ジルクニフ日記 (松露饅頭)
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その1

○月○日 001

 私はバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。

 後の世に名を残すことが約束された身として、何らかの記録を残すことも皇帝たる者の勤めだろうと考えて日記を付けてみることにする。

 

 周囲から生意気な金髪の孺子と呼ばれながらも、己が実力で家柄だけが取り得の無能な貴族共を討ち倒し、赤毛の親友と共に強大なバハルス帝国を打ち立てたというのはもちろん嘘だ。

 ナザリックに残ったロウネの代わりの秘書官が、「定番ネタは必要ですから」「絶対ウケますよ」と言っていたので言ってみた。何だ定番って?

 まあ、ウケなかったらあいつはクビだ。

 

 それはそれとして、父皇帝より受け継いだ帝国を、己が代でより盛況に、強大に育て上げ、大陸に覇を唱える大帝国へと導くことが使命と考えている。

 しかし、あの謎の魔法詠唱者アインズ・ウール・ゴウンの出現により、今、我々人類は種の存続を賭けた未曾有の危機を迎えていると言って良いだろう。

 私は帝国のみならず、全人類種を糾合してこれに対処していかねばならないと思っている。そう、人類の明日を背負って。

 

 

 

○月×日 002

 あの悪夢のカッツェ平野の虐殺の戦後に、緊急時の相互連絡の為に設置された帝国王国間《メッセージ/伝言》ホットラインで、王国の第三王女から通話があった。

 通話第1号が嫌いな女1位とか何の嫌がらせだ?

 

「戦勝おめでとうございます」とか言うので、「嫌味か貴様ッツ!」と言ったらオーガにそっくりと言われた。

 本人は褒めたつもりらしいが、人をオーガ呼ばわりとか失礼にも程があるではないか。

 あの女は、今、王国で流行ってる物語の主人公の父親だとか言ってたが・・・それにしても何の用だったのだろう、その後も飼っているペットの犬がどうだとか、美味しいリンゴがどうだとか、取り留めの無いことを散々一方的に喋って一方的に切られてしまった。

 何かの探りだったのだろうか、あの女は油断できん。

 

 

 

○月△日 003

 今日は軍の訓練日だった。

 あの糞野郎(名前すら口にしたくない)相手には意味が無いかも知れないが、やはり軍は重要だ。決して疎かにすることはできない。

 訓示の後、開始の合図を掛けたが、兵士・騎士はおろかカーベイン将軍までガタガタと震えだしたのは困ったものだ。

 気合を入れて「訓練始メェェエエー!!」と合図したのだが、ちょっと威圧感を出しすぎただろうか?頃合いとは難しいものだ。

 

 訓練の後は気晴らしに三騎士を誘って、お忍びで城下に飲みに行った。

 肉料理の美味い店があると秘書官が言ってたので試しに入ったが、あれは本当に美味かった。秘書官には褒美を与えても良いかも知れないな。

 何の肉かと店の者に聞いたら「羊肉」だと言ってたが、突然〝激風〟のやつが泣き出したのには閉口した。あいつが泣き上戸だったとは知らなかったぞ。

 

 

 

○月◇日 004

 突然、魔導国の糞野郎からフールーダを魔法学院に入れろとか言ってきた。

 確かにやつらの駆使する魔法に比べたら、フールーダの魔法など足元にも及ばないのだろうが、それでもかつては帝国主席魔法使いだったのだぞ。それを「この程度じゃヒヨッコ学生と一緒だ」とでも言いたいのだろうか? 本当に嫌味なヤツだ。

 

 とんでもないと即座に断ったが、後で考えたら、いっそ俺も一緒に入学して机を並べてやろうかとも考えた。学生が逃げるからやめてくれと秘書官に泣いて止められたので思い留まったが、全く、思い通りにならないものだ。

 

 

 

○月▽日 005

 ナザリックにいるロウネから久しぶりに便りがあった。

 最初は怯えていたが、暮らして親しくしてみるとバケモノ達は非常に気さくで親切だと言う。そんな訳あるか。

 

 確かに、あんな化け物の巣窟に一人残された身であることには同情の気持ちもあるが、帝国の未来の為には、あの時はこうするのが最善の手だったのだ。

 しかし、あの蛙顔の悪魔が人を操る魔法を使うことはわかっていたが、こうも素早く露骨に手を打ってくるとは・・・ロウネはもう、すっかり洗脳されているのは間違いないと確信した。

 

 ロウネ曰く、ナザリックは「酒は美味いしネーチャンは綺麗だ」ということだが、あいつはもう死んじまったと思うことにしよう。

 

 

 

○月□日 006

 竜王国から援軍の要請があった。

 糞野郎包囲網形成の為にも援軍は吝かでないが、あそこの女王は嫌いだし、ビーストマンごときに苦戦する竜王国にその価値があるのかが問題だ。

 

 うちだって魔導国の双子の邪妖精のせいで近衛は壊滅だわ、自慢の四騎士の〝不動〟は殺されて三騎士になっちゃうわ、エラい被害を受けたし、オマケに王国との戦争じゃあ圧勝したって報告だったのに、なぜか一般騎士に謎の被害が出てるしで余裕なんぞこれっぽっちも無い。

 

だいたい、あそこはいつも法国が手助けしてたんじゃないのか?

 法国は何してる?

 だんだん腹が立ってきたぞ。

 援軍が欲しいのはこっちだ。

 

 




2016/03/20 各話にナンバリングを追加しました。
2016/04/15 一部気になってた文章の加筆訂正を行いました。
2016/05/01 文章の修正を行いました。


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その2

×月○日 007

 王国の王女からホットラインがあった。

 飼ってる犬が可愛いとかカッコイイとか、散々ペット自慢した挙句に一方的に切られた。

 何だあれ? 暇なのか? あの女、緊急用ホットラインを雑談用の何かと勘違いしてるんじゃないか?

 

 何か釈然としない。

 

 

 

×月×日 008

 王国の王女からまたホットラインがあった。

 あの女、絶対ホットラインを雑談用のオモチャだと勘違いしてると確信した。

 また散々ペット自慢に付き合わされてウンザリしたが、お陰で多少は有用な情報も得られたので良しとしよう。

 

 何でも最近、牧場の経営を始めたらしく、軍馬を増やしているらしい。

 何を突然牧場とか思いついたのかは不思議だが、あの女のやることだからメリットがあるのだろう、こちらも検討の余地がある。こうして向こうから勝手に情報が舞い込んでくるのは、ホットラインの思わぬメリットかも知れない。

 

 

 

×月△日 009

 情報部工作係から、あの糞野郎対策の新しい兵器を開発したと報告があった。

 ウキウキして試作品を見たが、馬車に魔法を遮断する金属を張り巡らせたものだった。

 要するに、魔法盗聴防止の会議室を動けるようにしたものだな。

 相当な重量だが、 《フローティング・ボード/浮遊板》の魔法で浮かべることによって軽い力で引っ張ることができ、隙間無く分厚い金属で覆ってあるので矢や投石も防げるという説明だった。

 確かにこれなら中の兵士は守られるだろう。

 しかし、一通り説明を聞いた後で、「これは誰が引っ張るんだ? 馬も御者もいい的だよな?」と質問したら黙ってしまった。

 

 あいつら全員クビにすべきか?

 

 

 

×月◇日 010

 かねて検討させておいた牧場運営計画案の報告会議があった。

 やはり軍馬を増やすのは費用対効果を考えても軍の増強に効果が高いそうで、あの女の先見の明は利用価値がある。

 雑談相手にされるのは癪に障るが。

 

 いきなり軍馬ではパクりが露骨(帝国のメンツというものがあるからな)なので、最初は食料にもなる山羊や羊あたりを提案したのだが、〝激風〟とカーベイン将軍が泣いて強硬に反対するので牛にしておいた。

 

 なにも泣かなくてもいいのに。

 

 

 

×月▽日 011

 ナザリックにいるロウネから久しぶりに便りがあった。

 ナザリックには森があって風が吹いて雨が降るとか、ドライアドがリンゴ栽培してるとか、墓場の中で何を言ってるのか意味不明だ。あそこは墳墓だぞ?

 なんでも「休日」というものが頻繁あり、その前日にはバーで飲み明かすのだとか。

 祭りの一種なのだろうか?にしても墓場の中のバーなんて悪趣味な・・・。

 

 ナザリック生活をエンジョイしてると書いていたが、完全に洗脳されて狂ってしまったのかも知れない。

 優秀な人材が壊れていくのは悲しいものだ。

 

 

 

×月□日 012

 情報部工作係から、あの糞野郎対策の新兵器を改良したと報告があった。

 改良試作品を見たが、馬車を引く軍馬に浮遊魔法を掛けた装甲を被せるというものだった。

 突っ込み所が多すぎるが、改良の努力は努力としてそこは黙っておく度量は見せるべきだろう。

 しかし、以前から思ってた疑問についてはどうしても我慢できず、「で、中の人間はどうやって攻撃するんだ?」と聞いたら黙ってしまった。

 

 あいつら全員クビにしておいた。

 

 




2016/03/20 各話にナンバリングを追加しました。
2016/04/16 文章の加筆・修正等を行いました。
2016/05/01 文章の修正を行いました。


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その3

△月○日 013

 王国の王女からホットラインがあった。

 お前絶対友達いないだろと言ったら、ペットがいるからいいとか言ってた。

 あと、蒼薔薇も友達だとか言っていたが、そんなもの冒険者からすれば権力者との単なるパイプにすぎないに決まってるじゃないか。悲しいやつだ。

 貴方にはお友達いるんですか? などと聞くから「アインズとは友達だ」と答えておいたが、何か負けた気がする。

 

 俺に敗北感を抱かせるとは、やはりあの女は嫌いだ。

 

 

 

△月×日 014

 帝国国民の間に、>しかしジル君の思惑通り人類国家連合が成される未来が全く見えない

 という意見があるらしい。

 

 何だ「ジル君」って? 皇帝を指して不敬だろう。

 平時であれば親しみやすい皇帝というのも理想だが、今はまだその時期ではない。

 見つけ出して首を刎ねておくように命じておいた。

 

 しかし9巻の帯には俺の肖像画と共にハッキリと「人類の運命をにぎるイケメン」と書いてあるのだから、最終的な俺の勝利は間違い無いはずだ。そうだろう?でないとオリジナルが嘘をついたことになるからな。

 必ずあの糞野郎を叩きのめしてやるのだ。

 

 

 

△月△日 015

 ナザリックにいるロウネから荷物が届いた。

 荷物の中はドライアドが育てているというリンゴ園で採れたリンゴだそうだが、毒見の後、俺自身も食べてみたところ、どこにでもある普通のリンゴだった。

 だいたいあの墓地のどこにリンゴ園があると言うのか。わざわざ墓地の中でリンゴなんか作る必要無いじゃないか。

 ナザリックには何でもあると自慢したいのだろうか? しかし、その意図がよくわからない。

 行った事が無ければ騙されもしようが、実際にこの目で見てきた俺が騙されるはずもない。

 入っていた箱には「ピニスン農園」と書いてあるが、どうせ王国かどこかで仕入れたものだろう。

 

 

 

△月□日 016

 王国の王女からホットラインがあった。

 最近、どうもこのホットラインの存在意義というものに疑問を感じるのだが、廃止を提案したものの大臣達に止められた。

 廃止したい理由は「王女が面倒臭い」という個人的な感情でしかなく、大臣達の「万が一の為の連絡手段は多い方がいい」という理由には確かに利があるので仕方が無い。

 

 しかし、最近王国で流行っているという、「人間の幼子が、睡眠の魔法と大人のような明晰な頭脳で難事件を次々に解決する物語」とやらの話を延々と聞かされる身にもなってほしい。「私の推理ですと黒幕は○笠博士と見せかけて本当は・・・」などと言われてもサッパリだ。

 だいたい、見た目が子供で中身が大人なら、それは紛れも無く長命の妖精種に決まっている。

 いつぞやのオーガの息子の話といい、王国では変なものが流行るものだ。

 

 

 

△月▽日 017

 王国の王女から荷物が届いた。

 牧場で育てた家畜の肉らしいが、牛や豚、羊肉に山羊肉もある。

 特に山羊肉は臭みもなく美味しいそうだ。

 なんでも「ジャングル」とかいう魔法通販で販売も始めるというが、そういうアイデアは王女らしいな。

 量があるので将軍達や三騎士にもお裾分けしてやらねば。

 彼等の喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。

 

 

△月□日 018

 ナザリックにいるロウネから手紙が届いた。

 最近は毎日、森の水辺で日光浴をエンジョイしてると書いてある。最近は曇り続きなんだが、あっちは晴れてるんだろうか。

 トブの大森林までナザリックからは相当な距離があるはずだが、そんな毎日出掛けて行って、あいつちゃんと仕事してるのか?

 

 それはそうと、先日の王国から届いた肉の件だが、皆にたいそう喜ばれた。たまにはあの嫌な女も役に立つではないか。

 届けに行った使者の報告では、カーベイン将軍も〝激風〟も涙を流して喜んだそうだが、少し大袈裟じゃないか?

 報告を聞いた時、たまたま傍にいた〝雷光〟が、何やら微妙な顔をしていたが、きっと彼も同じ気持ちだったのだろう。

 

 

◇月○日 019

 王国の王女からホットラインがあった。

 先日の肉の件は礼を言っておいたが、それはそれとして気軽にホットライン使うのは本気で止めて欲しい。

 それとなく注意したが、ペットの犬が両国の友好を深めるのは悪いことではないと言ってるからとか意味不明なことを言っていた。「クライム」ってあの女のペットの犬の名前だったよな?

 似た名前の側近でもいるのだろうか。

 

 

◇月×日 020

 またナザリックにいるロウネから手紙が届いた。最近多いな。

 心情的に仕事をしていると評価はしてあげたいが、内容は・・・まあ、当然検閲されているであろう手紙に重要なことは書けないだろうことも考慮すべきだろうし、あの化け物の巣窟に1人では、心細くもなるだろうし里心もつくだろう。その辺のことも斟酌してやりたい。

 

 なんでも大浴場のゴーレムから入浴マナーの真髄を教わったとか書いてるが、意味はわからん。

 〝雷光〟のやつは手紙を読んで、「あいつ本気で楽しんでませんか?」と言うが誤解だろう。だいたい、敵地に1人で頑張っているロウネに対して、「楽しんでる」などと言うのは失礼というものだぞと〝雷光〟にはきつく説教しておいた。

 しかしまあ、「チェレンコフ湯が最高」など意味不明な文言も多く、優秀だった人材も今は昔ということかな。悲しい話だ。

 

 




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2016/04/16 文章の一部を修正加筆しました。
2016/05/01 文章の修正をしました。


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その4

◇月△日 021

 珍しくナザリックから荷物が届いた。

 どうやら誕生日の祝いらしいが、俺の誕生日はもう半年も過ぎてるのに嫌がらせか?

 

 人一人は入れそうな大きな箱だが、重さは大きさに反して片手で持てる程度に軽い。箱にはメッセージが添えられており、名義は「代表・守護者統括」となっている。

 守護者統括とは、どういう地位の者だろう。「守護者」というからには恐らくアインズの近衛だろうし、「統括」というからにはその責任者か?近衛将軍とか親衛隊隊長といったイメージでいいのだろうか。

 恐らく、あの忌々しい謁見の時に玉座にいた六人の連中の内の一人だろうが、近衛隊長だとすると、あの王妃や愛妾ではないだろうし、双子の闇妖精も少々考えにくい。頭の悪そうな蛙の悪魔は論外として、残るはあの巨大な四本腕の白い蟲人のことだろう。

 うむ、確かにあれなら強そうだし、近衛の将軍のイメージにピッタリだ。

 

 そのような地位の者からの贈り物、さぞかし高価な魔法の武具かアイテムかと期待して箱を開けたら、「いつまでも健康であられますように」というメッセージと共に、あの糞野郎の等身大の姿絵が描いてある抱き枕が入ってた。

 

 絶対に許さない。

 

 

 

◇月◇日 022

 ナザリックから書状が届いた。

 アインズ名義で「アルベドが失礼した」と侘びが記してあった。

 そうか、あの巨大な白い蟲人はアルベドというのか。

 

 まあ、蟲人では人間の感覚など判らないと言うことなのだろう、やつらとは相容れない存在だということがハッキリ判る。

 向こうから侘びが入ったということで、この件は魔導国への貸しになると思ったのだが、「お詫びの印に3泊4日ナザリックツアー招待する」と書いてあった。

 こんなもの、行けば生きて帰れないのは明白ではないか。

 即座に断ることにしたが、これでせっかくの貸しも差し引きゼロになる。

 こうも素早く見事な策を打ってくるとは・・・やはりあの糞野郎の恐ろしさはあの智謀だ。

 

 

 

◇月▽日 023

 ナザリックから荷物が届いた。

 メッセージを見ると「守護者統括」名義になっていたので、またあのアルベドとか言う蟲人からのようだ。

 あんなゴツいなりをしてたのに、意外とマメなやつだな、などと考えながら箱を開けてみたところ、手紙と一緒に寝間着が出てきた。

 先日の誕生日を間違えた侘びの言葉と、前回の抱き枕とセットで使ってくれと書いてあったがちょっと待て。侘びるところはそこでいいのか?

 日付の間違いだけという認識なのか? 抱き枕に疑問は感じないのか? 小一時間説教したい気分だ。

 

 寝間着の胸のウインクするアインズアップリケが腹立たしい。

 

 

 

◇月□日 024

 ナザリックにいるロウネから手紙が来た。

 なんでも「「オールナイト・ナザリック」に出演が決まった」ということだが意味がわからない。 人気番組だと言うが、「番組」? 何を意味する言葉だろう?

 もう少し詳しく書いて欲しい所だが、当然検閲があるだろうし難しいのだろうな。

 オールナイトということは夜通し何かやるのだろう。

 何かの大会か祭りかのゲストということだろうか?

 まあ、文面からは随分と喜んでいるようなので心配はあるまい。

「帝国を代表して」とあるので帝国の品位を落とさないよう立派に勤めてもらいたいものだ。

 

 

▽月○日 025

 今日は平和な一日だった。

 今日のように毎日が平和で、頭を悩ます問題が起きなければどんなにいいか。

 そうそう、ナザリックからの贈り物は魔法の害も無さそうだったので、愛妾のロクシーに渡しておいたのだが、なかなか良い抱き心地、着心地だとか言ってた。

 

 え? あいつアレ、自分で使ってんの?

 俺はまた適当に処分しておいてくれというつもりだったんだが、彼女曰く、使わなければ相手に失礼だと言う。よく見ると可愛いじゃないですかとか言ってたが、ガイコツのどこが可愛いんだ?

 

 何で俺の周囲には変な女しかいないんだろう。

 

 




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その5

▽月×日 026

 最近王国の王女からホットラインが無い。

 別に寂しいわけではない。

 誤解の無いようにしてもらいたい。

 あの女の寄越す情報は役に立つことも多いから、これは仕事のようなものだ。

 帝国の利益となることだから、仕方なく相手をしているのであって、決して他心など無い。

 皇帝としての勤めであって、言い訳では無く、他国の情報を得られないことに困っているだけだ。

 それもこれも役に立たない情報部が悪いのだ。

 

 情報部は全員減俸にしとくか。

 

 

 

▽月△日 027

 今日、突然あの糞野郎が訪ねて来た。

 お忍びだと言うが、中庭に突然転移してきたのは目を瞑るにしても、護衛だと言う王妃?と予想していた女悪魔と、デスナイト30体にスケルトンの群れが後からワラワラ追いかけて来て、お陰で帝都は大混乱だ。

 お忍びも糞もあるか。死傷者が出なかっただけでも奇跡だろう。

 

 何の用かと聞いたら、ロウネの出た「オールナイト・ナザリック」が好評だったので、そういえば友人だったことを思い出して遊びに来たと言う。

 

 忘れてたのか。

 

 何かに負けた気もするが、永遠に忘れておいて欲しい気もするので複雑だ。黄金の嘲笑が聞こえた気がしたが気のせいだ。

 とにかく今日は忙しいということにして、また今度ということでお引取り願うことにした。

 

 二度とくんな。

 

 

 

▽月◇日 028

 久しぶりにお忍びで城下へ視察に出向いたが、そこで見つけた「帝国スポーツ新聞」とか言う興味深い読み物を見つけた。

 

 一緒にいた〝雷光〟が言うには、「帝スポは三流ゴシップ紙なんで鵜呑みにしたらダメだ」と釘を刺されたが、こういう所に意外な真実があるのかも知れないではないか。

 我々の敵は常識外の化け物なのだから、常識は大事だが、常識に囚われていては真実を見逃すぞと〝雷光〟には説教しておいた。

 

 確かに「バハルス皇帝王国王女と熱愛発覚!ヵ?」などというデタラメ記事(詳しく読む価値すら無い!)もあったが、「魔導国、王国に急接近?」という記事は一考に価する。なんでも王国の要人がナザリックに行ったとか行かないとか。

 情報部からの報告では動きは無いようだが・・・。

 

 連載記事の「ナザリック美人突撃インタビュー」のコーナーは、何か1つ聞く度に記者が殺されるナンセンス滑稽劇仕立てになっていて、ちょっと面白かったな。

 

 

 

▽月▽日 029

 最近王国からホットラインが無い。

 王女は別にどうでもいいが、王国の情報が入手できないのは問題だ。

 悩んだ末に、こちらからホットラインをしてみたら、ランポッサのジジィが出た。

 くたばり損ないのジジィには用なんぞ無いので、さっさと「お嬢さんをお願いします」と言ったら、えらい剣幕で「娘に何の用だ」と根掘り葉掘り聞かれて困ってしまった。

 こちらから用なんぞあるわけがないし、娘とはどんな関係だと言われても、そんなもの皇帝と敵国の王女に決まっているではないか。

 ジジィめボケたのか?

 挙句の果てに「娘は友人に招待されて旅行に行ってる」と言う。

 だったら最初からそう言えばいいのに、老人は話が長くて困ったものだ。

 

 あの国もそう長くないだろう。

 

 




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その6

▽月□日 030

 ナザリックのロウネから、えらく大きな荷物が届く。

 開けてみると「日刊・アインズ様を作る」という雑誌が入ってた。

 今回、ロウネが送ってくれたのは創刊号から20号までのセットで、毎号パーツが付属しており、最終50号まで組み立てると「1/16アインズ・ウール・ゴウン様オリジナル稼動フィギュア」が完成するらしい。

 魔導国では既に最終号まで刊行されているらしいが、誰が得するんだこれ?

 発行元は「デミゴスティーニ商会」という商人らしいが、これでは行く末が心配になるな。

 

 最終号まで組み立てると、目の奥が赤く光り、腰の赤い玉が明滅するギミック付きで、別売りパーツで着せ替えもできると書いてある。

 完成予想図も載っていたが、これって普通「骨格標本」って言うんじゃないのか?

 使わないパーツは最後に使うから大切に取っておけと説明書には書いてあるが、まだ途中なのに頭蓋骨のパーツだけで6個もあったり、明らかに動物の骨っぽいパーツもあるのはなぜだろう?

 しかし、ロウネがわざわざ送ってきたと言うことは、何か糞野郎の秘密に通じるヒントがあるのかも知れないので我慢して作ってみることにする。

 こういう些細なことから突破口が開けることだってあるのだ。

 

 

 

□月○日 031

 王国の王女からリンゴの詰め合わせが届く。

 旅行先から送ったらしいが、何か記憶に引っ掛かるものがあったので箱を調べたら、ピニスン農園のマークが付いていた。

 これは確か、以前、ロウネがナザリックからリンゴを送ってきた時に付いてたマークと同じマークに間違い無い。

 あんな墓場にリンゴ園なんかあるはずが無いと睨んでいたが、やはり王国内の農園から送ったものを偽装していたんだな。

 かつて貴族の使う香水から陰謀を見破ったことのある私だ。この程度のことなら簡単に見破ってみせるさ。

 

 きっとナザリックには何でもあると思わせたい糞野郎の策略だろうが、農園のマークにまでは気が及ばなかったと見える。

 あの嫌な女も、たまには役に立つではないか。

 糞野郎め、この鮮血帝を舐めてくれたものだが、この程度の策に騙される俺ではない。

 

 

□月×日 032

 〝雷光〟のやつが帝スポを持っていたので読ませてもらった。

 あいつ、人には「単なるゴシップ紙だから出鱈目記事ばかりですよ」などと言いながら、自分は買って読むってのはどういうことなんだと突っ込んでやったが、聞けば闘技場の勝敗予想とオッズが載ってるので時々買うのだそうだ。

 〝雷光〟にそんな趣味があるとは知らなかったが、そういえば何ヶ所か赤い印を付けてたな。求人欄にも印が付いてた気がするが偶然だと思うことにする。

 

「スレイン法国内紛勃発!?」という記事がなかなか面白く、何でも宗派間の内紛で六聖典の内2つが壊滅状態だとか。

 例年なら送られるはずの竜王国への援軍が無いなど、それらしい根拠は挙げているが、本当なら情報部がとっくに報告している話。こりゃガセだろう。

 まあ、以前なら快哉をあげる話だし、これからの魔導国包囲網を考えると複雑な話だが、作り話としては良く出来てると感心した。

 あと、「ナザリック美人突撃インタビュー」は記者不足により休止とあるが、殺され尽くしたという設定なのだろう、面白かったのにな。

 

 

 

□月△日 033

 〝重爆〟のやつが暇そうにしてたので帝スポを買ってきてもらった。

「こんな低俗なものを読まれるのですか?」と聞くので、庶民目線の情報の重要性と、ゴミの山の中から宝を探し出す訓練の必要性を説いてやった。

 なるほどと感心していたので、理解してくれて俺も嬉しい。

 部下の教育というのは大切だからな。〝雷光〟が微妙な顔でこっちを見てたのは無視する。

 

 特に目を引いた記事としては、魔導国のエ・ランテルから2日ほどのカルネ村という所に、<カルネ・ナザリック・ランド>という謎の施設群の建設計画がある、というものがあった。

 記事によれば<吸血姫と13人のレッドキャップス>とか<ブラックボックス・マウンテン>、<カッツェ平野の幽霊船>、<ホーンテッド・ダンジョン>などの施設が作られる予定と書いてある。

 目玉は<ウィザーディング・ワールド・オブ・アインズ・ウール・ゴウン>と書いてあるが意味不明だ。

 あの糞野郎の考えることだし、アンデッド軍団の生産工場でも作るのだろうか?

 情報部からは何もいってこないが注意はしておくべきだろう。

 

 

□月◇日 034

 王国の王女から久しぶりにホットラインがあった。

 随分と語無沙汰だったなと言うと、何でも友人の所に抱き枕の作り方を教わりに行ってたそうで、「クライムの抱き枕を作ってきた」と言っていた。

 どんだけ犬好きだ。

 俺にも作ってあげましょうか、などと言ってたが、鮮血帝と呼ばれるこの俺が抱き枕など使えるものか。

 もうアインズ抱き枕を持ってるからいいと言って断った。

 しかし・・・抱き枕流行ってるのか?

 

 追記、〝雷光〟のやつが「嬉しそうですね」などと言うので殴っておいた。

 なんかムカついて止められなかったが、今は反省している。

 

 




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その7

□月▽日 035

 情報部に帝スポ定期購読の手続きをさせておいた。

 月内は無料配達してくれるらしいので、とってもお得だ。民の税金を無駄にはできないからな。

 皇帝のクセにしみったれてるって?

 とんでもない。臣民の生命と財産を有効に使うのは名君の条件だ。決して無駄にしてよい物では無い。歴史に名を残す身としたら、この程度の配慮は嗜みだろう。小物て言うな。

 

 情報部も洗剤と闘技場の無料チケットをもらったと喜んでいた。〝雷光〟もさっそく無料チケットを分けてもらっていたようだ。

 部下達の喜ぶ顔が見れるというのは良いものだな。

 

 

 

□月□日 036

 帝スポの「ナザリック美女突撃インタビュー」のコーナーが復活していた。

 嬉しい限りだ。

 国民の休日にしてしまおうかと言ったら、〝激風〟が「冗談ですよね?」と言うから「もちろん冗談だ」と笑って誤魔化しておいた。〝重爆〟がチッと舌打ちしてた気がするが気のせいだろう。

 

 今回はユリとか言うメイドの番だったが、確かアインズのお手つきだったな。俺好みの美しいメイドだったが、あんな墳墓にしまっておくとか、本当にもったいない。

 中断前のナーベル? だったか? のメイドの時は、一言毎に記者が殺されてたが、今回は多少落ち着いたインタビューのようだ。

 しかし

 >ユリ姉さんだけ30代に見える

 こんなことを言えば、あの優しそうなメイドでも怒るだろう。

 パンチ1発で頭を潰されたというのは大袈裟だが滑稽で笑ってしまった。

 

 

 

○月○日 037

 ナザリックのロウネから、「日刊・アインズ様を作る」の残りの号が届いた。

 発行済みの号なら一気に全部送ってくれた方が、こちらとしては楽なんだが、一気に送ると荷物が大きくなりすぎて送料が馬鹿にならないそうだから仕方が無い。ロウネのことだから、その辺は抜かり無いだろう。

 

 送料節約とかセコイ?

 全ては帝国臣民の財産なのだから、帝国の為に効率良く使うのは当然だろう。無駄にしてよい金などない。その程度のことも理解できないとか、貴様が皇帝でなくて良かったな。俺が皇帝で、帝国臣民は幸せ者だ。

 

 さて、別に楽しみにしていたわけでは無いが、さっそく完成させてみようと思う。

 情報の早期入手は重要だからな。

 明日予定していた新編成近衛閲兵式と竜王国援助計画会議は中止だ。

 

 

 

○月×日 038

 例の「日刊・アインズ様を作る」を最後まで作ってみた。

 最終的に用途不明で余っていた部品の使い道が判明したが、隠し要素として「デミウルゴス様デザイン白骨玉座」というものが出来上がると書いてあった。様々な種類の骨が組み合わされた、おぞましき玉座だ。

 デミウルゴスと言えば、確かあのカエルの悪魔の名前だが、このような邪悪なことを考えていたとは・・・さすがロウネ、すっかり連中に懐柔されたように見せかけて、このことを伝える為にこれらの荷物を送ったというわけだ。

 やはり魔導国との共存など絶対に有り得ないと確信した。

 

 ロウネの手紙には、次は「日刊・ナザリック大地下墳墓を作る」を送る予定だと書いてある。

 これであの墓地の秘密を暴けると思うと楽しみだ。

 

追記

 完成した糞野郎は、やはりどう見ても骨格標本にしか見えん。

 迷惑なことに、完成すると全体が暗闇で青白く光るギミックがあったようだ。夜中に起きて枕元で光ってた時は、さすがの俺もちょっとビビった。

 

 

 

○月△日 039

 かねてナザリックのロウネから予告のあった「日刊ナザリックを作る」が届いた。

 とりあえず創刊号~40号までで、これで地下第1層~第4層の様子が判明することになるらしい。

 

 早速作って情報を得なければならないので、今日予定されていた竜王国援軍計画会議は延期することにする。

 秘書官は困っていたが、元々あそこはいつも法国に頼ってたのだから、別にうちが無理して苦労してやる義理は無いではないか。そうだろ?

 事の重要性を考えれば、魔導国対策と竜王国の支援では、どちらを優先するかは自明の理だし、こちらも近衛が半壊している上に、周辺の治安維持に使っていた腕利きのワーカー4パーティーが壊滅して、戦力のやり繰り苦労しているのだ。

 とても竜王国救援にホイホイ戦力を出せるような余裕は無い。

 

 〝雷光〟が「竜王国ほっといていいんですか?」と聞くから、「ではお前が行くか?」と聞いたら、今度闘技場で大事なレースがあるから無理ですと言っていた。

 ちょっと驚いて「お前、闘技場の試合に出るのか?」と聞いたら、そうではなくて闘技場で年に数回開催される八足馬(スレイプニール)のレースがあって、「次はニッパチで鉄板なんです」だとか力説していた。

 闘技場でそんなことをやっているのは知らなかったが、ちょっとした悪戯心で「では竜王国はどうするんだ?」と聞いたら「ほっときましょう」と即答していた。

 現金なものだ。

 

 




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その8

○月◇日 040

 緊急の課題である「日刊ナザリックを作る」の製作に取り掛かる。

 これでナザリックの地下第4層までの秘密が判明するはずだ。

 あの糞野郎も、まさかこのような所から情報が漏れるとは思っていなかっただろうな。迂闊なやつだ。

 

 創刊号の付属品は、だいたい1m四方くらいの箱庭状になっており、これに2号以降の付属品を配置したり、ギミックを設置するという手順になっている。

 10号まで作ると第1層の完成で、11号~20号で第2層、21号~30号で3層と、さらなる箱庭を重ねていくという手順らしい。

 これはかなりの大仕事だ。

 

 〝重爆〟が、「誰か使用人に作らせては?」と言うが、こういうものは見落としがあった場合に、作った者でないと気付かないこともままあるものだし、他人に任せては墓穴を掘ることもあるだろう。人類種の存亡に関わる重要な情報収集作業でもあるのだから、それは避けねばならない。

 重要なことは人任せにしてはいけないものだと〝重爆〟には諭しておいた。

 

 決して遊びで作っているわけではないのだから。

 

 

 

○月▽日 041

 珍しいことにスレイン法国から使者が来た。

 ダンジョンの調査で忙しいというのに、まったく空気を読まないやつらだ。

 

 使者の用向きは、とりあえず時候の挨拶と言うことだが、実際は魔導国の動向を、表向きその同盟国ということになっている我々帝国から探りを入れる目的だったようだ。

 まあ至極当然、国家としては当たり前の行動だな。我々が法国でもそうするし、むしろ使者を送ってくるのが遅いくらいだ。

 竜王国への対応も遅いようだし、いつぞや帝スポの記事で見た「法国内紛で弱体化」というゴシップ記事もあながち出鱈目ではないのかと心配になったが、冗談交じりに記事を持ち出して牽制してみた所、「スルシャーナ神の元、我々は一枚板です」と自信満々に言っていたから大丈夫なのだろう。

 法国は、その国是からしても表向きには対魔導国包囲網の中心に座ってもらわなければいけない重要な国だからな。

 でも、確かあそこの神様6人いたよな? 5人はどこに行ったんだ?

 

追記

 法国の使者の手土産の中に、ピニスン農園のリンゴがあった。ピニスン農園とやらは、随分と手広く商売しているようだ。

 しかし、周辺国では俺がリンゴ好きとでも噂になってるのだろうか? いつもリンゴを貰っている気がする。

 別に嫌いじゃないが、特別好きなわけでもないのだが。

 

 

 

○月□日 042

 ロウネが送ってくれた「日刊ナザリックを作る」の到着分がやっと完成した。

 ナザリック地下大墳墓の地下第1層~第4層の詳細が明らかになったのだ!

 

 全体的に石造りの地下迷路になっており、転移の罠や隠し扉、一方通行の通路、落とし穴、回転床など、あの糞野郎の性格の悪さが存分に発揮された作りになっていると言っていい。

 しかし、こうした罠については「そこにある」という情報さえあれば回避は容易だ。多少罠の位置がズレていたり種類が変更されていても、全く情報が無い状態と比べれば、より被害を抑えることができるだろう。

 この情報は、我々があの糞野郎に対してアドバンテージを1つ手に入れたということに他ならない。

 

 攻略法は、第1層で「銀の鍵」と「青銅の鍵」を入手したら、第2層に降りて「熊の置物」と「蛙の置物」を入手し、この2つの置物を使って「金の鍵」を入手する。

 次に第4層に降りたら「金の鍵」で進んだ先にある「モンスター配備センター」の敵を排除して「ブルーリボン」を手に入れれば第4層の攻略完了だ。

 注意すべき敵は第1層の<マーフィーズゴースト>と、第2層と第4層に出る<ボーパルバニー>等のクリテカルヒットで首を刎ねにくる敵と、エナジードレインを使う<シェイド>、4階の「モンスター配備センター」に出る高レベルの敵パーティーだな。

 攻略は大変だが、こうして着々とナザリックの全容が暴かれようとしているとは、あの糞野郎も知るよしもあるまい。

 

 

 

×月○日 043

 これまで判明したナザリックの攻略についての会議が行われた。

 出席した参加者からは

 >これウィザードリーだよ!!

 >ジル君騙されないで!!

 との声も上がったが、ナザリックで直接危険に身を晒すロウネからもたらされた情報と、冷暖房の効いた部屋で親の脛を齧って生きる愚者の言葉では、どちらが信頼に値するかは明白ではないか。 そもそも皇帝に対してジル君呼ばわりなど許されるはずもないではない。即刻首を刎ねておくよう命じておいた。

 

 震えて眠れ。

 

 

 

×月×日 044

 最近は朝一で帝スポを読むのが日課になってしまっている。

 色々と頭を悩ます問題は山積みだし、このくらいの息抜きは許して欲しいものだ。

「影に潜む悪魔の目撃談」や「深夜の帝都を徘徊する銀色の巨大な蟲の恐怖」なんて眉唾な記事も多いが、本当にそんなものがいたらとっくに人的被害が出て大騒ぎになっているだろう。 まあ、笑って済ませることができる記事に罪は無い。

 

 今回の「ナザリック美女突撃リポート」のゲストはニューロニストという女性だった。

 なぜかいつも載ってるイラストが無いから、どんな女性かはわからないが、ナザリックの女ならさぞかし美しいのだろうし、目の保養に是非一度見てみたいものだ。

 珍しく今回の記者は殺されなかったようで、「最後にチュー」と書いてあるからキスまでされたみたいだし、随分とサービス心旺盛な女性だな。

 男としては少し羨ましいと感じなくも無いぞ。

 

 




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その9

×月△日 045

 ロウネから待望の「日刊・ナザリックを作る」の続刊が届いた。

 今回は41号~60号となっており、地下第5層と6層が作れるようだ。

 竜王国援軍派遣検討会議が予定されていたが、対魔導国対策の方が重要なのは言うまでも無い。急遽中止して作ることにする。何か問題でも?

 

 秘書官が何か言いたげにしていたが、代わりに帝都周辺、特にダウンタウンの拡張整備計画の立案を指示しておいた。

 これくらいの仕事なら、いちいち俺の指示無しでも纏めきれるだろう。

 昼食時に少し覗いてみたが、表紙に「タウンワ○ク」と書いた資料を熱心に読む姿が見えたので大丈夫のようだ。

 

 

 

×月◇日 046

 いつものように帝スポを読んでいたら、昨晩闘技場で行われた試合の結果が出ていた。

 あまり品の良いことではないので大っぴらには言えないが、実はこういった庶民の娯楽は嫌いではない。大きな試合にはそれなりに注目しているのだ。

 

 昨晩は新人のデビュー戦や、ワーカーvsモンスターの戦いを前座に、メインは闘技場最強の亜人剣士・武王vs謎の挑戦者・スケルトン死国の一戦が行われ、どうやら武王が不戦勝で勝ったらしい。

 記事によれば、リングインしたスケルトン死国が「しっこくしっこく!」と乗馬のようなキメポーズで観客に向かってアピールしていたところ、突然肉離れを発症して担架で運ばれたとあるが、肉離れ? ・・・え? ・・・だってホネ・・・肉?

 思わず2度読み返してしまったが、スケルトン死国ってやっぱりスケルトンだよな? スケルトン・・・

 

 肉離れ?

 

 いつも楽しみな「ナザリック美女突撃リポート」のゲストはニグレドという女性だった。

 今回もイラストが無いのは不親切だが、子供好きな、母性愛に溢れた女性だという。

 インタビューの冒頭で記者が包丁でメッタ刺しにされたというのは記者の味付けなんだろう。

 随分とリアルな表現だった気もするが、滑稽味がこのコーナーの売りだしな。

 

 

 

×月▽日 047

 ロウネが送ってくれた「日刊・ナザリックを作る」の第5層分が完成した。

 

 第5層はこれまでの石造りのダンジョンとは全く変わっていて、雪と氷の世界になっている。

 この層は構造的には単純な雪原だが、吹雪で視界が狭く、恒常的に極低温のダメージを受けるというのが問題だ。低温に対する装備が無いと攻略はほぼ不可能に近い。なんと厄介な構造だろう。

 地下にこんなフィールドがあるとは普通考えないし、情報が無ければ対策は難しかっただろう。

 こんなものを地下に構築するとは、アインズ・ウール・ゴウン恐るべし。

 

 攻略法だが、ここで最初にやるべきことは、まず「山男」と「トナカイ」と「雪だるま」を共にして、この層のどこかにいる「○ナ」という女を探し出して仲間にすることだ。

 すると雪の城にいる「ア○」の姉である「エル○」という雪の女王に会うことができる。

 極低温のダメージも、「ア×」と「×ルザ」がいれば少しも寒くないので平気だ。こうして書いてる方は変な汗が出て、ちっとも平気じゃないが。

 雪の女王に会うと、「ハ○ス」というラスボスが現れるので、こいつを倒せばクリアだが、歌いながらでないとダメージが通らないようなので厄介だな。

 というかこのネタ自体が厄介だ。

 

 

 

×月□日 048

 ロウネが送ってくれた「日刊・ナザリックを作る」の第6層分が完成した。

 

 ここはまるで地上を再現した階層で、山や草原、湖まであるのだから笑ってしまう。

 わざわざ地下にこんな環境を再現する者の気が知れない。普通に地上でいいじゃないか。

 

 この階層に降りると、それまでの装備は全て没収されてしまうらしい。1から揃え直さなければならないのが面倒だ。

 最初にショップで装備を揃えるが、与えられる所持金の120Gでは、防具を先に揃えると武器は「竹ざお」しか買えないので注意が必要になる。

 初期村の周囲で雑魚を倒して地道にGを稼ぎ、装備を整えてから遠出するのが良いだろう。急がば回れ、だな。

 ちなみによく勘違いされるが、「ひのきの棒」は存在しない。バージョンにもよるのだが、あれは基本的にⅣからの登場だ。

 後はフィールドや各地のダンジョンで敵を倒しつつ、徐々に装備やアイテムを揃えて、「竜○の城」でラスボス「○王」を倒せばクリアとなる。

「○王の城」ではラスボス戦前に「ロ○の剣」を取るのを忘れないように。

 機種によって仕様が若干違うことにも注意が必要だ。スマホ版はスー○ァミ仕様に準拠だから覚えておくといい。

 

 

 

△月○日 049

 竜王国から使者が来た。

 以前から援軍の要請に対しては対応を検討していたが、まだ結論には至っていない。

 使者が言うにはビーストマンによっていくつかの都市が落とされ、援軍は急を要するとのことだが、こちらにも都合というものがある。

 使者には、こちらも近衛を含む騎士、兵士の状況や、今や四騎士が三騎士になってしまった現状を踏まえて、簡単ではないことを説明し、今日明日にでも会議して、なるべく早く結論を出す意向だということで納得してもらった。

 〝雷光〟が何か言いたげな様子だったが、目が合うと逸らしたので気にしないことにする。

 

 使者はこれからエ・ランテル経由で王国に援軍要請をしに行くという。

 大変だろうが頑張ってもらいたいものだ。

 

 




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その10

△月×日 050

 ロウネから待望の「日刊・ナザリックを作る」の続刊が届いた。

 今回は61号~80号で、地下第7層と、いよいよ最終の第8層だ。

 早急に完成させるため、予定していた竜王国援軍派遣検討会議は延期する。〝雷光〟が「もう中止しちゃっていいんじゃないですか?」と言っていたが、大事な包囲網の一角なのだから捨て置くわけにもいない。ちょっと延期するだけだ。

 まだ援軍の要請をする元気があるんだから少しくらい大丈夫だろう。多分。

 

 ところで、以前作ったアインズフィギュアで最近気になることがある。

 あれ、明らかに髪の毛が伸びてるのだがどういう仕掛けなのだろう? ていうか、アイツ髪生えてたっけ? そんなギミック組み込んだ覚えが無いのだが・・・。

 

 主席魔法使いに調べさせたが、魔法的なギミックではないとの報告で、なぜか神殿に持っていくべきだと力説していたが、魔法的なものでないなら神殿に持っていっても神官達が困るだけだろう。とりあえず害は無いようなので放っておくことにする。

 

 

 

△月△日 051

 思わぬ所で思わぬ事実が判明した。

 帝スポでチラリと読んだ記憶のある「帝都を徘徊する銀に輝く蟲」とやらの正体が、実はお忍びで帝都観光に来ていた魔導国の貴族だったらしい。

 問題は、魔導国の貴族が帝国に断りも無く帝都を訪問していた、という点だが、フールーダの誘いで遊びに来ていたらしく、「元」とはいえ帝国主席魔法使いが招待していたとなると文句もつけにくい。

 フールーダの裏切り者め余計な真似を・・・いや、何か企てているのか? 監視の強化は必要だな。

 

 当の貴族からは、非常に丁寧な詫び状(貴族らしい知性を感じさせる文面だ)が届いており、事を荒立ててこちらのカードにするのは難しいかも知れない。

 しかし、詫び状には「恐怖公」という署名があるが、えらく大層な名前だ。

 まあ、大抵「○○公」などというのは世襲で、「恐怖」などと付いてても文面からすると案外優男かも知れん。かく言う俺にしたところで「鮮血帝」などと呼ばれるが、別に血が好きなわけでもないのだから。

 まあ、詫び状には「その内挨拶に伺う」とあるから、会えば判ることだろう。

 

 

 

△月◇日 052

「日刊・ナザリックを作る」第7層が完成したが、ここは火山が噴火し溶岩流の川が流れる灼熱の世界だ。

 あらゆる場所に罠が張り巡らされており、また、高熱による恒常的なダメージも馬鹿にならないので熱対策が必要だが、アイテム類は第6層で取り上げられるのでアイテムや装備では対処ができない。汚いなさすがアインズきたない。

 ここは魔法による火耐性向上能力が絶対に必要となる。

 

 しかし、階層自体の構造は単純であり、火耐性への対処さえ出来れば後は力によるゴリ押しの勝負が可能となる。

「テレスドン」「デッドン」「バラゴン」などの地底怪獣や、「グドン」「ツインテール」などの古代怪獣、「バードン」「ボルカドン」「ヴォルケノンザウルス」などの火山怪獣が主な敵だが、どれも人間にとっては強敵だ。

「火○湖の大怪獣」なんてのもいるが、これは興味を引いて「火山湖の大○獣」でググらせたい中の人の設置した罠だな。気の迷いでDVD買わせたら俺の勝ちだとか言っていた。俺だけ損してたまるものか、とも。

 

 中の人のメッセージを伝えておこう。「みんなでポチって俺と一緒に地団太踏もうや」

 

 

 

◇月○日 053

 いよいよ最終第8層が完成し、その全貌が明らかになった。

 これはまさに難攻不落の大要塞と言える全容だ。

 

 聳え立つ異様で巨大構造物を中心に、堀と城壁が張り巡らされて迷路状になっており、特に北・東・西の3方は傾斜もあって攻め手には不利だ。

 中央構造物は外見から5層構造で、天辺の屋根に飾られた2匹のリヴァイアサンの彫像が印象的だ。

 弱点は南からだが、ここには真○丸と呼ばれる小規模の要塞があり、「エクレア」というナザリックでも有数の名将が守っているらしい。

 こいつの通った後には「塵一つ残らない」というから、相当の猛将だと推定できる。

 名前からすると女のようだから、あの時玉座の近くにいた王妃らしき白い女悪魔か、銀髪の愛妾のどちらかかも知れない。

 

 ちなみに構造の知識はwikiに頼ったが、このような苦し紛れのネタを突っ込んできた所に色々と察する優しさがあれば、そこは口を慎むべきだ。

 最重要拠点である中央の構造物の中までは再現されてないが、この中に、あの時の玉座の間もあるのだろう。

 そこはロウネが実際に住んでいるのだから、彼の知識をすり合わせれば補完も可能か。

 

 あの糞野郎を討ち果たす日が近づいている。

 

 

 

◇月×日 054

 魔導国の恐怖公より、先日の侘びということで荷物が届いた。

 開けてみると角笛が入っており、主席魔法使いに調べさせたところ、かなり高度なマジックアイテムだと言う。

 同封の手紙によると「恐怖公の角笛」といい、カルネ村の「エンリ」とかいう将軍の使った「ゴブリンの角笛」を改良したものだそうだ。

 かの「ゴブリンの角笛」で呼び出せるのは、多少高レベルとはいえ単なるゴブリンに過ぎないが、「恐怖公の角笛」では公の選りすぐりの精鋭軍団を呼び出せるのだと言う。

「使いきりアイテムなので万一の時に呼び出して身を守らせると良い」と書いてあるが、いったいどのような精強な護衛が出てくるのか楽しみだ。

 ゴブリンの強化版なのだから、出てくるのはオーガかトロルか・・・やはりあのデスナイトのような大迫力のモンスターが出てくるのだろうか。

 しかし、敵に塩を送るとは、間抜けなのか誠実な人柄なのか・・・寝返り工作の対象として一考に価するかも知れん。

 

 




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その11

◇月△日 055

 今日は一日会議のし詰めで疲れた。

 午前中は内政の細々とした方針を決定し、午後からはナザリック攻略検討会議だ。

 

 ナザリックの模型を参考に議論百出したが、まだ攻略の糸口は見えてこない。

 特に問題は4層のワー○ナ、5層ハン○、6層の竜○、そして8層の猛将エクレアを倒せるかだが・・・火山湖の大怪獣はなんとかなるだろう、もうDVDはポチったな? まさか俺を一人にはしないな? 信じてるぞ?

 

 片足持って行かれる覚悟で地雷をあえて踏んだら、実は中まで乾いてない犬のウ○コでした、という微妙な気分、HP半分持って行かれる覚悟をしてたのに、気付いたらなぜかHPは満タンなままで、MPを全部持っていかれました、という微妙な情けなさを皆にも味わって欲しいのだ。

 もちろん本当に買って文句言われても、俺の知ったこっちゃないが。

 

 検討すればするほど、やはりあの地下大墳墓は難攻不落の要塞と言えるが、そのうち必ず突破口を見つけ出してやるさ。

 あと、そういえば何か大事な援軍の会議をするのを忘れてる気がするが、忙しいと気ばかりが急いて、よくそんな気分に陥りやすいものだし、まあ、気のせいだろう。忘れよう。

 

 それにしても誰か悪戯者がいるらしく、寝室に置いてあるアインズフィギュアを会議室に置いていったヤツがいる。

 〝雷光〟が「あれ、自分で歩いて来ましたよ」などと青い顔で言ってたが、寝ぼけたんだろう。会議中に居眠りとはけしからんと叱っておいた。

 確かに、枕元に飾っていたはずが、なぜか朝にはベッドの下に転がっていたこともあったが、魔法に対する調査は、ちゃんと主席魔法使いに行わせている。

 マジックアイテムでもない、只のフィギュアが自分で歩くわけないじゃないか。

 最近弛んでるんじゃないかアイツ。

 

 

 

◇月◇日 056

 近隣の巡幸で、10日間ほど三騎士を伴って帝都を留守にしていた。

 領地内を直に視察するというのも重要な職務だ。

 

 しかし、どうやら留守の間に突然、魔導国から恐怖公が挨拶で来訪して来ていたという報告を受けた。どうもあそこの連中は事前にアポイントを取るということを軽視するきらいがあるな。

 俺が留守だったので代わりにロクシーが代理で応対したらしいが、ロクシーに聞いてみたところ「とても和やかに歓談してお帰りになられた」ということだった。

 どんな男だったか聞くと、「色黒で小柄だが、気品に溢れ、知的で物腰の柔らかい貴族、といった御仁でした」と言う。

「恐怖公という名は言いえて妙ですね」などと笑っていたのは良く解らないが、できれば直接話してみたかったな。

 

 しかし、「奥方に」と言ってプレゼントされたというブローチを見せられたのだが、精緻で繊細な細工を施した銀色に輝くゴ○○リというのはどういうセンスだろう?

 鳥でも動物でも、虫にしたって蝶とか色々あるだろうに、なぜあえて○キブ○なのだ?

 ロクシーは気に入ったと喜んでるようだし、偶々一緒にいて見せられた〝重爆〟も、「凄い」「綺麗」を連発してたが・・・これは俺のセンスの問題なんだろうか?

 

 

 

◇月▽日 057

 留守で読めなかった帝スポを久しぶりに読んだ。

 闘技場で武王vsスケルトン死国のリターンマッチをやってたはずが、なぜかカード変更になり、武王vsエスカルゴ○ンの試合になっていた。

 結果は武王がエ○カルゴマンを瞬殺し、エスカ○ゴマンは重態で今夜がヤマダ、と言うが誰か気付くやついるのかこのネタ。

 

 肝心のスケルトン死国は、過去記事によると急性胃腸炎で入院したらしく、それでカードが変わったようだ。いや、でもあいつホネ・・・胃腸?どこに?

 

 まあいい。

 いつも楽しみな「突撃!隣のナザリック美女」のコーナーだが、今回、どこを探しても名前が載ってない。

 イラストによると、長いストレート髪の、眼帯をした可愛らしい少女だが、記号と数字が書いてあるだけで、肝心の名前がわからんではないか。

 記者のミスだろう、数人射殺されているようだが、しっかりしてくれないと読者が困る。

 今回の少女は大人しいのかほとんど喋ってないが、それでも美しい女性というのは疲れた男心を和ませてくれるものだ。

 そういう意味で「激突!ナザリック美女インタビュー」コーナーは・・・コーナー名、中の人が素で混乱してるっぽいのだが、もうこれでいいよな。

 

 

 

◇月□日 058

 情報部から、「魔王ヤルダバオトによる王国の騒乱」事件の詳しい情報がもたらされた。

 事の発端は、王国内の犯罪組織が入手して隠匿していた「悪魔を使役できる魔法のアイテム」を「魔王ヤルダバオト」自らが奪取に動いたということらしい。

 これに対抗する王国は、「蒼の薔薇」と「漆黒」というアダマンタイト冒険者チームを雇ったらしいが、特に「漆黒」のモモンという男は単騎で魔王を圧倒する強さだという。

 さらに犯罪組織のアジトを壊滅させたメンバーの中には、王国最強のガゼフ・ストロノーフと並ぶと言われる戦士「ブレイン・アングラウス」と、「セバス」なる謎の人物がいたらしいが、この「セバス」も「漆黒」のモモンに引けを取らない強者だという証言があるらしい。

 しかも、この人物は帝国商人の家に仕える執事だと言うではないか。

 早速、探し出して繋ぎをつけるように命令しておいた。

 

 対魔導国を考えれば、冒険者である「蒼の薔薇」や「漆黒」のモモンはモンスター退治という形で雇えるだろうし、帝国の臣民たる「セバス」も問題無いだろう。

「ブレイン・アングラウス」については、まだ立ち位置が不明な点があるため定かではないが、もし雇えるならば大きな戦力だ。

 そしてこれが秘策中の秘策だが、事件後に発見されて現在は王国の秘匿する所となった、「悪魔を使役できるアイテム」を入手できるならば、「魔王ヤルダバオト」を対魔導国の戦力として利用できる可能性があるというのだ。

 まだ細かい詰めは必要だが、あの糞野郎を倒す希望の光が見えてきたと言えるのではないだろうか。

 

 

 

▽月○日 059

 今日は王宮での公務が終わって、久しぶりに邸宅の方に戻ったのだが、どうもロクシーのやつが使用人を一部入れ替えたらしく、見慣れない者が数人いた。

 全員が白手袋以外は黒一色の執事服で、目・鼻・口の部分だけ白い縁取りのある黒い目出し帽をしているんだが、あれは何か流行りか?

 ロクシーに聞くと、「よく働いてくれて助かってますよ」と上機嫌だったが、確かに以前より掃除が完璧に行き届いていて、空気まで美味しいような気がするほどだった。

 

 誰かの紹介かと聞くと、「恐怖公」の知り合いの、「エクレア」とか言う御仁の紹介だと言ってたが、確か「エクレア」といえばナザリックの猛将とかいう、あの「エクレア」のことだろうか?

 だとするなら、これは上手くすればこちらの陣営に引き込むことができるのではないだろうか?一考の価値がある。

 ただ、たまたまバードマンのヌイグルミ(あれはロクシーの物か?)を運んでいた使用人にすれ違って、ちょっと声を掛けてみた所、「イー!」としか喋れないのには困ってしまった。

 まあ、こちらからの意思疎通は全く問題ないようだし、仕事は完璧のようなので様子を見ることにしよう。

 

 




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その12

▽月×日 060

 今日は久しぶりに帝スポを読んでたら、いつも楽しみにしていた「大爆発! 隣のナザリック美女晩御飯インタビュー」のコーナーが今回で最終回なのだそうだ。

 タイトルが適当に思えるのは中の人が本気で忘れた結果らしいので仕方が無いが、備忘メモに「ナザ美女」としか書いてないとか何の為の備忘メモだ。

 

 それはそれとして最終回の今回は特別ゲストで「ゴールド」という匿名女性らしいが、イラストだと長い髪の後姿・・・後姿じゃ意味無いじゃないか。

 普段は他所に住んでいて、ナザリックの友人に会いに来たそうだが、いつもならサクサクと痛快に殺される記者が、今回は無事のようだ。

 ただ、失礼な質問(いつもはこれで記者が殺される、というパターンが、このコーナーの肝だからな)だと、彼女がいつも連れているという、自慢の番犬が恐ろしい雰囲気を醸し出す様子は伝わってくるので、よっぽど大きな犬なんだろうと想像できる。

 魔犬でも飼ってるのかな?

 

 ちょっと気になったのは、この女性が記事の中で、このバハルス帝国皇帝たる私を「とても面白い友人」だと言っていることだ。

 俺にナザリックに出入りするような人外の女性の友人などいないし、三流ゴシップ紙につき物のデッチアゲにしても、この捏造を放置しては帝国の名誉に関わる。

 これについては断固抗議をしなければならないだろう。

 

 

 

▽月△日 061

 先日、会議の合間の休憩時間に〝雷光〟〝激風〟〝重爆〟の3人が揃って何やらやっていたので、ちょっと様子を覗いてみると、最近流行のゲームで楽しそうに盛り上がっていた。

 なんでも携帯型のマジックアイテムで、魔法で通信してバトルしながらナザリックのダンジョンを攻略するゲームをやっていたそうで、「ナザリックこれくしょん」略して「ナザこれ」というゲームらしい。

 そういえば最近では「素魔法(スマホ)」とか言う色々遊べるマジックアイテムがあるらしいことは知っていたので、庶民の嗜好に通じておくのも上に立つ者の嗜みの一環だと思い、ちょっと調べて手配しておいたのが今日手元に届いた。

 

 さっそく届いた「素魔法」を持って、たまたま近くにいた〝雷光〟に見せたのだが「素魔法買ったんですか!」と、なぜか羨ましがられた。

 不思議に思って「この前、「ナザこれ」やってたじゃないか」と言うと、「ナザこれ」は「PMP(プレイ・マジック・ポータブルの略だそうだ)」のゲームですから素魔法じゃできませんよ?」とアッサリ言われた。

「一緒にナザこれやりたかったんですか?」と言うのでムカついたから一発殴っておいたが、何もかもアインズの糞野郎が悪い。

 

 

 

▽月◇日 062

 帝スポを読んでいたら、今年から始まる大陸リーグの展望が載っていた。

「問題ではあるが戦争にするまでもない」というような懸案事項を、代表チームが野球で決着をつけて平和的に解決する、非常に重要な競技だ。

 カッツェ平野の虐殺に衝撃を受けた各国が、なるべく武力を行使せずに問題を解決しようと知恵を出し合った画期的な試みとなる。

 世界観?何を今更。

 

 参加国は、当初の予定では帝国エンペラーズを筆頭に、法国シックスバイブルズ、王国ベイブスターズ、評議国ドラゴンズ、竜王国ワイルドプリンセス、聖王国シープスとなっていたが、聖王国側の事情によりシープスが出場辞退している。

 

 選手は軍人・兵士・騎士等、国家の軍に属する者の出場が禁止な為、表向きは一般人からの選抜が基本になっているのだが、何せ国家の利益を左右することになるのだから、実際には冒険者を雇うなど、あの手この手の強化に余念が無い。

 

 我がエンペラーズもアダマンタイト級冒険者の漣八連と銀糸鳥を中心にして、捕手のポジションに死んだことになっている〝不動〟を守りの要として送り込んでやった。

 これで有利に事が運べるとほくそ笑んでいたのだが、驚いたことに最下位候補だと思っていた王国ベイブスターズが、あの「ガゼフ・ストロノーフ」を4番に据えるとは・・・もう戦士長じゃないから文句は言えないが、汚いなさすが王国きたない。

 ただ、台風の目はやはり、出場辞退した聖王国シープスの代わりに出場する魔導国アンデッツだろう。

 アインズの糞野郎のことだから、どんな汚い手を使ってくるかわかったもんじゃない。

 選手名鑑を見ると、どこかで見た全部同じ黒い目出し帽の選手がずらりと並んでいるんだが、なんだこれ?

 

 

 

▽月▽日 063

 日課の帝スポを読んでいたら、新たに「ナザリック美女写真館」というコーナーが始まるかも知れないらしい。

 作者曰く、「話の導入に困ったんだ・・・」と言ってたので、後に引っ張るつもりはないそうだが、誰かが勝手に描くのは止めないとも言っていた。

 

 それはそれとして、なぜ帝スポがナザリック情報を入手できるのか疑問だったのだが、偶々宮殿に出入りしていた記者に聞いた所、帝スポでは他国の新聞と記事の相互提供契約を結んでいるという。

 つまり、これまで読んでいた「ナザリック美少女対談」などのコーナーは、ナザリックスポーツ新聞社の取材記事だった、という訳だ。

 そういえば「セレブライトの竜王女密着24時」「読者のお悩み相談・カイレ様が斬る!」「不定期連載小説・ナザリック学園」なんてコーナーもあるもんな。

 ちなみにナザ学のファンなのは皇帝の威厳というものがあるので内密にしておいて欲しい。

 しかし、それなら我が帝国に関連した独自コーナーは無いのか? と記者に聞いたところ、帝スポ独自記事は配信専用で載せないらしい。

 どんな記事なのか聞いても「命に関わりますから」と、頑として教えてくれなかった。

 そんな大袈裟な話でもなかろうに、その内ナザリックにいるロウネにでも聞いてみるとするか。

 

 

 

▽月□日 064

 ナザリックから突然あの糞野郎が訪ねて来た。

 事前連絡を寄越せと言ってあるのに、アポイントという概念が理解できないのか?

 お陰で竜王国援軍派遣検討会議は延期せざるを得なくなった。

 

 幸い前回のように後から護衛のデスナイトやスケルトン、悪魔が数百単位でワラワラ追いかけてくることが無かったことは助かったが、その代わりに双子の闇妖精を連れて来ていた。

 用件を尋ねると、魔導国で学校を開校するので、そこで学ぶことになる双子を連れて我が帝国の魔法学院を見学したいのだと言う。

 嫌味か?

 あそこはフールーダに次ぐ次世代の魔法詠唱者を育てる場所なのに、そのフールーダと同等以上の魔法を使えるだろう双子に見せて何になると言うのだ。

 

 そのことを説明すると、案外あっさり納得していたが、その後の雑談(さっさと帰れよ)で学校の名称をどうするか相談された。

「エ・ランテル魔法ゼミナール」だとか「AOG魔導国魔法学校」「アインズ魔法専門学校」「ナザリック学園」など候補を並べて意見を聞かれたが、面倒なので適当に「ナザリック学園」でいいんじゃないかと言っておいた。

 俺の知ったことか。

 

 




ジル君日記 補足
 今回、作者の無能によって話に上手く組み込めず、泣く泣く削った情報を追加。

 評議国ドラゴンズと竜王国ワイルド・プリンセスですが、元々は竜王国もドラゴンズの名称を希望していた所、名称使用権を賭けた試合の結果、勝者の評議国がドラゴンズとなりました。
 敗れた竜王国は国民アンケートの結果、第一位の名称は竜王国ロリータだったのに対し、女王が拒否権を発動して現在の名称となっています。

 王国ベイブ・スターズについては、国王が名称に悩んでいた折、王女の発した「ベイブ(子豚さん)・・・」が切っ掛けとなって現在の名称が決定。
 王女はただ単に、第二王子が歩いてるのを見てなんとなく反射的に呟いただけなのは秘密。
 ぶっちゃけ中の人がベイスって言いたかっただけじゃないかって?
 知らん話だ。

 シープスの出場辞退の裏には悪魔の影・・・こりゃ言わなくてもわかるか。


2016/03/20 各話にナンバリングを追加しました。
2016/04/16 文章の一部修正を行いました。
2016/05/02 文章の修正を行いました。


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番外編 影の悪魔のとある一日

 私はシャドウデーモン。

 階層守護者たるデミウルゴス様の配下の悪魔にして、現在は守護者統括であるアルベド様の命を受け、ここバハルス帝国帝都に派遣されている。

 

 任務は皇帝ジルクニフの周辺での情報収集。

 基本は2日をワンセットとし、1日24時間を皇帝の周囲に密着、その後、仲間と交代したら2日目は報告書の作成・報告と、残りの時間を帝都内に拡大して諜報活動を行う。

 

 上手くいけばデミウルゴス様からはもちろん、崇拝するアインズ様直々にお褒めの言葉が頂けるかも知れないと思うと身が引き締まる思いだ。

 

 もちろん皇帝周辺に配された監視の目はそれだけではなく、聞くところによると他の守護者の方々の配下も監視の目を光らせているそうだが、その詳細は私ごときの知るところではない。

 私は私に与えられた任務を全力で全うし、至高の御方への忠誠を証明して見せれば良いだけだ。

 この重要な任務を与えられた喜びに身が震える。

 

 

 皇帝の朝は意外に早い。

 日が昇る頃には起き出し、軽い運動の後で朝食を取り、帝スポを熟読するのが日課のようだ。

 

 情報収集が任務の私にとって、深夜~早朝というのは暇な時間帯でもあるが、幸いにも枕元に安置されている皇帝の組み立てた「アインズ様可動フィギュア」が、ナザリックを離れて心細い私を慰めてくれる。

 このフィギュア、元は我が直属の上司であるデミウルゴス様が、お忙しい時間のやりくりの中で作り上げた物だったが、至高の御方を写し取ったその芸術的な造形がナザリックのシモベ達の間で話題となり、アインズ様のお許しも得て限定50個という形で量産配布されたものだ。

 当然もっと多く配布して欲しいという声も出たが、量産品とはいえ実質はほぼデミウルゴス様の手作りに等しいものなので我侭は言えない。

 ともあれ、そんなレアな代物に、こんな所でお目にかかれるとは、思わぬご褒美と言ったところか。作り物であっても至高の御方のお姿を拝見できるのは心躍ることなのだ。

 

 室内に誰もいない時など、恐れ多いことかも知れないが、たまに手にとって格好良いポーズにしてみたり、過去に見たアインズ様のお姿を再現してみたりしていると、うっとりと、つい時間が経つのを忘れてしまう。

 ある時など、つい夢中になって周囲の警戒を怠ってしまい、突然部屋に入って来た皇帝付きのメイドに私の存在がバレそうになったこともあった。

 あの時、慌てて隠れた際に、ベッドの傍で「アインズ様可動フィギュア」を取り落としてしまったのは、今思い出しても冷や汗の出る痛恨の極み。命を奪われても仕方の無い大失態である。

 幸いにも大事には至らず、メイドは落ちているフィギュアを、少し不思議そうな、そしてかなり薄気味悪そうな表情(万死に値するが、トラブルになる事態は厳禁されているので耐えた)で拾い上げ、すぐに元の場所に置き直して去って行った。

 しかし、大事には至らずとも失態は失態だ。

 もちろん報告書には包み隠さず書いて報告したし、この事についてのお咎めなどは無かったが、必ずや任務で挽回すると決意を新たにすると共に、自分に対して「アインズ様可動フィギュア」への1日三回の礼拝を欠かさぬようにする誓いを立てた。

 

 

 皇帝は朝食が済むと寝室を出て、今日は会議が立て込んでいるらしく会議室に直行した。

 あそこは他の部屋より警戒が厳重だが、私に取っては些細な違いでしかなく、むしろ重要情報が聞けるかも知れない情報の宝庫だ。

 

 しかし、部屋に入って壁沿いのマントルピースが作る影に擬態して潜んでいたが、ここで思わぬ失敗をしていたことに気付いて血の気が一瞬で引く。

 なんと無意識のうちに、敬愛する主人、「アインズ様可動フィギュア」を持ち込んでしまっていたのだ。

 これは私本体のように影を装って隠すことができないので大いに困ってしまったが、ここで私は機転を利かせ、フィギュアが自分で歩いたように見せかけて椅子の一つに着席させることに成功した。

 〝雷光〟とか言う騎士が、歩いて椅子をよじ登り着席するまでの演技を信じられないような目で見ていたが、何か納得してくれたのだろう騒ぎにはならなかった。

 後で皇帝に「あれ、自分で歩いて来ましたよ・・・」などと青い顔で訴えていたが、皇帝は信じず〝雷光〟が居眠りをしていたと判断したようだ。

 これもアインズ様の威光というものか、益々偉大な御方への尊敬を強くする。

 

 

 会議は昼食を挟んで断続的に続いたが、重要なことは何一つ決まらなかったようだ。

 もちろん、ここで言う「重要なこと」とは、我々ナザリックに関係することだが。

 

 しかし、判断するのは私の役目ではないので、後で作成する報告書には当然全てを細大漏らさず記載する。

「近衛増強策検討会議」や「周辺地域開拓食料増産政策会議」などはともかく、「今年のお歳暮商戦戦略会議」「大陸国家対抗かくし芸大会攻略検討会議」「竜王国援軍検討会議延期理由検討会議」などの判断は私の手に余る。

 そうこうしている内に夕刻となり、会議漬だった一日が終わったが、気になったのはナザリック対策会議で「執事助手」の懐柔を検討していたことだ。

 色々と問題のある御仁ではあるが、帝国も、このみずぼらしい宮殿の美化に本腰を入れる気になったということなのだろうか?

 まあ、至高の方々の築かれたナザリックと比べるのが根本的に間違いなのだが、確かにナザリックに比べたら、随分と貧相な宮殿だから恥ずかしくなったのかも知れない。

 いずれにせよ、当然、この件も報告書に認めるのは言うまでも無いが、そもそも件の執事助手にしたところで現実に懐柔されることなど無いし、普段の言動はどうあれ、その忠誠心については何も心配していない。

 後は至高の御方が良きように判断されるだろう。

 

 

 会議が終わると、皇帝は一旦私室に戻り、軽い運動をした後、食堂に向かった。

 夕食は帝国貴族数人と、法国の公使を交えた晩餐だ。

 特に当たり障りの無い、貴族的な下らない会話だったが、よく見ると食器の陰に「恐怖公」のシモベがいた。彼等も独自に帝都で諜報活動に従事していることは知らされていたが、何とも大胆な行動で驚かされる。

 彼等の場合は見つかってもナザリックとの繋がりが露見することが無いので、その点は大胆な行動ができて羨ましい。

 もっとも命懸けではあるが。

 

 後で聞くところでは、「あれは食料の入手も兼ねているので一石二鳥なんだよ」と不敵に笑っていた(あれは多分笑っていたのだと思う)が、飲食が必要なのは不便な点だなと少し同情した。

 我々も本来なら飲食は必要だが、今回の任務では飲食が不要になるアイテムの携帯を許されている。

 

 その内に晩餐も終わり、皇帝は数人の側近と酒を飲みながら暫く歓談していたが、残念ながら特に有益な情報は無かったと思う。

 最近入手した美術品がどうだの、何処其処の貴族の令嬢が何だのと、実に下らない話に思える。

 

 その後は解散すると寝室に移り、就寝の時間だが、今日は女を抱く様子は無いようだ。

 これは別に変な意味ではなく、ピロートーク中に何気に重要なキーワードが含まれていることも多い、という意味だ。

 一部に悪魔はエロいことが好きという誤解があるようだが、悪魔が好きなのは我々に操られて人間が晒す滑稽な醜態を眺めることであって、そもそも人間同士の交尾自体には全く興味は無い。

 

 さて・・・夜も更けた。

 敬愛する「アインズ様可動フィギュア」とお別れしなければならないのは名残惜しいが、次の順番までは仕方が無い。

 もうすぐ交代の者がやってくる時間も迫ってきたようなので、本日はこれくらいにしておこうと思う。これからアジトに戻って書く報告書が、至高の御方を喜ばせることになればと、切にそう願いながら。

 

 




2016/04/16 文章の加筆修正を行いました。


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その13

□月○日 065

 久しぶりに王国からホットラインがあった。

 最初は「ザナックだ」などと名乗るから、「そんなやつは知らん」と言って切りかけたが、慌てて「皇太子だ」と言い直していた。

 そういやデブの第二王子がそんな名前だったか。最初からそう言え。

 

 第一王子が先だっての戦争で戦死したとかで、今や皇太子って訳だ。

「皇太子即位の礼ならいらんぞ?」とからかうと、不機嫌そうに「違う」と言っていた。

 じゃあ何の用だと聞くと「うちの親父を知らないか?」と言う。

 そりゃ敵国の王なんだから知ってるに決まってるじゃないか。敵国の王も知らずに戦争してると思ってるのか、このデブは。

「もちろん知ってる」と答えたが、デブは慌てたように「今どこにいる」「居場所を教えろ」と重ねて聞いてくる。

 え?

 あの爺、行方不明なの?

 とうとうボケて徘徊でも始めた?

 だいたいランポッサの爺は知ってるが、居場所なんぞ知るわけがないじゃないか。俺は爺のママじゃない。

 そう言うと納得していたが、「黄金には聞いたのか?」と言うと「妹もいない」と言う。

 何やってんだあの父娘。

 でもそれ、俺に言っちゃっていいのかね?

 うち、敵だって忘れてない?

 

 兎にも角にも、デブには「お前も色々大変だろうが、まあ頑張れ」と激励して切ったが、考えてみたら何で俺が激励してやらなきゃならん。

 しかし、あの父娘相手じゃ思わず同情してしまうのは、人間ならば仕方ないよな。

 アンデッドではないのだし、鮮血帝にも情はある。

 

 

 

□月×日 066

 午前の会議が予定より早めに終わったので、今朝読み損ねていた帝スポを読んでいたら、〝重爆〟のやつに「暇そうですね」と言われた。失礼なやつだ。

 だいたい、聞くところによると王国の黄金などは、情報から隔絶された環境にあっても、メイドの会話などから事実を推察し正確に把握すると言うではないか。

 俺とて、貴族の使用する香水から内通を見破ってみせたこともある。情報はいたる所に散りばめられており、暇そうに見えても、無駄に見える情報の中に埋もれる重要な事実に網を張っているのだと教えておいた。

 〝重爆〟は、「そういうものですか」と感心していたが、彼女にはもっと観察眼というものを養ってもらいたいな。

 

 それはそれとして、少し気になったのは、闘技場最強の亜人剣士・武王への挑戦権を賭けての、挑戦者を決める試合の参加者が決まらなくて困っているという記事だ。

 今回は魔導国と王国、それに竜王国から挑戦者が来るということになっているのだが、その人選が滞っているらしい。

 魔導国からは例の「スケルトン死国」が十二指腸潰瘍(突っ込まないぞ)の為の入院を余儀なく(我慢だ我慢)されており、代わって「腐王」とか言う戦士の名が挙がっているらしい。

 なんだ「腐王」って。しまった、突っ込んだ。

 しかし、こんなもん突っ込まずにおれるか。やっぱり腐ってるのか? ゾンビ? グール? やっぱりアンデッドなんだろうか。

 

 王国からの挑戦者は決まっていて、「伝説の武技を操る達人」とか言う触れ込みの、謎のマスクマンらしい。なんだろう、小物臭がする・・・すっごい小物臭がする。この予想は多分当るな。

 そして竜王国からの挑戦者なんだが、これが全く決まらないという話。当たり前だろ。

 だいたいあそこは滅亡寸前なんだから、闘技場で遊ばせる戦力あるならそっちで使え、と。連中、滅亡寸前の自覚あるのか?

 記事によると最初は「なけなしのワーカーチーム「豪炎紅蓮」が候補」だったらしいが、戦況が思わしくなく却下。挙句、「侵略中のビーストマン軍から選手派遣を検討している」・・・って脳ミソ膿んでんのか連中は。

 散々うちに援軍頼んでおいて、これで選手出して来たら、援軍の代わりに俺が全軍率いて滅ぼしに行ってやりたい。

 

 

 

□月△日 067

 珍しくスレイン法国から使者が来た。

 なにやら随分と進物を持って来てるみたいだが、俺には「ルビクキュー」という六大神から伝わったというアイテムを寄越してきた。

 これだけ? これ1個?確かに精巧な物だとは思うが、皇帝にマジックアイテムですらない色を合わせるパズル1個だけってどうなの?

 

 まあ、くれると言うから貰っとくが、本筋は機嫌取りを装った情報収集といったところだろう。

 こちらだって馬鹿じゃない、与える分に見合う情報は、こちらも使者から取り立てさせてもらうさ

 どうやら御自慢の陽光聖典は壊滅、最強と言われる漆黒聖典も半壊しているそうじゃないか。そのくらいの情報はうちの情報部も掴んでいる。

 

 当たり障りの無いところで挨拶を切り上げさせて、逆に近頃の法国の様子などを聞いてみた。

 使者は最初、のらりくらりと尻尾を掴ませなかったが、こちらが聖典部隊の様子を掴んでることを匂わすと、観念したのかこちらの期待以上の情報をくれた。

 陽光聖典については法国でもまだ詳細を把握していないそうだが、漆黒聖典は謎の吸血鬼によって死者を出し、その吸血鬼も冒険者のモモンによって退治されたと言う。

 モモンといえば王国のアダマンタイト級冒険者ではないか。

 その話が本当なら、かの冒険者は魔王ヤルダバオトを凌ぎ、最強と言われる漆黒聖典をも上回る実力の持ち主ということになる。

 これは対魔導国の戦力として、なんとしても絶対に不可欠な人材のようだ。

 

 たまに真面目にやっとかないと、どうも皇帝はアホの子じゃないかと疑う愚か者がいるようなので、ちょっと本気出してみた。

 

 

 

□月◇日 068

 ちょっと熱が出て数日寝込んでしまった。神官と薬師は軽い風邪だと言っていたが、働きすぎだろうな。

 まあ、それも全快した所で王国の王女からホットラインがあった。

 いつぞやは兄が失礼しましたと言う。

 親父は一緒だったのかと聞くと、そうだと言っていた。

 どこに行ってたのかと聞くのも変な気がして、こちらからは聞かなかったが、この所塞ぎ気味だったので気分転換に友人の所へ連れて遊びに行っていたそうだ。

 まあ、あの敗戦の後では落ち込みもするだろう。俺は悪くないが。

 だったら一言ぐらい兄に声を掛けて行け、兄を心配させるなと諭しておいたが、考えてみたら何で俺がこんなこと言わなきゃならんのだ?おかしいだろ、絶対。

 

 そんなことを考えていた俺を無視して、当の王女は最近王国で流行っているという物語を俺に(無理矢理)聞かせた。

 なんでも「アキュラ」さんとか言う八百屋の息子が、攻撃にも防御にも最強のアイテム「普通の丸太」を使って、グールやヴァンパイアを倒しまくる話だそうだが、何だそれ。

 マジックアイテムでもない、ごく普通の木の丸太が最強の防具であり武器?よくわからん。

 まあ、荒唐無稽な物語にいちいち突っ込むのは野暮だろうし、どうでもいいが、相変わらず王国では変わったものが流行るんだな。

 

 適当に相槌を打って話を切り上げさせたが、何で俺がそんな話に長々とつき合わされなきゃならんのだろう。精神攻撃のつもりなのか?

 だいたい、敵国同士なんだから、もう少し真面目にやって欲しいのだが。

 

 

 

□月▽日 069

 法国の使者が帰ると言うので送り出した後、時間があったので自室に戻ろうと廊下を歩いていたら、空き部屋の前で中から何やら奇怪な音と声がするのに気付いた。

 なんだろうと思って部屋の中を覗くと、四角いテーブルを囲んだロキシーと三騎士が、たくさんの白い四角い駒をテーブルの上でジャラジャラと掻き混ぜながら雑談していた。

 

 俺はこれを知っている。

 確か、法国に伝わる魔法儀式の一種で、「マ・ジャーン」とか言うものだ。いつぞや法国を訪れた際に見せてもらった記憶がある。

 火属性を上昇させる効果があるとかで、儀式の最中に泣き続けると背中が煤けるらしい。意味は俺にもわからん。

 法国の伝説では、年端も行かぬ魔法詠唱者の少女達がこの儀式を操ったとかで、「ア○ガのレジェンド」や「アチ○のドラゴンロード」と呼ばれる者さえいたと言う。

 しかし、何でそんな儀式をロキシーと三騎士がやってるんだ? ていうか出来るの?

 

 驚いて声を掛けると、ロキシーのやつが言うには、今回来ていた法国の使者が道具一式をくれて、ルールも教えてもらったのでやってみてるのだと言う。

 魔法詠唱者じゃなくても出来るのかと聞くと、きょとんとした表情でルールを覚えれば誰でも出来ますよと言っていた。

「マ・ジャーン」という法国の魔法儀式じゃないのかと言うと、これは「マ・ジャーン」から発展した「ドン・ジャーラ」という絵を合わせて役を作り、得点を競うゲームの一種だそうで、やってみたら面白くて、4人ですっかり徹夜してしまったと言う。

 なるほど言われて良く見れば、儀式に使っていた駒には南方の物だと言う異国の古代文字が描かれていたのに、この駒には間抜け面した青い丸顔モンスターや、冴えない眼鏡の男児と思われる絵が描かれている。

 法国の使者が携えて来た駒には他のセットも有り、黄色い雷撃モグラ?だか、雷撃ネズミ?だかのセット、化け猫セット、麦藁海賊王セットなんかも今回置いていったそうだ。俺にはパズル1個だったんだが。

 セットによって何がどう違うかはよくわからんが、それを聞いて納得がいくと共に、ふと思った。

 

 俺に使者の見送りさせといて、お前ら何やってんの?

 

 




2016/04/16 文章の一部修正を行いました。
2016/05/02 文章の修正を行いました。


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その14

□月□日 070

 ナザリックにいるロウネから大荷物が届いた。

 最近便りが無いもんだから、すっかり存在を忘れていたが、ちゃんと仕事してるんだな。

 

 同封の手紙によると、魔導国で開発された携帯食料「インスタント・カップ麺」というもので、比較的単価が安く保存が利く為、戦後のエ・ランテルで市民に大量に配布され、食糧難から来る治安の悪化防止に一役買ったものらしい。

 蓋の部分には魔導国の文字なのだろう、何か文字が書いてあって、その下に我々の読める文字で〈しょうゆ味〉〈みそ味〉などの情報と、〈お湯を注いで3分経ったら出来上がり〉と注意書きが書いてある。バイリンガル仕様と言うわけだ。

 

 軍用の糧秣には常に費用や保管の問題があり、そして何より味の良し悪しは兵の士気に関わる。

 試してみて良さそうならば、例え魔導国の発明品であっても我が帝国での導入に何の問題も無い。出自がどうのなどとは小さいこと。要は役に立つか、立たないかだ。

 

 手紙には、「基本的にお湯を注いで3~5分待つだけで食べることが出来る」「各種送るので、ぜひ皆で食べ比べてみて欲しい」とある。

 この後は竜王国救援検討会議が予定されていたのだが軍の強化は最重要課題だ。

 当然、会議は延期することにして、早速試してみようとメイドを呼んでお湯を準備させるが、傍にいた秘書官が毒見をしないと危険ですと言う。

 そんなもの、俺を殺そうと思えば魔導国の連中なら、毒殺などと手の込んだことをせずに、いつでも簡単に殺せるだろう。そんな連中だ。

 しかし、何事にも形式は必要だし、秘書官の言うことも正しいので、代わりに秘書官にカップの蓋に〈みそ味〉と書いてある物を食べさせてみたら、「これ、とんでもなく美味いですよ」と言う。

 我慢できずに俺にも一口寄越させて食べたが、これは確かに緊急用・軍用の糧食として「恐ろしく美味い」としか言いようがない。

 これなら兵の士気は鰻登りだろう。会議は延期して正解だった。

 

 この後は三騎士も呼んで試食会になったが、どれもこれも美味かった。

 〝雷光〟は「未知の味に挑戦してみる」とかで〈しょうゆ味〉を、〝重爆〟は「美容に良さそう」と手堅く〈塩野菜スープ味〉、〝激風〟は〈カレー味〉と散々迷った挙句に〈ジンギスカン味〉を選んでいた。

 〝激風〟曰く、「これは正直、ハズレです」と言っていたが、ジンギスカンって何だろう?

 一口もらって食べてみたが、ちょっと癖があって味が濃かったものの、羊肉風味のような感じで特に嫌いではない味だった。

 まあ、味の好みは個人差があるからな。

 他にも〈塩野菜スープ味〉と〈豚骨スープ味〉などは何となく味の予想もつくが、〈しょうゆ味〉〈カレー味〉〈台湾ラーメンアメリカン味〉などは食材が一体何なのか想像もつかない。

 

 ただ、気になるのは1つだけ混じっていた、少し大きめのカップだ。

 1つだけ大きさが違っているのもそうだが、問題は蓋に〈デスナイト〉と、有り得ない文字が書かれている。デスナイト?

 インスタントの?

 これ、食っていいの?

 デスナイトって食えるの?

 まさか魔導国の連中ってデスナイト食ってんの?

 

 しかし、冷静に観察すれば、他の物のように〈味〉と書いてないから違う可能性も高いし、カップの横に手書きの魔導国文字で何か書いてある。

 正確に模写すると《ルプーの》となっているが、魔導国の文字は読めないので何と書いてあるのかは不明だ。

 ともかく、流石に怪しすぎるので、ロウネに問い合わせるまで厳重に封印しておくように命じておいた。

 

 

 

○月○日 071

 帝スポを読んでいたら新しい連載小説・ナザリック殺人事件というものの連載が始まっていた。

 カルーネ村という寒村の外れに構えられた洋館で起こった殺人事件の謎を解く話で、まだ導入部分だが中々に面白そうだ。

 

 謎の手紙によって屋敷に集められた、一癖も二癖もある怪しい面々。

 俺は最初に殺されるのは、この手の話の定番的に屋敷の主人クリンガの娘夫妻、ダメ夫のブレーンか気の強い妻のポニョコ辺りだろう思ったんだが、意外にも友人バレバレ夫妻の夫、アフィーレア・バレバレ氏がパーティーの最中に毒殺されてしまった。

 今のところ犯人候補は、毒を入れるチャンスのあった執事のギャリソン(頭の中で「バンジョー様」という声が聞こえるが、このネタはダイタンすぎないか?)か、グラスをアフィーレア氏に手渡した新聞記者のペーロンだろうか。

 ギャリソンの動機は不明だが、ペーロンにはアフィーレア氏の義理の妹であるニム・エモト嬢を狙っていて、アフィーレア氏の存在が邪魔になるという動機がある。

 しかし、こういう場合は怪しい人物ほどシロなんだよな。

 そうなると対象が散らばって、まだ絞り込むのは難しいが、俺としては主人の友人でカルネ学園教授のアラタか、デミゴスティーニ商会のデミグラスという商人が怪しい気がする。

 いずれにせよまだ物語は序盤だ。探偵役もまだ未登場のようだし、これは新たな楽しみが増えた。

 

 

 

○月×日 072

 朝の憩いのひと時に帝スポを読んでいた所、突然アインズの糞野郎が訪ねてきた。

 無粋にも程がある。

 護衛らしい、いつもの邪妖精の姉妹と共に応接室に通し、落ち着いた所で用件を聞くと、エ・ランテルで出したレストランが好評で2号店を出したいが、帝都での出店に許可をもらえないか?ということらしい。確かに帝都内での商店の営業は許可制になっているが、そんなことでわざわざやって来るとは、案外律儀なヤツだ。

 

 秘書官に申請の書類を持って来させ、書き方を説明させた後、もう出店場所の目星はついてるのかと聞くと、いつぞやお忍びで行ったことのある肉料理の店の近所だった。

 どんな料理を出すのか聞くと、カレー屋だと言っていた。そう言えば先日食べたカップ麺にもカレー味があったな。

 屋号は「ココが1番屋」と言うらしく、随分ストレートな名前だとは思ったが、アインズのやつは「中の人がココ1好きなんだから仕方が無い」とか意味不明なことを言っていた。

 

 話も一段落した所で、カレーで思い出した、先日のカップ麺の中に〈デスナイト〉と書かれた、少し大きめのカップが混じっていたことを告げ、どうすればいいのかを聞いてみた。

 念の為に封印させていた物を秘書官に持って来させ、アインズに見せる。

 すると、やつは大きく溜息をつき、珍しくガックリと肩を落とすと、片手で顔を覆いながら説明してくれた。

 何でもこれはデスナイト召喚アイテムの試作品だそうで、誰でもお湯を注いで3分待てばデスナイトを召喚できるアイテムとして開発したらしい。

 しかし、準備にお湯を沸かす時間が掛かること、そして何より召喚後5分ほどで伸びてしまうので使い物にならないとしてお蔵入りにした失敗作だそうだ。

 

 やつはカップの横に書かれた手書きの魔導国文字を指差しながら言った。

「ほら、ここに書いてある文字だが、これは「ルプーの」と読む。恐らくルプスレギナのやつが食べ物だと思って隠してたのが混ざったのだろう・・・が・・・処分しとけって言ったのに・・・あいつ、食べ物を隠すクセが・・・骨埋めたり・・・あっ、そういやこの前シャルティアがスケルトンの数が合わないって・・・」最後の方はもう愚痴に近い。

 その後も「これはこっちで処分しとくから」とか「あいつ今晩は飯抜きだ」とか言ってたが、俺の視線に気付くと取り繕うように「それでは出店の件は宜しく頼むよ」などと言いながら、そそくさと帰って行った。

 なんか・・・あいつも、ああ見えて色々苦労してるんだな・・・。

 

 

 

○月△日 073

 王国のデブからホットラインがあった。ああ、皇太子のことだ。

 最初はまた親爺が出奔でもしたのかと思ったが、親爺も妹もいると言うので「そうか」と言って切った。何か問題でも?

 

 すぐまた掛かって来て、「いきなり切るやつがあるか」と言ってたが、こっちには用なんぞ無い。

「妹の時もそんな対応なのか」と言うから、黄金とお前じゃ対応は違うと言ったら、「なんだ、妹に気があるのか?」と言うからまた切った。

 黄金の情報は有益な物も多いから我慢して聞くが、デブの戯言に付き合ってやる暇は無い。判断基準は有益か無益か、だ。

 

 しかし、またすぐ掛かって来て、「いちいち切るな、話が進まん」と文句を垂れる。話があるなら最初からそう言えばいいじゃないか。

「なんだ?」と聞くと、「今朝の新聞は見たか?」と言う。もちろん読んだが、特に変わった記事は無かったはずだ。

 秘書官に今朝の帝スポを持って来させ、今一度確認する。「特に何も無いな」と言うと、デブは「求人欄だ」と言うので目を通すと、確かに変わった物をそこに見つけた。

 

【幹部候補募集】

 〈求ム!竜王国ヲ救ウ勇者!〉

「対獣人専門勇者若干名・闘技場竜王国代表候補数名」

「報酬応談昇給年2回賞与夏季年末年始休暇有」

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「アットホームナ職場デス」

 

 確かに求人欄なんて普段全く見ない。見ないが・・・何やってんだあの女王。

 全国の新聞に求人広告出したのか・・・。

 初心者でもって・・・アットホームな必要あるのか?むしろ仕事内容は殺伐としてると思うんだが。

 

 しかし、何故これをデブが俺に知らせて来るんだろう。不思議に思って聞くと、「いろいろ苦労してるのは読んで知ってるから、これは貸しにしとく」と言う。

 何を読んだって? 俺の何を知ってると言うのか・・・悔しいが、その疑問には回答を得られなかった。

 デブがエラそうに「わかってる」「わかってるから」と何故か上から目線なのがムカつく。

 情報統制の強化は緊急の課題のようだ。

 

 

 

○月◇日 074

 今日は久しぶりに訓練を視察した後、三騎士を連れてお忍びで城下に飲みに行った。

 以前行った肉料理の店は〝激風〟のやつが、どうしても嫌だと言うので別の店に行くことにしたのだが、代わりに〝雷光〟が案内した店は、丁度アインズの糞野郎が出店するというレストランの隣の店だった。

 

 糞野郎は「店は魔法で建てるから一瞬で出来上がるよ」と言っていたが、そんな非常識な魔法を人目のある帝都内でホイホイ使われても困る。

 普通に建ててくれるように言っておいたのだが、実際まだ建築中のようだ。

 この状況を確認できただけでも、お忍びで来た甲斐があったというものだが、〝雷光〟が言うには今回行く店は王国で繁盛している店の支店らしく、美味いチキンを食わせるという。

 

 店にたどり着くと、入り口に誰かが直立不動で立ってると思って少し驚いたら、白髪白髭に眼鏡を掛けた小太りのおっさんの人形だった。人騒がせな。

 〝雷光〟によると、あの人形のモデルはああ見えて軍人だったそうで「大佐」と呼ばれているそうだ。

 あの人形もマジックアイテムらしく、粗末にすると呪われるらしく、「サ○ダース大佐の呪い」と呼ばれて恐れられているそうだ。なんでも王国ではカッツェ平野の敗戦の原因の一つだとも噂されているらしい。

 なぜそんな物騒なもんを店の前に置いておくんだろう?

 これは撤去を命じた方がいいかも知れんが、〝雷光〟は単なる噂ですからと言う。

 いったいお前は迷信深いのかどっちなんだ?アインズ人形には笑うだの歩くだの大騒ぎしたくせに。

 

 店の自慢だというフライにしたチキンは、俺には少し味が濃い気もしたが美味かった。これなら王国で評判になるのも頷ける。

 骨無しチキンは食べやすいが、個人的にはやっぱり骨付きの方が美味いな。

 フライにした魚もまあまあだったが、ポテトはボソボソしていて少々口に合わなかった。もうちょっとカリカリが好みだ。

 まだちょっと酔ってるかな・・・「ケ○タで酒は飲めないだろ」という外野の声が聞こえる気がするが、己の無知を恥じるといい。

 中の人もさっきググるまで知らなかったが実在するのだ。先に知った以上は威張らせてもらう。

 他の料理も美味かったんじゃないかな?

 何せ中の人が食ったこと無いんだから適当な感想しか言えないのは当たり前だな。苦情反論は受け付けていない。

 

 




2016/04/16 文章の一部修正を行いました。
2016/05/02 文章の修正を行いました。


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番外編 竜王国ハッピー(?)モード

 本来、ここに置くべきか迷いましたが、竜王国を心配する声もあり、竜王国ハッピー(?)モードをなんとか拵えてみました。以前書いていた物の改変・改訂版で、脚本形式と言うのか、台本形式というのか、少々読み辛いかも知れませんがご了承下さい。

 しかし、オリジナルのオーバーロード本編内での竜王国に関する動向が不明ですから、オリジナルでの竜王国の処遇が判明するまでは、ジルクニフ日記本編内に於いては、これからも援軍派遣会議は延期され続けることになるでしょう。

 ここに出てくるジル君はジルクニフ日記のジル君ですが、彼の今回の判断がジルクニフ日記内のジル君に反映されるか否かは、今後のオリジナルの動向次第であり、今回の話は「ジルクニフ日記内で未だ確定していない未来の枝葉の1本」の話である、ということで納得して頂けると幸いです。


 ビーストマンの侵攻に後が無い竜王国。

 ドラウディロン・オーリウクルス女王は、一向に援軍を送ってくれない法国に見切りをつけ、最近リ・エスティーゼ王国に圧勝したというバハルス帝国に援軍を要請する。

 

 ジル君「(竜王国か・・・そろそろ放置もマズいか? ・・・まてよ? これは魔導国の恐ろしさを実感させるチャンスではないだろうか)」

 雷光「竜王国への援軍の話、やっと決まったんですか。で、結局どうされるんです?」

 ジル君「魔導国に丸投げする」

 激風「え?」

 ジル君「やつらの恐ろしさを知らせて包囲網形成の切っ掛けにするのだ」

 三騎士「(ヤベぇ・・・やな予感しかしねェ・・・)」

 

 

 竜王国の使者は走る。

 破滅の危機にある祖国を救うため。

 ナザリックに到着すると玉座のアインズと左右の守護者達に、戦力の窮乏と竜王国の命運に一刻の猶予も無いことを訴え、まさに平身低頭で援軍の派遣を哀願する。

 

 アインズ「(竜王国に援軍かあ・・・こっちはまだいろいろ忙しいってのに・・・)」

 建国間も無い魔導国である。課題は山積みだ。

 アインズ「(そんな遠いとこ助けても、なーんもメリット無いもんな、よし、断ろう!)」

 そう判断しその件は記憶の片隅に追いやろうとしたその刹那、何気なく目をやったシャルティアの姿に、アインズはかつての仲間の姿を幻視する。

 アインズ「ペ…ペロロンチーノさん…っ!!」

 かつての仲間であり友であった漢の熱い言葉が脳裏をよぎる

 

(ペロロン「困っている可愛い少女を救うのは当たり前っ!!」)

 

 アインズ「(そうですね、貴方ならそう言うでしょうね・・・ロリコンだし)」

 そう呟いたアインズは竜王国を救うべく思案を始める。

 

 アインズ「そうだな、誰を送ろう?」

 アルベド「アインズ様、下等生物同士の潰し合い、ここは無視してもよろしいのでは?」

 アインズ「違うぞアルベド。遠い土地から我々に助けを求めて来ているのだ。これを助ければ、我がアインズ・ウール・ゴウンの名声は一気に高まるだろう」

 

 そこで少し思案する。

 アインズ「(でもなあ、俺はエ・ランテルから遠くへは動けないし、デミウルゴスも忙しい、アウラも偽のナザリック建設中で長期出張は無理。コキュートスは外見がなあ・・・シャルティア・・・は論外)」

 消去法でいけば残るは1人しかいない。

 

 アインズ「マーレに頼むとしよう」

 

 

 かくして竜王国に派遣されるマーレ(と補佐&護衛役のユリ&シズ)。

 

 宰相「魔導国よりの援軍が到着されましたが・・・」

 一足先に帰った使者の報告に、リ・エスティーゼ王国軍を打ち破ったのが、バハルス帝国軍ではなく、その同盟国であるアインズ・ウール・ゴウン魔導国という聞いたことも無い国であると知り、そのアインズ・ウール・ゴウン魔導国が援軍の要請に応じてくれたと言うので、いったいどんな精強な軍団がやって来るのかと、一日千秋の思いで待った朗報に欣喜雀躍する竜女王。

 

 竜女王「そうか! ついに来たか!! すぐに対面するぞ! 歓迎の準備を!」

 宰相「・・・会うんですか?」

 何やら様子がおかしい。

 竜女王「会うんですかって会うに決まってるだろ。これでビーストマン一家の食卓に上がらずに済むかも知れないんだぞ」

 宰相「そうですか? ・・・止めた方がいいと思うんですけど、マゾなんですね」

 竜女王「?(ナニ言ってんだコイツ)馬鹿言ってないで、さっさと支度しろ!」

 

 ウキウキの状態で颯爽と謁見の間に入るも、控えるナザリック三人衆(マーレ&ユリ&シズ)を一目見るや、凍りつく竜女王。

 竜女王「(・・・え? 誰これ。援軍はどこ?)」

 半ばパニック状態で玉座に着く竜女王に、マーレがオドオドと着任の挨拶を始める。

 マーレ「あ・・・えっと、アインズ様に言われて助けに来ました。アインズ様に褒めてもらえるよう、が、がんばります!」

 竜女王「(頑張るって何を? 何? これが援軍なの?)え・・・あ、あぁ、その、なんだ、よ、よろしく頼む・・・」

 やっとのことで絞りだした声の、最後の方はもう呟きに近い。優しく微笑む表情を作ったつもりだが、どう見ても般若(BGM:イヨォーッ、ポンポンポンポンポン・・・)だ。

 

 竜女王「(嘘だろ? 誰か嘘だと・・・宰相、なんだその目は、こっち見んな! 幼女とメイドが援軍? あれ? ・・・男? なんでスカート? 男の娘なの? ・・・あぁ、終わった・・・)」

 目の前に『終わった・・・』という言葉が特大極太のホラーフォントで浮かび、教会の鐘のように反響を響かせながら頭の中を駆け巡る。

 

 がっくりと項垂れて謁見の間を後にする竜女王に、宰相の声が後ろから追撃を掛ける。

 宰相「警告はしてました(ボソッ)」

 竜女王「・・・(あんなの警告になるか! 援軍と聞いてこんなの予想できるわけないだろ!)」

 宰相「詰みましたね」

 竜女王「黙れ」

 宰相「食卓に上られる準備でもしますか?」

 竜女王「黙れ・・・」

 

 

 場外で紆余曲折あるも、戦闘はプレアデスでも真面目系の2人にサポートされたナザリック強さ序列2位に何の問題もあるはずがなく、瞬く間にビーストマン降伏。ていうか壊滅。

 見た目で侮った竜王国のアダマンタイト級冒険者チーム「クリスタルティア」のメンバーがユリにボコられたり、ビーストマン側の精鋭部隊「獣人衆」がシズの狙撃に手も足も出ず完封負けして壊滅したり、最終決戦で竜王国軍がビーストマン国家の首都に攻め込んだら、先乗りしたマーレの地形改変魔法によって首都そのものが影も形も無い更地になってた、などのシーンは割愛する。

 マーレを心配したアインズが、いつもの漆黒フルプレートでは目立つからと、純白のフルプレートに身を包み「初め○の○使い」のカメラスタッフよろしく行く先々での怪しい行動を目撃されて「謎の白い男」としてスパイ扱いされたのも別の話だ。

 

 そこが読みたいって?

 そんなもん俺が一番読みたいわ(中の人の心の叫び)

 

 

 かくして竜王国に平和(?)が訪れる。

 竜女王「魔導国すげえ!」

 ビーストマンを撃退どころか、完膚無きまでの殲滅である。

 侵攻を止めることが出来れば程度に思っていたら、占領された3都市を奪還したのみならず、ビーストマン国家自体を滅ぼしてしまった。

 積年の懸案事項が一気に解消してしまったのである。幼子とメイドの3人で。

 

 宰相「援軍の方々には盛大なおもてなしをしましょう」

 諸問題は残っているが、滅亡の危機を逃れた悦びは大きい。

 竜女王「それにしても、なんであんな強い連中が今まで無名だったんだ? メイドまでアダマンタイト級とか反則だろアレ。ていうかアダマンタイト超えてるだろ」

 宰相「どうなんでしょう? うちは田舎ですからねえ」

 竜女王「とにかく、これで魔導国との友好を保てれば、竜王国は安泰だ!」

 宰相「そんな簡単な話じゃないとは思いますが、友好の為に婚姻というのも良いかも知れませんよ? その形態ならマーレ殿ともお似合いでしょう」

 竜女王「形態言うな・・・この格好は仕方なくやってるだけだ。だいたい私の歳を考えろ。まあ、確かにマーレ殿は可愛い・・・が・・・カワイイ・・・でも歳が・・・」

 最後の方はゴニョゴニョと口篭った風だったが、ニヤニヤ顔の宰相に気付くと、誤魔化すように声を大きくする。

 竜女王「形態といえばホラ、あのロリコンはどうした? 最近見ないが」

 宰相「寂しいので?」

 竜女王「んなわけあるか」

 宰相「セレブライト殿でしたら最近はマーレ殿にベッタリだとか」

 

 両者を包む、しばしの沈黙と微妙な空気・・・。

 

 竜女王「ゴホン! ンンッ・・・あ゛・・・あー、あれか? あいつもしかして、マーレ殿が男だと知ら・・・ない?」

 宰相「さあ? 別に男だと宣伝してるわけではありませんし、あの格好ですからどうでしょう? 何かに目覚められた可能性もありますが」

 竜女王「あああああ、嫌だいやだ知りたくない知りたくなかった」

 宰相「聞いたのは貴女ですよ」

 

 竜女王「・・・考えたくない」

 

 

 かくして竜王国は順調に魔導国との友諠を結ぶ方向に向かい、ジル君の胃はキリキリと痛むのであった。果たしていつの日か、ジル君のメンタルリセットが適う日は来るのだろうか! 乞うご期待!!

 

 三騎士「(ヤな予感はしてたんだよなあ・・・)」

 

 




 というのが9巻刊行済み時点での11巻の内容の妄想。
 10巻の発売日決定記念ということで、急遽頑張って書いてみました。

 上にも書いたように、 今回の話はあくまでも9巻までに判明している情報を基にした「ジルクニフ日記内で未だ確定していない未来の枝葉の1本」ですので、オリジナルが10巻、11巻と進み、情報が増えるにつれてオリジナルと乖離していくことは間違いありません。ジルクニフ日記内での扱いもどう変わるか、今の時点では全く見当がつきません。
 今はまだ、私個人も皆さんと一緒に、オリジナルの続刊を待つ人間の一人です。


2016/04/16 一部文章の修正及び加筆を行いました。
2016/05/02 文章の修正を行いました。


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その15

○月▽日 075

 帝スポを読んでいたら、「読者のお悩み相談・カイレ様が斬る!」のコーナーに目が行った。

 タイトルこそカイレ様となっているが、本人急病の為、現在は代理で隊長とか言う人物が受け持っているらしい。

 人に相談できるような悩みなど、俺に言わせれば悩みの内にも入らない。いつもなら読み飛ばすコーナーなんだが、今日に限って何かしら予感めいたものを感じたのだ。

 

 内容はエ・ランテルにお住まいの匿名希望S・スズキさんから「最近友人になった友達と、もっと仲良くなりたいのですが、どうしたらいいですか?」という他愛の無い相談だ。

 回答は「カイレ様ご健在なら法国の秘宝でイチコロなんですが」と断った上で「もっとその友人の役に立つよう頑張りましょう」「プレゼントなどで喜ばせるのも良いですよ」という、こちらも当たり障りの無い模範的回答だった。

 俺の勘は良く当るんだが、いったい何が俺の目をこの記事に向けさせたのかが良く判らない。ちょっと嫌な感じがしたんだが・・・今回ばかりは俺の勘もハズレかも知れん。

 

 それはそうと、ナザリック殺人事件の続きも載っていた。ちょっと楽しみにしていたんだ。

 前回はアフィーレア・バレバレ氏がパーティーの最中に毒殺されたが、今回はついに第二の殺人が起こってしまった。被害者は屋敷に勤めるバラというメイドで、地下室の小部屋で、首が胴体と切り離された惨殺遺体となって発見された。

 地下室だから部屋には当然窓は無く、1ヶ所しかない扉には内側から閂(横にスライドさせるタイプの鍵だな)が掛かっていたと言う。

 これは完全な密室殺人だな。

 怪しいのはバラと出来ていたという噂のある屋敷の主人クリンガか、妻のナイベドが嫉妬に狂って殺したという線もある。

 しかし、これが連続殺人となると2人にはバレバレ氏殺しの時のアリバイがあるからなあ。

 バレバレ氏殺しの容疑者だった執事のギャリソンは大層女好きで、バラにも食指を伸ばしていたという噂があるらしいが、こいつは今回のバラ殺しにはアリバイがあるんだよなあ。

 バラ殺しの動機があるのは、ギャリソンと何やら確執があったと噂のあるメイドのシャンシャンだが、女性に首の切断という荒っぽい殺しは似合わないよな。動機も弱い気がするし。

 

 謎は深まるばかりだが、とりあえず探偵のミス・ゴールドと、相棒の探偵犬プライムも登場したことだし、続きを楽しみに待つとしよう。

 

 

 

○月□日 076

 ナザリックのロウネから便りがあった。

 最初はあんな化け物の巣に一人取り残されて、いったいどうなることかと心配したが、最近は色々と貴重な情報をもたらしてくれて助かっている。

 ただ、今回の手紙は・・・他愛の無い内容なんだが・・・何でも、「9階層にあるバーでゴ○ブリと一緒に酒を飲んだ」と書いてある。何度読み返してもそうとしか読めない。

 

 何と飲んだって?

 

 ロウネ、ロウネよ、すまないが、お前が何を言ってるのか俺にはわからない。

「9階層にあるバー」・・・これはわかる。

「酒を飲んだ」・・・これもわかる。当たり前だな。

「ゴキ○リと一緒」・・・わからない。これは何かの比喩なんだろうか?

 別に俺の頭が悪いんじゃないよな? ちょっと不安になってきた。

 偶々傍にいた〝雷光〟のやつに手紙を見せて聞いたら、〝雷光〟もやっぱり意味が解らないと言っていたので少しホッとしたが、今になって考えてみると、確認した相手が〝雷光〟じゃあ、あまり意味が無かったか?

 

 ロウネによると「彼」は非常に気持ちの良い漢で「かの大威震○連制覇(だい○しんぱーれん○いは)や、天挑五○大武會(てん○ょうごりんだい○かい)などの出場暦を誇る剛の者」であると言う。

「出場」と言うからには何かの大会か?

 そんなもの聞いたことも無いし「生涯の知己を得た」と書いているが、すまないロウネ、理解できない。したくもない。

 剣○太郎とマブダチって、だから誰だよソレ。

 〝雷光〟によると、何となく聞いたことがあると言うが、知っているのか雷光。

 

 俺の精神の安定の為にも、これは何かの暗号だと思い込むことにして、手紙は情報部へ渡し、重要な情報が込められているはずだから、必ず解読するようにと厳命した。

 渡された情報部員は泣きそうな顔をしていたが、そのくらいの給料は払っているはずだ。

 

 

 

×月○日 077

 珍しく王国の国王、ランポッサ三世からホットラインがあった。

 いったい何の用かと思ったら、娘を知らないかと言う。

 

 いい加減にしろ。

 

 どうなってんのあの国。

 何で親爺がいない、娘がいないで、いちいち俺に聞くの? 俺はあいつらのママなの?

 俺、敵だよな? この認識間違ってないよな? 不安になってきたぞ。

 

「息子がいるだろ、皇太子に聞け」と言うと、あのデブもいないと言う。

 デスヨネー。そんな気はしたんだ。

 俺もだんだん慣れてきたのか、成長したんだろう。そこのお前、調教されてるって言うな。

 

 とにかくジジイを落ち着かせ、どうせすぐ帰って来るんだろうし、もう少し子供を信用したらどうだと説教してホットラインを切った。

 どう考えても敵国同士の皇帝と国王の会話じゃないのだが、俺も大人になったということだろう。断じて調教の結果ではない。

 

 午後は気分を切り替えて会議に臨む。議題は延ばし延ばしになっている竜王国救援軍派遣検討会議だ。

 どうも最近、皇帝は帝スポ読んでるだけとか言う輩がいるようなので、きちんと仕事をしているということもアピールしとかんとな。帝スポはこうしてちゃんと仕事をしている合間に読んでるだけなのに、風評被害も甚だしいと思わんか?

 

 それはさて置き、援軍の派遣には問題は幾つかあって、まず帝国軍の戦力に援軍として派遣するだけの余裕が乏しいこと。

 これは四騎士の一人、〝不動〟こと、ナザミ・エネックが死亡したのが大きい。ん? 実は生きてるとか言ってなかったかって? 気のせいだろう。空気読め。

 そしてもう一つは、竜王国の現状が本当に厳しいのか、不明な点があることだ。闘技場出場者を公募する余裕はあるみたいだしな。

 

 こちらに余裕があれば助けてもいいが、無理をして必要の無い戦力を出して削られるのも阿呆の所業だ。帝国臣民の生命財産は、帝国の繁栄の為に使われるべきであって、他国の為に無駄にしてよい物では無い。よって現状では「様子見」というのが、我々の採るべき方向性だろう。

 手遅れになったらどうするのかって? そんなこと俺に聞く暇があったらオリジナルの作者に助命嘆願のお便り出す方が建設的だと思うぞ。

 

 ただ、対外的なメンツというものがある。単に動かないだけでは竜王国側からすれば「援軍拒否」の返答を突きつけられたに等しいだろうし、それでは将来に禍根を残す可能性がある。

 そこで、このバランスを保つための援軍派遣延長理由を色々と思案してみたのだが、なかなか名案が浮かばない。

 仕方が無いので延長理由を公募してみることで会議は決した。

 帝スポに募集広告を出すことも検討中だ。

 

 

 

×月×日 078

 今日は朝から〝雷光〟のやつが元気が無かった。

 鬱々として覇気が無く、時々溜息をついている。

 〝激風〟が心配して体調でも悪いのかと聞いていたが、そんなことはないと言う。

 〝重爆〟が理由を聞いても、「別に何でもない」「たいしたことじゃない」と言を左右にして答えをはぐらかす。

 〝重爆〟は、こっそり俺に「失恋でもしたんでしょうかねえ」と言って来たが、「あいつのことだ、博打で負けたとか、そんなことじゃないか」と冗談めかして答えておいた。

 

 まあ、人間、アンニュイな気分になる日もあると言うもの。そこは帝国三騎士の一人、〝雷光〟であっても例外ではないだろう。

 本人にとっては大きな悩みだが、人に話せば笑われるような、そんな小事であることも自覚してるので他人には相談できない、なんてことも良くあることだ。

 そしてそんな悩みは、大抵時間が解決してくれる。

 

 心配する2人(友情とは良いものだな!)には、そういう時ほどいつも通りに接するようにと、こっそりアドバイスを授け、俺自身もいつも通り〝雷光〟に話しかけ、冗談を言い、元気に振舞うようにする。

 そうしている内に〝雷光〟の方も元気を取り戻したようで、午後にはすっかりいつもの〝雷光〟になっていたのでホッとした。

 

 

 〝雷光〟よ、すまん。

 

 お前のPMP(プレイ・マジック・ポータブル)の「ナザこれ」のセーブデータを間違って消したの、俺だ。

 お前があんな所に忘れて帰るから・・・わざとじゃないんだ、事故だったんだ・・・見回りの兵が来たから慌てて・・・つい・・・ちょっと見るだけのつもりで・・・帝国皇帝と言えども好奇心には勝てなかった。

 

 この秘密は墓場まで持っていく。

 

 

 

×月△日 079

 今日、皇城で一騒動あって大層疲れた。

 

 事の起こりはこうだ。

 午前の執務を終えて昼飯を食おうと、三騎士に秘書官、それに3人のメイドを従えて食堂に向かったのだが、食堂の扉を開けたらデスナイトが立っていた。

 皇城の食堂にデスナイトが出現するなど前代未聞。メイドが2人卒倒するわ、俺を庇って三騎士の抜いた剣に払われて、入り口両脇に飾ってあったペアで金貨200枚はする壷が粉々になるわエライい騒ぎだ。

 俺自身も、あまりの衝撃に一瞬固まったが、慣れた(慣れたくなかった・・・)もんで即座に違和感を感じ、よーく見てみるとデスナイトの顔が何やら(*^◯^*)なことになっている。

 三騎士に何者だと誰何され、しばらく何やらモゾモゾやっていると思ったら、背中が割れて今度は中からアインズの糞野郎が現れた。

 

 うちの皇城、出入りフリーすぎるだろ。

 

 そこまで気丈に意識を保って傍から離れなかったメイドが、その時点で卒倒したのは仕方が無い。デスナイトの中から、さらに骸骨とか、ただのメイドには悪夢以外の何物でも無いだろうからな。後で見舞いと褒美を与えよう。

「こんな所で何をやってる!?」と問い質すと、アインズのやつは「愛されるナザリックを目指して、いわゆる「ゆるキャラ」の着ぐるみ作ってみたんだがどうだろう?」と言う。

 

 緩んでるのはお前の頭だ。

 

 (*^◯^*)な顔してたって、全体から滲み出る威圧感はオリジナルと何も変わってないどころか、顔だけ滑稽な分、余計に禍々しい。

 こんな凶悪なゆるキャラ見たのは「夕○メロ○熊」以来だ。

 

 こちらが呆れていると、糞野郎は一人で捲くし立てる。

「どうだい?驚いてくれたかい?やはり国を治めるとなると、愛されることは重要だろうと思うのだよ」

 言ってることは正しいが、行動は270度間違ってる。

「この「デスナイト君」は自信作なんだが・・・他にもトブの森に住む魔獣「トブベアー」をモデルにした「くま○ン」とか、王国に生息するらしい「ガガなんとか」と言う青い血の魔獣をモチーフにした「レディー・○ガ」とかも作ってみたんだが・・・駄目かな?」

 

 駄目だろ。

 

 お前、いったい何に喧嘩売ってるんだ?

 伏字で誤魔化すのも限界ってもんがある。聞いてるだけで冷や汗が出るぞ。

 

「何しろ国の運営など初めてなのでな。先のカップ麺といい、我々も色々考えているのだよ・・・そう言えば、先だってのカップデスナイトだが、あれもちゃんと製品化に成功した完成品もあるんだ。その内ジルにも見てもらおうと準備してたんだが、ルプーのお陰で予定が狂ってしまった」

 要するにそれ、悪巧みしてました宣言じゃないか。そんなもの見たくも無いから、ずーっと予定狂ってて欲しい。

 

 アインズのやつ、言うだけ言ったら満足したのか、上機嫌で「これはジルにプレゼントするよ」と言ってデスナイトの着ぐるみを置いたまま帰ってしまった。

 どうしろって言うんだコレ。こんな物、置いていかれても非常に困る。

 どうしようか考えた末、ちょっと思いついて着ぐるみを着て公邸の方に帰ったら、迎えに出てきたロクシーが卒倒してしまって、後でこっぴどく叱られた。俺、皇帝なのに。

 

 最初に迎えに出てきた、例の黒目出し帽の使用人連中が平気な顔してたから、てっきり大丈夫かと思ったんだが・・・これ、俺が悪いのか?

 

 




2016/05/02 文章の修正を行いました。


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番外編 影の悪魔の優雅な休日 前編

 私はシャドウデーモン。

 階層守護者たるデミウルゴス様の配下の悪魔にして、現在は守護者統括であるアルベド様の命を受け、ここバハルス帝国帝都に派遣されている。

 

 任務は皇帝ジルクニフの周辺での情報収集。

 基本は2日を1セットとし、1日24時間を皇帝の周囲に密着、その後仲間と交代したら2日目は報告書の作成・報告と、残りの時間を帝都内に拡大して諜報活動を行う、と、これまでは決められていた。

 

 しかし、今、ナザリック地下大墳墓の偉大なる支配者であるアインズ・ウール・ゴウン様の命により、状況は変わった。これまでの任務シフトに変更が加えられることとなったのだ。

 これまで通り2日を1セットとすることは変わらないが、これを3回繰り返すと、間に1日の「休日」なるものを挟む、と新たに定められた。つまり、7日に1度「休日」が巡ってくることになる。

 

 この「休日」にはナザリックへの奉仕をしてはならず、「自分の躰と精神のリフレッシュを目的とした行為」のみが許される。

 これは非常に困ったことで、至高の方々への奉仕を目的として創造された我々に対して、至高の方々への奉仕をしてはならないと言うのだから、これはもう拷問のようなものだ。この二律背反を前に、いったい何をどうすればいいのか、考えただけで混乱し憂鬱になってしまう。

 だが、冷静に考えれば、あの究極の智謀の持ち主であり、いと慈悲深き御方でもあるアインズ様の命令なのだから、単に我々を苦しめることが目的とも思えず、きっと私ごときでは思いもつかない遠謀深慮があることは疑いようもない。

 不安もあるが、まずは命令に従い、「休日」なるものを実際に体験してみるというのが正しい判断なのだろう。

 

 その、私にとって初めての「休日」が、今回の任務明けにやって来る。

 

 

 夜明け前の深夜、交代の仲間がやって来ると、私は皇帝の寝室を抜け出し、無事に隠れ家にしている帝都内の一軒の空き家へと戻る。

 

 実は今回の任務では、危うく失態を犯すところだった。

 夜中、敬愛するアインズ様フィギュアで色々なポーズをつけて見惚れている内に、つい楽しくなって笑い声を上げてしまい、それを〝激風〟とか言う騎士に聞かれてしまったようなのだ。

 翌日になって〝激風〟が、「あの人形、夜中に笑うんですよ!」と皇帝に青い顔で訴えていたが、幸いにも皇帝は寝ぼけたのだろうと言って取り合っていなかったので助かった。

 あの皇帝、一度寝ると少々のことじゃ朝まで起きないからな。

 

 しかし、こんなミスを犯すとは、初の「休日」を前に、自分でも気付かない内に動揺があったのだろうか。報告書には、そんなことも包み隠さず全て記載する。怒られるかも知れないが、己の保身の為にアインズ様に対して隠して良いことなど何一つ無い。

 それが私ごときシモベに対して「任務」という奉仕の悦びを与えて下さった、至高の御方への忠義というものだと心得ている。

 

 報告書を書き終えて提出すると、残りの時間を利用して帝都内の冒険者組合や犯罪組織のアジト、幾つかの貴族の屋敷などの巡回を行う。こういった細かい諜報活動から重要な情報がもたらされることもあるので決して手抜きはしない。

 しかし、今日に限れば幸か不幸かたいした成果も無く隠れ家に戻ると、いよいよ「休日」の時間となる。なんだか追い詰められた気分だ。

 私はタイムカードを押して、残っていた仲間達に一通り挨拶すると、隠れ家を後に我が家(ナザリック)への帰路についた。

 

 

 さて、ナザリックへと帰還はしたものの、いったい何をすればいいのか、さっぱり見当も付かないのには困ってしまった。

 最初は我等デミウルゴス様配下の直轄の持ち場である第7階層の赤熱神殿に向かったが、デミウルゴス様は相変わらず忙しく飛び回っておられるようで御留守とのこと。

 代わりに留守居の魔将(イビルロード)の方々に一時帰還の御挨拶と、自分が「休日」であることを告げると、御三方共なぜかやや困惑した様子ながら、「全身全霊をもって全力で休日を過ごすように」と激励された。

 

 しかし、恥を忍んで「休日」の具体的な過ごし方を聞いたのだが、魔将の方々も具体的には把握されていないご様子で、憤怒の魔将(イビルロード・ラース)様曰く「と、とにかく頑張れ」としか言って下さらず、お気持ちは有難いのだが、あまり役には立たない。

 嫉妬の魔将(イビルロード・エンヴィー)様曰く「一日遊んでいても良いのでは?」という御意見もあったが、現在ナザリックにいる人間を道具に「遊ぶ」ことは禁止されているし、帝都や王都など、この世界の人間を使って遊んでは、後で任務にどんな影響が出るかわからない。「大丈夫だろう」との勝手な判断で失態を犯し、後で叱責されるなどは考えるだに恐ろしい。

 確かに「人間を使って遊ぶ」ことにかけては我々悪魔の得意とする所だが、人間という道具を入手するアテが無い現状では難しいというのが結論だ。

 強欲の魔将(イビルロード・グリード)様曰く、デミウルゴス様は休日に「日曜大工」という行為をされているらしいが、残念ながらその詳細まではご存知ないそうで、プルチネッラ殿がおられれば何かご存知かも知れないという話だったが、残念ながらプルチネッラ殿もデミウルゴス様と共に外出されている。

 

 魔将の御三方はデミウルゴス様が戻られたらご相談してみようという話で纏まったようだが、それでは今回の私には間に合わない。

「何もしない」という手もあるが、「退屈」は悪魔を殺す。至高の御方に失望されることの次に恐ろしいのが「退屈」だ。故にこの手段は絶対に取れない。

 考えれば考えるほど途方に暮れるが、ふと、他の階層の方々にも御挨拶をしようと思いついた。

 実際に何か用でもなければ他の階層に行くことなど滅多に無いし、「自分の好奇心を満たす」という意味に於いて「休日」の条件にも反することはないだろう。

 

 他に良い名案も思い浮かばない、ということもあり、まずは直上の第6階層を目指すことにして私は行動を開始した。

 

 

 第6階層に到着すると、目の前には階段のある建物に隣接した巨大な円形劇場(アンフイテアトルム)があり、他に目を向けると、少し離れた場所に捕虜収容所などを兼ねた多目的ログハウスがあるのがわかる。

 しかし、確かこの階層の守護者であられるアウラ様とマーレ様御姉弟は、原生林の森の中にある40m以上の巨木を利用した住居(地下2階地上8階のビルと言ってもいい)に御住いされているはず。

 詳しい場所がわからないのでどうしようかと迷っていると、闘技場の警備員兼掃除夫であるドラゴン・キンが、階下からやって来た予定外の訪問者(私のことだ)の様子を探りにやってきた。

 

 事情を話すとすぐに納得してくれて、生憎とアウラ様は御留守で、マーレ様のみ御在宅だが、それで良ければマーレ様の元まで案内してくれると言う。

 仕事の邪魔をしては悪いので場所だけ教えてもらえばいいと、一度は辞退したのだが、「休日」を全うするのに助力は惜しまないから任せてくれと、どうしても引いてくれなかった。

 彼の熱意に、あまり拒絶しても悪いと思い、それではと道案内を頼むことにする。

 

 道すがら彼と話すと、彼も「休日」には困っているそうで、実は既に1度経験したものの、何をすればいいのかわからずに1日をボーッと日光浴だけで過ごしてしまい、至高の方々への奉仕ができなかったという思いに苛まれたそうだ。

 これは同じ、至高の方々への奉仕を目的として、「そうあれ」と創造された者同士、その気持ちは良く解る。

 

 マーレ様の住居に着くと、マーレ様にも御挨拶と、これまでの事情を話し、御言葉を頂いた。

 私の説明には全く興味を示されなかったが、こちらの挨拶が済むと「そ、それじゃ頑張って下さい」と仰って下さった。階層守護者の方に直接激励の御言葉を頂けるなど、シモベたる私にとっては身に有り余る光栄だ。

 もし「休日」というものが無ければ、こんな機会など訪れることは無かっただろう。この素晴らしい「休日」というものを考案されたアインズ様には感謝の言葉も無い。

 私ごとき者の為に貴重な時間を割いて頂いた御礼を幾重にも言いつつ、ウキウキした気分でマーレ様の元を退出すると、案内してくれたドラゴン・キン殿にも丁寧に礼を言い、彼と別れて第5階層へと向かう。

 

 別れ際にこちらの手を強く握り締め、「頑張れよ」と笑って送ってくれたドラゴン・キン殿とは、共に死地をくぐり抜けた戦友との別れのような、そんな友情が芽生えたように思えた。これも「休日」の効果なのだろうか。

 

 

 第5階層に到着すると、コキュートス様のいらっしゃる大雪球へと向かった。

 到着すると大雪球を守備する雪女郎(フロストヴァージン)の方々に訪問の意を告げるが、残念ながらコキュートス様はリザードマン達を連れて外出中ということで面会叶わなかった。

 

 仕方なく、代わりに雪女郎の方々へ挨拶を済ませたら次の階層へ向かおうと思ったのだが、「丁度食事時なので食べていきなさい」と言われ、せっかくなので焼きたてのパンと温かいボルシチをご馳走になった。

 雪女郎の方々によると、冷え性には野菜、特に根菜類たっぷりのボルシチが最高だそうで、雪女でも冷え性になるのかと少し驚いたが、本当に良い勉強になる。別に食事は必須ではないが、やはりナザリックの食事は外とは違う格別の物だと実感した。

 

 食事をしながら、いい機会だと思って、雪女郎の方々に「休日」の過ごし方について尋ねてみると、既に「休日」を経験した方から、一日を「休日」用に開放された第9階層で過ごしてみたという貴重な情報を頂いた。

 本来なら第9階層は至高の方々の御住いであり、任務という例外を除いては、これまでは我等シモベごときが入って良い場所ではなかったのだが、現在は慈悲深きアインズ様の御厚情によって、我等シモベであっても「休日」中は第9階層の娯楽施設区画に入場しても良いことになっている。

 

 実際に第9階層を体験した雪女郎の方は、「あそこは天国よ」「貴方も絶対に行くべきだわ」と強く勧められて困ってしまった。

 悪魔の私に天国へ行けと言われても、素直に「はい」とは言いにくいではないか。もちろん、天国というのが言葉のアヤだということは承知しているが、悪魔の矜持というものもある。

 

 それはともかく、たまたま入った「ネイルサロン」という施設で、あのプレアデスのソリュシャン・イプシロン様と御逢いできたのは夢のような出来事だったわ、と仰っていた。

 なんでも「守護者に仕える者は身嗜みも一流でなければいけないわ」と仰って、恐れ多くも爪の手入れをして頂いたのだそうで、見せてもらうと近頃アインズ様のペットとなったハムスケ殿の顔が可愛らしく描かれていた。

 小娘のようにはしゃぎながら「一生の宝よ♪」と嬉しそうに見せてくれた雪女郎の方を見る、他の雪女郎の方々の目に嫉妬の炎が上がる。そしてその炎は私の目にも浮かんだだろう。

 なぜなら戦闘メイドのプレアデスの方々は、至高の方々によって特別な容姿を与えられた特別の存在であり、我等シモベ達のアイドル的存在でもある。

 それぞれ個人のファンの派閥もあって、こう見えて私はソリュシャン様派なのだ。ファンクラブ会員証だって持っている。

 

 我々シャドウデーモンの仲間内では、やはり本性が不定形ということもあるのだろうか、ナーベラル様派とソリュシャン様派が拮抗しているが、仲間の一人などはソリュシャン様派だったのに、任務でナーベラル様と直接話す機会を得られた上に、ご褒美まで頂いたとかで、それ以来熱烈なナーベラル様派になってしまった。

 私もその日のことを覚えているが、任務で出掛けた彼が、えらくボロボロになって隠れ家に帰ってきたことを思い出す。あの時、彼と行動を共にしていた仲間は口を閉ざして教えてくれないが、何があったのだろう?

 

 まあ、それはそれとして、参考までにと、初めての「休日」のコキュートス様の様子を教えて頂いた。

 当初は日課である鍛錬を行おうとされていたが、「それは至高の方々への奉仕であり休日に反するのでは?」との意見に同意され、しょんぼりと自室で悩んでおられたらしい。

 しばらくは「ウー」「アー」と唸り声が聞こえていたが、やがて静かになったと思ったところ、「某ニオ任セアレ・・・」だの「ココハ爺ガ・・・」「若モ立派ニ・・・」などと一日中ブツブツと声が聞こえたそうだ。

 そんな一日を過ぎたコキュートス様は、それはそれは張り切っておられたそうで、最初に多少悩んだとしても、リフレッシュという「休日」の目的を易々と極められる辺り、流石は階層守護者と言うことなのだろう。できればその秘訣というものを直接御本人からお聞きできなかったのが残念で仕方が無い。

 

 食事が終わると御馳走になった礼と、多数の有益で貴重なお話を伺えたことに感謝して大雪球を後にした。

 次の目的地は第3階層だ。

 

 

 3階層に到着すると、玄室の扉をノックし来意を告げる。

 生憎とシャルティア様は9階層のアインズ様の元へ御出座しになっていると言うことで、こちらにはいらっしゃらなかった。

 これまでお会いできた階層守護者はマーレ様だけということで、何とも効率が悪いようにも感じられるが、元々アポイントを取っているわけでなし、偶然お会いできれば幸運という程度のことなので気にしない。色々と見聞きして歩くこと自体が目的なのだから。

 

 代わりに配下のヴァンパイア・ブライドの方々に御挨拶をしたのだが、ここで奥に招かれ、これまでとは逆に「休日」について色々と、いわゆる逆取材を受けるような形になってしまった。

 

 部屋に通されると新鮮な血(あまり好みじゃない)を勧められ、矢継ぎ早に質問の雨を浴びる。

「奉仕」をしてはならず、「自分の躰と精神のリフレッシュの為の行動のみ許される」という条件は、我々の存在意義と相反するようで非常に難しい。皆この矛盾する条件に、どう折り合いをつけるか、必死で頭を悩ませているのだ。

 私はとりあえずこれまでの行動の経緯を説明したが、一体参考になったのかならなかったのか。第9階層へ遊びに行くという選択肢には興味を惹かれておいでのようだった。

 

 ちなみに、シャルティア様は既に「休日」を消化しておられるそうで、「休日」にはアルベド様、アウラ様と共に何処かへ出掛けられていたそうだ。

 なるほど、誰か気の合う者と一緒に過ごすというのも、一考の価値のある行動かも知れないが、しかし、誰と?という疑問に対する答えが浮かばない。

 

 さしたる収穫も無かったことに少し落胆しながら3階層を辞し、これからどうしようかと思案しながら再び4階層へ向かう階段の前で思わぬ再会があった。

 以前、帝都の諜報活動の際に知遇を得た、恐怖公の眷属の彼とバッタリ遭遇したのだ。

 思わぬ偶然にどうしたのか尋ねると、なんと彼も「休日」なのだと言う。我々は無事の再会を祝し、お互いに「休日」を如何に過ごしたかを情報交換し合った。

 

 彼は流石に爵位を持つ恐怖公の眷属だけあって、「休日」の過ごし方を心得ているようで、先ほどまでは同じ「休日」中の眷属(数が多いので同じ日程の眷属も多いそうだ)達とカードゲームに興じていたと言う。

 もちろん私とて悪魔の端くれ、人間を相手にするのにカードゲームは嗜みの一種だ。ポーカーやブラックジャック、ブリッジなど一通りは心得ている。

 ちなみに上流階級でブリッジと言えばコントラクトブリッジというゲームのことだ。庶民の行うセブンブリッジとは別物なので間違えないようにしたい。

「カードはブリッジを?それともポーカー辺り?」と聞くと、彼は「最近はコイコイを」と言っていた。ああ、カードってそっち・・・。

 

 それはそうと、これから9階層で過ごすべく向かう所だったらしい。

 以前、彼の同僚が9階層で騒ぎに巻き込まれた(同僚に過失は無かったそうだ)ことがあり、以来、公の眷属は9階層への進入自重を通達されていたが、「休日の娯楽施設区画」に限ってはそれも解除されている。彼自身は9階層は初めてだそうで、非常に楽しみなのだそうだ。

 至高の御方々のいらした空間に入れるということは、我等シモベにとって光栄なことであり、彼の気持ちは良く解る

 私も初めて警護の任務で9階層へ配備された時の、喜びと重圧に身震いが止まらなかった気持ちを思い出す。同時に彼より先に既に9階層へ入ったことがある、という事実を少しだけ自慢に思った。

 

 シャルティア様の例に習い、良い機会なので一緒に連れ立って9階層に向かうことにする。

 同行を申し出ると、彼はニッコリ笑って(多分、笑ったのだと思う)快諾してくれた。

 移動速度に差が有るので、彼には私の肩に止まってもらい、これまでの出来事などを語り合いながら、我々は9階層へと向かった。

 

 

 




シャドウデーモン編の前編をお贈りしました。
この後は通常進行のジル君日記を挟み、その後で後編という形を考えています。予定は「予定」でしかないですけどね(笑)


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その16

×月◇日 080

 王国の黄金からホットラインがあった。

 留守の間に父が失礼しましたと詫びていたが、本当に迷惑な親子だ。

「兄と一緒にお友達の所へ遊びに行っていたんですけれど、すぐに帰るつもりが引き止められてしまって」と言う。

 お前がどこに行こうと勝手だが、その度、俺の所にまで連絡寄越して大騒ぎするのは止めてくれと、口調こそ礼を失しないよう違うが釘を刺しておいた。

 

 無駄だと思うって?

 俺もそう思う。

 

 それにしたって、毎回毎回、娘がいない息子がいない親爺がいないと大騒ぎするが、毎度毎度オチは娘の友達とやらの所に行ってましたで終わるだろ?

 おかしいじゃないか。だったら何で最初にその友達の所に問い合わせないんだ? 俺に聞く前に、その友達とやらに聞けば済むことじゃないか。おかしいだろ。

 その疑問を黄金にぶつけると、「チッ、いつも違うお友達ですから」「私、お友達多いんですよ」と言う。

 

 ちょっと待て。

 お前、今舌打ちしなかったか? チッ、って言ったよな? チッ、って。

 

 追求したが、「雑音では?」とか「気のせいでしょう」とか、のらりくらりと言を左右にして逃げられた。

 まあ、確かに王族なんだから付き合いが広いのも事実だろうが、あの舌打ちは確かに聞いた。

 これは絶対何か企んでると判断し、王国に関する警戒レベルを1段階上げさせることにする。俺を出し抜けると思ったら大間違いだ。

 

 無駄だと思うって?

 うん、俺もそう思う。

 

 

 

×月▽日 081

 実は先日、帝国の領内でヴァンパイアが発生したという緊急の報告があったのだが、その後の顛末の詳細報告書が上がってきたというので秘書官より報告を受ける。

 

 事の起こりは北方辺境の村で複数のヴァンパイアとグールの群れが目撃され、数人の犠牲者も出たという事件だった。

 ヴァンパイア自体は面倒だがそれほど脅威という訳でもなく、通常だとプラチナ以上のクラスの冒険者なら退治も難しく無い。

 かつて王国で問題となったヴァンパイアは第三位階の魔法を使うというので脅威だったのだが、今回のケースではその例からは外れ、ごく普通のヴァンパイアとグールの一団だったのは不幸中の幸いだ。

 グールの方は麻痺攻撃が厄介なものの、それ以外はちょっと強いゾンビといった程度のモンスターで、これも退治はそれほど難しく無い。

 

 ヴァンパイアもグールもアンデッドということで、魔導国との関係も事前に確認させたが、魔導国からの返事は「当方とは無関係なので、そちらで適当に処分されて結構」というものだった。これは出現位置がナザリックとは真逆の方向なので予想はしていたが。

 

 事件は被害に会った村から依頼を受けた冒険者組合が、至急、複数の冒険者チームを派遣して退治されたとの事。とりあえず被害は最小限に食い止められた。

 

 問題は、なぜそんな僻地で複数のヴァンパイアが発生したのかという原因の究明であり、退治を依頼されていた冒険者チームに、帝国魔法省の人員を同行させて調査に当らせた報告が本日届いたのだ。

 

 報告によればヴァンパイアは魔法アイテムである石製の仮面で人為的に生み出されたものであり、最初にヴァンパイアになった者は、その際に「人間を辞める」宣言をしていたとの証言が得られたらしい。

 一応、「星」というプラチナ級冒険者チームと、「戦車」というシルバー級冒険者チームによって仮面は破壊され、ヴァンパイアも「イ○カリ○テ」というチームの「アン○ルセン」とかいう神官の活躍によって退治されたので、この一件は無事解決だ。

 事件の首謀者らしき「○隊指揮官」と呼ばれる男を取り逃がしたのは痛恨の極みだが、恐らく有名なズーラーノーンの一派かも知れない。

 

 ん? その冒険者チーム、妙にスタイリッシュに決めポーズ付けたり、オラついてる男とか、変な逆立てた髪形の男がいないか?その神官、吸血鬼を目の敵にしてて神官のくせに刃物振り回してないかって?

 質問が多いな、しかし、そんなことは知らん。

 うちは調査官を派遣しただけで、冒険者を雇ったのは村だし、派遣したのは冒険者組合だ。事件の調査はさせたが、別に冒険者共を調査させたわけじゃない。

 時を止める? そんなこと人間にできるわけないだろ。常識で物を言え常識で。

 

 頭大丈夫か?

 

 

 

×月□日 082

 今日は一日何事も無く過ぎた。たまにはこういう日があってもいい。

 戦士にも束の間の休息は必要なのだ。皇帝なら尚更だろう。

 

 久々に憂い無く休むことができると安堵しながら公邸に戻ると、いつも迎えに出てくるロクシーが出てこない。

 おかしいなとは思いつつも、表の警備兵の様子は特に変わり無かったし、エントランスにも変わった様子は見られない。黒目出し帽の使用人に聞いても「イー!」としか答えないし、どうしたのかと奥に入ると、何やらジャラジャラと音がする。

 嫌な予感がして部屋を覗くと、中でロクシーと王国の王女、国王、皇太子の4人がテーブルを囲んで「ドン・ジャーラ」をやっていた。王女の真後ろには純白のプレート鎧を着た若い騎士が緊張の面持ちで立っている。

 

 腰が抜けた。

 

 ちょっと待て。

 いくら俺でも取り乱すよ? 俺悪くないよな? 普通に引くよな? 作者馬鹿なの? どうすんのこれ。

 だいたい、お前ら一家、何でうちで家族団欒やってんの? ていうか何でここにいるの? ジジイお前、国王・・・少し立場ってもんを・・・。

 

 ・・・もういい。

 

 流石に少し時間が掛かったが、不屈の精神力で何とか立ち直った。

 本来なら、カエル顔の悪魔の呪言ですら防いだ精神防御のネックレスが動揺を抑えるはずなんだが、全く役に立たないってどういうことだ? こいつらの精神攻撃、あの悪魔の呪言より上なのか。

 

 それでも俺の立場上、言うべきことは言わせてもらう。

 何の用かと問い、事前協議も無しの訪問に文句を付けたが、王女は「お忍びでお友達のところに遊びに来ただけですわ」と涼しい顔で言い放つ。

 お友達とは俺のことか? この前突っ込んだこと、絶対根に持ってるだろ。

 

 国王は国王で、憮然として「お忍びなんだから、事前に知らせたらお忍びにならんだろう。皇帝のクセにそんなことも知らんのか。そして娘はやらん」と言う。

 それ、俺の知ってるお忍びと違う。あと、娘もいらん。

 

 皇太子のやつは、妙に余裕たっぷりにニヤニヤしながら「国許は優秀な臣下が面倒見てるから数日なら空けても平気だ」と嘯く。

 何なのお前、その余裕。何でお前、この間からそんなに強気なの? デブのくせに。

 

 そしてロクシーのやつは「戦争は終わったのでしょう? だったら友好を深めるのは良いことですわ」と、これもまた涼しい顔だ。

 この前、デスナイト着ぐるみ事件で怒らせた機嫌が、やっと直ったばかりなので、あまり強くは言いにくい。

 

 只一人、王女の背後に立つ若い騎士だけが、何とも申し訳無さそうにこちらを見、目で陳謝の気持ちを伝えて来た。

 お前、いいやつだなぁ。お前とは友達になれそうな気がする。ここでの味方は王国の騎士のお前だけだ。俺、帝国の皇帝なのに。

 

 ともかく、可及的速やかに帝国から退去するよう、丁寧に「お願い」する。

 本当は一網打尽にして牢にぶち込みたいところだが、そうなったら王国の残党との全面戦争は避けられん事態になる。対魔導国包囲網を考えたら、出さなくてもいい人類の被害は出さないに越したことは無いからな。自分の理性が憎い。

 

 ロクシーが、夜も遅いから泊まっていかれてはとか言ってたが、お前、徹夜で「ドン・ジャーラ」付き合ってくれるメンツ欲しいだけだろ。この前、俺も徹夜に付き合わされたんでわかる。

 すったもんだの末に連中を追い出し、やっと一息ついた。

 

 おかしい。今日は平穏な一日で終わるはずだったのに。

 

 

 

△月○日 083

 昨夜はエライ目に会った。

 いったい帝国帝都の警備体制はどうなってるのか不安は募る一方だ。

 そこで急遽、その辺の詳細について報告をするよう手配した。不備があるなら早急に正さねばならない。

 

 午後からは、早速上がってきた一次報告を受けるが、それによればやはり帝都の守りは完璧に近い。ていうか元からしっかりしてたはずなのだ。

 どう考えても、ホイホイ現れるあの妖術使い共がおかしいだけな気はずっとしている。

 

 詳細に目を向けると、まず帝都上空は常に飛行騎獣ヒポグリフを駆る皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)の警備兵が常に遊弋している。

 わざと目立つように姿を現したまま飛んでいる班と、超高価なマジックアイテムによって姿を隠して飛んでいる班とがあり、前者は抑止に、後者は隙を狙う愚か者を誘い出すべく目を光らせている。

 秘書官によれば、特に優秀な2人の飛行警備兵コンビは帝国の臣民にも人気があり、その白いプレート鎧と、男女別け隔てなくモテる容姿から「白バイ野郎ジ○ン&パ○チ」・・・って、ああ、バイってそっちの・・・ていうか、その情報は必要か?

 

 帝都の周囲は城壁で囲まれ、出入りには警備兵のチェックが行われるが、このチェック自体は簡単なものになっている。なぜなら、人の流れの止まった都市に発展などなく、出入りの流れを止めたくないという配慮による措置だ。

 帝都全域については、担当地域を東・西・南・北と、皇城のある中央の5つのブロックに分割して担当地域が設けられ、多くの警備兵を配置している。

 

 中には代々、警備兵を世襲する家柄があったり、個性的で優秀な者も多く、南部ブロックには銅貨を投げつけて賊を捕らえる名物警備兵もいれば、西部ブロックの警備兵団は少々元気が良すぎることでも有名で、特に「ホークとユ○ジ」のコンビは「あぶない警備兵」と評判らしい。その団長の名を取って「ダ○モン軍団」と呼ばれているそうだ。また、帝都全域をカバーする権限を与えられた部署もあり、そこにはどんな難事件でも24時間で解決するジ○ック・バ・・・はいはいはいはいストップSTOPすとーっぷ! ちょっとカメラ止めて。止まれ。

 ちょっと作者お前もう黙れ。ほっといたらどこまで暴走する気だ。さっきから変な汗止まらないぞ。

 

 いや、でも、ある意味警備は万全だよなぁ、これ。

 

 

 

△月×日 084

 以前アインズのやつが言っていたカレーを出すレストランがオープンしたと言うので、三騎士を連れてお忍びで覗いてきた。

 店内は茶色で統一されたカウンター席と、低い仕切りの付いたテーブル席があり、壁はアイボリーで落ち着いた雰囲気になっていた。

 アインズのやつのことだから、もっと奇をてらってくるかと思ったんだが、これには拍子抜けだ。エ・ランテルで出した店は繁盛していると言っていたから、案外真面目に商売をやる気なのだろうか。

 

 我々の陣取ったテーブル席からは、カウンター越しにキッチンの様子が見て取れるようになっており、白い大きなマスクをして、南方風のメイド服に似た、変わったデザインの服を着た女性店員が、忙しそうに肉を焼いていたのが目に付いた。ただ、忙しそうな割にバタバタ服の袖を動かしてるだけのようにも見えたが。

 メニュー表によると「ケバブサンド」という料理らしく、試しに単品で頼んでみたが、これはあんまり美味くなかったので逆に驚いた。

 ナザリックの食べ物は美味いという先入観があったのだが、聞くとケバブの肉は法国産の羊肉だと言う。確かに法国は食べ物がマズイと聞くしな。でも、何でそんな肉を出してたんだろう。

 

 本題のカレーは問題無く美味かったのだが、3人に「どれでも好きなものを頼むといいぞ」と言ったら、〝雷光〟はチーズインハンバーグカレーにソーセージサラダとドリンク、〝激風〟は半熟タマゴ鶏つくねカレーに唐揚げサラダとドリンク、〝重爆〟は茄子と茸とホウレン草のカレーにシーザーサラダとデザート、ドリンクと、あいつら本当に遠慮会釈無く頼みやがった。

 

 昼間だからそんなにガッツリ食べないと思ったのに、肉体労働がメインの連中だから昼は余計に食うんだな。俺なんか昼は抜いたりすることも多いから、完全に思い違いをしていたようだ。

 先日のデスナイト着ぐるみ事件のせいで、ロクシーのやつに小遣い減らされてる身には何とも辛い。予算オーバーだ。

 おかげで俺は一番安いポークカレー単品で我慢せざるを得なかったが、見栄は張るもんじゃないな、誤魔化すのも一苦労だった。

 

 皇帝って帝国で一番偉いはずなんだけどな・・・。

 

 




2016/05/02 文章の修正を行いました。


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その17

△月△日 085

 またアインズのやつが訪ねて来た。

 本当にもう、いい加減にアポイントを取ることを覚えてもらいたいのだが、無理なんだろうな。こっちだって忙しいってのに・・・。

 仕方が無いので、また竜王国救援軍派遣延期言い訳検討会議は延期することにする。

 ん? 言い訳検討会議を延期する言い訳を探してないかって? 気のせいだ。

 

 今日はまた何の用かと聞くと、魔導国と周辺諸国との相互理解を平和的に推し進めるため、劇団を作って劇を上演し、文化的な交流を図りたいのだと言う。

 それが本当なら拒否する理由も無いのだが、具体的にどうするのかを聞くと、実はもう、少しずつ準備を進めていて、後は上演できる劇場を用意するだけになっていると言う。

 劇団名も決まっているらしく、アインズのやつ、楽しそうに「劇○死期と言うんだ」と教えてくれた。なにその不吉な名前。

 ていうか、劇団○期はマズくないか? 大丈夫なのか? 見境無く四方八方に喧嘩売って歩くスタイル、いい加減やめて欲しいんだが。

 

 普通、演劇といえば六大神や八欲王の伝説、十三英雄の英雄譚などが定番だが、どんな演目を上演する予定なのかを聞くと、アインズのやつ、「演劇にも色々あるし、演目の候補はたくさんあるんだが、とりあえずは子供向けの御伽噺にしようかと思うんだ。3つほどに絞り込んでみたんだが、凝った難しい話よりも、最初は簡単な話の方がいいだろう?」と言う。

 

「まず、思いつくのは“ごんぎつね”だな。ここからは遠い異国・・・私の故郷の話なのだが、学校でも教えていた教訓を含んだ話で、悪戯を反省した子狐が、お詫びに猟師の元へと食べ物を運んでいたら、その猟師に撃ち殺されてしまうという話だよ」

 

 待て。

 それのどこに教訓があるのか俺には理解できない。ひたすら悲惨なだけの話にしか聞こえないんだが、なんでそんな救いの無い殺伐とした話を学校で教えるんだ?

 

「他には“ジャックと豆の木”という童話で、ジャックという男が、母親に牛を売って生活費を工面しろと言われるんだが、言いつけを破って牛を無価値な豆と交換してしまうんだ。仕方なくその豆を植えると、不思議なことに豆の枝が雲の上まで伸びて登れるようになった。そこで登ってみると、雲の上にお城がある。その城の財宝を盗んで持ち帰り、怒って追いかけてきた大男を返り討ちにして幸せになるという話だな」

 

 そいつ、幸せになったら駄目だろ。

 教訓話なら、そのジャックとかいう外道は絶対不幸にならなきゃ嘘だろ。母親の言いつけは守らないわ、盗みはするわ、オマケに逆ギレで殺人とか、とんでもない極悪人じゃないか。

 

「後は・・・“赤頭巾ちゃん”という話だが、これなんかは劇としては定番だな。赤い頭巾を被った可愛らしい女の子が、お婆さんのお見舞いに行ったら、二人共悪い狼に食べられてしまい、その狼も猟師に撃ち殺されて腹を裂かれるという話で、これも候補に考えているんだ」

 

 なにそのスプラッタ。

 そんなもん子供に見せたらトラウマになるぞ。劇場は阿鼻叫喚待った無しじゃないか。劇場で激情ってか!・・・すまん、今のは忘れろ。

 

 とりあえず、その3本は止めて、他の話にした方がいいんじゃないかとは言っておいたが・・・何でそんな救いの無い話ばっかりなの? イイハナシダナーって涙流すような心温まる話って無いの?

 アインズのやつは、「他にも候補を考えてみよう」と言って帰って行ったが、やっぱりこれは、アンデッドと人類は絶対に相容れないという証左なのだろうと俺は思う。根本的に精神構造が違うので、相互理解など出来るはずもなく、交流や共存など無理な話なのだ。

 

 人類の未来の為にも、一刻も早い、対魔導国包囲網を作り上げねば、と固く心に誓った。

 

 

 

△月◇日 086

 今朝、帝スポを読んでいたら、昨夜の闘技場の武王への挑戦権を賭けた試合の結果が出ていた。

 

 ※ワールドグローバルゴージャスナンバーワン挑戦者決定戦

  ○リ・エスティーゼ王国代表 マスクド・ランポッサ三世

   [3分34秒 タイガースープレックスホールド]

  ×アインズ・ウール・ゴウン魔導国代表 腐王

 

 二度見した。

 

 は? なにこれ? ・・・マスクド・・・なんだって? ・・・なんか嫌な名前が見える気がするんですけどー。試合結果も色々おかしい気がするんですけどー。脳が理解することを拒否するんですけどー。

 

 とりあえず見なかったことにして帝スポを閉じ、深呼吸をして心を落ち着けてから、午前の執務に向かうことにする。

 うん、俺は何も見て無い。何も知らない。

 

 俺が執務室に入ると、後から追いかけるように部屋に入って来た〝雷光〟のやつが、やや興奮した面持ちで朝の挨拶もそこそこに「いやー、昨夜の闘技場の試合凄かったですよー」と、能天気に話題を振って来たから殴っておいた。

 人の努力をなんだと思ってるんだ。これは俺、絶対悪くないぞ。空気読まない〝雷光〟が悪い。

 

 しかし、俺が繰り出す程度のパンチでは、日頃鍛えている〝雷光〟にとっては撫でられたようなものだろう。たいして気にもしてない様子で興奮気味に昨夜の目撃譚を俺に語って聞かせるので、やむなく拝聴することにした。

 

「それがですね、最初に王国のマスクマンが出てきて、黄色いマスクに黒い模様の入ったビーストマンみたいなマスク被ってて・・・名前なんていったけな・・・忘れちゃいましたけど、貧相な体つきでしてね、あれで試合になるのか心配しちゃいましたよー。でもほら、『伝説の武技を操る達人』って触れ込みだったじゃないですか。だから、達人ってのは見かけじゃ判らないんだろうなーって思いましてねえ」

 

 忘れちゃいましたけどって、お前、そこが一番肝心なとこだろうが! 貧相な体つきって、そりゃ単に爺さんだからだろ! そんなランポッサ三世なんて名前のジジイが、そんな都合よくホイホイいてたまるか! ていうか、全然偽名になってないじゃないか!!

 そりゃ王族やら血縁の可能性は0じゃないが・・・俺の勘が危険信号出しっ放しで、全く止まる気配が無いぞ。

 頭痛い・・・何やってんだあのジジイ・・・。何が『伝説の武技を操る達人』だよ、お前、ただの一般人のはずだろ・・・。

 

「それでですね、対戦相手なんですが、着ぐるみテスナイト君が現れましてね、あれが腐王かーって思ってたらそうじゃなくて、闘技場の真ん中でカップ麺作り始めるじゃないですか。それで、何だろうと思ってたら、カップの中からムクムクッと現れたのが、普通のデスナイトの半分くらいの大きさのレッサーデスナイトで、あれが腐王って言うんだから驚いちゃいましたよー」

 

 こっちは呆れちゃいましたよーだ。何だそのレッサーデスナイトって。カップから出てくるからカップ○王ってか。伏字にした方が危ないってどういうことだ作者、おい。

 半分の大きさだから1mチョイだよな。それって強いのか? 強さもデスナイトの半分だとしても、それなりに強いとも考えられるが・・・そういえばこの前、アインズのやつがカップデスナイトの完成品がどうとか言ってたが、これのことだろうか?

 

「そんなこんなで準備が整って、いよいよ試合が始まるじゃないですか。最初は睨みあってたんですけど、腐王が突進した! と思ったら、マスクマンが凄い動きで身を交し様に武技“ローリング・エルボー”を叩き込んで、腐王が怯んだところを担ぎ上げて武技“エメラルド・フロウジョン”、最後は武技“タイガースープレックスホールド”でカウント3!!! あっという間の武技3コンボで瞬殺っすよ瞬殺! いやー、凄かった。2代目タ○ガーマ○クこと伝説の元社長M・ミ○ワ思い出しましたよ。あの王国のマスクマン強いっすねー」

 

 強いっすねーって、〝雷光〟お前、自分で何言ってんのか解ってないだろ。また不穏なこと口走ってるぞ。

 だいたい、なんだよカウント3って。それ、俺の知ってる闘技場の試合と違う・・・そんな武技も聞いたことないって言うか、“ローリング・エルボー”とか“エメラルド・フロウジョン”って、それは武技って認識で本当にいいのか?

 

 しかし・・・謎の多すぎる話だ。

 いったいそのレッサーデスナイトが弱いのか、あのジジイが強いのか・・・これは多分前者の可能性が高いと思うんだが、あのアインズがそんな弱い配下を出してくるだろうか? 単に失敗作とも考えられるが・・・。

 後は、八百長ということも大いに考えられる。その場合は王国と魔導国との間で何かしらの繋がりがあるということになるので、この場合はかなり面倒な話になるが・・・そんなことするメリットが思いつかない。今さら王国を持ち上げても完全に無意味だよな。

 

 最後に残る可能性は・・・ランポッサのジジイが本当に強い?

 

 

 

△月▽日 087

 今日はちょっと趣向の変わった話なのだが、最近、作者が言うには「ジルクニフ日記」というタイトルが気になるのだと言うのだ。

 作者が出てくるくらい、いつものことで何も変わってないだって? うん、俺もそう思うが、話くらい聞いてやろうじゃないか。寛容の精神というのは大切だ。

 

 それでまあ、「ジルクニフ日記」と言いながら、全然「日記」の態を成してないし、ゆるゆるな作風からも「じるじるじるくにふ」の方が良かったんじゃないか、と言い出した訳だな。今さら「ぷれぷれぷれあです」見ましたと宣言してるようなものだが。

 

 確かに「ぷれぷれ」という表現は、あのアニメのゆるゆるな作風を現していて良いタイトルだと思う。あ、もちろん俺は見たこと無いぞ? 皆まで言わずとも解ってるよな?

 しかし・・・「じるじる」って何だよ「じるじる」って・・・。腐ってそうな色の得体の知れない液体が滴ってそうだし絶対ヤだ。よりによって「じるじる」は無いだろ「じるじる」は。異臭もしそうだし・・・。

 

 ただ、そうは言っても決定権は作者にあるので、変えたければ勝手にすればいいと言ったら、今さら面倒だから嫌だと言う。だったら最初から言うな。

 ムカついたので、三騎士に命じて牢に放り込んでおいた。

 

 

 

△月□日 088

 ナザリックのロウネから荷物が届いた。

 えらく大きな荷物だったので、またカップ麺でも大量に送ってくれたのかと思って開けてみたら、中身はアインズの糞野郎の組み立て模型が入っていた。

 以前にも組み立て模型を送ってくれたが、今度のは「1/3スケール PG アインズ・ウール・ゴウン V○r.Ka」となっている。

 

 ふと、「PG」って何だろう? と一瞬気になったが、きっと突っ込んでもロクなことはないだろう。そのくらいは学習しているので忘れることにした。俺も大人になったもんだ。

「Ver.K○」の意味も不明だが同じことだ。きっと、アインズ・ウール・ゴウンばーか、とでも読むのだろうということにしておく。心情的にも是非そう読みたいし。

 

 ロウネの手紙には、いくつか別売りのオプションも同封しておくと書いてある。着せ替えの衣装や、装備させることのできるアイテム類のようだ。

 同封の説明書には、完成すると「目と腹部が光ります」「『絶望のオーラLv.0.1』を再現できるエフェクト付き」「背部のボタンを押すと『騒々しい。静かにせよ』の名セリフが聞けます」「その他ギミック多数搭載」などと書いてある。最後の説明は嫌な予感しかしない。

 

 ざっと見たところ、うんざりするほど部品が多いな。これは作るのに時間が掛かりそうだ。

 基本的には以前作った1/16のやつが大きく緻密になった程度で、特に新たな情報が得られるような要素は見当たらないのだが・・・ロウネがわざわざ送ってきたのだから、きっと何かあるのだろうな。

 

 ただ、今回の荷物にはもう1つオマケがあって、「1/6スケール HG すーぱー炎莉」組み立て模型が入っていた。「HG」って・・・いや、だからもう考えない。危ないからホント。作者のチキンレースに巻き込まないで欲しい。

 中身は何やら可愛らしい女の子の人形のようなものが出来るらしく、ロウネの手紙によると、エ・ランテルでは軽く5000個以上が売れたという大ヒット商品で、近郊の村からわざわざツアーを組んで団体客が購入に押し寄せたのだとか。入手に苦労したと書いている。

 

 でもなあ・・・これ、俺が作るのかぁ? ・・・女の子の人形を? 帝国の皇帝が? ・・・うーん・・・。

 

 

 

□月○日 089

 今日も、昼飯ついでにお忍びで帝都の様子でも見てこようと思い、〝重爆〟を連れて例のカレー・レストランに行って来た。

 

 本当なら三騎士が護衛に付くのだが、いつもぞろぞろ連れ立っては目立つので、帝都の治安は良好であることもあり、共は1人に絞らせた。あくまでもお忍びだからな。

 決して、三人連れて行けば全員分奢りになる俺の負担が大きいから、とか、今月小遣いピンチだから、とかは関係無い。そろそろロクシーに直談判して少し増額してもらわねば・・・せめて減額前の金額に。

 メンバーが〝重爆〟になったのは、三人でジャンケンをして負けたから、らしいが、何で勝ったから、ではないんだろう?

 

 店に入ると、もうすっかり顔馴染みになった店員に「いつもの」と注文する。こういう「いきつけの店」とか「メニューを見ずに注文する常連」って少しカッコイイと思わないか? ちょっと憧れてたんだ。

 ちなみに、お忍びの際は当然変装しているし、店では貧乏貴族の三男坊で「シルさん」と名乗っている。暴れん坊皇帝? 知らんな。

 

 カレーはいつものように美味かったんだが、人がせっかく機嫌良く食べていたのに、〝重爆〟のやつ、俺を見て「シルさん、最近ちょっとお太りになってません?」などと、聞き捨てならないことを言う。

 とんでもない言い掛かりだ。こう見えて見た目には十分に気を使っているのに、太ったなどとは冗談ではない。

 だいたい、太っているというのは王国の皇太子のようなやつのことを言うのだ。あれなら確かにデブだ。「ぽっちゃり」でも「ふくよか」でも「安産型」でもない、「デブ」と言うのだ。だいたいあいつ、影だけで20キロあるって聞いたぞ。

 

 俺は確かにデスクワークこそ多いが、健康にも気を使って一日の運動量は確保しているし・・・まあ、確かにこのところ昼飯の量は多少増えてる気はするが・・・ほぼ日を置かずにカレー食ってることも認めなくはないが・・・だって美味いし・・・。

 いいじゃないか別に! 自分の小遣いの範囲で食ってるんだから、誰にも文句言われる筋合いなど無い!

 

〝重爆〟には断固抗議したが、その責めるような視線にいたたまれなくなって、ふと目を店の奥にやると、なぜか一人の男が目に付いた。

 その男は、ちょうどカレーを食べ終わったところのようで、ゆっくり席を立つと、我々のいる席の横を通り抜け様、ポンと鷹揚に俺の肩を叩いて、「カレーはな、飲み物だよ」と呟くと、俺に向かって親指を立てて見せ、呆然とする我々を尻目に不敵な笑みを浮かべたまま悠然と勘定を済ませて店を出て行った。

 

 なんであのデブ、よその国のカレー屋で一人で飯食ってんだ・・・。

 

 

 



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その18

□月×日 090

 今日は朝から大雨で、うんざりするような天気だった。

 しかし、こんな鬱陶しい日でも部屋でゴロゴロしている訳にはいかないのが、皇帝たる身の辛いところだ。なにしろやるべきことは山ほどある。

 

 とりあえず、日課の帝スポを読み、最近二倍に増やした朝の運動を済ませると、竜王国援軍派遣延期言い訳検討会議を延期して、「1/3スケール PG アインズ・ウール・ゴウン V○r.Ka」を組み立てることにする。

 何か問題でも?

 文句のあるやつは意見を四百字詰め原稿用紙20枚以内に纏めて、バハルス帝国帝都アーウィンタール皇城内郵便局留め、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス宛に送るように。尚、採用者の発表は当選者への返信をもって換えさせて頂く。

 

 さて、キットの組み立てだが、部品は多いし多少面倒ではあるものの、組み立てるのに難しいということは特に無い。説明書の指示通りにコツコツと根気良く進めれば誰にでも組み立てられるようになっている。

 ロウネの手紙によれば、様々な機能が組み込める高級品ということだったが、デフォルトの機能として「『絶望のオーラLv.0.1』を再現できるエフェクト付き」と説明書にあって、腹の部分に納める赤い玉にこの効果を持つ魔法が封じられており、発動させると延べ時間で約1ヶ月程度、お部屋の蚊を落とします、と・・・ああ、「Ve○.Ka」のKaって蚊のこと・・・。

 

 腹部の玉は別売りのオプションと交換もできるようになっているが、今回は気の利いたことでロウネのやつがオプション品も同封で送ってくれている。

 それを見ると、オプション品は色違いの玉で青と緑があり、青い玉はブルーの光を発し、その光を患部に当てることで水虫を治療できる治癒魔法が封印されているらしい。また、緑の玉はグリーンの光と共に黴や雑菌の繁殖を抑えるプラ○マク○スター・・・やーめーろー、だから見境無く喧嘩売ってギリギリのライン探って歩くスタイルやーめーろー。

 

 ともあれ、何分にも作業量が多いので完成にはもう暫く掛かりそうだ。

 そうそう、「1/6スケール HG すーぱー炎莉」の組み立ての方はロクシーに頼んでおいた。

 さすがに女の子の人形を俺が組み立てるのは世間体というものもあるし、最初は〝重爆〟のやつに頼もうかと思ったのだが、あいつでは重要な点を見落とす心配もあるので、その点、ロクシーなら信頼できる。と、持ち上げた所で小遣いの増額も一緒に提案したが、そっちはけんもほろろに却下された。

 

 上手くいくと思ったんだがなあ・・・。

 

 

 

□月△日 091

 今日も朝から雨で天気が悪かったが、軍の訓練や帝都周辺の視察に一日中外出しての公務となった。

 特に軍の訓練は天候に関わらず行われるので、これの視察についてはサボるわけにもいかない。

 天気が悪いからと以前から予定されている視察を中止するようでは、悪天候の中、訓練に精を出す騎士や兵士達の士気に関わるからな。このくらいのことは皇帝として当たり前のことだ。

 

 視察に同行した秘書官は、今日は晴れるはずだったのにとブツクサ言っていたが、聞くと翌日の天気を1/2の確率で見抜くタレントの持ち主に聞いたのだそうだ。なんだ1/2って。それはタレントという認識でいいのか? それ、むしろ高確率で予想外してないか?

 秘書官には、そいつとの付き合いは少し考え直した方がいいとアドバイスしておいた。

 

 午前中の視察を終え、昼食はいつもの店(いい響きだよな)で済ませたいところだったが、今日は取り巻きが大勢いるのでそうもいかない。

 あの店では俺は貧乏貴族の三男坊ということになってるし、変装用の着替えや小道具も置いてきた。それにツケも貯まってるのにこんな大勢で押しかけたりしら出禁になってしまうじゃないか。

 ん? 俺、何か変なこと言ったか?

 

 とりあえず昼食はロクシー手作りのキノコピラフ弁当とキノコサラダ、戦闘糧食として兵にも配布しているカップ麺で済ませた。

 手作り弁当を残すとロクシーが恐いので、カップ麺を半分残す。両方食べると多すぎるが、片方だけだと、ちょっと物足りないんだよな。〝重爆〟の視線が痛かった。

 

 午後は帝都周辺の視察だが、帝都のエリアを出てすぐの空き地でサーカス小屋のテントを発見した。

 秘書官によると、ちゃんと事前に申請されており、許可も得て運営されているらしいので何の問題も無いが、雨宿りついでに少し覗いてみることにする。

 別にサボるわけじゃないぞ。雨が強くなってきたので随行の兵達の休憩も兼ねて、小一時間ほど見学してみるだけだ。

 

 直径15mほどの円錐形のテントで、中央に太く高い柱が設置されており、これで天幕を支える構造になっているようだ。中央10mほどの円形ステージの周囲にドーナツ状に客席が配置されている。

 客の入りは半分ほどだが、外の悪天候を考えたらよく入ってるんじゃなかろうか。

 

 用意された席について、渡されたプログラムの羊皮紙を見ると、もう既にステージは進行している(こちらが飛び入りなんだから仕方ない)ようで、トブの大森林の奥に住むというトブ・ベアの一輪車乗りが終わったところだった。次は道化のジャグリングに続いてトブ・グレート・タイガーの火の輪潜りというスケジュールになっている。小さなサーカス団だし、たいした芸はやってないな。

 

 ただ、丁度我々のいる席からステージを挟んだ真向かいの席ではしゃいでいる、全身ピンクの衣装を纏った夫婦連れらしいのが気になって仕方ないんだが、これは恐らく触れない方がいいんだろうな。俺のこういう勘は当るので、見なかったことにしてしまおう。

 ピンクの2人から少し離れたところにいる、顔面白塗りの悪魔っぽいのも同様だ。

 

 小一時間過ぎて、外の雨も小降りになってきたという報告もあったので、そろそろ出立しようかと用意をしていたらサーカス小屋の入り口付近で何やら騒動が起こった。

 周囲に何があったのかを聞くと、どうやら不審者を捕らえたというので興味をそそられて見に行くと、王国の皇太子が捕まっていた。なにやってんだこのデブ。

 

 いったい何してるのか問いただしたが、サーカスを見に来ただけだと言い張ってるし、騒ぎを大きくすれば外交問題にも発展しかねないし、正直もう面倒臭いので強制送還させるように指示しておいた。

 変装のつもりだろうが、上下黒のシャツとズボンに茶色の袖なしベストの出で立ちに、野暮ったい眼鏡と無精髯って、お前、だんだん最近影の薄い某独裁国の将軍の長男じみて来てないか?

 

 

 

□月◇日 092

 法国の駐在文官と話す機会があった。

 

 知っての通り法国以外の諸国は基本的に「火」「水」「土」「風」の四大神を信奉しており、法国のみがこれに「生」と「死」を加えた六大神を信奉している。

 法国の、人類種以外への極端な主張もさることながら、「生」と「死」という2大神の存在も諸国と法国との間の大きな溝となっているのは間違い無い。

 将来、我がバハルス帝国が諸国を統一した折には、こういった相違が障害になることも考えられるし、指導者として見識を深めておくことは必要になるだろう。

 そこで、その辺の相違について、法国の駐在文官の一人が本国では学者だということもあり、意見を聞く場を設けたというわけだ。これが神官だと一方的な狂信者の主張を繰り返すのみで聞く価値すら無いが、学者であれば冷静な意見が聞けるだろうという判断でもある。

 

 この学者が言うには、六大神や四大神などの数は重要ではないそうで、長い伝承のうちに対象となる神の性格によって融合・分離を繰り返し、例えば生の神と死の神を、1人の生と死を司る神として伝えている地域もあるらしい。

 また、地域によっては七大神として伝えられる地域もあるそうで、Seven God for Good Fortune 7人の幸運の神として、それぞれ「家内安全」「五穀豊穣」「夫婦円満」「長寿長命」「国家安泰」「無病息災」「商売繁盛で笹もって来い」という御利益を象徴しているそうだ。最後のちょっとおかしくないか? 俺の知ってる神と違う気がするが、知らないと思ってまた作者のやつ暴走してないか? 大丈夫か? 読んでるのが関西人とは限らないし、一見簡単そうに見えて関西人でも相当ニッチなネタだぞ? 1000人中999.9人置いてく二重ネタ仕込むのやめろよ?

 

 モデルとなった人物や出来事が同じでも、長い年月を経ることで、その地域の風土にマッチした神へと変化するという話自体には説得力があるとは思うが、どうもこの学者が胡散臭いというか、本国では異端扱いだったというのも頷ける。いや、確かに話してみると見識は深そうだし、優秀な学者なのだろうことは疑ってないが。

 南方の国の民族・文化には特に詳しいそうで何冊もの著作があり、帝国への駐在も、我が国に於ける民間の奇怪な伝承や事例の収集目的だろうとか言われてたな。

 なんでも法国では有名な学者だそうで、特に一部の識者(マニア)には人気があり、妖○ハ○ター(本人はそう呼ばれたくないそうだ)の二つ名を持つらしく、ジ○リーに似てるとも評判らしいが、ジュ○ーって誰だよ。

 

 

 

□月▽日 093

 久しぶりによく晴れた気持ちの良い朝だった。

 こんな朝はメイドの淹れてくれたお茶を飲みながら読む帝スポも格別と言うもの。

 目を引く記事は特に無かったが、世の中が平和な証拠でもあるだろう。

 

 そうそう、1つだけ、ナザリック殺人事件の続きが載っていた。

 連続殺人の端緒だと思っていたバレバレ氏殺しが、屋敷の小間使いのルフーとの浮気を疑った妻の犯行だったとは意表を突かれた。

 しかも、バレバレ氏を遊びで浮気に誘ったのはルフーの方からだと言うではないか。やっぱり女は恐い。

 そしてバレバレ氏殺しの真相が探偵ミス・ゴールドによって暴かれるのと入れ替わるように、今度は館の主人クリンガ氏が殺されてしまった。

 氏の遺体は屋敷横の墓地で発見されたが、両目にはスティレットと呼ばれる刺突武器が1本づつ突き立てられた状態で、しかも全身に焦げたような跡があったと言う。

 実に念入りな殺し方で、犯人はよっぽど深い恨みがあったんだろうな。

 俺の見立てだと、メイドのバラ殺しの捜査で浮かび上がったラインハルトとか言う美貌の青年が怪しい気がするんだよな。どうもコイツは見た目と裏腹に性格に問題があるようだし。

 いずれにせよ次回が解決編らしいので、今から楽しみだ。

 

 帝スポを読み終わって、さっそく午前の公務に入り、執務室で秘書官と三騎士を交えて打ち合わせを行っていたら、以前頼んでおいた「1/6スケール HG すーぱー炎莉」 が完成したからとロクシーが持って来てくれた。

 

 ロクシーが言うには、「炎莉将軍」と呼ばれる実在の女をモデルにしたもので、別名「血塗れエンリ」の名は俺も聞いたことがある。彼女の配下には数千匹のモンスター軍団がいると説明書に書いてあったそうだ。模型の顔は可愛らしいのに、とんでもない女だな。

 ロクシーは「優秀で可愛らしいお嬢さんみたいですし、嫁候補に加えられたら?」などと言うが、俺はもっと淑やかな女が好みなのだ。軍勢率いてるような女は御免蒙りたい。

 しかし、そんな俺の抗議もあっさり無視して、「軍勢を率いるような優秀な相手との子供でしたら、次の皇帝にもぴったりですからね」などと言いながら、ロクシーのやつ秘書官に相手の身辺調査を指示していた。

 現皇帝の意向は無視ですかそうですか。

 

 キットの方は、スカートのような装甲の付いた女性用フルプレート鎧姿で、ギミックとして胸部に背中のボタンを押すとバネの力で発射するオッパイミサイルが搭載されている。

 なんだろう、この違和感。俺の考えてた「1/6スケール HG すーぱー炎莉」と何か違う。絶対違う。

 頭の中に「超○金」「アフ○ダイA」「ダイ○ミック○ロ」と記憶に無いキーワードが次々に浮かぶんだが。

 

 ロクシーが言うには、このギミックの搭載された戦闘バージョン仕様と、普段着で衣装を着せ替えることが出来る「キャストオフ」仕様のどちらかを選択して作るようになっていたそうだが、「当然、戦闘バージョンで作りましたけど問題ありませんよね?」と笑顔で念を押された。「不要パーツは既に破棄しておきました」という追撃込みで。

 そんなもん、否と答えられるわけがなかろう。なるべく冷静に「当然だ」と答えたつもりだが、声に少し動揺があったかも知れん。

 おい〝雷光〟も〝激風〟も、二人共そんな露骨にガッカリした顔するんじゃない。そんな目で俺を見るな。ていうかこっち見んな。

 お前達の気持ちは痛いほどわかるが、ロクシーと〝重爆〟がこっち見てるだろうが。これ以上小遣い減らされたら、お前達に責任取らせるからな。

 

 

 

□月□日 094

 今日、主席秘書官と話している時に、ちょっとしたことに気付いた。

 本人なりに目立たないよう気を使ってはいるようだが、発言していない時や休憩時間など、何やら菓子のようなものをポリポリと食べてる様子なのだ。

 

 しかも、注意して見ると主席秘書官だけでなく、三騎士や警護の騎士達など、けっこうな人数が何かの菓子を食べてる様子が伺える。

 別に皇城内で飲食禁止とか、そんな窮屈な規則は設けてないので、職務に影響さえ無ければ特に問題視するつもりは無かったのだが、皇城内に菓子の甘ったるい臭いが充満しているのはどうしたものか。

 さすがに牛みたいに四六時中口をモグモグさせていたら気にするなという方が無理だし、品位という点からも放置はしておけないと判断した。

 

 秘書官に問い質したところ、なんでも三騎士からそれぞれ色んなお菓子を貰うので、捨てるのも偲びがたく折を見てせっせと消費しているらしい。元凶はあいつらか・・・。

 

 あまり窮屈なことは言いたくないのだが、このまま放置して“自由で伸び伸び”と“大雑把”を履き違え、某狸球団や猫球団みたいになられても困るので、締めるべき所は締めさせてもらうことにする。

 秘書官には綱紀粛正の為に指定の時間と場所以外での皇城内飲食禁止を通達させると共に、三騎士への事情聴取を行うことにした。

 

 まず〝雷光〟が言うには、何でも最近エ・ランテルで流行しているという“駄菓子屋”なるものが帝都にも支店を出しており、三騎士うち揃った折に興味本位で覗いてみたところ、なぜか見る者にノスタルジーを感じさせる店構えと商品の取り揃えを気に入り、3人して色々買い漁ってるらしい。

 

 なんでも〝雷光〟個人は特にビッ○リマン○ョコが特にお気に入りだそうで、オマケのシール集めにハマってると言っていた。

 現在は冒険者組合とコラボした、有名な冒険者のイラストレアシールが付属しているとかで、超激レアの蒼薔薇ラキュース嬢や漆黒のナーベ嬢などのシールは、マニアの間で金貨10枚以上の高額で取引されているらしく、〝雷光〟もそれを狙っていわゆる“大人買い”しており、それで一人では食べきれない余ったお菓子を配って歩いていたというのが事の真相のようだ。

 

 シールは後で返して下さいねと念を押された上で俺も一個貰ったが、薄いウエハースに挟まれたチョコは口当たりも良く美味かった。シールの方はどうせ例の“大胸筋”とかってオチだろ、と思って空けてみたところ、ダインとかいう銀級冒険者の髯面のおっさんだったので、チョコだけ食って捨てた。

 

 次に〝激風〟のやつは“あげ芋ナザリック・ドラゴン味”とかいうポテトチップスにハマったそうで、味が気に入ったのもさることながら、封入されているナザリックにいる41人+αの一般メイドカードを集めているそうだ。

 確かにあそこは美人揃いだからな。でも+αって何だろう?

 

 なんでも希望するメイドカードを10枚集めて応募すると、抽選でナザリックで開催される握手会の握手券が当るとかで、がっつり箱買いしているそうだ。なにそのどこかで聞いたようなボッタクリ商法。

 しかも、ランダムに入ってるカードから10枚同じ物を集めた上で、さらに抽選って、それ、絶対当てさせる気無いと思うぞ。本家より悪質そうだが大丈夫なのか? 騙されてないか? ていうか、お前、わざわざ握手会にナザリック行く気なの?

 

 試しに1袋貰って開けてみたが、ドラゴン味というのは何とも香ばしい焼肉のような、それでいてフルーティーさすら感じさせる味で、これは確かに〝激風〟が気に入るというのも納得できる。しかし、メイドカードの方はどこかで見た黒い目出し帽の男だった。なんだこれ?

〝激風〟に聞くと、これが+αというやつで、けっこうな確率で入ってるハズレだそうなので捨てた。やっぱりお前、騙されてると思うぞ。

 

 最後は〝重爆〟のやつだが・・・お前はもう少しマトモだと思ってたんだけどなあ・・・2人と同列だったとは・・・お前には失望したぞ。

 

 それで、だ。〝重爆〟がハマったのはチョコ菓子らしく、ナッツ味、苺味、ミルク味に、コーン、キャラメル、バナナ、グレープ、プリンなどなど、見たことも聞いたことも無い味も含めたバラエティーの豊富さが売りなのだそうだ。

 キ○トカ○トだろって思ったお前、浅いな。

 

 パッケージには中にアタリとハズレの表示があり、アタリだと“金のアインズ”か“銀のアインズ”が印刷されているので、銀なら5枚、金なら1枚をナザリックに送ると“オモチャの缶詰”が送り返して来るらしい。

 たかがオモチャにとも思うのだが、店に置いてあったサンプルを見ると、たかがオモチャもナザリッククオリティーに掛かると素晴らしい美術品と言っても過言ではないアクセサリーの数々だったそうで、それなら〝重爆〟が夢中になるのも解らなくはないかな。

 ん? 最初からチョ○ボールと予想してたって? そんなもんが自慢になると本気で考えてるなら、早めにカウンセリングを受けることをお薦めする。

 

 とりあえず自分達の金で買い物をするのは自由だし、動機がイマイチ不純とはいえ、お裾分けにも悪意があるわけじゃないので、三人には厳重注意と新たに設けた規則の遵守を厳命すると共に、次にその店に行く時は必ず俺も連れて行くことを命じて一件落着だ。自分達だけ楽しむとかズルイじゃないか。

 

 



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その19

 あ、どうも。松露饅頭です。
 前回の更新から少しだけ間が空きまして、中にはエタったんじゃないか? と思われた方もいらしたかも知れませんが、これこの通り、一応健在です。

 今回珍しく前書きを書いているのには幾つか理由がありまして、一つは今回の話(2話分)は5月の末頃にいつも本作を投下している掲示板で有志の方によるSSコンテストのようなものが開催され、それに合わせて御題の「チョコレート」「ノート」「小瓶」の文字を必ず入れること、という条件に沿って書かれていますので、これをふまえて読んで頂きたいということ。

 さらに、書いた日付も当然5月の内ですから、末日に発売された「オーバーロード」本編10巻の内容は、この時点で全く考慮されてなかったということも覚えておいて頂けると幸いです。本編であの人がクローズアップされて出て来た時は悶絶しました(笑)

 そして、肝心のオーバーロード本編10巻発売と、当「ジルクニフ日記」について、後書きで少しお話させて頂きたいと思う次第。
 宜しければ最後までお付き合い下さい。



○月○日 095

 今日は以前から依頼のあった帝スポからの取材を受けた。

 魔導国の出現以降の昨今、只でさえ忙しいのにとあまり乗り気では無かったのだが、その取材内容というのが「皇帝の普段の生活にスポットを当てたい」というものだった事で、鮮血帝と言われる「公」の部分に対し、柔らかく親しみやすい「私」の一面を見せることも、大衆の統治には必要なイメージ戦略の一環だと秘書官達に説得されて了解することにした。

 確かに彼らの言うことは理に適っていると認めざるを得ないし、正しい意見の具申ならば、その言はきちんと取り上げることが皇帝たる俺の役目だ。個人的な好き嫌いは許されない。

 

 やって来た記者はグレーの髪にグレーの口髭を蓄えた40代と思われる男で、何やら荷物を入れた袋を背負っているが、どう見ても歴戦の戦士を思わせる精悍な雰囲気を漂わせていた。どこかのワーカーが記者を騙ってスパイに来たと言った方が納得できる風貌なんだが、ホントに記者か?

 

 背負った荷物の中身は、今回のインタビューを受諾したお礼とお土産を兼ねての品ということで、「これは編集長から・・・」と取り出した箱には“九○珍味明○子セット”と書いてあり、中を見ると食べ物らしき物が幾つもの小瓶に分けて入っていた。お前のとこの編集長って何者だよ。

 それぞれ、“明太うに”“ほたて明太”“イカ明太”“たこ明太”などと書いてある。見た目赤くて、なんだか美味そうには見えないんだが、記者は「絶対美味いですから!」と太鼓判を押すので後で試してみよう。作者も美味いって言ってるし。

 

 さらに「うちの田舎の名物なんですよ」と、“白○恋人”なる菓子折を貰ったんだが、お前の田舎もどこだよ。

 まあ、中身は薄いクッキーでホワイトチョコレートを挟んだもので美味かったが。

 

 取材の前に色々と聞いたが、なんでも以前は確かに冒険者をやっていたそうで、それなりの地位にもいたらしいが、その後、紆余曲折を経て期間限定特派員という形で、友人のラケシルという男と一緒に帝スポの記者をやっているそうだ。便利な表現だよな、紆余曲折って。

 

 取材の方は俺の執務ぶりをレポートする前半と、後半のインタビューで構成されるそうで、まずは前半部分の取材に取り掛かる。これは要するに、俺としては普段通りの仕事をするだけだ。

 秘書官や役人の報告を受け、レポートを読み、決済をする。当然だが機密に関するような報告やレポートについては、予め今日の午後に回すよう手配済みだし、本来ならこれに会議の時間も加わるが、まさか部外者を出席させることなどできないので、例の会議がいつも通り延期されるのは当たり前だな。文句あるか? 無いよな?

 

 記者の方は、そんな俺の執務する姿を見学しながらノートにメモを取っているというわけで、俺の方は普段通りに特に演技する必要すらなく、諸々の懸案事項を決済し、必要なら指示を与えて行く。

 我ながら絵になる姿だと思うのだが、タイトルにするなら「偉大なる為政者」か? 今度肖像画でも描かせてみるか。

 

 そして後半のインタビューだが、主題が私生活の一面ということなので、内容も他愛のない質問ばかりでサクサクと進行した。趣味の時間は読書に勤しみ知識を蓄え、好きなタイプは知的で淑やかなタイプの女性、好きな食べ物はカレーなどだ。

 有能でありながら庶民的な食べ物を好むとか、これはもう高感度うなぎ登り間違いないだろう。

 

 ただ、ちょっと気になったことがあって・・・インタビューが順調すぎて熱が入ったのか元々仕事熱心なのかは知らんが、質問しながら、何かこう、にじり寄る感じで妙に接触したがるというか、質問する記者の距離がどんどん近くなって・・・いや、親し気なのは別に問題無いんだが・・・。

 俺の腰の辺りを見る視線が妙に気になったし、油断すると同じ椅子に無理矢理座ろうとするし・・・ちょっと気持ち悪かった。

 

 

 

○月×日 096

 予定通り今日は早めに仕事も終わって、息抜きに〝雷光〟を連れてお忍びで夜の城下に繰り出したのだが、俺としたことが少々マズイ失態を犯してしまった。

 

 とは言っても大したことじゃなく、知っての通り〝雷光〟のやつは平民出身なので、貴族では知りようの無い店の知識もあったりするわけで、つい、時間を忘れて過ごしてしまったということだ。あ、別にイヤラシイ系の店じゃないぞ。そこは帝国皇帝の名誉に賭けて念を押しておく。

 問題は、だ。

 

 ・・・今朝、ロクシーに今日は早めに帰ると言っていたことを、すっかり忘れてたことだな。

 

 一人で帰っては命の危険があるので、ここは〝雷光〟にも責任を取らせるべく、一緒に連れ帰ることにした。あいつが誘わなければ、こんなことにはならなかったんだから当然だよな。

 あいつは嫌がったが、行きたがっていた闘技場の八足馬の重賞レース開催日に特別休暇を許可するということで手を打った。

 

 公邸に着くと、いつもの黒目出し帽は出迎えに出てきたものの、ロクシーの姿が無い。前にもあったなこのパターン。うん、なんかもう判っちゃった。

 どうせいるんだろ? とか思いつつ〝雷光〟を連れて奥に向かい、部屋を覗くとやっぱりいた。

 テーブルを挟んで王国の王女とロクシーがお茶を飲みながら談笑しており、王女の後ろには真っ白のフルプレートを着た護衛の騎士が直立不動で控えている。もうやだこいつら。

 

 ロクシーは俺に気付くと「あら、おかえりなさいませ」と、妙に澄ました顔で声を掛けてきた。ヤバイ、これ絶対怒ってる。

 王国の王女の方は、余裕の表情でにこやかに「おかえりなさいませ」と声を掛けて来るが、この時初めて王女の存在に気付いた〝雷光〟は、どうやら思考停止したようだ。声も出せずに固まっている。そりゃそうだろう、俺も前回は腰が抜けたし。

 王女の背後に立つ若い護衛の騎士からは盛大に「ごめんなさいのオーラⅤ」が放たれていた。お前も苦労してるようだな・・・わかるぞ、その気持ち。お前は悪くない。

 

 とりあえずロクシーには〝雷光〟との事前の打ち合わせ通り、ちょっとした相談事に乗ってやってて遅くなったんだということで納得してもらった。まだ半分現実逃避している〝雷光〟も、無理矢理現実に引き戻して証言させたので事なきを得たようだ。これ以上小遣い減らされてたまるか。こっちも必死だ。

 

 しかし、まだ多少の疑いは残っているようなので、話題を逸らす為にも逆に王女の件を問い詰めるが、こっちはいつもの「お友達のところに遊びに来た」で一蹴されてしまう。証拠として幾つかゲームを持って来ているということで、流れ的に実際にやってみようという話になってしまった。

 どう考えても何か騙されてるというか、向こうの手の内で踊らされてる気がするのだが、こっちにも負い目があるので無碍にも断れない。

 

 最初に王女が取り出したのは「パーフ○クショ○ゲーム」とかいうゲームで、ルールは簡単、制限時間内に様々な形のパーツをボードの所定の穴に嵌め込むというゲームで、タイムオーバーすると途中まで嵌め込んでいたパーツが飛び散るというギミック付きだそうだ。おい、作者、色々無理あるんじゃないか? 平気か?

 

 罰ゲームまで用意しているという念の入れようで、クリア出来なかった者は王女特製ロシアン・チョコレート(要するに中に香辛料詰め込んだチョコがある)の刑だそうだ。

 参加者は、俺、ロクシー、王女に、〝雷光〟と王女御付きの騎士の五人。王女のやつ、嬉々としてノートに成績を付ける準備までしている。お前、なんでそんなノリノリなんだよ。

 

 抽選の結果、順番はロクシー、王女、俺、〝雷光〟、王女御付きの騎士になったが、結論から言うとロクシー、王女、俺の三人は軽々クリア。残り〝雷光〟と王女御付きの騎士がクリアできずに罰ゲームということになった。

 罰ゲームのチョコは、それぞれが選んで同時に口に入れるという手順で行われ、〝雷光〟が見事に当り(ハズレか?)を引いたようで、涙目になっていたのは滑稽だった。お前、Luck値低いっぽいな。

 

 続いて王女が取り出したのは「黒○危機○髪」という・・・おーい、作者、やっぱり色々無理ないか? 本当に平気か?

 もう、ルールは読んでるお前等知ってるだろうから割愛させてもらう。手抜きって言うな。細かく説明するのも冷や汗出るんだから察して欲しい。

 

 抽選の結果、剣を刺す順番は〝雷光〟、王女、ロクシー、王女御付きの騎士、俺の順だったが、運悪く泥棒髯の海賊野郎を飛ばしたのは俺だった。あれ? 俺もLuck値低い?

 ちなみに順番と罰ゲームは、作者がリアルにサイコロ振って決めてるのでわりと真面目な話だ。救いようがないとか言うな。

 

 王女が嬉々として取り出した罰ゲームはポーションの一気飲みで、小瓶の中には焦げ茶色のポーションが入っている。何のポーションか聞くと、最近発売された廉価版の回復ポーションで、安い割りに回復率が良いことと味の不味さで人気(?)らしい。

 匂いを嗅いでみると、なにやら打ち身に貼る膏薬のような、なんとも言えない鼻に抜けるような香りがする。

 王女が言うには「ルー○ビア味と言うそうですわ。一般には飲むサロ○パs・・・」

 慌てて黙らせ、覚悟を決めて一気に飲み干したが・・・これは確かに不味い。おい〝雷光〟、皇帝を指差して笑うな。楽しそうだなお前。

 まあ、不味かったが、最近の激務で悪化していた肩凝りが治ったのは助かったけどな。負け惜しみじゃないぞ。

 

 俺の罰ゲームが終わると、王女は「まだ他にもあるんですのよ。例えばこの人○ゲームとか・・・」と、さらにゲームを出してくる。いい加減にして欲しいのだが、ロクシーの機嫌がいいし、下手に断って帰りが遅かったことを蒸し返されると俺の懐的に非常にマズイことになる。

 なんとか打開策は無いかと頭を悩ますが、ふと、王女御付きの騎士と目が合うと、「ごめんなさいのオーラⅩ」全開で申し訳無さそうな視線を送ってきた。うん、まあ、お前も被害者だよな。お前とは良い酒が飲める気がする。

 

 しかし、そんな漢たちの思いも虚しく、ゲーム三昧の夜は更けていった・・・。

 

 




 前書き振りです。松露饅頭です。
 当作を最後まで読んで下さった方へは、本当に感謝の言葉しか御座いません。暇なんですか?

 お気づきになった方もいらっしゃると思いますが、今回、この「ジルクニフ日記」について、「完結」のマークを付けさせて頂きました。
 これは、皆さんご存知のように本編の「オーバーロード」の第10巻が発売され、その中でジル君を取り巻く状況が一変してしまったことが理由です。

 しかし、実を言うと私個人としては「ジルクニフ日記」を続ける意思も意欲も全く変わっておりません。

 では、なぜこういう処置を取るかと言うと、これまでの「ジルクニフ日記」はあくまで9巻までの内容を反映したものでしたから、このまま続けると10巻の内容を反映した境界線が曖昧になってしまう。それでは少しキャラを動かしにくいと思ったのが理由です。

 よって、「ジルクニフ日記」はここで一旦区切りを付け、これからは10巻までの情報を下敷きにした「ジルクニフ日記2(仮称)」へと移行する予定です。
「ジルクニフ日記」内で前編のみ掲載となっている影の悪魔編の後編も、「ジルクニフ日記2(仮称)」での掲載になる予定です。

 本編10巻の内容の咀嚼に少々お時間を頂くことにはなりますが、ネタも少しづつ貯めてありますので、もし宜しければ再開の日をお待ち頂けると幸いです。



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