遊戯王-孤独に巻き込まれた決闘者-R (秋風)
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序章
プロローグ


こんにちは、秋風と申します。
こちらはにじふぁんにて投稿していた遊戯王小説のリメイクです
私自身、遊戯王はつい最近復帰したためデュエルタクティクスに未熟な部分が多々ありますが、それでもよろしければこの小説にお付き合いくださいませ
また、この小説では憑依、オリ主などの要素がありますので度々になりますがご注意ください

また、序盤におきましては「にじふぁん」で連載していた当初の古いものをリメイクしている為、俗にいう最近の「テンプレ」が多々見られます
この小説自体も投稿したのはもう5年以上の前の作品なので、今でいう遊戯王オリ主SSのテンプレが多くあります。その手の物に飽きている、苦手である方には閲覧を推奨できないことをあらかじめご了承ください

最後に、この作品を読んで遊戯王をまたやってみようかな、アニメ見返そうかな、となってくれれば嬉しいと思っております

秋風


Side???

 

 夢を見ていた。1人の少年がいじめられている夢だ。知らない学校、知らない子供たちが、その知らない1人の少年をいじめている、そんな夢。なんというか、なんとも気分の悪い夢だと素直にそう思う。なにがどうなって自分自身、こんな夢を見ているのかを理解できなかった。やがて世界は暗転し、真っ暗な空間にその虐められていた少年1人だけが残る。やがて、俺の耳に少年の言葉が聞こえてくる。

 

「どうして僕ばっかり、どうして僕がこんな目に…」

 

 似たような言葉をまるで呪いのように繰り返し呟く少年。俺はその少年がどこか怖くなった。だがよく見ると、この少年はどこか自分と似ているような気もした。そして、少年はその鬼のような形相のまま一言呟いた。

 

――この世界からいなくなってしまいたい

 

 その言葉と共に、俺の意識は薄れていくのだった…

 

 

 

「……変な夢だな」

 

 そう思いながら体を起こす…が、そこで異変に気が付いた。その俺が寝ていた部屋が、全く持って知らない部屋だったからだ。部屋の窓に目を向けるとこれまた知らない街並みが広がっている。ここはいったいどこだ? 昨日は大学の研究室で家に帰るのが面倒臭くなってそのまま眠ってしまったというのまでは覚えている。そう、すなわち俺は大学の研究室にいたはず…なのに、何故俺は知らない部屋で寝ているのだろうか。まるで意味が分からん。昨日は酒も飲んでいないし、こんなことになる要素が見つからない。

 

「どこだ、ここは……」

 

 そんな感じで部屋を見渡すと、ふと机の上にグチャグチャになって置かれた遊戯王のカードが散らばっているのを見つけた。この部屋の主のものだろうか? 俺はその真ん中に置かれていた束、どうやらデッキらしいが、それを興味本位に手に取った。これでも、俺は遊戯王プレイヤーである。置いてあるデッキにちょっとだけ興味が湧いていた…が、そのデッキの内容を見て俺は思わず声を漏らす。

 

「……うわぁ」

 

 確認したデッキの内容は余りにもお粗末で、正直このご時世に…と思うカードばかりで構成されていたのである。デッキの中に入っているカードは具体的に言うとバニラや使用用途不明のカードばかり。もちろん、サイドデッキなどあるわけがない。攻撃力の最高がデーモンの召喚の2500…これはいったい何のデッキなんだろうと首を傾げる。そんなデッキを机の上に戻し、ふと、部屋に置かれている鏡が目に入った。そこには俺の知らない1人の少年の姿が映っている。だが、おかしい。この部屋には今、現状見渡す限り自分しかいないはずだ。なのに、何故鏡には知らない少年が鏡に映っているのか? そこでようやく、俺は自分の視線がいつもより少しだけ低いことに気がついた。

 

「っ……!?」

 

 しかも、周囲には誰もいない。やはり、鏡に映る少年は俺自身なのだと理解する。見た目は…中学生か、高校生くらいだろうか。もともと180cmあった身長は今では170ちょっと。髪の色も、黒から、黒なのだが、少し赤がかかっているような感じがする。

 

「……テレビ」

 

 訳が分からなくなっている中、視界に部屋に置いてあるテレビが目に入った。俺はそれを試しに付けてみることにした。何か、情報を得られるかもしれない…と。そして、そのテレビには信じられないものが映っていた。

 

『もうすぐ行われる海馬ランドのイベントでは……』

 

 ……? 意味が分からなくなったので番組を変えてみることにする。このテレビのアナウンサーはいったい何を言っているんだ。

 

『デュエルモンスターズの生みの親、ペガサス氏は今後……』

 

チャンネル変更

 

『今季のデュエルアカデミアの……』

 

 ……落ちつこう。海馬ランドとは何か? 答えはアニメ「遊戯王」の登場人物である海馬社長が作ったテーマパークのことだ。ペガサスとはだれか? 答えは遊戯王の世界でデュエルモンスターズという名のカードゲームを作り出した生みの親のことだ。デュエルアカデミアとは何か? 遊戯王GXの舞台となる場所の名前だ……俺は自問自答を繰り返し、ようやく答えにたどり着いた。

 

「ここ、遊戯王の世界……?」

 

 どうやら俺は、遊戯王の世界に来てしまったらしい。

 

 

 結論を出してからしばらく俺は混乱して取り乱してしまったが、どうにか俺は落ち着きを取り戻し、改めて情報を整理した。まず、ここに今の俺と同じ姿の少年が映っている写真などがある以上、ここは俺、つまりこの少年の部屋ということになる。そして調べて見つけた名前は『武藤秋人』という名前。これがこの世界での俺の名前ということになる。ちなみに俺の名前は元々「日向明人」と言う名前なので、苗字が変わっただけなのでまあ呼ばれても困ることはないだろう。さて、そんな見つけた写真に気になる人物が写っていた。俺と思わしき人物の隣に映っているのはヒトデのような髪型が特徴的な1人の男。そして裏には『遊戯兄さんと一緒に大会にて』と書かれている。やはり、というべきか。この男はどうやら「遊戯王」の主人公、武藤遊戯ということらしい。だが、原作で遊戯は一人っ子である。そして先程ちらりと窓の外から家を見たがこの家は双六の店ではないのが判っている。ここから導き出されるのは慕っているが故にそう遊戯の事を呼んでいるという考えだが、この武藤という同じ姓がある以上俺は武藤遊戯の親戚か何かなのではないかという結論に至った。

 

「ん?」

 

 すると、ふと机の棚にクシャクシャになった封筒を見つけた。これはどうやら高校の入学志願書のようである。少し懐かしいなと思いながらもその学校の名前を見ると、それはデュエルアカデミアの入学志願書だということに気が付いた。デュエルアカデミアと言えば、遊戯王GXの舞台であり、様々な事件が起きる場所でもある。もしかしたら、俺がこの世界に来たことについてここに行けば何かわかるかもしれない。わからなくても、デュエルアカデミア……非常に興味がある。ここでくすぶっているよりは何か行動に起こした方がよっぽどいいだろう。試験は2週間後…どんなテスト問題が出てくるのかは分からないが、やるだけやってみようか。テスト問題はともかくとして……

 

「……デッキ、どうにかしないと」

 

――ここから、俺の物語が始まった。

 

 




リメイク前での変更点
・主人公の名前変更
前作では秋(しゅう)でしたが、秋人へ変更

前作と比較して
やっぱ、前作では文章がとんでもなく短かったので加筆修正が大変でした
また、見直して思ったんですけどこの主人公どこの世界の勇者だといわんばかりに自分の部屋でもない場所を物色するという……当時の私はどういう主人公にするつもりだったんだか

では、また次のお話で

NEXT「入試試験」


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01「入学試験」

投稿時間が遅れたためすかさず1日ごとに更新できているように見せるために1話目を投稿……これはひどい(汗

では第1話です。どうぞ
ちなみに、この世界の禁止・制限などはできるだけ時代に合わせています
主人公もGX世界に存在しないカードなどは制限・禁止を守るようにしています(E・HEROエアーマン、ダーク・ダイブ・ボンバー等)
もし話の中でこの時代では禁止じゃないか?
このカードは使えたよね?などありましたらどしどしお寄せくださいませ


 あれから数週間。俺は今いる自分の世界の事を徹底的に調べた。時代的には遊戯王GX時代であり、俺の部屋にあったデュエルアカデミアへの入学時期はちょうど遊戯十代たちの入学する時期と一致している。偶然なのだろうか? とも考えるが、彼らがこれから巻き起こす3年間の内容を考えれば、もしかしたらその場所で俺がこの世界に来た原因も掴めるかも? という希望は強くなった。デュエルアカデミアの筆記試験に関してはまさかのデュエルモンスターズに関することだけの筆記試験。簡単なルールからプレイングに関する知識を問われる試験だった。あのテーブルにあるデッキだけを考えればこの体の元の宿主はおそらく越えられるようなものでなかったかもしれない。ちなみにデッキに関してだが、部屋の隅に置かれたいくつかのアタッシュケースの中にカードが入っているのを見つけた。このカードたち、この時代には無いはずのカード、シンクロモンスターやエクシーズモンスターなどの他、多数のカードが入っていた。さらに言うとそのカードについている傷に見覚えがあり、なんとなくだが、俺が自分で使っていたカードな気がする。そんなわけでデッキに関する問題は無くなった。それから程なくして届いた通知結果は問題なく通過の文字があり、次の二次試験へと進めることになった。というわけで、今俺はその試験会場に来ている。

 

「では、これより第二試験を始める」

 

「宜しくお願いします」

 

 試験官の合図を皮切りに、各場所でデュエルが始まる。俺の対戦相手となるのはデュエルアカデミアの教員。が、俺の相手はクロノス先生ではなく他の教員だ。顔も初めて見たし、普通に知らない先生である。遊戯王の世界だからと言って知っている人に当たるというわけでもない。そもそも、万が一クロノス先生と当たったらそれはそれで結構面倒だ。

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

武藤秋人 LP4000

試験官  LP4000

 

「先攻は君からだ。ドローしたまえ」

 

「あ、はい。先攻……ドロー」

 

 マスターズルールが改正されてから先攻ドローなんて久しぶりだ…なんというか、時代を感じる。まあ、これを懐かしんでいる暇はない。今はデュエルに集中しなきゃ。さて、相手のデッキが判らない以上、本来であれば様子見をしたいところだが……今回は『あの人』に見てもらえるようにもしないといけない。某キングではないが、エンターテインメントを演じなければならない。そう思って組んだデッキだ。さあ、行くぞ!

 

「俺は手札から『トレード・イン』を発動! 手札の『白き霊龍』を手札から墓地へ送り、カードを2枚ドロー! カードを2枚伏せ、ターンエンド!」

 

「召喚はせず……か、良かろう。私のターンドロー! 私は手札から『キラー・トマト』を攻撃表示で召喚する!」

 

キラー・トマト ATK1400/DEF1100

 

 キラー・トマト……リクルーターか。闇属性のモンスターを主体にするデッキだろうか? まあ、リクルーターだけでは判断できない。相手が何をしてくるか……というか、初めて見たソリットビジョンのモンスターがキラー・トマトなのはいいとして、絵に反してやっぱり怖いな、キラー・トマト。なんか口開いてこっち威嚇しているし。

 

「バトルフェイズに入る! キラー・トマトでダイレクトアタックだ!」

 

「速攻魔法『銀龍の轟砲』を発動! 自分の墓地に存在するドラゴン族、通常モンスターを墓地から特殊召喚する。俺はトレード・インの効果で墓地へと送った『白き霊龍』を特殊召喚! このカードは手札、墓地にあるとき通常モンスターとして扱う! 来い、白き霊龍!」

 

 俺は墓地からカードを排出してそのカードをデュエルディスクにセットする。それと共にカードを認識した音が鳴り響き、フィールド上にはその白き体を持ったドラゴンがフィールドにその姿を現した。

 

白き霊龍 ATK2500/DEF2000

 

「青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)!?」

 

「いえ、違います。似てはいますが……」

 

 試験官がその姿に動揺し、観客席にいたデュエルアカデミアの生徒や受験生たちがざわざわと騒ぎ始める。その姿は確かに青眼の白龍に酷似しているが、青眼の白龍はこの世界には4枚しかなかったからな。もっとも、現在は3枚で、所有者はあの人なわけだが……それにしても、ちゃんと認識してくれてよかった。一応、試験前に家で認識してくれることは確かめていたけど本番でダメでした、なんてお笑い草だ。

 

「攻撃は中止する。私はカードを3枚伏せてターンエンド……」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 さて、驚くのはまだ早いぞ。本当は迷ったが、注目度を上げる、という意味ではこれ以上のことを俺は思いつかなかったからな。後はなるようになれ、というやつだろう。

 

「俺は『チューナーモンスター』、『青き眼の賢士』を召喚!」

 

青き眼の賢士 ATK0/DEF1500

 

「チューナーモンスター? 聞かないな……」

 

「説明は後で。先に効果を発動します。このカードが召喚に成功したとき、デッキからこのカード以外のレベル1、光属性の同じくチューナーを手札に加えます。手札に「青き眼の巫女」を加えます。そして……」

 

「む? どうかしたかね?」

 

「あ、いえ…」

 

 一瞬、本当に“これ”を行っていいのか? そう考える。下手をすれば俺が今からしようとする行為はこの世界を根本から捻じ曲げてしまうかもしれない行為に等しい。少し昔の過去で、違う人物が同じようなことをするがそれは世界を元に戻すため、そしてさらに言えばこのように多くのギャラリーはいなかったときに行った行為だ。状況が違う。そう考えたが、俺はだが、と首を振る。今回のデュエルはすでに記録されているはず。ならばあとは進むだけ……もう後戻りはできない。俺の『計画』の成功のためにも今はやるしかないんだ。

 

「俺はフィールドにいるレベル8の白き霊龍にレベル1青き眼の賢士を『チューニング』!」

 

「チューニング……!? なんだ、何が起こっている!」

 

 困惑する試験官。白き霊龍が空中へと飛び立ち、それと共に青き眼の賢士は光の輪となり、白き霊龍がそれを通り抜ける。

 

☆8+☆1=☆9

 

「青き瞳を宿す伝説の龍、その姿を昇華させ、己が伝説を超えて見せろ! シンクロ召喚……! 現界せよ、『青眼の精霊龍(ブルーアイズ・スピリット・ドラゴン)』!」

 

青眼の精霊龍 ATK2500/DEF3000

 

 そこにあるのは白き体に青き眼を持つドラゴン。先程召喚していた白き霊龍と攻撃力は変わらないが、その圧倒的存在感がフィールドを支配していた。俺もその存在感に思わず圧倒されそうになる。が、なぜか青眼の精霊龍は俺の方を向いて何かを訴えているように見える。ソリットビジョンが、なぜ……? 俺はそれに気がつくが、青眼の精霊龍はとっとと指示をしろと言わんばかりに前を向いてしまった。そうだった、今はデュエルに集中しなければ!

 

「シンクロ、召喚……!? なんだ、その召喚方法は……!」

 

「バトルフェイズ! 青眼の精霊龍でキラー・トマトを攻撃! 『精霊の爆裂疾風弾(スピリット・バースト・ストリーム)』!!」

 

試験官 LP4000→LP2900

 

「ぐおおお! だが、キラー・トマトの効果が発動する! このカードが戦闘で破壊されたときデッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスターを特殊召喚! 私は『スナイプストーカー』を特殊召喚する」

 

スナイプストーカー ATK1500/DEF600

 

スナイプストーカーか、厄介なカードが出てきたな。今の時代、そしてこの世界を考えればかなりの強カードと言っても過言ではないだろう。それがもし、普通の決闘者相手であれば、の話だが……それにしても、試験官はシンクロ召喚について言及してこなくなったな。あんなに驚いていたのに。

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

「私のターンドロー! どんな知らない召喚が来ようと、私は勝利のために動くだけだ。私はスナイプストーカーの効果を発動する。このカードは手札1枚をコストにサイコロを振る。その出た目が1か6以外であれば、選択したカードを破壊する! 私は手札1枚をコストとし、君の青眼の精霊龍を選択する! さあ、サイコロを「ストップ!」なに!?」

 

「俺はこの瞬間、青眼の精霊龍の効果を発動! このカードを生贄にして発動する。自分のエクストラ…っとと、融合デッキからこのカード以外のドラゴン族、光属性のシンクロモンスターを1体フィールドに守備表示で特殊召喚できる! 俺は青眼の精霊龍をリリー……いや、生贄に捧げ『蒼眼の銀龍』を特殊召喚!」

 

蒼眼の銀龍 ATK2500/DEF3000

 

「またも、青眼の白龍に似たカードが…!」

 

「このカードは蒼眼の銀龍は特殊召喚に成功した場合効果が発動します。それは、次のターンのエンドフェイズまで、自分のドラゴン族モンスターは効果の対象とならず、効果では破壊されないという効果」

 

「ぬぅ……では私はスナイプ・ストーカーを守備表示に変更する」

 

 そう言いながらカードを1伏せ、ターンエンドを宣言する試験官。良かった、ここで文句とか言われたら嫌だったけど、納得してくれたようだ

 

「俺のターンドロー、スタンバイフェイズに蒼眼の銀龍の2つ目の効果が発動します。墓地に存在する通常モンスター1体を選択して発動。フィールドに特殊召喚します。墓地に存在する白き霊龍は手札、墓地に存在するときは通常モンスターとして扱われます。白き霊龍を特殊召喚」

 

白き霊龍 ATK2500/DEF2000

 

「このカードの召喚、特殊召喚に成功したとき、相手フィールドの魔法、罠をゲームから除外できます。伏せてある一番右のカードを除外」

 

 俺の言葉と共に除外されるのは魔法の筒。あぶねぇ、効果でこそ破壊されないからミラーフォースとかなら問題はなかったが、攻撃がそのまま返ってくるとかシャレにならない。

 

「メインフェイズ、俺はチューナーモンスター『グローアップ・バルブ』を召喚」

 

グローアップ・バルブ ATK100/DEF100

 

「レベル8の白き霊龍にグローアップ・バルブをチューニング! 現界せよ、青眼の精霊龍!」

 

青眼の精霊龍 ATK2500/DEF3000

 

「さらに『死者蘇生』を発動。白き霊龍を再び特殊召喚」

 

白き霊龍 ATK2500/DEF2000

 

 フィールドに並び立つ3体のドラゴン。本当だったらここで青眼の白龍なんかも召喚したいところだがこのデッキは『青眼の白龍』を入れているデッキではない。ホントは入れたかったけど、そんなことをしたらとんでもないことになるのでもちろんやっていない。フィールドは整った。後は押し切るだけ

 

「バトルフェイズ! 蒼眼の銀龍でスナイプストーカーを攻撃! 『銀の爆裂疾風弾』!」

 

「ぐおおお! 罠発動、リビングデットの呼び声! 私は『キラー・トマト』を特殊召喚!」

 

「ならば白き霊龍でキラー・トマトを攻撃!」

 

試験官 LP2900→LP1800

 

「キラー・トマトが破壊されたことにより、デッキから『ネクロ・ガードナー』を特殊召喚!」

 

ネクロ・ガードナー ATK600/DEF1300

 

「ちぃ…! バトル続行! 青眼の精霊龍でネクロ・ガードナーを攻撃!」

 

「罠発動『砂漠の光』! 自分フィールドのカードをすべて表側守備表示に変更する!」

 

 砂漠の光……!? メタモルポッドでも入れているのだろうか? それにしても、さすがはデュエルアカデミアの試験官、といったところだろうか。こっちは数世代先のカードを使い、シンクロまで使っているというのにここまで粘ってくるとは。それとも、俺が未熟だからなのか……いや、考えている暇はないな。

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

「私のターン、ドロー! 私は『強欲な壺』を発動してカードを2枚ドロー!さらにカードを1枚伏せて『命削りの宝札』を発動! カードを5枚になるようにドローする! そして、5ターン後にすべて捨てる! そして、自分の墓地に3体の闇属性モンスターがいることによりこのカードを特殊召喚する! いでよ、『ダーク・アームド・ドラゴン』!」

 

「なに!?」

 

ダーク・アームド・ドラゴン ATK2800/1000

 

 フィールドに立つのは俺のフィールドにいる白い龍とは相対する黒いドラゴン。確か、OCGで収録されたのはユベルとかが収録された時のパックが初登場、その後ゴールドパックにも収録されるほどの人気を博し、俺がいた世界では制限カードになってしまったほどの性能を誇っている。が、それはあくまで俺の世界での話だ。この世界ではそんな話は関係が無い。つまり……

 

「私はさらに、2体のダーク・アームド・ドラゴンを特殊召喚する!」

 

ダーク・アームド・ドラゴン2 ATK2800/DEF1000

 

ダーク・アームド・ドラゴン3 ATK2800/DEF1000

 

 こういうことになるのだ。並び立つ3体のダーク・アームド・ドラゴン。効果で破壊できないなら物理で殴ればいいじゃない。とかそんな感じなんだろうな、きっと。というよりも、驚くべきはその“アニメ効果の”『命削りの宝札』のドローによって手札に3枚のダーク・アームド・ドラゴンがいた点だ。良く事故にならなかったと思う。

 

「このカードたちは墓地の闇属性モンスターを除外することでフィールドのカードを破壊する効果を持つ。が、おそらく、君は先程と同じく青眼の精霊龍を生贄に蒼眼の銀龍を特殊召喚するだろう。残念ながら君のモンスターたちを破壊することはできないが……君の伏せたカードは破壊できる」

 

「……!」

 

「私はダーク・アームド・ドラゴンの効果を使用し、墓地のキラー・トマトを除外! 伏せてある私から見て右のカードを破壊する!」

 

「くそっ……!」

 

 伏せていた2枚目の銀龍の轟砲が破壊される。本来ならこのデッキはもっとデッキを圧縮して墓地を肥やして闘うデッキなのだがあいにく墓地は全くと言っていいほど肥えていない。挙句、白き霊龍はフィールドに健在。銀龍の轟砲は使用できることなく破壊されてしまった。

 

「そしてもう1枚、私は墓地のスナイプストーカーをゲームから除外し、伏せてあるカードを破壊してバトルだ! 行け、ダーク・アームド・ドラゴン! 白き霊龍を攻撃!」

 

「ぐっ……!」

 

武藤秋人 LP4000→LP3700

 

「さらにダーク・アームド・ドラゴンで蒼眼の銀龍を攻撃!」

 

武藤秋人 LP3700→LP3400

「そして、最後のダーク・アームド・ドラゴンで青眼の精霊龍を攻撃」

 

「うわっ!」

 

武藤秋人 LP3400→LP3100

 

 ライフはそこまで削られてはいないものの、フィールドのモンスターたちは全滅。さらに言えば、手札もかなり厳しい。次のドローで何とかしなければならない。

 

「私はこれでターンエンド。さあ、このダーク・アームド・ドラゴン軍団にどう立ち向かう!」

 

 フィールドに並ぶダーク・アームド・ドラゴン軍団。その上、墓地にはまだネクロ・ガードナーがある。それに対してこちらのフィールドは更地…制限や禁止カードについて自分で理解していたつもりだというのに、いざやられればここまで劣勢とは…いや、こんなところで俺は立ち止まるわけにはいかない。もうなりふりなんぞ構ってられるか。

 

「俺のターン、ドロー……!! まだ、終わらない、こんなところで負けられない! 俺は手札から『強欲な壺』を発動! カードを2枚ドロー! そして手札から『銀龍の轟砲』を発動! 墓地の白き霊龍を特殊召喚!」

 

白き霊龍 ATK2500/DEF2000

 

「またそのカードか……だが、そのカードでは私のダーク・アームド・ドラゴンは突破できん!」

 

「その通り。だったら、突破できるようにするまで……! 俺は手札から『天使の施し』を発動! カードを3枚ドローして2枚を捨てる。そして今捨てた墓地のレベル・スティーラーの効果発動。フィールドの白き霊龍のレベルを1つ下げ、フィールドに特殊召喚する」

 

レベル・スティーラー ATK600/DEF0

 

白き霊龍 ☆8→☆7

 

「そして通常召喚! チューナーモンスター『太古の白石』を召喚!」

 

太古の白石 ATK600/DEF500

 

「レベル7となった白き霊龍と、レベル1のレベル・スティーラーに、レベル1の太古の白石をチューニング!」

 

☆7+☆1+☆1=☆9

 

「破壊神より放たれし聖なる槍よ、今こそ魔の都を貫け! シンクロ召喚! 氷結界の龍トリシューラ!」

 

氷結界の龍トリシューラ ATK2700/DEF2000

 

「また別のモンスターか……だが、私のダーク・アームド・ドラゴンには…「それはどうかな?」なに!?」

 

「トリシューラの召喚に成功したことで効果発動! 相手の手札、フィールドのカード、墓地のカードを1枚ずつ選択してそのカードをゲームから除外する!」

 

「なぁ!?」

 

 驚かれて当然だ。このカードがどれだけ俺の世界で猛威を振るったことか。だが、まさか天使の施しで万が一を考えて入れていたレベル・スティーラーが来てくれるとは思わなかった。これで勝てる。

 

「俺が選択するのはフィールドのダーク・アームド・ドラゴン1体、一番右の手札、そして墓地のネクロ・ガードナー!」

 

「だ、だが、先程も言ったがそのカードではダーク・アームド・ドラゴンは突破できん!」

 

 そのシンクロモンスター、トリシューラの召喚に動揺したのか、それとも効果について驚いているのか、はたまたネクロ・ガードナーの効果について忘れているのか、試験官はネクロ・ガードナーをトリシューラの効果に対してチェーンで除外しなかった。これならば、勝てる。

 

「まだメインフェイズ1です。俺はまだこれで終わりとは言っていませんよ。手札からフィールド魔法『光の霊堂』を発動!」

 

 試験会場が優しい光を照らす礼拝堂のような場所へと変わる。その光は優しく、そして暖かさが感じられた。

 

「光の霊堂の効果発動! 自分のフィールドのモンスター1体を対象に発動! 自分の手札、デッキから通常モンスターを墓地へ送る。その墓地へ送ったカードのレベル×100ポイントモンスターの攻撃力、守備力を上げる! 俺はトリシューラを選択して手札の白き霊龍を墓地へ送る。このカードは手札、墓地では通常モンスターとして扱われる! そして、白き霊龍のレベルは8! よって800ポイントアップ!」

 

氷結界の竜トリシューラ ATK2700/DEF2000→ATK3500/DEF2800

 

 フィールド魔法のビジョンか、中央に安置されている祭壇らしき竜の置物から光が漏れ、それがトリシューラを包み込む。そしてそれを受けたトリシューラは高らかに吠えた。

 

「攻撃力、3500……」

 

「さらに装備魔法『ジャンク・アタック』を装備! このカードを装備したモンスターが破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

「な、なんだと……!?」

 

「バトルフェイズ! いけ、トリシューラ! ダーク・アームド・ドラゴンを攻撃!『アイシングトリプルバースト』!」

 

 三つ首からそのトリシューラの攻撃が放たれる。そしてそれを受けたダーク・アームド・ドラゴンは凍結して砕け散った。

 

試験官 LP1800→LP1100

 

「そして、ダーク・アームド・ドラゴンの攻撃力の半分。1400のダメージを受けてもらいましょう」

 

「なるほど、見事だ……私の負けだな」

 

試験官 LP1100→LP0

 

 

 

 

 決闘の結果は俺の勝利で終わり、デュエルはとりあえず無事終了した。その後試験官からカードについて不正はないかという協議もあったらしいが、KC社のデュエルディスクに反応していたことから問題ないという判断が下された。緩すぎる気がするんだが、大丈夫かデュエルアカデミア。他の受験者やデュエリストたちにデュエルを吹っかけられそうな雰囲気があったので俺は試験官に一礼して会場を後にした。そして数日後、家のインターフォンが鳴り響く。カメラを見ると、そこにはサングラスをかけた初老の男性の姿があった。来たか……

 

「はい」

 

『初めまして、私はKC社社長、海馬瀬人の部下で磯野と申します。武藤秋人さんでいらっしゃいますか』

 

「……はい、そうです」

 

『実はデュエルアカデミアの試験におけるデュエルについて社長からお話があるそうで…申し訳ありませんが、私とKC社までお越し頂けますでしょうか』

 

 断っても無理やり連れて行くんだろうな、とか思う俺。まあ、こうなるとわかっていたことだし、今日は何の予定もない。

 

「わかりました。すぐ準備をしますので少し待ってもらっても?」

 

『構いません』

 

「では、すぐに」

 

 そう言って俺はカードとデュエルディスクを準備し、洋服を着替えて家を出た。外には磯野さんが立っており、そして高級車が止まっている。

 

「こちらでお送りします。お荷物は…」

 

「持ちます」

 

「さようですか、では車へどうぞ」

 

 俺は促されるまま車に乗り込み、磯野さんも車に乗り込み車が発進する。

 

――行先は、海馬コーポレーション

 




リメイク前での変更点
試験でのデッキ変更
 リメイク前ではジャンドでした。あの当時は自分の主体デッキがジャンド故にでした。というか、何も考えてませんでした…まあ、今回も今使ってるのがこのデッキなんですけどね!(何も成長してない)
 今回主人公がシンクロ、そして青眼のテーマを使ったことに関しては目的を入れてみました。じゃないとリメイクの意味ありませんからね(汗

試験官の強さ
 そういえばダムドって出たときは制限じゃないしなーって感じでこんなことに。ダムドって略せなかったので描くのが超辛かった…3体フィールドに並ぶとかマジキチだわ
 リメイク前ではキラー・トマトとダークソードとか出してたけどクロノス先生とかと比べると弱すぎ、ということで変更しました

主人公の遅刻
 リメイク前では遅刻を理由に、ということでしたが今回それはありません。別の話ではまた同じようにオシリスレッドスタートにはなりますが、それも次回で判明します。

あの人登場?
皆が大好きなあの人が次回登場します。まあ、普通試験でこんなことしでかしたらすぐ行動してくると思うんですよ、あの人は

ではまた次回 感想お待ちしております

NEXT「伝説の男」


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02「伝説の男」

寝穿様 とある英霊様
感想有難うございました。

小説の感想、ガンガン募集しております。感想を頂ければ作者のモチベーションも上がっていくのでよろしくです

ではでは、第2話でございます


Side秋人

 

「貴様か、遊戯の親戚というのは…確か、武藤秋人だったな」

 

「…は、初めまして」

 

 俺は磯野さんに連れてこられた場所にいる。そこは童実野町の中心に位置する海馬コーポレーション、その社長室だ。そして目の前にいる人物こそ、伝説とまで呼ばれた男。海馬瀬人…武藤遊戯の永遠のライバルともいえる人物だ。その風貌はGX時代背中しか見なかったが顔は老けたような様子はない。が、アニメの時よりも大人びているのが判る。

 

「まあいい、座れ」

 

「は、はい…」

 

 促されるままに席に座る俺。その鋭い眼光は俺を捉えて離さず、睨みつけたままである。正直に言おう、めちゃくちゃ怖い。その威圧感から背中では嫌な汗がびっしょりと流れているのが判る。

 

「お前を呼び出したのは言うまでもない、先日のデュエルアカデミア試験の試験内容についてだ」

 

「……」

 

 ここまでは予想通り。やはりこの人は食いついてきたか。シンクロ召喚という今までにない召喚方法は、確かにKCのデュエルディスクシステムがなぜ反応しているのかということだけでも社長が気になる要素になりえるだろう。だが、それ以上に社長が惹かれるものが必要だった。故に使ったのが「青眼の精霊龍」たち、青眼シリーズだ。確か、この時代では青眼の白龍サポートは出ていても「正義の味方カイバーマン」や「滅びの爆裂疾風弾」が精々である。故に俺の見せたカードたちは社長の目を惹くと予想していた。そして俺を呼び出す、と。

 

「お前が使っていた『シンクロ召喚』。このような召喚方法は存在していない…が、なぜか我が社のデュエルディスクシステムは問題なく稼働した。メンテナンスも行ったが我が社のシステムには異常がない上、ハッキングされた形跡も一切見当たらない…挙句、そのお前の使っていたカードたちはこともあろうに俺が使っているブルーアイズと酷似していた。が、こんなカードたちも我々の知るデータベースには存在していない……さて、どう説明してくれようか? 武藤秋人」

 

「……説明して納得して頂けるならいくらでも。ただ、俺も何も考えずこのカードたちを使ったわけじゃない。このカードたちを使えば社長、貴方は必ず俺を呼び出すとも考えていました」

 

「ほぅ…? よかろう、説明してみろ」

 

「ええ、ではまず…」

 

 俺は手順を踏んで大まかな説明を始めた。まず、武藤秋人という存在の中にある俺自身(日向明人)の存在について、そしてこの世界が自分の世界では空想で作られた世界であること、そしてシンクロ召喚の詳細。社長は俺の内容について下らん、と最初は一蹴しようとしていたが、俺が社長の生い立ち、悪行(デュエルモンスターズ編以前)のこと、ノア編のことなどを話すと驚いて俺の話を聞き始めた。当事者たちでしか知りえないような内容をなぜ知っているのか、と。最初は遊戯に聞いたのか? とも聞かれたが社長はあの男はそんなことをする男ではないな、と自己完結していた。さらにとどめとして社長しか持ちえないはずの「青眼の白龍」のカード、そして武藤遊戯しか持ちえないはずの「オベリスクの巨神兵」「オシリスの天空竜」「ラーの翼神竜」も社長に見せる。これには驚きを隠せなかったようで、思わず自分の机まで向かっていきデッキを確認している始末だ。

 

「…と、こんな感じです」

 

「ふん…お前といい、遊戯といい、オカルト要素が強くて俺はとても信じられん」

 

「……」

 

「だが、それらを信じたと仮定して、俺に接触した目的はなんだ?」

 

 さすがは社長、といったところか。鋭い…いや、これだけ露骨にやれば誰でもわかることだろうか。

 

「俺は自分の世界に帰りたい。故にその協力者になってもらいたいのです」

 

「なるほど、シンプルだ。が、この俺を相手にするのに、何もないわけではあるまい?」

 

「…もちろんです。つきましては、これを」

 

 そう言って俺が取り出したのはカードの束。それは俺が使っていたブルーアイズデッキにも入っていた青眼の白龍をサポートするためのカードたちだ。

 

「もし足りない、というのなら他のシンクロモンスターや俺がまだ見せていない『エクシーズモンスター』もお譲りする準備があります」

 

「エクシーズモンスター? なんだそれは」

 

「シンクロとはまた違う可能性の世界で存在するカードの事です」

 

 そう言って俺は他のカードも見せる。俺は社長にもわかりやすいように説明をしながら『伝説の白き龍』のカードを見せる。

 

「ほぅ……面白いカードだ。といっても、このカードは公式には使用できないようだな」

 

「俺の世界では世界大会の記念カードですからね」

 

「ふむ…」

 

 さて、社長はどう反応してくれるのか。このカードたちは3枚ずつ渡したとはいえ、他に存在しないカードたちだ。しかも、青眼の白龍をサポートするためのカード…故に、価値は海馬瀬人という人物にとってはとんでもなく大きいはずだ。しかし、この人の今までを見れば無理やり奪ってくるということもあるだろう。が、俺が海馬瀬人という人物を知っている以上それに対して何か対処しているとも考えているはず。

 

「…いいだろう。貴様の願いを聞き入れてやる」

 

「本当ですか!?」

 

「ただし、条件を付ける」

 

 条件付き、か。とはいえ、この人が協力者になってくれることはかなり大きい。多少の条件ならば飲まないといけないな。その後、海馬社長が俺へと条件を提示する。その内容は以下の通り。

 

・俺の持つカードを一通り見せること。そのカードたちの出た時期を細かく説明する

 

・他のカードでも社長が気に入ったカードがあれば献上

 

・社長が選び出したカードをいくつかピックアップしてペガサスと交渉、カードを量産

 

・互いの関係はあまり表沙汰にしてはならない、元の世界の話などもってのほか

 

 と、大まかに分ければこの4つである。細かい条約もいくつかあるものの、これを飲むのならば社長が直々に俺のことをバックアップしてくれることを約束してくれた。俺の家には無数に同じカードがある。だいたいでいえば9枚ずつくらいか。ただし、世界や物語で重要となるカードは1枚しか存在していない。例えば神のカード、さらにシグナーの5竜、そしてナンバーズなどだ。それを除けば、社長にカードを渡しても多少問題はない。俺はその作られた契約書にサインし、社長に渡す。すると、それと同時に携帯電話、そしてKCと刻印がされたバッジを置かれた。

 

「ではこれを貴様に渡しておく。これを使えばすぐ俺にかかるようになっている携帯だ。そしてこっちはこの会社に入るための証のようなものだ。これを付けていればアポなしでここまで来ることが出来る」

 

「ありがとうございます」

 

「それと…お前のデュエルアカデミア入学のことだが」

 

 デュエルアカデミア入学のこと? やっぱりシンクロ召喚についてはまずかったのだろうか。俺がそう思っていると、社長は説明を始めた。

 

「今年のデュエルアカデミアの生徒だが…はっきり言う。例年よりすこぶる成績が悪い。それは中等部から上がってくる生徒たちもだ。まあ、お前の場合は筆記、実技共に問題はなかったが…このままではデュエルアカデミアの存続にもかかわる事態だ」

 

「えーと…それで?」

 

 その話は、アニメを見ていたので知っている。十代たちの入学時期の生徒たちの成績がすこぶる悪い、という話。故に、十代の活躍で徐々にオベリスクブルー、ラーイエロー、オシリスレッドという格差による偏見が無くなっていくわけだが……

 

「お前の成績では本来ラーイエローだ。が、お前にはオシリスレッドで入学してもらう」

 

「え?」

 

「そして上位と言われているオベリスクブルー、そしてラーイエローを圧倒しろ。お前のカードたちならそれが可能なはずだ」

 

 つまり、この人は俺に十代と同じことをしろ、と言いたいらしい。社長は言いながら別の誓約書のようなものを取り出した。

 

「もし同意すれば学費は免除する。要望もある程度聞き入れよう。お前の話を信じるのならば、お前は今のデュエルアカデミアの現状は知っているはずだ」

 

「ええと、そう、ですね…寮とか、食事とか、オシリスレッドは相当酷かった気が…あれって、同じ授業料払っているのに苦情とか来ないのかなとかも」

 

「ふん、知っていたか。噂ではオシリスレッドのレッドはレッドゾーンのレッド、などとほざく奴もいるらしい。俺としてはそのような意味はなかったのだが…まあ、そんな話はいい。その辺も何とかしてやる…もっとも、お前の家の経済状況を考えればお前にとっては美味しい話だと思うが?」

 

 や、やっぱり俺のことは調査済みだったか。武藤秋人の家は母子家庭で、父親はすでにこの世にはいない。そしてさらに妹までいる。そう考えればこの学費免除、というのは相当大きいといえるだろう。

 

「わかりました。その条件を飲みます」

 

「くく、何、心配するな。定期試験の評価などがあればそのクラスは上がっていくのだからな、問題はあるまい」

 

 そう笑う社長はどこか機嫌がよさそうである。その手にはすでに俺が渡したカードが握られているところを見るに、早く自分のデッキの改良をしたいのだろう。

 

「ええと、そんなところでしょうかね」

 

「そうだな、今日はこれでいい…が、今後お前は忙しくなるぞ。覚悟しておけ」

 

「は、はい…」

 

 それはもちろん、契約のカードの事についてだろう。ジャンル分けが果てしなく辛いのは気のせいか…いや、気のせいじゃないな、うん。俺は社長に挨拶をして部屋を退出しようとする。だが、最後に社長に声をかけられた。

 

「おい、最後にこれを言っておく」

 

「はい?」

 

「お前の持つ、この世界の知識というのはあまりあてにはするな」

 

 …? どういうことだ?

 

「お前が俺に説明をしたとき、お前が言った話の中には多少の差異が存在していた」

 

「つまり…?」

 

「この世界がお前の言うとおりに動くという保証はどこにもないということだ。それを肝に銘じておけ。お前自身の思い違いなどもあれば…お前が身を滅ぼすことになる」

 

「……!」

 

 確かに、そうかもしれない。単純な話だがアニメ版や漫画版というのはパラレルワールドの扱いになっている。故に、この世界が俺の知っている通りに動くという保証はどこにもない。現に、この海馬社長も俺に協力してくれるような人物かと言えばかなり怪しい話だ。

 

「わかりました…気を付けます」

 

「ふん…わかったなら行け。俺も忙しい」

 

「はい。それでは…」

 

 そう言って、俺は今度こそ社長室を後にし、KCを後にするのだった。

 

 

Side海馬瀬人

 

「……ふん、武藤秋人、か」

 

 今日はなかなか面白い物が手に入った。異世界などという話や、俺が空想の人間だったなどということなど、どうでもよくなるほどに。そもそも俺はオカルトな話は信じていない。奴の目的など知ったことではないが、貰ったものの対価は払って相応だろう。それに、やつほどの実力者ならばオシリスレッドからオベリスクブルーになどすぐに上がることだろう。そうなればオシリスレッドの生徒たちの意識も上がっていくはずだ。これでデュエルアカデミアの株も上がるだろう。それに…

 

「こいつらがあれば、今度こそ勝てるぞ、遊戯に…!」

 

 奴と接触して得た最大の利点は渡されたこのカードたちの強さだ。これだけのカードさえあれば、今度こそ、今度こそ遊戯に勝つことが出来るはずだ。俺はそう思うとすぐに通信で磯野を呼ぶことにした。

 

「磯野、俺だ」

 

『は、いかがいたしましたか社長』

 

「今日の仕事と取引先はすべてキャンセル。後日に回せ」

 

『は、は…!? 社長、宜しいのですか!? 今日は確か重役たちの会議や新たに新設する海馬ランドの設計技師たちとの会議が…』

 

「そんなものなんとでもなる。もし文句を言うようなら金で黙らせろ。それと、これから誰も俺の部屋に入れるな。いいな? それと、例の件だが、武藤秋人が引き受ける。合格通知を至急手配しろ」

 

『は、はい! 了解いたしました』

 

 通信を切り、俺はテーブルの上にカードの山を並べ、自分のデッキを取り出す。こうもカードを触るなどいつ以来か…だが、このカードたちを見て俺の決闘者としての魂が疼きだしたのも事実だ。

 

「くくく…待っていろ、遊戯。次に対決するとき、勝つのは俺だ…!」

 

 

 

 

 

Side秋人

 

 海馬社長との会談の後、俺はなんとか家へと帰ってきた。社長と話したのはほんの少しの時間だというのにドッと疲れが来ていた。あの人の事だ、きっと俺の目的なんぞどうでもいいんだろう。あの人にカードを譲り渡したのはあの人が武藤遊戯に勝つことに対して強い執念を持っているからこそ。あのカードたちを譲れば同意してくれると思ってのことだ。とりあえず上手くいったが、その代わり随分と利用されることにもなりそうだ……まあ、そうなることは想定の範囲内だけども。

 

「ただいまー…」

 

「あら、お帰りなさい。どこに行っていたの?」

 

「ちょっと、カードショップへ」

 

 家に入ると、秋人の母親が迎えてくれる。その手には封筒が握られていた。

 

「おめでとう秋人、デュエルアカデミアに入学できるのね」

 

 どうやらそれはデュエルアカデミアからの合否通知らしい。その速達の文字を見るに、俺が帰ってくるまでの間に社長が手配したのだろう。そこにはオシリスレッドでの入学と書かれていた。さて、準備は整った…これで後はデュエルアカデミアへ行くのを待つばかりか…

 

 

 

 

数週間後

 

出発の日

 

「いってきます」

 

「あ、ちょっと待って秋人」

 

いざ出発、そう意気込んだが、そこで母に呼び止められた。

 

「え?」

 

「これ、遊戯君から」

 

 母から受け取ったのは一通の手紙。遊戯……というと、武藤遊戯か。多分AIBOの方だよな? 大会の写真ではアテムだったけど。とりあえず手紙を読むことにする。

 

『アカデミア合格おめでとう! 君がアカデミアに行くと聞いて驚いたよ。頑張ってね。僕も応援している。お祝いってわけじゃないけど、よかったら使って。きっと君を守ってくれるはずだ』

 

 封筒の中には『ブラック・マジシャン』そして『ブラック・マジシャン・ガール』が入っていた。映画で喋っていたところを見るに、このカードたちは多分カードの精霊が宿っているんじゃないだろうか?このカードが精霊のカードだと遊戯は知っているのだろうか? それに、こんな切り札とも呼べるカードをそう簡単に手放して…って、そういえばAIBOの方の嫁はサイレント・マジシャンだったな。この世界の『武藤秋人』という人物はそこまで遊戯に信頼されているのか?

まあともかく、こうして俺はアカデミアへ向かうこととなる。

これから起こる非日常のことなど、この時俺は知るはずもない。そう、この時は

 




リメイク前での変更点

海馬社長早期登場
リメイク前作品でももっと早く登場させればなぁ、と思っていたので出しました。劇場版も近いしね、仕方ないね

 前作では校長先生から学費免除を引き換えにオシリスレッドでの入学を頼まれていましたが、校長よりもオーナーである社長からの方がなんかいいかなということでこんな展開に

社長が楽しそうで何よりです
 海馬社長にシンクロカードと青眼サポートカードたちが渡りました。個人的に社長には遊戯に勝ってほしい(王国編での勝利のような形ではなく)。まあ、今度の映画でどうなるかはまだ分かんないんですけどね

海馬社長軽すぎじゃね?
 まあ、あの人もオカルトは嫌いで、信じてはいませんが認めないとは言ってませんからね。彼も実際、アテムのことがあるわけですし、少なからず信用はしてくれたんでしょう。なにより、青眼シリーズの超強化によって、遊戯に勝つ可能性が出てきますから

遊戯がブラマジとブラマジガールを渡した理由
 前作でも渡していましたが、これに関しては前作の途中で書こうと思った部分が抜かされてしまいました。なので、リメイク前を知る読者も知らない理由なので、後々書く予定です。ちなみに、80話超えたあたり(笑)

Next03「決闘者たちの学び舎へ」


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03「決闘者たちの学び舎へ」

毎日更新しているように見せかけて実は結構ギリギリです…まあ、あんまり見てくれている人少ないみたいだし、更新ペース落としてもいいかな?


そして、0・The Fool様 えんとつそうじ様
感想ありがとうございました
では、3話です


 家を出発した俺はデュエルアカデミアへと向かう船へとたどり着いた。アニメの中では確か十代たちは大型のヘリコプターだった気がする。生徒たちが乗船することで出港する船。そういえば、早乙女レイが帰るときに乗っていたのは定期便だった気もするな。確かに社長の言うとおり、すべてがアニメの通りというわけではないらしい。それにしても…

 

「不愉快だな」

 

 ちらほらと俺のことを見てはヒソヒソと話している連中が多数。やはり、シンクロデッキを使ったことの影響というのがあるのだろう。ここ数日はずっと社長のためにカードリストをまとめていた疲れもあってかイライラが募る。そんな視線から逃れるため、俺は船の中にある自動販売機でコーラを買ってベンチに座ることにした。

 

「はぁ……」

 

「何か悩み事かしら?」

 

 コーラを飲んで一服していると声を掛けられたのでその方向に視線を向ける。隣にいたのは薄紫色の髪をツインテールに結わいた、深紅の瞳が特徴的な少女。制服は当然ながらオベリスクブルーなのだが、それ以前に、この少女は少女というよりも女性と言わせるほど大人びている雰囲気を感じ取る。とても15歳には見えない。この子、どこかで見たような気がするんだがどこだったかな…思い出せない。

 

「ため息なんてすると幸運が逃げるわよ?」

 

「え? ああ…そう、だな」

 

 俺が言うと、少女はクスリと笑った。その笑みは妖艶な雰囲気を醸し出しており、本当にこの少女は高校生なのかと疑いたくなる。

 

「貴方…あの時のボウヤね?」

 

「あの時?」

 

 ボウヤって言われたぞ…この便ではほとんどの人間が新一年生のはずなので一応、同い年のはずだが。というか、俺は一応大学生を超えた男なんだけど。というか、あの時ってどの時のことだ。

 

「…シンクロ召喚、だったかしら? それで試験官に勝ったボウヤ…そうでしょ?」

 

「まあ、そうなるな」

 

「そんな貴方が何故オシリスレッドなのかしら…?」

 

 と、言いよる少女。所々俺の身体に触れてくる少女は徐々に身体を近づけてくる。ここは人気がないからなのか、それともこの子がそういう趣味なのか…? 別にいいが、高校生でこんな色っぽい声出す奴はそういないだろう。一応、社長との話もあるので自分のオシリスレッドの立場については話すつもりはないので、適当に誤魔化すことにした。

 

「さあな、大方筆記の方が悪かったとかそういうのじゃないのか? 俺もよくわからん」

 

「……私、嘘は嫌いよ?」

 

「なんのことだか」

 

 迫りくる少女に対し、俺はできるだけ大人の対応を取ろうとする。この距離間ではそれも無意味そうだが…俺の態度に少女も諦めたのか小さくため息を吐いて「まあいいわ」と離れてくれた。

 

「私の名前は藤原雪乃…また会いましょう? オシリスレッドのボウヤ?」

 

「……」

 

 そう言って少女、藤原雪乃はその場を去って行った。なんだったんだいったい…って、あれ? 俺のコーラは…? 船内に戻っていく藤原雪乃に目をやると、その手には俺の買ったはずのコーラが握られていた。あのアマ、さりげなく俺のコーラ持っていきやがって…はぁ…

 

「なんだったんだ? 今のは…「あ! いたいた~!」ん?」

 

 藤原雪乃が歩いていく方と反対の場所から元気な声がする。そちらの方に視線を移すと、そこにはこの世界の主人公ともいえる人物、遊城十代、その自称舎弟の丸藤翔、そして割といろんな場所でネタにされてしまう空気男…否、三沢大地の姿があった。

 

「よう! お前だったよな! この前の試験で、ええと、シンクロ召喚だっけ? それで勝った奴。俺はその後だから見てないんだけどビデオ見てすっげー感動してさ!」

 

「同じく、あの戦いで君に強い興味を持った。よければだが、この前のシンクロ召喚について教えてもらいたいんだが」

 

 そう十代、そして三沢が言ってくる。いや、別に教えるのは構わないけど名乗るくらいしてくれよ。一応、俺もお前らの事は知っているけども…

 

「教えるのは構わんが、来て名乗りもせずにそりゃないんじゃないかお前ら。自分の名前を名乗ってから聞いてくれないか? 俺の名前は武藤秋人」

 

「ああ、それもそうだ。つい、カードの事ばかり考えていたな…失礼した。俺は三沢大地ラーイエローだ」

 

「俺は遊城十代! お前と同じオシリスレッドだ! よろしくな」

 

「同じくオシリスレッドの丸藤翔っす!」

 

 と、互いに自己紹介をする。まったく、興奮するのはいいがもっと落ちついて話ができないのか。藤原と話した後だからか、こいつらが妙にガキっぽく見えてしまう。まあ、これが彼らのいいところだとは思うのだが……それにしても、まあ、この船で本土からデュエルアカデミアまで時間があるからかこいつらはもう仲良くなったのか。原作だと十代と三沢が知り合うのはデュエルアカデミアについてからのはずなんだけどな。

 

「で、シンクロ召喚について知りたいって話だったな」

 

「ああ、聞いたことがないんだが…」

 

「そうだな、詳細についてはあまり話せないが、特殊なシリーズのカードだと思ってくれ」

 

「限定カードという捉え方でいいのか? シンクロの概要についても教えてもらいたいな」

 

 と、三沢は言いながらメモ帳とペンを取りだした。やはり彼は原作通り、かなりの研究家らしい。俺も昔、シンクロが出たときは「バイクでデュエルとかwww」とか考えていたけど、今じゃ「アクセルシンクロォォォォォ!!!」だもんな。シンクロが出た当初はそのやり方が判らないので三沢のように必死に内容を覚えていた記憶がある。

 

「シンクロ召喚はチューナーと呼ばれるモンスターを必要とする召喚方法だ。簡単に言えば、チューナーは融合の効果を備えたモンスターと考えてもいい。例えばこの前のようにレベル8のモンスターとレベル1のチューナーをチューニングするとレベル9のシンクロモンスターを融合デッキから召喚できる。属性条件などもあるカードがいるが、レベルを合わせて召喚できる。つまり、場合によってはレベルの低いモンスターも強力なモンスターへと姿を変えるということだ。レベルが低い、攻撃力が低いというだけの概念でモンスターを見ていると痛い目を見るということだな」

 

「なるほど…」

 

 と、メモを取りながらふむふむと頷いて考える三沢と、その一方で俺の説明が良くわかっていないのか頭にクエスチョンマークを浮かべてよくわかってない十代。

 

「なんでもいいや! 向こうについたらデュエルしようぜ! それが一番早い!」

 

「まあ、それもそうか…そのうちやるとしよう」

 

 そんな風に会話を広げながら、こうして、船はデュエルアカデミアへと着実に向かっていくのだった。

 

 

 

 

デュエルアカデミア

 

 

「ここが、デュエルアカデミアか…」

 

 船を下りて到着した島を見つめ、俺の口からは思わずそんな声が漏れた。ここがデュエリスト達の学びの場。デュエルアカデミア…正直なところ感動だ。素直に、感動している。始業式を終えた俺はオシリスレッドの寮の自分の部屋で荷物整理を行っていた。俺が海馬社長に進言したことが利いているのか、アニメと違ってそれなりに整えられた設備の寮へと変貌していた。ちなみに俺は一人部屋である。十代たちと同じ部屋の広さなのだが…この辺も社長の配慮なのだろうと勝手に自己完結することにした。

 

「さて…と、こんなものかな?」

 

 俺は言いながら整理した自分の部屋を眺める。これから3年間、まあ、俺がこの世界に来た理由を突き止めて帰るまではこの世界で過ごすわけだからな。整理もしっかりしないと。夕食まで時間はあるわけだし、デッキの制作でもして時間を潰すことにしようかな?

 

「おーい! 秋人! いるんだろー!」

 

 そんなカードの入ったトランクを開けようとしたその時、部屋の外で十代の声が聞こえてきた。

 

「十代? 部屋の鍵は開いているから入っていいよ」

 

 俺の言葉に返事をして入ってくる十代。その腕には予想通り、デュエルディスクがセットされている。部屋にはこのデュエルアカデミアで使うように支給されたデュエルディスクがある。それを見てすぐにでもデュエルがしたくなったのだろう…俺はやれやれとため息を吐く。

 

「デュエルだ! 秋人!」

 

「…そのうちって言ったはずだけど」

 

「いいじゃねーか! 善は急げ! 思ったら近日だ!」

 

「兄貴、それを言うなら思い立ったら吉日っす」

 

 と、翔に言われているのに苦笑しながら俺は了承してデュエルディスクを起動させてデッキをセットしておく。十代に引っ張られながらも、俺たちはこうしてデュエルスペースに移動することになった。場所を見渡し、俺は十代にオベリスクブルーの紋章があるところを避け、フリースペースへと促した。そしてお互い位置に着くと、十代はウキウキとした様子でデュエルディスクを展開する。

 

「行くぜ! 秋人!」

 

「ああ、望む所…「おい! そこのお前ら!」ん?」

 

 俺も少しテンションが上がり、いざデュエルを始めようとしたその時である、何故か遠くにいたはずのオベリスクブルーの生徒たちが俺と十代の前に出て来た。おかしい、俺は原作のことを考えてオベリスクブルーを避けたのに、何故こいつらは絡んできた? 顔も覚えている。確か、こいつらは万丈目の取り巻きの生徒だったはずだ。

 

「ここはオシリスレッドのドロップアウトボーイたちの来るところじゃないぞ」

 

「は?」

 

「ここはお前達みたいなドロップアウトが使っていい場所じゃねーんだよ!」

 

 どうやら俺たちがここでデュエルすること自体、こいつらは気に入らないらしい。やれやれ、こういうガキの相手をするのが一番面倒なんだがな……というか、なんでだろう。無性にイライラする

 

「知るかよ。ここはフリースペースと学園の案内にも書かれていたはずだ。クラスは関係ないだろう。ならばお前らに指図される道理はないな」

ここはそういう場所だ。ここでデュエルするなら問題ない。いちいち相手にしてられないので、ソイツらを無視して十代に視線を移す。

 

「貴様! オシリスレッドの分際で俺達に盾突く気か!」

 

「おい十代、始めるぞ。あんなのいちいち気にしていたらキリがない。時間の無駄だ」

 

「お? おう!」

 

 キョトンとしていた十代だが、俺の言葉に我に返ったのか再びデュエルディスクを構えなおした。こういう相手は無視に限る。個人的にはせっかくこの世界にいることだし、本物の十代とデュエルをしてみたいものだしな。まあ、その横では未だに何か言っているが無視だ無視。

 

「貴様ぁ!「何を騒いでいる」あ、万丈目さん!」

 

 激高する生徒の後ろからまた別のオベリスクブルーの生徒が姿を現した。万丈目サンダーとのちに呼ばれる人物だ。確かこの男、最初は十代のライバルみたいな立ち位置だったのにいつの間にかネタキャラになっていたんだよな。まあ、「遊戯王GX」というシリーズはありえないくらい登場人物いるわけだし仕方がないといえば仕方がないんだが。

 

「アイツ誰だ?」

 

 そして、万丈目の登場に首を傾げる十代。確かに高校から入ってきた俺達には彼のことは知らないのが普通だろう。俺の場合は知っているが…まあ、その辺は言わないでもいいよな。

 

「さあ? オベリスクブルーの生徒ってことしかわからない」

 

 俺が言うと、取り巻きのオベリスクブルーたちが声を上げる。

 

「お前ら! 万丈目さんを知らないのか!?」

 

「知るか、今日デュエルアカデミアに来たばっかりの人間に無茶言うなよ」

 

「万丈目さんは同じ1年でも中等部からの生え抜き、超エリートクラスのナンバーワン!」

 

「未来のデュエルキングと呼び声高い万丈目準様だ!」

 

 と、高らかに言う取り巻きと偉そうにする万丈目。なんだろう、後々の万丈目の事を知っているだけに、すでに俺からすればネタキャラ臭がプンプンするんだが…まあ、それはともかくとして

 

「知るかよ、そんなもん…というかそもそも、そんなのデュエルアカデミアだけの話だろう。外から来た俺達が知るわけがない」

 

「な、なに?」

 

「それに、だからなんだ? その未来のデュエルキングが俺達のデュエルの邪魔をする権利はあるのか? そんなルールが何時作られた? 言ってみろ」

 

 俺の態度に今にも噛みついて来そうなオベリスクブルーだが、正論を言われてか言い返せない。しかし、そこを万条目がまあまあと下がらせる。

 

「落ちつけ諸君。それにしても貴様、オシリスレッドの分際で随分と態度がでかいんだな」

 

「むしろ同学年で上下決めている奴らよりはまともだと思っているが?」

 

「いいだろう…確かあのクロノス教諭を倒したやつと、龍導院先生を倒したやつだったな。このアカデミアの厳しさを教えてやろう」

 

 そう言って自分の持つデュエルディスクを構えようとする万丈目。そんなことよりあの先生、そんな名前だったんだ。

 

「デュエルをしてもいいが、お前の相手は後だ。今は見ての通り、十代と戦うのが先だ。それとも何か、未来のデュエルキング様は順番も守れないのか?」

 

 と、言い返しておく。自分ではかっこよく決めたつもりなんだろうが、正直なところ、段々イライラしてきた。というか、なんか体の中でイライラよりも怒りの方が膨らんできているんだが…なんでだ?

 

「貴様…「貴方達、何をしてるの?」て、天上院君!」

 

 そこに現れるのは金髪にロングヘアーのオベリスクブルーの女子生徒。明らかに高校1年生のスタイルではない、このシリーズにおけるヒロインである。ちなみに余談だが、さっきから物影に隠れていたのが俺には丸見えだった。

 

「綺麗っす…」

 

 と、呟く翔。まあ、確かにあのスタイルと顔立ちを見れば綺麗というのは同意する。その性格なども初対面の印象としては好印象だろうな……普通なら、の話だけど。

 

「万丈目クン、なにしてるの?」

 

「…やあ天上院君。この新入りたちがあまりにも世間知らずなんでね、学園の厳しさを少々教えてさしあげようと思って」

 

「もうすぐオベリスクブルーの歓迎会が始まるわ。もう戻った方がいいんじゃない?」

 

「ちっ…お前ら戻るぞ」

 

「「はい!」」

 

 天上院と呼ばれた生徒の言葉に小さく舌打ちをすると、万条眼達は退散していった。その3人を見送った後、女子生徒は俺達の方を向く。

 

「駄目よ、彼らの挑発に乗ったら」

 

 いや、挑発に乗った覚えはないんだが…そもそも、止めるならもっと早く出て来いよ。と、彼女の発言に対して毒を吐く俺。決して、口には出さないが。

 

「いきなり出てきてなんだ?」

 

 と、十代が首を傾げる。もっともである。あのままの勢いだったら俺と十代でタッグデュエルをしてもいいかな、とかも考えていたというのになぜいきなり乱入してきたんだこいつ…

 

「私は天上院明日香よ、よろしくね」

 

「俺は遊城十代だ!」

 

「ぼ、僕は丸藤翔ッス!」

 

「……武藤秋人だ。それで、いきなり出てきてなんだ?」

 

 そう俺が言うも、明日香は表情を崩していない。まあ、彼女も自分の方が俺たちよりも立場が上であると少なからず思っているのだろう。オベリスクブルーだからといってすべてが強いというわけでもないし、オシリスレッドだからといってすべてが弱いというわけでもないのに、こういう風潮はなんとも残念である。

 

「ちょっと注意してあげたの。感謝してね」

 

「感謝する必要性がないな…俺達を助けたつもりでいるようだが、それならば何故、あいつが出てくる前に出て来なかったんだ? さっきからそこの物影に隠れていたのに…見えていたぞ」

 

「っ! み、見えていたの?」

 

「あんなので隠れたつもりだった君がおかしい。やる気なくなった…俺達も戻ろう」

 

 そう言って俺はデュエルスペースを後にする。せっかくデュエルが出来ると思ったのに、残念だ。

 

「あ! 待ってくれ秋人!」

 

「待ってよ! 秋人君!」

 

 こうして天上院をデュエル場に残して寮へと戻る俺達。寮に到着して寮の中にある食堂へと到着した。あと一時間もすれば食事なのでそのまえにお茶でも飲もうかと思っていたのだが、この寮の寮長である大徳寺先生がその段ボールとクーラーボックスの山を見て唸っていた。

 

「あれ? 大徳寺先生、どうしたんですか?」

 

「おや、武藤君。実は今日の夕食用の食材が運び込まれたんだけど困ったことにそれを料理してくれるコックさんの到着が遅れてしまっているんだニャー」

 

 先生の話曰く、社長の計らいなのか改装されたオシリスレッド寮と、食事。元々同じ授業料を払っているのに格差があるのは問題だったというのも後に海馬社長から聞かされている。まあそれはさておき、その食材があるものの料理人がいなければ料理というものは成立しないのである。うーん…まあ、食材自体があるなら別に料理は問題ないかな。見たところ品はいいし、調理用の道具は各種取り揃えられているしみたいだ…なら、こうしよう。

 

「先生、よければ僕に考えがあるんですけど」

 

「お、何かあるのかニャー?」

 

「とりあえず、生徒たちの食事の時間は1時間ほど遅らせてください。で、十代と翔も手伝ってもらえる?」

 

「おう、いいぞ。何をすればいいんだ?」

 

 寮の人間の人数や時間を考えると料理は一気に作れるものがいいだろうと考えて行動に移る。こうなったのも元を辿れば俺が原因なわけだし、このくらいはしないとな……海馬社長には色々と言われているし。

 

「とりあえず、歓迎会なのに俺たちが料理作るのはおかしいかもしれないけど交流が出来るように焼肉パーティーにしようと思うんだ」

 

「おお! 焼肉、いいな!」

 

「ちょうど、プレートが8つくらいあるみたいだし、延長コードとかも持ってきて設置とかをお願いしていい? それが終わったらこっちの食材を切るのを手伝って」

 

 こうして俺が指示のもと十代と翔が動く。そして、大徳寺先生も生徒たちにお知らせに行き、他の何人かの生徒が手伝ってくれるという形となった。こういった形で交流の輪を深めるというのは非常に楽しい。無事に準備も終わり、少し遅い夕食会が始まった。当然ながら交流の中でオシリスレッドという立場についての話題が出て一時、食堂の雰囲気が暗くはなったものの、そこはさすが十代といったところか、その場を盛り上げて打倒オベリスクブルーなんて言い出してオシリスレッドの面々は気合を入れ直すのだった。何故詳細を知らないかって? それはもちろん、ひたすら俺は厨房で食材を刻んだりしていたからである。

 

「武藤君はいかなくていいのかニャー?」

 

「俺はこっちの方が向いていますから」

 

 そもそも、食事は気を使ってか、十代がちょくちょく焼いた肉や野菜、魚介類などを持ってきてくれるので腹は満たされている。俺は現在朝食の仕込み中。明日まで料理人がいないとなれば明日のみんなの朝食が抜きになってしまう。俺としてもそれは嫌なのでこうして裏方に回っているのだ。そもそも、オシリスレッドたちの気合を入れてやったり、場を盛り上げたりするようなことは主人公である十代の仕事であって、別世界から来た俺の役割ではない。そんなこんなで無事に歓迎会は終わり、みんなで後片付けをしてから部屋に戻った。

 

「はぁ…結局十代とはデュエルが出来なかったが…まあいいか。明日からデュエルに関する授業だし、明日の準備をして寝るとしよう…」

 

 俺は言いながら明日の準備をして寝る準備に入る。しかし、そこで俺のPDA(携帯端末)からメールの着信音が鳴り響いた。こんな時間に誰だろうか? そう思いメールの差出人を見る。そこにあるのは…

 

 

――万丈目準

 

 これは、一波乱起きそうである。




リメイク前との変更点

焼肉パーティー
 主人公も料理が得意とかそんな設定は無いので、親交を深めるのにこうしました。一応、今のオシリスレッドの寮はラーイエロークラスにまで改装が施されています。

デュエルなし?
 なさ過ぎて申し訳ない。次回デュエルになります

感想、ご意見、評価、お待ちしております




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04「道化」

前回のデュエル、さっそくツッコミの嵐だ…と、自分のデュエルタクティクスやルールの理解度の低さに打ちひしがれながらなんとか更新です

デュエル中の間違いなどの指摘、非常に助かっています。私自身も勉強になりますし、他の方に間違った知識を植え付けないようにできるという点でかなり感謝しております。今後ともツッコミ宜しくお願いします…なるべく、間違えないようには努力しているのですが…やっぱり、大変だ(汗


無零怒様 読み イクト様 どすこいパンダ様 U-KISS様 トライワイトゾーン様 無限正義頑駄無様 感想、及びプレミなどの指摘ありがとうございました

かとてつ様 ms様 無零怒様 ナナンブ様 パフェ配れ様 小説評価ありがとうございました

引き続きご意見、ご感想、評価、お待ちしております。では、4話です


Side秋人

 

『 やぁ、ドロップアウトボーイ。午前0時に決闘場で待っている。

互いのベストカードを賭けたアンティルールで決闘だ。勇気があるなら来るんだな。 

by万丈目 準 』

 

 ……まず、ツッコミを入れるとしたらどこからだろうか。まあ、あれだけ挑発したのだからこうなるかもしれないとは少なからず思っていたが、なんで万丈目は俺のメールアドレスを知っているのだろうか。PDAっていうのは簡単に他人の情報が判るようにでもなっているのか。そして、午前0時に決闘場…現在、11時30分。ここから決闘場まで行くとギリギリになる気がする。そもそも、アンティルールもそうだけど夜中の外出って確か見つかったら退学になるんじゃなかったか? そう考えていると俺の部屋のドアをドンドンと叩く音が鳴り響く。おい、そんなでかい音立てたら大徳寺先生が起きるだろうに…まあ、誰なのかは大体予想がつくけどさ。

 

「はい?」

 

「俺だ、十代だ。開けるぞ?」

 

「ああ、十代か。入っていいよ」

 

 そこにいたのは十代。当然ながらオシリスレッドの制服を着こみ、腕にはデュエルディスクがセットされている。

 

「どうしたんだ? こんな夜中に」

 

「ああ、実はさっきあの万丈目とかいう奴からメールが来てさ。0時に決闘場に来いって」

 

「……それか。俺のところにも来た」

 

「やっぱりか! なら話は早い、一緒に行こうぜ!」

 

 と、意気揚々としている十代。こいつの頭にはおそらくデュエルが出来る、ということしか頭にないのだろう。俺は少し落ち着け、と促して十代に説明する。

 

「まず十代、お前は万丈目と決闘がしたいわけだ」

 

「おう!」

 

「だが、この学校においてアンティルールは禁止されている。そもそも、就寝時間以降に外に出ることも禁止されている…しかも、見つかったら退学だ。これは知っていたか?」

 

「へ? そうなのか?」

 

 あ、やっぱりこいつわかってなかったのか。じゃなきゃ、こんな意気揚々としてないもんな。俺はため息を吐いて十代を説得することにした……無駄かもしれないけど。

 

「十代のデュエルをしたいって気持ちはわからんでもないよ。でもさ、アンティルールがばれる、ばれないは別として夜間外出がばれて退学になんてなったらもうここの連中とデュエルはできないんだ。それを考えたらこんなメールシカトするのが普通じゃない?」

 

「それはそうだけどよぉ、そんなことしたらアイツぜってぇ腰抜けだなんだって言ってくるぜ? それに、決闘者なら売られた喧嘩は買うのが道理だろ!」

 

「そんなもん、正面切って決闘して黙らせればいいだけの話だよ」

 

 俺がここで十代の事を説得するのには理由がある。ここで俺の知っている通りなら十代たちは万丈目とデュエルをする。巡回する警備員が近づいてくることでデュエルを中断し、逃げることになる。この時点で無事に逃げ切れることはできるだろう…が、これがこの世界で同じようになるとは限らない。そもそも、常識的に考えればソリットビジョンシステムには演出としてモンスターたちの声や、召喚するときの光、爆発エフェクトなど目立つ要因がたくさんある。にもかかわらずデュエルが出来るというのはアニメだからこその『ご都合主義』というものがあってこその話。俺にとってはこの世界はアニメの世界という認知もあるが、それと同時にこの世界は俺の世界と同じように本当に存在している世界だと捉えている。よって、自分の世界でもご都合主義、なんてものは存在しないことを考えて十代を行かせたくない。もしこれで十代がばれて退学になってしまえばどうなってしまうことやら。

 

「だけどよぉ…」

 

「俺に考えがある。明日、嫌でもデュエルするだろうさ…そうなるように誘導するから俺に任せてもらえないか? 俺も退学になりたくないし、十代が退学になってほしくもないし」

 

「うーん…わかったよ。そこまで言うなら秋人に任せる。けど、その代わり明日俺とデュエルしてくれ! 絶対だぞ?」

 

「ああ、わかった。約束だ」

 

 俺は十代と握手を交わし、なんとかするという約束をした。十代は無事に自分の部屋に入っていくのが見える。ふぅ、これでなんとかなったかな? 後は、明日をどうするかだな。

 

 

 

 

翌日

 

「やぁ、腰抜けな、ドロップアウトボーイ諸君!」

 

 翌日、学校の教室で十代たちと話しているところへ案の定、万丈目が取り巻きを連れてやってきた。その表情はいかにも昨日の件でバカにしようというのが見え見えである。その大声に何事かと何人かの生徒も万丈目の方を向いている。まあ、当たり前といえば当たり前だが…とりあえず、十代には喋らないようにしてもらう。一応、この件では翔と、今朝仲良くなった隼人にも協力してもらうことになっている。

 

「おい、聞いているのか貴様ら」

 

「秋人君。どうやら君のことを呼んでいるらしいっすよ?」

 

「は? ああ、何、今のもしかして俺に言ったの?」

 

「当たり前だ! 貴様ら以外に誰がいる!!」

 

 なんのことだ? と首を傾げるふりをする俺。我ながら道化だな、なんて思いながら応対を続けることにした。万丈目の眼にできているクマからして、だいぶ待っていたらしい。

 

「何の話だか。お前に腰抜け呼ばわりされる筋合いはないよ」

 

「ほぅ? 昨日の一件のことをしらばっくれる気とはな」

 

「昨日の一件? 十代、お前なんか知っている?」

 

「いや? なんのことだろう。知らないな」

 

 と、棒読みで喋る十代。こいつは絶対に役者には向いてないだろうな…まあ、だからこそ翔や隼人に協力を仰いでいるわけだが。

 

「とぼけるな! 昨日のメールは貴様ら二人には届いているはずだ!」

 

「メール…? なあ翔、隼人、メールってなんのことだ?」

 

「メールって多分、二人が間違って読む前に消しちゃったやつだと思うんだなぁ」

 

「消しただとぉ…!?」

 

 隼人の言葉に、万丈目が唖然とする。まあ、今時メールを読む前に消す奴なんていないだろう。それを聞いて最初は驚いていた万丈目だったが、すぐに我に返って笑い始める。

 

「はっはっは! こいつは傑作だ! メールの見方もわからない田舎者だったとは!」

 

「いや、普通に考えて昨日渡された機械の操作に慣れろ、なんて無理だ。中等部からいるお前らと一緒にされても困る」

 

「けど兄貴、結局昨日のメールは万丈目君だったらしいけど、いったい何の用なんだろう」

 

「そーだな、今いるんだからその“内容”、教えてくれよ」

 

 十代のこの何気ない一言は以外にも重要だ。が、万丈目は十代の言葉に調子の乗っている状態だから気が付いていないようで…

 

「昨日、0時に決闘じょ「ま、万丈目さん! まずいっすよ、ここでその話は!」む、なぜ…っ!」

 

 そう、すでに先生が授業の準備を始めていたのだ。それに気がついてか、取り巻きの一人が慌てて万丈目の言葉を遮る。遠くにいる1時間目の担当をする先生は何事かと首を傾げている様子である。俺はニヤリと笑って万丈目に問いかける。

 

「どうした万丈目? 教えてくれよ。昨日俺たちに、どんな、メールを送ってくれたんだ? なぁ? 気にならないか十代」

 

「あ、ああ…気になるよな」

 

「き、貴様…!」

 

「それとも、ここじゃ『言えないような』メール内容なのか?」

 

 どうやら、ようやく万丈目は俺の言葉の意図を理解したらしく、覚えていろと捨て台詞を吐いてその場を後にしていった。それを確認した十代は大きくため息を吐いた。

 

「はーっ…疲れたぜ」

 

「ああ、お疲れ様十代。翔と隼人もありがとう」

 

「いやー…場に合わせてくれって言っていたけどなかなかにえげつないことするっすね」

 

「このカンペ見ていて思ったけど、秋人はなかなかに策士なんだなぁ…」

 

 いや、そんな大層なもんじゃないよ俺は…さて、まあ、これだけのことをしたからにはおそらく昼休みか放課後にでも喧嘩を売ってくることだろう。その時にうまいこと誘導して十代と万丈目が決闘すれば万事解決だ。十代の実力ならおそらく万丈目には勝てるだろう……多分

 

 

 

 

「おいドロップアウト! 俺と決闘しろ!」

 

「……は?」

 

 昼休み、昼食を終えた俺たちだったがそこにまたしても万丈目がやってきた。まあ、ここまでは予想していたが、万丈目の指はどう見ても俺を向いている。やっぱり、あそこまで俺がやったとわかればこうなってしまうのか。ここまでくれば後は十代に誘導するだけだ。

 

「だって、十代。やったな、万丈目がデュエルしてくれるってさ」

 

「いや、どう見てもお前のこと指さしているぞ? 万丈目の奴」

 

「十代、ここは喜んでお前が飛び出せば決闘できる手筈だったじゃん…」

 

「あ、そっか」

 

 と、演技の事をすっかり忘れていたらしい十代。出て行こうとするがもう遅い。頭に青筋を立てている万丈目は俺を指さしている。

 

「ドロップアウト、いや武藤秋人! とっとと決闘場に来い! 昨日の件はうまくはぐらかしたようだが今度逃げれば間違いなく貴様は腰抜けだ! ギャラリーも待っているからな!」

 

 そう言って歩いていく万丈目。うーん、ある程度こうなるんじゃないかな、とは思っていたがこうなるとやっぱり十代には悪いことしたな。

 

「すまん、十代」

 

「気にすんな、お前がやった後に俺が決闘すればいいんだからな!」

 

 と、笑顔の十代。俺も「ありがとう」と礼を言って十代たちと共に万丈目が歩いて行った決闘場へと足を運ぶことにした。決闘場に着くと、観客席の場所には何人もの生徒たちが座っていた。食事をしながら見ている奴を見るに、単純に食事をしていたやつらもいるのだろう。だが、この場所にいるのがほとんどがオベリスクブルーだ…つまり、万丈目の取り巻き達が集めたのだろう。

 

「よく逃げなかったな、褒めてやろう」

 

「いや、あれだけうるさければ来てやるって」

 

 さて、この場にはオベリスクブルーの他にもラーイエローやオシリスレッドの連中も多数存在している。詰まる話、海馬社長から頼まれていたことが実行できるというものだ。俺もデュエルディスクを腕に装着し、デッキをセットした。

 

「オベリスクブルーとオシリスレッド、その実力の差を教えてやろう!」

 

「……ふぅ、いいだろう。来い!」

 

 

武藤秋人VS万丈目準

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

武藤秋人 LP4000

万丈目準 LP4000

 

「先攻は貰った! 俺のターンドロー!」

 

 そう言って高らかにカードを引く万丈目。おいコラ、普通はコイントスとかじゃんけんで先攻と後攻を決めるんじゃないのかよ。アニメの世界だと言ったもの勝ちなのはわかっていたが、この世界でもそれが成立しているとは思わなかったぞ。まあ、このデッキなら別に先攻も後攻も関係ないから別にいいか。

 

「俺はモンスターを伏せる! そしてカードを4枚伏せてターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 セットカードが5枚…さて、何を伏せたのやら。まあいい、俺も今回のデッキはあの男が言い訳をできないようなデッキを作ってきたつもりだ。手加減、妥協なしで行くぞ。放課後に決闘する約束もあるからな。

 

「俺は手札から『E・HEROエアーマン』を召喚!」

 

「何!? 貴様もE・HEROだと!? それになんだ、そのヒーローは!」

 

E・HEROエアーマン ATK1800/DEF300

 

「うぉ!? すっげー! かっこいいなぁ! 俺の知らないヒーローだ!」

 

 そう喜んでいるのは十代だ。まあ、漫画版ヒーローだからな…一応、入学前に確かめたがこの漫画版のヒーローたちはこの世界ではまだ存在していない。まあ、海馬社長が近いうちに量産して売り出すとか言っていたな。まあ、この手のヒーローは十代を見ての通り、男の子なんかには受けるデザインだし。観客席の生徒たちも見たことのないHEROに驚いている様子である。まあ、驚くのはまだ早いんだけどな。

 

「エアーマンの効果を発動する。このカードの召喚に成功したとき、デッキから『HERO』と名のつくカードを1枚、手札に加える効果を持っている。俺はデッキから手札に『E・HEROシャドー・ミスト』を加える」

 

 一応、この世界にはエアーマンが存在しないので当然ながらエアーマンに制限、というものはかかっていない。だが、ここでエアーマンからエアーマンをサーチ、なんてことをするのも流石に自重した方がいいな、と考えて俺がいた世界での制限禁止通りに1枚しか採用していない。というか、エアーマンなどの強力過ぎるカードに関しては社長もこの世界で同じことが起きるのが嫌なのか、量産して売り出したらすぐに制限にするとか言っていたし。

 

「バトルフェイズ! エアーマンでセットモンスターを攻撃する! 『エアーシュート』!」

 

「セットしていたのは『メタモルポッド』だ! リバース効果発動! 互いのプレイヤーは手札をすべて捨て、5枚になるようにドローする…くくく、今お前が加えたカードは無駄になったな」

 

 なるほど、だから手札をほとんど伏せていたのか。万丈目の墓地に落ちたのは『地獄剣士』……何かを狙っているのだろうか。

 

「ならば、墓地に送られたシャドー・ミストの効果を発動する。このカード以外の『HERO』を手札に加えることが出来る。俺はデッキから、メタモルポッドの効果でカードを5枚ドロー後、シャドー・ミストの効果で『E・HEROバブルマン』を加え、デッキをシャッフルする」

 

「チィ…まさか墓地に落ちることで効果を発動するカードがあるとは…!」

 

「俺はカードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

 本当は追撃もかけられるところだったが、焦って自滅するのはまずい。ここは様子見でいいだろう。というのも、初期の万丈目のデッキは何をしてくるのかが全く分からない。確か、地獄と名のつくカードをなんでも入れていたのは覚えているが、いかんせんVWXYZや、レベルアップモンスターなんかが印象的過ぎて最初の方など全然覚えていないんだよな。

 

「俺のターンドロー! 俺は伏せていた『リビングデットの呼び声』を発動する! 墓地にいる『地獄剣士』を復活だ!」

 

地獄剣士 ATK1200/DEF1400

 

「地獄剣士を…?」

 

「そして速攻魔法『地獄の暴走召喚』を発動! このカードは相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる! その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する! そして、相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する」

 なるほどな、地獄剣士を大量に呼び出すためにわざとメタモルポッドの効果で地獄剣士を墓地に送ったのか。

 

「俺のデッキにエアーマンは1枚しかいない。俺は召喚できないな」

 

「ふん…ならば俺はデッキから2枚の地獄剣士を召喚する!」

 

地獄剣士2 ATK1200/DEF1400

 

地獄剣士3 ATK1200/DEF1400

 

「さらに俺は手札から装備魔法『ヘル・アライアンス』を地獄剣士の1体に装備する! このカードを装備したモンスターは同名のモンスター1体に付き攻撃力を800ポイントアップさせる!」

 

地獄剣士1 ATK1200/DEF1400→ATK2800/DEF1400

 

「出た! 万丈目さんのマジックコンボだ!」

 

 おい、そこの取り巻きども。そのセリフは2世代後のシリーズのやつらのセリフだろうが。確かにマジックコンボなのは間違いないけども。それにしても、俺のデッキを確認しなくていいのか? 本来なら本当に召喚できないのか確認させるのに。と、考えていたが、そんなことを気にせず万丈目はバトルフェイズに入ろうとしている。

 

「その軟弱なヒーローを消し去ってやる! バトルフェイズ! ヘル・アライアンスを装備した地獄剣士でエアーマンを攻撃する! 『ヘル・アタック』!」

 

「それはどうかな? 速攻魔法発動、『マスク・チェンジ』!」

 

 発動と共に地獄剣士の攻撃は止まり、フィールドにいたエアーマンの顔面が突如として輝き始める。

 

「な、なんだ、そのカードは…!?」

 

「『マスク・チェンジ』。自分のフィールドに存在するHEROを対象として発動する。そのモンスターを墓地へ送り、そのモンスターと同じ属性の『M・HERO』モンスターを1体、融合デッキからフィールドに特殊召喚できる。行くぞ、エアーマン、変身!」

 

 俺の言葉と共にエアーマンが空中へと飛び上がり、その顔面を覆っていた輝く光が全身を包み込む。そしてそのモンスターが地面へと着地した。

 

「変身召喚! 『M・HEROブラスト』!」

 

 

さあ、ヒーローたちの舞台の幕開けだ。

 




リメイク前との変更点

万丈目の呼び出し回避
 なんというか、現実的に考えて深夜にあんな派手な戦い繰り広げていたらどう考えても早くに警備員きて、下手すれば捕まるだろ…と、当時生で見ていた時の作者の感想。なので、こんな形で深夜デュエルは回避して翌日にデュエルすることにしました。

メールについてのやりとり
 リメイク前にはやらなかったことですね。まあ、実際のところあんなことされれば仕返しの一つでもしてやろう、というのが秋人の考え。なんつーか、とっととデュエルしろよと言いたくなる内容だったorz

デッキについて
 シンクロデッキからHEROデッキへ
秋人はリメイク前の秋と違い、原作の知識というのはかなり曖昧であるように表現しているので、万丈目が『ヘル・ポリマー』を持っていることも忘れています。
というか、ここだから言わせてくれ。万丈目の初期デッキがすげー扱いづらい!
 ちなみに、ジャンドデッキは数話後に出す予定です。

秋人の使うカードの使用制限について
 リメイク前に「にじふぁん」時代に感想の1つで「この世界にはエアーマン無いんだから3枚積めば楽勝じゃん」というご意見を貰いました。なので今作ではデッキを作成する際は物語的な話ではあくまでも秋人は自分の元いた世界(我々の世界)に準拠した禁止制限の中で秋人はデッキを組む理由を無理やり作りました。というのも、これは海馬との会談で行った契約でのカードリストを見せたことでの海馬からお達しがあって禁止カードや制限カードを守っているというもの。
故に「エアーマン召喚、エアーマンサーチ、エアーマン召喚、エアーマンサーチ」とかはやりません。
 感想の言葉については確かにその通りなのですが、メタ的な発言すると、そんなことをすると読んでいる読者の方も、書いている私も楽しくない、というのが大きく、そのようなことはしないことにしました。そんなことをやるんだったら全部先攻ワンキルデッキになるんで…どうかご理解いただければ幸いです。

NEXT「誘惑」


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05「誘惑」

 気が付いたら感想やお気に入りの数がどえらいことに…また、リメイクについて喜んでくれる方がいて嬉しく思います。この毎日更新がどこまで続くかはわかりませんが、頑張ります

blackfenix様 萃蓮様 U-KISS様 ジャギィ様 人姫様
ミスター超合金様 日光岩新アカ様 黒しろ様 藍色様
すりおろし卵様 トライワイトゾーン様 カッチュウナイト様
ANSAS様 赤鉄様
感想、及びご意見、作中の誤字脱字、プレイミスの指摘ありがとうございました!

U-KISS様 天理様 混沌刄様 読み専太郎様 D@!様
小説評価感謝感謝いたします。頂いたご意見と点数は今後の小説での貴重な意見として生かせるように頑張っていく所存です

今後も感想、ご意見、指摘、評価をお待ちしております

では、第5話です。 今回はヒロインたちが登場です


Side藤原雪乃

 

 今私は、友人の明日香と共に決闘場で行われるデュエルを観戦していた。その対戦はオベリスクブルーではエリートと言っている万丈目準のボウヤと、つい先日出会ったシンクロ召喚、という召喚方法を用いて試験官を打ち破ったオシリスレッドのボウヤとの決闘。明日香の話では昨日の夜に万丈目のボウヤが彼らを呼び出す予定だったらしいけど、彼らはその場所に来なかったという。まあ、普通に考えればそんなことをして退学になったら困るものね。そして、その延長で始まったのであろう決闘に明日香と私は驚かされる。試験の際には使用していたシンクロ召喚は一切登場しない。その代り、クロノス先生を打ち破った遊城十代というオシリスレッドのボウヤが使っていたのと同じ、E・HEROでデュエルをしていた。そして…

 

「変身召喚! 『M・HEROブラスト』!」

 

M・HEROブラスト ATK2200/DEF1800

 

 またしても、私たちの知らないカードが召喚されていた。

 

「ま、M・HEROだと!? なんだそのHEROは…いや、それだけ大層なことをした割には攻撃力がさほど変わらんな! 驚かせやがって!」

 

 確かに、万丈目のボウヤの言うとおり…召喚されたブラストというHEROの攻撃力は2200。攻撃力が2800になっている地獄剣士には及ぶ攻撃力ではない。

 

「ああ、そうだな。確かにブラストの攻撃力は高いとは言えない…が、そういうお前の地獄剣士を見るといい」

 

「なに? な、これはいったい…!」

 

地獄剣士1 ATK2800/DEF1400→地獄剣士1 ATK1400/DEF1400

 

 攻撃力がパワーアップしていたはずの地獄剣士の攻撃力が下がっていた。その周りには風がまとわりついているようにも見えるわね。まさか、あのモンスターの効果かしら?

 

「ブラストは特殊召喚に成功したとき、相手のモンスターを1枚選び、その攻撃力を半分にする効果がある。俺が選択したのは装備魔法を装備した地獄剣士だ」

 

「ぐっ…バトルは中止! メインフェイズ2にて、カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

「俺のターンドロー……さあ行くぜ、万丈目。ヒーローの力を見せてやる」

 

「万丈目『さん』だ! ヒーローの力だと!? 俺のフィールドには地獄剣士が3体いる! そうやすやすと突破が出来るものか!」

 

「…確かに、万丈目君の言うとおり。彼のフィールドには地獄剣士の他にもセットされたカードも存在している。彼、どうするつもりかしら?」

 

 万丈目のボウヤの言葉に私の横にいた明日香も確かに、と唸っている。あのボウヤの言い方からして、このターンにも勝てる。そんな言い方。この状況でどうするのかと考えているのだろう。確かに、私も気になるところね…どうするつもり?

 

「俺は手札から『強欲な壺』を発動してカードを2枚ドローする。そして伏せていた『リビングデットの呼び声』を発動。墓地に存在する『E・HEROシャドー・ミスト』を特殊召喚する」

 

E・HEROシャドー・ミスト ATK1000/DEF1500

 

「こいつは先程の効果の他に、特殊召喚に成功したときにデッキから『チェンジ』と名のつく速攻魔法カードを1枚手札に加える効果を持っている。もっとも、それぞれの効果を1ターンに1度、どちらかしか発動できないのが欠点だ。俺はデッキから『マスク・チェンジ』を手札に加える。手札から『死者蘇生』を発動! 墓地よりエアーマンを復活させる!」

 

E・HEROエアーマン ATK1800/DEF300

 

「このカードの召喚に成功したときデッキから『HERO』を1枚手札に加えることが出来る。俺は手札に『E・HEROブレイズマン』を加える。そして魔法カード『融合』を発動! フィールドのE・HEROエアーマンと、手札のE・HEROバブルマンを融合! 現れろ、『E・HEROアブソルートZero』!」

 

E・HEROアブソルートZero ATK2500/DEF2000

 

 出てきたのはまたも見たことのないHEROシリーズ…攻撃力、守備力共に申し分のないカードね。氷の戦士のようにも見える。だけど、それが出た途端、万丈目のボウヤはニヤリと笑っていた。

 

「くくく、セットした甲斐があったぜ! 罠発動『ヘル・ポリマー』! 相手が融合モンスターを融合召喚した時に発動する事ができる! 自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で、その融合モンスター1体のコントロールを得る! 俺はフィールドの地獄剣士を生贄に捧げ、貴様が今召喚したそのモンスターを頂くぞ!」

 

「させるかよ。速攻魔法『マスク・チェンジ』発動! 対象は今俺が召喚したアブソルートZeroだ! 行くぞ、アブソルートZero! 変身!」

 

「ぐっ…! またか!」

 

「変身召喚! 『M・HEROアシッド』!」

 

M・HEROアシッド ATK2600/DEF2100

 

 今度は今召喚されたばかりのアブソルートZeroの顔が光で包まれ、全身が発光する。そして現れたのは顔に水という漢字を思わせる仮面をつけたモンスター。その手には拳銃のようなものがある。

 

「対象がいなくなったことで、ヘル・ポリマーの効果は不発…そして万丈目、お前のフィールドを見てみるといい」

 

「何、いったい何が…なっ…!? お、俺の地獄剣士たちが…!?」

 

 フィールドにいた地獄剣士たちは凍りついており、そしてそのまま砕け散ってしまった。これはいったいどういうこと!?

 

「アブソルートZeroはフィールドを離れたとき、相手のフィールドのモンスターをすべて破壊する効果を持っている……そして、アシッドは召喚に成功したとき相手フィールドの魔法、罠をすべて破壊する効果を持っている。『Acid rain』!! 一応、チェーンだと順序逆だけどな…演出効果かな…」

 

 ボウヤの言葉と共に、アシッドがその銃でセットされていたカードをことごとく撃ち貫いて破壊した。フィールドは丸裸。もはや万丈目のボウヤを守るカードは何もない。これは、勝負が決まったわね。

 

「ば、バカな…この俺が、ドロップアウトのオシリスレッドなどに…!」

 

「バトルフェイズ! モンスターで一斉攻撃!」

 

「ぐ、ぐあああああああああああっ!!!」

 

万丈目準 LP4000→LP0

 

 ヒーローたちの総攻撃によって万丈目のボウヤのライフポイントは0になる。周囲は困惑の声に包まれた。当然だ、オベリスクブルーの生徒がオシリスレッドに倒されるなど、本来あるはずがない…ここにいる生徒のほとんどがそう思っているはずだ。実際私も、あのボウヤは万丈目のボウヤに勝てるのか? そんな疑問があった。だがあの子は勝った…うふふ、面白いボウヤね。

 

「うふふ、やっぱり面白い子ね…気に入ったわ。今度、吟味してあげる」

 

 私は隣にいた明日香に聞こえない声でそう小さく呟いた。

 

 

 

 

Side秋人

 

 とりあえず、万丈目は倒すことが出来たが…それと同時になぜか寒気が…? なんでだろう。そう思いながら決闘場を下りると、十代たちが駆け寄ってきた。

 

「やったな秋人! それにしても、お前の持っているヒーローカッコいいなぁ! 初めて見たぜ!」

 

「ああ、まあな…本当はお前との決闘用に作ったデッキだったんだが」

 

「ああ! 俺もそのデッキとデュエルしたいぜ!」

 

 そう言ってワクワクしている十代。うーむ、ワクワクしているところ悪いが、もうお昼休みが終わってしまう。そう思った途端に鳴る予鈴。食事をとってから決闘したなら当然こうなるよな。困惑していた生徒たちも予鈴を聞いてか慌てて決闘場を後にしていく。

 

「十代との決闘は放課後だな、こりゃ」

 

「あー、マジかよ…まあいいや、秋人はどっかに逃げたりとかしないだろうし。じゃ、教室戻ろうぜ!」

 

 そう言って上機嫌に走り出す十代とそれを追っていく翔と隼人。海馬社長の頼みはこんな感じでいいのだろうか。そう考えながらも俺もその3人を追って駆け出すのだった。

 

 

 

 放課後、十代との決闘が終わるまでに俺はある人物の手伝いをしていた。まあ、たまたま俺が日直だったというのもあるが、その手伝っている人物というのが…

 

「悪いわね、武藤君。手伝ってもらっちゃって」

 

「いえ、一応日直でしたから」

 

 黒髪のロングヘアーの女教師、名前は響みどり。オシリスレッドの担当を受け持つ教師である。この人はアニメではなく漫画版の遊戯王GXに登場する人物……のはずなんだが、なぜかデュエルアカデミアにいる。ちなみに、この人の弟であるプロデュエリストの響紅葉も存在しており、その人は現役バリバリでプロリーグにいる。どうやら、呪いを受けた様子はないらしい。さらに、十代がエアーマンなどを初めて見た、と言っていたところを見ると十代は響紅葉とは会っていないのだろう。なかなかにややこしい世界である。

 

「武藤君、あとはそのカードが入った段ボールを資料室に置いてもらうだけなんだけど、お願いしてもいいかしら? これから職員会議があるの」

 

「構いませんよ。一応、資料室の場所は知っているので」

 

「そう、じゃあお願いね♪」

 

 そう言って職員室へと歩いていく響先生。俺も、それを見送った後に資料室へと歩き始める。ちなみに、このカード、というのは授業で使う用のカードで、デュエルディスクシステムへ読み込むことが出来ないカードである。いうなればパチモンのカードといったところだろう。程なくして資料室へと辿り着いた俺は段ボールを下して資料室のドアを開けた……が、その開けた途端、俺は思わず顔を引き攣らせた。その部屋の隅では1人のオベリスクブルーの男子生徒がオベリスクブルーの女子生徒を押し倒していたからだ。しかも、その押し倒されている女子生徒は見覚えがある。俺が船に乗っていた時に声をかけてきた女子生徒…確か、名前を藤原雪乃、と言ったはずだ。俺の姿に驚いたのか、それとも襲っているのを見られて慌てたのか、オベリスクブルーの男子生徒はそのまま資料室を出て走り去っていった。一瞬、睨まれたけど

 

「……やれやれ、最近の若い奴は」

 

 まあ発情するのは別に構わないが、場所を弁えろと言いたい。確かに昨今そういう場所を舞台にした物は結構あるが、あれって場所としても他の生徒とか先生が入ってきたら絶対にばれるだろうし現実味が無い……って、何の話をしているのか俺は。俺はとりあえず段ボールを資料室に置いてその場を立ち去ることにする。幸い、その置く場所は入口を入ってすぐの場所だった。部屋の隅にいる彼女とは接触することはないだろう……が、それは叶わなかった。

 

「あら? 私に何も言わず、ここを出ていくつもり? ボウヤ?」

 

 その声の主は言わずもがな、押し倒されていた女子生徒、否藤原雪乃である。藤原はその服の乱れを直しながらそう俺に聞く。

 

「邪魔をしたというなら謝る…が、時間は考えた方がいいぞ」

 

「私が襲われていたから助けた、とは考えないのね」

 

「押し倒されていた時に“呆れた表情をしていた”人間が襲われているとは、俺は思わないよ」

 

 もし万が一、彼女が本当に男に襲われていたのなら入ってきた俺にすぐさま助けを求めるだろう。が、彼女はそれをしなかった…ついでに言えば俺が入ってきたことに驚いた表情を見せたオベリスクブルーの男子生徒とは対照的に、この子はまるでその生徒を期待外れかのように見ていた。それを見れば、彼女は先程のオベリスクブルーの男子生徒が襲ってきたことに何ら抵抗をしていなかったということになる。

 

「ウフフ、やっぱり面白いボウヤね。とってもそそられるわ…さっきのボウヤじゃ私を満足させることはとてもじゃないけど無理だった。ねぇ、貴方は私を満足させてくれる?」

 

 いつの間にか近づいていた藤原が俺へと寄り掛かり、ゆっくりと距離を詰めてくる。彼女なりに俺を誘惑しているのだろう。まったく、このマセガキが…。俺は小さくため息を吐くと近づいてくる藤原の肩を掴み、それ以上の進行を止めた。

 

「そういうのは、大切な人にするもんだ。やめておけ」

 

 

Side雪乃

 

「そういうのは、大切な人にするもんだ。やめておけ」

 

 そう言ってボウヤは私が口づけをしようとするところで肩を掴んで止め、私と距離を取った。私はその彼の行動に驚きを隠せなかった。吟味してみたいと思っていた男が向こうから来てくれたので、これは面白いチャンスとそう思っていたのに、まさかこんなことがあるなんて…

 

「…? どうかしたのか?」

 

「……随分とお堅いのね、恋人でもいるのかしら?」

 

「いや? 別にそういうのは今のところいないが…っと、そろそろ時間か。じゃあな」

 

 部屋を出ていくボウヤを私は少し呆然と眺めていることになった。今まで、色々な男が私に言い寄ってきた。それは年下から年上と年齢を問わず、さらには恋人持ちまでが私を口説き落とそうと近寄って来たくらいだ。だというのに、あんなにもあっさりと私をあしらうとは……色々な意味で衝撃的だった。今まで自分に言い寄ってくる男などすべて私にとっては取る足らない存在。例えるなら私は篝火で、男たちはその私という篝火に寄ってくる蛾と言ったところ……近づけば燃えて消える哀れな存在……だと思っていたのだけれど、彼はもしかしたら違うのかもしれないわね……面白いわ

 

「次は容赦なく、貴方の身を焦がしてあげる」

 

 そう決意し、私は自分の住む寮へと戻るのだった。

 

 

Side秋人

 

「ここから戻って約束の時間に着けるかな…完全に藤原のお蔭でタイムロスだ…」

 

 放課後の十代とデュエルをすることになっていたのだが、その場所はレッド寮の前で、という約束だった。時間的にも色々と手間取ったせいでギリギリだし、校舎とレッド寮って結構離れているから面倒なんだよなぁ…。そんなことを考えながら走っていると、曲がり角から突然飛び出して来た人とぶつかってしまった。

 

「いったぁ~…! ちょっと、どこ見てるのよ!」

 

「あたたた…ああ、すまん。ちょっと急いでいたんだ」

 

 ぶつかった相手はピンク色の髪の毛が特徴的なオベリスクブルーの女子生徒だ。尻餅をついてしまい、その周囲には彼女の物であろうカードが周囲にぶちまけられてしまった。本当なら十代との約束もあるから急いでいるんだけど…これ、完全に俺の不注意だしこのまま無視するのもまずいよなぁ

 

「すまん、すぐ拾うよ」

 

「あ、ちょっ…」

 

 そう言って俺は落ちたカードを拾い始める…が、そのカードに思わず手が止まった。このカードたちは…

 

「六武衆…」

 

「ちょ、ちょっと、勝手に見ないでよ!」

 

「ああ、すまん。珍しいカードだったからついな…すぐに他も拾おう」

 

 そう言って俺はカードを拾って女子生徒に差し出した。すると、俺を警戒しているのか女子生徒は引っ手繰るようにして俺からカードを受け取った。

 

「それで全部? カードが足りなかったりしないか?」

 

「…だ、大丈夫よ。全部あるわ」

 

「悪かったな、ちょっと急いでいたから」

 

 そう言って俺が謝ると、女子生徒はフンと鼻を鳴らしてソッポを向いてしまう。

 

「次から気をつけなさいよね! まったく…べ、別にカードを拾ってくれたことに感謝なんてしてないんだから」

 

「ああすまない…あ、もしカードがダメになっていたとかあったら言ってくれ、弁償するから。俺は武藤秋人、見ての通りオシリスレッドだ」

 

「ボクの名前はツァン・ディレ…って、これアンタが弁償できるようなカードじゃないわよ。これ、まだ未発売のカードなんだから」

 

「え? そうなのか?」

 

「そうよ。これはKCに勤めているパパが私に送ってきてくれたテスト用のカード。正式な発売はまだ先なのよ」

 

 ……ああなるほど、理解した。そのカードって俺が社長に渡したリストからピックアップされたカードってことか。そうだよな、六武衆って確か収録はE・HERO エアー・ネオスがパッケージになっている『STRIKE OF NEOS』で収録されているのが最初のはずだ。この世界観と自分の元の世界での世界観を合わせると登場するのは二期あたりなのに持っているというのはそういうことになるのか……一瞬、この子も俺と同じかとも考えたがどうやら違うらしい……って

 

「やべ、十代との約束すっかり忘れてた…! 本当に悪かった! それじゃあ!」

 

 そう言って俺はその場を後に、レッド寮へと走っていくのだった。

 

 

Sideツァン

 

「…なんだったのよ、アイツ」

 

 そう言いながらボクはぶつかってきた男子生徒を見送りながら思わずそう呟いた。このパパから渡された新しいカテゴリカード、六武衆。それをあの生徒はあたかも最初から知っているような口ぶりだった……そんな気がする。このカードはさっきの生徒に言ったとおり、まだ市場には出回っていないからKCと開発スタッフのインダストリアル・イリュージョンの人たちしか知らないはずなのに…というか

 

「しまった、今の奴に口止めするの忘れた…」

 

 まだ未発売のカードだから、人にはあまり見せないようにって言われていたのをすっかり忘れていた。信頼できる身内にだけ見せてプレイし、どのような感じだったのかを教えて欲しいとパパからの手紙に書いてあったのに、すっかり忘れていた。

 

「…仕方がない、今度会った時に言わないと」

 

 そう言いながらボクはお風呂に入るため、女子寮の方へと戻るのだった。この時は、アイツとこんなに早く再会するとは全くって思っていなかったけど…

 

 

Side秋人

 

「なんだよもぉー…まったく…」

 

 俺はそんなことを言いながらデッキを組んでいた。急いでレッド寮にまで戻ったのはいいのだが、戻ったところ十代はなぜか大徳寺先生に捕まり寮の食堂で補習を食らっていた。どうやら、授業中に眠っていたのがばれたらしく、小テストで点を取ることが出来るまでは解放してもらえないという。そんなわけでデュエルは後日となり、時間が出来たので翔とデュエルでもしようと思ったが翔はどこか上の空で、隼人もそれを心配している。

 

「はぁー…なんつーか、今日は一日疲れたな」

 

 万丈目とのデュエルもそうだが、藤原が迫ってきたのも若干ビビっていた。元の世界とかだったら、何も見てなきゃ絶対にあの誘惑には負けていたな。あの様子ではからかっているのが判り切っていたからああやって対処できたけど…あー…もう、だめだ。疲れた

 

「少し早いけど寝るか…俺も疲れ…「大変だぁ! 秋人ぉ!!」…なんだよ、十代」

 

 寝ようと思い、着替え始めようとしたところへ十代がドアを勢いよく開けて入ってきた。何事かと思えばその腕にはデュエルディスクがセットされており、お出かけする気満々である。

 

「大変なんだ秋人! 翔が捕まっちまった!」

 

「はぁ? 誰に…ってか、なんで?」

 

「わかんねぇ! 女子寮で待ってるって! あと、秋人も連れてこいって書いてあった!」

 

 落ち着けよ、と言いたいが十代は翔が攫われたということで頭がいっぱいなのか、そんな余裕はなさそうに見える。昨日注意したのにもう夜間外出のことについて忘れているのかと言おうとしたが、今回は状況が違う。俺はため息を吐いてデュエルディスクを手に取った。が…

 

「秋人、早く! デッキもこれでいいか!? 急ぐぞ!」

 

「え、あ、ちょ、十代そのデッキは! 待てって!」

 

 そう言って俺の腕を掴み走り出す十代。俺の言葉などお構いなしに、十代は俺を連れて女子寮まで走っていくのであった。

 

 




リメイク前との変更点
万丈目ェ…
 すみません!万丈目サンダーファンの方…。どう頑張っても万丈目の地獄デッキで秋人のHEROを苦しめる展開が思いつきませんでした。
というか、そもそも万丈目の地獄デッキというのが謎すぎて…レシピとかないし、回し方も良くわからんし…まあ、感想でも言われてましたが…まあ、Zeroからのマスクチェンジはやっぱ鬼畜ですわ…

ゆきのん&ツァン登場について
 みんな大好き、肉まん娘とツンデレ姫の登場です。ゆきのんの本格登場ですが、見たことある人は分かるでしょう…このシーンは私が書いていた別の遊戯王小説、這い上がれ弱小決闘者のオマージュです。このシーン、個人的に気に入ってたので入れました。今後もこんな感じで前の小説の設定とか、未公開のシーンを盛り込んでいく予定ですので宜しくお願いします

みどり先生登場
 まさかの漫画版の先生登場。第一話での先生は本当は彼女にする予定だったのですが、強すぎる、という理由で却下。漫画版を読めばわかりますが、彼女の堕天使デッキは正直鬼畜過ぎる
 ちなみに、近いうちに紅葉も登場します。

十代とのデュエルが無い
 もう少し、お待ちください。十代戦は少し物語のほうに関わってきますので、ご容赦を

NEXT「女子寮での再会」(前編)


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06「女子寮での再会」(前編)

 なんだか気が付いたらどんどんお気に入りが増えていく…ありがとうございます。ただ、それと同時にこれだけの人が私の小説でプレミを見てしまうというのを考えるとやっぱりミスはできない…とかなり緊張しております
 間違えてしまうこともやはりあるでしょう。なので、今後も指摘など宜しくお願いします

Ranperu様 シュウキ様 詩紀@ちくわ様 たろすけ様 万屋よっちゃん様 神風装甲様 キズキ様 啄木鳥 出雲様 微糖様
感想、並びにご指摘感謝いたします。ありがとうございました!

龍牙様 スターダスト様 夢憑き様 曲利様 アスカル様
小説評価ありがとうございました。今後も頂いた投票点以上を目指せるように精進してまいります

引き続き、ご意見、ご指摘、評価お待ちしております
さて、女子寮にてデュエルの第6話です…どうぞ


Side秋人

 

「あ、翔がいたぞ、秋人! おーい! 翔~!」

 

「アニキ~! 秋人君~! たすけてー!」

 

 走り続けてようやく到着したこの場所、オベリスクブルー女子寮である。それにしても、全力疾走で走ったというのにまだそんな元気な声をだす力が残っているのか十代。これはあれか、主人公補正というやつなのか。俺はもう息絶え絶えなのに……

 

「来たわね、十代、それに……あの、貴方大丈夫?」

 

「……大丈夫に、見え、るか、天上院」

 

「……全然大丈夫じゃないみたいね。それと私の事は明日香でいいわよ」

 

 そう言ってくる天上院。否、明日香。俺はとりあえず息を整えると十代からデッキを奪い返し、事情を聞くことにした。要約すれば、翔が女子寮へと忍び込み覗きを行ったということである。で、その場に居合わせた女子生徒たちが怒っている…ということらしいのだが。いやいやいやいや……ちょっと待て

 

「どう考えても悪いのは翔だろ。俺や十代は関係ないんじゃないか?」

 

「あら、この子は十代の舎弟でしょ? それに、貴方も友達じゃないの」

 

「覗きとかする奴を友達と思いたくないな……」

 

 そう言いながら呆れて翔を見る。翔は「そんなー! 見捨てないでー!」と叫んでいる。まあ、これって元々クロノス先生が悪いわけだし、アイツが進んで女子寮に忍び込んだってわけでもないから何とも言えないんだけどさ……

 

「それで、俺たちにどうしろと?」

 

「もちろん、デュエルよ。貴方たち2人が勝てばこの子を解放してあげる。だけど、もし負ければ警備に突き出すわ」

 

 まあ、十中八九そうなるよな。だが、落ち着いて考えてもこっちが不利にもほどがある気がするんだが。

 

「デュエルをするのは……まあ、構わない。だが、お前ら校則の事知ってるか? 夜間外出は見つかれば退学だ。もし決闘中に先生に見つかる場合はどうする」

 

「そこは大丈夫。この女子寮にいる女の先生たちは今日、みんな新春会で飲み会しているのよ。お酒弱い先生多いからもう潰れて寝ているわ」

 

 ……それでいいのか、デュエルアカデミアの女教師たち。俺はデュエルディスク装着してデッキをセットしたが、デッキケースに入ったエクストラデッキのカードを見て思わずため息を吐く。十代が勝手に選んだデッキの内容ではこのカードたちを使わないと確実に勝てない。生徒は……明日香と、確か明日香についているなんだっけ、浜口ももえと枕田ジュンコだったか。それに……あれ?

 

「今日の放課後振りね、ボウヤ?」

 

「……ふん」

 

「…藤原、それにディレ? なぜ君たちがここにいる?」

 

 そう、そこにはなぜか藤原雪乃、そして今日会ったツァン・ディレの姿があった。原作では明日香、ジュンコ、ももえの3人しかいなかったはずだが、どうしてこうなったのか。

 

「私は明日香と同室だから一緒に入っていたらそこのロープ巻きになっているボウヤに覗かれたの。ちなみに、発見してくれたのはツァンよ」

 

 要するに、事件の当事者というわけか。で、気になるのは何故藤原もデュエルディスクを構えているのか、という点である。

 

「そっちのボウヤは明日香が、そして貴方は私が相手になるわ」

 

「なるほどね、まあいいけど」

 

「ルールは簡単。私たち2人にシングルで2勝すればいいわ」

 

 面倒だからタッグルールにして欲しいと提案したけど、それだと時間がかかるということらしい。まあ、確かに待ち時間とかも結構あるしな。最初に行われたのは十代と明日香のデュエル。これに関しては原作通りに十代が勝利した。といっても、原作とは違ってボートで湖まで行き、デュエルということにはならなかった。KCの整備のおかげか、原作より女子寮の前は随分と開けていたのである。十代たちのデュエルが終わり、今度は俺の番になって藤原と対峙する。

 

「雪乃、頼んだわよ」

 

「うふふ、ええ、仇はとってあげるわ……さて、準備はいいかしら?」

 

「ああ」

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

武藤秋人VS藤原雪乃

武藤秋人 LP4000

藤原雪乃 LP4000

 

「先攻は貰うわね……さあ、高鳴るわ。ドロー! 私は手札から『名推理』を発動。このカードはあなたがまずモンスターのレベルを指定する。その後私がカードをモンスターが出るまでドローする。そしてそのモンスターのレベルが当たっていたら、そのカードは墓地へ送られる。もし、外れたらそのカードをフィールドに特殊召喚できる。さあ、指定は何かしら?」

 

「レベル指定は……8を選択する」

 

 まさかの『推理ゲート』か。確かにこの時代では流行った戦法の1つだ……というか、これもしかしてやばくねーか?

「8ね、分かったわ。カードをドロー1枚目、2枚目、3枚目……ふふ、4枚目、モンスターカードよ。でも残念、は・ず・れ♡ フィールドにこのカードを特殊召喚するわ! 『可変機獣 ガンナードラゴン』を特殊召喚!」

 

可変機獣 ガンナードラゴン ATK2800/DEF2000

 

「ちぃ! 外したか」

 

「カードを2枚伏せてターンエンド。さ、魅せて頂戴? ボウヤのデュエル」

 

「俺のターン、ドロー! 俺は裏守備表示でモンスターをセット! さらにカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 ……十代が選んでしまったデッキで推理ゲートと闘うのは非常に辛い。ついでに言うと、今回のエクストラデッキを晒すのが非常にまずい。生徒が少ないというのが幸いか。

 

「私のターン、ふふふ、ドロー。私は手札から『強欲な壺』を発動し、カードを2枚ドロー……手札から『魔法石の採掘』を発動するわ。手札2枚をコストに、墓地の魔法カードを1枚手札に加える。私が指定するのはさっき墓地へ送られた『死者蘇生』。そのまま発動するわよ? 墓地に眠る、このカードを出すわ! 来なさい、『混沌の黒魔術師』!」

 

混沌の黒魔術師 ATK2800/DEF2600

 

 こ、混沌の黒魔術師! しかも、この時代ではまだ禁止カードになっていない。ということはエラッタをされていないカードということか……凶悪すぎる。もしかして藤原は明日香よりも強いのではないだろうか?

 

「このカードの召喚、特殊召喚に成功したとき墓地の魔法カードを手札に加える。『死者蘇生』を加えるわ。さあ、バトルフェイズよ? 覚悟はいいかしら。混沌の黒魔術師でセットモンスターを攻撃! 『滅びの呪文』!」

 

「セットしていたモンスターは『ゴゴゴゴーレム』! このカードは1ターンに1度、バトルでは破壊されない!」

 

「なるほど、でも2度目はないわよ? ガンナードラゴンで攻撃! 『ガンナーバースト』!」

 

 可変機獣 ガンナードラゴンの攻撃によって粉々に吹き飛ばされるゴゴゴゴーレム。普通そこまでやるか!? だが、こっちもこれで終わりではない!

 

「罠カード発動、『ガードゴー!』! 自分のフィールドの『ガガガ』、『ドドド』、『ゴゴゴ』と名のつくモンスターが破壊されたとき、その破壊されたカードを復活させる! さらに、手札の『ガガガ』、『ドドド』、『ゴゴゴ』と名のつくモンスターを手札から2体特殊召喚する! 俺は手札の『ガガガマジシャン』、『ゴゴゴジャイアント』、墓地の『ゴゴゴゴーレム』をフィールド上に特殊召喚!」

 

ゴゴゴゴーレム  ATK1800/DEF1500

 

ガガガマジシャン ATK1500/DEF1000

 

ゴゴゴジャイアント ATK2000/DEF0

 

 

「ずいぶんと個性的なモンスターたち…初めて見たわ」

 

 そりゃ、この世界にはまだ存在していないカードだからな。名前はともかくとして、こいつらの性能はこの時代の連中とは割と戦えるはず。が、この先の事をどうするかだな。ダメもとで頼んでみるか…

 

「カードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

「俺のターンドロー! 俺も同じく『強欲な壺』を発動、カードを2枚ドローする! そして、ドドドウィッチを召喚! 藤原、このデュエルに俺が勝利した場合……1つ約束してほしいことがある」

 

ドドドウィッチ  ATK1200/DEF1600

 

「あら、突然何かしら?」

 

「このデュエル、俺が勝利した場合……今日のデュエルのことを他人に口外しないでほしい。もちろん、他の奴らにも同じようにさせてほしい」

 

「……どういう意味?」

 

「そのままの意味だ。今から出すカードは、あまり人目に晒したくなかった」

 

 俺の言葉に、しばし考えた様子の藤原。他の連中については十代だけ俺から言うし、見たところ藤原は明日香よりも実力が高い。ならば明日香たちもそれに従うだろう。ディレの方はわからないけども。数秒後に藤原は頷いて見せた。

 

「いいわ。私に勝てれば……の話だけどね。逆に私が勝ったらそうね、今日の放課後の続き、させてもらおうかしら?」

 

「……いいだろう」

 

 まあ、俺もただでアイツが条件を飲むとは思っていないが、あの表情から察するに、勝てると思っているらしい。まあ、そもそも、このフィールドのモンスターたちでは突破は難しい。だが、まだこいつらがいればわからない。

 

「とりあえず、全力で行くぞ! 俺はフィールドのガガガマジシャンと、ゴゴゴゴーレムでオーバーレイ!」

 

「ッ……!? シンクロ召喚ではない…何が起こっているの!?」

 

「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 俺の言葉と共にガガガマジシャンとゴゴゴゴーレムは魂のような形となって空中へと飛んでいく。そして、その発生している渦のようなものへと吸い込まれた。

 

「現れろ、No.39! 戦いはここより始まる! 白き翼に望みを託せ。 光の使者、希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ ATK2500/DEF2000

 

 その俺の言葉と共に雄叫びをあげてフィールドへと現れる希望皇ホープ。エクシーズ召喚も問題なく起動できたか。シンクロ召喚同様、これもできるかは不安だったが……それにしても、やはりこのカードは普通のカードか。ナンバーズのエクシーズカードは一個人ではその力を制御しきれないのか、アニメでは所持者の多くは「No.」に憑依され、欲望や野望といった心の闇を増幅されたり、多大な負担をかけられたりするが……今のところ、その様子は全くない。

 

「……なるほどね、ボウヤ。貴方が何故このデュエルを口外しないでほしいといったかわかったわ。これを口外したくないと」

 

「そうだ。エクシーズ召喚……融合召喚、シンクロ召喚などと同じく宣言をして行う特殊召喚の方法の1つに相当する。出所などについても詳しく話せないが……説明すると、このカードは必要素材となるモンスターをフィールドに揃え、融合デッキから特殊召喚する特殊モンスターだ。このモンスターに表記される星はレベルではなく『ランク』というものに代わっている」

 

「なるほど、説明感謝するわ。面白いカードね……ふふふ、いいわ。久しぶりに刺激的な決闘になりそう!」

 

 と、喜んだ様子の藤原。俺はちらりと後ろを見た。そこには驚きつつも、興奮している十代たちの姿があった。

 

「……十代、お前も口外するなよ。お前がデッキ持っていかなければこうはならなかったんだから」

 

「あ、あはは、わかったよ。悪い、悪い……」

 

 さて、デュエルに集中しよう。まだ、フィールドにホープを召喚しただけだし。まあ、このファンデッキこと遊馬のカードを参考に作ったホープデッキはエクシーズさえできればかなり戦える。フィールドには混沌の黒魔術師と可変機獣 ガンナードラゴン……まずは、こいつらをどうにかしないと

 

「さらに、フィールドのゴゴゴジャイアントと、ドドドウィッチでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れろ、『ガガガガンマン』!」

 

ガガガガンマン ATK1500/DEF2400

 

 フィールドに現れるガンマンのようなモンスター。本来だったらカステルとか、他にもいっぱいランク4のいいカードはあるのだが、このデッキは今回あくまでも『九十九遊馬』の使用したデッキを参考にして弄ったデッキなので、他のレベル4のエクシーズモンスターで汎用性のあるモンスターが一切入っていない。正直な感想として、使っていてめちゃくちゃ辛い。

 

「ガガガガンマンの効果発動! オーバーレイユニットを1つ使うことで、このターン、このカードがアタックするとき攻撃力を1000ポイントアップさせ、バトルする相手の攻撃力は500ポイント下がる!」

 

ガガガガンマン ORU2→1

 

「なるほど、優秀なモンスターね……」

 

「そして通常召喚! 俺は手札から『ZW-阿修羅副腕』を召喚!」

 

ZW-阿修羅副腕 ATK1000/DEF1000

 

「このカードは自分フィールドの『希望皇ホープ』と名のつくモンスターに装備カードとして装備することが出来る。そして、装備したことによって攻撃力を1000ポイントアップさせる! そして、このカードを装備したモンスターはフィールドのモンスターに1度ずつ攻撃が出来る!」

 

希望皇ホープ ATK2500/DEF2000→ATK3500/DEF2000

 

 希望皇ホープの腕が4つの腕となり、雄叫びを上げるホープ。本編ではホープレイに装備していたけど、まあいいか、別に。

「バトルフェイズ! ホープで混沌の黒魔術師を攻撃! 『ホープ剣阿修羅ディバイダー』!」

 

「させないわ。罠発動、『攻撃の無力化』! モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する」

 

「ちぃ……カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

攻撃は通らなかったか。が、この攻撃が通らなかったのは痛いな

 

「私のターン。ふふふ♪ 行くわよ、ボウヤ?」

 

 さて、ここからどうするか

 

 

Sideツァン・ディレ

 

 お風呂を覗いたオシリスレッドの生徒を捕まえて、ここに明日香が2人の生徒を呼び出して決闘を始めた。正直な話、とっとと警備につきだしなさいよ、と思った。明日香が注目しているオシリスレッドの生徒を呼び出す口実になるから、ということでボクが警備を呼ぼうとしたのを止めた雪乃。ボクはなんとなく、この二人が何故オシリスレッドなんかに注目しているのか興味を持った。なので、便乗してその場に留まることにした。この二人が注目するなんて、いったいどんな生徒なんだろうか、と。

 

「アイツは……」

 

 しばらくして来た二人のオシリスレッドの生徒。2人とも見たことがある顔だった。1人は確か、遊城十代とかいうクロノス先生を入試試験で倒したという生徒…本当かどうかは知らないけど。そしてもう1人は今日ボクにぶつかってきたあの男子生徒だった。確か、名前は武藤秋人……だったかな。丁度いい、デュエルなんて実力から考えればいくら2人が注目している生徒とはいえ、オシリスレッドはたいしたことはないんだし、終わったらあの武藤とかいう奴に今日の事を口止めしよう。そう思っていた……思っていた、はずだった。

 

「……すごい」

 

 いつの間にか、ボクは雪乃と武藤が繰り広げるデュエルに素直に驚いていた。最初の明日香のデュエルも確かにすごかった。というよりも、オシリスレッドの生徒がオベリスクブルーを下す、ということに驚く方が大きかった。でも、今行われている雪乃と武藤のデュエルに目を見開く。雪乃の実力はオベリスクブルーの中でも上位クラス……それは、同じクラスメイトとして知っていること。故にすぐに終わると思ったデュエル。でも、違った。雪乃の攻撃を防ぎ、そしてボクの知らないモンスターたちがフィールドで戦っている。

「私のターン……ふふふ♪ 行くわよ、ボウヤ?」

 

 そう言って不敵な笑みを溢す雪乃。場にはお互い、2体のモンスターがいる。だけど、雪乃にはまだまだ余裕があるようだ。一方の武藤は伏せカードがあるものの手札も少ない。ここからどうなるのか。

 

「私は手札から魔法カード『天使の施し』を発動。カードを3枚ドローして2枚を捨てる……うふふ、手札から『名推理』を発動。さ、モンスターのレベルを指定して?」

 

「レベルの指定は……8を指定する」

 

「8ね…いいわ。カードを引くわね…1枚目、魔法カード。2枚目、魔法カード、3枚目、魔法カード…4枚目、モンスターカード。引いたのは『モイスチャー星人』。レベルは9よ。よってはずれ…フィールドに特殊召喚できる。来なさい、モイスチャー星人」

 

モイスチャー星人 ATK2800/DEF2900

 

 出てきたのは上級モンスター。正規の召喚方法で出せば『ハーピィの羽根帚』の効果を発揮できる。だけど、この場合だと単なるバニラ……とはいったものの、武藤はそれを見て苦い表情を見せている。まあ、当然と言えば当然か……雪乃のデッキは強い。お金がかかっているという点でもそうだけど、雪乃本人がそのカードを扱えるほどのデュエルタクティクスを持っているのもある。

 

「さあ、バトルフェイズに入るわ。混沌の黒魔術師でガガガンマンを攻撃! 『滅びの呪文』!」

 

「罠カード発動、『ハーフ・アンブレイク』! フィールドのモンスター1体を選択して発動する! このターン、選択したモンスターは戦闘では破壊されず、自分の受ける戦闘ダメージは半分になる! 俺はガガガガンマンを選択!」

 

 モンスターを守る、破壊耐性を持たせるカード……混沌の黒魔術師の効果は戦闘で破壊したモンスターをゲームから除外する効果を持っている。それを考えると、確かにここでカードを守るのは賢明ね。

 

武藤秋人 LP4000→LP3350

 

「なら、そのままサンドバッグね。追撃するわよ。ガンナードラゴンでガガガガンマンを攻撃!」

 

「ぐっ……!」

 

武藤秋人 LP3350→LP2700

 

「そしてモイスチャー星人でさらにガガガガンマンへ追撃!」

 

「最後はさすがに止める……! 希望皇ホープの効果発動! オーバーレイユニットを1つ使うことで、モンスターの攻撃を無効にする! 『ムーン・バリア』!」

 

希望皇ホープ ORU2→ORU1

 

 武藤の言葉と共にガガガガンマンの前にホープが立ち、その周囲に飛ぶ光球が胸部に吸い込まれると、そのホープの背中の白い翼が広がり、モイスチャー星人の放ったビームのようなものがその翼へと阻まれた。

 

「攻撃を無効に……うふふ、なるほど。それがそのモンスターの効果というわけね」

 

「そうだ。もっとも、このモンスターにはもう1つ効果がある。ホープがオーバーレイユニットを持たずに攻撃対象にされた途端、このカードは自壊するデメリットを持っている」

 

 なるほど、それで攻撃を1度だけ止めたというわけね。

 

「すっげーカードだなぁ……あんな強いカード、俺も使ってみたいぜ」

 

 そう言って遊城が口を半開きにして武藤のモンスターたちを見ている。ロープでグルグル巻きの覗きをした生徒も同様だ。正直、ちょっとバカっぽい。そしてそれとは対照的に明日香はなにやら考えた様子でいる。

 

「そうかしら? 少し使うのが難しいと私は思うけど……」

 

「へ?」

 

「だってそうでしょ? そもそもあの『エクシーズ召喚』はまずフィールドに同じレベルのモンスターを、最低でも2体揃えないといけない。ということは下手にバラバラのレベルのモンスターをデッキには入れられない。私や十代の使う融合とは違ってね。まあ、融合に比べれば手札消費は少ないかもしれないけど、レベルの低いモンスターを場に維持するのは結構大変だし」

 

 ……確かに。あのエクシーズ召喚、というのは今のところレベル4のモンスターだけで行っているけど、武藤の説明では「同じレベルのモンスターを使って行う特殊召喚」と言っていた。つまり、他のレベルでも行うエクシーズ召喚があるという話になる。レベル3とかは『切り込み隊長』とかで連続してフィールドにモンスターを召喚すれば行けるだろうけど、他の1とか2のモンスターでフィールドで耐えるカードはボクの知る限り少ない。他にはリクルーターで特殊召喚すればいいだろうけど、戦闘破壊されないと出せない…確かに、エクシーズ召喚そのものが結構難しいかも。

 

「明日香さんの言う通りよ! これは雪乃さんの勝ちは決定ね!」

 

「これで覗き魔は警備へ直行ですわ」

 

「そ、そんな~!」

 

 明日香の隣でももえやジュンコがそんなことを言っている。まあ、この後何をするかは知らないけど、雪乃のフィールドのモンスターたちを見る限りでは雪乃はかなり優勢よね。武藤が他にどんなカードを持っているのか知らないから何とも言えないけど。そんなことを考えていると、ギャラリーの中で1人だけ違った意見をもつ奴がいた。

 

「はは、それはどーかな」

 

「アニキ……?」

 

 声を発したのは先程まで明日香とデュエルをしていた遊城だった。その表情に武藤を心配する様子は全くない。というよりも、ワクワクしながら武藤の次の一手を楽しみにしているように思えた。

 

「秋人は負けないさ」

 

「なんでそう言い切れるの?」

 

「なんでかな、なんとなくだ……それに、秋人はデュエルを楽しんでいるみたいだしな」

 

 言われて、ボクは武藤を見た。その表情は確かに現在の状況を楽しんでいるようにも見える。余裕の表情というわけではない。でも、ボクも遊城と同じように今の武藤の表情はデュエルを楽しんでいるように見えた。

 

「私はこれでターンエンド……さ、ボウヤのターンよ。ここから何を見せてくれるのかしら?」

 

「何を……か。そうだな。藤原、お前に勝つための勝利の方程式ってところかな…?」

 

「へぇ?」

 

「まだまだ、勝負はここからだ……! 俺のターン、ドロー!」

 

 そう言って、武藤はカードを引いた。ここから、どうやって勝とうとしているのかしら。




リメイク前との変更点

エクシーズデッキをそうとっかえ!
リメイク前でのこの話では「希望皇ホープ」「ガチガチガンテツ」「グレンザウルス」…この3枚が登場しました。皆さんは覚えているでしょうか、初めて登場した3枚のカードです。今ではホープ以外はもう見ることはほとんどない…ガチガチガンテツがかろうじて、という感じですよね
なので今回はそのホープの所有者、九十九遊馬のテーマデッキを使用することにしました

VS雪乃!
リメイク前では明日香とのデュエルでしたが、今作では雪乃との決闘になります。やっぱ、雪乃も決闘したいよね。ヒロインだもの

雪乃のデッキについて
前作ではデミス、リチュアなど儀式系を使っていましたが今回は懐かしの推理ゲートです。まあ、儀式デッキもそのうち使いますけどね!

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07「女子寮での再会」(後編)

 いつの間にかお気に入りの数が800を超えていた…みなさん、ありがとうございます。

RYU様 赤鉄様 Ranperu様 貴樹 怜様 パンツは食べる派弐型様 tomo_3309様
感想、ご指摘、ご意見ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします
アッキー7様 フレイ・スカーレット様 eieio様
評価ありがとうございました。今後もそのいただいた得点以上に頑張れるよう精進いたします

これからも小説の感想、ご意見、評価、ご指摘、それにご要望などガンガン受け付けていますので、皆様どうぞ宜しくお願いいたします。
ご要望に関しましては「お!?」って思ったのを採用することがあります。特にデッキレシピとか!(笑)

では、第7話。VS雪乃 完結となります


Side秋人

 

「まだまだ、勝負はここからだ…! 俺のターン、ドロー!」

 

 フィールドにはガガガガンマンの攻撃力を上回るモンスターが3体。ホープで破壊はできないわけではないがそれは藤原も百も承知のはず。藤原の手札は1枚だが、あのカードは死者蘇生だとわかっている。それよりも場にある1枚の伏せカード……あの伏せカードも気になるところだ。さて

 

「俺は手札から魔法カード『エクシーズトレジャー』を発動! フィールドのエクシーズモンスターの数だけドローできる! フィールドにエクシーズモンスターは2体、よってカードを2枚ドローする!」

 

 本来ならもっと展開してから発動するべきだが、現状ではかなり切羽詰っているのでそんな余裕もない。ちなみにこのカードは俺がいた世界ではOCG化されてはいないアニメでのオリジナルカードである。もっとも、俺が所有しているカードでもこのようなアニメ限定のカード以外にも「アニメ仕様カード」が存在する。わかりやすく言えば十代の定番、ともいえるアニメ仕様E・HEROバブルマン、明日香のアニメ仕様ドゥーブルパッセなどもある…あるのだが、このカードなどはどう考えても俺が「持っているはずのない」カード。何故こんなカードたちが存在するのかは謎ではあるが、使える物は使わせてもらおうということで使うことにしている。閑話休題。デュエルに戻ろう…このドローでこの現状を打開できればいいのだが

 

「俺は再びガガガガンマンの効果を発動! そしてバトルフェイズ、希望皇ホープで混沌の黒魔術師を攻撃! 『ホープ剣アシュラディバイダー』!」

 

 ホープが剣を振り上げ、混沌の黒魔術師へと斬りかかる。その攻撃によって爆発が起き、周囲がその煙に包まれた。これでようやく一体倒したな。

 

藤原雪乃 LP4000→LP3300

 

「混沌の黒魔術師は破壊された時、ゲームから除外される…そうだよな?」

 

「ええ、その通り。良く知っているわね、ボウヤ」

 

「……ならば何故、まだフィールドで混沌の黒魔術師は健在なんだ?」

 

 煙が晴れてフィールドが良く見えるようになった時、そこには未だにその場に立っている混沌の黒魔術師の姿があった。が、その後ろのカードを見て理解した…このカードが健在だったわけを

 

「うふふ、私は希望皇ホープが攻撃したとき『安全地帯』を発動していたわ。このカードが存在する限り、私の混沌の黒魔術師は相手のカードの効果の対象にならず、戦闘及び相手のカードの効果では破壊されない…まあ、相手にダイレクトアタックが出来ない、安全地帯が破壊されれば選択していたモンスターをゲームから除外する効果もあるけど、今の戦力なら十分ね」

 

 何故、この「発動していた」はこの世界では許されるのか。ちゃんと宣言してくれよ。

 

「…バトル続行! ガガガガンマンでガンナードラゴンを攻撃! この時、ガガガガンマンの攻撃力は1000ポイントアップし、ガンナードラゴンの攻撃力は500ポイント下がる!」

 

ガガガガンマン ATK1500/DEF2400→ATK2500/DEF2400

 

可変機獣ガンナードラゴン ATK2800/DEF2000→ATK2300/DEF2000

 

 ガガガガンマンがその手にある銃を連射し、ガンナードラゴンを撃ち貫いた。これで残るはモイスチャー星人と混沌の黒魔術師のみ。この際だ、混沌の黒魔術師は現段階ではスルーしかない。

 

藤原雪乃 LP3300→LP3100

 

「そして希望皇ホープの攻撃が残っている! 希望皇ホープでモイスチャー星人を攻撃! ホープ剣、アシュラディバイダー!」

 

「ぐっ…やってくれたわね、ボウヤ…!」

 

藤原雪乃 LP3100→LP2400

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

「私のターン、ドロー…うふふ、私は手札を1枚伏せてから『天よりの宝札』を発動するわ。このカードを発動すると互いのプレイヤーはカードを6枚になるようにドローする。互いに手札は0…お互いに6枚ドローね」

 

 ここで、天よりの宝札…!? というか、なんであのカードをアイツは持っていやがる。この世界に来たときカードを一通り調べたが、天よりの宝札はアニメでなぜ遊戯が所有していたんだというくらいの値段がするレアカードだぞ。まあ、俺も持ってはいるけど。しかも、遊戯のデッキに入っているとわかってからか値段がさらに上がっている。

 

「うふふ、いいカードが来たわ。まずは伏せた『死者蘇生』を発動。このカードで『可変機獣ガンナードラゴン』を蘇生するわ」

 

可変機獣ガンナードラゴン ATK2800/DEF2000

 

「さらに、『魔法石の採掘』を発動。手札2枚をコストに墓地の死者蘇生を回収、そして再び発動。モイスチャー星人を蘇生するわ」

 

モイスチャー星人 ATK2800/DEF2900

 

 フィールドに再びモンスターが戻ってきた。このままフィールドのモンスターでゴリ押しをしてくる気か? それなら、俺が伏せているカードたちでまだ対処が…

 

「伏せカードで対処ができる、そんな顔ね?」

 

「……!」

 

「でも残念。別に私はこの子たちで押し通そうなんて考えてないのよ? ボウヤ?」

 

「何…?」

 

「私はこの三体を『生贄に捧げ』…」

 

 3体リリース…!? まさか…!

 

「来なさい、神獣王バルバロス!」

 

神獣王バルバロス ATK3000/DEF1200

 

 雄叫びを上げてフィールドに降臨する1頭の獅子。その強さを物語るには十分な迫力を見せていた。

 

「バルバロスの効果発動。このカードは3体の生贄によって特殊召喚できる。そして…このカードをその方法で特殊召喚できた時、相手フィールドのカードをすべて破壊できる」

 

 藤原の声と共に咆哮を上げるバルバロス。その衝撃波によってホープ、そしてガガガガンマンが破壊される。そして、俺が伏せていたダメージダイエットと奇策が破壊された。

 

「フィールドにモンスター、そして伏せカードもない…これで終わり。私の勝ちね…バルバロスでダイレクトアタック…!」

 

 バルバロスの持つ槍が俺へと迫る。まだだ、まだ終わらない…! こんなところで負けてたまるか…!

 

「俺は! 手札の『ガガガガードナー』の効果を発動!」

 

「なっ…手札からモンスター効果!?」

 

「相手モンスターのダイレクトアタック宣言時、手札のこのカードをフィールド上に特殊召喚する! ガガガガードナーを守備表示で特殊召喚!」

 

ガガガガードナー ATK1500/DEF2000

 

 危なかった。藤原の持つドローカードがもし『天よりの宝札』ではなく、アニメ版の『命削りの宝札』とかなんかだったら終わっていたな。ギリギリ助かった、というべきか…

 

「面白いカードを持っているわね。バトル続行! バルバロスでガガガガードナーを攻撃!」

 

「ガガガガードナーの効果! 手札1枚をコストにすることで、このカードは戦闘では破壊されない!」

 

 俺が手札を一枚墓地へ送ることで、バルバロスの攻撃を盾で防ぐガガガガードナー。それを見て、初めて悔しそうな表情を見せる藤原。どうやら、このターンで決められなかったのが悔しいようだ。まあ、普通だったら負けていたからな…このデッキを選んだ十代に感謝しなければならない……まあ、エクシーズ晒すことになった原因もアイツだから実際に感謝するかは微妙だけど。

 

「これで私はターンエンドよ……なかなかに粘るわね」

 

「俺のターン、ドロー! 俺は『タスケナイト』を召喚!」

 

タスケナイト ATK1700/DEF100

 

「レベル4のモンスターが2体…なるほど、エクシーズ召喚ね。でも、私のバルバロスを超えるモンスターは果たして出せるのかしら? 希望皇ホープ、ガガガガンマン。どちらもレベル4のモンスターを素材にしたランク4のエクシーズモンスター…2体とも、バルバロスを超えるようなモンスターではなかったわ」

 

 こいつ、伊達にオベリスクブルーを名乗っていないようだな。この学園では女子生徒は自動的にオベリスクブルーになるようだからどうなのかと思っていたけど。それに、こいつの言うとおりといえば、その通りだな…まあ、今の時点ではだけど

 

「俺はフィールドのガガガガードナー、そしてタスケナイトでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! ランク4! 光纏いて現れろ! 闇を切り裂く眩き王者! 『H-Cエクスカリバー』!」

 

H-Cエクスカリバー ATK2000/DEF2000

 

 現れるのは赤き鎧を身に纏い、その名にアーサー王が持っていたといわれる剣の名を持つモンスター。だが、それを見ても藤原はニヤリと笑うだけだった。

 

「ほらね…そのモンスターでは私のバルバロスは超えられないわ」

 

「ああ、そうだな。今のエクスカリバーでは、バルバロスを超えることは不可能だ」

 

「そうでしょうね……ちょっと待ちなさい、ボウヤ。今の?」

 

「そうだ。今のエクスカリバーでは無理だ。エクスカリバーの効果発動! 自身の持つオーバーレイユニット2つを取り除き発動する。次の相手のエンドフェイズまでこのモンスターの元々の攻撃力を倍にする!」

 

H-Cエクスカリバー ATK2000/DEF2000→ATK4000/DEF2000

 

 雄叫びを上げてその剣へとオーバーレイユニットを吸収するエクスカリバー。それによって攻撃力を4000にまで引き上げ、その剣を構えた。

 

「攻撃力、4000…!」

 

「すっげぇ!」

 

 驚きの為か、そのエクスカリバーを見つめる藤原。そしてギャラリーの十代たちはその攻撃力に驚いていた。まあ、攻撃力3000以上のモンスターというのはこの世界では青眼しかり、アンティークギアしかり、サイバー・エンド・ドラゴンしかり、驚かれるのだから当然か。

 

「これでバトルの場は整った。行くぞ、バトルだ! H-Cエクスカリバーでバルバロスを攻撃! 『一刀両断必殺神剣』!!」

 

「させないわ! 墓地の『ネクロガードナー』の効果発動! このカードをゲームから除外することで、その攻撃を無効にする!」

 

 ネクロガードナー…!? いったい、何のときに墓地へ……『魔法石の採掘』の時か! バルバロスの前にネクロガードナーの幻影がガードしたかのような形で現れ、そのエクスカリバーの振り下ろした剣の身代わりとなって破壊された。その攻撃を防いだことにより、ニヤリと藤原は笑う。

 

「危なかったわ。バルバロスを超える攻撃力を持つモンスターが出てくるのにはびっくりしたけどね…」

 

「……」

 

 あの言葉と笑い方からして藤原は何か勝利を確信しているのが窺える。が、藤原、君は一つ勘違いをしている。

 

「藤原、何を勘違いしているんだ? 俺のバトルフェイズはまだ終わってないぜ?」

 

 俺の言葉に、笑うのをやめる藤原。十代たちもお前はいったい何をいっているんだというような目で俺の事を見ていた。

 

「……どういうこと? 確かに、バトルフェイズそのものは終わっていないけど、そのバトルを行えるモンスター、あなたのH-Cエクスカリバーの攻撃は無効になったのよ? これ以上、何ができるというの?」

 

「俺は速攻魔法『ダブル・アップ・チャンス』を発動! 俺のモンスターの攻撃が無効になったとき、そのモンスターの攻撃を倍にしてもう一度攻撃できる!」

 

「な、なん、ですって…!?」

 

H-Cエクスカリバー ATK4000/DEF2000→ATK8000/DEF2000

 

 ダブル・アップ・チャンスの効果を受けて雄叫びを上げ、エクスカリバーは炎に包まれた。

 

「こ、攻撃力…8000…!?」

 

「行け、H-Cエクスカリバー! バルバロスに攻撃! 『一刀両断必殺神剣』!!」

 

「きゃああああああああああ!?」

 

藤原雪乃 LP2400→LP0

 

 

 

 

「ありがとうアニキ! 秋人君!」

 

「おう、いいってことよ!」

 

「……金輪際、こんなことするなよ。翔。次やったら問答無用で見捨てるからな」

 

「わ、わかってるよ!」

 

 デュエルが終わって約束通り翔は明日香たちの手から解放された。が、藤原はデュエルでの影響か、いまだにその場でへたり込んだままである。

 

「…ねぇ、ちょっといい?」

 

「うん?」

 

 大丈夫かな、なんて思っているといつの間にか俺の隣にいたディレが俺の服を引っ張っていた。

 

「ディレ?」

 

「ちょっときて」

 

 そう言われて俺は引っ張られる。イタイ、イタイ! 何気に力強いなこいつ!

 

「なんだよ、そんなに引っ張って!」

 

「わ、悪かったわね…って、そんなことどうでもいいの! あんた、ボクの持っているカードのこと言わないでよ!?」

 

「カード? もしかして、六武衆のことか?」

 

 俺が言うと、ディレは慌てて俺の口をふさごうとして来る。

 

「ちょっと! 言うなって言ってるでしょ!?」

 

「あ、ああ、すまん。だがどうしてだ?」

 

「あのカードが商品化してないカードなのは教えたわよね。ボクもあのカードの存在はまだ公にしたくないの。商品化してないんだから、この学園に唯一存在しているカードってこと」

 

 ああ、なるほど。確かにまだ市場に出回ってないカードがこんなところにあってあるなんて噂が立ったら盗まれたりする可能性もあるわけだしな。まあ、俺も人の事をいえないけども…

 

「アンタのカードの事も言わないでおいてあげる。その代り、ボクのカードのことも他言しないって約束して!」

 

「あ、ああ…わかった。約束するよ、ディレ」

 

「…なんか、不安だわ。ま、信じてあげる…あと、ボクのことはツァンでいいわ」

 

「お、おう…」

 

 それだけ言って、ディレ…、ツァンは女子寮へと帰って行った。十代のデュエル、俺のデュエルと連続したために時間もかなり過ぎてしまった。

 

「十代、翔、そろそろ部屋に帰ろう。明日の授業で遅刻したらまた面倒だし」

 

「そうだな、もうこんな時間か…本当は秋人とデュエルしたかったぜ…」

 

「わかったって。んじゃ、とりあえず帰ろう」

 

 そう言って帰ろうとする俺たち。だが、俺たちが帰ろうとすると座り込んでいた藤原がユラリと立ち上がって俺の前まで近づいてきた。その動きに驚いて思わず後退る俺たち。しかし、それは藤原が俺の腕を掴むという行動によって防がれてしまった。そして顔を俺の横にまで近づけてきた。

 

「これで終わったと思わないでね。明日から覚悟なさい、ボウヤ」

 

 そう俺の耳元で囁くと、そのまま明日香たちと共に女子寮へと入っていった。

 

「なんだったんだ、いったい…」

 

「さあ?」

 

 俺と十代は首を傾げるばかりであったが、こうして、翔の覗き事件は幕を閉じるのだった。

 




リメイク前との変更点
前回に引き続きエクシーズ祭り
私が好きなエクスカリバー! やっとこの小説で出せた…

ダブル・アップ・チャンスはホープではなくエクスカリバーへ
攻撃力8000てロマンだと思うんです…ただそれだけなんです!
本当です信じてください!

ツァン姫ご乱心
迫っている時にいつもの目がグルグルしているのをイメージして頂ければニヤニヤできるかと思います

ゆきのんフラグ?
一応、これで雪乃や明日香が次の話から積極的に秋人や十代たちに絡むようになります。これも前話で言った「這い上がれ弱小決闘者」のオマージュです

NEXT「ひとりぼっち」(前編)


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08「ひとりぼっちの少女」(前編)

 いつも0時ぴったりに投稿できなくて申し訳ありません

親爺さん様 幻想の投影物様 うさぎたるもの様 RYU様 Ranperu様 赤鉄様 萃蓮様 GU・ラタン様 万屋よっちゃん様 すわ様 共沈様 パンツは食べる派弐型様
感想、ご意見、ご指摘ありがとうございました。これからも宜しくお願いいたします

kaname01様 オンリー様 DYNAST様 ダークバスター様 サロメ様 樹喜様 白井友紀様 暁鴉様
小説評価ありがとうございました。頂いた評価点数以上の小説を目指せるよう努力してまいります
引き続き、感想、意見、指摘、評価をお待ちしています
それでは、8話です。今回はツァン回…といっても、ツァンはデュエルしませんが…(汗




Side秋人

 

 女子寮での一件から数日が経った。が、その事件の翌日から変化があった。いつもは十代、翔、隼人、そして三沢の5人で食事をしたりするのだが……

 

「ほら、ボウヤ…授業が終わったわよ? 起きなさい」

 

「う、ん……」

 

 揺すられて目を覚ます俺。目を覚ました俺はその声の方へと視線を向けた。そこには薄い紫色の髪をツインテールに結った紅い瞳のオベリスクブルー生徒が映った。言わずもがな、藤原雪乃である。

 

「藤原……何?」

 

「授業が終わったわよ? お昼を食べに行きましょう。購買に行くんでしょ?」

 

「……ああ」

 

「もう、私が起こしてあげてるんだからもうちょっと反応してくれてもいいのに……」

 

「なんか言ったか?」

 

「いいえ、なにも」

 

 未だに眠い体を起こしながら俺は小さくため息を吐く。ここ数日、藤原はずっとこの調子である。基本的に行動は先にも言った5人でよく行動していたのだが、その輪の中に藤原、そして明日香が入っているのだ。たまに、その取り巻きというか、仲のいい生徒であるジュンコとももえがいたりもする。それだけなら、まだいいんだが…この中でも特に問題があるのが藤原だ。デュエルアカデミアでの授業は1年生全員がクラスはあれど、クラス別に授業をするということはなく、1年生全員が同じ講義を受ける。その中でなぜか藤原が狙ったかのように俺の隣に座ってくるのだ。それだけではなく、その授業中も俺の事をジッと観察するかのように見ている時もある。理由を聞いても答えてくれない…別に鬱陶しいとか、ウザいとかではないのだが、純粋に怖い…いったい、何を企んでいるんだか。

 

「お、秋人ぉ! 飯行こうぜー!」

 

「ああ、今行く」

 

 眠い体を起こしながら十代に呼ばれたのでそれに同行する。藤原も途中で明日香と合流して俺たちの後ろを歩く。まあ、デュエルモンスターズの話や、授業の話、他愛のない世間話をするときに楽しくはあるからいいか。そう思いながら話の流れで買うことになったドローパンをかじる。これ、確かカードが入っていたりすることがあるらしいが、それは損なのか得なのか…というか、どうやって作っているのだろう。そんなことを思いると俺の口の中を強い刺激が襲った。なんだこの凶悪な辛さは…!?

 

「ぐあっ……な、なんだ!? っ! と、トウガラシ!? ゴホッ、ゴホッ!」

 

 その強烈な辛さに思わずむせる。俺がかじった先から見えるのはこれでもかというくらいに敷き詰められた唐辛子…というか、このドローパンの内面の生地が真っ赤であった。なんの嫌がらせだこれは…!

 

「あら、ボウヤ。それ、毎月1度しか作られない激辛唐辛子パンよ」

 

「み、みずっ!」

 

「あらあら。はい、どうぞ」

 

 俺は藤原から渡された水を奪い取るように受け取り、一気に口の中へと流した。なんとかそれで収まったが、まだ舌がヒリヒリと痛む。うへぇ

 

「舌が……」

 

「おかしいわね、そのパン辛いけど美味しいって噂だったんだけど」

 

「明日香、これを見ろ。この悪意しかない中身を」

 

 俺はそう言いながらパンを半分に割ってその中身を見せる。それを見た一同が「うわぁ」という顔で若干引いていた……藤原以外だけど。

 

「私、辛いのは平気だから食べられるわよ? このサンドウィッチと交換しましょうか?」

 

「……ああ、すまん。助かる」

 

 また何を言っているんだこいつは、とも思ったけど午後は確か実技授業だしな。このまま食事をしないというのは困る。売店の列に並ぶのも面倒だし正直ありがたい。俺はそれを受け取り食べ始めるわけだが、なぜかそれを見て明日香が顔を赤くしていた。

 

「……? 明日香、どうした?」

 

「い、いえ……なんでもないわ。(秋人、それ雪乃の食べかけ…というか、さっきの水も)」

 

 そんな感じに騒がしくしている俺たちだが、ふと俺の視界にピンク色の髪の女子生徒が映った。まあ、言わずもがなツァンなわけだけども。ツァンは弁当箱のようなものと、午後で使うのかデュエルディスクを持って歩いて屋上の方へと歩いて行った。

 

「あれツァンじゃないか?」

 

「あの子、まだ一人なのね」

 

「え?」

 

 俺がツァンに気付くと、明日香がなぜか心配そうに呟いていた。どうかしたのだろうか?

 

「あの子、結構苦労している面があってね。ほら、結構言動がきつかったりするでしょ? そのせいか知らないけど他の子と対立することも多いし、いつも1人なのよ。この前も食事に誘ったら断られちゃって……こんな島だと本島との繋がりも薄いし」

 

 簡単に言えばボッチ、ということか。確かにボッチなのにこの島で暮らすというのは相当つらいな。高校に友達がいなくても地元には友達がいるならまだアレだけど…この島、完全に隔離空間だし。

 

「まあそうだな……うん?」

 

 そんな会話をしていると1人の挙動不審なオベリスクブルーの姿があった。屋上へ向かっていくツァンを凝視し、それの後を追うかのように歩いていく。確かあの生徒って藤原の事を押し倒していた生徒じゃないだろうか? 何故だろう、あの光景を思い出したからか嫌な予感がする。みんな会話に夢中でそれに気が付いたのは俺1人だ。仕方がない。

 

「すまん、ちょっと席を外す」

 

 そう言って俺はその場を駆け出した。

 

 

Sideツァン・ディレ

 

「はぁ……」

 

 お昼休み、という時間はいつも退屈な時間だ、とボクは弁当を突きながらため息を吐く。小さいころから素直に人と話せない故に他人から誤解されてしまい、学校での孤立状態が続いているボク。世間的に言えば所謂“ボッチ”というやつだ……なんか、自分で言っていて虚しくなってきたわ。そんなことを思いながらチラリと脇に置いてあるデッキケースを見た。パパから送られてきた新作のサンプル……信用のおける友人とデュエルをしてデータを取ってほしいという話だったんだけど……当然ながら学校に友達がいない、とは言えなかった。まあ、このデッキを使ってデュエルできない理由はもう1つあるんだけど

 

「パパ、怒っているだろうなぁ……」

 

 本当なら数日中にデータと一緒に送って欲しいといわれていたのにもう1週間が過ぎてしまいそうだ。これはさすがにパパの仕事にも支障が出てしまう…うぅん、なんとかボクが信頼できそうな人がいればいいんだけど

 

(六武衆……? 珍しいカードだな)

 

「……」

 

 一瞬、最近知り合った1人の男子生徒を思い出した。まあ、信頼はできるけどどうも信用できそうにないのよね、アイツ。この前だってエクシーズ召喚、という知らない召喚方法、それに知らないモンスターを使っていた。あんなのボクも聞いたことが無い。信頼できる理由は、ボクがエクシーズ召喚について他言しない代わりにアイツも六武衆については他言しないという約束を交わしたからだ。べ、別に他に話をした奴がアイツしかいないとか、そういうわけじゃないけど……

 

「仕方がない、放課後にでもアイツに「やあ、ツァン君」……ちっ」

 

 弁当を食べ終えて一息付こうとしたところで、嫌なものが視界に入ってきた。屋上にいるのは1人のオベリスクブルーの生徒。その生徒は成績優秀で顔も悪くなく、さらにはどこかの会社の御曹司だとか……一部の女子生徒たちが騒いでいたのを覚えている。だが一方で、ボクは悪い噂も聞いている。こいつの女癖の悪さだ。聞いた話ではかなりの数の女子生徒に声を掛けているらしい。中には無理やりキスを迫られた子もいたらしい。最近はボクの前に現れてはやたらと話しかけてきたり距離を近づけたりして来る。こいつの家の会社はパパの勤める会社のライバル会社……それでボクに近づいてきている。ボクが六武衆を使うことのできない別の理由がこいつだ。発売前のカードをこいつに晒す、なんてしたらどうなることか……ボクはそれを無視して出ていこうとするけど、その生徒に手を掴まれた。

 

「無視は酷くないかい? せっかく声を掛けたんだ。返事くらいして欲しいな」

 

「放して。ボクは忙しいの。アンタなんかに構っている暇はないわ」

 

「そうかな? 僕には食事を終えて一息ついているように見えたんだけど?」

 

 こいつ……いけしゃあしゃあと。さっきから誰もいないはずなのに視線を感じると思ったけど此奴だったのね。

 

「少し僕と話でも、どうかな?」

 

「聞いてた? ボク忙しいの。その手を放して。あと二度とボクの前に現れないで」

 

 そう言って振りほどこうとするけどそうとう力を入れられているのか振りほどくことが出来ない。それどころかその腕を引っ張られて距離を縮められた。

 

「いいじゃないか、少しくらい。そうだ、この間いいレアカードを手に入れたんだ」

 

「どうでもいい、はやく放せって……言ってんでしょうがっ!!」

 

 ボクはそういって空いている右腕でその生徒の頬を思いっきりぶっ叩いた。この勢いで腕が外れると思っていたけど、その腕は相変わらず外れない。それどころか、そのボクを握っている腕の力が一層強まったのを感じ取る。そして、さっきまで笑みを浮かべていた生徒の顔は仮面が剥がれたかのように一変して怒りを表した表情へと変わっていた。

 

「この、女ぁ!」

 

「あぐっ……!」

 

 その言葉と共に同じように頬を殴り返され、地面へと叩きつけられる。腕が離れたので逃げようとしたけど、衝撃によって落ちてしまったのか、デッキケースが目に入る。今の今まで、六武衆のカードを人目に触れさせたくなかったのはこいつが付きまとってきていたせいなのに! まずい。そう思って手を伸ばそうとしたのが運のつき。ボクはその生徒に再び腕を掴まれ押し倒された。挙句、そのまま馬乗りになって押さえ付けられた。

 

「優しくしてやればいい気になりやがって! よくも僕の顔を殴ってくれたな!」

 

「はっ……それがアンタの本性ってわけ。やっぱりアンタ最低ね」

 

「黙れ! ボッチの分際ででかい口叩いてんじゃねぇぞ! ああ!?」

 

 その言葉と共にボクの制服に手をかけてくる。最悪な未来が頭に瞬時に浮かんできた。ボクは必死にそれを防ぐために抵抗する。

 

「いやっ! 放しなさいよぉ! この変態!」

 

「ちっ、おとなしくしろ! この……!」

 

「いやぁー!」

 

 思わず口から悲鳴が出てしまう。すると瞬時に口を塞がれてしまった。がむしゃらに動くけど、その捕縛はまったく外れない。

 

「僕に逆らったことを後悔させてやる……!」

 

「むーっ! むぅー!」

 

 上着を外されそうになり、目から涙が零れ落ちる。やだ、やだよ! 誰か助けてよ!

 

「暴れても無駄だ。この屋上は普段から人があまり来ない。それにお前の事なんか誰も「おい」……え?」

 

 その言葉と共にボクの上に覆いかぶさっていた生徒が吹き飛ばされた。そしてその声がした方を見る。そこには先日知り合ったオシリスレッドの生徒の姿があった。

 

「秋人……?」

 

 思わず、ボクはそいつの名前を呟いた。

 

Side武藤秋人

 

「……まったく、時と場所を考えろっての。もっとも、『前』とは状況が随分違うらしいが」

 

 ツァンが涙目で暴れていたし、男子生徒の方も動きが藤原の時と違って無理やり押さえているという感じがあったのでどう見ても事案だろ、ということで思わず加減なしに蹴り飛ばしちまったけど…これで正解だよな?

 

「秋人……」

 

「よう、ツァン。一応聞くが、お楽しみだった…ってことは「あるわけないでしょ!?」だよな……すまん、冗談だ」

 

 俺は言いながら破けた制服を見て上着を脱いでツァンに被せてやる。頬も殴られたのか少し腫れているのが判る。これはすぐに保健室と、職員室だな。

 

「立てるか? すぐに保健室に連れて行く。後はみんなに連絡して職員室にも連絡を「おまえぇぇ!!」うん?」

 

 声の方を見れば、怒りに満ちた形相で俺の事を睨み付けるオベリスクブルー生徒の姿があった。まあ、蹴り飛ばしちまったから当然と言えば当然だけど

 

「またお前か! 落ちこぼれのレッドぉ!」

 

「そりゃこっちのセリフだ。しかも今回は藤原の時と違って強姦未遂じゃねーか……盛りのついた猫か、お前は」

 

「きさまぁ……とっととツァンをこっちに渡してここから失せろ!」

 

 何を言ってるんだこいつは……どうやら俺の乱入に相当ご立腹らしいな。まあ、藤原から前に聞いた話だと、本当に手当たり次第に女子生徒に手を出しているって噂だったし。邪魔されて怒っているのは当然か。どうしたもんか、と考える。あの男の後ろにはおそらくツァンの物であろうデッキケース……近くに弁当箱があるから間違いない。このまま逃げるのは簡単だがツァンもあのデッキを自分の手元には置きたいだろう。俺に口止めしたくらいだしな。かといって、俺が目を逸らしてPDAで十代たちに連絡を取って……その隙に何かやられても困るし。そう思っていると、生徒はその腕にしているデュエルディスクを構えていた。

 

「こうなったらデュエルしろ! 俺が勝てばツァンはこっちに渡して貰う!」

 

「……どうやらとことん腐っているらしいな、お前は」

 

 そう言いながら俺はツァンのであろうデュエルディスクを拾い上げる。ツァンが賭けの対象とされているこういう状況というのはあまり気が進まないが、仕方がない。

 

「ツァン、デュエルディスクを借りるぞ?」

 

「あ……うん」

 

 不安そうに俺を見てくるツァン。まあ、当然と言えば当然か。俺はオシリスレッド、相手はオベリスクブルー……万丈目と藤原に勝っているとはいえそれを単に運が良かっただけと捉えている連中もいる。実際、万丈目戦ではそれを見ていた生徒たちが、藤原戦ではジュンコとももえがそんな風に言ってきていたしな。俺はデッキをセットし、オベリスクブルーの生徒を見据える。

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

武藤秋人VSオベリスクブルー生徒

武藤秋人 LP4000

オベリスクブルー生徒 LP4000

 

「先攻は僕だ! カードをドロー! 僕は手札から『魔導戦士ブレイカー』を召喚!」

 

魔導戦士ブレイカー ATK1600/DEF1000

 

「このカードの召喚に成功したとき、このカードには魔導カウンターが乗る! このカードの攻撃力はカウンター1つにつき攻撃力を300ポイントアップさせる!」

 

魔導戦士ブレイカー ATK1600/DEF1000→ATK1900/DEF1000

 

 魔導戦士ブレイカー……魔法使い族デッキを使うのか? それにしても、確かブレイカーは遊戯のデッキに入っているという話が故か、値段がかなり高かった記憶がある。まあ、高いから強いかと言われると何とも言えないけど。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー……俺は手札の魔法カード『ワン・フォー・ワン』を発動。手札にあるモンスター1枚をコストに、レベル1のモンスターを特殊召喚できる。『レベル・スティーラー』を墓地に送り、デッキから『チューニング・サポーター』を特殊召喚」

 

チューニング・サポーター ATK100/DEF300

 

 現れたのはフライパンを被った小さな戦士。元いた世界ではデュエリストパック遊星編に登場したカードだな。このカードが欲しかったのにパックを買いまくってアームズ・エイドが山のようにダブったのは懐かしい思い出だ。3枚揃えるのに相当苦労したな。

 

「はっ……何かと思えば攻撃力100だと!? そんなカードで何ができる!」

 

「悪いが、まだメインフェイズは終わっていない。俺はさらにチューナーモンスター『ジャンク・シンクロン』を召喚」

 

ジャンク・シンクロン ATK1300/DEF500

 

「チュー…ナー…!? お前、まさか入学試験の時の!」

 

「どの時かは知らんが、多分そうだな。効果発動。このカードの召喚に成功したとき、墓地のレベル2以下のモンスターの効果を無効にして特殊召喚する。墓地のレベル・スティーラーを特殊召喚。さらに、墓地からモンスターが特殊召喚されたので手札の『ドッペル・ウォリアー』の効果が発動。このカードを特殊召喚する」

 

レベル・スティーラー AT600/DEF0

 

ドッペル・ウォリアー ATK800/DEF800

 

 フィールドに並び立つ4体のモンスター。さて、役者は揃ったな。行くぞ

 

「チューニング・サポーターのレベルは1だが、このカードはシンクロ召喚を行う場合は2としても扱える。レベル2のチューニング・サポーター、レベル1のレベル・スティーラー、レベル2のドッペル・ウォリアーにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

☆2+☆1+☆2+☆3=☆8

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!!」

 

スターダスト・ドラゴン ATK2500/DEF2000

 

 星屑の名を冠する龍がその姿を現すのだった。

 




リメイク前との変更点

ツァン、ボッチ説
 マリア・アンに進められて六武衆を組んだ経緯がありましたが、今回はそういうわけでもないのでマリアとはまだ友達ではない…あの学園でボッチは相当つらいと思う

ゲスのオベリスクブルー生徒
 前作ではツァンにしか手を出してませんでしたが色々と変更。最近浮気とか不倫とかのニュースが飛び交う中で書いたから時期ネタと疑われそう

シンクロデッキの内容変更
リメイク前ではジャック・アトラスのデッキを模していましたが、今回は遊星デッキ。ジャンドも考えましたが今回は最近発売されたストラクのオマージュって感じです

NEXT 09「ひとりぼっちの少女」(後編)


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09「ひとりぼっちの少女」(後編)

どうも、みなさん。今日はTHE DARK ILLUSIONの発売日でしたが、みなさんはパック買いましたかね?

Ranperu様 万屋よっちゃん様 親爺さん様 赤鉄様 餌屋様
うさぎたるもの様
感想、ご指摘、ご意見ありがとうございました。また宜しくお願いいたします

ryuuya様  blackfenix様
小説の評価ありがとうございました。頂いた評価点数以上の小説を目指せるよう努力してまいります

引き続き、感想、意見、指摘、評価をお待ちしています
では、第9話です。今回はずっとツァン視点です…どうぞ



Sideツァン・ディレ

 

「飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!」

 

 屋上で始まった、秋人とオベリスクブルー生徒のデュエル。ボクは肩にかけられた秋人の制服を強く握りしめながらそのデュエルを見守っていた。始まった当初、ボクは不安でたまらなかった。さっきの恐怖もあいまってうまく喋れず、無意識のうちに彼にデュエルディスクを渡してしまっていたからだ。内容は端的に言ってしまえばボクを賭けたデュエル、というものだ。ボクの知る限り、雪乃との決闘で勝利している秋人だけど、目の前にいる生徒は確か雪乃よりも成績は上で、かなりのレアカードを保持しているのは覚えている。性格や行動は最低だが、この学校ではそれ以上に実力の高さが物を言う…故に、秋人が負けたら自分はどうなってしまうのか。そう考えただけでもゾッとしてしまう。だけど、そんな不安はすぐに消え去った。秋人がシンクロ召喚という召喚方法で呼び出した1体のモンスター……スターダスト・ドラゴン。その眩い光を周囲に散らしながらフィールドへと舞い降りる。その輝きは満天の星空が輝いているようにも見えた。

 

「綺麗…」

 

 思わず、そう呟いてしまった。とても綺麗な輝き……いつの間にか、ボクの中にあった不安は、秋人なら何とかしてくれるのではないか、という期待へと変わりつつあった。

 

「チューニング・サポーターはシンクロ素材となったとき、カードを1枚ドローできる。バトルだ。スターダスト・ドラゴンで魔導戦士ブレイカーを攻撃!『シューティング・ソニック』!」

 

「バカが! 罠発動『聖なるバリア-ミラーフォース-』! 相手の攻撃宣言時に発動! 攻撃表示のモンスターをすべて破壊する!」

 

「スターダスト・ドラゴンの効果発動! このカードを生贄にすることで「フィールド上のカードを破壊する」効果を持つ魔法、罠、モンスター効果の発動を無効にして破壊する! 『ヴィクテム・サンクチュアリ』!」

 

 秋人の言葉と共にスターダスト・ドラゴンの姿はその名のごとく星屑のように消えてしまった。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド。エンドフェイズ、効果で生贄にしたスターダスト・ドラゴンは墓地から特殊召喚できる! 再び飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!」

 

スターダスト・ドラゴン ATK2500/DEF2000

 

「なっ……くそ! 僕のターン、ドロー! 魔導戦士ブレイカーの効果発動! 魔力カウンターを1つ使い、伏せカードの1枚を破壊する! 『マナ・ブレイク』!」

 

「手札の『エフェクト・ヴェーラー』の効果発動! 相手のメインフェイズ、手札からこのカードを墓地に送り相手モンスター1体の効果をターンの終了時まで無効にする!」

 

 秋人の手札から墓地へとカードが1枚送られた。すると、そこから1人の女の子…のモンスターが現れ、そのヴェールのようなものが魔導戦士ブレイカーへとまとわりつく。

 

魔導戦士ブレイカー ATK1900/DEF1000→ATK1600/DEF1000

 

「そ、そんなカードが存在するのか……ならば、俺は手札から『強欲な壺』を発動! カードを2枚ドローする! そして『ヂェミナイ・エルフ』を召喚!そして装備魔法『デーモンの斧』を装備する!」

 

ヂェミナイ・エルフ ATK1900/DEF900→ATK2900/DEF900

 

「バトルフェイズ! ヂェミナイ・エルフ! スターダスト・ドラゴンを攻撃しろ!」

 

 2人のエルフがデーモンの斧を持ってスターダスト・ドラゴンへと襲い掛かる。確か、テキストには2人で翻弄して襲ってくるモンスターだったはずだけど、デーモンの斧が重いのかそのまま斧を抱えて一緒に攻撃している。

 

「罠発動! 『くず鉄のかかし』! 相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする! そして、このカードは再びセットできる!」

 

「なっ…発動後再び伏せられるだとぉ!? なんなんだそのカードはぁ!? オシリスレッドの分際でぇ…! なんでそんなカード持っていやがる!」

 

 もはや、最初に被っていた仮面は崩壊もいいところね。はっきり言って醜いわ。それに、口調も僕から俺に変わっているし、なんというかあれが本性ってことなのかしらね。

 

「さあな…喋る気はないぜ。ターンを進めてくれ」

 

「ぐっ…お、俺は魔導戦士ブレイカーを守備表示に変更。ターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー。バトル! 魔導戦士ブレイカーをスターダスト・ドラゴンで攻撃! 『シューティング・ソニック』!」

 

「ちぃ!」

 

 破壊される魔導戦士ブレイカー。フィールドには破壊効果を無効にして破壊するスターダスト・ドラゴン。そして伏せカードには攻撃を1度防いで再びセットできる『くず鉄のかかし』がある。今はヂェミナイ・エルフを超えられないけど、サイクロンなんかを引けばきっと勝てるはず…

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

「俺のターンだ、ドロー! くくく、俺はついているぜ! 魔法カード『死者蘇生』を発動! 魔導戦士ブレイカーを復活だ!」

 

魔導戦士ブレイカー ATK1600/DEF1000

 

 魔導戦士ブレイカーを…? 今更ブレイカーなんて呼び戻してどうするつもり?

 

「俺は魔導戦士ブレイカーを生贄に、このカードを召喚する! こい、『ブリザード・プリンセス』!」

 

ブリザード・プリンセス ATK2800/DEF2100

 

「……! ブリザード・プリンセスか」

 

「こいつはレベル8だが、魔法使い族1体を生贄にすることで召喚することが出来る! そしてぇ! このカードの召喚が成功したターン、お前は魔法、罠を発動することが出来ない! 俺の持つ超レアカードだ! あはははは! バトルフェイズ! ブリザード・プリンセスでスターダスト・ドラゴンを攻撃ぃ!」

 

「っ……!」

 

武藤秋人 LP4000→LP3700

 

「そしてさらにぃ! ヂェミナイ・エルフでダイレクトアタックだぁ!」

 

「ぐっ…!」

 

武藤秋人 LP3700→LP800

 

「秋人!」

 

 思わず、秋人の名前を叫んでしまう。まさかアイツ、あんなカードを持っているなんて。腐っていても御曹司という立場をフルに使っている。今まで出てきたカードだって普通じゃ絶対に手に入らないカードのはず。

 

「そしてメインフェイズ2! 『サイクロン』でそのくず鉄のかかしを破壊するぜ! これが俺の実力だ! どんなすごい召喚方法を持っていようが、所詮オシリスレッドは落ちこぼれだ! 俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー……勝負はまだ終わってない。さて、ここからは少し長いぞ? 俺は手札から『命削りの宝札』を発動。カードを5枚になるようにドローする。5ターン後、すべて捨てる」

 

 そう言って笑う秋人。この前と同じだ…こんなに不利な状況なのに、秋人がデュエルを楽しんでいるようにボクには見えていた。

 

「手札から『天使の施し』を発動! デッキからカードを3枚ドローして2枚を捨てる。俺は『グローアップバルブ』と『ボルトヘッジホッグ』を墓地へ送る。更に手札から『調律』を発動。デッキから「シンクロン」と名のつくカードを手札に加える。俺が加えるのはクイック・シンクロンだ。その後、デッキの一番上を墓地へ送る。そしてクイック・シンクロンの効果。手札のモンスター1枚をコストに、このカードを特殊召喚する!」

 

クイック・シンクロン ATK700/DEF1400

 

 出てきたのは西部劇に出てくるガンマンのようなモンスター。さっきのジャンク・シンクロンと似ているわね。前に見たガガガガンマンとはまた違う感じ。

 

「墓地のレベル・スティーラーの効果発動。レベル5以上のモンスターのレベルを1つ下げてこのカードを特殊召喚できる」

 

レベル・スティーラー ATK800/DEF0

 

「レベル1のレベル・スティーラーにレベル4となったクイック・シンクロンをチューニング!」

 

☆1+☆4=☆5

 

「シンクロ召喚! こい、『ジェット・ウォリアー』!」

 

ジェット・ウォリアー ATK2100/DEF1200

 

 その名の通りのジェット機が変形したようなロボットのモンスターがフィールドに着地した。

 

「このカードのシンクロ召喚に成功したとき、相手のカードを1枚手札に戻す。俺が指定するのはヂェミナイ・エルフだ。これによって、デーモンの斧も墓地へ送られる」

 

「なに!? バウンス効果だと……! だが、俺のブリザード・プリンセスには……」

 

「だれが此奴だけで戦うって言ったよ。どんどん行くぞ……俺はさらに通常召喚。『ジャンク・シンクロン』を召喚する。効果で墓地の『チューニング・サポーター』を蘇生する。レベル1のチューニング・サポーターにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

ジャンク・シンクロン ATK1300/DEF500

 

チューニング・サポーター ATK100/DEF300

 

☆1+☆3=☆4

 

「シンクロ召喚、いでよ! 『アームズ・エイド』!」

 

 アームズ・エイド ATK1800/DEF1200

 

 さらにフィールドに現れるのは腕の形をしたようなモンスター。シンクロ召喚、というのは入学試験をちゃんと見ていなかったから名前しか知らなかったけど、改めて見るとこんなにモンスターが出たり消えたりするのかと驚かされる。

 

「チューニング・サポーターの効果で1枚ドロー。そしてアームズ・エイドの効果。このカードを装備カードとしてモンスターに装備できる。俺はこのカードをジェット・ウォリアーに装備! これによって、攻撃力を1000ポイントアップさせる」

 

ジェット・ウォリアー ATK2100/DEF1200→ATK3100/DEF1200

 

「バカな…攻撃力3100だと…!?」

 

 攻撃力3000を超えたことに驚くオベリスクブルーの生徒。ただ、この前見た攻撃力8000に比べれば可愛いもんだな、とか思っちゃうボクは感覚が麻痺してきているのかもしれない。ただ、やっぱり攻撃力3000を超えるカードをあんな攻撃力の低いモンスターたちから作り出せるシンクロ召喚はすごいかもしれない。

 

「行くぞ、バトルだ! ジェット・ウォリアーでブリザード・プリンセスを攻撃!」

 

「ぐあああ!」

 

オベリスクブルー生徒 LP4000→LP3700

 

「さらに、アームズ・エイドを装備したモンスターが戦闘でモンスターを破壊したとき、その破壊され墓地へ送られたモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

 

「な、なんだと!?」

 

オベリスクブルー生徒 LP3700→LP900

 

 一気にライフ差が縮まった。その差は100…アームズ・エイドっていうモンスターにはそんな効果があったんだ……実質、ダイレクトアタックしているようなもんじゃないの。

 

「俺はカードを1枚伏せ、これでターンエンドだ」

 

「くそっ、くそっ、くっそぉ! 俺ターンドロー! なめやがってぇ! 俺は伏せていた『リビングデッドの呼び声』を発動! 墓地の『ブリザード・プリンセス』を蘇生! そして再び『ヂェミナイ・エルフ』を召喚!」

 

ブリザード・プリンセス ATK2800/DEF2100

 

ヂェミナイ・エルフ ATK1900/DEF900

 

 再びフィールドにさっき召喚されたモンスターたちが戻ってきた。でも、フィールドのジェット・ウォリアーには及ばないはずなのに…

 

「バトルフェイズ! ブリザード・プリンセスでジェット・ウォリアーを攻撃! この瞬間、速攻魔法『突進』を発動! ブリザード・プリンセスの攻撃力を700ポイントアップさせる! これで攻撃力は3500! ジェット・ウォリアーを破壊し、ヂェミナイ・エルフで攻撃して俺の勝ちだぁ!」

 

ブリザード・プリンセス ATK2800/DEF2100→ATK3500/DEF2100

 

 オベリスクブルーの生徒の言葉と共にブリザード・プリンセスがすごい勢いで空中へと飛び上がり、ジェット・ウォリアーへと攻撃態勢へと移る。これで、秋人の負けなのか……そう思って秋人を見る。だけど、秋人は特に微動だにした様子はない。

 

「……それはどうかな?」

 

「な、なに!?」

 

「罠発動『シンクロ・ストライカー・ユニット』! このカードは発動後装備カードとなり、シンクロモンスター1体に装備する! 装備モンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせ、エンドフェイズに攻撃力と守備力が800ポイントずつ下がる」

 

 ジェット・ウォリアー ATK3100/DEF1200→ATK4100/DEF1200

 

 カードから巨大な銃のようなものが出現し、ジェット・ウォリアーに装備される。しかし、その攻撃力変動でパワーアップをしたジェット・ウォリアーへと攻撃宣言をされたブリザード・プリンセスは特攻し、その杖を振り下ろした。しかし、ジェット・ウォリアーはアームズ・エイドで防ぎ、その左手に持つ銃で撃ち貫いた。

 

オベリスクブルー生徒LP900→LP300

 

「ば、ばかな……この俺が……な、なにかの、間違いだ。こんなの……」

 

「破壊したブリザード・プリンセスの攻撃力分のダメージを受けてもらう」

 

オベリスクブルー生徒LP300→LP0

 

「勝っちゃった……」

 

 またしても、オシリスレッドの彼が、オベリスクブルーの生徒に……こんなに強いのに、どうしてオシリスレッドなんだろう。これだけ強かったらラーイエローくらいになってもおかしくないのに。

 

「お、覚えていろ!」

 

 そう言って、オベリスクブルーの生徒は逃げ出していった。それを見送ると、秋人がボクのデッキとお弁当もってボクに渡してくれた。

 

「デュエルディスク、ありがと。立てるか?」

 

「そ、その……あの……」

 

「顔、少し腫れてんな…授業には遅れるだろうけど保健室だな。後は……」

 

 普段、一緒に明日香や雪乃たちいるなら聞いているはずだ。ボクがどんな奴なのか、と。ボク自身も自覚がある……その言葉や態度で人に誤解を与えてしまっているということを。きっと、嫌な奴、と、聞いているはずだ……誤解を解こうと思ったこともあった。でも、やっぱりできなくて、いつしか1人でもいいってなっていた……なのに、なんで、なんで、アンタは……

 

「どうして、ボクを助けてくれたの?」

 

「え?」

 

「知っているでしょ? 明日香たちといるなら。ボクがどんな奴なのか……嫌な奴って。 なのに、なんで……」

 

 ボクの言葉に、一瞬ポカンとなった表情を見せた秋人はなぜか呆れたようにため息を吐いていた。

 

「そんな話、アイツらから聞いたことねーよ……むしろ、明日香たちはお前が一人なのを心配していたくらいだ」

 

「う、嘘! だって…! 他の女子はみんなボクの事、嫌な奴って!」

 

「お前が中学時代に何を言われたかは知らないけど、俺が聞いたのはお前の言動が誤解を招いたことがあって、苦労しているってだけだ。嫌な奴、なんて話は知らない」

 

 そう言いながらへたり込んでいたボクを立たせてくれる秋人は、PDAでいつもいる仲間にでも連絡しているのだろう。授業に遅れる、ということを伝えてくれと連絡していた。

 

「じゃ、保健室行くぞ。後は保健医の先生に事情も説明しないとな……」

 

「う、うん……あ、あの……」

 

「今度はなんだ?」

 

「助けてくれて……ありがと」

 

 この学園に来て初めて、素直に人へ感謝の言葉を伝えられた気がする。ボクの言葉に、秋人は少しだけ笑ったように見える。

 

「ああ、どういたしまして。さ、行こう」

 

「うん」

 

 こうして、ボクたちは屋上を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 あれから数日が経った。あの後、秋人が証言をしてボクの事を襲ったオベリスクブルーの生徒は退学となった。もっとも、あんな屋上で騒ぎを起こしたんだから他の生徒からも証言が取れて当たり前だった、とかそんな話らしい。いくらかあの生徒の親の会社から圧力がかかったようだけど、この学園のオーナーであるKCの社長がねじ伏せたらしい。どうしてそんなことになったのかはわからないけど、元々被害にあった女子生徒たちが何人かいたということもあって、いなくなったことに安堵する生徒が多かったのは言うまでもない。で、あれからボクはというと……

 

「昼飯だー!」

 

「ふあ……十代、うるさい……でも、腹減ったな」

 

「うふふ、ボウヤたちは2人揃って寝てばっかりね……赤点になっても知らないわよ?」

 

「雪乃の言うとおりよ……少しは真面目に座学聞きなさい」

 

「二人とも、この二人の居眠りは今に始まったことじゃないっス」

 

「いつもどおりなんだなぁ……」

 

 秋人がいつもいるメンバーの中に、混ざっていた。あれから秋人と次第に話すことが多くなり、遊城……十代が、ボクにデュエルを挑んで来て、結果としてそこでボクは六武衆を使うことになった。近くには秋人がいたし、ボクが事情を説明したら他のみんなもカードの発売まで口外しないとも約束をしてくれた。デュエルの結果はボクの負け……さすがのボクも…運には勝てないわね。どうやったら1ターンでHEROが並びまくるんだか。でも、おかげでパパにデータは送信できたし、近いうちに六武衆は正式に新しいカードパックに収録されることが決まった。ボクはパパから公に六武衆を使う許可も貰った。それからみんなで食事をしたり、授業に出たり、休み時間に雑談したり……退屈だと感じていたこの学校での生活が、いつの間にか楽しい時間になっていた。

 

「今日の購買の弁当は何だろうなー! あ、そうだ秋人、またドローパンやろうぜ!」

 

「絶対ヤダ。昨日お前にそう言われて買ったら『納豆』だったのを忘れたか。死ぬほど買ったことを後悔したぞ」

 

 お弁当……そうだ、今日は、お弁当を作ってきたんだ。秋人に渡す、お弁当を……べ、別に変な意味ではない。お礼を……そう、この前のお礼をするためで、今日はたまたま具材が余ったからついでに作ったんでしょうが。他意はないんだから、こう、さりげなく渡せばいい。落ち着けボク。購買まで来たところで、みんなが並びに行く中ボクは秋人を呼び止める。

 

「あ、あ、秋人?」

 

「うん? どうしたツァン」

 

「そ、そ、その。これ!」

 

「……? 弁当?」

 

 受け取った秋人はポカンとしている。が、ここでボクはまたやってしまった。

 

「か、勘違いしないでよね!? 別に、アンタのために作ったとか、そういうのじゃないのよ!? その、えっと、具材が余ったからもったいなくて……! その、処理してもらおうと思っただけよ!」

 

 ぼ、ボクのバカぁぁぁ! なんでこう、いつもこう変な風に言っちゃうのよぉぉぉ! それに、この前のお礼っていうのが第一にしていたのにちゃんと言えないし! こんなんだから誤解されるのに! そう思っていると、秋人は特に嫌な顔を見せずに笑顔を見せていた。

 

「そっか、サンキュー! 助かるよ。あ、そうだ…飲み物買ってこないと。ついでに買ってくるものあるか?」

 

「あ、じゃあボクもお茶…」

 

「わかった。買ってくる」

 

 そう言って秋人は十代たちと合流して列に並んで行った。それを何の気なしに眺めていると、場所取りのために待っている雪乃がボクの隣に立っていた。

 

「うふふ、やるじゃない、ツァン?」

 

「え? 何の話?」

 

「……いいえ、なんでもないわ」

 

 ……? なんのことかしら。まあ、それはさておき、それからしばらくして戻ってくる秋人たち。途中で三沢も合流し、昼食をとることにした。

 

「いただきまーす」

 

 そう言ってボクはみんなと食事を始める。ボクの日常は、少しだけ明るくなった。もし、ボクの悪い癖が治ったら、改めて秋人にしっかり言おう…ありがとう、って。そう思いながらいつものみんなのバカ騒ぎを眺め、ボクは楽しいお昼を過ごすのだった。少しでも、この楽しい時間を味わえるように

 




リメイク前との変更点

オベリスクブルー生徒のデッキ超強化
個人的にですが、それなりに強くしたつもりでした。まあ、ブリザード・プリンセスを出したかっただけなんですけどね(笑)

ジェット・ウォリアー
良く使ってます。本当はジャンク・ウォリアーでもよかったかな、と後で後悔しました
それにしても、スターダスト・ドラゴンも即刻やられるというね……

とりあえず、事件解決
すこし無理やり詰めてしまった感じもあり反省しています。特に、六武衆を晒したところ。まあ、これデュエルにするとまた長くなるのでカットしましたが、その辺はまた今度…

NEXT 10「精霊との出会い」(前編)


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10「精霊との出会い」(前編)

ようやく10話です…

Ranperu様 桜咲様 親爺さん様 U-KISS様 ヴァイロン様 寝穿様
0・The Fool様 赤鉄様 blossoms様 万屋よっちゃん様 鷹崎亜魅夜様
感想、ご指摘、ご意見ありがとうございました。また宜しくお願いします

茶碗蒸し様
小説の評価ありがとうございました。頂いた評価以上の小説になるように頑張っていこうと思います

引き続き、小説の感想、ご意見、ご指摘、評価をお待ちしています
さて、第10話です。今回でようやく秋人のパートナーが登場します。


Side秋人

 

「準備はいいか!? 秋人!」

 

「あ、ああ…一応な。それにしても十代、なんというか、どうした?」

 

「やっと秋人とデュエルできるからな!そう考えただけでワクワクするぜ!」

 

 場所は実技授業を行うデュエル場。簡単にいえばこのデュエルアカデミアに最初に来た時にデュエルをしようとしたあの場所である。今は中間試験に向けた実習授業の時間である。この時間ではそれぞれがペアを組み、デュエルを行ってお互いの評価をするのが目的の授業だ。成績自体はデュエルディスクを通してデータが送られるので勝敗よりもどのようなデュエルをしたのかが重要になってくるもの。

 

「さあ、行くぜ秋人!」

 

「ああ、来い」

 

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

 こうなったのには、少し時間を遡ることになる。

 

*

 

「なあ秋人、秋人ってカードの精霊って信じるか?」

 

「……カードの精霊? いきなりどうしたんだ?」

 

 夕食を終えた夜。レッド寮の俺の部屋でデッキを考えていると、遊びに来た十代がいきなりそんなことを言い出した。カードの精霊、といえば十代のハネクリボー、万丈目のおじゃまイエロー他多数や、後で出てくるヨハンのルビー・カーバンクルとかかな。後はネオスとかネオスペーシアンもそうか。それに、劇場版の時に喋っているのを考えると遊戯のブラック・マジシャンと、ブラック・マジシャン・ガールももしかしてそうなのか? 確か、十代はハネクリボーをきっかけに「また」カードの精霊が見えるようになった、だったな。だが、なぜいきなりその話になったのだろうか。

 

「実は俺、カードの精霊が見えるんだ」

 

「そうなのか。それで、その精霊がどうしたんだ?」

 

「あれ? 信じてくれるのか?」

 

 と、不思議そうな表情で俺を見る十代。まあ、アニメのことを知っている以上、そのへんの知識についてはわかっているからな。

 

「なんだ、冗談なのか?」

 

「いや、なんというか…こうもあっさり言われると…」

 

「十代は人にウソをつくのは苦手だしな…信じる、信じないは別として、十代はそんな風に嘘を言ってきたりしないのは知っているから。それで? そのカードの精霊はどのカードなんだ?」

 

「ああ、俺の相棒、ハネクリボーさ!」

 

 そういって俺にハネクリボーのカードを見せる十代。ハネクリボー…遊戯が十代に与えたカードの1枚だな。漫画版では響紅葉のデッキにあったカードではあるが。

 

「なるほどな…でも、どうしてそんな話題をいきなり?」

 

「なんというか、これも信じてくれるかわからないけど、秋人の横に精霊がいるんだ」

 

「…? ハネクリボーが?」

 

「いや、そうじゃなくて、お前の持ってるカードの精霊が」

 

 ……What? 待て十代、今お前はなんて言った?

 

「俺の、カードの精霊?」

 

「そう、お前のカードの精霊」

 

 落ち着け、この程度のパニックは最初、この世界で目覚めた時の動揺に比べたらなんてことはないはずだ。落ち着け俺…まず、1つずつ確認していこう。

 

「十代、まずお前にはカードの精霊が見えると」

 

「おう」

 

「で……俺にもカードの精霊がいる、と?」

 

「おう」

 

 そう聞いた瞬間に頭を抱えたくなった。仮にそれが本当だとしたらいつも部屋で一人、デッキを組んでいる時の呟きとか全部聞かれていたってことになる。たまに一人なのをいいことにぶつぶつと普段の愚痴をこぼしまくっていた気もするし

 

「だけど、俺にはその精霊も、ハネクリボーも見えないぞ?」

 

「うーん、秋人がもしかしたらそのカードを触っていないからかな? 俺は遊戯さんにハネクリボーを渡されてからハネクリボーが見えるようになったんだ」

 

「…試しに俺もハネクリボーのカードを触ってみてもいいか?」

 

「おう、そうだな。もしかしたらハネクリボーもきっかけの1つになるかもしれない!」

 

 そういいながら十代はニコニコと俺にハネクリボーのカードを差し出してきた。俺もそれを特に考えもせずに触れた。その瞬間、なんとも不思議な感覚に包まれる…が、しかし、その次の瞬間には激しい痛みが頭を駆け抜けた。誰かに殴られる、そんな感覚だ。

 

「……っ!?」

 

 思わず膝をつき、ハネクリボーのカードを手放してしまう。なんだ、この痛みは!? いきなり誰かに頭を殴られたような、そんな感覚。

 

「おいおい!? お前そんなことしたら…!?」

 

「十代?」

 

「……なんか、秋人がハネクリボーを触った瞬間に秋人の精霊が秋人を殴りつけてた」

 

 ……いったいどんな凶暴モンスターが俺のところにはいたんだよ。頭を擦りながら顔を上げると、俺の目の前には茶色い羽の生えた毛玉が十代の横に映っていた。

 

「お前が、ハネクリボー…?」

 

『クリクリ~!』

 

 ソリットビジョンが起動していない場所で、十代の横にはハネクリボーが静かに浮遊していた。俺の言葉に応えるように、その小さな手を上げて返事をする。

 

「おお! 秋人にもハネクリボーが見えるようになったんだな!」

 

「……ああ、どういう原理かは知らないけどな。けど……ハネクリボー以外、俺には見えないんだが」

 

 部屋の周囲を見渡すが、その十代の言う俺のカードの精霊、というやつの姿はない。部屋には十代と俺、そして半透明のハネクリボーの姿しか確認することができない。

 

「あー…その、殴ったこと後悔して部屋の隅で蹲ってる」

 

 そういって十代が指をさすも、そこにはやはり何もいない。というか、なぜ俺はそもそも自分の持つカードの精霊に殴られなきゃいけないんだろうか。

 

「十代、なんで俺は殴られた?」

 

「なんというか、見ている感じどうして一番が自分じゃなくてハネクリボーなんだ、ってことらしいぞ。ブツブツいいながら膝抱えてる」

 

「……」

 

 どうしよう、果てしなく面倒くさい精霊だぞ、俺の精霊。というか、膝を抱えている、ということは人の形をしたモンスターということか? これでガチムチのモンスターとかだったらなんか嫌だな。

 

「十代、その精霊のカードはどれだ?」

 

「うーん、わかんねぇ。俺も見たことのないカードだな…でも、杖を持っているってことは魔法使い族なんじゃないか?」

 

 魔法使い族、か。これで正体が遊戯のブラック・マジシャンとかだったら笑えないが、十代も見たことのないカードということはこの時代で登場しないカード、もしくはOCG化のみのカードの可能性がある。にしても、魔法使い族のカードで、杖を持っているモンスター…ね。多すぎてわかんねぇぞ。一応、魔法使い族デッキというのは作ってあるけどこの中にあるのかな…そう思いながら1枚1枚を見てそれらしいカードに触ってみるが反応がない。それに、杖を持っているだけで魔法使い族と断言もできないし……そもそも、精霊のカードというのは特別な1枚ということで、同じカードが9枚あるのでそれを探すのはハッキリ言って骨だし…

 

「なあ、もしかしたらデュエルをすればその精霊が認知できるかもしれないぜ!」

 

「…それ、お前がデュエルしたいだけじゃねぇの?」

 

「そうともいうぜ!」

 

 とはいったものの、まあ十代の言うことも一理ある。フィールド上にソリットビジョンとして出すことで改めて認識することで見えるようになるかもしれないし

 

「じゃあ明日の試験前の実践演習でデュエルだ!」

 

「ああ、そうだな」

 

 

*

 

回想終了

 

 

 と、まあそんなことがあって十代とはようやくデュエルができるようになった、というわけである。

 

 

武藤秋人VS遊城十代

武藤秋人 LP4000

遊城十代 LP4000

 

 

「先行はさっきのコイントスで俺だよな! ドロー! 俺は手札から『E-エマージェンシーコール』を発動。デッキから『E・HEROバブルマン』を加え、そのまま召喚!」

 

E・HEROバブルマン(アニメ版) ATK800/DEF1200

 

「このカードの召喚に成功した時、他にカードがないならカードを2枚ドローできる! 俺は更に装備魔法『バブル・ショット』を装備! これにより、バブルマンの攻撃力は800ポイントアップするぜ!」

 

 出たな、強欲なバブルマン。まあ、俺のHEROデッキにも入れているけどアニメ版の効果はほんとうに強い。今思えば手札が枯渇した時に進められるようにするアニメスタッフの意図から誕生したカードのような気もする。

 

E・HEROバブルマン ATK800/DEF1200→ATK1600/DEF1200

 

「カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー! 俺は手札から魔法カード『トレード・イン』を発動する。手札の『コスモクイーン』を墓地へ送りカードを2枚ドローする。そして『死者蘇生』を発動。墓地に送られた『コスモクイーン』を特殊召喚!」

 

コスモクイーン ATK2900/DEF2450

 

 フィールドに現れるのは宇宙に存在する、全ての星を統治しているという女王様。一応、ブラック・マジシャンよりも攻撃力が高いが…なんでだろうか。これ使ってる人あんまり見ないんだよな。レベルは8だし、手札処理して蘇生も容易なんだけど。

 

「そして、こちらも装備魔法『ワンダー・ワンド』を装備する。このカードの効果で攻撃力を500ポイントアップさせる」

 

コスモクイーン ATK2900/DEF2450→ATK3400/DEF2450

 

「うぉ!? 攻撃力が3000超えた!?」

 

「バトルフェイズだ。コスモクイーンでバブルマンを攻撃!」

 

「うわっ!?」

 

 どんな魔法で攻撃するのかと思いきや、その手にしたワンダー・ワンドでバブルマンへと殴りかかる。おいおいおい!? 魔法(物理)じゃねーか! あいつ本当に魔法使い族か!? その攻撃に驚きながらもバブルマンはなんとかその装備していたバブル・ショットで防ぐ。

 

「バブル・ショットの効果だ! 戦闘で破壊されるバブルマンの代わりにこのカードを破壊して、俺へのダメージは0になる!」

 

「これでターンエンド…まあ、わかっていたけどコイツじゃないみたいだな」

 

「そうだな。俺もコスモクイーンは知っているし」

 

 それもそうか…というか、こいつ杖もってないもんな。後、コスモクイーンに四六時中見られる…想像するとちょっと怖い。

 

「俺のターンドロー! 俺は手札から『融合』を発動! フィールドのバブルマンと手札の『E・HEROクレイマン』を融合する! 現われろ、『E・HEROマッドボールマン』!」

 

E・HEROマッドボールマン ATK1900/DEF3000

 

「マッドボールマン…か」

 

 守備力3000の壁モンスターか。一応3000なら超えられるけど、十代の表情を見るにあれは何か仕掛けてくるな。

 

「更に『フュージョンリカバリー』を発動。融合と墓地のクレイマンを手札に戻すぜ。カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

「俺のターンドロー……魔法カード『テラ・フォーミング』を発動。デッキからフィールド魔法を1枚サーチできる。フィールド魔法『魔法族の里』を発動する。俺のフィールド上にのみ魔法使い族が存在する場合、十代、お前は魔法カードを使うことはできない」

 

「な、なに!?」

 

 ……今更ながら、このデッキを使って十代と戦うのはちょっと可哀想だったかな。HEROって魔法サポート多いし、相性を考えると酷いな。

 

「バトルフェイズ。コスモクイーンでマッドボールマンを攻撃」

 

 再びその手にワンダー・ワンドを持ってマッドボールマンへと襲いかかるコスモクイーン。やっぱり怖い。マッドボールマンは防御の姿勢をみせるも、そのコスモクイーンの攻撃に耐えられず爆発する。

 

「と、罠カード発動! 『ヒーロー・シグナル』! 自分フィールドのモンスターが破壊され墓地へ送られた時、手札、デッキからレベル4以下のE・HEROを特殊召喚できる! 俺はE・HEROスパークマンを特殊召喚! ……罠は大丈夫だよな?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

E・HEROスパークマン ATK1600/DEF1400

 

 スパークマンか。本当に十代はアニメ版HEROだけでよく戦えるなと素直に賞賛する。もっとも、それを支えているのはその十代が持つ圧倒的なドロー運もあるわけだが……

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

「どうにかしないとな……俺のターン、ドロー! ……! へへ、なあ秋人、このフィールド魔法は秋人のフィールドにだけ魔法使い族がいると俺は魔法が使えないんだよな?」

 

「ああ、そのとおりだ」

 

「じゃあ、俺のフィールドにも魔法使い族がいればいいわけだ」

 

「そうだ……おい、まさか」

 

 俺の言葉に、ニヤリと笑う十代。おいおいおい、そのカードの初登場はユベル戦だろ!? もうデッキには入っていたのか!? というか、デッキに入っている云々以前にこの土壇場で引くって…どんなドロー運だよ!

 

「俺は『カードエクスクルーダー』を召喚するぜ!」

 

カードエクスクルーダー ATK400/DEF400

 

 フィールドに現れるのはオレンジ色の衣装に赤い杖を持った緑髪の幼い少女の容姿をしたモンスター。被っている帽子はブラック・マジシャンやブラック・マジシャン・ガールを彷彿とさせる。フィールドに降り立った時、周囲の男子生徒たちが若干歓声をあげている。お前ら…可愛いならなんでもいいのか?

 

「カードエクスクルーダーは魔法使い族。よって、今なら俺も魔法は使えるぜ! セットしていた速攻魔法『サイクロン』! コスモクイーンが装備するワンダー・ワンドを破壊する!」

 

「っ……! やるな」

 

コスモクイーン ATK3400/DEF2450 →ATK2900/DEF2450

 

「そして『強欲な壺』を発動。カードを2枚ドローするぜ…そして、『融合』を発動! フィールドのスパークマン、そして手札のクレイマンを融合! 現われろ、『E・HEROサンダー・ジャイアント』!」

 

E・HEROサンダー・ジャイアント ATK2400/DEF1500

 

 フィールドに現れる巨漢。先ほどのマッドボールマンよりもこっちはさらに強い威圧感を感じ取れる。

 

「秋人にも見せてやるぜ! ヒーローの戦う舞台ってやつを! 俺はフィールド魔法『摩天楼 -スカイスクレイパー-』を発動するぜ! これによって『魔法族の里』は上書きされる!」

 

 そうなんだよな…元いた世界ではフィールド魔法はお互いに1枚ずつ貼れるが、この時代ではフィールド全体に及び、後から貼られると破壊されてしまう。魔法使いたちの集う里が一瞬にして現代的なビルが建ち並ぶ夜の街へと変貌した。

 

「バトル! サンダー・ジャイアントでコスモクイーンを攻撃! この時、バトルするE・HEROが攻撃するモンスターの攻撃力がそのE・HEROより高い時、その攻撃力を1000ポイントアップする!」

 

E・HEROサンダー・ジャイアント ATK2400/DEF1500→ATK3400/DEF1500

 

 サンダー・ジャイアントの攻撃力が上がり、その発生した電撃がコスモクイーンを襲う。コスモクイーンも魔術のようなもので防御しようとするが、それもかなわず爆発してしまった。

 

武藤秋人 LP4000→LP3500

 

「そしてカードエクスクルーダーでダイレクトアタックだ!」

 

「うお!?」

 

 十代の言葉とともに突撃してくるカードエクスクルーダー。そして、そのまま直接俺へその手に持っていた杖を振り下ろした。お前も魔法(物理)か! これ、ソリットビジョンだから良いものの、本当に殴られたら超痛いぞ。

 

武藤秋人 LP3500→LP2800

 

「メインフェイズ2でカードエクスルーダーの効果発動。秋人の墓地にある『コスモクイーン』をゲームから除外するぜ。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン…さーて、きついな。『強欲な壺』を発動してカードを2枚ドロー」

 

 フィールドのサンダー・ジャイアント。コイツの効果がまた面倒なんだよな。それに、伏せカードも何してくることか…十代は座学では居眠りばかりだが実践になった途端人が変わる。フィールドにはサンダー・ジャイアントとカードエクスルーダーに伏せカード。手札のカードは……少しピーキーだがこのモンスターでどうにかするしかないな。そう思い、1枚のモンスターに触れる。すると、また変な感覚が俺を襲う。これは、ハネクリボーのカードに触ったときと同じ感覚……? まさか、こいつが俺の精霊のカードなのか? 現状を打開するのにはこいつを使うしかなさそうだ。

 

「俺は手札から

 

 

――――『久遠の魔術師ミラ』を召喚!」

 

 その召喚エフェクトとともに、1人の魔術師がフィールドに降り立つのだった。

 




リメイク前との変更点

デッキ変更
ミラが出しやすいように魔法使いデッキ。ちなみに、ブラック・マジシャンはいません。このデッキは大学時代に友人たちとそれぞれでルールを設けて組んだデッキです。テーマは「あまり見ないカード」ということで、私はコスモクイーンを選択してこれを組みました。仲間内のルールとして「メジャーなモンスターは禁止」ということになっているのでブラック・マジシャンは封じられています。

ミラの性格変更
前はもっと明るい子でしたが、今回はちょっと清楚ですがどこかおっちょこちょいなイメージで作っていく予定です。彼女の本格参戦は次回です

十代のカードエクスルーダー
ユベル戦で登場ですがあれ以外だとOPしか出てこないので登場。可愛いですよね



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11「精霊との出会い」(後編)

話のペース遅すぎてキツイ……

ジェガン様 うさぎたるもの様 親爺さん様 Ranperu様 レイトレイン様 武御雷参型様 tis様 赤鉄様 万屋よっちゃん様 萃蓮様
感想、ご指摘、ご意見ありがとうございました。またよろしければお願いします。

引き続き、感想、意見、ご指摘及び、小説の評価を大募集中です。もしよろしければお暇なときに書いていただければ幸いです。

11話。精霊登場回がようやく終わりです。次回は中間試験になります



Side秋人

 

「久遠の魔術師ミラを召喚!」

 

久遠の魔術師ミラ ATK1800/DEF1000

 

 フィールドに現れるのは1人の魔術師のカード。白い髪と、紺色の瞳の女性モンスター。俺が効果を発動させようとすると、俺の頭の中へ声が聞こえてきた。

 

「(やっと、やっと会えましたね……マスター)」

 

「っ……!? どういうことだ? 声が……」

 

「(私の声が聞こえるんですね。マスター? 心の声で結構です。答えてください)」

 

「(……ああ、聞こえるよ。お前の声でいいんだな? 久遠の魔術師ミラ)」

 

 いつの間にか、フィールドに立っているミラが俺の方を見ている。ソリットビジョンならそんなことはないはず。これが、精霊が見えるってことの影響なのか?

 

「お! 秋人、やっと精霊のカードを出したな!」

 

「……ああ、どうやらそのようだな。ミラ、力を貸してもらうぞ」

 

「(もちろんです。すべてはマスターのために)」

 

 嬉しそうな笑顔を浮かべながらそう軽くお辞儀をするミラは、そのまま前へと向き直る。とりあえず、やることはやらないと。

 

「久遠の魔術師ミラの効果発動。このカードが召喚に成功した時、相手フィールドの裏側表示のカード1枚を対象として発動する。その相手のカードを確認する。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠カードを発動できない。十代、お前の伏せカードを見せてもらうぞ」

 

「(その伏せられし札を晒しなさい……)」

 

 ミラはその言葉と共に手にした杖をかざす。光が迸り、十代が伏せていたカードがあらわになる。伏せられていたのは激流葬……十代の奴、俺の事倒す気満々じゃねーか。それにしても困ったな…今の状況じゃ激流葬は破壊できない。しばらくは、ミラで戦うことになりそうだ。

 

「装備魔法『ワンダー・ワンド』を装備。さっきも説明したが、その攻撃力を500ポイントアップさせる」

 

久遠の魔術師ミラ ATK1800/DEF1000→ATK2300/DEF1000

 

「そしてもう1枚。装備魔法『魔導師の力』をミラに装備する。自分フィールドの魔法、罠1枚につき攻撃力を500ポイント上げる。俺のフィールドには2枚。よって1000ポイントアップ。さらにカードを2枚セット。これによって上昇値は+2000だ」

 

久遠の魔術師ミラ ATK2300/DEF1000→ATK4300/DEF1000

 

「げっ、攻撃力が4000超え!?」

 

「……さすがはワンキルのオトモだな」

 

 俺がそう呟きながらミラへ目を向ける。すると、なんというかミラがなにやらガッツポーズをしているのが見える。

 

「(留めることなく力が溢れる……今なら神のカードだって倒せる気がします!)」

 

 神様だって殺してみせる……ってか? 人の頭を嫉妬して殴ったり、パワーアップしてガッツポーズしたり……こいつはいったいどういうキャラなんだ。まあ、実際の攻撃力だけを考えれば明確な攻撃力の表示がされているオベリスクの巨神兵は倒せるだろうな。攻撃力だけを見れば、の話だけど。十代のモンスター…本来なら攻撃力の低いカードエクスルーダーを攻撃するところだが、サンダー・ジャイアントの効果が厄介だ。

 

「バトルフェイズ。ミラでサンダー・ジャイアントを攻撃!」

 

「(はあっ!)」

 

 そのミラが手にしていたワンダー・ワンドに光が走る。そしてそこから白い光球のようなものが撃ち出されてサンダー・ジャイアントへと向かっていく。そしてそれはサンダー・ジャイアントに激突して爆発。激しい光が迸った。

 

「ぐっ……!」

 

遊城十代LP4000→LP2100

 

「ターンエンド」

 

「俺のターンドロー! 俺は手札から『ホープ・オブ・フィフス』を発動! 墓地のE・HERO5枚をデッキに戻してカードを2枚ドローするぜ。マッド・ボールマン、サンダー・ジャイアント、スパークマン、クレイマン、バブルマンをデッキに戻しシャッフル…カードを2枚ドローだ」

 

 フィールドのカードエクスルーダーの効果はともかく、伏せてある激流葬の処理をどうにかしないと。あれを早々に処理して、カードを展開していかないといけないな。

 

「魔法カード『テイク・オーバー5』を発動。デッキの上からカードを5枚墓地へ送る。次のスタンバイフェイズに同名のカードをゲームから除外することでもう1枚ドローできる」

 

「…だが、その効果の趣旨は別だろ? お前の場合」

 

「お、良くわかったな! 俺は今の効果で墓地に落ちた『E・HEROネクロ・ダークマン』の効果発動! このカードが墓地にあるとき、1度だけE・HEROの召喚に生贄が必要なくなる。俺は『E・HEROエッジマン』を召喚!」

 

E・HEROエッジマン ATK2600/DEF1800

 

 エッジマンか……現在の攻撃力だけを見ればミラには到底届かないが、さっきのホープ・オブ・フィフスの効果で何を引いたのか。場合によってはこの形勢は一気に崩されるからな。油断できん

 

「俺はさらに手札から魔法カード『R-ライトジャスティス』を発動! 自分フィールドのE・HEROの数だけ相手の魔法、罠を破壊できる! 俺は『魔導師の力』を破壊するぜ!」

 

「やっぱりそうなるか……!」

 

久遠の魔術師ミラ ATK4300/DEF1000→ATK2300/DEF1000

 

「バトルだ! エッジマンで久遠の魔術師ミラを攻撃! 『パワー・エッジアタック』!」

 

「させるか! 罠発動『ハーフ・アンブレイク』! 俺が指定するのは久遠の魔術師ミラ! これによりこのターンミラは破壊されず、俺が受けるダメージは半分になる!」

 

「(くうぅ……! 負けません、私がマスターを守るんです!)」

 

武藤秋人 LP2800→LP2650

 

「メインフェイズ2でカードエクスルーダーを守備表示に変更! ついでに、効果を発動して『魔法族の里』をゲームから除外! ターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー! 俺は速攻魔法『ツインツイスター』を発動。手札1枚をコストに、魔法罠を2枚まで破壊できる。これにより十代、お前の伏せている激流葬とスカイスクレイパーは破壊させてもらうぞ。そしてさらに魔法カード『天使の施し』を発動。カードを3枚引いて2枚を捨てる! そして今墓地へ落した『墓守の偵察者』と『エフェクト・ヴェーラー』をゲームから除外し、『カオス・ソーサラー』を特殊召喚! さらに通常召喚で『墓守の長槍兵』を召喚!」

 

カオス・ソーサラー ATK2300/DEF2000

 

墓守の長槍兵 ATK1500/DEF1000

 

 エフェクト・ヴェーラーは少しもったいない気もするが、エッジハンマーなんか発動されたらまずいからな。このカードで早々に処理する必要がある。

 

「カオス・ソーサラーの効果発動。1ターンに1度、フィールドのモンスター1枚をゲームから除外できる。エッジマンを除外する!」

 

 言葉と共にカオス・ソーサラーが黒くて丸いエネルギー体を生成し発射する。エッジマンはその中に吸い込まれて消えていった。

 

「バトルフェイズ! 墓守の長槍兵でカードエクスルーダーを攻撃!」

「うわっ!」

 

「この時、長槍兵の効果発動! 破壊した守備モンスターの守備力をこのカードの攻撃力が上回っていれば、貫通ダメージを与える!」

 

遊城十代LP2100→LP1000

 

「そして、ミラでダイレクトアタック!」

 

 これが決まれば俺の勝ちだが……どうだ!?

 

「まだだ! 墓地のネクロ・ガードナーの効果発動! このカードをゲームから除外し、攻撃を1度だけ無効にする!」

 

「ちぃっ…!」

 

 やっぱりさっきのテイク・オーバー5の効果で落ちていたか! あいつ、カードを落すのでも運が良すぎるだろ。今度アイツにジャンドでも使わせてみようかな。いや、やめておこう……面倒くさいことになりそうだし。混ぜるな危険ってやつだな。それにしても手札を使い切ってまで押したのに押しきれないとは……!

 

「ターンエンドだ!」

 

「俺のターン! テイク・オーバー5の効果を発動し、このカードを除外してもう1枚ドロー! 俺は手札から『天使の施し』を発動! カードを3枚ドローして2枚を捨てる! よし! 『貪欲な壺』を発動! 墓地にある『カードエクスルーダー』『ネクロ・ダークマン』『E・HEROバーストレディ』『ハネクリボー』『E・HEROフェザーマン』をデッキに戻してカードを2枚ドロー!」

 

 おい、ちょっと待て。手札2枚だったのに3枚に増えたぞ。というか、テイク・オーバー5の効果で墓地へ送られたのはほとんどモンスターだったのか!? さらに今のドローでモンスターと貪欲な壺引いて、壺を発動したとか、どんなドロー運しているんだ十代は!? 改めて見てもまるで意味が分からん……

 

「そして、『E・HEROバブルマン』を召喚!」

 

E・HEROバブルマン(アニメ版) ATK800/DEF1200

 

 ……ウソだろ、今のドローで引いたっていうのか。アニメで見ていた時に十代を見てこんな奴現実にいたら台パンだわ、とか昔友達と話していたが、今目の前にあったら台が粉々に砕けそうなレベルだぞ

 

「バブルマンの効果でカードを2枚ドローするぜ!」

 

 気が付けば十代の手札は一気に4枚になっていた。いったい何をすればそんなドロー運がもらえるのか。主人公補正っていう素敵効果が羨ましすぎる。

 

「そして、手札から『H-ヒートハート』を発動! バブルマンの攻撃力を500ポイントアップ! そしてこれで揃ったぜ!」

 

E・HEROバブルマン ATK800/DEF1200→ATK1300/DEF1200

 

「なぜ今更そのカードを……いや、まて、揃った……? まさか!」

 

 俺は十代の墓地にあるカードリストを確認する。H-ヒートハート、E-エマージェンシーコール、R-ライトジャスティス O-オーバーソウル……4枚のカードの頭文字がそれぞれ『HERO』という文字を完成させている。オーバーソウルはまさか、さっきの天使の施しで?

 

「魔法カード『ヒーローフラッシュ』を発動! 自分の墓地の「H-ヒートハート」「E-エマージェンシーコール」「R-ライトジャスティス」「O-オーバーソウル」をゲームから除外して発動! 自分のデッキから「E・HERO」と名のついた通常モンスター1体を特殊召喚するぜ! 俺はE・HEROスパークマンを特殊召喚!」

 

E・HEROスパークマン ATK1600/DEF1400

 

 スパークマンを…! だが、俺のフィールドにはミラ、長槍兵、カオス・ソーサラー…いずれもバブルマンでは超えられない。ヒーローフラッシュでスパークマンがダイレクトアタックできたとしても、ライフはまだ…

 

「秋人、さっきバブルマンで引いたカード……これが俺の勝利の決め手だぜ」

 

「なに……!?」

 

「俺は手札から魔法カード『ヒーロー・マスク』を発動! 自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動する。デッキから「E・HERO」モンスター1体を墓地へ送り、対象の自分の表側表示モンスターはエンドフェイズまで、この効果で墓地へ送ったモンスターと同名カードとして扱える! 俺はバブルマンをこのターン『E・HEROフェザーマン』として扱う!」

 

 フェザーマンとして、扱う……まさか、十代がバブルマンの効果で引いた2枚のカードは…

 

「そして『融合』! 手札の『E・HEROバーストレディ』と、フィールドのフェザーマンとして扱われるバブルマンを融合! 来い、マイフェイバリットモンスター! 『E・HREOフレイム・ウィングマン』!」

 

E・HEROフレイム・ウィングマン ATK2100/DEF1200

 

「は、ははは……これはもう笑うしかねぇな」

 

「行くぜ、秋人! スパークマンで攻撃! ヒーローフラッシュの効果で、このターンスパークマンはダイレクトアタックできる! 『スパークフラッシュ』!」

 

「ぐっ…!」

 

 スパークマンのスパークフラッシュが俺に直撃する。だが、このターン、攻撃はこれだけではない。まだ、攻撃の残っているモンスターがいる。

 

武藤秋人LP2650→LP1050

 

「さらに、フレイム・ウィングマンで墓守の長槍兵を攻撃! 『フレイム・シュート』!」

 

武藤秋人LP1050→LP450

 

「そして、フレイム・ウィングマンが破壊した墓守の長槍兵の攻撃力分のダメージ、受けてもらうぜ秋人! 俺の勝ちだな!」

 

「……ああ、そして俺の敗北だ」

 

武藤秋人 LP450→LP0

 

 俺のライフが0になると同時に、デュエル場で歓声が響き渡る。この魔法使い族ビート、結構自信があったんだけどな。やっぱりブラック・マジシャンとか使わないときついのだろうか。デッキをデュエルディスクから外してデッキケースへとしまう。すると、俺の横には半透明の久遠の魔術師ミラの姿があった。そのミラはどこかしょぼくれており、半泣き状態だ。いつものイラストのあの表情はどこへやらである。

 

「(すみません、マスター……私の力が及ばないばかりに)」

 

「(気にすることはないさ。次は勝てるように頑張ろう、ミラ)」

 

「(っ……! はい! マスター!)」

 

 そんな風に会話を交わしながら壇上を下りる俺。すると、そこへ十代が駆け寄ってきた。

 

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ、秋人」

 

「ああ、楽しいデュエルだった」

 

「それにしても、これでようやく秋人も精霊が見えるようになったな」

「そのようだ。今ならミラも、ハネクリボーもはっきり見える」

 

 まあ、これからはミラと会話するときは気を付けないといけないな。カードの精霊が見えない人間からすれば何もない空間に1人で話しかけている痛い奴だし。それにしても、また謎が増えたな……どうして、この『久遠の魔術師ミラ』がカードの精霊として俺のカードの中に混ざったのか。確かに自分のいた世界の時はこのカードはノーマルレアで収録され、のちに再録されて何枚か持っていたのは記憶にある。だが、ミラには悪いがそこまで思い入れのあるカードかと聞かれればそういうわけでもない。そもそも、魔法使い族のデッキはあまり使っていないジャンルだった……謎は深まるばかり。それにしても、さっきから視線を感じる……誰だ?

 

「どうした? 秋人」

 

「……気のせい、か? いや、なんでもない。俺たちが最後だし、これで授業も終わりだったな。寮に帰ってまたちょっとデッキを弄ることにするよ」

 

「お、なら俺も付き合うぜ! あと、この前見せてもらったカード、小遣いで買うぞ!」

 

「そうか。まあ、友人価格で安くするよ、十代」

 

 そんな会話を交えつつ、俺と十代は翔や隼人たちと合流し、レッド寮へと帰るのだった。俺の事を見つめる2つの影があるとも知らずに……

 




リメイク前との変更点

ミラの性格
カードの容姿と違い明るい性格でしたが、今回のミラは清楚でありつつどこか幼く、ちょくちょく女の子らしさが出てくる感じです。まあ、イメージがブレブレ、というだけなんですけどね(笑)

十代のチートドロー
今作から一切妥協、躊躇せず十代はドローがチートです。自重しません
インチキドローも大概にしやがれ!

秋人を見つめる2つの影……
いったい何マジシャンと何ガールなんだ……

NEXT 12「中間試験:午前」


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12「月一試験」(前編)



5ジ6ジ様 Ranperu様 冀望のクエン酸様 おやじ様 パンツは食べる派弐型様 ガブリアスナイト様
感想、ご意見、ご指摘ありがとうございました。これからも宜しくお願いいたします

jishaku様 海苔様 ガブリアスナイト様
評価ありがとうございました。頂いた評価以上の作品にできるように努力してまいります

珍しく、デュエルが無い回です。うむ、こんな感じの3話くらい続いたらら更新楽なんだけどなー…(おぃ


Side秋人

 

 定期試験。それは中学、高校、大学で、各々の教科、科目の学習成果や教育効果を通して、成績評価するために定期的に実施される試験のこと。デュエルアカデミアでは月1で試験を行い、クラスの昇格、降格を決めることになっている。その試験はデュエルアカデミアでは6教科がテストとなる。『現代国語』『数学Ⅰ』『理科総合』『現代社会』『英語』そして、『デュエルモンスターズ』の6つ。この学校、なによりも重要視するのは最後のデュエルモンスターズであり、それ以外は正直な話ペラッペラもいいところである。国語、数学、理科、英語は高校時代の事を考えれば問題はない。そもそも、この学校はデュエルモンスターズを除けばその偏差値ははっきり言って低い。50も行ってないんじゃないかな……

 

「やれやれ……まあ、この偏差値ならまだ大丈夫だな」

 

※参考資料

2016年現在の都立偏差値最高第一位は73の日比谷高校 第二位が72の都立国立高校

 

 だが、問題があるとすれば現代社会とデュエルモンスターズだ。現代社会はちょくちょく、デュエルモンスターズの大会優勝やプロリーグで活躍した人間の名前を書いたり、カードの開発者の名前を覚えたりしなければならないからだ。この辺は原作の知識を持っていても無理な話で、勉強を強いられる。で、最後の『デュエルモンスターズ』はさらに曲者。プレイングに関するルールやモンスターの名前などはそこまで難しくないが、このカードはどのパックに収録されているのか、とか、バトルシティで使われたカードのフィニッシャーの名前とか、憶えてられるか! と、匙を投げたくなるレベルの問題がゴロゴロしている。

 

「(マスターは勉強熱心ですね)」

 

「まあ、留年とかにはなりたくないし……どうしたんだ?」

 

「(いえ、お隣の部屋にいる十代さんはもうお休みですし、翔さんは死者蘇生に祈りを捧げていたので……)」

 

 ……原作でもそうだったな、あいつらは。まあ、アイツらは筆記がダメでも実技で何とかなるんじゃないかな。午前中は筆記試験だが、午後はデュエルの実技試験になる。この実技が重要で、寮の人間同士でデュエルを行い、場合によっては筆記がダメでもこっちが良ければ大丈夫ということもあるくらいである。実際、校長がそのデュエルを見に来て昇格の話なんかも持ってきたりするからな。

 

「ある程度勉強したし、もう俺も寝るか……明日遅刻したらシャレにならん」

 

「(それもそうですね……マスター、おやすみなさい。あふぅ)」

 

「ああ、おやすみ」

 

 そう言ってミラは眠そうにあくびをしてカードの中に消えていき、俺もそれに苦笑しながら着替えてベッドに入った。勉強の疲れからかすぐに睡魔は襲ってきて、意識は闇へと落ちて行った。

 

 

 

 

 ……俺は夢を見ていた。それはいつか見た1人の少年がいじめられている夢。集団で1人をいじめている子供たち。止めようとも思うが体は動かず、これは夢か、と理解するには十分だった。子どもたちはその少年を殴り、蹴り、突き飛ばし……あらゆる暴力をその少年へ行った。見ていて不愉快な光景だ。

 

『返して、返してよぉ!』

 

 そしてそれ以上に不愉快になる光景が目に飛び込む。虐めていた少年の1人が、ライターを持ち出し、少年が大切にしていたであろうカードの入ったバインダーに火を付け、遠くへ投げ飛ばす。不愉快だ、もういい、やめてくれ……こんな夢はたくさんだ! 俺は強くこの夢が終わることを願う。段々と変わっていく景色の中、最後にその少年の恐ろしい言葉を耳にする。

 

――コンナ世界、ナクナッチャエバイイノニ……

 

 こうして、俺の世界は暗転した。

 

 

 

 

「っ……!? ハアッ、ハアッ! ゆ、夢……だよな」

 

「(マスター…? おはようございます。でも、まだ6時ですよ……マスター!? すごい汗です……どうしたんですか!?)」

 

 目を覚まして体を起こすと、カードから出てきたミラが慌てて俺に駆け寄ってきた。見ればミラの言うとおり、体中汗だくだった。さっきの夢のせい……か? あの夢、あの少年、あれってもしかして……

 

「(マスター、シャワーを浴びた方がいいですよ。風邪をひいてしまいます)」

 

「……そうだな、ありがとう」

 

 そう言って着替えを用意し、俺はシャワー室へと向かい、シャワーを浴びることにした。それから朝食をとって学校へ。テスト勉強はしたし、問題はないだろう。教室へ到着すると、翔と隼人はすでに教室でテスト前の追い込みをしていた。

 

「おはよう二人とも。十代は?」

 

「安定の寝坊ッス」

 

「一応、起こしたんだなぁ……」

 

 あいつはまったく……いくら筆記試験はそこまで大きな評価をされないとはいえ、0になるのはまずいだろうに。そういえば十代と言えば、今日は本格的に十代と万丈目のデュエルになるのかな。俺が万丈目とデュエルした後日、万丈目はやつあたりとして十代にもデュエルを挑んでいた。その結果は万丈目の惨敗。俺の使っていたHEROよりも性能が劣っていたHEROたちで十代は万丈目をボコボコにしたのだ。はっきり言って俺とのデュエルより悲惨だったから……あれから、万丈目が十代に闘志を燃やしているのはよく見ている。なんというか、世界が修正を施したようなほどに十代のドロー運は素晴らしかったな。そうなるとオシリスレッドの寮の人数的に1人部屋の俺は余ることになる……おれはいったい、誰とデュエルすることになるんだか。そんなことを考えていると、大徳寺先生が教室に入ってきた。どうやら試験が始まるらしい。

 

「じゃあ、これから中間試験の1時間目を始めるニャー! みんな教科書を閉じて、鞄にしまう! そしてかばんは後ろのロッカーに入れるんだニャー」

 

 こうして、月一試験が始まった。

 

 

以下、デュエルモンスターズの筆記試験

 

第一問 デュエル中で作成可能な無限ループを1つ答え、その詳細を書け

 

第二問 第一回バトルシティトーナメント本選出場選手をすべて書け

 

第三問 デュエリストキングダムで必要だった参加証明を4つ答えろ

 

第四問 KC社開発の現在の最新デュエルディスクは第何世代のものか?

 

第五問 特殊勝利条件はどのようなものがあるか

 

第六問 バトルシティにおいて禁止に指定されているカードの代表例をあげよ

 

第七問 デッキが0枚の時、貪欲な壺は発動できるか否かを答えよ

 

第八問 モンスターを特殊召喚したが、『神の宣告』により無効化して破壊され墓地に送られた。死者蘇生で蘇生できるか

 

第九問 モンスター攻撃時にリビングデッドの呼び声で他のモンスターが蘇生した。この場合、バトルはどうなるか

 

第十問 第一回バトルシティトーナメントにおいて残ったベスト4の名前を挙げよ

 

 

 ……と、まあこんな感じで100問の問題が出された。結構わからなかったり忘れていたりするような内容もあったが埋められるだけ全部埋めて後は机に突っ伏して寝ることにするのだった。

 

 

 

 

「秋人、起きて。解答用紙が回ってきてるわよ」

 

「……うん、あぁ、ツァンか。悪い…わかった」

 

 しばらくしてテストが終わったらしく、隣の席に座っていたツァンに起こされて体を起こす。解答用紙を渡して体を伸ばす。うん、良く寝たな……

 

「開始してから30分で寝てたわね……アンタ、ちゃんと問題解けたの?」

 

「まあ、それなりにね……十代たちは?」

 

「なんか、新しいカードパックが売店で出るらしくて、みんな行っちゃったわよ……ボクはそのパックのカードの内容知ってるから行かないけど」

 

 そう言って今回いいのあんまりないのよねぇ、とかため息を吐いているツァン。一応、親がカード開発に携わっているから情報が飛んでくるのだろう。

 

「情報のフライングゲットはずるいと思う」

 

「なっ……しょうがないでしょ!? パパが六武衆の発売データと一緒にリストを送ってきたんだから」

 

 ……まあ、しょうがないと言えばしょうがないけども。そんなことを言いながら欠伸をして席を立つ。時間的にはお昼なので、そんなに売店に人が集まっているなら今のうちに食堂で食事を済ませてしまおう。午後からは実技授業だしな。

 

「なら食堂に行こう。今なら空いているんじゃないか?」

 

「そうね、ボクもテスト勉強のせいでお弁当ないし……」

 

「そういえば、十代たちは売店にいったらしいけど、明日香や藤原たちは…「呼んだかしら?」うぉ!? びっくりした……」

 

 同じく売店か、そう聞こうとしたときに不意に後ろから声が聞こえてくる。後ろには藤原が立っていた。いつの間に俺の後ろに立っていたのか……

 

「さっきお手洗いから帰ってきたところよ。うふふ、ドキドキした?」

 

「ドキッとしたよ……驚く方でな」

 

 これでときめいたら逆にすげーよ。そんな会話を交わしながら俺たちは食堂へと向かう。明日香はももえやジュンコたちと先に行ったらしく、さらに言えば三沢は机の上でしきりに午後のためのデッキの確認をしている為とてもではないが声を掛けることが出来るような空気ではない。なので、結果的に雪乃、そしてツァンの3人で食堂へと赴くことにした。食堂に着けば予想通り、人はいつもより少なく、席は簡単に取れた。みんなそんなに新カードが欲しいのか……とちょっと内容が気になったりもする。

 

「そういえばボウヤ、貴方午後の実技試験はどうなの? 自信のほうは?」

 

「どうだろう。相手は同じオシリスレッドの誰か……のはずなんだけど」

 

 一応、学年ごとのデュエル試験のはずなので何人かの寮で知り合った顔見知りの中の誰かのはずなのだが、人数を考えればピッタリになっている。が、物語というメタ的な話をすれば十代は万丈目とデュエルをすることになる可能性が高い。となると、俺は1人だけ余るんだよな。

 

「オベリスクブルーに2回も勝ってるアンタ相手に、他のオシリスレッドが戦えるのかしら。ボクとしてはいじめになっちゃうんじゃないかって気がするんだけど」

 

「……案外、十代が相手だったりしてな」

 

 万丈目のデュエルの後に、もう一回、みたいな感じでまた十代とデュエルをすることになる可能性がある。

 

「(もし、十代さんだったらまたリベンジを……!)」

 

「(すまんミラ、お前が入るデッキはまだ調整中だ……)」

 

「(そんなぁ……!)」

 

 俺の言葉に、目に見えて落ち込んでいるミラ。まあ、あのデッキだとまだちょっと色々と辛い部分があるからな。もう少し、使えるカードとかの選びも調整しないと十代には勝てないだろう。魔法シンクロ、魔法エクシーズも考えないと勝てない気がしてきた。

 

「ん……?」

 

 そんなことを考えながら食事をしていると、ゾロゾロと多くの生徒たちが食堂へと流れ込んできた。そんな彼らはどこか肩を落としてがっかりしたような様子である。ああ、そういえば購買の新パックは全部どっかの誰かさんが大人買いをしたんだったな……そりゃ誰も買えないわ。

 

「どうしたのかしら? いきなり人が増えたわね」

 

「さあ? 大方、パックを買えなかった人たちが流れ込んできたんじゃない? あれ、十代のボウヤたちでしょう?」

 

 雪乃が指さす先にはカードを見ている十代の姿があった。十代はカードに夢中だったが翔と隼人が俺たちに気が付き、合流する。そして翔たちから俺の予想通り、カードパックは誰かに大人買いをされてもう既に存在しなかったという話を聞いた。まあ、十代だけ1パック残っていたのを手に入れたとのことだが。

 

「それにしても誰なのかしら? そんな大人買いなんて」

 

「生徒が行ったときにはすでになかったんだろ? ってことは授業中に誰か先生とかが買ったんじゃないか?」

 

「それ、本当だったらそうとう大人げないっスね……」

 

 まあ、確かに大人げないが、本土とこの島をつなぐ船が来るのは週に1度。ということを考えれば買い物に欲が出るのかもしれない。というか、購入に制限とかかければよかったのに、トメさんも。俺は午後の試験に使用するデッキを考えながら食事の箸を進めることにするのだった。

 

 

 

 

デュエル場

 

「万丈目! これでお互いライフは1000ポイントずつ! ここで攻撃力1000以上のモンスターを引いたら面白いよな!」

 

 午後になり、試験が始まった。本来ならば同じ寮の人間同士…つまり、同じクラス同士でのデュエルなのだが、今行われているのは十代VS万丈目のデュエル。万丈目が無理を言って十代とのデュエルを試験官に頼み、デュエルに至る。

 

「戯言を! そううまくいくものか!」

 

「でも引いたら面白いよな! ドロー! へへっ! 俺はフェザーマンを召喚!」

 

E・HEROフェザーマン ATK1000/DEF1000

 

「フェザーマンで攻撃! フェザーショット!」

 

「ば、ばかな!この俺がぁぁぁ!」

 

万丈目LP0

 

 十代のドロー……流石、としか言いようがないな。まあ、しいて言うなら昔アニメを見ても思ったがやっぱりXYZドラゴンは合体させないで殴りに行けばよかったのではなかろうか。そうすれば万丈目勝っていただろうに……慣れないカードを使うから、なんだろうけども。

 

「それにしても、俺のデュエル相手は誰だ……」

 

 俺は小さくため息を吐く。ちなみにだが、みんなそれぞれ試験を受けに行ってしまったのでここには俺一人だ。ミラに至ってはまだデッキが完成していないゆえに出れないということで凹んでカードに閉じこもってしまった。デュエルは終わっているのだろうが、勝敗などを書いて提出する列に並んでいる為戻ってきていない。俺は不戦勝とか、そういうのは無いよな?

 

『武藤秋人君、デュエルステージまで上がってきて』

 

 ……どうやら、そういうわけではないらしい。それにしても今の、響先生の声だよな? あの人オシリスレッドの主任だし、何か考えがあるのだろう。そう思ってデュエルディスクを腕に装着して壇上へと上がる。先生の事だ、誰か適当に生徒を捕まえて交渉してくれたのだろう……そう思っていた。だが、俺が壇上に上がったときにその目の前にいる人物を見て思わず顔が引き吊った。

 

「……響先生? どうして先生が、俺の前に“デュエルディスクを構えて”立っているんでしょうか。先生、さっきまでジャッジでしたよね」

 

「ええ、そうよ。貴方は特別に、私が相手になるわ」

 

「……マジすか」

 

「マジよ」

 

 そう言いながら笑顔で答えてデュエルディスクを起動させる先生。ちなみに、先生のデュエルディスクはクロノス先生が使うような教師用ではなく、生徒たちが持っているのと同じ一般的なデュエルディスクである。弟のプロデュエリスト、響紅葉でも勝てないって話のデュエリスト、響みどり……十代や雪乃、万丈目には悪いが、相手は完全に格上と見ていいだろう。唯一、俺のアドバンテージと言えば俺が先生の使用するデッキを何か知っているというところだけだ……だが、あのデッキ、知っていたところでどうにもならないくらいの展開力と強さを持ってるんだよなぁ

 

「勝てる気がしねぇ……」

 

「あら? 龍導院先生を倒したというのに随分と弱気ね?」

 

「……その龍導院先生より強いじゃないですか、先生」

 

 前に一度、教師同士のデュエルを見学したことがあったが、響先生は俺が入学試験の時に戦った龍導院先生を圧倒しているのを見ている。その時は響先生の強さに驚かされたくらいだ。

 

「私は結構君の事を評価しているつもりよ? 秋人君」

 

「というと?」

 

「あなたと十代君はオベリスクブルーの万丈目君と闘って勝っているのよ? ここ数年じゃ、そんなことはまったくなかった……故に、このデュエルでも期待するわ」

 

 そう言ってウィンクする先生。そう言われてしまっては頑張るしかないではないか……プロデュエリストさえ勝てない圧倒的強者に……。俺は一つ深呼吸をして気持ちを切り替え、デュエルディスクを構えた。

 

「授業が終わるのはあと20分といったところね……秋人君、最高の20分間にしましょう。期待しているわ!」

 

「よろしくおねがいします……!」

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 




リメイク前との変更点

中間テスト問題
結構増やしました

虐めのシーン
描いてて夢に出てきたので少しマイルドにしました……いじめ、よくない

VSみどり先生
リメイク前ではゆきのんでしたが、みどり先生です。次回、堕天使デッキ!

NEXT 13「月一試験」(後編)


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13「月一試験」(後編)

1日1回の更新だといったな、あれは嘘だ……
皆さんこんにちは、秋風です。まさかの1日2回更新……アイディアがすぐ浮かんだので投稿することにしました。まあ、今日の0時にも投稿できるように頑張ります。ペースが遅いとも意見を頂いていますし、こういう風にたまに更新できるときには更新しようかと思っています

読んでいて途中で飽きたという方もいらっしゃるようですし、そうならないためにも頑張って更新していきますのでよろしくです

万屋よっちゃん様 うさぎたるもの様 Galcia様 ジェガン様 荒波に飲まれる者様 赤鉄様 遍ねく様 緑茶つー様 火星の紳士様 龍音様 メソ…様 Ranperu様 親爺さん様 0・The Fool様 遊霧様
感想、ご意見、ご指摘ありがとうございました。これからもよろしくお願いします


ジェガン様 ヒデカズ/叶多様 龍音様 おやじ様 そらいおん様 青坂様 仲島様
小説評価ありがとうございました。頂いた点数以上の小説を目指して頑張ります

引き続き、小説の感想、ご意見、ご指摘、評価をお待ちしております。
今回は少し駆け足になってしまった感じが少し否めないので、こうしたらいいのでは?という修正点があればよろしくお願いします

第13話です。どうぞ


Side秋人

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

武藤秋人VS響みどり

 

武藤秋人LP4000

響みどりLP4000

 

「先攻は秋人君、貴方よ」

 

「それじゃ、遠慮なくいきます…俺のターンドロー! モンスターを1枚セットしてターンエンドです」

 

「セットだけ……か。今回はどんなデッキなのかしらね? 私の知る限り、色々とデッキを使っているみたいだけど」

 

「それは見てのお楽しみ、ということで1つ」

 

 俺が先生に対してそういうと、それもそうねと言ってデッキへ手をかける。

 

「私のターン、ドロー! 私は手札から『ヘカテリス』を墓地に送り効果を発動。デッキから永続魔法『神の居城-ヴァルハラ』を手札に加える。そしてそのまま発動。1ターンに1度、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、手札から天使族モンスター1体を特殊召喚できる。私は手札から『堕天使アスモディウス』を特殊召喚!」

 

堕天使アスモディウス ATK3000/DEF2500

 

「……ヴァルハラから堕天使が出てくるのはどうなんでしょう、先生」

 

「そんなこと言っても、召喚は取り消してあげないわよ? バトルフェイズ! アスモディウスでセットモンスターをAttack!『デス・パレード』!」

 

「セットしていたのは『グリズリーマザー』。このカードが戦闘で破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の水属性モンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚できる。俺はデッキから……『カエルスライム』を攻撃表示で召喚!」

 

カエルスライム ATK700/DEF500

 

「カ、カエルスライム!?」

 

 フィールドに現れるのはカエルの頭の形をしたスライム。フィールドに現れた瞬間、周囲の観客席から驚きと悲鳴が聞こえる。まあ、そうだろうな……ソリットビジョンのシステムを初めて呪ったわ。正直、ちょっと気持ち悪い。今回はレベルの低いモンスターを中心としたデッキだ……まあ、完全に相手の不意をつくデッキなんだけどな。

 

「カエルスライム……珍しいカードを使うわね」

 

「ええ、今回の俺のキーカードです」

 

 キーカード、という俺の言葉に響先生は少し考えた様子だったけど、それをやめてメインフェイズ2へと移る。

 

「ターンエンド……さて、どんなふうに戦うのか見せてもらうわ」

 

「俺のターンドロー! 俺は2枚目のカエルスライムを守備表示で召喚します」

 

カエルスライム2 ATK700/DEF500

 

「2枚目……何をしてくるのやら」

 

「すぐにでもお披露目したいですけど生憎準備が終わってないので粘ります。さっき特殊召喚したカエルスライムも守備表示にしますね。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 周囲は何がしたいのかわかっていないらしい。その中でも唯一ニヤニヤ見ているのが十代だ。アイツはアイツでこのデッキの内容知っているからな。たまに俺の部屋でカードいじったりしているせいで。

 

「私のターンドロー……いったい何を狙っているのかは知らないけど、私は手札から魔法カード『トレードイン』を発動。『堕天使スペルビア』を墓地へ送ってカードを2枚ドロー…さらに、『おろかな埋葬』を発動して『堕天使ゼラート』を墓地へ送るわ」

 

 着々と堕天使が墓地へ……すぐにでも仕掛けてくるのかな。まだ手札にカードは揃っていないから時間を稼がないと。

 

「バトル! カエルスライムへアスモディウスでAttack!『デス・パレード』!」

 

「させません。永続罠カード発動、『グラヴィティ・バインド-超重力の網-』。このカードがフィールド上にある限りレベル4以上のモンスターは攻撃を行えません」

 

 攻撃しようとしていたアスモディウスがグラヴィティ・バインドの網にかかり、攻撃をストップさせた。一方のカエルスライムはその網の目のサイズが大きいためかすり抜けて跳ねている。おいこら、跳ねるな……ビチャビチャいってるじゃん

 

「仕方がないわね……カードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

「俺のターンドロー! 『強欲な壺』を発動してカードを2枚ドロー…カードを1枚伏せてターンエンドです」

 

「私のターンドロー……手札から『死者蘇生』を発動。墓地の『堕天使スペルビア』を特殊召喚! このカードの召喚に成功した時、墓地から堕天使を1枚特殊召喚できる。私は堕天使ゼラートを召喚するわ」

 

堕天使スペルビア ATK2900/DEF2400

 

堕天使ゼラート  ATK2800/DEF2300

 

 フィールドに並び立つ3体の堕天使たち。放たれるプレッシャーに思わず圧倒される。藤原とのデュエル以来だな、こんなに上級モンスターが並び立っている状況というのは。ただ、統一されたシリーズのモンスターが並んでいるとまた違う感じがするが……しかし

 

「重力の網の効果で攻撃ができないのになぜ、という表情ね。秋人くん」

 

「……引いたんですか」

 

「ええ、もちろん。手札から『大嵐』を発動! フィールドの魔法、罠を全て破壊する!」

 

 だよな。そうじゃなきゃこんなにフィールドに展開をしない……だが、俺もただでやられるようにデッキを組んではいない!

 

「破壊される瞬間、罠発動『和睦の使者』! このターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージは0になり、自分のモンスターは戦闘では破壊されない!」

 

「なるほど、本当に粘るつもりのようね。ターンエンドよ」

 

「俺のターン! 手札から『天使の施し』を発動。3枚ドローして2枚を捨てる……来たな。俺は3枚目の『カエルスライム』を召喚!」

 

カエルスライム3 ATK700/DEF500

 

 フィールドに並び立つカエルスライム3体。うん、普通に状況がシュールだな。堕天使3体が並び立つフィールドに対してこちらは3体のカエル。圧倒的にこっちは弱い……会場でも一体何を考えているのかと疑問の声が上がっている。まあ、そうだろうな……この世界での概念に「攻撃力の低いモンスター」「レベルの低いモンスター」というのは“ハズレカード”として見向きもされない事が多い。実際、十代のHEROは弱いモンスター、という評価だったしな。

 

「3体のカエルスライム……それで私の堕天使たちにどう立ち向かうのかしら?」

 

「それでは、お見せします……十代風にいうと、カエルたちにはカエルたちの戦う舞台というのがあるんですよ、先生! 俺はフィールド魔法『湿地草原』を発動!」

 

 デュエル場が湿地草原へと姿を変えた。その影響か、カエルスライムたちのテンションが上がっているような気がする。

 

「このフィールドカードは自分フィールドの水族・水属性・レベル2以下のモンスターの攻撃力を1200ポイントアップさせる! よって、カエルスライムの攻撃力を1200ポイントアップさせる!」

 

カエルスライム1 ATK700/DEF500→ATK1900/DEF500

 

カエルスライム2 ATK700/DEF500→ATK1900/DEF500

 

カエルスライム3 ATK700/DEF500→ATK1900/DEF500

 

「そしてさらに、装備魔法『下克上の首飾り』を3枚、カエルスライム1とカエルスライム2、そしてカエルスライム3にそれぞれ装備する! バトルフェイズ!」

 

「……! バトルフェイズ!? 確かにカエルスライムたちはパワーアップしているけど攻撃力はまだ……」

 

「それはどうでしょうね、先生! カエルスライム1で堕天使ゼラートを攻撃! この瞬間下克上の首飾りの効果を発動する! このカードの装備モンスターがバトルするとき、そのバトルするモンスターとのレベル差×500ポイント、攻撃力をアップさせる! カエルスライムとゼラートのレベル差は6! よって3000ポイントアップさせる!」

 

カエルスライム1 ATK1900/DEF500→ATK4900/DEF500

 

「攻撃力、4900!? ……させないわ! 罠発動『獄炎』! 手札1枚をコストに攻撃モンスターを破壊し、その攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

「げっ……!」

 

武藤秋人 LP4000→LP1550

 

 カエルスライムが攻撃のために声を出そうとするが、その瞬間にカエルスライムは燃え上がり爆発してしまう。だ、ダメージがでかい。だが……!

 

「2体目は防げないはず……! 2体目のカエルスライムでゼラートを攻撃! いけ!」

 

「っ……!」

 

響みどりLP4000→LP1900

 

「そして、3体目のカエルスライムでスペルビアを攻撃! これで俺の勝ちです!」

 

「それはどうかしら? 速攻魔法『収縮』を発動! 攻撃してきたカエルスライムの攻撃力を半分にするわ」

 

カエルスライム3 ATK4900/DEF500→ATK2450/DEF500

 

 カエルスライムが攻撃として声を上げて攻撃するが、その攻撃はスペルビアに弾かれてカエルスライムに激突。爆発してしまった。

 

「うわっ……!」

 

武藤秋人 LP1550→LP1200

 

「あなたの組み立てた作戦は見事だったわ。高いレベルのモンスターを使う人への対策といったところかしら?」

 

「その通りです。まあ、他のカードも入れていますけど。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

「私のターンドロー! そろそろ決めようかしら……バトルフェイズ! スペルビアでカエルスライムをAttack!」

 

「罠発動! 『ガード・ブロック』! 相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動! 戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする!」

 

「けど、2度目は防げない……でしょ? 秋人君。アスモディウスでダイレクトアタック!」

 

「て、手札から『バトルフェーダー』の効果を発動! ダイレクトアタックを受けるとき、このカードを手札から特殊召喚してその後バトルフェイズを終了する!」

 

 あ、あぶねぇ……今のドローで引いていなかったら負けていた。手札からの防御用カードは何枚か入れていたけど、さっきの段階では手札はなかったからな。というか、これで受けて負けかと思ってたわ。

 

「よく防げたわね。カードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

「俺のターン……ドロー! ……! 『命削りの宝札』を発動! デッキからカードを5枚になるようにドローし、5ターン後にすべて捨てる!」

 

 ここでこのカードを引けたのは運がいい。だけど、この5枚で2体の堕天使に通用するかどうか……通ると信じよう。

 

「俺は手札から『サイクロン』を発動! 先生の伏せているカードを破壊する!」

 

「伏せられていたのは『堕天使の幻惑』……このカードは相手の攻撃宣言時にしか発動できないカードよ。よってそのまま墓地へ送られる」

 

 これでフィールドには2体の堕天使のみ。これなら行けるはずだ。

 

「手札から俺は『スピード・ウォリアー』を召喚! このカードは召喚したターン、元々の攻撃力を倍にする! そして装備魔法『進化する人類』をスピード・ウォリアーへ装備! 自分のライフが相手のライフより少ない時、装備モンスターの元々の攻撃力は2400になる」

 

スピード・ウォリアー ATK900/DEF400→ATK2400/DEF400

 

「……なるほど、つまり」

 

「そう、スピード・ウォリアーの効果で攻撃力は倍になる! バトルフェイズ! スピード・ウォリアーで堕天使スペルビアを攻撃! 『ソニック・エッジ』!」

 

スピード・ウォリアー ATK2400/DEF400→ATK4800/DEF400

 

 スピード・ウォリアーが加速してスペルビアへと向かっていく。

 

(やったか…!?)

 

 俺がそう思った途端、スペルビアへソニック・エッジが当たる直前に互いのソリッドビジョンが消え、スピード・ウォリアーの攻撃は当たることはなかった。

 

「「!?」」

 

 一瞬、互いに何が起きたのかと驚くが、その直後にチャイムが鳴り響く。つまり、時間切れである。先ほど言っていた先生の制限時間である20分が経ってしまったのだ。俺の世界の大会などでは時間切れになってもそのターンの終わりまで行わせるのと、エキストラターンが存在する。しかしこのデュエルアカデミアでは生徒の数の多さゆえにきっちりそこで終わりということになっているのだ。故に20分経ってしまうとどんな状況であろうと終わり、引き分けとなってしまう。後数秒早ければ、俺の勝ちだった……が、残念ながらそれは叶わなかった。悔しいな。そう思っていると、みどり先生が近づいてくる。

 

「お疲れ様、秋人君。いいデュエルだったわね……もし、制限時間がなかったらあなたの勝ちだった。間違いなくね」

 

「ええ、それだけに悔しいです」

 

「でもいいデュエルだったわ。レベルの低い、攻撃力の低いモンスターたちを駆使して私の堕天使を追い詰めたんだから……それに、みんなもびっくりしているんじゃない?」

 

 先生の言葉とともに、会場では拍手が巻き起こる。そして「がんばったな!」「やるじゃないか!」と、クラス関係なく声援が聞こえていた。引き分けなのでクラスの昇格などはないが、先生も評価には期待してね、と言ってデュエル場を降りていった。俺もデュエル場を降りると十代たちが駆け寄ってきていた。十代、翔、隼人、三沢、そして藤原、ツァン、明日香である。

 

「おつかれ秋人! 惜しかったな」

 

「ああ、十代。お疲れ様……もうちょっとだったんだけどな」

 

「そうね、驚きだわ。ボウヤ……レベルの低いモンスターでもあんなふうに活用できる。今日は勉強になったわよ」

 

「そうね、ボクも面白いデュエルだったと思う」

 

 そう藤原やツァンが言ってくれたり、更には三沢が後でデッキレシピを教えてくれ、と頼んできたりとすぐに賑やかな場となった。そんな感じに会話を交わしながら、デュエル場を後にする俺たち。だが、そこでなぜか悪寒が走る。誰かに見られたような、そんな視線。それを感じた直後、おぞましいほどに寒気が走った。

 

「……!?」

 

「? 秋人、どうした?」

 

「今、誰かに見られたような……?」

 

 視線を感じたのは観客席だが、多くの生徒達が試験を終えて帰ろうとしていてごった返しているため、誰が俺を見ていたのかはわからない。誰かに見られた、というだけで手汗が出ている。いったい、今のは何だったのか……そんな不安を抱えながらも、俺は十代たちとデュエル場を後にした。

 

 

*

 

 

デュエルアカデミア 食堂

 

『お疲れ様ー!』

 

 初めての月一試験が無事に終わり、各自のPDAにはそれぞれ結果が送られてきた。筆記はマークシートだったし、午後は実技試験、とはいえこんなに早く試験の結果が出るとは先生たちどれだけ頑張ったのだろうか。それとも、脅威のKC社の技術なのか……まあ、気にしたら負けだろう。結果は全員が補習もなく終わりという結果になった。なので、みんなでパーティのようなものをしたいと十代が言い出し、デュエルアカデミアで食事を取ることになったのだ。基本、ここの食堂は夜にはやっていないのだが、月一試験の日は俺達のように騒いだりするやつや、採点を終えて集まる先生のために1日だけ夜も営業している。

 

「それにしても十代は良かったのか? ラーイエローにならないで」

 

「俺は赤が好きだしな。それに、クラスなんてどこだろうとデュエルはできるし」

 

「……そうか」

 

 三沢の問いに答えながらエビフライを頬張る十代。一応、十代は万丈目に勝ったということでラーイエローへの昇格を言い渡されたのだが十代はそれを拒否し、オシリスレッドに残ることにしたのだ。その十代の言葉に三沢は少し残念そうにしている。確かに十代の言うとおり、クラスが違うことでの格差などは少しずつ無くなっているので十代にとってはクラスの昇格など些細な事なのだろう。まあ、仮に昇格しても荷物を移動させるのも大変だと思うのは……

 

「ボウヤも惜しかったわね。あと少しで響先生を倒せたのに……倒せていたら、イエローには上がっていたと思うわよ」

 

「ああ、そうだな……けど、次は勝つさ」

 

 次はああいうデッキではなく、もっと殺意の高いデッキを使用するしか響先生に勝つ手段はなさそうだけど……それでも勝てるかはわからないな。先生、ちょっと手を抜いている感じもしたし。

 

「それでも成績は上位ね。ボクだって今回かなり勉強したのに」

 

 言いながらツァンはその俺の成績表と自分の成績表を見比べている。5教科については俺も中身が大学生だからな、落ちないように復習した故に点数はほとんど落とさなかった。デュエルモンスターズは結構ミスもあったが、それでもマシだ。これが期末試験で更に広がるとなると、少し不安にもなるけどな。

 

「でも、今回は秋人のデッキには驚かされたわ。ローレベルモンスターデッキ……そんなデッキもあるのね」

 

「それだけどな明日香、あれだけじゃないぞ、ローレベルデッキ。例えばだけど、ワイトを使うワイトデッキとか」

 

「ワイトって……あのワイト? あのモンスターも戦えるの?」

 

 と、不思議そうに首を傾げる明日香。あれ? でもワイトキングとかって出てきたのはGXの時代とかだった気がするんだけどな……まあ、やっぱりレベルの低いモンスターたちはあまり認知されていないんだろう……使い方によっては強くなるのになぁ、なんて思いながら明日香に説明をしたり、十代たちと騒いだりするなどして楽しく夕食を過ごすのだった。だが、その間も俺はあの時感じた視線のことが忘れられなかった。

 

 

 それからしばらくして食事会は終わりを迎え、全員で寮の方へと歩き出した。帰ったらすぐに就寝時間だから急いでデッキとかもしまわないと。そう思いながらみんなと歩いていると、一人のオシリスレッドの生徒が歩いてきた。その生徒は俺達が通り過ぎると俺に声をかけてきた。

 

「よぉ武藤。久しぶりだな」

 

「……誰だ?」

 

 突然声を掛けられて足を止める俺たち。だが、俺はその生徒を見たことがない……同じオシリスレッドならば、食堂なり廊下なりで顔を合わせることがあるはずなので、どこかで見たことはあるはずなのだが。それに、武藤秋人を知っているようだが、俺は知らないので首を傾げるしかないのだがなぜだろう……なんだか、コイツと目を合わせたくない。

 

「知り合いか? 秋人」

 

「心あたりがないんだが……どこかで会ったか?」

 

 十代が俺に聞くが、俺もよくわからないのでそうその生徒に聞いてみた。すると、俺の言葉に一瞬呆けたような顔をした生徒だったが、すぐにその顔を歪ませ笑い始めた。まただ、コイツの笑いがすごく不快に感じる。

 

「あっはっは! 嘘だろお前! 『お前』が『俺』を覚えていないわけないだろう!」

 

「……どういうことだ?」

 

「本当に忘れたのか? よほどショックだったみたいだな……あの頃はさんざん“遊んで”やっただろ? なぁ? ……小学校の時によぉ」

 

 そう言われた瞬間、突然俺の脳内でフラッシュバックが起きる。それは今日見た夢の記憶。一人の少年が何人もの同年代の子どもたちにいじめられている時の姿。殴られ、蹴られるという暴力、そして周りからの罵倒。挙句の果てに大事にしていたであろう、デュエルモンスターズのカードが入ったファイルに火を放たれるという、あの光景……そして、その顔が影でハッキリとしなかった子どもの一人の顔が鮮明に見え始める。カードを燃やした張本人の顔……今、目の前にいる男子生徒の顔が…!

 

「っ…! ……!?」

 

 急に俺の身体は震えだし、目からはなぜかボタボタと流れ落ちる。体の震えを止めようとするも止まらない。そして突如、俺はその場に膝をついてしまった。

 

「秋人!?」

 

「どうしたの秋人!?」

 

 体の震えは未だ止まらず、俺は倒れそうになる体を十代に支えられる。そして、ようやく理解した……この生徒は、武藤秋人を虐めていた人間の一人なのだと。

 

「思い出したか? ははは、相変わらず情けない顔してやがる。その顔はあの時と変わらねぇなぁ」

 

「お、ま…え……うぐ、うぇ!」

 

 うまく言葉も出ず、歯もガチガチと震え始めている。挙げ句の果て、情けないことに吐き気まで出てきてしまった。これは、武藤秋人の「身体」がこの男に対して恐怖しているというのだろうか。そんな俺を見てか、十代がその笑っていた生徒を睨みつける。

 

「お前! 秋人に何をしたんだよ!」

 

「別に『今は』何もしてないさ……ガキの頃に、遊んだ仲だぜ。俺達が一方的に、だがな」

 

「……貴方、確か去年中等部で問題を起こして停学処分になっていた生徒ね。カツアゲ、暴行、夜遊び、強制のアンティルールデュエル、その上禁止カードを詰め込んだデッキでの強行デュエル、さらにデュエルディスクの改造……そのせいで進学はオシリスレッドになったという話も聞いていたけど、本当だったようね」

 

 明日香がそう言いながら「遊んだ仲」というのを理解してか、同じくその生徒を睨みつけた。本来、デュエルアカデミアに中等部からいる人間は自動的にオベリスクブルーへと昇格できる。だが、その生徒は問題を起こして停学になったせいで退学こそ免れたがオベリスクブルーからの入学はできなかったようだ。

 

「はっ、それがどうした?それに、お前らには用はねぇんだ……俺はそこで蹲っている泣き虫君に用があるんだからよぉ」

 

「お、れに……?」

 

「そーだ、お前にだ……お前、どうやってあんなカード手に入れたんだぁ? お前が持っていたカードは1つ残らず灰にしてやったはずなのによぉ……しかも、あの先公にも勝てるほどの実力は無かったはずだぜ? それが気になってよぉ」

 

「カードを、は、灰ですって……? アンタ、秋人にそんなことをしたの!?」

 

 ツァンの言葉に、生徒は笑いながら「そうだ」と応えて笑っていた。

「俺だけではなく、当時はクラスの殆どが加担していたなぁ……“あの”伝説の決闘者が親戚にいるくせに決闘はからっきし、その上カードを集めることしかできない根暗と来れば、俺達みたいなのが可愛がる的でしかなかったからなぁ……! そうだろ? 武藤遊戯の従兄弟、武藤秋人君よぉ!」

 

 その生徒の言葉に、俺の意思とは反してその体の震えが増し、さらには逃げ出したいという恐怖心まで出てくる始末。そして同時に巻き上がってくる憎悪。許せない、許せない、許せない……そんな言葉が頭に響き渡ると、俺の中で何かがはじけ飛んだ気がした。

 

 

Side十代

 

 まさか、秋人が遊戯さんの従兄弟だったなんて……だけど、そんなことで誰かを虐める理由になんてならねぇ! 何より、秋人は秋人で、遊戯さんは遊戯さんのはずだ。こいつも、それに秋人を虐めていたっていう連中も許せねぇ……!

 

「オラ、いつまで泣いてんだ。前みたいにカードを渡せよ。また灰にしてやるからよぉ」

 

「そんなことさせるかよ!」

 

 俺はそう叫ぶと、近寄ろうとする生徒の前に立ちはだかる。すると、その生徒はどこか俺のことを馬鹿にしたかのように笑っていた。

 

「ハッ、友情ごっこか? 優しいねぇ……ならお前が俺にカードを渡すか? ああ?」

 

「誰がお前になんかカードを渡すか! デュエルだ。お前が勝ったら、俺のカードを……全部やる」

 

「アニキ!?」

 

「ほーう? それはおもし「ただし、俺が勝ったら、もう二度と秋人に近づくな」くくく、いいぜ、いいぜ、面白い! そのデュエル受けてやろう」

 

 俺の言葉にみんなが驚く。俺だって本当はこんな風にデュエルをしたくない。だけど、目の前で友達が苦しんでいるなら助けたい。それに、こんな奴に負けるつもりはない。こんなカードを大切にしないようなやつ、決闘者でもなんでもねぇ! そう思いながら俺はデュエルディスクを腕に装着する。

 

「くくく、面白い! 良いだろう、デュエルを……おいおいおい、何やってんだお前」

 

「何が……って、秋人!?」

 

 気配がしたので横を見ると、そこには腕にデュエルディスクとデッキを装着した秋人の姿があった。だが、その秋人の様子がどこかおかしい。目は虚ろで、焦点が定まっていない。それに、どこか雰囲気がいつもと違う気がした。

 

「どいて、くれ……俺がデュエルをする」

 

「秋人……!? だけどお前……」

 

「いい、から……十代が、やるんじゃ、意味が無いんだ」

 

 そういって俺の前に立ち、秋人がデュエルディスクを展開した。そんな様子に秋人を虐めていた生徒はニヤリと笑ってデュエルディスクを展開する。

 

「お前から来るとはなぁ……どうせ今日のデュエルだってイカサマだったんだろぉ!? お前が強いわけねーもんなぁ!」

 

「……お前と言葉を交わす気は、ない。とっととこい」

 

「ほざきやがって雑魚が! 潰してやるぜ!」

 

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 デュエルが、始まった。

 




リメイク前との違い

VS響先生の堕天使デッキ
本気出したら秋人のデッキは今回瞬殺だったかもしれん

秋人のデッキ変更
前は天使パーミでしたが、今回はカエルです。そろそろエクシーズとシンクロは出さないとなぁ……

勝敗
まさかの引き分け。決闘小説でこういうシーンはあんまりないかな? ということで導入。まあ、結果的には秋人の勝ちなんですけどね

ゲス生徒その2
本物の武藤秋人のいじめの主犯格です。ちなみに、私も昔カードを燃やされるということに似たようなことやられました。私の場合は発覚して相手の親が弁償してくれましたけどね…


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14「復讐の決闘」

遅くなりました、なんとか14話を更新です。
何とか深夜に挙げられてよかった……

日光岩新アカ様 シア・スターダスト様 スターダスト様 ちにゃ様 うさぎたるもの様 万屋よっちゃん様 Ranperu様 肉々しい肉様 本能寺様 ジェガン様 暗色様 navi様
感想、ご意見、ご指摘ありがとうございました。これからもよろしくお願いします

黒兎参様 本能寺様
小説評価ありがとうございました。頂いた点数以上の小説を目指して頑張ります

引き続き、小説の感想、ご意見、ご指摘、評価をお待ちしております。
今回は秋人(?)のデュエルです、ではどうぞ


Side十代

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

武藤秋人VSオシリスレッド生徒

 

武藤秋人 LP4000

オシリスレッド生徒 LP4000

 

「先攻はもらうぜぇ!」

 

「……好きにしろ」

 

「ドロー! くくく、俺はモンスターをセット、カードを2枚セットしてターンエンド!」

 

 始まった秋人とオシリスレッドの生徒のデュエル。どう見ても、秋人の様子がおかしい……それは、ここにいる全員が思うことだった。アイツを相手に、秋人はいったいどんなデッキを……

 

「俺のターン、ドロー…俺は手札から魔法カード『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』を発動。自分フィールドに『希望皇ホープ』と名のつくモンスターがエクシーズ召喚された時、500ポイントのライフを払い、カードを1枚ドローできる」

 

 ホープのサポートカード? ということは、エクシーズデッキか! それなら秋人は負けないはずだ!

 

「エクシーズ召喚だぁ? 知らない召喚方法のモンスターか……聞いた話じゃ、テメーシンクロ召喚とかいうよく知らねー召喚もしているんだってなぁ。俺が勝ったらよこせよ! そのカード全部!」

 

「うるさい、黙れ、喋るな…俺は手札から『ゴブリンドバーグ』を召喚。このカードの召喚に成功したとき、手札からレベル4のモンスターを特殊召喚する。『アステル・ドローン』を特殊召喚」

 

ゴブリンドバーグ ATK1400/DEF0

 

アステル・ドローン ATK1600/DEF1000

 

 レベル4のモンスターが2体! ってことはエクシーズ召喚か! 俺がそう思っていると、ツァンが俺の横で不安そうな目で秋人を見ていた。

 

「ん? どうしたんだツァン」

 

「……秋人、多分正気じゃないわ」

 

「え? なんでだよ。アイツの挑発に動じず、プレイできてるぜ?」

 

「バカ。アンタ女子寮でのデュエルのことを忘れたの? 秋人の言葉を」

 

 秋人の言葉? あいつ、あの時何か言ってたっけ? 確か雪乃の奴とデュエルをすることになって、それで……

 

―――俺がこのデュエルに勝ったら、このデュエルの事は秘密にしてほしい

 

「あ……! そうか、エクシーズ召喚!」

 

「十代のボウヤの言うとおり……ボウヤはあれだけエクシーズ召喚を晒すことを嫌がっていた。なのに、それなのに今、エクシーズ召喚をしようとしている。冷静ではあるけど、今のボウヤにはおそらく……あの生徒を倒すことしか、頭にない」

 

「なあ、エクシーズ召喚ってなんだ?」

 

 そう不思議そうに三沢と隼人が俺に聞いてくる。そうか、二人はあの時はいなかったから知らないのか。俺はデュエルを見ながら二人にエクシーズ召喚について説明する。そうしている間にも、秋人はプレイを続行していた。

 

「俺はフィールドのゴブリンドバーグとアステル・ドローンでオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚……『No.39希望皇ホープ』」

 

No.39希望皇ホープ ATK2500/DEF2000

 

 フィールドに降臨する希望皇ホープ。だけど、俺はその召喚されたホープに違和感を覚える。まるで、秋人の怒りに連動しているかのような感じだ。前に見たホープの時と、どこか違う。

 

「貴様に説明しておく。エクシーズ召喚は2体の同じレベルのモンスターをエクシーズ素材として召喚する召喚方法だ」

 

「ほぉう? いいカード持ってるじゃねェか…とっとと倒してお前から貰うとするか。アハハハハ!」

 

 先程から秋人の言葉に対して挑発というか、余裕を見せているアイツ。余裕を見せているのも今のうちだ。

 

「……貴様に渡す気など毛頭ない。ホープが召喚されたことで『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果発動。ライフを500払い、カードを1枚ドローする。さらに、アステル・ドローンがエクシーズ素材になったとき、カードを1枚ドローする」

 

武藤秋人 LP4000→LP3500

 

 結果的にカードを2枚ドローできるってことか。なんでだろう、秋人がカードを扱うごとに、カードが苦しんでいるような……? なんだ、すげぇ嫌な予感がする。

 

「バトルフェイズだ。希望皇ホープでセットモンスターを攻撃する」

 

「おっと! セットモンスターは『黒き森のウィッチ』だ! カード効果発動、デッキから守備力1500以下のモンスターを手札に加えようかぁ…! はははは!」

 

 ……ん? ちょっと待て、黒き森のウィッチだって? つい最近に禁止カードになったばかりのカードじゃないか!

 

「そうだなぁ……お前をとっとと倒す準備だ。こいよ、『デーモンの召喚』を手札に加える!」

 

「ちょっと待ちなさいよ! 黒き森のウィッチはこの前禁止カードに指定されたはず!」

 

「知らないなぁ! 生憎俺は停学中でカードに触ってなくてなぁ……デュエルディスクのアップデートもしてないからなぁ」

 

 ツァンの言葉に、そう俺たちを馬鹿にしたかのように答える。あ、あの野郎! 絶対わざとアップデートしてないだけだろ! どう考えてもわかってて入れてやがる。

 

「……どうでもいい。カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

「そう言っていられるのも今のうちだぜぇ…? 俺のターン! 手札から『トレード・イン』を発動! 手札から『トライホーン・ドラゴン』を墓地に送りカードを2枚ドロー! さらに『死者蘇生』を使って「トライホーン・ドラゴン」を蘇生! そしてぇ! 『アドバンスドロー』で「トライホーン・ドラゴン』を生け贄に2枚ドロー! そして『リビングデットの呼び声』でトライホーン・ドラゴンを蘇生! さらに手札から『デーモンとの駆け引き』を発動ぉ! デッキから「バーサーク・デッド・ドラゴン」を特殊召喚! そして『ブラッド・ヴォルス』を通常召喚!」

 

バーサーク・デッド・ドラゴン ATK3500/DEF0

 

トライホーン・ドラゴン ATK2850/DEF2350

 

ブラッド・ヴォルス ATK1900/DEF1200

 

 ば、バーサーク・デッド・ドラゴン……攻撃力3500だって!? それに、トライホーン・ドラゴン、こいつも強力なドラゴン族のカード! そんな強力なカードを持っていたのか! 秋人のホープは2回攻撃を防いだら自壊しちまう!

 

「バトルだ! バーサーク・デッド・ドラゴンでそのホープとかいうモンスターを攻撃!」

 

「罠発動『攻撃の無力化』……攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する」

 

「ちぃ……ならメインフェイズ2だ。その邪魔なモンスターをどかせてもらう。食らえ、『サンダーボルト』!」

 

「……!」

 

 さ、サンダーボルト!? 今度こそ言い逃れができない禁止カードじゃねぇか! やっぱりアイツ、最初から禁止制限なんて守る気はなかったのか!

 

「何か言いたげだなぁ! だが実際にデュエルディスクは反応しているんだ! 俺は正しいのさ!」

 

「め、めちゃくちゃだわ……おそらくあのディスク、改造されているのよ」

 

「なんてやつッスか……」

 

「同じオシリスレッドとして許せないんだな……!」

 

 隼人の言うとおりだぜ。あんな奴が同じオシリスレッドだなんて……! 先生たちはどうしてアイツにもっと重い罰を与えなかった! この様子を見るにアイツ、大量に禁止カードを入れているに違いない……! そう思ってフィールドを見るが、秋人は特に焦った様子は見られない。むしろ、そんなことには無関心にも見える。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ! さあ、来いよ!」

 

「……俺のターンドロー。来るも何も、もう終わりだ」

 

 ……え? 秋人の奴、今なんて言った? 終わらせる? フィールドにはまだ、攻撃力の高いモンスターが3体いるのに……

 

「秋人の奴、どうやってあの2体のモンスターを突破する気だ……?」

 

「終わらせるだぁ!? やれるもんならやってみやがれ!」

 

「……俺は手札から『Vサラマンダー』を召喚」

 

Vサラマンダー ATK1500/DEF1300

 

「このカードを召喚したとき、墓地の希望皇ホープを特殊召喚できる。舞い戻れ……希望皇ホープ」

 

希望皇ホープ ATK2500/DEF2000

 

「はっ! 希望皇ホープだぁ!? デーモンの召喚と同等のそのカードでいったい「黙れ」なっ……!」

 

「俺は手札から『RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース』を発動。自分フィールド上のランク4のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターよりランクが1つ高い「CNo.」と名のついたモンスター1体を、選択した自分のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとして特殊召喚する。俺は希望皇ホープ1体でオーバーレイネットワークを再構築……『カオスエクシーズチェンジ』」

 

 ら、ランクアップ!? エクシーズモンスターはそんなこともできるのか!? 秋人の言葉と共に再び渦の中へ消えていく希望皇ホープ。どこかで鎖のちぎれる音と共に、何かが舞い降りる。黒い何か……それはまるでスライムのように動き、体を形成していく。あれも、モンスターなのか…!?

 

「混沌を統べる紅き覇王、悠久の戒め解き放ち、赫焉となりて闇を打ち払え……『希望皇ホープレイV』」

 

『――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!』

 

希望皇ホープレイV ATK 2600/DEF2000

 

 耳を劈くような雄叫びを上げ、そのホープレイVと呼ばれたモンスターがフィールドに降り立つ。思わずおれたちは耳を塞いでしまう。見た目は希望皇ホープに似ている。だけど、あのホープ、嫌な感じがする。

 

「お、驚かせやがって……たかが攻撃力が100上がっただけじゃねェか」

 

「ホープレイVは『希望皇ホープ』と名のつくモンスター。よってエクシーズ・チェンジ・タクティクスの効果発動。ライフを500払い、カードを1枚ドローする…そして、Vサラマンダーを装備する。このカードは装備カードとしても扱える……効果、発動。1ターンに1度、装備モンスターのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動する。装備モンスターの効果を無効にし、相手フィールド上のモンスターを全て破壊、その数×1000ポイントダメージを相手ライフに与える……よって、お前のモンスターはすべて破壊される」

 

武藤秋人 LP3500→LP3000

 

オシリスレッド生徒LP4000→LP1000

 

 い、一気にライフを……削った!? Vサラマンダーの効果によってフィールドのデーモンの召喚たちが破壊されて消えていく。フィールドにいたモンスターがいなくなったからか、秋人を虐めていたというオシリスレッドは焦り始めていた。

 

「これでフィールドにモンスターはいない……俺はさらに永続罠『ナンバーズ・ウォール』を発動しておく……消えろ。ホープレイVでダイレクトアタック」

 

「さ、させるかよ! 罠発動「聖なるバリア-ミラーフォース」! 消えちまえ!」

 

「言ったはずだ、これで終わりだと。永続罠『ナンバーズ・ウォール』。の効果でNo.と名のつくカードは、このカードがある限りカード効果では破壊されない……よって、お前のカード効果は不発だ」

 

「う、うわあああああああああああああっ!!!!!!」

 

オシリスレッド生徒LP1000→LP0

 

 秋人の勝ち……フィールドに並んでいたモンスターも、発動した罠すら突破して、秋人がデュエルに勝った。秋人が勝った、はずなのに……なんでだよ。全然嬉しくねェ……なんなんだよ、このモヤモヤ。秋人、お前、そんな顔でデュエルする奴じゃなかっただろ……

 

「あ、秋人!?」

 

「ちょ、止めなきゃ……!」

 

 俺がそう思っていると、三沢と明日香が声を上げた。何事かと思って顔を上げると、そこでは対戦相手だったオシリスレッドの生徒を殴り飛ばしている光景が目に映った。

 

「オラ、立てよ……俺にやったことはこの程度じゃすまなかっただろう? なあ?」

 

「ひっ……ま、待てよ……わるかった、俺が悪かった! だ、だから許してくれ……!」

 

「許してくれ? 散々俺がやめてくれと頼んでもやめなかった奴らは誰だ? 俺の悲鳴を楽しんで、クラス一丸となっていじめをしていたのはどこの誰だ? 俺が持っていたカードを奪い取り、レアカードだけ抜いて持っていった挙句、他のカードをゴミだと言ってカードに火を付けたやつはどこの誰だ? なあ、こたえられるか? なあ、なあ、なあなあなあなあなあな!!! 答えてみろよ、このゴミ野郎がぁ!」

 

 秋人の奴、完全に我を忘れてやがる。腰を抜かして尻餅をついた生徒に今度は蹴りを入れ、さらに今度は馬乗りになって殴りかかろうとしている。さすがにやばいだろ! 俺たちは慌てて秋人を押さえつける。

 

「落ち着け秋人! こんなやつ、殴る必要ねぇだろ!」

 

「そうよ、ボウヤ。こんな価値のない男と同じになるつもり?」

 

「これ以上は必要ないわ! 後は先生たちに任せればいいから!」

 

「そうだ、お前はそんな男じゃないだろう!」

 

 俺や雪乃、明日香や三沢が頑張って秋人を押さえつける。その秋人の眼は怒りに満ちていて、そして明らかに正気じゃないことがわかる。

 

「は、な、せ……!」

 

「ダメだ、絶対放さない!」

 

「そうっスよ! こんな奴泣くまで殴ったところで何にもならないッス!」

 

「泣くまで……? 違うな、死ぬまで殴ってやる………!!!」

 

 そう言って未だに動こうとする秋人。ど、どうにかとめねぇと……そう思った時だ。周囲にキラキラと光る何かが見えた。それが消えたかと思うと、気を失ったのか、ガクリと秋人の首が垂れてしまった。上を見ると、そこには杖を振り下ろしたのであろう、秋人の精霊であるミラの姿があった。

 

「(……眠りの魔術です。眠ってもらいました)」

 

「(それ、人間に使って大丈夫なのか?)」

 

 どこか安堵した表情のミラだが、俺はそう心の声でツッコミを入れた。さすがに死んではいないようだけど……

 

「秋人、ねえちょっと!」

 

「大丈夫だ、気絶しただけみたいだ……多分、爆発しすぎて糸が切れたんだろう」

 

 そう分析する三沢。いや、多分原因はミラが使った魔術だと思う。まあ、今だと俺以外に精霊は見えないし……仕方がないと言えば仕方がないけど。

 

「とりあえず、秋人を保健室に連れて行こう。あと、そっちはどうする?」

 

「……逃げられないようにロープで縛って職員室に突き出すわ。ボク、用務室からロープを借りてくる。誰か見張っててよ?」

 

 そうツァンが秋人の行動によって気絶した生徒のことをゴミでも見るような目で一瞥した後、用務室がある方へと走っていった。俺たちはその間に秋人を背負って保健室へと走ることにした。

 




リメイク前との変更点

秋人君、闇堕ち
今回使っちゃいました、エクシーズチェンジ。ぶっちゃけ、このためだけに女子寮戦で使わなかったようなもんです……私的には(メタ

デッキをホープデッキに
やっぱりこう、主人公だけど主人公じゃないダークなカードと言えばこのホープレイVかな、と

君が、泣くまで、殴るのをやめない!
前作は木の棒で殴ろうとしてました。そっちのが痛いけど

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15「秋人と明人」

遅くなって申し訳ない…こんな深夜に投稿して誰が見るんだよ、と自分で頭を抱えております

ちょっと仕事の方が忙しくなって遅れてしまいました。


GMS様 スターダスト様 うさぎたるもの様 ぢょにー様
渡り猫様 リョウタロス様 通りすがりの二次好き様 暗色様
遊霧様 助さん様 万屋よっちゃん様 赤鉄様 Ranperu様
Galcia様 龍牙様 ちにゃ様 読み専太郎様 navi様 アルグール様

感想。ご指摘、ご意見ありがとうございます。今回、一番感想が多かったかもしれません。これからも頂いた評価と点数以上になるように頑張ります

では15話です。少しずつ物語が進んでいきます


Side明人(秋人)

 

 そこは何もない、真っ暗な闇の中だった。目を開いているはずなのに、見渡す限り闇が広がっていた。唯一、自分の体が見えていることで自分の視力がなくなったわけではない、ということを理解できる。とはいったものの、それより……

 

「ここはどこだ? 俺は確か、あのオシリスレッドとデュエルをしていたはず、なんだが……あー、もう、なんで俺はエクシーズやっちゃうかなぁ。エクシーズはまだしも、社長にも見せていないRUMまで使っちまったし。俺のバカー!」

 

 さっきまでの行いがあまりに馬鹿過ぎて頭を抱えて思わず叫んでしまう。エクシーズ召喚はシンクロ召喚と同じくこの時代にはまだない召喚方法だけど、シンクロを使ってしまっている以上今更感もあった……故に近々使ってもいいかな、とか考えて持っていた。海馬社長も自分の青眼デッキにエクシーズを採用することも考えていたようだから使った時は問題ないかとも考えていた……が、まだ、社長にはRUMは見せていない。あー……多分だけどまた社長から電話来るなこれは……あー、なんて説明したもんかなぁ……そんなことを思いながらもう一度周囲を見渡す。駄目だ、何も見えねぇ……

 

「夢だとしても、目が覚めないことにはなぁ……」

 

 この世界での夢のなかとか、ろくなことがないぞ、絶対に。俺は座って今日起きたことについてを考えることにした。

 

「あの時、なんか……頭の中で何かが弾けたんだよな。あの生徒に対しての恐怖が怒りに変わって、無意識にデッキを選んで、自分で自重していたカードさえ戸惑いなく使って……まるで俺の意思ではなく、武藤秋人の身体がそうしたかったみたいに」

 

 あの時の俺は何もできなかった。身体は震え、立っていることすら困難なほどに。だが、突如身体は動き、口も動いた。まるで俺の意思などないものかのように、決闘まで始めた。言葉も、行動も、感情すら、あれは俺ではなかった。そう考えると本来のこの体の持ち主である「武藤秋人」の行動だったのか、とも考えたがそうなると、その武藤秋人は何処に行ったんだ、という話になってしまう。武藤秋人は何処に行ったんだ……

 

「あの時の夢は、やっぱり『武藤秋人』がいじめられていた時の記憶だったのか」

 

 この世界で初めて目を覚ました時、そして今日の朝見ていた夢…あれは武藤秋人がこの世界で受けたいじめの数々。力の暴力、言葉の暴力、嫌がらせ……そして、大切にしていた宝物を灰にされるという苦痛。理由はただ、伝説の決闘者が血縁にいながらも弱い、というただそれだけの理由で……。言えなかっただろうな、武藤遊戯にはこんなこと。お前が決闘(デュエル)が強いせいで自分がいじめられるんだ、なんて……そして、あの時の言葉

 

―――こんな世界、なくなればいいのに

 

―――この世界から逃げ出したい

 

 そんな彼の願いが、俺をこの世界に呼び寄せたのか。少なくとも、俺がこの世界に来ることになったきっかけには違いない。だが、その大本になった原因がわからん……遊戯のように千年アイテムを持っていたわけでもないだろう。だけど、この世界の“あの国”が絡んでいる可能性は絶対にあるんだよなぁ……遊戯王の世界のことを考えると

 

「どこかで調べてみる必要があるかもしれないな………うん?」

 

 そんなことを考えていると、どこからか声が聞こえてきた。声、というよりもこれは泣いている声だよな? なにかわかるかもしれん……そう思って俺は立ち上がりその声の方へと一歩、また一歩と歩いて行く。何処までも続く暗闇の中で、一人の人間が膝を抱えて座っていた。俺はこの男を知っている……黒い髪と、それに少し混ざった赤い髪……その人間は……

 

「武藤秋人……」

 

 俺はそう名前を呼んで声を掛けるが反応が無い。もしかして俺が見えていないのか? そう思って俺は気付いてもらおうと、膝に顔を埋めている少年を触ろうとする。しかし、その手は空を切り、そのままの勢いで地面があるであろう場所へと手が向かっていく。思わず手をつこうとするが、その地面はいつまで経ってもやってこない。

 

「え、ちょ、うああああああああああああああああ!」

 

 俺はそんな叫び声とともにその闇の広がる場所から落ちていくのだった。

 

*

 

 

デュエルアカデミア 医務室

 

Side十代

 

 秋人を医務室へと運びこんでしばらく時間がたった。秋人は未だ目が覚めてはいない。時刻はもう0時を過ぎていた。あれからまず明日香たちが職員室へと駆け込み、話のわかる響みどり先生に事情を説明してくれた。響先生もすぐに動いてくれたため緊急で職員会議が開かれているみたいだ。議題は勿論あのオシリスレッドの生徒についてだ。停学処分が解けて早々に改造されたデュエルディスクを使用し、さらには禁止カードを使ってまでデュエルをしたというのはかなり問題視されたらしい。秋人は今、別室で眠っている。その部屋から検査を終えて出てきたであろう保険医である鮎川先生に声を掛けた。

 

「先生、秋人は……」

 

「外傷は無く、バイタルも安定している……でも、それはデータ上だけの話ね。データとして反映されない“心の傷”。これは私でもどうしようもないわ……事情を聞いている限り、詳しくはわからないけどその問題を起こした生徒に対しての怒りが爆発した後、反動でこうなったと推測できるわ。最初はトラウマを思い起こしていたみたいだけどそれが限界を超えた結果と言ったところね……最悪の場合、目が覚めるかどうか」

 

「そんな……」

 

 秋人は何も悪くないってのに……クソっ! ついさっきまで楽しく笑っていて、一緒に騒いでたってのに、どうしてこんなことになっちまったんだ。

 

「それにしても、秋人があの武藤遊戯の従弟だった、なんてな」

 

「ええ、別に秋人も隠していたつもりはないと思うわ……ただ、言いたくても言えなかったって感じはあるけど……従兄が伝説の決闘者……それだけで、周囲は期待していたんでしょうね、もしかしたら秋人も強いんじゃないかって」

 

 三沢の呟きに、明日香がそう返した。確かに、その通りだ。俺も何も考えないで秋人が遊戯さんの従弟だって知ったら俺もそれを期待して決闘を挑んでいたかもしれない。

 

「秋人は目が覚めても秋人のままでいてくれるかしら?」

 

「どういうことだよ、ツァン」

 

「今まで知られたくなかったことを知られたのよ? 目が覚めたとき、ボクたちに変わらずいつもみたいに接してくれるかしら?」

 

 もしかしたら、学校をやめてしまうかも……と呟くツァンの言うことは、少し納得できた。知られたくないことを知られる。この狭い学園ではすぐに話が広まってしまう可能性だってある。ここにいるみんなはそんなことをしないと信じているけど、秋人が同じように思っているわけじゃない……でも

 

「確かに、秋人は遊戯さんの従弟かもしれねぇけど、秋人は秋人だ。俺たちが変わらなかったら、秋人も変わらないさ」

 

「そうだねアニキ。僕たちがいつも通りに秋人君に接すればいいんだ」

 

「そのとおりなんだなぁ……」

 

 そんな会話をしていると、部屋に響先生が入ってきた。どうやら職員会議は終わったらしい。

 

「あ、先生」

 

「こんばんは、みんな。秋人君は?」

 

「まだ寝ています」

 

「そう……なら、貴方たちだけにでも伝えておこうかしら」

 

 伝えておくってのは、多分あの生徒の事だろうな。いったいどうなったんだろう。

 

「違法改造を行ったデュエルディスクの使用、ルールを無視し、禁止カードを詰めに詰め込んだデッキの使用、さらに今までの問題行動をすべて含めて彼は退学になったわ。さらに言うと、KC社のブラックリストにも載るそうよ。彼は今後の生活の中で、デュエルモンスターズに関わることは一切できないと思っていいわ」

 

 響先生の言葉に、安堵する俺たち。これでまた、ただ停学処分とかだけだったらどうしようかと少し心配していたんだよな。もう二度とあんな奴の顔は見たくねぇし……それにしても、響先生が対応してくれて助かったぜ……この人じゃなきゃ、多分こんなに早くには動いてくれなかっただろうし

 

「秋人君には目が覚めてから伝えるわ。もう彼が怯えることはない。きっと「うわあああああああああああああ!?」っ……!?」

 

 響先生が言いかけたその時、秋人が寝ている部屋から悲鳴のようなものが聞こえる。俺はすぐに部屋のドアを開けた。そこには体の上半身を起こし、汗をびっしょりと掻いている秋人の姿があった。息は荒く、焦点が定まっていない。

 

「秋人! しっかりしろ!」

 

「ボウヤ、落ち着いて! 大丈夫だから」

 

「……十代、藤原、みんな? 俺は……」

 

 俺や雪乃の声で我に返ったのか、少し呼吸が落ち着き俺たちの事をその目が映していた。すると、秋人はその汗をぬぐいながら、不思議そうに周囲を見渡していた。

 

「ここ、保健室だよな……なんで俺、ここにいるんだ?」

 

「それなんだけど秋人君、あなたどこまで覚えているかしら?」

 

「……えーと、俺の事を虐めていた奴が出てきて、決闘して……えーと?」

 

「そう、そこまでしか覚えてないのね……」

 

 鮎川先生の言葉に首を傾げる秋人。あの時のアイツを殴ったこととかは一切覚えていないみたいだな。

 

「デュエルの後に緊張の糸が切れて気絶したのよ、ボウヤ」

 

「あー……そうなのか、すまん、迷惑をかけたみたいだな」

 

「気にするなよ、お前は何も悪くないんだからさ」

 

 俺がそういうと、秋人は「ありがとう」と言って、笑っていた。よかった、どうやらいつもの秋人に戻ってくれたみたいだ。

 

「そういえば、俺がデュエルをしたあの生徒はどうなったんだ?」

 

「ああ、それなんだけど……」

 

「私が説明するわ、十代君」

 

 そう言って響先生が出てきて、秋人に事情を説明してくれた。響先生はとりあえず、もう秋人はあの生徒に悩まされることはないと説明した。秋人もそれを聞いて安堵のため息をついている。

 

「教師を代表して謝罪するわ。あんな生徒を高等部に上げてしまったことも今回の騒動の発端だし……その生徒からの話では何人かの先生があの親に金を掴まされていたようなの。その教師も後日処分を検討している……ごめんなさいね」

 

「そうですか……教えてくれてありがとうございます」

 

「さて、とりあえず貴方たちももう自分の寮に戻りなさい。明日は休みとはいえ、就寝時間は過ぎているんだから」

 

 そういえばもう0時過ぎていたっけか。思い出したら眠くなってきたぜ……秋人も大丈夫みたいだし、帰るとするか。

 

「秋人君は大事をとって、今日はここで寝てね」

 

「あー…はい」

 

 それじゃあね、と響先生が出て行った。俺たちもそれに続こうとすると、秋人が俺たちに待ったをかけた。

 

「みんな、悪かったな。色々迷惑かけて……それに、遊戯兄さんのことを黙っていたのも」

 

「気にすんなよ、俺たちは友達だからな! それに、秋人は秋人だ」

 

「そうっス! 武藤遊戯さんは関係ないっスよ」

 

「別に遊戯さんの従兄だからって変な目で見たりしないんだなぁ」

 

「そうだとも、お前はお前だ」

 

「それに、言いたくないことなら別に言う必要はないでしょ?」

 

「私は武藤遊戯に興味はないわ。興味があるのはボウヤ、貴方ですもの」

 

「ボクも同じ。そんなことより、早く寝なさいよ……?」

 

 俺の言葉の後、翔、隼人、三沢、明日香、雪乃、ツァンがそうそれぞれ言葉をかける。その言葉に、秋人は笑みを見せてくれた。

 

「ああ、そうだな……おやすみ、みんな」

 

 

 

 

Side秋人

 

「ふぅ……」

 

 十代たちが出て行った部屋で俺は患者用ベッドの上で横になった。すると、それを見計らってかミラがカードから姿を現した。

 

「(マスター……その、お加減はいかがですか?)」

 

「ああ、もう大丈夫だよ……ごめんな。心配掛けただろ」

 

「(いえ、いつものマスターになってくれてよかったです)」

 

「……いつもの、か。さっきの俺はそんなに怖かったか?」

 

 俺の言葉に、ミラは驚いた表情を見せていた。

 

『もしかして……デュエルの後のこと、覚えていたんですか!?』

 

「一応、お前が魔法みたいなのを使ったところまでは覚えているよ。あの時は俺も止めようとしたんだが、歯止めが聞かなかった……武藤秋人はそうとう虐められていたとみえる」

 

『あの、マスター? 仰っている意味がよくわからないんですけど……』

 

 そう言って首を傾げているミラ。ミラになら喋っても大丈夫だろう。俺の事を……次、こうなったときにミラならすぐに対処してくれそうだしな。

 

「ミラ、お前には本当のことを喋っておくよ」

 

 俺はそういって、ミラに説明する。俺が別世界で生きていたこと、この世界が俺の世界ではフィクションとして登場した漫画、アニメの世界だということ、ある日突然、大量のカードたちと共に“武藤秋人”へと憑依してしまったこと。そして、そうなってしまった原因と元の世界への帰還方法を探すためにこのデュエルアカデミアへと入学したこと。ここ最近で見た、武藤秋人のことと、武藤秋人の言葉。説明を終えてミラを見ると俺の話についてこられないのか、それとも信じていないのか、驚いた表情から固まったままでいた。

 

「つまり、俺は武藤秋人であって武藤秋人ではない。器は武藤秋人だが中身は別人なんだ」

 

「(マスター……でも)」

 

「……おそらくだが、武藤秋人もカードの精霊を見ることが出来たんだろう。元の世界で俺にはそんなすごい能力は無かったからな。きっとミラは日向明人(俺)ではなく、武藤秋人の精霊で……「(違います!)」ミラ?」

 

 俺が言葉を言い終える前に、ミラは強く叫んで俺の言葉を否定して俺を睨み付けていた。

 

「(マスターは優しくて、良い人で、いつも他人のことばっかり心配している方で! 例えマスターが“武藤秋人”という人物でなかったとしても! 私は『あなたの』精霊なんです! そんなこと言わないでください!)」

 

 若干、涙ぐみながらもミラは大声で一気にそう俺へと怒鳴りつけた。肩で息をしながらボロボロと涙をこぼすミラ……その言葉が嬉しくなり、笑みがこぼれる。

 

「(マスター?)」

 

「ありがとう、ミラ……そう言ってくれると嬉しいよ。そうだな、俺は、俺だ。あの泣いていた武藤秋人をこの体に戻して、元の世界に帰れるようにしないとな……それまで俺の相棒として、俺を助けてくれ、ミラ」

 

「(……はい、マスターのためなら)」

 

 その言葉を聞いてから俺は静かに眠りにつくのだった。

 

 

 

 

Sideミラ

 

「……元の世界に帰るために、か」

 

 マスターが寝てから、私はその言葉を繰り返していました。私はカードの精霊。確かに私も本来ならこの世界には存在しないカードなのでしょう……気が付いた時にはもう目の前にマスターがいたのですから、私の知っている知識とはかみ合わない。私という存在は間違いなく、マスターがこの世界に来たことによって生み出された存在……だからこそ、です。マスター…優しいあなたの事です。これからも武藤秋人の魂が本当の体に宿っても困らないように貴方はこの世界で生きていこうとするのでしょう。でも、マスター…貴方が繋いだ絆は貴方だけの物……決して、帰ってきた魂の絆にはならないんですよ? それに、私に手伝ってほしいと言っても、私、本当は手伝いたくないんです……だって、マスターの言葉通りなら元の世界に戻ってしまったら、私とももう会えないかもしれないんですよ? その時私はどうしたらいいんですか? 教えてください、マスター……

 

「ミラ、大丈夫か?」

 

「……ええ、大丈夫です。やはり、お近くにいらっしゃったんですね?」

 

 不意に後ろからかかった声に振り返り、私は目の前に立つ2人の人物にそう聞いた。1人は黒い魔術師のローブに身を包んだ男性。名前は「ブラック・マジシャン」……魔法使い族として高位に位置する方。そして、もう1人は青と桃色の衣装を身に纏った女性。名前は「ブラック・マジシャン・ガール」。お二人も私と同じくデュエルモンスターズのカードに宿る精霊であり、そして武藤遊戯の精霊でもあります。

 

「うん、お師匠様と一緒にお話は聞いてたよ。ごめんね、盗み聞きになっちゃって。本当は私たちの事をこの子に教えてあげるべきなんだけど……マスターにも、この子の手助けをして欲しいって言われていたのに」

 

 ブラック・マジシャン・ガール、こと、マナさんは言いながら眠っているマスターの頭を優しく撫でている。お二人の存在は、ブラック・マジシャンことマハードさんからまだ隠していてほしいということでした。というのも、マハードさんいわく、昔見た“武藤秋人”とは違いすぎる……と、その動向を探っての事でした。結果的にはマハードさんの言うとおり、マスターは別世界から別人格が宿っていることがわかりました。

「この世界は彼にとっては空想の世界と類似した別世界、か。まさか、我々が架空の存在として物語に登場する者になるとはな」

 

「びっくりですよね! 遊星君とか、未来の十代君のこととかである程度耐性はついているつもりでしたけど」

 

「……そうだな」

 

「それにしても、どうして秋人さんの体に別の人の人格が入ったんでしょう?」

 

 それは、私も気になるところです。私もマスターと同じようにこの世界に来た途端に生まれた存在なのでその辺がまったくわかりません……

 

「彼の言っていた『武藤秋人』の願い……それがトリガーとなったのは間違いないが、そうなった原因がわからないから何とも言えん。もしかしたら我々の知らないところで何かが動いているのかもしれん……」

 

 そう言ってマハードさんは腕を組んで考えている。お二人は今後どうするつもりなんでしょうか……そう思っていると、その疑問をそのままマナさんがマハードさんに聞いてくれました。

 

「お師匠様は結局どうなさるおつもりなんですか?」

 

「……マスターは我々を封筒に入れる前に言った。『彼を守ってくれ』と。だが彼は『武藤秋人』ではない。しかし」

 

「今の秋人さんも放ってはおけない……ですよね?」

 

「ああ、その通りだ」

 

 マナさんはそういってマハードさんに笑顔を見せます。どうやら、お二人もマスターのことを一緒に支えてくれるようです。

 

「普通なら、いきなり別の人間に乗り移ったなどとなれば混乱したり発狂したりするものだ。しかし、彼はそれでも元の世界に帰ろうとしている……それが、本来の武藤秋人という人間のためにならば、我々もそれを見届ける必要がある」

 

「ですよね! お師匠様! よーし、がんばるぞぉ!」

 

「とはいっても、現段階ではマスターも我々を使ってくれないので我々が見えていないから力の貸しようがないがな」

 

 どうも、マスターは普通に見える精霊と、デュエルで使わないと見えない精霊という分野があるらしい。私やマハードさん、マナさんは後者で、ハネクリボーは前者でした。

 

「でもきっと、そのうち使ってくれますよ」

 

「そうは言ってもミラちゃん、私のカードは世界に1枚しかないカードなんだよ? 自慢じゃないけど、私なんか使ったらシンクロ召喚やエクシーズ召喚なんかより騒ぎになっちゃうよ」

 

「そうですね……マスターがマナさんを使わざるを得ないイベントか、それともマナさんに気づいて召喚してくれればいいんですけど」

 

 そうだよねぇ、とため息を吐くマナさんに苦笑しながら、私は眠っているマスターを見る。これから先、またきっと悪いことが起きる……でもマスター、きっとあなたの事は私が守ります。この先、何があっても……たとえ、この命を投げ出してでも、守りますから

 




リメイク前との変更点

校長先生登場せず
あの時のを振り返ると不自然だったな、と。なので、今回はみんな大好きなみどり先生に登場して頂きました

ブラマジ登場
ようやく登場です。お前たちのデッキはもうできているんだ……はやく書かせてくれ…
前作ではミラが見えるようになる話で登場でしたが、今回はちょっと遅く登場です

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16「闇の決闘」



この世界では希少価値の高いカードであり、マニアたちがデュエルにはめったに使わないって感じで……これが正しいのかな(汗

読み専太郎様 暗色様 無限正義頑駄無様 万屋よっちゃん様 navi様 うさぎたるもの様 肉々しい肉様 RYU様 Ranperu様 スターダスト様 ゴリ霧中様  
感想、ご意見、ご指摘ありがとうございました。これからもよろしくお願いします

ボルケーノ様 NOアカウント様
小説評価ありがとうございました。頂いた点数以上の小説を目指して頑張ります
さて、16話です。長いなぁ……第一期の終わりまでが(汗


Side秋人

 

 月一テストから少し経った。あれからの経緯としては、武藤秋人を虐めていた生徒はみどり先生の言うとおり退学となり、この学園からいなくなった。ただ、その話はすぐに学校全体に広がり、オシリスレッドの印象がラーイエロー、オベリスクブルーの間で悪くなった、というのは言うまでもないだろう。こういうやつが1人いた、というだけでオシリスレッドの風当たりはすぐに悪くなる……まあ、この狭い島では仕方がないだろう。俺は現在夕食を終えて部屋に戻る最中である。十代たちはこれから怖い話でもやろうと盛り上がっていたが、まだあまり調子が良くない、と俺はパスをしていた。

 

「(よろしいんですか? マスター、みんなと怖い話をやらなくて)」

 

「(んー……やるのはいいんだけど、睡眠時間が減るのがなぁ)」

 

 ここ最近はデッキ作りで寝ていないうえ、この怖い話、というので思い出されるのはデーモン使いのタイタン戦だ。本来なら十代の手助けを、とも考えたのだがKC社の携帯電話から社長に「もうすぐ新しいパックが発売する。次のカードをリストにまとめておけ」と言われて資料作りに追われているためあまり余裕もない……俺の精神面的に。

 

「とりあえず、もう資料をまとめて寝よう……デッキ作りはまた今度だな」

 

 そう思いながら部屋に入り、ベッドの上に寝っころがった。今日も疲れたな……

 

「あら、だめじゃないボウヤ。制服がシワになっちゃうわよ? ほら、貸しなさい。かけてあげるから」

 

「あ、そうか……悪いな藤原…………おい、ちょっと待て」

 

 今、自然に不自然なことが起きているんだが……どういうことだ。何故、俺の部屋に藤原がいる?

 

「あら、どうしたの?」

 

「どうしてお前、ここにいんの?」

 

 部屋、鍵をかけていたはずなんだが……どういうことだ? おかしいな。

 

「貴方が考え事をしながら部屋に入ったときに私も一緒に入ったんだけど……気が付いてなかったみたいね」

 

 マジかよ。まあ、考え事に夢中になっていたのは認めるけど、後ろにいるなら声を掛けてくれよ……どっかの潜入工作員か、お前は。

 

「……まあ、いいや。それで、こんな夜遅くに何の用だ? よく、こんな時間にレッド寮に来ようとか思ったな、お前は」

 

「うふふ、夜遅くに来たことについては謝るわ。実はボウヤに相談があるの」

 

「相談?」

 

珍しいな、藤原が俺に相談、というのは。普段からの藤原を見ていればそんなことをしてくるようには思えないんだが……

 

「ええ、明日香の事でちょっとね」

 

「明日香? 明日香がどうかしたのか?」

 

「最近あの子、一人でどこかへ夜出かけているの……どうしたのか聞いても『ちょっと』と言って出て行ってしまうし」

 

 それはおそらく、明日香が旧校舎で兄である天上院吹雪の手掛かりを探していることについてか……まあ、いくら友人と言っても明日香もそこまでは藤原に話していなかったか。

 

「もしかして、明日香がどこに行ったか突きとめようとしたりする?」

 

「ええ、よくわかったわね、その通りよ……一部の噂ではカイザー、この学園で最強と呼ばれる生徒、丸藤亮というボウヤと関係を持っているとかも聞いたわ」

 

 年上にもボウヤなのか、こいつは。まあそれはさておき、まいったな……理由を知っているだけに、あまりこの件に関しては首を突っ込みたくはない。

 

「明日香の事だから大丈夫じゃないか? そんな変なことには……」

 

「そうかもしれないけど、あの様子ははっきり言っておかしかったわ……友人として、もし困っているのなら力になってあげたいの……お願いボウヤ、一緒に来て」

 

 そう言って頼んでくる藤原の表情は真剣だった。よほど、明日香の事が心配なのだろう。聞けば、ここのところ毎日外に出ていて、帰ってくるのは深夜ということ。それは確かに心配もするかもしれないな…………はぁ、仕方がない。

 

「わかったよ、手伝えばいいんだろう?」

 

「うふふ、ありがとうボウヤ」

 

 そう言って笑顔を見せる藤原。やれやれ……結局十代たちとは合流することになりそうだな。それはさておき、一応聞いておくか……

 

「明日香の様子を探るってことだけど、どうやって明日香を探すつもりだ?」

 

「あら、PDAで登録されたPDAは互いの場所を確認できるのよ? 知らなかった?」

 

 そんな追尾機能付いていること初めて知ったぞ。さすがKC社と言ったところだろうか?そんなことを考えながら俺は藤原と共にレッド寮を出発することになる。また何かに巻き込まれるのも嫌なので、デッキを持っていくことにした。

 

 

 

 

旧学生寮

 

「明日香のPDAの反応、ここで間違いないか?」

 

「…………」

 

「藤原?」

 

「え? あ、え、ええ……間違いないわ。ここは特待生寮ね……前に明日香が言っていたわ。昔、お兄さんが行方不明になったと……その時、明日香のお兄さんは特待生だったと」

 

 特待生寮でどうやったら行方不明になるんだ、というツッコミは野暮か。それにしても、雰囲気があるな。なんというか、アニメだとマイルドに見えていたが、実際に見ると滅茶苦茶怖い。あれだ、某遊園地の絶○・戦○迷宮とかが可愛く見えるレベルだ。そして、可愛い、といえば……

 

「藤原、お前大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫よ……問題ないわ」

 

「……その手は?」

 

 藤原である。こいつ、さっきからどこかビクビクと怯えている様子が伺える。何時もの毅然とした態度ではなく、どこか小動物のような感じがするのは気のせいだろうか。心なしか、いつものギャップのせいで可愛いと思ってしまった俺がいる。しかも、さっきから俺の手を掴んで離さない。手の平から汗が出ているような……

 

「こ、これはその、ボウヤが怖いかと思って……」

 

「あ、藤原の後ろにカードの精霊が」

 

「ひぃっ!?」

 

 そう言って、後ろに立っているミラを指さした瞬間に藤原は飛び上がり、俺にすごい勢いで突進のごとく抱き着いてきた。男としては役得かもしれんが、それよりも頭から来たのでそれが腹に突き刺さってすげー痛い……

 

「じょ、冗談だ……ゴホッゴホッ」

 

「い、いじわる……」

 

「(まあ、本当に私が後ろに立っているわけですが……)」

 

 何この可愛い生き物。これがいつも人の事をボウヤとか言って大人の女を醸し出している藤原なのか……ちょっと本気で疑いたくなった。

 

「どうする? 俺だけでも行ってこようか?」

 

「だ、ダメよ! そ、そ、それじゃあ私が来た意味がないじゃない! それに、私をここに残していくつもり!?」

 

 もういつもの藤原の影も形も見当たらない。俺は小さくため息を吐いて「なら行くぞ」と促し、藤原と共に旧特待生寮の中へと足を踏み入れる。ギシ、ギシと床が軋む……話では数年前に廃止になったとかいう話だが、いくら放置されているとはいえ、ここまで腐敗することに周囲の人間は何の疑問も持たなかったのかと首を傾げたくなる。

 

「……」

 

「おい藤原、大丈夫か」

 

「え、ええ……大丈夫、よ」

 

 顔が真っ青で、とても大丈夫には見えない。それにしても奥から何か嫌な感じがするのは気のせいだろうか。なにか、嫌な空気……なんだこれは。

 

「(マスター、この先……危険です。なにか、闇の瘴気が漂っている感じがします)」

 

 俺の隣にいるミラも、その空気を感じ取ってか自身の持つ杖を構えている。この先ってまさか……そう思っていた瞬間に寮の中で爆発音と、モンスターの叫び声が響き渡る。

 

「今のは……」

 

「誰かがこの寮にいるのかしら? 今のはデュエルの音……かしら」

 

「行ってみるぞ。藤原はここで……」

 

「私も行くわ。もしかしたら、明日香かもしれない……行きましょう」

 

「わかった、行くぞ」

 

 そう言って俺たちはその爆発音のした方へと走っていくことにした。

 

 

 

 

 奥に進むと、そこには開けた広場のような場所になっていた。そこになにやら黒く、薄いドームのようなものが覆っている。これはいったい……そう思って奥を見ると、そこには十代と巨漢の男がデュエルをしている姿が映っていた。その後ろには翔、そして隼人もいる。

 

「十代!」

 

「あれは十代のボウヤ……? それにしても、このドームはいったい……キャア!?」

 

 そう言って触ろうとする藤原だが、その瞬間に弾かれてしまう。俺は咄嗟に藤原を抱き留めるが、この壁、俺はこんな物知らないぞ? まさか、もうすでに本当の闇の決闘が始まってしまったのか? それに、俺たちの声は向こうには聞こえてないらしい。

 

「キャッ!? ボウヤ、あれ……!」

 

「なんだ、あれは……」

 

 藤原が指さす先にはドロドロとした何かが人の形を作っているものだった。まるで、俺たちの侵入を阻むように。理論などは分からないが、闇のゲームをしている人間の所に人を近づけないための仕掛けだろうか? 腕にはデュエルディスクが装着されている。しかもかなり古いタイプのものだ。

 

『闇の儀式を執り行っている最中である。立ち入ることを禁ずる。早々にタチサレ』

 

「お、お断りよ。ここに明日香や十代のボウヤたちがいるんですもの……!」

 

『ならば、闇に飲まれよ……』

 

 俺たちの周囲を黒い何かが覆い始める。この状況、切り抜けるにはやっぱり……決闘しかないか! 俺は近くに落ちていた古いデュエルディスクを手に取り、それを腕に装着してデッキをセットする。

 

「悪いが、通してもらうぞ」

 

『闇の儀式を望むか……』

 

「『決闘(デュエル)!』」

 

 

武藤秋人VS????

 

武藤秋人LP4000

????LP4000

 

『私の先攻、ドロー…私はモンスターを1枚セットし、カードを2枚セット。ターン終了』

 

「俺のターン! 俺は手札から『マジシャンズ・ロッド』を召喚!」

 

マジシャンズ・ロッド ATK1600/DEF100

 

 出てきたのはブラック・マジシャンの杖。何か青い粒子が杖を支えているが……こんな風に出てくるのか、このカード。

 

「このカードの召喚に成功したとき、デッキから『ブラック・マジシャン』とカードに書かれた魔法か罠を手札に加える。デッキからマジシャンズ・ナビゲートを手札に加える。そしてマジシャンズ・ロッドに『ワンダー・ワンド』を装備する。このカードを装備したモンスターの攻撃力は500ポイントアップする!」

 

マジシャンズ・ロッド ATK1600/DEF100→ATK2100/DEF100

 

 出現したワンダー・ワンドをそのマジシャンズ・ロッドを覆っていた青い粒子が掴みとる。あ、そっちの方が掴むんだ。

 

「バトルフェイズ! マジシャンズ・ロッドでセットモンスターを攻撃!」

 

『セットモンスターは『メタモルポッド』。互いのプレイヤーは手札をすべて捨て、新たにカードを5枚ドローする』

 

「……! 手札を捨て、5枚ドローする。メインフェイズ2へ移行。俺はマジシャンズ・ロッドをワンダー・ワンドの効果で生贄とし、カードを2枚ドローする。カードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

 まさか、メタモルポッドとは。アイツのデッキは何デッキだ? 一体、なにが来るのか。

 

『私のターン、ドロー……私は手札から魔法カード『死者蘇生』を発動。墓地に送られた『エンド・オブ・アヌビス』を特殊召喚』

 

エンド・オブ・アヌビス ATK2500/DEF0

 

 ……! 墓地を対象にする効果を無効にする効果を持ち、ほとんどの蘇生・サルベージ効果が無効となるカードか。更に墓地で発動する効果が無効となるため、墓地へ送られた時に効果を発動するカード、および墓地から効果を発動するカードを封殺できる。挙句、攻撃力が高い……!

 

『バトルフェイズ。エンド・オブ・アヌビスでダイレクトアタック』

 

「させるか! 罠発動『マジシャンズ・ナビゲート』! 自分の手札から『ブラック・マジシャン』を特殊召喚し、さらにデッキからレベル7以下の闇属性、魔法使い族モンスターをフィールドに特殊召喚できる! 来い、『ブラック・マジシャン』! そして、『ブラック・マジシャン・ガール』!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2000

 

ブラック・マジシャン・ガール ATK2000/DEF1700

 

 マジシャンズ・ナビゲートから黒い魔方陣が現れ、そこからブラック・マジシャン、そしてブラック・マジシャン・ガールが出現し、フィールドへと舞い降りた。しかし、ガールだけは違った。フィールド上に舞い降りず、俺のもとへと飛んできたのである。

 

「え?」

 

「やったー! やっと秋人君が私を使ってくれたー! ありがとー!」

 

 そう言って俺に抱き着いてくるブラック・マジシャン・ガール。は? 何がどうなっている!? このカードが好きなカードだったから嬉しいが、それ以前に、ちょっと待て!? まさか、この遊戯から渡されていたこの2枚……! まさか

 

「カードの、精霊……!?」

 

「マナ、決闘中だ。喜ぶのはまだ早いぞ」

 

「おっとっと、そうでしたお師匠様」

 

 ブラック・マジシャンの言葉に、ガールは頷いてすぐにフィールドへと舞い降りる。

 

「秋人殿、話はまた後で。今は決闘に集中を」

 

 そう言って、ブラック・マジシャンも俺に声を掛け、前にいるエンド・オブ・アヌビスに向き直った。

 

「ボ、ボウヤ? さっきから何をブツブツ言っているの? というか、ボウヤ、あなたブラック・マジシャン・ガールなんてカードをどこで……」

 

「っ……!? すまん、なんでもない(そうか、藤原には二人がフィールドに立っているようにしか見えないのか)」

 

 そう言って俺は藤原をごまかし、前へと向き直る。

 

『バトル続行、ブラック・マジシャン・ガールへエンド・オブ・アヌビスで攻撃』

 

「速攻魔法『黒魔導強化』を発動! このカードはフィールドにいるブラック・マジシャン、そしてブラック・マジシャン・ガールの数で効果を適用する。1体以上いることで1つ目の効果を発動! 俺はブラック・マジシャン・ガールを選択し、このターンの終わりまでガールの攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 

「返り討ちだよ! 黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)!」

 

ブラック・マジシャン・ガール ATK2000/DEF1700→ATK3000/DEF1700

 

????LP4000→LP3500

 

 攻撃力が強化されたブラック・マジシャン・ガールが襲ってきたエンド・オブ・アヌビスを破壊する。

 

『私はカードを2枚セットしてターンエンド』

 

「俺のターンドロー! 俺は手札から『闇の誘惑』を発動。カードを2枚ドローし、闇属性のカードを1枚ゲームから除外する。『マジシャンズ・ローブ』をゲームから除外……よし、バトルフェイズ! ブラック・マジシャンでダイレクトアタック!『黒・魔・導』!」

 

『罠発動『攻撃の無力化』。攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する』

 

「……ターンエンド」

 

 防がれたか……闇のデュエルを知っているだけに、あまり長引かせるわけにもいかないな。早々に決着を付けないと……

 

『私のターン、私は手札から『天使の施し』を発動。3枚カードを引いて2枚を墓地へ捨てる……さらに、『強欲な壺』を発動して2枚ドロー。私の墓地には『エンド・オブ・アヌビス』『ダーク・グレファー』『終末の騎士』『ダーク・アームド・ドラゴン』『ダーク・シムルグ』の5体、闇属性のモンスターが存在する。そして自分フィールドにモンスターが存在しないとき、『ダーク・クリエイター』を特殊召喚』

 

ダーク・クリエイター ATK2300/DEF3000

 

「ダーク・クリエイター…!」

 

『そして、効果発動。墓地のダーク・アームド・ドラゴンをゲームから除外し、墓地の『ダーク・シムルグ』を特殊召喚』

 

ダーク・シムルグ ATK2700/DEF1000

 

『さらに、ダーク・グレファーを通常召喚』

 

ダーク・グレファー ATK1700/DEF1600

 

 一気にフィールドへ並び立つ闇属性モンスターたち。こいつのデッキは闇ビートか…!

 

 

『バトルフェイズ。ダーク・クリエイターでブラック・マジシャン・ガールを攻撃』

 

「きゃあ!?」

 

武藤秋人 LP4000→LP3700

 

『ダーク・シムルグでブラック・マジシャンを攻撃』

 

「ぬぅっ……!」

 

武藤秋人 LP3700→LP3500

 

「っ……! 藤原、伏せろ!」

 

 そのダーク・シムルグの放った一撃が周囲を巻き込んで爆発し、寮の破片などが飛び散り、その一部が俺の近くに降り注ぐ。俺は咄嗟に近くにいた藤原を突き飛ばし、自分も何とか避ける。だが、それで攻撃は終わらない。

 

『そしてさらに追撃。ダーク・グレファーでダイレクトアタック!』

 

「ぐああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

武藤秋人 LP3500→LP1800

 

 ダーク・グレファーが持つその剣で背中から斬りつけられ、激しい痛みが俺を襲う。そこまで深くないようだが、その傷に見合わない痛みが俺を襲っていた。それを見て、藤原が悲鳴を上げる。

 

「ボ、ボウヤ!? どうしたの!? ……ボウヤ、背中から血が!」

 

「だ、大丈夫だ……」

 

『ターンエンド』

 

 フィールドには、3体のモンスター。このモンスターたちを一掃するには……次のドローにかかっている。

 

「俺のターン、ドロー! 俺、は、手札から『死者蘇生』を、発動……墓地に眠る『ブラック・マジシャン・ガール』を、特殊召喚……」

 

ブラック・マジシャン・ガール ATK2000/DEF1700

 

「ふぅー…びっくりした。って、秋人君大丈夫!?」

 

「……なんとか、ね。更に魔法カード『賢者の宝石』を発動。デッキ、手札から『ブラック・マジシャン』を特殊召喚する」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

『そのカードたちでは我が下僕たちは突破できない……無駄なあがきだ』

 

「それは、どうかな? 俺は速攻魔法『黒・爆・裂・破・魔・導』を発動。自分フィールドにブラック・マジシャン、ブラック・マジシャン・ガールの2枚があるとき、相手フィールドのカードすべて破壊する!」

 

『何…!?』

 

「「黒・爆・裂・破・魔・導!!」」

 

 二人の杖が重なり合い、そこから巨大な魔力が発生して相手フィールドのカードをすべて焼き尽くした。これで相手フィールドには何もいない。これで、決めさせてもらう!

 

「バトルだ! ブラック・マジシャン、そしてブラック・マジシャン・ガールでダイレクトアタックだ! 『黒・魔・導』!『黒・魔・導・爆・裂・破』!」

 

「「はああああああああああっ!!!」」

 

 二人の攻撃が放たれ、それが直撃する。それと同時に、周囲の黒い何かは消え去り、元の廃寮へと戻っていった。

 

????LP3500→LP0

 

「か、勝った……」

 

「ボウヤ……! 大丈夫!?」

 

「まあ、な……そんなに大した傷じゃない」

 

「嘘言わないで……酷い怪我……まさか、ソリットビジョンが実体化するなんて」

 

 信じられない、という表情で藤原は俺の傷を見ている。これが闇の決闘なわけだが、今後も似たようなことがあるかもしれないと考えるとどうしたものか。そんなことを考えていると、十代たちを覆っていたドームも消え、中からは十代と翔、隼人、それに十代に抱きかかえられている明日香の姿があった。

 

「秋人!? それに雪乃じゃん……どうしたんだこんなところで!」

 

「話はここを出てからだ、とりあえず出るぞ」

 

 ひとまず寮を後にし、俺たちはひとまず外で今まで何が起きたのかを互いに説明した。

 

「そんなことがあったのか……俺も同じだ。闇のゲームをするって言った奴……タイタンって奴と戦ってさ。最初はただのいかさまだったのに途中から変な闇みたいなのがでてきて」

 

 と、説明する十代。そして最後に小声でハネクリボーが助けてくれたんだと言っていた。詰まる話は原作通りと言うことだ。結局タイタンは闇の中に消えた……再びセブンスターズとしてここに来ることは間違いないわけだが、今は今度のことを考える必要がある。恐らく来るんじゃないだろうか、査問会。この後明日香も眼をさまし、十代たちは明日香をブルー寮へと送ると歩いて行った……で

 

「藤原、お前はどうしてここにいる?」

 

「あら、秋人…貴方の怪我を治療するのにどうして寮へ戻る必要があるの?」

 

「いや、痛みも落ち着いたしこれくらい1人でできるから……んん?」

 

 今、藤原俺の事をボウヤじゃなくて、秋人って呼ばなかったか?

 

「私が貴方を連れて行かなかったら、貴方はこんな怪我を負わなかった……それに、もし貴方がいなかったら、私が貴方と同じ目に合っていたかもしれない。だから、お願い。私に治療させて」

 

「……はぁ。わかったよ、藤原の好きにしてくれ」

 

 この目はもう、梃子でも動かないと言っているような目だな。

 

「あと、今日は助けてくれてありがとう。これからは貴方の事をボウヤって呼ぶの、やめにするわ。貴方も私のこと、いい加減雪乃って呼びなさい」

 

「わかった、考えておくよ」

 

 こうして、俺たちはレッド寮へと戻ることにするのだった。

 




ブラック・マジシャンたちとの対話は次回に

リメイク前との変更点
廃寮デート?
ゆきのんが幽霊などが怖いという性格改変に関しては前作と同じですが、秋人が雪乃をいじめてません。あと、明日香の悲鳴ではなく、すでに十代がデュエルを行っていることを強調するためにデュエルをしているところに駆けつけるように変更

デッキ変更
前はHEROデッキでしたが、ブラマジデッキに変更。結構、いろんな人からまだ?と言われていたので

NEXT 17「怖い女」


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17「怖い女、怖い男」

 な、なんとか19日に投稿できました。

couse268様 シーンタスク様 ちにゃ様 うさぎたるもの様 P&A様 暗色様 Ranperu様 ヴァイロン様 カロン様 万屋よっちゃん様 傷心ズバット様 navi様
感想、ご意見、ご指摘ありがとうございました。これからも宜しくお願いいたします。ただ、ご指摘のみの方……できれば、でいいのですが小説の感想もいただければ幸いです

引き続き感想、ご指摘、ご意見、小説評価をお待ちしております。

今回はあの人が久しぶりに登場。威圧感、圧倒的……!
では17話です。どうぞ


Side秋人

 闇の決闘をしてから数日。とりあえず、闇の決闘よりも衝撃的なことが1つあった。あのデュエル以降見えるようになった『マハード』と『マナ』の存在である。この二人は言わずもがな、武藤遊戯のブラック・マジシャン、そしてブラック・マジシャン・ガール。しかもこの二人、俺とミラの会話をすでに聞いていたらしく、この世界のこと、俺の正体についても全て知っているという。その話を聞いて、迂闊だったと頭を抱えるが、マハード曰く、俺のことについては言うつもりはなく、むしろ俺の手助けをしてくれるという。理由は本物の武藤秋人について俺が元いた世界に帰る手がかりは武藤秋人についての謎にも迫れるかもしれないという理由から、とのこと。そんなわけで協力体制を得たわけだが……

 

「どうして、こいつはまた……」

 

「すー…すー…」

 

 目を覚ますと俺の寝ているベッドにはなぜか雪乃が寝ていた。あの闇の決闘をして以来、ここのところ毎日俺の部屋に来ては泊まりにくる。気が付けば俺の部屋には雪乃の日用品がチラホラと置かれていた。元々3人部屋であるレッド寮に1人で住んでいる俺の部屋は広い。なので、1人が荷物を置いて泊まりに来るのには別に問題はないが、そこが問題ではない……16歳の男女が一緒に部屋で寝ているということに問題がある。一線は超えていないものの、他人に噂にでもなったら倫理委員会にマジでそのまま退学にされそうな気がする。なにより、雪乃の両親は有名な俳優と女優。こいつ自身も何度か子役で出演した経験があるらしく、ファンもいる……という話を聞いた。ファンなんかに知られた場合、俺は殺されるんじゃないだろうか……

 

「雪乃、そろそろ起きてくれる?」

 

「うぅん……や、あと30分」

 

「それ、もう3回聞いた。いくら休日だからって怠けすぎだ。いい加減起きろ」

 

 俺が言うと、眠たそうに眼をこすりながら起き上る。どうやら、雪乃は朝が弱いらしい……まあ、俺も人の事を言えた話ではないが。

 

「んー……おはよう、秋人」

 

「ああ、おはよう……で? なんでお前は毎回俺のベッドに潜り込んでくる? 上のベッド貸したよな?」

 

「あら、ダメだった?」

 

「ダメというか、もうちょっと恥じらいを持ってくれよ……頼むから」

 

 俺がそう言うと、雪乃はクスクスと笑っていた。

 

「あら、心配してくれるのね…………大丈夫よ、こんなこと貴方にしかしないから」

 

「……ん? 最後なんて言ったんだ?」

 

 小声でよく聞こえなかったんだが、何を言ったんだか。しかし、雪乃は相変わらず笑いながら「なんでもないわ、ありがとう」と言って髪の毛を結わき始める。俺もベッドから降りて冷蔵庫から飲料水を取り出して口に流し込む。

 

「そういえば秋人、ここ最近、怪我の具合はどうなの?」

 

「だいぶ楽になったよ。別にもう怪我は診てくれなくても大丈夫だ」

 

 実際、ミラ、マナ、マハードという優秀な魔法使い族たちが俺の怪我に対して治癒の魔法をかけてくれている。といっても、実体化できていない今の状態ではその回復量というのはたかが知れているらしく、そこまでの回復効果は見込めない。といっても、無いよりはよっぽどマシだし、正直助かっている。

 

「さーて、さっさと朝食を食べてデッキでもいじろ―ドンドンドン―……あ?」

 

 デッキでもいじろうか、そう考えていた矢先。俺の部屋のドアが勢いよく叩かれる。この朝っぱらから非常識にも程があるだろう、まったく。

 

「我々はアカデミア倫理委員会の者だ! 開けないとここを爆破するぞ!」

 

「随分物騒ねぇ……」

 

 そう言いながらのんきに雪乃は俺から受け取ったお茶を飲みながら俺と一緒にそのドアを見つめる。本当に爆破されたらたまったものではないので若干扉からは距離を取っているが。

 

「「……」」

 

 しかし、扉が爆発する気配はなく、ひたすらガンガンと扉を叩く音と、ここを開けろという言葉だけが繰り返されるのみである。

 

「なんというか、アカデミア倫理委員会ってバカだったのね……あんな幼稚な脅し文句で扉を開けるとでも思ったのかしら?」

 

 ……実際、十代はその脅し文句で扉を開けてしまっていた記憶があるので何もいえねぇ。すると、今度はより一層強く扉を叩いている音が聞こえる。いくら改装したからといってもレッド寮の扉もそこまで頑丈ではない。下手すると壊れるぞ。どうしたもんか、と考えているとマナがカードから眠たそうに出てきた。

 

「(マスターおはよー……なぁに、このうるさい音)」

 

「(おはようマナ。アカデミアの倫理委員会とかいう連中が開けろって言ってるんだよ)」

 

「(もぉ~…人がせっかく二度寝しようと思ったのに……えい)」

 

 マナがマスターと呼ぶのに関しては、今は俺がカードの持ち主だから、だそうだ。すると、マナはそう言って眠そうに杖を振る。おいちょっと待て、今何をしたんだお前は。いきなり扉の向こうから悲鳴が聞こえてきたぞ。

 

「(扉叩かれるのうるさいから、扉の硬度鉄くらいにしてあげたよ)」

 

「(……うわぁ、それは痛いわ)」

 

 扉を叩いていた人、ご愁傷様……。そんなことを思っていると、また今度は別の人の声が聞こえてくる。

 

「もう一度言うが我々はアカデミア倫理委員会の者だ……すぐにここを開けて出て来い」

 

「どうするの秋人? さっきからしつこいけど」

 

「放っておけばいいんじゃない? 面倒だし、あんな朝から騒ぐ非常識な連中に付き合う必要はないと思うよ」

 

 これ以上面倒なことしたら即刻KC社の社長室へ電話かけてこの非常識ぶりを社長にチクってやろう。割とマジで。これ以上は俺たちだけでなく他の部屋の住人にも迷惑だ。

 

「いい加減に出てこいと言っているだろう! この落ちこぼれのオシリスレッドが!!」

 

「「(っ~!?)」」

 

 今度は俺とマナは思わず耳を塞ぐ。まさかの拡声器を大音量にして叫んでくるとは思わなかった。

 

「ゆ、雪乃? だいじょう……」

 

 大丈夫か、そう聞こうとしたとき彼女のパジャマにボタボタとさっきまで飲んでいた飲料水、紅茶がかかっていた。驚いてそのボトルを落としてしまったのだろう。床まで紅茶が滴っている。が、それは問題ではない……確かだが、昨日雪乃は「ようやく届いたお気に入りブランド」と嬉しそうに俺にその着ているウサギ柄のパジャマを見せびらかしていたのを覚えている。

 

「あ、あの……雪乃?」

 

「……秋人、ちょっと後ろ向いて。着替えるわ」

 

「お、おう……」

 

 俺はすぐ後ろを向くが、その音速の速さで着替えを済ませる雪乃。俺が後ろを向いた意味は果たしてあったのだろうか。そしていつものオベリスクブルーの制服に着替えた雪乃はその扉の前に立って扉のドアノブをひねる。未だに叩いている音が聞こえているということは近くに人がいるということである。

 

「(えーと、マナ?)」

 

「(大丈夫、ちゃんと元に戻したよマスター)」

 

――ドゴッ!

 

 そのマナの言葉と共に勢いよくドアが開かれる。そして、その扉を開けたと同時に鳴る鈍い音……どう考えてもその扉の近くにいた人間に扉が激突した音である。そしてその鈍い音と共に扉の近くで拡声器を持っていたであろう女性が吹っ飛ばされていた。うわぁ、スゲー痛そう。痛そうに鼻を抑える女性。鼻血が出ており、周囲の男たちは女性に駆け寄っていた。そしてその鼻を押さえながら女性が叫ぶ。

 

「貴様、何をする!」

 

「あら……開けろっていうから開けてあげたのに。扉の近くにいたのが悪いんじゃない?」

 

 雪乃からドス黒いオーラのようなものが揺らいで見えるのは気のせいだろうか? マナはそれを見て「二度寝します! お休みマスター!」と言って慌ててそのカードの中へと戻っていった。

 

「というより、何故オベリスクブルーの女子生徒がここにいる!」

 

「そんなの私の勝手でしょう? そんなこと貴方に言う義理はないわ」

 

「我々は倫理委員会だ! 貴様の行動は不純異性交遊に相当する!」

 

「事情も知らないくせに何言ってるの? あと、声がうるさいわ。近所迷惑よ」

 

 ……なんだろう、この前はちょっと雪乃の事を可愛いとか思ったけど、今の雪乃、とても怖いんだが。

 

「貴様ぁ……」

 

「この朝早くから私たちだけではなく他の生徒も寝ている場所で拡声器なんか使って扉を開けさせようなんて……頭が悪いのかしら? それとも、オシリスレッドには人権はないとでもいうつもり? 後でここの寮生たち全員にアカデミアを運営しているKC社にクレームを入れさせましょうか? 私の父の知り合いにKC社の重役がいるもの。私の口添えですぐにこのアカデミアのオーナーに貴方たちに対するクレームが届く事でしょう。そうなれば貴方たちはすぐにでもクビね。今のご時世ならSNSなんかを使って今の事を拡散したら来年度の入学希望者数はどうなるかしら?」

 

 雪乃の言葉に、その場にいた倫理委員会の人間たちが顔を真っ青にして凍りついた。雪乃の事を知っているだけに、あ、これマジで言っている。とすぐに理解できてしまう。この後、俺を見つけた1人の倫理委員会の人間が雪乃を止めてくれと頼んできて、その後今までの事を詫びながらついて来て欲しいと頭を下げてきた。俺はとりあえず雪乃を落ち着かせて留守番を頼み、その倫理委員会の人間たちについていくことにするのだった。

 

 

 

 

「「退学~!?」」

 

『三日前、遊城 十代以下3名は閉鎖され立ち入り禁止となっている特別寮に入り込み、内部を荒らした。調べはついている!』

 

 真っ暗な部屋でそう倫理委員会の女性の言葉が響き渡る。そこにはディスプレイが表示されており、校長、倫理委員会、そしてクロノス教諭がいる。クロノス教諭にいたっては十代を退学にできる、と嬉しそうである。ふーむ、別にこのまま制裁タッグデュエルを受けても構いはしないのだが……ここまで一方的に言われるのもなんかあれだよなぁ

 

「何故俺たちが荒らした、と? 何か証拠でもあるのか?」

 

『貴様が知る必要ない!』

 

 と、女性。さっきの雪乃の一件があったからか、俺の事を目の敵にしているようである。頭に血が上っているせいで、まともに会話が出来そうにない。

 

「つまり、証拠はないと。なるほど、無実の生徒を退学にさせようとしているんですか」

 

『……匿名で情報提供があった』

 

「へぇ? 匿名なんていう怪しさしかない人間からの情報を鵜呑みにして証拠もなしに疑わしき者は罰すると? それならそういった校則を作ったらどうですかね? もっとも、そんな学校こっちから願い下げですけど」

 

 俺の言葉に気押される倫理委員会の女性。クロノス教諭に至っては俺まで退学の対象にしたことを悔やんでいるように見える。

 

『ふむ、確かに証拠もなしに生徒を疑うのは良いこととは言えませんな。それは教師として反対です』

 

 そう言ってくれる校長の言葉に喜ぶ十代と翔。だが、女性の方は『ダメです』と反対する。

 

『もうこれは上の決定です。この退学が覆ることはありません』

 

『そうなのーネ、これはもう決定なのーネ! 上のお偉い方々だから、いくら校長でも覆せないのーネ!』

 

 ……上の決定ね。それはどこまで上なのかぜひ知りたいところだ。さっそく聞いてみることにしよう。この後、絶対に怒られること確定だけど。それに、ちょっと卑怯な気もする……が、俺もなりふり構ってられないし、退学は困る。一応、協力体制にはなってくれているから力は貸してくれるだろう。多分

 

「校長、今から数分お時間を頂いても?」

 

『む? どうかしましたかな?』

 

「ええ、ちょっとそれが本当か調べる方法があるので」

 

 そう言って俺は銀色のブルーアイズの装飾が入ったスマートフォンを取り出し、電話を掛ける。

 

『ハッ……! 今更どこにかけようと「あ、どうも海馬社長。お久しぶりです」……は?』

 

「お忙しいところすみません。ええ、リストの方はさっきメールで……あ、確認しました? いえ、それとは別件のお話で……はい、はい。実は今日、倫理委員会からかくかく云々で……あ、はいわかりました。後日送ります。それでどうすればいいですかね。ディスプレイを回す? えーと、この端末に繋げればいいと」

 

 俺は言われた通り端末を操作し、持ってきていたPDAに接続する。すると、別のディスプレイに海馬社長が映し出された。

 

『お、オーナー!?』

 

『な、なぁ……!?』

 

『あ、あがが…』

 

「あ、あの人って伝説の……」

 

「海馬社長って秋人君言ったよね……ってことは、アニキ、あの人!」

 

 と、校長、委員会の女性、クロノス教諭、十代、翔が驚きを見せる。まあ、当然と言えば当然だ。俺が海馬社長と繋がりを持っているなど誰が考えるか。俺としてはこの手段だけは使いたくなかった。約束の中にお互いの関係をあまり表沙汰にしてはならないというものがあったからだ。しかし、俺の退学がかかっているということで察したのだろう、社長もさっき電話で『俺に手間をかけさせた罰だ。今度またカードを持ってこい』と言われてしまった。

 

『だいたいはそこにいる武藤秋人から事情は聴いた。こちらにもその調査書は届いている、が……なんだ? この稚拙で、不完全で、まったくできていない調査書は!!』

 

 その言葉と共にその調査書らしきものを叩きつける。さすがに、十代と翔は驚いて互いで抱き合っている。

 

『そ、それは……』

 

『貴様ら倫理委員会は俺の目の届かぬ場所でいい加減な仕事をしていたと、そういうことだな?』

 

『ひ、ひぃ!?』

 

 どうやら、出された調査書はろくなものではなかったらしい。まあ、まず匿名の情報を鵜呑みにしてそこから調査書を作るなんて社長からしたら許せないんだろうな……おそらくだけど。

 

「失礼します」

 

『シニョーラ天上院とシニョーラ藤原……どうしたノーネ』

 

 言葉と共に入ってきたのは明日香と雪乃だった。明日香は妙にビクビクしているが、雪乃の余裕はどこから出てくるんだろうか。何してんだこいつら?

 

「この3人の件に関しまして弁護として参りました」

 

 そう言って一礼する雪乃。気のせいかな? 雪乃の頭から悪魔のハネが出て、後ろにしっぽが見える気がするんだけど……何をしでかすつもりだ、雪乃の奴。その部屋に入ってきた2人を海馬社長が睨み付ける。

 

『何の用だ、そこの小娘ども』

 

「か、海馬瀬人……社長。んんっ! 改めまして3人を弁護するためにここへ参りました。藤原雪乃と申します。こっちは天上院明日香……ご同席させていただけますでしょうか?」

 

『ほう? この件に関して知っているのか。オベリスクブルーの生徒が関わっていたという話は調査書に一切、入っていないが?』

 

 そう言ってディスプレイから倫理委員会の女性を睨みつける社長。もう、女性の方は泣きそうである。

 

『まあいい、小娘、続けろ』

 

「はい……まず今回の件ですが、事実、3人とも夜間に特待生寮へと足を踏み入れました。無論、私たち二人もです」

 

『ほぅ……?』

 

「理由は学園に侵入していた不審者です。女子寮付近で徘徊していた不審者がいまして、こちらの天上院さんがその逃げた不審者の後を追いかけ。追って、私はそこにいる彼らへと協力を仰いだのです。生憎、女子寮の担当者である鮎川先生と響先生は出張でいらっしゃらず、我々で対応をと考えました。彼らは腕の立つ決闘者であり、この学園では数少ない私の男性の友人です。女性二人よりも、男性を加えた方が心強いと思いまして」

 

『そんなことがあったのですか……』

 

『馬鹿なっ! 我々はそんな話を聞いてないぞ!』

 

 驚きを隠せない校長と倫理委員会の女性。ただ、海馬社長だけは黙ってその話を聞いている。雪乃の『作り話』を疑っているのだろう。これが嘘だとわかるのはクロノス教諭だが、言えないはずだ。言えば、そこに自分がいたことも、タイタンを雇ったのが自分だということも漏れかねない。事実、タイタンがこの学園にいたのだから、もし近くにいたのなら何故何もしなかった、という話にもなってしまうからだ。

 

『その不審者についてはわかったか? 小娘』

 

「タイタン、と名乗る男で、自分を『闇のデュエリスト』だと呼んでいました。ねぇ、明日香?」

 

「え、ええ……」

 

 明日香がビクビクと頷いている。まずいな、海馬社長に明日香を揺さぶられたら一瞬でばれるぞ。

 

『……後で調べさせよう。それで、そのタイタンとかいう奴はどこに行った?』

 

「そこにいる遊城十代がデュエルを仕掛けましたが、タイタンは敗北後に逃走。追った武藤秋人は切り傷を負いました。その手当を優先したのでそのまま逃がしてしまいました」

 

 実際は闇の中に消えてしまったのだが、その話は十代しか知らない事実だ。雪乃もその十代の言葉はさすがに信じ切れていないようで、事実を織り交ぜた作り話を展開していく。

 

「今回起きた事件は学園側と警備、さらにそれらを補佐とする倫理委員会の職務怠慢によって起こった事件であり、彼らを退学にすることに反対を申し立てます」

 

『……ふん。どこまでが嘘で、どこまでが本当なのかは知らん。だが、この報告書よりは信用できる。さて、鮫島校長』

 

『は、はい。なんでしょうかオーナー』

 

『こいつらの処遇、貴様はどう判断する?』

 

 社長の言葉に、ゴクリとのどを鳴らす十代たち。校長も少し考えた後、答えを出した。

 

『聞く限り、我々の落ち度ですな……制裁タッグデュエルも考えましたが』

 

『……が、貴様ら全員、夜間に外出したことを忘れるな。その件に関しては制裁タッグデュエルを受けてもらおう。そこの退学対象となっていた3人に、だ。勝てば無罪放免、それと次の月一テストを免除とする。が、負ければ一週間の謹慎、その後補習だ。そこの小娘2人も含めてな』

 

 と、海馬社長。制裁タッグデュエルは結局受けることになったか。まあ、仕方がないと言えば仕方がないか。社長の言うとおり、夜間に外出をしてしまっているわけだし、それに勝てば次のテストは受けなくていいというのはかなり美味しい話だ。

 

「おーし! 燃えてきたぜ!」

 

「と、とりあえず退学は免れたっス……よかった」

 

 海馬社長の言葉にやる気を出している十代と、ホッとした様子の翔。まあ、確かに翔の言うとおり、退学は免れたのがでかいな。

 

『そして、倫理委員会』

 

『は、はい……!』

 

『貴様らは後で処遇を伝える……楽しみにしておけ』

 

 あ、女の人泡吹いて倒れた。まあ、当然と言えば当然か……というか、あれ?

 

「社長、タッグデュエルって言ってましたけど……1人余りませんか?」

 

『それについてだが、武藤秋人、お前は1人でデュエルだ。対戦相手は当日に用意するから待っておけ……あと、電話での約束も忘れるな。以上だ』

 

 その社長の言葉と共にディスプレイの画面は消えた。確か、十代と翔の相手は「迷宮兄弟」のはず。だが、もう1人は……なんだか、嫌な予感がするな。そんなことを思いながら、俺たちはその部屋を退出することになるのだった。

 

 




リメイク前との変更点
ゆきのん、キレる
前は主人公が馬鹿にされたことでキレましたが、今回は理由変更

社長、久しぶり
ジャンプに今週出ているのを見て書きたくなった。この結果、また社長のデッキが強化されることに……果たして、遊戯は勝てるのか、社長に

主人公、タッグなし?
一人です。いったい相手はダレナンダー

Next 18「それぞれの絆」


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18「絆」

お久しぶりです。一昨日、昨日と仕事と病院での診察のせいで忙しさと疲れによって更新が遅れてしまいました。申し訳ない……

勘太郎様 ヒデカズ/叶多様 読み専太郎様 couse268様 暗色様 Ranperu様 黒クロウ様 神風装甲様 うさぎたるもの様 万屋よっちゃん様 navi様 ヴァイロン様 ジェガン様
感想、ご指摘、ご意見ありがとうございます。また宜しくお願いします
ただ、小説とは関係のない書き込み、オリカの書き込みなどはご遠慮ください

評価の方も引き続きお待ちしております

では18話です。今回はデュエル成分少ないですが、次回がガッツリとデュエルです(白目)


「つーわけで、制裁タッグデュエルのための対策を練ろうと思う」

 

「おう!」

 

「了解ッス」

 

 と、俺の部屋にて緊急会議を開始した。いるのは俺、十代、翔はもちろんのこと、今回その事件に関わりのある明日香と雪乃、隼人。そして俺たちが退学になるかもしれないという話を知ったツァンと三沢も同席している。

 

「で、対策なんだけども……みんなデッキは持ってきてくれたよな?」

 

「もちろんだぜ! でも、デュエルディスクはいらないってどういうことだ?」

 

 そう、俺が事前に送ったPDAへのメールにはデッキこそ持ってくるようにと指示を出したが、デュエルディスクは持ってこないように、とのメールを出した。あと、十代と翔にはデッキに入れていないカードなどをそれぞれ持ってきてくれとも追記した。

 

「うん、それなんだけどな。今から俺たち全員で総当たりデュエルをする。でだ、まずお互いに手札を公開してデュエルをする。で、お互いにプレイを確認しながらデュエルをするんだ」

 

 これは昔、大きな大会などで出る前などに俺が友人たちとやっていた方法である。お互いにプレイングに注意しながら、プレイミスなどを減らす練習をするというもの。例えばだが、Aのカードを出すよりもBのカードを出せばいいのではないか、とお互いに議論し合い、プレイを巻き戻してここで別のカードを出していたらどう進むのかと確認し合うのである。議論などで時間はかかるが、カードの事をより知るには結構助かったりする。実際、この世界では決闘者が自分の使うカード以外の物を知らないことも結構ある。これはまずお互いが近くにいないとできないし、デュエルディスクなどを使うと巻き戻してプレイを再開などもすることができない……それに

 

「それと、召喚エフェクト、戦闘シーンなんかの時間がはっきり言って無駄だ。そういう無駄を全部省いて、デッキをひたすら回し続けるわけだ」

 

「なるほど、デュエル時間を短縮して数にあてる、と……でも、総当たりにする必要あるの? それに、十代のボウヤ達以外の人間同士でやるメリットがあまりないような……」

 

「日頃こうやって仲間内でデュエルすることでアドバイスとかもできるようになるからやって損はないと思うぞ。デュエリストの数だけ戦術があるわけだし、1人の意見だけを聞いて調整して偏りが出るなんてこともあるしな……ま、実際やってみた方が早い」

 

 こうして始まったプチデュエル大会。幸い俺の部屋は広いので床にカードを広げたりするには十分な広さがある。それにしても、決闘はいつもデュエルディスクを使っていたからこういうテーブルデュエルは久しぶりだな。最初の相手は十代か

 

「よし、じゃあやろうぜ」

 

「そうだな。お願いします」

 

「お? おう、お願いします。どうした? いきなり」

 

「あー、ほら、あれだ。テーブルデュエルだとお互いに礼をしたりするもんだよ」

 

 元の世界ではそれが普通だったからな……少し、懐かしい。そう言ってプレイをスタート。みんなもプレイを開始してデュエルを進めていく。で、俺も十代のプレイングを見て指摘したり、十代もカードの効果を聞いてここで別のカードを使ってみたらどうか、などという風に話をしたりして展開しながらデュエルを進めていく。この方法を行うと、1回のデュエルは通常の2倍から3倍時間がかかる。

 

「じゃあ最後だ。俺はスターダスト・ドラゴンで十代に攻撃。で、ジャンク・アタックの効果で破壊したモンスターの半分のダメージ。つまりE・HEROフレイム・ウィングマンの攻撃力の半分ダメージで俺の勝ちだな」

 

「うあー、俺の負けかぁ」

 

「まあ今のは最後、ジャンク・デストロイヤーで一掃したからな」

 

「他にシンクロモンスターも出せたのか?」

 

「そうだな、今のだったらレベルを下げて『ジャンク・アーチャー』も出せたか。十代もここでこっちのカードで防げば……」

 

 使っていたのはジャンド。とはいっても、このデッキには欠点がある。数えきれないほどカードがあるはずなのに俺が持っていないカードが存在する。このデッキの肝ともいえる『シューティング・スター・ドラゴン』『シューティング・クェーサー・ドラゴン』などだ。何故この2枚が無いのかはわからないが、白紙のカードがあるところを考えるに俺がまだ使えないだけ……なのかもしれない。まあ、フォーミュラ・シンクロンやハイパー・ライブラリアンがいるだけでも十分ではあるが。他にも言うとZEXALで登場した『未来皇ホープ』『CNo.』と名のついたいくつかのカードは俺の手元にはない。これも何か理由があるのか……

 

「じゃ、次だ! 次は誰だ~?」

 

「そうね……十代のボウヤ、相手をしてくれる?」

 

「雪乃か、いいぜ!」

 

「秋人、私の相手をしてもらおうかしら?」

 

「明日香か、いいだろう」

 

 と、こんな感じでローテーションをしてオープンデュエルは進んでいった。そして、その後はみんなでデッキを見てそれぞれ調整を始める。

 

「なあ十代。攻撃の無力化とヒーローバリアはどっちかでよくないか? ネクロ・ガードナーもあるし。それだったらカウンターは相手に干渉するミラフォとか、魔法筒とかにして」

 

「あー……確かに。そうなるとこのカードも抜いて……こっちか」

 

「翔、思うんだがロイドデッキならばこのカードも使えるのではないか?」

 

「あ、そうだね三沢君。それならこうして……こうなって」

 

「雪乃、ボクが見ていた限りこのレベルのモンスターが多いと思うわ。だったらもっとばらけさせて名推理を相手が外すように……」

 

「そうね、ならこっちを入れようかしら。そういえばツァン、貴方の六武衆のカード、これは2枚ないの? そうすればここから……」

 

 お互いにデッキを把握しての調整だからか、かなり議論を展開しながらのデッキ調整になった。自分のデッキを詳しく知ることが出来ればさらに戦略の幅は広がる。三沢とかは最初、自分のデッキを晒すことに関してはあまり良いとは思わなかったらしい。まあ、当然だ。ここにいるメンバーは全員仲間ではあるが、それと同時にライバルでもある。それゆえに対戦時にメタカードなども張られたら困る。が、裏を返せばそれを想定して対策をすればいいだけの話だ。結局デッキのカードを色々と試していけばいいに過ぎない。

 

「そういえば秋人、貴方がくれたこのカード、本当に貰っていいの?」

 

「ああ、まああれだ……この間迷惑かけたからな。その詫びだと思ってくれ」

 

 そう言いながら『強欲で謙虚な壺』を見せる明日香に対して答える俺。この間のことで色々とみんなには迷惑や心配をかけてしまったということで色々とカードを渡した。もっとも、これらは今後に海馬社長が量産するかを検討しているカードたちなのである意味テストプレイヤーになってもらっているのも兼ねている。

 

「で、翔。さっきのデュエルだけど。なんでこの『パワー・ボンド』を使わなかったんだ? このカードを使えば、さっきの状況にはならなかったと思うぞ」

 

「そういえば、翔はボクとのデュエルでもパワー・ボンドを使わなかったわね」

 

「そ、それは……」

 

 三沢、そしてツァンの疑問に翔は答えるのをどこか躊躇っていた。それに気が付いたのか、十代が翔のパワー・ボンドに手を取る。

 

「なあ翔、なんか俺のデュエルの時もこのカードじゃなくて『融合』使ってたよな。もしかして、このカードに何かあるのか? よかったら話してくれよ」

 

「……」

 

「今度のタッグデュエルでは俺と翔は互いにパートナーだ。そのパートナーが悩みを抱えているなら、一緒に悩んでやる!」

 

「アニキ……わかった、話すよ」

 

 十代の言葉に、しばらく考えた様子の翔だったが、翔は意を決したかのようにポツリ、ポツリのパワー・ボンドのことについてを話した。過去、このカードを使うことで調子に乗って相手を馬鹿にし、それを見た兄にカードを封印するように言われたこと。それでも、一応デッキには入れていたことを……まあ、反応は様々だった。翔も自分が悪いことを反省しているのを見て、特に翔に対してみんながきつく言うこともなく、それなら一度パワー・ボンドを抜いてはどうか、という話にもなった。だがそれでは逃げているだけだ、と十代は翔にパワー・ボンドを入れるように言うなど、この辺については十代に任せて大丈夫そうだ。それは、カイザーとのデュエルも含めてのこと。そう思いながら、俺はデッキの調整を行うのだった……当日のデュエル、どうしたもんかと考えながら

 

 

 

 

 それから時間は流れ、この間にはほぼ流れは原作通りに十代とカイザーがデュエルを行い、そして隼人が親に連れ戻されそうになるという騒動も起きた。そんな間にもみんなで制裁タッグデュエルを乗り越えるために、とデュエルを続けてデッキはかなりの出来に仕上がっているのが分かった。そして、俺たちは制裁タッグデュエル当日を迎える。

 

「うおー! ワクワクするなぁ!」

 

「アニキ、朝からこの調子ッス……」

 

「ああ、そうだな……」

 

 制裁タッグデュエル当日。俺たちはデュエル場へと訪れていた。そしてそのデュエル場には俺たち3人の他に雪乃、明日香、ツァン、三沢そして明日香に誘われてかカイザーこと丸藤亮の姿もあった。

 

「お兄さん……」

 

「翔、大丈夫か?」

 

「あ、うん……大丈夫だよアニキ」

 

 カイザーがいるとわかってか、若干緊張している翔だが、十代に声を掛けられてかすぐに気を引き締めていた。そして制裁タッグデュエルに関して説明する校長の隣にもう1人、威圧感を放つ人物がいた。海馬瀬人、その人である。最初にタッグデュエルが始まるということで決闘場に上がる十代と翔の前に現れる2つの影。それはかつて伝説の決闘者武藤遊戯とも戦ったことのある2人の決闘者『迷宮兄弟』。この2人の登場に若干校長が興奮気味だったのは言うまでもない。そして始まる2人の決闘。だが、俺はその2人のデュエルは全くと言っていいほど頭に入ってこなかった……というのも、次の対戦に頭がいっぱいだったからだ。

 

「秋人、ちょっと、大丈夫?」

 

「え? ああ、ツァン……大丈夫だ」

 

「次はアンタなのよ? そんなんじゃ勝てないわよ?」

 

 その通りだ。これでは十代と翔が勝っても俺が負けては意味が無い。俺はまた今日持ってきたデッキを確認し、それをデュエルディスクにセットした。迷宮兄弟は俺が決闘場に入る前に姿を見た。が、そうなると俺の対戦相手は誰だ、という話になる。が、ここで学校の外から来た人間がもう1人いることがわかる。俺も、あの時の社長の言葉に関しては疑問があったし、なにより予想が出来ていた。そんなことを考えているうちに、十代と翔の決闘は終わっていた。無論、それは2人の勝利という形でだ……そして訪れる俺の順番。俺はゆっくりと決闘場の上に上がる。その目の前に立っていた俺の対戦相手を見て俺は静かにデュエルディスクを構えた。

 

 

「やっぱり、俺の対戦相手は貴方ですか…………社長」

 

 俺の前に立っていたのは伝説の決闘者であり、KC社の社長……海馬瀬人だった。そのデュエルディスクを構えた社長の気迫に押される。傍に立っている社長の部下である磯野さんが耐えているのがすごいと思えるほどに。というよりも、前に会った時など比ではないほどのオーラが見えるような気がした。

 

「当然だ。お前と、お前のデッキに並みのデュエリストが太刀打ちできないことくらい承知している。お前は遊戯と闘う前の第一歩、新しいデッキの実験台になってもらおう……それに、お前の目的も俺を倒せなければそこまでだろうな」

 

「言ってくれますね……でも、その通りだ。乗り越えて見せます、貴方を」

 

「ふん、それでこそだ……では、いくぞ。デュエル開始の宣言をしろ磯野!」

 

「はっ! デュエル開始ぃ!」

 

 何故磯野さんを使ったんだ、社長。まさか、このためだけに連れてきたんじゃないだろうな!? ま、まあいい。社長が相手だろうと、やるだけだ!

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

武藤秋人VS海馬瀬人

武藤秋人 LP4000

海馬瀬人 LP4000

 

「先攻は貴様にくれてやる。さあ、来るがいい!」

 

「俺のターン! 俺は手札から『銀河眼の光子竜』を墓地へ送り、『銀河戦士』を守備表示で特殊召喚!」

 

銀河戦士 ATK2000/DEF0

 

「このカードの特殊召喚に成功したとき、デッキから「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。俺は『銀河騎士』を手札に加える。カードを2枚セットして、ターンエンド!」

 

 フィールドに現れるのは銀色の鎧を纏った戦士のモンスター。さて……社長はどう出る?

 

「ほぅ……面白い。俺のターン! ククク、俺は手札から『青眼の亜白龍』の効果を発動。相手に『青眼の白龍』を見せることでこのカードを特殊召喚する。ただし、この召喚方法は1ターンに1度のみ。現れろ、『青眼の亜白龍』!」

 

青眼の亜白龍 ATK3000/DEF2500

 

 現れるのは青眼の白龍……によく似たモンスター。その名も青眼の亜白龍。デザイン的にも亜種という感じなんだろう。だが、ただ似ているというだけではないのがこのカードの恐ろしさだ。それは俺も良く知っている。

 

「青眼の亜白龍の効果だ。1ターンに1度、相手モンスター1体を破壊する。この効果を使用したターンは攻撃が出来ない。青眼の亜白龍! 銀河戦士を粉砕しろ!」

 

 社長の言葉と共に青眼の亜白龍から光弾が発射され、銀河戦士はその爆発を受けて砕け散る。

 

「そして通常召喚でチューナーモンスター『青き眼の賢士』を召喚する。このカードの召喚に成功したとき、デッキからこのカード以外の光属性レベル1のモンスターを手札に加える。俺が加えるのは『太古の白石』。さあ行くぞ、武藤秋人! 俺はレベル8の青眼の亜白龍にレベル1の青き眼の賢士をチューニング!」

 

☆8+☆1=☆9

 

 いきなり来るか……! 社長のシンクロ召喚に周囲が驚いているのがわかる。まあ、当たり前と言えば当たり前だが。

 

「来るがいい、『青眼の精霊龍』!」

 

青眼の精霊龍 ATK2500/DEF3000

 

 社長の言葉と共に召喚される青眼の精霊龍。俺がこの世界で初めてシンクロ召喚したモンスター……正直、少し複雑な気分だ。

 

「そして、手札から『ドラゴン・目覚めの旋律』を発動。手札1枚をコストに、デッキから攻撃力3000以上、守備力2500以下のモンスター2枚を手札に加える。俺は『太古の白石』をコストに、デッキから『青眼の白龍』と『青眼の亜白龍』を手札に加える。さらに、『トレード・イン』を発動、『青眼の白龍』をコストにデッキからカードを2枚ドローする。更に『銀龍の轟砲』を発動。墓地のドラゴン族通常モンスターを特殊召喚する。こい、我が『青眼の白龍』よ!」

 

青眼の白龍 ATK3000/DEF2500

 

「っ……!」

 

 青眼の白龍……世界に3枚しかない、究極のレアカード。海馬瀬人しか持っていない最強のドラゴン。なんて気迫だ……フィールドに今何もいないということもあってその威圧感に恐怖しか感じない。

 

「くくく、どうした武藤秋人、この程度で怖気づくのはまだ早いぞ?」

 

 社長の言葉の意味を理解する。この人、まだバトルフェイズに入らないつもりか。

 

「俺はさらに『強欲な壺』を発動してカードを2枚ドロー。『竜の霊廟』を発動。墓地へドラゴン族モンスターを1枚送る。この時のカードが『通常モンスター』ならば、もう1枚墓地へカードを送ることが出来る。当然、俺が選択するのは青眼の白龍。そして追加効果で太古の白石を墓地へ送る。『死者蘇生』発動。墓地から『青眼の白龍』を蘇生。そして『復活の福音』を発動。自分の墓地のレベル7か8のドラゴン族モンスターを特殊召喚する。墓地の『青眼の亜白龍』も特殊召喚」

 

青眼の白龍② ATK3000/DEF2500

 

青眼の亜白龍 ATK3000/DEF2500

 

 フィールドに並び立つ4体の龍。マジかよ……割とマジで詰んでいるっていうか、この人俺がいた世界でもやっていた一番して欲しくない動きしていやがる。青眼デッキ怖い

 

「バトルだ。青眼の白龍でダイレクトアタック!」

 

「罠カード『リビングデッドの呼び声』!墓地にいる『銀河眼の光子竜』を特殊召喚!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500

 

「構うものか。青眼の白龍、そのモンスターを攻撃しろ! 滅びの爆裂疾風弾!」

 

「もう1枚罠発動!『光子化』! 相手モンスターの攻撃を無効にして、その攻撃してきたモンスターの攻撃力を次の自分のエンドフェイズまでそのモンスターに加える! よって、銀河眼の光子竜の攻撃力は6000!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500→ATK6000/DEF2500

 

 その青眼の白龍の攻撃を吸収して光の粒子を纏う銀河眼の光子竜。なんとか攻撃は防げた。今の社長のモンスターたちならば今の銀河眼の光子竜は突破できない。まあ、銀河眼の光子竜は早々に退場になりそうだが。

 

「ふん、良かろう……この程度で終わるとも思っていない。俺は青眼の白龍2枚で融合を行う! 現れろ、『青眼の双爆裂龍』!」

 

青眼の双裂龍 ATK3000/DEF2500

 

「このモンスターは融合を必要としない。俺はこれでターンエンド。エンドフェイズ、2枚の太古の白石の効果発動。デッキからブルーアイズモンスターをフィールドに特殊召喚できる。俺は『ブルーアイズ』として扱う『白き霊龍』と『青眼の白龍』を特殊召喚する。いでよ、わが下僕たちよ!」

 

白き霊龍 ATK2500/DEF2000

 

青眼の白龍 ATK3000/DEF2500

 

「白き霊龍は特殊召喚に成功したとき、相手フィールドの魔法、及び罠を1枚ゲームから除外する。俺はリビングデットの呼び声を除外。これにより、お前の銀河眼の光子竜は墓地へ送られる」

 

「っ……!」

 

 フィールドに並び立つ5体のドラゴン。『青眼の精霊龍』『青眼の白龍』『白き霊龍』『青眼の亜白龍』そして『青眼の双爆裂龍』……社長も容赦ねーな、本当に。しかも墓地には『復活の福音』まである。まだ1ターンしかたってないし、ライフもお互いに減っていないというのになんだ、この敗北感は……目の前に立つ5体の龍の威圧感に恐怖しか感じない。

 

「俺の……ターン……」

 

 ドローしようとする指が震える。今までこんなこと一度もなかったってのに、情けない。これでは、もう負けを認めてしまっているようなものではないか。そんな俺を見てか、社長が俺を見て馬鹿にしたように笑っているのが見える。

 

「ふん、我がブルーアイズを前に臆した「しっかりしろ! 秋人ぉー!」」

 

「っ……! 十代……」

 

 社長の言葉を遮って、十代の大きな声が俺の耳に響き渡る。後ろを向くと、そこには十代たちが立ち上がって俺の事を応援してくれていた。

 

「いつもみたいに、前を向いてデュエルだ! それなら何にだって負けやしねぇ!」

 

「そうッス! いつもの秋人君はどこ行ったッスか!」

 

「がんばれ、秋人ぉー!」

 

「まだ始まったばかりだぞ! 踏ん張れ!」

 

 十代、翔、隼人、三沢の声が聞こえる。それだけではない、雪乃たちも声を上げているのが分かった。

 

「秋人! いつものアナタを見せて頂戴!」

 

「そうよ秋人! リラックスして!」

 

「ボクたちだって見守っているわ! だから頑張って!」

 

 雪乃、明日香、ツァンの声も聞こえる。そうだった、このデュエルは退学こそかかってないもののみんなのためにも勝たなければならない。俺としたことが、青眼の白龍たちに気迫で押されてどうにかなっていたらしい。せっかく十代と翔が頑張ったんだ……ここで俺が折れてどうする。

 

「……俺のターン!」

 

 そう言って俺はカードを引くのだった。

 




リメイク前との変更点

VSカイザーカット
リスペクトデュエル云々がめんど(ry
カイザーと秋人のデュエルはまた今度ということで、カットしました

翔、ちょこっと成長?
原作とは違い、長い間のたくさんの友人たちを信頼してこその吐露。結果としては原作通りに勝利ということで

VS社長
みなさんの予想通りでございます。VS社長戦です。まあ、リメイク前も対戦相手は社長でしたからね。ただ、秋人のせいで超強化されております……勝てるのだろうか、秋人


NEXT 19「銀河眼VS青眼」


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19「銀河眼VS青眼」

な、長かった……今回、デュエルシーンびっしりになってしまいました。

Ranperu様 読み専太郎様 赤鉄様 ちにゃ様 暗色様 火星の紳士様
ヴァイロン様 ばっしぃぃ様 うさぎたるもの様 
感想、ご意見、ご指摘をありがとうございました。これからもお願いします

小説評価も引き続きお待ちしております。

今回で19話。秋人VS海馬の続きをどうぞ……! ちなみに、今回秋人はアニメカードわりと多めです


Side秋人

 

「俺のターン!」

 

 青眼たちに気押され、どうかしていたな、俺は。ここから切り替えていかないと行けないと。フィールドには5体のモンスターがいるものの伏せカードはない。まずは、フィールドのモンスターを少しでも減らさなければ。OCGならライフは8000だが、今は4000だから。下手すると次のターンで消し炭になってしまう。

 

「俺は魔法カード『逆境の宝札』を発動! このカードは相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターがいない場合にカードを2枚ドローする! 自分フィールドのモンスターが存在しない時、『フォトン・スラッシャー』を特殊召喚! そして、自分フィールドに『フォトン』と名のつくモンスターがいることでレベル8の『銀河騎士』を生贄なしで召喚。この効果で召喚した銀河騎士の攻撃力は1000ポイントダウンする。だが、その後自分の墓地の『銀河眼の光子竜』を守備表示で特殊召喚する! さらにカードを2枚伏せて『命削りの宝札』を発動! 手札を5枚になるようにドローし、5ターン後にすべて捨てる!」

 

フォトン・スラッシャー ATK2100/DEF0

 

銀河騎士 ATK2800/DEF2600→ATK1800/DEF2600

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500

 

 これでフィールドにはレベル8のモンスター2体が揃った。まずはこれだ……!

 

「ふん……レベル8のモンスターが2体、か。こい武藤秋人」

 

「行きます。レベル8の銀河騎士と銀河眼の光子竜でオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! 現れろ!銀河究極龍、No.62! 宇宙にさまよう光と闇。その狭間に眠りし哀しきドラゴンたちよ。その力を集わせ、真実の扉を開け! 銀河眼の光子竜皇!」

 

No.62銀河眼の光子竜皇 ATK4000/DEF3000

 

「ほう、攻撃力4000のモンスターか……銀河眼。俺の青眼と似たようなものを感じる」

 

そりゃ、ZEXALでライバルポジションのキャラクターが使っているカードですからね。似たように感じるのは無理も無い。が、悪いけど光子竜皇には踏み台になってもらう……すまない、光子竜皇

 

「さらに、俺はこの銀河眼の光子竜皇の上にエクシーズ召喚扱いとしてこのカードを重ねる!『エクシーズチェンジ』! 銀河の光の導くところ新たな世界がひらかれる! 天孫降臨! アーマーエクシーズ召喚! 現れろ、新たなる光の化身! 『ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴン』!」

 

ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴン ATK4000/DEF3500

 

「ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴンの効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで相手フィールドの表側表示で存在するカードを1枚破壊する! 選択するのは『青眼の双爆裂龍』!」

 

「墓地の『復活の福音』の効果によりこのカードをゲームから除外し、その破壊から守る」

 

 ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴンの効果で青眼の双爆裂龍を破壊しようとするも、やはり復活の福音で防がれる。だが、今ので福音は使わせた。ここからさらに畳み掛ける!

 

「……俺はさらに『死者蘇生』を発動。先ほど使ったオーバーレイ・ユニットとして墓地へ送られた『銀河眼の光子竜』をフィールド上に特殊召喚! さらに『フォトン・リード』を発動。手札の『フォトン・クラッシャー』を特殊召喚する!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500

 

フォトン・クラッシャー ATK2000/DEF0

 

「レベル4のフォトン・スラッシャーとレベル4のフォトン・クラッシャーでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、『輝光子パラディオス』!」

 

輝光子パラディオス ATK2000/DEF1000

 

 フィールドに並ぶ2体のギャラクシーアイズ、そして輝光子パラディオス。さっきまでと違い、フィールドにモンスターがいるだけでなんと頼もしく感じることか。このターンでフィールドのブルーアイズたちを削ることはできる。

 

「パラディオスのモンスター効果発動! 1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を2つ取り除き、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターの攻撃力を0にし、その効果を無効にする! 俺が選択するのは青眼の双爆裂龍!」

 

青眼の双爆裂龍 ATK3000/DEF2500→ATK0/DEF2500

 

「行くぞ、バトルフェイズ! 俺は銀河眼の光子竜で白き霊龍を攻撃! 『破滅のフォトン・ストリーム』!」

 

「ちぃっ……!」

 

海馬瀬人 LP4000→LP3500

 

「そして、さらにギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴンで『青眼の精霊龍』を攻撃! 『壊滅のフォトン・ストリーム』!」

 

「させるか。青眼の精霊龍の効果発動! シンクロ召喚されたこのカードを生贄に、融合デッキよりこのカード以外のドラゴン族・光属性のシンクロモンスターを1体フィールドに守備表示で特殊召喚する! 現れよ『蒼眼の銀龍』!」

 

蒼眼の銀龍 ATK2500/DEF3000

 

「バトル続行! 蒼眼の銀龍を攻撃しろ! FA! 『壊滅のフォトン・ストリーム』! そしてさらにパラディオスで青眼の双爆裂龍を攻撃! 『フォトン・ディバイディング』!」

 

 ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴンの壊滅のフォトン・ストリームが蒼眼の銀龍を粉砕し、さらにそこからパラディオスが続いて青眼の双爆裂龍を破壊する。双爆裂龍は戦闘では破壊されないが、それなら効果を無効にしてしまえば問題ない。

 

「ぐっ……! やってくれたな……!」

 

海馬瀬人 LP3500→LP1500

 

「ターンエンド!」

 

 よし、社長に大ダメージを与えた。この攻撃はかなり大きいのではないだろうか。これでフィールドに残っているのは青眼の白龍と青眼の亜白龍のみとなった。

 

「俺のターン! ふん、俺のライフを削りブルーアイズたちを葬ったのは褒めてやろう。だが、それもここまでだ……俺は手札の『青眼の白龍』を見せることで2体目の『青眼の亜白龍』を特殊召喚! そして効果発動! 1ターンに1度相手モンスターを選択して破壊する! この効果により俺は『ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴン』を破壊!」

 

青眼の亜白龍② ATK3000/DEF2500

 

「っ……!」

 

「青眼の亜白龍には特殊召喚における効果、そして相手のカードを破壊する効果……さらにもう1つの効果が存在する……ククク、武藤秋人、貴様も知っているだろう?」

 

「……! フィールド・墓地に存在する限り、青眼の白龍として扱える」

 

 その効果を言う、ということに関して嫌な汗が頬を伝うのがわかる。

 

「手札から『融合』を発動! フィールドに存在する『青眼の亜白龍』2体と、フィールドの『青眼の白龍』で融合! 現れろ、『真青眼の究極竜』!!」

 

真青眼の究極竜 ATK4500/DEF3800

 

 フィールドに姿を現すのは青眼の究極竜とは違う、真(ネオ)とつけられた究極竜。フィールドで相対して初めてわかる。なんて威圧感だ……

「フハハハハハハハ! これぞ我がブルーアイズの究極型! バトルだ! 真青眼の究極竜でパラディオスを攻撃! 『ネオアルティメット・バーストストリーム』!」

 

「ぐっ! パ、パラディオスの効果発動! このカードが破壊され墓地に送られた時、カードを1枚ドローできる!」

 

武藤秋人 LP4000→LP1500

 

「無駄な足掻きを……真青眼の究極竜の効果発動! 融合召喚したダメージステップの終了時、フィールドにこのカードのみが存在するなら発動できる。融合デッキより「ブルーアイズ」と名のつく融合モンスターを墓地に送り発動できる。このカードは続けて攻撃が出来る。俺は融合デッキより『青眼の究極竜』を墓地に送り、真青眼の究極竜で再度攻撃を行う。これで終わりだ、武藤秋人! 『銀河眼の光子竜』を攻撃!」

 

「さ、させるか! 罠カードオープン!『フォトン・エスケープ」! 自分フィールド上に存在する「光子」または「フォトン」と名のついたモンスターが攻撃対象に選択された時に発動出来る。そのモンスター1体をゲームから除外し、バトルフェイズを終了する!」

 

「ふん……トラップに助けられたな。俺はバトルフェイズを終了する」

 

 社長の言葉と共に再びフィールドに舞い戻る銀河眼の光子竜と真青眼の究極竜。た、助かった……銀河眼の光子竜の効果で今命をつないでいるだけだ。次のターンに海馬社長にこいつを破壊される前に、真青眼の究極龍を倒さないと。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー! 」

 

 ドローで引いたのは『銀河遠征』……このまま、発動して銀河騎士を呼び戻し、どうにかして銀河眼の光波竜をエクシーズ召喚することで真青眼の究極竜のコントロールを奪い、銀河眼の光波竜のダイレクトアタックで勝ち……と言いたいところだが、社長が伏せたあのカード……ここで下手に相手のモンスターに干渉するカードを出していいものか。銀河眼の光波竜を出すことが正しいのか……破壊されたりしては意味が無い……ここは様子を見る。

 

「俺は手札から『銀河遠征』を発動。自分フィールドにレベル5以上のモンスターがいることで効果を発動できる。墓地の『フォトン』または『ギャラクシー』と名のつくモンスターを特殊召喚できる。『銀河騎士』を表側守備表示で特殊召喚する。さらに『フォトン・サンクチュアリ』を発動。このターン、光属性以外のカードを召喚、特殊召喚、反転召喚しないかわりに攻撃力2000のフォトン・トークン二体を特殊召喚する! そしてこの二体を生贄に捧げ、銀河眼の光子竜を特殊召喚!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500

 

銀河騎士 ATK2800/DEF2600

 

「ターンエンド!」

 

「俺のターン! 俺は墓地の『太古の白石』の効果を発動。このカードをゲームから除外し、自分の墓地の『ブルーアイズ』モンスターを手札に戻すことが出来る。俺が戻すのは『青眼の亜白龍』だ。そして効果発動! 手札の青眼の白龍を見せ、このカードを特殊召喚する!」

 

青眼の亜白龍 ATK3000/DEF2500

 

「そして『トレード・イン』を発動。青眼の白龍をコストにカードを2枚ドローする……カードを1枚伏せ、手札から『天よりの宝札』を発動する!」

 

「なっ……!?」

 

 天よりの宝札だと!? 社長のドローカードといえば、命削りの宝札のはずでは……5ターン後に全て捨てるリスクと“互いに”6枚になるようにドローするリスク、社長のデッキパワーで押すのならば選ばれるのは当然前者のはずだが……いや、この世界で知ったことだが、アニメ効果の命削りと天よりの宝札は高い上に制限カードだ。社長自身も天よりの宝札を「最強の手札増強カード」と言っているくらいだし、アニメで出ていなかったからと言ってデッキに入れていないという道理はない。

 

「互いに手札は0枚だ……よって、お互いに6枚になるようにドローする」

 

 この相手もドローできるというデメリット、一件デメリットに見えるが手札を6枚補充する時点で次のターン、つまり相手にターンが回ってくるかは怪しい話になる。

 

「6枚ドロー……」

 

「そしてさらに『銀龍の轟砲』を発動。墓地の『青眼の白龍』を蘇生! そして青眼の亜白龍の効果発動! 貴様の銀河眼の光子竜を破壊する!」

 

青眼の白龍 ATK3000/DEF2500

 

 フィールドには再びドラゴンたちが並び立つ。『真青眼の究極竜』『青眼の白龍』『青眼の亜白龍』……結局振り出しに戻ってしまった気がするな。

 

「バトルフェイズだ! 青眼の白龍で銀河騎士を攻撃! 『滅びのバースト・ストリーム』!」

 

「っ……!」

 

「終わりだ。真青眼の究極龍でダイレクトアタック!」

 

「ま、まだだ! まだ終わらない! 速攻魔法『銀河再誕』を発動! 自分の墓地から「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を特殊召喚し、このカードを装備カード扱いとして装備する! この効果によってこのカードを装備カード扱いとして装備している限り、装備モンスターの攻撃力は半分になり、装備モンスターがこのターンに相手ライフに戦闘ダメージを与えられなかった場合、装備モンスターとこのカードはエンドフェイズ時に破壊される! 甦れ、『銀河眼の光子竜』!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500→ATK1500/DEF2500

 

「攻撃続行だ。真青眼の究極竜!」

 

「効果により、真青眼の究極竜とこのカードをゲームから除外する!」

 

「……バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へと移行する」

 

「効果により、フィールドに銀河眼の光子竜と真青眼の究極龍がフィールドに戻ってくる。この時、銀河再誕は墓地に存在するため銀河眼の光子竜の攻撃力は元に戻る」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500

 

「俺はカードを3枚伏せてターンエンドだ……さあ、お前のターンだ」

 

 フィールドには3体のブルーアイズモンスター……手札が6枚になっているとはいえ、この状況を打破できるカードはまだこれだけでは厳しい。このままではジリ貧で負ける可能性だってある。次のドローを信じるか……!

 

「俺のターン! 俺は手札から『銀河戦士』を、手札の『銀河眼の光子竜』を墓地に送って表側守備表示で特殊召喚! 効果で『銀河騎士』を手札に加え『銀河騎士』を召喚! 効果で攻撃力が1000下がり、銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚!」

 

銀河戦士 ATK2000/DEF0

 

銀河騎士 ATK2800/DEF2600→ATK1800/DEF2600

 

銀河眼の光子竜② ATK3000/DEF2500

 

 フィールドにこちらもモンスターが一気に並び立つ。ここからが正念場だ……!

 

「俺はさらに『ギャラクシー・クィーンズ・ライト』を発動! 自分フィールドのレベル5以上のモンスターを1枚選び発動する! このターン自分フィールドの表側表示のモンスターのレベルはすべてその選択したモンスターのレベルと同じになる! 俺が選択するのは銀河眼の光子竜! これにより銀河戦士のレベルを8へ変更!」

 

「ほぅ? これでレベル8のモンスターが4体か……」

 

銀河戦士 ATK2000/DEF0 ☆5→☆8

 

「俺はレベル8となった銀河戦士とレベル8の銀河眼の光子竜でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! 宇宙を貫く雄叫びよ、遥かなる時をさかのぼり銀河の源よりよみがえれ! 顕現せよ、そして我を勝利へと導け!『No.107 銀河眼の時空竜』!」

 

No.107 銀河眼の時空竜 ATK3000/DEF2500

 

 フィールドに姿を現すNo.100を超えるナンバーズ、オーバーハンドレッド・ナンバーズ。このカードもミザエルのカードだが、同じギャラクシーアイズには違いない。

 

「そして、レベル8の銀河眼の光子竜とレベル8の銀河騎士でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! 我が記憶に眠る二つの希望! その希望を隔てし闇の大河を貫き今その力が一つとなる! エクシーズ召喚! 現れろ『No.38希望魁竜タイタニック・ギャラクシー』!」

 

No.38希望魁竜タイタニック・ギャラクシー ATK3000/DEF2500

 

 フィールドに2体の竜が並び立つ。だが、まだだ、まだこれでは社長には届かない……! ならば、届かせるようにするまで……!

 

「俺は手札から装備魔法『フォトン・ウィング』を銀河眼の時空竜に装備する! 効果発動! 1ターンに1度、自分フィールド上のエクシーズモンスター1体を選択する。選択したエクシーズモンスターのエクシーズ素材全てを取り除き、装備モンスターの攻撃力を選択したエクシーズモンスターのランク×200ポイントアップする。俺はタイタニック・ギャラクシーを選択! これにより銀河眼の時空竜の攻撃力は1600ポイントアップ!」

 

No.107 銀河眼の時空竜 ATK3000/DEF2500→ATK4600/DEF2500

 

「バトルフェイズ! この瞬間、No.107 銀河眼の時空竜の効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ取り除くことでこのカード以外のフィールド上に表側表示で存在するすべてのモンスターの効果は無効化され、その攻守は元々の数値となる! さらに、銀河眼の時空竜の装備するフォトン・ウィングは装備したモンスターにダイレクトアタックできる効果を付与する! 海馬社長へダイレクトアタック!『殲滅のタキオン・スパイラル』!」

 

「甘いわ! 速攻魔法『サイクロン』を発動! そのフォトン・ウィングを破壊する! これで攻撃力は3000! これで我がブルーアイズたちには攻撃は届かん!」

 

No.107 銀河眼の時空竜 ATK4600/DEF2500→ATK3000/DEF2500

 

 破壊されるフォトン・ウィング。確かに社長の言うとおり、これでは攻撃は青眼の精霊龍にしか届かず、タイタニック・ギャラクシーの攻撃は良くて青眼の白龍との相打ちで終わってしまう……そう、このままならば

 

「それはどうでしょう?」

 

「何……?」

 

「No.107 銀河眼の時空竜の効果発動! このカードが先の効果を使用したターン、相手のカード効果が発動するたび、このカードの攻撃力はバトルフェイズ終了までに1000ポイントアップし、2回攻撃を可能とする!」

 

「なんだと!?」

 

 銀河眼の時空竜がサイクロンの発動によってその力を吸収して咆哮を上げる。これで時空竜の攻撃力は青眼の白龍たちを上回る!

 

No.107 銀河眼の時空竜 ATK3000/DEF2500→ATK4000/DEF2500

 

「銀河眼の時空竜で青眼の白龍を攻撃! 『殲滅のタキオン・スパイラル』!」

 

「まだだ! 俺は速攻魔法『神秘の中華鍋』を発動して青眼の白龍を生贄にライフをその攻撃力分回復する!」

 

海馬瀬人 LP1500→LP4500

 

「だが! これでまた時空竜の攻撃力がアップ!」

 

No.107 銀河眼の時空竜 ATK4000/DEF2500→ATK5000/DEF2500

 

「そしてバトルが戻り、俺は真青眼の究極竜を攻撃! 『殲滅のタキオン・スパイラル』!」

 

「ぬぅ……!」

 

海馬瀬人 LP4500→LP4000

 

 殲滅のタキオン・スパイラルが直撃し、破壊される真青眼の究極竜。だがこれで攻撃は終わらない。時空竜はさらにフィールドに残った青眼の白龍に目を向ける。

 

「そしてもう一度攻撃できる! 青眼の亜白龍を攻撃! 『殲滅のタキオン・スパイラル』!」

 

「ぐおおおおっ!」

 

海馬瀬人 LP4000→LP3000

 

 まさか、神秘の中華鍋を伏せていたとは……予想外だ。確かに青眼の白龍などの攻撃力を考えれば墓地に送れることも含めて合理的か。だが、これで終わりだ!

 

「タイタニック・ギャラクシーでダイレクトアタック!」

 

「させるか! 罠カード『正当なる血統』を発動し、墓地から『青眼の白龍』を特殊召喚!」

 

青眼の白龍 ATK3000/DEF2500

 

「タイタニック・ギャラクシー! 青眼の白龍を攻撃だ!」

 

「迎え撃て! ブルーアイズ!」

 

 互いに攻撃が相殺され消えるモンスターたち。このターンで決められなかったのは痛い。残った手札、残された手札でできることは……

 

「バトルフェイズ終了時に銀河眼の時空竜の攻撃力は元に戻る。俺は再びフィールドの時空竜を素材としてエクシーズチェンジ! 現われろ『ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴン』! カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴン ATK4000/DEF3500

 

「俺のターン! フハハハハハハハ! 喜べ武藤秋人、貴様を最高の形で葬ってやる!」

 

「……!?」

 

 なに!? このターンで決められるほどのカードを引いたというのか? もうお互いにほとんど融合デッキのカードは出ている以上、これから何を……

 

「まずは伏せていた『アヌビスの呪い』を発動する! フィールド上に表側表示で存在する効果モンスターは全て守備表示になる。発動ターン、それらの効果モンスターの元々の守備力は0になり、表示形式の変更ができない。そして、手札から儀式魔法『カオス・フォーム』を発動! 墓地の『青眼の白龍』をゲームから除外し手札から『カオス』と名のつくモンスターを召喚する! 儀式召喚! 『ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン』!!」

 

ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴン ATK4000/DEF3500→ATK4000/DEF0

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000/DEF0

 

 フィールドに降り立つそのドラゴンに息をのむ。姿は青眼の白龍には似ているが大きさが違う。形的にはどこか、銀河眼の光子竜にも似ているような雰囲気だ。まさか、このカードが出てくるとは。それにアヌビスの呪いとのコンボは知っていた。が、最後の最後、社長がそれを仕掛けているとは……!

 

「褒めてやる。このカードを出させたこと、そして今まで粘ったことを。ここまで俺が苦戦したのも久しぶりだった……だが、それももう終わりだ。このカードは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない……お前が何を伏せているかは知らんがこのカードの召喚を許した時点でお前の負けだ、武藤秋人」

 

「……」

 

「バトルフェイズ。ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンでギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴンを攻撃! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンには守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が越えた分の倍の数値だけ戦闘ダメージを与える!」

 

 ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンの攻撃がギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴンを貫き爆発する。

 

「攻撃力4000の倍、8000のダメージ! これで俺の勝ち「それはどうでしょう」何……?」

 

「確かに勝てはしません、でも……! 負けない様にはできる! ダメージステップに罠カード発動! 『フォトン・ショック』! 自分フィールド上の「フォトン」モンスターが戦闘を行うダメージ計算時に発動できる。その戦闘で発生する戦闘ダメージはお互いのプレイヤーが受ける! ぐあっ……!」

 

「なんだと!? ぐおおおっ!」

 

武藤秋人 LP1500→LP0

 

海馬瀬人 LP3000→LP0

 




リメイク前との変更点

デュエルシーン全部新規
全部書き直しです。もともと主人公はシンクロ使ってる上、ツァンとタッグで社長に挑んでましたからね

真青眼の究極龍とカオス・MAX
どっちもまだ攻撃名は出てないので表記していません。判明したら書きます

またも引き分け?
色々と試したんですけど社長が出すカードを見ていると負けるところに違和感を持ってしまいまして、また引き分けです。OCGのカードを使ってるのに強いと言えない主人公ェ……雑魚相手に無双するよりはマシと考えるべきなのか否か……

NEXT 20「戦いを終えて……」


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第一部 エピローグ「戦いを終えて」

突然ですが、ここまでで第一部が完結となります。
次回からは第二部です

ちなみに、今回は映画のことについてちょこっと出てきます。まあ、本編に触れるようなことは一切書いてません。CMとかでわかるシーンだけを書き綴っただけです。遊戯に対して海馬がカオス・MAX使ってるシーンとか、そんな話。ちなみに、私はまだ見てないのでネタバレはご勘弁を
なんか、見た人の話だと今までにないくらいの最高傑作とのこと。今から楽しみですね

遊霧様 カカン様 読み専太郎様 Ranperu様 ak様 桜咲様 龍音様 心紅様
不知火新夜様 万屋よっちゃん様 navi様 ノリ様 うさぎたるもの様
高田様 龍牙様 赤鉄様
感想、ご指摘、ご意見ありがとうございます。これからもよろしくお願いします

読み専太郎様
小説評価ありがとうございました。頂いた評価以上の小説を目指して頑張ります

今後も感想、ご意見、ご指摘他、小説の評価をお待ちしております。

さて、20話です。丁度キリもいいので、今回で一応第一部はここまでです
次回は近日中に投稿します。GW企画もお楽しみに!



Side秋人

 

武藤秋人 LP 0

海馬瀬人 LP 0

 

 静まり返ったデュエル場。もともと、十代たちのデュエルの後、KC社の黒服の人たちが観客席の生徒や先生を追い出しているため、いるのは十代たち、響先生、校長だけとなってはいた。だがそれでも、このデュエルが終わったその数秒はこのデュエル場で何も音がしていなかったのは確かだ。

 

「引き分け、か。フン、そういえば引き分けの場合はどうするか決めていなかったな」

 

「……えーと、そう、ですね」

 

「謹慎、補習共に免除してやる……その他はメールで追って連絡する。以上だ」

 

 そういって社長はカードをデッキにしまって磯野さんと共に決闘場を後にしていった。とりあえず、終わった……引き分けということで喜んでいいのか微妙な結果ではあるが、まさか最終防衛策として用意した『フォトン・ショック』を使うことになるとは思わなかった。

 

「秋人!」

 

 そんな風にフォトン・ショックを見ていると十代たちが駆け寄ってきた。

 

「すごかったな! あの伝説の海馬瀬人に引き分けるなんて!」

 

「それに、秋人君のおかげで謹慎も補習も無しッスよ!」

 

 と、興奮気味の十代と翔。とりあえず、原作通りに十代たちが退学になることもなく、謹慎や補習が課されるということもなかった。今回色々とネジ曲がってしまってどうなるかと不安であったが、なんとか元通りになった……俺はそれが何よりもホッとしている。

 

「すごかったわね、秋人……それに、ごめんなさい。元はといえば秋人は私が……」

 

「気にしなくていいよ、雪乃……結果としては、とりあえず問題は解決したわけだし」

 

 申し訳無さそうにしている雪乃だが……なぜ、腕を絡ませてくる。コイツのスキンシップに関してはもう諦めているが周囲の視線が痛いから即刻辞めて欲しい。

 

「そうだ! 無事に終わったし、またパーティやろうぜ!」

 

「確かに、時間もいい時間だしな……」

 

「秋人! またエビフライ作ってくれ!」

 

「この前作ったばっかりじゃん……よく飽きないなお前。というか、俺がまた作るのか」

 

 たまにだが、レッド寮では料理人が不在の時がある。その時はセルフで食材を選び、調理してもいいということになっている。で、一人一人が作るというのも場所や時間を取ってしまうので何人分かを一気に作るということが多い。他はインスタントとか冷凍食品とかがある。

 

「いいじゃん、今日は料理人の人いないわけだし!」

 

「なら、レッド寮にブルー寮でもらえる食材を持ってきて私達も調理しましょうか」

 

「そうね。ボクも料理するわ。それでみんなで夕食にしましょう。秋人、何を作るの?」

 

 十代の言葉に、賛同する雪乃やツァン。どうやら、料理をすることは免れないらしい……あれ、おかしくね? 俺も頑張った側のはずなんですけど。何故か俺も料理する側に埋め込まれてない?

 

「秋人が作る料理美味いし、楽しみだな!」

 

「いや、おかしくね? 俺が作ったの1回か2回だよ?」

 

 確かに大学時代は自炊していたから料理はできないわけではないが、そんなに人から絶賛されるほどの料理を作った覚えはない。というか、そのうちの1回は焼き肉の時の次の日の朝飯じゃん。まあ、そんな叫びも虚しく、俺は結局、ツァンや雪乃たちと一緒に料理を作り、レッド寮でパーティをすることになるのだった……解せぬ

 

 

*

 

 

 数日後、社長から電話がかかってきた。無論、テレビ電話である。部屋には誰もいないし、社長の方も言わずもがな、誰かがいるという様子もない。

 

『武藤秋人、先日のデュエルはご苦労だった。俺もいい慣らしができて満足している。褒めてやろう』

 

「あ、ありがとうございます……」

 

『だが、成績は見る限り苦戦が多い……お前の世界のカードなら、もっと有利にことを進められるはずだ。この遊城十代とのデュエルに関しては敗北している』

 

「あー……まあ、前にいた世界のカードのデッキ、ですか。そうなると、先攻1キルとか、ソリティアとかになっちゃいますよ? それが学園内で流行ると、カードを集められる奴が一番強いって話になりますけど……今後量産化されるカードのことも含めて」

 

 やろうと思えば、先攻バーン、図書館エクゾ、終焉のカウントダウン、アステカD2反射とか、テーマだとマドルチェとか、ゴーストリックとかも使えるか……これ、やっただけで嫌われるデッキのオンパレードだな。というか、この狭い学校の中では『勝てるデッキ』というのはすぐに広まってしまう。その分、対策もしやすくはあるけども……

 

『……お前に見せてもらったカードリストと共に送られてきたデッキの話か。確かに、その手のデッキが流行るのは俺も望ましくはない。だが、お前はそうならないような手段を持っている……違うか?』

 

「……」

 

 お見通しか、この人は。まあ、エクシーズ召喚なんかを見せている時点でお察しか。普通にこの前とかログを辿られて、教えてなかった『RUM』とか『CNo.』とかのこともバレてたからな……まあ、バレるよなぁ

 

『敗北が続いたり、苦戦が続いたりすれば、授業料免除の話は無くなると思え。それと今までのカード提供やこの前のデュエルに関する『報酬』も振り込んでおくから確認しろ』

 

「あ、はい……」

 

『今後もカードリストの作成なども続けろ。今までどおり、お前が選んだカードを厳選してカードパックの発売などもペガサスと共に検討する。お前が俺に見せていないカードなどについても、俺は特に何も言わん……が、敗北は許さん。それを忘れるな』

 

 社長の気迫が、画面越しでも伝わってくるのがわかる。なんでこの人と話すたびに汗びっしょりにならなきゃならんのか……実際怖いからしかたがないけど。

 

「はい。了解です……また近日中に送ります」

 

『当然だ。それと1つ、貴様に聞きたいことがある』

 

「はい?」

 

『……“方界”というジャンルのカード、貴様は持っているか?』

 

 ……!? 俺はその言葉を聞いて驚く。なぜ、この人はそのカードのことを知っている!? この世界はそのカードを知らない世界のはずなのに……

 

『その様子では知っているし、持っているらしいな』

 

「え、ええ……一応は」

 

『……夢を見た。俺がこのカード、カオス・MAXを使い、遊戯とデュエルをしている夢だ。だが、俺はこのカードを貴様に渡されて初めて、この前のデュエルで使用した。それに、ここ最近で遊戯とデュエルをしたという記憶はない。それに、その方界という知らないカードや、KC社で俺がボツにしたシステムなどが出ているという、奇妙な夢だ……お前なら、心当たりがあるかと思ったが……やはり知っていたか』

 

 社長が言っているのは劇場版『遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』のことだろう。カオス・MAXに触れたことで、その『IF』の世界について夢という形で見たということか……?

 

「ええと、そうですね……その夢は前の世界で……」

 

『夢のことはどうでもいい。お前はどうせ内容を知っているだろう。重要なのはそこではなく、カードの方だ。お前の言葉を信じるとするならば、遊戯が使っていたカードや、その方界というカードの効果も知っているはずだ。そのデータを優先して俺に送れ。夢の俺ではなく、俺自身がそのカード達とデュエルをしてどうなるのか……それを試してみたい』

 

 なるほど、この人は夢の中の自分と自分は別物だからどうなるのか、というのを試したいと。この人もやっぱり、決闘者だな。見たことのないカード、そして戦い……それを見ることで、決闘がしたくなる、というのは。オカルトなどを信じていないけど、この人よくよく考えるとGXだと宇宙にカード打ち上げてネオス作ったりしているし……俺の話も信じてきてくれているのだろうか? 俺はそれを了解し、方界、マジシャンガールシリーズ他、劇場版で使われたカードを優先して文章化して送ることにした。話もまとまり、今後の方針などもまとまった所で時間が来たらしい。

 

『今回は以上だ。それと貴様…………いや、なんでもない。では、以上だ』

 

「……? あ、はい。ではまた」

 

 社長は何かを言いかけて途中で止めるが、そのまま通信を切ってしまった。社長は何を言いたかったんだ? まあ、重要な事ならまた言ってくれるだろう。そう思いながらも、俺は社長に言われたカードリストの作成に入るのだった。

 

 

Side海馬瀬人

 

 武藤秋人との通信を切り、俺は撮影していたデュエルを見る。それと同時に、あいつが持っていたデッキの内容と融合デッキを見ながら改めてデュエルを仮想で試してみる。その結果は俺の勝率は50%。だが、もし奴が別のカードを使っていたら……もしかしたらもっと低かったかもしれんな。あいついわく、自分のいた世界のカードというのは異常な強さを持ったカード……武藤秋人が言うには『壊れカード』というのが数多く存在する。

 

「もっと改良を加えられていたら……あるいは」

 

 その手のカードを使われていたら俺は敗北していた可能性がある。俺にも使えるエクシーズモンスターを見せろ、と言った所見せてきたNo.と呼ばれたカード……これは1枚ずつしか存在しないので譲れない。という話はされていたが……

 

「No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン……このカードを使われていれば俺は劣勢を強いられていた」

 

 他にも、ギャラクシーシリーズは存在していた。もしこのカードたちを使われていれば敗北していた可能性のほうが強い。また仕事の合間にデッキの調整をするとしよう……その後、送られてきた方界などのデッキを見てデュエルをするとしよう。夢で出てきたカードも、いくらかパックで出すとするか……主に魔法使い族系統を中心に。そうすれば遊戯にも行き渡るだろう。俺だけが超強化されていてもつまらん。対等になった奴と決闘に勝利してこそ意味があるというものだ。

 

「それにしても……奴は気づいているのか」

 

 武藤秋人。貴様の目的は『元の世界に帰ること』のはずだ。だが……

 

「気がついているか、武藤秋人……お前がいつの間にか自分のいた世界のことを『元の世界』とは言わず、『前の世界』と言っていることを…………まあ、俺には知ったことではないが」

 

 俺はそう呟くとともに次の会議へと向かうことにする。遊戯との再戦を頭のなかで描きながら

 

 




リメイク前には無かったオリジナル

海馬社長満足?
まあ、久しぶりにカードを回したってことで

夢について
宣伝です。まだ私も見てないので楽しみです。私が行くのはレモンちゃんを回収しに行く時だけですが……

秋人の言葉
今回の社長が気づいたことは秋人は気づいていません
この物語の重要なポイントです

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夏休み編
21「夏休み」①


みなさんこんにちは、秋風です
お待たせしました! 新章です……と意気込んだものの、待ってた人いるのだろうか(汗

今回からGW企画ということでオリジナル編突入。夏休み編です
原作、遊戯王GXを知っている人たちは制裁タッグデュエルの話から数話跨いだらまさかの冬休みに突入しているというのはご存知かと思います
なので今回はオリジナル編……リメイク前には存在しなかった「完全新規」です

 と、まあ私の叫びはともかくとしてこの話では
・タグのハーレムの可能性→ハーレム(雪乃、ツァンとは結ばれます)
・DMキャラ登場及び、漫画GXキャラ登場。挙句若干キャラ崩壊
・完全にオリジナル要素及び、若干のねつ造あり
・映画宣伝のためデュエル多し
となっております。ハーレム要素はホント、難しいし、意見も割れるのであれですが……まあ、気長に見てやってくださいよろしくです
この小説の連載前にアンケートをしたのですがその多くがヒロインは二人のまま、もしくは増やせ!となっているので、増やしますとも、ええ!

読み専太郎様 ユーザー名被りすぎ様 ちにゃ様 うさぎたるもの様
navi様 万屋よっちゃん様 Ranperu様 龍牙様 スターダスト様
赤鉄様 とちおとめ様
感想、ご指摘、ご意見ありがとうございました。これからもよろしくお願いします

倶利伽羅丸様
小説評価ありがとうございます。あと、コメントにお答えします
ペンデュラムはもう少しして、私が完全に理解してから出します! お待ちください

今後も小説評価お待ちしております。

さてさて、21話、新章です。お楽しみください!


Side秋人

 

 夏休み。それは教育機関や企業などで夏の間、授業や業務を休みにする休暇のことである。とはいったものの、この学校の夏休みってあったのか……というレベルである。遊戯王GXの話の中では数話跨いだだけで冬休みになってサイコショッカーが暴れまわったり、セブンスターズがデュエルアカデミアにケンカ売りに来たりと、はっきり言って超飛んでいるよな。ちなみに、もう既に万丈目はこの学校にはいない。気が付いたら十代はSALともデュエルしていたし、なんか色々と乗り遅れた感が半端ない。まあぶっちゃけた話、別に関わらなくてもいいだろ、そこまで。現在俺はアカデミアのロビーでお菓子を食べながらどうしたもんかと思考していた。それにしても……

 

「あっちぃ……!」

 

 クーラーを28度設定とかやめようマジで。20度くらいに設定して冷やそうよ……この学校、お金あるでしょ。夏休みなぁ……学校から実家に帰るという選択肢はあるのだが、うーむ、どうしたもんか。あそこは俺の家であって俺の家ではないからな……そもそも、学校から本土に行くには定期便の船に乗らないといけないわけで……。なんて考えていると、1人の人物が俺に声をかけてきた。

 

「あら、秋人君。どうしたの、こんなところで?」

 

「響先生……ああ、ちょっと今後の人生についてどうしたものかと。正確には来週から」

 

「その歳で何を言っているの君は……要するに、夏休みについて考えていたのね?」

 

「そうとも言います」

 

 テストの解答用紙を抱えている響先生。どうやら前期のテストの採点は終わったらしい。今回はかなり範囲も広かったからな。採点する側も大変だったろうに……まあ、この人の場合は全く疲れた様子はない。向こうでクロノス教諭が真っ白に燃え尽きているのにもかかわらずだ。できる女ってすごい

 

「ふーん? 実家に顔を見せたりはしないの?」

 

「お袋は出稼ぎ、妹は寮なので家に帰っても誰もいませんし……そもそも地元には先生も知っての通りいい思い出が無いので」

 

「あ、そうだったわね……ごめんなさい、少し無神経だったわ」

 

「いえ」

 

 地元に帰ればまあ、いじめっ子なんかと遭遇する確率も高いわけで、俺がいつ暴走をするかわからん。できるだけあの町にはいないほうがいいだろう……次、その怒りや勢いに任せて何を使うことになるかわからん。まあ、そういうカードを持たないのが一番いいんだけども。

 

「そうねぇ……あ、そうだ。だったら秋人君。あなた留学に興味ない?」

 

「……へ? 留学?」

 

「そう、留学。毎年アカデミアからアメリカのアカデミアへ夏休みに派遣することになっているの。もし学園に残る気も、実家に帰る気もないなら行ってみないかしら? もちろん旅費は学校が出すし、送り出す生徒には成績によっておこづかいも支給するわ」

 

 おー、学校太っ腹だな。まあ、KC社がオーナーなら当然と言えば当然か、それは。ふむ、アメリカか……まあ、一応英語はできないわけじゃないし、いざとなればスマホの機能をフルに使って和訳できる。

 

「それに、向こうには私の弟……知っているかしら? 響紅葉もいるわ」

 

「先生の弟さんで、プロデュエリストの方ですよね」

 

「ええ、最近はHEROデッキで連戦連勝だそうよ」

 

 ……ああ、おそらく海馬社長が作って売り出した漫画版HEROか。主に男の子中心にかなり反響が大きかったらしいし、そのおかげで報酬もたくさんもらえたからな。

 

「すごいですね」

 

「それで、紅葉もぜひ貴方に会ってみたいってことみたいだから。どうかなって思ったんだけど」

 

「そうですね……やることもないですし、俺でいいのなら」

 

「そう! なら手続きを済ませてきてあげるわ。詳しいことはレッド寮に学内便で送っておくから荷造りはしっかりね!」

 

 そう言って響先生はその場を後にしていった。えーと……これはつまり

 

「……アメリカ編?」

 

 ということらしい。

 

 

 

 

 空港

 

 それから週が明け俺は本土に戻って国際空港へと訪れていた。ヘリでアメリカに行くのはさすがに無理があるよな、うん。部屋には金庫を購入してあまり目立たせたくないカードたちは全て置いてきた。一応、レッド寮のセキュリティシステムはKC社製で信頼しているが、万が一もあるから警戒しておいた。デッキも荷物がかさばらない程度に所持している。

 

「というわけで、空港に来たわけだけど…………」

 

「あら? どうしたの、秋人」

 

「ボクたちがどうかしたの?」

 

「なんでお前らまでここにいんの!?」

 

 日本の空港……まあ、東京からの国際便といえばあの空港なわけだが、その空港で俺の横にはなぜか雪乃、そしてツァンが俺の隣にいた。当然ながらデュエルアカデミアの制服ではなく私服である。

 

「うふふ、びっくりしたでしょ? 私たちも先生からお声をかけられたのよ」

 

「成績の上位者の3人を抜粋して選ぶって紙にも書いてあったじゃない」

 

 いや、書いてはあったけどまさかお前ら二人とは思わないじゃん。俺はてっきりカイザーとか三沢とかが来るかと思っていたよ。漫画でもカイザーはアメリカに行っていたし……というか、男1人で女2人……気まずい。男が3人とかだったらムサいかもしれんがそっちのが気楽だった……

 

「あら、私達じゃ不満かしら?」

 

「そういうことは言ってない……少し先行きが不安なだけ」

 

「そう。そういえばどうかしら? 秋人」

 

 なにがどうなんだ? と思ったが、ふわりと服を見せてくる雪乃を見てなんとなく察した。この服装はどうか、と言いたいのだろう。

 

「ああ、似合っていると思うぞ。普段は制服しか見てないから新鮮だな」

 ……正確には部屋着と寝間着は見たことあるけどな。ツァンがいるから余計なことは言わないでおこう。変な誤解を生みかねない。というか、なんで恋人同士の会話みたいなことをしているんだ、俺は。

 

「ふふふ、ありがとう秋人」

 

「…………ふん」

 

 俺の言葉に満足そうな雪乃。何が嬉しいのかよくわからん。そしてツァン、お前はなんでスネてるんだよ。

 

「さて、と。搭乗までかなり時間ある……本土まで特別にヘリで送ってもらったのが裏目に出たな。どこかで朝食でも済ませるか?」

 

「そうね。とりあえず搭乗口を確認して朝ご飯を食べましょうか。ツァンもそれでいい?」

 

「ええ、問題ないわ。行きましょ」

 

 というわけで、手続きを済ませて空港の中へ……入ったのはいいが、その直後にすごい物が目に入ってきた。

 

「何あれ」

 

「ああ、あれって青眼ジャンボじゃない? 珍しいわね。世界に4機しか飛んでない飛行機よ。実物を見たのは私も初めてだわ」

 

 KC社のロゴが刻まれた青眼の白龍をモチーフにしたジャンボジェット機。あれだ。バトルシティ編の最後で海馬社長が乗ってた戦闘機に似てるやつ。ポケモンジェットなんか比じゃないくらいすごい。というか社長、3機じゃないんだ、4機作ったんだ……これも社長の青眼の白龍への愛故なのか。そんなことを考えていると、なにやらイベントをやっているらしく人だかりができている。そして、見えるのはモンスターの姿。ああ、なるほど……決闘しているのか。すごいなこの世界はマジで。本土でもいたるところで決闘がはびこっているとは

 

「あら、デュエルね……」

 

「みたいだな。食事を取りながら観戦してみるか? 幸い搭乗口と軽食屋は見つけたし」

 

「それもそうね」

 

「いいわよ」

 

 というわけで適当に軽食というか、某ハンバーガーショップの食べ物を買って食べる俺たち。その視線の先ではイベントでデュエルが繰り広げられている。とは言ったものの

 

「あれは酷いな」

 

「そうね……最早いじめのレベルね」

 

 イベントはプロデュエリストに子供がデュエルを挑むのだが、どう見ても大人が子供を虐めているようにしか見えない。泣き出す子供まで出てくる始末だ。司会者のお姉さんも困惑してるじゃねーかよ……

 

「いくら決闘でもあれはひどいわね」

 

 決闘者として本気を出すのは当然だが、イベントで、しかも子ども相手に何をやっているんだあのおっさん。泣いている子供を見てか、胸がざわつく。これも武藤秋人の影響か……やれやれだ。収めるには、やっぱりやるしかないようだ。

 

「はぁ、ちょっと行ってくる」

 

「うふふ、行ってらっしゃい」

 

「ギタギタにしてきなさい!」

 

 そう言って俺は荷物を二人に任せてデッキを手にそのイベントをする場所へと近づいた。

 

「はっはっは! さあ次はだれが私に挑むかね!?」

 

『えーと、プロデュエリストとデュエルできるイベントショーですが、一度お開きに……』

 

「何を言うかね、まだまだ時間はあるぞ! さあ、どんどんやろうではないか! 子どもたちよ!」

 

 俺は泣いている子供たち。どんどん来いと言っているプロデュエリスト、そして焦っている司会がいるカオスな状況に引きながらもその舞台の上へと上がった。

 

「おい、デュエルしろよ」

 

「ほう、君が次の挑戦者かね? だが、生憎だがこの時間は子供とデュエ「あんな一方的に子供に本気を出しているアンタを見ていられない、そんな俺個人の申し込みだ」ほう」

 

 何が悲しくて子供たちがLP4000の世界でオーバーキルを食らわなきゃいけないんだよ。そもそも、こいつも決闘の腕は悪くないが使っているデッキが容赦なさすぎる。

 

「よかろう! 私は全力で戦う! それが子供でもな! そして売られた決闘は買う主義だ! くるがいい!」

 

『あ、ちょっと勝手に……』

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

武藤秋人VSプロデュエリスト

 

武藤秋人 LP4000

プロデュエリスト LP4000

 

 

「先攻はチャレンジャー! さあ、カードを引きたまえよ!」

 

「上等だ。俺のターン! さて……イベントだからノリと勢いでこのデッキを選んだけど……まあいいか。俺は手札から『ベリー・マジシャン・ガール』を召喚! このカードの召喚に成功したときデッキから『マジシャン・ガール』モンスターを手札に加える。俺は『キウイ・マジシャン・ガール』を手札に加える」

 

ベリー・マジシャン・ガール ATK400/DEF400

 

 登場したのは口におしゃぶりを咥えている赤ちゃんのモンスター……多分だけど、ベリーとベビーをかけたんだろうな。というか、これはガールっていう区分でいいのだろうか? 割と心配になるレベルだぞ。まあ、俺の心配とは裏腹にやる気満々と言ったところだが

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「はっはっは! どんなカードが出るかと思えば、見たことはないが、そんな可愛いカードが登場とは! 君は面白いな!」

 

「悪かったな。だが、甘く見ると痛い目を見るぞ、おっさん」

 

「よかろう。私のターン! 私は手札から『ソーラー・エクスチェンジ』を発動! デッキから『ライトロード』と1枚をコストにカードを2枚ドロー! その後デッキからカードを2枚墓地へ! おおう! 運がいい! 墓地へ送られた『ライトロード・ビースト ウォルフ』の効果によりこのカードがデッキから墓地へ送られた時このカードを特殊召喚!」

 

ライトロード・ビースト ウォルフ ATK2100/DEF300

 

 そう、この男のデッキはライトロードデッキ。ライトロードはこの世界ではかなり上位に位置するシリーズで、高価だが前の世界でも覚えている通り、そのデッキの性能の高さは伊達ではない。例えフェリス、ライデン、ミネルバなどがいなくても十分強い。こんなデッキを子供にぶつけるなよ……と、若干呆れている。

 

「そしてライトロード・パラディン ジェインを召喚!」

 

ライトロード・パラディン ジェイン ATK1800/DEF1200

 

「バトルだ! ウォルフでその可愛らしいモンスターへと攻撃だ!」

 

「ベリーの効果! このカードが攻撃対象になったときこのカードの表示形式を変更してデッキからこのカード以外の『マジシャン・ガール』と名のついたカードをフィールド上に特殊召喚! 俺は『アップル・マジシャン・ガール』攻撃表示で特殊召喚!」

 

アップル・マジシャン・ガール ATK1200/DEF800

 

 今度登場するのはそのアップルの名に違わぬ赤い衣装を身に纏った1人のマジシャン・ガール。若干、周囲の観客たち(主に男性)のテンションが上がったな。それを見てなのか、なんかポーズするアップル。おいこら、お前は精霊じゃないはずだろ。

 

「ほう? だが攻撃表示とは……私を誘っているのかね? ならば乗ってやろう! ウォルフ! そのアップル・マジシャン・ガールを攻撃しろ!」

 

「アップルの効果発動。このカードが攻撃対象となったとき、手札からレベル5以下の魔法使い族モンスターをフィールドに特殊召喚し、攻撃対象をそのカードに移し替える。俺は手札の『久遠の魔術師ミラ』を特殊召喚!」

 

「(久しぶりの、出番です!)」

 

久遠の魔術師ミラ ATK1800/DEF1000

 

「だがそのモンスターでもウォルフには届かな「アップルの効果はまだ残っている。差し替えたモンスターとバトルするモンスターの攻撃力を半分にする」なんと!?」

 

ライトロード・ビースト ウォルフ ATK2100/DEF300→ATK1050/DEF300

 

 攻撃が誘導され、ミラへと向かっていくウォルフだが、その攻撃をミラはヒラリと軽々とその身で躱し、その魔術を用いてウォルフを破壊する。

 

プロデュエリスト LP4000→LP3250

 

「ぬぅ、ならばジェインで攻撃! このカードが相手モンスターに攻撃するダメージステップの間、このカードの攻撃力は300アップする! ゆけ、ジェインよ! 久遠の魔術師ミラを攻撃だ!」

 

「甘い! 速攻魔法『ディメンション・マジック』発動! ベリーを生贄に捧げ、魔法使い族を特殊召喚する。その後、相手のカードを破壊する。行くぞ、『ブラック・マジシャン・ガール』!」

 

「な、なんだとぉ!?」

 

 俺はその言葉と共にデュエルディスクへとブラック・マジシャン・ガールをセットする。それと共に勢いよくマナが飛び出してきた。

 

「(イヤッホー! 私も久しぶりの出番! ライトロードは消毒だ! ヒャッハー!)」

 

「(頼むマナ、時間もないから真面目に頼むぞ。というか、お前はいつから世紀末になった)」

 

「(はいはーい! あ、今のはマスターの部屋にあった漫画から引用してみた♪)」

 

 ブラック・マジシャン・ガールの登場に周囲の観客が沸く(男性が)。GXのシリーズでは“伝説のデュエリスト武藤遊戯のみが所有しているカード”、ということになっている。まあ、この世界では別段そういうわけではなく希少価値が高くデッキに入れる人が少ないうえ、プレミア価格がとんでもないことでコレクターが表に出さないカードというだけにとどまっているが。それでも、とんでもない価格のカードだが。まあ、これは遊戯のカードだからな。使用したところで何とも思わん。売る気もないし

 

ブラック・マジシャン・ガール ATK2000/DEF1700

 

「まさか、伝説のカードとまで呼ばれたブラック・マジシャン・ガールが登場とは……」

 

「ディメンション・マジックの効果でジェインを破壊!」

 

「ぐぅ! 私はカードを2枚伏せてターンエンド!」

 

 まあ、値段的に言えば伝説級だな。前にオークションに出展され、億で落札されていたのを見てビビったわ。さて、これで墓地にライトロードは落ちたもののエンドフェイズの効果は防げた。飛行機への搭乗時間もあるし、速攻で決めさせてもらおう。

 

「俺のターン! 俺は『強欲な壺』を発動してカードを2枚ドロー。さらに手札から『賢者の宝石』を発動! フィールドに『ブラック・マジシャン・ガール』が存在するとき、デッキからガールの師である『ブラック・マジシャン』を特殊召喚する! こい、ブラック・マジシャン!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

「(マナ、まじめにやれ。ミラを見習ったらどうだ)」

 

「(いいじゃないですかぁ! お師匠様は定期的に十代君とのデュエルで使ってもらっているのに私は全然なんですよ!? テンションあがってます!)」

 

 ブーブーと文句を言うマナ。まあ、今度また使ってやるからそういうな……こうして使ってやっているだろう。お願いだから毎晩耳元で「私を使え~、私を使え~」って言うのはやめてくれ、マジで。

 

「手札から『ワンダー・ワンド』をアップル・マジシャン・ガールに装備後、生贄に捧げる。ワンダー・ワンドの効果でこのカードを装備したモンスターを生贄に捧げることでカードを2枚ドローできる」

 

「ブラック・マジシャン、そしてブラック・マジシャン・ガールとは、驚きだ……(だが、私の場にはカウンタートラップがある。この程度は)」

 

 ……あの伏せカード、あの余裕な表情からして攻撃反応型の罠か? 激流葬なんかだったらきついが。ここは一気に行くか。

 

「俺は伏せていた永続罠『永遠の魂』を発動。このカードの効果を発動。デッキから『黒・魔・導』を手札に加えて発動! 自分フィールドにブラック・マジシャンがいる時、相手の魔法、罠をすべて破壊する!」

 

「な、なにぃ!?」

 

「(黒・魔・導(ブラック・マジック)!)」

 

 放たれた黒・魔・導で破壊されるのはミラフォと魔法筒。攻撃カウンターだけか……これで障害はなくなったな。

 

「俺は手札から『光と闇の洗礼』を発動! ブラック・マジシャンを生贄に、デッキ、手札から『混沌の黒魔術師』を特殊召喚! 効果で『ディメンション・マジック』を墓地より回収! そして、手札から『黒魔術のヴェール』を発動。ライフ1000をコストに、墓地より『ブラック・マジシャン』を復活!」

 

武藤秋人 LP4000→LP3000

 

混沌の黒魔術師 ATK2800/DEF2600

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

「な、なんと……!?」

 

 フィールドに並び立つは混沌の黒魔術師、ブラック・マジシャン、ブラック・マジシャン・ガール、そして久遠の魔術師ミラ。マジシャン・ガールたちを主体としたデッキ。うまく回ったようで安心した。

 

「さあ、いくぞ。モンスター一斉攻撃!」

 

「ぐあああああああっ!」

 

プロデュエリスト LP3250→LP0

 

 プロデュエリストのライフが0になると同時に、イベントをやっている空港で大歓声が起きる。散々子どもたちをボコボコにしていたプロデュエリストが負けて喜んでいるのか、子供や、ブラック・マジシャン・ガールを見て興奮している大きいお友達の声が聞こえていた。すると、俺のところへプロデュエリストが近寄って来た。

 

「私の完敗だ……ここまで叩きのめされたのはいつ以来か」

 

「アンタの決闘において全力という姿勢は間違っていない。だが、このイベントでは対戦相手をもっとよく見るべきだ。ここで望まれていたのは全力のデュエルじゃない、子どもたちを楽しませる、そういう趣旨だろ」

 

「そうだな。私の悪い癖だ……勝負には常に全力になってしまう。反省だな……それと、感謝する。私も次からはこういうイベントでは子供たちを楽しませるデュエルをさせてもらうよ」

 

「分かってくれたならいいんだ。こっちも色々と気が晴れた。付き合ってくれて感謝するよ。それじゃ」

 

 そう言って俺は戻ることにする。下手するとブラック・マジシャン・ガールが狙われる可能性もあるからな。すぐこの場を去らないといけない。雪乃やツァンもそれを察してか、すでに荷物をまとめてくれていた。壇上から降りて立ち去ろうとするとさっきのプロデュエリストから声がかかる。

 

「ああ、君! 待ちたまえ!」

 

「は?」

 

「受け取りたまえ、私に勝った景品だ。君の連れの御嬢さんたちに渡すといい!」

 

 そう言って投げられた2つの長細い何か。俺はそれと共に、さらに別のものをキャッチする。え、今度は何?

 

「それは、君にだ!」

 

 キャッチしたのはロゴの入った赤い帽子だった。俺はそれを深くかぶる。これは助かるな。俺は雪乃たちと合流し、急いで搭乗口へと走ることにした。イベント会場から離れたところで何とか止まり、3人で息を整える。ここまでくればあと少しで搭乗口だし大丈夫だろう。

 

「ちょうどいい時間よ、秋人。飛行機離陸まであと30分」

 

「もう、叩きのめすのはいいけどちょっと目立ち過ぎよ! アカデミアじゃないのよ!?」

 

「正直すまないと思っている……詫びと言ってはなんだがホレ」

 

 そう言って俺はさっき渡されたその長細い箱を二人に渡した。箱の上質な感じからして別に悪い物ではないと思うんだが……

 

「あら、これって有名なブランドのネックレスじゃない」

 

「あ、ほんとだ。これ、普通に高い奴よ……貰っていいの?」

 

「女性用だし、あのおっさんが連れの二人にって言ってたからな。さっきポスター見たけど、それ一般人があのおっさんに勝ったらもらえる景品みたいだから貰ってくれ」

 

 故に、あのおっさんは「この時間は」と言ったのだろう。あとで一般人向けにも決闘する予定だったのか、あのおっさん。まあ、一般人でもあのデッキに勝てる人間は少ないだろうな……

 

「うふふ、ありがと秋人。大切にするわ」

 

「うーん、ボク、こういうのあんまり似合わないんだけど……まあ、貰ってあげる」

 

 そう言ってネックレスをつける雪乃とツァン。似合わないって言ってるけど、普通に似合ってるじゃん。

 

「いや、普通に似合ってるぞツァン」

 

「へ?」

 

「だから、似合ってるって。普通に」

 

 俺がそう言うと、なぜか顔を赤くするツァン。え、俺なんか変なこと言ったか?

 

「な、なななな、なにいってるのよ!」

 

「いや、だから、似合ってるって」

 

「あ、あうう…………あ、ありがと」

 

 そう言ってソッポを向くツァン。最後、何を言ったのか聞こえなかったが……あれ? 俺もしかして何か地雷踏んだ?

 

「うふふ、さっきは拗ねてたくせに、可愛いわねツァンったら♪」

 

「う、うっさいわね! と、とっとと行くわよ!」

 

 そう言って飛行機の方へと歩いていくツァンとそれを負う雪乃。俺も後を追い、飛行機へと乗り込むのだった。いざ、アメリカのデュエルアカデミアへ

 

夏休み:アメリカ編開始

 




リメイク前との変更点はないので突っ込みどころに

アメリカ編?
アメリカ校のあの子を出したくて

ヒロインズ同行
今回で恋愛要素を決着に持っていきたくて……

VSプロ
下の下、のプロです。まあ、使ってるのはライロでしたけど。この人今回扱いは酷いですが、また出てくるのでお楽しみに
ライロ使いの方々。すみませんこんな扱いで……次はもっと活躍させます

マジシャンガールデッキ
私のリアル所持デッキの改良型。どう頑張ってもマハードさんが入ってくる。ちなみに、映画宣伝用

赤い帽子
デュエルマシーンだったり、KC社社長の右腕だったり、世界救ったりするあの人の帽子 ある意味、秋人はこの人のポジション……遠く及ばないけど

いざアメリカ編
1日2回更新を目指します

22「夏休み」②


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22「夏休み」②

何とか、1日2本のペースに……GWだけですが(汗

Ranperu様 武御雷参型様 うさぎたるもの様 赤鉄様 暗色様 読み専太郎様 RIYO1113様

感想ありがとうございます。今後も感想、意見、ご指摘を宜しくお願いいたします。

引き続き感想の評価もあればよろしくです

さてさて22話となりました。DM勢登場です



Side秋人

 

「ねえ? 秋人、まだ?」

 

「まだだよ。飛んですらいないし……ツァン、少し落ち着け。あと、痛い」

 

「うぅ~……」

 

 このやり取り、飛行機に乗ってからツァンはずっとこの調子である。ヘリに乗った時もあれだったが、飛行機に乗るという時になった途端これである。どうも、ツァンは空を飛ぶ乗り物が苦手らしい。並びは通路からツァン、俺、雪乃なのだが、さっきから俺の腕を掴んで離さない。俺、トイレ行きたいんだけど……

 

『皆様、まもなく離陸いたします。座席ベルトをもう一度お確かめください』

 

「ほら、もうすぐ飛ぶって……あ、これ飛んでから安定するまでトイレ行けない……」

 

 この後機長の挨拶などもあり、問題なく飛行機は空へと飛び立った。飛行機に乗るのは久しぶりだがまあ、大丈夫だろう。耳抜きをして、ツァンを落ち着かせてトイレへと向かう……が、そこで人とぶつかってしまった。

 

「あ、すみません」

 

「すまない。こちらも余所見をしていた」

 

 その俺がぶつかった人物はかなり特徴的な人物だった。茶色い肌と薄い金髪……この人物を俺は知っている。ネタになっているのはもう一人のほうだが

 

「マリク・イシュタール……」

 

「ん? 僕を知っているのか?」

 

 しまった、声に出てしまっていたか。だが、この人も一応有名人だ。適当にごまかすことはできるだろう。

 

「すみません突然……バトルシティの準優勝者の方がこんなところにいると思わなくて」

 

「いや、気にしなくていいよ……それにしても君、どことなく彼に似ているような」

 

 と、俺のことをマジマジと見てくるマリク。しまったな…飛行機の中だからもらった帽子外していたんだった。まあ、この人がいうのは多分遊戯のことだろうな……髪の毛とかも赤いのがちょっと混じっているから

 

「それにしてもバトルシティか……懐かしいな。もうずい分昔に感じるよ。それにしても、バトルシティのことを言うってことは君、デュエリストかな?」

 

「あ……すみません。申し遅れました。俺はデュエルアカデミア1年生、武藤秋人といいます。多分、似ているっていうのは遊戯兄さんのことですよね。俺は従兄弟です」

 

「なるほど! やはり遊戯に似ていると思ったけどそういうことか。遊戯の関係者にこんな所で会うとはね……改めて、僕はマリク・イシュタールだ。よろしく」

 

「ええ、よろしく……と、すみません、ちょっと」

 

「ははは、そういえばここはトイレの前だったね」

 

 割と我慢の限界である。それをマリクも察してか扉の前を開けてくれる。そんな会話の後トイレから戻ると、マリクは相変わらずそこで待っていた。

 

「それにしてもこんな所で遊戯の従兄弟に会うとは。遊戯とはもう随分と会ってないけど」

 

「ははは……そうですね。それにしても、マリクさん、日本にいたんですね。そこからアメリカへ? 兄さんに聞いたことがありますけどエジプトの方ですよね」

 

「ああ、日本で少しやることがあってね……それの後始末を終えてきたところさ。本来ならもっと早く解決しないといけない話だったんだけど。色々と時間がかかってしまった。アメリカへは僕の姉がエジプト展をやっているからそこで合流するつもりでね。僕の姉さんはエジプトの考古局局長なんだ」

 

 おそらく、後始末というのはグールズのことだろう。もともとグールズは闇マリクではなく、表マリクが組織したものだしな。ちなみに、遊戯から話など一つも聞いていない。無論原作の知識からだ。それにしても、エジプト展がアメリカで行われているのか……もしかしたら、この世界に来た原因がわかるかもしれない……

 

「そのエジプト展って、何処でやるんですか?」

 

「あ、もしかして興味あるかい? そうだな、じゃあ僕と連絡先を交換しないか? アメリカに行くってことは向こうでしばらく滞在するんだろ? 僕も結構滞在予定だし」

 

「そうですね。俺もアカデミアの日程とかで空く日があるので、その日に合えば是非」

 

「ああわかった。その時は博物館を案内するよ。それと……」

 

 こうして俺はマリクと連絡先を交換して、少し話をしてからお互いに席へと戻ることにした。あまり長く席を空けるのはよくないことだしな。マリクの席は俺達とは違う前の席の方のようで、前の方へと向かっていく。席に戻ると、ツァンに遅いと怒られてしまった。そんな様子に、雪乃は呆れた様子である。

 

「さっきからツァン、ずっとこの調子よ? でも随分と遅かったわね」

 

「ああ、ちょっと有名人に会ったんだ。」

 

「有名人?」

 

「マリク・イシュタール。第一回バトルシティの準優勝者だよ」

 

 俺が小声でそう答えると驚く二人。まあ、あの人も騒ぎになるのは望むところではないだろうということであまり声には出さなかった。もし日程が合って運が良ければアメリカでまた会うことになるだろうし。そんなこんなで奇妙な出会いをしながらも飛行機でアメリカを目指すのだった……俺達の会話を監視しているものの視線を感じながら

 

 

*

 

 

 日本からアメリカまで飛行機に乗って十数時間。飛行機での旅を終えて俺たちはアメリカの空港へと辿り着いた。当然ながら、周囲は外人だらけである。ここで注意したいのはアメリカという国は日本ほど優しい国ではないということ。スリ、置き引き、誘拐など上げればキリがない……が、その中でも未だ気分が悪そうなツァンは心配だ。雪乃は特に問題はなさそうだけど。

 

「うふふ、アメリカなんて久しぶりね」

 

「ううぅー……秋人、ごめん、ボクダメかも」

 

「おい、頼むからここで吐くとかはよせよ? 大騒ぎになる」

 

「それは大丈夫なんだけど、まだふらふらする……」

 

 はぁ、こりゃゲート通るときは一緒じゃなきゃダメか? 俺はパスポートを出せるように促しながら3人分の荷物を回収して入国手続きのカウンターへと訪れる。雪乃は慣れたように入国手続きを済ませてアメリカの地へと歩いていく。後ろもつっかえているし、急ぐとしよう。未だに辛そうなツァンの手を引きながらそこへ入る。

 

『こんにちは、ようこそアメリカへ。パスポートを……って、そこの彼女は平気かい?』

 

『ああ、飛行機に乗ってからずっとこうなんだ。手続きを一緒にしてもらってもいいかな?』

 

『構わないとも。新婚旅行か何かかい?』

 

『はは、それは違うよ。彼女は学友なんだ。日本のデュエルアカデミアからこっちのデュエルアカデミアに短期間留学することになっている。旅行も兼ねて』

 

 俺がそう英語で話しながら俺とツァンのパスポートを見せる。するとカウンターの人がほう、と俺の事を見ていた。まあ、私服だとアカデミアの生徒とは一見だとわからないし。

 

『なるほど、留学と旅行ね。期間は?』

 

『一ヶ月ってところかな』

 

『オーケー、通っていいよ。行ってらっしゃい』

 

『どうもー』

 

 特に問題なく、ゲートを二人で通過する俺とツァン。が、ツァンが俺の事を驚いて見ていた。どうした、とうとう吐きそうか? ……これは女性に言う言葉じゃないな。

 

「ん? どうした」

 

「いや、秋人って英語できたのね……しかも、あんなすらすらと」

 

「あー、まあ……な」

 

 英語専攻で勉強していたからな。そらこれくらいできないと……それにしても、エド・フェニックスや、アニメのこともあったから日本語で通じるかとも考えたけどやっぱそんなこともなかったか。雪乃と合流してスマホを開く。確か、響先生の話では迎えが来てくれるはず。まずは待ち合わせのゲートに向かわないと

 

「で、秋人。確か迎えが来るって話だったけど……」

 

「ああ。それなんだけど、ゲートに来てくれる。多分俺たちの事を迎えに来るのは……」

 

「やあ、こんにちは。待たせたかな?」

 

 そこに1人の男性が現れる。長身でメガネをかけた男だ。スーツを着ているその胸元にDAと書かれたバッチが光っている。

 

「あら? 貴方が……」

 

「ああ、お待たせして申し訳ない。アカデミアからの道が混んでいてね……どうぞこちらへ、車を待たせている」

 

 そう言って雪乃の手を取ろうとする男性。違う……この男は。もうこんなに早く来るとは思わなかったぞ。俺は雪乃の前に庇うように立ち、男を睨み付けた。

 

「そこまでだ。雪乃に触るな」

 

「秋人……?」

 

「ん? どうしたんだい?」

 

「雪乃、ツァンの傍から離れるな。荷物を含めてだ」

 

「え、ええ……」

 

 雪乃も驚いた様子ではあるが、すぐにツァンのもとへと近寄る。ツァンも調子が悪そうではあるが、何事かとこちらを見ていた。

 

「どうしたんだい? 私は「グールズの残党だな?」……っ!」

 

 俺の言葉に男の表情が変化する。マリクとの会話の中で得た情報はなにもエジプト展の話だけではなかった。マリクが潰したグールズの残党に生き残りがおり、アメリカへ逃れようとしている情報。マリクの本当の目的はグールズの生き残りがアメリカへ逃げるのを捕まえること。エジプト展でイシズと合流するのは二の次。故に同じ便に乗っているかもしれないから気を付けろ、とも言われていたのだ。俺がマリクと会話していたのを聞いていたのだろう。人質にでもするつもりだったのか、それともアカデミアの人間ということでレアカードがあるとでも思って狙ってきたのか。

 

「俺たちは見ての通り私服だ。どうして俺たちがアカデミアの人間とわかる? それと、そのDAと書いた申し訳程度の装いだが、形が全く違う。アカデミアの教員が着けるバッジは共通で決まっているはず。そもそも、俺は響先生の指示で迎えに来てくれる人とはメールでやりとりして最初に交わす言葉も決めているんだ。トラブル防止にな」

 

 実際に電話などで話して等はいないが、メールで会う時にはどうするかなどは事前に言われていた。それは相手もアメリカに子供だけで来るのは危険だからということなのだろう。俺もそれに納得していたので取り決めをした。これがあって、実際に助かったと思う。今まさに、俺達はトラブルに巻き込まれそうになっているのだから

 

「もうすぐマリクさんが来る。観念するんだな……おそらく、出入口も封鎖されているころだ」

 

 それだけ、グールズという集団が世界的に問題視されているということだ。男も俺の言葉にさっきの冷静な表情とは一変して怒りを露わにして俺を睨み付けてくる。

 

「秋人!」

 

「マリクさん!」

 

 するとそこへ、俺が男と会話中に電話ボタンを押して呼び出していたマリクが到着する。電話がかかってきてかつ、マイク音量を上げていればマリクも不審に思ったのだろう。マリクの後ろには警備員が数名一緒に走ってきていた。

 

「チッ……ガキだと思って油断していたぜ。これでも食らえ!」

 

「なっ……!」

 

 男の懐から取り出されたのは手錠だった。その投げられた手錠は俺の腕にハマってしまう。

 

「クックック……逃れられないのなら、せめて道連れにしてやるよ」

 

 男が俺の腕にかけた手錠にはタイマーがついていた。グールズが仕掛けてくるデュエルって本編でも見て思ったけど碌なもんがねーんだよな。デッキの一番上を見えるようにしたり、鋸の刃がLPと連動して減るごとに向かって来たり、屋上がガラス張りのところに爆弾しかけたり……となれば

 

「それは、グールズで使われていた制裁用の手錠……!」

 

「ククククク、その通り。これは特殊な手錠でね。デュエルディスクと連動するようになっている。制限されたターン以内に相手を倒さないと爆発する仕掛けだ」

 

 やっぱり碌なもんじゃなかった! というか、こいつはアホか? 要するにデュエルを仕掛けようとしているんだろうがどのみちもう逃げられないんだぞ? デュエルをする前に警備員が押さえれば終わりだろうが。

 

「マリク、貴様も知っているだろう? 私がこれを作ったということを。近づけばどうなるかわかるかな?」

 

「っ……! まさか」

 

『そのとおり! この爆弾は爆発すればここ一帯が吹っ飛ぶレベルに作ってある!』

 

 男は大声で、高らかにそう宣言した。しかもあろうことか英語で。周囲で何事かと思っていた空港の客たちが悲鳴を上げて逃げ始める。そして『爆弾を持った男が出た』『爆弾があるって!』『逃げないと!』『テロだ!』と辺りは大混乱になってしまった。

 

「貴様がこれから逃れるには、決闘で勝って外すしかなぁい。そして、さらにデュエルを拒めばここ一帯は爆発する。さぁどうする? 時間が経てばたつほど、お前の命は尽きていくぞ?」

 

「ちぃっ……」

 

 姑息な手を。仕方がない……。俺は荷物のデュエルディスクを手に通してデッキをセットする。ここで誰かが動けばこの男は起爆をさせかねない……俺が勝ってこの手錠が本当に爆発しないという保証もないけどな。そもそも、こんな小さい爆弾でこの周辺が吹き飛ぶのか? それも疑問だ……が、この世界はすでにとんでもないものはたくさん世の中に出回っている。あの男の言葉が嘘であるという保証もない……できるのは時間を稼ぐこと。準備、があるからな……

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

武藤秋人VSグールズ残党

武藤秋人 LP4000

グールズ残党 LP4000

 

「私の先攻! ドロー! 私は手札から『ビッグ・シールド・ガードナー』を守備表示で召喚! さらに、カードを3枚セットしてターンエンド! さあ、お前のターンだ」

 

ビッグ・シールド・ガードナー ATK100/DEF2600

 

 ビッグ・シールド・ガードナー……レベル4のモンスターにして、守備力2600を誇るモンスターか。大方、時間を稼ぐつもりらしい。この腕のタイマーを0にして爆発させられればまず俺は助からないな。この周囲を吹き飛ばせるってことは、これを装着されている俺は塵も残るまい……そう考えるとゾッとする。普通なら……だが、そうはさせないと俺の手札が言っている。

 

「俺のターン、ドロー!「この瞬間! 私は罠カード『グラヴィティ・バインド-超重力の網-』を発動! これで互いにレベル4以上のモンスターは攻撃が出来ない」……」

 

 なるほど、守備モンスターを置き、さらに攻撃が出来ない罠カードか……いつもだったらエクシーズで軽々突破できるかもしれないが、ガールを使った時の一件もあるし、そもそもまだ認知されていないカードを学内以外で使うとやばい……と、まあいつもなら焦るんだが、ここからは『一人』でやらせてもらおう。

 

「メインフェイズ1に入る。俺はカードを1枚伏せ、手札から『手札抹殺』を発動。互いのプレイヤーは手札をすべて捨て、互いに捨てた分だけドローする。俺は4枚ドロー……俺は手札の『天使の施し』を発動。カードを3枚ドローして2枚を墓地へ送る。今伏せた『強欲な壺』を発動。カードを2枚ドロー……さらに『成金ゴブリン』を発動。相手のライフを1000回復し、カードを1枚ドローする。もう一度『成金ゴブリン』発動してドロー……とりあえずはここまでか。モンスターを1枚セット。カードを4枚セットしてターンエンド」

 

グールズ残党 LP4000→LP6000

 

「私のターン! いったいそれだけドローして何をしたいのか知らないが、そんなトロトロしていると爆弾は爆発するぞぉ!? 私は2枚目の『ビック・シールド・ガードナー』を召喚! さらに『つまずき』を発動してターンエンド!」

 

「俺のターン! 俺はここで伏せていたカードを全てオープン! 伏せていたのは『ゴブリンのやりくり上手』3枚と『非常食』! ゴブリンのやりくり上手3枚を先に発動! その後チェーンで非常食を発動! 逆順でまず非常食の効果で俺のライフを3000回復! そしてゴブリンのやりくり上手の効果で4枚をドローし、1枚をデッキ下へ戻す!」

 

「な、なんだと!? なぜそんなにドローを……!」

 

「ゴブリンのやりくり上手は非常食の効果により墓地へ送られた後、効果処理がされる。非常食が先に発動したことによって効果が発動した時点でやりくり上手は3枚とも墓地へ送られている。よって墓地のカード+1枚の4枚をドローすることが出来る! 4枚をドローし、1枚をデッキの下へ送る……これを、3回行う」

 

武藤秋人 LP4000→LP7000

 

 合計で12枚のドローを可能にする。これにオシリスの天空竜とかを足すとひどくなるんだが、それは無理。あと、本当は悪夢の蜃気楼を使えばもっとすごいことになるのだが、今回は手札に来なかったので仕方がない。

 

「そんなにドローをしたところで! 私の布陣は突破できん! そうそうこの守備力を突破できるカードなど……」

 

「いいや? あんたのフィールドは突破する必要はない」

 

「な、なんだと!?」

 

「いたんじゃないか? グールズにも。ドローをひたすら繰り返し、防御をし続ける男が」

 

「なにを…………ま、まさか!?」

 

「ようやく気が付いたか? もうお前の負けは決定しているんだよ。手札から『闇の量産工場』を発動。墓地に存在する……『封印されし者の右腕』『封印されし者の左腕』を手札へ戻す。これで俺の勝ち。封印されし者の右腕、封印されし者の左腕、封印されし者の右足、封印されし者の左足、そして『封印されしエクゾディア』が俺の手札に揃った!」

 

 俺はそういってその5枚のカードをデュエルディスクへとセットしていく。それと共に、俺の背に1体の巨人が姿を現す。

 

封印されしエクゾディア ATK∞

 

「くらえ、『怒りの業火 エグゾード・フレイム』!!」

 

「うあああああああああああああっ!!」

 

 グールズの残党に向かってエグゾード・フレイムが放たれる。なんつーか、初めて見たけどこれ海馬社長とかも食らったんだよな……これは怖いわ、エグゾード・フレイム。で、ちゃんとデュエルには勝利したはずなのに外れない手錠。腰を抜かすグールズ残党に向かってマリクが叫ぶ。

 

「おい! 秋人の勝ちだ! 手錠を外せ!」

 

「ひ、ひひひ……! 私がそんな機能を付けているはずなかろう! 時間稼ぎは十分できた!」

 

 その言葉と共にバイクが空港の窓を割って走ってくる。そのバイクの運転手の手を取り、男はそのバイクに乗る。

 

「ははは! さらばだ! マリク・イシュタール! 我々を裏切ったことを後悔して死ね!」

 

 ピ、ピ、ピ、とタイマーが鳴る。まあ、そうなるだろうなと予測はできた。まあ、時間稼ぎをしていたのはお前だけじゃないんだよ。

 

「(マハード)」

 

「(ええ、時間稼ぎ感謝します)」

 

 その言葉と共に外れる手錠。本来なら逃げていくアイツらにぶつけてやりたいけど、まだ少なからず人がいる。人が全くいないのはバイクが入ってきた方だ。俺はそれを力いっぱい空中へと投げ捨てる。

 

「(ミラ! マナ!)」

 

「(大丈夫です、防御結界は張りました!)」

 

 その言葉と共に爆発する爆弾。確かに、この周囲一帯は爆発する威力はあったな……あれは。ミラたちに頼んで結界みたいなのを張ってもらって本当に良かった。これやってもらってなかったら冷静にデュエルなんてできなかっただろうな。彼らは普段精霊の姿であり、この俺たちがいる世界に干渉するには魔力を要する。この前みたいにマナが扉の素材を変える程度なら数秒の時間で何とかなるが、魔力の防御結界や、硬度の高い物質を切断するには時間がいる。故に俺はデュエルを受け、時間を稼いだというわけである。

 

「は、はぁ……あー、怖かった」

 

「あ、秋人! 大丈夫!?」

 

「秋人!」

 

 安堵から力が抜けたのか、俺はその場に腰をおろした。そこへ、雪乃とツァンが慌てて寄ってくる。

 

「もう! アンタは無茶して!」

 

「こ、今回は本当にどうなるかと思ったわ……運よく手錠が外れたとはいえ……秋人。無茶しないでちょうだい」

 

「す、すまん……」

 

 この後、警察に保護されるまでガミガミと二人にお説教されてしまった。まあ、この体に無茶させたという点にはかなり反省をしなければ……これ、俺の体じゃないし。

 

 

 

 

 アメリカの警察に保護され、空港の室内で軽い事情聴取を受けてから俺たちは解放された。もっと長い取り調べをされると思っていたのだが、どうやらマリクさんが裏で動いてくれたらしい。聞いた話ではグールズ殲滅には海馬社長も一枚噛んでいるみたいだからな。KC社の人が俺達を解放してくれた。マスコミからも俺たちは逃れることが出来、すぐに迎えに来てくれる人と連絡を取って再び待ち合わせるために別のロビーで待機している。もっとも、二人はさっきの事もあってか非常に周囲を警戒している。すると、そんな俺達のところへ1人の男性が近寄ってくる。

 

「そこの君、デュエルは好きかい?」

 

「ああ、大好きだ」

 

 突然人が来たことに警戒する雪乃とツァンだが、俺がそう答えると男性はニッと笑って見せた。そのメガネをかけた長身の男性は懐からカードを取り出す。

 

「君はこのカードをどう思う?」

 

「……大切なことだ。あって損はない、そして無くしてはいけない」

 

 そう言って俺はその手を差し出し、男もその手を取り、俺と握手を交わす。その『見せられたカード』と同じように。

 

「君で間違いなさそうだね、武藤秋人君?」

 

「ええ、迎えに来てくれてありがとうございます。『響紅葉』さん」

 

 俺の言葉に、男、響紅葉はニッコリと笑みを見せた。

 




完全新規なのでリメイクとの変更についてはなし

マリク登場
実は好きなキャラ。裏の人も含めて。エジプト関連の事が出るのでやっぱこの人はでないとなぁ、と
イシズ、リシドも出ます

アメリカでのやり取り
作者の修学旅行の記憶頼りに書いてます(汗)
色々と間違えてたらすみません

ツァン不調と飛行機恐怖症?
不調については今後。恐怖症はオリジナル設定

VSグールズ残党
久しぶりにエクゾにADSで出会ったのでノリで書きました

社長グールズ殲滅に協力
社長も昔奪ったり破いたりしてましたけどね

響紅葉登場
さあ、漫画版HEROが大暴れだ(白目)


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23「夏休み」③

 軽く計算してみたら夏休み編めっちゃ長い……色々とカットしないとやばそうだなぁ……本編も同時進行で書かないと(汗

 読み専太郎様 うさぎたるもの様 神無様 龍希様 黎明の光様 万屋よっちゃん様 0・The Fool様 ヴァイロン様 しーちきんらいす様 NOGAMI壱様

感想、ご意見、ご指摘感謝です。これからも宜しくお願いいたします。

小説評価も頂ければ幸いです

さて、23話です……先が長いですが、どうぞ!


Side秋人

 

「ひ、響紅葉さん……!!」

 

「うん、よろしくね。君も姉さんから聞いているよ。ツァン・ディレさん、それと藤原雪乃さんだね」

 

 空港のロビーを出て歩く俺達だが、その紅葉の自己紹介に驚く2人。普段はこの人メガネかけてないからな……まあ、それでも普通わかると思うんだけど。すると、慌てた様子でツァンが顔を真っ赤にしてペンとメモ用紙を取り出した。

 

「サ、サインください! ボ、ボク、その、紅葉さんのファ、ファン、なんです……!」

 

「あ、うん。いいよ……そういうのならいくらでも」

 

 そんなツァンに優しい笑顔で対応する紅葉さんマジイケメンだわ。元々顔を知っていたとはいえ、空港でトラブルにならないようにお互いに合言葉は決めていた。声のかけ方も、見せられたカードに対する回答も。ちなみに見せられたのは『友情 YU-JYO』のカード。前の世界のカードでは遊戯と城之内が映っているが、この世界では黒い影……いわゆる某探偵漫画のような黒い人が握手をしているようになっている。それにしても……

 

「ツァンの食いつきぶりがすごい……」

 

 現在歩いているわけだが、俺の前に紅葉さんとツァン、そしてその後ろを俺と雪乃が歩いている。が、その紅葉さんの隣にいるツァンがいつものツァンのかけらも見当たらない。ものすごい勢いで紅葉さんに質問をしたり、プロたちの試合について聞いたりしている。

 

「あら、ヤキモチ? 紅葉さんに」

 

「俺が?」

 

「ええ、なんかそんな感じがしたわよ?」

 

 そう耳打ちしてくる雪乃。いや、それはないわ。確かにツァンは可愛いし、友達だが……仮にそうだとしてもツァンは俺を好きになるような要素何一つないでしょ。アイツ、トランプの罰ゲームで好きな異性のタイプとか言わされた時「響紅葉」って言ってたし。

 

「……そもそも、俺はこの世界で誰かを好きになる権利はないし」

 

「……? 秋人? なんかいった?」

 

「いや、なんでもない」

 

 思わず呟いてしまった。雪乃が聞いていなかったのは幸いである。この体は武藤秋人の物であって、日向明人(おれ)の物ではない。誰かを好きになる権利はこの世界で既に剥奪されている。

 

「そういえば雪乃、お前紅葉さんのこと『ボウヤ』って言わないのか?」

 

「言えるわけがないでしょ。言ったらあの子の男女平等パンチが飛んできかねないわ」

 

 男女平等パンチと呼ばれたツァンのパンチ。少し前に十代が食らっているそれは殴られた十代が三回転くらい回りながら吹っ飛んだ攻撃である。たまたま、ツァンのスカートがめくれてしまった時に十代がそれを見てしまった。俺もチラリと目に移ってしまったわけだが、十代は次の一言が『クマ』と発言したとき、三回転回りながら吹っ飛んでいた。もし『アイツ』が十代の傍にいたらツァンは殺されていた可能性がある。そう考えるとゾッとするが、それでも十代の他にも俺たちが見たのではと襲い掛かってきたツァンは怖かった。顔が般若だったもの。

 

「それに、相手はプロリーグで連勝中のデュエリストで、響先生の弟さんよ。失礼なことは言えないわ」

 

 あ、お前普段からその『ボウヤ』って使うの実は失礼だと思ってたのか。まあ、雪乃もなんだかんだ響先生を尊敬しているからな。その人の弟だし……敬意は払わんとな。それにしても、響紅葉がプロデュエリストとして活躍できている上にすでに響先生が学校にいるというのはかなり新鮮な感じだな。漫画だとこの人確か十代が『奴』を倒すまで眼は覚めていなかった……つまり、アメリカで接触していないのか、それともアメリカのあの男は『違う』のか、どっちなのか。まあ、こっちには幸い精霊3人がいるからその手の話はすぐに分かるはずだ。

 

「そういえば、秋人は姉さんと引き分けたんだって? 時間切れじゃなきゃ君の勝ちだったんだろ? 姉さんから聞いているよ」

 

「あー、ええ、かなり虚をついてですけど」

 

「すごいな。俺は姉さんに勝ったことが無いんだ。アカデミアに着いたら是非デュエルを頼むよ」

 

「ええ、宜しくお願いします」

 

「あ、秋人ずるい……! ボ、ボクともお願いします!」

 

「うん、もちろん」

 

 そんな風ににぎやかに俺たちは歩きながらタクシーに乗り込み、アメリカのデュエルアカデミアへと行くのだった。

 

 

 

 

デュエルアカデミア アメリカ校

 

「ここがアメリカのデュエルアカデミア」

 

「はは、どうだい?」

 

「なんというか、普通、よね……私たちの感覚がおかしいのかしら」

 

 そう、あるのは大学並みに広い校舎、開かれた校庭や自然が豊富な学校……なのだが、やはり日本のデュエルアカデミアのインパクトが強すぎるのだ。普通火山活動している山とか、温泉とか学校の中にないもの。

 

「くくく、その通りだ。俺も初めて来たときは同じ印象だったよ」

 

「た、確か紅葉さんは今、アメリカ校の中で臨時講師をされているんでしたよね」

 

「うん、この学校長のお願いでね。プロ試験の時の恩師だから断れなくてね……まあ、色々とこの学校も問題は多いんだけど」

 

 と、困ったような顔をしている紅葉さん。まあ、言葉や文化の違いのせいで苦労することは多いだろう。そして何より多いと思うのが……

 

『おいおい、あそこで黄色い猿が並んで歩いているぞ?』

 

『本当だ、動物園から脱走してきたのか?』

 

 ……まあ、当然ながら人種差別(コレ)である。アメリカは州によっては白人至上主義の色が強い場所があったり、アメリカ人じゃないというだけで差別をしたりする人間の比率が圧倒的に高い。この州はそうでもないが、ここはデュエルアカデミア。多くの決闘者が色々な州から集まるのならこういう奴がいたりもするだろう。

 

『そこのお前ら、何”ニーズ”だ? お前は中国人(Chinese)か? 日本人(Japanese)か? それともジャワ人(Javanese)か? ははは、俺達の言葉がわからないだろ。猿だもんな!』

 

 馬鹿にしたように俺たちに話しかけてくるアメリカ校の生徒。実際、びっくりしている雪乃とツァン。そしてその言葉を理解して怒ろうとする紅葉さん。舐めやがって、このクソガキ共。

 

『俺たちは日本の決闘者だよ。そういうお前らは何キーだ? アメリカ人(Yankee)か? 猿(monkey)か? ああ、それともロバ(donkey)か?』

 

『なっ……テメェ!』

 

 俺の言葉に、その言葉を発した生徒と周囲の生徒が俺の事を睨み付ける。正直、舐められるのは困る。一度下に見られればそれで終わりだからだ……少なくとも、この国では。つーか、一応日本生まれ日本育ちでもツァンは外国の血を引いているはずなんだが?

 

「ねえ雪乃、なんでロバ(donkey)なの?」

 

「こっちだとロバは愚か者って意味なのよ、ツァン」

 

 そんな会話が後ろでされているが、まあそれはさておき……

 

『色(カラー)で人を猿と決めつけるとは……一度、眼科に見てもらったらどうだ? それとも、デュエルのしすぎで人間がモンスターにでも見えるのか? それこそ頭の病院に行った方がいい』

 

『日本の猿の分際で言わせておけば……!『おい、何をしている君たち』っ……!? 校長先生!?』

 

 そこに一人の初老の男性が現れた。その白い服を着た男……この男は確か

 

「Mr.マッケンジー!」

 

「やあ紅葉、彼らが日本のアカデミアの生徒だね。ようこそ諸君、デュエルアカデミア アメリカ校へ。私はトラゴ・マッケンジーという。このアカデミアの校長をしている」

 

 そうにこやかに笑みを見せてくれるアメリカの校長。おいちょっと待て、今トラゴって言わなかったか。この人トラゴエディアに体乗っ取られてないよな。校長を見てか慌ててアメリカの生徒たちは逃げて行った。

 

「は、初めまして、武藤秋人と言います(マハード?)」

 

「(いえ、特に何も彼からは……)」

 

 そう首を振るマハード。トラゴエディアが出てきたらどうしようかと思ったぞ。マハードたちもカードの精霊だからな。

 

「ツァン・ディレといいます……はじめまして」

 

「藤原雪乃です。校長先生は日本語がお上手ですね」

 

「ははは、日本はデュエルモンスターズが盛ん故に何度か足を運ぶこともあるからね。それに今のご時世、言語は多種多様に覚えないと世界中の決闘者と交流はできんよ」

 

 そう微笑む校長こと、Mr.マッケンジー……マジでか。この人漫画だと醜悪な表情ばっかり印象的だったからこういってはなんだが、こんな優しい表情が出来るのか。

 

「それにしてもMr.マッケンジー……校長室で待っているはずでは?」

 

「なに、はるばる日本からお客が来るのに部屋で待っているのもアレかと思ってね。こうして出迎えに来たんだよ。色々な意味で正解だったようだ」

 

 どうやら先程の一部始終を聞いていたらしく謝罪してきた。まあ、色々な人間がいるわけだし、特に気にしていないと伝える。あんなのこの世界なら最終的に決闘で黙らせればいい。オベリスクブルー相手にしたことがあるとこういう経験は生きてくるな……あんまり活かしたくないけど

 

「そうだ、お詫びと言っては何だが我が校のカフェテリアで食事をご馳走しよう。そろそろ昼食の時間だからね」

 

 空港に着いたのはがアメリカ時間の朝8時。そこからトラブルに巻き込まれてその事情聴取を受けて10時。そして紅葉さんと合流してここに着いたのは11時……まあ、確かに昼時だな。俺たちはMr.マッケンジーに案内されてカフェテリアへと訪れた。

 

「アカデミアと似ているわね……」

 

「当然だよ。あそこをモデルにアメリカ校を作ったんだからね」

 

 ツァンの呟きに答える校長は「好きなのを選んでくれ」という。どうやら本当にご馳走してくれるらしい。適当に料理を選んで座ると、そこへ1人の女子生徒が近寄って来た。確か、こいつは……

 

『パパ!』

 

『レジー、だから学校では校長先生と……』

 

『今は休憩中でしょ? ならいいじゃない……あら? コーヨーと……誰?』

 

 確か、この金髪に泣きホクロの女性はレジー・マッケンジー、このMr.マッケンジーの娘、だったか。一応漫画版では紅葉に闇の決闘を仕掛けた人物だが……この人物もまた同じく、漫画では見ることはないような満面の笑みを見せていた。

 

『レジー、私は今お客さんの対応中だ』

 

『そ、そうだったの……ごめんなさい、マッケンジー校長』

 

『わかってくれればいい。彼らは日本のアカデミアから来た留学生だよ』

 

『ホント!? じゃあ彼はあの有名な「丸藤亮」かしら!』

 

「はぁ……レジー、彼は丸藤君ではないよ。失礼したね、紹介するよ。この子は私の娘だ」

 

「ハァイ! 私はレジー・マッケンジー! ヨロシクネ! チョット、日本語まだ慣れなイけど、そこハ許してネ」

 

 そう言って挨拶してくるレジー。とはいっても、どうやら俺の事を見ていないのが判る。どうやら俺がカイザーではないということで興味を無くしたらしい。

 

「ツァン・ディレよ」

 

「私は藤原雪乃」

 

「……武藤秋人だ」

 

「……フーン? ねェ、貴方はよく見たらオシリスレッドよネ? なんでいるノ?」

 

 名乗った後、ジーッと俺の事を見たレジーはそう俺に言う。その言葉にピシリと空気が凍る。ああなるほど、彼女はアカデミアのことについて知っているのか。オベリスクブルーのツァンと雪乃はいいとしても確かに俺がいるのは異常だろう。何しろ、日本のアカデミアで『落ちこぼれ』とまで呼ばれたオシリスレッドを学校の代表として送り出しているのだ。彼女の疑問ももっとものこと。

 

「こらレジー、失礼なことを言うんじゃない」

 

「だってパパ、私知っているワ。日本のアカデミアには3つクラスがあるって。赤は一番下ノ……」

 

『レジー!』

 

 そう強くMr.マッケンジーが怒鳴り、その言葉を遮る。隣にいる雪乃とツァンもレジーを睨み付けている。そしてその様子に困った表情の紅葉。まあ、普通はこうなるからなぁ……当たり前だ。仕方がない。

 

「そんなに言うなら試してみるか? レジー・マッケンジー」

 

「エ? どういう意味かしラ?」

 

「俺もそこまで言われて黙っているほど優しくはない。昼食後、決闘をしてもらおうか?」

 

 俺の言葉に、レジーはニヤリと笑って見せる。先程の人懐っこい笑みではない、完全に決闘者がデュエルをするときに見せるソレだ。

 

「いいわヨ! 言っておくケド、私ハこの学園で一番強いんだかラ! それ二、年下の男の子に負けルなんてアリエナイわネ! 私ガ負けるのハダーリンになる人だけだもノ!」

 

「その言葉、良く覚えておくよ」

 

 こいつのダーリン云々はどうでもいい。さて、どうしたもんかな……シンクロ召喚、エクシーズ召喚、それともまだ晒していないペンデュラム召喚か……下手に騒がれるのもやばいな。ここは陸の上……シンクロ、エクシーズは本当に緊急を要するとき以外使わない方がよさそうだ。となると、またマハードには頑張ってもらいますかね。これもこれで目立ちそうだけど……前の闇の決闘の時よりも改良されているんだ。それを試したいというのもある。そう考えながら俺は昼食を取るのだった。

 

 

 

 

デュエルアカデミア アメリカ校 デュエルホール

 

「アメリカってやっぱりなんでも無駄にでかく作るよな」

 

「広いわね……うちの決闘場の2倍くらいない?」

 

「それに、お客さんも多いわ」

 

 足を踏み入れたそのデュエルホールは人がとにかく多かった。生徒の数もきっと多いのだろう。ツァンと雪乃は驚いているが、その決闘場にはすでにレジー・マッケンジーが立っていた。

 

「来たわネ、アキト・ムトー! 逃げたかト思ったワ!」

 

「ほざけ、あんなこと言って逃げるやついるかよ」

 

「フフフ、威勢だけハ一人前ネ。さあ、始めましょウ! みんな待ってたワ!」

 

 俺はその言葉に頷いて耳に補聴器のようなものを付ける。これはKC社製の自動翻訳機能を持った小型ヘッドセットである。これをつけるとあら不思議。英語が日本語に、日本語は英語に……というか、他国言語が自国の言葉に聞こえる優れものである。KC社の力ってすっげー! さっきMr.マッケンジーに渡された試作品だ。まあ、俺が日本語で説明しても周囲は頭にクエスチョンマークが浮かんでしまうだけだ。

 

「一応聞くけど、ごめんなさいを今、ここですれば許してあげるわよ?」

 

「誰が」

 

「ふふふ、じゃあ行くわよ!」

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

武藤秋人VSレジー・マッケンジー

 

武藤秋人 LP4000

レジー・マッケンジー LP4000

 

Sideレジー・マッケンジー

 

「コイントス。こっちが表、こっちが裏よ。どっち?」

 

「表」

 

「オーケー。コイントス……残念、裏よ。私の先攻で」

 

「いいだろう」

 

 始まった日本のアカデミア生徒とのデュエル。対戦相手は武藤秋人という赤い帽子を被ったオシリスレッドの生徒。ふふん、私は知っているわ。あの赤い制服の子はみんな落ちこぼれなんだって。悪いけど、速攻で決めさせてもらうわ♪ この前もコーヨーに負けちゃったからそのリベンジしないといけないし。その上、みんながいるんだからライフを1も削られない気持ちでいかないとね。

 

「私のターン! 私は手札から永続魔法『神の居城-ヴァルハラ』を発動するわね。1ターンに1回、手札の天使族モンスターを降臨させるわ! それも、あらゆる天使をね! 来なさい私のエンジェル! 『光神テテュス』を特殊召喚!」

 

光神テテュス ATK2400/DEF1800

 

「ターンエンド!」

 

「天使デッキか」

 

「その通り。さあ、ムトー! 貴方のターンよ!」

 

 私が言うと、ムトーは帽子を深くかぶり、デッキに手をかけた。

 

「俺のターン、ドロー……俺は手札から『マジシャンズ・ロッド』を召喚する。効果発動。このカードを召喚したときデッキから『ブラック・マジシャン』と明記がされている魔法、もしくは罠を手札に加える。俺は手札に『イリュージョン・マジック』を加える」

 

マジシャンズ・ロッド ATK1600/DEF100

 

 現れたのはブラック・マジシャン……の、杖? かしら。見たことのないカードね。しかも、その杖だけじゃなくてなんだかブラック・マジシャンの形をした青い粒子が立っている。って、ちょっと待って!

 

「貴方まさか、ブラック・マジシャン使い!?」

 

「いや別に。たまたま選んだのがこれだっただけだ」

 

 ブラック・マジシャンと言えば、あの伝説の決闘者である武藤遊戯のエースモンスターじゃないの。ってあれ? 武藤遊戯? 彼の名前は武藤秋人……同じファミリーネームで、同じエースモンスター? まさか、血縁者じゃないでしょうね。いいえ、きっとだけど、武藤なんてファミリーネームは日本だとその辺にありふれた名前なのよ、きっと。

 

「さらに、『ワンダー・ワンド』をマジシャンズ・ロッドに装備して生贄に捧げる。ワンダー・ワンドの効果で2枚ドロー。カードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

「私のターンドロー! 私が引いたのは『大天使ゼラート』! よってテテュスの効果が発動する。カードをもう1枚ドローするわ! 2枚目は『コーリング・ノヴァ』! よってもう1枚ドロー……ここで止めるわね」

 

 本当はもっと引けると思ったけど残念。でもフィールドにはモンスターが0。伏せカードが気になるところだけど何をしてくるのかしら? ミラー・フォースや魔法筒なんかだったら痛いけど、ここは突っ込んでいきましょう。

 

「私は手札から『コーリング・ノヴァ』を召喚! バトルに入るわよ! テテュスでダイレクトアタック! 『ホーリー・サルヴェイション』!」

 

コーリング・ノヴァ ATK1400/DEF800

 

「俺はアタック宣言時に罠カード『マジシャンズ・ナビゲート』を発動する! 手札からブラック・マジシャンを特殊召喚し、デッキから闇属性レベル7以下の魔法使い族をさらに特殊召喚できる。現れろ、『ブラック・マジシャン』! 『マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン』!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン ATK2100/DEF2500

 

 武藤の言葉と共に、その黒き2人の魔術師はそのフィールドに舞い降りる。なるほど、エースの登場ね! いいわ、全力でぶつかってあげる!

 




リメイク前にはない話なので完全新規です

紅葉との合言葉
他に思いつきませんでした……

ツァンが紅葉のファン?
響先生にアメリカ留学でつられた理由

アメリカ人との謎言い合い
アメリカって結構人種差別とか酷いんですよね。私の場合は英文で「日本の猿は出ていけ!」という紙を人ごみでポケットに入れられました

Mr.マッケンジー&レジー登場
校長の名前がトラゴなのはすみません、漫画版GXだと名前呼ばれてないのでわかりませんでした。

VSレジー
マハード過労死しそう……

NEXT 24「夏休み」④


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24「夏休み」④

ども、まさかの投稿遅れです……申し訳ない
というのも、金曜日の夜から朝までカラオケ&遊戯王のオフ会
翌日に遊戯王の映画と連続したため投稿できませんでした……事前予約で投稿できるくらいしておけばよかった(汗

で、映画ようやく見てきました。
内容こそネタバレなので言えませんが、素晴らしい作品でした。作画、デュエル内容、物語内容、BGMの数々、そしてラストとすべてにおいて笑いあり、感動あり、興奮あり、驚きありといつもは映画を見ないでレンタル派の私が映画館で見て良かった! と声を大にしていえる作品だったと思っています。さて、次はマハードの時に観に行かないとなぁ
1つ、心残りなのはこの映画「3D」で見たかった……悔しい!

映画を見た影響か、無性にデュエルがしたい……ハーメルンの作者、読者ともいつかデュエルしてみたいものです。というか、企画してしまおうかな、オフ会……都内だけど

赤鉄様 アクスマシ様 NOGAMI壱様 読み専太郎様
傷心ズバット様 万屋よっちゃん様 ヌメロニアス様
ブロリーってなんだあ様
感想、ご指摘、意見、ありがとうございます。また書いていただければ幸いです

TearDrop様
評価ありがとうございました。頂いた評価以上に頑張れるように努力してまいります

というけで23話です! 秋人VSレジー をどうぞ


Side秋人

 

「現れろ、『ブラック・マジシャン』! 『マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン』!」

 

「(お待たせしました、秋人殿)」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン ATK2100/DEF2500

 

「ワァオ! そのブラック・マジシャンは初版のカードね! すごい、珍しいわ!」

 

「まあな……(マハード、今回お前にはちょっと負担かけるかも)」

 

「(了解です。覚悟はしておきましょう)」

 

 ブラック・マジシャンことマハード。このカードのシリーズはレジーの言うとおり、その人気故に前の世界と同じく何枚か別のポーズをしたブラック・マジシャンが存在する。この『初版』と呼ばれるのはまだデュエルモンスターズが発売されて間もないころに発売されたカードだ。彼女が驚くのは当然といえよう。その後、バトルシティ編の第二版ブラック・マジシャン、俗にいう『パンドラマジシャン』、その後にも何枚かシリーズが存在している。ちなみにマハードは攻撃表示だが、マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョンは守備表示だ。

 

「ブラック・マジシャンの攻撃力にも、マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョンの防御力にもテテュスとコーリング・ノヴァは届かないわね。私はカードを1枚セットしてターンエンド!」

 

「俺のターン! 俺は『強欲な壺』を発動してカードを2枚ドロー! さらに手札から永続魔法『黒の魔導陣』を発動! デッキから3枚を見て確認し、その中に『ブラック・マジシャン』か、『ブラック・マジシャン』と明記された魔法罠があれば手札に加えられる! その後、好きな順にデッキの上へ戻す。また、ブラック・マジシャンが特殊召喚された時、相手のカードを1枚ゲームから除外できる。俺は手札に『黒・魔・導』を加えて発動! フィールドにブラック・マジシャンがいれば相手フィールドの魔法罠をすべて破壊する!」

 

「させないわ。罠発動『サンダー・ブレイク』! 手札1枚をコストに相手モンスターを破壊する。当然、破壊対象は『ブラック・マジシャン』!」

 

「(ぬぅ……!)」

 

 突然の雷がブラック・マジシャンことマハードを襲い、そのまま破壊されてしまった。

 

「悪いけど、早々に切り札には退場してもらうわ」

 

「だが、黒・魔・導が無効化されたわけじゃない!」

 

 俺の言葉と共に、ヴァルハラが破壊される。相手フィールドに伏せカードはないし、厄介なヴァルハラも消えた。

 

「バトルフェイズ! マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョンでコーリング・ノヴァを攻撃! 『魔導波』!」

 

「きゃあっ! コーリング・ノヴァの効果! このカードが破壊されて墓地に送られた時攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚できる! 再び『コーリング・ノヴァ』を特殊召喚!」

 

レジー・マッケンジー LP4000→LP3300

 

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

「っ~! ライフを1も削られない気でいたのに……久しぶりよ! 私のライフを削ったのは! この前のコーヨーとの戦いを抜いたら私を傷つけた人は少ないわ。私のターン! 引いたのは……残念、天使族ではないわ。でもその引いた『死者蘇生』を発動する! 見せてあげる、私のエース、私の最強の天使を! 来なさい『The splendid VENUS』!」

 

The splendid VENUS ATK2800/DEF2400

 

 ……! プラネット・シリーズだと!? 確かにレジー・マッケンジーのエースモンスターだが、このカードは俺が出したリストの中でもまだ市販に出回って間もない上に激レアのカードだぞ。しかも、モノによってはプラネット・シリーズという存在は大会などの限定カードとして1枚しか存在していないはず。そもそも、このカード、いつ墓地へ……なるほど、サンダー・ブレイクのコストか。

 

「このカードがフィールドにある限り、天使族のモンスター以外のカードの攻守は500ポイントダウンする。そして、私が発動する魔法、罠は無効にならないわ」

 

マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン 

 

ATK2100/DEF2500→ATK1600/DEF2000

 

「バトルフェイズ! VENUSでマジシャン・オブ・ブラック・イリュージョンを攻撃! 『ホーリー・フェザー・シャワー』!」

 

「速攻魔法『イリュージョン・マジック』を発動! フィールドの魔法使い族を1体生贄に捧げ、デッキ、墓地からブラック・マジシャンを手札に加える。俺はデッキから2枚、ブラック・マジシャンを加える!」

 

 マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョンが指を振りながらその姿を消す。俺はその後デッキからブラック・マジシャン2枚を手札に加えた。さっきから後ろで「早く私も出して」とうるさいマナは放置。だって今回、お前入れてないんだもの。ミラもだけど

 

「(マスターひどーい!)」

 

「(お前はガールズデッキの主力だろうが。今回は大人しくしていてくれ)」

 

「(マナさん、ほら、マスターの邪魔になっちゃいますって……)」

 

 「だーしーてー!」と騒ぐマナをミラが押さえている所にVENUSが俺の方へと向かってくる。

 

「でもこれでフィールドはがら空きになったわね! VENUSでダイレクトアタックよ!」

 

「罠発動『マジシャンズ・ナビゲート』! 手札の『ブラック・マジシャン』を特殊召喚し、デッキからレベル7以下の魔法使い族、闇属性のモンスターを特殊召喚できる!」

 

「さすがにそれは通しても黒の魔導陣の効果は使わせないわ! 速攻魔法『サイクロン』であなたの黒の魔導陣は破壊する!」

 

「だが、召喚はさせてもらうぞ! ブラック・マジシャンは攻撃表示、マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョンは守備表示で特殊召喚する!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100→ATK2000/DEF1600

 

マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン 

 

ATK2100/DEF2500→ATK1600/DEF2000

 

 フィールドに舞い戻るマハードたちだが、そのVENUSの放つ光によってその力を下げられてしまう。

 

「バトルは巻き戻りね! テテュスでマジシャン・オブ・ブラック・イリュージョンを攻撃!」

 

「っ……!」

 

「さらにVENUSで追撃するわ! 『ホーリー・フェザー・シャワー』!」

 

「悪いがそうはさせない! 速攻魔法『黒魔導強化』! フィールドにいる『ブラック・マジシャン』及び、『ブラック・マジシャン・ガール』の数で効果が決定する! フィールドに1体以上いる時、このターンの終わりまでブラック・マジシャンの攻撃力を1000ポイントアップさせる! 迎え撃て! 『黒・魔・導』!」

 

ブラック・マジシャン ATK2000/DEF1600→ATK3000/DEF1600

 

 降り注ぐホーリー・フェザー・シャワーをブラック・マジシャンが迎え撃つ。その差は僅差。ブラック・マジシャンが押切り、VENUSの攻撃を跳ね除けて破壊する。

 

レジー・マッケンジー LP3300→LP3100

 

「これでブラック・マジシャンの攻撃力は元に戻る!」

 

ブラック・マジシャン ATK3000/DEF1600→ATK3500/DEF2100

 

「っ……! まさか、私のVENUSを破壊するなんてね。謝るわ、ムトー。貴方を舐めていた……オシリスレッドだから落ちこぼれだ、なんて気持ちがこの結果だもの」

 

「……」

 

「だから、ここからは本気で挑ませてもらう。私は『トレード・イン』を発動。ゼラートをコストにカードを2枚ドロー…カード3枚、すべて伏せてターンエンド!」

 

ブラック・マジシャン ATK3500/DEF2100→ATK2500/DEF2100

 

「俺のターン! バトルだ! ブラック・マジシャンでテテュスを攻撃! 『黒・魔・導』!」

 

「罠カード発動! 『天使の慈悲』! 天使族モンスターが攻撃対象となったとき、別の天使へ対象を変更する! コーリング・ノヴァを対象に変更!」

 

 レジー・マッケンジーの言葉と共にその黒・魔・導の攻撃はそれていき、ブラック・マジシャンの攻撃がコーリング・ノヴァへと直撃する。

「そして、コーリング・ノヴァが破壊されたことで同じ『コーリング・ノヴァ』を特殊召喚する!」

 

コーリング・ノヴァ ATK1400/DEF800

 

リクルーターからリクルーターへ……確実にデッキを圧縮していくつもりか。こっちもブラック・マジシャンがいるとはいえ辛いな。あのデッキの上級天使に耐えられるかどうか。ここで必要なのはレベル7のエクシーズモンスターだが、生憎、そんなものはない。手札は6枚だが、ここは凌ぐしかない

 

「カードを2枚セットして、ターンエンドだ」

 

「私のターン! 私が引いたのは『アテナ』! よってもう1枚ドロー! ふふ、まだまだゲームは始まったばかりよ! 私は手札から『強欲な壺』を発動してカードを2枚ドロー! さらにフィールドのテテュスとコーリング・ノヴァを生贄に『アテナ』を召喚!」

 

アテナ ATK2600/DEF800

 

「そして、私はカードを1枚伏せ、手札から『天よりの宝札』を発動! 互いのプレイヤーはカードを6枚になるようにドローする!」

 

「……!」

 

 ここでドロー加速だと? 手札1枚からよくもまあ……こいつも十代とまではいかなくとも引きがいい。フィールドのブラック・マジシャンと伏せカードのみ……引きによっては一気に劣勢になりかねない。

 

「ふふ、いくわよムトー? 私はまず伏せていた『リビングデットの呼び声』を発動! この効果によって私は『The splendid VENUS』を蘇生! この瞬間! アテナの効果であなたに600ポイントダメージを与える!」

 

「ぐっ……!」

 

 アテナから放たれた光が俺を直撃する。さらに、VENUSが出現したことにより、マハードのパワーが落ちてしまった。

 

武藤秋人 LP4000→LP3400

 

The splendid VENUS ATK2800/DEF2400

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100→ATK2000/DEF1600

 

「さらに今伏せた『天の落し物』を発動するわ。このカードは互いのプレイヤーが3枚ドローして2枚捨てる効果」

 

 ……お互いに3枚ドローし、2枚『捨てる』だと!? まさか、さらにモンスターを召喚するつもりか。俺のドローカードでは……チッ、仕方がない。

 

「2枚を捨てる。捨てるのは『チョコ・マジシャン・ガール』と『召喚士のスキル』」

 

「私は『守護天使ジャンヌ』と『天空騎士パーシアス』。そしてここから私は伏せていた罠カード『エンジェル・ティア』を発動! 墓地の4体の天使族を除外し、墓地から天使を復活! コーリング・ノヴァ3枚、そして大天使ゼラートをゲームから除外! 『守護天使ジャンヌ』蘇生! これによりアテナの効果が発動するわ!」

 

武藤秋人 LP3400→LP2800

 

守護天使ジャンヌ ATK2800/DEF2000

 

 フィールドに並び立つVENUS ジャンヌ アテナ……一方こちらはパワーダウンしたマハードのみ……レジー・マッケンジーの強さはかなり上位に位置する。

 

「バトルフェイズ! ジャンヌでブラック・マジシャンを攻撃!」

 

「ぐっ……!」

 

「これにより、私は破壊したモンスターの攻撃力分、ジャンヌの効果でライフを回復!」

 

武藤秋人 LP2800→LP2000

 

レジー・マッケンジー LP3300→LP5800

 

「これで終わりよ! アテナでダイレクトアタック!」

 

「罠発動! リビングデットの呼び声! 効果により俺は墓地からチョコ・マジシャン・ガールを蘇生する!」

 

チョコ・マジシャン・ガール ATK1600/DEF1000→ATK1100/DEF500

 

 出てきたのはブラック・マジシャン・ガールとは違う、水色のロングヘアーの少女の姿をしたモンスター。このカードもガールズデッキのみならず、かなり汎用性が高いカードだ。出現すると、そこでポーズをとるチョコガール。なんでこう、マナと関わり合いのあるシリーズはみんなポーズを取りたがるのか。可愛いからいいけども

 

「ダメージを減らすなら今までフィールドにいたブラック・マジシャンを召喚すべきじゃないかしら? バトル続行! アテナでチョコ・マジシャン・ガールを攻撃!」

 

「チョコ・マジシャン・ガールの効果発動! 1ターンに1度、このカードが攻撃対象となったときに自分の墓地に存在する魔法使い族を特殊召喚して攻撃対象をそのモンスターへ移し替える! 甦れ、ブラック・マジシャン!」

 

 攻撃が迫る中、チョコ・マジシャン・ガールは慌てた様子で魔方陣を描き、そこに魔力を籠める。するとその魔方陣からは再びブラック・マジシャンが姿を現す。

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100→ATK2000/DEF1600

 

「で、でも、アテナの攻撃力の方が「さらに、そのバトルするモンスターの攻撃力を半分にする」なっ……!?」

 

アテナ ATK2600/DEF800→ATK1300/DEF800

 

 攻撃対象を変更されてブラック・マジシャンに向かっていくアテナだが、その際にチョコ・マジシャン・ガールが素早く魔方陣を書いてなにやら魔法をアテナにぶつける。それによってパワーが落ちたアテナはブラック・マジシャンに迎撃されてしまった。

 

レジー・マッケンジー LP5800→LP5100

 

「ぐっ……でも、まだ攻撃モンスターは残っている! VENUSでチョコ・マジシャン・ガールを攻撃!」

 

「ちっ……!」

 

武藤秋人 LP2000→LP300

 

「私はカードを4枚セットしてターンエンド!」

 

 ライフは残り300……手札は6枚。フィールドにはブラック・マジシャンと伏せカード……が、しかし、相手のVENUSとジャンヌが厄介だ。特にVENUS……次のドローで何とかなればいいが……それにしてもまた劣勢になっちゃったよ。自分でアメリカ校最強を名乗るだけあるということか……

 

「俺のターン、ドロー! ……!」

 

「ふふ、その目、なにかいいカードを引けたかしら?」

 

「ああ、このデュエルの逆境を跳ね除ける、とっておきの切り札だ」

 

「へぇ……? この私の天使たちを突破できるだけの?」

 

 俺の言葉に、レジー・マッケンジーは笑っていた。馬鹿にしたような笑みではない。今から何を見せてくれるのかとワクワクした様子の笑みだ。

 

「ああ、行くぞレジー・マッケンジー! 俺は手札から『融合』を発動!」

 

「この局面で、融合? 『ブラック・パラディン』でも出すのかしら?」

 

「いいや、俺が融合するのはブラック・マジシャンと……手札の『矮星竜 プラネター』!」

 

 プラネターは本来、このカードの召喚を成功したエンドフェイズにレベル7の光属性、または闇属性を加えるカードだが、もう1つ……俺のデッキでは融合素材となる役割を持っている。『あのカード』が無い代わりに……だが、その力は強い!

 

「ドラゴン族とブラック・マジシャンの力を今こそ1つに……! 融合召喚、来い!『呪符竜』!」

 

呪符竜 ATK2900/DEF2500→ATK2400/DEF2000

 

 現れるのはエメラルドグリーンに輝く竜。その体には何やら呪術のようなものが張り巡らされており、その上にはブラック・マジシャン、マハードが乗る形で表れた。

 

「この土壇場で融合召喚……! でも、VENUSの効果でそのパワーは……「それはどうかな?」え?」

 

「このカードは召喚に成功したとき、自分・相手の墓地の魔法カードを『任意の数』だけゲームから除外し、そのカード1枚につき100ポイント攻撃力をアップさせる! 俺はマッケンジーと俺の墓地にあるすべての魔法カードを除外! 互いのカードは計15枚……これによって攻撃力は1500アップ!」

 

呪符竜 ATK2400/DEF2000→ATK3900/DEF2000

 

「攻撃力、3900……!」

 

「さらに、『死者蘇生』を発動してブラック・マジシャンを蘇生! そして、永続罠『永遠の魂』を発動! このカードがある限りブラック・マジシャンは相手の効果を受けない!そしてもう1つ、1ターンに1度、デッキから『黒・魔・導』を手札に加えることが出来る! そのまま発動して相手の魔法罠をすべて破壊する!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

「くっ……!」

 

 破壊されたのはミラフォ、魔法筒、リビングデットの呼び声、天使の慈悲……これでもう警戒する物は何もない! 一気にケリをつける!

 

「バトルだ! 呪符竜でVENUSを攻撃!『マジック・デストーション』!」

 

「くぅ……!」

 

 VENUSが破壊されたことで呪符竜が本来の力を取り戻す。まあ、もうお前に出番はないんだけどな……

 

呪符竜 ATK3900/DEF2000→ATK4400/DEF2500

 

レジー・マッケンジー LP5100→LP4000

 

「そしてブラック・マジシャンでジャンヌに攻撃! この瞬間、速攻魔法『黒魔導強化』を発動し、攻撃力を1000ポイントアップさせる! いけ! 『黒・魔・導』!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100→ATK3500/DEF2100

 

レジー・マッケンジー LP4000→LP1500

 

「や、やるわね……でも、耐えて見せたわ。まだまだ、これからよ!」

 

「いいや、まだ俺のバトルフェイズは終了していない!」

 

「な、なんですって……? ブラック・マジシャンと、呪符竜は攻撃を終えた……いいえ、ブラック・マジシャン、ですって? まさか!」

 

「速攻魔法、『光と闇の洗礼』を発動! ブラック・マジシャンを生贄に捧げ、デッキ、手札から『混沌の黒魔術師』を特殊召喚できる! 来い、『混沌の黒魔術師』!」

 

混沌の黒魔術師 ATK2800/DEF2600

 

「このカードの召喚に成功したとき、墓地の魔法カードを手札に加える。俺が加えるのは『死者蘇生』……そして、バトル続行だ。混沌の黒魔術師でダイレクトアタック! 『滅びの呪文』!」

 

「きゃあああああ!?」

 

レジー・マッケンジー LP1500→LP0

 

 

 

 

Sideツァン

 

 親善試合とも呼べるこの試合。アメリカ校の生徒、レジー・マッケンジーと秋人のデュエル。その勝利者は秋人。まあ、ボクも雪乃も実力を知っている以上ボロ負けはありえないだろうとは思っていたけど、まさか勝つとはおもわなかったわ……レジーは一応、このアメリカ校でほぼ負けなしとか言っていたし、周りのアメリカ校の生徒たちもレジーが負けるとは思っていなかったのか、かなり騒然としている。

 

「ツァン、勝っちゃったわね……秋人」

 

「そうね……もうあれよね、秋人って普通にオベリスクブルーでいいんじゃないの?」

 

 そしてそんな私たちの横で、今すぐにでも飛び出して決闘を申し込んでしまいそうな勢いの紅葉さんの姿があった。ふふ、なんだか子供みたい……というか、なんかどっかで見たわね、こんな感じの光景を。誰かに似ているような感じもするわ。そう思っていると、ボクたちのところへ秋人が戻ってくる。

 

「ふぅ……危なかった」

 

「お疲れ様、秋人……まさか、アメリカに来ていきなりアメリカ校のトップ生徒を倒しちゃうなんてね。なんというか、いつも通り規格外なことするんだから」

 

「いや、かなり危なかったよ……大天使クリスティアとか出されていたら普通に負けだった。このデッキで普通に生贄召喚するのは骨だからな……」

 

 大天使クリスティアって確か、お互いに特殊召喚をできなくするカードだったっけ? 確かに、それやられたらボクもきついかも……

 

「秋人、お疲れ様、まさかレジーを倒すとは思わなかったよ。君は本当に強いな……次は俺とデュエルしてくれるか?」

 

「いいですけど……そうだな、ちょっとデッキを変えていいですか? あと、ちょっと休憩させてください。少し、疲れました」

 

 まあ、そうよね。アメリカに来ていきなりテロ紛いの事件に巻き込まれてデュエルして、事情聴取受けて、さらに車に揺られてアメリカ校に来ていきなり強い決闘者とデュエルとか……秋人も流石にきつそうね。そんな会話をしていると、秋人の対戦相手であるレジー・マッケンジーがやってきた。

 

「やあレジー、お疲れ様。いい決闘だったよ」

 

「ええ、ありがとうコーヨー、でも完敗だわ。秋人、対戦ありがとう。またやりましょう?」

 

「ああ、別に構わないけど連続は勘弁してくれよ? 次は一応、紅葉さんと約束してるし」

 

 んん? 今、レジー……秋人の事下の名前で呼んでなかった? さっきまでムトーって呼んでいたのに。それになんか、さっきと態度がすごく違う感じがするのは気のせいかしら? レジーが秋人を見ている目が、なんというか……そう、まるで恋をした乙女のような……

 

「それと、秋人……お昼の時の話を覚えているかしら?」

 

「お昼の? えーと……」

 

 そう秋人へと語りかけるレジー。お昼の事? なんの事かしら。ボクと雪乃、そして秋人も首を傾げている。すると、レジーはいつの間にか秋人へと距離を詰めていた。そして次の瞬間、そのレジーの唇が、秋人の頬へ触れた。

 

「言ったでしょ? 私、自分に勝った男の子をダーリンにするって。またね、私の旦那様(マイダーリン)♪」

 

 そんな言葉と共に、レジーは上機嫌で決闘場を後にしていった。そのレジーの行為に……いわゆるキスに対して悲鳴のような叫びをあげる決闘場の男子生徒たち、そのレジーの行為にキャーキャーと叫ぶ女子生徒たち、そして、それを受けた本人はと言えば何が起きたかわからないといった様子でボーっとしている。なんでだろう、なぜかわからないけど秋人に対してムカムカしてきた。

 

「秋人、貴方……よくもまあ」

 

「いだだだだだ!? え、ちょ、雪乃なにすんの!? イタイイタイイタイ!」

 

 と、雪乃は黒い笑みを浮かべながらその秋人の腕を捻っている。かなり痛そうだ。

 

「ツ、ツァン! 助け「公共の場に何してんのよアンタは!」グボァ!?」

 

 助けを求められた瞬間、なぜかボクは反射的に秋人の腹部へ拳を叩きこんでいた。それを受けて数メートル吹っ飛ぶ秋人。我ながらよく飛ぶわね……って

 

「あ、ごめん! 秋人、大丈夫!?」

 

「いや、あれは大丈夫じゃないような……」

 

 ボ、ボクのばかぁ! 憧れの紅葉さんの前でなんてことしちゃったのよ! 若干引かれちゃったじゃない! この後、救護班が秋人を保健室に運んでいき、一応その日は紅葉さんが秋人に後日デュエルをしようと言ってその場を後にしていった。

 




リメイクにはない完全新規の為変更点なし

VSレジー
マハード、出たり消えたり。劇場版でもらえる方のマハードを出せばよかったかな……

レジーとフラグ?
いつから増えるヒロインがあのセカンドヒロインだけだと錯覚していた?
今後の内容次第と、読者様たちのご意見次第です

ヒロインズ嫉妬?
二人のヒロインと秋人が結ばれるまであと2話です

NEXT25「夏休み」⑤


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25「夏休み」⑤

徹カラやると体内時計が狂う……(汗

最近頂いたご意見を1つお答えします
秋人の性格について。スカした奴に見えたり、純粋に不快だと言われたりなど他多数……これについては今更、秋人を無口キャラにしたりしても修正が効かないくらい話も進んでいるので、考え中です……意見として受け止め、突っ走るのが一番だと考えているので特に修正する気はないですが
余裕が無く見えるのは秋人は「遊戯王の世界?よっしゃー」とかそんなキャラではないからです。この世界でカードで人が死ぬとかも理解しているので

 また、他のキャラもほとんどがキャラ崩壊じゃなくて改悪であるという意見を頂きました。その意見を頂いた方からは4話で切ったと言われたので言わずもがな、海馬社長と雪乃についてでした。社長についてはもう変える気はないです。最近のアレとかを見た人ならわかると思いますけど、結構柔らかい気もしますし。それと、雪乃にいたってはTFをやったのか? とまで言われましたが、やってます……流石に原作無視で作品は書きません。絶対に。が、今一度PSPを起動してイベント見直してきます(汗

それと、Side○○については今回から無くしました。それとも、視点が一度変わったときだけ、Sideというのを入れればいいのか……基本、秋人の視線ではあるのですが……”小説に集中させる事を許さない無機質なメタ的手法”とまで言われたのでさすがに変えないとダメか、と
今回はお試しです。やっぱり誰の視点かわからんという意見が出たらやめます……そもそも地の分を視点描写から変えればいいかとも思うのですが、もうここまで来たらこのまま突っ走るしかないな、と

と、まあ色々と変更や試みを試してみますので宜しくお願いします
相変わらず前書きが長くて申し訳ありません


うさぎたるもの様 読み専太郎様 アクスマシ様 MOGAMI壱様 さぬら様 カッチュウナイト様

感想ありがとうございました。これからも感想、ご意見、ご指摘などお待ちしております

夜渡様 nikeorigin様 さぬら様
小説評価ありがとうございました。頂いた評価をしっかりと受け止め、頂いた評価以上の小説を書けるよう努力してまいります
ちなみに、自分の批判など犬にかまれたようなものだと思ってくださいと書かれた方もいらっしゃいますが、私は頂いた評価や批判についてはしっかりと受け止め、良い小説にできるよう努力していく所存です
……まあ、4話までご覧になって無理だと判断されている以上このコメントは見て頂けていませんが(汗

というわけで25話まできました。今回は秋人VS紅葉です ではどうぞ!


「ハァーイ! ダーリン、おはよう!」

 

「……お、おはよう、マッケンジー」

 

「もう、私の事はレジーでいいってば! もしくはマックって呼んで♪」

 

 翌日の朝、俺はカフェテリアで朝食を取りながらそうマッケンジー……レジーと挨拶を交わす。朝食はいつも一人で取るんだが、なんつーか、雪乃たちはとてもじゃないけど誘えなかった。雪乃はあの後ずっと不機嫌だったし、ツァンもなんか話しかけたらやばそうだったし……で、絶賛周りの生徒たちから睨まれてしまっている。主に男子生徒に。

 

「わかった、でもレジー? ちゃんと名前で呼んでくれ。俺、君のダーリンじゃないし」

 

「いいじゃない、貴方は私に勝ったのよ? 私、決めていたの! 自分より強い決闘者の男の子が現れたらその人と結婚するって! だから、貴方は私のダーリンよ!」

 

「何、その超決闘脳……」

 

 正直に言わせてもらうぞ、お前もう誰だよ。もうレジー・マッケンジーの面影皆無じゃないか……いくら、トラゴエディアに支配されていないとはいえ、こんな明るい性格だったのかこいつ。まあ、漫画版のレジーもあんなつらい経験したからあんな性格になったんだろうし……もう別人と捉えていいだろう。つーか、なんだその決闘脳は……

 

「ダーリン? どうしたの?」

 

「いや、別に……というか、ダーリンじゃないって言ってるだろ」

 

「むぅ……わかったわよ、秋人。これでいい?」

 

「ああ、そっちの方がいいな」

 

 と、そんな会話を交えつつ朝食を食べる俺とレジーだが、やはり周囲の視線は痛い。レジー曰く、もっと人がいつもはいるらしい。今はこの学校も夏休みで、いるのは夏期講習を受けにきた者たちがほとんどだという。州によっては場所がとんでもなく離れているせいで帰るのが面倒な生徒、自主的に自己を高めるために残っている生徒、または家からここに通っている生徒がいるという。

 

「今年は一際多いわね。コーヨーが講師をしているからかしら?」

 

「まあ、紅葉さんはかなり知名度が上がっているからな」

 

 実際、響紅葉という名を聞いて知らない人物はほぼいない。E・HEROを操るその男の実力というのはすごい物で、十代のようにアニメ版HEROを使うことでプロリーグを勝ち続け、さらに俺がカードリストを提供したことでKC社が発売した『NEW HEROS』というパックによってもたらされたHEROたちによってその戦績がさらに上がったのは言うまでもない……そして、その年の紅葉さんがいるリーグの優勝カードがプラネットカードである『ジ・アース』となってもいる。俺は持っていても使えないというね……まあ、いいけど。ただ、そのカードの力だけではなく圧倒的に相手を凌駕する紅葉さんのデュエルタクティクスは前にテレビで見たが恐ろしいものだ。バラエティ企画でランダムにパックを開けてタレントとデュエルをするという企画でも引いたカードだけでコンボを繋げるなど、この人の運とタクティクスはどうなっているんだと疑いたくなるレベルだった。

 

「で、そのコーヨーとデュエルをする予定になっている秋人はどういう心境かしら?」

 

「緊張しているよ。プロデュエリストのトップを走る人とデュエルをするのは」

 

 実際にプロリーグにもランクがあるが紅葉さんがいるのはかなり上のランク。後々出てくるであろうエド・フェニックスもそのランクに届くかどうかという場所にいる。出発の日に日本の空港でデュエルをしたプロデュエリストに限っては下の下にいるプロだったし

 

「うふふ、頑張ってね。私もコーヨーには負けているの。是非仇を取ってほしいわ」

 

「仇、ねぇ……まず、勝てるかどうか」

 

「そうかしら? 貴方なら勝てる、そんな気がするわ」

 

「ははは……どうだろう。とりあえず、全力では臨んでみるけど」

 

 昨日使ったマジシャンデッキは今持ちえる中ではかなり上位のデッキだが、一度見たデッキに何も対策を講じない紅葉さんではない。挑むとしたら……うーむ、このデッキと、このデッキと……あとは、これか。これを使うと騒ぎになるな、うん。ガールが登場したらまた空港みたいな騒ぎになる。となると……やっぱりシンクロ、エクシーズに今まで自分がどれだけ頼っているのかがよくわかる……融合だけで生き抜くのもやっぱり知恵がいるな。そう考えながら食事を進めるのだった……後ろで凍りつくような笑みを浮かべた雪乃がいるのを知らないまま

 

 

 

 

デュエルアカデミア アメリカ校 第二ホール

 

「さて、じゃあはじめようか秋人!」

 

「はい。宜しくお願いします」

 

 食事を終えて紅葉さんと合流した俺はこの第二ホールに連れてこられた。昨日のホールよりは小さい物の、そのホールには観客が満員になっていた。よく見ればアカデミアの生徒ではない人間もちらほらと見える。多分、紅葉さんがいるプロリーグのデュエリストたちだろう。

 

「さあ、全力でデュエルだ」

 

「あの、紅葉さん。これって講習だったんじゃ……」

 

「座学なんて後でもできるからね、今は精一杯デュエルを楽しむのさ!」

 

 もう完全に十代と同じノリだよ。デュエルすることしか頭にないだろこの人……

 

「では……」

 

「はい」

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

武藤秋人 VS 響紅葉

武藤秋人VS 響紅葉

 

武藤秋人 LP4000

響紅葉  LP4000

 

 

 

 昨日、ツァンが秋人を殴ったせいで今日に先延ばしとなった秋人と紅葉さんのデュエル。秋人は昨日ツァンに殴られても懲りないのか、また朝にマックと一緒にいた。思わず、後ろから手を回して首を絞めてしまったけど……秋人、貴方が悪いのよ? 私というものがありながら、マックとあんなに仲良くして……秋人はなぜ怒られているのかという感じなのでしょうけど……私は貴方が欲しいの、私のものにしてしまいたいの。だというのに、秋人は私に全然振り向いてくれない……ただでさえ、こんな近くにライバルがいるのに

 

「……? 雪乃、どうしたの?」

 

「いいえ、なんでもないわ」

 

 ツァンの場合、ちょっとまだ自覚がないようだけど……ああもう、ダメね。そういうのは後にしましょう。デュエルを見ることに集中しないと。そう思い、私はデュエルする二人に目を向ける。

 

「先攻は秋人、君だ」

 

「はい、遠慮なくもらいます。ドロー! 手札から『テラ・フォーミング』を発動。フィールド魔法『混沌の場』を手札に加えて発動!」

 

 混沌の場……これまた知らないカードね。そのデュエル場に立つ二人の中心地点に模様が形成されていく。いったい、どんな効果なのかしら?

 

「このカードの発動により、まず『効果処理』としてデッキから「カオス・ソルジャー」儀式モンスターまたは「暗黒騎士ガイア」モンスター1体を手札に加える。俺が手札に加えるのは『暗黒騎士ガイアロード』! そして、『終末の騎士』を召喚! 効果で墓地へ『クリボール』を送る。カードを2枚セットしてターンエンド」

 

終末の騎士 ATK1400/DEF1200

 

「カオス・ソルジャーに暗黒騎士ガイア……か。やっぱり昨日とはデッキを変えてきたね」

 

 秋人が毎回多くのカードを持っているのは知っているけど、まさかカオス・ソルジャーとは……ここ最近の秋人、武藤遊戯のデッキを微妙にリスペクトしている気がするのは気のせいかしら?

 

「俺のターン! 俺はE・HEROエアーマンを召喚! このカードの召喚に成功したことでデッキから『E・HEROオーシャン』を手札に加える。そして『融合』を発動! 手札のオーシャンとフィールドのエアーマンを融合! 現れろ、『E・HEROアブソルートZero』!」

 

「げっ……」

 

E・HEROアブソルートZero ATK2500/DEF2000

 

 アブソルートZero……前に秋人が万丈目のボウヤを倒した時に出てきたカードね。その恐ろしい効果はもう知っている。あのカード、フィールドから離れさえすれば相手のフィールドを焼き尽くす効果を持っている。秋人は迂闊に攻撃できないわね。しかも、前みたいに『マスク・チェンジ』なんて使ってきたらまずいわ

 

「バトル! アブソルートZeroで終末の騎士を攻撃!」

 

「っ……! モンスターが破壊され墓地へ送られたので混沌の場に1つ目の魔力カウンターが乗る」

 

武藤秋人 LP4000→LP2900

 

「カードを1枚セット、ターンエンド!」

 

「俺のターン! 手札から儀式魔法『超戦士の儀式』を発動! 俺がコストにするのは手札の『暗黒騎士ガイアロード』と、墓地の『クリボール』! 墓地のクリボールはゲームから除外することでその儀式に必要なモンスターの1体にできる! 合計のレベルは8!」

 

 現れる儀式の壇上。そこには暗黒騎士ガイアロードと呼ばれたモンスターと、クリボールと呼ばれたモンスターの姿があった。そして、そのガイアロードと呼ばれた暗黒騎士ガイアに似たモンスターはその天を目指す。

 

「儀式召喚! 『超戦士カオス・ソルジャー』!」

 

超戦士カオス・ソルジャー ATK3000/DEF2500

 

「カオス・ソルジャー……だけど俺の知っているカオス・ソルジャーとは違うカード。姉さんの言っていた通りだ。君は知らないカードをどんどん見せてくる。こんなワクワクは久しぶりだ」

 

「ガイアロードが墓地へ送られたことでカウンターは2になり効果発動。さらに「天使の施し」を発動して3枚ドローして2枚を捨てる。手札の『クリボール』を捨てたことで3つのカウンターが乗り、3つを取り除くことでデッキから儀式魔法を加えることが出来る。俺は……これだな、『超戦士の儀式』を加える……バトル! 超戦士カオス・ソルジャーでアブソルートZeroを攻撃!」

 

「悪いがそれは通せないな! 罠カード『ヒーローバリア』! E・HEROをバトルから守る!」

 

「アブソルートZeroの効果を使わなかった……?」

 

「普通そうするだろう。けど、知らないカードのテキストを確認しない俺じゃない。超戦士カオス・ソルジャーには破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与えるとともに、破壊されたら手札、デッキ、墓地から『暗黒騎士ガイア』と名のつくモンスターを特殊召喚できる効果がある……秋人がデッキから超戦士の儀式を探している間にテキストは確認した」

 

 カードのテキスト確認機能……というと、最近私たちのデュエルディスクにもそんなアップデートがあったわね。その機能、長考とかの原因にもなるから確認時間も決まっているのに、そんな短時間でカードの確認を……? 聞いている限りの説明はかなり長いテキストのカードのはずなのに、なんて人なの……これが響紅葉。このターン、その通りなら3000のダメージを与えると共にアブソルートZeroの効果でカオス・ソルジャーは破壊される。でも、その破壊効果によって墓地のガイアロードが復活すれば秋人の勝ちだったはず。それを回避するとは……

 

「俺は……カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

「俺のターン! 『強欲な壺』を発動してカードを2枚ドロー! さらに『E-エマージェンシー・コール』を発動し、デッキから『E・HEROブレイズマン』を加える! そしてE・HEROブレイズマンを召喚! このカードの召喚に成功したことでデッキから手札に『融合』を加えることが出来る。フィールドの2体を融合! 『E・HEROノヴァマスター』!」

 

E・HEROノヴァマスター ATK2600/DEF2100

 

 出てきたのは燃え盛る炎をシンボルにしたようなモンスター。「ノヴァ(Nova)」は天文学で言う「新星」のことね……そして、フィールドのアブソルートZeroが消えたことで超戦士カオス・ソルジャーの体が凍りつき、砕け散った。

 

「っ……! 混沌の場にカウンターが1つ乗る! そして効果によって俺はデッキから『覚醒の暗黒騎士ガイア』を守備表示で特殊召喚!」

 

覚醒の暗黒騎士ガイア ATK2300/DEF2100

 

「別のガイアか……! バトル! ノヴァマスターで覚醒の暗黒騎士ガイアを攻撃!」

 

「くっ……! 混沌の場にカウンターの2つ目が乗る!」

 

 

「ノヴァマスターは相手モンスターを破壊したとき、カードを1枚ドローできる。カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン! 俺はカードを伏せ、手札から『命削りの宝札』を発動してカードを5枚になるようにドロー! 5ターン後、全て捨てる! よし、これなら行ける……! 紅葉さん、貴方の融合に俺も融合で対抗します」

 

 え? 秋人の今回のデッキ融合も入っているの? 私の知る限りだと暗黒騎士ガイアの融合と言えば竜騎士ガイアかしら? そういえば、カオス・ソルジャーにも……いえ、究極竜騎士なんて伝説のカード、さすがに秋人でも持ってないわよね。

 

「魔法カード『融合』を発動! 手札の『疾走の暗黒騎士ガイア』と『輝白竜 ワイバースター』を融合! 現れろ『天翔の竜騎士ガイア』!」

 

 姿を現すのは……竜騎士ガイア!? いえ、よく見るとその微妙に違う、のかしら。

 

天翔の竜騎士ガイア ATK2600/DEF2100

 

「驚いたな……竜騎士ガイアにこんなカードがあったなんて。しかも、見たところ暗黒騎士ガイアとドラゴン族で融合できるといったところかな? さすがにそろそろ教えてくれよ。どうしてそんなに俺の知らないカードをたくさん持っているんだ?」

 

「まあ、いずれ知れ渡ると思いますよ? 『これ、近日中に発売するカードですから』」

 

 後半の部分だけ、秋人はインカムを外して日本語でそう紅葉さんに伝える。え? どういうことなのかしら。

 

「ははっ……なるほどね、まあ、別に君が持っているカードについては突っ込まないさ。さあ、デュエルを続けよう! そのカードは何をするんだ?」

 

「これで、混沌の場にカウンターが5つ……3つを取り除き、デッキから『高等儀式術』を加えます。そしてこのカード、天翔は召喚に成功したとき、デッキ、墓地から永続魔法『螺旋槍殺』を手札に加える。それを発動! これで暗黒騎士ガイアまたは竜騎士ガイアと名のつくカードは守備モンスターを破壊したとき、貫通ダメージを与えることが出来る!  ちなみに、天翔は『竜騎士ガイア』としても扱います。さらに『死者蘇生』を発動。甦れ、『暗黒騎士ガイアロード』!」

 

暗黒騎士ガイアロード ATK2300/DEF2100

 

「バトルだ! 天翔の竜騎士ガイアでE・HEROノヴァマスターを攻撃! そして天翔の竜騎士ガイアの効果発動! 相手モンスターの表示形式を変更する!」

 

「なにっ……! ぐっ!」

 

響紅葉 LP4000→LP3700

 

「竜騎士ガイアが戦闘ダメージを与えたことで、螺旋槍殺の効果発動! 2枚ドローして1枚捨てる!」

 

「この瞬間、罠発動『ヒーロー・シグナル』! モンスターが戦闘で破壊された時、デッキから『E・HERO』と名のつくカードを場に特殊召喚できる! 俺は『E・HEROフォレストマン』を守備表示で特殊召喚!」

 

E・HEROフォレストマン ATK1000/DEF2000

 

「バトル続行! ガイアロードでフォレストマンを攻撃!」

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 紅葉さんにここで初めてダメージが入った。しかも、フィールドは圧倒的に秋人が支配しているといっても過言ではない。さて、ここから紅葉さんはどう切り返すのか。

 

「俺のターン! 俺は手札から『融合回収』を発動し、墓地の『E・HEROエアーマン』と、『融合』を回収! E・HEROエアーマンを召喚! 効果でデッキから『E・HEROフラッシュ』を加えて『融合』を発動! 現れろ、『E・HERO Theシャイニング』!」

 

E・HERO Theシャイニング ATK2600/DEF2100

 

 フィールドに現れるのは光の戦士、と言ったところかしら。神々しいまでに光っているわ……でも攻撃力は竜騎士ガイアと同じ。どうするつもりかしら

 

「ガイアロードの効果発動! 相手フィールドにこのカードよりも攻撃力の高いモンスターが特殊召喚されたとき、エンドフェイズまで1度だけ攻撃力を700あげる!」

 

暗黒騎士ガイアロード ATK2300/DEF2100→ATK3000/DEF2100

 

「なるほどな、ガイアロードにはそんな効果が……だったら! 魔法カード『ミラクル・フュージョン』を発動! 墓地の『フォレストマン』と『オーシャン』をゲームから除外! 現れろ、『E・HEROガイア』! このカードの召喚に成功したとき相手モンスター1体を対象に効果発動。相手モンスターの攻撃力を半分にし、その半分をガイアに加える! 俺が選択するのはガイアロード!」

 

「っ……! しまった、ガイアロードのパワーが……」

 

E・HEROガイア ATK2200/DEF2600→ATK3700/DEF2600

 

暗黒騎士ガイアロード ATK3000/DEF2100→ATK1500/DEF2100

 

「さらに、ミラクル・フュージョンでカードが除外されたことで、1枚につき300ポイント、シャイニングの攻撃力がアップする」

 

E・HERO Theシャイニング ATK2600/DEF2100→ATK3200/DEF2100

 

 う、嘘でしょ? 秋人が優勢だと思ったのに、あっというまに状況がひっくり返されているじゃない……!

 

「バトル! ガイアでガイアロードに攻撃! 『コンチネンタルハンマー』!」

 

「させるか! 永続罠『光の護封霊剣』を発動! ライフポイント1000をコストに、その攻撃を無効にする!」

 

武藤秋人 LP2900→LP1900

 

「なるほど、防いだか! だが、まだTheシャイニングの攻撃が残っているぞ! シャイニングで天翔の竜騎士ガイアを攻撃! 『オプティカル・ストーム』!」

 

「ご、護封霊剣の効果を発動し、その攻撃を無効にする!」

 

武藤秋人 LP1900→LP900

 

「やるな……俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ。ガイアの効果は消え、モンスターの攻撃力はそれぞれ元に戻る」

 

E・HREOガイア ATK2200/DEF2600

 

暗黒騎士ガイアロード ATK2300/DEF2100

 

 フィールドのモンスターを守ったとはいえ、1000というライフコストはかなり大きかったわね。秋人のライフは風前の灯。それに対して紅葉さんのライフはかなりある……さらに言えば、秋人の手札は高等儀式術1枚のみ。ここで何かひかないと秋人の負けは濃厚ね。もう、護封霊剣の効果は使えないわけだし

 

「俺のターン! 俺は手札から『貪欲な壺』を発動! 終末の騎士、覚醒の暗黒騎士ガイア、超戦士カオス・ソルジャー、疾走の暗黒騎士ガイア、輝白竜 ワイバースターをデッキに戻してシャッフル、カードを2枚ドロー! さらに『天使の施し』を発動してカードを3枚ドロー! 2枚を墓地に捨てる。伏せていた『超戦士の儀式』を発動! フィールドのガイアロードと手札のクリボールを生贄に再び現れよ! 『超戦士カオス・ソルジャー』!」

 

超戦士カオス・ソルジャー ATK3000/DEF2500

 

「バトルフェイズ! 天翔の竜騎士ガイアでThe シャイニングを攻撃! この時、シャイニングは守備表示になる! さらに天翔はシャイニングの守備力を上回っていることで貫通ダメージを与える! さらに螺旋槍殺の効果でカードを2枚ドローし1枚を墓地へ……ぐっ! これじゃない!」

 

「くっ……!」

 

響紅葉LP3400→LP2900

 

「仕方がない、さらに超戦士カオス・ソルジャーでE・HEROガイアを攻撃!」

 

「まだまだ! 罠カード『ヒーローバリア』! この効果でガイアを守る!」

 

「……ターンエンド!」

 

 惜しい……わね。今のを防がれるとは。でも、フィールドにいるガイアではカオス・ソルジャー、そして竜騎士ガイアを突破はできない。まだ、秋人にも勝機はある。

 

「俺のターン! 来たか……秋人、見せてやろう、俺の切り札を!」

 

「……!」

 

 き、切り札!? これだけモンスターを召喚しておいてまだそんなカードがあったというの……?

 

「俺は手札から魔法カード『平行世界融合』を発動! ゲームから除外されているモンスター2枚をデッキに戻すことでモンスターを融合召喚できる! 俺は除外されているオーシャンとフォレストマンを融合! 今こそ最強のヒーローとして平行世界からこのフィールドに舞い戻れ! 『E・HEROジ・アース』召喚!」

 

E・HEROジ・アース ATK2500/DEF2100

 

 その次元が割れ、その穴から1体のHEROが舞い降りる。その白と紫のモンスター……あのカードは確か、この前のプロリーグ優勝カード……! 確か、世界に1枚しかないカードじゃなかったかしら? 詳しい詳細を知らないけど、その効果はいったい……

 

「ジ・アースの効果発動! 自分フィールドのE・HEROを生贄とし、そのモンスターの攻撃力を得る! 『地球灼熱』!」

 

 紅葉さんの言葉と共にそのジ・アースの体はマグマのように赤く染まっていく。地球をモチーフにしたカード、ということなのね。ガイアの攻撃力は2200……つまり、ジ・アースの攻撃力は……

 

E・HEROジ・アース ATK2500/DEF2100→ATK4700/DEF2100

 

「バトルフェイズ! ジ・アースで天翔の竜騎士ガイアを攻撃! 『地球灼熱斬』!」

 

「……っ!」

 

武藤秋人 LP900→LP0

 

 結果は秋人の負け……でも、プロリーグ上位者を相手によくあそこまでバトルを繰り広げた、と褒めてあげたいわね。周囲の生徒たちも拍手をしてその秋人の健闘を称えていた。

 

「やっぱり秋人ってすごいわね。海馬社長の時もそうだったけど……あんな風に、格上の相手に食いついていくなんて。ボク達なんかとっくに超えている感じ」

 

「そうね……ふふふ」

 

 

 

 

 

 

「勝てなかったかぁ……」

 

 俺はそんなことを言いながら与えられている部屋のベッドの上に寝っころがって社長に送るカードリストを作成する。あの後、紅葉さんが俺とのデュエルを振り返りながら座学を行い、他にもいろいろなアメリカのデュエリストと交流をした。周囲を見て確認したがやはりヨハンなどはこの世界ではアークティック校にいるらしい。それにしても、カオス・ソルジャー、そして暗黒騎士ガイアのデッキ。かなりいい線を言っていたと思ったんだが……やっぱりきつかったか。持ってきた他のデッキではブラック・マジシャンやガールのデッキの他ではエクゾくらいだったが……あのデッキはまだまだ改良点あるからきつかったな。アカデミアに戻ったら次はレッドアイズのデッキでも組んでみようか……そんなことを考えてタブレットのカードリストを確認していると、ドアをノックする音が聞こえる。

 

「秋人? いるかしら」

 

「この声は……雪乃、か? 部屋は開いているから入っていいぞ」

 

「そう……ちなみに、部屋にマックはいないわよね?」

 

「マック? ああ、レジーなら友達たちと買い物に行くって街へ出てったけど」

 

 俺がそう言うと、部屋に入ってくる雪乃。昨日からなんつーか、ずっと機嫌が悪かったから話しかけづらかったんだが……まあ、俺が主にマックといたせいで。朝も首絞め食らったし……少しだけ、予感はあるけども

 

「……どうかしたか?」

 

「いいえ、他の女の匂いがしなくて安心したわ。ちょっと話を……ね」

 

 そう言って俺が座っているベッドの上に上がり、俺の隣に座る雪乃。どこか、様子がおかしいような気がする。

 

「ねえ、秋人?」

 

「ん?」

 

 タブレットでカードリストを確認していたのを中断して雪乃の方へ顔を向ける。するとそこには雪乃の顔がすぐそこにまで迫っていた。何が起きた、と考える間もなく……俺と、雪乃の唇が重なった。

 

「っ……!? ん、ん!?」

 

「ん……ふぅ……」

 

 なんとか雪乃を離し、これ以上近寄ってこないように両肩を手で押さえる。

 

「ちょっと待て、いきなり何をする雪乃!?」

 

「……これだけやっても、わからないかしら? 話というのは、他でもないわ。

―――私のものになって、秋人」

 

 そんな艶のある雪乃の声が、部屋に響き渡った。

 




完全新規の為リメイク前との変更点なし

レジーの性格
もはや誰だよ状態ですが、これもキャラ改悪と思う方もいるんですかね。一応、彼女とMr.マッケンジーについては「トラゴエディアに襲われなかった2人」として描いているつもりです

VS紅葉
やっぱりプロには勝てなかったよ……
秋人の戦績、対HEROだと悪すぎぃ!

雪乃、アタック
次回、3人の恋は……

NEXT 26「夏休み」⑥


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26「夏休み」⑥

今日でGWは終わりですが、劇場版はまだ終わらない……レモンがあと1枚と、マハードが欲しい……あと2回観に行くのはいいんだが、うーむ
給料日までが少し遠い(汗

最近はクトゥルフTRPGのシナリオも構築しているのでかなり時間がカツカツ……その上、明日から月曜日……辛い(汗

ヴァイロン様 NOGAMI壱様 日光岩新アカ様 白の精霊様 藍色様 シュウキ様 真っ白様 万屋よっちゃん様 うさぎたるもの様 読み専太郎様 暗色様 0・The Fool様

感想ありがとうございました。これからも感想、ご意見、ご指摘などお待ちしております

haruki_th
小説評価ありがとうございました。頂いた評価をしっかりと受け止め、頂いた評価以上の小説を書けるよう努力してまいります

26話です。ようやく、秋人と雪乃、ツァンの3人に変化が。書いて思ったのは私、やっぱり恋愛とか書くセンスが無いな、というのが正直な感想です(汗 そんな不安いっぱいな26話ですが、宜しくお願いします


「――私のものになって、秋人」

 

 そんな艶のある声が、俺の部屋に響き渡る。雪乃が普段、突然俺へ腕を絡ませて来たり、いつも近くにいたりというのは日常茶飯事であり、彼女が俺をからかう悪ふざけだ……と、最初は思っていた。少なくとも、あの廃寮で行動を共にしたあの日までは。ただ、それ以降の日から……雪乃が俺に対してしてくるスキンシップや言動は少しずつ変化していた。いくら雪乃といっても、異性が寝ている布団の中に潜り込んでくるなどこの年頃の女の子がやる行動ではない。ファーストコンタクトで押し倒されていたあの時も、あれ以上の進行をしようものならその雪乃の足によってあのオベリスクブルー生徒の息子は潰されてお亡くなりになっていただろう。俺があの時雪乃を助けなかったのはそのためだ。それくらい彼女は男性に対して容赦がないし、俺以外の男子生徒……十代たちと話す時は男性に対して「ボウヤ」とつける。さすがに、先生にはつけないが。が、俺にはそれが無い……故に、予感はあった。だが、気が付かないフリをしていた。

 

「……いつもの冗談にしては「冗談に見えるかしら? 私は本気よ」雪乃」

 

「驚いたかしら? いいえ、驚いてはいないでしょうね……私の気持ちには、とっくに気づいていた…………そうでしょ?」

 

 言いながら雪乃は俺の手を強く握る。まるで、俺を逃がさないとでもいうかのように。逃げないで聞いてくれと言うかのように。

 

「どうしてそう思った?」

 

「貴方が自分で言っていたじゃない? 私の行動に対してもう少し恥じらいを持てと……恥じらいを私が捨ててまで貴方の布団に潜り込んでいるのか。貴方ならもうわかっているはずよ。貴方と伊達に一緒にいたわけじゃない……私なりに、貴方の事は理解しているつもり。貴方はいつも、みんなとどこか一線を引いていたのも、知っているわ」

 

「…………」

 

 雪乃の言葉に、俺は答えられなかった。その通りだからだ……俺も、あそこまでされて気が付かないほど鈍感ではない。でも、それでも雪乃の呟きも、行動も、すべて気が付かないフリをしていた。そうすればいつか雪乃が呆れて自分から離れて行ってくれると。

 

「貴方の思っていることを当ててあげるわ。そこまでわかっていてどうして、って感じね?」

 

「……その通りだ。お前の望む、“真の男”とやらには、遠い存在だろ?」

 

 以前、そんな話をしたことがある。簡単な恋愛の話……青春を謳歌する学生であるみんなからすれば他愛のない話である。十代とかに関してはそういうのは考えたことが無いという話で終わるが、雪乃は違っていた。自分が求めるのは『真の男』だ、と。たくましさとしなやかさを持ちながら自らの力で光り輝いているような男、それが真の男ということらしい。いつか自分はそんな人間を見つけるのだ……そう言っていたのを覚えている。

 

「確かに普段のアナタなら……ね。でも私は貴方の幾たびのデュエル、特にあの廃寮のデュエルであなたの中にある真の男としての力を見た……そう思っているわ」

 

「馬鹿な……雪乃が恐怖で正常な判断が出来ないゆえに、そう見えただけだ。それに、たったそれだけで……」

 

「ふふ、そうね。そうかもしれない……でも、あの時見た貴方が私は忘れられない。それ以外でも、多くのデュエリストと闘ってきた貴方の強さの他にも、人間としての強さに私は惹かれている。この留学だって、貴方がいたから先生に無理やりお願いして入れてもらった……女子生徒の枠は本来1つだけなのを、響先生にお願いしたんだもの」

 

 言いながら雪乃が俺の事を押し倒す。何とか起き上がろうとするが、そうする前に手を首に回され、動けなくされた。雪乃、こんな力があったのか?

 

「私では、貴方を満足させられないから、私が嫌いだから好意を避けていたの……? それとも、マックのような女性の方が好みで、私では魅力不足、かしら?」

 

「違う、そんなことはない……俺は……お前の事が嫌いだとか、魅力が無いなんて、微塵にも思ったことはない……」

 

 今まで聞いたことのない、雪乃の不安そうな声が部屋に響く。実際、雪乃は可愛いし、なにより女性として魅力がある。俺もそれは十分理解しているつもりだ。彼女から好きだと言ってくれたのだって嬉しい。その理由は俺がこの世界では「たった一人」だからだ。故に、人からこのように好意を受けるのは俺にとってはその孤独を打ち払ってくれる光みたいなものでもある。出来ればイエスと返事をしたいと思う……しかし

 

「じゃあ、何故?」

 

「俺を好きになってくれるのは……嬉しいよ、素直に。でも、ダメなんだ、雪乃……」

 

「何が、ダメなのかしら?」

 

 俺は前にいた世界に帰り、この肉体を本物の武藤秋人に返さなければならない……だからこそ、俺はデュエルアカデミアに来た。自分がこの世界に来た理由を知るために、その謎を追う為に……間違っても、2度目の青春を謳歌したいがゆえに来たわけではない。それに何より……

 

「俺には、この世界で誰かに愛される権利も、俺が誰かを愛す権利も、ないんだ……」

 

「まるで意味が分からないわ」

 

 もういっそ、全部喋ってしまおうか……? 俺の秘密を、俺の目的を、俺の願いを、そうすれば雪乃は俺の事を頭のおかしい人間とでも言って離れてくれるかもしれない。俺の言葉に絶望し、拒絶してくれるかもしれない。そうすれば、雪乃はきっと俺の事を諦めるだろう……

 

「……雪乃、聞いてくれ。俺は」

 

 意を決し、雪乃にすべてをぶちまけて話そう、そう思った時。俺の部屋の扉の前でガタン、と大きな音がする。とっさに俺からどく雪乃を見て、俺も体を起き上がらせる。すると、そこには顔を真っ赤にした……ツァンの姿があった。

 

「ツァン……? いつからそこに」

 

「あ、あぅ、あの……ボク、秋人を夕食だから呼びに来て、えっと、それで雪乃の声が聞こえていて、あの……あぅ、あぅ……」

 

 そう必死に言ってくるツァンだが、どこか様子がおかしい。床にはデュエルディスクが落ちており、先程の音はそれが落ちた音だろう。それだけならまだいいのだが、その床にはデュエルディスクの他、彼女の六武衆のカードたちがぶちまけられていた。カードを大事にしている彼女がそれをすぐに拾わない、というのはおかしい。その上、さっきから顔を真っ赤にしていて、焦点も定まっていないし、言葉もはっきりしていない。

 

「雪乃!」

 

「っ! ええ、ツァン、ちょっとこっちに座って……」

 

 異変に気づき、俺と雪乃は慌ててツァンへと駆け寄る。しかし……

 

「きゅぅ……」

 

 ツァンはそんな言葉と共に、その場に倒れてしまった。俺は慌ててツァンの体を抱き起すが、すでにその意識はない。辛そうに呼吸をしているのがわかる。その体は異常なまでに熱い……頭を触ると、とんでもないほどの熱を帯びているのが判る。

 

「雪乃! 保険医のドクターを呼んでくれ!」

 

「ええ、わかったわ!」

 

 そう言って雪乃が医務室の方へと走って行ってくれた。俺はそのままツァンを抱き上げ、ベッドの上に横にさせるのだった……雪乃に、言いそびれたな。

 

 

 

 

 

 ボクは講習会が終わった後も紅葉とデュエルをしていた。憧れのプロデュエリストの人とデュエルをできるなんてこんな機会は滅多にないし、ファンとしては願ってもないことだった。そんなデュエルが終わった後、ボクは夕食の時間ということで秋人や雪乃を誘って夕食に行こうと考えていた。でも、心なしか頭がボーっとしていた。3連戦のデュエルはさすがにやりすぎたかな、と思いつつ秋人の部屋をノックしようとした時、雪乃の声が聞こえてきた。

 

『――私のものになって、秋人』

 

 聞こえてきたのは雪乃の声、雪乃の秋人への告白とも取れる言葉。以前から雪乃が秋人の事が好意を抱いている、というのは知っていた。中等部の時代から雪乃を知っている人から見ればあそこまで1人の男に執着する雪乃を見るのは初めてだったから、ボクや明日香はすぐ気が付いたし、雪乃も特にそれを隠すようなことはしていなかった……でも、雪乃が秋人と仲良くしているのを見るたび、ムカムカしたり、胸が締め付けられるように苦しくなったりした。この気持ちはなんなのか……あまり明確に答えを導けなかった。

 

「雪乃……」

 

 でも、昨日秋人がマックにキスをされたのを見た瞬間、ボクの中で何かがはじけ飛んだ。反射的に、『秋人のバカ!』そう心に叫びながら秋人を殴り飛ばしていた。どうしてそんなことをしたのか? 秋人には公共の場で何をしているんだと反射的に、と説明したけど本当は違う。簡単なことだ……ボクは、マックに嫉妬した。あんな大胆なことをできるマックに。本当は、心のどこかで知っていたはずの感情……でも、知らないフリをしてきた秋人への感情。秋人が好きだという、その想い……屋上でボクを助けてくれたあの時が全ての始まり。みんなとの絆を繋げる橋となってくれた秋人の優しさに、デュエルで見せる逆境の時の不敵な笑みに、十代たちと馬鹿なことをやって笑っている秋人に、ボクは惹かれていた。でも、その想いを拒絶されることが怖くて、今の関係が無くなってしまうのが怖くて、ボクはそれを秋人に打ち明けることはできなかった。空いた隙間からは雪乃が秋人を押し倒しているのが見える。どうしよう、どうすればいいんだろう、頭が、痛い、熱い……

 

――ガシャン

 

「ぁ……しま……」

 

 ボクはその頭痛のせいで手にしていたデュエルディスクを落としてしまった。さらにはそのせいでカードまで……ひ、拾わないと……

 

「ツァン……!? いつからそこに」

 

「あ、あぅ、あの……ボク、秋人を夕食だから呼びに来て、えっと、それで雪乃の声が聞こえていて、あの……あぅ、あぅ……」

 

 案の定というか、当然というか、秋人と雪乃が驚いてボクを見ていた。だめだ、気が動転してか、何を喋っているのボクは……それに、上手く呂律が回らない……雪乃がなんて言っているかもよく聞こえない。視界がグラついて、目の前が真っ暗になってしまった。最後に見たのは、秋人がボクを抱きかかえてボクを呼んでいる所だけだった……

 

 

 

 

 

「旅の疲れから来る風邪ね」

 

「風邪、ですか……」

 

 ツァンをベッドに寝かし少しして、雪乃が学校のドクターを呼んできてくれた。当然ながら女性のドクターから部屋を退出するように言われて外で待った。しばらくの診察の後、1時間くらいだろうか、それ位経ってから入っていいという許可を貰ってから部屋に入る。ツァンは雪乃が持ってきていたツァンのパジャマに着替えさせられ、俺のベッドで眠っていた。

 

「ええ、旅行者にはよくあることよ。この子、ずっと調子悪かったんでしょ?」

 

「はい。てっきり、飛行機が怖かった時のストレスだと思っていたんですが……」

 

「それもあるでしょうね。精神的ストレスと、疲労……にも関わらず今日の講習で響紅葉と3連戦他、うちの生徒とデュエル連戦……そんな無茶すれば誰だってぶっ倒れるわよ。これは残りの解熱剤と薬。これで2日もすればよくなるわ。それじゃ、お大事に」

 

 そう言ってドクターは部屋を出ていく。雪乃は水などを買いに出てくれているのでこの場にはいない。なんとも、タイミングの悪い。それにしても、雪乃にどう答えたものか……今更冷静になって考えてすべてを話してもアイツの事だ。『それがどうした』と一蹴してしまいそうで……俺が望む結果になるとも思えない。そんなことを1時間ほど考えていると、ツァンが薄らと目を開ける。

 

「あ、れ……? ボク」

 

「ん、目が覚めたかツァン」

 

「あ、きと? どうしてボクの部屋にいるの?」

 

「……ここは俺の部屋だよ。俺の部屋で倒れたのを忘れたか? 一応検査結果はただの風邪だとさ。薬飲んで寝れば治るって」

 

 俺の言葉に、あ、と思い出したかのように起きようとするツァン。しかし、その体ではそれは叶わず、ポスン、と枕の上に頭が戻ってしまう。

 

「これ、秋人のベッド、よね……ゴメン、ボク……自分の部屋に……」

 

「気にしなくていいから寝ていろ。その熱じゃ動けないだろうし」

 

 俺はそう言いながら頭に濡れたタオルを置いてやる。しかし、ツァンは寝る様子もなく、ジッと俺の事を見ているままであった。

 

「ねえ秋人……?」

 

「ん?」

 

「雪乃に、なんて返事したの……?」

 

 ツァンは俺の服の袖を引っ張りながらそんなことを聞いてきた。まあ、あそこにいたのならやっぱり聞いていたよな。

 

「……返事は、してないよ。それに……俺は雪乃の想いには答えられない」

 

「なんで? 秋人、好きな人がいるの? やっぱりマックが好き?」

 

「いや、そういうわけじゃ……雪乃のことだって嫌いじゃないし。でも、俺には誰かを愛す権利はない。誰かに愛される権利だって……本当は、誰かを好きになりたいよ、俺も」

 

 俺がそう言葉を返すと、ダルそうにしながらも俺の服を引っ張りながら体を起こすツァン。いきなり何を……

 

「じゃあ……今ボクが秋人を好きって言ったら……秋人はボクを受け入れてくれる?」

 

「ツ、ツァン……!?」

 

 言いながらツァンが俺の手を強く握ってくる。どういう、ことだ? だって……

 

「お前、紅葉さんが好きだって……」

 

「……バカ、それは憧れの人であって、好きな人じゃないわよ」

 

 雪乃の事は、予想していたが……ツァンの事は完全に分からなかったぞ。昨日ぶん殴られたのだって、あんな公共の場所であんなことするな! と怒られたからだと思っていたのに……まさか

 

「昨日、ボクが……殴ったのだって……秋人がマックにキスされて、デレデレしてたから」

 

「してない……」

 

「ボクや、雪乃には……そう、見えたんだから」

 

 いいながら、ツァンが俺の服を更に引いて俺はバランスを崩す。そして、俺の頬に、何か柔らかい何かが振れた感触が伝わってくる。

 

「っ……!? ツァン、お前」

 

「今は、風邪……ひいているから……口は、勘弁してあげる。これで、マックのは、帳消し……」

 

 言わずもがな、それはツァンのキスだった。熱で赤かった顔は恥ずかしくなったのか、さらに顔を赤くする。

 

「なんで……」

 

「ボクも、秋人が好き……友達になってから、ずっと」

 

「っ……!」

 

 今にも泣きそうな顔をしたツァンの顔がそこにはあった。彼女は勇気を振り絞って俺にそう言葉を投げかけているのだろう。俺は、どうすればいい……? 気持ちは、すごく嬉しい。それは、雪乃もツァンも、そしてマックの言葉も真意は知らないが……それでも、嬉しかった。俺を知る者などいないその世界で、俺を好きと言ってくれたのは嬉しかった。その気持ちに嘘はない。本当なら受け入れてもおかしくはない……しかし、それでも踏みとどまらなければならない。俺は「武藤秋人」という人間の器にいる「日向明人」という別世界の住人だ。仮に2人のどちらかを受け入れたとしても……もし、本物の武藤秋人の魂が帰ってくれば俺の魂は別の場所に行くことになる。そうなったとき、二人が好きだといった「武藤秋人」はいなくなってしまう……

 

「秋人……ボクの事、嫌い?」

 

「ツァン……それは、そんなことは、ない……お前の好意だって、俺は嬉しいけど……」

 

 離れようとしても、ツァンは俺の手を離さずにその瞳に涙を貯めて俺の事を見つめてくる。っ……! どうすれば、いい……!?

 

「ツァン、俺は……「ただいま」っ……!?」

 

「わひゃあ!?」

 

 どう応えるべきか、そう思った時、俺とツァンの間に雪乃がいた。何時の間に帰ってきたんだこいつは。その手にはスーパーで買ってきてくれたであろう飲み物などが入った袋がある。しかし、そんな雪乃の表情はどこか不機嫌そうだった。そして、ツァンが掴んでいる逆の腕を雪乃がガッチリとホールドしていた。

 

「ツァンが秋人の事が好きなのは知っていたから、今更驚きなんてしないわよ? さてさて? さっきの続きを聞こうかしら? 私も」

 

「……あのな、この状況で答えるなんて「答えて」……なんでそんなに答えを急ぐんだ?」

 

「当たり前……でしょ、私だって秋人、貴方が欲しいの。そして、私は貴方のものになりたいの。告白したのだって、ツァンより先なのに……ずるいじゃない。ツァンに応えようとするのは、どうなの?」

 

 そう頬を膨らませる雪乃……そこに、いつもの雪乃の姿はない。あるのは1人の少女の表情だけ。そして驚いてよろめいたが俺の事を離さないツァン。逃げようにも双方からホールドされて動けない。紅葉さんがこのタイミングで入ってきてくれないかとも考えるが紅葉さんは講義の後にプロリーグの方へ用事があると出て行ってしまっている。ミラたちに頼もうにも時間がかかる……打つ手、なしとは……

 

「ねえツァン? 秋人は何て言っていたかしら?」

 

「ボクと雪乃の好意は嬉しいって……でも、自分には誰かに愛される権利も、愛す権利もないって、よくわからないこといってる」

 

「なるほど? 私と同じ回答、と。仮にそうだとしても……私たちが誰を愛するのか。それを決めるのは私たちよ。秋人ではないでしょう?」

 

「それは……そうだけど」

 

 だけど、と俺が言おうとするも、その口を雪乃の指によって塞がれてしまう。

 

「ならいいじゃない? 私も、ツァンも、貴方を求めているの」

 

「だから秋人……誰かに愛される権利が無いなんて、言わない、で」

 

 雪乃はそう優しく微笑むみ、少し辛そうにしながらも、ツァンも俺の手を握る力を一層強くさせていた。しかし……

 

「結局、俺はどうすればいい? 俺は一人しかいない……二人の想いは嬉しいが……」

 

「……そうね、その通り。ねえ、ツァン?」

 

「……何? ボク、結構今、つらい……けど」

 

「ええ、もうちょっと頑張って。私が決めた案に乗ってくれる?」

 

 そう言いながら雪乃はツァンに耳打ちをする。なんだ? 数秒の沈黙の後、ツァンがなにやら雪乃に呆れた様子でため息を吐く

 

「よく、思いつくわね……アンタも」

 

「そう? 確実に秋人といて、私たちやみんなの関係が壊れない素敵なプランでしょ? 私だって本当はただ一人、秋人の物になりたいもの」

 

「……そうね。賛成してあげる。でも、『一番』は」

 

「それは、私たちと秋人の今後次第ってことで」

 

 何を相談したんだこの二人はこの短時間で。そして、なんだろう、嫌な予感がプンプンするのは気のせいではない。雪乃が離れているなら病人のツァンの掴んだ手ぐらいならば引きはがせる。直感的に離脱を考えた俺だったが、それは叶わなかった。

 

「逃がさないわよ?」

 

「逃げちゃ、だめよ……」

 

 すさまじい速さで俺が逃げることを感じ取った雪乃が空となっていた俺の手を握り、ベッドの上へと引きずり込んだ。しかも、ツァンもまた同じように俺の事を引っ張っているので動けない。

 

「協議の結果を教えてあげるわ、秋人。私たち二人の愛を受け止めてもらうことにしたの」

 

「どうしてそうなる!?」

 

「貴方の事よ。どちらかを選んでどちらかが傷つくことも考えたんでしょ? それなら両方を受け入れてもらう……そうすれば私たちは幸せ、みんなとの関係も崩れない。一石二鳥ね?」

 

 それは、日本の法律的にどうなんだ!? 俺が反論しようとするも、ツァンが「それに」と言葉を遮ってくる。

 

「両方から固めておけば、他の女が入る隙間なんて、ないでしょ? 一番がどっちかは、これから秋人が決めていけばいいから……だから、秋人。もう観念して?」

 

 拒否権もなしかよ……ここでなお拒めば、この二人は今度何をしてくるのかわからないし、先程からもう打つ手はないのは分かっている。観念しろ、か。

 

「いつか、俺がこの世界から消えることになったら?」

 

「「地獄の果てまで追いかけてあげる」」

 

「後悔するかもしれないぞ? 俺なんかを好きになったことを」

 

「「後悔が怖くて恋はできないわ」」

 

「……もう、好きにしてくれ」

 

 二人の揃った言葉に、俺はもうあきらめるしかなく、ため息と共に吐かれた俺の呟きは言葉と共にされる二人のハイタッチによってかき消されるのだった……

 

 

次の日、俺がツァンの風邪を移されるのは言うまでもない

 




完全新規の為リメイク前との比較なし

ツァンの風邪
実は空港の時からすでに風邪をひいてました

雪乃、ツァンの告白に対しての秋人の想い
正直、秋人は雪乃のは気付いていましたが、ツァンの想いには気が付いていませんでした


ちょっと無理やり過ぎない?
前作のくっつく話のほうがもっとひどかったと思ってます……

次回からハーレム?
一応。ただ、レジーがまだ終わりません

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27「夏休み」⑦

夏休み編、書きたい話が多すぎて終わる気がしない……(汗

心紅様 navi様 うさぎたるもの様 NOGAMI壱様 てーとくん様 真っ白様 ヌメロニアス様 万屋よっちゃん様 龍牙様 日光岩新アカ様 赤鉄様 読み専太郎様 カロン様 カッチュウナイト様 シュウキ 0・The Fool様 スターダスト様 navi様
感想ありがとうございました。これからも感想、ご意見、ご指摘などお待ちしております

神崎蓮也様
小説評価ありがとうございました。頂いた評価をしっかりと受け止め、頂いた評価以上の小説を書けるよう努力してまいります

さて、27話です。今回は数話ぶりにあの人が登場です。では、お楽しみください


Side秋人

 

 雪乃そしてツァンからの告白を受けて早5日。ツァンも、俺も、風邪が治りなんとか完治した。というか、次の日にツァンはすっかり治っていて、俺だけが治るのが遅かった。元々この体、俺が入って以降でかなり無理をしていたからな。そのせいもあるだろう。前の世界の時の体よりだいぶ脆い。今度からトレーニングでもしようかな。あれから結局、俺自身の事を2人に打ち明けてはいない。風邪のせいでそれどころではなく、看病をしてくれる2人にそんなことをいきなり打ち明けることはとてもではないができなかった。またどこか話せる機会があればいいが、信じてくれるかと不安がある。さて、話は変わるが今日からは完全にアメリカ校も休校となるため人が激減する。なので、俺はとある人物に連絡を取ることにした。それはこのアメリカに来る途中で出会った人物……

 

『やあ、秋人じゃないか』

 

「どうも、マリクさん」

 

 その人物の名はマリク・イシュタール。かつて千年丈を保有し、レアカードを強奪する犯罪集団である「グールズ」を組織した人物である。もっとも、現在はその影も形も見当たらないのは確かだが。

 

「エジプト展はまだやってます?」

 

『ああ、あと数日で終わるけどね。やっぱり興味あったのかい?』

 

「ええ、一応」

 

『そうか。じゃあ博物館の場所をメールで送っておくね。当日は入口で会おう』

 

「ええ、宜しくお願いします」

 

 そう言って電話を切って椅子の上に座る。これでとりあえず約束は取り付けられた。何かわかる可能性は低いかもしれないが、何もしないよりはマシだ。そんなことを考えていると、俺の部屋の扉がノックされる音が響き渡る。その後に扉が開く。そこには雪乃とツァンの姿があった。

 

「秋人、そろそろ夕食だけど一緒に食べに行きましょう」

 

「ああ、今行く。ちょっと待ってくれ」

 

 デッキをケースにしまって、さらに鍵のついた鞄にそれを仕舞い込んでから、すっかり馴染んだ赤い帽子を被って雪乃たちと合流する。で、その後に両脇に二人が立つのはもう慣れてしまった。たまに手を握ってきたり、腕を絡ませてきたりは前から雪乃がやってきているので慣れてはいるものの、ツァンまでそれをやってくるというのは…………まあ、あれだ。意外だった。そして2人が俺へ告白するきっかけであり、目の敵にしているレジーはと言えば、実家に帰っているのでいない。メールで近々、うちに遊びに来てとか言っていた。

 

「ね、秋人。明日は観光巡りに行かない?」

 

「あー……それなんだけどさ、ちょっと俺、用事があるんだ」

 

「用事? このアメリカに?」

 

「ああ、人と会う約束をしていて、その人の「女?」……いや、男」

 

 誰かと会うと、言う言葉に対して雪乃から鋭い視線が飛んできた。まあ、大方レジーのことと予想をしているのか。

 

「じゃあボク達も行くわ。いいでしょ?」

 

「あー……わからん、一応後でメールしてみる」

 

「で、誰なの? 会う人、というのは」

 

「空港で少しだけ会っただろ? 第一回、バトルシティトーナメント準優勝者のマリク・イシュタールだよ」

 

 俺の言葉に驚く二人。あの空港での一幕ではマリクとは喋る機会はあまりなかったからな。特に二人は恐怖でそれどころではなかっただろう。夕食後、メールの結果OKという内容のメールが送られてきていた。

 

 

 

 

翌日 ワシントンD.C. スミソニアン博物館

 

「ここがワシントンD.C.最大の博物館、スミソニアン博物館……」

 

「初めて来たけど、広いわね……」

 

「ああ、ここはいろんなものが展示されているからな」

 

 アメリカ、ワシントンD.C.にあるスミソニアン博物館。ここは前の世界にもあった……いわば、実在する博物館だ。スミソニアン博物館はワシントンD.C.とその周辺に位置する総合博物館・研究施設で、その規模は文字通り古今東西からありとあらゆるものが集められたすさまじいものであるにも関わらず、入場料は一切タダという……とんでもない博物館である。ちなみに、その集められたものというのが所有者を不幸にするという『ホープ・ダイヤモンド』、アポロ17号が月から持って帰ってきたという『月の石』、人類史上初めて人を乗せて空を飛んだ『ライト兄弟の飛行機「ライトフライヤー号」』の複製機、さらには本物の『スペースシャトル』や、『家庭用核シェルター』、徳川13代将軍・家定の正室、天璋院篤姫が婚礼で使用したと確認された『駕籠』とか、あと、昔は期間限定で『スーパーファミコン』とかも置かれていたのを覚えている。他にも恐竜の化石や巨大象のはく製など、上げればキリが無い。そんな博物館の入り口には特別出張展示エジプト展の看板が置かれている。そしてその入口の前に1人の男性の姿があった。褐色の肌に、薄い金髪の男性の姿

 

「マリクさん、お久しぶりです」

 

「やあ、秋人。久しぶりだね……それと、君たちが秋人の友達だね。僕はマリク・イシュタールだ……といっても、空港ではその姿を見ていたけど」

 

「は、初めまして……! ツァン・ディレ、です」

 

「藤原雪乃、です。初めまして」

 

 紅葉さんの時以上に緊張している二人……まあ、二人も決闘者だから『バトルシティトーナメント準優勝者』という肩書を持つ決闘者が目の前にいれば、緊張するのも無理はないだろう。

 

「ははは、そんな緊張しなくても……じゃ、早速行こうか。中で姉さんやリシドも待っているし」

 

「お姉さん……というのは、確か、決勝トーナメントで海馬社長と闘ったイシズ・イシュタールさんでしたよね。あと、リシドさん、というのは決勝トーナメントベスト4にいた城之内克也さんとデュエルをした人でしたっけ」

 

「ああ、その通りだ」

 

 そう言って歩く俺達だが、この第一回バトルシティトーナメントに関しては記録映像があり、それを見る機会は何度か存在している。リシドに関しては最初「マリク・イシュタール」と名乗ってはいたが、のちに訂正などが文章で書きしめされているのでリシドの名についても広く知られている。で、その有名人がこの博物館に後二人もいるとなれば……まあ、二人は緊張しまくりである。出かける前はデートだとか言って二人とも上機嫌だったのだが、今はそんな余裕もなさそうだ。様々なものが展示されているのを横目に、エジプト展が行われている場所へと辿り着いた。さすがはアメリカの博物館と言ったところか、期間限定用の展示場も広い。

 

「すごい……こんなに展示物があるなんて」

 

 雪乃の言葉に同意する。アニメや漫画などではそこまで多く取り扱っているような感じはしなかったのだが、その広い展示場に並べられた数々の展示物はその長いエジプトの歴史を語るには申し分のない物だ。発掘された貴重な宝や千年アイテムのレプリカなどが並ぶ中、俺はそのガラスケースの中に飾られた1つの壁画を目にする。

 

「……これが」

 

「(おー! お師匠様とファラオですね!)」

 

「(うむ、そうだな……お久しぶりです、ファラオ)」

 

 その壁画にはこの世界におけるデュエルモンスターズの原点ともいえる物が飾られていた。1人はドラゴンを、そしてもう1人は魔術師を石版から出現させ対峙する1枚の絵。これがファラオこと、アテムと神官セトのデュエルを描いた壁画……まさか、実物をお目にかかることになるとは思わなかった。マハードもそのファラオ、アテムの絵を見てどこか懐かしんでいるように見える。俺は二人に懐かしいなら見てきてもいいといって許可を出す。二人にも思うところはあるだろう。

 

「ん?」

 

 そんな二人を見送った後、その隣にはまた別の壁画が置かれているのが目に入った。なんだこの壁画……ほとんど文字が潰れているし、絵も掠れていて見えない……けど

 

「これは、扉か?」

 

 そのわずかに見えるのは扉のような絵……そして3つのモンスターを描いたような姿。そして、1匹の竜……これも戦いを現しているのだろうか。

 

「それは最近出土した壁画です」

 

「っ……!? 貴女たちは……」

 

 褐色の肌に黒い髪をした女性がいつの間にか俺の隣に立っていた。その横には顔にタトゥーを刻んだ大柄な男性が立っている。

 

「申し遅れました。私はこのエジプト展の責任者、イシズ・イシュタール。こちらは付き人のリシド。初めまして、武藤秋人……遊戯のご親戚とマリクから聞いています」

 

「初めまして……武藤秋人です。それで、この壁画には何が?」

 

「正直な話、この壁画は私たちでもまだ解析が出来ていません。ただわかるのは隣の壁画……名も無きファラオの後の時代の出来事を記したものである、と」

 

 名も無きファラオ……アテムが王として君臨した後の時代の出来事。これは俺も完全に分からない話だな……

 

「この時代の壁画はまだ新しいものだ。しかし、これは故意に消された跡がある」

 

「故意にって……どうしてそんなこと」

 

 説明をしてくれるリシドの言葉に、思わず俺はそんな言葉をこぼす。しかし、リシドは首を振る。だが、イシズは俺にその予測を教えてくれた。

 

「もしかしたら、何か未来に記してはならないものだったのか……それとも、何者かが未来にこれを知られるとまずいと思ったのか……」

 

「…………」

 

「イシズ様。そろそろ」

 

「ああ、もうそんな時間ですね。秋人、そろそろマリクやお友達と合流して、一緒にお昼にしましょう。ここのランチは絶品ですよ?」

 

「あ、はい。そうですね……是非」

 

 俺はそのイシズの言葉に従い、共にマリクたちと合流するために館内を進む。ただ、あの壁画の事は、どこか気がかりではあった。

 

 

 

 

博物館 食堂

 

「どうかしら?」

 

「ええ、とてもおいしいですよ」

 

 リシドが持ってきてくれた食事を食べる俺達。席には俺と雪乃、ツァンの他、マリク、イシズ、リシドが座って食事をしている……が

 

((味が判らない……))

 

 そんな表情の二人である。まあ、あのバトルシティトーナメント本選に出た人間8人のうち3人が同じ席に座って一緒に食事をすればそりゃ味もわからないか、俺の場合は海馬社長のせいで嫌でも慣れてしまったのもあるけど……聞いた話、あのバトルシティは初めて神のカードが人目に触れるなど伝説的なものが多かった。伝説の決闘者はなにも遊戯だけではない。その名を連ねた者たちは伝説(レジェンド)は初のバトルシティで名を連ねた者たちにも与えられていた。故に、あの迷宮兄弟も遊戯と闘っただけで有名、というわけである。

 

「そういえば秋人たちはデュエルアカデミアから来たのでしたね。デュエルはよくするのでしょう?」

 

「ええ、最近では皆さんが知っている人だと……海馬社長とデュエルをしました」

 

「セトと……ですか? 最後に彼に会ったのはいつだったか……」

 

 社長の名前を聞いて驚くイシズ……さん。どう見ても、俺の言葉と共に雰囲気が変わっている。あれ? 俺なんか変な地雷踏んだ?

 

「セトはどうでしたか? 元気そうでした?」

 

「え、ええ……それはもう、かなり」

 

 上機嫌に高笑いして攻撃力4500のモンスターで連続攻撃をしてくるくらいには元気でしたよ、はい。

 

「そうですか……最近会っていないのに……連絡だってしたのに……自分はアカデミアで生徒とデュエルなんかして……だったらもっと私と会う時間を……」

 

 と、なにやらブツブツと言い始めるイシズさん。すると、俺の腕をグイとマリクが引っ張ってくる。

 

「(あ、秋人、姉さんの前で海馬の名前は出さないでくれ! 姉さん、最近海馬から連絡もらってないから凹んでいるんだ!)」

 

 え、マジでか……まさかとは思うけど……まさかねぇ。いくら漫画やアニメでそういう描写がなかったとはいえ……あの反応、マジで?

 

「(マジすか、マリクさん、リシドさん)」

 

「(うん、マジだ。オベリスク託したり、本戦で戦ったりしてて…………そのほかにも、色々あってね)」

 

「(その上、連絡先は知っていても海馬も多忙故にメールでしか返事をよこさないのだ)」

 

 うへぇ……この世界の二人ってそんな感じなのかよ。そういえば、前に社長とテレビ電話したときに花とか送ってあったのが見えたけど……あれ? 社長の嫁は青眼(キサラ)……ああいや、それは神官セトのほうだ、うん。現実的に考えればそうなることもあるよな。マリクを救えないって言って一度あの島で死ぬつもりだったイシズを見て社長も遊戯にカードを託してたし……それに、この世界はその本編から何年も先の世界。その間に、色々あったんだろう、うん。この後、マリクたちが何とか話を逸らすことで何とかするのであった。

 

 

 

 

エジプト展エリア

 

「……やっぱり、気になるんだよなぁ」

 

 一人、俺はエジプト展エリアに食後戻ってきた。この壁画、やはり気になる。3体の巨大なモンスターと、1体の竜……このモンスターの形、形だけならデュエルアカデミア地下に封印されているという三幻魔のカードに似ているような気がする。それはM&Wを生み出したペガサスがそれを基に作ったのだとしたらなんの違和感もないのだが……問題はこの扉と、竜。この扉は幻魔の扉に見えなくもない……だが、このドラゴンの姿。これはまるで……

 

「その壁画、興味がおありかい?」

 

「え? ええまあ……不思議だなって。エジプト局の人が『故意に消された可能性がある』って言っていましたから」

 

 俺はいつの間にか横に立っていた老婆にそう返した。老婆は俺の言葉にそうだねぇ、と言いながら壁画を見つめる。

 

「世の中にゃ、残しておくべき記録と、残すべきでない記録があるさね……」

 

「これは後者だと……? でも、何故?」

 

「ヒッヒッヒ……もしかしたら誰かが似たようなことを起こしてしまわないようにかもね」

 

 ……誰かが、同じことを? これはいったい、何を現しているのか……

 

「この古代文字には断片的だけど書かれているのは『異世界』『冥府』『希望』『絶望』、そして『未来』……ヒッヒッヒ、どうしてそんなものが書かれているのやら」

 

「おばあさん、この文字読めるんですか?」

 

「ああ読めるとも……なんせ『精霊界の文字』と同じだからねぇ」

 

 ……!? 待て、この婆さん今なんて言った!? 精霊界の文字だと!?

 

「婆さん、アンタ何者だ……」

 

「あたしゃ、しがない旅の旅行者さ……お前さんこそ何者だい? 『精霊を3体も連れて』。さっきからウロウロ見ているあの子たちもお前さんの精霊だろ?」

 

「っ……!?」

 

 この人にも、カードの精霊が見えるってのか!? さっきから懐かしそうにマナやマハードはこの辺を徘徊していたが、それが見えるとは! その言葉に警戒してか、俺の一番近くにいたミラが杖を構える。

 

「ヒッヒッヒ、御嬢さん。そんな物騒なもんしまいなさいな……あたしにゃ効かないよ」

 

「(何者ですか……)」

 

 ミラも驚きを隠せない。俺も同じくだが、戻ってきてくれたマハードやマナも、警戒しているのが判る。

 

「そうさねぇ、本職はしがない占い師さ。1つ、アンタに助言をしてあげるよ。『今のままじゃ』アンタの目的は達成できない。もっと変わっていかないとねェ……そして、その『時』が訪れたとき、アンタは選択肢を迫られる。それがどうなるかは……アンタ次第だよ」

 

 そう言って婆さんは歩いて行ってしまった。俺たちは呆然としてその老婆を見送ることしかできなかった。老婆はやがてその人ごみの中へと消えてしまうのだった。

 

「今のままじゃ、ダメ……って、どういうことなんだ」

 

「(マスター……大丈夫ですか?)」

 

「(ん、大丈夫だよ……)」

 

 そろそろ戻らないとさすがに怒られるな。あの婆さんの言っていたことも気になるけど……頭の隅に置いておくことにしよう。そう心に決め、みんなのところへと戻ることにするのだった。




完全新規でのためリメイクとの比較は無し

マリク、イシズ、リシド登場
あと数話で別のDM勢も出るんじゃよ

イシズと海馬の関係
私的にこのカップリングはすごく好きだったので今回はこのような感じに。本来なら海馬×青眼(キサラ)ですが、人間同士にするとこの2人も好きです

壁画について
後々、秋人に必要となるもの
ただし、セブンスターズ編までは特にない

謎の老婆
この老婆はまたの機会に登場

Next 28「夏休み」⑧


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28「夏休み」⑧

 なんとか話が書けたので更新……本当に申し訳ないです

NOGAMI壱様 Ranperu様 ハネトンビ様 赤鉄様 0・The Fool様 うさぎたるもの様 読み専太郎様 万屋よっちゃん様 紫霊様 乱読する鳩様
感想ありがとうございました。これからも感想、ご意見、ご指摘などお待ちしております

おやじ様 あかがみ餅様 桐ケ谷一弦様 kiri坊様 都昆布様 バレッタ様
小説評価ありがとうございました。頂いた評価をしっかりと受け止め、頂いた評価以上の小説を書けるよう努力してまいります

というわけで28話です。本当はマリクとのデュエルとかも考えていたんですが、別の機会へ変更です。これ以上夏休みやると本編に戻れなくなる(汗
楽しすぎて40話くらいまで夏休みしそうだったので後少しで本編戻ります


 エジプト展を訪れてから幾日かが過ぎた。あれから石版が気になる日々が続いている。イシズさんに興味があるので何かわかったら教えてくれとは頼んだものの、特に今のところ連絡はない。あと数日で留学も終わり、俺達は日本に帰国することになる。とりあえず、今後の日程をどうしようか、そう考えていた。しかし、そこへ海馬社長から渡されているスマホから緊急の連絡が入る。俺は部屋に鍵をかけてその通信を取った。

 

「はい、武藤です」

 

『貴様に至急、依頼したいことがある』

 

「……? はい、どうかしましたか?」

 

 いつにもなく少し焦った様子の海馬社長の声が聞こえていた。何かあったのだろうか。

 

『先日ペガサスから連絡を受けた。I2社に膨大なハッキングをしたハイエナがいる、とな。貴様も聞いているだろう、グールズのことだ』

 

「グールズが……?」

 

『そうだ。そしてその中で1つ奇妙な話を聞いた。とあるカードデザイナーが作った『神を制御できる究極のフィールド魔法』というものがあるらしい。ペガサスはそのカード案を没にしたようだが、そのデザイナーはそのデザインを消していなかった』

 

「……まさか」

 

『そうだ、ハッキングされたデータの1つにそれがあった。幸いにも貴様が出したカードリストは無傷だが、状況は最悪だ。すでにそれらしき連中に狩られ、レアカードを巻き上げられた奴らが出ている……ただ、情報では腕の立つ決闘者は首領のみとのことだ』

 

 神を操ることが出来るフィールド魔法。それ、遊戯王GXで登場した神縛りの塚の事じゃないか。それが登場するのは来年の話のはずなんだが……まあ、その辺はいいか。それにしても、OCGとアニメ版だと効果は異なるが、この世界で最大の利点はコピーされた神のカードを操ることが出来るという点だ。そのカードデザインを盗むということは……

 

『グールズのクズ共がその昔、神のカードを保有していた時期があった。その際に作られた神のカード……その写し身。それがまだ現存している可能性がある』

 

 社長の話ではその手のカードはグールズ残党を討伐するうえでほとんど葬り去られたということらしいが……I2社で保存されているラーの翼神竜の他にもそんなものがあるとは

 

『今、マリクたちと我が社の精鋭が全力を挙げて残党の捜索をしているがまだ見つからん。だが、見当はついた。アカデミアに狙いを定める可能性がある』

 

「アカデミアに?」

 

『やつらの補給地点、と言ったところか。資金源などは大方叩いたが、そんなものカードが入手されればまたコピーされ世に出回ることになる。そのカードを集められる場所というのが……』

 

 なるほど、下手にカードショップなんかに行くよりはアカデミアの生徒にアンティデュエルを仕掛けてカードを巻き上げた方が効率はいいだろうな。それにしても

 

「それが俺への依頼と、どう繋がるんですか?」

 

『言うまでもない。お前にはそのグールズの捕獲に協力してもらう』

 

「え……」

 

 要するに囮である。社長の言い方を察するに俺がその手の連中に負けるようなことは微塵にも思っていたのだろう。が、そんな相手に対して瞬殺できるようなデッキを俺は持ってきていない。

 

『簡単なことだ。今夜、アカデミア付近の郊外を練り歩け。そうすれば獲物は餌に飛びついてくるはずだ。我が社の職員も周辺に何名か潜り込ませておく。事後処理の事はこちらで行うので安心しろ。以上だ』

 

 そう言って通信を一方的に切られてしまった。もう完全にやる方向で話が決定してしまった……つーか、本人前にしてどうどうと餌って言われたよ、俺。さすが社長。うーむ、仕方がない。やれと言われればやるしかない。社長とも細かい契約の中にそんな話もあったわけだし。

 

「よし、やるか……」

 

 俺はそう言葉を零しつつ、その準備を始めるのだった。

 

 

 

 

深夜 デュエルアカデミア アメリカ校付近 街の外れの公園

 

「……」

 

 俺はそのデュエルアカデミア付近にある人気のない公園を歩いていた。人気が全くないその夜の公園……ホームレスなどはいるかもしれない。鞄には見えるようにデュエルディスクを入れ、いかにも学校帰りだと言わんばかりの格好。日本からの留学生と気付かれないようにアメリカ校の制服に身を包んだ俺はその道を進んでいく。街路を抜けた辺りから俺を誰かが見張っているのをミラ、マナ、マハードを通して確認ができる。公園を中ごろにさしかかる頃、そこで怪しいフードを被った男が俺の前に立ち塞がった。簡単に言えばグールズの格好をした1人の男である。

 

「貴様、デュエルアカデミアの生徒だな」

 

「……誰だ?」

 

「……お前にデュエルを申し込む。デッキを構えろ」

 

 俺が逃げようとする姿勢を見せると、その俺の後ろには同じようにローブを被った男たちが周囲を囲んでいた。どうやら、逃げないようにしているらしい。というか、情報からしていきなりラスボスかよ……腕の立つのが首領しかいないとはいえ、これは随分と厄介だな。

 

「俺たちグールズからは逃げられん。俺様が勝てば、貴様のレアカードはすべて頂く。安心しろ、貴様が勝てば好きなカードをくれてやる……この、グールズの首領である俺様に勝てれば、の話だが」

 

 そう言いながら笑う男はの手に装着されていたデュエルディスクを展開する。この男が、現グールズ残党の首領? この男の声……どこかで聞いたことのあるような気がするが……そんなことを気にしつつデッキをデュエルディスクへと入れ、俺もデュエルディスクを装着した。

 

「いくぞ」

 

「……ああ」

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

武藤秋人VSグールズ残党首領

 

武藤秋人 LP4000

グールズ残党首領 LP4000

 

 

「先攻は貰った。俺様のターン! 手札から『サイバー・ヴァリー』を召喚!」

 

「……サイバー・ヴァリー」

 

「くくく、そうだ。レアカード、サイバーシリーズ、貴様にこのデッキの恐ろしさを見せてやる。カードを3枚伏せてターンエンド!」

 

サイバー・ヴァリー ATK0/DEF0

 

 サイバー・ヴァリー……一般的にはあまり認知されないレベルの低い、攻撃力0のモンスターがだがこいつは違う。サイバーシリーズでもかなり厄介なカードだ。それにしても、グールズ……サイバーモンスター……機械族。そこから連想されるこの男は……

 

「俺のターン……俺はモンスターをセット、カードを3枚セットしてターンエンドだ」

 

「ほぅ? 攻撃してこないか。随分と慎重なことだ」

 

「まあな。それよりも、アンタが何者なのかはっきりした。機械族のモンスターを操る男、そしてその声……やっぱり、堕ちるところまで堕ちたもんだな、元全米チャンピオン、キース・ハワード……いや、盗賊(バンデット)・キース」

 

 俺の言葉にニヤリと口元を歪ませ、そのフードを取る。その暗い公園を照らすライトに映し出された金髪の男。間違いなく、元全米チャンピオンのキース・ハワードだった。かつてはその実力で全米一のカードプロフェッサー(賞金稼ぎ)として名を轟かせ、不敗伝説を打ち立てた決闘者が今やグールズ残党の首領とは……この男の人生の転落ぶりは凄まじいものを感じる。

 

「俺を知っているとは……小僧、お前何者だ?」

 

「武藤秋人……デュエルアカデミアの生徒だ。もっとも、この制服は借り物だが」

 

「なるほど、捕まった部下の報告にあった日本人のアカデミア生徒とは貴様の事か。マリクと繋がりのあるという」

 

 言いながらニヤリと笑うキースはそう言いながら俺を見る。まあ、もう俺の話はこいつには行っていただろうな。知っていたことだけど

 

「その通り。アンタは罠にはまった。あと10分もすればここにKC社のエージェントたちがここに来る。これで終わりだよ、アンタも、グールズも」

 

「どうかな? その10分でここに来られるといいなぁ。この周辺には俺の部下たちが待ち構えている。それに、その10分でお前を倒せば済む話だ……それと1つ教えてやる。俺たちはグールズではない。グールズを超えた『ネオグールズ』! 今からそれを教えてやる」

 

そう笑いながら男、バンデット・キースがデッキへと手をかける。ネオグールズだと?その設定ってたしか『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ8 破滅の大邪神』にあった設定じゃなかったか。それにしても、キースが神を召喚する前に倒さなければならないが……さて、どうなる。

 

「俺様のターン、ドロー! ククク、俺は手札から『機械複製術』を発動! サイバー・ヴァリーを対象として発動! デッキから同名カードを2枚までフィールドに特殊召喚できる!」

 

サイバー・ヴァリー② ATK0/DEF0

 

サイバー・ヴァリー③ ATK0/DEF0

 

 生贄要因を揃えた……のか? おかしい、グールズの持ちえる神のコピーと言えばラーの翼神竜……だというのに、攻撃力0のカード3枚を生贄に捧げても攻撃力は0にしかならないだろう。いったい何を考えている……

 

「そしてカードを1枚伏せ、手札から『天よりの宝札』を発動! 互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにドロー!」

 

 ここで手札補充? これで互いの手札は6枚。フィールドには3体のサイバー・ヴァリーに伏せカード……3体の生贄、手札を補充、伏せカード……まさか!

 

「見せてやるぜェ、神のカードってやつをよぉ! フィールド魔法『神縛りの塚』を発動! このカードの効果で神を俺は制御できる! サイバー・ヴァリー3体を生贄に捧げェ……神のカード! 『オシリスの天空竜』を召喚!!」

 

 暗く静かな夜の星空が突然の暗雲に覆われていく。そして響く雷鳴……その暗雲より赤く長い体が見える。その暗雲より巨大な2つの口を持つ1頭のドラゴン、否、神がその姿を現した。オシリスの天空竜……かつては三幻神の一角として遊戯のデッキに入っていた神のカード……そのカードが今、俺の目の前に姿を現していた。

 

オシリスの天空竜 ATKXX00/DEFXX00→ATK4000/DEF4000

 

 なんて凄まじい気迫なのか。以前対峙したときに見た、社長の操る青眼の白龍たちの比ではない。これでコピーカードとは、本物はこれ以上だったと考えれば卒倒するレベルだぞ。オシリスが怒るかのように咆哮を上げ、キースを睨み付ける。写し身を使われた神の怒りなのだろう……しかし、その矛先が俺達に向く前に、神縛りの塚が効果を発揮してその鎖でオシリスを縛り付ける。必死に振り解こうとするオシリスだが、その名に相応しい効力を持った神縛りの塚によってオシリスは押さえつけられてしまった。くそ、完全にグールズの神=ラーという固定観念からオシリスが来るなんて考えていなかった! そういえば、このカードも元はグールズにあったじゃないか!

 

「くくく、これが神を縛り付ける究極のカードだ……さあ! 楽しいデュエルを続けようじゃあないか! バトルフェイズ! セットモンスターを攻撃だ!」

 

「セットしていたのはゴゴゴゴーレム! このカードは1ターンに1度、戦闘では破壊されない!」

 

ゴゴゴゴーレム ATK1800/DEF1500

 

「ほーう? 神の攻撃に耐えられるカードか、面白い! 俺はこれでターンエンド! 1つ聞いておこう。俺達の配下にならないか? お前のカードに興味がある」

 

「お断りだ。他人のカードを強奪するやつらと一緒になんかなりたくないね。俺のターン、ドロー!」

 

「貴様のドローフェイズ、俺は『強欲な瓶』を発動し、カードを1枚ドロー! これにより、オシリスの攻撃力は5000だ!」

 

オシリスの天空竜 ATK4000/DEF4000→ATK5000/DEF5000

 

 フィールドには伏せカードが2枚。そして攻撃力5000のオシリスの天空竜が1枚。一方の俺は伏せカードが3枚と、ゴゴゴゴーレムが1枚……この差は絶望的だな。オシリスの効果はアニメ版におけるものとしてはかなり凶悪だ。まず攻撃力、守備力が2000以下のモンスターがフィールドに出現した場合、そのモンスターは即刻で消し炭。1ターンのみ魔法を受け付けるも『洗脳』を受けない……これは、コントロール操作を受けないということでいいのだろうか。更にはモンスター効果、罠カードの効果を受け付けない。なかなかにぶっ飛んだ効果である。

 

「俺は手札から『ゴゴゴゴラム』を攻撃表示で召喚! このカードは召喚された時、表示形式を変更する」

 

ゴゴゴゴラム ATK2300/DEF0

 

「オシリスの効果発動! 相手のモンスターに2000ポイントのダメージを与え、その攻撃、または守備のポイントが0になるとそのモンスターは破壊される! 『召雷弾』!」

 

「俺はこのカードを攻撃表示で出した。そして効果の発動……チェーンの逆順でオシリスの効果が先に発動し、ゴラムは守備表示になる。よって、下がるのは攻撃力だ」

 

ゴゴゴゴラム ATK2300/DEF0→ATK300/DEF0

 

 何とか破壊を防ぎ、フィールドのモンスターを残すことに成功する。万が一、何かあったときのためにと持ってきていたエクシーズデッキ。なんとかその場を耐えるかキースを倒すことで時間を稼ぎ、エージェントたちの到着を待つ。今は社長を信じるしかない

 

「俺はレベル4のゴゴゴゴーレムと、ゴゴゴゴラムでオーバーレイ!」

 

「なに!? なんだそれは……!」

 

「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れろ、『No.39希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ ATK2500/DEF2000

 

「エクシーズ召喚、なんだそれは!? いや、待てよ……おもしれぇ、最近密かに海馬の野郎が未知のカードを開発していると噂されていたが、そのカードをお前も持っているということか! だが、神の効果は受けてもらう! 食らえ、『召雷弾』!」

 

 本当なら、披露するべきものではないエクシーズ召喚。社長からは全力で当たれとも指示か来ている以上全力で対応しようとした結果がこれだ。後始末はあの人に任せるしかない。キースの言葉と共にオシリスの第二の口からまたしても召雷弾が放たれ、ホープにそれが直撃する。

 

「くっ……だが、ホープの攻撃力は2500……オシリスの攻撃を耐えることはできる!」

 

No.39希望皇ホープ ATK2500/DEF2000→ATK500/DEF2000

 

「だが耐えきったところでその攻撃力500でどうやって乗り越えるつもりかな!? 神を倒すことは不可能だ!」

 

「それはどうかな?」

 

「何……?」

 

「俺は更に、希望皇ホープをオーバーレイユニットと一体とし、次なる姿へと進化させる!」

 

 俺の言葉と共にその姿を戻していくホープはまたもそのエクシーズ召喚された渦の中に消えていく。

 

「シャイニング・エクシーズ・チェンジ!!一粒の希望よ! 今、電光石火の雷となって闇から飛び立て!! 現れろ、『SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング』!」

 

SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング ATK2500/DEF2000

 

「けっ! いくら姿を変えようと、何度やっても同じだ! 召雷弾!」

 

SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング ATK2500/DEF2000→ATK500/DEF2000

 

 再び雷弾を受けるホープ。だが、これでオシリスを破壊することが出来る。

 

「俺は手札からZW-極星神馬聖鎧を装備! このカードをホープと名のつくモンスターに装備することで、攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 

SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング ATK500/DEF2000→ATK1500/DEF2000

 

 極星神馬聖鎧にまたがるホープ・ザ・ライトニング。世間的に言う、ただ乗っただけ、ではあるものの、これにはかなり意味がある。

 

「バトルフェイズ! ホープ・ザ・ライトニングでオシリスの天空竜を攻撃! 『ホープ剣ライトニング・スラッシュ』!」

 

「馬鹿が! 攻撃力5000のオシリスにたかが攻撃力1500のモンスターでどうやって「この瞬間、ホープ・ザ・ライトニングの効果発動! このバトルのダメージステップ時、オーバーレイユニットを2つ取り除くことで、ライトニングの攻撃力は5000になる!」なんだとぉ!?」

 

希望皇ホープ・ザ・ライトニング ATK1500/DEF2000→ATK5000/DEF2000

 

 雄叫びを上げ、ホープは極星神馬聖鎧を駆り、その空を駆け抜ける。オシリスもそれを迎撃せんと口を開き、サンダーフォースを発射する。それと同時にライトニングは極星神馬聖鎧から飛び上がり、オシリスへと斬りかかった。直撃する両者の攻撃……その攻撃によって両者は消滅してしまう。

「馬鹿な……神を倒しただと!?」

 

「まだだ! ライトニングが破壊されたことで墓地へ送られた極星神馬聖鎧の効果発動! 装備モンスターが相手に破壊される事によってこのカードが墓地へ送られた時、自分の墓地の「希望皇ホープ」と名のついたモンスター1体をフィールドに特殊召喚する! 甦れ、『No.39希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ ATK2500/DEF2000

 

 再びその白き翼を持ちたる戦士がフィールドへと舞い戻る。

 

「バトル続行! ホープでダイレクトアタックだ! ホープ剣スラッシュ!」

 

「ぐおおおおっ!?」

 

グールズ首領(バンデット・キース)LP4000→LP1500

 

 よし、キースのライフを大幅に削った。一時はそのオシリスの効果に悩まされたが、突破はできた。これなら問題なく勝てる。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

「クク、クククク……ハハハハハハハハ!」

 

 俺がエンド宣言をすると、キースは突然笑い出した。何故笑っている……神を倒されたというのに、なんだ? こいつのこの表情は……

 

「何がおかしい?」

 

「くくく、神を倒し……この俺様にダメージを与える。それは褒めてやる。だが、本番はこれからだ……さあ、行くぞ。俺様のターン、ドロー! 俺は手札から『カード・ガンナー』を召喚! さらに、『機械複製術』を発動し、このカードを3体に増やす!」

 

カード・ガンナー① ATK400/DEF400

 

カード・ガンナー② ATK400/DEF400

 

カード・ガンナー③ ATK400/DEF400

 

 ここで、また機械複製術だと? フィールドに、モンスターが3体……生贄を、3体……まさか!

 

「“たかが”神1体を倒したくらいで勝った気分になっている野郎を見るとおかしくて仕方ねェ! 俺は魔法カード『二重召喚』を発動し、このターンもう1度召喚を行う。カード・ガンナー3枚を生贄に捧げ……2枚目の『オシリスの天空竜』を召喚!」

 

オシリスの天空竜 ATKXX00/DEFXX00→ATK2000/DEF2000

 

 

 俺と希望の名を持つ戦士の前に、再び絶望が舞い降りた。

 




完全オリジナルの為、リメイク前との変更はなし

え、エジプト展編終わり!?
すみません、尺の都合です。色々計算したら下書きだけで夏休み編があと10話以上という「いつ本編戻るんだ」ということになったので変更
こんなんじゃリメイク前に追いつくなんて夢のまた夢になりそうで……
ただし、マリクたちは今後も登場します

グールズ、I2社へハッキングしてデータをハック
こいつらはこれくらいやりそう

フランツェ……
本来は隼人が就職してからカードを作り出すフランツですが、この当時でもデザインくらいして強いカードを作ろうと燃えていたかなということでデザインをしていたとねつ造。結果的にデータを盗まれる羽目に

VSネオグールズ首領 キース!
ぶっちゃけ、グールズ出したのはこれがやりたかっただけ
ネオグールズを立ち上げ、そのトップに躍り出るキース!
という遊戯王8のゲーム設定、いったい何人の人がやって知っている
のだろうか……

オシリスの天空竜!?
遊戯の神のカードとイメージが強いですが元はグールズが盗み出した1枚。ラー以外にも神のコピーはマリクも作っていたかなと。オベリスクはイシズの手に渡っているので無理でしょうが……
ちなみに、キースだから、と当初は邪神をだそうかとも考えてました

ホープ・ザ・ライトニング!
はいはい、ホープホープ、とガチ環境でも暴れまわるライトニングさん。一時、大量に購入して売っている奴を見たな……おかげで1冊しか買えなかったわ、当時

2枚目、だと……
少年よ、これが絶望だ

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29「夏休み」⑨

みなさんどうもお久しぶりです。秋風です
更新が10日以上空いてしまい誠に申し訳ありません…



うさぎたるもの様 精霊サイコ―!様 あかがみ餅様 Ranperu様 望夢様 神代様 藍色様 読み専太郎様 神崎はやて様 NOGAMI壱様 紫霊様 龍音様 とちおとめ様 夜想曲様 スターダスト様 赤鉄様 心紅様 hyt48610様 ヴァイロン様

感想ありがとうございました。これからも感想、ご意見、ご指摘などお待ちしております

また、引き続き小説の評価もお待ちしております

というわけで29話となりました。10でアメリカ編は終わりにしようかな、と思っております。
では、どうぞ 


フィールド 神縛りの塚

 

バンデット・キース LP1500 手札2枚 伏せカード2枚 場 オシリスの天空竜

 

武藤秋人      LP4000 手札0枚 伏せカード4枚 場 No.39希望皇ホープ

 

「くくく、2枚目の神の降臨だ。俺は更に手札から『強欲な壺』を発動! デッキからカードを2枚ドロー! 更に『貪欲な壺』を発動し墓地の『サイバー・ヴァリー』3体、そしてカードガンナー2枚をデッキに戻し2枚ドロー! これでオシリスの攻撃力は4000だ!」

 

オシリスの天空竜 ATK2000/DEF2000→ATK4000/DEF4000

 

 また攻撃力4000のオシリスが……もともと、オシリスがコピーカードとわかってはいたが、まさかデッキにまだオシリスが入っているとは思わなかった。コピー故にできる所業というやつか。このままではまずい……!

 

「俺は速攻魔法『ヒート&ヒール』を発動! 自分フィールド上のランクが一番低い「No.」と名のついたモンスター1体を選択し、選択したモンスターの攻撃力分だけライフポイントを回復…よってホープの攻撃力分、ライフを回復する! その後このカードをホープのオーバーレイユニットにする!」

 

武藤秋人 LP4000→LP6500

 

「構わねェ、バトルだ! 行け、オシリス! 希望皇ホープを攻撃しろ!」

 

「罠発動! 『ハーフ・アンブレイク』! このターン、選択したモンスターは破壊されず、バトルダメージを半分にする! 希望皇ホープを選択……ぐっ!」

 

武藤秋人 LP6500→LP5750

 

 その凄まじい攻撃。さすが神のカードというべきか。普通の攻撃であるのならホープのムーンバリアで防げるが、相手は神のカード。故に「モンスター効果」を受け付けない。よって、ムーンバリアは使うことが出来ない……さらに言えば、ヒート&ヒールで無理やりにでもオーバーレイユニットを付けていなければホープは自壊して負けていた。おまけにこのソリットビジョンとは思えない風圧は……直接攻撃なんて受けたら、どうなっていたかはわからない。

 

「しかたねぇ、ターンエンドだ!」

 

「俺のターン! 俺は手札から『命削りの宝札』を発動! デッキからカードを5枚になるようにドローし、5ターン後、すべて捨てる! カードを5枚ドロー!」

 

 カードを引いたのはいいものの、オシリスはモンスター効果と罠カードを一切受け付けることのないカード……その効果がこの上なく厄介だ。だが、それならば同時に答えは出ている。その攻撃力を超えて殴ればいいだけの話だ。

 

「俺は装備魔法『ナンバーズ・フレーム』を発動! 自分のホープを対象に発動し、その攻撃力を1500ポイントアップさせる! 更に、このカードを装備した時、自分の融合デッキから「No.」と名のついたモンスター2体を装備モンスターの下に重ねてエクシーズ素材とする! 俺は融合デッキの『No.39希望皇ホープルーツ』、『No.61ヴォルカ・ザウルス』を素材として加える!」

 

No.39希望皇ホープ ATK2500/DEF2000→ATK4000/DEF2000

 

 そのホープの腕にホープルーツとヴォルカ・ザウルスの力が宿り、ホープが雄叫びを上げる。これで再び、オシリスと攻撃力は並んだ。だが俺はこれで終わらせるつもりはない。

 

「俺は更に、ホープに手札から『ZW-雷神猛虎剣』を装備! これによりホープの攻撃力は更に1200ポイントアップする!」

 

No.39希望皇ホープ ATK4000/DEF2000→ATK5200/DEF2000

 

「またオシリスの攻撃力を超えてきやがっただと……!」

 

「2枚神が来ようが、突破する……! 行くぞ、希望皇ホープでオシリスを攻撃! 『ホープ剣スラッシュ』!」

 

「罠カード『八咫烏の骸』を発動してカードを1枚ドロー! これでオシリスの攻撃力は変動する!」

 

オシリスの天空竜 ATK4000/DEF4000→ATK5000/DEF5000

 

バンデット・キース LP1500→LP1300

 

 ダメージを減らすためにドローして手札を増やしたか。オシリスばかりに気を取られていたが、キースには手札が5枚残っている。それに、こんなにあっけなく2体目を倒させるあたり、まだ3枚目が入っていると考えてもいいだろう。

 

「ターンエンド!」

 

「俺様のターンだ! 魔法カード『天使の施し』を発動し3枚ドローして2枚捨てる……ククク、俺は手札から魔法カード『オーバーロード・フュージョン』を発動!」

 

 オ、オーバーロード・フュージョン!? 何故キースがあのカードを持っている……いや、それ以前に今のところ神を出すことに特化しているように見えたデッキでいったい何を出すつもりだ!?

 

「俺はさっきの『天使の施し』で墓地に『リボルバー・ドラゴン』と『ブローバック・ドラゴン』を墓地へ送った。この墓地のカード2枚をゲームから除外し、現れろ、『ガトリング・ドラゴン』!」

 

ガトリング・ドラゴン ATK2600/DEF1200

 

「ガトリング・ドラゴン!?」

 

「まずは『大嵐』を発動! 互いのプレイヤーの魔法、罠をすべて破壊する!」

 

 しまった、これではホープの攻撃力が下がるうえ、ZW-雷神猛虎剣を代わりに破壊してホープを守ることもできない……! その上、伏せていたナンバーズ・ウォールとリビングデットの呼び声が潰された……!

 

「ガトリング・ドラゴンの効果発動! 3回のコイントスを行い、表の数だけカードを破壊する! さあ、ロシアンルーレットのスタートだ!」

 

 ガトリング・ドラゴンの頭部、右腕、左腕の銃身が回転を始める。おかしいだろ……ガトリングの時点でロシアンルーレットもクソもないだろ。そんなことを思っていると、その回っていた銃身が止まる。

 

結果 表 裏 裏

 

「希望皇ホープを破壊!」

 

 ホープに向かってガトリング・ドラゴンがガトリングを乱射し、その弾丸の雨を食らうことでホープが打ち砕かれる。

 

「ホープ!」

 

「モンスターの心配をしている場合かぁ? ガトリング・ドラゴンダイレクトアタック!」

 

「ぐっ……!」

 

武藤秋人LP5750→3150

 

「くくく、神なんざいなくてもここまでくれば追いつめたも同然だ……! カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

 これでキースの手札は1枚。もう完全にオシリスを捨てて本来の機械族デッキで来ている。だがこれなら逆にチャンスだ。フィールドにオシリスがいないのなら召雷弾を食らうことはない。ならば、3体目が出てくる前に倒す!

 

「俺のターン! 俺は手札から『天使の施し』を発動! カードを3枚ドローし、2枚を捨てる! 装備魔法『ガガガリベンジ』を発動! 墓地へ送った『ガガガマジシャン』にこのカードを装備、ガガガマジシャンを特殊召喚! そして、『エクシーズ・レセプション』を発動! 自分フィールドの表側表示モンスター1体を選択し、選択したモンスターと同じレベルのモンスター1体を手札から特殊召喚できる! だが、効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃力・守備力は0になる。俺はガガガマジシャンを選択し、手札の『アステル・ドローン』を特殊召喚!」

 

ガガガマジシャン ATK1500/DEF1000

 

アステル・ドローン ATK1600/DEF1000→ATK0/DEF0

 

「レベル4のガガガマジシャンと、アステル・ドローンでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れろ、『ガガガガンマン』! この時、ガガガガンマンの攻撃力はガガガリベンジの効果で300アップ。そしてアステル・ドローンの効果でデッキからカードを1枚ドロー!」

 

ガガガガンマン ATK1500/DEF2400→ATK1800/DEF2400

 

 フィールドに現れる守備表示のガガガガンマン。しかし、そのガガガガンマンの攻撃力を見てか、キースは馬鹿にしたように笑っていた。

 

「けっ! 攻撃力1800だぁ? 届かねェな! しかも守備表示とは、次のターン、ガトリング・ドラゴンのいい的だ!」

 

「いいや、もう終わりだ、バンデット・キース! ガガガガンマンの効果発動! このカードが守備表示の時に効果を使った場合、相手に800ポイントのダメージを与える。やれ、ガガガガンマン!」

 

 俺の言葉と共に、ガガガガンマンがその守備状態から銃を構えてリボルバーを乱射する。これで、俺の勝ちだ……!

 

「あめぇな! 罠発動『天罰』! 手札1枚をコストにテメェのモンスターの攻撃を無効にし、そのカードを破壊する!」

 

「なに!?」

 

 無効にされた!? くそ、なんであんなピンポイントにモンスターの効果を無効にするカードを持っている。くっ……!

 

「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

 フィールドには上級モンスターが2体。それに加えてこっちは伏せカードが2枚のみ。

 

「俺のターン! やれ! ガトリング・ドラゴン! ダイレクトアタックだ!」

 

「まだだ! 罠発動『ピンポイント・ガード』! 相手モンスターが攻撃するとき、自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を対象とし、そのモンスターを守備表示で特殊召喚する! 俺は墓地の『アステル・ドローン』を特殊召喚! この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン、戦闘・効果では破壊されない!」

 

アステル・ドローン ATK1600/DEF1000

 

「悪あがきを……ターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー! 俺は手札から2枚目の『アステル・ドローン』を召喚し、レベル4のアステル・ドローン2体でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れろ『No.55ゴゴゴライアス』!」

 

No.55 ゴゴゴライアス ATK2400/DEF1200→ATK2400/DEF2000

 

 現れるのは巨大なゴゴゴのモンスター。このカード、アニメと漫画には出てこなかったんだよなぁ……個人的にイラストとか結構好きなんだけど。OCGオリジナルNo.というカードのカテゴリではあるが、別に悪いカードではない……が、他のランク4の性能が良すぎる故に日の目を見ないカードの1枚であることは確かだろう。そう言うカード、結構あるけど

 

「アステル・ドローンの効果でカードを2枚ドロー! そして俺は伏せていた『エクシーズ・ソウル』を発動! 自分の墓地のエクシーズモンスター1体を選択して発動する。選択したモンスター1体のランク×200ポイント、攻撃力をエンドフェイズまでアップさせる! 俺が選択するのはホープ・ザ・ライトニング! そのランクは5……よって、攻撃力を1000ポイントアップ!」

 

No.55 ゴゴゴライアス ATK2400/DEF2000→ATK3400/DEF2000

 

「バトルだ! ゴゴゴライアスでガトリング・ドラゴンを攻撃!」

 

「速攻魔法『突進』を発動! ガトリング・ドラゴンの攻撃力を700アップ!」

 

「なっ!?」

 

ガトリング・ドラゴン ATK2600/DEF1200→ATK3300/DEF1200

 

 ま、またピンポイントにダメージを軽減してきた!? ゴゴゴライアスがその拳で叩き潰そうとガトリング・ドラゴンに迫るも、その突然の突進でゴゴゴライアスの威力が弱まってしまう。ゴゴゴライアスはガトリング・ドラゴンを撃破したものの、バンデット・キースに与えるダメージはごく僅かなものになってしまった。

 

バンデット・キース LP1300→L1200

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「俺様のターン! 早すぎた埋葬を発動してガトリング・ドラゴンを蘇生、効果発動!」

 

バンデット・キース LP1200→LP400

 

 その言葉と共に再び現れるガトリング・ドラゴン。その両腕、そして頭部のガトリングが回転を始める。させるか……!

 

「この瞬間、罠発動『エクシーズ・ブロック』を発動! 自分フィールドのエクシーズモンスターのオーバーレイユニットを1つ取り除き、相手モンスターの効果を無効にし、破壊する!」

 

 ゴゴゴライアスがその周囲に漂うオーバーレイユニットを掴みとり、そのままそれをガトリング・ドラゴンへと投げつける。そのオーバーレイユニットはそのままガトリング・ドラゴンに激突し、爆散した。その光景を見たバンデット・キースの顔が苛立っていくのが判る。それもそのはず。時間はもうすぐ10分……海馬コーポレーションの社員がこちらへと辿り着くころだ。リアルファイトになればグールズと海馬コーポレーションのエージェントでは結果は火を見るよりも明らか。その行く手を阻むグールズはすでにお縄になっていると、耳に装着していたイヤホンからも情報が来ている。恐らくそれは向こうも同じだろう。

 

「クソがっ……どいつもこいつも使えねェ!」

 

「終わりだ、バンデット・キース……もうすぐ、お前の仲間を捕らえたKC社のエージェントがここにくる」

 

『武藤秋人様。後2分ほどでそちらに到着します。それまでキースへの時間稼ぎをお願いしたい。後はそこにいるキースと、2人の部下のみです』

 

 俺の耳にKC社のエージェントの声が響く。これでゲームエンド……本当なら、デュエルにもちゃんと決着をつけたかったところだが、今回はそれが目的ではないからな。フィールドにカードは無くキースの手札は1枚……これで決着は……

 

「ククク、ククククク!」

 

「……? 何がおかしい」

 

「どいつもこいつも使えねェ、さらには俺様の邪魔ばっかりしやがってよぉ……ふざけやがって! ネオ・グールズは……! 俺様はこんな所で終わるわけにはいかねぇんだよ! 手札から魔法カード『命削りの宝札』を発動! カードを5枚になるようにドローし、5ターン後にすべて捨てる! そして……『死者蘇生』を発動!」

 

 この局面で死者蘇生!? またガトリング・ドラゴンを蘇生され、効果でゴゴゴライアスを破壊でもされたらジリ貧になる……そう思った直後、俺の体へ寒気が走る。途方もない巨大な恐怖を俺は感じ取った。そのフィールドに出された死者蘇生の光が妖しく光っている。まさか、バンデット・キースは……!

 

「甦れ……『オシリスの天空竜』!」

 

オシリスの天空竜 ATK XX00/DEF XX00→ATK4000/DEF4000

 

 バンデット・キースの言葉と共に現れる写し身のオシリスの天空竜。だがそのオシリスの姿は先程2度に渡って出てきたオシリスとは異なっていた。その真紅の体にはどす黒い瘴気が渦巻き、周囲が暗雲に包まれる。対面している俺だからこそ分かる……オシリスが今、“敵”と認識しているのが誰なのか……!

 

「よせ! “神縛りの塚”で制御していない神のカードのフェイクを出したらどうなるか知っているはずだ……!」

 

「黙れ! これで俺の勝ちだ! いけ、オシリス! ゴゴゴライアスを攻撃しろぉ!」

 

 俺の言葉に耳を貸さず、バンデット・キースが叫ぶ。もはや苛立ちで正常は判断が出来ていないのだろう。そこに、かつて「プロフェッサー」と呼ばれた男の姿はなかった。本来ならば、その宣言とともにオシリスが攻撃体制に入り、ゴゴゴライアスをサンダーフォースで吹き飛ばす……が、その時はいくら待っても訪れなかった。

 

「何をしてやがるオシリス! とっとと攻撃を……」

 

 そこまで言いかけて、バンデット・キースは言葉を止めた。いつの間にか、オシリスの長い体がバンデット・キースを囲み、サンダーフォースを発射しないままバンデット・キースを睨み付けていたのだから。そしてだんだんとその身が黒く染まっていき、その夜の空と一体化していくオシリスの天空竜。その怒りを宿した目は二度も神縛りの塚によって自身を押さえつけていたバンデット・キースに向けられていた。

 

「っ……!? やばい!」

 

『―――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!』

 

 ミラに結界を頼もうとする俺の言葉はオシリスの咆哮によって遮られ、そのオシリスの攻撃が発射される。本来ならソリッドビジョンから攻撃を受けることはない。が、このカードは神のカードであるがゆえに、現実にも影響を及ぼす。地面へと着弾するサンダーフォース。その着弾地点は勿論バンデット・キースがいた場所……オシリスの放ったサンダーフォースによってバンデット・キースは見えなくなった。さらに、その衝撃がそこから地面へと響き渡る。たかがソリッドビジョンのはずが、その攻撃が地面に衝撃を生み、立っていられないほどの揺れを生み出していた。その衝撃で近くにあった公園の外灯が俺の方へと倒れてくる。突然の事に反応できないし、ミラたちの結界も間に合わない……やばい!

 

「ぐっ……!? しまった……!」

 

「秋人! 危ない!」

 

「っ!?」

 

 倒れてくる外灯を避けられない、そう思った時だった。その言葉と共に、俺は公園の草むらから飛び出してきた誰かに突き飛ばされ、その突き飛ばしてきた人物と共に地面へと倒れこむ。そこにいたのは白いデュエルアカデミアの制服に身を包んだ1人の女子生徒の姿……それは

 

「レジー!?」

 

「あ、秋人、大丈夫……?」

 

 俺を庇うかのように、俺の上に覆いかぶさるレジーの姿がそこにはあった。

 

「レジー、どうしてここに……」

 

「秋人が、アメリカ校の制服を着て、こんな遅くに出ていこうとするから……何かと思って後をつけていたの……そうしたら、秋人がグールズと闘っていて……」

 

 震えるような声でそう俺に言うレジー。そうだ、オシリスは……!? 俺はそう思いその空を見上げる。しかし、そこにすでにオシリスの姿はなく、デュエルをする前と変わらぬ星空が広がっていた。俺の視線の先にあるのは倒れたバンデット・キースのみ……あれは、生きているのだろうか。

 

「オシリスは、消えた……か、レジー、もうすぐKC社のエージェントが来てくれるからそれまで……」

 

「……っ! うっ……うぅ……」

 

「レジー!? どうした!?」

 

 どこかに座って待とう、そう言いかけたところで、レジーの目には大粒の涙が溢れていた。どこか怪我をしたのか、そう思った俺だったが、レジーはすぐに俺に抱き着いてきた。

 

「うあああああああああああああああああああああああん!!!! 怖かった、怖かったのよ! 秋人が、あんな化け物みたいなカードと闘っているのが! あの化け物みたいな神のカードが! 秋人が死んじゃうと思って私……それが何より怖くて……!」

 

「レジー……」

 

「秋人が、無事で……よかった……!」

 

「……助けてくれてありがとう、レジー」

 

 こうして、KC社のエージェントが来るまで助けてくれたレジーに感謝をしながら、泣きじゃくる彼女をあやすことになるのだった。

 

 

 

 

デュエルアカデミア アメリカ校 宿舎

 

「ねえ秋人? 私やっぱり自分で……」

 

「気にしなくていい。その足は俺のせいでそうなったんだ……これくらいさせてくれよ」

 

 そう言いながら、俺はレジーの座る車椅子を押してその寝静まった夜のアメリカ校の宿舎へと戻ってきた。結局あの後、KC社のエージェントに保護された俺達。無事にバンデット・キースをはじめとしたネオ・グールズの面々は捕まったが、オシリスの怒りを受けたキースがどうなったのかはわからないし、あの男が使っていたデッキも全てコピーカードということでKC社のエージェントが厳重に保管して持っていった。社長から後日連絡が来るというのでその報告を待つほかない。で、何故レジーは車いすなのかというと、レジーは俺を助ける時にその足に倒れてきた外灯が直撃していた。骨が折れてこそいないようだが、明日精密検査をする必要がある。こうなった原因は俺にあるので、俺は彼女の車椅子を押して、彼女を部屋まで送ることにした。

 

「ありがとう秋人、ここが私の部屋よ。ここまでで十分」

 

「……レジー、本当にすまなかった。俺は「秋人」……」

 

「もう何回も貴方の謝罪は聞いた。それに、貴方の命は助かった。そして私はこの程度の怪我で済んだ……秋人、貴方言っていたじゃない。神の写し身を使ったもの、戦ったもの、そのどちらも最悪は死に至るって……なら、私はいい結果だったと思っているわ。だからもう謝らないで?」

 

「……わかった、訂正する。ありがとうレジー。俺を助けてくれて」

 

 俺の言葉に満足をしたかのように笑みを見せるレジーは「よろしい」と言って俺の腕を引く。そして、彼女の唇と、俺の唇が触れた。数秒の沈黙の後、レジーがゆっくりと車椅子を後ろに引いた。

 

「レジー……?」

 

「うふふ、お休み…また明日ね? 私の旦那様(マイダーリン)。私は諦めてないからね」

 

 そう言ってレジーいたずらな笑みを浮かべると、扉を閉めて鍵をかけた。数秒の沈黙の後、正気に戻った俺はその場を後にすることにした。レジー諦めていないといった。つまり、俺達の関係にはすでに気付いているということになる。

 

「どうすればいいんだ、俺は……」

 

 そうため息を吐き、俺はようやく自分の部屋へと辿り着きドアを開けた……が、そこで待っていたのは、明らかに不機嫌な様子で仁王立ちをする2人の少女たちの姿。言わずもがな、雪乃とツァンである。

 

「「お帰り秋人」」

 

「……ただいま」

 

「就寝時間を過ぎてまでどこに行っていたのかしら? そんな恰好で」

 

「ボクたちにちゃーんと、説明してくれるわよね?」

 

「……了解」

 

 どうやら、俺はまだ眠れそうにないらしい……

 




リメイク前にはない完全オリジナルの為変更についてはなし

VSキース決着
キースについては次回。そしてまさかのデュエルは中断という

オシリスの怒り
そら、2回も神縛りされればキレもしますわ。イメージ的には漫画のコピーラーみたいな感じになったとイメージして頂ければ

キースの奇行
最早、お薬漬けな上に追い詰められた故の行動。いわゆる「カッとなってやった」

レジー大活躍
この役目、本来は雪乃たちでした。が、レジーへ変更

神の写し身と闘った者の末路軽くね?
GXだとなんかマイルドっぽかったのでいいかな、と

レジーの恋の行方
ツァンが両サイドを固めると言っていましたが、まだ前と後ろが空いてる。つまりはそういうことです

Next 30「夏休み」⑩


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30「夏休み」⑩

 今回から感想、評価を頂いた方はあとがきに掲載します
 
さて、これでアメリカ編はおしまいです。次から31話では本編に戻ります
では、どうぞ



 バンデット・キースとのデュエルから数日が経ち、俺は海馬社長からの報告書を受け取った。まず、バンデット・キースが率いる「ネオ・グールズ」については一掃され、全員が検挙された。カードの密輸、密造、偽造のカード制作などについてそれが闇社会の資金源になるということもあり、KC社と警察が連動して全員が逮捕されるという形になったという。そしてその首領であるバンデット・キース……彼はもう、この世にはいない。いや、一応生きてはいるものの、オシリスの天空竜という神のカードの怒りに触れ、そしてサンダーフォースの直撃によって廃人となってしまっていた。刑務所病院で一生を過ごすことには違いないという。そしてそのデュエルにおいても使われていたのはすべてが偽造カード、さらにディスクそのものも改造が施され、服の中に隠された大量のカードでメタをはったりするなどのイカサマをしていたことも報告書には記されていた。もっとも、俺が使っていたカードについての効果を把握しきれないが故に、単純にモンスターの効果を無効、さらにパワーの底上げをするカードのみ手札から服の中にあったカードと入れ替えられていたらしい。で、現在俺はというと……

 

「ほら秋人! 早く!」

 

「そうよ秋人! みんなでビーチバレーやりましょうよ!」

 

「……あっついのに、よくやるなぁアイツら」

 

 明後日には日本を飛び立つ俺たちのために、アメリカ校の生徒たちがサプライズとして海辺でのバーベキューパーティを行ってくれていた。まだお昼の時間にも早いため、現在はアメリカ校の生徒たちやレジー、ツァン達が海ではしゃいでいる。で、俺はと言えば熱いのでパラソルの下で冷やしたタオルを頭から被り、その暑さに耐えている真っ最中だ。今日、この日の気温は36度超え……暑いところが苦手な俺にとってはかなり苦しい。そんなところへ、雪乃がやってきた。

 

「ほら、秋人。貴方も早く……それとも、私にオイル、塗ってくれるかしら?」

 

「勘弁してくれ……俺は暑いのは苦手なんだ……それに……」

 

「それに?」

 

 俺の手を引っ張る雪乃が首を傾げる。いや、察しろよ……そのビキニとかのせいで俺はお前らを直視できないんだって……どこぞのトラブルな男じゃあるまいに、この状態でオイルを塗るなんてしてマジでトラブルになっても俺が困る。現在の雪乃の格好はといえば、薄紫色のビキニと、腰にパレオを巻いた状態だ。ツァンやレジーもビキニと、男子生徒たちの視線を集めているのは言うまでもない。俺もその姿には驚いたし、見惚れてもしまったのは否定しない。

 

「あら? いいじゃない? 私はそれでも……い・い・け・ど?」

 

「そういって俺に乗っかってくるな…………頼むから」

 

「うふふ、可愛い」

 

 そう言って笑う雪乃は後ろから俺に抱き着くのをやめない……これで機能しないわけがない。何が、とはいわないが。それに、色々な意味で理性がぶっ飛びそうで不味い。このやりとり実はもうすでに何回もやられているやりとりだ。雪乃が寄ってきて、さらにこれを見てツァンとレジーがすっとんできては同じように俺へ抱き着いてくる。そのたびに3人に圧迫をされる……これ繰り返されることで男子生徒たちからは睨まれ、血の涙を流され、決闘を挑まれる……以下無限ループが発生する。男としては嬉しくもあるが、同時にその決闘などでの疲労感は半端ではない。すでにもう部屋のベッドに入って寝てしまいたいくらいだ……

 

「ねえ秋人?」

 

「ん? なんだ?」

 

 いつの間にか俺から離れ、隣に座る雪乃が俺に声を掛けてきた。その表情はどこか満足そうで、そして嬉しそうだった。

 

「楽しかったわね、アメリカ留学」

 

「……ああ、そうだな」

 

 大変なことはたくさんあったし、謎も解決するどころか、増えてしまっている。それがあったとしても、確かにこのアメリカ留学は間違いなく意味のあるものだったと俺は思う。レジーや紅葉さん、そしてマリクやイシズ、リシドに出会ったこと、デュエルの事……そして、二人の事。まだまだ解決すべきことはたくさん残っているかもしれないが、確かに楽しいと実感することが出来たのは間違いない。

 

「ふふっ、そしてこれからも……楽しくなりそうね」

 

「楽しく、ねぇ……」

 

 いつの間にか雪乃と反対側に座り、俺の事をジッと睨み付けてくるツァンを横目に俺はそう呟く。こいつ、つい数十秒前までビーチバレーを向こうでしていたよな……いつの間にこっちに来た。心なしか、構えってもらえぬ犬のようにも見えてしまう。ツァンがイヌ耳を付けているのはきっと幻覚だろう……数秒後にはそんなの見えなくなったし

 

「雪乃、抜け駆けずるい」

 

「うふふ、早い者勝ちという言葉が世間にはあるのよ? ツァン」

 

「むむむぅ……」

 

 睨みあっている二人を見ながら小さくため息を吐く。こんなにも俺を想っていてくれる二人に、俺はどうやって別れのことを告げればいいのだろうか……どう頑張っても、そんなことを伝えることが出来そうにない。前の世界に帰る方法よりも、この二人になんといえばいいのか……これが俺にとって一番の問題だと思う。

 

「ほらそこ! イチャついてないでこっち来なさい! お肉焼くわよー!」

 

 そう遠くから料理の準備を始めるレジーが俺達を呼ぶ。いつの間にか、もうお昼の時間になっていたらしい。俺は空港でもらった帽子を被りそのみんながいる場所へと歩いていくことにした。隣にいてくれる二人の事は、もう少し後に考えることにしよう……

 

 

 

 

2日後 国際空港

 

「色々ありがとうございました。Mr.マッケンジー、紅葉さん、それにレジー」

 

 帰国の日。俺たちは国際空港の入り口で見送りに来てくれたMr.マッケンジー、紅葉さん、レジーに言う。

 

「こちらも楽しかったよ。また是非、アメリカ校へ遊びに来てくれ」

 

「次はプロの世界でも待ってるぞ」

 

「秋人、やっぱり帰っちゃうのね……」

 

 3人の中で1人、俺が……というか、俺達3人が帰ることに不満を示していたレジーがそう元気がないように言う。なんだかんだ、俺だけではなく雪乃やツァンとも仲が良くなったレジー……まあ、2人もまんざらでもないみたいだし。

 

「そんな今生の別れみたいな声だすなよ……今度はレジーも日本に来ればいい」

 

「それもいいわね。私たちも歓迎するわよ」

 

「そうね、うちの学校なら楽しめると思うわ」

 

 そうレジーを励ます俺達だが、一向にレジーの表情は晴れない。俺はその様子にポケットからまとめておいたカードを渡すことにした。渡すのは天使族のデッキで有効になるカードたち。多少彼女のテーマからもずれてしまうかもしれないが、もしよかったら、と付け加えて渡すことにした。

 

「はい、レジー」

 

「秋人……?」

 

「お世話になったお礼だ。また、デュエルしよう」

 

 これで笑顔になってくれれば、そう思った俺だが、そのレジーの表情はクシャリと歪み、大粒の涙が見えていた。そして勢いよく俺に抱き着いてくるレジー。その勢いで倒れそうになる体を何とか支え、俺はその場に踏み留まった。

 

「う、ん……大切に、する……!」

 

「ほら泣くな、俺より2つも年上なのに……」

 

「だって、だってぇ!」

 

 ここ数日でわかったが、実はレジーは結構泣き虫だったりする。もう原作の面影が皆無……という話は、もうこの世界の彼女だからこそ、こんな性格なのだと思っているので気にしていないが。ようやく泣き止んだレジーは「なら約束して」と俺に告げる。

 

「また、会えるのよね? 必ず」

 

「…………ああ、もちろんだ」

 

 俺は数秒の沈黙の後、彼女にそう嘘をついた。そんな保障などどこにもない、また逢えるときにはもう俺ではなくなっているかもしれないのに。我ながらなんと酷い嘘か、と言いたくなった。だが、これで彼女に笑顔が戻るのなら、これで解決するのなら、俺はそう言い聞かせてレジーに頷いた。それを見たレジーは俺にようやく笑顔を見せてくれた。

 

「わかった、信じる……秋人、またね。さよならは絶対に言わないわ」

 

「ああ、またなレジー」

 

 そう別れを告げ、俺達は飛行機へと乗り込むことにする。行く途中、当然ながら腕を二人から思いっきり抓られたのは言うまでもないだろう。そしてその空港で待つ待ち時間。二人が女子トイレから帰ってくるのを待っていると、いつのか俺の隣には1人の老婆の姿があった。

 

「おや、また会ったねェ……」

 

「っ……!? アンタは」

 

「落ち着きなさいな、今のアタシャ、アンタにしか見えないよ」

 

 俺はその言葉に思わず立ち上がりそうになったのを押さえてその老婆を見る。

 

「何の用だ?」

 

「ヒッヒ、別に特に用はないさね……たまたま、ここにいただけさ。ここは入口だからね」

 

「入口?」

 

 俺が老婆の言葉に首を傾げると、老婆はそうさ、とニヤリと笑っていた。

 

「精霊界の入り口があるのさ……誰にも知られぬ場所にね。お前さんもいつか来るといい。歓迎するよ……異世界の魂を宿し、決闘者。お前さんの行く末、楽しみにしているよ。ヒッヒッヒ……」

 

 怪しげな言葉と共に老婆の姿は消えてしまった。くそ、まだ聞きたいことがあったってのに。

 

「秋人、待たせたわね」

 

「お待たせ、さ……気が進まないけど、飛行機に乗りましょ。どうしたの?」

 

「……いや、なんでもない。そうだな、帰ろう。日本へ」

 

 こうして、俺達はアメリカの地を離れて日本を目指す……だがその間も、老婆の言葉が耳に残っていたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

――アメリカ編、完結

 




水着回
見渡す限り、おそらくメロンとスイカがたくさんですね

レジーの恋
まだ終わりませんよ! レジーは近いうちに出しますからね

老婆の正体
精霊です。が、何のカードとは定めていません。老婆のカードとかあったかな……

Next 31「模倣者」

ヴァイロン様 NOGAMI壱様 武御雷参型様 カロン様 幻想の投影物様 傷心ズバット様 火星の紳士様 Ranperu様 竜殺し佐々木 小次郎様 うさぎたるもの様 カロン様 さぬら様
感想、ご指摘、意見ありがとうございました

引き続き、小説の評価もお待ちしております


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セブンスターズ編まで
31「模倣者VS模倣者」(前編)


どうも、お久しぶりです。秋風です
しばらく間が空いてしまい申し訳ありません

2つほどお願いです
一つ目は感想などに関して最近、いくらかメッセージを頂いております。
他の読者様が不快にならない範疇で表現に気を使って頂けますようお願い申し上げます

ニつ目に、この話がつまらんから書き直してほしいというメッセージをいただくことがありますが、書き直しはする予定はありません

ではでは、31話どうぞ!



 アメリカから帰国して数週間。あれから前の世界に帰るための方法は特に見つけることが出来ていない。あれから特に大きな事件が起きるということもなく、アカデミアからすれば特に問題の無い平和な時間が流れていた。変化といえば、雪乃、そしてツァンの関係については率直に言えばすぐにバレた。元々二人が隠すつもりもないので仕方がないと言えば仕方がないが……そして、そんないつもの昼休みに食事をしていると、翔が俺達に券を差し出してきた。

 

「はい、これは秋人君たちの分ッス」

 

「なにこれ? 整理券……?」

 

「そう。実は明日、決闘王、武藤遊戯さんのデッキが公開されるッス! みんなで観に行こうと思ってもらってきたッスよ。競争率も高かったから、兄貴たちの分も含めてもらうのが大変だったッス」

 

 そう誇らしげに胸を張る翔だが、ツァンは呆れたようにため息を吐く。

 

「あの伝説の決闘王、武藤遊戯のデッキが見られるのは確かに魅力的だけど……秋人の場合、そのデッキを作った本人に会ったことあるだろうし、見る意味ある?」

 

「そういえばそうだなー、秋人、遊戯さんのデッキ見たことあるのか?」

 

「…………まあ、一応な」

 

 十代の言葉に頷く俺だが、実際にこの目で見たことはない。ただ、写真などを見る限り遊戯と、しかも「アテム」と共に写真に写っている武藤秋人を見る限り見せてもらったことがある可能性はある……あの時の写真、武藤秋人の目は死んでいるようにも見えたが。俺の場合は、前の世界の記憶を掘り返せば使われていたカードの記憶はすぐに掘り起こすことが出来る。それぞれペガサス島編、バトルシティ編、ドーマ編、闘いの儀、さらに言えば映画……それぞれで使われたデッキのカードは覚えているのでそれらのカードを組み合わせればデッキは完成する。ただ、明日公表されるカードすべてをそれで把握できるわけではないが。

 

「じゃあ! 秋人、そのデッキで戦えるのか!?」

 

「はっきり言って無理だと思うぞ。今の環境であの人のデッキはキツイ……それこそ、武藤遊戯という人間でなければ使いこなせないようなデッキだよ」

 

 今上げた○○編、のデッキ。これ全部ハイランダーだし、それぞれ前の世界で発売された決闘王の記憶シリーズでもそれぞれデッキも1枚ずつしか入っていない。いくら3箱ユーザーが買わせようとする目論見があるとはいえ、全部、本当に1枚ずつしか入っていない。しかも少数生産の為すぐに売り切れ……そのせいでその箱に収録されていた特に「超電磁タートル」「黒魔族復活の棺」のカードの値段が当時、その販売されている箱の2倍くらいの値段になっても買おうとするユーザーがいたのは記憶に新しい。そのおかげで再録されて今では安く買えるわけだが……っと、そんな話はさておき。つまり遊戯のデッキというのは公式でも同じカードが複数枚入っていることはない、といわれているようなものである。まあ、それを言ったらこの世界の人たちはほとんどデッキがハイランダーだろ、ということになるけどな。十代とかもヒーローモンスターはハイランダーで回しているし……ただ、武藤遊戯のデッキに関してはそのハイランダーであるがゆえにそれを補うぶっ壊れカードが多々存在している。アニメ版の天よりの宝札から始まり、削りゆく命、復活の祭壇……そして、黄泉転輪とか。

 

「そっかー……秋人でも無理か」

 

「それに、俺も全てのカードを覚えているわけじゃない……そういう意味では、この整理券はありがたいよ。今一度、見てみるのも悪くない。ありがとう翔」

 

「えへへ、どういたしまして!」

 

 そんな感じで、お昼休みは過ぎて行くのだった。

 

 

 

 

夜 秋人の部屋

 

「私のターン……『強欲な壺』でカードを2枚ドローして……ふふ、手札から『死者蘇生』を発動。蘇生させるのは墓地のバルバロス。そしてツァンの六武衆の師範に攻撃」

 

「うっ……ボ、ボクのライフはこれで0……今日は、ボクの負け」

 

「ウフフ、じゃあ今日は秋人とベッドで寝るのは私ね♪」

 

 夜、就寝前のこの時間に俺の部屋で雪乃とツァンがテーブルデュエルをしていた。雪乃が俺の部屋で寝泊まりしていたのはだいぶ前からの事だが、帰国してなぜかツァンも俺の部屋で寝ることになった。元々1人部屋だったので人が増えるのは別に問題はないが……ツァンからすれば、今までずるい、ということらしい。で、今何故二人がデュエルをしているかと言うと、俺と同じベッドで寝るのはどちらかというのを決めている。そして、どうやら今日の勝者は雪乃らしい。

 

「そうなるかは、俺とのデュエルだろ? まったく」

 

「そうだったわね。第一の難関は突破したから……次、秋人に勝たないとね」

 

 一緒に寝ることに関してだが、それは俺の理性が持たないから勘弁してくれ……と、2人に頼んだ結果、俺にデュエルで勝てば一緒に寝ることを許可するというものである。ルールとしては基本的にどんなデッキを使っても構わないが、エクゾディアとかの特殊勝利デッキ、バーンデッキ等は禁止された。解せぬ……

 

「仕方がない……じゃあ、今日はこれかな」

 

「そのデッキは……なら2分頂戴。カードを入れ替えるわ」

 

 俺がデッキケースに手をかけた途端に雪乃がすぐに別のデッキケースからカードを取り出してカードを入れ替える。雪乃やツァンは俺が使うデッキを把握し始めているので、それに対する対抗カード……いわゆるメタカードを積んで戦うことが最近増えた。これのせいで、実は結構負けていたりする。この部屋の戦績、社長に知られたら授業料免除が取り消されるレベルである……マジで。

 

「「決闘(デュエル)」」

 

「俺のターン、俺は手札から『クリバンデット』を-コンコン-ん? 誰だ、こんな遅くに」

 

 デュエルが開始した直後、俺の部屋のドアがノックさせる。デュエルを中断して扉を開ける。そこにはいつもの制服を来た十代、三沢、翔、そして隼人の姿があった。

 

「どうしたんだ? お前ら、揃ってこんな夜中に……まあ、大方予想はつくけどさ」

 

「へへっ、秋人たちも観に行こうぜ! 遊戯さんのデッキ! 整理券ってことはちょっとしか見られない可能性が高いしさ!」

 

 まあ、そうだろうなとは思った。もともとこの話の流れについては知っているのでツッコミはもう入れないぞ。

 

「三沢まで」

 

「少しフライングして見に行こうと思ってな」

 

 ……また退学になっても知らないぞマジで。なんでみんなこう、冒険野郎なんだか。まあ、高校生というのはこういうものだ。俺だってもしこの世界で生まれ、この世界で生きてきたらその「伝説」と呼ばれた決闘王のデッキが公開されるなら観に行きたくもなる。

 

「ほら秋人、早く着替えなさい。私たち外で待ってるから」

 

「服はベッドの上にあるわ」

 

「……早すぎだろ、お前ら」

 

 すでに着替え終えたツァン、そして雪乃見ながら、俺はため息を吐いて着替えるのだった。

 

 

 

 

学園内

 

 展示会場まで俺、雪乃、ツァン、十代、翔、三沢で進む。会場までもう少し、というところで、ガシャンと大きな音が聞こえた。

 

「マンマミーヤ!」

 

 そして同時に聞こえてくるクロノス先生の悲鳴。その音と声を聞き、慌てて俺達が展示会場へと突入すると、そこには割られて空になった展示用ケースがあり、それの前でクロノス先生が硬直していた。

 

「これは……!」

 

「飾られていたデッキが消えている!?」

 

「まさか、クロノス先生が!?」

 

 と、十代達が叫び、それに気が付いたクロノス先生が必死に弁解する。自分は見回りであり、たまたまこの場に居合わせた、とのこと。普段、俺を含めて十代たちに色々とされていることを思い出した俺は、優しくクロノスの肩を叩いた。

 

「……先生、温かいスープ飲んで、一緒に警察に行こか?」

 

「だから違うのーネ! というか、なんデこんな時だけ優しくするんですーノ!?」

 

「先生、自首するのと逮捕じゃ牢屋に入るのは年月だいぶ差があるんですよ?」

 

 さらに俺の悪ふざけに乗ってくる雪乃。そうとう焦っているのだろう。涙を大量に流しながら「警察だけは」と泣き叫ぶクロノス先生。そんな様子に、十代が俺たちの悪ふざけを止めに入る。

 

「まあまあ、二人とも悪ふざけはここまでにしようぜ……先生がやるわけないじゃん」

 

「鍵も持っているみたいッス」

 

「シニョール十代、シニョール翔……うぅ、持つべきものはやはり生徒なノーネ」

 

 普段の行いを顧みてから言おうな、そういうセリフ。十代の提案で武藤遊戯のデッキを取り返すために捜索を開始しよう、ということでそれぞれが行動を開始する。が、その出ていく前にツァンが少し強い口調でクロノス先生に言う。

 

「先生、まさか捜索後に今回の夜間外出で退学、とかしないわよね?」

 

「しないのーネ! 今回の事は先生も内緒にするーノ! だからデッキ捜索を……!」

 

 高速で首を縦に振るクロノス先生に、言質は取ったわ、と雪乃が録音したスマホを俺に見せてくる。

 

「了解しました、クロノス先生。当直責任で先生もクビになりたくないだろうし、俺もまた退学騒動はごめんだ」

 

 こうして俺達3人もそのデッキ捜索に加わって走り出した。

 

 

 

 

学校外

 

「デッキを探す、とはいってもなぁ……ミラ?」

 

『ええ、そうですねマスター……実際、武藤遊戯さんが使っているカードのなかでも気配を感じ取れるのは少し難しいかと』

 

「だよなー……肝心の精霊2人はここにいるわけだし」

 

 と、言いながらバラバラに分かれて探し始めた俺は横目でその2人こと、マハードとマナを見る。表情としてはかなり怒っているのが伺える。というのも、本来のマスターであり、マハードにとっては王(ファラオ)が愛したデッキが盗まれるとか、そら神官は怒りますわ。

 

『むー! マスターちゃんと探してる!?』

 

「いや、わかってはいるけど結局どうしたもんかな……」

 

 確か、翔や十代がデュエルをして、十代の勝利でデッキを取り返すことになるわけだけど……そうだな、ここはやっぱり。

 

「盗んだやつが学生なら……もしかしたら、その辺で決闘を仕掛けているかもしれないな。恐らくだけど、俺達が考えていたこと(フライング)をする奴が他にもいただろうし」

 

『そっか! じゃあ上から見つけてくる!』

 

 そう言って勢いよく上へと上昇するマナ。いや、そんなすぐに見つかるとも限らんだろ。何時デュエルが始まって、デュエルをしているのやら。

 

『マスター! 向こうで翔君が戦ってる!』

 

「はやいなおい!?」

 

『えっへん! じゃなかった、翔君もう負けそうだよ! 逃げられちゃう!』

 

「わかった、急ごう」

 

 マナの案内の元、俺はそちらへと駆け出す。走ること数分、爆発音が鳴り響く。といっても、デュエルモンスターズにおけるソリットビジョンの爆発だが。そこには膝を着いた翔の姿があった。そして俺と同時にその音を聞きつけて十代たちもその場へと現れる。

 

「翔!」

 

「アニキ、秋人君……! ゴメンッス、負けたッス!」

 

「これが決闘王のデッキ……! 俺はこれで誰にも負けない、最強のデッキを手に入れた! これで誰にも負けないんだ! クロノスだろうと! カイザーだろうとぉ!」

 

 翔に勝ったというデッキを盗んだ生徒、確かラーイエローの神楽坂だったか。他人のことを真似るのが得意な決闘者。俺と同じように幾つもデッキを所持する生徒だ。しかし、その多彩性とは裏腹にその実力伸びはあまりよくない。挙句、その模倣について他の生徒から嫌がられることもしばしばあった。それを言ったら俺もコピーデッキなんて大量に持っているから人の事言えないんだけどな。

 

『マスター! あいつがマスター(武藤遊戯)のデッキ持ってる!』

 

「(あー……うん、そうだね)」

 

『(マスター、我々に戦わせてください)』

 

 ……ですよね、知っていましたよはい。あれだけ怒っていればそりゃこうなるわ。俺は二人を入れているデッキを取り出して今にもデュエルを仕掛けようとする十代に叫ぶ。

 

「十代! すまないが今回は俺に譲ってくれ!」

 

「んー……そりゃそうだよな。やっぱりここはお前が取り返さないとな!」

 

 そう言って十代は俺にデュエルディスクを投げてくれる。俺はそれを受け取って腕に装着し、デッキをセットする。

 

「くくく、武藤秋人か。ちょうどいい! お前にも俺のデッキの慣らしに付き合ってもらうぜ!」

 

「悪いが今回は諸事情により容赦できない! 行くぞ!」

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

武藤秋人VS神楽坂

 

武藤秋人 LP4000

神楽坂  LP4000

 

 

「俺の先攻、ドロー! 手札から『融合』を発動! 手札の幻獣王ガゼルと、バフォメットを融合! 『有翼幻獣キマイラ』を特殊召喚!」

 

有翼幻獣キマイラ ATK2100/DEF1800

 

 キマイラがいきなり登場……すでに素材全てと融合が最初から手札にあることに驚くべきか。ハイランダーでよく最初からあったと感心すべきか。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド。さあ秋人、お前のターンだぜ!」

 

「……行くぞ。俺のターン! 手札から永続魔法『黒の魔導陣』を発動! まず、このカードの発動時の効果処理として自分のデッキの上からカードを3枚見る。その中に「ブラック・マジシャン」のカード名が記された魔法・罠カード、または「ブラック・マジシャン」があれば1枚を相手に見せて手札に加え、残りのカードは好きな順番でデッキの上に戻す。3枚は……よし、俺は3枚のうちの1枚『ブラック・マジシャン』を加える。そしてさらに手札から『マジシャンズ・ロッド』を召喚。このカードの召喚に成功したとき、デッキからテキストに『ブラック・マジシャン』と書かれた魔法、または罠を加える。俺が加えるのは『マジシャンズ・ナビゲート』だ。カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

マジシャンズ・ロッド ATK1600/DEF100

 

「俺のターン! まさか、ブラック・マジシャンとは……驚いたぜ秋人。行くぜ、俺はキマイラで『マジシャンズ・ロッド』を攻撃!」

 

「させるか。罠カード発動! 『マジシャンズ・ナビゲート』! 手札の『ブラック・マジシャン』を特殊召喚し、さらにデッキから闇属性、魔法使い族のモンスターを特殊召喚する。手札からブラック・マジシャンを、そしてデッキからは『私! マスター、私出して! お師匠様と二人であの人ボコボコにする!』……ええい、わかった! わかったから抱き着くな! 杖で叩くな! ……ゴホン、ここまで来たらもう仕方がない! 俺はデッキから『ブラック・マジシャン・ガール』を特殊召喚する!」

 

 フィールドに置かれていた黒の魔導陣の中心部が黒い空間が出来上がり、そこから2人のマジシャンが飛び出す。

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

ブラック・マジシャン・ガール ATK2000/DEF1700

 

 ブラック・マジシャンの登場には十代や翔は驚かないが、2体目のモンスター、ブラック・マジシャン・ガールことマナの登場に2人は驚いていた。当然だ、デュエルモンスターズのアイドルカードと名高い、ブラック・マジシャン・ガール。この世界ではその価値はとんでもない。公式的に使用していることが知られているのは武藤遊戯のみなのだから当然である。本来ならマハードはともかく、マナは出したくなかった……このデュエル、確かフライングしに来た大量の生徒たちがこのデュエルを見ているはず。下手すると、マナのカードが狙われる可能性がある……いや、そのことは後で考えよう。

 

「ブラック・マジシャンはともかく、ブラック・マジシャン・ガールだと!? なぜお前が……武藤秋人……まさか、お前は」

 

「ここまできたら、もう隠し通せないな。このカードたちは俺の従弟である、武藤遊戯本人のカードだ……俺は、武藤遊戯の従弟だ」

 

 俺の言葉に動揺を隠せない神楽坂。まあ、当然と言えば当然か。さすがに武藤秋人のことは彼の記憶にはないため、思わず素が出てしまっていた。まあ、仕方がないと言えば、仕方がないが。周囲でも、ガサガサと音が鳴る……まあ、驚いているのは神楽坂だけではないのは確かだな。その俺の言葉と共にその手が震えているのが判る。いや、体全体が震えていた……反射的に怯えているのだろう、武藤秋人が。俺はそれを何とかこらえ、神楽坂を見る。

 

「さあ、デュエル続行だ。ブラック・マジシャンが召喚されたことで黒の魔導陣の効果発動。ブラック・マジシャンが召喚された時、相手フィールドのカード1枚をゲームから除外できる。除外するのは当然、キマイラだ」

 

「甘いぜ! 俺は速攻魔法『融合解除』を発動! キマイラの融合を解除し、幻獣王ガゼル、バフォメットをフィールドに特殊召喚する! こい、ガゼル、キマイラ!」

 

幻獣王ガゼル ATK1500/DEF1200

 

バフォメット ATK1400/DEF1800

 

 融合解除によってフィールドにガゼル、そしてバフォメットが出現する。まさか、手札には融合に関するカードが一式全部揃っていたのか。それぞれは守備表示で召喚されている……まあ、当然と言えば当然か。あの2体ではマハード、マナ、ロッドは超えられない。これで黒の魔導陣の効果は不発……まさか、このカードの効果を躱してくるとは思わなかった。

 

「やるな、秋人……俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ。まだまだ、デュエルは始まったばかりだぜ」

 

 そう言って不敵に神楽坂が笑う。確かに、アニメで見た遊戯(アテム)に似てるっちゃ似ている。が、フィールドの二人はその真似にご立腹のご様子。十代も俺が使っている2人が精霊であることに気が付いているらしく驚いているのが判る。

 

『やっちゃうよマスター! いいですよね、お師匠様!』

 

『少しは落ち着け……だがそうだな、ファラオの為にも全力で行きましょう、秋人殿』

 

「……ああ、そうだな。俺のターン!」

 

 そう言って俺はカードを引くのだった。




リメイク前との変更点

寝る時は順番ではなくデュエルで決定
割とTFやってるとこの二人には油断するとボコられる

クロノスと秋人たちのくだり
昔、ニコニコ静画の漫画で連載されていた「戦勇。」という漫画のパロ。知っている人少なそう

マハード、マナご立腹
そら、王様のデッキ盗まれたら怒りますわ

震える秋人
自分が遊戯の従弟だ、ということを言うのに抵抗を感じています

まーたブラマジデッキか
一応、サイレントも出る予定……皆さんが血眼になって当てようとしたあのカードですけどね……未だ求める貴方にアルティメット・バースト

NEXT32「模倣者VS模倣者」(後編)

Ranperu様 久波様 虚気様 d.c.2隊長様 v!s!on様 カッチュウナイト様 読み専太郎様 うさぎたるもの様 15846様 万屋よっちゃん様 NOGAMI壱様 曲利様 スターダスト様 さはら様 日光岩新アカ様
感想、ご意見、ご指摘ありがとうございました。また、よろしくお願いします

赤羽雷神様
評価ありがとうございました。頂いた評価以上の小説を作れるように努力してまいります

引き続き、感想、評価お待ちしております


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32「模倣者VS模倣者」(後編)

遅くなりました(土下座)


※今回、ものすごくデュエルが長いです。プレミなどがある可能性が大ですので、修正加筆お待ちしております!


「俺のターン! ドロー!」

 

 フィールドには壁のモンスターが2体。だが、伏せカードが1枚伏せてある。これが武藤遊戯のデッキである以上、伏せられた罠はミラーフォース、もしくは魔法の筒……と、考えるのが妥当か? 他にも呪縛などもあるかもしれない……そう考えると黒・爆・裂・破・魔・導で一掃できれば話が早いのだが、生憎手札にはない。

 

「バトルフェイズ! ブラック・マジシャンでバフォメットを攻撃!」

 

「今、攻撃と言ったな? この瞬間、罠発動!『聖なるバリア-ミラーフォース-』! 相手の攻撃宣言時、相手攻撃表示のモンスターを全て「墓地のマジシャンズ・ナビゲートの効果発動!」何!?」

 

「墓地のこのカードをゲームから除外することで、相手の表側表示の魔法、罠をエンドフェイズまで無効にできる。よって、ミラーフォースは無効となる」

 

 俺の言葉と共に魔導陣が出現し、そのミラーフォースのカードに何か魔法のようなものがかかり、その効力を失ってしまう。そして、そのままバフォメットは破壊された。

 

「そして、マジシャンズ・ロッドで幻獣王ガゼルを攻撃! さらに、ブラック・マジシャン・ガールでダイレクトアタック!」

 

「させるか! 手札の『クリボー』を捨てて効果発動! そのバトルダメージを0にする!」

 

 最後の1枚はクリボーか……まさか、今の攻撃を防がれるとは思わなかった。確かに、今のシーンは武藤遊戯もやりそうだが……神楽坂は果たしてどこまで武藤遊戯になりきれるのか。フィールドには何もない……この状況でどうするのか

 

「……俺は『ワンダー・ワンド』をマジシャンズ・ロッドに装備し、生贄に捧げる。これによりカードを2枚ドロー。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

「俺のターン! フッ……来たぜ、俺の逆転のカードが。魔法カード『天よりの宝札』! 互いのプレイヤーはカードを6枚になるようにドローする!」

 

 天よりの宝札……神楽坂はハンドレスから6枚になるようにドロー……ここからの6枚ドローでどう動くかがわからんな。

 

「そしてドローフェイズ以外のドローで『ワタポン』をドローした! よって、このカードを特殊召喚する!」

 

ワタポン ATK200/DEF300

 

「さらに! このワタポンを生贄に捧げ、ブラック・マジシャン・ガールを召喚!」

 

ブラック・マジシャン・ガール ATK2000/DEF1700

 

 フィールドに現れるブラック・マジシャン・ガール。が、しかし、その色がかなり違っていた。肌は褐色で、衣装は赤や黒を基調とするなど、どこかパンドラマジシャンを彷彿とさせるデザインのブラック・マジシャン・ガールである。恐らく、コピー故の姿なのだろう……が、ブラック・マジシャン・ガールは確か遊戯王DMIII 三聖戦神降臨の大会告知がされた時、その公開されたガールのイラストは初期イラストとは全く異なる形であり、色もあのカードのように色黒……というより、パンドラマジシャンに近いようなものだったという。実物を見たことが無いので何とも言えないが……本物はどうやらあの姿には納得していないご様子だ。フィールドの中にて、大声で怒っている。

 

『なにあれ!? あれってもしかしなくても私!? あんなの私じゃないぃ! 私あんな色黒じゃないもん!』

 

 と、マナはご立腹だ。黒ギャルのブラック・マジシャン・ガールというのもかなりインパクトはあるんだけどな。マナがマナだった時代には彼女は色黒だった気もするが……そこは深くツッコミを入れないでおこう。

 

「更に、『強欲な壺』を発動してカードを2枚ドロー! 『魔法石の採掘』を発動して手札2枚をコストに『天よりの宝札』を加え、カードを2枚伏せる! 更に『天よりの宝札』! 更に『手札抹殺』! 互いのプレイヤーは全て手札を捨て、再び同じ枚数ドローする!」

 

 今のドローからここまで使いまくるか……あのドロー運、確かに武藤遊戯に近いかもしれない。手札を捨て、手札を引き、得た神楽坂の手札は現在5枚。俺は6枚から全て捨てさせられ、再び6枚をドローした。フィールドにはブラック・マジシャン・ガールと、伏せカードが2枚。さて、ここからどうくる?

 

「今伏せていた装備魔法『魔術の呪文書』を装備する! ブラック・マジシャン、またはブラック・マジシャン・ガールの攻撃力を700ポイントアップさせる!」

 

ブラック・マジシャン・ガール ATK2000/DEF1700→ATK2700/DEF1700

 

「行くぜ! ブラック・マジシャン・ガールでブラック・マジシャンを攻撃! 『黒・魔・導 爆・裂・破』!」

 

「ぐっ!」

 

『ぬぅっ……!』

 

『お師匠様!』

 

武藤秋人 LP4000→LP3800

 

 破壊させるブラック・マジシャン。そのブラック・マジシャンを破壊したことで、マナと、相手のブラック・マジシャン・ガールの攻撃力が上昇する。これでガールの攻撃力は3000……

 

ブラック・マジシャン・ガール(マナ) ATK2000/DEF1700→ATK2300/DEF1700

 

ブラック・マジシャン・ガール     ATK2700/DEF1700→ATK3000/DEF1700

 

「メインフェイズ2で『サイクロン』を発動して、黒の魔導陣を破壊しておく。これでターンエンドだ。さあ、全力でかかってきな! 真っ向から粉砕してやるぜ!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

 手札のカードは7枚。そのカードは決して悪いカードではないのだが、この状況を打破できるかと言えばまた微妙なところだ。先程の『手札抹殺』によって何枚か使えるカードは墓地へ送られてしまった。フィールドにはマナがいるものの、攻撃力3000となったブラック・マジシャン・ガールを突破するにはまだ手札のカードが足りない。なにより、残された3枚の伏せカード……あの余裕の笑みを見るに、魔法の筒、六芒星の呪縛の可能性を否定できない。

 

「俺はカードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー! バトルフェイズだ! いけ、ブラック・マジシャン・ガール! ブラック・マジシャン・ガールを攻撃! 『黒・魔・導 爆・裂・破』!」

 

「速攻魔法『黒魔導強化』を発動! このカードは「甘いな! カウンター罠『マジック・ジャマー』! 手札1枚をコストに、その魔法カードの発動を無効にするぜ!」なっ……」

 

 マジック・ジャマー!? あんなカード遊戯のデッキに入っていたか!? 確かに2001年発売のストラクチャーデッキ遊戯編には入っていたが、まさか、この世界のデッキにも入っていたとは。この世界じゃマジック・ジャマーは幻のレアカードと呼ばれていたはずなのに。

 

『キャア!?』

 

「ちぃっ……!」

 

武藤秋人 LP3800→LP3100

 

「俺はカードを1枚伏せ、これでターンエンドだ。さあどうした? 秋人、その程度じゃないだろう? この俺、武藤遊戯の従弟がそんなに弱いはずがないぜ」

 

「……エンドフェイズに伏せていた『永遠の魂』を発動。墓地に存在するブラック・マジシャンを特殊召喚する! これにより、お前のブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は下がる。また震えている……“武藤秋人”が乗り越えられないなら、俺が代わりに乗り越えてやる。そして、俺は俺のデュエルをするだけだ」

 

「? 何を言っている? まあいい、ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は下がるが、お前のブラック・マジシャンでは攻撃力は届かないぜ」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

ブラック・マジシャン・ガール ATK3000/DEF1700→ATK2700/DEF1700

 

 そう言って余裕の笑みを見せてくる神楽坂。その立ち振る舞いはかつてのアテムに似ているかもしれない。その言葉や立ち振る舞いを見たことで震える俺の手。恐らくだが、“武藤遊戯の従弟が弱いはずがない”……この体の本来の宿主にとってトラウマ級の言葉。それに反応しているのだろう。数少ない情報からだが、武藤秋人という人物は色々な意味で弱い人間だ。この状況、本来の武藤秋人だったら逃げ出していただろう。そもそも、デュエルを受けなかったかもしれないが。だがそれでも、今目の前のデュエルから逃げるのは俺にとっても、そして武藤秋人にとってもいいことにはならない。何より、今の宿主は俺……故に、悪いが俺は俺のデュエルをさせてもらう。

 

「俺のターン……! 行くぞ、神楽坂。俺は手札から『強欲な壺』を発動してカードを2枚ドローする。さらに、永遠の魂の効果でデッキから『黒・魔・導』をサーチして発動。相手フィールドの魔法罠をすべて破壊する。これにより、ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は元に戻る」

 

「だが、このカードが墓地に送られたことでライフを1000回復するぜ!」

 

神楽坂 LP4000→LP5000

 

 それと同時に破壊される六芒星の呪縛などの罠カード。これでフィールドにはブラック・マジシャン・ガールのみ。これなら問題はない

 

ブラック・マジシャン・ガール ATK2700/DEF1700→ATK2000/DEF1700

 

「バトルフェイズ! ブラック・マジシャンでブラック・マジシャン・ガールを攻撃! 『黒・魔・導』!」

 

「ぐっ……!」

 

神楽坂 LP5000→LP4500

 

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

「俺のターン! 俺は手札から『天使の施し』を発動。カードを3枚ドローして2枚捨てる。そして墓地のワタポンとクリボーをゲームから除外することで『カオス・ソルジャー-開闢の使者-』を特殊召喚する!」

 

カオス・ソルジャー-開闢の使者- ATK3000/DEF2500

 

 開闢が来たか。フィールドのカードだけで対処はできるが、これ以上神楽坂が何をしてくるか。神楽坂の手札は5枚。この勝負、どうなるか

 

「俺は手札から『エフェクト・ヴェーラー』の効果を発動する。このカードを手札から墓地へと送ることで相手のモンスター効果をこのターン、無効にする」

 

「くっ、モンスター効果を無効にされたか。だが、カオス・ソルジャーの方が攻撃力は上だ! いけ、カオス・ソルジャー! ブラック・マジシャンを攻撃!」

 

「速攻魔法『ディメンション・マジック』を発動! フィールドのブラック・マジシャンを生贄に、手札から『チョコ・マジシャン・ガール』を特殊召喚! さらに、カオス・ソルジャーを破壊!」

 

「なに!? くっ……! 俺はカードを2枚伏せターンエンド!」

 

チョコ・マジシャン・ガール ATK1600/DEF1000

 

 伏せカードか。攻撃反応型の罠はほとんど見た気がするんだが、何を伏せたのか。さらにいえば、今のカオス・ソルジャー-開闢の使者-が倒されたことで神楽坂も焦り始めており、武藤遊戯になりきれなくなってきている。畳み掛けるなら今か……

 

「俺のターン、ドロー! 俺は手札から『貪欲な壺』を発動する。墓地に存在する『マジシャンズ・ロッド』『マジシャンズ・ローブ』『エフェクト・ヴェーラー』2枚『マスマティシャン』をデッキに戻してカードを2枚ドロー! さらに、永遠の魂の効果で墓地から『ブラック・マジシャン』を蘇生する。さらに、チョコ・マジシャン・ガールを生贄とし、俺は手札から『沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン』を特殊召喚!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン ATK1000/DEF1000

 

 マナと、エフェクト・ヴェーラー以外のカードは手札抹殺で落ちたカード。これでかなり有利になった。

 

「沈黙の魔術師-サイレント・マジシャンは俺の手札1枚につき、攻撃力を500ポイントアップさせる。俺の手札は4枚、よって2000上昇だ」

 

沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン ATK1000/DEF1000→ATK3000/DEF1000

 

「攻撃力、3000だと!?」

 

「すっげぇ! サイレント・マジシャンって伝説のレベルアップモンスターだろ!? 確か、遊戯さんも使っていた!」

 

 サイレント・マジシャンの登場に、十代がやや興奮気味にそう言った。まあ、確かにサイレント・マジシャンはレベルアップモンスターだがこのカードに限ってはそうではない。ややこしくなりそうだから深くは言わんでおこう。

 

「行くぞ、バトルだ! ブラック・マジシャンでダイレクトアタック!」

 

「罠カード『攻撃の無力化』! 攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

 

「俺はこれでターンエンド」

 

 フィールドにはブラック・マジシャン、そして沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン-対して、相手は何も出していない……このまま押し切れば勝てる。

 

「くっ……この俺が……最強の決闘者になったはずなのに……このカードたちさえあれば俺は勝てるはずなのに……!」

 

 ……率直な意見として、難しいだろうな、そのデッキで最強でい続けることは。そのデッキは武藤遊戯でしか扱えないと思う。前の世界ではデッキとはたんなるカードの束である意味合いの方が強い。このカードがカッコいいから作った、このカードが可愛いから作った、もしくは環境に食い込んで勝ち続けたいから作ったという意味合いが強い。この世界でもそれは変わらないが、それ以上にこの世界では本当にそのデッキを作り上げた人間の魂という意味合いの方が強い。ここぞという時のみんなのドローを見ているとそれを実感できる。たった1枚のカードから戦況をひっくり返し、逆転してみせる。十代がいい例だ。

 

「少なくとも神楽坂、お前は武藤遊戯ではない……なれない、と言った方が正しいかもな」

 

 俺が武藤秋人ではないのと同じように。俺はどこまで行っても日向明人でしかないんだ。だが、神楽坂はどこか俺に似ている。だからこそ、俺はこいつを応援したいとも思う。だから……

 

「見せてくれ、お前のデュエルを……武藤遊戯ではない、神楽坂としてのデュエルを」

 

「だが、それは……俺は、デュエルが弱いから……」

 

「そんなことないぜ!」

 

 弱気な神楽坂の言葉に、十代が声を上げた。さっきから翔と共にそのデュエルを興奮した様子で見ていた。

 

「すげーデュエルじゃねーか! 見ていてワクワクする! こんなに遊戯さんのデッキを使いこなしているなんて神楽坂の才能はスゲーよ!」

 

「十代……」

 

「だから、お前もそのデッキを信じて、見せてくれよ! お前のデュエルを!」

 

「デッキを、信じる……俺の、デュエルを……」

 

 十代の言葉を小さく復唱しながらそのデッキを見つめる神楽坂。そして、何かを決意したように、そのデッキに手をかける。

 

「よし、行くぞ! 俺のターンドロー! 魔法カード『古のルール』発動! 手札の通常モンスターを特殊召喚する! 来い、ブラック・マジシャン!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

「さらに魔法カード『光と闇の洗礼』を発動! フィールドのブラック・マジシャンを生贄にデッキから『混沌の黒魔術師』を特殊召喚!」

 

混沌の黒魔術師 ATK2800/DEF2600

 

「このカードの召喚に成功したとき、墓地の魔法カード1枚を回収する! 俺が手札に戻すのは『天よりの宝札』! そして『天よりの宝札』発動! 互いのプレイヤーはカードを6枚になるようにドローする! ハンドレスから6枚ドロー! 魔法カード『死者蘇生』発動! 墓地から『ブラック・マジシャン』を特殊召喚!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

 並び立つ2体の魔術師。そしてこのドロー運からの回し方はすごいな。だが、それでは俺のサイレント・マジシャンには届かない。次の一手はどう来るか

 

「そして今伏せた魔法カード『大嵐』発動! 互いの魔法罠をすべて破壊する!」

 

「させるか……沈黙の魔術師ーサイレント・マジシャンの効果で魔法カードを一度だけ無効にする!」

 

「読めていたぜ! 伏せたもう一枚、千本ナイフを発動! サイレント・マジシャンを破壊だ!」

 

 ブラック・マジシャンの周囲にナイフが出現し、サイレント・マジシャンめがけて向かっていく。サイレント・マジシャンはそれを避けることは叶わず、破壊されてしまった。

 

「これでフィールドにはブラック・マジシャンのみ! 行くぜ、バトルだ! 混沌の黒魔術師でブラック・マジシャンを攻撃! 『滅びの呪文』!」

 

「罠カード『ブラック・イリュージョン』! このターン、自分フィールドの攻撃力2000以上の魔法使い族・闇属性モンスターはターン終了時まで戦闘では破壊されず、効果は無効化され、相手の効果を受けない!」

 

「だが、ダメージは受けてもらう!」

 

武藤秋人 LP3100→LP2800

 

 何とか防いだ。しかし、フィールドの混沌の黒魔術師は厄介だ。だがそれでもなんとかするしかあるまい。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

「俺のターン! 俺は手札から魔法カード『融合』を発動! 手札の『矮星竜 プラネター』とフィールドのブラック・マジシャンを融合! 来い、『呪符竜』! このカードの召喚に成功したとき、互いの墓地にある魔法カードを除外する! 除外したカード1枚につき、攻撃力は100ポイントアップする! 互いの墓地の魔法カードは使ったカードは19枚。そして、お前の手札抹殺で落とされたカードが1枚あって20枚。俺の墓地の融合を除いた19枚を除外。よって、攻撃力は1900上がる」

 

「な、何!?」

 

呪符竜 ATK2900/DEF2500→ATK4800/DEF2500

 

 神楽坂のライフは4500呪符竜だけでは削りきれない。ここは……

 

「『融合回収』を発動! 墓地の融合と矮星竜 プラネターを回収し、『死者蘇生』を発動! 墓地の『ブラック・マジシャン・ガール』を特殊召喚!」

 

ブラック・マジシャン・ガール ATK2000/DEF1700→ATK2300/DEF1700

 

『ふぅー、やっと帰ってこれた……あ! いいなぁお師匠様! マスター! 私も!』

 

「ああ、そのつもりだ! 融合を再度発動! 手札のプラネターとフィールドのブラック・マジシャン・ガールを融合! 来い、竜騎士ブラック・マジシャン・ガール!」

 

竜騎士ブラック・マジシャン・ガール ATK2600/DEF1700

 

 フィールドに並び立つティマイオスに乗った2人。その威圧感は凄まじいものだ。これでフィールド上の陣形はかなり厚くなった。

 

「竜騎士ブラック・マジシャン・ガールの効果発動! 手札1枚をコストに、相手の表側表示のカードを破壊する! 俺が破壊するのは混沌の黒魔術師だ!」

 

「ぐっ……!」

 

「バトル! 呪符竜でブラック・マジシャンを攻撃!」

 

「まだだ! 速攻魔法『マジカルシルクハット』! ブラック・マジシャンを4つのシルクハットに隠すぜ!」

 

 OCG版ではない、アニメ版のマジカルシルクハットか! たしか、ブラック・マジシャン、そしてガールがいれば発動できるうえ、罠までシルクハットの中に仕込むことが可能だったはず。しかも、あとから罠を伏せても隠せるカードのはず。しかも出たりするのも任意だったな。GX最終回でも未だに速攻魔法だったのを覚えている。

 

「呪符竜! 一番右のシルクハットだ!」

 

 俺の言葉と共に攻撃する呪符竜。しかし、外れ。そのままガールで追撃するも外れてしまった。だが、まだだ!

 

「永遠の魂の効果でブラック・マジシャンを蘇生! 左のシルクハットだ!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

 ブラック・マジシャンが破壊するも、そのシルクハットも外れ。そのままブラック・マジシャンが指を振って俺のことを煽っている。ちぃっ!

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

「俺のターン! 行くぜ、フィールド魔法『フュージョン・ゲート』発動! このカードがフィールドにある限り、手札、フィールドから素材となるカードをゲームから除外し、融合召喚を行う! 俺は手札のバスター・ブレイダーとブラック・マジシャンを除外! いでよ、『超魔導剣士-ブラック・パラディン』!」

 

フュージョン・ゲートだと!? 確かに、発売されていた遊戯デッキの中には入っていたのを覚えているが、まさかそのデッキにも入っているとは!

 

超魔導剣士-ブラック・パラディン ATK2900/DEF2400

 

「甘い! 竜騎士ブラック・マジシャン・ガールの効果発動! 手札1枚をコストに、ブラック・パラディンを破壊する!」

 

「読めていた! 罠カード『ブラック・イリュージョン』を発動! ブラック・パラディンはこのターン、破壊されず効果を受けない!」

 

 っ! 呪符竜とガールはドラゴン族! さらに、プラネターも墓地にある! それに、手札抹殺の時にもう1枚プラネターがある! つまり……

 

超魔導剣士-ブラック・パラディン ATK2900/DEF2400→ATK4900/DEF2400

 

「行くぜ、バトルフェイズ! この瞬間に速攻魔法『拡散する波動』を発動! ライフ1000をコストに、これでお前のモンスター全部に攻撃できるぜ! さらに、攻撃されるお前のモンスターは効果を発動できない!」

 

神楽坂 LP4500→LP3500

 

「いけ、ブラック・パラディン! 『超・魔・導 烈・波・斬』! これで俺の勝ちだぁ!」

 

「まだだ! 罠カード『マジシャンズ・プロテクション』! フィールドに魔法使い族がいる限り、俺が受けるダメージは半分になる!」

 

武藤秋人 LP2800→LP350

 

 破壊された順は竜騎士ブラック・マジシャン・ガール、ブラック・マジシャン、そして呪符竜。これにより、墓地に送られたことで呪符竜の効果が発動できる。

 

「メインフェイズ2に永遠の魂の効果を発動し、ブラック・マジシャンを特殊召喚する。さらに、リビングデッドの呼び声を発動し、ブラック・マジシャン・ガールを蘇生する」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

ブラック・マジシャン・ガール ATK2000/DEF1700

 

「ぐっ……これでターンエンド! だが、攻撃力4900のブラック・パラディンは超えられない!」

 

「さらに残る2枚の手札で魔法を封じている」

 

「その通りだ」

 

 確かにこの状況は厳しいな。2枚、魔法カードを使わせる必要がある。そのためには……あと1枚、神楽坂が使わざるを得ない魔法カードを引けなければ俺の負けか。

 

「いくぞ、俺のターン! ドロー……行くぞ、神楽坂。これがラストアタックだ」

 

「いいぜ! こい!」

 

「俺は永遠の魂の効果で『黒・魔・導』を加えて発動! ブラック・マジシャンがフィールドにいる時、相手の魔法罠ゾーンのカードを全て破壊する!」

 

「手札1枚をコストに、その魔法を無効にし、破壊する!」

 

 ブラック・マジシャンが黒・魔・導を発動しようとするも、ブラック・パラディンが何か呪文を唱えてそれを妨害する。

 

「さらに、『黒・爆・裂・破・魔・導』! ブラック・マジシャン、そしてブラック・マジシャン・ガールがいる時相手フィールドのカードすべてを破壊する!」

 

「手札1枚をコストに無効にする! 俺の手札はこれで0枚……秋人、お前の手札は1枚。その手札1枚ですべてが決まる」

 

「その通りだ神楽坂。これは俺のラストドローのカード……俺が引いたのは、このカードだ。魔法カード『黒魔術の継承』を発動する!」

 

「黒魔術の継承……?」

 

「墓地にある『黒・魔・導』と『黒・爆・裂・破・魔・導』……つまり、魔法カード2枚をゲームから除外して発動する。デッキから『ブラック・マジシャン』、または『ブラック・マジシャン・ガール』と名のついた魔法、罠カードを1枚手札に加えることが出来る。俺は『黒・魔・導・爆・裂・破』を加えて発動する。ブラック・マジシャン・ガールがフィールドにいる時、相手の表側のモンスターすべてを破壊する!」

 

 俺の言葉と共に、マナの杖から黒・魔・導・爆・裂・破が発動し、ブラック・パラディンがその光へと呑みこまれた。神楽坂の手札は0枚。そして、伏せカードもない

 

「バトル! ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールで攻撃!」

 

「……俺の、負けだ」

 

神楽坂 LP3500→LP0

 

 

 

「神楽坂」

 

 デュエルを終えた俺と十代はゆっくりと神楽坂へと歩み寄る。立ち尽くしていた神楽坂はそっとデュエルディスクにあったカードをまとめて俺へ差し出してきた。

 

「さすがは、武藤遊戯の従弟だな。俺の負けだ……俺にはこのデッキは荷が重すぎる」

 

「そんなことはないさ。後半の猛攻はお前も危なかった。もし、一歩間違えれば俺の負けだったかもしれない」

 

「そうだな! どっちが勝ってもおかしくない、最高のデュエルだったぜ! 神楽坂のデュエル!」

 

 俺の言葉に同調してか、十代がやや興奮気味にそう神楽坂にいう。その言葉に、驚いた様子の神楽坂。

 

「俺のデュエル……」

 

「ああ、お前のデュエルだ! あんな風にカードを扱えるなんてやっぱりすごい才能だぜ!」

 

「そのとおりだ」

 

 不意に、そんな声が聞こえてきた。振り向くと、そこには何人もの生徒たちがいた。その中にいた1人。言葉の主であるオベリスクブルーの生徒がゆっくりと歩いてくる。それは……

 

「カイザー……!?」

 

「お兄さん!?」

 

 そう、そこにいたのはカイザーこと、丸藤亮の姿だった。

 

「お兄さん、だけじゃない明日香さんや他のみんなも?」

 

「俺達も一足先に武藤遊戯のデッキを見に来ていたんだが、クロノス教諭がカードが盗まれたということで捜査に協力していたんだ」

 

 ざっと見るだけでも50人はいるだろうその生徒たち。お前ら全員寮から抜け出してきたのかよ。これ、よく他の先生に見つからなかったな

 

「最初、見つけたときは止めるつもりだったんだが、あまりにも止めるには惜しいデュエルだったのでな、みんなで観戦させてもらっていた」

 

 ポカンとしている神楽坂だが、突如拍手が起きる。

 

「良い物見せてもらったよ!」

 

「凄かったぞ! 2人共!」

 

「みんな……」

 

「確かに、人のデッキを勝手に持ち出したのは良く無いが・・・武藤 遊戯のデッキが戦うところを此処のみんなが見たかったのもまた事実」

 

亮は言いながら俺の手にある武藤遊戯のデッキを見つめる。

 

「武藤秋人の言うとおりだ。誰しも、そのデッキを使えばいいわけでも、その使い手になりきれればいいわけでもない。大切なのはどれだけそのデッキで、そのカードたちで勝ちたいと願うか、そしてそのカードを信じるかだ。後はお前次第だな……それと、武藤秋人、お前もまたいつか、デュエルしたいものだ」

 

 そういうと、カイザー亮はその場を後にする。それにつられて帰っていく他の生徒たち

 

「さて、と。俺達も帰ろうか。もう0時回ってる……」

 

「おう、そうだな!」

 

「あ、待ってくれ武藤!」

 

「ん?」

 

 帰ろうとする俺達だったが、そこで神楽坂が俺を呼び止める。その雰囲気は先程とは違う、武藤遊戯を真似たものではない穏やかなものだった。

 

「またデュエルしてくれ。今度は誰かを真似たものじゃない、俺のデッキと!」

 

「ああ、もちろんだ……誰かを演じるのなんて、俺だけでいいさ」

 

「……? 秋人何か言ったか?」

 

「いや、別に」

 

 首を傾げる十代だが、そっか! と流して神楽坂に視線を向ける。

 

「いいなぁ! 俺ともデュエルしようぜ神楽坂!」

 

「ああ、もちろんだ十代!」

 

 こうして、武藤遊戯のデッキ盗難事件は幕を閉じた。無事に武藤遊戯のデッキはクロノス先生のもとへ返還した。後日、その展覧会が開かれるわけだが、俺を含めた複数の生徒が響先生に見つかってしまい、反省文を書かされた。クロノス先生も給料を減額されたのは言うまでもない。ちなみに、雪乃とツァンは見つからず俺の部屋に戻っていたとか……解せぬ

 




リメイク前との変更点

黒いブラマジガールはいるのに普通のブラマジ?
なんつーか、黒いブラック・パラディンはおかしいかな、と

呪符竜、竜騎士ガールそろい踏み
ぶっちゃけ、この2枚がフィールドに並ぶと壮観です。プラネターは効果を使われないかわいそうな子……

神楽坂のドロー
宝札→魔法石の採掘→宝札→手札抹殺
混沌の黒魔術師→宝札回収 3回も使ってるがな

カイザーについて
実は秋人とはここが初対面

響先生につかまった?
あのクソ広い学園で当直が1人なのはおかしいかな、と

Next 33「恋する乙女」(前編)

人姫様 kiri坊様 couse268様 イナビカリ様 ヴァイロン様
交響魔人様 もうだめパオ様 bowblack様 万屋よっちゃん様

感想、ご意見、ご指摘ありがとうございました。また、よろしくお願いします

shinpu様 konndou様  airel様 龍音様 ザイン様 神代様
評価ありがとうございました。頂いた評価以上の小説を作れるように努力してまいります

引き続き、感想、評価お待ちしております


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33「恋する乙女」①

みなさん、お久しぶりです。(焼き土下座)
もう誰も覚えてないであろうが、こっそりと更新
早乙女レイ編になります
ちなみに、今回はデュエルないです(汗
あと、長い前書きを削除しました


 神楽坂とのデュエルから少しだけ時間が流れた。悪く言えば、流れてしまったと言わざるを得ない。この間も色々と情報を調べて回ったり、マリクからエジプト関連の資料をもらったりしているものの、これと言っていい成果は見られなかった。こればかりは、この世界での物語が進まなければ情報も得られない、と半分諦めてはいるものの、もどかしさは拭えなかった。さて、そんな話はさておき、現在俺はレッド寮で人を待っていた。その人物はこの寮の寮長である大徳寺先生だ。なんでも、頼みがある、ということだが……

 

「秋人君、待たせたにゃ~」

 

「いえ、特に待ってないですよ。暇でしたし」

 

 噂をすれば、とやらだ。そこには少し大きな荷物を持った大徳寺先生の姿があった。その後ろには、帽子を深く被ったオシリスレッドの生徒の姿があった。うちに、あんな生徒がいただろうか? と思考を巡らせていると、大徳寺先生が説明を始めた。

 

「実は秋人君に折り入って頼みがあってにゃあ。ここにいる子は早乙女レイ君と言って、来週から編入する子なんだけども、彼の面倒を見てあげたいんだにゃあ」

 

「……俺が、ですか?」

 

 早乙女レイ、という名前を聞いて俺は少し忘れていたこのGX時代の登場人物を思い出した。確か、カイザーこと丸藤亮に恋をしてアカデミアにやってきた小学生だったか。物語の中盤でまさかの飛び級からアカデミアに正式編入していたことを覚えている。むしろ、それ位しか覚えていないのが正直なところだが……

 

「そうなんだにゃ。彼、実力的にはラーイエロークラスだから少ししたらすぐ昇格する予定なんだけども、それまではオシリスレッドだから同じくラーイエロークラスの実力を持つ君に任せようと思うんだにゃー」

 

「それだったら、十代でもいいんじゃないすかね?」

 

「彼の部屋は3人部屋で満杯だからにゃあ。君の部屋は1人部屋だし、君“たち”になら、彼を任せられるからにゃあ」

 

 ……まあ、ばれているだろうなとは思ったが、ツァンと雪乃が部屋に滞在しているのは先生からすればわかりきった事実らしい。それ故に、俺に任せるということは先生もどうやら早乙女レイについては大まかに把握をしているようだ。まあ、あの人との繋がりを持っていることも含めてのようだが。

 

「はぁ……他には黙っていてくださいよ。今回の件は引き受けますから」

 

「むっふっふ、わかっているにゃあ」

 

 そう言って笑いながら大徳寺先生は仕事があると言ってその場を後にしていった。残った俺と早乙女。俺はちらりと早乙女を見る。この至近距離ならわかるが、女性もののシャンプーの匂いが匂っているのがよくわかる。

 

「よろしくな、武藤秋人だ」

 

「あ、えっと、早乙女レイです……いや、レイだ。よろしく、頼む」

 

「……とりあえず、部屋に行こうか」

 

「あ、ああ」

 

 こうして俺は早乙女を連れて部屋へと戻ることになる……戻るのは構わないのだが、大丈夫だろうか。主に、俺が。そんなことを考えながら歩いているとすぐに部屋についてしまう。俺は小さく1つため息を吐きながらもそのドアを開けた。

 

「ただいま」

 

「「おかえり」」

 

 部屋には当然ながら雪乃、そしてツァンの姿があった。雪乃は机にカードを並べてデッキの構築に勤しみ、ツァンはベッドの上に寝っころがりながら女性誌を読んでいる。当然ながら二人とも部屋着である。

 

「な、な、なぁ!?」

 

「……あー、気にするな。俺の同居人だ」

 

「だって、ここは男子寮じゃ……」

 

 慌てている早乙女を見て、藤原があら? と首を傾げる。

 

「秋人、そこのボウヤは誰? 見ない顔ね」

 

「ああ、こいつは早乙女レイ。来週から編入するらしい。それまで面倒を見てくれ、だと」

 

「ふぅん? 私は藤原雪乃、こっちはツァン・ディレよ。よろしく…………」

 

 そう言って近づく雪乃だが、早乙女の近くに来た時点で立ち止まり、俺を見た。

 

「ねえ秋人? 貴方、どうして“男装”した女の子を部屋に連れ込んでるのかしら?」

 

「なぁ!? ち、違う! わた、じゃなかった、ボクは男……」

 

「嘘おっしゃい。どこの世界にこんな女性もののシャンプーを使う高校生がいるの。これ、女性もののいい奴よね。私もよく愛用するわ……それ」

 

 言いながら雪乃が早乙女が被っていたその帽子を取り上げる。すると、そこからは綺麗な藍色の長い髪の毛が露わになった。

 

「あ、返して! ボクの帽子!」

 

「ふーん、女の子ね。どう見ても……で? 秋人、説明してくれる?」

 

 そう睨み付けてくるツァン。俺も理由は知っているものの、それはあくまでも原作を知る故のこと。

 

「俺も知らん。男装していたのはわかってたけどな」

 

「ええ!?」

 

「大徳寺先生から言われただろう。お前を任せると……大方、厄介ごとだとは思ってたよ」

 

「あの先生ね。私たちが部屋にいることをいいことに……ダシに使われたと。ま、仕方がないわね。下手に逆らって部屋に居られなくなるのも困るし」

 

 と、雪乃もやれやれとため息を吐く。そしてどうしたものかとオロオロする早乙女に、呆れた様子でツァンがため息を吐く。

 

「とりあえずボク達に説明してよ、君……なんで男装してこの学校に来たのかを」

 

 

 

 

 突如秋人が連れてきた男装した女の子、早乙女レイからボクたちは事情を聞くことにした。そして理由を聞けば驚き、彼女はなんと小学5年生らしい。丸藤亮ことカイザーに一目惚れをした彼女は彼に告白をすべく、書類をでっち上げてアカデミアの編入試験へと紛れ込んだのだという。彼女曰く、恋する乙女は強いのよ、だとか。今年は秋人曰く生徒の出来が悪いという話を聞いていたから、きっと補充要員として行った試験なんだろうけど、まさかそれに紛れるとは。そして結果的に合格した彼女はこのアカデミアにやってきたということらしいけど……

 

「呆れて物も言えん」

 

「うぅ……ごめんなさい」

 

 現在正座させらえているレイ。秋人の一通りの話を聞いた感想はこれだった。まあ、当然と言えば当然の反応だった。ただ、秋人はボクや雪乃が思っている以上に事態を深刻に受け止めている節がある。

 

「お前さ、この件は親の了承を得たのか? いや、してないよな?」

 

「はい……」

 

「親が警察に捜索願を出すかもしれない、とは考えなかったか?」

 

「え……」

 

 秋人の言葉にレイの表情がみるみると青くなっている。まあ、こんな大胆な行動を許す親なんているわけがない。書類偽装をして小学校から高校へ飛び級するなんて普通じゃありえない。そう考えれば確かに、この子は家出をしてきてしまったようなものだ。

 

「ちょっと待ってろ。確認する」

 

 そう言って秋人がスマホを取り出して誰かに電話をかけている。まあ、言わずもがな「あの人」のところだろうけど。

 

『この忙しい時期に何の用だ、武藤秋人』

 

「すみません、海馬社長……ちょっと、至急の報告と、調べてほしいことが出来たもので」

 

「かっ……!?」

 

「ほら、黙ってなさい」

 

 ボクは言いながら大声を上げようとしたレイの口を押え、抱き込む形で膝の上に乗せる。その小さな体はすっぽりとボクの膝の上に収まっていた。

 

「ええ、そうです。それで……はい、はい。やっぱりですか。はい、わかりました」

 

 そう短い会話ののち、通話を終了する秋人。その表情はやはりさっきと変わらず呆れた様子だった。

 

「どうだったかしら? 秋人」

 

「ああ、当然ながらすぐにでも運営にメスを入れるって。で、だ。早乙女……言ったとおりだ。お前の両親は警察に捜査願いを出している。それだけで済めば話は簡単だったんだが……」

 

「何か他にあるの?」

 

「どうやら、こいつの親族と、通っていた学校、地域の人間が総出でお前の事を捜索しているらしい」

 

 秋人の言葉に、え……と、声を漏らすレイ。まあ、ボクもそんなことだろうなとは思った。この子、見た目からしてかなり可愛いし、小学生でありその上女の子だ。親が必死になるのは分かりきったこと……ボクのパパも同じことするだろうなってくらい親バカだ。でもきっと、女の子の親というのはそういうものなんだとママが言っていたのを思い出す。

 

「要するに、お前の身勝手な行動がことを大きくして、今、現在進行形で色々な人に迷惑が掛かっているということだ」

 

「そ、そんな……」

 

「恋する乙女が強い? 確かに、お前のその根性と行動力は強いと言えるだろう。けどな、その行動によって生じるリスクのことをお前は考えたのか? お前の親は警察に「あの子が家出をするはずがない。何か事件に巻き込まれているかもしれない」と必死に訴えたそうだ。その言葉を信じて、学校の先生も、地域の人たちも協力してお前を探しているんだ。当然ながら、お前の今回の身勝手な行動は「恋する乙女が強い」が理由にはならないぞ」

 

 秋人の言葉に、とうとうグズグズと泣き出してしまった。それでも何かを言おうとしている秋人だけど、そこは雪乃がまあまあ、と止めに入った。

 

「秋人、落ち着きなさい。貴方の言葉は正論だけど、子どもにそこまで言っても理解してくれないわよ」

 

「理解してもらおうなんて思っちゃいないさ……だが、聞いたところ多くの人が此奴の捜索に参加しているらしい。学校じゃ先生だけじゃない、友達だって探しているらしい。それだけのことをしているという自覚は子供だからこそ持たせなきゃいけないだろ」

 

「そのとおりね……けど、見ての通り反省しているようだし、貴方は次の事に行動をお願いするわ。この子は私たちで見ておくから」

 

「はぁ……わかった、どうも女心ってのはわからなくてな。俺は大徳寺先生の所に行ってくる。その間にここの番号にかけろ。そいつの住んでる街の警察署に繋がるらしいから」

 

「了解」

 

 そう言って秋人は部屋を出て行った。ボクは電話を掛ける雪乃から視線を外して未だボクの膝でグズグズと泣いているレイを見る。ボクはやれやれとも思いながらその目の涙を拭きとってあげることにした。

 

「ほら、泣かないの。今、秋人はいないわ」

 

「ご、ごめん、なさい……」

 

「怖かった?」

 

「はい……」

 

 怒っている秋人を見たのは初めてだったかもしれない。そういえば、秋人には妹がいるとか。その影響なのかもしれないわね、秋人がこんなに怒っていたのは。ボクは頭を撫でて慰めながらレイと会話をすることにした。

 

「誤解しないでね」

 

「ふぇ?」

 

「秋人の事よ。さっきはあんなに怒ってたけど、普段は優しくて、とっても頼りになるの。今回の件だって、きっと秋人は分かってて貴女の事を受けたんだとボクは思う」

 

「どうして、ですか?」

 

 目を赤くしながらボクを見てくるレイ。ボクはそんなレイの頭を撫でながら秋人の言葉を思い出す。彼はこういった「男装していたのは分かっていた」と。つまり、すでにその時点で厄介ごとなのはわかっていたのだ。これがもし、仮に十代たちの所になればもっとややこしいことになっていたはずだ。アイツもアイツで色々とトラブルメーカーだし

 

「大徳寺先生に色々と脅かされた部分もあったけど……基本的に秋人は困ってる人には手を差し伸べるのよ。ボクもそうだった。ようするに、アンタも今回の件を反省しておけば秋人は優しく接してくれるわ。カイザーのことも、もしかしたら考えてくれるかもしれない。ま、アンタが今回の件で反省せず、こんなことを繰り返す悪ガキだったら容赦しないでしょうけど」

 

「も、もうしません!」

 

「ならよろしい。あとでもう一回秋人に謝ってごらんなさい。許してくれるから。そして、お父さんとお母さん、学校の先生と友達、親戚の人、地域の人、警察の人……いろんな人に謝るの。ちゃんと反省しているのならみんな許してくれると思うわ」

 

「は、はい……」

 

 ボクはそういって秋人が帰ってくるのを待つことにした。気づけば、レイは安心したのだろう、ボクの所にもたれ掛って眠ってしまっていた。ボクはやれやれとため息を吐きつつも優しく頭を撫でる。

 

「ふみゅ……」

 

 今更ながら、なんだろうこの可愛い生き物は。なんか、目覚めてはいけないものに目覚めちゃいそうな気がするわ。それにしても、実を言えば今回はレイを応援してあげたい、なんて思っていたりもした。

 

「頑張りなさい、恋する乙女」

 

 秋人の言い分は正しいし、理解している反面、こんな風にカイザーのことを一途に想い、気持ちを伝えたいと多くの無茶をしてこの学校までやってきた。という点は同じ女としては評価したい。ボクだって女であり、つい先日までは好きな人に想いを伝えたいと願う……言ってしまえばこの子と同じようなものだった。ボク自身、現在ではどうやってこの子の想いをカイザーに伝えることが出来るのかと考えている最中だ。

 

「やれやれね」

 

「そうね。あら? 寝ちゃったの?」

 

 電話を掛け終えたのであろう雪乃が言いながらボクの隣に座り、レイを見る。

 

「うん、きっと安心したんだと思う」

 

「そうね……無茶をしているんですもの。好きな人のためとはいえ、子供ながらによくやるわ。内容は秋人の言うとおり、反省すべきことが多いけど」

 

「で? どうだったの?」

 

「ええ、ご両親に連絡して、また電話をかけてくるそうよ。後は秋人を待ちましょう」

 

 なんだかんだで、ボクも雪乃もこの子についてはまた秋人がどうにかしてくれるのではないかと少なからず期待している。どうやら雪乃も思うところがあるようで、ボクと同じようにレイの頭を優しく撫でていた。秋人が戻ってきたのは、それから10分くらい後の事だった。

 




リメイク前との変更点

レイ、秋人に怒られる
 現実的にこんなことしたら普通怒られるじゃすまないなぁとか思いつつもこんな感じに

雪乃とツァンのレイへの対応
 同じく恥じらう恋する乙女。色々と思うところがあったのです

以下、感想と評価提供者紹介
Galcia様 Ranperu様 オルファンス様 カカン様 NOGAMI壱様 混沌の覇王様 シヒイシレアサ様 Hald様 enoch@一番いい装備様

感想、ご意見、ご指摘ありがとうございました。また、よろしくお願いします

ハル14号様 Kazuma@SB様 このよ様 マカビンビン様  koukouya様
評価ありがとうございました。頂いた評価以上の小説を作れるように努力してまいります

引き続き、感想、評価お待ちしております


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34「恋する乙女」②

お久しぶりです(2年越し
最早誰も覚えていないだろうというのに、遊戯王に復帰したし、20周年だしってことで復活しました。
最終投稿が2016年12月という……ユーザー誰も覚えてねぇだろうな、とか思いつつも、まあ、覚えている人がいたら読んでいただけると幸いです
リハビリとして書いているので、もしかしたら色々と酷いかもしれません。その時はご指摘のほどお願いします


今回はレイ視点

ではどうぞ


「ふぁ……うみゅ……6時……? ……そうだ、ボク、デュエルアカデミアに来たんだ」

 

 ボク、早乙女レイは丸藤亮様に会うために、年齢を偽ってデュエルアカデミアに転入してきた。転入したところまでは本当に簡単だったんだけど……同室になった男の人、秋人さんと、その彼女だという雪乃さん、そしてツァンさんに速攻でばれてしまった。そして、秋人さんにこっぴどく叱られ、その後テレビ電話でお父さんとお母さんにも泣かれながら叱られた。二人が泣いているのを見て、ボクも本当に悪いことをしてしまったんだと改めて思った。ひとしきり怒られた後、次の定期便で帰ること、それまでは秋人さんたちの所でお世話になることを秋人さんがお父さんたちと話していた。

 

「……? 何の音だろ」

 

 カタカタと何かを叩く音が聞こえていた。後は、ボクの隣で寝てくれたツァンさんの寝息の音だけ……ボクはその音が何かを探るべく、ベッドから下を覗きこんだ。音のする場所を見ると、机に向かった秋人さんがパソコンの画面を見ながらしきりにキーボードを叩き続けている姿があった。何をしているのかな……? 角度的に画面が見えない……。ボクは興味本位で二段ベッドの上から音を立てないようにゆっくり降りる。

 

「なんだ、もう起きたのか? まだ6時だぞ? 早乙女」

 

「ぴぃ!?」

 

 秋人さんがこちらを振り向かずにそう言ってきた。思わず変な声を出して驚いてしまったけど、秋人さんは振り向いて苦笑していた。

 

「おはよう。眠れなかったか? まあ、慣れない場所で寝ればそうなるか」

 

「お、おはよう、ございます……あの、今なんで……」

 

「…………梯子の音が聞こえていたぞ。あと、ツァンは寝起きが悪いからな。こんな時間には絶対に起きない。そうなると、起きるのは早乙女、お前だけだ」

 

 そう言いながら秋人さんは立ち上がると、ポットを手に取って、マグカップに温かいお茶を入れてくれた。

 

「ほら」

 

「あ、ありがとう、ございます……」

 

 受け取ってお茶を飲むと、まだ少し冷えていた体を温めてくれる。親切な秋人さんを見て、昨日の怒っていた秋人さんを忘れてしまいそうになる。そういえば、この人基本は優しい人ってツァンさんが言っていたっけ……

 

「あの、えっと……秋人、さん?」

 

「ん? なんだ」

 

「いや、こんな朝早くから何をしているのかなぁって……」

 

「……そうか、見られていたか。これはKCに送る新作のカードのリストだ」

 

 KCの、カードリストって……え、新作!? どういうこと!?

 

「俺はKCのカードテスターをしているんだ。送られてくるカードを吟味し、カードの強さ、コンボ性、他のカードとの兼ね合いをチェックしてバランスを見るってわけだ」

 

 そういえば、昨日電話で海馬社長って言っていたけど、その繋がりであんな大企業の社長と電話一本で繋がったのか……なんか、納得してしまった。

 

「他の連中には内緒だぞ? カードを盗まれなんかしたら大変だ」

 

「は、はい……」

 

「……んー、そうだな。ほれ」

 

 そう言って秋人さんは数枚のカードをボクに手渡してきた。見たことのないカードだけど……え、これってまさかその新作のカード!? 書いてあることが強すぎない!?

 

「近いうちに出るカードだが、かなりのレアカードだ。大切にしろよ」

 

「え、なんでボクにそれを……」

 

「口止め料だ。今の話、それをやるから友達やこの学校の連中には絶対言うなよ?」

 

 そう悪戯っぽく笑みを見せる秋人さん。その笑顔を見て不覚にもドキッとしてしまった。それにしても、そんなカードテスターを任されるなんて、この人は相当強いということなんだろうか……ボクはこの時そう思った。そして、それをすぐに思い知ることになる

 

 

 

 

 

 とりあえず、あれから時間は流れて放課後になった。高校生の授業に必死に食らいついたけど、中学校の勉強までしかしらない僕には全然わからなかった。英語と数学は難しすぎる……3人がフォローしてくれたから何とかなったけど……。それと、新たに友達、ということになった十代さんたちについては、ボクが女であることをツァンさんたちがフォローして隠してくれた。それで、これから三人と別れて亮様がいるというオベリスクブルーの学生寮へ行こうと思ったんだけど……

 

「俺とデュエルしろっ! ファンクラブの名に懸けて、貴様を倒す!!」

 

「……放課後早々それか。お前、この前の連中の1人だな?」

 

 1日の授業が終わってから、学校のロビーで秋人さんがオベリスクブルーの生徒に絡まれていた。でも、秋人さんは呆れた様子で、ボクの隣で遠巻きに見るツァンさんや雪乃さんも呆れた様子だ。

 

「えーっと、あれ、どうしたんですか?」

 

「うん? ああ、あれ? あれは……」

 

「私のファンよ。この前のツァンのファンのボウヤがいたけどね。私たちが秋人の恋人になってから、あんな風に度々デュエルを吹っかけてくるのよ……困った物ね」

 

 ……いや、うん、そりゃあんな一方的とはいえ秋人さんに雪乃さんたちがイチャつきに行けばファンは怒るよね。しかも、ナチュラルにしているけど他の生徒から見れば秋人さんは二股しているからね。場合によっては後ろから刺されるよ、秋人さん。

 

「ボクにファンなんているとは思わないわよ」

 

「あら? ツァンだって人気があるでしょうに……相変わらず無自覚ね」

 

「むぅ……」

 

 うん、それには同意する。雪乃さんは顔もスタイルも抜群だし、綺麗だから注目の的だろうけど、ツァンさんも雪乃さんと同じくらい顔もスタイルもいい、そしてかなりすごい……主に、胸が。それに、あの秋人さんとのやりとりを見る限り、確かにファンはいるだろうなぁ、とか思うボク。そんなことを話していると、近くにあるデュエル場へ上がっていくのが見えた。

 

「どうやら、デュエルで決着をつけるみたいね」

 

「また秋人が負けたら別れろだなんだと言われるんでしょうね……ま、秋人が負けるなんてボクは微塵も思ってないけど」

 

 そう言いながら二人もデュエル場の方へと歩いていく。本当はこの隙に亮様の所に行きたいんだけど……うーん、どうしよう。でも、秋人さんがそこまで強いっていうのも気になるし、もしかしたらボクの知らないカードを使うかもしれない……まだ時間はあるわけだし、ちょっとぐらいいいよね。

 

「覚悟しろ! 武藤秋人!」

 

「……はぁ、わかったから落ち着け」

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

武藤秋人 LP4000

オベリスクブルー生徒 LP4000

 

 

「先攻は頂くぞ! 貴様を倒し、雪乃さんの目を覚ましてみせる!」

 

「……もう、好きにしてくれ」

 

 オベリスクブルーの生徒からすごい気迫を感じる。秋人さんを倒すっていう執念が見えてくるようだ。ただ、対する秋人さんは完全に呆れている。一応、デュエルディスクは構えているけど……負けたら秋人さん大変なことになっちゃうのに

 

「大丈夫なんですか? あれ」

 

「もう十戦以上やっているからね、ファンクラブっていう人たちのデュエル。最初はすごい緊張感あったんだけど、みんな頭に血が上っているせいか、デュエルになんないのよ」

 

「しかも、デュエリストレベルが低すぎて秋人の相手にならない始末だからね。あれでボクたちと同じオベリスクブルーっていうんだから信じられないわ」

 

 ……あー、それは、なんというかご愁傷様です。というか、前情報で聞いていた話だけど、秋人さんオシリスレッドだよね? 相手オベリスクブルー……格上相手のはずなのに、大丈夫かな

 

「俺のターン! 俺はモンスターをセットし、カードを一枚セット! ターンエンドだ!」

 

 セットモンスターと、伏せカード。俗にいうT字セットだ。様子見? でも、何度もデュエルしているならそれはしないよね。

 

「俺のターン、ドロー。俺は手札から『トレード・イン』を発動する。レベル8のモンスターを墓地に送り、デッキからカードを二枚ドローできる。手札から『銀河眼の光子竜』を墓地に送り、カードを二枚ドロー。手札から『ワン・フォー・ワン』を発動、手札の『銀河騎士』を墓地に送り、デッキからレベル1のモンスターを特殊召喚する。現れろ、『銀河眼の雲篭』」

 

銀河眼の雲篭 ATK300/DEF250

 

 現れたのは……ちっちゃいドラゴン? キラキラした雲の上に乗っているみたいになっているような気もするから、クラウド(雲)とドラゴンを掛け合わせた名前なのかな? 見たことないカードだ……でも、あんな低いステータスのモンスターでいったい何を……

 

「銀河眼の雲篭の効果を発動する。このカードを生贄に捧げ、手札、墓地からこのカード以外の銀河眼と名のつくモンスターを特殊召喚できる。闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ! 光の化身、ここに降臨! 現れろ、『銀河眼の光子竜』!」

 

 秋人さんの言葉と共に、銀河眼の雲篭が光に包まれその姿を変える。現れたのはさっきより何倍も大きいドラゴンモンスターの姿。も、もしかして、さっきのモンスターはコレの幼体!?

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500

 

「なっ……青眼の白龍や古代の機械巨人と同じ攻撃力3000だと!?」

 

 な、なぁ!? 攻撃力3000って、あのオベリスクブルーの人の言うとおり、青眼の白龍と同じステータスじゃん! なんであんなカード持ってるの!? あれもテストカード!?

 

「バトル! 銀河眼の光子竜でセットモンスターを攻撃! 『破滅のフォトン・ストリーム』!」

 

「掛かったな! 罠カード『聖なるバリア -ミラーフォース-』を発動だ! 相手モンスターの攻撃宣言時、相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊! お前のエースは速攻で消えてもらう!」

 

「それはどうかな? 銀河眼の光子竜の効果発動! このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合バトルステップにその相手モンスター1体と、このカードをゲームから除外する!」

 

 銀河眼の光子竜が吼えると、その体が粒子となってその姿を消し、相手のセットカードも同じように消滅してしまった。確かに、ミラーフォースは回避できたけど、除外されちゃったら意味がないんじゃ……

 

「そして、バトルフェイズ終了時に両カードはフィールドに戻る。メインフェイズ2にカードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

「ぐっ……まさか、ミラーフォースを回避してくるとは……俺のターン! よし、俺はカードを2枚伏せてセットしていた『メタモルポット』を反転召喚する! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、新たに5枚をドロー!」

 

メタモルポット ATK700/DEF600

 

 メタモルポット? 手札交換をすることが出来るカードだけど、あの人手札5枚全部すてちゃったよ……手札が悪かったのかな? 一方の秋人さんはカードを伏せている分手札はなかったから、手札補充をさせちゃう形になるけど……

 

「さらに俺は、『光の護封剣』を発動! 3ターン、お前の攻撃を封じる!」

 

「……なるほど、銀河眼の光子竜の攻撃を防ぐつもりか。頭に血が上っていると思ったら、そういうわけでもないようだな」

 

「今までの奴と同じだと思っていると痛い目を見るぜ……カードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 

 確かに、攻撃力3000を超えるにはメタモルポットじゃ絶対に無理だもんね。守備に回るのは悪い手じゃない。

 

「俺のターンドロー! 俺は手札から魔法カード『フォトン・サンクチュアリ』を発動する。効果でフィールドに2体のフォトン・トークンを生み出す。このトークンが出たターンは光属性以外のモンスターの召喚、特殊召喚、反転召喚はできなくなる。俺はこの2体を生贄に捧げ、2体目の銀河眼の光子竜を特殊召喚!」

 

銀河眼の光子竜② ATK3000/DEF2500

 

 に、二体目ぇ!? ちょ、それ、ええ!? そんな強力なモンスター2体もデッキに……はっ、伝説の決闘者の海馬瀬人は青眼の白龍をデッキに3枚入れていたって聞いたことがあるけど、まさかあのデッキにもあのドラゴンは3枚入っているの!?

 

「あら、2体目が出てきたわね」

 

「前に3枚入っていたの見たけど、2体フィールドに並ぶのは初めて見たわ」

 

 周りが驚いている中、雪乃さんとツァンさんは平常運転だった。そりゃ同じ部屋でいればデッキを見る機会もあるのか。それとも、前に使われているの見ているのかな? どちらにしろ、今ツァンさんが3枚入っているって言っていたし、下手したら3枚目も出てきたりするかも……そうなったらあのオベリスクブルーの人、詰みじゃないかな……流石に

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

光の護封剣 1ターン経過

 

「くっ、2枚目だと……話が違うじゃないか……! 俺のターン、ドロー! 俺は手札から『強欲な壺』を発動し、カードを2枚ドロー! さらに、『手札断殺』を発動! 互いのプレイヤーはカードを2枚捨て、2枚ドローする!」

 

「……墓地肥やしか、もしくはエクゾか? 後者だとすると不味いな」

 

 ま、また手札交換!? 今、強欲な壺で引いたカードすら捨ててない!? あの人! いったい何を考えているの!?

 

「……もしかして、エクゾディアかしら? もしくは、墓地を肥やすことで出すカードか」

 

「その可能性はあるかも。だとしたら、なかなかに厄介ね」

 

 二人がそんな風に不安そうな声を漏らす。さっきまで余裕そうだった表情も、少しだけ焦っているような感じだ。エクゾディアって……あのエクゾディア? 確かに、特殊勝利であればあの高い攻撃力を持つ銀河眼の光子竜も意味を成さない。あのオベリスクブルーの人のターンが終わって2ターン目が終わる。秋人さんがエンド宣言をして初めて護封剣は消える……けど、次のターンまで余裕を与えてしまうのは不味いよね。それまでに除去系のカードを引ければいいんだけど……

 

「俺はモンスターをセットして、メタモルポッドを守備表示に! ターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー……! よし、これならいける。フィールドに『フォトン』モンスター、または『ギャラクシー』モンスターがいる時、フォトン・バニッシャーは自身の効果で特殊召喚できる。ただし、このカードは特殊召喚したターンは攻撃できない。さらに、『フォトン・クラッシャー』を通常召喚!」

 

フォトン・バニッシャー ATK2000/DEF0

 

フォトン・クラッシャー ATK2000/DEF0

 

 ……? フィールドにモンスターを増やしてどうするんだろう。サイクロンでも引いたのかな? でも、相手は伏せカードがあるわけだし

 

「俺はフォトン・バニッシャーとフォトン・クラッシャーでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 え、エクシーズ召喚? なにそれ。そう思っていると、2体のモンスターが光の玉となり、現れた渦の中に消えていき、爆発が起きる。

 

「現れ出でよ! 輝きの竜、『輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン』!」

 

輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン ATK1800/DEF2500

 

 現れたのはフィールドに出ている銀河眼の光子竜とどこか似ているモンスター……でも、その攻撃力は1800しかない。

 

「こ、これが噂に聞くエクシーズ召喚か……!」

 

「ああ、数年後にKCで新規カードの発表会があるからよろしく」

 

 さりげなく対戦相手や他の観戦者に宣伝してるけど、エクシーズ召喚ってなんだろう?

 

「えーと、雪乃さん?」

 

「エクシーズ召喚はレベルの同じモンスターを素材として重ねることで融合デッキ、近い内にエクストラデッキと改名するらしいけど、そこから出る特殊召喚モンスターよ。融合などの魔法を必要とせずに召喚できる代わりに、同じレベルのモンスターを揃えないといけないのが難しい所ね。ちなみに、エクシーズモンスターはレベルではなくランクという名称が与えられるわ」

 

 ほえぇー……そんな特別な召喚方法があるなんて。やっぱり秋人さんってとんでもない人なんだなぁ……

 

「このカードはエクシーズ召喚に成功したとき、手札から『フォトン』モンスターを特殊召喚できる。3枚目の銀河眼の光子竜を特殊召喚!」

 

銀河眼の光子竜③ ATK3000/DEF2500

 

 ……最早言葉も出ない。3体目が出てきたけど、これすごいね。フィールドの威圧感半端ないよ。フィールドには4体のドラゴンモンスターって。周りの人もみんなビビってるもん。ボクも結構怖いです。

 

「さ、3体目……だがあと2ターン攻撃はできない!」

 

「ああ、そうだな。確かにこの場合はそうだ。だが、これならどうかな? 3体の銀河眼の光子竜でオーバーレイ! 3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 逆巻く銀河よ、今こそ、怒涛の光となりて姿を現すがいい! 降臨せよ、『超銀河眼の光子竜』!!」

 

超銀河眼の光子竜 ATK4500/DEF3000

 

 圧巻。この一言に尽きると思う。フィールドに舞い降りたのは三つ首の銀河眼の光子竜。あの伝説のカード、青眼の究極竜に似たそのカードはさっきの銀河眼の光子竜以上のプレッシャーを放っていた。

 

「攻撃力4500!? だ、だが、まだ光の護封剣が「超銀河眼の光子竜の効果発動! このカードがエクシーズ召喚に成功したとき、このカード以外のフィールドで表側表示で存在するカードの効果を無効にする!『フォトン・ハウリング』!」な、なんだって!?」

 

 超銀河眼の光子竜の咆哮と共に、光の護封剣の輝きが失われ、そのまま静かに消えてしまった。それによって解き放たれたドラゴンたちが咆哮を上げる。

 

「さらに、伏せていた『永遠なる銀河』を発動! 自分フィールドのフォトン、またはギャラクシーと名のつくモンスターが存在する場合、フィールドのエクシーズモンスター1体を選択して発動できる! 俺は『輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン』を対象に発動! このカードのランクより4つ高い「フォトン」、または「エクシーズ」モンスター1体を対象モンスターの上に重ね、エクシーズ召喚扱いとして特殊召喚できる! 俺は輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴンでオーバーレイネットワークを再構築! 現れろ! 銀河究極龍No.62! 宇宙にさまよう光と闇。その狭間に眠りし哀しきドラゴン達よ。その力を集わせ真実の扉を開け! 『銀河眼の光子竜皇』!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK4000/DEF3000

 

 ま、また攻撃力4000超えのモンスター!? 相手に伏せカードがあるとはいえ、どう見てもオーバーキル領域だよ。

 

「魔法カード『エクシーズ・ギフト』発動。フィールドに2体以上エクシーズモンスターがいる時、オーバーレイユニットを2つ取り除くことでカードを2枚ドロー。魔法カード『死者蘇生』を発動し、さっきエクシーズ・ギフトの効果で墓地に送った銀河眼の光子竜を特殊召喚。さらに魔法カード『銀河遠征』を発動。フィールドにフォトン、またはギャラクシーがいる時デッキからレベル5以上のモンスターを守備表示で特殊召喚できる。銀河騎士を特殊召喚」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500

 

銀河騎士    ATK2800/DEF2600

 

 またもフィールドに並ぶモンスターたち。というか、レベル8のモンスターがまた出たってことは……

 

「銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! 闇に輝く銀河よ。復讐の鬼神に宿りて、我がしもべとなれ! エクシーズ召喚! 降臨せよ!『銀河眼の光波竜』!」

 

銀河眼の光波竜 ATK3000/DEF2500

 

「銀河眼の光波竜の効果発動。1ターンに1度、オーバーレイユニットを使い、相手フィールドの表側表示のモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。メタモルポッドのコントロールを得る。そして、このターン、メタモルポッドの攻撃力は3000となり、銀河眼の光波竜として扱われる」

 

 秋人さんの言葉と共に、守備表示のメタモルポッドは姿を変えて銀河眼の光波竜となった。フィールドには5体のドラゴン、しかもすべてが攻撃力3000を超えたモンスター……相手にはまだ伏せカードがあるから何とかなるかもしれないけど、これは怖い。というか、まだメインフェイズ1なんだよね。

 

「メタモルポッドを攻撃表示に変更してバトルフェイズに入る。銀河眼の光波竜となったメタモルポッドでセットモンスターを攻撃!」

 

「かかったな! 罠カード発動!『魔法の筒』! 攻撃を無効にしてその攻撃力分のダメージを「それに対して罠発動『トラップ・スタン』このターン、このカード以外のフィールドの罠カードの効果は無効化される」なぁ!?」

 

 罠は無効となり、攻撃が発射された。セットされていたカードはキラー・トマト。リクルーターだった。墓地を肥やすにはもってこいのカードだけど、あのカードって確か破壊されて次に出すカードは攻撃表示で出さないといけないよね? もう何を出しても詰みなんじゃ……

 

「お、俺はキラー・トマトを特殊召喚する!」

 

「……銀河眼の光子竜皇で攻撃。ダメージ計算時に効果発動。オーバーレイユニットを1つ使い、このカードの攻撃力をフィールドのエクシーズモンスターのランク×200ポイントアップする」

 

 ……はい? ランク×200って、もちろん自身にもだよね? そうなると、銀河眼の光子竜皇のランクが8。超銀河眼の光子竜のランクも8。銀河眼の光波竜のランクも8……つまり、ランクの合計は24だよね。つまり、攻撃力4800アップ……攻撃力、8800!?

 

銀河眼の光子竜皇 ATK4000/DEF3000→ATK8800/DEF3000

 

「いけ、銀河眼の光子竜皇! エタニティ・フォトン・ストリーム!」

 

「う、うわああああああっ!」

 

オベリスクブルー生徒 LP4000→LP0

 

 ……言葉も出ないよ。明らかなオーバーキルだもの。相手は守りをかためていたはずなのに、全部潰されてこれでしょ? 相手は結局なにもできなかったわけだし。前に亮様がパワーボンドで攻撃力8000のサイバー・エンド・ドラゴンを出したのは見たことがあるけど、あれは1体だけ。でも秋人さんは攻撃力8800のドラゴンの他にもメタモルポッドを含めて3体の攻撃力3000以上のカードがあった。うん、これは酷い。

 

「お、覚えてろぉぉぉ!」

 

「二度と来るな」

 

 捨て台詞を吐き、泣きながらデュエルフィールドを後にするオベリスクブルーの生徒。ギャラリーもいつの間にか増えており、アリーナいっぱいに人が集まっていた。周囲では、やっぱりあのオシリスレッドはおかしい、とか、強すぎる、とか、なんであいつや遊城十代はレッドなんだ、とか話している。それにしても、これだけ人がいるならオベリスクブルーの寮もきっと人がいないよね。よし、なら今のうちに亮様の部屋に行ってみよう! ボクはツァンさんや雪乃さんたちが秋人さんと話しているスキを見てこっそりとアリーナを後にするのだった。

 

 

 

 ……この後、十代さんに侵入したのを見つかり、女であることがバレた挙句、帰ってくるのが遅すぎるとツァンさんたちにこっぴどく叱られた。グスン

 




改めまして、皆様お久しぶりです。
遊戯王への復帰、また遊戯王20周年ということで久しぶりに戻ってまいりました。読者の方からもどうしたのかと心配されることも多々あり、申し訳なく思います。

 理由としましては、まあ、ぶっちゃけモチベーションの低下が原因です。
評価にて「主人公に感情移入できない」とか「魅力が感じられないし、恋愛要素がつまらん」とか「決闘描写に赴きがない。淡々とデュエルのリプレイを文面に起こしているだけ」と言われて0とか1とかの評価を貰い、小説の今まで書いた分を全否定されてやる気がなくなると同時に、マスタールール4の改定で一気にやる気がなくなってしまいました。
 一つだけ言わせてほしい、デュエルのリプレイを書く以外に遊戯王の小説ってどうすればいいんだよ、と

 評価については多くの人に見られている以上、色んな人がいるので仕方ないとも思っていますが、感情移入できるようにするのとか、魅力ってどう出せばいいんだ、と悩んでしまった挙句、投稿するたびに低評価が飛んでくるのでは?とガクブルになって投稿する勇気が持てませんでした……
本当に申し訳ありません。ただまあ、それでも面白い、続きが気になる等のコメントもいただけているので、引き続き頑張ろうと思います

復帰の理由に関しましては、遊戯王20周年ということや、最近ニコニコ動画の架空デュエル(主に幻想入りシリーズ)等を見てまたやってみるかと遊戯王に復帰しました
最近はヴァンガード(新ルール)にも復帰したんですけどね

まあ、そんなこんなで復活しつつ活動報告でも言っていたFate/Grand Oderとロックマンゼロのクロスオーバーなんかの小説もちょこちょこと書いているのが現状です。

最後に、色々な方からの叱咤激励、心配の声などを頂き、まだ私も小説を書いていいのか、と嬉しくなりました。
今後ともスローペースになるとは思いますが、これからもこの小説を宜しくお願いいたします

リメイク前との変更点

デュエルモンスターズのカードテスター?
この世界にないカードを持っている理由の偽装

雪乃とツァンのファンクラブ
雪乃は女優目指している以上子役とかの経験もあるだろうし、容姿がいいのでいるかな、と。ツァンとかも……というか、TFのモブは魅力がありすぎる

VS雪乃のファン
やった時はシンクロデッキでした。今回は銀河眼
新カードなども使いたかったので

相手のデッキ
本当は次のターンでワイトキングが出てくる予定でした




読み専太郎様 YUI(^°ω°^)様 萃蓮様 赤鉄様  ケイク様 混沌の覇王様 霧玖様 ハヤテ_s.t様 熨斗付けた紅白蛇様 オカタヌキ様 武御雷参型様 ゼアム様 無類様 ヌネス様 無意識牡鹿様 とある落とし神様 NOGAMI壱様 いっちーmark523様 
感想・ご指摘ありがとうございました。またの感想やご指摘、また宜しければ小説評価などもお待ちしております


虎は何故強いと思う元々強いからよ様、ヌネス様、きゆみお様、キンカン様、rikuo様、テレビス様、残念無念で不書感想様、評価ありがとうございました。頂いた評価以上に頑張れるように努力してまいります

引き続き、感想、ご指摘、評価をお待ちしております
今後ともよろしくお願いいたします

NEXT「恋する乙女③」


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35「恋する乙女」③

次回は2年後だと思った? 翌 日 だ

いや、なんか皆さんから思った以上に反響があってまさかこんなに待っていてくれる人がいらっしゃるとは思わなかったもので……

とはいっても、今回もリメイク場面を弄っただけだったから簡単にできただけで、デュエルシーンは次回なんですけどね!
恋愛要素、つまらんとか蛇足だと言われても一応やめるつもりはないです

では、どうぞ


 

「で、俺に相談っていうのは……?」

 

「ごめんなさい」

 

 部屋に戻ってきたレイだが、帰ってきたのが夕食の時間ぎりぎり。しかも、それまで一切連絡が無く、ツァンが怒っていた。心配しているがゆえに叱っているので、まあ、俺も雪乃も止めなかったが、ああやって見ると仲のいい姉妹にも見える。さて、雪乃とツァンがオベリスクブルーの大浴場の方に行っている間、レイは俺に相談があると言ってきた。しかし、相談について聞いた途端ものすごく綺麗な土下座をされてしまった。これじゃあなんか俺がまた怒っているみたいなんだが……

 

「落ち着け。で、頭を上げろ。どうしたんだいったい?」

 

「えっと、実は……」

 

 レイの話を聞いたところ、まあ俺の覚えている原作通りカイザーの部屋に侵入して髪留めを入れて自分がここにきていることを知ってもらおうとしたところ、十代に侵入がばれて注意され、慌てて逃げたら帽子が取れて女だとバレてしまった、と。

『レイさんってカイザーさんと知り合いだったんですね』

 

「(……みたいだな)」

 

 ミラの言うとおり、どうやら昔本島にカイザーがいたころ、カイザーと会話はしているようだ。そりゃカイザーもレイが小学生だって知っているわな。さて、どうしたものかと考えていると、部屋をノックする音が聞こえる。

 

「はい?」

 

「秋人、いるかー?」

 

 声の主は十代だった。十代の声を聞いた瞬間にビクッと肩を上げるレイ。仕方がない、レイの事情を話してしまった方が早そうだ。そう思って立ち上がろうとすると、レイが俺の服を引っ張り、涙目になりながら首を振る。おい、その捨てられている子犬みたいな目をやめろ……はぁ

 

「わかったよ。レイ、トイレに隠れていろ」

 

「……はい」

 

 レイがトイレに隠れたのを確認すると、俺は返事をしてドアを開ける。

 

「よっ! 夜に悪いな」

 

「どうかしたのか? 十代」

 

「ああ、レイはいるか?」

 

 まあ、十中八九そうなるよな。レイについてはオシリスレッドである以上男だと思っていたのだ。なのに、実は女でしたっていうのは不味いよな。

 

「いや、今はまだ用事で帰ってきてない。レイがどうかしたのか?」

 

「そっか、まだ帰ってきてなかったのか……どうしたもんかな」

 

 そう言って考え込む十代。まあ、どうして男装してカイザーの部屋に侵入したのかというのが気になるのだろう。そんな会話をしていると、そこへ雪乃とツァンが戻ってきた。

 

「あら、十代のボウヤ。どうしたの?」

 

「お? 雪乃とツァン。よっす。いや、ちょっとな。レイに用があってさ」

 

 それを聞いた雪乃が俺を見る。俺も十代に見えないように小さく頷いて見せると、口を緩ませる。

 

「……ふぅん? ボウヤ。もう今日は遅いし明日にしたら? レイもまだ出たまま帰ってきてないみたいだし。そもそも、響先生に居眠りがばれたペナルティ終わったの?」

 

「ゲッ、そうだった……」

 

「終わらせないと先生に怒られるわよ?」

 

 頭を抱える十代はその後「また明日くるぜ!」と部屋へと戻っていった。二人を部屋に入れてドアを閉めると、トイレに隠れているレイを呼ぶ。

 

「レイ、もういいぞ」

 

「は、はい……」

 

「ばれちゃったのね?」

 

「うぅ……」

 

 俺が改めてレイがどうして遅く帰ってきたのかの理由を二人に説明する。二人はため息を吐いて呆れた様子である。しかし、雪乃は何かを考えた様子を見せながらPDAを手に取って連絡を取る。

 

『はい? 雪乃じゃない。どうしたの?』

 

「夜に悪いわね、明日香。今大丈夫? というか、今どこ?」

 

『ええ、大丈夫よ。今は灯台にいるけど……』

 

「なるほど、ちょうどいいわ。そこにカイザーがいるでしょ」

 

「カッ……!?」

 

 レイが声を出してしまいそうになるところをツァンが口を塞いで止める。そんなレイ見ながらも、雪乃は会話を続けた。というか、なんで雪乃は明日香がカイザーと灯台にいることを知っているんだ。

 

『え、ええ、今日もちょっとお互いに兄さんの事でね』

 

「そう。まあ、それはさておき、カイザーに会わせたい子がいるのよ。カイザーにそこにいてもらってもいいかしら?」

 

『ですって、亮……そう、わかったわ。了解ですって』

 

「なら、30分後にそちらへ行くわ」

 

 そう言って雪乃はPDAの電源を落した。なるほど、まどろっこしいから直接アタックさせようというわけか。

 

「お膳立てはしてあげたわ。後はレイ、貴女が頑張らないとね」

 

「ゆ、雪乃さん!?」

 

「アンタの目的でしょ? 髪留めはきっとカイザーが持ってるわ。ボクたちも一緒に行ってあげるから、ここまで来たら覚悟決めなさい」

 

 そう言ってツァンはレイの髪の毛を櫛でとき、自分の使っている化粧をほんの少しだけ、薄く塗ってやる。ツァンなりの、おまじないのような物らしい。まだ、小学生に化粧は早いとも思うが、それでも少しでも大人びて見えるようにするのが目的のようだ。二人はレイの恋を応援しているようで、レイの事についてもどうにか面倒を見れないかと頼んできていた。

 

「後はまつ毛も少しいじりましょう……いいわ、とっても綺麗よ、レイ」

 

「え、えへへ……ありがとうございます、ツァンさん、雪乃さん」

 

 可愛い、ではなく綺麗。そう雪乃はレイを褒める。それは少女ではなく一人の女として魅力があると雪乃がレイを評価したのだ。レイもその言葉に少し少女っぽく戻って笑顔を見せるが、それでも彼女は二人の手を借りて一歩踏み出そうとしている。こうして時間は過ぎ、約束の場所、灯台へと歩き始めるのであった。

 

 

 

 

 灯台部、と言われるほど明日香とカイザーはここにいることが多い。前の世界のネット上ではよくアニメ内で登場することからこれが部活なのでは? とも話がでたほど二人はここに来ることが多い。灯台に着くと、そこには約束通りカイザーこと丸藤亮と明日香が待っていた。事情を知らない明日香は首を傾げているが、レイを見たカイザーは少し驚いた様子だ。

 

「君は……」

 

「お久しぶりです、亮様」

 

「そうか、この髪留めはやはり君のか……」

 

 どうやら、カイザーもレイの事は覚えていたらしい。この辺はアニメ通りなわけだが……

 

「あ、あの! 亮様!」

 

「う、うむ、なんだ?」

 

「わ、わ……私! 亮様に会うためにこのアカデミアに来たの!」

 

 一歩踏み出し、レイはそう切り出した。顔を赤くし、そう告げる。明日香はカイザーの後ろで驚いた様子だ。レイの雰囲気で察したのだろう。レイが単なるファンなどではなく、カイザーに恋をしている乙女であるということを。

 

「私、亮様が好きです! その髪留めは、私の宝物。本当はずっと亮様といたいけど、私は来週の便で帰ることになっていて……だから、どうかその髪留めを、私だと思って受け取ってください!」

 

 そうレイがカイザー、丸藤亮に告白する。そのレイの言葉に思わず少し驚いてしまった。小学生ながら、これだけの言葉を言えるとは……雪乃たちの告白を聞いた時もそうだが、俺にはとてもではないができそうにない。それだけ、彼女たちは勇気をもって相手に自分の気持ちを伝えているのだ。さて、カイザーの返答は……

 

「……レイ、お前の気持ちは嬉しい。だが、今の俺にはデュエルが全てだ。お前の気持ちには答えることが出来ない。俺の事は忘れて、故郷に帰るといい」

 

 そう言ってカイザーはレイに髪留めを返すと、そのまま翻してその場を立ち去ろうとする。レイはショックを受けその場でボロボロと泣き始めてしまった。アニメでは落ち込むことはあったがここまで泣くことはあっただろうか? そう思っていると、俺の後ろから突如として凄まじい殺気を感じ取った。

 

「待ちなさいよ、カイザー」

 

 

 

 

 雪乃から突然PDAに連絡が会ったかと思えば、亮に会わせたい子がいるということで待つこと30分。そこに現れたのは今日知り合った転入生の早乙女レイ君……いや、レイちゃんだった。女の子だったのね……まあ、雰囲気的にも女の子という感じがしていたけど。そして、レイちゃんが亮に告白する。亮が好き、か……彼女の告白。しかし、亮はそれを断ってしまった。

 

「……レイ、お前の気持ちは嬉しい。だが、今の俺にはデュエルが全てだ。お前の気持ちには答えることが出来ない。俺の事は忘れて、故郷に帰るといい」

 

 まあ、そうなってしまうわよね。プロデュエリストを目指している亮は卒業前にプロ試験を受ける予定。合格するためにも今はその腕を磨いている最中。恋愛をしている暇はないに等しい……手に持っていた髪留めをレイちゃんに握らせてその場を後にしようとする亮。私も、そろそろ帰ろうかしら? そう思った途端、とてつもない寒気が襲った。涙を流すレイちゃん。その後ろにいた秋人……ではない、これは雪乃とツァン? その表情から、一目で彼女たちが怒っているというのがわかる。

 

「待ちなさいよ、カイザー」

 

 そう、ツァンが亮を引き留める。

 

「なんだ?」

 

「……アンタには言いたいことがあるわ。けど、その前に秋人、レイに胸を貸してあげて」

 

「あ、ああ、わかった」

 

 怒りを露わにするツァンに、恋人である秋人も少しタジタジになりながら泣いているレイを抱き上げ、胸を貸す。レイちゃんは体を震わせながら秋人にしがみついて泣き始めた。

 

「……さて、随分とまあレイにデリカシーのない言葉を並べてくれたわね」

 

「何の、話だ?」

 

 こ、怖い! ツァンの背中にオーラが見えているのではないかという幻覚を覚えるほどに、今のツァンは怖かった。隣で怒った様子の雪乃も怖いけど、ツァンの怒り方は尋常じゃないくらい怖い。

 

「真剣に、貴方に告白した女の子に対しての返事なのかって言ってんの」

 

「『気持ちは嬉しい』と言っておきながら『今の俺にはデュエルが全て』なんておかしいと思わない? 私たちにはレイの事なんか微塵にも興味がないっていう意味に聞こえたわ」

 

「そういう意味ではない!」

 

 雪乃の言葉に、否定する亮だけど確かに、そういう捉われ方をしてもおかしくはない。ましてや相手はまだ子供だ。そんなレイが勇気を出した告白をしたのだ。もう少し、断り方というものがあったようにも思える。

 

「ならどういう意味だっての? そう言う意味でないならこの言葉は出ない。それともレイが小学生だから? 子供だからちゃんと女性として扱う必要がないとでも思っているの?」

 

 ツァンの言葉に、とうとう黙ってしまう亮。あの二人の怒っている様子を見るに、きっとレイちゃんの事情を知ってレイちゃんに協力をしていたんだと思う。そんなレイちゃんの恋が実らなかった……おそらく、その結果よりも亮のその態度に二人は怒っている。二人がさらに何かを言おうとするけど、それは叶わなかった。

 

「雪乃、ツァン」

 

「……秋人?」

 

 二人を止めたのはレイを慰めていた秋人だった。秋人はそれ以上言うのはダメだ、と首を振る。まだ涙は止まっていないが、少しだけ落ち着いたのだろう、レイちゃんが顔を背けて秋人の服を強く掴んでいた。レイちゃんがもういいと秋人に言ったのかしら。

 

「今日の所は、レイに免じてもう何も言わないわ。でも、覚えておきなさい……私たちは貴方の今日の発言は絶対に忘れない」

 

「……すまない」

 

 それは誰に対しての謝罪だったのか、それはわからない。だけど、亮はそう一言だけ言って灯台を後にしていった。

 

「はぁ、疲れたわ。というか、二人とも怖すぎよ」

 

「悪いわね明日香、貴女も巻き込んだみたいになっちゃって……でも、はっきり言って今回のカイザーの言動にはカチンときちゃってね」

 

「まったくね。いくら学園最強だからって女の子にあの言い方はないわ。忘れて故郷に帰れって、何様のつもりよ」

 

 ……今回、前に十代に炸裂したあのパンチが亮に当たらなくてよかったと少しほっとしたわ。ツァン、秋人が止めなかったら多分殴っていたわね。

 

「さて、私も戻るわ」

 

「明日香、アンタも気を付けなさいよ。ああいうのは感染しちゃうから」

 

「貴女も女を磨かないと……いつかデュエル馬鹿になっちゃうわよ?」

 

「なっ……わ、私だって気になる人ぐらい」

 

 言ってから私はすぐに後悔した。雪乃の表情がこれとないくらい笑顔になっていたからだ。し、しまった、咄嗟に変なことを……!

 

「へぇ? 気になるわね……じっくりその辺のこと「わ、私も戻るわ! じゃあね、雪乃、ツァン、秋人、レイちゃん!」

 

私も灯台から走ってその場を離脱する。これ以上雪乃といると、本当に根掘り葉掘り聞かれてしまいそうだ。でも、去り際の最後に雪乃から「自分の恋に気が付きなさい」と言われた気がした。私の、恋? 咄嗟に口にだしちゃったけど、私が気になる男性って誰かいたかしら? 兄さん? 亮? うーん、なんか違うわね。

 

『ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!』

 

「っ……!?」

 

 な、なんで十代の顔が浮かんだのかしら……

 

 

 

 

 

 カイザー、そして明日香が去った灯台。残ったのは俺達四人だけだ。今にも殴りそうだったツァンだが、レイが俺の服を引っ張りながら目でやめさせてくれと訴えていたので、二人を何とか止めた。レイはカイザーがいなくなったからか、またその手に髪留めを握りしめてグズグズと泣き始めてしまった。ハンカチは貸しているが、すでにレイの涙で俺の制服は濡れていた。

 

「レイ、よく頑張ったわ」

 

「ツァン、さん」

 

「アンタの恋は実らなかったけど、でも、アンタは勇気を出してカイザーに告白した。それが一番立派なことよ」

 

 そんな泣き続けるレイの頭を、ツァンが優しく撫でる。すると、またレイはクシャリと顔を歪ませ、涙を流した。せっかくツァン達がかけてあげた魔法はもうすっかり落ちてしまっていた。

 

「でも、でも、ボ、ボク、ヒック、せっかく、ツァンさんたち、が、エッグ、協力してくれたのに……! ダメで……!」

 

「いいのよ、そんなこと気にしなくて。貴女は頑張った。勇気をだして一歩前に出たじゃない。貴女の勇気は、私たち3人がしっかり見ていたわ」

 

「ああ、レイは頑張った。立派だったよ」

 

 雪乃の言葉にツァンも笑顔で頷き、俺もそうレイに語りかける。

 

「だから、もう部屋に戻りましょう。明日はお休みだから、ゆっくりしましょうね」

 

 こうして俺達も灯台を後にして部屋へと戻るわけだが、その途中泣き疲れてしまったのか、レイは俺の腕の中でそのまま眠ってしまっていた。ガッチリと手が服を掴んでおり、放すことが出来ない。部屋についてベッドに入って寝るだけのはずが、どうしたものだろうか……

 

「秋人、今日はそのまま寝てあげなさい」

 

「えぇ……」

 

「今日ぐらい、私たちも自分のベッドで寝るから。レイをよろしくね……特別よ?」

 

 そういってツァンがベッドに上っていき、雪乃もおやすみ、と告げてベッドに入っていった。未だに俺の制服から手を離さず、可愛い寝息を立てて眠るレイ。確かに、起こすのも可哀想だ。俺は観念してレイを抱っこしたままベッドへ入り、掛布団をかけて眠りにつくのだった。

 




こんにちは、先日友人とのデュエルでカオスMAXをDNA改造手術で機械族にされた挙句、リミッター解除で16000の貫通ダメージで殺された秋風です

久しぶりの更新で反響があまりにも大きく、驚いております。ただ、その前にですね……

すみませんでした(土下座)

 いや、なんかね、前回の愚痴について色々とコメントを貰ってからこんな光景を大昔に見たな、とか思い出して悶えてました。他ユーザーに対しての文句とか何様なんだ自分は……

 愚痴るくらいなら小説を書けという。当然ながら今回の投稿で新たに頂いた評価でも「魅力がない」だなんだと言われましたが、結局人にとって作品に魅力を感じるのは各々個人の判断なわけで……あ、この人には魅力を感じてもらえなかったんだな、と割り切ればよかったのに、気にして文句を書くという愚行を犯してしまいました。こういうことは活動報告でやれと(ry
 
 コメントでも趣味なのだから人の目は気にせず書いて欲しい、私は待っていたなど頂きました。本当に嬉しかったです。ありがとうございます。
故に、これからはできるだけ早めに進めながら、完結できるように持っていきたいと思います。

複数の方から、今後の展開やデッキの提案もいだたきました。誠にありがとうございます。一応、今後の展開はオリジナル要素が少し多くなっていき、魅力というものも出てくるのではないかと思っています。

今回は連休だったので連投でしたが、次はどうなることだろう。職場でこっそり続きを書いてみようか……とか思ってます。
スローペースですが、次回もどうか宜しくお願いいたします
ではまたノシ


リメイク前との変更点

レイ、告白大作戦
ツァンと雪乃の手伝いを少し強調。お化粧などでメイクアップ
雪乃あたりはその辺のノウハウありそう

亮、告白を断る
セリフ回しをちょっと変更。ぶっちゃけプロを控えた受験生に恋はキッツイだろうなと

ツァン、キレる
リメイク前では雪乃のみでしたが、今回はツァンもです。カイザーファンには申し訳ない

実はリメイク前部分を端折って合体している
34話と35話を合体させてます

感想、評価をくださった皆様
神代様 blackfenix様 無意識牡鹿様 ゼアム様 マルク マーク様 読み イクト様 ヌネス様 DJryou様 チャソ様 読み専太郎様 萃蓮様 熊怠惰様 シユウ0514様 天導 優様 赤鉄様 Dante11様 コジマ汚染患者様 奈落論様 タニソウⅡ様 ノウレッジ様 AREN10世様 ガンマレイ様
感想、ご指摘ありがとうございました。
これからも宜しくお願いいたします

朧月琥珀様 ホルモン好き様 Dante11様 ライラック様 夜霧様 ストラKK様
 カフェイン様
評価、ありがとうございました。頂いた評価や、コメントを受け止め、今まで以上の作品にできるよう努力してまいります。これからも宜しくお願いいたします

NEXT「恋する乙女④」



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36「恋する乙女」④

次にお前は「生きとったんかわれぇ!」という

……はい、皆さん、お久しぶりです。秋風です。

 まさかの1年ぶりの投稿。さすがにもうみんな私のことなんて忘れているだろう(汗
 新ルールによって遊戯王に対してやる気をなくして離れていましたが、リンクスで遊んでいたらなんとなく投稿したくなったので、投稿。今年中に1期は終わらせたい……
 実は、この前の新パックを見てまたブラマジを組もうと思ったのですが、どこにもパック売ってない……そして、汎用カードもすべてなくなってしまったので、組むとしたら1からなので、完成は先になりそうです。
誰かカードくれないかしら(おぃ

 それと、久しぶりに投稿するに伴い、この小説での注意点をあらすじに追記、評価を書いていただく際は一定以上の評価に感想を添えて頂くことにしましたので、ご了承ください。
では、1年以上間が空きましたが、恋する乙女編4話。お楽しみください。では、どうぞ


 ……ふみゅ。あれ? ボク、どうしたんだっけ。何時の間に寝ちゃったんだろう? 鳥の鳴き声も聞こえているし、もう朝だよね。お休みとはいえ、起きないと……あれ?

 

「……ん」

 

 え、あれ? 動けない!? なんで!? 金縛り!? でも、なんだか温かくて気持ちがいいような……って、違う! そうじゃなくて! そう思って慌てて目を開けると、そこには秋人さんが隣に眠っていた。あわわわわわ!? なんで秋人さんがボクと一緒にベッドで寝ているの!? 捕まれちゃっているし! こんな所、ツァンさんに見つかったら何されるか……あ、そっか……

 

「ボク、昨日……亮様にフラれちゃったんだっけ」

 

 亮様にフラれてから、ツァンさんに言われて秋人さんに抱きついて泣いて……抱っこしてもらってからボク、そのまま寝ちゃった? そういえば服もそのままだし、秋人さんも上着は着たまま……はうっ!? なんか苦しいっ……って! 秋人さん!なんでそんな……顔近い! 顔近いってば!

 

「よ、ようやく外れた……って、あ」

 

 離れられたも何も、ボクがずっと秋人さんの服を掴んじゃっていたんだね。というか、よくツァンさんたちボクが一緒に寝るの許してくれたなぁ…………

 

「もうちょっと寝ても、いいよね?」

 

 なんか、温かいし……気持ちがよかった。うん、寝ちゃおう。お休み、秋人さん。

 

 

………――2時間後

 

 

「ふぁぁ……あれ?」

 

 ……あ、そうだ、ボクってば秋人さんのベッドで二度寝をしちゃっていたんだっけ。まだ、秋人さん寝てるや。まあ、今日はお休みだからゆっくり休みたいんだろうなぁ。昨日はボクが相談するまでパソコンと電話でやりとりしていたし……なんか、すごい顔が真っ青になっていたのを覚えている。それにしても、秋人さんまだ寝ているなら……もうちょっと、いいよね? えへへ、やっぱり気持ちがいい。ちょっと自分から抱き着いたりしてみても……

 

「レイ?」

 

「はい! ごめんなさい! っ~!?」

 

 ツァンさんの声に思わず反射的にベッドの上で立ち上がってしまい、頭をぶつけてしまった。あ、頭が割れるぅ……!

「……? 何謝っているの? というか、今すごい音がしたわね。大丈夫?」

 

「は、はい……」

 

 そう言って頭をさすってくれるツァンさん。ふにゃぁ……なんだか、ツァンさんお姉ちゃんみたいだなぁ。こんなお姉さんが欲しかった……

 

「……それはさておき、アンタ、どさくさに紛れて秋人に抱き着こうとしていたわね?」

 

「ぴぃ!?」

 

 撫でられていた手が一変、突如アイアンクローの態勢となって掴まれていた。昨日帰ってきたときにもされたけど、すっごい痛いんだよこれ!? そう思っていたけど、ツァンさんはクスリと笑って手を放してくれた。

 

「冗談よ。ブルー寮に着替えを置いてくるついでにシャワーを浴びてくるから。秋人にそう伝えてくれる? 雪乃は先に行ったってことも」

 

「は、はいぃ……」

 

 そう言ってツァンさんが部屋を出て行った。さすがに着替え全部をここに置いているわけじゃないんだね。まあ、当然と言えば当然だけど。そんなことを思っていると、いつの間にか秋人さんが起き上がっていた。

 

「ん……そういえばそうだった、そのまま寝たんだったな。レイ、起きたのか?」

 

「あ、はい。おはようございます」

 

「おはよう……っと、制服にアイロンかけないとな」

 

 そう言いながらベッドを下りる秋人さん。むぅ、ちょっと残念……というか、ちょっと寂しいかも……あれ? なんでボク寂しいとか思っているんだろう。

 

「秋人さん、昨日はその、ごめんなさい」

 

「気にしなくていいさ。お前も頑張ったな」

 

 そう言って笑う秋人さんは、アイロンをかけて制服を畳み、トイレで着替えを済ませてジャージに着替えていた。

 

「……ん? 雪乃とツァンがいねーな。珍しい」

 

「あ、さっき着替えを変えてくるのと、シャワー浴びてくるって言っていました」

 

「そっか……んぐ、昨日変な態勢で寝たから体が痛いな。ちょっと、外に出てるからその間に着替えておけよ」

 

「はい」

 

 そう言って秋人さんが出て行ってしまった。ボクも着替えないと、えーと……

 

 

 

 

「あいたたた……」

 

 寮を出てから部屋の前の広場にて、ストレッチをする。レイからなるべく離れるように寝たのは失敗だったか。ただ、体が痛いのよりも胃が痛くなりそうだ。原因は、昨日突然掛かってきた社長からの電話である。

 

 

「試作カードを特定の決闘者に配る、ですか?」

 

『そうだ。俺の持つ青眼シリーズのように、シリーズカードを何人かに渡す予定だ。あくまでも、試験的にだがな』

 

 いつも通りに新しいカードリストを送った後、掛かってきた社長の話では、このように切り出された。それは大丈夫なのか、と疑問を持ちつつ誰に使わせるのかを聞くことにした。

 

「具体的には?」

 

『我が社のネットワークを通して全国の大会で名を連ねる猛者たちを中心に使わせる予定だ。その中でも初代決闘王であり、ブラック・マジシャンを切り札とする遊戯、真紅眼の黒竜を持つ中でもバトルシティでベスト4に残った城之内、同じくベスト8のハーピィ使いの孔雀舞が確定している。こいつらのカードは俺の青眼同様シリーズ強化の側面が強い。そして、もう一人……トゥーン使いであり、このデュエルモンスターズの生みの親、ペガサスだ』

 

 ……まあ、その人は避けては通れないな、とは思っていたがこんなに早く来るのか。GXのアニメにも登場しているから一応生きているのは知っていたけど。つーか、社長は城之内のことを凡骨って言わなくなっているほうに驚きだよ。バトルシティ編の最後では城之内って普通に呼んでいたけど

 

『いい加減ペガサスからの質問が鬱陶しい。これだけのデザイナーがいるなら是非会わせろと五月蠅い。俺が説明しても納得するわけもないのでな、お前から説明しろ』

 

「え゛っ……」

 

『当たり前だ。貴様の事情は貴様が説明しろ。あと、先日送ってきた新しいデュエルフィールドとルール、そしてカードについてはしばらく保留にする。特に、ペンデュラムカードは数が膨大でこちらでも把握しきれんからな……以上だ』

 

 そう言って社長は電話を切ってしまった。そのあと、レイが唐突に『相談がある』といいながら土下座を始めたのであった。

 

 

 

回想終了

 

 

「あー……もう、どうやって会えばいいんだよ。つーか、武藤遊戯にあったら俺一発で別人ってばれるんじゃねーかな」

 

 まあ、それはバレたらバレただけど、俺の体が拒絶反応を会う前に起こしそうだ。後は、ペガサスと言えばデュエルモンスターズの生みの親であり、インダストリアル・イリュージョン社の名誉会長だ。そんな人と会うっていうこと自体がやばい。アニメキャラではなく本人と会うわけだから、緊張しないわけがない。

 

「お? 秋人、おーす!」

 

「ん? 十代、おはよう」

 

 そんなことを考えていると、十代がやってきた。休日だというのにいつもの制服を着ているのは相変わらずだ。そういえば、一応はレイの件に決着はついたんだよな。こいつにどう説明したもんか……変にはぐらかせると、しつこく聞いてくるだろうし

 

「レイの事なんだけど……」

 

「レイのことはもう解決したから、別にお前が首を突っ込まなくても平気だ」

 

「もしかして、レイの事知っていたのか?」

 

「同じ部屋の人間だ。そもそも、雪乃やツァンが面倒を見ていたから用件は終わった。アイツはノース校のスパイじゃないし、カイザーについては個人の用事だ」

 

 ここで、レイはカイザーに告白するために来た、なんてとてもではないが言えるわけがない。十代の口はまあ、固いが、それでも乙女の秘密を簡単に言うほど無神経ではない。

 

「なーんか、引っかかるなぁ。それに、俺も気になる。よし、俺と決闘だ!」

 

「何故」

 

「俺が勝ったらレイの事情ってやつを教えてくれ!」

 

「俺が勝ったらどうする?」

 

 俺がそう聞くと、十代はしばらく考えた後、手をパーにして見せる。

「5日分、昼飯を奢る!」

 

「……お前は女の秘密をなんだと思っているんだ。はぁ、わかった、部屋からデッキ取って来い。俺も取ってくる」

 

「おう!」

 

 ……もしかしなくても、デュエルする口実をつくられただけだったかもしれない。だって、十代だし。そう思いながら部屋に戻る。レイはトイレにいるようなので素早くいつもの制服を着て帽子を被る。デュエルするのに、さすがにジャージはちょっとな……

 

「あれ? 秋人さんおかえりなさい……なんで制服着てデュエルディスクを?」

 

「お前のせいだよ」

 

「ええ!? ボク、何かしちゃいました!?」

 

「……冗談だ。十代が決闘を挑んできてな。勝ったらお前の事情を教えてほしいってさ」

 

 俺の言葉に、レイが「えぇ……」と、呆れ半分、不安半分で俺を見ていた。まあ、当然と言えば当然だが。デッキをセットし外へ出ると、すでに広場でデュエルディスクを広げた十代の姿があった。

 

「待たせたな」

 

「へへっ、久しぶりに秋人とデュエルだ! 全力で行くぜ!」

 

「俺も、そろそろお前には勝ちこさせてもらうぞ」

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

武藤秋人 LP4000 VS 遊城十代 LP4000

 

 

 

 

 突如として始まった秋人さんと十代さんのデュエル。ボクも帽子を被って二人のデュエルを見守ることにした。ギャラリーは僕だけ。というか、秋人さんが負けたらボクが昨日亮様にフラれたこともばらされちゃうってこと!? が、頑張って秋人さん! 負けちゃだめだよ!?

 

「先攻は貰うぜ! ドロー! ……今回はどんなデッキで来るかわからないからな。俺は、モンスターを裏守備表示でセット! カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

「十代にしては堅実だな。俺のターン、ドロー! ……よし、俺は手札から『レッドアイズ・インサイト』を発動。1ターンに1度、デッキ、手札から『レッドアイズ』と名の付くカードを墓地に送ることで、デッキから『レッドアイズ』と名の付く魔法・罠を手札に加えることができる。デッキから『真紅眼の凶雷皇-エビル・デーモン』を墓地に送り、俺は『真紅眼融合』を加えて発動。このカードは『レッドアイズ』と名の付く融合モンスターを出すための専用融合カードだ。素材は決められたカードを手札、フィールド、デッキから選んで墓地へ送ることで融合できる」

 

 え゛ぇ!? なにそのインチキカード! っていうか、レッドアイズって、あのマニアには数十万で取引されるっていう、真紅眼の黒竜のことだよね!? もう驚くことは少ないかなって思っていたけど、あの人そんなカードまで持っているの!?

 

「ただし、これを発動できるのは1ターンに1度で、さらに発動したターン、召喚、特殊召喚はできない。セットは可能だけどな。俺はデッキの『真紅眼の黒竜』と『バスター・ブレイダー』を融合することで、融合デッキから『真紅眼の黒刃竜』を融合召喚!」

 

真紅眼の黒刃竜 ATK2800/DEF2400

 

「うおおおおっ! かっけぇ! 超レアカードの真紅眼シリーズだ!」

 

「このカードは『真紅眼の黒竜』と戦士族モンスターで融合できる。それでもって、手札の『黒鋼竜』の効果発動。このカードを『レッドアイズ』モンスターに装備し、装備したモンスターの攻撃力を600ポイントアップさせる」

 

真紅眼の黒刃竜 ATAK2800/DEF2400→ATK3400/DEF2400

 

 その秋人さんの言葉と共に、現れたその黒い鋼の竜が装甲のように黒刃竜へと纏われる。おお、カッコいい……ボクのは恋する乙女が中心だから、こういうカードはないんだよね。こういう、カッコいい路線も悪くない、のかな?

 

「バトル。真紅眼の黒刃竜でセットモンスターを攻撃! 更に! この時、黒刃竜の効果が発動! 墓地の戦士族モンスターを装備カードとして装備し、攻撃力を更に200ポイントアップ!」

 

真紅眼の黒刃竜 ATK3400/DEF2400→ATK3600/DEF2400

 

「セットしていたのは『ネクロ・ガードナー』だ。そして、このカードが破壊されたことで罠カード『ヒーロー・シグナル』を発動! デッキから来い! E・HEROバブルマン! このカードは召喚、特殊召喚、反転召喚したときに他のカードが無い時、デッキからカードを2枚ドローできる! うし、いいカードを引いたぜ!」

 

「……カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

 フィールドのモンスターは残り、さらに十代さんにドローされちゃった。とはいっても、秋人さんのフィールドにいるのは攻撃力3600のモンスター……そう簡単には突破されない……はず。

 

「俺のターン! へへっ、よし、行くぜ、秋人! 俺は手札から魔法カード『融合』を発動! 手札のクレイマンとスパークマンを融合する! 行くぜ秋人! お前に貰ったニューヒーローだ! 来い! 『E・HEROグランドマン』!」

 

E・HEROグランドマン ATK0/DEF0→ATK2400/DEF2400

 

 こ、攻撃力0の融合ヒーロー!? いや、攻撃力が上がった!? あんなカードあったっけ? 初めて見た……って、今、十代さん秋人さんから貰ったっていっていたよね。ということは、あれは元々秋人さんのカードだったのかな?

 

「……融合したモンスターの合計レベルは8。つまり、攻撃力は2400だな」

 

「おう! こいつは融合した素材のモンスターの元々のレベルの合計×300ポイント、攻撃力を上げるからな! さらに、ここからだぜ! 『強欲な壺』でカードを2枚ドロー! そして『H-ヒートハート』を発動! グランドマンの攻撃力を500ポイントアップさせる! そして、ヒーローにはヒーローの戦う舞台ってもんがある! 行くぜ! 『摩天楼-スカイスクレイパー-』!」

 

E・HEROグランドマン ATK2400/DEF2400→ATK2900/DEF2400

 

 フィールド魔法! 殺風景なレッド寮の広場が一瞬で近代的な夜の街並みに! っていうか、あのカードの効果って確か……!

 

「バトル! グランドマンで真紅眼の黒刃竜を攻撃だ! この時、自分より攻撃力の高いモンスターとバトルするとき、攻撃力を1000ポイントアップだ!」

 

E・HEROグランドマン ATK2900/DEF2400→ATK3900/DEF2400

 

「ただでやられるわけにはいかない。その発動に対し、永続罠『真紅眼の鎧旋』を発動して、そのまま効果を発動! 1ターンに1度、自分フィールドに『レッドアイズ』モンスターがいる時、墓地に存在する『レッドアイズ』モンスターを墓地から特殊召喚できる! 俺はレッドアイズ・インサイトの効果で送った『真紅眼の凶雷皇-エビル・デーモン』を守備表示で特殊召喚する!」

 

真紅眼の凶雷皇-エビル・デーモン ATK2500/DEF1200

 

 フィールドに現れたのは……デーモンの召喚? に似ているような? そんなモンスター。しかし、そのままグランドマンの攻撃で真紅眼の黒刃竜は破壊されてしまった。

 

武藤秋人 LP4000→LP3700

 

「よっし! モンスターを破壊したことで、俺はグランドマンを生贄に捧げ、召喚条件を無視してマイフェイバリットモンスター! 『E・HEROフレイム・ウィングマン』を特殊召喚するぜ!」

 

「なら、こっちは真紅眼の黒刃竜が破壊された時、このカードの効果を発動! このカードに装備されていたモンスターを自分の墓地から可能な限り特殊召喚できる。俺は『黒鋼竜』を特殊召喚!」 

 

黒鋼竜 ATK600/DEF600

 

 おお……あのモンスターにはそんな効果もあったんだ。本来ならバスター・ブレイダーも出すんだろうけど、スカイスクレイパーのせいでそれはできない。でも、このままだとデーモンを攻撃されて2500のダメージが……

 

「わかっているよな、十代?」

 

「ああ、グランドマンの効果で召喚条件を無視して召喚したE・HEROはその自身のレベル以下のモンスターを攻撃することはできない。つまり、そのデーモンも、黒鋼竜も攻撃はできない。けど、バブルマンでなら可能だ! 黒鋼竜にバブルマンで攻撃! 『バブルシュート』!」

 

「黒鋼竜の効果。このカードがフィールドから墓地へ送られたことで、デッキから『レッドアイズ』と名の付くカードを1枚手札に加える。俺が加えるのは『真紅眼融合』だ」

 

 なるほど、召喚条件を無視して、好きなカードを出すことができる代わりのデメリットがあるんだ。あれ? でも、それならどうしてフレイム・ウィングマンを出したんだろう? サンダー・ジャイアントとかでもよかったんじゃ?

 

「メインフェイズ2だ! 俺は『天使の施し』を発動! 3枚ドローして、2枚を捨てる。よし、俺は手札から『融合回収』を発動! 墓地から『融合』と『スパークマン』を戻す! そして、そのまま『融合』を発動! フィールドのフレイム・ウィングマンと、手札のスパークマンを融合! 来い! 『E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン』!」

 

E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン ATK2500/DEF2100

 

 降り立ったのは新たなヒーロー……そっか、フレイム・ウィングマンを素材にしてしまえばさっきのデメリットは関係ない。あのモンスターは名前からしてフレイム・ウィングマンが素材となる必要があるから出したんだ。

 

「俺の墓地には素材で墓地に送ったクレイマン、スパークマン、フレイム・ウィングマン、生贄で墓地へ送ったグランドマン、そして天使の施しで墓地へ送った『E・HEROネクロダークマン』がいる。よって、攻撃力は1500ポイントアップだ!」

 

E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン ATK2500/DEF2100→ATK4000/DEF2100

 

「……攻撃力4000か。そのカード、お前に与えたのは失敗だったかな」

 

「へへっ! フレイム・ウィングマンの新たな姿! くぅー! やっぱりカッコいいぜ!」

 

 やっぱりあのカードあげたの秋人さんなのね……まあ、そんなことだろうとは思ったよ……でも、攻撃力4000のモンスターって……あれ、秋人さんどうするつもりぃ!?

 

「俺は手札4枚を全部伏せてターンエンド! さ、秋人のターンだぜ!」

 

「……ああ、ここからだ。俺のターン!」

 

 そう言って、秋人さんはカードを引くのだった。

 

 




というわけで、だいぶ間が(1年以上)空きましたが、恋する乙女編ラストスパートです。次回で恋する乙女編完結、万丈目とのデュエル編、セブンスター編って感じで進めていきます。
相変わらずおっそい更新でそろそろ読者のみなさんには飽きられてはいると思いますが、出来るだけ更新は途絶えさせないようにする予定ですので、もしこれからも見て頂けるなら幸いです。
 それと、再度申しますが、評価には一言添えを頂きまして、評価をしていただくことに変更しました。低評価爆撃が多数来たので、その対策です。別に、人それぞれの評価ではありますが、やっぱり低評価見るとモチベーション下がるので。逆なら上がるんですけどね
これからも小説の感想、評価、推薦等をお待ちしております

リメイク前との変更点

VS十代
リンクスで今、私が使っている真紅眼デッキです
大抵のデッキには勝てます。ただし、サブテラー、お前は許さん

グランドマン
十代に迷惑をかけたときに譲渡したカード他、新カードを秋人は十代や友人には売っているので

シャイニング・フレア・ウィングマン早くね?
初登場はカーミラ戦からですが、秋人が早めにあげて使わせています。突然入れたカードをすぐ使いこなすのは何か不自然だと思ったので

感想を下さった方々
透明紋白蝶様 ハンターハンター様 ニンジン様 歌麻呂様 登竜様 L.L.XIII様 You(ようって呼ばないで欲しい)様 風森斗真様 ヤミ様 

評価をくれた方
死にたがり様 Dither様

感想、評価、ありがとうございました。いつも、面白かった、続きを楽しみにしていると頂けると励みになっています
これからも宜しくお願いいたします

NEXT「恋する乙女⑤(恋する乙女編完結)」





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37「恋する乙女」⑤

はい、比較的早くに投稿ができました。秋風です。
早乙女レイが巻き起こした恋する乙女編、最終話となります
前回は久しぶりの投稿だったのでもう見る人もいないだろう、とか思ってたら、すごい反響があって驚きました。ありがとうございます。

あと、前回言っていたデュエリストパックが買えたので買ったのですが、封入率が酷過ぎて結局シングル買いとなり、そのせいで蘇生やヴェーラーなんかの汎用カードを買う余裕がなくなる始末……デッキ完成はまだまだ先になりそうです。とりあえず、マジシャンズ・ソウルは3枚確保
(5箱開けて出たのは1枚)
その辺はあとがきにて改めて……

では、最新話の恋する乙女編⑤、どうぞ
お話の感想、お待ちしております


秋人 手札 2枚 フィールド 真紅眼の凶雷皇-エビル・デーモン

LP3700            魔法・罠  真紅眼の鎧旋 伏せ1

 

 

十代 手札 0枚 フィールド E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン

LP4000            E・HEROバブルマン

         魔法・罠  伏せ4枚

 

 

「俺のターン、ドロー! 悪いが十代、そのシャイニング・フレア・ウィングマンには退場してもらう」

 

「お? やっぱり、そのエビル・デーモンってカード、ただのデーモンモンスターじゃないんだな」

 

 フィールドに並び立つ2体のモンスター。フィールドの秋人さんのモンスターは攻撃力2500の真紅眼の凶雷皇-エビル・デーモンで、十代さんは攻撃力4000になっているE・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン……状況では秋人さんは不利だけど、デーモンの効果っていったい?

 

「今度発売の新カードジャンル、それのお披露目をしてやるよ。十代」

 

「お、やっぱりな! さあこい!」

 

 ……なんで十代さんはそんなワクワクしているのか。いや、ボクもワクワクしている。いったいどんなことをするんだろう。

 

「俺はフィールドにいるモンスター、真紅眼の凶雷皇-エビル・デーモンを『デュアル』! これにより、エビル・デーモンはモンスター効果を得る!」

 

「「デュアル?」」

 

 それが新しい効果? デュアルってどういう意味だろう? エビル・デーモンが光り輝いて、その真紅の目を光らせていた。てっきり、またボクの知らないエクシーズみたいなものが出てくると思ったんだけど……

 

「デュアルは『二重』っていう意味。デュアルモンスターはルール効果をもったモンスターだ。デュアルモンスターはフィールド・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。凱旋の効果が使えたのはそのためだ。そして、通常モンスター扱いのこのカードを通常召喚としてもう1度召喚、つまり再召喚でデュアルにできる。その場合カードは効果モンスター扱いとなり、効果を得て発動できる。ちなみに、デュアルするときはそのモンスターは現在の表示形式のまま、テキストに書かれたモンスター効果を得る。何か質問は?」

 

「いや、大丈夫だぜ。続けてくれ」

 

「そうか。なら効果を発動する! 1ターンに1度。このモンスターの攻撃力より守備力が低いモンスターを全て破壊できる!」

 

「なるほど、やっぱり効果破壊系か! くっ……だが、まだまだ! 罠発動! 『エレメンタル・ミラージュ』! 相手のカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時に発動!このターン、破壊され墓地へ送られた「E・HERO」を、召喚条件を無視して全て自分フィールド上に特殊召喚する! 戻って来い! E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン! E・HEROバブルマン!」

 

「悪いが読んでいた! 罠発動! 『神の警告』! 自分のライフ2000を払い、自分、または相手の特殊召喚を無効にして破壊する!」

 

武藤秋人 LP3700→LP1700

 

 フィールドで消えては現れ、また消えてしまうシャイニング・フレア・ウィングマンとバブルマン。十代さんが使っていたカードもとんでもなかったけど、秋人さんのカウンター罠もすごいし、デーモンの効果もとんでもない。確かに、守備力2500以上のモンスターはなかなかいないもんね。これで十代さんのフィールドはがら空き……と言いたいけど、3枚も伏せが残っている。

 

「ちなみに、デュアルをしたということは、このターン、真紅眼融合は使えない……俺は手札から『天使の施し』を発動。デッキから3枚ドローして2枚捨てる。さらに真紅眼の鎧旋の効果も発動し、真紅眼の黒竜を蘇生」

 

真紅眼の黒竜 ATK2400/DEF2000

 

「真紅眼の黒竜、初めて見たぜ……!」

 

「ちなみに、この真紅眼の鎧旋は破壊されると墓地のレッドアイズを1体特殊召喚できるからな。この場合は効果モンスターも蘇生できる」

 

 うわぁ、それなんてインチキ効果? フィールドを見るだけなら攻撃力合計4900だから、十分倒せる範囲内だ。けど、十代さんのあの余裕……まだ、倒される気はないってことなのかな

 

「バトルフェイズ! まずは真紅眼の黒竜でダイレクトアタックだ! 『黒炎弾』!」

 

「ぐっ……!」

 

遊城十代 LP4000→LP1600

 

「罠発動! 『痛恨の訴え』! 相手モンスターの直接攻撃によって自分が戦闘ダメージを受けた時に発動できる! 相手フィールド上に表側表示で存在する守備力が一番高いモンスター1体のコントロールを次の自分のエンドフェイズ時まで得る! 真紅眼の黒竜を守備表示でもらうぜ!」

 

「くっ……仕方ない! デーモンで黒竜を攻撃!」

 

 フィールドから十代さんへ寝返った黒竜がデーモンの攻撃を受けて消えてしまう。真紅眼の黒竜はまた真紅眼の鎧旋で呼べるとはいえ、防がれた……

 

「へへっ、今日は秋人に貰ったカードや、買ったカードが大活躍だぜ」

 

「うぐっ、そう言われると渡したことを後悔しそうになるからやめて」

 

 あ、やっぱり。見たことないカードだもんね。それにしても、痛恨の訴え……ボクの持っている「恋する乙女」のデッキで使えそう。

 

「俺もカードを2枚全て伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン! ここからだぜ! 魔法カード『デュエル』を発動! 互いのプレイヤーは手札を6枚になるようにデッキからドローする!」

 

 ……へ? それって『天よりの宝札』と同じじゃないの? と、思っていると、秋人さんがなにか悩んだように考えていた。

 

「うーむ、やっぱりそれ、変だよな。十代? それ、天よりの宝札だよな?」

 

「おう、俺もそう思う……っていっても、ディスクも反応しているし……なんなんだ?」

 

 6枚のカードを引きながらも、二人して首を傾げている。どういうことだろう?

 

「あの、どういうこと?」

 

「お? おう、レイ! このカードのことでな!」

 

 思わず階段を下りて近づいたボクにそう言って使ったカード『デュエル』を見せてくれる十代さん。書かれている効果は、十代さんが言った通りのものだ。

 

「そのカード、天よりの宝札と同じテキストなんだが、カード名が違うんだ。十代が拾ったカードらしいんだが……俺もそのカードは実は見るのは初めて見た。後で海馬コーポレーションに送ってみよう。代わりと言っては何だが、後で天よりの宝札やるよ」

 

「マジか! やったぜ!」

 

 このデュエルではひとまず、そのままゲームは続行という事になった。ボクもせっかく近くまで来たので、近くのベンチに腰を下ろす。十代さんのターンでゲームが再び始まる。

 

「まずは、フィールドのデーモンをどうにかしないと! まずは魔法カード『HEROの遺産』! 1ターンに1度、墓地のHEROを素材とする融合モンスターを融合デッキに戻してカードを3枚ドロー!」

 

「まだ引くのかよ」

 

 本当だよ。もうそのインチキ効果には驚かないぞ、ボクも。どうせ秋人さんがあげたんだろうから。十代さんの手札は一気に8枚。これだけ引けば何か打開策はあるだろうけど……

 

「魔法カード『融合』! 手札の『E・HEROワイルドマン』と『E・HEROエッジマン』を融合! 来い! 『E・HEROワイルドジャギーマン』! さらに、魔法カード『魔法石の採掘』を発動! 手札2枚を捨てて墓地の『融合回収』を手札へ! そして発動! 墓地の融合とエッジマンを回収! そして、E・HEROエッジマンを手札に戻し、墓地のネクロダークマンの効果! 1ターンに1度、E・HEROの召喚に生贄が必要なくなる! エッジマンを通常召喚!」

 

E・HEROワイルドジャギーマン ATK2600/DEF2300

 

E・HEROエッジマン ATK2600/DEF1800

 

 うえええ……一気にカードがグルグル回って、十代さんすごく早口でカード使ってる。あれ大丈夫? 8枚あった手札は3枚に。そして、フィールドには上級モンスターが一気に並んでいた。どちらも攻撃力はデーモンを超えている。まあ、そもそもスカイスクレイパーあるから関係ないけど……

 

「バトルだ! E・HEROワイルドジャギーマンでエビル・デーモンを攻撃! 「インフィニティ・エッジ・スライサー」!」

 

「くっ……攻撃前に真紅眼の凱旋の効果! 黒竜を蘇生する!」

 

「甘いぜ! ワイルドジャギーマンは相手フィールドモンスター全てに攻撃できる! 全部のモンスターを粉砕しろ!」

 

 次々と破壊される秋人さんのモンスター。あれ、これエッジマンの攻撃で詰みなんじゃ!?

 

武藤秋人 LP1700→LP1600

 

「そしてトドメだ! 秋人にエッジマンでダイレクトアタック! 『パワー・エッジ・アタック』!」

 

「だろうな、十代! お前ならそうすると思った! 罠カードを2枚オープン! 1枚目『死魂融合』! 2枚目『DNA改造手術』! チェーンの逆順でDNA改造手術で指定はドラゴン族! そして、次に死魂融合の効果発動! 決められた素材を裏側表示でゲームから除外し、融合を行う! 墓地の真紅眼の黒竜とバスター・ブレイダーで融合!」

 

 こ、ここで罠融合!? 確かに黒刃竜ならエッジマンより攻撃力は上だけど、スカイスクレイパーが……

 

「俺が出すのはこのデッキ2体目の切り札! 来い! 竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー!」

 

竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー ATK2800/DEF2500

 

 バ、バスター・ブレイダーの融合モンスター!? こんなカードもあるんだ! って、攻撃力2800じゃスカイスクレイパー対象内じゃ……!?

 

「ドラゴン族……!? なっ……俺のモンスターが守備表示に……」

 

 十代さんの2体のヒーローの体から角が生えたり、羽が生えたりしてる……のは、ともかく、そのワイルドジャギーマンも、エッジマンもまるでそのバスター・ブレイダーを畏怖するかのように、体を縮めて守備表示になってしまった。

 

「このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドのドラゴン族モンスターは守備表示になり、相手はドラゴン族モンスターの効果を発動できない。そして、このバスター・ブレイダーはフィールドのドラゴン1体につき1000ポイント攻撃力を上げる」

 

「くっ……俺の今の手札じゃ……メインフェイズ2だ! 『ホープ・オブ・フィフス』発動! 墓地のヒーロー5枚をデッキに戻し、2枚引く! 『エッジマン』『ネクロダークマン』『スパークマン』『クレイマン』『ワイルドマン』を戻して2枚ドロー……よっしゃ! 『サイクロン』発動! DNA改造手術を破壊! これで、ターンエンド!」

 

 せっかく、2体ともドラゴンになったから攻撃力が4800にもなったのに……いや、それ以前に十代さんまだドローカード握っていたんだ。すごいな、あの人……しかも、ピンポイントにサイクロン引いているし。

「俺のターン、ドロー! ……DNA改造手術を破壊したのはさすがだな。けど、俺が対抗策を用意していないとでも?」

 

「「え?」」

 

 ニヤリと笑みを見せる秋人さん。思わず十代さんと同時に「えっ」っていったけど……なに? まだ何かやる気なの、あの人

 

「俺は手札から魔法カード『死者蘇生』を発動! 墓地より『バスター・ブレイダー』を特殊召喚! そしてチューナーモンスター、『破壊剣士の伴竜』を通常召喚! ちなみに、素材として除外したのは天使の施しで墓地へ送った方な」

 

バスター・ブレイダー ATK2600/DEF2300

 

破壊剣士の伴竜 ATK400/DEF300

 

フィールドに現れたバスター・ブレイダーと小さいドラゴン。いや、それよりチューナーって何? 十代さんもなんか驚いているけど。

 

「なぁ!? それ、融合デッキだったんじゃないのか!? シンクロもいたのか!?」

 

「俺は一言もこのデッキに融合以外入れていないとは言ってないぞ。破壊剣士の伴竜の効果! デッキから「破壊剣士の伴竜」以外の「破壊剣」カード1枚を手札に加える。『破壊剣士融合』を手札に! そして、レベル7のバスター・ブレイダーに、レベル1の破壊剣士の伴竜をチューニング! シンクロ召喚! 現れろ『破戒蛮竜-バスター・ドラゴン』!」

 

 突然、バスター・ブレイダーが7つの星に別れ、小さなドラゴンが円になったかとおもったら、変な光と共に巨大なドラゴンが出てきた!? え、何あれ!? あれも、エクシーズ召喚とかいう奴とは違う別の召喚方法!?

 

破戒蛮竜-バスター・ドラゴン ATK1200/DEF2800

 

「すげぇ……でっけぇな……けど、攻撃力、レベル8なのに低くないか?」

 

「まあな、けど、効果は今この局面で大切なんだ。このカードがフィールドにある限り……相手フィールドのモンスターは、このカードが表側表示で存在する限りドラゴン族になる。つまり、バスター・ブレイダーは再び力を取り戻す」

 

竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー ATK2800/DEF2500→ATK4800/DEF2500

 

「バトル! 竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーでエッジマンを攻撃! この時、相手の守備力より自分の攻撃力が上回っていれば、貫通ダメージを与える! いけ!」

 

「なにっ!? うわああああっ!!」

 

遊城十代 LP1600→LP0

 

 ライフを削りきり、そのエッジマンを両断された勢いで吹っ飛ぶ十代さん。悔しそうにしつつも、どこか満足そうに立ち上がった。

 

「くっそー、俺の負けかぁ……」

 

「ああ、俺の勝ちだ。よって十代。5日分の飯、ご馳走さん。それと、レイの事は追及なし」

 

「そういえばそうだった……でもま、こんな楽しいデュエルが出来たんだ。それくらい安いもんさ! それに、レイの事も黙ってるぜ。約束だ!」

 

 デュエルが終わり、そんな会話をしている二人。そのあと、十代さんはそのまま寮へ戻り、ボクも秋人さんと一緒に部屋に戻る。その途中、シンクロ召喚のことも教えてくれたけど……なんというか、すごかったな。決闘していた時の秋人さん。すごく、かっこよかった……それこそ、亮様の決闘を見ていた時みたいな……

 

「レイ? どうした、大丈夫か?」

 

「ふぇ!? あ、うん、大丈夫! なんでもないです!」

 

 ボクの顔を覗きこんできた秋人さんに対して、ボクは思わず顔を逸らした。な、なんでだろう!? 秋人さんの顔をまともに見れない! さっきまで普通に見れたはずなんだけど……あれ? あれぇ?

 

「顔真っ赤だぞ? 熱でもあるのか……ちょっと待ってろ、今、体温計を……」

 

「へ、平気です! 大丈夫だから! 気にしないで秋人さん!」

 

 何とかその場を誤魔化して、顔を冷やすために洗面所で顔に冷たい水をかけるけど、その顔は真っ赤だった。ちなみにこの後、帰って来た雪乃さんとツァンさんを誤魔化すのもまた大変だったのは、言うまでもなかった……

 

 

 

 

夜 レッド寮 秋人の部屋

 

「ふぁ……眠い」

 

「レイ、早めに寝ろよ。明日の定期便で帰るんだからな」

 

「……あ、はい。ごめんなさい、荷造りも手伝ってくれて」

 

「やったのはツァン達だから、俺じゃないからな」

 

 あれから、3人はボクのために小さなお別れパーティを開いてくれたり、デュエルをしたりもしてくれた。楽しい時間はあっという間に過ぎて、もう夜になってしまった。明日とうとう、帰ることになる……眠たそうにベッドに入る秋人さん。部屋にはなんと、ボクと秋人さんしかいない。というのも、雪乃さんとツァンさんは二人とも今日だけ女子寮の当番になってしまい、仕事をしてそのまま向こうの部屋で寝るのだという。

 

「じゃあ、お休みレイ」

 

「あ……」

 

 そう言って目を閉じる秋人さん。ボクはなぜか、そのまま無意識のうちに、秋人さんのベッドに入っていた。

 

「おい、レイ? 寝ぼけているのか?」

 

「あの、今日もその、一緒に寝てもいいですか?」

 

 散々迷惑をかけてしまったのに、こんな我儘をいって許されるだろうか? 多分、本当なら怒られる。けど、やっぱり、もう少し秋人さんに甘えたい……そう思っていると、秋人さんはため息を吐きつつも、体を半分起こしてボクの頭を撫でてくれた。

 

「わかったよ、今日で最後だしな……いいぞ」

 

「ありがとう、秋人さん」

 

 そうお礼を言って秋人さんに引っ付く。短い時間だったけど、楽しかったアカデミアの生活。みんなに迷惑をかけたけど、もっと秋人さんや雪乃さん、ツァンさんや十代さんたちとこの学園でいろんなことをしたい……どうして、ボクはもっと早く生まれなかったのかな……そうすれば、みんなと一緒に……なにより、秋人さんと離れることだって……そう思うと、悲しくなって、自然と涙が溢れていた。その悲しみは、亮様にフラれたときよりも酷かった。

 

「レイ?」

 

「……」

 

 あうっ、泣いているのを見られちゃった……必死に涙を拭こうとしたけど、秋人さんは何も言わず、ボクを優しく抱きしめて、頭を撫でてくれる。とても、心地がいい……どうしてこんな気持ちになれるのか、ボクは理解していた。だから、ボクはそのまま目を閉じて秋人さんを独り占めにする。お休み、秋人さん……でも、やっぱり、帰りたく、ないなぁ……もっと、こんな風に、好きになった人と一緒にずっと……ずっと……グゥ……

 

 

 

 

 ……どこで間違えたのか。俺は眠るレイの頭を撫でながら、そう思っていた。

 

『お疲れ様でした、マスター』

 

「(ミラか……いや、そうでもないよ)」

 

「ふみゅぅ……あきと、しゃん……」

 

 抱きしめていたレイが、嬉しそうに俺にうずくまって寝息を立てていた。とりあえず泣き止んでくれたが、なんというか、今回は彼女の気持ちを明確に察してしまったので、泣き止んでもらう為とはいえ、気が重かった。

 

『今回は、流石に自覚されたんですね』

 

「(雪乃とツァンの視線と、レイの俺への態度を見れば、流石にな)」

 

 よくよく考えてみれば、最終的に世話焼いていたの俺だったしな。懐かれる程度は予測したものの、ここまでとは思わなかった。

 

『でも、雪乃さんやツァンさんとお付き合いをしているのをご存知ですし……流石に、諦めるのでは?』

 

「……そうだといいんだけど」

 

 ミラの言葉に、俺はそう呟きつつも、同じように目を閉じて眠ることにした。心に傷を負った、恋する乙女と共に。

 

 

 

翌日 アカデミア 港 定期便乗り場

 

「じゃ、元気でな、レイ」

 

「向こうでもしっかり頑張りなさい。それと、謝ることも忘れずにね」

 

「文化祭もあるから、またその時に来なさいよ? ボク達は変わらずいるから」

 

「はい。秋人さん、雪乃さん、ツァンさん、あの、色々とありがとうございました。あと、迷惑かけちゃって、ごめんなさい」

 

 翌日の朝。定期便にレイの両親が迎えに来た。俺達3人はもう反省しているのでレイをあまり叱ってやらないでくれと、レイの両親に頼むことにした。そんなレイの両親は3人が言うなら、と今回の件についてお礼をいいつつ了承し、船でレイを待っている。ちなみに、レイは今まで着ていたアカデミアの制服ではなく、ご両親が持ってきた白いワンピースである。

 

「あの、秋人さん」

 

「ん?」

 

「ボク、本当に楽しかった……このデュエルアカデミアに来たこと。その、いっぱい怒られちゃったけど……でも、後悔してないよ。みんなと友達になれたから!」

 

「……次同じことしたら、アイアンクローじゃすまないわよ?」

 

 ため息を吐きつつレイの言葉に笑うツァンは、そういって指を鳴らす。レイが「ぴぃ!」と小さく悲鳴をあげるも、俺達は笑っていた。そんなやりとりをしつつも、俺は1つのデッキケースを渡す。

 

「じゃあ、これから頑張るレイに、俺からのプレゼントだ」

 

「これは……デッキ?」

 

「ああ、使うかどうかはお前に任せる。一応、前に聞いたお前のデッキだけだと、戦うの大変そうだったからな。恋する乙女だけだと……流石にな」

 

 探したけど、なかなかいいサポートを見つけてやれなかったのが本音だが……あと、新作カードのテスターとしても彼女はきっと優秀だしな。渡したのは記憶を掘り起し、彼女がゲームで使っていた気がする『ライトロード』である。

 

「っ……! た、大切にする! ありがとう、秋人さん!」

 

 そう笑顔を見せてくれるレイ。ああはいっていたが、少し落ち込んでいた様子だったからな。これで機嫌が直ってくれるなら安いもんだろう。

 

「さ、そろそろ時間だ。これでわざと乗らないなんてやったらツァンのアイアンクローじゃマジですまねーぞ」

 

 この定期便、次に来るのが2週間後になっているし……さすがにそこまで面倒は見られない。そんなことを思っていると、レイが俺をジッと見ていた。

 

「ねえ、秋人さん。ちょっと」

 

「?」

 

 何やら俺に屈むように、と手で動作をするレイ。なにか嫌な予感を感じ取りながらも、言われた通りに屈む。この時、俺は完全に油断していたのだ。ミラの言うとおり、流石に俺に対しては好意を諦めるだろう、と。そんな俺の手に何かを握らせてくる。手を開くと、そこにあったのはレイが最初にカイザーへ渡し、そして返却されてしまった髪留めであった。

 

「え、ちょっと待て、レイ、お前これ……っ!?」

 

 なんのつもりだ、と言いかけた途端。俺の唇に暖かい感触が触れ、レイの顔がそこにあった。何をしてきたのかは、言うまでもないだろう。

 

「えへへ、これまでのお礼! それと、秋人さん! 大好きだよ! バイバイ!」

 

「なっ!?」

 

 そう言って逃げるように走り、定期便に乗り込むレイ。それと同時に、本土へ向けて船が動き出す。そして、船のデッキからレイが手を振っているのが見えた。

 

「また必ず、必ず来るから! 待っててね! 秋人さん! それと、雪乃さん! ツァンさん! “私”だって、負けないからねー!」

 

 そう言って笑顔で手を振ると、そのままレイは船の中へと消えて行った。その直後、俺の両肩をがっしりと何かが捉えていた。

 

「秋人、ちょっとお話ししましょうか?」

 

「私たちを前にしていい度胸ね? 見直したわよ、秋人? ええ、本当に……」

 

 ぎちぎちと俺の肩の骨がきしんでいる。特に、ツァンから掴まれている方がめっちゃ痛い。

 

「まて、落ち着け!」

 

「「落ち着けるかぁぁぁぁ!!!!!」」

 

「いだだだだだだ!!!」

 

 とある日の港で、一人の悲鳴と二人の怒号が響き渡るのだった。レイがまた来た時、大変なことになるだろう、と思ったのは言うまでもないだろう。

 

 

―― 一歩、また一歩と近づく戦いの足音を聞きながら

 

恋する乙女編 完

 

 




リメイク前との相違点とツッコミどころ

十代が使用したカードたち
痛恨の訴えは遊馬の使ったカードですが、なんとなくイラストに描かれているのがヒーローっぽかったので採用。あと、「デュエル」に関しては、元は漫画版で紅葉VS十代にて、紅葉が使用したカード。当時、なぜにこれは天よりの宝札じゃないのだろう、と首を傾げました。
実は、このカードは今後の物語でも役割があります

チョロイン?早乙女レイ
個人的には某ストラトスのイギリス代表候補と同じくらいチョロイのでは?と思ってしまう彼女。アニメでも明日香を出し抜いて十代にお姫様抱っこされたり、十代が「レイがこの解毒薬を待っているんだ!」と言わしめるほどヒロインしてましたよね。ただし、TFの赤レイルート、お前だけは許さん

早乙女レイの今後
一応、原作と同じく出てくるのと、文化祭などでも登場予定
あと、最後のボクから私になったのはわざとです。一応、3期では一人称は「私」なんですよね。これは、雪乃やツァンには負けないぞ、という意思表示でもあります

大幅カットシーン
リメイク前作品を見て頂いている方々にはどこがカットで、どこが追記かはよくわかるでしょう。読み直して蛇足多すぎて大幅にカットしました


 と、いうわけで、今回で恋する乙女編は終了。万丈目サンダー帰還編、秋人の妹騒動などを経て、セブンスター編へと突入します。これ、今年中に一期終わるか? 不安だ……

 さて、それにしても久しぶりに遊戯王カード買いましたけど、封入率ってここまで露骨なんすね。驚きました。以下、当たったカードですが……URで察して頂けると思います。偏りが酷い。そして、どこのカードショップに行ってもBMGがない。100円前後でストレージにあったはずなのに……立川を基本拠点としているですが、ほぼ壊滅でした
 加えて、他の死者蘇生とかも揃ってないのでデッキのような紙束になってもうた……遊戯王の大半が無くなってしまっているのでまた来月まで待たないとダメかなぁ……(汗
当たったUR SR
サンライザー3 天空の魔術師2 サテライト2 マジシャンズ1 ガガガガ2
マジシャンズソウル1 コンバータ3 オッドアイズ4 リキッド1 オノマト2 ジェネレーション2 魂のしもべ2
と、こんな感じでした。ある程度戦えるくらいで構わないので、楽しく作れそうなブラック・マジシャンデッキがありましたら是非メッセの方へ(笑)
次回更新は、今月中に描きあげられればと思います。(主に、お絵かきとポケモン剣盾のせい

では、また次回にお会いしましょう。ではではノシ

とある落とし神様 赤鉄様 ファイネス1様 navi様 zyamu様 ノウレッジ様 keyblade様 コジマ汚染患者様 ワッカース様 神薙改式様
感想ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします

死にたがり様 魚座の司書様
評価、ありがとうございました。今後も、頂いた評価以上の作品を作れるよう頑張っていきます

NEXT「他校試合交流戦選抜」



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38「他校試合交流戦選抜」(前編)

ポケモンが楽しすぎて辛い(唐突)

どうも、秋風です。今年ももう少し出終わりですね。すみません、1部完結が今年中にはどうあがいても不可能でした。3月までには頑張ります(泣)

遊戯王の色々と出揃っている中、私はポケカやヴァンガードばっかりです。ぶっちゃけ、相手がいないのが辛い

前回のアンケートの結果、融合デッキが一番でしたので、今回は融合デッキです。
では、どうぞ!
感想、評価、指摘、訂正お待ちしています


 レイが帰ってから幾日かが経った。あれから、レイから迷惑をかけた人たちに対して謝罪をし終えたことや、学校で勉学に打ち込んでいることのメールが来た。ある程度の手回しを海馬社長がしてくれたこともあってのことだろう。社長曰く、小学生の出願届の偽造を見抜けないなんて話を他に漏らしたくないからとのこと。まあ、当たり前である。さて、今は放課後で、なぜか大徳寺先生から残るように言われている。当然ながら俺が残るということは、雪乃とツァンもいる。そして、他には十代、翔、明日香、ジュンコとモモエ、三沢が談笑している。俺は俺で、社長に言われているカードのリスト作成の最終チェックをしているのでそんな暇はないが……そんなこんなで、そこに校長先生、響先生、クロノス先生、そしてカイザーこと丸藤亮が入ってきた。先生の説明では、近いうちに行われるノース校との交流試合を誰が行うか、ということらしい。

 

「去年は丸藤亮君に出場してもらい、見事勝利を収めることができました。ですので、亮君。君からまず推薦したい方はいらっしゃいますか?」

 

「……そうですね。各々データを見た結果と、強さを考えると……武藤秋人が適任ではないかと思います」

 

「ってことだけど、どうかしら、秋人君」

 

 そう話を振ってくる響先生。当然、全員の視線がこちらに注がれる訳だが、そんなもの、答えは決まっている。

 

「嫌です」

 

「そ、即答ですか」

 

 俺を知る面々、校長やカイザーを除くメンバー全員が「やっぱり」とどこか呆れた表情で俺を見ているが、そんなの知ったことではない。ノース校との対抗試合は全国生放送で中継される。社長から目立つことはあまりするなとも釘を刺されている以上、出たら何を言われるかわからない。何より……

 

「俺の小学生時代のこと、そして、遊戯兄さんとの家族関係のことを知っている人間がノース校にいた場合、100%トラブルになるので嫌です」

 

「……そういえばそうだったわね」

 

 響先生が俺の事情を思い出したようで、頭を抱える。俺の中の「武藤秋人」の記憶が正しければ、「虐めていた人間」「虐めを見て見ぬ振りをしていた人間」「そもそも事情を知っている人間」が今の俺を見れば、100%難癖をつけてくるに違いない。そうなった場合、前の暴走が起きればマジで暴力沙汰になる可能性もあるのだ。ただ、事情を知っているとはいえ、カイザーが推薦してきたという手前もある……仕方がない。

 

「ただ、それでカイザーや先生たちも納得しないでしょうから、俺とカイザーでデュエルをする、というのはどうでしょうか」

 

「ふむ。勝敗で結果を決めるということですかな?」

 

「ええ、そうです。俺が負ければ、素直に出ます。でも、俺が勝ったら、そのカイザーの推薦権を俺にください」

 

 俺の言葉に、その場にいる一同が驚く。まあ、カイザーは現在このアカデミアで最強であるがゆえに、カイザーなのだから、当たり前だ。しかし、ここにいる面々なら俺がカイザーに勝った場合でも他言することはないだろう。それ故の譲歩だ。俺の言葉に、カイザーは頷き、持ってきていたデュエルディスクを腕につける。

 

「俺は構いません。武藤、俺とデュエルをしてもらおう」

 

 このカイザーの言葉に、反対の声を上げるものはいなかった。

 

 

 

デュエル場

 

「以前から、お前のデュエルを見ていたが、その強さから、俺もお前とデュエルがしたいと思っていたところだ。あの伝説の決闘者、海馬瀬人と引き分け、そして、武藤遊戯のデッキを退けたお前と」

 

 そういえば全部見られていたな。社長戦もそうだし、神楽坂戦もそうだ。遊戯王GXにおいて、最強という称号を持つ決闘者……カイザー、丸藤亮。卒業し、プロになってエド・フェニックスと戦うまでの彼は文字通り「無敵」だった。そんな男とデュエルをするんだ。万全の体制で挑まなければならない。ただ、相変わらずリスペクトデュエルの意味は理解していないが……それはさておき、カイザー相手に何を使うか……

 

『マスター! 私! 私出る! ね、お願い! いいでしょ!?』

 

「(いいでしょ、じゃねーよ。他のデッキ魔法で軒並み開けられないようにしてるじゃねーか、お前)」

 

 俺の横でマナが騒ぎ立て、ミラが落ち着かせている。マハードは弟子の暴走に頭を抱えている。まあ、最近使っていないのも事実だし、カイザー相手に戦えないわけではない。そんな様子を、精霊が見える十代も苦笑していた。

 

「いいじゃねーか、秋人。使ってやれば」

 

「……そうだな」

 

「アニキ、何の話っすか?」

 

「翔が大喜びするデッキの話さ」

 

 と、俺と十代しかわからない事情に十代が翔に楽しみにしてようぜ、と促す。俺もやれやれ、とため息を吐いてデッキケースからデッキを取り出し、デッキをセットした。

 

「じゃあ、試合を始めましょう。先攻と後攻を決めましょう。コイントスでいいかしら?」

 

「裏でお願いします」

 

「なら、俺は表で」

 

 カイザーが裏、俺が表。響先生のコイントスで、結果は表。俺が権利を得た。デッキの事を考えると本来は後攻を取るべきなんだけど、それもそれで怖い。俺のデッキも構えて動く形となるので、あえて先攻を選んだ。

 

「では、始めましょう。試合、開始!」

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

武藤秋人 LP4000

丸藤亮  LP4000

 

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 秋人とカイザーのデュエルが始まった。私やツァン、そして十代の坊やたちで観客席に座ってそのデュエルを眺める。

 

「雪乃、どっちが勝つと思う?」

 

「私は秋人の勝利を信じているわ」

 

「ボクも。というより、ボク、カイザーのこと嫌い」

 

 私とツァンの言葉に、そりゃそうか、と明日香がいう。最愛の人の負けなんて想像する気も起きないもの。ツァンの場合はレイの件があるからか、カイザーのことを毛嫌いしているようだ。まあ、そういうことを抜きにしたとして、ほぼ無敗のカイザーに対して秋人が何の策もなしにあんなデュエルをふっかけることはないと考えれば、秋人が簡単に負ける、というのはあまり考えにくい。

 

「カイザーはその二つ名故に敗北を許されないでしょう。でも、秋人もまた別の意味でカイザーに負けられない理由がある。だから、全力で挑むと思うわ」

 

「どういうことッス?」

 

 秋人がオシリスレッドで入学した本当の理由。それは、この学校で蔓延するクラス別の格差の払拭。オシリスレッドでもブルーやイエローに勝つことができる。クラスに対する差別をなくすことを海馬社長から頼まれているという。秋人一人なら辛い話だったかもしれないけど、十代の坊やも似たようなことをしている故に、オシリスレッドの生徒たちのデュエルの腕を向上させようという意識は少しずつ上っているように思えた。

 

「そのことはまた今度ね。秋人のターンから、ね」

 

 そう言って私はそのデュエルに集中することにした。

 

「俺の先攻、ドロー! 俺は『マジシャンズ・ロッド』を召喚!」

 

マジシャンズ・ロッド ATK1600/DEF100

 

「このカードの召喚に成功したとき、デッキから『ブラック・マジシャン』と明記された魔法カードを1枚手札に加える。俺は『黒の魔導陣』を加えてこれを発動! このカードは効果の発動処理としてデッキの上から3枚カードを確認し、その中に『ブラック・マジシャン』、及び、『ブラック・マジシャン』と明記された魔法・罠を1枚手札に加える。そして、好きな順でもとに戻す。俺は『ブラック・マジシャン』を手札に加え、残りを元に戻す!」

 

 秋人が今回使うのはブラック・マジシャンデッキ、ね。パワー比べなら銀河眼デッキかとも思ったけど……使ったのは神楽坂のボウヤとのデュエル、そしてアメリカでのレジーとのデュエルでも使用されたそのデッキ。武藤遊戯のエースと同じカード……というより、ブラック・マジシャン・ガールとブラック・マジシャンはその本人から渡されているカードということらしい。

 

「俺は『マジシャンズ・ロッド』に装備魔法『ワンダー・ワンド』を装備する。装備したモンスターの攻撃力を500ポイント上昇させるが、俺が使うのはもう1つの効果。このカードを装備したモンスターを生贄に捧げることで2枚カードをドローする。カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

 なるほど、確認したカードをそのままドローして手札に加えるということね。そして、フィールドはがら空き。これは上手いわね

 

「秋人のやつ、フィールドのモンスター生贄にしてドローしちまったな」

 

「きっと、カイザーの使う『サイバー・ドラゴン』を警戒してのことだろう。あのカードは自分フィールドにモンスターがおらず、相手フィールドにモンスターが存在すれば特殊召喚を可能とするカードだ。後攻はカイザーの得意戦術だからな」

 

 三沢のボウヤの言う通り。それがカイザーの常套手段。ただ、彼のドロー運は十代のボウヤと同じくらいとも取れるほど凄まじい。どうすればサイバー・ドラゴン3枚と融合が初手で揃ってしまうのか。そうなった場合、1ターンキルになるけど……

 

「俺のターン! ……」

 

 カードを引き、1ターン目から長考するカイザー。そういえば、彼も神楽坂のボウヤとのデュエルは見ていたはず。なら、秋人の盤面を警戒するのも当然か。

 

「お兄さん、どうしたんだろう……」

 

「秋人のフィールドのカードを警戒しているんでしょ。『黒の魔導陣』があって、ブラック・マジシャンが手札にある。もし、ここでサイバー・エンド・ドラゴンを召喚しようものなら、マジシャンズ・ナビゲートだったらブラック・マジシャンの召喚によって黒の魔導陣の効果が発動してゲームから除外される」

 

 ツァンの言葉に、そっか、と翔のボウヤも気がついた。そう、もうすでに1ターン目からカイザーへ制限をかけている。カイザーのデッキはサイバー・ドラゴンを融合することで超火力を出すパワーデッキ。除去カードがあればそれまでだが、長考している様子から、ないと考えるのが自然か。

 

「魔法カード『融合』を発動! 手札のサイバー・ドラゴン2体で融合を行う! 来い! 『サイバー・ツイン・ドラゴン』!」

 

サイバー・ツイン・ドラゴン ATK2800/DEF2100

 

「その召喚に対して罠カード『マジシャンズ・ナビゲート』を発動! 手札から『ブラック・マジシャン』を特殊召喚し、さらにデッキからレベル7以下の闇属性、魔法使い族を特殊召喚する! 来い! 『ブラック・マジシャン』! 『マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン』! これにより、『黒の魔導陣』の効果が発動! サイバー・ツイン・ドラゴンを除外する!」

 

「速攻魔法『融合解除』! サイバー・ツイン・ドラゴンを融合デッキへ戻し、墓地より『サイバー・ドラゴン』2体を特殊召喚!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン ATK2100/DEF2500

 

サイバー・ドラゴン① ATK2100/DEF1600

 

サイバー・ドラゴン② ATK2100/DEF1600

 

 それぞれのフィールドに現れるモンスターたち。カイザーは融合のカードを1枚犠牲に、黒の魔導陣を回避する選択を取った。ただ、今の行動によって手札は2枚となっている。1枚のカードを回避するにしては痛い出費ね。このやり方は神楽坂のボウヤもキマイラでやっていたけど……ブラック・マジシャンしかサイバー・ドラゴンを倒すことはできない。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン! 俺は魔法カード『師弟の絆』を発動! フィールドにブラック・マジシャンがいるとき、弟子である『ブラック・マジシャン・ガール』を守備表示で特殊召喚する! その後、デッキから「黒・魔・導」「黒・魔・導・爆・裂・破」「黒・爆・裂・破・魔・導」「黒・魔・導・連・弾」のいずれか1枚を選んで自分の魔法&罠ゾーンにセットできる! 『黒・魔・導・連・弾』を選択してセット! 来い! 『ブラック・マジシャン・ガール』!」

 

『やった! 久しぶりの出番!』

 

 フィールドに現れるブラック・マジシャン・ガール。それを見て大興奮の十代のボウヤと翔のボウヤ。あれくらいあざといアイドルカードなら人気が高いのも頷ける。でも、秋人の場合はどこか呆れている様子だけれど……なぜかしらね。

 

「そして、今セットされた『黒・魔・導・連・弾』を発動! このターン、ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力を、ブラック・マジシャンの攻撃力に加える!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100→ATK4500/DEF2100

 

「バトル! サイバー・ドラゴンにブラック・マジシャンで攻撃!」

 

「罠発動! 『攻撃の無力化』! 攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する!」

 

「かわされたか……カードを3枚伏せてターンエンド!」

 

 流石に、止めてくるわよね。さて、カイザーはこの局面をどうやってひっくり返すつもりか……

 

「俺のターン! 『天よりの宝札』を発動! 互いのプレイヤーは手札から6枚になるようにドローする! 俺の手札は0! よって6枚ドロー!」

 

「俺の手札は1枚。よって5枚ドロー」

 

「魔法カード『サイクロン』発動! 黒の魔導陣を破壊! そして、再び『融合』を発動! フィールドの2体のサイバー・ドラゴンと、手札のサイバー・ドラゴンで融合! 融合召喚! 来い! 『サイバー・エンド・ドラゴン』!」

 

サイバー・エンド・ドラゴン ATK4000/DEF2800

 

 デュエル場に響く咆哮。フィールドに現れたカイザーのエース、サイバー・エンド・ドラゴン。あの伝説の神のカード、オベリスクの巨神兵と同等の攻撃力を持つ強力なモンスター……『パワー・ボンド』で召喚されなかっただけましだけれど……あのカードには貫通効果があったはず。守備表示になっているガールとブラック・イリュージョンが危ないわね。

「バトルだ! サイバー・エンド・ドラゴンでブラック・マジシャン・ガールを攻撃! 『エターナル・エヴォリューション・バースト』!」

 

「速攻魔法『黒魔術の秘技』を発動! 2つあるうちの1つを選択して発動! 融合モンスターカードによって決められた、「ブラック・マジシャン」または「ブラック・マジシャン・ガール」を含む融合素材モンスターを自分の手札・フィールドから墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合召喚する! ブラック・マジシャン! そしてブラック・マジシャン・ガール! 今こそ師弟の力を結束せよ! 融合召喚! 『超魔導師-ブラック・マジシャンズ』!」

 

超魔導師-ブラック・マジシャンズ ATK2800/DEF2300

 

 そのフィールドに立つ、新たなブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガール。それぞれ、身に纏う衣装が一新された感じかしら……そして、2体で1体のモンスターなのね。 ブラック・マジシャン・ガールがフィールドを離れたことでバトルは巻き戻された。

 

「ならば、今度は『マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン』を攻撃する!」

 

「速攻魔法『光と闇の洗礼』を発動! フィールドの『マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン』はフィールドにいる場合は『ブラック・マジシャン』としても扱われる! これにより、このカードを生贄に『混沌の黒魔術師』を特殊召喚! 召喚に成功したことで墓地より『黒・魔・導・連・弾』を手札に加える! さらに魔法カードを使ったことで超魔導師-ブラック・マジシャンズの効果が発動! 1ターンに1度、魔法・罠カードの効果が発動した場合に自分はデッキから1枚ドローする! ドローしたカードが魔法・罠カードだった場合、自分フィールドにセットする! 速攻魔法・罠カードをセットした場合、そのカードはセットしたターンでも発動できる! カードドロー! ……俺はこのカードをそのままフィールドにセット!」

 

混沌の黒魔術師 ATK2800/DEF2600

 

 フィールドには超魔導師-ブラック・マジシャンズと混沌の黒魔術師の2体。しかし、どちらもサイバー・エンド・ドラゴンには攻撃力が及ばない。しかし、今引いたカードはセットできたということは魔法か罠……もし、ここでミラーフォースや魔法筒のようなカードを引いていた場合、それによって返り討ちになる可能性もある。

 

「……攻撃を中止してメインフェイズ2へ移行する」

 

 やっぱり、カイザーもわかっているわね。秋人がフィールドにセットしたカードは何なのかわからない以上、余計な手出しはできない。さらに言えば、秋人は私達の知らないカードを多く持っている。警戒を強めるのは正しい判断だわ。ただ、その結果2体の魔術師がフィールドに残る結果にはなってしまったけど。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「エンドフェイズ、俺は伏せていた罠カード『永遠の魂』を発動! 1ターンに1度、墓地より『ブラック・マジシャン』を特殊召喚できる!ブラック・マジシャンを特殊召喚! そして俺のターン、ドロー! 永遠の魂の効果発動! デッキから『千本ナイフ』を加える! これにより超魔導師-ブラック・マジシャンズの効果が発動! 1枚をドロー! このカードはそのまま手札に加える! そして、『千本ナイフ』を発動! サイバー・エンド・ドラゴンを破壊する!」

 

「罠カード『魔宮の賄賂』発動! 相手の魔法、罠を無効にする! そして、相手は1枚カードをドローする!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

 フィールドに再び舞い戻るブラック・マジシャンが千本ナイフを発射するも、魔宮の賄賂によって不発……破壊しそこねてしまったわね。フィールドには攻撃力2800の超魔導師-ブラック・マジシャンズと、混沌の黒魔術師。そして、攻撃力2500のブラック・マジシャン。見る限りではすごい構図よね、これ。

 

「ならばバトルフェイズ! 混沌の黒魔術師でサイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」

 

「攻撃力2800で、攻撃力4000を攻撃ですの!?」

 

「馬鹿じゃないの!? 返り討ちにあうだけよ!?」

 

 ジュンコやモモエが驚きの声をあげる。たしかにそのとおりだ。だけど、秋人のことだから、そんな無策で突っ込むようなことはしないでしょうに……

 

「この瞬間! 手札の『幻想の見習い魔導師』の効果発動! このカード以外の自分の魔法使い族・闇属性モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時、手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる!その自分のモンスターの攻撃力・守備力はそのダメージ計算時のみ2000アップさせる!」

 

混沌の黒魔術師 ATK2800/DEF2600→ATK4800/DEF2600

 

 サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力を上回った! しかも、混沌の黒魔術師が破壊したモンスターは墓地へ行かず、ゲームから除外される! ここでサイバー・エンド・ドラゴンを除外すれば大きなアドバンテージを得るのは間違いない。ただ、この攻撃をカイザーが読んでいるとしたら……

 

「させるか! 罠カード『サイバー・リペアラー』!相手はカードを1枚ドローし、このターン、自分の場の機械族モンスターは戦闘で破壊されない!」

 

「だが、ダメージは受けてもらう!」

 

「ぐうっ!」

 

丸藤亮 LP4000→LP3200

 

 破壊しなければ、混沌の黒魔術師の効果は発動しない。しかも、お互いとはいえカイザーにドローを許してしまった。

 

「……バトルフェイズを終了。そして、幻想の見習い魔術師の効果も終了。カードを1枚セットしてターンエンドだ。手札制限でカードを2枚墓地へ送る」

 

混沌の黒魔術師 ATK4800/DEF2600→ATK2800/DEF2600

 

「おしい……!」

 

「ああ、しかもいまのでサイバー・エンド・ドラゴンに対する対抗策を1つ明かしてしまったわけだからな……秋人にとっても不利になる結果だな」

 

 情報アドバンテージというのは、どのようなことにおいても重要視されるもの。秋人が幻想の見習い魔導師を2枚以上デッキに入れているならばそれを当然カイザーは警戒してくるはず……更に言うならば機械族デッキではなくてはならない攻撃力を倍にする『リミッター解除』、そして翔のボウヤも持っているなら当然使ってくるであろう『パワー・ボンド』もまだ使われていないのが怖いところ。秋人もその情報を持っているからか、いつも以上に慎重なデュエルをしているようにも思える。

 

「さて、どうなるかしら……」

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 ここからカイザーの反撃も始まる。果たして、それに秋人が耐えきることができるのか……頑張って、秋人。

 

後半へ続く

 




というわけで、後半に続きます。後半はまたしばらくお待ちくださいませ
カイザーとのデュエルが正直、書くのが一番しんどい(汗
カイザーはまだ昔のカードばかりを使っているので、カイザーの強化はまた後日の予定です。ただ、カイザーを今の環境に上げてしまうと、どうあがいてもエドがカイザーを倒す構図が思いつかなくなる……うむむ

ノース校試合編
妹は諸事情によりカットになりました

新生ブラック・マジシャンデッキ
この前、いっぱいいいものでましたからね。その記念です

サイバー・リペアラー
アニメにて使われたカード。未OCGです

うさぎたるもの様 楠 嵐界様 フィアー様
P&A様 神薙改式様 You(ようって呼ばないで欲しい)様
ノウレッジ様 navi様 くもっち様 鷹紫様 さか☆ゆう様
EEVEE様 G3様
感想ありがとうございます。これからもよろしくです!

死にたがり様 残念無念で不書感想様 HANEKAWA-san様
評価ありがとうございました。頂いた評価以上の作品になるよう、頑張ってまいりますので、今後とも宜しくお願いいたします

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39「他校試合交流戦選抜」(後編)

メリークリスマス(やけくそ)

 去年もクリスマスプレゼントです!とか言って新話上げていた気がします。秋風です。
今年も後少しですね。クリスマスの予定? 家でポケモンのレート戦潜りながら一日が過ぎますね、いつもどおりだ(笑)
今の所、ネタが思いついているのでできる限り多く投稿していく予定ですので、よろしければ今年の最後までお付き合いくださいませ

また、以前より別小説で告知していますが「ロックマンゼロ×FGO」のプロトタイプを現在作成しています。作成後、第一話を希望者にメールで配布し、感想、指摘をいただきたく思います
 これに関しては活動報告をご参照ください

では、カイザーとの後半戦です。ここからはツァン視点となります。どうぞ


武藤秋人 LP4000

手札6枚 伏せ1

混沌の黒魔術師 超魔導師ブラック・マジシャンズ ブラック・マジシャン

 

丸藤亮 LP3200

手札1枚 伏せ1

サイバー・エンド・ドラゴン

 

「俺のターンドロー!」

 

 これだけの攻防が繰り広げられているというのに、未だにお互いのライフが減っていない。下手をすれば一撃で終わってしまう、ということもあって秋人はかなり慎重に動いているようにも思える。カイザーのことは嫌いだけど、やっぱりアカデミア最強の称号は伊達じゃない。それでも、ボクは秋人が勝つと信じているけど……でも、フィールドに鎮座するサイバー・エンド・ドラゴンをどうにかしない限り、秋人に勝機があるようには思えない。

 

「ねえ雪乃、秋人のあのデッキって確か……」

 

「ええ、そうね。魔法使い族……というよりも、ブラック・マジシャンを中心としたバランス型デッキ。攻撃力4000のサイバー・エンド・ドラゴンはまだ対処できるとしても、もし、パワー・ボンドなんて使われたら……かなりきついわね」

 

 ボクや雪乃は毎晩秋人とデュエルをしているので、秋人のデッキはほとんど把握している。秋人のデッキの数は軽く50は超えるほど存在し、大きなアタッシュケースに並んでいるのを知っている。とはいっても、秋人の好みだったり、完成度だったりのこともあって使えないデッキというのも多く、ボクが知っている限りでは10前後ほどしか使っていない。故に、あのデッキも秋人が使うデッキとしてよく知っているけれど……ボクの知る中では3つのパターンでの勝利を狙うことができる。ただ、どれも条件が厳しすぎる。秋人曰く『浪漫』とのことだけど……そのカードを引くことができるのか。

 

「俺は手札から『天使の施し』を発動! 3枚ドローし、2枚を墓地へ送る。更に『強欲な壺』でデッキから新たにカードを2枚ドロー! そして『貪欲な壺』を発動! 墓地に存在する3枚の『サイバー・ドラゴン』、そして天使の施しで墓地へ送った『サイバー・ヴァリー』『サイバー・バリア・ドラゴン』をデッキに戻してシャッフル、カードを2枚ドロー!」

 

 ……十代もびっくりのインチキドローにボクは言葉を失った。2枚だった手札は倍の4枚になった。しかも、不要だと判断したカードを施しで捨ててデッキに戻したのだから、ほとんど手札は増強されたのと同義だ。

 

「十代のボウヤといい、カイザーといい、ドロー運のいいプレイヤーを見ると驚きを通り越してため息が出るわ」

 

『同感』

 

 十代だけは首をかしげていたけれど、ボクを含めてそれ以外のメンバーは頷いていた。さて、フィールドのサイバー・エンド・ドラゴンを含め、ここからカイザーはどうしてくるのかしら。

 

「俺はプロト・サイバー・ドラゴンを召喚。このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、『サイバー・ドラゴン』として扱われる。さらに『融合』を発動!手札のサイバー・ドラゴンと融合! 再び現われよ! 『サイバー・ツイン・ドラゴン』!」

 

サイバー・ツイン・ドラゴン ATK2800/DEF2100

 

「『融合』のカードが発動したことでブラック・マジシャンズの効果発動! デッキからカードをドロー! ……このカードはそのまま手札に加える。」

 

「バトルだ! サイバー・エンド・ドラゴンで混沌の黒魔術師を攻撃! 『エターナル・エヴォリューション・バースト』!」

 

「ぐううっ! 混沌の黒魔術師は破壊されたとき、墓地ではなくゲームから除外される……」

 

武藤秋人 LP4000→LP2800

 

 サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃で吹き飛んでしまう混沌の黒魔術師。さっきのコンボを警戒してのことなんだろう、とボクは理解する。混沌の黒魔術師は強力な効果がある反面、デメリットも大きい。雪乃のように『安全地帯』などで混沌の黒魔術師を守る術があるなら別だけど、秋人のデッキには残念ながらそんな枠が存在しない。

 

「さらに、サイバー・ツイン・ドラゴンでブラック・マジシャンを攻撃! 『エヴォリューション・ツイン・バースト』!」

 

「ぐううううっ!」

 

武藤秋人 LP2800→LP2500

 

「メインフェイズ2で『命削りの宝札』を発動。デッキからカードを5枚ドローし、2ターン後にすべて捨てる。『融合回収』を発動。墓地の『融合』と『サイバー・ドラゴン』を手札に加える。カードを2枚伏せてターンエンドだ」

「エンドフェイズ、永遠の魂の効果を発動! 何度もすまない、甦れ『ブラック・マジシャン』!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

 再びフィールドに現れるブラック・マジシャン。以前、秋人が使っていたデッキでは『E・HEROエアーマン』も何度も召喚されていたのを思い出す。永遠の魂……あのカード、ブラック・マジシャンを過労死させるカードなんじゃないだろうか。

 

「俺のターン! 俺も『強欲な壺』を発動! デッキから新たにカードを2枚ドローする! ……魔法カード『手札抹殺』を発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた分ドローする! 俺の手札は8枚。8枚を捨てて8枚ドロー!」

 

「くっ……4枚捨てて4枚ドロー」

 

 上手い! あの4枚の手札の内、1枚は間違いなく『融合回収』で手札に戻した『サイバー・ドラゴン』。そして、もう1枚は『融合』の可能性が高い。おそらく、サイバー・エンド・ドラゴンが破壊されたあとの保険を考えていたんだろうけど、それを崩せたのは有利に働いているはず。ただ、秋人も秋人で手札を8枚捨てて8枚ドローなんて思い切ったことをしている。ただでさえ、ブラック・マジシャンズの効果でドローを加速させているのに……下手をするとデッキ切れで負けてしまう可能性すらある。

 

「俺は更に魔法カード『円融魔術(マジカライズ・フュージョン)』を発動!」

 

円融魔術(マジカライズ・フュージョン)?」

 

「このカードは自分のフィールド・墓地から、魔法使い族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体を融合召喚する! フィールドに居る『超魔導師ブラック・マジシャンズ』、『ブラック・マジシャン』、墓地に存在する『ブラック・マジシャン・ガール』、『幻想の見習い魔導師』そして、手札抹殺で墓地へ送った『マジシャン・オブ・ブラックカオス』……この5枚を除外し、融合召喚を行う! 集いし5人の魔術師よ、今こそ結束し、究極の魔術師へ姿を変えろ!」

 

 秋人の言葉とともに、5人の……正しくは6人の魔導師が各々杖を掲げ、その光へと登っていく。そして、その出来上がった光の柱から一人の魔術師がその姿を表した。ボクや雪乃も、そのカードを見たことがあっても、召喚されているのを見るのは初めてだ。

 

「融合召喚! 現れよ! 究極にして至高の魔術師! 『クインテット・マジシャン』!!」

 

クインテット・マジシャン ATK4500/DEF4500

 

「魔法使い族を5体使った融合モンスター……!」

 

「すげぇ! かっけぇ!」

 

「ブラック・マジシャンに似ているッス!」

 

「攻撃力4500……あの青眼の究極竜と同じ攻撃力!」

 

 観客席でも、三沢、十代、翔、明日香が驚きの声を上げて興奮している。ボクたちも初めてみたときは驚いたけど、驚くべきはそれだけじゃない。あのモンスターにはとんでもない効果が書かれている。

 

「クインテット・マジシャンの効果発動! 魔法使い族5体を素材としてこのカードの召喚に成功したとき、相手フィールドのカードを全て破壊する!」

 

「くっ……ならば破壊される前に罠発動『和睦の使者』! このターン、効果でモンスターは破壊されるが、俺への戦闘ダメージは0となる! そして『強欲な瓶』! デッキからカードを1枚ドローする!」

 

 伏せていたカードを破壊される前に使って破壊されるのを免れた。けれど、サイバー・エンド・ドラゴン、そしてサイバー・ツイン・ドラゴンはそのまま破壊され、墓地へと送られてしまった。クインテット・マジシャンの攻撃力は4500。サイバー・エンド・ドラゴンよりも攻撃力は上だ。ボクの知る、サイバー・エンド・ドラゴンに秋人があのデッキで対抗できる手段の1つ。それがあのカード。

 

「……カードを2枚セット。更に俺も『一時休戦』を発動。お互いのプレイヤーは、それぞれデッキから1枚ドロー。次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。ターンエンドだ」

 

 ……? ここで一時休戦? なんであのカードを……念には念を入れて、ということなのかしら。クインテット・マジシャンを召喚したものの、秋人には未だ余裕がない。

 

「俺のターン! 俺は手札から『魔法石の採掘』を発動! 手札2枚をコストに、墓地の魔法カードを手札に戻す! 俺が戻すのは『天よりの宝札』! カードを1枚伏せ、これを発動!」

 

 なっ!? ここでまた天よりの宝札!? 秋人の手札は5枚だから引くのは1枚。でも、カイザーの手札は0枚。カイザーに6枚もドローを許すなんて……!

 

「更に、俺は2枚目の『貪欲な壺』を発動する。サイバー・エンド・ドラゴン、サイバー・ツイン・ドラゴン、プロト・サイバー・ドラゴン、そして魔法石の採掘で墓地へ送った『サイバー・フェニックス』、『サイバー・ヴァリー』をデッキへ戻しシャッフル、カードを2枚ドロー! そして先程伏せた『死者蘇生』を発動! 墓地の『サイバー・ドラゴン』を蘇生する! 甦れ『サイバー・ドラゴン』!」

 

サイバー・ドラゴン ATK2100/DEF1600

 

 2枚目の貪欲な壺にも驚いたけど、死者蘇生でサイバー・ドラゴンを蘇らせた……? ま、まさか…!?

 

「そして、魔法カード『パワー・ボンド』を発動! フィールドのサイバー・ドラゴン、そして手札にある2枚のサイバー・ドラゴンを融合! 再びその姿を表わせ……サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

サイバー・エンド・ドラゴン ATK4000/DEF2800→ATK8000/DEF2800

 

「パワー・ボンドは融合のカードとして扱い、このカードによって融合召喚したモンスターの攻撃力を2倍にする。バトル! サイバー・エンド・ドラゴンでクインテット・マジシャンを攻撃! 『エターナル・エヴォリューション・バースト』!」

 

「くっ……クインテット・マジシャン……! だが、このターン一時休戦の効果でダメージはない!」

 

「そのとおりだ。だが、お前のその保険はこちらにも有利に働いてしまったな」

 

 カイザーの言葉に、十代が首をかしげる。

 

「どういうことだ?」

 

「あっ! そうか! アニキ、パワー・ボンドはエンドフェイズにそのモンスターの攻撃力分のダメージを負うデメリットがあるッス! けど、一時休戦の効果でそのダメージすら、受けることがないんだ!」

 

 でも、一時休戦を使わないとクインテット・マジシャンが破壊されたことでダメージを受けて秋人は敗北していた。この結果は良かったのか悪かったのか……

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド……さあ、秋人。俺のサイバー・エンド・ドラゴンを超えられるか? お前の次の一手を見せてみろ!」

 

 そうカイザーがいうも、フィールドにいるのは攻撃力8000のサイバー・エンド・ドラゴン。それを前にしただけで、大抵のプレイヤーは白旗を上げてしまうのは間違いない。けど、秋人は諦めた様子はない。

 

「クインテット・マジシャンが破壊された以上、秋人は次の一手を繰り出さなければならないが……」

 

「要のブラック・マジシャンはゲームから除外されている。もし、デッキに3枚入っているとしても、残りのデッキに入っているのかわからないわね。手札抹殺、天よりの宝札、そしてブラック・マジシャンズの効果で多くドローしているのが痛いわね」

 

「そもそも、クインテット・マジシャン以上の切り札があるのかも疑問ッス」

 

 三沢、明日香、翔がそう言ってフィールドを見つめていた。確かに、手札はあっても盤面は圧倒的に不利だ。けど、秋人が“あのカード”を引いていればまだ秋人にもチャンスはあるはず……

 

「そういえば、秋人のやつ、パワー・ボンドを『マジシャンズ・ナビゲート』で止めなかったんだ? そうすればサイバー・エンド・ドラゴンの召喚は止められただろ?」

 

「確かに、十代のボウヤの言うとおり。でも、おそらくパワー・ボンドを止めても、別の手段でサイバー・エンド・ドラゴンをカイザーなら出すはず……そう、秋人は判断して使わなかったんだと思うわ」

 

 雪乃の言う通り、あのドロー運を見れば、カイザーがそんなことをしてくるのが容易に想像できてしまう。次がおそらく、ラストドロー……

 

「頑張って、秋人……」

 

「……! そうだな、秋人を応援しないと! 秋人! 頑張れー!」

 

 ボクがポツリと呟いたのが十代に聞こえていたらしく、十代も大声で秋人に声援を送る。そんな十代を見て、秋人は苦笑しつつもそのデッキに手をかける。

 

「俺のターン……ドロー! ……! カイザー、決着をつけようか」

 

「……! いいだろう、来い!」

 

 秋人の手札は7枚。どうやらあの中に逆転の一手はしっかりと握れたらしい。

 

「まずは魔法カード『D・D・R』を発動! 手札1枚をコストに、ゲームから除外されているモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚できる! 次元の先より舞い戻れ、『ブラック・マジシャン』!」

 

ブラック・マジシャン ATK2500/DEF2100

 

 今日、果たして何度目の登場なのか、と言いたくなるブラック・マジシャン。こころなしか、顔色が悪く……いや、もともと顔色は悪そうな肌の色をしている。ソリッドビジョンなのに、肩で息をしているのは気のせいだと思いたい。

 

「ブラック・マジシャン……だが、そのカードでは俺のサイバー・エンド・ドラゴンには太刀打ちできない!」

 

「そのとおり。だから、こうするのさ! 魔法カード『融合』を発動!」

 

「融合だと!? 一体今度は何を……!」

 

「フィールドのブラック・マジシャン、そして……手札の『炎の剣士』を融合する!」

 

『炎の剣士!?』

 

 観客席も、そして戦っているカイザーも驚きの声を上げる。唯一、ボクと雪乃はそのカードのことを知っていたから声を上げていない。そう、秋人のデッキに1枚だけ秋人が『浪漫』だと言って入れていたカードが存在する。それがあの炎の剣士。なんでも、秋人曰く、秋人にとってあの『通常モンスター』である炎の剣士は希少なカードらしい。あのカード、カードショップに行けばストレージにぶち込まれているノーマルカードのハズなんだけど

 

「黒き魔術師は炎の剣士の力を纏いて、新たな騎士となる! 現れろ! 融合召喚! 『黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト-』!」

 

黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト- ATK2200/DEF800

 

 現れたのは赤と黒い鎧を纏い、その手には炎の色をした剣と鎧と同じ色をした盾を携えた騎士。攻撃力でいえば、ブラック・マジシャンよりも劣ってしまっているモンスターだ。

 

「ブラック・マジシャンを素材とした割には、ブラック・マジシャンよりも攻撃力が低くないか?」

 

「そうね、でもあのカードにはすごい力が備わっているのよ」

 

 十代の言葉にそう雪乃が答える。そう、正しくはあのモンスターと、もう1体のモンスターに、だけどね……

 

「バトルフェイズ! ブラック・フレア・ナイトでサイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」

 

「また攻撃力の低いモンスターで……」

 

「攻撃力8000のモンスターに攻撃を!?」

 

「大丈夫、ブラック・フレア・ナイトは戦闘ではコントローラーへのダメージが発生しないのよ」

 

 さっきと同じく、驚きの声を上げているジュンコとモモエに雪乃がそう説明する。そう、そのとおり。ならばなぜ特攻させる必要があるのか? それは簡単だ。サイバー・エンド・ドラゴンを倒すためのモンスターを呼び出す布石になるからだ。

 

「返り討ちにしろ! サイバー・エンド・ドラゴン! 『エターナル・エヴォリューション・バースト』!」

 

「だが、ブラック・フレア・ナイトで発生する俺へのダメージは0だ。さらに特殊効果発動! このカードが戦闘で破壊されたことで、デッキより新たなモンスターをフィールドへと呼び出す! 闇から光へ……! 黒炎の騎士の魂は幻影の騎士へと受け継がれる! 現われよ! 『幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-』!」

 

幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-(アニメ版) ATK2800/DEF2200

 

 フィールドに現れる、金色の鎧を纏う騎士。その顔はどこかブラック・マジシャンと似ていたりする。

 

「行け! ミラージュ・ナイト! サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」

 

「迎え撃て! サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

「ダメージ計算時にミラージュ・ナイトの効果発動! ダメージ計算時、このカードの攻撃力に相手モンスターの攻撃力を加える。よって、ミラージュ・ナイトの攻撃力は8000ポイントアップする!」

 

幻影の騎士-ミラージュ・ナイト- ATK2800/DEF2200→ATK10800/DEF2200

 

 ミラージュ・ナイトがサイバー・エンド・ドラゴンの『エターナル・エヴォリューション・バースト』を突破し、その攻撃を体に纏い、自身のもつ鎌でサイバー・エンド・ドラゴンの三ツ首を刈り取って破壊する。だけど、おそらくこれで終わりではない。

 

「ぐおおおおおおっ!」

 

丸藤亮 LP3200→LP400

 

「そして『永遠の魂』の効果を発動! これによりブラック・マジシャンを蘇生し、ダイレクトアタック! 『ブラック・マジック』!」

 

「……見事だ」

 

丸藤亮 LP400→LP0

 

 こうして、秋人は見事、アカデミア最強の称号を持つ男に勝ってみせたのだった。

 

 

 

 

 デュエルを終え、壇上を降りるとそこには雪乃とツァン、そして十代達が待っていた。

 

「すげーな秋人! あのカイザーに勝っちまうなんて!」

 

「当然でしょ。ボクたちの秋人ならね!」

 

「ふふっ、ツァンたら……でも、本当にすごかったわね。秋人」

 

 と、みんなが俺の勝利を喜んでくれる。そこへ、カイザーと鮫島校長、そして響先生とクロノス先生がやってきた。

 

「お見事でした、武藤君。まさか、亮君に勝つとは思いませんでしたよ。では、お約束どおり、亮君の推薦権を武藤君に譲りますが……亮君、よろしいですかな?」

 

「ええ、俺も全力を出し切って負けました。ですので、何の問題もありません。秋人、また決闘をしてくれ。次は、本当の本気でお前とぶつかってみせよう」

 

 そう言ってカイザーは先生たちに一礼し、デュエル場から去っていった。そんな去っていったカイザーに対して、みんなが首を傾げる。

 

「本当の本気って、どういうことかしら?」

 

「……実はですな。海馬コーポレーションの社長より、サイバー・ドラゴンを強化するカードをテスターとして多数提供され、私が彼に渡していたのですが……今日、彼が使っていたデッキには1枚も入れていないようでした。そのことでしょう」

 

「ってことは、カイザーは手を抜いていたわけ?」

 

「いや、そうじゃないだろ。提供されたカードを使うよりも、今までのデッキを使ったほうが全力を出せるって考えたんじゃないか?」

 

 手を抜いていたのでは、と不機嫌になるツァンに対して俺はそう結論を出す。だって、カイザーに校長がカード渡したのは昨日だからね、急にそんなカード大量に渡されたらカイザーでも驚いたことだろう。どうして知っているかって? だって、そのカードリストとカード社長に提出したの、紛れもない俺だし。

 

「秋人、あなた知っていたでしょ?」

 

「……まあね」

 

「まあまあ、その話はそれぐらいにしましょうか。それで、秋人君。貴方は誰をノース校との対抗試合の代表に選ぶのかしら?」

 

 そう響先生がその場をなだめ、俺にそう聞いてくる。まあ、当然といえば当然の話にはなってしまうのだが……

 

「俺は十代を推薦したいです」

 

「俺? いいのか、秋人」

 

「このデュエルアカデミアに来て、公式の試合で唯一俺を負かしているのは十代だけだからな。あとは、個人的に期待しているってのもある」

 

 俺の言葉に、教師の中で唯一クロノス先生だけは反対だったようだが、俺がカイザーに勝ったことで得た推薦権故に文句は言えないようで、悔しそうにしていた。こうして、ノース校との代表戦の出場者は十代へと決まった。ま、ノース校戦は観客席から遠巻きに十代を応援するとしよう。万丈目が帰ってくる事以外、特にイベントは起きないだろうし。

 

 

 

 

 

……この考えが、のちのフラグだったということはいうまでもない。

 




リメイク前との変更点は新規なのでなし
カイザーの鬼ドロー
こうでもしないと、ブラマジデッキには対抗できないかな、と
基本ハイランダーなんですけど、都合上貪欲な壺だけは2枚入れました

通常モンスター「炎の剣士」
アニメ、及び原作の漫画では炎の剣士は通常モンスターです。融合のときはインスタントフュージョンを使って融合したりもしていましたけどね
コナミよ、なぜ城之内のカードを軒並み融合にしたがるのか……

ブラック・フレア・ナイト&ミラージュナイト
実は子供の頃からお気に入りだったこの2枚。ちなみに、どちらもアニメ効果です。ミラージュナイトはOCGでは攻撃時に「元々の攻撃力」を加えます。なので、本来なら普通に返り討ちにあいます
しかし、アニメ版は攻撃力を参照にするので大丈夫かと

リミッター解除について
これ、発動タイミングがどうあがいても発動できないのでは?と疑問に思い中です。チェーン組まれたら更に攻撃力上がっちゃうし……
詳しい方、ご指摘をお願いします

カイザーパワーアップ計画
これをやっちゃうと、ぶっちゃけGX時代のエドではまじで勝てないんじゃなかろうか……今回ツヴァイ、ドライ他強力なカードがいませんでしたからね
闇落ちなしにしてしまうのもありかもしれません

前回感想をくれた方々
さか☆ゆう様 うさぎたるもの様 ワッカース様 赤鉄様 ノウレッジ様 スパイクになりきれないティミー様 ラノベ最高‼︎様
ありがとうございました! 次回も感想をお待ちしております


次回、波乱?
波乱というか、修羅場になります。秋人の女周りで……まあ、アンケートを見れば誰が出るかは速攻でわかる話ですが(汗


というわけで、カイザー編、いかがでしたでしょうか。さり気なく、カイザー強化は後々実行されるのでお楽しみにお待ち下さい
いやー、今年も終わりですね。後半はポケモン盾を購入してクリアし、図鑑を集め、レート戦用のポケモンを作ってレート潜ってます
現在はマスター級でフルボッコにされてますが(汗
にしても、またマスタールール変わりますね。ジャンドたちが帰ってくる!ただしペンデュラム、テメーはダメだ……リンクとはなんだったのか
これによって、高くて手が出せなかったハリファイバーには手を出さなくて済むと考えるとまた遊星デッキは作れそうですね。楽しみだ

……そして、遊戯王OCG デュエルモンスターズ LEGENDARY GOLD BOXは買えませんでした。畜生、ドラグーンほしかった……買いに行ったらすでにどこにも売っていませんでした。悲しい……再販は……しないだろうなぁ(汗
誰かくれないかしら(おぃ

他にも、来月からまたパックの発売などもありますし、楽しみですね
ちなみに、私は現在遊戯王の他にはポケカをやっているだけです。ヴァンガードはデッキを盗まれ、ヴァイスはやる人がいなくなったという悲しい現状なので……ヴァンガード、バミューダ組もうとすると2万近く吹き飛ぶとかなんやねん……(汗

ではでは、次回もお楽しみに!
Twitterやってますので、もしよかったらフォローお願いしますね!
https://twitter.com/AKIKAZE7010
また、前書きで書いたプロトタイプの読者については活動報告をご参照くださいませ

NEXT 40「学園対抗デュエル戦 アメリカからの留学生」




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40「学園対抗デュエル戦:アメリカからの留学生」

 久しぶりにこっそり投稿
最早、待っている人などいないだろうと思いつつも、完結までは持っていきたいので更新。しかも、今回デュエル要素ないです
タイトルからして既にネタバレという……HDDが逝ってから慌てて書き直したのですごく短いです。ごめんなさい
コロナの影響で不要不急の外出が出されたり、密のせいでカードの大会が中止になったりと世間は大騒ぎですが、私は今日も元気です

最近はデジモンカード始めました。遊戯王はこの前、プリシクの竜騎士ガイア当てて以降パックは買ってないです(汗

では、40話どうぞ。ヒロインが増えるのか、否か……


 代表のデュエリストを決めるデュエル、すなわちカイザーとのデュエルから数日。今日はとうとう、ノース校とのデュエル戦の日となった。いくら代表を辞退したとはいえ、一応これも学校でのイベントには変わりない。響先生のお願いもあって昨日の夜遅くまで準備に付き合っていたので非常に眠い。しかし、PDAが鳴っているのに気が付き、目を覚ました。

 

「スー……スー……んぅ……」

 

「……よいしょ。なんだ、メールか」

 

 時刻は8時。今日は10時からデュエル戦が始まるのだから少しくらいゆっくりしようと思ったのだが……誰からだ? 引っ付いて眠っている雪乃をなんとか引きはがし、枕元に置いたPDAを取り出して相手を確認する。

 

「響先生? どうしたんだろう」

 

 メールの相手は響先生だった。タイトルには緊急案件と書かれていた。普段の先生ならそういうのはすぐに送って来るものだが……そう思い、メールの内容を確認した。

 

『秋人君に任せたい案件があります。9時に校長室へ来てください 響みどり』

 

 ……もう嫌な予感しかしない。今度はなんだよ、響先生。いくら代表を辞退したからそれ以外を手伝うと約束したとはいえ、何でもかんでも俺に押し付けてくるのはどうよ。しかし、先生の頼みとあっては仕方がない。

 

「んぅ……秋人……どうしたの……?」

 

「悪い、起こしたか。ちょっと響先生から頼まれごとが来てな……先に出る。用事が終わったら合流しよう」

 

「仕方ないわね。わかったわ、ツァンにも伝えておくわね……秋人、こっちへきて」

 

 雪乃は眠そうな体を起こし、俺に手招きをする。どうしたのか、と思うと、俺の手を引いて抱き着くと、俺と雪乃の唇が重なる。

 

「チュ♡ ふふ、いってらっしゃい♪」

 

「……イッテキマス」

 

 満足そうに笑みを浮かべる雪乃。彼女曰く、おはようのキス、なのだそうだ。ちなみに、これをしてくるのは雪乃だけではなく、ツァンも偶にしてくるのだが、二人とも決まって俺にしっかりと抱き着いてくる。その度、彼女たちの豊満な胸が当たるのだが……何とか理性を保っている自分を褒めてやりたい所である。いつもの制服と帽子を身に着け、デッキとデュエルディスクを入れたカバンを手に、寮を出発して校長室を目指す。

 

「にしても、緊急の案件ってなんのことだろう」

 

 昨日の準備は俺と雪乃、ツァン、そして十代たちといういつものメンバーで準備を手伝った。無論、他の生徒も準備に奔走したわけだが、幾たびのチェックをしているので問題はないはず。となると、別のことだろうか? そんなことを考えながら校舎に入り、校長室の前へとたどり着いた。ひとまず、ノックするか。

 

「オシリスレッド、1年の武藤秋人です。響先生に呼ばれてきました」

 

『お待ちしておりました。どうぞ』

 

 当然ながら声の主は校長先生。彼の声を聴いてドアを開く。すると突然、俺に何かが飛びかかってきた。

 

「なぁっ!?」

 

「秋人! 久しぶり!」

 

「なっ……レジー!?」

 

 俺に飛びかかった、否、抱き着いてきたのはデュエルアカデミア アメリカ校にいるはずの女子生徒のレジー・マッケンジーであった。ちなみに、久しぶりというが、そこまで年月は変わっていない。

 

「ふふっ、こんなに早くまた会えるなんて! すごく嬉しいわ! 私の旦那様(マイダーリン)!」

 

「ぐえぁ……ちょ、レジー、待って、落ち着いて、苦し……」

 

 抱き着かれ、頬ずりまでしてくるレジーだが、ここで彼女の身長について触れたい。彼女の身長は180㎝ほどのモデル体型で俺よりも背が高い。そして、それに加えてヒールを履いているので更にプラスして高いわけで……そうなると、彼女が俺に抱き着いてきた場合、必然的に彼女の胸が俺の顔に当たってくるのである。ラッキースケベと思われるかもしれないが、見ている側はいいとしても、やられる側はたまったもんじゃない。現に、呼吸困難になりそうだった。

 

「あ、ごめんね。つい……」

 

 エヘヘ、と可愛らしい笑顔を見せるレジーは、抱き着くのをやめたと思えば、俺の腕に抱き着き、上機嫌にしていた。

 

「久しぶりだね、秋人君。元気そうでなによりだ」

 

「え、ええ、お久しぶりです、Mr.マッケンジー」

 

 まあ、レジーがいるなら当然いるよね、この人も。ようやく校長室を見渡せると思ったら、そこには響先生と当然ながら校長先生もいた。響先生に至ってはなにやらドン引きしている。まあ、クールビューティーな彼女が一転して甘えん坊になれば流石にドン引きだろう。

 

「あの、もしかして響先生……緊急案件って、レジーの事ですか? っていうか、どうしてレジーたちがここに?」

 

「レジーが是非とも本場のデュエルアカデミアで学びたいと聞かなくてね。留学生、という形でレジーを編入してもらったのだよ」

 

 それでいいのか、アメリカ校の校長。それって職権乱用じゃないのか……と、考えたけど、レジーの実力なら編入も余裕だろう。何より、レイの一件で生徒枠は1つ空いていたはずだ。学校のデュエリストの実力が低迷している事情を考えれば、彼女のような実力のあるデュエリストが留学生として入ってくるのはプラスになるに違いない。

 

「それで、そんな彼女の面倒を見て欲しいの。貴方と雪乃さん、それにツァンさんは留学先で友人だというし、何よりレジーさん、貴方がいいって聞かないのよ」

 

「そういうわけで、しばらくの間、レジーの事を頼むよ。無論、これは私たちの個人的な頼みなのでね、報酬も出すよ」

 

 みどり先生が理由を説明し、さらにそう言ってMr.マッケンジーから封筒を渡された。めっちゃ分厚いんだけど……おそるおそる見ると、1万円札が束になって入っている。どんだけ羽振りがいいんだこの人。いや、というか……

 

「友達の面倒を見るのにお金は受け取れませんよ。別に、嫌ってわけじゃないですし」

 

「いや、これは私からの気持ちだ。レジーのことだ、君を振り回すだろうからね。その迷惑料だと思ってくれ」

 

「パパ? それどういう意味!?」

 

 結局、返そうとするも押し切られて受け取る形となった。これは……どうするか後で考えよう。とりあえず、彼女の面倒をしばらく見るということで話は決着し、俺はレジーと共に校長室を出た。

 

「ふふっ、私たちのお願いを受けてくれてありがと、ダーリン♪」

 

「前から言っているけど、そのダーリンはやめて。騒ぎになるのが目に見えている」

 

 特に、雪乃とツァンに俺が何されるかわからん。レイの時はツァンにアームロックされたからな。「があああああ!」ってなったからな。つーか、俺が面倒を見るってどの範囲まで見ればいいんだ? なんか、前よりも日本語上達しているし、俺が手助けすることほとんどなくない?

 

「えー? これから一緒に住むのよ? なら、ダーリンでもいいじゃない」

 

「…………え゛? ちょっと待て!? レジー、お前俺の部屋に住む気か!?」

 

「当然じゃない。ちゃんとパパも説得してあるわよ? そもそも、急な転入だから女子寮は空いてないって言われちゃったの。で、空いているのは秋人の部屋なんですって」

 

 しまった、そうだよ。元々、俺の部屋は3人のスペースがあるのに俺が1人で使っていることになっている。今でこそ、雪乃やツァンが住んでいるけど……つーか、よくMr.マッケンジーが許可したな。それ。いや、それはさておき、雪乃とツァンになんて説明すればいいだろうか。そう思っていると、不意に寒気が襲い、鳥肌が立つ。嫌な予感がしながらも、その殺気と違わぬ視線のほうへ顔を向ける。そこには、怒りの炎を燃やしている雪乃とツァンの姿があった。

 

「秋人、貴方何しているのかしら?」

 

「響先生からの用事はもう済んだの? ねぇ?」

 

 こ、怖っ! いつもの3割増しくらいで怖っ! そんな2人に対し、レジーはニコニコと俺と腕を組みながらヒラヒラと手を振っていた。

 

「雪乃! ツァン! 久しぶりね! 元気だった?」

 

「ええ、おかげさまで元気よ」

 

「……で、レジー、あんた何しているのよ。“私たちの秋人に”」

 

 額に青筋を浮かべる2人はそうレジーに受け答えていた。あくまでも、彼女たちなりには彼女として余裕を見せているようだが、俺からすると2人の修羅が立っているようにしか見えない。

 

「今日からこの学校で学ぶことになったの! それで、今は秋人に学校を案内してもらっている所よ!」

 

 ねー? と、レジーが俺に腕組みしたまま擦り寄ってくる。それを見て、2人の怒りのボルテージが上がっているのが見て取れる。やめろレジー、これ以上俺の胃に負担かけないでくれ。

 

「……へぇ? それは腕組みをして行わないとダメなのかしら?」

 

 ゴゴゴゴゴ、と音が聞こえてきそうな雰囲気の雪乃とツァン。しかし、レジーは特に動じた様子はない。なんというか、かなり落ち着いた様子なのだ。彼女のこの余裕はいったいなんなのか。俺はもう、冷や汗がマッハなんだが。

 

「いいじゃない! 秋人に会うのは久しぶりなんだもの!」

 

「そうじゃなくて……!」

 

「もう、二人とも怒らないで? これから一緒に住むんだし、仲良くしましょうよ♪」

 

「「なぁ!?」」

 

 あっけらかんと、俺がどう説明しようかと悩んでいた問題を口にするレジー。レジーの言葉に、ツァンがすごい勢いで俺に詰め寄ってきた。

 

「ちょっと秋人! どういうこと!?」

 

「お、落ち着け……説明するから」

 

 俺はツァンを落ち着かせて事情を説明することにする。もともと、彼女たちは俺の部屋には内緒で俺の部屋に住んでいる故に事情を聴いて文句を言おうにも言えない様子だ。レジーからすると、このことについては予測済みだったようだ。どうしたもんか、と思っていると、俺のPDAに連絡が入る。相手は十代

 

「もしもし?」

 

『あ、悪い秋人。ちょっとデッキの調整に付き合ってくれねェかな』

 

 時刻は9時過ぎ。十代曰く、俺が渡したカードなども使うため、デッキの内容を見て欲しいのだという。それを聞いていたレジーは俺から離れ、ニコニコと笑みを見せる。

 

「今日の代表者? の電話よね? なら、行ってきてあげて。秋人。私は2人に案内をお願いするから」

 

 ね? と、2人にウィンクするレジー。それを見て、まだ文句を言おうとするツァンだが、雪乃は違った。ツァンの肩に手を置いて落ち着かせて頷いていた。

 

「ええ、そうね。レジーのことは私たちに任せて頂戴。秋人は十代のボウヤの所に」

 

「……わかった。けど、騒ぎを起こすなよ?」

 

 今の2人を見て、俺は思わずそう口にする。しかし、先程と違い、雪乃は優しく笑みを見せた。

 

「もちろんよ。行ってらっしゃい」

 

「ああ、分かった」

 

 雪乃の言葉に頷き、俺は十代が待つ教室へと向かうことになるのだった。

 

 

 

 

 秋人を見送り、私とツァンはレジーを連れて食堂へと訪れた。3人で飲み物を置きつつも、なるべく話を聞かれないように端の席に座り、ツァンとともにレジーと対面した。彼女は相変わらず人懐っこい笑みを浮かべている。今にも噛みつきそうなツァンを抑えながらも、私は口を開くことにした。

 

「改めて久しぶり……でも、随分と唐突ね。アメリカからこっちに来るのはもうちょっと先だと思っていたわ」

 

「え? どういうこと?」

 

「レジーは秋人のことが好きみたいだし、遅かれ早かれ、こっちに来るだろうとは思っていたのよ」

 

 ツァンが首を傾げているのに対して私はそう答えを示す。アメリカでの彼女を見ていれば、それは簡単にわかること。しかも、私たちが彼女になったのを察していたのにも関わらず、彼女のスキンシップについては変わることなく進んでいたのだから、彼女が秋人を狙っているのは容易に想像できた。

 

「善は急げ、思い立ったが吉日という言葉があるでしょう? それなら、私も行動はすぐに起こす。当然よね?」

 

「むぅ……でも、秋人はボクたちの恋人なんだからね!」

 

「ええ、その通りよ? 今更何を言っているの?」

 

「「え?」」

 

 レジーの言葉に、思わずツァンと声を合わせて声を出してしまった。てっきり、私は彼女が私たちに宣戦布告でもしてくるものだろうと思っていた。故に、身構えていた。いざとなれば、私たち2人で秋人を独占しているのを見せつけてでもレジーを諦めさせるつもりだった。だというのに、何を言っているのか、と首を傾げていた。

 

「アメリカで想いを伝えたんでしょ? 2人の様子と、秋人の様子を見れば分かるわよ」

 

「なら、どうして貴女は……」

 

「秋人を諦めていない様子かって? 当たり前でしょう? 私も秋人を諦めてないからよ」

 

「はぁ?」

 

 レジーの言葉に、ツァンはいまいちわかっていないようだが、私は理解が出来た。つまり……

 

「貴女も、私たちと同じように秋人の恋人になるつもりだ、と?」

 

「ええ、そのつもり。そのために、私は貴女達と『同盟』を結びたいの。来て早々、この話が出来たのは幸いだったわ。これを見せてあげようと思っていたの」

 

 そう言ってレジーが取り出したのは何かの資料だった。

 

「今、とある州が進めている法案があるの。一夫多妻制を認可する法案よ」

 

「「なっ!?」」

 

「この法案が可決するのはまだまだ先の話かもしれないけど、魅力的でしょう? 私たちが争うことなく、秋人に愛してもらうための方法」

 

 そう言って笑みを見せるレジー。なるほど、これは確かに魅力的に見えるもの。けど、それを見て私は1つの疑問を持った。

 

「何故、貴女はそれを私たちに教えてくれたのかしら?」

 

 確かに魅力的な話だけど、それを見せたからと言って私たちがレジーを秋人の恋人の1人として認めるのは別の話。この話をするのは、普通なら私たちがそれを認めてからだろう。しかし、レジーの答えは意外なものだった。

 

「せっかくできた友達と、醜い争いをしたくないからよ」

 

「え? それだけ?」

 

「理由としては十分よ。私は確かに、秋人の事が大好き。心の底から愛している。けどね、貴女達のことだって大好き。だから、貴女達や秋人と一緒にいたいからこうしてこの学校に来たんだもの」

 

 そう言ってくるレジーを呆然と見る私とツァン。彼女はどこか怒った様子で、そう言ってくる。私やツァンからしてもそれは驚くことで、彼女がそこまで私たちを好意的に思っているとは思わなかった。

 

「もちろん、告白してダメだったらきっぱり諦めるわ」

 

「……誓って?」

 

「勿論。私に二言はない。レジー・マッケンジーの名に懸けて誓いましょう」

 

 そんな彼女の言葉に、ふと、ツァンに視線を向ける。ツァンも思うことがあったのか、私を見ていた。目が合い、小さくため息を吐いていた。私の考えを理解したのだろう。

 

「わかったわ。レジーが告白をして、秋人が貴女の想いを受け入れたら、私たちも認めましょう」

 

「けど、ダメなら約束通り諦めてよ」

 

 結局、私たちは折れることになった。そこまで言われてしまったら、断れない。秋人を愛するその想いは本物であるのは伝わったし、私たちと共通するように秋人が好きで、そして、友達でありたいという……あの日の、告白した日の私たちと同じだったのだから。

 

「ありがとう2人とも。大好き!」

 

 そう言って私たちに抱き着いてくるレジー。やれやれ、これは、交流戦どころじゃなくなりそうね、私たちは……

 




というわけで、40話でした
アンケートでは修羅場をお望みの読者様が多かったので、今後は3人を絡めたのを書いていければと思います

レジー来襲!
元々、アメリカ留学後にレジーは留学生か、それとも1年たった段階で教師としてくるという案がありました

レジーの提案
日本の新法律でもよかったんですけど、いまいちピンとこなかったのでこうなりました。まあ、この世界のアメリカは現実のアメリカとは違うので、その辺はご了承ください。同性の結婚を認めている州があるんだし、一夫多妻が出来る州ができてもいいじゃない

2人の心境
雪乃とツァンは秋人を大事に思う故に関係が崩れるのを恐れているので、友達となっているレジーにはどこか甘いのです。レジーと仲のいい理由はそのうち。まあ、一応条件を付けているのでね……
それに、一応彼女たちも今の関係が普通ではないことを自覚している故の判断でもあります

レジーの友人関係
実はアメリカではボッチの設定。そのルックス、性格などで男子生徒には人気だが、女子生徒には嫌われています。もう、ここまで来るとほぼオリキャラだよなぁ……


改めましてお久しぶりです。前回の投稿は12月……本当に申し訳ない
ツイッターをフォローしている方はご存知でしょうが、ポケモンを永遠とやっているせいで全然更新が出来ませんでした。
色厳選とかいう狂ったことしていますからね。現在の色違いの数76種類
友人にはキチガイ認定されましたとさ
カード関連に関しては前書きにもあるとおり、デジモンカードを始めました。デッキは完成しているのに、まだルールを碌に把握していないという体たらくですが(汗
はやく交流会出たい……
遊戯王、ヴァンガード、ポケモンカード、デジモンカードと、デッキは大量にあっても遊ぶことができないせいでただの置物になっているのが辛い所。皆さんも手洗いうがいは忘れずに、1日でも早く、大会出られるように頑張っていきましょう

次回はやっとデュエル回。十代と万丈目戦はリメイク前でもやったのですが、不評だったので今回は秋人のデュエルになりそうです。次回もお楽しみに!

前回の感想を頂いた方はこちら! ありがとうございました!
うさぎたるもの様 辛麺焼き様 天導 優様 赤鉄様 
さか☆ゆう様 ノウレッジ様 リーセリファ様 八ツ目様 ダークリューン様  
ツイッターやっているので、リプとかDMでハーメルンからフォローしましたとくれれば相互フォローします!
ツイッター:https://twitter.com/AKIKAZE7010

感想、小説評価お待ちしております。くれると多分、やる気がアップします……多分

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41「学園対抗デュエル戦:とある伝説との邂逅」

お久しぶりです。実に2年ぶりの更新ですが、この小説を覚えている人はいるのだろうか……
デュエルの参考にはならない、主人公が結構な頻度で無双とかする、ヒロインハーレムで面白くないと言わしめられているこの小説を

どうも、秋風です。なんというか、急にネタが降ってきたのでキーボードをたたきました。なんとなーく、今後の方針とかも決まったので、更新をしようかな、と。まあ、相変わらず今回もデュエルしないんですけどね!(デュエルは次回)
遊戯王自体は今も続けております。この前もシャイニーボックス11箱買うとかいう暴挙してました。
今回はタイトル通り、レジェンドが登場することになる回となります、この小説はどこへ向かおうとしているんだ……

……マスターデュエルで遊戯王を始めたそこの君! この小説は参考にはならないぞ!

では、どうぞ


 時刻は9時40分。十代と合流した俺は、一通り十代のデッキに目を通した。最近は俺の影響もあってか、ハイランダーだったはずの十代のデッキにも重要視されているカードを複数枚投入されたりしている。ただし、相変わらずE・HEROカードなどのモンスターに関しては1枚である。十代曰く

 

『ヒーローは1人1人違うからこそカッコいい』

 

 という事らしい。まあ、強ち間違ってないと思う。本気で十代のデッキをガチHREOデッキにしてしまった場合、同じHEROが複数枚になり、更にはE・HEROだけでなくM・HEROまで融合デッキへ投入された1キルデッキの出来上がりである。そんなことをしようものならば、デュエルが楽しくない時代の十代ルート一直線。それはさすがにまずい……ただ、この世界におけるHREO使いはなぜかHEROを1枚ずつしか入れない傾向が強い。前にお世話になった紅葉さんも、デッキにHREOは1枚ずつしか入れていない。HERO使いにはHREO使いなりの美学があるのだろう、ということで落ち着いた。そんなことを思いながらデッキに目を通していると、十代が不安そうに俺に声をかけてくる。

 

「どうだ、秋人」

 

「モンスターバランスはHEROだから何も言わない。魔法、罠の採用カードも悪くない。融合デッキのカードチョイスも悪くないし……これ、何回回した?」

 

「15回。翔と隼人、それに三沢にも手伝ってもらってデュエルしたんだ。秋人は忙しそうだったから、雪乃たちにも頼んだ」

 

 よくもまあ、短期間でそれだけの回数をデュエルしたものだ。まあ、俺が昔教えた、ディスク無しでのデュエルなんだろうが……これ、万丈目に負ける要素なくない? というか、俺がチェックする必要なくないか?

 

「大丈夫だと思う。胸を張って、ノース校の対戦相手とぶつかって来いよ」

 

「おう!」

 

 そう笑顔で頷き、十代はデッキをデュエルディスクへとセットした。これで準備は万端。対戦相手が万丈目であることは……伏せておこう。流石にそこまで原作を無視してしまうのはどんな影響が出るかわからないし、なにより対戦相手を楽しみにしている十代に悪い。

 

「それじゃ、俺は行って来るぜ!」

 

「ああ、頑張れよ」

 

 そう俺が言うと、十代は「おう!」と元気よく答えて会場へと走っていく。それを見送り、俺も雪乃たちと合流して観客席に向かうとしよう。そう思って歩き始めると、そこへ1人のスーツ姿の男性が現れた。アカデミアの教員というわけでもない、黒スーツに黒いサングラスをつけている男性。少し警戒を見せるも、男性は丁寧にお辞儀をして見せる。

 

「失礼、武藤秋人さんでよろしいですかな?」

 

「ええ、そうですが……貴方は?」

 

「私はインダストリアル・イリュージョン社 名誉会長のペガサス・クロフォード氏の秘書をしている者です。対抗戦前に申し訳ありませんが、ご同行いただけますか? 会長がお待ちです」

 

「……はい?」

 

 そう言われて固まる俺。確かにこの男、少し老けてはいるが原作で海馬にカードの入ったアタッシュケースでぶん殴られた挙句、銃を突きつけられて人質に取られていた男だ。しかし、その様子は別に何かを企むという訳でもなく、誠意をもって頭を下げている印象を受ける。

 

「俺、これから試合の観戦があるんですけど……」

 

「そちらに関しましては、我が社の精鋭が撮影、編集を施し試合を録画したDVDをお渡しする予定です。生で見るデュエルとは迫力は異なるかもしれませんが、どうか会長に会っていただけませんか。現状のスケジュールでは、会長が会える時間が限られております故……」

 

 どうやら余程のことらしい。本当なら面倒の一言で突っぱねてもいいし、そんなことをする義務もない。だが、元々社長から会うようにと言われていたこともあるし、面倒ごとは早々に潰しておく必要もある。

 

「わかりました。その前に、準備するものがあるので一緒に寮へ来ていただけますか。会長へお見せするものと、渡すものがあるので……そうですね、貴方を含めて2人ほど人手が欲しい」

 

「かしこまりました。少々お待ちを……猿渡、私だ。今からレッド寮の前に2名ほど人を頼む。いや、武藤氏が荷物の移動が必要とのことだ」

 

 その数分のやり取りの後、俺はレッド寮へ戻り、アタッシュケースとPC、そして、いくつかの資料を持ってペガサスが待つという、来賓室へと訪れることになった。当然、雪乃たちには観戦はできないから、応援を頼んだと伝えて。

 

「ペガサス様。武藤秋人氏をお連れしました」

 

 ノックの後、そう言って扉を開ける部下の人。そこには銀色の長髪に、片目を隠し、赤いスーツを着た男性が立っていた。俺の知るペガサス・J・クロフォード。それは、遊戯王という漫画の火つけ役ともなったデュエルモンスターズの生みの親であり、王国編におけるラスボスであり、媒体にもよるが後の話やシリーズでも多くの人物に影響を与えた人物である。原作では死亡していることがRで語られているが、アニメ版では後のシリーズであるGXで登場し、さらには映画2作も登場する重要キャラだ。

 

「初めましてですね、秋人ボーイ! 私はペガサス・J・クロフォードといいマース!」

 

「……ええ、よく存じています。武藤秋人です」

 

「ノース校との対抗試合の時間をいただいて申し訳ありまセーン、しかし、こちらへ来る機会がほとんどないので、このような形を取らざるを得なかったのデース」

 

 そう言って申し訳ない、と謝罪するペガサス。一企業のトップとしての謝罪である。ここで文句をいうのもお門違いだろう。しかし、彼はこのGXというシリーズにおいては2年目とかでラーのコピーカードを追ったり、クロノス先生の再就職を賭けたデュエルなどでも登場していたので、割とこっちに来る機会はある。というか、前作からのレジェンドとしての登場回数では一番多いはずだ……と思ったが言わないでおこう。

 

「では、皆さん。部屋から退出を。私は彼と2人で話がありマース」

 

『はっ』

 

 そう言って部屋を退出する部下の人たち。は? え、何のつもり? いや、仮にもアンタ、大企業の名誉会長だろ。なんで護衛の部下すら部屋から追い出してんのさ。

 

「これからのお話は、あまり人に聞かれたくありまセーン。どうぞ、秋人ボーイ。そちらへ」

 

「え、ええ……会長、お話というのは?」

 

「まず、ここ最近に海馬ボーイ……つまり、KC社長からとあるデザイナーが作ったカードリストをいくつもいただきました。どれもこれも、素晴らしいアイディアで、すぐにカード化できるものばかり。それを作ったのは秋人ボーイ、ユーだとお聞きしました。それで、ぜひともユーと一度会ってみたかったのデース」

 

「そうなんですか……」

 

「バット、しかし、これだけの膨大なカードリストを作るのは1人のフリーデザイナーでは不可能。それこそ、何年もかけた作品ばかりでショウ……そこで、ユーのことを少し調べさせていただきまシタ」

 

 ……! なるほど、海馬社長と同じく俺のことの調査したわけだ。まあ、出てくるのは俺ではなく、『武藤秋人』のほうの情報だろうけども。

 

「すると、ユーが過去、カードのデザインを学んだという記録も、コンクールなどに出したという記録もありまセーン。しかも、すでにカードが存在してデュエルで使われているというではありませんカ! イッツ、アンベリーバーボー! 不思議で仕方ありませんでシタ。私が今日来たのは、ユーという人間を見定めるためというのが正しいのデス……気分を悪くするかもしれませんが、我が社を通さず作られたカードをばら撒く人間が今の世の中、いないわけではありまセーン」

 

「……!」

 

 確かにペガサスの言う通りだ。彼からすれば、俺という存在はとてつもなく怪しい存在なのだろう。というか、ドーマ編のカードとかまず存在しないであろうカードのオンパレードだったしな……遊戯サイド、敵サイド問わず。まあ、あっちは精霊界とか、不思議パワーで作られていたけども。

 

「しかし、海馬ボーイにそれを聞いたところ、『それは絶対にありえない』と。そして、『奴はこの世界に影響を与える存在』とも言っていまシタ……遊戯ボーイの親戚でもあり、海馬ボーイにそこまで言わせる人物であるならば、と、私は気になっているのデス。どうか、教えていただけませんカ? 私の推測では、ユーの秘密は一般人には聞かれてはいけないことなのでショウ」

 

「……仮に話したとして、どんなメリットが俺にあると?」

 

「そうですネ。海馬ボーイは言いました、ユーとは、貴方の目的のために契約を結んだビジネス関係であると。ならば、私も秋人ボーイに協力しまショウ。もちろん、私、ペガサス・J・クロフォード個人として。そして、ユーの使うカードの数々を私が秋人ボーイに託したテストカードとして扱いマース。これで、トラブルなどは回避できマース!」

 

「貴方のメリットは?」

 

「私が望むのはユーの持つカードの数々のデザインを今後、KCだけではなく、我が社にも共有してもらうこと。もちろん、これは海馬ボーイにも話は通していマース!」

 

「要するに、今後俺に2社分作って、それぞれの会社にカードデザインを送れと? 社長が利にならないことを許可するとは思えませんけど」

 

「ノー、そうではありまセーン! 送っていただくのはKCに送られるものだけでいいのデス。最近では海馬ボーイが選出したカードだけが一方的にカード化するようにと提案されていまして、貴方の送っているカードすべてがカード化しているわけではないのデース。その中にも気になるカードが多々あったので、是非ともそれを見たいのデース! 正直、最近ピックアップされるのは海馬ボーイ好みのパワーカードばかりデース」

 

 そう言って説明するペガサス。確かに、俺が送ったカードリストでは、海馬社長から却下されたカードは多々ある。それこそ、効果が凶悪すぎるカードに始まり、コンボに回すと面倒ごとしか起きないカードとか、前の世界では永劫禁止にされるカードとか……。だが、それだけではなく、テーマ性が弱かったり、社長の視点から流行りそうにないというカードなどは却下されていたりする。つまり、KCが一方的に採用して送ったカードリストではなく、2社合同でリストを吟味することで、よりカードプールの幅を広げたいというのがペガサスの理由だろう。

 

「わかりました。けど、今から話すことは……貴方の古傷を抉る話もするし、下手をすれば俺に精神病院を勧めるような話ですよ? それでも、俺の話を信用する気ですか?」

 

「海馬ボーイより、ユーと話す時は自分の常識を捨てろと言われていマース。それに、私は一度、非現実的なことに触れたこともあるので、今更デース」

 

「……なるほど、確かに貴方は海馬社長よりも説明がしやすいのかもしれない。いいでしょう。どうか、貴方も”この世界で”俺と共犯者になっていただきたい」

 

 そう言って、俺はペガサスへ俺という存在についてを話すことにした。今の『俺』という存在が、別世界から武藤秋人へ憑依した人間であること、この世界がかつて自分がいた世界では創作であったこと。ペガサス・J・クロフォードが作り出したデュエルモンスターズはその漫画世界で登場したゲームの一つで、それがクローズアップされ、とある企業がそれをオフィシャルカードゲームとして世の中に出したことで発展していること。最初はペガサスも当然ながら驚いていたが、俺が千年アイテムのことや、社長の恋人のことなどを話すと、彼のおどけた表情は真剣なものに変わっていた。

 

「なるほど、それがユーの経緯……本当のユーの秘密、ですか」

 

「驚きましたか?」

 

「かつて、自分の体に千年眼を宿し、2つの(マインド)を持つ遊戯ボーイと戦ったことがある以上、オカルトについては驚きまセーン……しかし、貴方はもしかしたら並行次元、もしくは上位世界からやってきたのかもしれませんネ」

 

「並行次元っていうのは考えていましたが……上位世界?」

 

「イエース、例えばこのファニーラビットはご存じですか?」

 

 そう言って懐からペガサスはコミックを取り出した。彼が愛読しているコミック、ファニーラビットの最新刊だ。それも、文庫版。この人のコミック好きは余程らしい。俺がそれに頷くと、ペガサスは満足そうにしていた。だが、本題はそこではない。

 

「ベリーイージーに例えるなら、この物語が広がる世界が下位世界。そして、これらを観測する世界、つまり、読者の世界こそが、上位世界と言えるのデース」

 

「観測する、世界……」

 

「貴方はその上位世界から引き寄せられたのでショウ……しかし、ユーの話を聞くに、私の知る点とは異なるものもありましタ……それでは、単なる上位世界からやってきたとは説明がつきまセーン。これは単なる推測ですガ、秋人ボーイは並行次元という、似て非なる世界、別の世界では漫画やアニメとして存在する世界へ来たと考えていませんでしたカ?」

 

 俺はペガサスの言葉に頷く。確かに、本来の武藤秋人はただの一般人だ。それこそ、主人公である武藤遊戯の従弟である。だが、作中にそんな人物はいない。登場する余裕がなかった、作者が考えていなかったで片付いてしまうことではあるが、確かに、海馬社長も俺が説明したときに自分の知ることと多少異なる部分があった、と言っていた。だから並行次元の可能性を考えたが……じゃあ、俺がいるこの世界はなんなんだ?

 

「世界というのは無数に、そして無限に枝分かれしたように存在していマース。上位世界から引っ張られたときに、貴方はその世界の枝分かれた1つへと辿り着いたのでショウ……ユーは先ほど、その本当の体の宿主が強く望んだからと言っていましたが、それはあくまでもきっかけだったのでショウ」

 

「きっかけ?」

 

「ザッツライト、調査結果を見る限り、本来の秋人ボーイには遊戯ボーイのようなオカルトなことも、そんな力も持っていた様子はない。秋人ボーイの思いを利用した何かが、ユーをこの世界へと招き入れた……何かの目的を果たさせるために。そのために、ユーに数多のカードを授けた。ユーが先ほど私に見せてくれた、本来ならばこの時代にはない、この世界にはないカード達……シンクロモンスター、エクシーズモンスター、そしてペンデュラムモンスターやリンクモンスター……そして他の膨大な量のカードを……それほどまでに、ユーに何かを成し遂げさせたいのでは、と思いマース」

 

 ペガサスの考えに、確かに、と多々納得できる部分があった。俺自身の魂をこの体に定着させたのは誰だ? 確かに、本来の秋人は虐められたことで限界を超えて、この世界からいなくなりたいと願っていた。だが、それだけで別世界から誰かの魂を引っ張っては来られないだろう。この世界だからできてしまうかも、とは思っていたが、今更考えればあまりにも理由としては弱かった。

 

「つまり、俺がこの先知らないことが待っており、それを解決させるために俺は呼ばれた、と」

 

「ザッツライト……これも私の推測の域を出ない話ですが、ユーが語った、私が死んだことで世界が滅んだという物語があったという話のように、この先の未来で本来の歴史とは違ったことが起きる。もしくはすでに起きたことで、それを修正させるために、呼ばれたのではないでしょうカ?」

 

 ペガサスが言うのは、超融合-時を超えた絆-の話である。彼が死んだことで、その先の時代だった5D’sの世界は滅びる一歩前まで行っていた。それを修正させるために、5D’sの主人公であった不動遊星は赤き竜の力を借りて、過去へと跳び、遊戯、そして十代とともにその元凶と戦った。

 

「ユーは自分の世界のことを『元の世界』ではなく、『前の世界』という……これは、ユーが無意識に、元の世界へ帰る望みを捨てさせているのか、もしくは本来の秋人ボーイと一体化しつつあるのかもしれまセーン」

 

「っ……!」

 

 それを言われて初めて気が付く。確かに、俺はいつの間にか無意識にそう口にしていた気がする。今日だけじゃない、今まで過去のことを思い出すときはそう思っていた気がする。

 

「ユーにそこまでさせるのは、ただの子供、本来の秋人ボーイでは不可能でショウ。もっと大きな……それこそ、世界の意思、この世界という物語を修復させるための修正力がそうさせているのカ……」

 

「……すみません、話がすごく膨大になってきていて、整理ができません」

 

「オフコース、これは先ほども言いましたが私の推測に過ぎまセーン。ですが、頭の中にその可能性は入れておく必要はあるでショウ……」

 

 海馬社長とは別に、実際に自分の体に千年アイテムを宿し、マインドスキャンというオカルトな特殊能力を持つという体験したことのあるペガサスからの忠告は、また別の意味で息を呑むものだった。俺はその言葉に無意識に頷く。

 

「わかりました……」

 

「もしかしたら、そのユーの話していた赤き竜のように、ヴァンガード……導き手が現れるかも知れませんネ」

 

「導き手……」

 

「さて、貴方と話をしていて、私にもう一つやることができましタ……秋人ボーイ、私と今ここで、デュエルをしてくだサーイ」

 

 そういってペガサスは立ち上がり、その彼のケースから、デュエルディスクを取り出していた。え、時間がないとか言ってなかったか? っていうか、なんでデュエル?

 

「ユーがこの先、ユー自身が知る数多のデュエルにおいて生き延びられるか、ユーが選ばれたほどのデュエリストなのか、それを知っておく必要がありマース」

 

「……!」

 

「私はユーのこれまでの話を信じています。その多くの困難に果たして今持つカード達でユーがこの先を乗り越えられるのか? そして、契約を交わした以上この先長い付き合いになりそうですしネ? 私は気になりマース! この世界では私が作ったカードを、ユーの世界では何十万というプレイヤーが遊んでくれている! それも、幾重にも進化して! これほど、ゲーム製作者として嬉しいことはありまセーン! 故に知りたい! ユーの世界の最先端のカード達を! その技術を! 戦術を!」

 

 ペガサスの目は、先ほどとはまた違った真剣な様子を見せている。いうなれば決闘者の目。その手にデュエルディスクを装着し、デッキをセットする。

 

「ペガサス会長……」

 

「ユーからすれば、かつては遊戯ボーイを苦しめたキャラクターの1人でショウ……私がユーの立場であれば、ファニーラビットのブルドック・ポリスへ追いかけっこを挑むようなものでしょうカ……ふふふ、私であれば興奮すること間違いありまセーン! 秋人ボーイ! ユーはどうです?」

 

 その言葉に、俺は無意識にデュエルディスクを手にし、その広い来賓室のスペースへ立っていた。十代とデュエルしたとき、そして海馬社長とデュエルしたとき、紅葉さんとデュエルしたとき、そしてバンデット・キースとデュエルしたときにはそれを思うことはなかった。だが、ペガサス会長に言われて気が付く。彼の言う通りだ。彼は、かつて遊戯王の主人公、武藤遊戯を、アテムを敗北に追い込み、王国編でも苦しめたデュエリストだ。その目に千年アイテムを失っていたとしても、そのカードゲームの創造主が相手なのだ。1人のカードゲーマーとして、そして、この世界の決闘者として、戦いたい。

 

「わかりました……受けて立ちます」

 

「グレイト! よい返事デース! では……」

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

 

 

 

海馬コーポレーション

 

「……」

 

「社長、ペガサス氏から、武藤秋人へ会いに行くという伝言がありました」

 

「ふぅん……やつめ、近いうちに場を設けてやると言ったのにも関わずこれか」

 

 磯野の言葉を聞きながら、ペガサスが武藤秋人に会いに行ったという話を聞きつつ、俺はその場に置かれたガラスケースのカード達を見る。それは、武藤秋人が作り出した、いや、武藤秋人の世界にもともとあったカード達をこの世界で作り直したものだ。それをアタッシュケースにしまうと、俺は待たせている連中の場所へと足を進め、その応接室の扉を開けた。

 

「やい海馬! 俺たちに何の用だ! 俺も暇じゃねーんだぞ!」

 

「黙れ城之内……今期のプロリーグは終わり、しばらくは暇であろう。その暇を暇ではなくしてやったんだ。ありがたく思うがいい」

 

「てめっ……」

 

 そこには残念なことに同じ高校の出身であり、今はプロデュエリストとなっている城之内がいた。いつも通り吠えているが、その場にいるのは奴だけではない。

 

「でも、唐突ね。社長さん? 私たちを呼んで何の用かしら?」

 

「なんでも、何か依頼と聞いたんやがなぁ?」

 

「ヒョーヒョヒョ……この僕を呼ぶというのは、それなりの謝礼を用意してくれるんだろうね?」

 

「ピピピ、KCの、しかも社長直々の依頼だ。それなりに期待していいと思うよ」

 

「はっはっはっは! ワシはなんだか同窓会みたいで楽しいがのぅ!」

 

「……それで、ミスター海馬? どのようなご用件かしら?」

 

 バトルシティでは決勝トーナメントに進出している孔雀舞、そして、バトルシティへの参加の経験があり、我が社の調べである程度テーマ性があり、バトルシティ後、多くの大会で入賞して実力があることがわかっているダイナソー竜崎、インセクター羽蛾、エスパー絽場、梶木漁太、そして、KCグランプリでもかなりの実力を持っていたレベッカ・ホプキンスがこの場にいた。

 

「その説明をする前に……奴はどうした?」

 

「あん? 遊戯なら、まだ来てねーぞ」

 

「……まあいい。お前たちを招いたのは今後発売されるカードのテスターを依頼するためだ」

 

「テスター? 新作カードのってこと?」

 

 俺はレベッカ・ホプキンスの言葉に頷き、部下へそれぞれの元へカードの入ったケースを渡させる。

 

「それぞれ、お前たちが好んで使っているデッキの強化に繋がるカードが入っている。どれを使うも自由だが、それらを他人への譲渡、売買に使ったり、紛失した場合はある程度の額を支払ってもらうことになる。テスト期間終了後はそのカードと同じものが発売されるから自由でいいがな」

 

 そう説明すると、カードを渡された連中はそれぞれ驚きの声を上げる。

 

「な、なんだこりゃぁ!? レッドアイズの強化カード!? めっちゃつええじゃねぇか!」

 

「なんじゃぁ!? 伝説のフィッシャーマンⅡ世に、伝説のフィッシャーマンⅢ世じゃとぉ!?」

 

「これは、ハーピィの新たなカード!? それに、アマゾネスまで……なんてカードなの……」

 

「サイコショッカーにこんなバリエーションが……これで、僕ももっと強くなれるのか」

 

「ヒョーヒョヒョ、昆虫モンスターがこんなに!」

 

「恐竜のオンパレードやないか! ホンマにもらってええんか社長さん!?」

 

 元より使っているフェイバリットの強化が来れば驚くのは当たり前か。まあ、それ以外の羽蛾や竜崎は驚くカードも多いようだが、連中のは種族を強化したものだ。一番の問題は、此奴だったが。

 

「これって……すごい。これがあれば、いろんなコンボが……」

 

 レベッカ・ホプキンスには、秋人が使っていたカードの中でも汎用性の高いカードや、バーンカードなどを渡している。というのも、此奴が一番厄介だ。大会の参加数は少ない上、ロックやバーンなどがテーマなものが多い。秋人の世界では、バーンカードは特に禁止へ叩き込まれるカードが多いと言っていた。それに、此奴の場合はコンボ性を重視している節がある。そのため、過去のデータを洗い出して使えそうなカードをピックアップした。

 

「最後に、契約書にサインをしていけばそのカードを持っていくことを許可する。最低で30戦。最高で50戦の試合を重ね、その使用感、感想、そして、コンボ性などを書いて提出しろ。報酬は渡したカードと、それなりの額を約束しよう」

 

 俺の言葉に全員が驚きつつもサインをして帰っていく。全員が秋人の持っていたカードリストから作られたカードを持って行った。これから、奴が出したカード達がこの世界のデュエルにどのような影響を与えていくかは、今後のテスト次第。そして、その中で残ったのは1つのカードの入ったケースのみ。全員が帰ったころ、奴は現れた。

 

「……やっと来たか。遅かったな」

 

「……待たせたな、”海馬”!!」

 

「そろそろ来ると思っていた……まあいい、まずは連中と同じく説明から始めるぞ。そこに座るがいい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………遊戯(アテム)!」

 

 

 

 わが生涯のライバルにして、この世界で最強の称号を持つ決闘者、武藤遊戯……いや、かつては名もなきファラオと呼ばれた、古代エジプトの王の魂、アテムが、その場で不敵に笑みを見せて立っていた。

 




というわけで、41話でした。
次回は秋人VSペガサスとなります。

ペガサス来襲!
実はアメリカ組2人と一緒に来ていたりする。


海馬社長の好み
(海馬)「このカードが今回採用のリストだ」
   つ →めっちゃアド取れるパワーカードたち

秋人がこの世界に来てしまった原因
実は、武藤秋人”だけ”が原因ではない。リメイク前はもっと別の原因でしたが、じつは……

ペガサスが仲間になりたそうにこちらを見ている。
次回のデュエルでトゥーンが大暴れです。普通に戦ったら絶対に勝てる気がしねぇ……

海馬社長、カードテスト開始。レジェンド登場
実はプロになった城之内。この世界での彼の真のデュエリストとしての道はまだまだ先の話です。ちなみに、呼ばれた彼らはレベッカ以外プロなり、上位入賞者設定です。
城之内へのカード
レッドアイズ関連一式。ドラグーンオブレッドアイズ……うっ、頭が
舞へのカード
ハーピーシリーズ。エクシーズ、シンクロとこちらも幅広い
エスパー絽場へのカード
GXで登場した追加に加え、デュエリストパックで登場したサイコショッカーシリーズたち。こちらも結構厄介です。
梶木漁太へのカード
フィッシャーマンシリーズに、クジラシリーズ、さらには魚関連……魚霊術(ボソリ
竜崎へのカード
シリーズではなく恐竜関連を多々。魂喰いオヴィラプター、ロストワールド、究極伝導恐獣……うっ、頭が
羽蛾へのカード
同じく、昆虫シリーズを多々。インゼクター……うっ、頭が
レベッカへのカード
実はバーンカード系は少なめ。その代わり、秋人の世界では必須の灰流うららや墓穴の指名者、抹殺の指名者、増殖するG、夢幻泡影他、聞けば頭の痛くなるカードのオンパレードを中心。さらに、彼女の使っていたロック系などの強化など彼女が一番やばい

最後の来客者
秋人がこの世界に呼ばれた一番の原因


改めてお久しぶりです。
2年ぶりの更新となります。秋風です。
会社が変わり、いろいろと忙しいこともあって更新ができず、またまあ、前に更新したときの低評価というか、いろいろ言われて心が折れてからちょっと書けずにいました。申し訳ない。
今後も次はいつ投稿、とはいえませんが、ネタが下りてきて話が進められそうなときは積極的進めていく予定です。
今回の話のラストについては、実はこの小説を書き始めたときから決めていたことではあったのですが、それにつなげるまでの話がなかなか筆がすすまなかったのもあったので、ここまでかけたことに喜びがあります。
多く、遊戯王の小説はありますが、この展開はあんまりないかな、と書いてみたかったので。GXのシリーズであるはずなのに、彼がいる理由……
そういう世界線であり、そこからどう展開していくか、というのがまだまだ悩ましいところですが、今後も頑張っていきます。
ちなみに、前にTwitterなどで、カードゲームはやめたのかと言われましたが、去年30を迎えましたが未だに現役です。
遊戯王、ヴァンガード、ラッシュデュエル、ポケモンカード、デュエルマスターズ、ヴァイスシュヴァルツと、まあ、デッキの数は減りましたが、それでも楽しくカードやってます。
まあ、その時のモチベもありますがね……今は、遊戯王とラッシュデュエル、そしてヴァンガードオーバードレスです。

最近はちょいちょい、一発ネタで考え付いたようなのがあるので、そのうち番外編で描くかもしれません。もし見たいというのであれば書く予定ですので、アンケートにぜひお答えいただければと思います。
前回のお話で感想をいただけた方々。ありがとうございます!
CHA-2様 天導 優様 さか☆ゆう様 無類様 逆行したら野球がしたい様 ノウレッジ様 レイン490様 黒澤様 fuugajinn様 神崎はやて様 ペッパー りおん様
前回のお話で評価をいただけた方。ありがとうございます!
とっつあん様 龍牙式様 残念無念で不書感想様 fuugajinn様 soeru様
あかがみ餅様

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次回は前書きでも書いた通り、秋人VSペガサスです。
お楽しみに!
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42「学園対抗デュエル戦:舞台の裏側での戦い」

なんか、思ったより早く書けたので投稿です。前回、感想とか見て、待っていたというお声がたくさんあって嬉しかったです。ありがとうございます。
 どうもこんにちは、秋風です。マスターデュエル、楽しいですね。ちょっと課金しようかどうか悩み中です。

今回は久しぶりにデュエル回ですが、とある動画で見た戦法をリスペクトしているので、これどっかで見たぞ?ってなるかもしれません。ペガサスとのデュエルはたぶんこれくらいしないと戦えないな、というのが本音ですが(汗

多分次々回あたりからセブンスターズ編には入れるかと。ここまで長かったなぁ……今後、2年生編と3年生編はやるかどうか悩み中です。1年生編で完結させて、その後でIFルートというか、外伝的な感じで描くのがいいのかなって思っていたり。

誤字脱字、カード効果違いあったら教えてくれると嬉しいです(汗

では、どうぞ。


 このデュエルアカデミアという場所は会議室や来賓室などはとても広く作られている。というのも、デュエルアカデミア故の特徴だろう。何かの議論や、交渉ではデュエルを用いることがあるというのだから、この世界やっぱりデュエル脳が過ぎるとおもう。なので、この来賓室にも当然、デュエルをする場所が存在する。ただの生徒が使えるような場所ではないが、それでも普通のデュエルをするなら十分である。まあ、それなら、原作のデュエルボックスのほうがいいのではと思う。

 

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

武藤秋人VSペガサス

LP4000  LP4000

 

「先攻は私がいただいてもよろしいですカ? 秋人ボーイ」

 

「……どうぞ」

 

 先攻は、ペガサス会長から。そして、先ほど説明で見せたカードなどを見たときに驚いてはいたがあの様子からすると、おそらくだが……

 

「私のターン、ドロー! 私は手札から魔法カード『トゥーンのもくじ』を発動しマース! トゥーンと名の付くカードを1枚手札に加えるカードデース。私が加えるのは……”フィールド魔法”『トゥーン・キングダム』!」

 

「……やっぱり」

 

 彼の表情から納得がいった。少し前に、社長からトゥーンのカードリストを見せろといわれてはいたが、まさか、こうなっているとは。いや、もしかしたら元々彼が開発したカードなのでは、とも思ったが……アニメGXでは、キングダムは通常のトゥーン・ワールドとおなじ、永続魔法だ。しかし、OCG版だもんな。やっぱり社長、渡してたのか。

 

「ふふふ、予感は当たりましたカ? 秋人ボーイ! ユーがもたらした新たなトゥーンカード! 私もアイディアは持っていましたが、より強力に、そしてより浪漫を込めたカードを作ってくれましタ! 礼をいいマース!」

 

「は、ははは……それは、どうも」

 

「私はこのカードを発動! そして、その発動の効果処理として、デッキの上から3枚を裏側で除外しマース! このカードの効果により、このフィールドは『トゥーン・ワールド』となるのデース! そして、私のトゥーンたちは相手のカード効果の対象にはならず、戦闘・効果で破壊される代わりにモンスター1体につき1枚、デッキの上からカードを除外できマース! 私もこのようなカードは考えていましたが、このようなデメリットにもメリットにもできる効果は思いつきませんでしタ」

 

 トゥーン・キングダム。今更聞いても化け物だなこのカード。トゥーンのもくじ、しおり、テラフォと、サーチ範囲がめっちゃ広い。そして、トゥーンに原作通りの無敵耐性を備えさせるというとんでもないカードである。

 

「そして私はさらに魔法カード『闇の誘惑』を発動。デッキからカードを2枚ドローし、1枚、闇属性のカードをゲームから除外しマース! 私が除外するのは、『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』! このカードは闇属性デース!」

 

 ……序盤ではレベル7のモンスターは重荷ではあるが、トゥーンであるなら出す手段はいくらでもあるはず。レッドアイズ・トゥーンの効果はかなり強力なはずだが、何故あのカードをコストに? あれしかカードがなかったのか、それとも何か策があるのか。

 

「さらに、カードを3枚伏せてターンエンドデース!」

 

「モンスターの召喚はしない、か……」

 

「さあ、秋人ボーイ! ユーのターンデース! 貴方がどんなカードを見せてくれるのか! 期待していマース!」

 

 あの表情、何か仕掛けているだろうな。トゥーンを相手取る以上、こちらも生半可なデッキは通じない。唯一、トゥーンに対してのメリットとしては俺もそのカードのことを把握していること。初見殺しなら絶対に勝てないが、今回選んだデッキならば、やりようはある。

 

「俺のターン、ドロー! いいでしょう。この場所ならば誰もこのデュエルを知ることがない。故に選んだこのデッキでお相手します。手札から魔法カード『ドラゴン・目覚めの旋律』を発動! 手札のモンスター1枚をコストに、デッキから攻撃力3000以上、守備力2500以下のドラゴン族を2枚まで手札に加える。コストは『太古の白石』。それにより俺は……『青眼の白龍』と、『青眼の亜白龍』の2枚を手札に加える!」

 

「ワッツ!? それは海馬ボーイしか持っていない青眼の白龍……!? なるほど、ユーはこの世界では3枚しか現存しないはずの青眼の白龍までもっているのですカ……」

 

「それどころか、三幻神も、三幻魔も持っていますよ。もっとも、それらは本当にただのカードですけどね」

 

 俺の言葉に驚くが、俺の出自を理解しているペガサス会長はなるほど、と納得したように頷いていた。青眼の白龍を使うことは本来であれば海馬社長から禁止されている。まあ、世界に3枚しかないカードを使うから当たり前である。だが、今は非公式のギャラリーも誰もいない、会長と俺だけのデュエルだ。ならば、それを使うのに問題はない。

 

「そして、青眼の亜白龍の効果を発動します。このカードは手札に存在する青眼の白龍を見せることで、手札から特殊召喚できる。現れろ、『青眼の亜白龍』!」

 

青眼の亜白龍 ATK3000/DEF2500

 

「見せるだけで特殊召喚……! なんとも強力なカードデース!」

 

「それだけではありません。このカードはフィールド、墓地に存在する限り『青眼の白龍』としても扱う効果を持っています。そして、1ターンに1度、攻撃を放棄する代わりに相手モンスター1体を破壊する……まあ、今の耐性を持っているトゥーン相手ではこの効果は発動できませんが。バトルフェイズ! 青眼の亜白龍でペガサス会長へダイレクトアタック! 『滅びの亜爆裂疾風弾(オルタナティブバーストストリーム)』!」

 

「まさか、海馬ボーイの青眼の白龍を使うとは予想外でしタ……しかし、私も黙って攻撃を喰らうつもりはありまセーン! 永続罠発動! 『闇次元の解放』! ゲームから除外された、闇属性モンスター1体を帰還させマース! 『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』を守備表示で特殊召喚!」

 

レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン ATK2400/DEF2000

 

 攻撃を止める青眼の亜白龍。なるほど、レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンをゲームから除外したのは、これが理由だったか。闇の誘惑と合わせ、混沌の黒魔術師、堕天使ゼラートなどを主力とした闇属性のモンスターを使った次元ダークっていうデッキが昔流行った記憶がある。闇次元の解放もまた、本来ならば超融合が発売するパックで発売したカードゆえにこの世界での登場は先。このカードもまた俺が提出したリストのカードだ。

 

「ならばバトル続行! レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンへ攻撃する!」

 

「トゥーン・キングダムの効果で、デッキからカードを除外し、戦闘破壊を無効にしマース!」

 

「……カードを3枚セットして、ターンエンドです。エンドフェイズ、墓地の『太古の白石』の効果が発動。デッキから『ブルーアイズ』モンスターを特殊召喚します。デッキより現れよ、ブルーアイズ・ジェット・ドラゴン!」

 

ブルーアイズ・ジェット・ドラゴン ATK3000/DEF0

 

 現れるのはブルーアイズと戦闘機が合わさったようなモンスターが出現する。このカードも強力なカードだが、狙いはそこではない。

 

「なるほど、秋人ボーイの世界では、青眼の白龍は多くのプレイヤーに愛され、使用されているカードのようですネ……でなければ、こんなにもサポートカードは存在しないでショウ。私のターン! 魔法カード『強欲な壺』を発動。デッキからカードを2枚ドロー! グレイト! レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンの効果を発動しマース! 1ターンに1度、召喚条件を無視して、手札のトゥーンモンスターを特殊召喚できマース! 私はふふふ、秋人ボーイが海馬ボーイのカードを使うならやはりこのカードでショウ。現れなさい、『ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン』!」

 

 フィールドに現れるのは青眼の白龍……のトゥーンカード、ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン。かつて、ペガサス会長が海馬社長から青眼の白龍を奪い取り、トゥーン化させたカードだ。初期に登場したカード故に場持ちが悪く、攻撃にも500のライフをコストとするというちょっと使い勝手が悪いカード。しかし、それでもあのカードはペガサス会長の象徴ともいえるカードだろう。

 

「バトルフェイズデース! トゥーンモンスターは相手にトゥーンと名の付くカードがいなければダイレクトアタックが可能デース! レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンで、秋人ボーイへダイレクトアタック!」

 

「させませんよ。罠発動! 『ワンダーエクシーズ』! フィールドのモンスターでエクシーズ召喚を行う! レベル8の青眼の亜白龍と、ブルーアイズ・ジェット・ドラゴンでオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚! 起動せよ、『宵星の機神ディンギルス』!」

 

宵星の機神ディンギルス ATK2600/DEF2100

 

 2体のモンスターを素材として召喚するエクシーズ召喚。それを目の当たりにしたペガサス会長は驚き、そして興奮した様子である。まあ、融合、儀式以外の特殊召喚方法のモンスターを初めてみれば驚くだろうが、これが自分の生み出したカードの可能性の一つであるというなら、このカードゲームを作った創造主なら喜んでくれるだろう。

 

「ワンダフォー! これがエクシーズ召喚ですカ! すごい迫力デース!」

「感動していただいているところ悪いですけど、ディンギルスの効果を発動します。このカードが特殊召喚に成功したとき、2つの効果のうちの1つを発動することができる! 俺が選ぶ効果は、”相手フィールドのカードを1枚選んで墓地へ送る”効果! 選ぶのは攻撃を行っているレッドアイズ・トゥーン・ドラゴン!」

 

「本来であればトゥーン・キングダムがある以上、相手効果の対象にはなりまセーン……しかし、”選んで墓地へ送る”。なるほど、そのカードの効果は『対象に取らない』効果なわけですね」

 

 そう、対象に取らない効果。これはトゥーン・キングダムの穴をついたもの。対象にならない、対象に取ることができないというのであれば、対象に取らない効果で除去してしまえばいい。トゥーン・キングダムの存在を知っている時点で、普通のブルーアイズデッキに今回はそのようなメタカードを何枚か事前に用意していた。この世界のことを考えれば、会長が俺にデュエルを仕掛けてくるというのは、ある程度の予測はしていたからだ。

 

「いいでショウ……レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンは墓地へと送られマース」

 

(´;ω;)ノシ・・・ΒΥЁΒΥЁ゚

 

 レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンは俺にバイバイと手を振り、地面に突如出現した落とし穴へと落ちていった。お前のその翼は飾りなのか、とツッコミを入れたいが、トゥーン故のユニークな表現なのだろう。なんだあの表情。レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンは悲鳴を上げながらその穴の中へと消えていった。

 

「そして、ユーも知っていると思いますがトゥーンは召喚されたターン、殆どのモンスターが戦闘に参加できまセーン! 私はカードを2枚セットしてターンエンドデース!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

 ペガサス会長のフィールドにはブルーアイズ・トゥーン・ドラゴンと、トゥーン・キングダム、そして闇次元の解放に、前のターンから伏せられている2枚のカード。そして今、更に伏せられた2枚のカード。トゥーン・キングダムの弱点は、その強力な効果故に1度破壊されれば立て直すのが難しいところだ。発動コストにデッキからカードを3枚除外する効果と、トゥーンへ破壊耐性を持たせるためにモンスターの数だけカードを除外する効果……下手をすれば、デッキアウトで負けかねない。ならば、狙うはトゥーン・キングダムの破壊と、ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴンの除去……だが、このカードゲームを作り上げた創造主が、別世界で作り上げられたカードとはいえ、それを理解していないわけがない。

 

「俺は手札から魔法カード『強欲な壺』を発動し、デッキからカードを2枚ドロー、さらに『天使の施し』を発動し、3枚ドロー、そして、2枚のカードを墓地へ送る。来た……! 魔法カード『サイクロン』発動! フィールド魔法『トゥーン・キングダム』を破壊する!」

 

「フフフ、それはさせまセーン! カウンター罠発動『トゥーン・テラー』! フィールドにトゥーン・ワールド、及びトゥーンモンスターが存在するとき、魔法、罠、モンスター効果の発動を無効にし、破壊しマース! 秋人ボーイ、今のユーの考えは千年眼がなくともわかりマース! トゥーン・キングダムを破壊すれば私のフィールドに大穴が空く。一点を突き、叩いてしまう考えでショウ」

 

「流石に、トゥーン・キングダムを狙ったのは露骨過ぎましたか」

 

「力あるカードには相応のリスクがあるのデース。このカードが破壊されれば、私の場は壊滅してしまいますからね。当然、対策となるカードは入ってマース」

 

 対策するカードっていうか、そのカードも俺がカードリストで提出しているカードじゃないか、とは言わないでおこう。まあ実際、このカードゲームを作り出した張本人とのデュエルなんて、当たり前だが生半可なものじゃない。言い方はアレだが、原作キャラの中でも一番相手にしたくない相手でもある。

 

「流石ですね……魔法カード『ワン・フォー・ワン』を発動。手札の『伝説の白石』を墓地に送り、デッキから『太古の白石』を召喚。伝説の白石の効果発動。このカードが墓地へ送られたとき、デッキから『青眼の白龍』を手札に加える。そして、フィールドの宵星の機神ディンギルスと、太古の白石を生贄に、『青眼の白龍』を召喚!」

 

青眼の白龍 ATK3000/DEF2500

 

 フィールドに現れる青眼の白龍。それを見て、ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴンは驚いてはいるが、その無敵耐性故に余裕の表情である。まあ、そりゃそうか……ディンギルスを墓地へ送ったことで、青眼たちは墓地へ送られた。後は……

 

「そして、最後の手札『天よりの宝札』を発動。互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードをドローする……よし、魔法カード『復活の福音』を発動。墓地からレベル7か、レベル8のドラゴンを特殊召喚する。墓地の『青眼の亜白龍』を特殊召喚する」

 

青眼の亜白龍 ATK3000/DEF2500

 

「さすが青眼……フィールドに並ぶと圧巻デース。しかし、我がトゥーンの前では、オルタナティブの効果も意味がありまセーン」

 

「……」

 

 確かに、ペガサス会長の言う通り、このままでは意味がない。ここで、青眼の双爆裂龍を特殊召喚してゲームから除外するという選択肢もある。あのカードのゲームから除外する効果は対象を取らないからな……

 

「けど、多分それじゃだめだ」

 

 墓地にあるレッドアイズ・トゥーン・ドラゴンは何かしらの手段で帰ってくるだろうし、仮に除外しても闇次元の解放のせいでレッドアイズ・トゥーン・ドラゴンはまた帰ってくる。ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴンを除外したところで、どうせ次のトゥーンがすぐに出てくる。これではイタチごっこだ。そして、ペガサス会長が、そのトゥーンという存在に対し、圧倒的な自信を持っているとするならば……

 

「俺は、さらに手札から『ロード・オブ・ドラゴン―ドラゴンの独裁者』を召喚して、ターンエンドです。このカードがいる限り、相手モンスターの攻撃対象は俺が選択することになります。と言っても、現状ではその効果は無意味ですが。カードを2枚伏せてターンエンドです。」

 

ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの独裁者- ATK1200/DEF1100

 

「エンドフェイズ、罠カード『リビングデッドの呼び声』を発動しマース! 墓地から『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』を特殊召喚デース! ふふふ、ユーが何を仕掛けているかはわかりませんが……トゥーンの力の前には、無駄なことデース。私のターン! これで私の手札は7枚……そして、グッド! いいカードがきました! レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンの効果を発動! 今引いたこのカードを特殊召喚しマース! 来なさい、『トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール』!」

 

トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール ATK2000/DEF1700

 

 やっぱり蘇生手段はあったか。そしてさらにフィールドに現れるのはトゥーン・ブラック・マジシャン・ガール……まあ、此奴が出たってことは、俺の隣でさっきからデュエルを見ているこいつは反応するだろうな。

 

『おー、あれがトゥーンになった私ですか。流石私、トゥーンになっても可愛いですね! ま、スタイルは私の圧勝ですが!』

 

 と、なぜかどや顔のマナ。そんなマナに呆れ顔のマハードと、苦笑するミラ。まあトゥーンでデフォルメされてるからそりゃそうだろ。

一応、ブラック・マジシャンのトゥーンもいるんだけどな。

 

「トゥーンモンスターは召喚したターンに攻撃はできませんが、このカードは特別デース! このカードは召喚したターンに攻撃が可能デース! さあ、トゥーンたちよ! 秋人ボーイにダイレクトアタックデース! さあ、ユーの秘策を見せてくだサーイ!」

 

「……ええ、ではお見せしましょう。 リバースカードオープン!」

 

「トゥーンに対してカードの効果は通用しまセーン!」

 

 確かにその通り。だが、ペガサス会長は俺の狙い通り、モンスターを並べてくれた。それこそが、俺の狙い。

 

「ええその通り。だから、さっきと同じです。罠カード発動『スウィッチヒーロー』!」

 

「ワッツ!? スウィッチヒーロー? それもまた聞いたことのないカードデース。いかなる効果なのですか?」

 

「このカードは互いのフィールドのモンスターが同数の場合に発動します。”互いのモンスターのコントロールを全て入れ替えることができる”! このトラップは対象を取る効果でも、破壊する効果でもない……よって全てのモンスターに適用される!」

 

 これが俺が仕掛けていた罠。このカードもまた、対象に取ることのないカード。まあ、ズルいようだが、ペガサス会長の性格からして、トゥーンを並べて殴ってくるだろうという予測はあった。それは、トゥーンというカードに対してのペガサス会長の信頼と自信。攻撃力3000の青眼の白龍たちを相手に送ってしまうなんて光景、海馬社長が見たらブチギレ案件だが……ぶっちゃけ、最初の太古の白石の効果で白き霊龍を召喚しなかったのは相手のトゥーンを利用する手を考え付いたからだ。

 

「シット……! 私のモンスターが全て秋人ボーイのフィールドに……!」

 

「会長なら、トゥーン・キングダムに慢心してカードを並べてくれると思いましたよ。これで、新たにトゥーンを召喚したとしても、俺のフィールドのトゥーンを相手にしないといけない」

 

「ならば、秋人ボーイのブルーアイズを利用するまでデース! 青眼の白龍でトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールを攻撃しマース!」

 

「トゥーンでなければ、対策は容易ですよ、会長! 罠カード発動! 『攻撃の無力化』! 攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する!」

 

「ならば、メインフェイズ2へ移行! ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの独裁者-と、青眼の白龍を生贄に捧げ、『トゥーン・ドラゴン・エッガー』を守備表示で特殊召喚! そして、青眼の亜白龍を生贄に、『トゥーン・デーモン』を召喚! これで秋人ボーイは、再びトゥーンを相手にしなくてはなりまセーン! 私はカードを1枚伏せ、ターンを終了しマース!」

 

トゥーン・ドラゴン・エッガー ATK2200/DEF2600

 

トゥーン・デーモン ATK2500/DEF1200

 

 攻撃力では青眼の白龍たちのほうがブルーアイズ・トゥーン・ドラゴンを除いて上にもかかわらず、やはりトゥーンを召喚してきたか。天よりの宝札でスイッチヒーローを引けたものの、ペガサス会長のほうにも強力なカードを引かせてしまった……ここまでで、お互いにライフは削られていない。ここから、どう崩すかが難しいところだ。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は魔法カード『アドバンスドロー』を発動。フィールドのブルーアイズ・トゥーン・ドラゴンを墓地へ送り、カードを2枚ドローする! 2枚ドロー……! 俺はフィールドのトゥーン・ブラック・マジシャン・ガール、そしてレッドアイズ・トゥーン・ドラゴンを生贄に捧げ『白き霊龍』を召喚して効果を発動! 召喚、特殊召喚に成功したとき、相手フィールドの魔法、罠をゲームから除外する! 対象は当然、トゥーン・キングダム!」

 

「なるほど、トゥーンを生贄にしてまで何を出すかと思えば……強力なカードですが、言ったはずデース! トゥーン・キングダムに対して守りの策は持っていると! 罠カード発動! 『ブレイクスルー・スキル』! これもまた、ユーが作ったリストにあった新作のカードデース! 相手フィールドの効果モンスター1体を対象に、ターン終了まで効果を封じマース!」

 

 やっぱりそういうカードを伏せていた! さっきと同じ手は喰わない!

「そうはさせません! 白き霊龍の効果! このカードを墓地へ送り、手札の青眼の白龍を特殊召喚! 速攻魔法『究極融合』! 自分の手札・フィールド・墓地から融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを持ち主のデッキに戻し、「青眼の白龍」または「青眼の究極竜」を融合素材とするその融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚できる! このカードはルール上ブルーアイズとしても扱われる! よって、フィールド、墓地の青眼の白龍と、青眼の亜白龍をデッキに戻して融合! 現れろ! 新たなる究極竜! 『青眼の究極亜竜』!」

 

青眼の究極亜竜 ATK4500/DEF3800

 

「なっ……サクリファイス・エスケープ!? やってくれますね秋人ボーイ!」

 

「これで、ブレイクスルー・スキルの効果は不発となり、トゥーン・キングダムは破壊される。けど、それだけではありません! 究極融合で素材としたフィールドの青眼の白龍、及び、青眼の亜白龍の数まで、相手フィールドの表側表示のカードを選んで破壊できる! 1体の素材を使ったことで、トゥーン・ドラゴン・エッガーを破壊する! バトル! 青眼の究極亜竜でトゥーン・デーモンを攻撃! オルタナティブ・アルティメット・バースト!」

 

「ぐっ……! まさか、トゥーンが壊滅するとは……遊戯ボーイたち以来です……!」

 

ペガサス LP4000→LP2000

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドです」

 

「私のターン、ドロー! ……トゥーン・キングダムを突破し、トゥーンたちを壊滅に追い込んだこと、素直に賞賛しましょう。ですが、ここからが本番。私は『命削りの宝札』を発動! デッキからカードを5枚ドローし、5ターン後、全て捨てるカードデース!」

 

「罠カード発動『逆転の明札』を発動! 相手がデッキからカードを手札に加えた時、また、ドローフェイズ以外でデッキからカードをドローしたときに発動する。相手の手札と同じ枚数になるようにカードを自分もドローする。俺の手札は0枚。よって、5枚ドロー!」

 

 これでお互いに手札は5枚。あんまりドローしすぎると、デッキアウトで負ける、なんて情けない負け方になるかもしれんから本当はむやみやたらにドローするもんじゃないが……

 

「さらに、私も『天使の施し』を発動して、手札を3枚ドロー、2枚を墓地へ……秋人ボーイ、ユーに新たなる切り札をお見せしまショウ! 魔法カード『サクリファイス・フュージョン』!  手札、墓地、フィールドからカードを除外し、融合召喚を行いマース! 私は先ほど墓地へ送った『サクリファイス』と、『トゥーン・ドラゴン・エッガー』をゲームから除外して融合! さあ来なさい、究極の幻想モンスター……『ミレニアム・アイズ・サクリファイス』召喚!!」

 

ミレニアム・アイズ・サクリファイス ATK0/DEF0

 

 なっ……ミレニアム・アイズ・サクリファイス!? 馬鹿な、そのカードはまだ、リストも作っていないのに……! なんで会長がそのカードを持っているんだ!?

 

「驚きましたか? 秋人ボーイ……これこそ我がインダストリアルイリュージョン社と私が開発した最高傑作……! 1ターンに1度、相手モンスターの効果が発動した時、相手のフィールド・墓地の効果モンスター1体を対象として発動できるのデース! そして、その相手の効果モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する効果を持っていマース。しかし、ユーがモンスター効果を使わない限りは吸収効果は使えない……そこで墓地の『サクリファイス・フュージョン』の効果発動! このカードをゲームから除外し、相手フィールドの効果モンスターを吸収しマース!」

 

 その言葉と共に、青眼の究極亜竜がミレニアム・アイズ・サクリファイスに吸収される。くっ! 効果はOCG効果と同じか! 青眼の究極亜竜はサクリファイスの中へと消えた。アニメや原作のようにサクリファイスの壁になるわけではないらしい。その代わり、その青眼の究極亜竜のような形のオーラがミレニアム・アイズ・サクリファイスに纏われている。

 

ミレニアム・アイズ・サクリファイス ATK0/DEF0→ATK4500/DEF3800

 

「さあ、バトルデース! ミレニアム・アイズ・サクリファイスで秋人ボーイへダイレクトアタックデース!」

 

「罠カード『ドレインシールド』! 攻撃を受ける時、その攻撃力分ライフを回復できる! ぐっ!」

 

武藤秋人 LP4000→LP8500

 

 危なかった。だが、これでライフは得たから第一段階はクリア。これからやる行動はライフが大量に必要になるからな。サクリファイスのことを考えてこのカードを入れておいてよかった。

 

「私はこれでターンエンド。秋人ボーイ、このアルティメット・ドラゴンを吸収したミレニアム・アイズ・サクリファイスに対して対抗策がないというのならばサレンダーをおすすめしますが……ふふっ、その眼、未だ手はあるようですネ」

 

「当然です。まだ、手札はある……言い方は悪いですが、会長。この程度の逆境で足を止めたら、諦めたら、それこそ、この先のことすべてを乗り越えることはできない!」

 

「いいでしょう。その覚悟、しかと受けました。かかってきなサーイ!」

 

 そういって笑みを見せるペガサス会長。そう、こんなところで立ち止まっていられない。たとえ、誰が相手でも、前に進まなきゃいけない……! じゃなきゃ、俺がこの世界に来た理由を突き止めるのも、本当の武藤秋人を元に戻してやるのも、そしていつか元の世界に帰ることも、絶対にできない。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は、魔法カード『竜の霊廟』を発動! 墓地へドラゴン族のカードを送ることができる! 通常モンスターを送った場合はもう1枚墓地へ送る! 俺は墓地へ『青眼の白龍』を送り、さらに『白き霊龍』を墓地へ送る! そして1ターン目に墓地へ送った『太古の白石』の効果! このカードを除外し、『ブルーアイズ』を加えられる! 俺は『青眼の白龍』を手札へ加える! そして、『トレード・イン』を発動! 手札の『青眼の白龍』を墓地へ送り、カードを2枚ドロー! ここは……このカードを使う! 儀式魔法発動『カオス・フォーム』! 条件によって定められたレベルのモンスターを墓地へ送り、儀式召喚を執り行う! 俺は手札の『青眼の亜白龍』を生贄とし、儀式召喚を執り行う! 儀式召喚! 現れろ、『ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン』!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000/DEF0

 

「ワンダフォー! まさか、ブルーアイズモンスターで儀式モンスターが存在するとは、これには驚きデース! しかし、その攻撃力は4000! 今のサクリファイスには届きまセーン!」

 

 ペガサス会長の言う通り、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンの攻撃力ではわずかにサクリファイスへは届かない。だが、俺が求めているのは攻撃力ではない。『墓地のモンスターの種類』と、効果を使わせることになる。

 

「そして、2枚目の『復活の福音』を発動! 墓地より甦れ、青眼の亜白龍!」

 

青眼の亜白龍 ATK3000/DEF2500

 

「そして、効果を発動! 1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を破壊する! 対象はもちろん、ミレニアム・アイズ・サクリファイス!」

 

「なるほど、ここで私は効果を使わざるをえないというわけですね。いいでしょう、お望み通り効果を使いまショウ! ミレニアム・アイズ・サクリファイス! 青眼の亜白龍を吸収しなサーイ!」

 

 ペガサスの言葉と共に、ミレニアム・アイズ・サクリファイスは青眼の亜白龍を吸い込んでいく。それにより、ミレニアム・アイズ・サクリファイスを纏うオーラは一層大きくなっていく。

 

ミレニアム・アイズ・サクリファイス ATK4500/DEF3800→ATK7500/DEF6300

 

「バトルフェイズ! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンで、ミレニアム・アイズ・サクリファイスを攻撃! 『混沌のマキシマム・バースト』 !!」

 

「攻撃力が3500も劣るモンスターの攻撃……返り討ちにしなサーイ! サクリファイス!」

 

 カオス・MAXの放った攻撃はサクリファイスの外装によって弾かれ、その攻撃を受けてブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが爆発する。だが、これでいい。俺の狙いは、モンスターを破壊されること……!

 

武藤秋人 LP8500→LP5000

 

「この瞬間、手札のカード効果が発動する! 自分フィールドの『ブルーアイズ』が破壊されたことで、このカードを特殊召喚! 無窮の時、その始原に秘められし白い力よ。鳴り交わす魂の響きに震う羽を広げ、蒼の深淵より出でよ! 『ディープアイズ・ホワイト ・ドラゴン』!」

 

 現れるのは5枚の羽根をはためかせて現れるドラゴン。これが俺の切り札にして、ペガサス会長への切り札となるカード。

 

「ディープアイズの効果発動! このカードが召喚されたことで、墓地に存在するドラゴン族モンスターの数×600ポイントのダメージを与える! 俺の墓地には青眼の白龍、青眼の亜白龍、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、白き霊龍、太古の白石の5種類! よって、3000ポイントのダメージを与える!」

 

「なるほど、サクリファイスの攻撃力を超えられないのであれば、効果ダメージを狙う……ミレニアム・アイズ・サクリファイスに効果を使わせたのはそのためですか。しかし、私は秋人ボーイの先をいきマース! 手札より『ミレニアム・アイズ・イリュージョニスト』の効果発動! このカードを手札から捨てることで、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動! そのモンスターをアイズ・サクリファイスモンスター、またはサクリファイスに吸収させマース! これにより吸収されたモンスターと同名のモンスターは攻撃できず、効果も無効化される……故に、ディープアイズの効果は不発デース!」

 

「……それはどうかな?」

 

「これは……!? ディープアイズの姿が消えていく……!?」

 

 そう、ペガサス会長の言う通り、ディープアイズは粒子となって消えていく。もちろん、その粒子はサクリファイスへ吸収されているものではない。何故なら……

 

「会長がミレニアム・アイズ・サクリファイスを召喚した時点で、イリュージョニストの可能性も考えていました。そして、伏せていた最後のカード、これが俺の真の切り札……罠カード『竜の転生』! フィールドのモンスター1体を除外し、手札、墓地からドラゴン族を特殊召喚できる。俺は手札に残っていた『青眼の白龍』を特殊召喚する!」

 

「っ……!? しまった、秋人ボーイの狙いは先ほどのブレイクスルー・スキルの時と同じく、サクリファイス・エスケープ……!」

 

「その通り。ディープアイズがゲームから除外されたことにより、『ミレニアム・アイズ・サクリファイス』の効果は不発になる。吸収できなければディープアイズの効果は止まらない! ディープアイズに引き寄せられし竜の魂たちよ! その怒りで敵を貫け!」

 

 俺の言葉と共に、半透明の青眼の白龍たちが出現し、光線を発射する。太古の白石とかは、うん、ただ光っているだけっぽいけども。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

ペガサス LP2000→LP0

 

 

 

 

「久しぶりに熱くなれました。いいデュエルでしたよ、秋人ボーイ!」

 

「いえ、こちらこそ……正直、貴方に勝てるとは思っていませんでしたよ」

 

「これからまた、どんどんと新しいカードが増えることでショウ。その時は、また新たなトゥーンを携え、ユーにリベンジを挑ませてもらいマース! まだまだ、トゥーンモンスターたちは開発中なのデース!」

 

 デュエルを終えたころには、時間はもうお昼を過ぎていた。まあ、当然ながら交流戦は終わったと雪乃たちからメールが来た。あと、どこで何をやっているんだ、とも。まあ、当たり前である。しかし、レジーがペガサス会長が来ており、俺と会っていることを聞いたらしく、ちゃんとどういうことかを説明するように、と念を押されてしまった。

 

「お友達のほうは大丈夫ですか?」

 

「ええ、この後合流する予定です。というか、会長もお時間大丈夫なんですか?」

 

「オフコース、この後アメリカへとんぼ返りですが、問題ありまセーン! では秋人ボーイ、これからよろしくお願いしマース! そして、ユーが自身の世界へ帰れる方法が見つかることを祈ってますよ、秋人ボーイ!」

 

「ええ、ありがとうございます。」

 

 こうして、ペガサス会長との邂逅は終わりを告げた。これからやることの再認識、そして、これから来るであろう戦いに備えて整えないといけないことが増えた。まあ、なにはともあれ、雪乃たちと合流しないとな。そう思いながら来賓室を出て集合場所である食堂を目指していると、そこに待ち合わせの人物のうちの1人が現れた。

 

「秋人、見つけたわ♪」

 

「レジー?」

 

「秋人、ちょっと話があるの。付き合ってくれるかしら?」

 

 そう、そこにいたのは今日、留学生としてやってきたレジーであった。その目に、何か覚悟を秘めて。

 

 

 




というわけで、42話でした。VSペガサスはもう書きたくないというくらい、カード対処に悩んだ(汗

VSペガサス編
新規のため、前作との比較はなし。

青眼シリーズ再び
VS銀河眼以来の登場。ぶっちゃけ、あの時よりサポートめっちゃ増えましたね。

リスト化されていたトゥーン
実は社長、ライバルとか、実力者関連のカードは片っ端から作成してます。

ドローしすぎでは?
これくらいしないと互いに回らんのです……
天よりの宝札、命削りの宝札、逆転の命札……引きすぎぃ!

サクリファイス・エスケープ
フィールドで無効になる? なら、別のところで発動すればいいじゃない。とある動画を見て、なるほど、となって採用。サクリファイスにサクリファイス・エスケープという皮肉

レジー合流
次回、レジーの想いは届くのか……!?



改めてどうも、秋風です。前回は1月25日でしたが、今回は思いのほか早く書けました。これくらいのペースを維持できればいいんですが……来週の連休とかで頑張ろう。まあ、持病で鳩尾が激痛に苛まれなければ、まだもうちょい何とかなるんですけどね(汗

そういえば、私もマスターデュエルを始めました。私はパソコンのsteamで遊んでおります。現状、ゴールド帯でVからⅢを行ったり来たり。エルドリッチはまだ何とかなるんですけど、LLとか、@イグニスターとか、ひたすらにソリティアされるのが辛いですね。まあ、止められないお前が悪い、と友人には言われましたが。どこかで当たったらどうかお手柔らかに(笑)
こちらもよろければフォローしてくれたらうれしいです。

マスターデュエルID:031767343

さて、次回はレジー告白編になります。これで、とりあえずその次からセブンスターズ編に入れるかなと思います。セブンスターズ編も、原作通りにさせるつもりはありませんので、お楽しみにしていただければと。

前回のお話で感想をいただけた方々。ありがとうございます!
blackfenix様 オヤP様 二元論様 ジクスト様 DJryou様 さか☆ゆう様 heito様 カロン様
ニンジャ0号様 シユウ0514様 影山鏡也様 サンライフ様 龍牙様 妖精絶対許さんマン様 鋼のムーンサルト様 
無類様 navi様 ジクスト様 コロモダニ様

評価ありがとうございました。精進いたします!
いいひと様 夏目紫苑様 青竹(移住)様 創風様 クロノワール様

ツイッターやっているので、リプとかDMでハーメルンからフォローしましたとくれれば相互フォローします!
マスターデュエルのフォローも募集中です。
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43「学園対抗デュエル戦:レジーの決意」


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43「学園対抗デュエル戦:レジーの決意」

お久しぶりです。
実に2年ぶりの更新。2年どころじゃないけども(汗
評価でボロクソに言われてから創作意欲をなくし、さらには仕事が忙しすぎてエタっておりましたが、何とか帰ってまいりました。
現在はマスターデュエルでしか遊んでないので現在の環境が全然わからないところもありますが、心変わりが帰ってくるくらいにはぶっ飛んでんだなぁ、くらいは理解しております(笑)

実のところ、現在、持病の慢性膵炎で入院しており、ノートPCで執筆して投稿しております。まあ、この小説を覚えている方もそういないだろうということで、こっそりと予告もなく投稿です。

今回はレジー告白回。次回からは時間があれば、セブンスターズ編です。
では、どうぞ。


「へぇー……すごいわね、綺麗。さすがはデュエルアカデミアの本島ね」

 

「で? 話ってなんだ? レジー」

 

 ペガサスとのデュエルを終えてから数時間後。俺はレジーに話があるといわれて学内を抜けて屋上へと訪れる。前に、ツァンがあの名前も知らないボンボンに襲われた場所だ。その屋上のベンチに座り、俺はそうレジーに問う。

 

「んもぅ、ちょっとは世間話に付き合ってくれてもいいじゃない」

 

「話すことがあるなら、いくらでも待つが……ただまあ、夕食までには踏ん切りつけてほしいな。今日、十代の祝勝会の約束しちまったから」

 

 ぷんぷん、と擬音が聞こえてきそうな風に頬を膨らませるレジー。そう、今日十代が交流戦で勝てばいくらでも好きなものを作ってやるという約束をしたのだ。まあ、それに便乗してレッド寮のメンツが祝勝会をしたいだなんてはしゃぎ始めたもんだから、今は14時とはいえ、レジーの様子を見るに大切な話だろう、とは思っているのだが。

 

「ふふっ、そうだったわ、雪乃から聞いたわよ。おいしい料理、作れるんですってね」

 

「おう、今日の夕食は期待しておけ」

 

「……ね、秋人」

 

「なんだ?」

 

「好きよ。貴方のこと。心の底からね」

 

 レジーからの、突然の告白とともに唇にキスをされる俺。数秒固まった俺だが、再起動してレジーを見た。レジーに顔は赤く、耳まで真っ赤だ。そして、若干手は震えているのが見えた。どうしてこんなことを、そういう前に、レジーが口を開く。

 

「貴方が、雪乃やツァンと恋人同士であることは知っているわ。そして、私もどうか、その1人にして欲しいの」

 

「お前、自分で言ってることわかってんのか?」

 

「もちろん」

 

 それはあまりにも無茶、無謀な話である。法律的にも、そして、すでに恋人となっている雪乃やツァンからしても。そして、俺自身の問題からしても。しかし、レジーはにっこりと笑みを浮かべる。

 

「2人からは、許可は得ているわ。私の想いを伝えることも、もし、許してくれるなら受け入れてもらうこともね」

 

「なんてこった……」

 

 あの2人、いつの間に。いや、多分俺が十代と合流したときにその話をしたのだろう。そして、レジーはそういいながらスラリと足を延ばした

「それに、貴方との“約束”……今こそ使う時ではなくて?」

 

「お前、それはずるいだろ……」

 

 それは、レジーがオシリスの攻撃によって倒壊した電柱から俺をかばった時のことである。今でこそ傷はきれいに消えているし骨こそ折れていなかったが、けがをしたレジーに俺はできる限りのことならいうこと聞くという約束を交わしてしまったのだ。それをまさか、今ここで使ってくるとは思わなかった。

 

「私は使えるものはなんだって使う。それこそ、惚れた貴方を繋ぎ留めるためなら」

 

「……? それって、どういう」

 

「私の勘、なのよ。貴方、このままだと私から、ううん、私だけじゃない。私や雪乃、ツァンの前から、手の届かない遠い所へと行ってしまいそうな、そんな気がするの」

 

 なんで、この世界の女たちはこうも勘がいいんだ。ある意味、呆れそうになる。だが、事実、いつかは俺という存在は消えて、武藤秋人にこの肉体を返す時が来るのだ。

 

「秋人は私のこと、嫌いかしら?」

 

「……嫌いじゃないよ。女性としても魅力的だ。その好意も嬉しい」

 

「けど、受け入れられない何かが、貴方の中にある」

 

「……!?」

 

 レジーの言葉に、俺は目を見開く。そんな俺に、レジーはクスリと笑う。

 

「雪乃たちの言ったとおりね。貴方が、雪乃とツァンと恋仲でありながら、ちょっとだけ距離感があるというか、あの子たちが一方的だったのが気になっていたの。それでもいいわ。私はあなたの隣にいたい。だから、どうか、私とも付き合って。秋人」

 

 そう告白をするレジーの手は、震えていた。俺の手を握り、今にも泣きだしそうな目で俺を見ながら。俺だって、本音を言うなら受け入れるのだってしてやりたい。だが、雪乃も、そしてツァンもそうだが、本当の俺という存在を、彼女たちは知らない。今の雪乃とツァンとの関係ですら俺にとっては受け入れているようで受け入れ切れていない。

 

「レジー」

 

「……何かしら」

 

「今から話す話を、聞いてもらえないか?」

 

 こうして、俺は語ることにした。俺という存在が何者なのかを。それは、レジーが海馬社長、ペガサス会長に次ぐ、3番目の秘密の開示者となることを意味していた。俺自身の存在と、武藤秋人という存在の関係性。本来あるはずのないカードの存在理由。これから起こりうる未来の出来事。それらを語り、そのうえで俺はレジーに問う。

 

「こんな俺でも、お前は好きでいると言えるのか? こんな得体のしれない俺を」

 

「そのこと、雪乃やツァンは知っているの?」

 

「知らない。が、いずれは伝えなきゃいけない。お前らが愛した人間はそこにはいないって」

 

 そう俺は告げる。しかし、レジーはさっきとは打って変わり、俺を睨みつけていた。

 

「嘗められたものね、私も、雪乃もツァンも」

 

「……え?」

 

「異世界の人間の魂、それには驚いたわ。けどね、そのあなたがいつかは消えるなんて、誰が決めたのかしら?」

 

「それは……」

 

 確かに、それは俺が武藤秋人の魂が戻ってくれば、俺という存在は消えるだろうという推測から出した結論である。いやまあ、そもそも武藤秋人の魂がどこにあるんだって話ではあるのだが。

 

「それに、その程度で私たちが貴方を諦めるとでも?」

 

「え?」

 

「雪乃とツァンだって言ったんじゃないかしら。貴方が消えることがあるなら、地獄の果てまで追いかけるって」

 

 ……そういえば言ってたな、そんなこと。何で知ってるんだと思ったけど、多分2人が話したんだろう。俺が、2人の告白にためらった理由も知っているところを見るに。

 

「もし仮に、貴方が何かの役割をもってこの世界に来たとして、それが終えて帰ることがあるなら貴方と共に行く。もちろん、パパやママには悪いと思うけどね。もしくは消えてしまうというなら消さない方法をいくらでも模索する。消えたとしたら意地でも蘇らせてみせる。私は諦めが悪いの。それは知っているでしょ?」

 

 そういってウィンクするレジー。まあ、確かにこいつの諦めの悪さは知っているが……彼女にとって、いや、レジーだけじゃない。雪乃とツァンにとって、俺はそこまでの存在なのか。

 

「けど、そんなこと……」

 

「できない、とは思わないわ。貴方の知るこの世界で、いくらでも不思議なことは存在する。なら、貴方をこの世界に留めるか、救う方法だってあるかもしれない。違うかしら?」

 

「……は? いや、それは確かにそうだが」

 

 なんでそれを知っているんだ、レジーが。いや、彼女からすればソリッドビジョンのオシリスが現実に影響を与えるというのを見ているからそれを理解しているのか? だがそれ以外にも、俺は確かに知っている。今のこのGXという時代であれば2期や3期はそれだろう。現実にそぐわない現象。5D‘sで言えば地縛神から始まり、未来からの敵どころか、主人公が過去へ飛ぶ。ZEXALで言えば、主人公は半分人間じゃなかった。Arc-Vで言えば、5つの世界があったし、主人公はとんでもない存在だった……。

 

「それに、貴方の話を聞いて確信が持てたわ。“あの夢”は夢じゃないって」

 

「夢?」

 

 夢、とは何のことだろうか。すると、彼女は1枚のカードをデッキから取り出した。それは、彼女のエースカードとなっている『The splendid VENUS』のカードだった。

 

「このカードを手に入れてから私は毎晩、夢を見るようになったの」

 

「どんな夢だ?」

 

「私が、何かの手下になって、いろんな人を闇の中に引きずり込む、そんな夢よ」

 

「なっ……」

 

 彼女から聞かされたのは、漫画版GXでの彼女そのものだった。ミスターマッケンジーが黒い靄に覆われ、人が変わったかのように自分を恐怖でしばりつけたこと。響姉弟をデュエルで倒し、謎の力でその闇の中へと引きずりこんだこと、十代とのデュエルに負け、自身も闇の中へと引きずり込まれたこと。結果として、その闇が十代にデュエルで負けたことでその夢は終わり、以後は見ていないこと。

 

「貴方の、上位世界の話を聞いて思ったの。それは、貴方の世界の物語の1つの私だったんじゃないかしら? 私が使っていたあの力だって、何かのオカルトな力のはず」

 

「だからレジー、君は俺の話をすんなり受け入れられたのか」

 

「確証はなかったけどね。今日の交流戦の代表である十代君を見て驚いたわ。夢で見た人がいるんだもの。その様子を見るに、秋人、貴方は私のこと、出会った時から知っていたでしょ」

 

 俺が頷くと、やっぱり、と笑って見せるレジー。その笑みはなぜか嬉しそうだった。そして、カードを仕舞うと、俺の手に自分の手を重ねる。

 

「私も貴方を支える力になりたい。貴方のことを知ったのならば、なおさらね」

 

「レジー……どうして、君はそこまで俺に?」

 

「あら、今更それを聞く? 貴方はもう、私にとってはかけがえのない存在なのよ」

 

 つい、そんなことを聞いてしまった。俺はこの世界にとっては異物だ。というか、「自分は異世界からきて、今は自分とは違う人間の魂に入ってます」なんていうやつを誰が好きになるんだ。そう思っていた。だが、レジーにとっては、そんなことは関係ないという。俺は、あの時に彼女たちに言った時と同じことを言う。

 

「いつか、俺がこの世界から消えることになったら?」

 

「消させないわ。元の世界に戻るというならしがみ付く。貴方をこの世界に連れてきた何かが消そうというなら意地でも守って見せる」

 

「後悔するかもしれないぞ? 俺なんかを好きになったことを」

 

「貴方はもう少し、自分を評価するべきよ? マイダーリン?」

 

 そういってレジーは俺に唇を重ねるのだった。

 

 

 

 

 結論から言うと、私、レジー・マッケンジーは秋人の恋人となることができた。秋人はキスの後に、小さくため息を吐くと「俺の負けだ」と、降参した。彼の行く末は彼に起きるであろう何かによって変わっていく。それは、彼が知っている『物語の私』がいい例だ。

 

「……? どうした、レジー?」

 

「いいえ、なんでもないわ」

 

 そういって私は彼の手を繋ぎながらアカデミアの下の階へと戻るために歩を進める。最中に、雪乃やツァンたちに、この話はまだきっと早いので秘密にすると秋人はいう。来るべき時が来たら話すべきだけど、彼の非現実的なこの話を信じられるか、と言われば難しいからとのこと。聞くところによると海場社長には彼しか持ちえないはずの青眼の白龍や、決闘王が持っている三幻神などを見せ、ペガサス会長には彼が持っていた異能の正体や、過去のことを話して納得させたという。特に、ペガサス会長は自身もオカルトな体験をしたからすぐ信じてくれたのだとか。一応、雪乃は闇のゲームというもので秋人がモンスターに傷つけられたのを見たことがあるが、それでも話す内容としてはまだ薄い。かくいう私も、夢の件がなければ納得できなかったかもしれない。まあ、私の場合はあのオシリスコピーカードが齎したとんでもない光景を見せられたから若干オカルトってこの世にあるんだな、って感じにはなっているけど。

 

「で、雪乃やツァンにはどう説明するんだ」

 

「それなら大丈夫よ、ほら」

 

 そういって私が指さす先に2人が待っていた。雪乃はそうでもないけど、ツァンはどこか不機嫌そうにしている。あたりまえだけど。

 

「ただいま2人とも」

 

「……その様子を見るに、成功したのね」

 

「むぅ、けど、一番は皆で決めるんだからね!」

 

 私の態度に、結果を分かったらしい。私が離れると、ツァンは私を恨めしそうに見ながらも、秋人へ抱き着いた。

 

「ちょ、ツァン」

 

「今日、ボクは朝から秋人に触ってない」

 

 そういって顔をぐりぐりと押し付けていた。そんな彼女が可愛いと思うのは私だけの秘密だ。そして、そんなツァンの扱いにも慣れているのか、よしよしと、ツァンの頭を撫でている。ツァンは「べ、別に嬉しくないし」と言っているけど、顔が緩んでいる。

 

「さ、ツァン、ほどほどにしなさい。帰ったら十代の坊やの祝勝会の準備があるんだから」

 

「むぅ、そうだった……」

 

「さて、何を作るか……とりあえず、レッド寮の冷蔵庫内容はメールで大徳寺先生からもらったから、足りないものを食堂で頼んで譲ってもらうか」

 

 そういって歩き始める秋人の隣を2人が歩く。その中に私が入れるのは、嬉しくもあり、そして、秋人のことを知って、一層この時間を大切にしなければと思う。この先何が起ころうと、絶対に秋人を守ってみせる。それは、あの夢を通して得体のしれないものに味あわされた恐怖を知る私にだけができること。

 

「レジー? 食堂へ行くぞ。ついでに昼食も済ませよう」

 

「ええ、今行くわ」

 

 秋人の声に答え、私は雪乃の隣に並び、3人とともに食堂へ向かうことにするのだった。

 

 

……少し先の未来、“私たちは”選択を迫られる。それを、私はまだ知らなかった。

 




リメイク前との相違点

新規オリジナル回のためなし。
あえて言うなら、十代VS万丈目サンダーのデュエルがなくなりました。

秋人の葛藤
3人の想いを受け入れつつも、ペガサスとの会話を若干引きづってます

レジーの告白
やっとここまでかけました。

レジーの夢の話
実は、連載当初から決まっていました。秋人が作り出したカードに触れることで、影響が及ぼされる人物が少しだけいます。

3人のこれから
仲良く、しかし、時にはライバルとして、修羅場もあるよ!

次回 セブンスターズ編 開幕
44「始まりを告げる闇の決闘」



ヴァイト様 ニンジャ0号様 リョウ@様 天導 優様 二等ヘイ(*ゝω・*)ノ様 無類様
感想ありがとうございました。またの感想をお待ちしております。

ウルトラマンジオウ様
評価をしていただきありがとうございました。
これからもこの小説をよろしくお願いいたします。

感想評価をお待ちしております。


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セブンスターズ編
44「始まりを告げる闇の決闘」(前編)


たくさんの待ってました、という感想欄のメッセージありがとうございます。
とりあえず、また明日内視鏡の手術があるのですが、それまで暇なので執筆したらなんかかけたので更新。
これからもたくさんの感想やアイディアなんかもお待ちしております。
まあ、うれしいコメントたくさんいただいている裏で、すごい勢いでお気に入りの数が減っててなんか悲しくもなりますが、まあ、今更見る人もいないだろうと、割り切ってます。楽しんでいただける方だけ、見ていただければ
これからもよろしくです

今回はセブンスターズ編を開始。いろいろとリメイク前のとは違って端折ってます


 レジーの告白を受けてから、数週間が経過した。そんなあくる日、雪乃がとある問題を抱えて帰ってきた。その日、大徳寺先生と十代たちの誘いで自由参加の課外授業へ行くことになった(俺は新パックの発売調整などで同行ができなかった)のだが、アカデミアをもっと知りたいというレジーの願いを聞いた雪乃とツァンも課外授業へとついていったらしく……結論から言おう、なぜか原作で十代が持っていたはずのペンダントの欠片を持って雪乃が帰ってきた。帰ってきた際は俺を見たツァンが大泣きして一目散抱き着いてきて、雪乃もそれに続いてきた。レジーはまあ、そのあと夜にちょっと怖かった、という程度だったが。

 

「墓守たちの世界、か」

 

「ええ、前に旧特待生寮で体験したこと以上にすごいことを体験した気がするわ」

 

 その日の夜、泣きつかれて眠ってしまったツァンと、それに寄り添ってレジーが寝たころ、俺は雪乃から事の顛末を聞いた。言ってしまえば、課外授業で異常な現象に見舞われたためアカデミアにあった遺跡のようなところに避難したら、墓守の世界へと飛ばされた。で、捕まった仲間を救うべく原作では十代が行ったデュエルを雪乃が務めたのである。結果から言えば、圧勝だったらしいが。

 

「貴方がくれたデッキですもの。負けるはずがないわ」

 

まあ、今の雪乃の持っているデッキはこの時代ではまだ存在していない『デミス』と『ルイン』を混ぜた複合デッキである。正しくは、女神ルインと悪魔デミスだけではなく、美神ルインと、覇王デミス。そして、それをサポートする、まだ発売していない儀式サポートをぶち込んだデッキ。この時代であれば、よっぽどのことがない限りは負けないだろう。ツァンは六武衆、レジーは天使族とテーマを好むが、雪乃の好むのはテーマではなく『儀式召喚』を主体としたデッキだ。儀式そのものをテーマとするならば、『ヴェンデット』『霊魂鳥神』『カオス・ソルジャー』『サイバー・エンジェル』『サクリファイス』『占術姫』『デミス・ルイン』『ドライトロン』『影霊衣』『ネフティス』『メガリス』『リチュア』『魔鍵』『リブロマンサー』『ヌーベルズ』と多彩で、一通り回してもらったところ、『デミス・ルイン』と『リチュア』が一番しっくり来たらしい。まあ、他にも儀式青眼があるが、あれはこの世界だと俺と社長しか運用できないので使わせていない。

 

「その時に出会った『墓守の暗殺者』のサラを無理やり連れてきたら……こうなったの」

 

『……墓守の暗殺者の、サラだ』

 

 そう、そこにいたのは墓守の暗殺者のサラである。彼女、アニメでは確か明日香の兄貴である吹雪に恋をしていて、今雪乃の持っているペンダントを雪乃に託して想いを伝えてほしいと言って別れるつもりだったのだが、雪乃がそれは自分で伝えるべきだと無理やり連れてきたらしい。まあ、原作見ていても思ったが、あのまま残るって彼女碌なことにならんだろう。作中でも長に折檻されてたし。そう考えれば、雪乃の判断は正しかったと思う。

 

「ご丁寧にどうも。武藤秋人だ。ミラ、マハード、マナ、出てきて」

 

『初めまして、久遠の魔術師ミラです』

 

『ブラック・マジシャン、マハードだ』

 

『ブラック・マジシャン・ガールのマナだよ! よろしく!』

 

 俺も同じように俺が持っているカードの精霊たちを見せた。雪乃は十代からカードの精霊という存在と、俺が同じようにカードの精霊を持っていることを教えられたらしい。

 

「久遠の魔術師ミラはともかく、ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガール、このカードを貴方が特待生寮で召喚していた時に様子がおかしかった理由がわかったわ」

 

「そういうことだ。なんで遊戯兄さんが俺にこの2人を託したのかはわからないんだが」

 

 とりあえず、雪乃は今後、サラを受け入れて相棒にするらしい。そうなると、墓守デッキが必要になるな……この時代の墓守はそうでもないが、俺の知る墓守って、ひたすら墓地を利用するデッキを殺しに来る超鬼デッキなんだが……とりあえず、あとでリスト出すか。そんな話を終えると、雪乃は俺に抱き着き、俺をベッドに押し倒した。

 

「おい、雪乃?」

 

「……今回は、死ぬかと思ったわ。だから、今日はたくさん慰めて頂戴」

 

 ツァンと同じく、雪乃にも我慢の限界が来たらしい。体を震わせ、目は涙が流れていた。俺はそれを受け止めて、抱きしめてやることにした。考えてみれば、雪乃やツァン、そしてレジーだって普通の学生で一般人だ。こんなオカルトな恐怖体験をすればトラウマになってもおかしくはない。

 

「よく、頑張ったな。雪乃」

 

「ええ、ありがとう秋人」

 

 こうして、夜は更けていくのだが、この時、ベッドの近くでサラが「いいのかあれは!?」と驚き、ミラとマナが「この部屋に住む以上あれは日常です」「諦めようね~」なんて会話をしているのは、聞かなかったことにした。そして、近いうちに始まる新たな戦いに、俺は雪乃を抱きしめながらどうするべきか思案するのだった。そのあとのことは、ご想像にお任せする。

 

 

 

 

 あの恐ろしい体験から、次の日の放課後。私たちは校長室へ呼ばれることとなった。サラは今、カードの状態で眠っているようで、朝に『砂糖を吐きそうだ』と体調が悪そうにしていた。まあそれはともかく、呼ばれたのは秋人、私、ツァン、レジー。そして、明日香、十代のボウヤ、万丈目のボウヤ、三沢のボウヤ、カイザー。校長室に入ると、そこには響先生とクロノス先生がいた。

 

「よく集まってくれました」

 

 校長は私たちにそう礼を言いながら、私たちを集めた理由を話してくれた。この島には『三幻魔』と呼ばれる、あの神のカードたちにも匹敵するカードが封印されているのだという。どうやって目の前のちっぽけなカギで封印しているかはともかく、そのカードを狙ってセブンスターズを名乗る連中がデュエルアカデミアに挑戦状をたたきつけてきたとのこと。そしてそれは、在学する学生たちと教師が受けて立つというのが伝統らしい。その7つの鍵を守護することが私たちへの依頼。覚悟がある者がとってほしいという言葉に、十代のボウヤ、万丈目のボウヤ、三沢のボウヤ、明日香、カイザーが引き受けて手に取る。そして響先生はしばらくの間出張となるためクロノス先生が。そして、最後の1つ。これを秋人に頼みたいと校長は依頼した……のだけど。

 

「お断りします」

 

「え、なんでだよ、秋人」

 

 秋人は、その依頼を拒否していた。十代のボウヤたちは前の代表選のこともあって面倒くさいからか、と思っているようだけど、どうやら違うらしい。その理由を秋人は話してくれた。

 

「リスクとリターンがあまりにも合ってない。その伝統とやら云々はこの際置いておきます。それが昔からのルールなら、そんな挑戦受けるなとか、ここで鍵を壊せばいいとか。そんな野暮なことは言いません。けど、どう考えても危険な依頼なのは間違いない。こちらが伝統としてデュエルで受けて立つのはまだしも、それ以外の方法、例えば直接命を狙って鍵を狙ってきたら? 人質を取って鍵をよこせと強要してきたら? それで被害が出たら? 校長先生、貴方は責任をとれるんですか? 覚悟があればなんて、それ教師が生徒に言う言葉じゃありませんよ?」

 

「それは……」

 

「なにより、依頼と言ってますけど、説明を聞く限り無報酬のつもりですよね? 勉強や経験になるから、なんていう理由でそんな危険な仕事を生徒にさせるなんて、貴方はそれでも教師のトップに立つ人間なのかと疑いたくなるんですが?」

 

 いつにもなく、棘のある言い方というか、秋人らしくない言い方だと思った。言いすぎだ、という声もあるけど私はそうは思わない。確かに、秋人がいうリスク。挑戦を受けて立つ人間、そしてその周りの人間に危険がないわけがない。そんな価値のあるものを狙う集団が素直にデュエルだけで諦めるというわけがないのは、わかる話だ。

 

「校長、やはりしっかりと説明はすべきです」

 

「響先生……」

 

「秋人君の言う通り、これは危険な依頼。報酬は用意してしかるべきもの。それは当然です。何よりも、生徒の安全は私たち教師が守らねばならないものです。不信感を抱くのは当り前ですわ」

 

 と、ここで響先生が助け船を出した。その響先生の言葉に、校長先生はわかりました、と私たちに追加で説明をしてきた。聞けば、このセブンスターズの挑戦状はこの学園の理事長から校長に連絡がきたらしい。校長もその伝統については知っていたけど、実際に行うのは初めてであり、当初は響先生も含めて教師陣が反対したが、理事長の権限で押し切られてしまったそうだ。つまり、校長はそのまま理事長のメッセンジャーとなっていたにすぎないと。それは、校長の権限なさすぎないかしら?

 

「秋人君の言う通りです。本来であれば、きちんとした報酬も、安全に対する言及もすべきでした。教師として、大人として恥ずかしい限りです」

 

「そうだな。確かに危険なデュエルだ。俺たちの安全や、周りの生徒たちだってその挑戦について周知していないなら危険が及ぶ。そう言った対応は、アカデミア側にしっかりやってもらいたいな」

 

 そう三沢のボウヤもいう。確かにその通り。その言葉に、校長はしっかりと金銭的な報酬、それぞれカギを持つもの、そしてその周りの人間に対する怪我の保証、警備の強化を約束し、改めて秋人へ依頼をした。それにしても、その理事長というのは何者なのかしら。どうしてかたくなに、その挑戦を生徒にやらせようとしたのか。今回の教師の枠も、1つと限定されていたらしいし。

 

「……わかりました。お受けします。ですが、その約束が反故にされた場合、俺は即行でこの鍵を粉々に砕いて海に捨てますので、そのつもりで」

 

 こうして7人の鍵の守護者が決まり、私たちは寮へ戻ることになった。時刻は夜。夕食を終えて、秋人はセブンスターズに備えるためにデッキを引っ張り出して調整している。

 

「どう? 調整のほうは」

 

「一応は終わった。後は、どのタイミングでセブンスターズが仕掛けてくるかだな」

 

 聞いた話では、すでに一人がこの学園の中に侵入したという情報がもたらされたらしい。警備を強化する前だろうから仕方がないけれど、この学園のセキュリティはもう少しどうにかならないのかしら?

 

「ま、秋人なら何が来ても大丈夫だと思うけどね」

 

「そうね、ダーリンが負ける場合それはたぶん、もうほかのみんなも勝てないと思うわ」

 

「……どうかな、いったいどんなデュエルを仕掛けてくるのか、見当がつかないからな」

 

 確かに、かつて秋人がした闇のデュエルは、実際に怪我を伴うものだった。そういわれると確かに、万が一ダメージを受けて倒れたらその時点で敗北となるだろうし、難しいかもしれない。

 

『ほう、大層な自信だな。鍵を持つ者。ならば俺の相手になってもらおうか』

 

「「「「―――⁉」」」」

 

 その突然の声に、私たちは全員がそちらを向く。その玄関口に立っていたのはマスクをつけた男。いつの間に、いいえ、いつからそこにいたというの。とっさに秋人がその男の近くにいたツァンを抱き寄せて後ろに隠し、私とレジーもその後ろへと隠れた。その後ろ手に、私はサラの入っていたデッキケースを手に取った。その見えてしまったあるものに、気が付いたからだ。

 

『サラ、聞こえている? あの男の、あれは……』

 

『そ、そんな……あれはあの人に託したペンダントの片割れ⁉』

 

 そう、かつて異世界からやってきたという男にサラが託したペンダント。私も持っているそれが、その男の首にあったのだ。あれがサラの探していた男の人なのか、それともその男から奪ったものなのかはわからない。だけど、鍵を持つ者、という言葉を聞く以上、この男がセブンスターズの1人なのだと確信した。

 

『我が名はダークネス。貴様を最初に葬り、そのカギを手に入れさせてもらおう』

 

「……表に出な。相手をしてやる」

 

 そういって手にデュエルディスクをセットする秋人。デュエルをするのにさすがにこの部屋は狭い。けど、ダークネスの面の赤いクリスタルがまばゆい光を放つ。

 

『その必要はない。ふさわしいフィールドに招待してやろう。“闇のデュエル”にふさわしい、そのフィールドにな!!』

 

 その眩しさに一瞬目を閉じる。けど、次に感じたのは熱。熱い、いったい何がどうなって……っ!?

 

「きゃああああ!? なに、なんなのこれ!?」

 

「こ、これって、アカデミアの火口の真上!?」

 

「これが、あの男の力?」

 

 ツァンが悲鳴を上げる。当たり前だ。私だって気絶したいくらいの恐怖体験だ。この前の体験の比じゃないくらいに。不思議な光の檻の中に私たち3人は閉じ込められ、年に1度使われる火口近くのデュエルフィールドに私たちは移動していた。しかも、秋人はそのフィールドの上だけど、私たちの下は火口。この檻が消えれば私たちは死ぬ。

 

『そいつらは人質だ。逃げようなどとは思わぬことだぞ』

 

 そういって笑みを浮かべるダークネス。そんなダークネスに対して、初めて見る怒りの表情で、秋人は言い放った。

 

 

「おい、お前、あいつらに手を出しておいて……

 

 

無事で済むと思ってんじゃねぇぞ……!

                          

『生半可な覚悟で臨んではつまらん。そして、このデュエルに敗北した者はこのカードに封印されるのだ……ふはは、さあ、始めよう、闇のデュエルを!』

 

 よく見えないけど、そのカードは白紙のカード。けど、サラを、精霊のカードを手にしたからわかる。あれは危険だ。ドス黒いオーラが見えている。すると、レジーが隣で大声を張り上げた。

 

「秋人! 駄目よ! 冷静さを失わないで!」

 

「レジー? それってどういう……」

 

「私たちという人質、そしてその私たちの命に制限時間を設ける、そんな状態で戦ってごらんなさい! 冷静な判断でデュエルができるはずがないわ! 怒りに飲まれては駄目よ! “私がどうしてそんなことを言うか”、貴方ならわかるでしょう!?」

 

「……!」

 

 いったい、何の話をしているのだろう。レジーの言葉に、秋人の表情が一瞬だけ戻った。そして、両手で頬を叩くと、レジーに頷いた。

 

「3人とも待ってろ、すぐに助ける!」

 

『チッ、余計な真似を……』

 

「いくぞ、ダークネス。そのカードに封じられるのはお前のほうだ」

 

『くはっ、いうではないか……いざ』

 

 

「『決闘(デュエル)!!』」

 

 

 




というわけで、セブンスターズ編開幕。次回はダークネスとのデュエルが始まります。

前作との変更点と追加
墓守の話全カット。”武藤秋人”の話はまた別の機会に

鮫島校長の扱い
やっぱり何度見返してもこの人教育者向いてないんだよな

響先生不在
優秀な人ほど肝心な時にいない法則

VSダークネス
次回、ダークネスとの闘い

レジーの言葉
漫画版の十代VSレジーの時の一コマを思い出させる発言

ガンマレイ様 オヤP様 七夜夜刀様 麺馬鹿様 楠葉様 まつもっこり様
gxdh様 無意識牡鹿様 無類様 blackfenix様

感想ありがとうございます。また、感想いただけると嬉しいです。

45「始まりを告げる闇の決闘」(後編)


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45「始まりを告げる闇の決闘」(後編)

というわけで、続きが書けたので投稿。
久しぶりのデュエル回なので、ミスとかしてたらよろしければご指摘と、
どうしたら問題ないようにできるか修正点をいただければ幸いです。
デュエル回は毎回、ミスしてないかと何度確認してもミスが見つかるのがつらい

ちなみに、これを投稿した後に手術が始まるので、修正とか感想に反応はしばらくできませんのであしからず……

というわけで、秋人VSダークネス戦です。
秋人の使用デッキは人によってはトラウマがよみがえるかも……
まあ、出張パーツはほぼ入れていないので、今回は甘口です。

では、どうぞ


 

 

「『決闘(デュエル)!!』」

 

武藤秋人 LP4000 VS ダークネス LP4000

 

 始まった秋人とダークネスと名乗る男とのデュエル。ここから、秋人から聞いていたセブンスターズと名乗る者たちとの戦いが始まるのね。雪乃はこの前の墓守との闇のデュエルで耐性が付いてきているけど、ツァンはそうじゃない。私はいまだに下が火口だという恐怖にガタガタと震えているツァンを抱きしめて落ち着かせる。まあ、この前のこともあってパニックになってないだけまだマシね。

 

「秋人……」

 

「大丈夫よ、ツァン。秋人を信じましょう」

 

「う、うん……けど、これ、大丈夫なのかな。ボクたち、落ちたりしない?」

 

 それに関しては、秋人を信じるしかない。あの男、ダークネスの言葉から制限時間の間は無事だとして、それはそれで大丈夫なのだろうか。ただ、それに関してはなぜか雪乃は冷静で、「多分大丈夫よ、そこは」と、確信を持っている。そんな試案を巡らせている間に、デュエルが始まる。

 

『先行は私だ! ドロー! 私は魔法カード『召喚師のスキル』を発動。デッキからレベル5以上のモンスターを手札に加える。私はデッキから『真紅眼の黒竜』を手札に加える』

 

 っ……!? 真紅眼デッキ!? かつては日本円で数十万円と値が付いたカード。今では数百万円、初期ロットのカードであれば数千万円はくだらないといわれる。そんなカードを持っているなんて、あの男はいったい何者なの?

 

『さらに魔法カード『天使の施し』を発動。デッキからカードを3枚ドローし、2枚を墓地へ送る。そして『死者蘇生』を発動。墓地より蘇れ……『真紅眼の黒竜』!』

 

真紅眼の黒竜 ATK2400/DEF2000

 

 咆哮を上げる真紅眼の黒竜。生で見たのは初めてだわ。このバトルフィールドと相まって、その姿はとてつもない威圧感を放っている。

 

「先行で真紅眼を……まさか、あの男……!」

 

 雪乃の言葉に、私もハッとする。このデュエルモンスターズというカードゲームにおいて、先行での攻撃は許されていない。けれど、“効果ダメージ”は別だ。

 

『魔法カード『黒炎弾』を発動! 真紅眼の攻撃をこのターン放棄する代わりに、真紅眼の攻撃力分のダメージを、相手に与える! やれ! 真紅眼!』

 

 その言葉とともに、真紅眼の黒竜から黒炎弾が放たれた。これがただのデュエルだったら、相手の有利に驚く程度だった。けど、違う。これは、“闇のデュエル”なのだから。

 

「ぐああああああああっ!!!!」

 

「「「秋人!!」」」

 

 秋人の悲鳴が上がる。あの熱球をその身に受けたのだから、そうなるのは当たり前だ。あの時と同じ、オシリスの攻撃と変わらない衝撃波。その熱風が、こちらにも伝わってくる。

 

「もうやめてよぉ! なんでこんなことするのよ! 秋人! 秋人ぉ!」

 

「落ち着いて、ツァン!」

 

 とうとうツァンがパニックで耐えられなくなった。ボロボロ涙を零して秋人に手を伸ばそうとする。

 

「ツァン!!!」

 

「……! 秋人!?」

 

「大丈夫だ、ちょっと腕を火傷しただけだから」

 

 ツァンの名前を呼び、落ち着かせる秋人。その火傷がちょっとどころじゃないのはわかっていた。けど、秋人は苦悶の表情を浮かべていたのに、無理やり笑みを見せ、ツァンを落ち着かせていた。

 

武藤秋人 LP4000→LP1600

 

『ほう、今の一撃を耐えるとは。言い忘れていたが、このデュエルで気絶すれば問答無用で負けが決定する。せいぜい足掻くことだ。カードを2枚セットしてターンエンド』

 

「俺のターン、ドロー! ……手札から魔法カード『龍相剣現』を発動。デッキから相剣モンスター1体を手札に加える。デッキから『相剣師-莫邪』を手札に加え、召喚し、特殊効果発動。手札の幻竜族モンスター、または、相剣と名の付くカードを見せることで、フィールドに『相剣トークン』を特殊召喚できる。幻竜族の『天威龍-ヴィシュダ』を見せ、フィールドにトークンを出す。このトークンがいる限り、俺はシンクロ召喚しか融合デッキから召喚ができなくなる」

 

相剣師-莫邪 ATK1700/DEF1800

 

相剣トークン ATK0/DEF0

 

『シンクロ召喚? なんだそれは』

 

「……安心したよ。“この程度”なんだって」

 

『なんだと?』

 

 秋人の言葉に、ダークネスは明らかに不快そうな声を出していた。1ターン目での大ダメージを受けてもまだそんなことが言えるのか、と思っているようだ。けど、私もこの前戦った、“秋人の真紅眼デッキ”を見たら、確かに温い。けど、秋人はそれだけじゃないらしい。

 

「お前のカード知識だよ。シンクロを知らない、そしてそのカードプール……最近のカードを全く知らない、そういうことだな?」

 

『何が言いたい』

 

「もし、お前が最近のパックのカードを手に入れてたらもっと悲惨だったっていいたいだけさ。俺はレベル4の莫邪に、同じくレベル4のトークンをチューニング!」

 

 その秋人の言葉とともに、相剣師-莫邪が星となり、トークンはそれを囲う円となる。これがシンクロ召喚。実際に私も見るのは初めてだ。アメリカで私とデュエルをしたときはブラック・マジシャンの融合、そして、バンデット・キースとの戦いではエクシーズ召喚と呼ばれるものをしていた。事前に教えてもらったけど、なるほど、モンスターのレベルの合計で融合デッキから出てくるモンスターが決まるわけね。

 

☆4+☆4=☆8

 

「シンクロ召喚! レベル8 『相剣大師-赤霄』!」

 

相剣大師-赤霄 ATK2800/DEF1000

 

 フィールドに現れたのは、赤い鎧を着て巨大な剣を携えたモンスター。その体を見るに、尾が付いているのを見るにあれは竜なのかしらね。

 

『なんだ、これは……攻撃力2800だと!?』

 

「このカードのシンクロ召喚に成功したとき、デッキから『相剣』と名の付くカードを1枚手札に加える。そして莫邪の効果も発動。素材として墓地に贈られたとき、カードを1枚ドローする! チェーンの逆順で1枚ドロー! その後、デッキから『大霊峰相剣門』を手札に加える」

 

 手札を減らさず、こんな強力なモンスターを召喚できるなんて、なんて強力なカテゴリーなのかしら。しかも、秋人の様子を見るに、まだ終わりではないみたい。

 

「そして手札の『相剣軍師‐龍淵』の効果発動。手札の幻竜族、または相剣カードをコストに、このカードを特殊召喚できる。先ほど見せた『天威龍-ヴィシュダ』を墓地に送る。そして、このカードもまた、特殊召喚に成功したとき、トークンを生成する」

 

相剣軍師‐龍淵 ATK1200/DEF2300

 

相剣トークン ATK0/DEF0

 

『くっ、またシンクロ召喚とやらをやるつもりか!』

 

「その前に、お前の真紅眼には消えてもらう。墓地のヴィシュダの効果を発動! フィールドに『効果モンスター以外の表側表示モンスターが存在する』時、相手のカードを1枚選択して手札に戻す。対象は当然、真紅眼だ」

 

『チィッ! 罠カード『亜空間物質転送装置』発動! 真紅眼をエンドフェイズまで除外! そして『和睦の使者』を発動! このターン、私はダメージを受けない!』

 

 ……! 真紅眼を守るためのカードとそれをケアするカードを伏せていた!? これでは、ヴィシュダはゲームから除外されても対象を失ってしまう。

 

「ならば、レベル6の龍淵にレベル4のトークンをチューニング。シンクロ召喚! 来い、レベル10! 『フルール・ド・バロネス』!!」

 

☆6+☆4=☆10

フルール・ド・バロネス ATK3000/DEF2400

 

 フィールドに現れたのは、鎧を身に纏った白馬に跨る、美しい花の頭をした騎士。今までの相剣とは違う雰囲気を持ったモンスターだった。

 

「このカードを召喚したことで、素材となった龍淵の効果発動。相手プレイヤーに1200の効果ダメージを与える。和睦の使者で防げるのは戦闘ダメージだけ。さっきのお返しだ。食らえ!」

 

『ぬううぅぅぅっ!!!』

 

ダークネス LP4000→LP2800

 

 墓地から龍淵が現れ、斬撃を飛ばしてダークネスにダメージを与えていた。確かに、和睦の使者で戦闘ダメージは防げるけど、効果ダメージは防げない。けど、せっかく2体のモンスターを出したのに決められないとは、また面倒ね。

 

「カードを3枚伏せてターンエンド」

 

『エンドフェイズ、除外された真紅眼はフィールドへと戻る。そして私のターン、ドロー!』

 

真紅眼の黒竜 ATK2400/DEF2000

 

 これで、秋人の手札は2枚に対して、ダークネスの手札は3枚。フィールドを見れば圧倒的に秋人が有利。けど、秋人のライフは残り1600……もし、もう1枚、黒炎弾が飛んでくれば、秋人の負けとなってしまう。

 

『魔法カード『黒炎弾』発動! 真紅眼の攻撃を放棄し、2400のダメージを与える!』

 

「2枚目!?」

 

「させるかよ。フルール・ド・バロネスの効果発動。1度だけ、あらゆる効果を無効にできる。やれ、バロネス!」

 

 思っていたそばから黒炎弾が飛んできた。けど、秋人のその言葉に、真紅眼から飛んできた黒炎弾をバロネスが自分の持つ剣によって叩き斬り、その効力を失って霧散させた。

 

『っ……! だが、これで邪魔するカードはない! 魔法カード『ブラックホール』発動! 全てのモンスターを破壊する!』

 

「自分のモンスターもろとも、破壊した……!?」

 

 黒炎弾を使った以上、フィールドの真紅眼は攻撃できないと判断して破壊したということね。秋人の伏せたカード3枚は発動しなかった……?

 

『そして、『強欲な壺』でカードを2枚ドロー! 1枚セットし、『天よりの宝札』を発動! 互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにドローする! 手札0枚から6枚をドロー!』

 

「……手札2枚のため、4枚ドロー」

 

『さらに、今伏せた『手札抹殺』を発動! 互いのプレイヤーは手札をすべて捨て、捨てた分だけドローする!』

 

 ……引いた手札を、すぐに捨てた? いったい何のためかしら。墓地肥やし? それとも、望んでいたカードが引けなかった? 秋人も引いた6枚を墓地へ送り、6枚をドローし直していた。

 

『そして、『思い出のブランコ』を発動! 墓地に存在する通常モンスター1体を1ターンの間特殊召喚する!』

 

「させるか。速攻魔法『墓穴の指名者』発動。墓地のカードを指定してゲームから除外する。指定はさっきお前が破壊した真紅眼だ」

 

『甘いな! 私はもう一枚の思い出のブランコを発動! 蘇生対象は手札抹殺で墓地に送った真紅眼だ!』

 

 ……! 2枚も同じカードを……しかも、2枚目の真紅眼……上級モンスターは通常であれば生贄が必要。そのために、わざわざ引いたカードを墓地へ送ったのね。

 

真紅眼の黒竜 ATK2400/DEF2000

 

『そして、この真紅眼を生贄に捧げ現れよ『真紅眼の闇竜』!』

 

真紅眼の闇竜 ATK2400/DEF2000

 

 フィールドに現れたのは、真紅眼……けど、ダークネスドラゴン? 聞いたことのないカードだわ。

 

『このカードは真紅眼の黒竜を生贄にして特殊召喚できるカードだ。このカードは自分墓地のドラゴン族1体につき300ポイントアップする。天使の施し、手札抹殺によって墓地に5枚のモンスターがいる! よって攻撃力は……!』

 

真紅眼の闇竜 ATK2400/DEF2000→ATK3900/DEF2000

 

 攻撃力3900!? さっきから天使の施しや手札抹殺で墓地にカードを送っていたのはこれが理由だったの!?

 

『バトル! 闇竜でダイレクトアタック! これで終わりだ!』

 

「手札の『軒轅の相剣師』の効果発動! モンスターの攻撃宣言時、このカードを手札から特殊召喚できる! このカードを守備表示で特殊召喚! そして、その攻撃を無効にする!」

 

軒轅の相剣師 ATK1800/DEF1500

 

『ちぃっ!小癪な!』

 

 バトルフェイズは終了する。何とか防げたけど、フィールドには攻撃力3900のモンスター。なんて威圧感なのかしら。それに、さっきから秋人の息が荒い。肩で息をしているのがわかる。やっぱり、あの最初の黒炎弾のダメージは相当なものだったらしい。

 

「秋人……」

 

 それに気が付いた2人も、不安そうに見守っている。まだ、3ターン目、秋人の返しのターンで4ターン目……檻はまだ大丈夫そうだけど、その前に秋人が持たないかもしれない。

 

『カードを2枚伏せてターンエンド。ふはは、先ほどの攻撃をよく防いだといいたいところだが、その呼吸の仕方、もはや立っているのもやっとか』

 

「……俺のターン、ドロー! ああ、確かにしんどいさ。だが、宣言してやる。ファイナルターンだ!」

 

『なに!? この真紅眼の闇竜を超えることができるとでも……!?』

 

「できるさ。勝利の方程式は今、ここに揃った……!」

 

 そう秋人が告げる。ファイナルターン。このターンで、決めきるというの? フィールドには攻撃力3900のモンスターがいて、伏せカードもある。秋人のフィールドにモンスターはなく、伏せカードは2枚。けど、あの伏せカード2枚もさっきのバトルでも発動しなかった。なら、何のカードなのかしら。

 

「まずは罠カード『無幻泡影』を発動する。このカードの効果で、真紅眼の闇竜の効果をこのターンのエンドフェイズまで無効化する。これで、攻撃力は元の2400になる」

 

『なっ……おのれぇ!』

 

「ダークネスドラゴンのコンボとして魔法反射装甲・メタルプラスというカードがあるが、そのカードはあくまでも『装備モンスターを対象とした“魔法カード”の効果を無効にする』もの。罠カードの効果は無効にはできない」

 

真紅眼の闇竜 ATK3900/DEF2000→ATK2400/DEF2000

 

「魔法カード『大霊峰相剣門』を発動。墓地の相剣モンスターを特殊召喚できる。墓地より蘇れ、莫邪。そして、莫邪の効果で手札の龍淵を見せてトークンを特殊召喚。そして、手札の2枚目の龍淵の効果発動。手札の『相剣師-泰阿』を墓地へ送り特殊召喚。同じく、トークンを特殊召喚」

 

相剣軍師-龍淵 ATK1200/DEF2300

 

相剣トークン① ATK0/DEF0

 

相剣師-莫邪 ATK1700/DEF1800

 

相剣トークン② ATK0/DEF0

 

「レベル4の莫邪にレベル4のトークンを、レベル6の龍淵にレベル4のトークンをそれぞれでチューニング! シンクロ召喚! 再びフィールドへと舞い戻れ、レベル8 『相剣大師-赤霄』! そして、レベル10『相剣大公-承影』!」

 

 フィールドに現れたのは2枚目の赤霄と、また違う相剣モンスター。その透明の刃を持った、レベル10の大型モンスター。

 

相剣大師-赤霄 ATK2800/DEF1000

 

相剣大公-承影 ATK3000/DEF3000

 

「龍淵の効果により、再び1200の効果ダメージを受けてもらう! そして、莫邪の効果で1枚ドローし、赤霄の効果でデッキから『深淵の相剣龍』を手札に加える。」

 

『ぬうううう!!! だが、まだだ! まだ!』

 

ダークネス LP2800→LP1600

 

「言っただろ、ファイナルターンだってな。罠カード『瑞相剣究』を発動。墓地に存在する相剣モンスターを5枚ゲームから取り除いて発動する。取り除いたカード×300ポイント、選択したモンスターの攻撃力を上げる。俺は『相剣大公-承影』を選択。そして、承影は除外されたカードの数×100ポイント自身の攻撃力と守備力を上げ、相手のカードの攻撃力と守備力を100ポイント下げる。そして、承影はカードを除外したときフィールド、墓地のカードを除外する。無幻泡影とは違う列にあった伏せカードをゲームから除外する」

 

『な、な、なぁ……!?』

 

 もはや、何も言えないダークネス。フィールドのカードは効果を無効かされた闇竜と、伏せカード1枚。伏せカードは『魔法反射装甲・メタルプラス』だった。そして、これで除外されているのは8枚ということは、お互いのモンスターの上昇と減少が発生する。承影の攻撃力はもともと3000。そして、そこから1500アップで、800ポイントアップ。つまり……

 

相剣大公-承影 ATK3000/DEF3000→ATK5300/DEF3800

 

真紅眼の闇竜  ATK2400/DEF2000→ATK1600/DEF1200

 

「そして、カードを除外したことで……痛っ!!! いや、もういい、もう、終わりだ。覚悟はいいか、ダークネス! バトル! 相剣大公-承影で真紅眼の闇竜を攻撃!」

 

『ふは、ふははは!! 馬鹿が! 終わるのは貴様だ! 罠カード『聖なるバリアミラーフォース』を発動……な、何!?』

 

ダークネスが伏せていたのはミラーフォース。攻撃をトリガーに、攻撃表示のモンスターを破壊するカードだけど、デュエルディスクはエラーを知らせる音を鳴らしていた。

 

「なんで俺がわざわざ、『無限泡影』と違う列の、といったと思う……? ぜぇ、ぜぇ、セットしているこのカードは、な、発動したとき同じ列にあった魔法と罠の効果を無効にできるのさ……」

 

『な、なんだとぉ!?』

 

「これで、終わりだ……消えろ、ダークネス!」

 

『ぬああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!!』

 

ダークネス LP1600→LP0

 

 承影の一撃に闇竜が爆発し、その爆発に巻き込まれたことで悲鳴とともにダークネスが倒れる。そして、その懐からあの男の懐から何も描かれていないカードが飛び出し、その仮面がカードの中へと消えていった。そして、それとともに光の檻がゆっくりと秋人の近くまで下りて消滅する。どうやら、私たちは助かったらしい。そして、それを見て、秋人は笑みを浮かべていた。

 

「3人とも、無事か、よかっ、た……」

 

「秋人!」

 

 しかし、その言葉を最後に、秋人は気を失って倒れるのだった。

 

 

 

 

「秋人! 秋人、しっかりして!」

 

「ちょ、駄目よ、ツァン! 落ち着いて!」

 

 デュエルは秋人の勝利で幕を閉じた。けれど、その代償に秋人はあの黒炎弾の一撃を受けたことで大火傷を負っていた。ツァンが必死に秋人を起こそうとするけど、それはけが人には悪手だ。私はレジーとツァンに秋人を頼むと、その倒れたダークネスへと近づいた。

 

「やっぱり、この人……明日香のお兄さんの吹雪さんじゃない。サラ、どう?」

 

『ああ、この人だ。私がこの人に、ペンダントを託した』

 

 これで繋がったわね。行方不明の吹雪さんは、墓守の世界へと飛ばされてしまった。そして、そこでサラと出会い、ペンダントを受け取っていた。けど、なぜダークネスなんて名乗って……これは、さっきのカード?

 

「これ、さっきの吹雪さんがつけていた仮面?」

 

――負けたほうが、カードに魂を封じられる。

 

 そう、ダークネスはそういっていた。ということはつまり、ダークネスを名乗っていたのはこの仮面。この仮面が本体だったということ? 吹雪さんはただの操り人形だったわけね。もうここまで来たら疑わないわ、オカルトを。どうやらツァンがPDAでみんなに連絡をしているらしいし、吹雪さんもレジーたちと一緒に運ぶことにしましょう。

 

こうして、セブンスターズとの最初の戦いの幕が下りた。これから、過酷な戦いが待っていることをこの時の私は知らない。そして、どこか、楽観視していた。秋人なら大丈夫だと。そう、この時は。

 




というわけで、デュエル回。秋人の使用デッキは相剣デッキでした。
実は、マスターデュエルをしていた時からこの回はこの構想を考えていました。まあ、ぶっちゃけどんどんカードが増えるので構成が大変にはなるのですが。
ぶっちゃけた話、これに勇者とD-HEROも出張させてもよかったんですが、それやるのはまたいつかで。

リメイク前との変更点
VSダークネスでの使用デッキ
前は青眼だったけど、相剣へ変更

あれ? レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン(アニメ版)の出番は?
使い辛すぎて今回は没。なんであんな苦労して出してあんな効果なん、あいつ

秋人の使用デッキの内容
基本は相剣に、汎用カードをしこたま突っ込んだデッキ

秋人の言った「カードを知らない」の意味
実はもうこの時点で城之内が報告を終えているため、真紅眼サポートのカードが入ったパックが発売している

最後、龍淵召喚してから軒轅の相剣師のシンクロでよかったのでは?
慢心駄目絶対。やれることは全部やって相手を殺さないと(ただし下手に召喚しすぎると隕石が飛んでくる)

痛みで動き止めなかったらなにしてたの?
深淵の相剣龍を特殊召喚してあれやこれやしてまた別の相剣シンクロ出してた

次回はデュエル後のお話です
ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民様 ニンジャ0号様 藪童子様 1号コスプレ様
十一魂号様
感想ありがとうございます。またお待ちしております

次回 46話「戦いの爪痕」



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46「戦いの爪痕」

次の話ができたので投稿です。
なんか、アクセス数が異様に高くなったと思ったら日刊ランキングに入ってました。嬉しいですけど、うれしいですけどコワイ!

ちなみに、無事明日で退院となりました。仕事復帰まではまだ時間があるので、許す限りは更新を続けますので、よろしくお願いします。

今回はダークネス戦後の話です。


「……いっつぅ、ここは自室、か?」

 

『マスター! 目が覚めましたか!』

 

 痛みを感じて目を覚ます。見えたのは二段ベッドの上の部分。決して知らない天井ではなかった。まあ、医務室の天井も知っているから仮にそっちだったとしても知っている天井なわけだが。なーんて、現実逃避をしつつ、体を起こす。

 

『マスター、お体は……』

 

「ん、ああ、大丈夫。まあ、若干痛いけど……デュエルしてた時よりはマシかな」

 

『私とマハードさん、そしてマナさんで何とかバリアを敷いてはいたんですけど、3人を守る方にも力を使ってしまっていたため、闇の力に対して軽減ができず……すみません』

 

 俺は気にしなくていいと伝えながらも、最高クラスの魔術師と謳われているブラック・マジシャンであるマハードと、その弟子であるブラック・マジシャン・ガールことマナの力に加えて、ミラの力を持ってしてもカバーしきれない力だったのかと、改めて思った。ミラの言う通り、いくら3人を守る結界を張っていたとはいえ、俺が頼んでいた防護壁を黒炎弾は容易く貫通してきた。原作でダークネスとのデュエルで十代だって同じようにデュエルで傷ついていた。あれは“十代だから”大丈夫だったのであって、ほかのデュエリストがやったら酷かったってことなのだろうか。まあ、アニメで実際に描写がされなかっただけで、カイザーやクロノス先生も同じように傷ついていたのかもしれない。

 

「とりあえず、ミラ。君のわかる範囲でいい。俺の聞きたいことに答えてくれ。今の俺の怪我の状態と、俺が気絶してから……ダークネスとのデュエルからどれだけ経った? あと、そのダークネスはどうなったのか。それと、マハードたちを含めてここにいないメンバーはどうした?」

 

『はい。まず、あのデュエルからまだ1日しか経っていません。時間はお昼過ぎで、雪乃さんたちは学校ですね。ダークネス……いえ、天上院吹雪さんは、医療室で眠ったままのようで……マナさんは、マスターに回復魔法を行使しすぎて魔力切れで寝てます』

 

 ……なるほど。まあ、魔法使い族だもんな。3人とも。そりゃ、痛くないわけだ。完全に、というわけでもないが。雪乃たちは学校、か……あいつら、校長に何言うかわからんな。ストッパーの響先生今日から出張のはずだし……んん?

 

「マハードはどうした」

 

『マハードさんでしたら、アカデミアの周辺を調査するといってからは音沙汰がありません。私とマナさんに、マスターを守ることを頼んで行かれましたが』

 

「調査?」

 

『ええ、百聞は一見に如かず。こういうことです』

 

 その言葉とともに、半透明、というか、俺にしか見えないであろうミラの姿がはっきりと見えるようになった。これは……

 

「ソリットビジョンなしに、実体化したのか……!? もう!?」

 

「本来私たちカードの精霊は、精霊界でのみ、その姿を維持できる。こちら側の世界ではソリットビジョンを通すか、『精霊界と同じ条件の場所』、もしくは『何かしらの力の干渉』を受けることで、その姿を現せる。最初こそ、マスターから聞いていた『三幻魔』の封印された場所から力が漏れているからかもしれないとも思いましたが、どうも『違う』ような気がします」

 

「……なんだって?」

 

 ミラが言うには、その自分たちが実体化するのに必要な精霊界に漂うエネルギーというのは微かだが存在し、それが自分たちが実体化できる要因ともなりうる。それが漏れているのは俺が言った、原作一期終盤のバトルステージとなる、デュエルアカデミアの地下。つまり、三幻魔が封印されている場所のはず。実際、カードの精霊としてか、ブラック・マジシャン・ガールが学園祭で実体化して十代とデュエルをしている。あの時点ではクロノス先生、カイザー、三沢がすでに負けているのだ。封印が緩んでいても可笑しくない。だが、まだ誰も負けていないこの状況で、そんなことがありえるのか? だが、そことはまた別の場所から、何かの力が漏れているのだというなら、あるいは……

 

「……そうか。わかった、ありがとう」

 

「いえ。あ、ちなみに私もマナさんも、それにマハードさんやサラさん、それにハネクリボーも、そう長くは実体化できません。この通りです」

 

 ほらね、と、ミラの言葉でまた半透明となるミラ。あれ、これそうなると、万丈目のおじゃまもそうだが、後々で好かれる精霊たちも同じように実体化したりするんじゃないか。

 

「ちなみになんだけど、俺の怪我の具合はどうなってんの?」

 

『マスターが倒れた後、医療室の鮎川先生が処置し、雪乃さんたちが夜通しで看病を。そして、皆さんがお休みのころに私たちの力で何とか軽度の火傷くらいにまでは回復できました。ただ、精霊の力についてご存じなのは雪乃さんだけですから。黒炎弾なんて直撃して動き回るのは多分びっくりされますよ』

 

「なるほど。まあ、そうだろうな……とりあえず、3人が帰ってくるまではおとなしくしてるわ」

 

 流石にデッキの調整とかしていたら怒られるだろうな。今回使ったデッキ、一応ガチで調整したが、“勇者”カテゴリーくらいは混ぜてもよかったか……? D-HERO混ぜると後々で面倒になるし、何より『リンク』がないからフルパワーにはできない。チッ、昔作ったデッキの『天威相剣勇者フェニックス』を使ってもよかったが、リンクモンスター不在があって、事故要因になりかねないから採用しなかったんだよな。何より、この手の超パワーカードはなぜか俺の手元に1枚しかないというのも難しいところだ。他は9枚ずつあるのに。

 

「それに、明日からルールの公式変更の日だ。今回だってライフが4000だから早期決着で済んだが、これが8000だったらどうなっていたか」

 

『マスターが前に社長に提案していた件ですよね。思ったより早い実装でしたね』

 

「……もともと、海馬社長には俺の世界のカードのテスターの厳選、配布、調整役を頼んでいたんだよ。カードの販売も始まっているし、実施が早いのは必然だったな」

 

 そう、それはこの世界におけるデェエルモンスターズのカードゲームのルール改正である。もともとアニメでは30分という尺と、放送期間という枠からライフは4000であり、比較的早期に決着がつく。だが、俺がもたらしたカードを試しに社長をはじめとした実力者に使わせてみたところ、全員のレポートにあったのは『すぐに決着がついてしまうほどに強い』とのことだった。制限規制をかけてもワンキルはできやすくなっているので、これではカードゲームにならないのだ。いやまあ、もともと遊戯王OCGってそういうのは珍しくねーけど。

 

「これが一応、俺が提出して今日アカデミアに配られる予定のルール改正」

 

『えーっと、ライフポイントは8000からスタート。先行ドローはなしで、EXデッキは15枚以下まで……これがマスターのいた世界のデュエルのスタンダードなんですか?』

 

「それに近い、ルールだ。本来はえーっと……ミラ、ちょっと実体化して机の下の鍵付きの引き出しから一番奥のストレージ取って」

 

『……? はい。こちらでしょうか?』

 

 そういって一瞬の実体化後に、ミラが俺にカードを持ってきてくれる。それを取り出し、それを見せる。

 

『青い枠と、これは……モンスターと魔法が一体になっているカードですか?』

 

「ああ。リンクモンスターと、ペンデュラムモンスターだ。それぞれ、置く場所が決まっているんだが、今のフィールドでは使うことができない。一応、このカードも使えるようにって海場社長とペガサス会長にも提案はしたんだが、どっちからも“まだ早すぎる”ってのと、“未来のカードすぎて現代のプレイヤーがついてこれない”って却下された」

 

 最新のマスタールールの提案について送った時のカードゆえに結局お蔵入りとなってしまった。こいつら使えたら、ダークネス戦はまじで後攻ワンキルもありえたんだが……まあ、それはさておき問題は……

 

「今後、社長が発売を開始しちまったカードが敵の手にもう渡っている可能性だよなぁ……」

 

『タイミング最悪ですね……』

 

 そう、俺が昨日のデュエルでダークネスの戦術を見たとき、俺の真紅眼デッキに入っているようなカードが1枚も出てこなかったからこそ、俺は負けることはないと踏んでいた。実を言えばもうこの世界ではレアカードという形で初期ロットのパックにシンクロ、エクシーズモンスターとそのサポートカードの発売が始まったのだ。そして、ダークネスが敗北したことはすでに黒幕である“あの爺”には伝わってしまっているはず。となると、対抗策を打ってくるのは必定……やべぇな。これ、鍵を持っているメンバーのテーマデッキの強化急がないとあっという間に負けるかもしれん。

 

 

 

 

校長室

 

 

「秋人君がセブンスターズの1人と戦った。と聞きましたが本当ですか」

 

「ええ、戦いました。そして秋人が危惧した通り、秋人は怪我を負って本日は休ませています。契約通り、補償として公欠にしてもらえますね? 校長」

 

 私は今、雪乃、そしてツァンとともに校長室へ訪れていた。時刻はお昼過ぎ。午前中の授業が終わり、雪乃が怒りの表情で校長室へと乗り込んだのだ。気持ちはわかるけど、秋人もあの戦い方からするにわかっていたとは思うのだけれど……

 

「もちろんです」

 

「看病する関係で私たちも午後はお休みにさせてもらいます。あと、校長は闇の決闘はご存じだったのでしょうか?」

 

「……理事長からお話だけは。しかし、本当に実在しているとは」

 

 報告の内容は本来であれば受け入れがたいもの。ソリットビジョンが、実体化して襲い掛かる。過去、そんな事件もあった気がするけどそれがデュエルで発生するとは、夢にも思わないだろう。文字通り、LPが尽きることは死を意味することになるのだから。

 

「秋人は幸い、鮎川先生の治療でなんとか持ち直しましたが……敵が同じ手をまた使ってくる可能性もあります。それでも、理事長は戦えと?」

 

「私としても生徒を危険に晒したくはありません。しかし、理事長から回答はなく……もうしわけありません、今は引き続き戦ってほしいとしか」

 

「もし、秋人たちが生き残っていても、戦えないとわかったら私たちの誰かが引き継ぐのはルール違反ですか?」

 

 私たちが来た1番の理由はこれだ。今後もし、秋人がこれ以上傷を負えば、私たちが代わりに鍵の守護者として戦おうと。それぞれ私たちもテスターという形で秋人からカードは譲り受けている。特に私は、本来の秋人のデッキすら把握している。

 

「ルールとしては問題ないでしょうが、彼らがそれを許すかどうか……」

 

「許す、許さないじゃありません。あんな怪我でまたデュエルでもしたら今度こそ秋人が死にます。他のみんなだって命がかかってます」

 

 雪乃の言葉に、校長は渋々代理という形を許可してきた。雪乃、ツァン、そして私が今後秋人やほかのメンバーがデュエルを終えてなお戦えても怪我の具合が悪いのであれば交代して代わりにデュエルをするというものだ。

 

「説明は私たちからします」

 

「校長先生は引き続き、何かセブンスターズの情報が来たらボクたちへ知らせて頂戴」

 

「わかりました……1つ、情報が」

 

 そういって校長が教えてくれた次のセブンスターズについての情報。夜な夜な目撃される謎の女性の噂。蝙蝠を連れた女性だという。実際に見たわけではないが、何かセブンスターズと関係があるのではないかということ。もう、オカルトすぎて突っ込む気力すらないわ。にしても、蝙蝠、ね……確か次は……

 

「夜にしか見かけない蝙蝠を連れた女、ね。吸血鬼とかかしら?」

 

「……レジー、そういう話はやめて頂戴」

 

 そういって顔を青くする雪乃。そういえばこの子、ホラー系苦手だったっけ。ジャパニーズホラーの映画見たいって言ったら全力で反対してきたっけ。まあ、実際、秋人からセブンスターズのことは聞いているから知っているけど、本当に相手が吸血鬼なのよね。こうして私たちは校長室を後にし、本来の鍵を持つメンバー……クロノス先生は来てくれなかったようだけど、それ以外のメンバーをレッド寮の広場に集めて昨日の夜起きたことを話した。

 

「秋人がセブンスターズと戦った!?」

 

「ええ、しかも相手は黙っていたけど……明日香、貴方のお兄さんの吹雪さんだったわ」

 

「に、兄さんが!?」

 

「なんだと!?」

 

 これには明日香と、カイザーは驚いていた。妹の明日香は当然として、ああなるほど、カイザーは彼と友人なのかしらね。そして、雪乃はこのデュエルでの話、闇のデュエルについても説明した。

 

「オカルトすぎて信じてもらえないかもしれないけど事実、秋人は大けがをしているわ」

 

「……吹雪のデッキは真紅眼だ。まさか」

 

「ええ、その通りよカイザー。秋人は真紅眼の黒竜の『黒炎弾』を直撃で受けたわ」

 

『!!』

 

 全員がそれに驚いた。当たり前だ。真紅眼の黒竜のテキスト。それは『真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす』というもの。そんなドラゴンの一撃を受ければどうなるか。

 

「今日、秋人が休みだったのはそういうことだったのか」

 

「幸い、手当で何とかなってはいるわ。吹雪さんは医務室で眠ったままよ。明日香、後で会いに行きなさい……問題はこっち」

 

 そういって雪乃が1枚のカードを取り出した。それは、仮面が描かれたカードだ。

 

「これは?」

 

「吹雪さん……いいえ、ダークネスが言っていた、闇の決闘の敗者の末路よ。負けた方はカードにその魂を封印される。そういわれて実際に封じられたのはこの仮面。私の予測ではこれが吹雪さんを操っていたんでしょうね……十代の坊や、貴方も感じるんじゃなくて?」

 

「……すげぇゾワゾワする。気持ち悪い」

 

 あの十代が、そのカードをにらみつけている。そういえば、彼は精霊のカードを持っているのだったわね。だからこそ、カードについて敏感に反応したのかしら。

 

「それと、秋人が追い込まれはしなかったけど焦らせるような要因があった。それが、私たちが人質となったこと」

 

「人質っスか?」

 

 丸藤弟の言葉に、雪乃がそうよ、と証拠となるためかスマホを取り出した。雪乃ってばいつの間にこんなものを撮っていたのかしら。

 

「これは私たちを閉じ込めていた透明な檻。この下、どこかわかるでしょう?」

 

「火口じゃないか! 君たちはそんな場所に幽閉されたのか!?」

 

 三沢が驚くのも無理はないわね。彼が一番、非現実的なことに懐疑的だった。けど、その写真を見て、信憑性があると判断したのでしょう。

 

「ターン経過とともに檻が崩れる仕組みだったらしいわ。4ターンで決着がついたからよかったものの、それ以上長引いていたらどうなっていたか……」

 

「今回の件を踏まえて、鍵を持っている人以外は試合観戦をすべきではないわ。ただでさえデュエルで傷つくのに、下手すれば周りの人も傷つくし、人質になるかもしれない。悔しいけど、ボクたちにできるのは鍵を持っている人たちの無事を祈る、もしくは鍵を持っている人が勝利しても次の戦いができないと判断したとき交代すること。これについてはさっき校長と話をつけてきたの」

 

 こうして、雪乃とツァンがカギを持つメンバーと、それに親しい人たちへ注意を促すこととなった。鍵を持つ者同士で連携をとること、鍵を持たないものは観戦などをしないこと。といっても、これだけ策を立ててもクロノス先生が聞いてくれてないから狙われるとしたらあの人かもしれないわね。さて、私も1つ、やらないといけないことがある。

 

「さて、これで話はひと段落したわね。悪いけど、十代。貴方……今から私とデュエルしてもらえないかしら」

 

「俺と? いいけど……なんで急に?」

 

 私はそういって立ち上がり、デュエルディスクをセットする。私の“知っている”遊城十代と、ここにいる遊城十代がどれだけ差があるのか、確かめておかねばならない。何より、秋人が言っていた秋人の主導で発売に至ったカードたちを敵が使ってきたとしたら、この閉鎖的でカードがほとんど流れてこない島の人間では対応が難しくなるはず……秋人も彼にカードを与えてはいると思うけど、果たして使いこなせているのかどうか。もし、私に負けるようなら私が彼の代わりに戦うつもりでいる。

 

「貴方は他校との対抗戦にも出る実力者……秋人やカイザーに次いで実力があることは秋人から聞いているわ。けど、それが本当かを確かめたい。オシリスレッドのあなたが、それほどの実力者となっているのか、見極めさせてもらうわよ」

 

 秋人もオシリスレッドなので忘れていたけれど、オシリスレッドとは3つのクラス分けでは本来一番下のクラスという位置付け。だからこそ、私が戦う理由とするのには十分だった。

 

「へへっ! いいぜ! 俺も秋人からレジーのことは聞いていたんだ。アメリカのデュエルアカデミアで、一番強いデュエリストだって!」

 

 そういって彼もデュエルディスクを手に通してデッキをセットした。デュエルの設定は今日の授業で通達があった新ルール。これは、秋人から聞いていた秋人の世界のルールに近いものだ。

 

「ライフは8000。EXデッキは15枚。先行のドローはなし。ちゃんとできているかしら?」

 

「おう、ばっちりだ! 今日の授業はちゃんと聞いていたからな!」

 

 珍しく十代も寝ていなかったからね。さすがにルール違反で負けるというのも彼は避けたいようだ。

 

「では、行くわよ。いざ……」

 

「おう!」

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 こうして、私と十代のデュエルが始まった。




というわけで、ダークネス戦後の話でした。次回はレジーVS十代です。

リメイク前との相違点

秋人、ひとまず軽症
とりあえず、魔法使い3人の精霊パワーで無事。ただし、デュエルはまだできない。

ルール変更
あまりにも現代カードが強すぎてライフ4000じゃすぐ終わっちゃうので。
不評だったら考え直します。

敵側も超強化
2人目のセブンスターズの使用デッキから、もう嫌な予感しかしない

シンクロ、エクシーズが一般化
ただし、孤島であるアカデミアに流れてくるのはまだまだ先の話

ヒロイン3人の殴り込み
実際、セブンスターズとヒロインが戦うのは構想を考え中

次回、レジーVS十代戦
実は今作初の、主人公以外のデュエルです。

遥彼方様 DJryou様 けーすぃ様 mobimobi様 ハザマ0313様
感想ありがとうございます。 またいただければ嬉しいです

また、ハザマ0313様は評価もいただきました。ありがとうございます。
いただいた高評価に慢心せず、頑張っていきます。




次回 47「激突 十代 VS レジー」(前編)


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47「激突! 十代 VS レジー」(前編)

無事退院して、頑張るぞーって書いてた矢先に、久しぶりになかなか厳しい☆1評価喰らってガクッと創作意欲下がりましたが、なんとか投稿しました。
 なんとか続けていけるように頑張りたい……この評価システムのせいで毎回製作意欲削がれるんですが、なんとかならんですかね運営さん……
いっそ、この小説消して書き直したろか

だが、せめて、この十代とレジ―のデュエルは終わらせたい。

主人公のキャラ付けが薄い、ヒロインが主人公が好きになる理由が突発的、カード効果の説明が疎か
そう言われると、まあ、その通りなんですけどねぇ……

効果説明はまあ、頑張ってるんですけどね。説明入れすぎるとそれ小説じゃなくなるじゃんっていう理由で省いたりしてます。
ヒロインに関しては、それぞれに回を設ける予定です。ま、その低評価した人は見るの苦痛って言ってたのでもう見てはくれないでしょうが……
あとは、よく低評価で言われる「キャラ付けが薄い」っていうのが、よくわからないんですよね……何をどうすればキャラ付けが薄いって言われなくなるのやら

まあ、落ち込んでいるだけではなくそう言われたらなより一層頑張ってやろうじゃないの、と色々とプロット見直しておりますので落ち込んでいるばかりじゃありませんよ!私も!

愚痴はほどほどに、今回は十代VSレジー戦です。
そして、この戦いからライフ8000です。ではどうぞ!


 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

遊城十代 LP8000 VS レジー・マッケンジー LP8000

 

「先攻後攻はコインで決めましょう。どっちかしら?」

 

「んー、じゃあ、表だ!」

 

「オーケー……表、十代からね」

 

 突如始まった、十代とレジーのデュエル。レジーはいったい、何を考えているのかしら。昨日のデュエルのことを考えるならば、確かにこのメンバーの中で、秋人以外で唯一オシリスレッドなのは事実だけど、実力はもうすでにオベリスクブルーをも凌ぐ。秋人にだって勝ったし、ボクの六武衆にだって勝っているわけだし……

 

「ねえ雪乃、レジーどうしちゃったの?」

 

「わからないわ。でも、あの目……レジーには何か考えがあるみたい」

 

 雪乃も、レジーには何か意図があるのでは、と思っているようだ。でも、これもいい機会かもしれない。LP8000で始まる、新しいデュエルルールでのデュエルなのだから。

 

「俺のターン! ドローは……出来ないんだったな! 俺は手札から『E・HERO バブルマン』を攻撃表示で召喚! このカード以外に他にカードがないとき、デッキから2枚カードをドローする! 魔法カード『天使の施し』発動。デッキからカードを3枚引き、2枚を墓地へ送る。ここで、墓地へ送った『E・HEROシャドー・ミスト』と『インパクト・フリップ』の効果が発動する。墓地へこのカードが送られたことで、デッキからこのカード以外の『HERO』を手札に加える! そして、インパクト・フリップは墓地へ送られたときに互いに1枚ドローできる! 俺は『E・HEROブレイズマン』を手札に加えるぜ。そして、カードを2枚伏せ、ターンエンド!」

 

E・HEROバブルマン ATK800/DEF1200

 

 フィールドにはバブルマン。そして、ドローからの天使の施しと、墓地へ送ったシャドー・ミストの効果とで別のHEROを持ってきて、インパクト・フリップでドローして……あいつ、先行でドローしてないのに全然手札減ってないんだけど。あいつに手札事故って概念はないのかしら?

 

「私のターン、ドロー! なるほどね、秋人からある程度カードは受け取っていたのね……見定めさせてもらうわよ。あなたの実力を! 私は手札の『ヘカテリス』の効果発動! このカードを墓地へ送ることで、デッキから『神の居城-ヴァルハラ』を手札に加えることができる!」

 

「させねぇぜ! 手札の『灰流うらら』の効果を発動! 1ターンに1度、手札からこのカードを墓地に送ることで、このターン、いずれかの効果を選んでその効果を無効にする! 俺が無効にするのは『デッキからカードを手札に加える効果』だ!」

 

 うっそぉ!? あれって確か、秋人も使ってるけどこの前購買で発売したパックの目玉カードじゃないの! なんであいつが持ってんの!? ぐぬぬ、ボクだってほしいのに!

 

「……やるじゃない。てっきりHEROだけしか入れていないと思ったわ」

 

「そんなことねぇさ。俺のデッキのカード全部がヒーローなんだからな! ちなみに、このカードは秋人が万丈目とのデュエルの勝利祝いにくれたカードだ」

 

 なるほどね。秋人ってばそんなことしてたのね。そういえば、当日はペガサス会長が面会に来ていて、代表戦見れなかったって十代に謝っていたっけ。

 

「けれど、灰流うららの効果は1ターンに1度まで。これで邪魔はできないわね?」

 

「なっ……ヘカテリスは囮だったのか!?」

 

「魔法カード『天の落とし物』を発動。互いのプレイヤーはカードを3枚ドローし、その後2枚捨てる。さらに『強欲な壺』発動。デッキからカードを2枚ドローする」

 

 ……! レジーの本命はこの大量のドロー! 落とし物の効果は十代の手札が増えるデメリットもあるけど、レジーの天使デッキも同じく墓地を肥やしていくことで真価を発揮できる。さらに言えば、レジーが“あのカード”を召喚すれば十代の負けは一気に濃厚になることは間違いない。

 

「手札から『エンジェルO1』の効果発動! このカードは手札のレベル7以上のモンスターを見せることで、フィールドへ特殊召喚できるカード。私は『アテナ』を見せることで、このカードを特殊召喚する」

 

エンジェルO1 ATK200/DEF300

 

 フィールドに現れたのは、何ともかわいらしい天使のモンスターだ。けど、侮ることなかれ。このカード、姿に反して効果が強い。

「このカードがフィールドにいる限り、通常召喚に加えて1度だけレベル7以上のモンスターを生贄召喚することが可能となるわ」

 

「なんだって!?」

 

「けど、本命はこっち。魔法カード『コート・オブ・ジャスティス』発動! フィールドにレベル1の天使族がいるとき、手札から『天使族モンスター』を特殊召喚できる! 来なさい『アテナ』!」

 

アテナ ATK2600/DEF800

 

「そして、アテナの効果! フィールドのエンジェルO1を墓地に送ることで、アテナ以外の天使族を1体特殊召喚できるわ。落とし物の効果で墓地へ送ったこのカードを蘇生する。墓地より蘇りなさい『光神 テテュス』!」

 

光神 テテュス ATK2400/DEF1800

 

 ……? エンジェルO1の効果を使わなかった? もしかして、手札にほかの下級モンスターがいなかったのかしら。

 

「そして、フィールドにアテナがいる状態で他の天使が姿を現したことで貴方に600ポイントのダメージを与える!」

 

「くっ……!」

 

遊城十代 LP8000→LP7400

 

「まだよ! アテナの効果が発動したとき、手札の『守護天霊 ロガエス』の効果! 天使族の効果が発動したとき、このカードをフィールドに特殊召喚できる! これによってさらに600ポイントのダメージを受けなさい!」

 

守護天霊 ロガエス ATK2400/DEF2100

 

「なっ!? レベル7の上級モンスターがそんな簡単に……うわっ!?」

 

遊城十代 LP7400→LP6800

 

 フィールドに並び立つ上級天使3体。1ターンで3体もの天使をフィールドに出すタクティクス。さすがはデュエルアカデミアアメリカ校のトップといったところよね。ボク、今レジーに負け越しているし。

 

「ロガエス の効果でバブルマンを除外してもいいけど……いいえ、ここは攻めさせてもらうわ。バトル! アテナでバブルマンを攻撃!」

 

「罠カード発動!『ガード・ブロック』! 相手ターンの戦闘ダメージ計算時、その戦闘のダメージを0にしてカードを1枚ドローする! そして、さらにもう1枚! 『奇跡の残照』! このターン破壊されたモンスターを特殊召喚だ! よってバブルマンが帰還! そして、バブルマン以外にフィールドにカードはなにもない! よって2枚ドローだ!」

 

E・HEROバブルマン ATK800/DEF1200

 

 んなっ!? バトルでダメージを0にした挙句、合計で3枚ドロー!? どんだけカード引くのよ!?

 

「っ……! バトル続行! テテュスでバブルマンを攻撃! そして、ロガエスでダイレクトアタック!」

 

「ぐうっ!」

 

遊城十代 LP6800→LP4400

 

 ダメージレースではレジーが有利だけど、十代の手札がかなり増えてしまった。デュエルしたことがあるボクや、ほかのメンツも理解していると思う。“十代に手札を増やさせたらまずい”って。

 

「カード2枚を伏せてターンエンド。さあ、十代。あなたのターンよ」

 

「へへっ! 流石だな! すげぇデュエルだ。ワクワクする! 俺のターン、ドロー!」

 

 このドローで、十代の手札は10枚。対してレジーの手札は1枚だけど、盤面には3体の上級天使と伏せカード。いったいここから、十代がどんな動きをしてくるのかしら。

 

「俺は『E・HEROブレイズマン』を召喚! このカードの召喚に成功したとき、デッキから『融合』を手札に加えて発動! フィールドのブレイズマンと、手札の『E・HEROスパークマン』を融合! 現れろ! 『E・HEROサンライザー』!!」

 

E・HEROサンライザー ATK2500/DEF1200→ATK2700/DEF1200

 

「知らないHEROだわ。紅葉も使った覚えのないカードね……」

 

「サンライザーの効果! このカードの特殊召喚に成功したとき、デッキから『ミラクル・フュージョン』を手札に加える! そして『融合回収』を発動! 墓地からスパークマンと、融合を回収! 再び『融合』を発動! 手札のスパークマンとE・HEROネクロダークマンを融合! 来い! 『E・HEROダーク・ブライトマン』!」

 

E・HEROダーク・ブライトマン ATK2000/DEF1000→ATK2400/DEF1000

 

 出てきたのはレジーのいう通り、ボクも初めて見るモンスター。そして、出てきたダーク・ブライトマンの攻撃力が上がった?

 

「サンライザーはフィールドにいるモンスターの属性の種類1つにつき200ポイント攻撃力をアップさせる。今は2種類だから400ポイントアップだ」

 

「へぇ、なかなか強力な効果ね」

 

「まだ終わりじゃないぜ!『ミラクル・フュージョン』発動! 天使の施しで墓地へ送った『E・HEROフェザーマン』と、『E・HEROバーストレディ』を融合! 現れろ、マイフェイバリットモンスター! 『E・HERO フレイム・ウィングマン』!」

 

E・HEROフレイム・ウィングマン ATK2100/DEF1200→2700/DEF1200

 

E・HEROダーク・ブライトマン ATK2400/DEF1000→ATK2600/DEF1000

 

E・HEROサンライザー ATK2900/DEF1200→ATK3100/DEF1200

 

 フィールドにいるモンスターの攻撃力が全て、レジーのモンスターを上回った! あのサンライザーってモンスター、十代の大量展開と併せて相性良すぎるでしょ!

 

「バトルだ! サンライザーで光神テテュスを攻撃!」

 

「っ……!」

 

レジー・マッケンジー LP8000→LP7300

 

「続けて行くぜ! フレイム・ウィングマンでアテナを攻撃だ! 『フレイム・シュート!』」

 

「させない! 罠カード『天使の慈悲』! フィールドのモンスターが攻撃対象になったとき、その攻撃を別の天使へと移し替える! フレイム・ウィングマンはその攻撃対象をアテナからロガエスへと移すわ!」

 

 フレイム・ウィングマンはモンスターを破壊したとき、その攻撃力分のダメージを相手に与える効果を持っている。それのダメージを減らすために、攻撃対象を変更させたのね。ロガエスがアテナの前に立つと、フレイム・シュートから庇って爆散する。

 

レジー・マッケンジー LP7300→LP7000

 

「だが、この瞬間サンライザーの効果でフィールドのカードを破壊できる!  ここはセットカードを破壊だ! そしてロガエスの攻撃力分のダメージを受けてもらうぜ!」

 

「……! リビングデッドの呼び声が……けど、こちらもタダではやられないわ。ロガエスの効果発動。このカードが戦闘・効果で破壊されたとき、フィールドのモンスター1体を選択する。選択したモンスターはこのターン破壊されない。アテナを選択する」

 

レジー・マッケンジー LP7000→LP4600

 

「ダーク・ブライトマンの攻撃力とアテナの攻撃力は同じ……先にサンライザーの効果でアテナを破壊すべきだったか。俺はカードを3枚セットしてターンエンドだ」

 

 あれだけ手札ぶん回して伏せても手札4枚残るとか、やっぱりアイツすごいわね。色んな意味で。十代のフィールドにはモンスターが3体で伏せカードは2枚。そして、手札も4枚。それに対してレジーのフィールドはモンスター1体で伏せは0枚で手札は次のドローでも2枚。ライフはほぼ互角……次で4ターン目なのに、二人ともライフ4000台って、これ、本当に前までの4000ルールでやってたら即座にどっちかが負けてたわね。

 

「私のターン、ドロー……! カードを1枚伏せて、魔法カード『命削りの宝札』を発動するわ。このカードの効果により、5ターン後に手札を全て捨てる代わりに5枚になるようにデッキからカードをドローする。さらに、『強欲で貪欲な壺を発動』デッキトップ10枚を除外し、2枚ドロー。さらに、『貪欲な壺』も発動。天使の落とし物と天使の施しで墓地へ送っていた『コーリング・ノヴァ』2枚、『大天使ゼラート』『シャイン・エンジェル』そして、『エンジェルO1』をデッキに戻して2枚ドロー……ふふ、いいカードを引けたわね」

 

 これでレジーの手札は7枚。っていうか、レジーもどんだけドローソース入れてるのよ。デッキなくなっちゃわないの?

 

「……! 来るか! だが、その前に罠カード『無限泡影』発動! アテナの効果をエンドフェイズまで無効にするぜ!」

 

「やってくれるわね……けど、この動きは止められないわ! 私は『光神化』を発動! 手札の天使族モンスターを特殊召喚する! ただし、そのモンスターの攻撃力は半分となり、エンドフェイズに破壊される。私が出すのは『コーリング・ノヴァ』」

 

コーリング・ノヴァ ATK1400/DEF800→ATK700/DEF800

 

 コーリング・ノヴァ……確か、戦闘破壊されたときに攻撃力1500以下の天使族を出せるリクルーターだったわね。エンドフェイズに破壊されるってことは、生贄要因かしら。

 

「そして、2枚目のコーリング・ノヴァも通常召喚するわ」

 

コーリング・ノヴァ② ATK1400/DEF800

 

「同じレベル4のモンスターが2体!? まさか……!」

 

「そう、そのまさか! 私はコーリング・ノヴァ2体でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! 聖なる騎士よ!! 天を駆け昇り天使を光に導け! エクシーズ召喚! ランク4『天翔ける騎士』!」

 

天翔ける騎士 ATK1900/DEF1000

 

 エ、エクシーズ召喚!? レジー、いつの間にエクシーズモンスターなんか手に入れていたの!? ボクとのデュエルでも使ったことがなかったのに!

 

「うふふ、秋人たちがアメリカから日本に帰る日、貰ったカードの中にあった1枚よ。 天翔ける騎士の効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使って効果を発動! 手札から光属性モンスター1体を特殊召喚できる! 見せてあげるわ十代! 私の切り札にして、素晴らしき私の天使! 『The splendid VENUS』!」

 

The splendid VENUS ATK2800/DEF2400

 

 フィールドに現れるのは金色の体に4つの白い翼を持つモンスター。ボクたちがアメリカのデュエルアカデミアに行ったとき、秋人が最初にデュエルしたレジーが見せた、彼女の切り札。攻撃力もそうだけど、あのカードの効果は恐ろしい強さを秘めている。

 

「このカードが存在する限り。貴方のモンスターのステータスは攻守ともに500ポイントダウンするわ」

 

「何!?」

 

E・HEROフレイム・ウィングマン 2700/DEF1200→ATK2200/DEF700

 

E・HEROダーク・ブライトマン ATK2600/DEF1000→ATK2100/DEF500

 

E・HEROサンライザー ATK3100/DEF1200→ATK2600/DEF700

 

 せっかくサンライザーで強化されたヒーローたちが軒並みその攻撃力を下げた。流石は激レアカードの『プラネットシリーズ』……秋人曰く、太陽系をモデルにしているって言ってたけど、今のところボクが知っているのはレジーのThe splendid VENUSと、紅葉さんのジ・アースのみなのよね。他のカードはどんなカードなのかしら。

 

「そしてさらに魔法カード『死者蘇生』を発動! 墓地に存在する『守護天霊 ロガエス』を復活させる!」

 

守護天霊 ロガエス ATK2400/DEF2100

 

「バトルよ!  The splendid VENUSでE・HEROサンライザーを攻撃! 『ホーリー・フェザー・シャワー 』!」

 

「ぐうっ! だが、この瞬間! 罠カード『ヒーロー・シグナル』を発動! デッキからレベル4以下のE・HEROを特殊召喚! 来い! 『E・HEROエアーマン』! 守備表示! そして、エアーマンの効果でデッキからHEROを手札に! 俺は『E・HERO リキッドマン』を加えるぜ!」

 

遊城十代 LP4400→LP4200

 

E・HEROエアーマン ATK1800/DEF300→ATK1500/DEF0

 

「けれど、これでサンライザーの効果も切れ、さらにヒーローたちの戦力は大幅にダウンする」

 

E・HEROフレイム・ウィングマン ATK2200/DEF700→ATK1600/DEF700

 

E・HEROダーク・ブライトマン ATK2100/DEF500→ATK1500/DEF500

 

 あっという間に戦況が傾いた! そういえば、他の皆はレジーがデュエルするのを見るのが初めてだからか、その強さに驚いている。カイザーがポツリと、強いな……と呟いている。

 

「追撃するわ!  天翔ける騎士でフレイム・ウィングマンを攻撃! 天翔裂剣 !」

 

「くっ……!」

 

遊城十代 LP4200→LP3900

 

「そしてさらに、ロガエスでダーク・ブライトマンを攻撃!」

 

「ぐうっ……だが、ダーク・ブライトマンは破壊されたことで相手カード1枚を破壊する強制効果を持っている! 俺はThe splendid VENUSを破壊する!」

 

「読んでいたわ! 速攻魔法『禁じられた聖衣』をThe splendid VENUSに対して発動! このターン中、攻撃力を600ポイント下げる代わりに、対象となったモンスターは効果の対象とならず、効果では破壊されない!」

 

「何!?」

 

遊城十代 LP3900→LP3000

 

The splendid VENUS ATK2800/DEF2400→ATK2200/DEF2400

 

 す、すごい! 流石はレジー……! The splendid VENUSを守るための策はしっかりと持っていたのね。あっという間にフィールドが逆転。ライフもレジーが優勢になった。

 

「私はカードを1枚伏せターンエンド。この程度で終わりかしら? 十代。見せて頂戴、貴方の力を……貴方はこの程度ではないはず」

 

「……? 何のことを言っているかよくわかんねぇけど、へへっ、いいぜ! こんなワクワクするデュエル、まだまだ終わらせるには勿体ないからな! 俺のターン!」

 

 レジーは、十代に何を言っているんだろう。そう思ったけど、当の本人がまったく気にしていない。むしろ、この逆境を楽しいと言ってカードに手を掛けるのだった。

 




というわけで、十代VSレジ―の前半戦でした。
前書きでは大変失礼。せっかくのテンションがガタ落ちしたため、思わず愚痴ってしまいました。
実際、この小説自体が古い小説のリメイクで、最近の人気の二次創作と比べるとだいぶ作風が古かったり、目立たないんですが、私自身古い人間ですので、このスタイルを変えるつもりはないです。
読者の方が望むのであれば、この小説一回削除してから書き直してもいいんですけどね。ただ、私自身が「キャラ付けが薄い」とか、主人公に魅力がないって言われてて、どうすればそれが改善できるのかわかってないし、批判してる人も教えてくれないので結局焼き直しになりそうなんですよね。
まあ、あえて言うとしたらぜひ見本を見せてくれと言いたいところですが

私は、この小説を楽しみにしている人のために頑張るだけなので、読んでくれている方はこれからもどうか応援していただけると嬉しいです。
ついでに評価してくれてもいいのよ? 感想やデッキリクエストなんかも待ってます。

リメイク前にはないオリジナル回のため、変更点無

十代がうらら使用?
実は、そのほかにも凶悪な現代カードはちらほらと入ってたり

レジーのエクシーズモンスター
ホープを使用する秋人を見ていたため、そこから秋人がエクシーズモンスターを譲っています。

ガチカード多くね?
今後のセブンスターズ編、こんなんばっかです

影夜様 sg定春様 龍牙様 光沢拓様 加宮慎司様
不知火新夜様 vastitude様 ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民様
感想ありがとうございます。
もしよろしければ、評価などもしていただければ嬉しいです。 

Tachyon107様 
大変厳しい評価ではありましたが、評価いただきありがとうございます。いただいた評価を参考に、良い小説にできるように頑張ってまいります。

次回 48「激突! 十代 VS レジー」(後編)


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48「激突! 十代 VS レジー」(後編)

何とか、続き更新です。いろんな方から応援や評価をいただきました。
そのおかげで何とか書き上げられましたありがとうございます。

まあ、主人公が好みじゃないっていう理由だけで低評価とかも喰らいましたが私は元気です。そんなにみんな秋人のこと嫌いか……

いやまあ、魅力っぽい魅力がないのはたしかなんですけど、今更どうすればいいんだよ……と、頭を抱える今日この頃です。いやまあ、キャラの魅力のなさについては昔から悩んではいるんですけども
今からでも闇落ちとかさせてみようかしら

にしても、デュエルパートについて、訂正の嵐で本当に申し訳ない。色々な方からご指摘ありがとうございます。できれば、話の感想も欲しい所ですが……きっと、デュエルのミス以外、完璧なんだろう、とか思ってみます。
中には、前の話のミスとかもご指摘いただき。嬉しい限りです。

これからも感想、ご指摘、評価、ご意見お待ちしております。
では、これで十代とレジ―の戦いは決着……またミスってる気がしてなりませんが、どうぞ!


 デュエルは後半戦に突入した。私、ツァン、そして、明日香やカイザー、万丈目のボウヤ、三沢のボウヤたちとそのデュエルを見守る。フィールドは……

 

遊城十代 LP3000 手札5枚

 

フィールド 

 

E・HERO エアーマン ATK1300/DEF0

伏せカード1枚

 

 

レジー・マッケンジー LP4600 手札0枚

 

フィールド 

 

天翔ける騎士 ATK1900/DEF1000

The splendid VENUS ATK2800/DEF2400

守護天霊 ロガエス ATK2400/DEF2100

アテナ ATK2600/DEF800

 

伏せカード2枚

 

 レジーが有利ではあるけれど、十代のボウヤの手札が5枚もあるのがやはり大きいわね。まあ、元々融合を主体とするデッキである以上ドローはたくさんしないと優位を取れない故かしら。というよりも、秋人がかなりの量のカードを渡していたものね。実際、ノース校との交流試合……すなわち、十代のボウヤと万丈目のボウヤのデュエルは十代のボウヤの圧勝だった。万丈目のボウヤのレベルアップドラゴンはかなり強力だった。それは間違いない。けれど、ゲームスピードが明らかに十代のボウヤのデッキのほうが上だった。

 

「俺のターン! ドロー! へへっ、レジーの天使族モンスターすげぇやつらばっかりだ……けど、なんでだろうな、あの『The splendid VENUS』ってカード、初めて見た感じがしないんだよな……」

 

 なにやら、ぶつぶつと言っている十代のボウヤ。一応聞こえていたけど、あのカード、レジーがデュエルアカデミアで使うのは初めてのはず。何か、既視感があったのかしら。

 

「どうしたの十代? サレンダーでもする?」

 

「まさか! 俺は手札から『E・HEROリキッドマン』を召喚! このカードの召喚に成功したとき、墓地のE・HERO1体を特殊召喚できる! 墓地から戻ってこい!『E・HEROブレイズマン』! そして、ブレイズマンの効果でデッキから『融合』を手札に加えるぜ!」

 

「悪いけど、それに便乗させてもらうわ! 罠カード『逆転の明札』を発動! 相手がデッキからカードを手札に加える、または、ドローフェイズ以外でカードをドローしたときに発動できる! 貴方が融合を手札に加えたことで手札は6枚。よって、私は手札0から6枚になるようにドローする!」

 

 あれはさっき手札に加えたHEROね。E・HEROは入学当初に秋人が使っていたHEROもいたけど、それとも違うHEROのようね。

 

「くっ……またドローさせちまったか。だが! 俺は今手札に加えた融合を発動! フィールドのリキッドマンとブレイズマンで融合する! 来い! 氷結のHERO! 『E・HEROアブソルートZero』!」

 

E・HEROアブソルートZero ATK2500/DEF2000→ATK2000/DEF1500

 

「っ……! 面倒なカードを出してきたわね……!」

 

 露骨にレジーが嫌な顔したわね。それもそうだ。あのHERO、何が酷いってフィールドを離れさえすれば、相手フィールドのカードを全滅させる効果を持っている。レジーのフィールドにはモンスターばかり。このカード1枚で戦局をひっくり返すことだって可能。

 

「そして、2枚目の融合回収を発動して融合とスパークマンを戻し、もう一度『融合』を発動! フィールドのアブソルートZeroと、スパークマンを融合する! 融合召喚! 来い! 光のHERO! 『E・HERO The シャイニング』!」

 

フィールドに現れるのは白いボディに金色の装飾を背負ったHERO。けど、問題はそこじゃないわ。アブソルートZeroがフィールドから離れたということは……

 

「アブソルートZeroの効果発動! このカードがフィールドを離れたことで、相手フィールドのモンスター全てを破壊する! そして、Theシャイニングは、除外されている『E・HERO』1枚につき攻撃力を300アップさせる! 2枚除外されているため、600ポイントアップだ」

 

「っ……!」

 

E・HERO The シャイニング ATK2600/DEF2100→ATK3200/DEF2100

 

「バトル! Theシャイニングでダイレクトアタック!『オプティカル・ストーム』!」

 

「罠カード『エンジェルティア』! 墓地の天使族4体をゲームから除外することで、墓地から天使族モンスター1体を特殊召喚する! 『アテナ』『天翔ける騎士 』『コーリング・ノヴァ』『守護天霊 ロガエス』をゲームから除外! フィールドに舞い戻りなさい!『The splendid VENUS』!!」

 

The splendid VENUS ATK2800/DEF2400

 

 再びフィールドに現れるThe splendid VENUS。攻撃力は効果でわずかにThe シャイニングを上回っている。改めて見て思うけど、ライフ8000のデュエルってかなり見ごたえがあるわね。今まで4000を想定してデッキを作っていたけれど、今一度、デッキを見直す必要はありそうだわ。

 

E・HERO The シャイニング ATK3200/DEF2100→ATK2700/DEF1600

 

「くっ……また厄介なモンスターが復活しちまった! 攻撃は中止する!カードを3枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 これで、十代ボウヤの手札は0枚。フィールドにはThe シャイニングと伏せカードが3枚。一方のレジーは逆転の明札を使ったことで手札か増えた。けど、あのデッキ量……もう長く戦えないんじゃないかしら。前半戦であれだけドローと手札入れ替えをしていたんだもの。デッキの消費は相当なはず。

 

「私のターン、ドロー! 見せてあげるわ十代。私が秋人からもらった新たな力を」

 

「……! 仕掛けてくる気か!」

 

「私は手札から『D・D・R』を発動! 手札1枚をコストに、ゲームから除外されているモンスター1体を特殊召喚し、このカードを装備する! 私は『エンジェルティア』の効果で除外した『コーリング・ノヴァ』を特殊召喚するわ!」

 

「……!? リクルーターのコーリング・ノヴァを? どうせならアテナとかのほうがいいんじゃ」

 

「ふふっ、いいえ、この子が必要になるのよ。私は”チューナーモンスター”『宣告者の神巫』を召喚するわ!」

 

『チューナーだって!?』

 

 対戦していた十代のボウヤだけじゃない。観戦をしていた私たち全員が驚いた。さっきはエクシーズモンスターを召喚したのに、今度はチューナーってことは、次はシンクロ召喚までするつもり!? 現れたのは巫女のような女性型のモンスター。初めて見るカードだけど、いったいどんな効果が?

 

「宣告者の神巫の効果を発動するわ。このカードの召喚に成功したとき、デッキ、またはEXデッキから、天使族モンスター1体を墓地へ送る。その送ったモンスターのレベル分、この子のレベルが上がるの。現在のレベルは2。私はEXデッキから『無の畢竟 オールヴェイン』を墓地へ送る。この子は融合モンスターで天使族。そのレベルは2。よって宣告者の神巫のレベルが2上昇するわ」

 

宣告者の神巫 ATK500/DEF300 ☆2→☆4

 

「さあ、行くわよ! 昨日、秋人が見せてくれたから予習はばっちりなの。レベル4のコーリングノヴァに、レベル4の宣告者の神巫をチューニング!」

 

 コーリング・ノヴァが星となり、宙を舞う。そして、それに続くように飛翔した宣告者の神巫が祈るようなポーズを取ると、宣告者の神巫の体も円となり交わっていく。

 

「コホン。神聖なる聖域を守護する騎士よ、今こそその姿をここに示せ! シンクロ召喚! 来なさい! レベル8 『神聖騎士パーシアス』!」

 

神聖騎士パーシアス ATK2600/DEF2100

 

 フィールドに現れるのは、如何にも聖騎士という風貌の騎士。というより、私もパーシアスは知っている。けど、元々の名前は『天空騎士パーシアス』で、確か貫通効果を備え、戦闘ダメージを与えた場合は1枚デッキからドローできる効果だったはず。秋人の言う、私の昔のデッキ『推理ゲート』を使っていた時代に1枚採用していたカードでもある。

 

「すっげぇ! 今度はシンクロ召喚……! だけどレジー! そのカードとThe splendid VENUSじゃ、俺は倒しきれないぜ!」

 

 ……確かに。十代のボウヤの言う通り。The splendid VENUSでTheシャイニングを破壊してパーシアスでダイレクトアタックをしても、十代のボウヤのライフは残る。それに、十代のボウヤのバックは2枚伏せカードがある。これがHEROバリアや攻撃の無力化なんて防御カードだった場合、返しのターンでパーシアスは破壊されてしまう。

 

「ふふふっ、それはどうかしら? 聖騎士の効果を見せてあげましょうか。 神聖騎士パーシアスの効果発動! 1ターンに1度、相手フィールドの表側表示のモンスターを対象として発動! その表示形式を変更する! 対象は当然、The シャイニング……十代、パーシアスはね、天空の騎士パーシアスと同様に守備表示モンスターに対して『貫通効果』を持っているのよ」

 

「何!?」

 

 ……! パーシアスとしての効果も持っているのね! ドローはできないようだけど、その貫通効果をより活かせる効果となっている。Theシャイニングの守備力は現在1600! パーシアスで貫通ダメージを与えてThe splendid VENUSで攻撃すれば、レジーの勝ちというわけね。

 

「けど、十代。貴方がそう簡単に私の攻撃を通させてくれるとは思っていない。だからここはこのカードを使うわ! 魔法カード『大嵐』を発動! 互いのプレイヤーの魔法、罠を全て破壊する!」

 

「っ……! その瞬間、速攻魔法『非常食』発動! セットカード2枚を破壊してライフを2000回復する!」

 

遊城十代 LP3000→LP5000

 

 非常食と……破壊されたのは、攻撃の無力化と異次元トンネルミラーゲート……これで、十代のボウヤを守れるものは剝がされてしまった。

 

「なるほど、ライフ回復……けど、これはどうかしら? 手札から永続魔法『エンジェル・シング 』を発動! フィールドの天使族1体を選択して発動する! 天使1体につき攻撃力を300ポイントアップ! パーシアスを選択してその攻撃力を上げる!」

 

神聖騎士パーシアス ATK2600/DEF2100→ATK3200

 

「バトル! パーシアスでTheシャイニングを攻撃! ホーリーブレード!」

 

「ぐううううっ!」

 

遊城十代 LP5000→LP3400

 

「そして、The splendid VENUSでダイレクトアタック! ホーリー・フェザー・シャワー!」

 

「うわああああっ!」

 

遊城十代LP3400→LP600

 

 辛うじて十代のボウヤのライフが残る。レジーとしては、このターンで決めきるつもりだったんでしょうけど、十代のボウヤもその悪運が強いというか、なんというか……

 

「Theシャイニングが破壊されたことで、ゲームから除外されていた『E・HEROフェザーマン』と、『E・HEROバーストレディ』を手札に加える……へへっ、なんとか耐えきったぜ」

 

「……流石、とだけ言っておくわ。けど、これはただのデュエル。セブンスターズ戦はそうはいかないわよ」

 

「……! なるほど、これが、本当の痛みに変わるわけだ」

 

 十代のボウヤの言う通り。今回の戦いはレジーと十代のボウヤの普通のデュエル。けれど、セブンスターズが仕掛けてくるのは闇のデュエルという、そのモンスターの攻撃のダメージが自分に本当に刻まれるデュエルのことを指す。これが闇のデュエルだったら、下手をすると十代のボウヤも秋人と同じく、倒れてしまう可能性もある。

 

「その通り。秋人も、ライフ4000の設定とはいえ、真紅眼の黒竜の『黒炎弾』の2400のダメージを受けて意識を失いそうになっていたわ。あの時は、ツァンの大声のおかげで何とか意識を繋いでいたみたいだけど」

 

「……!」

 

「そっちで観戦している貴方達もよ。もし、セブンスターズと戦うなら長期戦は考えないほうがいいわ。ライフが8000になっている以上、難しいけど、今のデッキだけじゃ、厳しいことは考えたほうがいいと思うわよ……さて、と。カードを1枚伏せて、私はこれでターンエンド。さあ、十代……貴方の伏せカードはない。手札にはノーマルモンスターのヒーロー2枚の手札……そこからどう逆転するのかしらね」

 

 確かに、十代のボウヤの状況はかなり不利。けれど、十代のボウヤは笑っている。まるで無邪気な子供のように。

 

「ああ、けどまだ俺にはドローカードがある! まだまだ、ひっくり返せるかもしれねぇだろ?」

 

「……そうね。貴方ならそう言うでしょうね。いいわ、来なさい」

 

 なんでかしら。レジーがところどころで、十代のボウヤと『誰か』を重ね合わせているように感じるのは。それに、あのレジーの目は知っている。秋人と同じだ。前に秋人が十代のボウヤとデュエルをしたときもそうだった。彼がどんな風にこの不利な状況をひっくり返すのかと。

 

「うっし! 俺のターン! ドロー……! ……俺は手札から『埋葬呪文の宝札』を発動! 墓地の魔法カード3枚を除外して2枚ドロー! さらに、魔法カード『ホープ・オブ・フィフス』を発動。サンライザー、エアーマン、Theシャイニング、ブレイズマン、リキッドマンを戻して2枚ドロー! さらに、『HEROの遺産』を発動する。墓地に存在するHEROを融合素材とするモンスター2体をEXデッキに戻し、カードを3枚ドロー! 俺はE・HEROフレイム・ウィングマンとE・HEROアブソルートZeroを戻す!」

 

「……随分とドローしたわね。次のそのドローに賭ける、といったところかしら?」

 

「おう! これで逆転のカードが引けたら面白いと思わないか? ドロー! ……! 行くぜ、レジー!」

 

 あの顔、何かこの状況を打開するカードを引いたというの……! この状況で、一体何を引いたの、十代のボウヤは。

 

「まずはその伏せカード、破壊させてもらうぜ! 『サイクロン』発動! これで伏せカードは破壊だ!」

 

「……! なるほど、やるじゃない」

 

 伏せられていたのは十代と同じく攻撃の無力化。まさかここでサイクロンとは……土壇場でよく引けるわね。

 

「そして、3枚目の融合を発動! 手札のフェザーマンと、バーストレディを融合! 再び現れろ! マイフェイバリットモンスター! 『E・HEROフレイム・ウィングマン』!」

 

E・HEROフレイム・ウィングマン ATK2100/DEF1200→ATK1600/DEF700

 

「今更そのモンスターを? 属性HEROの『E・HEROノヴァマスター』や『E・HERO Great TORNADO』だって出せたんじゃないかしら?」

 

「ああ。その2体も出せる。けど、このターンで決めるなら、やっぱりこの相棒じゃないとな!」

 

「……?」

 

「見せてやるぜレジー! ヒーローにはヒーローの、戦う舞台ってもんがあるのさ! フィールド魔法『摩天楼 -スカイスクレイパー-』発動!」

 

 十代のボウヤの言葉と共に、レッド寮の周りが近代的な、もっと言えばアメリカの高層ビルのようなものが出現する。E・HEROたちが戦う舞台、アメコミヒーローの王道舞台で、彼らE・HEROが戦うには最高のステージと言っても過言ではない。けれどフレイム・ウィングマンの攻撃力は現在1600……これに、スカイスクレイパーの効果を足しても、勝ち目はない。

 

「そして魔法カード『H-ヒートハート』発動。エンドフェイズまで、フレイム・ウィングマンの攻撃力を500アップ。これで、The splendid VENUSの効果は帳消しだ」

 

「けれど、仮にThe splendid VENUSかパーシアスを倒し、攻撃力分のダメージを与えたとしても、私のライフは4600……削り切れない」

 

「ああこのままだったらな! 装備魔法『フェイバリット・ヒーロー』をフレイム・ウィングマンに装備!」

 

「『フェイバリット・ヒーロー』……?」

 

 ここにきて知らない装備魔法が出てきたわね。絵柄は……E・HEROフレイム・ウィングマンが必殺技を撃とうとしているようなイラストだけど。

 

「このカードはレベル5以上の「HERO」にのみ、装備可能だ! フィールド魔法があるとき、このカードの装備モンスターの攻撃力は元々の守備力分アップする!」

 

「……!」

 

E・HEROフレイム・ウィングマン ATK1600/DEF700→ATK2100/DEF700→ATK3300/DEF700

 

 攻撃力3300……! The splendid VENUSよりも攻撃力は確かに上回ったけど、それでもこのターンで決めるのは無理なんじゃ……

 

「バトルだ! E・HEROフレイム・ウィングマンでThe splendid VENUSを攻撃!『スカイスクレイパー・シュート』!」

 

「きゃあああっ! くっ……確かにThe splendid VENUSの攻撃力分のダメージも受けるけど、まだライフは……!」

 

レジー・マッケンジー LP4600→4100→1300

 

 そう、レジーのいう通り、確かにこれでレジーのエースであるThe splendid VENUSは破壊できたけど、まだレジーのライフは残っている。けど、そのレジーの言葉に、十代のボウヤはニヤリと笑みを見せる。

 

「フェイバリット・ヒーローの効果はまだあるんだぜ。このカードを装備したモンスターが相手モンスターを破壊したとき、このカードを墓地に送ることで、もう一度だけ続けて攻撃することができる!」

 

「なっ……!?」

 

E・HERO フレイム・ウィングマン ATK3300/DEF700→ATK2600/DEF1200

 

「バトル続行だ! フレイム・ウィングマンで神聖騎士パーシアスを攻撃! この瞬間、スカイスクレイパーの効果が発動! その攻撃するモンスターより攻撃力が低い場合、攻撃力を1000ポイントアップさせる! 神聖騎士パーシアスの攻撃力は永続魔法の効果を合わせて2900! よって、フレイム・ウィングマンの攻撃力が1000ポイントアップする!」

 

E・HERO フレイム・ウィングマン ATK2600/DEF1200→ATK3600/DEF1200

 

「いっけー! 『スカイスクレイパー・シュート』!」

 

「きゃあああああっ!」

 

 爆発が起き、パーシアスが爆散した。このコンボは、入学試験でクロノス先生を倒したコンボでもあったはずだけど、まさかまた見ることができるとは思わなかったわ。

 

「神聖騎士パーシアスの攻撃力分のダメージを受けてもらうぜ、レジー」

 

「……流石ね、私の負けだわ」

 

レジー・マッケンジー LP1300→LP800→LP0

 

 デュエルの勝敗は十代のボウヤの勝利。これがライフ8000での新ルールでの戦い。色々と考えさせられるデュエルだったわね。

 

「お疲れ様2人とも、いいデュエルだったな」

 

「おう、ありがとな三沢。レジー、ガッチャ、いいデュエルだったぜ!」

 

「しかし、ライフ8000のデュエル……今の自分のデッキパワーでは力不足が否めないな。ネットで確認したが、すでに本土では新パックの発売が始まっていた。値段もそこそこにするのもそうだが、仮に注文してもこの島に届くのは遅くなる。その間にセブンスターズが襲撃してきたら、勝てるかどうか」

 

 そう三沢のボウヤが言う。確かに、この島には食料や教材、生活用品などを持ってくる定期便があるけれど、そちらが優先となるためカードなどは少ない。そして、生徒たちの間でも競争が起きる。そして、三沢のボウヤの言う通りネット注文してもそれで届くのもいつになるかわからない……もし、本土から敵が上陸してくるというなら、向こうはすでに新ルールにも対応した強化デッキで来るのは間違いない。

 

「ふんっ、情けないことを……この万丈目サンダーのデッキならば、セブンスターズを仕留めるのなんて容易い」

 

「いや、アンタ交流戦で十代にボコボコにされたじゃないのよ。忘れたとは言わせないわよ」

 

「ぐ、ぐぬぅ、ツァン君、それは言わないでくれ……」

 

 まあ、確かに昔の万丈目のボウヤのデッキに比べれば強かったのは間違いないけど、そこから十代のボウヤはさらに上を行っていたものね。

 

「その点なら、なんとかなるよ」

 

「……え? あ、秋人!?」

 

 そんな全員のあーでもない、こーでもないという話し合いに、その場にいないはずの、彼の声が聞こえた。振り返ると、ジャージ姿の秋人がいたのだ。

 

「秋人! 目が覚めたのね!」

 

「よかった! って、ダメじゃない! 怪我してるのに立ったりして!」

 

「ダーリン!」

 

 私たち3人が駆け寄ると、秋人は苦笑しながらもそのデュエルフィールドに備え付けられているベンチに腰を下ろす。もちろん、怪我が響かないように私たちが支えるのだが。

 

「いや、あれだけ派手にデュエルしている音が聞こえれば気になるって。2人ともいいデュエルだったよ。といっても、途中からしか見てないけど」

 

「それで、秋人。なんとかなる、とはなんのことだ?」

 

「皆のデッキのことさ。鍵を持っているメンバーのデッキの把握がしっかりできれば、それぞれのメンバーに見合ったデッキは用意できる。それを基盤にして、各自に弄ってもらおうかなと。もちろん、本土のほうで発売されているエクシーズモンスターやシンクロモンスター、融合モンスターとかのカードもある。十代みたいにHEROをテーマにしているならそのテーマに沿ったデッキも用意できる」

 

「なんだと! では、アームド・ドラゴンのデッキもあるというのか!」

 

「まあな。ただ、未発売のカードも結構多い……その辺に関してはテスターとしての仕事もしてもらわないと使わせてあげられないから、その辺は覚悟しろよ。簡単なアルバイトだと思ってくれればいい」

 

 こうして、鍵を持つメンバー……十代のボウヤはともかく、明日香、カイザ―、三沢のボウヤ、万丈目のボウヤに秋人がカードを渡しながらも、私たちも同じようにデッキの調整をすることになる。クロノス先生には明日にでも持っていく、とのことだった。

 

「……??」

 

「どうしたの、ツァン」

 

「ううん、なんだか蝙蝠がやたら飛んでるなと思って……」

 

「もう夕方だもの。そろそろ蝙蝠の活動時間だからおかしくないわよ。それより、部屋に戻りましょう。秋人だってまだ万全ではないのだから」

 

「そうね」

 

 こうして、私たちはレッド寮へ戻り、秋人の部屋に集合してデッキの調整会を開くことになる。

 

 

――クロノス先生がセブンスターズに敗北したという知らせを受けたのは翌日のことだった。

 




というわけで、レジーと十代の戦いでした。
いやー、こんだけ連続で投稿したらやっぱいろんな人の目に触れて、色んな評価が飛んでくるのはなかなか辛い……というか、わざわざ評価されにくいように50文字以上にしているのに律義に低評価のために書き込んでくることにびっくりです……まあ、ただ単純につまんないとか、そういう具体的な内容がないわけじゃないので、参考にさせていただいていますが

読者の皆様、魅力的な主人公って、どんな人なんでしょう……秋人君はいったいどこへ向かえばいいんですかね……ご意見お待ちしてます。

新規のため、リメイクとの差なし

属性HEROたち!
アニメ版十代に属性HERO使わせたらやっぱだめだなって思いましたわ

レジー、シンクロ、エクシーズ!
ヴィーナスだけだと流石にパワー不足否めなかったので……代行天使使うのもなんか違うし、クリスティアだしたらゲームセットだし……ぶっちゃけ、レジ―のデッキが一番難産です。

スカイスクレイパー・シュート!
ぶっちゃけ、GXで一番好きな攻撃技です。

蝙蝠たち
当然、彼女の使い魔です。

クロノス先生……
鮫島校長「死亡確認」


龍牙様 ロッテン様 カロン様 響鬼装甲様 天導 優様 オヤジ戦車様
小説への感想、ご指摘ありがとうございました。
デュエルでのミスは、やはり多いものでご指摘いただけるのは嬉しいです。
ただ、よろしければついでにその話の感想など頂けたらと思います。

まつもっこり様 SSファン様 光沢拓様 秋刀魚様 エボルBHF様
SEVEN様

小説を評価していただき、ありがとうございました。ほとんどが応援のコメントで
より一層頑張ろうと思いました。低評価だった内容については、どうすれば主人公が
多くの人に愛されるか考えていかねば、と思います。

これからもよろしくお願いします。





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49「吸血鬼の脅威」(前編)

続きが書けたので投稿しました。今回からカミューラ戦となります。
カード効果が長すぎてまた前半と後半になってしまいました。
申し訳ない。

沢山の応援と評価、ありがとうございました。また、主人公の魅力についても、多くの方からご意見を頂けたので、頑張っていこうと思います。
小説でデュエルの間違いを指摘してくれる方が多くいらっしゃりそちらも大変助かっております……が、
メッセージにて『タメ口』で『命令系』で、『なんでこんなのもわからないの』というような指摘メッセージを貰いました。

知識不足なのは認めますが、さすがにメッセージ見たときは「うわぁ」となりました。ネチケットを守って楽しくインターネット!

ルールとマナーを守って楽しくデュエルをするのと同じように、皆さんもお気をつけください。私も気を付けます。

ではどうぞ。



「……すまん、もう一度言ってくれ。なんだって?」

 

「クロノス先生に続いて、カイザーが負けたそうよ」

 

 2日後の夕方。俺はそんな話を雪乃から聞かされた。聞き違いじゃなかったか……クロノス先生が負けてしまったことについてはアンティークギアの強化カードを渡す暇がなかったっていうのがあるが、カイザーに関しては以前から強化カードを持っていたはずだし、滅多なことでは負けるわけがないんだが……

 

「カイザーまで負けるって……何が起きた?」

 

「それが……」

 

 と、聞いた話によるとカイザーのデュエルを心配して翔が全員の静止を無視してカイザーの応援に行ってしまったらしい。まあ、苦戦を強いられていたんだろうが……で、サラがその偵察について行ったらしいが、そのデュエルの内容はどうにもカイザーのデッキの内容を読まれるようなメタカードの連発だったとのこと。この辺はアレか、世界の修正力というかなんというか……俺が3人に怪我が治っていないから部屋から出るな、と言われていたのも理由の一つにはなるんだが……

 

「わかった……仕方ない、そろそろ俺が行くか」

 

「あ、秋人が!? ダメよ! まだ怪我だって……」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ? それに、おそらくだが……ミラ」

 

『はい。そこです!』

 

 ミラが実体化し、空いていた窓に向かって魔法を放つ。それによって蝙蝠が打ち落とされる。

 

「……今のは?」

 

「2人目のセブンスターズの使い魔って奴だ。サラとは別で俺もミラに探らせていた。たぶんだが、俺たちを監視しているんだ。デッキを盗み見してメタを張ってるってところか……」

 

 俺の言葉に、不安そうにする雪乃。カイザーが翔が人質に取られるとはいえ、そうなるほどの時間がかかるほどのデュエルとなると、カミューラのデッキ、多分だけど現状の調整中の様子も見られてメタ張られてる可能性が高いな。

 

「大丈夫、ミラたちもいるし、マハードやマナたちも連れて行くから、何かあったらすぐ知らせてもらうさ」

 

「でも……」

 

「それに、俺が負けると思うか?」

 

 俺の言葉に、雪乃はしばらく迷った後、俺に抱き着き、強く俺の体を掴む。

 

「いいえ、きっと、貴方なら大丈夫だと思う。けど、私が嫌なのは貴方が傷つくこと……私たちの秋人。どうか、無事に帰ってきてちょうだい」

 

「もちろん」

 

 そう言って俺は雪乃を抱き締め返し、立ち上がってデッキを選び、デュエルディスクにセットする。さて、と……一応、この部屋は結界を3人が張っているからカミューラの使い魔が何かしているとかは考えられないな。

 

「んじゃ、行ってくる。ツァンとレジーの言いくるめは任せた」

 

「……学食の限定スイーツで手を打ってあげるわ。あと、1日貴方を独占する権利」

 

「わーったよ。約束だ」

 

 俺の言葉に、雪乃は頬へ唇を当て、微笑んでいた。

 

「おまじないよ。帰ってきたら、口に……ね?」

 

「……ああ、行ってくる」

 

 そう言って俺はデュエルディスクを腕に嵌めて、サラから事前に教えられていたカイザーが戦ったという洞窟へと急ぐ。いうまでもないが、このデュエルの後にツァンとレジーから、特にツァンからこっぴどく叱られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

「まったく、見ていられないわ。砂糖吐きそう」

 

 根城にて、私はそう呟くと、残っている蝙蝠たちを引き上げさせた。あらかた、鍵を持っている面々のデッキの情報を収集は終えていた。だいたいのメタカードの調整も終えたし、”雇い主”から渡されたカードでの調整を終えた。元々持っていたデッキの原型はもはやないが、幻魔の扉と合わせてほぼ無敵と言っていい。すでに2人を下し、人形にしてやった。ふふふ、今度はあの女とイチャイチャしていたボウヤが来るらしい。しばらく様子を見守っていたが、付いていけなくなって途中で見るのをやめた。あのボウヤを人形にしたら、あの女たちはどんな顔をしてくれるのか。今から楽しみで仕方がない。

 

「よぉ、ここがアンタの根城ってことでいいんだよな」

 

「あら、随分とお早いお着きなのね。けど無粋じゃなくて? レディの部屋に無断で入るなんて」

 

「そうか? アンタの蝙蝠が案内してくれていたからてっきりご招待いただいたものだと思ったんだけどな」

 

 ……こいつ、私の使い魔に気が付いていたというの。まあ、1匹使い魔が帰ってこないところを見るに、その通りのようだけれど。

 

「ふふふ、けどまさかここに自ら足を踏み入れるとはね。貴方もあの2人同様に人形にしてあげる。でもその前にお名前を教えてくれるかしら?」

 

「武藤秋人だ」

 

「私はセブンスターズの1人、ヴァンパイアのカミューラよ」

 

 私の自己紹介に対して、多少は怯むと思ったのだけれど、武藤秋人は「ご紹介どうも」と言って洞窟に置かれている人形を目にした。この男、嫌な感じがしてならない。この男についてだって、セブンスターズのダークネスとの戦いを見ているからデッキだって把握ができている。なのになんだ、この……まるで、全てを見透かされているような、嫌な感じは。

 

「アレ、アンタが負ければちゃんと元に戻るのか?」

 

「ええ、もちろん……ただし、貴方が私に勝てればだけどね」

 

 そう言って私も立ち上がり、デュエルディスクを用意してデッキをセットする。

 

「今から始まるのは闇のデュエル……貴方は耐えることができるかしらね?」

 

「耐えて見せるさ。そう約束しちまったんでね……んじゃ」

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

 文字通りの死闘が、今から始まるのだった。

 

 

 

武藤秋人 LP8000 VS カミューラ LP8000

 

 

「ライフポイントは8000で、先行ドローはなし、EXデッキは15枚まで……貴方、1戦目は4000で戦っていたようだけど、そのルールはわかっているのかしら?」

 

「ご心配なく。問題ないよ」

 

 始まったマスターと、吸血鬼の女性、カミューラとのデュエル。私とマハードさん、そしてマナさんは周囲に待機し、万が一に備えるようにと言われました。一度、カイザーこと、丸藤亮さんとのデュエルをしっかりと見ていましたが、彼女はマスターの言う通り、蝙蝠を使って情報収集をしているようでした。どんな時代でも情報は強力な武器である。マスターもそんなことを言っていました。というか、今も露骨にマスターの1戦目のことを言っていましたね。

 

「レディファーストってことで、先行を貰おうかしら?」

 

「……お好きに」

 

「そう、なら遠慮なく。私のターン!」

 

 マスターの言葉に、カードを5枚引いたカミューラの目の殺意。それは、マスターというよりは人間という種に当てられているような憎悪が垣間見える。このデュエル、大丈夫でしょうか。

 

「私は手札から魔法カード『手札抹殺』を発動。互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた分カードをドローする。私は4枚を捨てるわ。その後、4枚ドロー」

 

「5枚捨てて5枚ドローする」

 

「……! なるほど、貴方、私がデッキを見ているのを知っていたようね」

「露骨にメタ張ってるって情報を持ってるんでね。アンタと同じさ。情報はなによりも武器になる」

 

 マスターが捨てた5枚の手札から、デッキがダークネスの時と違うことを察したのでしょう。明らかに不機嫌な表情になっている。しかし、マスターの手札のカードはともかく、あのカミューラの捨てたカード、あれは……

 

「……まあいいわ。永続魔法『星邪の神喰』を発動する。1ターンに1度、墓地のモンスターが除外されたとき、モンスターと異なる属性のモンスターを墓地へと送ることができる。墓地のヴァンパイア・ソーサラーは自身の効果で除外が可能。このカードを除外することで『星邪の神喰』の効果が発動。墓地へ『馬頭鬼』を送る。そして、ヴァンパイア・ソーサラー……この子は素敵なプレゼントを私に残してくれた。除外したとき、このターン1度だけレベル5以上の『ヴァンパイア』を生贄なしで召喚できる! 来なさい我が同胞!『シャドウ・ヴァンパイア』!」

 

シャドウ・ヴァンパイア ATK2000/DEF0

 

「……! 手札、デッキから『シャドウ・ヴァンパイア』以外のヴァンパイアを召喚するモンスター」

 

「その通り。更にデッキより現れよ我が同胞! 『ヴァンパイア・ロード』!」

 

ヴァンパイア・ロード ATK2000/DEF1500

 

 ……! また別のヴァンパイアモンスター! そして、レベルは同じ5! この流れはまさか!

 

「さあ、我が同胞たちの力を見せてやるぞ、人間! 私はレベル5のシャドウ・ヴァンパイアと、ヴァンパイア・ロードでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! さあ、その姿を現せ我が同胞! ランク5! 『紅貴士-ヴァンパイア・ブラム』!」

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム ATK2500/DEF0

 

 ヴァンパイアのエクシーズモンスター……! しかも、ランク5のモンスターなだけあって強力な気がします。マスターのデッキ、多分私の情報から前に使ったものとは別のデッキのはずですが、いったい何のデッキを……

 

「……チッ、ロクなカードが墓地にないじゃない。貴方の墓地」

 

「残念だったな。俺の手札はエクシーズ・ギフト サイクロン 大嵐 リビングデッドの呼び声 エクシーズ・シフトだ」

 

 ……マスター、それは所謂事故というものだったのではないですか。これは、相手の手札抹殺がよかったのか悪かったのか。

 

「……『強欲な壺』を発動、2枚ドローする。カードを2枚伏せ、ターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー! ……なら俺も同じように行かせてもらう! フィールド上にモンスターが存在しないとき、手札のこのカードは『特殊召喚』できる! 来い! 『ZS-昇華賢者』!そしてさらに! レベル4モンスター1体のみがフィールドにいる時、このカードも特殊召喚できる! 来い! 『ZS-武装賢者』!」

 

ZS-昇華賢者 ATK900/DEF300

 

ZS-武装賢者 ATK300/DEF900

 

「……! レベル4モンスターを2体! やはり、前のシンクロデッキとは別のデッキできたわけね」

 

「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、白き希望の翼! 『No.39 希望皇ホープ』!」

 

No.39 希望皇ホープ ATK2500/DEF2000

 

 希望皇ホープ! マスターがアメリカで使用して以来のデッキですね! 闇のデッキに対して光の使者のデッキ……それにしても、あの素材となったモンスター達はただ召喚がしやすいだけというわけではなさそうですね。

「2体の素材となったZSはそれぞれホープに効果を与える。昇華賢者は『RUM(ランクアップマジック)』を、武装賢者は『ZW(ゼアルウェポン)』モンスターをデッキからそれぞれ手札に加えることができる」

 

「……RUM? ZW?知らないカードね、何それ」

 

「すぐにわかる。俺デッキから『HRUM-ユートピア・フォース』と『ZW-雷神猛虎剣』をそれぞれ、手札に加える。そして、希望皇ホープを素材として、オーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築! カオス・エクシーズ・チェンジ! ランク4 『CNo.39 希望皇ホープレイ』!」

 

CNo.39 希望皇ホープレイ ATK2500/DEF2000

 

 出現したのはホープレイ。確か、マスターは前は別のホープを素材に、SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニングをシャイニングエクシーズチェンジをするはず。

 

「カオス・エクシーズ・チェンジだと? 確か、あのサイバー使いも似たようなことをしていたが……そのモンスター、攻撃力が変わってないじゃないの」

 

「……誰がこいつで戦うって言った。俺は『HRUM-ユートピア・フォース』を発動! 自分フィールドのランク9以下の「希望皇ホープ」Xモンスター1体を対象として発動できる。ランク10以上の「ホープ」Xモンスター1体を、対象の自分のXモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する !」

 

「なっ……ランク10のエクシーズモンスターですって!?」

 

 ランク10……! そんな一気にランクアップできるカードがあるなんて! 一体、どんなモンスターが出てくるんですか

「ハイパーランクアップ・エクシーズチェンジ! 彼の者の記憶に眠る、終焉にして頂点! それと双璧を成す、新たなる希望の光! 現れろ、『No.99 希望皇ホープドラグナー』!」

 

 フィールドに出現するのは、白いボディに、巨大な剣を携えたホープ。すごいです! 巨大なのもそうですが、精霊の私だからでしょうか、あのカードから感じ取れるモンスターの力。それはとてつもない。

 

No.99 希望皇ホープドラグナー ATK3000/DEF3000

 

「っ……! 何だそのモンスターは!」

 

「アンタの闇を打ち砕く、希望の光だ。ホープドラグナーの効果発動! オーバーレイユニット2つを使い、エクストラデッキから『No.1』から、『No.100』までの、いずれかの『No.』モンスターを1体、フィールドにエクシーズ召喚扱いで特殊召喚できる! 現れよ! 『獣装合体 ライオ・ホープレイ』!」

 

獣装合体 ライオ・ホープレイ ATK2500/DEF2000

 

「待ちなさいよ。そのモンスター、名前にNo.なんてついてないじゃない」

 

「このカードはルール上『CNo.39希望皇ホープレイ』としても扱うことができる」

 

「なっ……」

 

 えぇ……いえ、確かにホープレイの面影はありますが、その装備、まったくの別物じゃないですか。そりゃ、カミューラも納得しないでしょう。

 

「墓地のユートピアフォースは、墓地にある時、ランク10以上のホープ、すなわちホープドラグナーの効果で特殊召喚されたとき、このカードをオーバーレイユニットとする。そして、オーバーレイユニットを使って効果発動! デッキから『ZW』モンスターをこのカードに装備する! 俺は『ZW-風神雲龍剣』をデッキから装備! その攻撃力1300がライオ・ホープへと加算される! そして、手札の『ZW-雷神猛虎剣』も装備する。こちらは攻撃力1200。よって、2500ポイントアップする」

 

獣装合体 ライオ・ホープレイ ATK2500/DEF2000→ATK5000/DEF2000

 

 攻撃力、5000のモンスター……! マスター曰く、エクシーズモンスターが本来登場する未来の可能性では、攻撃力が万越えをすることがあると言っていましたが、圧巻です。それに、今更ながらライフの設定が8000になったのもわかる気がします。

 

「そして、ライオ・ホープはZWを装備しているとき、相手モンスター1体を1ターンに1度、効果を無効にし、さらに攻撃力を半分にする!」

 

「くっ……紅貴士-ヴァンパイア・ブラムの攻撃力が……」

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム ATK2500/DEF0→ATK1250/DEF0

 

「バトル! ライオ・ホープでヴァンパイア・ブラムを攻撃!」

 

「そう簡単にダメージを喰らうものですか! 罠を2枚発動!『体力増強剤スーパーZ』! 2000以上のダメージを受ける時、ライフを4000回復する! そして、ブラムが墓地へ送られたとき『もののけの巣くう祠』!を発動! フィールドにモンスターが存在しないとき、墓地よりモンスター1体を特殊召喚する! 『ピラミッド・タートル』を守備表示で特殊召喚!」

 

カミューラ LP8000→LP12000→LP8250

 

ピラミッド・タートル ATK1200/DEF1400

 

 ……! ダメージを与えたつもりが、全くダメージを受けていないという結果に! 闇のデュエルのはずが、カミューラもそのダメージに苦痛を覚えている様子もありません。吸血鬼だから? それとも、闇のデュエルとは、回復効果で痛みを軽減できるものなのでしょうか……

 

「くっ……バトル続行! ホープドラグナーでピラミッド・タートルを攻撃!」

 

「ピラミッド・タートルの効果発動! このカードが戦闘破壊されたとき、デッキから守備力2000以下のアンデットを特殊召喚できる! 我がもとへ来い! 『ノーブル・ド・ノワール』!」

 

ノーブル・ド・ノワール ATK2000/DEF1400

 

「くっ……カードを3枚全て伏せる。ターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー! スタンバイフェイズのこの瞬間、墓地の紅貴士-ヴァンパイア・ブラムの効果が発動! 墓地のブラムは墓地より守備表示で特殊召喚できる! 甦れ我が同胞!」

 

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム ATK2500/DEF0

 

 ブラムが再び甦ってきた!? これでは、除外しない限り永遠と復活を繰り返すということですか。とんでもないカードですね。

 

「俺はその効果に対してホープドラグナーの効果発動! オーバーレイ2つを使用し、EXデッキからこのカードをエクシーズ召喚扱いで特殊召喚する! 現れろ『No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー』! そして、墓地のユートピアフォースをタイタニック・ギャラクシーのオーバーレイユニットにする!」

 

No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー ATK3000/DEF2500

 

「まさか、相手ターンでも発動できるとはね。驚いたわ……魔法カード『生者の書-禁断の呪術-』を発動! このカードは「この瞬間、タイタニック・ギャラクシーの効果発動!」何ですって!?」

 

「1ターンに1度、相手の魔法カードの発動を無効にして、そのカードをタイタニック・ギャラクシーのオーバーレイユニットにする!」

 

「くっ……けど、その効果は1ターンに1度! ならば、手札から『天よりの宝札』を発動! デッキから互いのプレイヤーは6枚になるようにドローする! 互いの手札は0! よって、お互いに6枚ドロー!」

 

 ……! お互いに6枚ドローしているところを見るに、カミューラは”あのカード”『幻魔の扉』を引こうとしているようですね。すると、そのカードを6枚引いたカミューラが笑い始める。

 

「ふふ、ふはははは! あの2人と同じようにこのカードに苦しむがいい、人間! 魔法カード発動!『幻魔の扉』! このカードの効果により! 全てのモンスターを破壊する! そして、幻魔の扉が開かれるとき、その魂を……「あー……気分が高揚しているところ悪いんだがな」……は?」

 

「カウンター罠『封魔の呪印』発動。手札の魔法カードを墓地へ送り、魔法カードの発動と効果を無効にしてそれを破壊する。手札の『オノマト連携』を墓地へ送る。でもって、このデュエル中アンタはこの効果で破壊された魔法カード及び、同名カードを発動することはできない」

 

「なっ、なんだと……そんなピンポイントなカードを……!」

 

「闇のゲームだろうが何だろうが、効果が無効になり破壊され、発動できなければ意味はない。っていうか、ピンポイントメタに関してはアンタも人のこと言えないだろうが」

 

 それもそうです。というか、マスターからすればこの世界の物語の登場人物たちが使うキーカードを知っている以上当然対策はするでしょう。マスターの言葉に激昂しているカミューラですが、貴方だって蝙蝠を使って情報収集をしている以上マスターに文句を言う筋合いはないのです。

 

「おのれ、おのれ人間……! くっ、魔法カード『埋葬呪文の宝札』で墓地の『強欲な壺』『手札抹殺』『生者の書-禁断の呪術-』を除外して2枚ドロー! そして、更に『天使の施し』を発動し、デッキから3枚ドローして2枚墓地へ送る! ならば、その余裕を苦痛で染め上げてやるわ! 私はお前のフィールドにいるモンスター『獣装合体ライオ・ホープ』を生贄とし、『海亀壊獣ガメシエル』を特殊召喚する!」

 

「なっ……!」

 

海亀壊獣ガメシエル ATK2200/DEF3000

 

 フィールドのライオ・ホープが……これはまずい! 亮さんのサイバーモンスターもこの方法で除去されていたはずです!

 

「そして、墓地の『馬頭鬼』の効果発動。墓地のこのカードを除外し、墓地からアンデット族を1体フィールドに特殊召喚する! 来なさい! 我が同胞たちの中で至高のヴァンパイア! 『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を特殊召喚!」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア ATK2000/DEF2000

 

 フィールドに現れるのは水色の髪をした女性のヴァンパイアモンスター……レベル7のモンスターにしては、ステータスは控えめ。ということは、その効果が強力なのでしょうか。

 

「そして、星邪の神喰の効果でデッキから『ヴァンパイア・ソーサラー』を墓地へ送る。さらに私はこのターン通常召喚をしていない。『ヴァンパイア・バッツ』を通常召喚! そしてこの時、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアの効果が発動! 自分、及びヴァンパイアと名の付くモンスターが召喚されたとき、このカードより攻撃力が高い相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する! 私が装備させるのは『No.99 希望皇ホープドラグナー』! これにより、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアの攻撃力はNo.99 希望皇ホープドラグナーの攻撃力分アップする! そして、ヴァンパイア・バッツがいる限り、全てのアンデット族の攻撃力は200ポイントアップする」

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア ATK2000/DEF2000→ATK5200/DEF2000

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム ATK2500/DEF0→ATK2700/DEF0

 

ノーブル・ド・ノワール ATK2000/DEF1400→ATK2200/DEF1400

 

ヴァンパイア・バッツ  ATK800/DEF1200→ATK1000/DEF1200

 

 こ、これは不味い……! フィールドのモンスターの攻撃力がとんでもないことに! ヴァンパイア・ブラムは守備表示だから攻撃できないものの、マスターのフィールドは攻撃力3000のタイタニック・ギャラクシーと、さっきライオ・ホープの生贄によって召喚された『海亀壊獣ガメシエル』だけ……!

 

「バトル! ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアでタイタニック・ギャラクシーを攻撃! 砕け散りなさい!」

 

「ぐああっ!」

 

武藤秋人 LP8000→LP5200

 

「さらにノーブル・ド・ノワールでガメシエルを攻撃! 相打ちで消えた以上、フィールドはがら空きね! ヴァンパイア・バッツでダイレクトアタック!」 

 

「ぐっ……! これ以上はやらせない! 罠カード発動! 『エクシーズリボーン』! 自分の墓地に存在するエクシーズモンスター1体を特殊召喚し、このカードをオーバーレイユニットとする! 墓地より甦れ! 『No.39 希望皇ホープ』!」

 

No.39 希望皇ホープ ATK2500/DEF2000

 

「ちっ……ならメインフェイズ2へ。カードを2枚伏せてる。そして、2枚目の『生者の書-禁断の呪術-』を発動し、墓地からノーブル・ド・ノワールを蘇生し、貴方の墓地の『ライオ・ホープ』をゲームから除外。ターンエンド」

 

 これでカミューラのフィールドにはモンスターが4体、伏せカードが2枚、永続魔法が1枚、手札は1枚。一方のマスターはフィールドにホープと伏せカードが1枚。手札は5枚……ライフの差も合わせ、圧倒的に不利となってしまった。

 

「ふふふ、ふらふらじゃない。いい加減サレンダーしたらどうかしら? この圧倒的な戦力差を前に、まだ戦う気でいるのかしら?」

 

「生憎、諦めが悪くてね。それに、2つも黒星をつけられているんだ。これ以上黒星をつけて十代たちに負担をさせるわけにもいかないだろうが。行くぞ、俺のターン! ドロー!」

 

 そう言って、マスターはカードを引く。頑張ってください、マスター……。

 

 




ということで、カミューラ戦でした。いろんな架空デュエルや、デュエル動画でヴァンパイアを調べたり、アンデット使いの友人に話を聞いてカード情報を見ていましたが、ヴァンパイアって名前のカードだけでめちゃくちゃありましたね。びっくりしました。

リメイク前との変更点
カミューラ戦開幕
クロノス先生、亮、すでに敗北

カミューラのデッキ超強化
ヴァンパイアってだけでここまでヤバいデッキが出来上がると思いませんでした。

秋人の使用デッキ
久しぶりのホープデッキ。アメリカでのキース戦以来です
前は幻魔の扉を使わせないためにデッキ破壊とか姑息なことしてました


次回で多分カミューラ戦決着です。ライフポイントまだ8250も残っているカミューラ。けど、ホープならきっとなんとかしてくれる……はず!

フルーツ鎧武者様 クロストフューチャー様 カロン様 モブ提督様 風森斗真様 Soulkius様 龍牙様 オヤジ戦車様
感想・ご指摘ありがとうございます。またいただければ嬉しいです。

 壁ワロタ(笑)様  サンライフ様
高評価ありがとうございました。受けた評価に慢心せず、頑張っていこうと思います。これからもよろしくお願いします。

次回 50「吸血鬼の脅威」(後編)


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50「吸血鬼の脅威」(後編)

やっと続きかけたので更新です。カミューラ戦決着。
またたぶん間違いだらけかもなので、ご指摘あればよろしくです。

沢山の方から応援のメッセージ、高評価いただきありがとうございます。
そんな応援を糧に、主人公の性格が悪いとか感想で言われたり、
作者コメントが長すぎるとかいうので低評価されたりしても、めげずに頑張れております。

これからもよろしくお願いします。

ではどうぞ


『マスター、大丈夫でしょうか……お師匠様』

 

『戦況は確かに不利だ。だが、彼の力はこんなものではない。お前もわかっているだろう。マナ』

 

『それは、そうなんですけど……』

 

 セブンスターズの2人目の刺客、カミューラとのデュエル。そのフィールドを見て、私はマスターを見る。ヴァンパイアたちの攻撃の余波で傷ついてしまっているのが、私はとても辛そうでならない。それに、お互いのこのフィールド、どう見てもマスターが不利だ。

 

カミューラ 手札1枚 伏せ2枚 LP8250 

フィールド

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア ATK5200/DEF2000

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム ATK2700/DEF0

 

ノーブル・ド・ノワール ATK2200/DEF1400

 

ヴァンパイア・バッツ  ATK1000/DEF1200

 

武藤秋人 手札5枚 伏せ1枚 LP5200

フィールド

No.39 希望皇ホープ ATK2500/DEF2000

 

『やっぱり、無理にでも私たちが出ればよかったのでは……』

 

 そうすれば、少なくとも私たちの力でマスターへの、闇のデュエルの負荷は防げたはず。出発前、雪乃さんから託されたという、元はサラさんが持っていたペンダントを合わせて魔除けとしているけれど、それだって雀の涙。

 

『彼にも何か考えがあってのことだ。我々が口をはさむべきではない。なにより、それは我々がフィールドにいればの話だ。デッキや墓地にいれば、何もできん』

 

 そうお師匠様は言って、再び結界を張るのに集中する。言わんとしていることはわかるんですけどお師匠様、やっぱりこの状況はもどかしいですよ。そう思っていると、ターンはマスターへ。そして、マスターがカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー……! 魔法カード『天使の施し』を発動し、カードを3枚ドローして2枚捨てる。さらに『貪欲な壺』を発動し、墓地に存在する『ZS-昇華賢者』『No.38タイタニック・ギャラクシー』『CNo.39希望皇ホープレイ』そして、今捨てた『ゴブリンドバーグ』と『増殖するG』をそれぞれデッキとEXデッキへ戻し、カードを2枚ドローする。そして『RUM-ゼアルフォース』をホープを対象として発動! カオスエクシーズチェンジ! 希望に輝く魂よ! 森羅万象を網羅し、未来を導く力となれ!  今こそ現れよ『CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』!」

 

CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー ATK2800/DEF2500

 

 フィールドに現れるのは、さっきまでフィールドにいたホープとはまた違う印象の鎧を装備したホープ。ほえええ、前にマスターが言ってはいたけど、ホープって本当にナンバーズの中だと特別なんだね。めっちゃ種類いる。

 

「そして、デッキの中からZWモンスター、またはZSモンスターをデッキの一番上に置く。さらに、自分のライフが相手のライフよりも2000以上少ない時! このカードをゲームから除外することで、カードを1枚ドローする! これにより俺は『ZW-阿修羅副腕』をホープレイ・ヴィクトリーに装備! 1000ポイントの攻撃力アップと共に、このカードを装備したホープレイ・ヴィクトリーは全てのモンスターへと攻撃ができる! バトル! ヴァンパイア・バッツを攻撃!」

 

CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー ATK2800/DEF2500→ATK3800/DEF2500

 

「くっ、だが、ノーブル・ド・ノワールがいる限り、貴方のモンスターの攻撃対象は私が選ぶ! 対象はヴァンプ・オブ・ヴァンパイアよ! そのまま砕け散りなさい!」

 

 そ、そうだった! そうだよ! ノーブル・ド・ノワールがいるんじゃ、いくら全部のモンスターに攻撃できても、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアを対象にされて返り討ちじゃん!

 

「だろうな! だが、最後まで効果の説明は聞くべきだったよ、カミューラ! ホープレイ・ヴィクトリーの効果発動! ホープが素材となったこのモンスターが攻撃するとき、オーバーレイ・ユニットを1つ使うことでこのターン、そのバトルするモンスターの攻撃力分、攻撃力をアップさせ、相手モンスターの効果を無効にする! 『ヴィクトリー・チャージ』!」

 

「なっ……!」

 

CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリーATK3800/DEF2500→ATK6000/DEF2500

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア ATK5200/DEF2000→ATK2200/DEF2000

「俺のホープドラグナーは返してもらう!」

 

「させないわ! 罠カードをはつど「ホープレイ・ヴィクトリーがバトルするとき! 相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動することはできない!」そんな……!?」

 

「いけ! 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー! ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアを攻撃! 『ダブル・ヴィクトリースラッシュ』!」

 

「ああああああああああああ!?」

 

カミューラ LP8250→LP4450

 

 切裂かれ、消えるヴァンプ・オブ・ヴァンパイア。そして、それから解放される様に、ホープドラグナーがマスターの墓地へ戻っていった。

「っ……おのれぇ……! それ以上させるものか! ダメージステップ終了時に『無限泡影』発動! お前のモンスターの効果をエンドフェイズまで無効にする!」

 

CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリーATK6000/DEF2500→ATK3800/DEF2500

 

「だが、 阿修羅副腕の効果は無効になっていない! バトル続行! モンスターへ追撃する!」

 

「速攻魔法『神秘の中華鍋』を発動する! 紅貴士-ヴァンパイア・ブラムを生贄に、その攻撃力2500を回復! そして、攻撃対象を『ヴァンパイア・バッツ』を指定する!」

 

カミューラ LP4450→LP6950

 

 神秘の中華鍋によってヴァンパイア・ブラムが粒子となってカミューラの中へと消える。そして、ホープレイ・ヴィクトリーがヴァンパイア・バッツを切裂く。

 

「くうっ……本来、ヴァンパイア・バッツは同名カードを墓地へ送ることで破壊を免れるが、その効果は使わない!」

 

カミューラ LP6950→LP4150

 

「だが、これで残るはノーブル・ド・ノワールだけだ! 追撃する!」

 

「ぐうううう、おのれ、人間……よくも我が同胞たちを……!

カミューラ LP4150→LP3350

 

 これで形勢は逆転。マスターのモンスター、ホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力3800であることと、カミューラの主力としていたヴァンパイアたちは全滅。紅貴士-ヴァンパイア・ブラムは破壊されないと墓地からは復活ができない。これは、勝負決まったかな?

 

「……メインフェイズ2、カードを3枚伏せてターンエンド」

 

「まだだ、負けるものか。我が一族を再興させるまでは、人間に復讐を果たすまでは……!」

 

 最初ほどの余裕はもはや見る影もない。必死の形相で、マスターを睨みつけてカードに手をかけていた。彼女から感じる人間への憎しみは計り知れない。

 

「私の、私のターン! ドロー! ……! 行くぞ人間! 我らが憤怒の炎! 絶やさせるものか!  『命削りの宝札』を発動! 5ターン後に全ての手札を捨てる代わりに5枚になるようドローする!さらに墓地の『もののけの巣くう祠』の効果発動! フィールドにモンスターが存在しないとき、このカードを除外し、墓地よりアンデット族モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚できる!」

 

 ……アンデット族の特徴は墓地からどんどん湧いてくることだけど、効果を無効にってことはヴァンプ・オブ・ヴァンパイアの効果を使えないはずだけど……

 

「墓地より甦れ、『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』!」

 

「……効果を無効にされているそのモンスターを……?」

 

「そしてチューナーモンスター『ユニゾンビ』を召喚する!」

 

 ……!? チューナーモンスター!? ミラちゃんと一緒に偵察していた時はエクシーズのヴァンパイアしか使ってなかったのに、あの吸血鬼の人、シンクロまで……!?

 

「レベル7のヴァンプ・オブ・ヴァンパイアに、レベル3のユニゾンビをチューニング!我が同族すら糧とし全ての生者を蹂躙しろ! シンクロ召喚! 現れろ レベル10! 『真紅眼の不死竜皇』!」

 

真紅眼の不死竜皇 ATK2800/2400

 

 ま、ま、ま、また真紅眼ぅぅぅぅぅ!?!?!? しかも、なんかめっちゃところどころ腐ってるよぉ! アンデット化した真紅眼ってことだよね!?

 

「ふふふ、あははは……! これが、これこそが私の憎しみを具現化した憤怒の炎! その象徴たるドラゴンだ! そして私は『ハリケーン』発動! お前の伏せカードと装備カードを全て手札に戻してもらう! これで、ホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力は元に戻る!」

 

CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー ATK3800/DEF2500→ATK2800/DEF2500

 

「そして、 真紅眼の不死竜皇の効果により、墓地よりアンデット族を復活させる! 我が元へ戻れ、我が同胞! 紅貴士-ヴァンパイア・ブラム! 更に『死者蘇生』発動! 墓地より甦れ『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』!」

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム ATK2500/DEF0

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア ATK2000/DEF2000

 

 再びブラムが復活した! シンクロモンスターとエクシーズモンスター、両方並ぶとか、あのデッキどうなってんの!?

 

「バトル! 真紅眼の不死竜皇でホープレイ・ヴィクトリーを攻撃!」

 

「くっ……迎え撃て! ホープレイ・ヴィクトリー!」

 

 相打ち狙い!? 相打ちによって互いに倒れるモンスター。けど、これじゃあ、マスターのフィールドが丸裸に!

 

「バトル続行!  ヴァンパイア・ブラムとヴァンプ・オブ・ヴァンパイアでダイレクトアタックよ!」

 

「がはっ……!」

 

『マスター!』

 

 ヴァンパイア・ブラムの武器がマスターの体をえぐり取った。私たちの力で何とか現実に響くダメージは抑えられているけど、それでもその痛みは想像絶するものだとおもう。この前は黒炎弾、で、今度はヴァンパイア・ブラムの剣……マスターが血反吐こそ吐かなかったけど、その痛みに膝をついていた。

 

武藤秋人 LP5200→LP700

 

「更に、メインフェイズ2にて『真紅眼の不死竜皇』の効果。墓地の『ノーブル・ド・ノワール』をゲームから除外することでこのカードを墓地より特殊召喚。再び舞い戻れ。 真紅眼の不死竜皇!」

 

真紅眼の不死竜皇 ATK2800/2400

 

「私はこれでターンエンドだ。ふははは、もうあきらめるんだな人間! お前の手札は伏せカードと装備モンスターがほとんど。そして、ホープたちはあらかた破壊した。これ以上何ができる? いや、そもそもその体ではもう戦えまい? 諦めてサレンダーして、私の人形の1つになるがいい。そうすれば、楽になるわよ」

 

「……ターンエンドか? なら、宣言を頼みたいんだが……」

 

「チッ……ならばせいぜい、絶望の中に沈むことね。ターンエンドよ」

 

 フィールドには3体の上級モンスター。ただし、相手のフィールドには伏せカードはない。マスターの手札の半分は伏せカード。そして、 ZW-阿修羅副腕だけとなっている。そして、RUMもダイブ使っている。マスター、そのデッキで逆転の目はあるんでしょうか……

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「っ……! 何故だ、何故諦めない!? それだけ痛めつけられて、それだけ苦しんで! 何故逃げない! なぜ、許しを請わない! 痛いだろう? 苦しいだろう? ならば、もう……」

 

「……アンタ、優しいな。憎んでるはずの、人間の俺の心配とは」

 

「なっ……」

 

 突然、マスターに対して怒るカミューラ。いったいどうしたんだろう。確かに、マスターの言う通り、なんでしょう、彼女、カミューラの表情がどこか辛そうに見える。

 

「アンタが人間を恨む理由なんて、だいたい予想が付く。人間に迫害された、同胞を殺された、といったところだろ? だからこそ一族を復興したい、人間に復讐したい……一応、虐げられて、大切なものを奪われた苦しみは、”俺も知っている”。その度合いは、あんたの方がよっぽど重いだろうが」

 

 その言葉はどこか他人事で、けれど、どこか体験したようにマスターは語っていた。きっと、本当の武藤秋人の記憶のことを言っているんだと気づいた。曰く、武藤遊戯(マスター)の従弟というだけで、彼は、武藤秋人は虐めにあい、カードを燃やされた……。同胞を殺され、虐げられた苦しみとは比べ物にはならないけれど……でも、今のマスターはその記憶を通して悲しみを感じていた。何より、マスターは最初から彼女の、カミューラの過去を知っているのだから。

 

「それに、帰るって約束したからな。その約束は違えるつもりはない。魔法カード『グローリアス・ナンバーズ』を発動。自分フィールドにモンスターが存在しないとき、墓地のナンバーズ1体を選んで特殊召喚する。その後、カードを1枚ドローできる! 墓地より甦れ、No.39 希望皇ホープ!」

 

No.39 希望皇ホープ ATK2500/DEF2000

 

「またホープか。その希望にまだすがるのね」

 

「ああ、確かに希望が絶望に代わるときもある。だが、逆に絶望を乗り越えた先には希望がある。魔法カード『手札抹殺』を発動。手札を全て捨ててカードをドローする。手札6枚、すべて捨てて6枚ドローする!」

 

「っ! 私も手札を捨ててドローする!」

 

 ここで手札交換! マスターの手札は……やっぱり、攻撃反応系の罠カードとかだったんだ。確かに、もう後がないことを考えれば悪くない選択!

 

「6枚ドロー! ……行くぞカミューラ。俺は墓地のグローリアス・ナンバーズの効果を発動し、このカードを除外して手札1枚をホープのオーバーレイユニットにする! さらに、手札抹殺で墓地へ送っていたエクシーズ・エージェントの効果! デュエル中に1度、『希望皇ホープ』と名のついたモンスターにこのカードをオーバーレイユニットとして装備する! そして、今日何度目になるだろうな……何度も済まないが頼む。俺は希望皇ホープをオーバーレイユニットと一体とし、自らを進化させる! カオスエクシーズチェンジ! 今こそ現れよ! CNo.39 希望皇ホープレイ!」

 

CNo.39 希望皇ホープレイ ATK2500/DEF2000

 

「今更そのモンスターで何ができる! またそのカードを素材にでもする気か?」

 

「いいや! こうするのさ! ライフが1000以下のとき、オーバーレイユニットを1つ使い、相手モンスターの攻撃力を1000ポイント下げ、攻撃力を500アップさせる! 3つのオーバーレイユニット全てを使い、真紅眼の不死竜皇の攻撃力を下げる! オーバーレイ・チャージ!」

 

CNo.39 希望皇ホープレイ ATK2500/DEF2000→ATK4000/DEF2000

 

真紅眼の不死竜皇 ATK2800/DEF2400→ATK0/DEF2400

 

「なっ、真紅眼の不死竜皇の攻撃力が……!」

 

「その竜がアンタの憎しみの炎の象徴だっていうのなら、それを断つ! いけ! ホープレイ! 真紅眼の不死竜皇を攻撃! ホープ剣カオス・スラッシュ!」

 

 そのマスターの言葉と共に、ホープレイが跳びあがり、真紅眼の不死竜皇へと一撃をくらわせた。その攻撃によって、一刀両断となった真紅眼の不死竜皇は爆発し、そのまま粒子となって消えていった。

 

「…………私の負け……か。綺麗な光ね……」

 

「ああ、俺の勝ちだ」

 

カミューラ LP3350→LP0

 

 

 

 

「見事だったわ……私の負け。これで、私の悲願も最早、叶うことはない」

 

「なんで?」

 

 デュエルが終わってからカミューラがそんなことを言い出した。どこか諦めたような顔で、「アンタのお仲間は元に戻してアカデミアの医務室に送ってやったわ」と言って、デッキからカードを取り出した。それは幻魔の扉のカードだ。

 

「これは闇のデュエル。敗者はその魂を……「いや、だからそのカードの効果は無効にしてデュエル中に使えなくしたじゃん」……え」

 

「確かに、闇のデュエルとして、ダメージがリアルに反映はされていたけどそれだけだったでしょ。確かに俺が負けたらアンタに人形にされていたかもしれないけど、アンタが負けたところでアンタの魂が幻魔の扉に食われることはないんじゃない?」

 

 そんな馬鹿な、とカードを見るカミューラ。幻魔の扉のカードは全く反応を示さず、まるで役目を終えたかのように消滅した。そして、彼女のセブンスターズのとしての証である闇のアイテムも、敗北をしたことからか粉々に砕け散って消えてしまった。おかしいな、そんな描写本編ではなかったはずだけど。って、思ったらマナのやつピースしてやがる。お前の仕業か。

 

「これから、貴方は私をどうする気かしら? 私を殺すの?」

 

「……何故?」

 

「私は貴方の仲間を傷つけた。報復してしかるべきなんじゃないの? 貴方達人間はそういう種族だ」

 

 ……中世ヨーロッパの人間と、現代人を比べないで欲しいんだけど、って思ったけど、流石にそれは無理もないか。この人影丸理事長に起こされるまでは眠っていたんだろうし。

 

「そんなことしないよ。高校生に殺しなんざできるかっての。けどそうだな……どうせだったらカミューラ、俺に雇われてくれない?」

 

「……は?」

 

 ポカンとした様子で「何言ってんだ此奴」という表情になるカミューラ。まあ、言いたいことはわかる。だが、本来消滅するはずだったセブンスターズの1人がここにいるんだ。悪い話じゃないだろう。戦力としてもそうだし、何より、今の彼女は貴重な『情報源』になりうる。俺はそう判断した。

「仕事の斡旋、給料、寝床、全部提供するけど?」

 

「野望が潰えたとはいえ、私が人間を憎んでいるのは変わりないのよ? さっきまでアンタの敵で、アンタの仲間を散々傷つけた。そんな吸血鬼を雇うっての?」

 

「それに、アンタは俺に負けたんだ。敗者が勝者の言うことを聞いてくれてもいいんじゃない?」

 

「うぐっ……ああ言えばこう言うわね、アンタ。で、アンタの本音は?」

 

「情報が欲しい」

 

 俺がそういうと、カミューラはやっぱりか。と、呟いた。そう、この戦いでもそうだったが、お互いに情報というのは大切にしていた。故に、情報を手に入れるためにも彼女がセブンスターズという立場であれば情報は貰えそうにない。だが、こちら側に引き込めば、それは関係なくなる。まあ、裏切者とか言われるかもしれんが、セブンスターズってそもそも仲間意識なんて皆無だし。

 

「ハァー……まあいいわ。別にあの『男と女』の人間に忠誠を誓ったわけじゃないし」

 

「……男と、女?」

 

 今なんか、聞き捨てならない単語が聞こえてきたぞ。どういうことだ? 俺が知る限り、黒幕は影丸理事長のはずだ。作中でセブンスターズ側の女性はカミューラとタニア、首領・ザルーグ一味のミーネくらいのはず。だというのに、女? どういうことだ?

 

「ええ、私の雇い主よ。成功の暁には私の種族の再興を約束するってね」

 

「……気になっていたことがある。アンタが使ってたシンクロモンスターのことだけど、他にもカードがあるのか?」

 

「ええ。あるわよ」

 

 そう言ってカミューラがエクストラデッキからカードを取り出して俺に見せてきた。デュエル中気になってはいたが、やっぱりか。

 

「このカード、真紅眼の不死竜皇……これはまだ、発売されていないはず」

 

「は? けど実際ここにあるじゃない」

 

「それはそうなんだけど……」

 

 そう、真紅眼の不死竜皇を始めとして、いくつかのシンクロ、エクシーズ、さらに言えばユニゾンビだって、まだカード化しておらず、俺はリストを提出した段階で止まっている。発売はまだ先の予定だったはずだ。なのに、なんで彼女のデッキにそれがある?

 

「この辺のカードも、アンタの雇い主が?」

 

「いいえ、そっちは雇い主の秘書って女が私に渡してきたわ。新ルールのガイドブックも一緒にね。名前は聞かなかったけど……そうね、人間じゃなさそう。私に似たような、それでいて全く違う感じだった」

 

 ……なんか、雲行きが怪しくなってきたな。やっぱりペガサス会長の言う通り、俺の知る世界とは異なる、よく似た並行世界、もしくは下位世界なのか。そんなことを考えていると、急に眩暈がきた。そういえば、俺今回3桁になるまでライフ削られていたんだっけ。

 

「ちょ、貴方大丈夫!? いや、私が言うのもなんだけども!」

 

「す、すまん、無理……レッド寮まで、部屋まで連れてって」

 

「はああああ!? ちょ、まだ私アンタに雇われるって了承してないのに!」

 

「やってくれたら、トマトジュース出すから」

 

「やっすい報酬ね! もうアンタ頭廻ってないでしょ! ああもう! 仕方ないわね!」

 

 そう言って俺を担ぎ上げるカミューラ。米俵を担ぐみたいに持たれているのが、若干不服というか、カミューラ、やっぱ吸血鬼だからパワフルらしい。

 

 「ちょっと、しっかりしなさいよ! アンタの恋人とやらが出迎えたらどう説明すればいいかわからないんだから!」

 

「だ、大丈夫、多分……」

 

「不安しかないわよ! あんな砂糖吐きそうな甘々なシーン見せられてるのに! そんだけ思われている女のところに敵だった女がアンタを連れて帰ってきたりなんかしたら何してくるかわからないじゃない! ちょっと! 起きなさいよぉ!」

 

 必死に走っているカミューラの悲鳴に近い声を聴きながら俺は意識を落とすことになる。

 

 

この後、無事にカミューラは俺をレッド寮に届けてくれたが、雪乃たちがブチギレて、カミューラが1VS3でデュエルをやる羽目になったのはまた別のお話である。




というわけで、またも原作とは違う話を醸し出しつつカミューラ戦決着です。
次回からは、いろいろすっ飛ばしたり、オリジナル要素入れたりして色々やる予定ですのでお楽しみに。

リメイク前との相違点

VSカミューラ戦決着
精霊たちの力があればだいたい何でもできる

カミューラの闇を払う
元々悪い人じゃないんですよね、カミューラ。だいたい中世の人間が悪い

黒幕の影に
新要素、この人物がまたカギとなってきます

ブチギレゆきのん
ただ八つ当たりでデュエルになっただけ

次回はオリジナル編と、学園祭につながる感じでいろいろ書いていきます

無類様 vastitude様 カロン様 龍牙様 モブ提督様 風森斗真様 ハザマ0313様 ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民様 茶ゴス様 Skazka Priskazka様 rosario様

感想ありがとうございます。
またの感想をお待ちしております。

といち様 えび123様
高評価ありがとうございました。いただいた評価に慢心せず、これからも頑張ります。 
ALPHA-JBF
残念ながらお眼鏡にかなわず低評価をいただく形となりましたが、いただいたコメントを参考に邁進してまいります。

次回 51「変わる世界」



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51「変わる世界」

続きが書けたので更新です。

今日からロックマンエグゼコレクションが発売したので、投稿頻度落ちるかもしれません(オィ
とりあえず、1から順番にプレイ中です。

にしても、前回のお話で思いの外、カミューラの救済について好評で、嬉しかったです。タッグフォースの結末を見ているだけに、やっぱり彼女も救済したいな、ということで、今回救済となりました。

さて、今回からしばらく日常界から文化祭まで続いて行きます。
タニヤ戦まではまた、温泉の話と、万丈目兄弟の話があるので、またここでいろいろとアイデアをひねり出そうかと思います。
ではどうぞ


 

 カミューラ戦から5日が経った。とりあえず、カミューラの誤解というか、俺の勝利と、彼女が協力者(雇用)ということで決着がつき、今後はこちら側に付いたことを雪乃たちだけでなく、十代たちにも伝えた。で、結果としてどうなったかというと……

 

「吸血鬼なんだって!? すげぇ! 俺ともデュエルしようぜ!」

 

 十代のこんな言葉と共に、セブンスターズの実力を体感したい、と鍵を持つメンバー全員とカミューラがデュエルすることになった。最初は渋っていたカミューラだったが、度重なるデュエルによって「もういいわ! 誰からでもかかってきなさい!」と、一種のランナーズハイ状態となって、20戦くらいデュエルをしていた。まあ、それでも体力が切れないのは流石は吸血鬼だろう。鍵をなくしたカイザーも、人質無しのデュエルで再度勝負し、勝利を収めた。人質と言えば、その人質になった翔に関しては、カミューラに対して苦手意識を持っていたが、彼女からの謝罪を受けて、とりあえずは和解できたようである。今はレッド寮の食堂にて朝食を取っている。

 

「で、結局カミューラから情報って得られたわけ?」

 

 硬めのトーストにバターを塗り、目玉焼きを乗せた物を食べるツァンからそんなことを聞かれる。一応情報は得ることはできたが……

 

「残りのセブンスターズが半分くらい人間じゃないって話くらいか」

 

「もうオカルト片足突っ込んでるから否定はしないけど、本当にいるのね、妖怪とか、お化け」

 

「……」

 

 そんな会話に朝から顔色を悪くするのが雪乃である。味噌汁を啜って平常心を保っているように見えるが、雪乃、それは味噌汁じゃなくてさっき入れたばっかりのお茶だ。熱いぞ。

 

「あっつぅい!?」

 

「もう、何しているの雪乃。はい、タオル」

 

「ありがとうレジー……」

 

 まあ、カミューラの話から聞くに、セブンスターズは雇い主から選ばれた存在というだけであって仲間意識とか、そういうのは全くないらしい。簡単に言うなれば傭兵集団というのが正しいだろう。実際問題、残っているセブンスターズはあと5人。俺はもちろん残りを知っているが、レジーからも「この先のこと知っているんでしょ? 教えておいて」と、こっそり聞かれてしまったので、概要を教えてはいる。そのため、今、シリアルを食べているレジ―に関しては、カミューラがこちら側に付いたことについては驚き半面、俺ならそうするだろうと思ったという核心半分だったらしい。俺のことを傷つけたのは別問題らしいが。

 

「で、そのカミューラはどうしたのよ。姿が見えないけど」

 

「とりあえず、今起きているセブンスターズの問題について海馬社長に伝えて、こっちで雇用できるか聞いてみた」

 

「結果は?」

 

「あれ」

 

 そう言って俺が指をさすと、いつもの真っ赤なドレスではなく、縦セーターにジーパンを履き、真っ赤なエプロンを着け、髪の毛をポニーテールに結わいたカミューラがそこにはいた。

 

「ほら、A定食できたわよ! 持っていきなさい!」

 

「ありがとうございますカミューラさん!」

 

「お礼なんていいからさっさと食べなさい! 後がつっかえてるのよ!」

 

「えぇ……」

 

 オシリスレッドの生徒に食事の乗ったトレーを渡して、注文を取っているカミューラの姿あった。そんな様子に、ドン引きのレジー。誰も、あれが吸血鬼とは思うまい。レッド寮での、副寮長として、家事全般、管理などを任されることになったらしい。まあ、元々、この寮って大徳寺先生が担当していたけど教師が担当するって結構な負荷かかるし。社長曰く

 

『吸血鬼などという非現実な存在が本当にいるかはともかく、お前のデュエルログを見る限りなかなかの実力者だ。デュエルアカデミアでその腕を見せれば生徒の模範にもなる。良かろう、雇ってやる』

 

 とのこと。まあ、実際のところカミューラの噂はすぐに広まり、イエロー寮やブルー寮から、態々この食堂に飯を食べにくる生徒がいるくらいには、彼女の美貌は高い。まあ、あの不気味な場所でなければ、そりゃ美人の彼女は映えるよな……本性現さなければだけど。

 

「あれが、世界で生き残っている吸血鬼には見えないわね」

 

「まあ、実際この5日で人間に対する恨みつらみは微妙に考え直そうとしているみたいだしな」

 

 元々、彼女が人間を憎むようになったきっかけは中世の人間たちによる迫害と虐殺が原因である。回想とかも結構えぐかったような、気がしなくもない。元々の彼女の性格と言えば、口は悪いが、なんだかんだで年下に対して面倒見がよく、細かいことも気に掛ける程度には人……否、吸血鬼が出来ている。案外、彼女は教師とか相談員向けかもしれない。本人に言ったら「柄じゃない」って言われたけど。そして、そんな生徒たちと、つまり人間の子供と触れ合う機会を経験してか、自分を憎む人間というのは、自分の知っている人間だけが全てではない、と思うようにはなったらしい。

 

「カミューラさん! 今日も罵ってください!」

 

「やかましい! そんな趣味私にはないのよ! 食事の注文するか、帰るかどっちかにしなさいおバカ共!」

 

『ありがとうございます!』

 

 一部、彼女のたびたび発する罵声によって喜んじゃう変な一団が出来てしまったのは見なかったことにしよう。余りにも酷い時は、デュエルでわからせてるとか聞いたし……それはそれで、大丈夫か不安にはなるが。

 

「カミューラ、デュエルのしすぎで仕事回らなくなったりしないのかな」

 

「まあでも、実際カミューラのデュエルの腕ヤバいわよ。響先生にも匹敵しそうだし」

 

「カードというか、コンセプトがはっきりしていて、そこから発展もしたデッキも使ってくる。私たちでも勝ち数はギリギリ……秋人があんなボロボロになったのもわかるわ」

 

 そう言っている雪乃も、デミスルインでは戦績は五分だったようだ。ツァンの真・六武衆ではツァンが微妙に軍配が上がる。そして、レジーも似たような感じだ。

 

「今の時代を生きるのにはデュエルは人間を下せる有力な手段って考えているみたいだからな。結構勉強したり、俺にカードの購入の相談とかしてくるし」

 

「うへぇ、また相手するときはしんどそうね。対策しないと」

 

 そんな感じで、朝食の時間は過ぎていくのであった。

 

 

 

 

『デュエルアカデミアの様子はどうだ? 武藤秋人。新ルールの改定、新カードの登場、本島の方での大会などではお前の予想通り、そこそこにテーマやコンボ性を重視する決闘者は増えてきたが』

 

「んー、まだパック数やカードが少ない所を見ると何とも言えません。本島と違って、定期便に積まれてるパックはそう多くないので格差はできてる気がします。まあ、パックの購入制限があるので、カードの行き渡り方は全クラス均等になっている様子ではありますが」

 

 そして、本日はお休みにつき、雪乃とツァンは一度、元々のオベリスクブルーの女子寮へ戻り、洗濯などをしに行った。レジーはここ連日、鍵を持つメンバーとのデュエルで自分と、鍵を持つメンバーを鍛える、と、色んなメンバーとデュエルをしていた。で、俺はというと、現在海馬社長と、リモートによって会議中というか、定例の報告会である。

 

『ふん……やはり、そう言った格差は出てしまうか。その辺りは、カードパックの増産と、デュエルアカデミアへの定期便の積載を増やすことで改善できよう。無論、限度はあるがな』

 

「社長、大きな大会でのデュエルや、カードの売れ行きの変化はありましたか?」

 

『プロ・アマを混同したデュエル大会では上位入賞は俺が事前にテストカードを渡した連中だが、それを見習ってテーマ性を統一する動きは多い印象を受けた。ただ、城之内しかり、そしてどこぞでデュエルをしている遊戯などが持つような『真紅眼』や『ブラック・マジシャン』のサポートが入ったパックはあまり売れ行きは良くない。やはり、大本を持っていないと意味がないからな」

 

 ……あー、やっぱりそうだよな。ネットで見たら『真紅眼』のカード、数百万とかになってたし。ブラック・マジシャンとかは元々、決闘王の武藤遊戯の相棒ってことのあって人気だったし。

 

「やっぱり、カードの再販をすべきじゃないですかね?」

 

『……それについては、ペガサスからも打診はあった。青眼の白龍を含めてな』

 

 ……え、それいいの? 確かこの世界の青眼の白龍って、強すぎてすぐに生産中止になったせいで、世界に4枚しか出回ってないって話だったと思うんだけど。

 

「一応聞きますけど、どういうお考えで?」

 

『青眼の白龍は極少数での生産か、大会での優勝賞品としての検討をしている。他のカードも、大会の景品、もしくは何カートンかに1枚の割合設定で封入する予定だ』

 

 ……マジでか。あの社長が、あの海馬瀬人が青眼の白龍を量産することを許す。それが一番驚きなんだけど。

 

『何を驚いている。最初こそ、青眼の白龍は生産中止になるほどの強さを誇っているが、現在の環境を考えれば対処方法などいくらでも生まれるだろう。なにより、他の者が青眼の白龍を集めたところで、俺に勝てるものか。それに、それによって青眼の白龍のサポートも公に出すことが簡単になる』

 

 あ、そっちが狙いですね社長。一応、今も青眼サポート系のカードは送ってるけど、大会とかになったらなんだあのカードってなっちゃうもんね。

いやまて、大会の景品にするってんなら、この人自分で出てカードかっさらう気じゃないだろうな。

つーか、前にリモートでデュエルしたけどアニメカードと、青眼を織り交ぜたデッキがヤバすぎて惨敗だったもん。この人以上の青眼使いはそれこそあの正義の味方くらいになりそうである。

 

『お前が言っていた、ゴールドレアというレアリティで、大会などで活躍したカードを詰め込んだパックの発売も検討中だ。こちらも、確かにお前の言う通り、売れ行きは良くなるだろう』

 

「でしょうね。俺のいた世界でも、そのパックのために争奪戦が起きてましたから」

 

 まあ、そこにゴールドシークレットとか、とんでもない奴を出したり、周年記念パックでプリズマシークレットレアとかいう何十万とか、何万とかの価値が付くカードも増えたからね。この話はまだしないでおこう。

 

『ただ、前にも話したが、カードの再販はその”今”あるカードの価値を下げることにも繋がる。それによるトラブルや、カードショップからの苦情などの対応は増えるだろうな』

 

「数カートンに1枚の確率って考えればあんまり下がる気もしませんけどね。結局、そのカードを求めて買う人、売る人でカードゲーム経済って廻ってますし。なにより、これはトレーディングカードゲームなんですから。その辺はもっと幅は広げていくべきかと」

 

 昔、俺の世界で何度も再販を望まれ、再販した途端瞬殺で売り切れた『灰流うらら』がいい例だ。あれの入ったパックが一瞬でなくなる、ストラクチャーも一瞬で消える、未開封品にプレミアがつく。結果、灰流うらら の値段は対して変わらない。なので、結局カードショップも潤うとは思う。

 

「あ、カードで思い出しました。カミューラの使っていたカードの件、あれどうでしたか?」

 

『ああ、お前のいう吸血鬼の使っていたシンクロモンスターやチューナーのことか。調査をさせたが、確かにインダストリアル・イリュージョン社に『ハッキング』を受けた記録が見つかった。お前がインダストリアル・イリュージョン社に出した、リストがコピーされていたようだ』

 

「……やっぱり」

 

『追跡はしたが、どうやらプロのようでな。いくつもの国を経由して潜り込んできたようだ。しかも、追跡をしてきたパソコンを破壊するトラッププログラムも混ぜるというふざけた相手だ』

 

 ……KCの追跡すら振り切るって、それなんてチート? 化け物レベルのハッカーじゃねぇか。何より、それをちゃんとデュエルディスクに読み込ませるカードとして完成させているというのも質が悪い。この時代において、KCの技術躍進によってコピーカードなどは認識できないようになってきている。それすらも掻い潜ってくるというのは、いったい何者なんだろうか。

 

「コピーされたリストって……」

 

『来月、または来年度を発売目途にしていたカードだ』

 

「そのカードがセブンスターズに渡っている可能性考えると、頭痛いな……」

 

『ふん、そちらの調査は引き続きこちらで受ける。それと、お前の依頼である『影丸理事長』の追跡についてもな。確かに、奴はしばらく連絡がない」

 まあ、一期のラスボスだから、そりゃ暗躍しているだろうけど、学園の理事長っていう立場を守るために、オーナーからの連絡くらいはしっかりしそうなものだけど。

 

『お前は引き続き、そのセブンスターズとやらの対処にあたれ。鍵を持つもののデッキ強化、タクティクスの強化はお前の仕事だ』

 

「わかりました」

 

『今、この世界のデュエルモンスターズは変わり始めている。いや、むしろこの世界そのものが変わり始めているといったところか……その波に飲み込まれないように、せいぜい足掻け』

 

 そう言って通信が終了。会議はお開きとなった。

 

「世界が変わり始める、か……」

 

 俺がこの世界で、武藤秋人に憑依したときから、世界は変わり始めたのだろう。けれど、今の時代のカードではなく、遠い未来のカード達がこの今の時代にもたらされ、多くの決闘者たちがその手にそのカードを取り始める。それによって、世界は大きく変わり始めたのは社長の言う通り、よくわかる話だ。

 

「足掻いて見せますよ。俺をこの世界に引きずり込んだ原因を突き止めるまでは、そして、この体をちゃんと『武藤秋人』に返す、その時までは」

 

 そう呟きながらも、俺は部屋に”残っている人物”へ声をかけることにする。

 

「おい、マナ。終わったぞ」

 

「ホントに? わーい! マスター! さっそくデュエルしよ、デュエル!」

 

 そう、部屋にいるのは実体化したマナであった。ここに翔が来たら不味いが、今日、十代と翔は確か補修で学校のほうに行っているので、ここに来ることはないだろう。サラは言わずもがな、雪乃のそばにいるわけだが、ここ最近はミラ、マナが交代でお留守番をし、マハードとどちらかが島を調査するという形を取ってくれている。ここにさらにカミューラの蝙蝠も加わるのだから、心強いことこの上ない。で、今マナが何をしているかというと……

 

「できたのか? デッキ」

 

「うん! 私専用の、私のためのデッキ! 仲間のガールズで戦うデッキだよ! どうどう?」

 

「魔法使いビートって感じだな……っておいこら、なんでティマイオスの眼入れてんだお前。それ、まだ試作段階だぞ」

 

「だってー、竜騎士の私になるにはこれ使わないとダメでしょ! 融合とドラゴン族入れるとデッキ圧迫しちゃうし」

 

 マナが現在作っているのは文化祭に向けた「ブラック・マジシャン・ガール」のデッキである。なんでも、レッド寮でコスプレデュエルというものがあると聞いて、ならば実体化すればデュエルに紛れられるじゃん! と、のこと。

 

「ちゃんと妨害札と、ドローソースとって感じで、マスターの真似してみたよ」

 

「マジシャンズ・ロッドも黒の魔導陣もなし……マジでガールデッキか」

 

 いやまあ、うん、ファンデッキとしてのレベルとして戦える程度には強いなこれ。今のカギを持っているメンバーに対してはたぶん厳しい所が多々あるが、火力を出す部分はしっかりと抑えている。文化祭荒れるぞこれ。ブラック・マジシャン・ガールが下手するとセブンスターズとして疑われる程度に

 

「どうかなマスター! これなら私とデュエルしてくれる?」

 

「わかった、やるか。けど、誰か帰ってきたら中断だからな」

 

「はいはーい」

 

 そんなわけで、マナとのデュエルに興じることになる。結果として、俺が勝ったが、そのあと「もう一回!」 というのが4回くらい続いたことを記しておく。

 

 

 

 

 そこはどこか。暗い、闇の底だった。そこには1人の少年が座り込み、何もないその闇を眺めていた。黒い髪に赤い髪が混じる少年の瞳に光はなく。ただただ、その虚空を眺めるのみである。

 

「こちらにいらっしゃったのですね」

 

「…………」

 

 その何もない闇の中に1人の女性が姿を現す。闇の中ゆえに、その姿は捉えられないが、声から女性である、という判断ができる程度である。

 

「……」

 

「ええ、ええ、貴方様のおかげで、また一つ、カードの生成に成功しました。着実に、デッキは完成しつつありますよ」

 

「……」

 

「はい。もちろんです。私は貴方のためにある存在……貴方の命に従いますわ」

 

 青年は言葉を発さない。けれど、女性はその彼の意図を理解したかのように一方的に会話を続けていた。傍から見れば奇妙な光景に見えるだろう。しかし、今はその2人しかいないのだ。それに対して何かを言う者はいない。

 

『キュウ』

 

「……」

 

 そして、その少年の足元に現れる1体のモンスター。黄色い体に羽の生えたそれはデュエルモンスターズに登場するモンスターとほぼ一緒。名を、プチリュウという。しかし、そのプチリュウ、所々が煤だらけで、やけどあとなのか、皮膚の一部がただれているようにも見える。

 

「貴方もまだ完全ではありませんよ。お戻りなさいな」

 

『キュウィ!』

 

「まったく、強情ですわね……まあ、いいですわ。貴方一人くらいであれば、負担にはならないでしょうし」

 

 女性はいいじゃないか、と抗議しているようなプチリュウにため息を履きつつも、その少年を後ろから抱きしめていた。

 

「計画は順調です。ただ、それが実行できるのはまだ先のこと……ですから、”マスター”、しばらくまた、共にいましょうね」

 

「……」

 

「ええ、ええ、私たちはどこにもいきませんとも。たとえ依り代が”灰にされようとも”、その心は貴方様の傍におりますとも」

 

 優しく、妖艶な声色で、女性は少年を膝にのせて頭を撫でる。

 

「そして、思い知らせてやりましょうね。私たちをこんなにした者たちに、貴方を助けてくれなかった世界に、そして……”武藤遊戯”に、貴方の力を思い知らせてやるのです」

 

「……」

 

「はい。そのための力は着々と……何より、”彼”が優秀ですからね。あれがいれば、どんなカードも思いのままですから」

 

 少年の見えないところで、その女性は口を弧の字にして笑っていた。

 

「さあ、また少しお休みください。そうすれば貴方に、この広がる精霊世界の闇の一部が手に入るのです。最強の貴方と最強のデッキ……それさえあれば貴方の思うが儘。だから委ねなさいませ

 

 

……我がマスター”武藤秋人”」

 




というわけで、ちょっとした箸休め回でした。
いつも多くの感想、評価、デュエルのご指摘ありがとうございます。
後、毎回誤字訂正をしてくれる方。気が付いたところは書き直しているのですが、見逃してしまうことが多いので助かっています。
これからもよろしくお願いします。

リメイク前にはない話のため、変更はなし

カミューラかーちゃん
風貌は何というか、めぞん一刻の音無 響子みたいなイメージ

食堂の制度について
実は別にどこで食べてもOKな設定

社長のカード再販についての見解
青眼の白龍は嫁だけど、カードゲームの未来のことを考えて再販を許可するか検討中
大会景品となる場合、自分が出て優勝すればいいとか考えている。

カードの価値
MTGのパワー9と同じような感じなのがこの世界なのです……

マナまで強化フラグ
せっかくマジシャンガールズいますからね

最後の少年と女、そしてプチリュウ
この物語の原因と、鍵となる者たち。またこの話はいずれ……

龍牙様 ぜぜぜ様 風森斗真様 Rarufu様 ハザマ0313様 ぶの様 ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民様
感想ありがとうございます。またの感想をお待ちしております。

Rarufu様
高評価ありがとうございます。いただいた評価に慢心せず、これからも頑張ってまいります。

52「温泉の死闘」(前編)



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52「温泉での激闘」(前編)


お久しぶりに続きが書けたので投稿。どうも、マスターデュエルでティアラメンツとしか当たらず、ホープデッキでプラチナから上に上がれない秋風です。
ロックマンエグゼたのしいぃぃ!と、遊びつつも、なんとか続きが書けました。今回に関しては色々ツッコミ処満載となりますが、『真面目な』デュエルは次回に行いますので、どうかご容赦を

では、どうぞ。


 

 俺は、とある夢を見ていた。デュエルをする夢だ。いつもデュエルしているし、デュエルアカデミアにいるし、俺にとっては楽しいことこの上ない。そう、それがいつもと同じならば。だけど、それは普通のデュエルには見えなかった。翔が、三沢が、万丈目が、明日香が、カイザーが、雪乃やツァン、そしてレジー達まで倒れ伏していて。立っているのは俺と、俺の対戦相手だけ。その俺の隣には相棒のハネクリボーが必死にその闇から俺を守ってくれていた。だが、その相手は自分のフィールドに巨大なモンスターを出現させた。そして、その傍らには緑色の髪の、女の子がいる。見たことのない、カードの精霊だった。けれど、その精霊の目は虚ろで、そして何より憎しみに満ちていた。

 

 

『遊城十代へ、ダイレクトアタックだ』

 

 

 対戦相手がモンスターへ攻撃命令を下す。その攻撃の光で、その対戦相手が露になった。黒い髪に、所々赤い髪がかかる髪。いつもよく見る、俺と同じように前を開けているオシリスレッドの制服を着ているが、いつものトレードマークとなりつつあった帽子は見当たらない。そして、いつも楽しそうにデュエルをするその表情は暗く、沈んでいる。

 

 

俺の目の前にいるのは……仲間で、友達のはずの、秋人だった。

 

 

「うわああああああ!?」

 

 そこで目が覚め、俺は慌てて起き上がった。ハアッ、ハアッ、クソ、またこの夢……! あの夢はいったい何を指しているんだ? ここ最近、同じ夢ばかり見る。夢っていうのはいつもは憶えてないことが多いけど、この夢だけはかなり鮮明に憶えていた。倒れているみんな、そして、俺と秋人の首にはセブンスターズ達が狙っていた鍵をつけていて……あれは、洞窟、だよな。扉みたいなものもあって、あと、あとは……

 

「そうだ、倒れている中に、知らないカードの精霊がいるんだ……夢の中で見た、秋人の隣にいた、見たことない、人形みたいなモンスター。その隣にいる黄色いのは多分プチリュウだよなぁ……けど、秋人はプチリュウのカードの精霊なんていないし……」

 

 正直、わからないことだらけだ。今のところ、セブンスターズとのデュエルをして勝っているのは秋人だけ。クロノス先生も、カイザーも負けたため、残っているのは俺と、秋人と、明日香と、万丈目と、三沢だ。あの夢が正しいのなら、俺と秋人以外は負けて……でも、なんでその鍵を持っている同士でデュエルしてるんだ。あーもー! マジでわかんねぇ!

 

『クリクリー?』

 

 そんなことを考えていると、相棒のハネクリボーが体を傾けて、心配そうに俺を見ていた。おっとっと、いつまでも悩んでいるんじゃ良くないな。

 

「悪い、相棒。大丈夫だ」

 

『クリクリー!』

 

 俺の言葉に嬉しそうに飛び回り、デッキの中へと戻っていく。ここ最近はハネクリボーの存在を強く感じるようになった気がする。秋人曰く、セブンスターズの狙っている鍵を奪われた結果、その幻魔を封じている場所が少しずつ緩んでいるのが精霊に影響しているらしい。つまりは、精霊が生きている場所と、俺たちの世界の境界がなくなりつつある、とか。よくわからんけど、それは不味いなってのはよくわかる。

 

「んー……なんか、ちょっと暗いことばっかり考えちまうなぁ。なんかなかったかな」

 

 購買でドローパンでも買うか……ん、購買? そういえば、購買の隣のお知らせの掲示板に気になることが書いてあったんだよな。確か、温泉の修理が終わったとかなんとか。そうか、温泉か!

 

「ただいまー、兄貴。昼寝してたっスか?」

 

「お、翔! いいところに! 温泉行こうぜ!」

 

「……温泉?」

 

 これの言葉に、翔は首を傾げるのだった。

 

 

 

 

「……なんなんだ、あの夢は」

 

 最近、似た夢を見ることが多くなった。幻魔を操り、十代とデュエルをするという夢。なぜ、影丸理事長ではなく、俺が十代とデュエルをすることになってんだ? いや、あれはまるで、俺じゃなく、別の誰かが俺としてデュエルを……っ!

 

「武藤秋人が、デュエルをしているのか?」

 

 一度、体が殆どいうことを聞かずにデュエルをしたことがあった。武藤秋人を過去に虐め、そして、彼の宝物であったはずのカードを燃やした主犯の男とのデュエル。あの時、ホープレイVまで出すとかいう、やっちまった感満載のデュエルだった。そして、夢で俺の横に立っていた精霊のカード、あれは恐らく……

 

「エルシャドール・ミドラーシュ……だよな、どう見ても」

 

 そう、俺の隣に立ち、時折夢の中で笑い声を聞いていた。十代が傷つくたびに、皆が倒れるたびにクスクスと嬉しそうに笑う彼女の耳障りな声を憶えている。俺はおもむろにシャドールのカードを取り出した。一応、シャドールのデッキも作っているから、それは間違いない。もし、アイツもカードの精霊なら、ミラの時と同じように触ったら何か起きるのではないか。そう思って触ってみるが特に何も反応はない。

 

「俺の考えすぎ、か?」

 

 もしも、彼女が俺をこの世界に引きずり込んだ黒幕だったとしたら、カミューラが言っていた影丸理事長の秘書の女、というのがこのカードになる。海馬社長や、ペガサス会長の言う通り、俺の知る遊戯王GXとは大きくズレていることを考えると、本来のGXの物語のことを考えるのはよくないとは思うんだけど……カミューラじゃないが、シャドールのメタや三幻魔のメタ、考えないとダメかもしれないな。

 

「ただいまー」

 

「ん、3人ともお帰り」

 

 カードをしまい、明日の授業の準備をしようかと思っていると、そこへ雪乃、ツァン、レジーの3人が部屋に戻ってきた。レジーはともかく、雪乃とツァンは大徳寺先生が黙認しているとはいえ、勝手にレッド寮の、俺の部屋に泊まっている。そのため、部屋着や下着は寮で洗濯したり、必要分を持ってきたりしているのである。まあ、俺の部屋はもともと3人部屋だったのを1人で使っていたから広いし、使う分には構わんが、私物がだいぶ増えたなとか思う……それにしても

 

「3人とも遅かったな。いつもなら授業終わった後に分かれて30分もしないでここに来るのに」

 

「ああ、それね。ちょっと麗華に捕まったのよ」

 

「……委員長に? また?」

 

 麗華、こと原麗華という、クラスの委員長的存在。眼鏡をかけ、如何にも委員長ですっていうオベリスクブルーがいるのは俺も知っている。雪乃の話では、中等部から知り合いらしい。これに関しては、ツァンから雪乃が中等部時代に素行が悪く、授業は抜け出すわ、門限無視で夜遊びはするわ、男をたまに誘惑したりするわで、激突することが多かったという話を聞いた。ここ最近も、雪乃たちが俺に絡んでいるのを見て、不純異性交遊はよくないと、俺ではなく雪乃にデュエルを仕掛けることが多い。

 

「ボクも巻き込まれて、タッグデュエルしていたから時間かかったのよ」

 

「なるほど……ってか、タッグデュエル? 珍しいな」

 

 このアカデミアでは、殆どタッグデュエルなんてしないのに。ちょっと興味が出たので、ログを確認する。

 

藤原雪乃&ツァン・ディレ VS 原麗華&レイン恵

 

 ……レイン恵? そんな生徒いただろうか。そう思って2人に聞くと、2人もよく知らない生徒だという。委員長の話では、元々はノース校の生徒だったが、ノース校では他に強い生徒がいないとのことで、こちらに転入してきたらしい。

 

「で、そのレイン恵って、これ本名なのか?」

 

「私も気になったから聞いたんだけど、本名は『雨野恵』。けど、その雨野っていう苗字が嫌で、レイン恵って名乗ってる……そう麗華が言っていたわね」

 

「委員長が?」

 

「あの子、デュエル中以外はほとんど……っていうか、デュエル中も最低限しか喋ってなかったわね」

 

「あれよ、日本でいう『不思議キャラ』ってやつよね!」

 

 と、2人の言葉に、レジ―がたとえを出したが、不思議キャラねぇ。その雨野という苗字の委員長の説明に、ツァンが彼女から「という設定」とポツリと聞いたとかそうでないとか。そんな会話をしながらデュエルログを見ていると、俺は委員長がなぜ彼女を雪乃との対戦でのパートナーにしたのかを理解した。

 

「雪乃、お前よく頑張ったな……」

 

「うふふ、秋人。貴方はわかってくれるのね。私の苦労」

 

 そう言って笑みを浮かべて俺に嬉しそうに抱き着く雪乃。若干、顔が青かったのにも納得がいった。この子、カミューラと同じアンデットデッキ使いか。しかも、ログを見る限りだとアンデットワールドまで使っているガチアンデットワールド使い。真紅眼の不死竜から始まり、シンクロのハ・デス、アンデット・スカル・デーモン、デスカイザー・ドラゴン……んんっ!? /バスターまで!? 確かに、/バスターシリーズはリストとして出して販売もされているが、ここまで使いこなすのか。内容から見れば、委員長はバーンデッキ使いのためバーンで攻めつつ、レイン恵がアンデットで攻める……戦略としてもそうだが、雪乃がホラー系苦手なの委員長も知っているのか。なんだかんだ、知り合いというよりは友達に近いのだろう。委員長の本気度具合が伺える。

 

「あ、そうだ秋人。さっき、カミューラから教えてもらったんだけど、明日の昼頃まで、レッド寮の浴場は工事で使えないって言っていたわ」

 

「まじかよ。今日、体育があったからそれは困るな……」

 

 そう思っていると、ドアを叩く音が聞こえた。

 

「おーい、秋人! いるかー?」

 

「ああ、鍵は開いてるよ。十代」

 

 声の主は十代だった。扉を開けた十代とその後ろにいる翔と隼人の手には、何やらエコバックのようなものを持っている。

 

「お、皆揃ってるじゃん! 丁度いい。皆でアカデミアの温泉に行こうぜ! 温泉!」

 

「温泉?」

 

「ああ、あの火山を利用して作られたっていう温泉のこと? あれって、この前まで工事中って、ボクはトメさんから聞いたけど……」

 

 社長が、アカデミアの改修工事をしたときに、レッド寮とかだけではなく、所々老朽化した箇所も直すという話になったのを覚えている。だが、十代の話では先日それが終わり、リニューアルオープンしたというのを購買で見たそうだ。

 

「いいぞ。レッド寮の浴場、明日まで使えないらしいし、何より今日体育があったから、汗臭いの何とかしたかったんだ」

 

「おっしゃ! なんか、男女混合だから水着は必要らしいからな。ちゃんと用意して来いよ! 雪乃たちはどうする? 3人はブルー寮で入れるだろうけど」

 

「そうね。構わないわ。たまにはそういうところで羽根を伸ばすのも悪くないわね」

 

「……けど、そこに前科持ちが1人いるのよね。十代、隼人、ちゃんと見張ってなさいよ」

 

 了承をする雪乃だが、その隣でジト目で翔を見るツァン。そんなツァンに、慌てる翔。そういえば翔は、クロノス先生の仕業とはいえ、覗きの嫌疑がかけられたなそう言えば。そんな翔は慌てて絶対に覗いたりはしないという。そんな翔にクスクスとレジーも笑っている。

 

「じゃ、準備したら外で集合な!」

 

 そう言って十代達3人は外へ。俺もタオルと、アメリカで1回しか使わなかった水着を取り出した。学校指定の水着でもいいんだけど、特に指定はないらしいのでこっちにする。そんな準備を終えて、俺たちもレッド寮を後に、十代たちと合流することになる。部屋を出る時、一瞬だけ、置いておいたシャドールのカードからオーラのようなものが見えた気がするんだが、気のせい、だよな……?

 

 

 

 

デュエルアカデミア内 野外浴場施設

 

 

「うおー! すっげー!」

 

「……ワァオ、日本人はお風呂にはいることにかけては妥協しないなんて聞いたけど、これは驚き。アメリカでもこんなすごいのは見ないわね」

 

 温泉へと来てみたはいいものの、原作で登場した温泉回の温泉の面影がほぼと言っていいほどなくなっていた。なんかもう、殆どレジャー施設みたいになってんぞ。思い出したけど今日ってもしかしてカイバーマンと十代が戦う日なんじゃなかろうか。そう思いながら体を洗ってから温泉……というか、温泉プールに入る俺。

 

「あ、レジー! 待って、そのまま入っちゃダメ! まずはちゃんと体と頭を洗って、お湯を掛けてから入るのよ」

 

「かけ湯、というのよ。一般的には体の汚れを落としてから入るのがマナーとされているけど、温泉の温度に、体を慣らしたり、泉質の刺激に体を慣らす意味があるの」

 

「へー。郷に入っては郷に従えというものね。そこはしっかりとやるわ」

 

 そんな風に、風呂の入り方を雪乃たちから学ぶレジー。そんな彼女たち3人も学校指定の水着、所謂スク水ではなく、海で着ていたビキニだ。雪乃は薄紫の、ツァンは赤、そしてレジーは白いビキニを着ている。きわどいとかそういうわけでないのだが、スタイルが3人ともいいため、かなり目立っている。まあ、俺たちしかいないけども。そして、それを見て翔が「綺麗っス」とか言っている。隼人も顔を赤くしており、ただ一人、十代だけが2人ともどうしたと首を傾げていた。

 

「……翔?」

 

「な、なんでもないっス!」

 

 本当に大丈夫かとちょっと心配になったぞ。そんなことを思っていると、そこに万丈目がいた。騒いでいる俺たちのところに、煩いぞと注意をしに来たらしい。俺と隼人はともかく、十代と翔は泳ごうとしたしな。流石に止めたが。

 

「ふう、流石は日本の温泉ね! 気持ちがいいわ!」

 

「ふふ、気に入ってくれたようで何より。秋人、ね、もっとこっちに来て、ね?」

 

「あ、ちょっ……海の時といい! ズルいわよ雪乃! ボクも……!」

 

 雪乃たち3人も温泉に浸かるが、その隙をついて、雪乃が海の時と同様にその豊満なわがままボディを俺に押し付けてくる。そして、それに続こうとするツァン。やめろ、少なくともアカデミア内ではそれは勘弁してくれ……! ほら見ろ、翔が死んだ魚のような目でこっち見て「リア充もげろっス」とか言い始めたから! 万丈目も「何故奴だけが……」とかいってるし! 十代は「楽しそうだなアイツら」とか言ってるけども。お前はお前のままでいてくれ十代! そんなことをやっていると、十代が突如立ち上がって温泉の奥へと歩いて行った。俺と雪乃の目にはハネクリボーが飛んでいくのが見えている。

 

「あれ、兄貴、どこ行くっス? 待ってよ兄貴ー」

 

「……? 十代のボウヤ、というか、ハネクリボーはどうしたのかしら」

 

「わからん。俺も様子を見て……く……?」

 

 見てくる、と最後まで続けることができなかった。突如、意識が薄れて膝をついてしまう。見れば、雪乃たちも頭を抱えている。意識がなくなる瞬間、翔の「僕泳げないっス! 助けて―!」という声が聞こえた。やはり、十代たちが”あの男”と出会う日で、間違いないようだった。

 

 

 

 

「……ター……マスター……! マスター、しっかり! 起きてください!」

 

「っ……!? ここ、は、あれ? ミラ?」

 

 突然の出来事に驚きました。アカデミアを調査していたら、なにやら変な空間を見つけ、そこからマスターの気配がしたので入ってみれば、そこにマスターがいたのですから。おかしいです、確か、今日は先ほど温泉に行くと仰っていたのに。

 

「あれ? 制服を着ている。それにここは一体……」

 

「見たところ、精霊界と似たような、そうでもないような場所ですね。なんでしょう、不思議な空間です」

 

「ミラは、どうしてここに?」

 

「私はマスターたちが温泉に行った後、マハードさんとマナさんたちと合流しようと向かっていたのですが、マスターの気配と、なんだか不思議な空間の場所を見つけてここへ。そうしたらマスターが倒れていました」

 そう私が説明すると、マスターが驚いていました。体を見ると、私も完全に実体化しているようでした。けど、ここは精霊界には見えない……一体ここはどこなんでしょうか。薄暗くて、まるで廃墟のような……少し、気味が悪いですね。

 

「マスター、どうしました?」

 

「……俺の知っている、温泉と繋がる場所じゃないな、ここ」

 

「そうなんですか?」

 

 マスターの説明によると、どうやら学校の温泉には精霊界に通ずる場所があるようで、そこで十代さんがカイバーマンのカードの精霊とデュエルをするとのこと。しかし、周囲には誰もいないで、いるのはマスターだけ……。

 

「おかしな気配を辿ってみれば、なぜあなたがここにいるのですか?」

 

「何者!」

 

 声の方へ私は杖を構え、マスターを庇うように立ちふさがる。そこにはローブを着た人物が立っていた。声からして女性、でしょうか。深くフードを被ったその人物からは明確な敵意を感じ取れる。

 

「君は? それにここはどこだ?」

 

「お答えする必要はありませんわ。ここは貴方のいるべき場所ではないのですよ、”日向明人”」

 

「何故その名前を知っている? お前は何者だ?」

 

 その名前は、マスターの本当の名前であり、この世界で知りえるのは私とマスター自身、そして、マハードさんとマナさんだけのはず。この女性、いったい何者なんですか……

 

「お答えする義理はありませんわ。お帰りなさい、今の貴方の居場所へ。ここは、”貴方”が来ていい場所ではないのだから」

 

「なんだと?」

 

 女性はさっさと帰れといって取り合ってはくれない。しかも、この女性、純粋に力だけならば私やマナさんより強い魔力を感じます。

 

「そうもいかないな。その名前を知っているってことは、俺をこの世界に、そして、武藤秋人とという器に俺を移した奴の関係者だろう?」

 

「さあ、どうでしょう。お答えしかねます……けれど、そうですわね。そのまま返すのも面白くありません。私とゲームをしましょうか」

 

 そう言って女性がパチンと指を鳴らす。すると、そこには数十の影のようなものが出現する。あれ? これって、前の旧特待生寮でマスターが戦った……!?

 

「この幻影とのデュエルで勝てば、少しくらいなら教えてあげてもいいでしょう」

 

「デュエルだと? 生憎、俺の手元に今デッキは……」

 

 そういったマスターの腕に、デュエルディスクが!? あの女性が何かしたのでしょうか。

 

「サービスです。後は、貴方が思い描くデッキをイメージすればそのディスクに貴方の思い描くデッキが収まるでしょう。この空間であればどうぞお好きに、神ですら出しても問題ありません……が、制限時間はそうですね、3分で決着をつけてもらいます」

 

 3分以内に、デュエルに勝つ!? 何ですかその無茶なルール! 相手が遅延したら絶対に勝てないじゃないですか!

 

「貴方が負けた場合は即刻ここから元の場所へ戻ってもらいますわ。貴方が勝てば、貴方の知りたいことについてお答えしましょう……ふふ、3分以内に先行でエグゾディアでも揃えれば勝てるかもしれませんわね?」

 

 そう言ってクスクスと笑う女性。けれど、私は聞き逃しませんでした。マスターがその女性の笑い声に対しての、マスターの呟きを。

 

 

「言ったなお前? 今、イメージすればって」

 

 

 その言葉と共に、マスターのデュエルディスクにデッキが収まり、女性の横には3分を示すのであろう砂時計が出現する。

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

武藤秋人LP8000 VS幻影 LP8000

 

 

「さあ、ここからスタート。貴方のターンからです。3分で勝てるといいですね?」

 

「ああ、そうだな……3分もいらないぜ? 多分」

 

「……は?」

 

 マスターの言葉に、呆けた声を出す女性。そして、女性の隣に出現した砂時計が落ち始めた。

 

 

「俺のターン! 手札から魔法カード『天使の施し』を発動! 3枚ドローし、2枚を墓地へ送る」

 

「手札から『ドロール&ロックバード』の効果発動。相手がドローフェイズ以外でデッキからカードを手札に加えた場合、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。このターン、お互いにデッキからカードを手札に加える事はできない」

 

「それに対して速攻魔法『墓穴の指名者』発動。『ドロール&ロックバード』をゲームから除外し、次のターンの終了時まで、この効果で除外したモンスター及びそのモンスターと元々のカード名が同じモンスターの効果は無効化される。処理を続行して3枚ドローし、2枚捨てる。『天の落とし物』を発動! 互いに3枚ドローし、2枚捨てる!」

 

 ……! あの女性の言葉通り、やはりマスターが選んだのはエクゾディアなんでしょうか。案の定、妨害してきましたが、それは無効にできたようです。しかし、今の処理だけで数十秒のやり取りが……それに、3分でエグゾディアを揃えるのは、運が悪ければ3分を超えてしまう。なのに、マスターは言いました。3分も多分いらない、と。一体それはどういう……

 

「カードを伏せて『天よりの宝札』を発動! カードが6枚になるようにドロー! さらに今伏せた『手札抹殺』を発動。互いのプレイヤーは手札を全て捨てて捨てた数ドローする」

 

「……!?」

 

 え、たった今手札に加えたカードすべて捨ててドローを……それに、捨てられているカードも魔法カードばかりのような。エクゾディアのパーツも見当たりません。もしや、デッキ破壊を? いえ、デッキ破壊でも3分は厳しいかもしれない。なのに、マスターのあの自信はいったい。

 

「そしてさらにカードを3枚伏せて手札から『復活の祭壇』を発動。デッキの上から2枚のカードを除外し、墓地の魔法カードを手札に加える。俺は『天よりの宝札』を加えて発動。6枚になるようにドローする。『強欲な壺』発動。カードを2枚ドローする」

 

「マ、マスター!? ここまでの処理で1分経ってしまったんですが!? これ、本当に大丈夫なんですか!?」

 

「安心しろ、もう終わった

 

「「は?」」

 

 私の慌てた声に、マスターはただ一言そう言った。もう、終わった? マスターの手札を見るに、魔法カードしか、手札にないんですけど。途中、1枚だけモンスターが見えたような気がしたのですが良く見えませんでしたし。

 

「これで最後だ。

 

 

魔法カード 『黄泉転輪』 を発動する」

 

 

 ……黄泉、転輪? 初めて見るカードです。初めて見るカードなのに、なんでしょう、別に悪い予感とか、そういうのは一切ないはずなのに、色んな所から『そんなことしちゃいけない』って聞こえてくるような……

「発動時の効果処理として、フィールドのモンスターは全て破壊される。そして、お互いのデッキからモンスターカードを全てゲームから除外する。互いのスタンバイフェイズ、またはこのカードを発動したメインフェイズに1度だけ発動する。互いのプレイヤーは墓地に存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターの

 

召喚条件・蘇生制限を”無視して”

 

フィールド上に特殊召喚できる」

 

 そうマスターが効果を告げた途端、相手のデュエルディスクにセットされたデッキのカードが次々と消えていく。対してマスターのデッキから消えたのは2枚だけ。マスター、まさかのそのデッキ、ドローソースしか、入っていないんじゃ……

 

「俺が選んだカードは……

 

『光の創造神 ホルアクティ』!」

 

「……は?」

 

  思わず、女性が呆けた声を出していました。光の創造神 ホルアクティ……? その白い体に、黄金の羽根。これは、気配でわかります。神のカード……違う、そんな次元じゃない! 前にマスターが戦ったオシリスの天空竜とは比べ物にならないような……!

 

「このカードの召喚は無効化されない。そして、このカードを特殊召喚したプレイヤーは、デュエルに勝利する。闇よ、消え失せろ!」

 

光創世(ジュセル)

 

 特殊召喚されたホルアクティから放たれた一言。それによって周囲にいた幻影も、そして周囲を取り巻いていた闇すら全て弾き飛ばしました。時間は2分。確かに、3分かからず、マスターはデュエルに勝利して見せるのでした。

 

 

 




というわけで、温泉回前編でした。次回、十代VSカイバーマン戦となります
温泉での激闘(次回から)というね、なんでこんな話にしたんだろう……夜中のテンションって怖い

前作とのリメイクについて

十代の夢の話
より鮮明に、また、ちょっと十代が見た夢を詳しく描写
どうしてそうなるのか、本当にそうなるのかは彼ら次第

前回出てきた謎の女性の正体
ちょくちょく正解している人いましたね……

温泉へのお誘い
前よりはちょっとマイルドに導入しやすくしました。

翔の扱い
覗いたのこの世界では見つけたのはツァンだからね、仕方ないね

名前だけ登場の委員長&レイン恵
本格的に登場するのはもうちょっと後です

レイン恵の名前について
雨野はこの作品のオリジナル。ちなみに、これはレインが委員長についた嘘なので、その辺もまた後々

温泉へ
よくあるレジャーランドをイメージしてもらえると

ヒロイン水着3人
いつか、イラスト描いてみようかしら

十代たちとは別行動に
リメイク前ではカイバーマン戦を見学の主人公 今回は別行動へ

謎の女性
一体、なにラーシュさんなんだ……

3分制限
女性からすると、エクゾっていうワンちゃんくらいはやるよ、の気持ち

黄泉転輪ホルアクティ
某動画のネタであり、伝説。秋人が戦った空間では神だろうとなんだろうと再現可能のため、ファラオじゃなくても神を束ねる(束ねてない)
本来、秋人はホルアクティを持っていません

黄泉転輪について
今後は絶対出しません

というわけで、温泉回の前編。いかがでしたでしょうか。
次回は十代サイドのお話と、秋人たちのデュエル後の話です。うん、黄泉転輪ホルアクティは今後絶対やりません
朽ち果てた古の鉄アレイ様 Skazka Priskazka様 二元論様 vastitude様 龍牙様 影夜様 SSファン様 風森斗真様 ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民様
感想ありがとうございます。まあの感想をお待ちしております。

日常自販機様 ユーク000様 トッシュ様 温故知新様 美傘様
高評価ありがとうございました。これからも精進いたします。
たきょ様
評価いただきありがとうございます。いただいたご意見を参考にさせていただきます。

Next 53「温泉での激闘」(後編)


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