんか、死にそうな顔をしているな」

 

死にそうな顔だと?

 

そりゃ、そうだろうよ。

 

ライトの実家を出てから三時間も山奥を歩かされてるんだからな!

しかも、舗装なんてされてないし!

明らかに獣道じゃん!

草木を掻き分けて前に進んでるよ!

 

それに、俺がゲッソリしている理由、さっさと帰りたい理由は他にもある。

 

俺は後ろに倒れている黒い生物を指差して叫んだ。

 

「こんなでっかい熊が出てくる場所で、意気揚々と登山なんか出来るかぁぁぁぁぁ!」

 

そう、俺の後ろに倒れているのは五メートルは余裕で越える超デカイ熊!

 

ライトがいてくれたから、こうして生きているが、一人だったら確実に殺られてるぞ!

 

ライトは顎に手を当てると、ふむと頷いた。

 

「こいつはジャイアント・クーマーだな。こいつの肉は絶品だ。良い収穫だった」

 

「なんだよ、クーマーって!? クマだろ!? つーか、食うのかよ!」

 

「いや、クーマーだ。他にもゴッド・クーマーとか、これより遥かに巨大なやつがいるんだが………惜しいな」

 

「惜しいってなにが!?」

 

「ゴッド・クーマーの肉は幻の食材の一つだ。是非とも仕入れたかった………」

 

「もうヤダ! 帰りたい!」

 

城に戻ってニーナちゃんに抱きつきたい!

あのおっぱいに顔を埋めたい!

リーシャにも甘えたい!

お姉さんに撫で撫でしてもらいたいよ!

 

なんで、俺はこのクッキング勇者と登山してるの!?

 

そんな文句を言いながら、俺はデンジャラス過ぎる登山を続けた。

 

更に歩くこと一時間。

俺の体力、気力はもう限界に達していた。

 

すると、ライトは俺の腕を引っ張って先導してくれた。

 

「そーら、着いたぞ。ここだ、ここ」

 

「ぜーはー………ぜーはー………つ、着いたのか………?」

 

俺は疲労のあまり、その場に膝をつく。

 

い、今は呼吸を整えなければ………ここがどことか言う前に、ここが俺の墓場になっちまう………。

 

ライトから渡された水筒を受けとり、中の水を煽る。

 

ようやく、落ち着いてきたところで、辺りを見渡すと―――――。

 

そこは草原だった。

緑豊かで、綺麗な花があちこちで咲き誇っている。

空には雨が降ったわけでもないのに、大きな虹が架かっていた。

 

草原の向こうにはオーディリア。

俺がお世話になっている国だ。

町の中心には大きな城があって、町には大勢の人達が行き交いしている。

 

静かな大自然と賑やかな城下町が混ざった風景は不思議だけど、一体となっている。

その幻想的で温かな光景に俺はつい感想を呟いた。

 

「………絶景って感じだな」

 

「だろ? 俺が見つけた秘密の場所だ。たまに一人でここに来るのさ。今日、ここに連れてきたおまえ以外は誰も知らないと思う」

 

「良いのかよ、俺を連れてきて。秘密の場所なんだろ?」

 

ライトと俺以外は誰も知らないってことはアリスやリーシャ、モーリスのおっさんといった面子も知らないということ。

 

昔からの付き合いのある人達より、数週間の付き合いしかない俺を秘密の場所に連れてきても良いのか?

 

ライトは俺の隣に腰を下ろすと、オーディリアの町並みを眺めながら口を開いた。

 

「俺が剣と魔法を学び始めたのは七年前。この国の騎士だった父さんが戦死したその日からだ」

 

何の前触れもなく、突然、過去の話を始めるライト。

ライトの親父さんが亡くなっているのは俺も知っていた。

 

「あの時は俺が母さんを守らなきゃって、そんな想いで力を求めた。モーリスに剣を習って、リーシャに魔法を教わり始めたよ。力をつけて、俺も戦場に出るようになってさ。今のところなんとか生き残ってきた。そしたら、いつの間にか『勇者』とか呼ばれてさ」

 

ライトは苦笑する。

 

ライトが『勇者』と呼ばれるようになったのは戦場で、人間側の希望だったからだ。

ライトがいれば、どんな不利な状況でも勝利に導く。

どんな状況でも諦めない不屈の精神。

 

魔族と争っている人間側にとって、ライトは希望そのもの。

 

だけど、ライト本人はそんなこと望んでいなくて。

こいつは本当なら、実家を継いで、この世界で一番の料理人になることが夢だったんだ。

 

「俺も人を傷つけるより、美味い飯を食いながら笑っている皆を見てる方が万倍良いんだけどな」

 

「だったら、なんで戦うんだよ? なにも、ライトが戦わなくても………」

 

ライトは俺と歳が変わらない。

俺のいた世界………いや、この世界でも、そのぐらいの歳のやつは勉強したり、友人と遊んだりする。

 

それにおばさんを守るなら、側にいてあげた方がおばさんだって、喜ぶんじゃないか?

 

だから思う。

なにもライトが戦わなくても良いんじゃないかって。

 

ライトは草の上に大の字になると、右手を空に翳した。

 

「昔、モーリス達にも同じこと言われたよ。戦うのは自分達に任せて、母さんの側にいてやれってな。でもさ………無関係ってわけにはいかないんだよ」

 

「………?」

 

ライトの言葉に首を傾げる俺。

 

ライトは言う。

 

「この世界で起きている戦争って、種族間同士の問題というより、この世界にいる人達、一人一人の問題だと思うんだ。………身内を、仲間を殺されたから、復讐で相手にも同じことをする。この戦争は復讐の連鎖が大昔から続いているんだよ」

 

それはこの世界のことを教えてもらう時に聞いた。

昔から続いてきた争いはもう止められないところまで来ているとも。

それだけ、人間と魔族が持つ相手への憎しみや敵対心は大きい。

 

「どこかで断ち切らないといけないんだ。そうしないと互いを滅ぼし合って、最後には何も残らなくなる………。それを防ぐためにもこの世界に住む一人一人が未来について考えないといけない。だから、俺は戦うんだよ、この世界と向き合うために。………悲しみしか残らない世界になんてしたくないからさ」

 

ライトは上体を起こすと、オーディリアの城下町へと視線を向けた。

 

「俺がやってることがこの争いを止めることに繋がるのかは分からない。正直、これで本当に良いのか自信を失う時もある。結局は俺も戦場で多くの命を奪ってきてしまっているからな………。それでも、俺は探したいんだ。―――――人間と魔族、この世界の皆が笑顔になれる方法をな」

 

そう言うライトはいつものように笑っていた。

 

ああ、そうか………だから、こいつはいつも笑顔なんだな。

皆を笑顔にするために、ライトは―――――。

 

「そういうわけだ。これからも俺は『勇者』をやってみるよ。どこまで出来るか分からないけどな」

 

 




久し振りのイッセー登場でした。
次回も過去になります。


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13話 追憶 始まりの日

追憶パートつー!


俺がこの世界にやって来てから、数ヵ月が過ぎた。

この世界に大分馴染んできた俺はいつものようにライトとつるんでいる。

 

早すぎる朝………鳥もまだ眠っている時間帯からライトに起こされ、城下町を走り回る。

流石にライトみたいに余裕と言うわけじゃないけど、俺もそれなりに走れるようになった。

 

「ぜーはー………ぜーはー………み、水………」

 

うん、話せる元気があるだけ、かなり進歩したと思う。

 

目の前にいるこいつは全く息を切らせていないのを見るとあれなんだけど………。

 

ライトはカラカラと笑いながら言ってくる。

 

「ハハハ、大分と体力がついたんじゃないのか?」

 

「毎日これだけ走らされて、進歩が無かったら泣くぞ………」

 

俺はプルプル震えている足をなんとか動かして、水道へ。

端から見れば、その姿は生まれたての小鹿みたいに見えるだろう。

 

水を飲みに行くだけでも、結構キツいものがあるな………。

 

しかし………。

 

「よーし、そんじゃ、剣術の修行といこうか!」

 

「鬼か! 生まれたての小鹿みたいになってる俺を見て、よくそんなこと言えるな!」

 

ライトは相変わらずのスパルタだった。

 

 

 

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

木刀を持って、ライトに突貫する俺。

走った後はこの国の騎士団の人に混じって、俺も剣術の稽古だ。

 

そもそも、一応、客人として扱われている俺は別にこんなことをしなくても良い。

むしろ、ここの騎士団の人達も俺を見て、

 

「おーおー、やってるやってる」

 

「イッセーもよくやるよなぁ。つーか、ライトのやつも容赦ねー」

 

こんなことを言ってくる程だ。

 

俺がライトと走ったり、剣術の稽古をしているのは、ここに来たばかりの時に俺が発した言葉が原因だった。

 

 

………ここにいる間、時間は余ってるし何かすることないかな………?

 

 

そう、この言葉が全ての始まりだった。

この世界で俺がしなきゃいけないのは、元の世界に戻る手段の調査と生活の確保。

 

ただ、前者は俺が慌てたところでどうなるものでもなく、モーリスのおっさん達が文献を集めてくれるのを待つしかない。

後者はこのオーディリアが支援してくれているので、なに不自由なく過ごせている。

………少し申し訳なく思うが、俺が元いた世界の話をしてくれれば、それで良いと言われている。

どうやら、この世界の人にとっては、興味深い話らしく、俺の話に聞き入ってくれている。

 

で、この空いた時間をどうするかという話になり、ライトが一緒に修行をしてみないかと提案してきたんだ。

 

俺としても勇者のやってる修行がどんなものなのか興味もあったし、暇潰しにはなると思って、軽い気持ちで頷いたんだが…………。

 

「そらっ!」

 

ライトの横凪ぎの一撃が俺の髪を掠めた!

髪の何本かが斬られたぞ!?

 

「危ねっ! おまえ、もう少し加減しようぜ!? 初心者なんだぞ!」

 

「何ヵ月かやってきてるんだから、初心者よりは上だろ。ほら、俺に一本入れてみろー」

 

手招きして挑発してくるライト。

 

「ぬぐぐぐ…………!」

 

この野郎!

一々、挑発してきやがるから、腹立つ!

 

そう、俺が修行をやり続けている理由はこれだ。

 

………一発、ぶちかまさないと気がすまん!

 

「今日こそ一本入れたらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺はがむしゃらに木刀を振った!

とりあえずは今まで教わったことを活かして、技を繰り出してみる………が、ライトは余裕の表情で避けていく!

 

ちぃ………!

分かっていたけど、素人に毛が生えた程度じゃ、勇者様には届かないか!

 

やっぱり、小手先だけの技じゃ、一本も取れないか。

 

だったら――――――。

 

「最終的には気合いだぁぁぁぉぁぁぁぁぁ!」

 

「ただの突進じゃねーか! だが、その通りだ! 分かってるじゃないか、イッセー!」

 

猪突猛進。

俺はフルスイングでライトに斬りかかった。

 

 

それから、暫くして。

 

 

「も、もう………げ、限界………う、腕が上がらねぇ………」

 

ひたすら攻め続けた俺はスタミナ切れで地面に突っ伏していた。

必死の特効だったけど、ライトには掠りもせず………。

 

俺とライトの稽古を見ている騎士団メンバーは動けない俺を見て爆笑してやがる。

 

こんちくしょうめ!

 

ライトは木刀を片手でクルクル回しながら、口笛を吹いていた。

あれだけ動き回っていたのに汗一つかいてねぇ………。

 

ライトが笑みを浮かべて言ってくる。

 

「はっはー。今日も一本取れなかったな、イッセー」

 

「………次は一本決めてやるからな」

 

「その意気だ」

 

悔しげにする俺の横にライトは腰を下ろした。

 

そして、俺に水筒を差し出してきた。

俺は無言で水筒を受け取り、口をつけた。

 

騎士団のメンバーが言ってくる。

 

「イッセーに剣術は向いてないんじゃないか?」

 

「そうだな。始めた頃よりマシだが、成長が遅すぎる。新米騎士にも負けてたし」

 

うっ………返す言葉がない。

 

俺はライト以外にも相手になってもらう時がある。

結果は惨敗。

どんなに打ち込んでも鮮やかに木刀を払われて、一撃を受けてしまう。

言われたように、この間は新米騎士の人にも負けてしまった。

 

俺はここ数ヵ月、稽古に励んでいたんだけど………。

 

運動は出来る方だと思ってた。

学校の体育でもそこそこの成績だったしな。

 

もちろん、ここの騎士団に所属している人は俺より万倍も剣を振るってきたんだろうし、俺が負けるのは当たり前とも思う。

けど………やっぱり、勝てないのは悔しいもんだ。

 

俺が深くため息を吐くと、ライトが言った。

 

「まぁ、確かにイッセーの成長は遅いかもな。初級魔法も出来ないし」

 

「追い討ちをかけてくるなよ…………」

 

この世界の初級魔法は七歳くらいの子供でも出来る超簡単な魔法。

それを俺は全く発動させることが出来ないでいた。

 

まぁ、俺はこの世界の人間じゃないし、その辺りが関係しているのかもしれないけど………。

 

ライトは笑顔で続けた。

 

「だけどさ、どれだけ負けても向かってくるど根性は凄まじいものがある。これだけ負け越したら、諦めそうなんだが………」

 

「負けっぱなしでいられるかよ。元の世界に戻る前に絶対、一本取ってやるからな」

 

「それだよ。負けず嫌いなのは良いことだ。おまえの根性は騎士団員に匹敵するかもな。おまえらもイッセーを見習えよ? この調子だと、いつか一本取られるぞ、マジで」

 

「「うぃーす」」

 

ライトに言われて答える若い騎士達。

返事を返した騎士達は俺と同い年ぐらいだ。

 

才能はなくても、根性だけはありますか………。

それはそれで泣けてくるけど、根性に関しては勇者様のお墨付きってことで喜ぶべきなのかな?

 

ある程度、体力の回復した俺はフラフラしながらも立ち上がる。

 

「とりあえず、汗流してくるわ………。身体中ベトベトだ」

 

それだけ言い残して、その場を去る俺。

 

汗を流す場所はこの演習場を出て、すぐの所にあるんだけど………。

 

「ゲッ………満員かよ」

 

中には汗を流しているおっさん達で一杯だった。

 

うん、なんか嫌だ。

ヘロヘロの状態でおっさんに囲まれるのはキツい。

おっさん達に捕まると、俺のいた世界について長々語らされるんだ。

 

というわけで、少し遠いが城の中にある浴場へと向かうことにした。

 

限界の体を引きずり、歩くこと数分り

目的地にようやく到着。

 

扉を開けて、中に入ると――――――。

 

「あっ…………」

 

「「「「えっ………?」」」」

 

中にいた全裸のお姉さん達と目があった!

 

こ、この人達はこの城にいるメイドさん達だ!

この世界のメイドさんは護衛としての役割も持っているから、全員が武器の扱いに長けている。

 

そうか、今日はメイドさん達も演習の日だったのか………!

 

こ、これは―――――眼福です!

 

すると、裸のメイドさん達を掻き分けて前に出てくる者がいた。

 

金髪の美少女にして、この国のお姫様―――――アリス!

 

武闘派のお姫様であるアリスは拳を握ると、ニコニコ顔で聞いてきた。

 

「とりあえず、グーで良いよね?」

 

「ちょ、ちょっと、待っ――――――」

 

「このドスケベェェェェェェェェェェッ!!」

 

無慈悲な一撃が顔面に放たれたのだった。

 

俺は思っていた。

たまにアリスの無慈悲なグーパンチが飛んできたりするけど、いつまでもこんな生活が続けば良いと。

いつかは元の世界に戻ることになると思うけど、それまではここにいる皆と仲良く、楽しく生きていきたいと。

 

 

でも――――――俺の願いは叶うことはなかった。

 

 

 

 

「迎撃に出た部隊はどうなっている!」

 

「はっ! 魔王軍の勢いは凄まじく、とても太刀打ち出来るものではありません!」

 

その日は突然やって来た。

 

いつもは穏やかなオーディリアの城下町は、大混乱に陥っている。

理由は敵対している魔族が大勢力で、このオーディリアに攻め込んできたからだ。

 

オーディリアと魔族の国は隣接しているため、国境付近に互いに軍を敷き、牽制しあっていた。

たまに衝突もしていたみたいだが、それは極小規模な争いに留まっていた。

二つの国は硬直状態だったんだ。

 

その硬直が、数日前に崩れた。

 

最強の魔王と称される魔王シリウスが出てきたんだ。

魔王の出現によって、維持されていた戦線は瞬く間に突破されてしまう。

 

そして、今。

魔王率いる魔族の軍勢がこの城下町まで迫っている。

 

モーリスのおっさんの指示が聞こえる。

 

「住民の避難を最優先しろ! 極力、戦闘は避けるんだ!」

 

「で、では、この町を放棄するということですか!?」

 

「そうだ! 相手との戦力差を考えろ! 住民を守りながらでは、とてもじゃないが勝てる相手じゃねぇ! シリウスの野郎が出張ってることを忘れるな………!」

 

「………っ! 分かりました、皆にはそう指示を出しておきます!」

 

シリウスという名前は屈強な騎士を身震いさせていた。

 

ここの騎士団は他の国と比べても練度が高いことで有名らしい。

そんな人達が震えるって、どれだけ強いんだよ、その魔王は………。

 

おっさんが辺りを見渡して呟く。

 

「ライトは………もう動いているのか………」

 

「彼は最前線にて、敵軍を迎え撃っております。避難までの時間を稼ぐつもりかと」

 

―――――っ!

ライトはもう戦っているのか!

最強の魔王が率いる大軍勢を相手に、時間を稼ぐために自ら、戦場に立つのかよ………!

 

ライトはこの町の人達を守るために戦っている。

俺は………あいつは今も戦っている。

俺にも………何か…………。

 

俺は立ち上がると、騎士団員に指示を出しているおっさんに言った。

 

「おっさん! 俺も避難活動に参加させてくれ!」

 

俺の言葉におっさんは一瞬、言葉を失う。

それから、飛んできたのはおっさんの怒号だった。

 

「バカ野郎! おまえも先に逃げるんだよ! おまえに何が出来る!?」

 

「あいつが! ライトは今も戦っているんだ! 俺だって………俺だって何か力になれるはずだ! それに、俺はこの町の人達に恩がある! 俺も守りたいんだよ!」

 

それだけ言い残して、俺はこの場から駆け出した。

後ろからおっさん達の制止の声が聞こえるが、俺は止まらずに、ただ走った。

 

親友が戦っているのに、俺だけ逃げるわけにはいかないんだよ………!

あいつが戦うのなら、戦う力のない俺はせめて………!

 

俺は城を抜け出し、町へと向かった。

 

 

 

この判断が後に、一生消えない後悔になるとも知らずに。

 

 

 

 

 

「こっちです! この道を真っ直ぐいけば、騎士団の人達がいます! そこで保護してもらってください!」

 

「あ、ありがとう!」

 

お礼を言って、教えた道を走っていく子連れの夫婦。

 

ライトに付き合って、この町を走り回っていたことがここで役に立ったな。

この数ヵ月でこの町の道は大きい道から小さい道、普段は人が使わない道まで粗方覚えた。

そのおかげで最短のルートを教えることが出来る。

 

今となっては、住民以上にこの町に詳しいんじゃないだろうか?

 

「これで結構な数を誘導できたか………」

 

俺は汗を拭いながら、そう呟いた。

 

ここは他の場所よりも避難が遅れている地区だ。

もしかしたら、他にも避難の遅れている人がいるかもしれない。

 

ふと、俺の頬に冷たいものが触れた。

 

………雨か。

 

小降りというレベルでもないが、もう少ししたら本格的に降りそうだ。

雨雲で空はどんどん暗くなってくる。

 

………なんか、嫌な予感がするな。

 

先を急ごうとした、その時―――――。

 

 

ズゥゥゥゥゥゥゥゥン………

 

 

何処からか爆発音が聞こえてきた!

辺りを見渡すと、向こうの方で黒煙が上がっている!

 

まさか、魔族軍がもう到着したのか!?

 

どうする………?

ここに留まっていては俺も殺されてしまうだろう。

でも、ここには逃げ遅れた人もいるかもしれないし………。

 

すると、誰かが泣いている声が聞こえてきた。

 

見ると一人泣きじゃくっている子供がいた。

 

「君、一人か? お父さんとお母さんは?」

 

「………はぐれちゃった………」

 

混乱の中ではぐれたのか。

もしかしたら、この子の両親は騎士団の人達に保護されているかもしれないな。

 

魔族の軍隊も迫っていることだし、ここはこの子を連れて退いた方が良さそうだ。

 

そう思い、俺は子供の手を取った。

 

「こんなところにいたのか…………人間め………ッ!」

 

突然、聞こえてきた第三者の声。

 

振り向くと、そこには一つの影。

獣の耳に尻尾。

口からは牙を覗かせている。

 

あれは獣人―――――魔族だ。

 

その魔族の手には一本の剣が握られていて、明らかな殺意が俺へと向けられていた。

 

人間を恨んでいる………仇を見つけたような目………!

きっと、大切な人を人間に奪われたのだろう。

 

憎しみの感情が俺を貫く――――――。

 

「あっ………」

 

ヤバい………逃げなきゃ…………!

この子を連れて早く逃げないと………!

 

でも、足が言うことを聞いてくれない。

初めて向けられた強烈な殺意に足がすくんでいやがる………!

 

僅かに後ずさる俺に対して、あの魔族は一歩一歩、確実に距離を詰めてくる。

歩みがどんどん速くなっている。

 

そして――――――。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

赤く染まった瞳で斬りかかってくる魔族!

 

俺は咄嗟に子供を庇うように抱き締め――――――。

 

 

 

 

生暖かいものが俺の背中に当たった。

 

 

 

 

あれ…………痛くない…………。

 

生きてる…………のか?

 

俺はゆっくりと目を開けた。

 

そこで目に飛び込んできた光景に俺は目を見開いた。

 

「ガッ、フッ………無事………か、イッセー………?」

 

魔族の剣に胸を貫かれたライトがいた。

 

俺は言葉が出てこなかった。

状況を呑み込むことが出来なかったからだ。

 

剣を引き抜かれ、ライトは力なく俺へともたれ掛かってきた。

ライトの胸から夥しい量の血が流れていて―――――。

 

「あ………お、おまえ、なんで………」

 

ようやく状況を理解した俺は何とか声を発した。

 

ライトが俺を庇った………?

でも、こいつは前線にいたんじゃ………?

それに、どうやって俺を見つけた………?

 

いや、それよりも早く止血しないと………!

でも、そこに魔族がいる………!

 

 

どうすれば良い………?

俺はどうすれば良い………?

 

恐怖と驚愕で頭と体が動かない。

真っ白だった。

視界は歪み、音が遠退いていく。

 

すると、ライトは俺の背中に手を回して、俺を抱き締めた。

 

あらゆる音が聞こえなくなるなか、ライトの声だけは俺の耳に届いて―――――。

 

 

「…………ごめんな。皆を………頼む………」

 

 

この後のことはあまり覚えていない。

 

 

気がついた時には、俺はライトの剣を握っていて、全身を魔族の血で濡らしていた。

 

 

 

 

雷鳴が轟いている。

小降りだった雨は激しくなり、町を強く打ち付けていた。

 

「ああああああああああああああああああああああああ…………ああああ………ぁぁぁぁぁぁ…………」

 

冷たい雨が降る中、俺は天に向かって言葉にならない声を発していた。

 

「なんで…………どうして…………! 俺は…………俺はぁぁぁぁぁぁ…………!」

 

俺の心を表しているのか、雨は激しさを増していく。

 

俺のせいでライトが死んだ………。

俺が軽率な行動を取ったばかりにライトが………。

ライトを殺したのは俺…………。

 

「オレガ…………ライトヲシナセタ………」

 

目の前が黒く染まる。

手足の震えが全身に回っていく。

気持ち悪い感覚が体の内側で暴れている。

やがて五感全ての感覚がなくなり、気持ちの悪さだけが残った。

 

その時だった―――――。

 

『今代の相棒は随分興味深い状況にいるじゃないか』

 

頭の中に男の声が響いた。

俺の左手には見たことのない赤い籠手が装着されていて、

 

『ふん、才能は皆無か………今回は白い奴に先を越されるかもしれんな。だが………』

 

目の前が真っ白になったと思うと、俺は燃え盛る火の中にいた。

 

そして、正面には巨大な赤いドラゴン。

 

『俺の名はドライグ。かつて赤き龍の帝王と呼ばれた者だ』

 

赤いドラゴン―――――ドライグは俺に告げる。

 

『これだけは言っておくぞ、小僧。今の気持ちを忘れるな。そうすれば、いずれおまえは――――――』

 

そこまで聞いたところで、景色は元に戻っていた。

 

血濡れの自分に気絶した子供、俺が殺した魔族の兵士、そして―――――二度と動くことのないライト。

 

だが、ここに先程までいなかった者がいた。

闇色の服を纏った威厳のある顔つきの男だった。

 

「おまえが噂の異世界より現れし者か。なるほど、僅かにだが、この世界の人間の持つ波動とは異なるな」

 

「………あんたは………?」

 

「私はシリウス。魔王だ」

 

シリウス…………こいつが、魔王………。

 

魔族の兵士が現れた時は恐怖で頭も体も動かなかった俺だったけど、この時だけは妙に頭の中がクリアだった。

 

俺はフラフラと立ち上がるとシリウスに問うた。

 

「あんた…………この戦争を終わらせるつもりはあるのか?」

 

「そのつもりだ。だが、ここに来るまでお互いに血を流し過ぎた。明確な決着がつかない限り、これから先も血は流れ続けるだろう。何十年、何百年後も」

 

「明確な決着………人間を滅ぼすのか………?」

 

「…………」

 

シリウスは何も答えない。

ただ、俺の目をじっと見て、内側を覗いているような雰囲気だ。

 

暫しの沈黙の後、シリウスは口を開く。

 

「止めておけ。おまえでは何をしようと無駄だ。今のおまえに出来ることは何もない。早々に元の世界へと帰ることを勧める」

 

「………断る」

 

「なに?」

 

「俺が………俺がこの戦争を止めるからだ………!」

 

「言ったはずだ。無駄だと。無駄死にしたいのなら、止めはしないが…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

無言となる俺にシリウスも無言となった。

シリウスは改めて俺の目をじっと見てくる。

 

何かを得たのだろうか、シリウスは一つ頷くと、そのまま踵を返した。

 

「異世界より現れし者よ。名を聞いておこう」

 

魔王の問いに俺は答えた。

 

この時、いったいどういう気持ちで言ったのかは俺にも分からない。

復讐心からか、それとも別の気持ちなのか。

あらゆる感情が渦巻いていたのは確かだ。

 

「俺は…………兵藤一誠。赤龍帝の兵藤一誠だ………! 覚えておけ、シリウス。俺は必ず、この戦争を止めて見せる………! あんたを倒してな………!」

 

「そうか………」

 

シリウスはその場を去っていった。

 

俺はまた、冷たい雨を降らせてくる空を見上げた。

今の俺の心のように暗い空を。

 

 

 

 

あの日が全ての始まりだった。

あの日が今の(・・)『兵藤一誠』へと繋がる原点。

 

『そう、彼を失った時があなたの始まりだった』

 

どこからか、女性の声が聞こえてきた。

 

『あの時の後悔、悲しみ、絶望はあなたの胸の奥にある。ずっと………この先も忘れることはないでしょう』

 

ああ、忘れられない。

忘れちゃいけないことだ。

 

俺はあいつに………。

 

『そうね。忘れてはいけないこと。でも………だからこそ、あなたは彼と話すべきだわ。あの時、聞けなかったこと、聞きたかったことを全て、彼にぶつけてきなさい。それがあなたを―――――』

 

 



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14話 リラックスしよう!

[美羽 side]

 

アセムが世界に宣戦布告してから三日目に入ろうとしている。

今のところ、彼らに動きが見えないけど、数時間以内には何かしらの反応があるだろう。

つまり、数時間後には『門』からの進軍が始まるということだ。

 

ボク達『D×D』に指示を出してくれているアザゼル先生は現在、各勢力の首脳陣と最後の作戦会議に入っている。

北欧の主神オーディンから、最強クラスの神々がいるとされるインド神話の三柱の内二人までもがその会議に出席しているらしい。

普段は動きを見せない神々もこの事態に対して、積極的に連携を取ろうとしているようだ。

 

………実際にトライヘキサの力を目にしているしね。

それに世界構築なんてこと軽々と実現したアセムの規格外過ぎる力も見てしまっている。

 

神姫化したボクやアリスさんでも邪龍筆頭格には届かなかった。

あの二体の力が神クラスを超えているのは言うまでもないだろう。

 

トライヘキサも体を分裂させて侵攻してくる。

分裂したから少しはパワーダウンしていると思いたいけど………あまり期待しない方が良いと思う。

 

トライヘキサに関してはロスヴァイセさんを中心に対抗術式を構築しているから、こちらに期待するしかない。

トライヘキサを封じることが出来たとしても安心は出来ないのだけど。

 

この戦いにはアセム一派も当然加わる。

配下の四人も今度は真の力を解放してくるに違いない。

 

個々の力も、数も未知数。

どれだけ犠牲がでるか誰にも予想できない。

 

この戦いに挑む世界中の人達がそう認識しているはず。

 

そんな中でボク達は―――――。

 

「ふぅ………良いお湯ね」

 

「はい、リアスお姉さま」

 

息を吐くリアスさんと頷くアーシアさん。

 

朱乃さん、小猫ちゃん、ゼノヴィアさん、イリナさん、ロスヴァイセさん、レイヴェルさん、アリスさん、リーシャさん、ニーナさん、ディルさん、そしてワルキュリアさん。

兵藤家に住んでいる女性陣のほとんどが、兵藤家地下の大浴場で湯船に浸かっていた。

 

そう、ボク達は現在、冥界ではなく人間界の家に戻ってきているんだ。

 

この場にいないのはヴァーリチームのメンバー、黒歌さんとルフェイさんぐらいかな。

 

数時間後には世界の命運を掛けた激戦が待っているというのに、こうして皆でお風呂に入っていていいのか。

こんなにまったりしてしまっても良いのか。

 

色々なことを言われてしまいそうだけど…………。

 

「こんな時だからこそリラックスです。今から気を張り積めていては、戦場で真の力を発揮することはできませんよ?」

 

「そうそう。今のうちにのんびりしましょ」

 

リーシャさんとアリスさんがお湯を体にかけながら、そう言った。

 

皆でお風呂というのは二人が言い出したことだ。

初めは皆も眉を潜めていたけど、理由を聞けば納得がいったようで、今はゆっくりしている。

 

まぁ、この中でアリスさんとリーシャさんが最も戦いの経験が多いからね。

二人の言うことも分かるんだよね。

 

ちなみに木場君とギャスパー君は一度、自宅に戻り、トスカさんとヴァレリーさんと一緒にいるようだ。

こっちは大切な人と過ごすことで精神を落ち着かせ、決意を固めているって感じかな?

 

モーリスさんはリビングで紅茶を飲みながら、最近やり始めたルービックキューブ(八面体)と戦っていた。

お風呂に入る前にちらっと見たけど、あと二面というところまで来たようで………。

 

流石というか………モーリスさんは全力でくつろいでるよね。

 

そんなモーリスさんに鍛えられたオカ研メンバー剣士組だけど………恐ろしく強化された状態で戻ってきた。

今は湯船で足を伸ばして、普段通りにしているゼノヴィアさんとイリナさんだけど、纏うオーラは別物。

 

「………おかしいな、悲しくないのに涙が………」

 

「分かるわ、ゼノヴィア。…………怖かったよぉ………グスッ」

 

なんか突然、泣き始めた!?

結界から出てきた時も号泣してたけど、一体、どんな鍛え方されたの!?

男勝りなゼノヴィアさんまで泣くって!

 

目元に涙を浮かべる二人をアリスさんはそっと抱き締める。

 

「うんうん、分かるわ二人とも。私も昔は………グスッ」

 

アリスさんまで思いだし泣きしてる…………。

モーリスさんの本気の修行はどれほど恐ろしいのだろう。

 

三人のその光景にリアスさんは目元をひきつらせながら、

 

「い、いったい何をされたのかしら………? 祐斗もゼノヴィアもイリナも確かに強くなったみたいだけど、これってトラウマ刻まれてるような………」

 

「あらあら………私達はリーシャさんで良かったですわ」

 

朱乃さんもニコニコ顔だけど、若干引いているような雰囲気だ。

 

今、朱乃さんが「リーシャさんで良かった」と言ったけど、実はリアスさん達、ウィザード組もあの結界の中に入ったんだ。

木場君達が出てきた翌日にね。

 

リーシャさんが微笑みながら言う。

 

「本当なら美羽さんが指導についた方が効率が良かったような気もしますが、私も伊達に魔法学校の教師をしていたわけじゃありません。モーリスよりは優しく教えることが出来る自信はありますよ?」

 

すると、小猫ちゃんがリーシャさんに訊ねた。

 

「私の指導もしてもらいましたが、リーシャさんはよく気の流れなんて分かりましたね。今更な質問なんですけど」

 

「あれは何となくです。それに気のことはイッセーから聞いていましたし。私が教えたのは力の流れと使い方。小猫さんの場合、イッセーやお姉さんの黒歌さんの指導でベースは出来上がっていました。私が小猫さんの指導に当たることが出来たのはそのおかげです」

 

「イッセー先輩と………姉さまの………」

 

そう呟くと小猫ちゃんは口元までお湯に浸かり、ブクブクし始める。

半目で微妙な感じを出しているけど、あれは嬉しいのだろうね。

 

リアスさんが言う。

 

「他の『D×D』メンバーには申し訳ないわね。私達だけ特訓だなんて。もちろん、ソーナ達には了承を得ていたのだけど」

 

「私もモーリスも限られた時間で皆さんのレベルを引き上げなければいけません。それには最も力を把握しているリアスさん達がベストだったのです。もう少し時間があれば、『D×D』メンバーの特訓相手を務めることが出来たでしょうけど…………」

 

「それは分かっているわ。だからこそ、私達が前に出て、相手を蹴散らさないといけないわ。『消滅の魔星(イクスティングイッシュ・スター)』の溜めの時間も短縮できたし、それに―――――新必殺技も形になった。祐斗の力も合わせたら相手にかなりのダメージを与えることが出来るはずよ」

 

「リアスの新必殺は本当に容赦がありませんわよ? 祐斗君の力と合わせたら必中で必殺は確実ですもの」

 

リアスさんの言葉を補足するように言う朱乃さん。

リアスさんもかなりの自信があるようだ。

 

必中で必殺。

恐ろしい単語が出てきたけど、今はとても心強い。

ボクは結界の維持で皆がどれだけ力を伸ばしたのかは分からないけど、特訓に打ち込んだ全員がレベルアップしているのは確かだ。

 

リアスさんが言う。

その表情はとても凛としていて、『王』としての風格が表れていた。

 

「必ず勝ちましょう。誰一人欠けることなく、この家に帰ってきましょう」

 

アリスさんも続く。

 

「そうね。もう悲しい涙なんて見たくない。次に泣くときは嬉し泣きが良いわ」

 

その言葉に皆は強く頷いた。

 

そうだ、ボク達は色々な意味で負けられないんだ。

この世界を守りたい、学校の皆を守りたい、大切な場所を守りたい。

 

未来を手にして、皆揃って帰ってくる。

それがこの戦いにおける絶対なんだ。

 

皆がそれぞれの覚悟を胸にしていると、レイナさんが挙手した。

 

「え、えっとね………そのことなんだけど………。皆………というより、リアスさんとアリスさんに話があるの」

 

「私達に?」

 

「うん。この戦いで必要になると思うし、アザゼル様にも言われてて…………。でも、時間なくて今言うしか………」

 

すごく言いにくそうにしているレイナさん。

なにか申し訳ないような、恥ずかしがっているような雰囲気で顔を少し伏せてしまっていた。

 

彼女の様子に怪訝な表情を浮かべたリアスさんが問うた。

 

「戦いに必要なのね? 遠慮なく言ってちょうだい」

 

「そうそう。私達に用意できるものなら、すぐに用意するわ」

 

アリスさんも頷きながら、そう答えた。

 

二人の前向きな回答にレイナさんは顔を上げると、先程よりも更に申し訳なさそうな顔をしていて………。

 

「えーと………ふたりの母乳………もらえる………かな?」

 

「「…………え?」」

 

予想外の言葉にフリーズするアリスさんとリアスさん。

 

ふたりの…………母乳?

 

イリナさんは何か分かったようで、掌をポンと叩いた。

 

「あっ、そっか。イッセー君のオッパイザー………あれの補給ね? アグレアスで一度使ってたし」

 

「「「あー…………」」」

 

なるほど、確かにアグレアス戦でお兄ちゃんはオッパイザーを使用した。

あれはお兄ちゃんの力を安定させる補助装置で、強大な力を引き出せるけど………使った後に補給が必要という仕様になっている。

 

そして、その補給に使うのがリアスさんとアリスさんのおっぱいなわけで…………。

 

スイッチ姫二人が慌てたように言う。

 

「ちょ、ちょっと待って!? 今なの!? このタイミングなの!?」

 

「た、確かにそういう仕様ってことは聞いてるけど! 今すぐじゃないとダメ!? せめて、イッセーが目覚めてからとか…………」

 

しかし、レイナさんは言う。

 

「でも、イッセー君がいつ目覚めるか分からないし………あまり時間もないし…………」

 

「「…………っ!」」

 

言葉を詰まらせる二人。

 

今、二人は相当混乱しているだろう。

ここに来てのシリアスブレイク。

しかも、おっぱいを搾らせろと言われてるんだもん。

しょうがないよね。

 

「あらあら、そういうことなら、急がないといけませんわ」

 

「朱乃!? あなた、何をして―――――」

 

「心配しないで、リアス。イッセー君の代わりに私がリアスのお乳を搾ってあげますわ」

 

「リアスお姉さま! ここは耐えてください! お姉さまのお乳がイッセーさんを!」

 

「アーシア、あなたまで! ふぁぁっ………!」

 

リアスさんを逃がさないようにガッチリ固定する朱乃さん。

ものすごくSな時の朱乃さんだ………楽しそうだもん。

 

アーシアさんもよく分からない覚悟を決めたようで、リアスさんのおっぱいに手を伸ばしていた。

 

その一方では、

 

「ちょっと、ニーナ!? あんたも何してるのよ!?」

 

「えー、だって、この緊急時だよ? お姉ちゃんのおっぱいが世界を救うのかもしれないんだし、ここは搾るしかないじゃん」

 

「緊急時なの私なんですけど!? って、ゼノヴィアさん、イリナさん!? 二人もなんで私の腕を押さえてるの!?」

 

「落ち着くんだ、アリス。そんなに暴れては搾乳出来ないだろう」

 

「ニーナさんの言う通りだわ! 二人のおっぱいは世界を救うのよ!」

 

「意味わかんない! ひゃぁっ! ニーナ、そこ………ダメッ………あんっ!」

 

 

 

そして―――――――

 

 

 

「「あっ………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッッッ!!」」

 

 

二人のスイッチ姫の嬌声が大浴場に響き渡った。

 

 

 

 

お風呂を上がって着替えたボクは玄関でとある人物を迎えていた。

 

「こうして出迎えるのって初めてだよね? 何度か家に来てるけど」

 

「そうなるな」

 

簡素に返してきたのは銀髪の青年ヴァーリさん。

そう、彼が家を訪ねてきたんだ。

 

ヴァーリさんが訊いてくる。

 

「病院に行ったら、彼は家に戻したと聞いてね。顔を見に来た」

 

彼の言う通り、お兄ちゃんは冥界の病院から家に移している。

目が覚めないけど、生命維持装置みたいな医療器具が必要なわけではないしね。

それに冥界にも『門』がある以上、アセム達の手が及ぶ可能性もある。

 

冥界にいることは危険だと判断したボク達は一度、お兄ちゃんを家に連れ戻すことにしたんだ。

今は自室で眠っている。

 

ボクはヴァーリさんを家に上げると、お兄ちゃんの部屋まで案内し、中へと入る。

中にはベッドで眠るお兄ちゃんと、その手を握っているお父さんとお母さん。

 

お父さんがヴァーリさんを見て、手を振った。

 

「やぁ、ヴァーリ君。イッセーの見舞いに来てくれたのかな?」

 

「まぁ、そんなところ………です」

 

「ふふふ、そんなに硬くならなくても良いのよ? もっとフランクにいきましょう。ささ、こっちに座って? お茶いれるから」

 

「あ、いや、おかまないなく………」

 

「あ、コーヒーの方が良いのかしら? それともココア?」

 

「いや、その………では、ココアで」

 

フランクすぎるお父さんとお母さんに少しペースを乱されてる最強の白龍皇。

 

うん、やっぱり、うちの両親って凄いよね。

北欧の主神が相手でも物怖じしないその姿勢は世界一なんじゃないだろうか。

ある意味最強だと思う。

 

お母さんはココアを淹れるとヴァーリさんに差し出した。

それはもう笑顔で。

 

「嬉しいわ、イッセーの顔を見に来てくれて。イッセーも友達が見舞いに来たと知ったら、きっと喜ぶわ」

 

「友達、か………」

 

ヴァーリさんはそう呟くと首を横に振った。

 

「俺は………彼と戦いたくて、彼に家族を殺すと言った。殺されたくなければ俺と戦え、と」

 

―――――っ!

 

突然の告白にボクは仰天した。

 

ここでそれを言っちゃうの?

三大勢力が和平の話し合いをした時、ヴァーリさんはお兄ちゃんに本気を出させるために、そう言って煽っていた。

ボクも『殺す』と言われたうちの一人で………。

 

「で、でも、ボクには謝ってくれたよね? もうボクは気にしてないよ?」

 

以前、ボクはその事でヴァーリさんから謝罪を受けた。

あの時は少し驚いたけど、あの件で彼はそんなに悪い人じゃないってことが分かって………。

 

でも、ヴァーリさんは両親に問うた。

 

「あなた方はそんな俺を子供の友人と言えるのだろうか?」

 

その言葉に難しい表情でふむと考える両親。

お父さんもお母さんもじっとヴァーリさんの目を見て―――――。

 

「「いいんじゃない?」」

 

物凄く爽やかな顔で返した。

 

「え………?」

 

思いもよらない回答に思考をフリーズさせるヴァーリさん。

 

お父さんはヴァーリさんの肩を叩きながら言う。

 

「まぁ、『殺す』なんて単語はよろしくないけど、君は美羽に謝ったのだろう? それに悪いと思ってるからこそ俺達に話してくれた。違うかい? なら、反省をしたってことだ。それで良いんじゃないかな?」

 

「そうそう。ヴァーリ君が良い子だから、イッセーも仲良くしてるんだと思うわ。ほら、以前も二人でお茶してたじゃない?」

 

そういえば、ロキ襲撃の時にリビングでお茶してたような。

お母さんもよく見てるというか、よく覚えてるね………。

 

お父さんが微笑みながら言う。

 

「これからもうちのイッセーと仲良くしてやってくれ。そうしてくれると俺達も嬉しいよ」

 

その言葉にヴァーリさんは言葉を失うが、少ししてから小さく笑った。

 

彼はお兄ちゃんの方に視線を移すと、楽しげに言う。

それは年相応の表情だった。

 

「この間、彼とラーメンを食べに行く約束をしたんだが………ふふっ、『友達』なら約束を守ってもらわなければいけないな。兵藤一誠、俺は麺類にはうるさいぞ?」

 

それから少しの間、ヴァーリさんを交えて何でもない日常トークをした。

 

 

すると―――――

 

 

「カップ麺ばかり食べてるの!? それはダメよ!」

 

「俺達の中でまともに料理が出来る者がいないんだ。それに仲間も食に対してそれほど拘りがあるわけではなくてだな………」

 

「ダメです! ちゃんとした料理を食べないと大きくなれないわ!」

 

「…………」

 

ヴァーリさんがインスタント食品ばかり食べていることを知ったお母さんが軽くお説教することになった。

それは健康のことを気にかけてのことなんだけど………。

 

ヴァーリさんが家で食事する機会が増えるかもしれない。

 

 

[美羽 side out]

 




今回はほのぼのでした~


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15話 作戦開始

[木場 side]

 

「集まれる面子は全員揃ったな」

 

アザゼル先生は僕達を見渡してそう言った。

 

僕達『D×D』メンバーは再び召集され、今は冥界の魔王城にいる。

グレモリー眷属、シトリー眷属、バアル眷属、アガレス眷属、ヴァーリチーム、天界組であるデュリオさんとイリナ、堕天使組である刃狗チームとレイナさん、そして―――――イッセー君が不在の赤龍帝眷属。

 

サイラオーグ・バアルさんが口を開く。

 

「兵藤一誠はまだ?」

 

「ええ。イッセーが起き上がるにはまだ時間がかかるみたい」

 

「そうか………」

 

決戦の時となった今でもイッセー君は目覚める気配がない。

ここに来る前に顔は見ておいたんだけどね………声をかけても反応はなかった。

 

しかし、リアス前部長は凛とした表情で全員に告げた。

 

「心配ないわ。世界の危機にイッセーが立ち上がらないはずがないもの。彼は必ず来る。私達はそう信じているわ」

 

その言葉に僕達は強く頷いた。

 

僕達の反応にサイラオーグ・バアルさんは笑んだ。

 

「そうだな、ここ事態にあの男が立ち上がらないはずがない。おまえ達が信じるのなら、俺も信じて先に戦場に立とうではないか。…………ところで、リアス」

 

「なにかしら?」

 

「なぜ顔が赤いのだ? この場に来てから気になっていたのだが…………」

 

「…………」

 

その問いに黙るリアス前部長。

 

実は僕も気になっていた。

合流した時に気づいていたんだけど、なぜかリアス前部長とアリスさんの顔が赤くなっていて、完全に涙目だった。

 

何があったのか聞こうと思ったんだけど、なぜか聞いてはいけないような気がして…………。

 

イッセー君の家に住んでいる女性陣は理由をしっているみたいなんだけど、彼女達は苦笑するだけ。

 

うん、何となくわかった気がするから、この件は放置しよう。

僕の判断は間違っていないはず。

 

そんなことを考えているとアザゼル先生が話を続けた。

 

「分かっていることだが、あえて言わせてもらう。これからの戦いは宗教や種族、善神も悪神も関係ない、この世界に住まう全ての者が世界の命運をかけて挑むものだ。それぞれ守りたいものは違う。だが、全勢力が手を取り合わなければ、この危機を脱することは叶わない」

 

これまで関わりを持とうとしなかった者達、互いに敵対し合っていた者達が共通の敵を前に手を取る。

それぞれで思うところはあるだろうが、そうしなければ生き残れない。

 

「確認している者もいると思うが、冥界の一般市民の中には義勇軍として戦いに参戦しようとしている者もいる。その中には暴動に参加していた者もいてな、こんな時に不謹慎だが、面白い状況になってきているのさ」

 

義勇軍。

 

そうか、そんな動きも出ていたのか。

恐らく、先日のアセムの一件で自分達が何をすべきかを考えた、その結果なのだろう。

 

「戦う力はなくとも、後方支援くらいは出来るだろうとのことだ。正直、彼らがこうして立ち上がってくれたことは想定外であり、嬉しいことでもある」

 

そう言うとアザゼル先生は僕達を見渡して、

 

「いいか、絶対に勝つぞ。この戦いに敗北は許されない。力無き者達が立ち上がったんだ、力ある俺達は何がなんでも彼らを守りきる。こいつは絶対だ」

 

『はいっ!』

 

全員が力強く頷いた。

 

ヴァーリも強い決心をしたような瞳をしていて、どこか熱が入っている。

これから戦う強敵に心踊らせているのか、それとも―――――。

 

アザゼル先生は正面に置かれているテーブルに魔法陣を展開すると、空中に映像を投影した。

そこにはトライヘキサの襲撃を受けた場所の現在状況が映っていた。

 

「トライヘキサの襲撃を受けたグリゴリ、天界、北欧はとりあえず落ち着いている。修復も少しだけだが進んだ。グリゴリと天界に関してはアーシアの活躍もあって、ケガ人の治療も粗方済んでいる。良くやってくれた。助かったぞ、アーシア」

 

アザゼル先生はアーシアさんにお礼を言うと話を次に移した。

 

「この三日で各勢力との連携はある程度取れた。作戦会議も済んでいる。理不尽の塊みたいな奴らにどこまで通じるかは分からんが………」

 

そう言うと先生は指を二つ立てた。

 

「この作戦は大きく分けて攻撃と防御………つまり、アセムが陣取るあの世界に飛び込んで、奴らを叩くチームとこちらの世界へ入ってくる奴らの手駒を潰すチームに別れる」

 

「それを全勢力で行うと?」

 

「そうだ。例えば日本なら、日本神話勢力と各勢力から派遣される戦闘員が組む。といっても、一つの指揮系統で動く訳じゃない。ただ役割を分けるだけだ。実際にどう動くかは現場に任せることになるだろう。そして、おまえ達『D×D』メンバーはオフェンス。つまり、あの『門』を潜って敵を叩く側だ」

 

先生が用意されていたボードに記していく。

 

グレモリー眷属とシトリー眷属、赤龍帝眷属、天界組は日本近海に開かれている『門』から攻める。

そして、バアル眷属とアガレス眷属は冥界から、ヴァーリチームと刃狗チームは北欧に開かれている『門』から向こうの世界に突入する。

 

日本近海側に人員を多めに割いたのは最も一般の人間が住む空間に近い場所にあるからだろう。

 

「前に来てくれ」

 

チームの分担が出来たところでアザゼル先生が誰かに声をかける。

すると、ギャスパー君の隣から前に出てくる者がいた。

 

美しい吸血鬼の女性―――――ヴァレリーさんだ。

 

「堕天使のおじさまにお呼ばれされてしまったの。皆さん、よろしくね?」

 

「実は今回の作戦にはヴァレリーの協力が必要不可欠なんだ。色々と各勢力に協力してもらって、一時的に彼女を外に出しても問題ないようにした。制限時間付きだから、作戦はぶっつけ本番でやる」

 

その言葉にヴァーリは何かを得心したようで、

 

「聖杯を制御できる術を見つけたのか?」

 

「まぁ、似たようなもんだ。ちょいと聖杯に関しての隠し資料が吸血鬼の国で見つかってな。それを応用すれば聖杯で増殖している奴らを止められるかもしれない。で、それを見つけてくれたのがそっちの協力者なわけだ」

 

先生が顔をとある方向に向けた。

 

そちらを見るとフードを深く被った小柄な誰か。

フードを取り払うと金髪の吸血鬼―――――エルメンヒルデだった。

 

アリスさんが声をあげる。

 

「ああっ! クマさんパンツ!」

 

「どんな覚え方してるんですか! エルメンヒルデです!」

 

「今もクマさんなのかしら? おこちゃまパンツなのかしら? プークスクス」

 

「違いますし! 今はもう少し大人なデザイン…………って何を言わせるんですかぁぁぁぁぁッ!」

 

涙目で抗議するエルメンヒルデ。

純血の吸血鬼特有である血の気のない人形のような表情がみるみる真っ赤に、人間らしい表情に。

 

………登場早々、お気の毒に。

 

赤龍帝眷属と関わるとシリアスを壊されるという噂が『禍の団』ではあったみたいだけど、間違ってはいないよね。

純然たる事実だよね。

 

しかし、出会った当時と比べると彼女も随分と丸くなったと思う。

 

祖国が壊滅的被害を受けてから、彼女は世界中を駆け回り復興に必要なものをかき集めていると聞く。

物であったり、他国の協力であったり。

 

あれほど他国、他勢力との協力を否定していた彼女だったけど、今では形振り構わずといったところだろう。

それだけ、彼女が国を想う心が本物だということだ。

 

アリスさんがエルメンヒルデをからかう中、リーシャさんが言った。

 

「まぁまぁ、そのあたりで。アリスも昔はイチゴパンツでしたし」

 

「なに暴露してくれてるの!? というか、それって子供の頃の話でしょ!? あれはセーフよ、セーフ!」

 

「そういえば、十歳ぐらいの時に私の下着を―――――」

 

「やめてぇぇぇぇぇ! それ以上、掘り返すのやめてぇぇぇぇぇ! あの時の悲しみを思い出させないでぇぇぇぇ!」

 

頭を抱えて首を横に振るアリスさんだが………。

リーシャさん、あなたもシリアスを壊しに来るとは思いませんでしたよ。

というより、リーシャさんって実はイジメッ子なところがあります?

 

そんな空気の中でヴァレリーさんは懐から何かを取り出した。

それは紫色の十字架だった。

 

先生が言う。

 

「そいつは回収した神滅具の紫炎祭主による磔台をちょいといじって作った十字架だ。神滅具の十字架なわけだが…………そいつをヴァレリーの聖杯と同調させる」

 

紫炎のヴァルブルガが持っていた神滅具を十字架の形にした。

更にヴァレリーさんの聖杯と同調させる。

 

それがどのような効果を生み出すのか気になっていると、ヴァーリが先生に問うた。

 

「彼女の聖杯は不安定で、聖十字架は神具自体が所有者を選ぶという危険な代物だと聞く。それらを同調させては何が起こるかわからない。だが、隠し資料とやらから打開策が生まれたというんだな?」

 

「ヴァレリーの兄――――マリウスの研究資料に書かれていたことなんだが、聖杯を調べているときに一度危険な状況に陥りかけたことがあったそうだ。その時にツェペシュ派が秘宝として隠し持っていた聖なる釘の欠片を使って、その場面を乗り切ったそうだ。その時の術式も解析済みだ」

 

エルメンヒルデが続く。

 

「吸血鬼は一番敵対関係であったキリスト教会のことを古くよりよく調べております。あらゆる研究をしている中で、ツェペシュ側は独自のルートで聖釘の欠片を手に入れていたのでしょう。恐らく、王族のみに伝承された、どの歴史、文献にも残っていない代物です。まぁ、それも資料と一緒に回収して、三大勢力にお渡ししましたが」

 

先生が笑う。

 

「聖釘の欠片をヴァチカンに渡したら大喜びしてたぜ。ただでさえ、聖遺物は過去の戦争で諸々消失していたからな。欠片とはいえ、良くあったもんだ。………案外、他の勢力も隠し持っているのかもな」

 

などと言いつつ、先生は肩をすくめた。

 

ヴァレリーさんと紫色の十字架を交互に見ながら、リアス前部長が言う。

 

「聖遺物と同調させて聖杯を止められることが分かっている。ならば、相手が持っている聖杯にもその技術を使えばいい、ということね?」

 

「そういうことだ。既にヴァレリーに持たせた聖十字架は調整済みだ。その状態でヴァレリーと聖十字架の力が上手く同調すれば相手が持っている聖杯自体を止められるだろう。そうすれば、聖杯による量産型の邪龍の増殖は終わる。だが、問題はある」

 

「肝心の聖杯を誰が持っているのか。そして、アセムが言っていたシステムですね? 彼が言うには分裂したトライヘキサを一体使うとか。それを止められるか………」

 

ソーナ前会長が眼鏡を人差し指で抑えながら冷静に言った。

 

アザゼル先生も頷く。

 

「聖杯を持っているのはアポプスかアジ・ダハーカだろう。手を組んだとはいえ、奴らが容易に切り札を渡すとは思えないからな。聖杯の場所を特定でき次第、ヴァレリーがその場所へ接近する必要がある。極めて危険な任務だが………」

 

先生の言葉に反応したのはギャスパー君だった。

 

「ヴァレリーを連れていく役目は僕が受け持ちます。僕はヴァレリーの聖杯を取り戻して、全てを終わらせたい!」

 

力強い一言を言ってくれた。

これでこそ、グレモリー男子って感じだね。

 

ギャスパー君の返事に笑むアザゼル先生。

教え子の成長を喜ぶように彼の頭に手を置いた。

 

先生は話を続ける。

 

「奴が言うシステムとやらは聖杯の情報をもとに構築したものだろうと俺は考えている。聖杯を止めることに成功した場合、そちらも止めることが出来ると思う。トライヘキサが動力になっているとはいえ、システムの根幹そのものを潰してしまえば問題はないはずだが………」

 

「そちらは実質、賭けになりますね」

 

「残念ながらな。ただ、あいての生産ラインは確実に減らせる。聖杯さえ止めてしまえば、相手の増殖数は抑えられるだろう。更にこちらは対トライヘキサ用の術式も完成している。………以前、モーリスがぶった斬ってくれたおかげで一から見直す羽目になったが、恐ろしく強固な術式が仕上がった。恐らく、かなりの効力を発揮するはずだ」

 

「俺のおかげだな、えっへん」

 

「あなたという人は…………私がどれだけ苦労したと思ってるんですかァ!」

 

胸を張るモーリスさんと涙目で怒るロスヴァイセさん。

 

………あれからかなり苦労したんだろうね。

お疲れさまです、ロスヴァイセさん。

 

ロスヴァイセさんは一度咳払いをする。

 

「今回の作戦で分裂したトライヘキサ七体全部に対して、私達が構築した専用の束縛結界を同時に使います。制限時間付きですが、ほぼ確実にあの怪物を止められるでしょう。そうすれば、アザゼル先生の言うようにあの疑似異世界にあるシステムも止められるはずです。ただ、トライヘキサの一体はアセムが言うシステムに組み込まれているようなので、こちらがどのようになっているか……。……それに……」

 

言いよどむロスヴァイセさんに先生が続く。

 

「結界は一度きりの使い捨てだ。再度使うには違う術式で一から練り直すしかない。今回の結界でトライヘキサに術の耐性が出来るだろうからな。トライヘキサを止めている間、アセムが何かしら仕掛けてくるだろう。つまり―――――」

 

「トライヘキサを止めてからが勝負。僅かな時間で異世界の神を倒す必要があるということか」

 

ヴァーリの言葉にアザゼル先生は頷いた。

 

「向こうの世界に乗り込んだ後、トライヘキサを止めて、邪龍共を蹴散らしつつ、聖杯を止める。そして、本丸を落とす。こういう流れだ。言うのは簡単だが、実際に行うとなると難易度はかなり高い」

 

「だろうな。しかし、仮に作戦が順調に進んだ後はどうするつもりだ? トライヘキサはあくまで動けなくなっているだけだろう? あれを倒しきるのは神々でも骨が折れると思うが」

 

ヴァーリが言うように一度はトライヘキサを束縛し、動きを止めることは出来るだろう。

しかし、それは制限時間付きだ。

再び活動を再開させる前に対処する必要がある。

 

「今、アジュカ・ベルゼブブとその眷属達があの『門』を解析している。上手くいけばあの『門』を閉じてトライヘキサを疑似異世界とやらに閉じ込めることも出来るだろう。………もし、それが上手くいかなかった場合は………一応は考えてある。まぁ、何とかして成功させるつもりさ」

 

少し気になる言い方だけど、アザゼル先生には何か考えがあるのだろうか?

 

怪訝に思うなかで、幾瀬さんが神妙な面持ちでインカムに手をつけて飛んできた情報を聞いていた。

 

そして、こう述べる。

 

「情報が来ました。相手が動き出したようです」

 

『―――――っ!』

 

その情報を受けて、アザゼル先生はテーブルに映像を映し出す。

 

映された『門』の向こうで何かがゆっくり蠢いているのが分かる。

無数の邪龍と赤龍帝の複製体、超獣鬼級の魔獣の数々。

 

ゆっくりではあるが、確実にこちらに歩みを進めている………!

ついに敵が動き出したのか!

 

アザゼル先生が舌打ちしながら言う。

 

「ちっ、動き出したか………。出来れば、奴らが本格的に動く前に片付けたかったんだがな。行くぞ、おまえ達。俺も部下達への指示を終えたら、すぐに突入する。―――――死ぬな。必ず勝って、生きて日常に戻るんだ。いいな?」

 

『了解!』

 

「よし。―――――全員、行ってくれ!」

 

先生の声に僕達はそれぞれの持ち場へと向かう。

 

 

―――――世界の命運をかけた戦いが始まる!

 

 

[木場 side out]

 

 

 




木場「ついに最終決戦だ。この戦いは何がなんでも負けられないね」

ゼノヴィア「ああ。イッセーはまだ目覚めないようだが………。イッセーの分まで私が相手を斬ろうじゃないか!」

イリナ「そうよそうよ! 私もダーリンの分まで頑張っちゃうんだから!」

モーリス「おまえら、その意気だ! 限界を超えた姿を見せつけてやれ! ゼノヴィア! おまえはもうパワープレイで良い! おまえの新しい力を見せてみろ!」

ゼノヴィア「任せてくれ! 新しい私のお披露目といこうじゃないか!」

イリナ「でも、大丈夫かしら………? ゼノヴィアのあれって、更に脳き――――」




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16話 戦場を照らす蒼炎

[木場 side]

 

冥界から人間界―――――日本近海に転移してきた僕達は海に浮かぶ無人島に集っていた。

深夜の浜辺にて、共に戦う者達が集合している。

 

グレモリー眷属とシトリー眷属、天界組、レイナさんに赤龍帝眷属。

そして、八重垣さん。

 

八重垣さんは浜辺で一人、向こうの空に浮かぶ『門』を見て目を細めていた。

腰に携えた天叢雲剣を撫でた後、拳を握りしめる。

 

「クレーリア、僕は戦うよ。君が愛したあの町を、君と過ごしたあの町を………」

 

そう呟くと、彼は空を見上げて目を閉じた。

 

彼にとっても、この戦いは大きな意味があるんだ。

その瞳にかつての復讐心はなく、未来を見据えた目になっている。

 

そこにモーリスさんが歩みより、八重垣さんの肩に腕を回した。

 

「一人で気張ろうとするなよ? 今のおまえさんは一人じゃないんだからな」

 

「ありがとうございます。あなたは………彼の眷属でしたね?」

 

「おう。俺は兵藤一誠の『戦車』にして、あいつに剣を教えた師匠みたいなもんだ」

 

「そうですか………。あなたが彼の師………」

 

「さて、この戦いが終わったら飲みに行くぞ」

 

「え?」

 

「『え?』じゃねーよ。これが終わったら飲みに行くんだよ。こいつは決定事項、男同士の約束だからな」

 

「え、あ、いや………なぜ、いきなり………?」

 

突然の話に戸惑う八重垣さん。

 

そんな彼にモーリスさんは言った。

 

「約束を破るやつは男じゃねぇ。おまえさんも男なら約束は守れ。そして、約束を果たすには生きてこの局面を乗りきるしかあるまい? ―――――元死人だか、なんだか知らないが、おまえもちゃんと生き残れ。自分を犠牲にするような真似はするな。いいな?」

 

かなり強引な話だと思うけど………そういうことか。

モーリスさんらしいと思ってしまったよ。

 

少しの間、唖然とした後、八重垣さんは苦笑を浮かべた。

 

「なるほど………。確かにあなたは彼の師のようだ。彼と良く似ている。ただ………僕は酒が飲めませんよ?」

 

「おいおい、そいつぁ、いただけないな。よし、俺がおまえを飲めるようにしてやる」

 

冗談を言いながら笑うモーリスさんと、それに釣られて笑う八重垣さん。

重い空気を纏っていた八重垣さんの表情が柔らかくなっていった。

 

なんというか、やっぱりイッセー君の師匠って感じだよね。

 

ちなみに赤龍帝眷属は戦う力を持たないニーナさんと今だ眠り続けるイッセー君以外は全員が揃っている。

 

「ワルキュリアさんも戦うのですか?」

 

そう、赤龍帝眷属の兵士の一人であるワルキュリアさんもここにいる。

いつものメイド姿で。

 

アグレアスの時はニーナさんと共に留守番役だったので、今回が初参戦となる。

 

ワルキュリアさんは坦々と言う。

 

「はい。私も一応はイッセー様の眷属となりましたので。………皆さまはこの服のことを気になされていますね?」

 

『うん』

 

この場の殆どのメンバーが頷いた。

 

メイド服だしね………。

まさか、その格好で出撃するとは思わなかったですよ。

 

「お気になさらず。この服は便利なのです。服の下には色々と暗器も隠せますし」

 

そう言ってワルキュリアさんはスカートの中から鎖分銅を取り出した。

他にも苦内、鉤爪、呪符、短剣、毒針、薙刀………。

 

リアス前部長が呆れたように言う。

 

「いったい、どれだけ隠しているのよ………。その薙刀もスカートの中に入っていたの?」

 

「そうです。他には手榴弾などもあります」

 

「本当にどれだけ隠しているの!? というより、普段もその格好だけど、家でも持ち歩いているの!?」

 

「まさか。手榴弾は今回だけです」

 

「今、手榴弾()って言った? 手榴弾()って言ったわよね? お願いだから、家にいる時くらいは武装解除してくれないかしら? 今のを聞いたら家でも緊張してしまうわ」

 

「心配なさらないでください。これはイッセー様が夜這いをしてきた時に備えての対策です」

 

「それは心配ないと思うけど…………。イッセーって自分からそういうことを求めてこないから………」

 

リアス前部長が深く息を吐く。

 

イッセー君はスケベだけど、その手のことは女性陣の方が積極的みたいなんだよね。

その辺りは日常を見ていたら、何となく分かる。

 

すると、朱乃さんが言った。

 

 

「私は夜這いされましたわよ?」

 

 

 

「「「えええええええええええええええっ!?」」」

 

オカ研女性陣の声が重なった!

 

リアス前部長が酷く狼狽しながら言う。

それは未だかつてないほどの動揺で、

 

「あ、あああああ朱乃!? そそそそそそ、それは………ほ、ほほほほほほ本当なの!?」

 

「ええ、情熱的な夜でした。あの時のイッセー君………それはもう」

 

それを聞いたゼノヴィアが叫ぶ。

 

「流石は朱乃前副部長だ! その領域に達していたとは!」

 

「そ、そそそそれって、あれよね………。イッセー君が夜に朱乃さんの部屋に行って………」

 

「イッセーさん、いつの間に…………!」

 

「はわわわわわわ…………」

 

朱乃さんの爆弾発言はイッセー君を想う女性陣を狼狽えさせる十分な威力だったらしい。

かつてないレベルの敵が迫ってきているのに、思考がそっちに向かっていないからね。

 

いつも通りでどこか安心はするようなしないような………。

 

狼狽えるリアス前部長達に朱乃さんはニコニコ顔で言い放った。

 

「私が一番出遅れてしまいましたから。―――――超本気モードでいかせてもらいますわ」

 

その言葉に彼女達は戦慄した。

 

 

 

 

とりあえず、オカ研女子メンバーのことは置いておこう。

朱乃さんの発言に頭を持っていかれているみたいだからね。

 

『D×D 』メンバー以外にもこの周辺には大勢の者がいる。

 

日本に縄張りを持つ上級悪魔達も眷属を引き連れて参戦している。

日本の異能力者集団、五大宗家を中心にした者達も勢揃いして、朱乃さんの従姉妹である姫島家現当主である朱雀さんが彼らを率いている。

 

他には―――――

 

「私達もおるぞ!」

 

聞き覚えのある声を辿れば、そこには金髪で狐耳を持つ少女―――――九重ちゃんが、お母さんの八坂さんと共に登場していた。

 

八坂さんが一礼してくれる。

 

「皆さま、我ら日本に住まう妖怪も共に戦いますゆえ。何せ、住むところが壊されたら、困りますものなぁ」

 

八坂さんの背後には島を覆い尽くす程の妖怪達が軍勢となって集まっており、中には妖怪の長クラスも出てきている。

 

更には日本神話の神々も出陣していて、既にこの付近には強力な結界を幾重にも敷いているそうだ。

 

アセムが演出と言って放った攻撃に対する対策だろう。

あんなものを本土に放たれでもしたら、それだけで壊滅的な被害が出てしまう。

あの結界は敵軍の侵入を防ぐと同時に向こうの世界からの砲撃を考慮して張り巡らされているんだ。

 

ソーナ前会長が言う。

 

「普通なら安心できる規模の結界なのでしょうけど、相手が相手。これでもまだ不安は残りますね」

 

「そうね。だからこそ、攻撃側に回る私達に迅速な作戦遂行が求められるわ。人間界の方はどうなっているのかしら?」

 

「各勢力の協力でなんとか、混乱は抑えているようですが………やはり、隠しきることは出来ていません。連日のニュースで取り上げられています」

 

ソーナ前会長は瞑目しながら、深く息を吐いた。

 

アセムの行為によって、人間界に異形の存在が認識されそうになっているのか………。

合成やCGという風に思われているのだろうけど、このままでは完全に知られてしまう可能性がある。

 

すると、先程までモーリスさんと話していた八重垣さんが話に入ってきた。

 

「僕が思うに、現段階で人間界に被害が出ていないだけかなりマシだ。トライヘキサ復活というリゼヴィムの悪意に満ちた行為は人間界にも及ぶ。トライヘキサやあの邪龍達がそれぞれの意思で動いていたとしたら、この数日の間に人間界にもかなりの被害が出ていたはずだ」

 

その言葉を聞いて、リアス前部長が怪訝な表情で訊いた。

 

「アセムが彼らと手を結んだことで、その行動に制限をかけた………ということ?」

 

「それは分からない。ただ、結果的にそうなったのは間違いないだろう」

 

アセムが邪龍の手綱を握った………?

 

アセムの宣言通り、この三日間は彼らに動きはなかった。

トライヘキサも邪龍も、こちらに攻め込んでくるようなことはゼロだった。

 

僕達もそれを見越して、各地の修復や修行に打ち込んだわけだけど。

 

レイナさんが呟く。

 

「分からないわね、向こうの狙いが………。アザゼル様も考えていたけど、態々、こちらに時間を与る意味が理解できないわ。向こうには過剰と言える程の戦力が揃っているのに」

 

その言葉に皆も頷いて考え始めた。

 

この三日という期間は結局、なんだったのか。

なぜ、こちらに時間を与えるような真似をしたのか。

彼らは偽りなく、この三日間は何の動きも見せなかった。

それはなぜなのか。

 

やはり、何か企んでいるのだろうか…………。

 

その時、一人の天狗が八坂さんのところに現れた。

天狗は八坂さんの前に膝をつくと、報告する。

 

「八坂様。各陣、全て整ったとのことです」

 

 

 

 

無人島の浜辺を静かに飛び立つ迎撃連合部隊。

 

翼がある異形、超常の存在は両翼を羽ばたかせて宙に飛び出していく。

人間の異能力者達は使役している式神や妖怪の背に乗って空を飛ぶ。

 

悪魔、天使、堕天使、妖怪、人間。

それ以外の存在もこの場に集結している。

妖怪の数が一番多いとはいえ、他の勢力からも派遣されている者達も合わせれば一万は遥かに越えているだろう。

 

それぞれに属する領域があり、価値観も文化も違う種族が一つの目的のために、手を取った。

そうしなければ、乗り切れないのはこの場の皆が分かっているだろう。

それでも、こうして協力して繋がった。

 

やられてばかりじゃないんだ。

ここにいる全ての者達は己の守りたいものがあるから立ち上がった。

強大すぎる敵に立ち向かうんだ。

 

耳にはめたインカムから女性の声が聞こえてくる。

このインカムは戦場に立つ全ての者に配られているため、この戦域全てに女性の声は流されている。

 

声の主は朱雀さんだった。

 

『五大宗家の一角、姫島家現当主の朱雀と申します。時間がないので簡潔に言います。―――――勝ちましょう。生きて、我らが祖国に帰りましょう』

 

これに、全員が―――――。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!』

 

声を張り上げて、飛び出していった!

空に浮かぶ『門』目掛けて、真っ直ぐに突き抜けていく!

 

調度、『門』の向こうから邪龍軍団が顔を出し、こちらの世界へと入ってきていた。

空が黒く埋め尽くすほどの数が一斉に向かってくる。

 

リアス前部長が声を張る。

 

「私達も行きましょう! この戦いに皆の未来がかかっているのだから!」

 

『はいっ!』

 

僕達も悪魔の翼を広げて『門』を目指す。

 

この戦場において、僕達の役割はオフェンス。

あの『門』を潜り、敵の本拠地を叩く役割だ。

 

おそらく、冥界や北欧、その他の場所でも開戦している頃だろう。

 

『D×D』で始めに仕掛けたのはリーシャさんだった。

 

「皆さんはそのまま真っ直ぐ進んでください! 私達が援護します!」

 

「本気モードだもんね!」

 

「ええ!」

 

リーシャさんに続き、彼女の肩に乗るサリィとフィーナの妖精コンビも元気良く言ってくれた!

 

リーシャさんが握る二丁の魔装銃が火を吹き、前方の邪龍を貫いていく。

引き金を引いた数と同じ数かそれ以上の数を海に沈めていった。

 

相変わらず、凄まじい速撃ちだ。

しかも、一回の狙撃で複数を撃ち抜いている。

 

空を飛ぶ魔装銃と盾―――――ライフルビットとシールドビット。

シールドビットが僕達を囲むように配置され、飛んできた流れ弾から僕達を保護。

縦横無尽に舞うライフルビットが猛スピードで敵の数を減らしていく。

 

彼女に守られている僕達は本当に真っ直ぐ進むだけで済んでいた。

 

「僕も出よう」

 

背後から聖なる波動を感じた。

 

振り向くと―――――八重垣さんが握る天叢雲剣の刀身から八つの首を持つ龍が現れている。

 

聖なる波動を放つ八岐大蛇。

天界の戦いで天叢雲剣が見せた新たな姿だ。

 

八重垣さんは首の一つに乗り、空を駆け抜けていった。

 

そして、残りの七つの首を操り、敵を駆逐していく!

 

「いくよ、天叢雲剣!」

 

八重垣さんが天叢雲剣を振るうと、それに連なるようにして、七つの首が動いていく。

 

聖なるオーラで形作られた龍が巨大な顎を開けて―――――邪龍を丸のみにしてしまう!

呑み込まれた邪龍は濃密な聖なる力によって、まるで消化されてたように溶けて、形を失っていった!

 

また、聖なる龍を従える八重垣さんの身のこなしも流石と言うべきか、襲いかかる邪龍を華麗にかわして、自身も斬戟を入れている。

 

セノヴィアが感嘆の声を漏らす。

 

「以前よりも身のこなしが鮮やかだな。動きに無駄がない」

 

「あれが本来の彼なのかも」

 

天界で彼と剣を交えたゼノヴィアとイリナにとっては別人のような戦いぶりに思えるようだ。

 

なるほど、八重垣さんは教会時代、かなりの使い手だったと聞く。

その実力がこの戦いでは十全に発揮されているということか。

 

――――これが一度は魔に落ちた聖剣とその使い手の力。

過去に生きた彼が未来を掴むために得た力なのか。

 

すると、隣にいるゼノヴィアが不敵に笑んだ。

 

「イリナ、木場。ここは同じ剣士として、私達も修行の成果を発揮するべきではないか? デュランダルとエクスカリバーも暴れたいと言っているのだが」

 

ゼノヴィアの言葉に呼応するようにデュランダルとエクスカリバーが聖なる波動を放つ。

少し荒々しい波動に感じるけど―――――どこか、主の成長を喜んでいるようにも思える。

 

僕も挑戦的な笑みで、

 

「そうだね、僕も同じ気持ちだよ」

 

「ええ! やってみようじゃない!」

 

異世界最強の剣士による地獄の修行を耐え抜いた僕達は強く頷き―――――スピードを上げて前に出た!

 

僕達が通り抜けた場所にいた邪龍は血飛沫をあげて、海へと落ちていく。

破壊力のあるゼノヴィアはもちろん、僕やイリナも一太刀で邪龍を斬り伏せる。

 

高速で、そして一撃で確実に仕留める。

僕達剣士は皆の剣。

皆に先んじて、相手を沈めていくのが役目。

 

すると、ゼノヴィアが邪龍の群れの中に躍り出た!

 

「さぁ、こい! 今宵のデュランダルとエクスカリバーは一味も二味も違うぞ!」

 

彼女の言葉に反応した邪龍が一斉に雄叫びをあげて、襲いかかる!

百は軽く越えているだろう!

 

ゼノヴィアは聖なるオーラをたぎらせて、自慢のパワープレイを繰り広げる。

デュランダルとエクスカリバー、伝説の聖剣が振るわれ、多くの邪龍を葬っていく。

 

しかし、相手の物量は凄まじい。

斬っても斬っても増え続ける邪龍を相手に、ゼノヴィアはついに囲まれてしまう!

完全に孤立してしまった!

 

だが――――。

 

「フフフ…………」

 

危機的な状況だというのにゼノヴィアは余裕の笑みを浮かべていた。

 

そうこうしている内に邪龍の数はドンドン増えてくる。

ゼノヴィアを囲む邪龍はまるで黒い竜巻。

囲まれたゼノヴィアの姿が次第に見えなくなっていく。

ゼノヴィアの周囲が完全な黒で多い尽くされた。

 

 

次の瞬間―――――。

 

 

黒い渦の隙間から目映い光が溢れ出し、ゼノヴィアを覆っていた全ての邪龍が吹き飛ばされた!

吹き荒れる聖なる波動の嵐!

目も開けることが出来ないほどの輝きが一帯を包み込む!

 

なんという力の奔流だ!

周囲にいる者達は圧倒的な力の波動に動きを取れずにいる!

 

光が止み、僕達の目に入ってきたのは―――――破壊の化身。

 

炎のように揺らめく蒼色のオーラを全身に纏うゼノヴィア。

特徴的な青髪は腰の辺りまで伸び、瞳も身に纏うオーラと同じく、強い蒼色に輝いていた。

 

今のゼノヴィアの姿は見るものを魅了し、畏れを覚えさせる程に神々しい。

黒一色に近い戦場を蒼く照らしているんだ。

 

何より注目すべきなのは彼女の握る二振りの聖剣。

 

リアス前部長が声を漏らす。

 

「………デュランダルとエクスカリバーの刀身が黒く染まってる? あれはモーリスの―――――」

 

モーリスさんが笑んだ。

 

「そうさ、あいつは俺が出した課題をクリアした。剣気をものにしやがったのさ。まぁ、結局はパワーを伸ばしたことになるんだが、今のゼノヴィアは滅茶苦茶強いぜ? あの状態を名付けるなら………そうだな」

 

モーリスさんは蒼い炎を纏うゼノヴィアに視線をやると、その名を口にした。

 

「全てを斬り裂く蒼炎の剣――――『蒼炎の斬姫』ってところかね」

 

[木場 side out]

 

 



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17話 新生・元教会戦士コンビ!

[木場 side]

 

時は数日遡る。

美羽さんとアリスさんが作り出した修行用の特殊結界の中で修行に打ち込んでいた時のことだ。

 

「遅いっ!」

 

「ぐぅッ………!?」

 

僕とイリナが休憩に入っている間、ゼノヴィアは一人、モーリスさんと対峙していた。

 

………が、とてもじゃないが、まともに戦えているとは言いがたい。

ゼノヴィアがフルパワーで振るった一撃を易々と受け流し、彼女の腹に蹴りを入れるモーリスさん。

ゼノヴィアは何度も地面を転がった後、その場に踞ってしまう。

どちらが優勢かなんて言うまでもなかった。

 

剣技でも圧倒され、おまけにパワーでも押し負けている。

今のゼノヴィアではモーリスさんに一太刀も入れることは出来なかった。

 

………それは僕とイリナにも言えることなんだけど。

僕達二人が休憩に入っているのは既にボロボロにされた後だからだ。

腕も足も動かない程にしごかれ、さっきまでアーシアさんの治療を受けていたんだ。

 

立てなくなったゼノヴィアを見て、モーリスさんが剣を鞘に納める。

 

「っと、ちょいと力が入りすぎちまったか………。アーシア! ゼノヴィアを治してやってくれ!」

 

「は、はい!」

 

モーリスさんに頼まれたアーシアさんが慌ててゼノヴィアに駆け寄り、治癒の光を当てる。

 

「ゼノヴィアさん、大丈夫ですか!?」

 

「あ、ああ………。流石はアーシアだ。あれだけの痛みがすぐに消えてしまったよ」

 

アーシアさんの迅速な治療により、なんとか立てるようになったゼノヴィア。

だけど、その表情は曇っていて………。

 

ふいに彼女の足元に雫がこぼれ落ちた。

 

―――――ゼノヴィアが流した涙だった。

 

「ゼノヴィアさん………?」

 

突然の涙に戸惑うアーシアさん。

 

すると、ゼノヴィアは目元を抑え、悔しげに口許を歪ませた。

 

「ダメだな、私は………。木場もイリナも課題をクリアしているのに、私は一向に進歩していない………。これでは………!」

 

修行が始まってから、この結界の中では二週間が経過した。

彼女の言うように僕とイリナは既にモーリスさんの課題をクリアし、次のステージへと進んでいる。

だけど、ゼノヴィアだけはモーリスさんの課題をクリア出来ず、悩みながら修行に打ち込み続けていた。

 

あのゼノヴィアが涙を流すなんて………よほど悔しいのだろう。

自分の不甲斐なさを許せないのだろう。

 

僕がゼノヴィアと同じ立場なら、彼女のように悩み、苦しんだはずだ。

 

「ゼノヴィア、ちょっとこっち来い」

 

モーリスさんは地面にどっかり腰を下ろすとゼノヴィアを呼んだ。

地面を叩き、そこに座るよう指示する。

 

ゼノヴィアは目元を拭うと、モーリスさんの前に座った。

 

モーリスさんは暫しの間、ゼノヴィアをじっと見た後、深く息を吐いた。

 

「なにも泣くことはないだろ。限界なんてそう簡単に超えられるものじゃない。悩んで、苦しんで、もがききって、ようやく超えられるものだ」

 

「だが………木場もイリナも次のステージに進んでいる。二人は己の限界を超えたのだろう? それは二人がそれだけ自分を追い込んだということ。一人、先に進めていない私は………何と不甲斐ない。私の覚悟は二人よりも遥かに足りないのだろう」

 

ゼノヴィアが拳を強く握りしめた。

拳を震わせ、自身に対する怒りに一杯という表情だ。

 

ゼノヴィアは胸の内にあるものを吐き出し始める。

 

「ダメなんだ、このままでは。イッセーの分まで戦うと誓ったのに、このままではそれは叶わない………! それどころか、足手まといになってしまう! そんなのは嫌なんだ………!」

 

ゼノヴィアは二振りの聖剣に視線を落とす。

 

「デュランダル、エクスカリバー………。主の私がもっとしっかりしていれば、おまえ達に苦労をかけることもないのだがな。すまない………本当にすまない………」

 

デュランダルとエクスカリバー。

ゼノヴィアを支える、彼女の相棒達。

 

もっと自分が強ければ、二振りの相棒と共に遥か高みを目指せるのに。

もっと自分がしっかりしていれば、相棒に負担をかけることもないのに。

 

目の前の『剣聖』が持つのはよく斬れること以外は普通の剣だ。

それなのに、伝説の聖剣を遥かに超えてくるのは『剣聖』が本当の意味で剣と共にあるからだろう。

 

では………自分はいったい何なのだ?

 

この修行の中でゼノヴィアの中にはそんな考えが現れてきたんだと思う。

 

すると、

 

「はぁ………やれやれ。おまえって奴は単純そうに見えて、色々と複雑だな。ま、それも若さってやつなのかねぇ」

 

モーリスさんは盛大に息を吐いた。

 

そして、ゼノヴィアの頭に手を乗せ、その髪を撫でた。

 

「この修行を始める前に言ったこと、覚えてるか? 俺はおまえの覚悟と可能性を信じる。そう言ったはずだ」

 

「ああ………」

 

「だから、おまえも自分の覚悟と可能性を信じろよ。少しでも自分を疑うやつが、限界なんて超えられるわけがない。それに、そいつらが聞きたいのはおまえの謝罪の言葉なんかじゃないぞ?」

 

そう言うと、モーリスさんはデュランダルとエクスカリバーの刀身に触れた。

 

「こいつらは伝説とまで呼ばれた聖剣様だ。おまえの成長が遅いくらいで文句なんざ言わねーよ。こいつらはただ、おまえが殻を破る瞬間を今か今かと待ち望んでいるのさ。そして、こいつらは理解している。―――――もう少しだってな」

 

「もう少し………?」

 

怪訝な表情で聞き返すゼノヴィア。

 

その問いにモーリスさんは笑みを浮かべながら頷いた。

 

「おまえは感覚で戦っているくせに、鈍いから気づけていないだけさ。俺もデュランダルもエクスカリバーも分かっている。おまえは確実に前に進んでいる。今、おまえが苦しんでいるのは、殻を破る直前でちょいとばかし引っ掛かっているからだ。―――――もう少し、あと一歩だ」

 

モーリスさんはゼノヴィアを目を見据えて告げた。

 

「頑張れ、ゼノヴィア。おまえの悩みは俺も通った道だ。おまえだって乗りきれる。ここを超えた時、おまえは―――――」

 

 

 

 

蒼い炎のようなオーラが戦場を照らしている。

輝きの中心にいるのは腰の辺りまで髪が伸びたゼノヴィア。

両手に握るのは彼女の剣気で黒く染まったデュランダルとエクスカリバー。

 

リアス前部長が目を見開く。

 

「あれが本当にゼノヴィアなの………?」

 

その確認に僕は頷いた。

 

「そうです。ゼノヴィアは超えました。限界の壁を。苦しみ、悩み、もがいた先に得た力があれです」

 

僕はゼノヴィアに視線を戻した。

 

蒼炎を纏うゼノヴィアは辺りを飛び交う邪龍に目を向ける。

邪龍の中には量産型グレンデルや量産型ラードゥン、更には教会の戦士と一戦交えた際にヴァルブルガが連れてきた新型の巨大邪龍と、強力な邪龍が多数見られた。

 

無数の殺気がゼノヴィアに向けられているのを感じる。どうやら、この付近にいる邪龍は狙いを彼女に定めたようだ。

 

『ガァァァァァァァァァァッッッッ!!』

 

数えきれない邪龍達の咆哮が周囲に響き渡る!

それを合図に黒一色の群れがゼノヴィアへと襲い掛かる!

 

「ゼノヴィア!」

 

リアス前部長が加勢に行こうとする………が、モーリスさんがそれを制した。

加勢は不要ということだ。

 

この場にいるメンバーの殆どがモーリスさんの行動に信じられないといった表情を浮かべている。

 

だけど、僕もモーリスさんの意見と同意見だったりする。

イリナも同様。

 

なぜなら―――――この程度の相手、今のゼノヴィアには造作もないからだ。

 

「ハァァァァッ!!」

 

ゼノヴィアが駆け出し、デュランダルを振るう!

放たれるのは黄金に黒が入り交じった斬戟!

聖なる波動と剣気が融合した攻撃は一振りで何百という邪龍を消し去っていく!

 

一つ、二つ、三つと彼女が剣を振るう度に空に浮かぶ邪龍はごっそり消えていく。

 

鱗が異常に硬い量産型グレンデル、高い防御力を誇る結界を持つ量産型ラードゥン。

防御力の高いタイプでさえ、彼女が振るう剣戟になす術がない。

 

攻撃力だけなら、イッセー君が抜けている穴を埋められる。

そう思えるほど、馬鹿げた破壊を見せつけてくれている。

 

体捌きでも彼女の進歩が見える。

型のない自由奔放な動きは邪龍達の動きを紙一重でかわし、強烈な一撃を叩き込んでいた。

 

邪龍が吐く炎も、振り下ろされる豪腕も当たらない。

当たる気配がない。

四方を囲まれ、一斉攻撃を受けているのにゼノヴィアは全てを避けきって見せた。

彼女はスピードで避けているというわけではない。

ただ、感覚だけで全てを避けているんだ。

 

剣で、肌で戦場を理解する。

彼女はその領域に足を踏み入れたんだ。

この時こそ、ゼノヴィアは真の意味でデュランダルとエクスカリバー、二振りの相棒と一体になったと言える。

 

以前のような荒々しいだけの戦いじゃなく、どこか華麗さも兼ね備えたゼノヴィアの戦い振りは美しささえ感じることが出来た。

 

ゼノヴィアが二つの聖剣を頭上で交差する。

刀身には莫大な、静かに燃える蒼のオーラ。

 

ゼノヴィアは瞳を蒼く輝かせて、

 

「―――――クロス・クライシス」

 

信じられないくらいに高められたオーラを纏う二振りの聖剣が音もなく振るわれた――――。

 

 

 

 

「凄い………今までの彼女とは桁が違いますわ」

 

そう漏らす朱乃さんの視線の先にあるのは―――――破壊された空間。

亀裂が入り、割れたガラスのように崩壊していく空間の先には次元の狭間が見える。

 

ゼノヴィアが放った一撃は―――――パワーアップしたクロス・クライシスは何千、何万もの邪龍を葬り去るだけでなく、空に巨大な穴を開けてしまった。

 

威力はもう以前とは別物。

一騎当千の破壊力だ。

 

イリナが胸を張りながら言う。

 

「これがゼノヴィアの新しい力。脳筋を更に高めたゼノヴィアだけの力よ!」

 

すると、ずっと向こうにいるはずのゼノヴィアから言葉が返ってきた。

 

「聞こえてるぞ、イリナ! もっと他に言うべきことがあるだろう!? それよりも見たか、私のパワーを! 私とデュランダルとエクスカリバーは更なる高みに登り詰めたぞ!」

 

デュランダルを天に掲げて高らかに笑うゼノヴィア。

 

うーん………脳筋という点に関してはイリナに同意しようかな。

確かにパワーは凄いし、身のこなしも以前とは見違える程だけど…………。

根本はゼノヴィアなんだよね、やっぱり。

 

モーリスさんが邪龍を殲滅しながら笑う。

 

「まぁ、いいんじゃね? 脳筋も突き詰めれば、あそこまでいけるんだ」

 

「え、ええ………そ、そうね。私もゼノヴィアが強くなってくれたのは嬉しいわ。ただ………パワー思考が酷くなったような気がするのは気のせいかしら?」

 

「リアスさん。ゼノヴィアがこれから、色々としでかすと思うけど許してあげてね? 悪気があってやってるわけじゃないから」

 

リアス前部長にゴメンのポーズで謝るイリナ。

ここにいるメンバーはゼノヴィアの大きな進歩を喜ぶと同時に複雑な心境のようで…………。

 

「泣くぞ!? 私はそろそろ泣くぞ!? もう少し別の評価があっても良いと思うのだが!?」

 

 

 

 

新たな領域に至ったゼノヴィアにより、万を越える邪龍が消された。

これで『門』への道が開けた、そう思ったのだが………。

 

「やはり、敵もそう容易くは通してくれないわね」

 

リアス前部長が厳しい表情で『門』のある方向に目をやった。

 

確かにパワーアップしたクロス・クライシスは道を開けた。

しかし、それを無かったことにするかのように『門』の向こうからは無数の邪龍軍団がこちら側へと雪崩れ込んでくる。

 

今のゼノヴィアなら、あの数を相手取ることも可能だろう。

だけど、それでは後がもたない。

 

すると―――――。

 

「ふふふ、これは私も修行の成果を見せないといけないわね! ゼノヴィアばかりに活躍はさせないわ!」

 

イリナが僕達の元から飛び出し、前方に立つゼノヴィアの側に寄った。

 

ゼノヴィアが問う。

 

「やるのかい?」

 

「もちろん。私だって、ダーリンの分まで張り切っちゃうんだから!」

 

イリナが天を仰ぎ、手を組んだ。

目を閉じ、力強く何かを祈り始める。

 

次の瞬間―――――彼女の体を目映い光が覆った。

天使の証である純白の翼が、頭に浮かぶ輪が黄金色の輝きを見せる。

黄金の光は時が経つにつれて強さを増していき、やがて彼女の体に変化が起こり始めた。

 

黄金色の輝きが背に集まり――――翼を形成した。

四対八枚にまで増え、黄金に煌めく翼がイリナの背に広がっていく。

 

光が止むと、イリナはくるりとその場で一回転した。

 

「これが私の修行の成果よ! 私達の大切な場所を壊そうとするなんて許さないんだから! アーメンよ!」

 

イリナはオートクレールの切っ先を天に向ける。

 

刹那――――先程のゼノヴィアに引けを取らないレベルで、聖なるオーラが解き放たれた!

離れているというのに、これほどの力!

並の悪魔なら、この光を浴びるだけで消滅しそうだ!

たとえ上級悪魔であっても近寄ることは敵わないかもしれない!

 

イリナは黄金に輝く八枚の翼を羽ばたかせ、ゼノヴィアのごとく突貫する。

この時、オートクレールが放つオーラに変化があった。

聖なるオーラがうねり、まるで鞭のように形を変えていったんだ。

 

イリナが横一線に振るうと、鞭のようにしなった聖なるオーラが邪龍を真っ二つに両断した。

聖なるオーラの変化はこれだけではない。

イリナが突きの要領で剣を振るうと、聖なるオーラは槍のように彼方まで伸び、複数の邪龍を串刺しにした。

 

変幻自在に形を変える聖なる力。

ここまで自在に操れるのはイリナが持つ高いイメージ力が成せる技だ。

 

元々、イリナは『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』の所有者だった。

彼女は状況に応じて、聖剣の形を変え、任務をこなしてきた。

 

その力が修行によって大きく伸ばされた結果、今のようにオートクレールから放たれる聖なる力の形を変化させることが出来るようになった。

 

彼女の修行の成果はそれだけじゃない。

 

イリナは自身の周りに幾つもの光の槍を展開する。

一本一本が濃密な波動を放っていて、見ただけで寒気がするほどの光力が籠められているのが分かる。

 

「まとめて浄化しちゃうわ!」

 

左手を遠方にかざし、光の矢を斉射する。

高速で放たれた光の矢は、全てが邪龍の体を貫き、塵に変えていく。

 

―――――オートクレールの浄化の力。

 

モーリスさんから与えられた課題である、オートクレールが持つ浄化の力の操作。

彼女はそれを可能にした。

浄化の力を光に乗せ、後方から放つ。

 

浄化の力は邪龍や魔物を相手とするこの戦いで絶大な効果を発揮する。

イリナが会得した技がどれだけ活きることか。

 

身に纏っているあの黄金に輝くオーラも浄化の力。

つまり、触れた相手は浄化され、魔物の類いであればそれだけで塵となってしまう。

彼女が纏うオーラは浄化の鎧とも言えるだろう。

 

変幻自在の力に、前衛から後衛までこなす幅の広さ。

そして、攻防一体となった浄化の鎧。

 

誰かが言った。

 

「輝く翼にあらゆる悪を浄化する力。ゼノヴィアさんのように名付けるなら―――――『聖翼の清天使』といったところでしょうか」

 

『聖翼の清天使』………か。

確かに今のイリナを名付けるならピッタリなのかもしれない。

 

その声が聞こえたのだろう。

ゼノヴィアがぼそりと言った。

 

性欲(・・)エロ(・・)天使の間違いじゃないだろうか」

 

「どんな二つ名よ!? 私、そこまでエッチじゃないんですけど!?」

 

「いやいや、今までの自分を思い返してみるんだ、イリナ。これまで堕天しなかったことが不思議なくらいエロ思考だぞ? 過去に何度、堕天の危機があっただろうね。どう考えてもイリナは性欲のエロ天使だ」

 

「………ッッ! う、うぇぇぇぇん! ゼノヴィアがいじめるわ! 木場君、ゼノヴィアに何か言ってよ!」

 

ここで僕に振るの!?

明らかに返答に困って、助けを求めてきたよね!?

それにしてもなんで僕!?

 

う、うーん………。

ま、まぁ、過去の出来事から、よくこれまで堕天せずにこれたなとは思うけど………。

 

何と返そうか僕が頭を抱えていると、イリナはゼノヴィアの髪を見て言った。

 

「そういえば、長髪のゼノヴィアと戦うのって久し振りよね。昔、任務で相手に髪を捕まれて、それが原因で切っちゃったけど。それ以来かしら」

 

「そうだな。あれは吸血鬼を退治しに行った時だった」

 

「ええ。あの時、私はゼノヴィアに助けられてばっかりだったけど………今は違うわ。こうして、隣で戦える!」

 

「あの時は私も君に助けられたんだがな………。まぁ、いいさ。新しい私と君で皆の道を斬り開こうじゃないか!」

 

『剣聖』の修行によって、それぞれ新たな領域へと踏み込んだ元教会の戦士コンビ。

 

前衛がゼノヴィア、後衛がイリナ。

二人の息の合ったコンビネーションは凄まじく、どこまでも駆けていきそうな勢いだ。

 

すると、僕の肩に手を置かれた。

振り向けばモーリスさんが笑みを浮かべていて、

 

「おーおー、流石は長いことコンビを組んでたことはある。息ピッタリじゃねぇか。で? おまえも修行の成果を出すんだろう? ここまで来て見てるばかりってのは勿体ないと思うぜ?」

 

「ええ。流石にあの二人だけで戦況を大きく変えられるとは思っていません。僕もいかせてもらいますよ」

 

そう、確かにゼノヴィアとイリナが大暴れしてくれているおかげで敵の数は大きく減らせている。

しかし、『門』の向こうからは延々と敵が迫ってきている。

 

作戦を遂行するためには、まず、あの『門』の向こうへと進まなければ始まらないんだ。

急ぐ必要がある。

 

だからこそ、僕もこの場で使おう。

 

手に握る聖魔剣を聖剣に変え、意識を集中させた。

 

僕はもう間違えない。

もう見失ったりしない。

僕はこの剣を大切な人を守るために振るう。

だから、応えてくれ。

今がその時なんだ。

 

応えてくれ、僕の可能性よ―――――。

 

「禁手第二階層――――『紅蓮掲げし(クリムゾン・イモータル)聖極の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)』」

 




まだまだ続くオカ研剣士組のパワーアップ!
次回は木場のターン!

ただ、今回でストックが無くなっちゃいました………。
次回は少し遅くなるかもです。


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18話 最強の参戦

最強の存在が参戦します!


[木場 side]

 

聖魔剣の代わりに創造した聖剣を逆手で握ると、足元から聖なるオーラが広がっていった。

 

目を閉じ、意識を内側へと向ける。

五感の全て断ち、ただ一点に精神の全てを集中させた。

 

どこまでも黒い世界が広がるなか、遠くに光が見えた。

目映い輝きを放つ紅蓮。

 

紅………それは僕が仕える主の色。

一生を捧げると誓った、ただ一人の主の色。

そして、この色は僕が追い付きたいと思っている男の色でもある。

 

優しく、強く、誇り高い。

何度転ぼうとも立ち上がる。

僕にとって、紅蓮というのは不滅の色だ。

 

僕は目を開くと、強くその言葉を発した。

 

「禁手第二階層――――『紅蓮掲げし(クリムゾン・イモータル)聖極の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)』」

 

広がっていた聖なるオーラが紅蓮の輝きを放ち、何かを形作っていく。

 

―――――現れるのはドラゴンの兜を持つ紅色の甲冑騎士達。

紅の甲冑騎士は僕の後ろに整列すると、腰に帯びていた剣を鞘から抜き放つと胸の前で構えた。

 

それと同時に僕の服装も変化し、紅を基調にしたコート姿となる。

見た目的には騎士王状態の紅色バージョンといったところだろう。

 

ロスヴァイセさんが目を開き、驚いたように言う。

 

「これが木場君の新たなイレギュラー………。二つ目の禁手の進化形態………」

 

そう、これが僕の修行の成果の一つ。

 

聖剣創造の禁手―――――聖覇の龍騎士団を更に上の次元に進化させた姿。

モーリスさんの無茶苦茶とも言える課題だったけど、何とかこうして形にできた。

 

僕はリアス前部長に視線を移すと背中越しに言った。

 

「この姿は僕の新たな決意の表れです。もう見失ったりしません。もう囚われたりしません。僕はリアス・グレモリーの剣として戦い―――――あなたを守ります」

 

それだけ言って、僕は甲冑騎士と共に飛び出した。

 

僕の言葉は下僕として当然の発言。

何を今さらと思われるかもしれない。

 

でも、これだけは伝えたかった。

死ぬはずだった僕に手を差し伸べてくれた。

こんな僕を見守ってくれた。

一度はあなたの想いを裏切ってしまった僕を受け入れてくれた。

………どれだけの恩があることか。

 

だからこそ、僕はこの命、あなたのために使いたい。

今も、これからも、ずっと。

 

ただ一つ………僕の我が儘が許されるなら、いつかは言葉にしたいと思うことがある。

僕にとって、あなたは主であり、姉のような―――――。

 

「まぁ、少し照れ臭くはあるんだけど」

 

そんなことを呟きながら、僕は邪龍へ肉薄する。

懐に入り―――――一閃。

 

邪龍は上半身と下半身で両断され、血を噴き出しながら海へ沈む。

 

僕が従えていた紅の甲冑騎士達もそれぞれ、邪龍へ斬りかかっていた。

量産型邪龍をただ一撃のもとに斬り伏せていく。

 

今までの甲冑騎士は僕の速さは再現できていたけど、テクニックまでは反映できていなかった。

その欠点をこの紅の甲冑騎士は克服している。

つまり、彼らは僕の完全なるコピーということ。

 

だけど、これは紅の甲冑騎士の力の一つに過ぎない。

 

「っ! イッセー君の複製が来ましたね………!」

 

ロスヴァイセさんが『門』の方を見ながら呟いた。

 

見ると、真っ黒な邪龍の群れの中に赤色が混じり始めている。

ついに赤龍帝の複製体が送り込まれてきたんだ。

 

あれはイッセー君の力を丸ごとコピーしている。

戦闘技術は真似できていないようだけど、攻撃力、防御力、スピードは読み取った時のイッセー君をそのまま再現している。

 

並の者はおろか、上級悪魔や最上級悪魔であっても苦戦は免れない。

 

あれを軽々と倒せてしまうのは………。

 

「不良品なんざ、瞬間で終いだ」

 

納刀した状態から繰り出される超神速の抜刀術。

モーリスさんの剣が複製体を両断し、そこから粉微塵にまで斬り刻まれる。

 

うん、あれをそんな風に倒してしまうのはあなたぐらいですよ。

 

イッセー君の複製体ですよ?

魔王クラスのパワーを持っているんですよ?

いったい、どれだけ規格外なんですか、あなたは。

 

紅の甲冑騎士達も複製体に立ち向かうが、流石にイッセー君の複製。

甲冑騎士を一撃で破壊してしまう。

 

過去の甲冑騎士なら、ここで終わっていただろう。

 

 

―――――ここからが紅の甲冑騎士団の真骨頂。

 

 

甲冑騎士を破壊した複製体に変化が訪れた。

複製体の各所から火が、氷が、雷が噴き出し、複製体を苦しめていく。

鎧にヒビが入り、崩れ、ついに塵と化していった。

 

そして、その場に紅に輝く粒子が集まり、甲冑騎士を復元。

甲冑騎士は新たな敵を定めて、剣を振るっていく。

 

これが紅の甲冑騎士の力の二つ目。

紅の甲冑騎士は破壊した者をあらゆる属性を以て苦しめる。

破壊された甲冑騎士はすぐに復活し、戦場へと戻っていく―――――先程よりも強化された状態で。

 

複数の甲冑騎士が複製体を取り囲むと、高速の動きで相手を翻弄。

コンビネーションで複製体の鎧に傷をつけ、最終的には四方からの同時の突きで串刺しにしてしまった。

 

その光景を美羽さんが呟いた。

 

「動きが違う………。もしかして、学習しているの?」

 

「そう。紅の甲冑騎士は強化された状態で復活する。その際、自分を倒した相手の攻撃力やスピードを学習し、最適な戦法で倒しにかかる。つまり、破壊されればされた分だけ強くなっていくんだよ」

 

「………転んでもただで転ばない。転んだらすぐに立ち上がる。木場君の能力って、お兄ちゃんの影響が本当に強いよね」

 

自分でもそう思うよ、本当。

でも、これは僕が願った力でもある。

 

白雷を纏い、純白の髪となったアリスさんが半目で言った。

 

「木場君の力もチートになりつつあるのね………。モーリスの影響かしら?」

 

それはどうだろう………。

 

あの人の力って、底が見えないからね。

新しい領域に至った僕とゼノヴィアとイリナの三人で同時にかかって、ようやく勝負になるレベルだから………。

 

僕はアリスさんに聞いてみた。

 

「あの修行空間でモーリスさんも更に上の領域に行こうとしてたんだけど………。いったい、どこを目指しているのかな?」

 

「そんなこと私に聞かれても………。あのおっさん、下手すれば無限に強くなるんじゃない? 笑いながら」

 

「なにそれ、怖い!」

 

アリスさんの言葉に美羽さんが顔を真っ青にして叫んだ。

 

本当に怖いよ!

実際、レベルアップした後の僕達三人と笑いながら斬りあってたよ!

 

僕は一度の斬戟で数万の敵を両断していくモーリスさんに訊いた。

 

「あの………本当にどこまで強くなるつもりですか?」

 

「あぁ? んなもん、死ぬまで限界を極め続けるに決まってるだろ。今日の自分は昨日の自分よりも強く、明日の自分は今日の自分よりも強く。そんで、今の自分は一分前、一秒前の自分よりも強くあれ。修行中にも言っただろうが」

 

確かに言っていた。

毎日の修行の中で、モーリスさんは常にその言葉を僕達に言い聞かせていた。

 

自分の果てを勝手に決めてはいけない。

果てが分かるのは死ぬ時。

その時が来るまで、人は永遠に極め続けられる。

問題はやるかやらないか、と。

 

モーリスさんはニッと笑みを浮かべて言った。

 

「祐斗、おまえ達はまだまだ強くなる。どこまでもな」

 

 

 

 

モーリスさんの地獄の特訓の成果を遺憾無く発揮していく僕とゼノヴィアとイリナ。

加えて、リーシャさんの指導を受けたオカ研女子部員もあり、こちらに雪崩れ込んでくる邪龍の短時間に多くを殲滅した。

 

目指す『門』までもうすぐ。

皆が気合いを入れた――――――その時だった。

 

「全員、『門』から離れろォォォォォォォォォォッ!!」

 

何かを感じ取ったモーリスさんがこの戦場全域を揺らすほどの大声で叫んだ。

 

「皆さん、戦域から離脱してください! 急いで!」

 

あのリーシャさんまでもが、血相を変えて皆にたいひするように促した。

 

何事かと驚く者もいたけど、その声の迫力に体が勝手に反応し、『門』から大きく離れていく。

 

次の瞬間―――――『門』の向こうが煌めき、大出力の光の奔流がこちら目掛けて飛んできた!

 

それを視認した者達は全員が慌てて、その場から散っていく。

 

直径百メートルはゆうに越える光の奔流が僕達の真横を通過していき―――――神々が張り巡らせていた結界と衝突、紙を引き裂くように破壊していく!

 

今の攻撃は………!

 

「アセムが演出で放っていたものね………。あの結界を一撃で貫くなんて………!」

 

リアス前部長も、他のメンバーも冷や汗を流している。

僕も同じだ。

 

心臓の鼓動が嫌なほど早くなっている………!

冷たい汗が止まらない………!

 

もし、モーリスさん達が叫んでいなければ、僕達はあの光に呑み込まれ、この世に一片の肉片も残さずに消え去っていただろう。

現にあの光に呑み込まれていた者は邪龍も含め、姿を消している。

 

妖怪部隊のリーダー格らしき妖怪が部下に訊いている。

 

「各陣の被害は?」

 

「に、日本本土への被害はありません。で、ですが、い、今の攻撃で多くの味方を失ったとのこと………。報告によれば三割近い損失かと………!」

 

「ッ!?」

 

三割だと………!?

今の攻撃にそれだけの味方を失ったと言うのか………!

 

アリスさんが言う。

 

「あれほどの超広範囲への攻撃。しかも、手駒である量産型邪龍を巻き込んでも構わない、か。こちらが減っても、向こうは手駒を次から次へと増やすことが出来る。嫌な攻撃ね………。戦力差があるからこそ、出来る攻撃だわ」

 

ワルキュリアさんがアリスさんに問う。

 

「相手はこちらを徹底的に潰すつもりでしょうか?」

 

「全面戦争とか言ってたからね。今まではおちゃらけた敵だったけど、今度は本気みたいね………」

 

その言葉に全員が息を呑んだ。

圧倒的な力で多くの邪龍を凪ぎ払っていたゼノヴィアでさえも冷や汗を流し、手に力が入っている。

 

ソーナ前会長が言う。

 

「しかし、あれほどの攻撃を今の今までしなかったことが気になります。あの攻撃にはチャージする時間が必要なのでは?」

 

確かに先程の攻撃をもう一度、撃ち込んでくるような気配は感じられない。

 

彼女が言うように再度、撃つまでに時間がかかるのか、それとも、こちらにそう思わせるための罠か。

考えたところで答えは出ない。

 

それに、考える時間もあまりない。

 

リーシャさんが目を細める。

 

「どうやら、今度の相手は難易度が上がるみたいですね」

 

そう言われ、『門』の方に視線を移す僕達。

そこから現れたのは―――――百メートル級の超巨大魔獣。

かつて、冥界を破壊して回った超獣鬼と豪獣鬼クラスの怪物。

それらが数百、数千と群れを成して、こちらの世界に踏み入ってきた。

怪物の傍らには量産型邪龍や赤龍帝の複製体。

 

………先程より、相手のレベルが格段に上がっている!

 

アリスさんが言う。

 

「不味いわね………。あれを倒すことは出来ると思うけど、あまり時間をかけてもいられないわ」

 

「ええ。作戦は向こうの世界に乗り込んで、ようやくスタートラインに立てる。こんなところで足止めを食うわけには………。でも、どうやって………?」

 

リアス前部長も頷き、思考を張り巡らせていく。

 

美羽さんやアリスさんの神姫化は出来るだけ温存しておきたいため、ここで使わせるわけにはいかない。

 

リアス前部長の新必殺技………あれなら、広範囲の敵を滅ぼすことも出来るだろうが、あれは溜めの時間が必要な上、次から次へとやってくる敵には向いていない技。

 

となると、別の手段が必要になる。

 

リーシャさんが言う。

 

「敵を倒しつつ、強行突破。時間も限られています。やはり、この手しかないでしょう。アリス、極短時間の神姫化で消耗を抑えつつ、ここを突破することは出来ますか?」

 

「そうね………。私と美羽ちゃん………いや、モーリスやリーシャ、修行空間でパワーアップした皆の力を一点に集めれば、あの魔獣の壁に大穴を開けれるはず。そうすれば、私達以外のオフェンス部隊も突入できるはず………」

 

「決まりですね、それでは―――――」

 

リーシャさんが頷いた、その時だった。

 

小猫ちゃんが猫耳をピクピクさせて、何かに強く反応していた。

彼女の目は神々が展開している結界の向こう、日本本土へと向けられている。

 

リアス前部長が怪訝な表情で問う。

 

「小猫? どうかしたの?」

 

「強い………かなり強い気を感じます。この感覚は間違いありません。―――――錬環勁気功です」

 

『―――――っ!』

 

錬環勁気功………!

それは………それを使えるのは………!

 

小猫ちゃんの報告にこの場の誰もが笑みを浮かべた。

 

そうだ、彼だ。

彼が来たんだ。

 

―――――この危機的な情況で駆けつけてくれるのは彼しかいない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミルキィィィィィィィィ・ゴッド・ファイナル・フラァァァァァァシュゥゥゥゥッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

…………え?

 

[木場 side out]




シリアスブレイクゥゥゥゥゥゥッ!

この展開を予想できた者はいるだろうか!


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19話 ○○○○と書いて、魔法少女と読む!

意外とシリアス………




[美羽 side]

 

ヒーローは遅れて現れるという言葉がある。

 

ピンチの時、ここぞという場面で主役はやってくるものだ。

アニメやマンガを見ているとそういうことが多い。

ボクがコレクションしているマンガの中にもそういうストーリーのものは結構あったりする。

 

世界の命運をかけたこの戦い、この危機的状況で来るのって、どう考えてもお兄ちゃんだと思うよね?

小猫ちゃんが強い気を感じたって言ってたから、皆も確信してたよね?

 

なんで………なんで――――――。

 

「なんで、ここでミルたんさんんんんんんんんんッッ!?」

 

ボクの全身全霊のツッコミが戦場に響き渡った!

 

巨木のごとき太さの上腕。

明らかにサイズの合わないマジカルな衣装を張り裂かんばかりの見事な分厚い胸板。

フリフリのスカートからはボクの腰よりもふとい足。

そして頭には――――猫耳。

 

この戦場に場違いな格好をした歴戦の戦士のような人が一人、戦場に佇んでいた。

全身から凄まじいオーラをたぎらせて。

 

リアスさんが目を見開いて言った。

その声には明らかに戸惑いがあって………。

 

「え………? え? え? あ、あの人って、イッセーのお得意様よね? え、えっと………今のって、イッセーじゃなくて、あの人が………?」

 

ボク達の後方、味方陣営から放たれた極大の砲撃は超巨大魔獣の壁に大穴を空けて、遥か彼方まで飛んでいってしまった。

光に呑まれた魔獣や邪龍は瞬く間に姿を消した。

 

今の攻撃で危機的な状況を乗り越えたことは間違いない。

 

ただ―――――。

 

「ミルたん怖いミルたん怖いミルたん怖いミルたん怖いミルたん怖いミルたん怖いミルたん怖いミルたん怖いミルたん怖いミルたん怖いミルたん怖いミルたん怖いミルたん怖い…………」

 

「アリスさん!?」

 

どうしよう、アリスさんがボクの後ろで震えてる!

完全にトラウマ刻まれちゃってる!

 

初めて依頼を受けた時の記憶が甦ってくる。

あの時もミルたんさんが一人ではぐれ魔法使いの集団を殲滅していて………本当に人間!?

 

すると、モーリスさんが目を細めて言った。

 

「あの格好………。そうか、あいつもこの世界の人間だったな」

 

え………?

ちょっと待って、なんで、モーリスさんがミルたんさんのこと知ってるの?

なんで、知ってるような口ぶりなの?

 

ボク達の視線がモーリスさんに集まる中、モーリスさんは顎髭を撫でながら言った。

 

「ん? あー、そういや、おまえ達は知らないんだよな。ロスウォードの件が終わった後、おまえ達は戻っていただろう? その直後のことさ。あいつ、アスト・アーデに来たぞ」

 

『えええええええええええええええええええっ!?』

 

衝撃的過ぎる事実に全員が心底驚愕した!

 

ミルたんさん、アスト・アーデに行ってたの!?

ボク達がこっちに戻ってきた直後に!?

 

もう謎過ぎるよ!

元から存在が謎だけど、ここまでくると何なのさ!?

 

リーシャさんが頬に手を当てて、にこやかに言った。

 

「どうにも、イッセーと同じパターンらしくて、彼女も意図せずしてアスト・アーデに召喚されたみたいなんです。戻る方法は分かっていたのですが、折角ということで、とりあえずはオーディリアに数日滞在することになりまして」

 

「そうそう。あいつがオーディリアの復興作業を手伝ってくれてなぁ。想定以上のスピードで終わったよ。で、魔法に興味があるってことで、魔法学校の見学にも行ってな」

 

「ええ。それはもう熱心に私の授業を聞いてくれましたよ。それに学校の皆には魔法少女なるものを熱く語ってくれました。おかげで、一部の生徒の間であの格好がプチ流行しましたよ」

 

次々と明かされる真実に開いた口がふさがらなくなった。

 

ミルたんさん、リーシャさんの授業を受けてたの!?

魔法学校の生徒に魔法少女について語ったの!?

そんでもって、プチ流行させちゃったの!?

 

もうなにがなんだか分からないよ!

 

「とにかく、熱心で心が澄んでいた奴でな。腕っぷしもある。俺と軽く手合わせしたが、結構、追い込まれたぜ。騎士団に勧誘したんだが、残念ながら断られちまった」

 

「あの勝負は凄まじいものでしたよ。モーリスがあれほど追い込まれたのはシリウスと戦って以来でしょうか。とりあえず言えることは………」

 

モーリスさんとリーシャさんは口を揃えて言った。

 

「「とにかく凄くて良い人だった」」

 

ダメだ、もう思考が追い付かない。

手合わせして、モーリスさんを追い込んだって………。

確かに良い人だと思うけど………。

 

そうこうしていると、向こうから物凄いスピードでミルたんさんが飛んできた…………って、どうやって飛んでるの!?

 

ミルたんさんはボク達の前でブレーキをかけると手を振ってくれた。

 

「悪魔さんの妹さんだにょ。お久しぶりだにょ」

 

「あ、はい。お久しぶりです………。あ、あの、どうやって飛んでるんですか? 飛行魔法とか使ってませんよね?」

 

「悪魔さんに教えてもらった技を自分なりに練習してたら、飛べたにょ」

 

「お兄ちゃんに教えてもらった技って、錬環勁気功だよね………。錬環勁気功って、空飛べたっけ?」

 

ボクは後ろに隠れているアリスさんに聞いてみた。

 

アリスさんは首を捻りながら、首を横に振った。

 

「う、ううん。飛べるようになる技はなかったと思うわ。イッセーは奥義を修めるくらいのレベルだけど、飛んだことなかったし」

 

ということは、お兄ちゃんの知らないような技を自分なりに編み出してしまった………って、ことだよね。

 

うーん、これは流石というのか、何と言うのか。

どう言えば良いんだろう………。

 

リアスさんが根本的な疑問をミルたんさんに投げ掛けた。

 

「あなたはなぜ、ここに?」

 

すると、ミルたんさんはとても真っ直ぐな目で答えてくれた。

 

「数日前、ミルたんは虹色の輝きを見たにょ。そしたら、悪魔さんの声が聞こえてきたにょ」

 

それって、お兄ちゃんが覚醒した時のことだよね。

あの虹色の粒子は次元を越えて駒王町に広がってたし、ミルたんさんにもお兄ちゃんの声が聞こえてもおかしくはない。

 

ミルたんさんは続ける。

 

「その数日後に空に穴が開いて、そこから白髪のお兄さんが攻撃するとか言ってたのを聞いたにょ」

 

それはアセムが世界に向けて発信した宣戦布告だよね。

やっぱり、一般の人間にも彼の声は届いていたみたいだ。

 

ミルたんさんは拳を強く握ると、とても熱い眼差しで言った。

 

「悪魔さん達が世界のために頑張ってるにょ。なら、ミルたんも皆を守るために力を使うにょ。そのためにここに来たんだにょ」

 

「この人、やっぱり良い人だ! 良い人過ぎる!」

 

この人はどこまで純粋なんだ!

もう、見た目が気にならないくらいヒーローしてるよ!

 

自分でも訳が分からない感動をしていると、ミルたんさんが『門』の方を指差した。

 

見ると、いつの間にか『門』からは超巨大魔獣や赤龍帝の複製体が出現してきていて、既に連合軍と激戦が繰り広げられていた。

………ミルたんさんに気をとられ過ぎて気づかなかったよ。

 

「悪魔さん達はあの穴に向かうにょ?」

 

「は、はい。ボク達はあの『門』から相手の陣地に入って、敵を止める役割なんです」

 

今思ったけど、一般の人に作戦を伝えてよかったのかな?

もう遅いけど。

 

ミルたんさんは一つ頷くと、ボク達に向けて言った。

 

「ここはミルたんが引き受けるにょ。その間に悪魔さん達は先に進んで欲しいにょ」

 

「っ! 危険だわ! あなた一人にそんな重荷を背負わせることなんて出来ない!」

 

リアスさんが真剣な表情で言ったけど………なんだろう、このおかしな状況は。

もっとツッコミを入れるところがあると思うんだけど………。

 

ミルたんさんは前に出ると半分だけ、こっちに顔を送る。

そして―――――。

 

「ミルたんはミルたんの役目を果たすにょ。皆のためなら、どんな困難だって乗り越えられる。それが――――本当の正義の魔法少女だと思うにょ」

 

男前だ!

ところどころ変だけど男前過ぎる!

というか、ミルたんさんの役目ってなんなの!?

 

ああっ、止める前にミルたんさんが魔獣の方へと突貫してしまった!

物凄いスピードで戦場に躍り出たよ!

 

「ミルキィィィィ・ブラスト・インパクトォォォォォォォォ!!」

 

振るわれた豪腕が複製体を粉砕する!

魔王クラスを一撃!?

 

「ミルキィィィィ・ラブリィィィィ・ブレスゥゥゥゥゥゥ!!」

 

吐き出された息が暴風となって、無数の邪龍を吹き飛ばしていく!

息だけで台風みたいになってる!?

 

「あの技、私が教えた魔法も使ってますね」

 

「リーシャさんが教えたんですか!? というより、なんでそんなに冷静!?」

 

そんな会話をしている間にもミルたんさんの無双は止まらない!

 

振るわれる拳が、放たれる蹴りが、強大な敵を粉砕し凪ぎ払っていく!

 

「ミルキィィィィ・ライトニング・スラァァァァァシュ!」

 

放たれた手刀が邪龍の首を切り落とし、複製体を両断し、更には海を真っ二つに割る!

海の底が見えた!?

 

「あ、俺が教えた技だ」

 

「モーリスさん!? なんてものを教えてるんですか!?」

 

木場君のツッコミが炸裂する!

ようやく、思考を取り戻せたみたいだ!

 

すると、ミルたんさんの体を覆うオーラに変化が訪れた。

ピンク色に輝くラブリーなオーラが何かを形作っていく。

 

ピンク色のオーラが蠢くと―――――背中に天使の翼を形成した!?

 

広げられた翼から舞い散るハート型の羽が邪龍に触れる。

羽に触れた邪龍が口から泡を吹いて、海へと落ちていって………何したの!?

 

ミルたんさんが超巨大魔獣の一体に掌を向ける。

そこに尋常じゃないオーラが集まっていき―――――。

 

「ミルキィィィィィィ・ビッグバン・アタァァァァァァクッッッッ!!」

 

 

ズゥオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!

 

 

放たれた砲撃は超巨大魔獣を包み込み、丸ごとラブリーなオーラの向こうへと消し去った!

 

こ、これがミルたんさんの真の力―――――。

 

「これが物理戦士(まほうしょうじょ)の力なのね!」

 

「イリナさん、それ字が違う」

 

物理戦士こと、ミルたんさんの戦いぶりは凄まじく、それからも果敢に拳を振るっていた。

 

その光景にこの戦場で戦っている人達も戦慄していて、

 

「お、おい、なんだ、あいつは!?」

 

「あの化け物を一撃だと!? 何者だ…………というか、なんだ、あの格好は!?」

 

「俺に聞くなよ! だ、だが、いける! あいつがいれば、ここは持ちこたえられる!」

 

「き、救世主だ! 救世主が現れたぞォォォォォォォォォォッ!! 勝てる! 勝てるぞ、俺達はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」」」

 

勢いを取り戻していく戦士達!

雄叫びをあげて、複製体や邪龍に立ち向かっていく!

 

敵から放たれた砲撃で多くの味方を失ったときは、半ば絶望している人もいた。

そんな人も、今となっては勇ましい顔つきで戦っていた。

 

こ、これがミルたん効果…………。

 

リアスさんも勇ましい顔つきで、

 

「行きましょう。―――――彼女に続くのよ!」

 

そ、それはちょっと………。

頷きにくいんですけど…………。

 

アリスさんなんて、涙目で首振ってるし………。

 

と、とにかく、戦況は持ち直せた。

多くの敵が撃ち落とされ、『門』の近辺も開けてきた。

 

ボク達は頷きあうと『門』を目指して飛翔。

『門』を潜り、アセムがいる世界へ―――――。

 

[美羽 side out]

 




うん、シリアスなんてなるわけないよね!


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20話 混乱する戦場

活動報告の方で番外編とR18のリクエストを受け付けてます。
メッセージ求む!(^_^ゞ


[三人称 side]

 

「ようやく、それなりの数がこっちに入ってきたねぇ」

 

アセムは円卓に移した映像を見ながらほくそ笑む。

その視線の先には各所に展開している『門』から自身が構築した世界に入り込んでくる戦士達。

自分達の世界を守らんがために、立ち上がった者達だ。

 

その中には『D×D』―――――美羽達の姿も映されている。

 

「勇者君が見当たらないけど………まだ目が覚めないのかな?」

 

ヴァルスが頷く。

 

「そのようですね。他の『門』も確認しましたが、彼の姿はありません」

 

「なんだよ、いねーのかよ。つまんねぇーな」

 

「ラズル、彼の相手は父上のはず。つまるもつまらないもないでしょう? というより、進化した今の彼にあなたが敵うとは思いません」

 

「勝てる勝てないってのは関係ねーよ。俺はただ闘いを楽しめたらそれで良いんだよ。おまえも同じだろうに。で? 向こうの狙いは聖杯なんだろう? どーするんだよ?」

 

ラズルの問いにアセムは頷く。

 

「僕を倒すにしろ、トライヘキサを倒すにしろ、聖杯は止めないといけないだろうね。まぁ、そう簡単にはやらせないさ。彼らには更なる理不尽を乗り越えて貰わないと困る。この先を乗りきって貰うためにもね」

 

アセムの視線はベルへと向けられる。

彼女の傍らには赤龍帝の複製体。

 

「まだまだビックリイベントはある。彼らがどう対応するか楽しみだ」

 

 

それはそうと…………

 

 

「あ、ビックリイベントといえば、さっきの凄かったよね! あの猫耳のマッチョマン! どんだけチートなんだろうね! アハハハ!」

 

「ええ! あれほどの戦士がこの世界にいたとは驚きです! ブフッ」

 

「あれはマジでスゲェよ! ぜひとも手合わせ願いたいもんだ! つーか、マジで笑った! 面白すぎるだろ!」

 

アセムの言葉でミルたんの話題に入る三人。

先程、映像で見た雄姿に三人は心踊らせていた。

 

三人がテンションを上げていると、部屋に入ってくる者がいた。

『武器庫』ヴィーカだ。

 

「お父様、ロッキー・ザ・ファイナルはTSUTAYAに返しておきました。あと、お土産のプリンです」

 

「わーい、ありがとー」

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

[木場 side]

 

色々、思考が追い付かないイベントがあったけど、僕達『D×D』はどうにか『門』を潜ることが出来た。

 

次元の狭間みたいに万華鏡を覗いたような断面を持つ『門』。

ここを抜けた先にあるのはアセムが構築した疑似異世界だ。

 

飛ぶこと二分弱。

僕達は『門』の向こう側へと到着した。

 

広がっていたのは―――――血のように赤い空と焼け野原のように黒く染まった大地。

世界の終末を迎えた後のような毒々しい光景だった。

 

向こうの方に視線をやると、アセムが待ち構えていると思われる巨大な建造物があり、その周囲には白いブロックを幾つも組み合わせたような物体がぎっしりと建ち並んでいる。

 

こうして見るとRPGなんかでよくある魔王の城のようにも見える。

 

リアス前部長が言う。

 

「これだけ広大な世界を創造しただなんて………。これが夢だと言われた方がまだ現実味があるわね」

 

「リアス、驚いている場合ではありません。私達には役目があるのですから」

 

「分かっているわ、ソーナ。………あと少し、向こうで足止めを食らっていたら危なかったわね」

 

リアス前部長の視線の先には巨大な怪物―――――トライヘキサの分裂体の一つが佇んでおり、こちらへゆっくりと進軍していた。

傍らには邪龍や複製体はもちろん、超巨大魔獣やベルが生み出した魔神までもがいる。

 

そして―――――。

 

「アポプス………。どうやら、当りみたいね」

 

レイナさんがトライヘキサの真上に佇む者に目を向けた。

褐色の肌をした祭服の青年―――――人間態のアポプスだ。

その手には聖杯が浮かんでいるのが見える。

どうやら、こちらの読みは当たったようだ。

 

既にこのエリアでは連合軍のオフェンス部隊が交戦に入っており、轟音が轟いている。

中には神クラスもいて、赤龍帝の複製体や魔神、トライヘキサを相手取っていた。

 

レイヴェルさんが耳にはめたインカムから得た情報を僕達にくれる。

 

「ヴァーリチーム、刃狗チームの皆さまも無事にこちらの世界に入ることが出来たみたいですわ。各神話の神々も多数が交戦に入っているとのこと。今のところ、戦況は拮抗しているようですわ」

 

神々が多く参戦している状況で拮抗か………。

あまり良いとは言えない。

 

「分裂したトライヘキサ、七体全ての位置を特定できました。準備が完了次第、術式を発動させます」

 

そう言って、ロスヴァイセさんは手元に数百に及ぶ魔法陣を展開して、結界発動の準備に取りかかる。

 

その間、ロスヴァイセさんは動けないので、僕達は術式の要である彼女を守りながらの戦闘となる。

 

「ここからが正念場。皆さん、ペース配分に気を付けてくださいね?」

 

「とりあえず、うちの大将が来ないと相手の大将も出てくるまいよ。それまでに―――――」

 

金属音が響く。

刹那―――――敵が空間ごと両断された。

 

やったのは言うまでもなく、モーリスさん。

そこにリーシャさんの狙撃が加わり、多くの邪龍が地へ落ちていく。

 

「出来るだけ、潰しておくか」

 

 

 

 

蒼炎を纏うゼノヴィアと黄金の輝きを纏うイリナが邪龍をごっそり撃ち落としていく。

この戦いが始まってから、彼女達の活躍は凄まじいものがあった。

 

僕も彼女達に負けじと紅の甲冑騎士で複数の邪龍と複製体に対応していた。

 

「先輩達が取りこぼした邪龍は私が焼きます!」

 

前衛の僕達を潜り抜けた邪龍は白音モードの小猫ちゃんが応じてくれた。

無数の火車を放って、邪龍を消し去っていく。

 

「あら、炎は私の十八番ですわ!」

 

更にレイヴェルさんが炎の翼を羽ばたかせて、強烈な業火をお見舞いしていた。

友人であり、ライバルでもある小猫ちゃんとレイヴェルさんの連携は見事なものだった。

 

小猫ちゃんが右手に火車を、レイヴェルさんが左手に火炎を展開して、二人はそれを合わせる。

 

そして―――――

 

「「はっ!」」

 

フェニックスを型どった業火が放たれる!

火車の炎を纏っているからだろう、放たれたフェニックスは邪龍を大規模で、跡形もなく消滅させていく。

 

うーん、これはリーシャさんの指導の賜物なのだろうか、凄い威力だ!

 

後輩の活躍に喜ぶ僕にリーシャが笑む。

 

「合わせ技って燃えますよね♪」

 

「リーシャさんって、結構お茶目ですよね」

 

初めて会った時はあまり感じなかったけど、イッセー君の眷属になってからは、こういう面が出てきているような気がする。

 

すると、会話を聞いていたアリスさんが息を覇気ながら言った。

 

「木場君、リーシャは昔からこんな感じよ。他にもイジメっ子なところがあるの」

 

「あれはアリス限定ですよ?」

 

「私限定なの!?」

 

「うふふ♪」

 

「そんな笑顔で返されても困るんだけど!? ちょっと、リーシャ!? もう! これが終わったら問い詰めるからね!」

 

そう言いながら、アリスさんは突貫してしまう。

白雷を纏った彼女が槍を振るうと、彼女の周囲にいた邪龍は丸焦げにされていた。

 

神姫化を使わないのは後のことを考えているからだろう。

美羽さんも今は神姫化せずに力を振るっていて、魔法のフルバーストを撃ち込んでいた。

 

その美羽さんの隣には右手に槍、左手に剣というスタイルで戦うディルムッドの姿があって、

 

「ねぇねは私が守る!」

 

「ディルちゃんはボクが守るよ!」

 

義姉妹となった二人は戦闘時のコンビネーションも凄まじいものがあるね。

息ピッタリじゃないか。

 

あれ…………?

 

今、ディルムッドが美羽さんのこと、ねぇね(・・・)って言ったような………。

他のメンバーもそれに何となく気づいたのか、視線を二人に向けていて………。

 

すると、美羽さんはブイサインをこちらに送りながら言った。

 

「色々あって、ボクのことは『ねぇね』って呼んでもらうことになったよ!」

 

ディルムッドは顔を赤くしながら、

 

「だ、だって、お姉ちゃんって言うの………恥ずかしい………」

 

「「「…………」」」

 

うん、イッセー君も言ってたけど、彼女の羞恥の基準が分からない。

とりあえず、美羽さんは『ねぇね』なんだね。

 

その流れでいくと、イッセー君は『にぃに』になると思うんだけど………。

きっと、狂喜乱舞して吐血するに違いない。

シスコンが悪化するのが目に見えるよ。

 

その一方で、闇の獣と化したギャスパー君がヴァレリーさんを抱えながら、近寄る邪龍を殴り倒していた。

 

《ヴァレリーに触れるなっ!》

 

「うふふ、ギャスパー、カッコいいわ」

 

言葉遣いまで荒くなっているバロール状態のギャスパー君。

あの状態の彼を怒らせると怖いんだけど………僕から見るとイッセー君に似ていて、頼もしく感じてしまう。

 

『燃え尽きろッッ!』

 

匙君も黒い邪炎で邪龍を複数焼き尽くす。

 

「ハッ!」

 

ソーナ元会長は得意の水の魔力で巨大なドラゴンを形成し、邪龍を丸のみにしている。

元々、テクニック方面に秀でていたソーナ元会長も最近はパワー方面も伸びていて、一度に複数の邪龍を倒していた。

 

ソーナ元会長に襲いかかる邪龍は真羅元副会長がフォローに回り、対応している。

他のシトリーメンバーも互いにサポート、フォローをしながら息の合った連携を見せてくれていた。

 

「朱乃!」

 

「はい、朱雀姉さま!」

 

今度は朱乃さんと従姉妹の朱雀さん。

五大宗家の人員もオフェンス部隊として、こちらの世界に乗り込んでいる。

その中心となるのが朱雀さんだ。

 

朱乃さんは堕天使の翼を、朱雀さんは式神である巨大な朱色の鳥に乗っている。

 

朱雀さんが大出力の炎を生み出す。

それが形を成して、巨大な炎の鳥となった。

 

ここに来るまでに横目で見ていたけど、あれが姫島家が司る霊獣『朱雀』。

当主になる者が代々、名と共に継承してきたというものだ。

 

次に朱乃さんが雷光龍を生み出した………が、今までの雷光龍とは規模が違う。

長い三つの首を持つ黄金のドラゴンが激しい光と共に朱乃さんの背後に降臨したんだ。

 

あれが朱乃さんの修行の成果!

 

二人がそれぞれ作り出した霊獣『朱雀』と三つ首の雷光龍が数多くの邪龍を焼いていく!

従姉妹の共演は壮絶なもので、合わさった業火と雷光は広範囲に広がっていった。

 

「皆さま、凄まじいですね。私など到底、並んで戦えるレベルではありません」

 

普段と口調の変わらないワルキュリアさん。

彼女は基本的にサポートで、劣勢になっているメンバーを後方から支援している。

 

邪龍に追い込まれている妖怪を見つけたワルキュリアさんはスカートの中からクナイを取りだし、邪龍目掛けて鋭く射出する。

放たれたクナイは邪龍の腕に突き刺さるが、これで倒せるほど相手は甘くない。

 

しかし、よく見るとクナイの持ち手には細い鉄線が結ばれていて、それを辿るとワルキュリアさんの手元にたどり着いた。

 

「―――――雷よ、焼け」

 

ワルキュリアさんが呪文を唱える。

 

すると―――――手元から発した雷が鉄線を辿り、クナイまで走っていく!

雷はクナイに達すると、邪龍を内側から焼いていった!

雷で感電し、弱ったところを妖怪達が倒していく。

 

他にも毒針を投げて邪龍の目を潰したり、ワイヤーを広げて敵の手足を絡め取ったりと、攻撃力はないがサポートという面でワルキュリアさんは活躍を見せてくれた。

 

僕は彼女の戦い方に恐ろしさを感じてしまっていた。

相手の弱点を狙った攻撃、最小の労力で最大の成果を出す戦い。

………イッセー君や他のメンバーのように派手さはないが、彼らとは違う方向で脅威だ。

感情の昂りもなく、表情を一切変えない。

坦々と弱点を突く戦法。

レーティグゲームではあまり相手にしたくない類いだと感じてしまう。

 

「皆、大盤振る舞いだねぇ。なら、俺も超本気モードになろうかな!」

 

―――――『D×D』のリーダー、デュリオさんが前に出る。

デュリオさんは十枚の翼を羽ばたかせて、一気に光力を高めていった!

 

「禁手化!」

 

その一声と共にオーラが大きく弾け、空一面が一時的に晴れ渡った!

デュリオさんの背にはセラフと同じ数の十二枚の黄金の翼。

頭の光輪も四重になっている。

 

デュリオさんが両手を広げて、前に出した。

すると、彼の前方にいる邪龍、複製体が百単位でシャボン玉のような透明な球体に覆われていった。

 

次の瞬間、シャボン玉の内側で激しい業火の渦、裂くような猛烈な突風、全てを凍りつかせる冷気、神の怒りのような苛烈な雷、ありとあらゆる自然現象が次々と発生していった!

 

デュリオさんはシャボン玉の数を更に増やしていき、一帯をシャボン玉で埋め尽くしていった。

その全てに邪龍と複製体が閉じ込められている。

そこでも同様のことが起こり、激しい攻撃が繰り広げられていた。

 

デュリオさんが首を鳴らしながら言う。

 

「これが煌天雷獄の禁手、『聖天虹使(フラジェッロ・ディ・コロリ・)の必罰(デル・アルコバレーノ)終末の綺羅星(スペランツァ・ディ・ブリスコラ)』。そのシャボン玉は戦いを止めさせるあのシャボン玉とは真逆でね。あらゆる天罰を受けてもらうためのシャボン玉だっ! 長ったらしい名前でゴメンね! どうも使っていたら亜種っぽくなっちゃったんだよね!」

 

亜種の禁手!

上位神滅具である煌天雷獄は、その気になれば国一つの天候を変えることも出来ると耳にしたが………この光景を見ていると十分に可能だと思えてしまう!

 

「流石は私達のリーダーね。でも、私だって負けてられないわ」

 

そう言うリアス前部長の視線の先にはベルが作り出した百メートルを越える超巨大魔獣の群れ。

魔獣の攻撃は、その一撃で味方の部隊を蹴散らしている。

あの豪腕で振るわれる拳や吐き出される炎は一撃必殺の威力を持っていた。

 

魔獣の相手は自分がしようと、美羽さんが神姫化をしようとするが、リアス前部長がそれを止めた。

 

「今の私ならあれを――――。祐斗、いけるわね?」

 

「もちろんです」

 

笑みを浮かべる主に僕も笑みで返した。

 

リアス前部長が手元に滅びの魔力を溜めていく。

大きさで言えば、バスケットボールサイズだが………見るだけで寒気がする程の濃密さを持っている。

近くにいるだけで滅ぼされるような、そんな気にさえなってしまう。

 

リアス前部長の準備が完了したところで、僕は紅の甲冑騎士を一度消して、騎士王の姿になる。

黒いコート姿になり、聖と魔の二つの力を身に纏った。

 

右手にはいつもの日本刀の形状をした聖魔剣と、左手に短剣の形状をした聖魔剣を二つ。

 

僕はリアス前部長と頷き合うと、短剣型の聖魔剣を地に突き刺し、騎士王のスピードで飛び出していった。

今の僕が出せる最高スピードで戦場を駆け抜け、行く手を阻むものは一太刀のもとに斬り伏せる。

 

そして、ある程度進んだところで、もう一方の短剣型の聖魔剣を投擲した。

短剣型の聖魔剣は一直線に空中を突き抜けると、超巨大魔獣の一体、その頭に突き刺さった。

 

血すら出ていないところを見ると、あれの皮はかなり分厚いらしい。

相応の攻撃をしなければ、傷つけることも出来ないか………。

 

だけど、今のは倒すための攻撃じゃないから気にしてない。

あれは―――――飛ばすための攻撃なのだから。

 

いつの間にか、短剣の柄の上に紅黒い塊が浮かんでいた。

あれはリアス前部長が溜めていた滅びの魔力だ。

 

それを視認した時、リアス前部長が指を鳴らす。

すると、滅びの球体の中で魔力の乱回転が起こり、爆発的に膨れ上がった!

周囲にいた魔獣も、邪龍も、複製体をも滅びの渦の中に巻き込んでいく!

 

滅びの魔力が引き起こした突風で確認しにくいが、よく見ると膨れ上がった滅びの球体の中にいる敵が半分、更に半分と切断されてから、肉体を消されていた。

 

あれは………。

 

リアス前部長が言う。

 

「リーシャの助言よ。お兄さまのように絶大な滅びを有しているのならともかく、今の私ではまだまだ限界がある。それなら、大きな塊を一度に消そうとするよりも、小さくしてから消した方が効率が良い。だから、私は滅びの魔力に少し手を加えてみたの。――――あれに取り込まれた物は刃と化した滅びの魔力よって斬り刻まれながら、消滅していく。―――――『滅魔改・滅殺の紅魔星(ルイン・イクステンション・スター)』。成長しているのは祐斗達だけじゃないってことよ」

 

しかし、とリアス前部長は続ける。

 

「射出速度が遅いのは相変わらず。爆発的に膨れ上がる変わりに、消滅の魔星のように吸引力もないし、下手すると味方を巻き込んでしまう。これは祐斗との連携が必須ね。一応、形にはなったけれど、まだまだ改良の余地ありだわ」

 

 

 

 

種族を超えた同盟軍の力により、トライヘキサを囲っていた相手の手勢はかなりの数を減らしていた。

アポプスが聖杯を使い、邪龍や複製体を次々に出現させていくが、こちらもその対応には慣れてきた。

 

苦しい戦いだけど、確実にトライヘキサへと近づいていく僕達。

 

もう少しで聖杯を止められる。

聖杯を止めてしまえば、相手の生産ラインは確実に一つは潰せるんだ。

少なくともこの場所は乗り切れるだろう。

そうすれば、この世界の中枢、もしくは他の戦場で戦っている味方と合流することが出来る。

 

あと一歩、そう思った。

 

《ほう、それは面白そうだ》

 

トライヘキサの頭部に立つ人間態のアポプスが笑みを浮かべた。

奴の耳元には魔法陣が展開されていることから、アセムと通信をしているのだろう。

 

………何か企んでいるのか?

 

アポプスの笑みに気づいた者達が身構える。

その次の瞬間―――――。

 

世界を黒が染めた。

地も空も全てが黒。

まるで墨汁を浴びせたように黒に侵食されていく。

 

「これは………!」

 

「ええ、あの時の感覚と同じですわ………! でも、あれは………!」

 

美羽さんとレイヴェルさんが何かに気づいたようで、顔色を変えていた。

その表情は焦りだった。

 

美羽さんが叫ぶ。

 

「アリスさん! 今すぐ、神姫化して! 他の皆もこの黒に触れないように! 急いで!」

 

必死の表情にアリスさんも黄金の輝きを纏い、疑似神格を発動させる。

僕達もこの黒に捕まらないようにするが………。

 

「うわっ!」

 

「な、なにこれ!?」

 

前衛のゼノヴィアとイリナが悲鳴をあげた。

何事かとそちらを見ると、二人が黒く染まった大地から伸びた触手のようなものに捕らえられている!

助けに向かおうとするが、黒い触手が僕の方にも迫ってくる!

 

「くっ………!」

 

僕は追ってくる触手を切り払うが、縦横無尽に動く無数の触手に足を捕まれてしまった!

他の『D×D』メンバーやオフェンス部隊も同様で、モーリスさんやリーシャさんですら捕まえられている!

 

捕まっていないのは神姫化した美羽さんとアリスさんだけで………。

 

触手から逃れようともがく僕達。

しかし………少しすると触手は呆気なく引き下がり、僕達を手放していった。

 

その不可解な行動にこの場にいる誰もが怪訝に思った。

 

「なんだったんだ、今のは…………? 攻撃じゃないのか?」

 

誰かがそう呟いた。

 

触手が生えてきた大地は未だ黒いまま。

だが、次の瞬間―――――。

 

黒く染まった大地が波立ち、ボコボコと泡を噴き始めた。

黒い液体が立ち上ぼり、人一人を包めるくらいの大きさになる。

やがて、黒い部分だけが消え去り、内側から何かが姿を現した。

 

内側から出てきたそれは僕を仰天させた。

 

なぜなら―――――。

 

「僕………?」

 

そこに立っていたのは紛れもない僕、木場祐斗だったからだ。

僕が二人いる状況だ。

 

辺りを見渡すとリアス前部長や朱乃さん、ゼノヴィア、イリナといったメンバーも二人いる。

モーリスさんやリーシャさん、デュリオさん、他のオフェンス部隊の人達まで。

つまり、あの黒い触手に捕まれた者は全員が二人いるんだ。

 

これはまさか―――――。

 

美羽さんがとある方向に視線を向けた。

そこに佇んでいるのは中学生くらいの背丈の少女。

真っ白な肌に足元まである真っ白な髪。

少女の傍らには赤龍帝の複製体。

 

美羽さんは少女を睨みながら言う。

 

「ベル………! そうか、そういうことなんだね。君の複製能力を赤龍帝の力で引き上げた。だから、直接触れなくても複製できるようになった。しかも、これだけの広範囲で………!」

 

少女―――――ベルは小さく頷くと、表情を変えないまま言った。

 

「うん。ベル達も戦う、よ?」

 

ベルがこちらに手を向ける。

それに応じて、僕達の複製体が一斉に斬りかかってきた。

 

戦いは本物対偽物という構図へと移行する―――――。

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

爽やかな風が吹き抜けていく。

草木の香りが俺の鼻腔を擽り、俺の意識を呼び起こした。

 

「ここは………」

 

俺が立っていたのはどこまでも緑広がる草原の真ん中だった。

上は真っ青な晴天、向こうには大きな山が幾つも連なっている。

 

初めて来た場所だ。

だけど、どこか懐かしさを感じる。

 

この感覚は何なんだろうな?

 

俺は何かに導かれるように歩み始めた。

辺りを見渡すこともせず、ただ真っ直ぐにその方向へ進む。

 

迷いなんてない。

この道であっていると確信がある。

 

暫く進んだところで、俺は立ち止まった。

目の前には小高い丘がある。

 

その丘の頂上には一人の人物が座っていて、遠くの景色を眺めていた。

そいつの背中には見覚えがある。

俺はこいつの背中をずっと追い続けていた。

 

そいつはゆっくりと立ち上がると、こちらを振り向き―――――。

 

「よう、イッセー」

 

「おう、ライト」

 

 




リアス新技は螺旋手裏剣の滅びの魔力バージョン、木場の新しい聖魔剣は飛雷神の術です(笑)


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21話 親友として、勇者として

今日で連載二周年………。
二年ってあっという間ですね(苦笑)


「よう、イッセー」

 

「おう、ライト」

 

俺とライトはいつもの挨拶を交わした。

昔と変わらない、シンプルな挨拶だ。

 

俺と同じ茶髪に端正な顔立ち、鍛え上げられた肉体は以前のまま。

目も、表情も何も変わっていない、昔のままのライトだ。

 

ライトは何処からか木刀を出すと、こちらに放り投げてきた。

俺は投げられた木刀をキャッチすると、ライトの右手に目をやった。

ライトの右手にも俺と同じ木刀が握られている。

 

ライトは木刀の切っ先を俺に向けると笑みを浮かべながら言った。

 

「ちょっと付き合え、イッセー」

 

ライトは強く地を蹴って、飛び出してきた―――――。

 

 

 

 

それから少しの時間が過ぎた。

俺とライトは木刀を撃ち合っているが、その間、俺達の間で会話は無かった。

聞こえるのは吹く風の音、風に揺れる草の音、ぶつかり合う木刀の音、そして、互いの呼吸だけ。

 

俺が上段から木刀を振り下ろすと、ライトは自身の木刀をこちらの木刀を絡めとるように操り、弾き飛ばそうとする。

俺は咄嗟に手首を捻って、力の流れを変え、それを阻止。

 

ライトは俺の行動を読んでいたかのように、鋭い突きを撃ってくる。

屈んで避けてみるが、前髪をギリギリ掠めてしまった。

 

お返しとばかりに、俺はライトの剣戟を弾いて、そのままの勢いで回転斬りを繰り出し、ライトに強い一撃を与える。

その一撃を木刀の腹で受けるライトだったけど、予想より剣戟が重かったのだろう。

ライトは体勢を崩してしまった。

 

―――――もらった。

 

僅かな隙。

だけど、この隙が致命的になることを俺達はよく知っている。

 

ライトの体がぐらついた瞬間、肩口へ鋭い斬戟を放つ。

これが決まれば、肩から脇腹にかけてバッサリ斬ることになる。

まぁ、それは真剣だったらの話で、今は木刀だから、打ち身程度で済むけど。

 

こちらの剣がライトに届く―――――と、確信したのと同時だった。

ライトは柄の先、柄頭で俺の木刀を受け止め、弾き飛ばしてきたんだ。

 

相変わらず、芸が細かい。

モーリスのおっさんには及ばないだろうけど、純粋な剣術じゃ、俺はライトに劣っている。

 

木刀を弾き返され、今度は俺が体勢を崩す。

上半身が仰け反り、重心が完全に後ろへと下がってしまっている。

 

瞬時に体勢を立て直したライトは木刀を左手に持ち変え、横凪ぎに斬りかかってきている。

 

間に合わない………そう判断した俺は咄嗟にバックステップで後退。

重心を元に戻して――――――。

 

絶えず鳴り響いていた木刀を撃ち合う音が止み、辺りはしんと静まり返る。

今の今まで大きく動き回っていた俺達は完全に動きを止めていた。

 

というのも、俺の木刀はライトの喉元に、ライトの木刀は俺の喉元にと、互いに寸止めした状態で硬直してしまっていたからだ。

 

ライトは自身に突き付けられている切っ先を横目に笑みを浮かべた。

 

「強くなったな。荒々しさが所々にあるけど、かなり洗練されている。ここまで来るのにかなりの修行を積んだんだろう?」

 

「まぁな。モーリスのおっさんとか、師匠にしごかれたよ。何度も死ぬかと思ったよ」

 

「ハハハ、モーリスのしごきは地獄だからなぁ。おまえの師匠も容赦ないみたいだ。まぁ、そのおかげで今のおまえがあると思うぞ?」

 

そうなんだけどね。

常に死を意識するような修行を乗り越えてきたからこそ、俺はここまで来ることが出来た。

 

俺は剣を下ろすと言う。

 

「おまえのお陰だよ、ライト。俺はずっとおまえに憧れてた。おまえのようになりたいって、いつも思ってた」

 

俺の言葉にライトは苦笑しながら、剣を下ろした。

 

「おいおい、いきなりそんなこと言うなよ。照れるだろ?」

 

「だけど、本当のことだ。それにおまえとの約束があったからな」

 

俺はあの時………ライトが魔族の剣に貫かれたあの時に、託された。

『皆を頼む』というただ一つの言葉。

あれは今でも俺を支える太い芯として残ってる。

 

ライトはフッと笑むと木刀を仕舞い、草むらの上に座り込んだ。

こちらに背を向けたライトの視線の先にあるのは―――――オーディリアの城下町。

 

道理でこの場所に覚えがあると思った。

ここはライトが案内してくれた、こいつのお気に入りの場所だ。

 

ライトが言う。

 

「ま、座れよ」

 

「おう」

 

言われるまま、俺はライトの隣に腰を下ろす。

そして、ここに来てからずっと感じていた疑問を投げてみた。

 

「つーか、ここどこ?」

 

「今更かよ」

 

「おまえが手合わせ申し込んできたんだろうが。聞くタイミングなんてなかったじゃん」

 

「それもそうか。ここは『英霊達の祠』だってさ」

 

「英霊達の………祠?」

 

聞き覚えのない単語だ。

ここがアスト・アーデだったとしても、聞き覚えがないな。

 

俺の問いにライトは頷く。

 

「ここにはな、アスト・アーデ歴代の勇者達の魂が眠る場所なのさ。世界のために行き、激動の中に命を落とした者が死後、安らげるようにと用意された場所………らしいぜ?」

 

「最後、疑問形になってるぞ。おまえも曖昧なのかよ」

 

「そんなこと言われたって、俺もそう聞かされたんだから、仕方ないだろ。ちなみにシリウスの魂もここにいるぜ?」

 

「マジでか!?」

 

 

ライトの何気ない言葉に驚愕する俺!

 

ここ、勇者が眠る場所じゃないのかよ!?

あの人、魔王なんですけど!?

 

あ、でも、世界のために生きたということなら、シリウスがいても不思議じゃないのか。

シリウスだって、長年続いた人間と魔族の争いを終わらせるために命を捧げてきたしな。

 

まぁ、歴代最強とも称された魔王が勇者の眠る場所にいるってのも変な話だけど………。

 

しかし、辺りを見渡してもシリウスや歴代の勇者達の姿が見えない。

見た感じ、かなり広大だし、違う場所にいるのかね?

 

そんな俺の疑問を見透かしたようにライトが言う。

 

「他の人達には外してもらっているよ。おまえとはサシで話したかったしな。シリウスもおまえに託すものは託したとか何とか言って、奥に引っ込んでる」

 

なるほど………。

確かにシリウスにも色々と託されたし、約束もした。

 

最後に話したあの時にシリウスは伝えるべきことは全部伝えたって感じなのかな?

あの人、口数少ないしな。

 

「あ、シリウスからの伝言があった。忘れない内に伝えとくけど、初孫は女の子が良いそうだ。頑張れよ?」

 

「おいぃぃぃぃぃぃ! あんたも孫かよぉぉぉぉぉぉ!」

 

俺のツッコミが草原に響き渡る!

 

あんた、前と言ってること違うし!

前は程々にって言ってたじゃん!

結局、あんたも孫なの!?

ここに来て、心身ともに安らぎましたか!?

 

つーか、女の子希望ですか!

俺もそう思ってました!

娘に『パパ』って呼ばれたいもん!

 

美羽との娘………絶対、可愛い。

断言できる、俺は溺愛してしまう。

 

将来を妄想して悶える俺を見て、ライトは爆笑する。

 

「ハハハ! 昔はスケベなくせに奥手だったおまえが娘かよ! しかも、ハーレム叶ってるんだろ? ま、搾り取られて、死にそうになったことがあるらしいけどな! おまえに好意を持ってる女子って、結構パワフルな娘が多いよなー」

 

「なんで知ってるんだよ!?」

 

「おまえがここに来る前に赤い髪の女神さまに聞いた」

 

「あんの駄女神がぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

あの駄女神、なに暴露してくれてんの!?

 

搾り取られて死にそうになったのって、あんたが原因じゃん!

あの時はティア姉もいたけど!

マジで死ぬかと思いました!

 

もうヤダ、あの駄女神!

間接的にシリアス壊してくるなよ!

 

ここで俺はふと気づいた。

 

「って、今思ったけど、イグニスは先におまえに会ってたのか」

 

「まぁな。おまえの話を聞いてやってくれって言われてさ」

 

イグニスのやつ、気を使ってくれたのかね?

まぁ、普段は駄女神なあいつも、ここぞって時には女神してくれるしな。

 

俺は一度、目の前に広がる絶景を見た後、小さく息を吐いた。

 

「ま、おまえには色々と話したいことがあるのは事実だ。オーディリアの様子とか、おばさんの様子とか。俺がどんな体験したとか、挙げたらキリがないくらいにな。でもさ、ずっと、おまえに聞きたかったことがあるんだ。おまえが俺を守ってくれたあの時のことで………」

 

「なんだよ?」

 

城下町を眺めながら聞いてくるライト。

 

拳に少し力が入るのは、緊張しているからなんだろうな………。

その問いをした時に返ってくる答えが怖いのか………。

自分でも良くわからないな。

 

でも、これは聞きたかったことで―――――。

 

「後悔………してないか?」

 

「は?」

 

俺の呟きにライトは頭に疑問符を浮かべていた。

 

俺は一度、深呼吸をしてから、ライトの方を見る。

そして、ライトの目を見ながら訊いた。

 

「あの時、俺を庇っておまえは死んだ。………おまえには夢があった。やりたいことがあった。それなのに、俺を守るのと引き換えにおまえは色々なものを失った。………後悔してないか? 俺を守って命を落としたこと」

 

ライトには夢があった。

実家を継いで、世界一の料理人になるという夢が。

ライトにはやりたいことがあった。

新作メニューを考えたり、常連さんとくだらない話で爆笑しながら、日々を過ごしたかった。

 

戦争の真っ直中だったけど、ライトには未来があった。

そんな未来を結果的に俺は奪ってしまった。

俺が無知で、無力だったばかりに。

 

だから、俺はずっと思っていた。

本人に直接聞いてみたかった。

 

―――――俺を助けたこと、本当は後悔してるんじゃないかって。

 

ライトが小さい人間だとは思ってない。

こいつは大抵のことは笑い飛ばすくらい、器の大きいやつだ。

それでも、心の何処かでは後悔があるんじゃないかって………。

 

俺達の間に暫しの間、沈黙が続いた。

時間が経過すると共に雲が流れ、俺達の頭上を雲の影が何度も通りすぎていった。

 

ふいにライトが小さく息を吐く。

そして、ついに口を開いた。

 

「後悔が無いと言えば嘘になる」

 

そう言うとライトは自身の掌を見つめた。

 

「イッセー。おまえが言う通り、俺にはやりたいことがいっぱいあった。まだ作ってない新作メニューもあったし、予約してた店の幻の料理もたべてないし、市場のおやっさんに頼んどいた魚も受け取ってないし………。ワルキュリアに頼んでた酒も貰ってねぇ………チクショウ。しまった! 母さんに渡したレシピ、一ヶ所修正するの忘れてたぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

天を仰いで絶叫するライト!

 

分かってたけど、料理関係ばかりじゃねぇか!

おまえ、死んでもそればっかりか!

別の意味でショックだわ!

おまえはどこまでいってもクッキング勇者なんですね!

 

心の中でツッコミを入れる俺だったが、途端にライトは真面目な表情で言った。

 

「あとは母さんを一人にしてしまったことと………おまえに重荷を背負わせてしまったこと、かな」

 

「―――――っ」

 

俺は最後の言葉に目を大きく見開いた。

 

ライトは言う。

 

「俺の言葉がおまえに背負わなくていい重荷を背負わせてしまった。本来なら、おまえは元の世界に戻って日常に戻るはずだった。それを潰してしまったのは俺だ。………さっき手合わせした時、良く分かったよ。おまえがどんな想いで強くなったのかが分かった。おまえの目を見て理解したよ。これまでどんな経験をしてきたのか。きっと、おまえは辛い経験を沢山してきたはずだ。それに………俺の死で自分を殺したいくらい責めたんだろう? ………ごめんな、イッセー」

 

なんで、こいつが謝ってるんだよ………。

ライトは俺を助けてくれた。

こいつが謝る理由なんてないはずだろ………?

 

あの時のことは全て、俺が―――――。

 

俺は衝動的に言葉を発しようとした。

でも、それを遮るようにライトは爽やかな笑顔を浮かべた。

 

「だけど、俺はあの時の選択を間違ったとは思ってないんだ。昔、モーリスが言ってたんだけどさ、人生ってのは選択肢の連続だ。皆、後悔しないように選択をするけど、どれを選んだところで大なり小なり後悔があるってな。だからさ、思うんだ。―――――どうせ、後悔するなら、自分が一番納得できる選択をしようって」

 

ライトは笑みを浮かべると立ち上がり、オーディリアの城下町を眺めながら続けた。

 

「俺は一番納得のいく行動をした。おまえが生きてくれたし、俺の意思を託せたのがイッセー、おまえで良かったと思ってる。その証拠が今のおまえ達だろ? だから、謝るついでに言わせてくれ。―――――ありがとう。俺の想いに応えてくれて。俺の変わりに役目を果たしてくれて本当にありがとう」

 

「………っ!」

 

バカ野郎………!

そんなこと言いやがって………!

おまえにそんなこと言われたら…………俺は………!

 

「なんだよ、泣いてるのか? 暫く見ない内に泣き虫になったか?」

 

「うるせーよ! おまえがそんなこと言うからだろうが!」

 

服の袖で目元を隠す俺を見て、ライトは可笑しそうに笑う。

 

この野郎、昔から俺をからかってくるよな!

相変わらずで逆に安心するわ!

 

笑うのを止めるとライトは真っ直ぐに俺の目を見てきた。

 

「俺、思うんだよ。イッセー、おまえが俺達の世界に来たのは偶然じゃなく、必然だったんじゃないかって。兵藤一誠という男は世界を繋ぐために生まれてきたんじゃないかってな」

 

「おいおい、いくらなんでも大袈裟すぎるだろ。確かに境遇的には特殊すぎるけど、元々は普通の人間だったんだぞ」

 

「かもしれないな。こいつは俺の勝手な想像だし。でも、おまえの力は皆の願いを、想いを繋げるものだろう? おまえの内から沸き出る輝きはそのためのものなんじゃないか?」

 

そう言うライトの目は俺の内側、奥深くへと向けられていて、まるで全てを知っているような口調だった。

 

死んでからここに来て、生きてる時には見えなかったものや感じなかったことが分かるようになったのか?

 

ライトは言う。

 

「まぁ、俺が言いたいのは、これからも皆を頼むってこと。そして、これからもおまえは、おまえでいてくれってことだな」

 

「前半は分かるけど、後半のはどういう意味だよ?」

 

「そのままの意味さ。おまえは変わる。だけど、本質はバカでスケベで真っ直ぐな『兵藤一誠』のままでいてほしいってこと。俺の親友で、皆の勇者。な、イッセー」

 

勇者様に『勇者』って呼ばれると変な気分だ。

 

でも、なんだろうな。

こいつにそう言われると、これまでずっと引っ掛かっていたものが外れた………そんな気分だ。

 

ライトはニッと笑むと拳を突き出す。

 

「これからも頼んだぜ、ドスケベ勇者様」

 

「任せとけ、クッキング勇者様」

 

俺も拳を突き出して、ライトの拳と合わせた。

 

少し増えたとは言え、ライトから託されたものは前回と同じ。

でも、心の中はあの時とは逆だ。

どこまでも広がる青空のように晴れ渡っている。

 

ライトは親指を立てて自身の後ろを指した。

見ると、そこにはいつの間にか一枚の扉が現れていた。

 

「勝手口はあっちだ。そろそろ時間だろ?」

 

「そうだな。皆がいる。俺も行かないと。俺を待ってる奴もいるし」

 

俺は歩を進め、ライトの横を通りすぎた。

俺達の距離は一歩、また一歩と離れていく。

 

俺は扉の前で静止すると、振り向かずに言った。

 

「なぁ、ライト」

 

「なんだ?」

 

「ありがとな」

 

「おう。あ、そうそう。おまえにもう一つ頼みたいことがある。たまには母さんの様子も見に行ってやってくれ。母さん、おまえのことも息子みたいに思ってたからさ」

 

「もちろん。そっちも任せとけ」

 

俺は背中越しにそう言うと、扉のドアノブに手をかける。

 

―――――ありがとな、ライト。

おまえと話せて良かった。

おまえの声を聞けて良かった。

 

おまえが認めてくれたから、おまえがまた託してくれたから、俺は真っ直ぐ前を見ることが出来るよ。

 

扉を開けると、そこには赤い髪のお姉さんが立っていた。

赤髪のお姉さん―――――イグニスが聞いてくる。

 

「もう良いの?」

 

「ああ。もう大丈夫だ。あいつの声を聞けたからな」

 

「そう。なら、行きましょうか。皆が待ってるわ」

 

「ああ、行こう。皆のところへ」

 

俺はイグニスが差し伸べてきたその手を取った。

 

 




現在、R18の執筆もしています!
頂いたメッセージの中で名前が多かったヒロインは―――――


ロスヴァイセです!
というわけで、R18の投稿まで少々お待ちを!


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22話 勇者、出陣

目が覚めると見覚えのある天井があった。

この感触、この匂い、この感覚は間違いなく俺の部屋だ。

 

いつもは美羽達と一緒に寝ているベッドも一人だと大きすぎて変な感じだな………。

 

そんなことを思う俺だったが、ふと、俺の隣に気配があるのを感じた。

 

「イッセー、起きた?」

 

その声に振り向くとオーフィスが一人、俺の隣で座っていた。

 

先日、クリフォトの襲撃でニーズヘッグの野郎にやられた傷はすっかり治り、顔色も良くなっている。

どうやら、アーシアの治療とニーナ達の看病が功を奏したようだ。

 

俺は暫く寝ていたせいで重くなった体を動かして、上体を起こすと、オーフィスと向かい合う。

 

「ああ、今起きたよ。オーフィスはもう良いのか?」

 

「我、もう大丈夫。イッセーは大丈夫?」

 

「俺ももう大丈夫だ。心配かけて悪かったな」

 

そう言って俺はオーフィスの頭を撫でた。

 

うーむ、相変わらずのサラサラヘアー。

撫でたときの反応が犬みたいで可愛い。

 

オーフィスが言う。

 

「イッセー、変わった。良く分からないけど何か違う。寝てる間に、何かあった?」

 

………ライトと再開したことを言ってるのか?

あれのおかげで俺の中で色々と決意できたけど………。

 

オーフィスが知ってるはずないし、見た目で何か変わってるのかね?

 

オーフィスは両手で俺の頬に触れる。

 

「イッセーの力、我が知らない力。イッセー、我の知らない存在になる。でも、イッセーはイッセー。我の友達」

 

「そうだよ。どんな存在になろうとも俺は『兵藤一誠』だ。オーフィスの友達だ」

 

俺の答えに満足そうな表情を浮かべるオーフィス。

 

オーフィスが俺に訊いてくる。

 

「イッセーはこれからアーシア達のところに行く?」

 

「ああ。皆が戦ってるのに、俺だけ寝てる訳にもいかないしな。それに俺を待ってる奴がいる。行くしかないのさ」

 

目を閉じると感じる。

 

美羽が、アリスが、リアスが、朱乃が、アーシアが、皆が戦っている。

ヴァーリも、サイラオーグさんも拳を振るってる。

 

そして、皆が戦う場所から更に向こうにはアセムがいる。

俺が来るのを待ってる。

 

行くしかないだろ。

 

オーフィスは一つ頷くと、顔を近づけてきた。

そして―――――何も言わずにキスしてきた。

 

その瞬間、俺の中に何かが流れ込んできて………。

暫しの沈黙が続いた後、オーフィスは唇を離す。

 

「我の想い、イッセーに託した。イッセーの力、皆の想いが強くする。我もイッセーの力になりたい」

 

オーフィスの想い、か。

龍神様からも託されるなんて、色々と凄いことだよな。

 

「ありがとな、オーフィス。オーフィスの想い、無駄にはしねぇ」

 

それだけ言うと俺はオーフィスを離し、ベッドから降りた。

 

うっ………結構、体がバキバキになってるな。

今日の日付は………うわっ、思ってたより眠りっぱなしだったのな。

 

となると、あれだな………今の俺には圧倒的に足りないものがある。

 

 

――――――妹成分が圧倒的に足りねぇ!

 

 

ああっ、美羽も、ディルちゃんもいねぇ!

皆、向こうに行っちゃってるし!

 

美羽に抱きつきたい、モフモフしたいよぉぉぉぉぉぉぉ!

 

「イッセー?」

 

妹成分不足に悩む俺を見て、首を傾げるオーフィス。

 

…………よし。

 

俺は無言でオーフィスに近寄ると―――――オーフィスを抱き締めた。

 

落ち着く。

妹ではないが、オーフィスを抱き締めていると足りないもの………癒しが補充されていく!

 

今のオーフィスは『イッセー、何してる?』みたいな感じだろうけど、そんなオーフィスが可愛い!

 

俺がオーフィスから癒しを補充している時、部屋の扉が開いた。

 

そちらを見るとおぼんに水の入ったコップをいくつか並べているニーナの姿があった。

ニーナはオーフィスを抱き締めている俺を見ると、体をプルプル震わせて――――――。

 

「お兄さぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 

おぼんを放り投げて、俺の胸に飛び込んできた!

あまりの勢いに俺はベッドの上に押し倒されてしまう!

 

ニーナが涙声で言う。

 

「良かった………! お兄さんが起きてくれた! お兄さんが戻ってきてくれた!」

 

顔を涙でぐしょぐしょにしながら、ニーナは強く抱き締めてくる………首を。

 

「うぐぐぐ…………苦ちぃ………。に、ニーナちゃん、目覚めて早々、俺、旅立っちゃいそう………。ぎ、ギブ、ギブ………マジで死ぬ…………!」

 

後ろに回された手と、押し付けられるニーナちゃんのおっぱいが俺を圧迫死させようとしてくる!

嬉しいが、洒落にならん!

 

「ああっ、ゴメンね、お兄さん! 私、お兄さんが起きてくれたことが嬉しくてつい!」

 

慌てて放してくれるニーナ。

 

うん、割りとマジで死ぬかと思った。

ニーナちゃんも意外と力強いんだよね。

そこは姉譲りか?

 

ニーナは涙を拭うと、エヘヘと嬉しそうに笑った。

 

「おはよう、お兄さん。お姉ちゃんも私もずっと待ってたんだよ?」

 

「待たせてゴメンな?」

 

「ううん。こうして起きてくれたから私はそれで………と言いたいところだけど、ちょっと待たせ過ぎかな? オーフィスさんにしてたみたいに、私もぎゅってしてくれたら、許してあげる」

 

ハハハ…………ニーナちゃんってば、アリスとは違う可愛さがあると言いますか。

どこか小悪魔的な雰囲気があるよね。

 

まぁ、もちろん拒否するわけないけどね。

 

俺はニーナの頭を撫でた後、背中に手を回して抱き寄せた。

 

「待たせて悪かったな。もう大丈夫だ」

 

「うん!」

 

薄く涙を浮かべながらも、嬉しそうに頷くニーナ。

 

全く、俺はどれだけ心配かけてたんだ?

『どれだけ心配したと思ってるのよ!』って、アリスに怒られそうだ。

 

そんなことを考えていると、ドタドタと廊下を走ってくる音が聞こえる。

その音は次第に大きくなってきて、

 

「イッセー! 目が覚めたのか!?」

 

「もう大丈夫なの!?」

 

父さんと母さんが猛ダッシュでこちらに寄ってきた!

鬼気迫る二人の表情が怖い!

 

安心してるの!?

怒ってるの!?

どちらとも取れるから、本気で怖いよ!

 

俺の腕を掴む二人を宥めるように言う。

 

「落ち着いてくれよ、二人とも。俺はこの通り、問題ないよ?」

 

「ああ! そうみたいだな! くぅぅ………本当に心配したんだからな!」

 

「そうよ! 起きるならもっと早く起きてほしかったわ!」

 

「イダダダダ! 腕! 腕が潰れる! 母さん、こんなに力強かったっけ!?」

 

「何を言ってるの! 母は強しよ!」

 

「それ、意味が違うと思うんですけど!?」

 

母は強しって、腕力のことじゃないよね!?

なんだよ、そのゼノヴィア思考は!?

つーか、この状況、さっきのニーナと同じじゃねーか!

 

俺の絶叫を聞いて、ようやく二人は腕を放してくれたが………。

 

さて、目覚めたところで、早くいかないとな。

他の皆も俺を待ってる。

 

俺はここにいるメンバーに出発を告げようとした。

しかし、それを母さんに阻まれてしまった。

 

「イッセー、あんたも行くんでしょ? だったら、行く前にご飯食べて行きなさい」

 

「え? でも、時間が…………」

 

「腹が減っては戦は出来ないでしょ? 必ず勝って、帰ってくるためにも食べて行きなさい。ニーナちゃん、手伝ってくれる?」

 

「はい!」

 

そう言って母さんはニーナを連れて部屋を出ていってしまう。

 

飯か………確かに数日眠りっぱなしのせいで、腹は減ってる。

でも、あまり時間はないし…………。

 

すると、父さんが俺の肩に手を置いた。

 

「イッセー。母さんの言う通りだ。食って行け。平和ボケした俺には分からないけど、こういう時こそ、万全の状態にしないとダメなんじゃないか?」

 

 

 

 

二階のリビングに降りると、ダイニングテーブルの上に料理が並べられていた。

おにぎりが数個と味噌汁、沢庵という超シンプルなメニュー。

ただし、おにぎり一つ一つがやたらとデカい。

通常の二倍近くあるんじゃないだろうか。

 

俺が椅子に腰かけると、母さんが笑顔で言う。

 

「さぁ召し上がれ。私とニーナちゃんのスペシャルおにぎりセットよ」

 

「私が作ったのこれだよ! 凄いでしょ!」

 

ニーナが指差したおにぎりは綺麗な三角形で、パリパリの海苔が巻かれていて、実に美味そうだった。

 

俺はそのおにぎりを手に取り、一口。

何度か咀嚼した後に飲み込んだ。

 

ニーナが上目使いで聞いてくる。

 

「どう、かな?」

 

「美味い。塩加減が絶妙で良い感じだ」

 

俺が感想を言うとニーナは両手を挙げて喜んでいた。

 

味噌汁は………うん、美味い。

母さんの味だ。

ずっと味わってきたけど、やっぱりお袋の味ってやつは安心感を覚えるな。

 

この後も俺はただただ二人が作ってくれたおにぎりを頬張った。

時間がないのは分かっているんだけど、ついついゆっくりと味わってしまう。

それだけ、出されたおにぎりと味噌汁は美味く、食べてると身も心も温まっていった。

 

母さんが作ってくれたおにぎりを噛み締める度に思い出す。

幼稚園の遠足も、中学の弁当もこの味だった。

 

俺は生まれてからずっと、母さんの手料理を食べてきた。

ここまでデカくなれたのも、母さんのおかげだ。

 

食べ終えた俺は箸を起き、手を合わせた。

 

「ご馳走さま。美味かった………本当に美味かった」

 

「うん。また作ってあげる! 約束だからね?」

 

「おう。楽しみにしてるからな?」

 

腹も膨れ、準備万端。

身支度を終えた俺は玄関へと向かう。

 

玄関にいるのは俺以外だと、父さんとニーナ、オーフィスの三人だ。

三人とも俺を見送りに来てくれた。

 

母さんがいないのは…………やはり、息子を戦場に送るという状況が耐えられないんだろうな。

一人、自室へと籠ってしまった。

 

玄関扉の向こうから気配がするけど………。

俺は玄関扉を開けると、そこにいた人物に声をかけた。

 

「こんなところにいてもいいのか、ティア? アジュカさんのところにいなくても大丈夫なのかよ?」

 

そう、玄関を出たところで俺を待っていたのは長い青髪のお姉さん――――――ティアだった。

 

ティア姉はフッと笑う。

 

「このような事態だ。アジュカも色々と動いていてな。私も個別で動いている。でだ、我が主のエスコートをしようというわけだ。たまには使い魔らしいことをしても良いだろう?」

 

「まぁ、いつもはお姉さん的ポジションだもんな。な、ティア姉」

 

そう言うとティアは顔を赤くして、

 

「う、うむ! ま、まぁ、そうだな!」

 

うーむ………やはり、ティアは『ティア姉』と呼ばれると嬉しいらしい。

これは中々に可愛い。

 

とりあえず、ティアは俺と一緒に来てくれるってことか。

 

「よろしく頼むよ、ティア姉」

 

「ああ、任せておけ。マスター」

 

互いに笑み、頷く俺達。

 

俺は振り向き、父さん達に声をかけようとした。

その時、母さんが階段の方から慌ただしく降りてきた。

母さんの手には紙袋。

一瞬、赤いものが見えたけど…………。

 

母さんは玄関に来ると、大きく息を吐いた。

 

「ふぅ、間に合った………。急ぐのは分かるけど、急ぎすぎよ、イッセー」

 

「いや、本当に時間ないし………。母さん、それは?」

 

俺は母さんが抱えている紙袋に指を指す。

 

すると、母さんは笑んで、紙袋の中のものを取り出した。

母さんが取り出したのは―――――赤い羽織。

 

それは見覚えのある………いや、とても懐かしいものだった。

これは―――――。

 

母さんが言う。

 

「アリスさんに頼まれて作ったのよ。イッセー………あんたが、勇者と呼ばれていた時に着ていた羽織。あんたの象徴なんでしょ?」

 

そう、この羽織は俺が戦場に立つときに着ていた長羽織だ。

鮮やかな赤色の布地、背中に施された赤龍帝の紋章。

 

昔着ていたものはとっくに破れて焼けてしまったけど………まさか、もう一度、こいつを見ることになるなんてな。

  

ニーナが教えてくれる。

 

「ロスヴァイセさんとリーシャお姉ちゃんがね、対物理、対魔術のコーティングをしてくれてるから、すっごく頑丈なんだよ?」

 

確かに魔術的なものを感じるな………。

よく見ると、所々に美羽やアリス、リアスやアーシア達の魔力も籠められている。

 

皆の想いがこの羽織に籠められているってことか。

きっと、信じていてくれたんだろうな。

俺が必ず立ち上がってくれると。

 

母さんから受けとると、羽織からは重みを感じた。

布の重さじゃなく、籠められた想いの重さだ。

 

母さんが言う。

 

「行ってきなさい。そんでもって、必ず皆で帰ってくること。良いわね?」

 

父さんも続いた。

 

「俺達はずっと待ってる。ここはおまえの家だ。いつまでもおまえ達の帰りを待ってるからな」

 

念を押すかのように言う二人。

 

心配もあると思う。

でも、二人の目はとても強い………これが『親』ってやつなのかな?

 

俺は一度目を閉じると、真っ直ぐに二人の目を見て言った。

 

「必ず帰ってくる。約束するよ」

 

俺は見送りに来てくれた皆に背を向けると―――――赤い羽織に袖を通した。

 

 



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23話 絶望の中の希望

ストックが無くなってしまった…………!

現在の最終章ですが、過去最多の話数になりそうです(-_-;)


[木場 side]

 

戦場は混乱状態に陥っていた。

 

複製した赤龍帝の力を使って自身の能力を高めたベル。

高められた彼女の力はこの一帯にいる神以外の戦士達全てを読み取り、複製してしまった。

修行によって新しい領域に至った僕達はもちろん、モーリスさんやリーシャさんでさえ複製されている。

 

「くっ………! このっ!」

 

蒼炎を纏うゼノヴィアとゼノヴィアの複製体。

今の彼女のパワーは絶大だけど、それさえも丸ごとコピーされている。

二人のゼノヴィアがぶつかる度に地面に大きな亀裂が入り、周囲を破壊し尽くしていく。

 

ゼノヴィアは激しく火花を散らせながら、皮肉気に言う。

 

「これが私のパワーか! 流石は私と言いたいところだが、敵に回ると厄介極まりないな!」

 

「全くだわ! あちこち、破壊しすぎよ!」

 

「そういうイリナも厄介だろうに! 早くそれを倒してしまえ! イリナの力は私達悪魔には大ダメージなんだ!」

 

そう、ゼノヴィアの言う通り、イリナの浄化の力は僕達悪魔にとって厄介極まりない。

パワーアップしたイリナの複製体は浄化の力を乗せた光の矢を展開し、周囲に撒き散らす。

それによって、こちらの陣営はかなりの被害を受けている。

 

いや、こちらの陣営に被害を出しているのは何もゼノヴィアやイリナの複製だけではない。

僕やリアス部長といったメンバーも、特に僕達『D×D 』のリーダーであるデュリオさんの複製体の攻撃力は凄まじく、この一帯の天気を変えて、こちらを攻撃してくるんだ。

 

「まさか、自分と戦うことになるなんて思ってもなかったよ! 悪い冗談だ!」

 

雨雲を作り、大雨を降らせ、極大の雷を落としてくる。

広範囲への攻撃に長けたデュリオさんの力をそのままこちらに向けてくるのだから、恐ろしい。

 

それでもこちらの陣営が壊滅していないのはデュリオさんが自身の複製体を相手取ってくれているからだ。

 

自分の複製体なら、手の内だって分かる。

そのため、僕達は出来る限り、自分の複製体と戦うようにしている。

 

「自分を乗り越えろってことなのかな? 本当に厄介な力だ!」

 

騎士王の姿になった僕は同じく騎士王の姿の僕に斬りかかる。

スピード、剣技、使える能力の幅まで全く同じ。

僕は出せる最高のスピードで駆け回り、翻弄するが、向こうも同じように動き、剣を繰り出してくる。

 

この複製体は見た目も同じなので、他の人が見るとどちらが本物か見分けにくいだろう。

イッセー君や小猫ちゃんのように気を見分けることが出来るのなら、話は別だと思うけど。

 

でも、この複製体を見分ける方法はある。

目元だ。

この複製体が唯一、本物と違うのは目元に黒い隈取りがあること。

高速戦闘の時には見分けにくいだろうけど、今のところ、これが本物と偽物を見分ける唯一のポイントだ。

 

複製されていないのは神々と例外として神姫化した美羽さんとアリスさんだけ。

あの二人が複製されていないのは直前に疑似神格を発動させたからだろう。

ベルの複製能力は神格までは再現できないようだからね。

 

神々にもこちらを加勢してほしいところだが、神クラスはトライヘキサの対応に追われている。

こちらのトライヘキサにはアポプスも随伴しているので、神クラスでも抑え込むことができていない。

 

例外の一人である美羽さんはベルと壮絶な魔法合戦を繰り広げている。

無尽蔵の魔力を持つベルと、その彼女と対等に渡り合っている神姫化した美羽さんの戦いは他者を寄せ付けない。

下手に近寄れば、巻き込まれて焼かれてしまうだろう。

 

もう一人の例外であるアリスさんは神々しい光を振り撒き、連合軍全体の援護に回っている。

味方を正確に見分け、複製体だけを無数の光の槍で貫いていっている。

貫かれた複製体は圧倒的な光力で塵と化していた。

 

だが、敵の数が減る気配がない。

アポプスが闇を広げながら、聖杯を用いて邪龍達を生産しているからだ。

 

このままではマズい………!

持久戦に持ち込まれたら、こちらが保たなくなる!

 

焦る僕。

だけど、目の前の自分を倒さなければ…………!

 

その時、僕の複製体が横合いから飛んできた何かによって吹き飛ばされた!

見れば、それはモーリスさんの複製体で…………。

 

「やれやれ………まさか、自分を殺る羽目にあうとは思わなかったぜ。無事か、祐斗?」

 

首をコキコキと鳴らしながら息を吐くモーリスさん。

所々、衣服が破け、血を流しているが、大きな傷は受けていない。

せいぜい掠り傷といったところだろう。

 

対して、モーリスさんの複製体は見るも無惨なほど、ズタボロにされている。

 

彼は…………自分のコピーを圧倒したというのか?

 

そんな疑問を持つ僕に平然とモーリスさんは言ってくる。

 

「イッセーの件でもそうだが、所詮は不良品。魂の乗らない剣なんざ、どれだけ速かろうが相手じゃねぇ。それに自分の複製ってなら、戦い方も同じだ。こっちは相手の攻撃パターンを把握しているに等しい。だったら、そいつを崩すことなんぞ楽勝だろ」

 

すると、上からモーリスさんの言葉に付け足すような言葉が聞こえてきた。

 

それはモーリスさんと同じく、自分の複製体を倒したリーシャさんの声で、

 

「この複製体は過去の自分の力。ならば、こちらはそれを超えていけば良い。それだけのことです」

 

つまり、この人達は短時間で過去の自分を乗り越えたと言うことか………。

 

モーリスさんが言う。

 

「どうやら、他の連中も倒し方が分かってきたみたいだな。ほら、リアスが勝ったぞ。流石はおまえ達の主だ」

 

そう言われて、リアス前部長を見れば、無傷と言う訳ではなかったが、自身の複製を完全消滅させていた。

朱乃さんも、小猫ちゃんも、ゼノヴィアも、イリナも、デュリオさんも匙君も自分の複製体を相手に推し始めていた。

全員が目の前の己を超えていっている!

皆、この戦いの間に進化したんだ!

 

リーシャさんが僕の肩に手を置く。

 

「私達は他の方の援護に向かいます。ここは任せても良いですね?」

 

リーシャさんの視線の先には僕の複製体。

僕の複製体は全身から静かに黒と白のオーラを滲ませて、こちらに殺気を向けていた。

 

僕は一歩前に出る。

 

「ええ。過去の自分の力くらい超えてみせますよ。グレモリー眷属の男子としては当然のことですから」

 

僕の答えに満足したように笑みを浮かべる二人。

二人はそのまま散り、新たな敵へと攻め込んでいった。

 

あの修行空間でモーリスさんに言われた言葉を思い出す。

今日の自分は昨日の自分よりも強く、明日の自分は今日の自分よりも強く。

今の自分は一分前、一秒前の自分よりも強くあれ。

 

今がその時だ。

相手は過去の自分。

今の僕はあれよりも―――――強い。

 

僕は聖魔剣の柄を両手で握り、正眼に構える。

 

僕達は一拍置くと、同時に地を蹴って駆け出す!

高速の剣戟の中で火花が散る!

 

―――――速く。

もっとだ。

まだいける。

僕はまだまだ加速できる!

 

刹那―――――僕の視界から色が消える。

あらゆるものの動きが遅く、まるでスロー再生されたような感じだ。

これが極限の集中状態『領域(ゾーン)』。

 

モーリスさんとの修行で僕は『領域』に入れるようになっていた。

その段階では完全に扱える訳ではなく、まだまだ不完全だった。

あのイッセー君ですら会得してから、慣れるまでに時間を要したのだから仕方がないことだと思う。

 

でも、今、この時。

僕は『領域』を完全に掌握できた。

過去の僕と剣を交える度に、僕の剣は速く強く進化していく!

 

感じる、自分の中で駆け巡る力の流れが。

分かる、僕は更に限界を超えようとしている!

 

「僕は僕を超えることで、この刃を研ぎ澄ます! 僕はリアス・グレモリーの騎士だぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

ぶつかり合う聖魔剣!

僕の剣が相手の剣を真っ二つに叩き折る!

 

「ハァァァァァァァァァッ!」

 

唐竹、袈裟斬り、右薙、 右斬上、 逆風、 左斬上、 左薙、 逆袈裟、刺突 。

剣術において基本となる九つの斬撃を神速で同時に繰り出す!

繰り出した九つの斬撃の全てが過去の己を貫き―――――複製体は塵となり宙へ消えていった。

 

 

 

 

「はぁ………はぁ…………くっ………」

 

自分の複製体を倒した僕は息を荒くしながら、膝を着いていた。

『領域』を使った反動で頭痛がする………。

今ので体力をかなり使ってしまった。

 

修行で限界の壁を超えて来たから、ここに来てのこれはかなりキツいものがあった。

限界の壁は越えていくほど、乗り越えることが難しくなっていく。

 

だけど、分かったこともある。

それは僕達にはまだまだ伸びしろがあるということだ。

それが分かったことが、今の戦いの収穫かな?

 

戦況は未だにこちら側が推されている状況。

僕は何とか自分の複製体を倒せたけど、他の戦士達は苦戦しているようだ。

 

敵は次々と手駒を生産して、こちらにぶつけてくる。

 

ちょうど僕のところにも邪龍が群れで襲いに来ていた。

僕は消耗した体に鞭を打って、邪龍の攻撃を掻い潜るが、これまでのような軽快な動きは出来ていない。

 

近くにいたゼノヴィアも自分を相手取るのにかなりの消耗をしてしまったようで、纏っていた蒼炎は消え、髪も元の長さに戻ってしまっていた。

 

体力を回復させたいところだけど、相手はそんな時間を与えてくれない。

僕とゼノヴィアは背中合わせで剣を構えた。

 

「はぁ、はぁ………どうだ、木場。まだ戦えるか?」

 

「弱音は吐けないからね。まだまだ戦うさ」

 

僕がそう言うとイリナが隣に降りてきて、

 

「違うわ、木場君! 勝つまで戦うのよ!」

 

イリナに続いて、僕達の元に降りてきたのはリアス前部長を始めとした他のオカ研メンバーとソーナ前会長達、シトリーメンバー。

皆、服のあちこちが破れていて、肩を上下させていた。

 

「イリナの言う通りよ、祐斗! どんなになっても生きて帰る! これは絶体よ!」

 

「そうです! 私が皆さんを治します! 守ってみせます! 諦めません!」

 

アーシアさんも瞳を強く輝かせて黄金のオーラを広げる。

黄金のオーラはファーブニルを模していて、このオーラに包まれた者は一瞬で傷が塞がり、体力や魔力も僅ではあるが回復していく。

それだけじゃない。

激戦で極限まで消耗した精神までもが癒されていった。

 

アーシアさんの禁手『聖龍姫が抱く慈愛の園(トワイライト・セイント・ アフェクション)』。

 

あらゆる傷を癒す絶体の癒し。

そして、オーラの内側にいる者を外からの攻撃から守る守護の力。

彼女の癒しが皆の精神を支えていると言っても良いだろう。

 

アーシアさんの癒しで皆の覇気が戻ってくる。

それぞれが力強く構えた―――――。

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

一帯を揺らすほどの咆哮が響き渡った!

電撃でも受けたかのように体が痺れ、鼓膜がおかしくなったと錯覚してしまうほどだ!

 

そして、僕達の頭上を灼熱の炎が通りすぎていく!

空一面が地獄の業火で埋め尽くされていった!

 

この光景に見覚えがある。

これはトライヘキサによる一撃!

 

見れば、トライヘキサの侵攻スピードが上がっている。

トライヘキサの周囲にはベルが生み出した魔神が複数体が随伴しており、ここに来るまでに倒してきた以上の邪龍が漂っていた。

 

トライヘキサが口を大きく開ける。

それに続くかのように魔神が、邪龍も口を開く。

トライヘキサの真上には赤龍帝の複製体が五十体ほど翼を広げていて、その全てが天撃(エクリプス)

砲門を全て展開していた。

 

「一斉攻撃ってわけね………っ!」

 

強大な力を持つイッセー君の複製体をやり過ごせていたのは、相手が個々で戦っていたからという点が大きい。

 

だけど、これは…………!

魔王クラスの攻撃を一斉にだなんて………!

 

こちらが立ち上がれば、その分だけ相手はこちらを絶望に叩き落とそうとする。

 

どうする………?

どうすれば、この状況を乗り切れる?

神クラスでさえ、防ぐことが困難なあの攻撃を………!

 

トライヘキサとその軍団が全てを灰塵に帰す、絶望の光の放とうとした。

 

 

その時――――――。

 

 

僕達の後方から極大の赤い光の奔流が流れてきた!

その光はトライヘキサに直撃し、後方へと下がらせ、奴らの一斉砲撃を崩してしまった!

トライヘキサの周囲にいた邪龍、赤龍帝の複製体は消え去り、ベルの魔神の肉体を吹き飛ばされている!

 

この攻撃、このオーラ、この色は――――――。

 

「来たのですか!」

 

「遅ぇんだよ!」

 

「待ちかねたわよ、主様!」

 

上空で二十八基にも及ぶビットを操り、邪龍を撃ち抜いていく『赤瞳の狙撃手』が、黒く染まった双剣で敵を斬り伏せる『剣聖』が、神の力を纏い、美しく戦場を駆ける『白雷姫』が、アスト・アーデにおける勇者のパーティーメンバーが歓喜に満ちた声をあげる!

 

そうだ、間違いない。

今度こそ来たんだ。

 

後ろの方で赤い輝きが煌めいた。

それは猛スピードでこちらに向かってきている。

 

僕は、僕達は自然と笑みをこぼした。

さっきまでの絶望が嘘みたいに消えていく。

理由は分かる。

だって、皆の希望が来たんだから。

 

待っていたよ、イッセー君。

 

―――――ここからが僕達の本当の戦いだ!

 

[木場 side out]

 




GN合唱団、用意!(やってみたかっただけです)


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24話 未来に繋がる道

父さん達に見送られた後、俺とティアはアセムが展開している『(ゲート)』を潜り、奴が創造したという世界に突入。

『門』を通過した俺達を待っていたのは血のように赤い空と何もない荒野だけの世界。

そして、トライヘキサ達と激戦を繰り広げている連合軍の人達。

 

「思っていたより、良いタイミングで来られたようだな」

 

「全くだ」

 

ティアの言葉に俺は頷いた。

 

到着したと思ったら、トライヘキサ達の一斉砲撃直前だったもんな。

慌ててEXAの砲撃で阻止したけど………マジで間一髪だった。

 

で、俺の砲撃をまともに受けたトライヘキサはというと、

 

「ちっ、あれでほとんど無傷か。化け物め」

 

ティアが煙をあげるトライヘキサを見て舌打ちする。

 

直撃した部位の肉が弾けて、煙が出ているが、ダメージを与えられたというほどじゃないな。

トライヘキサからすれば、せいぜい掠り傷といったところか。

 

流石はグレートレッド級の怪物、最強の魔物。

あれを倒しきるのは骨が折れそうだ。

 

ティアが言う。

 

「私がエスコート出来るのはここまでだ。これ以上、あの怪物を進ませるわけにはいかんからな」

 

「そうだな。リアス達のこと、頼むよ」

 

「ここは任せて、先に行くといい。だが、おまえを待つ者………おまえが行かなければならない場所はこの世界の中心。向こうに見える塔だ。あそこに向かうにはここを突破する必要があるが、どうする?」

 

それなんだよな…………。

 

正面にはトライヘキサがいるし、迂回しようにも辺り一面に邪龍やら、俺の複製体やら、ベルが生み出した魔物がいるし。

おまけに良く見ると、連合軍の人達の複製までいるし。

 

一つずつ倒すことも出来るが、それだと時間がかかる。

それにここでの消耗は出来るだけ避けたい。

 

すると、

 

『私に任せてください』

 

ここを突破する方法を考えていると、耳にはめたインカムに通信が入る。

声の主はリーシャだ。

 

俺の横を猛スピードで通過し、前に出るリーシャ。

リーシャの周囲を飛び交うのは計二十八に及ぶライフルビットとシールドビット。

全展開された遠隔装備は彼女の正面に配されると、その狙いを次々に定めていく。

 

赤く染まったリーシャの瞳が、更に赤く爛々と輝き―――――。

 

「さぁ、そこを退いてもらいますよッ!」

 

全ての銃口が火を噴いた!

放たれた火炎の弾丸が、氷の弾丸が、狙った獲物を貫いていく!

弾丸に貫かれた敵は燃やされるか、氷付けにされ、墜ちていく。

 

絶え間なく放たれ続けるリーシャの狙撃は最早、弾幕とも言える。

近づこうとする敵は一つの例外もなく、急所を狙い撃たれるため、俺達に接近することが出来ないでいた。

 

リーシャ先導の元、前に出ているとベルが生み出した百メートル級の巨人が立ちふさがった。

いくらリーシャでも、あれを一撃で仕留めるのは相性的に難しいだろう。

 

そう考えた俺は砲撃の体勢となった、瞬間―――――目の前の巨人は左右に分かれ、轟音と共に崩れ去る。

やったのは言うまでもなく………。

 

『随分遅かったじゃねぇか! ゆっくり眠れたか?』

 

インカムを通して聞こえるモーリスのおっさんの声。

 

「待たせて悪かったな! おかげさまだよ!」

 

『そうかい。イッセー、えらく声に張りがあるが、何か良いことでもあったのか?』

 

「まぁな。そう言うおっさんこそ、こんな時なのに元気な声してるな」

 

『そりゃあ、こうして大将が参戦したんだ。下っ端は大将がいるからこそ、真に力を発揮できるもんさ』

 

「………元騎士団長が下っ端とか、良く言うよ」

 

『フハハハー! 今の俺に役職なんてないんでな! 責任は全部、主様に任せるぜ!』

 

「おぃぃぃぃぃぃ! やっぱり、アリスのサボり癖はあんたのせいかぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺のツッコミを無視してどんどん駆けていくおっさん!

おっさんが通った場所には細切れにされた邪龍の山!

その中には百メートル、二百メートル級の巨人もいて………相変わらず、無茶苦茶だよ!

 

ある程度、進んだところで、モーリスのおっさんとリーシャが立ち止まった。

おっさんは一度、剣を納刀して腰を沈め、リーシャは自身の正面に各種ビットを配置する。

配置されたビットは先程とは違い、規則正しく並べられていて、例えるならビットの壁といったところだ。

 

ビットが並べられた瞬間、リーシャとサリィ、フィーナの瞳に魔術的紋様が浮かび上がり―――――。

 

「「「双極消滅(ダブル・デリート)ッッ!」」」

 

極太の光が放たれた!

光は正面だけでなく、正面斜め右と斜め左、合わせて三方に向けられていて、射線上の敵をまとめて一掃していく!

 

モーリスのおっさんは神速を越えた超神速の抜刀術を繰り出し、黒い剣撃を飛ばす!

黒い剣撃は空間をも両断し、ありとあらゆるものを斬り裂いていった!

 

砲撃を撃ち終わり、リーシャが叫んだ。

 

「行きなさい、イッセー! 決着を着けてきなさい!」

 

「他のことは俺達に任せな! おまえを待っている奴がいるんだろ!」

 

その声に頷き、俺はドラゴンの翼を羽ばたかせ、二人が切り開いてくれた道を突き進む。

同時にリーシャとおっさんの荒業に心底驚嘆していた。

 

空と大地を埋め尽くしていた敵がごっそり消えてやがる………。

数えるだけで馬鹿らしくなるけど、数万、数十万かそれ以上は屠ったはずだ。

 

というより、おっさんはともかく、リーシャの技はなんだ?

あんな技を使えるなんて聞いたことがない。

 

雰囲気的にはリアスの滅びと似ていた………が、滅びの魔力とは違う感じだった。

 

すると、イグニスが教えてくれる。

 

『どうやら、サリィちゃんとフィーナちゃん、二人の相反する属性を活かした技のようね』

 

サリィとフィーナの属性?

サリィが火で、フィーナが水か。

確かに火と水は相反する属性だけど………。

 

『相反する力は互いを打ち消し合う。リーシャちゃんはその打ち消し合う力そのものを放ったのよ。そして、この力は世界の理そのものと言っても良い。つまり、この技を防ぐことは出来ない』

 

なるほど………防ぐことが出来ないという点ではリアスの必殺技と似ているな。

 

俺が知らない間にリーシャはそんなおっかない技を編み出していたのかよ!

あんなの食らったらお陀仏じゃん!

 

つーか、今のを見ただけで、そこまで分かるのか!?

 

『だって、お姉さんは最強だもーん。ブイブイ』

 

そうですね!

そうでしたよ!

 

ただ、今の砲撃でリーシャ達が操るビットの動きが少し鈍くなってるな。

あまり連発は出来ない技みたいだ。

 

と、ここで美羽とアリスが合流してきた。

二人とも神姫化していて、美羽はベルと対峙、アリスは連合軍全体のサポートに回っているようだった。

 

美羽とアリスが嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

「おはよう、お兄ちゃん。ようやく来てくれたね」

 

「待たせ過ぎよ、この寝坊助さん」

 

「ゴメンゴメン。遅れた分の働きはするよ」

 

苦笑しながら謝ってみる。

すると、アリスは頬を赤くして言ってきた。

 

「それは当然でしょ? 許してほしかったら………あ、後でギュッとしてよ」

 

「あっ、アリスさん、ズルい。ボクもギュッてしてほしいな」

 

うん、やっぱり、アリスとニーナって姉妹だよね!

お願い事が同じじゃねーか!

可愛いな、ちくしょう!

 

今すぐにでも二人をギュッとしたい!

でも、状況が状況だから我慢します!

 

俺が悶えていると、近くで邪龍を貫いていたディルムッドがこちらを向く。

ディルムッドはアリスよりも顔を赤くして、モジモジしながら………。

 

「あっ………え、と………お、おはよう………にぃに」

 

「なっ…………にっ…………!?」

 

に、にぃに………だと!?

『お兄ちゃん』ではなく、『にぃに』だと!?

な、なんだ、この内から沸き上がる感覚は!?

 

そんなこと………そんなこと言われたらぁぁぁぁぁぁ!

 

「ゴブァッ! ブヘッ!」

 

俺は血を吐き出した。

全身の、穴という穴から血を噴き出した。

 

『相棒ぉぉぉぉぉぉぉ!? シスコンで死ぬ気かぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

「ちょ、ちょっと、イッセー!? 今回、血の量多くない!?」

 

ドライグとアリスのツッコミが戦場に響く!

 

俺は全身から血を噴き出しながら叫んだ!

 

「しょうがないじゃん! だって『にぃに』だよ!? 『にぃに』なんだよ!? フワァァァァァァッ!」

 

『アリスゥゥゥゥ! 今すぐに相棒を止めろぉぉぉぉぉぉぉ! このままだと、発狂して死ぬぞぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

「このバカ! このシスコン! こんなタイミングでシスコン発動しないでよ!」

 

「ディルちゃん、可愛いぃぃぃぃぃぃ!」

 

「『人の話を聞けぇぇぇぇぇぇ!』」

 

「ブハッ!」

 

炸裂する二人のツッコミ&白雷のアリスパンチ!

アリスパンチで兜が砕けた!

 

頭に衝撃を受けて、ようやく冷静になれた俺。

くっ………これがディルちゃん効果というやつか。

なんて恐ろしいんだ!

危うく萌え死ぬところだったぜ!

 

よし、決めたぞ。

この戦いが終わったらディルちゃんのアルバムも作る!

日々の生活をシャッターにおさめようではないか!

 

美羽が苦笑しながら言う。

 

「まぁ、お兄ちゃんの気持ちは分かるかな。ディルちゃん、可愛いもん」

 

だよね! 

ですよね!

素直になったせいなのか、出会った時の面影ないけど発狂するくらいに可愛いよね!

 

アリスが深くため息を吐いた。

 

「はぁ………。もう、シスコンでも何でも良いから、早く行って終わらせてきてよ。私だって、色々と我慢してるんだから………。約束は覚えてるわね?」

 

「もちろん。―――――一緒に家に帰る。約束だ」

 

 

 

 

美羽とアリスと分かれた後、俺は更に突き進んだ。

 

すると―――――横合いからドス黒いオーラが伸びてきたっ!

危険を察知した俺は、空中で回転して避けたけど………ドラゴンの翼の一部が闇に触れてしまう。

途端に翼の端が溶けていく!

 

この闇は触れた相手を消し去るのか!

 

仕掛けてきたのは―――――。

 

「おまえがアポプスか」

 

《始めましてだな、現赤龍帝。そうだ、私がアポプスだ》

 

空に浮かぶ祭服を着た褐色の美男子で、手には聖杯を握っている。

見た目は人間だが、感じるオーラはかなり強大だ。

 

なるほど、こいつがあのクロウ・クルワッハと並び称される邪龍筆頭格の一体ってわけか。

 

「ここでおまえの相手をしている暇はない。そこを退いてもらおうか」

 

《あの異世界の神と契約を結ぶ時に貴公には手を出すなと言われたのだが………ふふふ、やはり私もドラゴンというわけだ。強者との戦いに心を踊らせてしまっている》

 

「おまえもバトルマニアってか………。ドラゴンってやつはどこまでも戦いを望むんだな」

 

《貴公もそれは同じではないか? 自らを昂らせてくれる相手に心を奪われる。そのような経験がないわけではあるまい?》

 

それを言われるとね………。

確かにサイラオーグさんやヴァーリなんかと拳を交えるのは楽しいと思える自分がいる。

どこまでも真っ直ぐに己の魂をぶつけ合うような戦いに心を踊らせてしまう。

そこは認める。

 

「あんた、邪龍の割にはクールだな」

 

俺が出会った邪龍はグレンデルを筆頭に頭のネジが外れた奴らが多かった。

クロウ・クルワッハみたいにドラゴン然とした奴もいるけど、目の前の邪龍はそれとも違う。

 

《私も戦闘は何よりも好みだ。だが、グレンデルやニーズヘッグのような粗暴な輩と一緒にされるのは少々残念だ》

 

なるほど………邪龍の中でも真に強い奴ってのはまだまともなのかね?

まぁ、トライヘキサ操って各勢力にケンカ売ってる時点でまともじゃないけど。

 

俺はアポプスに言う。

 

「どちらにせよ、俺はこの先に進まないといけない。あまり消耗したくないんでな」

 

《貴公はあの神と戦うつもりなのだろう? あれに勝てると本気で思っているのか? あの神はそこらの神とは次元が違う。私ですら、戦闘は避けたいと思えるほどにな》

 

「邪龍筆頭格にそこまで言わせるのか………。だが、ここで止まるわけにはいかないんだよ。向こうも俺を待っているんでな」

 

《どうやら、貴公の眼に私は写っていないようだ。ならば―――――》

 

アポプスのオーラが膨れ上がる。

奴の足元から闇が広がり、奴の体を覆っていく。

闇は一気に広がっていき、周囲一帯ごと、俺を闇の世界に閉じ込めていく!

 

《私と戦わざるを得ない状況にするだけだ》

 

「そこまでして、俺と戦いたいのか!」

 

《言っただろう? 私も戦いを好むと。相手が強者ならば、尚更だ》

 

奴の闇が完全に俺を包み込もうとする。

その時だった―――――。

 

闇の中、絶大なまでの聖なるオーラが、光の柱のように立ち昇った。

光の柱がアポプスの方に倒れていく。

アポプスはすんでのところで、回避するが…………。

 

俺はその光を生み出した者を見て驚いた。

 

輪後光を輝かせ、聖なる槍を肩に担ぐ男。

かつて、英雄を名乗り、俺と死闘を繰り広げた男だ。

 

「ここで、おまえが出てくるのか―――――曹操」

 

そう、その男とは曹操だった。

既に禁手となっている曹操は球体の一つに足を乗せて空に浮かんでいる。

 

曹操は俺の近くに現れると言ってきた。

 

「行け。ここは俺が………いや、俺達が受け持とう」

 

「俺………達?」

 

曹操の言葉に疑問を浮かべる俺。

 

その直後、曹操を囲むように霧が出現する。

肌を撫でるような生暖かいこの霧は………。

 

霧が止み、曹操の後ろに現れたのは複数の男女。

それはほとんどが見覚えのある顔で、

 

「ヘラクレス、ジャンヌ、ゲオルク!? あっ、あの時の影使い! そ、それに…………誰だっけ?」

 

「ペルセウスだ!」

 

「知らん!」

 

「だろうな! 俺とおまえは初対面だしな!」

 

ペルセウスと名乗った茶髪の男。

うん、初対面なら知らない。

なんで、そんなドヤ顔でいるんだよ?

 

「英雄派のメンバーがこうして揃うとは………」

 

俺がそう呟くとゲオルクがメガネを直しながら言う。

 

「ジークは木場祐斗に倒されてしまったがね。レオナルドもまだあの時の後遺症が残っているので、ここにはいないが、とりあえずは英雄派の幹部と一部の構成員が揃ったと言っておこう」

 

そう言えば魔獣創造の所有者だった男の子の姿がない。

 

あの時の………シャルバが滅茶苦茶やったせいで、かなりのダメージを負ったようだったしな。

流石に戦えないか。

 

で、それとは全く関係ないことで気になることがあるんだけど………。

 

「なんで、ヘラクレスは作業服? なんで、ジャンヌはエプロン姿?」

 

ヘラクレスはそっぽを向いて一言。

 

「うっせ」

 

ジャンヌはウインクをしながら、

 

「可愛いでしょ?」

 

確かに可愛いけど………。

 

曹操が説明してくれる。

 

「ヘラクレスは冥界の幼稚園で用務員の仕事をしている。ジャンヌはヴァチカンの戦士育成機関のコック見習いをしている。詳しくは省かせてもらうが、二人には仕事を抜けて、そのまま来てもらった」

 

幼稚園の用務員!?

ヘラクレスが!?

 

コック見習い!?

ジャンヌが!?

 

つーか、仕事抜けてきたのかよ!?

良いの、それ!?

 

ヘラクレスが舌打ちして言う。

 

「ちっ、それを言うなや………劉備」

 

「態々教えるなんて、リーダーったら意地悪だわ。ね、孫権」

 

「なんで、国を代えた!? 曹操だ! というか、その弄り方やめろ! 君達、まさかと思うが…………」

 

「「ディルムッドに教えてもらった」」

 

「やっぱりか! あの唐揚げ娘め!」

 

英雄派ってこんなにほのぼのしてたかな?

こいつらも中々に崩れてきてるな、キャラが。

 

あと、曹操のツッコミスキルも上がってきたな。

やはり、こいつにもツッコミの才能があるらしい。

 

そんな三人のやり取りにゲオルクは額に手を当てて深くため息を吐いた。

 

「変われば変わるものだな…………」

 

確かに変わったよね。

英雄派がこんなギャグチームになるなんて、誰が想像できただろう。

 

曹操は大きく咳払いする。

 

「と、とにかくだ。奴の相手は俺達が引き受ける。君は先に進むと良い。君を待つ者がいるのだろう?」

 

「まぁな。でも、良いのか? あの邪龍、滅茶苦茶強いぜ?」

 

すると、曹操はフッと笑みを浮かべ、アポプスに聖槍の切っ先を向けた。

 

「元々、俺達は世界の神仏にケンカを売っていた身。これくらい何とかして見せるさ。それに、君をこの先に届けることが未来に繋がるのなら、未来への道を確保するくらいのことはするさ。英雄のなり損ないでもそれぐらいは出来る」

 

英雄のなり損ない…………か。

 

ふと、曹操のオーラに目をやると、以前とは比べ物にならないほど濃密なオーラを纏っていた。

ヴァーリの言っていた通りだ。

こいつは、次にやりあう時には前よりも追い込まれるかもしれないな。

 

俺は曹操に背を向けるとただ一言だけ残していった。

 

「死ぬなよ?」

 

「ふふっ、君にリベンジするまでは死ねないな」

 

俺達は互いに笑みを浮かべると、それぞれの方向に飛び出していった。

 

 



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25話 久し振りにドッキングです!

今回はシリアス? 
それとも、シリアル?


アポプスを曹操達、英雄派のチームに任せた俺は血のように赤い空を更に突き進んで行く。

邪龍や俺の複製体が行く手を阻んでくるが、それは真正面から叩き潰していった。

 

全力で飛ぶこと暫く。

目の前に巨大な、超高層ビルのような建物が現れる。

黒く禍々しい雰囲気を醸し出すそれはこの世界の中心。

アセムが待つ場所だ。

 

ここに来る前にティアから聞いた情報だと、アセムは分裂したトライヘキサの一体を動力にして、邪龍を生産しているらしいが………。

 

辺りに目をやると、ちょうど、建物の前に巨大な怪物がいて――――――。

 

『ゴァァァァァァァァァァッ!!』

 

とてつもない咆哮と共に、極大の火炎を吐き出してきた!

野郎、いきなりかよ!?

 

ドライグが言ってくる。

 

『気を付けろ。奴の火炎は神クラスですら、一撃のもとに屠ってしまう。いくら相棒とて受ければ………いや、掠っただけでも炭と化すぞ』

 

神クラスですら、まともに太刀打ちできない怪物。

聞けば、アザゼル先生には何か策があるらしいけど、どうするつもりなんだろうな?

 

トライヘキサの肉体に目を凝らしてみると、何かの術式が全身に刻まれていた。

刻まれた術式が紫色に輝くと、奴の足元に巨大な魔法陣が展開される。

魔法陣の輝きが強くなり、そこから量産型邪龍が一斉に飛び出してくる。

 

なるほど、こうやって邪龍を生産しているわけか。

数は…………うん、数えるのはやめておこう。

今のだけで、この空と大地を埋め尽くす数を作りやがったからな。

 

流石にグレートレッドと同格の力を持つとされる化け物だ。

アポプスが聖杯を使って生産するのとは桁が違う。

ここが奴らの最大の生産拠点と考えると、こいつを封じるだけでも全体的にかなり、楽になるはずなんだがな………。

 

何とかして、目の前の怪物を止める方法を考える俺だが、トライヘキサが生み出した邪龍が群れを成して一斉に襲いかかってくる。

一体一体は大したことないが、これだけの物量で来られると面倒きわまりない。

更にはトライヘキサが火炎を吐いてくるので、その度に肝が冷える。

 

一撃がここまで恐ろしいとはな………!

 

俺はドラゴンの翼を広げて、空を駆け巡る。

ここでまともにやり合ってたんじゃ、時間がいくらあっても足りない。

どこかに迂回路は………?

 

「ちぃ………! こいつら、どこまでも追ってきやがる!」

 

この一帯に漂う邪龍や複製体の全てが俺を追ってきやがる!

どれだけスピードを上げても、向こうは先回りまでして、俺の行く手を阻んでくる!

 

『どうやら、ここに配されている邪龍共はあの塔の番人的な役割らしいな。あそこへ近づく者を排除しにかかっている。トライヘキサも含めてな』

 

そりゃ、最強の番人ですこと!

 

俺は飛びながらも背中のキャノン砲を展開して、二方向への砲撃をぶっ放つ!

EXAの砲撃を受けた敵は跡形もなく塵と化していった!

 

今のでかなりの数を消せたはずだが、敵もそう甘くはないようで…………。

トライヘキサが咆哮をあげると、再びあの術式が発動。

無数の邪龍が勢いよく飛び出してくる!

 

その光景に俺はつい舌打ちしてしまう。

 

「くそったれが………! 減らせば、減らした分だけ………いや、それ以上の数を増やしやがる………!」

 

そう、トライヘキサが新たに生み出したことで、俺が消し飛ばした以上に敵の数は増えていた。

 

これにはドライグもうんざりした様子で、

 

『雑魚をいくら倒そうとも無駄か………。やはり、ここを突破するには生み出している奴を止める他あるまい』

 

生み出している奴を止めるって………トライヘキサを止めろってか。

簡単に言ってくれるぜ。

世界中の神仏が、常軌を逸した猛者が集中砲火してもビクともしなかったんだぞ。

 

となると………。

 

「ドライグ、すまん。―――――ドッキングする!」

 

『えっ!?』

 

俺は専用の召喚魔法陣を展開。

魔法陣が赤い輝きを放つと―――――赤い戦闘機が現れる!

これが俺の切り札の一つ、オッパイザー!

これとドッキングするとドライグが泣いてしまうが、仕方がない!

 

俺とオッパイザー空高く飛び上がり、ぐんぐん高度を上げて行く。

オッパイザーが俺の背後に位置した時、俺は叫んだ!

 

「―――――ドッキングする!」

 

『Docking Sensor!』

 

『Oppaiser Docking Mode! Oppaiser Docking Mode!』

 

鎧と機体に埋め込まれた宝玉から音声が鳴り響くと、機体が変形し、接続部のようなものが現れる。

変形したことで新たに露出した宝玉と、背中の宝玉と光線のようなもので結ばれ―――――不安定なEXAを完全なものとする!

 

久し振りだが、これが―――――。

 

「ダブルオーッパイザー! ここに見参!」

 

『うぉぉぉぉぉん! うわぁぁぁぁん!』

 

「泣くな、ドライグ! 俺も泣きたいんだから!」

 

というか、一番辛いのはアリスとリアスのはずだ!

だって、これを使うと―――――。

 

 

~その頃のダブルスイッチ姫~

 

「「なっ!? 私の乳首が光ってる!? またなの!? やっぱりドッキングしたの!?」」

 

アリスとリアス。

二人のスイッチ姫の乳首から放たれる光が戦場を神々しく照らしていた。

 

~その頃のダブルスイッチ姫、終~

 

 

うん、後で謝ろう。

必殺のムーンサルトジャンピング土下座で、俺の全身全霊で謝ろう。

 

というか、オッパイザーの補給してくれたんだなアリスとリアスは。

お二人のおっぱいを搾ったのは、何となく誰かは分かる。

 

とにかく、ダブルオーッパイザーの力なら!

 

ドライグ、トランザムで一掃するぞ!

 

『馬鹿な! トランザムはこちらの切り札! こんなところで使うわけには!』

 

分かってる! 

だけど、ここを突破できなければ同じだ! 

 

それに、敵は待ってくれない!

もうトライヘキサがこっちに向けて火炎を吐き出す準備をしているからな!

 

俺はイグニスを召喚すると、フェザービットを射出。

フェザービットは変形し、イグニスと合体した。

巨大な剣となったイグニスの切っ先をトライヘキサへと向ける。

 

そして、俺は鎧の各所に埋め込まれてある宝玉に溜められた力を一気に解放する!

 

「―――――トランザムッ!!」

 

『相棒!?』

 

ドライグの注意を無視した俺はトランザムを発動。

全身が紅蓮の輝きを放ち始める!

凶悪な程の力がイグニスの刀身に集中し―――――特大のロンギヌス・ライザーを繰り出した!

 

俺がロンギヌス・ライザーを放つのと、トライヘキサが火炎を吐き出すのはほぼ同じで、空中で激しくぶつかり合う。

次元を破壊するほどの力と力の衝突はその余波だけで、周囲にいる邪龍と複製体を灰にしてしまう。

 

二つの砲撃は拮抗しているが、少しするとその拮抗が崩れ始めた。

ロンギヌス・ライザーが徐々に押し始めている!

 

「ここでおまえに構ってる暇はないんでな! そこを退きやがれぇぇぇぇぇぇっ!」

 

俺の想いに答えるようにロンギヌス・ライザーの威力が上がる!

そして―――――紅蓮の刃がトライヘキサを完全に捉えた。

 

 

 

 

「はっ、はっ、はっ…………ふぅ」

 

攻撃を終えて、力を解除する俺。

今ので力を使いきったオッパイザーは魔法陣の輝きに包まれていき、戻っていった。

 

ドライグが呆れたように言う。

 

「無茶な真似を………。これからが本番なのだぞ? ここで全体力を使いきるつもりか?」

 

ゴメンゴメン。

だけど、思っていたより消耗は少ないぜ?

今だってEXAを保てているからな。

 

『なに? 確かに予想よりも遥かに消耗が少ないな………どういうことだ? あれはイグニスの力をフルで使う分、尋常ではない力を使うはずだが………』

 

疑問を口にするドライグ。

すると、イグニスがその疑問に答えた。

 

『それはオッパイザーのエネルギーが肩代わりしてくれたからよ。今回、イッセーは万全の状態でドッキングしたでしょう? だから、ロンギヌス・ライザーを撃っても少ない消耗で済んだ。つまり―――――おっぱいの力は最強と言うことよ』

 

「『…………』」

 

絶句する俺とドライグ。

きっと、ドライグは理解に苦しんでいるはずだ。

だけど、俺はイグニスの言葉を理解した。

理解してしまった。

 

アリス、リアス…………ありがとう。

おっぱいをありがとう。

おっぱいをいっぱいありがとう。

二人のおっぱい…………最高デスッ!

 

おっぱいの力を改めて実感したところで、俺はロンギヌス・ライザーをまともに食らったトライヘキサの方に視線を移す。

 

そこには―――――肉体の三分の一くらいを失った怪物の姿。

流石のトライヘキサもイグニスのフルパワーには相当なダメージを負ったようだ。

しかも、トライヘキサに刻まれていた術式は完全に消滅している。

つまり、もうこれ以上、あのトライヘキサが量産型邪龍や複製体を生産することは出来ないってことだ。

 

しかし………。

 

「な、にっ………!?」

 

俺は驚愕の声を漏らした。

なぜなら、トライヘキサが再生を始めたからだ。

削り取られた肉体の断面から触手のようなものが生えて、肉体を再構築していく!

数秒足らずで刻まれていた術式も含め、元の姿に戻ってしまった!

 

イグニスが厳しい声音で言う。

 

『なるほどね………。予想だけど、トライヘキサにはどこかに核となる部位があって、それを破壊しない限りは永遠に再生を繰り返すんだわ。次にロンギヌス・ライザーを放ったとしても、向こうも対処を変えてくるでしょう。まぁ、今の状態のイッセーに連発は出来ないのだけど』

 

「…………っ!」

 

嫌な情報だぜ………!

つまり、仮にもう一度撃てたとしても倒せる確率はかなり下がるってことか………!

 

トライヘキサの双眸が再び俺を捉えて、怪しく輝く。

俺のことを自身を脅かす敵と判断したのか、奴から放たれる邪悪なオーラが一気に膨れ上がる!

 

こいつはマズいな………ロンギヌス・ライザーで怒ったのかな?

何にしても状況は最悪だ………!

 

トライヘキサが口を大きく開けて、口内に尋常じゃないレベルの力を集めていく!

あんなの撃たれたら、ひとたまりもないぞ!?

 

「ここは私達に任せたまえ、イッセー君」

 

どこから聞こえてきた第三者の声!

それと同時に上空からとんでもない密度の攻撃がトライヘキサ目掛けて降り注いだ!

 

このオーラは―――――。

 

「遅れてすまない。ここからは私も戦おう」

 

「やっほー、イッセーくん♪ マジカル☆レヴィアタンの参戦なのよ!」

 

サーゼクスさんとセラフォルーさん率いるルシファー眷属とレヴィアタン眷属!

冥界を支える四大魔王の内、二人がこの場に集結していた!

 

ティア情報だと、魔王は冥界側の防衛と撃退に当たっていることになっているんだけど、なんで中核の二人がここに!?

 

サーゼクスさんが俺の疑問が分かっていたかのように答える。

 

「心配はいらないよ。冥界側には分裂したトライヘキサの一体と相手が作り出している手駒しかいなかったのでね。こちらにはサイラオーグやタンニーン続き、クロウ・クルワッハが加勢してくれている。加えて、アジュカが考案した術式で、あの『門』に特殊なバリケードを張った。これにより、こちらの陣営はこの世界に手勢を送り込むことが出来るが、対して、相手側が冥界に足を踏み入れることはない。一時的なものではあるがね」

 

クロウ・クルワッハが加勢してくれているのか。

そういや、あいつはタンニーンのおっさんのところで食客になってたな。

その恩を返すために力を貸してくれていたりして。

 

アジュカさんは流石というべきか、そんな術式を考案していたのな。

自分達の領地に侵入できないとなれば、一気に攻勢に出ることも出来る。

 

ただ、一時的って言うのは、トライヘキサが『門』を潜り抜けようとした場合は防ぎきれないというのと、この世界の主であるアセムが何かしらの術式でバリケードを壊しにかかった時のことなんだろうな。

 

サーゼクスさんに続き、セラフォルーさんがピースしながら、嬉しそうに言った。

 

「それにね、冥界市民の間で、義勇軍なんてものが組織されてね。正規軍の後方支援を手伝ってくれているの! 私、感動して大泣きしたのよ!」

 

マジでか!

そんなことになってたの!?

 

確かに後方支援が増えれば、その分だけ兵の間で余裕が出来る。

なるほど、冥界側の戦況が安定している理由の一つがそれか。

 

何となく納得していると、サーゼクスさんが前に出る。

 

「アザゼルから聞いている。この先にいる神は君を待っていると。君もまた、彼との決着をつけようとしていると。ならば、ここは私達に任せて行きたまえ」

 

「そうそう。私もサーゼクスちゃんも魔王なんだし、頑張らなきゃってね!」

 

優しい表情のサーゼクスさんも、いつものようにハイテンションなセラフォルーさんも強く覚悟を決めた瞳をしていた。

恐らく、ここで俺が何を言ったところで、その覚悟は揺らぎはしないのだろう。

 

だったら、俺が出来ることはただ一つ。

 

「サーゼクスさん、セラフォルーさん。俺、行ってきます。だけど、その前に二人に言いたいことがあるんです」

 

「「?」」

 

疑問符を浮かべる二人。

そんな二人に俺は―――――。

 

「妹談義。まだまだやり足りないんで、後で絶対にやります。約束ですよ?」

 

俺の言葉に二人はニッコリと微笑んで、

 

「フフフ、またリーアたんについて語ってあげようじゃないか!」

 

「私だって、ソーたんのお宝秘蔵アルバム公開しちゃうんだから! だから、イッセーくんも必ず戻ってくること! これは魔王としての命令なんだから☆」

 

「はい!」

 

 

 

 

トライヘキサを抜けて、俺はようやく辿り着いた。

この世界の中心部である漆黒の塔に。

 

俺が接近すると塔に設けられた巨大な扉が轟音を立てながら開いていく。

俺を受け入れるってか………。

 

中に入ると、外観以上にシンプルな造りで、石造りの壁と床、柱という構成だった。

ところどころに魔術的刻印が施されている以外は飾り気のない場所だ。

 

ただ、かなり広大で、本当に建物の中にいるのか自分でも分からなくなるくらいに広い。

 

「懐かしい感覚だな………」

 

内部を飛行しながら、無意識にそう呟いていた。

なぜ懐かしいと感じてしまったのか。

その理由はもう分かっている。

 

暫く進むと、奥に祭壇が見えた。

祭壇の中央には椅子があり、そこに一つの影がある。

 

俺は祭壇の前に着地すると、そいつを見上げて言った。

 

「待たせたか?」

 

「いや、そろそろ来る頃だと思っていたよ、勇者くん」

 

闇色の服を纏う青年―――――魔王と化したアセムは薄く笑みを浮かべて、俺を迎え入れた。

 

 



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26話 勇者と魔王

イッセーVSアセム開始です!


「我は魔の王にして絶対無比の存在なりき……。万物の長たるは我以外にはなし。神に作られしデク人形共よ、まだそれがわからぬのか。かつておまえ達が神と崇めし者は、我が永劫の闇に葬り去った。愚かなる者よ、そなたらに我を崇めるほか生きる道はないのだ。我が名はアセム。万物の王にして天地を束ねる者。さあ来るがよい。我が名をそなたらの骸に永遠に刻みこんでやろう」

 

「おぃぃぃぃぃぃ!? おまえ、完全にドラクエやってただろ!? それ、ラスボスの台詞じゃねーか!」

 

「よく分かったね。Ⅶだよ」

 

「聞いてねーし! つーか、知ってるし!」

 

「いやぁ、一度、言ってみたかったんだよねぇ、この台詞。アッハッハッハッハッ」

 

「腹立つ、こいつ腹立つ。ねぇ、とりあえず殴らせてくんない? 一発だけで良いから殴らせてくんない? お願い、三百円あげるから!」

 

「やーだよ」

 

やっぱり、こいつ超腹立つ。

殴りたい。

もう世界の命運とか関係なしに個人的に殴りたい。

 

なんで、いきなりシリアス壊してくるの?

良い感じの再会だったのに、ここでシリアス壊すか、普通…………って、こいつにとってはこれが普通なのか。

 

俺は深くため息を吐くと、アセムが身に付けているものに視線を向けた。

 

闇色の服。

控えめな装飾でシンプルなデザインだけど、禍々しさと強い畏怖を感じる。

アスト・アーデ歴代魔王の戦闘服であり、シリウスも戦う時は身に付けていた。

俺と戦った時も。

 

アセムは俺が考えていることを見透かしたように笑んだ。

 

「色々と懐かしいでしょ? この服も、この場所も」

 

「そうだな。懐かしすぎて、逆に違和感があるけどな」

 

「まぁ、そんなこと言わないでよ。結構、作り込んでるんだよ? この場所を作る時に一番、手間がかかったし~」

 

「確かに。よくもまぁ、ここまで精巧に作り上げたもんだ」

 

「ここは君が歩んできた道のりの中で、最も記憶に残る場所の一つだろうからね。君とシリウス君が決着をつけた場所だし」

 

そう、この場所はどこからどう見ても俺とシリウスが最後に拳を交えた場所。

石造りの壁や床。

広大な空間に幾つも並び立つ極太の柱。

空間の最奥にある祭壇。

全てが再現されている。

 

あの時はアスト・アーデの未来をかけて戦った。

結果的にはシリウスの計算通りに事が運び、人と魔族が和平を結んだが………。

 

「アセム。おまえ、魔王にでもなるつもりか? その服を着ることの意味を理解していないわけでもないだろう?」

 

俺の問いにアセムは苦笑する。

 

「その質問、ヴァルス達からもされたよ。この服は僕の覚悟だ。最後の魔王はシリウス君じゃない。その役目は僕が引き受ける」

 

「あいつは美羽を魔王にしたくなかった。過去の因縁、積み重なってきた業を全て引き受けるために、魔王という存在を自分で最後にしようとした。それを理解してのことなんだな?」

 

「そうさ」

 

簡素にそう返してくるアセム。

 

シリウスの覚悟も全て理解した上でそれを纏っているということか………。

 

出会った時のような愉快犯的な雰囲気を残しつつも、言葉に重みがある。

瞳の奥で何かが静かに燃えている。

 

変わらないようで以前とはまるで違う。

 

俺はアセムに訊いた。

 

「何がおまえを動かしているんだ? おまえの目的はこの世界を壊すことじゃない。それは分かってる。おまえはただ、この世界に変化を求めている。これ以上ないくらいに強引なやり方でな」

 

俺の問いを聞いたアセムは逆に訊いてきた。

 

「前に僕が言ったことを覚えているかな?」

 

「どれのことだよ? 心当たりが多すぎて絞り込めねぇ」

 

「君が倒れる直前に僕が話していたことだよ。まぁ、あの時はトライヘキサの復活に遮られてしまったけどね」

 

そこまで言われて俺は思い出した。

そういや、トライヘキサの復活でそれどころじゃなかったんだった。

まぁ、その直後に俺は倒れちゃったんだけど。

 

あの時、確かアセムは…………。

 

「………俺達がいるこの世界とアスト・アーデ。異なる世界は既に二つ存在している、ってところだったか」

 

記憶から探りだしてきた言葉にアセムは頷いた。

 

「そう。君達の世界………『コードD』とでも名付けておこう。『D×D』たるグレートレッドが次元を守護しているからね。そして、アスト・アーデ。存在そのものが全く異なる世界は二つある。君達は今まで、アスト・アーデにしか注目していなかったようだけど。君達は気付かなかったのかい? 疑問に思ったりはしなかったのかい? 可能性は一つじゃない。それこそ無限に存在する」

 

「………っ。おいおい、まさかと思うが、それって………!」

 

ようやくそこへと行き着いた俺の思考。

思い返せば、確かにアセムの言う通りだ。

可能性なんて無限にある。

それなのに俺達はなぜ、その可能性を考えてこなかった?

 

あり得ないと思っていた?

それとも、アスト・アーデという一つの異世界に頭を持っていかれていた?

 

様々な思考が駆け巡る中、アセムは意味深な笑みで俺に告げた。

 

「―――――異なる世界は他にも存在するのさ。僕の見立てでは最低でも五つの世界が存在している。この世界とアスト・アーデも含めた数だけどね」

 

「なっ………!?」

 

予想を遥かに越えてきたアセムの言葉は俺の頭の中を停止させるには十分な威力を持っていた。

 

異なる世界が………五つだと!?

 

俺達の世界とアスト・アーデを含めた数ということは、それ以外に違う世界が三つもあるということになる。

 

「そんなことが………いや、おまえの言う通りか。だけど、五つって多くない? 思ってたより多いんだけど?」

 

「フフフ、驚いているね。五つというのは僕が観測している最低の数。他にも異なる世界が存在する可能性は大いにある」

 

マジかよ…………。

異世界って、そんなに存在するものなの?

 

まぁ、小学校くらいの時とか「俺達地球人がいるんだから、宇宙人は存在する」的な話で盛り上がったこともあったけど。

 

宇宙は広いどころの話じゃないな。

次元は広いって話になってくるぞ、これ。

 

アセムは人差し指を立てて、追加情報をくれた。

 

「ちなみに、今は亡きリゼ爺が異世界の一つと通信しちゃったんだよね」

 

「はぁっ!?」

 

更なる衝撃的な事実に驚く俺!

 

アセムは続ける。

 

「その世界の名前は『E×E(エヴィー・エトワルデ)』。機械生命体と精霊が争う世界。精霊を司る善神レセトラスと機械生命体を司る邪神メルヴァゾアがその世界を二分してそれぞれを支配している。リゼ爺はその内の片側、機械生命体サイドと通信したんだよ」

 

「よりにもよって、ヤバそうな奴らの方かよ………」

 

「そう。リゼ爺は向こうに色々と情報を送っていてねぇ。この世界のことだけでなく、僕から得たアスト・アーデの情報も送っているのさ」

 

「つまり、その邪神サイドの連中は俺達の世界だけでなく、アスト・アーデのことも知ってしまった、ということか」

 

「しかも、次元の渦を含め、転移に関する情報を送っているんだよ。『来られるものなら、来てみな、バーカ』って挑発も加えてね」

 

あんのクソジジイ、どこまでも余計なことを…………。

死んだ後でも悪意の塊であり続ける。

マジであらゆるものを巻き込んで戦争を起こすつもりなのか………ッ!

それが例え異世界でも…………!

 

アセムが息を吐いて言う。

 

「僕が気づいた時にはもう遅くてねぇ。いやはや、リゼ爺も中々にやってくれる。僕は彼の事を三流と称したけど、ここまで来ると逆に一流を与えたくなるよ。一流の馬鹿」

 

「おまえが言っていたのはそういうことか。時間がないってのは、つまり…………」

 

「そうさ。彼らはいずれ、この世界とアスト・アーデ、二つの世界に接触してくる。悪意を持ってね。僕の計算が正しければ、早ければ十数年後には来るんじゃないかな? やれやれ、本当に余計なことをしてくれたものだよ。おかげで、僕の予定は大幅に狂った」

 

十数年………人間でも短く感じてしまう時間だな。

俺がここまでデカくなるのもあっという間だったし。

人間でそれなら、超常の存在からは一瞬だ。

その一瞬を過ぎた後に待つのは異なる世界間での争い。

 

そこで俺はあることに気づいた。

 

「なるほど………そうか、そういうことか。おまえが三日という猶予を俺達に与えた理由、そして、こんな大規模な世界構築をした理由は―――――」

 

俺がそこまで言うとアセムは頷いた。

 

「流石は勇者くんだ。察しが良い。この戦いはいずれ来るその時に備えての予行演習なのさ。次元を越えて行われる世界間の戦争のね。他にも色々と意味はあるんだけど」

 

アセムは祭壇に設けられている階段を降りながら、説明し始める。

 

「守りだけでは勝てない。じゃあ、攻めはどうするか。当然、次元を越えて相手の陣地に入り込む必要がある。いずれ敵が来ることが分かっている中、短時間でどれだけの対抗策、対抗戦力を用意できるか。どれだけ各勢力間での連携がとれるか。この戦いはその練習に過ぎないのさ。本番はもっと規模が大きくなるだろう。だからさ――――」

 

アセムは俺の前に立つと、背中に強い寒気が走る程の目で言った。

 

「―――――君達にはこの程度の理不尽、乗り越えて貰わないと困るんだよ」

 

「…………ッッ!」

 

一瞬だけだと言うのに、まだ余韻が残ってる。

これがアセムの殺気なのか………?

今でのようなお遊びな雰囲気とはまるで別物じゃないか…………。

 

そういや、ここに来る前にアポプスが言ってたな、アセムは次元が違うって。

そりゃ、こんな奴を知ったら誰でもそう思ってしまうよ。

 

少し前なら、完全にビビってたレベルだ。

でもな…………。

 

「あれ? 思ってたよりビビらないね。かなり強目に殺気を放ったのに。大抵の相手なら失神するか、下手すると命を落とすレベルなのに」

 

「殺気だけで相手を殺せるとか、滅茶苦茶だな。だけど、ここは退けないな。退くわけにはいかないんだよ」

 

「なぜだい?」

 

「簡単だ。俺はおまえを止めに来た。ここに来るまでに色々と託されてきたんだよ。だからさ、ここでビビって逃げる訳にはいかねぇんだ」

 

俺はライトに皆を、未来を託された。

家族に、仲間に、ライバルにここまでの道を切り開いてもらった。

俺を慕い、俺が慕う人達が俺に想ってくれるから、俺は今、ここにいる。

 

目を閉じると皆の顔が浮かんでくる。

どこからか、声も聞こえてきて………。

 

その時、俺の内側に火が灯った。

虹色に輝く火は大きくなり、体から溢れ出る。

内側から膨らむ虹色の力に耐えられなくなったのか、纏っていた鎧の全身にビビが入り、砕けていく。

砕けた鎧の欠片が宙に消えていき、アセムの前には生身の俺が現れる。

 

「―――――変革者の力。その瞳の輝き、そのオーラ。フフフ、感じるよ。君の中にはいくつもの光が煌々と輝いているのがね。それこそが君が得た進化した姿というわけだね」

 

虹色の輝きを纏う俺を見てアセムが笑みを浮かべてそう言った。

その声音はリゼヴィムとは違い、どこか楽しんでいるような声だった。

虹のオーラは強く、熱く燃え盛り、赤い長羽織を揺らしていく。

 

アセムが俺が羽織っているものを見て、少し驚いたような表情を浮かべた。

 

「まさか、その格好で来てくれていたとは思わなかった」

 

「だろうな。前のやつはもう無くなってるしな。こいつは母さんが作ってくれたのさ」

 

「君は良いお母さんを持ったみたいだね」

 

「まぁな。だけど、母さんだけじゃない。父さんの、美羽の、アリスの、皆の想いがこいつには籠められているんだ。言っておくぜ、アセム。俺はおまえを止めるぞ」

 

「フフフ………良いね。勇者が魔王に向かってくるこの状況。僕が想定していた以上だ」

 

アセムの体を様々な色が混ざったような闇色のオーラが覆う。

薄く、放つ波動も小さいが、プレッシャーは桁違いに上がっている。

 

俺達は互いに一歩を踏み出すと、更に一歩、もう一歩と距離を詰めていく。

手を伸ばしてちょうど届く距離で俺達は歩みを止める。

 

「アセム、おまえ、俺の質問にまだ完全に答えていないよな?」

 

「あれ? まだ答えていないことがあったかな?」

 

「惚けんな。何がおまえを動かしているのか、おまえがこの戦いの先に何を見ているのか。答えてもらうぞ」

 

「勇者くん、質問が増えてるよ?」

 

「細かいこと気にするんじゃねーよ」

 

「細かくないと思うけどなぁー。まぁ、良いけど。どうせ、答える気ないし。どうしても知りたければ、拳で聞いてみなよ。君はずっと、そうしてきたじゃないか」

 

「おいおい、俺が力付くで物事解決してきたみたいなこと言うなよ」

 

「違うのかい?」

 

「半分正解で半分外れだ」

 

不敵に笑む俺達。

 

互いの視線が交錯した瞬間―――――二人の拳は衝突した。

 

 

 

 

グゥォォォォン、と空間が軋む音が鳴り響いている。

その次に空を切る音、その次に何かが弾ける音と、音がズレて聞こえてくる。

 

その理由はただ一つ。

俺達の攻防に世界が追い付いていないからだ。

 

「らぁっ!」

 

繰り出した右のストレートは周囲の空間を破壊、巻き込みながらアセムヘと突き進む。

アセムは俺の拳を掌で反らして、俺の腹目掛けて掌底を放ってくる。

こちらも俺のと同じく空間を破壊しながらの一撃。

一見、普通に見えても、あれには常軌を逸した破壊力が籠められている。

 

俺は空いている左腕で掌底をガード。

アセムの手を叩き落とすような形で防ぎ、そのままの流れで左の肘撃ちを顎目掛けて放つ………が、アセムは簡単に左手で受け止めてしまう。

 

「危ないねぇ!」

 

「どこが! 全然余裕じゃねぇか!」

 

気弾を掌に構え、至近距離で撃ち込んでみる。

すると、アセムは分かっていたようにオーラの塊をぶつけてこちらの攻撃を相殺してくる!

 

二つの強大なエネルギーが衝突して、大爆発を起こす。

俺達は爆発の衝撃に合わせて後ろへ飛ぶ。

 

俺が着地した、その瞬間。

背後に気配が現れる!

 

咄嗟に屈んで避けるが、コンマ数秒でも遅れていたらアウトだっただろう。

頭上を通過していったアセムの手刀は空間をも切断し、正面にあるものを全て真っ二つにしていった!

 

「切れ味最高かよ!? もう少しで頭が胴体とおさらばするところだったぞ!?」

 

「いやいや、君の拳も似たようなものだからね? これまでの攻防で何人の神様を殺せたことか。でも、僕達の戦いはまだまだ序盤だろう?」

 

そう言うとアセムは例の禍々しいオーラで形成された蝶の羽を広げる。

冥府調査の時、あの段階で放てる俺の最強の砲撃を防いだやつだ。

多分というより、間違いなく防御面では俺が今まで戦ってきた中で最硬だろう。

邪龍はもちろん、下手するとロスウォードの防御力よりも高そうだ。

 

ただ、どう見ても防御だけのものとは思えない。

 

アセムが両翼を広げると―――――羽と同じ色をした小さな槍のようなものを無数に展開した!

アセムが指を鳴らすと降り注ぐ雨のごとく、こちらに向かってくる!

 

「ちぃっ、この手の技は面倒なんだよなっ!」

 

俺は高速のバク転で後方に下がると、石造りの床を思いきり蹴って跳ね上がる。

床にめをやると、先程まで俺がいた場所が―――――丸ごと無くなっている!

 

破壊されたとか、そういう感じじゃない。

どちらかと言うと削り取られたような………リアスやサーゼクスさんの滅びと似ている?

 

アセムが言う。

 

「それに触れたら、完全に消失するよ。何であろうと全てね。物質も空間も含めて、あらゆるものを消し去る。滅びの魔力よりも更に上の次元―――――破滅の力とでも言うかな」

 

破滅の力!

もう名前だけでヤバいじゃないか!

 

というか、この槍、追尾してくるのか!

避けても避けても俺を追ってくる!

床を蹴り、柱を蹴って軌道を変えても空中でUターンしてきやがる!

 

こうなったら、全部撃ち落とすまでだ!

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 

俺は両手に虹色のオーラを溜めて、連続で気弾を放つ!

マシンガンのごとく放つ気弾と降り注いでくる破滅の槍がぶつかっていく!

 

完全に相殺できたと思いきや、巻き起こる爆煙の向こうから瞳を危険な色に輝かせるアセムが躍り出てくる!

 

『来るぞ、相棒!』

 

「分かっている!」

 

ドライグの声に応じて、横に飛び退く。

アセムの蹴りが床へと突き刺さり――――――辺り一帯に破壊の嵐を呼び起こした!

床は完全に陥没し、空間が大きく裂けている!

 

アセムの蹴りが空間を大きく削り取った影響なのか、空間の裂け目から突風が生じ、俺を吸い込もうとする!

滅茶苦茶な吸引力で、身動きが………!

 

「そんなところで立ち止まっている暇があるのかい? ―――――隙だらけだ」

 

真下から聞こえてくるアセムの声。

いつの間にか、奴は俺の懐に入り込んでいて、破滅のオーラに包まれた拳を構えていて。

 

奴の拳が俺の胸を貫こうとした、その刹那の瞬間―――――。

 

「ハァァァァァァァァァァァッッッ!!!!」 

 

「………ッ!?」

 

俺は咆哮と共に虹のオーラを爆発させた!

俺を中心に全方位に広がっていく虹はアセムの拳を遮り、奴を吹き飛ばす!

 

アセムはこちらの勢いに吹き飛ばされながらも、宙返りして着地していた。

俺は間髪入れずに前に飛び出し――――――。

 

「このタイミングで対応できるのかよ」

 

「そっちこそ、完全にとったと思ったんだけどねぇ」

 

俺の拳はアセムの、アセムの拳は俺の顔の横を通り抜けている。

俺が拳を放った瞬間にアセムは迷わず、迎撃してきた。

互いの拳は相手の頬を掠っただけに留まったが………。

 

ふと、頬に熱いものが伝う。

どうやら、アセムの拳で頬を切ったようだ。

アセムの頬にも血が伝っていて―――――。

 

「フフフ………これは想像以上に楽しめそうだ」

 

「ハッ、まだまだ序盤なんだろ? 存分に見せてやるよ、俺達の力をな」

 

勇者と魔王の戦いは更に激しさを増していく―――――。

 

 




イッセーの変身ですが、イメージとしては悟空が超サイヤ人ブルーになるときに青色のオーラが剥がれていく感じです。


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27話 白龍皇 ヴァーリ・ルシファー

今回はヴァーリ視点!


[ヴァーリ side]

 

トライヘキサが復活を遂げる二週間ほど前。

 

俺は一人、欧州のある国に赴いていた。

都市部から離れた山間にある静かな田舎町。

 

俺は町から離れた山の中腹から望遠鏡を使って、ある場所を覗いていた。

望遠鏡のレンズが写したのはどこにでもある一軒家の中庭。

庭には四十代くらいの黒髪の女性が作業をしていた。

 

「母さん………」

 

俺は無意識にそう呟いていた。

 

アザゼルに引き取られ、力を付けた後に俺は二人の人物を探していた。

一人はリゼヴィム、もう一人がレンズに写っている女性。

 

今まで全く情報が無かったが、つい先日、グリゴリから北欧勢力を通して連絡があった。

情報をくれたのが、主神オーディン本人だったことには少し驚いたが………。

恐らく、アザゼルが頼んだのだろうな。

 

あの女性は俺がグリゴリに身を寄せてすぐに記憶を消され、あの男………系譜的には俺の父親にあたる男に捨てられたそうだ。

今は人間界のあの町で普通の人間の日常を送っている。

 

………昔を思い返せば、ろくな思い出が出てこない。

 

幼い俺に暴力を振るってくるあの男と、俺を庇う母。

俺を庇ったことで、今度は母が暴力を受けていた。

母の泣き顔ばかりが頭にこびりついている。

 

しかし、悪い記憶ばかりでもない。

母は確かに優しかった。

母との記憶は少ないが、それだけは確かだ。

 

母の行方を探して、見つけたらどうするつもりだったのか。

また共に暮らしたいとでも言うつもりなのか?

 

別にそういうことを言いたい訳じゃない。

ただ、自分が今もこうして生きているということを伝えたい。

あの時、あなたが守ってくれた子供は生きている。

胸を張れるような生き方が出来ているとは思っていないが、それでもこうして生きている、と。

 

ふとレンズが映し出す光景に動きがあった。

 

―――――幼い子供が二人、男の子と女の子が女性のもとに駆け寄ってきた。

 

その瞬間に俺は理解した。

 

「そうか………あなたは家庭を持ったんだな」

 

二人の子供と共に女性は笑っていた。

朗らかに、嬉しそうに、幸せそうに笑っていた。

 

―――――ごめんね、こんなものしかなくて。

 

記憶に蘇る彼女の声は悲しげなものばかりだ。

彼女が用意してくれたパスタを頬張る俺を悲しそうな表情で見ていた。

 

でも、今は違う。

あの時のような表情はどこにもない。

 

………もし、俺が普通の家庭に生まれていたら、どうだったのだろう。

あの男の子のように笑っていたのだろうか。

母と笑いながら暮らせたのだろうか。

 

俺は望遠鏡を静かに下ろし、踵を返した。

 

俺は彼女に、彼女達には会えない。

会えるはずがない。

俺がいる場所は彼女達がいるあの場所とは違うのだから。

 

俺は白龍皇ヴァーリ・ルシファー。

誰よりも強くなり、『真なる白龍神皇』になることが目標だ。

それは今でも変わらない。

 

だが、ここに来てもう一つだけ増えた。

 

「あなた達の平穏だけは必ず守ってみせよう。白龍皇………いや、俺の名にかけて、必ず」

 

 

 

 

北欧の世界に開かれた巨大な穴―――――『門』を潜り抜けた俺は疑似異世界とやらに足を踏み入れていた。

 

『D×D』からは俺のチームと刃狗チームが参戦、魔法使いの協会からも多くの術者がその力を振るっている。

あれほど互いを嫌っていたツェペシュ、カーミラの吸血鬼の両陣営も多くが参加している。

教会本部ヴァチカンからも名うての戦士が駆けつけており、転生天使も出陣している。

また、北欧世界の神々――――雷神トールを始めとした強大な力を持った神も多くが手勢を連れて出陣、『門』を潜って、攻勢に出ていた。

 

これを言ってしまえば、アザゼル達が呆れ顔を浮かべるだろうが、世界中の強者が出てくるこの戦いに心を踊らせている。

これほどのイベントはそうあることではない。

あったら、あったで問題になるのだろうが。

 

『ついに出てきたか』

 

血のように赤く染まった空の下、邪龍を迎撃しているとアルビオンが言った。

それは長らく待ちかねたような声音だった。

 

『ヴァーリ。兵藤一誠が出てきたようだぞ』

 

ほう、ようやく目覚めたか。

待ちかねたよ、我がライバル。

 

『兵藤一誠は真っ直ぐにこの世界の中心部へと向かっている。どうやら、奴は奴で決着を着けるらしい』

 

決着か。

彼が勝つのか、それとも異世界の神が勝つのか。

 

このような広大な世界を構築してしまうほどの神だ。

並の神………いや、上位の神ですら霞んでしまうほどの実力の持ち主として見て間違いはない。

 

対して、兵藤一誠の実力も未知数。

先日のアグレアスでは、強化剤を使ったリゼヴィムを圧倒していた。

あの虹の輝きを纏った渇れの力もまた神の次元を超えているのだろう。

 

神の次元すら超えてしまった二人の激闘。

是非とも近くで見たいものだ。

 

『気持ちは分かるが、我らも決着を着けねばなるまい。奴はこちら側にいるようだからな』

 

奴――――『魔源の禁龍』アジ・ダハーカ。

 

一度手合わせをしているが、決着をつけることが出来なかった。

ダメージを与えても与えても、嬉々として立ち向かってきたあの姿は忘れられない。

あれほど、こちらの攻撃を受けて倒れずに笑って向かってきたのは奴が初めてだった。

 

決着を着けねばならない。

 

だが、トライヘキサは未だ止まる様子がなく、邪龍と兵藤一誠の複製体が空を埋め尽くしている。

 

複製体の方は流石に彼の力をコピーしているだけあって強いが………違う。

俺が求めているのは、このような偽物などではない。

本物は拳を交える度に、こちらに抑えようのない高揚感を与えてくれる。

だが、この複製体と拳を交えると酷く嫌な気分になった。

複製体を倒す度にアルビオンも機嫌が悪くなっている。

 

トライヘキサは炎を吐き出し、北欧勢力を中心とした神々が相手取っている。

均衡を保ててはいるが、どうなるかは分からないな。

相手の一撃はそれだけでこちらを確実に屠るのだから。

 

ふいに俺に話しかけるものがいた。

 

「ヴァーリ、行くと良い。決着をつけたい相手がいるのだろう?」

 

「鳶雄か………」

 

見ると、グレンデルタイプの邪龍を複数体、地面から無数に生える刃で切り刻んだ後だった。

 

鳶雄と彼が連れている狗『刃』がアジ・ダハーカの気配を察知しているのか、その方向に視線を向けていた。

 

鳶雄が言ってくる。

 

「ここは俺達に任せておけば良い。トライヘキサもそうだが、アジ・ダハーカも倒さなければ、いずれはここを越えて、再び各地で暴れまわる。そうなれば、いずれ、のどかな田舎町にまで被害は及ぶ」

 

そうか、どうやらこちらの事情は知っているようだ。

 

この『門』を潜り抜け、奴らの力があの田舎町に及ぶまでにそう時間はかからないだろう。

自分でも柄ではないと感じている。

だが、トライヘキサが各地を蹂躙し、あの異世界の神が宣戦布告をした時から、ずっと俺の頭の中にはあの家族の姿があった。

 

以前の決着をつけたい気持ちもある。

だが、それ以上に俺は――――――。

 

「そうなのです。ここは私やトビー、ヴァーくんのお友達に任せるのです」

 

そう言いながら、空中を飛んでいた邪龍達を一瞬で凍りつかせたラヴィニア。

 

彼女の傍らには全長三メートルほどの氷でできた人型の異形が付き添っている。

ドレスを着たような姿で、細い腕が四本生えている。

顔には口と鼻がなく、左半分は目が六つ並び、右半分には茨に似たようなものが生えている。

 

永遠の氷姫(アブソリュート・デイマイズ)』。

神滅具の一つであり、独立具現型の神器。

発動すると、所有者の傍らに氷でできた姫君が出現し、姫君は所有者の命令のもと、あらゆるものを凍りつかせる。

極めれば、小国のひとつを氷付けにできるほどのもの。

しかも、ラヴィニア自身も上位の魔法の使い手。

 

ここ一帯に漂う邪龍では相手にすらならないか。

 

鳶雄とラヴィニアに続くように美猴が笑う。

 

「カッカッカッ、そういうこった! 行ってこいよ、ヴァーリ。アジ・ダハーカのくそったれをぶっ倒してこいや!」

 

その横ではアーサーがラードゥンタイプをコールブランドで屠っていた。

 

「私達のリーダーなのです。私とコールブランドが選んだドラゴンの生き様を見せてください」

 

黒歌が幾つもの火車を操り、襲いかかる邪龍を容赦なく灰に変えていく。

 

「私、ヴァーリについてきて良かったと思ってる。妹ともう一度笑いあえたのは、赤龍帝ちんのお陰だけど、あんたのお陰でもあるもの。あんたに会ってなかったら、きっとのたれ死んでた。行ってきなさいよ、リーダー。あんたの道は私達で切り開いてあげるから」

 

兄をサポートしながら、魔法で応戦するルフェイ。

 

「はい! 私、今世の二天龍はどちらも好きですよ! カッコいいです!」

 

ルフェイを守護するようにフェンリルが、グレンデルタイプを切り裂き、ゴグマゴグが目からビームを放ち、腕をロケットのように飛ばして邪龍を殲滅していた。

 

アルビオンがどこか誇らしげに言う。

 

『ヴァーリ、これがおまえが築き上げてきたものだ』

 

ああ、そうだな。

鳶雄とラヴィニア、今のチームメンバー。

彼らの言葉がかつてない程に高ぶらせてくれる。

こんな気持ちになったのは初めてかもしれない。

 

こんな時、彼なら礼を言うのだろう。

だが、俺がそれをしてしまうと、らしくないと笑うのだろう?

 

鳶雄が昔のような優しい笑みで言った。

 

「二天龍として、ルシファーとして、その生き方を選んだおまえの、一つの答えをこの世界に見せつけてみるんだ。そういう意味ではあの異世界の神が用意したこのフィールドはこれ以上ない舞台だ」

 

鳶雄が前に出ると、刃もそれに付き従う。

その瞬間、彼を覆うオーラが変化する。

 

「俺も行こう。刃、いいな?」

 

主に問われ、一度だけ尾を振る刃。

そして―――――闇の世界が始まる。

 

鳶雄の周囲に影が、黒い霧が、暗黒が、この世のあらゆる闇が集まり、彼自身からも発生していく。

闇に覆われた彼の口から呪文が唱えられていった。

 

《―――――人と理を斬るなら幾千まで啼こう》

 

鳶雄と刃を漆黒が更に覆う。

闇は彼の回りだけに留まらず、この一帯を埋め尽くしていく。

 

《―――――化生と凶兆斬るなら幾万まで謳おう》

 

彼の四肢に暗黒のもやがかかると、その手足を異形へと作り替えていく。

 

《―――――遠き深淵に届く名は、極夜と白夜を騙る擬いの神なり》

 

刃が、足元に広がる闇の中に消えていく。

 

《―――――汝、我らが漆黒の魔刃で滅せよ》

 

鳶雄の全身はもう元の姿が見えない。

肉体に闇が張り付き、完全に同化しているからだ。

彼の顔も既に異形と化し、狗のような面貌となっている。

 

暗黒は異形と化した鳶雄の横に大きく盛り上がり、形をなしていく。

暗黒が形成したのは漆黒の毛並みを持つ狗。

それが大群で現れた。

 

《―――――儚きものなり、超常の創造主よ》

 

最後の一節が詠まれると、暗黒から生まれた狗の群れは赤い空を瞳に捉え、遠吠えをしていく。

狗の声は透き通っていて、どこまでも届いていった。

 

闇の衣を纏った人型の獣、その周囲に群れをなすのは暗黒を吐く大型の狗たち。

 

鳶雄は足元から長く鋭い刃を持つ大型の鎌を出現させる。

鎌を回し、赤い双眸で敵を捉える姿は死神のようだ。

 

いや………死神どころではないな。

 

闇のフィールドと化した一帯に生える巨大で歪な刃は全て、神すら斬り付せる魔の刃。

魔の刃は邪龍を、複数体を両断し、確実に屠る。

 

音もなく戦場を駆け回る鳶雄。

縦横無尽に鎌を振るい、目の前に立つ全ての敵を斬り伏せていく。

 

彼に付き従う狗たちも、大地に生えた魔刃を噛んで抜いていき、そのまま横向きで構えて駆けていった。

刃を口に構えた狗の集団が、高速で邪龍を斬り刻んでいく。

 

容赦なく命を刈り取る闇の一行。

神すら斬り付せる彼らに斬れないものはない。

 

これが幾瀬鳶雄。

生まれた時から既に禁手を発現させていたイレギュラー過ぎる存在の力。

 

禁手『深淵なりし(ベルフェクトゥス)冥漠の獣魔(テネブラエ・リュカオン)英傑であれ常夜刃(エト・フォルティス・デンス)の狗神(・ライラプス)

 

本来の禁手である『夜天光の(ナイト・セレスティアル)乱刃狗神(・スラッシュ・ドッグズ)』を研磨した先に辿り着いた姿―――――禁手の深淵面(アビス・サイド)

 

以前、アザゼルから聞いたことがある。

神滅具とは拡張性の高い神器である、と。

 

禁手に至った場合の能力増大、能力増加が他の神器と比べて格の違いが出るのが神滅具。

所有者の才能、創造力の全てを汲み取り、実現できるだけの受け皿、実現性が神滅具にはあると語っていた。

 

アザゼルが言うには禁手の可能性には大きく分けて三種あるらしい。

亜種も含め、強化、進化させた昇華面(クレスト・サイド)

自己の神器の有り様を狂気の領域まで追求して、自ら神器と交ざり合うことで体現させた深淵面(アビス・サイド)

そして、これらに分類できない突然変異を起こす慮外面(イクス・サイド)

 

兵藤一誠と木場祐斗は禁手そのものを進化させ、第二、第三の階層へと至らせているが、これらも大きく分けてしまえば深淵面になるのではないか、アザゼルはそう考えていた。

 

ふと脳内に再生されるのはアザゼルの声だ。

 

『今世は過去に例を見ない神器の革新が起きている。ハハッ、訳が分からねぇことばかりだが、実に面白い。なぁ、ヴァーリ。おまえもそう思わないか?』

 

ああ、俺もそう思うよ、アザゼル。

 

予想も出来ない進化をするライバルがいる。

だから俺も更に高みを目指せるのさ。

 

俺は必ずあの時の続きを………いや、あの時よりも更に激しく、もっと楽しい戦いをする。

兵藤一誠、俺は君とまた戦いたい。

 

だからこそ―――――。

 

ラヴィニアが言ってくる。

 

「さぁ、行くのです。ヴァーくん。ここはもうすぐ氷と刃の世界になってしまうのです」

 

俺はそれを聞いて、この場を離れるように飛び出した。

 

それからすぐのことだ。

この一帯が凍りつき、至るところが刃が生えたのは。

 

俺は彼女達に後押しされる形で、アジ・ダハーカのもとへと翼を広げた。

 

 

 

 

僅かに飛んだ先に奴はいた。

腕を組み、こちらが来るのを待っていたかのように構えていた。

 

俺が奴の近くに降り立つと、三つ首の邪龍アジ・ダハーカは歓迎するように言った。

 

『よー、来たか、白いの』

 

『やっほー☆』

 

『遅かったじゃないの!』

 

「ここで俺を待っていたのか?」

 

そう問うと奴は頷いた。

 

『ここで決着を着けなければ、嘘だろ。まぁ、おまえが来るのがもう少し遅かったら、こっちから挑みに行くつもりだったけどな』

 

『うんうん』

 

『待ってばかりはつまらないもんね!』

 

なるほど、決着をつけたいという気持ちは互いに同じだったと言うわけか。

 

アジ・ダハーカの視線は俺から周囲へ、各地で激闘を繰り広げている『D×D』メンバーと連合軍、神仏に向けられる。

 

アジ・ダハーカの周囲には魔法で映し出された映像があり、他の場所でも行われているトライヘキサ、邪龍軍団対各勢力の戦いを見ていた。

その中には赤い羽織を着た兵藤一誠と異世界の魔王の衣装とされるものを纏ったアセムとの死闘も映し出されている。

一進一退、一瞬の判断ミスが生死を分ける、そのような戦いだ。

 

『なぁ、ヴァーリ・ルシファー。おまえはこの戦いに心踊らせているか? あのとんでもねぇ異世界の神が作り出したこの状況を見てどう思う?』

 

『どう思う?』

 

『ぶっちゃけ、どうよ?』

 

真ん中の首に続き、両脇の首も訊いてくる。

 

どう思うか………世界中の神仏、強者の全てが出てくるこの戦いに心を踊らせていないと言えば嘘になる。

俺は何よりも戦いが好きだ。

それが想像を絶する強者ならなおのことな。

 

アジ・ダハーカは語り出した。

 

『俺は楽しい。あの神が作り出したこの全面対決という構図は俺達が望むものだった。互いに万全、持てる全てをかけて燃え尽きるまで戦う。今もおまえと向かい合っていて高ぶっている。だが………』

 

アジ・ダハーカは空を遠く見つめていた。

血のように赤い空の更に向こう、まるで、ここではないどこかに想いを馳せるように。

 

『もっと上があるはずだ。異世界、俺が知らない未知の存在、俺の想像を遥かに越えてくるものがそこにあるんじゃないかってな』

 

アジ・ダハーカはこちらに首を向けて言う。

 

『あの神から聞いた話なんだがよ、俺達がいる世界を含めて、異なる世界は五つあるんだってよ。一つは赤龍帝が勇者してた世界だが、その他に三つも未知の世界があるんだ。どうだ? 想像しただけで楽しくなってこないか?』

 

子供のように笑う伝説の邪龍の姿に俺は笑った。

 

「ふっ、意外とメルヘンチックだな。伝説の邪龍が、そのように未知の世界を語るとは」

 

『どいつもこいつも着飾り過ぎているだけだ。俺は至ってシンプル。俺は強ぇ奴とケンカが出来て、珍しいもんが見られればそれでいい。それを邪悪というのなら、俺は邪悪でいい。邪龍で十分だ』

 

不思議な気分だ。

今まで出会ってきた『悪』よりも魅力的に感じてしまう。

 

旧魔王派の連中も、兵藤一誠に倒される前の曹操も、リゼヴィムも、信念、野望を語ってはいたが、どうにも身の丈を考えない行動をしているように見えていた。

 

しかし、目の前の邪龍は自身をよく理解した上で破壊を追求している。

 

『へ、俺もガキっぽいってか。いいぜ、よく言われる』

 

「いや、あまりにシンプル過ぎるのでな。逆に好意すら抱けるよ」

 

『グッグッグッ、ヴァーリ・ルシファー。もう一度やろうぜ? 血だらけのガチンコ勝負をよ』

 

「良いだろう。俺もそのためにここに来た」

 

その会話の後、俺達は互いに無言になる。

アジ・ダハーカは魔法で映し出していた映像を消して、戦いのオーラを全身から滲ませた。

 

数秒後―――――俺達はその場から姿を消し、ぶつかり合った。

決着をつけるために。

 

 

[ヴァーリ side out]

 




というわけで、今回は原作通りの展開でした。
次回は曹操視点にしようかな~(変更するかもしれませんが)


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28話 ヴァーリが望んだもの

曹操サイドにしようかな~と思ってたんですが、やっぱり今回もヴァ―リで!


[ヴァ―リ side]

 

血のように赤い空を白い閃光と無数の魔法が飛び交う。

戦闘に入ると同時に俺はオーラをアジ・ダハーカに放出。

対するアジ・ダハーカは強固な防御障壁でこちらの攻撃を防ぎながら、カウンターとばかりに強大、凶悪な光の魔法を撃ち込んでくる。

 

奴が撃ち出した光の魔法は魔法力に圧縮に圧縮をかけて作り出されている。

たとえ最上級悪魔………魔王であっても、直撃を受ければ相当なダメージを負ってしまうだろう。

 

俺は下手に防ごうとはせずに、空中で軌道を変えて回避しようとするが、奴が放つ魔法はどこまでも追ってくる。

術式に追尾を加えているのか………。

 

俺は光翼を広げて、光を半減させようとするが、アジ・ダハーカはこちらの動きを読んで、狙いを狂わせてくる。

ついに奴の魔法が俺に届く、その瞬間――――――。

 

『Reflect!』

 

俺の鎧に触れた光は、全く同じ軌道で跳ね返った。

 

『半減』に続く生前のアルビオンが持っていた能力『反射』。

アルビオンが赤龍帝ドライグと分かりあったことで解放された力だ。

兵藤一誠も生前の赤龍帝ドライグの能力『透過』を使用可能になっている。

 

初めてこの能力を知った時には驚くと同時に聖書の神の意志に興味が沸いた。

聖書の神は赤龍帝と白龍皇、二天龍の和解を鍵として、能力を残しておいたのだろうか。

俺と兵藤一誠、アザゼルはそんな考察を考えている。

 

次々に降り注いでくる魔法を反射の力でアジ・ダハーカへと返していくが、奴は反射させた魔法すらも操り、こちらを追ってくる。

加えて、奴は数百、数千の魔法陣をこの空中に展開し、そこから炎、水、風、雷、光、闇というあらゆる属性の魔法を一気に撃ちだしてくる!

 

この数は………撃ち落とせるものではないな。

一つ一つ落としていたら、確実に捕まってしまうだろう………!

 

『Half Dimension!』

 

光翼を大きく広げて、半減の力を解き放つ!

俺を中心に全てを、次元すら歪める半減の領域が展開していく!

 

こちらの力によって、奴の魔法は次々に半減していき、次第に小さくなっていく。

俺に届く頃には鎧に当たると同時に消滅するほど弱くなっていった。

 

だが、俺が半減できた魔法は奴が撃ち出した魔法の一部に過ぎない。

アジ・ダハーカが次々に繰り出した魔法は俺の半減領域を越えようとしてくる………!

 

すでに全方位を各種属性魔法が囲っているため、この場所から逃れようにも半減領域を解くことが叶わない。

半減領域を保ちつつ、飛び回り、オーラの砲撃で撃ち落としていくが、奴の魔法はその数を減らす気配が見えない!

それどころか、奴の魔法は時が経つにつれて増えていっている!

 

こちらが半減する速度よりも、アジ・ダハーカが魔法を撃ち出す速度が上回っているということか………!

 

フフフ………まるで、あの時のようだ。

初めて、兵藤一誠と拳を交えた時、向こうは禁手を進化させ、こちらの半減スピードを越えてきた。

そして、兵藤一誠の拳は俺の鎧を砕き、俺を倒した。

 

あの時と同じではないか。

俺はあの時から強くなった。

次こそは彼に勝つために、負けないために修行に打ち込んだ。

 

俺は絶対に負けないために、己の力を高めてきた――――――!

 

『Half Dimension Accelerate!』

 

『DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDivide!』

 

宝玉から力強い音声が発せられる!

加速する半減!

全方位へと広げていた半減領域が拡大され、アジ・ダハーカの魔法を呑み込み、消滅させていく!

ついにはこの空中を覆っていた魔法の全てを消し去った!

 

兵藤一誠のような力の加速。

俺が強く望んだことで発現された力だ。

 

アジ・ダハーカが笑う。

 

『グッグッグッ、ここに来て己が力を引き延ばしたか』

 

『そんなら、これで!』

 

『どうよ☆』

 

次の瞬間、アジ・ダハーカは更なる魔法陣を展開する。

奴が展開した魔法は先ほどの比ではない!

百や千どころではない、五桁は越えている!

これほどの力を持っているというのか………!

 

拡大された半減領域が、加速した半減が次第に対応できなくなりつつあった。

こちらの領域のより内側に入り込んで来る。

 

そして―――――。

 

「ガッ………!」

 

背中に走る激痛。

とうとう半減しきれなくなった魔法が俺の鎧を容易に砕き、生身にダメージを負わせた。

肉が爆ぜ、鮮血が散る。

 

一度破られたもの等、後は容易に突破できると言うのか。

アジ・ダハーカが放つ、無数の魔法は俺の肉体に鋭く突き刺さる。

痛みで飛びそうになる意識を保ちながら、半減領域を維持しようとするが、こちらの意地を嘲笑うかのように魔法は降り注ぐ!

止まる気配がまるで見えない!

 

あの邪龍の魔法力は桁違いなんてものではない!

神の領域へと突入し、並の神仏では相手にならない規模と破壊力を誇っている!

以前、戦った時にはここまでの放出はしてこなかった。

あの時とはレベルがまるで違うではないか………!

 

アジ・ダハーカが嬉々として叫ぶ。

 

『んじゃ、ここからは禁術も入れていくぜぇぇぇぇぇぇ!』

 

宣言通り、展開している魔法陣の様相が変化する。

魔法陣の色が変わり―――――髑髏を形作る紫色の炎、呪詛に塗れた突風、暗黒色の雷、血の涙を流す呪われた聖女、見つめられただけで命を奪われかねない一つ目の巨人など、禁止級の属性、召喚、呪い、この世の全ての不吉を体現した魔法が発動される!

これだけの禁忌を見たのは初めてだ………!

 

アルビオンが言う。

 

『あれを受けてしまえば、おまえとて骨すら残らないぞ!』

 

「分かっている!」

 

俺は白いオーラを高めて、呪文を口にする――――――。

 

「我、目覚めるは律の絶対を闇に落とす白龍皇なりッ! 無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往くッ! 我、無垢なる龍の皇帝と成りて―――――汝を白銀の幻想と魔導の極致へと従えようッッ!」 

 

『Juggernaut Over Drive!!!!!!!!!!!』

 

俺は瞬時に白銀の極覇龍へと姿を変える。

 

奴の力は神の領域。

ならば、神をも屠る絶対の力を以て対抗せざるを得ない!

 

俺は両腕を突き出して、向かってくる無数の禁忌に手をかざす。

 

『Compression Divider!!!!』

 

『DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDivide!!!!!!!!!』

 

最上級死神プルートすら消滅させた技。

そこから更にこの技は進化を遂げている。

全ての具象、夢、幻でさえも圧縮しきるこの技を受けて、アジ・ダハーカの禁術も圧縮されていく。

 

俺は圧縮をしながら、飛び出し、禁術を放ち続けるアジ・ダハーカへと肉薄。

鎧を解かされながらも、奴の体に触れ―――――――

 

『Power Dispersion!!!!』

 

アジ・ダハーカの力を霧散させた。

あれほど絶大な力を振りまいていたアジ・ダハーカから力が消える。

 

『なっ、力が抜けて――――――』

 

初めて驚愕の表情となるアジ・ダハーカ。

 

「――――――この瞬間を待っていたぞ」

 

白銀のオーラを拳に宿らせ、アジ・ダハーカの顔へと叩き込む!

仰け反るアジ・ダハーカ。

口から血を吐き出し、完全に体制を崩した。

 

この機を逃せば、次はない。

この邪龍は同じ手を何度も受けてくれるほど甘くはない。

 

白銀の拳が、蹴りがアジ・ダハーカの肉体を捉える。

 

「ハアァァァァァァァァァッッ!」

 

全力の拳がアジ・ダハーカを地に叩きつけた―――――――。

 

 

 

 

全身から力が抜けていく。

アジ・ダハーカの力が一瞬とはいえ霧散したことで、展開していた魔法陣の全てが消え去っている。

あれだけ圧倒されていたことを考えると、奇跡的な逆転だろう。

良く抜け出せたものだと自分でも思う。

 

今の攻撃に全てをつぎ込んだせいで、白銀の姿は解かれ、魔力と体力をかなり消耗した。

静かに下に降り、地に足をつけた瞬間に体がぐらついた。

 

意識が持っていかれそうになる………。

だが――――――。

 

『やってくれんじゃねぇか』

 

巻き起こる土埃を払いのけて姿を見せるアジ・ダハーカ。

力を霧散させた状態で攻撃したため、向こうにもそれなりのダメージを与えることが出来ているようだが………どちらが優勢かは明らかだ。

 

――――強い。

リゼヴィムなどよりも遥かに。

 

『アジ・ダハーカは天龍クラスになっている』

 

アルビオンがそう漏らした。

 

なるほど、最強と謳われた二天龍と同格。

それは強いわけだ。

クロウ・クルワッハは修業の果てに天龍クラスとなっているようだが、アジ・ダハーカも聖杯の力で復活した後に己を鍛え上げたのだろう。

そうなると、この邪龍と同格であり、この戦いを招いた一人であるアポプスの力も同様と考えた良いだろうな。

 

まさか、ここまで追い込まれるとはな………。

 

アジ・ダハーカは楽しそうに言ってくる。

 

『今のままでも楽しいが、なんだったら、アルビオンの真の力を使ってもいいんだぜ? 毒龍皇と揶揄されたおまえの力を見てみてぇものだな、アルビオン。いや、グウィバー?』

 

その名を出されるとは………いや、奴も古き時代に存在したドラゴン。

白龍皇のことも詳しいのだろう。

 

白龍皇アルビオンは、グウィバーという名も持っていた。

アルビオンもライバルのドライグも語らないが、白い龍は毒を使うドラゴンだった。

白き美しい姿を持ちながらも、神すら退ける醜い毒を有していた。

そんな我が身をアルビオンは嫌い、呪った。

 

アルビオンが奴に聞こえる声で言う。

 

『その名と力は封じたものだ』

 

『だがよ、その力があったからこそ、各勢力の神にすら忌避された時期があったのは事実だろう? 白く美しい体を持ちながらも、その身には神すらも怖れる猛毒を宿す。俺は好きだぜ? そういう皮肉の利いた力ってのはよ』

 

アジ・ダハーカはアルビオンから俺に意識を変える。

そして、首を傾げながら言ってきた。

 

『なぁ、ヴァ―リ・ルシファー。おまえは赤龍帝と違うようで似ている部分もあると思うぜ? 何かを守ろうとする奴の目だ。それはてめぇのプライドだとかそんなものじゃない。誰か大切な者を守ろうとする奴の目だ。――――女か?』

 

「………女といえば、そうだな。だが、恋人とかそういうのではない。ただ………昔に世話になった人だ。俺は兵藤一誠のように大勢の者を守るという大それたことはしない。いや、できない」

 

俺は兵藤一誠ではない。

彼のように誰かを守る戦いというのはしてこなかった。

 

だが、この戦場に経ってから、ずっとあの女性が、あの家族の顔が浮かんでくる。

幸せそうな母と妹、弟――――――。

 

このままではトライヘキサの、アジ・ダハーカの脅威がそこに届いてしまう。

 

させない。

させるわけにはいかない。

俺は――――――守りたい。

 

「俺にも守りたいものはあるさ。軽蔑するか? 弱々しく感じるか? 自分ではこういうのも悪くないと思っている」

 

『グッグッグッ、そういうことを心の拠り所にしている奴とは何度か手合わせしたことがある。どいつもこいつも例外なく強敵だったぜ。どんなになろうが、その命が燃え尽きるまで向かってくる。俺達、邪龍はしぶといとよく言われるが、そういう奴が一番しぶとく、油断が出来ねぇ。だからよ、俺は一切見くびったりはしねぇ! おまえを一層の強者として認識させてもらうぜ!』

 

アジ・ダハーカは一つの魔法陣を展開させる。

刹那、周囲の景色が歪み、意識が保てなくなった。

 

俺は――――――アジ・ダハーカの生んだ幻術の世界に落ちていった。

 

 

 

 

「お兄ちゃんが起きた!」

 

目を覚ますと、俺はベッドの上に寝転がっていた。

そして、俺の上には男の子が乗っかていた。

 

男の子は俺が目を覚ましたことで、笑顔ではしゃいでいる。

男の子の声を聞いたからなのか、部屋の扉が開き、女の子が入って来た。

 

女の子は男の子を叱る。

 

「もう! お兄ちゃんを無理矢理起こしちゃダメよ!」

 

似ている。

どことなくだが、この二人は俺と似ている。

この瞬間、俺は理解した。

 

「お兄ちゃん! ご飯だよ! 起きて起きて!」

 

「あ、ああ………」

 

男の子が俺の手を引っ張り、部屋の外へと連れ出そうとする。

俺は男の子に誘導されるまま、部屋を出ていく。

 

水が流れる音が聞こえてくる。

それと同時に良い匂いが漂ってきた。

 

男の子に連れられてきたのはリビングだった。

そこから見えるキッチンの向こうには一人の女性がいて―――――。

 

「あら、おはよう、ヴァ―リ。昨日は夜遅くまでテストに向けて頑張っていたようね。大学生は大変よね」

 

「――――!」

 

言葉が出なかった。

女性の顔を見ると、心が激しく揺れる。

何かが壊れそうになる。

 

ああ、分かっている。

これはアジ・ダハーカが作り出した幻術だ。

 

だが、弟と妹、そして――――――母さんがいる。

あの田舎町で見た笑顔を自分に向けてくれている。

それだけで、俺は――――――。

 

「ちょっと待っててね? もうすぐご飯が出来るから」

 

母さんはそう言いながら、昼食を作っていく。

俺は弟に手を引かれるまま席に着き、その俺の両サイドに弟と妹が座った。

 

すこし待つと、母さんがキッチンから出てくる。

テーブルに並べられるのは昔、よく作ってくれていたパスタだった。

あの時のような簡単な味付けのものではなく、アサリやマッシュルームといった様々な具の入った、匂いを嗅ぐだけで食欲をそそられる。

 

「「「いただきます!」」」

 

母さんと弟、妹がそう言いながら昼食を取り始める。

 

俺は戸惑っているせいで、フォークを持つことすら出来ないでいた。

そんな俺に弟が訊いてくる。

 

「お兄ちゃん、食べないの?」

 

「あら、食欲がないの?」

 

弟に続き、母さんも首を傾げながら訊いてきた。

 

「い、いや、いただくよ………いただきます」

 

いただきます、なんて言葉を言ったのはいつ以来だっただろう。

そうだ、あの時の俺もこんな風に母さんと―――――。

 

俺はフォークを手に取り、パスタを啜る。

美味しかった。

温かく、とても美味しかった。

 

「どう? 美味しい?」

 

「ああ………美味しい。すごく、美味しいよ、母さん」

 

俺がそう答えると、母さんは優しい笑顔で頷いてくれた。

 

『そこは俺が作った仮初の世界。おまえが心の底より望んでいる世界を作り出すようになっている魔法の世界。そこに広がっている世界はおまえが真に欲しがっている世界だ』

 

アジ・ダハーカの声が頭の中に響いてくる。

 

『歴代最強と称される白龍皇が欲したのが、ごく普通の一般家庭だったとはな』

 

その言葉に何も返せない。

ただ、なぜだか分からないが笑みだけが零れた。

 

自分でも驚くよ。

心の奥底、深層心理ではここまで家庭を求めていたとは………。

 

いや、認めざるを得ないな。

ここに広がっている世界こそ、俺が求めていたものだと。

 

「お兄ちゃん、サッカーしようよ!」

 

「ダメよ! 今日は私に勉強を教えてくれるんだから!」

 

「僕だ!」

 

「私よ!」

 

「もう、二人とも。そんなに引っ張ったら、お兄ちゃんの腕がとれちゃうでしょ?」

 

自分を取り合う弟と妹。

俺達を見守ってくれる母さん。

この時、俺は自分でも知らず知らずのうちに笑っていた。

 

それからは妹の勉強をみた後、弟と夕方までサッカーをした。

三人で母さんの家事を手伝い、食事の後はゆっくりとした時間を過ごす。

知らなかったよ、自分がこんなに笑えるなんて思ってもなかった。

 

『おまえがその世界を望めば、その世界で生き続けることもできる。強烈なまでに望んだ世界を前にした奴らはその多くが堕ちていった』

 

アジ・ダハーカの言葉には納得できるものがあった。

どんな強者にも大切なものがある、あるいはあった。

それをここまで克明に再現されては、心が折れてしまうのも分かる。

 

やさしい世界、安らぐ世界。

ただただ家族と過ごす幸せな時間が流れていく。

 

永遠に続けばいいと思った。

このまま堕ちてしまっても良いと思った。

それと同時にこんな幸せなことがあったのかと気づかされる。

これが普通の家庭で得られる普通の幸せなのか――――――。

 

だけど、分かっているんだ、これが幻術だということは。

偽りであるとハッキリ認識できる。

それが辛かった。

 

なぜ、俺はこの世界で生き続けることが出来ないんだ…………。

 

気づけば俺は涙を流していた。

家族と過ごすこの幸せに、これが偽りであると理解してしまう苦しみに。

 

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 

「お兄ちゃん? 苦しいの?」

 

先程まで遊んでいた弟と妹が俺の顔を覗き込んでくる。

そんな二人を俺は抱きしめた。

 

「………俺は」

 

おまえ達の名前を知らないんだ。

名前を呼んであげることが出来ないんだ。

 

すまない………。

だが、改めて決意できた。

 

「俺は行かなければいけない。おまえ達と………これ以上遊んでやることが出来ないんだ。―――――ゴメンな」

 

これが夢だろうと、幻だろうと、おまえ達と母さんと会えて、話せてよかった。

これだけで俺はこの先も戦っていける、生きていける。

 

「行ってしまうの?」

 

ふいに声を掛けられた。

振り返ればエプロン姿の母さんが立っていた。

母さんの表情はどこか悲し気だった。

 

俺は立ち上がると頷いた。

 

「母さん、もう会えないだろうけど………話せないだろうけど、それでも俺はあなたを、あなた達を見守っているよ。―――――ありがとう、そして、さようなら。俺は行くよ」

 

俺はあなた達を守るために戦うよ。

あなた達の笑顔を消させるわけにはいかない。

必ず、俺がこの先も――――――。

 

玄関を潜ると待っていたのは男性だった。

そういえば、この家族には不足していたものがある。

父親だ。

 

おそらく、目の前の男性が俺の中にある父親像なのだろう。

そう思うとこそばゆく感じてしまうのだが。

それでも悪いとは思わない。

 

「行くのか?」

 

「ああ、行くよ、アザゼル。友達とラーメンを食べに行く約束もしているからね」

 

その言葉に幻のアザゼルは笑みを浮かべる。

俺も笑みを浮かべ、幻のアザゼルに向けて言った。

 

「俺は現実のあんたと会えて最高に良かった。俺は―――――ヴァ―リ・ルシファーだ」

 

 

[ヴァ―リ side out]

 



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29話 明星の白龍皇

今日から一人暮らし~というわけで、引っ越しは無事に終わりました。
これから色々と忙しくなると思うので投稿ペースが落ちます(-_-;)


[ヴァ―リ side]

 

偽りの世界が崩れていき、元の世界が戻ってくる。

各所から爆音と轟音が鳴り響く戦場。

間違いなく、俺は帰って来たんだ。

 

目の前にいる三つ首の邪龍が訊いてくる。

 

『良い夢だったか?』

 

「ああ。最高の夢だった」

 

もしかしたら、あったかもしれない世界。

弟と妹、そして母さん。

父親は………フフフ、少し言うのが照れくさいな。

 

本当にいい夢だった。

そして、改めて覚悟を決めることが出来た。

俺は――――まだまだ戦える。

 

すると、アジ・ダハーカの態度は一変して、真に迫った表情となった。

 

『白龍皇ヴァ―リ・ルシファー、よくぞ我が術を破った。下劣な術にて、貴公を陥れようとしたことを詫びよう。貴公こそ、我が最大の好敵手として認識させてもらうッ!』

 

戦意からふざけた雰囲気が一切なくなっている。

これからが本番ということか。

 

「こちらもだ、アジ・ダハーカよ。おまえと心の底より戦えることを誇りに思おう! 俺はおまえを、おまえ達を倒して、あの家族を守り切るッッ!」

 

俺の中で何かが吹っ切れていた。

一切のもやがなく、晴れ渡るほどに心は澄んでいた。

 

守る。

初めて芽生えたその想いが俺を奮い立たせる。

立ち上がらせてくれる。

 

アルビオンが言う。

 

『ヴァ―リよ。幻の世界で、私はおまえの覚悟を見た。ならば、私も一度は捨てたその名を今一度拾い上げようではないか』

 

アルビオンがかつては否定した自分を受け入れようとした時だった。

全身の宝玉がかつてなく優しい、力強い輝きを放ち始める。

その光はあの幻の世界で過ごした温もりを思い出させる。

 

その時、神器を通して話しかけてくる者がいた。

 

『―――――ヴァ―リ。我の声、届く?』

 

オーフィスの声だった。

彼女は今、兵藤一誠の自宅で療養中のはず。

周囲にも彼女の姿がないことから、意識だけをこちらに飛ばしているのだろう。

 

『ヴァ―リ、次の領域に進む時が来た。その身に宿る力を開花させる時。―――――我と謳おう』

 

謳う、か。

君と謳えるなら、それは素晴らしいことなのだろう。

 

『ヴァ―リがヴァ―リを認め、アルビオンがアルビオンを受け止めたから、できたこと。我はそれを手伝うだけ』

 

龍神の君が手を差し伸べてくれる。

なんと心強いことだろう。

 

『――――ヴァ―リ、我と話してくれて、ありがとう』

 

オーフィスが『禍の団』の首領だった頃、俺は彼女の話し相手だった。

アジトの一室で一人座っているだけの彼女を見かけたことが切っ掛けだった。

今でこそオーフィスは表情から感情が読み取れるが、以前は全くと言っていいほど感情が見えなかった。

だが、俺には彼女が孤独に見えた。

 

いや、実際に孤独だったのだろう。

シャルバも曹操も担いでおいて、彼女に与えたのは孤独だったのだから。

 

オーフィス、これからも俺と話をしよう。

なんでもいい。

君が楽しいと思えることを―――――。

 

『私も謳おう、ヴァ―リ、オーフィスよ』

 

アルビオンも応じてくれた。

 

そうか、おまえも謳ってくれるのか。

ならば、これはともと相棒と謳う、龍神と天龍、ルシファーの三重唱だ。

 

「我に宿りし無垢なる白龍よ、覇の理を降せ―――――」

 

覇を超えた白銀の鎧に――――漆黒が加わっていく。

 

『我が宿りし白銀の明星よ、黎明の王位に至れ―――――』

 

アルビオンの歌声に応じて、背中の光翼が黒くなる。

更に新たな翼が増え、広がっていく。

 

「濡羽色の無限の神よ―――――」

 

俺の歌にオーフィスが続く。

 

『玄玄たる悪魔の父よ―――――』

 

背には六対十二枚に及ぶ漆黒の翼が生えていた。

鎧の形状も至る所が鋭角に、有機的な形状へと変化した。

 

「『窮極を超克する我らが戒めを受け入れよ―――――』」

 

俺とアルビオンの声が重なると、宝玉の全てに魔王ルシファーの紋様が浮かび上がる。

そして、全身の鎧が激しく輝いていく!

強く神々しい光が周囲一帯を照らす!

 

最後の一節は俺とアルビオン、オーフィスによる三重唱だった。

 

「『『汝、玲瓏のごとく我らが耀にて跪拝せよッッ!』』」

 

『LLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLucifer!!!!!!!!!!!』

 

全身の宝玉からけたたましく鳴り響く音声!

そして、豪然たる新たな音声が鳴り響いた!

 

『Dragon Lucifer Drive!!!!!!』

 

鎧全体が極大の輝きとオーラを放って、弾けた!

 

オーラが止み、嵐のような輝きも収まった。

背中には十二枚のルシファーの翼。

鎧は白銀と漆黒を基調にし、形も覇龍を思わせる有機的で、かつ流麗なフォルムをしている。

全身からは白銀と黒―――――白龍皇と魔王ルシファーの波動が迸っている。

 

「白龍皇アルビオン・グウィバーとしての力、そして魔王ルシファーとしての力。俺が持つ全てを発現させたこの形態………アジ・ダハーカ、おまえにぶつけようッ!」

 

白龍皇の力を有した魔王ルシファーとして発言する誓いがあの呪文には込められている。

赤龍帝の兵藤一誠が勇者であるならば、白龍皇の俺は魔王。

故に―――――魔王化。

 

勇者と魔王が友であるのは、少し変な気分だが………まぁ、良いだろう。

 

アジ・ダハーカは俺の新たな姿に感心しているようだった。

 

『すげぇな、すげぇよ! リゼヴィムは所詮、魔王ルシファーの贋作だった。だが、おまえは違う! おまえこそ真のルシファーなんだろうよ。なぁ、そうだろう? 真の魔王を継ぎし者、ヴァ―リ・ルシファーよ』

 

「ああ、そうだな。今なら心の底から言えそうだ。――――我が名はルシファー。魔王の血を継し者、ヴァ―リ・ルシファーだ!」

 

俺の真の名。

俺の誇り。

俺の持てる全てをこの戦いに捧げよう!

 

俺の宣言に伝説の邪龍は莫大なオーラを滾らせて吼えた。

 

『やっぱりなぁぁぁぁぁぁぁぁ! 同じルシファーでも、リゼ公よりも断然好きになれそうだぜ! なぁ、ヴァ―リ・ルシファァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!!!』

 

「奇遇だな! 俺もリゼヴィムよりおまえの方がよっぽどやりやすい! アジ・ダハーカッッッ!!!!!」

 

俺達は同時に空へと飛びあがった!

魔王化を遂げた俺が十二枚のルシファーの黒翼を羽ばたかせただけで、嵐が吹き荒れる!

 

突き出した手から魔力の塊を放出する。

放たれた魔力弾は瞬く間にアジ・ダハーカへと迫るが、相手は一瞬で空間転移魔法を発動して、こちらの攻撃を避けた。

 

虚しく空を切った魔力の塊は遥か彼方まで飛んでいき―――――一帯を揺るがすほどの大爆発を起こす。

大地が爆ぜ、地響きが鳴り響く。

 

予想以上にパワーが上がっている。

今のはただの魔力の塊を放っただけ。

それだけでここまでの一撃を放てるようになっているのか。

 

転移で距離を取ったアジ・ダハーカは目の前の現象に驚愕しているが、同時に歓喜していた。

 

『とんでもねぇ! 軽くでそれか!』

 

『おっそろしい!』

 

『とんでも性能!』

 

俺は翼を広げてアジ・ダハーカに向かっていく。

白銀と黒のオーラで空中に軌跡を描く俺に対して、アジ・ダハーカはこれまでを遥かに越える規模の魔法を発動した。

空を埋め尽くさんばかりの魔法陣。

幾つもの魔法陣が光輝き、一斉に魔法を射出する。

更に新たな魔法陣が連続的に展開され、次々に発動する。

ありとあらゆる属性魔法が、禁術が、複雑な軌道を描いて俺へと降り注ぐ。

幻術世界に取り込まれる前の攻撃を遥かに越えた規模だ。

 

一度捕まれば、全ての魔法が一切の容赦なく俺を殺しにかかるだろう。

 

『『『LLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLL』』』

 

俺が前に手を突き出したと同時に鎧の各宝玉からエラーのような音声が鳴り響く。

 

次の瞬間――――――。

 

 

『ガフッ………!?』

 

鈍い音がこだました。

同時にアジ・ダハーカの口から吐瀉物が吐き出される。

驚愕するアジ・ダハーカの瞳が写すのは俺の拳が突き刺さった己の腹。

 

アジ・ダハーカは後ろによろめきながらも、俺の攻撃の正体を探っていた。

 

『んだ、今のは………!? 空間転移………いや、違う。何をした………!?』

 

アジ・ダハーカは俺の動きに反応できていなかった。

奴が放った全ての魔法を潜り抜けた上、あの距離を一瞬で埋めた俺の動きが。

反応できなくて当然だ。

 

なぜなら、俺は―――――。

 

構えるアジ・ダハーカ。

奴が魔法を放つと、俺は再び姿を消し、奴に直接拳を叩き込む。

 

『ぐうっ!?』

 

アジ・ダハーカの口から呻くような声が漏れ、体が空中で大きく回転する。

そこへ魔力の塊を放ち、奴の体を吹き飛ばした。

 

魔力弾に押されながら大地に着弾したアジ・ダハーカを中心に巨大なクレーターが咲く。

大量の土を被りながら、アジ・ダハーカは楽しげに笑んだ。

 

『なるほどなぁ………わかったぜ、今の攻撃の正体。おまえ、距離を半減しているな? いや………これはもう半減どころの話じゃねぇか』

 

「流石だ。たった二撃で看破するとはな」

 

白龍皇の力を応用し、俺は半減の領域を作ってきた。

その力を前方一転に集中し、連続的に半減を行った結果、俺と奴の距離は一瞬で埋まる。

簡単に言えば、擬似的な瞬間移動と言ったところだろう。

 

それを僅かな攻撃で見破るアジ・ダハーカの実力もずば抜けているが。

 

俺はルシファーの翼の先に力を込めて強く念じる。

 

『『『LLLLLLLLLLLLLLLLLLLLL』』』

 

すると、十二枚の翼が真ん中で分離して、背から射出される。

分かれた十二枚の一部は変形して姿を変える。

―――――兵藤一誠のフェザービットのように。

 

兵藤一誠が得た力の一つ、禁手第三階層―――――天翼。

あの姿の力には攻防一体の遠隔兵装が備えられている。

 

なるほど、俺の力も彼の影響を受けているらしい。

どこまで行っても、俺は彼をライバルとして強く認識しているようだ。

 

分離した翼―――――フェザービットが俺の周囲を飛び回る。

 

「行けッ!」

 

俺が指示を出すと、十二のビットがアジ・ダハーカへと向かっていく。

ビットの先端にオーラが集められ、極大の砲撃を放つ!

十二の砲門から放たれる砲撃が一斉にアジ・ダハーカへと降り注ぐ!

同時に俺は距離の半減を行い、奴との距離を詰めようとするが―――――。

 

『させるかよっ!』

 

アジ・ダハーカの三つの首、全ての瞳が怪しく輝いた。

目に小さな魔法陣が幾つも展開して、ビットから放たれた砲撃と俺を止めてしまう。

止めたというよりは見えない壁に遮られているような感覚だ。

 

次第にビットから放たれたオーラは小さくなっていき、完全に消えてしまう。

俺はオーラを高めて、奴の術から逃れたが…………。

 

アルビオンが言う。

 

『奴はバロールの邪眼を再現する魔法と私の半減を再現する魔法を同時に作り上げ、発動したのだろう』

 

今の僅かな時間にそのような離れ業を成し遂げたのか。

あらゆる属性、空間と時間、そして半減の力すら再現してしまう。

これが純粋なまでに己の力を高めた伝説の邪龍!

 

ビットは縦横無尽に空を駆け回り、何度も砲撃を繰り返していく。

アジ・ダハーカはそれらを軽やかにかわすが、奴の背後にあったビットにオーラが直撃し―――――。

 

『Reflect!』

 

音声が響き、白いオーラが反射される!

 

アジ・ダハーカは背中に防御魔法陣を展開して防ぐと同時に魔法陣を空一面に展開していく。

 

『こいつはどうよ!』

 

アジ・ダハーカが数千、数万の魔法を撃ち出してくる!

魔法のフルバーストは凄まじい密度で迫ってくる!

 

ビットは俺の正面に並び、先端からオーラを発生させる。

展開されるのはクリアーブルーの障壁。

そう、兵藤一誠が使う防御障壁と同じものだ。

 

正面、広範囲に展開された防御障壁は五桁に及ぶ魔法を完全に防ぎきる。

 

『赤龍帝と同じ技を使えるのか! ライバルだからって意識しすぎだぜ!』

 

「ああ、自分でもそう思う。だが、彼を追いかけるだけではないぞ!」

 

アジ・ダハーカ手を翳すと十二のビットは高速で動き、奴を囲む。

左右、前後、そして上下。

全ての方位を塞ぐように配置する。

そして、凄まじい密度の力を解き放った!

 

『『『Half Dimension!!』』』

 

全てのビットから展開される半減領域。

全方位から放たれる半減の力がアジ・ダハーカを襲った。

 

『チィッッ! そいつもその技を使えるのか!?』

 

咄嗟に周囲に強固な結界を張り巡らせて、やり過ごしたアジ・ダハーカだが驚きは隠せていない。

アジ・ダハーカは自身に張った結界の内側で空間転移魔法を発動し、半減領域の外へと脱出する。

 

奴は全く違う場所に姿を見せると、幻術で自分の分身を百単位で出現させてくる。

全ての分身体が魔法陣を展開して、かつてない規模で魔法を発動する。

当然のように禁術も混ぜて。

 

どれが幻術かのか………いや、これまで常軌を逸したレベルで魔法を繰り出してきた奴のことだ。

全てが本物だとしてもおかしくはない!

 

そう決断したところで、俺は爆発的に力を高めて、解き放った!

 

『『『LLLLLLLLLLLLLLLLLLLLL』』』

 

『Satan Compression Divider!!!!!!』

 

放たれる魔なる絶対の耀。

白銀と漆黒が入り交じった耀はアジ・ダハーカ達が撃ち出してきた凶悪な魔法の全てを瞬時に圧縮。

僅かな時間で圧縮を繰返し、消し去ってしまう。

振り撒いたオーラでアジ・ダハーカの分身体は全て消え、本体だけが空に残る。

 

この結果には流石のアジ・ダハーカも仰天しているようだった。

そして、奴は俺を見つめながら呟いた。

 

『――――明けの明星』

 

それはルシファーを体現する言葉。

アジ・ダハーカは今の俺を見て、そう述べた。

 

「伝説の邪龍にそう称されるとは光栄だ」

 

『そうか? 今のおまえは正にルシファーって感じだぜ? 十二のルシファーの黒翼を昂然と広げ、白銀と漆黒の耀を放つ白い龍。―――――「明星の白龍皇」ヴァーリ・ルシファー、か。グッグッグッ、良いねぇ。たまんねぇな、おい!』

 

アジ・ダハーカのオーラが更に膨れ上がる。

奴の体は至るところが傷だらけだった。

新たな力を開花させた俺の攻撃を幾度もその身に受け、疲労は相当なもののはずだ。

しかし、奴は倒れる気配を見せない。

 

どこまでも俺を見据え、笑みを浮かべながら戦意を高めてくる。

美猴達なら、とっくに嫌気がさしているだろう。

だが、俺はどこまでも戦意を失わないアジ・ダハーカの姿に強く打ち震えた。

 

互いに戦意を高めていく中、この場に似つかわしくないものが現れる。

量産された邪龍達だ。

おそらく、俺とアジ・ダハーカの戦いを感じ取り、介入してきたのだろう。

多くの邪龍が俺を敵と定めて飛来してくる――――――。

 

『邪魔すんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』

 

アジ・ダハーカは叫ぶなり、魔法陣を複数展開して、邪龍を消し去った。

奴は舌打ちしながら言う。

 

『ったく、空気の読めねぇ奴らだぜ』

 

俺もその意見には同意だった。

俺はビットを飛ばして、周囲にオーラを放つ。

 

『Venom!!』

 

その音声が鳴り響く。

ビットから視覚化するほどの――――――禁手に至った匙元士郎と似たような濃い呪詛が浮かび上がる。

展開された呪詛の空間に入り込んだ邪龍が苦しみだし、血の塊を吐き出して落ちていく。

 

この結果を見て、アジ・ダハーカは興味を抱いたように呟く。

 

『周囲の邪龍どもが苦しみだした? ほう、こいつは………!』

 

「おまえが見たがっていたアルビオン………グウィバーの力。毒―――――『減少』」

 

アルビオンが続く。

 

『我が毒は無機物以外の存在のあらゆるものを減らしていく。血、骨、肉、魂まで削り、超常の存在―――――神であろうとその身を形成する全てを確実に「減少」させていく。この毒が効かなかった唯一の存在が―――――赤龍帝ア・ドライグ・ゴッホだ』

 

アルビオンは語る。

 

『私はドライグと出会い変われた。あいつのように真に強いドラゴンになりたいと思えたのだ。毒などに頼らずとも、正面から強いドラゴンでいたいとな』

 

アルビオンの毒は無限だった頃のオーフィス、夢幻を司るグレートレッドにも通じないだろう。

だが、それ以外の存在は神であろうと確実に通じる。

 

それでも、アルビオンは毒以外の力を求めた。

それが『半減』と『反射』。

アルビオンは己を研磨し、能力を開発していった。

 

赤龍帝ドライグと出会わなければ、アルビオンは毒だけが得意技のドラゴンになっていただろう。

赤龍帝ドライグと出会わなければ、白龍皇アルビオンはこの世に存在しなかっただろう。

そして、この二体のドラゴンが出会わなければ――――――二天龍と称されることはなかっただろう。

 

アジ・ダハーカがアルビオンに訊く。

 

『俺には使わないのか?』

 

『言ったはずだ。もう捨てた力だと。ドライグとは己の牙で、爪で、覇気で、オーラで、純粋な力をもってお互いを高め合ってきた! ドライグと同じ天龍を名乗るならば、毒の力などもう必要ない!』

 

それでこそだよ、アルビオン。

おまえがそう言ってくれるから、俺も―――――

 

「アルビオンの言う通りだ、アジ・ダハーカ。それとも、今の俺達では不服か?」

 

俺の問いにアジ・ダハーカは――――――笑った。

 

言葉を交わさずに飛び出す俺達。

アジ・ダハーカの魔法が、俺が放つルシファーと白龍皇の力が衝突し、周囲に存在する全てを消し去っていく。

量産型邪龍など、衝突の波動だけで焼かれて死んでいく。

近くで戦闘を行っていた連合軍側の者は身の危険を感じ、その場から遠ざかっていた。

 

これほど昂ったのはいつ以来か。

初めてライバルと拳を交えた時………いや、それ以上か!

 

俺は前面に半減を集中させて、アジ・ダハーカとの距離を縮め、一瞬で懐に入り込む。

アジ・ダハーカはこちらの動きを読んでいたか、強固な結界を幾重にも展開し、突撃を阻む。

稲妻をまき散らしながら、ぶつかる拳と結界。

俺はルシファーのオーラを高め――――――力づくで結界を破壊する!

 

全ての結界を撃ち破り、拳がアジ・ダハーカの肉体に突き刺さる。

内臓に深いダメージを与えることが出来たのだろう。

アジ・ダハーカは血の塊を吐き出すが、奴もこちらを殴り返してくる。

更に禁術の炎を発動させ、こちらを燃やしにかかる!

炎に触れた瞬間、その個所の鎧が爆散した!

 

生身に走る激痛に耐えながら、負けじとルシファーの魔力を撃ち出し、奴の右首を消滅させる!

 

『ッ!』

 

三つあった首のうち、一つを消されたことに驚くアジ・ダハーカ。

だが、奴もそこで動きをとめるわけがない。

ラッシュを仕掛ける俺に対し、カウンターとして、魔法を上乗せした蹴りを放ってくる。

 

半減と反射で相手の魔法で捌きながら、ルシファーの魔力と己の拳をもって戦う俺。

各種属性魔法と禁術、加えて、拳や蹴りを振るってきたアジ・ダハーカ。

 

こちらの鎧もかなり砕けて、少なくないダメージを負っているが、相手もこれまでの攻防で左首を失い、全身から血を噴き出している。

アジ・ダハーカも肉体に深いダメージを受けている。

そして―――――ついには片膝を地につけてしまう。

 

俺は追い込みをかけるためにビットと連携して特大の魔力を浴びせていくと、アジ・ダハーカは防御魔法陣を展開しながら、カウンター魔法を繰り出してくる。

 

激しい攻防を繰り広げる中、アジ・ダハーカは新たな魔法陣を展開した。

魔法陣の輝きはこちらに向けられたものではなく、アジ・ダハーカの体を包んでいった。

すると、アジ・ダハーカが負っていた傷が塞がっていき、失った首も再生した。

 

「回復魔法か………」

 

回復の術式は最上級の魔法。

失った部位を再生させるとなると、異常なまでの魔法力か、禁術を使うことになる。

肩を上下させているところを見ると、両方か。

 

傷を回復させ、向かってくるアジ・ダハーカ。

俺達は再び拳を交える。

相手にダメージを与えれば与えるほど、相手もありったけの力をぶつけてくる。

 

破損した鎧も一部修復できていない。

が、アジ・ダハーカもこちらの砲撃で再生した首を再び失い、両翼、片腕をも失っている。

再生させるそぶりがない。

 

俺もアジ・ダハーカももう余裕がなくなってきている。

 

だが――――――。

 

『まだまだぁぁぁぁぁッ!』

 

アジ・ダハーカは大地を強く蹴って飛び出してくる。

俺はそれを避けようとするが――――――奴を見失った。

 

「ぐぅっ!?」

 

気づいた時には肉体に強い痛みが走っていた。

見ると、アジ・ダハーカは俺の体に噛みついてきていた!

 

最後の魔法力、全てを使って瞬間移動したのだろうが、何という執念!

なんという戦闘意欲だ!

 

奴の牙が鎧を砕き、肉体に深く突き刺さる。

このままでは体を引き裂かれてしまう………!

 

死すら意識した、その時―――――母さんと弟、妹の顔が浮かんだ。

田舎町でみた三人の笑顔。

 

守ると誓った。

会えなくてもいい、俺のことを覚えてなくてもいい。

それでも、俺は誓ったんだ!

 

「俺は………死ねないッッ!」

 

『ここが正念場だぞ、ヴァ―リッ!』

 

力が高まっていく。

限界を迎えそうになっていたはずが、体の内側から湧き上がってくる。

 

そうか、理解したよ。

兵藤一誠、君が困難を強敵を倒してきた、その力の根源。

これが―――――。

 

鎧の胸と腹の部分がスライドして、発射口が現れる。

そこにオーラが集中、鳴動していく。

 

チャージされていくオーラの危険性を察知したアジ・ダハーカは離れようとするが、俺は奴の体を掴んだ。

ここで離してしまえば、後でどうなるか分からない。

深手を負い、力が残っていなかったとしても相手は伝説の邪龍。

なにより、ここまで戦ってきた俺自身がこの邪龍を分かっている。

 

だからこそ―――――。

 

「―――――これで終わりだ」

 

『LLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLucifer!!!!!!!!!!!!!』

 

『『『Satan Lucifer Smasher!!!!!!!!!!!』』』

 

白銀と漆黒が入り交じる絶大で絶対の砲撃がアジ・ダハーカは呑まれていった――――――。

 

 

 

 

砲撃が終わり、残ったのは数キロ先まで深く抉れた大地と、降る雪のように空に残る白銀と漆黒のオーラ。

そして、絶命寸前のアジ・ダハーカ。

 

アジ・ダハーカは首だけになっており、もうすぐ消えそうになっている。

伝説の邪龍は死の間際でも不敵に笑っていた。

 

『………満足だ。最高のケンカだった。………まぁ、俺はどこまでもしつこい邪龍だ、いつかまた復活してやるさ………二、三千年ほど待ってろや………絶対に、おまえとまたケンカするために蘇ってやるからな』

 

唯一残されたアジ・ダハーカの首も崩壊が進んでいる。

完全に消える直前、アジ・ダハーカは―――――

 

『………いつか、もう一度、ケンカしようぜ、ルシファー―――――』

 

それが伝説の邪龍が言い残した最後の言葉だった。

 

唯一残った首も塵と化し、奴の姿はこの世のどこにもいない。

だが、それでも再び目の前に立ちふさがりそうな、そんな強敵だった。

 

俺は白銀と漆黒の雪が降る空を見上げて、

 

「ああ、心から待っているぞ。我が好敵手、アジ・ダハーカ」

 

 

 

 

それからすぐのことだった。

 

「こっちは終わったようだな」

 

背後から声をかけられる。

振り返ると、十二枚の黒い翼を広げるアザゼルがいた。

 

アザゼルは今の俺の姿を見て、驚きながらも嬉しそうに頷いた。

 

「そいつがおまえの選んだ姿か。見事なもんだ。リゼヴィムよりも、ずっとルシファーらしい」

 

なんだろうな、アザゼルにそう言われるとこそばゆく感じながらも、嬉しく思っている自分がいる。

 

あの幻術世界の影響だろうか。

俺はアザゼルを――――――。

 

いや、やめておこう。

言ったら言ったで、色々言われてしまいそうだ。

今のままでいい。

今はこれで十分なのだから。

 

ただ………

 

「アザゼル」

 

「なんだよ?」

 

「ありがとう」

 

俺がそう言うと、アザゼルは目を丸くして、

 

「おいおい、アジ・ダハーカに頭でもやられたか? いったいどうしたんだよ?」

 

「フフフ、なんでもないさ」

 

 

[ヴァ―リ side out]

 



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30話 英雄派の奮闘

[三人称 side]

 

中国の山奥にある田舎の農村で、その少年は生を受けた。

少年が生まれた家は代々農家であり、古くから農業を営んできた。

 

少年も物心ついた時から農業に従事し、両親に土いじりを教えてもらいながら、日々を過ごした。

電気もまともに通っていない山奥、少年は同世代の友人達と山を駆け回り、冒険をするのが好きだった。

妖怪の話に心踊らせ、友人達と山に入っては妖怪退治ごっこをしていた。

 

変わらぬ日々。

生まれ育った田舎で自分は祖父母のように生涯を終えるのだろう、そう思っていた。

 

しかし、その日は唐突に訪れた。

 

友人達といつものように山に入った少年は一人、迷子になり、山の奥深くへと入り込んでしまった。

 

そこで出会ったのが―――――見たこともない怪物。

 

化け物が山の生物を補食していたところに偶然出くわし、不運にも気づかれてしまった。

化け物は「久し振りの人肉と」と少年に襲い掛かった。

 

少年は必死に逃げたが、相手は異形の存在。

追い付かれるのは必然だった。

 

化け物に捕まり、食われそうになった時だった。

全てに絶望した彼の脳裏を走馬灯のように今までの人生が過る。

その中で一番楽しかった記憶が友人達との妖怪退治ごっこ。

 

………ああ、僕に妖怪を倒せる力が本当にあったらな。

 

そう願った時だった。

少年の胸が光輝き、それが突き出してくる。

それは一本の神々しい槍だった。

 

化け物は槍の放つ神々しい光に身を焼かれ、体をよろめかせる。

その瞬間、少年は槍を掴み、化け物の心臓を貫いた。

槍など初めて触った。

しかし、まるで初めから知っていたように扱えた。

 

少年が村の捜索隊に発見されたのは、それから一時間後のことだった。

 

それから半年後のこと。

少年は別の異形と出会う。

 

「なるほどのぅ。これはまたえらいところに槍が出たもんじゃて」

 

年老いた猿のような異形は自分を『斉天大聖』と名乗った。

猿の異形は少年の頭を撫でながら言う。

 

「坊主や、その槍はよぅ、こんな山奥にいるおまえさんをいずれ辛い目にあわせるだろうよ。でもな、坊主。おまさんはおまえさんだ。槍がおまえさんじゃねぇんだぜぃ? 槍をおまえさんの一部にしなきゃあいけねぇ」

 

そして、こう続けた。

 

「坊主の体にはこの国の英雄―――――『曹操』の血が流れているようだぜい? ま、あくまで流れているだけ。それに気づき、生かし、目覚めるかどうかは―――――坊主しだいってことだぜぃ?」

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

[曹操 side]

 

 

《まさか、英雄派の首魁殿が赤龍帝の進路を開くとは………。この展開は予想できなかった》

 

兵藤一誠が去った後を眺めながら人間態のアポプスが言った。

 

奴が興味深げにこちらへと視線を向けてくるが、自分自身、己の行動に驚いている。

いや、己の意思で動いたのだから、それでは少し語弊があるな。

 

昔の自分なら、どうだっただろう。

彼に敗北する前の俺は、こういう時にどう動いたのだろう。

そんな『もしも』な自分を想像するだけで、可笑しくなってくる。

 

俺は自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

「俺もだ。少し前の俺なら違った行動を取っていただろう」

 

《英雄派の首魁、異形の毒とまで称された貴殿からは妙に覇気が感じられないな。世界中の神仏をその槍で貫くつもりだったのだろう?》

 

そうだ、少し前まで俺はそう謳っていた。

聖槍に選ばれ、英雄の血を引く俺はその力と名を超常の相手に轟かせようとしていた。

悪魔、堕天使、天使、ドラゴン、妖怪、その他の存在。

人間を遥かに超越した力を持ち、この世界の裏側で暗躍する彼らを相手に、自分の力がどこまで届くのか知りたかった。

それが俺が生まれて初めて出来た目的―――――生き甲斐のようなものだった。

 

戦いの日々。

いつの間にか集った神器所有者と共に異形の存在と戦い続ける日々。

悪魔であろうと、ドラゴンであろうと、神でさえ、俺達はその牙を向けた。

 

その中で、彼らに出会った。

 

赤龍帝兵藤一誠、白龍皇ヴァーリ・ルシファー。

神や伝説の魔物を目の前にしても怖れなかった俺が、心底、畏怖し、戦慄した二人。

一人は自分以上の絶大な才能を見せつけてくれた。

そして、もう一人は無限とも思える可能性を見せつけた上に、俺の心を、俺が支えとしていたものを見事にへし折ってかれた。

 

俺は皮肉げに笑う。

 

「俺の茶々な野望など、彼に粉々にされてしまったよ。生きる意義、戦う理由、力、誇りも全て、彼らに打ち砕かれたさ」

 

俺が歩み得たもの全てを失った気分だった。

英雄を語っていた俺が、彼の語った英雄のあり方に屈してしまったのだ。

力も、精神も。

 

今でもハッキリと覚えている。

彼から受けた一撃の重さを。

彼の拳を通して伝わってきた『英雄』という言葉の重みを。

 

「俺が目指していたのはただ自分に都合の良い英雄だった。その言葉が持つ意味も、重みも何一つ理解していなかった。フフフ、敗北して当然だ。紛い物が本物に勝てる道理がない」

 

真の英雄たる彼と、ただ英雄になりたかった俺。

そこに決定的な差がある。

俺はその差に気づけなかった。

気づかぬまま、彼に挑み、そして敗れた。

 

すると、ヘラクレスが笑いながら俺を小突いてきた。

 

「あのリーダー様が偉く弱々しい言葉を吐くじゃねぇか。なんだよ、そんなに赤龍帝の拳は突き刺さったのか?」

 

「ヘラクレス、おまえこそどうなんだ? 随分と丸くなったようだが? 作業着姿で土いじりをしているおまえなど、少し前までは想像できなかった」

 

俺が会いに行った時、ヘラクレスは冥界の幼稚園で土いじりをしながら、子供達の相手をしていた。

子供に「おじちゃん」と呼ばれているヘラクレスを見たときにはつい吹き出してしまったよ。

 

俺の言葉にヘラクレスは拗ねた様子で舌打ちする。

 

「ちっ、それを言うなや。俺だって自分でも驚きなんだよ。つーか、想像できないって言うなら、ジャンヌも同じだろ。ヴァチカンの厨房で飯作ってるとか、昔のジャンヌじゃなぁ」

 

「あら、英雄派の時でも私が料理当番だったじゃない。ディルムッドも私の料理があったから、英雄派に所属していたようなものでしょ?」

 

「あいつはタダ飯食らいだっただろうが。それに、あいつは赤龍帝の妹に餌付けされたらしいぜ?」

 

「あー………。まぁ、そんな気はしてたわ。あの子、美味しいものには目がないから。特に唐揚げ」

 

「そういや、曹操。おまえ、あいつに嫌われてたな。おまえが食ってた唐揚げをくれなかったとかで」

 

「唐揚げくらいあげれば良かったのに。リーダーったらケチだわ」

 

…………酷い言われようだ。

そもそも、あれは俺が態々買いにいった期間限定品だぞ。

しかも、ディルムッドが居合わせた時にはラスト一個で、ちょうど口に入れた時だったんだ。

既に口にした物をあげろと言うのなら、どうすれば良いのか教えてもらいたいものだ。

吐けば良いのか?

 

「「ケチケチ劉備」」

 

「だから、なぜ国を変える!?」

 

流行っているのか!?

君達の間で流行っているのか、そのボケは!?

 

ゲオルクが眼鏡を治しながら呟く。

 

「曹操、おまえは才能があるようだ…………ツッコミの」

 

「そんな才能は求めていないぞ、ゲオルク」

 

「赤龍帝にもいずれ勝てるさ、ツッコミで」

 

「そんな勝ち方は望んでいない!」

 

ツッコミで勝つってなんだ!?

君達はどこまで、俺を弄り倒すつもりなんだ!?

 

「「「無論、死ぬまで」」」

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!? というか、心を読まれた!?」

 

いつの間に、そんな能力を身に付けたんだ君達は!?

ゲオルクが冥府で得た新しい術式か!?

 

ゲオルクが冷静に言う。

 

「いや、今のはただ表情で読んだだけだ。良かったな、曹操。誰かに心を読まれるという点では赤龍帝に並んだよ」

 

「そんなところで並びたくはない!」

 

もう嫌だ!

なんで、こうなってしまったんだ!?

天から与えられた俺への罰か!?

だとしたら、地味に辛い!

帝釈天に冥府へ落とされた時の方が遥かにマシだ!

 

俺は盛大にため息を吐くとアポプスへと視線を移す。

そして、肩をすくめながら言った。

 

「すまないな、これがかつて異形の毒と称された男の末路さ。だが、心の中ではこれでも良いかと思っている自分もいてね」

 

《なるほど。確かに今の貴殿達からは覇の波動は感じない…………が、それとは違う雰囲気がある》

 

「今の俺には守りたいものなどない………が、目標はある。異形の毒としてではなく、英雄の血を引く者としてでもない。ただの一人の人間として彼を超える。これが今の目標だ。かつての野望と比べるとスケールダウンしてしまったが、それでも遣り甲斐は感じている。己の人生、魂、力。持てる全てをかける価値はあると思っているよ」

 

俺は槍で肩を叩いた後、切っ先をアポプスへと向ける。

槍は鈍く輝き、力強い波動を放ってくれた。

以前とは違う波動だと自分でもそう感じる。

 

鈍く光る聖槍にアポプスは目を細める。

 

《前言を撤回させてもらおう。今の貴殿から感じる熱は凄まじい。それは赤龍帝が持つような燃え盛る炎とは違う。深海のような静寂さを持ちながら、確かな熱を放っているのを感じる》

 

静かなオーラを纏いながら目を閉じるアポプス。

グレンデルやラードゥン等とは違う、荒々しさはないが、その代わりに不気味な雰囲気を漂わせていた。

これまで、各地でトライヘキサ、アジ・ダハーカと共に、その力を振るってきたアポプスだが、奴の力は常軌を逸している。

 

が、ここで臆するようでは彼を超えることなど無理だろうな。

 

「『原初なる晦冥龍』アポプス。貴殿を倒させてもらうぞ」

 

「良いだろう。最強の神滅具とその使い手。相手に取って不足はない」

 

互いに不敵な笑みを見せる俺とアポプス。

 

俺は象宝に乗って、空を駆け抜けた。

居士宝で十を越える分身を作り出し、同時にアポプスへと迫っていった。

 

数体の分身が槍をアポプス目掛けて振るうが、アポプスは避ける所作を見せない。

槍がアポプスに届く―――――瞬間、奴の周囲に闇が生じて槍を防いだ。

分身体は闇に触れた瞬間に溶かされたように体を崩壊させていく。

 

背後と左右、そして、正面。

俺を囲むように闇が生じる。

 

馬宝でランダムに転移しながら、動いていたのだが、こうも簡単にこちらの動きを掴んでくるか。

闇の手がこちらを捉える瞬間に再び転移して回避したが………僅かに掠めたのか、漢服の端が溶けて無くなっている。

 

伝説の邪龍『原初なる晦冥龍』アポプスは闇と影を操る。

そして、暗闇の中でこそ、真価を発揮するドラゴンだ。

今はまだ抑えているが、その内、この一帯の天候を操り、闇の世界へと変えてしまうだろう。

そうなると、この場所は完全に奴のフィールド。

こちら側が圧倒的に不利な状況に置かれる。

 

空間転移を繰り返しながら、聖槍を振るい、聖なる波動を飛ばしていく。

その都度、アポプスは闇を生じさせて、聖なる波動を消し去っていく。

こちらの攻撃を防ぎつつも、アポプスは展開した闇から闇の弾丸を放ってくる。

 

直線的な攻撃だ、避けるのは容易だが………掠めるだけでアウトだな。

放たれた闇の弾丸は俺が避けると、そのまま地面に着弾し、溶けていく。

一撃でも受ければ、神であろうとひとたまりもないだろう。

 

加えて、奴は広げた闇でこちらの位置を把握できるのか、俺が転移する先を的確に突いてくる。

 

兵藤一誠の時とは違ったヒヤヒヤ感だ。

 

「フフッ………さて、どう攻略するべきか」

 

こんな状況で笑える自分は中々に狂っているんだろうな。

 

アポプスの闇を捌きながら、背後に視線を向ける。

そこではアポプスが聖杯の力で生み出した無数の邪龍と対峙するゲオルク達の姿。

 

ゲオルクは霧と魔法を操り、後方から邪龍を殲滅し、ジャンヌは禁手となって聖剣で構成されたドラゴンに乗って空を駆け巡っていた。

 

「ハッ、こんなもんで、このペルセウス様に傷を負わせられると思うなよ!」

 

円形の盾と長剣を構えるペルセウスは盾で邪龍の吐き出す炎を防ぎ、長剣で斬り裂いていく。

 

ペルセウスは盾を投げて、邪龍の頭を潰すと空いた左手にオーラをたぎらせる。

そして、集められたオーラは奴の神器を形成する。

 

ペルセウスの左手に握られるのは髪が蛇の女性――――メデューサの顔を中央に彫った大型の盾。

 

「開眼せよ! 俺の神器――――『蛇の王妃による死の勅令(イージス・ミネラリゼーション)』ッ!」

 

ペルセウスが叫ぶや否や、メデューサの眼が開かれ、光出す。

光を浴びた邪龍は瞬く間に石と化し、墜落。

地面に衝突した瞬間に砕け散ってしまう。

 

あの神器は所有者であるペルセウスよりも力の弱い者を石化させるというもの。

ペルセウスは本来の英雄『ペルセウス』神器を得た珍しい例でもある。

ペルセウスは神器の能力と剣技を組み合わせて、量産される邪龍を撃墜していた。

 

邪龍を相手に暴れるペルセウスに対抗するようにヘラクレスが吼える。

 

「ぺの字だけに良い格好はさせねぇぜ!」

 

「ぺの字言うなや!」

 

ペルセウスは途中から俺の考えについていけなくなって、英雄派を脱退してしまったが、それまではこのようなやり取りが日常だった。

 

ヘラクレスが邪龍を殴りながら叫んだ。

 

「こんな時だ。勘弁してくれよ、魔王様! 禁手化ゥゥゥゥゥゥッ!!!!」

 

一瞬、ヘラクレスの体を束縛するような術が発動するが、まるでヘラクレスの意思を肯定するように束縛は解けていく。

 

魔獣騒動の後、捕縛されたヘラクレスは力の行使に制限がかけられた。

力を使用すると、その時点で体に刻まれた呪術が発動して、ヘラクレスの身を焼くようになっている。

だが、今、呪術はヘラクレスを焼くどころか、その束縛を解いた。

つまり、力の行使を許されたということ。

 

禁じ手となったヘラクレスだったが、以前とは違う姿を見せていた。

ヘラクレスの禁手は全身から無数の突起物が生えた姿となる。

だが、今のヘラクレスにはそれがない。

 

左右の前腕を覆う分厚い銀色の籠手。

装飾のないシンプルな形状をしたガントレット。

以前の姿と比較すると、かなりスッキリした姿だ。

 

「俺の新しい禁手『超人による破壊の一撃(デトネイション・マイティ・フィスト)』ッッ! オラァァァァァァァッ!!!!!」

 

ヘラクレスがガントレットに覆われた豪腕を振るい、邪龍に強烈な打撃を与える。

刹那、邪龍の肉体の全てが弾け飛ぶ。

更に爆破の衝撃が周囲にいた邪龍を巻き込み、弾き飛ばしていった。

ヘラクレスはボクサーのように拳を構え、高速かつ凶悪とも言える一撃を確実に当て、敵を屠っていく。

 

ヘラクレスが言う。

 

「力を封じられている間、なにもしなかった訳じゃねぇ。神器に潜り、ひたすら己と向き合った。赤龍帝みたいにな。そしたら、禁手も今の俺に合った姿に変わってくれたんだよ」

 

ヘラクレスの告白に俺を含めたメンバーが驚いていた。

まさか、ヘラクレスが兵藤一誠を倣うとは………。

かつてのヘラクレスではそのようなことはしなかっただろう。

 

ヘラクレスは邪龍を屠りながら続ける。

 

「新しく力を着けて、暴れてやろうとか、そんなことを考えていたわけじゃねぇ。ただ………ただ、考えたんだ。俺はなんでバアルの次期当主に負けたんだってな。簡単なことだった。あの男の一撃………まだここに残ってるぜ。あれから暫く経つってのに一向に薄れねぇんだ。奴の拳には魂が宿ってる。対して俺の拳には何も宿って無かったのさ」

 

ヘラクレスの拳はサイラオーグ・バアルに大したダメージを与えることが出来なかった。

だが、サイラオーグ・バアルの拳はその一撃だけでヘラクレスの肉体を砕く威力があった。

 

魂の籠った一撃というのは後々まで響くもの。

俺もヘラクレスと同じ経験をしたから、良く分かる。

 

「俺は魔王に冥界の幼稚園の用務員なんてやらされてな。最初はなんで俺がって思ってた。だがな、最近じゃそれも悪くないなんて感じてる。あのガキんちょ共、帰る時に俺に手を振るんだぜ? おじちゃんなんて良いながら笑ってくるんだぜ? あんなことした俺にだ。信じられねぇよな。俺だってたまに不思議に思うくらいだ。だが、あのガキんちょ共のお陰で俺は眼が覚めた。あのガキんちょ共が僅かな時間で俺を変えてくれた」

 

ヘラクレスは俺と戦闘中のアポプスに指を突きつけると、息を深く吸って思いきり叫んだ。

その声量は一帯を揺るがさんばかりに大きく、そして強く―――――。

 

「アポプスさんよ! 俺はあのガキんちょ共を守るためにここに来たッ! 笑うなら笑いやがれッ! だがな、ここで負けるわけにはいかねぇんだよォォォォォォォォッッ!」

 

ヘラクレスは構え、自身を囲む邪龍に告げた。

 

「さぁ、かかってきやがれ、クソ邪龍共! この先には絶対進ませねぇ! 俺の魂にかけてなッ!!!」

 

 

[曹操 side out]




あれ…………ヘラクレスが主人公だったかな………?


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31話 死ねない理由

遅くなってすいませんでした(-_-;)
最近、色々と忙しくて………。

前のようなハイペースは難しいと思いますが、チマチマ書いていきます~。


[曹操 side]

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」

 

血のように赤い空に響くヘラクレスの雄叫び。

分厚い銀色のガントレットに覆われた腕が振るわれ、数多くの量産型邪龍が沈められていく。

ゲオルクの魔法による支援もあり、肉体を大きく強化されているとはいえ、その一撃は以前のヘラクレスとは大きく異なる。

加えて、戦闘スタイルまでもが変化していた。

軽いフットワークで邪龍の攻撃を掻い潜り、凶悪な一撃を叩き込む。

己の力を過信せず、確実に敵を葬っている。

 

一体の邪龍がこの先へ―――――あの異世界の神が展開している『(ゲート)』の方へと飛び立とうとした。

それは冥界へと通じる門。

 

それを見た瞬間、ヘラクレスが吼えた。

 

「行かせねぇぇぇぇぇッッ!!」

 

大地を強く蹴り、瞬時に空へと上がるヘラクレス。

邪龍の先へと回り込み、頭上から極太の拳を振り下ろし、邪龍の頭を叩き割った。

 

「はぁ、はぁ、はぁ………。この先に行きたいんなら、俺を殺ってからにしやがれッ!」

 

この領域に漂う邪龍を睨み付けるヘラクレスだが、肩を上下させてしまっている。

 

当然だ。

スタミナを考えない戦い方。

無茶苦茶な力の使い方をしているせいで、早くも肉体が悲鳴をあげている。

加えて、あの新しい姿の禁手で戦うのは今回が初めて。

ヘラクレスはまだペースを掴めていない。

 

聖剣で形成されたドラゴンに乗り、邪龍を斬り捨てながらジャンヌが言う。

 

「大見得切っといて、早々にへばってるじゃない。英雄ヘラクレスの名が泣くわよ?」

 

それに続き、邪龍を石化させたペルセウスが笑う。

 

「へっ、だらしねぇな、ヘラクレスッ! ガキの相手ばかりしてたから、辛いのかよ!」

 

「うっせぇよ! 下らねぇことばかり言ってないで、もっと働きやがれ、ぺの字!」

 

「ぺの字言うな!」

 

そんなやり取りをしながら、ヘラクレスは邪龍の群れへと突貫していく。

 

姑息さもなく、傲りもなく、ただ目の前の敵を全力で凪ぎ払う。

お世辞にも華麗な戦いとは言えない。

泥臭い戦いだ。

 

それでも、何故だろうな。

今のヘラクレスの姿は彼と―――――俺に英雄を語った兵藤一誠と重なるものがある。

ふいに彼の言葉が脳裏を過った。

 

 

『俺の中で英雄ってのはさ、自分から名乗るものじゃないんだ。いや、もっと言えば英雄は自らが望んでなるものじゃない。・・・・・・俺も英雄だなんだと言われてきたけど、自分が英雄だなんて思ったことは一度もない』

 

『超常の存在に挑むのが英雄? それは結果だろ。その英雄達は誰かを守り、強大な敵に打ち勝った。決して自分のために力を振るったりはしなかったと思うぜ? ―――――英雄は自ら望んだ時点で英雄にはなれない。例えそれが英雄の子孫だったとしてもな』

 

 

なるほど………。

ヘラクレス、おまえは真の意味で英雄になったんだな。

あの幼稚園の子供達を守るという強い想いがおまえの肉体を、精神を突き動かしている。

 

ヘラクレス、おまえは本当に変わったよ。

今のおまえならば、サイラオーグ・バアルとも真正面から撃ち合えるんじゃないか?

今のおまえならば、サイラオーグ・バアルも獅子の鎧を纏う相手として認識してくれるだろう。

 

「フッ………」

 

俺は無意識のうちに笑みを漏らしていた。

 

そんな俺にアポプスが訊いてくる。

 

《どうした、聖槍よ。なにか面白いことでもあったのか?》

 

「なに、大したことではないさ。少し悔しくなってね。まさか、ヘラクレスに先を越されるとは思わなかった」

 

そう、ただそれだけ。

ただそれだけのことなのに、なぜか可笑しく感じてしまっている。

 

兵藤一誠、ヴァーリ、サイラオーグ・バアル、そしてその他の猛者達。

俺の好奇心、戦闘意欲を掻き立てる者達は肉体だけでなく、その魂までもが強く気高い。

まさか、ヘラクレスにその彼らに対するものと似た感情を抱いてしまうとは………。

 

この世の中、何が起こるか分からない。

ありとあらゆる可能性が存在する、か。

 

俺はアポプスから放たれる闇の攻撃を捌きながら呟いた。

 

「ヘラクレス。おまえの覚悟しかと見た。ならば、俺もそれに応えよう」

 

聖槍を回し穂先に聖なるオーラを収束していく。

 

この戦いを終わらせるために成さねばならないことはいくつかある。

一つ、この世界を構築した異世界の神の討伐。

一つ、神々ですら手を焼くトライヘキサの討伐。

一つ、トライヘキサを使い、この戦いを始めた邪龍筆頭格であるアポプスとアジ・ダハーカの討伐。

そして、量産型の邪龍を生産している聖杯を停止させ、奪還する。

 

異世界の神は兵藤一誠が相手をしているから、置いておくとして、トライヘキサを倒しきることは難しいだろう。

各勢力の上層部にどんな作戦があるかは知らないが………。

 

アジ・ダハーカとアポプスの打倒だが、こちらはかなり難易度が高いものの不可能ではない。

これまでの戦いを見るにこの邪龍二体は神々をも上回る力を得ている。

それは聖杯によって強化されたのか、クロウ・クルワッハのように自らを鍛え上げたのか。

両方とも考えられるな。

 

そうなると、この戦いを終わらせるための行動で最も難易度が低いのは―――――聖杯の奪還だ。

幸い、聖杯を止める手段を持つ者達は付近にいる。

 

ならば、俺がまず成さねばならないことは―――――。

 

「槍よ、神をも射抜く真なる槍よ! 我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの間を抉れ! 汝よ、遺志を語りて、輝きと化せッ!」

 

俺が力のある言葉を発すると、輪後光が一層輝きを増していき、聖槍を包む聖なるオーラも極大にまで高まっていく。

付近にいた悪魔達は聖槍が放つ聖なる力に肌を焼かれ、その場から慌てて離脱していた。

 

それを確認しながら俺はそれを唱える!

 

「―――――覇輝(トゥルース・イデア)ッ!」

 

槍が祝福を受けたかのように目映く、聖なるオーラを波立たせる。

聖槍の放つ波動は俺を起点として、この空中全域に広がっていった。

刹那、ゲオルク達が相手取っていた邪龍は聖なるオーラに呑まれて消失し、少し離れた場所にいた邪龍はこの力に恐れ、その場から遠退いていく。

 

この輝きの力はアポプスにも及び、奴は聖杯から手を放して苦しみ始めた。

 

《こ、これは………! 聖書の神の…………威光か! このままでは………意識を奪われかねない………っ!》

 

アポプスが頭を押さえながら退いていき、トライヘキサからも離れてしまう。

これで奴は完全に孤立した。

 

アポプスが手を放したことで、そのまま空中に漂う聖杯。

俺はそれを手に取ると、フッと笑んだ。

 

「どうやら、今度は応えてくれたようだな」

 

この槍に宿る聖書の神の遺志よ。

前回、あなたは俺を否定し、兵藤一誠を勝者とした。

今回応えてくれたのは、少しは俺を認めてくれたと考えて良いのだろうか?

 

「さて、これに関しては君達に任せるとしよう――――グレモリー眷属」

 

手にした聖杯を突き出した方向にいる者―――――リアス・グレモリーはこちらを確認する自身の『戦車』であるロスヴァイセと『僧侶』のギャスパー・ヴラディと視線を合わせて頷き合う。

 

聖杯をそちらに投げると闇の獣と化したギャスパー・ヴラディは赤い瞳をこちらに向けた。

 

《あなたのことを完全には信用できないけれど、ヴァレリーの聖杯を取り戻してくれたことにはお礼を言います》

 

「礼なんていらないさ。俺は俺のために行動したまで。このまま世界が終わってしまうのは嫌なんでね。聖杯を止める手段があるのならば、早々に使うことだ」

 

俺の言葉にギャスパー・ヴラディは赤い瞳を一瞬だけ輝かせると、こちらに背を向けて一時後退する。

彼の向かう先にはアーシア・アルジェントの側で戦線を見守る元吸血鬼の王女ヴァレリー・ツェペシュ。

 

情報通りなら彼らが聖杯を停止させてくれるはずだが………とりあえず、聖杯の奪還には成功したので、邪龍がこれ以上生産されることはないだろう。

少なくともこの戦線では。

 

リアス・グレモリーの方に視線を移すと、彼女はロスヴァイセと共にトライヘキサへと近づいていた。

当然、彼女達の周囲では木場祐斗をはじめとしたグレモリー眷属が邪龍を近づけさせまいと剣を振るっている。

 

ロスヴァイセが一際大きい魔法陣を一帯に展開すると叫んだ。

 

「トライヘキサを止めます!」

 

彼女が魔法陣に手を触れて、発動を促すと、この領域全体にエネルギーのフィールドが広がっていく。

トライヘキサの周囲にも結界用の魔法陣が多数展開し、トライヘキサを包み込む。

途端にトライヘキサが苦しみだすが、結界は次から次へと張られていき、奴を幾層にも囲んでいった。

 

そして―――――トライヘキサは動きを止めた。

人間界へと繋がる『門』を目前にして奴は完全に動きを止めたのだ。

 

その瞬間―――――。

 

『やったぞぉおおおおおおおおおおおおおっ!!』

 

この戦線で戦う戦士達が沸いた。

神々ですら赤子同然に扱っていた黙示録の獣を完全に止めたのだ。

絶望的な状況に希望の光が射し込んだとも言える。

 

まぁ、喜ぶにはまだ早い気がするが。

トライヘキサを止め、聖杯を止めたとしても、この一帯に存在する邪龍と赤龍帝の複製体の数は空を埋め尽くすほど。

 

戦いはまだ終わっていない。

 

「おまえを倒さずして、ここを乗り切ったとは言えないだろう? だが、確実に追い込んではいる。チェックだ、アポプス」

 

そう、まだ何も終わっていない。

聖杯を止め、トライヘキサを止めても最強格の邪龍がここにいる。

神をも凌ぐ絶対的な力を持つ強者がここにいるのだから。

 

覇輝の影響が消え、苦しみから解放されたアポプスは肩をすくめながら言った。

 

《フフフ、流石にあの輝きを受けてしまっては私とて、退くしかない。………聖杯を取られ、トライヘキサをも取られたか。―――――面白い》

 

刹那―――――奴から尋常ではないプレッシャーが放たれる。

アポプスの体から滲み出た闇は一気に広がり、周囲の領域を呑み込んでいく。

 

「マズい………ッ! 曹操ッ!」

 

アポプスが広げた闇の領域に焦りの声を漏らすペルセウス。

 

本当に僅かな時間だった。

俺は闇の結界に閉じ込められた―――――。

 

 

 

 

暗い、完全な闇。

俺を囲む闇は不気味な波動を漂わせながら、蠢いていた。

 

正面の闇が隆起する。

そこは先程、アポプスが立っていた場所だ。

 

アポプスの体を覆う闇は形を変えて、巨大なものを作り出した。

上空に皆既日食時の太陽のような細い光輪状の光が浮かび、それをバックに形を変えた邪龍が泳ぐ。

 

闇の領域に現れたのは全長百メートルを越えるであろう長細い蛇タイプのドラゴン。

暗黒一色、所々に銀色に発光する宝玉が見える。

頭部に浮かぶ目は三つあり、全てが銀色に光った。

 

「それがおまえの真の姿か」

 

《そうだ。これまでのやり取りで貴公は私の全力を出すべき相手だと判断した》

 

「それは光栄だ」

 

神をも超える最強格の邪龍に本気を出す相手と認められるとはね。

今の俺には喜ぶべき言葉だ。

 

俺は正直な気持ちを吐いた。

 

「危機的な状況なのだろうが、かつてない強敵を前にして昂っているよ」

 

《私もだ。聖槍よ、貴公との戦いは私にとって特別なものになるだろう。聖槍に選ばれた者と邪龍。しかも、貴公は英雄の血をひいている。これは運命的な戦いだとは思わないか?》

 

聖槍を持つ英雄の血をひく者と邪龍、か。

確かにそう聞けば運命的なものを感じてしまうが………。

 

闇の領域には俺とアポプスのみ。

つまり完全な一対一に持ち込まれたわけだ。

本気のアポプスにどこまで食らいつけるか………。

 

奴の対処方法を思慮していると、アポプスは俺に訊いてきた。

 

《聖槍よ。貴公は異世界に興味はないのか?》

 

「それは兵藤一誠がいたという世界のことか?」

 

《それも含めてだ。この世には複数の異なる世界が存在する。私も、神々ですら知らない未知の世界。惹かれないのか?》

 

異世界………この世界のどの神話体系にも当てはまらない未知の世界。

未知の世界というものには俺も興味がある。

どんな世界なのか、どんな物があるのか、そして、どんな者達がいるのか。

 

「見てみたくないと言えば嘘になるな。だが、言ったはずだ。俺の目標は彼を――――兵藤一誠を超えることだとな。一人の人間としても、戦士としても超える。生半可な覚悟では成せないのでね。現状、この世界を壊してまで興味を注ぐものではないな」

 

アポプスは俺の答えに小さく笑った。

 

《それも貴公の野望だ。否定する気はない。私達が異世界に進むことが出来るか、貴公らがそれを阻止できるか。此度の戦いで全てが決まる》

 

「ああ、そうだな。そして――――俺達が勝つ」

 

《そうか、では始めよう》

 

互いの殺気と闘志が衝突―――――本来のドラゴンの姿となったアポプスとの熾烈な戦いが始まった。

 

聖槍を横凪ぎに振るい聖なる波動を放つ。

最強の神滅具だけあり、聖槍が持つ聖なる力は絶大だ。

禁手となっている今では最上級悪魔はおろか、魔王クラスですら、かなりのダメージを与えることが出来ると自負している。

 

黄金の輝きを纏う聖槍を回して繰り出すのは遠距離からの聖なる波動の三連撃。

空中で刃と化した聖なる波動は闇を切り裂き、アポプスへと迫るが、アポプスの体表を覆う闇が全てを飲み込んでしまう。

 

象宝に乗り、闇の空を突き進んだ俺は力を高めた聖槍による突きを繰り出すが、アポプスの覆う闇に穂先を遮られてしまう。

 

並の固さではないな………だが、聖槍で闇に触れることは可能か。

 

不意に周囲から異様な気配を感じた。

真下に視線をやると、地面だったはずの場所が闇が波打つ暗黒の海へと変わっている。

 

このままでは、下に降り立つことも出来ないか。

こちらの足場を無くす、それが奴の狙いでもあるだろうが、それだけではないだろう。

 

案の定、足下の黒い水に変化が訪れる。

水面がうねりをあげ、飛び出してきた。

黒い水は意思を持ったように、下から伸びてきて俺を狙う。

それは一つではなく、二つ、三つと数を増やし、一斉に襲いかかってきた。

 

俺は体捌きと転移の力を用いて、空中で回避を続けていくが、その間にもアポプスの口から暗黒のオーラが吐き出される。

袖を少しだけ掠めるが、その部分は易々と解かされてしまう。

 

「ちっ………!」

 

居士宝で分身を作り出し、それを蹴って後方に飛ぶ。

俺の代わりに闇に呑まれた分身は一瞬で跡形もなく消え去った。

 

分身を盾にしたお陰でやり過ごせたように見えたが、黒い水とアポプスが吐き出した暗黒のオーラはこちらをしつこく追尾してくる。

 

やむを得ないか…………!

 

ドリルのようにうねる黒い水。

それが眼前にまで迫った瞬間―――――俺の視界から色彩が消えた。

それと同時に奴の攻撃が今までよりも遅く見えるようになる。

 

七宝の能力を使うことなく、僅かな動きだけで奴の攻撃を回避。

高速でアポプスの迫ると、腰を捻り、渾身の突きを放った!

 

《っ! これは………!》

 

槍が頭部に突き立てられる直前、アポプスは咄嗟に闇の盾で防いだが、その声音には僅かに驚きがある。

 

―――――『領域(ゾーン)』。

極限の集中状態。

過酷な修行の果てに会得した境地だ。

この状態になると、己の中の時間軸が上位の次元に至り、反応速度、瞬発力など身体能力が向上する。

 

大抵の相手であれば、こちらの動きが急激に動きが変化するため、隙を見せるものだがアポプスは全くその気配がない。

むしろ、こちらの動きに合わせるかのように、攻撃の手を激しく………!

 

眼下に広がる闇の海から竜巻のようなものが複数立ち上る。

七宝の力で転移を繰り返しても、その場所が分かっているかのように俺を取り囲んでくる!

 

「くっ………! ここまでとは………!」

 

グレンデルやラードゥンとは明らかに違う。

力もそうだが、奴は己を過信しない。

絶対的な力で相手を潰しにきている。

 

闇の攻撃をギリギリのところで捌いていく中、背後から殺気に似た気配がした。

視線をそちらにやると、鋭い刃と化した闇の水が背後から迫っていて―――――。

 

捌ききれない…………!

 

「ガッ………ハッ………!」

 

闇の刃が俺の脇腹を容易く貫いていった。

 

闇の水は俺を貫いた後、霧散し消えてなくなるが、代わりに脇腹からは夥しい量の血が流れ始めた。

そして、ふいに襲う脱力感。

手足に力が入らなくなった。

 

追い討ちをかけるように二の腕と足を闇の水が貫き、俺の動きを完全に封じてきた。

 

アポプスが言う。

 

《異形の存在であろうとも、私の闇には耐えられないだろう。人間である貴公では尚更だ。―――――終わりだ、英雄の血を引きし者よ》

 

その言葉を耳にしながら、俺の体は重力に引かれるまま後ろへと傾いた。

その俺にトドメをさそうとアポプスが口から闇のオーラを吐き出す。

あの闇に呑まれた時が俺の最期なのだろう。

いや、このまま闇の海に落ちてしまえば、そこで終わりか………。

 

フフフ………あの時と逆だな。

俺は兵藤一誠の隙を着いて、彼を追い込んだ。

深傷を負い、落ちていく彼を貫こうとした。

本当なら、あの時で決着をつけるつもりだったんだ。

 

だが、彼は奇跡を起こした。

誰にも思い付かない方法で、失敗すれば命を落としかねないやり方で、彼は俺に勝った。

 

彼には死ねない理由があった。

守りたいものがあり、自分を待っている者達のもとへと何がなんでも帰るという強い想いがあった。

 

俺には何がある?

守りたいものなどない。

俺を待っている者などどこにもいない。

 

ならば、俺はこのまま死ぬのか?

確かに英雄の成り損ないにはちょうど良い最期なのかしもれないな………。

 

 

―――――死ぬなよ?

 

 

彼が言い残していった言葉が過った。

 

そうだ………あるじゃないか、死ねない理由。

決して破るわけにはいかない漢の誓いが………!

 

何を弱気になっているんだ。

力を籠めろ、彼のように吼えてみろ。

限界を超え、奇跡を起こしてみろ――――――。

 

「―――――――」

 

[曹操 side out]

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

―――――終わった。

 

アポプスはそう確信していた。

 

確かに曹操は強い。

過去に戦ってきた人間の中では一二を争うレベルだ。

 

腹を貫き、四肢も貫いた。

もはや動ける状態ではない。

いくら英雄の血を引こうと、いくら最強の神滅具である聖槍に選ばれていようと、脆い人間であることには代わりがない。

 

重力に引かれるまま落ちていく曹操。

自身が吐き出した闇に呑まれた時、たとえ曹操が回避できたとしても、あの状態では闇の海に沈む。

どちらにせよ、死は免れない。

 

《さらばだ、聖槍―――――》

 

闇のオーラが曹操を呑み込み、決着がつく―――――はずだった。

 

突然、聖槍が強い黄金の輝きを放ったのだ。

その輝きはかつてない程強く、アポプスの闇を瞬く間に消し去った。

 

《バカな………》

 

予想外の事態にアポプスは目を見開き、輝きの起点へと視線を向けた。

 

神々しい光を放つ輪後光、黄金の輝きを纏う聖なる槍を握る曹操。

 

曹操が無言のまま聖槍を天に掲げ、振り下ろした。

次の瞬間―――――。

 

《な、に………ッ!?》

 

闇が斬り裂かれ、アポプスの腕が斬り落とされた。

 

 

[三人称 side out]

 




曹操、覚醒!
詳しくは次回!


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32話 英雄の魂を宿す者達

[三人称 side]

 

《何が起こったと言うのだ…………?》

 

アポプスは状況を呑み込むことができていなかった。

 

腹と手足を貫かれた曹操は立つことさえ不可能な程、深傷を負った。

本来なら曹操は重力に引かれるまま落ちていき、アポプスがトドメとして放った闇に屠られるはずだった。

仮に力が残っていたとしても、発揮できるのは微々たるもの。

あの場面での反撃などあり得ない。

 

そう、あり得なかったはずなのだ。

 

アポプスは断ち斬られた腕に視線を落とし、頭の中に次々と疑問を浮かべていった。

 

なぜ、あそこから立ち上がれた?

なぜ、あの傷で反撃できた?

なぜ、自分の腕は斬り落とされている?

 

なぜ―――――曹操の力が急激に上昇した?

 

アポプスの正面には輪後光を背にし、神々しくも静かな波動を纏う曹操。

見た目に変化はない。

………が、貫ぬき、血が噴き出ていたはずの傷口はいつのまにか塞がっている。

 

治癒の力でも得たのだろうか。

アポプスはまずそう考えた。

 

今代の聖槍の所有者は複数の異形と渡り合うために多彩な能力を発現させてたと聞く。

もしかしたら、曹操は治癒の力を発現させたのかもしれない。

だが、そうなると疑問はまだ残る。

 

それはこの急激過ぎるパワーアップだ。

アポプスが纏う闇は万全の状態だった曹操の攻撃を余裕で防いできた。

しかし、先程、曹操は闇の防御を容易く突破して、アポプスの腕を斬った。

 

油断していた?

それもあるのだろう。

もう勝負は着いたと思い、気を抜いてしまったことは否定できない。

一瞬の油断は命取りになるものだ。

緩んだところを突かれれば、たとえ神をも凌ぐアポプスの闇だろうと突破されてしまうだろう。

 

だが、それでも理解できないことがある。

 

―――――アポプスは曹操の一撃が見えなかったのだ。

曹操の挙動も、放たれた斬撃も。

 

もし、曹操の攻撃を仕掛ける素振りが見えていたのなら、防げていたはずなのだ。

しかし、アポプスは曹操の動きに全く反応できなかった。

 

アポプスは異質なものを見るように曹操を睨んだ。

 

前髪で目が隠れているため、表情は分からない。

静かなオーラなのは相変わらずだが、今の曹操はアポプスでさえ不気味と思えるほど静かだった。

 

そして、無言の曹操を見ている内にアポプスは気づいた。

――――曹操から神に近しい波動を感じ取れることに。

 

《………ッ!?》

 

そのことに気づいた時、既に現象は起きていた。

離れていた場所にいたはずの曹操が闇を潜り抜け、アポプスの懐に入り込んでいた。

 

アポプスは咄嗟に闇を曹操へと放つが、吐き出した闇が届く前に曹操の姿が消えた。

気づいた時にはアポプスの右手側、離れたところで佇んでいたのだ。

 

《バカな………。私が捉えられないだと………?》

 

今の曹操の状態は全身から完全に力が抜けているように見える。

極限の脱力は究極の瞬発を行うための条件の一つ。

闇が曹操に届く寸前に最高の初速を発して、闇を避け、遠くに移動したのだろうか。

それだけでは説明できない速さではあるが。

 

ならばと、アポプスは行動に出る。

 

足元に広がる暗黒の海と周囲に漂う闇をかき集め、一斉に放った。

暗黒の津波、闇の暴風。

全てを呑み込む暗黒が嵐となって、曹操へと迫る。

 

いくら、曹操がアポプスの理解を超える速さで動けるようになったとしても、これだけの広範囲攻撃ならば、避けられないだろう。

そう考えての行動だった。

 

上下左右、ありとあらゆる方位から闇が曹操を包み―――――その全てを曹操はすり抜けて見せた。

 

その光景にアポプスは息を呑む。

 

《尋常ではない回避能力だ………。何だというのだ。貴公に何が起きたというのだ………?》

 

「………」

 

アポプスの問いに曹操は答えない。

 

曹操が僅かに前のめりになった、次の瞬間―――――曹操は再びアポプスの眼前に出現した。

 

腰をひねりを加えた、滑らかで鋭い突きが放たれる。

黄金の輝きを纏う刃が闇を貫き、アポプスの胴に突き刺さる!

 

《ぐぅ………ッ!? なんというスピードだ………ッ!》

 

曹操の動きに驚嘆しながらも、アポプスは闇を繰り出すが、闇は誰も呑み込むことができなかった。

そして、それを確認したと同時に今度は背中に斬撃を受けた。

次は右、その次は左、そして上と次々と聖槍による斬撃が刻まれていき、アポプスの肉体に聖なる力によるダメージが蓄積されていく。

 

危機を感じたアポプス。

全身に力を籠めて、一斉にそれを解き放つ。

アポプスを中心に全方位へと広がる闇の波動。

 

闇の波動は衝撃波を生じさせながら、結界の中を暴れまわる。

それすらも曹操は全て見切って見せた。

 

ふいに前髪で隠れていた曹操の眼がアポプスと合う。

―――――彼の瞳はアポプスとは異なる次元、異なる時を見ているようだった。

 

極限の集中状態である『領域(ゾーン)』は人が入れる究極の領域の一つだが、それすらも超えた場所を曹操は見ている。

今の曹操にはアポプスでさえ、捉えられない何かが見えているのだろう。

 

『領域』を超えた神の境地―――――『聖域』とでも名付けるべきか。

 

それからもう一つ、アポプスは気づいたことがある。

 

《なるほど………この力。先程の光と同じ波動を感じるな。聖書の神の意思、か………》

 

曹操から感じられる神に近しい波動。

それは『覇輝』によるものと似ているのだ。

 

『覇輝』は聖書の神の『遺志』が関係する。

亡き神の『遺志』は槍を持つ者の野望を吸い上げ、相対する者の存在の大きさに応じて、多様な効果、奇跡を生み出す。

それは相手を打ち倒す圧倒的な破壊力であったり、相手を祝福して心を得られるものであったりする。

 

この現象は聖槍が曹操の願望を叶えた結果なのだろう。

曹操の傷が塞がっていることも、異常な覚醒もそう考えると説明が着く。

 

だが、それだけでもないだろうとアポプスは思った。

 

静かな波動を纏い、己を見下ろしてくる聖槍の使い手を見て、アポプスは笑みを浮かべながら漏らした。

 

《人の持つ可能性とでも言うべきか。貴公が強く望んだからこそ、貴公はそこに至ることが出来たのだろう》

 

人の持つ可能性。

人間は最弱の種族だ。

他の異形に比べ、肉体は脆く、寿命も短い。

だが、だからこそ、他の異形にはない力を発揮する。

知恵を絞り、技を磨き、強者を打ち砕く術を求めようとする。

そして、遂には強大な力を持つ異形を倒す。

 

過去、英雄と呼ばれた者達はそうやって力を着け、困難を乗り越えてきた。

 

アポプスは曹操を見上げて、告げた。

 

《聖槍に選ばれし者、英雄の血を引く者。―――――来るが良いッ! 己の全てをかけた死闘をしようではないかッ!》

 

「――――――」

 

その叫びに曹操は何も答えない。

だが、その瞳には炎が宿っていた。

 

この先に言葉は不要。

聖槍に選ばれた男と強大で誇り高い邪龍の死闘が始まる。

 

先に動いたのは曹操だった。

 

動く気配を相手に感じさせないまま、前へと飛び出す。

到底、人間が出せるはずのないスピードで、真正面からアポプスへと斬りかかる。

 

初動を見逃したため、行動が遅れたものの、アポプスは闇による猛攻を開始した。

ドリルのようにうねる暗黒の水と闇による同時攻撃はこれまでよりも苛烈で、神クラスであろうと斬り刻まれてしまうだろう。

 

しかし、曹操はそれらを全て潜り抜けていた。

絶大な聖なる波動で打ち消す訳でもなく、聖槍の能力で受け流すわけでもない。

ただ超常の存在をも超える絶技でアポプスの闇を見切って見せたのだ。

 

アポプスの攻撃を抜けた曹操はかつてない輝きを放つ聖槍を振るいアポプスに斬撃を食らわせる。

聖槍による一撃はアポプスを大きく後ろへと退かせた。

全力のアポプスの闇が破られたのだ。

 

《私の闇でも防ぐことができないとは! 恐ろしい光量だ!》

 

アポプスは構わずに口から闇を吐き出す。

しかし、『聖域』へと至った曹操の絶対的な回避能力の前に、闇は虚しく空を切るだけ。

瞬く間に間合いを詰めた曹操はアポプスへとダメージを与えていく。

 

だが、アポプスとて伝説に名を残す邪龍筆頭格。

限界を超えた曹操の動きに順応していき、曹操の連撃に対処できるようになっていた。

 

黒い結界の中で幾度となくぶつかり合う曹操とアポプス。

一方は磨き抜かれた絶技で、もう一方は神をも凌ぐ圧倒的な力を以て、己の全てを相手にぶつけていった。

 

両者の力は拮抗。

このままどちらかが倒れるまで戦い続ける、そう思われた時だった。

 

それまで、アポプスの闇を回避し続けた曹操に異変が訪れた。

体が強く脈打ったと思うと――――――口から大量の血を吐き出した。

 

 

[三人称 side]

 

 

 

 

[曹操 side]

 

 

「ゴブッ………ガハッ…………!」

 

口から血の塊を吐き出した俺はその場で動きを止め、口許を押さえていた。

全身に激痛が走り、手足が震え始める。

聖槍が放っていた輝きも徐々に弱々しくなり、ついには消えてしまった。

 

なんだ、これは…………?

 

突然起きた体の異変に戸惑っていると、アポプスが静かに告げた。

 

《どうやら、貴公の限界が訪れたようだ》

 

「限界だと………?」

 

俺が聞き返すと奴は頷いた。

 

《私を圧倒していたあの動きは人間が持てるレベルを遥かに超えていた。神ですら容易には踏み込めない領域に貴公は踏み込んでしまったのだ。強すぎる力の代償は大きいもの》

 

つまり、この激痛は力の代償というわけか………。

 

人間だからここが限界だというのか?

いや、それはただの言い訳か。

俺がもっと強ければ、あのままアポプスを降すことができていただろう。

肝心なところで、これとは………我ながら情けない。

 

全身から力が抜けていく………。

目が眩み、前が見えなくなってきた………。

もうすぐ禁手も維持できなくなり、七宝の全てが消えてしまう。

 

アポプスが言う。

 

《残念だ。このような決着になるのは不本意なのだが………》

 

奴の体から闇が滲み出る。

聖槍によるダメージのせいか先程、俺と戦っていた時より、ずっと弱くなっているが、このまま俺を屠るには十分な威力を持っているだろう。

 

《私も私の目的がある。決着を着けさせてもらう》

 

アポプスの闇が俺へと放たれる―――――その時。

 

ぬるりとした生暖かいものが肌に触れた。

見れば、闇の空間であるはずのこの領域に霧が漂っていた。

それは見覚えのある霧で―――――。

 

空に浮くことが出来なくなった俺を誰かが受け止めた。

 

「おまえがこんなボロボロになるところなんて初めて見たぜ」

 

「ヘラクレス………おまえ、どうしてここに………」

 

そう、俺を受け止めたのはヘラクレスだった。

 

そして、俺の周囲に複数の影が現れる。

 

「待たせたな、曹操。結界の完全な解除は出来なかったが、こうして入り込むことは出来た」

 

眼鏡を直しながら言うゲオルク。

 

「あらー、本当にボロボロね。リーダー」

 

軽い口調のジャンヌ。

 

「そりゃ、日頃の行いが悪いからだろ」

 

怪我人を全く労らないペルセウス。

 

アポプスの張った結界の外で邪龍退治をしていたはずのメンバーが俺の回りに集結していた。

ゲオルクによると、アポプスの結界に通り道を作って内部へと侵入してきたそうだが…………。

 

ジャンヌが微笑みながら言う。

 

「ベストなタイミングだったんじゃない? もう少しでも遅れてたら、リーダーは死んでたわよ?」

 

全くもってその通りだ。

ここでゲオルク達が現れてくれていなかったら、俺は確実に死んでいた。

もう先程のような奇蹟は起こらないだろう。

 

ヘラクレスがアポプスに指を突きつけて言う。

 

「よぉ、待たせたな。ここから先は俺達がおまえの相手だ。文句は言わせねぇ」

 

「まさか断るとは言わないわよね? 伝説の邪龍さん?」

 

「一対一の勝負に水を差すようで悪いが、曹操は俺達には必要な存在なのでな。ここで失うわけにはいかない」

 

「ま、俺はこいつのこと嫌いだけどな。元仲間としちゃ、ここで死なれちゃ寝覚めが悪いってね」

 

ヘラクレスに続き、ジャンヌ、ゲオルク、ペルセウスがアポプスにそう告げる。

彼ら感じる闘志は過去にないほど強力なもので………。

 

すると、ヘラクレスは俺に視線を戻して訊いてきた。

 

「で? 我らがリーダー様はもう動けないってか? なんなら休んでいても良いんだぜ? あいつは俺達でなんとかしてやる」

 

「何を馬鹿なことを。奴の相手は俺がしていたんだぞ? 戦うさ。指一本動かせなくなってもな」

 

「そうかい。なら、少し休んどけ。回復したら来いや」

 

俺はヘラクレスに支えられながら、アポプスへと視線を送る。

 

特に攻撃を仕掛けてくる気配はなく、じっとこちらを観察するようにして、そして―――――笑みを浮かべた。

獰猛で豪快。

楽しそうに奴は言う。

 

《なるほど………良いだろうッ! 英雄の血を引く者達よ! 私を倒して、真の英雄となってみせろッ!》

 

アポプスの力が膨れ上がる!

邪龍はしつこいと聞くが、どこにこれだけの力を持っているというんだ!

 

だが、そんなアポプスの覇気を受けてもヘラクレス達は怯みもしない。

それどころか、前に一歩踏み出して――――――。

 

「「「ハァァァァァアアアアアアアッ!」」」

 

雄叫びをあげて飛び出していく!

ヘラクレス、ジャンヌ、ペルセウスという近接戦を主とするメンバーがゲオルクの支援魔法で肉体を強化した状態で、アポプスの闇へと突貫していった!

 

ヘラクレスがガントレットに覆われた拳で闇を弾き、ペルセウスが自身の神器である盾で黒い水を防ぐ。

そして、聖剣によって創られたドラゴンに乗るジャンヌが槍のように柄の長い聖剣でアポプスに斬りかかる。

後方からはゲオルクによる強力な攻撃魔法。

北欧式、ルーン、黒、白とあらゆる術式、全属性の魔法のフルバーストを放った。

 

ゲオルクが魔法を放ちながら言う。

 

「曹操。やはり、ここにいる者達は変わったよ。おまえも含めてな。俺達は策に策を重ね、弱点を着きながら戦ってきた。俺達が戦う時、そこには必ず勝算があった。まぁ、それが普通なのだろうがね。だが、今回は違うだろう?」

 

「…………」

 

ゲオルクの言う通りだ。

これまでの俺達の戦いには必ず勝算があった。

相手を研究し、弱点をつき、そして勝ってきた。

何の策も無しに戦うなんてことは避けてきた。

 

だが、俺は今の自分達を見て思う。

 

ヘラクレスは子供達のために戦っている。

ジャンヌにも今となっては帰る場所があり、死ねない理由がある。

 

ゲオルクは続ける。

 

「何だかんだで、これで良かったのかもしれない。異形の毒として生きてきた時よりも、今の方がよっぽど英雄らしい。………私が言えることではないがね」

 

ゲオルクが霧を展開して、アポプスの闇を阻む。

 

アポプスと英雄派の元幹部という戦いは一進一退の攻防戦に突入する。

だが―――――。

 

「がああああああああっ!」

 

ドリルのような黒い水がヘラクレスの腹を貫いた!

頑丈なヘラクレスといえど、あれは耐えられない!

 

「ヘラクレス! ちぃっ!」

 

ペルセウスがヘラクレスの援護に回ろうとするが、アポプスの闇がペルセウスを行く手を阻む。

ジャンヌの聖剣は闇の盾によって遮られ、本体まで届かない。

ゲオルクが後方から支援をするが、アポプスはそれすらも意に返さない。

 

マズいな………このままでは全滅しかねない。

 

「ゲオルク、頼めるか?」

 

「行くのか? その体で」

 

「行くさ。まだ回復しきってはいないが、リーダーがへたばってたら、格好がつかないだろう?」

 

「フッ、それもそうか」

 

ゲオルクは指を鳴らすと俺に魔法をかける。

禁手が解け、浮くことが出来なくなった代わりの飛行魔法だ。

 

「助かる」

 

それだけ言い残すと、俺はアポプスへと突貫した。

 

アポプスは俺の姿を確認するなり、嬉々として吼える。

 

《来たか! 待っていたぞ!》

 

「待たせたな! 決着をつけるぞ!」

 

もう体力は残っていない。

僅かな戦闘しかできないだろう。

アポプスの闇を避け続けることが出来るのもあと数回と言ったところか。

 

俺はアポプスの闇をかわした後、ヘラクレスに叫んだ。

 

「ヘラクレス! 俺を奴目掛けて投げろ! 全力でだ!」

 

「はぁ!? こちとら、腹を貫かれてんだぞ! 無茶苦茶言いやがって!」

 

「無茶は承知だ! 頼む!」

 

「ちっ! 分かったよ! ケリつけてこい!」

 

俺がヘラクレスの掌に足を置くと―――――ヘラクレスはその豪腕で俺を投げ飛ばした! 

今まで磨きあげた技も駆け引きもない、ただの突貫!

それでも俺はこの一撃にかけるしかない!

 

猛スピードでアポプスへと迫り、槍を構えるとアポプスが言う。

 

《最後の突貫というわけか! 面白い! 勝負だ!》

 

アポプスが一際大きい闇の塊を吐き出した! 

直撃を受ければ、かなりマズい!

 

だが、その闇は俺に届く前に防がれた。

ペルセウスが俺の盾となってくれたんだ。

 

「行け、曹操! ここは任せろ!」

 

「そうそう! リーダーの道は私達が守ってあげる!」

 

周囲から振ってくる黒い水を斬り裂くジャンヌ。

更にゲオルクが魔法と霧を用いて、周囲に結界を張り巡らせる。

 

最後の力を振り絞り、聖槍に莫大なオーラを宿らせる。

そして、今の俺が持てる力の全てをかけた一撃を繰り出した!

 

アポプスが新たに吐き出した闇の塊と衝突する!

 

《すさまじいな! まだこれだけの力を持っているとは!》

 

聖なる力と闇の力が激しく衝突し、拮抗………いや、こちらが推されているか!

だが、退けない!

ここで退くわけにはいかないんだ!

 

「これが本当に最後の賭けだ」

 

俺はそう言うと力強くその呪文を唱えた。

 

「槍よ、神をも射抜く真なる槍よ! 我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの間を抉れ! 汝よ、遺志を語りて、輝きと化せッ!―――――『覇輝(トゥルース・イデア)』ッ!」

 

刹那、聖槍から強大な力が溢れ出した。

黄金の輝きが穂先へと集約され、アポプスの闇に食い込んでいく。

 

「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

俺の叫びに応じたように聖槍は更に黄金の力を高めて闇を斬り裂き、邪龍を貫いていった――――――。

 

 

 

 

アポプスを貫いた後、俺は指一本すら動かせない程に疲弊しており、情けなく地面に大の字になっていた。

黒い領域と空は開かれて、周囲は元の戦場へと戻っていた。

 

「無事か?」

 

「いや、あまり無事とは言えないな………」

 

ゲオルクに肩を貸してもらい、俺は眼前に横たわる巨大な黒いドラゴンの元へと歩み寄った。

全身のあらゆるところが、崩れていて、滅びは免れない状態だった。

 

俺は滅び行く邪龍に言った。

 

「すまないな、このような決着になってしまった」

 

この邪龍が望んだのは俺との一対一による決闘。

だが、最終的には元英雄派の幹部メンバー総出での決着になった。

 

しかし、俺の言葉にアポプスはフッと小さく笑った。

 

《………気にすることは、ない。………貴公が私に勝ったのは………絆の力、だ。かつて、私に挑んできた人間の中にも………そういう者達がいた。そして、その者達は、例外なく………強者だった》

 

「邪龍が絆の力を語るとはね」

 

《フフフ………邪龍として数々の猛者達と矛を交えたからこそ………分かるものがある》

 

絆の力、か………。

俺に、俺達にそんなものがあったとはね………。

 

アポプスは途切れ途切れの言葉で続けた。

 

《私は………貴公らのような英雄と戦えたことを誇りに思う………》

 

「英雄………? 俺達がか?」

 

俺の問いにアポプスは頷いた。

 

《確かに、民衆から称えられた者を英雄と呼ぶのだろう………。だが、私はこうも思う。邪悪な存在から、畏怖され敬意すらも抱かれる者を英雄であると………。私は………貴公らを敬意を持って英雄と呼ぼう…………》

 

肉体の殆どが消え、残るのは頭のみ。

その頭ももうすぐ消失するだろう。

残された僅かな時間でアポプスは最後にこう告げてきた。

 

《また………合間見えよう、英雄達よ………》

 

それが伝説の邪龍、アポプスの最期だった。

 

 

 

 

「それで? この後はどうするの?」

 

ジャンヌが戦場を見渡しながら訊いてきた。

 

トライヘキサが停止し、アポプスも降した。

敵の数は異常とも思えるほど多いが、神クラスもいるこの場においては些細な問題だろう。

聖杯も取り返したので増えることはない。

 

俺はジャンヌの問いに答えた。

 

「まだ戦闘は終わっていない。俺達も行くぞ」

 

アポプスを倒したとしてもまだ戦いは終わっていない。

ならば、俺達は全てが終わるまで戦い続ける。

 

しかし―――――。

 

「うーん、ヘラクレスに背負われた状態でキメ顔で言われてもね。クスクスクス………」

 

「下ろせ、ヘラクレス! いつまで俺を背負っているつもりだ!?」

 

そう、今、俺は回復したヘラクレスに背負われている。

なぜ?

そんなものこいつらが面白半分でしているに決まっている。

 

「んだよ、リーダー様がヘロヘロだから、おぶってやってるんだろうが。ジャンヌ、今のうちに写メ撮っとけ。こんな曹操は滅多に見れないぜ?」

 

「オッケー」

 

ピロリンピロリンと携帯の音が聞こえてくる!

 

「やめろ! 見るな撮るな、その携帯をよこせぇぇぇぇぇぇ!」

 

まずは体力を回復させようと思う俺だった。

 

 

[曹操 side]

 




ああ………いつから曹操はこんなイジラレキャラになってしまったのか………。


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33話 アセム眷属、総員出撃です!

投稿遅くなってすいません(-_-;)
やっべぇ、中々時間とれねぇ………。


[木場 side]

 

ロスヴァイセさんが考案した術式により、どうにかトライヘキサの動きを封じた僕達。

巨体を結界で包み込まれたトライヘキサはピクリともせず、再び動き出す様子はない。

 

通信用魔法陣でアザゼル先生と連絡を取っていたロスヴァイセさんが口を開く。

 

「他の分裂体も動きを止めたようです」

 

どうやら上手くいったらしい。

 

ロスヴァイセさんは停止しているトライヘキサを見上げながら続ける。

 

「これで一先ずは大丈夫です。ですが、この結界がいつまで保つかは術式を考案した私にもわかりません」

 

「トライヘキサの動きを封じた後の手はずは聞かされていないのよね?」

 

「アザゼル先生を始めとした各勢力の首脳陣クラスではその後の計画が決まっているようですが、残念ながら私にも教えてくれませんでした」

 

リアス前部長の問いに首を横に振るロスヴァイセさん。

 

出撃前のミーティングでも感じたけど………アザゼル先生は僕達に何かを隠している?

各勢力の首脳陣クラスしか知らない計画ということは僕達『D×D』にも極秘の作戦ということだろう。

僕達はアザゼル先生に絶対の信頼を置いている。

何があっても大丈夫だと、そう思いたいが………。

 

リアス前部長は顎に手をやりながら言う。

 

「胸騒ぎがするわね………。アザゼルのことだから問題ないとは思うのだけど」

 

「とにかく先を急ぐしかありませんわ。まだ戦いは続いているのですから」

 

地平線に蠢く黒い影。

魔獣騒動の再来とも言える超巨大魔獣の数々。

空には巨鳥、大型のドラゴンまでいる。

量産型邪龍とは違うタイプのドラゴンだ。

トライヘキサを停止させても、アポプスを倒しても、敵の兵力は尋常ではない。

聖杯を取り返したため、これ以上増えることはないと思うが………それでも敵の力はあまりにも大きい。

英雄派によってアポプスが倒された今でも激戦は続いていて、雄叫びや轟音が絶えず聞こえてくる。

 

朱乃さんが言う。

 

「ここまでの戦いで味方はかなり疲弊しています。どうにかして、突破しませんと………」

 

「イッセーの元へと行けない、というわけね」

 

リアス前部長もそう続く。

 

その時―――――上空にとてつもない規模で魔法陣が展開される。

そして、災厄のようなレベルの魔法が魔獣の大群目掛けて撃ち込まれた!

鳴り響く轟音!

揺れる大地!

魔法の餌食になった敵の勢力は丸ごと消え去っていた!

 

こんな大規模で攻撃を仕掛けたのは―――――

 

「ここまで数が多いと嫌になるな。やはり、私もイッセーと行くべきだったか?」

 

そう言いながら降りてきたのは龍王の一角であるティアマット――――ティアさんだ。

彼女はイッセー君のエスコート役として彼をここまで連れてきてくれたのだが、別れてからはここの戦線でその力を振るってくれていた。

だが、最強の龍王をもってしても、相手の戦力は尋常ではないようだ。

 

ティアさんが上空を見上げる。

そこでは神姫化した美羽さんとアセムの配下の一人『絵師』ベルによる壮絶な戦いが繰り広げられていた。

美羽さんが繰り出す数々の魔法に対し、ベルは魔法と作り出した魔獣、赤龍帝の複製体を組み合わせて対応している。

現状、美羽さんの方が推しているようには見えるが、ベルは傷を負った様子もなければ、消耗しているような感じでもない。

神の力を得た美羽さんとあそこまで撃ち合えるとは………。

 

四人いる内の一人、『絵師』ベルは現在、美羽さんと戦闘中。

残るのは『武器庫』ヴィーカ、『覗者』ヴァルス、『破軍』ラズル。

どれも強力な力を持った者達だが―――――。

 

「危ないっ! 皆、伏せて!」

 

何かに気づいたリアス前部長が叫んだ。

その声に朱乃さんやロスヴァイセさん達が防御魔法陣を何十にも重ねて展開するが、飛来した何かによって貫かれていく!

 

「そらッ!」

 

最後の防御魔法陣が突破されそうになった時、モーリスさんが間に入り、双剣で飛来物を弾き飛ばしていった。

豪雨のごとく降り注ぐそれらは、モーリスさんの絶技によって僕達に届く前に遮られる。

弾き飛ばされ、地面に突き刺さったそれらは―――――無数の武器。

聖剣、魔剣、聖槍、魔槍と一つ一つが強力な力を持った武器の数々だ。

 

この数、この攻撃は―――――。

 

「いきなりやってくれるな。こいつは釣りだ」

 

そう告げたモーリスさんが剣気による剣撃を飛ばす。

だが、彼の攻撃は空中で真っ二つにされ、目標から反れてしまった。

 

モーリスさんの剣撃を斬っただと………?

そんなことが………。

 

すると、唖然とする僕の耳に女性の声が入ってきた。

 

「ウフフ、どうせ防がれると分かっていたもの。これくらいは挨拶みたいなものでしょう?」

 

僕達の前に人影が現れる。

浅黒い肌に白い長髪を持つ女性。

手には禍々しいオーラを放つ魔槍。

―――――『武器庫』ヴィーカ。

 

あらゆる武器を創造する能力を持つ。

僕が所持する神器『魔剣創造』『聖剣創造』と似た能力ではあるが、創造できる幅の広さ、創造した武器の強大さはレベルが違う。

一度、アリスさんを降したことから、その実力は本物だ。

 

ヴィーカは唇に指を当てて微笑んだ。

 

「こんばんわ、チーム『D×D』の皆さま」

 

妖艶な雰囲気を出しながら、彼女は話しかけてくる。

敵意も闘志も悪意も今は感じられないけど………下手に動けば、剣の雨が降ってくるだろう。

そんな確信が僕達にはあった。

 

「アポプス君も負けちゃったようだし………何より、妹が戦っているから、お姉ちゃんが待機しておくわけにはいかないのよね。だから、ここは私がお相手しましょう」

 

すると、彼女の背後から上空にかけて数千、数万の魔法陣が展開される!

魔法陣からは先程のような武器が出現した!

 

まさか―――――。

 

「簡単にお父様のところに向かわせるわけにはいかないの。向こうはまだまだお楽しみ中のようだしね♪」

 

ヴィーカが指を鳴らす。

刹那、先程の規模を遥かに越える物量で、武器の豪雨が降り注いできた!

無数の武器が味方陣営を襲い、多くの味方を消滅させていく!

助けにいきたいけど、僕達も自分を守るので精一杯な程、ヴィーカの攻撃は激しいものだった!

 

「皆さんッ!」

 

黄金のオーラを放つアーシアさん。

彼女を中心に広がっていく輝きはこの一帯を覆い、味方の盾となった。

黄金のオーラがヴィーカの攻撃を遮り、味方をこの豪雨から守っていく。

 

「あら、やるじゃない。なら―――――」

 

ヴィーカがオーラを高めて、次なる手を使用しようとした。

その時―――――。

 

「やらせると思って?」

 

その声が聞こえたと思うと、天空から大出力の白い雷がヴィーカ目掛けて降ってきた!

地に立つヴィーカを殴り付けるような攻撃!

攻撃の余波で大地が深く抉れていく!

 

空に浮かぶのは神々しい光を放つ神。

白金のオーラを纏った偽りの神―――――。

 

「ウフフ、来ると思っていたわ」

 

「ええ、決着をつけにね」

 

僕達とヴィーカの間に舞い降りた神―――――疑似神格を発動させたアリスさん。

アリスさんはヴィーカと向き合うと真正面から言った。

 

「色々聞こえたけど、あんたがここに来たのは私とのケリをつけるためでしょ?」

 

彼女の問いにヴィーカはニコリと笑んで、

 

「分かってるじゃない、その通りよ。正直、私にとって、この戦いはお父様の願いを叶える以外ではあなたとの決着つけるためのものでもあるの」

 

「そう」

 

ヴィーカの言葉にアリスさんは深く息を吐く。

そして、僕達に言った。

 

「皆、ここは私に任せて先に………イッセーのところに行って」

 

「っ! ダメよ! 私達も―――――」

 

リアス前部長が続きを言おうとするが、それを遮るようにアリスさんは言う。

 

「私もあの女とは決着をつけるつもりで来たの。あの女に勝たない限り、私も先に進めない、そんなところがあるのよ。大丈夫よ、絶対勝つから。絶対追い付いてみせるわ。それに―――――」

 

アリスさんは僕達の方に顔を向けると、笑みを浮かべて言った。

 

「皆の想いがイッセーを強くする。皆が近くにいれば、イッセーは今よりも強くなる。だから、皆があいつの傍にいてくれた方が私も安心できるのよ」

 

すると、アリスさんの隣に美羽さんが降りてくる。

同時に向こう側、ヴィーカの隣にはベルが降り立った。

 

美羽さんは微笑みながら僕達に言った。

 

「ここはアリスさんだけじゃなくて、ボクもいる。心配ないよ。皆と帰るっていう、お兄ちゃんとの約束もあるし」

 

美羽さんとアリスさん―――――夜を司る神と光を司る神のオーラが膨れ上がる。

二人の眼が捉えるのは目の前の敵。

これまで彼女達は何度もぶつかってきた。

だからこそ、アリスさんだけでなく、美羽さんもここで全てを終わらせるつもりなんだ。

 

僕はリアス前部長に言った。

 

「行きましょう、イッセー君のところへ」

 

「………そうね。美羽! アリスさん! 二人とも後で合流するわよ!」

 

「「もちろん!」」

 

僕達は二人にその場を任せ、駆け出した。

 

 

 

 

「ハァァァァァァッ!」

 

「やぁぁぁぁぁっ!」

 

ゼノヴィアとイリナの聖剣コンビが仲間の道を切り開くように突撃していく。

蒼いオーラと黄金のオーラを纏った二人の勢いは疲弊を感じさせず、巨大な魔獣をも撃退していた。

リアス前部長や朱乃さん達も後方から濃密な魔力を大規模に放ち、魔獣や邪龍を滅していく。

僕も紅の龍騎士団を展開して、一つ一つ確実に倒していった。

 

美羽さん、アリスさんと別れてから、僕達はかなりの距離を進んでいる。

それぞれが翼を広げて赤い空を飛翔するのだが………、

 

「………もう一度、飛行魔法かけてくれ。やっぱり難しいな、これ」

 

「それは構いませんが、モーリスはまだ悪魔の翼に慣れてないようですね」

 

そう、モーリスさんは悪魔の翼で飛ぶことに苦戦していた。

浮くこと自体は難なく出来ているけど、スピードを出すとなると難しいらしい。

今も飛べてはいるけど、そのスピードは僕達の中でも遅くて………アーシアさんの半分も出ていない。

 

『門』を潜る前まではリーシャさんの飛行魔法でサポートしてもらっていたんだけど、アリスさんと別れてはからは「この際だから練習する」なんて言って自力で飛ぼうとして………今に至る。

 

リーシャさんは魔法陣を展開して、モーリスさんに飛行魔法をかける。

そうすることで、モーリスさんの飛行が安定する。

 

「あんまり意地を張らなくても良いのですよ? 良い歳なんですから」

 

「リーシャ様の言う通りです。もうすぐ五十なんですから」

 

「やかましい! 俺ァ、こういうのが苦手なんだよ。つーか、何で同時期に悪魔になったおまえらはすんなりマスターしてんだよ?」

 

「「センスの差ですね」」

 

「ふんだ。俺だって、すぐに慣れてやるからな。見てろよ?」

 

アハハハ………モーリスさんのこういうところは初めて見るよ。

いつもは超人というか、人間版超越者というか、『剣聖』の名に恥じない実力を発揮する人なんだけど………。

どうにも苦手な分野もあるらしい。

 

「大体なぁ、おまえら、こっちの世界に来てから順応早すぎないか? 誰か俺にケータイの使い方教えてくれ! 祐斗!」

 

「僕ですか!?」

 

「アプリとか絵文字とか全然分からねーんだよ! あと、小猫! この間、教えてもらったテレビゲームだっけか? あれ、全然クリアできん! また教えてくれ!」

 

「………帰ったら教えますよ」

 

小猫ちゃん、モーリスさんとテレビゲームしてたんだね………。

というより、モーリスさん、こっちの世界に来てから全力で楽しんでませんか?

役職を退いてから、フリーダムになってませんか?

 

やがて、この世界の中心、アセムがいるであろう黒い塔を視認できるところまで来ることができた。

 

「あそこにイッセーがいるのね」

 

リアス前部長の言葉に皆の気がより引き締まる。

 

あそこはアセムの根城。

つまりはそこに向かったイッセー君もいるもいうこと。

イッセー君は強大過ぎる敵と戦っている。

 

その時―――――何か強烈なオーラを感じた!

この波動は………!

 

「出てきやがったな」

 

モーリスさんの視線の先には二人組の男性。

茶髪を後ろで括った長身痩躯の男性と三メートル近くある巨漢。

―――――『覗者』ヴァルスと『破軍』ラズル。

 

出てくるとは思っていたけど、僕達の前に現れるとはね………。

 

ヴァルスは僕達を見上げると、お辞儀した後に口を開く。

 

「よくぞ、ここまで辿り着きました。現在、ここまで辿りついたのは勇者殿を除けば神クラスを含めた僅かな者。そして、あなた方。神々ですら消滅するであろうこの戦場を潜り抜けてきたあなた方に敬意を表します」

 

モーリスさんが問う。

 

「その神々の相手はしなくて良いのか?」

 

「しましたよ。私達と対峙した神は消滅させました。といっても、三柱程度ですが。ここに辿り着いた者の殆どがベルの生み出した魔神と戦闘中でして」

 

「赤龍帝の力で強化したベルが作った魔神だからな。おまえらが相手してきた奴よりかなり強いぜ? ま、そのおかげで俺らが暇してるんだがな」

 

………っ!

神クラスを消滅させただなんて………!

トライヘキサが復活してから既に何柱もの神が消滅させられた。

このまま神々の消滅が続けば、世界の均衡が大きく崩れてしまう………!

 

僕は騎士王の姿になり、剣を構えた。

他のメンバーも魔力を高め、ヴァルス達と対峙する覚悟を決める。

 

ヴァルスは僕達の戦意に挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「良いプレッシャーです。ここまでの戦いで消耗しているのでしょうが、それを感じさせないとは見事。では、ここから先は尋常に―――――」

 

ヴァルスが腰に帯びていた剣を引き抜こうとした―――――その時。

 

 

チャララ~チャーラーラーラーラーチャララ~

デデデーンデデデデデーン

 

 

「もしもし、ヴァルスです」

 

全員がずっこけた!

なんでここで携帯!?

なんで電波通じてるの!?

 

《い、今のは必殺シリーズのBGMですぅ!》

 

闇の獣と化したギャスパー君からの情報!

知ってるよ、有名だもの!

 

ツッコミが止まらない僕だが、電話に出たヴァルスはというと、

 

「あ、店長ですか。こんばんわ、どうしました?」

 

店長!?

この人、働いてるの!?

 

「ええ、はい。………え? いや、まさか、そんな………! そんなはずは! そ、そう………ですか………。申し訳………ありません………」

 

何やら顔色を悪くして慌てはじめた。

それから少しの問答の後、ヴァルスは電話を切り、彼は膝を着いた。

 

そして、天を見上げて―――――。

 

「今日、シフト入ってたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

絶叫し出した!

ヴァルスの叫びにラズルも衝撃を受けたようで、彼の肩を掴んで言った。

 

「う、嘘だろ………? おまえ、今日は休みを入れたって………」

 

「入れましたよ! ですが………入力ミスで………!」

 

「ちゃんと確認しとけよぉぉぉぉぉぉ! あの店長、キレたら怖いんだからよぉぉぉぉぉぉ!」

 

「クソォォォォォォォォ!」

 

悔し涙を浮かべるヴァルスとラズル。

 

その光景に僕達は―――――。

 

「「「どうでも良いわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」」」

 

全力でツッコミを入れた。

 

 

[木場 side out]

 




~あとがきミニエピソード~

アセム達が初めてアグレアスを見たときの反応。
 

アセム「ラピュタは本当にあったんだ!」

ヴァルス「目がぁぁぁ! 目がぁぁぁ!」

ラズル「空から女の子が!」

ヴィーカ「見ろ! 人がゴミのようだ!」

ベル「…………バルス!」




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34話 全てを壊す者




[木場 side]

 

「コホン………まさか、店長からかかってくるとは思いませんでした」

 

ヴァルスが咳払いをした後、苦笑しているけど………。

 

僕達の驚きはそれ以上だよ。

なんでこのタイミングで電話がかかってくるんだろう?

なんで世界の運命をかけた戦いで、アルバイトの話になるんだろう?

 

「は、働いているのね………。私としてはそっちの方が驚きだわ………」

 

リアス前部長が目元をヒクつかせていた。

 

僕もそう思います。

この人達は人間界に溶け込みすぎているような………というより、楽しんでませんか!?

 

ヴァルスが爽やかな顔で言ってきた。

 

「いやぁ、初めはこちらの世界の情報を得るために働き始めたのですけどね」

 

「やってるとな、段々楽しくなってきたんだわ」

 

「安月給ですし、キツい時もある。ですが、得られるものも大きい! 仕事はやりがいが大事なのです! あぁ、労働とは実に素晴らしい!」

 

「「ねー」」

 

なぜか労働について語り始めたよ!

この人達、普段は何をしてるんだ!?

 

「うぅ………アザゼル様にも見習ってほしい」

 

レイナさんが号泣している!

アザゼル先生、あなたはどれだけ彼女に苦労をかけているんですか?

 

すると、ロスヴァイセさんが一歩前に出た。

ロスヴァイセさんはとても興味深そうな表情で、ヴァルスに尋ねた。

 

「ちなみにお仕事は何を?」

 

そこですか!

確かに気になるけど、本当に聞くんですね!

 

皆が注目する中、ロスヴァイセさんの問いにヴァルスは―――――

 

「トン・キホーテの店員、他にもいくつか」

 

「ラーメン屋もやってるぜ」

 

僕達の想像以上に彼らは働いていた。

 

 

 

 

「さて、このまま私達の私生活を話すのも良いのですが、流石にそればかりと言うわけにはいきませんね」

 

そう言ってヴァルスは鞘から剣を引き抜いた。

 

彼の表情は先程の緩んだものから一転、不気味さを感じさせる。

彼と目が合うだけでこちらの全てを見透かされる、そんなことさえ感じてしまう。

いや、実際に見透かされているのだろう。

ヴァルスがアセムから与えられのは見通す能力なのだから。

 

ラズルも拳を合わせて全身からオーラをたぎらせ始めた。

まだ戦っていないのに感じるこの気迫。

アウロス学園の一件では天武状態のイッセー君を苦しめた程の実力。

近接戦闘ではイッセー君と互角かそれ以上と考えても良いだろう。

 

モーリスさんがヴァルスに言う。

 

「俺としては、こっちの世界については知らないことが多いから、兄ちゃん達の暮らしを聞くのもアリなんだがな」

 

「ええ、お酒でも酌み交わしながら色々と語れそうですね」

 

その言葉にモーリスさんは息を吐いた。

 

「この場でこんなことを言ってしまうのは問題なんだろうな。俺はおまえさん達を殺したくはない」

 

―――――っ。

 

モーリスさんの言ったことに僕達だけでなく、敵であるヴァルスとラズルですら目を見開いていた。

 

「ここまでに二度だけ。二度だけだが剣を交えた。そして、全てとは言わないが、おまえ達のことを理解したつもりだ。おまえ達が望むこと、それは―――――」

 

モーリスさんがそこまで言いかけた時、ヴァルスは人差し指を立てて口許に当てた。

 

「剣聖殿、それはここで言わない方が良いのでは? この場において、私達は敵同士。たとえ、互いが望むものが同じでも。それにしても………フフフ、殺したくはないですか。それは私達に勝てると言っているように聞こえますね」

 

「ま、流石に俺一人じゃ、本当の力を解放したおまえ達二人を相手に生き残る自信はないさ。相討ちならなんとかなると思うがな。だから、俺達がおまえ達を倒し、止める」

 

その言葉にラズルが言う。

 

「俺達の内側まで覗いたか。だが、良いのか? 『剣聖』はともかく、後ろの連中では荷が重いと思うぜ?」

 

ラズルが僕達を見てそう言った。

 

僕達の力が神に届くのか………そう言われると厳しいものがある。

確かに僕達は強くなったけど、上には上がいる。

今の実力でどこまで届くのか………。

 

だが、モーリスさんは不敵に笑んだ。

まるで、ラズルが言ったことが可笑しなことであったかのように。

 

「クックックッ………不可能だと思うか? たった十数年しか生きていない若造が、神クラスを降すことなど無理だと思うか? こいつらを甘く見るなよ? こいつらがここに至るまでに歩んできた道は生半可なものじゃない。おまえさん達が降したという緩い環境で過ごしていた神々なんぞよりもよっぽど強いさ。それとも、おまえはこいつらが弱いと思うのか?」

 

「いんや、思わないな。そいつらが強いことはこの場にこうして立っていること自体がその証明だ。それに剣聖のお墨付き。楽しみにしてるぜ」

 

ラズルから発せられるオーラが膨れ上がる。

戦闘意欲に満ちた顔で彼のオーラに触れるだけで悪寒がするレベルだ。

 

ヴァルスも戦意剥き出しの表情で言ってきた。

 

「さて、どうしましょうか。私としては剣聖殿と一対一で斬り合いたいのですが、聖魔剣や聖剣使いの彼女達とも戦ってみたいので………」

 

ヴァルスは手元に魔法陣を展開。

見たことがない魔法陣だが、それらは幾重にも重ねられていた。

魔法陣の輝きが一層強くなり―――――。

 

「なっ………!?」

 

光が病んだ時、誰かが驚愕の声を漏らした。

なぜなら―――――僕達の目の前には二人のヴァルスがいたからだ。

 

二人いる内の片方のヴァルスが言う。

 

「これは以前、北欧の悪神ロキがあなた方と戦う時に用いた切り札の一つと同じもの。禁術を用いて作製した分身体。能力は私とほぼ同じ(・・・・)です。スペックは私よりやや劣りますけど」

 

「準備が良すぎるぜ」

 

「まぁ、作るのに多少命を削りましたがね」

 

モーリスさんの言葉に苦笑するヴァルス。

 

あの襲撃の時、ロキは歴代最高の二天龍―――――赤龍帝のイッセー君と白龍皇ヴァーリを同時に相手取る際、その切り札として自身の分身を先に彼らにぶつけた。

そして、分身体を倒し、最も油断した時、二人に自らの手で深手を与えた。

 

今回のヴァルスもあの時と同じ………いや、使っている分身は同じ構成だろうが、使い方が違う。

 

ヴァルスは自身の胸に手を当てる。

 

「私は剣聖殿と。分身体は聖魔剣と聖剣使いの三人と。いやぁ、ここまでの戦い振りを見ていましたが、お三方の成長は凄まじい!」

 

「オラ、ワクワクすっぞ!」

 

ヴァルス(本人)に続いて分身体がキャラじゃない言葉を発した!

これにはヴァルス(本人)も頭に疑問符を浮かべていて、

 

「おや? もしかしすると、私の部屋にあった漫画を読みましたね?」

 

「ええ、待機時間が暇だったので」

 

本人も緊張感がなければ、分身体も同じということか!

なにも、そんなところまで再現しなくても!

 

と、とにかく、僕とゼノヴィア、イリナの相手はヴァルス(分身体)。

先程、ここまでの戦いを見ていたと言っていたことから、僕達の新たなの手の内は把握されているということだろう。

 

更にヴァルスは自身とほぼ同じと言った。

つまり、それは―――――。

 

「ええ、その通りですよ木場祐斗殿。私は本体とほぼ同じ能力を有しています。つまり、未来視と心を読む能力は持っていますよ」

 

僕の心を呼んだのだろう。

ヴァルス(分身体)がそう言ってきた。

 

僕は彼の言葉に頷いた。

 

「なるほど。僕としては本体と違う点を伺いたいですね」

 

「それは私を倒した後、本体に聞いてください」

 

中々難易度が高いね………。

でも、それはモーリスさんに任せようかな?

 

「ハァァァァァァッ!」

 

「ぜぁぁぁぁぁぁッ!」

 

既にモーリスさんとヴァルス(本人)との戦いは始まっていた。

モーリスさんの双剣とヴァルスの剣が衝突、火花を散らしている。

モーリスさんが剣を振るいながら叫んだ。

 

「祐斗! ゼノヴィア! イリナ! その分身体とやらを倒してみな! もし倒せなかったら修行を百倍にしてやらぁ!」

 

「ええ! 今のあなた達なら倒せるはずです! 期待していますよぉぉぉぉぉぉ!」

 

「あなたは何がしたいんですか!?」

 

なんで、ヴァルスまで僕達を応援してるの!?

本当に何がしたいの!?

あと、モーリスさんが鬼過ぎる!

あの修行を百倍ですか!?

死にますよ!?

 

「木場、イリナ、絶対に勝つぞ。流石の私でもあの百倍は嫌だ」

 

「ええ! 勝つわ!」

 

ゼノヴィアとイリナもこんなことを言い出す!

でも、僕も同じことを考えてしまったよ!

 

僕は聖剣創造を第二階層へと至らせ、紅の龍騎士団を生み出す。

ゼノヴィアは蒼炎のオーラを高めて、長髪状態へ。

イリナは黄金のオーラを放って、浄化の力を纏う。

 

オーラを纏う僕達にヴァルス(分身体)は笑み、剣を引き抜く。

 

「私達も始めましょうか。禁術によって造られた仮初めの存在ですが、私も『覗者』ヴァルスには変わりありません。私を倒すことはあなた方の未来へと繋がるでしょう。―――――倒してみなさい。そして、未来を掴みなさい」

 

睨み合う僕達。

次の瞬間―――――僕達三人とヴァルス(分身体)は同時に飛び出した!

 

まず仕掛けたのは僕だった。

紅の龍騎士を先攻させてヴァルス(分身体)にぶつけていく。

紅の龍騎士に思考はない。

つまり、ヴァルスが持つ心を読む能力は使えない。

 

紅の龍騎士達は連携を組んで剣撃を繰り出していく。

一体が攻撃に回り、一体が防御に回る。

それにより攻撃と防御を同時に行っている。

 

だが、ヴァルス(分身体)は軽々と龍騎士の攻撃を捌き、魔法を纏わせた剣撃で龍騎士を破壊する。

 

「なるほど、まずは作り出した龍騎士に私の技を学ばせようという腹ですか。破壊された龍騎士は私の力を学習、強化した状態で再生される、ですか。慎重ですね」

 

「僕は一度、あなたに破れている。慎重にもなりますよ」

 

再生した龍騎士をも破壊すると、一足跳びでこちらに斬りかかってくる!

上段からの剣を受け止めると、僕とヴァルス(分身体)は剣撃の応酬を繰り広げた。

 

くっ………やはり強い!

モーリスさんに鍛えられ、剣の腕も上がっているはずなんだけどね。

それを余裕で超えてくるとは………!

それに―――――

 

「うんうん、私の剣と撃ち合えるということはあなたの実力は相当上がっていますよ。まぁ、龍騎士によって私の力の情報を得たこともあると思いますが」

 

そう、龍騎士が得た情報は僕にもフィードバックされる。

それにより、僕は相手の実力を剣を交える前に知ることができる。

だけど、ヴァルス(分身体)の力は―――――。

 

「くぅ………ッ!」

 

ヴァルスの斬撃によって、僕は後方に弾き飛ばされてしまう!

一撃が重い……!

 

「あなたは少々、考えすぎですね。私とは相性最悪だ」

 

「分かっていますよ、そんなことは。剣聖にも指摘されましたからね。でも、僕は一人じゃない!」

 

「その通りだ!」

 

上空から聞こえてくる声。

見上げれば、ゼノヴィアが急降下でヴァルス(分身体)へと突撃していた。

 

彼女の剣気で黒く染まったデュランダルとエクスカリバー。

ゼノヴィアは二振りの聖剣をクロスさせて、強烈な斬撃をヴァルス(分身体)に叩き込んだ!

 

ヴァルス(分身体)は横に跳んで、それをかわすが―――――ゼノヴィアによる攻撃の余波がヴァルスを斬り裂いた!

服が破け、肩から鮮血が噴き出す!

 

これにはヴァルス(分身体)も驚愕していて、

 

「余波だけでこれほどとは………! 紙一重で避けるだけではダメだと言うことですか!」

 

「フッ、見たか、私のパワーを!」

 

「しかも、直前まであなたの接近を思考を読むことが出来なかったとは………。あなたは私にとって相性最悪ですね。これが真の脳筋………ッ!」

 

「それは私は何も考えていないというのか!?」

 

笑みから一転、涙目で反撃するゼノヴィア。

 

なんということだ………!

やはり、ゼノヴィアは何も考えてなかったのか………!

 

「やっぱりゼノヴィアは本物の脳筋だったのね! アーメン!」

 

「イリナ! そこでアーメンはやめてくれ!」

 

ヴァルス(分身体)に浄化の力を纏った矢を放つイリナと更に涙目のゼノヴィアだった。

 

 

 

 

僕達三人とモーリスさんの剣士メンバーが戦っている横では他のメンバーとラズルの戦いが幕を開けていた。

 

「ヴァルスのやつめ、剣聖とのサシの勝負とあの剣士三人組との戦いをとことん楽しむつもりだな? 俺も分身体作っときゃよかった………って、俺、魔法使えねーか」

 

ラズルはリアス前部長達を見渡しながら、ため息を吐いた。

今の口ぶりだと、ヴァルスのように分身体を作っていないようだ。

 

数では圧倒的にリアス前部長が有利。

だが………。

 

「イッセーの一撃を受けても倒れない防御力。リーシャがいるとはいえ油断は出来ないわね」

 

滅びの魔力を手元に溜めながらリアス前部長が言った。

 

リーシャさんがライフルビットとシールドビットを全て展開する。

 

「気を付けてください。アグレアスで一度、手合わせしましたが、彼は手の内をまだ隠しています。そして、それは間違いなく私一人では抑えきれないものでしょう」

 

「リーシャがそこまで言うなんてね………」

 

リーシャさんの言葉にリアス前部長達の表情が一層厳しくなる。

 

前衛に闇の獣と化したギャスパー君と白音モードの小猫ちゃん、ワルキュリアさん。

中衛にレイナさんとレイヴェルさん、リーシャさん。

後衛にリアス前部長と朱乃さん、ロスヴァイセさん、そして回復役のアーシアさんだ。

 

彼女達がフォーメーションを組んだのを確認するとラズルは言った。

 

「ヴァルスの奥の手が見られるまでには時間がかかるしなぁ。ここは一つ、おまえ達のド肝を抜きにいってみるか?」

 

次の瞬間――――――ドンッと衝撃が広がり、大地が揺れ始めた!

立っていることがやっとだ!

ラズルを中心に莫大なオーラが広がり、彼を中心に地割れが発生していく!

 

「オオオオオオオォォォォォォォアアアアアアァァァァァァァァァッッ!」

 

ラズルが雄叫びを挙げる。

とてつもない声量だ。

耳を塞いでいるというのに鼓膜が破れそうだ。

 

すると、ラズルの肉体に変化が訪れる。

オーラに包まれた彼の体が徐々に大きくなっていく。

彼の着ていた服が避け、鍛え上げられた肉体が露になる。

そして、露になった肌から赤い体毛が生え、ラズルの全身を覆った。

更に髪が伸び、彼の腰元まで達した。

 

「フー……フー……待たせたな」

 

変化が終わり、ラズルが顔を上げると、彼の目元には赤い隈取りが浮かび上がっていた。

目が開かれ、彼の瞳が戦場を捉えた瞬間―――――。

 

「なに、これ………?」

 

レイナさんは冷や汗を流して、一歩後ずさった。

彼女だけじゃない、ラズルと対峙しているメンバー全員がラズルに呑まれている。

 

なんだ、あれは………。

なんなんだ、この体の震えは………!

 

モーリスさんと斬りあいながら、ヴァルスが言う。

 

「それは純粋な恐怖ですよ、木場祐斗殿。絶対的な強者と相対した時に本能が感じ、沸き上がってくるもの。『破軍』ラズルの真の姿は相手に恐怖を抱かせる。それがどんな相手でも。恐怖の度合いはその人によって大小ありますがね。かのロスウォードの時もそうだったでしょう?」

 

確かにこの感覚は初めてロスウォードと出会った時と似ている。

 

変身を遂げたラズルが口を開く。

 

「『全てを壊す者(オール・ブレイカー)』。気を抜くなよ? ほんの一瞬でも気を抜けば―――――死ぬぜ」

 

次の瞬間、ラズルの姿が消える。

 

僕には彼の動きが見えなかった。

唯一見えていたのはモーリスさんだけで、

 

「避けろ、リーシャ!」

 

その警告が届く前に全ては終わっていた。

僕が見たのは僕達にとって信じられない光景で―――――。

 

 

「あ………」

 

 

リーシャさんの左腕が宙を舞った。

 

 

[木場 side out]

 

 



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35話 獅子王、参上!

シリアスにご注意ください


[リアス side]

       

「リーシャ!」

 

私の悲鳴が周囲に響く。

この場の誰もが目を見開き、その光景に息を呑んだ。

 

―――――リーシャの左腕が宙を舞い、地面に落ちる。

それはあまりに衝撃的な光景だった。

彼女の実力は折り紙つき。

私達もその力を目の当たりにしている。

そんなリーシャが何もできずに腕を吹き飛ばされた………?

 

「ち、治療します! リーシャさん!」

 

アーシアが手元に淡い緑色のオーラを集めて、立ち尽くすリーシャに駆け寄ろうとした。

 

 

しかし―――――。

 

 

「その必要はありませんよ、アーシアさん」

 

その声は上から聞こえてきた。

見上げるとそこには―――――左腕を失ったはずのリーシャが宙に佇み、こちらを見下ろしていた。

しかし、私達の目の前にもリーシャはいる。

こちらはラズルによって左腕を吹き飛ばされたまま。

 

「ど、どういうこと………? リーシャが二人………?」

 

疑問を口にする私だったけど、その答えはすぐに出た。

 

―――――左腕を失ったリーシャの体にヒビが入り、全身に拡散。

彼女の体が砕け散った。

 

「これは………氷?」

 

ロスヴァイセの呟きに上空に佇むリーシャが笑みを浮かべる。

 

「ええ。今そこにいた私はフィーナの力で作り出した氷の分身。ただの人形です。まぁ、モーリスの警告がなければ、本当に私の腕は無くなって、早々に戦線離脱していたでしょうけど」

 

―――――っ!

あの一瞬で氷の分身で身代わりをしていただなんて!

状況判断の速さは流石としか言えないわね………。

それに彼女が契約している妖精、フィーナとの連携も凄まじいの一言ね。

 

リーシャの視線が変身したラズルへと向けられる。

彼女は目を細めて言った。

 

「まさか、切り札の一つをいきなり使うはめになるとは思いませんでした。恐るべきスピードと攻撃力ですね。今のあなたは以前より増して脅威です」

 

「ガハハハ、そりゃ、こっちの台詞だな。あれを避けられるとは思わなかった。だが、同じ技が二度通じるとは思うなよ?」

 

「分かっていますとも。その前にあなたを倒します」

 

銃口がラズルへと向けられたと同時にレーザーが放たれる。

上級悪魔でさえ一撃必殺と成る攻撃が一斉に、何発も敵であるラズルに降りかかる。

アグレアスの時は目を撃ち抜き、肩を貫いた。

一撃で撃ち抜けないのなら、同じポイントに何度もぶつければ良いというリーシャの離れ技によって。

 

しかし、降り注いだ光の雨はラズルに衝突した瞬間に弾けて消え去った。

 

それを見て、リーシャが呟く。

 

「なるほど、防御力も遥かに向上しているようですね。ますます相性最悪です」

 

《ならば、僕が行こう!》

 

リーシャの声に最初に応じたのはギャスパーだった。

闇の巨体で素早くラズルへと詰め、豪腕を振るう。

打ち出した拳が、蹴りがラズルにぶつかる度に轟音が響く。

イッセー仕込みの肉弾戦は相手を徹底的に破壊する。

 

だけど、そんな攻撃を受けてもラズルの体は微動だにしない。

防御もせず、ただギャスパーの攻撃を一方的に受けている。

 

《………っ! 僕の攻撃をまともに受けているのに………!》

 

驚愕するギャスパーは口から闇の塊を放つが、それすらも嬉々として受けている。

 

「いいねぇ、籠った拳だ。大抵の奴ならその一撃で屠れる。だが―――――」

 

ラズルが拳を握り―――――ギャスパー目掛けて繰り出した!

巨大な拳がギャスパーが纏う闇の衣を貫き、あの巨大を地面に叩きつける!

その衝撃で大地にクレーターが咲き、剥がれた地面の塊が浮き上がっていった!

 

「なんて破壊力………!」

 

砂埃がおさまり、見えてきたのは地面に埋もれ、闇の衣が薄れたギャスパー。

 

《ガハッ………》

 

ギャスパーは血の塊を吐き出した。

生身にダメージが達したというの………!

アーシアが即座に回復のオーラを送ったから、ギャスパーの傷は塞がったけど………。

 

「今度はおまえ達だ」

 

ギャスパーをその場に放置したラズルが猛スピードでこちらへ飛んでくる!

あんな強烈な一撃を受ければ、もたない!

 

なんとかして、ラズルの攻撃から逃れようとするが、防御魔法陣で受けたところでガラスのように壊されるのがオチだろう。

そうなると、全力で避けるしか他ない。

しかし、ラズルのスピードはとても振りきれるものじゃない。

 

どうすれば………!

 

その時、私は周囲の異変に気がついた。

見れば周りの空間が揺らいでいて、何か影のようなものが幾つも立ち上っていた。

 

ラズルのターゲットに選んだのは朱乃。

あの豪腕が朱乃を捉え、細い体を砕く―――――ことはなかった。

ラズルの拳が朱乃に当たった瞬間、その空間がぐにゃりと歪んで、ラズルの攻撃は虚しく空を切った。

 

「こいつは………。なるほど、そういうことかい」

 

ラズルが周囲を見渡しどこか納得したように頷いた。

 

彼の周囲にあったのは何十、何百という私達の姿。

分身だ。

私や朱乃が何かをしたわけじゃない。

 

リーシャが言う。

 

「蜃気楼。一帯の空気を調整して作り出した分身です。サリィの力があれば、これぐらいは容易いこと。更に小猫さんの仙術………いえ、この場合、錬環勁気功の範疇なのでしょうね」

 

「イッセー先輩に教えてもらった技と姉様に教えてもらったことを自分なりにミックスしました。分身一体一体が気配を持っているので、識別は困難です」

 

そう、これはリーシャと小猫の合わせ技で作り出した気配を有する分身。

あの修行空間で得た切り札の一つで、アセム眷属を相手取ることを想定して編み出した技。

 

だけど、この状況でラズルは不敵に笑んで見せた。

 

「確かに本物を見分けるのは難しいが、そんなもん関係ねぇな!」

 

ラズルが地面を殴り付けると、まるで大地震が起きたかのように大地が激しく揺れた。

その余波でリーシャと小猫が作り出した分身まで消えてしまう。

 

「無茶苦茶だわ………!」

 

私達は冷や汗を流しながらも、連携を取って攻撃を仕掛ける。

だけど、その全てをラズルは嬉々として受け、無傷で歩を進めてくる。

 

白音モードの小猫が飛びだし、自身の回りに火車を幾つも展開する。

放った火車が弧を描いて迫り、ラズルを襲う。

だが、その火車すらもラズルは正面から受け止めてしまう。

 

その光景に小猫が驚愕の声を漏らした。

 

「そんな………! 浄化の力が効かないなんて………」

 

《動きを止めますっ!》

 

回復したギャスパーの瞳が赤く輝き、ラズルの動きを停止させようとする。

しかし――――それすらもラズルは破って見せた。

 

ラズルは首を回しながら言う。

 

「その力は俺には通じない。なぜだか分かるか? それだけ、力の差があるってことだ」

 

それならばと、小猫は拳に気を込める。

外部からの攻撃が効かないのなら、内側から破壊しようというのだ。

 

「まぁ、そうくるよな」

 

上から振り下ろされる豪腕が小猫へと迫る―――――が、その拳は小猫に届く直前に止まった。

見れば、ラズルの腕に鎖が巻かれ、腕の内側には焼けた跡がある。

鎖を辿った先にいるのはワルキュリア、ラズルを挟んで反対側にはリーシャ。

二人の連携でラズルの攻撃を止めたのだろう。

 

そこへ小猫の気を纏った掌底が放たれる。

腹へと撃ち込まれた気がラズルの動きを僅かに止める。

 

ラズルの動きが止まった瞬間、私は滅びの魔力を、朱乃が雷光を、レイナが光の槍を、ロスヴァイセが魔法のフルバーストを、レイヴェルがフェニックスを模した業火を放った。

加えて、リーシャによる一斉射撃。

怒濤の一斉攻撃がラズルを包み込んだ。

 

引き金を引きながらリーシャが叫ぶ。

 

「止めてはいけません! この程度で倒れる相手ではありませんから!」

 

「分かっているわ!」

 

私は手元に滅びの魔力を圧縮に圧縮を重ね、魔力に変化を加える。

皆が攻撃の手を止めない中で私は修行で得た新たな必殺技を作り出す!

 

その技が完成した時、私はリーシャに叫んだ。

 

「いけるわ!」

 

「了解です!」

 

その瞬間、リーシャの周囲で飛んでいたライフルビットとシールドビットが陣形を組始める。

二十八に及ぶビットがリーシャの正面に配置され―――――。

 

「リアスさん! 私達と一緒に! 双極消滅(ダブル・デリート)ッッ!」

 

「皆、伏せて! 滅魔改・滅殺の紅魔星(ルイン・イクステンション・スター)ッッ!」

 

リーシャから放たれる全てを消滅させる光の奔流と私が投げた滅殺の魔星。

性質の異なる滅びがラズルを呑み込んでいった―――――。

 

 

 

 

滅びの嵐が巻き起こっていた。

私の技とリーシャの技が混ざり合い、絶対ともいえる力がこの一帯を破壊し尽くしている。

それは時間が経過した今でもおさまることなく、永遠と破壊と滅びを繰り返していく。

 

その光景を眺めながら、リーシャは私の横に降りてきた。

私はリーシャに問う。

 

「やったと思う?」

 

「どうでしょうね。本来なら抗うことが出来ない力を重ねがけしていますが………」

 

「倒しきれていない可能性もあるってことね。それが本当なら嫌になるわ」

 

未だに渦巻く滅びの光。

あの中では幾千、幾億もの滅びの刃がラズルを斬り裂き、その身を消滅へと導いているだろう。

出来れば、このまま………。

 

「………っ! やはり、ダメですか………」

 

途端にリーシャが厳しい表情で光の中を睨んだ。

 

次の瞬間―――――全てを滅ぼすまで消えないはずの光は内側から破壊され、かき消されてしまった。

それと同時に尋常ではないプレッシャーが私達を襲う。

 

「しっかりしていなければ、気を失ってしまう………!」

 

地面が擦れる音が聞こえ、それは徐々にこちらに近づいてくる。

現れたのは悠然と歩いてくるラズル。

所々から血が流れているから、全くダメージがない訳ではないのでしょう。

だけど、あんな僅かな傷しか与えることが出来なかっただなんて………!

 

「ガハハハ! 今のは中々だったぜ? この姿になってなかったら危なかったかもしれねぇな」

 

豪快に笑うラズル。

彼は笑いながらこちらに手を突き出し、

 

「次は俺の番だな」

 

その言葉と同時に私達は何かに掴まった。

自分の意思とは無関係に体がラズルの方へと近づいていく!

 

「引き寄せる力ね………! それなら!」

 

アグレアス戦でリーシャがやったように私達は連続で攻撃を放った。

引き寄せる力は時として諸刃の剣となる。

引力で勢いを得た攻撃はラズルへとぶつかり、爆発するが………。

 

ラズルには全く堪えている様子がなかった。

 

「悪いが今のおまえ達の攻撃じゃ、俺には届かねぇな。せめて、さっきくらいのをしてもらわねぇとな!」

 

ラズルが合わせた掌にエネルギーが集まっていく。

それは異質なほど濃密で―――――。

 

「―――――吹っ飛べ」

 

ラズルがそう告げた瞬間、それは弾けた。

引き寄せる力がいきなり逆転、私達を塵紙のように吹き飛ばし、地面に次々と叩きつけていく。

私も、朱乃も、ラズルと対峙していた皆が今の一撃だけでボロボロになってしまっていた。

 

叩きつけられた衝撃で息が………っ。

恐らく、骨にヒビが入っている。

 

「こんなことで………! カハッ」

 

私は耐えきれず血の塊を吐き出した。

手足が痺れて力が入らない。

リーシャですらも今の衝撃波で深いダメージを負ったようで、立つことがやっとという雰囲気だ。

 

「皆!」

 

ヴァルスと対峙しているゼノヴィアがこちらにかけつけようとするが、ヴァルスがそれをはばむ。

 

「あなたの相手は私ですよ?」

 

「邪魔だ! そこをどけぇ!」

 

祐斗、ゼノヴィア、イリナの三人がかりでヴァルスの分身体に挑んでいるけど、こちらも戦況はあまり良いとは言えない。

三人は全身に傷を負い、肩で息をしているのに対してヴァルスの分身体はそこまでの傷が見えない。

三人がかりでもまだヴァルスが推している。

 

「リアスお姉さま! 皆さん!」

 

禁手となったアーシアが黄金のオーラを広げて私達の回復を急ぐ。

そのお陰で動けるようにはなったけれど、危機的な状況は変わらない。

 

ラズルは私達を見下ろして告げる。

 

「退きな。おまえ達と俺とでは力の差がありすぎて勝負にならねぇ。たとえ、赤瞳の狙撃手だろうが、あんたの攻撃力じゃあ、今の俺を倒すのは無理だ」

 

「悔しいですが、あなたの言う通りです。先程の攻撃をまともに受けて倒れないのなら、私達にはあなたの防御力を上回る手がありません。ですが―――――」

 

回復が終わり、立ち上がるリーシャ。

そんな彼女も至るところが傷だらけ。

彼女の周囲には破壊されたライフルビットとシールドビットの数々。

残っているのは手持ちの魔装銃が一丁だけ。

 

それでも、彼女の瞳にはまだ火が灯っていた。

 

「退くわけにはいかないのです」

 

「あんたはもっと頭が良いと思ったんだがな。その判断は間違ってるぜ?」

 

「ええ、分かっていますとも。本当ならここで退き、体勢を整えるのが正しいのでしょう。ですが、私達にはもう後がない。ここで退けば、そこで全てが終わってしまう」

 

リーシャは魔装銃を構えると、その銃口をラズルへと向けた。

 

「この戦い、負ければそれまで。私達は未来を掴むために、あなたに勝ちます」

 

その通りだわ。

私も、倒れてばかりではいられない。

必ず勝って、あの家に帰ると約束した。

皆と一緒に誓った。

 

だから………!

 

痺れる体に鞭打ち、立ち上がった私は持てる全てを吐き出すように叫んだ。

 

「どれだけボロボロになろうとも! どれだけ可能性がなくとも! 私達は必ずあなたを吹き飛ばしてあげる!」

 

私は全身から滅びの魔力を滲ませた。

私に続くように眷属の皆も体からオーラを発し、膨らませていく。

 

そんな私達を見て、ラズルはため息を吐いた。

 

「やれやれ………既に見えている勝負。ボロボロの相手を殴るのは嫌なんだがな。だが、その気概に応じなければ、おまえ達の誇りを、想いを踏みにじることになる………か。しょうがねぇ………」

 

ラズルのオーラが一段上がる!

彼から放たれる赤熱のオーラは天を穿ち、地を割る!

どれだけ力が高まると言うの………!?

 

「本気も本気だ。恨むなとは言わねぇ」

 

刹那、ラズルの姿が消え―――――私の前に現れた。

 

「リアス! 逃げて!」

 

朱乃の声が耳に届く。

だけど、私の体は動いてくれなくて―――――。

 

「終わりだ、紅髪の姉ちゃん。あんたを止めれば、少なくともあんたの眷属は止まってくれるだろう?」

 

ラズルの巨腕が振り下ろされる―――――。

 

 

 

「悪いが、俺の親類なのだ。手を出してもらっては困るな」

 

 

 

その声が耳に入った瞬間、ラズルの巨体が横合いから飛んできたそれによって吹き飛ばされた。

ラズルは空中で一回転して、難なく着地するが、自分を吹き飛ばした者の登場に笑みを浮かべた。

 

「ほぉ………ここでおまえさんが来るのかい」

 

ラズルの視線の先に立つのは黄金の獅子を纏った男性。

私も彼の登場には驚きを隠せなくて―――――。

 

「サイラオーグ………来てくれたのね」

 

バアル眷属が駆けつけてくれたのだった。

 

 

[リアス side out]




~予告~

世界滅亡まで残り僅か。
神をも退ける圧倒的な理不尽によって、世界は蹂躙されていった。
人々は抗う術を失い、彼らを絶望が支配する。
誰もそれには敵わない。
何人たりともそれを退けることは出来ない。



だが、それでも、立ち上がる者はいる。



世界の危機に彼―――――否、彼女は立ち上がった。


ラブリーな衣装を纏い、拳で敵を打ち砕くその姿はまさに漢の娘。
弱き者を守るため、漢の娘は激戦に身を投じた。

全ては彼女に委ねられた。
彼女は世界の命運をかけて、その拳を振るう――――。


「悪い人はミルたんが許さないにょ!」



『ハイスクールD×D 異世界帰りのミルたん』近日公開




―――――君はまだ本当の物理戦士(まほうしょうじょ)を知らない。



※ウソ予告です(笑)


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36話 破壊の体現者

おまたせしました!
サイラオーグVSラズルです!


[三人称 side]

 

「サイラオーグ………来てくれたのね」

 

リアスがそう言うとサイラオーグはこちらに背中を向けたまま答えた。

 

「ああ、俺達も近くまで来ていたのだが、こちらから尋常ではない力の波動を感じてな。気になって来てみたら、おまえ達が戦っていたのだ」

 

リアス達のチームが人間界、日本側から攻撃に回る部隊なのに対してサイラオーグは冥界から攻撃に出る部隊だった。

もし、アセムの言う通り、この世界の規模が地球の三分の一だとするなら、同じ場所を目指していたとしても、サイラオーグが駆け付けてくれたのは奇跡に近いだろう。

 

「ありがとう、サイラオーグ。助かったわ」

 

「礼を言うのは早いぞ、リアス。まだ、何一つ片付いていないのだからな」

 

そう言うと、サイラオーグの視線はラズルへと向けられる。

赤い体毛に身を包み、見る者全てを畏怖させるその姿。

外見だけでなく、実力も変身する前とは別次元。

リーシャや闇の獣と化したギャスパーの攻撃でさえ有効打にはならない。

一撃一撃が必殺の威力を持ち、防御力も桁が違う。

更にはスピードもあるときている。

 

リアスは改めて身構えるとサイラオーグに言った。

 

「気を付けて。彼の強さは異常よ」

 

「だろうな。こうして向かい合っているだけで、気圧されそうになる。こんな感覚は初めてだ」

 

リアスが状況を打破する術を思案していると、ラズルは興味深げにサイラオーグに視線を向けていた。

殴り飛ばされた頬を指で擦りながらラズルが言う。

 

「こいつは予想外の援軍だな。ってか、タイミングが良すぎるぜ。ヒーローは遅れて現れるってか?」

 

「悪いが俺はヒーローではない。それは兵藤一誠の役だ」

 

「まぁ、勇者殿はな。………おまえさんのことは知ってるぜ、サイラオーグ・バアル。大王次期当主、そしてバアル家特有の滅びを持たずに産まれてきた悪魔、か。クククク………良くもまぁ、他の上級悪魔共はおまえを蔑めたものだな。今の俺を殴り飛ばすなんて芸当はそう出来るもんじゃねぇ」

 

ラズルのオーラが更に昂っていく。

サイラオーグの登場に心から歓喜しているようだ。

 

「俺もおまえのことは知っている。兵藤一誠が押し負ける程の実力………相手にとって不足はない!」

 

サイラオーグは拳を握りしめると、彼の眷属達に告げた。

 

「クイーシャ達にはこの一帯を飛び交う邪龍共の始末を任せる。あれも数が面倒だ」

 

『はっ!』

 

主の命を受けた眷属達は『女王』を筆頭に邪龍対峙へと向かっていく。

彼らもあのレーティングゲームからかなり力を伸ばしているようで、空を埋め尽くす邪龍を容易に屠って見せていた。

 

眷属に続き、サイラオーグは私に視線を向けてきた。

 

「リアス、おまえ達はダメージが大きい。ここは俺が受け持つ。その間に回復させるんだ」

 

「ええ………ごめんなさい、サイラオーグ」

 

アーシアの回復を受けたとはいえ、リアス達はまだ全身が痺れている。

魔力も上手く練れない状態だ。

今、サイラオーグと一緒に戦っても、彼の足を引っ張るだけになってしまうだろう。

 

「気にするな。それに、この手の相手はおまえ達では相性が悪い」

 

リアスに微笑みを見せた後、サイラオーグは一歩を踏み出した。

彼の気迫にラズルは口の端を吊り上げた。

 

「心地良い力の波動だ! やっぱ、戦いは男同士の殴り合いに限るよな!」

 

そう言うと、ラズルは地を蹴って飛び出してくる。

蹴られた場所が陥没し、見ただけで異常すぎる脚力が伝わってくる。

 

サイラオーグは落ち着いた所作で構えると、一度、目を閉じて―――――開いた。

一誠達と同じ次元『領域(ゾーン)』に入ったのだ。

領域に入ったサイラオーグは相手の攻撃の軌道が見えているのか、正確に避けて、自身も反撃の拳を繰り出していく。

一切の無駄なく、相手に拳を届かせることが出来ているのは彼が幼い頃より研鑽を積み重ねてきたからだ。

 

闘気が籠められたあの拳は歴代最高と称される赤龍帝すらも追い詰める。

 

だけど………、

 

「ガハハハハッ! 重い! 重いじゃねぇか、おい! ここまで真っ直ぐくるのは勇者殿以来か!」

 

「生憎、俺も兵藤一誠もそれしか知らないのでな! 鍛えた拳で相手を破壊する! それだけだ!」

 

「それが良いんだろうが!」

 

サイラオーグの拳を真正面から受けているというのに、ラズルは平気な顔をしていた。

いや、むしろ、攻撃の勢いが増しているようにも見える。

リアス達と戦っていた時よりも何段階もギアを上げているのだ。

 

ラズルの正拳を腕をクロスさせて防ぐサイラオーグ。

だが、今の攻撃で腕の鎧は弾け、サイラオーグも後方へと吹き飛ばされてしまう。

ラズルは後ろへと下がったサイラオーグへ掌を向けると―――――その腕をグンッと引いた。

 

それと同時にサイラオーグの体が浮かび、ラズルへと引き寄せられていく。

 

「これがおまえの能力か!」

 

「そういうこった!」

 

引き寄せられたサイラオーグの肉体がラズルの拳に打ち抜かれる。

拳がサイラオーグの腹部に当たった瞬間、一帯を揺るがす程の衝撃が走った。

獅子の鎧を砕き、生身に突き刺さった拳はサイラオーグの肉体すらも容易に貫き―――――。

 

「ガハッ!」

 

大量の血反吐を吐き出すサイラオーグ。

今の一撃は鍛えぬかれた体でも耐えることが出来なかったようで、サイラオーグはその場に膝を着いた。

 

「あのサイラオーグを一撃で………!」

 

驚愕するリアス。

サイラオーグも想像以上の威力に感嘆の声を漏らした。

 

「聞いていた以上の攻撃だ………。まさか、ここまでとはな………! だが!」

 

屈んだ体勢から放たれる一撃。

しかし、その一撃はラズルの大きな掌によって受け止められ、勢いを完全に殺されてしまう。

 

ラズルが言う。

 

「今の攻撃喰らって、意識を保ってるおまえに驚きだぜ。タフ過ぎるにも程があるだろ?」

 

「それはこちらの台詞だな。レグルス」

 

『承知』

 

サイラオーグは眷属の獅子に鎧の破壊された部位を修復させた。

二人は一度距離を取って、戦いを仕切り直すが………。

 

「オラオラァッ!」

 

「ぬぅぅぅぅッ!」

 

二人の拳が幾度もぶつかる度、サイラオーグの鎧は爆ぜ、体から鮮血が飛ぶ。

何十、何百と拳を交える中でサイラオーグは確実に推されていた。

 

そして………、

 

「ラァッ!」

 

「ッ!?」

 

崩れた防御を突破したラズルの一撃が再びサイラオーグを襲った。

サイラオーグの体がくの字に曲がり、地面に叩きつけられる!

 

「サイラオーグ!」

 

リアスが手を突きだし、魔力を放出しようとするが、サイラオーグがそれを制止した。

 

「来るな、リアス! まだ回復しきっていない状態ではこいつには通じん! 今は回復に専念しろ!」

 

「でも………! あなたが………!」

 

リアスもサイラオーグの言うことは理解している。 

今、出たところで、相手にすらならないことぐらい、分かっている。

 

(それでも、サイラオーグが傷ついていく姿をただ見ているだけだなんて………!)

 

そんなリアスの心情を察してか、サイラオーグは口から流れる血を拭いながら笑みを浮かべた。

 

「案ずるな、リアス。俺はまだ戦える。ここで倒れては、ここで止まるわけにはいかんのだ」

 

ラズルがサイラオーグに問う。

 

「まだやるか?」

 

「当然だ。おまえを倒すまで俺は倒れん」

 

「クックックッ、やっぱ似てるよ、おまえと勇者殿はな。―――――いいぜ、来な。まだ先があるんだろう? 待ってやる」

 

不敵に笑むラズルはその場で腕を組んだ。

ラズルの行動にサイラオーグは可笑しそうに笑う。

 

「話には聞いていたが、確かに可笑しな男だ。殺し合いをしている相手を待つというのか」

 

「俺は強い奴と戦うことが好きなのさ。熱く、激しく、魂が燃え尽きるまで殴り合う。これが俺が好きな戦いだ。さぁ、来いよ、サイラオーグ・バアルッ! おまえの全力を! おまえが持てる全てを俺にぶつけてこい!」

 

獰猛な笑みを浮かべるラズル。

大きく開かれた口からは犬歯が覗かせている。

 

サイラオーグは大きく息を吸い、叫んだ。

 

「行くぞ、我が分身たる獅子レグルスよッ!」

 

『ハッ! 此の身が滅しようとも御身と共にッ!』

 

主の声に呼応して、獅子の双眸が輝きを放ち始める。

サイラオーグの闘気が更に高まり、一帯を黄金色を帯びた紫色の闘気が包みこんでいった。

 

眩い輝きから目を庇いながらリーシャが言う。

 

「この覇気、これはイッセーよりも………!」

 

そして、サイラオーグと胸の獅子が力ある言葉を紡ぐ―――――。

 

「此の身、此の魂魄が幾千と千尋に堕ちようとも!」

 

『我と我が王は、此の身、此の魂魄が尽きるまで幾万と王道を駆け上がるッ!』

 

獅子の鎧が雄々しく攻撃的なフォルムに変化していく。

 

「唸れ! 誇れ! 屠れ! そして、輝けッ!」

 

『此の身が魔なる獣であれどッ!』

 

「我が拳に宿れ、光輝の王威よッ!」

 

周囲一帯が闘気の嵐で吹き飛び、サイラオーグの足場は深く抉れ、巨大なクレーターと化していった。

大地が、空が、サイラオーグの闘気に激しく震えていく。

近くにいる者達は立つことすらできず、その場に伏せなければいけないほどだった。

 

そして―――――サイラオーグと獅子が最後の一節を読み上げる。

 

「『覇獣(ブレイクダウン・ザ・ビースト)解放(クライムオーバー)ァァァァアアアアアアッ!』」

 

極大の闘気が弾け、そこに現れたのは尋常ではない闘気を放つ、紫金の鎧を纏ったサイラオーグ。

 

「『覇獣』の存在は聞いていたけれど、ここまでだなんて………! いえ………恐らく、サイラオーグの実力があったからこそのこの力なのでしょうけど、これはあまりに桁違いな………」

 

だが、サイラオーグは―――――口から血を流していた。

『覇獣』はそれだけ体に負担のかかる変化だということ。

あの力は戦う前からサイラオーグの体を蝕んでいるのだ。

 

歯を食いしばりながら、サイラオーグが言う。

 

獅子王の(レグルス・レイ・レザー)紫金剛皮(・レックス・インペリアル・パーピュア)・覇獣式。極限まで己をいじめ抜いた先で見つけた破壊の具象化。俺の命を糧に一時と間、爆発的に力を高める変化だ。これが俺の全てッ! この力を以て、おまえに滅びを送ろうッ!」

 

音もなくサイラオーグがその場から消える。

今いた場所が大きく抉れるほどの初動。

次にサイラオーグが現れたのはラズルの懐、二人の視線が交錯した時にはサイラオーグの拳は振るわれていた。

黄金色を帯びた紫の闘気を乗せた拳が吸い込まれるようにラズルの鳩尾へと打ち込まれる。

 

ドンッという衝撃が一帯を揺らす。

拳の勢いはラズルの体を通り抜けて、後方の大地を深く割った。

その距離は目では確認できないほどで――――――。

 

その一撃に初めてラズルは体をよろめかせた。

彼の口からは血の塊が吐き出される。

リアス達があれだけ攻撃してびくともしなかったラズルが、サイラオーグの一撃に深いダメージを受けたのだ。

 

「おいおい、マジか………!」

 

腹部を押さえながら、驚愕の声を漏らすラズル。

サイラオーグは拳を構えて吼えた。

 

「俺の拳はただ壊す。なんであろうと、ただ壊すッ! 錬成のみが生み出せる俺の一撃をとくと味わうがいい!」

 

再び高速で飛び出していくサイラオーグ。

 

確かにダメージを与えた。

だが、ラズルもまた怪物級の強さを誇る。

ラズルも再び前に飛び出していった。

 

「クックックッ………ハーハッハッハッハッハッ!! 最高だ! この一撃! この破壊! ああ、感じるぜ! おまえが血反吐を吐き、それでも追い求めたものがここにある! その拳で、この俺を超えてみせろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

二人の拳が、蹴りが、互いの肉体を破壊していく。

サイラオーグの真っ直ぐな戦い方に応じてなのか、ラズルは能力を一切使わずに、己の拳だけで戦っている。

 

ただ高めに高めただけの物理攻撃による戦い。

真正面から向かい、真正面から叩きつけ、真正面から蹴り抜く。

どこまでも真っ直ぐな彼らの攻防は、攻撃の余波だけで破壊の限りを尽くし、リアス達がいる場所ですら危うくなっている程だ。

 

「皆! あの二人から離れて! 巻き込まれるわ!」

 

リアスは回復中の朱乃達だけでなく、空で戦っているバアル眷属に命じて、その場から退避させる。

破壊と破壊の衝突は空にいた邪龍をも巻き込み、地に落としていた。

もし、あのままあの場所にいたら、確実に巻き込まれていただろう。

 

「オオォォアァァァァァァァァッ!」

 

「ラァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

雄叫びをあげる二人の戦いは更に激しさを増していく。

サイラオーグの闘気は拳を打ち出す度に膨れ上がり、止まることを知らない。

既に魔王クラスですら、叩き伏せる力を発揮している。

 

そんなサイラオーグの拳を真正面から受けてもラズルは倒れる気配を見せない。

全身から燃え盛る炎のようなオーラを発して、力を高めている。

 

そう、サイラオーグが闘気を高めた分だけ、ラズルもそのオーラを高めていっているのだ。

 

サイラオーグはラズルの攻撃をギリギリのところで避けているが、紙一重の回避では完全に回避できているとは言えない。

ラズルの一撃は余波だけで『覇獣』の鎧を破壊し、生身の部分にまで傷を負わせている。

 

だが、サイラオーグとて決して負けている訳ではない。

次から次へと拳を乱打し、ラズルの顔に、腕に、腹にめり込ませている。

鋭く、濃密な闘気はラズルの強靭な皮膚を裂き、ダメージを与えているのだ。

 

「こいつならどうだぁぁぁぁぁぁッ!」

 

ラズルの巨体から振り下ろされた豪腕が獅子の鎧を砕き、圧倒的過ぎる力によってサイラオーグを地面に叩きつける。

サイラオーグは鎧の各部が壊れ、既にボロボロ。

『覇獣』による影響もあり、外だけでなく内側も限界に近い。

それなのにサイラオーグは立ち上がった。

蓄積されたダメージで震える体に鞭を打ち、眼前の敵を見据えた。

 

対するラズルは『覇獣』を解放したサイラオーグの攻撃で全身に深いダメージを負っている。

だが、ラズルの方が優勢なのは周りから見ても明らかだった。

 

ラズルは鼻血を拭いながらサイラオーグに言う。

 

「おまえ、それ以上やったら死ぬぜ? なにがおまえをそこまでさせる? 何のために命をかける?」

 

サイラオーグに問うラズル。

 

サイラオーグは途切れ途切れで言葉を紡ぎだした。

 

「俺にも守りたいものの………一つや二つはある。俺自身の夢、俺に着いてきてくれた眷属、俺の背中を押してくれた母。そして………夢を見る冥界の子供達」

 

そこまで言った後、サイラオーグは血反吐を吐き出した。

内臓もいくつか潰れている。

骨も何本かは砕けている。

 

それでも、彼の目から灯は消えない。

ギラギラと輝かせ、闘志を溢れさせていて―――――

 

「俺は負けん! 負けられんのだ! ここでおまえを打ち倒し、冥界を守る! おまえが、おまえ達がいかに強くとも、俺はそれを超える!」

 

どこにそんな力が残っているのだろうか。

サイラオーグは全身から莫大な闘気を放ち始めた。

それはこれまでの戦いに無いほど、強力で強大。

再び『領域(ゾーン)』に入り、サイラオーグは構えをとった。

 

ラズルが口を開く。

その声音には畏怖と敬意が籠められていて、

 

「凄い奴だよ、おまえは。己の身一つで、この俺にここまで食らいついてくるなんてな………」

 

そこまで言うとラズルはサイラオーグの前に立ち、構えをとった。

そして、高らかに叫んだ。

 

「我が名はラズル! 父アセムより『破軍』の称号を与えられし者なり! 我が好敵手サイラオーグ・バアルよ! 我らはどちらも破壊を得意とする者! どちらが真の破壊か、その命が燃え尽きるまで存分に比べようではないかッ!」

 

「望むところだッ!」

 

超至近距離からの肉弾戦―――――。

足で大地を踏みしめ、自慢の拳でただ殴り合う。

避けることはしない。

己の意識が途切れるまで、相手の灯が消えるまで、殴り続ける。

 

その光景に朱乃が口を開いた。

 

「リアス、これは………」

 

「ええ。―――――あの戦いの再現ね」

 

リアス率いるグレモリー眷属とサイラオーグ率いるバアル眷属のレーティングゲーム。

あの戦いの最後に一誠とサイラオーグが見せた漢の戦い。

あの光景がほぼそのまま目の前で繰り広げられていた。

あの時、サイラオーグは不利な状況から一誠を追い込んだ。

歴代最高の赤龍帝を、魔王クラスと称されるあの男を、鍛え抜かれた拳と勝利への執念であと一歩のところまで迫ったのだ。

 

そして、今も―――――。

 

「ガッ………! ぬぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁ!」

 

サイラオーグの拳がラズルにめり込み、ラズルが苦悶の声をあげた。

 

サイラオーグの命をかけた拳は確実にラズルに届いている。

鎧の大半が壊れてしまった今、サイラオーグが限界なのは明らか。

だが、それでも、サイラオーグの拳はあのラズルに届いている。

サイラオーグの一撃一撃にラズルの肉体が爆ぜ、真っ赤な血が足元に滴り落ちていた。

 

肩を上下に揺らしながら、ラズルは苦笑する。

 

「はっ、はっ、はっ………ったく、どこにこんな力があるんだか」

 

「言ったであろう? この俺の命を糧にしていると。俺は、俺の命に変えても、おまえに滅びを与えよう………!」

 

刹那、サイラオーグが纏う闘気に変化が訪れた。

オーラは獅子の形となり、彼の体を包み込んだ時―――――。

 

(今のは目の錯覚………? でも―――――)

 

もしかしたら、目の錯覚なのかもしれない。

サイラオーグの突き出す拳に誰かの手が添えられていたような気がした。

その手は見覚えのある女性のもので―――――。

 

サイラオーグがフッと笑んだ。

 

「俺はおまえと戦えたことを誇りに思う。おまえは敵だ。世界を、冥界を脅かす存在だ。だが、こうして拳を交えることができたことは嬉しく思う。おまえのおかげで、俺はまだまだ先に進めるようだ」

 

サイラオーグの右腕に黄金のオーラが集まっていく。

先程までの危険な雰囲気は感じない。

むしろ、温かさすら感じるもので―――――。

 

殆どが砕け散った鎧の中、残っている胸の獅子が言った。

その声音はどこか誇らしく、歓喜に満ち溢れていた。

 

『我が主よ、我が王よ。貴方は限界を超えられた。貴方の高潔な魂は更なる高みへ―――――』

 

「我が分身よ、我が獅子よ。共に駆け上がろうではないか。この好敵手を超えるために―――――」

 

黄金に輝く拳がゆっくり引かれる。

そして―――――。

 

「―――――終わりにしよう」

 

サイラオーグの拳がラズルの肉体を打ち砕いた―――――。

 

 

[三人称 side out]

 




~あとがきストーリー~


サイラオーグ「兵藤一誠、おまえに相談があるのだが」

イッセー「相談? 珍しいですね。どうしたんですか?」

サイラオーグ「うむ。実はな………あのレーティングゲームの後、コリアナが何かに目覚めたようでな………。その件で――――」

イッセー「すいません! すいません! 本当にすいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


~あとがきミニストーリー 終~


サイラオーグさんでシリアスブレイクッ!


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37話 ヴァルス、覚醒

まだまだ続く激戦!


[三人称 side]

 

「見事………ッ!」

 

自身に打ち込まれた拳に笑みを浮かべるラズルはゴブッと口から血の塊を吐き出した。

神々しく輝くサイラオーグの拳はラズルの中心を捉え、彼の身を外側からも内側からも破壊したのだ。

 

「ここまで、やるとは………正直思ってなかったぜ………。ハハハ………俺の、負けだ」

 

ラズルの全身から赤い煙が上がると、彼の変身が解け、元の姿へと戻っていく。

赤い体毛が消えた後、現れたのは体の至るところに深い傷を負った肉体。

それはサイラオーグの攻撃だけでなく、リアス達の攻撃が積み重なって出来たものだ。

 

サイラオーグがゆっくり拳を引き、ラズルと向かい合う。

それでも、ラズルは倒れようとしなかった。

 

サイラオーグが問う。

 

「もう死が近いのだろう? なぜ、倒れない?」

 

ラズルがもう長くはないのは誰の目からも明らかだった。

あの獣のような覇気が今の彼からは微塵も感じられない。

それでも、ラズルは倒れなかった。

 

意識が飛びそうになる中、ラズルは苦笑を浮かべた。

 

「こいつは………俺の戦士としての、意地ってやつだ。死ぬときは立ったまま死んでやるってな………。誰が相手だろうと、膝は着かねぇ。倒れてなるものか………。おまえもそんな気持ちがあるんじゃねぇのか、サイラオーグ・バアル?」

 

「確かに………と言っても、何度も膝は着いてきたがな」

 

「だが、果てしない激戦を潜り抜け、おまえはこうして立っている………違うか?」

 

そう言うとラズルは赤い空を見上げた。

 

「俺は………親父殿のやり方に疑問を持ってた。本当にこんなやり方で良いのかってな………。だが、今ではこれで良かったんだと思う。サイラオーグ・バアル、俺はおまえと、おまえ達と戦って可能性を見た。きっと、親父殿もそうだったんだろうな………」

 

自分という絶対の破壊者に何度叩きつけられようとも、何度血反吐を吐こうとも真正面から向かってきた。

そして、ついには自分を打ち倒した。

己の限界を超え、圧倒的な実力差を乗り越えたのだ。

ラズルにとってはこれ以上ない戦いだった。

 

「俺は、おまえ達と戦えて満足だ。おまえ達ならこの先に待つものを―――――」

 

そして、ラズルは天に拳を掲げ、満足そうな表情で言った。

 

「先に逝ってるぜ、おまえ達。それぞれがケリをつけることが出来たら来いや。その時は………また、一緒に………」

 

それが異世界の神アセムから『破軍』を与えられたラズルの最期だった――――――。

 

 

[三人称 side]

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

「………そうですか。ラズル、あなたは満足して逝けたのですね」

 

剣を交えていると、ヴァルス(分身体)は瞑目してそう呟いた。

 

その言葉で僕は気づいた。

先程まで、この一帯を包み込んでいた覇気が無くなっていることに。

つまり、ラズルが倒されたということだ。

 

僕達剣士組はリアス前部長達が戦っている場所から離れて戦っているため、視認はできないが、今のヴァルス(分身体)の言葉からラズルは死んだのだろう。

 

ヴァルス(分身体)は剣を弾くと、僕達から距離を取った。

 

「私は術によって創られた存在ですが、『覗者』ヴァルスの持つ記憶、感情はそのまま保有しています。………やはり、失うということは堪えますね」

 

「だが、この戦いを始めたのはあなた達だ。この戦いで多くの人達が傷つき、失っている」

 

僕がそう言うとヴァルス(分身体)は瞑目したまま頷いた。

 

「ええ、分かっていますよ。私達にはそのような言葉を吐くことは許されない」

 

ヴァルス(分身体)は剣を構え、空いた左手に魔法で作り出した炎を握る。

炎が揺らめいたと思うと、形を変え―――――剣へと変化した。

 

「此度の事態を引き起こした、その責任は取るつもりですよ。私も父上もね」

 

そう言うとヴァルス(分身体)は音もなく消える。

 

やはり速い。

スピードは確実に今の僕より上だ。

 

右側から気配を感じた僕は聖魔剣で飛んできた炎の剣を弾き、直ぐに体勢を切り換えて地面を蹴った。

今の僕は騎士王形態、つまり僕自身のパワーとスピードを大幅に強化する姿だ。

スピードを最大限に発揮しつつ、僕はヴァルス(分身体)に斬りかかった。

 

ヴァルス(分身体)が笑みを浮かべる。

 

「今のを見切るとは流石ですね」

 

「剣聖に鍛えられましたからね! これくらいではやられません!」

 

一瞬の鍔競り合い。

その場から飛び退くと、僕達は高速移動しながら剣を交えていく。

 

「私達を忘れてもらっては困る!」

 

「そうよ! 戦っているのは木場君だけじゃないんだから!」

 

蒼炎のオーラを纏うゼノヴィアと浄化の力を纏ったイリナも斬り合いに参加する。

 

ヴァルス(分身体)の剣を僕が弾き、ゼノヴィアがそこを狙う。

避けられてしまったが、濃密なオーラを纏ったデュランダルとエクスカリバーの攻撃は大地を割るほど。

 

ゼノヴィアの攻撃を回避したヴァルス(分身体)が着地すると同時に後方から光の矢が何本も撃ち込まれる。

放ったのは黄金の翼を広げるイリナだ。

浄化の力が籠められた矢は掠めただけでも、相手の戦意を奪う。

 

僕の高速の剣、ゼノヴィアの破壊力が籠められた剣、そして、遠距離からの支援も交えつつ、自らも斬りかかるイリナの剣。

この三人のコンビネーションはモーリスさんとの模擬戦で彼に勝つために編み出した連携だ。

互いに足りない力を補いながら攻める戦法は自分達でもかなりのものだと自負している。

 

しかし、そんな僕達の戦法をヴァルス(分身体)は涼しい顔で全てを避けきっていた。

 

「これならどうだ!」

 

焦りの表情を浮かべるゼノヴィアがデュランダルにオーラを乗せて横凪ぎに振るう。

今の彼女の破壊力はモーリスさんのお墨付き。

防御したとしても、その上から叩き伏せられる。

 

その斬撃をヴァルス(分身体)は―――――。

 

「力みすぎです。力の流れが乱れていますよ?」

 

真正面から受け止めた。

それも―――――指先だけで。

 

「なっ………」

 

これにはゼノヴィアも驚きを隠せず、動きを完全に止めてしまっていた。

いや、動けなかったのだろう。

 

動きを止めたゼノヴィアの腕を掴むと、ヴァルス(分身体)は空中で弧を描くようにして、彼女を地面に叩きつけた。

 

「ガハッ………!」

 

「ゼノヴィア! このっ………!」

 

イリナは飛び出すと、周囲に光の矢を展開する。

光の矢は高速で飛び出し、ヴァルス(分身体)を貫こうとする。

だが、光の矢が届くことはなかった。

 

なぜなら、ヴァルス(分身体)が当たる直前に握り潰したからだ。

 

「ウソッ………!? なんで!?」

 

「あなたの浄化の力は厄介です。ですが、直接触れなければどうということはありません。より大きな力で握り潰せばこの通り」

 

開かれた彼の手には濃密なオーラが滲み出ていた。

更に強大な力でイリナの力を捩じ伏せたと言うことか………。

 

その時、後方から凄まじい波動を感じた。

振り返ると、ゼノヴィアがデュランダルとエクスカリバーをクロスする形で天に掲げ、刀身に莫大なオーラを纏わせていた!

蒼炎のオーラはどんどん強くなり、天を穿っている!

ゼノヴィアが立っている場所が彼女のオーラに耐えられず、抉られ、巨大なクレーターが広がっている!

 

ゼノヴィアが叫ぶ。

 

「こちらの心を読むことが出来るのなら、避けきれない一撃をくらわせればいい! そちらが力で捩じ伏せるのなら、私はそれの上をいくだけだ! クロス・クライシスッ!」

 

刹那、極大の聖なる波動が解き放たれる!

振り下ろされた蒼炎の力が空を空間をも斬り裂きながら、ヴァルス(分身体)へと襲いかかった!

ゼノヴィアが現時点で放てる究極、最強の技だろう!

 

ゼノヴィアの宣言通り、放たれたクロス・クライシスは回避不可能なほど、巨大。

いかに相手の心の内が読めたとしても、これは避けきれないだろう。

 

「これは中々。確かにこれでは避けることは叶いませんね。ならば、真正面から相殺させていただきます」

 

ヴァルス(分身体)は炎の剣の切っ先を迫る極大のオーラに向けて―――――。

 

「―――――喰らえ、赤炎の獅子よ」

 

炎の剣がうねり、そこから炎で形作られた巨大な獅子が飛び出してきた!

炎の獅子は顎を開き、クロス・クライシスに牙を突き立てる!

赤熱と蒼炎が拮抗し―――――大地を激しく揺らしながら弾けた。

 

「………ッ!?」

 

この結果にゼノヴィアは言葉も出ない様子だ。

僕もイリナもどう反応すれば良いのか分からなくなる。

それぐらい衝撃的な光景だった。

 

ゼノヴィアは聖なるオーラをチャージして繰り出した。

対して、ヴァルス(分身体)はほとんどノーモーションで魔法を放ち、完全に相殺してみせた。

つまり、現段階でヴァルスは―――――。

 

「パワー、スピード、テクニック。全ての面においてあなた方よりも上にいる。そういうことですよ」

 

「「「………ッ!」」」

 

ここまでの手合わせで彼は僕達三人と互角かそれ以上の戦いを披露してきた。

僕達も彼が強いのは重々承知していた。

だけど、こうもハッキリ言われるとね………。

 

「付け加えるなら、本体は術で創られた私よりも強い。この意味は分かりますね? 今のあなた方(・・・・・)では勝ち目はないでしょう」

 

モーリスさんの地獄の修行で確実に強くなった。

それでも………それでも、届かないと言うのか………!

 

冷や汗を流す僕達を見て、ヴァルス(分身体)は言う。

 

「フフフ………感じますよ、あなた達の焦りを。だが、諦めてもいない。私を倒すために、あの手この手を考え、隙あらば一瞬で勝負をつけるつもりでいる。まさに油断大敵。ある意味、下手な神クラスよりも強く、厄介な相手です。まぁ、そこが良いんですけどね」

 

爽やかな微笑みと共に親指を立てるヴァルス(分身体)。

 

………どうにも油断はしてくれなさそうだ。

まぁ、そんなことは最初から期待していないけどね。

 

イリナが厳しい表情で呟く。

 

「力でもダメ、速さでもダメ、技でも………。こんなの、弱点をつくしか………。でも、弱点なんてどこに………?」

 

「………」

 

そんなイリナの呟きに思い当たるところがあった。

 

そういえば、ヴァルスの弱点って、ないこともないような………。

確かあれは初めて剣を交えた時。

アウロス学園の襲撃の時に――――――。

 

僕がそこに思考が至ったとき、ゼノヴィアがハッとなった。

 

「そうだ! ナイスだぞ、イリナ!」

 

「え? な、なによ、ゼノヴィア?」

 

「弱点だ、弱点! イッセー達から聞いているぞ! 奴は悪口に弱いガラスのハートだということをな!」

 

ヴァルスの弱点というか………うん、確かにあったよ。

相手の心が読めるのに悪口に弱いって………。

なんで、そうなってしまったんだろうね?

能力と性格が合っていないような………。

 

ゼノヴィアが言う。

 

「イリナ! 木場! 思い付く限り、悪口を言うんだ! やーい、ジミー!」

 

「え、ええっ!? そ、それって、イジメをしてるみたいで、気が引けるのだけど………。ううん! これも天界のため、世界のため、皆のため! 言うしかないのよね! え、えっと、ジミー! 陰険! あ、あと………ノーデリカシィィィィィ!」

 

思い付く限り、悪口を叫んでいくゼノヴィアとイリナ。

 

こ、これで良いのかな?

た、確かに相手は無視できない敵だし、世界を破滅に導くレベルの神の眷属だし………。

戦いの中、相手の弱点を突くのも戦術だけど………。

 

「うっ………ぐぁっ! こ、心が………! な、泣きそう………」

 

目元を押さえて苦しむヴァルス(分身体)!

目元には涙が滲んでいる!

 

効いてる、効いてるよ!

僕達の連携攻撃をものともしなかったのに、悪口が効いているよ!

なんだか、僕も泣けてきた!

 

「よし、効いてるぞ、イリナ! バーカ! バーカ! あ、あとは………おまえの母ちゃん出べそォォォォォッ!」

 

ゼノヴィア!

君はどこでそんな言葉を覚えてきたんだ!

 

イリナもゼノヴィアに続く。

 

「あ、そうだわ! 確か、イグニスさんが男性には言ってはいけないワードをいくつか言っていたわ! 多分、通じるはずよ!」

 

一番の危険人物の名前が!

この流れでイグニスさんの名前が出てくるなんて、最悪のパターンじゃないか!

 

「本当か、イリナ! よし、そいつをくらわせてやれ!」

 

「ちょ、ちょっと待って………う、うーんと………えーと、なんだっけ? た、確か………ほ………」

 

「ほ? その続きは!?」

 

「ほ………そうだわ! ×××××(バキューン)よ! どういう意味かは知らないけど」

 

×××××(バキューン)か! よし、やーい、×××××(バキューン)!」

 

ダメだ………目眩がしてきた。

それ、こんな場所で叫んで良いようなワードじゃないと思うんだけど………。

というより、イグニスさんは何を教えてるんですか!?

 

数えきれない悪口(?)を叩きつけられたヴァルス(分身体)。

地に膝を着け、泣きながら苦しんでいた。

 

………もう止めてあげようよ。

 

僕が二人を制止しようとした、その時―――――何かがハズれるような音がした。

 

振り返ると、先程まで苦しんでいたヴァルス(分身体)が幽鬼のように立っていて、不気味な笑みを浮かべていた。

 

そして―――――。

 

『フハハハハハ! よくも我輩を侮辱してくれたな! 最近、胸まで筋肉で硬くなっていないか気にし始めた脳筋娘と、夜な夜な甘い妄想に耽り、一人いかがわしい行為をしている自称幼馴染みのエロ天使よ!』

 

「「なぁぁぁぁぁぁぁッ!?」」

 

空まで突き抜ける二人の絶叫に僕は、天を仰いだ。

 

 

拝啓、皆様。

 

 

今日はどのようにおすごしでしょうか。

 

 

僕は今日も仲間のために剣を振るっています。

 

 

僕達は…………いえ、正確には彼女達は………。

 

 

とてつもない仕返しをされそうです。

 

 

[木場 side out]




ヴァルス(分身体)………覚醒(笑)


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38話 必殺の―――――

シリアルとみせかけて………!


[木場 side]

 

 

『フハハハハハ! よくも我輩を侮辱してくれたな! 最近、胸まで筋肉で硬くなっていないか気にし始めた脳筋娘と、夜な夜な甘い妄想に耽り、一人いかがわしい行為をしている自称幼馴染みのエロ天使よ!』

 

異様な気配を滲み出し、瞳を赤く不気味に輝かせるヴァルス(分身体)。

彼から感じる波動は先程とはまるで別人。

そう、先程、ゼノヴィアとイリナからイジメ………コホン、精神攻撃を受ける前の紳士的な雰囲気は皆無だった。

 

「な、ななななんで、そのことを知って………って、そうさじゃなくて! してないもん! い、いいいいかがわしいことなんてしてないもん!」

 

ヴァルス(分身体)の言葉に酷く狼狽えるイリナ。

目がぐるぐる回り、声も裏返っている。

 

………なんて分かりやすい。

 

「わ、わわわわ私の胸は柔らかいぞ! か、硬くなんてなってない! い、イッセーだって、柔らかいって言ってくれているんだ! い、いいいいかげんなこと言うなぁぁぁぁ!」

 

君もか、ゼノヴィア………。

あと、そういうことはこんな公の場で叫ぶことではないと思うんだ。

 

『フハハハハハ! 中々の羞恥感情、うむ、美味である! 我輩を侮辱した罪、貴様らの羞恥心を以て償ってもらうとしようか! フハハハハハ!』

 

それはそれは可笑しそうに笑うヴァルス(分身体)。

とてもじゃないけど、今の彼を見て、ガラスのハートの持ち主とは思えない。

 

この変化はいったいなんなんだろうか?

 

すると、そんな僕の疑問に答えるようにモーリスさんと斬り合っているヴァルスが言った。

 

「それは内なる私と言いますか………。私の精神がとことんまで追い詰められた時、内なる私が目を覚ますのです」

 

「それはあなたがより強くなるということですか?」

 

「戦闘力的には変わりません。ただ、精神力が強くなると言いますか………相手の恥ずかしい過去を覗き、暴露し、自身をおいつめた相手に復讐してしまうのですよ。そして、あいての羞恥心を感じて悦ぶようになるのです」

 

「性質が悪すぎる!」

 

どんな強化なんですか、それは!?

相手の恥ずかしい過去を暴露って、倍返しなんてレベルじゃないと思うんですけど!

 

僕が心の中で叫んでいる間も、覚醒したヴァルス(分身体)は高笑いと共に自身を追い詰めた二人への復讐を始める。

 

ヴァルス(分身体)は左右の指をL字にして、組み合わせると、イリナを指フレームの内側に捉えた。

 

『見える、見えるぞ、そこのエロ天使よ。ほうほう、どうやら屋外プレイというのにハマっているようではないか』

 

「いやあああああああああ! やめてぇぇぇぇぇぇ!」

 

耳を塞ぎ、絶叫するイリナ!

だが、ヴァルス(分身体)は追い討ちをかける!

 

『ラブルームとやらに一人忍び込み、なにやら色々と試しているようであるな』

 

「なにぃ!? イリナ、そんなことをしていたのか! 流石はエロ天使だ!」

 

「ゼノヴィアも聞かないでぇぇぇぇぇぇ!」

 

『しかも、甘いものを食べ過ぎたせいで体重が――――――』

 

「イヤァアアアアアアアアアア!?」

 

鼓膜が破れそうな程、絶叫するイリナ。

 

ヴァルス(分身体)はイリナの反応に笑みを浮かべると、次はゼノヴィアを指差した。

 

『そこの脳筋娘』

 

「脳筋ではない! わ、私は知られて困ることなど―――――」

 

『つい数週間前、風呂場の洗濯籠に入っていた兵藤一誠の衣服の匂いを嗅いでいたであろう? ついでに言えば、そのまま一人で慰めていたであろう?』

 

「なぁあああああああああ!?」

 

「ゼノヴィア、そんなことしてたの!?」

 

『兵藤一誠の汗の匂いを嗅ぐと体のうずきが止まらなくなるのはなぜか。さぁ、答えてみるがいい』

 

「や、やめろぉおおおおおおおおおお!」

 

頭を抱えてしゃがみ込むゼノヴィア。

 

なんというか…………君達は揃いも揃って何をしているんだ!?

 

『脳筋娘よ、貴様に問おう。洗濯籠に放り込まれていた元シスターが着ていた白いワンピース。これをコッソリ自分の体に当て、鏡の前でちょっと嬉しそうにしながら、「うん、これは………ないな。私には………うん、ないな」とぶつぶつ言っていたのはなぜか。しかも、自分でこれはないと言いながら、鏡の前でニッコリと微笑んでいたのはなぜか。そして、頬を染めてキョロキョロ周囲を確認し、気配がすると慌てて洗濯籠に戻して、その場から逃げるように部屋に戻ったのはなぜか』

 

そんな細かいところまで分かるのか!

なんて恐ろしい力なんだ!

 

『覗者』ヴァルス………いや、ここは覚醒ヴァルスとでも言うのか。

強い、強すぎる。

ゼノヴィアとイリナがしていた小学生のような悪口とはレベルが違う。

相手の知られたくない過去をその場で暴露する。

しかも自身の能力をフルに活用してだ。

 

あのゼノヴィアが顔を真っ赤にし、耳を塞いでいる。

それだけでこの言葉攻めがどれだけの威力を発揮しているかが分かる。

 

ゼノヴィアが涙目になりながら、ぶつぶつと何かを呟き始めた。

 

「ううぅ………わ、私にはアーシアが着ているような可愛らしい服は似合わないし………。でも、着てみたい気持ちはあって………。見かけてつい試したくなって………ぅぅぅぅ………ごめんなさい………」

 

赤い顔を両手で覆い、震え声で謝るゼノヴィア。

べ、別に謝る程のことではないと思うけど………。

うん、君も乙女だったってことだね。

この戦いが終わったら、イッセー君と服を買いに行くと良いよ。

 

『脳筋娘よ、石鹸をチーズと間違えて食べてしまったそこの脳筋娘よ』

 

「脳筋脳筋言うな! そ、それにあれは数年前の話だ!」

 

食べてしまったことは否定しないんだね!

一体、どんな状況だったんだろうね!

 

というより、ゼノヴィアへの当たりが強くありませんか?

やはり、イジメ………精神攻撃を始めた張本人だからだろうか………?

 

何かしらの反撃をしたかったのだろう。

ゼノヴィアは涙目のまま叫んだ。

 

「それ以上言うなら私も言い続けるぞ、ジミー!」

 

『フハハハハハ! 今さらそんな言葉が我輩に通じるわけがないであろう! 腹筋が異常に割れてきたことを気にし始めた脳筋娘よ! 兵藤一誠に裸体を見られるときは手でさりげなく隠しているのだろう?』

 

「な、ななななあああああああああ!?」

 

カウンターをくらってるじゃないか!

 

気にしなくていいよ、ゼノヴィア!

たくさん修行したんだ!

腹筋ぐらい割れるよ!

 

『この羞恥心、美味である! 美味であるぞ! フハハハハハ!』

 

うん………もうこの人、敵なしだと思うのは気のせいだろうか。

ま、まぁ、目の前にいるのはあくまで術で創られた分身体なんだけど………。

でも、そうなると本体も覚醒するとこんな感じになるわけで………。

口は災いの元ということなのか、何事も自分に返ってくるということなのか。

 

どちらにしても、僕に彼女達の弁護は出来ないかな………。

この状況で出来ることがあるとすれば、ツッコミくらいだし。

 

ひとしきり笑ったヴァルス(分身体)。

それはもう満足そうな、スッキリしたような表情だった。

 

ヴァルス(分身体)と傍観していた僕と目が合う。

すると、彼は元の落ち着いた口調で話しかけてきた。

 

「コホン………さて、少しスッキリしたところで」

 

「あ、元に戻ったんですね」

 

どうやら、元の性格に戻ってくれたらしい。

こちらとしてはその方が話しやすくてありがたい。

 

ヴァルス(分身体)は意味深な笑みを浮かべると口を開いた。

 

「そう言えば、一つ言い忘れていたことがありました。各勢力のトップ陣の計画、動きを封じたトライヘキサをどうするか。その内容は「D×D」のメンバーも知らされていないのでしょう?」

 

「………ッ!? なぜ、それを………!?」

 

封じたトライヘキサをどうやって倒すか。

それはここに来るまでに僕達の中であった懸念事項だ。

トライヘキサの動きを封じる結界を構築したロスヴァイセさんですら知らされていない、各勢力トップ陣だけが知る計画。

 

まさか、彼の口からその計画に関することが出てくるとは思わなかった。

驚く僕にヴァルス(分身体)はニヤッと笑む。

 

「なにも驚くことではないでしょう? 私の能力は一瞬先の未来を覗き、他者の心の内を覗くこと。各勢力の情報など容易く手に入る。そもそも私の能力は他の三人と比べると戦闘向きではないのです。どちらかと言うと諜報で真価を発揮する。父アセムもそれを期待して「覗者」の力を私に与えたのです」

 

「なるほど………どんな機密事項でもあなたの覗き見る力があれば余裕で知ることが出来る」

 

「その通り。それ故に私はトップ陣の計画を知っています。―――――隔離結界領域」

 

隔離結界領域………?

聞いたことがない単語だ。

 

「レーティングゲームの技術と魔王アジュカ・ベルゼブブが運営している『ゲーム』のノウハウ、天界の神器システムと奇跡を司る神の『システム』、北欧の世界樹ユグドラシルの理、グリゴリの研究成果、そして、元ヴァルキリーの彼女が構築した結界術式の研究成果。ありとあらゆる技術を用いて作り上げられた世界であり、トライヘキサ専用の檻です。彼ら各勢力のトップ陣は結界領域内でトライヘキサを倒すつもりなのですよ。―――――自らを犠牲にしてね」

 

「なっ………!?」

 

驚く僕達を前に、ヴァルス(分身体)は話を続ける。

 

「犠牲、というのは少し語弊があるかも知れませんね。確実に死ぬとは限らない。ですが、無傷という訳にもいかないでしょう。それだけあの怪物は規格外だ。各勢力のトップ陣は結界領域内で何千、何万年とトライヘキサが滅びるまで戦い続ける道を選んだ。そして、結界領域内に入るのメンバーの中には紅髪の魔王サーゼクス・ルシファーを含めた魔王三名と堕天使前総督アザゼル、天使長ミカエルも含まれています」

 

「「「――――――ッ!」」」

 

その情報はあまりに衝撃的だった。

同時に僕は理解した。

先生が言っていたとっておきの作戦とは、トップ陣がトライヘキサと共に隔離された領域に封じられることだったということを。

 

………サーゼクス様もミカエル様も、アザゼル先生も………僕達にとって大切な人達がそんな………。

 

イリナが呆然としながら呟く。

 

「嘘でしょ………私、ミカエル様からは何も………」

 

「ええ、そうでしょうね。ここまでに起きた争乱の数々。あなた方のような若者が前に立ち続けてきた。だからそこ、彼らは決意したのですよ。世界を守るがため、あなた方を守るがために今度は自分達の番だと」

 

「………ッ!」

 

ヴァルス(分身体)の言葉にイリナは目を見開き、その場に崩れ落ちた。

敬愛するミカエル様がトライヘキサとの永き戦いを覚悟し、隔離結界領域へと旅立とうとしている。

それが彼女にとってどれだけ辛いことか。

 

僕もサーゼクス様には恩義がある。

魔王様としても、一個人としてもあの方には心から敬意を抱いている。

だからこそ………。

いや、僕よりもリアス前部長がこのことを知ったら………。

 

大切な人達が目の前から去っていく。

僕達を守るために、全てを守るために。

そんなこと―――――。

 

「そこで考え込む時間があるのですか?」

 

衝撃に呑まれていると、ヴァルス(分身体)は声をかけてきた。

ヴァルス(分身体)は僕達一人一人の目を見ながら言う。

 

「考えて何になるというのです? そんな暇があるのなら、止まっている暇があるのなら………失いたくないのなら、目の前の理不尽を打ち砕いてみなさい。大切なものがあるのなら、立って、剣を握り、前を見なさい」

 

ヴァルス(分身体)は剣を構え、切っ先をこちらに向けて、

 

「――――――絶望するにはまだ早すぎる。そう思いませんか?」

 

………なんだろうね、この状況は。

敵に………それもこの戦いを引き起こした人に奮い立たされるなんてね。

道理で憎めないわけだ。

 

僕は………僕達は立ち上がった。

剣を握り、前を見た。

 

失いたくないのなら、立って、剣を握り、前を見ろ。

その通りさ。

まだ僕達には出来ることがある!

 

立ち上がった僕達にヴァルス(分身体)はフッと微笑んだ。

 

「ええ、それでこそです。―――――来なさい」

 

一瞬、ほんの僅かな時間、時間が停止する。

周囲の色が、各地から聞こえてくる激戦の音が消え去り、目の前の敵しか映らなくなった。

 

そして――――

 

 

「「「ハァアアアアアアアアアッッ!」」」

 

僕達は一斉に駆け出した!

猛スピードでヴァルス(分身体)に突撃し、剣を振るう!

 

僕達は三人とも『領域(ゾーン)』に入っている。

それも今までで最も高いレベルで。

 

僕達はこれまでと同じく三人の連携を取った。

僕が斬り込み、イリナがサポートをし、ゼノヴィアが圧倒的なパワーで押し込む。

 

相手が相手だ、同じ手が通じるわけがない。

それは分かっている。

だけど、今のこの連携は同じじゃない。

 

振るっていて分かる。

自ら振るう剣の速さ、一撃の重さが増している。

それだけじゃない、ヴァルス(分身体)の剣捌きが読めるんだ。

今まではかわしきれなかった剣撃も今なら………!

 

ヴァルス(分身体)の剣がイリナの攻撃を弾き、彼女を後ろへと吹き飛ばす。

だが、イリナは空中で回転しながら、浄化の力を纏った聖なる力を鞭状に変え、高速で振るった。

 

「その炎の剣、もらうわ!」

 

しなる黄金の鞭が、ヴァルス(分身体)が握っていた炎の剣を弾き飛ばした!

 

「なんと………! ですが、まだまだ!」

 

ヴァルス(分身体)は僕の攻撃を剣で受け止めると、反対側から迫るイリナのオートクレールを鞘で受け止めた! 

 

僕達三人の猛攻を剣と鞘で捌くヴァルス(分身体)。

だが―――――。

 

「………ッ!」

 

僕の聖魔剣がヴァルス(分身体)の頬を掠め、ヴァルス(分身体)は目を見開く。

腕も足も掠り傷程度だけど血が滲み出ている。

そう、徐々にだけど、僕達の攻撃は彼に届き始めていた。

 

一瞬先の未来を見る力と相手の心を読む力。

これを攻略する方法、それは一瞬先の未来を見られても、心の内を知られても回避できない攻撃を繰り出すこと。

流石に今の僕達にはモーリスさんのような無茶苦茶な力はない。

 

だけど――――――。

 

「いくよ、ゼノヴィアッ!」

 

僕はゼノヴィアとヴァルス(分身体)に目掛けて短剣型の聖魔剣を投げた。

ヴァルス(分身体)は軽やかに避けたので、一本は地面に突き刺さる。

もう一本はゼノヴィアの体に触れて―――――彼女を聖魔剣が刺さった場所へ強制的に転移させた。

 

これはリアス前部長の新技に使った触れた相手を転移させる聖魔剣。

転移できる場所は同じ力を持つ聖魔剣がある場所。

 

つまり、この一帯にその能力を持つ聖魔剣をばら蒔くと、その聖魔剣がある場所に自由に転移できる。

そして、この力は応用の幅はかなり広い。

攻撃を飛ばすだけでなく、今のように人も飛ばすことが出来る。

 

ヴァルス(分身体)の背後を取ったゼノヴィアは凶悪なオーラを纏わせたデュランダルとエクスカリバーを振り上げた。

 

「一人では無理でも、仲間とならおまえを超えられる! これで決めさせてもらうぞッ!」

 

放たれるのはゼロ距離でのクロス・クライシス。

空間をも破壊するゼノヴィアの必殺技。

 

蒼炎を纏うゼノヴィアの砲撃を避けきれなかったヴァルス(分身体)は―――――。

 

剣に魔法を付与して、真正面から斬りかかった!

再度、衝突するクロス・クライシスとヴァルス(分身体)の剣!

だが、前回のような余裕はないようで、ヴァルス(分身体)が押され始めていた!

 

「まだよ!」

 

イリナがゼノヴィアの隣に立ち、黄金のオーラを刀身から放ち始める。

これが彼女が持てる全てなのだろう。

ゼノヴィアにひけをとらない程、力強い波動を放っている!

蒼炎と黄金のオーラが混ざり、更に膨らんでいく!

このまま、押しきれるか………!

 

だが―――――。

 

「ぬぅぅぅぅぅんッッッ!」

 

ヴァルス(分身体)は剣を横凪ぎに払い、二人の砲撃を遥か彼方へと弾き飛ばした。

オーラが着弾したところを目映い光が覆うが………。

 

「はっ、はっ、はっ………ふぅ。いやはや、今のは危なかった。良い攻撃でしたよ。あと少し、あと少しだけ私の対処が遅れていたら確実にやられていましたよ」

 

額に流れる汗を拭うヴァルス(分身体)。

 

そんな彼の言葉に僕達は唖然としていた。

ゼノヴィアが肩を上下させながら言う。

 

「なんて奴だ………あれを受け流すのか!」

 

今の攻撃は間違いなく、過去にない威力だった。

ゼノヴィアとイリナ―――――デュランダルとエクスカリバー、オートクレールの伝説の聖剣から放たれる砲撃。

それを受け流した。

 

まだ………届かないというのか………!

 

ヴァルス(分身体)は剣を納めると腰を沈めた。

あの構えは―――――。

 

「さて、私も必殺技というものを出してみましょうか。これを見せるのはあなた達が始めてです」

 

「「「………ッ!?」」」

 

ヴァルス(分身体)のオーラが膨れ上がる!

このプレッシャー………まるで、こちらの首を絞められているような感覚だ。

これは不味い………!

 

僕と同じことを考えたのか、ゼノヴィアが飛び出した。

 

「させんっ!」

 

デュランダルを振り上げ、ヴァルス(分身体)へと斬りかかる。

その刹那の瞬間、ヴァルス(分身体)は不敵な笑みを浮かべ――――――。

 

 

邪聖剣(じゃせいけん) 烈舞踏常闇(れっつだんしんぐおーるないと) 雷神如駆特別極上奇跡的(らいじんぐすぺしゃるうるとらみらくる)超配管工兄弟(すーぱーまりおぶらざーず) 弐號役立不弟逆襲(るいーじのぎゃくしゅう) 監督斬(でぃれくたーずかっと)ォォォォォォォォォッ!」

 

「なんで、このタイミングでシリアスブレイクゥゥゥゥゥゥッ!?」

 

僕のツッコミが天を貫いた。

 

 

[木場 side out]

 




 

~あとがきミニストーリー~

 
イグニス「イッセーの新必殺技を考えたわ」

イッセー「………嫌な予感しかしないけど、一応聞いとくよ。どんなの?」

イグニス「フフフ………その名も『ツイン(にゅー)ライトキャノン』よ!」

イッセー「ほらね! やっぱりきたよ! なんだよ、(にゅー)ライトキャノンって!? あと、なんでもかんでもツインつけるなよ!」

イグニス「説明しよう! ツイン(にゅー)ライトキャノンとは、皆のおっぱいから放たれるスーパー(にゅー)ウェーブを受信して、チャージされたエネルギーを放つ技! 一国どころか、一つの神話を消し去る威力があるかもしれない!」

イッセー「ごめん! 意味わかんない! ツッコミどころが多すぎる! つーか、威力半端無さすぎだろッ!?」

イグニス「―――――おっぱいは出ているわ」

イッセー「人の話聞けやぁぁぁぁぁぁ! って、もう出てんのかいぃぃぃぃぃ! ありがとうございます、眼福ですぅぅぅぅ!」

ドライグ「…………」


~あとがきミニストーリー 終~






うん、やはりシリアルか………。


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39話 神をも凌ぐ男

長らくお待たせしました!
ハルート最終決戦仕様を作るのに忙しくて………!(おい)
こっちはなんとか完成しました!
今はRGトールギスをトールギス3に改造中!


[木場 side]

 

 

一筋の閃光が走る。

技を放った者を中心に輪状の光が広がっていき、遥か彼方で消えた。

 

そして、ゼノヴィアが膝を着いた。

 

「ガッ……ハ………ッ」

 

「ゼノヴィアッ!」

 

イリナが悲鳴をあげ、倒れ付したゼノヴィアに駆け寄る。

 

あれほど目映く輝いていた蒼炎のオーラも完全に失い、彼女の全身から力が抜けていくのが感じられる。

 

ヴァルス(分身体)が口を開く。

 

「いけませんね。やはり、あなたは単純すぎる。相手の動きを潰すのは良い。ですが、明らかに格上の存在に真っ向から向かってくるなど愚の骨頂。ゼノヴィア・クァルタ、あなたには少々、自身を過信するきらいがある」

 

そう言って、刀身に流れるゼノヴィアの血を払う。

 

「先程の技―――――邪聖剣(じゃせいけん) 烈舞踏常闇(れっつだんしんぐおーるないと) 雷神如駆特別極上奇跡的(らいじんぐすぺしゃるうるとらみらくる)超配管工兄弟(すーぱーまりおぶらざーず) 弐號役立不弟逆襲(るいーじのぎゃくしゅう) 監督斬(でぃれくたーずかっと)は 敵の攻撃をいなし、カウンターを繰り出す技。あなたのような猪突猛進タイプにはピッタリの技です」

 

確かにゼノヴィアのようなパワーでごり押しするタイプにカウンター技は効果的だ。

僕もゼノヴィアと模擬戦をする時にはカウンター技をよく使ったものだ。

 

いや、でもね………。

 

「いくらなんでも技名が長すぎませんか!? あと、どこかで見た記憶があるんですが!?」

 

「なんと! パクられていましたか!」

 

「いや、パクったのはあなたでしょう!?」

 

「そんなはずは………! この技はラズルと格ゲーをしている時に何となく浮かんだ技なのですよ!?」

 

「何となくにしては気合いが入りすぎていると思います!」

 

どうしよう、ツッコミどころが満載で困る!

 

というか、そんな『何となく』で作られた技にゼノヴィアはやられたのか!

どんな反応をすれば良いのか、分からないよ!

お願いだから、夢であってくれ!

 

頬をつねって………あ、痛い。

 

「木場殿、これは夢ではありませんよ?」

 

「実に残念です!」

 

もう嫌だ!

現実逃避したい!

 

イリナがゼノヴィアの肩を担いで立ち上がった。

 

「ゼノヴィア、大丈夫!?」

 

「ああ………傷は負ったが戦えない程じゃない。ギリギリだったけどね」

 

ゼノヴィアの脇腹からはかなりの出血が見られる。

だけど、ヴァルス(分身体)の攻撃を受けた割には傷が浅い。

ゼノヴィアの言葉からして、内臓にまでは届いていないようだ。

 

ヴァルス(分身体)は感心したように頷いた。

 

「ほう、切っ先が触れる刹那の瞬間、体を反らして致命傷を避けましたか。お見事です」

 

「フフフ、『剣聖』の修行を受けたのは伊達じゃないさ」

 

傷を抑えながらもゼノヴィアは不敵にそう返した。

 

避けることは出来なかったとはいえ、あの神速の剣に体が反応できたとは驚きだ。

これがモーリスさんがゼノヴィアに与えた課題の成果の一つなのだろう。

 

だが、ゼノヴィアが深傷を負ったのは事実。

まだ戦えるようだが、これまでのような戦闘はできない。

 

僕は個有の亜空間を展開して手を突き入れると、それを掴んだ。

亜空間から引きずり出されたその剣は禍々しい力を放出し、僕の体を蝕み始める。

 

その剣を見て、ヴァルス(分身体)は目を細めた。

 

「魔剣の王グラム。それがあなたの切り札ですか」

 

魔帝剣グラム。

この最強の魔剣は強力な分、デュランダル以上に暴れ馬だ。

僕の言うことなんて聞く耳を持ってくれないためか、思っているより斬れ過ぎてしまう。

 

だが―――――

 

「グラム。目の前の敵に勝つには君の力が必要だ。君を抑えようとは思わない。好きに暴れて良い。だから、持っている力の全てを解放してくれッ!」

 

抑制しようとすれば、グラムは反発して完全には応えてくれない。

ならば、好きなだけ、思うがままに暴れさせてやれば良い。

その分、僕がグラムの力に翻弄されないようにすれば良いんだ。

 

グラムから放出される力が膨れ始める。

僕の言葉に、眼前の強敵にテンションを上げているのか、これまでに無いくらい辺りに魔のオーラを撒き散らしている。

同時に僕を蝕もうとする力も大きくなって、体への負荷も増大している。

 

これがグラムの本領か………。

騎士王の姿でなければ、ギリギリのところだっただろうね。

 

ヴァルス(分身体)が自身の握る剣を見つめながら言う。

 

「この剣はちょっとした神剣。そこらの剣よりはよっぽど強いのですが………さてさて、その魔剣と真っ向から撃ち合えるかどうか」

 

ちょっとした神剣なんてないと思うのだけど………。

 

そんな感想を言葉にしないまま、僕はグラムを構えた。

 

「ゼノヴィア、イリナ。僕が前衛に徹する。君達はサポートを頼む」

 

僕がそう言ったのはゼノヴィアに無理をさせられないというのも理由だけど、もう一つの理由としてグラムの存在がある。

ここまで魔のオーラを振り撒いている状態では彼女達に影響を与えかねない。

 

ゼノヴィアが頷く。

 

「分かった………が、イリナ、おまえが木場を援護してやってくれ」

 

「それは良いけど………ゼノヴィアもその傷だとあまり動かせないし。でも、ゼノヴィアはどうするのよ?」

 

「少し考えがある。これはモーリスに提案されたことで、私がまだ達していない課題だ。まぁ、修行が終わる直前に言われたというのもあるんだが………それをここでやる」

 

「だから時間が欲しいってことね?」

 

「そうだ。木場とイリナでなんとか時間を稼いでくれ」

 

考えがある………ゼノヴィアには何か策があるのだろうか?

どういうものかは分からないけど、すごく彼女らしいものになりそうな気がする。

 

しかし、この状況。

恐らく、ゼノヴィアが負傷していなくても、戦闘が続けば地力の差でこちらが敗北するだろう。

三人がかりで情けないが、相手にはそれだけの力がある。

 

イリナが言う。

 

「まぁ、ゼノヴィアの策なんて、心を読む能力で読まれているかもしれないけどね」

 

「なに、心を読まれても回避できない必殺の一撃を撃てば良いのさ」

 

「結局、脳筋思考の策なんじゃない!」

 

やっぱりか………うん、わかってたよ。

でも、この状況を覆すにはゼノヴィアの策に、残っているモーリスさんからの課題とやらに掛ける他なさそうだ。

 

どんな状況でも変わらないゼノヴィアのパワー思考に諦めたのか、イリナは苦笑する。

 

「もう、分かったわよ。その代わり期待させてもらうからね? ゼノヴィアのパワー、信じてるから」

 

そう言うとイリナは浄化の力を纏い、黄金に輝く四対八枚の翼を広げた。

 

僕とイリナは目を合わせると互いに頷き、

 

「いくよ、木場君!」

 

「ああ!」

 

イリナの合図で僕達は地面を蹴った。

僕は右、イリナは左に飛び出し、その場から動かないヴァルス(分身体)を挟み込む。

 

先に動いた僕達に対してヴァルス(分身体)はゆったりとした動作で腕をあげ、肩と剣が水平になるように構えた。

その動作からはモーリスさんを相手にしている時と同じように思えた―――――その瞬間。

 

ゾクリ、と背筋に戦慄が走った。

 

「構えただけで………!」

 

今のは単純な威圧だ。

覇気を僕達にぶつけ、こちらの勢いを削ぎにきた。

 

だが、これくらいの威圧は何度も経験している!

いや………彼の、『剣聖』の放つ威圧はこんなものじゃない!

 

一度は足を止めかけた僕とイリナだが、蹴り足に力を込めてヴァルス(分身体)向かって駆け出す。

 

「良い反応です。ですが、そろそろこのやり取りにも飽きてきた」

 

閃光が穿たれる。

魔法力を纏った鋭い突きが僕の顔を貫こうとした。

咄嗟に首を傾げた僕は突撃の勢いに身を任せると、右足を軸に回転。

回転のエネルギーを乗せた一撃をヴァルス(分身体)に叩き込んだ。

 

この一撃を読んでいたようにヴァルス(分身体)は魔法で氷の剣を創り、これを阻止。

 

二刀流のヴァルス(分身体)と僕達は高速移動で戦場を駆け回りながら、幾度となく剣をぶつけ合う。

たまに量産型の邪龍が近寄ってきたりもするが、それらは僕達三人の剣に巻き込まれ細切れにされていった。

 

振り下ろされた氷の剣を弾くと僕は短剣型の聖魔剣を創造して投擲。

 

「同じ手は受けませんよ」

 

ヴァルス(分身体)は短剣型の聖魔剣を弾き飛ばす。

僕がゼノヴィアを転移させた時のことを言っているのだろうが――――――それは間違いだ。

 

弾いた聖魔剣の後ろにはもう一振りの聖魔剣が全く同じ軌道でヴァルス(分身体)に迫っていた。

この技は京都でイッセー君が曹操に使ったテクニック。

後ろの剣は前の剣に隠れて相手からは見えず、不意打ちに近い形で相手を襲撃する。

曹操ですら避けることが出来なかった技術だが、ヴァルス(分身体)はニヤリと笑んで、 

 

「忘れていませんか? 私の力は一瞬先の未来を見るのですよ?」

 

体を捻り、飛来した聖魔剣を避けると、僕の振るった横凪ぎの一撃を容易く受け止める!

やはりダメか………!

今の僕とイリナだけはそう長くは保たない!

 

僕が後ろに目をやると、そこにはエクスカリバーとデュランダルを前に瞑目しているゼノヴィア。

急いでくれ、ゼノヴィア………!

 

グラムの破壊力の乗った一撃で地面を割ろうとも、オートクレールの浄化の力で広範囲攻撃を仕掛けようともヴァルス(分身体)は凌いでいく!

何をしようともこちらの剣が届かない………!

 

ヴァルス(分身体)はグラムを弾くと、反対方向から飛んできた幾つもの光の槍を斬り刻んだ。

 

彼は切っ先をイリナに向けると、そこに魔方陣を展開。

魔法陣が鈍い光を放つと、そこから光の矢が飛び出してきた!

 

イリナが驚愕の声をあげる。

 

「これって私の力と同じ………!?」

 

「ええ。といっても、魔法で模倣してみただけなので、デッドコピーみたいなものですが」

 

イリナの浄化の力を魔法で再現したというのか!

 

デッドコピーとはいえ、浄化の力が籠められているとすれば、あの矢に当たるのはまずい!

 

イリナは再び光の矢を展開して、ヴァルス(分身体)が放った矢にぶつけた。

全ての矢が衝突し、完全に相殺できたと思った時だった。

 

ヴァルス(分身体)はイリナの間合い、その内側に立っていた!

 

「馬鹿な………僕と剣を交えていたはず………。いつの間に………!?」

 

そう、彼は僕と今の今まで剣を合わせ、鍔競り合っていた。

それなのに僕は彼の行動に気づかなかった………!?

 

「簡単なことです。私の力は今のあなた方の理解の外にある。ただ、それだけのこと」

 

ヴァルス(分身体)はイリナの腕を掴むと宙に放り投げ―――――一閃。

イリナの体を横凪ぎに斬り裂いた。

 

「クソッ!」

 

僕は神器を変えて、紅の龍騎士を複数体作り出した。

高速で動く龍騎士は僕のコピーそのもの。

更にはこれまでに得たヴァルス(分身体)の戦闘データも入っている。

 

紅の龍騎士と共にヴァルス(分身体)へと斬りかかるが、龍騎士達はただの一撃で斬り捨てられていく―――――。

 

ヴァルス(分身体)が剣を振るいながら言う。

 

「この紅の龍騎士は砕かれても、何度でも立ち上がる。ならば――――――」

 

最後の一体を両断した時、彼は僕の目の前に立っていて、

 

「騎士達が復活する前に彼らを創るあなたを先に斬れば良い」

 

その言葉と同時に悪神の眷属の剣は容易く僕を斬り裂いた。

肩から脇腹にかけて刻まれた深い斬り傷。

傷口からはおびただしい量の血が吹き出し、返り血が僕を斬った本人にかかった。

 

全身の力が抜けて、前に崩れ落ちそうになる。

だけど、僕は倒れなかった。

グラムを地面に突き刺して、ギリギリのところで体を持ち上げたからだ。

 

ヴァルス(分身体)が僕を見下ろしながら口を開く。

 

「倒れませんか」

 

「倒れる、わけにはいかない………! 僕はここであなたを倒す………!」

 

騎士王の姿に戻った僕は聖魔剣をこの手に握る。

そして―――――ベルによって複製された自分に放った技を繰り出した!

神速、僕が放てる技では最速の九連撃!

この至近距離なら!

 

だが―――――ヴァルス(分身体)は僕と全く同じ軌道で、僕と同じ九連撃を繰り出してきた!

それによって、僕の剣は完全に押され、弾かれ、果てには彼の剣が僕の体を斬り刻んでいく!

 

先に技を繰り出したのは僕なのに………それすらも真っ向から砕くなんて………。

 

痛みと、技を封殺されたことで呆然とする僕の肩にヴァルス(分身体)の手が乗せられて、

 

「これが………限界でしょうか?」

 

僕の腹を深々と剣が貫いた。

 

 

 

 

顔に伝わる地面の感触。

そこに生臭い鉄の臭いが広がっていた。

 

僕の血か………。

 

「あとは後方のゼノヴィア殿のみ。………ほう、彼女は中々に無茶をする気ですね」

 

ヴァルス(分身体)はゼノヴィアが何をしようとしているか分かったのか………?

ここからでは彼女に変化があるようには見えないけど、彼には僕には捉えられない何かが見えているのだろうか?

 

「おっと、肝心な人を忘れていました。ここには彼も―――――」

 

ヴァルス(分身体)がそこまで言いかけた、その時。

 

 

 

ドゴォォオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!

 

 

 

僕達の近くで大地が大きく爆ぜた!

地面が激しく揺れ、衝撃で舞い上がった土砂が雨のように降ってくる!

 

揺れが収まり、目の前にあったのは深く抉れた地面と―――――。

 

「ゴホッ………ぐぅぅ………!」

 

血塗れのヴァルスだった。

腕にも足にも、顔にも斬り傷があり、今の僕とそう変わらない状態だ。

 

「なっ………!?」

 

その光景に唖然とするヴァルス(分身体)。

 

そこへ―――――。

 

「うん? なんだ、やられちまったのか、祐斗? つーか、イリナもダウンしてるじゃねぇか。ゼノヴィアは………ほう、ここで試すつもりか? だが、ちいとばかし時間がかかりそうだ」

 

ザッ、ザッと確かな歩みと共に聞こえてくる声。

 

辛うじて顔を上げることが出来た僕の目の前に一つの人影。

 

「さーて、そこの分身体とやらよ。おまえさんの本体はあんな具合だ。俺もこっちに混ざってもいいか?」

 

モーリスさんは不敵にそう告げた―――――。

 

 




いつまにかボコボコにされてるヴァルス(本体)
やはりモーリスはチートか………。




~あとがきミニエピソード~


ディルムッド「ねぇね、あのね」

美羽「どうしたの、ディルちゃん?」

ディルムッド「ねぇねのこと………大好き………!」

美羽「カハッ………!」


クリティカルヒット、美羽に五万のシスコンポイント。
美羽は吐血した。

ディルムッドは百万イモウトポイントを獲得。
妹レベルが上がった。


~あとがきミニエピソード 終~


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40話 更なる高みへ

それなりにシリアス


[木場 side]

 

 

「馬鹿な………」

 

ヴァルス(分身体)は信じられないといった表情を浮かべる。

彼の目の前に広がるのは、まるで爆撃でもされたような荒れ地。

地面は抉れ、土砂が散らばり、至るところで砂煙が上がっている。

そして、クレーターの中央に埋まっているのはぼろ雑巾のようにされた自身の本体―――――『覗者』ヴァルス本人だ。

 

アセムの眷属は全員が神クラスの力を持っていると言って良い。

派手な能力は持っていないものの、相手を見通す能力、磨かれた剣技、絶大な魔法は強力だ。

そのヴァルスがここまで圧倒された。

 

それを成したのは言うまでもなく………、

 

「さて、俺も参加しても良いか? 俺の教え子達にこれ以上、無理はさせられんのでな」

 

不敵に告げるのは『剣聖』モーリス・ノア。

異世界『アスト・アーデ』における最強の剣士だ。

 

ヴァルス(分身体)はモーリスさんと本体であるヴァルスを交互に見ると天を見上げて――――――。

 

「いや、順番おかしいでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

頭を抱えて叫んだ!

 

ヴァルス(分身体)は本体に詰め寄ると襟首を掴む!

 

「なんで、私の本体であるあなたが先にやられてるのですか!? 今の展開って、普通、あなたがモーリス殿を追い詰めて、彼らのピンチを煽るところでしょう!? もしくは、分身体である私が倒されてから、あなたが敗れるのが王道展開でしょう!?」

 

そんな王道展開いらないよ!

というか、ツッコミ入れるところはそこですか!?

 

「いや、だって…………あの人、強すぎるんだもん………」

 

目をそらし、申し訳なさそうに言うヴァルス!

そうですね、モーリスさんが強すぎるんですよね!

 

そんな返しにヴァルス(分身体)はヴァルスの襟首を掴んだまま前後に激しく揺さぶり始める。

 

「そこはなんとかしてくださいよ! グダグダじゃないですか! どーするんですか、この空気!」

 

「そうは言ってもですね………見てくださいよ、あれ」

 

ボロボロのヴァルスが指差した向こうにあるのは―――――大地が、空が、空間そのものが真っ二つにされている光景。

地面の断面は鋭利な刃物で斬られたように綺麗で、空は赤い雲が空間の切れ目に生じた修正力で歪に変形してしまっている。

 

―――――世界そのものが斬られた、そんな光景に思えた。

 

ヴァルス(分身体)はポカンと口を開けて、その光景に言葉を失う。

そして、数秒後…………。

 

「………これはしょうがない」

 

「………でしょう?」

 

血で赤く染まった顔で苦笑するヴァルス。

どうやら、悪神の眷属でも剣聖の力は規格外らしい。

 

そんな彼らを見て、モーリスさんは言った。

 

「言わなかったか? 今の俺に斬れないものはねぇ。魔王だろうが、神だろうが、そんなものは関係ねぇ。こいつらの前に立ちはだかると言うのなら、俺は全てを降してやるよ」

 

ヴァルスが言う。

 

「………言ってないです」

 

「あら、悪い」

 

フッと笑むモーリスさん。

 

イッセー君………この人、チート過ぎるよ。

よくこんな人を眷属に出来たね………。

どうすれば、この人に勝てるのか見えてこない………。

 

だけど、モーリスさんがあそこまで傷を負ったところは見たことがない。

服は大きく破け、前は全開。

胸には深く刻まれた十字傷に皮膚が焼けただれている。

恐らく、ヴァルスが得意とする火炎の魔法を受けたのだろう。

出血が止まらず、今も赤い血が滴り落ちている。

明らかに重傷だ。

 

そんな僕の考えが分かったのか、モーリスさんは口を開いた。

 

「傷の痛みを耐えるのは戦いに身を置く者には至極当然のこと。これぐらい屁でもねぇよ」

 

そう言うと彼は血に染まった上着を脱ぎ捨てると目を細める。

 

「事情が色々と変わっちまったな………。あの怪物と共に隔離世界にいくだぁ? チッ、そういうことなら、俺にも一声かけてくれても良いだろうが、アザゼルの野郎。おまえがいなくなったら、飲み仲間が減って困るんだよ。つーかよ………」

 

モーリスさんはため息を吐く。

 

「おまえにも先が見たい奴はいるだろうに。その成長を間近で見ることが出来ない………そいつは思っているより淋しいものだぞ? まぁ、その隔離結界とやらにあの怪物が連れ込まれる前に全てを片付ければ良いだけのこと。なぁ、そうだろう?」

 

モーリスさんの言葉を受けて、ヴァルスが言う。

 

「あなたは………トライヘイサを斬るつもりで? あれを倒せると?」

 

「さぁな。ぶっちゃけてしまえば、あんな化け物倒せる奴がいるのかすら疑問だ。だが、やるしかあるまいよ」

 

モーリスさんの目付きが鋭くなる。

彼の殺気に耐えきれなくなったのか、ヴァルスの近くにあった、砂の塊にヒビが入り、爆ぜた。

剣気に覆われた双剣を握り、悠然と立つ姿からは消耗を感じられない。

あれ程の傷を負っていながら、ここまでの力を………!

 

「やろうか、分身体さんよ。見ての通り、傷は負っている………が、今の俺はおまえよりも強い」

 

「………ッ!」

 

闘志を向けられたヴァルス(分身体)が冷や汗を流しながら剣を構える。

 

畏怖している。

底の見えない目の前の剣士に。

 

モーリスさんとヴァルス(分身体)の戦いが始まろうとした、その時―――――

 

「―――――待ってくれ」

 

僕達の後ろから制止の声が聞こえてきた。

声の主は先程までモーリスさんに与えられた課題と向き合っていたゼノヴィア。

彼女はデュランダルとエクスカリバーを両手に握ると強い歩みでこちらに近づいてきた。

 

「まだ私達の戦いは終わっていない。これは私達三人の戦いだ」

 

そう言うとゼノヴィアは消えていた蒼炎のオーラを再び纏う。

オーラの復活に伴い、ゼノヴィアの髪が腰の辺りまで伸びた。

 

――――――『蒼炎の斬姫』。

彼女は再びその姿になったのだ。

 

「確かにモーリスが出れば勝てるのかもしれない。だが………ここで任せてしまったら、ここで守られてはダメなんだ」

 

この時、僕はゼノヴィアの雰囲気に違和感を覚えた。

いや、違和感と言ってしまうと少し違う。

―――――ゼノヴィアから感じる波動が聖剣のそれなんだ。

 

「モーリス、あなたは言ってくれた。私達の覚悟と可能性を信じると。ならば、今この時こそ信じてほしい。私は、私達は今こそ、立ちはだかる壁を破壊して見せる」

 

ゼノヴィアが纏う蒼炎のオーラに変化が訪れる。

その色はより深い蒼になっていた。

彼女の髪も、瞳の色も、より深く、より美しくなっていく。

見ているこちらが吸い込まれそうな………そう、深海のような深蒼。

 

深蒼のオーラを纏ったゼノヴィアはヴァルス(分身体)と対峙する。

 

『待たせたな、これが私の全てだ』

 

彼女の声音が違う。

まるで何人もの声が重なったような声。

 

彼女の新たな姿にヴァルスが言う。

 

「これは………なるほど。剣聖殿、あなたも中々に無茶をさせる」

 

問われたモーリスさんは頷く。

 

「デュランダルとエクスカリバー。こいつら伝説の聖剣には意思がある。それは剣そのものの意思でもあり、かつて、この聖剣達と歩んできた者達の意思も含まれている。ゼノヴィアはこの意思を自身に取り込み、本当に一つの剣となった。………下手すりゃ、流れてきた意思に自我を奪われかねないが………」

 

モーリスさんは深蒼に染まったゼノヴィアを見て、言った。

 

「こいつなら出来る、そう信じてのことだ。まぁ、かなりギリギリになっちまったがな」

 

ゼノヴィアが言う。

 

『………分かる。今まで、デュランダルとエクスカリバーの所有者がどんな道を辿ってきたのか。そこに籠められた想いも全てが理解できる』

 

次の瞬間―――――ゼノヴィアの姿がその場から消える!

彼女が立っていた場所は抉れ、土が舞った!

 

驚く僕の耳に入ってきたのは甲高い金属音。

振り向くと、そこではゼノヴィアとヴァルス(分身体)が激突していた!

 

ヴァルス(分身体)が驚愕の声を漏らす。

 

「これは………このスピードとパワーは………!」

 

『私は、持てる全てをおまえにぶつける! そして、必ず倒す! 私達はイッセーのもとに行くんだ! その道を阻ませはしない!』

 

二振りの聖剣が荒々しく振るわれる!

剣が降ろされる度、地面が抉れ、空間が悲鳴をあげる!

相手の剣と衝突すると、圧倒的な力で押し返している!

 

あのヴァルス(分身体)の剣が押されている………!

ゼノヴィアのパワーに力負けしているんだ!

 

苦い顔でエクスカリバーを受け止めるとヴァルス(分身体)が言う。

 

「このパワー………! あの技を砲撃として放たず、維持したまま剣を振るっているのですか!」

 

その言葉に僕は目を見開いた。

 

クロス・クライシスを放たずに、あの力を剣に纏わせたまま剣撃を繰り出しているのか!

確かに、それならばヴァルス(分身体)の剣であっても力負けしてしまうだろう。

そして、それを可能にしたゼノヴィアの進化。

二振りの聖剣と完全に、深い領域で繋がることでここまでの力を発揮できるとは………!

 

モーリスさんはあの聖剣達には、かつての所有者の意思も宿っていると言った。

そこには英雄ローランやストラーダ猊下も含まれているのだろうか………?

もしそうだとしたら、その力は未知数だ!

 

ヴァルス(分身体)は押されながらも、華麗な剣捌きでゼノヴィアの猛攻を捌きながら言った。

 

「確かにこれほどの力ならば、神にも届くでしょう。ですが!」

 

彼は魔法で自身の剣を強化すると、ゼノヴィアと競り合う格好となる。

 

「今のあなたはその力を長く維持することは出来ない。なぜなら、流れ込んでくる意思と力に、あなたの精神と肉体が耐えられないからだ。保っても数分が良いところでしょう。あなた一人で私が倒せますか?」

 

良く見るとゼノヴィアの口許には血が滲んでいた。

彼の言うように、あの力を維持するには相当な負荷がかかるようだ。

 

ヴァルス(分身体)の周囲に魔法陣が幾つも展開される。

そこから現れるのは無数の光の矢。

照準は当然、ゼノヴィア。

ヴァルス(分身体)の剣を受けながら、あれだけの数を捌くのはいくら今のゼノヴィアでも厳しいだろう!

 

放たれた矢がゼノヴィアを穿とうとした時―――――ゼノヴィアを守る形で黄金の波動が矢を阻んだ!

 

「相方が戦っているのに、寝てられないわ!」

 

その声と共にヴァルス(分身体)に突貫するのは、気を失っていたはずのイリナ!

イリナは猛スピードでヴァルス(分身体)に斬りかかる!

 

『イリナ、無理をするな! 君の傷はかなり深いんだぞ!』

 

「そう言うゼノヴィアだって、ボロボロじゃない! 無理をしないってこと自体が無理よ!」

 

互いの身を案じながら、彼女達は抜群のコンビネーションでヴァルス(分身体)と激しい攻防を繰り広げていく。

 

すごいとしか言いようがない。

二人がかりとは言え、あのヴァルス(分身体)と互角にやりあっている。

 

だけど、それは長く続かないだろう。

現在、渡り合えているのはゼノヴィアがあの姿になっていることが大きい。

あの深蒼の輝きが消えた瞬間に立場は逆転。

またヴァルス(分身体)の剣に斬り裂かれてしまう。

 

僕は力の入らない肉体を無理矢理、起こして立ち上がった。

 

「ここで見ている場合じゃないだろう! 二人が命を削りながら戦っているのに、男の僕が立ち上がらないでどうするって言うんだ!」

 

魔獣騒動の直前、イッセー君がシャルバ・ベルゼブブに囚われたオーフィスを救おうと英雄派が構築したあの疑似空間に残ろうとした時、彼は言った。

 

 

――――オカ研男子として女の子は絶対に守れ!

 

 

僕はオカ研男子で、グレモリーの男子………リアス・グレモリーの騎士だ!

ここで彼女達を守れずに、それが名乗れると思っているのか!

 

否だ!

僕の命に変えても、彼女達を守ってみせる!

だから………!

 

「僕の体よ、動け………! 動いてくれ………!」

 

僕の意思に答えてくれない肉体に苛立ちを覚えていると、僕の体をモーリスさんが支えてくれた。

 

「落ち着け、祐斗。焦りはおまえが持つ本来の力を殺す。体から力を抜け、そして深呼吸だ」

 

そんな呑気なことを………と言いかけた僕だったけど、モーリスさんの言葉はなぜか素直に受け入れることが出来た。

彼の言葉は頭に籠っていた熱を消し、体から無駄な力を抜き出してくれた。

僕は言われた通りに深呼吸する。

 

モーリスさんは僕の体を支えたまま口を開いた。

 

「おまえには二つの神器が宿ってる。それぞれが聖と魔を司ってる。聖書の神と魔王が死んだことが原因らしいが………不思議なもんだ」

 

モーリスさんはフッと笑むとこう続けた。

 

「相反する力が共存し、手を取り合う。俺には、おまえの力は平和を象徴する力に思える」

 

僕の聖魔剣は本来ならあり得ない力の組み合わせだ。

聖書の神の不在が起こしたバグとも言われている。

この力は各機関から研究対称にもなっているけど、今のような言葉は初めて言われた。

 

「以前、ストラーダの爺さんが言ってたな。聖と魔の狭間こそがおまえの力の根源になると。おまえの力は聖と魔、二つの力が互いを高め合うことで真の力を発揮する。なぁ、祐斗。そろそろ新しい答えを出しても良いんじゃないか? おまえも考えたことがあるんだろう?」

 

「―――――!」

 

この人は僕の考えていたことを見抜いていたらしい。

あの修行空間で僕は新たな力を得ることが出来た。

モーリスさんの課題をクリアし、二つの神器を次の次元へと進めた。

 

でも、強くなっていくなかで、僕は今まで考えていたことを実現したいと思うようになった。

不可能を可能にする………イッセー君に肩を並べたいと思うからこそ、僕は―――――。

 

僕の表情から何かを感じ取ったモーリスさんは後ろに下がった。

 

僕が持っていた魔の力。

同胞達が授けてくれた聖の力。

 

僕は聖魔剣を一振り創造すると、瞑目した。

 

 

 

―――――いこう、イザイヤ。

 

 

 

内側から誰かが声をかけてくれた。

その声は暗闇を模索する僕に光を当ててくれる。

 

僕はその光に手を伸ばした。

紅く輝くその光に。

僕を導いてくれるその光に。

 

紅い光に触れた瞬間―――――。

 

「聖魔剣が紅く………」

 

創造した聖魔剣が紅く輝きを放っていた。

鮮やかな光は僕を優しく包み込んでいく。

 

 

そして――――――。

 

 

「神器融合『真紅纏いし(クリムゾン・)双覇の騎士王(パラディン・オブ・ビトレイヤー)』」

 

 

 

[木場 side out]

 




木場の新フォームは次回で!



~あとがきミニエピソード~

ディルムッド「にぃに………アザゼルが私の唐揚げ取った………」

イッセー「よし、お兄ちゃんに任せておけ。ちょっと絞めてくる。手羽先にしてくるわ」

アザゼル「手羽先!? 俺、喰われるの!? 机に置いてたやつ、一個摘まんだだけじゃねーか! つーか、まだまだ山のようにあるし!」

イッセー「一個だけでも、ディルちゃんの唐揚げを食ったことには変わりない!」

美羽「アザゼル先生、有罪(ギルティ)

アザゼル「おまえもかよ! って、ギャァァアアアアアア! シスコン共に殺されるぅぅぅぅぅぅ! 手羽先にされるぅぅぅぅぅ!」


アーメン。


~あとがきミニエピソード 終~


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41話 進化する剣

今回で380話!
400話は………厳しいかな(-_-;)


[木場 side]

 

 

黒と白、そして………紅い、あの人と同じ色が僕を包んでいく―――――。

 

 

僕には二つの神器が宿っている。

一つは生まれ持った魔剣を創る力。

もう一つは同士達が与えてくれた聖剣を創る力。

 

魔剣創造と聖剣創造、相反する力を持った二つの神器がこの身に共存している。

本来なら交わることのない聖と魔。

聖書の神と四大魔王の不在が原因と考えられている。

 

僕は二つの神器を禁じ手に至らせることができた。

それだけでも相当なイレギュラーだとアザぜル先生は言っていた。

そもそも神器を二つ持っている時点でイレギュラーなのかもしれないけど。

そして、僕は剣聖の修行により、魔剣創造と聖剣創造を更なる次元に高めるに至った。

 

僕は強くなった。

リアス前部長に拾われ、イッセー君と出会ってから多くのことを経験し、ここまで歩んできた。

 

でも、まだだ。

僕はまだ駆け上がれる。

 

僕は紅のオーラに身を包まれながら、歩み始めた。

 

「僕はずっと考えてきた。この身に宿る二つの力を同時に扱えないか。何度も試して、何度も失敗した」

 

聖剣創造を禁手に至らせたは良いが、聖魔剣を発現できない。

逆に聖魔剣を出現させている時は龍騎士団を具現化することができない。

 

それはなぜか。

理由は簡単だ。

僕がその域に踏み込んでいなかったからだ。

相反する力が衝突し、生まれる力は絶大。

だけど、その力に僕の肉体は耐えられなかった。

この身に宿る二つの神器はそれを理解していたらしい。

 

だけど―――――

 

「今この時、僕は至った。至ることが出来た」

 

黒と白のオーラが僕の体を包み、騎士王の姿となる。

騎士王の衣服を紅の光が覆うと、黒いコートが紅に染まった。

膝下と前腕が強く輝くと―――――紅の脚甲と籠手が装着される。

その脚甲と籠手は紅の龍騎士が装着しているものと同じだ。

 

「これが二つの神器を同時に発動させた姿――――神器融合『紅蓮纏いし双覇の騎士王』」

 

新しい僕の姿を見たヴァルス(分身体)は言う。

 

「紅色の騎士王、ですか。これまでの力とは桁が違う。………なるほど、あなたの内側で相反する力が競い合うようにぶつかり、互いを高めながら共存している。ゼノヴィア殿も無茶をすると思えば、木場祐斗殿、あなたもですか」

 

「グレモリー男子として、ここで立ち上がらない訳にはいきませんから。僕はここであなたを倒します。今度こそ」

 

紅の騎士王となった僕は更に一歩を踏み出す。

 

………無意識に紅のオーラが滲み出ている。

内側で渦巻く力が大きすぎて、制御が行き届かない。

これは深蒼の姿になったゼノヴィアと同じく、長くは保たないだろう。

 

僕が足に力を籠めて、飛び出そうとした時、後ろにいたモーリスさんから声をかけられた。

 

「終わらせてこい、祐斗。ここで決めてこそ、男ってもんだろ?」

 

ニヤリと笑むモーリスさんの目は僕達の勝利を信じてくれていて―――――。

 

僕は振り向かず、ただ一言だけこう返した。

 

「―――――勝ってきます」

 

僕は呼び動作もなしに、いきなり全速力で飛び出した!

 

力を入れた瞬間に脚甲のふくらはぎの部分が展開し、噴射口が現れ、紅のオーラを放出。

僕は過去にないほどのスピードでヴァルス(分身体)へと迫っていた。

変則的な軌道を描いて彼の懐に飛び込んだ僕は下段の構えから斜め上へと斬撃を繰り出す!

 

ヴァルス(分身体)は紙一重で避けると、カウンターの一撃を僕に浴びせるが―――――彼の剣は虚しく空を斬っただけに終わった。

 

「なんと………っ!?」

 

その一瞬の隙を突いて、僕は上段、中段、下段へ連続で放つ突きを放った。

僕のスピードに驚きながらも、この突きを全てを受けきったのは流石だ。

 

僕とヴァルス(分身体)の斬撃の応酬。

先程までなら、パワーも、スピードも、剣の技量でも上を行かれ、一対一では相手にならなかった。

 

だが、今はどうだろうか。

撃ちあえば、撃ち合う程、僕の剣は彼の剣に追い付いてきている。

駆ければ、駆けるほど、僕の脚は彼の脚に近づいている。

 

ヴァルス(分身体)もそのことに気づき、汗を流し始めていた。

 

振り下ろした剣と剣が衝突する瞬間―――――籠手が展開して、オーラを噴出、その勢いを増していく!

勢いを増した僕の剣はヴァルスの剣を押し込んでいく!

 

僕はヴァルス(分身体)の剣が怯んだと同時に、あの九連撃を撃ち込んだ!

彼が握る魔法で創られた剣を打ち砕くと、肩、腕、脚、胸を貫いた!

 

「………っ!」

 

僕の攻撃をまともに受けたヴァルス(分身体)は大きく後ろに飛ぶと、頬につけられた斬り傷を指でなぞった。

指に付着した自らの血を見つめると、彼は苦笑を浮かべた。

 

「これはまた恐ろしい。あなたのその力、駆ければ駆けるほど速く、振るえば振るうほど強くなる………でしょう?」

 

そうだ、彼の言う通り、それがこの力の能力。

僕が駆ければ駆けれるほど、この脚は速くなる。

僕が剣を振るえば振るうほど、この剣の力は強くなる。

つまり、僕が止まらない限り、永遠に力が高まっていく。

 

これだけを聞くと、とんでもない力に思えるだろう。

だけど、何事にもデメリットはある。

 

ヴァルス(分身体)はそのデメリットを口にした。

 

「永遠に上がり続ける力。素晴らしい能力です。ですが、その力は諸刃の剣。増大し続ける力はあなた自身を蝕み、破壊してしまう」

 

「悔しいですが、その通りです。この力はそう長く使えるものじゃない」

 

今こうして話をしている間も、僕の肉体は悲鳴をあげている。

これまでに消耗した体力、負った傷も合わさって、とっくに限界を越えているんだ。

 

それでも………、

 

「これくらいの痛み、耐え抜いてみせますとも。我が主のため、大切な仲間のため、あなたを倒すためなら、これくらい安いものだ!」

 

すると、僕の両隣に立つ者達が現れる。

ゼノヴィアとイリナだ。

二人とも良く言ってもボロボロ。

血塗れで、傷も決して浅くはない。

それでも、彼女達は僕と共に戦ってくれているんだ。

 

ゼノヴィアが言う。

 

『ヴァルス、言ったはずだ。私達はおまえを倒し、この先に進む』

 

「あなたに勝って、ダーリンのところに行くわ。私達はどんな時だって力を合わせて乗り越えてきた。これからもそれは変わらないわ」

 

二人とも体の限界を感じさせない、力強い言葉だった。

 

僕達の言葉にヴァルス(分身体)は「そうですか………」と一言だけ呟くと額に手を当てて、可笑しそうに笑った。

どこか嬉しそうに。

 

ヴァルス(分身体)は魔法陣を展開すると、そこから新たに魔法の剣を抜き出す。

 

「これ以上、何かを言うのは無粋でしょう。あなた達は限界を超え、その領域に至った。ここから先は剣士として本気も本気、真の勝負といきましょうか」

 

ヴァルス(分身体)の鋭い視線がこちらを捉えた瞬間、彼からのプレッシャーが膨れ上がる………!

重たく、冷たい、凍りつくような波動。

触れただけで斬られる、そんな風にも感じてしまう。

 

正直に言えば、僕達は今の彼に恐れを抱いている。

それは否定できない事実だ。

だけど………たとえ恐れても、立ち止まるわけにはいかない。

僕は、僕達は彼を倒して、イッセー君の元に行くんだ………!

 

ぶつかり合う互いの波動。

その境目が軋み、地面に亀裂が入っていく。

近くにあった土砂の塊が僕達の波動を受けて、弾けた瞬間――――――。

 

「「「オオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」」」

 

僕達は雄叫びをあげる!

全身からオーラを放出させて、辺り一面に振り撒きながら、走り出した!

 

痛みはある。

体も限界を超え、今にも崩れてしまいそうだ。

だけど、そんなことに気を回す余裕があるのなら、一歩でも足を踏み出せ!

一振りでも多く剣を振るえ!

 

ここで勝たねば、大切なものを失ってしまう!

彼は何度も限界を超えて、守りたいものを守ってきた!

もう二度と失わないように!

 

もう何度目の連携だろうか。

僕とゼノヴィアとイリナの三人による連続攻撃。

相手に反撃すらさせない、絶え間なく続くコンビネーションアタック。

何度もやって、何度も撃ち破られた。

だけど、今度は確実に届きつつある!

僕達の剣は確実に進化している!

 

「ぬぅぅぅぅん!」

 

ヴァルス(分身体)の剣が真上から振り下ろされる。

受け止めた瞬間に、とてつもない重量が僕を襲った!

これが彼の全力か!

まるで巨大な岩でも降ってきたような感覚だ!

 

剣を握るヴァルス(分身体)の腕の筋肉が膨れ上がり、血管が浮かび上がると、剣の重みが更に増していく!

このままでは潰される………!

 

『させるかァァァァァァァァッ!』

 

横合いから彗星のごとく突っ込んできたゼノヴィア。

深蒼を纏うエクカリバーがヴァルス(分身体)の左腕を斬り落とした!

 

だが、ヴァルス(分身体)もただやられる訳ではない。

空中を舞っている剣の柄を口で咥えると、そのままゼノヴィアの腹を突き刺したのだ!

体を回転させて繰り出された後ろ回し蹴りがゼノヴィアの頭部を捉え、地面に叩きつける!

 

続けて、流れるような動きで僕の体を剣で刻み、強烈な蹴りを叩き込んできた!

僕は何度も地面をバウンドして転がっていく。

 

胸に刻まれた傷から血が止まらない………!

あの一瞬でここまでの攻撃をしてくるとは………!

 

「ぐぅ………!」

 

深いダメージを負ったゼノヴィアからあの深蒼のオーラが消え失せていく。

もう彼女に力は残されていない………!

このままでは………!

 

ヴァルス(分身体)は残った右腕を振り上げ、切っ先をゼノヴィアに向けると、そのまま―――――。

しかし、切っ先がゼノヴィアの体に触れる直前、その動きを止めた。

 

「相棒は私が守るってね!」

 

見れば、イリナがオートクレールのオーラ鞭状に変えて、ヴァルス(分身体)の右腕に巻き付けていた。

 

血を吐き出しながら、ゼノヴィアが叫ぶ。

 

「木場ァァァァァァァァ! いけぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

「木場君! お願い! これ以上はこっちがもたないッ!」

 

必死でヴァルス(分身体)の右腕を封じているイリナだが、徐々に引きずられている。

 

僕は紅の聖魔剣を両手で強く握る。

僕にももう力はほとんど残っていないんだ。

決めるならここだ。

今しかチャンスはない………!

 

僕は今出せる全ての力で飛び出した。

磨いてきた剣技もゼノヴィアにあれほど言っていたテクニックもない。

残された僅かな力による突貫。

不格好だけど、これしかないんだ。

 

届け、届いてくれ………!

 

「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」

 

 

 

 

それから、どれだけ時間が過ぎたのだろう。

恐らく一分も経っていない。

それでも、この時間は十分にも、一時間にも感じられた。

 

ヴァルス(分身体)の胸に深々と突き刺さった紅の聖魔剣。

刀身には彼の血が伝い、紅い剣を更に赤く染めていく。

 

やがて、紅の騎士王の衣服が光の粒子と化して中に消えてる。

残ったのは敵を貫いている紅の聖魔剣だけ。

 

自身を貫く聖魔剣をヴァルス(分身体)はそっと撫でた。

 

「良い………突貫でした。磨きあげた技よりも、何十何百と繰り返される駆け引きよりも………清々しい程に真っ直ぐな………」

 

「あなたは………最後、避けることが出来たのでは?」

 

最後の突貫。

確かに全力の突撃だった。

 

でも、この人の能力は相手の心の内を読み、一瞬先の未来を見ることだ。

ならば、僕の突貫は避けることが出来たように思える。

 

しかし、ヴァルス(分身体)は首を横に振った。

 

「いえいえ………どうあがいても結果は同じでした。私もあなた方と同じく、限界だったのですよ。所詮、この体は術によって創られた仮初めの肉体。あなた方のように限界を超えるなんて真似はできません」

 

ヴァルス(分身体)の指先が崩れていく。

砂のように崩れる彼の肉体は吹く風に流され、消えていく。

 

そんな中、彼は天を見上げ、呟いた。

 

「聖書の神よ、あなたが何を思い彼らに神器を託したのか。それは私には分かりません。ですが、これだけは言える。あなたは素晴らしいものを残された。あなたが創り、与えた力は彼らの可能性を大きく広げた。見なさい、彼は己の限界を超え、私に剣を届かせてみせたのです」

 

彼は満足そうに微笑むと、

 

「さぁ、先に進みなさい。あなた方の力が、その可能性が未来を切り開くのですから………」

 

それだけを言い残して、彼の肉体は完全に消え去った。

 

そして、僕達三人はその場で気を失ったのだった。

 

[木場 side out]

 

 

 

 

[モーリス side]

 

 

祐斗達と分身体とやらの戦いが終わった。

 

ここまで修行をつけたりしていたが………まぁ、なんというかあれだな………。

 

「末恐ろしいもんだ」

 

俺はそう呟くと祐斗、ゼノヴィア、イリナの応急処置を始めた。

三人共、かなりの重傷だ。

アーシアに治してもらいところだが、俺が三人を担いで行くよりも、向こうに来てもらった方が早いだろう。

俺はアーシアに通信を入れると、三人に止血剤を注射しておいた。

一応、持ってきて正解だったな………。

 

こいつら剣士トリオにはかなり厳し目に修行をつけた。

この戦いで生き残らせるためにだ。

だが、ハッキリと言わせてもらうと、こいつらの成長速度は俺から見ても異常だ。

それはリアス達も同様。

少なくとも、俺がこれくらいの時にはここまでじゃなかったさ。

 

応急処置を終えた俺は立ち上がると、近くでボロボロになっているヴァルスの方へと歩み寄った。

 

「よぉ、生きてるか?」

 

「………ええ、なんとか生きてますよ。全く………あなたは規格外過ぎます。剣聖殿、あなた、少し手を抜きましたね?」

 

「手を抜いたとは失礼な。急所を避けただけだ」

 

「………呆れた人です。本当に人間ですか?」

 

「いんや。だから、今の俺は悪魔だってーの」

 

「それでも、異常ですよ」

 

異常とはまた失礼な。

こんなか弱いおっさんに向かって。

 

「あなたがか弱いなら、世界はとうの昔に滅んでますよ」

 

「さりげに心の内を読むんじゃねーよ、ジミー」

 

「酷い! ジミーって言わないでくれます!?」

 

なんだよ、死にそうな顔してるのに騒ぐ元気は残ってるのかよ。

まぁ、そんな冗談はどうでも良いとしてだ。

 

俺はヴァルスの横にどっかり腰を下ろすと、水筒の水を飲みながら訊いた。

 

「さーて、おまえさんには聞きたいことがある。急所を避けた理由の一つだ。俺の質問は………分かっているな?」

 

俺がそう問うとヴァルスは息を吐く。

 

「この先の展開………隔離結界について、でしょうか?」

 

「そうだ。おまえさん達は予め、そいつを知っていた。ってことはだ、トライヘキサの動きが封じられることとかも知っていたことになるよな? ………おまえのところの大将は何を企んでいやがる? 仕入れた情報をただ聞き流すような奴でもあるまい?」

 

こいつから隔離結界を聞かされた時、アザゼルに対しての文句以外に浮かんだことがある。

 

―――――なぜ、トライヘキサの動きが封じられることを知っていて、何の対策もしていない?

 

隔離結界とやらの情報が得られたのなら、トライヘキサの対策くらいは分かっていたはずなんだよ、こいつらは。

トライヘキサはこいつらにとって、最大の戦力。

それを易々と潰されるような真似、こいつらがするだろうか。

 

イッセーやアリス曰く、こいつらには世界征服だの何だのは考えちゃいない。

だが、どんな思惑があるにしろ、こんな全面戦争を仕掛けてくるような過激な奴らだ。

ここで何かしらの企みがあると考えるのが普通じゃないだろうか?

 

ヴァルスは一度、瞑目すると、赤い空を見つめながら口を開いた。

 

「実はですね………。そちらの元ヴァルキリー………ロスヴァイセ殿の論文がトライヘキサを封印するものだと判明した時から、最悪の事態が起きた場合、あなた方がどう対処するかは予想できていました」

 

「………!」

 

つまり、こいつらはこちらの動きを予測して、準備する期間があったということだ。

嫌な予感しかしねぇ………!

 

ヴァルスはそのまま続けた。

 

「ええ、あなたの考えていることは正しいですよ、剣聖殿。父上はそちらの策すら利用します。父上はトライヘキサを―――――」

 

語られたこの後の展開。

その内容に俺は嫌な汗を流した。

 

気を付けろよ、イッセー………!

おまえが相手にしている奴はとんでもねぇこと考えてやがる………!

 

 

[モーリス side out]

 




~あとがきミニストーリー~


鬼畜イッセー「いいかぁ! ボケとツッコミの融合だァ!」

イッセー「なんでだよっ!?」

美羽「あ、融合した」


~あとがきミニストーリー 終~


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42話 ヴィーカの武器庫

お待たせしました!
今回からは美羽達の戦いです!

それでは―――――禁手化(シリアスブレイク)ッ!


[美羽 side]

 

 

リアスさん達にお兄ちゃんを任せ、先に進んでもらった後。

ここにはベルとヴィーカの相手として、ボクとアリスさんが残ったんだけど………。

 

ボクはため息を吐きながら言った。

 

「もう、なんで残っちゃったの? ここは任せてって言ったのに。ねぇ、ディルちゃん」

 

ボクの側に立っているのは右手に剣、左手に槍を握る紫色の髪の少女。

ディルちゃんはリアスさん達とは一緒に行かずに、ここに残ってしまったのだ。

 

ディルちゃんが言う。

 

「私もねぇねと共に戦います。言ったはずです、ねぇねは私が守ると」

 

うーん………これはボクの言い分を聞いてくれそうにないかな?

ディルちゃん、ちょっと頑固なところもあるし。

 

そんなディルちゃんの発言を聞いたアリスさんは半目で、

 

「カッコ良いこと言ってるけど、あんまり締まらないわね。だって、『ねぇね』だもの。幼さ全開だもの。というより、性格変わりすぎじゃない? 最初の冷たい雰囲気はどこ行ったのよ?」

 

確かにディルちゃんの性格は変わったけど、実はこれが本来の彼女なんだよね。

お姉さんが亡くなってからは、誰かに甘えることができなくて、そもそもそんな贅沢が出来ない環境で………彼女はずっと自分を殺してきた。

 

でも、やっと、心を開ける場所を得た。

こうしてボクの隣にいてくれるのは本当に嬉しい。

 

というか………ボクとしては甘えてくれるのは大歓迎だよ!

ここが戦場じゃなかったら、抱きついてモフモフしてるところだよ!

とにかく甘やかしたい!

撫で撫でしたい!

妹可愛い!

 

「妹最高! ディルちゃん万歳!」

 

「美羽ちゃん、それは心の中だけにしとこう。声に出して、シスコンを叫ばないで」

 

「お兄ちゃんに甘えたい! 撫で撫でしてもらいたいよ!」

 

「シスコンがダメなら、今度はブラコン!?」

 

「ディルちゃぁぁぁぁん! お兄ちゃぁぁぁぁぁん!」

 

「ゴメン! 私、そんなにツッコミできないから! お願いだから、ボケに回らないで! シスコンブラコンの世界から戻ってきて!」

 

「ねぇね!」

 

「あんた、わざとでしょ!? いい加減にしないと怒るわよ!?」

 

うん、どうやら、この場のツッコミはアリスさんに任せて問題ないらしい。

ボクに続き、ディルちゃんに対するツッコミも華麗に決めてくれる。

 

なぜ、こんなことを考えているのか。

それにはちゃんとした理由がある。

 

ボクはお兄ちゃんから聞かされている。

相手は強敵だと。

はじめは単純に戦闘力のことを言ってるんだと思ってた。

でも、それは間違いで………彼らはボク達兄妹にとって(・・・・・・)別の意味での強敵で―――――。

 

「……見せつけてくれるわね。流石は勇者君の妹。あなたの彼女への愛は本物だわ。そちらがその気なら良いでしょう。こちらも見せてあげる! これがベルへの愛よ!」

 

そう言うと、ヴィーカは両手を大きく広げ―――――ベルをギュッと抱き締めた!

 

「ウフ、ウフフフフフフフッ! やっぱり、ベルのほっぺたはプニプニで最高だわ! うゃーん!」

 

「あんたもぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

アリスさんの叫びが響くが、ヴィーカはお構い無し!

 

互いの頬を合わせての高速スリスリ!

右手でベルを抱き、左手にはスマホを持って、パシャパシャと自撮りしていく!

他にも自身の胸にベルの顔を埋めてみたり、ベルの白い髪に鼻先を入れて、彼女の香りを嗅いだり………。

 

お兄ちゃんの言っていた通りだ。

この人は………この人達は強敵だ!

妹を愛する姉、もしくは兄としての愛情表現はボク達と通じるところがある!

 

普通ならツッコミを入れる側なんだと思う。

だが、しかし!

この場において、ボクがツッコミ側に回るなんて不可能!

ボクの心がそう叫んでいる!

 

ヴィーカはベルを抱き締めながら不敵に笑んだ。

 

「どうかしら? これが私のシスコン道よ! ベルは世界一可愛いの! 最強のロリなのよ!」

 

「………ヴィーカ………苦しい………」

 

ヴィーカによって、しっかり抱き締められているベルは相変わらず眠たそうな目をしてるけど………。

 

しかし、こちらも負けてられない。

一人の姉として。

 

ボクはヴィーカに対抗するようにディルちゃんを抱き締め―――――。

 

「ふざけないで! ディルちゃんだって可愛いんだから! 普段はクールなのに、甘えてくる時の妹レベルはすっごく高いんだよ!」

 

無愛想キャラなんて崩壊するぐらいデレるし!

晩御飯が唐揚げと知った時なんて、すっごく可愛い笑顔になるんだから!

 

「ねぇね、苦しい………けど………もっと………」

 

ちょっと苦しそうにしてるけど、頬を赤くして、ボクの胸に顔を埋めてくるディルちゃん。

少し遠慮気味にしながらも、背中に手を回してくるところなんて………!

 

「カハッ………! 可愛い………可愛いよ、ディルちゃん!」

 

ボクは吐血した。

しかし、この直後、ディルちゃんの発した言葉がボクの体を突き抜けることになる。

 

ディルちゃんは赤面しながら、ボクの顔を見上げて―――――。

 

「ねぇね………好き」

 

「…………」

 

どうしよう、涙出てきた。

ディルちゃんが可愛すぎて辛い………。

 

「ぐぬぬぬ………! 私だって負けないわ! ベル! 言って! 『ヴィーカ、好き』って! 言って! そしたら、五年は生きていける!」

 

「………ヴィーカ………すーき………?」

 

「なぜに疑問系!? だけど………カハッ!」

 

感涙するヴィーカ。

 

分かるよ、その気持ち。

ボクとヴィーカは互いに頷くと一言。

 

「「この気持ち、まさしく愛だ!」」

 

「ただのシスコンでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

アリスさん、ツッコミお疲れさまです。

 

 

 

 

「うっ、うぅぅ……もうヤダ、帰りたい。なんで、この世界って敵も味方もシスコンが多いのよ………。もういっそのこと天下一シスコン道大会でもすれば良いのよ」

 

「あら、それ良いじゃない。王女様のアイデア採用♪」

 

「採用しなくていいわよ!」

 

ボクとヴィーカのシスコン対決が終わった後もアリスさんのツッコミは続いていた。

天下一シスコン道大会………参加してみたいかも。

ただ、その場合、ボクは妹として参加するのか、姉として参加するのか悩む。

 

アリスさんは深く息を吐くとヴィーカに聞いた。

 

「ったく、あんたは私との決着をつけにきたんでしょ? なんで、シスコン対決になってるのよ?」

 

「私も純粋にあなたと戦いたかったのよ? でもね、目の前で妹LOVEをされると血が騒いじゃうの。まぁ、シスコン対決はここまでにして、ここからは本当に刃を交えましょう」

 

妖艶な笑みを浮かべ、槍をくるくる回すヴィーカ。

 

ボクとアリスさんは既に神姫化して、自身に宿っている疑似神格の力を解放している。

前回、アグレアスで戦った時には、神姫化したボク達はアセムの配下である彼女達を圧倒できる程の力を発揮した。

恐らく、戦ってもあの時と同じ結果になるだろう。

ただし、今のままならだ。

 

ボク達に力が眠っていたように、ヴィーカもベルもまだ奥の手というものを持っている。

 

ヴィーカが言う。

 

「私も今回は本気でいかせてもらうわ」

 

刹那―――――ドンッと空気が激しく揺れた!

何事かと思えば、ヴィーカの周囲が彼女の発するオーラに押し潰されて、地面にはクレーターが広がっていた!

広がる彼女のオーラはまるで押し寄せる津波のようにボク達を呑み込もうとしていて………!

 

「あんた何をするつもりよ………!?」

 

ヴィーカと何度もぶつかってきたアリスさんも、この力の波動には衝撃を受けたようで、冷や汗を流している。

 

ボク達が未知の力を前にして動けない間にも闇色のオーラはこの一帯に広がっていく。

邪龍と戦う味方も、味方を凪ぎ払う魔獣。

敵味方関係なしに全てを呑み込み、かなりの広範囲に達した。

 

「その姿になった王女様を相手にするには、今のままの私じゃ勝ち目はないもの。だから、私の全てをここで披露するわ。あなた達を私の領域に招待するわ!」

 

パチンッとヴィーカが指を鳴らした―――――次の瞬間。

彼女のオーラが広がっていた範囲の景色が歪み始めた。

荒れた大地も血のように赤い空も、絵の具を混ぜたようになって………。

 

世界の変動が終わり、ボク達が立っていたのは一面が白い砂に覆われた砂漠の世界。

真っ白な砂、満月が浮かぶ藍色の空。

そして―――――砂漠に突き刺さる無数の武器。

剣、槍、ダガーといった刀剣から拳銃、大砲といった火器まで。

ありとあらゆる武器がこの白い砂漠世界に無数に散りばめられている。

 

「もしかしなくても、この世界って………」

 

アリスさんが辺りを見渡しながら苦い表情で呟く。

 

ヴィーカがアセムより与えられたのは『武器庫(アセナル)』。

なるほど、なんて分かりやすいんだろう。

 

ヴィーカが微笑みながら言う。

 

「解説する前に理解してくれたようでなによりだわ。そう、ここは私の世界。私の所有する異空間であり、私の武器庫よ」

 

「あんた専用の特殊な結界を展開したって感じみたいね。あんたを倒さない限り、この結界からは出られないってことで良いのね?」

 

「そうね、そんなところよ」

 

ボクは改めて周囲を見渡してみた。

ここにはボク達以外の人………味方である連合軍の人達もこの結界に巻き込まれてしまっている。

ヴィーカを倒さない限り、この結界を突破することが出来ないということは、この場にいる連合軍全員が足止めを食らうと言うことだ。

ボク達だけならともかく、他の味方も足止めを食らうのは流石にマズい。

 

アリスさんは続けてヴィーカに疑問を投げた。

 

「やってくれるわね………と、言うのはまだ早いのかしら? どーせ、他にも色々あるんでしょ?」

 

「もちろん。ここは私の世界よ? この世界の中でこそ、私の真の実力が発揮できる。まぁ、それは試してみる方が早いかもね♪」

 

ヴィーカは槍を構えて腰を沈める。

 

「端からそのつもりよ」

 

アリスさんもヴィーカに合わせて槍を構え、目付きも鋭いものになった。

二人の空間に強烈な殺気が満ちた瞬間―――――彼女達はその場から姿を消した。

 

上空からけたたましい音が消えてくる。

見上げると、白雷を纏うアリスさんとヴィーカが激戦を繰り広げていた。

 

アリスさんの神姫化―――――白雷神后(タキオン・ヴァスィリーサ)

光を司る偽りの神。

今のアリスさんはパワーはもちろん、スピードが大幅に強化されている。

並の神クラスではあのスピードに翻弄されて終わってしまうだろう。

 

アグレアスの時もそうだ。

ヴィーカはあのスピードに追い付けず、一方的な展開となっていたはずだ。

 

それが今はどうだろう。

ヴィーカは神姫化したアリスさんと全く互角の戦いを繰り広げている。

どうやら、この結界の中ではヴィーカの身体能力も爆発的に向上されるらしい。

 

穂先が見えなくなる程のスピードで槍を振るいながらヴィーカは言う。

 

「ウフフフ! 今の私と互角にやりあえるなんて、やるじゃない!」

 

アリスさんも神速の動きで対応しながら叫ぶ。

 

「それはこっちの台詞よ! あんたはここまでの力をずっと隠してた! この力を使えなかったら、一瞬でやられていたわよ!」

 

「だって、一瞬でケリがついたら面白くないでしょ? 強くなれる要素が残ってるなら、先を見たくなるのが普通じゃないかしら!」

 

鋭い横凪ぎの一撃がアリスさんの槍を弾く。

攻撃の流れを崩されたアリスさんはヴィーカの追撃をかわして後退すると、セラフのように光輝く翼を大きく広げた。

 

彼女の周囲に白金色の槍が何本も現れ、狙いをヴィーカに定めると、その全てが鋭く射出される。

 

しかし、放たれた槍は相殺されることになる。

突如として飛来してきた無数の剣によって。

 

アリスさんが舌打ちする。

 

「あんたの武器、外の世界よりもかなり強力になってる………! なんとなく分かってたけど、これって―――――」

 

その言葉にヴィーカはウィンクしながら答えた。

 

「そうよ♪ この世界の中で展開される武器は数も質も桁が違うわ。ここに展開されている武器は全てが神具クラス。今まで扱ってきた聖剣や魔剣とは別格よ?」

 

ヴィーカが飛んできた剣を掴み、軽く振るった。

次の瞬間―――――。

 

ドォォォォォォォォォォォンッッ!

 

一帯が激しく揺れた!

ヴィーカが剣を振るった先には破壊し尽くされた大地。

平らだった大地が巨大な渓谷へと変わり果てていた。

 しかも、今の一撃で結界に取り込まれた味方がごっそり減らされていて………!

 

今の一振りでこの威力………!

神具クラスというのは事実のようだけど………こんな馬鹿げた威力を持った武器が無数に存在すると言うの………!?

 

「ついでに見せるとこんなこともできちゃう」

 

ヴィーカが指を鳴らす。

 

すると、地面に刺さっていた剣や槍、巨大なハンマーが浮かび上がり、その切っ先を連合軍の方へと向けた。

そして―――――全ての武具が連合軍の方へと飛翔していった!

 

連合軍へと襲いかかる武具の数は百や二百じゃない!

全てが神具クラスの力を持っているためか、剣が一本落ちるだけで、味方に甚大な被害をもたらしていく!

 

「千単位で神具を降らせたら、どんなに数がいようと、神がいようとも全滅は免れないでしょうね。防御結界を張ったとしても無駄。圧倒的な力の前では紙同然だもの」

 

ヴィーカの言葉を証明するかのように、降り注ぐ神具の数々は防御の上から味方を潰していく。

あの中にはかなりの実力者もいたはずなのに、ヴィーカの攻撃に全く抗えていない。

この結界から脱出しようとヴィーカを狙う者もいたけど、瞬く間に神剣の雨に降られ、一欠片の肉片も残さずに消滅していった。

 

これがヴィーカの真の実力………!

 

「あ、ちなみにこの世界の武器は私しか使えないの。奪ってどうこう出来ないから注意してね♪」

 

自身の持つ広大な結界の中に血の雨を降らせながら、ヴィーカは妖艶に笑みを浮かべていた。

 

 

[美羽 side out]

 

 




~あとがきミニストーリー~

美羽「お兄ちゃんお兄ちゃん」

イッセー「どうしたんだ、我が愛しの妹達よ。何かあったのか?」

美羽「まぁね。ちょっとそこで見ててね? いくよ、ディルちゃん」

ディルムッド「うん。………にぃに」

美羽「お兄ちゃん」

美羽&ディルムッド「「大好き!」」

イッセー「フォオッハァアアアアアアアッ!!!!!!」


イッセーにオーバーキル。
イッセーは全身の穴から血を噴出、悶死した。

美羽とディルムッドがイモウトポイントを獲得。
妹レベルが上限突破した。


ドライグ『相棒!? しっかりしろ、相棒ォォォォォォッ!』

イグニス『あらあら………気を失っているのに、ものすごくニヤニヤしているわ』


~あとがきミニストーリー 終~


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43話 本気のベル

今回はシリアス………ないない(ヾノ・∀・`)


[美羽 side]

 

 

ボクは固唾を呑みながら、二人の撃ち合いを見ていた。

アリスさんとヴィーカ、神クラスの力を持った二人の全力。

 

アリスさんの槍捌きを華麗にかわすヴィーカ。

槍に纏わせている白雷、その余波ですら掠めないようにギリギリのところで避けての反撃。

一度、攻撃が乗ってしまうとそこからはヴィーカのターンで、手に握った武器を状況に合わせて持ち変え、アリスさんの間合いを殺しに来ている。

この戦い方自体は以前と変わらないけど、攻撃の激しさはレベルが違う。

 

ヴィーカの展開した結界『武器庫』。

この結界の中では彼女の身体能力が爆発的に上がるだけでなく、使える武器の強さも桁違いとなる。

 

今の彼女が握っている槍は神具クラス。

つまり、ロキ襲撃の際に使ったミョルニルや北欧の主神オーディンのグングニルと同等の力を持っているということ。

それだけでも異常なのに、この結界の中に散らばる武器全てが神具クラスというから、嫌になる。

 

「久しぶりにこういうのはどうかしら?」

 

槍を捨て、ヴィーカが呼び出したのは二丁の拳銃。

全体が白く、金の装飾が施されていて、拳銃としては派手なものだ。

ヴィーカはそれぞれの拳銃を両手で握ると同時にアリスさんに向ける。

すると、銃口に背筋が凍るくらいの力が集まっていき―――――

 

「ちょ………なによ、それ………!?」

 

アリスさんも銃口に集まる光に冷や汗を流している。

そんなアリスさんにヴィーカはニコリと笑んで、

 

「バーン!」

 

その声と同時に引き金が引かれた瞬間―――――極大の光がアリスさん目掛けて放たれた!

 

「あぶなっ………!」

 

アリスさんは横に大きく飛んで避けるが、それを追いかけるようにヴィーカは銃口を動かしていく。

二丁の拳銃から放たれる破滅の光がアリスさんをどこまでも追いかけていく!

 

アリスさんもそう簡単に捕まったりはしないけど、あの光が到達した地点では大爆発が起こり、そこにいた者達は全て破滅の光に呑まれて消えていく。

 

アリスさんは高速で動きながら叫んだ。

 

「その銃、装填いらないの!? というか、どんだけ馬鹿げた威力してるのよ!?」

 

「だって、神具だもの。ちなみに無限に撃ち続けることが出来まーす」

 

気楽な口調でそう言うと、ヴィーカは拳銃を指でくるくる回して再度、アリスさんに向ける。

銃口に魔法陣が展開したと思うと、魔法陣は一枚、二枚と増えていき、大きく広がっていく。

やがて数百枚の魔法陣が銃口の周りに展開されて、

 

「これが無限連射よ」

 

先程と同じ光が魔法陣一枚一枚に集まり――――一斉に撃ち込まれる!

止まることのない砲撃!

ヴィーカが引き金を引かなくても、断続的に光がアリスさんを襲いかかっている!

 

これにはアリスさんもたまらず………

 

「なにそれズルい!」

 

顔を青くして逃げに回っていた。

 

聖なる弾丸とかなら、アリスさんが纏っている白雷のオーラで炭に出来たんだろうけど、この無限に続く砲撃にはそんなことが出来ない。

 

逃げるアリスさんをヴィーカが挑発する。

 

「あらあら? 逃げてるだけじゃ、私には勝てないわよ?」

 

「うっさい! あんまり舐めてると痛い目見るわよ!?」

 

「そう? 是非とも見せてもらいたいものだわ、貧乳王女様♪」

 

 

ブチッ

 

 

あ………なにかものすごい音が聞こえてきた。

多分、幻聴………じゃないよね。

 

そう思った時、月夜の空を覆うかのように白金色のオーラが広がっているのが見えた。

白金の雷が空を支配し、周囲に巨大な落雷を落としていく。

 

オーラの中心を見ると、アリスさんが幽鬼のような表情を浮かべていた。

 

「言ったわね………また、言ったわね………」

 

アリスさんの後ろに尋常ではない大きさの雷が落ちる。

触れたものは全て炭にするその雷はアリスさんの心情を映しているようで………。

 

アリスさんはヴィーカを睨むと、カッと目を開いて叫ぶ!

 

「貧乳じゃないもん! 前よりも大きくなったし! あんただって、そこは認めてたでしょうが! というか、このやり取り何回目!?」

 

「えー………だって、揺れてないし。谷間もないし。大きくなったって言うなら――――」

 

ヴィーカはアリスさんに見せつけるように前屈みになると、腕で胸を寄せ、ダイナミックに強調する。

 

「これぐらいは出来るようにならないと♪」

 

うん、おっきい。

お兄ちゃん好みの巨乳だ。

 

強調されたヴィーカの胸にアリスさんは肩をワナワナ震わせて、

 

「もいでやる! その乳もいでやるぅぅぅぅぅ! アルビリス! あの女の胸をもぐために力を貸して!」

 

アスト・アーデに伝わる霊槍になんてお願いをしてるんだろう。

 

しかし、主の願いに槍は応えてくれたようで、その力を発揮してくれた。

目映い光が槍から発せられ、アリスさんの力を更に高めていく!

解放された力がヴィーカの無限砲撃をかき消した!

 

これにはヴィーカも驚いたようで、

 

「嘘ッ!? えっ、そんな想いに応えるの、その槍!?」

 

「覚悟なさい! しばき回してやるわ!」

 

ボクがこの二人の戦いを間近で見たのはアグレアスが初めてだったけど………毎回こんなやり取りをしてたのかな………?

 

 

 

 

アリスさんとヴィーカが激戦を繰り広げる中、ボクとディルちゃんは動けないでいた。

本当ならアリスさんに加勢して決めてしまいたいところだけど………。

 

「………」

 

いつもと変わらない、眠たげな目で空を見上げるベル。

彼女の視線の先には神の力を纏い衝突するアリスさんとヴィーカ。

 

ボク達が動けない理由は彼女の存在があるからだ。

下手に動いてしまってはベルの術中に嵌まる。

アウロス学園襲撃の際、ボクは彼女の罠に引っ掛かり、全く身動きが取れなくなるという最悪の事態に陥った。

あの時はディルちゃんが助けてくれたから、生き残ることが出来たけど、今度はどうなるか分からない。

 

それに彼女は先程から何やら言い知れぬオーラを纏っている。

何かを準備しているのは間違いないだろう。

 

ボクがベルを警戒していると、彼女はこちらに顔を向けて口を開いた。

 

「………お姉ちゃん、ベルと戦う?」

 

「戦う………しかないのかな? ボクとしてはキミと戦う時間があるなら、お兄ちゃんのところに加勢に行きたいんだけど」

 

「………それはダメ。今はまだパパのところには行かせられない」

 

「なんで?」

 

ボクが簡素にそう問いかけると、ベルはこちらをじっと見て言う。

 

「………まだ、パパ達の決着が着いていないから。パパがお姉ちゃん達の声を聞くのはその後」

 

「ボク達の声………?」

 

どういうことだろう?

アセムがお兄ちゃんとの決着を着けるまで、ボク達を足止めするというのなら分かる。

でも………その後?

ボク達の声?

 

「それはどういうことかな?」   

 

「………言えない。言ったら意味がなくなっちゃうってパパが言ってた」

 

そう言うと、ベルは指先で宙に絵を描いていく。

描かれたそれは光輝くと、絵の中から這いずるように出てきた。

 

ディルちゃんが出てきたものを見て呟く。

 

「八岐大蛇………いや、少し違うか」

 

八つの首を持つドラゴン―――――『霊妙を喰らう狂龍(ヴェノム・ブラッド・ドラゴン)』八岐大蛇。

伝説の邪龍の一体とよく似てはいるが、所々が違う。

頭には血のように赤い目が六つずつあるし、八つの首が繋がる胴体の部分からは巨大な翼が生えている。

恐らく、八岐大蛇の形状をベルが色々と混ぜた結果なのだろうけど………。

 

「だけど、毒も再現されているようだね」

 

牙から滴り落ちる液体。

液体が地面に落ちるとシュゥゥという音を立てて、溶かされていた。

 

ベルが掌をこちらに向けると、主の指示を聞き入れた八つ首のドラゴンが咆哮をあげて襲いかかってきた。

八つの首、それぞれが意思を持っているようで、毒を吐き出す、炎を噴く、牙を突き立てるといったバラバラの行動を取ってくる。

 

ボクはディルちゃんに身体能力強化の魔法をかけた後、二人で左右に展開。

ボクは魔法で、ディルちゃんは槍と剣で応戦し、ドラゴンの首に攻撃を加えていく。

 

迎撃する中でボクは思ってしまった。

 

―――――弱い。

 

この場面、最終決戦ともいえるこの戦いは互いに本気を出すものだと思っている。

現にヴィーカも奥の手を発動して神姫化したアリスさんと激戦を繰り広げている。

それなのにベルは例の魔神よりも弱い魔獣を作り出して、ボク達を迎え撃っている。

 

全ての首を落とされたドラゴンは活動を停止して、塵となって空に消えた。

後から作られた怪鳥も、巨大な獅子も、全長が百メートルはある大蛇も。

上級悪魔クラスですら敵わない強さを持った魔獣だけど、神姫化したボクとディルちゃんのコンビなら何百体来ようとも撃退できる。

 

まぁ、数が多すぎて中々攻め難いんだけどね。

もう一面真っ黒になるくらい、魔獣が作られている。

しかも、防御に特化した魔獣もいて、ボクの魔法を防ぐ障壁を展開する魔獣もいる。

そういう魔獣はディルちゃんが剣で叩き潰してるけど………これらを二人で相手にするのは面倒だ。

 

すると、ボクと同じ違和感を覚えたのか、ディルちゃんが訊いてくる。

 

「ねぇね、気付いていますか?」

 

「うん、魔獣に手応えが無さすぎる。明らかに手を抜いてるような………それとも、何らかの理由で力を制限されているのか」

 

「何にせよ、術者本体を狙うのが手っ取り早いですね」

 

そう述べるとディルちゃんは槍を両手で握り、低姿勢となる。

ボクはディルちゃんに触れて術式をマーキングすると同時に彼女の足元に風の魔法を発動。

渦を巻いた風がディルちゃんを弾丸のように撃ち出した!

突撃コースを邪魔されないようにボクは後方から魔法の砲撃を魔獣の群れに浴びせていく!

 

ベルの企みが発動する前にケリを着ける。

そのためにはベル本人を早々に倒さなければならない。

だけど、ボクが本気の魔法を放ったところで、恐らくベルは魔法障壁で防いでしまうだろう。

ならば、ディルちゃんの持つ魔槍の力で彼女の術式を崩せば良い。

 

目にも止まらぬスピードでの突貫はベルに新たな魔獣を作らせる時間を与えず、読み通りに彼女に魔法障壁を展開させた。

幾重にも展開された魔法障壁に魔槍が触れた瞬間、強固な障壁は術式を崩され儚く散っていった。

そして、槍がベルを貫く―――――はずだった。

 

「私の妹はやらせなくてよ?」

 

本当に一瞬だった。

ディルちゃんとベルの間にヴィーカが現れ、槍の一撃を防いだのだ。

 

あのスピードを止められた………!?

いや、今は驚くよりも………!

 

「ディルちゃん!」

 

ヴィーカの剣がディルちゃんを斬りつける直前に、予め着けておいたマーキングを発動させて、ボクの元にディルちゃんを強制転移させる。

 

本当なら槍の一撃を何らかの形で防がれた時にディルちゃんを強制転移させて、ベルを爆撃しようと思ったんだけどね………。 

まさかアリスさんと戦闘中のヴィーカが防ぎに来るなんて思ってなかった。

ヴィーカが相手だとボクの爆撃は間に合わないし、危うくディルちゃんが斬られるところだった。

 

アリスさんが近くに降りてくる。

 

「ゴメン、抜かれたわ。っていうか、イッセーもそうだけど、あいつのシスコンも異常ね。ものすんごいスピードで守りにいったもの」

 

そう言うアリスさんの体を見ると、衣服のあちこちが破れていて、複数箇所から血が滲んでいた。

対するヴィーカも同様のところを見ると二人の実力は拮抗しているらしい。

 

ボクはアリスさんに言う。

 

「気にしないで。ボク達も攻めあぐねてたし」

 

「まぁ………こんなうじゃうじゃいたらね………」

 

数えるのが馬鹿らしくなる魔獣の群れにうんざりしているアリスさん。

 

ベルの無尽蔵とも思える創造力は見るたびに改めて危険性を認識させてくれる。

 

互いの陣営で固まり、相手の出方を探る中、ヴィーカがベルに言った。

 

「ベル、そろそろいけるかしら?」

 

「………うん、もう出来る」

 

「それじゃあ、よろしくね♪」

 

ヴィーカの言葉に頷くと、ベルは一歩前に出た。

彼女の手元には不気味なオーラが発せられていて、見るだけで嫌な汗が流れ始める。

 

「何をするつもりなの………!?」

 

ボクの問いにヴィーカが答える。

 

「ウフフ、ベルがお父様から与えられたのは『絵師』。描いたものをそのまま造り出す能力。まぁ、他にも触れた対象を分析したりもできるけど。でもね、その分析した力はベルの中に一つの『絵』として保存されているの。私の『武器庫』みたいに。ここまで言えば分かるかしらね」

 

ヴィーカの『武器庫』は今までに創造した武器を蓄え、その領域内では強大な力を持つ神具をも扱える。

ベルの力もヴィーカと同じって………、

 

「まさか………!?」

 

嫌な考えがボクの頭を過る。

もしそうだとしたら、最悪の事態になる………!

 

ボクは魔法陣を何十、何百と展開。

あの魔法を発動させる!

 

「皆、全力で防御を! ミーティア・フォールラインッ!」

 

龍を模した魔法杖を相手にかざして発動するのはアグレアスで使った隕石落とし!

空を見上げると、巨大な灼熱の塊がヴィーカとベルの頭上に落下している!

ベルの魔神ですら踏み潰したこの大魔法なら………!

 

灼熱の塊が落ち、大地震が起こる。

隕石が落ちた衝撃波とそれに伴う爆風が一帯を破壊し尽くしていく。

ボクは強固な結界を展開して、味方を衝撃から守るが………。

 

揺れが止んだ後に残ったのは天まで立ち上る黒煙と焼け野原。

結界で防いでいない範囲は隕石の衝撃で見るも無惨な光景に変わり果てていた。

 

アリスさんが呆然としながら言う。

 

「あのね、美羽ちゃん………やり過ぎ」

 

「うっ………だって………」

 

「いや、分かるけどさ。私も嫌な予感したし。でも………まぁ、言っても仕方ないわね。終わった後だし。というか、相手もまだピンピンしてるようだし」

 

爆煙で相手の様子は見えないけれど、結界が解かれていないことから、そこまでのダメージは与えられていないようだ。

隕石落としなら、防がれても防御の上から潰せると思ったんだけど………。

 

やがて視界が晴れ、ベルとヴィーカの姿が見えてくる。

ボク達の前に姿を見せた二人は無事だった………衣服を除いて。

 

「あらら………私のお気に入りの服だったのに………」

 

服が大きく破れたことにより、より扇情的な姿になったヴィーカ。

お兄ちゃんがこの場にいたなら、間違いなく釘付けになっていただろう。

 

「………ススだらけ」

 

ヴィーカが守ったのか、ベルの服はそこまで破れていなかったけど………。

幼げな雰囲気な少女がスス汚れたボロボロの服を着ているというのは………犯罪臭がする。

 

ヴィーカがハンカチを取り出して、ベルの顔を拭いていく。

 

「加減を知らないんだから~。もしかして私達をスッポンポンにしようとしたのかしら? エッチな娘ね♪」

 

「違うよ! そもそもキミ達相手に加減なんて出来ないよね!?」

 

「エッチな娘ってところは否定しないの?」

 

「そ、それは…………」

 

「ま、まぁ、美羽ちゃんって見た目と違って性欲強いしね………イッセー限定で」

 

返事に困るボクに続き、アリスさんも何とも言えない評判でそう返す。

 

エッチな娘でごめんなさい!

でも、そう言うアリスさんだって、お兄ちゃん限定ではエッチだと思うんだ!

何気に『休憩室』の利用回数多いし!

 

ヴィーカがベルに言った。

 

「隕石も防いだことだし、ベル、ちゃっちゃっとやっちゃいましょう」

 

「うん」

 

高まっていたベルの力が解放される―――――。

 

ヴィーカが展開した『武器庫』と同規模に広がったオーラが一面を黒く染めていく。

まるで黒い海だ。

黒い海が波打ち、海面からヌゥッと何かが出現する。

数は千、万、それ以上………。

 

出現したそれを見てアリスさんが呟いた。

 

「絵画………?」

 

そう、それは額に納められた絵だった。

 

――――赤き龍の帝王。

 

――――滅びを操る紅髪の姫。

 

――――聖と魔の狭間の剣士。

 

――――天候を操る天使。

 

――――遥か果てまで撃ち抜く狙撃手。

 

――――最強の剣士。

 

他にも見覚えのある人達の絵がこの空間に召喚されていて―――――。

 

「………『魔導絵師の美術祭』。ベルも本気………だす」

 

真っ白な少女は眠たげな表情のまま、そう告げた。

 

 

[美羽 side out]




~あとがきミニストーリー~


アセム「この僕、アセムが世界を粛清しようと言うのだよ、勇者君!」

イッセー「エゴだよそれは!」


イグニス「この私、イグニスお姉さんはガブリエルちゃんのおっぱいを揉み揉みしたいのだよ、イッセー!」

イッセー「エロだよそれは! やめて! ガブリエルさん堕ちたら俺が色々な人から怒られるから!」


ゼノヴィア「この私、ゼノヴィア・クァルタはイッセーになら苛められたいぞ! その………縄で縛られて後ろからというのも……」

イッセー「エムだよそれは! 俺にも責任あるけど、本当に目覚めたのな!」

イグニス「それじゃあ、ゼノヴィアちゃんにケモミミと尻尾を着けさせて、ワンワン鳴かせちゃいましょう。媚薬と三角木馬も使って~」

イッセー「マニアックだよそれは!」


~あとがきミニストーリー~


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44話 アリスの決意

さぁ、シリアルを始めよう。



[美羽 side]

 

宙に浮く無数の絵画。

そこには知らない人物から知っている人物………仲間の姿も描かれていて………。

 

「………『魔導絵師の美術祭』。ベルも本気………だす」

 

真っ白な髪に真っ白な肌。

全てが白い少女は眠たげな表情のままそう告げてきた。

 

『絵師』ベル。

描いたものを召喚する能力を持つ少女。

今までは様々なタイプの魔獣の絵を描き、具現化し、ボクにぶつけてきた。

他にも触れた相手を解析して、描き、具現化する等、コピー能力もこれでもかと言うくらいに見せつけてくれている。

とにかく、彼女は『絵』を媒介にして能力を発動させることが出来るんだ。

 

そして、現在、彼女が今まで読み取り、描いてきたもの全てが召喚されている。

 

お兄ちゃんや、リアスさん、天界の切り札ジョーカーであるデュリオさんといったチーム『D×D』のメンバー。

他にも味方陣営の悪魔、堕天使、天使、妖怪も具現化されていて、その数は軽く千は越えている。

 

アリスさんが目をヒクつかせて言う。

その声音には焦りが混じっていて、

 

「………これって、一斉召喚みたいなものよね………? その子の能力は分かっていたけど、この数は………」

 

ただ描いたものを召喚するだけなら、今更驚いたり、焦ったりはしない。

問題はこの数だ。

お兄ちゃんを含め、かなりの実力者のコピーをこれだけの数で作り出そうとすると、必要な力は尋常ではない。

神姫化したボクでも無理だ。

 

それをベルは易々とやってのけた。

 

ヴィーカがベルの頭を撫でる。

 

「言わなかったかしら? この子は私達四人の中でも最強だって」

 

「そういえば、そんなことも聞いたわね。ロリッ娘のくせにやってくれる………!」

 

「最強のロリって言うのも燃える展開じゃない? 言っておくけど、これくらいで驚いていたら、この先もたないわよ?」

 

………っ!

これ以上、まだ何かあるというの………!?

 

ボク達が更に警戒を高めている中、ベルはゆっくり腕を上げて、掌をこちらに向ける。

それと同時に皆の複製体が一斉に仕掛けてきた!

 

「来たよ! ディルちゃんはボクの側から離れないで!」

 

「はい!」

 

ディルちゃんは強い。

だけど、複製体の元になった皆の力はディルちゃんよりもずっと上だ。

数でも圧倒されている今、離れて動けば囲まれて袋叩きにされてしまう。

 

出来るだけ距離を取って戦いたいけど、そんな暇は与えてくれなくて………。

お兄ちゃんの………赤龍帝の複製体が赤い砲撃を撃ち込んできた!

 

今のお兄ちゃんのパワーには至らないけど、それでも当たれば大きなダメージを受けてしまう。

ボクが反撃の魔法を放とうとすると、間にアリスさんが入り、赤い砲撃を槍で斬り裂いた!

 

「ああ、もうっ! モーリスでもいればここを………てぇぇぇぇぇっ!? モーリスもコピーされてるじゃない!」

 

「モーリスさんだけじゃないよ!」

 

敵の後方、ベルの近くに立っている女性―――――リーシャさんの複製体!

リーシャさんの複製体は魔装銃を構えて、引き金を引く!

こちらも本人と変わらない正確無比の狙撃だ!

 

モーリスさんの複製体も剣気の斬撃を放ってきて、ボクが展開した防御魔法陣を真っ二つにしていく!

普段はいるだけで心強いけど、敵に回ると厄介きわまりない!

というか、強敵過ぎる!

 

「ねぇね!」

 

横合いから飛んできた攻撃をディルちゃんが槍で弾く。

今のは雷光―――――朱乃さん!

 

朱乃さんの複製体に意識を取られかけた時、上から絶大な魔力がぶつけられてきた。

こちらは滅びの魔力で、

 

「リアスさん……!」

 

見上げた先には滅びの魔力を身に纏ったリアスさんの複製体。

手元には凶悪な程に高められた滅びの力が燃え盛っていて……。

 

今のリアスさん達を相手にするのは骨が折れる。

 

「くぅ……! ゼノヴィアさんの一撃、重い……ッ!」

 

アリスさんはオカ研の剣士メンバーの複製体から襲撃を受けていて、かなりの苦戦を強いられていた。

蒼炎を纏ったゼノヴィアさんの剣撃を槍で受け止めているが、厳しい表情を浮かべている。

 

そこへ騎士王姿の木場君の複製体と性欲のエロ天使………ゲフンゲフン、聖翼の清天使となったイリナさんの複製体の連続攻撃。

更にはモーリスさんの複製体も加わり、明らかに不利な状況だった。

 

助けに行きたいけど、こっちもこっちで手が一杯だ!

現在進行形で魔法のフルバーストを受けている!

 

「ロスヴァイセさんの魔法………!」

 

「ここは任せてください!」

 

ディルちゃんの槍が魔法に触れた次の瞬間―――――ロスヴァイセさんの魔法が霧散する。

魔槍ゲイ・ジャルグの能力で魔法を打ち消したんだ。

彼女の力は対魔法使いには絶大な効果を発揮してくれる!

 

ふいに冷たいものが頬に触れる。

 

「雨………これって………!」

 

空に暗雲が立ち込めている。

雷鳴が鳴り響き、強風が吹き始めた。

 

―――――神滅具『煌天雷獄』。

上位神滅具の一つであり、天候を支配する。

 

暗雲の中央でデュリオさんの複製体が黄金の翼を広げていた。

彼が手を動かすと、それに合わせるように天候が悪化、大嵐が巻き起こる!

雷が、竜巻が、大雨が、大粒の雹までもが降り始めた!

自然災害がボク達に向けて引き起こった、そんな風にも思えてしまう!

 

この大嵐がボク達を分断、ボクとディルちゃん、アリスさんが引き離されてしまう。

最悪の状況だ………!

 

分かっていたけど、自身に向けられて改めて認識した。

これが神をも滅ぼす具現の力か。

今のボクとアリスさんは疑似神格を発動させていて、一応は神だ。

そう考えると………うん、色々マズいよね。

 

神滅具といえば、お兄ちゃんやデュリオさんもそうだけど、それに匹敵する神器持ちも複製体の中にはいる。

それは―――――。

 

「数ヵ月前とは比べ物にならないよね、ギャスパー君は!」

 

一帯に広がっていく闇。

闇の中から無数の黒い獣が現れ、突撃してくる。

獣達の中心には闇の獣と化したギャスパー君。

吸血鬼の一件の時にアザゼル先生が神滅具クラスと称していたけど、本当にその通りだと思うよ!

 

ギャスパー君の闇が世界を侵食し、ボク達を呑み込もうとすると―――――それを打ち消すように極大の光が世界を包み込んだ!

 

「悪いけど、アポプスと比べるとまだまだだわ!」

 

アリスさんが翼を広げて神々しい光を振り撒いていた。

光の神の名は伊達ではなく、彼女の光はギャスパー君の闇を押し返していく!

 

ここでボクはあることに気づいた。

先程まで猛攻を仕掛けていた剣士組の動きが鈍くなっている。

木場君やゼノヴィアさんだけでなく、モーリスさんの複製体まで、その剣が鈍くなってしまっている。

 

そうか………どんなに強い悪魔にでも光は弱点。

超高出力で発せられる神の光は悪魔にとって必殺の猛毒に等しい。

 

「美羽ちゃん! お願い!」

 

「うん!」

 

複製体とはいえ、リアスさん達を消し飛ばしてしまうのは罪悪感があるけど………今はこの危機を脱することが優先だ。

 

ボクは魔法陣を無数に展開。

複製体を一掃しようとするが―――――。

 

「残念だけど、敵は彼らだけじゃないのよね」

 

「………ッ!」

 

ヴィーカが槍で斬りかかってきた!

ボクは咄嗟に回避したけど、腕を掠めてしまう。

 

「この………!」

 

「あらあら、そんなに怒るとシワが増えちゃうわよ? それにこれは殺し合い。あらゆる手段を使うのが普通じゃないかしら」

 

そう言って、ヴィーカは槍を振るってくる!

神速の突きがボクを襲う!

 

近距離戦では圧倒的不利だ。

何とか距離を置きたいところだけど、こちらの思惑通りにはさせてくれない。

 

相手の武器を魔法で分解する手も考えたけど、現状、あれは触れなければ発動できない。

しかも、ヴィーカの武器は神具。

解析するだけで時間がかかるため、それは無理だ。

仮に分解出来たとしても、この空間はヴィーカの『武器庫』。

神具クラスの武器は無数に存在する。

 

アリスさんと変わって欲しいところだけど、向こうはモーリスさんの複製体を相手に苦戦を強いられている。

 

ヴィーカの攻撃を防いでいると、向こうの方で何かが光るのが見えた。

それは魔装銃の輝きで―――――リーシャさんの狙撃がボクの肩を撃ち抜いた!

 

「くっ……うぅッ!」

 

激痛がボクを襲う!

この一瞬の隙にヴィーカが懐に入り込んでいて、

 

「隙ありってね!」

 

槍がボクを貫こうとした―――――その時。

一振りの剣が頭上から降ってきて、強力な結界を展開。

ヴィーカの槍を阻んだ。

 

「ねぇねから離れろぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

その叫びと共にディルちゃんが猛スピードで突貫、ヴィーカに鋭い一撃を叩き込んだ!

 

見れば、ディルちゃんはボロボロだった。

あの嵐を突っ切ってきたのか………。

 

ヴィーカが言う。

 

「あら? リアスちゃんと朱乃ちゃん、ロスヴァイセちゃんの複製体がいたはずだけど、倒したの? やるぅ♪」

 

ディルちゃんは肩で息をしながら言う。

 

「はぁ、はぁ………やらせない………この人は絶対にやらせない………!」

 

「うんうん、お姉ちゃん思いで良い子ね♪ あなたみたいな子は好きよ♪ でも―――――」

 

ヴィーカが後ろに目をやった。

すると、リアスさん達が描かれた絵画から再び彼女達が召還される。

一人倒しても、また召還されるのか………!

 

ベルを倒さない限り、無限ループに入ってしまう。

だけど、召喚される人達とヴィーカがそれを阻んでくる。

 

このままだと、ボク達の体力が先に尽きてしまうだろう。

ディルちゃんに至っては呼吸が荒い。

 

焦るボクを見て、ヴィーカが笑む。

 

「ウフフ、焦ってる焦ってる。それじゃあ、もっと焦ることをさせようかしら」

 

「何を………考えてるの?」

 

「さっき言ったでしょ? これくらいで驚いていたら、この先もたないって」

 

確かに言っていた。

ベルの『魔導絵師の美術祭』には描いた戦士達の召喚以外の何かがある。

 

敵陣営の後方にいるベルの元に一枚の絵が現れる。

そこに描かれていたのは―――――。

 

「火山………?」

 

そう、そこに描かれていたのは噴火する山。

真っ赤に燃えた炎が辺りを包み込んでいて………。

 

嫌な予感がした。

ベルの能力は描いたものを具現化する力。

もし、それが人物や魔獣以外も可能だとすれば………。

 

思考がそこに至った瞬間、空間が激しく揺れた!

大地が大きく隆起し、盛り上がっていく!

現れたのはあの絵に描かれていた山で―――――突如、山頂が爆発した!

土砂が舞い、岩石が流星のように降り、噴火口からマグマが噴き出している!

 

ボクは降ってきた岩石を防御魔法陣で防ぐが、驚きは隠せてなくて………。

 

ヴィーカが言う。

 

「見ての通り。ベルの奥の手『魔導絵師の美術祭』はその結界の内側において、人物や魔獣の召喚だけでなく、絵を通して様々な事象を支配できるのよ。やろうと思えば、この世界を深海にして、この場の全員を溺れさせたりも可能よ。まぁ、そんなことすれば、私も巻き込まれるんだけど」

 

なんてチート能力………!

お兄ちゃんやデュリオさんの複製体を作れるだけでも反則なのに、環境の改変まで行えるなんて、理不尽すぎる!

 

焦りが加速していく中で、ベルが新たな絵画を呼び出した。

描かれていたのはマグマの海が広がる世界。

絵が輝いた瞬間、足元が灼熱の世界へと変化した!

 

「熱………ッ!?」

 

慌てて上空へ飛ぶ………けど、空はデュリオさんの複製体の力で大嵐だ。

下も地獄、上も地獄………。

ここまで追い詰められると逆に笑いが出てくるよ。

 

ヴィーカが槍をくるくる回しながら言う。

 

「さぁ、続きをしましょうか。地面に叩きつけられたらマグマに呑まれ、空に逃げれば嵐に呑まれる。少しのミスが死に繋がるわ」

 

ヴィーカの言う通り、少しのミスが死を招く。

このまま戦えば、確実に追い込まれるだろう。

 

すると、ディルちゃんがボクの前に立った。

 

「行ってください。ここは私が食い止めます」

 

「―――――ッ」

 

本来ならここで止めるべきなのだろう。

いくらディルちゃんでもヴィーカには届かない。

二人の間にはそれだけ力の差がある。

では、ボクとディルちゃんの二人で戦えば良いという考えもあるけど、それでもダメだ。

恐らく、先に尽きるのはこちらだ。

 

ならば―――――。

 

「………ゴメンね、ディルちゃん。すぐに終わらせてくるから!」

 

ボクは全速力で飛び出した。

 

そうはさせないと、ヴィーカが追いかけてくるが、彼女の行く手をディルちゃんが塞ぐ。

ディルちゃんの力ではヴィーカを抑え込むことは出来ない。

でも、ここで得た時間はとても貴重で、この戦いを突破できる可能性だ。

 

すぐに終わらせてくるから!

絶対に助けるから!

だから………だから………!

 

「絶対に死なないで!」

 

突貫するボクの前に立ちはだかる複製体達。

全面に防御魔法陣を展開して、遠距離からの攻撃を防ぎつつ、近距離戦メンバーに極大の魔法をぶつけて倒していく。

 

また召喚されるとしても、倒されてから復活するまでに生じるタイムラグがディルちゃんやアリスさんの負担を減らすことが出来るだろう。

 

ボクは手元に七色の光を終息させ、スターダスト・ブレイカーを放つ。

貫通力に長けたこの技は堅牢な赤龍帝の鎧をも貫く。

その上、神姫化したことで貫通力を維持したまま広範囲に放てるようになったことで殲滅力も上がっている。

 

だけど、倒しても倒してもきりがない!

元々の物量からして圧倒的過ぎるんだ!

急がないといけないのに、早く終わらせないといけないのに!

 

その時だった。

 

『美羽ちゃん、聞こえる?』

 

「イグニスさん!?」

 

頭の中にイグニスさんの声が聞こえてきた!

疑似神格を受け取る時にお兄ちゃんと精神の深い次元で繋がったから、イグニスさんの声が聞こえてきてもおかしくないんだけど………。

 

イグニスさん、お兄ちゃんのところにいなくても良いの!?

 

『イッセーは今のところ大丈夫よ。それより、あなた達の方が危機的状況だったから、こっちに意識を持ってきたの』

 

良かった………お兄ちゃんの方は大丈夫なんだね。

イグニスさんはこの状況を打開する策があるの?

 

『ええ。あのベルって子は絵を媒介にして能力を発動してるでしょ? あの絵を破壊すれば、少しくらいは好転するはずよ』

 

なるほど………。

『魔導絵師の美術祭』はベルが保存している絵を展開しているわけで、絵を破壊すれば、なんとかなるかもしれない。

 

でも、ベルのことだ。

あの絵はそう簡単に破壊できるものではないだろう。

 

『そうね、生半可な力では無理でしょう。でも―――――』

 

「私がやるわ!」

 

密集した複製体の間を切り抜け、この場に現れるのはアリスさん!

全身に白金色の雷を迸らせながらの参上だ!

 

「アリスさん! モーリスさんの複製体は倒せたの?」

 

「結構危なかったけど、なんとかね。とにかく、ここを早く突破しましょう。イグニスさん………ほ、本当にさっきので何とかできるのよね?」

 

『ええ、アリスちゃんなら大丈夫よ。見せてあげなさい、スイッチ姫の力を―――――(にゅー)タイプの力を!』

 

 

 

…………え?

 

 

なんだろう、すっごく嫌な予感がする。

ここまで続いたシリアスが悉く破壊されるという嫌な予感が。

 

アリスさんは何かを決意したのだろう、服に手をかけると―――――胸をさらけ出した!

プルンと小さく揺れる可愛らしいおっぱいが!

お兄ちゃんなら間違いなく興奮していただろう!

 

アリスさんは顔を真っ赤にして、泣きながら叫んだ。

 

 

 

「チ………チクビィィィィィィィィィムッッ!」

 

 

 

………これは酷い。

 

 

[美羽 side out]




酷い………本当に酷い。



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45話 追い詰められる眷属

[美羽 side]

 

 

「チ………チクビィィィィィィィィィムッッ!」

 

真っ赤な顔で、半分泣きながら叫ぶアリスさんの乳首がピンク色に光輝く。

そして、乳白色の光線が先端から放出された!

乳白色の光線が多くの複製体を呑み込み―――――。

 

 

チュドォォォォォォォォォォォォンッッ!

 

 

全てを無に返していった!

デュリオさんの複製体達がまとめて吹き飛ばされていく!

 

「え、えええええええええええ!? アリスさんのおっぱい………乳首からビーム出たぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

なんで!?

なんで乳首からビーム!?

というか、『チクビーム』って技名が酷すぎない!?

危機的な状況なんてどうでも良いくらい、ツッコミしか出てこないよ!

 

イグニスさんの声が頭に届いてくる。

 

『やったわ! これぞ、スイッチ姫………(にゅー)タイプとしての必殺技チクビームッ! 乳首に(にゅー)パワーを集約させ、放つ母なる技! その力はたとえ神でも抗えるものではないわ!』

 

なんで、そんなテンション高いの!?

母なる技って………母乳じゃん!

大丈夫なの、乳首からビームって!?

 

『大丈夫よ、美羽ちゃん。母乳はおっぱいドラゴンたるイッセーをパワーアップさせるための愛の力。対してチクビームはスイッチ姫、(にゅー)タイプとしての正義の力だもの』

 

ごめんなさい、意味が分からないよ!

理解しようとしてと思考が追い付いてこないんだもの!

そもそも(にゅー)タイプってなんなのさ!?

 

『ちなみにイッセーがチクビームを受けるとパワーアップするわ』

 

じゃあ、母乳と変わらないじゃん!

結局、お兄ちゃんのパワーアップアイテムじゃん!

 

ツッコミが止まらないボクの横でアリスさんは目元を押さえていて、

 

「うぇぇぇぇ………わ、私、とうとう乳首からビーム出しちゃった………。なんでこうなるのよぉぉぉ………」

 

『だって、スイッチ姫だもの。(にゅー)タイプだもの。これもあなたの、おっぱいドラゴンの伴侶としての宿命よ。アリスちゃん、これは誇って良いことよ? あなたのおっぱいは―――――世界を救うわ』

 

なんだろう、言ってることはおかしいのに、イグニスさんが言うと妙に説得力がある。

T・O・Sとかもそうだけど、結果は出してるからね。

言ってることはおかしいけど。

 

「あぁ………なんだろう。なんでこんなにも悲しい気持ちになるんだろう」

 

「悲しいのは私なんですけど!? どうして私ばかりこんな役回りなの!?」

 

『それはスイッチ姫だからよ』

 

「泣くわよ!? というか、もうすでに泣いてるし!」

 

『ほらほら、そんなこと言っている間にも相手は来てるわよ?』

 

「うっ………もぉぉぉぉぉぉッッ! いいわよ、やってやるわよ! チクビィィィィィィムッッ!」

 

放たれる乳白色チクビーム。

吹き飛ばされる複製体。

ベルによって召喚された火山なんて丸ごと消し飛ばされている。

 

そして…………、

 

「うぇぇぇぇぇぇん! イッセーのバァカァァァァァァッ!」

 

号泣するアリスさん。

ビームを撃つ度に彼女の大切なものが削られているような気がするのは気のせい………じゃないよね。

 

アリスさんが号泣しているの眺めている中、ボクはふと疑問に思ったことがあった。

 

「アリスさんが撃てるなら、リアスさんも撃てるのかな? ほら、同じスイッチ姫だし」

 

アリスさんとリアスさんはダブルスイッチ姫として、お兄ちゃんを色々な意味で目覚めさせてきた。

白雷のスイッチ姫、アリス・オーディリア。

紅髪のスイッチ姫、リアス・グレモリー。

二人のおっぱいはおっぱいドラゴンをパワーアップさせる奇跡のおっぱいだ。

 

スイッチ姫たるアリスさんが出来るなら、リアスさんも出来ると思うんだ………チクビーム。

 

イグニスさんは自身満々の声で言った。

 

『ええ、撃てるわ。今のところ、(にゅー)タイプとしての素質はリアスちゃんが頭ひとつ抜けているの。さっき、リアスちゃんに念話を送ってみたけど、ものすんごい威力を誇ってたわ』

 

 

~その頃のリーアたん~

 

 

「チ………チクビィィィィィムッッ!」

 

「凄いわ、リアス! あの数の邪龍が瞬く間に! でも、惜しいわね。もう少し早ければ、ラズルにも有効打を与えられたでしょうに」

 

「うぅ………なんでこんなことに………」

 

リアスもまたチクビームを修得していたのだった。

 

 

~その頃のリーアたん 終~

 

 

『やっぱり、リアスちゃんくらいのバストだと凄いわ。連射性能高いし』

 

「それって、私の胸が小さいって言いたいの!?」

 

『まぁまぁ、アリスちゃんもまだまだ大きくなるわ。心配しないで、エロに関して最強のお姉さんが保証してあげるから』

 

「本当!? 私の胸、まだ大きくなるの!?」

 

『ええ、イッセーに揉まれたり、つつかれたり、吸われたりしていれば、確実に大きくなるわ』

 

イグニスさんにそう言われて、アリスさんは胸を手で押さえながら小さく頷いた。

 

「う、うん………頑張るもん。あいつ好みのスタイルになるもん………」

 

うん、可愛い。

アリスさんはデレた時こそ真価を発揮するよね。

 

 

 

 

アリスさんのチクビームによって、多くの複製体が消滅させられた。

狙ってか、そうでないのかは分からないけど、大地をマグマの海に変えていた絵も消滅している。

おかげで地面が元に戻っている。

イグニスさんの読み通り、絵を消滅させたら、召喚されたものも消えるのか………。

 

とにかく、道が開けたのは大きい!

 

ボクは一直線に空を飛び、ついにベルの元に辿り着く。

彼女の目の前に来たと同時にとびっきりの魔法を放った!

 

巨大な魔力の塊。

ここで決めるつもりの、全力の攻撃!

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

放った黒い魔力がベルを襲う!

黒い力はベルの乗っていた魔獣を消し飛ば巣だけに止まらず、周囲にいた複製体、そして、宙に浮く絵画をいくつも消し飛ばした!

その中には『D×D』メンバーの絵画も含まれている。

これで、彼らが召喚されることはなくなるはず!

 

爆音が止んだ後、一帯に漂う黒いオーラの中からベルが飛び出してくる。

衣服が破れてはいるけど、生身にダメージはない!

 

ベルは普通に魔法を使っても強いけど、その真価は召喚した存在と組合わさることで発揮させる。

だったら、ベルが新たに絵を描く前に畳み掛ける!

 

「終わらせるよ!」

 

「………ベル、負けない」

 

始まる壮絶な魔法合戦。

高速で結界内を飛び回りながら、互いに魔法陣を全面に、幾重にも重ねて攻撃魔法を撃ち出していく。

ロスヴァイセさんのような全属性フルバーストの超連射だ。

一撃一撃が地形を変える威力を持っていて、受ければかなりのダメージを与えられるだろう。

だけど、ベルはこちらの攻撃を真っ向から相殺してくる!

 

「………お姉ちゃん、やっぱり強い。ヴィーカ達、ベルとここまで魔法は撃ち合えない」

 

魔法は………か。

他のアセム配下三人は他の能力が突出してるから、魔法で撃ち合うなんてあんまりしなさそうだけどね。

 

強力な魔法を立て続けに撃ってくるベルだったけど、ここで左手を横に突き出した。

掌を下に向けた状態で、オーラを高めていき―――――新たに絵画を召喚した!

 

「まだあったの………!?」

 

驚愕するボクにベルは眠たげな目を向けながら言う。

 

「………さっきまでの、ベルが描いた一部。絵はまだまだあるよ………?」

 

召喚された絵画の一枚が輝く。

すると、地面が不気味なオーラを放ち始め、何かが飛び出してきた。

それは地面から生える巨体な触手だった!

この一帯が無数の触手で埋め尽くされている!

そして、その全てがボク目掛けて動き出す!

 

空に逃げようとしても、伸びて、どこまでも追ってくる。

魔法を撃って消滅させても、次から次へと寄ってくる。

この触手を召喚した絵を破壊しようとしても、触手がそれを阻んでくる。

 

やがて、防御魔法陣を展開して、飛び回っていたボクの腕に触手が巻き付いてきた!

それを切っ掛けに足、腹、胸、首と全身を触手に巻き付かれて、完全に捕縛されてしまった!

 

「この………ッ!」

 

触手を消滅させようと魔法陣を展開しようとして―――――展開した魔法陣が霧散した。

 

「もしかして………!」

 

この感覚に覚えがある。

これはアウロス学園の時と同じだ。

 

ベルが言う。

 

「………それに捕まると、魔法が使えなくなるの」

 

「それだけじゃないよね………。この触手、ボクの力も吸い取って………!」

 

捕まえられた瞬間から、ボクの力が急激に減っていく。

これはディルちゃんの槍があっても、ほどけるものじゃない。

アリスさんならなんとか出来そうだけど、今はディルちゃんのところに向かってもらっている。

ここは一人で乗り切るしかない………!

 

「………出来ないよ。お姉ちゃんの力じゃ、ベルに勝てない」

 

ベルはそう言うと、手をこちらに向けてきた。

魔法陣が展開されて、こちらに狙いを定めてくる。

魔法陣の輝きが時間が経つにつれて、より強く、凶悪になってきている。

更に悪いことに体に巻き付いているこの触手、締め付ける力が強くなっていて、体のあちこちが軋み、激痛が走っていた。

 

でも、ボクにはあの時のような焦りはなく、痛みに耐えながらも笑みを浮かべていた。

ボクの笑みにベルは怪訝な表情を浮かべて訊いてくる。

 

「………どうして、笑っているの?」

 

「うん、我ながら良い感じの時間でセット出来たなって」

 

「………?」

 

ボクの言葉に可愛く首を傾げるベル。

 

次の瞬間―――――上空から轟音が聞こえてきた。

見上げた先にあるのは落ちてくる隕石の数々。

 

「―――――流星群。いざという時に仕掛けておいた、遅延発動型の魔法だよ。これなら、魔法封じも意味をなさないよね?」

 

「………っ!」

 

眠たげなベルの目が大きく見開かれた。

無数の流星が降ってきたのはその直後だった―――――。

 

 

 

 

「アリスさん達は………大丈夫だよね?」

 

流星が降り終わった後、無惨な姿と化した大地を見て、ボクはそう呟いた。

 

加減が難しいよね、この魔法。

いや、そもそも加減なんて出来ない相手だけど、下手すると味方を巻き込んでしまう。

本来なら味方を結界で覆ってから発動させないといけないんだけど………今回はそれをしていない。

 

………大丈夫、大丈夫。

敵意外は誰も巻き込んでいない………はず!

 

冷や汗を流して、必死に言い聞かせていると、砂埃の中からベルが現れる。

 

「流石に無傷って訳にはいかなかったようだね」

 

ところどころから血を流しているベル。

どうやら、今のは完全に防ぐことは出来なかったようだ。

こちらが思っていた程のダメージはなかったけど。

防御魔法陣で防いだとしても、あれを受けてこのダメージって………。

 

ベルが言う。

 

「………お姉ちゃん、無茶苦茶。あんなのチート」

 

「君に言われたくないよ!」

 

なんで、ボクより無茶苦茶やっていて、かつチートな娘にそんなこと言われないといけないのさ!?

無茶苦茶やったのは認めるけど!

 

ふと、ベルが指を上に突き出した。

指先には赤い血が着いていて、どうやら、それをボクに見せつけているようだった。

 

「………これ、お姉ちゃんの血」

 

「ボクの血………?」

 

ボクも何ヵ所か傷を負っていて、血が出てる。

リーシャさんの複製体に撃ち抜かれた肩なんて、まだ血が止まっていない。

 

「それをどうするの?」

 

「………ん、これで絵を描く」

 

そう言うとベルは宙に絵を描いていく。

描かれた絵は人形のシルエットで、体型からしてボクのシルエットだろう。

一瞬、ボクの複製体でも作るのかと身構えたけど、そんな動きはない。

 

怪訝に思うボクを見ながら、ベルはそのシルエットの腕を弾いた。

すると、ザシュッという何かが裂ける音がして、同時に腕に痛みが走った。

 

見ると、二の腕に大きな切り傷が出来ていて、

 

「これって………!」

 

続けて、ベルはシルエットの足を弾いた。

腕の時と同じく、太ももに痛みが生じて、切り傷が出来ているのが分かった。

 

もしかしなくても、ベルは相手の血でその人物を描くと、その絵に傷をつけることで、本人にも同じ傷を着けることが出来る………?

 

そんな最悪の予想を立てていると、ベルは怪訝そうに首を傾げる。

 

「………やっぱり、お姉ちゃん強い。普通なら骨が折れたりするんだけど、お姉ちゃんは切り傷しか出来ない」

 

今の発言からして、相手の力量で負わせることが出来る傷の度合いが変わるようだ。

ボクは神姫化しているおかげで、切り傷だけで済んだようだけど、そうじゃなかったら骨を折られていたかもしれないと。

なんて恐ろしい力なんだ………!

 

「ハァァァァァァァァッ!」

 

ベルの隠されていた能力に戦慄していると、ボク達の間に何かが降ってきた!

まるで爆撃でも受けたかのように地面が爆ぜ、舞い上がる! 

今ので作られた巨大なクレーターの中央ではヴィーカとアリスさんがぶつかっていて、

 

「そろそろ倒れなさいよ!」

 

「そっちこそ、いい加減にした方が良いわよ? 片手だけで私に勝つなんて片腹痛い!」

 

片手………?

ヴィーカの言葉に疑問を持ったボクはアリスさんが抱えているものに気づいた。

アリスさんの左手には血塗れの少女が抱えられていて、

 

「美羽ちゃん! この娘をお願い!」

 

アリスさんが放り投げた少女を受けとると、少女は瀕死の重症を負っていて―――――。

 

「ディルちゃん!?」

 

全身に貫かれた跡、そして聖なる弾丸を受けた形跡がある。

聖なる弾丸の影響か、傷口から煙があがっていて………。

それに呼吸が浅く、心臓の鼓動が弱い………!

このままじゃ………!

 

「しっかりして! ディルちゃん! ねぇ、ディルちゃん! ―――――サラァァァァァァァッ!」

 

何度呼んでも返ってこない声に、ボクは彼女の本当の名前を叫んだ。

 

 

[美羽 side out]

 




ディルちゃんの危機!
どうなる次回!


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46話 逆転の一手

久しぶりに連日投稿!
夏休みだもの、ペース上げたいぜ!


[美羽 side]

 

ヴィーカとこの子の力の差は分かってた。

それでも、ボクは現状打開のため、彼女の提案に乗った。

 

上手くいくと思っていた?

必ず助けられると思っていた?

ボク達なら大丈夫と思っていた?

 

その結果が今だ。

 

目の前に倒れる紫色の髪の少女。

全身を貫かれた上に聖なる弾丸を撃ち込まれた形跡があり、その影響なのか、肉体から煙が上がっている。

少女は今にも消滅してしまいそうだった。

 

ボクは何度も何度も彼女の名前を叫んだ。

応急処置にしかならない回復魔法を施し、少しでも彼女の命を繋げるために。

だけど、彼女の声は返ってこなくて………。

 

「しっかりして! ディルちゃん! ねぇ、ディルちゃん! ―――――サラァァァァァァァッ!」

 

彼女、ディルムッドの本当の名前―――――サラ・オディナ。

ボクだけが知っている彼女の本当の名前。

ずっと心を閉ざしていた彼女が、ボクにだけ教えてくれたんだ。

 

いつかはお兄ちゃん達にも伝えられたらと二人で話したこともあった。

彼女のタイミングで、いつかはと。

 

それまではボクも今の名前で呼び続けるつもりだった。

でも、ボクはそれを破り、彼女の本当の名前を叫んでしまっていた。

 

「聖なる力が思っていたよりも強い………! サラ! 目を開けて、サラ!」

 

ボクは止血と同時に彼女の肉体を蝕む聖なる力を取り除こうと、自身の魔力を流し込んでいる。

聖なる力が反発して、暴発しないように慎重に包み込むようにしているのだが………ヴィーカの力が強過ぎて、それも難しい状況にあった。

 

ボクはディルちゃん―――――サラの胸に手を当てて、治療を施していく。

フェニックスの涙もなく、アーシアさんもここにはいない。

ボクが出来る回復魔法を全力で行使するしかないんだ。

これだけの傷を回復させるとなると消費する力も尋常ではないけど、今はそんなことを言っている場合じゃない!

 

治癒を続けていくと、サラの指が僅かに動いた。

 

「………ねぇ………ね」

 

「サラ! 良かった………そのままじっとしてて。このまま―――――」

 

回復を続ける、そう言うつもりだった。

でも、その言葉はサラによって阻まれる。

サラは弱々しい手でボクの腕を掴むと、途切れ途切れの言葉を発した。

 

「わ、たしの……ことは………いいです。今は、戦って………くだ、さい………」

 

サラが僅かに目を横にやった、その視線の先。

そこではアリスさんがヴィーカとベルの二人を相手取っていた。

全身から雷を撒き散らし、荒々しく槍を振るっている姿はまるで嵐。

圧倒的な神の力を振り撒き、ヴィーカとベルを相手に互角の戦いを繰り広げていた。

 

端から見れば、アリスさんが二人を翻弄しているようにも見える。

だけど、違う。

アリスさんは無理をしている。

後先考えずに力を使っているんだ。

アリスさんだって、あんな戦い方をすればもたないことは分かっているはずだ。

なぜ、あんな戦いをしているのか。

 

ヴィーカが雷を払いながら言う。

 

「無理すると体を壊すわよ、王女様! そんなに、後ろの二人が大切なのかしら?」

 

「当然でしょ! 私は赤龍帝眷属の『女王』だもの。『王』のあいつがいない今、眷属を守らないといけないのよ!」

 

「殊勝な心がけね! でも、私達を一人で相手にするのには力不足よ!」

 

ヴィーカが掌を空に翳す。

すると、空に巨大な大砲が出現した。

砲身が三つ横に並んだ、戦艦の主砲のような形状。

 

ヴィーカが指を鳴らすと、砲門にエネルギーが集中していく。

その照準はボク達を捉えていて―――――。

それを理解した瞬間、三つの砲門が火を吹いた。

 

サラは動けないし、ボクも咄嗟の防御じゃこれは防げない。

そう判断して、迎え撃とうした時、ボクの前にアリスさんが入ってきた。

アリスさんは槍を回転させると、雷の盾を生み出し、砲撃を真っ向から受け止めた!

 

断続的に放たれる砲撃を受け止めながら、アリスさんが叫ぶ。

 

「美羽ちゃん、早くその娘を連れて下がって! これ以上はもたない!」

 

ボクはアリスさんの指示に従い、動こうとする。

だけど、相手はそこまで甘くはなく、

 

「あらあら、逃がすと思った? こっちもそろそろ終わらせたいのよね! ベル!」

 

ヴィーカがそう言うと、ベルは新たな絵画を二つ召喚。

そこに描かれていたのは天変地異とも思える光景だった。

黒い空は大雨の雷を落とし、海は荒れ狂い、地面が割れ、山は噴火し、一帯に巨大な岩石を降らせる。

 

二枚の絵画が輝くと、描かれた世界がそのまま出現する。

海が、空が、大地が、ありとあらゆる自然現象がボク達を襲う!

 

更に―――――。

 

「ベル、あれは出来る?」

 

「………うん。もう描いた」

 

ベルは両手を横に広げ、手元に魔法陣を展開する。

魔法陣が赤く輝くと、彼女の背後の時空が歪み、そこから大きな絵画が現れる。

縦横共に数十メートルはある絵画。

荒れ狂う海をバックにして立つ髭を生やした男性だ。

 

ベルの瞳が怪しく輝く――――。

 

「―――――魔神よ、我が作りし最強の魔神よ。我が矛となりて、蹂躙せよ」

 

その言葉が紡がれた瞬間、絵画から莫大な力が解き放たれる!

絵画の中からヌゥっと腕が突き出ると、次に顔が現れる。

巨人の目がボク達を捉えると―――――

 

『オオオオオオァァァァァァァァァァァァァッ!』

 

とてつもない声量で咆哮をあげた!

耳を塞いでいるというのに、鼓膜が破れそうだ!

 

やがて、巨人の全身が絵画の中から出てくるが、それはあまりに巨大で、今までベルが作り出した魔神なんて可愛く思えるレベルだ。

一体何メートルあるというのか、数百メートル………いや、もっとあるか。

手には赤い籠手を装着し、巨人の胸の高さくらいまである聖魔剣を握っている。

更には全身に滅びの力を纏っていて―――――

 

ベルが言う。

 

「………今のベルが作れる最強の魔神。ベルがこれまで描いてきたものの全ての力を使える」

 

ヴィーカが続ける。

 

「聖剣と魔剣の創造も出来るし、力の倍加も出来るし、天候も操れるしで、何でもござれの魔神ってわけ。まぁ、消費する力が大きすぎて、『魔導絵師の美術祭』の結界内じゃないと召喚できないんだけど………今は結界の中だしね♪」

 

赤龍帝の力もジョーカーの力も使えるなんて!

こんなの反則だよ………!

 

「さぁて、フィナーレといきましょうか!」

 

ヴィーカの声に応じるように魔神が動き出す!

太さが何十メートルもある巨大な豪腕で聖魔剣を振るってくる!

ただの一振りだけで、破壊の嵐を巻き起こしてくる!

 

「えぇい、このガチートロリッ娘!」

 

アリスさんが反撃として、白金に輝く雷を魔神に落とす。

だけど―――――

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

籠手から倍加の音声が鳴り響き、魔神のオーラが爆発的に上がる!

分厚いオーラがアリスさんの雷を弾き、かき消してしまった!

神姫化したアリスさんの攻撃を打ち消すなんて………!

 

ならばと、ボクは魔法杖を構えて、スターダスト・ブレイカーを放った。

しかし、これも簡単に防がれてしまう!

 

魔神の目が赤く光る。

すると、魔神の周囲に竜巻と氷や雷、炎など各属性で構成された槍が無数に出現した。

そして、それら全てがボク達に向けて降ってくる!

 

ボクはサラを抱えて飛ぶが、先にベルが召喚していたこの大嵐のせいで逃げられる場所が限られている。

加えて、あの魔神のせいで逃げられる場所なんて、ほとんど皆無。

 

ここはアリスさんと一緒にあの魔神とこの環境改編を行った絵を破壊したいところだけど、

 

「どきなさいよッ! 今はあんたの相手なんてしてられないのよ!」

 

「連れないこと言うわね。ここまで殺し合った仲じゃない。最後まで付き合いなさいな!」

 

アリスさんはヴィーカの相手で手が離せない。

魔神の攻撃を避けつつ、ヴィーカからの攻撃に対処するのはかなりの消耗を強いられる。

体力だけでなく精神力もだ。

 

ボクは………サラを抱えて戦うなんて、無謀なのは明らか。

でも、あまりこの戦いを長引かせると、サラがもたない………!

今は一刻でも早く、ここを切り抜けて、アーシアさんのところに行かないと………!

 

焦りが大きくなっていく中、サラが小さな声で言ってきた。

 

「………わたしの………ことは………良いから………。このままでは………」

 

「お断りだよ! サラを見捨てて生きるなんて意見は却下! ボク達は全員で生きて帰る! それ以外は最悪だ!」

 

皆と誓った、生きて日常に戻ると!

お父さんとお母さんにも約束したんだ、皆と一緒に帰ってくると!

 

「ボクはサラを守るよ。お兄ちゃんがボク達を守ってくれたみたいに。ボクは兵藤一誠の妹、兵藤美羽なんだから!」

 

「その通り!」

 

ボクに続いて、アリスさんがそう叫んだ。

アリスさんはヴィーカの槍を弾くとこちらに飛んでくる。

 

「私達は絶対に見捨てたりしないし、全てを守ってみせる。―――――次元ねじ曲げても、世界の理を崩してでも守りきる。私達の主様がそう言ってるんだから、眷属もそれに続かないわけにはいかないでしょ?」

 

傷だらけの顔で、アリスさんは不敵に笑んだ。

 

そうだ、お兄ちゃんはどんな状況も、どんな理不尽も乗り越えてきたんだ。

ボク達は赤龍帝、兵藤一誠の眷属。

諦めないし、どんな理不尽だって何とかしてみせる!

 

アリスさんが言ってくる。

 

「さて、この状況を打開する案が一つあるんだけど………乗る? イグニスさんのお墨付きだから、一発逆転できるはずよ」

 

「………それって、さっきのチクビーム的なやつじゃないよね?」

 

「珍しくシリアスの方よ。ただ、これを使うには時間がかかるの」

 

「準備が整うまでボクに時間を稼いでほしい………ってことだね?」

 

「そういうこと。数分くらいなんだけど、頼める?」

 

「まぁ、やるしかないんだけどね」

 

苦笑するボク。

この状況を打開できるという案。

それも、シリアスな方でイグニスさんのお墨付きときている。

だったら乗るしかないだろう。

 

「サラ………ディルちゃんを………」

 

「良いわよ。というか、サラっていうのね、その子の本当の名前」

 

「うん。えっとね、アリスさん………」

 

「言わなくて良いわよ。色々あるんでしょ? だったら、今はディルちゃんって呼ばせてもらうわ。その名前で呼ぶ時はその子が明かしてくれた後にするから」

 

アリスさんは微笑むといつの間にか気を失っていたサラの頭を優しく撫でた。

 

ボクはサラを結界で覆った後、アリスさんの前に出る。

対峙するのはヴィーカとベル、ベルが作り出した魔神。

正直、ボク一人で戦えるような相手ではない。

 

ボクの後ろではアリスさんが準備に入り、霊槍を自身の胸に当てて力を高め始めている。

稼いでほしい時間は数分くらいとのことだけど、相手のレベルを考えると至難の技だ。

 

前に出たボクを見て、ヴィーカが言う。

 

「王女様が後ろに下がって………何か策があるようね。だけど、私達を相手にあなた一人で時間を稼げると本気で思ってるの? それはあまりに無謀ね。無駄死にしたいの?」

 

彼女の言う通りだ。

下手すれば無駄死にすることもあり得る。

でもね………。

 

ボクはヴィーカの目を見据えて、真っ直ぐに言葉をぶつけた。

 

「出来る出来ないじゃない。やらなきゃいけないから、やるんだよ。それに死ぬつもりもない!」

 

黒いオーラを高めるボク。

神としての力を最大限に高めた状態でプレッシャーを放った。

 

ボクの全力のプレッシャーを真っ向から受けたヴィーカは少し気圧されながら言う。

 

「ここに来て、この圧力………! これは油断するとやられかねないわね! いいわ、受けてたとうじゃないの!」

 

オーラを高めて、ヴィーカが飛び出してくる!

同時に魔神もその理不尽な力を行使し始める!

ヴィーカによる神具の嵐と、魔神による天候支配とが混ざり、ボクに降り注ぐ!

 

ここから後ろに下がることは出来ないし、逃げることも出来ない!

 

「だから、正面から押し返す! スターダスト・ブレイカァァァァァァッ!」

 

魔法杖から放たれる七色の光が、敵の攻撃と衝突する………が、流石に押されている!

打ち消しきれない………!

 

スターダスト・ブレイカーを放ち続けていると、頭上にヴィーカが現れ、槍を投げてきた。

ボクは避けるとこが出来ず、足を貫かれてしまう。

 

痛みで緩んだところで、魔神が倍加の力で高めた滅びの魔力を放ってきた。

リアスさんの必殺技以上の魔力………!

あれを受けるのは不味い!

 

ボクは正面にクリアーブルーの障壁を何重にも重ねて展開。

あの豪獣鬼の動きを封じた強固な結界の進化版だ。

ただ、このまま耐えるだけでは、あの魔神が放った滅びの魔力はこれすらも突破してしまうだろう。

 

だから、この結界には一工夫してある。

 

滅びの魔力を受け止めている障壁が徐々に変形し始め、膨らんだ風船を押した時のように変形し始める。

そして―――――元に戻る反動で、滅びの魔力を跳ね返した!

跳ね返った滅びの魔力は魔神の顔に直撃して、その動きを止める!

 

「弾力のある障壁だよ。まともに受けてたら、どれだけ力があっても足りないからね」

 

ボクの言葉にヴィーカが感心したように口笛を吹いた。

 

「やるぅ♪ だけど、自慢の障壁も私には意味を成さないわ!」

 

ヴィーカは一瞬で距離を詰めると神剣を横凪ぎに振るう!

切っ先が肌に食い込み、肉を斬り裂いた!

 

直ぐに魔法で応戦するけど、向こうの方が圧倒的に行動が早い。

魔法陣を構築して放つ魔法と、ただ振るうだけで相手を傷つける剣や槍とは時間に差があるんだ。

ボクの魔法も展開してから発動までの時間はほぼ無いに等しいけど、ヴィーカの剣速は更に上をいく。

 

ヴィーカの鋭い突きを頬に掠めながらも回避。

魔神の剣撃には魔法をぶつけて対応。

ヴィーカの剣に対応しながら、魔神の攻撃にも注意しなければならない。

これは長くもたないかも………!

 

「そろそろキツくなってきたんじゃない?」

 

「そうだね、君に受けた傷が痛むよ!」

 

そんなやり取りをしながら、交戦していく中でボクは違和感を覚えた。

先程からベルが何もしてこない。

ボクを倒すのにヴィーカと魔神だけで十分と踏んだから………?

でも、アリスさんを狙う素振りすら見せていない。

 

もしかして………魔神を召喚するのにかなりの力を使ったから………?

そういえば、ヴィーカもそんなことを言っていたっけ?

 

ボクは三対一の状況を頭に入れて戦っていた。

でも、そうじゃなくて………ベルが動けない、二対一の状況なら―――――。

 

ボクは新たに魔法陣を展開。

幾何学的な紋様が何重にも重ねられた複雑な魔法陣。

初めて構築するから、どこまでの力を発揮できるかはボクにも分からない。

それでも、やるしかない!

 

「中々危なそうなのを組んでるわね。それ、発動したら止められないやつでしょ?」

 

ボクが構築し始めた魔法陣の危険性を察したヴィーカの手数が増えてくる!

速すぎて、体が反応しきれない………!

魔神も天候を操り、あらゆる属性の広範囲攻撃を放ってくる。

中には雷光も含まれていて、悪魔であるボクを確実に仕留める気だ………!

体の傷も増えて、出血が止まらない!

腕も足もだんだん動かなくなってきた………!

 

あと少し、ほんの数秒だけで良い。

時間が欲しい………!

 

敵の猛攻をギリギリのところで捌きながら、何か手はないかと模索していたその時―――――。

 

「………ッ!?」

 

ボクに槍を振るっていたヴィーカ目掛けて何かが飛来してきた!

ヴィーカにとっても予想外の攻撃だったのだろう、彼女は対応が僅かに遅れ、腕を掠めてしまう。

 

ヴィーカに傷を負わせたもの、それは黄色い短槍―――――ゲイ・ボウ。

フェニックスの涙でも回復不可能の傷を負わせる魔槍。

 

「はぁ………はぁ………今の、うちに………!」

 

意識を回復させたサラが槍を投擲してくれたのか。

回復魔法を施したとはいえ、まだ動けないはずなのに………それなのに、サラは力を振り絞ってくれたんだ!

 

「ありがとう、サラ………。ゴメンね、頼りないお姉ちゃんで。でもね、妹が作ってくれたこの時間、無駄にはしないよ」

 

途中まで構築されていた魔法陣が残りの工程をクリアして、一気に完成まで辿り着く。

 

ボクを囲むように展開される複数の特殊な魔法陣。

一枚一枚が六角形で、雪の結晶のような形をしていて―――――。

 

「発動―――――『静寂なる星夜の世界』」

 

―――――世界が黒に覆われていく。

ギャスパー君のような完全な闇ではなく、無数の星が輝く星夜の世界。

あれほど荒れ狂っていた海と空も、星夜の世界では完全に静まり返る。

これから起きる現象を怖れているかのように。

 

何も聞こえない………風の音も、波野音も、人の声も、自身の鼓動ですら聞こえない。

完全な無音。

 

ヴィーカが目を見開く。

 

「これは………私とベルの結界を上書きした………!?」

 

「そう、ここはもう君達の世界じゃない。ここはボクの世界だ」

 

全てを呑み込む夜の世界。

ボクが手を天に翳すと、空の星々の輝きが熱く、強くなっていく。

 

「いくら君達でもこの夜には抗えないよ」

 

無数の星から降ってきた光がヴィーカ達を呑み込んでいった―――――。

 

 

[美羽 side out]

 




今回はシリアスでした~


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47話 姉妹の絆、女王の意地

ヴィーカ&ベル戦、ついに決着!


[美羽 side]

 

星々から放たれた光が止み、夜の世界が崩れていく。

 

「燃費、悪いなぁ………」

 

世界が崩れるのと同時にボクの神姫化も解けてしまう。

黒い羽衣は消え、元の駒王学園の制服への戻っていく。

 

今のはボクが夜を司る神として使える現段階では最高の技で、夜の世界に閉じ込めた相手を星々の輝きと熱を以て消滅させるというもの。

全方位、数えきれない程の星からの熱は防ぎきれるものじゃない。

更に言えば、相手の展開している結界をも呑み込み、上書きしてしまうので、仮に結界に封じ込められたとしても、内側から崩すことが出来る。

 

ただし、消耗が大きすぎて、使えば神姫化が解けてしまう。

周囲の空間を解析しなければいけないため、魔法陣の完成に時間がかかるのと、燃費が悪すぎるのが、この技の欠点だ。

 

夜の世界が完全に崩れた後、見えてくるのは元の戦場。

ヴィーカ達が結界を展開する前の場所に戻っていた。

ベルの結界が崩れたからなのか、あの魔神も夜の世界が完成したと同時に消えていた。

 

「あれはあの結界の内側でないと維持が出来ないってことだね。………今のを受けてまだ生きてるなんて、あってほしくないけど………」

 

圧倒的な光と熱で相手を焼き尽くす夜の世界は回避はまず不可能、防御したとしても無事という訳にはいかないだろう。

 

ボクにはもう戦う力なんて残っていないし、今ので終っていてほしいところだけど………。

 

しかし、そんなボクの願いは届かなかったようで、

 

「それは、残念ね………」

 

傷だらけのヴィーカがボクの前に立ちはだかった。

左腕を失っているが………まさか、立てるだけの力が残っているとは………。

ヴィーカの側にはベルがいて、こちらはヴィーカのような傷は受けてないようだ。

ベルを庇ったのかな………?

 

ボクがベルの傷の少なさに驚いていると、ヴィーカが笑みを浮かべながら言う。

 

「………どんなに強くても妹だもの。妹を守るのはお姉ちゃんとしての役目、でしょ?」

 

「そうだね。そこはすごく共感できるよ」

 

ボクだって、サラが危機に瀕していたら、ヴィーカと同じことをした。

後先考える前に体が勝手に動いていると思う。

 

ヴィーカに守られたベルはというと、表情はいつもと変わらないけど、ヴィーカの腕の治療を始めていた。

懐から取り出した小瓶―――――フェニックスの涙をヴィーカの傷口に振りかけ、彼女の傷を癒していった。

 

ベルがヴィーカに言う。

 

「………ゴメンね、ヴィーカ。ヴィーカの腕、無くなっちゃった………」

 

「流石に完全消滅したものは回復できないわね………。まぁ、良いわ。ベルが無事ならね♪」

 

申し訳なさそうな声音のベルの頭を微笑みながら撫でるヴィーカ。

 

そんな彼女達の姿はボク達兄妹と似ていて………。

彼女達には彼女達の絆がある。

これまで戦ってきた敵とは違い、誰かを想い、大切な日とを守るために体を張ることが出来る、そんな人達だ。

それなのに―――――。

 

「まだ………戦うつもり?」

 

ボクはそう問いかけた。

こんな問いはナンセンスだと思う。

彼女達の答えは分かりきっていたことだから。

 

ヴィーカは不敵に笑みを浮かべながら言う。

 

「もちろん。こんな中途半端なところでやめるなんてことはしないわ」

 

「それは………君の大切な人を失うことになっても?」

 

ボクの言葉にヴィーカは目を丸くする。

 

「優しいのね。でも、この戦いを仕掛けた以上、ここで逃げるわけにはいかないの。………もう幾つもの血が流れた。この世界に痛みが広がっているわ。強者にも弱者にも」

 

「それが分かっているなら、なんで………!」

 

「それが分かっているからこそよ。あなた達に守りたいものがあるように、私達にも守りたいものがある。でも、それにはこの痛みこそが必要なのよ」

 

次の瞬間、ヴィーカの体から濃密なオーラが発せられる。

オーラは急速に大きくなっていき、この一帯を包み込んで―――――。

 

「『武器庫』の再展開!? まだこんな力が残っていたというの!?」

 

あれほどの傷を受けて、まだ『武器庫』を展開する力が残っているなんて………!

 

驚くボクは改めてヴィーカに視線を向ける。

すると、『武器庫』を再展開したヴィーカの顔が青白くなっているのが見えた。

目元には隈も出来ていて、無理をしているのは明らかだ。

 

「君、自分の命を使って………!?」

 

「ウフフ………あなた達が命懸けなら、私達だって命懸けってことよ」

 

再び、この一帯がヴィーカの固有結界に包まれていく。

 

ヴィーカの覚悟に応じるようにベルもまた動き出し、力を解放し始める。

ヴィーカ以上の強大な力が彼女から放出され、あちこちから絵画が召喚されていく。

 

「………ベル、ヴィーカと一緒」

 

「お姉ちゃんとしてはこれ以上、無理してほしくないけど………ありがとね、ベル」

 

手を繋ぐ二人。

繋いだ手を通して、ベルとヴィーカの力が混ざり、新たな力の波動を生み出していく。

二人を中心に渦巻く力の流れに吸い込まれるようにヴィーカの創造した神具とベルの描いた絵画が浮かび上がった。

そして、二人の創造物が空中でぶつかり、解け合っていく―――――。

 

「これが本当に最後よ」

 

ボクの前に召喚されるのはあの魔神。

これまで描いてきた全ての者の能力を使用できるというベルが召喚できる最強の魔神だ。

だけど、さっきとは少し違っていて、全身から槍や剣などのあらゆる武具が埋め込まれている。

感じる力の波動からして、あれら全て、ヴィーカが創造した神具だろう。

そして、魔神の胸には赤い核のようなものがあり、その中にヴィーカとベルの姿が見える。

本当にこれが最後にするつもりなのだろう。

 

「ハハハ………。どれだけ、無茶苦茶なのさ、君達は………!」

 

ここまで来ると逆に笑いが出てくるよ。

 

ボクは魔神を前にして構えた。

神姫化は解け、もう戦う力なんて残ってない。

立っているのもやっとなぐらいだ。

 

でもね………ここで、ここに来て、負けるわけにはいかないんだ………!

 

「ハァァァァァァァァッッ!」

 

ボクが掌を突き出すと、魔神の頭上に同じ魔法陣が展開される。

魔法陣が強く輝きを放つと、魔神の体に凄まじい重力がかけられていった!

魔神の足が地面にめり込み、大地が悲鳴をあげるのが聞こえてくる!

 

あの魔神相手に神姫化もなしで真っ向勝負なんて出来ない。

だから、少しでも相手の力を削いで、隙を作るしかない!

 

「………そんなの、効かない………!」

 

核の中にいるベルが手を横に払う。

その動きだけでボクの重力魔法が破られてしまう!

 

結構な力を籠めたんだけど、紙を破るみたいに突破されるとはね………!

 

巨大な神具を握った魔神はその豪腕でボクに斬りかかってくる。

上から下へとただ振り下ろす大きな挙動。

隙だってある。

だけど、魔神からの殺意が向けられるだけで体が動かなくなってしまう。

 

ボクはもう限界の体に鞭打って、後ろに飛んで、剣を回避する。

しかし―――――。

 

 

ドォォォォォオオオオオオオオオンッッ!

 

 

ただの一振りだけで、大地が真っ二つにされた!

地面が大きく揺れ、上下にズレ始める!

舞い上がった土砂が、振り下ろされた時の風圧がボクを直撃して、全身を痛め付けてくる!

 

痛みで風の魔法が解け、完全に空中に放り出される形になったボク。

動きたいけど動けない。

腕の一本どころか、指の一本さえ動かない。

まるで自分の体ではなくなってしまったかのように、ボクの言うことを聞いてくれない。

 

空中に放り出されるボクに黒い影が映る。

上を見ると魔神の巨大な掌が待ち構えていて―――――躊躇なく、ボクを地面に叩きつけた。

 

「ガッ………! あ………ぁぁぁぁ………!」

 

全身に強い痛みが走ったと思うと、今度は何も感じなくなった。

多分、今ので全身の骨が凄いことになったかも………。

あと、内蔵もいくつかやられたかな………。

痛みってここまで来ると、逆に痛くなくなるんだね………。

痛覚すら狂ってしまう痛み………お兄ちゃんはこんなことを何度も経験してきたんだろうな。

 

声も出せず、己の呼吸音すら聞こえなくなって、視界も歪んできた―――――その時。

 

「ねぇ………ね………は、やらせないと言ったはずだ………!」

 

確かに聞こえたその声。

歪んだ視界の中で見えた一人の少女の姿。

ボロボロの姿で、槍を支えにした少女は血を吐き出しながらも立ち上がっていて、

 

「この人は………私の光、なんだ………。家族を失って………ずっと、一人だった私を迎えてくれた………暗闇の中にいた私を、照らしてくれた………」

 

少女は満身創痍の体を引きずって、前に進み始める。

 

「守られてばかりで………ようやく守れたと思った………。だけど、ここで失ったら………私はもう何も見えなくなる………また、あの闇に戻ってしまう………! もう大切な人を失いたく………ない………! だから………だから………!」

 

少女は足に力を籠め、顔を上げると、空に向かって叫んだ。

取り戻した自分の心を、感情を、全てさらけ出すように、自分の想いを全て乗せて叫んだ。

 

「私は………守る………! 来るなら来い! 貴様らがどれだけの力を持っていようとも………! これ以上、私の大好きな人には指一本たりとも触れさせないッ!」

 

少女は力強く槍を構えた。

もう立つことすら出来ないはずの体で。

ただ、ボクを守るがために、その命を削ろうとしている。

 

「サ………ラ………」

 

何をやっているんだボクは。

妹にここまで言わせて、何を寝ているんだ。

ボクが大好きな人は、ボクが愛した人は、将来を誓った人は何度倒れても立ち上がったはずだ………!

 

動いてよ………動いてよ、ボクの体!

ボクだって、もう大切な人を失いたくない!

何のために強くなった?

何のためにここまで来た?

ここで失ったら、ボクだって………!

 

「………もう終わらせましょう。大丈夫よ、もうこれ以上は痛くないわ。苦しまないよう、一瞬で決めてあげる」

 

魔神の核の中からヴィーカの声が聞こえてくる。

魔神が両腕を広げると、空に暗雲が立ち込め、魔神の頭上にエネルギーが集中していく。

完成するのは魔神よりも一回り大きな暗黒の球体。

紫色のスパークが飛び交い、強烈な波動を放っていた。

 

あれを落とされたら、間違いなく跡形もなく消し飛ぶね………。

どうすればいい………?

どうすれば、この状況から抜け出せる?

考えろ、考えるんだ………!

 

意識をギリギリ繋ぎ止めた状態で思考を巡らせていくボクだが、相手は答えが出るのを待ってくれない。

完成したエネルギー球が落とされ、全てを消し去ろうとした―――――。

 

「お待たせ、二人とも」

 

その声とともに突然、現れた目映い光。

白金色に輝く翼を広げたアリスさんがボクとサラを守るように立っていた。

 

アリスさんが言う。

 

「ゴメンなさい、こんなにも遅くなってしまったわ。本当ならもう少し早く動けたんだけど、あの二人を相手にするから、ギリギリまで粘ってたの。あとは任せて、休んでて。―――――一撃で終わらせるから」

 

アリスさんが纏う光がより一層、強く、神々しくなっていく。

広げた翼から黄金の粒子が広がり、優しい光がボク達を包み込んでいった。

 

現れたアリスさんにヴィーカが言う。

 

「遅かったじゃない、王女様。遅すぎて忘れていたわ」

 

「ええ、待たせたわね。遅れた分はきっちり働かせてもらうわ。うちの『僧侶』と『騎士』がここまで頑張ったのに『女王』が活躍無しじゃ格好がつかないもの」

 

アリスさんは腕を前に出して、槍を水平にすると柄のところを撫でた。

高まっていくアリスさんの力に呼応しているのか、ドクンッと槍が強く脈打ち始める。

アリスさんは槍の切っ先を魔神の核―――――ヴィーカとベルに向けると、柄の先端、石突きの部分を右手で握った。

 

「霊槍アルビリス。四大神霊が作った神槍。私は今まで槍と対話なんてしてこなかったから、えらく時間がかかってしまったわ。でも、おかげで理解することができた。この槍の心の力を―――――」

 

白金色の雷に包まれたアルビリスの形状が変化していく。

切っ先はより鋭く、柄はより太くなると、石突きのところに翼のようなものが現れる。

アルビリスが変化していくと同時にアリスさんの空いた左手にオーラが集中して、こちらも形状が変わっていた。

上下に細長く伸び、緩やかな曲線を描いていく。

そして、上下の各先端が糸のようなもので結ばれた。

アリスさんが構えたその姿はまるで―――――弓矢を構えているような姿だった。

 

アリスさんが言う。

 

「これが霊槍アルビリスの真の姿―――――真霊槍弓(れいそうきゅう)アルビランテ。威力は原初の女神様のお墨付き。決着を着けましょう」

 

アリスさんが巨大な矢と化したアルビリスを引く。

鏃には尋常ではない力がチャージされていて―――――

 

「―――――白雷神后の神滅矢(タキオン・ブレイカー)

 

白き雷を纏った矢が魔神を居抜き、全てを破壊していった―――――。

 

 

 

 

それから少ししてからだった。

 

「美羽ちゃん、大丈夫………じゃないわね。すぐにアーシアさんのところに連れていくから」

 

気が付いたらボクはアリスさんに肩を担がれていた。

ボクの反対側にはサラもいて、アリスさんはボクとサラの二人を担いでいる格好だった。

 

体に力の入らないボクはアリスさんに体を預けながら、周囲を確認する。

 

「………終わったの?」

 

ボクの問いかけにアリスさんは空を見上げて、

 

「ええ、終わったわ」

 

ヴィーカとベルが再展開した結界は完全に消滅して、あの魔神の姿も無くなっていた。

空を見上げると、神姫化したアリスさんのオーラが一面を染めていて、白金色に輝いているのが見えた。

 

「本当に一撃で決めちゃったんだね………」

 

「美羽ちゃん達が時間を稼いでくれたもの。それに言ったでしょ? 『僧侶』と『騎士』が頑張ってるんだから、『女王』もカッコいいところ見せないとね?」

 

微笑むアリスさん。

 

うん、赤龍帝眷属の『女王』がアリスさんで良かった。

こんな女性がいるから、ボク達の眷属が成り立っている、そんな風にも思ってしまう。

まぁ、これを言うとアリスさんは首を横に振ってしまうだろうけど。

 

ボク達が真っ直ぐ進んだ先。

そこにはヴィーカとベルの姿があった。

ベルを庇うように抱き付いているヴィーカ。

だけど、二人の体はアリスさんの一撃で貫かれていて、二人とも肉体が崩壊しているのが見えた。

 

ヴィーカは抱き締めたベルの頭を撫でながら言う。

 

「ゴメン………なさいね。お姉ちゃん、ベルのこと………守れなかった。ウフフ………口ではあんなこと言ってたのにね。他者の大切なものを奪っておきながら、自分の大切なものを守ろうとした………その罰なのかしら………?」

 

ヴィーカの胸の中にいるベルは弱々しくヴィーカの服を掴んで、消え入りそうな声で言った。

 

「………良いの。ベルも、いつかはこうなるって………分かってた………」

 

「そう………。でも、ベルと逝けるのなら、それはそれで良かったの………かも」

 

微笑むヴィーカ。

彼女の声も徐々に小さく、耳をすまさなければ聞き取れなくなっていく。

 

アリスさんがヴィーカに問う。

 

「あんた、本当にここまでする必要あったの? こんなボロボロになって………」

 

「ウフフ………なーに? 私の心配………?」

 

「茶化さないでよ、バカ」

 

「ウフフ、ごめんなさいね………。でも、これで………良かったのよ」

 

ヴィーカはアリスさん、ボクと順に視線を向けると口を開いた。

 

「………行き、なさい。あなた達が未来を掴むというのなら………彼のところへ………。きっと、彼は………この世界とあの世界………二つの世界を…………」

 

それ以降、ヴィーカとベルの声が聞こえることはなかった。

 

アリスさんは一度、瞑目すると前を―――――この世界の中心を見据えた。

 

「行きましょう。まだ戦いは続いているのだから。………今から行くから待ってなさいよ、イッセー!」

 

 

[美羽 side out]

 

 




~あとがきミニストーリー~

イッセー「おまえら、声出せぇぇぇ! この世界は俺達のツッコミにかかってるんだぞ! どんだけぇぇぇぇぇッ!!」

ギャスパー「が、頑張りますぅ! ど、どんだけぇぇぇぇぇッ!!」

木場「僕もなのかい!?」

イッセー「当たり前だ! ツッコミ役は貴重なんだよ! ほら、木場も! どんだけぇぇぇぇぇッ!!」

木場「くっ、やるしかないのか! ど、どんだけぇぇぇぇぇッッ!!」

イッセー「ワンモアセイ!」

木場&ギャスパー「「どんだけぇぇぇぇぇ!」」

イッセー「エビバディセイ!」

木場&ギャスパー「「どんだけぇぇぇぇぇ!」」

今日も今日とて、ツッコミ役の鍛練は続く。







曹操「どんだけぇぇぇぇぇぇぇぇッ!! ………お、俺はなにをして………!?」

~あとがきミニストーリー 終~


本編シリアスだから、あとがきでブレイクッ!
次回からイッセーVSアセムだ!


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48話 超激戦! イッセーVSアセム!

ついに真打ち!
イッセーVSアセム!


俺とアセムが戦闘を開始して少し時間が経過した。

前回、冥府で戦った時はアザゼル先生お手製の乳力(にゅー・パワー)安定補助装置『オッパイザー』とドッキングすることで、不安定なEXAの力を完全に引き出した。

奥の手の発動も可能になったことで、アセムに食い下がることが出来たが………今のアセムはあの時よりもずっと強くなっているように感じる。

パワー、スピード、テクニック、あらゆる面で前回よりも上。

EXA形態ではとてもじゃないが、今のアセムには届かないだろう。

 

「はっ!」

 

放った右のストレート。

アセムは俺の拳を紙一重で避けると、お返しとばかりに同じく右のストレートで反撃してくる。

俺は左手で奴の拳を反らし、受け流す。

空を切った互いの拳だが、その拳圧は石造りの床をことごく破壊している。

もう何度も俺達の攻防の余波を受けたせいで、元の荘厳だった場所はただの瓦礫の山と化していた。

 

アセムはこちらの攻撃を流しながら言う。

 

「せっかく時間かけて作ったのに、もう見る影もないじゃないか。あとで修繕費を要求していいかな?」

 

「世界中を瓦礫の山にしてくれた奴の言うことか!」

 

「いやいや、あれやったのアポプス君とアジ・ダハーカ君だから。僕は関与してないよ?」

 

「じゃあ、各勢力にドデカい砲撃ぶちこんだのはどこの誰なんだよ?」

 

「あ、僕でした。アハハ♪ まぁ、演出だから許してちょーだいな」

 

相変わらずふざけた野郎だ。

リゼヴィムとは違った意味で腹立つ。

 

だが、軽口と反してこいつの目はこれまでにないくらいマジだ。

拳や蹴りが重く、殺意の籠った一撃になっている。

時折見せる鋭い眼光は見る者を全てに畏怖を与えるだろう。

それが例え神だとしても。

 

激しい格闘戦を繰り広げていると、アセムが訊いてきた。

 

「さてさて、勇者君はいつになったら出してくれるのかな?」

 

「なにをだ?」

 

「決まってるじゃないか―――――本気だよ」

 

俺達は合わせたかのように腕をぶつけると、空中で回転しながら後ろに下がった。

数メートル程、距離を置いたところで俺達は視線を交える。

 

俺は何度か手を握ったり、開いたりして感触を確かめると口を開いた。

 

「本気、か………。そういうおまえもまだ様子見ってところなんだろ? 俺に本気を出さたいのなら、おまえも本気で来いよ。今のが底ってわけでもないんだろう?」

 

「アハハ♪ さぁてね。君が全力を出さないのなら、僕も本気でやるわけにはいかないね。君はいわばチャレンジャーなんだからさ」

 

チャレンジャー………ね。

確かにこの状況はこれまでの経緯も含めると俺がアセムに挑みに来たという形に見えなくはない。

 

俺もアセムもお互いが本気じゃないのはこの攻防戦で分かってる。

俺達は見たいんだ、相手の底を。

それを受け止めた上で、相手を降す。

そうでなくては、この戦いはただの茶番で終わってしまう。

 

―――――よし。

 

「………フルパワーでくるか」

 

顔の前で腕をクロスさせた俺を見てアセムがそう漏らした。

 

構えた状態で全身に力を入れると、体から虹色の輝きが溢れ出す。

溢れ出た輝きは燃え盛る炎のように揺らめき、周囲を照らしていく。

虹色の炎の周りにはスパークが無数に飛び交い、オーラの強さを表している。

 

気合いを発すると同時に空間全体が激しく揺れ始める。

転がっている瓦礫が浮かび上がり、踏み締めた場所は俺の力に押されて徐々に沈み始めていた。

錬環勁気功で全身の気をコントロールしてパワーを一段、二段と高めていくにつれて、二時の炎も、飛び交うスパークも激しさを増していく。

 

クロスした腕が下がり、アセムと視線が合った。

アセムは俺のパワーの膨れ上がりにただただ笑みを浮かべている。

 

………もう神クラス、超越者クラスすらとっくに超えているんだけどな。

普通なら顔を青ざめたり、冷や汗をかいたりすると思うんだが………あいつも俺と同じか、それ以上の力を持っているということだろうか。

 

まぁ、良いさ。

どっちにしろ、やることは変わらない。

今の俺が、変革者として覚醒した俺が持てる全てを―――――。

 

「でぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!」

 

拳を天に向けて咆哮を上げる!

その瞬間、莫大な力が解き放たれ、爆発した!

虹の炎がこの石造りの空間を埋め尽くしていき―――――。

 

「―――――こいつが今の俺だ」

 

俺を包み込む煌々と輝く虹の炎。

自分でも綺麗だと感じてしまう程に神々しく、静かに燃えている。

これが今の俺、兵藤一誠の力だ。

 

纏う俺を見て、アセムが感嘆の声を漏らした。

 

「フフフ………これは面白くなりそうだ」

 

そう言うとアセムは両の拳を握る。

アセムは息を深く吸うと、カッと目を見開いた。

 

「ハァァァァァァァァァァッ!!」

 

アセムが雄叫びを上げる!

何度も戦ってきたけど、アセムが叫ぶところを見るのは初めてだ。

 

ありとあらゆる色を混ぜた暗く、禍々しいオーラがアセムの体から滲み出る。

アセムが立っている場所………オーラが触れた場所は砂のようになっていき、瞬く間に崩れ去っていく。

 

俺の時のようにアセムから放出される力が膨らむに連れて、空間が激しく揺れる!

奴の背後の空間に亀裂が入り、砕けて、次元の狭間の景色が見えてきた。

あいつは力を高めただけで、空間に作用できるということか………。

 

高められた力は一定のところまで高められると、そこで安定する。

ゆらゆらと揺れる禍々しく、暗いオーラ。

アセムの覇気に当てられたのか、空間がドゥンドゥンと鳴動している。

 

これがアセムの真の力………!

強化剤を使ったリゼヴィムなんぞ足元にも及ばねぇ!

下手な神クラスなら、指の一本………いや、オーラをぶつけるだけで制することが出来るだろう。

 

俺は舌打ちしながら言った。

 

「この野郎、とんでもねぇ力を隠してやがった」

 

「フフフ、君がそんな力を見せてくれるんだもの。僕だって見せたくなるさ」

 

俺達は互いに全開の状態で歩み始め、手を伸ばせば届く距離で止まった。

この戦いを始めたときと同じ状況。

ただし、今度は互いにフルパワー。

どうなるかは俺にも分からない。

 

アセムは不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「来なよ」

 

「ああ」

 

即答した瞬間、俺はアセムの腹めがけてアッパーを放った。

もろに受けたアセムの体がくの字に曲がり、アセムの顔が下に向いたところを狙って、奴の顔を蹴り上げた。

 

床を蹴って、空中に放り出されたような形になるアセムの先へと回り込むと、肘打ちをアセムの腹に打ち込み、床に叩きつける!

叩き付けた衝撃で、床全体が陥没した!

 

追撃しようと、土煙が舞う中を突っ切っていると、土煙の向こうから禍々しいオーラの塊が飛んできた。

俺は横凪ぎに弾き飛ばして、直前を避けるが………、

 

「ハッ!」

 

いきなり目の前に現れたアセムの回し蹴りが俺の側頭部に命中する!

防ぎきれなかった俺は成す術なく、石造りの壁にめり込んでしまう!

 

あの野郎、ほんの一瞬、俺の意識がオーラの塊に向けられたところを狙ってきたな………。

 

そう考察していると、アセムは右の拳を引いて――――目にも止まらぬスピードで拳を放った。

距離があるから、とてもじゃないが拳が当たる距離じゃない。

それなのにアセムは拳を放った。

ということは―――――

 

「………ッ! 遠当てかよ………!」

 

凄まじい拳圧が俺を襲い、壁に張り付けにする!

連続で飛んでくる遠当ての拳圧が俺に脱出の機会を与えようとはしない!

 

「調子に乗るんじゃねぇよ!」

 

ならばと、俺は全方位にオーラを噴出する。

虹のオーラが俺を中心に球状に広がり、触れるものを全て呑み込んでいった。

 

脱出の経路を作った後、アセムの拳圧の間を掻い潜り、奴との距離を詰める。

アセムも俺に対応して、すぐに接近戦の体勢に入った。

 

オーラの籠められた拳と拳、蹴りと蹴りが超至近距離で衝突する純粋な肉弾戦。

 

「アハハハ! やっぱり、これぐらいじゃないと戦いは楽しくないね!」

 

攻撃を繰り出しながら、アセムは楽しそうに笑っていた。

なんと言うか………やっぱ、ラズル達の生みの親って感じだ。

自身と拮抗、または追い詰めてくれる強者との戦いを何よりも楽しむバトルマニア。

そんな雰囲気が今のアセムからは感じ取れる。

 

………というか、ここまでの力を出さないと心の底から楽しめないとか、レベル高すぎだろ、このバトルマニアは。

 

アセムの放ってきたストレートを俺が受け止め、俺が放ったアッパーを奴が受け止める。

互いの腕が使えない状態になると、次に始まるのは蹴りの応酬だ。

僅にでも手の力を緩めると、勢いが相手に乗る。

それを理解している俺達は蹴りを出している間も手を緩めることが出来ないでいた。

 

蹴りだけの戦いが続いていると、アセムはふと何かを考えたようで、

 

「やっぱり、今の君と僕の戦いで屋内は狭すぎる。―――――場所を変えようか」

 

刹那、俺の体がグンッと何かに押される。

まるで磁石が反発するような、目に見えない力に俺は吹き飛ばされた。

吹き飛ばされた俺は石造りの壁にぶつかり、そのまま、外に飛び抜けてしまう。

 

今のはアセムの覇気によるものか………?

モーリスのおっさんが使う剣気の圧力に似ていたけど………。

 

そんなことを考えながら、俺は空中で体を捻って着地する

足元は一面砂漠で、砂以外は何もない。

………この場所、改めて見ると冥府を思い出すな。

死の世界って感じがするし。

 

「冥府みたいって思ったでしょ?」

 

俺の思考を読んだのか、アセムがそう訊いてきた。

 

「まぁ、それも当然だろうね。この世界は冥府を少し参考にして作ったし。あと、天界も少し参考にしたかな~。他にも参考にした場合はあるけど」

 

「冥府と天界を参考に………? なんで、そんなことを?」

 

俺の問いにアセムは意味深な笑みを浮かべて、

 

「いずれ分かるさ。君達が生き残ることが出来たらね」

 

それだけ答えてアセムは構えを取った。

 

「そうかよ。なら、生き残らせてもらうぜ」

 

俺も腰を沈めて、構えを取る。

 

勇者時代の服を纏う俺と、アスト・アーデ歴代魔王が身に着けてきた戦闘服を纏うアセム。

構えを取ったままピクリとも動かない俺達。

視線を合わせ、相手の呼吸を読み、僅かな気の動きにさえ注意を払う。

 

アセムの気………危険な波動を放っているくせに静かな気をしているな。

一斉の乱れがない。

どんな強者でも、意識の揺れや無意識下で気の流れが動く時がある。

それが無いのは修行の果てに、自らを苛め抜き、己の全てを理解した者ぐらいだ。

そして、それを実現できているのは俺が知る限りでは、俺の師匠――――拳神グランセイズ、剣聖モーリス・ノアぐらいだろう。

 

「おまえのその力、最初から持っていたものじゃないな?」

 

俺の問いにアセムはニッと笑んで、

 

「まぁね。自分を自分で殺しかけ、それを何度も繰り返したさ。いやぁ、あの頃の自分が懐かしい限りだ」

 

なるほど、こいつも修行の果てに今の力を得たってことか。

アセムの言葉を聞いて、ドライグが言ってくる。

 

『危険な奴だとは前々から思っていたが、今ので危険度が倍増したな。自らを鍛えぬいて力を得た者は過信をしない。隙を伺うという考えは通用しないぞ』

 

だろうな。

弱点もないに等しく、過信もない。

策に策を重ねた上で、絶対的なパワーで押し通す。

それくらいやらないと厳しいか?

 

アセムが訊いてくる。

 

「考えは纏まったかな?」

 

「ああ。―――――真正面から全力で殴り飛ばす!」

 

「いいね! 僕もそれでいこう!」

 

地面を蹴って飛び出す俺達。

俺が手を伸ばすと、アセムも手を伸ばしてきて、俺達は取っ組み合う形になった。

 

「ぬぅぅぅぅぅぅ!」

 

「ぐぅぅぅぅぅぅ!」

 

俺のオーラとアセムのオーラが激しく衝突して、稲妻が走る。

俺達を中心に広がる力の奔流は一帯を呑み込み、足元に巨大なクレーターを作り始めた。

 

パワーは互角!

ならば、ここからは技で勝負だ!

 

フルパワーから一転、俺は力を抜いて後ろに倒れる。

力を入れっぱなしだったアセムは前屈みに体制を崩し―――――そこを狙って鋭い蹴りを入れる!

鳩尾に入った蹴りはアセムを空高く吹き飛ばす!

 

間髪いれず追いかける俺。

すると、アセムは体を大の字に広げて空中でブレーキをかけた。

アセムは迫る俺を迎え撃ち、殴り合いが再開される!

 

元々、こいつの動きは洗練されていたが、こいつの強さの秘密を知ってからはより洗練されて見える。

流れるような動きでこちらの拳打を流し、力の流れを利用したカウンターに近い攻撃を返してくる。

俺が蹴りを出せば、俺の足に自分の足を絡めて、反対の足で蹴り返してきた。

天界で戦った時、アセムは俺の動きを真似てきたが、それだけの鍛練を積んでいたからこそなのだろう。

 

だが、それは俺も同じだ。

 

「ふっ!」

 

拳を放つ………と見せかけて、俺は途中で動きを変化させる。

アセムの顔面目掛けて真っ直ぐに突っ込んでいた俺の拳は直前、アセムがこちらの攻撃を防ごうとしたところでピタリと止まった。

それを見計らい、錬環勁気功を発動。

気を有した残像を作り出す。

 

強者は目に映るものだけでなく、それ以外の要素―――――気の流れや相手の意識を意識して戦いに臨む。

故にこの気を有した残像は強者であればあるほど、注意を持っていかれてしまう。

加えて、変革者となり、虹のオーラを纏う俺が生み出す気の残像は俺の意識、つまり、闘志や殺気すらも有する。

 

「これは………!」

 

アセムは俺の残像に引っ掛かり、見事に空振ってしまう。

おかげで大きく体勢を崩すことができた!

 

「おまえでもほんの僅かに意識が俺本体から外れる! そこが大きな隙になる!」

 

後ろに回り込んだ俺は背後から蹴りを放った。

僅かなに生じた時間を利用して、腰の捻りとオーラを乗せた一撃必殺にも成りうる一撃!

例え倒せなくても、大ダメージを与えることは確実だ!

 

蹴りがアセムの肉体を打ち抜く―――――その時。

アセムがニヤリと怪しく笑みを浮かべるのが見えた。

 

その瞬間―――――アセムの姿が消えてしまった!

 

「なんだと………っ!?」

 

俺は驚愕し、目を見開いた。

今のは完全に虚を突いたはずだった。

しかし、アセムは今の俺ですら見失う速度でその場から消えた。

 

「――――残念だったね」

 

背後から聞こえる声。

振り向けば、既にアセムが掌にオーラを集中させていて―――――。

 

俺は避けることも、防御することも間に合わず、エネルギー弾を受けてしまった!

まともに受けた俺は姿勢の制御が出来ずに、そのまま地面に激突。

砂漠のど真ん中に埋もれてしまった。

 

「ゲホッゲホッ! 痛っ………! なんだ、今のは………?」

 

咳き込む俺を見下ろすアセムはいつもの笑みを浮かべて言う。

 

「この世界を創ったのは僕だ。世界を構築するなら、空間や次元の構造を理解する必要があってね。今のは世界構築を行う上で、出来た副産物的なもの。―――――空間の構造を利用した瞬間移動。座標が分かっているなら何処へだって行ける便利な技さ」

 

 




~あとがきミニストーリー~


イグニス「またまた新技を考えたわ」

イッセー「どーせ、また(にゅー)キャノンとかだろ? もういいよ、その手の技はもう十分だろ」

イグニス「チッチッチッ、甘いわね、イッセー。私がそんな進歩のない女神に見える? これはねアリスちゃんとリアスちゃん専用の技よ」

リアス「私達専用………? 不安しかないのだけど、どういうのかしら?」

アリス「イグニスさん、ふざけてるように見えて、結果だけは残してるから………一応、聞いてみましょうか?」

イグニス「そうこなくっちゃ♪ 二人専用の技、その名も(にゅー)ジョン! 二人の乳力(にゅー・パワー)を同じレベルまで高めた状態で、二人のおっぱいをくっつけるの! そうすれば、最強のスイッチ姫が誕生するわ!」

イッセー「合体するの!? スイッチ姫、ついに合体するの!? 一体どうなるんだよ!?」

イグニス「大きさ、張り、美しさ、感度、そして揉み心地。全てにおいて最高のおっぱいを持つスイッチ姫が爆誕するの!」

イッセー「なにそれ、超見たい! 是非お願いし」

アリス「却下!」

イッセー「ぶべらっ!」

リアス「やっぱり、そういう感じなのね………」






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49話 反撃開始

空間の構造を利用した瞬間移動………。

そんな厄介な技を持っているとはな。

しかも、アセムは座標さえ分かっていれば、何処にでも行けると言った。

つまり、それは好きな場所に好きなタイミングで移動できるということ。

逃げようと思えば、いつでも逃げられる。

………まぁ、アセムの野郎が逃げるとは思えないけど。

 

「このドチートめ。チートなのはうちのおっさんだけで十分だっての」

 

俺は立ち上がると服を叩いて砂を落とした。

埋もれた場所が砂漠だったから、全身じゃりじゃりするぞ………。

 

俺の悪態にアセムは頬をポリポリかきながら言う。

 

「いやぁ、人の身であれだけの力を持っていた剣聖と比べられるのはねぇ。僕からすれば、あっちの方がずっと反則級だよ。というか、君自身もそれだけの力を持っておいて、人のこと良く言えたものだよ、チート君」

 

「いや、おまえの方がチートだろ」

 

「いやいや、君の方がチートだよ」

 

「いやいやいや、おまえの方がチートだ」

 

「いやいやいやいや、君の方が」

 

『おまえ達、本当は仲良いだろ』

 

うるさいよ、ドライグ。

どっちの味方なんだよ、おまえは。

 

『今のに関してはどっちでもないな。俺からすれば、どちらも同じだ』

 

「だよねー、さっすがドライグ君! わかってるぅ!」

 

『そのノリやめろ。どこぞの女神を思い出す』

 

ドライグが少し不機嫌な声音でそう返すと―――――

 

『んー? どこぞの女神って誰のことかしらー?』

 

『ちょ、ちょっと待て! 貴様、何をして………』

 

『ウフフ♪ 久し振りにドライグ君を縛っちゃおうかな☆』

 

『ギャァァァァァッ! ヤ、ヤメロオォォォォォッ!』

 

この駄女神ぃぃぃぃぃ!

出てきて早々何してんだぁぁぁぁぁぁ!

今、最終決戦なんだよ!?

そこのところ分かってんのか!?

 

ツッコミを入れていると、別の人の声が聞こえてきて、

 

『ドライグ! しっかりして、ドライグ!』

 

『なんと言うことだ………! ドライグが………ドライグがぁぁぁぁぁぁ!』

 

エルシャさん!?

ベルザードさん!?

超久し振りに出てきましたけど、何があったんですか!?

ドライグの身に一体何が起きたと言うんですか!?

 

『『ドライグ………その面白すぎる姿は忘れない………ブフッ』』

 

おいいいいいいいいいいい!

笑ったよ、この人達!

面白すぎる姿ってなに!?

どんな姿になったんだ、ドライグは!?

 

もう嫌だ、この人達!

完全にイグニス側だもの!

全力でシリアスを壊しにきてるもの!

 

『『我らイグニス教徒、三分以上のシリアスには着いていけない』』

 

なにそれ!?

なにトラマン!?

せめて、その三分で地球を救ってくれよ!

今のところ、なにもしてないじゃん!

 

『あっ、ベルザードさん! 今月のイグニス教の飲み会のことなんですけど』

 

んんっ!?

今なんて言った!?

イグニス教の飲み会!?

歴代赤龍帝達の間でそんなことが行われているの!?

 

『え~、それでは今月もイグニス教の繁栄を願って………乾杯(おっぱい)ッ!!』

 

『『『乾杯(おっぱい)ッ!』』』

 

ちょ………え?

なんで………なんで、もう宴会始まってんだぁぁぁぁぁぁ!

今の宴会の相談じゃないの!?

アレですか、『いつやるの、今でしょ!』的なノリなんですか!?

それにしても早すぎない!?

というか、乾杯の音頭が『おっぱい』だったぞ!?

 

ああっ、なんか滅茶苦茶がやがやしてる!

完全に宴会モードに入ってる!

 

「せめて戦いが終わってからにしてくれよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

俺は天を仰いだ。

アセムのことなど忘れて。

 

世界の危機?

いえ、それよりも俺が危機です。

歴代の先輩達が駄女神に染まりきって、シリアスを壊してきます。

ドライグも駄女神に捕まりました。

なんか、面白すぎる姿になったそうです。

誰か助けてください。

 

「アハハハハハハ! ブフッ! わ、笑いすぎて、お、お腹が………ゲホッゲホッ! オエッ!」

 

アセムも爆笑しだしました。

腹抱えて、涙流してます。

笑いすぎて吐きそうになってます。

隙だらけなんで、殴って良いでしょうか?

 

俺は内から聞こえてくる宴会の音と、外からくる嗚咽の混じった笑い声に涙した。

 

 

 

 

「いやぁ、笑った笑った。やっぱり君は最高のシリアスブレイカーだと思うよ」

 

「やかましい! つーか、今のは俺なのか!? 俺が悪いのか!?」

 

「だって、シリアスが崩壊する時って大概、君がいるじゃん。ボケにしろツッコミにしろ。ドラゴンは力を呼ぶと言うけど、君の場合はボケを呼ぶドラゴンなんじゃないかと、本気で思い始めてる」

 

ボ、ボケを呼ぶドラゴン………。

否定できない自分が辛い。

そこに関してはアセムの言うことに頷いても良いと思えてしまう。

………悲しいことに。

 

つーか、ボケる側にはおまえも混じってるからな!?

そこを忘れないでほしいな、この悪神様は!

 

俺は深く息を吐くと、こちらを見下ろすアセムにもう一度目を向けた。

………さて、どうしたものかな。

 

ドライグが言ってくる。

 

『ふざけた神ではあるが、本物だ。まだアレも出していないしな』

 

アレ………あの黒い籠手のことか。

本気を出すといいながら、アセムの野郎はまだあの籠手を使用していない。

それなのにこの強さなんだから嫌になる。

 

といっても、さっき食らったエネルギー弾、見た目の割りにはダメージが少ない。

以前の俺が食らっていたらアウトだっただろうが、今の俺はあれくらいの攻撃なら問題ないようだ。

 

俺が構えを取るとアセムは笑む。

 

「まだやるかい?」

 

「当たり前だ。まだ何も終わってねぇよ」

 

互いの殺気がぶつかり合う。

そして―――――俺達は一斉に前に出た!

 

突き出した拳と拳が衝突し、空間に亀裂が入る。

すると、アセムは反対の手を天に翳して、

 

「ここから先は魔法も着けようか!」

 

魔法陣を展開し始めた。

それも一つや二つじゃない。

何千、何万という恐ろしい単位でだ。

 

俺と格闘戦をしながら、これだけの魔法を………!

 

俺は瞬時にその場から飛び退くと、全力で砂漠を駆けた。

コンマ数秒後、俺がいた場所は無数の魔法によって蹂躙。

更に走る俺を追いかけるように攻撃魔法の雨が降り注いでくる!

 

「こっちに反撃の隙を与えないつもりかよ? そっちがそのつもりなら―――――」

 

忍者のような低姿勢で走り続ける俺は掌を地面に向けた。

掌に気弾を作り出すと、圧縮に圧縮を重ね、有り余る力を注いでいく。

そうして出来たのはバレーボールサイズの気の塊だ。

 

完成した気弾をアセム目掛けて投げた。

無数の魔法が降る空中で気弾が膨張し始め―――――盛大に炸裂した!

爆発した気弾は広範囲を呑み込み、発動していた魔法はもちろん、発動前の魔法陣をも破壊し尽くしていった!

 

「まだまだァッ!」

 

今のと同じ気弾を左右の手で作り出し、連続で放つ。

放った分だけ、空中で大爆発が起こり、一帯を激しく揺らす。

 

普通ならこいつで終わっていてもおかしくないが………。

 

「残念ながら、ノーダメージなんだよね!」

 

煙の中から禍々しいオーラを纏ったアセムが現れる!

この野郎、傷ひとつついてねぇ!

 

拳を振りかぶるアセムを迎え撃とうとする俺。

だが、あと僅かの距離でアセムの姿が消えた!

俺の目でも追えない動き………瞬間移動か!

 

「横ががら空きだよ!」

 

右から現れる気配。

フルスイングの蹴りが俺の腹にめり込む!

凄まじい衝撃が体の内側を駆け抜けた!

 

「ぐっ………! このやろ………ッ!」

 

すぐに反撃に出るが、俺の攻撃は虚しく空を切ってしまう。

また瞬間移動………!

アセムのやつ、連続で使えるのか!

 

「ほらほら、こっちこっち!」

 

次は背後、その次は左、その次は上。

あらゆる場所、あらゆる距離でアセムが現れ、拳や蹴り、エネルギー弾を放って、俺にダメージを与えてくる。

 

曹操と戦った時と状況は似ている。

あいつも禁手の能力の一つで空間転移を繰り返し、こちらを翻弄してきたからな。

あの時は曹操の行動パターンを読んで対応できたけど、今回、俺はアセムの行動パターンを把握できないでいた。

あいつは戦いながら、俺の予測をも読み、上回ってくる。

 

………そういえば、アセムは俺がアスト・アーデに飛ばされた時からずっと見ていたらしいな。

そうなると、アセムは俺の全てを知っていることになる。

対して俺はアセムのことで知らないことの方が多い。

情報量では圧倒的に不利か………!

 

「ぐぁっ!」

 

瞬間移動で眼前に現れたアセムに対応できなかった俺は奴の蹴りを顔面に食らい、吹き飛ばされてしまう。

 

砂漠の上を何度もバウンドして転がる俺は、勢いが止まったところで、大の字になった。

両手足を広げ、完全に力を抜いた状態。

別に諦めたとか、そういう訳じゃない。

こういう時は一度、脱力して頭の中をクリアにするに限る。

 

「まさか、ここまで押されるとはな………」

 

そう呟くとドライグが言ってきた。

 

『どうするつもりだ、相棒。このままでは一方的だぞ?』

 

そうなんだよな………ここいらで巻き返さないと色々、厳しいことは分かってる。

格闘術なら互角、攻撃魔法にも何とか対処できる。

問題なのはあの瞬間移動だ。

あれを攻略しないことには………。

 

「とりあえず、やるだけやってみるか」

 

そう呟くと、俺は起き上がる。

少し離れたところではアセムが待っていて、

 

「攻撃しないのかよ」

 

「しても良かったんだけどね。君が何か考えているようだったから、観察してたのさ」

 

「余裕かよ」

 

俺がそう言うと、アセムは苦笑しながら首を横に振った。

 

「油断できないからだよ。君はあの手この手で攻略しにくるだろうから………ね!」

 

アセムは再び瞬間移動を使い、その場から姿を消す。

次に現れたのは俺の懐で、鋭い一撃が鳩尾に叩き込まれた!

この身にズンッと響く一撃!

その衝撃の強さに俺は吐血する。

 

アセムは瞬間移動を使いつつ、徒手空拳と魔法を交えて攻撃してくる。

奴の攻撃に反応できていないから、量子化すら使えない。

 

俺の攻撃を軽やかに避けたアセムは左の掌に右の拳を合わせる。

掌にオーラが集まっていくのが見えたと思うと、奴はゆっくり右の拳を離していった。

右の拳には左の掌に集まっていたオーラが伸びていて―――――

 

「鎌………?」

 

アセムの右手に握られるオーラで形成された巨大な鎌。

形状は死神が使う物に似ており、大きさはアセムの背丈よりも大きい。

 

アセムが槍を軽く振ると―――――砂漠が真っ二つに割れた。

 

「これで君の命を刈るとしよう」

 

アセムからのプレッシャーが膨れ上がる!

次の瞬間、奴は消え―――――気づけば、また俺の目の前に現れていた!

 

アセムは鎌を振りかぶり、斬りかかってくる。

身を捻り何とか直撃を避けることが出来たが、鎌の刃が顔を掠め、生じた傷から血が流れ出てきた。

 

「くっ………!」

 

俺は距離を取ろうとするが、アセムはこちらの動きを読んだように立ち回る。

直撃はせずとも鎌の刃は俺の皮膚を掠め、血を流させる。

大したダメージではないが、追い詰められているという焦燥感が俺の精神力を削っていく。

 

アセムの変幻自在な攻撃の数々をギリギリのラインで捌いていると、ふいに頭の中を誰かの声が過った。

 

―――――落ち着け、と。

 

若い男の声だった。

そいつはここに来る前に話しをした、あいつの声で―――――。

 

「ったく、大口叩いてこれじゃあ、格好がつかないよな………」

 

苦笑を浮かべた俺は―――――目を閉じた。

目の前は完全な闇。

何も見えない。

だが、その代わりにあらゆる感覚が研ぎ澄まされていく。

完全な闇の中で一筋の光が走る―――――。

 

「そこだッ!」

 

バキィッと鈍い音がこだました。

目を開けると、俺の放った渾身のストレートがアセムの顔を撃ち抜き、アセムは大きく仰け反っていた。

 

「な、に………?」

 

突然、命中した俺の攻撃にアセムは驚きつつも、動きを止めない。

瞬間移動で姿を消し、ランダムに姿を見せる。

そして、俺に攻撃しようとして―――――俺の拳がアセムの体を捉えた。

俺の拳はアセムの顎に命中し、奴の体を高く打ち上げる。

 

俺は不敵に笑みながら言った。

 

「言っておくが、まぐれじゃないぜ? 周囲の気の流れを読むのは錬環勁気功の得意分野だ。おまえの瞬間移動は確かに凄いが、消えて現れるときに、その場の気の流れが僅かに変わる。そこを狙わせてもらった」

 

奴の瞬間移動は空間構造を利用したもの。

つまり、元あるものを弄るわけだ。

そうなると、確実に周囲に歪みが生じる。

 

アセムは血を拭いながら言う。

 

「なるほど………。だけど、僕もそれは分かっていたさ。これくらいの変化なら捉えられないだろうと踏んでね」

 

アセムの言う通り、瞬間移動で生じる歪みなんて微々たるものだ。

それも一瞬の出来事。

気づく方がおかしいとも言える。

 

だが―――――。

 

「俺の師匠を誰だと思ってやがる? 武術の神、拳神グランセイズだぞ? これくらいやってのけないと師匠にどやされちまう」

 

俺の師、拳神グランセイズは最古参の神の一人。

その神が何百年、何千年、今に至るまで研き続けてきたのが錬環勁気功神をも降すとされる総合格闘術だ。

 

俺は師匠から全てを叩き込まれた。

技術も、その真髄も―――――。

 

「守りたいものが多いんでな、俺は負けねぇよ。続きをしようぜ、アセム。ここからは反撃タイムだ」

 

 

 

 




~あとがきミニストーリー~

イグニス「イッセー、あなたの更なる可能性の扉を開く時が来たわ」

イッセー「そうだな。………俺はまだまだ先へ進む。今を超えて、更に向こうへ」

イグニス「今のあなたなら分かるはずよ。共に叫びましょう! あなたの求めるものを! ずっと心の奥にあるものを!」

イッセー「見せてやるよ、俺の新たな力を、更なる可能性をな! 来い! 俺の―――――」






イッセー&イグニス「「可愛い妹達による新世界(シスター・プリンセス)ッ!」」

ドライグ『シスコンが悪化しただけだろうがぁぁぁぁぁぁッ!』




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50話 絶望蝶

遅くなりました!

先日、R18でリアス回を投稿したので良かったらこちらも読んでみてください~(^-^)/

今回で最終章もとうとう50話か………!


「反撃タイム………か。フフフ、そう上手くいくかな?」

 

アセムは口元を拭いながら不敵に笑みを浮かべる。

瞬間移動を攻略されたというのに、まだまだ余裕を感じさせるのは、更なる手があると言うこと。

 

まぁ、向こうはあの黒い籠手も出してないしな。

俺は奴をそこまで追い込まないといけないわけだが………どうしたものかね?

 

俺は拳を握りしめて言う。

 

「上手くいくかは分からん。だが、俺もやられっぱなしじゃないってことさ。俺を見てきたのなら分かるだろう?」

 

「まぁね。じゃあ、攻略してみなよ。僕を倒さない限り、この戦いは終わらないのだから」

 

「言われなくてもだ。端から倒すつもりできているんでなッ!」

 

ゴウッと虹のオーラが膨れ上がり―――――俺は無音でその場から飛び出した。

アセムは体勢を整えると、オーラで形成された鎌を構えてこちらを迎え撃つ。

 

腰を沈めたアセムは横凪ぎに鎌を振るうと、鎌の切っ先からオーラの斬撃が飛んでくる。

鎌の斬撃が直撃する一歩手前で、俺は屈み、スライディングの要領で回避、アセムとの距離を詰める。

 

「その避け方は隙が大きいかな!」

 

鎌を振り上げたアセムがここぞとばかりに振り下ろす。

狙いは俺の首。

このままいけば斬り落とされる………が、そう簡単にやられたりはしない。

 

俺は手を突き出すと、手刀を繰り出すような構えを取った。

手にオーラを集中させて――――

 

「俺にもこれくらいは出来るんだぜ?」

 

アセムがオーラで鎌を作ったように、俺もオーラで剣を作り出した。

虹色に輝く剣は禍々しい色の鎌を見事に受けきっていた。

 

オーラの剣を作り出して、不敵に笑う俺に対し、アセムは特に驚いた様子もなく、

 

「まぁ、それくらいは出来ると思っていたよ」

 

そう言うと、アセムは掌をこちらに向けて、エネルギー弾を放ってきた。

俺は地面を蹴って飛び上がると、空中で体を回転させながら、大きく後ろに後退する。

 

地面に足が着いた時、特大のエネルギー弾が目の前に迫っていて、

 

「このやろッ!」

 

オーラの剣を振るって、真っ二つに叩き斬った。

二つに割れた力の塊は俺の遥か後方に着弾して―――――空間を揺らす大爆発を起こした!

ただの一撃にとんでもねぇ力が籠められてやがる!

 

改めて体勢を整えようとする中、アセムは今の俺でも速いと思えるスピードで迫ってくる。

こちらに接近しながら、突き出した手から次々にエネルギー弾を撃ち込んできた!

 

ヤバいと感じた俺は横へと避ける。

奴の放ったエネルギー弾は地面に触れ、その場所を瞬く間に消し去った。

まるで空間ごとごっそり持っていかれたように。

 

こいつ、ただのエネルギー弾の中に破滅の力を混ぜてやがる………!

ただのエネルギー弾なら弾き飛ばすことも出来るが、奴が言う破滅の力とやらはそいつが出来ない。

アセムの力を超えているのなら、可能なのだろうが、今は拮抗が良いところだ。

 

俺とアセムは剣を交えながら、格闘戦、砲撃戦を繰り返し行っていく。

だが、このまま戦い続けても埒があかないだろう。

仮にこのまま拮抗状態が続き、援軍が到着したとしても、アセムを倒せるかと問われると難しいところだ。

奴はあの手この手で戦況を覆してくるだろうしな。

実際、それを可能にする力と技術は持っているわけだし。

まぁ、全盛期のオーフィスかグレートレッドが駆けつけてくれるのなら話は変わってくるけど………。

 

無いものを考えても仕方がない。

俺は俺の出来ることをするまでだ。

これまでもそうだったし、これからもそうだ。

 

―――――ここいらで仕掛けるか。

 

「フッ!」

 

気合いと共に一閃。

アセムの鎌が作り出した衝撃波が俺を襲う!

回避が間に合わなかった俺は前方に分厚くオーラを広げて直撃は避けるが………。

 

「そうなると後ががら空きなんだよね!」

 

背後に姿を見せるアセム。

俺は振り返ると、右手を突き出してアセムの鎌を防ごうとする。

しかし、鎌の刃はオーラごと俺の腕を斬り落として―――――

 

 

次の瞬間、俺の体は虹色の粒子と化してその場から消えた。

 

 

これにはアセムも目を見開き、

 

「量子化!? このタイミングで!?」

 

粒子を集めて肉体を再構成した俺が現れたのはアセムの懐。

 

アセムも量子化のことは知っているだろうし、俺が使ってくることも考えていただろう。

それなのになぜ、奴は驚いたのか。

 

それは俺が奴の攻撃を受けた後に量子化を発動したからだ。

量子化は相手の攻撃を受ける前に使用する緊急回避技だ。

受けた後での発動なんて遅すぎる。

アセムもそれを分かっていた。

 

―――――だからこそ、俺はこのタイミングで使った。

 

量子化は一時的に肉体を気に昇華し、再構築する。

そして、再構築された肉体の傷は綺麗さっぱり治っている。

体力と精神力をごっそり持っていかれる代わりに肉体の治癒も行えるんだ。

それを利用して、俺はアセムにわざと腕を斬らせて、斬られた腕と肉体を気に昇華させ、奴の懐に潜り込んだというわけだ。

 

正直に言うと斬られた腕の修復なんて、今までの俺なら出来なかっただろうが、この領域に足を踏み入れたことで可能になった。

おかげで、完全にアセムの虚を突くことが出来た!

 

アセムは瞬間移動で回避しようとするが―――――

 

「逃がすかよッ!」

 

アセムが瞬間移動をするよりも早く、鋭いアッパーが奴の鳩尾にめり込んだ!

 

「ゴブッ………!?」

 

アセムの体がくの字に曲がり、口から血を吐き出した!

ようやく、ダメージといえるダメージを与えることが出来た!

そして、ここが畳み込める最大のチャンス!

 

俺は量子化によって修復した右腕に虹色のオーラを纏って、追撃のストレートを撃ち込む!

そこから拳と蹴りの連撃!

全身の気の流れを操り、最速で最大の威力を持った攻撃がアセムの肉体を抉る!

 

「くぅッ!」

 

それでも反撃してくるアセム。

深いダメージを受けながらも拳を返してくる!

 

「だが、遅い!」

 

奴の拳を受け止めると、そのままこちらへと引く。

それに釣られて奴の体もグンッと引かれて―――――そこへ、肘撃ち。

的確なタイミングで撃ち込まれた肘撃ちがアセムの顎を捉え、一瞬ではあるが、奴の意識を刈り取った!

 

上段への蹴りがアセムの顎を蹴り上げ、奴の体を宙に浮かせると、俺はアセムの顔面を掴んで、そのまま地面に叩きつけた。

その衝撃で土砂が舞い、轟音が響き渡る。

 

「こいつをくらわせてやる!」

 

両腕を大きく広げると、左右の掌に力を集中させていく。

両手に巨大なオーラの塊を二つ作り出した俺は、それらを自身の正面で無理矢理合成させた。

すると、巨大だった力が変質して、更に巨大さを増し―――――、

 

「スーパーアグニだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

かつてない輝きを持った光の奔流がアセムを呑み込んでいった。

 

 

 

 

ゴゴゴゴ………と、揺れ続けるこの一帯。

炸裂した虹の輝きは大元だった光の奔流が消えても残り続け、未だに宙を漂っている。

 

スーパーアグニ。

アグニの進化発展型。

威力は比べ物にならないが………ちょっと名前がストレート過ぎたかな?

 

無茶なタイミングでの量子化に続き、この超大技だ。

流石に消耗は大きいが、それだけの成果は挙げることが出来たはずだ。

 

光が薄らぎ、視界が戻ってくる。

見えてくるのは端が見えないくらい巨大なクレーター。

下手すりゃ、山がいくつも入るんじゃないだろうか。

そんな大きすぎる窪みの中央にアセムはいた。

 

全身から血を流した姿で。

 

「フフフ………まさか、こんなにもあっさりとしてやられるとはね………。一瞬の隙が命取りになる………分かってはいたんだけど、ここまでとは………」

 

特徴的な白い髪は赤く染まり、魔王の戦闘服もボロボロ。

先程のコンボはアセムに相当な深手を追わせたようだ。

 

肉を斬らせて骨を断つ、そんなところだ。

………まぁ、実際は俺も骨ごと斬られたんだけど、修復出来たので良しとしよう。

 

アセムはダメージに震える体で立ち上がる。

 

「………流石だよ。こんな深手を負わされたのは久し振りだ」

 

「そうか。………終わりにするぞ、アセム。消耗はしたが、戦えない程じゃない。それだけ傷を負ったおまえなら倒せるだけの力は残ってる。だけど、その前に聞かせろ」

 

こいつを倒さないとこの戦いは終わらない。

ここで倒さなければ、こいつはまた立ち上がってくる。

 

だけど、その前にするべきことがある。

 

「戦う前に聞いたな。俺達がいる世界とも、アスト・アーデとも違う異世界のヤバそうな連中が攻めてくることも分かった。それまでに時間が無いことも分かった。だけど、なんでだ? 何がおまえを動かした?」

 

この戦いがいずれ来る戦いのための予行演習と言うのなら、なんでこいつがそれをする必要があったんだ?

アスト・アーデの神であるアセムが、態々、演技までしてこっちの敵意を煽ってまで。

 

俺の問いかけにアセムはフッと笑むと、口を開いた。

 

「言ったはずだよ、勇者君。その答えを知りたいのなら、拳で聞けってね」

 

そう言うとアセムは左手を横へと突き出し―――――例の黒い籠手を出現させた。

 

「これまでの戦いでよーく分かった。君の力は今の(・・)僕よりも上だ。君はどう感じていたかは知らないけど、さっきの量子化がなくても、徐々に僕が推されていただろうね。だからさ―――――」

 

そこまで言ったとき、奴からとんでもないプレッシャーが発せられる!

 

なんだ、この身の毛のよだつ力の波動は………!?

これまでのアセムとはまた別物、目の前に立っている者が別人であるかのような感覚に陥ってしまう………!

 

「君も気になっていただろう? 僕がなぜ、この籠手を使わなかったのか。これまでの戦いは様子見だったのさ。まぁ、フルパワーでやる様子見ってものおかしな感じだけどね。君が今の(・・)僕にどれだけ食らいつけるのか見たかった。そして、君はとうとう僕を超えた。フフフ、期待して作っていた甲斐があったよ。今の君なら新たな僕を見せられる」

 

一瞬、俺はアセムの言っていることが理解できなかった。

いや、理解はしていた。

ただ信じることが出来なかったんだ。

 

様子見だと………?

今の戦いが全部………?

嘘だろ………そんなことが―――――。

 

『何をしている、相棒! 奴が何かをする前に止めろ!』

 

「ッ!」

 

ドライグの声を聞いて、ハッとなった俺はすぐに砲撃の構えを取った。

必殺じゃなくてもいい。

今は奴を止めるだけの力を………!

 

しかし―――――。

 

 

「―――――舞え、絶望蝶」

 

 

アセムがそう呟いた瞬間、奴を中心に莫大な力が解き放たれた!

漆黒の力が渦となって、竜巻みたいになっている!

黒い竜巻が遥か上空まで伸びて、横へと膨張し始める!

 

しっかり踏ん張っていないと呑み込まれそうだ………!

 

空を見上げると黒い竜巻のせいか、暗雲が立ち込み、辺りに幾つもの雷を落としていた。

その一つが俺目掛けて降ってきたので、後ろに飛んで避けるが………。

 

「おいおい………」

 

落ちた雷の衝撃で俺が立っていた場所が弾け飛んでいた。

力を解放した余波だけでここまで………!

 

止む気配のない黒い嵐、その中心が赤く輝いた。

すると、そこから何かが飛び出してきた。

それは禍々しい色の蝶の羽。

アセムが背中から生やしていたあれだ。

ただ、今回はサイズが違いすぎる。

一体何メートルあるのか、その大きさに、その迫力に圧倒される。

 

途端、嵐が止んだ。

あれほど荒れ狂っていた力の渦が、最初から無かったかのように一瞬で消え去った。

流れる静寂の時。

この時間が逆に恐ろしく感じてしまう。

 

「待たせたね」

 

上からの声に反応して、空を見上げる。

 

所々に青い装飾の入った漆黒の全身鎧。

形状は赤龍帝の鎧や白龍皇の鎧に似ているだろうか。

禍々しかった蝶の羽根も透き通った青へと変わり、美しささえ感じる。

だが、そんな美しさに反して、言い知れぬ波動を放っていた。

まるで、全ての災厄を詰め込んだような―――――。

 

鎧を纏ったアセムが言う。

 

「―――――『終焉を呼ぶ絶望蝶(カラミティ・レーゲン・オルタ)』。君達で言うところの禁手だ。フフフ………君なら分かるかな? この力を認識できているかな?」

 

認識できているか、だと?

 

ああ、認識できているよ………!

だからこそ、おまえとの差を理解してしまった………!

頭上に大海が広がっている、そんな感覚さえ持てる程に今の奴の力は大きい………大きすぎる!

上下の感覚が狂ってしまいそうだ………!

 

アセムが手元にオーラを集中させて、新たに鎌を作り出した。

俺は咄嗟に構えを取るが………。

 

アセムが静かな口調で言う。

 

「目を反らさないことだ。瞬きさえ隙となる。気を緩めないことだ。一瞬でも緩めば致命傷だ」

 

アセムが蝶の羽を緩やかに広げ―――――。

 

「野郎………ッ!」

 

「焦るなんてもってのほかだ。だから―――――」

 

その続きは俺の後ろから聞こえてきて、

 

 

 

 

 

 

「もう斬ってしまったよ」

 

 

 

 

 

 

 

鮮血が宙を舞った――――――。

 

 

 




~あとがきミニストーリー~

イッセー「こいつが………シスコンを超えたシスコンを更に超えた………ッ!」

アセム「………ッ! なんというパワーだ! 世界中のシスコンが共鳴している………! いったいどんなシスコンになるというんだ!」

ドライグ『………知らね』

イグニス「あら、ツッコミ放棄」




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51話 赤は紅へ

ついに………!

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「はっ……はっ……はっ………」

 

荒い俺の呼吸と吹く風の音。

あれだけ激しい戦いを繰り広げていたこの場所で聞こえるのはそれだけだった。

 

「………今のを避けるんだ。流石だね」

 

感心するような口調のアセム。

手に握った鎌は下に下ろして楽な体勢を取っていた。

 

対する俺は―――――顔を斜めに大きく斬られ、全身から嫌な汗を流していた。

顔の傷、骨には達していないから見た目ほど深いものじゃない………が、一瞬でも判断が遅ければそこで俺は終わっていた。

あそこで動けたのは自分でも奇跡だと思う。

 

分からなかった………アセムの動きが分からなかった………!

嘘だろ………!?

超越者のリゼヴィムが怪物と化して、手も足も出なかった変革者の状態だぞ………!?

それなのに―――――。

 

アセムは観察するような視線をこちらに向けながら口を開く。

 

「驚いているようだね」

 

「驚くしかねぇだろうが………ッ! どんなパワーアップだよ………ッ!」

 

「言っただろう? これは君達で言うところの禁手。天界で『システム』を覗き、これまでの君を参考して造り上げた『絶望蝶の籠手(カラミティ・レーゲン・スタイン)』。僕の力に合わせて調整した僕だけの神具。能力は単純、僕のパワーアップさ」

 

冥府でアセムはあの黒い籠手を使っていた。

その時に同じことを俺は聞かされて、その段階で禁手に近い何かがあると思っていたし、この戦いでも警戒はしていた。

だけど、この力の跳ね上がり方はなんなんだよ………!

 

能力は単純にアセムのパワーアップとのことだが、シンプル過ぎるから逆に攻略が難しい。

今のところアセム本人にも弱点と言える弱点は見つかっていない。

魔法も徒手空拳も強い。

武器を握らせても強い。

 

じゃあ、あの黒い籠手に何かデメリットはないか?

鎧を纏う前にアセムは俺の最高火力で相当なダメージを負っていた。

にも関わらず、今の動き。

何か―――――。

 

すると、アセムが言った。

 

「なるほど。驚きはした。焦りもある。………が、すぐに頭を切り換えてこの力について探ろうとしている、か。極限の戦闘において、それは正しい行動だ。だけど、君がそうであるように僕も君のことを見ている(・・・・・・・・・・・)

 

その瞬間、ゾクリと背中に悪寒が走った。

俺は咄嗟に頭を屈めて―――――頭上を鎌の刃が通り抜けた。

 

「二度目で完璧に避けるか」

 

確かに今度は掠めることなく避けた。

だけど、アセムの動きが分かったからじゃない。

ただの直感だ。

 

そして、今回で俺は理解した。

三度目はないと。

 

「クソッ………!」

 

俺は足に力を入れると、トップスピードで飛び上がった。

 

確実に通じる対策がない限り、正面からのぶつかり合いで勝機はない………!

ここは距離を取って―――――。

 

「――――再び僕の虚を突く、かな?」

 

「………ッ!?」

 

その声に振り返ると蝶の羽を広げたアセムが待ち構えていて、

 

「それは甘過ぎるな」

 

そう言うとアセムは俺の頭を掴んで、急降下し始めた!

アセムの力が強く、振り払えない!

更に急降下で俺の体に加わる圧力が尋常じゃない………!

アセムはそのまま俺を地面に投げつけて、

 

「カハッ………!」

 

あまりの圧力に受け身すら取れなかった俺は背中から衝突。

全身に強い痛みが走ると同時に肺が圧迫されて、一時的に呼吸が出来なくなった。

 

それでも何とか立ち上がった俺は空を睨む………が、既にアセムの姿はそこになく、

 

「どこを見ているのかな?」

 

後ろから肩を叩かれたと思ったと同時に俺は物凄い衝撃に吹っ飛ばされた。

吹き飛ばされる直前にギリギリ見えたけど………今のは蹴りか!

 

何度も地面をバウンドしていく俺。

叩きつけられた時と同様、勢いの強さに抗えない俺はどこまでも転がっていく。

勢いがようやく弱まり、体勢を整えようと構えた時には既に遅く、

 

「ぐっ………!」

 

突如として飛来した槍に左肩を貫かれた。

 

オーラで形成された槍………!

あの野郎、俺に反撃の機会を与えないつもりか………!

 

「その通り」

 

瞬時に間合いを詰めてきたアセムが俺の心の内を読んだようにそう言った。

ここで懐に入られたのはマズい………!

 

そう感じた瞬間にズンッと重い一撃が俺を穿った。

 

 

 

 

アセムに吹っ飛ばされた俺は、最初に拳を交えたあの漆黒の塔で瓦礫の下敷きになっていた。

 

「ゲホッゲホッ………痛ぇ………ッ」

 

全身がズキズキするし、鉛のように重たい。

ちくしょう………ここまでの差があるなんてよ………!

完全にサンドバック状態じゃねぇか。

 

俺は体に乗っかっている瓦礫を押し退けて、立ち上がる。

すると、こちらの後を追うように俺が突き破った壁の穴からアセムがやって来た。

 

「ちっ………!」

 

舌打ちをしながらも、俺は行動にでる。

正直、このままいくと奴の弱点を探し当てる前にこっちが参ってしまう。

ならば前に出るしかない。

 

こっちは全く手を抜いていないのに対して、アセムはまだまだ余裕がある。

普通に戦っていても、勝てる相手ではない。

 

だから―――――。

 

「このクソ広い場所なら、遠慮なく使えるだろ!」

 

突き出した右手に赤い粒子が集まり、姿を見せる大剣―――――イグニス。

これではその強すぎる力から、周囲を巻き込んでしまうため使用できる機会が少なかった………が、幸いにもここには俺とアセムしかおらず、アセムが構築した世界が広大なため、誰かを巻き込むことはない。

 

俺はイグニスの柄を両手で握りしめると、前に出た勢いのまま斬りかかった!

アセムは鎌の柄でイグニスの刃を受け止めて言う。

 

「なるほど、ロスウォードを倒したその剣ならば僕を倒せるだろう。まぁ、その刃が僕に届けばの話だけど」

 

確かに、どれだけ武器が優れていても、相手に届かなければ意味がない。

俺とアセムの間にある絶対的な力の差。

こいつを乗り越えなければ、イグニスの刃がアセムに届くことはない。

 

―――――なら、乗り越えるしかないだろう?

 

俺はイグニスを振るって、アセムを吹き飛ばすと、全身から虹のオーラを放出した。

 

かなり無茶をやることになる………!

これが通用しなければ、もう俺には手がなくなる………!

 

「こいつに賭けるしかねぇ! ハァァァァァァァァァァァァ………ッ!」

 

錬環勁気功を全力で発動。

周囲から許容を遥かに超える量の気を吸収、全身に供給する。

脳にも気を回して、『領域(ゾーン)』にも突入した。

 

「………ッ!? これは………!?」

 

急激に上昇する俺の力にアセムが驚愕の声を漏らす。

その間にも、俺の力は五倍、六倍、七倍、八倍と段階を踏んで膨れ上がっていく。

力が上昇する度に体の至るところが悲鳴をあげていて………。

 

長期戦の考えを捨てた、超短期決戦用の力………!

変革者の状態で、錬環勁気功の奥義を極限を超えて使ったこの力………!

 

「フフフフ………! この土壇場でこれだけの力を発揮してくるとはね………! 嬉しいよ、勇者くん!」

 

笑みを浮かべ、そう喜びを口にしたアセム。

そんな奴の真横に俺は出現した。

高速移動から繋げる形で放った右の蹴り。

しかし、俺の蹴りはアセムの腕に受け止められ、

 

「甘ぇよ………!」

 

力の籠った声音でそう告げながら、俺は蹴りを振り抜いた。

振り抜いた瞬間、鎧にヒビが入ったのが見えて、

 

「なっ―――――」

 

真横へと吹っ飛ばされたアセムは塔の壁を突き破り、再び外へ。

奴は空中で宙返りして、体勢を整えようとして―――――その時、既に俺は奴の真下にいた。

突き上げるようにして、アセムの顎へアッパーを繰り出す。

 

凄まじい衝撃音が響き、アセムの体が上空へ飛ぶ。

それでも、アセムがこちらに攻撃を繰り出してきたのは流石と言うべきだろう。

アセムは手元に極太の槍を作り出すと、こちらへ投げてきた!

 

俺はイグニスを構えると―――――全てを焼き尽くす真焱を放った。

赤熱の炎が周囲を覆い突くして、アセムの槍を消し飛ばす!

 

空をイグニスの炎が支配する中、その炎を突っ切って、アセムが現れる。

アセムは俺の手元を蹴り上げると、イグニスを弾き飛ばした。

 

「ちぃ………!」

 

アセムの足を掴むと、塔に向けて、力一杯投げ飛ばした。

大の字になって、塔の壁にめり込んだアセム目掛けて、

 

「くらえ………!」

 

アセムの腹へ拳を叩き込んだ。

大気を震わす轟音と共に、拳の衝撃で巨大な塔の壁が崩れ去る。

アセムは塔の内部を破壊しながら、反対側の壁に衝突し、

 

「オォォォォラァァァァァッ!」

 

俺は拳の乱打を撃ち放った。

 

もう体が限界に近い………!

ここで倒さないと後がない………!

 

拳に練り上げたオーラを纏わせ、渾身の一撃を放つ―――――が、アセムに届く直前に止められた。

アセムの左手がいつの間にか、俺の右の手首を掴んでいて―――――骨が砕ける壮絶な音がした。

 

「ぐっああああぁぁぁぁぁぁッ!」

 

右手に走った激痛。

俺はよろめくように後ろへ下がると同時に、激しい衝撃を腹に受けた。

ズザザァ………と砂漠に背中を擦り付けながら吹き飛ばされる。

 

「ぐぅ………あ、う………ッ」

 

苦痛に満ちた声を漏らしながら、何とか上半身を起こした。

右手が燃えるように熱い。

見ると、手首から先がだらんと垂れ下がっていた。

どうやら、手首を完全に潰されたらしく、皮膚だけで繋がっているような状態らしい。

 

「素晴らしい力だったよ」

 

その声に空を見上げると、平然と佇むアセムの姿があった。

蝶の羽を広げて、ゆったりとした動きで降りてくるアセムからは一切のダメージを感じさせない。

 

すると、アセムは俺の心を読んだかのように言った。

 

「ダメージはあるよ。だけど、僕を倒せるほどじゃなかった」

 

………ったく、またまた信じたくない情報だ。

今の連続攻撃を受けて、それかよ。

こっちは残った体力も、気力も、全てを使い果たしたんだぞ?

それでも倒すには至らないのかよ………!

 

ここから逆転できる可能性はゼロに近い。

切り札を失い、右手は完全に破壊された。

自分でも分かってた。

これで倒せなければ、後がないと。

もう俺に勝機はないのは誰の目から見ても明らかだろう。

だが、

 

「この………お………おッ!」

 

ボロボロの体で俺は立ち上がった。

こんなでも、体はまだ動く。

なら、まだ戦える。

勝てる可能性はゼロに近い、それでも―――――ゼロじゃない。

 

「まだ立つんだね。もう戦えるような体ではないだろうに。虹の輝きも消えているよ?」

 

アセムの指摘に俺は自身の体に目をやった。

奴の言う通り、虹の輝きも消え、変革者の姿から元に戻ってしまっている。

 

「終わりにしようか」

 

「………勝手に終わらせんな。俺はまだ立ってるんだぜ?」

 

アセムを睨み、痛みに耐えながら俺はそう返した。

すると、アセムは蝶の羽を大きく広げ始めた。

 

「今までとは違う。この戦いにおいて、僕は手を抜きはしない。最後まで全力で戦わせてもらおう」

 

アセムが静かな口調で言うのと同時だった。

禍々しい色の蝶の羽が羽ばたき、周囲に黒い粒子が放出された。

まるで、鱗粉が振り撒かれているように。

そして、その黒い粒子は俺を囲み混むと―――――漆黒の球体を形成。

俺をその内側へと閉じ込めた。

 

「なんだ、これ………?」

 

俺は自身を閉じ込める球体、その壁に左手で触れると―――――指先が砂のように崩れ去った。

気づくと、足の指先や肩も同様で、球体内部で渦巻く力によって、全身が崩壊し始めていた。

 

「ッ!? こいつは………!?」

 

自身の肉体が崩れていくことに驚く俺。

アセムが坦々とした口調で告げた。

 

「それは僕の力を圧縮したものさ。内側に閉じ込めたものを分解し、消滅させる。抗えるのは僕と同等以上の力を持った者だけだろうね」

 

俺が意識を失いそうになっていると、アセムはゆっくりこちらに歩み寄ってくる。

そして、球体の表面に触れながら言った。

 

「これで最後だよ。さよならだ、勇者くん」

 

その言葉を最後に、俺の視界は完全に闇に覆われた。

 

 

 

 

―――――また、か。

 

意識が遠のいていく中で、俺はポツリとそう呟いた。

 

この海の底に引きずり込まれるような感覚はロスウォードに殺された時と似ている。

守ると誓って、必ず帰ると約束して、それなのに俺はまた死ぬのか。

また皆を泣かせるのか。

誰かを失うあの絶望を俺は知っている。

それなのに、俺は皆をその絶望に落とすのか。

 

………ほんと、ろくでもない男だよな。

 

奇跡なんてそう起きるものじゃない。

そんなのは分かっている。

それでも、俺が生まれたことに意味があるのなら、俺が世界の意思とやらでアスト・アーデに飛ばされたことに意味があるのなら―――――頼む。

 

もう一度………俺に立ち上がるだけの力を………。

せめて、皆を守れるだけの力を………。

 

もう絶望はいらない。

絶対に負けるわけにはいかないんだ。

 

 

 

だから―――――。

 

 

 

『今代の相棒は随分興味深い状況にいるじゃないか』

 

ふいに頭の中に男の声が響いた。

 

『ふん、才能は皆無か………今回は白い奴に先を越されるかもしれんな。だが………』

 

目の前が真っ白になったと思うと、俺は燃え盛る火の中にいた。

 

そして、正面には巨大な赤いドラゴン。

 

『俺の名はドライグ。かつて赤き龍の帝王と呼ばれた者だ………というやり取りは初めて出会った時以来だな、相棒』

 

そう言うと赤いドラゴン―――――ドライグはニッと笑んだ。

 

気づくと俺は真っ白な空間で、ドライグと向かい合うように立っていた。

ドライグの言葉に俺はクスッと笑って、肩をすくめた。

 

「あの時はいきなり酷いことを言われたよな。才能皆無って、かなりショックだったんだぞ?」

 

『仕方がないだろう。相棒に才能が無かったのは事実だったのだから。体力も、魔力も歴代最低クラス。変わった点を挙げるとすれば、異世界なんぞに飛ばされているという点くらいだ。あとはどうしようもないおっぱい野郎というところか』

 

「うるせーよ。つーか、歴代の先輩でかなりしょうもない理由で覇龍使っていた人いただろ。そんな人に比べたら遥かにマシじゃね?」

 

『それは言うな!』

 

「あと、歴代の先輩全員がMに目覚めただろ」

 

『あれはあの駄女神のせいだ! それを言うなら、相棒だって、Sに目覚めたじゃないか! 歴代の女連中を縄で縛り、虐めて喜んでいたのはどこの誰だ!』

 

「それこそ、あの駄女神のせいだろ!? 俺だって好きでSに目覚めたわけじゃねーんだよ!」

 

『好きで目覚めたわけじゃないとかよく言えたな! 最近じゃ、率先して縛ってるじゃないか!』

 

「あれは歴代の女性陣が求めてくるからだろうがぁぁぁぁぁぁ!」 

 

Sが切れると神器の中で騒ぐんだもん!

仕方ないじゃん!

 

 

それからも、俺達の言い合いは続き―――――

 

 

『ふんだ! 相棒のおっぱい野郎!』

 

「ふんだ! ドライグの赤トカゲ!」

 

以前と全く同じやり取りをしていた。

そこへ、女性の声が聞こえてきて、

 

「あらあら、なーにケンカしてるの? 仲良くしないとダメでしょ?」

 

「『来たな、全ての元凶である駄女神!』」

 

俺とドライグの声が重なった!

 

そーだよ!

もともとこの駄女神が俺をSに目覚めさせ、歴代達をMに目覚めさせたんだ!

 

「『やっぱり、俺達はあの駄女神に抗議する! 訴えてやるぅぅぅぅぅぅ!』」

 

「やれるものならやってみなさいな。二人とも後悔するわよ? さぁ、縛られたい子から前に出なさい! ベッドの上で泣かせてあ・げ・る♡」

 

「『調子乗ってすいません! それだけは勘弁してください!』」

 

瞬間で屈する俺達!

やはり駄女神には勝てない………!

 

ドライグは暇潰しのドラゴンSMとやらで何度も縛られ、恐怖を植え付けられてるし、俺はティアとイグニスとした時に極限まで搾り取られたもの!

真っ白な灰になったもの!

最強の駄女神、マジで半端ねぇよ!

 

こんな緊張感の欠片もない会話の後、イグニスはドライグに語りかけた。

それはとても真剣な表情で、

 

「さて、ドライグ。あなたも変わる準備は出来たわね?」

 

変わる………?

イグニスの言葉に疑問符を浮かべていると、ドライグが言った。

 

『相棒。これまでアセムを相手にしていたその力は相棒の力であり、そこに赤龍帝としての力は含まれていない』

 

「………ああ」

 

今の力に目覚めてから、俺は籠手を使わなかった。

いや、正確には使えなかった。

 

ドライグは続ける。

 

『相棒の変革者としての力、その真髄は他者の想いを自身の力にすることにある。だが、その力はあまりに大きすぎてな。変革者となった相棒に俺が着いていくことが出来なかったのだ。だが、ようやくだ。ようやく俺も共に戦えるようになった』

 

そう言うと、ドライグの体が光輝き始める。

強い光はこの真っ白な世界を照らしていく。

 

光が止み、目を開けると―――――赤よりも鮮やかな紅。

紅のドラゴンが雄大に翼を広げていた。

 

「ドライグ、なのか………?」

 

『そうだ』

 

俺の問いに紅と化したドライグがそう返してきた。

ドライグは紅く染まった自身の肉体を見ながら言う。

 

『相棒、おまえは変わった。出会った頃とは見違える程に体も心も強くなった。そして、その強さは俺を超え、俺の力など必要のないくらいになった。それが嬉しく………同時に悔しかった。進化し変わっていく相棒の力になれない自分の無力さがな。この感情は相棒が友を失った時のそれだ』

 

ライトが目の前で命を失った時。

俺は自身の愚かさが、無力さが堪らなく恨めしかった。

もっと自分に力があればと何度も思った。

 

そして、今。

ドライグもあの時の俺と同じ―――――。

 

『少し遅くなってしまったが、俺も変わることが出来た。まぁ、こうして変われたのはオーフィスのおかげでもあるがな?』

 

苦笑するドライグ。

 

オーフィスのおかげって………もしかして、目覚めのキスをされた時か?

あの時、オーフィスの力が内側に流れ込んできた。

オーフィスの龍神としての力が天龍であるドライグを変えたと言うのだろうか?

 

『他者の力で変わる。それはアルビオンに対して申し訳なく思う。天龍失格かもしれん。だが、今は、今だけは相棒………おまえのために変わろう。おまえと共に戦わせてくれ』

 

そう言うとドライグは拳を突き出してきた。

俺は頷くと、ドライグの拳に拳を合わせた。

 

そんな俺達の手にそっとイグニスの手が添えられる。

 

「イッセー、ドライグ。あなた達は二人で赤龍帝。皆のために変わることの出来る、だけど、大切なところは変わらない。そんな優しく強い人」

 

イグニスは俺とドライグと目を合わせると微笑んだ。

 

「さぁ、謳いなさい。あなた達の呪文(うた)を―――――」

 

 

そして―――――

 

 

「我に宿りし赤き天龍よ、理を越えよ―――――」

 

『我と歩みし真の勇よ、遥かな高みに至れ―――――』

 

俺とドライグは謳う。

その呪文に己の全てを乗せて。

 

「紅く輝く紅蓮の魂よ―――――」

 

『全てを守りし、高潔なる魂よ―――――』

 

「『絶望を打ち砕く希望となれ―――――』」

 

そこまで唱えた時、ふと手を暖かいものが包み込んだ。

それは誰かの手だった。

でも、それが誰のものなのかはすぐに分かった。

 

 

美羽、アリス、リアス、アーシア、朱乃、小猫ちゃん、ゼノヴィア、イリナ、レイヴェル、レイナ、ロセ、ティア、イグニス、ディルムッド、ニーナ。

俺を好きだと言ってくれた大切な女性達。

 

 

木場、ギャスパー、ヴァーリ、サイラオーグさん、曹操。

俺を好敵手だと、俺の勝利を信じてくれる男達。

 

 

モーリスのおっさん、リーシャ、ワルキュリア。

俺を見守り、支えてくれた人達。

 

 

ライト。

俺の憧れ、俺の親友。

ライトの存在が俺を変えてくれた。

 

 

―――――行ってきなさい。そんでもって、必ず皆で帰ってくること。良いわね?

 

―――――俺達はずっと待ってる。ここはおまえの家だ。いつまでもおまえ達の帰りを待ってるからな。

 

必ず帰ってくると信じて送り出してくれた母さんと父さん。

 

皆の想いが俺達を包み、背中を押してくれる。

そんな暖かさに見守られながら、俺達は最後の一節を静かに唱えた。

 

「『我ら、極限へと至りし者なり―――――』」

 

その瞬間、一筋の風が吹いた。

全てを唱え終えた俺はフッと笑んだ。

 

「なぁ、ドライグ。おまえは俺が変わったと言うけど、俺は兵藤一誠だ。これまでもこれからも」

 

『そうだな。相棒の芯は変わらない。まぁ、おっぱい野郎というのも変わらんのだろうが………』

 

「うん」

 

『即答か! 泣くぞ!? 俺を泣かせてそんなに楽しいか!?』

 

別に泣かせたいわけじゃないけど、おっぱい好きなのはこれからも変わらないと思うんだ。

いや、本当に泣かせたいわけじゃないんだよ?

ドライグ泣かせてもしょうがないし。

 

ドライグは盛大に息を吐くと、真っ直ぐな目で俺を見てきて、

 

『いこうか。全てを守るぞ―――――イッセー!』

 

「ああ、いこうぜ―――――ア・ドライグ・ゴッホ!」

 

紅く優しい光が俺達を包み込んだ。

 




~あとがきミニストーリー~


アセム「おっす! オラ、アセム!」

イッセー「一人称変わってるぞ!?」

アセム「追い詰められた勇者君がドライグと共に更なるステージへ至る。フフフ………どれ程のものか、実に楽しみだよ。神の次元すら超越した二人が超フルパワーで衝突する! 果たして勇者君はこの戦いに終止符を打てるのか! オラ、ワクワクすっぞ!」

イッセー「次回予告してるところ悪いけど、ツッコミしか出てこねぇ! とりあえず、一人称を戻せ!」

アセム「次回『極限進化』。海賊王にオラはなるってばよ!」

イッセー「おいいいいいいいい! パクるにしても、せめて統一しろぉぉぉぉぉぉぉぉ! つーか、海賊王になりたいの!?」


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52話 極限進化

今回はシリアスだぜぇぇぇぇぇ!

と、活動報告で人気投票してます~。
良かったらぜひ。


[三人称 side]

 

 

―――――出てはこれない、か。

 

 

眼前で渦巻く破滅の球体。

アセムが兵藤一誠を閉じ込めたものだ。

内側にいる者は肉を削られ、骨を削られ、最終的には何も残らなくなる。

これに抗い、球体を破って脱出するのはたとえ神格だろうと容易なことではない。

これを破るとすれば特殊な術式を用いての解除か、もしくは―――――今のアセムと同等か、それを上回る者が力を放出すること。

だが、鎧を纏ったアセムと一誠の間には大きな力の差が生まれてしまった。

 

殺す気でやった。

この世に一片の塵すら残さないつもりで撃った。

これまで彼を殺せる機会は何度もあった。

それでも、見逃してきたのは彼の進化が目的のために必要だったからだ。

そして、現在。

 

「世界を繋ぎ、世界の意思を変える変革者。僕はずっと期待しているよ。これまでも、これからも。君が真に覚醒しているのならば、その力を示してくれ―――――」

 

願うようにアセムがそう口にした、その時。

 

内側でドス黒く渦巻いていた力の流れに変化が生じた。

破滅の力が一点に、球体の中心に向けて流れ始めたのだ。

それと同時に球体のサイズが徐々に収縮、中央に向けて外郭が動いている。

その変化にアセムが目を凝らした………が、そこには何もない。

内側へと封じた一誠の肉体はとうに消えている。

だが、確実に、何かに引っ張られるように、吸いとられるように破滅の球体は小さくなっていった。

 

これはアセムにとっても、予想外の出来事で………、

 

「なんだ、この現象は………? 何が起きている………?」

 

球体に目を向けたまま疑問を口にしていた。

アセムが得意とするのは『分析』。

ありとあらゆる事象を分析し、学習した内容から様々なものを創り出す。

この戦いに際して行った世界構築はこれまでに学習したことを活かして創造されたものだ。

 

そんなアセムですら、この現象が分からない。

ということは―――――。

 

アセムは目を閉じると、球体の内側、その更に奥へと意識を向けた。

そして―――――。

 

「―――――来たか」

 

次の瞬間、球体が消えると同時に、目映い光が空へ向けて放出された。

光は遥か空を居抜き、一帯を震撼させる。

 

光の柱は輝きを一層強くすると、その形状を変化させ始める。

光は左右へ広がると巨大な翼を形成、次に足、次に腕、次に尾と特徴のある形状となっていく。

アセムの前に舞い降りたのは―――――虹の輝きを纏った真紅のドラゴン。

 

真紅のドラゴンはまるで卵から孵った直後の鳥のように周囲を見渡すと、その視線をアセムへと向けた。

巨大な瞳がアセムを捉えると、真紅のドラゴンはその巨大な翼を雄大に広げて―――――

 

『オォォォォォォォォォォォォォッ!』

 

天に向かって咆哮をあげた。

地面に、空間に亀裂が入り、その声量だけでどれ程の力が籠められているのかが理解できる。

 

咆哮を終えると真紅のドラゴンの肉体にヒビが入り始める。

胸の一点から生じたヒビは全身に広がり、ガラスの割れるような音と共に砕け散っていった。

 

そして、アセムの前に姿を現したのは―――――。

 

『待たせたな』

 

新たな力を手にした一誠だった。

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

鋭く機械的な形状をしつつも、流れるようなフォルムを持った鎧。

背中には四対八枚のドラゴンの翼と折り畳まれ、収納されたキャノン砲が二つ。

籠手や足には天武よりも小さいが、ブースターが増設されている。

全体的にはEXAをより洗練した形状になっているだろう。

何より特徴的なのはその色。

 

―――――赤よりも鮮やかな紅。

血よりも、ラズベリーよりも鮮やかな真紅。

まるでリアスの紅髪のようだとも感じてしまう。

 

 

~一方その頃のリーアたん~

 

 

リアス「チクビィィィィィィィムッ!」

 

朱乃「やったわ、リアス! これで………って、リアス!? あなたのその胸は………!?」

 

リアス「え? えぇぇぇぇぇ!? ちょっと、何よ、これ!?」

 

アーシア「そ、そんな………リアスお姉さまのおっぱいが縮んでますぅ!」

 

朱乃「やはり原因はチクビームでしょうか。大きすぎる力を連続行使した結果………力の代償とでも言うのでしょうか」

 

リアス「………泣いて、良いかしら」

 

力の代償はあまりに大きく―――――。

 

 

~一方その頃のリーアたん 終~

 

 

んー………なんだろう、リアスが泣いているような気がする。

 

とりあえず、新しい姿になったことで、今まで受けた傷も回復したか。

砕けたはずの右手も復活してるしな。

 

俺が自身の状況を確かめていると、アセムが笑みを含んだ声で話しかけてきた。

 

「やぁ、随分と遅かったじゃないか。それが君の更なる進化かな? 赤から紅、か。『真紅の赫龍帝』って言ったところかな?」

 

その問いに俺は頷いた。

返した声音は今までの俺とは違ったもので、

 

『そうだ。こいつが俺達(・・)の進化した姿―――――極限進化「真なる勇へ至りし(ウェルシュドラゴン・フォーム)真紅の赫龍帝(・ヴァリアント・サーフェイス)」』

 

俺とドライグが、二人で一つの赤龍帝として踏み出した新たな領域―――――極限進化。

俺達の魂が一時的に混ざりあった状態であるため、俺とドライグの声が重なって聞こえる。

ちなみに意思は別々にあるから、ドライグとは普段通りに話せる。

 

ヴァーリが魔王化なら、俺は………英雄化?

いや、それじゃあ少し安直過ぎるかな?

それなら『英龍化』とでもしておこう。

ものすごく何となくで名前つけたけど、その辺りは追々で。

 

今は………、

 

『ここに来るまでに結構、時間がかかっちまった………。色々な人に支えられて、背中を押されてようやく至ることができた』

 

『だが、それもまた兵藤一誠という男だ』

 

俺の言葉に続き、ドライグがそう言った。

俺は静かに頷く。

 

『ああ。決着をつけようぜ、アセム。おまえが何度も俺達を潰してくるなら』

 

『俺達は何度だって立ち上がろう』

 

ドライグがそう告げると俺は背中の八枚ものドラゴンの翼を大きく広げた。

翼からは虹色の粒子がかつてない量で放出されていき、瞬く間にこの空間を満たしていった。

 

こちらの動きを受けてアセムも蝶の羽を広げ、俺と同じ高さまで浮かんでくる。

 

「僕という理不尽を受けて、それでも立ち上がるというのなら良いだろう。僕も真っ向から受けてたとうじゃないか」

 

そう言うと奴のオーラが一層膨れ上がった。

まさか、まだ上があるなんてな………理不尽も良いところだ。

 

だけど、この鎧を纏う前までの焦りはない。

どんな奴が相手だろうと乗り越えられる、そんな確信に等しい自信がある。

 

行こうか、ドライグ。

全てを守るために。

 

『俺達の力を見せてやろうぜ!』

 

『ああ。共に戦おうではないか、イッセー!』

 

全身に力を籠めたその瞬間、莫大な力が俺を中心に解き放たれた。

自分でも信じられないくらいの質量、濃度、規模。

かつてない力に驚きつつも俺は前に出た。

 

ドラゴンの羽を僅かに羽ばたかせる。

それだけで、見える景色は変わり、アセムとの間合いを詰めた。

 

「速いッ!?」

 

急激に上がった俺のスピードにアセムは驚愕の声を漏らすも、鎌を握り応戦の構えを取る。

 

俺は拳を握ると、腰を深く沈ませて―――――

 

『EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEXA!!!!』

 

籠手の宝玉から新たな音声が鳴り響く。

刹那、拳に乗せたオーラが一瞬で数十倍に膨れ上がった!

 

アセムはオーラの乗った拳を鎌の柄で防ごうとするが―――――俺の拳はそのままの勢いで鎌を粉砕した。

 

「ッ!?」

 

それを見たアセムはこちらの拳が届く前に体を反らして回避する………が、恐ろしいまでに高められた俺のパワーに思考を持っていかれているようで、

 

「ただの拳にここまでの威力を持たせるとは………! あのレベルの武器は君には通じなさそうだ!」

 

そう言うと、奴もまたオーラの乗った拳で殴り返してくる。

 

上半身を捻って避けると、アセムの拳圧は俺の真横を素通りしていき、地面を深く抉った。

地面に到達してからも突き進み、遥か向こうの方まで届いていった!

拳圧だけでこれか!

 

『この状態でもあの拳をまともに受けてはただでは済まんということだ』

 

ドライグの言う通りだ。

アセムの鎌を壊したからと言っても、まだ奴には上の力がある。

 

『出し惜しみはなしだ!』

 

俺は全身に気を巡らせると、鎧の力で高めに高めていく。

すると、真紅の鎧は紅く輝きを放ち、関節のいたるところからは蒸気を発し始めた。

この蒸気は内側で高められた力の熱によって生じたもの。

鎧の中で高められた熱は、超高温となり、炎となる。

 

俺が全身から真紅の炎を放出した時、籠手の宝玉から力強い音声が発せられた。

 

『EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEXA!!!!』

 

『Boost Xenon!!!!』

 

真紅の炎を纏った俺は超神速で飛び出し、炎を纏う鉄拳をアセムへと叩き込んだ!

アセムは俺の拳を防ごうとするが、触れた瞬間、俺の籠手のブースターが展開し、炎を噴出。

勢いを増した拳は奴の鎧を破壊して、顔面にめり込んだ!

 

だが、アセムもお返しと言わんばかりに鋭い蹴りを放ってくる。

蹴りは俺の側頭部を捉えて―――――振り抜いた!

奴の蹴りに俺の兜が割れる!

 

超至近距離の格闘戦。

真っ向から相手を叩き潰し、ねじ伏せる。

磨いた技で、高めた力で相手を殴る!

拳と拳、蹴りと蹴りがぶつかり合い、世界を揺らす!

 

激しいラッシュの中、アセムが言う。

 

「なるほど、真っ向からの格闘戦では君に分があるらしい! 明らかにこちらが押されている!」

 

殴り殴られを繰り返す内に明白になってきた優劣。

互いに鎧は砕け、砕けた箇所を修復しているが、明らかにアセムの方が修復スピードが遅く、手数もこちらの方が上回っている。

手数だけじゃない、一撃一撃の重さも真紅の炎を纏った今の俺なら奴の上を行ける。

 

爆熱機構ゼノン。

天武の力を圧縮し、高次元化した力は俺の格闘戦闘能力を爆発的に上げる。

そして、一度、発動してしまえば炎が消えるまで終わらない。

まぁ、ここまでしないと追い抜けないアセムも大概だけど。

 

格闘戦を不利と見たのか、アセムは俺の蹴りを弾くと宙返りしながら後退。

両手に幾重もの魔法陣を展開し、この一帯を魔法陣で埋め尽くす。

 

炎、水、雷、氷、風、闇、光。

ありとあらゆる属性の魔法が数万単位で発動され、狙いを俺一点に集中させてくる。

 

『よく見ると禁術の類いも混ざっているな。触れたらアウトな術式ばかりだ。どうやら奴も本気中の本気を出してきたようだ』

 

ドライグがそう付け加えるが………この規模で禁術も使ってくるとか鬼だな。

最初の方でも魔法攻撃はあったけど、あの時とは次元が違う………!

 

「禁術に禁術を重ねた超術式のオンパレードだ。君はこれをどう凌ぐ?」

 

アセムが指を鳴らす。

すると、幾つかの魔法陣から光の鎖が飛びだ来てきて俺の四肢を拘束した。

力を籠めて抜け出そうとするが………思ったより硬くて、動けねぇ!

 

身動きが取れなくなっている俺を一つの勢力を丸々消滅させそうなレベルの魔法攻撃が襲う―――――その時。

 

『ドライグッ!』

 

『承知!』

 

俺はドライグの名を叫んで、八枚の翼を広げた。

強く念じると、一枚の翼から一つづつ羽が飛び出して―――――。

 

『Boost Agios!!!!』

 

飛び出した羽は宙で形状を変化させると、俺が中心になるようピラミッド型に五基配置される。

配置された羽の先端にある砲口からオーラが発せられ、それぞれを頂点として結んでいき、俺を囲むような形でクリアーレッドの障壁を展開した。

展開された障壁は全方位から降り注ぐ魔法攻撃の数々を受け止めて、俺を守っていく。

 

こいつがフェザービットの強化版、アイオスビット。

天翼(アイオス)から受け継いだ能力は顕在で、こいつも攻守一体の戦法が可能だ。

 

五基のアイオスビットが俺を守っている間、残り三基のアイオスビットが目にも映らぬスピードで空を駆け巡り、次々に魔法陣を破壊していく。

砲口から放たれた砲撃は一撃で何千もの魔法陣を消し去り、オーラで形成した刃は強固な魔法陣を貫いていった。

そうしていく内に俺を縛っていた鎖をも断ち斬り、俺は自由の身に。

 

解放された俺は即座にアセムへと突貫する。

 

「また突貫とは芸がないね!」

 

『ただただ突っ込んでいくわけねぇだろ!』

 

俺はアイオスビット全基を操作して、複雑な軌道を描きながらアセムへと迫る。

格闘戦はこちらが有利にあるなら、向こうは可能な限り中~遠距離戦で迎え撃ちたいはず。

ならば、こちらは相手の遠距離攻撃を捌きつつ、間合いを詰める。

そのためのアイオスビットだ。

 

アセムが次から次へと撃ってくる魔法攻撃の数々。

一撃がとてつもない威力を持っていて、着弾した場所は跡形もなく消え去る程だ。

そんなとんでも攻撃を俺は避け、回避しきれないものはアイオスビットが展開する障壁で防ぎ、確実に距離を詰めていく。

そして―――――。

 

『捉えたぞ!』

 

「捉えた? まだまだッ!」

 

俺の突き出した拳に合わせて蹴りを入れてくるアセム。

蹴りで俺の拳を流して、威力を殺しに来ている。

打撃力で劣るなら流せば良い、か………。

 

格闘戦において、守りが上手い奴は攻撃も上手い。

そういう話を聞いたことがあるが………こいつはそれを体現したような奴だな。

こちらに分がある格闘戦を、流してその威力を削ぎ、体勢が崩れたところへのカウンター。

ここまで洗練された動きは見事としか言いようがない。

 

だが―――――。

 

「君は………何を………ッ!?」

 

砕けた兜の内側からアセムの驚愕に満ちた表情が見えた。

なぜ、こいつがここまで驚いているのか。

その理由は―――――アセムの右手を左手で抑えた俺はアイオスビットで俺達の手を串刺しにしたからだ。

 

左手に走る痛みに耐えながら俺は不敵に笑んだ。

 

『これでもう互いに離れられないよな?』

 

「…………ッ!」

 

互いに繋がった状態。

こうなったら距離を置こうなんて真似は不可能だ。

これでようやく………、

 

『ようやく思いっきりおまえを殴れる!』

 

振りかぶった拳が―――――アセムの顔面へと叩き込まれた。

鎧を砕き、生身を直接襲う俺の拳。

鈍い音を聞きながら、何度も拳を打ち付ける!

全てが一撃必殺と成りうる拳を受けてアセムは、

 

「っ………! やるじゃないか………!」

 

血塗れの顔で笑みを浮かべていた。

 

アセムは動きを封じられた右手を引き、俺の体勢を崩すと、俺の顔面に左の拳を撃ち込んできた。

その一撃で兜が砕け、脳が揺れる!

 

反撃を始めたアセムは顔面一点狙いで延々と殴り続けてきた。

俺も奴の顔面を力の限り殴り返す。

殴り合いの中、アセムが魔法を使えば俺はアイオスビットで破壊、俺がアイオスビットで仕掛けようとするとアセムの背中に生える禍々しい蝶の羽がそれを阻んだ。

アイオスビットが奴の羽に触れた瞬間、砂のようになって崩れていった。

 

アイオスビットが崩されたら修復すれば良いだけの話だが、それは奴も同じで魔法陣を破壊されたら、また展開して魔法攻撃を放とうとする。

そんな駆け引きをしながらも俺達は目の前の相手を倒すため、全力で拳を撃ち込んでいた。

 

『ぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇあっ!』

 

「ぐぅっ! はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

『ガッ……ァッ! 野郎………ッ!』

 

俺が再度、反撃のためにオーラを練り上げていると、アセムが笑みを浮かべながら言ってきた。

 

「フ、フフフ………こういう血みどろの戦いは好きだけど、やっぱり僕は見る方が良いかな………? ―――――完成したよ、勇者君」

 

『なに………っ?』

 

アセムの言葉を怪訝に思った時、ふと巨大な力の流れを感じた。

その力は俺達の頭上にあって………。

 

『なんだ、ありゃ………? いつのまにあんなのを………!?』

 

見上げた先にあったのは直径百メートルを超える巨大な球体だった。

俺がくらったものよりも数段ヤバそうな力の塊。

あれが落ちたら間違いなく、この周囲にあるものは全て消し飛ぶ………俺も含めてな。

あんなのをこの殴り合いの傍らで作ってやがったのか………!

俺に全く感知させずに作るとか、どんな術式使ったんだよ………!?

 

俺が呆気に取られた隙に奴は右手の拘束を解いて、上空へと上がり、宙に浮かぶ球体の底へと移動。

アセムは俺を見下ろしながら言う。

 

「フフフ………これが僕の出せる最大火力さ。触れたら最後、何も残らなくなる」

 

アセムは人指し指を天に向けて突き出す。

その指を振り下ろすと、指の動きに合わせるように巨大な球体が動き始めた。

球体から放たれる圧倒的なプレッシャーでこっちが押し潰されそうになる………!

 

すると、そんな俺の背を押すようにドライグが言う。

 

『ここが正念場だぞ、イッセー!』

 

分かってるよ!

行くぜ、ドライグ!

 

『Boost Eclipse!!!!』

 

その音声が籠手の宝玉から鳴ると背中に折り畳まれていた二つのキャノン砲が両脇を潜るようにして展開される。

俺は狙いを迫る球体とアセム本人に定めると力を高めていった。

 

『EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEXA!!!!』

 

音声がけたたましく鳴り響くと、砲門に尋常ではないエネルギーがチャージされていく!

スゲェ………自分でも寒気がするの力が集まっているのが分かる!

 

これなら―――――。

 

『丸ごと吹き飛ばすッ!』

 

『Eclipse Blaster!!!!!!!!!!』

 

二つの砲門から同時に解き放たれる真紅と虹が入り交じった極大の砲撃!

大出力の光の奔流が漆黒の球体と衝突する!

力は完全に拮抗しているな………!

 

『ぐぐぐぐぐぐぐぉぉぉぉぉぉ………ッ!』

 

「これを耐えるとは! だが―――――」

 

アセムは両手を空に翳すと、頭上にエネルギーを集中させていく。

そうして出来上がったのは今、俺が砲撃で受け止めている球体と全く同じもので………、

 

『そんなもんホイホイ作れるとか反則だろ………ッ!?』

 

「ホイホイって訳じゃないさ。僕もそれなりの力は削られる」

 

砲撃の最中、僅かに見えたアセムの顔色は確かに悪くなっていた。

あいつも相当無茶してるってことか。

 

だけど、俺がピンチなのは変わらないか!

一つでも厳しいのに二つ目が降ってきやがった!

くそったれが!

 

『EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEXA!!!!』

 

俺は力を高めると同時に周囲の気を自身に取り込み、圧縮と高速循環を繰り返していく。

練りに練られた気が俺の限界を更に超えて、無限にも等しい力へと変化していった!

こんな無茶が出来るのは我が家の龍神様の加護のお陰かな!

 

ドライグが言う。

 

『恐らくその通りだろう。今のイッセーにはオーフィスの力、奴の無限が宿っている。ここまで力を高められるのもそのお陰だ』

 

マジか!

ってことはアセムの奴、そんな状態の俺と互角に張り合ってるってのか………!

 

無限の力………確かに心強いがこれ以上は俺がもたねぇぞ!

限界を超えたせいで、瞼の上の血管が破裂した!

視界が赤く染まってやがる………!

 

『決めるなら、ここしかない! 踏ん張れ、イッセー!』

 

ドライグの声に押された俺は内で爆発しそうになっている力の全てを砲撃に回す!

全エネルギーを以て、打ち砕くしかねぇ!

 

『うぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

真紅と虹の入り交じったオーラの奔流と空より降ってくる巨大な漆黒の球体。

神の次元すら超えた両者の全力が衝突し―――――全てが弾けた。

 

 




~あとがきミニストーリー~

イリナ「ねぇねぇ、人生ゲームしない?」

アーシア「はい。ゼノヴィアさんも一緒にどうですか?」

ゼノヴィア「良いだろう。だが、どんな勝負でも私は負けないぞ!」

イリナ「言ったわね、ゼノヴィア! なら、負けた人は罰ゲームよ!」

イッセー「お、人生ゲームか。俺も混ぜてくれよ」

ゼノヴィア「なにっ!? イッセーも参加するのか………?」

イッセー「え? ダメなの?」

ゼノヴィア「いや………か、勝つ気がなくなってしまう………」

イリナ「えっ!? そんなにハードな罰なの!?」

イッセー「えっ!? なにが!?」


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53話 たった二つの誓い

「ここは………?」

 

気がつくと俺は真っ白な世界に浮かんでいた。

右も左も上も下も何もない、ただ白がひたすら続く世界。

雰囲気としては神器に潜った時と、イグニスの世界に潜った時と似ている………が、どことなくそれとは異なる感覚だ。

 

………そういや、ドライグとイグニスの気配がないな。

いつもなら、直ぐに二人の姿を見つけられるけど、それが出来ない。

となると、ここは神器でもイグニスの中でもないってことか。

 

記憶が曖昧だ………どうなった?

アセムの放った球体をエクリプスブラスターの最大出力で迎え撃ったことは覚えている。

二つの力がぶつかって、大爆発を起こして………そこからの記憶がない。

 

「………巻き込まれて死んだのか?」

 

頭に過ったことをボソリと口にした―――――その時。

 

「いいや、君はまだ生きているよ。僕もね」

 

俺の呟きに答える声が聞こえてきた。

それはさっきまで戦っていた奴の声。

俺は辺りを見渡して、その声の主を探す。

すると、少し離れたところに一つの人影を見つける。

そこにいたのは―――――少年の姿をしたアセムだった。

真っ白な髪に、トレードマークのパーカーを羽織ったお馴染みの姿。

アセムは深く被ったフードの下に笑みを浮かべて言った。

 

「ここはね、僕の精神世界さ」

 

「精神世界? おまえの?」

 

道理でドライグとイグニスの気配がないわけだ。

ここがアセムの精神世界なら当然か。

 

でも、なんでアセムの精神世界に俺が入れたんだ?

イグニスみたく、魂の次元で繋がってる訳でもないのに………。

 

そんな俺の疑問を見透かしたようにアセムが言う。

 

「君がここに来られたのは、君が僕の力を取り込んだからさ」

 

「なに………?」

 

「君があの真紅の鎧に覚醒した時、君を閉じ込めていた球体を吸収しただろう? そのせいで、僕と君の間に経路(パス)みたいなものが作られてしまったんだよ。………ハッキリ言って、こんなことになるとは想像もしてなかった。本当、君って奴はどこまでも僕の予想を超えていくね」

 

なるほど………俺が奴の力を吸収したから、ここに来られたと。

確かに、あの時は錬環勁気功も発動していたから、周囲にあった気―――――アセムの力も自身に取り込むことになった。

その結果がこれってわけか。

 

顎に手を当てて納得していると、アセムがふいに視線を上へと向けた。

それに釣られて俺も見上げてみる。

すると、何もなかった空間に幾つもの映像が散らばっていた。

 

サイラオーグさんのお母さん―――――ミスラさんの精神世界に潜った時にも同じ光景を見たことがある。

それじゃあ、ここに映っている映像は―――――。

 

「少し、古い話をしようか」

 

俺の思考がそこへ至ると同時にアセムは語り始める。

それはかつてアスト・アーデにいた若き神の話だった。

 

昔々、青年がいた。

その青年は若くして力を持った神だ。

当時、神々は下界に深く関わっていて、人々との交流を持っていた。

そして、その神も人々と交流を持っていた一柱。

 

その神は人々に知識を与え、技術を与えた。

他の神々は自身の信仰を集める目的もあったんだろうけど、その神にとっては信仰なんてどうでも良かった。

 

なぜなら―――――その神は下界の人々の一生を美しいと思っていたからだ。

神よりも遥かに短い時間で、多くのことを成し遂げる。

時には神々の想像すら超えてくる。

僅かな時間を懸命に生きる、そんな人々の命の輝きが何よりも尊く―――――憧れた。

 

その神は分かっていた。

自分はそんな生き方は出来ないだろう。

だからこそ、下界の人々が前に進めよう、その背中を押すことが出来たら、それで十分だ。

そう思っていた。

 

宙に浮かぶ映像の中では、下界の人々が普段通りにいられるよう、神であることを隠しつつ交流する青年の姿があった。

共に家を創り、井戸を創り、田畑を広げ、魔法を教え、ある程度落ち着いたら別の場所へと移る。

その青年は各地を転々としながら、多くの人々とふれ合っていった。

 

そうした生活を繰り返していく内に幾年が過ぎ―――――その青年は出会った。

映像に映し出されたのは若い女性だった。

褐色の肌に白い髪。

端正な顔立ちだったが、彼女の頬には紋様が刻まれて、額には小さな角が生えていた。

 

「彼女は人族と魔族の間に生まれた子で。所謂ハーフって奴さ。当時、ハーフって存在は稀有中の稀有でね。しかも、彼女の場合、他の者よりも強い魔力を持っていたものだから、人族からも魔族からも恐れられていてね。両親も早くに亡くした彼女は一人だった」

 

青年はそんな彼女と関わり始めた。

きっかけは一人だった彼女に声をかけたところから始まり、時間を見つけては会いに行くようになった。

すると、最初は無口だった彼女が言葉を返してくるようになった。

今まで誰も関わろうとしてこなかった中、その青年だけが声をかけてくれる、自分を恐れないでいてくれる、笑顔を向けてくれる。

それは至って普通のこと。

だけど、彼女にはそれが嬉しくて―――――。

 

アセムが映像の中の彼女を見て、目を細めた。

 

「いつしか彼女は笑顔を見せるようになってくれたんだ。嬉しかったよ、初めて笑った顔を見た時は泣きそうになったよ。一人の人間に肩入れをするなんて、神としては失格だったけどね。だけど、自分が神であることを忘れるくらい、彼女の笑顔に魅せられた」

 

再び、映像に目を移すと、そこには表情豊かに話しかけてくる彼女の姿。

そんな映像がいくつも映し出されていた。

 

孤独だったが故に知ることが出来た感情。

空っぽだった彼女の時間を埋めていく新たな時間。

この時、彼女は本当に幸せだったのだろう。

映像越しでもそれが分かるくらい、彼女の笑顔は本物だった。

 

それから少しして、彼女は青年に想いを告げた。

自分を変えてくれた彼と、これからと同じ時を過ごしたいと。

 

「本来なら首を横に振らなきゃいけなかった。だけどね………気づいた時にはもう遅かった」

 

その青年もまた彼女に惹かれていた。

彼女と過ごす日々が新鮮で、何よりもかけがえのないものになっていたのだ。

多くの人々と関わってきたはずなのに、初めての感覚―――――初めて、一生を懸けて守っていきたいと思えた存在だった。

 

彼女の想いを受け入れる上で、彼は隠していた自身の正体を明かした。

そして、

 

「神である自分と下界の存在である貴女とでは生きる時間が違いすぎる。貴女と共に老い、死ぬことは出来ない。それはきっと残酷なことなのだろう。それでも良いのかと問うた。それでも………彼女は良いと答えてくれたよ」

 

次に映像に映し出されたのは再び、各地を渡り歩く青年の姿。

だけど、今までは一人だった彼の隣には彼女の姿もあった。

 

青年は自分の世界に閉じ籠っていた彼女に世界の広さを教えた。

人を、土地を、文化を、奇跡を、世界にある神秘を、彼女が見たことのないものを見せて回った。

彼女は初めて見るものに驚き、いつも目を輝かせていた。

そして―――――勝手に世界を恨んでいた自分の愚かさを知った。

 

アセムが苦笑しながら言う。

 

「彼女はいかに自分が小さい世界で生きていたか、今までの自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。そう苦笑いしながら言っていたよ」

 

それが孤独に生き、青年にしか心を開いていなかった彼女が自身を縛り付けてきた鎖から解放された瞬間だった。

それから、彼女はそれまで避けていた人族と魔族と関わりを持とうと動き出した。

 

映像の彼女はどうすれば良いのか困惑しながらも、勇気を出して自分から他者に声をかけていく。

最初は簡単な挨拶、それが少しずつ話題を持つようになり、徐々に輪を広げるようになる。

気づけば、あれだけ恐れられていた彼女の回りに人が集まるようになった。

 

そうして、ようやく世界も彼女を受け入れようとした―――――はずだった。

 

ある日、彼女はある人族と魔族の者達に拐われることになる。

 

「少し離れた時だった。少しだけ意識を他のことに回していた僅かな時間に彼女はいなくなった。彼女を拐った首謀者はすぐに分かったよ」

 

首謀者は―――――青年と同じ神だった。

この世の全てを自分達の都合の良い世界にするがために動き始めた複数の悪神達。

悪神達は目的のために青年の力を欲した。

彼女を拐ったのは単に人質にし、青年を操りやすくするため。

そして、彼女を直接拐ったのは、悪神達から与えられる恩恵に目が眩んだ者達だった。

 

「誰かに助けを求めたかった。だけど、彼らは狡猾でね。ありとあらゆる策で嵌めてきた。その時は………もう、どうしようもなかった」

 

力ずくで助けることも出来ず、誰かを頼ることも出来ない。

彼女を人質に取られた彼は黙って悪神達の言うことを聞くしか道はなかった。

彼女を助けるために。

あの笑顔をもう一度見るために。

 

だが―――――その願いが叶うことはなかった。

 

「捕らわれている間、彼女はそれまでに学んだ術を用いてある魔法を構築していたのさ。神の予想すら超えた強力な魔法を密かに作り上げた。それは―――――」

 

―――――自らの命と引き換えに愛する者の力を増幅させる魔法。

 

彼女は自分の命を青年の力へと変換する魔法を発動した。

その魔法は相手を視認出来る距離じゃないと発動出来ないもの。

つまり――――青年の前で彼女は自ら命を絶ったのだ。

 

「自分のせいで苦しむのなら………そう考えての行動だったんだろうね。彼女は死の間際、こう言い残した」

 

 

―――――この世界を守ってあげて………あなたが愛した……私がようやく愛せたこの世界を―――――。

 

 

自身の腕の中で冷たくなっていく彼女に、青年は何度も回復の魔法を施した。

だが、そのどれも効果を発揮することはなく、彼女は徐々に弱っていく。

そして、彼女の鼓動が完全に止まった時―――――青年の中で何かが切れた。

 

自分勝手な都合で彼女を拐った神々、欲に目が眩んだ下界の者共、何より―――――彼女を守れなかった自分への激しい怒り。

怒りに呑まれた彼は強力な呪いを発動させた。

それは永遠に滅びを繰り返す破滅の呪い。

目の前の神々を、自分を、全てを滅ぼす圧倒的な絶望だ。

彼女の最後の願いを踏みにじるものだとしても、止められなかった。

 

「そうして生まれたのがロスウォードってわけか………」

 

 

 

 

再び映像は切り替わる。

気づけば、青年は緑の深い森の中で横になっていた―――――片腕を失い、腹に風穴を開けられた状態で。

 

呪いは彼が望んだ通りに全てを壊し始めていた。

発動させた彼自身も滅びを受け、消滅寸前といったところだ。

 

このまま自分は消えるのだろう。

誰も知らない地で誰にも看取られぬまま、一人で消えていく。

自分にお似合いの最期だと思い、目を閉じようとした、その時。

 

不思議な輝きが彼の頭上で生じた。

消え行く意識の中で見守っていると、その光の中から一人の少年が現れたのだ。

 

これには瀕死の彼も驚いた。

世界を渡り歩いた彼ですら見たことがない現象だったからだ。

 

彼は這いずるように少年の近くに寄る。

そして、彼は少年の顔を見て気づいてしまった。

少年もまたそう長くはもたないことに。

よく見ると衣服は破れ、体の至るところに傷があり、酷く痩せていたのだ。

 

少年の意識は僅かに残っていたが、話を聞けるような状態ではなかっため、青年は自身に残った力を使って少年の記憶を探った。

その結果、少年が異なる世界の存在であることが分かった。

そして―――――少年は戦災孤児であることを知った。

少年は人間同士の戦に巻き込まれ、家族を失っていたのだ。

 

アセムが言う。

 

「まだ十にも満たない子供だ、一人で生きていくには無理がある。でもね、誰もその子を助けてくれなかったんだ。自分達では力になれない、救ってあげられない。そう言って、全ての者が彼を見捨てた。その結果、少年は傷つき、衰弱し、終には倒れてしまった。調度その時だ―――――彼は次元の渦に呑み込まれた」

 

なぜその少年だったのか。

なぜ青年の目の前に召喚されたのか。

それは世界の意思とも言える運命とやらがそうさせたのかもしれない。

 

青年は少年を救おうとする………が、力のほとんどを失った彼ではほんの僅かな時を与えることしか出来なかった。

ただ死を引き伸ばす行為、それは残酷な行いだと感じてしまうだろう。

それでも、青年は力を使った。

―――――せめて、少年の最後の言葉を、少年の最期を看取ることが出来る自分が聞き届けるために。

 

青年の力により薄く目を開けた少年。

青年は問うた。

最後に言い残したいこと………願いはないか、と。

すると、少年は掠れた声で、

 

『ねぇ、神様………。もし、本当に願いが叶うなら………もう誰もいなくならない………そんな世界になったらいいな………。お父さん………お母さん………お姉ちゃん………』

 

それから、少年は家族の名前を呼びながら息を引き取った。

 

青年は弱りきった体で少年を抱き締めた。

そして、涙を流しながら叫んだ。

 

―――――どうして世界はこうも理不尽なのだ!

 

ようやく幸せになろうとすれば、それを奪う。

平穏を求めれば、その願いを踏みにじる。

強者の傲りで世界は乱され、弱者は自分達の立場に甘え見て見ぬふりをする。

こんなものは自分の求めたものでは、彼女が愛した世界では談じてない。

こんな理不尽が許される世界は間違っている。

 

そうして、青年は一つの決意をすることとなる。

 

「愛する人も失った。愛する人の最後の言葉を守るどころか、踏みにじってしまった。自分の愚かな行為のせいで、助けられたはずの少年を助けることが出来なかった。じゃあ、僕に残されたものはなんだ?」

 

アセムはフードをめくり、顔をこちらに見せてきた。

フッと軽く笑むのはいつものことだ。

だけど、今のアセムからはどこか悲しく、辛いものが感じられて、

 

「今度こそ彼女との約束を守ること。この体の少年が願った世界を創ること。これが僕が自らに刻んだたった二つの誓いさ」

 

 

 




今回は珍しくシリアスでした


~あとがきミニストーリー~


イグニス「今日は二人きりね」

イッセー「そうだな。………変な気は起こすなよ?」

イグニス「え?」

イッセー「一人じゃツッコミが追い付かないから」

イグニス「あら、残念♪」


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54話 真紅の拳

今回もシリアス!


意識があの白い空間から戻った時、俺は上空から真っ逆さまに落ちていた。

あの爆発―――――俺とアセムのフルパワーの衝突で生じた爆発は俺を呑み込み、鎧の大半を砕いた。

手足が痺れて動かせないところを見ると、生身にも相当のダメージを受けたらしい。

しかも、フルパワーを使った反動で体が思ったように動かせず―――――俺は受け身すら取れず、地面に墜落した。

 

「くぅ………ッ!」

 

地面に叩きつけられた俺の体は全身に鈍い痛みが走り、呻き声が漏れた。

痛みでまともに呼吸すら出来ない状況が少しの間続いたが、それも少しずつ治まってきた。

痺れもましになり、体を動かせるようになった俺は右手を僅かに動かして、視界に入れる。

右手の籠手は粉々に砕け散り、破片しか残っていない状態だった。

 

………極限進化形態の鎧がここまでボロボロにされるなんてな。

オーフィスの加護もあったはずなんだが、それだけの攻撃だったというわけか。

 

そんな自分の状況と先程の衝突について考えていると、近くから苦痛に満ちた声が聞こえてきた。

首を動かして、その声が聞こえた方を見ると、同じくボロボロになったアセムが横たわっていた。

 

「うっ……! カハッ………!」

 

口から血の塊を吐き出すアセム。

あの様子だと、あいつも受け身取れずに墜落したんだな。

砕けた鎧を修復できていないことから、アセムも限界まで体力を使ったらしい。

 

互いに痛みと疲労でその場から立ち上がれないでいると、アセムが自嘲気味に笑った。

 

「フフ……愚かだと思っただろう?」

 

「え……?」

 

「たった一人、愛した女性を守れず、怒りに呑まれて世界を滅びへと導いた。その代償に力を失い、本来なら助けられたはずのあの子を救えなかった。愚かだよ………ああ、愚かすぎる。………何が神だ」

 

最後に漏らした言葉が酷く弱々しく聞こえた。

いつもの陽気な雰囲気も、こちらを畏怖させてきた不気味で強大なオーラも微塵も感じられない………。

 

俺は未だ横たわったまま、アセムに問う。

 

「なぁ、なんでだ? なんで最初に出会った時に嘘ついた?」

 

ロスウォードを生み出した過程と少年の体を乗っ取ったという過程。

結果は同じかもしれないが、決して愉快犯的な思想で行ったわけじゃなかった。

こいつも俺と同じだったんだ。

大切な人を失って、怒りに呑まれて………。

今のアセムはもしかしたら、あり得たかもしれない俺なんだと思う。

 

アセムは笑う。

 

「最初から全てを明かしてしまえば、君達は僕に対して殺意を持てないだろう? 僅かに芽生えた同情心はそれだけで剣を迷わせる。八重垣君が良い例じゃないか。君達は彼を倒しこそすれ、殺意を持てなかった。………君達は優しすぎる」

 

「………戦わなくても分かりあえたはずだ。こんなことまでしなくたって」

 

「アハッ、言っただろう? ここまでしないと間に合わないのさ。向こうの世界『E×E』邪神様はそれだけ強大。この世界は変わりつつある。だけど、このままでは遅すぎるのさ。彼らが総力を挙げたら確実に滅ぼされてしまう」

 

一体、どれだけ強力なんだよ………。

 

「………おまえがこの世界にそこまでする理由は………」

 

「この体の少年への誓いを守るためさ。いつかはこの子が生まれ変わる日が来る。その時、もう同じ想いをしなくて良いように。だから、僕は変える。この世界が滅びの道を辿らぬよう―――――たとえ、どんな痛みを伴っても」

 

「………ッ!」

 

アセムの体から強烈な力が噴き出した………!?

まだこれ程の力を残していたというのか!?

 

アセムはフラフラになりながらも立ち上がり、俺を見下ろしてくる。

 

「唐突だけど勇者君。君は世界が変わるのに必要なものはなんだと思う?」

 

「必要なもの?」

 

俺が聞き返すと、アセムは小さく頷いた。

そして、その答えを口にした。

 

「僕はね、世界が変わるには『痛み』が必要だと思う。人は『痛み』を知り、後悔をして、ようやく変わることができる。アスト・アーデの神々も、アザゼル君達も、そして君も。君は目の前で親友を失って変わった。違うかい?」

 

「………ッ!」

 

アセムの言葉に俺は言葉を詰まらせた。

 

………俺はライトを失って変わった。

元々、平凡な日常を送っていた俺は戦争とか、大事な人を失うとか、知識としてはあったけど、無縁だと思ってた。

でも、アスト・アーデという世界に飛ばされて、戦争に巻き込まれて、目の前で親友を失って………。

俺は『痛み』を知って、そこで変わったんだ。

アセムの言う通りに。

 

アセムは続ける。

 

「『痛み』を知り、もう二度と失いたくない、もう二度と後悔したくない。そんな思いが人々の意識を変え、やがては世界をも変える。どんな時代、どんな世界でもそれは同じことなんじゃないかな?」

 

アザゼル先生やサーゼクスさん、ミカエルさんだって同じだと思う。

かつての戦争があったから、今は和平の道を選んでいる。

アセムが言うこともまた真理なのかもしれない。

 

「だから、僕はこの戦いを通して強者にも弱者にも等しく『痛み』を知ってもらうことにした。そして、知らしめてやるのさ。自分達は無関係ではない、どんな力を持っていても、どれだけ高いプライドを持っていようとも君達は世界の一部でしかないことを。この戦いを始めた理由の一つさ。もう一度言うよ、勇者君。僕は『痛み』を以てこの世界に変革をもたらす」

 

それを聞いた俺は内側から何かが込み上げてきた。

体が、心が、全力でそれを否定しようと、動かないはずの体を突き動かして、俺を再び立ち上がらせた。

 

「『痛み』で世界を変える………ふざけんじゃねぇよ。………おまえの想いは分かった。けど、そのやり方だけは認められねぇ………!」

 

拳に力を籠める。

内に灯った炎が再び燃え上がったように、全身からオーラが溢れだしてくる。

俺が俺自身に言っているんだ、こいつを止めろと。

 

俺とアセムは互いにオーラを纏い相手を睨み―――――駆け出した。

地面を蹴り、前に出る。

御世辞にも速いとは言えないスピードで俺達は走る。

相手と接近した瞬間、拳を振りかぶり―――――

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

相手の顔面を全力で殴った。

互いの拳が互いの頬にめり込み、相手をよろめかせる。

 

たった一発。

それだけで体が悲鳴を挙げた。

崩れそうになる体を足が踏ん張り、ギリギリのところでもたせてくれる。

崩れた体勢を完全に整える、その前に体が動き出す。

俺は上半身に反動をつけて、殴りかかる。

狙うは顔面。

 

放った一撃は吸い込まれるようにアセムの頬にめり込んでいく。

受けた拳の勢いでアセムは大きく仰け反る………が、倒れはしなかった。

 

アセムもまたふらつく体で堪え忍び、拳を握った。

アセムの右のアッパーが俺の鳩尾を捉え、俺の体がくの字に折れ曲がる。

 

膝が折れそうになった。

それでも………!

 

「つぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

仕返しのアッパーがアセムの顎を打ち上げた。

アセムの体が浮き上がり、背中を地面に打ち付ける。

 

俺は肩を上下させながら、地面に仰向けになるアセムへ言った。

 

「ああ、そうだよ。俺はライトを失って変わったよ。おまえの言う通り、『痛み』を知って変わった。だけどよ………俺達が戦ってきたのは、『痛み』を繰り返させないためだ………! もう誰にも傷ついてほしくないからだ………!」

 

アセムは血を拭いながら、立ち上がる。

 

「なら、僕の言うことは正しいんじゃないかな?」

 

そう言うとアセムは構えをとった。

俺もまた拳を構え、俺達は再び衝突する。

 

ただ殴った。

ただ殴られた。

ひたすら殴られ、ひたすら殴られた。

顔を、腹を、胸を、腕を。

拳で皮膚が切れ、出血する。

 

俺は拳を打ち込みながら叫んだ。

 

「いいや、間違ってる! たとえ、未来のためだろうと、おまえのやり方は今を懸命に生きる人達を踏みにじるものだ! だから、俺は何度だって言う! おまえのやり方は認めねぇ!」

 

リアスも、ソーナも、匙も、サイラオーグさんも、冥界の子供達も皆が夢を持って前に進んでいるんだ。

俺はアウロス学園でのことを思い出した。

 

「夢を持った子供達がいる! 描いた夢を叶えるために、魔法を学び始めた子がいた! 皆みたいに魔法が発動できなくて、悩んで、もがいて、それでも頑張って! そうして、やっと小さな炎を出せた子がいた! おまえはその子から未来を奪うのか!?」

 

「今は良くても、このままではいずれ絶望がこの世界を覆う! そうなったら、夢も! 希望も! 未来も! 何もかもが無へと変わる! それが分かるんだよ!」

 

叫びと共に撃ち込まれたアセムの拳が俺の芯へと響く。

 

内から込み上げたものを耐えきれず、俺は口から血の塊を吐き出した。

真っ赤な血が留まることなく、零れ落ち、足元を赤く染めていく。

 

崩れそうになる中、ドライグの声が聞こえてきた。

 

『堪えろ、イッセー! もう少しで力が渡せる! 今は堪えるんだ!』

 

………分かってるよ、ドライグ。

倒れるわけにはいかないもんな。

絶対に倒れないよ、俺は。

こいつを倒すまで、俺は―――――。

 

「絶対に………! 倒れねぇ………ッ!」

 

全身に力を入れて、何とかボロボロの体をもたせた。

………無限とも思えた力が、今となってはほとんど残ってない。

気力、根性だけで俺は立っている。

 

アセムが小さく笑みを浮かべて言う。

 

「………倒れないね」

 

「………倒れないさ」

 

どんなにボロボロにされようと。

何度膝を着きそうになっても。

この魂だけは絶対に折れない。

だから、俺は倒れない。

それに―――――。

 

「俺には守りたいものがある。家族、仲間、他にも………気づいたら、俺には守りたいものがたくさんあった」

 

「そうか………それは大変そうだ」

 

「まぁな。だけど………だからこそ、俺は勝つんだよ」

 

ぜーはーと息を切らして満身創痍の俺達。

それでも、体は動き続ける。

オーラを拳に籠めて。

その時、その時で出せる全力で―――――。

 

「ぜぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!」

 

「ぬぅ……オォォォォォォォォォッッッ!」

 

戦場に響くのは俺達の叫びと、拳がぶつかる音。

体力なんて限界をとうに超えているはずなのに、体力に反比例するようにオーラが高まっていく。

拳で打ち合うだけで、大地も割れ、空間が裂けていく。

 

痛みが感じられなくなってきた。

もういつ死んでもおかしくないくらいに殴り、殴られたはずなのにだ。

数え切れない拳の連打が止まらない、止まらない、止まってくれない。

なぜなら、相手が倒れてくれないからだ。

相手が倒れないのなら、絶対に倒れられないんだ。

 

俺はオーラを高めながら叫んだ。

 

「アセムッ! おまえは言ったな、『痛み』がなければ世界は変わらないと! なら、彼女はどうだったんだ!」

 

「………ッ!」

 

俺の叫びにアセムが目を見開き、奴の手が緩む。

 

その時、ドライグが俺の中で叫んだ。

 

『イッセー! カウントファイブだ!』

 

「カウント頼む!」

 

―――――五秒。

その間、俺は絶対に崩れてはいけない。

相棒を信じて、この局面を乗りきってみせる!

 

『Ⅴ』

 

左腕を覆う真紅の籠手。

その宝玉に数字が浮かび上がる。

 

俺はそれを確認しながら奴の拳を受け止めた。

互いの手を組み合い、力で押し合う形になる。

オーラを噴き出しながら、押す中で俺は叫びを続けた。

 

「おまえが守りたかった彼女は『痛み』で変わったのか! 違うだろ! おまえがいたから、おまえの心が彼女を変えたんじゃないのかよ!」

 

カウントが進む。

 

『Ⅳ』

 

残り四秒!

急いでくれ!

 

アセムが俺の腕を引き、俺の体勢を崩しにかかる。

 

「だけど、彼女は消えてしまった! 愛したはずの世界の手によって!」

 

そして、反動をつけて頭突きをくらわせてきた。

今ので切ったのか、額から流れた血が視界を赤く染めていく。

 

『Ⅲ』

 

感情剥き出しに叫ぶアセムは右の回し蹴りを繰り出してくる。

防御が間に合わず、まともに受けた俺は地面へと叩きつけられてしまう。

 

「ゲホッ………ガハッ!」

 

この土壇場でなんて重い一撃なんだ………!

動こうとすれば、背中に痛みが走る………!

背骨をやられたか………!?

 

「彼女も、この体の少年も、理不尽が全てを奪った! だから、僕は……!」

 

メリメリッ、ゴキンッと深く食い込んだ一撃!

動けない俺へと撃ち込まれる一撃が俺の肉体を破壊して、精神をもへし折りに来る!

 

『Ⅱ』

 

アセムがもう一撃を叩き込もうとした時、俺は奴の腹を蹴り飛ばして、それを阻止。

痛みで悲鳴をあげる体を無理矢理動かして、奴と向かい合う。

 

俺は前かがみの体勢で言う。

 

「この世界を変えるために、おまえが理不尽となる、か? だけど、おまえも忘れてないか? おまえ自身も世界の一部だってこと………。彼女はおまえが世界から外れることなんて望んでないぞ。彼女が愛した世界の中にはおまえも含まれているのだから―――――」

 

俺は前に出る。

一歩、また一歩。

地面を強く踏み締め、アセムへと走り出す。

 

「変わるのに『痛み』なんて必要ない! そんなものが無くても人は、世界は変われる!」

 

接近した俺に放たれるストレート。

俺は右手でアセムの拳を反らし、受け流す。

 

『Ⅰ』

 

懐に入り込んだ俺とアセムの視線が交錯する―――――。

 

『Extreme Full Booster!!!!』

 

籠手から新たな音声が鳴り響く。

今までのどれよりも、力強い響きだ。

その時、左の籠手から莫大なオーラ、真紅の炎が噴き出した。

 

『今だ、イッセー! 撃ち破れぇぇぇぇぇ!』

 

ドライグが叫ぶ!

 

俺は真紅の炎を纏った左の拳を振り上げた。

極限にまで高められた真紅の光が龍を形成して―――――。

 

「彼女が愛したおまえは、本当のおまえは! 人の心の光の可能性を知っているはずだ! それはどんな理不尽だって乗り越えられる! そんなこと、分かっているはずだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!」

 

『Welsh Impact!!!!!!!!』

 

真紅の龍を乗せた拳がアセムの顔面を捉え、そのまま大地へと叩きつけた――――――。

 

 




次回、決着………か!?


~あとがきミニストーリー~

小猫「……私の胸はいつになったら大きくなるのでしょうか」

イグニス「大丈夫よ、小猫ちゃん。小猫ちゃんのおっぱいはイッセーが大きくしてくれるわ。ね、イッセー! さっそく揉みましょう! 今すぐ大きくしてあげなさいな♪」

イッセー「俺かよ!? いやいやいや、今すぐってのは流石に無理だろ………。でも、任せてくれ! 小猫ちゃんのおっぱいは俺が大きくしてみせる! これから時間をかけて育てていこうじゃないか!」

小猫ちゃん「鼻血出てますよ、イッセー先輩。それに鼻息荒いです………大丈夫ですか?」

イッセー「俺はおっぱいの成長に急ぎすぎもしなければ、貧乳に絶望もしちゃいない!」

イグニス「流石はイッセーだわ! おっぱいドラゴンは伊達じゃない!」

小猫「………よく分からないけど、色々最低です。というより、そろそろ怒られますよ?」


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55話 終わらぬ戦い

お待たせしました!


「俺の………勝ちだ………」

 

肩を上下に揺らし、血を滴らせる俺は仰向けに倒れるアセムに向けてそう宣言した。

 

大地が裂ける音がする。

俺を中心に一帯は深く陥没、遥か彼方まで地割れが続いていく。

空からもガラスが砕けるような音が延々と聞こえてきた。

見上げれば、空間全体に亀裂が入り、破片となって落下している光景はどこか神秘的でもある。

そして、この一帯を包み込む真紅のオーラ。

元々、血のように赤くおどろおどろしい色をしていた空も真紅の色が上書きしているせいで、今はとても鮮やかだ。

 

渾身の一撃だった。

俺に残された体力も、気力も、想いも全てを乗せた真紅の拳。

 

ドライグが言う。

 

『過去最高の一撃だったぞ。土壇場の馬鹿力とはいえ、ここまで周囲に影響を及ぼすとはな。まぁ、それもおまえらしいが』

 

だろうな。

それくらいしないと、アセムには届かなかったさ。

 

アセムが動く気配はないが、死んではいない。

薄く開いた目はしっかり俺に向けられている。

あの一撃をくらって意識を保てていることには驚きだが、流石はあのラズルの生みの親ってところか。

ラズルも俺の全力を受けても倒れてくれなかったしな。

 

底無しとも思えるタフさに呆れていると、アセムは小さく笑った。

 

「ハハハ………効いた、効いたよ。何もかもが打ち砕かれた気分だ。………弱く、ただ嘆いていたあの青年がここまで………。この勝負、僕の負けだ」

 

ボロボロの体で、どこか感慨深そうに呟くアセム。

 

そういや、こいつは俺がアスト・アーデに飛ばされてから今に至るまでをずっと見てきたんだっけか。

何も知らないガキだった俺。

親友を亡くしてただ嘆いていた俺。

力をつけて戦い始めた俺。

魔王シリウスを倒した俺。

そして、元の世界に戻ってからの俺。

 

ずっと見てきた奴がこうして自分を倒す。

アセムからすれば、感じるところもあるのだろう。

 

地面に大の字になったアセムが聞いてくる。

 

「君は………人が変わるのに『痛み』は必要ないと言ったね」

 

その問いに俺は頷く。

 

「ああ。………確かに人も神も死ぬほど後悔しないと変われないのかもしれない。俺もそうだった。だけど、そんなものがなくても変われるんだ。時間はかかるかもしれない。すれ違ったり、間違うこともあると思う。それでも………俺は信じるよ、人が持つ可能性ってやつを」

 

まだ二十年しか生きていない子供が大それたことを言うと思われるかもしれない。

だけど、俺が歩んできた道程は、この目で見て、感じてきた出来事は確かに俺の中に残ってる。

 

戦って、傷つけて、傷つけられて。

血生臭い人生だった。

でも、だからこそ、見えてきたものもある。

 

―――――人の心の光。

人の優しさ、絆の力、何かを守る強さ。

 

人は多くの可能性を持っているんだ。

そして、俺はそれを実際に体験している。

 

「ロスウォードを倒した時、人族も、魔族も、神も、皆が一つになった。皆が俺に託してくれたおかげで、あいつを救うことが出来た。あの温かさは今でもここに残ってるよ」

 

そう言って、俺は自身の胸を指した。

 

胸に残るあの温かさ。

あの温かさが俺に確信を持たせてくれた。

一つ一つは小さな灯でも、集まればどんな理不尽だって乗り越えられることを。

 

不意に体に痛みが走った。

アセムから受けたダメージが大きすぎて、立っていることもままならないか……。

 

俺はアセムの近くに座り込み、話を続けた。

 

「おまえだってそれを信じていたからこそ、この戦いを始めたんだろう?」

 

「………なんで、そう思うんだい?」

 

動かないまま聞いてくるアセム。

俺は深く息を吐いて答えた。

 

「おまえ、この戦いを仕掛けた時に言ったそうだな? 考えろって。自分達が生き残るために何をすれば良いのか、一人一人が考え、自分の役目を果たせと」

 

これはアセムが構築したこの世界に乗り込む直前にティアから聞かされたものだ。

 

「おまえは自分という理不尽を乗り越えてほしかったんだろ? バラバラじゃあ、到底おまえ達には勝てない。だから、世界中の意思が一つに向かうように仕向けた。それこそ、強者も弱者も関係なくな」

 

「………」

 

アセムは答えない。

ただ瞑目して俺の言葉を聞いているだけだった。

 

俺と戦っている時、アセムは『痛み』を以て世界を変えると言った。

それも本心だと思う。

だけど、それとは別に願っていもいたはずだ。

人間も、悪魔も、神も関係なく、全ての種族が手を取り合い、自分を倒すことを。

手段としては過激だと思う。

それでも、こいつは―――――。

 

「もう良いだろ? もう十分だろ? おまえは散々悩んで、苦しんだ。おまえだって、こんなの本当は望んじゃいないはずだ。だから―――――」

 

「それは違うかな」

 

俺の言葉を遮ったアセム。

アセムは痛みに震える体を動かして立ち上がると俺を見下ろした。

 

「だから、この戦いを終わらせよう………君はそう言いたいんだろう? だけどね、こんな中途半端で終わるわけにはいかないのさ」

 

そう言うとアセムの体からオーラが滲み始めた。

 

俺は目を見開き、言葉を失う。

なぜなら、奴のオーラが膨らみ始めたからだ。

 

「………ッ! おまえ、まだこんな力が………!?」

 

アセムだって、もう限界のはず。

死んでもおかしくないようなダメージを互いに負っている。

それなのに、こいつは………!

 

驚愕する俺を前にしてアセムは両手で印を結び始める。

そして、掌で地面を叩いた。

次の瞬間―――――。

 

 

ズゥゥゥゥゥゥゥンッッッ

 

 

突然、突風が吹き荒れ、大地が激しく揺れた!

 

なんだ!?

アセムの野郎、何をしやがったんだ!?

 

周囲を見渡しても、砂埃が舞い上がっていて何も見えない。

だが、この不気味なオーラには覚えがある。

触れるだけで身震いするようなこの波動は………!

 

冷たい汗が背を伝う中、砂埃が治まり、視界が広がってくる。

そして、そいつら(・・・・)はそこに現れた。

 

それを見てドライグが驚愕の声を漏らした。

 

『トライヘキサ、だと………!? 奴め、あの化け物を呼び寄せたと言うのか!?』

 

そう、現れたのは七体のトライヘキサだった!

正確には七体に分裂したトライヘキサだが………それら全てが俺達を囲むように現れたのだ。

 

マジか………!?

なんで、こんなところにトライヘキサが来るんだよ!?

トライヘキサはロセの構築した結界で動きを封じられていたはずだ。

まさか、もうその効果が切れたのか………?

 

そう思って、トライヘキサを見上げてみるが、奴の周囲には結界が張られており、未だにあの巨体を覆っている。

トライヘキサも動く気配を見せない。

つまり、ロセが発動した結界そのものはまだ機能していることになる。

 

状況を完全に飲み込みきれていない俺にアセムが言った。

いつの間に出したのか、左手にあの黒い籠手を装着していて、

 

「フフフ………元ヴァルキリー君の論文がトライヘキサを封じるためのものだと分かった時から、君達がトライヘキサの動きを封じる術式を作ることは分かっていた。だから、僕はそれを利用させてもらうことにしたのさ」

 

「なに………?」

 

ロセの論文の内容が分かったのは数ヵ月前。

つまり、こいつはかなり早い段階で何かを仕掛けたってことか?

 

アセムは続ける。

 

「トライヘキサに施された結界術は素晴らしいものだ。ある程度の時間制限があるとはいえ、伝説の魔獣が身動きが出来なくなるということは、それだけ強固で無駄がないということ。彼女の頭脳と才能はある意味、神レベルなのかもしれかいね」

 

そうですか、ロセの頭脳は神レベルですか。

そういや、アーシアもドラゴン使いとしての才能は神クラスかもって話になったこともあるし、美羽とアリスは神姫化で神クラスの力を持ってるし………あれ?

もしかして、他のメンバーもそのうち何かしらの点で神に届いたりするのだろうか。

あり得そうだ。

というか、モーリスのおっさんに鍛えられてるメンバーは恐ろしい領域に踏入そうなんだが。

 

アセムはトライヘキサを見上げて言う。

 

「自身を封じる結界を破る場合、どんな方法を取るにせよ意識と力がその術式の方へと向かう。そうすると、そこに隙が生まれる。それは伝説の魔獣でも同じことだ」

 

その時、アセムの体が妖しく輝き始めた。

見れば七つに別れたトライヘキサも同様の光が覆い始めている。

アセムとトライヘキサが共鳴しているのか……?

輝きは次第に強くなっていき、七体のトライヘキサから光の糸がアセムに向けて延びていった。

 

アセムは笑みを浮かべて言った。

 

「僕はね、こうなることを見越した上で、トライヘキサが目覚める前に独自の術式を埋め込んでいたのさ。それは―――――トライヘキサを自身に取り込む術式だ」

 

「なっ………!?」

 

トライヘキサを取り込む!?

そんな馬鹿なこと………いや、待てよ。

こいつはロセの結界を利用したと言った。

それって―――――。

 

俺の考えていることが分かったのかアセムは頷いた。

 

「そうさ。トライヘキサをそのまま取り込むなんてことは不可能だ。だが、結界によって動きを封じられ、意識に隙があるのなら話は別だ」

 

アセムは纏っている魔王の戦闘服に手をかけると、胸から腹にかけて引き裂いた。

すると、奴の腹には複雑に描かれた魔法陣が描かれていて、

 

「さぁ、僕の元へと来るがいい。―――――黙示録の獣よ」

 

刹那―――――

 

 

オオオオオオォォォォォォォォォォッッッ!

 

 

トライヘキサが叫び、もがき苦しみ始めた!

繋がった光の糸を通して、トライヘキサの巨体がアセムへと吸い込まれいく!

トライヘキサは吸い込まれまいと抵抗しているようだが、ロセの結界のせいで上手く力を発揮できないようだ。

 

だけど、トライヘキサを取り込むなんてこと、それ自体が自殺行為に等しい。

巨大すぎる力に肉体が耐えられないからだ。

それはアセムも同じで、

 

「ぐ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! あぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

取り込んだ力が内側で暴れ、血管が破裂。

全身の血管から血を吹き出していた。

目や鼻からも血が流れ、口からは大量の血を吐き出していた。

 

見ているこちらが辛くなる凄惨な光景に俺は叫んだ。

 

「やめろ! それ以上はおまえの体がもたない! もう良いだろ!? 決着は………俺達の戦いは終わったはずだ!」

 

決着はもうついたはずだ。

それなのにアセムは自らを傷つけてまで戦おうとしている。

 

なんでだ………なんでなんだよ………!

俺達はもう―――――。

 

しかし、アセムは言った。

 

「確かに決着はついた。僕と君の戦い(・・・・・・)は終わった。でもね………僕はまだ止まる訳にはいかないのさ。僕はまだ………世界の声を聞いていない………!」

 

「自分の命を捨てることになってもか!?」

 

俺の問いにアセムは血を撒き散らしながらも可笑しそうに笑んで、

 

「ハハハ………君達にだけ痛みを強いるのはフェアじゃないだろう? 世界を変えようと言うんだ、この程度の痛みどうってこないさ。それにね―――――」

 

アセムはふらついた体を起こすと、両手を広げて叫んだ。

 

「僕のための命なんてもうどこにもない。そんなもの―――――とうの昔に捨ててきた!」

 

「………ッ!」

 

アセムを包む輝きが一層強くなる。

それのせいなのか、トライヘキサを吸い込む力が強くなっていて、かなりの力がアセムへと流れていた。

 

アセムは抵抗するトライヘキサに苦笑する。

 

「身動きがとれない中、これだけ抗ってくるとはね。流石は最強の魔獣、次元の守護者であるグレートレッドと同格と言われるだけはある。だが、その抵抗もそこまでにしてもらおうか。獣よ―――――僕に従え!」

 

鋭い眼光がトライヘキサに向けられた。

直接向けられた訳でもないのに、金縛りにあったような感覚だ。

その眼光にトライヘキサはその巨体をビクッと震わせ―――――全てを奪われた。

トライヘキサの姿はその場から消え去り、アセムの中、籠手の宝玉へと吸い込まれていった。

 

 

ドクンッ

 

 

アセムの体が強く脈打った。

すると、奴の体に変化が訪れる。

全身の肌が灰色に変わり、所々にひび割れが入り始める。

白い髪は腰元まで延び、瞳が赤く染まった。

額の一部が膨らんだと思うと、そこから二つ、角が生えてきた。

 

ドーピング剤を使ったリゼヴィムみたいな完全な化け物という程ではないが、シルエットとしては人型の鬼といったところだろう。

何より特徴的なのは肥大化した左の籠手だ。

爪は鋭く尖り、あらゆるものを切り裂きそうなフォルムをしている。

更に籠手は肩まで覆っており、アセムの左半身はより一層禍々しさを感じさせた。

 

肉体の変化を終えたアセムが自身の体を見ながら呟いた。

 

「なるほど、こういう感じになったか。どこか、リゼ爺のあの姿と似ているところを見ると、結局は僕も彼と同じだったということかな? 君のように名付けるなら―――――『皇獣化』と言ったところか。安直な名前かもしれないが、これが黙示録の獣を取り込んだ僕の新たな力だ」

 

皇獣化………!

こいつ、本当にあの怪物を取り込みやがったのか!

しかも、俺に受けた傷も回復してやがる!

 

対する俺は英龍化も解け、変革者の姿ですらない。

今のアセムと戦う力なんて残ってないぞ………!

 

この状況にはドライグも焦っていて、

 

『最悪の状況だ………! イッセーも俺も力を使い果たした。逃げることも出来んぞ………!』

 

逃げるどころか、立つ力も残ってない。

 

動くことが出来ず、ただ変貌したアセムを睨むことしか出来ない俺。

そして、そんな俺を見下ろすアセム。

 

アセムは手元に黒いオーラを集めると一振りの剣を創り出した。

 

「僕は行くとするよ。まだ戦っている者達のところにね。彼らを倒したらここを出て、各神話領域に直接、踏みいるつもりだ」

 

アセムはゆったりとした所作でこちらに近寄ってくる。

 

「君はもう動けないだろう? まぁ、君のことだから、無理矢理体を動かして追ってきそうだけど………それもいい。さて、君は―――――」

 

アセムが俺に問いかけようとした、その時。

 

俺の後方から凄まじい力の波動が飛んできて、アセムを襲った!

突然の襲撃にアセムは両手をクロスして、防御すると波動に吹き飛ばされるまま、後ろへと退避した。

この攻撃にはアセムも驚いていて………。

 

「な、なんだ、今の………!?」

 

多分、味方なんだろうけど、このタイミングで援軍が!?

一体、誰が―――――。

 

そう思い、辺りを見渡す俺だったが、こちらが見つける前にその者達は俺の眼前に音もなく現れた。

 

「なんとか間に合った………とは言い難いが、取りあえずは無事のようだな、イッセー」

 

「ここまでよく戦った。ここからは私達に任せて、少し休んでいなさい、赤龍帝ボーイ」

 

現れたのは二人。

この二人がこの世界に乗り込んでいたことは知っていたけど、まさかこんな形で俺の前に現れてくれるとは思ってなくて―――――。

 

「モーリスのおっさん!? それにストラーダの爺さん!?」

 

………マジかよ。

 




~あとがきミニストーリー~

ディルムッド「にぃに、これ着てみた……」

イッセー「そ、それは………猫耳パジャマ!」

美羽「うん! 似合うと思って着せてみたよ! 最高でしょ!」

イッセー「最高………! あぁぁ……感動で涙と鼻血が………。猫耳パジャマの美羽も可愛いし、アリスの猫耳パジャマも可愛いし、ディルちゃんも………よし、決めた! これから猫耳パジャマは赤龍帝眷属の指定パジャマにしよう! 美女美少女の猫耳パジャマ! 萌える! お兄ちゃん、マジで萌えちゃう!」

モーリス「なにぃ? ったく、しゃーねぇ。俺も着てやるとするか」

イッセー「なに人の夢潰しにきてんの!? 女の子限定に決まってるだろ!? おっさんの猫耳パジャマなんて誰が見たいんだよ!?」

モーリス「俺も一応、眷属だしな。それにおっさんの猫耳パジャマも需要があるかもしれねぇ」

イッセー「絶対にねーよ!」


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56話 最強のおっさん二人

「なんとか間に合った………とは言い難いが、取りあえずは無事のようだな、イッセー」

 

「ここまでよく戦った。ここからは私達に任せて、少し休んでいなさい、赤龍帝ボーイ」

 

俺は、俺を庇うように前に立った二人を見て、目を開いていた。

一人はこの世界における最強クラスの剣士にして、先代のデュランダル使い。

もう一人は異世界アスト・アーデで『剣聖』と称された最強の剣士にして、俺の師の一人。

ヴァスコ・ストラーダとモーリス・ノアが俺の元に駆けつけてくれたのだ。

 

おいおいおい、マジかよ。

この二人がこうして並び立つのを見られるなんて………!

 

トライヘキサを取り込み、鬼人のような姿となったアセムもこの二人の登場には目を丸くしていて、

 

「へぇ、ここで君達が来るとはね………。剣士………いや、その他を含めても最強のコンビと言えるだろうね」

 

アセムの言葉にモーリスのおっさんはへっと笑う。

 

「おいおい、俺達はいつの間にコンビを組んだんだ? そこで出会って、そのままここまで来ただけだっての。まぁ、あんたを相手取るなら、この爺さんが手伝ってくれるとありがたいがな?」

 

モーリスのおっさんの言葉を受けて、ストラーダの爺さんもしわくちゃの顔を笑ませる。

 

「フフフ、それはこちらの台詞ですな。さて、異世界の神よ。赤龍帝ボーイに破れたようだが、それでも、黙示録の獣を取り込み、まだこの争いを続けようと言うのだろうか?」

 

笑みから一転、目を細め、相手を見透かすような視線をアセムに向ける。

八十を越える老人とは思えない眼光だ。

 

彼の手に握られているのはデュランダルのレプリカだろう。

だが、以前の形状とは何処と無く雰囲気が異なるところを見るとレプリカの改良型だろうか?

濃密な波動を纏っているのに関わらず、一切のブレがないのは流石だ。

 

モーリスのおっさんはというと、得物こそ抜いていないが、爺さんと同じく鋭い視線、濃密なオーラを静かに漂わせている。

 

二人ともアセムの返答次第で斬るつもりだ。

トライヘキサを取り込んだアセムを相手に真正面から叩き潰すつもりなのか………!

 

二人の剣士の視線を受けて、アセムはフッと軽く笑む。

 

「その問いをしなくても、もう分かっているのだろう? 殺気こそ抑えているようだが、僕が妙な動きをすれば………。いやぁ、怖い怖い。だが、その老体で今の僕の相手が出来るとでも? 君もヴァルスとの戦いで相当、消耗しているはずだ、モーリス・ノア」

 

「まぁな。ここに来る前、アーシアに回復してもらったとは言え、体力は万全とは言えねぇな」

 

そうか、おっさんはヴァルスと戦っていたのか。

おっさんがここにいるということは、ヴァルスに勝ったということになるが………やっぱ、とんでもないよ、この人。

マジもんのチートだよ、この人。

 

しかし、モーリスのおっさんもかなり消耗をしたらしい。

傷はアーシアの治療で残っていないが、服のあちこちが斬り裂かれ、ボロボロになっている。

いくらモーリスのおっさんでも消耗した状態でトライヘキサを取り込んだアセムを相手取るには厳しいだろう。

 

そして、ストラーダの爺さんもそうだ。

こちらは消耗はしていないようだが、アセムの言う通り、老体だ。

いかに爺さんといえど、スタミナがもたないはずだ。

 

この二人が組んだところで、今のままでは―――――。

 

「貴殿の言う通りだ、異世界の神よ」

 

ストラーダの爺さんが頷きながらそう言った。

 

「いかに私と言えど、このままでは体がもたないだろう。だが………」

 

爺さんは懐に手を入れると一つの小瓶を取り出した。

淡い光を放つ液体が入った瓶だった。

 

「アザゼル元総督殿からある提案をされた。それは三大勢力の持つ技術を合わせて―――――私の肉体を若返らせることだ」

 

なっ………!?

アザゼル先生、この爺さんにそんな提案をしていたのか!

た、確かに三大勢力の技術を合わせれば、人間一人の体を若返らせることくらい可能だろう。

だが、ヴァスコ・ストラーダを若返らせるということはつまり―――――。

 

「この秘薬を以て、私は全盛期の兵と化す」

 

爺さんは小瓶の蓋を指で弾いて、そのまま中身を飲み干した。

瓶を握って砕く爺さん。

その体に変化が現れる。

全身から煙が放出され始めたのだ。

煙が強く、濃くなる程に彼の体は大きく、肌に艶も戻っていく。

そして、煙が止んだ時、そこにあったのは―――――モーリスのおっさんと同じくらい、五十代頃の姿になったヴァスコ・ストラーダだった。

 

肉体から凄まじいオーラが立ち上る。

 

「私の全盛期は、十代や二十代ではない」

 

若返った爺さんは語り始める。

 

「精神とは肉体に強く引かれるもの。それは多くの異形、異能の者達と戦ってきた私の一つの結論でもある。十代か二十代の肉体に戻れば、あの頃の若気を僅かにでも取り戻すことになろう。そして、その未熟な精神はこの戦場において命取りとなる。ならば、精神と肉体のバランスが極限にまで研ぎ澄まされた年齢に戻す。それが私にとって、五十歳だったということなのだよ」

 

精神と肉体の関係………その話は師匠から聞いたことがある。

なるほど、だから肉体の全盛期ではなく、精神と肉体のバランスが取れた年齢に戻したのか。

 

若返った爺さんの姿にモーリスのおっさんが口笛を吹く。

 

「ほぉ、こいつは良い。アザゼルめ、良いもの持ってんじゃねぇか。こんなのがあるなら、もっと早くにやり合えたな。なぁ、爺さんよ」

 

「フッ、この戦いが終わった後に存分に剣を交えるとしよう」

 

不敵に笑む二人。

………この人達、本気でやりあえる好敵手に心踊らせてない?

 

アセムが言う。

 

「これは面白い。最強の人間二人が僕の前に立ちはだかるというのか」

 

「おいおい、爺さんはそうかもしれんが、俺は悪魔に転生してるぞ? つーか、このやり取り何度目だよ。今の俺は最強の………悪魔? いや、悪魔という割りには魔力関係がてんでダメだし、悪魔に転生して間もないしなぁ」

 

悩むおっさん。

すると、おっさんは何か名案が浮かんだのか、掌をポンと叩いた。

 

「そんじゃ、最強のおっさんとでもしておくか。それなら、今の俺達にピッタリだ」

 

若返った爺さんはデュランダルを構え、モーリスのおっさんは双剣を抜き放つ。

 

そして―――――。

 

「なぁ、神様よ。斬る前に一つだけ言っておく。―――――おっさんを舐めるなよ?」

 

 

 

 

一瞬だった。

瞬きをする、ほんの僅かな時間に戦いは始まっていた。

 

目の前にいたはずのモーリスのおっさんと若返ったストラーダの爺さんは音もなく、瞬時に距離を詰め、アセムと剣を交えていた。

 

アセムはオーラで形成した黒い剣でおっさんの剣を、禍々しく肥大化した左の籠手で爺さんのデュランダルを受け止める。

 

「ハッ! 俺達の剣を止めるたぁ、流石にやるな」

 

「それは僕の台詞さ。僕に剣を抜かせるとは………ね!」

 

アセムは剣を振り抜き、おっさんを弾き飛ばす。

そして、デュランダルを掴むと、力付くで投げ飛ばした。

 

投げ飛ばされたストラーダの爺さんは空中で宙返りをすると難なく着地を決め―――――姿を消した!

爺さんはアセムの背後に姿を現し、デュランダルを振るう!

斬撃と共に放たれた極大の聖なるオーラ!

 

アセムは聖なるオーラを受け止めるが、その圧倒的なパワーに大きく吹き飛ばされる!

アセムは受け止める籠手に力を入れ、聖なるオーラを破壊。

反撃に移ろうとする。

 

しかし、この展開を読んでいたように破壊された聖なるオーラの後ろからモーリスのおっさんが突貫していて、

 

「らぁっ!」

 

「っ!」

 

剣気で黒く染まった剣を振り下ろした。

鋭い剣撃はアセムの作ったオーラの剣をも真っ二つに斬ってしまう!

 

あのアセムのオーラを斬った!?

どんだけだ、あのおっさん!?

 

「僕の剣を斬るとは! だが!」

 

アセムは人差し指をおっさん達へと向けると、そこにオーラを収束し始める。

強大で凶悪な漆黒の力が集まっていき、とてつもない規模の砲撃が放たれる!

 

何て大きさだ………これがトライヘキサを取り込んだアセムの力か………!

 

砲撃は真っ直ぐ、ストラーダの爺さんへと向かい―――――。

 

「ほう、これは………。私が戦ってきた異形の中でも最大の一撃と言えよう。しかし―――――」

 

―――――一閃。

爺さんがデュランダルを振るう。

すると、漆黒の波動は二つに斬り裂かれ、爺さんの両隣を通り抜けていった。

 

「あの怪物を取り込んだのだ。この程度ではないのだろう?」

 

冷静に言うストラーダの爺さん。

そこに一切の焦りもなく、消耗もない。

 

………もう言葉もでない。

おっさんもおっさんなら、爺さんも爺さんだ。

 

アセムは呆気に取られながらも渇いた笑いを漏らす。

 

「いやはや、これぞザ・チートだよね。まぁ、僕もそう簡単にやられるつもりもないけどさ」

 

そう言うと、アセムは再び黒いオーラを発して右手に黒い鎌を、左手に剣を握る。

アセムが一歩踏み出すと、神速で二人に迫った。

アセムの振るう鎌と剣!

おっさんに斬られたものよりもかなりの力が籠められているのか、振るわれる度に地面が割れ、空が斬り裂かれる!

今の俺がギリギリ目で追える程の剣速………それが一撃、二撃と剣撃の回数が増えるにつれて、更に速く、更に強くなっていく。

 

だが、そんなアセムの攻撃をおっさんと爺さんは体捌きと剣捌きで全て避けていた!

回避と攻撃。

目も合わせず、互いの呼吸と戦いの空気のなく中で、二人は完璧なコンビネーションを繰り広げていた。

 

最強の二人の剣と最強の魔獣を取り込んだ最強の神との戦い。

その余波は離れた場所にいる俺をも巻き込み始めて、

 

「うおっ!? やべっ………体が………!」

 

アセムとの戦いで体を動かせない俺は吹き荒れる暴風と、戦いの衝撃で生じた地割れに呑み込まれそうになる。

その時だった。

 

背後から聖なる力を感じ取った。

振り返ると聖なる力によって形作られた龍が迫っていて―――――俺を呑み込んだ。

 

「うぉぉぉぉぉっ!?」

 

なんだなんだ!?

おっさん二人の激戦の次はなんだよ!?

予想外の展開に混乱している中、俺は聖なる龍によって、激戦から引き離されるように後ろへと連れてこられて―――――。

 

「遅くなってすまない。兵藤一誠君」

 

眼鏡をくいっと上げて、そう言うのは若い男性だった。

その男性の登場に俺は仰天する。

 

「八重垣さん!?」

 

そう、俺を助けてくれたのは八重垣さんだった!

俺を呑み込んだ龍は天叢雲剣から放たれた聖なる力で形成された八岐大蛇か。

 

八重垣さんの姿を見たモーリスのおっさんは、アセムと斬り合いを演じながら言った。

 

「よぉ、遅かったな、眼鏡の兄ちゃん!」

 

「あなた方が速すぎるんですよ。あっと言う間に行ってしまうのですから」

 

「しょうがねぇだろ? ま、今はあんまり話してる余裕ないから、手短に言う! イッセーを頼む! そいつ、もう立ってる力もねぇ!」

 

「ええ、分かっています。そのために僕はここに来たのですから」

 

八重垣さんがそう言うと、聖なる龍は八重垣さんの隣に俺を吐き出し、俺達二人を覆うようにとぐろを巻いた。

聖なる龍は激戦の余波から俺を守ってくれているようだ。

 

俺は八重垣に問う。

 

「ありがとうございます。………でも、なんで、あなたがここに?」

 

すると、八重垣さんは言った。

 

「天使イリナ達にも言ったけどね。僕はここに未来を得るために来た。元死人で今は咎人の身。こんな僕でも出来ることがあるのなら………。そう思ってここに来た次第だ」

 

八重垣さんは自分の掌を見つめながら続けた。

 

「ここまで来ておいて、こういうことを訊ねるのはどうかと思う。だけど、君に聞いてみたかった。………今の僕にも何かを守れるだろうか? この罪人の手でも守れるだろうか?」

 

その疑問と目はかつての自分に似ていた。

俺も自分の血塗られたこの手で何かを守れるのかと疑問を思ったこともある。

でも―――――。

 

俺はフッと笑んで答えた。

 

「守れますよ、今の八重垣さんなら。それに俺もこうして守られましたから」

 

「そうか………そうかもしれないね」

 

俺と八重垣さんは再び戦場に目を向ける。

未来を得るための戦いを―――――。

 

 

 

 

「剣だけでは分が悪いかな」

 

アセムは剣を振るいながら、周囲に魔法陣を展開する。

その数は俺と戦っていた時よりも遥かに多く、信じられないような数だ。

空を埋め尽くす魔法陣から一発一発が常軌を逸した威力を持った魔法の数々がモーリスのおっさんとストラーダの爺さん目掛けて降り注ぐ!

 

しかし、二人は逃げる気配を見せず、その場で剣を振るい全ての魔法を斬り捨てていった!

超絶な体捌きで魔法を避け、極められた剣技で魔法を斬っている。

 

おっさんが笑む。

 

「おいおい、こんな雑な攻撃で俺達の首が取れると思ったか? まぁ、今のおまえさんなら、こんなもんか」

 

「なに?」

 

おっさんの言葉に怪訝な表情を浮かべるアセム。

すると、ストラーダの爺さんがデュランダルから聖なる波動を撃ちながら言った。

 

「貴殿の戦いはここに到着する前に見せてもらった。初見ならばともかく、こちらには十分な情報がある。あとは実際に剣を交えれば、戦いながら対策を立てれば良い。それに―――――」

 

アセムの砲撃を掻い潜り、モーリスのおっさんが斬りかかる。

振り下ろされた剣をアセムが受け止め、鍔競りの形になった。

アセムがおっさんの剣を弾くと、その場で二人は激しい剣撃の応酬を繰り広げた。

 

おっさんが言う。

 

「なぁ、神様よ。あんたが本当にあの怪物の力を使えているのなら、いくら俺達だろうとこうも上手くは戦えんさ。派手な攻撃で誤魔化しているようだが―――――あんたも本調子にはほど遠いだろ?」

 

「………ッ!」

 

その言葉にアセムが目を見開いた。

 

アセムが本調子じゃない………?

どういうことだ?

 

俺の疑問に答えるようにストラーダの爺さんが言った。

 

「トライヘキサを取り込んだものの、内側ではまだトライヘキサの力が暴れている。そして、貴殿はその力を押さえ付けようと相当な無理をしているのだろう。その証拠に、私達と剣を交えてから力の加減が出来ていないようだが?」

 

そうだったのか………。

アセムに取り込まれたトライヘキサはまだアセムに抗っているんだ。

アセムはまだトライヘキサの力を完全に制御できていない。

むしろ、トライヘキサを押さえる方に力を持っていかれていて、アセムの力そのものは弱まっている。

そこをおっさんと爺さんは戦いながら見抜いていたのか!

 

アセムと剣を交えていたおっさんが突然、体を低く屈めた。

次の瞬間、おっさんの背後から聖なる波動が飛んできて、アセムを吹き飛ばした!

ストラーダの爺さんがおっさんの動きに合わせたんだ!

 

吹き飛ばされたアセムに追撃を仕掛けるおっさん。

駆けながら、剣気の斬撃を飛ばす!

 

だが、それは命中する直前に展開された結界によって簡単に防がれてしまった。

ストラーダの爺さんもおっさんに続いて、聖なる波動を再び飛ばすが、結界に阻まれてしまう。

 

おっさんが舌打ちする程に固い結界。

二人がどう攻略するのか見守っていると―――――おっさんが二振りある内の一振りの剣を投擲した。

鋭く投げられた剣は結界に突き刺さる………が、ビクともしない。

 

「その程度で、この結界は―――――」

 

アセムがそう言おうとした瞬間だった。

奴は言葉を紡ぐのを止め、目を開いた。

 

奴の視線の先にいるのは―――――拳を振りかぶったストラーダの爺さん。

腕の筋肉があり得ないくらいに膨らみ、拳に聖なるオーラが宿る。

そして―――――。

 

「ふんッッ!」

 

前方に勢いよく突き出された拳!

解き放たれる莫大な聖なるオーラ!

 

―――――聖拳!

 

拳から放たれた聖なる力は結界に突き刺さるおっさんの剣、その柄を捉え、押し込んだ。

アセムの張った結界が、爺さんの聖拳によって力を得たおっさんの剣に貫かれた!

おっさんの剣はそのままの勢いでアセムの肩に傷を負わせた!

 

「くっ! 僕の結界を破った!?」

 

驚愕するアセム。

そんなアセムの背後にモーリスのおっさんが回り込んでいて、

 

「言ったろ―――――おっさんを舐めるなよってな」

 

そう言うとおっさんは剣の柄を両手で握り、振り上げる。

それに応じるようにストラーダの爺さんもデュランダルを振り上げた。

爺さんはアセムの正面、おっさんとアセムを挟み込むように立っていた。

 

二人の剣を莫大なオーラが纏う。

 

「貴殿がトライヘキサの力を完全に掌握する前に決着をつけさせてもらおうか」

 

二人は同時に剣を振り下ろし―――――放たれた波動がアセムを完全に捉えた。

 

 

 




~あとがきミニストーリー~

アザゼル「なぁ、ミカエルよ」

ミカエル「なんでしょう」

アザゼル「最近のイッセー見てて………異世界帰りの赤龍帝というより、朝帰りの赤龍帝だと思ってしまうんだ。まぁ、その原因の一つは俺らなんだが」

ミカエル「それはそれで良いことなのではないでしょうか。我々、三大勢力もこれからは種のため、子孫繁栄に力を入れていかなければなりませんから。フフフ、赤龍帝と天使イリナには期待が膨らむばかりです」

アザゼル「そうか、そうだな………。よーし、そんじゃ、イッセーに子孫繁栄を期待して、乾杯といくか! サーゼクスも呼ぼうぜ!」

サーゼクス「既に来ているよ、アザゼル! 私も魔王として、一人の悪魔として、彼には期待しているのだ!」

アザゼル「話が早くて良い! 今日はとことん飲むぞ! 三大勢力の種馬ことイッセーに乾杯!」

ミカエル&サーゼクス「「乾杯!」」


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57話 燃える歌

お待たせしました~。
風邪でベッドの上から動けなかったので一気に進めちゃいました(* ̄∇ ̄*)



「凄い………」

 

壮絶な爆音が鳴り響く中、隣にいる八重垣さんがそう呟いた。

 

モーリスのおっさんが放った剣気による一撃、ストラーダのじいさんの放ったデュランダルの一撃。

二人が放った攻撃は一瞬でアセムを呑み込んだ。

おっさんとじいさんの無駄のないコンビネーションはアセムの隙を作り、防御すらさせなかった。

 

トライヘキサを吸収したアセムは、あの怪物の意識を抑え込むため、今は本調子ではないようだが………。

それでも、アセムが強力な存在であることには変わりない。

今の状態でも並の神クラスは相手にならないだろう。

そのアセムを相手にあの二人は互角か、それ以上の戦いをして見せた。

 

これがあの二人の実力!

あれが歴戦の戦士、最強の剣士の力!

まともにぶつかればアセムに分がある。

しかし、あの二人は経験から来る予測と長年に渡り磨き続けた技、そして互いの実力を考慮した上でのコンビネーションでアセムに一撃を叩き込んだ。

俺達の世界とアスト・アーデ、二つの世界の最強の剣士が組むとここまでの戦いを繰り広げることが出来るのか……。

この二人は間違いなく、最強のコンビだろう。

 

俺と八重垣さんが目の前の光景に目を見開いていると、俺達の前にモーリスのおっさんが降りてくる。

 

「ちっ……やっぱ、飛ぶのは慣れねぇな。あいつら、どうやってコツを掴んだんだか……」

 

「あ、流石のおっさんも飛ぶのは苦手なのな」

 

「俺にも苦手なものくらいある。俺は何でもできる完璧人間じゃないんでな。………それはそうと、気を抜くなよ、おまえら」

 

「え?」

 

注意を促され、つい声を漏らす八重垣さん。  

すると、いつの間にか横に立っていたストラーダのじいさんが言った。

 

「まだ戦いは終わっていないということだ。無論、私達は決着をつけるつもりで剣を振るった。しかし、この程度で終わるような相手ではないだろう」

 

その言葉におっさんが続く。

おっさんの視線は未だ舞い続ける砂煙に向けられていて、

 

「あの神様は生きてる。そんでもって、ここからが真の戦いだ。そこは実際に戦ったイッセーが一番分かってるんじゃないか?」

 

その問いかけに俺は無言で頷いた。

 

おっさんとじいさんが撃ち込んだ一撃は大抵の者なら食らえば即アウトになるだろう。

だけど、アセムは違う。

奴は俺の拳を何度も受けて何度も向かってきた。

実力もそうだが、奴の精神もまた常軌を逸しているんだ。

だから、アセムはまだ終わっていない。

 

それに俺の勘が正しければ、アセムは―――――。

 

「フフフ………アハハハハハハハ!」

 

途端、砂埃の中から笑い声が聞こえてきた。

まるで、この戦いを楽しんでいるような愉快そうな声。

 

アセムの声が続いて聞こえてくる。

 

「凄いね、凄いよ、君達。この僕に一撃を入れる人間がいるなんてね。その辺の神クラスより遥かに強い。誰よりも濃密な時間を過ごしてきたが故の力だ。これは流石に効いた」

 

ゴウンッ、ゴウンッと雷鳴が轟き始める。

砂埃の中で発生した稲妻が周囲へと広がり、辺りを焼き焦がしていく。

稲妻が発生している起点、そこを中心に一陣の風が吹き、視界を遮っていた砂埃を吹き飛ばした。

 

その時、俺達の前に奴が現れる―――――。

 

「おいおい………マジか」

 

姿を見せたアセム。

奴の右肩から胴にかけてバッサリと刻まれた斬撃の跡。

傷口からはアセムの背後の景色を覗くことが可能で、上半身が千切れてもおかしくないような状態だ。

おっさんとじいさんの攻撃が通じた証なのだろう。

 

だが、その状態でアセムは平然としていた。

それどころか笑みさえ浮かべている。

異様な光景に目を見開く俺達。

すると―――――。

 

ゴボッ、ゴホボッという音を発しながらアセムの体の断面から肉が膨らみ、今にも千切れそうだった上半身を繋いでいく。

数秒もしないうちに、アセムの体は元通りになってしまった。

 

傷が完全に塞がったアセムを見て、おっさんが目を細めた。

 

「再生能力か………。反則も良いところだ」

 

ストラーダのじいさんが続く。

 

「それだけではない。赤龍帝ボーイとの戦いではそのような能力は持っていなかった。つまり、彼は少しずつではあるが、確実にトライヘキサの力を自身のものにしているということだ」

 

アセムは再生能力なんて持ってなかった。

そして、再生能力はトライヘキサの持っていた能力。

じいさんの言うように、アセムの支配がトライヘキサの意識と力を呑み込み始めている証拠だろう。

 

回復した傷を撫でながらアセムが言う。

 

「君達のような強者との戦いはトライヘキサにとって良い刺激になったようだね。トライヘキサの興味が君達へと向けられているのを感じるよ。もう少ししたら、協力的になってくれたりするのかな?」

 

「そいつは勘弁願いたいものだな」

 

短くそう返したおっさんが剣を振るった。

放たれる黒い一撃。

あらゆるものを、空間でさえ断ち斬る剣聖の斬撃。

 

それをアセムは―――――片手で弾き飛ばした。

 

あれを弾くのかよ………!

明らかにアセムの力が増大していやがる!

 

おっさんは舌打ちをしながらも、即座に駆け出した。

じいさんもおっさんに並ぶように走り、アセムとの距離を詰めていくと、剣を振るう。

 

二人の剣士による目にも映らぬ剣捌きがアセムを襲う。

だが、アセムはそれらを余裕の表情で迎え撃っていた。

おっさんの双剣とじいさんのデュランダルと真っ向から撃ち合ってやがる………!

 

しかも、先程よりも動きにキレがあるように見える。

本当にトライヘキサを自分のものにしつつあるとすれば、いくらチートの体現者のようなあの二人でもアセムの相手は厳しいだろう。

もし、アセムがトライヘキサの力の全てを支配することが出来たときどうなってしまうのか………。

 

おっさんの剣がアセムの剣を弾き、アセムの体勢を崩したところを、じいさんがデュランダルで斬りつけた。

腰を捻って回避するアセムだが、僅かにデュランダルの切っ先が奴の肩を掠めてしまう。

だが、次の瞬間、傷口から煙があがり、瞬く間に傷を塞いでしまった。

 

おっさんが言う。

 

「回復ってのが厄介だな。しかも、消耗なしに回復とは恐れ入る」

 

その言葉にじいさんが頷いた。

 

「掠り傷はもちろんのこと、先程のような深傷すらも治してしまうところを見ると、彼の肉体そのものを消すしかないだろう」

 

「消すねぇ………。難易度高くね? 奴はどんどん力を上げてきている。このままいけば、確実に俺達だけじゃ抑えきれなくなるぞ」

 

アセムのデタラメさにチートおじさんですら苦笑を浮かべるしかないらしい。

 

アセムがいつもの笑みを浮かべて近づいてくる。

 

「作戦会議は順調かな?」

 

「これが順調に見えるか? 見ての通り、こちとら手詰まりだよ。それとも、神様らしくあんたがアドバイスでもしてくれるのかね?」

 

「アハハハ♪ 残念ながら僕は神は神でも堕ちた神だ。僕のアドバイスなんて期待しない方が良いよ?」

 

そう告げるアセムの周囲に魔法陣が展開される。

魔法陣が強い輝きを放つと、ありとあらゆる属性の魔法が禁術も含めておっさん達へと降り注いだ!

二人は剣で無限に降り注ぐ魔法の数々を斬り落としていくが、一撃の重さと、圧倒的すぎる物量に推されていた!

 

「ちぃッ!」

 

「ぬぅッ!」

 

唸る二人。

見れば、二人の頬や肩に傷が刻まれている。

しかも、時が経つほどに二人の傷は増えていっている。

 

その光景に八重垣さんが目を見開いていた。

 

「あの二人が捌ききれないというのか………!」

 

魔法の雨を降らせるアセムは手に握る黒い剣振りかぶった。

切っ先にはとてつもない質量を持った力が乗せられていて、

 

「これならどうかな?」

 

振るわれる漆黒!

横凪ぎに放たれた莫大なオーラがおっさんとじいさん目掛けて迫っていく!

 

ヤバい!

あんなもん、防御のしようがねぇ!

しかも、これだけの広範囲に放たれた攻撃だ。

避けるのことすら至難の技だぞ!

 

おっさんは直ぐ様に避ける体勢を取った。

だが、おっさんは背後にいた俺達を一瞬だけ見ると―――――。

 

「ったく、しょうがねぇ!」

 

剣に濃密な剣気を纏わせていく。

見ているだけで身震いするような力の波動がおっさんから伝わってくる。

 

おっさんが何をしようとしているのか理解した俺は叫んだ。

 

「迎え撃つつもりかよ!? 無茶だ、避けろよ!」

 

「動けねぇ奴は黙ってな! 眼鏡の兄ちゃん、全力で防御しとけ! かなり手荒になるぞ!」

 

おっさんはそう言うと、一振りの剣を鞘に納め、もう一振りの剣を両手で握る。

剣気をこれでもかと纏わせた剣を振り上げ―――――。

 

「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

迫るオーラの塊に剣を叩きつけた!

強大過ぎる二つの力の塊が衝突した影響で地面に大きな亀裂が入り四方に広がっていく!

空気が震え、空間が砕ける!

 

両者の力は拮抗しているように見えた。

だが………、

 

「ぐっ………! このやろ、こんなおっさんに向かってなんつー攻撃してきやがる………! ちったぁ、労りやがれ、くそったれがッ!」

 

踏ん張るおっさんの足が少しずつだが、後ろへと押し込まれていた。

顔に大量の汗を流し、苦痛に満ちた表情を浮かべている。

あのおっさんが押されているのか………!

あの剣聖がここまで押し込まれるのか………!

 

それでも、おっさんは斬り裂いた。

あの漆黒の砲撃を真っ二つに叩き割り、この窮地を凌いだんだ。

アセムからの攻撃を斬ったおっさんは少し息を荒くしていたが、どうにか呼吸を元に戻して、

 

「ふぅ………やってくれるぜ」

 

「今のを止めるのかい。ならば―――――」

 

アセムが更なる攻撃を仕掛けようとする………が、それは阻まれることになる。

奴の右から撃ち込まれてきた聖なる波動がアセムを遠くへと吹き飛ばした。

 

「私を忘れてもらっては困る」

 

「いやいや、忘れたつもりはないよ?」

 

始まるストラーダのじいさんとアセムの壮絶な斬り合い。

そこへ呼吸を戻したおっさんも加わり、二対一の戦いとなる。

だが、急激に力を上げていくアセムに二人は対応しきれなくなっていた。

先程まで攻勢だった二人は今、後手に回り始めている。

 

あの二人が俺達を守りながら戦っているのに、俺は………俺は………!

 

俺はズタボロの体に命じて立ち上がろうとする。

そんな俺を八重垣さんが止められた。

 

「無茶だ! 今の君は立ち上がることさえ出来ない! あの戦いに入ったところで足手まといになる!」

 

「分かってます! でも………それでも俺は………!」

 

制止を振りきろうとする俺に八重垣さんは俺の胸ぐらを掴んで、

 

「ここで君が消えてしまえば、悲しむ者がいる! 君は彼女を守ると誓ったんじゃないのか!」

 

「………ッ!」

 

八重垣さんの言葉が俺の胸に突き刺さった。

そして、嫌に暑くなっていた頭の中が一気にクリーンになった気がした。

 

ここで出ていけば、俺は間違いなく死ぬだろう。

もし皆を守ることが出来たとしても、その先は―――――。

 

八重垣さんは息を吐くと俺達を囲っていた龍を一度解くと前に出る。

それから八重垣さんは聖なるオーラで形作られた龍を一体、作り出すと俺を守護するように囲ませる。

 

「君はここにいるんだ。僕が出る」

 

「そんな………! ダメだ、八重垣さんの力じゃあの戦いには………!」

 

「だろうね。だが、君が出るよりも遥かにマシだ。一瞬だろうが、彼らが攻勢に出る時間くらいは作れるはずだ」

 

そうかもしれない。

作れる時間は確かに一瞬だろう。

瞬きする時間も得られないかもしれない。

だけど、それだけの時間があればあの二人なら反撃の糸口を掴んでくれるはずだ。

 

「でも、それじゃあ、八重垣さんが………!」

 

俺の言葉に八重垣さんは首を横に振った。

 

「僕は未来を得るためにここに来た。ここで何もしなければ、未来を得ることなんて出来ない。だから、僕はこの命に変えても今度こそ―――――」

 

八重垣さんが剣を構えた。

 

ダメだ、行ってはいけない。

たとえ元死人だとしても、あなたは今―――――。

 

飛び出そうとする八重垣さんに手を伸ばした。

その時―――――。

 

「おいおい、眼鏡の兄ちゃんよ! 俺との約束忘れてねぇか?」

 

前方でアセムの魔法を捌くおっさんから怒号にも似た声が飛んできた。

おっさんが叫ぶ。

 

「元死人だろうがなんだろうが、自分を犠牲にするようなことはするなと言っただろうが!」

 

それに、とおっさんは続ける。

 

「つーか、勝手に俺達が負けるって決めつけるなよ? こんなこともあろうかと、俺も秘密道具を持ってきているんだからな」

 

秘密道具?

おっさん、そんなものを持ってきていたのか。

いや、考えてみれば当然といえる。

相手の力量を考慮すれば、何かしらの秘策を持ってきておいても不思議ではない。

この危機的な状況だからこそ、おっさんはそれを使う決心をしたのだろう。

 

おっさんは懐を探ると、ある物を取り出し、それを俺へと投げ渡してきた。

掌に収まる四角い物体。

真ん中にはボタンがあり、横には小さな穴がいくつも空いている。

 

おっさんが叫ぶ。

 

「ボタンを押して起動させろ! そうすれば―――――」

 

こいつが何なのかは分からないが、おっさんがそう言うなら押すしかない。

この状況を脱するためにおっさんが用意した秘密道具だ。

何かしらの効果はあるはず。

 

そう思い、俺は言われるままボタンを押した。

すると――――――。

 

 

パンパカパーンパーパーパー

パンパカパーンパーパーパー

ドゥルル~ドゥルル~ドゥルル~

ドゥルル~ドゥルルルドゥルルル~

 

 

 

「………兵藤一誠くん」

 

「………はい」

 

「なんか、ロッキーっぽい曲が流れてきたんだけど」

 

「………そうですね」

 

八重垣さんの言葉に短く返す俺。

 

つーか、これって――――――。

 

「ただの音楽プレーヤーじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁ! なんで、ここでロッキィィィィィィッ!?」

 

「聞いてるだけで燃えてくるだろ」

 

「燃えませんよ! どんなタイミングでシリアス壊してくれてるんですかぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

これが八重垣さんの初ツッコミだった。

 

 




~あとがきミニストーリー~


美羽「ねぇねぇ、お兄ちゃん」

イッセー「どうした、我が妹よ」

美羽「ボクね、最近ずーっと思ってたんだけど………最終章に入ってから兄妹の絡みが少ない! というかほとんどないよ!」

イッセー「そうなんだよ! もうね、俺も色々限界なんだよ! イモウトニウムが切れて、限界なんだよ! だから、美羽! いいか!?」

美羽「うん! ボクもオニイチャンニウムが無くなって………だから、ボクをいっぱい抱き締めて!」

イッセー「美羽ぅぅぅぅぅぅぅ!」

美羽「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!」

ディルムッド「にぃに、ねぇね………私も、良い?」

イッセー&美羽「「ディルちゃぁぁぁぁぁぁん!」」

この後、数時間、兄妹のハグは続いたという。



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58話 集まる仲間

お待たせしました!


以前、戦場には戦いの音というものがあると聞いたことがある。

吹く風の音。

轟く雷鳴。

遠くから聞こえてくる戦士達の声。

それは戦士達に緊張感を与えると共に、死を意識させるものでもある。

 

そして今、ここにはもう一つ、戦いの音があって―――――

 

 

パンパカパーンパーパーパー

パンパカパーンパーパーパ

ドゥルル~ドゥルル~ドゥルル~

ドゥルル~ドゥルルルドゥルルル~

 

 

「なんで、ここに来てロッキーなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?」

 

俺は天を仰ぎ、渾身のツッコミを叫んだ!

 

モーリスのおっさんから渡された秘密道具。

この危機的状況を乗りきるための装置だろうと思ってたらまさかの音楽プレイヤー!

しかも、流れてくるのがロッキーのテーマ!

 

ふざけてんの!?

舐めてるの!?

最終決戦だよね、これ!?

 

おっさんが言う。

 

「この曲聞いてたらなんか燃えね? やる気が出てくるだろ?」

     

確かに燃えるよ! 

聞いてるだけで何か出来る気分になるよ!

こんな状況じゃなければな!

 

今はただただシリアス壊してるだけだよ!

なんで、ここまで続いたシリアス壊しに来た!?

かなり良い感じに真面目な雰囲気だったじゃん!

世界の命運をかけた戦い、己の意思のぶつかり合いを繰り広げてたじゃん!

全てロッキーに燃やし尽くされたわ!

 

八重垣さんが叫ぶ。

 

「切って良いですか!? オフにして良いですか!? ただただ腹立つんですけど!」

 

「えー………」

 

「なに、その嫌そうな顔!? そんなに嫌か!?」

 

見ろよ、あの八重垣さんがついにツッコミ入れたぞ。

今にもハリセン持ち出して、おっさんの頭を叩きそうな雰囲気だ。

 

ヤバイよ、これ。

どうすんだよ、これ。

どうすりゃ良いんだよ、これ。

 

ていうかさ、今流れてる曲って―――――

 

 

ふぇに~すもんじゃ~

ふぇに~すもんじゃ~

 

 

「ふぇにすってなんだぁ!? つーか、これ微妙にロッキーじゃねーし! パチもんじゃねーか!」

 

さっきから微妙にメロディーが違うと思ってたら、やっぱりそうかよ!

なんだよ、ふぇにすもんじゃって!

戦闘意欲出るどころか、力抜けるわ!

 

無償に腹立つんだけど、この音楽プレイヤー、地面に叩きつけても良いかな?

良いよね、許されるよね、これ。

 

おっさんが言う。

 

「あー、それな。アザゼルが元々のCDを誰かに借りパクされたとかなんとかって………」

 

「これ作ったのアザゼル先生かいぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

諸悪の根元はあのおっさんか!

何してくれてるんだよ、あの人!

って、アザゼル先生、借りパクされたんだね!

ドンマイ!

 

「まぁ、作ってくれって頼んだのは俺だけどな?」

 

「聞いてねーよ! 諸悪の根元はやっぱりあんたか!」

 

「諸悪の根元たぁ、ひでーな。元々はカラオケ練習用の音楽プレイヤーとして作ってもらったんだぞ?」

 

「いやいやいや、じゃあ、なんで持ってきたのって話になるから。ていうか、いつの間にカラオケとか行ってたんだよ!」

 

「この前、アザゼル達と飲んだ後に行ってきた」

 

このおっさん、こっちの世界に来て全力で楽しんでやがる………。

それが悪いとは言わないけど、それをこの場に持ち込まないでほしいよ。

お願いだからシリアスを壊さないで下さい。

 

俺がガックリと肩を落としていると、ストラーダのじいさんが―――――。

 

「ふぇに~すもんじゃ~……」

 

「おぃぃぃぃぃぃ! 何を口ずさんでるの!?」

 

「先程のメロディーが頭に残ってしまってね。頭の中から抜けなくなってしまったのだよ」

 

さ、最悪だぁぁぁぁぁぁぁ………。

ストラーダのじいさんが『ふぇにすもんじゃ』にやられてしまった!

勘弁してくれよ、じいさんまでこっちに来ないで!

あんたはこっち側に来ちゃいけない人なの!

シリアス側の人なの!

せめて、微笑ましく見守るだけにしてくれ!

 

八重垣さんが膝を着いた。

その顔はとても現実を受け入れられないといった表情で、

 

「何と言うことだ、ストラーダ猊下まで………! こんなのツッコミがいくらあっても足りないじゃないか………!」

 

ですよね!

足りないですよね!

俺も信じられないよ!

なんで、ストラーダのじいさんまでボケ側に回るかな!

 

すると、俺の耳に爆笑するアセムの声が聞こえてきて、

 

「ブフッ、アッハッハッハッ! くっ、ひぃひぃ………笑いすぎてお腹が………ゲホッゲホッゲホッ………オエッ」

 

「おまえまで入ってくるなよ! もう、こっちは十分ボケ空間が広がってるんだよ! もうボケの飽和状態なんだよ! これ以上、俺達にツッコミさせないで!」

 

「いや~そんなこと言われてもさ。うん、やっぱり、君はボケを呼ぶドラゴンだったんだ。前々から思ってたんだけど、今度から禁手化(バランスブレイク)じゃなくて、崩手化(シリアスブレイク)って叫んだらどうだろうか」

 

「なにそれ!?」

 

禁手化の代わりになんつーもん言わせようとしてんの!?

 

アセムの言葉にドライグが問う。

 

『相棒がそれを叫ぶとどうなるんだ………?』

 

「んー………『赤龍帝と愉快な仲間達の爆笑世界(ブーステッド・ギア・シリアルワールド)』とか? 良かったじゃん、亜種の禁手が出来たじゃん。あ、禁手じゃないね、崩手(シリアスブレイカー)だった」

 

『そうか………』

 

どこか諦めの混じったドライグの声。

 

お、おい、ドライグ?

なんか、声のトーン低くない?

ツッコミはどうした?

 

『いや、相棒ならやりかねん気がしてな。というか、もう発動しているかもしれないと思ってしまったのだ。常時発動型の崩手化(シリアスブレイク)とか、どうしようもない。そう思えば諦めも着く………はぁ』

 

諦めるな!

諦めないでくれよ!

 

「もうやだ! なんでこんなぐだぐだな空間が広がってるんだよぉぉぉぉぉぉ!」

 

俺は天を仰ぎ、心の底から叫んだ。

 

シリアスが………シリアスが消えてしまった。

どうしてこうなった?

 

すると、アセムが不敵な笑みを浮かべて言ってきた。

 

「僕はただ壊すだけだ。このシリアスな世界を………!」

 

「もう壊れてるよ! シリアス粉々に砕け散ってるよ! これ以上何を壊すというんだ! つーか、その台詞どっかで聞いたことあるよ!? あと、いつの間に眼帯つけた!? さっきまでそんな包帯なかったよね!? 分かってやってるだろ!?」

 

「シリアスよ、安らかに眠れ………」

 

「シリアァァァァァァァスッ! カームバァァァァァァァァクッ!」

 

どんなに願っても、どんなに叫んでも俺の願いは叶わない。

どれだけツッコミを入れても次から次へと現れるボケの数々。

壊されていくシリアスを前に俺は――――――。

 

「エイドリアァァァァァァァンッ!」

 

ただそう叫んだのだった。

ちなみに叫んだ内容に意味はない。

 

 

 

 

「さてさて、テンションを上げたところで………奴をどう攻略するかね?」

 

モーリスのおっさんが首を鳴らしながらそう言った。

 

テンションなんて上がってないよ。

無駄にシリアス壊しただけなんですけど………。

 

「ぶっちゃけて言うぞ? 今のあんたを止めるには俺とじいさんだけじゃあ、手が足りなくなっている」

 

ストラーダのじいさんも続く。

 

「うむ。貴殿は時が経つほどにトライヘキサを自身のものにして力を増す。対して私達は体力を失う一方だ。それに私が使った秘薬の効果ももう少しで失われるだろう。そうなれば、どうなるか結果は見えている」

 

やっぱり、アザゼル先生が作ったというあの薬は時間制限があるのか。

いくらじいさんでも元の姿になれば体力がついていけず、押しきられてしまう。

今のじいさんの言葉からして、戦える時間はそう長くはないのだろう。

 

モーリスのおっさんもそうだ。

ここに来る前にヴァルスとやりあったという。

アーシアに傷を癒してもらっていても、体力までは完全に戻すことはできない。

しかも、俺と八重垣さんを庇った時に相当な力を使っている。

 

俺は戦闘不能。

八重垣さんが出ても、二人の足を引っ張ることになってしまう。

………厳しいな。

 

厳しい表情を浮かべる俺達。

すると、おっさんが小さく呟いて、

 

「間に合ってくれれば良いんだがな………」

 

「そうですな。それまでは何としてでも………」

 

間に合う?

それってもしかして―――――。

 

「ま、どのみち今はやるしかねぇんだ。やるぞ、じいさん!」

 

「良いだろう! 我らの教え子がここまでの道を切り開いてくれたのだ。私も戦士としての維持を見せようではないかッ!」

 

途端、二人から凄まじい覇気が放出される!

二人の覇気は後ろにいる俺達をも圧迫してくる。

息が出来ないくらい重く、濃密な………。

 

「ここに来てこれだけの力を………! あの二人は底無しか………!?」

 

モーリスのおっさんとストラーダのじいさんは地面を蹴って瞬く間にアセムに迫った。

流れる清流の動きで相手に自分の動きを悟られないようにし、剣を振るうときは烈火のごとく攻め立てる。

静と動を完全に使い分けた一部の無駄も隙もない。

剣を極めた最強の武人の全て。

 

だが―――――

 

「アハハハハハハッ! もっとだ! もっと力を上げてよ! こんなもんじゃないだろう?」

 

アセムは二人の猛攻を凌ぐどころか圧倒していた。

アセムが放つ剣が、魔法が彼らに深い傷を負わせていく。

おっさんの剣を弾き、おっさんの腹に回し蹴りを入れる。

じいさんの聖拳を流すと、肩から脇腹にかけて大きく斬り裂いた。

 

「ゴフッ」

 

「ぬぅ………!」

 

アセムの強烈な反撃に苦悶の表情を浮かべる二人。

だが、激痛をその精神で無理矢理抑え込む二人の攻撃の手は止まらない。

連撃に連撃を重ね、神速の剣を幾重にも繰り広げていく。

 

しかし、彼らの神速の剣すらアセムは軽々と捌いてしまう。

奴の力が桁違いに膨れ上がっている。

もうどれたけトライヘキサの力を己のものにしているのか………。

 

おっさんが剣気で黒く染まった剣をアセムに叩き込む。

それに応じてアセムも自身のオーラで作り出した剣を振るい―――――おっさんの剣が砕け散った。

 

「なっ………!?」

 

その光景に俺は目を見開いた。

そして、目の前の事実を受け入れられないでいた。

 

おっさんの剣が砕けた………!?

嘘だろ………!?

 

確かにおっさんが所有しているあの二振りの剣は良く斬れる名刀という点以外は普通の剣だ。

魔剣でも聖剣でも神剣でもない。

しかし、おっさんは磨き上げた剣技によって相手が聖剣が来ようとも魔剣が来ようとも真正面からやりあっていた。

そのおっさんの剣が砕けた。

それはつまり、アセムの力が完全におっさんを上回ったということ。

 

自身の剣が砕かれたことにおっさんは目を見開き―――――宙に舞う折れた切っ先を握り、アセムの肩に突き刺した。

アセムの肩から噴き出す血を見て、おっさんは不敵に笑んだ。

 

「まさか剣を折られるとは思わなかったぜ。ま、俺もまだまだってことかね? だが、この程度で動揺を誘えると思うなよ?」

 

そのまま突き刺した切っ先を深く押し込み、アセムの腹を蹴り飛ばした。

おっさんが左手を突き出すと、掌に光が集まり始める。

 

「あれは………召喚の光………?」

 

掌に集まった光は形を成し、薙刀が現れる。

おっさんは召喚した薙刀をアセムめがけて投擲。

アセムの胸を薙刀が貫いた。

 

胸に突き立つ薙刀を見て、アセムは口から血を吐き出しながら笑む。

 

「君が薙刀を使うとは………!」

 

「薙刀だけと思うなよ?」

 

アセムの懐に潜り込むおっさんの両手に握られるのは短剣。

おっさんはその握った短剣をアセムの掌に突き刺した。

突き刺した短剣を手放し、次に召喚するのは槍。

 

「ここに来る前、ワルキュリアに術式を組み込んでもらっていたのさ。これであいつのメイド服の中にある武器全てを俺は扱える」

 

おっさんは槍でアセムから放たれたオーラを斬り裂きながら言う。

 

「アリスに槍を教えたのは俺だ。ライトとイッセーに剣を教えたのも俺。ワルキュリアに暗器の使い方を教えたのも俺だ」

 

「なるほど。だけど、君の力では今の僕には届かない」

 

アセムが振るわれた槍を掴み、握り潰した。

その直後、空いた手で迫るデュランダルの切っ先を掴んだ。

 

「訂正だ。君達二人(・・・・)の力では今の僕には届かない」

 

そう告げるとアセムはデュランダルをもその手で破壊した。

 

まずい、二人の得物が失われた!

いくら二人でも丸腰では………!

武器を失った二人に焦る俺。

その時だった。

 

ジャラ、という音がしたと思うとアセムの両腕に鎖が巻き付いた。

見るとおっさんとじいさんの手にそれぞれ鎖が握られていて、左右からアセムの腕を引っ張っていた。

あれはワルキュリアの鎖分銅か!

 

両腕を封じられたアセムが言う。

 

「これで僕の動きを封じたつもりかい? たとえこれで僕の動きを止められたとしても、君達にはもう剣がない。どうするつもりだい?」

 

アセムの言葉を聞き、おっさんとじいさんは自身の血で足元を濡らしながらも笑みを浮かべた。

 

「はっ! 確かに俺達は得物をあんたに砕かれた。だがな―――――」

 

「我々の刃はこれだけではないぞ」

 

次の瞬間―――――動きを封じられたアセムを爆撃が襲った!

四方から放たれる極大の攻撃の数々!

こいつは………この力は………!

 

「お待たせ、お兄ちゃん」

 

その声に振り向いた時、そこにいたのは優しい微笑みを見せてくれる美羽。

そして、頼もしい仲間達―――――チーム『D×D』が駆けつけてくれていた。

 

 

 




~あとがきミニストーリー~

イグニス「イッセー、あなたの更なる可能性の扉を開く時が来たわ」

イッセー「そうだな。………俺はまだまだ先へ進む。今を超えて、更に向こうへ」

ドライグ『待て、おまえ達。このやり取り、少し前にも見た気がするのだが………』

イグニス「今のあなたなら分かるはずよ。共に叫びましょう! あなたの求めるものを! ずっと心の奥にあるものを!」

ドライグ『無視か!?』

イッセー「見せてやるよ、俺の新たな力を、更なる可能性をな! 来い! 俺の―――――」

ドライグ『おまえもか!? おまえ達に俺の声は届かないのか!?』





イッセー&イグニス「「偉大なるおっぱいの大楽園(グレイテスト・おっぱい・ハーレムワールド)ッ!」」

ドライグ『シスコンから乳に変わっただけだろうがぁぁぁぁぁぁッ!』


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59話 忘れられた者達

HGナラティブA装備とHGディジェとRGユニコーン(ライトニングモデル)を買って財布が………!
しかも、今月はまだRGのフルコーンまで………!
もってくれよ、俺の財布ぅぅぅぅ!

というわけで、お待たせしました!
最終決戦、総力戦の始まりです!


トライヘキサを取り込み、アセムの力は時間を経るごとに増大してきている。

その力はモーリスのおっさんの剣を、ストラーダのじいさんの振るったデュランダルを砕くほどだ。

あの二人が組んでもアセムは更に上の次元に立ち、二人を追い詰めたんだ。

先の戦いで力を使い果たした俺もモーリスのおっさんもストラーダのじいさんも今のアセムには勝てない。

そんな絶望が俺達を呑み込もうとした、その時に光は現れた。

 

「お待たせ、お兄ちゃん」

 

美羽はそう言うと優しい微笑みを見せてくれた。

 

アリスに肩を担がれ、やっとの思いでここまで来たのだということは見てすぐに分かった。

これまでの戦いで負った傷はアーシアの治癒で治ったのだとしても、体力は酷く消耗している。

それでも、美羽はいつもの笑顔を俺に向けてくれた。

どんなに辛いことがあっても折れない強く優しい――――。

 

美羽だけじゃない。

美羽を担いでいるアリスやリアス達も、あの激戦を潜り抜け俺の元まで駆け付けてくれた。

希望を繋いでくれたんだ………!

 

先程の砲撃によって立ち上る煙の中からモーリスのおっさんとストラーダのじいさんが飛び出て、こちらまで戻ってきた。

俺の側に着地した途端に二人はその場に膝をついてしまう。

二人とも肩を上下に揺らしていて、かなり息が荒い。

そして、ストラーダのじいさんの方は元の老人の姿に戻ってしまっていた。

二人ともトライヘキサを吸収したアセムを相手にして限界ギリギリのところまで戦っていたらしい。

 

額から汗を流すおっさんは苦しそうにしながらも、ニヤリと笑んだ。

 

「ったく………遅ぇよ。いくら俺達でも限界はあるんだぜ? だが、よく来てくれた。よく間に合わせてくれた。アーシア、小猫はイッセーの治療をしてやってくれ」

 

「ちょ、モーリス!? しっかりしなさいよ!」

 

初めて見るおっさんの苦しそうな姿にアリスも慌てた声を出す。

 

今まで、一度たりともこんな光景は見たことがなかった。

『剣聖』の存在は俺達にとって、それだけ圧倒的で絶対的だった。

どんな敵が来ても余裕の笑みで倒してしまう、最強の剣士。

そんなおっさんがここまでなるなんて………。

 

リーシャはおっさんの元に駆け寄ると胸に手を添えて、体を支える。

 

「無理をしすぎですよ、モーリス。いくら、あなたが強いと言っても相手が相手なのですから」

 

その隣ではモーリスのおっさんと同じく、疲労の色が濃いストラーダのじいさんの体をゼノヴィアとイリナが支えていた。

 

ゼノヴィアが言う。

 

「猊下、遅くなり申し訳ありません」

 

「なに、私は私の成すべきことをやったまで。戦士ゼノヴィア、戦士イリナよ。よくぞ、ここまで来てくれた」

 

じいさんの言葉にイリナが返す。

 

「はい。私達には頼もしい仲間がいますから。猊下、ここから先は私達にお任せください」

 

「猊下達が命をかけて繋いでくれた希望の灯は決して消させません」

 

教え子二人の逞しい言葉にじいさんは満足そうな笑みを浮かべて頷いた。

 

俺のところにはアーシアと小猫ちゃんが来てくれる。

二人は俺の胸に飛び込むように抱きついてきた。

二人の顔を見ると目元を薄く涙で濡らしていて、

 

「イッセーさん、またこんなにボロボロになって………でも、良かったです………! イッセーさんとこうしてまた話せました。イッセーさんが生きて、私達のところにこうして帰ってきてくれました。それだけで、私は………」

 

「先輩と話せなくて、寂しかったです………。ずっと、待ってたんですよ?」

 

アーシアも小猫ちゃんも涙ぐみながらも、微笑んでくれた。

アーシアの手から発せられた淡い緑の光が俺を包み、傷を癒し、体に触れる小猫ちゃんが乱れた体内の気を整えてくれる。

外側と内側の両方から行われる治癒は、全身を蝕んでいた痛みを一瞬で和らげてくれた。

 

治癒を受ける俺の横に美羽がしゃがみこむ。

美羽は俺の頬に手を伸ばすと、そっと触れた。

 

「お兄ちゃん………」

 

「美羽………」

 

憂いのある表情で見つめ合う俺達。

 

何も言わずとも美羽の気持ちが分かった。

美羽だって、俺の気持ちを理解しているだろう。

分かっていたさ、こうなることは。

俺達はずっと待っていたんだ、この時が来るのを―――――。

 

「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッッッッ!!」

 

「美羽ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッッ!!」

 

俺達は号泣しながら、抱き合った!

そうさ、俺達はずっと待っていたんだ!

兄と妹の触れ合いが出来るこの時をな!

 

「久し振りのお兄ちゃんだぁぁぁぁ!」

 

「超久し振りの美羽だぁぁぁぁ!」

 

この温もり!

この匂い!

この鼓動!

ついに来たよ、我が妹がこの胸に!

 

スーハー………スーハー………あぁ、補充されていく………。

圧倒的に不足していた妹成分、イモウトニウムが補充されていく………。

 

そこにアリスのツッコミが炸裂する!

 

「予想できてたけど、あえてツッコむわ………このいきなり過ぎるシスコンブラコン劇場はなに!?」

 

「ふぁぁ………お兄ちゃんと久し振りのハグ………。最高だよ………」

 

「無視!?」

 

アリスさんよ、そう声を荒げなさんな。

これは兄と妹の儀式的なものなのだよ。

これがないと生きていけないのよ、俺達。

 

超久し振りに抱き合う俺と美羽のところにディルムッドが来て、

 

「にぃに、ねぇね………私も………良い?」

 

「「ディルちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!」」

 

恥ずかしそうにするディルちゃんを抱き寄せる俺と美羽!

力強く抱き締められたせいで、少し苦しそうだが、頬を赤くして嬉しそうにしている。

 

「にぃに………にぃに………会えて良かった………良かった………」

 

目元に涙を浮かべて言うディルちゃん。

 

なんなんだよ………ちくしょう………!

もう意味が分からねぇよ!

無愛想系の妹のデレとか可愛すぎるだろ!

最高かよ!

にぃに、萌え死にそう!

 

「イッセーさん、美羽さん達ばかりズルいですぅ!!」

 

「私達もギュッてしてくれないと嫌です」

 

はぅっ!

ここに来てのアーシアと小猫ちゃんのダブル上目遣いだと………!?

プクッと頬を膨らませるアーシアと猫耳をピクピクさせて、尻尾をフリフリする小猫ちゃん………。

これは………これはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

「ガハッ!」

 

俺は吐血した。

うん、メチャクチャ血が出てきた。

鼻血もたくさん出た。

 

「イッセー君!? 戦闘とは関係ないところで、どれたけ血を吐くんだい!? というか、治療中にシスコン発揮し過ぎだよ!」

 

おおう、木場のツッコミも凄く懐かしく感じるぜ。

 

俺はついでに出てきた鼻血を押さえながら言う。

 

「いや、今回はシスコンだけじゃないぞ? アーシアと小猫ちゃんの癒しも入ってだな………。まぁ、美羽とディルちゃんで既に限界突破したけど。イモウトニウムが凄いことになったけど」

 

「イモウトニウムってなに!? 君はどれだけ妹が好きなんだ!?」

 

「愚問だな! 数日離れると発狂しそうになるぜ!」

 

「それはもう病気だよ! 一度、大きな病院で診てもらおう!」

 

「もう手遅れさ!」

 

「自分で言ったよ! 手遅れって認めちゃったよ!」

 

誰にも俺は治せない!

この想いはどこまでも!

 

「ゆ、祐斗先輩のツッコミがパワーアップしてますぅ!」

 

「ゆ、祐斗ったら、キャラ変わったかしら?」

 

「いえ、リアス。多分、あれが修行の成果なのですわ」

 

「どんな成果!?」

 

あ、少し離れたところでリアスのツッコミが………。

 

ん………?

ちょっと待て。

なんか、リアスのおっぱいが………あれ?

おかしいな、あり得ない光景が見えたんだけど………。

 

俺は何度も目を擦って何度も確かめてみるが、結果は変わらなかった。

それが現実だと分かった瞬間、手が震えた。

 

嘘だ………嘘だろ?

リアスのおっぱいがそんな………そんな―――――。

 

「リアスのおっぱいが縮んでるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

 

リアスのあの大きなおっぱいが無くなり、ペタンコになってるぅぅぅぅぅぅぅぅ!?

なんでだ!?

何があった!?

あの素晴らしいおっぱいは何処に!?

 

すると、俺の中にいるイグニスが言ってきた。

 

『うーん、これはチクビームの撃ち過ぎね。リアスちゃんの乳力を使い果たしたんだわ』

 

チクビーム!?

なにそれ、初耳なんですけど!?

 

『説明しよう! チクビームとはスイッチ姫にだけ許された乳技! 乳首からビームを撃つ技よ!』

 

そのまんまじゃねぇか!

つーか、リアスになんつー技を修得させてるの!?

教えたのあんただろ、この駄女神!

 

………って、ちょっと待て。

スイッチ姫にだけ許された乳技ってことは―――――。

 

『リアスちゃんだけじゃないわ。アリスちゃんもチクビーム撃てるのよ?』

 

「やっぱりかよぉぉぉぉぉ!」

 

アリスも撃てるのかよ、チクビーム!

よく撃つ決心したと思うよ、我が『女王』!

絶対に顔真っ赤だったよね!

絶対に涙目だったよね!

 

「うぅ………私、頑張ったもん。恥ずかしかったけど、チクビーム撃ったもん」

 

目元を押さえるアリスさん。

よっぽど危機的状況だったんだろうなぁ………。

 

チクビームを撃った影響でリアスのおっぱいはペタンコになってしまったが、アリスはと言うと、

 

「リアスと違って、あんまり変化がないような………なんで?」

 

アリスのおっぱいは大して縮んでるようには見えない。

個人差ってやつなのかね?

 

そんな疑問を抱いているとリーシャに支えられているモーリスのおっさんがボソリと呟いた。

 

 

「そりゃ、縮むもんが無いんだから縮みようがねーだろ」

 

 

………ヤバい。

おっさん、そいつは禁句だよ。

 

おっさんの呟きを聞いてコンマ数秒後。

 

「なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

「ぶべらっ!?」

 

白雷のアリスパンチがおっさんに炸裂した!

空中で高速回転した後に地面をバウンドするおっさん!

 

「痛ぇ!? なにすんだ! こっちはボロボロなんだぞ!?」

 

鼻血を押さえながら抗議するおっさん。

しかし、アリスさんのお怒りは治まらない!

 

「私だってね………私だってね、これでも成長してるのよぉぉぉぉぉ!」

 

「お、おう………いや、それでもリアスのバストには追い付けるとは思えんのだが………。つーか、巨乳のおまえとか想像できん」

 

バキィッ!

 

鋭いストレートが再びおっさんを捉えた!

 

「二度もぶったな!? ブライトさんにもぶたれたことないのに!」

 

ブライトさんにぶたれた人の方が少ないと思うんですけど!?

つーか、こっちの世界に来てから間もないのに、よくブライトさんを知ってたな!

 

俺がツッコミを入れる間もアリスさんは号泣しながら拳を振り下ろす!

 

「うるさぁぁぁぁい! リアスさんみたいになれないのは私が一番分かってるわよおぉぉぉぉぉ! それでも、大きくするもん! イッセー好みのおっぱいにしてみせるもん! うぇぇぇぇぇぇぇぇん!」

 

「ギャァァァァァァ! 誰か! 誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 貧乳に殺されるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

「貧乳って言うなぁぁぁぁぁぁ! びぇぇぇぇぇぇぇん!」

 

おっさんがヤバイことになってる!

フルボッコにされてるよ!

いいの!?

剣聖の最期がそれでいいの!?

とりあえず、モーリスのおっさんに回復の光を送ってくれているアーシアちゃん、ナイス!

 

 

 

「なんか………完全に忘れられてますよね、俺達」

 

「匙、これについては諦めましょう。どうしようもありません」

 

ガックリと肩を落とす匙&ソーナ、二人の言葉にうんうんと頷くその他のシトリー眷属。

 

「いや~流石にイッセーどんの周囲は賑やかな人が多いっすよね~」

 

アハハといつもの軽い口調で笑うデュリオ。

 

 

そして――――――。

 

 

「むぅ………やはり、兵藤一誠に勝つには俺もああいうところを見習うべきなのだろうか」

 

「やめてください、サイラオーグ様。絶対に真似しないでください。バアル眷属には彼らのようなツッコミが出来る者はいません」

 

新しい道への一歩を踏み出そうとするサイラオーグさんを止めるクイーシャさんだった。

 

 




………最終決戦ってなんだっけ?


~あとがきミニストーリー~


サーゼクス「イッセー君、少し見てもらいたいものがあるのだが、良いかな?」

イッセー「これは………将来の希望職種アンケート?」

サーゼクス「うむ、これは冥界の子供達に書いてもらったアンケートの結果なのだが………一位がおっぱいドラゴンなのだ」

イッセー「あー、子供の時ってヒーローに憧れますからね」

サーゼクス「ついでにサタンレッドはランキング外だったよ………グスッ」

イッセー「………」





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60話 超最終決戦、開始

クリスマス、特にイベントなしで終わった!(笑)


「なぁ、兵藤。なんで、おまえを中心にするとこんなグダグダな空気が広がるんだよ?」

 

「………面目ない」

 

半目で問うてくる匙に俺は短くそう返した。

 

いや、俺だってシリアス壊したい訳じゃないんだよ?

ただ、久し振りに愛しの妹とまともにスキンシップ出来て舞い上がってたというか………。

ごめんね、シスコンで。

 

すると、イグニスが言ってきた。

 

『シスコンを気に病むことはないわ。妹はただ抱き締めてナデナデしてあげればいい。それがお兄ちゃんの特権よ』

 

だよね!

どっかで聞いた台詞だけど、イグニス姉さんの言う通りだよ!

 

まぁ、それに加えてリアスのおっぱいがペタンコになってたことも雷撃たれたくらいに衝撃だったんだよ。

もう目が飛び出そうなくらいき驚きだったんだよ。

あの素晴らしいおっぱいが失われたんだぞ?

そりゃあ、戦いそっちのけになってしまいますよ。

 

駄女神ことイグニスが言う。

 

『ちなみにアリスちゃんのおっぱいにあまり変化がないのは乳力をあまり使ってないからよ』

 

つまり、リアスは乳力が空になるまでチクビームを撃ちまくってたということね。

いったいどんな状況だったのか………。

 

『心配しなくても、乳力が戻ればリアスちゃんのおっぱいも元の大きさに戻るわ』

 

と、イグニスが補足説明をくれた。

 

とりあえず、これは一時的なもので回復すればリアスのおっぱいも復活するということか。

良かった良かった。

そいつは一安心だ。

 

うんうんと頷いている俺の横ではアリスによってボコボコにされたモーリスのおっさんが腫れた頬を擦っている。

 

「痛ぇ………なにもここまでしなくても良いだろうが。おまえって奴は加減を知らねぇ………」

 

「グスッ………だって、モーリスが貧乳とか言うから………うぇ」

 

「泣きたいのはこっちだっての。おい、イッセー。このじゃじゃ馬の手綱くらいちゃんと握っておけ。俺の身がもたんよ」

 

それは無理だな。

だって、アリスさん自由なんだもの。

俺の『女王』なのに顎で使ってくるもの。

主従関係なんて俺達の間じゃ成立してないよ。

 

『ベッドの上ではイッセーにされるがままなのにね♪』

 

やめろや、駄女神!

公の前でそういうこと言うのやめてくれません!?

確かに夜の時のアリスはいつのもお転婆から初な女の子に変わっちゃうけど!

メッチャクチャ可愛くなるけども!

 

『まぁ、イッセーのテクニックも順調に上がってきてることだし~。次は匙君! 君に決めた!』

 

「俺すか!?」

 

『そう! あなたもソーナちゃんとあーんなことや、こーんなことをしたいはず! ソーナちゃんみたいなタイプは勢いで押し倒すのが一番! さぁ、やっちゃいましょう!』

 

「な、ななななななななななな!?」

 

イグニスの発言に顔を真っ赤にするソーナ!

 

マズい!

駄女神の標的がついにシトリー側へと向けられてしまった!

本当にやめてあげて!

向こうはこっちほど勢いで生きてないんだよ!

お願いだから、そっとしておいてあげてよ!

 

すると―――――

 

「あははは………僕はもう疲れたよ………。ツッコミなんて二度と………うふふ、あははは」

 

「ゆ、祐斗先輩………? 祐斗先輩が壊れましたぁぁぁぁぁ!」 

 

木場ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

なに精神崩壊起こしてるの!?

ツッコミ役がそんなに辛かったの!?

ストレスだったの!?

本当にごめんね!

だから、帰ってきてくれ!

 

「うへ、うへへへ………シリアスなんてもうどこにもないんだ………シリアル………シリアス? シリアル………うへへ」

 

「悪化具合が酷くなってる!? 木場ぁぁぁぁぁ! しっかりしろぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

虚ろな目で空を見上げる木場!

怖いんですけど!?

なんか不気味なんですけど!?

 

不気味な雰囲気を醸し足す木場の体をリアスが揺らす。

 

「祐斗!? しっかりなさい! まだ戦いは終わっていないのよ!?」

 

「………はっ! ぼ、僕は何を………」

 

おおっ!

木場が元に戻った!

元のイケメン王子が帰ってきてくれたぞ!

 

正常な意識を取り戻した木場をリアスが抱き締めた。

 

「良かった………ゴメンなさい、祐斗。あなたにばかりツッコミを押し付けてしまって………こんなになるまでツッコミを………」

 

「あ、あの、良く分からないのですが………ツッコミは僕の役目でもあるので………ほどほどに頑張ります」

 

何が何やら分からないと言った感じの木場。

………記憶がないのだろうか?

それはそれでヤバいことになってる気がするが………今度、木場のストレス発散に付き合った方が良いのかもしれない。

 

正常な木場が帰ってきてくれたところで一段落した俺達は意識を前にいる奴に向けた。

リアス達の総攻撃を受けたであろうアセムだ。

奴はリアス達が集まってから一切動きを見せていないが―――――。

 

 

「ブハハハハハッ! アハッ、ハハハハッ! ゲホッゲホッ、オエッ! ブフッ、アッハハハハハハ!」

 

 

アセムは腹を抱えて地面を何度も叩いていた。

爆笑しながら転がり回っていた。

 

うん、なんとなく分かってたよ。

こういう奴だよ。

普通なら今までのやり取りの間に攻撃してくるものだろう。

だが、こいつは違う。

普通に爆笑する。

今みたいに。

 

………って言うかさ、改めて思うけど、こういうシリアルな空気が一番、アセムに対してダメージを与えているよね?

チートおじさんコンビで攻めても攻めきれなかったのに、今は笑い過ぎて脇腹を痛めてるのだが………。

 

アセムは笑いすぎて出てきた涙を拭うと、改めて俺達に視線を移す。

そして、薄く笑みを浮かべた。

 

「ようこそ、チーム『D×D』の諸君。よくこの戦場をここまで駆け抜けられたね。神々ですら既に何柱も消滅しているというのに。その突破力には僕も驚きを隠せないよ」

 

両手を広げて、駆け付けたリアス達を称賛するアセム。

 

驚きを隠せない?

どこをどう見たらその余裕の表情が驚いているように見えるんだよ?

こいつは最初から分かっていたはずだ、このメンバーは必ずここまで来ることが出来るということを。

今のチーム『D×D』にはそれだけの力がある。

 

「理解したよ、ヴァスコ・ストラーダとモーリス・ノア。途中から感じた違和感はこれだったか。君達は僕がトライヘキサを取り込むことを知っていた。そして、もしもの時を考えて打った手がこれと言うわけだ」

 

その問いにモーリスのおっさんが答える。

 

「まぁな。おまえさんがあの化け物を取り込んだ時点で俺達だけでおまえを倒すのは難しいだろうと踏んでいた。だから、俺達は疲弊しているリアス達を置いて先にここに来たのさ」

 

「君達が僕を足止めしている間に彼女達は回復。回復後は手勢を纏めた状態でこの場に揃える。彼女達がこの場に来た場合、勇者君の回復もある程度は行えるだろう。そして、一斉に僕を潰しにかかる。………こんな感じかな?」

 

「そんなところだ。ま、俺とじいさんでケリをつけられたらベストだったんだがな。ここまで来てしまうと、もう俺達だけでは手がつけられん」

 

そう言って、おっさんは苦笑する。

 

これまでの二人の戦いはリアス達の回復の時間を稼ぐ意味合いもあったのか。

最初の内は本気でアセムを倒すつもりだった。

だけど、アセムの力が上昇し、二人では倒しきれないと踏んだ段階で可能な限り時間を稼ぐ方針に変えたんだ。

 

アセムはなるほどと一つ頷く。

しかし、クスクスと可笑しそうに笑った。

 

「作戦は分かった。だが、浅はかとも言える。君たちですら止められなかった僕を、彼らだけで倒せるとでも?」

 

その瞬間、アセムから放たれるプレッシャーが桁違いに膨れ上がった。

上から無理矢理押し付けられているような感覚が俺達全員を襲う。

 

「これが奴の力か………ッ! あの男、ラズルよりも遥かに………!」

 

「トライヘキサを取り込んだって聞いた時点で分かってたけど、こりゃえげつないいっすね……!」

 

サイラオーグさんとデュリオもアセムの圧力には冷や汗を流していた。

実力者だからこそ分かってしまう。

アセムと自分との力の差を。

 

アーシアなんて支えてやらないと、呼吸すらままならなくなっているほどだ。

奴の圧力に耐えられていないんだ。

 

先程のヘラヘラした空気から一変して、この場は死地と化す。

気を抜かなくとも、油断しなくても、数秒後には地面で動かなくなっている自分が想像できてしまう。

 

アセムが掌をこちらへ―――――まだ身動きの取れない俺へと向けた。

 

ヤバい………!

今のあいつの一撃は神クラスすら消し飛ばす!

その上、広範囲に影響を出すであろう、あれはそう簡単に避けきれるものじゃない!

全力で逃げなければ、確実にやられる!

 

俺は足手まといになる自分を放置して逃げろと言おうとした。

その時―――――。

 

「イッセーはやらせないわ」

 

リアスが俺の前に立った。

俺の盾となるようにアセムの前に立ちはだかった。

 

前に出たリアスにアセムは感心した表情で言う。

 

「へぇ、前に出てくるとは驚いた」

 

「驚くもなにもないでしょう? これは戦争なのだから、恐怖に負けているようでは守れるものも守れないわ。失いたくないのなら、動かなければならないのではなくて?」

 

「確かに。だけど、君が勇者君を庇ったところで無駄なのは分かっているだろう? この手にあるものを放てば、君も彼もこの世から消え去ってしまう。無駄死にになってしまうよ?」

 

その問いに、リアスは―――――

 

「死なないわよ、私も、イッセーも。この場にいる全員、誰一人欠けることなく、あなたに勝ってみせる」

 

その言葉に続くようにリアス・グレモリー眷属、ソーナ・シトリー眷属、サイラオーグ・バアル眷属、ジョーカーと転生天使達、そして、赤龍帝眷属、皆が俺の守るように前に立った。

 

サイラオーグさんが言う。

 

「その通りだ。俺達が兵藤一誠を死なせはしない。おまえを倒し、この世界を守ろう」

 

ソーナが続く。

 

「私達は誓いました。この戦いに勝ち、生きて日常に戻ると」

 

デュリオも笑みを浮かべた。

その背には黄金に輝く十二の翼を広げていて、

 

「これ以上、長続きしたらあの子達が安心して眠れないんでね。天使の………いや、俺の役目を果たさせてもらいますよ。あんたがどんなに化け物でも、俺達は必ず勝つ。それがチーム『D×D』ってね」

 

ジョーカーとして、チームリーダーとして、デュリオ・ジェズアルトという男としての言葉だ。

 

皆、奴の力を前にしても引かない。

必ず勝つと、必ず生きて帰るとという誓いを守るために前に出た。

 

………こんな時だって言うのに安心している俺がいる。

これでこそ、チーム『D×D』。

これでこそ、こいつらだよな!

 

ストラーダのじいさんが言った。

 

「異世界の神よ。貴殿はこの者らを甘く見すぎている。彼らはこの戦いを経て大きく成長したのだ」

 

「そう言うことだ。その程度の脅しくらいじゃ、こいつらは引かねーよ」

 

モーリスのおっさんも不敵に笑みを浮かべていた。

 

 

そこへ―――――

 

 

「全くもってその通りだ! 俺の教え子共を舐めるなよ!」

 

聞き覚えのある声!

同時に無数とも思える光の槍が天からアセム目掛けて降ってきた!

 

アセムは後ろに飛んで軽くかわすと、空を見上げる。

俺達も釣られて上を見上げるとそこには天を舞う一団の姿があった!

一団の中から一人の男が地面に降りてくる。

黒い翼を羽ばたかせるその男はもちろん、あの人だ!

 

「待たせたな、教え子共。なぜか随分久しく感じるが、何とか全員生きているようだな?」

 

艶のある闇色の羽を広げるのは―――――アザゼル先生!

我らがラスボス先生も駆け付けてくれたのか!

 

アザゼル先生は俺と目が合うとニッと口元を笑ませた。

 

「よう、イッセー。ようやく起きたと思えば、またボロボロじゃないか。まぁ、相手が相手なんで、生きてるだけでおまえも大概だが………。つーか、小猫とアーシアに抱きつかれて治療を受けてるところを見るとおまえにとっちゃ、ある意味、役得か?」

 

よくおわかりで!

流石は俺達の先生だよ!

 

その先生の隣に降り立つのは純白の鎧を纏ったあいつ。

 

「フッ、奴がここまで化け物とはな。これは面白くなりそうだ」

 

そう、ヴァーリだ。

マスクを収納している状態なのだが、とんでもないオーラを纏うアセムを見て楽しそうな笑みを見せている。

こいつもバトルマニア全開だな………いつもだけどさ。

 

ヴァーリが来たってことはあの面々も来ていて、美猴、黒歌、アーサー、そして、フェンリルに乗り、ゴグマゴクを後ろに控えさせているルフェイ。

ヴァーリチームも参戦だ。

 

「あれが兵藤一誠のいたという異世界の神か。アポプスをも遥かに凌ぐ波動だ。さて、この槍で貫けるか」

 

聖槍を肩でトントンとしながら、歩いてくるのは英雄派を従える曹操。

あいつ、アポプスを倒したんだな………。

別れる前とは違う雰囲気を纏っているような気がするのだが、もしかして、アポプスとの戦いで新しい境地に至ったとか?

 

すると、英雄派の巨漢、ヘラクレスが言った。

 

「へっ。さっきまで俺におぶられてた奴の台詞じゃねーな」

 

「うるさい! それを言うな! そもそも、おまえが勝手に―――――」

 

あ、うん………ツッコミの境地か。

あいつもキャラ崩壊したよね。

主に俺達が原因だろうけど。

 

空に視線を移せば、オーディンのじいさん率いるヴァルハラの軍勢、ゼウスのおっさんが率いるオリュンポスの軍勢も待機しており、上からアセムを見下ろしていた。

その他にも多くの神々がいるようだが………各神話の主神自ら参戦してたのかよ。

まぁ、主神クラスが出張らないと勝てない戦いだと判断した結果だろうな。

主神が消滅したら大騒ぎだけど、下手に戦力をケチれば、それどころの話じゃなくなるだろうし。

 

「ミカエル様もいるわ!」

 

イリナが見上げた先には天使達を従えるミカエルさん。

神々しい光を纏い、天使長も参戦だ。

 

それから、別の方向からは―――――

 

「朱乃!」

 

「父様!」

 

雷光を纏ったバラキエルさんも光の速度でやってきた!

こちらに届く一歩手前で急ブレーキをかけた後、朱乃の元へと駆け寄るバラキエルさん。

バラキエルさんが朱乃のに問う。

 

「無事か、朱乃! 無事なんだな! ケガはしてないか!?」

 

朱乃の全身を見渡し、傷がないか確認し始めるバラキエルさん。

 

………うん、俺が言えたことじゃないけど、バラキエルさんもかなり過保護だよね。

まぁ、娘が死んでもおかしくない戦場で戦っているとなると当然の行動なのかもしれないけど。

 

「うふふ、父様ったら。はい、私は大丈夫ですわよ?」

 

朱乃のその言葉を聞いてバラキエルさんは深く息を吐き、安堵の表情を見せるが………。

娘を心配する父親全開のバラキエルさんの姿にアザゼル先生も苦笑している。

 

「あららら………しょうがないと言えばそうなのかね? まぁ、バラキエルは良しとしてだ。あいつなんかは………」

 

遠くを見るような目で言うアザゼル先生。

 

あいつ………?

この中のメンバーにバラキエルさんと同類になりそうな人っていたっけ………?

 

 

すると―――――

 

 

「ソーたぁぁぁぁぁぁんッ!」

 

遥か彼方から聞こえてくる女性の声!

冷気を振り撒きながらこちら目掛けて飛んでくる!

飛来してくる人物にソーナが「あぁ……」と顔を覆ってしまっていてだな………。

 

なるほど、あの人か。

あれはバラキエルさんよりも俺と同類だわ。

ね、セラフォルーさん?

 

「ソーたぁぁぁぁぁぁぁんッ! お姉ちゃんが来たのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

「お姉さま! 『たん』付けはやめてくださいと何度言えば! しかも、こんな大衆の前で………もう嫌!」

 

「あーん! なんで逃げるの、ソーたぁぁぁぁぁぁん!」

 

「だから、『たん』はやめてください!」

 

逃げるソーナ。

追いかけるセラフォルーさん。

 

それから、

 

「うむ、このような時でもシトリーは平和だ。平和が一番だ。そうは思わないか、リーアたん」

 

「お兄様、その呼び方はやめてください」

 

いつの間にか到着していたサーゼクスさん。

ルシファー眷属を連れての登場だ。

あ、グレアフィアさんに「場所を弁えろ」と頬を引っ張られてる………。

どんな場所でも奥さんには敵わないんですね。

 

そんなやり取りをしている間も、様々な方角から多くの戦士達が集まってくる。

神も、悪魔も、堕天使も、天使も、ドラゴンも、人も、それ以外の種族も。

アセムが造り出した世界に乗り込んでいた戦士達のほぼ全てがこの世界の中心であるこの場所に続々と参上していた。

 

アザゼル先生が言う。

 

「アセム、おまえがこちらの策を利用してトライヘキサを取り込むと聞いた時には正直、やられたと思ったぜ。だが、これだけの戦力、現状で揃えられる最高の戦力が集結した。おまえを倒し、俺達の世界を守ると言う意思の下でだ。そろそろ決着をつけさせてもらうぞ? 俺もやらなきゃならんことがあるんでな」

 

「そうですね。私に放り投げた仕事が山ほど残ってますしね」

 

「おまっ、レイナーレ! 人がカッコ良く話しているところをぶち壊すのやめろ!」

 

どうやら、アザゼル先生はこの戦いが終わっても戦場が待っているらしい。

 

うん、アザゼル先生の続きは俺が言ってしまおうか。

俺はアーシアと小猫ちゃんに支えてもらいながら、何とか立ち上がるとアセムと向かい合った。

 

「おまえは言ったな………俺との決着はついても、この世界との戦いは終わっていないと。なら、終わらせようぜ、アセム。―――――全てのケリをつけよう」

 

アセムはこの場に集う、万を越える戦士達を見渡した後、俺に視線を戻した。

そして、いつもの笑みを浮かべたまま頷いた。

 

「良いだろう。ならば、始めようか。―――――来るがいい。ここから先は僕が君達を終わらせるか、君達が僕を終わらせるかだ。本気も本気、超最終決戦といこうか」

 

 

 




~あとがきミニストーリー~

匙「最近、兵藤を見ててふと浮かんできたんです………『妹を得たシスコン』って諺が」

ソーナ「それは………合ってるかもしれませんね」

セラフォルー「あっ、ソーたんだ! ソーたぁぁぁぁぁぁん!」

匙「うっ! ここにもシスコンが!?」


※妹を得たシスコン
妹を前にしてシスコンが生き生きとしているさま。



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61話 絶望は更に深く

ついに400話!
正直、ここまで続くとは思ってなかった!


本気も本気、超最終決戦………か。

俺は周囲の気配をこの身に感じながら、アセムの言葉を脳内でリピートさせていた。

 

三大勢力からは悪魔、天使、堕天使。

ギリシャ神話勢力からはオリュンポスの戦士。

北欧神話勢力からはヴァルハラの英霊やヴァルキリー部隊。

他ではインド、エジプト、須彌山とあらゆる神話勢力がこの場に集っている。

更に細かく言うならば、妖怪、ドラゴン、それから吸血鬼の姿も見ることが出来る。

話では複数の種族で混成された部隊もあるとか。

そういう点では一つ一つの部隊がチーム『D×D』みたいな感じだな。

 

この中でも特に強力なのはオーディンのじいさんやゼウスのおっさんと言った主神クラスの神々、超越者であるサーゼクスさんや現魔王であるセラフォルーさんと彼女に並ぶ実力のグレイフィアさんだろう。

アザゼル先生やバラキエルさん、ミカエルさんもかなりの強者だ。

 

あとは神滅具所有者だろう。

この場には俺、ヴァーリ、サイラオーグさん、デュリオ、幾瀬さん、曹操、それから………ラヴィニアさんだったかな?

面識はないけど、ヴァーリの隣にいる魔法使いのお姉さんが多分、そうなのだろう。

隣に氷で出来た人形らしきものを連れているし、彼女の容姿も聞いていた特徴と一致する。

というか、ラヴィニアさんのおっぱい大きいな!

最高のおっぱいをお持ちじゃないか!

………ゲフンゲフン、おっぱいに見とれている場合じゃなかったな。

とりあえず、ここには七名の神滅具所有者が揃っている。

神をも滅ぼす具現がこれだけ揃うことは早々ないだろうな。

まぁ、一人を相手にするのにここまでの戦力が集うこと自体が異常ではあるのだが。

 

とにかく、神クラスも含めた戦士達が地上も空も覆い尽くして、アセムを取り囲むように配置しているのが現状だ。

普通、これだけの戦力を前にしたら絶望しそうなのだが、アセムは薄く笑みを浮かべ、余裕の表情をしている。

 

アセムが言う。

 

「いつでも良い、かかってくるならおいでよ。それとも、僕から行こうか?」

 

奴の体から濃密な波動が放出される。

波動に触れた瞬間、悪寒が俺を遅い、背筋に嫌な汗が流れた。

 

こいつ、また力が増大してやがる………!

どこまで上がるって言うんだ!?

 

アザゼル先生が目をヒクつかせながら言う。

 

「現段階で、野郎はどれだけトライヘキサを掌握できてるんだ? これでまだまだ上があるとかなら洒落にならんぞ………」

 

「一戦交えた俺でも、今のあいつの底が見えません。これ以上、強くなる前になんとかしないと、マズいのは間違いありませんね」

 

俺の言葉に周囲の者に緊張が走るのが分かった。

その時―――――。

 

「ここで迷っていても仕方がない。早期的な決着を望むなら出るしかないだろう?」

 

そう言って飛び出すヴァーリ。

白いオーラを身に纏い光速でアセムへと迫るヴァーリは力強く呪文を唱え始める!

 

「我、目覚めるは律の絶対を闇に落とす白龍皇なりッ! 無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往くッ! 我、無垢なる龍の皇帝と成りて―――――汝を白銀の幻想と魔導の極致へと従えようッッ!」 

 

『Juggernaut Over Drive!!!!!!!!!!!』

 

強い光を放つと共にヴァーリは白銀の極覇龍へと姿を変えた!

最上級死神プルートを瞬殺した、神をも降す覇の力!

ヴァーリは拳に白銀を乗せて、鋭い一撃を見舞う!

しかし、アセムはその場から一歩も動かずに片手だけで白銀の拳を受け止めてしまった。

 

『DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDivide!!!!!』

 

その状態からヴァーリは半減の力を使い、アセムの力を半減させてみるが、アセムの力に変化は見られない。

神格に半減が通じにくいとは言え、白銀状態での半減すら全くの無意味か。

 

「なるほど、半減の力が意味を成さないほどの力を有しているということか」

 

ヴァーリもそのことにふむと考えながら、光の軌道を宙に描きつつ、魔力と魔法の混合による砲撃をぶっ放していく。

一つ一つが極大で強力。

ルシファーの膨大な魔力と精密に構築された魔法はヴァーリの高い才能と努力によるものだ。

真正面から受ければ、神クラスとて致命傷は避けられないのだが、アセムは平然としている。

肌が少々、焼け焦げる程度の微少なダメージだ。

そのダメージすらも一瞬で回復してしまうのだが。

 

傷を回復しながら、アセムは笑顔で返す。

 

「うん、良い攻撃だ。リゼ爺にはない真っ直ぐな攻撃。あ、彼と比べるのは君に対して失礼かな? でも、この程度で僕に届くと思ったのかな?」

 

「これしきで届くようなら、この戦いはとっくに終わっている。確かめたかったんだ、今の俺と貴様の差をな」

 

「そっか。それで、君の全力で僕は倒せそうかい?」

 

「悔しいが全力を出しても今の俺一人では難しいだろう。だが―――――」

 

その時、アセムの背後に回る者がいた。

アセムは瞬時に体を捻り、放たれた攻撃を素手で受け止める。

 

アセムを攻撃した者―――――獅子の鎧を纏うサイラオーグさんが口を開く。

 

「この場にいる全員の力を以て、おまえを砕くのだ。手を貸すぞ、ヴァーリ・ルシファー」

 

「フッ、バアル家の次期当主サイラオーグ・バアルと共闘する日が来るとは思わなかった。こんな感覚は兵藤一誠の時以来か?」

 

黄金と白銀の鎧を着こむ二人はアセムから距離を取ると、互いに強く頷いた。

 

ヴァーリは白銀の呪文に続き、新たな呪文を謳い始める―――――

 

「我に宿りし無垢なる白龍よ、覇の理を降せ―――――」

 

覇を超えた白銀の鎧に――――漆黒が加わっていく。

 

『我が宿りし白銀の明星よ、黎明の王位に至れ―――――』

 

アルビオンの歌声に応じて、背中の光翼が黒くなる。

 

「濡羽色の無限の神よ―――――」

 

ヴァーリの歌にオーフィスが続く。

 

『玄玄たる悪魔の父よ―――――』

 

ヴァーリの背には六対十二枚に及ぶ漆黒の翼が生えていた。

鎧の形状も至る所が鋭角に、有機的な形状へと変化した。

 

「『窮極を超克する我らが戒めを受け入れよ―――――』」

 

ヴァーリとアルビオンの声が重なると、あいつの鎧にはめ込まれている宝玉の全てに魔王ルシファーの紋様が浮かび上がる。

そして、全身の鎧が激しく輝いていく!

強く神々しい光が周囲一帯を照らす!

最後にヴァーリとアルビオン、オーフィスの三人が強く言葉を発した! 

 

「『『汝、玲瓏のごとく我らが耀にて跪拝せよッッ!』』」

 

『LLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLucifer!!!!!!!!!!!』

 

『Dragon Lucifer Drive!!!!!!』

 

けたたましい音声が鳴り響いた次の瞬間、莫大なオーラが解き放たれ、周囲を激しく揺らした!

巻き起こる突風と目映い光が治まり、目を開けた俺達の前に立っていたのは漆黒と白銀を基調にした美しくも、見る者を畏怖させる鎧。

―――――白龍皇と魔王ルシファーの力を解放したヴァーリ・ルシファー。 

 

これが魔王化ってやつか!

神器を通して、ヴァーリの進化は伝わっていたけど、なんてオーラを振り撒いてやがる!

 

ヴァーリの新たな姿にこの場にいる殆どの者が呑まれ、驚愕を通り越して唖然とする中、更なる力の解放があった。

 

サイラオーグさんの闘気が膨れ上がり、こちらも胸の獅子と共に呪文を口にする!

 

「此の身、此の魂魄が幾千と千尋に堕ちようとも!」

 

『我と我が王は、此の身、此の魂魄が尽きるまで幾万と王道を駆け上がるッ!』

 

獅子の鎧が雄々しく攻撃的なフォルムに変化していく。

 

「唸れ! 誇れ! 屠れ! そして、輝けッ!」

 

『此の身が魔なる獣であれどッ!』

 

「我が拳に宿れ、光輝の王威よッ!」

 

サイラオーグさんの周囲一帯が闘気の嵐で吹き飛んでいく!

止まることを知らない破壊の嵐が更に巨大になっていく!

 

サイラオーグさんと獅子レグルスが最後の一節を読み上げた。

 

「『覇獣(ブレイクダウン・ザ・ビースト)解放(クライムオーバー)ァァァァアアアアアアッ!』」

 

極大の闘気が弾け飛び、先程のヴァーリに引けを取らない規模に影響を及ぼしていく!

そして、巻き起こった大嵐の中から大地を強く踏めて姿を見せるサイラオーグ・バアル。

―――――紫金の鎧を纏った獅子王。

 

これが覇獣………!

見ただけで身震いするような、とんでもない覇気だ………!

まさに破壊の権化って感じだな!

 

真の力を解き放った二人の姿にアセムが静かな口調で言った。

 

「いきなり奥の手が二つも出て来るなんて、大盤振る舞いじゃないか」

 

ヴァーリとサイラオーグさんに交互に目をやり、観察するように見ていく。

俺の時もそうだったけど、アセムの奴は………。

 

『これから先、力が伸びそうな奴かどうかを見定めている節があるな。ヴァーリ・ルシファーもサイラオーグ・バアルもまだまだ強くなる可能性は十分にある。それを確かめているのかもしれん』

 

ドライグがそう言ってきた。

 

アセムが全勢力を巻き込んでこの戦いを起こした理由の一つはいずれ来る異世界との戦いに備えるため。

俺も含めて、この戦いで成長した人はいる。

ヴァーリ以外にも木場なんかもその一人だ。

これまでの戦いで疲弊しているとは言え、木場から漂う雰囲気が少し前と違う。

新たな力を得たのは間違いない。

………さっきはツッコミに疲れて精神崩壊してたけど。

 

そんなことを考えている間に三者の戦いが再開される。

無音でその場から姿を消すヴァーリとサイラオーグさん。

二人は瞬時にアセムを間合いに捉えると、二人合わせたように拳を繰り出した。

 

振るった余波だけで周囲を破壊し尽くす拳打だ。

流石のアセムも先程のように受け止めることはせず、二人の拳を受け流していた。

 

逆にヴァーリとサイラオーグさんはアセムから撃ち込まれてきた拳を避けることで対応している。

アセムの拳もまた、神をも容易に砕くレベルの代物。

いかにあの二人と言えど、一撃でも受ければ致命傷は免れない。

アセムとは初めて拳を交える二人も戦いながら、その点を理解したのか、下手に受け流すことはせず、完全に回避するようにしているようだ。

 

だが―――――二人の鎧にヒビが入り始めていた。

アセムの繰り出した拳圧だけで鎧が欠け、掠めたところは完全に消失してしまっている。

 

アセムが人差し指をヴァーリに向けると、指先にオーラが集中していき―――――漆黒の砲撃が放たれる!

触れるもの全てを消し去る滅びの力!

 

「避けろ、ヴァーリッ!」

 

「ッ!」

 

アザゼル先生の言葉に反応したヴァーリはギリギリのところで避けるが、突き抜けて行った漆黒は遥か彼方に着弾して――――――この一帯を激しく揺らした!

少し遅れて、爆発で生じた風がここに到達し、多くの戦士が吹き飛ばされてしまう!

 

サイラオーグさんが戦慄する。

 

「僅かな動作でこれほどの………ッ!」

 

アセムが平然とした表情で答えた。

 

「おっと、この程度で驚いてもらっては困るな。こんなのまだ序の口さ」

 

すると、次の瞬間、アセムの体を大きなシャボン玉が覆う。

あれは―――――。

 

「俺もいるってね。―――――断罪の嵐だ、くらっとけ!」

 

デュリオが掌を向けたと同時に、シャボン玉の中で力が渦巻く!

雷、豪雨、巨大な雹が降り始めると、そこからありとあらゆる天災がシャボン玉の中で発生し、アセムを襲う!

嵐のせいで、シャボン玉の中の様子が見えないが………。

 

数秒後、パァンという音と共にシャボン玉が弾け飛んだ。

嵐を受けたアセムは―――――無傷。

 

「うん、中々に面白い能力だ」

 

首を鳴らしながら、まるで聞いてないと言わんばかりのアセムにデュリオは苦笑いする。

 

「ハハハ………。まぁ、トライヘキサにも一度は破られてるし、分かってたけど………これはショックっすね」

 

「いやいや、君の力は神に十分、通じるものさ。だけど、僕には届かない」

 

ハッキリとそう告げるアセム。

 

不意にアセムが首を傾げたと思うと、その横を聖なる波動を放つ槍が通過してく。

曹操が背後からアセムを狙い撃ちしたのだ。

 

「ふむ、この奇襲を容易く避けるか」

 

「僕はこの戦場全てを認識している。この僕に奇襲は通じないよ、英雄君?」

 

「今の俺は英雄ではない。―――――ただの人間、ただの曹操だ」

 

「なるほど、そう言うのは嫌いじゃない」

 

アセムが振り向き様に刃のような波動を繰り出した瞬間、曹操が転移の力を使ってその場から姿を消す。

曹操は相手に自分の位置を掴まれないように、ランダムに転移しながら、アセムの隙を伺うが………その手は奴には通じない。

 

「その戦法は僕も使ったことがあるものだ。君の居場所などお見通しさ」

 

アセムがあられもない方角に手を向け、そこからオーラで形成された刃を発生させる。

オーラの刃はかなりの距離まで伸び―――――出現した曹操を貫いた!

 

「ガッ………」

 

胸を貫かれ、苦悶の表情を浮かべる曹操。

 

マジか………あの曹操がこうも簡単に………!?

全勢力に危険視されていた英雄派の首魁が一瞬でやられたと知り、周囲から動揺の声が聞こえてくる。

 

曹操の胸を貫いていたオーラの刃が消えると、奴は真っ逆さまに落ちていく。

そして―――――奴の肉体は光となって消えた。

 

次の瞬間、アセムの手首が宙を舞った!

何事かと目を見張ると、そこには致命傷を負ったはずの曹操がなに食わぬ顔で立っていた!

 

アセムはなるほどと頷いた。

 

「そういえば、君の禁手の能力の一つに分身を作るものがあったね。すっかり忘れていたよ。だが、今のは確かな手応えがあった」

 

「なに、簡単なことさ。そういう分身を作り出したまでだよ」

 

あの野郎、アセムですら見切れないレベルの分身を作り出したというのか!

全く、流石は最強の神滅具所有者だよ!

 

しかも、よく見ると曹操の瞳は俺達と別の世界を見ているような………。

領域(ゾーン)と似ているが、それとは違う。

より高位の次元に立っているように見えて―――――。

 

曹操は自身の掌を見つめて言う。

 

「アポプスの時は掴めなかったが、少し分かってきたな。これの扱い方が………」

 

その言葉で得心した。

あれが曹操が到達した新たな次元。

人間の極限を超えた力―――――。

 

そう思った時、曹操の姿が消える。

現れたのはアセムの正面!

真正面から挑もうと言うのか!

 

だが、俺の考えとは裏腹に曹操はとても人間とは思えない力でアセムに猛攻を仕掛けていく!

元々、尋常ではない技量を誇っていたが、今の曹操はそれすらも超越している!

槍の穂先が捉えられない!

 

繰り出した連撃はアセムの体の各所に傷を追わせている。

小さい掠り傷とはいえ、アセムが避けきれないスピードということか!

 

だが、あれほどの力を人間である曹操が発揮し続けるには尋常ではない負荷がかかっているはず。

先程の曹操の発言からして、まだ不完全な力のようだ。

消耗が大きい上に、扱いきれていない力。

完全に短期決戦用の力になる。

曹操もそのつもりなのか、怒濤のラッシュをかけていく!

アセムの攻撃を槍の柄で流し、破壊力重視、転移、分身、武器破壊と言った禁手の能力をフルに活用して反撃に出ている!

 

アセムがオーラで形成した剣で聖槍を受け止めながら楽しそうに言う。

 

「人の身でよくぞここまで!」

 

「お誉めに預かり、大変光栄と言っておこうか………ッ!」

 

不敵な笑みで返す曹操だが、脂汗を流し、かなり苦しそうな表情をしていた。

アセムもそれは見抜いていて、

 

「フフフッ、相当無理をしているようだね? ほら!」

 

「ぐぅっ!」

 

アセムの繰り出した鋭い突きが曹操を襲う!

曹操は槍で防ぐが、衝撃は殺しきれずに吹き飛ばされてしまった!

 

あまりに強烈な一撃のせいで、空中で体の制御が出来ていない。

あれでは、そのまま地面に叩き付けられてしまう。

 

と、その時。

地面に到達する直前に曹操の体がフワリと浮いた。

曹操の能力………ではないな。

 

「ゲオルク………すまない、助かった」

 

曹操の視線は英雄派の一団、その内の一人、魔法使いのゲオルクに向けられていた。

そう、ゲオルクが魔法を発動させて、墜落を防いだんだ。

 

「ああ。時間は稼げたぞ、曹操」

 

彼らの戦いはほんの僅かな時間だった。

それでも、こちらにとっては大きな時間を得ることが出来て―――――。

 

「「「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!」」」

 

怒号のごとき号令と共に一斉に放たれる砲撃の数々!

ヴァーリ達が戦っている間に限界までチャージしていたであろう力を全員が解き放った!

 

たった一人を相手にオーバーキルも良いところだが、それぐらいしなければ、勝てない相手なのだ。

重なりあった力が相乗効果を生み、更なる威力を叩き出す!

全勢力による一斉攻撃は空間を割り、地形を変え、味方をも巻き込みかねない、あり得ない規模で降り注ぐ!

 

神々しい力も、聖なる力も、魔なる力も。

ありとあらゆる力が、世界を破壊しながらアセムを呑み込んでいった―――――。

 

 

 

 

永遠にも感じられた時は終わり、攻撃の手が止む。

残ったのは底の見えない巨大すぎる穴と、世界があげた悲鳴の跡。

割れた空間は世界の持つ復元力により元に戻っていく。

 

アセムの姿は―――――そこになかった。

あの不気味で底が見えなかった気配も感じられない。

 

「やった………のか?」

 

誰かの呟きが聞こえた。

 

姿が見えなくなっても、警戒は解かなかった。

だが、時間が経ってもアセムが姿を見せることはなく―――――。

 

 

 

 

 

 

アセムは完全に消滅した―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

《―――――とでも思ったかい?》

 

 

 

 

 

 

 

響いてくる奴の声。

その声は巨大な穴の底から聞こえてきて―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

更なる絶望が俺達を覆おうとしていた。

 

 

 




今回はシリアスでしたー


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62話 全軍衝突

新年一発目いっきまーす!



大地に空いた巨大な穴の底。

暗闇の中から、何かが溢れだしてきた。

地面を揺らしながら、天高く噴き出すそれは雨のように降り注いでいく。

降り注いだそれは俺達を濡らして、

 

「なんだ、これ………この臭いは………」

 

この鉄のような臭いは―――――血だ。

馴染み深いと言ってしまうのはあれだが、この臭いは何度も嗅いできたものだ、間違いない。

だけど、拭ったそれは真っ黒な―――――そう、あの暗闇の底から噴き出したのは黒い血だった。

今、俺達を濡らしているのは黒い血の雨ということになる。

 

それを認識した瞬間――――――

 

「あぁぁぁ………あぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?!?」

 

戦場にいる誰かが絶叫をあげた。

その者に続き、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。

 

「………ぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!」

 

「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「ひぃ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

「ギィヤァァァァァァァァッ!」

 

な、なんだ!?

なにが起こって―――――。

 

周囲を見渡す俺の視界に映ったのは自身の肩を抱き、震える仲間の姿。

美羽が地面に膝をついて、踞るような格好になる。

 

「な、に………これ………!?」

 

「美羽!?」

 

俺は美羽の体を抱き締めてやるが、美羽の震えは止まらない。

見ると他のメンバー―――――リアス達や転生天使達も同様に顔を青くして、全身を小刻みに震わせている。

それはヴァーリやサイラオーグさん、デュリオといった最強クラスの力を持った面々もだ。

他の戦士達みたいに発狂とまではいかないが、明らかに身体に異常が生じている。

 

イグニスが皆に聞こえる声で言った。

 

『皆の体を襲っているものの正体は恐怖よ』

 

恐怖?

どういうことだ?

 

『そうね、簡単に説明しましょう。あの雨には触れた者の恐怖心を増大させる効果があるのよ。それもかなり強烈にね。そして、雨の効果は強者であればあるほど、強く発現する』

 

イグニスの解説にアザゼル先生が納得したように頷いた。

 

「そういうことか。恐怖ってのは強者であればあるほど忘れがちなもの。感じにくくなるものだ。………本能からの恐怖か。こんな感覚は久し振りだ、クソッたれ………!」

 

堕天使の総督だったアザゼル先生ですら大量の脂汗をかき、呼吸を荒くしている。

 

理屈ではない、本能的に感じる恐怖。

触れただけで発狂するレベルなのかよ………!

 

いや、待て。

だったら、俺はどうなんだ?

アーシアと小猫ちゃんに回復してもらったとは言え、万全には程遠い。

体力は当然、精神力だってかなり削がれた状態だ。

そんな状態なのに、俺には特に変化がない。

体は重たいが、それは雨を浴びる前からだ。

 

『それは私が雨の効果を内側から無効化してるからね。そうしてなければ、今の状態のイッセーも皆と同じ様になってたかもしれないわ』

 

なるほど、イグニスが俺を守ってくれていたと。

気づかぬ所で女神様が助けてくれていたのか。

いつもの駄女神とは思えない女神っぷりだ。

とりあえず、お礼は言っておこう。

 

そんなことを思っている内に血の雨が止まる。

そして、深い穴の中から―――――

 

《削れたのは三分の一と言ったところか。フフフ………思ったより、残ったようだね。ここまで辿り着いただけはあるかな》

 

出現したのは黒い霧に包まれた何か。

それは穴から出てくると、上空へと上がっていく。

 

あの黒い霧のようなものはギャスパーが覚醒した時のものに似ているが、危険度では桁が違うだろう。

それにアセムの波動とは異なっているようにも感じる。

この時、俺の中で嫌な予感がした。

そして―――――俺の予感は的中する。

 

宙に浮かぶ黒い霧の塊が少しずつ薄くなっていく。

内側にいるのは当然、アセムだ。

だが、奴の姿は元の面影を残さない、まるで別のものへと変貌を遂げていた。

 

灰色の肌に、鱗が生えた手足。

背には鳥やドラゴン、コウモリなど、あらゆる獣の翼があり、その中に一際大きい蝶の羽が生えている。

腰からは七つの尾が伸びていて、尾の先端には熊、豹、ドラゴンなど、元々、トライヘキサにあったそれぞれの頭がある。

そして、頭には十本の角。

身長は俺とそう変わらないが、シルエットは人から離れたものになっていた。

トライヘキサの特徴を無理矢理、人型に押し込めた、そんな姿だ。

 

アセムは今の自分の体を見て笑った。

 

《随分、面白い体になったものだ。化物っぷりが上がったじゃないか。どれ………》

 

何かを思いついたのだろう。

アセムは辺りを見渡すと、小さく笑みを見せた。

すると、意思を持ったように七つの尾の内の一つが動き出す。

獅子の頭を持った尾はアセムの視線が向けられている方向に目をやると、口から小さな火炎弾を撃ち出した。

火炎弾を向けられた陣営はとっさに防御魔法陣を幾重にも展開する。

しかし、火炎弾は魔法陣を容易に突き破り―――――陣営の中で膨張し始めた!

グゥゥゥゥゥゥン………と空間が軋む音を出しながら、急激に膨らんだ火炎の球体はその陣営を丸々呑み込み、破裂する!

破裂した球体から飛び出してきた幾つもの火の塊が、無差別に、広範囲に飛来していく!

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

襲い来る火の塊は戦士達の頭上に降り注ぎ、彼らの防御を嘲笑うかのように彼らを消し炭にしていってしまう。

 

匙が火の塊を迎撃しながら言った。

その声には明らかに焦りが含まれていて、

 

「あんな軽く力を使った感じでここまでの被害を出すのかよ………! トライヘキサの火炎以上じゃないのか!?」

 

木場もその意見に頷く。

 

「そうだね。同じ規模でも、トライヘキサにはもう少し溜めがあった気するよ」

 

そういや、この二人もトライヘキサの力を目の当たりにしてるんだったな。

俺もトライヘキサと一戦交えたけど、二人の言うように今の攻撃はトライヘキサよりも上だったように感じる。

 

すると、ロセが答えた。

 

「恐らく、彼はトライヘキサの力を効率良く使えるまでに至ったのでしょう。同じ力でも、術式次第では低燃費、短時間での放出が可能になります。かの神はその手のことに長けているようなので、十分にあり得ると思います」

 

そういや、ロセも術式に改良を重ねることで、低燃費で魔法を撃てるようになってたな。

黒歌がRPGで例えていたとルフェイから聞いたことがある。

 

ロセの言葉にリアスが厳しい表情で言う。

 

「そうなるとかなり厄介なことになるわね。トライヘキサの力を扱えるだけでも危機的な状況だと言うのに………!」

 

「それだけではありません。先ほどの雨のせいで、こちらの陣営は上手く力を発揮することが出来なくなるでしょう。強制的に恐怖心を増大させられた状態で、普段の力が使えるとは思えませんから」

 

ソーナもそう付け加える。

 

一見、冷静そうな彼女だが今も膝が震えている。

内から込み上げてくる恐怖に心を折られそうになるのを耐えながら、戦況の把握に務めているんだ。

 

怖い、死にたくない。

一歩でも前に出たら、その瞬間に命を絶たれてしまうのではないか。

周囲の人達からそんな絶望的なイメージが雪崩れ込んでくるのが分かる。

これも変革者になった影響だ。

無数に入ってくる感情の一つ一つを読み解くことは今の俺でも難しい。

だけど、その無数の中には恐怖心以外の感情も混ざっていて―――――。

 

匙が震えるソーナの手を握った。

匙はマスクを収納すると、ニッと笑顔を見せる。

 

「大丈夫です。死なせはしません。俺には兵藤みたいに世界を変えたり、多くの人を守ったりは出来ないけれど、せめて―――――目の前の大切な人達は守りきります。俺、こう見えても龍王ですから」

 

「―――――ッ! 匙、あなたは………」

 

言葉を詰まらせるソーナ。

 

分かるよ、ソーナ。

君が思っている以上に匙は成長しているんだ。

大切な人を守るため、恐怖に打ち勝つ強い心を持った誇り高い黒き龍王。

それが匙元士郎だ。

 

匙のその姿を見て、体を震わせ、蹲っていた者達が立ち上がる。

彼らの目には消えかかっていた灯が再び灯っていた。

どんなに怖くたって、守るべきもの、守りたいものがあるのなら、前に進める。

戦えるんだ。

 

皆が己に打ち勝ち、立ち上がる―――――その時。

 

「ねぇ、匙くん? これはどういうことなのか、詳しく説明してもらえるかな☆」

 

ニッコリと笑顔を浮かべたセラフォルーさんが割り込んできた!

そういや、あの人、二人の関係知らなかったね!

というか、ソーナが知られないように周囲に頭を下げてたから当然なんだろうけども!

ついにバレたよ!

男を見せたら、一番知られてはいけない人に知られたよ!

 

「れ、れれれれれれ、レヴィアタン様!? こ、これは、そのぉ………ひ、ひぃ!」

 

ゴゴゴゴ………と凄まじいプレッシャーを放つセラフォルーさんに悲鳴をあげる匙。

 

うん、さっきの男前はどこに行った匙よ。

というか、アセムの黒い雨の時より恐怖してないかい?

ま、まぁ、分かるけど。

確かにニッコリ笑顔で殺意を向けられるとメチャクチャ怖いけども。

 

「うぇぇぇぇぇぇん! ソーたんを取られたぁぁぁぁぁぁ! もう、あちこちを氷付けにしてやるんだから! うぇぇぇぇぇぇん!」

 

突然、滝のような涙を流し始めるセラフォルーさん!

体からとんでもない魔力が噴き出してるよ!

セラフォルーさんの周囲が氷原へと変わっていくんだけど!

 

「ちょ、お姉様!? 落ち着いてください!」

 

「レヴィアタン様、氷付けにするの止めてください! 俺、死んじゃう! 氷付けにされてしまうぅぅぅぅぅ!」

 

匙ぃぃぃぃぃぃ!

ソーナァァァァァァ!

今回は君達ですか!?

君達がシリアス壊すんですか!?

これも俺が悪いの!?

俺のせいなの!?

やっぱり、俺はボケを呼ぶドラゴンなの!?

もう、何をどうツッコミ入れたらいいのか分からねーよ!

 

「はぁぁぁぁぁぁ………」

 

「結局、こうなるのね………」

 

「うん。まぁ、ボク達の回りでは日常茶飯事だよね」

 

盛大にため息を吐く俺とアリス。

そして、苦笑する美羽。

それが伝播したのか、周囲からも苦笑が聞こえてくる。

ま、これも俺達らしいというのかね?

 

俺は未だ重たい体で前に出るとアセムを見上げ、奴に言った。

 

「どうやら、俺達が折れるにはまだまだ絶望が足りないらしいぜ? これくらいの絶望、俺達はすぐに乗り切れる。俺だけじゃないんだよ、変わってるのは。―――――来いよ。この世界の底力、見せてやる」

 

 

 

 

確かに絶望的な状況なのかもしれない。

恐怖心を増大させられたせいで、いつものように力を出せない者は大勢いるだろう。

恐怖心に負け、気を失った者もかなりの数がいる。

その者達を守りながら戦うのは至難の技だ。

しかも、相手は取り込んだ怪物の本来の力以上の力を扱える可能性がある。

それでも―――――。

 

アセムが言う。

 

《良いだろう》

 

アセムは左手にオーラで形成した剣を握ると、自身の右腕を切断した。

その行動に誰もが目を見開く………が、この展開には覚えがある。

異世界アスト・アーデで奴と戦ったことがあるメンバーもアセムの行動の意味を理解したようで、すぐに構えた。

 

アセムは切断した右腕を掴むと、横凪ぎに振るう。

右腕の断面から振り撒かれた血液が大地に染み込んでいき―――――。

 

ボゴッ、ボゴゴゴッ………と音を立てて、地面が盛り上がり始める。

盛り上がり、変形し始めた地面は何かを形成していく。

変化が終わり、その場に完成したのは体調十メートル程の獣。

 

人型もいれば、ドラゴンのようなもの、蜘蛛のようなもの、獅子のようなものまで。

あらゆる獣の形をした魔物が現れた。

それも何万とういう規模で。

 

アリスが目を細める。

 

「………眷獣。ロスウォードと同じ能力を使えるってわけね」

 

「ま、あいつが生みの親なら使えてもおかしくはないがな。だが、ロスウォードの時よりも面倒だな。全部が全部というわけじゃないが、龍王クラスの波動を持った化物もいやがる。こいつは骨が折れるぞ」

 

アザゼル先生はそう言うと手元に光の槍を作り出す。

 

俺も感覚を広げて眷獣の把握に務めるが………龍王クラスどころじゃないな。

下手すりゃ超越者クラスの化物も何体かいるぞ。

超越者クラスと龍王クラスの眷獣の下に上級悪魔、最上級悪魔クラスの眷獣の回りに付き従っているといった感じか?

ロスウォードの時は個別に動いていたが、今回の眷獣は一定の戦力で固まっているように思える。

 

俺は小さく息を吐くと籠手を出現させて、ゆっくりと歩いていく。

少し進んだところで足を止めると、目を閉じた。

 

こうしてるとあの頃を思い出す。

味方を背にして敵と向かい合っていたあの頃。

皆から『勇者』と呼ばれていた、あの頃を―――――。

 

 

―――――頼んだぜ、ドスケベ勇者様。

 

 

任せろ、クッキング勇者様。

俺達が全てを守ってみせるからよ!

 

俺は目を開くと全身からオーラを爆発させて、叫んだ!

 

「行くぞォォォォォォォォォォッッッ!!!!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

俺の叫びに全軍が動き出す!

接近戦を得意とする戦士達は一斉に駆け出し、魔法や魔力による遠距離攻撃を得意とする者達は即座に術式を構築し始める!

 

アセムが生み出した眷獣も咆哮をあげて、前進してくる。

巨体の割りに動きが速い!

 

前衛部隊と眷獣が接触する―――――。

 

「うぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!」

 

俺は飛び上がると、拳に気を纏わせて眷獣の顔面を真上から殴り付ける!

眷獣は体をグラつかせ、地面に倒れ込む………と思いきや、その太い足で踏ん張り、俺の拳に耐えやがった!

そこから拳と蹴りの連打をくらわせていくが、眷獣は倒れない!

俺が弱っているとはいえ、なんて耐久力を持ってやがる………!

 

眷獣の血のように赤い目が攻めあぐねる俺を捉え、牙を剥く。

しかし、俺を狙ったその眷獣は背後からの一撃によって真っ二つに両断された!

やったのは―――――。

 

「今の私ならアセムの眷獣だろうと一撃で葬れるようだな!」

 

蒼い炎のようなオーラを纏うゼノヴィア。

特徴的な青髪も腰まで伸びていて、神秘的な雰囲気を持っている。

 

「サンキュー、ゼノヴィア」

 

「ああ。だが、今のイッセーはあまり一人で動かない方がいい。回復したとはいえ、パワーが相当落ちているじゃないか」

 

「まぁな」

 

正直な話、もし、この場でゼノヴィアと戦ってみろと言われたら勝つ自信はない。

俺の渾身の一撃を叩き込んで倒れなかった相手をゼノヴィアは一撃で倒したんだからな。

その差は大きい。

 

「だけど、ゼノヴィア。おまえこそ、疲労が溜まってるんだ。無理はするなよ?」

 

「この場でその注文は難しいな………。そうだ、良い提案がある」

 

「おっ、奇遇だな。俺もだ」

 

俺とゼノヴィアは集団で迫ってくる眷獣に視線を向ける。

そして、ゼノヴィアはデュランダルとエクスカリバー、俺は拳を構えて、

 

「「ここは二人で一つといこうか」」

 

不敵に笑みを浮かべた俺達は同時に前に出る。

まずは俺が先行し、眷獣から振り下ろされた拳を受け流す。

受け流されたことで体勢が崩れたところをゼノヴィアが容易く両断した。

 

今の俺に足りないのはこいつらを一撃で葬るパワー。

ゼノヴィアに足りないのは大群で押し寄せるこいつらを捌ききる技量。

なら、互いに足りないところを補えば、こんな奴ら―――――。

 

「「余裕で倒せるッ!」」

 

一度に十数体を倒した俺達は次の敵と衝突する―――。

 




~あとがきミニストーリー~


アーシア「そういえば、ワルキュリアさんの好きなものはなんですか?」

ワルキュリア「幼女です」

アーシア「………え? よ、よ………?」

ワルキュリア「幼女です」

アーシア「え、えっと………こんな時、私はどう返したら………」

ワルキュリア「幼女です」

アーシア「はぅぅ! イッセーさんのようにツッコミが出来ません!」


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63話 復活の不死鳥

フリーザさまではありません(笑)


「そらッ!」

 

「はっ!」

 

赤いオーラと蒼炎に煌めくオーラを撒き散らしながら、敵を一体一体確実に倒していく、俺とゼノヴィア。

俺が相手の攻撃を流し、ゼノヴィアが一撃で仕留める。

この流れが完璧にはまっているようで、今のところ順調に前に進むことが出来ていた。

 

アセムが作り出した眷獣を倒しながら俺はふと思う。

それは隣で戦うゼノヴィアについてだ。

両手にデュランダルとエクスカリバーを握り、華麗に剣を振るう彼女からは、以前とはまた違う魅力があるように思える。

 

それに驚くべきなのは、ゼノヴィアが俺と完璧に呼吸を合わせていること。

俺の消耗具合を考慮して、俺が動きやすいように、尚且つ、自分も存分に戦えるように動いてくれているのだ。

脳筋、パワーバカと言われていたゼノヴィアが………グスッ。

こんなにもテクニカルな面を見せてくれるなんて、俺は嬉しいぜ!

ま、まぁ、それも『剣聖』の地獄の特訓を味わったからだろうけど。

 

ゼノヴィアが不機嫌そうな表情で言ってきた。

 

「イッセー………すごく失礼なことを考えてないか?」

 

「い、いや!? 考えてないぞ!? その、あれだ………ゼノヴィアがいてくれて凄く助かるな~って」

 

「そうか。それなら良いのだが………」

 

ゼノヴィア、勘まで鋭くなったのな。

 

さて、ゼノヴィアばかりにパワープレイを任せるのは、俺的に面白くないところも本音としてはある。

やはり、圧倒的な火力で敵を凪ぎ払ってこそ、赤龍帝というものだろう?

 

ドライグが言ってくる。

 

『白いのばかりに活躍されるのはな』

 

少し離れたところを見ると白銀と漆黒の鎧―――――魔王化形態のヴァーリが圧倒的な力で眷獣を吹き飛ばしているのが見えた。

俺が使うようなビットを複数飛ばして、それぞれが半減空間を構築する。

半減空間に巻き込まれた眷獣達は半分、更に半分と圧縮に圧縮を重ねられ、ついには塵一つ残さずに消滅した。

本人も凶悪な魔力の塊を撃ち出し、一気に屠っていく。

ヴァーリが仕留めた眷獣の中には龍王クラスに匹敵するものもいた。

 

活躍しているのはヴァーリだけではない。

覇獣を解放したサイラオーグさんも、ただの拳一振りで何百という眷獣を薙ぎ倒している。

デュリオも禁手を発動しており、空にいる眷獣の大群をシャボン玉で囲んでいる。

シャボン玉の中に囚われた眷獣は例によって、内側で巻き起こるありとあらゆる天災により、消滅させられている。

改めて思うが、デュリオの禁手はこういう集団戦においてかなり便利な能力だ。

広範囲に、多くの敵を倒せるが、味方を巻き込む心配もいらないというのはでかい。

曹操も同じく禁手状態で、流れるような動きで眷獣の攻撃を制し、槍で確実に貫いている。

 

ふと、犬の遠吠えが聞こえてきた。

何かと思い、そちらに目をやると、そこにいたのは―――――人型の黒い狗。

そして、その後ろには人型の狗に付き従うようにして待機している狗の群れ。

人型の狗は闇で形成された鎌を握っていて、音もなく駆け出すと、一振りで眷獣の首を斬り落としていた。

背後にいた狗の群れも一斉に眷獣へと飛びかかり、屠っていく。

 

あれは………幾瀬さんの禁手か!

これまたとんでもなく強いオーラを放ってやがる!

 

流石に神滅具所有者は圧倒的と言うか、なんというか………。

まぁ、俺も神滅具所有者なんだけどね!

 

『Boost!!』

 

籠手から倍加の音声が鳴り響く。

俺は他の神滅具メンバーみたいに禁手を発動せず、通常の状態で神器を使用していた。

 

『相棒は禁手を使うほどの力は戻っていないからな。今もギリギリのところで能力を使っている』

 

というのが俺の現状だ。

つまり、神器自体は使えるが、鎧を纏うほどのスタミナがないってこと。

なので、生身のまま籠手の力で倍加しつつ、錬環勁気功による体術で戦っている。

 

『Boost!!』

 

と、そうこうしている内にある程度、倍加が溜まったか。

そんじゃ、行きますかね!

 

『Explosion!!』

 

倍加を止め、溜めていた力を解放する!

赤いオーラが膨れ上がり、力が涌き出てくる!

 

「はっ!」

 

突き出した掌底が人型の眷獣の腹を捉えると、衝撃が背中まで突き抜けていく。

膝から崩れる眷獣。

頭を垂れるように倒れた眷獣の頭上を飛び越えた俺は、宙で体を捻り、回転の勢いをプラスした蹴りを放った!

蹴りは眷獣の側頭部にめり込み、頭蓋を砕く!

 

「おおっ、流石だな、イッセー!」

 

ゼノヴィアが頼もしそうに言うが、俺は首を横に振った。

 

「いや、まだだ! こいつは頭を破壊されたくらいじゃ動きを止めない!」

 

ロスウォードの時もそうだったように、この眷獣。

頭を破壊されようと、腹にでかい風穴を空けられようとも動きを止めない。

こいつらを完全に止めるのなら、四肢をもぐか、完全に消滅させるかのどちらかだ。

 

「だから、こいつをくらわせてやる!」

 

俺は右腕を引き、拳に気を溜める。

圧縮と循環を幾重にも繰り返していくと、甲高い音が鳴り響く!

 

「射線よし、味方もいない! 吹っ飛べぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

手を突き出すと共に放たれる光の奔流!

赤い極太の光は目の前の眷獣だけでなく、その後ろにいる―――――アグニの射線上にいる全てを呑み込んでいった!

 

『Reset』

 

籠手からその音声が聞こえると、全身から力が無くなっていく感覚が俺を襲った。

今のアグニで倍加の力を使いきったか………。

予想以上に今の俺は弱っているらしい。

 

俺はゼノヴィアと背中合わせになりながら、周囲を見渡す。

チーム『D×D』メンバー、神滅具所有者はなんとかなっているようだ。

グレモリー眷属は何度もやりあってあるし、対処の仕方も分かってる。

木場は紅い龍騎士団を創造して、一度に複数の敵を斬り伏せてる。

リアスと朱乃はあの時のように、滅びの力で形成したドラゴンと雷光龍で眷獣を飲み込んでいる。

変わったとすれば、以前よりも精密な力の操作と出力か。

滅びのドラゴンと雷光龍が荒れ狂いながら、敵を屠っていく光景は圧倒される。

 

この辺りのメンバーは問題ないとして、初めて戦う戦士達は眷獣のタフさに少々押され気味だ。

 

「ぐあっ!?」

 

近くで悲鳴が聞こえた。

振り向くと、一人の妖怪が蜘蛛の形をした眷獣に追い詰められていた。

蜘蛛の牙が妖怪へと向けられる!

 

「ゼノヴィア!」

 

「分かっている! だが、こちらも手一杯なんだ!」

 

俺もゼノヴィアも次から次へと襲ってくる敵の対処に追われている。

あちらまで手が回らない!

 

その時――――――黄金の光がその妖怪を包み込んだ。

黄金の光は眷獣の攻撃を弾き、内側にいる妖怪を守っている。

更には体の傷も瞬く間に治ってしまう。

 

「アーシアか!」

 

後方を見れば、黄金のオーラを纏うアーシア。

アーシアの隣にはファーブニルもいる。

これはアーシアの禁手か!

自分を中心にオーラを広げるのではなく、危険な状態の者へ守護のオーラを飛ばしているんだ。

そうすることで、自身の消耗を減らしているのか。

 

アーシアに近づこうとする敵はファーブニルが放つ火炎で焼き払われている。

普段は変態でも、やるときはやってくれる龍王だな!

 

 

 

 

仲間の頼もしさも感じる反面、敵の凄まじさも感じるのがこの戦場。

下級の相手なら、何とかなるが上位クラス―――――龍王、神、超越者に匹敵する力を持つ眷獣は一筋縄ではいかない。

下級の眷獣に比べ、数では百もいないだろう。

だが、奴らは数を補うだけの力を持った怪物。

並外れたパワーにスピードは一撃でこちらに甚大な被害を与え、堅牢な肉体は並の攻撃ではビクともしない。

嫌なことに回復機能もついているらしく、腕がもがれても一瞬で再生してしまう始末。

 

こちらはサーゼクスさんやセラフォルーさん達が当たっているが、中々、滅しきれていないようだ。

 

………いくらトライヘキサを取り込んだとは言え、ここまでの手勢を一瞬で作り出すとはな。

トライヘキサの無限にも等しい力と、アセムの持つ知識と技術が合わさることで、初めて可能になったのか………。

 

そんなことを考えながら、進んでいると―――――。

 

「イッセー様! 逃げてください!」

 

少し離れたところで、レイヴェルが叫んだ。

 

一瞬、フッと影が辺りを覆ったと思うと、上空を飛んでいたドラゴン型の眷獣から莫大な火炎が吐き出された!

この規模は………ッ!

 

「ちぃッ! ゼノヴィア!」

 

「な、なに!? うわっ!」

 

俺は傍で戦っていたゼノヴィアの腕を掴み、レイヴェルの方へ思いきり放り投げた。

宙に放り出されたゼノヴィアがレイヴェルに受け止められたことを確認した直後―――――火炎が俺を呑み込んだ。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

咄嗟に張った気のバリアーを熱が通り抜けていく!

とてつもない熱量が肌を焼き、俺の意識まで焼き尽くそうとしてくる!

 

火炎放射が終わった後………俺は力なくその場に崩れ落ちた。

 

「ガハッ………」

 

全身から煙があがる………。

ヤバい、手足の感覚がない………。

視界が霞んで前がよく見えない………。

 

ズゥゥンと地面が揺れた。

恐らく、俺を焼いてくれたドラゴン型の眷獣が近くに降り立ったのだろう。

そこから奴の足音らしき音が徐々に大きくなってきて、辺りが暗くなった。

 

どうやら、俺の息があることを理解しているらしい。

とどめをさす気か?

 

『しっかりしろ、相棒!』

 

ドライグの焦る声が頭に響く。

俺も何とかして起き上がりたいが、今の一撃でかなりのダメージを受けてしまった。

 

「イッセー!」

 

「イッセー様!」

 

ゼノヴィアとレイヴェルの悲鳴が聞こえる。

その声が聞こえたのかリアス達も俺の危機を察知して、こちらに駆けつけてくるのを感じた。

 

「そこを………どきなさいッ!」

 

だが、リアスの声から察するに他の眷獣が立ち塞がっているみたいだ。

美羽達も応戦しているようだが………。

 

「がぁ………ッ!」

 

俺は痺れる体に命じて、何とか体を起こす。

起き上がると同時に焼けた全身から赤い血が滴り落ちていく。

俺はフラつきながらも、目の前のドラゴン型の眷獣を睨んだ。

眷獣もまた赤い瞳で俺を見てきて―――――口を大きく開け、そこに炎の塊を作り出した。

 

「イッセー! 逃げなさいッ!」

 

「お兄ちゃん! このッ!」

 

アリスと美羽が眷獣を蹴散らすが、一向に進めていない。

こいつら、連携でも取っているのか………?

 

目の前の眷獣の波動は龍王クラスは確実だ。

上位の眷獣がそれぞれ司令塔の役割を持っているとすれば………かなり、ヤバいな。

一体一体でも厄介極まりない相手だと言うのに、そいつらが徒党を組み、連携するとなると………。

 

まぁ、俺の現状もかなり危機的なんだが。

手足は動かないし、攻撃できる力が出てこない。

逃げるにしても、一歩も動けないんじゃ逃げようがない。

 

「くそったれ………!」

 

俺が短くそう発した―――――その時。

 

ドラゴン型の眷獣の足元から莫大な炎が巻き起こり、奴の体を包み込んだ!

超高温の炎が地面を溶かし、眷獣の肉体を焼いていく!

 

なんだ………誰がこれを………?

少なくともリアス達じゃない。

リアス達は今も他の眷獣と激戦を繰り広げている真最中だ。

それなら、一体―――――。

 

「フハハハハ! 危ないところだったな、兵藤一誠!」

 

高らかな笑い声。

若い男の声だった。

そいつは上空から―――――炎の翼を羽ばたかせながら、俺の目の前に降り立つ。

 

俺はそいつの顔を見て、目を見開いた。

 

「ライザー!?」

 

そう、俺を助けてくれたのはライザーだった!

まさかの登場にレイヴェルも仰天していて、

 

「お兄さま!? うそっ!?」

 

と、離れていたところで、素頓狂な声をあげているほどだった。

 

「なんだなんだ、その顔は? 俺がこの場にいるがそんなにおかしいか? というか、『うそっ!?』とはなんだ、レイヴェル!」

 

俺とレイヴェルの反応に不服そうなライザー。

 

いやいやいやいや、これは驚くだろう?

だって、このタイミングでライザーの登場は予想外だろう?

うん、俺達の感想は間違っていないはずだ!

助けてもらっておいて、なんだけども!

 

俺はライザーに問う。

 

「ライザー………おまえ、大丈夫なのか?」

 

ライザーは皇帝とのレーティングゲームで行方不明になった後、アジュカさんの手回しもあって、フェニックス家に届けられたはず。

まぁ、アジュカさんから無事とは聞いていたが………。

 

ライザーが言う。

 

「今の貴様の方がボロボロだろうに。それにな、おまえ達はいつの話をしている? あんなもの、何日も前の話だろう。魔王ベルゼブブ様からの説明もいただいたし、父上達からも俺が気を失っている間のことは聞いている。………というよりな、こんな事態なのだぞ? フェニックス家の男として、参戦するのは当然のことだろう?」

 

と、呆れたような口調で言ってくる。

まぁ、今のライザーらしいと言えばそうなるのかな?

 

「ユーベルーナ。それから、おまえ達は兵藤一誠を守ってやれ。その状態ではまともに戦えんだろうからな」

 

その指示にユーベルーナさんは頷くと、ライザーに聞き返した。

 

「分かりました。ライザー様はどうなさるおつもりで?」

 

「ふん、決まっている」

 

ライザーは上着を脱ぎ捨てると、ドラゴン型の眷獣に視線を移し、不敵な笑みを浮かべた。

 

「兵藤一誠。今は届かなくとも、俺はいつかおまえを倒す。だからこそ、死ぬな。このような場所で死んでくれるな。おまえに死なれると目標が消えてしまうのでな。………まぁ、任せておけ」

 

刹那、ライザーの体から濃密なオーラが滲み出す。

広げたフェニックスの翼から放出される熱も更に温度を増していく。

 

おいおい………ライザーの奴、いつの間にここまで力を上げたんだ?

以前、軽く手合わせした時よりも遥かに力を上げてやがる………!

 

「さぁ、やろうか。フェニックスの業火、存分に味わうがいい!」

 

蘇った不死鳥がその力を見せつける―――――。

 




~あとがきミニストーリー~

アーシア「え、えっと………ワルキュリアさんはどうして小さな女の子が好きなんですか?」

ワルキュリア「これを見てください、アーシア様」

アーシア「これは………アルバムですね。ここに写っている二人の女の子はもしかして………」 

ワルキュリア「そうです。幼き日のアリス様とニーナ様です。この頃はそれはもう可愛くて………。お二人の成長の記録を着けることが私の義務、使命………趣味なのです」

イッセー「ちょっと待った。その話、詳しく。ロリアリスとロリニーナの話をもっと詳しくッ!」

アーシア「イッセーさん!?」


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64話 漢達の意地

その男―――――ライザー・フェニックスがフェニックスの翼を広げ、宙に浮かぶ。

炎の翼から放たれる熱量は尋常ではなく、離れていても焼かれてしまいそうなほどだ。

 

ライザーと相対するのはドラゴン型の眷獣。

実力で言えば、龍王クラスは確実だ。

 

俺の考えが正しければ、こいつを含めた眷獣の上位種は他の下位の眷獣の司令塔的な役割を担っているはずだ。

現に、他の場所でも一体の上位種を中心に、下位の眷獣が複数で動いているという状況がいくつも見てとれる。

こいつらが下位の眷獣に指示を出し、互いに連携をさせている可能性は十分にあり得るだろう。

知能を持った眷獣………ロスウォードの時ではそのようなものはいなかったが、アセムなら実現できそうだしな。

 

相手に作戦や連携があった場合、ただ暴れられるよりも面倒なのは言うまでもない。

しかし、逆に言えば、司令塔となる存在を討ち取れば相手は確実に崩れる。

そうなれば、こちらもかなり戦いやすくなるはずだ。

 

それで、ライザーがあのドラゴン型の眷獣と戦って勝てるかだが………正直、厳しいところではある。

ライザーの実力が知らぬ間に大幅アップしていたので、先程は驚いたが、相手が相手だ。

まともにやりあって勝てる相手ではない。

しかし、ライザーはドラゴン型の眷獣に臆するどころか、好戦的な笑みすら浮かべている。

 

何か策があるのか………それとも、相手の実力を認識できていないのか。

いや、そのどちらでもないな。

ライザーは理解しているんだ、自分と相手のとの差を。

そして、ライザーは相手を倒すための策なんて持っていない。

そもそも、俺を助けたのだって、偶然だろう。

この乱戦下、俺の位置を的確に見つけることは難しいからな。

 

ライザー一人で相手にするのは厳しい。

だが、ライザーの眷属が参戦すれば、それはライザーの足を引っ張ってしまうことになるだろう。

どうするつもりだ、ライザー?

 

そんなことを考えている間にライザーが先手を取った。

 

「ぬぅぅぅぅぅぅッ!」

 

唸るような声をあげながら、掌に業火の塊を作り出すと、眷獣目掛けて放った。

放たれた炎は真っ直ぐに進み、眷獣に直撃。

超高温の炎が炸裂した。

 

赤い炎が周囲を覆うなか―――――直撃を受けたはずのドラゴン型の眷獣は炎を突っ切り、ライザーへと迫った!

巨体にみあったサイズの二対の翼を動かして、猛スピードでライザーとの距離を詰めていく!

 

ライザーは眷獣の突貫を避けると舌打ちする。

 

「ちっ、今ので表面が焦げただけか。スピードもかなりのものだ。………それにしても、俺の相手がドラゴンの形をしているとはな。これも因縁か?」

 

苦い顔で呟くライザー。

 

リアスの婚約をかけたレーティングゲームで俺に負けてからライザーはドラゴン恐怖症になった。

俺が放った強烈なドラゴンのオーラがトラウマになったからだ。

あの後、暫くしてからライザーはドラゴン恐怖症を克服したのだが………。

確かに、ここに来てライザーの相手がドラゴンの形をしているのは因縁的なものがあるのかもしれない。

 

ライザーがフッと笑う。

 

「まぁ、いい。俺は貴様などよりも遥かに恐ろしいドラゴンと戦ったのだ。その程度でこのライザー・フェニックスが臆するものかッ!」

 

その瞬間、ライザーの纏う炎が爆発的に膨らんだ!

フェニックスの翼が更に大きく、高温になっていく!

 

「火の鳥と鳳凰! そして不死鳥フェニックスと称えられた我が一族の業火! その身で受け燃え尽きろ!」

 

それはあのレーティングゲームで俺に言い放った言葉。

あの時は全く脅威に思わなかった。

だけど、今は全く違う。

 

この覇気、感じられる強い意思と覚悟!

これがフェニックスの力!

これが誇り高き上級悪魔ライザー・フェニックスか!

 

強烈な熱風を巻き起こしながらライザーが突撃していく。

真っ向から勝負するつもりなのか!

炎を纏うライザーの拳が眷獣へと叩き込まれる!

だが、相手に通じている様子はない。

 

「硬いな! だがッ!」

 

途端、ライザーの炎が拳の一点に集中していく。

すると、拳全体から放出していた熱が一気に高まっていき―――――眷獣の表面を溶かし、拳が内側へとめり込んだ!

眷獣が苦悶の声をあげる!

 

ライザーが言う。

 

「俺はドラゴンと何度も手合わせしてきたんでな。ドラゴンの鱗がどれほどのものか良く分かっているつもりだ。ただ、炎を放つだけではドラゴンを超えることは出来ん。―――――フェニックスの業火を一点に集中させ、熱量を究極にまで上げていく。これが俺が修行で得たことだ。まだ完全に使いこなせているわけではないがな?」

 

そう言えば、ライザーはドラゴン恐怖症を克服した後もタンニーンのおっさんに頼み込んで、おっさんの配下のドラゴン達とガチンコ勝負をしていると聞いたことがある。

あそこにいるドラゴンはどれも強力な力を持っている。

そんなドラゴン達と真っ向勝負は相当ハードなはずだ。

 

過酷な修行の果てに得た力、か。

ライザーの奴、下手すりゃ最上級悪魔クラスに片足を突っ込んでるんじゃ………。

タンニーンのおっさんも見込みがあるとか言ってたし。

 

自分の力が通じることが判明したライザーは果敢に攻めていく。

火炎弾を放つことはせず、拳と蹴りによる完全な肉弾戦を行っているのは無駄な消耗を避けるためだろう。

拳の一点に集中させた超高温を直接ぶつけた方が効果的だからだ。

その行動は正しかったようで、ライザーの攻撃は確実にダメージを与えていっている。

 

だが、肉弾戦一本で攻める場合、リスクも大きい。

自分が相手の間合いの圏内にいるのだから、当然、相手の攻撃も受けやすくなる。

現に敵の鋭い牙と爪、そして灼熱のブレスはライザーに傷を負わせていっている。

時が経つほどに、ドラゴン型の眷獣の攻撃が更に激しく鋭くなっていく。

吐き出す火炎は周囲にいた多くの味方を焼き、無へと返してしまうほどだ。

その手数の多さに高速で移動するライザーも押されていき―――――遂にはドラゴン型の眷獣の鋭い攻撃がライザーの肉体を容易く貫いた。

 

ライザーに命により俺の護衛に回ってくれているユーベルーナさんが悲鳴に似た声をあげる。

 

「ライザー様ッ!」

 

しかし、

 

「狼狽えるなッ!」

 

ライザーはフェニックスの特性である不死の力で肉体を再生しながらそう返した。

ライザーは肩を上下させながら言う。

 

「強いな………。俺は厳しい修行で力を得たと思っていたが………まだまだということか。ったく、嫌になるぞ。だが、それでこそ鍛え甲斐があるというもの! さぁ、来い! このライザー・フェニックスはまだ立っているぞッ! 貴様が兵藤一誠を狙うというのなら、この俺を倒してからにしろッ!」

 

再びライザーが攻勢に回る。

眷獣の巨体に拳打を打ち込み、超高温で焼いていく。

しかし、そんなライザーを嘲笑う火のように眷獣の肉体は次から次へと再生し、一瞬で元に戻ってしまう。

そして、お返しと言わんばかりにライザーが繰り出した攻撃以上の攻撃をライザーにくらわせる。

鋭く重い一撃がライザーを捉えると、骨が砕ける嫌な音が聞こえてきた。

 

「ぐぅぅぅッ!」

 

吹き飛ばされるライザー。

 

見ていられない程にボロボロな姿。

腕は折れて垂れ下がり、顔面は流血で赤く染まってしまっている。

その傷も不死の特性で再生されるが………回復のスピードも少し前と比べ、格段に落ちている。

炎の出力も明らかに弱まっていて………。

 

「ライザー様ッ! くっ!」

 

ライザーの眷属達は主の元へと駆けつけようとするが、動けなくなった俺を守るために、この場から動けないでいる。

 

クソ………ッ!

このままじゃ、ライザーがやられる!

動けよ、俺の体!

俺が動けたら、この子達は主を助けに行けるんだ!

 

『無茶だ、相棒。この傷では………!』

 

ドライグがそう言ってくるが………俺は………!

 

「ライザー………!」

 

俺は痺れる体を起こすが、込み上げてきた血を吐き出して、すぐに倒れてしまう。

ライザーの眷属の女の子―――――『兵士』の棍棒使いのミラが俺を支えてくれるが………。

 

ドラゴン型の眷獣がライザーの前に立つ。

巨大な腕を振り上げ、ライザー目掛けて―――――。

 

 

「やらせるかってんだ!」

 

 

第三者の声。

すると、眷獣が振り上げた腕にいくつもの触手が巻かれ、動きを封じた。

更に黒い炎が四方から眷獣を覆い、焼いていく。

 

これは―――――。

 

『助けにきたぜ、兵藤!』

 

漆黒の鎧を纏う匙が複数の眷獣を黒炎で焼き尽くしながらの登場だ!

良いタイミングで来てくれたよ、こいつは!

 

漆黒の鎧から伸びる触手。

その周囲に浮かぶ呪詛が辺りにいる眷獣を捕まえ、次々と呪殺していく。

いつ見ても、恐ろしい力だな………。

 

匙の登場にライザーが言う。

 

「ソーナ・シトリーの『兵士』匙元士郎か」

 

『はい。うちの主がこちらの危機を察知して、俺を送り込んでくれたんです。かなり近場だったんで来れたというのもあるんですが、間に合って良かった』

 

「そうか。………礼を言うぞ。おまえが来なければ、危ないところだったからな」

 

礼を言うとライザーは匙と共に黒炎に包まれている眷獣へと視線を戻す。

匙の黒炎―――――龍王ヴリトラの黒炎はたとえ神であろうとそう簡単に振り払えるものではない。

龍王に匹敵する力を持つとはいえ、あの黒炎をそう簡単に解除できるとは思えないが………アセムのことだ、何かしらの仕掛けは施してそうだな。

 

ライザーと匙も警戒しながら様子を見守っている。

すると―――――。

 

『グォォォォォォァァァァァァッッ!』

 

黒炎に包まれている眷獣が咆哮をあげ、黒炎がかき消された!

 

匙が驚愕の声をあげる。

 

『おいおい、マジかよ………!?』

 

『我が炎を打ち消すか。我が分身よ、奴は先程までやりあった者共よりも格が上らしい。心してかかれ』

 

漆黒の鎧に埋め込まれている宝玉からヴリトラの声が聞こえてきた。

ヴリトラも気づいたか、眷獣達の中に頭が一つも二つも抜けている化物がいることに。

 

ライザーが深く息を吐いた。

 

「奴の攻撃、防御、スピード。どれを取っても化物だが、面倒なのはあの再生能力。焼いても焼いても再生されたのでは、こちらが先に参ってしまう」

 

『ということは、あいつの再生スピードを超える力で焼き尽くす必要があるということですね』

 

「簡単に言えばな。だが、俺一人では無理だ。今の俺では………。ったく、こいつらを作り出した異世界の神とやらは正真正銘の化物じゃないか」

 

『それとやり合える兵藤も大概ですよね』

 

なんだよ、その目は!?

俺もアセムと同類と見られてるの!?

 

ライザーが言う。

 

「匙元士郎。手伝ってくれるか?」

 

『ええ、そのために俺はここに来たので』

 

迷いのない言葉にライザーはフッと笑う。

そして―――――。

 

「ならば行こうか、匙元士郎!」

 

『望むところです!』

 

赤い炎と黒い炎を放出しながら、ライザーと匙が駆ける!

ライザーは右、匙は左から眷獣に迫り―――――それぞれが強烈な一撃を見舞う!

ライザーの炎が、匙の黒炎が眷獣を焼く!

 

眷獣は体を震わせて、二人を弾くと、口から莫大な火炎を吐き出した。

火炎が着弾した場所は熱で溶かされ、ドロドロのマグマへと変わっていく!

 

『あんなの食らったらお陀仏じゃないか! こいつならどうだ!』

 

匙は飛び上がると、鎧から生える触手を伸ばす。

伸びた触手は眷獣の腕と足、首に巻き付き、そこから黒炎が発生する。

更に―――――

 

『おまえの力を使わせてもらうぜ!』

 

匙がそう言うと触手が大きく脈動した。

次の瞬間、匙の纏うオーラが膨れ上がり、眷獣を襲う黒炎も一段とその火力を上げていく。

眷獣から吸いとった力を自分の力へと変換しているんだ。

 

そこにライザーが飛び込む。

ライザーの腕には匙の触手が接続されていて、匙と同じく眷獣から吸いとった力をライザーに流しているようだった。

 

ライザーは胸の位置で両手を合わせると、左右の掌の間に火炎を作り出す。

火炎は大きくはならず、それどころか徐々に小さくなり、最終的にはビー玉サイズへと変化した。

しかし、そこに籠められた熱は尋常ではない。

圧縮に圧縮を重ねたあの小さな炎はまるで小さな太陽だ。

 

「くたばれッ!」

 

ライザーが腕を振りかぶり、小さな火の球を投げた。

火の球は眷獣の鼻先に触れて――――――急激な膨張を引き起こす!

巨大化した灼熱の球体は眷獣を完全に呑み込んでいく!

 

匙がライザーに問う。

 

『やりましたかね?』

 

「分からん。だが、油断はするな」

 

「分かっています」

 

二人は気を緩めることなく、様子を見守る。

 

あれだけの攻撃だ。

いかに龍王クラスであろうと、力を吸われた状態で受ければ無事では済まないだろう。

 

ドライグも同意する。

 

『ああ、そうだな。前に言ったかもしれんが、フェニックスの炎はドラゴンの体にも傷をつけることが出来る。あの炎はまさにドラゴンをも降せるそれだ。しかし、面白い。あのヘタレた男がここまでのものになるとはな。ヴリトラを宿す小僧も大した成長だ』

 

龍王とフェニックス。

この二人の攻撃なら、あの眷獣でも………。

 

しかし――――――。

 

『ガッ………!?』

 

突如、匙が苦悶の声を漏らす。

見ると、何かが匙の脇腹を貫いていた。

 

ライザーが声をあげる。

 

「この土壇場で姿を変えただと!?」

 

ライザーの視線の先にあるのは無数の触手を生やしたドラゴン。

翼は炎で形作られており、ヴリトラとフェニックスを足したような姿をしている。

匙を貫いているのは無数に生える触手のうちの一つだ。

 

更に伸びてきた触手が匙の四肢を穿つ。

腹に続き、手足に風穴を開けられた匙は倒れてしまう。

 

まさか………!

 

「ライザーと匙の情報を得て、進化したということか!? いや、こいつは………!?」

 

辺りを見ると、あのドラゴン型の眷獣の周囲にいた他の眷獣にまで匙とライザーの特徴が現れている。

触手を繋げた相手から力を奪い、黒炎とフェニックスの炎を操って、自身の敵を屠っていく………!

 

他の場所でも、同様の事が起きているようで、半減の力を得た眷獣もいれば、滅びの魔力を操り始める眷獣まで現れている。

 

この戦場を見下ろすアセムが言う。

 

《フフフ、面白い仕掛けだろう? その子達には戦いながら相手の能力を模倣する力が備わっているのさ。長引かせば、その分だけ能力をコピーされることになる。それから、もう一つ》

 

アセムは魔法陣を展開すると、空へと放り投げた。

すると、魔法陣が強く発光し、上空にある映像が映し出される。

それはアセムが構築したこの世界と俺達の世界を繋ぐ(ゲート)の映像だった。

何事かと俺達が見ていると、そこにはとんでもない光景が流れていて、

 

「嘘だろ………!? こいつら、俺達の世界に乗り込んでるってのか!?」

 

そう、俺達が戦っている眷獣が門を潜り、俺達の世界に侵攻していた!

今も映像の向こうでは味方との激戦が繰り広げられている!

このままでは、人間界にも影響が―――――。

 

恐らく、それは誰もが考慮したことだろう。

しかし、アセムは俺達に追い討ちをかけてくる。

 

《人間界への影響を考えたね? でも、もう遅い。この戦いの映像は一般の人間達にも見られているよ。一部始終、全てをね。さぁ、どうする? 君達の世界が崩れる音が近づいてきたよ?》

 

神々からの絶大な攻撃の数々を片手であしらうアセム。

あいつ、徹底的に俺達を追い詰めるつもりか!?

 

 

―――――僕はまだ………世界の声を聞いていない………!

 

 

不意にアセムの言葉が頭の中に過る。

あいつはトライヘキサを吸収する直前、確かにそう言った。

これが、そのためのものだとでも言うのかよ、アセム………ッ!

 

匙が脇腹の傷を抑えながら立ち上がった。

指と指の間から夥しい量の血が吹き出しているにも関わらず、匙は強い瞳で眷獣を見る。

 

『行かせねぇよ、この先は………! これ以上、俺達の世界を滅茶苦茶にされてたまるかってんだ………!』

 

肩を上下させて、口からもゴポッと血を吐き出す匙。

今にも倒れそうな雰囲気の中、匙が俺に言ってきた。

 

『なぁ、兵藤。実は俺、妹と弟がいるんだ………。父さんと母さんが事故でいなくなって………代わりにじいちゃんが俺達を育ててくれた。けど、じいちゃんも少し前に………』

 

それは俺の知らなかった匙の家族についてだった。

 

『その後、俺はソーナ会長………ソーナさんと出会った』

 

それは偶然たったのか、必然だったのか。

匙はソーナと出会った。

 

ソーナは匙の内側に眠る力―――――神器『黒い龍脈』を見つけ、それを見事に発現してみせた匙はソーナと主従契約を結び、彼女の眷属となった。

シトリーという大きな後ろ楯を得ることが出来た匙は、そのお陰もあり、弟と妹を守ることができたという。

 

匙が言う。

 

『俺は………! 守られてばかりだった! じいちゃんにも、ソーナさんにも………! 今、あいつらを守ることが出来ているのも、俺の力じゃない………』

 

だから!、と匙が続ける。

その言葉には強い意思が籠められていて―――――。

 

『これからは俺が守るんだ! 大切な人を! 大切な家族を、仲間を! こんなところで、死んでたまるかよぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』

 

天に向かい吠える黒き龍王。

それに続くのはもちろん、あの男。

 

「よく言った、匙元士郎! 若手にそこまで言われて、昂らなければ嘘と言うものだ!」

 

匙が倒れている間、一人でドラゴン型の眷獣を相手にしていたライザーが降りてくる。

パワーアップした眷獣にライザーもズタボロの姿だが、匙の言葉に笑みを浮かべていた。

 

匙が言う。

 

『ライザーさん、まだいけますか?』

 

「まだまだ余裕だ! ………と、見栄を張りたいところだが、俺に残された力はほんの僅かだ。精々、でかいのを一発、と言ったところか」

 

『奇遇ですね、俺もです』

 

ドラゴン型の眷獣が巨大な顎を開き、オーラを集めていく。

パワーアップしたことで、強大だった力がより凶悪さを増している。

あんなのを放たれたら、射線上にいる味方はたちまち消し飛ばされてしまうだろう。

チャージが終わり、眷獣のオーラが最大限にまで膨れ上がる。

そして――――――滅びの閃光が放たれた。

 

「いくぞ!」

 

『はい!』

 

匙とライザーの纏うオーラが大きくなる!

嵐のように巻き起こる熱風と呪詛を含んだ黒炎が混ざり、滅びの閃光を受け止めた!

 

「『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!』」

 

激しく衝突する力と力!

だが、二人の炎は徐々に押されつつあった!

 

「匙! ライザー!」

 

俺がそう叫ぶ。

しかし、二人から返ってきたのは、

 

「ええい! 少し黙っていろ、兵藤一誠! 言ったはずだ、俺はおまえを倒す男だ! こんな場所では死んでも死にきれん!」

 

『兵藤はそこで休んでろ! ここは俺達でなんとかする! 大体な、俺もソーナさんと出来ちゃった婚するまで、死んでも死にきれねーんだ!』

 

「おまえ、さっきと言ってること違くないか!?」

 

やっぱり、シトリー眷属にもシリアスブレイカーの波が!?

第一号は君だと言うのか、匙君!

確かに、ソーナとの出来ちゃった婚はおまえの夢だったけども!

 

『大体なぁ………! これくらい、なんとか出来なくて龍王が名乗れるかよ! こんな時に体張れないで何が龍王だ!』

 

「この程度で根をあげるなど、なにがフェニックスか! フェニックス家の男なら、前に出てこそだろう! ………いや、違うな」

 

匙とライザーが手を突き出す。

相手の閃光に焼かれ、漆黒の鎧は粉々に砕け、ライザーの腕は半分、消し飛んでいる。

そんな中、二人の掌から極大の炎が現れる。

フェニックスの業火と龍王の黒炎が混ざり、更に大きく、更に強大になっていくのが見えた。

 

そして、二人は同時に叫んだ。

 

「『これくらい乗り越えられないで、なにが漢だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!』」

 

混ざりあった二人の炎が滅びの閃光を押し返し、呑み込んでいき――――――強大な力を持った眷獣を跡形もなく焼き付くした。

微塵の灰すら残さずに。

 

 

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

「くそっ! なんだってんだ、こいつらは!?」

 

日本近海にある、二つの世界を繋ぐ(ゲート)付近。

ここはアセムが構築した世界に乗り込む時に、リアス達が戦っていた場所でもある。

チーム『D×D』のメンバーを含め、各勢力のオフェンス部隊が突入したところで、戦況はある程度落ち着いていた。

 

ところが、つい先程、(ゲート)を潜って新たな敵が現れたのだ。

それはアセムが新たに作り出した眷獣。

一体一体が高い戦闘力と再生能力を持っている上に、眷獣を指揮する上位の眷獣までいるという厄介極まりない群れだ。

 

当然、こちらでも一誠達と同様に苦戦を強いられた。

何度倒しても、無限に襲ってくる敵に精神を折られそうにもなった。

 

だが、戦士達は折れなかった。

それは彼らにも守りたいものがあったからなのかもしれない。

彼らが戦えた理由、それは―――――希望だ。

彼らには希望があった。

 

そう――――――物理戦士(まほうしょうじょ)の存在が!

 

「悪魔さん、ミルたんはやるにょ。悪魔さんの教えを今こそ! にょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

激しく隆起する筋肉!

見た目とはまるで合わないラブリーなオーラが嵐のごとく吹き荒れる!

何が起きようというのか!

いや、もう誰も驚きはしない!

なにをどうツッコめばいいのか分からないのだ!

ただ、言えることはとんでもないことになるということだけ!

 

さぁ、現れろ!

希望となりし者よ!

最強の漢の娘(おとこのこ)よ!

 

 

「トランザムにょぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

―――――――トランザムミルたん、始動。

 

 

 

 

物理戦士(まほうしょうじょ)は進化する。

 

 

 

[三人称 side out]

 

 




~次回予告~

アザゼル「神々すら赤ん坊扱いとはな………。トライヘキサを吸収したアセムがここまでとはな。おい、イッセー! 俺が思うに、あいつに勝てるのはおまえしかいない! さっさとケリつけてこい!」

イッセー「俺だってそうしたいんですよ! でも、今の俺じゃあ………!」

イグニス「焦ってはダメよ、二人とも。アザゼル君の言う通り、この戦いを終わらせることが出来るのはイッセーよ。でも、イッセーの力は一人のものじゃないの。皆の願いがイッセーの力になる。さぁ、いきましょう! おっぱいの彼方へ!」

アザゼル「おいおいおい、これはまさかの展開なのか? やはりそうなのか? いや、もう何も言うまい。それでこそ、おっぱいドラゴンなんだからな。いけ、イッセー! 吸え、おっぱいドラゴン!」 

イグニス「次回! 『乳龍降臨! 俺が吸わなきゃ誰が吸う!』」

アザゼル「絶対見てくれよな!」

イッセー「おぃぃぃぃぃぃ!? これマジか!? マジなのか!? つーか、そのタイトルどっかで見たことあるよ!?」



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65話 俺が吸わなきゃ誰が吸う!

さぁ、シリアルを始めよう。


「イッセー!」

 

「お兄ちゃん!」

 

ライザーと匙がドラゴン型の眷獣を倒した後。

俺のところにアリスと美羽が駆けつけて来てくれた。

二人ともボロボロではあるが、大した傷を負っていないのは幸いだ。

 

美羽が俺の胸に手を当て、魔法陣を展開する。

こいつは回復の魔法、応急処置だ。

流石の美羽でもアーシアレベルの回復を実現するのは難しいようで、傷の治りもかなり遅い。

まぁ、神姫化した美羽より高い治癒力を持つアーシアがすごいんだけれども。

 

美羽が俺を治療しながら言う。

 

「アーシアさん、他の人の回復で手一杯だから………。今はこれで我慢してね?」

 

「ああ、助かるよ。応急処置だけでも、大分楽になる」

 

完全な回復は見込めないにしろ、痛みが和らぐのと出血を抑えられるのは大きい。

美羽には感謝だ。

 

俺が美羽に治療を受けている間、アリスはユーベルーナさんの援護に回っていた。

 

「あなた、ライザー・フェニックスの『女王』ユーベルーナさんよね? うちの主を守ってくれたこと、感謝するわ」

 

「いいえ、これは我が主ライザー様の指示ですもの。それにこの戦場、互いの協力なしに生き残るのは難しいのではないかしら、赤龍帝の『女王』」

 

「ええ、全くその通りよ」

 

白雷を纏い、光速で眷獣に突撃するアリス。

荒々しく振るわれた槍と高出力の雷が眷獣の肉体を四散させる。

ユーベルーナさんは後方からアリスを狙う眷獣を爆撃し、他の眷属と共にライザーの元へと移動し始めている。

 

ドラゴン型の眷獣によって深傷を負わされた匙だが、

 

「匙! あなたは本当に無茶をして………!」

 

「す、すいません………」

 

眷属と共に駆けつけたソーナに怒られながらも、彼女が持っていたフェニックスの涙によって傷はすっかり治っていた。

ソーナの方は………うん、怒っていることは怒ってるけど、匙が戻ってきたことを喜んでいるようだな。

涙を拭った後、匙のことを軽く抱き締めてるし。

匙………今のおまえ達、いい雰囲気だぞ!

 

それから、俺の危機を救ってくれたライザーは消耗はしているものの、傷自体は自身の特性で完全回復していた。

かなりの魔力を使ったのだろう、ライザーは少し魔力切れを起こしていて、

 

「ちっ、たった一体でこの様とはな………。こんな化物があと何体いるんだ? いい加減にしてほしいぞ、全く」

 

と、戦場を見渡しながら文句を言っていた。

 

ライザーの気持ちはすっごく分かる。

あんな化物クラスの怪物がまだまだいるってんだ、嫌にもなるよね。

まぁ、そんな奴らの相手は神々かそれに準ずるレベルの戦士が相手にしてくれているよ。

 

「兵藤一誠!」

 

俺の名前が呼ばれたと思うと、俺達の頭上になにか巨大なものが現れた。

上を見上げると、巨大なドラゴン―――――タンニーンのおっさんが浮かんでいた!

 

「タンニーンのおっさんも来てたのか!」

 

「当たり前だ。俺の配下のドラゴンも全員来ているぞ」

 

おっさんが指差した場所では何体ものドラゴンが眷獣の群れに突貫し、強力なブレスを浴びせていてる。

こうして見るとまさに大怪獣バトルだな。

 

「ふぅ、とりあえずは合流できたな?」

 

息を吐きながら降りてきたのはティアだった。

流石に無傷とはいかないようだが、ピンピンしてるのは流石は龍王最強。

というか、ティアも眷獣との戦いは慣れてたな。

一緒にアスト・アーデに行ってるし。

 

ティアがパチンと指を鳴らすと、上空にいくつもの魔法陣が展開され、極大の光線が放たれる。

放たれた光は多くの眷獣を一瞬で屠ってしまった。

 

ティアが言う。

 

「この程度で済む相手だけなら楽なんだがな。戦うことは嫌いではないが、あまりにしつこい相手は嫌になる。………合流早々にズタボロ姿の主を見るのは何気にショックなんだが?」

 

「あ、いや………油断はしてないよ?」

 

「油断していようと、していまいと、それだけの傷を負っているのなら同じだ」

 

うっ………うちの龍王様は手厳しい!

確かにその通りなんだけど………もっと優しくしてよ!

このズタボロな人にトゲを打ち込まないで!

その姉的包容力で俺を包み込んでよ、ティア姉!

 

すると、

 

「う、うむ! しょうがないやつだな、イッセーは」

 

「え?」

 

少し照れた顔でティア姉が抱き締めてきた!

 

「よしよし、甘えたいのなら、存分に甘えても良いのだぞ? ティア姉が甘えさせてやろう」

 

ふわぁぁぁぁぁぁぁぁ!

ティア姉のおっぱいが!

おっぱいが押し付けられるぅぅぅぅぅぅ!

 

つーか、やっぱり『ティア姉』って呼ばれるの好きなのな!

あと、何気に心の声読まれてるし!

 

あぁ、ティア姉に頭を撫でられるのが、ここまで心地良いとは………。

リーシャの時もそうだったけど、これが姉というものか!

 

そんな姉の包容力に包まれていると、ティア姉が言ってきた。

 

「ところで、今度はいつ幼児化するのだ? また見てみたいのだが。アザゼルの発明の中では唯一気に入ったのだが」

 

「それは勘弁してくれぇ!」

 

幼児化って!

美羽がアザゼル先生に頼んで作ってもらったあの装置だろ!?

どんだけ気に入ってんだ!?

 

「………ティアマットも、変わったものだな」

 

「おっさん! そんな遠い目で呟かないで! これはシリアスブレイクという毒に漬かっただけだから!」

 

 

 

 

タンニーンのおっさんが配下のドラゴンの元へと戻るのと、入れ違いにリアス達が俺のところに辿り着いた。

どうやら、おっさんとティアがここに来る前に下位の眷獣を吹き飛ばしていたようだ。

 

それから、木場が言うには、

 

「匙君達があのドラゴン型のを倒してから、相手の動きが少し鈍ってね。それもあって、ここまで来れたんだ」

 

とのことだ。

 

やはり、あのドラゴン型の眷獣は下位の眷獣達の司令塔の一つでもあったということか。

俺の推測は当たっていたらしい。

 

こいつらを叩くには、司令塔になっている奴を先に倒してからの方が楽になるかと聞かれると、それが中々に難易度が高い。

司令塔の眷獣一体一体が神クラスだ。

早々倒せるものではない。

今も神々が自身の配下と共に超激戦中だ。

 

それからもう一つ。

仮に、こいつらを全滅させることが出来たとしても、この戦いは終わらないということ。

 

「無茶苦茶だわ………!」

 

厳しい声を漏らすリアスの視線の先、そこではアセムが複数の神々を相手にしていた。

神々は雷を、炎を、水を、大地を、それぞれが司る力をフルに使ってアセムに猛攻を仕掛けている。

中には凄まじいオーラを解き放ちながら、アセムに対して近接戦まで仕掛けている若い神もいた。

その神が放つ蹴りの余波だけで大地が吹き飛ぶが………アセムはそれを指の一つで軽々と受け止めている。

 

木場が呟く。

 

「神々の黄昏………。あれを見ていると、今が世界の終末だと思えてしまうね」

 

神々の黄昏、か。

ロキの奴が、自分が属する神話の主神であるオーディンのじいさんを襲撃してまで成そうとしたもの。

木場が感じたように、今、この時が世界の終末と認識してしまう。

 

「黄昏というよりは、ほぼ一方的な蹂躙だな」

 

その声が俺達の頭上から聞こえてきた。

降りてきたのはアザゼル先生だ。

 

アザゼル先生は神々を圧倒するアセムに嫌な汗を流していた。

 

「アースガルズの神に阿修羅神族、インド神話の神々。あれだけの力を持った神々が、総掛かりでも倒せないだと? 悪い冗談、もしくは悪い夢とでも思いたいくらいだ」

 

木場がアザゼル先生に問う。

 

「先生、やはりこのままでは?」

 

「ああ、かなり不味い状況だ。戦線が押されつつある。………アセムに集中砲火を与えたいところだが、この眷獣共が邪魔だ。逆に眷獣共に戦力を裂くとアセムの一撃でこちらが吹き飛ぶ。守備に徹してくれている勢力を呼びたいところだが、向こうも相当ギリギリらしくてな」

 

つまり、俺達にはもうこれ以上投入する戦力がない。

絶望的すぎて笑いが出るな。

 

「ったく、とんでもないことになったもんだ」

 

吹き飛ばされる複数の眷獣。

眷獣の群れのど真ん中でモーリスのおっさんが戦っていた。

………素手で。

振り下ろされる巨腕を流しては、その腕を掴んで見事な背負い投げを披露している。

 

木場が目元をひくつかせながら問う。

 

「あの、剣は………? というより、もう動いて大丈夫なんですか?」

 

「まぁな。相棒に関しちゃこの通りでな」

 

おっさんが鞘に納められた剣を引き抜く。

そこには砕かれ、刀身が半分になった剣があった。

 

アザゼル先生が言う。

 

「おまえと全盛期のストラーダでも勝てないか」

 

「そりゃあ、俺達は何でもできる完璧超人じゃないからな。言っておくが、あそこに交じるだけの体力は残ってないぞ?」

 

アセムの方を指差すと同時に眷獣を蹴り飛ばすおっさん。

少し離れたところではストラーダのじいさんが聖拳で眷獣を粉砕してるし………。

うん、やっぱりチートだわ、この二人。

 

「こんなチートおじさんでも勝てないってどんだけなのよ………」

 

「しかし、どうしましょう? あのままでは、彼に勝てるとは………撤退して、体勢を立て直すことも無理でしょうし」

 

「そんなことしたら、向こうにも時間を与えることになるわ。倒すなら今………なんだけどね」

 

そんな会話をしながら迫る眷獣を倒していくアリスと朱乃。

朱乃の雷光龍に乗り、アリスが猛烈に斬り込んでいる。

 

アリスは消耗を避けてか、今は神姫化を解いていつものスタイルで槍を振るっている。

美羽の方も同じくで、ディルムッドとレイヴェルの三人で組んで対処しているようだ。

 

木場とゼノヴィアは高速で切り込み、闇の獣と化したギャスパーは、闇を広げて眷獣を呑み込んでいく。

猫又モードの小猫ちゃんは闘気を籠めた拳で相手を殴り倒し、リアスが極大の滅びの力で跡形もなく消し飛ばしていた。

アーシアは全体の把握を行いながら回復のオーラを送っている。

 

………が、皆の表情はかなりきつそうだ。

 

ちなみに俺はアーシアの治癒で傷は回復しているものの、蓄積されたダメージが大きすぎるのか、未だに動けないでいる。

皆もそんな俺の状態を理解してか、俺を守るように戦ってくれている。

 

アザゼル先生が言ってくる。

 

「イッセー、今は回復に撤しておけ。恐らく、あの神に勝てるのはおまえだけだ。出来るだけの時間は俺達で稼ぐ」

 

『俺もその意見を支持する。リアス・グレモリー達と共に戦いたい気持ちは分かるが、ここで相棒を失えば、それこそ終わってしまうぞ』

 

ドライグもそう言ってきた。

 

分かっているよ、二人とも。

だから、こうして飛び出したい気持ちを無理矢理抑えているんだ。

 

すると、少し前からロセと何やら作業をしていたリーシャが言ってきた。

 

「もしかするとですが………彼を一時的に弱体化させることが出来るかもしれません」

 

『――――――ッ!』

 

その発現に皆が目を見開いた!

 

アザゼル先生が問う。

 

「そいつは本当か!? そいつ次第では状況はかなり変わってくるぞ!」

 

その問いにリーシャは少し微妙な表情で返した。

見ると、彼女の手元には莫大な数の術式が描かれた魔法陣が展開されていて、

 

「本当にもしかするとの話です。トライヘキサ捕縛用の術式、これを利用して新たな術式を構築するのです。彼の中にあるトライヘキサとの繋がりを絶ちます。そうすれば、猛威を振るうあの力も失われるでしょう」

 

ロセが続く。

 

「ですが、弱体化できる時間は極僅かな時間になると思います。数分、数秒………一瞬しか効果を発揮出来ないことも考えられます」

 

二人の意見を聞き、アザゼル先生が前髪をかき上げた。

 

「その僅かな時間で奴を倒せって言うのか………。そいつは………いや、そこに賭けるしかないのか?」

 

アセムの弱体化。

それが可能なら状況の好転が見込める。

だが、弱体化できる時間が短すぎる。

悪ければ、一瞬………瞬きをする間の時間に弱体化が解けてしまうかもしれない。

果たして、そんな短すぎる時間の間にアセムを倒せるのか?

 

判断に悩むアザゼル先生にリーシャが言う。

 

「彼に届くのはイッセーしかいないでしょう。ですが、万全でないイッセーでは無理です。そして、回復を待つ時間もありません」

 

「イッセーの全回復する前にこちらが潰されるか………。何とかして、イッセーをフルパワーにすることが出来れば………。リアスとアリスの乳でも吸わせるか?」

 

「私も最初にそれを考えましたが、二人とも乳力を使ってしまったようですし………困りましたね」

 

うーん、後半の会話がおかしいよね!

俺が二人のおっぱいで回復するのは間違ってないけどさ!

冥界の魔獣騒動の時はアリスのおっぱいで回復したし、アウロス学園襲撃の時はアリスとリアスのおっぱい吸って、T・O・S(ツイン・おっぱい・システム)とか言う訳の分からない力に目覚めたしな!

 

というか、リーシャは何で最初に(・・・)二人のおっぱいを吸わせることを考えたの!?

なんで第一案がそれだったの!?

ふざけてるの!?

真面目なの!?

顔だけはシリアスだから分からねぇ!

 

「「………ごめん、なさい」」

 

リアスとアリスが謝った!?

 

なんで謝るの!?

なんで涙目なの!?

なんで悔しそうなの!?

 

リアスが言う。

 

「私があんなにチクビームを撃たなければ………」

 

アリスも言う。

 

「私の胸がもっと大きければ………グスッ」

 

うん、アリスのはともかく、リアスはなんでチクビームを撃ちまくったのか、そこを聞きたい。

 

と、とにかくだ。

俺の回復手段であるダブルスイッチ姫の力は使えない。

そうなると、自力で回復させるしかないわけで―――――。

 

 

「諦めるのはまだ早いわ!」

 

 

「とうっ!」とポーズを決めながら現れるイグニス!

このタイミングで来るとか、嫌な予感しかしない!

それはこの場の誰もが思ったことだろう!

しかし!

しかしだ!

この駄女神の進言は正しいのだ!

悔しいことに、彼女の進言により危機を乗り越えたこともあったのだ!

 

アザゼル先生もそう感じたのか、真剣な表情でイグニスに問う。

 

「イグニス、イッセーを回復させる手段があるんだな? 誰だ? 誰の乳だ? 誰の乳を吸えば良いんだ? アーシアか?」

 

「わ、私ですか!? だ、大丈夫です、イッセーさん! 私のおっぱいで回復できるのなら………す、吸ってください!」

 

アーシアちゃぁぁぁぁぁぁぁん!

その申し出は嬉しいけど、流石にこっちが恥ずかしい!

というか、滅茶苦茶覚悟を決めた顔になっているんですが!?

 

しかし、イグニスは首を横に振った。

アザゼル先生が再び訊ねる。

 

「違うのか? なら、美羽か?」

 

「ボク!? うぅぅ………た、確かにお兄ちゃんには何度もされたけど………こんなところじゃ………。で、でも! お兄ちゃんのためなら、ボクは脱ぐよ!?」

 

美羽ぅぅぅぅぅぅ!

我が愛しの妹よ、服のボタンを外すのが早すぎるぞ!

まだ脱がないで!

まだ決まってないから脱がないで!

 

しかし、イグニスは首を横に振る。

これにはアザゼル先生も驚いたようで、今度は切羽詰まった表情で訊ねた。

 

「違うだと!? じゃあ、誰なんだ! 朱乃か!? ゼノヴィアか!? イリナか!? レイナーレか!? レイヴェルか!? ロスヴァイセか!? 小猫か!? えぇい、イッセーの嫁が多すぎて絞り込めん!」

 

「あんた、どんだけ切羽詰まってるんだよ!? やめてあげて! 皆、顔真っ赤だから!」

 

「やかましい! この戦いを何とか出来るかもしれんのだぞ!? というか、ここで吸わずしておっぱいドラゴンを名乗れると思っているのか! いつ吸うの!?」

 

「今でしょ! ………じゃねーよ!」

 

「それでもおっぱいドラゴンか! そこは『俺が吸わなきゃ誰が吸う!』くらい言えよ!」

 

「うるせーよ! あんた、それが言いたいだけだろ!? というか、それでも教師か!?」

 

「おまえが誰の乳を吸うかに世界の命運がかかってるんだぞ! そんなもん知るか! さぁ、教えてくれ、イグニス! イッセーは誰の乳を吸えば良いんだ!?」

 

アザゼル先生の問いがイグニスに投げられ、皆の―――――主に女性陣の視線がイグニスに集中する。

 

な、なんだ、この無駄な緊張感は………?

だけど、アザゼル先生の言う通りで、俺が誰のおっぱいを吸うかでこの戦いが左右される。

 

ゴクリ、と喉が鳴った。

鼓動がやけに早い。

この僅かな沈黙が俺達を追い詰めてくる………!

 

答えてくれ、イグニス………!

俺はいったいどうすれば――――――。

 

 

 

 

「全員よ」

 

 

 

 

イグニスから返ってきた答えはあまりに短かく、予想外過ぎた。

全員の思考が停止する。

 

え………?

ぜ、全員………?

え、うそ………マジで………?

 

思考が追い付かない中、イグニスが言う。

 

「イッセーを想う女の子全員のおっぱいで、イッセーをフルパワーを更に越えたおっぱいドラゴン―――――『超フルパワーおっぱいドラゴン』にするの」

 

この駄女神はいったい何を言っているんだろう?

『超フルパワーおっぱいドラゴン』ってなに?

 

イグニスは不敵な笑みで告げた。

 

「さぁ、宴を始めましょうか。―――――《乳の宴》。イッセー、あなたはこれから新たなおっぱいドラゴンとして覚醒するわ」

 

――――――乳の宴。

 

とんでもなくアホなワードと共に、過去にない儀式が行われることになる。

 




今回はまだ降臨しませんでした(-_-;)


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66話 女の子は皆、(にゅー)タイプ!

最近、ソリッドステート・スカウターにはまりました。


―――――乳の宴。

 

なんだ、その謎過ぎるワードは。

それにこの駄女神は何て言った?

おっぱいを吸うことは良しとして………って、戦場でおっぱいを吸うのは異常だとは思うけど。

それを差し引いても………全員だと?

スイッチ姫であるアリスやリアスじゃなく、全員?

俺を想ってくれる女の子全員のおっぱいを吸えだと?

 

そんなの………そんなのって………!

 

「興奮するだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「なんでよ!?」

 

「ぶべらっ!」

 

叫んだ俺を神姫化したアリスの超絶ハイパーアリスパンチが撃ち抜く!

空中で高速回転した俺は、地面をバウンドして転がっていく!

痛ぇ!

超痛ぇ!

 

アリスが俺の胸ぐらを掴むと、ニッコリと微笑んだ―――――拳を構えて。

 

「とりあえずもう一発いっとく?」

 

「ごめんなさい! すいませんでした! 冗談です! これ以上、殴られたら死んじゃう! というか、俺を殴るために神姫化したな!?」

 

「あんたがこんな時にふざけてるからでしょーが!」

 

アリスさんマジで恐い!

本当に君は言葉よりも手が出るよね!

手加減がないよね!

眷属が主に対してする仕打ちじゃないよ!?

 

モーリスのおっさんが半目でボソリと呟いた。

 

「あーあ。ありゃ、将来、完全に尻に敷かれるな。というか既に敷かれてるか?」

 

「そいつがグレモリー男子って奴さ。サーゼクスもリアスの父親も嫁には勝てんからな。あいつも例に漏れずってやつだ」

 

アザゼル先生までそんなことを言ってくる!

 

そうですね!

サーゼクスさんもジオティクスさんも奥さんには弱いですよね!

頭が上がってないもんね!

俺も同じってか!

否定出来ないのが泣けるな!

 

俺は流れる鼻血を抑えながらイグニスに問う。

 

「そ、それで………乳の宴ってなに? 詳しくお願いします………」

 

おっぱいを吸ってのパワーアップもしくは回復。

そいつはこれまでに何度も経験したことだ。

そのせいもあって、アリスとリアスには色々と恥ずかしい思いをさせてしまったけど………。

 

イグニスが冷静な口調で言う。

 

「乳の宴。それは私が新たに構築したおっぱい理論。変革者として覚醒したイッセーだからこそ可能とする、T・O・S(ツインおっぱいシステム)をも上回る効果を持つ新しい力よ」

 

「変革者として覚醒した俺だからこそ?」

 

「そうよ。もちろん、おっぱいでのパワーアップはおっぱいドラゴンだからこそ。でもね、そこに変革者の力も加わることが重要なのよ」

 

イグニスは美羽達を見渡して続ける。

 

「単純におっぱいを吸えばいいって訳じゃないの。吸えれば誰のおっぱいでも良いという訳でもないの。イッセーを想う女の子達のおっぱい(・・・・・・・・・・・・・・・・)でないと宴は行えないわ。ここまで言えば、分かるわね?」

 

俺の力―――――変革者の力は皆の思いによって強くなる。

その思いが強ければ強いほど、その伸びは大きい。

なるほど、そういうことか。

 

俺が理解したことを察したイグニスが言う。

 

「皆の想い共に乳力(にゅーパワー)を受け入れるのよ、イッセー。―――――皆の愛とおっぱいがあなたを限界の向こうへと連れていってくれる」

 

―――――愛とおっぱい。

 

なんだ、その心から昂る言葉は………!

聞くだけで勇気が沸いてくるじゃないか!

 

しかし、ここでアザゼル先生が疑問を口にした。

 

「待て。乳力(にゅー・パワー)はリアスとアリスが持つ特有の謎パワーじゃなかったのか? おっぱいドラゴンをパワーアップさせるのはスイッチ姫の特権だろう?」

 

「いいえ、アザゼル君。それは違うわ。確かに現状ではスイッチ姫―――――(にゅー)タイプに覚醒したのはアリスちゃんとリアスちゃんの二人だけ。でもね、私はこれまでの皆を見ていて確信したの」

 

そう言うとイグニスは強く言葉を発した。

 

「―――――女の子は皆、(にゅー)タイプ。大なり小なり、その素養があるのよ」

 

………なんということだ。

つまり、アレか!

アリスやリアス以外にもスイッチ姫が増える可能性があると!

 

そんなことを考えている俺の後ろでレイナが呟く。

 

「………量産型スイッチ姫とか出てきそう」

 

「そ、それは流石に………」

 

レイナの言葉にイグニスが返す。

 

「量産型とかはないから大丈夫よ? スイッチ姫って特別な存在だし、そんなにポンポン覚醒できないわよ」

 

「私達、そんなに特別だったのね………」

 

「なんか複雑………」

 

リアスとリアスが微妙な表情を浮かべているが………。

リアスって自ら進んでスイッチ姫になったような………。

特撮から現実になるためにおっぱいつつかされたような記憶があるんですけど。

ま、まぁ、今思えばリアスもなかばヤケクソだったのかもしれない。

ヴェネラナさんに色々と言われた後だったし。

 

しかし、とイグニスが言う。

 

「ここにいるあなた達は(にゅー)タイプへと覚醒できる可能性が十分にあるわ。何と言ってもおっぱいドラゴンの伴侶なんだもの。あなた達のおっぱいがイッセーを救うのよ」

 

すると、朱乃がイグニスに問いかけた。

その瞳は少し潤んでいて、

 

「それでは、私もイッセー君の役に立てるのですか?」

 

「もちろんよ。朱乃ちゃんの想いも、朱乃ちゃんのおっぱいも、イッセーを強くするわ」

 

「………ッ!」

 

イグニスの言葉を聞き、目を見開く朱乃。

朱乃は俺の元へと歩み寄ると―――――ポロポロと泣きながら抱きついてきた!

 

「あ、朱乃!? ど、どうしたの?」

 

いきなり泣き出したので慌てる俺だが、朱乃は首を横に振った。

 

「嬉しいの。………私もリアスやアリスさんのようにおっぱいで役に立てることが嬉しいの。私もあなたの力になれる………!」

 

泣きながら微笑む朱乃。

 

ぐっ、なんて可愛い微笑みを見せてくれるんだ!

俺の朱乃、俺の嫁の一人!

最高に可愛くて、とても大切な存在!

 

俺は朱乃の背に腕を回した。

 

「ありがとう、朱乃。そ、その………朱乃のおっぱい、吸わせてくれるか?」

 

「はい、喜んで! 私の旦那さま!」

 

押し当てられるおっぱいの感触が!

朱乃のおっきなおっぱいがこれでもかと密着してくる!

 

その時、俺の左右、後ろと四方を囲むように抱きついてくる者がいて、

 

「イッセーさん! 私のおっぱいも吸ってください!」

 

「ああ! 私の胸も存分に味わってくれ!」

 

「これも幼馴染み………ううん、イッセー君のお嫁さんの役目よね!」

 

アーシア、ゼノヴィア、イリナ!

教会トリオ!

 

「………色々と理解できませんが、私もイッセー先輩のお嫁さんです」

 

「い、イッセーさま! わ、私のも、その………使ってください!」

 

小猫ちゃんにレイヴェル!

後輩コンビまで胸を押し当てるように抱きついてくる!

 

更に―――――。

 

「わ、私だって………覚悟は出来てるよ!」

 

「こんな場所でなんて………エロエロだぁ! でも、あ………わたすったら、何考えて………!」

 

レイナとロセ!

ロセ、方言丸出しだし、ヴァルキリーの鎧を外しかけてる!

ちょっと早い!

脱ぐのはもう少し待って!

 

リアスが歩み寄ってくる。

 

「イッセー………私の胸、小さくなってしまったけれど、良いかしら? あなたの好きな胸ではなくなってしまったけれど………」

 

確かにリアスのおっぱいは縮んでしまって、以前の面影はまるでない。

でもな?

そんなの関係ないんだよ。

俺は―――――。

 

「たとえ小さくなろうとも! 俺はリアスのことが大好きだ! リアスのおっぱいも大好きだ!」

 

「………ッ! イッセー!」

 

目元に薄く涙を浮かべながら、リアスも俺の胸に飛び込んでくる。

どんなになろうともリアスはリアスだ。

俺の大好きな女性に変わりはない!

 

「シリアスで感動的な雰囲気だしてるのに、内容がおっぱい尽くし………。なんでこうなるのよ?」

 

「あはは………。まぁ、お兄ちゃんだしね? でも、アリスさんも良いんでしょ?」

 

「うっ………ま、まぁ、慣れたと言うか何と言うか。うぅ………もう! こうなったのもあんたのせいだからね、イッセー! そ、その、優しくしないと怒るからね!」

 

「やっぱり、アリスさんはツンデレデレ………?」

 

「デレ一個多くない!?」

 

そんなやり取りをしながら美羽とアリスもこちらに来て、俺の手を取った。

二人は取った俺の手を自身の胸に当てて、

 

「お兄ちゃんなら良いよ………いっぱい、して?」

 

「本当に優しくしてよね………バカ」

 

頬を赤くしながら潤んだ瞳を向けてきた!

 

どうしよう、俺………戦場のど真ん中で女の子達に抱きつかれて、おっぱい揉んじゃってる! 

最終決戦なのにハーレムになってる!

今の状況が最高過ぎて、現在進行形で起こってる最悪の戦いなんて頭の中から消え去りそうだ! 

 

頭の中がピンク色へと染まっていく中、イグニスが何かを取りだし、左耳に当てた。

それはどこかで見たような形をしていて、

 

「それは?」

 

「おっぱいスカウター」

 

「は?」

 

「おっぱいスカウターよ? 女の子の乳力(にゅーパワー)を測定する機械」

 

さも「当たり前でしょ?」みたいな顔してるけど絶対おかしいからね?

なんだよ、おっぱいスカウターって。

明らかにパクりじゃねーか。

 

おっぱいスカウターとやらを装着したイグニスの左目の前にはスクリーンがあり、そこに数字が示されていく。

イグニスの視線は朱乃に向けられていて、

 

「おっぱい戦闘力300……500……1000……3000……!流石は朱乃ちゃんだわ! 凄いおっぱいね!」

 

「おっぱい戦闘力ってなに!? あと、その数字が高いのか低いのか分からないんですけど!?」

 

「おっぱい戦闘力3000というのはおっぱい三千個の戦闘力を有するということよ」

 

「どんなおっぱい!? そもそも、おっぱいに戦闘力とかないだろ!?」

 

「うふふ、冗談よ♪」

 

「あんたが言うと冗談に聞こえないんだよ! あと、どこからが冗談!? その装置つけた時からか!?」

 

「あら、バレちゃった☆」

 

「当たりなのかよ! このくだり丸々無駄じゃねーか!」

 

この駄女神ぃぃぃぃぃぃぃ!

なんなの、この女神!

何がしたいの!?

 

イグニスは他の女の子に視線を向けるとふむふむと頷き始める。

 

「うーん、やっぱり足りないわね。あなた達だけではイッセーを超フルパワーおっぱいドラゴンには至れないわね」

 

なんだと!?

こんなにおっぱいがあってもまだ足りないと言うのか!?

 

「今のイッセーのフルパワーはあなた達の想像を遥かに超えてたものなの。そう簡単には限界を越えられないわ。ティアちゃんも含めたとしても、せめて………そうね、あと二人は欲しいわね」

 

「私もカウントされているのか!?」

 

自分が数に含まれているとは思っていなかったのだろう。

ティア姉の顔が一気に赤くなって………。

 

しかし、あと二人だと?

既に俺のお嫁さん達は全員参加している。

それなのに限界を越えるにはまだ足りないと言うのか………!

 

焦る俺達。

そこへ―――――。

 

「仕方ありませんね。イッセー、私も胸を差し出しましょう」

 

そう言ったのはリーシャだった!

マジでか!

リーシャも乳の宴とやらに参加するだと!?

 

「リーシャ………良いの?」

 

戸惑いながら言う俺にリーシャは微笑む。

そして、俺の頬に触れながら言った。

 

「少し恥ずかしい気持ちはありますよ? ですが、イッセーなら私は構いません。可愛い弟………いえ、私にもイッセーを想う気持ちはあるのです」

 

リーシャの顔が近づいてきて―――――唇が重なった。

 

「その証明に………これでは、足りませんか?」

 

熱を帯びた表情………リーシャでもこんな表情するんだな。

いつも俺やアリスのお姉さん的存在だったリーシャ。

そのリーシャがこんな………。

 

「え、えっと………その………」

 

「ウフフ、やっぱりイッセーは可愛いですね。私のファーストキスです。女の子の気持ちは受け止めないとダメですよ?」

 

………っ!

リーシャのファーストキス!?

そ、そういや、ほっぺにキスは何度かあったけど、唇にされるのは初めてだ!

 

リーシャの言葉にアリスが言う。

 

「リーシャも入ってくるのね………」

 

「どうしたの、アリス? 『リーシャお姉ちゃんにイッセーを取られるかも!』とか思ってる?」

 

「そ、そんなこと思ってない………もん」

 

顔を赤くして目を伏せるアリスの頭をリーシャが撫でる。

 

「相変わらずここぞと言うとき素直になれない子ですね。心配しなくても、イッセーは皆のイッセー………でしょ?」

 

「うぅぅ………そうだけど………」

 

うん、相変わらずアリスはリーシャに対して頭が上がってないな。

あと、恥ずかしがってるアリスさんが可愛い。

 

すると、少し離れたところでモーリスのおっさんが、

 

「うぅぅ! ついにリーシャも嫁入りか! 俺は………伯父さんは嬉しいぜ! 俺はなぁ、ずっと心配してたんだよ。おまえってば中々、良い男を見つけないから………。よっしゃ! 姪の嫁入り確定祝いだ! てめぇら、派手にぶっ飛ばしてやるぜぇぇぇぇぇぇ!」

 

物凄いハイテンションで眷獣の群れに飛び込み、一方的に殲滅していく。

で、そのおっさんの発言に対して疑問を持つ人がいてだな………。

 

アザゼル先生がおっさんに訊ねた。

 

「伯父? 姪だと? おいおい、そいつは初耳だぞ?」

 

「ん? 言ってなかったか? あいつの母親と俺の嫁が姉妹でな。血は繋がってないが伯父と姪の関係ってわけだ」

 

「んな!? おまえ、嫁いたのか!?」

 

「そりゃな。嫁は随分前に病で死んじまったが、結婚はしていたぞ。つーか、この歳で嫁がいないってのはどーよ?」

 

「なんだ、その目は!? 哀れむような目で見てくるんじゃない!」

 

アザゼル先生の独り身問題はとにかく、実はモーリスのおっさんとリーシャはそういう関係だったりする。

おっさんが説明した通りで、亡くなったおっさんの奥さんとリーシャのお母さんが姉妹なんだよね。

特に話していなかったので、このことを知っているのは当の二人を除けば俺とアリスだけ。

 

それで、おっさんは姪であるリーシャを小さい時から見てきたこともあってか、リーシャの告白に盛り上がっているのだが………。

うん、やりすぎだよね。

皆があれだけ苦労していた相手を笑顔で倒してるもの。

正直、敵より怖いよ!

 

リーシャがイグニスに問う。

 

「私を含めたとしても、まだ足りないのですよね?」

 

「そうね。あと一人………私は術式を発動させるから入れないし………。せっかくの乳乱舞なのに参加できないのが悔しい!」

 

おい、駄女神。

この儀式は俺をパワーアップさせるために必要なんじゃなかったのか?

これを機会にガッツリ女の子達のおっぱいを揉んだりしようとしてるだろ?

許さんよ?

マジで怒るよ?

 

しかし、乳の宴を行うにはあと一人分のおっぱいが必要なのか。

もう十分すぎる程、おっぱいが揃っているような気もするんだが………。

だが、中途半端な形で乳の宴を行って、効果も中途半端になってしまっては意味がない。

 

じゃあ、誰だ?

俺のお嫁さん達は全員参加してくれる。

リーシャも加わってくれた。

他におっぱいを吸っても良い人なんて―――――。

 

 

「………にぃに、私も………良いよ?」

 

 

不意にディルムッドがそう言ってきた。

 

「ディルムッド………?」

 

予想外の人物の名乗りに一度、思考が止まる俺。

ディルちゃんが乳の宴に参加する、だと?

それって―――――色々とアウトじゃないだろうか?

 

「ちょ、ちょっと待とう! ディルちゃん、気持ちは嬉しいがそれは色々と問題があると思うんだ!」

 

だって、十五歳だよ!?

中学生だよ!?

確かにスタイルはもう十分すぎる程に大人だけども!

それに………、

 

「え、えっと、こういうの苦手だよね?」

 

ディルムッドは大抵のことは無表情で乗りきれるが、エッチなことに関しては耐性がまるでない。

そんな彼女が明らかにエッチなことになる乳の宴に参加するというのは厳しいだろう。

 

だけど、ディルムッドは俺の手をとると―――――美羽がしたように自身の胸に当てた。

瞳は濡れ、頬は赤く、鼓動がとても早くなっているのが分かる。

明らかに緊張しているし、慣れないことにどうすれば良いのか分からないといった感じだ。

その中でディルムッドが小さく口を開いた。

 

「………サラ」

 

「え?」

 

「私の本当の、名前。………サラ・オディナ。これが私の本当の名前」

 

サラ・オディナ。

 

ディルムッドという名前は彼女のご先祖様の名前であり、その名前を継いでいるに過ぎない。

彼女には彼女の本当の名前がある。

それがサラ・オディナということ。

 

ふと美羽の方を見ると嬉しそうに頷いている。

ということは、美羽は既に知っていたということか。

 

ディルムッド―――――サラが言う。

 

「私ね………ずっと一人だった。でもね、ねぇねが私の手を引いてくれて、暗闇の中から出してくれた。私が死にかけて、生きたいと願った時、にぃにが私を救ってくれた」

 

「ああ」

 

「あの時、私を包んでくれた光は温かかった。にぃにの気持ちが私の中に流れ込んできて、とっても大切に思ってくれていることが分かって………嬉しかった。私はまだここにいていいんだって思えた」

 

だから―――――。

 

「今度は私が力になる。にぃにを助ける。そ、その………す、吸われるのは恥ずかしいけど………だ、大丈夫。私もにぃにのこと………好き………だから」

 

後半の声が小さくなっていくが、サラはそう言ってくれた。

 

ど………どどどどどどどうしよう!?

『にぃにのことが好き』!?

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!

 

改めて美羽の方へと視線を移してみると―――――。

 

「うぅぅぅ! サラちゃん、健気で可愛い過ぎる………!」

 

号泣してるよ!

やはりか、我が妹よ!

だけど、その気持ちは十分理解できる!

俺も嬉しくて、サラが可愛くて、もう頭の中がぐっちゃぐちゃだもの!

 

俺はサラの手を引いて、強く抱き締めた。

 

「ありがとう、サラ。サラの居場所は俺達だ。約束する、ずっと一緒にいる。もう一人になんてさせないよ。まぁ、俺の回りは何故か人が集まってくるから、一人になりたくてもなれないと思うけどな?」

 

「うん………!」

 

うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!

サラちゃん、可愛いぃぃぃぃぃぃぃ!

イモウトニウムが限界を越えてフルチャージされていくぅぅぅぅぅ!

 

これはサラちゃんのアルバムもドンドン作っていかねば!

というか、既にお嫁さん達全員のアルバムを着々と制作中なんだけども!

これから忙しくなりますな!

 

「これで揃ったわね」

 

イグニスの言葉に俺達は振り向き、強く頷いた。

 

「ああ、いつでもいけるぜ」

 

「そう。なら、始めましょうか。世界の行く末を左右する宴――――――乳の宴を!」

 

 

 

 

俺を中心にして大きな魔法陣が描かれている。

これはイグニスが展開したものだが………ところどころにおっぱいが描かれているのは気のせいではないな。

 

乳の宴に参加する女性陣は俺を囲むように並んでいて、隣り合う者同士で手を握っていた。

緊張している女の子もいれば、張り切っている女の子もいる。

サラは完全に緊張している側だ。

そんなサラに美羽が微笑みかける。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ? 多分、その………気持ちいいと思う………」

 

頬を染める美羽!

我が妹よ、君は何を思い出しているのかな!

やっぱり君はエッチな娘だよ!

それも俺以上にエロ思考だよ!

 

魔法陣を描き終えたイグニスが俺の隣に立つ。

 

「準備は出来たわ。これでイッセーは限界を超えたおっぱいドラゴン。超フルパワーおっぱいドラゴンになれるはずよ。宴の間、ここは完全に無防備になるわ。アザゼル君、守備は任せるわ」

 

イグニスに頼まれたアザゼル先生は堕天使の翼を広げて、今も空中で部下の堕天使達と共に激戦を繰り広げている。

 

アザゼル先生が光の槍を投げながら周囲の戦士達に叫ぶ。

 

「良いか、おまえ達! おっぱいドラゴンが乳を吸うぞ! おっぱいドラゴンと乳。こいつは最高にして最強の組み合わせだ! あいつらの儀式の成功がこの戦いを左右するだろう! 何がなんでもここを死守しろ! おっぱいドラゴンに乳を吸わせるんだ!」

 

『おおおおおおおおおおおおっ!』

 

アザゼル先生の言葉に士気を上げる戦士達!

 

おっぱいドラゴンへの信頼高すぎない!?

これ、『イッセーが乳を吸えば確実に勝てる!』みたいな流れになってませんかね!?

もう、俺も女の子達も顔真っ赤なんですけど!

 

イグニスが魔法陣に手をかざすと、魔法陣の光が強くなる。

ピンク色の光が周囲を照らしていく。

 

イグニスが俺達を見渡して言う。

 

「この魔法陣が発動した後、外から内側を覗くことも出来なければ、聞くことも出来なくなるから安心してね?」

 

「つまり、私達の公開授乳シーンが世界に配信されずに済むのね………」

 

うん、それは安心した。

アセムがこの戦いを世界中に流してるから、俺達の行為も見られる可能性がある。

となると、これからすることも見られることになるのだが………流石のイグニスもそこは気を利かせてくれたらしい。

 

「私としては公開授乳シーンの配信もアリなんだけどね♪」

 

『それだけは絶対にやめて!』

 

美羽達から抗議されるイグニスだった。

 

魔法陣の輝きが一層強くなる。

外側の円が浮かび上がったと思うと、ピンク色の光が空まで伸びていった!

それに連鎖して複雑に描かれた文字やおっぱいの絵が高速で回り始めていく!

 

「ついに始まるわ。皆、覚悟は良いわね?」

 

イグニスの言葉に全員が頷く。

 

それを確認したイグニスは俺の胸に手を当てて、叫んだ。

その言葉には強い意思が籠められていて――――――。

 

 

「これが! この戦いにおける、おっぱい達のラストミッション!」

 

 

おっぱい達のラストミッションってなに!?

 

 

「世界の存亡を賭けた、おっぱいとの対話の始まり!」

 

 

おっぱいとの対話ってなに!?

 

 

「――――――おっぱいバースト!」

 

 

最後までツッコミを入れつつ、ついに乳の宴が始まる!

 

 

 




おっぱいとの対話が今、始まる………!(笑)


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67話 乳の彼方に

イグニス「世界の存亡を賭けた、おっぱいとの対話の始まり!」


ドライグ『ぬぁぁぁぁぁぁ!? 乳の意識がぁぁぁぁぁぁぁッ!?』



強いピンク色の光が俺達を覆っていく。

上下左右、あらゆる包囲を光が囲み、外の景色が見えなくなる。

更にはずっと聞こえていたはずの激しい戦いの音も聞こえなくなっており、アザゼル先生やモーリスのおっさんの気を感じられなくなった。

イグニスが発動した術式は外部との関わりを完全に遮断したらしい。

 

結界の内側で生じていた輝きが止み、視界が完全に戻る。

そして、俺を待ち受けていたのは―――――

 

「………なんで、ベッドがあるんだよ」

 

俺の前に現れたのは大きなベッドが一つ。

うちのベッドみたいに天蓋はついていないが、その代わりと言ってか、かなり大きい………というより大きすぎる。

二十人くらい寝れるんじゃないだろうか?

 

あの駄女神、無駄に張り切りすぎじゃない?

 

「あ、お兄ちゃんも来たね」

 

駄女神の準備の良さに呆れていると、声をかけられた。

声をかけてきたのは美羽だ。

美羽はベッドの上に座っていて――――――既に全裸だった!

 

「美羽!? 脱ぐの早くない!?」

 

「だって、そういうことをするのかなって………」

 

「間違ってない! 間違ってないよ! でもね、ロケットスタート過ぎない!?」

 

「そうは言っても、ボク以外の皆も脱いでるよ?」

 

「え………あっ」

 

改めて見ると、他の女性陣もベッドに上がっていて、美羽と同じく全員が脱いでいた!

 

美羽、アリス、リアス、朱乃、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、小猫ちゃん、レイヴェル、レイナ、ロセ、ティア姉、リーシャ、そしてサラ。

全員が一糸纏わぬ生まれた姿で俺を待っていた!

 

なんだ、これは………ここは楽園か?

俺は楽園に迷い混んでしまったのか?

 

動く度に揺れる大きなおっぱい。

可愛らしい小さなおっぱい。

成長中の瑞々しさすら感じるおっぱい。

完成された女神のように美しいおっぱい。

様々な特徴を持つおっぱい達がベッドの上にある!

 

あぁっ、俺のお嫁さん達のおっぱい………。

この中のほとんどは体験済みだが、それはもう素晴らしいものだった。

リーシャのは風呂で何度か見たことがあるが、流石のお姉さんおっぱい。

整ったプロポーションにお姉さんオーラが加わり、美しさを引き立ててくる!

 

サラはやはり恥ずかしいらしく、手で胸を隠し、美羽の後ろに隠れていた。

 

「ねぇね………やっぱり恥ずかしい………」

 

「大丈夫だよ、サラちゃん。ほら、ボクも一緒だから………ね?」

 

優しくサラを抱き締めてあげる美羽。

ここは妹がお姉さんとして成長したことを喜ぶべきなのだろうが………別のことに目がいってしまう。

美羽が抱き締めたことで、重なりあう二人の胸。

むにゅうと押し合う二人のおっぱいがとってもエッチで………!

 

俺が皆のおっぱいに見とれていると、アリスが顔を赤くしながら言ってきた。

 

「も、もう! そんなところで見てないで、早く上がってきなさいよ! こっちは恥ずかしいんだからね!?」

 

「お、おう」

 

アリスに促されるまま、俺はベッドへ。

ベッドの上に乗ると、座ったところが深く沈んだ。

 

………イグニスのやつ、このベッドを作るのにかなりの力をつぎ込んだんじゃないだろうか?

そう思わせるくらいに、このベッドはフカフカだった。

 

そんなことを思いながら俺は美羽達の前に座る。

すると、アーシア、ゼノヴィア、イリナの教会トリオが俺に身を寄せてきた。

 

ゼノヴィアが言う。

 

「さぁ、イッセー。存分に子作りをしようじゃないか」

 

「いや、今回のは一応子作りじゃないから! そういうのじゃないから! 確かにそんな雰囲気だけども!」

 

これ、一応は俺をパワーアップさせるための儀式だからね?

子作りっぽい雰囲気だけども、目的は違うからね?

いや、俺だって今が戦闘中じゃなければ子作りしたいけどね!

 

ていうか、顔に押し当てられてるゼノヴィアのおっぱい!

くぅぅ、相変わらずの柔らかさだ!

引き締まった腰といい、戦士だからこそのこのプロポーション!

 

「あらあら、私はこの場で子作りしても構いませんよ?」

 

そんなことを言いながら迫ってくるのは朱乃!

大きなおっぱいを揺らしながら接近してくるぅ!

この場の女性の中では最も大きなおっぱいを持つ朱乃………くそぅ、揺れるおっぱいから目が離せん!

朱乃が生乳をこれでもかと押し当ててくるものだから………元気になってしまう!

 

とまぁ、皆のおっぱいに見とれるのは一時止めるとしよう。

エッチな空間だが、これは真面目な儀式でもある。

ここで流されては覚悟を決めてくれた女性陣に申し訳ないというもの。

 

『あら? 流されちゃっても良いのよ?』

 

ふいにイグニスの声が聞こえた。

その声は俺達の頭上から聞こえてきたのだが、イグニスの姿はどこにもない。

 

『今回は私は裏方。皆のサポートに回るとするわ。本当なら、アリスちゃんの体をペロペロしたいところなんだけど………』

 

「なんで私限定!?」

 

『うふふ、冗談よ。女の子全員をペロペロしたいに決まってるじゃない♪』

 

「被害拡大してるじゃない!」

 

うん、やはりエロ女神か。

裏方に回ってもエロ思考なのは、流石というか、相変わらずといいますか。

 

俺はイグニスに訊く。

 

「乳の宴って結局は何をすればいいんだ?」

 

『え? この場で皆のおっぱいを吸うだけよ?』

 

「本当にそれだけなの!?」

 

『正確にはキスをきて、押し倒して、大事なところも触ってあげて、おっぱいを揉みながら全身をペロペロしてあげて、エッチな気分を高めた状態で吸うの』

 

「おぃぃぃぃぃぃ! 詳細説明しすぎだろ!?」

 

『なんなら、合体してもいいわよ☆ 戦場の中心で愛を叫んじゃう? 子作りしちゃう? それもアリアリね!』

 

「おおっ! イグニスもこう言っている。さぁ、やるぞ、イッセー!」

 

「おい、駄女神! そんなこと言ったらややこしいことになるだろうが!」

 

ただでさえ、ゼノヴィアは『子作り』って単語に敏感なんだぞ!

ここでそんな単語出したら反応するに決まってるじゃん!

 

すると、サラちゃんが―――――

 

「こ、子作りまで………するの?」

 

涙目でプルプル体を振るわせながら訊いてきた!

そりゃ、ただでさえエッチなことが苦手なのに、いきなり子作りとか言われたらそうなるよね!

 

「しない! 今回はしない! こんなノリでしちゃダメだからね!」

 

『今回はってことは、次回は子作りしちゃうのね。初な女子中学生を押し倒して、戸惑う彼女の反応を楽しみながら………うふふ』

 

「もう黙って! お願いだから黙って!」

 

「あぅぅ………」

 

サラちゃん、半分パニックになってるから!

 

しかし、イグニスの説明を聞いて改めて思う。

あいつ………正気か?

今の説明がマジなら、ほとんど子作りになってしまうぞ。

 

すると、イリナがイグニスに訊ねた。

 

「えっと、それだと私、堕天しちゃうんですけど」

 

『そのあたりは抜かりないわ。この結界の内側は例の子作り部屋の術式も含まれてるから』

 

そういうところは準備良すぎるだろ。

イリナと子作り出来てしまうじゃないか。

 

リーシャが言ってくる。

 

「何にしても、ゆっくりする時間はありませんね。外ではまだ戦っているのですから」

 

『それはそうね。あ、でも、この結界の中は外と時間の流れが異なるから、少しくらい遅くなっても大丈夫よ!』

 

なるほどなるほど。

結界の外と内で時間もある程度遮断されているのか。

だから、ここで一休みしていける………って、馬鹿!

完全に子作りさせる気じゃねーか!

いや、落ち着け、俺。

女性陣は十四名。

これだけの数となると、それなりに時間がかかる。

それを考えてのことだろう………そういうことにしておこう。

 

『イッセー、そろそろ始まるわ』

 

イグニスが静かにそう告げてきた。

その直後、リアス達に変化が訪れる。

 

 

パァァァァァァ………

 

 

こ、これは………皆のおっぱいが光っている!

初めはリアスとアリスの二人のおっぱいが紅い光を発し、その後、二人に続くように美羽達のおっぱいも輝き始めたのだ!

しかも、時が経つほどに皆のおっぱいは強く美しい輝きを増していく!

これは………共鳴しているのか!

スイッチ姫二人のおっぱいに共鳴しているんだ!

皆の胸から発せられる輝きはこの空間内を満たしていく―――――。

 

美羽が呟いた。

 

「これ………この温もりは………。お兄ちゃんの、皆のがボクの中に入ってくる」

 

美羽は自身の体の変化に驚きつつも、感じた温もりに安心感を覚えているような表情をしていた。

それは他のメンバーも同様のようで、

 

「ああ。きっと、これが(にゅー)タイプとやらの力なのだろう。私にもその才覚があったなんてね」

 

「これも主の導きだわ!」

 

ゼノヴィアは感慨深げに頷いてるし、イリナは………。

イリナよ、それは違うな。

ハッキリと断言できる。

これは駄女神の導きだよ。

 

空間にイグニスの声が響く。

その声音はとても優しいもので、

 

「これまでは感じられなかったものが、今のあなた達には分かるはずよ。ここではおっぱいさえ輝いて見える」

 

そうですね、確かに輝いてますね!

もう眩しいくらいに輝いてますよね!

 

「どんなおっぱいの中にも希望は生まれる。あなた達のおっぱいは戸口に立っている。いつか、そこをくぐれる時が来ると思うわ。その乳の彼方に、道は続いているのだから―――――」

 

イグニス………俺は、俺は………!

おまえの言っていることが一言一句理解できない!

他人の言っていることが理解できなくて泣きそうになったのは初めてだ!

 

美羽達がおっぱいを輝かせながら、俺を囲む。

 

「お兄ちゃん………良いよ」

 

頬を赤くしながら、俺を受け入れるように両手を広げる美羽。

俺はそれにつられて両手を伸ばし―――――美羽のおっぱいを揉んだ。

その瞬間、美羽の体が強く跳ねた。

 

「ふぁぁんっ! なんで………いつもより、敏感になって………?」

 

甘い吐息を漏らしながら、自身の体の変化に戸惑う美羽。

 

確かにいつも以上に反応が良いような気がする。

イグニスが展開したこの結界のせいだろうか?

 

そんなことを考えていると、アリスが俺に倒れかかってきた。

受け止めた俺はアリスの顔を覗き込むと、アリスの息が少し熱くなってて、

 

「なんか、胸の感覚が変に………。あんたに触られている時と同じ感覚がする」

 

「え?」

 

見れば、触れていないはずのアーシアやゼノヴィア達も腰をくねらせていてだな………。

 

おいおい、まさかと思うがこの結界の中だと皆のおっぱいは感覚も共有することになるのか?

感覚がいつもより敏感になった状態で、感覚の共有ってヤバくないだろうか?

もう、全員がハァハァ言ってるし………。

 

………よし、もう余計なことは考えないようにしよう。

今は目の前のおっぱいに集中するんだ!

 

俺は右手を美羽の胸から―――――サラのおっぱいへと移動させる。

そして、十五歳というわり割には発育の良すぎるおっぱいを揉んだ!

 

「んんっ………にぃ………はぅぅ」

 

ゴッフゥゥゥゥゥァッッ!

涙目だけど、甘えるような声を出すサラが可愛くて………!

 

というか、手が、指が止まらん!

美羽とサラ、義妹二人のおっぱいが最高過ぎて、やめられないとまらない!

 

おい、俺の右手!

サラはこういうの苦手なんだから、もっと加減を………って、無意識に先端をクリクリしてるぅぅぅぅぅ!

なんということだ、右手が俺の指示を無視して、まるで意思を持ったかのように、勝手にサラのおっぱいを揉みしだいてしまう!

色んなところを触ってしまっている!

 

ちくしょう、こうなったら左手!

右手を止められるのはおまえしかいない!

ちょっと、右手に止めるように説得を………。

 

「あんっ! お兄ちゃん、そこ、ダメ………ひゃう………」

 

ダメだ!

左手も俺の制御がきかない!

右手に気を取られた隙に美羽のあんなところや、こんなところを触りまくってるもの!

 

ふいに右手から伝わる感触が別のものに変わる。

ものすごく柔らかいが、サラのものとは違う。

これは―――――。

 

「んっ………。イッセーはいつの間にか、強引になりましたね。昔はあんなに押しに弱かったのに」

 

ああっ!

右手がリーシャのおっぱいに!

俺の右手よ、積極的過ぎるぜ!

 

「私の胸はどうですか?」

 

「最高です! 昔から憧れてたおっぱいを揉めて涙すら出てきます!」

 

まさか、こんな形でリーシャのおっぱいを揉む日が来るなんて………!

ふわふわしてて揉み心地が半端じゃないです!

 

リーシャのおっぱいに感涙していると、今度は左手から伝わる感触が変わる。

見れば、左手が次に狙いを定めたのは朱乃のおっぱいだった!

 

「あぁんっ。旦那さま………もっと好きにしてください………」

 

そんなことを言って、俺の左手を掴み、より深く胸に押し当ててくる朱乃!

左手がおっぱいに沈んでいく!

これはもう左手は帰ってこれないんじゃないのか!?

そこに住み着いてしまうんじゃないのか!?

 

「イッセー………私だって………小さくなってしまったけど………あるもん」

 

朱乃に対抗してなのか、リアスが胸を押し付けてきた!

チクビームの撃ちすぎで小さくなったが、これはこれで可愛いぞ!

というか、リアス!

凛とした表情が消え去ってるよ!

語尾が『もん』だったよ!?

 

あぁ………父さん、母さん。

俺、戦場のど真ん中で皆のおっぱいを揉んでます。

スベスベしてて、それでいて、もちっとしたおっぱいの感触をこれでもかと堪能してます。

あ、今、右手がイリナにいきました。

天使のおっぱいは相変わらず、もちもちしてて、手に吸い付いてきます。

感じてる幼馴染みがエロ可愛いです。

うん、左手がアーシアちゃんに移りました。

成長が感じられて、将来が楽しみなおっぱいです。

ゼノヴィアも入ってきて、左手がアーシアとゼノヴィアのおっぱいにサンドされちゃいました。

今度は小猫ちゃんとレイヴェルの後輩コンビに両手が移動してですね………後輩二人を膝に乗せて後ろ手を回してガッツリいきました。

後輩二人を膝に乗せていると、レイナが顔におっぱいを押し当ててきたのでスリスリしてみます。

ティア姉は正面から堂々と揉ませて頂きました。

恥ずかしがっている龍王なお姉さんはたいへん美味です。

アリスはというと、

 

「キスしてくれなきゃ、やだ」

 

と、おねだりしてきたのでキスしてから揉み揉みしちゃいました。

 

父さん、母さん。

俺、頑張る。

この戦いが終わったら、子作りに向けて頑張るよ。

孫もたくさん―――――。

 

………どうやら、俺は『乳の宴』とやらでどうかしてしまったらしいです。

さっきから『おっぱい』と『子作り』という単語が頭の中をずーっと駆け巡ってます。

 

それから暫くの間、俺は全員のおっぱいを揉み続け―――――ついにその時が訪れた。

 

ベッドに横たわる美羽達。

もう少し触れるだけで、達してしまうような状態だ。

俺は美羽に覆い被さるような格好となる。

 

「美羽………」

 

「うん………」

 

美羽が俺の頬に手を伸ばす。

俺は徐々に顔を美羽の胸へと近づけて―――――吸った。

 

響く甘い声。

散る汗。

跳ねる体。

 

美羽から始まり、俺は全員のおっぱいを吸った。

心から堪能した。

 

全員のおっぱいを吸った直後、胸の中が強く脈打った。

流れ込んでくる皆の想いとおっぱい。

彼女達の全てが俺の中に溶け込んでいくような感覚。

こいつは―――――。

 

俺がそれを理解した時、頭の中に何かが浮かび上がってきた。

 

 

 

O p p a i

 

P a i

 

P a i

 

A r i g a t o u

 

I p p a i

 

 

 

………なにコレ!?

なんか、意味の分からない文字が流れてきたんですけど!?

 

イグニスがテンション高めに言ってくる。

 

『ついにきたわね! これが乳の宴により起動するOSよ! 皆の乳力(にゅー・パワー)を受け取ったことで、無事に起動したようね!』

 

OS!?

そんなのあったの!?

なんで、そんなロボットみたいなのがあるの!?

 

『起動シーンとかでスクリーンに出てくるじゃない』

 

確かに出てきますね!

でもね、俺が聞きたいのはそういうことじゃねーんだよ!

 

って、頭の上からピンク色の光が降ってきた!?

なんだ!?

 

『さぁ、行きましょうか、イッセー! R-18の彼方へ! 乳の彼方へ!』

 

なんで、そんなにテンション高いんだよ!?

 

って、あぁぁぁぁぁぁぁ!

意味の分からないまま光に呑み込まれていくぅぅぅぅぅ!

つーか、美羽達はどうなるんだ!?

全員、素っ裸だぞ!?

汗もかいてるし、滅茶苦茶エロい姿でベッドに横たわってるよ!?

 

『大丈夫! あとはスタッフが美味しくいただくわ! スタッフ、私一人だけど』

 

「俺のお嫁さん達になにするつもりだぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 




マリーダさんに怒られる………


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68話 降臨! 超フルパワーおっぱいドラゴン!

[アザゼル side]

 

 

「ちぃっ!」

 

眷獣から吐き出された火炎を防御魔法陣で受けながら、光の槍を投擲する。

光の槍は眷獣の肩を貫くが………大して効いてはいないな。

アスト・アーデでもそうだったが、こいつらは完全消滅させなければ倒れない。

よくもまぁ、これだけ面倒な奴等を量産してくれたもんだな。

おかげで部下達の疲労も溜まってきている。

中には過去の大戦を生き抜いた実力者もいるが………かなり厳しい状態だ。

 

「ヤバいやつは後ろに回れ! 回復しつつ、支援攻撃をしろ!」

 

そう指示を出す俺だが、正直いつまでもつのか分からない。

サーゼクス達も今は手が離させないようで、こちらには加勢できない。

ここを突破されるのも時間の問題だろう。

 

各神話の神々がアセムと攻防戦を繰り広げているが、ハッキリ言って押されている。

アセムの放つ大規模かつ凶悪な魔法は神々の魔法すら打ち砕き一帯を焦土へ変える。

肉弾戦となれば、神速を越えた拳で一軍を蹴散らしてしまう。

 

向こうは神クラスをも容易く屠る力を持っているに対し、こちらはトライヘキサを取り込んだアセムに有効な攻撃手段を持っていない。

化け物め………。

あんなやつをどうしろってんだ?

 

いや、希望はある。

リーシャが言っていた策だ。

トライヘキサを捕縛用に開発した術式を改造し、トライヘキサとアセムの繋がりを断つというものだ。

確かにそれが可能なら相手の大幅な弱体化を見込むことが出来る………が、効果時間にはあまり期待できない。

その僅かな時間でアセムを止められるかと問われると、恐らく無理だ。

 

となるとだ、イグニスが提唱した『超フルパワーおっぱいドラゴン』とやらを待つしかない。

あの女神は言うことやること無茶苦茶ではあるが、結果を出している。

もうそこに賭けるしかない………ないのだが………。

 

俺は後ろにある光の柱を見る。

あれはイッセー達が立っていた魔法陣から放たれた光だ。

イッセー達があの魔法陣の光に包まれてから………一時間以上が経過している。

 

「………長すぎやしないか?」

 

俺は光の槍を投げながらそう呟いた。

 

いくらなんでも長すぎじゃないだろうか?

乳を吸うだけじゃなかったのか?

乳の宴とやらに参加したメンバーはそれなりの数がいたが、乳を吸うのに一時間は長すぎだろう。

 

あれか、中でハッスルしているのか?

乳だけじゃ満足出来なくなったのか?

もしくは、イッセーが中で搾り取られてるんじゃあるまいな?

 

もし、そうだとしたら怒るぞ?

温厚な俺でもマジで怒るぞ?

 

まぁ、俺もイッセーに乳を吸えと言ったから、あまり強くは言えないが………。

正直、ノリノリだったからな。

 

近くにいた眷獣が細切れにされる。

そこでは紅のコートを纏った木場が一人で複数の眷獣を相手取っているのが見えた。

木場の周囲にはドラゴンの兜を持つ紅色の甲冑騎士達が眷獣に斬りかかっている。

 

一体の龍騎士が破壊されると、破壊した眷獣は氷付けにされる。

破壊された龍騎士は再び創造され、先程とは違った動きで眷獣に仕掛けていく。

その繰り返しだ。

 

あれが『聖剣創造』の第二階層。

モーリスから話は聞いていたが、かなりの代物だ。

単純に言えば、禁手の強化型になるのだろうが、強化の度合いが恐ろしいレベルで高い。

 

あれでも尋常ではないが、木場はそこから神器の融合まで果たしたと聞く。

『魔剣創造』と『聖剣創造』。

相反する能力を持つ二つの神器を同時に発動し、更に高い力を発揮する………か。

 

こいつは新規神滅具確定じゃないだろうか?

ギャスパーの神器『停止世界の邪眼』も新規神滅具として認定するか協議中だが、ほぼ確定みたいなものだ。

 

木場の所有する神器はどちらも所有者が思い描く魔剣、聖剣を創造するというものだが、この戦いにおいては、創造可能な範囲が異常なまでに拡大されている。

創造された剣の性能も伝説の聖剣、魔剣クラス。

加えて、木場自身の身体能力も大幅アップときたもんだ。

 

フフフフ………これは楽しくなってきたな。

神器研究者としてはじっくり調べてみたいもんだぜ。

こんなことを考えられる俺はそれなりに余裕があるってことなのかね?

 

「面白いものを見つけたという顔だな」

 

そう声をかけてきたのはヴァーリだった。

ヴァーリは魔王化の鎧から通常の鎧に戻り、戦っているようだ。

 

「チームの奴らはどうした?」

 

「向こうで暴れているさ」

 

ヴァーリの視線の先では美猴達が眷獣相手に大暴れしていた。

特に目を引くのは―――――フェンリル。

十メートルほどの大狼が凄まじいスピードで戦場を駆け抜け、神殺しとされる牙と爪で敵を悉く斬り裂き、砕いている。

フェンリルの牙と爪は眷獣にも大きなダメージを与えているようで、傷口の回復が遅くなっている。

どうやら、こいつらに神殺しの力は有効らしい。

 

他にもアーサー、黒歌、美猴、ルフェイ、それからゴグマゴグが互いに連携を取って、目の前の敵を蹴散らしている。

ヴァーリチームは流石の戦いぶりだな。

 

俺はヴァーリに問う。

 

「激戦真っ只中のチームメンバーを置いて、一人で何をしに来たんだ?」

 

「こちらが押されているようだったからね。人手が足りてないんだろう? あんたに死なれては楽しみが減る」

 

確かに、俺がいるこの場所は押され気味ではある。

こちらで上位種の眷獣に対して一人で当たれるのは俺を除けば木場、モーリス、ストラーダの三名。

他の『D×D』メンバーは別の場所で力を振るっているだろうが………イッセーやリアスがいない今、この場の戦力はがた落ちも良いところだ。

 

正直、ヴァーリ一人が来るだけでもかなりマシになるだろう。

 

「そりゃ、ありがたいことで」

 

俺が礼を言うとヴァーリはフッと軽く笑んだ。

 

ヴァーリは視線を後ろで輝く光の柱に向けると訊いてくる。

 

「兵藤一誠はまだ出てこないのか?」

 

「………それなんだよな」

 

こんな会話をしている間に出てこないかと思ったんだが、まだ出てこない。

あいつら、マジで何をしてるんだ?

 

頼むから、出てきてくれ。

さっさと無敵のおっぱいパワーで蹴散らしてくれよ………。

 

そう切に願った時だった。

 

 

ドォォォォォォォォォォォォォンッッッッ

 

 

突然、大地が激しく揺れた!

凄まじい衝撃波が俺達を襲い、辺りを吹き飛ばしていく!

 

なんだ………!?

何が起きた………!?

 

土煙が舞い上がり、周囲が焦げ茶色に染まる。

そして、その数秒後―――――濃密な瘴気が一帯を覆った。

 

「この瘴気は………! トライヘキサと同じものだと………!?」

 

ヴァーリが驚愕の声をあげた。

 

確かに一帯を満たすこの瘴気はトライヘキサのそれだ。

だが、どういうことだ?

なぜ、トライヘキサの気配がアセム以外にもあるんだ?

 

いや、待てよ。

もし、吸収したトライヘキサを再び顕現出来るとすればどうだ?

トライヘキサは首の数だけ分裂が可能だった。

その能力を吸収した今でも使えるとしたら―――――。

 

土煙の向こうに巨大な影が映り込む。

煙が薄まると、そいつは姿を現した。

 

『ゴァァァァァァァァァァァッッッ!!!!』

 

天地を揺らす獣の咆哮!

俺達の前に出現したトライヘキサの分裂体!

黙示録の獣が再び立ち塞がろうというのか!

 

ちくしょう、嫌な予感が当たっちまった………!

アセムの方を見ると、七つあった尾の内、三つが無くなっている。

つまり、ここ以外にトライヘキサの分裂体が二体も現れているということだ。

 

アセムが神々を吹き飛ばしながら笑みを見せた。

 

『これで君達は戦力を更に分散せざるを得ない。さて、どうする?』

 

まるで、俺達を試すような言い方だな。

アセム自身、そこまで力が落ちているようには感じない。

俺が感じられる上限を超えているからかもしれないが………。

何にしても、この状況は不味すぎる!

 

「ヴァーリ、奴を止めるぞ!」

 

「異世界の神アセム、とことんまでやってくれるな………! 受けてたとうか!」

 

ヴァーリは再び、呪文を唱えると魔王化を果たす。

通常の禁手、白銀の鎧では倒しきれないと判断したからだろう。

とっくに俺を超えた力ではあるが、まだヴァーリは魔王化に慣れていない。

しかし、短時間で倒せるような甘い相手ではないのは明らかだ。

 

一足先に突撃したヴァーリの背中を見ながら俺は通信用の魔法陣を展開して、付近の戦士達に告げる。

 

「奴には生半可な攻撃は効かない! 実力の足りない奴は他の獣の相手に徹しろ! 下手に相手して無駄に命を散らすなよ!」

 

通信を終えた俺のところにバラキエルが飛んできた。

バラキエルが訊ねてくる。

 

「アザゼル、例の隔離結界は使えないのか? あれを使えばこの場をしのげるのではないか?」

 

「無理だ。あれはトライヘキサの動きを止めていることが前提に使うもの。発動しても取り込めなければ意味がない。それから、アセムの奴にこちらの策が漏れていた以上、奴もそこは理解しているはずだ。隔離結界に閉じ込めようとした瞬間に攻撃してくるか、再び自らに取り込もうとするだろうよ」

 

仮に隔離結界で出現した分裂体を閉じ込めることが出来たとしても、アセムの中にはまだトライヘキサが残っている。

一時的に状況はやり過ごせても、その後が苦しくなるだろう。

 

俺は舌打ちしながら、トライヘキサの分裂体への攻撃を仕掛けた。

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

状況は非常に厳しい段階に入っていた。

突如として現れたトライヘキサの分裂体。

アセムが取り込んだ力の一部を解放したと思われるそれは出現と同時に猛威を振るっている。

眷獣だけでもこちらは苦しい戦いだったのが、ここに来て絶望的なものへと変わり、戦線は瞬く間に崩れ始めた。

 

「木場さま、そこをお願いします!」

 

「分かりました!」

 

僕は今、ワルキュリアさんと組み、眷獣の討伐に当たっている。

ワルキュリアさんが特殊なワイヤーで足を止め、僕と龍騎士が再生できないレベルまで斬り刻む。

これで何体目か、もう数えるのも馬鹿らしくなるくらいの眷獣を倒してきたが………終わりが見えない。

 

アザゼル先生達がトライヘキサの分裂体の相手をしている間、そちらに眷属が行かないようにする。

それが僕達の役目だ。

 

「いい加減にしてもらいたいですね。私もそろそろ限界が近いのですが………」

 

肩を上下させるワルキュリアさん。

真正面から戦う力が弱い分、彼女はサポート役に徹してくれているが、やはり肉体が悲鳴をあげ始めたようだ。

 

僕もそろそろ、この第二階層を維持するのが辛くなっている。

この状態で、あと何度剣を振るえるか………。

 

僕は背中合わせのワルキュリアさんに問う。

 

「まだ武器はありますか?」

 

「一応は。しかし、かなりの数を使ってしまいました。散らばっているものを回収すればそれなりに戦えると思いますが、これまでのような戦いは難しくなります」

 

僕達の回りには彼女が使用した武器が散らばっている。

全て、メイド服の中から出来たものだけど………本当にその服はどうなっているのか聞きたくなる数だ。

しかし、今の話だとその武器も底を尽きかけているようだ。

 

「危なくなったら後ろに下がってください。ここであなたに何かあれば僕はイッセー君に顔向けできません」

 

「お気遣いは感謝します。ですが、それでは木場さまが危なくなります。あなたに何かあれば、私はリアスさまに顔向けできなくなってしまいます」

 

全く同じ台詞で返されてしまった。

参ったね、そう言われると、こちらは何も返せなくなってしまう。

 

剣を構えて、僕達を取り囲む眷獣と対峙する。

すると、彼らの足元が突然、黒く染まり、暗闇の中から伸ばされた手によって闇に引きずり込まれていった。

 

《祐斗先輩! 大丈夫ですか!》

 

「ギャスパー君! やっぱり今のは君だったんだね。ありがとう、助かったよ」

 

ここまでの間、ギャスパー君は闇の獣を量産しながら戦ってくれている。

また、闇の領域を広げ、眷獣を闇の中に引きずり込んで完全消滅させていた。

どんなにしぶとい眷獣でも今のギャスパー君に捕まればそれまでのようで、闇の中から這い出すことは叶わないようだった。

 

僕はギャスパー君に問う。

 

「ヴァレリーさんは?」

 

《ヴァレリーなら僕の中にいます。他の場所に置くよりは闇の力で守った方が確実ですから。それに、聖杯の力で負傷者の回復もしてくれています》

 

なるほど、アーシアさんがいない今、ヴァレリーさんがその役目を果たしていると。

恐らく、アザゼル先生の協力もあって、回復の力をこの短期間で身につけることが出来たのだろう。

しかし、

 

「ヴァレリーさんは目覚めてから間もない。あまり力を使わせてはいけないよ」

 

《分かっています。でも、ヴァレリーは皆のために力を使おうとする。だから―――――》

 

ギャスパー君の全身から闇が広がり、一帯を覆う。

闇の中には数百体の眷獣と眷獣と戦う味方の戦士達。

広がった闇の中から無数とも思える獣が現れ、闇の手が伸びてくる。

それらは一斉に眷獣に飛びかかり、肉を引き裂き、砕き、闇の中へと消し去ってしまう。

 

ギャスパー君は熱の籠った声音で言う。

 

《ヴァレリーが力を使わなくても良いように、僕がまとめて片付けてやる!》

 

この状況下でも勇ましく力を振るうギャスパー君。

巨大な闇の獣の姿で豪快に敵を殴り付けているが………動きに鋭さが欠けている。

 

「全員、その場から退避しろぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

聞こえてくる味方の声。

見れば、トライヘキサの分裂体が目の前まで迫っていた!

 

そんな………!

あれはアザゼル先生達が抑えているはずだ!

いや………これは違う。

 

「もう一体召喚したと言うのか!」

 

その証拠にアセムの尾が更に一本減っている。

戦況を見ながら、召喚の数を増やしたのだろう。

トライヘキサを召喚する分だけ、アセムの力は落ちると思うけど、今でも神々を片手であしらっているところを見ると、かなりの余裕があるらしい。

 

新たに召喚されたトライヘキサの分裂体が巨大な口を開き、火炎をチャージしていく。

常軌を逸した熱が眷獣と対峙している僕達へと向けられる。

ダメだ、あれは防ぎようがない………!

黙示録の獣が吐き出した炎が僕達を容赦なく襲う―――――。

 

 

 

 

「え………?」

 

 

 

誰かが間の抜けた声を漏らした。

何が起きたのか理解できていない、そんな声だ。

それもそうだろう、なにせ僕達を焼き尽くすはずの炎が、こちらに触れる直前に消えたのだから。

まるで、今の光景が幻だったかのように。

 

何が、起きたんだ………?

確かにトライヘキサの炎は存在した。

夢でも幻でもなかった。

あの炎は僕達を跡形もなく消し去るはずだった。

なのに、なぜ、僕はこうして生きている?

なぜ、炎は消えた?

 

いくつもの疑問が頭の中を駆け巡る中、眩い光が僕の隣を通り抜けた。

それは人の形をしていた。

光を人型にしたようなそれはゆっくりとトライヘキサの分裂体へと近づいていくと、手をかざし―――――分裂体を遥か彼方へと吹き飛ばした。

 

「なっ………!?」

 

あれだけの動作でトライヘキサを吹き飛ばした!?

そんな馬鹿なこと………神々ですら敵わない存在なのに………!

 

《イッセー先輩………?》

 

ギャスパー君が人型の光を見て、そう呟いた。

 

あれが、イッセー君なのか?

でも、僕達の後方ではまだあの光の柱が存在している。

リアス前部長や朱乃さんの姿も見えない。

 

人型の光に変化が訪れる。

表面の光が剥がれ、宙に消えていく―――――。

 

その瞬間、とてつもない熱気が一帯を支配した。

これはまるでイッセー君がイグニスさんを使用した時のような感覚。

気温が急激に上昇し、汗が噴き出してくる。

 

全身を覆っていた光が全て剥がれ消え、内側から姿を見せるのは彼だ。

姿を確認した瞬間に放たれる圧倒的なプレッシャー。

そして、この熱量。

 

彼の力を危険と判断したのか、周囲にいた眷獣達が一斉に襲い掛かる。

あんなものに数百体規模で飛び掛かられてはひとたまりもないだろう。

 

 

しかし―――――彼は片手を凪いだだけで、全ての眷獣を消し去ってしまった。

 

 

誰もが自らの目を疑っただろう。

僕達があれだけ苦戦していた存在をこうも簡単に消滅させてしまったのだから。

 

あれは………本当にイッセー君なのか?

姿はイッセー君だ。

しかし、少し前とはまるで別の存在――――――。

 

僕達が唾を飲み、様子を見守る中、彼は天を仰いだ。

そして―――――――

 

 

 

 

「おっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッッッ!!!!!!!」

 

 

 

あ、うん………イッセー君はどんな時でもイッセー君だった。

 

 




イッセー「これがおっぱいの力だぁッ!」

イグニス「違うわ! 未来を切り開くおっぱいの力よ!」

木場「それはもうおっぱいの力で良いのでは!?」


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69話 極限を超えて

お待たせしましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!



[木場 side]

 

 

光の中から現れたイッセー君。

彼はこちらへと火炎を向けていたトライヘキサの分裂体を吹き飛ばし、手を振るうだけで眷獣を消し去った。

そこだけを見れば、仲間の危機に駆けつけた頼もしい味方、ヒーローだ。

ヒーローは遅れて現れるなんて言葉もある。

パワーアップに時間が掛かってしまったとは言え、今のイッセー君は頼もし過ぎる程の存在だ。

でもね――――――。

 

 

「おっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッッッ!!!!!!!」

 

 

高らかに叫ぶイッセー君。

そう、光の中から現れた彼が最初に発した言葉は仲間の名前でもなく、安否を尋ねるものでもなく、『おっぱい』だった。

イッセー君はそれはもう力一杯『おっぱい』と叫んでいる。

ここまで籠った声で『おっぱい』という単語を聞くのは初めてかもしれない。

 

うん、分かってたさ。

ここで僕がとるべき行動はきっと、イグニスさんがあんな提案をした時から決まってたんだ。

そう思った僕はまっすぐイッセー君を見ると、口を開く。

 

大声で叫ぶなんて僕のキャラじゃないかもしれない。

でもね、僕の気持ちも分かってほしい。

この土壇場でシリアスが崩壊する音を聞くしかない僕はこうするしかないんだ。

たとえ、キャラじゃなくても、似合わないと言われても構わない。

僕は―――――大声でツッコミを入れよう。

 

「なんで! 開口一番に! 『おっぱい』なんだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

僕は叫ぶ!

心の底から!

恐らく、この場の誰もが思っているであろうことを!

 

「おっぱいドラゴンだからって、それはないだろう!? もっとかっこ良く決めてほしかったよ!」

 

しかし、僕のツッコミにイッセー君は何も返さない。

 

手を握ったり、閉じたりして力を確認するかのような動作を取っている。

まさか、僕のツッコミが届かない程のパワーアップを果たしたということだろうか?

 

すると、近くで戦っていたアザゼル先生が降りてきた。

アザゼル先生は深く息を吐くとイッセー君に向かって一言。

 

「イッセー、おまえ…………乳の感触を思い出してるな?」

 

「えっ!?」

 

アザゼル先生の言葉に僕は思わず声を出してしまった。

 

僕はイッセー君の顔を覗き込む。

すると彼は――――――とってもスケベな顔をしていた!

 

あの手の動作は自身の力を確かめるものじゃなかったのか!

揉んだであろう女性陣の胸の感触を思い出していたのか!

 

酷い、酷すぎる!

僕達は女性の胸の感触を思い出しながら戦う人に救われたと!?

なんということだ、威厳も何もないじゃないか!

 

威厳など微塵も感じられない主にワルキュリアさんは、

 

「イッセー様は本当に…………ド変態おっぱい野郎ですね」

 

と、蔑むような目をイッセー君に向けていた!

眷属が主に向ける目じゃないよ!

ゴミを見る目だよ!

 

だが、そんな蔑みすら今のイッセー君には届かない。

 

「………良かったなぁ………可愛かったなぁ………皆のおっぱい………」

 

指をワシャワシャ動かしながら、うわ言のように呟いている。

 

アザゼル先生は額に手を当てて言う。

 

「これ、使い物になるのか? 乳の余韻、長過ぎやしないか?」

 

使い物に………ならないかもしれません。

『乳の宴』とやらでイッセー君は骨抜きにされたのでは?

そんな風に思ってしまうよ。

 

アザゼル先生はイッセー君に問いかける。

 

「おい、イッセー! 乳の余韻に浸るのは良いが、パワーアップは出来たんだな? 俺達、おまえがリアス達の乳を吸う時間稼ぎでかなり消耗してしまったんだが………というか、長すぎるだろ。おまえ、中で何してた?」

 

ようやくこちらの声が届いたのか、イッセー君はその問いに返してくる。

 

「え? そんなに時間経ってました? イグニスは結界の中は外と時間の流れが違うって………」

 

「なに? こっちではもう一時間過ぎてるんだが………おまえ、本当に何してた? ハッスルしすぎだろ。まさかと思うが、子作りまでしてたんじゃないだろうな?」

 

「………」

 

「おい、なぜそこで黙る。おまえ、マジで子作り………」

 

「し、してませんよ! 俺だって、ここが戦場じゃなかったら子作りしたかったですよ! た、ただ………皆が可愛くて色々してただけです!」

 

色々したんだね!

そこは否定しないんだね!

 

ワルキュリアさんがイッセー君に問う。

 

「アリス様や他の方々は?」

 

「皆はもう少ししたら出てくると思う。イグニスが………事後処理してる」

 

「事後処理?」

 

「………うん、事後処理」

 

酷く青ざめた顔で頷くイッセー君だが………それは大丈夫なのだろうか。

いや、大丈夫じゃないから青ざめているのだろう。

アリスさん達がイグニスさんに何をされているのか、考えない方が良いかもしれない。

 

コホン、とイッセー君が大きく咳払いする。

 

「そ、それはともかく、そろそろ行ってきます。今、あいつを真っ向から相手にできるのは俺だけだと思うんで」

 

イッセー君の言葉にアザゼル先生が頷いた。

 

「頼む。俺達は可能な限り、他の化物共を抑えてみる。だが、あまり長引いては………」

 

「分かっていますよ」

 

イッセー君は僕達に背を向けて歩いていく。

視線を向ける先には今もなお神々を翻弄し、圧倒するアセムの姿。

 

「―――――あいつは、必ず止めます」

 

そう言葉を残した瞬間、イッセー君は僕達の前から姿を消し―――――遠くで凄まじい衝撃が生じた。

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

土砂が遥か上空まで舞い上がる。

その数秒後には巨大な土の塊が空から落ちてきた。

まるで、岩の雨が降っているようだ。

 

神々と激戦中のアセムを殴り付けて、地面に叩きつけたんだが、直撃とまではいかなかったか………。

アセムの奴、こちらの拳が当たる前に防御魔法陣で塞ぎやがったからな。

まぁ、それでも衝撃までは殺しきなかったようだが。

 

アセムは服をパンパンと払うと、自身の前に立ちはだかる俺を見て、嬉しそうに笑んだ。

 

「また立ち上がってきたね、君は。しかも、少し前よりずっとパワーアップして。さっき、向こうで見えた光はやっぱり君かな?」

 

「まぁな。皆の―――――おっぱいでパワーアップしたのさ!」

 

「ブフッ!」

 

思わず吹き出してしまうアセム。

 

うん、シリアルに持ち込めば簡単に倒せるような気がしてくるよ、こいつ。

だって、爆笑して腹を痛めている時が一番ダメージ喰らってるんだもの。

 

アセムは口許を押さえながら言う。

 

「流石はおっぱいドラゴン………この最終場面でおっぱい。それでこそだと、僕は思うよ! うん、テレビでの放送が待ち遠しいね!」

 

それは困る。

というか、放送できない。

中でやってたこと、ギリギリR-18だもの。

絶対、苦情来るもの。

 

というか、こんな話をしていると『乳の宴』の時の皆の表情や感触が思い出されて………ゲフンゲフン、そろそろ思い出すのは止めよう。

あの光景、今は俺の心の中の引き出しにしまっておこう。

そして、後で存分に思い出そう………!

 

「せ、赤龍帝………」

 

後ろから声をかけられた。

その人は先程までアセムによってズタボロにされた北欧の戦士の一人だ。

俺とアセムの周りには連合――――――オーディンの爺さんを初めとする神々と、それに付き従う戦士達が、俺に視線を集中させている。

 

俺は彼らに向けて言う。

 

「あんた達はアザゼル先生達の方を頼むよ。こいつは俺が相手をするからさ」

 

「なっ………!? 無茶だ! その化物を一人で相手取るなど―――――」

 

剣を握った男性が俺を制止しようとする。

だが、俺はそれを無視して構えを取り、アセムに向かって叫んだ。

 

「来いッ!」

 

ドン、と地を蹴って飛び上がる。

それを追って、アセムが疾風のように姿を消した。

 

「場所を変えるつもりかい? 彼らを巻き込まないために」

 

「さてな。だが、あそこは俺達がやり合うには狭すぎる」

 

「へぇ………」

 

アセムは俺を追いかけながらこちらに手を向けると、凄まじい勢いでエネルギー弾を連発してくる。

一発がトライヘキサの火炎と同等レベル。

少しでも触れれば、殆どのものがこの世に一切の欠片すら残さずに消えてしまうだろう。

それを俺は余裕でかわしながら、空高く、誰もいない開けた場所まで飛ぶ。

そこで停止すると、振り返り、腰に両拳をあて、構えを取った。

 

ドライグ、やれるな?

 

『パワーアップの過程は酷すぎるが、問題ない。やるぞ、イッセー!』

 

刹那、俺の体を虹色に輝く気が押し包む。

俺は錬環勁気功を発動すると、周囲に漂う気を限界まで体内に取り込み、内側で高速循環と圧縮を繰り返す。

高められた力は外へと漏れだし、巨大な炎のように広がっていく。

そして、力のある呪文を唱え始める!

 

「我に宿りし赤き天龍よ、理を越えよ」 

 

『我と歩みし真の勇よ、遥かな高みに至れ』

 

赤い―――――真紅の鎧が展開される。

 

「紅く輝く紅蓮の魂よ」

 

『全てを守りし、高潔なる魂よ』

 

虹の輝きがとてつもない規模で膨れ上がり、一帯に広がっていく。

背中には四対八枚のドラゴンの翼が現れ、大きく羽ばたいた。

 

「『―――――絶望を打ち砕く希望となれ』」

 

全ての宝玉が眩い輝きを放ち、時が経つほどに輝きは更に強くなっていく!

 

「『我ら、極限へと至りし者なりッッ!』」

 

『EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEXA!!!!!!!!!!』

 

『Dragon Extreme Drive!!!!!!!』

 

強い光と音声が止み、現れるのは真紅の龍。

背に八翼の龍の翼を生やし、虹色の粒子を振り撒く極限の姿。

極限進化『真なる勇へ至りし(ウェルシュドラゴン・フォーム)真紅の赫龍帝(・ヴァリアント・サーフェイス)』。

俺とドライグが到達した最高の領域。

そして、今は皆の力で大幅のパワーアップに成功している。

 

『いっちょいくぜッ!』

 

俺は猛スピードで突っ込んでくるアセムに向かって飛びかかっていく。

互いが間合いに入った瞬間に振り下ろされる拳が二人の顔面を捉え、お互いを後ろへと吹き飛ばしてしまう!

だが、吹っ飛ぶ途中で俺達は強引に姿勢を立て直し、反転して再度、衝突する!

 

『だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』

 

「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」

 

そのまま、至近距離での壮絶な格闘が始まる。

どちらも、大地を砕き、神を屠るほどの破壊力を秘めた相手の一撃に耐え、すかさず反撃を繰り出していく。

拳と蹴りの応酬の中、アセムの拳が俺の頬にめり込み兜を砕く!

だが、俺も負けじとオーラの乗った拳でアセムの顎を打ち上げた。

 

「………ッ!?」

 

強烈な一撃に意識が一瞬飛びかけたのか、アセムは頭を振って持ち直そうとする。

アセムの腕が一回り大きくなり、巨大化した拳を振り上げた。

 

それは悪手だ。

この高速戦闘の中で僅かにでも動きが遅くなれば、それは大きな隙となる!

 

俺は左手を胸の前で回して、気の渦を作ると、振り下ろされたアセムの拳を気の渦に巻き込み、体の外側へと反らす。

そして、アセムの懐に入った俺は奴の鳩尾に肘撃ちをめり込ませた!

 

「ガッ………!」

 

突き抜ける衝撃に苦悶の表情を浮かべるアセム。

俺はそんなアセムの顔へと回転蹴りをお見舞いする!

 

回転の勢いを上乗せした蹴りによって大地に叩きつけられたアセムを見下ろす俺は、頭上に両手を向け、左右の掌の間に気の塊を作り出す。

バスケットボール大の気の塊は内部で濃密な力が渦巻き、乱回転していく。

俺はそれをアセムめがけて放った!

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』

 

放った直後に気の塊は拡散しながら、流星のように降り注いでいく!

雨のように叩きつける気弾は立ち上がろうとしたアセムを打ちのめし、地面に磔にする。

だが、それも僅かな時間だった。

アセムの瞳が怪しく輝いたと思うと、奴を中心にオーラが広がり始めた。

それはドーム状に広がり、バリアーのように俺の気弾を弾いてみせたのだ。

 

『こいつを防ぐというのか!』

 

アセムはバリアーを解くと腰から生える三つの尾を動かす。

尾の先端にある獣の顔、その口が開き―――――凶悪な熱量を持った火炎弾を吐き出した!

今の俺でもギリギリでしか捕らえられないスピードで吐き出された火炎弾。

アセムはそれを連続で、こちらが避ける場所を失うほどの数を射出してくる!

 

やってくれる………!

こんな凶悪すぎる力を空を埋め尽くす数を出してくるなんてよ!

いくらパワーアップしたとはいえ、そう簡単には勝てそうにないな………!

 

アセムの攻撃を相殺しながら舌打ちする俺にドライグが言う。

 

『そもそもトライヘキサを取り込んだ時点で、奴の規格外っぷりが増したのは分かっていたことだ。大体、そんな奴と一対一で真っ向からやりあえる今の俺達が異常なんだ』

 

『それはそうかもしれないな!』

 

俺はそう言いながら、爆炎の中から突貫してくるアセムを迎え撃つ。

俺とアセムは瞬間移動にも等しい高速移動を何度も繰り返し、互いの距離を詰める。

構え、相手の動きの一つ一つを警戒する中、互いの視線が交錯する。

 

すると、アセムが問いかけてきた。

 

「どういうつもりだい?」

 

『なにがだ?』

 

「惚けても無駄だよ。君の拳には殺気が籠っていない。殺意のない攻撃で僕を殺せるとでも思っているのかな?」

 

その問いに俺は―――――。

 

『勘違いすんな。俺は今、おまえを殺すために戦ってるんじゃない。おまえを止めるために、おまえを救うためにここにいる』

 

「僕を………救う?」

 

そこから更に互角の戦いが続く。

壮絶な打ち合いだ。

アセムの蹴りで俺が吹き飛ぶ。

俺の拳でアセムが大きく仰け反った。

そんな殴り合いがほんの数秒の間に何百、何千、何万と行われていく。

 

「はぁッ!」

 

アセムの拳が決まり、俺は吹っ飛ばされる。

それを利用して距離を取った俺は翼を大きく広げた。

 

『Boost Eclipse!!!!』

 

その音声が籠手の宝玉から鳴ると背中に折り畳まれていた二つのキャノン砲が両脇を潜るようにして展開される。

 

『EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEXA!!!!』

 

高められた力が砲門へと集まり、迫るアセムへと狙いを定めた。

こいつを直撃させれば―――――。

 

しかし、アセムもまた正面に魔法陣を展開していた。

奴の後ろに輪後光が生まれ、魔法陣に描かれている文字が高速で動き始めていた。

 

読まれてたってことか………だが!

 

『Eclipse Blaster!!!!!!!!!!』

 

その音声と共に放たれる砲撃。

それと合わせるように放たれたアセムの魔法砲撃。

異次元の威力を持った二つのエネルギーが二人の間で激突する!

 

完全に拮抗している俺達の砲撃。

本来なら、このまま押し合いになり、相手を消し飛ばすまで続くだろう。

しかし、異変が生じた。

 

ピシッと音を立てて空間に亀裂が入る。

そこから、亀裂は更に広がっていき―――――俺達の周囲の空間が丸ごと砕け散った。

 

 




~あとがきミニストーリー~

イッセー「そういや、おまえが観測した他の異世界にはどんなのがあるんだ?」

アセム「んー、そうだね~。獣耳娘ばかりの世界とかかな」

イッセー「なんだ、ただの楽園じゃないか」

アセム「あとはミルたんばかりいる世界かな」

イッセー「どんな世界だぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


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70話 救い

気付いたけど、最終章だけで一年やってる………!



空間が崩壊していく。

 

俺とアセムを囲む周囲の空間に亀裂が入り、砕け散った。

二人が放った強烈なエネルギーの衝突に、空間が耐えられなかったのだろう。

赤い血のような空から一変し、万華鏡を覗き込んだような世界が現れる。

 

―――――次元の狭間だ。

 

アセムが言う。

 

「どうやら、君も一人で文字通り世界を壊しかねない存在になったようだ。あれほど頑丈に作ったこの世界が崩れかけるとは………」

 

『半分はおまえがやったんだろ』

 

アセムの言葉に少し抗議しながら、俺は崩壊した空間に目をやった。

かなり広い範囲で空間が崩れているが、幸いアザゼル先生達が戦っている場所まではギリギリ届いていない。

 

距離を離しておいて良かった。

あの場でやり合っていたら、間違いなく大勢が巻き添えになっていただろうしな。

 

しかし………。

 

「今の君は無限や夢幻に匹敵する力を持っている。強大すぎる力を持てば今は良くても、危惧され、疎まれることになるだろうね。もしくは、君の力を利用しようとする者も現れるだろう。僕を殺し、この戦いを終わらせたとしても、後々、君は世界の厄介者になるかもしれないね」

 

アセムは不意にそんなことを言ってきた。

 

………分かってるさ。

美羽を守るためってこともあるが、シリウスを倒した後、俺は向こうの世界の厄介者になると考えたからこそ、こっちの世界に戻ってきた。

魔王を倒した勇者の影響力は大きい。

勇者がいる国は他の国よりもこれからの政治を有利に進めることが出来る。

それではまた争いが起こる。

そう考えたから、俺は………。 

 

正直なところ、こっちの世界に戻ってきた後、こんな大事に関わるとは思ってなかった。

俺自身もここまで力を付けるとは想像すらしてなかったよ。

無限や夢幻―――――二つに別れる前のオーフィスやグレートレッドに匹敵する力、か。

今、こうしてトライヘキサを取り込んだアセムと真っ向からやり合えているこの状況が何よりの証拠だな。

下手すりゃ、アセムの言う通り、この世界の厄介者として扱われる日も来るかもしれない。

 

『もし、そうだとしてもだ。俺にはこの力が必要なのさ』

 

「その力のせいで、愛する人が傷つくことになっても?」

 

そう問いかけてきたアセムの目は遠い過去を思い出しているようだった。

力を持っていたために、目をつけられ、利用され、その果てに愛する人を失った。

アセムは今の俺と昔の自分を重ねているのかもしれない。

 

俺は一度、瞑目して口を開いた。

 

『力がなきゃ、守りたいものすら守れない。俺はそれを痛いほど体験してきた。もし、大切な人が傷つきそうになった時は必ず守りきる。なにがなんでも、世界の法則ねじ曲げてでもな』

 

力がなければ、何も出来ない。

何かを成すためには相応の力が必要だ。

だが、力を持ちすぎれば新たな災いの種となる。

これが世界ってやつだ。

 

でも………だからこそ―――――。

 

『示す必要がある。この力の意味を。この力には皆の願いが籠められてるってことを。たとえ、どれだけ時間がかかろうとも』

 

「そっか。………まぁ、パワーアップするための糧がおっぱいという時点でそんなシリアス展開にならないと思うけどね」

 

『やめてくんない、人が格好良く決めてるのに、そういうこと言うの』

 

 

 

 

俺とアセムは一定の距離を置きながら、上へ上へと飛翔していき、やがてアセムの構築した世界から抜け出る。

俺達が新たな戦いの場として選んだのは次元の狭間だった。

 

次元の狭間。

オーフィスの故郷であり、現在はグレートレッドが支配している場所。

力を持たない者が立ち入れば、『無』に当てられ消滅してしまうという。

今の俺達には何も問題はない。

特に意識せずとも、普通に滞在できるだけの力を有しているからだ。

 

俺とアセムは次元の狭間に漂うものを肌で感じながら、衝突する。

俺は八翼ものドラゴンの翼を羽ばたかせて、アセム目掛けて突撃する。

アセムは真っ直ぐに突っ込んでくる俺に対して、魔法陣を手元に構築すると、凄まじい規模の魔法砲撃を放ってきた。

しかも、使用されているのは明らかに禁術レベルの魔法だ。

 

あの姿になってから、息をするように禁術を使ってくるな………。

禁術は使った時の代償が大きいと聞くが、トライヘキサを吸収したためか、そんなものお構いなしと言わんばかりにバカスカ撃ってきやがる。

威力も桁違い、今の俺でもまともにくらえば大ダメージは間違いなしだ。

 

『はぁッ!』

 

豪雨のごとく放たれる魔法砲撃の合間を潜り抜け、アセムの間近へと迫った俺は、極大のオーラを纏った拳を奴の展開する魔法陣の上から叩きつけた!

真紅に輝く拳が禁術を発動している魔法陣を破壊し、アセムのボディーに命中する!

 

「ぐぅっ!?」

 

次元の狭間の中で吹き飛ぶアセムだが、身を捻って強引に体勢を戻すと、全身からオーラを噴出させて向かってきた!

 

―――――速い!

 

一瞬で間合いを詰めてきたアセムは、その勢いのまま蹴りを入れてきた。

奴の蹴りが腹にめり込み、体がくの字に曲がる。

更にアセムは蹴りに魔法を仕込んでいたのだろう、奴の脚が俺に触れた瞬間に魔法陣が展開され―――――炸裂した!

アセムの蹴りと魔法による攻撃により、腹部の鎧が砕け散る!

 

炸裂の衝撃で体が痺れるが、動けないままじゃやられる!

現にアセムが追撃を仕掛けてきているからな!

 

やるぞ、ドライグ!

 

『準備は出来ているぞ!』

 

頼もしい相棒の声が返ってくる!

アセムの実力にこうなることを想定していたのか、流石だぜ!

 

『『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!』』

 

俺とドライグの声が重なり、雄叫びをあげる!

全身から放出される虹のオーラが次元の狭間の流れすら変え、渦を作り出していく!

そして、俺達の力は爆発的に高まっていった!

 

『Boost Xenon Ultimate Drive!!!!!!!!!!』

 

宝玉から発せられる新たな音声。

その瞬間、鎧の各所から虹色の炎が噴出し、大きく揺らぎ始めた。

フルパワーのイグニスの熱にも等しい炎を纏い、極限の力は更なる領域へと突入した!

 

迫るアセムの腕を掴むと、固めた拳をアセムの腹に撃ち込んだ!

虹のオーラがアセムの体を突き抜けていく!

 

「ぐあっ!」

 

一瞬、動きの止まったアセムに、こちらの蹴りがまともにヒットする。

極限進化形態を更に強化しての攻撃だ。

いくらアセムが常軌を逸していたとしても、効かないはすがない。

その証拠にアセムは口から血を吐き出し、苦し気な表情をしている。

だが、ここで折れるような奴でもない。

 

「ぐっ………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 

アセムはオーラを高めて、何百ものエネルギー弾が放ってきた。

嫌な感覚を覚えた俺はすぐさま、その場から飛び上がるが………エネルギー弾は俺を追尾してくる!

どこに行こうとも、複雑な軌道を描いて飛ぼうとも、正確に俺を追ってくる!

 

これだけの力、これだけの数を正確に操作するとは流石だ。

だが、こっちも受けるわけにはいかない。

俺はそれら全てを避けきると、お返しとばかりに無数の気弾を放つ!

 

すると、アセムも流れるような動きでこちらの攻撃を全てかいくぐり、こちらへと向かってくる。

俺もまた、衝撃波を生み出しながらアセムに向けて飛んだ。

二人の拳が衝突した――――――その瞬間。

 

 

バギィン、グゥォォォォォォォォォン………

 

 

何か巨大なものが砕けるような凄まじい音がした。

見ると、次元の狭間の万華鏡を覗いたような光景にヒビが入っていた。

ヒビは俺達を中心にドンドン広がっていき、周囲一面がガラスを粉々にしたような光景になっていた。

 

ドライグも初めて見たようで驚愕の声を漏らしていた。

 

『まさか、空間のみならず次元そのものを壊すことになるとはな………』

 

それは………不味い、のか?

 

『分からん。だが、下手をすると俺達の戦いの余波だけで世界そのものを壊しかねないだろうな。今の俺達にはそれだけの力がある』

 

マジかよ………。

いや、本当に今の力が全盛期のオーフィスやグレートレッドに匹敵するならそれもあり得るのか?

もし、ドライグの言うことが正しければ―――――。

 

「早く僕を倒さないと取り返しのつかないことになる、かな?」

 

俺の考えを見透かしたようにアセムが言ってきた。

 

「だけど、まだまだ負けてあげるわけにはいかないな」

 

『なに?』

 

アセムの言葉に俺は怪訝にそう返した。

同時に思考がそこへと至ってしまった。

そして、その考えは次に発せられたアセムの言葉によって証明されることになる。

 

「君が戦いの中で進化するように、僕もまた進化する―――――」

 

次の瞬間、アセムから放たれるプレッシャーが膨れ上がった!

 

『おまえ、まだ上があるって言うのか?』

 

「進化するのはなにも君だけじゃない。仲間も成長するなら、敵も成長するものさ。―――――さぁ、いこうかトライヘキサ」

 

漆黒のオーラがアセムの体を包み込む。

オーラによってアセムの姿が確認できなくなった時、それは大きく脈動した。

アセムを包み込んだ黒い球体から発せられた波動が壊れた次元をも揺らしていく。

 

なにが………なにが起きようってんだ?

 

やがて、黒いオーラは引いていく波のように静かに消え去った。

内側から現れたのは――――――漆黒の魔王。

 

先程までのような化物じみたシルエットとは異なる。

変わったというよりは戻ったと言った方が正しいだろう。

今のアセムはトライヘキサを取り込む前の姿に近い。

漆黒の全身鎧を纏い、背には巨大な蝶の羽。

変わった点があるとすれば、そう―――――鎧の各所から漏れ出ている黒い炎のようなオーラ。

 

アセムが言う。

 

「フフフ、見た目的には随分スッキリしただろう? それに、君のそれとも対照的な姿になったと思うんだけど、どうだろう?」

 

『確かに似ている気がするな。おまえ、今まではトライヘキサを完全に支配下に置いていなかったのか?』

 

「いや、そうじゃない。これは進化だと言っただろう? 君との戦いが僕とトライヘキサを昂らせ、新たな世界に導いたのさ。そして、今この時を以て、僕達は完全体になったんだよ」

 

俺との戦いで新しい領域に至ったと………。

まぁ、確かに、俺達だけが戦いの中で進化すると決めつけるのはおかしいよな。

こいつも、こうして戦っているのだから。

 

俺は腰を落として構えた。

 

『それでも、俺は負けねぇよ。おまえを止めるためにな』

 

俺の敗北は全ての終わりを意味する。

もう、アセムを止められるのは俺しかいないんだからな。

 

すると、アセムが静かな口調で訊ねてきた。

 

「一つ、いいかい?」

 

『なんだよ?』

 

「君は僕を救うと言ったね。あれはどういうことかな? 僕は世界を滅ぼそうとする悪だ。そこにどんな理由があるにせよ、それは変わらない。君達にとっては滅ぼすべき存在だ」

 

『そうだな。でも、それじゃあ、なんでおまえは―――――泣いているんだ?』

 

「………ッ」

 

俺の言葉にアセムは声を詰まらせる。

籠手と兜を収納し、頬に触れる………が、そこには涙なんて流れていない。

でもな、

 

『今なら聞こえる。おまえの心の声がな』

 

 

 

―――――お願いだ。

 

 

―――――早く、僕を止めてくれ。

 

 

―――――でないと、本当に………。

 

 

 

『世界の理不尽に大切な者を奪われ、それでも、いずれ来るであろう脅威から世界を守るために悪を演じる。それで世界が救われたとして、誰がおまえを救うんだ? そこまで傷ついたおまえを誰が癒せるっていうんだ?』

 

俺はアセムの目を真っ直ぐ見て言う。

 

『おまえが俺を理解しているように、おまえの最大の理解者は俺だ。改めて宣言するぞ、アセム。―――――俺はおまえを止める。そして、おまえを救うぞ』

 

俺の言葉を聞き、黙るアセム。

アセムは小さく息を吐くと額に手を当てて、苦笑を浮かべた。

 

「参ったね………。やっぱり、君は優しすぎる」

 

『お互い様だろ』

 

「そうだね。でも、こんな形でこの戦いを終わらせるわけにはいかない」

 

ドンッと次元が震える。

アセムが高めたオーラが一帯を揺らしているんだ。

俺も応じるようにオーラをめいいっぱいまで高めた。

虹のオーラと漆黒のオーラが衝突し、次元を更に揺らし、砕き、破壊していく。

 

そして――――――。

 

 

『「いくぞッッ!!!!!!」』

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

イッセー君とアセムが最後の戦いに突入した。

空を見上げると、二人の衝突によって空間が砕け散り、空一帯が次元の狭間のあの景色に塗り替えられている。

 

アザゼル先生が呟いた。

 

「これが神の次元すら超越した者同士の戦い、か………。早く決着をつけなければ、あの戦いの余波で世界が崩壊しかねないぞ」

 

「でも、そこはイッセー君も理解しているはずでは?」

 

「だろうな。だから、イッセーも短期決戦に持ち込むはずだ。それでアセムを倒せれば良いのだが………」

 

堕天使の長ですら、あの二人の力の底が見えないようだ。

いや、多分だけど、この世界の誰もあの二人の真の実力を推し量ることはできないのかもしれない。

 

そんなことを考えながら、眷獣やトライヘキサの分裂体を相手にしていた、その時。

 

「皆さん、長らくお待たせしました」

 

不意に声をかけられ、後ろを振り向くとそこに立っていたのは――――――リーシャさんだった。

 

見れば、リアス前部長達も出てきており、戦線に復帰していた。

…………イグニスさんの魔の手から逃れられたのだろうか?

怖いから聞かないけどね。

 

リーシャさんが懐から何かを取り出した。

アザゼル先生が問う。

 

「それは?」

 

「これは先程までロスヴァイセさんと共に作製したものです。イグニスさんの結界のおかげもあって、中では十分な時間が取れました」

 

リーシャさんは空を見上げると、言葉を続けた。

 

「―――――かの神とトライヘキサの繋がりを断ちます。恐らく、この戦いを終結させる最大のチャンスを作れるでしょう」

 

 

[木場 side out]

 




~あとがきミニストーリー~

イグニス「たくさん集めれば男の子達の夢を叶えてくれる。それがおっぱいボール」

イッセー「出でよ、おっぱい! そして願いを叶えたまえ!」



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71話 最後の力

いよいよ大詰め!


『らぁッ!』

 

気合いと共に繰り出した俺の回し蹴りが炸裂する。

アセムは両腕でガードするが、受け止めた時の衝撃で両腕の籠手に亀裂が入り、砕けた。

 

「やる………ッ!」

 

そう言いながら、アセムは反撃の拳を打ち込んでくる。

籠手が壊れたせいで素手での攻撃となるが、それでも凄まじい破壊力を生み出してくる。

真正面から受けた俺もまた、鎧を破壊されてしまう。

 

無限と夢幻。

この世界で最強の存在。

その領域にまで足を踏み入れた俺達の戦いは、更に苛烈になっていた。

振るった拳の、蹴りの余波で次元が激しく歪み、世界の悲鳴とも聞こえる甲高い音が鳴り響いている。

もし、戦場がアセムの構築した世界ではなく、俺達の世界で行われていたとしたら………結果は言うまでもない。

何もかもが吹き飛んでいただろう。

 

『EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEXA!!!!!!』

 

籠手から鳴り響く力強い音声。

高められたオーラを拳に纏い、ひたすら前に出る。

アセムの攻撃を流し、強大な一撃を叩き込む!

 

『はっ!』

 

真っ直ぐ放った拳が奴の兜を砕き、頬にめり込む!

あまりの威力に耐えられなかったのか、アセムは姿勢を崩して後方へと押しやられる。

俺はアセムが反撃してくる前に距離を詰め、続けて二発、三発と打撃を与えていく!

拳が漆黒の鎧を砕き、前屈みに崩れたアセムの顎に膝蹴りがヒットする!

宙に浮いた奴の体を追い越し、真上から思いっきり叩きつけた!

 

吹っ飛ぶアセムはすぐさま体勢を戻し、怪しく眼を輝かせた。

刹那、奴の正面に巨大な魔法陣が幾重にも展開され、黒い火炎弾を撃ち込んできた。

俺は身を反らしてそいつを避ける………が、通り抜けた遥か先でその火炎弾は大爆発を起こす。

爆風が吹き荒れ、次元を揺らす!

 

『とっさに放った攻撃でこれ程の威力か!』

 

ドライグも今の一撃には声を震わせていた。

それほどの威力なのだ。

そんな攻撃をアセムは更に繰り出してくる!

一撃一撃が必殺に成りうる攻撃を無数に放ってきた!

 

ドライグが叫ぶ。

 

『イッセー!』

 

『分かっている!』

 

俺は全ての火炎弾を避けながら、両手に気を溜め、高めていく。

限界に達したところで、両手を前に突き出し、そいつを解放する!

 

『こいつでどうだッ!』

 

放つ極大の気弾が迫る無数の火炎弾の攻撃と正面衝突し、それらを呑み込んでいく。

そして、巨大な気弾はアセムへと直進していった。

だが………、

 

「かぁぁぁぁッ!」

 

眼前に迫った気弾にアセムは気合いと共に蹴りを入れ、なんと弾き返してきた!

 

『マジかよ!?』

 

驚愕の声を漏らしながら、跳ね返ってきた気弾を、腕を横凪ぎに振ってあられもない方向へと吹っ飛ばした。

これで危機は乗りきった………はずもなく、俺に生じた隙をアセムは見逃さず、一瞬で懐に入り込んできた!

腰を沈めて放たれたアッパーが俺の顎を打ち上げる!

 

『ガハッ………!』

 

あまりの衝撃に頭が揺れ、意識が飛びそうになる。

そこへアセムの超神速の連撃が襲ってきた。

回転をかけた拳が鎧を容易く破壊し、生身にめり込んでくる!

凶悪な一撃が鳩尾を穿った瞬間、込み上げてきたものを我慢できず、口から大量の血反吐を吐き出してしまった。

 

クソッ………強ぇ………!

一発の攻撃が重すぎて、強化された極限進化形態の鎧ですら壊してくる!

しかも、このダメージ、肉体だけでなく精神に響く。

トライヘキサを取り込んだ今でも、奴の攻撃には強い意志が籠められているんだ。

 

「限界かな?」

 

肩を上下に動かす俺を見て、アセムがそう訊ねてきた。

 

限界、だと?

舐めるんじゃねぇよ。

俺はまだ倒れちゃいないし、倒れるわけにもいかない。

約束を守るために、皆を守るために、そして―――――おまえを救うために。

 

だからさ―――――。

 

『うぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!』

 

両の拳を強く握り、咆哮をあげる!

全身から虹色のオーラが強く噴き出し、強く、激しく、大きく広がっていく!

虹の炎が次元の狭間の中でうねりをあげた!

 

アセムが驚愕の表情を見せる。

 

「………ッ! まだ上がるというのか!」

 

アセムが俺から一度、距離を置くなか、俺は深く息を吸って吐き出した。

そして、アセムの目を見て告げた。

 

『こんなんじゃ、終われない。おまえが今の俺より強いなら、俺はもう一度、追い抜くまでだッ!』

 

この身に負った深いダメージが嘘のように、俺の力は益々、上昇していく。

 

そんな俺から発せられる力にアセムは一瞬、たじろぎを見せたものの、今は意味深な笑みを浮かべていた。

 

「この覇気………流石だ。やはり、君を選んだのは間違いじゃなかった」

 

アセムは俺のように深く息を吸うと、キッとこちらを射抜くような視線を向け、叫んだ。

 

「ならば、来るがいい! 赤き勇者よ! 繋ぐ者よ! その力が、想いが本物であるのなら、この理不尽を乗りきって見せろッ!!!!!」

 

『言われるまでもねぇ!』

 

共に莫大なオーラを纏い、激突する。

今までの戦いを更に超えて。

互いの拳が、蹴りが、オーラによる砲撃が、己の全てを乗せた攻撃同士がぶつかっていた。

一撃がぶつかると、二撃目は一撃より重く、三撃目は二撃目よりも鋭くなっていく。

俺達は戦いの中で文字どおり、無限に力を上げて戦っていた。

 

だが、互いにそんな一撃をくらってまともにいられるはずもない。

俺もアセムも骨は砕かれ、内蔵も深いダメージを負っている。

血を吐き出し、骨や筋肉が軋む音を聞きながらも俺達はその手を止めない。

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

 

アセムが瞬間移動を使って、俺の背後に現れると、そのまま蹴りを放ってくる。

俺は、それを滑るような動作でかわし、やり過ごした。

空振りに終わったと知ったアセムは振り向きざまに下から高密度のエネルギー弾を投げつけてくる。

俺はそいつを掌を滑らせて作り出した気のバリアーで跳ね返す。

跳ね返ったエネルギー弾はアセムの顔面に命中する!

 

「ぐぁあああああ!」

 

自分の攻撃をもろにくらい、苦悶の声をあげるアセム。

そこへ俺が立ち込める爆煙を切り裂きながら回転蹴りを叩き込んだ!

 

「ぬぐぅぅッ!」

 

側頭部へと直撃した俺の蹴りはアセムを吹き飛ばし、次元の狭間から元いた場所―――――アセムが構築した世界、その地面へと叩きつけた。

その衝撃で大地に地割れが生じると同時に爆散した!

 

俺は追いかけるように大地に降り立つと、両手に虹色に輝く気弾を作り出し、アセム目掛けて走り出す。

こちらの動きに気づいたアセムは新たに魔法陣を構築し、光線を放ってきた。

アセムの背にある蝶の羽と同じ色の光線………あれをくらってしまうと、瞬く間に消滅してしまうか!

デタラメ過ぎるエネルギーが一帯を吹き飛ばしながら迫る!

 

俺は光線のスピードと自分とアセムの距離を目測で判断すると、地面を蹴り、空中を舞うような動作でアセムの背後へと着地して―――――。

 

『はぁッ!』

 

両手の気弾を一気に投げつけた!

二つの気弾がアセムへと吸い込まれていき、大爆発を起こす!

凄まじい衝撃が一帯を揺らした!

更にここから!

 

『でぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!』

 

両の手を正面に向け、マシンガンのごとく気弾を放つ!

全ての攻撃がアセムへと命中し、立て続きに起きる爆発の中で奴の悲鳴が聞こえてくる。

 

俺が右手を天に翳すと、掌には虹に輝くオーラが集まっていく。

それは凄まじいパワーを宿していて―――――

 

『こいつで最後だッッッッ!』

 

投げつけたそれが着弾した瞬間、天まで立ち上る爆炎が生じ、ここら一帯が弾け飛んだ。

揺れが治まった後、目の前に広がっていたのは俺の攻撃によって一面に広がる炎。

広大な大地が全て灼熱の炎に包まれている。

 

ドライグが言う。

 

『今のはかなり効いたはずだ』

 

ああ、そうだろうな。

俺との殴り合いで相当体力が削られたところに、今の連撃だからな。

トドメのつもりで撃った。

間違いなく全力でやった。

だけど………。

 

炎の中にゆらりと立ち上がる影が見えた。

それはズタボロになったアセムの姿。

肌は焼けただれている上、片腕はちぎれかけている。

普通なら決着がついてもおかしくない状態だ。

そう、普通ならな。

 

――――――アセムの肉体が再生していく。

あれほどの傷があっという間に塞がり、元の綺麗な肉体へと戻ってしまった。

 

ドライグが舌打ちする。

 

『やはりトライヘキサを取り込んでいる以上、回復するか。不味いぞ、イッセー』

 

向こうは回復できる。

しかし、こちらはそんな便利な機能はついていない。

量子化すれば、ある程度の回復も出来るが、それではこちらがもたない。

 

アセムが言う。

 

「このままいけば、じり貧は確定。君は敗北し、僕が勝つ」

 

そう言うと奴のオーラが高まった。

体力も回復したのだろうか、奴の力に衰えが見えない。

対して、こちらの力は傷つけば落ちていく。

そう都合良く、何度も限界突破は出来ないしな。

 

どうする………どうすれば良い?

 

嫌な汗が背中を伝った―――――その時。

 

僅かにアセムの体がビクンッと震えた。

何事かと思い、奴の肉体を見ると、胸に小さな穴が空いていた。

その穴からは奴の血が流れ出ていて………。

 

不思議な顔をするアセムだが、次の瞬間。

 

「………ッ!? これは………ゴブッ!」

 

アセムは何かに苦しむようにもがき始め、口から血反吐を吐き出した!

更に目や鼻からも血が流れ始めると、全身の血管が浮き上がり、次々に破裂していく!

 

「ぐぅ………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

絶叫するアセム!

なんだ!?

アセムの身に何が起きたというんだ!?

 

すると、俺の耳元に魔法陣が展開され、そこから声が聞こえてきた。

 

『イッセー、聞こえますか?』

 

『リーシャ? まさか、今のはリーシャが?』

 

そう、声の主はリーシャだった!

俺の問いにリーシャが答える。

 

『今、彼を狙撃したのは私です。そして、彼の体にある弾丸を撃ち込みました。―――――ロスヴァイセさんが開発したトライヘキサ捕縛用の術式、それを少し変更した術式を刻んだ銀の弾丸です。これにより、彼と、彼の中にいるトライヘキサの繋がりを一時的に遮断しました』

 

『じゃあ、アセムが苦しんでいるのは………』

 

『ええ、繋がりを断ったということは、それまでコントロールできていた力が使えなくなるということ。そして、有り余る力は内側で暴走します。今、彼を襲っているのは、その膨大な力そのものです』

 

なるほど、恐らくトライヘキサの力を使用するためには精密な力のコントロールが必要なはずだ。

そこを乱されたらどうなるか………それがこの現状というわけだな。

 

リーシャが続ける。

 

『しかし、その弾丸の効果はそう長くは続かないでしょう。イッセー、決めるのなら今しかありません』

 

『ああ』

 

それだけ返すと俺は通信を切った。

 

地面をのたうち回るアセムを見下ろして言う。

 

『………悪いな、こんな決着の付け方になってしまって』

 

俺がそう言うと、アセムは全身から血を噴き出しながら、震える体で立ち上がった。

そして、苦笑しながら言ってきた。

 

「フ、フフフ………なに、悪役にはぴったりの展開だろうさ。これくらいの覚悟は出来てたよ。でも、決着はまだ着いていない。僕はこうして立っているのだからね」

 

体をふらつかせるアセム。

言葉とは逆にアセムからのプレッシャーがガクンと落ちている。

あの圧倒的な力も今は感じない。

それでもアセムは拳を握り、雄叫びをあげた。

 

「くっ………うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

そのボロボロの体のどこにそんな気力があるのかと、驚かされる程凄まじい気合いを放ち、アセムは周囲の炎を吹き飛ばし、前に飛び出してきた。

 

俺はその場から動かずに、アセムの蹴りが届く寸前に飛び上がり、上からカウンターの蹴りを叩き込む。

アセムは腕を交差してそれを受けるが、がら空きの脇腹に俺の回し蹴りが直撃した。

血を撒き散らしながら、吹っ飛ぶアセムは地面を転がりながら、体勢を整えた後、巨大なエネルギー波を放ってくる………が、俺は僅かに半身を引いて、やり過ごし、アセムへ素早く飛びかかっていく。

アセムを殴り飛ばし、蹴りを入れ、更に連続で拳を打ち込んでいった。

 

吹き飛ぶアセムを追いかけた俺は十分に気の乗った拳をアセムの腹に打ち込んだ。

どうにか反撃してくるアセムの攻撃を身を屈めて避けると、アセムの体を蹴りあげる。

宙に浮かぶアセムの回りには虹色のオーラがまとわりついていた。

蹴りあげた時に流しておいた気が、アセムの動きを封じているんだ。

 

「くっ………!」

 

もがくアセムだが、脱出できそうにはなかった。

もう、アセムがこれに逆らう術はない。

決めるぞ、ドライグ!

 

『ああッ! 行くぞッ!』

 

宙に浮かぶアセムを見上げた俺は、気合いと共に気を高めていく!

そして、胸の前でクロスさせた腕を思いっきり振り上げた!

 

『だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!』

 

『Star Burst Explosion!!!!!!!』

 

新たな音声が籠手から鳴り響き、地中から噴き出す虹色のオーラ。

天を貫く虹の柱はアセムを呑み込んでいき―――――奴を覆っていた虹のオーラが大爆発を引き起こした。

 

 

 

 

[美羽 side]

 

 

あの儀式を終え、結界の外に出たボクは引き続き眷獣と戦いながら、見ていた。

この戦いを、世界の命運を握る二人の戦い―――――お兄ちゃんとアセムの戦いを。

 

誰もが………神も、悪魔も、天使も、堕天使も、その他の種族、この場の全ての者達が二人の激戦を見守っていた。

全員が理解していた。

あの二人は次元が違うということを。

あそこに割って入れる者などいないことを。

だから、自分達に出来ることを成すしかなかった。

 

そして、今。

二人の決着がつこうとしていた。

 

リーシャさんがアセムに撃ち込んだ弾丸は、アセムとトライヘキサの繋がりを見事に断ち切ることができ、大幅な弱体化に成功した。

そこへお兄ちゃんの全てを籠めたであろう技が決まり、アセムを呑み込んでいった。

 

虹色の炎が空に残る中、最後に立っていたのは赤い勇者だ。

それを確認したと同時にボク達が戦っていた眷獣やトライヘキサの分裂体が動きを止めた。

怪物達の目からは光が消え、完全に活動を停止している。

 

アリスさんが言ってきた。

 

「終わったようね」

 

「うん………そうだね」

 

ボク達の会話が聞こえたのかは分からないけど、他の皆も武器を下ろし、深く息を吐いていた。

ようやくだ。

長かった戦いがようやく終わったのだと。

自分達が生き残ったという結果に、最悪最強の敵に自分達が勝利したのだという結果に雄叫びをあげる人達も出てきていた。

 

「やっと………やっと終わったんだね」

 

 

 

 

 

―――――その時だった。

 

 

 

 

 

「フフフフ………ハハハハ。あと少し、あの弾丸の効果が切れる時間がもう少し遅ければ、僕は終わっていただろうね」

 

空から聞こえてくる声。

その声に戦場が凍りついた。

 

ボクは声につられて空を見上げると―――――そこには絶望が待っていた。

 

「あれは、なに………!?」

 

リアスさんが目を見開き、震えた声を漏らす。

他のメンバー、アザゼル先生やヴァーリさんですら嫌な汗を流し、体を震わせていた。

 

空にあったもの………それは灼熱の海。

空一面を埋め尽くす巨大な炎の塊。

太陽が降ってきたのかと、錯覚させる程に巨大。

炎の塊から発せられる熱で地面が焼け、かなりの距離があるはずなのに発せられる熱で体が燃え尽きてしまいそうになる………!

ボクは慌てて、冷却の魔法を周囲に施すが、それでもこの感覚が消えない………!

 

空に浮かんでいる一つの影―――――アセム。

彼の体は半身が失われていた。

恐らく、お兄ちゃんの一撃によるものだろう。

しかし、あれを受けて生きているということは、リーシャさんの弾丸の時間制限内に倒しきれなかったということか。

 

活動を停止していた眷獣やトライヘキサの分裂体が吸収されていく。

その瞬間、空を覆う火の海から強い波動が放たれ始めた。

 

アセムがお兄ちゃんに言う。

 

「僕ももう長くはもたないだろう。だから、これが本当に最後だ。君が世界を救うか、僕が全てを終わらせるかだ」

 

アセムが手をこちらに翳す。

すると、空に浮かぶ灼熱の海が落ちてきた。

 

「天地創造にも等しいこの力。受けてみるが良い」

 

 

[美羽 side out]

 




―――――この力を使った時、あなたはあなたでいられらなくなる。


―――――あなたにその覚悟はある?


―――――そう、分かったわ。ならば、私もあなたと彼女達を信じましょう。


―――――あなたに私の本当の名前を。封じた私の真の名前を授けましょう。


―――――約束して、イッセー。必ず戻ってきて。



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72話 真の名は

[美羽 side]

 

 

「天地創造にも等しいこの力。受けてみるが良い」

 

 

それはボク達に振り下ろされた絶望だった。

空一面に広がる灼熱の炎。

端が見えないほどに巨大なそれは、天そのものが燃えているようにも見えた。

空に浮かぶ炎の海、灼熱の空。

この光景を言い表すとすれば、そうなるだろう。

 

それが降ってくる。

ゆっくり、でも確実にこちらへと迫っていた。

 

「嘘、だろ………なんだよ、これ………?」

 

「あんなのどうすれば良いっていうんだ………」

 

周囲から聞こえてくる声はとても静かなものだった。

悲鳴をあげることすら出来なかったのだ。

ただ呆然と立ち尽くし、空を見上げるその顔にはひきつった笑みが浮かんでいる。

もう恐怖すら感じなくなるほどに感覚が狂ってしまっているのだろう。

彼らは理解したんだ―――――何をしても無駄だということを。

 

神クラスの力は凄まじいものだ。

神々が争えば世界が滅ぶのは間違いないだろう。

この戦いにおいても、神々の力を目の当たりにしてきたが、そのどれもが常軌を逸した凄まじいものばかりだった。

擬似神格とはいえ、神の力を得たボクやアリスさんの力だってそうだ。

だけど、目の前の光景はそんな神の力さえ霞んでしまう。

 

アザゼル先生が額に汗を流しながら言う。

 

「奴は自分とトライヘキサの力の全てを解放したのだろうが、ここまでとはな………! クソッ………どうすりゃ良い!? あんなものを落とされれば、この場にいる者どころか、俺達の世界にまでその影響は確実に及ぶぞ………!」

 

「どうなってしまうの?」

 

リアスさんの問いにアザゼル先生は答えた。

 

「正直、ここまでくると次元が違いすぎて、どれほどの被害が出るか分からん。だが、人間界に冥界、天界、それから各神話勢力圏。全ての世界があれに焼き尽くされるかもしれない。つまり、全ての終わりだ」

 

「………ッ!」

 

アザゼル先生の出した答えに目を見開くリアスさん。

 

ただ一人の攻撃が全てを終わらせようとしている。

ボク達が今まで守ってきたものも、何もかもが消えてなくなる。

そんなの信じたくないし、認めたくない。

ここまで共に歩んできた仲間も、家族も、あの町も、全てが失われてしまう………!

 

迫る灼熱の空に皆が力なく武器を手放してしまう、その時だった。

 

 

「皆、己を捨てるなッ!」

 

 

不意にかけられた言葉。

この場の全員が振り向けば、そこに立っていたのは―――――黄金の獅子を纏ったサイラオーグさん。

 

この戦いでボロボロになった鎧は修復されることもなく、彼の体は全身に傷を負っていた。

明らかに重症の彼は真っ直ぐこちらへ歩み寄ってきた。

 

「おまえ達、何を諦めようとしている! 本当にそれで良いのか!」

 

サイラオーグさんは拳を握り締めてボク達に、戦場の皆に問いかける。

 

「おまえ達は守るものがあるからこそ、この場に来たはずだ! 違うか! 立て! 武器を取れ! 最後の最後まで抗え! 俺達はまだ生きている! 絶望するのはまだ早いッ!」

 

そう叫んだサイラオーグさんは拳に闘気を宿らせて、アセム目掛けて放った!

放たれた拳圧が空を駆け抜け、アセムへと命中する!

 

だが、アセムは何事もなかったかのように平然としている。

ただ一人で世界を文字通り破壊できるアセムに対して、あの攻撃では通じない。

それはサイラオーグさんも分かっているだろう。

それでも、サイラオーグさんは連続で拳を放ち続けた。

生き残るため、大切なものを守るために。

 

サイラオーグさんの拳圧を受け続けるアセムの体に、今度は黒い炎が襲う。

 

「旦那の言う通りだ! まだ俺達にもやれることはかるはずだ!」

 

匙くんだ。

半壊した漆黒の鎧に黒炎をたぎらせて、ヴリトラの炎を放ったのだ。

 

「恐怖を感じたのは久方ぶりだが、このまま終わるのは面白くないな! 何より、あの場所までやらせるわけにはいかないッ!」

 

白銀と漆黒のオーラを纏うヴァーリさんが、極大のオーラをアセムにぶつける!

トライヘキサの分裂体と戦い、かなりの消耗をしているはずなのに、彼は魔王化を発動し、ありったけの力を放っていた!

 

「ふん………ここまで来て、あの時のようなみっともない姿は見せられんな! 俺の炎が通じるかは分からんが、やるだけやってみようか!」

 

ライザーさんまでもが、炎の翼を広げて、フェニックスの業火を放っている!

 

「ここで死んでしまっては彼へのリベンジが出来ないのでね………異世界の神よ、貫かせてもらう!」

 

曹操も聖槍の切っ先を広げて、濃密な聖なる波動をアセムへと解き放った!

 

………彼らの言う通りだ。

まだ諦めるには早すぎる。

ここまで来て、ただただ滅びを受け入れる、そんなことは無理だ。

ボク達は何がなんでも生きて必ず、約束を果たす。

あの家で、あの町でボク達は―――――。

 

「ハァァァァァァァァァァァッ!」

 

ボクは神姫化して、魔力を解き放つ!

手を空に翳して、夜の力を、神の力を集めていく!

そして、今のボクが持つありったけの力を放った!

全身全霊をかけて、あれは必ず防ぎきる!

絶対に落とさせない!

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

大音量の雄叫びが戦場を揺らす。

先程まで武器を落としていた人達も、再び武器を取り、自分に出来る攻撃を放ち始めていた。

あらゆる種族、あらゆる神話の戦士達が一斉にアセム目掛けて攻撃を仕掛けていき、空中で様々な色の爆煙があがっていく。

アセムの姿は煙に包まれ、見えなくなるほどだ。

だが――――――。

 

ドンッと強い振動がボク達を襲う。

上から降ってきた重圧が体に重くのし掛かり、強制的に地に膝を着かせようとしてきた。

 

空には未だ現在のアセムの姿。

当然、空に浮かぶ灼熱の海は消えていない。

それどころか、明らかに先程よりも近づいてきていた。

熱で地面が赤くなり、あちこちから炎が立ち上り始める。

戦士達が握る剣や鎧が溶け始めており、彼らは慌ててそれらを捨て去り、自身を覆う耐熱の魔法をかけていた。

ボクも同じく、耐熱の魔法をかけているが………それを通り越して、熱が伝わり、肌を焼いてくる………!

 

「あ………」

 

声が出なかった。

どれだけ魔法を放っても、どれだけ力を合わせても乗り越えられない。

こんな………こんなことって………。

圧倒的な力がボク達を押し潰そうとした―――――その時。

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!』

 

天地を揺らす叫びと共に強い光がボク達の頭上で輝きを放った。

見上げれば、灼熱の海を迎え撃つ形で虹色の粒子が一面に広がり、ボク達を守ろうとしていた。

その輝きの中心にいるのは――――――。

 

「お兄ちゃん!?」

 

お兄ちゃんが全身から虹のオーラを放出しながら、両手を前に突き出す。

降ってきた灼熱の海と虹色の輝きが衝突する―――――。

 

『ぐぐぐぐぐ………ぐぉぉぉぉぉぉッ!』

 

苦しそうな声を漏らすお兄ちゃん。

受け止めた強大過ぎるな力のせいで、辛うじて残っていた鎧も弾け飛び、アセムの炎がお兄ちゃんの両手を焦がし始める!

お兄ちゃんは口から血を吐き出しながらも、目をしっかり開いて叫ぶ。

 

『落とさせねぇ………! こいつは落とさせるわけにはいかねぇ………!』

 

虹の輝きが灼熱の海に押され、お兄ちゃんの体を更に焦がしていく。

 

『もう誰も傷ついてほしくないし、おまえにももう誰も傷付けてほしくない! おまえ自身もだ、アセム! 聞こえるんだよ、おまえの嘆きがさっきよりも強く! おまえが誓ったように、俺にもあるんだよ、果たすべき約束が!』

 

叫ぶお兄ちゃんの体から発せられる光が強くなる。

その瞬間、ボクの胸が強く締め付けられた。

これって、まさか………!

 

それを理解したボクはお兄ちゃんに向けて叫んだ。

 

「ダメだよ! それは使っちゃダメ! お兄ちゃん!」

 

「イッセー、あんた………! そんなの嫌よ! お願いだから、やめて! イッセー!」

 

ボクの隣ではアリスさんが目に涙を浮かべて叫んでいた。

アリスさんも感じたのだろう、お兄ちゃんが何をしようとしているのか。

 

そんなボク達にアザゼル先生が訊いてくる。

 

「おい! イッセーは何をしようってんだ!」

 

「お兄ちゃんは………自分の命を消費して、あれからボク達を守るつもりなんだよ。ボクとアリスさんの魂はお兄ちゃんと繋がっているから分かるんだ。お兄ちゃんの命がどんどん削られていくのが………!」

 

「あの馬鹿野郎………!」

 

疑似神格を受け取る時に、ボク達三人は深い次元で繋がりを持つことが出来た。

だから、何となくでもお互いのことが分かってしまうんだ。

でも、今回はハッキリと理解した。

お兄ちゃんの命が減っていくこの感覚を………!

 

リアスさんが目を見開いて言う。

 

「そんなこと………! イッセー!」

 

リアスさん以外のメンバーもお兄ちゃんの名前を叫ぶ。

でも、お兄ちゃんは命を使うことを止めない。

 

お兄ちゃんから発せられる光は一層強くなる。

しかし、アセムの放った最後の攻撃はそんなお兄ちゃんでさえ、受け止めきれないもので………。

 

『クソッ………! これでも足りないって言うのかよ、アセム………ッ!』

 

アセムはお兄ちゃんへと手を翳し、静かに告げた。

まるで、最後の別れをするように。

 

「どうやら、僕の勝ちらしい。君達は乗り越えることが出来なかった。………残念だ」

 

灼熱の炎がついに虹の光をかき消した。

お兄ちゃんは真正面から炎を受けて、呑み込まれていく―――――。

 

 

「お兄ちゃん………イッセェェェェェェェェェッ!!!!!」

 

 

[美羽 side out]

 

 

 

 

暗い、真っ黒な世界がただ広がっている。

この感覚には覚えがあるな。

ロスウォードに胸を貫かれて死んだ、あの時の感覚にそっくりだ。

深い海の底に落ちていくような感覚。

手足が冷たく、何も感じない。

だけど、そんな感覚はすぐに消えてなくなった。

 

冷たい世界を通り抜けた先に俺を待っていたのは温かさだった。

冷たくなった体を包み、熱を与えてくれる。

そう、これは―――――。

 

『この世界に来るのは二度目ね』

 

不意に声をかけられた。

 

体を起こし、辺りを見渡すと、広がっていたのは星の輝き達。

無数に点在する星々は様々な色の光を放ち、また、幾つもの流星が光の軌跡を描きながら遥か頭上を通りすぎていく。

そんな世界には虹色に輝く粒子が広がっていて、そこに一人の女性が佇んでいた。

虹色に輝く髪を持つ美しい女性。

とても神秘的な雰囲気を纏う彼女は温かく優しい笑顔を浮かべて、俺を迎えてくれた。

 

俺は彼女と向き合うと口を開いた。

 

「前に来たのは疑似神格を分けた時だったな………イグニス」

 

そう、この女性こそがイグニスの真の姿であり、この世界こそが彼女の本当の世界。

俺はイグニスに問うた。

 

「ここに来たってことは………また死んで、魂が肉体から離れたか?」

 

前に死んだ時はその衝撃でイグニスとの対話に成功したんだった。

………まぁ、あの時はシリウスもいて、色々と焦ることになったけど。

うん、今思い出してもあれは辛かった。

だって、美羽とのイチャイチャを見られてるんだもの!

シリウスも何とも言えない表情だったし、かなり気まずかったわ!

 

で、そんなことは置いておいてだ。

俺の問いかけにイグニスが答える。

 

『いいえ、今回はあの時とは違うわ。時が満ちた、と言った方が正しいでしょうね』

 

「時が満ちた? それって………」

 

イグニスは首を縦に振った。

 

『あなたに―――――私の本当の名前を伝える時が来たのよ』

 

『イグニス』というのは彼女の本当の名前ではない。

彼女は自身の力を抑えるために本当の名前を封じている。

もし、彼女が本来の力のまま顕現すれば、その影響は世界中に及ぶからだ。

『イグニス』としての力だけでも神を容易に滅ぼすだけの力を持っているんだ。

本来の力がどれほどのものなのか、想像もできない。

 

俺は静かな口調で訊ねた。

 

「なんで、このタイミングなんだ? もっと早ければ色々と助かったんだけど?」

 

『それはあなたの力が不足していたからよ。でも、変革者としての力に目覚め、アセム君との戦いを経て、その力はずっと高まった。今では封印を解いた私の力を暴発させず、ギリギリ抑え込めるところまで来たわ』

 

「あれだけ無茶苦茶なパワーアップしたのにギリギリなのかよ………」

 

『それは言ってもしょうがないでしょう? それから理由は他にもあるの』

 

「それは?」

 

俺が問うとイグニスは途端に目元を伏せ、悲しげな表情となる。

 

………こいつのこんな顔を見るのは初めてだ。

いつもはエロエロな思考で周囲を振り回す駄女神。

だけど、今のイグニスからはそんな雰囲気は微塵も感じられない。

でも、だからこそ、それで何となく察することが出来た。

 

「その力を使ったら死ぬ、ってことか?」

 

十分にあり得る話だろう。

『イグニス』としての力ですらほんの一部なんだ。

その本来の力をなんの代償無しに使えるわけがない。

 

しかし、俺の出した答えは半分正解で半分間違いだった。

 

『そうね、命を失うこともあるでしょう。でもね、それだけではないの。この力を使えばあなたは………あなたでいられなくなる』

 

「俺が………俺でいられなくなる?」

 

イグニスの言葉を復唱するように俺は聞き返す。

イグニスが言う。

 

『この力を使った時、あなたは変革者としての力を限界を超えて使うことになる。そして、あなたは器として目覚めるでしょう』

 

「器………?」

 

再度、聞き返す俺。

器に目覚める?

どういうことだ?

というか、器ってなんなんだ?

 

『人の、世界の総意を受け止める器。人々の願いを受け止め、体現する力の塊。あなたの中には多くの人の願いや想いが流れ込んでくることになる。そして、彼らの想いを力に変えることができる。それこそ、世界そのものを変えることだって出来るわ』

 

「変革者の力のスケールアップバージョンみたいな感じか」

 

『簡単に言えばね。でも、そこが問題なのよ。あなたに流れ込んでくるのは、世界中の人々の意思。それは「兵藤一誠」という存在を呑み込んでしまう。例えるなら、大海に一滴の水滴を足らすと同じ。あなたという存在は世界の意思という大海の中に溶けて失われてしまうことになる。この力を使った時―――――兵藤一誠の魂と意思は完全に消えてしまうのよ』

 

俺の魂と意思が消えてしまう。

つまり、それは仮に聖杯の力を用いたとしても復活できないということだ。

もし、俺が何らかの形で復活できたとしても、そこに『兵藤一誠』はいない。

空っぽの存在がただいるだけ。

 

イグニスは酷く辛そうな表情を浮かべていた。

 

『この力をいずれあなたは欲する。大切な人を守るために。そう考えたから、私はあなたに力を授けた。進化するための鍵をあなたに与えた。だけど………本当は使ってほしくなかった』

 

イグニスの頬に一筋の涙が伝っていく―――――。

 

『私はあなたに消えてほしくない。これからも側であなたを見ていたい。………それでも、あなたは行ってしまうのでしょう?』

 

いつもの冗談っぼさは無かった。

いつもの明るい女神じゃなかった。

 

いや………もしかしたら、これまでの日々も、どこかで悩んでいたのかもしれない。

顔や仕草には出さず、心の底ではずっと、この日が来ないことを願っていたんだと思う。

 

俺は小さく息を吐いた。

 

「なるほどな。あいつが、ライトが言っていたのはこういうことか」

 

『なぜ、そこで彼の名前が出てくるの?』

 

「あいつに言われたんだよ」

 

 

―――――おまえは変わる。だけど、本質はバカでスケベで真っ直ぐな『兵藤一誠』のままでいてほしいってこと。俺の親友で、皆の勇者。な、イッセー。

 

 

あいつがこの展開を予想していたとは考えにくいが、どこか分かっていたのかもしれない。

俺が俺でなくなる、その時が来てしまうことを。

 

俺はフッと小さく笑んだ。

 

「なぁ、イグニス。俺は死ぬ気もなければ、変わる気もないよ。必ず帰るって約束したしな。そこに俺がいなかったら約束を破ることになっちまう。………ここまで生きてきて、俺は一つ答えが出せたんだ」

 

『答え?』

 

イグニスが聞き返してくると、俺は強く頷いた。

 

「自分の愛する者が自分のせいで死んでいく、そんな自己犠牲………そいつは間違いだ。残された方は悲しみを背負って生きていかなきゃならない。俺は美羽や皆、それからイグニス。おまえにも背負わせたくない。だからさ―――――」

 

俺は両手を広げて空を見上げる。

そして、高らかに叫んだ。

 

「俺は愛する者のために何がなんでも生き延びる! そして、何がなんでも守り抜いてやる! 生きて、絶対に幸せにしてやる! ま、さっきまで命を削って力に変えてた俺が言っても説得力ないだろうけどさ」

 

苦笑する俺。

正直、いけると思ったんだよ。

悪魔の寿命って永久にも等しいって言われてるし、今の俺の力は龍神クラスに達していたし。

ま、まぁ、俺の見通しが甘かったことは認めざるを得ないんだけど。

というか、アセムのあの技がえげつなさ過ぎるんだよ!

 

俺はそれから、と付け加えていく。

 

「俺が俺でいなくなる、か。そうなったとしても、あいつらがそれを許すと思うか? もし、俺が世界の意思とやらに流され、消されてしまいそうになったとしても、あいつらは必ず俺をそこから引っ張り出してくれる。俺の命が尽きそうになったとしても、あいつらが絶対に消させやしない。俺はそう信じてる」

 

俺はイグニスの目を見つめて、真っ直ぐにそう告げた。

 

もし、俺の命が尽き、俺が俺でなくなろうとしても、あいつらが俺を救ってくれる。

最後は誰かに頼るのかと笑ってくれても構わない。

でも、これだけは言っておきたい。

 

「こいつは自己犠牲じゃないぞ? 俺は仲間と家族を信じてる。だからこそ、その力を使わせてもらう。皆を守るためにな」

 

イグニスは一度、瞑目すると小さく笑みを浮かべた。

 

『そうね。あなたなら、そう答えるのでしょうね。分かったわ。ならば、私もあなたと彼女達を信じましょう』

 

イグニスはこちらに歩み寄ってくると、彼女の体から温かい光が広がり始めた。

イグニスから湧き出た虹のオーラがこの星々の世界を巡っていく―――――。

 

『赤龍帝、赤き勇者、繋ぐ者。兵藤一誠、あなたに無二の力を与えましょう』

 

虹のオーラが俺と彼女を囲み、渦巻いていく。

 

『あなたに私の本当の名前を。封じた私の真の名前を授けましょう。私は《世界》にして《宇宙》、全ての始まりたる《創星》の神。我が神名は―――――』

 

彼女は俺の頬に触れ、その名を、真の名を告げた。

 

『―――――エクセリア』

 

彼女の唇が俺の唇に重ねられた。

 

 

 

 

―――――約束よ、イッセー。必ず帰ってきて………。

 

 

 



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73話 託す者、託された者

―――――約束よ、イッセー。必ず帰ってきて………。

 

 

ああ、約束だ。

俺は必ず帰ってくる。

必ず―――――。

 

「いこう、エクセリア」

 

『ええ、いきましょう。広げなさい、イッセー。繋げなさい、皆の想いを』

 

背から八翼の龍の翼が広げられる。

大きく広がったそれぞれの翼から一つづつ、フェザービットが飛び出し、俺を囲むように配置されていく。

配されたフェザービットが強く光輝き、虹色の粒子が放出された。

虹色の輝きが俺を中心に溢れ出す―――――。

 

『Quantum Burst Full Over!!!!!!!!!!』

 

左腕の籠手、その宝玉から新たな音声が鳴り響く。

その瞬間、虹の粒子が花の花弁のように広がり始める。

アセムが構築したこの世界だけじゃない。

世界を越え、次元を越えて、冥界、天界、人間界、全ての世界へと届いている。

虹色の花弁はどこまでも大きく、どこまでも遠くへ―――――。

 

その瞬間、俺の中にいくつもの、それこそ何千、何万、何億という人達の感情が流れ込んできた!

 

「ぐっ………! 意識が飛びそうに…………流されそうになる!」

 

イグニス―――――エクセリアが言っていた、『器』になるって、こういうことか………!

内側に注ぎ込まれる無数の意思が、俺という存在を巻き込んでいく!

激流に流されていくような、そんな感覚だ………!

いつまで、俺が俺でいられるか分からない!

 

俺は両手を前に突き出し、アセムの放った灼熱の海を押し返す!

 

「ッ! これを押し返すというのか! ………だが!」

 

驚愕の表情となるアセム。

しかし、押し返せたのはほんの僅かだ。

破滅までの時間を伸ばしたに過ぎない。

 

僅かに押し戻した状態で俺とアセムの力は拮抗し始める!

 

「ぐぐぐぐぐぐぐ………ぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ぬぅぅぅぅ………はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

互いにボロボロの姿で雄叫びをあげる。

俺もアセムも鎧など、とうの昔に砕けて残っていない。

アセムなんて、半身が失われた状態のままだ。

 

トライヘキサの力は戻っているはずなのに、回復していない………?

まさか、あの野郎―――――。

 

俺が何かを察すると、アセムが答えた。

 

「気づいたみたいだね。そう、僕とトライヘキサの全てをこの一撃に注いでいる! 回復の力も、僕の命も全てだ!」

 

「文字通り、全てをかけた攻撃ってか………! おまえがやると、規模が違いすぎる………!」

 

このままじゃ、先に力尽きた方が終わりとなる。

エクセリアの力を解放しているのに、これじゃあ俺は………!

 

エクセリアが言う。

 

『いいえ。あなたが使っているのはまだほんの一部に過ぎない。忘れたわけじゃないでしょう? あなたの力はなに? あなたの想いはなに?』

 

エクセリアは諭すように告げてくる。

 

俺の力、俺の想い。

俺はなんだ?

どんな存在だ?

そうだ、俺は―――――。

 

「頼む! 皆の力を俺に貸してくれ! 皆の想いを、俺にくれぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 

俺は乞うように願い、叫んだ。

 

俺は変革者、繋ぐ者。

皆の想いが俺を強くする。

俺は皆を、この世界を守りたい。

そして、あいつを………!

 

だから、頼む。

一方的な願いかもしれない。

それでも、俺に皆の想いを………!

 

『これは………! イッセー!』

 

ドライグが何かに気づいたように叫ぶ。

 

その瞬間、俺から放たれる虹の力が段階を上げて膨らみ始めた!

溢れる虹の力がより濃密に、より巨大になっていく!

それにより、アセムの攻撃を更に押し戻すことに成功する!

 

俺と押し合う中、アセムが納得したように言う。

 

「なるほど、変革者の君の力か。全世界の人々の想いを自らの力に変えて………!」

 

「そういうことだ!」

 

今、俺に届いたのは冥界からのもの。

冥界の子供達の声が聞こえてくる。

俺を応援する子供達の声が!

 

 

――――――頑張れ、おっぱいドラゴン!

 

 

ああ、任せとけ、チビッ子共!

絶対に守ってやるからよ!

 

皆の想いが俺の力を高めてくれる。

そして、高めた力がエクセリアの本来の力を引き起こす!

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!」

 

両腕を力一杯、アセムへと向け、全ての力を解放する!

引き出されたエクセリアの力がアセムの攻撃を退けようとして―――――。

 

パァン、と何かが弾ける音がした。

数秒後、視界が真っ赤に染まって………。

 

「なん、だ………これ………」

 

見れば、全身の血管が浮き上がり、次々に破裂していた。

今のはこめかみの血管が弾けた音だったんだ。

信じられない量の血が流れ落ちていく。

 

アセムが言う。

 

「今、理解したよ。君は彼女の、原初の力を解放したんだね? 確かに彼女の力は強大だろう。しかし、君の体は彼女の力に耐えられない」

 

俺の力不足だっていうのか………!

俺じゃ、エクセリアの力を扱いきれないのか………!?

 

クソッ、身体中が悲鳴をあげる!

こうして力を解放するだけで、骨が砕ける音まで聞こえてくる!

 

世界中から注がれる意思が俺の自我を呑み込もうとし、かといって皆の力がなければ、エクセリアの力を解放しきれない。

だが、エクセリアの力を解放すれば、俺の肉体がもたない、か。

どうしたものかね………!

 

エクセリアが言ってくる。

 

『イッセー、あなたは「器」。世界の総意が注がれる存在よ。でも、ただ注がれるだけでは真価を発揮することは出来ない。―――――受け止めなさい。皆の想いを、皆の願いを!』

 

「分かってる! 分かってるんだよ! 受け止めようとしたら、俺の中の何かが壊れそうになるんだよ! 全身がバラバラに砕けて、しまいそうになるんだ………!」

 

心も体も、何もかもが消えてしまう、そんな感覚が襲ってくるんだ!

頼む、俺の体よ、心よ!

せめて、ここを乗り切るまではもってくれ!

 

しかし、そんな俺の願いは否定される。

 

俺の右手の傷から煙が上がり始める。

それを認識した瞬間―――――右手が赤い粒子と化し消えていく。

右手だけじゃない、全身のいたるところから、煙があがり、赤い粒子へと変わり始めた。

体が消えていく………!

 

なんでだ?

俺じゃダメだっていうのか?

 

そう思った瞬間、過去の光景がフラッシュバックする。

今まで、何度もあった。

守ろうとして守れなかったことが山ほどあった。

また………守れないのか?

俺はまた失ってしまうのか?

嫌だ、そんなことは絶対に嫌なんだ………!

 

誰か、俺を支えてくれ。

俺の側に来てくれ。

でないと、俺は―――――。

 

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 

 

その声が聞こえた時、体にそっと手を添えられた。

ゆっくり目を開けると、俺の隣には美羽がいた。

俺と目が合うと、美羽はいつもの優しい微笑みを浮かべてくれて、

 

「お兄ちゃんは一人じゃないんだよ? ボク達がいる。お兄ちゃんが受け止めるものは、ボク達も一緒になって受け止めるよ。そうだよね、皆?」

 

美羽が後ろへと問いかけた。

 

そこにはアリス、リアス、アーシア、朱乃、小猫ちゃん、ゼノヴィア、イリナ、レイヴェル、レイナ、ロセ、ティア、サラ、リーシャ、ワルキュリア。

木場にギャスパー、アザゼル先生、モーリスのおっさん。

ヴァーリや曹操、サイラオーグさんに匙。

それ以外にも多くの人達が俺の後ろで、俺を支えるように立っていた。

 

アリスが笑みを浮かべる。

 

「あんたはいっつも無茶ばかりするんだから。あんたが守りたいものは、私達も守りたいのよ。私達にも受け止めさせなさいよ」

 

リアスも続く。

 

「そうよ、イッセー。私達は家族、仲間なのでしょう? 楽しい時も、辛い時も私達はあなたと共にあるわ。これまでも、これからも―――――」

 

二人の言葉に続くように皆は強く頷いた。

 

すると、小猫ちゃんの側に黒歌が立っているのが目に入る。

肩に手を置かれた小猫ちゃんは小さく黒歌の名前を呼んだ。

 

「黒歌姉さま………」

 

「にゃはは。まぁ、ここまで来たら私達もこうするしかないでしょ、白音? それにね、赤龍帝ちん」

 

黒歌はいつものイタズラな笑顔とは違った笑顔で言ってきた。

 

「私もあんたには死んでほしくない。あんたのおかげで私は白音とこうしていられる。本当に感謝してる」

 

「大したことはしてねーよ。頑張ったのはおまえと小猫ちゃん。だろ?」

 

「にゃはは、そうかもね!」

 

「姉さま、調子に乗りすぎです」

 

ああ、そうだな。

おまえ達姉妹もこれからなんだ。

こんなところで消させやしないさ。

 

木場が言う。

 

「イッセー君、君にはまだまだ教えてもらいたいことが山ほどある。これからも僕は君の背中を追いかけていくよ?」

 

「おまえならマッハで追い抜きそうだけどな」

 

木場、おまえはもう過去を乗り越えたんだ。

これから、おまえはもっと強くなるよ。

俺もまだまだ追い抜かれるつもりはないけどな!

 

ヴァーリが言う。

 

「兵藤一誠。俺とラーメンを食べに行く約束、忘れたわけではないだろう?」

 

「約束は守るさ。今のうちに腹空かせとけよ?」

 

冗談を言う俺にヴァーリは軽く笑んだ。

 

「約束は俺もあるぞ。こちらの挑戦を受けたんだ。ここで死んでくれるなよ、兵藤一誠?」

 

「それは俺もしたことだ。分かっているな、兵藤一誠?」

 

「おいおい、兵藤の奴、どれだけ挑戦を受けてるんだ? でも、俺もいつかはおまえに勝ってみせるからな!」

 

「フッ、並大抵の修行では奴には追い付けんぞ、匙元士郎?」

 

曹操、サイラオーグさん、匙、ライザーと俺に挑もうとする男連中!

もう、なんで、俺は男ばかりから熱い視線が注がれるかな!

やめろ、おまえら!

そんな目で俺を見るんじゃない!

まぁ、でも―――――。

 

「ええぃ、分かったよ! 忘れてないし、その挑戦、受けてやるよ! いつでもかかってきやがれぃ!」

 

半ばヤケクソになりながら叫ぶ俺!

全く、どいつもこいつも!

まぁ、こういう野郎同士のやり取りも悪くないかな!

 

俺の体を支える美羽がおかしそうに笑った。

 

「やっぱり、お兄ちゃんは大人気だね。お兄ちゃんがこれまで積み重ねてきたものがここにあるんだよ?」

 

ここまで積み重ねてきたものね。

家族であり、仲間であり、ライバルであり、師であり、最初は敵だった奴もいる。

俺と関わった人達がこうして集まっているところを見ると、それも間違っていない気がする。

 

目を閉じるとここにいない人達の声も聞こえてきて―――――。

 

 

―――――イッセー、必ず帰ってこい!

 

―――――約束したものね! また、この家に帰ってくるって!

 

 

父さん、母さんの声。

 

 

―――――お兄さん! 戦えなくても、この想いはお兄さんと一緒だよ!

 

―――――我の想い、イッセーと共にある。

 

 

ニーナ、オーフィスの声だ。

 

 

―――――悪魔さん! 頑張ってにょ!

 

 

ミルたん!

 

そういや、ミルたんも戦ってたな!

あんたはどれだけ無茶苦茶なんだ!

ツッコミどころが多すぎるよ!

でも、ありがとよ!

 

他にも駒王町の人達の声が聞こえてきて………。

そっか、あの悪友共にも届いたか。

分かったよ、今度、色々と話さないとな。

これまで黙っていた分だ、何か奢らせろよ!

 

俺は口元から血を流しながらも、ニッと笑んだ。

そして、再び腕を突き出す。

既に粒子と化して完全に失われた右腕の変わりに、美羽が前に手を伸ばした。

 

「いこう、お兄ちゃん………イッセー」

 

「ああ………美羽」

 

「なに?」

 

「―――――大好きだ。皆、大好きだ!」

 

「うん!」

 

伸ばした手のひらから虹の力がかつてない程に溢れ出す。

世界中に広がった虹が皆を繋ぎ、皆の願いと想いを力に変えていく!

これなら………いけるか、エクセリア!

 

『ええ、あなたは確かに繋いだわ。さぁ、使いなさい! 私の全てを! 彼女達と共に!』

 

エクセリアの力が輝きを放つ!

そして、俺は皆に向けて叫んだ!

 

「いくぞ、皆ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

 

俺の声に応じて、皆の声が一つとなる!

 

虹の力がアセムの攻撃を呑み込み、瞬く間に消し去った!

空に伸びた虹は空間を割り、次元すらも壊し、更に向こうまで突き抜けていく!

世界が虹色に、温かな光に満たされていく―――――。

 

灼熱の海を消されたアセムは成す術もなく、虹に呑まれていく。

いや、成す術がないというのは少し違うな。

諦めたとも違う。

灼熱の海が破られた瞬間、アセムは自分から手を降ろした。

まるで、もう十分だと言わんばかりに。

 

虹に呑まれながらアセムは言う。

 

「僕の負け、だね」

 

「………おまえが聞きたかった声は届いたか?」

 

「うん………確かに届いたよ。彼らの声が十分すぎるくらいにね」

 

アセムの体が崩壊していく。

虹の力のせいなのか、アセムの体が限界なのか。

再生する力すらも攻撃に回していたせいなのか、体が元に戻る様子もない。

 

「僕はね、皆に分かってほしかった。世界の可能性を。どんな理不尽だって必ず乗り越えられるということを。どんな絶望の中にも希望はある。でもね、それは一人じゃダメなんだ。皆の想いが真に一つにならなければ………」

 

アセムは続ける。

 

「世界が一つになるなんて、難しいと言うけどね。僕は違うと思うな。皆が複雑に考えすぎているだけで、世界はこうも単純なんだよ」

 

アセムはフッと笑う。

そして、途切れ途切れの声で言った。

 

「でも、これで、皆………。まだまだ、問題はあると思う。それでも、皆の心に刻みこまれた、この光は必ず、いつか………」

 

体が消え行くなか、アセムは胸の前で何か印らしきものを組んだ。

すると、アセムの体に紋様が浮かび上がった。

その紋様は白い輝きを放つと魔法陣を構築、空へと上がり、消えていった。

 

俺はその光景を見て、それを察した。

 

「おまえ………最初からそのつもりで………」

 

「フフフ………まぁ、せめてもの償いってのもあるかな。でもね、それだけじゃないんだ。言ったよね、痛みがなければ世界は変わらないって。でもね、痛みだけでは本当の意味で世界は変わることはできない。だから、ね………」

 

体の大半が失われつつある。

もう少しすれば、完全に消えてしまうだろう。

 

アセムは言う。

 

「僕は………色々と間違え過ぎた」

 

「そうだな。おまえのやり方はやっぱり認められない。でも、その想いは本物だった。おまえが願ったのはただ………」

 

「………最後に一つだけ、いいかな?」

 

「なんだ?」

 

俺が聞き返すと、アセムは消えかけの声で、それでも確かに俺に届く声で言ってきた。

 

「あとは任せていいかい?」

 

そう言うアセムの目はかつて、俺に託していった人達に似ている。

ライトとシリウス。

世界の平和な未来を願った偉大な勇者と魔王と同じ目をしていた。

 

俺は不意に溢れてきた涙を振り払い、一言だけ返した。

 

「ああ………任せろ!」

 

俺の答えにアセムは満足そうに微笑んで、

 

 

 

 

「ありがとう、兵藤一誠」

 

 

 

 

そうして、優しい悪神は消えていった。

この虹の彼方に―――――。

 

 

 

 

 

[美羽 side]

 

 

虹の輝きが止み、全てが終わった後。

 

「終わったよ、お兄ちゃん」

 

「………」

 

「お兄………ちゃん?」

 

ボクは最初、気づかなかった。

この時、お兄ちゃんはもう―――――。

 

 

[美羽 side out]

 

 



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74話 信じているからこそ

ここ最近、就活で忙しいけど、少し前よりペース上がった!
エントリーシートと同時進行です☆


[美羽 side]

 

 

世界を覆っていた虹の輝きが時と共に薄まり、消えていく。

あれほど圧倒的な絶望を打ち消した温かな光が弱まっていくと、破壊された空間が世界の修正力で元に戻り始めていた。

虹が完全に消えた後、ボク達の前には既にアセムの姿はない。

トライヘキサの気配も完全に消えている。

つまり、この戦いを引き起こし、あれほどの脅威を振り撒いていたアセムとトライヘキサを倒すことが出来たということ。

今度こそ、ボク達は―――――。

 

「やった………」

 

どこからかポツリと呟くような声が聞こえてくる。

それは現実をようやく認識できたような、呆然とした声音だった。

未だに信じられない、といった感じなのだろう。

だけど、その認識は徐々に確かなものになっていき――――。

 

「やったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!』

 

誰かの叫びに応じて、この戦場にいる全ての人達が歓喜の雄叫びをあげた!

 

「勝ったんだよな! 俺達は勝ったんだよな!」

 

「ああ、やったぞ! やったんだよ!」

 

「ようやく終わったんだな………!」

 

「生きてるんだよな? 俺、本当に生きてるんだよな!?」

 

「生きてる生きてる! なんなら、頬っぺたつねってやるよ! ハハハハハ!」

 

「良かった………これで、妻にまた会える………」

 

勝利を確かめ合う人から、本当に自分が生きているのか確かめる人。

自分を待ってくれている人に想いを馳せる人まで。

中には、

 

「くぅぅぅ………俺、帰ったら結婚するんだ!」

 

なんて死亡フラグになりそうなことを言う人までいる。

まぁ、多分、無事に結婚できると思うけどね?

 

アザゼル先生がやれやれと深く息を吐いた。

 

「ちっ、浮かれやがって。ま、今はそれくらい許されるか。あーあー! 俺は一生、独り身だよ!」

 

「アザゼル。今度、私の知人を紹介………」

 

「てめ、サーゼクス! なに、変な気を使ってんだ! やめろ、その哀れむような目!」

 

アザゼル先生、とりあえず会ってみたらどうだろう?

趣味に生きるのも良いけど、出会いは大切だと思うな、うん。

 

そんな感じで皆がようやく終わった戦いに、それぞれの感情を抱く中、ボクは隣にいるお兄ちゃんに目を移した。

虹の輝きが消えた後、ガクンと崩れ落ちたお兄ちゃんは今、ボクがその体を支えている。

あれだけの力を使った、その反動なのか、今は気を失っている。

 

「アーシアさん、お兄ちゃんのケガを治してあげて?」

 

「はい、任せてください!」

 

ボクのお願いを快く受けてくれたアーシアさんはさっそく、神器による治療を開始する。

 

お兄ちゃんが治療を受けるなか、ボクは言った。

 

「終わったよ、お兄ちゃん」

 

お兄ちゃんが守ったんだよ?

ボク達も、この世界も。

そのことを伝えるかのようにボクはお兄ちゃんの体を抱き締めた―――――その時。

 

「………え?」

 

違和感を感じた。

いくら気を失っているとはいえ、感じられるはずのものが感じられなかったんだ。

ボクはお兄ちゃんの顔、次に胸に耳を当て、そこでようやく気付いた。

 

―――――お兄ちゃんの鼓動が止まっていることに。

 

「そんな………! アーシアさん! 小猫ちゃんも来て! 早く!」

 

皆が浮かれる中、一人、血相を変えて叫ぶボクに周囲が静まり返り、注目が集まった。

 

アーシアさんがお兄ちゃんの傷を治癒しながら、怪訝な表情で訊ねてくる。

 

「美羽さん………? どうしたんですか?」

 

「お兄ちゃんの心臓が止まってる………息もしてない!」

 

ボクの告げた内容に周囲の人達の表情が変わる。

 

先の衝突でお兄ちゃんは右腕を失い、体のあちこちが削れたような状態になっていた。

アーシアさんが回復してくれていたおかげで、失われた右腕以外の傷はすっかり治っている。

でも、お兄ちゃんは目覚めない。

鼓動も、呼吸も回復しない。

 

アーシアさんが悲鳴をあげながら、治療を続ける。

 

「どうして………!? イッセーさん! 戻ってきてください! イッセーさん!」

 

何度もお兄ちゃんの名前を呼ぶアーシアさん。

それでも、お兄ちゃんの意識が戻ってくる気配がない。

 

すると、小猫ちゃんが何かに気付き、顔を青くした。

 

「イッセー先輩の気がどんどん小さくなって………! 命が失われていきます………!」

 

『………ッ!?』

 

小猫ちゃんの告げた内容に全員が言葉を詰まらせた。

 

お兄ちゃんの命が消えていく?

そんなことって………!

ボクはお兄ちゃんを地面に寝かせると、すがる想いで小猫ちゃんに頼んだ。

 

「小猫ちゃん、お願い………! お兄ちゃんを助けて………!」

 

生命の根元である気を扱う小猫ちゃんなら………。

仙術だけでなく、お兄ちゃんから錬環勁気功も習っている小猫ちゃんなら。

そう考えての言葉だった。

 

小猫ちゃんはすぐに仙術による治療を開始する。

しかし、その表情は厳しいもので、

 

「ダメです………私の力じゃ、イッセー先輩は………」

 

「仙術でもどうにもならないの?」

 

「命には核となる生命の源泉があるんです。それが壊れたり枯れていなければ、仙術で活性が可能なのですが………」

 

小猫ちゃんはお兄ちゃんの顔を見て続ける。

 

「イッセー先輩の、それはもうボロボロで………私の仙術じゃ、間に合わなくて………! イッセー先輩………!」

 

ポロポロと涙を落としながら、それでも仙術を施し、何とかしようとする小猫ちゃん。

すると、黒歌さんが小猫ちゃんの隣に座り込み、お兄ちゃんに手をかざし始めた。

 

「ちょっと、白音? なに泣いてるのよ?」

 

「姉さま………」

 

「仙術は術者の精神状態で効果がまるで変わってくる。そんなので、赤龍帝ちんを助けられると思ってるの?」

 

そう言うと、黒歌さんの手が淡く輝き始める。

 

「赤龍帝ちんは死なせない。私も手伝うから、あんたも気合い入れなさい。絶対に助ける、絶対に死なせないって」

 

それは姉として、妹を導くような声音だった。

黒歌さんの言葉を聞いた小猫ちゃんは、涙を拭って仙術による治癒を継続する。

 

黒歌さんは額から汗を流して言った。

 

「でも、確かにこれはまずいわ。私と白音じゃ、修復する前に命が消えてしまう」

 

「じゃあ、他に仙術が使える奴を呼ぶ。それならどうだ?」

 

アザゼル先生がそう提案する。

だけど、黒歌さんは首を横に振った。

 

「それでもダメ。これは仙術で修復できるレベルを明らかに越えてる。仙術で出来るのは少しでも生命の泉が枯れないように、時間を稼ぐことしか出来ない。崩壊のスピードが早すぎて、その時間稼ぎすら、あと何分出来るか………」

 

仙術に精通する黒歌さんの言うことは正しいのだろう。

 

頼みの仙術でもお兄ちゃんは救えない。

じゃあ、どうすれば良いの?

このまま見ているだけしか出来ないの?

 

すると、アリスさんが何か思い付いたように言った。

 

「ねぇ、私と美羽ちゃんの疑似神格ならなんとか出来ないかな?」

 

「疑似神格で?」

 

「そう。今は私とイッセー、美羽ちゃんで三つに分けてるけど、それをもう一度、一つにすれば………。疑似神格の力でその生命の泉を修復出来ないかしら?」

 

なるほど、あれは元々一つだった。

三つに分けた後でもあれだけ巨大な力だったんだ。

もしかしたら、お兄ちゃんの命を―――――。

 

 

『そうね、それは正しい判断だわ』

 

 

女性の声が響いた。

お兄ちゃんの側に虹色の粒子が集まったと思うと、そこに一人の女性が現れる。

虹色の髪を持つ女神。

前にも一度だけ会ったことがある。

 

アザゼル先生が問う。

 

「おまえ、イグニスか?」

 

『ええ。これが私の本来の姿よ』

 

そう、彼女は疑似神格を分ける儀式の際に見たイグニスさんの本当の姿。

お兄ちゃんは彼女の本当の名前を知り、あの力を使えるようになったんだ。

 

イグニスさんはボクとアリスさんを見る。

 

『二人の疑似神格を使って、生命の泉を一時的に修復することは可能よ』

 

「一時的に?」

 

アリスさんが聞き返すと、イグニスさんは頷いた。

 

『生命の根元とは非常にデリケートなもの。強い力で急速に治すことなんて出来ないわ。二人の疑似神格でイッセーの生命の泉が崩壊するのを抑え、その間に仙術で修復していく。もちろん、修復には長い時が必要でしょうけど、それが今できる最善の方法よ』

 

アザゼル先生が言う。

 

「なるほど。言いたいことは分かる。だが、二人の疑似神格とやらの操作はどうするつもりだ? それについて知っているのはおまえ達しかいない。俺達ではどうすることも出来んぞ。おまえがするのか?」

 

『そうね。でも、私にはそれとは別にやることがあるわ』

 

「なに? この状況で他にやることがあるってのか?」

 

『そうよ。もし、イッセーの生命力を回復できたとしても、このままではイッセーは帰ってこない』

 

「………そいつはどういうことだ?」

 

アザゼル先生が再度、問いただすと、イグニスさんは静かな口調で答えた。

 

『イッセーは世界中の願いを受け止める器となった。本来の私の力を使うために。器となったイッセーの中には何万、何億もの人の意思が流れ込むことになる。その状態で個を保つことが出来ると思う?』

 

「まさか………」

 

アザゼル先生はその言葉で何かを察したようだった。

先生以外の皆は内容を呑み込めていないでいる。

そんなボク達にイグニスさんは告げた。

 

『このままでは、彼の中に注ぎ込まれた無数の意識によって「兵藤一誠」という意識は完全に消え去ることになる』

 

『――――――ッ!』

 

その言葉にボク達は酷く動揺した。

イグニスさんの言うことが本当なら、お兄ちゃんの生命力が回復したとしても、そこにお兄ちゃんはいない。

それって………。

 

『空っぽの存在。目覚めても、ただ虚空を見つめるだけの存在になるだけよ』

 

それはあまりに残酷すぎる話だった。

 

お兄ちゃんを想う他のメンバーも涙を流し、呆然とした表情で地面に膝をついた。

 

「嘘でしょ………。ようやく、また会えたと思ったのに………イッセー………」

 

ダメだ、思考が止まる。

イグニスさんの言う光景を想像しただけで、胸が苦しくなる。

こんなの、ないよ………。

ボク達だけ生き残っても、そこにお兄ちゃんがいない未来なんて………そんなの………!

 

『諦めるのはまだ早いわ。言ったでしょう? まだやることがあるって』

 

イグニスさんの言葉にボクは顔を上げる。

 

「手があるの? お兄ちゃんを、助けられるの?」

 

『もちろん、あなた達次第だけど。………イッセーはね、あの力を使った後、こうなることが分かってた。でも、それでも使うって決めたの。なぜなら―――――』

 

    

―――――俺は仲間と家族を信じてる。だからこそ、その力を使わせてもらう。

 

 

『イッセーはあなた達が、自分を救い出してくれると信じてた。あなた達を信じたからこそ、あの力を使ったのよ』

 

イグニスさんはお兄ちゃんの頬に触れると言った。

 

『イッセーは今も抗ってるわ。自分の命を、意思を消えるギリギリのところでもたせてる。あなた達が手を伸ばすのを待ってる』

 

ボク達を信じて―――――。

その言葉だけで、ボク達を奮い立たせるには十分だった。

お兄ちゃんが信じてくれたのなら、何がなんでも応えるしかないじゃないか。

まだ、出来ることはある。

少しでも可能性が残っているのなら―――――。

 

ボクは立ち上がると、イグニスさんの目を真っ直ぐに見て、訊ねた。

 

「教えて、イグニスさん。ボク達は何をすれば良いの?」

 

『フフフ、良い目になったわ。力を使うと決めた時のイッセーみたい。やっと、いつもの皆に戻った』

 

イグニスさんはボク達を見渡して、一人一人の目を見ていく。

皆、お兄ちゃんを助けるためなら、どんなことでもする、そんな覚悟を決めていた。

 

『彼は今も戦っている。イッセーを救えるのはこの場にいるあなた達だけ。―――――一緒に助けましょう。私達が愛した彼を。世界を救った勇者を』

 

『はいッ!』

 

 

待ってて、お兄ちゃん。

絶対に助けてみせる………!

 

 

[美羽 side out]




~あとがきミニストーリー~


乳の宴を乗り越えたイッセーとアセムの会話IF.ver


アセム「何者だ………何者なんだ、君は………」

イッセー「もうとっくにご存じなんだろ? 俺はおまえを倒すために乳の宴を乗り越えたおっぱいドラゴン………ツッコミの精神を持ちながら、おっぱいを吸って目覚めた伝説の戦士………超フルパワーおっぱいドラゴン兵藤一誠だ!」

アセム「ブフッ! うん、知ってた!」



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75話 伸ばした手の先に

[美羽 side]

 

 

地面に寝かせたお兄ちゃんを中心に大きな魔法陣が展開している。

その魔法陣は真の姿となったイグニスさんが構築したものだけど、ボク達が見てきたどの魔法陣よりも巨大だった。

なにせ―――――この戦場に集う人達、全てがその魔法陣の中にいるのだから。

 

そして、お兄ちゃんの側にはボクとアリスがいて、

 

『これで、二人の疑似神格はイッセーに戻せたわ』

 

イグニスさんがボクとアリスさんの中にあった疑似神格を抜き出し、お兄ちゃんに戻していた。

二人の疑似神格の力を使って、お兄ちゃんの生命の泉の崩壊を止めるらしい。

しかし、それは一時的な補強のようなもの。

数年はもつとのことだが、それ以降はどうなるか分からない。

 

リアスさんがイグニスさんに問う。

 

「あとは仙術で徐々に治していく、それで良いのね?」

 

『ええ。毎日欠かさず、仙術の治療を施していく。そうすれば、いつかは元に戻るわね』

 

つまり、この場で行えることはあくまで応急処置。

日々の治療でお兄ちゃんの生命力を回復させる必要があるということだ。

 

小猫ちゃんが言う。

 

「私が、イッセー先輩を治します。必ず、元の先輩に戻してみせます!」

 

強く宣言する小猫ちゃん。

すると、黒歌さんも前に出て、

 

「私も手伝うにゃん。赤龍帝ちんには助けられてるしね♪」

 

うん、この二人が治療に当たってくれるなら心強い。

それに二人とも家で暮らしているから、治療に関しても都合が良い。

 

ちなみに、生命の泉の補強に疑似神格を使っている間、ボクとアリスさんは神姫化出来なくなる。

もし、使ってしまえば、補強が無くなり、生命の泉は崩壊してしまうことになるからだ。

次に使えるようになるためには、お兄ちゃんが完全回復した時になる。

 

アザゼル先生が近くに立つ、オーディン様に話しかけていた。

 

「すまんな、オーディン。あんた達の生命力まで貰うことになって」

 

頭を下げるアザゼル先生。

 

今、展開されている魔法陣の上に大勢の人達が乗っている理由は、彼らから生命力を分けてもらい、お兄ちゃんに移すためだった。

今回の戦いでお兄ちゃんの生命力は枯渇寸前になっており、例え、疑似神格で補強できたとしても、このままではお兄ちゃんの生命力がもたない。

そこで、この場の全員から命を削らない程度に生命力を分けてもらうことになったんだ。

イグニスさん曰く、全力疾走した直後みたいに疲れるだけだとのこと。

 

オーディン様が髭を擦りながら言う。

 

「なーに、気にすることはないぞ、アザ坊。赤龍帝はこの世界を救った英雄。ワシ達を救ったのだ。それに対して、見殺しなどすれば、末代までの恥となるじゃろう。これくらい容易いわい」

 

北欧の主神だけでなく、他の神々も自身の生命力を分け与えることに同意してくれている。

彼らに付き従う戦士達も同様で………。

 

彼らが頷いてくれた時、たまらなく嬉しくて、涙が出た程だった。

皆がお兄ちゃんを助けるために、ここまでしてくれる。

そう思うだけで胸が一杯になる。

 

ミカエルさんが、しかしと話に入ってくる。

 

「これだけでは彼を救うにはまだ足りないのでしょう? 彼の妹君―――――美羽さんが彼の精神を連れて戻らなければ、彼を真に救えたとは言えない」

 

イグニスさんが頷いた。

 

『生命力については、皆の協力でなんとかなるでしょう。でも、「変革者」としての力を限界以上に使用し、「器」となったイッセーの中には未だに多くの意思が激流のように流れている。イッセーの意思が激流に呑まれて、完全に消えてしまう前に救い出さないと、イッセーは戻ってこない。だからこそ―――――』

 

イグニスさんはボクに視線を向けて、言った。

 

『美羽ちゃんがイッセーの中に潜って、彼の意識を見つけるの。恐らく、彼の意識は消える寸前。それを何とかして呼び覚ますには美羽ちゃん、あなたの声が必要なのよ。誰よりも硬い絆で結ばれたあなたの声が。………とても危険な場所に送り込むことになる。一歩間違えれば、美羽ちゃんの意識も巻き込まれて消えてしまう可能性もあるわ』

 

それを聞いたアリスさんが訊ねる。

 

「私達もイッセーの中に潜るのは無理なのよね?」

 

『私は今展開している術式を発動させながら、美羽ちゃんが呑まれないようにサポートするわ。だけど、これはとても緻密な制御が必要で、私の力をもってしても一人が限界なの』

 

「そう。………本音を言えば、私がイッセーを助けたいんだけど。やっぱり、こういう時は美羽ちゃんの出番なのよね」

 

アリスさんはお兄ちゃんとボクを交互に見た後、深く息を吐いた。

そして、儚げな表情と共に微笑んだ。

 

「悔しいけど、イグニスさんの言う通り。イッセーと美羽ちゃんの絆は誰よりも硬いんだと思う。本来ならお互いを敵として見ても不思議じゃない関係。それでも、二人は愛し合って、すごく信頼してる」

 

「でも、お兄ちゃんはアリスさんや皆だって、大切に思ってるし、信頼してる。家族だと思ってるよ?」

 

「分かってる。私もそう思ってるもの。イッセーもあなたも、私達の大切な家族だって。だから―――――」

 

アリスさんはボクの手を握ると、真っ直ぐに見つめてきた。

 

「私達も美羽ちゃんを信じてる。美羽ちゃんなら、必ずイッセーを連れて戻ってくれる。それが美羽ちゃんの役目なら、私達も私達の役目を果す。あなた達が無事に戻ってこられるように、あなた達を想い続けるわ」

 

そして、アリスさんは最後に言った。

リアスさん達もそれに続いて―――――。

 

「「「二人共、絶対に帰ってきて!」」」

 

「うん………!」

 

確かに受け取った。

皆の言葉に乗せられた想い、確かに心に刻み込んだよ。

 

準備が整ったのか、魔法陣の輝きが強くなる。

魔法陣を操作するイグニスさんが言う。

 

『始めるわ。美羽ちゃん、イッセーの隣に』

 

促されたボクはお兄ちゃんの胸に手を当て、静かに目を閉じる。

意識を集中させると、イグニスさんの魔法で体から意識が抜け出すような感覚となる。

ボクの意識はそのまま、お兄ちゃんの中へ流れていき―――――。

 

『美羽ちゃん、イッセーをお願い』

 

イグニスさんの言葉を最後に、ボクの意識はお兄ちゃんの中へと潜っていった。

 

 

 

 

「これって………!」

 

お兄ちゃんの中に潜り込んだボクを待っていたのは激流だった。

中の世界には赤、黄、緑、青とあらゆる色の光が満たしており、とてつもないスピードで走っている。

この光の数々がお兄ちゃんの中に入ったという世界中の人達の意思なのだろう。

 

実際に体験して初めて分かる。

お兄ちゃんはこんなにも多くの人の意思を受け止めていたんだ。

普通ならこの流れに呑まれて、自我が崩れてもおかしくないだろう。

それに耐えながら、お兄ちゃんはアセムを倒し、世界を救ったんだ。

 

改めてお兄ちゃんの覚悟を感じていると、中に潜ったボクも流れに体をもっていかれそうになって………。

なるほど、イグニスさんが言った通りだ。

自分という存在を強くもっていなければ、瞬く間に呑まれてしまう。

 

く、苦しい………!

意識が飛びそうになる………!

目が開けられない、息が出来ない………!

 

無数の意思に当てられ、もがくボク。

すると、ボクの体を虹の光が覆った。

その光は流れる激流からボクを守ってくれていて………。

そっか、これがイグニスさんのサポートなんだ。

ボクが呑まれないようにするための保護。

これなら―――――。

 

「早く、お兄ちゃんを探さなきゃ」

 

この無数の意思の中でお兄ちゃんを探すのは難しいだろう。

でも、どこかにいる。

それが出来るのはボクしかいない。

皆もそう信じて、ボクを送り出してくれたんだから。

 

ボクは目を閉じて、意識を集中させた。

ボクとお兄ちゃんを繋ぐ絆。

頼りはそれだけだ。

でも、この絆は何よりも強く、ボク達を結びつけているもの。

だから、感じて………ボクの持つ全てでお兄ちゃんを感じるんだ………!

 

「―――――見つけた!」

 

ボクは目を開き、感じた方向へと進む。

イグニスさんのお陰で、この激流の中でも余裕で動けるんだ。

急いで、早くお兄ちゃんを―――――。

 

それから少し進んだ先でようやく、見つけることが出来た。

だけど………。

 

宙にただよう人影。

彼は何もかもが真っ白になっていた。

髪も、肌も、唇も、瞳も何もかも。

色彩が消えた瞳はただただ虚空を見つめるだけで、そこから彼の感情を感じることは出来ない。

 

「お兄………ちゃん?」

 

名前を呼んでみる。

でも、返事が返ってこなかった。

いつもなら、すぐに応えてくれるのに………。

今度はお兄ちゃんの肩に触れて、揺すってみた。

それでも、反応はなかった………。

 

見ると、お兄ちゃんの体がどんどん薄くなってきている。

手足の先から消えていっているのが分かった。

 

お兄ちゃんが………消える………。

そう思うと叫ばずにはいられなかった。

 

「嫌だ………嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 消えないで! ボクはここにいるよ? 起きて、ボクを見てよ………! ねぇ、お兄ちゃん! お兄ちゃんってば!」

 

ボクに向けてくれるあの声も、あの笑顔もない。

ただ虚しくボクの声が空間に響くだけ。

その間にも、お兄ちゃんの消滅は進んでいく。

 

ボクはお兄ちゃんの頭を胸に押し当てるようにして、抱き締めると、ポツリと呟いた。

 

「………ここに来る前に皆から言われたんだ。『二人共、絶対に帰ってきて!』って。皆、待ってるんだよ?」

 

皆が心からお兄ちゃんが帰ってくるのを信じてる、願ってる。

世界を救った勇者を救うために、今度は世界がお兄ちゃんを救おうとしてる。

 

「お父さんとお母さんとね、約束したんだ。皆であの家に帰るって。そこにお兄ちゃんがいなかったら、約束破っちゃうよ………」

 

お父さんもお母さんも本当は戦場になんて送り出したくなかったはずだ。

それでも、ボク達を信じてくれた。

今も家で待ってくれているんだ。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。ボクの将来の夢、覚えてる? お兄ちゃんのお嫁さん。結婚して、子供もいて、皆が笑って過ごせる家庭を作りたいって。それで、お父さんとお母さんに親孝行したいって。でも………お兄ちゃんがいなきゃ、叶わないよ………」

 

そう呟く度に、涙が溢れてきた。

体が震え、抱き締める手に力が入る。

溢れる涙が頬を伝い、お兄ちゃんの顔へと落ちていく。

 

 

 

―――――泣いて、いるのか?

 

 

 

「え………」

 

不意に聞こえた声。

お兄ちゃんの顔を覗いても、その瞳は未だ虚空を見ている。

でも、確かに聞こえた。

今の声は間違いなく、お兄ちゃんの声だった。

 

辺りを見渡していると、ボクとお兄ちゃんを囲むように何かが現れる。

それは―――――映像。

これまでお兄ちゃんが経験してきたこと、これまで歩んできた道程。

生まれた時からの記憶の全てが映像には写されていた。

まだ幼い時、小学生の時、中学生の時、そして―――――アスト・アーデに飛ばされた時。

 

 

 

 

世界の意思とも呼べる力によって異世界に飛ばされた少年。

そこでは多くの出会いがあり………別れがあった。

親友を失い、絶望し、それでも親友との約束を守るために力を欲した。

文字通り命をかけた修行の末、力を手に入れた少年は戦場で戦うようになり―――――やがて、勇者と呼ばれるようになった。

 

映し出される映像はそこから先の光景を流していく。

映像の中には炎に覆われた神殿、そこにいる複数の人影があった。

一人は赤い長羽織を羽織る勇者、一人は黒い戦闘服を着た魔王。

そして、そのすぐ側に魔王の娘がいた。

 

勇者と魔王は激戦を終えた後で、二人とも血塗れだった。

限界を迎えた魔王は床に膝を着くと、勇者に言った。

 

『異世界より現れし勇者よ。私は魔王としてこの戦いを終わらせる義務がある。戦いはおまえの勝ちだ。この首を持っていけ。私はこの命をもって、長きに渡って続く戦いに終止符を打つとしよう』

 

しかし、勇者はそれを認めなかった。

 

『俺はおまえを殺したいんじゃない! 俺は………もう、こんな戦争で誰も死んでほしくもない。あんたにもだ。何百年も前から始まって、その始まりすら何であったのかすら分からなくなっていて、でも憎しみだけは残っていて………止められなくなって………。こんな戦いでもう誰にも傷ついてほしくない………もう、十分だ………』

 

力なく言う勇者。

勇者の言葉に魔王は静かな口調で言う。

 

『そうだな。私もこのような争いで、これ以上の血を流すことなど望んでいない。だがな、勇者よ。「魔王」とは人族にとって恐怖の象徴だ。魔王である私が生き続ける限り、この争いは止まるまい』

 

『おまえが死んだとしても、残った魔族はどうなる? 魔王は魔族にとって希望だろうに』

 

『確かに。だが、おまえがいる。おまえが勇者になってから、この争いは変わり始めた。これまでは人族も魔族も互いに戦えぬ者にまで力を振るう始末だった。だが、おまえはそれを良しとせず、戦う力を持たない魔族を守ってくれた。今の魔族の中にはおまえを信頼する者も多い。おまえは魔族にとっても希望なのだ、赤き勇者よ』

 

魔王は続ける。

 

『おまえやおまえの仲間がいれば、人族と魔族が手を取り合う未来も作れる。私はそう信じている。しかし、だ。魔王という存在はその未来の妨げになる。だからこそ、私は消える必要があるのだ。………もし、おまえに私を想ってくれる気持ちがあるのなら、最後に頼みたいことがある』

 

『頼み………?』

 

勇者の問いかけに魔王は頷く。

そして、近くで二人のやり取りを見ていた娘に視線を移した。

 

『私の娘をおまえに託したい。魔王の血を継ぐ者が存在すれば、それは新たな火種になる。だが、私の娘には罪はない。私の娘を、どうか守ってやってほしい』

 

広がった炎が更に大きくなり、魔王を包み込む。

神殿の柱が崩れ、二人の間に倒れ込んだ。

 

『クソッ! 待ってろ、今すぐこいつを―――――』

 

『必要ない』

 

『なんでだよ! 今ならまだ間に合う!』

 

『これで良いのだ。これが私の望む結果なのだからな』

 

魔王はフッと笑んで、

 

『赤き勇者よ、娘を頼む』

 

それだけ言い残して、魔王は炎の中へと姿を消した。

 

父の覚悟を想い、ただ泣いて、見守るしか出来なかった魔王の娘。

本当なら目の前で死に行く父を追って、自分も死んでしまいたかった。

いや、この時、後を追おうとしたのだ。

 

そんな魔王の娘の前に勇者が現れる。

勇者は彼女に手を差しのべると、一言だけ口を開いた。

 

『俺と………来るか?』

 

無理矢理連れていく訳でもなく、来いと命令する訳でもなく、ただ訊ねる勇者。

魔王の娘が見上げると、そこにあったのは―――――辛い表情で涙を流す勇者の顔だった。

娘である自分よりも父を想い、辛い顔をする彼に、魔王の娘は無意識に手を伸ばしてしまった。

 

勇者は魔王の娘の手を優しく握って―――――。

 

『俺を恨んでくれて構わない。俺を許せないと思うなら、いつかは………。でも、今は………今だけでも良い。俺を信じてくれ。俺が君を必ず守る。この命をかけて』

 

 

 

 

ボクはあの時、救われたんだ。

ただ泣くことしか出来なかったボクに手を差しのべてくれた。

そして、どんな時もボクを守ってくれた。

 

「ねぇ、イッセー。あの日は今も辛い記憶として残ってる。けどね、君と出会えた運命の日だとも思ってるんだ。………って、これ前にも言ったかな?」

 

もう半分以上消えてしまったイッセーの体。

時間もあまりないだろう。

 

「お願い、戻ってきて。君がいない世界をボクは望まない。ボクはあの日の生まれ変わった。魔王シリウスの娘ミュウから兵藤一誠の妹、兵藤美羽として。君がいるからこそ、ボクはボクでいられるんだ」

 

ボクはイッセーの頬に手を添える。

 

「世界の法則ねじまけても守ってやる。君が言った言葉だ。それなら、妹であるボクも―――――世界の法則ねじまけてでも、君を必ず救い出す。君は想いを力に変える変革者。だから、ボクの想いの全てを君に捧げるよ」

 

そして、ボクはイッセーに口づけを交わす。

ボクの全てを注ぎ込むように。

 

しばらく唇を重ねた後、ボクはゆっくりと離れていく。

真っ白のままのイッセーは動く気配がない。

しかし―――――。

 

フワッと一陣の風がイッセーの回りに吹いた。

風がイッセーの髪をかすかに揺らす。

すると―――――。

 

「美………羽………」

 

かすかに、本当に小さな声。

それでも、確かにイッセーの口から発せられたボクの名前。

 

色が戻っていく。

真っ白になっていたイッセーの体に色彩が戻っていく!

消えかけていた体も元に戻り、ついには指が動き始めた!

そうして伸ばした手の先に―――――

 

 

 

 

むにゅん

 

 

 

 

「ひゃぁ!」

 

イッセーがボクのおっぱいを揉んだ。

それはもうガッツリと。

その瞬間、イッセーの目がカッと光り、輝きを取り戻した!

そして―――――。

 

「美羽っぱい!」

 

「どんな意識の取り戻し方!? 『美羽っぱい』ってなに!?」

 

久しぶりにツッコミしたよ!

あと、いつまでボクのおっぱいを揉んでるの!?

なに、両手で揉み揉みしちゃってるの!?

この手のことは寛容だと思ってるけど、このタイミングはないんじゃないかな!

 

「もう! お兄ちゃんのバカァ!」

 

「おおぅ!? 俺、いきなり妹に怒られてる!?」

 

「目覚めて一言目が酷いんだもん! もしかして、おっぱい揉ませたら意識取り戻したりした!?」

 

「それは………分からん。だけど、可能性はある………かも?」

 

「お兄ちゃん、お説教! ここに正座!」

 

「は、はいっ!」

 

慌てて正座するお兄ちゃんにお説教開始。

取り敢えず、今の状況を交えつつ、お兄ちゃんの行ったシリアス破壊行為について長々とお説教をすることに。

 

「大体、お兄ちゃんは―――――で―――――だから―――――」

 

「はい。………うん、すいませんです………」

 

こんな光景、絶対に外の人には見せられないよね。

ボクも口が裂けても言えないよ。

外ではドシリアスな状況だもの。

あのイグニスさんでさえシリアスだもの!

 

一通り、お説教を終えたところで、ボクは息を吐いた。

 

「とにかく、お兄ちゃんがこうして戻ってきてくれて良かったよ」

 

「ありがとな、美羽。助かったよ」

 

「お兄ちゃんがボク達を信じてくれたんだもん。それにしても、本当なら逆だよね」

 

「逆?」

 

お兄ちゃんが聞き返してくると、ボクは唇に触れながら答えた。

 

「目覚めのキス。本当なら眠ってるお姫様に王子様がするんだよ?」

 

「まぁ、確かに。今回は美羽が王子様………いや、そうなると俺がお姫様か。それは勘弁願いたい」

 

「取り敢えず、戻ったらお姉ちゃんになってもらうからね?」

 

「なんでだよ!?」

 

「もしくは五歳くらいのチビッ子に!」

 

「女体化か幼児化、どっちか片方にしてくれませんかね!? どっちも嫌だけどさ!」

 

うん、いつものお兄ちゃんのツッコミだ。

どうやら、完璧に戻ってきたようだ。

 

ふと気づくと、周囲で流れていたあの無数の光が消えていた。

お兄ちゃんの意識が戻ったから、消えたのか、それともイグニスさんがどうにかしてくれたのか。

 

ボクはお兄ちゃんに言う。

 

「そろそろ戻らなきゃ。皆にお兄ちゃんの無事を伝えないと」

 

「皆にも心配かけちまったからな。目が覚めたら、謝らないとだ」

 

「そうだね。でも、目が覚めるのは少し遅くなるかも。お兄ちゃん、極限まで生命力を失ってるから、何日かは気を失ったままになると思う」

 

「そっか。………また会えるのは何日か後になるってことだな?」

 

「そうなるかも。それじゃあ、ボクは戻って………ひゃっ」

 

ボクの言葉を遮るように、突然、お兄ちゃんはボクの腕を掴み、強引に抱き寄せてきた。

何事かと驚いていると、お兄ちゃんは、

 

「美羽成分の吸収だ。今のうちにある程度の補充しようと思って」

 

「………じゃあ、ボクもお兄ちゃん成分を補充する」

 

顔を熱くしながら、お兄ちゃんの背に手を回してギュッと抱き締める。

 

温かい………いつもの感覚。

こうしていると本当に落ち着く。

いつものお兄ちゃんだ。

 

「美羽、大好きだ」

 

「ボクも大好きだよ、お兄ちゃん」

 

そうして、ボク達は本日二度目のキスをするのだった。

 

 

[美羽 side out]

 

 




Q.伸ばした手の先にあったものは?
A.美羽のおっぱい


~あとがきミニストーリー~

イッセー「あのちっぱいのように? 小猫ちゃんのことか………! 小猫ちゃんのことかぁぁぁぁぁぁ!」

小猫「えい」

イッセー「ぶべっ!?」


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76話 心に刻まれたもの

[美羽 side]

 

 

「それじゃあ、行ってくるね。お母さん」

 

制服に着替え、朝食を終えたボクは玄関で見送りをしてくれるお母さんに手を振った。

 

お母さんが言う。

 

「ええ、いってらっしゃい。美羽は今日も行くのよね?」

 

「うん、授業が終わったらね」

 

そう言ってボクはリアスさん達と一緒に家を出る。

いつもと変わらない朝の風景。

朝の当行時間。

でも、いつもと違う。

ここには、今―――――お兄ちゃんがいない。

 

 

 

 

二月ももうすぐ終わり、三月に入ろうとしている。

時が経つのはあっという間だ。

二年生になってから一年。

リアスさんと出会い、お兄ちゃんが悪魔に転生した後は本当に色々あった。

お兄ちゃんが上級悪魔に昇格してからはボクも悪魔に転生して………うん、振り返るだけでもかなり濃い一年になったと思う。

 

午前の授業が終わり、昼休みに入った。

午前中は数日前に行われた期末テストの返却があり、教室の中は点数の見せ合いで賑わっている。

ボクのところにも話は振られて、

 

「ねぇ、兵藤さんは数学のテストどうだった?」

 

「ボク? 今回は九十三点だったよ」

 

「あれ? 珍しいね、兵藤さんが百点逃すって。数学は毎回百点なのに。いや、毎回百点取るってのが元々凄いんだけど」

 

「アハハ………。まぁ、今回はうっかりミスがあってね」

 

数学は得意中の得意科目。

実は毎回満点の優等生なのでした!

えっへん!

………と、少し自慢してみたいところだけど、今回はそんな気分じゃないかな。

いや、うっかりミスとかは関係ないよ?

べ、別に百点逃したからって悔しくことは………うん、少し悔しいかな。

入学してから取り続けたものを逃してしまうとは………!

この美羽、一生(?)の不覚!

 

今回の期末テスト、いつもと比べると若干、全体的に成績を落としてしまっている。

理由としては、勉強する時間がなかったということが大きい。

 

クラスの女子生徒が言ってくる。

 

「お兄さんが入院だもん。そりゃ、看病で勉強どころじゃないよね」

 

その子が教室のとある席に視線を移す。

そこは兵藤一誠の席。

でも、この二週間近く、そこにお兄ちゃんは座っていない。

お兄ちゃんは事故で意識を失い、入院している………ということになっている。

 

「お兄さん、具合どうなの?」

 

「ずっと眠ったままかな。点滴で必要な栄養は補給してるけど………」

 

「………ねぇ、今度、お見舞いに行ってもいいかな?」

 

「あ、私も行きたい」

 

「ありがとう。皆が来てくれたら、お兄ちゃんもきっと喜ぶよ」

 

クラスの女子がお見舞いに来る。

多分、お兄ちゃんにとっては嬉しいイベントなんだろうね。

 

というか、実はお兄ちゃん、モテてるよね普通に。

隠れファンという存在がいるみたいだし………。

実は今、話しているクラスメイトもその一人で、その子は顔を赤くしながら小さな声で言った。

 

「えっと、十月を過ぎたくらいからかな………。兵藤君がエッチなことをあまり言わなくなって………そしたら、段々、かっこ良く見え始めて………ね?」

 

「あー、分かる分かる。背も高いし、顔も悪くないよね。木場君とは違って、ワイルド系? それに、いざって時に守ってくれそうだし。エロいこと言わなければ、全然良いよね」

 

お兄ちゃん………どうやら、普段からエッチなことさえ言わなければ、優良物件扱いされてたみたいだよ。

自分で自分のモテ期を遅らせてどうするのさ………。

いや、ボクはエッチなお兄ちゃんでも全然良いけどね?

そこも含めて大好きだし。

というか、十月を過ぎた頃って、それってあの修学旅行の後じゃ………。

 

「まぁ、兵藤君には? 可愛い可愛い妹がいるからね~」

 

「うんうん、下手に告白したら怒られるよね!」

 

「アハハ………」

 

べ、別に怒ったりはしないけど………。

でも、昔のボクなら嫉妬したりしてた………かも。

うぅぅ、ボクもお兄ちゃんも修学旅行のあの夜から大人になったってことなんだね。

義理とはいえ、やはり兄妹とということか!

 

「で? 兵藤さんは兵藤君とはどうなの?」

 

「えっ?」

 

「だって、いつもベッタリだし。イチャイチャしてるし。実は………義理の兄妹で一線越えたり、した?」

 

「ぶふっ!」

 

あまりに唐突な話に吹き出してしまうボク!

そして、ボクの反応を見て勝手に盛り上がる彼女達!

 

「え、なになに? その反応、もしかして本当に………!」

 

「キャー! 兄妹の禁断のカップル! それ良い!」

 

「兄が妹を押し倒して、そのまま………! あんなお兄ちゃんなら、私、絶対に堕ちるわ!」

 

「待って! 戸惑う兄に妹が馬乗りになって迫る………というのもアリだと思うの!」

 

「あんた、妹攻め派閥だったの!?」

 

「そっちこそ、兄攻め派閥!? この兄妹なら妹が攻めでしょ!?」

 

そんな派閥聞いたことないよ!

いつの間にボク達兄妹はそんな派閥に分けられてたのさ!?

 

「「兵藤さん!」」

 

「は、はい!」

 

「「本当はどっちなの!? 兄×妹、妹×兄、どっち!?」」

 

「い、言えるわけないよ!」

 

「「言えるわけない!? ………ってことは、やっぱり兄妹で………! キャー!」」

 

あぁ、ボクの話を聞いてくれそうにない。

というか、ボク、自滅した感があるのは気のせいかな?

 

すると、他の女子達がボク達の輪に入ってきて、

 

「ちょっと、あんた達! 何言ってるのよ!」

 

おおっ、ついにまともな子が!

この何を話してもボクが敗北する状況を打ち壊してくれる救世主が―――――。

 

「そこは木場きゅん×兵藤君でしょ!」

 

第三勢力の出現!

この後に第四勢力『兵藤君×木場きゅん』派閥が参戦。

クラス中の女子を巻き込んで論争が始まった。

 

『兵藤兄×兵藤妹』派閥。

『兵藤妹×兵藤兄』派閥。

『木場きゅん×兵藤君』派閥。

『兵藤君×木場きゅん』派閥。

 

この四勢力の議論は平行線を辿り、駒王学園の女子全体を巻き込んでいく。

各派閥による白熱の語り合いは後に『女子生徒達の黄昏(ラグナロク)』として語り継がれるのだった。

 

 

 

 

放課後。

授業が終わった後、ボクはとある場所へと向かっていた。

………半分、泣きながら。

 

「うぅぅ………とんでもない目にあったよ………」

 

なんで、あんな論争に巻き込まれるかなぁ。

というか何、勝手に派閥なんて作ってるのさ。

逃げようとしても逃げられない………というか、逃がしてくれなかったし。

 

「ま、まぁ、元気出してよ、美羽ちゃん」

 

「そ、そうそう。あんな腐女子共の話はスルーして良いって」

 

そう励ましてくれるのは松田君と元浜君。

実は今、彼らと一緒に道を歩いている。

 

「そう言うなら、助けてほしかったよ」

 

怨めしそうに言うボクに松田君は目をそらす。

 

「い、いやぁ………あそこに突入するには流石に勇気がいるというか」

 

「うむ。俺達は勇者にはなれない。無駄死にするだけだ。分かってくれ、美羽ちゃん」

 

「無駄にかっこ良く言わなくて良いよ、元浜君」

 

あんな話、お兄ちゃんが聞いたら、ツッコミの嵐が吹き荒れるよ。

木場君との絡みについては特に。

 

そんな会話をしながら進むこと十分。

ボク達は目的の場所に到着した。

大きく、白い建築物。

看板には『駒王病院』と書かれている。

そう、ここはお兄ちゃんが入院している病院。

松田君と元浜君はお見舞いに来てくれたんだ。

 

ここも裏で三大勢力が取引している場所だったりする。

何でも、アザゼル先生がここの院長と飲み仲間らしい………って、アザゼル先生は本当に自由というか何というか。

 

本来なら、三大勢力、悪魔の医療機関に入院するのがベストなんだけど、今回はボクがアザゼル先生にお願いして、ここを手配してもらった。

その理由が松田君と元浜君の存在だ。

あの戦いが終わった後、駒王学園に登校した時、二人から訊かれたんだ。

 

―――――イッセーは大丈夫なのか、と。

 

戦後の処理の一つとして、人間界全体の記憶改竄が各勢力協力のもとで行われている。

トライヘキサという怪物を始め、ドラゴンから天使、悪魔、堕天使、妖怪。

アセムが世界に戦いの光景を配信したこともあり、異形の存在が公にされることになった。

 

当然、一般の人間は大混乱に陥り、テレビでも映像と共に議論されることに。

そこで混乱を治めるため、世界中で大掛かりな記憶改竄が行われることになった。

当然、二人もその記憶改竄の対象であるため、お兄ちゃんが戦っていた記憶は消えているはずなのだが………。

 

エレベーターを降り、廊下を進んだ先に個室がある。

入り口には『兵藤一誠』と書かれた文字。

 

元浜君が眼鏡をくいっとあげて言う。

 

「ここがあいつの病室か。個室とか、イッセーには勿体ないな」

 

「アハハ………」

 

苦笑するボクは部屋の扉を開ける。

中は清潔に保たれた広い空間。

棚にはバケツやタオルといった備品が並べられている。

そして、ベッドの上に―――――。

 

「お兄ちゃん、松田君と元浜君が来てくれたよ?」

 

未だ眠り続けるお兄ちゃんがいる。

 

皆の協力でお兄ちゃんは一命をとりとめた。

崩壊していた生命の泉は補強され、そこに注ぎ込まれた皆の生命力のおかげで何とか、命の方はもたせてある。

小猫ちゃんと黒歌さんの二人が毎日、仙術治療で回復してくれているが、こちらが完全回復するまでに数年はかかるとのこと。

危ぶまれたお兄ちゃんの精神の方も一応、安定している。

今もイグニスさんとドライグが内側でお兄ちゃんの精神を見守ってくれているみたいだ。

 

あの戦いから二週間経って目覚めないのは生命力が枯渇してしまったためで、今は肉体と精神を休めるために体が休止状態になっているから、とのことだ。

お兄ちゃんが目覚めるのはいつになるか分からないが、そろそろ起きてくれるだろうと、イグニスさんが言っていた。

 

元浜君がゴソゴソと鞄を漁り始める。

 

「これ、見舞品な」

 

「もしかして、エッチな本?」

 

「それも考えたけどな。今回は『ドラグ・ソボール(スーパー)』の最新刊」

 

「あ、それ、ボクも読みたかったやつだ」

 

「じゃあ、美羽ちゃんに渡しておくよ。後でイッセーに渡してやってくれ」

 

「うん、ありがとう、元浜君」

 

すると、松田君が言う。

 

「あっ、結構まともなやつ持ってきてたのかよ。俺は―――――」

 

松田君が鞄から取り出したのは―――――一房のバナナだった。

 

「見舞いと言えばこれかなって」

 

「まぁ、定番ではあるよね」

 

「だろ? イッセーの目が覚めなかったら、皆で食べてくれ」

 

お見舞いの品を持ってきてくれたのは嬉しいけど、そのバナナ、朝から持っていたのかな………。

ここに来る途中でスーパーとかに寄ってないし………。

 

バナナを棚に置いた松田君はベッドの側に置いてある椅子に腰掛け、お兄ちゃんの顔を覗き込む。

 

「ぐっすり寝てるなぁ。もしかして、美羽ちゃんが体拭いてやってるとか?」

 

「うん、妹だもん」

 

「クソッ、羨ましい奴め。俺も美羽ちゃんみたいな妹がほしいぞ!」

 

「全くだ。腹いせにおでこに『乳』と書いてやろうか。イッセー撲滅委員会としては当然の処置なのだが。とりあえず、こいつのモテフラグを全力で叩き潰したい」

 

多分、それは潰れないかと………。

次から次にモテフラグ建設されていくし。

下手すると、今後もお兄ちゃんに想いを寄せる人が出てくる可能性だってある。

………男女問わず。

 

ハハハ、と笑う二人だが途端に真剣な表情になる。

そして、眠っているお兄ちゃんに話しかけ始めた。

 

「なぁ、イッセー。おまえ、ずっと俺達に隠してることがあるだろ?」

 

「え………?」

 

松田君の言葉につい聞き返してしまった。

元浜君が続く。

 

「俺達は長い付き合いだからな。前々からなんとなく分かってたよ。それでも、あまり詮索しないようにしてたが………。美羽ちゃん、今回、イッセーが入院したのは事故が原因って聞いてるけどさ。本当は違うんじゃないか?」

 

「………なんで、そう思うの?」

 

「なんでって言われるとな………俺もなんて答えたら良いか分からないんだ。でも、イッセーが俺達のために血だらけで戦う、そんな夢を見てさ。右腕を無くしたのも、本当は事故じゃなくて、別の………」

 

松田君が言う。

 

「俺もだ。頭の中にイッセーの声が聞こえた、そんな記憶があるんだ。いつ、どこでかは思い出せないんだけどな」

 

一般の人間である二人は、先日の戦いについての記憶は改竄されている。

でも、二人はお兄ちゃんが戦っていたことを覚えていた。

覚えていた………というと、少し違うと思うけど、心のどこかに残っていたんだと思う。

お兄ちゃんの力は人の心に想いを刻み込むから。

 

二人の問いにボクはどう答えて良いか迷った。

改竄された記憶通りの内容を伝えるのか、それとも、真実を打ち明けるのか。

 

「あ、あのね、二人とも。お兄ちゃんは………」

 

何かを言わなきゃいけない。

そう思って口を開いた。

 

でも、それは松田君の言葉に遮られた。

 

「無理しなくて良いよ、美羽ちゃん。俺達がそれを聞くのはイッセーからだ。こいつが話したくなったら、その時に聞くとするよ」

 

「で、でもだよ? も、もし、お兄ちゃんが二人とは違う存在………とか言ったらどうする?」

 

恐る恐る訊ねるボク。

この流れで言えば、二人は冗談として受け止めるかもしれない。

普通に考えて、『この人は悪魔だ』とか言っても信じないだろう。

 

でも、二人は―――――。

 

「うーん、そこは良く分からないけど、イッセーはイッセーだろ」

 

「昔からつるんでるしな。こいつが宇宙人と言われても、驚きはすれ、そこから関係が変わるとは思えん。一つ聞くけど、ここにいるイッセーはおっぱい好きか?」

 

「そりゃあもう」

 

ボクが即答すると二人は吹き出した。

そして、笑いながら言った。

 

「じゃあ、こいつはイッセーだ。俺達が知ってる兵藤一誠だ」

 

「おっぱい大好き野郎で、最近は男達の嫉妬の的で、イッセー撲滅委員会の撲滅対象の兵藤一誠だ」

 

「うん、元浜君の台詞は必要なかったかな」

 

やっぱり、この二人はお兄ちゃんにとって親友なんだと心から思えた。

二人なら真実を打ち明けても、何ら変わらない関係でいてくれる………そんな気がする。

 

ボクは二人の前に立つと、深く頭を下げた。

 

「ありがとう、松田君、元浜君。これからもお兄ちゃんをよろしくお願いします」

 

「「おう!」」

 

 

 

 

それから少しして。

ボクは病院の前で二人を見送っていた。

 

「二人とも、今日は来てくれてありがとう」

 

ボクがお礼を言うと、二人は笑って答える。

 

「いーよいーよ、お礼なんて」

 

「俺達は三人でセットみたいなところあるしな。俺達は三人でエロバカ三人組だし」

 

「そうだよな………だが、あいつばかりがモテるのはやはり許せん。もし、あいつが脱童貞したとか言ったら、その時はマジでキレるかもしれん………!」

 

「それな!」

 

あ、お兄ちゃんアウトだ。

脱童貞どころか、今では経験豊富になっちゃったし………。

 

二人を見送った後、ボクはそのまま病室に戻ることに。

リアスさん達は戦後処理の手伝いでいないけど、後で来ることになってるし、もう暫くはボクもここに残るかな。

 

戦後処理と言えば、アリスさんがすっごく頑張ってくれている。

『王』が不在とのことで、『女王』として代行しているが………それはもう、毎日書類と格闘してるよ。

栄養ドリンクを何本空けたことか。

ボクも後で合流して、頑張らないとね。

 

そんなことを考えながら、病室に戻るボク。

部屋の扉を開けると―――――。

 

 

「お兄………ちゃん?」

 

 

ベッドの上で上半身を起こしたお兄ちゃんの姿。

お兄ちゃんはこちらを向くと、微笑んで、

 

「おはよう、美羽」

 

少し掠れてるけど、お兄ちゃんの声だった。

ボクは扉を閉め、ベッドに歩み寄っていく。

そして、

 

「寝過ぎだよ………おはよう、お兄ちゃん」

 

嬉し涙が頬を伝った。

 

 

[美羽 side out]

 




次回(もしくは次々回)で最終回になります!


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77話 来訪者

すいません、最終回じゃないです。


[美羽 side]

 

 

「イタタタ………」

 

「無理して起きなくて良いんだよ?」

 

上半身を起こすと、苦痛の声を漏らすお兄ちゃん。

二週間も寝続けたのだから、体のあちこちが硬くなっているのだろう。

ボクはお兄ちゃんの体を支えながら言う。

 

「お兄ちゃん、起きてくれたのは嬉しいけど………待たせ過ぎだよ。ここ最近、皆、元気なかったんだよ?」

 

アリスさんも、リアスさんも他の皆もお兄ちゃんがいなくて、どこか元気がなかった。

いつも隣にいた人がいなくなると、こうも胸が苦しくなるのかって。

 

お兄ちゃんは苦笑する。

 

「すまん………」

 

「ん。とりあえず、罰としてこのままギュッてさせて」

 

ボクは力一杯、お兄ちゃんを抱き締めることにした。

少しお兄ちゃんが苦しそうな顔してるけど、これくらいはさせてもらうよ。

 

お兄ちゃん成分が………お兄ちゃん成分が補充されていく!

お兄ちゃんの鼓動も呼吸も、ちゃんと聞こえる!

 

「お兄ちゃんだ………やっと、お兄ちゃんが帰ってきてくれた………!」

 

「み、美羽ちゃん! う、嬉しいけど、くるちぃ! お兄ちゃん、目覚めて早々に昇天しそう!」

 

「………そんなこと言いながら、ボクのおっぱいに顔を埋めてるくせに」

 

「………バレタッ!?」

 

「バレるよ。ボクのおっぱい、好き?」

 

「当たり前だろ!?」

 

「じゃあ、もう少しだけ………ぎゅぅぅ」

 

「あうっ! 美羽のおっぱいが! おっぱいがぁぁぁぁぁぁ!」

 

それから手を離すと、お兄ちゃんはバタリとベッドに倒れてしまう。

そして、鼻血を流しながら、とても良い笑顔で言った。

 

「我が一生に、一片の悔いなし!」

 

天に向けて拳を突き出すお兄ちゃん。

その手はそのままボクのおっぱいを揉んだ。

 

 

 

 

「少しは落ち着いたかな?」

 

「ああ。最高のおっぱいだった………」

 

感涙しながら、未だにボクのおっぱいを揉み続けるお兄ちゃん。

どうしよう………完全におっぱい欠乏症になってる。

全然、落ち着いてないよ………。

とりあえず、ボクもお兄ちゃん欠乏症はある程度治まったし良しとしよう。

久し振りのお兄ちゃんは最高でした!

 

お兄ちゃんが言う。

 

「それにしても、二週間か。思っていた以上に寝てたんだな」

 

「お兄ちゃんの生命力は一時的に枯渇しちゃったしね。そこはもうしょうがないよ。むしろ、二週間で起きられて良かったと考えるべきかな」

 

「んー………そう言われればそうなのかな?」

 

「でも、皆を心配させたのは変わらないからね?」

 

「うっ、美羽は手厳しいな。でも、分かってるさ。後でちゃんと謝るよ」

 

そう言って、コップに入った水を飲むお兄ちゃん。

 

ボクはこの後、起こったことを話すことにした。

 

「お兄ちゃんの生命力は今も疑似神格の補助付きでなんとか成り立ってる状態。こっちは仙術治療を毎日受けることで、いずれは完全回復するみたい。失った右腕の方はアザゼル先生達が再生治療を施してくれるみたいだよ?」

 

「あっ、前に俺とゼノヴィアの傷を治した薬か」

 

「あれの発展版かな。また冥界の医療機関に通うことになると思う。それまでは義手をつけることになるよ」

 

アザゼル先生は戦後の処理をする傍らでお兄ちゃん専用の義手の製作に取り掛かってくれている。

流石に今は忙しくて、すぐに完成というわけにはいかないけれど、数週間後には完成する予定だそうだ。

 

「アザゼル先生のみたいにロケットパンチついてるかもね」

 

「憧れはするけど、使わないと思う。何かの拍子で発射したら目も当てられねぇ………」

 

アザゼル先生のことだから無駄に機能をつけてたりするのは十分にあり得る。

サテライト兵器とかは絶対にやめてほしい。

バイクにも着けようとしていたみたいだし。

とりあえず、お兄ちゃんの体に関してはこんな感じだろう。

 

「さっきね、松田君と元浜君が来てたんだ」

 

「あいつらが?」

 

「うん、お兄ちゃんのお見舞いにね。………二人とも、ボク達のこと、なんとなく気づいてるみたいだった」

 

「………そうか」

 

そう言うお兄ちゃんの顔は特に驚いている様子はなく、どこか納得したような表情だった。

お兄ちゃんは息を吐いて言う。

 

「あの戦いの時、皆の声が聞こえたんだ。その中にあいつらの声があった。………あいつら、状況も上手く呑み込めてないのに、俺の応援をしてくれたよ。その時から覚悟は決めている」

 

お兄ちゃんは窓の外の景色を眺めて、

 

「俺は話すよ。本当のことをあの悪友二人に」

 

「うん、お兄ちゃんが良いならボクは何も言わないよ。それに、松田君も元浜君も、お兄ちゃんの口から話してくれるのを待つって言ってくれたしね」

 

「ったく、あいつら………。これだから、あの二人との繋がりは切りたくないんだ。最高の悪友共………今度、あいつらと飯でも食いにいくかね」

 

ポリポリと髪をかくお兄ちゃんはとても嬉しそうだった。

ま、まぁ、脱童貞に関しては黙っておいたままの方が良いと思うけど。

多分、悪魔とか異形とかそっちのけで血の涙を流して襲ってくると思うから………。

 

そんなことを思っていると、お兄ちゃんが訊ねてきた。

 

「他に変わったこと、あるんだろ?」

 

あったのか、ではなく、それは確認するような質問の仕方だった。

お兄ちゃんはさっき目覚めたばかりとは思えないくらい強い瞳をしている。

全てを理解しているような、そんな眼を。

 

「………そうだね。いきなり言うと混乱すると思って、後回しにしていたけど、今なら教えても良いかな」

 

ボクは語り始める。

この二週間で起こった最大の出来事について。

 

 

 

 

アセム、トライヘキサの戦いから三日後のこと。

各神話勢力は戦後処理、事態の収集に追われていた。

人間界に大きな影響を残したアセム、トライヘキサと邪龍の群れは、それと戦う異形、超常の存在と共にメディアに写されてしまい、人間達の間で大いに物議を醸していた。

今回の戦争は人間界、超常の世界、その両方に大きく爪痕を残す結果となってしまっている。

 

………が、本来なら今よりもずっと悪い状況になっていたはずだった。

 

兵藤家最上階に設けられたVIPルーム。

ここにオカ研メンバー、アザゼル先生、モーリスさん、リーシャさん、ワルキュリアさん、ニーナさん、サラが集まっていた。

 

リアスさんが言う。

 

「アザゼル、お兄様にも言ったのだけれど」

 

リアスさんが何かを言い終える前に、アザゼル先生が言葉を遮るように言う。

 

「ああ、一々言われなくても分かってるよ。おまえ達、黙っていて本当にすまなかった」

 

前に立ったアザゼル先生は深く頭を下げた。

 

―――――『隔離結界』。

アザゼル先生を始めとした各勢力の首脳陣は分裂したトライヘキサを、確実に被害を減らすため、倒しきるため、隔離された専用の結界領域に転移するつもりだった。

更にそこに繋ぎ止めるため、領域内部でトライヘキサと各陣営のトップクラスとそれに付き従う戦士達が、数千年、一万年かけてトライヘキサを滅ぼしきる。

そういう作戦を実行するはずだった。

 

しかし、アザゼル先生達の作戦はそれを読んでいたアセムによって阻まれることになる。

アセムがトライヘキサを吸収したことにより、隔離結界の実行が不可能になったんだ。

 

アザゼル先生が言う。

 

「俺もサーゼクスもミカエルも、もしもの時の覚悟を決めていた。おまえ達を悲しませることになるだろう。だが、それでも、おまえ達を信じて未来のために………だが、その覚悟を全部、イッセーの奴に持っていかれてしまったよ。俺達はあいつに救われたのさ」

 

モーリスさんが息を吐く。

 

「我が弟子ながら無茶苦茶だな。ま、済んだことは良い。あいつも助かるだろうしな。アザゼル、おまえ達もここにいる。おまえも教え子を持つ身なら、こいつらの行く末を見届けてやれよ?」

 

「おまえに言われると耳が痛い………が、その通りか」

 

モーリスさんの言葉に髪をボリボリとかくアザゼル先生。

 

モーリスさんは手元の資料を見ながら考え込む。

顎髭をさすりながら、言う。

 

「………で? 今、やるべきことはこの訳の分からん現状について考えることだ。―――――死者数ゼロ。こいつはどういうことだ?」

 

その言葉に続くようにボク達も資料に目を通す。

これは現在の段階で纏められている、先の戦いのレポートだ。

事の発端から、その経緯。

そして、最後の決着まで。

中には当然、アセムのことまで書かれている。

異世界アスト・アーデの神。

彼がトライヘキサを、邪龍を従え、戦争を起こした理由も記されている。

 

今、モーリスさんが言ったのは被害報告の欄。

崩壊した施設の数に、人間界への被害、消滅した神々、そして―――――各勢力の死者数。

その死者数に記されている数字はゼロ。

そう、先の戦いで―――――トライヘキサが復活してからアセムとの戦いが終結するまでに、消滅した神を除き、死んだ者はいないということだ。

 

アザゼル先生が唸る。

 

「死んだ者は確かにいる。俺も目の前で部下が消えていくのを目の当たりにしている。一応、確認するが、おまえ達もそうだな?」

 

その問いに皆が一様に頷いた。

ボクも大勢の人達が炎に焼かれ、凶悪な力を秘めた武器に貫かれる光景を見てきた。

あの戦いで、間違いなく大勢の人達が亡くなったはずなんだ。

 

アザゼル先生は報告を続ける。

 

「戦時中、確認した死者だった者に話を聞いた。そいつが言うには、自分は確かに死んだ。トライヘキサの炎に焼かれて死んだはずだった。しかし、暗闇にいた自分を追いかけてきた光が自分を連れ戻してくれた。………だそうだ」

 

「光が………連れ戻した? 死した者が生き返ったというの?」

 

「そう捉えるのが普通、なんだろうな。他の一度、死を確認した者からも同じ証言が取れている」

 

言葉を濁すアザゼル先生。

確かに結果や証言だけ見れば、そう捉えるのが普通なのだろう。

でも、起きていることは明らかに異常だ。

 

アザゼル先生が言う。

 

「死者を生き返らせる術はある。おまえも心当たりはあるだろう?」

 

「それって、聖杯ですか………?」

 

ギャスパー君が恐る恐る訊ねた。

 

神滅具『幽世の聖杯』。

聖遺物の一つである聖杯。

生命に関する能力を持ち、生物を強化したり、魂から肉体を再生したりと使いようによっては生命の理を狂わせる神器。

 

アリスさんが言う。

 

「聖杯、ね。あの力なら死者を生き返らせることは出来るでしょう。実際、私達もあの力で苦労させられてきたんだし。でも………ヴァレリーさんが?」

 

聖杯の所有者はヴァレリーさんだ。

彼女はギャスパー君と行動を共にしていたけど………。

 

アザゼル先生は首を横に振って否定する。

 

「いや、それはないだろう。ヴァレリーのもとには三つ全ての聖杯が揃っているが、彼女の力ではあれだけの数の死者を生き返らせるなんて芸当は不可能だ。仮に行ったとしても、今頃は力を行使した反動で何かしらの異変が起きているだろう。ギャスパー、ヴァレリーは今、どうしてる?」

 

「彼女は今、二階で段ボールに入ってますぅ」

 

「………それはそれで異変が起きていると取るべきなのか? おまえ、恩人になに教えてんだよ」

 

半目で問うアザゼル先生。

 

うん、前にも思ったけど、なんで段ボールを勧めたの?

量産型段ボール吸血鬼とか、こっちはどう受け止めれば良いか困るんだけど………。

 

ロスヴァイセさんが言う。

 

「聖杯が全てこちらにあり、彼女が健在であるなら、聖杯の力というのはないでしょうね」

 

アザゼル先生が頷く。

 

「だろうな。で、他の線だが………他者の命を移す、ということを考えたが」

 

「死者の数が多すぎるし、その分の死者が出るだろ」

 

モーリスさんがその線を真っ向から切り捨てた。

 

まぁ、その線はまずないよね。

それに命を移すにしても、しっかりした前準備と、大掛かりな術式が必要となる。

あれだけの数の死者を甦らせるなんて、不可能だ。

 

アザゼル先生も続く。

 

「だろうな。でだ、こいつは各勢力との議論で出た線で最も否定され、最も可能性があるとされるものだ」

 

「それは?」

 

リアスさんが聞き返す。

アザゼル先生は瞑目し、低い声音で言った。

 

「―――――アセム。野郎が死者を生き返らせたという線だ」

 

『………ッ!』

 

その言葉に皆が目を見開いた。

同時になるほど、と納得できるものがあった。

 

アセムの力と知識があれば、実行することも可能かもしれない。

最終的には龍神クラスかそれ以上の領域に踏み込んだ彼なら………。

しかし、その線は各勢力の間で否定されている。

 

リアスさんが言う。

 

「アセムが、自ら断った命を生き返らせたというの………? なんで、そんなこと………」

 

「分からん。俺達もアセムの意図を図りかねているのさ。だからこそ、最も可能性がありながら、最も否定されているのだがな」

 

アザゼル先生の言葉に皆がうーんと考え込む。

確かにあり得ない話ではないし、でも、そうする意味が分からないし………。

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

家に響くインターホンの音。

 

「宅配便かな?」

 

ボクが訊ねるとゼノヴィアさんが挙手した。

 

「多分、私だろう。この間、通販で漫画を購入したんだ。すまない、少し待っていてくれ」

 

そう言ってゼノヴィアさんが席を立った。

 

それがちょうど良い合図となり、ボク達はふぅ、と息を吐いた。

あんまり考え込むと疲れるからね。

適度に頭を休めないと。

 

ワルキュリアさんがテーブルに並べられたティーカップを見て言う。

 

「それでは、少しティータイムとしましょう。今、紅茶と茶菓子をご用意します」

 

「ワルキュリアお姉ちゃん、私も手伝う!」

 

ワルキュリアさんに続くようにニーナさんが部屋を出ていく。

その時だった―――――。

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

家中に響くゼノヴィアさんの悲鳴!

 

「ゼノヴィア!?」

 

「どうしたのでしょう!?」

 

「分からないわ………とにかく、行ってみましょう!」

 

悲鳴を聞いたボク達は慌てて部屋を飛び出して、ゼノヴィアさんが向かった玄関へと走っていく。

階段を降り、玄関へと辿り着いたボク達を待っていたのは―――――。

 

 

『フハハハハ! 注文した漫画だと思ったか? 残念、我輩でした! その悪感情、大変、美味であるぞ! 頭だけでなく腹筋まで硬い脳筋娘よ!』

 

 

………なんか、いた。

 

 

 

[美羽 side out]



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78話 それは家の――――

誰だ、次回もしくは次々回で終わるとか言った奴。
全然終わらねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!


というわけで、今回も最終回ではありません!
すいませんでしたぁぁぁぁぁぁ!


[美羽 side]

 

 

『フハハハハ! 注文した漫画だと思ったか? 残念、我輩でした! その悪感情、大変、美味であるぞ! 頭だけでなく腹筋まで硬い脳筋娘よ!』

 

 

兵藤家の玄関。

そこで高らかに笑う男性。

長身痩躯で、茶髪を後ろで括ったその男性は間違いない。

彼は――――――。

 

「ヴァルス!? どうしてここに!? というか、あなた、生きて………!?」

 

目を見開き、驚愕の声をあげるリアスさん。

その頬には汗が伝っていて………。

 

リアスさんの気持ちは分かる。

だって、彼はモーリスさんと戦って………。

 

すると、のんびりとした足取りで階段を降りてきたモーリスさんが言った。

 

「ん? 俺、その兄ちゃんにトドメさしてねーぞ?」

 

『ええええええええええっ!?』

 

驚愕の事実発覚!

モーリスさん、何やってんの!?

 

木場君がモーリスさんを問い詰める。

 

「モーリスさん、どうして………!? 彼は僕達の敵ですよ!? アセムの配下の一人ですよ!?」

 

「んなこたぁ、言われんでも分かってるよ。だが、この兄ちゃんを始末するのは惜しい気がしてなぁ。まぁ、不意討ちみたいなことはしないし、その辺りは弁えてる。来るなら一対一だろう」

 

モーリスさんはヴァルスを見て、

 

「この兄ちゃんが挑んできても、俺が勝つ。つまり、俺が出張りゃそれで終いだ」

 

『………』

 

その一言に玄関が静まり返った。

 

………うん、どうしよう。

ものすっごく納得してしまった………!

滅茶苦茶だよ、この人!

絶対、神姫化したボクとアリスさんより強いよ!

今更だけど、お兄ちゃん、よく眷属に出来たよね、この人!

 

モーリスさんの放った言葉にヴァルスは笑って返す。

 

「ハハハハハ! 剣聖殿に言われると返しようがありませんね。ええ、私はリゼヴィム殿のように回りくどいことはしません。やるなら一対一の真剣勝負を望みます。そして、今の私があなたに挑んでも、勝ち目はないでしょう」

 

あれだけボク達を苦しめた悪神の眷属に勝ち目がないと言われる人ってどうなんだろう。

悪魔化して長い寿命を得た今、モーリスさんは更に先へと行きそうで恐い。

仮にレーティングゲームに出場したら、笑いながら戦ってそう………。

 

あれ?

そういえば、ヴァルスの口調………。

 

ボクと同じことを思ったのか木場君がヴァルスに訊ねた。

 

「先程の口調、あれは内なるあなた………ですよね? たしか、精神的に追い詰められた時に表に出てきてしまうと」

 

なに、それ………初耳だよ。

というか、精神的に追い詰められたら、あんな風になるの、この人!?

 

「ええ、今は通常に戻ってますけどね」

 

「では、先程はなぜ?」

 

木場君が問うと、ヴァルスは腰を抜かしているゼノヴィアさんを見て―――――ニッコリと微笑んだ。

 

「彼女の気配を感じましてね。つい虐めたくなったと言いますか………テヘッ☆」

 

全然、可愛くないテヘペロをいただいた。

 

アザゼル先生がヴァルスに訊ねる。

 

「おまえさんがここに来た理由を話してもらおうか。おまえにどんな考えがあるにせよ、あれだけ大規模な戦争を引き起こしたんだ。見つかれば、即戦滅されるのが普通だろう。そこを理解して、それでも、この地に来たということは何か、俺達に伝えなければならないことがある。そう思って良いんだな?」

 

「その通りです、アザゼル殿。私は今、戦うつもりは一切ありません。信用できないのならば、この腕と足を切り落としても構いません」

 

じっとこちらを見つめるその瞳には言い知れぬ迫力があった。

自分の手足を切り落として良いというのは本心なのだろう。

 

しかし、殺気が含まれていないというのに、このプレッシャーは………!

ふざけた雰囲気は全く感じられない………。

死地を前に覚悟を決めた、そんな雰囲気が今のヴァルスから感じられる!

 

ヴァルスの迫力に押され、冷や汗を流すボク達。

すると、後ろのモーリスさんがやれやれといった声で言った。

 

「引け、おまえ達。今の言葉から、この兄ちゃんの覚悟は十分に伝わったはずだ。戦うつもりはないと言っているんだ。ここは話ぐらいは聞いても良いんじゃないか? なぁ、アザゼル」

 

「………ったく、面倒なことになっちまった。折角、助かった命なのに、まーた首を締めることになっちまうだろうが。責任取らされるのは俺なんだぞ? おい、ヴァルス。それだけの価値があるんだな?」

 

アザゼル先生の言葉にヴァルスは静かに頷いた。

 

「ええ。そこは保証します。私は我が父アセムの意思を伝えに来たのですから」

 

 

 

 

話を聞くため、ボク達は家にヴァルスを入れることになった。

………で、今はなぜか重要な会議に使用されるVIPルームではなく兵藤家のリビングに集まっている。

 

「いやぁ、すいません。私、会議室みたいなガチガチの空気の部屋って苦手でして」

 

今からガチガチの話をしようっていう顔じゃないよね。

ものすっごくヘラヘラしてるんだけど。

 

ふいにヴァルスは何かを思い出したように掌をポンっと叩いた。

 

「突然おじゃまするのです。お詫びにこれを………」

 

ヴァルスが魔法陣を展開する。

すると、机に幾つか小さい魔法陣が描かれていき、何かが姿を見せる。

それは――――――。

 

「えー、まず左から。沖縄名物のソーキ蕎麦、熊本の馬刺、博多の明太子、香川のうどん、京都のお漬物、名古屋の手羽先と味噌カツ、東京の東京バナナ、宮城の牛タンとずんだ餅、秋田のきりたんぽ、岩手の蕎麦、青森のリンゴ、北海道の蟹。それから―――――」

 

「観光ぉぉぉぉぉぉ!? これ、観光行ってたよね!? 完全にお土産だよね!? もしかして、日本一周してきた!?」

 

炸裂するボクのツッコミ!

だって、机一杯に並べられてるのって、日本各地の名物・特産だもの!

 

ヴァルスが言う。

 

「あの戦いが終わった後、傷ついた体を癒しに慰安旅行を」

 

「皆が戦後処理で大変な時になにやってるのさ!? というか、三日でこれ全部行ったの!?」

 

「不眠不休でいけば余裕です!」

 

「全然休めてないよ! というか、遊ぶことに命かけてない!?」

 

「それが我が父の教えですから。人生、楽しんだもの勝ち。遊びにこそ全力を尽くせ!」

 

それを聞いたアザゼル先生は、

 

「わかる!」

 

「アザゼル様!? なに、共感しちゃってるんですか!?」

 

「人生、いつ、何が起こるか分かったもんじゃない。だからこそ、その時を全力で楽しむのさ! だから、俺は趣味に没頭するのさ!」

 

「かっこつけてないで仕事してください!」

 

レイナさんのツッコミ&ハリセンがアザゼル先生に叩き込まれていく!

鋭く叩き込まれたハリセンがアザゼル先生の頭を揺らした!

 

「かに」

 

「めんたいこ」

 

いつの間にかオーフィスさんと彼女の分身体リリスさんが来ていて、机に置かれたご当地名物の数々に目を輝かせていた。

我が家の龍神様は今日も元気で自由です!

 

ちなみにリリスさんに関しては彼女も家で引き取ることになった。

もちろん、これはオーフィスさんと同じく極秘扱い。

 

リリスの姿を見たヴァルスは彼女の頭を撫でる。

 

「おや、リリス。お久し振りですね」

 

「ヴァルス、久し振り」

 

そう返すリリスにヴァルスはニッコリと微笑んだ。

 

「リゼヴィム殿の元にいた頃よりも感情が見られるようになりましたね。ここはあなたにとって、安らげる場所になるでしょう。あ、その明太子はご飯に乗せて食べると美味しいですよ」

 

「そうする。めんたいこ、ごはん………めんたいこごはん」

 

明太子の箱を片手にキッチンへと小走りするリリスさん。

うーん、食いしん坊なところはオーフィスさんと同じ………?

 

オーフィスさんが服の袖を引っ張りながら言ってくる。

 

「我、かに食べたい」

 

「あ、うん。えっとね、それはそのままじゃ食べられないから、今度、蟹鍋にしよう。それまでは待っててね?」

 

「蟹鍋………我、待つ」

 

我が家の龍神様はとても素直だった。

 

さて、ヴァルスの広げたご当地名物の数々に話が脱線したけど、そろそろ戻そう。

 

「あと、神戸でチョコレートも………」

 

「ありがとう! でも、もうそろそろ話を戻そうね!」

 

本当にどれだけ観光してるのさ!?

よく、そんなお金あったね!

というか、本当に三日で全部回れたの!?

 

ヴァルスは心を読む能力を使ったのか、ボクの疑問に答えた。

 

「私の秘術に時間を操作するものがあるのですよ。対象人物の中の時間を加速させることが出来るので、通常の三倍の観光が出来るのです」

 

「どう考えても戦闘用の術ですよね!? なに、観光に使ってるんですか!?」

 

木場君のツッコミ!

しかし、ヴァルスは驚いたように言う。

 

「そうか! 戦闘に使うという手がありましたね!」

 

「気づいてなかったんですか!?」

 

「全力で観光するために開発した術ですから」

 

「どんな力の無駄遣い!?」

 

そのツッコミを最後に、木場君は床に手をついてしまう。

 

「そんな………僕はこんな人と………。僕の全てをかけたあの戦いは何だったんだ…………」

 

そういえば、木場君はゼノヴィアさん、イリナさんの三人で複製体とはいえ、ヴァルスと戦ったんだったね。

限界を超え、その更に限界を超えるという果てしない斬り合いだったと聞く。

その相手が………ね?

木場君の心情は複雑なものだろう。

 

すると、

 

「ハハハハ………ウフフフフ………」

 

木場君がいきなり笑い始めた。

その目は焦点があっておらず、虚空を見つめていて、

 

「ゆ、祐斗先輩………?」

 

「どうせ………僕達がどんなに頑張っても、シリアスは壊されるんだ………。シリアス? ツッコミ? ナニソレオイシイノ?」

 

「祐斗先輩がまた壊れましたぁぁぁぁぁぁ!」

 

「祐斗!? しっかりなさい! なんてこと………! 祐斗の目が死んでるわ!」

 

「アハハハハ…………シリ、シリ、シリ………シリアルゥゥゥゥゥ!」

 

「イヤァァァァァァ! 祐斗ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

「祐斗先輩ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

リアスさんとギャスパー君の嘆きが兵藤家のリビングにこだまする。

 

………木場君には暫くお休みが必要なのかもしれない。

心の病気だよ、あれは。

 

モーリスさんが言う。

 

「ったく、情けねぇ野郎だ。よし、今から俺が祐斗を鍛え直してやる」

 

壊れたように笑う木場君の服の襟を掴み、ズルズルと引きずっていくモーリスさん!

それをゼノヴィアさんとイリナさんが阻止しようとする!

 

「やめてくれ! もう木場は………! これ以上、木場を追い詰めないでくれ!」

 

「そうよ! こんな木場君、もう見てられないわ! お願い、木場君を壊さないであげて!」

 

だよね!

今、モーリスさんの修行を受けた、木場君が廃人になっちゃう!

もう帰ってこられなくなる!

 

二人の言葉に、モーリスさんは遠くを見つめて言う。

 

「人生辛いことも、悲しいこともある。絶望する時だってある。だがな、そこで立ち止まってしまったらダメなのさ。前に進まないと、どうしようもないのさ。祐斗、俺がおまえの背を押してやる。今こそ―――――ツッコミからボケにシフトチェンジするんだぁぁぁぁぁぁ!」

 

「「「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」

 

木場君がボケるところとか見たくないよ!

そんなの酷すぎて、見てられない!

お願いだから、ツッコミのままでいて!

 

 

 

「あらあら、相変わらず賑やかね」

 

 

 

聞き覚えのある女性の声がした。

 

振り返れば、そこに浅黒い肌に長く白い髪の女性がいて、テーブルに何かを運んでいるところだった。

その女性に皆の思考が固まった。

 

数秒後―――――。

 

「なんで、あんたがいるのよ―――――ヴィーカ!?」

 

アリスさんがその女性の名を叫んだ。

そう、あのヴィーカが目の前にいたんだ!

 

「あんたは確かにあの時、倒した………なんで生きてるのよ………!? っていうか、その前に―――――」

 

アリスさんはヴィーカの運んできたものを指差して訊ねた。

 

「なんで、チャーハン!?」

 

テーブルに置かれた一枚の大きな皿。

そこには黄金色に輝くチャーハンがあった。

この色に、この香ばしい香り………!

ダメだ、お腹がすいてしまう………!

 

ヴィーカがきょとんとした表情で答えた。

 

「だって………お腹空いたでしょ?」

 

ヴィーカが時計を指差すと、昼の十二時を過ぎている。

確かにお腹が空く時間だ!

 

ぬっ、とキッチンから大きな人影が現れる。

一人の巨漢、そして小さな女の子がそこにいて―――――。

 

「さーて、食うかぁ」

 

「ん………お腹、空いた」

 

「ラズル!? ベル!? あんた達も………って、なんでエプロンしてるのよ!?」

 

アリスさんの問いに二人は、

 

「皿洗い」

 

「………お手伝い?」

 

ダメだ………どうやっても思考が止まる。

この三人はいつ、この家に入ってきたのか。

そもそも、なぜ、生きているのか。

あと、なんで、勝手にチャーハン作ってるのか。

 

ヴィーカが言う。

 

「とりあえず、冷蔵庫にあった卵とハムで適当に作ったわ。さぁ、皆で食べましょう」

 

「「いただきまーす」」

 

手を合わせて食事に入ろうとするヴィーカ、ラズル、ベル。

色々と言いたいこと、聞きたいことはある。

でも、その前にボクは――――――。

 

 

「それ家の卵、それ家のハム、それ家のチャーハンンンンンンンンンンンンンンッ!!!!!!」

 

 

全身全霊でツッコミを入れた。




今回、何一つ肝心の話をしていない…………!


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79話 更なる計画

今日で三周年!


[美羽 side]

 

 

「………なんで、こんなに美味しいのよ」

 

「あら、そう? それは嬉しいわ♪」

 

少し剥れた顔でヴィーカ作のチャーハンを好評するアリスさんと、微笑むヴィーカ。

不法侵入のあげく、勝手に家の食材を使って作られたチャーハンだったけど、チャーハンに罪はないということで皆がそれぞれ口に運んだのだが………それが、こちらが悔しくなるほど美味しかった。

家でもよく作るけど、正直、この家の誰が作ったものよりも美味しい。

 

これまでヴィーカと幾度となく戦ってきたアリスさんにとっては相当ショックだったようで、

 

「………素直に認められないわ」

 

と、複雑な表情でチャーハンのおかわりをしていた。

 

ちなみに料理が苦手だったアリスさんもお母さんのもとで修行を積み、以前よりも上達している。

アリスさんも自身の上達を感じていたからこそ、余計に悔しいのだと思う。

 

「コツは火加減ね♪」

 

ヴィーカがウィンクしながら、そう付け足すのだった。

 

ヴィーカが作った昼食を食べ終わるとボク達は改めてヴァルスの話を聞くことにした。

その横では………、

 

「皿洗いは任せとけ。得意なんだ」

 

「………ベルも、手伝う」

 

見た目と合わない発言をするラズルと相変わらず眠たそうな目をしながら皆の皿を運んでいくベル。

あの人達、普通に家のキッチンを使いこなしてるんだけど………もうツッコミはいいよね?

これ以上、ツッコミ入れてたらキリがないし。

 

アザゼル先生が一度、咳払いをした。

 

「さて、かなり脱線してしまったが、今度はマジで話そうじゃないか。まず、おまえの話を聞こう。もちろん、下手な動きを見せない限り、こちらから手を出すことはないと約束する」

 

ヴァルスは軽く頭を下げて言う。

 

「感謝します、アザゼル殿」

 

「だが、こちらの質問には全て答えてもらうからな?」

 

「ええ、もちろんです。私共が答えられる範囲であれば、あなた方の問いに対して嘘偽りなく全てを答えると誓いましょう」

 

そう言うと、ヴァルスは紅茶の入ったティーカップに口を着けた。

 

ティーカップをテーブルに置いて、リラックスした様子のヴァルスは資料―――――先程までボク達が読んでいた先の戦いのレポートに目を落とした。

 

「さて、話さなければならないことがいくつかありますが………あなた方の疑問からお答えしましょう。まず、第一に先の戦いで全ての死者が甦っていること、第二に私共………まぁ、私は死んでいませんが、一度死んだはずのヴィーカ達までもが甦っていること。こちらから説明するとしましょうか。この二つについて結論から申しますと、我が父アセムによるものです」

 

ヴァルスの言葉をボク達は冷静に受け止められていた。

午前中の会議でその可能性が出ていたからだ。

各勢力の間で最も否定され、最も可能性があると言われた線。

――――――アセムが全ての死者を甦らせた、という考えだ。

 

アザゼル先生が眉根を寄せて聞き返す。

 

「やはりな。こちらでもその可能性は考えていた。だが、奴はどうやって数え切れない数の死者を甦らせたんだ?」

 

死者を甦らせる方法はある。

一つは神滅具である聖杯の力。

二つは他者の命をその者へと移すこと。

他にも禁術を用いるなどで命を創造したりすることも可能だが、どれも入念な準備と複雑な術式を必要とする。

どれも大きな代償を支払うことになる。

しかし、アセムは一度に大勢の死者を甦らせている。

 

アザゼル先生の問いにヴァルスが答える。

 

「父上が天界、その最上階にある『システム』に潜り込んだことは覚えていますか?」

 

「そりゃあな。あの時はミカエル達がかなり焦っていたが………。あれはアセムが自身専用の神滅具を作るためではないのか?」

 

そう、アセムは『システム』に潜った後、自身専用の武具を作成している。

その力は変革者になったお兄ちゃんの力を遥かに凌ぐものだったと聞く。

 

ヴァルスは頷く。

 

「ええ、それもあります。しかし、それだけではないのです。父上が『システム』を覗いた真の理由は―――――この世界における命の理を知るため。簡単に言えば、神滅具『幽世の聖杯』の構造を知り、それをもとに術式化するためです」

 

その言葉を聞いて、ボクが訊ねた。

 

「最後、アセムが何かの術式を発動させたのが見えたけど………あれって………」

 

「想像の通りですよ。あれこそが聖杯の構造を術式化したものだったのです。父上は戦の前に自身に術式を埋め込んでいました。そして、最後の決着の時………父上は自身の全てと、トライヘキサの全てを使って術式を発動させたのです。ですが、それだけではありません。あなた方はあの世界―――――父上が構築された世界に入った時、何かを感じませんでしたか?」

 

アセムが構築したあの世界。

確かに初めて足を踏み入れたというのに、あの世界にはどこか覚えがあった。

どこか冥府に似たような………。

 

他のメンバーも同じことを思っていたようで、ボクと同じく、あの世界について思い出していた。

そこでアザゼル先生が何かに気づいた。

 

「なるほど。あの世界は冥府………いや、それだけじゃない。天界にも似ている雰囲気があった。あの世界は各神話に存在する魂が行き着く場所を再現していたってことか」

 

「流石です。ええ、その通り。あの世界を作る際、父上はこちらの世界に存在する、あらゆる魂が行き着く場所を参考にして創造したのです」

 

ヴァルスは資料を捲る。

そこにはトライヘキサが復活した日のことが書かれてあるページだった。

 

「トライヘキサ復活後、大勢の者がかの力の前に消えることになることは分かっていました。そこで父上は彼らの魂を受け入れる器としての役割をあの世界にもたせていたのです。亡くなった方の魂が消滅しないように」

 

そして、とヴァルスは続ける。

 

「父上は最後に自身とトライヘキサ。そして、あの世界を一つの装置として、戦いで亡くなった全ての死者を甦らせたのですよ」

 

つまり、アセムはボク達が考えていた以上に動いていたということか。

長い期間と超高度な術式、ありとあらゆる術を使っていた………。

 

ヴァルスの解説を聞いたアザゼル先生は顎に手を当てて、今の話をぶつぶつと復唱していた。

しかし、顔を上げたアザゼル先生の表情は未だ理解に苦しんでいるようで、

 

「方法については分かった。それなら不可能ではないと思う。まぁ、それだけの術式を発動できるアセムならではの手段だと思うがな。………だが、理由はなんだ? あれはアセムが起こした戦いだ。奴の手によって大勢が散った。しかし、アセムはその全てを甦らせた。俺にはその意図がまだ読めないでいる」

 

そう、そこが肝心なところなんだ。

方法は分かった。

でも、それを行った理由が分からない。

 

問われたヴァルスは息を吐くと、昔を思い出すような表情で答えた。

 

「痛みがなければ世界は変わらない。だが、痛みだけでは本当の意味で世界は変わることができない」

 

呟くように発した言葉にボク達は一様に怪訝な表情でヴァルスに視線を送った。

ヴァルスが言う。

 

「これは父上の持論です。………人は後悔しなければ変わろうとしない。『痛み』を知って、初めて変わろうとする。アザゼル殿、三大勢力が和平へと至った根本はそこではありませんか? 種の存続のため、それもあるでしょう。ですが、失うこと、戦時中に味わった後悔をもう二度と繰り返したくない。そんな思いがあったはずです」

 

「………」

 

何も答えないアザゼル先生だが、ヴァルスの言葉に目を細めた。

過去の大戦を潜ってきたアザゼル先生も大切な存在を多くなくしている。

今の言葉に何か感じるところがあったのだと思う。

 

ヴァルスは瞑目して続けた。

 

「『痛み』は人を、やがては世界をも変える。………しかし、それだけでは足りないのです。『痛み』だけでは悲しみ、憎しみ、怒りを生む。それらはやがて歪んだ方向へと世界を変えてしまう」

 

それはかつてのアスト・アーデの歴史と同じだった。

憎しみが新しい憎しみを生む。

そうして、途方もない憎しみの連鎖が続いていた。

 

「だからこそ、父上は皆を甦らせたのです。悲しみによる変革ではなく、『希望』と『可能性』による変革をもたらすために」

 

更にヴァルスは話を続ける。

 

「あの戦いで父上はこの世界を変えようとした。しかし、変えたかったのは制度や各神話の関係ではありません。むしろ、急激な改革は不満を呼びます。父上が真に変えたかったのは―――――人々の心。それも変わろうとする切っ掛けで良かったのです。希望ある未来のために、自らが変わろうとする意思を芽生えさせる、その切っ掛けを与えることが出来ればね」

 

人々の心を変えるための戦い、か。

確かに強引過ぎるやり方ではあるけど…………。

でも、お兄ちゃんが世界中に広げたあの虹の輝きは、皆の心を繋げた。

どんな絶望の中にも希望があること、どんなに小さくても、そこには可能性があることを示したんだと思う。

きっと、アセムはお兄ちゃんの力と心を信じて、あの戦いを………。

 

アザゼル先生は腕を組み、暫く何かを考えた後、ヴァルスに訊ねた。

 

「優しすぎる悪神………か。正しいやり方とは言えないが、アセムは本気で世界を変えようとしたんだな。だが、奴がそこまでこの世界を変えようとしたのはなぜだ?」

 

「そうですね………突然ですが、アザゼル殿。あなたは異世界『E×E(エヴィー・エトワルデ)』についてどの程度の情報をお持ちで?」

 

突然出てきた新たな異世界の話題。

この世界ともアスト・アーデとも異なる世界『E×E』。

そこには未知の世界が広がっているとのことだが………。

 

アザゼル先生が苦い顔で答える。

 

「それか………。正直、語れるほど多くの情報はなくてな。今、うちのエージェントがリゼヴィムの拠点で情報を集めている。が、リゼヴィムの奴が向こうの邪神とやらを挑発してしまったことは分かっている。向こうに色々な情報を送っていることもな」

 

「そうですか。ならば、この場でハッキリと告げておきましょう。仮にその邪神とその配下がこちらの世界に攻めてきたとしましょう。そうなれば―――――この世界は間違いなく破壊されます」

 

『なっ………!?』

 

淡々とした口調で告白された内容にボク達は言葉を詰まらせた。

世界が破壊される………!?

 

「それはどういうことでしょう?」

 

「そのままの意味ですよ、木場殿。父上が観測し、把握した邪神の力ですが………恐らく、龍神クラスをも遥かに上回るものと思われます。しかも、その邪神に匹敵する神が二柱。彼らが攻めて来た場合、この世界はまともに太刀打ち出来ないでしょう」

 

龍神クラスをも遥かに上回る。

それは無限だった頃のオーフィスさんや夢幻を司るグレートレッドを超えるということ。

そして、先の戦いにおけるお兄ちゃんとアセムよりも強いということだ。

そんな存在が三柱もいる。

それは言われるまでもなく―――――。

 

「絶望的な戦力差があるってことだな」

 

モーリスさんが静かにそう呟いた。

そして、その呟きはボク達に厳しい現実を理解させるには十分過ぎた。

ボク達はあの絶望的な戦いを乗り切った。

でも、あれを更に上回る絶望が存在する………。

 

アザゼル先生が言う。

 

「なるほど………アセムが強引にでも世界を変えようとした理由は納得できるな。俺達は内輪で揉めてる暇なんぞないということか」

 

「ええ、アザゼル殿。先の戦いは異なる世界間同士の戦いを想定したものでした。あの戦いを経験し、その上でこの情報を知れば、嫌でも思い知らされるはずです」

 

「ああ、俺達には圧倒的に戦力が足りん。全ての勢力の力を合わせてもな。………それで?」

 

「それで………と言いますと?」

 

アザゼル先生の言葉にヴァルスが片眉を上げて聞き返した。

アザゼル先生は前のめり気味な姿勢でヴァルスに訊ねる。

 

「アセムはこの先の展開をどう考えていたんだ? 絶望的な現状を知らせるだけではないんだろう? 奴のことだ、この現状を打ち破る策を考えていたはずだ」

 

―――――ッ!

 

アザゼル先生の言う通りだ。

絶望的な未来を回避するために、あれだけ大掛かりなことを実行したアセムがそこで止まるとは考えにくい。

まだ、何かある。

アセムはこの先の未来を見据えて、更なる計画を持っていたはずだ。

 

その問いかけに、ヴァルスは口許を薄く笑ました。

 

「仰る通り、父上には更なる計画があります。それを伝えるために、私共はこうして生かされたのですから。我らが父アセムの計画、それは―――――」

 

ヴァルスはその計画を告げた。

その内容はあまりにスケールが大きすぎるもので―――――。

 

「この世界とアスト・アーデ。二つの世界間における同盟です」

 




完結まであと二話!


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80話 世界の繋ぎ手

[美羽 side]

 

 

「ちょっと待ってもらえるかしら。あなた、今なんて………」

 

状況を呑み込めていないのか、スケールの大きさに思考がついていけていないのか、リアスさんが困惑した声音でヴァルスに訊ねた。

 

それもそうだろう。

ボクも他の皆も何を言われたのか理解できていなかった。

だって、彼が言ったことは―――――。

 

ヴァルスはニッコリと微笑んで再度、ボク達に告げた。

 

「この世界とアスト・アーデ。二つの世界間で同盟を結ばせる。これが父上の計画なのです」

 

「………っ!」

 

もう一度、全く同じことを言われ、目を見開くリアスさん。

 

二つの世界間の同盟。

国や神話体系間の同盟なら、まだ分かる。

しかし、時空が異なる全く違う世界間での同盟だなんて………!

 

アザゼル先生が言う。

 

「なるほどな。リゼヴィムが向こうの邪神サイドに送った情報の中にはアスト・アーデの情報もあった。アスト・アーデが邪神のターゲットになる可能性は考えられる」

 

モーリスさんが続く。

 

「そんなトンデモな神様が俺達の世界に来たんじゃ、こっちも潰されるかもしれん。つまり、ターゲットになるであろう二つの世界の戦力を合わせて、その邪神様に立ち向かえ。簡単に言えば、そういうことなんだな?」

 

「ご理解が早くて助かります」

 

モーリスさんの言葉にヴァルスは頷いた。

 

二つの世界の協力関係。

それを行うには十分過ぎる理由ではあるのだろう。

そんな強力な敵がいるのなら、少しでも多くの味方が欲しくなるものだからね。

しかし………、

 

「だが、そいつはかなり難しくなるぞ。この世界じゃ、ある程度知ってる仲でも同盟に漕ぎ着くまで時間がかかったんだ。互いに知らない、未知の存在とそう簡単に協力関係を結べるとは思えん」

 

「そうね。私もそう思うわ。それにこの世界だってまだ一枚岩とは言えないし、そんな中で次元を越えた世界間での同盟となれば、色々と拗れると思うのだけど?」

 

アザゼル先生に続き、アリスさんまでそう返した。

これまでに様々な外交を行ってきた二人からすれば、絵空事のように感じてしまうのだろう。

 

ヴァルスは頷いた。

 

「お二人の考えは最もでしょう。父上の意思を受け継いだとはいえ、私もそう簡単に事が進むとは思っておりません。ですが、二つの世界には共通するものがあるのです。それはあなた方もよくご存じかと思います」

 

二つの世界に共通するもの………?

 

皆が考え込んでいると、ヴァルスはボクに微笑みかけてきた。

ヴァルスの隣にいるヴィーカも同様に、答えはすぐそこにあるといった表情でこちらに優しく微笑みをみせている。

 

そして―――――。

 

 

「………ラズル、これ拭いたよ?」

 

「おう、サンキュー! ベルは優しい子だなぁ! お兄ちゃん、感動だぞ!」

 

「ん………ベル、優しい?」

 

 

キッチンでお皿を仲良く拭いているラズルとベル。

うん、本当に仲良いね、そっちの兄妹も!

あぁ、ラズルがベルの頭を撫でているのを見てるとボクもお兄ちゃんに撫でてもらいたいという欲求が………!

お兄ちゃんに撫でてもらえるという光景を想像しただけでボクは………ボクはぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

「美羽さん、帰ってきて! ブラコンの世界から帰ってきて! 変な顔になってるから!」

 

「ハッ………! ボクは何を………!」

 

レイナさんに言われて、正気に戻るボク!

ダメだ、やはりオニイチャンニウムが枯渇している………!

お兄ちゃんの精神世界であんなに抱き締めてもらったのに数日もたないとは!

どうしよう、お兄ちゃん………ボク、欲求不満です!

 

そんなことを考えていると、ボクの手をそっと握ってくる人がいた。

 

「ねぇね………サラじゃ、ダメ?」

 

ディルちゃんことサラちゃんが甘えるような声でそんなことを言ってきた!

そんな顔で、そんなこと言われたら………!

 

「サラちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

思いっきりギュッとしたくなっちゃう!

というか、現在進行形でギュッとしてる!

だって、可愛いんだもん!

可愛いは正義!

 

「はぅ………」

 

照れて、小さく漏らすその声がこれまた………良い!

イモウトニウムがチャージされていくのを感じるよ!

 

そんなボクとサラちゃんのやり取りを見ていたヴィーカが勢いよく立ち上がった。

 

「見せつけてくれるわね………! いいわ、私も見せてあげる! ベルゥゥゥゥゥゥ! お姉ちゃんにスリスリさせてぇぇぇぇぇぇ!」

 

と、叫びながらキッチンから出てきたベルに突撃!

相変わらず反応の小さいベルを抱き締めて、眠たそうなその顔に頬をスリスリさせていく!

 

「んんんん! やっぱり、ベルの頬っぺたプニプニしてて気持ちいいわ!」

 

「………ヴィーカ、苦しい」

 

「もうちょっと! もうちょっとだけだから! お姉ちゃんにイモウトニウムをちょうだい! そうだわ、ベル! お姉ちゃんのこと、好きって言って! あの時みたいに!」

 

「………ヴィーカのこと………すーき?」

 

「またもや疑問系! だけど、そこが………良い! カハッ」

 

興奮のあまり吐血するヴィーカ。

 

やっぱりだ。

彼女達とは心から通じ合えると思っていた。

 

サラちゃんを抱き締めるボクと、ベルを抱き締めるヴィーカの目が合う。

そして、ボク達は強く頷き―――――あの言葉を発した。

 

「「この気持ち、まさしく愛だ!」」

 

『ただのシスコンでしょうがぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

今度はオカ研全員からツッコミをいただいた。

 

 

 

 

「ハハハハ。すいませんね、うちの姉妹が」

 

「いや、家のブラコンシスコン娘もあんな調子だったからな。お互い様だ」

 

互いに苦笑するヴァルスとアザゼル先生。

 

ごめんね、皆。

つい興奮しちゃいました………。

でもね?

妹って存在は最高に可愛いと思うんだ。

お兄ちゃんもこんな気持ちなんだと思うな。

 

二人は紅茶に口を着けると話を戻す。

 

「それで、そろそろお気づきになりましたかな?」

 

ヴァルスが皆を見渡してそう訊ねてくる。

皆ももう分かっているようで、その問いにはアーシアさんが答えた。

 

「イッセーさんです。イッセーさんは皆を、二つの世界を救った人ですから」

 

イリナさんが言う。

 

「ダーリンはアスト・アーデで勇者と呼ばれる存在だわ。そして、この世界でも英雄と評されている。もしかして………」

 

ヴァルスは笑みを浮かべて答えた。

 

「そう、彼は二つの世界にとっての勇者、英雄です。アスト・アーデではロスウォード、先の戦いではトライヘキサと父上。彼らを倒すために勇者殿は世界を繋いだ存在です。どちらの世界も彼に対する信頼は強いでしょう。その証拠に―――――」

 

「イッセーが消滅しかけた時、神も含めたあらゆる種族の者達があいつを救うために協力した。それは世界を救った勇者への信頼を示す。そうか、だからこそアセムはイッセーに拘っていたのか」

 

皆がただ一人を救うために手を取り合うなんて、そう簡単には出来ないことだ。

世界を救った勇者。

お兄ちゃんは皆にとっての勇者であり、失いたくない希望なんだと思う。

 

アセムもそんな存在だからこそ、お兄ちゃんがあの領域に至るまで待っていたんだろう。

お兄ちゃんならきっと、成せると信じて。

 

アリスさんが言う。

 

「彼はイッセーに二つの世界の繋ぎ手をさせるつもりなのね?」

 

「はい。勇者殿を中心とした異なる世界間の同盟。これが父上が望んだことなのです。来る絶望を乗り越えるために必要だと確信して。そして、そのためにアザゼル殿。あなたにこれを渡しておきましょう」

 

ヴァルスは懐から何かを取り出した。

それは何かのメモリーらしきものだった。

ヴァルスはそれをテーブルの上に置くと、滑らせるようにしてアザゼル先生の前に置く。

 

アザゼル先生はそれを受け取る。

 

「こいつは?」

 

「その中には父上の研究成果が入っています。―――――次元の渦。次元に生じる強烈な歪み。あれは時として二つの世界を結びつける働きをします。そして、そのメモリーに入っているのは次元の渦の安定方法。二つの世界を安定して繋ぐ道を作る方法が記されているのです」

 

「―――――ッ!」

 

中身を聞いたアザゼル先生は早速、魔法陣を展開して中のデータを探り始める。

アザゼル先生の手元には幾つもの文字や数字、術式が並べられていて、少し見ただけでは理解できない程の情報の数々が並べられている。

そんな情報をアザゼル先生は無言のまま読み進めていき、ある程度読んだところで深く息を吐いた。

 

「こいつはとんでもないな………。これをアセムは一人で解析したというのか」

 

「ええ。父上は神器にも大変な興味を持っていましたし、あなたとは気が合っていたのかもしれませんね」

 

「立場が違っていれば、奴とはもっと話してみたかったよ」

 

本当に残念だと付け足すアザゼル先生。

すると、何かを思い出したようにヴァルスに訊ねた。

 

「そういえば、奴が構築したあの世界。俺達がこちらに戻った時に『(ゲート)』が閉じてしまったんだが、あの世界はもう崩壊してしまったのか?」

 

そう、実は戦いが終わり、全軍が引き上げた後、あの世界を繋いでいた『門』が全て閉じてしまったんだ。

本当なら、少し時間を置いた後に各勢力の研究者チームを送り込んで調査をする予定だったのだけど………。

 

その問いにヴァルスは首を横に振った。

 

「いえ、あの世界はまだ存在していますよ。というよりは、一つ目の役割を終えたため、次の役割に向けて再構築されているところなのです」

 

「再構築?」

 

「あの世界、実はこの世界とアスト・アーデのちょうど中間地点に作られたものなのです。二つの世界が関わりを持つ際、いきなり互いの世界を訪れてしまうのは色々と問題が生じるでしょう。そこで、あの世界を二つの世界の会談の場として設けてしまおう………というのが父上の考えでして」

 

「………おまえの父親は本当に滅茶苦茶だな」

 

「フフフ、私もそう思います。ちなみに、あの世界の管理権限は父上が亡くなる前に勇者殿に無断で(・・・)譲渡してあるので、彼が目覚めたらお伝え願います」

 

「おいおい………。なんで、そんな肝心なことを無断でやってるんだよ………」

 

「父上の茶目っ気です」

 

「茶目っ気なのか、それは!?」

 

それって、お兄ちゃんの領土になるってことなのかな?

あの世界って、確か地球の三分の一の大きさがあったと思うんだけど………。

いや、その前に他の神話勢力に話をつけたりする必要があると思うけどね。

 

アザゼル先生もどう返せば良いのか分からないという雰囲気で、呆れた表情を浮かべていた。

 

ヴァルスが苦笑しながら言う。

 

「まぁ、二つの世界の交流の地として使っていただけたら幸いです。あ………そういえば、邪神が攻めてきた時用の戦闘フィールドとしての役目もあったりした、はず?」

 

「そこ、滅茶苦茶重要なところじゃねーか! なに、後から思い出したように付け足してんだよ!」

 

「いえ、復活した影響か記憶が曖昧で………」

 

「おまえ、死んでねーだろうが!」

 

「くっ、長旅の影響が今になって………!」

 

「そりゃ、不眠不休で日本一周旅行したらそうなるに決まってんだろ………。というか、おまえ、最初の緊張感薄れてないか? 段々、適当になっているような気がするのだが………」

 

「眠い………のでふ」

 

「語尾怪しくなってる!?」

 

うん、これもうダメなやつだ。

これ以上は真面目な話が出来ないパターンだよね。

 

ヴァルスが目が半分開いてない状態で言う。 

 

「と、とにかく、私共は伝えるべきことは伝えました。あとは………Zzzzzzzzz」

 

「寝たぞぉぉぉぉぉぉ!? こいつ、マジで寝やがった!」

 

やっぱり、もうダメだ!

ボクが言うのもなんだけど、この人達じゃシリアスが続かないよ!

寝たもん!

大事な話してたのに、敵地なのに、寝たもん!

鼻提灯出てるし!

 

ヴィーカが笑う。

 

「あらあら。まぁ、許してあげてね? 彼、お父様から色々と任されていたから、気を張っていたのよ」

 

「そうは見えないけど………。そういえば、ヴィーカ達は自分が生き返ること、知っていたの?」

 

これまでのやり取りや、あの戦いの時の彼女達を見ていると、どうにも彼女達は自身が生き返ること知らなかったように思える。

 

ヴィーカは小さく頷いた。

 

「そうね。ヴァルスは父上から聞いていたようだけど、私達三人は知らなかったわね。私達、そういうは顔に出てしまうから………。ヴァルスはその辺り、割り切って考えられるからね」

 

少し寂しそうな表情のヴィーカ。

やっぱり、彼女達にとってもこの状況は予想外だったようだ。

 

ラズルが言う。

 

「こうして親父殿が生き返らせてくれたのは、俺達にもまだ役目があるからだと思っている。これまでは敵として、おまえ達と関わってきたが、これからはおまえ達を裏で支えていくつもりだ」

 

「………ベルも、頑張るよ?」

 

ラズルに抱き抱えられているベルも、どこか覚悟を決めたような表情をしている。

彼らが敵としてではなく、味方として協力してくれるのなら、これ程心強いものはない。

 

アリスさんが問う。

 

「そっか。まぁ、あんた達がどう動くのかは分からないけれど信用しようじゃない。その言葉に嘘偽りがないのは、これまで矛を交えてきて分かっているから」

 

「フフフ、ありがと、王女様。そう言ってもらえると嬉しいわ♪」

 

そう微笑むとヴィーカは眠ったらヴァルスの肩を担いで立ち上がる。

 

「それじゃあ、私達はそろそろ失礼するわ」

 

「これから裏で支えてくれるらしいけど、具体的にはどうするつもりなの?」

 

ボクの問いにラズルが答える。

 

「とりあえず、世界中をかんこ………回って、復興の手伝いでもしようと思う」

 

「おい、今、観光って良いかけたよね? 観光するつもりだったの!?」

 

「い、いや………ついでに?」

 

「否定してよ! というか、ベルが持ってるそれ! 『グアム』って書いてるパンフレット! 思いっきり、バカンスするつもりだよね!?」

 

「グアムで復興作業があるかもしれないだろ!」

 

「ないよ! この間の戦いに関しては、そこ被害ゼロだよ!」

 

すると、ベルが小さく呟いた。

 

 

「………マカダミアナッツ、食べたい」

 

 

やはり、ベルは子供だった。

 

こうして、アセムの眷属の四人は兵藤家を去り、グアムへと旅立つのだが………。

兵藤家を出る直前にヴィーカがこんなことを言ってきた。

 

「あ、そうそう。これは個人的なことなんだけど、勇者君に伝言頼める?」

 

「伝言?」

 

「そうそう。実はね―――――」

 

 




イグニス「長かった。本当に長かった」

イッセー「ああ。ようやくここまでたどり着いたんだな」

イグニス「でも、まだよ。私達にはまだやるべきことがある! イッセー! 最後まで突き抜けるわよ!」

イッセー「おう! 最後までいくぜ、皆ぁぁぁぁぁぁ!」

イグニス「次回! 最終話『さらばおっぱい! また吸う日まで!』」

アザゼル「絶対に見てくれよな!」

木場「これはツッコミを入れた方が良いんでしょうか!? スルーしたいんですけど!?」


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最終話 さらばおっぱい! また吸う日まで!

[美羽 side]

 

 

「『お父様の夜伽ぎの相手をしていたという話、あれはお父様の冗談よ。私もベルも処女。だ・か・ら、私達の処女、欲しかったらいつでも言ってね♡』………だって」

 

ことの顛末を話終えたボク。

ヴィーカの伝言を聞いたお兄ちゃんはというと―――――。

 

「よし、ヴィーカに連絡を取ってくれ!」

 

「うん、そう言うと思ってたよ」

 

心配しなくても、お兄ちゃんのハーレム計画に組み込んだから、あの二人。

ヴィーカはともかく、ベルは………今はアウトかもしれないけど。

見た目が幼すぎるし………ロリっ娘もいいところだよ。

 

どんどん増えていくお兄ちゃんラバーズ。

お兄ちゃんって、本当にモテるよね。

まぁ、ボクもお兄ちゃんが大好きな一人だから他の人のこと言えないけど。

今だって―――――。

 

「エヘヘ………」

 

お兄ちゃんに頭を撫で撫でしてもらってるしね!

密着しながらの撫で撫では究極だ………!

もうずっとしてほしいくらいだよ!

 

「今日は随分甘えてくるな」

 

「お兄ちゃんが悪いんだよ? ボク、ずっとこうしてほしかったのに………」

 

「ごめんごめん。それじゃあ、満足するまでこうさせてもらうよ」

 

「うん!」

 

これぞ兄妹のスキンシップ!

やめられない、とまらない!

 

お兄ちゃんがボクの頭の撫でながら言う。

 

「にしても、アセムの奴………なんの相談なしに構築した世界の管理権限を譲渡してたとか………。全く気づかなかったんだけど? あいつ、そういうところは最後まで変わらないのな」

 

「今、アザゼル先生が各勢力のトップ達とアセムが残していった情報と、彼の計画、それからあの世界の処置について議論してるよ。まぁ、肝心のお兄ちゃんが目覚めるまでは、ちゃんとした答えは出せないだろうって言ってたけど」

 

「だろうな。そもそも、あの構築された世界が、今、どうなっているのかすら分からないんだし」

 

アセムが構築した世界への道は未だ閉ざされたままだ。

あそこに踏み入るにはお兄ちゃんの許可が必要になるらしい。

お兄ちゃんが目覚めたから、今後、調査団が組まれるはずだ。

 

お兄ちゃんが深く息を吐いた。

 

「………また託されちまったな」

 

呟くように言ったお兄ちゃんの目はどこか遠くを見ている。

親友である勇者に、偉大な魔王に、そして優しい悪神にお兄ちゃんは未来を託された。

それはとても重いものだと思う。

でも、お兄ちゃんは―――――。

 

「なぁ、美羽。行きたいところがあるだけど、良いか?」

 

突然、そんなことを言ってきたお兄ちゃん。

 

「外出したいってこと? でも、お医者さんの許可もいるだろうし。それに、ついさっき目覚めたばかりなんだよ? そんな状態で外を歩かせるのは………」

 

「分かってる。これは俺の我儘だ」

 

「今すぐじゃなきゃダメなの?」

 

「それは………そうだな。今すぐに伝えたいんだ、あいつらに………」

 

「そっか………うん、分かった。アザゼル先生に連絡してみるね。先生も試したいことがあるって言ってたし」

 

「頼む」

 

お兄ちゃんが真剣な顔でそう言った時―――――。

 

 

 

ぎゅるるるるるるるるるるるるる………

 

 

 

お兄ちゃんのお腹が盛大に鳴った。

 

「お腹、空いたの?」

 

「あ、ああ。二週間なにも食ってないとなぁ………流石に………」

 

以前にもこんなことがあったよね。

冥界の魔獣騒動の時、曹操と戦う直前にお兄ちゃんのお腹が鳴って、それまでのシリアスが全て壊されたっけ。

あの時はアリスさんのおっぱいを吸って、回復したけど………。

 

ボクは顔が熱くなるのを感じながら、胸を持ち上げて言ってみた。

 

「ボクのおっぱい………吸う?」

 

「………え、出るの?」

 

「ううん。で、でも………お兄ちゃんなら、回復しそうな気がして………どうする?」

 

ボクの問いにお兄ちゃんは―――――。

 

「………お願い、しようかな」

 

この後、めちゃくちゃイチャイチャした。

 

 

 

 

それから暫くして。

ボクはアザゼル先生にお兄ちゃんが目覚めたことを連絡した後、ボクとお兄ちゃんは病院を抜け出していた。

 

「イタタタ………」

 

「もう、だから言ったのに」

 

「悪い悪い。でも、これくらい大丈夫だ」

 

少し疲れ気味のお兄ちゃんはボクに体を支えてもらいながら歩を進めていく。

今、ボク達が歩いているのは山の中。

それも整備されていない獣道を進んでいた。

流石に足元は悪く、少し歩くだけでも今のお兄ちゃんには一苦労のようだ。

 

あ、そうそう。

病室での件だけど、結果を言うとボクはお兄ちゃんにおっぱいを吸われた。

流石に出ないから空腹は満たされなかったけど、精神的なものは全快したらしく、一気に元気ハツラツになってしまった。

 

………看護婦さんとか来なくて良かった。

その、結構色々としちゃったというか………うん、しちゃいました。

 

ちなみに、空腹については松田君が持ってきてくれたバナナで解決している。

 

ボクは辛そうに山を歩くお兄ちゃんに提案する。

 

「魔法かけようか?」

 

「いや、ここは自分の足で歩いていきたい。………付き合わせてごめんな?」

 

「いいよ、これくらい。お兄ちゃんに頼られるのは嬉しいもん」

 

そんな会話をしながら歩くこと数十分。

長く続いた茂みを抜けたボク達を待っていたのは―――――草原だった。

草花で覆われた広く綺麗な場所。

空には雨が降ったわけでもないのに、大きな虹が架かっている。

草原の向こうには大きな町が見えて―――――。

 

お兄ちゃんが息を吐きながら言う。

 

「ここはライトに教えてもらった取って置きの場所だ。初めてここに来たときも今の道を進んできたんだよ」

 

と、お兄ちゃんは説明してくれるが、ボクは目の前の光景に魅了され、話が入ってきていなかった。

 

ここはアスト・アーデ。

オーディリアの近くにある山の上にボク達はいる。

目の前に草原の向こうにあるのはオーディリアの城下町だ。

 

「凄い………この世界に、こんな綺麗な場所があったなんて知らなかった………」

 

「ハハハ、だろう? こうして来れたのもアザゼル先生………いや、この場合はアセムのお陰でもあるか?」

 

ここに来る時、ボク達はいつものような方法は使っていない。

アセムの研究結果をアザゼル先生が形にして出来た二つの世界を繋ぐ『道』。

今回、ボク達はそれを使って次元を越えてきた。

アザゼル先生曰く、この『道』によって今まで生じてきた時間のズレはなくなるとのことだ。

 

お兄ちゃんは草花の上に座る。

 

「あの頃からこの景色は何一つ変わってない。俺は変わったけど、この場所は―――――」

 

「変わるものがあれば、変わらないものだってあるよ。でも、それで良いんだと思うな。多分、変わっちゃいけないものもあると思うから」

 

「そっか………そうだよな」

 

お兄ちゃんはフッと笑う。

ボクはお兄ちゃんに訊ねる。

 

「お兄ちゃんが伝えたかったことって、もしかして………?」

 

「ああ、ライトとシリウスにな。とりあえずは終わったってことを伝えたかったんだ。特にライトには最後に背中を押してもらったから―――――」

 

「そう。伝えることは出来た?」

 

「多分な。あいつらに俺の声が届いてるかは分からないけど、俺なりに報告はしてみたよ」

 

爽やかな風が吹く。

心地よい空気を運んできてくれた風は草花とボク達の髪を揺らしていく。

 

その中でお兄ちゃんは呟くように言った。

 

「………終わりじゃないんだよな」

 

「………?」

 

ボクが怪訝な表情で見ると、お兄ちゃんは続けた。

 

「よくある物語だとさ、勇者が魔王を倒すと、その後はお姫様とくっついて幸せになるだろ? でもさ、それでハッピーエンドってわけにもいかないんだ。本当に大変なのはそれからだ。その先の未来を―――――」

 

お兄ちゃんはボクの本当のお父さん、魔王シリウスを倒した。

そして、娘のボクとアスト・アーデの未来を託された。

お兄ちゃんは魔王となったアセムを倒し、世界を救った。

そして、二つの世界の未来を託された。

 

ボクはお兄ちゃんの手を握る。

 

「やるべきことは多いね」

 

「手伝ってくれるか?」

 

「フフフ、もちろんだよ」

 

ボクが微笑むと、お兄ちゃんも微笑み返してくる。

すると、お兄ちゃんは目蓋が重そうに、何度も瞬きを繰り返す。

 

「眠たくなってきた?」

 

「あ、ああ。久し振りに体を動かしたから、ちょっと疲れたかな………」

 

目蓋を擦るお兄ちゃん。

そんなお兄ちゃんをボクは―――――。

 

「おっ………美羽?」

 

ボクに体を引っ張られ、ボクの太股に頭を乗せる形となるお兄ちゃん。

ボクはお兄ちゃんの髪を撫でながら微笑む。

 

「膝枕。やるべきことは多いけど、今くらいは………ね?」

 

「ハハハ………これじゃ、美羽の方がお姉ちゃんに見えるな。まぁ、ここはお言葉に甘えようかな………」

 

そう言って、お兄ちゃんは目蓋を閉じた。

 

 

 

 

「ん………美羽?」

 

「あ、起きた?」

 

ゆっくりと目蓋を開き、ボクの太股に頭を乗せたまま、辺りを見渡すお兄ちゃん。

 

「どれくらい寝てた?」

 

「んー………一時間くらい? 思ってたより、早く起きたね」

 

「おう、結構ぐっすり眠れたよ」

 

パチパチと瞬きを繰り返すお兄ちゃん。

 

ボクの膝上で寝るお兄ちゃんはなんというか、可愛かったです。

寝顔が可愛いのなんのって………やはり、アザゼル先生の発明品でまた小さくなってもらって………!

エヘヘ………。

 

「お、おい、美羽? なに、ニヤついてるんだよ?」

 

「え、え? べ、別に何でもないよ? そうだ! それより、お兄ちゃん! 後ろを見てみてよ」

 

話をそらすように、そう言うボク。

怪訝な表情のお兄ちゃんはボクの後ろへと視線を移す。

そこには―――――。

 

「おはよう、寝坊助さん。美羽ちゃんの膝枕は気持ち良かったかしら?」

 

クスクスと笑いながら言うのはアリスさん。

 

「ちょっと、イッセー? 病み上がりなのだから、もう少し大人しくしててちょうだい。心配したのよ?」

 

腕を組んで言うのはリアスさん。

 

「イッセーさん! 本当に心配したんですからね!」

 

「本当よ。ダーリンってば心配ばかりかけるのだから!」

 

「まぁ、イッセーのことだ。これくらいじゃ、なんともないさ」

 

アーシアさん、イリナさん、ゼノヴィアさんの教会トリオがそう続いていく。

 

そう、ボクの後ろには仲間達全員がいたのだ!

しかも、そこには驚きの人物がいて、

 

「ここがイッセーがお世話になった異世界か!」

 

「本当にファンタジー世界ね! こういうのワクワクするわ!」

 

「父さんと母さんまでいるのかよ!? なんで、ここに!? というか、俺達の居場所がよく分かったな!?」

 

驚くお兄ちゃんに小猫ちゃんが言う。

 

「イッセー先輩の気はいつも感じています。どこにいたって見つけ出してみせますよ」

 

アザゼル先生が親指を立てて言う。

 

「説明しただろ。あれは今までのように気を同一化せずに次元を越えられるってな。特殊な力を持たない親父さんとお袋さんもこの通りだ」

 

前々からアスト・アーデに来たがっていたお父さんとお母さんの夢が叶ったわけだ。

 

レイナさんが言う。

彼女は少しプンプンした様子で、

 

「イッセー君、こっちに来るなら声ぐらいかけてほしかったわ。アザゼル様も美羽さんから話を聞いた時に、私達に言ってくださいよ!」

 

「あー、悪かったって。というか、おまえ達も忙しかっただろう?」

 

「それは! あなたが! 私に! 仕事を投げたからでしょう!?」

 

また投げたんだね、アザゼル先生。

 

ロスヴァイセさんが言う。

 

「イッセー君、あなたが眠っている間に期末テストは終わってしまいました。なので、今度、全科目の追試を受けてもらいます」

 

「全科目!? マジでか!?」

 

「当然です。受けないと留年です」

 

ロスヴァイセさんの言葉にギャスパー君が目をキラキラさせて言った。

 

「い、イッセー先輩と同じクラスになれるんですね。僕、楽しみですぅ!」

 

「やめろよ、ギャスパー! まだ確定してねぇよ! 留年の危機だけど、まだ留年はしてないから! つーか、これ以上、年齢と学年をずらしたくないぃぃぃぃぃ!」

 

そっか、留年したら今度は二十一歳で高校二年生になるわけで………。

それはボクとしても回避してほしい。

妹より学年が下の兄………なんか、気まずくなる!

 

「あらあら、せっかく目が覚めたのに大変ですわ」

 

「え、えっと………この場合、マネージャーの私はどうすれば………?」

 

ニコニコしながら頬に手を当てる朱乃さんと、困惑顔のレイヴェルさん。

 

ロスヴァイセさんが言う。

その頬は薄く染まっていて、

 

「し、仕方なくですが、私が専属の教師としてマンツーマンで教えてあげます」

 

「ちょっとロスヴァイセ!? そんなのただの役得じゃない!」

 

「いいえ、リアスさん! これは………教師である私の使命なのです!」

 

「教師の顔じゃないのだけど。何か、凄いことを期待している顔なのだけど」

 

「そ、そんなことは………わたす、そんなエロエロなこと考えてねぇだ!」

 

「あなた、方言出てるわよ?」

 

うん、出てたね。

ガッツリ方言だったね。

しかし、ロスヴァイセさんも中々の策士………留年の危機を利用して、お兄ちゃんと二人きりになる状況を作り出すとは!

 

「ロスヴァイセさんはエッチだ!」

 

「美羽さん!? あなたに言われるのは心外です!」

 

「ボクもお兄ちゃんに限ればエッチだよ!」

 

「開き直ってませんか!?」

 

開き直ってます!

ボクはお兄ちゃん限定ならエッチな娘です!

 

リーシャさんが言う。

 

「これで気軽にこの世界にも戻ってこれますし、母にも報告がしやすくなりましたね♪」

 

「式場は俺に任せな。叔父さんが手配してやる」

 

モーリスさん、完全にこっちの世界でリーシャさんとお兄ちゃんの結婚式をあげさせる気だ。

親バカならぬ、叔父バカを発揮してる………。

 

ニーナさんが手を上げて元気よく言った。

 

「はいはいはい! 私もこっちで式をあげたい! お姉ちゃんはどう?」

 

「ちょっと、ニーナ………。でも、まぁ………そうね。イッセー、それでも良い?」

 

「お、おう………?」

 

彼女達の話を切っ掛けに他のメンバーの中でも結婚式をどこであげるか、どんな式にするかといった話になり、この場は一気に盛り上がっていく。

 

そうだね、ボクも色々と考えてしまうけど、もう決まってるかな。

お母さんがウェディングドレスを作ってくれたしね!

あのドレスを着て、お兄ちゃんと―――――。

 

「ハハハ、すごい盛り上がりようですね。流石はイッセー君でしょうか?」

 

「イッセー様の周囲はいつもこんな感じですよ」

 

「全く、イッセーと関わってからは面白いことばかりだな」

 

少し離れたところでは木場君とワルキュリアさん、ティアさんが微笑んでいた。

木場君にもトスカさんがいるんだし、幸せにしてあげないとね?

 

と、そんなことを思っていると―――――。

 

「にぃに、もう元気になった?」

 

サラちゃんがお兄ちゃんの手を握ってそう訊ねた。

 

「ああ、もう大丈夫だ。………って、泣いてるのか?」

 

「ううん………こうして、また話せたことが嬉しいの。私の家族になってくれた人だから。私を受け入れてくれた大切な人。もう、大切な人を失いたくないから………」

 

「そうだな。じゃあ、今は笑わないとだ。俺達は絶対にサラの前から消えたりしないさ。ずっと、ずっとサラと一緒だ。だろ?」

 

「うん………!」

 

お兄ちゃんにそっと抱き付くサラ。

やっぱりサラちゃんも甘えん坊だよ。

そして、やはりというか、

 

「「この絶対的な可愛さ………! 可愛すぎて昇天しそう………! カハッ!」」

 

兄妹仲良く血を吐き出すボク達!

やっぱり、サラちゃんの可愛さは日が経つごとに増している!

 

木場君のツッコミが飛んでくる。

 

「どんな時でもシスコンは忘れないんだね、君達は!」

 

「「妹最高! サラちゃん万歳!」」

 

「どこまで似た者義兄妹なんだ!」

 

「「いやぁ、それほどでも」」

 

「誉めてないよ!? あと、こんなやり取り前にもしたよ!?」

 

うん、木場君はツッコミキャラだよね。

ボケキャラは似合わないよ。

これからも、ツッコミキャラを貫いてほしい。

ツッコミが蓄積されて、壊れちゃう時があるけど、なんとか乗りきってほしい!

 

アリスさんが言う。

 

「イッセー、美羽ちゃん。そろそろ帰りましょうか。ううん、その前にイッセー。皆に言うことがあるでしょ?」

 

アリスさんがそう言うと皆の視線がお兄ちゃんに集まった。

そうだ、お兄ちゃんも約束していた。

必ず帰ってくると。

だからこそ、今―――――。

 

お兄ちゃんは皆を見渡すと、笑顔で言った。

 

「皆―――――ただいま!」

 

 

 

 

 

アセムが引き起こした世界を巻き込んだ戦いで異世界の存在が異形の者、異能者全てに知られることになる。

当然ながら、異世界に対してどう対処するのかは今後、全勢力間で話し合われることになる。

 

その中心にいるのは一人の勇者だ。

かつて異世界に渡り、魔王の娘を連れて帰還した彼は多くの者達からこう呼ばれることになる。

 

 

 

『おっぱい大好き鬼畜ドラゴン――――エロゴン、と』

 

 

 

呼ばれないよ!

そんな嘘つかないでくれる、イグニスさん!

なに、ナレーションに入ってきてるのさ!?

 

『最後だから、こういうのは必要かなって』

 

必要ないよ!

最後だからこそ、かっこよく締めさせてよ!

 

ボクがツッコミを入れていくと、実体化したイグニスさんが皆に言った。

 

「そういえば、朱乃ちゃんに夜這いをかけた件は皆に言ったの?」

 

「「「「「あ………」」」」」

 

女性陣の声が重なる。

 

「………ん?」

 

固まるお兄ちゃん。

 

「そういえば、そんな話もあったわね」

 

「はい、ありましたね」

 

「うん、忘れてたけど」

 

「これは問い詰めなければならないな」

 

「イッセー先輩」

 

「とりあえず、そこのところ」

 

「じっくりと」

 

「教えてもらえますね?」

 

ジリジリとお兄ちゃんに寄っていく皆は一斉に飛びかかった!

ついでにボクも飛びかかった!

夜這いの件はボクも聞きたいからね!

 

ちなみに、サラちゃんはすぐ側で見ていて、

 

「にぃにの………エッチ」

 

「ガッハァァァァ! サラちゃん、それズルい! そんな風に言われると………って、ちょ、ちょっと待って! 皆、落ち着いて! あれはだな! えーと、その………? 朱乃ぉぉぉぉぉぉ! ヘェェェェルプゥゥゥゥゥ!」

 

「あらあら、うふふ。あの時のイッセー君は良かったですわ♡」

 

「うわぁぁぁぁぁ! その発言はダメだって! じゃないと………って、皆のおっぱいが押し当てられるぅぅぅぅぅぅぅ! おっぱいで窒息しそうだよ! おっぱいがいっぱい………!」

 

「「「「夜這いのこと! 全部、話してもらうからね、イッセー!」」」」

 

ボク達女性陣の声が再び重なり―――――。

 

「いっぱいおっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」

 

異世界の中心でおっぱいを叫ぶお兄ちゃんだった。

 

 

 

 

         異世界帰りの赤龍帝 ―完―

 

 

 




というわけで、『ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝』はこれにて完結となります!
投稿から三年、420話も続きましたが(うん、こんなに話数が多くなるとは思ってなかった)、いかがだったでしょうか?

ここまで続いたのも、皆さんの応援のお陰です!
本当にありがとうございました!
今後の予定などは活動報告にあげるつもりなので、よろしければチェックをお願いします!

ヴァルナルの次回作には期待しないでください(笑)
それではまた!



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