ハイスクールD×D 世界を渡る転生者 (上平 英)
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転生完了

 真っ白な天井…。

 

 なんの匂いも、生き物の気配も、体の感覚さえない。

 

 どこまでも広がり続ける白い空間……。

 

 俺は、この空間に来たことがある。

 

 何十年も前だったり、何百年も前だったり、何千年も前だったり……もう数えきれないほどに何回も。

 

 ――そして、この空間に来て、毎回俺は思う。

 

 ――ああ、また俺は死んだんだな、と。

 

 もはや自分の死んでしまったことに対する驚きや悲しみはない。

 

 そもそも生前の記憶がほとんどないのだ。

 

 そんな覚えてもいない生前について悔やんだり、悲しんだりする気分にはなれない。

 

 死んだらそこで終わりなのだ。

 

 今までのすべては終わったことなのだ。

 

 終わったことよりも、次を、考えなくてはいけない。

 

 この永延と広がる白い空間は、終わりの場所であり、これからが始まるの場所でもあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――意識が、浮上する。

 

 永い夢から覚めるように、ゆっくりと感覚が広がっていく。

 

 新たに生まれた自分の魂と肉体を認識していく。

 

 胸から、心臓の鼓動が伝わってくる。

 

 心臓の鼓動に合わせて、血液が全身に伝わっていくのがわかる。

 

 小さくて短い手足。まだ開けられない目。口を閉じられたまま、肺はほとんど動いてない。肌からは水のようなものを通して温かさが伝わってくる。

 

 体の中心にあるヘソの辺りから何かが体へと流れ込んできていた。

 

 ――どうやら俺は、無事に新たな世界へと転生を果たしたらしい。

 

 記憶はないが、知識で理解できる。

 

 ここは、母親の子宮のなかなのだと。

 

 ――そして、今まさにこれから俺が生まれようとしているんだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出産は安産だったらしく、特に何事もなく母親からこの世界へと産み落とされた。

 

 この世界の両親に名づけられた俺の名前は、神城(かみしろ) エイジ。

 

 まだ生まれてから数週間ぐらいしか経っておらず、現在は母親と赤ちゃんプレイ中だ。横向きに抱っこされた状態でさし出されたおっぱいにしゃぶりつく。

 

 生ぬるくて変に甘い母乳をお腹いっぱいになるまで飲んでいく。

 

 あー……毎回のことだけどコレには慣れないなぁ。

 

 肉体的には赤ん坊でも精神的に純粋な赤ん坊ではない俺は、すでに羞恥心が芽生えているので、母親からの授乳を父親や他人から見られたり、お風呂に入れられて体を現れたり、下の世話をしてもらったりという普通のことにも抵抗を感じてしまうのだ。

 

「さあ、エイジちゃん。オシメ代えようね~。ふふふっ、かわいい」

 

 あっ、ちょっ! ちょっと、母さん! オシメ代えながら笑わないでよ! どこ見て笑ってるのさ!?

 

 だあっ!? うっ、や、やめろっ! 俺の息子を指で弄ぶなぁあああああぁぁぁ~っ!

 

「うん、よしっ、完璧♪ じゃあ、お昼寝しようね~」

 

 ニコニコ笑顔の母さんにベビーベッドから抱き上げられて胸に抱かれる。

 

 毎日毎日、母親の愛情を痛いほどに感じられてうれしいけど、一人で自由に動けるようになるまでずっとこの羞恥プレイが続くのかぁ……。

 

 ああ……早く大人になりたい……。

 




 4/18 修正。


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簡単な自己紹介

 とりあえずここで俺のことを軽く紹介しておこうと思う。

 

 俺は、何億年、何千年前も昔に初めての死を経験し、気づいたら真っ白で何も無い空間にいた。

 

 そこで最高神を名乗る光に「お前は私の次の後継者だ」と告げられ、「世界を渡り神になる気はあるか?」と聞かれた。

 

 なんでも俺を神にするには、多くの世界を渡らせて多くの経験を積まなければいけないそうだ。

 

 まぁ、俺は生前から漫画やライトノベル好きだったこともあって、最高神の提案を2つ返事で了承した。

 

 そして最高神からチート能力を貰った。

 

 

 

 

 

 いや、マジで!

 

 それがマジで最強の能力を貰ったんですよ!!

 

 まずはドラゴンボールから、

 

 サイヤ人の能力(過剰な戦闘本能と食欲。そして大猿化なしでスーパーサイヤ人3まで変身可能)

 

 Fateの金ピカから

 

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

 ネギま! のチートな英雄さんから

 

 |千の顔 を持つ 英雄《ホ・へーロース・メタ・キーリオーン・ブロソーボーン》

 

 

 を貰い、さらに膨大な魔力と寿命以外では死なないという能力を貰いました!

 

 元々俺が渡る世界は神様の完全支配下にある世界とのことで、神様の後継者である俺は普通の転生モノではありえないほどのチート能力を貰いました!

 

 しかも、俺の渡る世界ではその転生者も存在しておらず、完全な俺の独壇場!

 

 

 

 

 

 それから俺は神様にお願いして生前めちゃくちゃ好きだった『ゼロの使い魔』の世界に能力の練習と称して赤髪ダイナマイトボディのキュルケの使い魔になってハーレム築いて幸せに死んだ。

 

 そして、それからたくさんの世界に転生し、すべての世界でハーレムを築いた。

 

 ん?

 

 なんでハーレムばかり量産してるんだって?

 

 そりゃあ、それ以外にあまり楽しみが無いからだよ。

 

 俺はチート能力持ってるから、それほど敵もいないし、楽しみといったら、三大欲求と体を鍛えることぐらいだからな。

 

 だけど生前から元々の俺は性欲が強かったこともあって、まぁ、大変。

 

 最初の頃は、マジで猿みたいに盛っちゃたんだよな。

 

 いまでこそある程度はコントロールできているけど、前は本当に酷かったんだよ。

 

 マジでキュルケを初めとした、たくさんの女を敏感体質に変えて精神を壊しかけたからな。

 

 まぁ、俺がこんなにも性欲の塊りになったかというと、やっぱり生前に経験した極楽逆レ○プが原因なんだろうなぁとつくづく思う。

 

 マジで美少女や美女が俺を貪るように……ゲフンッ! ゲフンッ!! まぁそれは置いておこう。

 

 

 

 

 

 

 よし! それじゃあ、とりあえず俺の紹介は、これぐらいかな。

 

 じゃあ、またな。



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旧校舎のディアボロス
プロローグ


<エイジ>

 

 

 神城エイジです。

 

 俺は、今年で17歳になりました。

 

 ん? 展開が早いって? 

 

 まぁ、毎回のことだから省略しちゃったけど、とりあえず今まであったことを簡単に紹介するね。

 

 0~5歳 なんのドラマもなく過ごす

 

 5歳~ 修行開始

 

 8歳 両親が交通事故で他界天涯孤独になり、後見人を立てて一人暮らしを始める。同時に実戦経験と生活費を稼ぐために、独自のルートから冥界に行き『はぐれ悪魔』や犯罪者を狩る賞金稼ぎになる。

 

 10歳 依頼人が報酬を払えないとの事で代わりに体で……、つまりセックスしてもらう。

 

 11歳 味を占めた俺は各国を巡り、報酬が不足している場合は、美人限定で報酬の代わりにセックスをする事で了承した。

 

 12歳 気に入っていた女教師や保険医と一発やってから、小学校卒業。

 

 13~15歳 依頼をこなしながら楽しく生きて、いつの間にか預金残高が1億円を超える。

 

 16歳 隣街にある美人が多いと有名な元女子高の私立駒王学園に出会いを求めて受験。そして入学。家が遠かったから一軒屋を買い、近所に住む。同い年の駒王学園生の兵藤(ひょうどう)一誠(いっせい)通称イッセーと仲良くなる。

 

 17歳 現在

 

 

 

 と。まぁ、こんなもんだな。

 

 今は、教室でイッセーと元浜と松田が女について語っている様子を遠目で眺めながら、今日の予定を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 えーと、とりあえず今日はこれから合同体育で剣道かぁ…。

 

「おい! エイジ見ろよ!! この尻! マジで最高だろ」

 

「なに言ってやがる元浜! 女と言えばやっぱりおっぱいだろうが!!」

 

「うへへへ……まじでいい腰してんなぁ」

 

「………」

 

 うん。友人としてはいいんだが、いつもこれでは女が近づいてこない…。

 

「それより、お前等これから合同授業だろう? 着替えに行かなくてもいいのか?」

 

「「「あっ! そうだった!! 更衣室に覗きに行かなくては!!」」」

 

 3馬鹿は俺の発言を聞いた途端、そろって更衣室に向かって走り出した。

 

 ……はぁ、もう何も言うまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから俺が剣道着に着替えて剣道場に入ると、すぐに金髪のイケメンが近づいてきて声をかけてきた。

 

「やあ、神城くん。今日もお相手願えるかい?」

 

 このイケメンの名前は、木場(きば)祐斗(ゆうと)。学年一のイケメン王子と称される男で、1年の時に剣道の授業で、コテンパンに負かしたことがきっかけで知り合い、そしてそれからというもの剣道の授業や放課後に剣道の相手を頼まれ続けるようになったんだ。

 

 まあ、いつも手合わせを願い出てくるこいつにちょっと面倒だな~っと思うが、人間離れしている能力と、高校の授業や部活を越えている技術を持った木場の相手は、普通の人間じゃ釣り合いが取れないからな。

 

 いつものように俺は了承する。

 

「ああ、いいぜ。どこまで強くなったか見てやるよ」

 

 それから授業が始まってすぐ、俺と木場は4面あるコートの内一つを使い試合を開始した。

 

 毎回先手を木場に譲り、防御に回った俺は次々に放たれてくる木場の竹刀をすべて打ち落としていく。

 

 木場は持ち前の素早さを生かして、面や胴、小手と次々に攻めるが、俺は木場の竹刀を動体視力だけで見切り、防御して試合開始から2分ほど経った辺りから反撃を開始する。

 

 俺の反撃からの展開は早いもので、フェイントを織り交ぜた剣戟で翻弄し、焦り始めて動きが荒くなりだした木場の面を竹刀で打って、勝利した。

 

「まったく、あれほど動いたのに汗一つかかないなんて、君は本当に人間かい?」

 

「うるせえよ」

 

 いつの間にか面を取った木場が苦笑しながら握手を求めてきた。

 

 俺は木場の握手に応じて剣道場の隅に腰を下ろし、今回の試合の反省点を言っていく。

 

 そして俺から反省点というアドバイスを貰った木場は、いつものように自分のクラスの輪に帰って行った。

 

 ん? 何でアドバイスを送るなんて面倒な事をしているかって?

 

 そりゃあ、そうしないと木場が俺から離れないからだよ。

 

 少し前なんて酷かったんだぜ。俺に教えを請いに来る木場を突き放すと、木場は俺に付きまとい始めて、俺×木場とか木場×俺とか噂されてホモ疑惑立てられたりしたからな。

 

 俺はそんな噂が立たないように、さっさと悪いところを教えて、早く自分のクラスに帰るように仕向けたんだよ。

 

 それにしても、さっき言った木場の『君は本当に人間かい?』って疑問。

 

 まあ、俺は確かに人外身体能力を持ってるけど、結局のところ人間だよ。

 

 悪魔である おまえ (木場 祐斗)と違ってな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2年になってすぐ、俺の運命を大きく動かすある事件が起こった。

 

 そんな俺の運命を動かすような事件の始まりは、イッセーに彼女ができたところから始まったんだ。

 

 ある日突然、イッセーが彼女が出来ましたと、俺に紹介してきた。

 

 その彼女の名前は、天野(あまの)夕麻(ゆうま)

 

 少し腹黒そうだけど、とても可愛い女の子で――人外だった。

 

 まぁ、イッセー本人は気づいていなかったみたいだけど、俺から彼女が人間じゃないと教えるつもりはなく教えなかった。

 

 俺は、好きなら悪魔でも天使でも妖怪でもいいだろうとか思ってる人間だからな。

 

 そして、イッセーに彼女を紹介されてから数日後の日曜日。

 

 俺や松田や元浜に、夕麻ちゃんと初めてデートするとか嬉しそうに話していたその日……、俺の運命は大きく動く事になった。

 

 特に仕事の依頼もなく、夕飯を買いにコンビニへ行こうとしていた時。偶然、イッセーと夕麻ちゃんを見かけ、俺は少々気になって2人のあとをつけた。……うん、友人の始めてのデートが気になったんだよ。

 

 尾行を開始して数分、2人は家の近所にある公園に入り、向かい合いながら何かを話し始めた。

 

 俺は聴力も人外レベルだが盗み聞きの趣味はない。話を聞かずに様子だけ覗っていたら、突然夕麻ちゃんの背中に黒い羽が生え始めたんだ。

 

 そして夕麻ちゃんは背中の羽とほぼ同時に出現させた光の槍を手に持って、イッセーの腹を貫いた!

 

 服装も雰囲気も性格すら清純派で通していた夕麻ちゃんが、正反対の露出の多い、黒のボンテージ姿で微笑んでいた。

 

 俺はイッセーのことや夕麻ちゃんの行動が気になって飛び出し、声をかけた。

 

「夕麻ちゃん! どうして!?」

 

「あれぇ~? 人払いの結界を張ってたんだけどなぁ? なんでここにいるのかなぁ? まぁ、見たんだから死んでね」

 

 ボンテージ姿となって、露出した夕麻ちゃんの肩を両手で掴んで、視線を合わせるように夕麻ちゃんの瞳を見るが、夕麻ちゃんは俺を石や草なんかにしか思っていないのか、特に気にした様子もなく、話を聞く気もないと言わんばかりに光の槍を向けてきた。

 

 グサッ……!

 

 夕麻ちゃんが持っていた光の槍が刺り俺の腹を貫く!

 

 本当なら、避けることも防ぐことも……、ていうか普通の状態でも光の槍なんかで俺の腹は貫かれるはずなんてなかったが、俺はあえて夕麻ちゃんを受け入れた。

 

「ごふっ……!」

 

 途端に口の中に鉄の味が広がり、目が霞み始めた。

 

 俺は夕麻ちゃんの肩に置いていた手を腰に回して、抱きしめる。

 

「ふふっ」

 

 このまま寄りかかりながら崩れ落ちると思ったんだろう、余裕の笑顔で微笑む夕麻ちゃん。

 

 だが、俺は抱きしめたまま、夕麻ちゃんの唇を奪う。

 

「――っ!?」

 

 目を白黒させる彼女の唇を強引に割り開いて、強引に舌を絡めて唾液を啜る。

 

「――っ!? んっ!? な、何を……!? ちょ……、うむっ!? ……うぁ、あ……、んむっ……、あふ……」

 

 夕麻ちゃんが突き放そうと胸を両手で押してくるが、それを無視して強引に唇を貪り続ける。自分の血の味と夕麻ちゃんの唾液を絡めて味わい、夕麻ちゃんの口内にたっぷりと注ぎ込んで自分の血と唾液の味を覚えさせる。

 

 さらにキスを続けながら、腰に回していないほうの手を夕麻ちゃんの尻へと移動させる。ボンテージ姿となって露出した尻を掴み、揉み解し、ボンテージと肌の間に指を差し込み、思う存分弄り回して、数分後に力尽きた。

 

 まっ、結局死なないにしても、1回は殺されてあげたんだからこれぐらい役得だろ?

 

 イッセーのことは後で蘇生させればいいんだし、いまは放置だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<レイナーレ(天野夕麻)>

 

「なっ! なんなの!? なんなのよこいつ!?」

 

 危険因子である人間を殺し終えた後。

 

 結界の中に侵入していた人間が突然私の肩を掴んで、私に何でこんな事をしたのか聞いてきたが、堕天使である私はその人間なんか無視して、さっきの人間のように光の槍で腹を貫いて終わるはずだったのに……。

 

 その人間は光の槍に貫かれながらも、私の……、私の唇を奪い、し、舌を入れて……。あっ、あまつさえお尻まで触ってきてっ!

 

 さらに私の体を貪るだけ貪って死ぬとか、ほんと意味わかんない人間!

 

 アザゼルさまへと長年とっていた私のファーストキスを奪われたし!

 

 ああもうっ! ほんと訳わかんないっ!

 

 なんなのよ、あの人間はっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 俺の人生でもっとも幸せな時間……、初めて出来た彼女とのデートの時間……。

 

 デートの最後を飾る夕焼けの公園で、俺は彼女から頼まれた……。

 

『死んでくれない?』

 

 と、夕麻ちゃんが今まで見せていた笑顔が、冷たいものに変わり、背中から黒い翼が生えたかと思ったら、いきなり腹に熱さを感じた。

 

 そして俺は地面に倒れ、夕麻ちゃんに刺されたんだと理解した。

 

 俺が夕麻ちゃんを霞んだ瞳で見上げると、エイジが現れ、夕麻ちゃんに詰め寄った。

 

 こいつ尾行してたのか。と思っていたら次の瞬間。今度はエイジが光の矢で貫かれ、夕麻ちゃんに寄りかかった。

 

 たぶん即死したんだろう。エイジは夕麻ちゃんに寄りかかったまましばらく動かず、夕麻ちゃんが動き出すと、支えを失ったように地面に倒れ堕ちた。

 

 ああ……、すまねぇな、エイジ。まきこんじまって本当に悪かった……。

 

 再び、空を見上げる。……そして俺自身にも死が近づいていることを感じる。

 

 そして、手のひらについている赤い……、紅い血を見つめて思う……。

 

 紅い髪をしたあの美人。学校で見かけるたびにあの紅い髪が俺の目には鮮烈に映った。

 

 ……どうせ死ぬなら、あんな美少女の腕の中で死にたいなんて思ってしまう……。

 

 ああ……、視界がボヤけてくる……。

 

 いよいよラストか……。

 

 ……生まれ変われるなら、俺は……。

 

「あなたね、私を呼んだのは」

 

 突然、俺の視界に誰かが映りこみ、声をかけてくる。

 

 目がボヤけてしまっているせいか、もう誰かすら分からない。

 

「死にそうね。傷は……へぇ、おもしろいことになっているじゃないの。そう、あなたがねぇ……。本当、おもしろいわ」

 

 クスクスと興味ありげな含み笑い。

 

 ……何がそんなにおもしろいんだろうか……?

 

「どうせ死ぬなら、私が拾ってあげるわ、あなたの命。私のために生きなさい」

 

 意識が途絶える寸前、俺の目には鮮やかな紅い髪が映りこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 清純そうなワンピースからボンテージ姿へと変身した夕麻ちゃんに腹を貫かれて、目下回復中のボヤケタ俺の視界に紅い髪が映りこんだ。

 

「あらあら、ここにも。おもしろいのがいるじゃないの。しかも、祐斗が話してた子じゃないの。ふふふ……」

 

 首をゆっくりと動かすと、そこにはリアス先輩が立っていた……。

 

「うーん……、さっきの子に『兵士(ポーン)』の駒を7つも使っちゃってるしなぁ。……あら? この子、 神  器 (セイグリッド・ギア)持ってないわね。残った『兵士』の駒1つでも転生できるかしら? ……まぁ、モノは試しよね!」

 

 リアス先輩はひとりで何かをつぶやいたあと、チェスの駒の様なものを俺の体に埋め込んできた……。

 

「――うっ!? ぐあぁぁぁっ……!?」

 

 そして、チェスの駒が俺の体内に入った瞬間。俺の体は拒絶反応のようなものを起こし、体の細胞が焼けるような熱さを生んだ。

 

「なに!?  何が起こってるの!?」

 

 どうやらリアス先輩はこうなる事を予想していなかったらしい。激しく取り乱し、慌てて転移用らしき魔法陣を地面に敷いて発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転移用の魔法陣発動後、俺が次に見たものは駒王学園でリアス先輩と一緒に二大お姉さまと称される姫島(ひめじま)朱乃(あけの)、その朱乃先輩の慌てた顔だった。

 

 取り乱しているリアス先輩からの説明を聞いた姫島先輩は、すぐに俺をベッドのようなモノに寝かせた。

 

 そして俺の体を調べるように2人の手が這い回り始めた。

 

 2人の手が全身を這い回るのに、くすぐったさのようなものを感じながらも、同時に全身を焼くような痛みも感じ、その朦朧とした意識のなかで俺は両手を伸ばし、……暖かくも柔らかいモノを掴んだ。

 

 やわらかい弾力、暖かい熱。聞いていると自然と落ち着く鼓動。探るように指に力を入れてみると中心に感じる突起が少しずつ硬くなってきた。

 

 しかも、両手にある柔らかいモノはそれぞれ違った味わいが存在した。

 

 ひとつはハリのあるまだ熟れる手前の感触。

 

 もうひとつは熟れた沈むようなモチモチとしたやわらかさ。

 

 その感触と温かさに俺は全身から力を抜いて、全てを委ねた。

 

 すべてを委ねたその瞬間――、俺の中で何かが変わる。

 

 体の奥底から今までとは違う力が湧き上がり始め、体に浸透するように馴染み始めた。

 

 リアス先輩が悪魔であることと、そのリアス先輩が持っていたチェスの駒のようなものを体内に入れられたところから予想していたが、これが悪魔化というものなんだろう。

 

 まさか、生きてる間に悪魔に2度目の転生するなんてな……。これまで多くの世界を渡ってきたなかでも珍しい経験だ。

 



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第1話 誤解、そして早すぎる能力われ

<エイジ>

 

 さて、どうしよう?

 

 いや、何かを考える前に、まず俺は現在どういう状況におかれているんだろう?

 

 ああ、そうだ。一体何故俺は、現在進行形でこんな状況に陥っているのだろう?

 

 とりあえず俺がいまいる場所は和室で、しかも布団の上。

 

 まあ、ここまではいいとして……。

 

 その隣、俺のの両側で寝息を立てている駒王学園2大お姉さまの2人、リアス・グレモリーと姫島朱乃がいることが問題なのだ。

 

 さらに、それよりも問題なのが俺の両手が、2人の、それぞれの豊かな双房をがっしりと捕らえていることが一番の問題なのだ!

 

 2人の格好は完全な寝巻き姿。リアス先輩のおっぱいを捕らえている腕からは薄いネグリジュ越しにその柔らかさと、体温。そしてその中心に存在する突起のコリコリとした感触まで伝わってくるし。

 

 朱乃先輩にいたっては巫女服の上着の間に腕が入っていて、直接その感触が俺の触覚に流れ込んできている。

 

 少し手に力を入れるだけで、2人から艶のある悩ましげな吐息が桜色の唇から漏れ、俺の愚息を大きくさせる。

 

「う……、うぅん……」

 

 しばらく現実逃避してリアス先輩をネグリジュ越しにその体を視姦していたら、リアス先輩の目がゆっくりと開いて俺と目があった。

 

「えーと……、おはようございます。リアス先輩」

 

 とりあえず、気まずいので笑顔で挨拶してみた。

 

「あら? 私ったら、寝ちゃったのね」

 

 俺がおっぱいを掴んでいるにも関わらず、気にした様子もなくリアス先輩は起き上がり、そのまま背伸びをして体を解し始める。

 

 猫のように目を細め、気持ち良さげに体を解したり、深呼吸をするリアス先輩は愛らしくて眼福物だったが、俺はここでどうしても聞いておかなければいけないことがあった。

 

 朱乃先輩のおっぱいを掴んでいた手を外し、リアス先輩の両肩に乗せてこちらを向かせる。

 

「ん? なに? どうしたの?」

 

 リアス先輩は俺の行動に少し驚いているようだが、それよりもやらなければいけないことがあった。

 

「リアス先輩!」

 

「なっ、なに?」

 

「ご安心ください! もしも子供が出来た場合は、責任を持って育てますので!」

 

「…………。……ええっと、あなたは一体何を言ってるの?」

 

 首をかしげるリアス先輩に自信をもって宣言する。

 

「朱乃先輩のことも大丈夫です! 愛した女性は全員幸せにします! ええ、俺がお2人共まとめて必ず幸せにしますから! いえっ! みんなで幸せな家庭を築きましょう!」

 

「何を言って……。少し落ち着きなさい」

 

「恥ずかしながら、俺は昨夜のことをまったく覚えていません! なのでもう一度! もう一度俺とエッチしましょ――、あがっ!?」

 

「落ち着きなさいって言っているでしょう!」

 

 ぐうぅぅ、なぜかリアス先輩に頬を叩かれた……。

 

「まったく……、あなたは一体何を言っているの?」

 

 ため息を吐きながら訊ねるリアス先輩。

 

「そりゃあ、何をって自分で現在の状況を分析した結果で……」

 

「分析って、どういうふうに分析したら幸せな家庭を築こうとかなるのよ?」

 

「それはですね。まずは、この血で濡れたシーツ。そして2人を挟んで3人で一緒に寝ていた。そしてそして俺の両腕は2人のおっぱいを揉んでいた。しかも、2人は寝巻き姿。これだけあれば昨夜は3人で相当燃え上がったんだと予想できました! ですが……、ですが残念なことに俺はまったく覚えていません! なのでリアス先輩に初夜のやり直しをと……」

 

「はぁ、まったく……。あなたねぇ、昨日の夕方に何があったか思い出して御覧なさい」

 

「昨日の夕方ですか? 昨日の夕方は確か……、夕飯を買いにコンビニへ行こうとしたら、途中でイッセーが夕麻ちゃんとデートしていたから、気になってあとをつけて……、あっ!」

 

 そうだ!

 

 夕焼けで赤く染まった公園で、夕麻ちゃんが堕天使に変身して、手に持った光の槍でイッセーを殺して、そのあと俺も光の槍で腹を貫かれた……。

 

 そして、俺は紅い髪の――、目の前にいるリアス先輩が現れた。

 

 現れたリアス先輩は俺の体にチェスの駒を入れて、その直後に拒絶反応が出て、リアス先輩が慌てて転移魔法発動。

 

 朱乃さんに会って目を閉じて手を伸ばすと両手に心地のよい感触がして……、その気持ちよさに体を預けたら拒絶反応が収まって眠った。

 

「思い出したのね?」

 

「はい。思い出しました。俺が堕天使に殺されて、リアス先輩が来たんですよね?」

 

「そうよ。イッセーに呼び出されて、イッセーを転生させるついでにあなたも転生させたのよ」

 

「えっと……、ということは、イッセーは生きているんですね?」

 

「生きているわよ。悪魔に転生したけど」

 

「悪魔に?」

 

「ええ。悪魔に。ちなみにあなたも悪魔に転生させたからねっ!」

 

 そう言ってリアス先輩は微笑み、コウモリのような大きな羽を背中に広げた。

 

 人外であることをアピールするために起こった行動だろうが、俺は背中に生えた翼のほうではなく、リアス先輩の表情に目を奪われていた。

 

 いつも学園で見せている凛々しい表情ではない、まるで幼い少女のような笑みに心を奪われ、気づいたらリアス先輩を正面から抱きしめていた。

 

「ちょ!? どうしたのよ!」

 

「ああ、すげぇ、可愛いっ!」

 

 じたばたと手足を動かしてリアス先輩は逃げようとするが、俺はお構い無しに密着を強め、片腕でリアス先輩のさらさらの髪をすかし、首筋に鼻を埋めて肺いっぱいにリアス先輩の匂いを嗅ぐ。

 

「ちょっ……、やめっ……、やめなさいっ。……うぅん、あっ……!!」

 

 俺はしっかりとリアス先輩の体の感触と匂いを味わい、そのまま布団に押し倒す。

 

 布団の上で仰向けになったリアス先輩の股の間に体を滑り込ませる。

 

「ちょっと!? やっ、やめなさいっ!」

 

「安心してくださいリアス先輩。これでも、経験は多いほうなので……」

 

「なんの安心よ~~!?」

 

 リアス先輩を安心してもらおうと頬に手を添えたところで、後から声をかけられた。

 

「えーと……、あの~? 何をしているんですの?」

 

 声に反応してうしろを振り返ると、額に青筋を浮かべて不適に笑う朱乃先輩が立っていた。

 

「あ、朱乃先輩!?」

 

「あ、朱乃っ!」

 

 押し倒している俺と、押し倒されているリアス先輩を見る、というか眺めながら頬に手を当てて微笑む朱乃先輩。

 

「あらあら、お2人とも? 私の部屋でなにをしようとしているんですか?」

 

「そりゃあ、なにって……、ナニをしようと……。――ぶへぇらっ!?」

 

 俺が正直に答えると、朱乃先輩から拳骨を頭に落とされた。かなり強めの拳骨だった。

 

「いた~……、な、何をするんですか!?」

 

「それは私のセリフです! あなたたちこそ、夕べ突然現れて私の布団を血で汚した上に、突然胸を揉まれて、一晩中トイレも行けずに夜を過ごした私にこれ以上迷惑をかけるつもりですか!?」

 

「ちょっと、朱乃! 私は悪くないわよ! この子が勝手に勘違いしているだけで!」

 

「あなたがこの子を連れてきたんだから同罪です!」

 

「そんな~」

 

 ああっ、怒られてるリアス先輩可愛いです!

 

「もう! あなたのせいで朱乃に怒られたじゃないの!」

 

「リアス先輩……」

 

「なに?」

 

「怒られてる先輩も可愛いですが、怒っている先輩も可愛いですね」

 

「なっ!? 何言ってるのよ!?」

 

 リアス先輩は押し倒されている状態で、頬を朱色に染めて顔を逸らす。おお~、赤くなって照れている先輩可愛いな~。

 

「……2人とも? 私が怒っていることを忘れていませんか?」

 

 おわっ! 朱乃先輩の顔は笑顔だがその背後には般若が立ってる!?

 

 俺とリアス先輩は慌てて起き上がるが、朱乃先輩の怒りはもう収まらない。

 

「あ、朱乃先輩……」

 

「あ、朱乃……」

 

 朱乃先輩は肩を震わせながら、バチバチと電気のようなモノを体から出し始めているー!?

 

「そんなにイチャつきたいのなら外でしなさーい!」

 

 朱乃先輩がバッと背中に黒い翼を展開させ、俺とリアス先輩目掛けて電撃を放ってきた!

 

「リアス先輩っ!」

 

「え!? ――きゃ!?」

 

 俺は電撃が当たる前にリアス先輩の肩を抱き、【王 の 財宝(ゲート・オブ・バビロン)】から盾を出す。

 

 俺が出した盾は、朱乃先輩が発した電撃をすべて吸い込み吸収し、俺とリアス先輩に電撃が届くことはなかった。

 

「あ……、あなた? いま何をしたの……?」

 

「私の電撃が吸い込まれた……?」

 

 …………。

 

 ……うん。リアス先輩に電撃が当たらなかったことは良かったが、俺の能力がさっそくばれました。

 

「えーと……、手品です」

 

「「そんなわけ無いでしょう!!」」

 

 うん。誤魔化しも無理のようです……。

 

 はぁ……、説明面倒だなぁ。

 

 ていうか、本当に昨晩はおっぱい揉んだだけなんだなぁ。

 

 なんていうか、無駄に超人的な嗅覚が2人とも処女臭といえるチーズみたいな臭いがほんの少しだけ股からするし。それに俺が2人とやっていたら、今頃色んな体液でドロドロの筈だしな。

 

 うう……、それにしても俺はこれからどうなるんだろう?

 

 駒王学園の2大お姉さまに前後から挟まれてるという、おいしいシチュエーションだけど、2人の表情が怖くて喜べないし……。

 



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第2話 姫島朱乃の聖異物!

 

<エイジ>

 

 

 あれからリアス先輩と朱乃先輩にやさしく? 尋問を受け、俺はチート能力について話した。

 

 まあ、話したといっても人外級身体能力と、【王 の 財宝(ゲート・オブ・バビロン)】の2つについてしか話していないがな。

 

 リアス先輩たちは「あなた神器持ってないのに……」と驚かれたが、まぁ、そこは「自前の能力です」と誤魔化した。

 

 ていうか、【王の財宝】を発動させて、腹ペコ王の聖剣エクスカリバーを出した時の2人の表情はよかったなぁ。

 

 リアス先輩の掘り出し物を拾ったような期待と不安の視線が送られ、朱乃先輩はいつもの余裕を持った落ち着いている様子が面白く変化してすごくかわいかった。

 

 そのあとの俺はというと、リアス先輩に今日はここに居なさいと言われて、朱乃先輩の自宅に軟禁されてます……。

 

 まぁ、今日は平日で学園だったけど、リアス先輩が朱乃さんの家であるここに……、神社に居ろって言ったんだから、仕方ないよね? 学校サボったことにはならないよな?

 

 とりあえず学校は休みになって暇になったわけだし、リアス先輩と朱乃先輩が出て行ったのを確認して、朱乃先輩の部屋でも漁るかなぁ。

 

 あ、いや、漁ると言っても一箇所だからね! うん! 一箇所だけで、他には手をつけないから安心して!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてと……、それでは【ミッションスタート】だ!

 

 俺は現在朱乃先輩の自宅の居間にいる。

 

 そして、朱乃先輩の部屋はここから30メートルほど先だ……。

 

 朱乃先輩の部屋に向かう道は一本道なんだが、その道には数々の障害が待ち受けている。

 

 まずは、廊下に侵入防止のトラップ。そして、朱乃先輩の部屋の扉には本人認証装置。そして部屋の中にも使い魔の反応があり、しかも、この部屋というか俺は現在行動のほとんどを監視されている。

 

 いやはや、俺ってそんなに信用ないのかな? ……いや、ないな! だって、朱乃先輩と話したの今日が初めてだし!

 

 まあ、そんなことは置いといて、どうやって朱乃先輩の部屋に侵入するかだ。

 

 そう、この難攻不落の要塞に進入し聖異物をゲットする方法を考えなければいけない。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……まぁ、ぶっちゃけた話し【王の財宝】から認識を誤魔化す宝具を出して、監視に居間にいるように見せかけ、空間を切り裂く宝具をだして部屋に侵入。使い魔はまたまた【王の財宝】から取り出した眠らせる宝具でしとめて、さっき終了したんだけどな!

 

 俺の現在地は朱乃先輩の部屋の中で、侵入は成功。

 

 次に情報収集に走る。

 

 そうさ、リアス先輩や朱乃先輩が言うように、いきなり眷属悪魔になれとか意味わかんないから、まずは2人のことを知るところからだよな!

 

 まあ、レディの部屋を漁るのはあまりよくないし、調べるなら一箇所と決めたし、俺ってまだ紳士だよな?

 

 ん~っと……、人が大事なものを隠す場所はどこだろうか?

 

 朱乃先輩の部屋に存在する家具で物を隠せる場所は、タンスや机、押入れなど。この3択なら必然的に……! 必然的に! タンスだな!

 

 さてと、あさ……、調べるか。

 

 とりあえず一番下から順番に開けていく。

 

 そう慎重に……、一番下のタンスに手をかけて、ゆっくりを引いて中身を確認する。

 

 ――っ。

 

 なんとそこには聖異物が綺麗に丸められて納められていた! まさか始めの1回目で見つけてしまうとは……。

 

 俺はおもむろに一番近く似合った紫色の聖異物を手に取り広げる。

 

 ああ……、その聖異物のなんと美しい事か。優雅な三角を描き、淵には精巧なレースの飾り、そして中央には可愛らしいリボンが添えてある。

 

 ああ、最高だ!

 

 これを身にまとった朱乃先輩とヤッたらすごく興奮するだろう。

 

 ――なっ!? あっ! アレは……!?

 

 タンスの右奥に隠されるように置かれた聖異物を発見して、俺の理性は焼き切れそうになった!

 

 俺の理性をここまで焦がす朱乃先輩の聖異物……。

 

 この鮮やかで男の欲情を誘う聖異物の中でひときわ異彩を放っている存在……。そう! それは白いフンドシだった!

 

 しかも、そのフンドシは女性モノのようで、少ない布とシルクで創られていてすごく手触りがよいものだった。

 

 さらに、その隣にも聖異物があり、その容貌は、幅の広いシルクの包帯……、つまりサラシだった!

 

 ヤバイ……、ヤバイぞ……!

 

 俺の愚息が起きっ放しだ!

 

 ああっ! 今すぐ朱乃先輩にこの聖異物こみで巫女衣装になってもらって、神社の境内で背徳プレイをやりたい!

 

 いままで、仕事の依頼で神社の巫女さんと何度もヤッた俺だけど、悪魔に転生したからなのか、神さまの使いである巫女さんを俺の精液で汚したくて、汚したくてたまらないっ!

 

 うぅ……、だが俺の心情では愛してない女は抱けないし、性欲を満たすためだけに女を抱きたくないっ……!

 

 だから、ここは朱乃先輩の聖異物の中でも一番俺の興味を誘ったものだけをいまの時点で……! いまの時点でそれだけを【王の財宝】に入れて持ち帰ろう。

 

 そう……、俺の興味を一番引いた朱乃先輩からは予想も出来ないような聖異物……。後ろの方に可愛らしい猫が描かれたバックプリントのネコさんパンツだけを持ち帰ろう……。

 

 あっ、そうだ。

 

 このまま【王の財宝】の中に入れたんじゃ、無くすかもしれないから、前の部分に名前かいとこうっと!

 

 朱乃先輩の机から黒いマジックを拝借して、聖異物に『ひめじま あけの 18才』と記入した。

 

 うん。これで誰のかひと目で分かるな!

 

 聖異物をゲットしたことで満足した俺は物的証拠を消して元にいまに戻る。

 

 俺が朱乃先輩の部屋に侵入してから約1時間……、使い魔の記憶も消したので俺が部屋に侵入したことを知るものは誰一人としていない……。

 

 それにしても【王の財宝】はマジで使えるなぁ~~!!

 

【王の財宝】の中に入れておけば虫食いもないし、清潔な状態を維持できるから保存には最適なんだよな!

 

 さてと……、ずっとここにいるのも飽きたし、街に繰り出すかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『とあるどこかの世界の金ピカ王と腹ペコ王と正義の味方』

 

 

 

「はっはっはっ! 雑種共よ! 王の前に跪け!」

 

「くそぉ! 何なんだあいつは!? なんであんなに宝具を出せるんだ!?」

 

「シロウ下がってください! アーチャー! 私が相手だ!」

 

「セイバー!?」

 

「かっかっか、セイバーよ! ようやく(オレ)の妻になる気にはなったか?」

 

「戯言を言うな、アーチャー!」

 

「ふっ、どうやらお前には躾が必要のようだな!」

 

「セイバー!」

 

「大丈夫です私は負けません!」

 

「【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】!」

 

「「なっ!?」」

 

「なんだ? (オレ)の財宝に声も出ないのか? さぁ、雑種共、泣いて詫びれば……」

 

「ア、アーチャー……、貴様、なんのつもりだ?」

 

「セイバー! 教えてくれ、アレも宝具なのか!?」

 

「シロウっ! 私に聞かないでください! アレを出しているのはアーチャーですよ!」

 

「なんだセイバー、(オレ)の財宝がそんなに珍しい、かぁ!? な、なんだこれは!? 何故(オレ)の宝物に女の下着が大量に存在しているのだ!?」

 

「見苦しいぞアーチャー! そして私は貴様がそんな男だとは思わなかったぞ!」

 

「まっ、待たんかセイバー! (オレ)も知らな……」

 

「言い訳するな、アーチャー! 現にその下着には名前が書いてあるじゃないか! それはお前の物だという動かぬ証拠だろう!?」

 

「黙らんか雑種! セイバー、よく聞け! (オレ)には身に覚えがな……」

 

「言い訳無用! 覚悟しろ、女の敵っ! エクス……、カリバァァァアアアアアア!!」

 

(オレ)は知らんと言ってるだろぉぉぉーーーーーーーーー…………」

 




 最後のはパロネタですの世界を渡る転生者シリーズには関係ありませんので、あしからず


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第3話 堕天使のおっさんに転生悪魔イッセーが襲われて、俺は再び尋問にあいました……

 

<エイジ>

 

 

 結界が張ってあったが、俺は朱乃先輩の家である神社の境内から堂々と外に出て、自宅に帰って着替えた。

 

 そのあと、街にくりだして町の不良狩りをしていたら、学園から帰宅途中と思わしきイッセーを発見した。

 

「おーい! イッセー!」

 

「おっ! エイジじゃないか! お前、今日なんで学校に来なかったんだよ?」

 

「ああ。昨日ちょっとあってな」

 

「ちょっとってなんだよ?」

 

「あはは。まぁ、そのことはもういいだろ?」

 

 まぁ、リアス先輩と朱乃先輩に軟禁されて、そこから抜け出して……、しかもさっきまで町のゴミ、もとい不良狩りをしていたとは言えないから、笑って誤魔化した。

 

「ああ。そうだな……それよりも俺には大事な用があったんだった!!」

 

「ん? なんだその大事な用ってのは?」

 

「よく聞いてくれた、エイジ! 今夜俺と元浜は松田の家でエロDVDの鑑賞会をやるんだ!」

 

 イッセーは道ばたで力強く俺言い放つが、俺にどうしろと?

 

「なんだエイジ? お前も見たいのか? 見に来たいのかっ!? いいぞ! お前も来い! お菓子とジュースを持ってくれば参加オーケーだ!!」

 

「あ、ああ……、暇だったら行かせて貰う」

 

「松田の奴が、掘り出し物だと言っていたから期待していいぜ!」

 

 言うだけ言って、イッセーは自宅に向かって走り出した……。

 

 うーん……、それにしてもAVかぁ。AV見なくても充分なぐらい満足してるから見なくてもいいが……。

 

 でもなぁ、掘り出し物。……エロ魔人である松田と元浜が言う掘り出し物は気になる。

 

 ていうか、悪魔に転生したこと言ってない。というか、言う暇がなかったな。

 

 う~~ん……、どうしよう? 非常に行きたいんだが、現在俺は逃亡中の身……。

 

 ん? それなら丁度いいんじゃないか?

 

「エ・イ・ジ~~?」

 

「そうさ! 逃げるんだったら絶対に見つからない場所……へ」

 

 あれ? 今さっき艶やかで透き通るような女性の声が?

 

「エイジ~、朱乃の家に居るはずのあなたが、何でこんなところにいるの?」

 

「エイジくん。どうやって私に気づかれず、家の結界を抜け出したか教えてくださいますか?」

 

 ……両方の肩に手を置かれて振り返ると、そこには笑顔なのに笑顔に見えない顔をしたリアス先輩と朱乃先輩が立っていて――。

 

「いえっ! あのっ……そ、それは~……、なんと、いいますか……」

 

「私たち、学園に行く前に言ったわよね?」

 

「いえ、その、血だらけで穴の開いた服では、どうかと思って着替えに……」

 

「私たちが戻ってくるまで、朱乃の家で待ってなさいって言ったわよね!?」

 

「あ、はい……。す、すみません……」

 

 ヤバイ、二大お姉さまがご立腹だ……!

 

「とりあえず、リアス。ここではなんですから、家に行きましょうか?」

 

 朱乃さ~ん。また尋問ですか~? 

 

「そうね。ここじゃ魔力も使えないし……」

 

 って、リアス先輩、魔力まで使う気なんですか!?

 

「すみません! 俺、今日予定が……!」

 

「「キャンセルしなさい!」」

 

「……はい」

 

 こうして俺は、二大お姉さまに引きずられるように、朱乃先輩の家に送還され、リアス先輩と朱乃先輩にお説教&どうやって結界を抜け出したのかを尋問された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアス先輩達からの尋問が終わり、言いつけを破った罰としてリアス先輩に尻を叩かれていると、なんでも転生悪魔になったイッセーを『はぐれ悪魔』と勘違いした堕天使が襲っているという情報が入ったらしい。

 

「朱乃! 私はすぐにあの子のところに行くわ!」

 

 リアス先輩は急いで転移魔法の魔法陣を展開し始める。

 

「リアス先輩! 俺も行きます!」

 

「ダメよ! あなたは悪魔になったばかりだし、相手は堕天使よ!」

 

 リアス先輩が俺を怒鳴りつけるが、これだけは引けない!

 

「イッセーは俺の友達です!」

 

「――っ」

 

「それに、リアス先輩を一人でそんなとこに向わせるわけにはいきません!」

 

「うぅ~……、もうっ、勝手にしなさい!」

 

「リアス先輩……」

 

「でも、一つだけ約束しなさい! 私が許可するまで堕天使に攻撃しないこと! わかった!?」

 

「はい!」

 

 リアス先輩は俺に近づくと転移魔法を発動させた。

 

「え~と……? 私は……?」

 

 転移直前に寂しそうな朱乃先輩の声が聞こえたが、今は緊急事態なので無視!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアス先輩の転移魔法が終わって周りを見て見ると、そこは先日夕麻ちゃんに刺された公園だった。

 

「行くわよエイジ!」

 

 リアス先輩が駆け出したあとを追っていくと、イッセーが腹から血を流していて、そのすぐ近くにいる黒い羽を生やしたスーツ姿のおっさんが光の槍を掲げ、いままさに止めを刺されそうになっているところだった!

 

 それを確認したリアス先輩は、手のひらに魔力を集めておっさんの手に目掛けて放った。

 

 そして、そのままおっさんの前に立って、

 

「その子に触れないでちょうだい」

 

 と啖呵をきった!

 

 堂々と胸を張るリアス先輩、すっごく綺麗です!

 

 ――っと、いけないいけない。いまのうちにイッセーを回収しないと。

 

「なっ、エ……イジか?」

 

「イッセー。今は喋るんじゃない。傷に響く」

 

「ぐぅ……」

 

 イッセーは重傷だがギリギリ命に別状はない。それに俺の気を分け与えれば回復させることができるから放置だ!

 

 いまはリアス先輩と堕天使との啖呵の切りあいを見ないといけないからな!

 

「……紅い髪、……グレモリー家の者か……」

 

 おっさんが憎憎しげにリアス先輩を睨みつける。

 

「リアス・グレモリーよ。ごきげんよう、堕ちた天使さん。この子にちょっかいを出すなら容赦しないわ」

 

「……ふふっ。これはこれは。その者はそちらの眷属か。この町もそちらの縄張りというわけだな。まあいい。今日の事は詫びよう。だが、下僕は放し飼いにしないことだ。私のような者が散歩がてらに狩ってしまうかもしれんぞ?」

 

「ご忠告痛み入るわ。この町は私の管轄なの。私の邪魔をしたら、そのときは容赦なくやらせてもらうわ」

 

「その台詞、そっくりそちらへ返そう、グレモリー家の次期当主よ。我が名はドーナシーク。再び見えないことを願う」

 

 おっさんはそう言い残して黒い羽を羽ばたかせ夜の空に消えていった。

 

 そしてリアス先輩はイッセーを抱えている俺に向って来てイッセーの容態を確認しにきた。

 

「あら、気絶してしまうの? 確かにこれは少しばかり危険な傷ね。仕方ない。あなた自宅は……」

 

「リアス先輩! マジでさっきの啖呵の切りあいは格好良かったです!」

 

「……えーと、エイジ? いまはその子の治療をしなければいけないんだけど?」

 

「大丈夫です! 俺に任せてください!」

 

「任せてくださいって? 治せるの?」

 

「はいっ! 気を使えば一瞬ですよ!」

 

「――っ! ……へぇ~、気。気ねぇ…?」

 

「はい! 見ててください! ――ふんっ!」

 

 俺はイッセーを地面に寝かせ、4大変身宇宙人に孫悟空がやったように気を分け与えてイッセーの傷を完治させる。

 

「どうですか? 回復しましたよ」

 

「すごい……。あれだけの深手が一瞬で……」

 

「えへへへ~~、偉いでしょう? 褒めて、褒めてください~~」

 

「えっ、ええ……。偉いわねエイジ」

 

 リアス先輩が手を伸ばして頭を撫ぜてくれる。ああ、リアス先輩の指は滑々してて気持ちいいなぁ~。

 

「そういえばエイジ?」

 

「なんですか~?」

 

「私、あなたが仙術を使えることを教えてもらってないんだけど? これはどういうことなのかしら?」

 

 ヤバイ……、リアス先輩の手にまた魔力が集まってきた!

 

「あれ~? さっきの仙術って言うんですか? 知らなかったなぁ~~。…………すみません」

 

「大丈夫よ、エイジ。私、怒ってないから」

 

「えっ!? 本当ですか!? お仕置き無しですか!?」

 

「いいえ。お仕置きはしなきゃだめよ。私に隠し事したんですもの。当然でしょう?」

 

 ヤバイって! またあの笑っていない笑顔になってる!

 

「リアス先輩は怒ってる! 実はすごく怒ってるでしょう!?」

 

「怒ってないって言ってるでしょう? さぁ、お尻を出しなさい。今度は魔力を使って叩いてあげるから……」

 

「やめぇ……! やめてぇぇぇぇぇ~~~~!」

 

 ……。

 

 ………。

 

 ……………。

 

 その場でお仕置きを終えた俺は、リアス先輩と一緒に意識を失ってるイッセーを自宅に送り届けたあと、朱乃先輩の自宅に戻り、再び能力についての尋問と隠していたことによるお仕置きを2人から受けた………。

 



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第4話 久々の登校と悪魔イッセーとの初対面? と身の上話を少々

 

<エイジ>

 

 

 朝の学校。俺はリアス先輩と朱乃先輩の2人から手を引かれながら登校していた。

 

 うん。どうしてこうなったかを簡単に説明すると、昨日の晩にイッセーが堕天使のおっさんに穴あけられて死にそうになってて、その穴を塞ぐために俺が得意げに『気』を使って治したら、リアス先輩が「仙術を使えるのか?」とか怖い笑顔で尋ねられ、朱乃先輩の神社に送還。つい先ほどまで他に隠していることはないかと、尋問&隠していたことへのお仕置きを受けてたんだ。

 

 そして、逃げないようにって、両側から手を引かれながら登校したわけだが、周囲の視線が痛い。特に元浜と松田が「裏切り者め~」と親指の爪を噛みながら睨んでくるし……。

 

 まあ、「裏切り者」って言われても、実は3馬鹿のお前らが知らないだけで、駒王学園でかなり俺ってもててるぞ? ただ、決まってお前ら3馬鹿が居ない場面を狙って告白してくるから、知らないのは仕方がないかもしれないが。

 

 リアス先輩と朱乃先輩と別れたあと、元浜と松田に「裏切り者め~」と怒鳴られるんだが、その辺の話は別にいいだろう。

 

 登校してからしばらく呆けていたイッセーに「昨日会わなかったか?」と聞かれたが、リアス先輩が放課後自分が話すからということで、「使いが来るから放課後まで待ってろ」とだけ言った。

 

 そして、放課後。イケメン王子こと木場祐斗が俺とイッセーの教室を訪ねてきて、「リアス・グレモリー先輩の使いできたんだ」と言われ、俺たちは木場の後ろに続いてリアス先輩の下へ連れて行かれることになったんだけど、普通に行っても面白くないからイッセーを木場にまかせて、俺は別ルートから会いに行くことにした。

 

「じゃあ、木場。イッセーのことは任せたぜ」

 

「え?」

 

 そう言い残して木場とイッセーの前から姿を消し、とりあえず屋上へと向かう。

 

「えーと……、リアス先輩の魔力は……」

 

 昨夜感じた魔力の波動を学園の敷地から探すと、旧校舎でリアス先輩の魔力の反応を見つけた。

 

「さてと、場所も分かったことだし、どうやって驚かそうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 昨日の晩。松田の家でエロDVDの鑑賞会をやったあと、黒い羽根の生えた、そう、夕麻ちゃんの背中に生えていたような黒い羽根をつけたスーツ姿の男に襲われ、腹に大穴をあけられて、リアス先輩とエイジが目の前に現れるというヘンな夢を見た。

 

 まあ、夢だと思っていたんだけど、翌朝、リアス先輩とエイジが一緒に歩いていたところを見たときに昨夜の夢が夢じゃないんじゃないかと思えてきて、エイジに「昨日会わなかったか」と尋ねたらエイジが「使いが来るから放課後まで待ってろ」って言われた。

 

 やっぱり昨日の出来事は夢じゃなかったみたいだ。

 

 そして、放課後まで待っていると、教室の外から女の子たちの騒ぐ声が聞こえてきた。

 

 教室のドアを開けて入ってきたのはイケメン王子こと木場祐斗だった。

 

 木場は俺の席までやってきて「リアス・グレモリー先輩の使いできたんだ」とか言いやがった。

 

 しかも、エイジの席にも行ってエイジを後ろに従えて俺のところに戻ってきたし、エイジの言っていた使いって木場の事だったんだな。ん? でも、木場は「リアス・グレモリー先輩の使いできた」って言ったよな?

 

 ということは、俺を呼んでいるのはリアス先輩!

 

 俺は、リアス先輩を待たせることは出来ないと、立ち上がって木場とエイジの後ろ……、いや、エイジはなんか忍者みたいに一瞬で消えたから、木場と2人で廊下を歩く事になったんだが、女共の「木場に近づくな」という非難の声や「木場×兵藤、兵藤×木場」とかいう悪夢のようなカップリングで妄想を繰り広げる方々の視線を受けた……。

 

 木場につれられて歩いていると旧校舎へと入り、オカルト研究会とかいう看板を掲げた部屋に通された。

 

「部長、連れてきました」

 

「ええ、入ってちょうだい」

 

 部屋の中からリアス先輩の声が聞こえてきた。そう、夢の中と全く同じ綺麗で透き通るような声だ。

 

 木場が戸を開け、続いて部屋の中に入ると、部屋の内装の異質さに驚いたが、ソファーの上で黙々と羊羹を食べている少女が目に入った。

 

 なぜこんなところに1年生の塔城(とうじょう)小猫(こねこ)ちゃんがいるんだ!

 

 ロリ顔で、小柄な体躯、一見小学生にしか見えない我が高校の1年生で、女生徒たちからの人気も高いマスコット的な存在が、何故こんなところに!

 

 ん? シャワーの音が聞こえる。

 

 期待を込めて顔を音のほうへ向けると、室内の奥にはシャワーカーテン。しかも、女性の肢体がシルエットとして浮かんでいた。

 

 ま、まさか、リアス先輩っ……!?

 

「部長、これを」

 

 ん? カーテンの奥からリアス先輩の声とは違う女性の声が聞こえてきた。

 

「ありがとう、朱乃」

 

 カーテンから着替えている音が聞こえる。この薄いカーテンの裏側ではリアス先輩が着替えているんだろう。

 

「……いやらしい顔」

 

 ぼそりと呟く声。声のした方向には塔城小猫ちゃんの姿があった。俺は視線をそちらに送るが、小柄な一年生は羊羹を食べているだけだった。

 

「こをぉんにちわ~~~!」

 

 突然部室に陽気な声が響いた。

 

 声がしたほうに顔を向けると、カーテンの方向だった。

 

「ん? さっきの声って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 サプライズをしようとして陽気に、他の世界で覚えていた転移魔法を使ってリアス先輩の目の前に転移したんだが、どうやらタイミングが悪かったようだ。

 

 リアス先輩はどうやらシャワーを浴びていたらしく、丁度、着替えをしていたのだ。しかも、紫色の紐パンを穿こうとしていたらしく、上半身を屈め、尻を突き出すような体勢で、後ろ側に転移したために、俺の位置からは、口を少し開いたオマンコやピンク色の尻の穴まで丸見えだった。

 

 しかも、転移した瞬間に馬鹿みたいに挨拶したから逃げることもできない。ていうか、朱乃先輩が目の前にいるから、転移して挨拶しなかったとしても逃げることはできなかっただろう。

 

「あは、あははは……。……えーと、すいませんでしたー!」

 

 とりあえず笑ってみたが、2人は尋問したときのような怖い笑みを浮かべていて、笑って誤魔化すという手も封じられたので、素直に土下座して謝った。

 

 土下座を続けていると頭に手を置かれ、優しく撫でられた。

 

「リ、リアス先輩? 許してくれるんですか?」

 

 顔を上げるとリアス先輩は着替えを終え、制服に身を包んでいた。

 

「ええ。覗いたことは許すわ。部室でシャワーを浴びていたことを知らなかったみたいだし」

 

「ほんとですか!」

 

「ええ。知らなかったんでしょ?」

 

「はい! まさか転移魔法で、あんなおいしいハプニングが起きるとは夢にも思ってなかったです!」

 

 ていうか、そもそも学校の教室でシャワー浴びてるとは驚きです!

 

 いや~、それにしてもリアス先輩が話せる人でよかった。

 

 俺は土下座をやめて立ち上がり、頭を下げて改めて謝り、カーテンを開けて外に出た。

 

「なっ! エイジ! なんでそこからお前が出て来るんだよ! ていうか、リアス先輩となにやってやがったんだ!」

 

 カーテンを開けると、なにやら呪いが施されている異質な部屋が広がっていた。そして、リアス先輩に呼ばれたイッセーが血の涙でも流さんやという表情で掴みかかってきた。

 

「ああ。ちょっとしたハプニングがあってな」

 

「くそぉぉぉう! なんでお前ばかり毎回、おいしい目にあうんだ!」

 

 やれやれと、イッセーを無視して周りに見ると、木場と塔城小猫ちゃんが俺を警戒するような目で見ていた。得体の知れない人物だと思われたか?

 

 それからリアス先輩は俺とイッセーを向かい側の席に座らせて、悪魔に転生させた経緯などを話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夕麻ちゃんは堕天使で、俺の中にある 神  器 (セイクリッド・ギア)が目的で近づいてきて、俺を殺した。そのあとにリアス先輩がやってきて、死んだ俺を悪魔に転生させた……」

 

 イッセーがショックを受けたように呟いた。

 

 まあ、初めての彼女に騙されたんだし、良くも悪くも純粋だから、精神的に辛いだろう。

 

「ええ。あと、エイジもあなたと同じように堕天使に殺されかけてたから、悪魔に転生させたの」

 

 殺されかけたのは間違いだけどな。俺は寿命以外じゃ死なないし、体中にリミッターをかけて強度を人間にしていただけで、本来だったら貫く以前に傷つけることすら出来なかっただろうしな。

 

「そう言えば! エイジはなんで公園にいたんだ?」

 

「ああ、お前のデートが気になって尾行してたんだけど、お前がいきなり腹を刺されるから驚いて、草むらからでたら、夕麻ちゃんに刺された」

 

「じゃあ、俺のまきぞいで死んだのか……」

 

 イッセーが落ち込んだように呟いた。

 

「それは違うぞ? 俺はあのままでも死ななかったし、お前のせいじゃない」

 

「エイジ……」

 

 イッセーは感動したような目を向けてくる。えっと、事実あのままでも死ななかったんだからな? まあ、悪魔になっちまったのはお前のせいとも言えるけどさ。

 

「それと、昨日の晩にあなたがスーツを着た堕天使に大怪我負わされたとき、怪我を治したのはエイジだからお礼を言っておきなさい」

 

 リアス先輩が紅茶を飲みながらイッセーに言うと、イッセーは涙を流しながら感激したように手を握って、お礼を言ってきた。

 

「ありがとう、エイジ! お前のおかげで童貞のまま死なずに済んだ!」

 

「あ、ああ。どういたしまして」

 

「とりあえず、イッセーの神器を出してみましょう」

 

「神器?」

 

「ええ。堕天使があなたを殺そうとした理由ね」

 

「あの……、どうやって出せばいいんですか?」

 

「目を閉じて、あなたの中で一番強いと感じる何かを心の中で想像してみてちょうだい」

 

「い、一番強い存在……、ドラグ・ソボールの空孫悟かな」

 

「では、それを想像して、その人が一番強く見える姿を思い浮かべるのよ」

 

 リアス先輩はイッセーを急かすように呟く。

 

 急かされたイッセーは、やけくそぎみに立ち上がって、ドラゴン波を撃つポーズをやってのけた。

 

「マジか! こんなところでドラゴン波を撃ちやがった! ぷっ、あはは! あははははっ!」

 

 俺は隣でドラゴン波のポーズを決めたイッセーを指差して腹を抱えて笑い転げる。

 

「笑うんじゃねぇえよ! こちとら真剣にやってるんだからな!!」

 

 イッセーが怒鳴ってくるが、笑い声を堪えるのは無理だった。ていうか、撃つときの顔が真剣すぎて……、ぶぷっ! もうダメ……! 腹が……、腹がよじれる!

 

「くそぉう! って、ん? なっ! なんだこれ!?」

 

 イッセーが拳を振り上げようとして動きを止めた。なんだ? 

 

 いつのまにかイッセー左腕に赤い籠手が着いていた。

 

「それが神器。あなたのものよ。一度ちゃんと発現できれば、あとはあなたの意思で発現可能になるわ。あなたはその神器を危険視されて、堕天使―――天野夕麻に殺されたの」

 

「これが俺の神器……」

 

「ええ、そうよ。じゃあ、とりあえずは悪魔になりたてのあなたたちに、悪魔について少し話しましょうか」

 

 リアス先輩は軽く微笑み、現在の悪魔について語り出した。

 

・数百年前に冥界と天界で大規模な戦争が起きて、4大魔王や大勢の純潔悪魔が死んだこと。

 

・戦争で勢力が激減したので、欠員を補うために、俺やイッセーのような人間や他の種族を下僕として引き込むシステムが作られたこと。

 

・転生悪魔でも、大勢の人間と契約し、願いを叶え、対価を貰い実績を積んでいくと、出世できて爵位を貰える事。

 

 まあ、冥界で賞金稼ぎしている俺にとっては、ほとんど知っている内容だったけどな。

 

 だが、純粋な一般人であったイッセーには初めて聞くことばかりで、リアス先輩が話ごとに驚いていた。

 

「ということは俺も上級悪魔になれば下僕を持って、自分のハーレムを作ることが出来るんですか!?」

 

 イッセーが立ち上がって大声で訊ねると、リアス先輩は「それは、あなたの努力しだいね」と頷いた。

 

「くくく! ハーレム王に俺は……なるっ!!!」

 

 イッセーは両手を振り上げて宣言した。ていうか、いくらなんでも単純すぎるだろう……。

 

「さてと……、それじゃあ、エイジ」

 

「はい。なんですか?」

 

「あなたについて詳しく(・・・)教えてもらえるかしら?」

 

 リアス先輩と朱乃先輩の微笑が怖いものへと変わった。

 

「えーと、俺のことですか?」

 

「ええ、もう隠し事はなしよ。あなたっていったい何者なの?」

 

 朱乃先輩が無言で鞭を取りだし、リアス先輩が魔力を手に集中させる。

 

「これは、話すしかないか……」

 

「ええ。きちんと説明しなさい。もう、誤魔化しはなしよ」

 

 ソファーに深く座り、ゆっくりと口を開いて話し始る。

 

「俺の両親は8歳の時に交通事故にあって他界しました」

 

「事故」

 

 部室の空気が重くなる。

 

「ええ。トラックに突っ込まれて即死だったらしいです。まあ、それで俺には親戚とかも居なくて文字通り、天涯孤独になったわけです。施設に送られるはずだったんですが、俺は施設に行きたくなかったので、施設へ向かうトラックを抜け出しました。そして、俺は、はぐれ悪魔に出会いました」

 

「はぐれ悪魔に出会ったの!?」

 

「はい。適当にボコって冥界への行き方を教えてもらったんで、それから生きるために冥界で賞金稼ぎを始めたんですよ。まあ、日本じゃ子供が出来る仕事なんてのは余りありませんからね。そして、1年後に冥界で知り合った人に後見人になってもらって日本に戻ってきたんです。そのあとは、普通の人間として学校に通いながら、生活費を稼ぐために冥界で賞金稼ぎをしてました」

 

 本当は、はぐれ悪魔を拾っただけなんだけどね。そこは説明するのが面倒だから嘘をついておく。

 

「8歳で賞金稼ぎ……」

 

 小猫ちゃんが悲しそうな目で見つめてくる。

 

「まあ、生活費なんかを稼ぐためにいろんな賞金首を狩っていくうちに強くなったわけですよ」

 

「エイジって、普段の陽気さと違ってヘビーな人生を歩んでたんだな」

 

 イッセーが呟く。

 

「……それで、あなたの能力なんだけど」

 

 リアス先輩が真剣な面持ちで尋ねてきた。

 

「俺の能力ですか……、まあ、色々ありますが、人外の身体能力に、【王の財宝】、仙術ぐらいは話しましたよね」

 

 仙術と言った途端、小猫ちゃんの顔が強張った気がしたが気のせいか?

 

「ええ。他にもあるなら教えてくれると助かるわ」

 

「他には……、そうですね。神器みたいなもので【千の顔を持つ英雄】と、ある程度魔法が使えることですかね」

 

「【千の顔を持つ英雄】?」

 

「はい。えーと、想像した武器や武装を出すことができます」

 

「【王の財宝】とは何が違うの?」

 

「【王の財宝】は俺が持っている物を仕舞っておける倉庫みたいなもので、【千の顔を持つ英雄】は魔力や気を使って無から武器を創る……、まあ、同じようで全く違う力なんです」

 

「魔法はどれぐらい使えるんですの?」

 

 朱乃先輩が難しい質問をしてきた。魔力がほぼ無限に使えて、魔法はもう数えきれないほど覚えてるんだけど、それ言うとまた面倒な説明をやるはめになりかねないな~。

 

「そうですね~。あっ、朱乃先輩、ちょっといいですか?」

 

「ええ、なんですの?」

 

 思いついた。どれぐらい使えるかって曖昧に尋ねたんだから、曖昧に返せばいいんじゃねえのって。

 

 俺は朱乃先輩を部屋の隅、イッセーや木場に絶対に見えない位置まで引っ張っていき、【王の財宝】から先日いただいたネコさんパンツを召喚した。

 

「こ、これは!」

 

 それに覚えがあったのか朱乃先輩の顔が真っ赤になった。まあ、名前も書いてるから一目で誰のものかわかちゃうか!

 

 あと、純粋に魔法を使って盗った訳でもなかったけど魔法だけ使って同じように侵入できたしこれでいいよな。

 

「朱乃先輩に気づかれずに結界に入ったり、転移できたりできます」

 

 そう言って【王の財宝】の中にネコさんパンツを仕舞いこもうとゲートを開こうとしたら、朱乃先輩からネコさんパンツを取られた。

 

「これは返してもらいますわ」

 

「ちょ!? 俺が苦労してゲットしたのに~」

 

「これはもともと私のですので」

 

 そう言って、スカートのポケットにネコさんパンツを仕舞いこみ、部長が座っているソファーの後ろに戻った。

 

「なに落ち込んでいるのよ、エイジ」

 

 とぼとぼとソファーに戻りいじけている俺にリアス先輩が心配そうに尋ねてきたが、素直に事情を話せるわけもなく「なんでもないです」と返した。朱乃先輩は落ち込んでいる俺を見て微笑み、ネコさんパンツを仕舞いこんだスカートのポケットから少しだけネコさんの顔を見せる。

 

 くそぉ……、皆に見えないように俺だけに見せるとか、朱乃先輩って確実にドSだろ! せっかく、永久保存しようと名前まで書いたのに~。

 

「それにしても、そこまで高スペックなのに、なんで普通の『兵士』の駒を1つ消費しただけで転生できたのかしら? 変異の駒を使っても無理そうなのに……」

 

 リアス先輩が顎に手を当てて小声で呟いた。

 

「ああ、それなら、たぶんですけど、俺が普通の人間まで能力を落していて、死に掛けていたから転生できたんじゃないですか?」

 

「つまり能力を弱くしていたことと、死に掛けていたから転生させるシステムが普通の人間1人分と判断したって言いたいわけね。でも、それは不可能よ。いくら能力を落していたとはいえ、転生は文字通り肉体から魂を悪魔に作り変えるのよ。あなたを悪魔に作りかえる過程で、システムのほうがあなたを駒ひとつで転生させることなんか出来ないって判断するわ」

 

 リアス先輩の話を聞くと、何故俺が無事に悪魔へと転生を果たしたか気になってきたが、1つだけ心当たりがあった。そして心当たりが正しければすべてが繋がるのだ。

 

「あのとき感じた痛みは、体を作り変えることを拒絶したことで起こったのか……」

 

「なにか、心当たりがあるの?」

 

「……ええ。確証はありませんが、俺の体が転生できた理由が予想できました。俺の体が悪魔に転生するシステムをウイルスと思って反発したんですよ。本来なら転生できないまま終わるはずが、俺の体が異物としてシステムを刺激し、システムが暴走。俺の体を無理やり悪魔に転生させようとしたんでしょう」

 

「……じゃあ、あの時あなたが苦しんだのは拒絶反応みたいなものだったのね」

 

「本来なら拒絶反応は数時間ほどでやんでシステムを消去し、転生は出来なかったでしょうね」

 

 うん。確実に俺のほうが勝っていたから、悪魔には転生しなかったはずだ。

 

「だけど、いまのあなたは悪魔」

 

 小猫ちゃんが俺を見て呟く。

 

「まあ、なんで無事に転生できたかと言うと……」

 

「「「言うと?」」」

 

 言葉を溜める俺を部室に居るメンバーが静かに見つめてきた。

 

「俺を転生させた相手がリアス先輩で、朝まで朱乃先輩と一緒に手厚い看護をしてくれたから、だな」

 

 リアス先輩と朱乃先輩の顔にほんのりと朱がさした。

 

「2人の温かさに、拒絶するのも忘れて身をゆだねたから、そのまま発動した転生システムとやらに悪魔に変えられたんでしょうね」

 

 俺がそう言って笑うと、ますます2人の顔の朱色が増す。

 

「まあ、そんなわけで俺はリアス先輩の下僕になったわけだな」

 

 いや、2人のおっぱいの温かさに身を委ねたから転生したとか言ったら、いつもおっぱいおっぱいと叫んでるイッセーが泣き出しそうだもんな。

 

 そういや、元浜と松田やイッセーと友達になれたのも、俺が3人を気遣って女の話をしなかったからだったな。するとしても、アニメとかのヒロインだけだったし……。いや、だってさ、現実の女の話や体験談とかなるといきなり般若みたいに怒りだすから面倒臭くて言えないんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーと共に改めてオカルト研のメンバーと自己紹介をしたところまでは良かったんですが……、能力を秘密にしていたことで、3回目となるお仕置きを受けることになりました。

 

 まあ、事情があったってことで昨日よりもやさしめだったので助かりましたよ。

 

 ていうか、リアス先輩の魔力を込めた尻叩きはマジで痛いです! いや、身体能力を解放すれば痛みなんか感じないんですが、それだと、リアス先輩の手が壊れるかもしれないので甘んじて受けるしかありませんし……、何回も叩かれているうちに癖になっちゃったら責任とって貰おうかと思ってます。マジで。

 

 それから、『新人悪魔』としてとりあえず、今日の夜からチラシ配りをやるそうです。繁華街にちょっとした知り合いが居るので、チラシを渡してみますか。はあ~、リアス先輩に叩かれた尻の痛みがだんだん気持ちよく……、っと、ヤバイヤバイ。目覚めるところだった……、気をつけないと!

 



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第5話 悪魔のお仕事と初契約 ☆

<エイジ>

 

 

 悪魔に転生し、新人悪魔としてイッセーと共にチラシ配りを始めて数日が過ぎた頃の夜。いつも通りリアス先輩……、部長って呼べって言われたっけ。まあ、部長からチラシを貰って配りに行こうオカルト研の部室に入ったら、朱乃先輩……、いや、朱乃さんに魔法陣の中に立つように言われた。

 

「エイジ、イッセー、あなたたちのチラシ配りは終わり。よくがんばったわね。改めて、悪魔としての仕事を本格的に始動してもらうわ」

 

 部長がそう言って微笑む。

 

「おお! ついに俺らも契約取りですか!」

 

 イッセーがキラキラした目で飛び跳ねながら喜んでいるが、俺はこいつがきちんと契約をとることができるのかが不安だ。学園でトップ3の変態だし。

 

「ええ、そうよ。とりあえずまずはグレモリー眷属であることを示す魔法陣を体につけるから、イッセーは魔法陣の外に出で待ってて」

 

「はい! 分かりました!」

 

 魔法陣の中で1人になると、朱乃さんが呪文を詠唱し始め、足元の魔法陣が青く光り出す。部長に手を出すように言われ、手を出すと魔法陣が刻まれた。この魔法陣に魔力を流すとチラシを受け取った依頼人のところへと転移できるらしい。

 

「さっそくだけど、エイジ。あなた宛に依頼がきてるわ。『悪魔』として契約を取ってきなさい」

 

 部長からの激励を貰い魔力を魔法陣へと流すと、自分で転移魔法を使ったような浮遊感を感じ、空気が変わったのが感じ取れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 依頼人の下へと転移を終え、周りの様子を確認すると、紺色のスーツ姿で、セミロングの黒髪を後ろで1つにまとめた、20代前半ぐらいの知的系美人が目の前に腰を抜かして床に座っていた。

 

「ん? あなたは確か先日チラシを渡した……」

 

 女性は気の強そうなつり目と、薄い唇に、強い酒の臭いに隠れたローズマリーの優しい香りが印象的で、繁華街を歩いているときにすれ違いざまに、リアス先輩から貰った仕事用のケータイが反応し、慌ててチラシを渡した女性だった。

 

 チラシを渡したときの彼女は酔っ払っていて足元がおぼつかない状態だったので、彼女の部屋があるマンションまで送り届けたのをよく覚えている。

 

「あっ、あなたって悪魔だったの!?」

 

 女性が声を震わせて指差してきた。女性に怖がられるのは悲しいな。

 

「そうです。最近、悪魔になったエイジと言います」

 

 とりあえず、床にいつまでも座らせておくわけにも行かないので、部屋にあった椅子に座らせた。

 

「あ、ありがとう」

 

「どういたしまして。それで、悪魔を呼んだのですから何か叶えたい望みがあるんですか?」

 

 丁寧に、優しく訊ねると女性は頷いた。

 

「わ、私は中山(なかやま) (ともえ)です。OLをしているんですが……、あの……、その……」

 

 巴さんは急に顔を伏せた。それに、耳まで真っ赤になっているとこから、いい難い願いなのか。

 

「俺は悪魔です。対価さえ払えば、ある程度の願いは叶えますよ」

 

「じゃ、じゃあ…………」

 

 優しく後押しすると、巴さんは顔を上げて呟き始めた。

 

「わ、わたしの処女を奪ってください…………」

 

「へっ?」

 

 思わず間抜けな声を上げてしまった。いや、ていうか、なんだって? えっと……、俺の耳がおかしくなったのか? 巴さんの声も小声で震えていたし、俺の聞き間違……、

 

「わたしの処女を奪ってください!」

 

 ……い、じゃなさそうだ。

 

「えっと、理由を聞いてもいいか?」

 

 敬語をやめて素に戻って尋ねる。

 

「わ、私は、今年で23歳になるんですが……。だ、男性と一度も付き合ったことがなくて、しょ、処女なんです……。そっ、それに、女子高にずっと通ってて、男性とあまり接しない環境で育ったためか、軽度の男性恐怖症なっちゃって……」

 

「つまり、俺に男性恐怖症を治すきっかけになってほしいと?」

 

「えっと……、はい、そうです」

 

「でも、処女を奪われる相手が俺でほんとにいいのか? 俺は悪魔なんだぞ? 悪魔に処女を奪われても後悔しないのか?」

 

 俺は少しキツメの視線を送るが、巴さんは俺の目を真っ直ぐ見据えて言い放った。

 

「あっ、あなたが悪魔だろうと関係ありません! 先日、家まで送ってもらったときに好きになっちゃったんですもん! 初めて好きになったあなたに処女を奪って欲しいんです!」

 

 ん~、ほんとは男性恐怖症の治療がメインじゃなくて、こっちが本当の理由かぁ。

 

 俺は、巴さんの真剣な眼差しに負けてしまい「わかった」と頷いた。

 

 まあ、純粋に男として女から求められるのは嬉しいし、酔っ払っていたときの粗暴な印象と違い弱弱しい彼女のギャップに俺自身も欲情しているからだ。

 

 で、頷いたのはいいけど、処女を奪ってもらうときの対価ってなんだ?

 

 部長から貰った契約用のケータイにはそんな項目は記載されてないし、検索しても出てこない。

 

 うーん……対価、対価ねぇ。まあ、俺が満足するものでも貰っとくか。でも、契約したことが分からなきゃ意味がないんだろ? アレだったら、一目で契約した事が分かるし、アレでいいかぁ

 

「悪魔として契約を取りに来た身として、対価を君から払ってもらうことになるんだけど」

 

「はい」

 

 巴さんに近づき、契約内容を話す。

 

「契約内容は、巴さんの処女を俺が奪う事。で、対価は、行為の間俺を気持ちよくさせる事、巴さんもすべてをさらけ出して快楽を感じる事。それと契約の証拠として処女の血と下着をもらうから」

 

「わ、分かりました。契約します」

 

 巴さんから、契約を結び、契約通り、処女を貰うために動き始める。

 

「じゃあ、とりあえずベッドに行こうか」

 

「は、はい……」

 

 巴さんを抱えあげ、部屋の奥のベッドルームへ場所を移し、ベッドに座らせる。

 

「…………」

 

 巴さんはガチガチに緊張しているようで小さく縮こまっている。まずは男に慣れさせるところから始めるか。

 

「まずは、キスからだな」

 

「ひゃっ、はい……」

 

 巴さんは声が少し裏返ってしまったことに、顔を真っ赤にしながらもうなずいた。

 

 俺は巴さんの隣に座って、肩を抱き、唇を重ねる。

 

「――っん」

 

 巴さんの唇から声が漏れ、体がビクリと震える。

 

 かわいらしく目をぎゅっと閉じてされるがままになっている巴さん。唇を舌でなぞるとビクッと体を跳ねさせ、唇を舌で割ってやると、答えるようにおずおずと口を開いて、舌を口内へと侵入させた。

 

「んじゅっ、むっ、うむっ、ああ……」

 

 巴さんの口内にたっぷりと唾液を送り込んでやると、それを愛おしそうに舌に絡めて飲み下し、快感でも感じているのか蕩けた表情を浮べる。 

 

「はぁ……、はぁ……、んむっ……」

 

「ああ、すごく可愛いよ巴さん……」

 

「――っん、エイジさんっ」

 

 キスを続けながら巴さんをベッドに押し倒す。肩を抱いていた手を胸へと移動させ、スーツ越しに手を這わせる。

 

 びくんと彼女の体が跳ねた。緊張しているんだろう。硬直して拳を硬く握っている。

 

「巴さん」

 

 彼女に呼びかけてスーツの上着の脱がし、中のワイシャツのボタンを外していく。

 

「エ、エイジさん……」

 

 まるで子犬のようなウルウルとした瞳で俺を見つめる巴さん。

 

 ワイシャツのボタンを外し、肌蹴させると、薄ピンク色のかわいらしいレースがあしらわれたブラジャーが現れた。

 

「脱がせるよ?」

 

「ん……」

 

 フロントホックになっているブラジャーのホックを外して、改めておっぱいを見る。

 

 シミひとつないキレイな白い肌。胸のサイズはC~Fの間ぐらいか? まだ穢れを知らない綺麗なピンク色の乳首がひょこんと起っていた。

 

「綺麗だ」

 

 もう一度、改めてキスをして、唇から首筋と舌を這わせながら胸へと移動する。

 

「んんっ! だ、だめっ、んっ! むっ、ふむぅぅっ、んっ!」

 

 どうしても漏れてしまう声を必死に抑えようと口を手で塞ぐ巴さん。そんな抵抗も見ていてかわいらしく、もっと喘がせてあげたくなるが、

 

「大丈夫。この部屋から音は漏れないよ。思う存分、感じるままに声を出していいんだ。――それに、巴さんが自分をすべてさらけ出して快楽を感じるって契約しただろ?」

 

 そうつぶやきながら俺は、彼女に見せ付けるように、乳首の真上で口を開ける。

 

「え、エイジさん……」

 

 巴さんが乳首を咥えようとしている俺を見て、体を強張らせているようだが、俺は止めない。

 

 乳首の真上で空けた口から舌を突き出し、その舌の先端に唾液が集めて、ゆっくりと銀色の線を引かせながら、乳首へと垂らす。

 

「ひゃっ!?」

 

 可愛らしい悲鳴が彼女の口から漏れる。ぎゅうっと閉じている彼女の手をやさしく握って開かせ、手のひらと、自分の手のひらを合わせて、指を絡めせる。

 

 唾液に汚させた乳首が部屋の明かりを受けて輝く。

 

 俺は巴さんの乳輪をなぞるように舌先で円を描くように舐める。乳輪を舐められ、さらに硬くなる乳首を舌で弾き、咥えてちゅぱちゅぱとワザと厭らしい音を鳴らしながら吸いつく。

 

「あんっ! んぅぅっ……、あっ、そ、そんなに強く、吸わないでぇぇぇ……っ! ……あ、んんっ! あああぁぁぁぁ~~~~」

 

 ちゅぅっと強く乳首に吸いついて、唇で乳首を扱くと、巴さんは叫びをあげながら体が跳ねさた。口を開け、舌をだらしなく突き出して、とろんと、つり目がさがり、惚けた表情になった。

 

「イッみたいだね」

 

「いくぅ?」

 

「そうだよ。すごく気持ちよかったんだろ」

 

「うん……、きもひよかった……」

 

 巴さんは舌足らずになりながらも恥ずかしそうにうなずいた。

 

「じゃあ、今度はこっちでイってみようか?」

 

 俺はそう言いながら巴さんの下腹に手を当てる。巴さんは言葉の意味を承知した上で笑顔でうなずいた。

 

「うん、きもひよくさせふぇ」

 

 筋肉が弛緩し、快楽で頭の回らない彼女から上着とワイシャツ、ブラジャーを完全に脱がし、タイトスカートのチャックを下ろし、黒色のストッキングをくるくると丸めるように脱がした。

 

 ストッキングを脱がすと、美しい太ももと、上下でセットの下着だったようで、こちらも薄いピンク色の柔らかな生地にピンク色のレース、そして中央に添えられた小さなリボンが可愛らしいパンツが現れた。

 

 23歳の女盛りにしては随分と可愛らしい下着だったが、彼女のように男に興味がなく縁遠い生活を送っていたのなら、男を誘う下着よりも、可愛らしい下着を好むのは当然ちゃあ、当然だな。

 

 指先で優しくパンツ越しにオマンコに触れると、パンツはオマンコからあふれ出る愛液にじゅくりと湿っていた。

 

「あっ……、んっ、くっ……」

 

 指で擦るとますます湿り気をおび始めた。彼女も荒い呼吸になって快感を感じているようだった。

 

 両指を引っ掛けてパンツを剥ぎ取る。膝下に手を差し込み、真上に持上げ、彼女の尻を浮かせ、倒れないよう支えになるように密着して両足を開かせ、開いた足を閉じれないように両腕で捕らえる。

 

 ピンク色で花びらの形が厭らしく、淫核も発育しておらずサイズは小豆ほど、膣口辺りに恥垢が溜まってて、濃厚な香りをだしていた。

 

 彼女は小さな悲鳴をあげたが、舌で尻側から淫核へ向かって舌でひと舐めると、おとなしくなった。

 

「ふふっ、すごく美味しいよ巴さん」

 

「んあっ、んんっ! だ、だめだよぉ……。そ、そこは、きたなぃ、いっ、んっ!」

 

「汚くなんてないよ」

 

「んっ、ああっ! し、舌でペロペロされちゃってるっ。んっ、んん~!」

 

 彼女はオマンコを清めるように舌で舐める俺の顔をどかそうと、頭に両手を置いて押してくるが、膣口に舌を差込み処女膜を舌で押すと、その抵抗は途端に弱くなる。

 

 そして、膣口にこびり付いた恥垢を舐め取り終わると、淫核を唇で挟んで軽く吸う。

 

「――っ! あっ、ああああっ! ああぁぁぁぁぁ~~っ!」

 

 彼女の絶叫が部屋に鳴り響く。激しい絶頂で尿道までもが弛緩したようだ。ぷしゅうぅぅっと、顔に温かい液体が降り注ぐ。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……。ああ……、ああ、あああ……」

 

 彼女は顔を両手で覆い隠した。小水を俺の顔面に浴びせた事が相当恥ずかしいらしい。

 

 膝から手を離しベッドに横たえ、俺は小水まみれになった服を脱いで裸になる。ぴったりと閉じた巴さんの股を開いて、その間に体を入れる。

 

「巴さん」

 

 ――始めるよ。そう、声をかけるように彼女の名を呼ぶ。

 

「あ、ああ……。こ、これがお、男の人の? す、すごい……」

 

 巴さんは先ほどまでの恥ずかしさも忘れて、オマンコの上に乗せたペニスを凝視していた。まあ、俺のは20cmを超えてるし、周囲もそれと比例して太い。雁首もヘビのように太長く、膣壁を削り喰らうようなキノコみたいな傘が開いていて、段差が激しくて凶悪だからな。それに巴さんは実物を見るのは初めてみたいだし。

 

 俺は見せ付けながら言う

 

「これが、男のペニスだ。――今から君の処女を奪うからな」

 

「――っ」

 

 膣口に亀頭の先端をあわせる。最終確認するように。

 

 巴さんは自分のオマンコにあたっているペニスを怖がりながらも、しっかりとうなずく。

 

「……はい。私の処女を、う、奪ってください」

 

「ああ、わかった」

 

 こちらも真剣にうなずき返し、滑ってはずれてしまわないよう、膣口に亀頭の先端を入れ、改めて彼女に目で合図を送り、一気に腰を進めて処女膜を散らした。

 

 ミチミチッという音と共に、巴さんの口から痛みを孕んだ絶叫が鳴り響く。

 

「っぅうううう~~!!」

 

 覆いかぶさった俺の背を強く抱く、彼女の爪が背中に食い込む。

 

 処女口はぎゅうぎゅうに締め付け、膣道は初めて侵入してきた異物に戸惑い蠢く。俺の本能が女を孕ませようと射精感を募らせる。

 

 しかし、ここで動くのは処女の痛みに涙を流している彼女にとっては地獄だ。ただでさえ標準サイズを超え、まだ3分の2ほどしか入っていないのに、すでに子宮口に亀頭が触れているのだ。ここで動くと雁首と竿で傷を擦ることになってしまう。

 

 俺は痛みをやわらげ、慰めるように巴さんの首筋を舐めたり、おっぱいに揉んだりと愛撫を施しながら、痛みが弱くなるのを待った。そうそう、待っている間に、今のうちに白い布を取り出して、処女を奪った証である血を、白い布に染みこませた。

 

 動かずに彼女の性感を刺激し続けていると、痛みを孕んだ声をあげていたのが、艶を含んだ声に変わりだし、膣の締めつけも柔らかく精液を欲しがるように蠢き始めた。

 

「そろそろ動くぞ」

 

「はぁはぁ……、え? ふ、くぅんんっ! ああっ! んんっ!」

 

 膣道で動き始めたペニスを感じて体を震わせたが、だんだんと目を細めてペニスによる快楽を感じ始めた。

 

「あ、ああっ、す、すごぃいい……! わ、私のなかでエイジさんのが動いて……、んぐっ」

 

 体から力を抜いてされるがままになっている巴さん。俺は腰を振るい、何度も膣道を突き荒らす。

 

 硬く絞まるだけだった彼女の膣道がゆっくりと変化し始める。

 

 愛液が大量に流れ出し、精液を求めて子宮のある奥へと導くように膣道が蠢き、精液を欲しがるように子宮が降りてきて、子宮口に亀頭が触れるとちゅうぅぅと、吸い付きだした。

 

「はぁはぁっ、いいっ! いいですっ。こ、これが、エッチなんですねっ。すごく、気持ちいいですぅぅっ」

 

「ああ、これがエッチだ! 俺もすごく気持ちいいよ、巴さんっ。もっと、もっと巴さんを感じたい!」

 

 巴さんに覆いかぶさり、さらに腰を振るう。

 

 

「あっ、ああっ! ん、んん~……っ!」

 

 膣道を荒らすように突きまくると、彼女の体や膣が痙攣しだした。舌をだらしなく出し、白目を剥いてアヘ顔に変わった。

 

「――っんんっ! あっ、い、いくぅぅっ! いくぅ、いっちゃうぅぅぅ!」

 

 膣がこれまで以上に締め付け始めた瞬間。一気に腰を進め、子宮口にめり込ませるようにペニスをあてがう! そして尿道まで溜まっていた精液を子宮に流し込む!

 

 ビュッ、ビュビュッ! ビュビュゥゥゥゥッ!

 

「あっ!? ああぁぁぁっ! あつっ!? あついいいいいぃぃぃぃ!」

 

 子宮に流し込まれた精液の熱に巴さんは大きく体を跳ねさせる。俺は巴さんに覆いかぶさったまま、ずっと我慢していた分の精液を最後の一滴まで子宮に流し込んだ。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……」

 

 巴さんの荒い息遣いが部屋に響く。ふと結合部を見ると、膣口を限界まで広げるようにピッタリと塞いでいるペニスとの隙間から、膣内の空気を抜くようにぷひっと小さな音を鳴らしながら白濁した精液が漏れ出てきていた。ああ、我ながらすごい量だな。

 

 完全に射精を終えて、ペニスをオマンコからズブブ……っと引き抜くと、豆粒ほどだった小穴がぽっかりと口を開き、その開いたままの小穴から子宮に収めれなかった精液がごぽぽぽ……っといやらしい音をたてながらあふれ出てきた。

 

 一方の巴さんはというと、股を閉じることも忘れて放心しているようで、天井を見上げていた。

 

 俺は、とりあえず部屋からタオルを借りて、水をつけて濡れタオルにして巴さんの肌に浮かんだ大粒の汗や、オマンコから漏れる精液を拭き、小水や愛液、精液や汗と色んな臭いが混じったベッドを浄化魔法で清めて、裸のまま彼女の隣に寝転がった。

 

 隣に寝転がり、体を清める最中に寝てしまった彼女が目覚めるまで優しく抱きしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、目が覚めると処女を奪うという契約を交わした巴さんが規則正しい寝息を立てて眠っていた。どうやらあのまま俺自身も寝てしまったらしい。

 

 こうして彼女の寝顔を見ると、昨晩の可愛らしく乙女チックな印象と違い、仕事の出来るクールな知的系美人に見えた。

 

 しばらく眺めていると、彼女が目を擦りながら目を覚ました。

 

「……ん? あなたは……?」

 

 まだ寝ぼけているのか、裸で昨晩のことも忘れて起き上がった。

 

 朝日に照らされて輝く白い背中を眺めていると、巴さんの裸体を隠していたシーツがはらりと落ちた。

 

 シーツが落ちて、巴さんは体の違和感を感じたのか視線を下に向けた。そしてそのあと、俺の顔を見て鼓膜が破れんばかりに悲鳴をあげた。

 

「ああああああ~~~~~~! あっ、あ、あああ、あなたは……っ!?」

 

 完全に目覚めた巴さんは激しく取り乱し、体をシーツで隠してベッドの隅まで逃げた。

 

「まあ、落ち着けよ」

 

 逃げた彼女を追って頭を抱きしめる。始めはジタバタともがいていたが、ゆっくりと顔を赤らめて大人しくなった。

 

 そのあと、昨夜のことを思い出して赤くなる巴さんと朝風呂に一緒に入って、彼女の色んな話を聞いた。

 

 まあ、主に上司の愚痴などを聞いてやり、俺はなんども転生して得た豊富な人生経験からアドバイスを出したり、助言を行いつつ、初体験で動揺していてあまり見ていなかったというペニスを触らせ、フェラチオで一発抜いてもらった。うん、初めてにしてはなかなか上手だった。

 

 風呂場で愚痴を聞いて分かったことだが、巴さんは、上司との不和や周囲の友人達の彼氏や恋人の自慢話を聞いているうちに最近ストレスが溜まっていたらしい。

 

 俺と出合ったときはストレスから飲めない酒を飲み、軽く鬱状態に入っていて、すべてがどうでもよくなっていたらしい。

 

 そんな気持ちが沈んだときに優しくしてくれた俺に惚れて、俺が渡したチラシに記載してあった通り、悪魔召喚を行い、待ち望んでいた俺が現れたことで恋心が燃え上がり、「処女を奪ってください」と大胆な告白したそうだ。

 

 風呂での行為のあと、会社へ向かう用意を始めた彼女から契約通り、下着と処女を奪った際の血がついた小さな白い布。そして、彼女との2ショット写真を撮り、彼女の部屋で朝食を食べ終わってすぐに、昨夜中出しした事について子おろしの魔法を使っているから妊娠する事はないと教えた後、彼女や彼女の部屋から俺の臭いを完全に消し、部屋の前で最後にキスを交わして転移魔法を使い煙のように消えた。

 

 こうして、俺の初契約は終わったわけだが、イッセーはどんな人間と契約したんだろう?

 

 俺みたいに……は、ないな。うん。ない。

 

 まあ、今日部室で聞けばいいかぁ。

 

 ん? だが聞いていいのか? 

 

 人間の願いを言いふらすようなまねをいいのか? 

 

 巴さんみたいな願いを他人に言いふらすのは、あまりにデリカシーがないよなぁ……。

 



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第6話 旅行の帰りに拾いました

 

<エイジ>

 

 

 悪魔に転生して初めての契約を取った次の日の放課後。

 

 俺はイッセーと共に部室で部長へ昨夜の報告を行った。

 

 まずは、イッセーの報告からで、依頼者は小猫ちゃんの常連さんだったらしいがイッセーがどうやってその依頼者の下へ行ったかを聞くと……、腹がよじれるほど笑えた!

 

 だって、転移するための自前の魔力が足りないからって悪魔がチャリで……! しかも、玄関からチャイムを鳴らしてやってくるんだぜ!

 

 それに契約は結局取れずにドラグ・ソボールを語ったり、バトルごっこやって、一夜を明かすとか、なにやってんだよ! ぷっ、ぶはははっ! 木場も「前代未聞だよ」と苦笑する始末だし。笑いを堪えるのにまじで必死だったぜ。

 

「……契約後、例のチラシにアンケートを書いてもらうことになってるの。依頼者の方に『悪魔との契約はいかがでしたか?』って。チラシに書かれたアンケートはこの紙に表示されるけど……」

 

 部長は呆れながら紙を見せてきた。アンケートなんか貰うのか……、なんていうか恥ずかしいな。

 

「……『楽しかった。こんなに楽しかったのは初めてです。イッセーくんとはまた会いたいです。次はいい契約をしたいと思います』……。これ、依頼者さんからのアンケートよ。こんなアンケート、初めてだわ。私もどうしていいかわからなかったの。だから、少し反応に困ってしかめっ面になってしまっていたでしょうね。悪魔にとって大切な事は召喚してくれた人間との確実な契約よ。そして代価をもらう。そうやって悪魔は永い間存在してきたの。……今回の事は私も初めてでどうしたらいいかわからないわ。悪魔として失格なんでしょうけど依頼者は喜んでくれた……」

 

 困惑顔の部長だったが、ふっと笑みを漏らし、次はきちんと契約するように激励した。

 

「さて、エイジなんだけど、あなたは契約できたの?」

 

「はい。契約できました」

 

 そう言うと部長は微笑んだ。

 

「さすがね。アンケート用紙にまだ依頼者から書き込みがなかったから、契約できたか分からなかったのよ。依頼者は満足してたかしら?」

 

「はい。満足してくれましたよ」

 

 自信たっぷりに答える。

 

「で、どんなことをしたのかしら?」

 

 ……うーん、内容をそのまま言うのは、イッセーには刺激が強いし、正直こんな所で言う内容でもないし少しぼかして答えるか。

 

「依頼者の愚痴を聞いたり、アドバイスしたり、慰めたりしました」

 

「そうなの。対価はなにを貰ったの?」

 

 対価は俺を満足させる事に穿いていた下着と、血のついた布に2ショット写真だけどこれも却下だな。どうしよう……。ここで出せねぇよ。

 

「えっと……そのぉ~」

 

「どうしたの?」

 

「…………言い難いんであとで話します」

 

「そう。まあ、いいわ。後できちんと話しなさいね」

 

「はい」

 

 なんとか切り抜けることが出来た。報告は後で部長にするとして、部活を始めますか~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔になって2日目の依頼数は3件。新人悪魔を指名する依頼は、部長が言うにはかなり珍しい事ですごく喜んでいた。

 

 俺も依頼者から指名されたことが嬉しかったからって「任せてください!」なんて言うんじゃなかった……。

 

 依頼者がまさか……、まさか全員、女性で、しかも依頼が、28歳キャバクラ嬢から「癒してください!」とか、最近失恋したとかいう20歳女子大生から「慰めてください!」とか、25歳ナースから召喚された瞬間に「愛をください!」って押し倒されたりだもんなぁ……。

 

 体力的には問題ないとしても、一夜で全員を満足させるには時間面がヤバイ。1人2時間弱ほどで満足してくれたら6時間ほどで終わるが、そんなに簡単にいくものでもなく、最後の1人の相手が終わる頃には、もう朝7時をまわっていてた。

 

 固有結界を張って時間を延ばすことも出来ないわけではないが、アレはかなり目立つ。大量に魔力を消費するから今のリミッターをかけた状態じゃ無理だし、膨大な魔力を発生させたら街にいる堕天使や他の悪魔に見つかってしまうからな。

 

 まあ、そんなわけで徹夜したわけだが、これから野暮用で2泊3日の京都旅行に行く新幹線の中で寝ればいい。

 

 部長や他のメンバーにも「3日ほど街から離れます」と前もって話していたことなので、仕事も休みだし、京都旅行を楽しむか~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校と部活を休んで京都旅行へ行ったわけだが、2泊3日の旅行が3泊もしてしまい4日目の夕方にやっと街へ帰ってくることが出来た。

 

「はぁ~、いくら妖怪だからって3日も続けるなんて、ドンだけ性欲が溜まってたんだよあの狐」

 

 存在を消したまま、空を飛び京都に住んでいる未亡人狐の愚痴を吐く。

 

「まぁ~、美人ですげぇスタイルいいから、俺も調子にのって、盛っちゃったのも悪いが……。ん? あれは……」

 

 遠くに堕天使の夕麻ちゃんを発見した。

 

「夕麻ちゃんじゃん。なにか抱えてるみたいだな?」

 

 目を凝らしてみると、金髪でシスター服のかなり可愛い美少女を抱えていた。

 

 少し近づいて見ると、2人の雰囲気は最悪で、シスター服の少女は目から涙を流して、夕麻ちゃんもうっとうしげにしている。2人の仲が悪いか、……もしくは、シスターを攫っている途中なのかのどっちかと推測した。

 

 そうとわかれば俺のとる行動は1つだよな! 悪者からヒロインを救い出すヒーロー! みたいな? まあ、ぶっちゃけ暇つぶしと、夕麻ちゃんに腹を挿されたお返しなんだけどな!

 

 俺は夕麻ちゃんに近づき並走するように飛び、身代わり人形EXタイプとシスターを入れ替える。

 

「えっ?」

 

 入れ替えた瞬間。夕麻ちゃんから俺の腕の間に移動したシスターが驚いたようにこちらを見上げてきた。

 

「もう大丈夫だよ」

 

 優しく微笑みながら頭を撫でるとシスターは涙を溢れさせて胸に顔を埋めてきた。

 

 やっぱり、攫われてる途中だったかぁ。勘違いじゃなくてマジでよかったよ。

 

「……ひくっ! ……ひくっ…………」

 

 そのあと、泣いているシスターを抱えて自宅へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拾ってきたシスターを自宅の居間に通し、小鍋でホットミルクを作って渡す。

 

「えっ、とた、助けてくれてありがうございます……」

 

「ああ、別にいいよ。俺は、神城エイジ。それよりも、泣いていたみたいだけど、どうしたんだい? さっきの彼女に酷い事でもされたのか?」

 

 そう言うとシスターは、はっとした顔になり椅子から立ち上がった。

 

「そうです! わたしがいないと分かると、またレイナーレ様がイッセーさんを……!」

 

 イッセー? 一誠の事か? それと、レイナーレっていうのは夕麻ちゃんの本当の名前ってところか。

 

「落ち着きなよ。夕麻ちゃ……、さっきの堕天使は君の偽者を持たせてるから大丈夫だよ。偽者と君が入れ替わった事にも気づかないから。それよりも、君がさっき言った『イッセー』って『兵藤一誠』のことかい?」

 

「イッセーさんのお知り合いですか!?」

 

 シスターは大声を出して顔を近づけてきた。

 

「ああ。友達だよ。ていうか、それより話を聞かせてくれないか? なんで君がイッセーを知っているのか。そして、なんで君がいないと堕天使がイッセーの元へ行くのか。そして、よければ追われている理由についても」

 

「はい……」

 

 シスターは椅子に座りなおし、ゆっくりと話し始めた。

 

 彼女の名前は、アーシア・アルジェントと言って、治癒の力で『聖女』と崇められていたらしいが、ある日、怪我を負った悪魔をその力で助けたため、教会から異端者とされ、居場所がなくなった彼女は、故郷から日本へと、はぐれエクソシストや堕天使たちに連れてこられたそうだ。

 

 イッセーとは、日本語が分からなくて道に迷っているところを助けてもらったらしいが、あいつ英語出来たか? いや、悪魔の得点で言葉が通じるってのがあったから大丈夫なのか。俺も英語を話さずに普通に喋ってもいいんだな。

 

 まあ、言葉が通じる通じないとかについては置いておくとして、アーシアは、はぐれエクソシストと共に悪魔と契約した人間から悪魔を祓うという任務で民家に入り、結界を張るように言われて二階へ行き戻ると、エクソシストは人間を殺害していた。なんでも、そいつは悪魔や悪魔と契約している人間は即効で殺すらしい殺人鬼らしい。

 

 そして、その民家に丁度、イッセーが来て、エクソシストはイッセーを殺そうとしたらしい。アーシアはエクソシストにイッセーが悪魔だと教えられたらしいが、イッセーが悪い悪魔ではないと分かっていたので、エクソシストに殺さないようお願いしたらしいが、エクソシストはイッセーを殺そうと剣を振りかざしたが、魔法陣から人がたくさん出てきてイッセーを連れ去ったらしい。まあ、アーシアが言った紅い髪の女性は部長だろうから、怪我を負っていても命は助かっただろう。

 

 その次の日、まあ、今日らしいが、アーシアは堕天使から逃げて、偶然イッセーと街で会い、街で思いっきり遊んだそうだ。それに、イッセーは悪魔だけど友達になってくれると言ってくれて嬉しかった。一人ぼっちでどんくさいわたしと友達になってくれて嬉しかったと泣いた。

 

「ふぇっ!?」

 

 アーシアが話を終え両手で涙を拭っている姿に、俺はたまらなくなって、抱きしめた。

 

「俺もアーシアと友達になるよ。それに、イッセーともまた会わせてやる」

 

「ほ、ほんとですか……?」

 

「ああ、もちろん。任せておけ」

 

 それから、アーシアが泣き止むまで抱きしめてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、大丈夫だな」

 

「はい、ありがとうございました……」

 

 アーシアが泣き止んだことを確認して腕を放してから立ち上がる。

 

「とりあえず、イッセーの家に行ってみるか」

 

「イッセーさんの家ですか?」

 

「ああ、隣なんだ」

 

 そう言ってアーシアを連れてイッセーの家に向かう。

 

 だがイッセーはまだ家に戻っていないらしい。時間は夜の9時だから、部室に居るのか?

 

「家にいないって事は部室だな。ちょっと、部室まで行ってみるかぁ。アーシア、少しつかまっててくれよ」

 

「えっ? あっ!」

 

 アーシアを抱き上げ、お姫様抱っこのスタイルで空へ飛び上がる。

 

「あ、あなたはやっぱり……」

 

「ああ、悪魔だ。まあ、最近悪魔になったばかりだけどな。それと、友達になるのも親切にしてるのも、契約なんかじゃないからな」

 

「は、はい……」

 

 そう微笑み、月明かりの中を飛行して駒王学園の部室へと向かう。

 

 その間アーシアは終始顔を赤く染めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部室に着いたが、部室には誰もおらず、無駄足となってしまったが「まあ、待っていれば帰ってくるだろう」とアーシアとトランプやチェスをしながら待っていると、教会の方から複数の魔力を感じた。

 

「まさか……!」

 

 ……えーと、イッセーの性格を忘れてました……。

 

 そういや、あいつって単純で真っ直ぐだったんだ。アーシアが堕天使に捕らえられてることを知ってんなら、助けに行くよな。あいつなら勝てないって分かっていても助けに行くだろう。

 

 だけど堕天使と戦うなんて部長が止めるはず?

 

 いや、あの部長の事だ、止めるのは形だけで実際には裏で動いている可能性が高い……、って、やっぱり教会の辺りから部長と朱乃さんの魔力を感じる……。

 

「どうしたんですか?」

 

 アーシアがチェスの手を止めた俺の顔を覗きこんできた。緑色の瞳が可愛らしい……、って、それどころじゃなかった!

 

「アーシア……、落ち着いて聞いてくれ」

 

「はい」

 

「たぶんっていうか、イッセーなんだけど……」

 

「はい」

 

「たぶん君を助けに堕天使のアジトに乗り込んだみたいだ……」

 

「……………………はい?」

 

 アーシアから笑顔が消えた。

 

 立ち上がり、走り出した。

 

 廊下を走るアーシアを捕まえる。

 

「待てって!」

 

「離してください! イッセーさんが! イッセーさんがっ!」

 

 アーシアが手を振り暴れるのを、無理やりおさえて話しかける。

 

「君が行ってどうこうなる話でもないだろ?」

 

「でも! でもっ! イッセーさんはわたしを助けるために……!」

 

「わかってるから、少し待ちなさい」

 

「うぅぅ……」

 

 頬を両手で挟んで無理やり目を合わせる。

 

「もう乗り込んで喧嘩うってるんだから、君が行ってどうこうなる話でもないだろ? それに行ったら殺されるかもしれないんだよ?」

 

「それでも……、それでも、行かないといけないんです! 友達と言ってくれたイッセーさんのために……! わたしは行かないと行けないんです!」

 

 真っ直ぐ俺の瞳を見返してくるアーシア。まったく……、この娘は、本当にいい娘だな。

 

「わかった。俺も一緒について行ってあげるよ」

 

「え?」

 

「イッセーは俺の友達でもあるし、君みたいな美少女を危険地帯に1人で行かせたら男がすたるからね」

 

「……び、美少女っ」

 

「うん。じゃあ、行こう。早くしないと終わっちゃうかもしれないし」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 アーシアを抱きかかえて、教会へと飛び立った。



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第7話 元カノ倒したけど、その後に……

 

<イッセー>

 

 

 俺は今、教会に来ている。

 

 部長にも教えられたが、本来悪魔である俺は教会に来ることは許されない。だけど、3日前に出会ったシスターのアーシアを堕天使達から救い出すために俺は乗り込んだ。

 

 アーシアを救いに行くと、部長に相談したがダメだった。

 

 だから俺1人で乗り込もうと思ったらイケメン王子の木場が「仲間だから」と手伝ってくれる事になって、そして、小猫ちゃんまでもついて来てくれる事になった!

 

 部長も口では許可してないように言っていたけど、木場に遠まわしに堕天使たちが居る教会を敵地と定めて、俺の『兵士』としての能力『プロモーション』をする許可をくれたことを聞いて感動した!

 

 月明かりに照らされながら、俺たちは教会の前で顔を見合わせ『アーシア救出作戦』を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教会の入り口をぶち破り一気に聖堂まで走ると、拍手と共に神父に見えない不敵な笑みを浮かべた白髪の神父フリードが現れた。

 

 フリードは2日ほど前に悪魔の仕事をしていた時に訪れた民家で偶然鉢合せした悪魔の天敵エクソシストだった。

 

さらにフリードと一緒に、少し前に道に迷っているところ助けてあげた金髪美少女シスターのアーシアがいて、アーシアはフリードに殺されそうになった俺を身を挺して庇ってくれた。

 

 そしてその次の日にアーシアと街で再開してハンバーガーを食べたりして遊び、アーシアの過去を知った。

 

 傷を癒す神器を持ち、その力で『聖女』として崇められ、その力で悪魔を治した事で『魔女』と罵られ、『異端』として教会から捨てられ、一人ぼっちになったアーシア。

 

 俺は悲しい笑みで笑うアーシアと友達となった。友達になってアーシアに心の底から笑ってほしかったんだ。

 

 でも、俺は守れなかった。元彼の夕麻ちゃん……、堕天使レイナーレにアーシアが連れ去られようとした時。俺は何も出来ずにアーシアを奪われるだけだった。

 

 ……だけど、今度は! 今度こそは助けてみせる! 友達としてアーシアを救ってみせる!

 

 まずは、目の前のクソ神父からだ! 俺を庇ったアーシアを殴った分! きっちり返してやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、クソ神父を木場と小猫ちゃんの手を借りて顔面に拳を叩き込み、撃退する事が出来た。

 

 そして木場と小猫ちゃんと共にアーシアの持つ『神器』を取り出す儀式をしているという地下へと進んだ。

 

 地下へ着くと、部屋中が神父だらけで、全員が光の刃を発生させる剣を持っていた。

 

 俺は奥の十字架に磔にされた少女を見て、叫んだ。

 

「アーシアァァ!」

 

「………………」

 

 アーシアは俺の呼ぶ声には反応を見せずに無言のまま、人形のように光を失った目をしていた。

 

 アーシアをレイナーレから奪われる時に教会から逃げたと言っていたから、レイナーレに逃げられないように何かされたんだろう。

 

「感動のご対面みたいだけど、遅かったわね。いま、儀式は終るところよ」

 

 儀式が終わる?

 

 レイナーレがアーシアの体に視線を向けると、突然、アーシアの体が光り始めた。

 

「アーシア!」

 

 駆け寄ろうとした俺を神父たちが囲む。

 

「邪魔はさせん!」

 

「悪魔め! 滅してくれるわ!」

 

「どけ! 神父ども! お前らに構っているヒマはねぇんだ!」

 

 バン!

 

 大きな音。見れば、小猫ちゃんが神父の1人を殴り飛ばしていた。

 

「……触れないでください」

 

 木場もフリード戦で見せた、光を吸収する闇の剣を抜き放つ。

 

「最初から全力でいかせてもらおうかな。僕、神父が嫌いだからさ。こんなにいるなら遠慮なく光を食わせてもらうよ」

 

 そうこうしているうちに、アーシアの体から光が消え、驚愕の表情のレイナーレが立っていた。

 

「なんで! なんでなのよ! 儀式は完璧なのに! なのに、なんで『神器』が! 『聖女の微笑』が出ないのよぉぉぉ!」

 

 レイナーレが顔を両手で覆って叫んでいる間に、木場と小猫ちゃんの協力で磔にされたアーシアを救い出した。

 

 追ってくる神父たちを木場と小猫ちゃんに任せ、俺はアーシアを抱えて教会の聖堂へと一気に逃げる。

 

「アーシア! アーシアっ!」

 

「……………」

 

 なんども呼びかけるが反応がない。それどころか呼吸がどんどん弱くなり、冷たくなっていく。

 

 俺でも分かる。もうすぐアーシアは死ぬんだ……。

 

 やがて、呼吸は止み、心臓の鼓動も、止まった。

 

「アーシアぁぁぁあああああああああああっ!!!!!!!」

 

 救えなかった……、友達なのに……、守るって約束したのに……っ!!

 

 俺は、教会の天井に向かって叫ぶ。

 

 なんでだよ! なんで神様はアーシアを見捨てたんだ! なんでこの子が死なないといけない! この子はいい子なんだぜ! 傷ついた相手なら誰でも治してくれる優しい子なんだ!

 

「あらぁ? その子、死んじゃったの? あーあ……、これじゃあ、神器を取り出せないじゃないの! せっかく……、せっかく! 堕天使を治療できる堕天使として、私の地位が約束されるはずだったのにっ! アザゼル様やシェムハザ様のお力になれたのに! 」

 

 レイナーレが狂ったように髪を振り回し、睨みつけてきた。

 

 地位? お力? そんなことのためにアーシアは殺されたのか? 俺はこんなやつに殺されたのか? エイジは……、こんなやつに殺されたのか?

 

「知るかよ」

 

 俺はレイナーレを激しく睨みつける。

 

「お前のことなんか知らねぇんだよ! それよりも、てめぇの出世のためにアーシアが死んだんだぞ!」

 

「その子が死んだからってなによ? ていうか、神器も取り出せずに死ぬなんて、ほんと無駄死によね~」

 

 レイナーレがまるでゴミでも見るかのような目でアーシアを見下ろす。

 

「返せよ……、アーシアを返せよォォォォッッ!!」

 

『Dragon booster!!』

 

 俺の叫びに応えるように、左腕の神器が動き出す。手の甲の宝玉が眩い輝きを放った。

 

 籠手に何かの紋章らしきものが浮かんだ。

 

 同時に俺の体を力が駆け巡る。神器をつけている左腕から全身へ。

 

 俺はあふれ出す力に身を委ねながら一気に駆け出す。

 

 嘲笑を浮かべる敵へ向けて拳を突き出した。

 

 レイナーレは華麗にそれを避ける。まるでその場を舞うように。

 

「おバカなあなたにも分かるように説明してあげるわ。単純な戦力差よ。私が千。あなたが一。この差はどうやっても埋められないわ。たとえ、その神器が発動しているところで、倍は二。どうしようもないのよ! どうやって私に勝とうというの! アハハハハハハ!!!」

 

『Boost!!』

 

 宝玉から再び音声。甲の宝玉に浮かぶ『Ⅰ』から『Ⅱ』へ変わる。

 

 ドクンッ!

 

 俺のなかで二度目の変化が訪れる。

 

 力が―――目の前の敵を倒す何かが増していく。

 

「うおおおおおおおお!」

 

 俺はあふれ出す力を拳に乗せて一気に詰め寄る。俺はすでにプロモーションで『戦車』になっていた。

 

「へぇ! 少し力が増したの? でもまだまだね!」

 

 俺の攻撃はまた避けられる。

 

 次の瞬間、レイナーレの両の手に光が集まり出し、何かが形成されていく。

 

「私の悲しみが癒えるまで、なぶり殺しにしてあげる!」

 

 ズドンッ!

 

 俺の両足を光の槍が貫く。両太ももに鋭く深く打ち込まれた。『戦車』の防御力をもってしれも防げなかった。

 

「ぐぁああああぁぁあぁっ!!」

 

 俺は絶叫を張り上げた。

 

 激痛が全身に響くが、こんな所で膝をつくわけにはいかない。

 

 俺はすぐさま光の槍を掴む。

 

 ジュウウウウウ。

 

「ぐぅぅぅぅああああ!!」

 

 肉の焼ける音だ。熱い! 超熱ぃぃぃぃ! 光だからか! 槍を掴む俺の手のひらを容赦なく焦がしていく。

 

 槍を抜こうとする俺にレイナーレが嘲笑してくるが関係ねぇ!

 

「ぬがぁぁっぁぁぁぁぁ!!」

 

 俺は声にならない声を張り上げる。

 

 足を貫く槍の激痛。光ってヤツがもたらす激痛。それらが俺に容赦なく襲い掛かってきて意識が飛びそうになる。

 

 だが、それがどうした! それがどうしたって言うんだ!

 

「こんなもの! あの子が! アーシアが苦しんだものに比べたらなんだってんだよ!!」

 

 両手に力を込め、一気に槍を引き抜く。

 

 槍がなくなったせいか、両足の穴から鮮血が溢れ出る。

 

 槍を抜いたところで痛みが消えるはずもない。

 

『boost!!』

 

 槍に貫かれ、攻撃が止まってしまった今でも左腕の籠手は音声を発する。

 

 超痛ぇよ。すげぇ痛ぇよ。

 

 俺、メチャクチャ泣いてるし、よだれだってだらだらだ。

 

 すとん。

 

 体から力が抜け、その場でしりもちをついた。

 

 これ、やべぇのか?

 

「……大したものね。下級悪魔の分際で堕天使の作った光の槍を抜いてしまうなんて。でも、無駄。私の光は派手さはないけれど、悪魔に対して殺傷能力が高いわ。光力の濃度も濃いのよ。神父たちの刃の素としても機能できるほど。ひとつでも傷を負えば中級悪魔でもそう簡単には治らない。下級悪魔のあなたじゃ、ここまでが限界。ふふふ、光のダメージを甘くみちゃだめなのよ? 特に私の光はね」

 

 狂気を孕んだ顔で長々とワケのわからないことをしゃべってくれる。

 

「あなたの体の中を光が回り、全身にダメージを行き渡らせる。治療が遅ければ死ぬわ。いえ、普通なら死んでもおかしくないんだけど、本当に頑丈ね」

 

 あーそうですか。俺みたいな悪魔始めて少しのクズじゃ、この傷はヤバいってことですか。

 

 俺は、動けない体が動くように、神に祈ろうとして思い出す。神は助けてくれなかったじゃないか、なら、誰に祈ろう……、そうだ、俺は悪魔だ。魔王様に祈ろう。

 

 突然、独り言をいい始めた俺をレイナーレは心底おかしそうに笑う。

 

 頼む……頼むから、一発だけ……、目の前にいるクソ堕天使を一発だけ殴る力を俺にください!!

 

 力が抜けていた体にだんだん力が入っていく。

 

 動かなかった足が動く。

 

 両足に力を入れ、叫びながらゆっくりと立ち上がっていく。

 

 全身に激痛が走る。少し動くだけで意識が飛びそうになる。

 

「―――ッ! う、嘘よ! 立ち上がれる体じゃないのよ!? 光のダメージで―――」

 

 驚愕しているレイナーレの視線位置に少しずつ近づけ、立ち上がる。

 

 足をガクガク震わせながら。大量に血を流しながら、ヤツの眼前に立つ。

 

「よー、俺の元彼さん。色々と今まで世話になりました」

 

「……立ち上がれるわけがない! か、下級悪魔ごときがあの傷で動けるはずがない! 全身を内側から焦がしているのよ!? 光を緩和する魔力を持たない下級悪魔がたえられるはずがないわ!」

 

「あー、痛ぇよ。チョー痛ぇ。意識も飛びそうだ。でもよ、てめぇへの怒りと憎悪がスゴくてどうにかなっちゃいそうだ」

 

 俺は視線を一ミリもずらさないで相手を睨みつける。

 

 次の一発が俺の最後の一発だ。それを撃てば俺は倒れる。

 

 だから、次で決めるんだ。目標から目をそらすわけにはいかない。

 

「なあ、俺の神器さん。目の前のコイツを殴り飛ばすだけの力はあるんだろうな? トドメとシャレこもうぜ」

 

『Explosion!!』

 

 その機械的な声はその時だけ、とても力強かった。

 

 籠手の宝玉から光が発せられ、俺の体から力が湧き出てくる。

 

「……ありえない。何よ、これ。どうして、こんな事が……。その神器は持ち主の力を倍にする『 龍 の 手 (トウワイス・クリティカル)』でしょ? ……なんで。あ、ありえないわ。どうして、あなたの力は私を超えているの……? この肌に伝わる魔力の波……魔の波動は中級…・・・上級クラスのそれ……」

 

 レイナーレの顔が青ざめる。俺は、拳を固めて近づく。

 

「嘘よ! こんなの嘘だわ! あなたのような下賎な輩に私が負けるはずがない!!」

 

 レイナーレは両手に光の槍を再び作り出す。それを勢いよく投げ渡してきた。

 

 ブゥン。

 

 俺はそれを横殴りに拳で薙ぎ払った。光の槍は難なく消し飛んだ。

 

 光の槍を俺が難なく消し飛ばしたのを見て、レイナーレの表情はさらに青ざめる。

 

「い、いや!」

 

 バッ!

 

 黒い翼を羽ばたかせ、レイナーレは今にも飛び立とうとしていた。

 

 全く、さっきまで嘲笑っていたくせに、勝てないと分かると撤退かよ。いいご身分だな。

 

 俺は相手が飛び立とうとした瞬間に駆け出し、その手を一気に引く。

 

「逃がすか、バカ」

 

「私は……ッ!」

 

「吹っ飛べ! クソ天使ッ!」

 

「おのれぇぇぇぇぇ! 下級悪魔がぁぁぁぁぁぁ!」

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 左腕の籠手が力を一気に解放した。左腕に解放した力を集結させ、拳にそれらを乗せる。

 

 それを憎むべき相手の顔面に鋭く、正確に真っ直ぐ打ち込んでやった。

 

 ゴッ!

 

 派手な音が鳴り響く。俺は拳を顔面に食い込ませたまま、力強く押し出す!

 

 レイナーレが拳の一撃で後方へ吹っ飛ぶ。

 

 ガッシャァァァァァン!!!!

 

 大きな破壊音を立てて堕天使は壁に叩きつけられた。壁は見事に壊れ、大きな穴が生まれている。埃が巻き起こった。

 

 宙を舞う埃が落ち着いたとき、レイナーレが吹っ飛んだ先が鮮明になってくる。

 

 穴は外まで達しており、堕天使は地面に転がっていた。

 

 動く気配はない。死んだかどうか分からないけど、そうそう立ち上がってこないだろう。

 

 一矢報いた。

 

「ざまーみろ」

 

 思わず笑みがこぼれた。本心さ。本当に気持ちのいい一撃だった。

 

 けど、すぐに涙もこぼれた。

 

「……アーシア」

 

 もう彼女は笑ってくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はレイナーレを殴り飛ばした後、倒れこむように……。

 

 とん。

 

 俺の肩を抱く何か。見れば木場だった。

 

「お疲れ。堕天使を倒しちゃうなんてね」

 

 笑顔で俺の肩を持ち、体を支えてくれている。なんだ、木場もボロボロじゃねぇか。

 

「よー、遅ぇよ、色男」

 

「ふふふ、邪魔をするなって部長に言われていたんだ」

 

 部長が?

 

「その通りよ。あなたたちなら、堕天使レイナーレを倒せると信じていたもの」

 

 声のする方へ顔を向けば、紅の髪を揺らしながらリアス部長が笑顔で歩いてくる。

 

「部長、どこから?」

 

「地下よ。用事が済んだから、魔法陣でここへジャンプしてきたの。教会にジャンプしたのは初めてだったから緊張したわ」

 

 部長はそういいながら息をつき、俺の前に来る。

 

「それで、無事に勝ったみたいね」

 

「ぶ、部長……、ハハハ、なんとか勝ちました」

 

「フフフ、偉いわ。さすが私の下僕くん」

 

 鼻先をつんと小突かれる。

 

「あらあら。教会がボロボロですわ。部長、よろしいのですか?」

 

 何やら困り顔の朱乃さん。

 

「……なんか、ヤバいんすか?」

 

 俺が恐る恐る部長に聞くと、悪魔が天使や堕天使がいる教会を破壊すると恨みをかい、刺客を放たれたり、報復を受けることがあると説明してくれた。

 

 だけど、今回は捨てられた教会を堕天使達が単独で勝手に使っていただけで、今回の件は小競り合いとして済ますことが出来るらしい。

 

「部長、持って来ました」

 

 ズルズルと引きずる音と共に小猫ちゃんが現れた。

 

 小猫ちゃんの手には堕天使の黒い羽。俺が殴り飛ばし気絶したレイナーレだった。

 

 部長が小猫にお礼を言い。朱乃さんに起こすように一声駆ける。

 

 朱乃さんが手を翳すと、倒れているレイナーレの頭の上に水の塊りが現れ、レイナーレに被せる。

 

 バシャ!

 

 水音の後「ゴホッゴホッ」と咳き込むレイナーレ。

 

 気がついたのか、ゆっくりと目を開ける堕天使。それを部長が見下す。

 

「ごきげんよう。堕天使レイナーレ」

 

「……グレモリー一族の娘か……」

 

「はじめまして、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ。短い間でしょうけど、お見知りおきを」

 

 笑顔で言い渡す部長だが、レイナーレは部長を睨みつけている。

 

 と、途端に嘲笑う。

 

「……してやったりと思っているんでしょうけど、残念。今回の計画は上に内緒でやっているけれど、私に同調し、協力をしてくれている堕天使もいるわ。私が危うくなったとき、彼らは私を―――」

 

「彼らは助けに来ないわ」

 

 レイナーレの言葉を遮り、部長ははっきりとそう言った。

 

「堕天使カラワーナ、堕天使ドーナシーク、堕天使ミッテルト、彼らは私が消し飛ばしたから」

 

「嘘よ!」

 

 レイナーレは上半身だけ起こし、部長の言葉を強く否定する。

 

 部長は懐から3枚の黒い羽を取り出した。

 

「これは彼らの羽。同族のあなたなら見ただけで分かるわね?」

 

 羽根を見て堕天使の表情が一気に曇る。

 

 それから、部長はレイナーレたちの計画を調べ、教会にいた他の堕天使を外に誘い出して、倒したと説明してくれた。

 

 部長が俺の話の途中で「用事がある」と抜けたのはこの為だったのか……、なのに俺は部長の事を悪く言っちまった……。

 

「堕天使レイナーレ。あなたの敗因はイッセーの神器が原因よ。この子の籠手の紋章を見なさい。赤い龍が描かれているでしょう。この神器は、数多くある神器の中でレア中のレア。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』よ。あなたも名前ぐらいは知っているでしょ?」

 

 部長の言葉を聞いてレイナーレは驚愕の表情を浮かべる。

 

「ブーステッド・ギア……『神滅具(ロンギヌス)』のひとつ……。一時的とはいえ魔王や神すらも超える力が得られるという……あの忌まわしき神器がこんな子共の手に宿ったというの!?」

 

「言い伝え通りなら、人間界の時間で十秒ごとに持ち主の力を倍にしていくのが『赤龍帝の籠手』の能力。最初が一でも十秒ごとに力が倍になっていけば、いずれ上級悪魔や堕天使の幹部クラスの力になるわ。そして極めれば神すらも屠れる」

 

 神すら倒せちゃうんだ……、俺の神器ってそんなにすごいんだな~。

 

「まあ、強力でも時間を要する神器はリスクも大きいわね。そうそう増大するのを待ってくれる相手なんかいないわ。今回は相手が調子に乗ったのが勝敗を決めたようなものね」

 

 うっ、部長に釘を刺された。

 

 た、確かに、俺がパワーアップする時間を与えてくれる敵なんてそうそういないよな。強いけど、弱点も豊富って事ね、俺の神器ちゃんは。

 

 俺に近づく部長。紅の髪からいい匂いがする。

 

 なでなで。

 

 部長は俺の頭を撫でてくれる。

 

「でもおもしろいわ。さすが私の下僕くん。やっぱり、イッセーはおもしろい子ね。もっとかわいがってあげるから」

 

 フフフと微笑む部長さん。

 

 いい笑顔なんだけど、ある意味怖いな……。

 

「ぶ、部長」

 

「何?」

 

 笑顔の部長。俺は申し訳なくなって、頭を下げた。

 

「すみません。あのとき、俺がアーシアを助けに行くって言ったときに部長が手を貸してくれないからって、すごく失礼な事ばかり言って……、でも、部長は裏で動いてくれていて……」

 

 心底謝りたかった。

 

 俺は部長の事を本当に冷たい悪魔だと思っていた。だから、失礼千万なことを言いまくってしまったんだ。

 

 それを心から謝りたかった。そんな俺の頭を部長は撫でてくれる。

 

 いつの間にか、俺は泣いていた。そう、俺は目的を果たせなかったから。

 

「ぶ、部長……俺、アーシアを……守ってやれませんでした……」

 

「泣く事はないわ。今のあなたの姿を見て誰があなたをとがめられるというの?」

 

「でも……、でも、俺は……」

 

 部長が俺の涙を指で掬ってくれる。

 

「いいのよ。あなたはまだ悪魔としての勉強が足りなかっただけ。ただ、それだけよ。強くなりなさい。これからこき使うから覚悟しなさい。私の兵士、イッセー」

 

「はい」

 

 俺、頑張ります。絶対に強くなります。

 

 俺は心の中で強く誓った。

 

「じゃあ、最後にお勤めをしましようかしらね」

 

 途端に部長の目が鋭くなり、冷酷さを帯びる。

 

 部長はレイナーレに近づく。怯える堕天使。

 

「消えてもらうわ、堕天使さん」

 

 冷たい口調だ。殺意がこもっている。

 

「それで、彼女の神器はどこへやったの?」

 

 部長はレイナーレに尋ねる。

 

「部長。儀式は失敗したみたいでアーシアの神器は奪えなかったみたいです」

 

 怯える堕天使の代わりに木場が応えた。

 

「儀式が失敗? 変ねぇ、さっき地下に居たときに見た術式は完璧だったけど。それほんとなの祐斗?」

 

「はい」

 

 部長は顎に手を置いて少し考え、小猫に横たわっているアーシアを連れてくれる様に指示を出し、堕天使の頭に手を翳す。

 

「俺、参上」

 

 そのとき、穴の開いた壁から人影が現れる。

 

 神父―――フリード・セルゼン。

 

 あのクソ神父は逃げたはずだが、また戻ってきたようだ。

 

 フリードは不敵な笑みを浮かべながら、助けを求める元上司のレイナーレを見下し、散々バカにした後。元上司を見捨てて再び逃げていった。

 

「さて、下僕にも見捨てられた堕天使レイナーレ。哀れね」

 

 部長のその口調に少しの同情も感じられない。

 

 ガクガクと震えるレイナーレ。

 

 少しだけ可哀想になってしまったのは『夕麻ちゃん』という俺の彼女だろうか。

 

 まあ、それもあいつの汚い罠だったわけだけど。

 

 そのレイナーレの視線が俺に移る。途端に媚びたような目をしてきた。

 

「イッセーくん! 私を助けて!」

 

 その声は俺の彼女だった頃の夕麻ちゃんそのものだった。

 

「この悪魔が私を殺そうとしているの! 私、あなたのことが大好きよ! 愛している! だから、一緒にこの悪魔を倒しましょう!」

 

 レイナーレは夕麻ちゃんを再び演じ、涙を浮かべながら俺へ懇願してくる。

 

 少しでも可哀想だと思った俺がアホだったよ、夕麻ちゃん。いや、クソ堕天使。

 

「グッバイ。俺の恋。部長、もう限界っス……。頼みます……」

 

 それを聞いた途端、堕天使は表情を凍らせていた。

 

「……私の可愛い下僕に言い寄るな。消し……」

 

「部長っ!」

 

 部長が魔力をレイナーレにぶつけ様とした瞬間、小猫ちゃんが信じられないほどの大声で叫んだ。

 

「ど、どうしたのよ小猫?」

 

 普段では考えられない大声を出した事に部長も驚いていた。

 

「こ、これを見えください!」

 

 小猫ちゃんは地面に寝転んでいるアーシアを指差していた。

 

 アーシアがどうかしたのか?

 

 木場に支えられながら部長達と一緒に近づいてみると、アーシアの目が開いていた。

 

 ……………………いや、開いている分には不思議はないんだけど、瞳がデジタル時計みたいになっていて、時間がだんだん減っている。

 

「な、なんなの?」

 

 カウントダウンが3分を切った。

 

 アーシアの体が光に包まれる。

 

「何が起こるんだ!?」

 

「アーシア!!」

 

 光が止むとアーシアが横たわっていた場所に、まるでボーリングの玉のような丸くて黒い物体が置いてあった。

 

「こ、これは……」

 

 全員の視線が黒い玉へ集まる。

 

 すると黒い玉が開き、口みたいになると、機械音が流れてきた。

 

『やあやあ、堕天使さん。シスター服の金髪の子は俺がいただいたよ。空を飛んでいるときにシスターちゃんは泣いてたみたいだし、夕麻ちゃんと仲が悪そうだったからね! ていうか、これを聞いているって事は、この子を殺したって事だよな? まったく、こんな清らかな魂を持った女の子を殺すなんて…………お仕置きが必要だな!』

 

 全員が状況についていけずポカンと黒い玉から発せられる声を聞いていた。

 

『さあさあ、お仕置きなんだけど。この黒い玉なんに見えるかい?』

 

 ……そりゃあ、ボーリングの……って、まさか!!

 

 一番当たって欲しくない、俺の頭の中で連想したものと、全く同じように黒い玉の上部がカパッと開き、『導火線』のようなものが出できた。

 

「ボグバーマンの爆弾!!?」

 

『けっこう、有名なゲームだし、知っている堕天使はいたのかな? さあ、お仕置きを開始するよ。ああ、お仕置きを開始する前の注意点! この爆弾は動かした瞬間爆発します! あと、効果範囲は一万キロ㎡です! さてと、残り一分だね!! お祈りは済んだかい?』

 

「なっ! なんですって……!!」

 

 部長が驚愕の表情を浮かべた。いや、部長だけじゃなく全員が今の状況に戸惑っている。

 

『まったく、夕麻ちゃんが俺の友人を殺すだけでなく、まさか、シスターまで手にかけるなんてお仕置きは当然だから諦めてね』

 

 アレ? 夕麻ちゃん? そういやこいつの声に聞き覚えがあるぞ??

 

「どうすればいいの!」

 

「一万キロなんて! 街が吹き飛ぶだけじゃすまないわ!」

 

 部長が額に汗をかき、朱乃さんもいつもの余裕な態度を一変させ、戸惑い。俺の体を支えている木場の表情も険しく、小猫ちゃんは涙目だ。

 

『さぁ、あと十秒。カウントダウンを開始するよ!』

 

 爆弾の中央にあった電子時計が泣くなり数字が浮かびあがる。導火線に火が灯りジジジと音を鳴らしながら短くなっていく。

 

「あ、あと、十秒……!!?」

 

 俺が叫ぶと、再び爆弾の口が開いた。

 

『ごめんごめん。カウント間違ってたわ。十秒もなかった。てか、もう爆発しちゃいまーす!!』

 

「な!!?」

 

 爆弾が少しずつ光をおび、化学反応しているみたいに大きくなったり小さくなったりしながら光を増していく。

 

 カッァァァァァーーーーー!!!!

 

 爆弾がひときは大きくなった瞬間――俺達の体ごと、光が教会中に広がった。

 

 ああ~~~~!!!! 俺まだ童貞なのに~~~~~~!!!! ていうか、生乳すら見てねぇ~~~~~!!!!!

 

 …………。

 

 …………………。

 

 ……………………………。

 

 あれ? 痛くないぞ? いや、痛い! レイナーレにやられたところが痛い!

 

 ん? 痛みを感じるって事は俺は生きているのか?

 

 目をゆっくりと開けると、導火線がなくなった爆弾が置いてあった。

 

「ふ、不発だったの?」

 

「こ、これはどういうことなんですの?」

 

 部長と朱乃さんが恐る恐る爆弾に近づく。

 

『アハハハハ!! 爆発するわけないだろ? 一万キロ㎡ってところで気づこうぜ! どう? 少しでも死の恐怖を感じたかい? これに懲りたら、これからは遊びで人の命を刈るんじゃないよ。二度目は本当に爆発させるからね! ていうか、ほらこれ! 君達の顔! すごいだろ! これって写真機能がついてるんだよ! ポスターサイズにしたから飾ってね!』

 

 爆弾が陽気に話し出し、口があった部分が薄く開き、大きな写真が出で来た。

 

「こ、これは……!!」

 

「…………」

 

 部長が出できた写真を素早く掴み取り、部長の後ろにいた朱乃さんが写真を除きこんだ瞬間、笑顔が凍った。

 

『さてと、これで俺の役目は終わ………』

 

 爆弾が話し始めた瞬間。部長の手から物凄い魔力が放たれ、爆弾は跡形もなく消滅した。後日、俺は部長が魔界で『紅髪の滅殺姫(べにかみのルイン・プリンセス』と呼ばれている事を教えられた……。

 

 爆弾が消え去り、堕天使から受けた痛みがぶり返し、痛みにうめき声を漏らしていると、懐かしい声が聞こえた。

 

「イッセーさん!」

 

 かすむ視界の端に金髪が映り、俺は閉じそうになる目を開ける。

 

「アーシア!」

 

 守れなかったと思っていたアーシアが走ってくる。

 

 よかった! 生きてる! アーシアが生きてるっ!

 

 アーシアは俺に駆け寄ると神器を発動させ、体の傷を癒し始めた。

 

「……あなたがアーシアね」

 

「は、はい……」

 

 部長が微笑みながらアーシアに話しかけるが、声の温度はかなり低い。

 

「あなたを助けてくれたのは、だぁれ?」

 

 ぶ、部長は、アーシアを助けた恩人っていうか、爆弾(笑)を仕掛けた人を探しているみたいだ。

 

「ああ、それなら、あそこにいます!」

 

 アーシアが部長の微笑みに隠された裏の感情には気づかず、素直に教会の入り口を指差した。

 

 ドアの入り口の方で、がたっと、小さな物音がなる。

 

「エイジさん! ここまで送っていただいて、ありがとうございました!」

 

 アーシアの感謝の言葉に、教会の入り口の方で、ガダンッと、先ほどよりも大きな物音がなる。

 

 ……エイジ?

 

 アーシアが言った『エイジ』という名前に覚えがありすぎた。

 

「そうだよ! あの爆弾(笑)の声! エイジにそっくりだったんだ!! しかも、ボグバーマンって、俺がエイジにこの前貸したゲームじゃないか!」

 

 俺が叫んだ瞬間。部長と朱乃さんが素早く動いた。

 

 先ほど音がなった入り口まで移動し、教会の長いすに隠れていたと思われるエイジの両腕を2人で挟み込むように掴み、引きずり出してきた。

 

 ……エイジの腕に2人の大きなおっぱいが当たっているみたいだけど……不思議と羨ましくないな……。

 

 2人の背後に特大の般若が立っているからかもしれない……。

 



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第8話 俺いい事したんじゃないの!?

 

<エイジ>

 

 

 アーシアを連れて20分ほど飛行し、教会の近くの公園までやって来たが、状況は最悪だ。

 

 部長と朱乃さん、その他大勢が身代わり人形EXの近くに居るからだ。

 

 身代わり人形EXは、普通の身代わり人形と違って『仕掛け』を施しているから、部長たちがあの仕掛けを見ると不味いのだ……。

 

 しかも身代わり人形EXに、アーシアが死んだら発動するようにと時限式に設定していたものが、発動してタイマーが起動していた。

 

 アーシアを殺した夕麻ちゃんにお灸をすえるために、相手を怖がらせて、おちょくるように作ってあるから、部長達が身代わり人形EXの近くに居るとマジでヤバイんだ。

 

 ていうか、聖堂から感じる部長たちと、夕麻ちゃんの弱い反応。先ほどの破壊音といい、位置も状況も身代わり人形EXにかなり近い。

 

「急ぎましょう、エイジさん!」

 

 先ほどの破壊音を聞いたアーシアは、イッセーが堕天使に殺されるんじゃないかと心配しているようで、強く俺の手を引っ張ってくる。

 

「わかった。わかったから」

 

 嫌な予感を感じつつ、アーシアに手を引かれながら教会前につくと、突然教会の中から光が漏れ出し、辺り一面を昼間のように光らせた。

 

 俺はアーシアの目を咄嗟に手で覆う。

 

「……………アーシア大丈夫か?」

 

 ヤバイ! ヤバイよ! 位置的に物凄くヤバイ!!

 

 冷静にアーシアに尋ねたけど内心大パニックだよ!

 

「え、さ、さっきのは……」

 

「さっきの光は、君の身代わりに作った人形に、『君が死ぬと』発動するように作ったタイマー式の爆弾だよ」

 

「ば、爆弾!?」

 

「いや……、爆弾と言っても光だけのこけおどしだよ」

 

「そうなんですか……」

 

 アーシアがほっとして息をついたが、こっちはそれでころではない! 光だけじゃなく調子に乗って音声で相手をおちょくるように設定していた爆弾を部長たちがモロに食らっているはずだから!

 

 ああ……、お仕置きかな~、お仕置きなのかなぁ……。

 

「じゃあ、行こうか……」

 

「はい!」

 

 元気よく返事をしてくれるアーシア。俺はどんよりとした気持ちで、教会の扉を(くぐ)る……。

 

「イッセーさん!」

 

 教会の扉を潜り、聖堂の辺りにイッセーの姿を確認したアーシアが大声を出して、木場にもたれかかっているイッセーの下へと駆け出した。

 

 うん……。身代わり人形EXは夕麻ちゃんじゃなくて、部長たちに発動したみたいだ。

 

 終わった……。終わったよ……。

 

 俺はアーシアにみんなの視線が集まっている間に長椅子を盾に隠れる。

 

 そうだ! 今のうちに逃げよう! まだアーシア以外に俺が身代わり人形EXを仕掛けた事を知ってい……。

 

「あなたを助けてくれたのは、だぁれ?」

 

 ………っ! ヤバイっ! 部長と朱乃さんの声がすごく怖いっ!

 

 に、逃げないとっ!

 

「ああ、それなら、あそこにいます!」

 

 アーシアさん!?

 

 指を指された瞬間。こちらに視線を移した二人の顔が恐ろしくて物音を立ててしまった!

 

「エイジさん! ここまで送っていたただいて、ありがとうございました!」

 

 アーシアは笑顔でお礼を言ってきたが、それは間違いって言うか、正直、空気読んで!

 

「そうだよ! あの爆弾(笑)の声! エイジにそっくりだったんだ! しかも、ボグバーマンって、俺がエイジにこの前貸したゲームじゃないか!」

 

 ほら! イッセーまで気づいた! ていうか、爆弾の声ってやっぱり君たちがくらっちゃったんだね……。

 

 …………。

 

 よし! 逃げよ………う……。

 

「エイジ」

 

「エイジさん」

 

 扉を潜ろうとした瞬間! 後ろから聞きなれた声が……。

 

 ガシッ!

 

 二人から両腕を両側から抱かれ、聖堂に連行される。

 

 逃げ道なくなったぁあああああ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、どういう事なのか説明してもらいましょうか?」

 

 教会の長椅子に悪の女幹部さながら足を組んで座った部長が笑顔で聞いてきた。

 

 後ろの朱乃さんも笑顔なんだけど、背後にジョジョなスタンドのように般若が立っていて、「ウフフフ……」と笑っている……。

 

「そ、それは……」

 

 部長の前の床に正座させられ、背後には黒い剣を出した木場と、ボクシングのシャドーを黙々と行っている小猫ちゃんが逃げ道を塞いでいた。

 

 アーシアに助けを求めようにも怪我を負ったイッセーの治療中で無理だ。

 

 逃げられない! そう思って今日の事を正直に話し始める。

 

「へえ、旅行から帰ってくるときに天野夕麻……、堕天使レイナーレがアーシアを攫っているところを目撃して、あの爆弾とアーシアをすり替え助けて、家で事情を聞くとイッセーの友達で、イッセーの家に行ってもイッセーがいなかったから、部室に行き、私達が堕天使たちと戦っていた間、あなたはゲームして待っていたの……」

 

「まさか、堕天使たちと戦っているなんて思わなかったんです」

 

「そうね。まさか、堕天使たちと戦っているなんて思わないわよね」

 

「は、はい……。でも、いつまで待っても戻ってこないし、イッセーの性格を思い出してまさかと思って、教会に向かったわけです……」

 

「そう……」

 

 部長が足を組みかえる。紫色のエッチな下着が見えたが、今はそれどころじゃないんだ!

 

「ああ。そうそう、レイナーレを忘れていたわ」

 

 部長はそういって立ち上がる。

 

 部長が歩いていった先にはボロボロのレイナーレが泡を噴いて気絶していた。たぶん爆発で気絶したんだろう。

 

「あなたも、アーシアもコイツに殺されるところだったのよ」

 

 そう言って部長は、レイナーレを指差す。

 

「さてと、とりあえずこの堕天使を始末しましょうか」

 

 部長が手に魔力を込め始めた瞬間。俺は部長の手を握って止める。

 

「な、なにをするの?」

 

 突然の行動に驚く部長。

 

「止めてなかったら、レイナーレを殺していたでしょう?」

 

「そうよ。それが何か悪いの? あなただってこの堕天使に殺されかかったでしょ? むしろ始末したいんじゃないの?」

 

 部長の手を引き目線を合わせる。

 

「だからといって、部長のような可愛い女の子にあまり手を汚してもらうのは嫌です」

 

「…………」

 

 部長は怖い笑みを一変させ顔をほんのり赤らめる。

 

「じゃあ、どうするんですの?」

 

 後ろから朱乃さんが話しかけてきた。

 

「俺がレイナーレの面倒をみましょう。俺なら、油断していても殺される心配はありませんし、丁度、人手が欲しかったところなんで」

 

 そう言うと、部長は無言で考え込み「責任を持つ」と約束させた上で、レイナーレを生かすことをなんとか許してくれた。

 

 まあ、イッセーは「アーシアを殺そうとしたんだぞ」とか怒っていたが、アーシアが「私は無事だっただったので」とイッセーを宥めてくれた。

 

「じゃあ、レイナーレは縛り上げて俺の家に転移させておきますね」

 

 そう言って、レイナーレを転移させる。

 

「さてと! じゃあ、一件落着ということで解散しましょう! 明日も学校があることですし!」

 

 そう言いながら、教会の入り口へと向かおうとしたら、ガシッと後ろから肩を掴まれた。

 

「なにをどさくさにまぎれて逃げようとしているのかしら?」

 

「そうですわ。まだ、話は終わっていませんわよ?」

 

 ギギギギっと、回したくはなかった首をゆっくり回して後ろを振り返ると、額に青筋を浮かべた二大お姉さまが……。

 

「とりあえず部室に戻りましょうか」

 

「そうね。ここじゃあお仕置き道具が少なし、部室に戻りましょ」

 

 朱乃さんと部長に逃げられないように両肩を持たれたまま部室へ転移した。

 

 ああ……、俺死んだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部室に転移して部長と朱乃さんは、戦闘で疲労したイッセーと木場に小猫ちゃんを自宅へと返した。アーシアは帰る家がないということで今は部室のソファーで寝ている。

 

 ていうか、小猫ちゃんが帰るときすれ違いざまに俺のわき腹を無言で殴っていったんだけど、腰にいまいち力が入っていない?

 

 腰を抜かしていたことと、スカートが少し濡……。ご、ごめんなさい! なんでもないです! 拳を振り上げないで!!

 

「アーシアも寝ちゃったことだし始めましょうか」

 

「そうですわね。新しい鞭と縄も買ったことですし」

 

 部長が手に魔力を宿して笑顔で近づいてくる。朱乃さんが手に赤い鞭と荒縄を装備して近づいてくる。

 

「俺は知らなかったんです! お、俺は悪くは……」

 

 必死に訴えるが、二人は止まらない。

 

「そうね。あなたは知らなかったわけだし、偶然私達があなたの仕掛けた爆弾に引っかかった私たちが悪いから、そのことについては許すけど、そのことよりも、あなたがあんな道具まで持っているとは教えてもらってないし、魔法が使えることや、色んな能力を持っていたことを秘密にしていたことが問題なのよ」

 

 いや、それって旅行に行く前の話でしょ!? ていうか、完全にこれって爆弾に引っ掛けた仕返しですよね!?

 

「朱乃、防音の結界を張ってちょうだい。アーシアが起きてしまったら面倒だし」

 

 面倒って! なにをする気ですか!?

 

「はい。張り終わりましたよ。さあ、エイジさん始めましょうか」

 

 朱乃さんが荒縄で上半身を縛り上げ、動けなくなったところをソファーに座った部長の膝の上に座らされズボンを脱がされる。

 

「や、やめて~~~!」

 

 尻をむき出しにされて怯えていると、目線を合わせるように座った朱乃さんが恍惚の表情で顎を撫でてきた。部長が手を振り上げたのを察知した。

 

 ………………、ああ、俺の尻が………、死んだ……。

 



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第9話 堕天使レイナーレの処遇と真夜中の来訪者

 

<エイジ>

 

 

 部長と朱乃さんに解放されたのは朝だった。

 

 うん。最近お仕置きオチが恒例となってきてるね!

 

 俺の尻はもう瀕死だよ!

 

 俺いい事したのになんでこんな仕打ちを……、ていうか、アーシアを救ったのって俺なのに、俺の扱い酷くないか?

 

「じゃあ、アーシア。これからよろしくね」

 

「よろしくお願いしますわ」

 

「はい。部長さん」

 

 まだ学校が始まってもいない早朝の部室で部長とにこやかに会話をしている3人。

 

 アーシアは1人ぼっちで居場所がないのことと、友達のイッセーや俺とずっと一緒にいられると言う文字通り部長の悪魔の囁きに乗って、『僧侶』の駒で部長の下僕の転生悪魔になったのだ。

 

「あら、ちゃんと来たのね」

 

 部長がドアの方へと視線を向ける。

 

 イッセーと木場に小猫ちゃんがそろって立っていた。

 

「「「おはようございます、部長、朱乃さん」」」

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

 朝の挨拶をして部室に入ってくる三人。

 

「アーシア! その格好は!」

 

 部室に入ってすぐにアーシアの格好に驚くイッセー。

 

「彼女は転生悪魔になったのよ。あと、今日からこの学園に転入するから色々とフォローをよろしくね」

 

 部長が説明し、アーシアが一歩前に出て自己紹介を始める。

 

「アーシア・アルジェントです。『僧侶(ビショップ)』の駒を貰って悪魔に転生しました。皆さん。これからよろしくお願いします」

 

 そう言って礼をした。

 

「よろしく、アーシアさん」

 

「よろしくおねがいします」

 

「よろしくアーシア! 制服、すっごく似合ってるよ! 後で写メを撮ろう!」

 

 木場が爽やかスマイルで、小猫ちゃんがいつもの感じにクールに、イッセーは興奮して飛び跳ねていた。

 

「ていうか皆、俺のこと無視しすぎじゃないか?」

 

「うおっ!? いたのかよエイジ」

 

 驚くイッセーだが俺は最初からいましたよ~。優雅に紅茶を飲んでいる部長の反対側のソファーでうつ伏せになって、赤くなった尻を回復させてましたよ。

 

「まあ、昨日の事は自業自得っていうか、運が悪かったんだよ」

 

 木場が爽やかスマイルを送ってくる。後で覚えてろよ木場!

 

「アレは先輩が悪いです」

 

 睨みつけてくる小猫ちゃん。俺は悪くないだろ!?

 

「…………頑張れ」

 

 イッセーが俺の肩に手を置いて呟いたが、顔がムカつく! 完全にアーシアに目線がいってんじゃねぇか! しかもニヤけてるし!

 

 クソ! グレるぞ! グレちまうぞ!

 

「そう言えば、部長。チェスの駒の数だけ『悪魔の駒』もあるんだったら、俺とエイジの他にも『兵士』があと六人存在できるんですよね? いつかは俺と同じ『兵士』が増えるんですか?」

 

 話を変えやがった!

 

「いいえ、私の『兵士』はエイジとイッセーだけよ」

 

「チェスの世界ではこういう格言があるわ。女王の価値は兵士九つ分。戦車の価値は兵士五つ分。騎士と僧侶の価値は兵士三つ分。そんなふうに価値基準があるんだけど、悪魔に駒においてもそれは同様。転生者においてもこれに似たような現象が適応されるの。騎士の駒を二つ使わないと転生させられない者もいれば、戦車の駒を二つ消費しないといけないものもいる。駒との相性もあるわ。二つ以上異なる駒の役割は与えられないから、駒の使い方は慎重になるのよ。一度消費したら、二度と悪魔に駒を持たせてはくれないから」

 

 うんうん。俺の場合はスペックが高すぎて、普通なら女王の駒を使ったとしても転生させられないんだよ。

 

 不思議そうな顔のイッセーに部長は言葉を続けた。

 

「イッセーは兵士の駒の大半、七つ使わないと転生させられなかったの」

 

「七つ!?」

 

「ええ。七つ使わないと転生されられないと分かったとき。私はあなたを絶対に下僕にしようと思ったの。でも、長らくその理由が判明しなかったわ。今なら納得できる。至高の神器と呼ばれる『神滅具(ロンギヌス)』のひとつ、『赤龍帝の籠手』を持つイッセーだからこそ、その価値があったのね」

 

 神滅具!? この変態エロ坊主にそんなレア物が宿ってたのか!?

 

「『紅髪の滅殺姫』と『赤龍帝の籠手』、紅と赤で相性バッチリね。イッセー、エイジ、あなたたちは最強の『兵士』を目指しなさい。あなたたちならそれが出来るはず。だって私の可愛い下僕なんだもの」

 

 部長はイッセーに近づき額にキスを落した。

 

「これはお呪い。強くおなりなさい」

 

 いいなぁ。

 

「部長。俺にはないんですか~?」

 

「あなたはまだ反省していなさい」

 

「……はい」

 

 うう……やっぱり悪魔だよ~。

 

「と、あなたを可愛がるのはここまでにしないとね。新人の子に嫉妬されてしまうかもしれないわ」

 

 すると、いつの間にかイッセーの背後にアーシアが立っていて、笑顔を引きつらせていた。

 

「ア、アーシア……」

 

「そ、そうですよね……。リ、リアス部長は綺麗ですから、そ、それはイッセーさんもエイジさんも好きになってしまいますよね……。いえ、ダメダメ。こんなことを思ってはいけません! ああ、主よ。私の罪深い心をお許しください」

 

 手を合わせてお祈りポーズのアーシアだが、「あうっ!」と途端に痛みを訴える。

 

「頭痛がします」

 

「当たり前よ。悪魔が神に祈ればダメージぐらい受けるわ」

 

 さらりと部長が言う。

 

「うぅ、そうでした。私、悪魔になっちゃったんでした。神様に顔向けできません」

 

 ちょっと、複雑そうな彼女。

 

「後悔してる?」

 

 部長がアーシアに訊く。

 

 アーシアは首を横に振る。

 

「いいえ、ありがとうございます。どんな形でもこうしてイッセーさんやエイジさんと一緒にいられるのが幸せです」

 

 感動! 感動だよ! さすがシスター! 

 

「そう、それならいいわ。今日からあなたも私の下僕悪魔として二人と一緒に働いてもらうから」

 

「はい! 頑張ります!」

 

 元気よく返事をするアーシア。

 

「さて、それじゃあ、ささやかな歓迎パーティでも開きましょうか」

 

 そう言うと、部長が指を鳴らす。

 

 すると、テーブルの上に大きなケーキが出現した。

 

「た、たまには皆で集まって朝からこういうのもいいでしょ? あ、新しい部員もできたことだし、ケーキを作ってみたから、皆で食べましょう」

 

 部長が照れくさくそう言った。

 

 ちなみに、ケーキは昨夜、尻叩きを終えた部長が、残りのお仕置きを朱乃さんにまかせて作られました~。

 

 それからパーティを終え、学園が始まる前に部長、朱乃さん、俺の順で部室にてシャワーを浴びてから授業に向かおうとして足を止める。

 

 そうだ! 家に縛り上げたレイナーレを家においてるから帰らないと!

 

 だけど、アーシアに学園を案内しないといけないから帰れない……。

 

 まあ、同居人が帰ってくる頃だからだいじょ……いや、やばいな。

 

 縛られた美少女なんて、あのエロ猫に餌を与えるようなものだ。

 

 アーシアと夕、レイナーレ。どちらをとるか……。

 

 ……………うん。アーシアでいいか!

 

 帰って着てないかもしれないし、レイナーレはお仕置きってことで放置でいいよな!

 

 俺はそのまま教室へと向かい、いつも通りに授業を受け、イッセーと一緒に学園を案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業を終え、自宅え帰宅する。

 

 俺の家は冥界で賞金稼ぎを行って得た大金を使って建てた3階建てで地下室、冷暖房完備の6LDKでヒノキ風呂までついている。自慢の家だ。

 

 さてと、それじゃあ、レイナーレのとこに行きますか。

 

 玄関で靴を確認すると、靴がないので、あのエロ猫は帰ってきていないか、出かけているかだ。

 

 二階に上がり右側の部屋に入る。

 

 あまり使われておらず、ベッドと簡単な家具しか置いていない部屋で雨戸を締め切り真っ暗だ。

 

「うぐっ……ひくっ………」

 

 その部屋ですすり泣きが聞こえてきた。

 

 電気をつけて部屋を明るくすると、ベッドの上でボンテージ姿の上から亀甲縛り状態の芋虫で、頬を真っ赤に腫らして号泣しているレイナーレがいた。

 

 うん。拘束状態で放置はないよね。放置は。

 

「わ、悪かった。帰るのが遅くなった」

 

「うぅぅ?」

 

 部屋の中に入りレイナーレに近寄ろうとすると、こちらに気づいたレイナーレが叫んだ。

 

「あ、あなたは!? こ、こないで! こないでよ!! こないでぇぇぇええええ!!」

 

 驚愕の表情を浮かべるレイナーレ。まあ、俺の事を殺したと思っていたのにいきなり現れたら驚くよな~。

 

 しかも、現在縛られ、身動きできずに数時間放置。怖がらないわけがないな。

 

「安心しろって、拷問とかそんなことしないからさ」

 

 優しくそう言いながらベッドに近づくと、益々レイナーレはパニックになった。

 

「ご、拷問!? やだっ! ヤダ! ヤダよ! 嫌ぁあああ!!!」

 

 縛り上げられた状態でもがくレイナーレ。縄が食い込んで痛々しいな。

 

「ほら、大丈夫だって」

 

 落ち着かせようと動けないレイナーレを抱きしめる。

 

「いや! いや! 嫌だ! うぅっ! ……ひぐっ、ひぐっ……」

 

 最初は首を振りながら逃れようとしていたレイナーレが落ち着きを取り戻し始め、抵抗が止んだ。

 

 ………。

 

 ……………。

 

 ……………………。

 

 なんだろう。温かいお湯みたいなものが太ももを濡らしって! これって……。

 

「………………」

 

「………………」

 

 うん。気まずいです。まあ、放置して何時間も経っていたし、部長に殺される寸前だったから、緊張以外でも色々と緩んだんだよね。

 

「とりあえず、お風呂沸かしてくるな」

 

 そう言いうと、レイナーレは真っ赤になってうなずいた。

 

 さて、風呂を沸かしに行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから、風呂を沸かしレイナーレを風呂に入れた。

 

 うん。俺が風呂に入れた。長い間縛られていた事と、イッセーとの戦闘のダメージで動けないらしく、俺が介護師みたいに洗った。

 

 顔を真っ赤にしていたが、背に腹は変えられないと、涙目で俺に風呂に入れるようにお願いしてきた。

 

 小便まみれはやっぱ嫌だよな。

 

 そのあと、寝巻きを着せて夕食を摂らせ、イッセーに殴られた顔の治療を行う。

 

「ねえ、なんでさっきみたいに仙術で治さないのよ。この傷が一番痛いんだけど」

 

 椅子に座ったレイナーレの頬を消毒液で湿らせた脱脂綿で消毒していると、不満げに睨んできた。

 

「ああ、言っていなかったな。俺は、イッセーの友人で、今はリアス・グレモリーの眷属悪魔なんだ。それとアーシアと人形を摩り替えて君の計画をぶち壊した犯人でもあるんだ」

 

「な、なんですって!?」

 

 椅子から立ち上がり、光の槍を手にするレイナーレ。

 

「まあ、落ち着け。殺すつもりも危害を加えるつもりはない。部長にも……リアス・グレモリーにも許可を貰っているし、お前の身は俺に一任された」

 

「っ!」

 

 槍を俺の首に突きつけてくる。

 

「汚らわしい悪魔が!」

 

「待てといっているだろう」

 

 ほんの少しだけ体のリミッターを外し、俺は光の槍を掴み、砕く。

 

「何なのこの魔力!? なっ! なにをしたの!?」

 

 驚きの声を上げ、後ずさるレイナーレ。

 

 まあ、現在の魔力は軽く上級悪魔ぐらいの大きさだし、そりゃあビビるよな。

 

「もともと俺はお前と比べるほどもないぐらい強いんだ。転生して悪魔になって光が弱点になったとしても、そんな弱点関係なしにお前を屠れるんだよ」

 

「でも、あの時は!」

 

「公園で腹を刺された時か? それは、体にリミッターをかけていて身体能力を人間まで落していたからだし、刺されたぐらいじゃ死なない」

 

「…………あなた何者なの?」

 

「俺か? 俺はそうだな……、とりあえず冥界の賞金稼ぎとでも言っておこう」

 

「あ、あたしをどうするつもりなの?」

 

「ああ、それは……」

 

 どうしよう。ただ単に部長に殺されそうになったところを助けたるために言っただけだし、まあ、逃がしてもいいんだけど、その後、俺は部長と朱乃さんからお仕置きされるよな……。

 

「お前行くあてはあるのか?」

 

「…………ないわよ。計画も失敗しちゃったし……。アザゼル様にもシェムハザ様にも完全に愛想をつかされたでしょうし……。仲間も死んじゃったし……、いっそ殺して欲しいわ」

 

 どんどん落ち込んでいき、両手で顔を覆い泣き始めた。

 

「うーん……、それなら俺がお前を貰おう」

 

「えっ?」

 

「そうだな。部長風に言うと、どうせ死ぬなら、俺が拾ってやろう。お前の命。俺のために生きな」

 

「……なっ?」

 

 驚いて俺を見上げるレイナーレの頬に手を添える。

 

「とりあえずは先に、アーシアやグレモリー眷属のみんなに危害を加えないことを約束してくれ」

 

「…………」

 

 レイナーレはしばらく考え込むと、しぶしぶ首を縦に振った。

 

「契約成立だな」

 

 そう言ってレイナーレの首に黒いチョーカーをつける。

 

「こ、これは……魔法がかかってるの?」

 

 突然首につけられたチョーカーを触りながら訊いてきた。

 

「いや、単なるファション。まあ、俺のモノみたいな印付けかな」

 

「…………」

 

 レイナーレがほんの少しだけ顔を赤らめた。

 

 まあ、『隷属の首輪』とか言う無理やり相手に言う事を聞かせる魔具も持ってるけど、それを使っても面白くないからな。

 

「まあ、これからレイナーレにはこの家の管理やメイドみたいな仕事をしてもらうよ」

 

「メイド?」

 

「ああ。主人の替わりに家事をする仕事だが、詳しくはネットで調べえくれ」

 

「…………は、はい」

 

「それじゃあ、治療を続けるぞ。仙術を使えば一瞬で治るが、それではイッセーがアーシアを助けに行った意味がなくなるし。お前があいつを殺ろした仕返しとして、その顔の痛みを受けるんだ。まあ、傷が残るようだったら、俺の術でそれは治してやるから」

 

「…………あなたは私を恨んでいないの? 前にあった時のあなたは人間だったけど、今のあなたは……」

 

「ああ、お前に刺されたのをきっかけに悪魔に転生したな」

 

 そう言うとレイナーレが俯いた。

 

「まあ、気にするな。刺されても死なないと言ったろ? それに悪魔になったからといっても、今とあまり変わらないからな」

 

「でも……」

 

「もういいだろ。それよりもそろそろ寝よう。今日は久々に部長から悪魔の仕事の休みを貰ったんだ。それに、お前もゆっくり寝たいだろう?」

 

「…………」

 

 レイナーレを先ほどの空き部屋へと連れて行く。

 

「これからはこの部屋が君の部屋だ。ああ、部屋とシーツも魔法で綺麗にしたから、安心してくれ。じゃあ、おやすみ」

 

「えっ、あっ……」

 

 何か言いたそうなレイナーレ。

 

「どうかしたか? 部屋が気に入らないなら他の部屋を……」

 

「監視とかはしないの?」

 

「監視? しないけど?」

 

「逃げるかもしれないわよ」

 

 睨みつけてくるが、虚勢だと一目で分かる。

 

「うむ。24時間レイナーレを監視して、あんなところやこんなところを観察するのは楽しそうだが、嫌だろう?」

 

「い、嫌よ!」

 

「だからしない。プライベートというか、脅して無理やり痴態を見るのは趣味じゃないからな。まあ、あまり深く考えないでいいさ。リアス・グレモリーに『責任を持つ』って言ったから、逃げたら場合は追うが、拷問や殺したりはしない」

 

 レイナーレの頭にポンッポンッと、二、三度軽く手を置く。

 

「今夜は安心して寝るといい。じゃあ、おやすみレイナーレ」

 

「…………お、おやすみなさい……」

 

 聞き取れるか聞き取れないぐらいの小声だったが、レイナーレは挨拶を返してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイナーレと別れて数時間が経ち、夜が完全に更け、真上に丸い月が昇った頃。3階にある俺の部屋の窓が開いた。

 

 音もなく気配すらないが、リミッターをかけ忘れて身体能力がかなり上昇した俺の感覚は侵入者を捕らえていた。

 

 侵入者はゆっくりとベッドに侵入してくる。

 

 そう、足元からゆっくり、ゆっくりと、頭を目指してすすすと這い上がる。

 

 侵入者が俺の胸へとたどり着いた瞬間。俺は目を開ける。

 

「にゃにゃ、やっぱり起きてたにゃん♪」

 

「黒歌……」

 

 黒い着物に身を包み、頭にネコミミを生やした猫又よりも高位な猫ショウという妖怪で、今は転生悪魔ではぐれ悪魔。そして、俺の使い魔でもある。

 

「にゃ? エイジ、悪魔になってるにゃ? それにこの臭いは……」

 

 俺の腹に乗っかって両手を俺の胸におき、くんくんと臭いを嗅いできた。

 

「ああ、成り行きで悪魔になってな」

 

「エイジも悪魔! これでずっと一緒にいられるにゃ♪」

 

 喜びながら首筋をざらざらした舌で舐めてくる。

 

「こら、万年発情猫。今日は疲れえるから休ませてくれ」

 

「ふふふっ、こっちのほうはすっごく元気なのにゃ♪」

 

 起き上がり、腹に跨り、器用に2つの尻尾でペニスに触れてくる。

 

 着物の帯を解き、胸元を開き、自分自身で豊満に実った双房を取り出して、俺の胸に擦り付けてくる。

 

「まったく。今日はほんとに疲れてるから休ませてくれ。ここのところ徹夜続きでまともに寝てないんだ」

 

「にゃ!? 黒歌のこと嫌いになったのかにゃ!?」

 

「嫌いじゃないって。疲れてるだけ。明日には回復するから、今日のところは添い寝で我慢してくれ」

 

 涙目になる黒歌を腹から退かし、横に寝かせて腕枕をしてやる。

 

 するとすぐに笑顔になって、尻尾の拘束からペニスを解放して抱きついてきた。

 

「うにゃ~、仕方ないにゃあ。久々に欲しかったけど、我慢するにゃ」

 

「ありがと、黒歌。それじゃあ、おやすみ」

 

「おやすみにゃ♪」

 

 黒歌の体温と、押し付けられる双房に身をゆだねて再び俺は眠りについた。

 



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第10話 使い魔の黒歌 ☆

<エイジ>

 

 

 レイナーレを俺のメイドにして、黒歌が家に帰ってきた日の早朝。俺は朝の鍛錬を庭で行い。家に戻ると、一階のリビングで光の槍を手に泣き喚いているレイナーレと、その後ろからレイナーレの胸を鷲掴みにしたり、尻尾をパジャマのズボンに進入させて弄っているセクハラ猫の黒歌が騒いでいた。

 

「ちょ、どこを触って……、ひゃ!? ちょっと、どこを触ってるのよ!」

 

「にゃ、にゃ、にゃ~! なんで堕天使がこの家にいるのにゃ? また、エイジが拾ってきたのにゃ? ふふふ、初心ね! この感じは処女!」

 

「な、な、なにを言ってんのよ、このエロ猫~~!」

 

 顔を真っ赤にして黒歌を振りほどこうとジタバタしているが、黒歌の身体能力はかなり高い部類なので、一介の堕天使であるレイナーレが振りほどけるはずもなく、体中を弄られている。

 

「も、もう……だ、だめぇ……」

 

 とうとう力ついて床にぺたりと腰をおろし、ビクっビクっと体を痙攣させた。

 

 そろそろ助けてやるか。このままじゃ発情猫がさらに暴走するだろうし。

 

「おい黒歌、ストップ。ストップだ」

 

 黒歌の背後に回って両脇に手を差し込み持上げる。

 

「んにゃ? エイジ」

 

「これ以上はやめておけ、レイナーレが可哀想だ」

 

「うーん……、エイジが言うならいいにゃ♪ その代わり……」

 

 言葉を止めて顔を近づけて甘く囁いてきた。

 

「今夜はたっぷりと可愛がってにゃ♪」

 

「ああ、わかった。今夜はたっぷりするよ」

 

「にゃ♪ 楽しみにしてるのにゃ♪」

 

 黒歌は頬に軽くキスをしてからテーブルについた。

 

「う、ううぅぅ……」

 

 自分自身で胸を抱きながら震えるレイナーレを起き上がらせ、テーブルにつかせる。キッチンでトーストとハムエッグを3人分用意して、自分もテーブルにつく。

 

「とりあえず、朝食を食べよう」

 

「うにゃ♪」

 

「……ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を食べ終え、3人でコーヒー、黒歌だけは緑茶を飲みながら一息ついてから話を始める。

 

「そう言えば昨日は自己紹介を忘れていたな。俺の名前は神城エイジ。転生悪魔だ」

 

「あたしの名前は黒歌。元はぐれ悪魔でエイジの使い魔にゃん♪」

 

「わ、わたしは、堕天使レイナーレ。…………エイジの…………メイド……よ」

 

 とりあえず簡単に自己紹介する。

 

「ああ、黒歌。これからは、レイナーレもここに住むからな。仲良くしろよ」

 

「エイジが認めたなら仲良くするにゃ♪」

 

「レイナーレも仲良くしてくれよ」

 

「……わかったわ」

 

 レイナーレは先ほどの事で黒歌の事を警戒しているようだが、まあ、時間が経てば慣れるだろう。

 

「じゃあ、レイナーレの日用品を買いに行くか」

 

「えっ?」

 

 不思議そうな表情を浮かべるレイナーレ。

 

 いや、色々買わないとだめだろう? ボンテージと今着ているパジャマぐらいしか持ってないだろ?

 

「魔力で服を作れるのは知ってるが、買えるなら買ったほうがいいだろ? 金は賞金稼ぎで稼いでいるから安心しろ」

 

「いいの?」

 

「ああ、これからは家族になるんだ。遠慮するな」

 

「……っ!」

 

 真っ赤になって俯くレイナーレ。

 

 うん。刺されたときに唇を奪った時といい、いつもは攻撃的なレイナーレが素で恥ずかしがる姿は可愛いな。

 

「じゃあ、黒歌も行くぞ。お前にも新しい着物を買ってやるよ」

 

「ほんとにゃ!? エイジありがとにゃ!」

 

 はしゃぐ黒歌と、レイナーレに街へいく用意をさせる間にシャワーを浴びて鍛錬でかいた汗を流す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄関で待っていると、黒歌は着物で、レイナーレはイッセーとデートしたときの清楚系のお嬢様ファッションでやって来た。

 

 レイナーレはまだしも黒歌の着物のはだけ具合は不味い。胸元が大きく開いているし、下も動きやすいように開いていて、白くて綺麗な足が太ももまで丸見えだ。

 

「レイナーレは可愛らしいとして……、黒歌。とりあえずはだけた着物を直せ。ただでさえ美人なのにその格好で歩いたら、目の毒だ」

 

「ええ~、動きにくいのにゃ~」

 

 愚痴る黒歌を無視して手際よく着物のはだけを直す。

 

「これでよし、と。じゃあ行こうか」

 

 最後に街で知り合いに見つかるとうるさいので、認識阻害の魔法をかけてからドアを開けて街へと繰り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街へと繰り出して、とりあえず最初に洋服店に入り、黒歌の着物とレイナーレに好きな服を選ばせる。

 

 すると、黒歌は黒系の着物(30万)を購入し、レイナーレはホットパンツとTシャツを数枚、そして下着を数枚購入した(約5万)に靴と3足(約3万)を購入してから店を出る。

 

 ちなみに黒歌は基本下着を穿かない派なので買わなかった。

 

 その後は、店で購入した服に着替えさせて荷物を転移魔法で送った後、今度は家具店と電気店などをまわり日用品を購入したり、カフェで昼食を摂り、家に戻って荷物を整理する。

 

「とりあえず、今はこれでいいか」

 

 レイナーレの部屋にテレビとノートパソコンをセッティングし終え、一息つく。

 

「ここまでしてもらってよかったの? 私はあなたを殺そうとしたし、悪魔の敵なのよ?」

 

 黒のTシャツにホットパンツに着替えたレイナーレが、気まずそうに訊いてきた。

 

「ああ。構わないぞ。その代わりにこれからの生は俺のために生きてもらうからな」

 

「う………」

 

 頬を赤らめて顔を逸らすレイナーレ。

 

「俺と俺の友人を殺そうとした事。アーシアを殺してのし上がろうとした事。仲間が死んだのに自分だけ生き残っている事に罪悪感や後ろめたい気持ちを感じているなら、俺のメイドとしてその分全力で尽くせ」

 

「わ、わかったわよ!」

 

「とりあえず、明日からメイドとして働いてもらう。メイドの詳細については自分で調べてくれ」

 

「わかったわ」

 

 部屋を出て行こうとして、一つ忘れていた事に気づいた。

 

「そうだ。これ。メイド服って言って作業着みたいなものだから」

 

 そう言って、購入したメイド服を渡す。

 

「ま、まさかほんとにメイド服を着ることになるなんて……」

 

 顔を真っ赤にして黒を基調としたミニスカートのフリル着きのメイド服を眺めるレイナーレの耳元に顔を近づけて囁く。

 

「すごく似合うと思うぞ」

 

「なっ!? なにを言って……!」

 

「あはは、じゃあ、俺は夕食の用意をしてるから出来たら呼ぶよ」

 

 部屋を後にし、一階に降りると、黒歌が抱きついてきた。

 

「にゃ! 早くご飯食べて子作りしようにゃ♪」

 

「こら、まだ早いだろ。まだ夕方の6時だぞ?」

 

「う~」

 

 唸り声を上げる黒歌の喉を撫でる。はあ、諦めるか。

 

「わかった。わかったよ。夕飯を食べたらすぐにするから」

 

「ほんとにゃ!?」

 

「ああ。ほんとだ」

 

「う~ん、楽しみにゃあ~♪」

 

 黒歌は機嫌を直し、キッチンへと向かう。

 

 俺も黒歌のあとに続いてキッチンへ入り、2人で料理を始める。

 

 それから、30分ほどで料理が完成し、レイナーレを呼んでから3人でテーブルについて夕食を食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食を食べ終え、食後の余韻を楽しみ八時を回ってあたりで黒歌がテーブルの下から、レイナーレに気づかれないように足を伸ばしてきた。

 

 黒歌の足はゆっくりと上に上がっていき、ペニスを優しく押してくる。

 

「…………」

 

 そして流し目で見つめてきて白く細い指を厭らしく見せ付けるようにペニスを扱きながら誘ってくる。

 

「そろそろ始めようにゃ」声に出さず口を動かして言ってくる。

 

 俺は「わかった」と返し、レイナーレに「部屋に戻るよ、おやすみ」言って寝室へと移動した。

 

 そして、ベッドで裸になって黒歌を待っていると、5分ぐらいでやってきて、しゅるしゅると着物の帯を解き、ベッドに登ってきた。

 

「ふふふん♪ 久しぶりなのにゃ♪ 空間術の修行で最近冥界に行きっぱなしだったし、今夜はたっぷり注いでもらうのにゃ♪」

 

 ご機嫌の黒歌はシーツを剥ぎ、白く陶器のような滑らかな肌を見せ付けながらベッドに上がってくる。

 

 足に胸を触れさせながら、ゆっくりと顔をペニスへと近づける。黒歌は鼻をヒクヒクさせてペニスの臭いを嗅ぐと、小さな舌を伸ばし、ペロッと玉袋から竿、亀頭の先端へと舌を這わせた。

 

「んっ」

 

 猫又ゆえのザラついた舌がペニスを擦る。

 

「ふふっ」

 

 黒歌はピクッと震えるペニスを見て笑みを強めると、涎を口に溜めてペニスの先端から垂らした。

 

 黒歌は唾液を浴びて怪しく光るペニスに頬をつけて、愛おしそうに頬ずりをすると、舌を使って満遍なくペニスに唾液をまぶし始めた。

 

 程よく全体に唾液をまぶした黒歌は、左手でペニスの竿を掴んで上下に扱き始める。細くて長い、美しい指が竿に絡みつく。

 

「にゃん♪ それじゃあ、いただくにゃん♪」

 

 黒歌はニッコリと笑顔を浮べると、ぱくりと亀頭を咥えた。口のなかでもごもごと裏スジやら皮の間を舐めつつ、さらに右手で玉袋を掴んで射精を促すマッサージを施していく。

 

「んっ、いいぞ。すごく気持ちいい」

 

「にゃん♪」

 

 さすがは黒歌。俺の弱いところが分かってやがる。

 

 的確に弱点を攻められ射精しそうになった瞬間に、吸いだすように吸い込むというテクニックにやられて射精う。

 

 ビュッ! ビュッ、ビュビュウッ!

 

「うむ、うむっ、ぷは~、さすがエイジにゃ、すっごく濃厚でほんのり甘く、匂いも量も最高にゃ♪」

 

 精液を喉を鳴らして飲んだあと、口内に残った精液を味わうように舌で転がしながら、黒歌は恍惚の表情で呟いた。

 

 その光景を見た瞬間。俺の中でスイッチが入った。最近、悪魔の仕事で男娼のように女を癒す事ばかりしていた反動が一気に襲ってきたのだ。

 

 京都にいる未亡人狐とやったときは、近くにそいつの子供もいたし、仕事で忙しいみたいだったから、あまり激しく、気を失わせたり、壊れる寸前まで快楽を貪ることが出来なかったからな。

 

「そうか、それならもっと飲ませてやるよ」

 

 俺は黒歌を押し倒す。

 

「きゃん♪ そんなに慌てないでも……にゃ、にゃぁぁんっ」

 

 黒歌をベッドに磔にして、大きくて丸い胸に舌を這わせた。やわらかく沈む黒歌の胸に顔を埋めるようにしながら乳首にしゃぶりつき、手を黒歌の股へと差し込んで、黒歌のオマンコを指で探る。

 

 じゅんっと濡れていることを侵入させた指から感じると、そのままペニスを一気に差し込んだ。

 

「にゃんん~~っ! い、いきなり、は、はげしっ! 激しいにゃ~~っ! んんっ、そ、そんなに吸ってもまだなにも出ないのにゃぁぁぁ~♪」

 

 いきなり挿入したというのに、黒歌はすぐに順応し、快楽を感じ始める。腰を動かしながら乳首を虐めてやると悦んだ声を漏らして、腰に両足を絡めてペニスをもっと深く差し込ませるように、引き寄せてきた。

 

「んん~♪ もっと、もっとほしいにゃぁぁぁ~! ああっん、最高にゃあぁぁ~♪」

 

 黒歌は俺の首に手を回し、うれしそうに体を反らせながら快楽を貪る。

 

 俺は奥までじっとりと濡れていて、精液を求めるように貪欲に蠢くオマンコに射精感を募らせ、

 

「黒歌! まずは一発目だ! 受け止めろよ」

 

「うにゃ! いっぱい、いっぱい頂戴にゃあ~~!!」

 

 思いっきり腰を打ち付けて、ペニスを子宮口に固定し、精液を注ぎ込んだ。

 

 ビュルッ! ビュビュッ! ビュルゥゥゥッ~!

 

 大量の精液がペニスを通って、黒歌の子宮いっぱいに注がれる。

 

「うむむむむぅぅぅぅ! ああっ! すごい! すごいのにゃぁあああああ~!」

 

 黒歌は両手両足を使って俺の体へ引き寄せる。全身で俺に抱きつき、射精が止まるまでピッタリと抱きついた。

 

「うう、うにゃ~」

 

 射精が終わると黒歌は全身から力を抜き、満足げな笑顔を浮かべながらベッドに両手両足を広げた。

 

 少しだけ荒くなった息を漏らす黒歌を尻目に、ペニスを挿入したまま黒歌の片足を胸に抱いて、体位を変える。

 

「まだまだ、満足してないだろう? 今夜は今までの分をたっぷりと注いでやるからな」

 

 Sな笑顔で黒歌にそうつぶやき、俺は2度目のセックスを開始する。

 

 容赦なく腰を動かし、ビクッ、ビクッっと未だに痙攣している途中の膣道を擦り上げる。

 

「う、うにゃ!? ちょ、ちょっと休ませてぇぇえええ!!」

 

 すぐに始まった2回目に戸惑う黒歌の叫びを無視して、俺は腰を動かした。

 

 それから二度、三度と体位を変えながら突き荒す。

 

 すると黒歌もだんだんとノリ始め、自分から悦んだように腰を振いだし始める。

 

「あ、溢れるにゃあ~~!!」

 

 5回目、6回目と後ろから犯す。

 

 黒歌の体が痙攣し始め、潮を吹いて気を失ったり、体から力が抜け、体中から、水分という水分があふれ出る。

 

「こ、壊れる……、あ、ああっ、ああぁぁぁああああ!!」

 

 膣からペニスを抜き、膣道から漏れ出る精液を眺めながら、尻穴にペニスを差込み、胸を揉みしだきながら、キスを交わし、舌を絡める。

 

「んっ! んんっ!! あはぁ、もっと、もっと、もっと欲しいのにゃあ~~~♪」

 

 思考能力が低下し同じ言葉を繰り返し、精液を求めて一心不乱に腰を振るい、快楽を求める獣になる。

 

 体中に精液を浴びせて黒歌に俺の匂いを染みこませ、アヘ顔のまま気絶している黒歌を犯し続けていると、朝日が昇り始めたのに気づいた。

 

 俺は最後にもう一度子宮に射精してからペニスを抜き、風呂を沸かして気絶してる黒歌を抱き上げ、シャワーで体の精液を落してから黒歌と一緒に湯船に浸かっていると、黒歌が目覚めた。

 

「う、うにゃあ~……」

 

「目が覚めたか?」

 

「うにゃ、目醒めたけど、腰が痛いのにゃ、ていうか、いくらなんでも激しすぎるのにゃ」

 

 文句を言いつつ嬉しそうに腹の下辺り、子宮辺りを愛おしそうに擦る黒歌を後ろから包み込む様に抱き素直に謝る。

 

「すまん。正直やりすぎた」

 

 だけど、久々に思いっきりやれたからすごく充実している。

 

「まあ、いいにゃ♪ 十分満足したにゃ♪」

 

 ニコニコと微笑みながら胸に抱きついてくる黒歌を抱き返して、しばらく湯で疲れを癒し、二度寝をしに寝室へと戻る。

 

 寝室へ戻り、昨夜のように黒歌に腕枕をして眠る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<黒歌>

 

 

 エイジに腕枕をしてもらいながら昔を思い出す。

 

 エイジと出会ったのは、妹の白音に昔の主が、無理やり仙術を覚えさせようとしたのを止めようとして主を殺し、はぐれ悪魔の犯罪者として悪魔や、主の眷属たちから追われ人間界まで追い込まれたときだった。

 

 そうだ。まだ幼くて仙術が使えるはずもない白音を守るために、私は主を殺した。

 

 主を殺したことに後悔はしていない。最初から白音を人質に取られていなかったら、あんなクソ女の眷属なんかなんてなるはずがない。

 

 あたしは討伐対象となり、悪魔たちから深手を負わされ、人間界の路地裏に倒れていたとき、黒髪で不思議な雰囲気をした少年に出会った。

 

 その黒髪の少年こそがエイジだ。

 

 そのとき深手を負い機嫌が悪かったあたしは、近づいてきたエイジを全力で威嚇したが、上級悪魔ですらたじろく黒い気を発生させて威嚇したのにも関わらず、エイジは気にする様子もなく手を差し伸べてきた。猫の姿をしていたからと言ってもこれは異常な事だった。

 

 そしてエイジはあたしを抱き上げると、目線を合わせ「俺のモノにならないか」と言った。

 

 あたしはエイジの不思議な雰囲気に無言で頷いてしまい。

 

 少年の、エイジのモノになった。

 

 それから冥界に渡って、エイジと一緒に賞金稼ぎとして暮らした。

 

 一応の身分はエイジの使い魔で、エイジのモノだ。

 

 まあ、モノになったといっても、扱いはあの悪魔たちと比べものにならないぐらいにいいし、エイジは優しくて、すごく強かった。

 

 そう、すごく強かった。冥界や天界とか神器の知識はなかったけど、戦闘技術も今まで見たどんな悪魔や堕天使、天使などとは比べるほどもなく優れていて、人間なのにあたしより仙術を理解していて、色んな魔法が使え、色んな武器や道具を持っている規格外の人間だった。

 

 あたしが指名手配の犯罪者だという事を話しても、エイジの態度は変わらないどころか、追われないようにと認識を誤魔化す道具を作ってくれた。

 

 それから、一年ほど冥界の各地を周り賞金稼ぎをしていた時。エイジがグレモリー家の悪魔と仲良くなり、エイジがグレモリー領を訪れたとき、以前連れて行けなかった白音を連れて行こうとしてグレモリー家に忍び込み白音を悪魔達から助け出そうとして、白音本人に拒絶された。

 

 まあ、当然と言えば当然で、自業自得と言えば自業自得だった。

 

 あの時白音を連れて行けない理由があったとしても、白音には関係ないのだ。

 

 あたしは、白音を見捨てた。そう思われて当然。

 

 仙術を使い、思う存分、気の済むまで力を振るい、主や討伐しようと向かってきた悪魔を殺したのだから。

 

 怖がられて当然。

 

 恐れられて当然。

 

 拒絶されて当然だった。

 

 あたしはその後白音が元気か影で見守りながら、エイジと共に冥界を回って賞金稼ぎしたり、人間界で学校に通っているエイジと遊んだりしながら暮らしている。

 

 そうそう。あたしが、エイジと会って2年ぐらいに賞金稼ぎで霊山を訪れたとき、霊山の気に当てられた事と、発情期が重なって、発情を抑えきれずにエイジを襲ったときは、エイジから死ぬまで生気を抜いてしまうと恐怖した。交尾は初めでだったし。でも、実際は逆に動けなくなるまで犯されるとは思ってもみなかった。

 

 だって、当時のエイジは10歳で、普通なら起つぐらいしか出来ないのに、エイジのはすぐに硬くなって、しかも、歳と体の幼さに比べて大きくて長くて、しかもしかも、何回やっても精液が枯れる事がないし、童貞だと言っていたのに、すごく手つきや腰を打ち付ける角度なんかが精錬されていて、何度もイカされて、その後二日も霊山に篭ってやりまくられるとは思わなかった。

 

 そして、それから仙術をあたしの完全な支配下におくために、エイジに仙術の手ほどきをしてもらった。

 

 うん。本来逆なんだけど。規格外のエイジなら仕方がないにゃ。

 

 それから、七年が経って今なんだけど、その七年のうちにいろんなことが起こった。

 

 一番の変化はあたしがエイジに襲い掛かって性を開花させた事で、エイジのリミッターがはずれ、賞金稼ぎの仕事をしているときに立ち寄った村や街で、美人にお願いされたり、人間界でも巫女に助けを求められたり、妖怪の主をしている雌狐を助けたりした御礼の変わりに、交尾をするようになった。

 

 エイジは顔も体も力も規格外に強くて性格もいいから、非常にモテてる。それに、一度抱かれた相手は、気が狂うほどの快楽にやられて、なんどもエイジを求めるようになるから少し取られたみたいでジェラシーがわくにゃ。

 

 まあ、エイジはこれまた規格外の絶倫だから、何人抱こうと量と濃厚さは薄まる事はないし、独占しようにも一人で相手するのは壊れちゃうから無理にゃ。

 

 エイジになら壊されても本望だけど子も宿してないのに壊されたくないにゃ。

 

 うふふ~、エイジとあたしの子供♪

 

 ああ、話がそれたにゃ。

 

 エイジと出会ってからの7年でいろいろ変わったことだったわね。

 

 冥界ですごい数の賞金首や、魔王クラスの力を持ったSSクラスはぐれ悪魔を狩っている内に、エイジは冥界でヒーローみたいな扱いになっている。

 

 正体をバラシたくなかったことと、騒がれたくなかったから人間界に戻ってからは、冥界に行くときは目元を隠す仮面をつけて、黒のインナースーツに真っ赤なマントを羽織りって仕事をしている事と、反則みたいな力で賞金首を狩っていくから、色んな異名がついたり、ファンクラブや、アニメなんかも出来たから、恥ずかしそうにしていたのを覚えている。

 

 あたし? あたしは一応犯罪者だから仕事は裏方。潜伏先を見つけたり、調査なんかが主な仕事。

 

 ていうか、エイジってよく転生悪魔になれたにゃ~。

 

 規格外なスペックを誇るエイジはいったい何の駒で……、ていうか、転生悪魔になったって事は、確実にエイジは最上級の悪魔になって『悪魔の駒』を貰うにゃ! それに、寿命も延びてるからずっと一緒にいられるし、はぐれ悪魔じゃなくてエイジの眷属悪魔になれるにゃ! ふふふっ! 誰が転生させたか知らないけど感謝するにゃ♪

 

 そういや、エイジから懐かしい匂いがしたけど……もう……瞼が重……い……。

 

 意識が遠のきエイジの匂いに満たされながら眠りに落ちた。

 



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第11話 ご主人様に尽くしたい! ☆

<レイナーレ>

 

『どうせ死ぬなら、俺が拾ってやろう。お前の命。俺のために生きな』

 

 私は不思議な雰囲気のする男にそう言われた。

 

 男は、私が殺した男だった。

 

 男は、私の作戦を根源から崩した相手だった。

 

 男は、私の仲間を奪ったグレモリーの眷属悪魔だった。

 

 男は、何よりも嫌いな悪魔だった。

 

 だけど男は、部下にも見捨てられ、グレモリーの次期当主に消滅させられそうになった私を助けてくれた。

 

 私のせいで転生悪魔になってしまったというのに。

 

 彼は本当に不思議な男。

 

 私の光の槍を受けて死ぬ寸前になっていたのに、私の唇を奪ったし、本当は光の槍で刺されたぐらいじゃ死なないらしいし。彼の魔力はそこらの上級悪魔よりも高く、私が出した光の槍を簡単に砕いた。

 

 絶大な力を持ち、私を奴隷にするんじゃないかと最初は疑った。そりゃあ、教会で殺されそうになっていたのに、目覚めたら真っ暗な部屋で縛られていたんだから。

 

 しかも、部屋を空けて入ってきたのは私が殺した男だったんだから、酷い拷問でもを受けるんじゃないかと思ったけど、違った。

 

 彼は私を家族だと言ってくれたし、日用品や普通の部屋まで与えてくれた。

 

 それに、なんていうか、一緒にいると安心する。

 

 一介の堕天使として組織に居たときよりも、いまはすごく……、すごく安心できる。

 

 私は、この命を彼のために使おうと思う。

 

 彼がいなければ存在していられなかったから。

 

 彼の言うとおり全力で彼のために尽くそうと思う。

 

 でも、『メイド』になって尽くせって言われたけど『メイド』ってなにかよく分からない。

 

 メイド喫茶のメイドではないだろうし、よく分からない。

 

 家事をするのは分かってるけど、それだけなの?

 

 私は彼に買ってもらったパソコンに電源を入れて、インターネットで色々調べてみることにした。

 

 ………。

 

 ……………。

 

 …………………。

 

 ………………………。

 

 …………こ、これは……。

 

 ネットでメイドの仕事について検索してみると、主人の小間使いで、家事と主人が不在の場合の家の管理だという事が主な仕事だという事が分かったけど……。それよりも、なによ肉奉仕って!?

 

 肌色が多いサイトでもっと深く調べていくと、しゅ、主人の疲れを癒すために自分の体を捧げて主人の欲望のはけ口になったり、お仕置きとかいって縛られたり叩かれたりと様々な恥ずかしいことをさせられる職業みたい。

 

 な、なによ、これ……。

 

『メイド』ってこんな仕事なの?

 

 わ、わたしもしなきゃいけないの?

 

『うにゃぁああああああ!』

 

 なっ!? なに? さっきの悲鳴は、エロ猫?

 

 今朝、紹介された黒歌という、元はぐれ悪魔で、彼の使い魔とかいうエロ猫の悲鳴みたいだった。

 

 私は、悲鳴が聞こえた三階に足を進めた。

 

 気配を消して、黒歌の悲鳴が聞こえた部屋のドアを慎重に開けた。

 

 少しだけ開けたドアの隙間から部屋の中を覗いてみると、ベッドで絡み合う彼と黒歌がいた。

 

 2人は、ベッドの上でセックスしていた。

 

 私は初めて見た光景に、腰から力が抜けてその場に尻餅をついた。ドアの隙間から見える光景に私は釘付けになった。

 

 犯され続ける黒歌と、犯し続ける彼を見て恐怖心を抱いたが、黒歌の満ち足りたよな満足げな顔と、彼の嬉しそうな顔に気づいた瞬間。私は自分でも気づかないうちに股間に手を這わせて自分自身で慰めていたことに気づいた。

 

 人の行為を覗いて自慰をしていたなんて。

 

 指先に絡みつく、ねっとりとした液体に戸惑っていると、ドアの隙間から犯されている黒歌と目があった。

 

 私は、自分でも分からないうちに這うようにして逃げていた。

 

 廊下を這うように移動して、階段を降りて、自分の部屋に入って、ベッドに上がってシーツに包まった。

 

『メイド』の仕事であった夜の奉仕というものがあったのを思い出し、私も黒歌みたいに犯されるのかと思った。

 

 ベッドに入って、始めは彼の事を『やっぱり体目当てだったんだ』と悪く思ったけど、黒歌の幸せそうな表情と彼に抱かれている自分を想像すると、不思議とあんまり嫌じゃなかった。

 

 心のなかに、彼にならとも思ってしまっている自分が存在する。

 

 と、とりあえずは、どこにも逃げることもできないんだし。い、いまは彼に……、ご、ご主人さまに従うしか私に生きる道はない。

 

 とりあえずは……、とりあえずはご主人様のメイドとしてしっかり働こうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、私はネットで調べた通りに、メイド服に着替えてエイジのことをご主人様と呼び、朝起こしたり、食事を作ったり、家の掃除をしたりしている。

 

 ネットでご主人様の体を自分の体を使って洗ったり、背中を流したりするのもあったけど、恥ずかしくて出来ないから、お風呂にはご主人様が1人で入るか、たまにエロ猫がご主人様が入浴中に風呂場に突入するぐらいだ。

 

 夜の奉仕も恥ずかしくて出来きなかったし……。

 

 そういえば、そもそも私はご主人様から奉仕するように命令されてもいない。

 

 メイドになってすでに一週間が経っているけど、ご主人様は私の体を求めることはしないし、軽く失敗してもいやらしいお仕置きをしてこない。

 

 ご主人様は性欲があまり強い方というわけでもないようで、黒歌は2日に1回ぐらいのペースで寝室を共にしてるからうらやま……、いいえなんでもないわ。

 

 う~ん……、悪魔でエロ猫の黒歌に相談するのは少し嫌だけど、相談してみようかしら? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ご主人様は、昼間は学校に、夜は悪魔の仕事で家には遅い時間にしか帰ってこない。なので私は、ご主人様が悪魔の仕事に出かけてからすぐに、庭で月見酒をしていた黒歌に『なぜ私の体をご主人様が求めないか』というのを相談してみた。

 

 すると、黒歌は『うにゃ? エイジの子種が欲しいのにゃ?』と聞き返してきた。

 

 ご主人様との子供……。

 

 最近というか、初めて自分の股間に触れたときに感じたときのふわふわとした心地よさに溺れ、弄る事が癖になった私には物凄く甘く聞こえた。

 

 私を満たして欲しい。こんな中途半端ではなく、最後までやりたいと思ってしまう。

 

 私が顔を赤くしていると、いつの間にか黒歌が背後に回って胸を揉んできた。メイド服越しに胸を鷲づかみにされながら、甘く、思考が回らないくらいに甘く、黒歌は耳元で『エイジに犯してもらおうにゃん♪』と囁いてきた。

 

 黒歌のそんな囁きに私はほとんど無意識に頷いてしまい、黒歌に言われるがままにエイジのベッドに潜り込んだ。

 

 シーツに包まり、勝負下着用にと購入した黒で、面積の少なく、薄い生地で作られたショーツ1枚だけでエイジを待っていると、ドアが開く音が聞こえた。

 

「…………」

 

 バサッと服を脱ぐ音が聞こえる。

 

 ご主人様は寝るときいつも裸だからご主人様だということが分かった。空気の感じだけでご主人様だと分かった。

 

 私は顔まで覆っているシーツをずらして顔を出して確認してみると、やはりご主人様がいた。

 

 窓から差し込む月明かりに照らされ、ご主人様の無駄のない筋肉で作り上げられた彫刻のような肉体美が浮かび上がった。

 

 私は裸のご主人様を前に、感情を抑えることができなくなり、気づいたらベッドから飛び出してご主人様に抱きついていた。

 

 身長差で口まで届かないので、自分の秘めている感情を表現するために、ご主人様の首や胸にキスを行い、自分を犯して欲しいとお願いした。

 

 ご主人様は『ほんとにいいんだな?』と訊いてきた。

 

 私は、その問いに行動で示す。

 

 ご主人様に自分の股を擦りつけ、顔を覗きこんできた彼の唇を奪い、自分から舌を伸ばした。

 

 ご主人様はゆっくりと唇を開いて私の舌を口内へと入れてくれた。ヌルヌルで温かく、甘く蕩けるような唾液に私の心は満たされていく。

 

 どうやら私は心の底から彼に惚れてしまったらしい。

 

 唇を交わし、舌を絡め、唾液を交し合うだけで、私は幸せな気持ちでいっぱいになる。

 

 これまでに感じたことのない幸福感に包まれる。

 

 ベッドに押し倒され、唇を蹂躙されると昇天してしまわんかというほど、強い快感と満足感に包まれた。

 

 そして、何度もキスを交わし合っていると、次第に満足感は渇きへと換わり始め、より強い快感を求め始めた。

 

 ご主人様が私のオマンコを隠しているショーツを脱がせて、指を股の間に差し込んだ。

 

「はぁはぁ……、ご主人さまぁ……、あっ……」

 

 オマンコにご主人様の指先が触れる。

 

「ふふっ、もうじゅくじゅくに濡れてるな」

 

 ご主人様は私のオマンコを指の腹でなぞり、微笑んだ。まるで捕食者のような、食べられてしまうんじゃないかと錯覚してしまうほど、絶対強者からの微笑みだった。

 

 ああ……、私……、ご主人様に食べられてしまうんだ……。

 

 そんなことを思いながら私は股から力を抜いた。

 

 ご主人様が弄りやすいように、自分のオマンコをもっと弄ってもらえるように、私は股を広げた。

 

「あ……、ん、んんっ……。ああっ、ご主人様の指が……、んっ」

 

 ご主人様の指が私のオマンコを弄る。大陰唇を摘ままれ、小陰唇を撫でられ、クリトリスに触れられ、膣口に指を挿入される。

 

「くっ、あくっ。そ、そんなに……っ、んん~……っ」

 

 深夜の寝室に、ぐちょぐちょといやらしい音が響く。

 

 小さな膣口をご主人様の指が押し広げるかのように淵をなぞり、指を2本に増やし、次から次へと染み出してくる私の愛液を浴びながら、弄り続ける。

 

「こっちもおいしそうだな」

 

「――っん」

 

 オマンコから送られる快感に酔いしれていると、ご主人様は今度は私の胸に顔を埋めてきた。

 

 胸の谷間に顔を埋め、胸にキスをしたり、舌で舐め始めた。

 

「ご主人様ぁ……」

 

「ふふっ、レイナーレのおっぱい、おいしいなぁ」

 

 胸にご主人様の吐息がかかる。少しクセのある髪の毛がくすぐったい。

 

 胸を這い回るご主人様の舌を感じて体が反応してしまう。

 

「ひゃっん、ご、ご主人様……、そ、そこは……」

 

「キレイなピンク色のかわいい乳首だな」

 

 ご主人様は私の胸を見ながらそう微笑んだ。

 

 興奮して獣と化したご主人様に体を褒められると、恥ずかしさと同時に快感や満足感を感じてしまい、なぜか私は両手を広げてご主人様の頭を自らの胸へと引き寄せてしまう。

 

「ご主人様ぁ」

 

 自分でも驚くほど甘い声が出てしまう。

 

 ご主人様が赤ん坊のように私の乳首を吸ったり、舐めたりする様子を見たり、感じるとすごくうれしく想ってしまう。

 

 ああ、ご主人様が私のおっぱいをおいしそうにしゃぶってる……。オマンコも弄り続けられて、わ、私……もう……。

 

「はぁはぁ……、おいしいぞ、レイナーレ」

 

「――っ」

 

 ご主人様に名を呼ばれるだけで子宮がうずく。

 

 もう我慢できない……。

 

「ご主人さまぁ……」

 

 快楽に支配された私は大きく股を開く。

 

「レイナーレ、いくぞ」

 

 私の想いを感じてご主人様が股の間に入ってきた。

 

 これがご主人様のオチンチン……。

 

 私のオマンコの前に差し出されたご主人様のペニスは、すごく太くて長く、血管は浮き出ていて、初心な少女なら見ただけで泣き出してしまうんじゃないかと思うほど、迫力があった。

 

 これが、私のなかに入るの?

 

 あんな大きなものが、私のなかに入るはずがないと少しばかり恐怖心を抱くが、今の私はご主人様のペニスを入れやすいように、自分から大きく股を開いていた。

 

「ご主人さま、お願いします……」

 

 後ろ手にシーツを掴み、ご主人様のペニスを欲していた。

 

「ああ」

 

 ご主人様は私にしっかりとうなずき、腰を進め始める。

 

 小さな膣口にご主人様の太く熱い亀頭の先端があてがわれ、押し広げるようにミチミチと穴を広げながらご主人様が私のなかに入り始めた。

 

「あっ! ぐっ、んんっ……!」

 

 人外ゆえに痛みに耐性があったが、これは初めて感じた痛みだった。自分の体内に他人が入ってくるような、無理やり広げられながら入ってくる痛みで、すごく痛かった。

 

 すごく痛かったけど、その痛みすら心地よかった。

 

 ご主人様を初めて自分のなかに入れた痛みだったから……。

 

「ん、くう……、絞まるな」

 

「ああ……、ご主人さまが私のなかに……」

 

 オマンコから伝わるご主人様の存在。

 

 覆いかぶさっているご主人様の嬉しそうな顔と、私をオマンコから感じてくれていることに悦びを感じる。

 

 ご主人様に与えられる感情が全て悦びへと変わり、私は涙流した。

 

「好きです、大好きです、ご主人さまぁ」

 

 口から言葉が漏れる。

 

 これで私は本当にご主人様のモノになれたんだ。私はご主人様のモノになったんだ。

 

 ご主人様の手が私の顔に触れる。

 

 大きくて温かい手だ。

 

 手の温かさを感じながらご主人様の顔を見上げると、

 

「俺も好きだよ、レイナーレ」

 

 と告白された。

 

「――っ」

 

 す、好き!? ご、ご主人様に好きって言われた!?

 

 一瞬で顔が赤くなる。頭が熱くなって思考がさらに乱れる。完全な不意打ちだった。

 

 心の戸惑いに比例するようにオマンコが絞まり、絞まったことでペニスの存在を強く感じて快感に脳を焼かれる。

 

「――っん、んんっ! ああっ!」

 

 ビクッ、ビクッと体が跳ねる! な、なにこれ!? ん、あああぁぁぁぁっ~!

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……」

 

 呼吸が荒くなる。体が痙攣してるみたいに反応する。なに、さっきの……? 

 

 霞む視界で改めてご主人様の顔を見上げる。

 

 ご主人様は私の髪を手ですかしながら微笑んでいる。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、はぁぁぁ……」

 

 少し落ち着いてきた。

 

「レイナーレ」

 

「……ん?」

 

 なんですか、ご主人様?

 

「そろそろ動き始めるよ」

 

 ……え? 動く?

 

「――っ!?」

 

 ご主人様の腰が引かれた瞬間、ペニスがオマンコを抉るように引っかいた!

 

 言葉で言い表せないような強い快感が脳に送り込まれ、体が弓なりに浮き上がる!

 

「あっ、んあぁっ……!」

 

 引かれた腰が今度は前へと突き出され、ペニスがオマンコを押し広げながらなかに入ってきた!

 

「ぐんっ!」

 

 肺から息が漏れる!

 

 ペニスを出し入れされるたびにオマンコから大きな快感が送られ、脳が蕩け始めた!

 

「あっ、ん……、す、すごい……、い、いい……」

 

 ご主人様の体が私を覆いかぶす。逃げられないようにベッドに磔にされて、体を蹂躙される。

 

「気持ちいいか、レイナーレ」

 

 耳を舐められながらご主人様に訊ねられる。

 

「はいっ、はい、ご主人さまっ。気持ち、いいです。すごく気持ちいいですっ!」

 

 私はご主人様の体を抱きながら素直にうなずく。

 

 これがセックスなんだ。すごく気持ちいい。ご主人様も気持ちよさそう。

 

 快楽を感じながらそんなことを考え、私はご主人様をさらに求めた。

 

「もっと、もっと私を感じてくださいっ、私をもっと……」

 

 ご主人様が逃げてしまわないように両手で抱きしめて、求めた。

 

 ご主人様の腰の動きに合わせて自らいやらしく腰を動かし、ご主人様のキスを受け入れ、唾液を飲み下した。

 

 あ、ご主人様のオチンチンがビクビクしてる。

 

「レイナーレ、射精()すぞ!」

 

 え? 何をだすの?

 

 快楽に思考を低下させた私が首をかしげた瞬間、オマンコのなかでご主人様のペニスがビクビクッと大きく跳ねた。

 

 跳ねたペニスから何かが私のなかに流し込まれ始めた。

 

「――っ!?」

 

 始めに感じたの熱い、熱だった。

 

 次に感じたのは蠢き。オマンコの壁に染み渡るような、疼きを感じた。

 

 その疼きが大きくなって私の脳へと電流を流し、目の前を白黒させた。

 

 分けがわからない感情の濁流に私は獣のように悲鳴をあげる。

 

「あ、ああああぁぁぁぁ~っ!」

 

 手の届かない肉体の内側にある子宮が熱い熱を帯びて、オマンコがもごもごと勝手に蠢いた。

 

 体のなかが……、子宮が、熱い……。

 

 この熱いの、ご主人様の精液、なの?

 

 これが、精液……。セックス?

 

 ああ、ご主人様に全身を抱かれてるみたい……。

 

 私……、いま、幸せ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃ、にゃ♪ うまくやったようだにゃ♪」

 

 ご主人様の腕に包まれるように抱かれて寝ていると、そんな声が聞こえてきた。

 

 声の方向へ視線を向けると、やはり黒歌が居た。

 

 黒歌はベッドの縁に座っていて楽しそうにこちらを眺めていた。

 

「な、なによ、黒歌!」

 

 覗かれていたみたいだけど、アドバイスをくれたのは黒歌だったので強く言えず、顔を赤くして顔を逸らす。

 

 黒歌はそんな私を楽しそうに眺めながら、ベッドに近づいてきた。

 

「ふふふっ♪ あたしもしたいから、今度は3人でしようにゃ♪」

 

「なっ!?」

 

 いきなりなにを言っているんだ、このエロ猫は!?

 

 そう睨もうとした瞬間。黒歌の指が私の……お、お尻の穴に……差し込まれた。

 

「――ひっ!?」

 

「にやにゃ~ぁ♪ さすがさっきまで処女だっただけはあるにゃ♪ どこの穴も未発達で可愛らしいにゃ♪」

 

 そうつぶやいて、お尻に差し込んだ指を動かしてくる黒歌。

 

 何ともいえない異物感と、未だにご主人様のペニスが入っていることで、私は逃げられず、弄られる。

 

「にゃにゃ、ぷるぷる震えて感じてるのかにゃ?」

 

「なっ!? お、お尻の穴なんか、でっ、か、感じるわけないでしょ!」

 

「にゃ~? そう言ってるわりには気持ちよさそうだけど~?」

 

「ぐっ、んんっ、こ、コラ……、や、やめなさいっ」

 

 黒歌はニコニコ笑顔で私の背中に胸を当てながら、指でお尻の穴を広げてくる。

 

 猫舌でザラついている舌で耳を舐められる。

 

「――っん」

 

 オマンコが反応して、挿入されたままのペニスを絞めつける。

 

「レイナーレ」

 

「っ! だ、だめですっ。い、今ご主人様にまでされると……」

 

「ふふっ、ご主人様が満足するまで楽しませるのもメイドの仕事じゃないのかにゃ?」

 

 黒歌はそう笑むと、後ろから私の腕を掴んできた。

 

 まるで自分からご主人様に胸を差し出しているかのように、胸を張らせられる。

 

「ご主人さまぁ」

 

「レイナーレ、いいか?」

 

 ――っ。そ、そんな風に聞かれたら、うなずくしかないじゃないの……。

 

「…………はぃ」

 

 ご主人様の手が再び私の胸に触れる。

 

 背中に当たってるエロ猫の黒歌よりも小さい胸だけど、ご主人様はうれしそうな表情で弄ってくれる。

 

 胸にご主人様の指がズムッと埋まる。硬くなりだした乳首を指でやさしく摘ままれ、扱かれる。

 

「あ、ん……、んん……」

 

 ご主人様に顔を近づけられ、唇を交わす。

 

 私は大きく口を開いてご主人様から差し込まれる舌を感じて体を震わせる。

 

「にゃあ、感度もすごくいいみたいにゃぁ♪」

 

「く、くりょか……っ」

 

 キスをしながら後ろを警戒しようとするが、オマンコにペニスを、お尻の穴に指を入れられ、胸を揉まれながら、キスをされている状態の私には余裕はない。

 

「にゃん♪ そんな期待されてるみたいな声だされたら悪戯してあげたくなっちゃうにゃ」

 

 そう微笑んだ黒歌は拘束を解き、お尻の穴からも指を抜いて私から離れた。

 

 ……すごく嫌な予感がする。

 

「エイジ、騎乗位になってくれるかにゃ?」

 

「騎乗位か? ――レイナーレ、いいか?」

 

「え? は、はい」

 

 訊ねられたから自然にうなずいてしまったけど、騎乗位? 騎乗位って確かネットで……。

 

「――っ!?」

 

 先ほどまで横抱きの状態で繋がっていたのを動かされる。

 

 ご主人様を押し倒して跨いでいるような、馬に騎乗しているかのような常体になった。

 

「くっ、んぐっ……!」

 

 こ、この体勢は……、ご、ご主人様のペニスが奥まで入り込んで……、き、キツイ……。し、子宮を持上げられてるみたいっ。

 

「ふふふ、まだレイナーレには騎乗位は早かったみたいね。子犬みたいにプルプル震えてかわいいにゃぁ」

 

「くっ、黒歌……」

 

 私はご主人様の胸に両手をついて体が倒れないように支えるが、腕に力が入らない。

 

 し、子宮にペニスがめり込んでる……。ペニスが震えるたびに子宮に響いて、頭が白くなる……。

 

「じゃあ、あたしも参加させてもらうかにゃ。エイジ、オマンコペロペロしてにゃ♪」

 

「ああ」

 

 仰向けで寝ているご主人様の顔に黒歌が跨った。

 

「んっ、にゃん」

 

 黒歌は目を細めてオマンコをご主人様の顔に押しつける。ご主人様は両手で黒歌の太ももを抱いてオマンコを舐め始める。

 

「にゃ、ん……、にゃぁぁん……」

 

 黒歌の口から気持ちよさそうな吐息が漏れる。視線を下に落とすと、手入れのされた黒い茂みと割れ目が覗けた。

 

 柔らかそうで、少し赤い大人のオマンコ。私のよりもいやらしく口を少し開いて、愛液で濡れているオマンコだった。

 

 それをご主人様の舌が舐めていた。

 

 掃除でもしているかのように丁寧に舌で舐められて、黒歌は気持ちよさそうに目を細めて、自分で自らの大きな胸を弄って妖艶に微笑んでいた。

 

 あ、ご主人様の舌が黒歌のなかに入ってる……。黒歌、すごく気持ちよさそう……。わ、私もしてほしい……。

 

「レイナーレ~」

 

「――っ。な、なによ?」

 

 黒歌の金色の瞳が私を射抜く。まるで体を舐めまわしているかのような視線だ。自然と体を両腕で隠す。

 

 そんな私を黒歌は口元に手を当てて微笑む。

 

「かわいい反応。ふふふ、虐めてあげたくなっちゃったにゃぁ~♪」 

 

「なっ!? な、なによ……」

 

 微笑む黒歌が近づいてくる。私も体を後ろにそらして逃げようとするが、ご主人様と繋がっているために逃げられず、黒歌につかまってしまう。

 

「――っ」

 

 両腕を背中に回され、顔を覗き込まれる。

 

 な、なにをする気なの……?

 

 怖がる私に黒歌はニヤリと笑むと、強引に唇を重ねてきた!

 

「なっ、なにを、んっ!? あふっ、や、やふぇっ……!」

 

 抗議の声を上げようとして口を開いた瞬間、舌を差し込まれる!

 

 肉体の反射で体が強張り、オマンコがペニスを締めつけ、ペニスがオマンコのなかで大きく跳ねた!

 

 どうにかして逃げようと黒歌の胸を両手で押すが、黒歌は関係ないと顔を押しつけ、背中に回した手で再びお尻を掴んできた!

 

「や、やめ……、あっ!」

 

「やっふぁり。お尻で感じてるにゃ」

 

「そんなこと……」

 

 ……ない。そう否定しようとするが、黒歌の手つきは大胆になり、お尻の肉をこねくり回し始めた。

 

 両手でそれぞれの尻肉を掴まれ、左右に広げられたり、摘ままれる。お尻の割れ目を指先でなぞられ、体を跳ねさせると、同時に口内に侵入させた舌で、私の口を冒してくる。

 

 くっ、だ、ダメ……、き、気持ちよくなっちゃう……。

 

「―-っ!」

 

 ご主人様の腰が動き始めた!

 

 やさしく、ゆっくりな速度だけど、オマンコの肉を雁首がガリガリと強く引っかき、自重でペニスが子宮口にめり込み、まるで子宮を持上げられるかのような感覚が体と心を襲い始める。

 

 オマンコしながら、黒歌にも弄られるなんて、だ、ダメよ……。わ、私……、おかしくなちゃぅぅ……。

 

 これから自分を襲うだろう快楽に恐怖し、気づいたら私は黒歌にすがり付いてきた。

 

 黒歌の体に抱きついて、自分から黒歌の口内に舌を入れていた。

 

「にゃはは、かわいらしいにゃぁ~、ん、んんっ」

 

 黒歌の余裕だった笑みが少し歪んだ。

 

「にゃっん、エイジもスパートかけてきたのにゃ、ふふっ」

 

 黒歌の大きな胸で見えないが、どうやらご主人様が黒歌を感じさせてるみたいだ。

 

「ふにゃっんっ、あ、いい、にゃぁ」

 

 黒歌の顔がだらしなく緩み、腰つきがいやらしくなってる。

 

 ぷるぷると震え、私の体を支えにする黒歌。

 

 かわいらしく甘い吐息を耳元で漏らされ、私も興奮してしまう。 

 

「んっ、あっ、んんっ、ご主人さまっ、いいですっ。もっと下から突き上げて、くださいっ」

 

 黒歌の大きくいやらしい声に、ついつい私自身も大胆になってご主人様を求める。

 

 ご主人様が私のオマンコを味わえるように腰を少し浮かせる。

 

「いいですっ、すごくっ、私のなかでもっと気持ちよくなってくださいっ!」

 

 ご主人様のペニスが私のなかで大きく震える。射精が近いのだろう。私もそろそろイッてしまいそうだ。

 

 私は黒歌の体を抱きながらいやらしく懇願する。

 

「ご主人さまっ、出してくださいっ! ご主人さまの精子っ。私のオマンコに、たっぷり注いでくださいっ!」

 

 そんな私の懇願を聞き入れるかのように、ご主人様のペニスがオマンコに深く突き刺さる。

 

「――っぁん!」

 

 あまりの衝撃に目の前が真っ白に染まるが、すぐに子宮に流し込まれる精液の熱に無理矢理覚醒させられる。

 

 ビュッ、ビュッ、ビュゥゥゥゥウウウ~ッ!

 

 一度目よりも明らかに多い射精。子宮をパンパンに膨らませてもあふれ出る精液が結合部から染み出す。

 

「あつ……、熱い……。ご主人さまの精液でおなか、いっぱい……」

 

 混濁した意識のなかで子宮に感じる熱を感じる。目を閉じても感じる心地よい熱。

 

 すごく……、気持ちよかったぁぁぁ……。

 

 私はそこで意識を完全に失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に目覚めた私が見たものは、仰向けになってるご主人様の股に顔を埋めている黒歌の姿だった。

 

「にゃ? 目覚めたのにゃ?」

 

「……ご主人さま、黒歌? 何してるの?」

 

 寝ぼけた頭で首をかしげながら訊ねると、黒歌は微笑んで体をずらした。

 

 黒歌の手にはペニスが握られていて、黒歌はニコニコ笑顔で、

 

「フェラチオしてるのにゃ」 

 

 と、答えた。

 

「ふぇらちお?」

 

 聞きなれない言葉に首をかしげる私に黒歌は丁寧に説明する。

 

「オチンチンを口で舐めてあげるのとにゃ♪ レイナーレもやってみる?」

 

 ペニスを亀頭を舌先で舐めながら訊ねる黒歌。私も寝ぼけていたんだろう。素直にうなずいてしまった。

 

「まずは唾液をオチンチンにまぶすのにゃ」

 

「わかったわ」

 

 黒歌の指示通りに口内に唾液を溜めて、ペニスにまぶした。

 

「そして舌を突き出してペロペロ舐めるの。ほら、エイジも早くレイナーレにオチンチン舐めて欲しくてビクビクしてるにゃ」

 

 左手でペニスを掴んでみると、確かにビクビク震えていた。ご主人様の顔を覗いて確認してみると、何かを期待しているような表情で私を見つめていた。

 

「失礼します」

 

 私はそう頭を下げてペニスに舌を這わせる。横からアドバイスしてくる黒歌に耳を傾けながら、視線をご主人様に合わせて反応を見ながらフェラチオする。

 

「気持ちいいよ、レイナーレ」

 

 そう褒められながら頭をやさしく撫でられると、もっと気持ちよくしてあげたくなった。

 

 口を大きく開けて、ペニスにしゃぶりついて、顔を前後に動かすとすごく気持ちよさそうだった。

 

「んっ、ぐっ、出すぞ、レイナーレ!」

 

「-―っ!」

 

 突然頭を両腕で掴まれて喉の奥までペニスを挿入させる。少し苦しいけど、ご主人様の臭いと味が口いっぱいに広がって幸せになった。

 

 ビュッ、ビュビッっ、ビュゥゥウウウ~。

 

 ご主人様の精液が喉の奥から直接胃に流し込まれる。

 

「レイナーレ、ご主人様に出されたものはメイドとして全部飲まないとだめよ」

 

 隣の黒歌が微笑みながらそう言ってくるが、当然だ。

 

 ご主人様の精液は少し苦くて喉に絡みついて、臭いも量もすごいけど、おいしいし、吸い付きながら精液を飲み下すと、ご主人様は背筋がぞくぞくするような笑みをみせてくれるのだ。

 

 言われずとも私はご主人様の腰を抱いて、精液を飲み下していく。

 

 最後の一滴まで飲み終えて、唇でペニスに残った体液を拭いながら、チュッポンといやらしい音をならして口を離す。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、はぁぁぁ……」

 

 口はもちろん、胃の中にご主人様を感じる。ああ、私は幸せだ。生まれてからこれほど幸福な気持ちになったのは生まれて初めてだ。

 

「レイナーレ、後ろを向いてくれるか?」

 

「はい、ご主人さま」

 

 後ろを向いた私を押し倒してくるご主人様。また私を犯してくれるのだろう。

 

 オマンコをこじ開けながら侵入してくるペニスを感じながら、再び私はご主人様を体を重ねた。

 

「レイナーレがまた気絶したら次はあたしの番にゃよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、あれから代わる代わるセックスを皆で楽しみ、そのまま寝てしまい。

 

 ご主人様とそろって皆で寝坊してしまった。

 

 ふふふ、起きたときは全身ドロドロで恥ずかしかったなぁ。

 

 それに初めて皆とお風呂に入って、黒歌に体で男の人の体を洗う方法を習ったりとすごく楽しかった。

 

 お風呂から上がって、ご主人様に抱きつきながら二度寝したのもいい思い出だ。

 

 そうそう、黒歌はもう少ししたら再び冥界にもどって、空間術の修行をしにいくらしいから、今のうちに色んな技を覚えて、黒歌がいない間にたっぷりと寵愛を貰おうと密かに私は計画している。

 

 まあ、3人でしたり技を教えてもらうときに、黒歌に犯されたりするのは少々嫌だけど、正直3人でするのは気持ちよかったし……。

 

 元々黒歌のアドバイスのおかげで、ご主人様から寵愛をもらえるようになったんだし、た、たまになら3人でするのも悪くない……かもと思ってる。

 

 た、たまにだけどね。

 



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戦闘校舎のフェニックス
第12話 いままでの悪魔の仕事ってなんだったんだ!?


 

<エイジ>

 

 

 レイナーレが俺のメイドとなって働き始めて一週間ほどが経った。

 

 メイド初日に俺を起こしに来たとき、きちんとメイド服を着ていたのを褒めたら、ほんのり顔を赤らめて目を逸らしたのはかわいらしかったな。

 

 家事も問題なくこなせているし、悪魔の仕事でいないときや冥界で賞金稼ぎをしている間、レイナーレに家を任せられるなと喜んだ。

 

 そして、いつものように悪魔の仕事を終え自宅に帰ると、レイナーレが下着一枚でスタンバイしていて襲い掛かってきたのはすごく驚いた。

 

 正直、いずれは身も心も捧げてくれると嬉しいな~、と思っていたが、こんなに早く捧げられるとは思ってなかった。

 

 セックスしてもいいか確認すると、無言で体を擦り付けてきたから、俺はレイナーレを押し倒し、犯した。

 

 レイナーレは従順で献身的に求めてきて、しかも、心の底から悦んでいるのが目で見れた。

 

 挿入すると少し痛がり視線を落すと血が出でいた。黒歌の言った通り処女だった。

 

 ていうか、あのエロ猫一目見ただけで処女か非処女か見分けられるスキルを持っているし、性技もすごいし、SにもMにもなれる万年発情猫だからな。俺も童貞刈られたし。

 

 レイナーレに一度中出ししたあと、いきなりベッドに登ってきてレイナーレのアナルを弄って、2回戦に突入して、朝まで三人でやりまくるはめになるとは思わなかった。

 

 しかも、寝坊して学園サボっちゃったし……。

 

 はぁ~、今日は部活休みだからいいけど、部活あるときに休んだらいい訳が面倒だなぁ。

 

 それに、悪魔の仕事の顧客の数が増えすぎてさばききれない……。

 

 1日に10人近く……、しかも朝までの間とかハードすぎる。

 

 イッセーは1日1人か、アーシアとチラシ配りするだけで終わるのに……。

 

 いや、まあ、セックスは好きだからやるのは好きだけど。どうせやるなら客と店員との間を抜きにしてやりたい。相手を満足させることを第一にするのは結構気を使うからな。

 

 はぁ~、とりあえず今日は、メイド服のままのレイナーレと着物を着せたままの黒歌と着衣プレイで癒してもらうか。

 

 レイナーレが風呂で背中を流してくれるらしいし、今日は一日疲れを落そう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒歌とレイナーレに朝方まで癒してもらったので、鍛錬と朝食作りとしたあと、朝刊を取りに家の門に出ると、金髪のシスター、アーシアがいた。

 

「おはようございます。エイジさん」

 

 丁寧に腰を折って朝の挨拶を行なう、アーシアさん。

 

「あれ? なんでここにいるんだ?」

 

 疑問に思っていると、アーシアが応えてくれた。

 

「今日からイッセーさんのお家でお世話になることになったんです」

 

 …………え?

 

 アーシアがイッセーの家で世話になる?

 

 一緒に住むのか?

 

 アーシアが?

 

 兵藤家の夫妻はおじさんのほうは少しスケベだけど、きちんとした人格者だが、イッセーがなぁ……。

 

 正直、あの変態との同居はあまりお勧めしないが……。

 

「なので、お隣さんにご挨拶に着たんです」

 

「そうなんだ。それじゃあ、これからよろしくな」

 

「はい。よろしくおねがいします」

 

 天使のような笑顔を向けてくれるアーシア。まあ、正体は悪魔だけど……。

 

 クソっ! もしもイッセーが無理やりアーシアを手篭めにしようとしたら殺してやる!

 

「あの、これからイッセーさんと部長さんがトレーニングしている公園に行くんですけど、エイジさんも行きませんか?」

 

 上目使いで聞いてくるアーシア。う~ん、反則だな。

 

「わかった。俺も行くよ」

 

 2つ返事で了承し、まだ家で眠っている2人に言ってから、アーシアと一緒に公園へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公園に着くと、地面に横たわった屍、もといイッセーとジャージ姿の部長が居た。

 

「アーシア、エイジ、どうしてここに?」

 

 イッセーがよろよろと起き上がり尋ねてきた。

 

 アーシアがほんの少しだけ頬を染めて応える。

 

「毎朝、イッセーさんがここで部長さんとトレーニングをしていると……、その、私もイッセーさんのお力になりたいなーって。今日はお茶ぐらいしか用意できませんでしたけど」

 

「うぅぅ、アーシア! 俺はアーシアの心意気に感動した! ああ、可愛い子にそんなことを言われるときが俺に訪れようとは!」

 

 アーシアから預かったお茶を俺の手から渡そうかと思ったが、涙を流して感動しているのイッセーが可哀想になり、アーシアを経由してからイッセーに渡した。

 

「俺はアーシアに連れてこられたんだ」

 

 とりあえず、イッセーはアーシアに任せて、部長にお茶を差し出した。

 

「どうぞ、部長」

 

「ありがとう、エイジ。でも、昨日は学園休んだらしいじゃないの。やっぱり仕事の量を減らした方がいいのかしら?」

 

 お茶を飲みながらつぶやく部長。

 

「そうしてくれれば助かります。このままでは体がもたないので」

 

「そう。考えておくわ。あと、堕天使のことなんだけれど……」

 

 真剣な表情で部長が訊いてきた。

 

「ああ。それなら心配ないです。きちんとメイドとして家で働いてくれてますし、アーシアや他の悪魔にも手を出させないことも約束させました。彼女も他にもう行くあてはないので、俺のところでメイドをして働くそうです」

 

「そう、それならいいわ」

 

 一息吐くと部長は遠くを見るような、悩んでいるような表情になった。

 

「どうかされたんですか?」

 

「いえ……、なんでもないわ」

 

 そう言って、手を軽く振りながらイッセーとアーシアの元へと近づいた。

 

「じゃあ、アーシア、イッセーの家に行きましょうか。あと、エイジも来なさいよ」

 

 部長、俺はオマケですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公園から十数分後にイッセーの家の前にやって来た俺は、イッセーの家の前に積まれた段ボール箱を発見した。

 

「さあ、イッセー、エイジ。このダンボールを部屋に運んであげなさい」

 

 ああ、アーシアの荷物か。

 

 とりあえず、手近の荷物を持上げ玄関のほうで待つ。

 

「へ? 運ぶ? 俺の家に!?」

 

「そうよ。これはアーシアの荷物ですもの。運んであげるのが紳士的だとは思わない? 実際、エイジはもうダンボールを運んでいるわよ」

 

「これ、アーシアの荷物っ!?」

 

「そうよ今日からアーシアはあなたの家に住むの」

 

 そこでやっと状況を理解したイッセー。とりあえず、今日も学校があるから驚くのはあとにして欲しい。

 

 それから、イッセーの家にアーシアの荷物を運び終えた俺は、何故かイッセー家の家族会議に参加させられた。

 

 ちなみに椅子がないので部長の後ろに立っています。

 

 しかし、さすがは部長。部長の持つ威風でイッセーの両親は縮こまっている。

 

「お父さま、お母さま、そういう事情でこのアーシア・アルジェントのホームスティをお許しください」

 

 部長が優雅に朗らかに無茶な要求を突きつけた。イッセーの両親はアーシアとイッセーを交互に見つめて仲良く耳打ちしあっていた。

 

 はい。わかります。性欲の権化であるイッセーがアーシアを襲わないか心配なんですよね。俺も心配です。

 

 イッセーの父さんがゴホンと一つ咳払いをした後、アーシアへ質問した。

 

「アーシア……さんでいいのかな?」

 

「はい、イッセーさんのお父さま」

 

 緊張の面持ちでアーシアが応える。

 

「お、お父さま……。くぅ……きれいな外国人さんに立て続けに『お父さま』なんて言われると、その、なんていうか、響くね……いい意味で」

 

 なにやら感無量になっているイッセーの父さん。うん。あなたはやはりイッセーの父親だ。それより、なんでイッセーまでニヤケているんだ?

 

「お父さん!」

 

 イッセーの母さんが父さんを小突く。ハッと父さんとイッセーが我にかえった。

 

「ゴ、ゴホン! ホームスティするにしても我が家には性欲の権化ともいえるバカ息子がいる。残念だけど、うちよりも同じ女の子がいるお宅のほうがいいんじゃないかな。なにかあった後じゃ、申し訳が立たない」

 

 そうだよな。イッセーの家にアーシアを住まわせるなんて、猛獣の檻に肉を入れるもんだ。

 

「そうだ。エイジ君のところはどうだい?」

 

 え?

 

「そうね。エイジくんの家は隣だし、それにエイジくんなら家のバカ息子と違って紳士だし!」

 

 イッセーの両親が、2人そろって俺を勧めてきた。

 

「なっ!? エイジ! お前の家は近所だって言ってたのに隣だったのかよ! ていうか、なんで俺よりも両親の信頼を得ている!?」

 

 家が隣であることをずっと教えていなかったイッセーが騒ぎ出す。

 

 ここは正直に言うしかないと告白しよう。

 

「まあ、落ち着けイッセー。実際、俺の家は隣で、ご近所付き合いもしていたし、地区の清掃活動なんかにも参加していたんだぞ。それに、1年も住んでいて、俺はお前が、俺が隣に住んでいるという事実を知らないことに驚いている」

 

 これは半分嘘だ。俺の家は認識遮断と俺の知らない者への侵入防止の結界で厳重に守っているために一般人も気づきにくいのだ。

 

 最近は、グレモリー眷属の面々には結界の力が働かないようにし、アーシアも知っていたから、てっきり、イッセーも知っているものだと思っていた。

 

 まあ、知ったところでイッセーを俺の家に入れることは出来ないだろうな、メイドになったレイナーレもいるし、エロ猫の黒歌も住んでいるから、イッセーなんか連れて行ったら、下着泥をしたりや鼻血とか噴いて床が汚れそうだ。

 

「父さんも母さんも知ってたんならなんで教えてくれなかったんだよ!」

 

 イッセーが涙目で両親に詰め寄るが、2人は気にした様子もなく応えた。

 

「エイジくんは今どき珍しい好青年なんだぞ。お前に触発されて変態になったらどうするんだ」

 

「そうよ。イッセーと同じように変態になったらどうするのよ」

 

「………………」

 

 無言で膝をつく、イッセー。まあ、自業自得だが、ここまで信用がない姿を見るのは可哀想だ。

 

「えっと、俺の家は基本一人暮らしですし、家にいない時間が多いですから、(うち)では無理です。すみません」

 

 レイナーレがアーシアを殺そうとしたのは最近だし、それに、性欲の権化のイッセーよりもある意味危険な、万年発情猫がいますので無理です。きっとアーシアがエロくされちゃうから……。いや、それはそれでみてみたい気はするけど。

 

「おお、そうだったね。キミは1人暮らしでバイトをしていたんだったね」

 

 イッセーの父さんがすまなさそうに頭を下げた。

 

「では、このアーシアが娘になるとしたらどうですか?」

 

 話を長引かせないためか、強引に話を戻して部長が笑顔で話し始める。

 

「どういうことかな?」

 

「お父さま、アーシアはイッセーのことを信頼しています。それは深く。私も同様ですわ。イッセーは直情型でやや思考が足りない部分もありますけど、愚かではありません。むしろ、向かってくる困難を切り開こうと前へ前へ突き進んでいける熱いものを内に秘めています。私もアーシアもイッセーのそのようなところに惹かれてますわ。とくにアーシアは。ねぇ? アーシア」

 

「は、はい! イッセーさんは私を命がけで助けてくれましたし、学校でもたくさん助けてもらっています。授業のときも―――」

 

 と、アーシアが満面の笑みでイッセーに助けてもらっている日々を嬉々として話し始めた。

 

 少々過大評価しすぎのようだけど。満面の笑みで話すアーシアに口を挟むわけにはいかないと口は挟まなかった。

 

 イッセーが褒められていることに笑顔を浮かべて喜んでいる2人に、部長がさらにダメ押しをする。

 

「今回のホームスティは花嫁修業も兼ねて――――というのはどうでしょうか?」

 

 すると両親だけでなくイッセーまで驚き素っ頓狂な声をあげた。…・・・うん。アーシアは分かってないみたいだ。

 

 ぶはっ。

 

 イッセーの父親から目から大量の涙が流れ出す。涙を拭いながら、口を開いた。

 

「……イッセーがこんなのだから、父さんは一生孫の顔なんて見れないと思っていた。老後も一人身のおまえを心配しながら暮らさないといけないと悲嘆にもくれたよ……」

 

 突然、語りだした内容に俺まで涙腺をやられそうだ。

 

 イッセーの母親も隣でハンカチで目元を拭い涙を流してバカ息子のイッセーのことを話した。

 

 ていうか、イッセーの母さん! クローゼットの中のプラモデルの箱の中に隠したエッチなDVDの隠し場所なんて公開しないであげて! 同世代の女の子の前でばらされたイッセー涙目だよ!

 

「アーシアさん! こんなダメな息子だけど、よろしくお願いできるかい?」

 

「そんな……、イッセーさんはダメな方なんかじゃありません。とても素敵な方ですよ」

 

 アーシアは、イッセーの父さんの問いかけの真意に気づいておらずに、ニッコリと微笑んだ。

 

 それを見てイッセーの母さんが嗚咽を漏す。

 

 ドラマみたいな展開だけど、なんていうか、どれだけイッセーの未来を心配していたんだろう?

 

「リアスさん! アーシア・アルジェントさんは我が家でお預かりしますよ!」

 

 快諾を聞き、部長も微笑む。

 

「ありがとうございます。お父さま。というわけでイッセー。これからアーシアをよろしくお願いね。アーシア、これからイッセーのお家で厄介になるのよ。失礼のないように。イッセーの親御さんと仲良くしなさい」

 

 交渉成立! アーシアは兵藤家の一員になりました!!

 

 部長の交渉術に敬意を払って、さすが部長! この悪魔の中の悪魔! と、心の中で褒めてあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーシアがイッセーの家に暮らし始めて数日後の部室。

 

 今夜も悪魔の仕事に向かい。一旦部室に帰宅した俺だが現在の体調があまり芳しくない。うん。肉体的には全く疲れていないんだけど、ストレス。うん、ストレスがやばいんだ。

 

 毎日毎日、ほとんど寝る間もなく、悪魔の仕事で家々をまわって奉仕する毎日に、現在かなり疲れています。

 

 今夜もあと8人ほど新規で契約があるらしい……。ていうか、マジで気が滅入る。もう数十人と契約しているのに、まだ増えるなんて……。部長は喜んでくれるけど、キツイです。

 

 癒しは、自宅で待っている黒歌とレイナーレ。そして朱乃さんが煎れてくれるお茶とアーシアの笑顔に、契約取ったときに見せてくれる部長の笑顔だけ……。

 

 だけど、今夜から黒歌は魔界に修行へ出かけてしまって不在だし、レイナーレも生理がきていて、生理痛で寝込んでいる。

 

 今夜は1人……。癒しが、欲しいです……。

 

「エイジさん、だいじょうぶですか?」

 

 イッセーと共にチラシ配りを終えたアーシアがソファーにもたれかかった俺を心配してくれる。

 

「ああ、大丈夫だよ。体調は悪くないんだ……」

 

「うおっ! すごい香水の臭いだな」

 

 イッセーが俺の学ランに染み付いた香水を嗅いで騒ぐ。

 

「夜のデートはどうだった?」

 

 さわやかなスマイルを浮かべた木場が2人に聞くと、イッセーが親指を立てた。

 

「最高に決まってんだろ」

 

「……深夜の不順異性交遊」

 

 静かな声で厳しい事を呟く小猫ちゃん。もっと言ってやって!

 

 イッセーとアーシアはそのまま奥へ進み、部長の元へ行き、戻ったことを伝えた。

 

「それじゃあ、今夜からはアーシアにも悪魔の仕事、契約取りをしてもらいましょうか」

 

 ま、まじかよ。アーシアに出来るのか? って、それ以前にダメだろ! まだ純なアーシアに教えちゃダメだろ!

 

「イッセー……なに泣いているの? エイジも頭を抱えてどうしたの?」

 

 怪訝な顔でイッセーの顔を覗きこんだ部長。

 

「部長! ダメです。ダメです!」

 

 イッセーが首を振りながら、涙を流した。

 

「部長。俺も反対です。アーシアが心配です」

 

 俺も立ち上がって部長の前に立つ。

 

「部長! アーシア一人じゃ不安ですぅ! アーシアが! アーシアがヘンなヤツにいかがわしい注文をされたら俺は我慢できません!」

 

 泣いて詰め寄るイッセー。いいぞ! もっと言ってやれ!

 

「イッセー、エイジ。呼び出した悪魔に対しての過度のいやらしい依頼はグレモリー一族の眷属悪魔にはこないわ。そういう注文をしてくる人間もいるけれど、その手の専門悪魔がいるから。そちらが引き受けてくれるわ。私のところは安心なのよ? 悪魔にだって専門職があるの」

 

 ………。

 

「部長、本当ですか? 本当なんですね? でも、俺、メッチャ不安なんですよ!」

 

 納得がいかずに涙を流すイッセー。

 

 ……………。

 

 …………………。

 

「…………………」

 

「…………どうしたの、エイジ?」

 

 顔を近づけてくる部長。

 

「……俺のところの依頼って、そういうものばかりなんですけど?」

 

「え?」

 

 いや、リアス先輩。あなたがよこした仕事でしょう? なにかわいらしい声を漏らしているんですか?

 

「朱乃、いままでエイジが取ってきた契約書を出して、アンケート用紙もよ。あと、新規の依頼人のことも調べて」

 

 部長が指示を飛ばし、すぐに朱乃さんは書類を持ってきた。

 

 書類はファイルに綴じてあり百枚近くあるだろう。

 

「どうぞ、部長」

 

「ありがとう」

 

 朱乃さんから手渡された契約書を読んでいくうちに、部長は驚きの表情になり、顔を真っ赤に染めた。

 

「こ、これは……」

 

 後ろで書類を覗き込んだ朱乃さんも同様で、顔を赤くしている。

 

「…………」

 

「…………」

 

 沈黙を破り、部長と朱乃さんが顔を見合わせて渇いた笑い声を発する。

 

「あの、部長? どうかしたんですか?」

 

 イッセーが尋ねてくるが部長は無視して書類に目を通しながら笑う。

 

 そして、気まずそうに呟いた。

 

「……ごめんなさいエイジ」

 

「ちょ! なに!? どうしたんですか部長!?」

 

 状況をわかっていないイッセーが、頭に大量の疑問符を浮かべる。

 

「えっと、それじゃあ、今夜の依頼は……」

 

 部長に尋ねると、後ろにいた朱乃さんが部長に書類を渡した。

 

「リアス、今夜の依頼も同じ系統のもの、というか全てアレですわ。それに、今までエイジさんを指名していた依頼者も全員……」

 

「…………ほんと?」

 

「……ええ」

 

 顔を見合わせ、深くため息をついた2人。

 

 部室にいいようもない空気が漂い、耐え切れなくなった俺は頭を下げた。

 

「なんか、すみません! マジで、なんかすみません!」

 

 俺が悪いんじゃないだろうけど、すみません!

 

「……いいわ。そんな依頼者の元へ送った私が悪かったんだし。依頼者がどんどん増えていくから、嬉しくてまともに内容確認せずに仕事をさせた、私の責任よ」

 

「すみません、エイジさん。私もちゃんと確認していれば……」

 

 素直に非を認めて深々と頭を下げて謝罪してくる2人。

 

「いえ……、いいですよ」

 

 いいから頭を下げるのはやめてください! いたたまれないから!

 

「イッセー。アーシアに同行してあげなさい。しばらく契約はペアで行ってもらうわ」

 

「え? はっ、はい! わかりました!」

 

 そう言って手早くイッセーとアーシアを依頼者の元へと飛ばし、俺はソファーに座らされた。

 

「さてと、改めて謝るわ。ごめんさないね、エイジ。まさか、いかがわしい仕事を要求されてるとは思いもしなかったわ」

 

 部長を気まずそうに視線を背ける。

 

「俺も初契約からいかがわしいお願いをされて、悪魔の仕事はこんな事までやるんだと勘違いしていました」

 

「でも毎日10人近い人数の相手をしていて、リピーターが100人近くいるなんて思わなかったわ」

 

 少し呆れ気味つぶやく部長。あの~、視線合わせてくれませんか? あと下半身をチラチラ見ないでください。

 

「よく死にませんでしたわね」

 

 朱乃さん、それは褒め言葉ですか? 微笑みに変な感情入れてません? 背筋がゾクゾクするんですけど?

 

「あははは、すごいんだね、エイジくん」

 

 木場は苦笑いを浮かべてる。

 

「…………」

 

 小猫ちゃん! そんなゴミを見るみたいな目で睨まないで! せめて無言はやめて!

 

 精神的追い込まれた俺。部長はそんな俺の頭を抱き寄せて、撫でてくれた。

 

「ごめんなさい。これからはしっかり確認するわ」

 

「……部長」

 

 小猫ちゃんにゴミを見るような目で見つめられた精神ダメージが少しだけ回復した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部室で部長に優しく慰められ、今夜は自宅で休むように言われたので、家で眠っていると、深夜に侵入者を探知した。

 

 侵入者に対応するために体が勝手に目を覚まさせる。

 

 起き上がってみると、寝室にグレモリー眷属の転移魔法陣が出現し始めた。

 

 ん? 誰だこんな夜中に……?

 

 目を擦って魔法陣を見ると、紅の髪が飛び込んできた。

 

「あれ? 部長?」

 

 転移してきたのは下着姿の部長だった。

 

「エイジ、私を抱きなさい」

 

 へ? なんですって?

 

「私の処女を貰ってちょうだい。至急頼むわ」

 

 …………はい? あれ? 俺まだ寝てるのかな?

 



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第13話 部長さんとホスト風男

 

<エイジ>

 

 

『私の処女を貰ってちょうだい。至急頼むわ』

 

 深夜。俺の家の寝室に現れた部長はそう言った。

 

 部長は俺のベッド上がり、俺の腹に跨る。

 

 純白の下着が月明かりに照らされて官能的だ。

 

 部長はブラジャーを外して、俺の手を取り、自分の胸を掴ませる。

 

 やわらかて弾力のある、極上のおっぱいだ。

 

 部長は胸を揉ませながらつぶやく。

 

「エイジなら経験豊富だし、私も安心して身を任せられるわ」

 

 え? なにこの状況?

 

 混乱する俺を他所に、部長は1人で盛り上がる。

 

「私は初めてだからいたらないところがあるでしょうけど、あなたならきっといい初体験にさせてくれると信じてる。さあ、早く始めましょう」

 

 早口気味にそう言って、顔を近づけてくる部長。

 

 その表情には陰りがあり、追い詰められているような印象を受ける。

 

 俺はゆっくりと顔を近づけてくる部長を止めるために両肩に手を置く。

 

「ま、待ってください」

 

「なに? 私に恥をかかせるつもり?」

 

 顔を近づけたまま、真剣な表情でこちらを見る部長。

 

 とりあえず俺は部長を腹から降ろして隣に寝かせた。

 

「きゃ! なに? する気に……」

 

 体を強張らせる部長に、普段みせている俺とは違う態度で拒絶する。

 

「断る。そんな顔で処女捧げられても嬉しくない」

 

「っ!」

 

 俺の言葉にショックを受けたように固まる部長。

 

 俺は腕枕をしながら言う。

 

「何があったかは知らないが、俺はそんな顔をした部長から処女を貰いたくないし、それに部長がここで処女を散らすと、必ずあとで後悔すると思うんだ」

 

「…………。……はぁぁ」

 

 無言のあと、深いため息と共に部長の強張っていた肩から力が抜いた。

 

 俺の腕に頭を預けて天井を見上げ、改めて息を吐いた。

 

「悪魔の契約書のアンケートに『処女を捧げてもらった』っていう回答がたくさんあったから。てっきりあなたなら喜んで私の処女も貰ってくれると思ったんだけど……」

 

 呆れたようにつぶやく部長に言う。

 

「俺は、相手が心から処女を捧げたいと望んでいる女にだけにしかしていないよ。まあ、契約で何人も女を抱いているとはいえ、俺は抱く女を心から愛すると決めているんだ」

 

 ふふっ、俺の腕を枕にしたまま部長が微笑んだ。

 

「あなたって、意外と紳士だったのね」

 

 微笑みながら流し目を送ってくる。

 

「『意外』は余計。ここ数日、悩んでいたのは気づいていたが、それが関係あるのか?」

 

「……っ」

 

 俺の問いに口を塞ぎ、気まずそうな表情になる部長。どうやら図星らしいが、

 

「言いたくなかったらいい。とりあえず、明日も学校があるし寝るぞ。あと、家に帰りづらいんだったらここにいてもいい。添い寝ぐらいはしてやるよ」

 

「……じゃあ、お願いするわ」

 

 えっ!? マジか!? 添い寝は冗談だったんだが……。だがここで『冗談です』とは言えないな。

 

「じゃあ、おやすみ」

 

「おやすみなさい。エイジ」

 

 上半身裸の部長とそのまま添い寝することになりました。

 

 ていうか、俺、裸だぞ!? 部長さん気づいてる!?

 

 …………。

 

 隣を見ると、規則正しい寝息を立てている部長さん! 物凄く寝つきがいいらしい! ていうか! 膝が! 太ももが当たってますよ~~!!

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………まあ、部長が気にしないならいいか。

 

 俺も『悪魔の仕事』という連日の肉奉仕から今後解放されるんだし、今夜はもう寝よう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<リアス>

 

 

 隣で寝息を立て始めたエイジを薄目を開けて完全に寝ていることを確認する。

 

 ふふふっ。

 

 自然と笑みがこぼれた。

 

 ここに来たときの、沈んだ気持ちがすっかりなくなっている。

 

 実家からの命令で無理やり結婚させられそうになって、婚約を破綻させるために、そういう方面に長けていて、悪魔の契約でも100人近くの女性と寝ている男だから、てっきり私の処女も貰ってくれると思ったのに。

 

 エイジは、私のために断った。

 

 ただの性欲魔神じゃなかったのね。

 

 少し嬉しかったし、安心した。自分でもこんな方法間違っていると分かっていたから……。

 

 んっ。

 

 エイジが少しだけ寝返りをうった。

 

 やっぱり、すごい体。一グラムの無駄もないみたい。

 

 シーツで隠れていても分かる。

 

 鍛えこまれた筋肉。

 

 そして、学園にいるときの彼と違って、引き込まれそうな不思議な雰囲気。

 

 抱きついてみると、すごく安心した。抱きついて胸に顔を埋めるとすぐに睡魔が襲ってきた。

 

 ……エイジ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアス! リアス!」

 

 私の名前を呼ぶ声。誰かが私の体を揺すっていた。

 

 目を開けてぼやけた視界で見ると、朱乃が立っていた。まだ日も昇っていないようで薄暗い。

 

「あれ? 朱乃?」

 

「あれ? 朱乃? じゃないわよ。いったいなにをやっているのよ、あなた」

 

 朱乃が怒りの表情で顔を近づけてきた。

 

「え? 私は……」

 

 昨夜の説明をしようとしたら顔が熱くなった。

 

「あ、あなたまさか……っ!?」

 

 朱乃が口に手を当てて大声を出した。

 

 そしてすぐに含みのある笑みをつくってこちらを見つめてきた。

 

 誤解される前に、言わないと!

 

「ちっ、違うわ、朱乃! 私はまだ処女よ!」

 

「でも……、2人ともはだ……」

 

「この子の場合、信じにくいかもしれないかも知れないけど本当よ! この子は私に手を出さなかったわ! 添い寝しただけ! 私は上は着ていないけど下は穿いてるし! この子はここに転移したときから裸だったの!」

 

「……そうなの」

 

 なにを必死になっているんだろう……。私らしくない行動に朱乃も若干引いているわ。

 

「う~ん……」

 

「ちょ!? エイジ!?」

 

 エイジが寝返りをうったせいで、エイジの顔が私の胸に埋もれた。それに腕が背中に回って抱きしめられる体勢になってしまった。

 

「――っ!? ん、んんっ!」

 

 エイジの腕が背中に回され、私のお尻をギュムッと掴む。

 

「こ、こらっ」

 

 まるでモチでも捏ねるかのように揉まれる。

 

 お尻を掴んでいる手をひき離そうとするが、力が強くて引き離せない。しかも相手に痛みを感じさせない絶妙な力加減でもまれ続ける。

 

「ん……、ん」

 

 私の胸にエイジが顔を埋める。

 

 胸の感触を楽しむかのように顔を押し付けてきて、乳首の存在に気づいたのか、大きく口を開け始めた。

 

「ちょっ!? え、エイジっ、ま、待ちなさいっ」

 

 私の制止の声は聞き届かない。大きく開けた口で乳首を咥えられる。

 

「んんっ!」

 

 なに、これっ!? 

 

 乳首から電流でも流されたかのように、勝手に体が跳ねる。ザラついた舌が乳首を擦り、痛いぐらいに勃起する。

 

「あぁ、んんっ! んむっ……ううぅぅぅ!」

 

 口に咥えられたまま、舌で舐められ、転がさせ、赤ん坊のように吸われる。

 

 すっ、すごく、い、いいっ……!

 

「リ、リアス?」

 

 朱乃の戸惑う声が聞こえたが、今はそれどころじゃない。

 

 未だに両手でお尻を掴まれるのだ。

 

「あんっ」

 

 緊張を解すように優しく丁寧に揉まれ、お尻の谷間を指先でなぞられて、お尻の穴に……って!?

 

「ちょ!? どこに指を入れようと……!? ……うぅんっ!?」

 

 ズムッという鈍く低い音共に感じる異物感。

 

 異物はそのままお尻の穴を広げるように蠢き、エイジの指先がお尻の穴に入れられたこと決定づけた。

 

「ん……、あ、あああ……」

 

 お尻の穴の縁に沿って、円を描くように少しずつ解され、広げられる。

 

「ぁんっ。だ、ダメ……、胸まで弄られるなんて……わ、私……」

 

 さらに、胸から送り続けられる快感。胸がふやけてしまうのではないかと思うほど舐められ、吸われ、愛される。

 

 頭に白い靄がかかり始め、快感の波が何度も襲い掛かってくる。

 

「……ん、……んんっ、……あんっ、ああっ、も、もうダメぇええええ~~~!」

 

「り、リアス!?」

 

 頭が完全に白くなる。私は快楽に飲み込まれ、エイジの頭を強く抱き寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<朱乃>

 

 

 朝に近い深夜。いくらリアスが探してもどこにもいないと、リアスのお兄様の『女王』で、妻のグレイフィアさまから報告を貰い、リアスを探すように協力を求められたんだけど……。

 

 まさか、転移して一発目で見つかるとわ思いませんでしたわ……。

 

 グレイフィアさまがいくら探しても見つからないと、必死な顔で家に来たときは驚きましたけど、拍子抜けですわね。

 

 でも、見つけたときは驚きましたわ。

 

 まさか裸で抱き合っていたなんて……。

 

 よっぽど婚約が嫌だったみたいだから、婚約を破棄するために処女をあげたのかしら?

 

 とりあえず、私の安眠を邪魔して心配させたというのに、エイジさんの抱きついて幸せそうに寝ているリアスを叩き起こしましょう。

 

 私がリアスを起こして、なにをしたのか尋ねようとしたとき、普段のリアスでは珍しいリアクションを取ったのは驚きましたわ。

 

 本当にエイジさんに処女をあげたものだと思いました。

 

 でもリアスはというと、顔を真っ赤にして慌てた様子で大声をだして関係を否定した。

 

 それから、エイジさんがいきなり寝返りをうって、寝ぼけた状態でリアスの胸を顔を埋めたり、お尻を……、まあ、これ以上詳しくは言えませんね。

 

 で、現在。

 

 急な展開に置いてきぼりにされた私だけど、ずっとリアスをエイジさんの腕の中で悶えさせているのは可哀想ですし、そろそろエイジさんを起こしてリアスを解放させてあげないといけませんわね。

 

 それにしても、なんでグレイフィアさんはエイジさんに気づかなかったんでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 辺りが騒がしくなり、眠りからゆっくり醒めた俺の視界に飛び込んだのは、柔らかくもハリがあり、いい匂いをした肌色だった。

 

 ああ、口の中にコリコリした突起みたいなモノが……。

 

 舌で転がしたり、吸ってみると少し安心する……。

 

「あ、うぅんっ、んんっ!」

 

 しばらく夢中で舐めていると上の方から喘ぎ声が聞こえてきた……。

 

 これってまさか……。

 

 そ、それに、両手がモチモチしたものを掴んでいるし………左の人差し指だけが締め付けられているみたいで、すごく温かいのはまさか……。

 

「ふぁんっ!」

 

 両手を離し、人差し指を『抜く』と、またまたこれまた厭らしい声が……。

 

 視線を上に持っていくとやはり昨夜夜這いをかけてきて、結局添い寝だけをすることになった我らが主の部長さん。

 

 普段は見せないような色っぽくて、女の顔になっている。

 

 しかも、現在痙攣中……。

 

 寝ぼけて部長の体を弄ってしまったみたいです。

 

 まあ、と、とりあえず、起きようか、な……。

 

 俺は普段通り、ゆっくりと起き上がる。

 

 痙攣中の部長と視線が合う。普段通り、普段通りに対応しないと。

 

「おはようごさいます。部長」

 

 とりあえず、頭を撫でる。

 

「昨夜は、激しかったですね」

 

 と、冗談でも言って気まずいこの空気を返る。

 

「リアス!? やっぱりあなた!」

 

 んん? この声は……?

 

「あれ……? なんで、朱乃さんが?」

 

 薄暗い部屋のベッドの脇に、駒王学園2大お姉さまのひとり、姫島朱乃さんが制服姿で立っていた。

 

 なんでここにいるの?

 

「私はリアスを探しにきたんです。エイジさん? まさかとは思いますがリアスと……」

 

 あ、朱乃さんの背後に般若が……。

 

 慌てて俺は弁解する!

 

「ストップ! 朱乃さん! ストップです! 俺は、添い寝ぐらいしかやってませんから! それにさっきのは冗談です! まさか朱乃さんがいるとは思わなくて……」

 

「いいんですのよ? そんなに誤魔化さなくても」

 

 朱乃さんが笑顔を向けてくるが、その背後で般若が剣を振り上げている。

 

「いやいやいや、ほんとにしてないですって! 部長は正真正銘の処女ですよ!」

 

「本当でしょうね?」

 

「はい!」

 

「そう……、信じてあげますわ」

 

 やっと矛先を収めてくれた。

 

 それから、朱乃さんはそそくさと腰が抜けてしまった部長と一緒に、転移魔法で帰っていった。

 

 転移するときに「覚えてなさいよね」と部長が耳元で囁いていたので、正直、今日の学校は休みたいです。

 

 はぁ、完全に目が覚めたことだし、少し早いが鍛錬を始めよう。気が紛れるだろうし。

 

 詳しい事情なんかは部室で聞けばいいんだし、考えるのは後だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの時間に朝の鍛錬を終え、シャワーを浴びてレイナーレが作った朝食を摂って学園に向い、授業を受け終える。

 

 そして、いつもなら部室に直行するんだが、今回は少し事情が違った。

 

 わざとではなかったとしても、今朝のことでお仕置きされるかもしれないから、なにか……、そう、2人の機嫌を少しでも直るような、お菓子でもを買いに、デパートに行ったほうがいいと考えたんだ。

 

 俺は、イッセーとアーシアに先に部室に行くように言って、デパートで『30』の期間限定のアイスケーキを購入してから部室へ向かう。

 

 俺の家とイッセーの家も通り道だったので、レイナーレとイッセーの家の分のアイスを渡してから戻ったから、少し時間をくってしまった。

 

 ん?

 

 部室に行き、ドアを開けようとすると、少し固かった。

 

 バキッ! バキバキバキィッ!!

 

 少し力を込めて開こうとするとすごい音が……。うん、ドアは壊れていないな。

 

 ということは、さっきの壊れるような音は結界か?

 

 俺がドアから部室のなかに入ってみると、様々なタイプの女達が。

 

 もう少し視線を奥にやると、童顔の武道家スタイルの女に棍を突きつけられているイッセー。

 

「おい、リアス? コイツがお前の言っていたもう1人の兵士か?」

 

 チョイ悪ホスト風の男が不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

 うん。無視。無視しよう。

 

「遅れてすみません、部長。その代わりと言ってはなんですが、期間限定『30』のアイスケーキを買ってきたので皆で食べましょう」

 

 部長の元へ駆け寄り、ケーキを渡す。

 

「あ、ありがと……」

 

 よしっ! 怒っているかと思ったけど、怒ってない!

 

「下級悪魔風情が、この俺を無視するんじゃね~!」

 

 俺が部長にケーキを渡していると、うしろから大声が聞こえてきた。

 

「えっと……、どちら様?」

 

 チョイ悪ホスト風の男に尋ねてみる。

 

「俺の名はライザー・フェニックス! フェニックス家の三男でお前の主人であるリアスの婚約者だ!」

 

 鼻を鳴らしてポーズをきめるチョイ悪ホスト。

 

「なんですかこのチョイ悪ホストは? 頭でもおかしいんですか?」

 

 部長に尋ねようとすると、部長は「チョイ悪ホスト……っ」となにやら笑いのツボに入ったようで笑っている。

 

「ぐっ、下級悪魔の分際でぇええっ!!」

 

 突然、燃えだすチョイ悪ホスト……てか、室内で炎だすなよ。

 

「おい。アイスが溶けるだろう。買ってきたのがアイスケーキだと聞こえなかったのか?」

 

 部長の機嫌をよくするために厳選して選んだのになにやってやがる。

 

 まずは水魔法でホストの体を包み、氷魔法で瞬間冷凍する。

 

「「「ライザー様!!?」」」

 

 突然出来た氷の彫刻に驚き声をあげるホストの近くに居た女たち。

 

「うん。氷の氷像としての価値はないが、保冷剤にはなるな」

 

 氷の中で気持ちの悪いドヤ顔しているから、よっぽどの物好きか変態ぐらいしか買わないな。

 

「貴様! なにをした!」

 

 仮面をつけた女が詰寄って来た。

 

「いや、何をしたって、この男が燃え始めたから鎮火してやっただけなんだが? ていうか、キミたちもアイス食べる? たくさん買ってきたから君らの分もあるよ」

 

「なにを言って……!」

 

 怒りに声を荒げる仮面女だが、背後に居た小学生のような二人組みや獣ミミの女の子はアイスケーキに惹かれたようで、若干だが瞳が輝いている。人望ないのか、ライザー……。

 

「とりあえず、これは邪魔だから外に出しとこ」

 

 そう言って氷像(チョイ悪ホスト入り)を部室の前に出す。

 

「ライザーさまになにをする!」

 

 部室に戻るとさっきの仮面の女以外にもつっかかってきた。

 

「別に邪魔だから外に出しただけだって」

 

 10人以上に詰め寄られ、ちょっと鬱陶しい。

 

 とりあえず、胸や尻を揉んで適当にイカせて黙らせる。

 

「んん、なにを……? ああっ!」

 

「ちょ! どこに手をっ!」

 

「んんんぅぅぅ!」

 

「ふあっ、ヤダッ、す、すごぃぃ……」

 

「にゃあぁぁぁん!」

 

 騒いでいた女達をあらかたイカて黙らせると、美人で銀髪のメイドが近づいてきた。

 

 ん? こいつって、グレイフィアだよな?

 

「はじめまして。サーゼクス・ルシファーさまの『女王』。グレイフィアです」

 

 はじめましてって、冥界で会ったことがあったよな? いや、あの時から仮面を被っていたから前に会っていることに気づいていないんだな。

 

はじめまして(・・・・・・・)。グレイフィスさん。リアス・グレモリーの『兵士』。神城エイジです」

 

 正体がバレるのは面倒だしここは知らないフリをしておこう。

 

「エイジ! お前なんて羨ましいことを!!」

 

 グレイフィスと挨拶を交わしていると、立ちあがったイッセーが血の涙を流しながらつっかかってきた。

 

 一見俺を睨みつけいるように見えるイッセーだが、その目は床で喘いでいる女達に集中している。

 

「とりあえず。うるさい」

 

「げふっ……!」

 

 イッセーの頭を軽く殴り、部長の前のソファーに座ってアイスケーキを切り分け始める。

 

 朱乃さんに皿を貰い、部長達に好みのアイスを取らせ、地面で喘いでいる女達の分も切り分ける。

 

「グレイフィア……さんは、なんにしますか?」

 

 グレイフィアがチョイスしたアイスを渡し、よろよろと起き上がった女達の分を配る。

 

 アイスを食べながらグレイフィアから事情を聞くと、なんでも女達はチョイ悪ホストのライザーの眷属悪魔で、ライザーと部長は親が決めた婚約者らしい。

 

 しかし、部長はというと、ライザーが嫌いで拒絶。

 

 そして、婚約を賭けて10日後に自分の駒と相手の駒同士を戦わせる、『レーティングゲーム』で決着をつけることになったらしい。ちなみに、俺が最初見たイッセーが武道家風の童顔少女から棍を突きつけられていたのは、イッセーがライザーに飛び掛ったのを止めた場面だったらしい。

 

 部長の悩みはしたくもない結婚か~。そりゃあ、このご時勢に嫌いな男なんかと結婚したくないよな。

 

 だが、それにしてもイッセーは無謀すぎるだろう。

 

 人間に毛の生えたほどの力しかないのに純血悪魔につっかかるなんて、殺されてもおかしくなかったんだぞ。

 

「そこのお前! 俺さまになにをしやがった!」

 

 グレイフィスから丁度事情を聞き終わったぐらいで、チョイ悪ホストのライザーがドアをうるさく開けて登場した。

 

 まあ、30分ぐらいで解けるように『設定』していたからな。

 

「…………」

 

 とりあえず応えるのが面倒だから、無視して温かいお茶を飲む。

 

「おい! なに無視してやがる!」

 

 空気の動きでライザーが炎をだして後ろから殴ろうとしているのが分かる。

 

 はぁ、また凍らせるか。

 

「お待ちください」

 

 俺が動こうとした瞬間。グレイフィアがライザーの前に立って、ライザーを止めた。

 

「今はお引きくださいライザーさま。これ以上やるのでしたら、私も黙ってみているわけにはいけなくなります。残りは、『レーティングゲーム』で行ってください」

 

「なっ!? だが俺はコイツに!」

 

「ライザーさま」

 

「クソっ!」

 

 グレイフィアが睨むと、ライザーはイライラを吐き出すように大声で悪態をついた。大きく息を吐いて、スーツを乱れを直して改めて言う。

 

「リアス。今度会うときは10日後の『レーティングゲーム』でだ。そこのお前も必ず殺してやるから、首を洗って待っていろ」

 

 ライザーはそれだけ言うと、足元に転移魔法陣を展開させて部室から消えた。

 

「……あなたは、何者ですか?」

 

 警戒するようにグレイフィアが睨んでくる。ていうか、ほんとは俺とお前の知り合いなんだが……。まあ、ここでばらすと面倒なので、

 

「リアス・グレモリーの『兵士』です」

 

 と、答えておく。

 

「…………」

 

 無言で『そんなことは聞いていません』と言いたげに睨んできた。うん。怒った女って怖いよな。特にグレイフィアとなると。

 

「……まあ、いいでしょう。では、お嬢さま。私もこれで」

 

「ええ。お兄さまによろしくね」

 

 部長と挨拶を交わして転移するグレイフィア。転移の瞬間にもう一度睨むのを忘れないのがさすがだ。

 

「さてと……。とりあえず今日の部活は中止よ。みんな解散」

 

 部長がぽんと手を叩いていう。

 

 やった! 休みだ!

 

 部長は手早く部員を部室から追いだし、朱乃さんを残して俺も部室からでようとした瞬間、肩を掴まれた。

 

 肩を掴んで離さない手。細くて綺麗な指先。背後から感じる紅い魔力。

 

 振り返ると、笑顔の部長が居た……。

 

「あなたは居残りよ」

 

「な、何でですか?」

 

 予想はしているが一応聞いてみる。

 

「あんな強力な氷魔法が使えること黙っていたこと」

 

「前に魔法が使えるって言いましたよね!?」

 

 以前、部長の着替え中に転移魔法を使ってその時きちんと俺は魔法が話せると教えたはずだ!

 

「ええ。そうね。そうだったわね。でも……」

 

「……でも?」

 

「今朝のことは許していないわ。わたしにあんなことをしたお仕置きをしてあげないとねぇ?」

 

「それはマジでスイマセンでした! 寝ぼけてやったこととはいえお尻の穴に指を……」

 

「だ、黙りなさいっ!」

 

 顔を真っ赤にして殴られた。

 

「ふふふっ、仲がいいですわね」

 

 朱乃さん! 優雅に笑ってないで助けてください! ていうか、なんで荒縄を持ってるんですか!?

 

「さあ、お仕置きを始めましょうか?」

 

 部長が手のひらに魔力を集める。

 

「ちょ! ぶ、部長ぉぉぉおおお!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<リアス>

 

 

 エイジの家から自宅に帰り、お兄様の『女王』のグレイフィスと朱乃に説教をされた日の午後。

 

 部室に婚約者のライザーがやって来た。

 

 フェニックス家の三男で私の家しか見ない、いけ好かない男。

 

 親同士が決めたとは嫌だったけど、私はグレモリー家の女として婚約させられた。

 

 本当は大学を卒業してから結婚させられるはずだったけど、ライザーが先走って人間界までやってきて今すぐ結婚しようと言ったのだ。

 

 ソファーの隣に座ってベタベタと体を触ってくるライザー。この男に髪をいじられるのは嫌いだ。

 

 我慢できなくなって立ち上がって怒鳴ったけど、ライザーは余裕を感じさせる、不敵な笑みを浮かべたままだ。

 

 ライザーの態度に怒ったイッセーが、ライザーにつっかかった。

 

 そして、険悪になり始めたところでグレイフィスが介入し、レーティングゲームで私の未来を決めることになってしまった。

 

 ライザーは余裕な笑みを浮かべて眷属悪魔を召喚する。転移魔法陣から15人もの女性悪魔が出現した。

 

 そして、それを見たイッセーが涙を流して悔しがっていたけど、いくらハーレムが野望だからって少しは自重しなさい。相手は敵なのよ。

 

 それに、ライザーも『お前には一生できないだろ』とイッセーを挑発して、一応の婚約者である私のまえで眷属悪魔たちにキスをするなんて、いったいなにを考えてるのかしら?

 

 本当に、結婚を決める戦いをするのに、その相手の前で他の女に堂々と手を出すなんて……。本当に気に入らないわ。

 

 イッセーもライザーに殴りかかって一瞬で倒されるし……。

 

 ふぅ……、まだ発展途上なのに無謀すぎるわ。

 

 イッセーがライザーの『兵士』に棍つきつけられていると、誰も来ないようにと結界を張ったドアを、強引にその結界を壊しながら開けてエイジが入ってきた。

 

 今朝の事で少し顔を合わせづらかったけど、彼はずかずかと部室に入ってくると、箱を取り出してケーキを買ってきたと言う。

 

 部室の険悪な雰囲気を読まずにケーキの箱を渡し、突っかかってきたライザーを無視した。

 

 エイジの態度にライザーが怒って体から炎を発しようとした瞬間。エイジが魔法を発動させた。

 

 ライザーの体が一瞬水に包まれたかと思ったら、今度は一瞬で氷ついた。

 

 しかも、特に気にする事もなく氷像になったライザーを外へ出し、彼に詰め寄ったライザーの眷属たちをも軽くあしらい、全員床に跪かせた。

 

 さすが、悪魔になってから1ヶ月も経たないうちに、100人近くの人間と厭らしい契約を取ったエイジ。ライザーの眷属悪魔たちが子供扱い。

 

 そ、それに、私も……。

 

 いいえ。お尻で感じてはいないわ! 私はイッてはいないわ!

 

 ……ふふふ、でも、とりあえずはエイジにお仕置きしないといけないわね。

 

 昨日は添い寝だけって言う約束だったんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 夜もふけた頃。やっと、俺は解放してもらえた。

 

「部長~、酷いですよ~」

 

 ソファーにうつ伏せになり、赤くなった尻を気をめぐらして治療しながらぼやく。

 

 朱乃さんはすでに帰宅していて、部室には俺と部長しかいない。

 

「自業自得よ」

 

 ソファーに座り、メガネをかけて本を読んでいた。

 

「部長は目が悪いんですか?」

 

「いいえ。気分的なものよ。考え事をしているときにメガネをかけていると頭が回るの。ふふふ、人間暮らしが長い証拠ね」

 

 そう言って微笑む部長。

 

「すごく似合ってます。いつもの雰囲気もいいですが知的なこっちの部長もいいですね」

 

「な、なに言ってるのよ」

 

 真っ赤になる部長をにやにやと見つめていると小突かれた。

 

「もう、冗談はいいからもう帰るわよ」

 

「あ、送っていきますよ。悪魔と言っても女の子の一人歩きは危険ですから」

 

 ソファーから立ち上がる部長の後に続いて立ち上がる。

 

「あら、転移魔法を使うから送りはいらないわよ。それに狼のあなたに送られたら食べられちゃうかもしれないし」

 

 部長は微笑みながら呟く。

 

「あはは、それもそうですね。ああ、あと……」

 

「なにかあるの?」

 

 部長の耳元に顔を近づけて囁く。

 

「一度なら我慢できるかもしれませんが、二度も部長みたいな魅力的な女性に誘われたら、今度は思わず食べちゃうかもしれないので、気をつけてくださいね」

 

「な、な、なななっ!? なにをいって……っ!」

 

 部長は今までに見た事もないほど動揺する。本を落して、後ろにさがった。耳まで赤くして可愛らしいな。

 

 あはははは。

 

 そんな初心な姿に思わず笑ってしまった。

 

「エ・イ・ジ~~!」

 

 半眼で睨みながら詰め寄る部長。お仕置きされる前に逃げないと。

 

「じゃあ、俺はこれで。きちんと転移魔法で帰るんですよ。おやすみなさい、部長」

 

 部長の頭をひと撫でしてから転移魔法を発動させて自宅へと帰る。

 



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第14話 修行で山篭り

 

<エイジ>

 

 

 部長と別れて自宅へ戻り、夕食を食べ終わり、いつものようにレイナーレと一度セックスしてから風呂に入って、それぞれの部屋で眠むった次の朝。

 

 俺が早朝の鍛錬をしていると、隣の家でイッセーの叫び声が聞こえた。

 

 部長の気配もしたので家から出て隣であるイッセーの家へ行くと、なにやら慌てて家のなかに消えていくイッセーと、家の前で立っている部長が。

 

 とりあえず部長に近づいて朝の挨拶を行い、訊ねる。

 

「おはようございます、部長。なにかあったんですか?」

 

「あら、丁度いいところに着たわねエイジ。これからあなたの家にも行くつもりだったの」

 

 俺が『?』を頭に浮かべると、その疑問に答えるように部長は口を開いた。

 

「これから、修行しに山に行くの。急いで宿泊の用意をしてきなさい」

 

 へ? マジですか?

 

「マジよ」

 

 俺の心の問いに笑顔で答える部長……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、ひたすら山道を登っています。

 

 ええ。今朝部長に言われた通りに、急いで用意して修行に参加しましたよ。

 

 急いでレイナーレの用意した朝食を食べて、シャワー浴びて、宿泊と家の事を任せるって言ってからイッセーの家に行きましたよ。

 

 そこから、先に集まっていた皆と転移魔法で山のふもとに行き、現在、山登り中。

 

 しかも、俺の荷物は【王の財宝】にほとんど入れているので小さなバック一つで済んだからって、部長と朱乃さんの荷物を持たされた。

 

 2人の荷物はかなり大荷物で、かなりの重量だったが、俺には関係ない。まあ、アーシアの荷物と背中に岩を背負わされて、ぜぇーはぁ、ぜぇーはぁと死にそうになって必死に山を登っているイッセーよりもましか。

 

「大丈夫か、イッセー?」

 

 合宿で使用する部長の別荘に、死に掛けながらもなんとかたどり着いたイッセーに尋ねる。

 

「…………ああ」

 

 イッセーが荒い息を吐きながら、床にへたれながら返事を返した。

 

 ちなみに女性陣は動きやすい服装に着替えるために、現在別荘の2階で着替え中だ。

 

「じゃあ、僕も着替えてくるね」

 

 木場も立ち上がって青色のジャージを持って浴室へ向かった。

 

「覗かないでね」

 

 などとふざけたことを冗談っぽく言って来て、余裕のないイッセーが殺意のこもった目で睨みながら大声で怒鳴った。

 

 まあ、イッセーは駒王学園で「木場×イッセー」、「イッセー×木場」とかカップリングされているから、本気でムカついたんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員が着替え終わり、別荘の前に集合した。

 

 そこで部長が簡単に合宿のスケジュールを説明する。

 

 部長は主に転生悪魔になったばかりのイッセーとアーシアを戦えるまで鍛えるらしい。

 

 俺? 俺は……。

 

「さてと……、じゃあ、あなたの実力を知りたいから、とりあえず祐斗と小猫と組み手をしてもらいましょうか。魔法の技術と魔力の多さは朱乃よりも高いのは分かってるしね」

 

 と、言う事で組み手をする事になりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然始まった組み手は、先に木場と戦う事になった。

 

「うれしいよ。今日は全力で君と打ち合える」

 

 木場が爽やかスマイルで木刀をかまえる。本当にうれしそうだ。

 

 なにコイツ? 戦闘狂か?

 

「まあ、いいだろう。かかってこい」

 

 軽く戦闘モードに入り木刀を持つ。

 

「ふっ、余裕そうだ、ねっ!」

 

 俺が構えていないのが無気力に見えたのか、木場が地面を蹴って、人間では捕らえきれないだろうスピードで背後に回りこんできた。

 

 木場の狙いは首。一撃で気絶させる気だろう。

 

 木場が木刀を振るい、確実に当たったと思ったんだろう「仕留めた!」と、確信した顔になっていたが、スピード特化の木場にも認識する事のできないスピードで木場の背後に回り、逆に木刀を首に突きつけた。

 

「なっ!?」

 

「はい。終わり」

 

 俺が木場の首から木刀を退かすと、木場が悔しそうにしていたが、笑顔で『負けたよ』と自らの敗北を認めた。何このイケメン……。

 

 ちなみにその後、イッセーに木刀を持たせて木場と打ち合わせたが、剣の才能が全くないイッセーは木場になんども倒されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次は小猫ちゃんとの組み手なんだが、この娘って周りと比べて本当に発育がかわいそ……。

 

「先輩。はじめましょう」

 

 俺が考え事をしていると小猫ちゃんが突進してきた。軽いフットワークで戦闘スタイルを見たところボクシング、そして他にも柔術の心得があるみたいだ。

 

 打撃は体の中心点を狙って的確に。うん。基本に忠実だ。

 

 だけど、小柄な分ウェイトが軽すぎる。それに技の錬度もまだまだだ。

 

「よけないで、くださいっ!!」

 

 紙一重で避け続ける俺に業を煮やした小猫ちゃんが回し蹴りを放ってきた。

 

「甘い」

 

 俺は少ししゃがんで蹴りを避ける。

 

 ドオッン!!

 

 俺の背後にあった木が折れ倒れる。

 

 なかなかいい蹴りだな。

 

 うーん、だがそれにしても高校一年生では可哀想なロリボディだな。

 

 体操着とブルマ着用しているが、胸揺れもないし、たぶん下の毛も生えていないだろう……。駒王学園の生徒は発育が進んでいる生徒が多いからよけい可哀想だ……。

 

「余計なお世話です!!」

 

 顔を真っ赤にした小猫ちゃんが百kgはあろうかという岩を持上げ、投げてきた。

 

「あれ? 心読まれた?」

 

「ぜんぶっ、口から出ましたよっ!」

 

 ドゴォオンッ!

 

 小猫ちゃんが岩を投げ、俺はそれを余裕で避ける。

 

 外野にいるイッセーが騒いでない事や、女性陣から冷たい視線を送られてないところを見ると、俺の言葉は近くにいた小猫ちゃんだけに聞こえるぐらいの小声で呟いてしまったらしい。

 

「くらえぇぇええええ!!」

 

 顔を真っ赤にしながら殴りかかってきた小猫ちゃんの腕をとり、腕にこもっていた力を受け流し、自分の力を使わず、小猫ちゃん自身の力で地面に組み伏せる。

 

「ま、負けた……」

 

 悔しそうに自分が負けたことを理解する小猫ちゃん。

 

「剛の力には柔の力をってね。まあ、スジは悪くないからゆっくり技量を上げていくんだね」

 

「うう……」

 

 小猫ちゃんを立たせて、体操着についた砂を軽く払ってやるが、小猫ちゃんは悔しそうに俺を睨む。

 

「さあ、次はイッセーの番だな」

 

「なっ!? これからやるのか!?」

 

 明らかに機嫌が悪い小猫ちゃんにイッセーは後ずさる。

 

「お、俺は、もう少し、あ、あと………」

 

「イッセー。逃げてはダメよ」

 

 イッセーの背後に回った部長が逃げ道を防いだ。

 

「…………始めましょう。先輩」

 

「ちょ! こ、小猫ちゃん!? す、すっごく怖いんだけど!?」

 

 小猫ちゃんが黒いオーラを出しながらシャドーを行い。宙を切る最後の一撃が3mほど離れたイッセーの前髪を揺らした。

 

「や、やめてぇえええええ!!!」

 

 イッセーに襲い掛かる小猫ちゃん。逃げるイッセー。

 

 しばらく逃げたイッセーだったが、結局小猫ちゃんに捕まり、ボコボコにされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に朱乃さんによる魔力の使い方指導。

 

「そうじゃないのよ。魔力は体全体を覆うオーラから流れるように集めるのです。意識を集中させて、魔力の波動を感じるのですよ」

 

 朱乃さんが丁寧に教えるが魔力が犬並みのイッセーには魔力を感じ取る事が出来ずに、魔力を集める事が出来ない。

 

「できました!」

 

 イッセーと同じように手のひらに魔力の玉を発生させる訓練を行っていたアーシアの手のひらから緑色の魔力の玉を発生させていた。

 

「あらあら、やっぱり、アーシアちゃんには魔力の才能があるかもしれませんわね」

 

「ああ、さすがアーシアだな」

 

 朱乃さんと一緒に褒めると、アーシアは頬を少し赤らめ照れる。

 

 イッセーはというと。

 

「ぐぬぬぬぬぬぅぅぅ……!」

 

 振り絞るように声を出しながら出たのは、豆粒ほどの魔力の玉だった……。

 

「では、その魔力を炎や水、雷に変化させます。これはイメージから生み出すことも出来ますが初心者は実際の火や水を魔法で動かすほうがうまくいくでしょう」

 

 朱乃さんがペットボトルの水に魔力を送り、水を氷に変化させペットボトルを内側から破壊した。

 

「アーシアちゃんは次のこれを真似してくださいね。イッセーくんは引き続き魔力を集中させる練習をするんですよ。魔力はイメージ。とにかく頭に思い浮かんだものを具現化させることが大事なのです」

 

『イメージ』と聞いてイッセーが閃いた様で、俺と朱乃さんに思いついた事を話してきた。

 

 イッセーが思いついた魔法が完成すると面白い事になりそうだが、正直完成して欲しくない魔法だな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部長との基礎特訓。

 

「くそぉぉぉぉおおおおお!!!」

 

 イッセーが岩を背負いながら山を駆け上がる。

 

 そして、現在俺は腰にロープを巻き、ロープで繋がった台車に岩を置き、さらに部長を肩車して山を駆け上がっている。

 

「なんで!? なんで! お前だけいい思いをしているんだぁああああ!!!」

 

 岩を背負ったイッセーが血の涙を流しながら俺を追いかける。

 

 なんでって、そりゃあ……。

 

 部長が俺のスタミナを測るために、岩を積んだ台車を俺の腰にセット。

 

 部長が台車に乗り、ピラミット建造の女王さまっぽく台車に乗り、後方で岩を担いで山を登るイッセーに激を飛ばす。

 

 ここ山道。俺は坂道なんて関係ないようにイッセーよりも少し早いペースを維持。台車は大きく揺れる。最初は楽しんでいた部長が怖がり出す。部長絶叫。

 

 止まって部長の元へ向かうと何故か怒られる。

 

 外野で見ていた朱乃さんが肩車なら大丈夫と提案。部長笑顔で賛成。二人とも絶対面白がってる。

 

 で、現在。俺は部長を肩車し、台車を引きながら、山を駆け上がっている。

 

「ほら、イッセー! きりきり走りなさい!」

 

「はいぃぃいい!!!」

 

 イッセーが頑張って走る。

 

「ふふふ、以外に乗り心地がいいわね」

 

 部長が頭の上で小声で呟く。

 

 褒められていい気はしないわけではないが、太ももが柔らかくて鍛錬に集中できません。丈の長いジャージとはいえ伝わるんです。それにいい匂いがしますから。

 

 まあ、そんな事を今言ったとしてもあまり意味がないので、適当に部長に返事をしながら山を登る。…………頑張れイッセー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日の修行を終え皆で夕食を食べた。

 

「さて、イッセー。今日一日授業をしてみてどうだったかしら?」

 

 部長がお茶を飲んだ後にイッセーに訊いた。

 

「……俺が一番弱かったです」

 

「そうね。それは確実ね」

 

 部長がばっさりイッセーの心を両断した。

 

 まあ、裏の世界はひとつの油断で死んでしまうような世界だ。自分の非力は早めに、きちんと理解させた方がいいからな。

 

「朱乃、祐斗、小猫はゲームの経験がなくても実戦経験が豊富だから、感じを掴めば戦えるでしょう。それに冥界で長い事賞金稼ぎをしているエイジはその3人よりも、というか私よりも強いわ。でも、あなたとアーシアは実戦経験が皆無に等しい。それでもアーシアの回復、あなたのブーステッド・ギアは無視できない。相手もそれは理解しているはず。最低でも相手から逃げられるぐらいの力は欲しいわ」

 

 さすが、優しい部長。やっぱり今回の修行の目的の一つは素人が死なないようにするための訓練だったか。

 

「逃げるって……。そんなに難しいんですか?」

 

「逃げるのも戦術のひとつよ。いったん退いて態勢を立て直すのは立派な戦い方。そうやって勝つ方法もあるの。けれど、相手に背を向けて逃げるというのは、実はかなり難しいものよ。実力が拮抗している相手ならともかく、差が開いている強敵に背を向けて逃げ出すというのは殺してくださいと言っている様なものよ。そういう相手から無事に逃げられるのも実力のひとつ。イッセーとアーシアには、逃げ時も教えないといけないわ。もちろん、面と向かって戦う術も教えるから覚悟しなさい」

 

「了解っス」

 

「はい」

 

 イッセーとアーシアが同時に返事をする。

 

 悪魔にしては甘いところがあるが、優しくて部長はいい女だな。

 

「食事を終えたらお風呂に入りましょうか。ここは温泉だから素敵なのよ」

 

 ……温泉。温泉か~。黒歌が大好きだったな~。今は冥界で修行してるけど今度帰ってきたらレイナーレも連れて温泉にでも行こうかな~。

 

「僕は覗かないよ、イッセーくん」

 

 ボーっと考えていると、木場がニコニコスマイルでイッセーに言った。

 

「バッカ! お、おまえな!」

 

 覗くつもりだったのかイッセーが慌てた。

 

「あら、イッセー。私達の入浴を覗きたいの?」

 

 部長の言葉で俺を含める全員の視線がイッセーに集中し、イッセーが脂汗をかきはじめた。

 

 部長がクスッと小さく笑う。

 

「なら、一緒に入る? 私は構わないわ」

 

 その言葉を聞いたイッセーの顔が驚愕の表情を浮かべる。

 

「朱乃はどう?」

 

「イッセーくんなら構いませんわ。うふふ。殿方のお背中を流してみたいかもしれません」

 

 満面の笑みで朱乃さんが肯定する。

 

「アーシアは? 愛しのイッセーとなら大丈夫よね?」

 

 部長の問いかけにアーシアが顔を赤らめて、俯き、頷いた。

 

「最後に小猫。どう?」

 

 小猫ちゃんは両手でバッテン印を作る。

 

「……いやです」

 

「じゃ、なしね。残念、イッセー」

 

 クスクスと悪戯っぽい笑みで部長が言うと、イッセーは絶望したようにその場に崩れ落ちた。

 

「じゃあ、エイジさんならどうかしら?」

 

 いつの間にか俺の後ろに回った朱乃さんが、首に腕を絡めて部長に聞く。

 

 朱乃さん。背中に胸が当たってます。

 

「エ、エイジ………。ダっ、ダメよ!」

 

 部長は顔を真っ赤にしたまま、声を裏返して拒否した。

 

「ほら! 冗談なんか言ってないで早く温泉に行くわよ!」

 

「あらあら? どうしたのかしらね?」

 

 朱乃さんが顔を近づけ悪魔の微笑みを浮かべる。

 

「いっ、いいから! 行くわよ朱乃!」

 

 部長は大声を出してこちらを一瞥すると、風呂場のほうへと逃げていってしまった。

 

「ぶ、部長さんっ!?」

 

「……………」

 

 アーシアが慌てて部長の後に続いて出て行き、小猫ちゃんが汚物でも見るような視線を向けてそのお後に続いた。

 

 さらに、首に手を回していた朱乃さんも、俺に含みのあるウインクをしてから、風呂場へと向かった。

 

 あ~、部長の反応、可愛らしかったな~。

 

 やっぱり昨日の事を気にしてるのかな?

 

 ていうか、イッセー「フラれたフラれた」うるさい。お前はガキか? ……ガキだろうな。

 

 あと、俺の場合は部長から少なくとも男と意識されているようだが、お前はよくて弟ぐらいだぞ?

 

 俺たちの入浴イベントもあったが、鍛えた体を見せて、いちいちイッセーや木場に騒がれるのは面倒だったから、俺だけ別に入浴する事にした。

 

 入浴後、「夜には夜の練習があるわ」と部長が言って、新参悪魔の俺らに、天界の天使勢。堕天使アザゼル率いる組織『神の子を見張る者』。悪魔の王、魔王の名前。悪魔の力関係。七十二柱の事。アーシアからも、エクソシストや教会の知識を学んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイジ。少しいいかしら?」

 

 合宿2日目の朝。修行開始直後に部長に声をかけられた。

 

「なんですか?」

 

「あなたには、これから指導役をやってもらうわ」

 

「……ああ、はい。わかりました」

 

「驚かないのね?」

 

「いえ、大体予想の範囲内ですよ。俺は長い事、賞金稼ぎとしてはぐれ悪魔と戦っていますから、戦いに関する事なら大体教えられますよ」

 

 まあ、教えるって言っても時間もないし、できる事は、素人のイッセーとアーシアを少しは動けるようにする事ぐらい。そして、その他の部長達の強化ぐらいだ。

 

「ありがと。あなたを眷属にできてよかったわ。さっそく修行を開始してくれるかしら」

 

「了解です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部長から教育係を頼まれた俺は、とりあえず木場には、速度を強化しつつ、剣技の向上。小猫ちゃんには、足りないスピードと格闘技全体の技術向上。朱乃さんと部長には、魔法の威力向上と消費魔力を抑える術を、アーシアには、ひたすらゴムボールを避けさせ、回避能力を上げさせた。

 

 最後にイッセーには、基礎、基礎、基礎と、体をひたすら強化してやった。

 

 そして、八日目の夜。

 

 俺は水を飲みに台所に行こうとして、部長とイッセーが話しているところに遭遇した。

 

 そういや、イッセーの姿がなったな。

 

 なにやら真剣そうな表情で会話をする二人に入っていけず、気配を消していなくなるのを待っている。

 

 会話の内容から察するに、イッセーは自分の非力さに気づいて落ち込んでいて、部長に愚痴を漏らし、部長も家柄に縛られず、政略結婚ではなく自分自身を見てくれる相手と結婚したいと愚痴を漏らしていた。

 

「自信が欲しいのね。いいわ、あなたに自信をあげるわ。ただ、いまは少しでも体と心を休ませなさい。眠れるようになるまでそばにいるから」

 

 自分の非力さに泣くイッセーを優しく抱きしめ頭を撫でる優しい部長。

 

 ははっ、俺の王は、どこまでも甘くて……、どこまでも優いな。

 

 まったく……、外道だったり、ただ甘いだけの悪魔だったら、さっさと見限って逃げようと思っていたが、あんな姿を見せられたら守ってやりたくなるじゃないか。

 

「さあ、おやすみなさいイッセー」

 

「……ありがとうございました部長」

 

 しばらくすると部長はイッセーを離し、イッセーは部長に恥ずかしそうに礼を言うと部屋へと戻っていった。

 

「……さてと、エイジ」

 

「気づいていたんですか?」

 

「それはそうよ。来たのが見えたわ」

 

 まあ、俺も一瞬見られたのに気づいていたからな。

 

「盗み聞き?」

 

 少し不機嫌そうに尋ねる部長。

 

「いえ。水を飲みにきたときに二人が真剣に話し込んでいたので、いなくなるまで待っていたんですよ。話を聞いてしまった事は、謝ります」

 

 コップに水をついで部長の向かい側の席に腰を降ろす。

 

「盗み聞きは褒められた事ではないけど、いいわ、許しましょう。それよりも……」

 

 部長が顔を近づけてくる。

 

「ぶ、部長?」

 

 かなり近い。もう少しで唇が触れ合うほどに。

 

「……あなたは何者なの?」

 

 部長は俺の視線に瞳を合わせ、イッセーと話していた時よりも真剣で、探るように尋ねた。

 

「俺は、単なる賞金稼……」

 

「違うわ」

 

 部長が会話の途中で口をはさむ。

 

「今まで修行をしているけど、あなたの力の底が全く見えない。『騎士』の駒で上級悪魔に匹敵するほどのスピードを持った祐斗のスピードを軽く超え、剣技でも祐斗を圧倒するし。『戦車』の小猫よりも耐久力があって、格闘術も達人クラス。『 雷の巫女 (いかずちのみこ)』と呼ばれる朱乃よりも魔力の使い方が上手くて、様々な魔法を知っている。私の消滅の魔力よりも威力がある魔法が放てる。それに、今までの修行であなたが疲れているところなんか見た事はないわ。肩車させた状態で私が上でどんなに暴れようとも重心が崩れる事もなかったし、あなたに引っ張らせた岩の重量も500kgはあったのにそれを軽々引っ張って走り続けた……」

 

 部長は大きく深呼吸をした。顔が近いのでモロに吐いた息が顔に当たるんですが……。

 

 部長はゆっくりと口を開く。

 

「もう一度だけ聞くわ。あなたは何者?」

 

 肩車させたのは俺の事を調べるためでしたか……。疑われているみたいだけど、役得だったしいいかぁ。

 

「そうですね。何者かですか……、いずれは話す可能性もあるかもしれませんが、今現在のところは秘密です」

 

 まあ、話してもいいけど、あとあと面倒な事になるからな。

 

「秘密? 私にも話せないの?」

 

 部長の眉がほんのわずかに釣りあがる。

 

「誰にも話したくない事の一つや二つはあるでしょう? それに俺はもともとただの賞金稼ぎなんですよ」

 

「……そう」

 

 そこまで言うと部長は顔を離して席についた。

 

 そして、部長は改めて息を吐くと、ゆっくりと再び口を開いた。

 

「……あなたはどう思う?」

 

「……どう思うって、なにがです?」

 

「私の結婚についてよ。話を聞いていたんでしょう?」

 

 いきなりなんだと思ったけど、部長は真剣のようだ。

 

「そうですね。俺自身の意見を言うと、高い地位の者が政略結婚をするのは仕方ないと思っています」

 

「っ!」

 

 悲しそうな表情になる部長。

 

 そんな部長に、言葉を続けながら言う。

 

「ですが、幸せにならない結婚。愛のない結婚は嫌です。俺個人として、少し会っただけですが、ライザーは気に入りません。ですから、部長にはライザーなんかと結婚なんかして欲しくありません。あなたが言うとおりライザーは、あなたの家柄、そしてあなたの外見の美しさだけを気に入っているようですからね」

 

「う、美しいって……!?」

 

 いや、部長。俺がかなり恥ずかしい事を言っているんですから、頬を染めないでくださいよ。

 

「とりあえず、あなたの『兵士』としてライザーは俺がぶちのめしますよ」

 

 水を飲んでから立ち上がり、流しにコップを置き立ち去ろうとすると、部長にまた話しかけられた。

 

「あっ、あなたは私のなにを知っているのよっ!」

 

 真っ赤な顔で部長が叫んだ。

 

 そんな部長を見つめながら、思い出すようにつぶやいていく。

 

「……そうですね。まずは普段は姉のように振舞うけど、本当はすごく甘えん坊なところ。悪魔しては情が深い事。眷属悪魔の事を大切に思っている事ですね」

 

「なっ!?」 

 

 部長の顔がますます真っ赤になった。

 

「もう、寝た方がいいですよ。じゃあ、おやすみなさい」

 

「うぅ~」

 

 唸っている部長を後にして台所から出て寝室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<リアス>

 

 

 別荘の台所で本を読んでいるとイッセーが来て、お互いに愚痴を漏らしあい、自信を喪失したイッセーを慰めていると、エイジがやってきたのが見えた。

 

 エイジが入りずらそうに私達が出て行くのを待っているみたいだったから、イッセーを寝室へ戻した。

 

 そして、イッセーが戻るとすぐにエイジが台所に入りコップに水を汲んで席についた。

 

 私は声をかけると、エイジは盗み聞きしていた事を謝罪した。

 

 二人っきりだから合宿中、機会がなくて尋ねたかった事を思い切って尋ねた。

 

 それは、彼の異常性。

 

 彼の底知れない強さについて。

 

 エイジの身体能力……、いいえ、すべてのてんにおいて並みの悪魔を軽く超え、上級悪魔に匹敵するほどのスペック。

 

 エイジはいったい何者なのか?

 

 仙術に魔法にレアスキルを持っていて、異空間に聖剣を所持している。

 

 本当に彼は何者なんだろうと思って彼を問い詰めた。

 

 瞳を覗き、彼が逃げないように問いかけると、彼は真っ直ぐに私を見返した。

 

 そして彼は、『秘密です』と答えた。

 

 私は信用されていない……、まあ、そうよね。眷族にしてから日も浅いし、彼は賞金稼ぎとして今まで一人で生きていたそうだし……。

 

 それに私は彼よりも弱い未熟な王……。

 

 私はこれ以上問い詰めるのを諦めた。

 

 そういえば私はなんであんな事を尋ねたんだろう?

 

『私の結婚についてよ。話を聞いていたんでしょう?』

 

 イッセーには聞かれてから答えたけど、こっちから聞いたことに自分でも驚いた。

 

 なにを彼に求めているんだろう。

 

 イッセーに言われたように彼にも私自身を見て欲しかったのかもしれない。

 

 そして、彼は私の問いに答えてくれた。

 

 彼が『政略結婚は仕方がない』と言ったときは正直、かなりショックを受けた。

 

 泣きたいほどに胸が痛んだ。

 

 でも、彼は続けて答えてくれた。

 

『ですが、幸せにならない結婚。愛のない結婚は嫌です。俺個人として、少し会っただけですがライザーは気に入りません。ですから、部長にはライザーなんかと結婚なんかして欲しくありません。あなたが言うとおりライザーは、あなたの家柄、そしてあなたの外見の美しさだけを気に入っているようですからね』

 

 さっきまで沈んでいた気持ちが嘘のように晴れていき、それと半比例するように顔が真っ赤になっていくのが分かった。

 

 でも、彼は私のなにを知っていてそんなことが言えるんだと、大声で訊くと、彼は真顔で次々と私の事を話した。

 

 今までは私は、彼にお仕置きしたり、知らなかったとはいえ厭らしい仕事を強要させていたのに、彼は私のことをしっかり評価していてくれた。

 

 家柄ではなくリアス・グレモリー、個人を……。

 

 彼はそれだけ言うと去って行ったけど、私の頭から彼の顔が離れない……。彼を思うとうるさいぐらいに胸がときめいた……。

 

 私はいったいどうしたのだろう……?

 



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第15話 レーティングゲーム

 

<エイジ>

 

 

 山での合宿が無事に終わり、決戦当日となった深夜、11時40分頃―――。

 

 俺たちグレモリー眷属の面々は、いつものオカルト研の部室へと集まっていた。

 

 部員それぞれ決戦の前に緊張を解そうとしているようだ。

 

「君は緊張していないみたいだね」

 

「お前、怖くないのか?」

 

 ソファに座り、学校の宿題をしていた俺にド緊張状態のイッセーと手甲と脛あてを装備した木場がスマイルを浮かべながら近寄ってきた。

 

「まあ、命の取り合いが怖いなら冥界で賞金稼ぎなんかしていないからな」

 

「そうだね」

 

「…………」

 

 淡々とそう答えると、木場は苦笑し、イッセーは信じられない者を見るような目で見てきた。

 

 イッセーの場合、知り合いが命の取り合いに慣れている事に驚いているんだろうが、余計なお世話と放っておこう。

 

 さて、他のメンバーは……。

 

 アーシアはシスター服装備で始まるのを緊張した面持ちで待っている。小猫ちゃんは椅子に座って、オープンフィンガーのグローブを着用し、本を読んでいる。朱乃さんと部長はソファに座って、優雅にお茶を口にしていたが、二人とも顔が強張っている。

 

 ちなみに、アーシア以外は学生服着用。

 

 俺の場合は冥界用、戦うときの専用衣装があるんだが、アレは目立つから現在イッセーと同じ学生服着用だ。

 

 開始10分前になった頃、部室の魔法陣が光りだし、グレイフィアが現れた。

 

「皆さん、準備はお済みになられましたか? 開始10分前です」

 

 グレイフィアが確認すると、皆が立ち上がる。グレイフィアが説明を始めた。

 

「開始時間になりましたら、ここの魔法陣から戦闘フィールドへ移送されます。場所は異空間に作られた戦闘用の世界。そこではどんな派手な事をしても構いません。使い捨て空間なのでどうぞ」

 

「あの、部長」

 

「何かしら」

 

「部長にはもう1人、『僧侶』がいますよね? その人は?」

 

 イッセーが部長に話しかけていた。そういえばもう1人の僧侶って誰だ? リミッターの重ね掛けで探知機能まで人間まで落してるからよくわかんないんだよな~。

 

「残念だけど、もう1名の『僧侶』は参加できないわ。いずれ、そのことについても話すときがくるでしょうね」

 

 部長が苦々しくイッセーに返した。なんだかワケありみたいだ。

 

「今回の『レーティングゲーム』は両家の皆さまも他の場所から中継でフィールドでの戦闘をご覧になります」

 

 見られるって、ますますバレないように動かないといけなくなったな……。

 

「さらに魔王ルシファーさまも今回の一戦を拝見されておられます。それをお忘れなきように」

 

「お兄さまが? ……そう、お兄さまが直接見られるのね」

 

 ………。

 

「あ、あの、いま、部長が魔王さまの事をお兄さまって……。俺の聞き間違いでしょうか」

 

 …………。

 

「いや、部長のお兄さまは魔王さまだよ」

 

 ……………紅い髪……。

 

「ま、魔王ぉぉぉぉぉっ!? 部長のお兄さんって魔王なんですか!?」

 

「ええ」

 

 …………わがままな性格……。

 

「部長のファミリーネームと魔王さま方のお名前が混乱してたりする?」

 

 …………あいつと会った場所って確か……、グレモリー領だったけ……。

 

「あ、ああ……、まあな」

 

 木場がイッセーに魔王が滅んだ事を説明する。滅んだ魔王の代わりに名前を役職名にして新しい魔王を作ったと説明する。

 

「サーゼクス・ルシファー―――。『 紅髪の魔王 (クリムゾン・サタン)』、それが部長のお兄さまであり、最強の魔王だよ」

 

 木場がキメ顔でイッセーに説明した。

 

 あははは……、マジですか。

 

 そういや、紅色の髪の悪魔なんてそうそう居ませんよね~。

 

「どうしたの? エイジ?」

 

 部長が顔を近づけてきた。

 

 うん。顔のつくりもかなり似ているね。なんで気づかなかったんだろう……。

 

「いえ、まさか部長があのサーゼクス……さまの妹とは思いませんでしたので」

 

「そうなの?」

 

 部長が首をかしげた。

 

 はぁ~。あの野郎には素顔を見せているんだしばれ……、いや、俺が素顔を見せたのは何年も前だし、大丈夫かな? 

 

「そろそろ時間です。皆さま、魔法陣のほうへ」

 

 グレイフィアに促され、俺たちは魔法陣へと集結する。

 

「なお、一度あちらへ移動しますと終了するまで魔法陣での転移は不可能となります」

 

 グレイフィアの説明が終わると同時に魔法陣の紋様がグレモリーから違うものへと変化し、光り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法陣の光が収まると、目の前にはいつもの部室。

 

 おそらく戦闘用の空間なのだろう、俺の知覚から丁度駒王学園の敷地までしか世界が存在していない事が確認できた。

 

『皆さま。このたびグレモリー家、フェニックス家の「レーティングゲーム」の審査員(アービター)を担うことになりました、グレモリー家の使用人グレイフィアでごさいます。我が主、サーゼクス・ルシファーの名のもと、ご両家の戦いを見守らせていただきます。どうぞ、よろしくお願いします。さっそくですが、今回のバトルフィールドはリアスさまとライザーさまのご意見を参考にし、リアスさまが通う人間界の学び舎「駒王学園」のレプリカを異空間にご用意いたしました』

 

 レプリカの異空間と聞いてイッセーが驚きながら部室やここが本物の駒王学園でない事の証明である真っ白な空を見ていた。

 

『両陣営、移転された先が「本陣」でございます。リアスさまの本陣が旧校舎のオカルト研究部の部室。ライザーさまの「本陣」は新校舎の生徒会室。「兵士(ポーン)」の方は「プロモーション」する際、相手の「本陣」の周囲まで赴いてください』

 

 『兵士』の特性、敵陣地に攻め込む際は一時的に、騎士、女王など王以外の駒に変身し、駒の特性を使用できる『プロモーション』だ。

 

 まあ、俺には必要はない能力だが、まだ基礎力が低く、倍加の神器をもつイッセーなら『プロモーション』で変化した駒特性しだいで能力が上がるので、部長がどうイッセーを動かすかに期待だな。

 

「全員、この通信機を耳につけてください」

 

 朱乃さんがイヤホンマイクタイプの無線機を配る。

 

 それを耳につけながら部長が言う。

 

「戦場ではこれで味方同士やり取りするわ」

 

『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は人間界の夜明けまで。それでは、ゲームスタートです』

 

 キンコンカンコーン。

 

 鳴り響く学校のチャイム。これが開始の合図だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、まずはライザーの『兵士』を撃破(キャプチャー)しないといけないわね。八名全員が『女王』に『プロモーション』したら厄介だわ」

 

 部長がソファに腰を降ろしながら呟き、朱乃さんがお茶の用意を始めた。

 

 俺も部長の向かいの席に座って体内の魔力と気の一部を解放し始める。

 

「ぶ、部長、結構落ち着いていますね……」

 

 イッセーが優雅に紅茶を飲んでいる部長に呟く。

 

「イッセー、戦いはまだ始まったばかりよ? もともと、『レーティングゲーム』は短時間で終わるものではないわ。もちろん、短期決戦(ブリッツ)の場合もあるけど、大概は時間を使うわ。実際のチェスと同様ね」

 

 それから部長は、チェスの盤上のようにマスで区切られた学園全体の地図を取り出し、作戦会議を始めた。

 

 作戦会議の結果、拠点として体育館を取る事になり、木場と小猫ちゃんがまず旧校舎と新校舎の間にある森へトラップを仕掛けに行き、トラップを仕掛け終わった後に、朱乃さんが森の周囲と空にライザー眷属のみに反応する霧&幻術を仕掛ける手はずとなった。

 

 作戦会議に名前の出なかった俺とイッセーとアーシアだったが、ここでイッセーが部長に尋ねた。

 

「あ、あの、部長。俺はどうしたらいいんですか?」

 

「そうね。イッセーとエイジは『兵士』だから『プロモーション』しないといけないわね」

 

「はい!」

 

 元気よく返事するイッセーに部長がちょいちょいと手招きする。

 

「ここに座りなさい」

 

 そう言われたイッセーが部長の隣へと腰を降ろし、さらに自分の太ももを指差す。

 

「ここへ横になるのよ」

 

 驚愕の表情を浮かべるイッセーだが、

 

「よ、よろしくお願いします!!」

 

 と頭を下げて部長の膝へ頭を置いた。

 

 涙を流して喜ぶイッセー。

 

 なんでも、悪魔として未熟すぎたために封印していた『兵士』の駒の封印を修行でレベルアップしたから少しだけ解放するためらしいがいいなぁ……。

 

「部長~。俺にはないんですか~?」

 

 羨ましくなって尋ねる。

 

「あら? エイジは『兵士』の駒一個で転生しているんだし、力は封印していないわよ?」

 

 そういうことじゃないんですが……。 

 

 部長に頭を撫でられてイッセーが幸せそうな表情を浮かべる。

 

 恨めしそうに指を咥えているとちょんちょんと膝を突かれた。

 

「私でよければどうぞ」

 

 顔を向けると。いつの間にか隣へと腰へ降ろした朱乃さんが、ぽんぽんと人の膝を叩いて微笑んできた。

 

「いいんですか!?」

 

「はい。私でよければ」

 

 そう呟いてニッコリと微笑んだ朱乃さん。

 

「ぜひお願いします!」

 

 俺は吸い込まれるように頭を降ろした。

 

 朱乃さんの膝は柔らかくて温かく最高で、さらに仰向けだから見上げると制服をはちきれんばかりに押し上げるおっぱいと、その先に覗ける妖艶な笑顔、度々前かがみになって微笑みながら押し付けてくるおっぱいに俺は癒された。

 

 途中、部長が禍々しい魔力を朱乃さんへ向けて威嚇するように放出したり、言い合いのようなものや、アーシアのすすり泣きのようなものが聞こえたが、まあ、今はゲーム中だし、木場と小猫ちゃんが戻ってきたようだから置いておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トラップを仕掛け終わり、本格的に体育館を取りに行くことになった。

 

 旧校舎の玄関で気合を入れてから駆け出していく、イッセー、木場、子猫ちゃんの近距離戦チームと、止め役&魔法による広範囲遠距離戦の朱乃さん。

 

 回復役のアーシアは部長について本陣に陣取り作戦&対策思案。

 

 で、俺なのだが……。

 

「エイジは偵察役と囮役、そして遊撃役よ。私たちの中で一番力を持っていて実戦慣れしているんだから、ライザー眷属の居場所の索敵をしたり、敵の戦力を分散させたり、敵を倒しながら、味方が危ない時なんかは援軍にくるのよ」

 

 そう呟く部長。

 

 かなり難しい役回りだが、俺なら大丈夫だな。

 

 戦闘へ意識を切り替え、俺も戦場へと飛び立とうとして、部長に再度声をかけられた。

 

「エイジ。無茶な要望かもしれないけど頑張って……!」

 

「了解です!」

 

 俺は力強く頷き白い空へと飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新校舎の方へと飛び上がった俺は運動場の辺りの偵察を開始する。

 

 偵察を開始してすぐ、アナウンスが鳴り響いた。

 

『ライザー・フェニックスさまの「兵士」三名、「戦車(ルーク)」一名、戦闘不能!』

 

 体育館を取ると見せかけて檻にして朱乃さんが外から広域殲滅魔法でし止めるという作戦が成功したようで安心しているとすぐにまたアナウンスが鳴り響いた。

 

『リアス・グレモリーさまの「戦車」一名、リタイヤ』

 

 グレモリー勢には戦車は一人しかいないから、小猫ちゃんが負けたようだ。

 

 俺は運動場までの道のりの中でライザー眷属の兵士五人と戦車一人を見つけたので、ワザと堂々と空を飛び、運動場のど真ん中に降り立った。

 

 そして誘うように、というか運動場から出られないように塞ぐように結界で覆う。

 

 さあ、小猫ちゃんの仇を取らせてもらおうか?

 

 運動場で待っていると、見覚えのあるネコミミ女戦士の双子や仮面を着けた女などが現れた。

 

 『兵士』五名と『戦車』一名は俺の周りを取り囲み、『僧侶』は少し離れたい位置に陣取り、それぞれの武器や構えを取る。

 

「まったく、俺って大人気だな~」

 

 そんな軽口を叩いていると正面ネコミミ双子が顔から汗を流して中腰になり、いつでも動けるような構えのまま呟いた。

 

「なにを言ってるにゃ! 結界で私たちを閉じ込めてるくせに!」

 

「やっぱりライザー様の言う通り、お前は危険にゃ! ここは全員でお前を潰してやるにゃ!」

 

 そう呟き終わると双子は一気に加速してほぼ同時のタイミングで左右から殴りかかってきた。

 

 俺は刹那の時間に二人の攻撃を完全に見切る。ネコミミ双子のそれぞれの拳を受け流して同士討ちするように仕掛け、さらに背後から波状攻撃をかけてきた三人の『兵士』の攻撃も見切り、それぞれ持っていた武器を破壊して後頭部に手刀を当てて気絶させる。

 

「なっ!? なにをした!?」

 

 俺の行動を視覚で捉え切れなかった仮面の女が叫んだ。

 

 見えないヤツにはネコミミ双子がお互いの顔を殴りあい、兵士の三人はいきなり武器が壊れて、倒れたように見えるからな。

 

 まあ、説明する気もないからさっさと仮面の女へと向き直る。

 

「次はお前だな」

 

 そう呟くと仮面の女は惚けた状態から即座に構えを取った。

 

「くっ!! やるしか、ないのか!!」

 

 俺は地面を蹴り、一歩で仮面の女の目の前まで移動する。

 

「なっ!?」

 

「甘いっ!」

 

 驚いた仮面の女は咄嗟に拳を突き出してくるが、驚いたために重心のノリも力の入りも悪い。拳を顔の横に通らせ、伸びた腕を捕らえて仮面の女の力をそのまま利用して投げる。

 

 投げられた仮面の女はそのまま運動場の地面に叩きつけられ運動エネルギーが尽きるまで5メートルほど地面を跳ねるように吹き飛んだ。

 

「う、嘘よ……、一瞬で五人も……」

 

 最後に俺は放心したように腰を抜かした『僧侶』に手刀をくらわせて意識を刈り取った。

 

 そこでアナウンスが鳴り響く。

 

『ライザー・フェニックスさまの「兵士」五名、「戦車」一名、「僧侶」一名、戦闘不能!』

 

 ライザーの眷属たちが消えるのを確認してから、結界を解除して次の獲物の方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 レーティングゲームが始まってすぐ、俺は小猫ちゃんと木場の三人で体育館でライザー眷属の『兵士』三人と、『戦車』一人に戦闘を仕掛けて修行で習得した俺の必殺技『衣服破壊(ドレスブレイク)』で服を脱がして、眼福を味わった後、手はず通り朱乃さんの広域殲滅魔法でし止めたんだけど、直後にライザー眷属の『女王』の不意打ちをくらい小猫ちゃんがやられてしまった。

 

 その後、朱乃さんがライザー眷属の『女王』と一騎打ちになり、俺と木場は他の眷属を倒しに新校舎へと向かい、ライザー眷属の『騎士』二名と『僧侶』に遭遇した。

 

 『僧侶』の金髪巻髪女はライザーの妹で戦わないらしく、俺と木場は一対一で『騎士』を相手取って戦っていると、アナウンスが鳴り響いた。

 

『ライザー・フェニックスさまの「兵士」五名、「戦車」一名、「僧侶」一名、戦闘不能!』

 

 ライザー眷属が一気に半分近く倒された事を知らせるアナウンス。おそらくエイジがやったんだろう。

 

 俺と木場もエイジの勢いに乗り、『騎士』を倒しにかかろうとすると、ライザーの妹が部長とライザーが屋上で一騎打ちをしているという事を教えられた。

 

 屋上を見上げると確かに部長がライザーと戦っていた。

 

 遠目でも荒い息をあげて肩を上下させている部長を見て俺の中の力が、部長を勝たせたいという想いが膨れ上がり『 赤龍帝 の籠手 (ブースデット・ギア)』が応えてくれた。

 

 新しい能力『 赤龍帝 の 贈り物 (ブースデッド・ギア・ギフト)』を発現させて木場の神器、様々な魔剣を創り出すと言う『 魔剣 創造 (ソード・バース)』に『赤龍帝の籠手』で溜めた力を送って無数の魔剣を地面から生やして『騎士』二名を貫き撃破した。

 

 だがその直後に朱乃さんが撃破された事がアナウンスで知らせられ、木場を中心に爆発が起こり、木場がリタイヤした。

 

 空を見上げると、そこには黒い翼を広げて高笑いをするライザー眷族の『女王』がいて、ご丁寧に『フェニックスの涙』という回復アイテムを使って、朱乃さんと戦った傷を癒した事などを説明してくれた。

 

 そして俺にも爆発魔法をくらわせようとした瞬間。

 

 エイジが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 まったく、みんな初めてのゲームだからって油断しすぎだ。

 

 小猫ちゃんも木場も不意打ちを喰らって沈められるなんて、実戦なら死んでるぞ。

 

 女王と一騎打ちしていた朱乃さんが負けたのは、おそらく女王が『フェニックスの涙』っていう反則クラスの回復アイテムでも持ってたんだろう。

 

 耳に装着した通信機から聞こえてくる音声で、状況判断を行いながら、王同士の一騎打ちというとち狂った行動に出た部長を止めるために、校舎の屋上へ向かって駆ける。

 

 そしてその途中で、ライザー陣営の僧侶と女王がイッセーと交戦しているところに、出くわせてしまった。

 

「エイジ! いいところに来てくれたぜ! 俺は部長の加勢に行く!! この場はまかせた!!」

 

 俺に気づいたイッセーが、どこぞの少年漫画よろしく俺に2人を押し付けて部長の元へと駆け出す。

 

 って! お前が行ったからどうにもならないろ!!?

 

「おい! イッセー!!」

 

 声をかけようとすると、イッセーは自信たっぷりに言った。

 

「大丈夫だ!! 俺の新しい力『赤龍帝からの贈り物』があれば、部長を強化できるし、俺はまだ戦える!!」

 

 いや、それだけじゃ勝てないだろ!?

 

 何で自信たっぷりなんだ!?

 

 慌ててイッセーの後を追おうとすると、ライザーの女王が立ちふさがった。

 

「ふふっ、丁度いいですわ。あなたは要注意人物。ここで足止めさせていただきます」

 

 魔力を解放し、完全に戦闘態勢を整える女王と、傍観するライザーの僧侶。

 

「仕方がないか……」

 

 さっさと片付けてライザーをぶっ殺しに行かないと、って……。

 

「そっちの悪魔は戦わないのか?」

 

 傍観している僧侶に尋ねる。

 

 するとライザーの女王が代わりに答えた。

 

「ああ、彼女はレイヴェル・フェニックス。ライザーさまの実の妹君なんです。ライザーさまには妹属性はないらしいのですが、妹をハーレムに入れる事は世間的に意義があるらしくて……」

 

 なんだそれ……。

 

 自分の中で何かが冷めていく。

 

「すごく呆れてやる気がなくなってきたんだが、これは作戦か?」

 

 呆れるようにライザーの僧侶、実妹を見る。

 

「そ、それはなんというかすみません……」

 

 レイヴェルは申し訳なさそうに頭を下げ、構えていた女王もバツの悪そうな表情で頭を下げた。

 

「……まあ、いろいろ呆れたが、そんな男にやっぱり部長はやれないな」

 

 そう言って構え、相対している女王へ向き直る。

 

 お互いに表情を引き締め、戦闘態勢に移行する。

 

 女王が空へ飛び上がりながら、爆発魔法を放ってきた。

 

 威力もいまいちで、魔力の濃度も中途半端。

 

 一瞬で駆け出して、爆発を手刀で切り裂き、そのままライザーの女王の腹を貫く。

 

「なにっ!?」

 

 ごふっと口から血を吐きながら驚愕する女王。

 

「やはり朱乃さんより弱い。『フェニックスの涙』で回復したか、不意打ちで勝ったんだな」

 

 手を抜き、血を払い地面へ着地する。

 

 女王は地面に落下しながら、消え去った。

 

『ライザー・フェニックスさまの「女王」、リタイヤ』

 

 グレイフィアの校内放送が鳴り響く。

 

「そんな……、お兄さまの女王がこんなにあっさり負けるなんて……!」

 

 地面に降り立つとレイヴェルが、こちらを信じられないものでも見るかのように、震えながら呟いていた。

 

 さてと、さっさと部長を助けに行かないと、イッセーがいても勝てないだろうし。

 

 俺が屋上へ向かってジャンプしようとした瞬間。背後から声がかかった。

 

「お、お待ちなさい!」

 

 レイヴェルだった。

 

「どうした? 戦う気はないんだろう。俺は今急いでるんだが?」

 

「あなたいったい何者なの!?」

 

『リアス・グレモリーさまの「僧侶」一名、リタイヤ』

 

「ちっ、アーシアまでやられたか。……っと、何者って言われても……、リアス・グレモリーの兵士だよ。まっ、時間もないからじゃあな」

 

「あっ……」

 

 レイヴェルを残して一気に屋上へ向かって駆け上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上へ駆け上がり俺が見たものは、ボロボロのイッセーを泣きながら抱きしめている部長とそれを見ながら笑っているライザーだった。

 

 よかった! まだ負けていない。

 

「部長!」

 

 部長の盾になるように前にち、ライザーと対峙する。

 

「……エイジ?」

 

 消え入りそうな声で部長が俺の名を呼んだ。

 

「はい!」

 

 力強く頷き、構えを取るが、部長は消え入りそうな声のまま、涙を流しながら呟いた。

 

「もういいのよエイジ……」

 

 なにを言って……!?

 

「もういいの……、もう私は仲間が傷つくところなんて見たくないの……」

 

 後を振り返る。

 

 部長はボロボロになったイッセーの顔に涙を落しながらゆっくりと呟いた。

 

「ありがとう、朱乃、小猫、アーシア、イッセー……、エイジ。不甲斐ない私のために、よく頑張ってくれたわ」

 

 そっと、イッセーの頭をなでたあと、ライザーに言った。

 

「私の負けよ。投了(リザイン)します」

 

 なん、だと……!!?

 

 俺は激情に身を任せ部長の胸倉に掴み引き寄せた。

 

「部長のために皆がボロボロになりながら戦ったのに! なんで最後まで戦おうとしない!? なぜ投了(リザイン)を選んだ!? 俺がまだ残っているだろう!?」

 

 部長は目を合わせず、涙を流しながら言う。

 

「あなたまで……、あなたまで傷ついて欲しくなかったの……」

 

「くっ……!!」

 

 手を離す。

 

 このままじゃ済ませないっ!

 

 このまま終わらせて溜まるかっ!!

 

「部長、あなたは間違っている。いまはそれを反省してください」

 

 俺は部長の耳元で呟くとばっと身を翻し、ライザーを睨んだ。

 

「なんだ? もう俺の勝ちは確定してるんだ。今さらお前が何をしてこようと、どうにもならないぜ?」

 

 薄ら笑いを浮かべながら呟くライザーに言う。

 

「このままじゃ、終わらせない」

 

 そう言い残して、俺は部長の負けを告げるアナウンスと共に、その場から消えた……。

 



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第16話 結婚騒動決着

<イッセー>

 

 

 目を覚ましたとき、そこは見知った自室の天井だった。

 

 ……俺、なんでここに?

 

 ボヤける記憶を必死に叩き起こさせる。

 

 ……勝負していたはずだ。部長とライザーの『レーティングゲーム』。舞台は俺の学校のレプリカだった。

 

 旧校舎が俺たちの本陣で、敵本陣である新校舎へ向かってエイジや木場、小猫ちゃんたちと戦場を駆け巡ったんだ。

 

 小猫ちゃんが倒れて、木場が倒れて、朱乃さんが倒れて、ライザーの女王をエイジに任せて、俺が部長の加勢に行って、アーシアが倒れて……、そして――。

 

 俺はそこで意識をハッキリとさせた。

 

 部長はどうなった!? 勝負は!? 勝敗は!? ライザーを倒したのか!? 俺は――どうして、ここにいる? 

 

 ベッドから上半身だけ起こすと、

 

「目覚めたみたいですね」

 

 枕元にいる女性が声をかけてきた。銀髪メイド、グレイフィアさんだった。

 

「グレイフィアさん! 勝負は? 部長はどうなったんですか!?」

 

「勝負はライザーさまの勝利です。リアスお嬢さまが投了(リザイン)されました」

 

「え、エイジは!? エイジもライザーに勝てなかったのか……?」

 

「いえ、エイジさまが戦う前にリアスお嬢さまが投了されました」

 

 ――ッ!

 

 そ、そんな……。俺は絶句した。言葉も出なかった。

 

 俺がライザーと戦ってボロボロにやられたからか……?

 

 俺が代わりに足止めすれば、勝っていたんじゃないのか……?

 

 ――情けねぇ。

 

 なにが「大丈夫」だ。

 

 ボロボロに負けてるじゃねぇかっ!

 

 手も足も出なかったじゃねぇか!!

 

 涙が止まらなかった。グレイフィアさんがそばにいることなんてお構い無しに涙が止まらない。悔しくて。情けなくて。弱くて。哀れで……。

 

「現在、お嬢さまとライザーさまの婚約パーティーが行われています。グレモリー家が用意した冥界の会場です」

 

「……木場たちは?」

 

「お嬢さまお付き添いになられております。会場にいない関係者は一誠さまとアーシアさま、エイジさまの3名です」

 

 アーシアとエイジ……。

 

「リアスお嬢さまの願いで、アーシアさまはここへ残られて私とともに一誠さまを見ておられたのです。いまは下に替えのタオルを取りにいかれています」

 

 そうか。部長はアーシアを俺のところに残してくれたのか。

 

 心配かけちまったな……。

 

 部長……、婚約……、今頃パーティーの最中なのか……。

 

 ん? そういえば、

 

「エイジは?」

 

「リアスお嬢さまが投了してから、行方をくらませています」

 

 エイジ……。

 

「……お嬢さまの婚約に納得されてませんか?」

 

 グレイフィアさんが訊いてくる。

 

「ええ。俺は勝負が着いたとしても、納得できません」

 

「リアスお嬢さまは、御家の決定に従っただけですよ?」

 

「わかってます! わかってはいるんです! それでも俺は――」

 

 部長が嫌がっていた事を肯定できない! 親同士が決めた事に嫌々従う部長なんて見たくない! あんな野郎に! あんな野郎に部長を渡したくない!

 

「ふふふ」

 

 突然、グレイフィアさんが小さく笑った。このひとの笑みは初めて見た。いつも冷淡で淡々とした感じなのに……。

 

「あなたは本当に面白い方ですね。長年、色々な悪魔を見てきましたが、あなたのように思った事を顔に出して、思った通りに駆け抜ける方は珍しいです。私の主、サーゼクスさまもあなたの事を『おもしろい』とおっしゃっていたのですよ?」

 

 グレイフィアさんは懐から一枚の紙切れを取り出した。そこには魔法陣が描かれている。

 

「この魔法陣は、グレモリー家とフェニックス家の婚約パーティーの会場へ転移できるものです」

 

 ――っ。

 

 なんでそんなものを!

 

「サーゼクスさまからのお言葉をあなたへお伝えします」

 

 一拍空け、グレイフィアさんは真剣な面持ちで言う。

 

「『妹を助けたいなら、会場へ殴りこんできなさい』、だそうです。その紙の裏側にも魔法陣があります。お嬢さまを奪還した際にでもお使いください。必ずお役に立つと思うので」

 

 ………………。

 

 どう返したらいいかわからない俺。グレイフィアさんは俺の手元に魔法陣が描かれた紙を置くと、立ち上がり、部屋をあとにしようとする。

 

「一誠さまの寝ておられる間、あなたの中から強大な力を感じ取りました。ドラゴンは、神、悪魔、堕天使、そのどれとも手を結ばなかった唯一の存在です。忌々しきあの力ならばあるいは……」

 

 それだけ言い残し、グレイフィアさんは部屋をあとにした。

 

 一人取り残された俺。……考える必要なんてないよな。

 

 俺はベッドから起き上がり、誰が用意してくれたのか分からない、綺麗になった制服に着替え、魔法陣に手をかけたそのときだった。部屋の扉が開きアーシアが入ってくる。

 

「――っ! イッセーさん!」

 

 アーシアは俺を見るなり、タオルと水の入った洗面器を床に落した。そして、俺の胸に飛び込んでくる。

 

 おわっ。アーシア、どうしたんだ……。いきなり抱きつかれたら照れるぞ。

 

「よかった。本当によかったです。怪我の治療をしても二日間も眠ったままで……。もう目を覚まさないんじゃないかって……、エイジさんもレイナーレさんもいなくなっちゃいましたし……。イッセーさん……」

 

 アーシアは俺の胸で泣きだしてしまった。あー、また泣かせちゃった。

 

 俺はそれからアーシアを落ち着かせて、部長を取り戻しに行く事を伝えた。

 

 アーシアは心配していたが、こればっかりは仕方がなかった。

 

 俺はアーシアを説得し、以前話していた悪魔の弱点となる、聖水と十字架を用意してくれるように頼み、俺の中に宿る赤い竜に話しかけた。

 

(おい! 聞こえているなら出てこい。いるんだろう? 赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)ドライグ! いるなら話がある! 出てこいッ!)

 

『ああ。なんだ、小僧。俺になんの話がある?』

 

 俺の内側から響く声。

 

 俺は部長を救うために契約を持ちかけた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュゥゥゥゥン……。

 

 グレイフィアさんから貰った魔法陣を使って転移した。

 

 俺は何やらガヤガヤと声が聞こえる方向へ足を向けた。

 

 開かれた巨大な扉。

 

 扉かな中を窺うと、着飾った大勢の悪魔たちが広場で楽しげに談笑していた。

 

 そろりそろりと悪魔たちをかき分けて見知った者を探す。

 

 しっかし、広い会場だな。校庭よりも広いんじゃないか? 天井なんて遥か上ですよ。トンでもなく大きいシャンデリアもすげぇな。これが部長のお家が用意した会場なんだな。あー、俺も早く爵位を得て偉くなって見たいもんだ。

 

 そんな物思いにふけっていると、紅が視界に映り込んだ。

 

 長い紅髪をアップした女性――。赤いドレスに身を包んでいる。一目でわかった。当然さ。だって、あれが俺の憧れの――。

 

 「部長」っと叫ぼうとしたその時、部屋全体、建物全体が振動し、天井の一部が降ってきた。

 

「な、なにが……」

 

 周りの悪魔たちも予測不能のその事態に戸惑い、喧騒が会場を埋め尽くす。

 

 そして、戸惑っていると、開いた天井の穴から悪魔が降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 部長が投了してからすぐ、俺は決断を下した。

 

 家へと戻り、通信用の護符を使い賞金首仲間(・・・・・)を招集する。

 

『いったいどうしたのにゃ?』

 

「黒歌か? 急いでセルベリアとノエル、それに時雨を召集してくれ」

 

『了解にゃ! でもなんでにゃ?』

 

「殴り込みをかけるから」

 

『そうにゃん?』

 

「それに、そろそろ仮面つけるのも面倒になってきたからな。姫さま……、いや王さま救うついでに俺が悪魔になったって冥界に示す」

 

『王さま? ああ、そういう事ね! じゃ、あたしは招集かけてくるにゃ♪』

 

「ああ。頼む」

 

 俺は通信を切り替え、昔借りを作った龍と、諜報活動など各所へ繋ぎ、リアス・グレモリー奪還の準備を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして部長とライザーの婚約パーティー当日。

 

 姿を隠す【隠蔽】の魔法で、足代わりになった龍と仲間ごと姿を隠して、婚約パーティーの会場へとやって来た。

 

 さてと、冥界のTVが入っているのは確認済みだし、そろそろ部長が会場へ入る時間だ。

 

 俺は現在コスチュームとして定着してしまった赤と黒の衣装に身に纏い、目元と鼻を隠した白銀の仮面をつけ、魔力を解放し始める。

 

「楽しそうにゃね~」

 

 龍の背に座っている黒歌が呟いた。

 

「まあ、顔出しは初めてだからな」

 

 俺が立ち上がると背後に座っていた2人も立ち上がる。

 

「エイジさま。諜報員からの情報では全て予定通りだそうです」

 

 青の混じった尻上近くまで伸ばした銀髪と、黒を基調として金の装飾が施された若干露出が高めの軍服。その胸元から突き出る形のよい爆乳。赤い目をした色白の美女、セルベリアが通信機をつけた耳に手を当てながら言った。

 

「とうとうお披露目ですね!」

 

 青いベレー帽と、青を基調としたマントを羽織った金髪碧眼の美少女、ノエルが興奮した面持ちでつぶやいた。

 

「ん、作戦通り」

 

 長い黒髪ポニーテールで、鎖帷子を下に着込んだくのいち風、身の丈より長い日本刀を背負った美女、香坂 時雨《こうさか しぐれ》が満足げにうなずく。

 

「まったく……、何故俺が運び屋など……」

 

 愚痴を言う元六大龍王で現在転生悪魔のタンニーン。

 

「貸しだよ貸し、昔ドラゴンアップルっていうのを増やす手伝いしただろ?」

 

 そう言うとタンニーンは口ごもる。

 

「ま、まあ、それはそうだが、グレモリー領に不法侵入は俺でもかなりマズいんだが……」

 

「【隠蔽】は完璧に発動しているし大丈夫さ。仮にバレるとしてもサーゼクスとか魔王クラスぐらいだ。そんな大きい問題にはならねぇよ」

 

「そうか?」

 

「……たぶん」

 

「…………」

 

 とりあえず無言になったタンニーンは置いておいて、放心しているゴスロリメイド服姿のレイナーレに向き直る。

 

「お~い。大丈夫か?」

 

「っ! は、はい! な、なんですか?」

 

 びくっと意識を取り戻すレイナーレ。

 

「色々思考が追いついていないと思うが、これが俺の冥界での姿だ」

 

「や、やっぱり本物なんですか……?」

 

 確認するようにつぶやくレイナーレ。

 

 そりゃあ俺って冥界だけじゃなく天界でも有名だったりするからな。すぐに信じられないだろうから、顔出しして活動している面々を引き連れてきたわけだし。

 

「ああ。そうだ」

 

 レイナーレの顔を真っ直ぐ見ながら肯定した。

 

 レイナーレは視線を外さないまま言った。

 

「……そうですか。わかりました」

 

 一拍置いて花の咲いたような微笑を浮かべて、

 

「お帰りをお待ちしてます。ご主人さま」

 

 自然と笑みが浮び俺は頷く。

 

 さあ、いよいよショーの開幕だ!!

 

「セルベリアとノエルは作戦通り天井を破壊! 怪我人を出さないように調整しろよ!」

 

「了解しました」

 

「はい!」

 

「時雨は会場にいる悪魔が邪魔しようとしたら気絶させてくれ、方法はなるべく傷つけずにだ!」

 

「う、ん」

 

「黒歌とレイナーレはここで待機。不測の事態があった場合に備えてくれ、あと黒歌【隠蔽】の術式を受け継いでくれ」

 

「はいにゃ!」

 

「かしこまりました!」

 

「あ、あとタンニーンは待機な。目標回収後に速やかに離脱するからいつでも飛び立てるようにしといてくれ」

 

「……わかった」

 

「では、開始しよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずはセルベリアが神器である【戦乙女の槍】を発動させ、巨大な旧時代の戦槍を発現させると、槍に特殊な水色の魔力を流し、戦槍に纏わせ、先端から光線を放ち天井に穴を開けた。

 

 さらに続いて、ノエルが神器である【魔銃ベルヴェルク】を発現させる。ノエルの両手に現れた一対の巨大な銃が、ズガガガガガッと天井の破片を撃ち砕いていく。

 

 そして、開いた穴へセルベリア、ノエル、時雨、俺の順で飛び降りた。

 

 突然の騒動に、会場の視線が一気に集まる。

 

「【蒼炎の戦乙女】だわ!」

 

「【魔銃使い】!?」

 

「【武器の申し子】までいるぞ!」

 

 セルベリアとノエル、時雨の冥界での通り名が呼ばれ、会場の視線が一気に集まる。

 

 俺は先に立った3人の前に着地する。

 

 そして丁度正面の舞台に立っていた純白のドレス姿の部長と目が合った。

 

「なぜ貴様がここに……!!?」

 

 隣に立っていたライザーが身に炎を纏いながら睨みつけてきた。

 

 俺は天井の破片などで舞い上がった埃を風魔法で一気に払うと、前に出た。

 

 そして、会場に集まった悪魔たちに宣言するように言い放つ。

 

「俺の王を返してもらいにきた!」

 

「なっ、なんだと!?」

 

 ライザーを筆頭に会場の悪魔たちも騒ぎ出すが、俺が仮面に手をかけると、騒然としていた会場が急にしんっと静まり返った。

 

 今まで、ずっと被っていた仮面だ。

 

 賞金首として有名になりすぎてきたためにつけていた仮面。

 

 ……いつの間にか変な通り名まで付けられて、アニメや漫画、映画まで作られてはずすにはずせなくなった仮面。

 

 そのアニメでたまに男と絡ませられるBL男子にさせられてしまったり、ドラマで特命な会社員的なアダルトな男みたいに、日夜平和を守りながら美人の悪魔やサキュバスなどと逢瀬を楽しんだり……。

 

 高校生になってから一気に恥ずかしくなってきた仮面。

 

 俺はその仮面を取り外した。

 

「もう顔を隠すのはやめだ……。俺の名は神城エイジ!  黒い 捕食者 (ブラック・プレデター)にして、リアス・グレモリーの眷属悪魔だ!!」

 

 大声で叫ぶ。

 

 ああ、それにしても通り名を自分で言うってすごく恥ずかしいね……。

 

 だが、会場はしんっと静まり返り、歓声や喧騒といった色々な声に埋め尽くされる。

 

「ど、どういうことだ!」

 

「リアス殿、これはいったい?」

 

 部長やライザーの親族たちも困惑した。

 

 そんな中、大きな笑い声が会場の喧騒をかき消した。

 

 現魔王ルシファーで、部長の兄で、面白好きのバカこと、サーゼクス・ルシファーだ。

 

「サーゼクス殿?」

 

「お兄さま?」

 

 ライザーと部長が驚いてサーゼクスを見る。

 

 サーゼクスは思いっきり笑った。

 

「まさか、君が助けに来るなんてね。あはは……、それに妹の眷属悪魔になってるなんて……!」

 

 サーゼクスは荒くなった息を整え、俺に問いかける。

 

「それで、妹の眷属悪魔が何の用だい?」

 

 俺は胸を張って応える。

 

「もちろん。リアス・グレモリーを攫いに着た」

 

「えっ!?」

 

 部長の顔がぼんっと一瞬で赤に染まった。

 

「賞金稼ぎ風情がなに抜かしてやがる!」

 

 ライザーが全身から炎を噴出させながら叫んだ。

 

 そんなライザーに向って俺は拳を突き出す!

 

「ライザー。リアス・グレモリーが欲しければ俺を倒せ!」

 

「おい! すぐに取り押さえ……」

 

 親族の誰かが警備員に命令しようとした瞬間、サーゼクスがその声を制した。

 

「まあ、いいではありませんか。戦わせてあげましょう」

 

「サーゼクス殿!?」

 

 戸惑う親族勢にサーゼクスは微笑むと、両手を広げて会場全体に響く声音でつぶやいた。

 

「皆さんも見たくはありませんか? 魔王クラスなどと言われ、現冥界で人気者になっている 黒い捕食者 (ブラック・プレデター)と伝説のフェニックスとの戦いを……! わたしはすごく見たいと思っています」

 

 サーゼクスの言葉に会場の視線が俺とライザーに集まる。

 

「いいでしょう! このライザー、身を固める前の最後の炎をお見せしましょう!」

 

 やっと手に入れた女を横取りされかけて、頭に血が上っているライザーは二つ返事で了承した。

 

「天狗になっている好色種鳥が! 俺が貴様を倒してリアス・グレモリーを奪い返してやる!」

 

「きっ、き、さ、まぁあああああああああああああああ!!」

 

 あれっ? 挑発しすぎたかな?

 

 会場の中に関わらず、最初から全力全開、青筋全開で一直線にライザーが飛びかかってきた。

 

 セルベリアとノエル、時雨が俺の(・・)邪魔にならないように一気に後方に跳ぶ。

 

 一気に距離をつめたライザーが、炎を纏わせた左拳で殴りかかってきた。

 

 ブンッ!

 

 冷静に見切り、腰を屈めて避け、さらに追撃するように放ってきた右拳と、左足を同様に見切って避けて、間合いを取る。

 

「っ! 噂はあながち間違いでもなさそうだな!」

 

 攻撃を全てかわされたライザーは、本気で俺を強敵とみなした様子で、さらに炎を体に纏わせ、魔力の密度を高め始めた。

 

 まっ、長引かせる気もないし、アホ鳥に付き合う理由もないから終わらせてもらおう。

 

「さてと……、【 王の財宝 (ゲート・オブ・バビロン)】」

 

 俺は呟きながら【王の財宝】の中から特製の宝具を取り出す。

 

 虚空から出てきたのはふた振りの槍。

 

 有名な二つの赤い槍と黄色い槍。

 

 接触している物の魔力を打ち消す長槍【破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)】と、決して治癒のできない傷を与える呪いの短槍【必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)】だ。

 

 しかし、そのオリジナルより、俺の【王の財宝】に入っている宝具は数段上をいく。

 

 なんせチートを貰ったあとに【王の財宝】が空だったことに絶望した初代の魔界の魔王であった俺や、歴代の俺が製作した宝具なのだ。

 

 その能力は数段強化され、いくつも造られ、その貯蔵量はオリジナルの【王の財宝】をすでに超えているだろう。

 

 俺は槍を両手に構える。

 

「何だその槍は!?」

 

 槍に込められている魔力と、槍からあふれ出す存在感に気づいたのだろう、ライザーが表情を強張らせた。

 

「これは俺の魂が精製し、製作し、手に入れてきた宝具だ。ふっ、怖気づいたか鶏?」

 

 鼻で嗤ってやるとライザーはビキビキッと額に青筋を浮べ、荒い息で大声で怒鳴ってきた。

 

「だれがチキンだぁああああああああ!!!!!」

 

 うわっ、こいつ挑発に乗りすぎだろ?

 

 ただ真っ直ぐ殴りかかってくるなんて、どっかのヤクザゲームの雑魚キャラ、典型的なチョイ悪ホスト系だな。

 

 正面から殴りかかってくるライザーの攻撃を避けて、接触している物のあらゆる魔力を完全に打ち消し、貫通能力、殺傷能力を倍加させ、新に封印機能をつけた長槍【破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)】の、刃ではなく胴で殴りつけてライザーの炎を打ち消す。

 

 ドゴンッッ!

 

「がぐぅううっ!?」

 

 上から下へと、叩き潰されたライザー。

 

 会場の床にめり込み、一瞬で瀕死になった。

 

 …………へ?

 

 い、いくらなんても弱すぎるだろ?

 

 魔力消して叩いただけで、一撃で終わった……。

 

 本来なら炎が身を包み、体を回復させるはずだが、炎どころか蝋燭の火ほども発生しない。

 

「な、んだと……!? なぜ炎がっ!? 魔力を感じない!!?」

 

 ライザーは両手を床についてゆっくりと、起き上がりながら驚愕したように呟いた。

 

 まるで生まれたての小鹿。

 

 フェニックスの能力に頼りすぎたか。哀れだな。

 

「貴様ぁあああっ! 俺にいったい何をしやがった!!?」

 

 絶賛戦闘中の敵に聞くなんてほんとに馬鹿だな……。

 

「本来は応えてやらないんだがな。この【破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)】には、接触している物のあらゆる魔力を完全に打ち消し、さらに封印する能力がある」

 

「なんだと……!?」

 

 何回なんだとって言ってるんだこいつ……。

 

 俺はライザーへ向かって今度は、貫通能力や殺傷能力強化はもちろん、決して治癒のできない傷を与え、さらにその傷を24時間ごとに大きく開かせていく呪いの短槍【必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)】を突きつける。

 

「これは【必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)】。決して治癒のできない傷を与え、さらにその傷を24時間ごとに大きく開かせていく呪いの短槍だ。今のお前じゃなくても、フェニックスだったとしても、この槍を受ければ、治癒できずに死ぬだろう」

 

「ひぃっ!!」

 

 炎どころか魔力を封じられ、不死さえ殺せるという【必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)】にライザーは、顔の色を青から白へと変えて、震え始めた。

 

 必死に距離をとろうと起き上がり、ダメージで足が言う事聞かずに尻餅をつき、無様に怯え、震えながら言った。

 

「ま、待て! わ、わかっているのか! この婚約は悪魔の未来のために必要で大事なものなんだぞ!? それにフェニックス家とグレモリー家を敵にまわす気か!?」

 

 俺は目の前のライザーだけではなく、会場の、冥界全土にいる悪魔へ向かって宣言する。

 

「悪魔の未来など知るか! たとえ冥界全土が敵になろうと俺はリアス・グレモリーが望まない結婚をさせるつもりなどない!! そして眷属悪魔としても、男としても、リアス・グレモリーを泣かせたお前などに、渡すつもりはない!!」

 

必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)】を持った左手で引き、全身の力を槍へと集中する。

 

「喰らえっ!!」

 

「やめっ! やめろぉおおおおお~~~~!!!!」

 

 ライザーの断末魔の叫びが会場に木霊する。

 

 ゴォォオオオッ、ビダァッ!!

 

 …………。……ふぅ、まったく少し脅しただけで心を壊すなんてマジで情けねぇな。

 

 ライザーの眼前数センチで止めた【必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)】を下ろし、槍を【王の財宝】へ仕舞う。

 

 それでもライザーは股間から小便を漏らしたまま、ぼーっと抜け殻のように放心していた。

 

 俺はゆっくりと部長の前まで歩く。

 

 誰も止めに入らない。

 

 会場のほとんどの者が、目の前の出来事を信じられないと、固まっていた。

 

「リアス・グレモリー」

 

「えっ……、あっ、はい!?」

 

 ふふっ、何で敬語になってるかは置いておくか。

 

「失礼します」

 

 驚いているリアスの背と膝裏に腕を入れて、横抱き……、まあ、お姫様抱っこする。

 

「きゃっ!」

 

 可愛らしい悲鳴が部長の口から漏れた。

 

 腕の中で真っ赤になっている部長へ笑顔で言う。

 

「このままじゃ終わらせないって言いましたよね? あのライザーと結婚なんかさせたくなかったんで、俺があなたを攫いに着ました」

 

「えっと……、そのっ……」

 

 真っ赤な顔で俯く部長を微笑ましく眺めたあと、けじめとして両家の親族、部長とライザーの親だろう悪魔に、婚約パーティを邪魔をした謝罪と、天井に穴を開けたことに対してして頭を下げ、そして今度は堂々と胸を張って警告する。

 

「リアス・グレモリーは俺が攫っていきます。再びリアス・グレモリーが嫌がるような、泣くような結婚をさせようとするのなら、俺が何度でも攫いにきます」

 

 とんっと大きく跳躍して、侵入口兼脱出口である穴の下に陣取り、守っていたセルベリアたちと合流する。

 

 呆然と誰も動けない中、オカルト研メンバーが悪魔たちをかき分けて出てきた。

 

「エイジさん!」

 

「エイジ君!」

 

「エイジ先輩!」

 

 朱乃さん、木場、小猫ちゃんの順で名前を呼ぶ。

 

 そして一番遅れて出てきたイッセーが肩、拳を全身を震わせて俺の名を叫ぶ。

 

「エイジぃいいいい!!!!」

 

 憤怒ともいえる大きな声に、会場の悪魔達が我を取り戻し、誰かが、

 

「取り押さえろ!」

 

「逃がすな!」

 

 っという怒声が聞こえてきた。

 

 そろそろ潮時だな。

 

「セルベリア、ノエル、時雨」

 

「「はい」」

 

 3人に声をかけたあと、オカルト研のメンバーに「みんな部室で会おう!」と言い残して、もともと入ってきた天井から脱出する。

 

 さらに脱出と同時に壊れた天井を修理用の宝具で直し、タンニーンの背に飛び乗った。

 

 遠くでイッセーの叫び声が聞こえたような気が……、しないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<第三者視点>

 

 

 一方会場では……。

 

 イッセーが地面に跪き、絶叫していた。

 

「せっかくアーシアと約束して、ライザー倒すための作戦まで立てて、ドライグに左腕まで支払ったのに、エイジに全部持ってかれたぁああああああああ!!」

 

 突然血の涙を流しながら叫びを上げるイッセーに、オカルト研の面々もどうしていいか分からない。

 

「別に助けた事事態はいいけど、俺の左腕~~! アーシアにカッコいい事呟いたのにぃいいいいい!!」

 

 誰もどう声をかけていいかわからない中、イッセーの心の中で声が響いた。

 

『…………相棒。一応今回は左腕を払う前だったから、左腕はだいじょうぶだ。なんというか……、ガンバレ……』

 

「うぅうううんっ……! ドライクぅううううううっ!!」

 

 イッセーは泣いた。

 

 会場の悪魔たちが視線を集めてきたが、関係ないしに一誠は泣いた。

 

 始め声をかけた時にかなり高圧的だった、ドライグの声音が優しい。まるで慰めるような声音で、ライザーに勝利する秘策であった左腕をドライグに払い力を得る前に、すべてが終わってしまった事に、イッセーは左腕を抱きながら泣いた。

 

 そして、そんなイッセーの様子をオカルト研のメンバーは勘違いして微笑ましい眼差しで見ていた。

 

「イッセーくん、本当に部長が助けられて嬉しかったんだね」

 

「あんなに喜んで」

 

「涙もろいんですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<グレモリーとフェニックスの両家の父親>

 

 

「フェニックス卿。今回の婚約、このような形になってしまい、大変申し訳ない。無礼承知で悪いのだが、今回の件は――」

 

「みなまで言わないでください。グレモリー卿。純血の悪魔同士、いい縁談だったんだが、どうやらお互い欲が強すぎたようだ。私のところもあなたのところもすでに純血種の孫がいる。それでもなおホッしたのは悪魔ゆえの強欲か。それとも先の戦争で地獄を見たからか」

 

「……いえ、私もあの子に自分の欲を重ねすぎたのです」

 

「ブラック・イーター……、いや、神城くんと言ったかな。彼に礼を言いたかった。息子に足りなかったのは敗北だ。アレは一族の才能をあまりに多く過信しすぎだ。これは息子にとってのいい勉強になっただろう。フェニックスは絶対ではない。これを学べただけでも今回の婚約は十分でしたよ。グレモリー卿」

 

「フェニックス卿……」

 

「あなたの娘さんはいい下僕を持った。赤い龍王を宿す者はもちろん、冥界に名を轟かせている魔王や神と同等の力を持つ仮面をつけた賞金稼ぎ、ブラック・プレデター、しかもその隠していた素顔まで晒したのだ。これからの冥界は退屈しないだろうな」

 

「ええ。ほんとうに……、まさか娘の下僕になっていたなんて、わたしも思いませんでしたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、いいぞ、タンニーン。出してくれ」

 

「まったく、俺は元とはいえ六大龍王なんだぞ? たくしーみたいに……」

 

 おお、タクシーを知ってたのか。

 

 まっ、それは今はどうでもいいか。

 

 タンニーンの背中、翼と首の前、レイナーレや黒歌たち他のメンバーは空気を読んで、少しだけ離れた距離で腰をおろし、くつろいでいた。

 

「エイジ……」

 

 膝の上に乗せた部長が小さな声で俺の名を呼んだ。

 

「はい」

 

 返事を返すと、部長はくすっと笑うと笑顔を浮かべた。

 

「あなたってほんとに規格外の眷属よね。冥界の賞金稼ぎって言ってたけど、あなたがブラック・プレデターとは思いもしなかったわ」

 

「俺も元は本当に普通の賞金稼ぎだったんですよ。いまはいろいろ有名になってしまいましたけど」

 

 本当に、始めはただの賞金稼ぎの子供だったんだけどな……。

 

「でも、私を攫ってほんとによかったの? グレモリーとフェニックスだけじゃない、冥界を敵にまわしちゃうかもしれないのよ?」

 

 部長は不安そうに見つめてくる。

 

 俺は会場で宣言した時のように、言った。

 

「あなたのためなら、それでも構いません」

 

「……そう……」

 

 部長は顔を真っ赤にさせると首に腕を回してきた。

 

 目を瞑り、唇が迫る。

 

 俺は逃げずに唇を重ね合わせた……。

 

 柔らかく、温かく、そして部長の存在を強く感じた。

 

 ゆっくりと唇が離れ、部長は唇を指でなぞりながら、微笑んだ。

 

「私のファーストキス。日本では、女の子が大切にするものよね?」

 

 もじもじと少女のように愛らしい部長に俺は笑みを溢し頷いた。

 

「すごく嬉しいです」

 

「ふふっ」

 

 満足そうに微笑む部長に、今度は自分から唇を近づける。

 

 そして、再び唇が重なり合わせた……。

 




 2/18日 シェリーがわからない意見が多く、自分でもキャラがわからなかったので、

 勝手ですが、魔銃持ってる少尉さん(ノエル)に変更しました。


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第17話 黒歌の過去と部長の選択

 

<エイジ>

 

 

 俺は混乱している。

 

 目の前に我らの部長が裸で寝転がっているからだ。

 

 昨夜寝る時には別の部屋だったよな?

 

 突然、「あなたの家に一緒に住ませてもらうわ」って部長が転がり込んできて、最後の空き部屋だった俺の部屋の向かい側に住み始めた。

 

 他にも隠していた仮面を脱いで、冥界全土に顔を出したことで、セルベリアもノエル、時雨も家に転がり込んできたが、それはあとででいいか……。

 

 それよりも、何故部長が裸で、しかも腕枕をしているような状態で寝ているかだ……。

 

 いやっ、部長の大きくてハリのあるおっぱいや、膝に触れるふんわりとしたあっちの毛の感触や、寝息とともに胸にあたる吐息や、鼻をくすぐる部長の匂いが、嫌だと言うわけではない!

 

 むしろ、すごくいいっ! 

 

 のだが……。

 

 それだけじゃここまで混乱しない。

 

 もう一方、俺を挟んで部長の反対側に寝ている雌猫が問題だった。

 

「うにゃ~……」

 

 気持ちよさそうに胸に擦りつきその白く細い指で、胸に抱きついて、ザラザラする舌で胸を舐めてくる雌猫、もとい黒歌。

 

 部長奪還からしばらく姿を見せなかった黒歌が、夕べ帰ってきて、久々にセックスしてそのまま寝たのだが、まさかこんなことになるなんて……!

 

 両手に華。

 

 両脇に巨大マシュマロ。

 

 腰に凶器。

 

 完全にフル勃起してしまっている愚息。

 

 いや、当然の反応をする息子。

 

 さらに部屋のドアが開き、いつものようにメイド服姿のレイナーレが入ってくる。

 

「おはようございます。ご主人さ……」

 

 うん。布団に隠れてるからってバレバレだよな……。

 

 わなわなと肩を震わせるレイナーレ。

 

 そして、薄ら笑いを浮かべ、上品にベッドまでやってくると、部長の頭に手刀を落した。

 

「ふっ、危ないわね」

 

 だが部長。手刀が当たる寸前で、まるで起きていたかのように、いや、ほんとに起きてたかもしれない……。手刀を華麗に交わした。

 

「まったく、無礼なメイドね。ちょっとは空気を読みなさいよ」

 

 部長は再度、胸に抱きついてきてレイナーレを見ながら言った。

 

 レイナーレは笑みを浮かべたままだが、背後に黒いオーラが滲み出てきた。

 

「あなたこそ。突然転がり込んできたかと思えば、ご主人さまの寝室にまで侵入して……。しかも裸でベッドに忍び込むなんて、グレモリー家の女は痴女なんですか?」

 

「わたしは普段寝る時は裸なのよ」

 

 レイナーレの言葉を半ば無視して、俺の胸を優しくなでて、うふっと嗤う部長。

 

 一触即発の空気! 早朝の修羅場! 部長とレイナーレの魔力が渦巻き合い、女の意地とプライドが交差する!

 

 そしてさらに布団を目深にかぶっていたから何とかバレずにやり過ごせるかな~っと、思っていたら、まるで空気を読んでいない、むしろ読むつもりもない声音とともに、黒歌が起き上がった。

 

「うにゃ~……、ふぅっ……、朝からうるさいにゃ」

 

 いつものように裸である事など気にもせずに上半身を起き上がらせ、猫のように背伸びを行い、あくびをかみ殺しながら抗議する黒歌。

 

「黒歌!?」

 

「へっ? 黒歌? ……黒歌!?」

 

 レイナーレが黒歌の名を呼んだことで、部長が目を見開いて黒歌の顔と耳を見て、一気にベッドから距離をとった。

 

「何故あなたがここにいるの!?」

 

 戦闘態勢を取り、手に魔力を集中させる部長。

 

 すみません部長……、不謹慎ですが全部見えてます……。足を開いてるからオマンコも口を少し開いてるし。

 

 えっと……、黒歌が高ランクのはぐれ悪魔だから警戒してるのか?

 

「まさか、はぐれ悪魔となった黒歌がいるなんてね」

 

「リアス・グレモリー……」

 

 まるで軽蔑しているような視線で黒歌を睨む部長。

 

 バツの悪そうな顔を浮べ、後ろめたそうな表情の黒歌。

 

 その様子にレイナーレまでも萎縮してしまった。

 

 不穏な空気の部長と黒歌……。

 

 2人の間になにかあったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寝室で固まっておくのも不毛なので、お互いにいったん落ち着いて、身支度を済ませ、まずは朝食を摂った。

 

 テーブルの端に俺、左側に黒歌、ノエル。右側にリアス、セルベリア。そして俺の向かい側にレイナーレが座った。

 

 時雨は昨日から用事で留守だ。

 

 食後のお茶を飲みながら、不機嫌な部長は話を切り出した。

 

「さてと、それじゃあ説明してもらいましょうか。黒歌がなんでここにいるのかを」

 

 黒歌は普段の陽気な雰囲気を見せずに、言い難そうに話し始めた。

 

「……私は昔、当時主だった悪魔を殺して、白音と別れたあと、悪魔たちの追ってに深手を負わされたのにゃ……」

 

 白音? 誰だそれ?

 

「深手を負って死に掛けた時に、エイジが助けてくれたの。そして私はエイジの使い魔になったのにゃ」

 

「そう……」

 

 部長は目を伏せた。

 

 そして部長はもう一度黒歌を瞳を真剣な眼差しで見る。

 

「あなたのおかげで小猫……、白音がどれだけ傷ついたと思っているの?」

 

 黒歌の表情が曇る。

 

 っていうか小猫? 白音?

 

 話的には小猫ちゃんは黒歌の関係者、肉親のようだな。

 

「それは……」

 

「あの子と私と出会ったとき、処分されかかっていて、生きる意志も笑顔も失っていたのよ。あなたが力を暴走させて主を殺した所為でね」

 

「…………」

 

 主殺し。

 

 黒歌が指名手配された理由だったはず。

 

 だが黒歌がただ主を殺すわけがないと思う。

 

『白音』という、小猫ちゃんの以前の名前を出された時の黒歌の顔は悲しそうだった。

 

 何か理由があったはずだ。

 

「とりあえず黒歌がなぜ主を殺したか理由を聞いてみませんか?」

 

「理由?」

 

「ええ。黒歌が理由もなくそんな事をするとは思えませんし、俺も主を殺したぐらいしか聞いていなかったので」

 

「……それもそうね」

 

 全員の視線が黒歌に集める。

 

 黒歌はゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後――。

 

 黒歌はすべてを語った。

 

 もともと黒歌は、妹であった白音(小猫ちゃん)と2人で生きていたところに、猫魈(ねこしょう)の能力を欲しがる悪魔に、小猫ちゃんを人質に無理矢理下僕悪魔にされたそうだ。

 

 黒歌は下僕悪魔として働いていたが、主だった悪魔が小猫ちゃんを仙術に目覚めさせようとしたそうだ。

 

 仙術は危険なもので、黒歌は幼い小猫ちゃんに仙術の修行をつけるのを、拒否したそうだが、主の悪魔は無理矢理にでも仙術を習得させようとした。

 

 黒歌の中で今までの恨みが爆発。小猫ちゃんを守るためにも、主だった悪魔を殺害したそうだ。

 

 そして主殺害後、小猫ちゃんを連れて逃げたが、追っ手に破れ、小猫ちゃんと引き離され、自分が生き残るために冥界から人間界へと逃亡。

 

 追っ手に深手を負わされたところを、少年だった俺と出会った。

 

「……そう、だったの……」

 

 話を聞き終えた部長は小さくため息を吐いた。

 

 黒歌は涙を溜めたまま言う。

 

「私は、結局白音を守れなかったにゃ……」

 

「…………」

 

 部長の表情が重く、硬い。

 

 黒歌がすべて悪かったわけではないと分かったからだろう。

 

 だが部長は小猫ちゃんの現在の主として言った。

 

「あなたが全て悪いわけじゃないことは分かったけど。……小猫にはまだ会わせられないわ。あの子は、あなたの所為で自分に流れる猫魈の力が嫌いになっているの。トラウマともいえるほどにね」

 

「……それは分かってるにゃ」

 

「それならいいわ」

 

 部長は話は終わりと壁にかかっている時計を見た。

 

 8時30分。

 

 もうすでに学園は始まっている。

 

 完全な遅刻だった。

 

「ふぅ……、エイジ。とりあえず学校に行きましょう」

 

 部長は立ち上がり鞄を持った。

 

「……そうですね」

 

 俺も立ち上がる。

 

 そして黒歌の席まで近づいた。

 

「エイジ……」

 

 悲しげに見上げる黒歌。

 

 その黒歌の頭を優しく撫でる。

 

「話してくれて嬉しかった」

 

「エイジぃ……」

 

 涙を流しながら腰に抱きついてきた。

 

 慰めるように抱き絞め返した。

 

「エイジ。早く行くわよ」

 

 不機嫌全開の部長。

 

 や、やきもちか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒歌とレイナーレたちを家に残して、俺は部長と通学路を歩いていた。

 

 部長が隣に並び、腕に抱きついてくる。

 

 部長のおっぱいが腕に当たるのは気持ちいいんだけど……。

 

「部長……」

 

「なにエイジ?」

 

「黒歌が、小猫ちゃんにしてしまった事は許されない事だと思いますが、あまり黒歌を嫌わないでください」

 

「…………。……でも、また裏切るかも知れないわよ?」

 

 部長の問いに、俺は自信と確信を持って応える。

 

「それはないです。黒歌はもちろん、レイナーレも裏切りません」

 

 部長は驚いたように目を見開いた。

 

「なぜそんな事が言えるの?」

 

「そりゃあ、2人とも俺の使い魔とメイドですから」

 

 笑顔で断言する。

 

「……そう」

 

 部長は考え込むような素振りを見せた。

 

 それから学校の校門まで無言で歩くが、校門を潜ったところで部長は言った。

 

「黒歌の事はまだ小猫には言わないで。時期を見計らって話し合いの場を設けるから」

 

 部長は黒歌と会わせないとか、犯罪者のはぐれ悪魔を放っておけないとは言わなかった。

 

 まったく……。美人で、物分りがよくて、優しくて、ありがたいね。うちの主は……。

 

「わかりました」

 

 俺は笑顔で頷いた。

 



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第18話 エイジの神器ってなんだんだ?

 

<エイジ>

 

 

 黒歌の存在が部長にバレて数日。

 

 仲が良いいとは言えないが、黒歌を敬遠したり軽蔑する事はなかった。

 

 さらに適応能力というか、処世術というか、レイナーレはもちろん、セルベリアやノエル、時雨とは少しずつ仲良くなっているみたいだ。

 

 ……が、今はそれは別にいい。

 

 それよりも、目の前の事だ。

 

「ん……、ぅん…………」

 

 そう。

 

 まただ……。

 

 なんで部長が俺のベッドで、また裸で寝てるんだ!?

 

「ぅん……」

 

 部長の瞳がゆっくりと開き始めた。

 

「ぶ、部長……?」

 

「あら? おはようエイジ」

 

 気にした様子もなく笑顔で挨拶してくる

 

「おはようございます。部長……、なんでまた裸でベッドの中に?」

 

「私は寝る時裸なの」

 

 いや、だから?

 

「嫌なの?」

 

 上目使いの部長。

 

「嫌じゃないですよ」

 

 そう、嫌なわけじゃない!

 

 むしろ気持ちいい! もっと抱き合っていたい!

 

 でも……。

 

「正直言うと生殺しなんですけど……」

 

 おいしそうな処女とベッドインしていて、手を出せないのは辛いんだけど……。

 

「ふふふ、私は別に構わないわよ?」

 

 妖艶に微笑む部長。

 

 …………。

 

「そうですか」

 

「あら? エイジ」

 

 部長の胸に顔を埋め、腰を擦り付ける。

 

「ん……。ちょっと、エイジ?」

 

「襲っていいのなら、襲わせてもらいます……」

 

 ぺろっ。

 

 部長のおっぱいを舐める。

 

「おいしいです」

 

「あ……、んっ、こ、こらぁ……」

 

 部長のピンク色の乳首がゆっくりと勃起し始め、くすぐったさそうに部長の体が、胸が揺れる。

 

 さらに密着を高めて腰を擦り付けると、

 

 ぴとっ。

 

「あんっ、す、すごく熱い……、こ、これって……?」

 

 ペニスが部長の太ももに触れた。

 

 ペニスに驚いている部長をよそに、俺は乳首を咥えながら、オマンコのスジをなぞる様に、ペニスを前後に擦る。

 

「んっ、やだ……、どこに擦り付けて……」

 

 腕のなかでもがく部長だけど、今回は逃がさない。

 

 ああ……、割れ目から少し愛液が染み出し始めた。

 

 むっちりしてて、スベスベで、ペニスに吸い付く部長のオマンコ。

 

 最高だな!

 

 スリスリと腰を前後に動かしながら、口に咥えた乳首に吸いついた。

 

「はぁ……、はぅんっ……、そんなに私のおっぱいがおいしいの?」

 

 母乳はでないけど、肌や汗の味、部長の甘い声が美味しいと感じさせる。

 

 おいしいですと伝えるため、口を大きく開けて乳首に強く吸い付いた。

 

「あっ、つ、強く吸いすぎよ」

 

 部長の両腕で俺の頭を抱いて優しく撫でる。

 

 まるで母親のように頭を撫でてくるが、乳首を虐めてあげると女のいやらしい吐息を口から紡ぐ。

 

 部長のマンスジをペニスで擦っていると、じっとりとした湿り気を帯びてきた。

 

「はぅっ……、え、エイジぃ」

 

 部長もしっかりと感じているようだ。

 

 甘い声の部長。すごく可愛らしくて厭らしいです。

 

「可愛いな」

 

 俺にもスイッチが入ってきた。

 

 脳内に、

 

 犯せ! 犯せ! 犯せ! 犯せ!

 

 と声が鳴り響いた。

 

 オマンコのスジを大きく広げ、竿を擦りつけ、腰を抱いておっぱいに何度も喰らいついく。

 

「あ、あああ……、ああっん」

 

 部長の体がビクビクと震える。イッたようだ。

 

 絶頂する姿も綺麗だな……。

 

「えいじぃ……」

 

 おっぱいから顔を離して部長の顔を見ると、うっとりと潤んだ瞳を向けて甘い声で俺の名を呟いた。

 

 こ、これは許可してくれたって事でいいんですよね?

 

 部長に覆いかぶさり唇を交わす。

 

 柔らかいぷるぷるの唇を割って、舌を侵入させても、舌を絡めても部長は抵抗しない。

 

「うむっ……、ぁうう……、うむ……っ」

 

 部長の唾液……。ほんのり甘くて、興奮する。

 

 俺の唾液を部長がおいしそうに啜る。お互いの唾液を混ぜあいながらからめていく。

 

 そして十二分に堪能してから唇を離して、部長の名を呼ぶ。

 

「リアス……」

 

 名を呼ぶと部長は嬉しそうに笑顔を浮べ、もじもじとしたあと小さく、

 

「いいわよ……」

 

 っと呟いた。

 

 これはヤバイ……!

 

 破壊力抜群だ!

 

 あの麗しい部長と今の可愛らしい部長とのギャップが俺を昂ぶらせた。

 

 ぐちゅり……。

 

 亀頭と膣口がキスを交わす。

 

「あんっ」

 

 ペニスに驚く部長。すごく可愛らしいです!

 

 ぎちぎちっ。

 

「あうううっ……!」

 

 亀頭が部長の膣口をいっぱいに拡げ、部長は痛みで悲鳴を漏らす。

 

 すみません部長! 俺、もう止まれない!!

 

 亀頭の先端が部長の処女膜を捕らえた。

 

 結構硬めの処女膜だ。

 

 あんまりオナニーとかしていないみたいだし、膣口も痛々しいほど広がっている。

 

 まあ、最初はすごく痛いと思いますが、きっちり責任とって気持ちよくするんで、ちょっとだけ我慢してくださいっ。

 

 あと1cmでも腰を進めれば処女膜が散るッ!

 

「いきます」

 

 部長の瞳を見て言うと、部長は瞳に涙を浮かべて頷いてくれた。首に手を回して挿入を受け入れる。

 

 これでリアス・グレモリーの処女は俺のモノだ!

 

 腰を進めて処女をいただこうとしたその瞬間――。

 

「そろそろ朝食の時間なんですが」

 

 っというまるで空気の読めていない声がかかった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 無言で固まる俺と部長。

 

 ぎぎぎぎぎっと機械のようにゆっくりと真横に視線を向けると、笑顔のレイナーレが立っていた……。

 

「レイナーレ!?」

 

 部長がばっと後に腰を引いてペニスが処女口から吐き出される。

 

 ああ……、もう少しだったのに……。

 

 部長はベッドの端まで移動すると、真っ赤になってキッとレイナーレを睨んだ。

 

「くっ、空気ぐらい読んで欲しいんだけど?」

 

 動揺を隠しきれていない、少し裏返った、かなり不機嫌な声。

 

 不謹慎ながらその反応がちょっとだけ嬉しく思えた。

 

「もうしわけありません。ですが、すでに朝食のお時間です。それに、また学校に遅刻されないように気を利かせたんです」

 

 まったく謝る気がなさそうで、薄っぺらいニコニコ笑顔のレイナーレ。

 

 最近ご奉仕してもらってないからな。

 

 溜まってるのか? それとも嫉妬してくれてる?

 

 まっ、どっちにしろ部長の処女はお預けか。

 

「せっかく勇気出したのに……」

 

 部長! 小声ですけどばっちり聞こえてます! また今度、チャンスがあればぜひセックスしましょう!!

 

 部長は薄っすらドアを開けて、部屋の様子を覗いていた黒歌たちにも気づいて顔を真っ赤にさせて、慌てて着替え始めた。

 

 レイナーレたちが一階に降り、部長が最後に部屋から出て行こうとした時。部長は俺の目の前まで来て頬へキスをすると耳元で、

 

「また今度ね」

 

 と囁いてから部屋から出で行った。

 

 ……ヤバすぎますよ部長。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

「497……、498……、499……、500っ!」

 

 腕立て500回終了! 次は腹筋500回だ!

 

「1……、2……、3……、4……、5……」

 

 ライザーにボロ負けしてから、俺は毎日努力を続けていた。

 

 俺も部長を助けに行ったが、俺がライザーに勝つことが出来たのか?

 

 婚約パーティーでドライグに左腕を払い、  禁 手  (バランス・ブレイク)という裏技を使い、さらに悪魔の弱点をついたとしても、五分五分か、俺が負けていたと思う。

 

 結局部長はエイジに助けられたけど、自分で助けられなかったのが悔しかった。

 

 もしも今度また強敵が現れたら、今のままの俺じゃあ、また何も守ることさえ出来ないだろう。

 

 腹筋しながら婚約パーティー以来、俺のトレーナーになってくれた『赤龍帝の籠手』に宿るドライグに声をかけた。

 

「なあ、ドライグ」

 

『なんだ? 相棒』

 

「お前が言ってた白い龍――。バニシング・ドラゴンってのはやっぱり強いのか?」

 

 悪魔と神と堕天使が争っていた大昔の大戦の時に、ドライグと喧嘩したという白い龍。歴代のドライグの宿主は宿命のように殺しあってきたそうだ。

 

『ああ、ヤツは強いぞ。俺と反対の能力を持っている反則のようなヤツだ』

 

 ドライグの能力である『倍加』の反対って事は、能力を半分にする力って事だよな?

 

『ヤツは必ずと言っていいほど、俺たちの現れるだろうな。そのとき殺されないように修行に励んでくれ』

 

 ドライグが俺の中でふっと笑ったように感じた。

 

 まったく人事みたいに言いやがって!

 

 だが、俺の目的もあるからな!

 

「強くなって、強くなって部長やアーシアを守れるようになって! 独り立ちしてハーレム作ってハーレム王になる! そのためには日々の努力だよな!」

 

『…………』

 

 ドライグは黙り込みやがったが、関係無しに俺は語る。

 

  禁 手  (バランス・ブレイク)の発動時間はまだ10秒もないし、発動してから3日間は神器を使えなくなるけど、これから修行して極めれば俺でも一時的にでも魔王クラスを超えられる! 俺は強くなって部長やアーシアの乳首を吸うんだ!!」

 

『…………そ、そうか』

 

 呆れているかもしれないが、これが俺だ!

 

 っていうかバランス・ブレイクは、左腕を差し出す対価だったけど、なぜか使えるようになっていた。

 

 まあ、発動出来るだけで最初は5秒だったけど……。

 

 だが、修行して今はもう10秒は耐えられるようになっている!

 

 この調子で地道に基礎を上げて強くなってやるぜ!

 

「203、204、205、206! うぉおおおおおおお!! やってやるぜぇっ!!!」

 

 一気に速度を上げる! 待ってろ俺のバラ色人生!!

 

『ふっ、ガンバレよ、相棒』

 

「ああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

「ふぃ~、終わったぁあああ……」

 

 深夜、普段のように悪魔の仕事をこなした俺はオカルト研の部室へと転移した。

 

 悪魔の仕事というのは、アレだ。

 

 女性を癒すお仕事だ。

 

 以前部長がわたしの眷属の仕事じゃないと、依頼を断り、俺の仕事は木場みたいな健全なデートとかになったんだが、数日もしない内に俺の代わりに入った悪魔を通して何十件もクレームがグレモリー家によせられたようで、部長は強張った表情で、

 

「断腸の思いだわ……」

 

 と呟いたあと、俺の同意の下サキュバス……、いや、男だからインキュバスか?

 

 とりあえず、女性を主に体で慰める仕事を毎日2件ほど請け負っている。

 

 まあ、これでも少なくなったほうなんだけどな。

 

 あと部長からゴムとピルとアフターピルを支給してもらい、さらに、生禁止。したとしても原則外に出すように命令されてる。

 

 部長はやはり好きな人に依存するタイプのようで、俺や眷属悪魔を他人に触られるのをあまり好きではないようだ。

 

「お疲れみたいだね」

 

 イケメン木場が人事のようにスマイルを向けてきた。

 

 女性の香水の匂い……。こいつもデート系の依頼だったのか。

 

「とりあえず、香水臭いぞお前」

 

「そうなんだよね。一応消臭したんだけどまだ臭いが残ってるんだよ。エイジくんもデートの依頼だって聞いていたけど、ぜんぜん臭わないね?」

 

 ああ、【浄化】魔法で一発消臭できるし、他の女の臭いをつけて家に帰ったりするのは失礼だからな。

 

 まっ、木場も同じ下僕悪魔だし、優しくしておくか。

 

 【王の財宝】を発動させる。

 

「ほら、特性の消臭スプレーだ。1回吹きかけるだけで、自分の臭いもリセットしてくれる優れものだ。とりあえず、詰め替えも3つ付けてやる」

 

 見た目ファ○リーズの消臭剤を渡した。

 

「いいのかい?」

 

「ああ。普段男なんぞに優しくしないが、同じ下僕悪魔だし、初回はサービスしといてやる」

 

 受け取った木場は爽やかな笑顔で礼を言う。

 

「ありがとう、エイジくん」

 

 ソファーに座っていると朱乃さんが笑顔で紅茶を差し出してきた。

 

「お疲れ様です」

 

「ありがとうございます、朱乃さん」

 

 ああっ、朱乃さんの紅茶っ! すっごく美味くて癒される! マジで癒されますよ朱乃さん!

 

「ところでエイジくん、ご存知?」

 

 朱乃さんがなにやら訊いてくる。

 

「なんでしょうか?」

 

「最近、部長ったら恋愛マニュアル本を読んでいるんですよ」

 

「恋愛マニュアル本?」

 

 復唱しながら机に座った部長を見ると、部長は真っ赤になっていた。

 

「な、なに言っているのよ朱乃!」

 

「あらあら。怒っちゃいましたわね」

 

「な、なによエイジ……」

 

 部長が顔を赤らめたまま睨んできた。俺の口から自然と同じ言葉が紡がれてしまう。

 

「恋愛マニュアル本……」

 

 かああああ……っと髪の色のように耳まで紅色に染まった。

 

「あ、あなたとは関係ないんだからね!」

 

 つんっ。

 

 そっぽを向く部長。

 

 まさかツンデレ!?

 

 なんとも言えない空気の中、部室の魔法陣が光りだした。

 

「お疲れ様でーす!」

 

「お疲れ様です」

 

 久々に二人組みで仕事に出ていたイッセーとアーシアだった。

 

「お疲れ様です」

 

 さらに後から同じく仕事に出ていた小猫ちゃんが戻ってきた。

 

 3人は部長に契約の報告を行い眷族が全員そろった。

 

「さてと……、今夜の仕事はこれで終わりだけど、エイジ」

 

 部長が俺の名を呼び、全員の視線が一点に集まった。

 

「そろそろ全部話してもらうわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部長からの前々の要望。

 

 俺の正体と、仲間達の話を部員全員の前で話すという事だった。

 

 婚約パーティー直後に話すことになっていたが、イッセーが突然、

 

「不完全ですが  禁 手  (バランス・ブレイカー)が出来るようになりました~」

 

 という発言と、黒歌のことでうやむやになっていたが、とうとう話す時期がきたか……。

 

 雰囲気を出すためにも、戦闘用の冥界に知れ渡っている衣装に変身して、ソファーに座る。

 

 部長と俺が向かい合い、部長の後にイッセーたちが立つという、なんとも言えない仲間はずれ感がするが、仕方がない。

 

「さてと……、なにから話せば?」

 

「……そうね。もともとただの賞金稼ぎだった事は本当なんだし……」

 

 そうですよね~。賞金首を狩っていく内に冥界の悪魔たちに【黒い捕食者】っていう通り名が定着して、勝手に創作の題材にされて有名になっただけだからね。

 

 もう2、3通り名があったけど、それはいまはいいか。

 

「それなら能力や特殊な武器について話してもらうのはいかかですか?」

 

 朱乃さんがフォローを入れた。

 

「それもそうね。とりあえず、能力からね。ライザーを倒した武器はほんとに神器じゃないの?」

 

 まっ、これ以上隠す理由もないから正直に話すか。

 

「分かりました」

 

 俺は【王の財宝】の本体とも言える黄金の扉を背後に展開する。

 

「黄金の門!?」

 

「すごい魔力ですわ……」

 

 部室の天井を軽く突き抜けているが、霊体なので大丈夫!

 

「この門は俺の魂が今までに集めたり、創造した武器や防具、道具など、様々な物が納められているんです」

 

「魂が?」

 

 そう……。

 

 俺が収集したり作成した、とんでも物質が数えきれないほど納められている。

 

「俺の魂はいくつもの世界を渡り、力を蓄えていく、言うならば俺の魂自体が神器ですね」

 

「魂自体が神器……」

 

 とりあえず、【王の財宝】を消す。

 

「世界を渡りながら収集する……。だから聖剣を持っていたのね……」

 

「聖……、剣……!?」

 

 小声で漏らした部長が言葉を木場が聞いた途端、俺を鋭い視線で木場が睨んできた。

 

「どうした?」

 

「エイジくん……。キミは聖剣を持っているのかい?」

 

 部長と朱乃さんが苦い表情になった。

 

 俺はそんな事特に気にする事もなく肯定した。

 

「ああ。聖剣も納められているな」

 

「――っ!!」

 

 木場が手に魔剣が出現した。

 

 確かライザーとのレーティングゲームで言ってたっけ、様々な魔剣を作り出せる  神  器  (セイグリッド・ギア)、【 魔剣 創造 (ソード・バース)】だったけか?

 

「祐斗!?」

 

「木場!?」

 

「祐斗先輩!?」

 

 部長たちが突然剣をとった木場に驚き声を上げた。

 

 小猫ちゃんまで驚いてるよ木場……。

 

「どうしたんだ?」

 

 木場に尋ねると憎しみに燃えた視線を俺を睨んできた。

 

「僕は聖剣を許せないんだ」

 

 だからなに? っていうか話が読めない。

 

 とりあえず……。

 

「俺の聖剣は破壊させないっていうか、破壊不可能の品ばかりだ。それに、歴代の俺が苦労――したかわらないが、収集したり、創りだした物を、『嫌いだから』で壊されるのは嫌なんだが」

 

「っ……」

 

 木場の手から魔剣が消える。

 

 ふぅ……。

 

 ため息を吐いて説明する。

 

「あと、一応言っておくが、俺の持っている聖剣はすべてこの世界の物じゃないぞ。俺はこの世界で収集も作成も行っていないからな」

 

「この世界の物じゃない……。僕が追っている聖剣とは違うのか……」

 

 立ち尽くす木場にイッセーが訊く。

 

「いったいどうしたんだよ木場! お前らしくないぞ?」

 

 木場の反応は薄く、暗い表情でイッセーを無視すると、

 

「すいませんでした。今夜は帰らせてもらいます。…………エイジくん、ごめん」

 

 と木場は転移して帰ってしまった。

 

「いったいどうしたんだ木場は?」

 

 イッセーが首を傾げる。

 

「さあな。聖剣になにか恨みでもあるんだろう」

 

 それから結局話はお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木場の事を家で部長に尋ねてもよかったが、木場がいない間、しかも俺だけが聞くような話題ではなさそうだったので、訊きはしなかった。

 

 それよりも、毎晩ではないが、度々裸で添い寝してくる部長を我慢する事が大変だった……。

 

 本番はまだダメだと言われたが、愛撫程度なら許してくれたのは僥倖だった。

 

 ベッドの中だけじゃなく、最近お風呂まで突入して、よく背中を流してくれるレイナーレやセルベリアたちといがみ合ったりして、毎回背中を洗う権利を獲得するためのじゃんけん大会が開かれていた。

 

 裸でじゃんけん大会……。眼福だったなぁ……。

 

 それに2人っきりの時には、色々触らせてくれる。

 

 おっぱいを揉んだり、乳首を吸わせてもらったり、たまにだけど、オマンコも触らせてくれる。

 

 セックスできないのは生殺しで辛いが、触らせてくるだけでも感謝しないと!

 

「エイジは甘えん坊ね」

 

 ちゅうちゅうと夢中になって部長の乳首を吸っていると、頭を優しく撫でられた。

 

 女のおっぱいの前では男はみんな子供になるのさ!

 

「あぅっ、ふふふ、赤ちゃんみたいね」

 

 乳首を中心に大きく咥え込んではむはむと、おっぱいを食べるように口を動かし、舌で乳輪をなぞると、部長の乳首がビンビンに勃起していることがよく分かる。

 

 乳輪の中心にそそり立って、舌で押すと部長の口から、

 

「ぃやん」

 

 っと可愛らしい声が漏れる。

 

 ああ、本当に愛らしい! 早く部長の処女が……、っていうか部長が欲しいが我慢だ!

 

「ぁあん……、いいわぁ……」

 

 そう! 今は(・・・)我慢だ!!

 

 黒歌たちと愛し合って精を発散してるが、部長は部長で個別に性欲が溜まるから、犯したいのを我慢するのはかなり辛い!

 



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月光校庭のエクスカリバー
第19話 聖剣事件


 

<エイジ>

 

 

 オカルト研では現在、部活対抗の球技大会へ向けての練習を続けていた。

 

 イベント好きのリアス部長が球技大会優勝という目標を掲げたからだ。

 

 まあ、悪魔のスペックがあれば人間の球技大会ぐらい楽勝なんだが、部長が、

 

「頭で分かっていても体で覚えないとダメ」

 

 と種目がまだ明かされていないのに、目ぼしい球技の練習を行っていたのだ。

 

 部員全員参加で練習しているのだが、最近木場の様子がおかしい。

 

 練習に身が入っていないどころか、一日中ずっと空を見つめたり、ボーッとしていたりと、上の空だ。

 

 聖剣の話をしてからだから、なんか俺がやっちゃったようで、物凄く後ろめたいんだけど。

 

 いや、俺が悪いわけじゃないんだけどね……。

 

「エイジ~。部室行くぞ」

 

 昼休み、食事を終えてアーシアを呼びに行っていたイッセーが、俺の席まで呼びに着た。

 

「ああ。すぐに行く」

 

 俺はケータイを閉じて席から立ってイッセーたちと合流し、球技大会の練習へ向かう。

 

 はぁ~、なんで昼休みまで練習なんだろう……。

 

 ライザー戦で負けてから以降、部長って勝負事に対して勝つことに執着している様にみえる。

 

 旧校舎に入ったところで、部室に悪魔の気配を感じた。

 

 え~と……、1人は支取(しとり) 蒼那(そうな)先輩だな。

 

 俺のセンサーが反応しないところを見ると、もう1人は男。

 

 支取先輩には以前ストーキング……、今思えば眷属候補として狙われていたし、美人だから魔力の感じで誰かを特定できるようになったからな。

 

 さて、そろそろオカルト研の部室だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<リアス>

 

 

 昼休み。私は学園の『表』の支配者であるシトリー家の次期当主で、私の親友でライバルのソーナと、お互いの新人悪魔の顔合わせをするために、オカルト研の部室で、エイジたちが来るのを待っていた。

 

「リアス。だからなんで『ブラック・プレデター』が、『兵士』の駒1個で下僕にできるのよ?」

 

「う、運がよかったのよ……」

 

 いつもの3倍増しの鋭い眼光で私を睨んでくるソーナ……。

 

 そう言えば、ソーナって『ブラック・プレデター』の大ファンだったわね。よくアニメとか観てたし、フィギュアとかも持っていたはず。

 

「かか、会長?」

 

 ソーナの体から魔力が漏れる。

 

 ほら、あなたの新人悪魔も戸惑っているわよ!

 

「私がもっと早く手を出していれば……」

 

 小声でブツブツ同じ言葉を呟くソーナ。

 

 いつものクールなあなたはどこへ行ったの!?

 

 新人悪魔の男子生徒が恐る恐る言った。

 

「会長、神城エイジってブラックリストに載ってるぐらいの問題児なんですから、どっちにしろ生徒会に引き込むことは出来なかったんじゃないですか?」

 

 ブラックリスト? 問題児?

 

「ソーナ。そのブラックリストって?」

 

 話題を代えるためにもソーナに訊く。

 

 ソーナはふぅと、息を吐いて心を落ち着かせるとゆっくりと口を開いた。

 

「神城さんがこの町に引っ越して、駒王学園に入学する前の話しなんですが、神城さんは隣町の中学校で色々と問題を起こしていたそうなんです」

 

「も、問題!?」

 

「ええ……。それで私も眷属にしようか悩んだのです」

 

 ソーナは駒王学園の生徒会長として、問題児を生徒会に入れるわけにはいけないからね。

 

「その問題って?」

 

「それが……」

 

 ソーナの頬がわずかに赤くなり、言い難そうに顔を背けた。

 

 ソーナのリアクションでなんとなく予想がついたわ……。

 

「不順異性交遊の常習犯として、物凄い問題児だったんです……」

 

 …………やっぱり。

 

「あらあら」

 

 朱乃はいつものように微笑んでいるけど、私は苦笑い。

 

「調査によると、彼は小学6年生ぐらいからある筋では有名だったらしく、中学校ではその……、100人以上の女性と不順異性交遊をしている、っという噂があったのです」

 

「くそぅっ! ほんとにうらやま……」

 

「サジ」

 

「……すみません」

 

 新人悪魔の男子生徒ってイッセーに似ているわね……。

 

 まっ、それよりも。

 

「あくまで噂なの?」

 

「ええ、噂なんです。行為自体行っていたのは事実だったらしいのですが、決定的な証拠がなくて処罰などはされなかったんです」

 

 魔王級の能力があれば証拠を消したり、教師にも暗示をかけれるから、捕まらなかったのかしら?

 

 悪魔の仕事とはいえ仕方無しに、エイジに男娼まがいな事を黙認する時や、他の女と仲良くなるのはすごく遺憾だったけど、ここまでくると呆れて怒りも湧かないわ。

 

「それに駒王学園でも1年前から度々噂がででいたんですが、最近特に噂が大きくなっていて……。繁華街などでもちらほらそういう噂もあったので、有望株だったんですが、眷属に勧誘しようかと迷っていたんです」

 

 そこでソーナは爪を噛む。

 

 ソーナ、すごくイライラしてるわね。

 

「まったく、まさかブラック・プレデターだったなんて……」

 

 ソーナが恨めしいそうな目線を送ってくる。

 

 まあ、魔王級が『兵士』の駒の1個で手に入ったんですものね。しかも、ソーナが大ファンだったブラック・プレデターを手に入れたんだから、羨ましいんでしょう。

 

 まあ、私が逆の立場だったらソーナみたいに羨ましがったり、悔しいと思ったと思うわね。

 

 それから数分後。イッセーとアーシアと供にエイジが部室に入室してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 オカルト研の部室へ着くと、オカルト研メンバーの他に、やはり支取先輩と男子生徒がいた。

 

「せ、生徒会長……?」

 

 ソファーに座る支取先輩を見たイッセーが震えた声で呟いた。

 

 まあ、学園でリアス部長、朱乃さんに続く3番人気の美少女だからな。

 

 イッセーがだらしない笑顔で眺める理由も分からないわけでもない。

 

「なんだ、リアス先輩。もしかして俺たちのことを兵藤や神城に話していないんですか? 同じ悪魔なのに気づかない方もおかしいけどさ」

 

 えっと……、こいつ誰だっけ? 立ち位置からして生徒会のメンバーとか? 

 

 男子に生徒会長が静かに言う。

 

「サジ、基本的には『表』の生活以外ではお互いに干渉しない事になっているのだから仕方ないのよ。ブラック……、いえ、神城くんは別として、兵藤くんとアーシアさんは悪魔になって日が浅いわ。兵藤くんは当然の反応をしているだけ」

 

 イッセーが驚愕する。

 

 って気づかなかったのかよ!?

 

 いや、まあ、気づかないだろうな……。

 

 驚愕しているイッセーに朱乃さんが説明する。

 

「この学園の生徒会長、支取蒼那さまの真実のお名前はソーナ・シトリー。上級悪魔シトリー家の次期当主さまですわ」

 

 上級悪魔……。

 

 リアス部長はパワータイプ、支取先輩はテクニックタイプで総合的な力量は部長と同じぐらいかな?

 

 朱乃さんがさらに説明した。

 

「シトリー家もグレモリー家やフェニックス家同様、大昔の戦争で生き残った 七十二柱 (ななじゅうふたはしら)のひとつ。この学校では実質グレモリー家が実権を握っておりますが、『表』の生活では生徒会――、つまり、シトリー家に支配を一任しております。昼と夜で学園での分担を分けたのです」

 

 生徒会の男子生徒が再び口を開く。

 

「会長と俺たちシトリー眷属の悪魔が日中動き回っているからこそ、平和な学園生活を送れているんだ。それだけは覚えておいてくれてもバチは当たらないぜ? ちなみに俺の名前は(さじ) 元士朗(げんしろう)。2年生で会長の『兵士(ポーン)』だ」

 

「おおっ、同学年で俺たちと同じ『兵士』か!」

 

 匙はため息をついた。

 

「俺としては、神城はともかく、変態3人組の1人であるおまえと同じなんてのが酷くプライド傷つくんだけどな……」

 

「なっ、なんだと!」

 

「おっ? やるか? こう見えても俺は駒4つ消費の『兵士』だぜ? 最近悪魔になったばかりだが、兵藤なんぞに負けるかよ」

 

 挑戦的な物言いをする匙だが、会長が鋭く睨む。

 

「サジ。お止めなさい」

 

「し、しかし、会長!」

 

「今日ここへ来たのは、この学園を根城にする上級悪魔同士、最近下僕にした悪魔を紹介し合うためです。つまり、あなたとリアスのところの兵藤くんとアルジェントさんと……、神城くんを会わせるための会合です。私の眷属なら、私に恥をかかせないこと。それに――」

 

 会長の視線がイッセーに向けられる。っていうか、俺のところで何で1回リアス部長を睨んだんだ?

 

「サジ、いまのあなたでは兵藤くんに勝てません。彼は『兵士』の駒を7つも消費した事は知っているでしょう」

 

「そ、それは……」

 

 匙が会長の視線に睨まれて萎縮する。

 

 会長がイッセーへ頭を下げる。

 

「ごめんなさい、兵藤一誠くん。アーシア・アルジェントさん。神城エイジくん……。うちの眷属はあまり実績がないので、失礼な部分が多いのです。よろしければ同じ新人の悪魔同士、仲良くしてあげてください」

 

 薄く微笑みながら会長は言ってくるが、なぜ毎回俺の名前の時に部長を睨むんだ?

 

「サジ」

 

「え、は、はい! ……よろしく」

 

 渋々ながらイッセーに頭を下げた。

 

「よろしく」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 俺に続いてアーシアが屈託なくニッコリしながら挨拶を返す。

 

「アーシアさんなら大歓迎だよ!」

 

 匙がアーシアの手を取り、イッセーの時とは正反対の行動を取る。

 

 なんか緩んだ顔とか、厭らしい手つきの握手とか……、行動がイッセーにそっくりだな。

 

 なんて思っていると、イッセーがアーシアの手から匙の手を引き離し、思いっきり力をこめて握手をした。

 

「ハハハ! 匙くん! 俺のこともよろしくね! つーか、アーシアに手を出したらマジ殺すからね、匙くん!」

 

「うんうん! よろしくね、兵藤くん! 金髪美少女を独り占めだなんて、本当にエロエロな鬼畜くんなんだね! やー、天罰でも起きないものかな! 下校途中、落雷にでも当たって死んでしまえ」

 

 無理に作った笑顔のまま暴言に暴言で返して、手を強く握り合っていた。

 

 まっ、お2人さんは放っておいて……。

 

「これからよろしくお願いします、支取先輩」

 

「え、ええ……、こちらこそよろしくお願いします」

 

 支取先輩の手を取って挨拶を交わす。

 

 おおっ、これは滑らかな肌だ。それに近くで見てもやっぱり美人だな~。

 

「こら、エイジ」

 

 手の感触を楽しみながら挨拶していたら、後から部長に襟を掴まれて引き離された。

 

 無理矢理、部長の隣に座らせられる。

 

「まったく……。あなたは女性がいるとすぐに飛びつくんだから」

 

「一種の病気みたいですわね」

 

 部長が呆れたようにため息を吐き、朱乃さんがうふふっと微笑んだ。

 

 こればっかりは仕方がないんです! 俺は男なんですから!

 

「神城! 会長に手をだそうとするんじゃねぇよ!」

 

 匙がイッセーとのいがみ合いを止めて、俺に殺気をとばしてきた。

 

「サジ。お止めなさい」

 

「でも会長! 神城のヤツは不順異性交遊でブラックリストのトップに載るほどの危険人物なんですよ! その毒牙にかかったらどうするんですか!?」

 

 俺ってブラックリストに載ってんの!? しかもトップ……。

 

「えっと……、匙くん? 俺はそんな見境なく手を出さないよ?」

 

 営業スマイルを浮かべて言うが、匙は止まらない。

 

「何を言ってやがる! お前の悪行は生徒会が把握してるしてるんだよ! 卒業した以前の3年生と、今年の3年生、2年生、1年生とすでに100人以上毒牙にかけておいて、今さら信じられると思っているのか!? しかも、お前隣町の中学生のときも同じく女の子たちを……、うぐぬぬっ……!」

 

 匙がいきなり血の涙を流し始めた。

 

 っていうか匙の言った人数より実際の人数はもっと多い。俺がやってたのは学校だけじゃないし、もともと【黒い捕食者(ブラック・プレデター)】の捕食者って、処女喰いとか美女喰いからきていたんだから。

 

「なにぃぃぃぃぃぃっ! エイジ! それは本当なのか!?」

 

 イッセーが血の涙を流した!

 

 ああ、そう言えばもてるって言ってなかったし、女の話もアニメとかだけだったもんな。

 

「兵藤! この情報は確かなものだ! こいつは……、こいつはイケメン王子こと木場よりたちが悪い捕食者なんだ!!」

 

「お前がそんなヤツだとは思ってなかったぞ!」

 

 イッセーの隣に立って叫ぶ、匙。そして匙の隣に立って左手を俺に向けて叫ぶイッセー。

 

 こいつら、すっかり仲良くなったな……。

 

「大変ですわね、エイジさん」

 

 朱乃さん……。そんなSっぽい瞳で見ないでください……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校の表の支配者であるシトリー眷属との会合から、時は流れ、球技大会当日を迎えた。

 

 種目は『ドッジボール』で、オカルト研は楽勝で優勝したわけだが……。

 

 おかしくなった木場は球技大会本番でもおかしいまま。終始ぼーっとした様子で、球技大会後に部室で部長に頬を叩かれ、怒られてもまったく聞いていない様子で、部活を休むと言って出て行ってしまった。

 

 それから一通り部活を終えてから、部長は俺と、イッセー、アーシアに木場の過去を話した。

 

 木場は『聖剣計画』という研究の被害者で生き残りだったそうだ。

 

 聖剣の使い手を生み出すために、キリスト教内の研究所で実験を受けていたが、ある日突然、『聖剣計画』は打ち切られ当時の被験者だった、木場以外の被験者達は毒ガスで殺されたそうだ。

 

 木場も毒ガスで死にそうになっていたらしいが、偶然イタリア視察に来ていた部長が出会い『悪魔の駒』を与えて、一命を取り留めた。

 

 まっ、実験で体を弄くられた挙句、毒ガスで処分されれば『聖剣計画』を行っていた教会関係者や、実験の基となった聖剣を憎悪するのは仕方がないか。

 

 話を聞き終わり、イッセーとアーシアが先に退出した。

 

 深夜の、無人の校舎の部室に2人っきり……。

 

 おいしいシチュエーションだが、お互いの空気は重い。

 

「私もあなたに注意しておけばよかったわ」

 

 ああ、木場が俺から距離をとっていることですね。

 

「別に部長の所為ではないですよ」

 

 部長は重くため息を吐いて窓の外を見つめた。

 

 おかしくなった木場を心配しているんだろう。

 

「悩んでいても仕方ありませんし、とりあえず今日はもう帰りましょう」

 

「……ええ、そうね」

 

 部長の鞄を代わりに持って、帰路についた。

 

 深夜の帰り道。部長はいつもより体を密着させてきたが、その寂しそうな顔を見ると素直に喜べなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自宅へ帰ると家の明かりはついておらず、テーブルの上にはラップをかけた夕飯が二人分用意されていた。

 

「ああ。そう言えば今日からだったけ」

 

 黒歌とセルベリア、ノエル、時雨がレイナーレを一人前(少なくても中級悪魔ぐらい)に鍛えるために、冥界でみっちり一ヶ月間の修行しに行く日が今日からだった。

 

「2人っきり……」

 

 部長が頬を赤らめた。

 

 とりあえず、風呂はすでに沸いているようだし、夕飯をレンジで温めて2人で食べようとするが、部長がいつになく甘えてくる。

 

 立場が逆転してまるで甘えてくる子供だ。

 

「食べさせてくれないの……」

 

 とかウルウルした眼で呟かれたら従うしかないじゃないですか!

 

 風呂でもベッドでも寂しがりやの子共のように擦り寄って、すごく嬉しい、すごく嬉しいんだけど、理由が木場が心配だからって言うのがなんか嫌だ!

 

 木場がおかしくなって主として不安だから、安心を求めて俺に甘えてくれるのは大歓迎なんだけど、さすがにこのシチュエーションじゃ、処女をもらえない。もいたくない……。

 

 はぁ……。

 

 胸に抱きついて眠る部長を見ると、我慢できそうな気がまったくしない……。

 

 今すぐペニス挿入してぇ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後――。

 

 イッセーの家に昔一緒に遊んでいた友達が久々にやってきたそうだが、その人物が問題だった。

 

 なんでも友達は知らない女性と2人組みで、イッセーの家にやってきたそうだが、二人は教会の関係者らしくエクソシストだったらしい。

 

 そして、その2人が今日の放課後にオカルト研に訪問してくるそうだし、裏では何人もの神父が惨殺されているという情報もあってかなり不吉。

 

 かなりの高確率で面倒事だな。

 

 そして放課後、オカルト研のドアを開けて、白いローブ姿の女性が2名、入ってきた。

 

 う~ん……。

 

 なんか嫌な気配がするな。

 

 2人ともなんか聖なる気みたいなモノが体の一部から感じられる。

 

 テーブルを挟んで入り口側、部長と対面に置かれたソファーに2人が腰を降ろし、眷属メンバーは部長の背後に立った。

 

 部長と朱乃さんが真剣な面持ちで対応していたが、木場の殺気で全て台無しだ。

 

 隠す気などないと憎悪の視線で2人を睨み、殺気を飛ばす。

 

 政治的な話し合いかもしれないから、少しは自重して欲しいが、今の木場に聖剣を所持している俺が言ったところで聞かないだろう。

 

 この混沌とした空気の中、最初にイッセーの幼なじみで教会側の、紫藤(しどう) イリナ(いりな)が話を切り出した。

 

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」

 

 聖剣エクスカリバー。

 

 …………俺、【王を選定する剣(カリバーン)】も【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】も【全て遠き理想郷(アヴァロン)】付きで5本ずつぐらいは持ってるな。

 

 部長が首を傾げていたイッセーを見て、

 

「聖剣エクスカリバーそのものは存在していないわ」

 

 と呟いたあと、

 

「……ゴメンなさいね。私の下僕に悪魔に成り立ての子がいるから、エクスカリバーの説明込みで話を進めてもいいかしら?」

 

 という部長の申し出に、紫藤イリナはうなずく。

 

「イッセーくん、エクスカリバーは大昔の戦争で折れたの」

 

 紫藤イリナがイッセーを見ながら言った。

 

「いまはこのような姿さ」

 

 髪に緑色のメッシュを入れた女性が傍らに置いていた、布に巻かれた長い物体を解き放つ。現れたのは一本の長剣。

 

「これがエクスカリバーだ――」

 

 キメ顔の女性に悪いがいまいちインパクトにかける……。

 

 やっぱり、不可視の結界から少しずつ見せつけるのが、いいよな~。

 

「大昔の戦争で四散したエクスカリバー。折れた刃の破片を拾い集め、錬金術によって新たな姿となったのさ。そのとき、七本作られた。これがそのひとつ」

 

 説明を訊くがやっぱりたいした力を感じない。

 

 聖剣だから、一応悪魔の弱点として、あまり近くにおいておきたくないとは感じるが、それだけだ。

 

 俺の聖剣の方と比べるまでもないな。

 

 きちんと1本だったら【王の財宝】に加える価値があったかもしれないが、今のエクスカリバーには興味は湧かない。

 

 っていうか折れたなら折れたで休ませてやれよ……。

 

「私の持っているエクスカリバーは、【 破壊 の 聖剣 (エクスカリバー・ディストラクション)】。七つに分かれた聖剣のひとつだよ。カトリックが管理している」

 

 …………。

 

「私のほうは【 擬態 の 聖剣 (エクスカリバー・ミミック)】。こんな風にカタチを自由自在にできるから、持ち運びがすっごく便利なんだから。このようにエクスカリバーはそれぞれ特殊な力を有しているの。こちらはプロテスタント側が管理しているわ」

 

 髪にメッシュを入れた女性と、紫藤イリナが得意げに説明してくるけど……。

 

「それって、もうエクスカリバーじゃなくてもいいんじゃない?」

 

「エイジ」

 

「なんだと?」

 

 あ……、やべぇ。声に出してしまったみたいだ。

 

 部長が俺を軽く睨み、髪にメッシュを入れた女性が俺を鋭く睨んだ。

 

「面白いことを言う悪魔だな」

 

 目が笑ってない。

 

 とりあえず、一方後に下がった。

 

 すみません部長!

 

 エクスカリバーの登場によって木場の殺気が倍増したが、話は進み、1本は行方知らずだったが、それ以外の聖剣をカトリック教会、プロテスタント、正教会から2本ずつ持っていたそうだが、各陣営から1本ずつ奪われ、犯人が日本へ逃走。この土地へいるらしい。

 

 犯人の目星はついていて、堕天使の組織【神の子を見張る者(グリゴリ)】の幹部、コカビエルだそうだ。

 

 聖書にも載っている堕天使か……。

 

「それで、私たちの依頼――、いや、注文とは私たちと堕天使のエクスカリバー争奪の戦いにこの町に巣食う悪魔が一切介入してこないこと。――つまり、そちらに今回の事件に関わるなと言いにきた」

 

 髪に緑色のメッシュを入れた……、確かゼノヴィアだったか? の物言いに部長の眉が吊り上がる。

 

「ずいぶんな言い方ね。それは牽制かしら? もしかして、私たちがその堕天使と関わりを持つかもしれないと思っているの? ――手を組んで聖剣をどうにかすると」

 

「本部は可能性がないわけではないと思っているのでね」

 

 部長の瞳に冷たいものが宿った。かなりキレてるみたいだ。

 

 まあ、自分の縄張りを荒らされているのに黙ってろはないよな~。勝手に張ってる縄張りだったとしても。

 

「上は悪魔と堕天使どもと同様に信用していない。聖剣を神側から取り払うことができれば、悪魔も、万々歳だろう? 堕天使どもと同様に利益がある。それゆえ、手を組んでもおかしくない。だから、先に牽制球を放つ。――堕天使コカビエルと手を組めば、我々はあなたたちを完全に消滅させる。たとえ、そちらが魔王の妹でもだよ。――と、私たちの上司より」

 

 ゼノヴィアは部長の睨みに臆する事もなく淡々とした口調だが……。

 

「部長を消滅させるわけがないだろう」

 

 俺はドス黒い魔力を纏いながら2人を睨んだ。

 

「――っ!?」

 

 俺の殺気に2人は素早く聖剣に手をかけて戦闘態勢を取った。

 

 紫藤イリナは信じられないモノを見るような目を向けて剣先を震わせ、ゼノヴィアは意外と薄い笑みを浮かべていた。

 

 ゼノヴィアのほうは戦闘マニアみたいだな。

 

「エイジ!」

 

「わかってます」

 

 部長の声がかかったところで、殺気と魔力を抑えた。

 

 イッセーたちは状況についていけなかったのかポカンとしていた。

 

「うちの眷属がゴメンなさい。……私が魔王の妹だと知っているんだし、あなたたちも相当上に通じている者たちのようね。ならば、言わせてもらうわ。私は堕天使などと手を組まない。絶対によ。グレモリーの名にかけて。魔王の顔に泥を塗るような真似はしない!」

 

 ゼノヴィアは構えを解いた。

 

「それが聞けただけどもよかった。いちおう、この町にコカビエルがエクスカリバーを3本持って潜んでいることをそちらに伝えておかなければ、何か起こったときに、私が、教会本部が様々なものに恨まれる。まあ、協力は仰がない。そちらも神側と一時的にでも手を組んだら、三すくみの様子に影響を与えるだろう。特に魔王の妹と、もと黒の聖職者なら尚更だよ」

 

「黒の聖職者!? あ、悪魔だったの!?」

 

 紫藤イリナが驚愕した顔で俺を見た。

 

 はぁ……、黒の聖職者……。

 

「なあ、黒の聖職者ってなんだ? お前って黒い捕食者って呼ばれてるんじゃないのか?」

 

 イッセーが尋ねてくる。

 

 はぁ……。

 

「俺は悪魔や人間、堕天使とか素性不明のまま、冥界で賞金稼ぎやっていたが、賞金首の中には堕天使とか、悪魔、たまには堕ちたエクソシストなんかがいたから、教会側からも勝手に通り名付けられたりして、ヒーローみたいに崇められたりした事もあったんだよ」

 

 その説明でイッセーがぽんっと手を鳴らしてうなずいた。

 

「そうか、黒い聖職者ってのは教会側がつけた名前なんだな」

 

「ああ。そうだ」

 

 ほんとはお礼としてシスターとかに処女貰ったり、体を楽しませてもらった所為で、黒の性喰者って罵倒だったんだけどな……。

 

 何匹も倒していたらいつの間にか黒の聖職者になってるから驚きだった。

 

 紫藤イリナがこちらを悲しい瞳で見つめてきた。

 

「黒の聖職者が悪魔側についたって噂、本当だったんだ……」

 

 いや、なんか悪い事したみたいに言われても……。

 

「そう言えば、そちらにいるのは【魔女】アーシア・アルジェントか? まさか魔女までいるとはな」

 

 とゼノヴィア。

 

 アーシアがビクッと体を震わせた。魔女って言われるのはアーシアの辛い思い出を、思い出させるからな。

 

 俺からいったん矛先をアーシアに代えて、紫藤イリナがアーシアをまじまじと見る。

 

「あなたが一時的に内部で噂になっていた『魔女』になった元『聖女』さん? 悪魔や堕天使をも癒す能力を持っていたらしいわね? 追放され、どこかに流れたと聞いていたけど、悪魔になっているとは思わなかったわ」

 

「……あ、あの……私は……」

 

 2人に言い寄られ、対応に困るアーシア。

 

「だいじょうぶよ。ここで見たことは上には伝えないから安心して。『聖女』アーシアの周囲に居た方々にいまのあなたの状況を話したら、ショックを受けるでしょうから?」

 

「…………」

 

 紫藤イリナの言葉にアーシアは複雑極まりない表情を浮かべていた。

 

 まあ、俺と違ってアーシアは元信者だからな。現役信者としてアーシアが悪魔になった事を遺憾に思っているんだろう。

 

 ゼノヴィアがアーシアから信仰の臭いがどうのこうのと、突然アーシアを切ると言いやがった。

 

 さっき部長を怒られたし、今回は言葉で叩き潰そうかと思っていたら、イッセーが2人の前からアーシアを引き寄せ、前に立って、啖呵を切った。

 

 よく言ったイッセー! 褒めてやる!

 

 っと感心していたら、木場がイッセーに乗っかり、教会側の2人を挑発して、何故か試合する事になった……。

 

 イッセー……、それに木場……。

 

 相手との力量差を考えろよっていうか、木場の場合入れ込みすぎ。

 

 たぶん負けるんだろうな~。

 

 まっ、試合だし、格上相手の戦いはイッセーの糧になるし、木場も負ければ少しは冷静になってくれる……かな?

 

 そんなこんなで球技大会で使ったグラウンドへ移動することになった……。

 



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第20話 裏取引

 

<エイジ>

 

 

 イッセーと木場を切っ掛けに始まった試合は、木場対ゼノヴィア、イッセー対紫藤イリナで行うことになった。

 

 グラウンドに朱乃さんが結界を張って、他のメンバーは観戦する。

 

 試合が始まってすぐ、木場が【魔剣創造】を使って二本の魔剣でゼノヴィアに切りかかったが、ゼノヴィアの【 破壊 の 聖剣 (エクスカリバー・ディストラクション)】の一振りによって砕かれた。

 

 そしてゼノヴィアが力の差を見せ付けるかのようにグラウンドにクレーターを作った。

 

 ゼノヴィアのエクスカリバーの一撃によって、近くで戦っていたイッセーと紫藤イリナが少しだけ巻き沿いをくらい、紫藤イリナにスイッチが入り、本気の戦闘に移った。

 

 紫藤イリナの【 擬態 の 聖剣 (エクスカリバー・ミミック)】が刀の形へ変化してイッセーに切りかかっていたが、イッセーは赤龍帝の籠手を発動させ、10秒ごとに力が倍加するのを待ちながら、紫藤イリナの剣をかわし、力が溜まった状態を維持する『Explosion』に移行し、強化された身体能力を使って洋服破壊(ドレス・ブレイク)という、女性限定で服を破壊する魔法を両手に溜めて、紫藤イリナに襲い掛かった。

 

 洋服破壊か……、俺も何か新技でも開発するかな? なるべく相手を傷つけないような。

 

 結局、紫藤イリナには当たらなかったけど、洋服破壊は間違ってアーシアと小猫ちゃんの服をはじけさせた。

 

 服が消し飛んですぐに部長に目隠しされたけど、俺の動体能力は並みじゃない!

 

 いや~。マジで絶景だった!

 

 2人の少し裏に立っていたから、アーシアが服を脱がされしゃがんだ時なんか、モロに見えた! うん! 2人とも綺麗なピンク色で小猫ちゃんはお子様って感じでぴったり閉じてた! でも意外とアーシアって、もう生えていたんだね。正直生えていないと思ってた。

 

 見たあとは、紳士的に体を隠す布を出してやったけどな。

 

 でも、部長に目隠しされていたままだったから、最後のほうの戦いを見逃したんだよなぁ。

 

 でも結果として2人はボコボコに負けて、木場は部長の制止を無視して聖剣エクスカリバーを破壊するつもりでどっかに消えた。

 

 まったく、お前が死んだら部長が悲しむだろうに……。

 

 面倒だけど俺も少しだけ裏で動くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の休日。俺は記憶しておいた教会側の2人の気配を探していた。

 

 部長は朝から入り込んだという堕天使の事で支取先輩と会合中。

 

 俺1人が教会の人間と裏で接触してもすぐには気づかれないはずだ。

 

 気配をたどると2人は町のほうでなにやら揉めていた。

 

「だからこの絵画はすごくいい物なのよ!」

 

「その変な絵のおかげで旅の路銀が尽きてしまったんだぞ!」

 

 白いローブ姿の2人はすごく目立っていた。

 

 なんかもう、別に気配たどらなくても、ただ町を探すだけでも見つかるぐらいに、悪目立ちしていた。

 

 さて、とりあえずは見つかったんだし、声でもかけるか。

 

 気配を完全に絶って、そろりそろりと近づいて3メートル。

 

 音を出さないように地面を蹴って、背後に回り、2人の間に割り込んで抱きついた。

 

「「――っ!?」」

 

 2人の目が大きく開き、一瞬で体勢を整えようと聖剣に手をかけようとするが遅い。

 

「よっ! どうかしたのかお2人さん」

 

 聖剣を抜かせないように横腹を指で優しくなでる。

 

「くっ!?」

 

「ひゃんっ!?」

 

 2人の動きがビクンッと跳ねて止まる。

 

 やっぱ聖職者系の女って性感に耐性ないのが多いから面白いよなー。

 

「お、お前は……」

 

「黒の聖職者……!」

 

 意外そうな眼で見上げてくる2人に、俺はナンパ野郎みたいに言う。

 

「ご飯おごるから俺と少し話さない?」

 

 俺は現在悪魔だから断られるのは覚悟してたんだが、2人はご飯をおごるって言葉に負けたようだ。

 

 まるで自棄になって、繁華街とかファミレスで独り黄昏ている少女みたいに、結構あっさり引っかかってくれた。

 

 このまま自宅まで連れ込めるのではないか?

 

 と、思ってしまったことは仕方がないだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、話と言うのはなんだ?」

 

「ご飯おごって貰ったし、あなたは悪魔だけど聞いてあげる」

 

 軽く1万分は平らげた2人に、俺は言う。

 

「話というのはゼノヴィア……、でいいか?」

 

「別に悪魔になんと呼ばれようと気にしない」

 

「では、ゼノたん」

 

 なんと呼ばれてもいいと言ったので、知り合いの魔王みたいに『たん』付けで呼んでみた。それもとびっきりの笑顔で。

 

「ゼノ、たん……」

 

「ぷっ……」

 

 ゼノヴィアが復唱すると、隣でデザートのケーキを食べていた紫藤イリナが笑い声を漏らして、

 

「私はイリナって呼んで」

 

 と先に予防線を張った。俺はイリナにうなずいて、話しに戻る。

 

「話というのはゼノたんと試合した木場の事なんだ」

 

「ああ、あの『聖剣計画』の『先輩』だな」

 

 呼び方については黙認したようだ。不機嫌そうなオーラが見えるが、自分がどんな呼ばれ方でもいいといった手前、怒れずに、食べかけていたハンバーグを切り刻んで、怒りを堪えていた。

 

「その木場が、ゼノたんたちの聖剣奪還にでばってくると思けど、黙認して欲しいんだ」

 

「黙認?」

 

 イリナがケーキを一切れ口に含みながら睨んできた。

 

「そうだ。あいつが盗まれた3本の聖剣を破壊したとしても黙っていて欲しい」

 

「それは無理だ」

 

 ゼノヴィアも睨んでくる。

 

「別に無理ではないはずだ。ここに派遣され奪還計画を実行するのは2人だけなんだろう? こちらで口裏を合わせれば十分可能。破壊されても『核』さえ残っていれば聖剣は造りなおせるんだ。別に1本ぐらい破壊されてもいいだろう?」

 

 俺の説明に2人は睨むのをいったん止めた。

 

「……ふむ、確かに。それはそうだな」

 

「ゼノヴィア!?」

 

 ゼノヴィアの呟きにイリナが驚く。

 

「私たちが『先輩』よりも先に聖剣を回収すればいいだけだ。お前も私たちの『先輩』の邪魔をするなとは言わないんだろう?」

 

 ゼノヴィアが言ってくる。

 

 俺は肩をすくめて肯定する。

 

「正直言うと、剣道でアドバイスするぐらいの友人としては聖剣エクスカリバーに勝って欲しいんだが、リアズ・グレモリーの下僕悪魔としては木場を止めたいんだ。木場や眷属悪魔が死んだらリアス部長が傷くからな」

 

 コーヒーを口に含む。

 

 2人は少し考え込むと、うなずき合い、俺の顔を見て言う。

 

「分かった。食事も奢ってもらったしな。一本ぐらいなら聖剣を破壊する事を黙認しよう」

 

「ありがとう」

 

 2人に礼を言う。

 

 ああ、そう言えば……。

 

「すまない。もう1つ話があった」

 

「なんだ?」

 

「まだなんかあるの?」

 

「そもそも堕天使の幹部コカビエルから、聖剣3本を2人で回収するのは無理じゃないのか?」

 

 2人は一気に重たい空気になった。

 

「死ぬつもりなのか?」

 

「そうよ」

 

「私もイリナと同意見だが、できるだけ死にたくないな」

 

 俺は2人の答えを聞いて大きなため息を吐いた。

 

「我々の信仰をバカにしないでちょうだい、ね、ゼノヴィア」

 

「まあね。そう言えば、教会は堕天使に聖剣を利用されるぐらいなら、エクスカリバーをすべて消滅してもかまわないと決定していてね。私たちの役目は最低でもエクスカリバーを堕天使の手からなくすことなんだ。そのためなら、私たちは死んでもいいのさ」

 

「死んでいいってな……」

 

 俺は真剣に2人の顔を見つめる。

 

「なんだ?」

 

「なによ?」

 

「お前らが今やっていることはただの無謀、妄信なんだぞ? 自分があるから神を信仰することができるのに、その信仰のために自分が死んでもいいなんて間違っている。信仰のためだと、自分の命を軽く見て死んでもいいなんて思うことが間違っていることに、まずは気づいてくれ」

 

「悪魔に何が分かるのよ!」

 

「…………」

 

 イリナが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

 ゼノヴィアは俺の顔をじっと無言で見ていた。

 

 そろそろ話は終わりだな。

 

 俺は残りのコーヒーを飲み干して金の入った封筒を差し出した。

 

「この店の食事代と合わせて、30万が入っている」

 

「30万も!」

 

 先ほどまで怒り心頭だったイリナが封筒に飛びついた。

 

 聖職者にしては、あからさまに現金すぎるだろうこの子……。

 

「なぜこんなに?」

 

 ゼノヴィアが尋ねてきた。

 

「生活費がないんだろう? 明日、明後日とずっと何も食べずに生活する気か?」

 

 そうを言うとゼノヴィアは行儀よく頭を下げた。

 

「そうか。礼を言う、ありがとう」

 

「ああ、主よ。心やさしき悪魔にご慈悲を」

 

 胸で十字架を切るイリナ。

 

 ほんの少しだけ頭痛がした。

 

 さてと話も終わったし帰るか。

 

 席を立って出て行こうとすると、ゼノヴィアが声をかけてきた。

 

「そう言えば、なぜお前はこんな回りくどい事をしたんだ? お前が『先輩』に協力すれば私たちより先に聖剣を破壊できただろう?」

 

「俺の名前は神城エイジ。神城かエイジって呼んでくれ。俺が木場に協力することはできない理由があるからな」

 

 間違っても黒の聖職者とはもう呼ばないでくれ……。

 

「ではカミシロ。その理由とはなんだ?」

 

 ゼノたん俺に興味深々?

 

「理由は2つ。1つ目は俺は元から男に対しては厳しいから」

 

 2人が……、特にイリナの目が冷たくなる。

 

 でも関係ない!

 

「もう2つ目は、俺が聖剣の所持者だから。――じゃあな」

 

「「っ!!?」」

 

 2人が絶句している間に俺は店から出て、裏路地へ入り、転移魔法を発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 休日に生徒会の書記である匙を部長を通して駅前に呼び出した。

 

 紫藤イリナとゼノヴィアに聖剣エクスカリバーの破壊許可をもらうためだ。

 

「嫌だぁぁぁぁ! 俺は帰るんだぁぁぁぁ!」

 

 教会側の2人に会うことを話した後、必死に悲鳴をあげて逃げようとする匙を、偶然匙を待っている間に会ってしまい、俺の提案に協力すると言ってくれた小猫ちゃんが掴んで離さないでいた。

 

「兵藤! なんで俺なんだよ! おまえら眷属の問題だろう!? 俺はシトリー眷属だぞ! 関係ねぇ! 関係ねぇぇぇぇぇ!」

 

 匙は涙を流しながら訴える。

 

「そうは言ってくれるなよ。俺が知ってる悪魔で協力してくれそうなのはおまえぐらいなもんだったんだもんよ」

 

「ふざけんなぁぁぁ! 俺がてめえの協力なんてするわけねぇぇぇだろぉぉぉぉ! 殺される! 俺は会長に殺されるぅぅぅ!」

 

 おおっ、会長への恐怖が顔に出てるぜ。よほど怖いんだな、会長って。

 

「神城のヤツは魔王クラスなんだろ! 神城に頼めよ! それにおまえんところのリアス先輩は厳しいながらもやさしいだろうよ! でもな! 俺のところの会長はな! 厳しくて厳しいんだぞ!」

 

 うん、部長は厳しいけどやさしいぞ。そうか、会長は厳しいのか。それは良かったな。

 

「今回の件はエイジを頼れないんだよ」

 

「なんでだよ!」

 

「あいつも、聖剣持ってるから」

 

「…………はぁ!?」

 

 うん。できれば協力してもらいたかったが、今の聖剣エクスカリバーへの復讐しか心にない木場は、現在エイジを敬遠しているからな。

 

 エイジは今回呼べないんだ……。

 

 かなり不安だが仕方がない。

 

 その話し合いでケンカになって殺し合いが始まるかもしれないのだ。

 

 俺は小猫ちゃんと匙に、逃げてもいいからと、俺に同行するか確認を取って、イリナとゼノヴィアを探しに町へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直、簡単に見つかりはしないだろうと思っていたら、20分もしない内に2人を発見する事ができた。

 

 2人はファミレスの窓側の席でケーキを食っていたのと、小猫ちゃんがケーキに引かれたからだった。

 

 店に入って話があると、2人の向かい側の席に3人並んで腰を降ろした。

 

「それで悪魔のイッセーくん。話ってなに?」

 

「あんたら、エクスカリバーを奪還するためにこの国にきたんだよな?」

 

「そうだ。それはこの間説明したはずだよ」

 

 積み上げられた食器と食べ終わったケーキの皿を見ると、食事を摂ったばかり、今のところは敵意を出していない。

 

 こんなファミレスで戦闘開始しても仕方ないだろうし、いざ戦いになっても俺たちに圧勝できる自信があるんだろう。

 

「エクスカリバーの破壊に協力したい」

 

 俺の告白に2人は少しだけ目を丸くさせ、お互いに顔を見合わせてため息を吐いた。

 

「あなたたち()『協力』なわけね」

 

「あなたたちは?」

 

 3人で首を傾げる。

 

 あなたたちはって他に誰かが契約を持ちかけたのか?

 

 俺たちの疑問に答えるようにイリナが言う。

 

「今さっき、あなたたちみたいにカミシロが、聖剣エクスカリバーの事で私たちに話を持ちかけてきたのよ」

 

 カミシロって……。

 

「エイジが?」

 

「ああ。『先輩』が聖剣エクスカリバーを破壊するのを『黙認』して欲しいと言ってきたんだよ」

 

 さすがエイジって、

 

「黙認?」

 

「そうだよ。なんでも自分は表立って協力することができないから、『先輩』が聖剣を破壊したとしても、問題にしないでくれと頼んできたんだ」

 

 そうか。やっぱりあいつっていい奴だな!

 

「それで、君達はどうするんだ? 私たちはカミシロと木場を『黙認』する事は約束しているが、『協力』を受け入れるとは決めていないんだが? それに『黙認』するんだ、輪私たちにはもう用はないんじゃないか?」

 

 そ、そうだった……!

 

 でも黙認してくれるなら……、って、今の木場が聖剣エクスカリバーに1人で勝てるのか?

 

 俺たちはエイジと違って聖剣所持者じゃないんだし、素直に協力できるはず!

 

 よし! 決めた!

 

「いや、用はある。頼むから俺たちに聖剣エクスカリバーの破壊を手伝わせてくれ」

 

 そう言って頭を下げる。

 

 匙も小猫ちゃんも俺に続いて頭を下げてくれた。

 

 数十秒――。黙って頭を下げていると、

 

「いいだろう」

 

 とゼノヴィアが了承してくれた。

 

 いいのか? マジで? 本当に?

 

「ちょっと、ゼノヴィア。いいの? 相手はイッセーくんとはいえ、悪魔なのよ?」

 

 異を唱えるイリナ。まあ普通の反応だな。

 

「イリナ、正直言って私たちだけでは3本回収とコカビエルとの戦闘は辛い」

 

「それはわかってるわ」

 

「最低でも私たちは3本のエクスカリバーを破壊して逃げ帰ってくればいい。私たちのエクスカリバーを奪われるぐらいなら、自分の手で壊せばいいだろう。で、奥の手を使ったとしても任務を終えて、無事帰れる確立は3割だ」

 

「それでも高い確率だと私たちは覚悟を決めてこの国に来たはずよ」

 

「そうだな、上にも任務遂行して来いと送りだされた。自己犠牲にも等しい」

 

「それこそ、私たちの信徒の本懐じゃないの」

 

「カミシロに言われて少しだけ気が変わったのさ。私あっての信仰。……私の信仰は柔軟でね。いつでもベストなカタチで動きだす」

 

「あなたね! 前から思っていたけど、信仰心が微妙におかしいわ! あいつは悪魔なのよ! あいつに諭されてどうするのよ!」

 

「悪魔といっても最近なんだろ。それに、私が変わっていることは否定しないよ。だが、任務を遂行して無事帰ることこそが、本当の信仰だと私は信じる。生きなければ、信仰できないし、主のために戦えないだろう。――違う?」

 

「……違わないわ。でも」

 

「だからこそ、悪魔の力は借りない。代わりにドラゴンの力を借りる。上もドラゴンの力を借りるなとは言っていない」

 

 ゼノヴィアの視線が俺に向けられる。

 

 ――ドラゴン。

 

 俺のことだ。俺の左腕に宿る存在――赤龍帝。

 

「まさか、こんな極東の島国で赤龍帝と出会えるとは思わなかった。悪魔になっていたとはいえ、ドラゴンの力は健在と見ているよ。伝説の通りなら、その力を最大まで高めれば魔王並みになれるのだろう? 魔王並みの力ならエクスカリバーも楽々破壊できるだろうし、この出会いも主のお導きだと見るべきだね」

 

 ゼノヴィアは嬉々として語った。

 

「た、確かにドラゴンの力を借りるなとは言ってこなかったけど……。ヘリクツすぎるわよ! やっぱり、あなたの信仰心は変だわ!」

 

「変で結構。しかし、イリナ。彼はキミの古い幼馴染だろう? 信じてみようじゃないか。ドラゴンの力を」

 

 ゼノヴィアの言葉にイリナも黙り、承知の空気を出していた。

 

 おおっ、成立? マジで?

 

 まあ、魔王クラスの力になるには、俺の能力をもうしばらく上げていかないと無理くさいけどね。

 

 ただ、上げに上げた力を木場に譲渡すれば、エクスカリバーに匹敵、もしくは上回ると思う。この可能性は高いと感じるんだ。

 

「OK。商談成立だ。俺はドラゴンの力を貸す。じゃあ、今回の俺のパートナーを呼んでもいいか?」

 

 俺はケータイを取りだし、木場へ連絡を入れたのだった。

 



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第21話 商談成立

 

<イッセー>

 

 

「……話はわかったよ」

 

 木場は嘆息しながらもコーヒーに口をつけた。

 

 ファミレスに木場を呼びつけた俺たち。

 

「いま、例のエクスカリバー使いの2人と会っている。木場にも来てほしい」

 

 と、伝えると文句も言わずにファミレスへ顔を出してくれた。

 

「正直言うと、エクスカリバー使いに破壊を承認させるのは遺憾だけどね」

 

「ずいぶんな言いようだね。そちらが『はぐれ』だったら、問答無用で切り捨てているところだ」

 

 睨み合う木場とゼノヴィア。おいおい、共同作戦前なんだから、ケンカは止めようぜ。

 

「やはり、『聖剣計画』のことで恨みを持っているのね? エクスカリバーと――教会に」

 

 イリナの問いに木場は目を細めながら「当然だよ」と冷たい声音で肯定した。

 

「でもね。木場くん。あの計画のおかげで聖剣使いの研究は飛躍的に伸びたわ。だからこそ、私やゼノヴィアみたいに聖剣と呼応できる使い手が誕生したの」

 

「だが、計画失敗と断じて被験者のほぼ全員を始末するのが許されると思っているのか?」

 

 木場は憎悪の眼差しをイリナに向ける。

 

 確かに処分は酷い。あまりに残酷だ。神の信徒とやらにやるにしてはあまりに非人道的だと思う。

 

 イリナも反応に困っている様子だ。そこへゼノヴィアが言う。

 

「その事件は、私たちの間でも最大級に嫌悪されたものだ。処分を決定した当時の責任者は信仰に問題があるとされて異端の烙印を押された。いまでは堕天使側の住人さ」

 

「堕天使側に? その者の名は?」

 

「――バルパー・ガリレイ。【皆殺しの大司教】と呼ばれた男だ」

 

 バルパー。そいつが木場の仇敵ってわけか。

 

「……堕天使を追えば、その者にたどり着くのかな」

 

 木場の瞳には新たな決意みたいなものが生まれていた。目標がわかっただけでも木場にとってみれば大きな前進か。

 

「僕も情報を提供したほうがいいようだね。先日、エクスカリバーを持った者に襲撃された。その際、神父を1人殺害していたよ。やられたのはそちら側の者だろうね」

 

『!』

 

 この場にいる全員が驚いた。当たり前だって! まさか、木場のほうが先に接触していたなんて! 今まで黙っていたのはなぜ? 木場に思うところがあったのは確かだと思うが。

 

「相手の名はフリード・セルゼン。この名に覚えは?」

 

 フリード! クソ神父だ! 俺は十分に覚えがあるぜ。先日の一件で敵対した白髪のイカレや朗じゃないか! まだこの町に潜伏してたのかよ!

 

 木場の言葉にゼノヴィアとイリナが目を細める。

 

「なるほど、奴か」

 

「フリード・セルゼン。元ヴァチカン法王庁直属のエクソシスト。13歳でエクソシストとなった天才。悪魔や魔獣を次々と滅していく功績は大きかったわ」

 

「だが奴はあまりにもやりすぎた。同胞すら手にかけたのだからね。フリードには信仰心なんてものは最初から無かった。あったのはバケモノへの敵対意識と殺意。そして、異常なまでの戦闘執着。異端にかけられるのも時間の問題だった」

 

 あー、やっぱりそちらでも手に余ってたのね。わかりますよ、その気持ち。

 

「そうか。フリードは奪った聖剣を使って私たちの同胞を手にかけていたか。あのとき、処理班が始末できなかったツケを私たちが払うことになるとはね」

 

 忌々しそうに言うゼノヴィア。フリード、いろんな人に嫌われているな。当然か、

 

「まあいい。とりあえず、エクスカリバー破壊の共同戦線といこう」

 

 こうして俺たちの教会側との会談は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お互いの連絡先を交換したあと、食事を終えて出ていく2人を見送り、俺たちは大きなため息を吐いた。

 

 なんとかうまくいった……。無茶な作戦だと思ったけど、意外にもできるもんだな。失敗したから、エクスカリバーで切断されていたかもしれないと想像すると背筋が寒くなる。

 

 悪魔と神側の争いの火種にもなったかもしれないしな……。我ながら大胆すぎる作戦でした。

 

「……イッセーくん。どうして、こんなことを?」

 

 木場が静かに訊いてくる。こいつにしてみれば、自分の怨恨をどうして手助けしてくれるのか不思議なのかな。

 

「ま、仲間だし。眷属だしさ。それにおまえには助けられたことがあったからな。借りを返すってわけじゃないけど、今回はお前の力になろうと思ってさ」

 

「僕が下手に動けば部長に迷惑がかかるから――。それもあるんだよね?」

 

「もちろん。あのまま暴走されたら、部長が悲しむ。まあ、俺が今回独断で決めたことも部長に迷惑かけているんだろうけど、おまえが『はぐれ』になるよりマシだろう? 結果オーライになっちまったが、教会の関係者と協力態勢取れたし……、あとエイジにも感謝しておけよ」

 

「エイジくんに?」

 

「ああ。あいつは俺たちよりも先にあいつらと交渉してて、おまえが聖剣エクスカリバーを破壊しても『黙認』してくれるように頼んでいたんだ。『表』だって協力できないからって」

 

「エイジくんが……」

 

 表だってってエイジが聖剣使いであるからだろう。木場も言葉の意味を分かったようで意外そうにしていた。

 

 そこへ小猫ちゃんが口を開く。

 

「……祐斗先輩。私は、先輩がいなくなるのは……寂しいです」

 

 少しだけ寂しげな表情を小猫ちゃんが浮かべる。普段無表情だからか、その変化はこの場にいる男子全員に衝撃を与えていた。

 

「……お手伝いします。……だから、いなくならないで」

 

 ――っ。

 

 小猫ちゃんの訴え。やべぇ。木場じゃないのに俺がきゅんときちゃった。ああ、俺、絶対に眷属裏切れないね。後輩の女の子にこんなこと言われたら、反逆なんてできやしないぜ!

 

 木場は困惑しながらも苦笑いする。

 

「ははは。まいったね。小猫ちゃんにそんなことを言われたら、僕も無茶できないよ。わかった。今回は皆の好意に甘えさせてもらおうかな。イッセーくんのおかげで真の敵もわかったし、エイジくんにも迷惑かけたみたいだね。でも、やるからには絶対にエクスカリバーを倒す」

 

 おおっ! 木場もやる気になってくれたか!

 

 小猫ちゃんも安堵したのか、小さく微笑んだ。

 

 やべぇ! かわいいよ、小猫ちゃん! ロリコンじゃないのにときめいちゃった!

 

「よし! 俺らエクスカリバー破壊団結成だ! 頑張って奪われたエクスカリバーとフリードのクソ野郎をぶっ飛ばそうぜ!」

 

 気合の入った俺! 木場と小猫ちゃんがいればなんとかなる! エクスカリバー、フリード、待ってろよ!

 

 しかし、この場で1人だけ乗り気じゃない者がいる。

 

「……あの、俺も?」

 

 手を上げながら、匙が訊いてくる。

 

「つーか、結構俺って蚊帳の外なんだけどさ……。結局、何がどうなって木場とエクスカリバーが関係あるんだ?」

 

 ああ、そういや、こいつは木場とエクスカリバーの関係知らないのか。

 

「……少し、話そうか」

 

 コーヒーに口をつけたあと、木場は自分の過去を語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木場の話は部長が話したものよりすごく悲しい話だった。

 

 木場の壮絶な過去に、匙なんてボロボロ涙を流して、号泣していた。

 

 匙は木場の手を取り言う。

 

「木場! 俺はなぁぁぁぁ、いま非常にお前に同情している! ああ! 酷い話さ! その施設の指導者やエクスカリバーに恨みを持つ理由もわかる! わかるぞ!」

 

 おおっ、力強くうんうんとうなずき出した。

 

「俺はイケメンのお前が正直いけすかなかったが、そういう理由なら別だ! 俺も協力するぞ! ああ、やってやるさ! 会長のしごきをあえて受けよう! それよりもまずは俺たちでエクスカリバーの撃破だ! 俺もがんばるからさ! おまえもがんばって生きろよ! 絶対に救ってくれたリアス部長を裏切るな!」

 

 言っていることはアレだが、こいつも熱いな! ていうか、いい奴だ。うん、悪い奴じゃない。匙を無理やり連れてきてかわいそうかなって思ったけど、結果的に良かった。

 

「よっし! いい機会だ! ちょっと俺の話も聞いてくれ! 共同戦線を張るなら俺のことも知ってくれよ!」

 

 匙は気恥ずかしそうにしながらもランランと瞳を輝かせて言った。

 

「俺の目標は――ソーナ会長とデキちゃった結婚することだ! でもな、デキちゃった結婚ってモテない奴にとってみたらハードル高いんだぜ? デキちゃう相手がそもそもいないわけでさ……。でも、俺、いつか会長とデキちゃった結婚するんだ……」

 

 ――っ。

 

 匙の告白を聞き、俺は心の奥底から込み上げてくるものがあった。そして俺の双眸(そうぼう)から、ぶわっと大量の涙が流れだした。

 

「匙! 聞け! 俺の目標は部長の乳を揉み――そして吸うことだ!」

 

「…………ッ」

 

 ぶわっ。

 

 一拍あけ、匙の目からも大量の涙が流れだす。

 

「兵藤ッッ! おまえ、わかっているのか? 上級悪魔――しかもご主人さまのお乳に触れることが、どれほど大きな目標かということを」

 

「匙、触れれるんだよ。上級悪魔のおっぱいに、ご主人さまのおっぱいに俺らは触れられるんだよッッ! 実際、俺はこの手で部長の胸に何度かタッチした」

 

 わなわなと手を震わせながら俺は言う。匙は驚愕の眼差しで俺の手を見つめていた。

 

「バカなっ!? そんなことが可能なのか!? 嘘じゃないよな!?」

 

「嘘じゃない。ご主人さまのおっぱいは遠い。けど、追いつけないほどの距離じゃない」

 

「吸う!? ……か、会長の乳をす、吸える……。ち、乳首だよな? 吸う場所は乳首なんだよな?」

 

「バカ野朗! おっぱいで吸えるところといったら、乳首以外にあるものかよ! そうだよ! 乳首に吸い付くんだ!」

 

「――ッッ!」

 

 俺の力強い言葉に、匙は無言の男泣きをしていた。

 

「匙! 俺たちは1人ではダメな『兵士』かもしれない。だが、2人なら違う。2人なら飛べる! 2人なら戦える! 2人ならやれる! 2人ならいつかデキちゃった結婚もできるかもしれない! ご主人さまとエッチしようぜ!」

 

「うん。うん!」

 

 そう、ご主人さまのおっぱいに惚れた男2人なら、やれないことなんてないんだ!

 

 匙と手を取り合い、うなずきあった。

 

 同志。戦友。言葉を並べてみてもこの関係を明確に表せるものはないだろう。

 

 俺と匙はそのとき、魂で何かを通じ合い、感じ合い、繋がりあった。

 

「……あはは」

 

「……やっぱり最低です」

 

 号泣し合う俺たちを横で木場と小猫ちゃんじゃ嘆息していた。見れば店内の色んな人が奇異な眼で俺たちを見ている。気にしない気にしない。

 

 こうして、『エクスカリバー破壊団』が結成されたのだった。

 




<後書き!>

 ほぼ原作ぱくってますが、

 文章を原作ではなく、こん作品、二次創作の物語として読んでくれれば、原作通りにした理由が、分かる人にはわかるはず!


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第22話 堕天使コカビエル登場 ☆

 ☆をつけてますが、本番はなしです


<エイジ>

 

 

 教会側の2人との会談から数日後。

 

 放課後いつものように部室にいたら、町のほうで不規則な力の流れを感じた。

 

 おそらく最近放課後いなくなるイッセーと小猫ちゃんだろう。

 

「エイジ、今すぐ転移するわよ」

 

 部長はそう言って立ち上がる。

 

「了解です」

 

 俺もソファーから立ち上がり魔法陣の上に移動する。

 

 そしてさらに、部室でエクスカリバーの件を相談しに着ていた支取先輩も同行するために魔法陣へ乗った。

 

 魔法陣が輝くと、

 

「バルパーのじいさん! 撤退だ! コカビエルの旦那に報告しにいくぜ!」

 

「致し方あるまい」

 

「あばよ、教会の悪魔と連合どもが!」

 

「追うぞ! イリナ」

 

「うん!」

 

「僕も追わせてもらおう! 逃がすか、バルパー・ガリレイ!」

 

「お、おい! 木場! ったく! 何なんだよ!」

 

 前方ですごく面倒そうなやり取りが繰り広げられていた。

 

 って小猫ちゃんはともかく、なんで生徒会の匙がいるんだ?

 

 俺が首を傾げていると険しい表情になっているお2人さん。

 

 ゆっくりと歩いて近づくと、

 

「力の流れが不規則になっていると思ったら……」

 

「これは、困ったものね」

 

 イッセーたちが振り返る。

 

「イッセー、どういうこと? 説明してもらうわよ」

 

 イッセーたちの顔が一瞬で青くなった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのあと近くの公園に移動し、勝手な行動を取り戦闘していた3人を噴水前の地べたに正座させ、理由を説明してもらっていた。

 

「……エクスカリバー破壊ってあなたたちね」

 

 額に手を当て、極めて機嫌のよろしくない部長。

 

 まあ、当然だろう。間違えば天使側との戦争が起こっていたかもしれない事態だからな。

 

「サジ。あなたはこんなにも勝手なことをしていたのですね。本当に困った子です」

 

「あぅぅ……。す、すみません、会長……」

 

 会長のほうも冷たい表情で匙に詰め寄っていた。匙の顔色は危険なほど青い。そんなに怯えてどうしたんだ?

 

「祐斗はそのバルパーを追っていったのね?」

 

「はい。ゼノヴィアとイリナも一緒だと思います。……な、何かあったら連絡をよこしてくれるとは思うんですが……」

 

「復讐の権化と化した祐斗が悠長に電話をよこすかしら」

 

 ごもっともだな。仇敵が定まったんだから、そいつ目掛けて憎しみをぶつけるまで止まらないだろう。

 

 部長の視線がイッセーから小猫ちゃんへと移る。

 

「小猫」

 

「……はい」

 

「どうして、こんなことを?」

 

「……祐斗先輩がいなくなるのは嫌です……」

 

 小猫ちゃんは自分の思いを正直に口にした。部長もそれを聞き、怒りというよりも困惑するような顔に転じていた。

 

「……過ぎたことをあれこれ言うのもね。ただ、あなたたちがやったことは大きく見れば悪魔の世界に影響を与えるかもしれなかったのよ? それはわかるわね?」

 

「はい」

 

「……はい」

 

 イッセーと小猫ちゃんは同時にうなずいた。

 

「すみません、部長」

 

「……ゴメンなさい、部長」

 

イッセーと小猫ちゃんが深々と頭を下げた。

 

 ベシッ! ベシッ!

 

 叩かれる音のほうへ顔をむけると、匙が支取先輩に尻を叩かれていた。

 

 おおっ、懐かしい。俺もああやって叩かれたな……部長と朱乃さんに。

 

「あなたには反省が必要ですね」

 

「うわぁぁぁぁん! ゴメンなさいゴメンなさい! 会長、許してくださぁぁぁい!」

 

「ダメです。お尻を千叩きです」

 

 ベシッ! ベシッ!

 

 会長の手には魔力がこもっている。

 

 悪魔の尻叩きの時って手に魔力をこめるのがディフォルトなんですね。

 

「使い魔を祐斗探索に出させたから、発見しだい、部員全員で迎えに行きましょう。それからのことはそのときに決めるわ。いいわね?」

 

『はい』

 

 叩かれていた匙から視線をはずすと、部長がイッセーと小猫ちゃんを引き寄せ、抱きしめていた。

 

「……バカな子たちね。本当に、心配ばかりかけて……」

 

 やさしい声音で部長は2人の頭をなでた。

 

 その様子を涙を流しながら匙が見て、

 

「うわぁぁぁぁん! 会長ぉぉぉ! あっちはいい感じで終わってますけどぉぉぉ!」

 

「よそはよそ。うちはうちです」

 

 ベシッ! ベシッ!

 

 イッセー、部長の眷属悪魔でよかったな。

 

「さて、イッセー。お尻を出しなさい」

 

 あら?

 

 部長を見ると、ニッコリ微笑んだ部長の右手が紅いオーラに包まれてた。

 

「下僕の躾は主の仕事。あなたもお尻叩き千回よ♪」

 

 ベシッ! ベシッ!

 

 匙とイッセーが2人で並んで尻を叩かれる。

 

 俺が笑いながらみていると、2人が俺を睨んだ。

 

「神城! なに笑ってやがる!」

 

「そうだ! お前こそ教会側の2人と裏で取引したんだろうが!」

 

 なっ!? 何故それを!?

 

「本当なのエイジ?」

 

 イッセーの尻を叩きながら聞いてくる部長。

 

「イリナたちが言ってたぞ! 表立って協力できないから教会側にエクスカリバーの破壊を黙認するように、話を持ちかけたんだろう!」

 

 イッ、イッセーッ!

 

 っていうかゼノたん! イリナ! 普通取引内容は話しちゃダメだろ!? 何のために『裏』なんだよ!

 

「エイジ、詳しく聞かせてもらうわよ」

 

 ニッコリ笑顔の部長。

 

 ああ……、話したあとは、おしおきですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーの尻叩きで時間が遅くなり、俺の尻はなんとか難を逃れることができた。

 

 帰り道を部長とイッセー、俺が歩く。

 

 そういや小猫ちゃん、別れ際まで部長に謝ってたな~。

 

 家の近所までやってきたところでイッセーが部長に尋ねた。

 

「あれ? 部長の家って俺の家の近所だったんですか?」

 

 ああ、言ってなかったな。

 

 いや……、この前セルベリアとノエルと部長も連れて、新しい住人って事でご近所に挨拶に回ったから、イッセーの両親は知ってるはずだ。

 

 また訊かされていなかったのか?

 

「ええ。私はいまエイジの家に居候させてもらってるわ。ご両親や近所の方々にも挨拶に回ったはずだけど、知らなかったの?」

 

 部長も隣に住んでいた事を知らなかったイッセーに意外そうな顔だ。

 

 イッセーは俺と部長の顔を何度も見たあと、ぶわっと血の涙を流した。

 

「エイジぃぃぃぃ! お前っ、お前って奴はぁぁぁぁ! この野郎ぉぉぉぉ!」

 

 全力でそう叫んだあと、ものすごいスピードで走り去ってしまった。

 

 取り残された俺と部長は、苦笑したあと家路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰り、夕食の準備に取り掛かる。

 

 家事をしてくれる堕天使メイド、レイナーレが修行でいないからだ。

 

 日にちを決めて2人で分担して料理をしていて、今日は部長が当番の日なんだが、部長の登場が遅い。

 

 どうしたんだろう? リビングのソファーでテレビを見ていると、後から声がかかった。

 

「……エイジ」

 

「なんですか?」

 

 後を振り返って俺は絶句した!

 

 部長が裸エプロン姿で恥じらいならは立っていたからだ!

 

 結構、楽しんだシチュエーションで何人も見てきたが、その中でも群を抜いて興奮した。

 

 恥じらいながら短い前掛けで、見えそうになる股間を隠し、もじもじとしていた。

 

「今日、部室でアーシアがイッセーにしてみるっていうから、私も着てみたの、どう?」

 

 あの純真無垢のアーシアが発案者!? イッセー。アーシアの裸エプロン見てんの!? いやそれよりもっ!

 

「最高に美しいです!」

 

 シュタッ。

 

 俺は並外れた身体能力を使って、部長の前に立って両手を握った。

 

「そ、そう?」

 

「はい! さすがリアス部長です! 俺っ! すごく興奮してます!」

 

 そう言うと部長は真っ赤に顔を染めて、

 

「じゃあ、夕飯作るわね」

 

 とキッチンに向かった。

 

 俺は行儀よくテーブルについて、ずっと部長の裸エプロン姿を脳に焼きつかせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食を食べ終えて、部長が食器を高性能食器洗い機に納めていた時。

 

 そろそろもう我慢の限界に来ていた俺は、後ろから抱きついた。

 

「ちょっと、エイジ」

 

 最後の一枚を納めて、起動させたあとを狙ったから、このまま終わりまでいっていいはずだ!

 

 普段のスキンシップでも結構やばいところまでは経験済みだし、今はもう真夜中!

 

 ズボンのベルトも緩ませチャックも緩めておいたから、すぐにペニスを取り出せた。

 

「こ、こらぁ……」

 

 エプロンと肌の間に手をすべりこませ、おっぱいを揉みながら背中に何度もキスをする。

 

「エイジぃ、やめ、なさい……」

 

 言葉とは裏腹に、だんだんノッテきた部長。

 

 後ろ手にペニスを掴んでニギニギと弄ってくれる。

 

 少し腰を進めて後ろから股の間にペニスを侵入させてスジを擦ると、濡れているのがよくわかった。

 

「リアス部長……、俺っ、もう……」

 

 耳元で囁いて振り向かせる。

 

 部長の唇を奪い舌を絡めると、部長も舌を絡ませてくれた。

 

 食後で夕食に食べた魚の味が少しだけした。

 

 くちゃ、くちゃっと、お互いの唾液を行き来させながら、お互いの唾液を飲みながら、興奮を高めていく。

 

「リアス部長……」

 

「エイジ……」

 

 腰を滑り込ませ、部長の体をキッチンのテーブルが背もたれになるように位置取りをする。

 

 がに股に開かれた部長の股、愛液を間から溢しているオマンコにペニスを突きつけた。

 

 ぷにぷにとした膣口に亀頭をあてがい、確認するように部長にキスをする。

 

 部長は素直に俺のキスを受け入れて、大きく股を開いてくれた。

 

 家には2人だけ……、邪魔者はいない。

 

 やっと……やっと部長の処女をいただける!

 

「大好きです、リアス」

 

 数えきれないほど女を抱いてきたが、リアス・グレモリーは俺の中で特別な存在だった。 

 

 絶対に離したくない。絶対に誰にも渡したくない。

 

 美しいあなたが、可愛らしいあなたが、優しいあなたが、気高いあなたが、全部愛おしい。

 

 黒歌もセルベリアもノエルもレイナーレ、時雨も、リアス・グレモリーも誰にも渡したくない!

 

 腰を進め、一気に処女を奪おうと……、

 

 しようとしたところで、

 

 家の外で、大きな力が、殺気が、

 

 すべてをぶち壊した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家の外からの殺気、位置的にはイッセーの家だが、関係ない。

 

 俺と部長はお互いの顔を見合わせたあと、残念そうに大きいため息を吐き、即座に駒王学園の制服に着替えてからイッセーとアーシアの近くへ転移した。

 

 転移すると、アーシアが傷だらけのイリナを治療していて、イッセーは殺気を放っている相手と睨み合っていた。

 

「部長! エイジ!」

 

 イッセーが安堵の表情を浮かべる。

 

「はじめましてかな、グレモリー家の娘。紅髪が麗しいものだ。忌々しい兄者を思い出して反吐が出そうだよ」

 

 黒い羽が10枚ついた堕天使の男が部長を挑発的な物言いで、睨んだ。

 

 こいつがコカビエル!

 

 っていうか邪魔しやがった相手!

 

 俺は殺気をコカビエルに向ける。

 

「くくっ! さすがは実力は魔王クラスといわれている黒の聖職者! なかなかの殺気ではないか!」

 

 恍惚の表情のコカビエル。

 

 結構な殺気を浴びせたはずだぞ、生粋の戦闘狂かなにかなのか?

 

 部長が一歩前に出る。そして冷淡な表情を浮かべた。

 

「ごきげんよう。堕ちた天使の幹部――コカビエル。それと私の名前はリアス・グレモリーよ。お見知りおきを。もうひとつ付け加えさせてもらうなら、グレモリー家と我らが魔王は最も近く、最も遠い存在。この場で政治的なやり取りに私との接触を求めるなら無駄だわ」

 

「魔王と交渉などというバカげたことはしない。まあ、妹を犯してから殺せば、サーゼクスの激情が俺に向けられるかもしれない……っ!?」

 

 コカビエルの言葉を聞いていられなかった俺はさらに黒い魔力を解放し、殺気を向けた。

 

「それよりも先に、俺がお前を殺してやろうか?」

 

「っ! まだ待つのよエイジ」

 

 部長に言われ、仕方無しに俺は殺気と魔力を抑える。

 

「……それで、私との接触は何が目的かしら?」

 

 コカビエルは戦闘態勢をとり、俺を警戒したまま、改めて部長を見た。

 

「お前の根城である駒王学園を中心にこの町で暴れさせてもらう。そうすればサーゼクスが出てくるだろう?」 

 

 サーゼクス?

 

「そんな事をすれば、堕天使と神、悪魔との戦争が再び勃発するわよ?」

 

「それは願ったり叶ったりだ。エクスカリバーでも盗めばミカエルが戦争をしかけてくれると思ったが……寄越したが雑魚のエクソシストどもと聖剣使いが2名だ。つまらん。あまりにつまらん! ――だから、悪魔の、サーゼクスの妹との根城で暴れるんだよ。黒の聖職者はサーゼクスの前座として、俺を十二分に楽しませてくれそうだからな」

 

 俺がサーゼクスの前座……! なんかすごい嫌なんだが、あいつが聞いたら笑い転げてバカにしそうなんだけど。

 

「……戦争狂め」

 

 部長が忌々しそうにつぶやくが、コカビエルは狂気の笑いをあげるだけだ。

 

「そうだ。そうだとも! 俺は三つどもえの戦争が終わってから退屈で退屈で仕方がなかった! アザゼルもシェムハザも次の戦争に消極的でな。それどころか、神器(セイグリッド・ギア)なんてつまらんものを集めだしてわけのわからない研究に没頭し始めた。そんなクソの役にも立たないものが俺たちの決定的な武器になるとは限らん! ……まあ、そこのガキが持つ【赤竜帝の籠手(ブースデッド・ギア)】クラスのものならば話は別だが……そうそう見つかるわけでもないだろう」

 

 コカビエルがイッセーを見る。

 

 イッセーは体を震わせながらも強気な姿勢で訊いた。

 

「……おまえらは俺の神器もご所望なのかよ?」

 

「少なくとも俺は興味ない。――だが、アザゼルは欲がるかもしれんな。あいつのコレクター趣味は異常だ」

 

 あの不良総督か……。話したことはないが、そいつと寝たことのある女たちから、少しだけ話を聞いたことはある。

 

 エロ総督。女に誑かされて堕ちた天使。神器大好き男。

 

 碌な情報ないな……。

 

「とちらにしろ、俺はおまえの根城で聖剣をめぐる戦いをさせてもらうぞ、リアス・グレモリー。戦争をするためにな! サーゼクスの妹とレヴィアタンの妹、黒の聖職者が通う学び舎だ。さぞ、魔力の波動が立ち込めていて、混沌が楽しめるだろう! エクスカリバー本来の力を解放するにも最適だ! 戦場としてはちょうどいい」

 

 狂ってやがるな……。だけど、それより、レヴィアタンの妹ってまさか支取先輩!? あのコスプレ、ロリっ娘、天真爛漫、マイペースのセラたんの妹だったの!? そういや顔つきとか目元とかそっくりじゃん!? だから何で気づかなかったんだよ、俺!?

 

 ていうか、黒の聖職者って呼ぶんじゃねぇぇぇっ!

 

 殺気を出して再びコカビエルを睨む。

 

 すると白髪の神父服に身をつつんだ青年が両手で体を抱いて悶えていた。

 

「ひゃはー! すげぇ真っ黒な殺気だぜぇ! ぞくぞくっ、ぞくぞくきちゃうっ! 最高だぜ! さっすが噂の旦那! 俺、感じちゃうぅぅぅ!」

 

 気持ち悪っ! こいつがイッセーの言ってたクソ神父か! っていうかクソ神父だよな? こんな奴が何人もいないよな?

 

「ひゃははは! それにしても最高でしょ? 俺のボスって。イカレ具合が素敵に最高でさ、俺もついつい張りきっちゃうのよぉ。こんなご褒美までくれるしね」

 

 クソ神父が取り出したのは、エクスカリバーだった。

 

「右のが【 天閃 の 聖剣 (エクスカリバー・ラビッドリィ)】、左のが【 夢幻 の 聖剣 (エクスカリバー・ナイトメア)】、腰のは【 透明 の 聖剣 (エクスカリバー・トランスペアリンシー)】でござい。ついでにその娘さんから【 擬態 の 聖剣 (エクスカリバー・ミミック)】もゲットしちゃいました! もう1人の女の子が持ってる【 破壊 の 聖剣 (エクスカリバー・ディストラクション)】もゲットしたいところですなぁ。ひゃはっ! 俺って世界初のエクスカリバー大量所持者じゃね? しかも聖剣を扱えるご都合な因子をバルパーのじいさんからもらっているから、全部使えるハイパー状態なんだぜ? 無敵無敵! 俺って最強じゃん! ひゃはははははははっ!」

 

 クソ神父は心底おもしろそうに哄笑をあげる。

 

 すまん。エクスカリバーの大量所持者は間違いなく俺だ。たぶん探せば10本以上ででくると思うから。

 

 っていうか、エクスカリバーって名乗りたいだけじゃないの!? 別に聖剣じゃなくてもよくね? まあ、悪魔に対して効果抜群なんだろうけど、その効果を除けば、聖剣の能力って、中途半端もいいところだろうよ。

 

「バルパーの聖剣研究、ここまでくれば本物か。俺の作戦に付いてきたときは正直怪しいところだったがな」

 

 バルパーも今回の事件の共犯って事か。

 

「エクスカリバーをどうする気なの!?」

 

 部長が問う。コカビエルは10枚の翼を羽ばたかせ、学園の方へ体を向けた。

 

「ハハハ! 戦争をしよう、魔王サーゼクス・ルシファーの妹リアス・グレモリー! そして黒の聖職者よ!」

 

 だから黒の聖職者はやめて! 通り名の由来が残念すぎるんだから! 呼ぶならブラック・プレデターのほうで呼んでくれ! そっちなら、別にいいから!

 

 カッ!

 

 クソ神父が目くらまし用アイテムを出して、コカビエルとともに姿を消した。

 

「エイジ、イッセー、学園へ向かうわよ!」

 

「了解!」

 

「はい!」

 

 コカビエル! 俺と部長の邪魔をした報いを受けさせてやる!

 



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第23話 決戦 前編

 

<エイジ>

 

 

「リアス先輩。学園を大きな結界で覆っています。これでよほどのことがない限りは外に被害は出ません」

 

 匙が部長に現状報告をした。

 

 駒王学園を目と鼻の先にした公園で、グレモリー陣営とシトリー陣営のメンバーが集まっていた。

 

 やはり木場はいないか。

 

 まあ、仕方がない。勝手に死なないことを祈るだけだ。

 

 負傷したイリナは俺の家で寝かせてある。俺の家が結界で守られているからだ。

 

 シトリー眷属の匙が結界の説明を部長にしている。尻叩きの影響か、立ち姿がぎこちないが、それはこちらのイッセーも同じだった。

 

 話ではシトリー眷属全員で大掛かりな結界を学園に張ったという。

 

 中で起きたことを外に出さないための措置だが、はっきり言ってコカビエルの力量を考えるとあまり長い時間防げないと思う。

 

「これは最小限に抑えるためのものです。正直言って、コカビエルが本気を出せば、学園だけではなく、この地方都市そのものが崩壊します。さらに言うなら、すでにその準備に入っている模様なのです。校庭で力を解放しつつあるコカビエルの姿を私の下僕が捉えました」

 

 やはりか……。

 

「攻撃を少しでも抑えるために私の眷属はそれぞれの配置について、結界を張り続けてます。できるだけ被害を最小限に抑えたいものですから……。学園が傷つくのは耐え難いものですが、堕天使の幹部が動いた以上、堪えなければいけないでしょうね」

 

 支取先輩は目を細め、学園のほうを憎々しげに見つめる。学園にいるコカビエルへ向けた視線だろう。

 

 黒歌たちがいれば強力な結界を張らせることも可能だったが、仕方がない。

 

「ありがとう、ソーナ。あとは私たちがなんとかするわ」

 

「リアス、相手は桁違いのバケモノですよ?」

 

 支取先輩だけではなく、全員に宣言するように言う。

 

「コカビエルは俺が倒します」

 

 制服からいつもの戦闘服へ変身する。

 

 赤と黒の衣装で、黒のマントを風に靡かせる。

 

「俺が、コカビエルをその野望ごと喰らい尽くします」

 

「っ!」

 

「――っ!」

 

 黒い魔力を纏いながら静かにつぶやくと、リアス部長の顔がほんのり赤くなった。

 

 キマッた――。

 

 と、思っていたら、支取先輩の顔が真っ赤になっていた!

 

 え? なんでうっとり? っていうか無表情ながら瞳の方は爛々としていらっしゃる!?

 

 なんか恥ずかしい……。

 

「えっと……、支取先輩?」

 

「はっ! わ、私としたことが。ブラック・プレデターさま……、っ! 神城くん。期待しています」

 

 あれ? さっきブラック・プレデターさまって言わなかったか? さまって……。

 

 俺の聞き間違いか?

 

 俺が首を傾げていると、部長が俺の隣に立った。

 

 すると支取先輩はこほんっと息をついて話に戻った。

 

「リアス。あなたのお兄さまは――」

 

 首を横にふる部長。

 

「あなただって、お姉さまを呼ばなかったじゃない」

 

「私のところは……。あなたのお兄さまあなたを愛している。サーゼクスさまも呼んでおいたほうが――」

 

「すでにサーゼクスさまに打診しましたわ」

 

 2人の会話を遮って朱乃さんが言う。

 

「朱乃!」

 

 非難の声をあげる部長だが、朱乃さんが珍しく怒った表情を浮かべている。

 

「リアス、あなたがサーゼクスさまにご迷惑をおかけしたくないのはわかるわ。あなたの領土、あなたの根城で起こったことでもあるものね。しかも御家騒動のあとだもの。けれど、幹部が来た以上、話は別よ。この件はあなた個人で解決できるレベルを超えているわ。エイジくんがいるとしても、サーゼクスさまの、魔王の力を借りましょう」

 

 部長に詰め寄る朱乃さん。呼び方も「リアス」になっている。

 

 部長も何か言いたげだが、大きなため息を吐き、静かにうなずいた。

 

 それを確認して、朱乃さんはいつものニコニコ笑顔になる。

 

「お話を理解してくれてありがとうございます、部長。ソーナさま、サーゼクスさまの加勢が到着するのは1時間後だそうですわ」

 

 1時間――。それだけあれば十分コカビエルをしとめられる!

 

「……1時間ね。さて、私の下僕悪魔たち。私たちはオフェンスよ。結果内の学園に飛び込んで、コカビエルの注意をひくわ。これはフェニックスとの一戦とは違い、死戦よ! それでも死ぬことは許さない! 生きて帰ってあの学園に通うわよ!」

 

『はい!』

 

 全員気合の入った返事をする。

 

「兵藤! あとは頼むぜ」

 

「わーってるよ、匙。お前は尻のダメージでも気にしてろ」

 

「言うな! 言われるとさらに痛く感じる! お前こそ、尻は?」

 

「ふふふ。部長の愛が痛い。まあ、今の状況はまさに日がついた感じだな」

 

「いやいや、笑えねぇよ。――で、木場はまだか?」

 

「ああ、無事だと信じてるさ」

 

「そうだな、俺も信じる」

 

 イッセーと匙が拳を合わせて、男同士で笑みを浮かべていた。

 

 驚くほど短期間で仲良くなってるなこいつら。

 

 俺もいつもの仮面を顔につけよう。

 

「あら? 仮面は脱いだんじゃないの?」

 

 あ……、そうだった。

 

「仮面をつけることが癖になっていたみたいですね。もう仮面は必要なかったんだった」

 

 じゃあ、一思いに消し去りましょう。と、そこで支取先輩と目が合った。

 

 支取先輩の目は仮面を見つめている。

 

 えーっと……。

 

「俺はもう必要ないんで欲しいのならどうぞ」

 

 支取先輩に仮面を差しだそうとすると、

 

「本当ですかっ!!」

 

 支取先輩の声とは思えないほどの大声で俺の手から仮面を受け取り、微笑ではなく笑みを浮かべて仮面を両手に持って喜んでくれた。

 

 まさか俺の、っていうか創作のファンの方なのか?

 

 支取先輩があのトラウマになったBLアニメのファンではないことをせつに祈る……。

 

 さあ、役割分担も終わった事だし、行きますか!

 

 ぎゅうっ!

 

「いふぁっ!?」

 

 部長にいきなり頬を抓られた。お怒りのようだ。

 

「ソーナに渡して私には何もないの?」

 

 紅いオーラを背後に、ニコニコ笑顔で問いかける部長。

 

 誤解されてもあれなので、はっきりと言う。

 

「リアス部長には俺がいるでしょ」

 

「――っ!」

 

 部長の顔が真っ赤に染まった。

 

「神城ぉぉぉぉ! 会長に手をだしてるんじゃねぇぇぇぇ!」

 

「エイジぃぃぃぃ! 部長に手をだしてるんじゃねぇぇぇぇ!」

 

 イッセーと匙が後で何かを同時に叫んだようだったが、時間がない。

 

 首を洗って待ってろ、コカビエル!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正門から堂々と入る。

 

 部長が学園を敵地と定めていたので、俺は初になるプロモーションで『兵士』から『女王』へと昇格する。

 

 必要はなさそうだが、使えるものは使わないとな。だいたいの基準値が15%ぐらい上がっているようだ。

 

 【悪魔の駒】ってなかなか使えるな……。自分と【王の財宝】用に2セットほど欲しい。

 

 とりあえず考えを打ち切って、校庭を見る。

 

 校庭の中央に4本の剣が光を放ちながら宙に浮き、それを中心に怪しげな魔法陣が校庭全体に描かれていた。

 

 魔法陣の中央には初老の男――おそらくバルパー・ガリレイの姿があった。

 

 そういや聖剣の本来の力がどうのこうとと言っていたな?

 

 バルパーが面白そうに言う。

 

「4本の聖剣をひとつにするのだよ」

 

 やっぱり、予想的中。

 

 空にいたコカビエルがバルパーに尋ねる。

 

「バルパー、あとどれぐらいでエクスカリバーは統合する?」

 

「5分もいらんよ、コカビエル」

 

「そうか。では、頼むぞ」

 

 コカビエルはバルパーから部長へ視線を移す。

 

「サーゼクスは来るのか? それともセラフォルーか? ……それとも黒の聖職者か?」

 

 俺目掛けて殺気を飛ばしてくる。

 

 ふん! 幹部だけのことはあるな!

 

 真正面から殺気を受けて前へ出る。

 

「お前の相手は俺だ」

 

「ふ、ふはははははははは! いいぞ! 俺の殺気を受けてもまるで怯まない! これは楽しめそうだ! はははははは!」

 

 嬉しそうに笑うコカビエル。すぐにその笑い声をとめてやる!

 

「だが、それでは他の者が退屈だろう? 俺も戦う相手の実力を見てみたいからな。地獄からペットを連れてきた」

 

 コカビエルが指を鳴らす。すると、闇夜の奥からズシンズシンと何かが地を揺らしながら近づいてきた。

 

 10メールぐらいの、黒い巨体。四足は一つ一つが太く、鋭そうな爪と牙。ギラギラと輝く真紅の双眸。首が3つある犬。

 

「――ケロベロス!」

 

 忌々しそうに部長が言う。まあ、俺にとっちゃあ、ただの大きい犬だな。

 

 ケロベロスの数は全部で5体。

 

 部長は戦闘態勢を取ると、俺に声をかけた。

 

「エイジ。コカビエルの前に悪いんだけど……、何匹まで相手にできる?」

 

 まだ部長たちにはケロベロスの相手はきついだろう。

 

「あなたが望むなら何匹でも……、と言いたいところですが、学園をあまり壊せませんからね。4匹――俺に任せてください」

 

「そう……、ゴメンなさいね。あなたの王なのに」

 

 申し訳なさそうな顔になる部長。俺は笑顔で言う。

 

「俺はあなたの眷属悪魔ですよ。俺が自分の王を守らないでどうするんですか。王のあなたを支えるための眷属悪魔なんですから、いつもみたいに楽しそうに命令してくれればいいんですよ」

 

「ありがとう、エイジ」

 

 部長は俺に礼を言ったあと、コカビエルたちをみた。

 

「じゃあ、私たちは私たちで目の前のケロベロスに集中するわよ! エイジ! ケロベロス4匹、頼んだわよ!」

 

「了解です部長!」

 

 俺たちの言葉を訊いていただろうコカビエルは、笑みを浮かべてケロベロスたちを俺の方へ4匹、部長たちのほうへ1匹が来るように指示した。

 

 戦闘に巻き込まないように、体育館側へと移動して、部長たちと距離をとる。

 

 コカビエルは嬉しそうに空から俺を見る。

 

「さあ、見せてもらおうか黒の聖職者の力を!」

 

「その名で呼んでんじゃねぇ!」

 

 同時に襲い掛かってきたケルベロスをジャンプで上空へ逃げてかわしながら叫ぶ。

 

 うるさく吼えながら鋭い牙や爪で俺の身を引き裂こうと、向かってくるケロベロス。

 

 とりあえず、噛み付こうと大きな口を開けて突っ込んできたケロベロス1号の、中央に位置する頭に黒い魔力を纏わせ、攻撃範囲を伸ばした手刀で貫き、脳みそを破壊して即死させる。さらに続いて両側に生えている頭も必要最低限の魔力で脳みそを狙って絶命させた。

 

「まずは一匹!」

 

 ケロベロス1号を倒しても、まだあと3匹!

 

 部長たちは、イッセーが前線にいないところを見ると、赤龍帝の譲渡の力で、部長と朱乃さんのどちらかを強化する参段か!

 

 ケロベロス1号を倒してあと地面に着地する途中――。

 

 目の前のケロベロス2号がモーションに入った。

 

 ゴウゥゥンッ!

 

 ケロベロス2号の三つの首が同時に火を吐いた。

 

 さらに左右から大きな爪を振り下ろしてくる。

 

 空中では身動きが取れないと思ったか!

 

 トンっ!

 

 足元に魔力で足場を造り、格ゲーみたいに空中ジャンプ!

 

 火炎と入れ違うように移動して、いままさに火炎を吐いている途中である、ケロベロス2号の3つの首の付け根に降り立って、さらに手へ魔力を流して、黒い2メートルほどの長さの長剣の様にすると一閃――。

 

 ケロベロスの首を3つ一気に切り落とした。

 

 ドンッ、ドンッ、ドンッ!

 

 大きな首が地響きを鳴らす。

 

 あと2匹!

 

 部長たちのほうもそろそろ終わりそうだ。

 

 ケロベロス3号と4号に向き直ろうとしたら、部長たちのところへケロベロスがもう1匹出現した!

 

 さらに俺のところにも新手のケロベロスが2頭出現した。

 

 あの野朗! もう3匹も隠してやがったか! って、どんだけケロベロス好きなんだよ!?

 

 2匹目が部長たちに襲いかかろうとした瞬間――。ケロベロスの首が1つ跳んだ。

 

 ゼノヴィアが加勢に来たようだ。さらに、木場の魔力も感じる!

 

 部長たちを信じ、学園を傷つけないように、ケロベロス4頭に集中して、波状攻撃を必要最低限の力を使って避けながら、頭をピンポイントで潰していく。

 

 ケロベロス3号と4号を仕留め、5号と6号もあと頭を2つずつ潰せば、勝つというところで、周りの空気が変わった。

 

 歌が聞こえた。

 

 聖歌だ。

 

 空気が読めずに吼えているケロベロスの頭を早急に潰して、部長たちのほうに視線を向ける。

 

 すると木場の周りで子共の魂のようなものが青白い輝きを放ちだし、木場を包んでいっていた。

 

『僕らは、1人ではダメだった――』

 

『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった。けど――』

 

『皆が集まれば、きっとだいじょうぶ――』

 

 魂たちの声が聞こえた。

 

『聖剣を受け入れるんだ――』

 

『怖くなんてない――』

 

『たとえ、神がいなくても――』

 

『神が見ていなくても――』

 

『僕たちの心はいつだって――』

 

「――ひとつだ」

 

 魂たちが天にのぼり、ひとつの大きな光となって木場のもとへ降りてくる。

 

 やさしく木場を包み込んだ。

 

 木場の神器が変わる? まさか至ったのか! イッセーと同じ、禁手《バランス・ブレイカー》へ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バルパー・ガリレイ。あなたを滅ぼさない限り、第二、第三の僕たちが生を無視される」

 

「ふん。家急に犠牲はつきものだと昔から言うではないか。ただそれだけのことだぞ?」

 

 木場とバルパーと睨み合う。

 

 そこにイッセーが叫びを上げた。

 

「木場ァァァァァァ! フリードの野朗とエクスカリバーをぶっ叩けェェェェ!」

 

 おお! さすがイッセー。すごく熱い!

 

「おまえは、リアス・グレモリー眷属の『騎士(ナイト)』で、俺の仲間だ! 俺のダチなんだよ! 戦え木場ァァァァァ! あいつらの想いと魂を無駄にすんなァァァァ!」

 

 次に部長が叫ぶ。

 

「祐斗! やりなさい! 自分で決着をつけるの! エクスカリバーを超えなさい! あなたはこのリアス・グレモリーの眷属なのだから! 私の『騎士』はエクスカリバーに負けたりしないわ!」

 

「祐斗くん! 信じてますわよ!」

 

「……祐斗先輩!」

 

「ファイトです!」

 

 朱乃さん、小猫ちゃん、アーシアと続き、俺ものっかって叫ぶ。

 

「ぶっ飛ばせ! 木場!」

 

 木場は俺ら全員を見て、涙を流す。

 

 そんな木場にクソ神父が挑発する。

 

「ハハハ! 何泣いてんだよ? 幽霊ちゃんたちと戦場のど真ん中で楽しく歌っちゃってさ。ウザいったらありゃしない。もう最悪。俺的にあの歌が大嫌いなんスよ。聞くだけで玉のお肌がガサついちゃう! もう嫌。もう限界! てめえを切り刻んで気分を落ち着かせてもらいますよ! この4本統合させた無敵の聖剣ちゃんで!」

 

 木場が構えをとる。

 

「――僕は剣になる。部長、仲間たちの剣となる! 今こそ僕の想いに応えてくれッ! 魔剣創造(ソード・バース)ッッ!!」

 

 神々しい輝きと禍々しいオーラを放ち、木場の手元に一本の剣が現れた。

 

「――禁手、【 双覇の聖魔剣 (ソード・オブ・ビトレイヤー)】。聖と魔を有する剣の力、その身で受け止めるといい」

 

 木場がフリード目掛けて走り出す。

 

 木場は本来の持ち味であるスピードを生かして、クソ神父に剣を振るう。

 

 ギィィィン!

 

 木場のスピードに翻弄されずに、聖剣で受け止めるクソ神父!

 

 あいつって意外に強かったの!?

 

 木場の剣は聖剣に受け止められたが、エクスカリバーを覆うオーラを木場の剣がかき消した。

 

「ッ! 本家本元の聖剣を凌駕すんのか、その駄犬が!?」

 

 驚愕するクソ神父に告げる木場。

 

「それが真のエクスカリバーならば、勝てなかっただろうね。――でも、そのエクスカリバーでは、僕と、同士たちの想いは絶てない!」

 

「チィ!」

 

 舌打ちして後方へと距離をとったクソ神父は統合した聖剣エクスカリバーの能力を使い、木場を中距離から攻撃するが、木場はそれを全て剣で防いだ。

 

 その間にゼノヴィアが横殴りぎみに、戦闘介入する。

 

 ゼノヴィアは左手に聖剣を持ち、右手を宙に上げた。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

 言霊を発し始めるゼノヴィアの周りにあった空間が歪み、その歪みの中へ手を入れると、無雑作に探り、何かをつかむと次元の狭間から一気に引きずり出してくる。

 

 ゼノヴィアの手にあったのは一本の聖なるオーラを放つ剣。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。――デュランダル!」

 

 デュランダル!? ゼノたん、そんなのまで持ってたの!?

 

 驚いているバルパーに告げた言葉は、『天然者』。

 

 もとから聖剣デュランダルが使えるのに、聖剣エクスカリバーも使えるってことかよ!

 

 聖剣を二刀流に構えたゼノヴィアは、クソ神父の『擬態の聖剣』、『透明の聖剣』の能力で透明になって枝分かれしていた聖剣エクスカリバーを一撃で破壊し、もとの聖剣の姿に戻す。

 

 そこへ木場が聖魔剣で振るい、聖剣エクスカリバーを砕いた。

 

「――見ていてくれたかい? 僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」

 

 木場はそのままクソ神父を叩き切った……。

 



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第24話 決戦 後編

 

<エイジ>

 

 

 木場が聖魔剣で聖剣エクスカリバーを砕き折り、クソ神父に勝利した。

 

「せ、聖魔剣だと……? あり得ない……。反発しあうふたつの要素が交じり合うなんてこんなことはあるはずがないのだ……」

 

 表情を強張られているバルパーに木場は聖魔剣の剣先を向ける。

 

「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらう」

 

 切り込もうとする木場だが、バルパーはつぶやくのをやめない。

 

「……そうか! わかったぞ! 聖と魔、それらをつかさどる存在のバランスが大きく崩れているとするならば説明はつく! つまり、魔王だけではなく、神も――」

 

 っ!

 

 キンッ!

 

「ぶねぇぇ……!」

 

 突然、バルパーに向かってコカビエルが光の矢を放ったが、俺が直前で弾いた。

 

「なぜ私を……」

 

 俺が助けたと思っているのか!?

 

 言いかけていた言葉を止めるバルパー。

 

 俺は途中で驚いて止まってしまった木場にバルパーを蹴り渡す。

 

「ぐほっ!?」

 

 バルパーの口から苦痛に泣く声が漏れる。

 

 俺は木場の顔を見る。

 

「おまえの復讐だ! おまえが止めを刺せ!」

 

 木場は意外そうに、そして嬉しそうに笑みを俺に送ると、バルパーを見下ろした。

 

「これで僕の復讐は終わる――」

 

 ズンッ!

 

 木場の聖魔剣が深々とバルパーの胸に突き刺さる。

 

 ごぶっ。

 

 バルパーは口から血の塊を吐きだすと、そのままグラウンドへ崩れ落ちた。

 

 空の上から笑い声が鳴り響く……コカビエルだ。

 

「ハハハ! 先ほどの動きは俺にも見えなかったぞ! これは楽しめそうだな!」

 

「コカビエル!」

 

 俺は空にいるコカビエルを睨む。

 

 コカビエルは視線を受けると、にやりと笑みを浮かべた。

 

「そう言えば、お前たちは知っているか? バルパーが先ほど口にしようとした事を! 先の戦争で4大魔王だけではなく、神も死んでしまっていることを! お前たちは知っているか!」

 

 なっ!? いきなりなにを!?

 

 コカビエルは驚く俺たちを嬉しそうに眺めながら言う。

 

「ハハハ! まあ、知らなくて当然だな。神が死んだなどと誰も言えないからな! 人間は神がいなくては心の均衡と定めた法も機能しない不完全な集まりだ! 我ら堕天使、悪魔さえ下々にそれらを教えるわけにはいかなかった。どこから神が死んだと漏れるかわかったもんじゃないからな。三大勢力でもこの真相を知っているのはトップの一部の者たちだけだ。先ほどバルパーが気づいたようだがな」

 

 なんのために、こんな話をいきなり始めやがったんだ?

 

「戦後残されたのは、神を失った天使、魔王全員と上級悪魔の大半を失った悪魔、幹部以外ほとんどを失った堕天使。もはや、疲弊状態どころじゃなかった。どこの勢力も人間に頼らねば種の存続ができないほどまでに落ちぶれたのだ。特に天使と堕天使は人間と交わらねば種を残せない。堕天使は天使が堕ちれば数は増えるが、純粋な天使は神を失ったいまでは増えることなどできない。悪魔も純血種が希少だろう?」

 

「……ウソだ。……ウソだ」

 

 離れたところで、力が抜けうなだれるゼノヴィアの姿があった。

 

 その顔は見ていられないほど、狼狽に包まれている。

 

 現役の信仰者。神の下僕。神に仕えることを使命として、生きてきた存在。

 

 神の存在を否定され、今まで捧げていたものへの喪失感と生き甲斐を失えば

、こうなるのは当然か……。

 

「正直に言えば、もう大きな戦争など故意にでも起こさない限り、再び起きない。それだけ、どこの勢力も先の戦争で泣きを見た。お互い争う大元である神と魔王が死んだ以上、戦争継続は無意味だと判断しやがった。アザゼルの野朗も戦争で部下を大半亡くしちまったせいか、『二度めの戦争はない』と宣言するしまつだ! 耐え難い! 耐え難いんだよ! 一度振り上げた拳を収めるだと!? ふざけるなッ! あのまま継続すれば、俺たちが勝てたかもしれないのだ! それを奴はッ! 人間の神器所有者を招き入れなければ生きてはいけぬ堕天使どもなど何の価値がある!?」

 

 憤怒の表情で強く持論を語るコカビエル。

 

 アーシアが口元を手で押さえ、目を丸く開いて、全身を震わせた。

 

「……主がいないのですか? 主は……死んでいる? では、私たちに与えられる愛は……」

 

 アーシアの疑問にコカビエルはおかしそうに答える。

 

「そうだ。神の守護、愛がなくて当然なんだよ。神はすでにいないのだからな。ミカエルはよくやっている。神の代わりをして天使と人間をまとめているのだからな。まあ、神が使用していた『システム』が機能していれば、神への祈りも祝福も悪魔祓い(エクソシスト)もある程度動作する。――ただ、神がいる頃に比べ、切られる信徒の数は増えたがね。そこの聖魔剣の小僧が聖魔剣を創りだせたのも神と魔王のバランスが崩れているからだ。本来なら、聖と魔は交じり合わない。聖と魔のパワーバランスを司る神と魔王がいなくなれば、様々なところで特異な現象も起こる」

 

 コカビエルの言葉を聞き、アーシアがその場にくずれおちた。

 

「アーシア! アーシアしっかりしろ!」

 

 イッセーがアーシアを抱え、呼びかける。まだ信徒であるアーシアがショックを受けるのは当然だ。

 

 アーシアは人生の大半を神へ捧げてきたのだ、木場も複雑そうな表情を浮べ、アーシアを心配そうに見ていた。

 

 そんななかコカビエルは拳を天にかざす。

 

「俺は戦争を始める、これを機に! お前たちの首を土産に! 俺だけでもあのときの続きをしてやる! 我ら堕天使こそが最強だとサーゼクスにも、ミカエルにも見せ付けてやる!」

 

 宣言するコカビエルに、俺は心に浮んだ疑問を問いかけた。

 

「なぜこんな話をしたんだ?」

 

 戦闘がしたいのなら早く襲い掛かればいいものを、こいつは何を無駄に語っているんだ。

 

 コカビエルは光の槍と剣を構えて、獰猛な笑みと殺気を向けてきた。

 

「それはおまえが力を隠したからだよ! ケロベロスを差し向けた時でさえ力は中級悪魔程度の力しか出さすに、戦闘技術もまだ半分ほどしかみせていないんだろう? このままではおまえが本気で戦うかわからなかった! それに先に話しておけば、戦いを中断しないでいいだろう? ああ……、そう言えばもう1つ理由があったな……」

 

 コカビエルは俺から朱乃さんへ視線を移した。

 

「バラキエルの力を宿す者」

 

 バラキエル? 堕天使の?

 

「ッ! 私をあの者と一緒にするなッ!」

 

 戸惑っていた朱乃さんが、コカビエルの言葉に激昂して雷を放った。

 

 コカビエルはおかしそうに笑って翼で雷をかき消すと、再び俺へ視線を向けた。

 

 まさか、こいつ……。

 

「お前は女を卑下に扱ったりするのが、ものすごく気に障るんだろう? どうだ? 信徒の娘は絶望し、バラキエルの娘を怒らせて、サーゼクスの妹を犯して殺せば、死ぬ気で俺に襲い掛かってくるんじゃないのか? それとも、ここにいる女全員殺せば、本気になるか?」

 

 ――っ!

 

「後悔するなよ、コカビエルッ!」 

 

 俺に本気を出させるために……。

 

 いや、こいつ自身女を傷つけて愉しんでいやがった!

 

「おまえは俺が! 瀕死にさせられたイリナや、心を傷つけられたゼノたん、アーシア、朱乃さん! 学園を破壊されそうになって悲しんでいる支取会長以下生徒会の女の子たち! それになにより我が王、リアス・グレモリーのために! この俺が痛めつけて喰らい尽くしてやるッ!!」

 

 ドンッ!

 

 一気に空中へ飛び上がり、コカビエルの顔を殴りつける。

 

 ドガッ!

 

 避ける素振りもしないで殴られ地面へと落ちるコカビエル。

 

 ドゴォォォォンッ!

 

 グラウンドにクレーターを作り、土煙が舞う。

 

「すげぇ……、って俺たちのことはなにもねえのかよ!?」

 

 後方でイッセーの声と、木場が苦笑しているように感じたが、当然だろ! 俺の優先順位は女性が一番と歴代の魂が定めているほど、女尊男卑の精神なんだから! 男なら自分の力でガンバレ!

 

 クレーターの前に降りると、穴の中からあの耳障りな笑い声が聞こえてきた。

 

「フハハ、フハハハハハハハハ! 口に広がる血の味! 体を駆け巡る痛み! どす黒い殺気! フハハハハハハハハハ! 楽しいな!」

 

 戦争狂で戦闘狂。

 

 俺は冷めた眼で嬉しそうなコカビエルを見下ろす。

 

「俺があえて手加減していることにすら気づかないのか?」

 

「なんだと?」

 

「言っただろう? 痛めつけて(・・・・・)喰らい尽くすと!」

 

「ッ!?」

 

 光の剣と槍を構えようとするが遅い。

 

 ベキィッ! バキッ!

 

 俺の拳が構えようとしていたコカビエルの両腕を叩き折る。

 

「ぐおぉぉぉぉッ!?」

 

 両腕を折られ絶叫するコカビエル。

 

 拳を振り上げると、恐怖の表情を浮かべていた。

 

「ま、待てっ!」

 

「誰が待つか!」

 

 コカビエルを空間に縫いつけ、拳を振りかぶる。

 

 ドガッ!

 

 コカビエルの鼻が折れる。

 

 ドガッ! ドガガッ!

 

 さらに二度、三度と殴り、拳を加速させ全身を連打で痛めつける。

 

 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!

 

 程よい生殺し状態で、いったん拳を止めて距離をとる。

 

「ひゅー……、ゅ……、も、ぅ……」

 

 顔の原型がなくなったコカビエルからなにか言葉が漏れるが、聞こえない。聞く必要すらない。油断しなければ少しは戦えただろうに……。

 

「これで終わりだ」

 

 告げたあと【王の財宝】を発動させる。

 

 波紋のように一部の空間が歪み、一振りの長剣が登場する。

 

 刃から鞘まで黒く、紅い血の様な装飾が施された、禍々しい長剣。

 

 光輝くというより、漆黒のオーラを放つ長剣。

 

 その銘は【約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

 俺が所持している宝具の中でも、かなり気に入っている武器だ。

 

 使い手の魔力を光に変換、集束・加速させるという能力はもちろん、魔力効率を上げ、武器そのものの自力も全て能力アップ! 真名解放しなくても8割の威力で光線を放て、さらに殲滅ではなく、少人数にも対応した光線をノーモーションで放てるようになったトンデモ武装!

 

 さらに【全て遠き理想郷(アヴァロン)】付き!

 

 鞘(【全て遠き理想郷(アヴァロン)】)を空中に固定し、剣だけ抜き、鞘を王の財宝へ戻す。

 

「っ!?」

 

 コカビエルが腫れてほとんど閉じている眼が少しだけ開いた。

 

 おそらくこの剣のオーラに恐怖しているんだろう。

 

「これは魔剣エクスカリバー。だが、この世界の聖剣エクスカリバーとはまったくの別物。この剣は因子などではなく、使い手に資格を問い、使い手に染まるただの(・・・)剣だ」

 

 魔剣エクスカリバーを高く振り上げる。

 

 周りの闇が剣へ向かって吸い込まれていき、剣のオーラの密度が増し、紅い装飾も煌きを増す。

 

 コカビエルへ静かに告げる。

 

「この一撃で喰らい尽くされろ」

 

 振りかぶろうとした瞬間――。

 

「ちっ、最後まで見たかったが潮時か……」

 

 声とともに空から、イッセーの禁手【 赤龍帝 の 鎧 (ブースデッド・ギア・スケイルメイル)】と同じような、白い鎧に身を包んだ者が降りてきた。

 

「ふぅ……、まるでカラスの羽だ。薄汚い色をしている。アザゼルの羽根はもっと薄暗く、常闇のよう……っ!?」

 

 何者かは知らないが邪魔はさせない! それに、なにいきなりコカビエルの散った羽を見てぶつくさつぶやいているんだ!

 

「ま、待てまだ話の……!」

 

 うるさい! 振り上げた魔剣エクスカリバーは振り下ろさないといけないだろ! 女の子だったら分からなかったが、俺のセンサーはこいつは男と断言している!

 

 俺は白い鎧の前へ移動し、力を溜めた魔剣を大きく振りかぶる。

 

 殺しはしないがコカビエルごとふっ飛びやがれ!

 

 リアス部長の処女をもらうはずだった!

 

「邪魔された怒りはまだ収まってねぇぇんだよぉぉぉぉッ!!!!」

 

 ガギギギギギィィィッ! 

 

 俺の魔剣が、白い鎧は咄嗟に両手をつきたして防御体勢をとった。

 

 白い鎧の手甲に当たり、魔剣エクスカリバーから黒いオーラが噴出した。

 

「ぐぐぐぐっ! も、ものすごいパワーだ! アルビオンッ!」

 

 膝をつきながらも魔剣を受け止め、白い鎧は何かに呼びかけた。

 

 その瞬間――。

 

Divide(ディバインド)!』

 

 と音声が聞こえ、魔剣からパワーが抜けていく。

 

 白い鎧から苦しそうな声が漏れる。

 

「うぐッ! 予想よりも数段上のパワーだ……!」

 

 まさか力を吸いとる能力か?

 

 すごい能力だが――。

 

「運が悪かったな。この魔剣は先ほど溜めた魔力より前に、元から魔力が蓄積されている。先ほど溜めた魔力だけだったら止められただろうが、おまえは自分の力を過信し、受け止めた。多少傷を負っても避けるべきだった」

 

 呟きながら魔剣に蓄積していた魔力の封印を一部解き放って、どこかの騎士王よろしく光線を放つ。

 

「殺しはしないが、鬱憤は晴らさせてもらう!」

 

「アルビオンッ!」

 

『Divide!』

 

 白い鎧がふっ飛び、後に位置していたコカビエルも巻き込んで後方へとふき飛んだ。

 

 校舎は破壊しないように、なんか白い鎧に事情がありそうだったから、一応動けるように、コカビエルは瀕死になるように手加減して、鬱憤をぶちまけた。

 

「あ~っ、スッキリした~」

 

【王の財宝】を発動させ、剣を鞘に戻してしまい込む。

 

 ゆっくりと歩きながら、倒れている白い鎧と気絶しているコカビエルの前に立つ。

 

 白い鎧の鎧はひび割れ、ところどころから血がついていた。

 

 あれ? あんまりダメージ負ってない。

 

「うぐぐぐ……、キミの言うとおり過信していたようだ。まさかこんなに強いとはね。最後苦し紛れに半減させたのに、それでもかなりのダメージを負ってしまったよ」

 

 そう言ってギギギッと鎧から嫌な音を響かせながらゆっくり、立ち上がる白い鎧。

 

「ああ、最後に力を半減せてたのか。どーりで、やりすぎたって思ってたけど無事でよかった」

 

 うん。間違って殺さなくてよかった……。

 

「ふふっ、まさか、赤龍帝に挨拶にきておいて、黒の聖職者――黒い捕食者にやられるとはね」

 

 なんだろう? バトルマニアの臭いがする……。

 

「まさに黒い捕食者。噂通り何でも喰らい尽くす男だ」

 

 いい感じに褒めてくれてすまない……。

 

 その何でも喰らい尽くすって、

 

 ロリでも熟女でも種族関係無しに人型の女なら誰かまわず堕してセックスするってのがほんとの由来だったんだ……。

 

 なんか申し訳ない。

 

「えっと、まっ、まあそれはいい。とりあえずおまえは何者だ?」

 

 割り込んできたのとアザゼルって言っていたから、堕天使側だというのはだいたいの予想がつく。

 

 あまりの出来事に放心していた部長たちが集まってきた。

 

「エイジ!」

 

 白い鎧を警戒して部長たちは少し離れて陣形を取る。

 

「あなたが何者か答えてもらうわ」

 

 部長が白い鎧を睨む。

 

「そう睨まないでくれ、こちらに戦闘意思はない。俺は、アザゼルの命令で勝手な行動をとったコカビエルを連れ帰りにきた、今代の白龍皇(はくりゅうこう)、ヴァーリだ」

 

『白龍皇!?』

 

 部長とイッセーが声を上げて驚く。

 

 確か、イッセーの【赤龍帝の籠手】と対になってて、神滅具(ロンギヌス)のひとつ【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイティング)】だったけか?

 

「イッセーの宿敵か」

 

「イッセー? ああ、今代の赤龍帝だね。彼には今のところ興味はないよ」

 

「なんだと!」

 

 イッセーがヴァーリを睨む。

 

 ヴァーリはイッセーに顔を向けると、魔力を解放して威嚇した。

 

「っ!」

 

 それだけで、イッセーだけではなく他の部員も震えた。

 

「強い相手にしか興味がないんだ」

 

 はっきり言って力量が違う。

 

 ヴァーリは少なくてもコカビエルよりも数段上位に位置している。

 

 今のイッセーは愚か部長たちの誰も、この場では俺以外に勝つことはできない存在だ。

 

「黒い捕食者、この場は引かせてもらってもいいかい? 先ほども言ったが、コカビエルを回収にきただけなんだ」

 

 って俺に聞かれてもな~。

 

「部長、どうします?」

 

 部長に判断を仰ぐ。悪魔の政治は部長に任せた方がいい。

 

「そうね――」

 

 部長は少し考え込み、

 

「見逃すわ」

 

「リアス!?」

 

 部長の決定に朱乃さんが声を上げる。

 

 部長は朱乃さんを制してヴァーリに問う。

 

「堂々と回収に来たってことは、堕天使側から後日、なにかあるのでしょう?」

 

「もちろん、アザゼルはこの件に対して3勢力全部で一度大きな会談の場を設けるつもりだ」

 

 ヴァーリの言葉を聞いて、部長は改めて決定を下す。

 

「では、そちらへコカビエルを渡します」

 

 ヴァーリは鎧姿のまま部長へ頭を下げるとコカビエルの足首をつかんだ。

 

 酷い持ち方だな。

 

「感謝する。では、俺は帰らせてもらうよ。あっ、忘れてた。フリードも一応連れ帰らないといけないんだった。こちらもいいかい?」

 

「ええ」

 

 部長から許可をもらいヴァーリが飛び立とうとした。

 

『無視か、白いの』

 

 初めて聞く声が、イッセーの左腕から聞こえた。

 

 見ると赤龍帝の籠手の宝玉が光りだしていた。

 

『起きていたか、赤いの』

 

 ヴァーリの鎧の宝玉も白く光った。

 

 確か龍が宿ってんだっけ? なんか会話でも始めんのか?

 

『せっかく出会ったのにこの状況ではな』

 

『いいさ、いずれ戦う運命だ。こういうこともある』

 

『しかし、白いの。以前のように敵意が伝わってこないが?』

 

『赤いの、そちらも敵意が段違いに低いじゃないか』

 

『お互い、戦い以外の興味対象があるということか』

 

『そういうことだ。こちらはしばらく独自に楽しませてもらうよ。たまには悪くないだろう? また会おう、ドライグ』

 

『それもまた一興か。じゃあな、アルビオン』

 

 会話が終わり光が止んだ。

 

 別れを告げた龍たちだったが、イッセーは納得できなかったようだ。

 

「おい、ヴァーリ! おまえも俺を無視してるんじゃねえよ!」

 

 叫ぶイッセーだが、ヴァーリは歯牙にかけていない様子で一言だけ残した。

 

「すべてを理解するには力が必要だ。強くなれよ、いずれ俺の戦う宿敵くん」

 

 そして俺の顔を見て、

 

「俺がもっと力を手に入れた時は、その時もう一度戦ってくれるか、黒い捕食者?」

 

 俺はその言葉にうなずいて真剣に答える。

 

「俺の名は神城エイジだ。俺と戦いたければ美女を3000人用意してから来い!」

 

「エイジ!」

 

 いたっ!

 

 少し茶目っ気を出しただけなのに、部長に殴られた……。

 

 ヴァーリは鎧の中でふっと笑い声を漏らした。

 

「わかった。3000人用意してから挑みに来るよ」

 

 マジで!?

 

「美女3000人!? マジで用意するのか!? くそぉぉぉ! 俺も強くなれば女の子くれるのか!?」

 

 俺が言葉を出す前にイッセーが叫び声をあげた。

 

 ヴァーリもそんなイッセーに困惑しながらも言う。

 

「あ、ああ。キミが強くなれば……」

 

「ほんとだな! ほんとに用意してくれるんだな!」

 

「も、もちろんだ」

 

「ならお前より強くなってやるぜヴァーリッ! そうすれば! 俺はハーレム王にッ!」

 

 下品な笑みで笑うイッセー。

 

「イッセー……、あなたねぇ」

 

 これには部長も呆れて叱る気にもなれなかったようだ。

 

 ヴァーリが空へ消えてもイッセーはぐへへっと笑い声をあげていた。

 



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第25話 新たな決意と新たな仲間

 

<エイジ>

 

 

 ヴァーリがコカビエルとクソ神父を回収して消えたのを確認して全員、戦闘態勢を解いた。

 

 木場が気の抜けたような顔で空を見つめているところへ、イッセーが木場の背を叩いた。

 

「やったじゃねぇか、色男! へー、それが聖魔剣か。白いのと黒いのが入り混じっててキレイなもんだなぁ」

 

「イッセーくん、僕は――」

 

「ま、いまは細かいの言いっこなしだ。とりあえず、いったん終了ってことでいいだろう? 聖剣もさ、おまえの仲間のこともさ」

 

「うん」

 

 イッセーが木場を励まし、さらにアーシアが心配そうに木場に訊いた。

 

「……木場さん、また一緒に部活できますよね?」

 

 木場が口を開こうとした時、

 

「祐斗」

 

 部長が木場を呼んだ。

 

 部長は木場を笑顔で迎え入れた。

 

「祐斗、よく帰ってくれたわ。それに禁手《バランス・ブレイカー》だなんて、私も誇れるわよ」

 

「……部長、僕は……部員の皆に……。何よりも、一度命を救ってくれたあなたを裏切ってしまいました……。お詫びする言葉が見つかりません……」

 

 部長は木場の頬を手でなでる。

 

「でも、あなたは帰ってきてくれた。もう、それだけで十分。彼らの想いを無駄にしてはダメよ」

 

「部長……。僕はここに改めて誓います。僕、木場祐斗はリアス・グレモリーの眷属――『騎士』として、あなたと仲間たちを終生お守りします」

 

「うふふ。ありがとう。でも、それをエイジとイッセーの前で言ってはダメよ?」

 

 イッセーはものすごい嫉妬の目つきで木場を睨んでいたが、俺はそこまで睨んでない。うん、別にこれぐらいなんでもないんだからねッ!

 

 木場が立ち上がり俺へ向かって深く頭を下げた。

 

「ありがとう、エイジくん。キミのおかげで仇敵を自分の手で討つことができた。それに裏でも僕のために色々動いてくれたんだろう? キミが聖剣を持っていると知って一方的に敵視していたのに……」

 

「べ、別におまえのためじゃねぇよ。部長のためにやっただけだ!」

 

「それでもありがとう」

 

 いままで敵視されていたから、なんかいまの木場は調子が狂う。

 

「とりあえず、礼だけは受け取っておく」

 

 そう言って距離をとった。

 

「さて」

 

 ブゥゥゥン。危険な音を立てて、部長の手が紅いオーラに包まれた。

 

 …………ああ、そう言えば俺のお仕置きがまだでしたね……。

 

「あら? エイジじゃないわよ」

 

 え!

 

「本当はお仕置きしようかと思ってたけど、今日すごく頑張ってくれたから、エイジへのお仕置きなしよ」

 

 ま、マジで!? やったぁぁぁぁ! 俺の尻と心が助かったぁぁぁぁ!

 

 部長はニッコリ笑顔を木場に向ける。

 

「祐斗、勝手な事をした罰よ。お尻叩き千回ね」

 

 バシッ! バシッ!

 

 木場が部長に尻を叩かれる音と、尻を叩かれる木場をみて笑うイッセーの笑い声が真夜中の校庭に鳴り響く。

 

 叩かれるたびに木場の顔が苦痛に歪み、必死に声を我慢している姿は、かなり笑えるのだが、

 

「さて、ゼノたん」

 

 放心しているゼノヴィアに近づく。

 

「ぁ……、ぅ……」

 

 まだ神が死んだと聞かされたショックで放心している。

 

「いまはゆっくり眠りな。難しいことはまたあとで考えるんだ」

 

 ゼノヴィアの頭をなでて、【眠りの霧】という相手を眠らせる魔法を発動させる。

 

「――っ」

 

 抜け殻状態だったのでレジストもせずに、ゼノヴィアは簡単に意識を失った。

 

「とりあえず、デュランダルは【王の財宝】に入れとくか。あと聖剣の核――『かけら』だったけか?」

 

 俺はサーゼクスの加勢が来る30分の間に、それらを終わらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーゼクスの加勢が学園へ到着したあと、部長は支取先輩を含めて状況説明を行い、彼らに大きなクレーターだらけで荒らされたグランドや、建物の修理を頼んだ。

 

 そして現在、俺はオカルト研の部室で休んでいた。

 

 オカルト研の部室にいるのは4名。

 

 俺と、部長、支取先輩に、そしてゼノヴィアだ。

 

 他の部員たちや生徒会メンバーは戦闘後ということで、すでに家へと帰り休んでいるだろう。

 

 部長たちと俺は今回の事件の説明を、サーゼクスがよこした加勢の悪魔に詳しい説明を行っていたために遅くまで残っているのだ。

 

 ゼノヴィアは未だに眠りから覚めないためにソファーに寝かせていた。

 

「とりあえず、一件落着ですね」

 

「ええ、誰も死なずに、皆無事でよかったわ」

 

 1つのソファーでゼノヴィアを寝かせているので、2人はもう1つのソファーに並んで俺が用意した紅茶を飲みながら安堵の息を吐いた。

 

 俺はどこにいるかって? そりゃあ部長の横に座ってるよ。

 

 まあ、少し狭いけど、部長に密着されるのは嬉しい。

 

「学園の被害もそれほど大きくありませんでしたし、助かりました」

 

 支取先輩は学園のことを気にしていたからな。

 

「エイジが考えて戦ってくれたおかげよ」

 

 そう言って部長が誇らしげに俺を見た。褒められるのは大好きです!

 

 支取先輩が俺に頭を下げた。

 

「神城くん、ありがとう」

 

「いえ、俺の母校でもありますし、気にしないでくださいよ」

 

「そんなわけにはいかないわ。こんど何か困ったことがあれば相談してください。わたしにできることなら協力しますから」

 

 律儀な先輩だなぁ。本当にあのレヴィアたんの妹なのか?

 

 支取先輩の顔を観察していると、部長の顔が視界を遮った。

 

 ニッコリ笑顔の部長。

 

「それよりも、エイジ。この子はどうするの?」

 

 部長はゼノヴィアを指差した。

 

 ああ、ゼノヴィアね。

 

「あのままにしておくのは無理だったので連れてきました。目が覚めたらデュランダルを渡して、聖剣と聖剣の『かけら』も渡しますよ。神側の聖剣エクスカリバーがこちらにあるのはマズイでしょうから」

 

 そういうと部長と支取先輩は納得したような表情で「そうね」とうなずいた。

 

 そして、支取先輩が時計を見て立ち上がった。

 

「もうあと数時間もすれば登校時間ですね。私はこれで失礼します」

 

 部長が立ち上がり、俺も立つ。

 

 支取先輩は魔法陣を足元に発現させた。

 

「それではまた学校で、リアス、神城くん。おやすみなさい」

 

「ええ、またね。ソーナ」

 

「お疲れ様でした」

 

 魔法陣が光り支取先輩の姿が消えた。

 

 3人だけになった部室。

 

「さてと、私たちも帰りましょうか。明日は休日だし、ゆっくりと眠りたいわ」

 

 戦闘の疲れを癒すためと慰労目的で、明日はグレモリー眷属は休日となっていた。

 

 ちなみにシトリー眷属は生徒会で、全員休むことはできないので、交代して休むそうだけど、支取先輩は休みそうにないな。

 

「そうですね。帰りましょうか」

 

 ゼノヴィアを抱えて家へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家へと帰宅したあと、ゼノヴィアを俺の部屋のベッドに寝かせた。

 

 イリナはリビングで寝ていたが、いまは2人一緒にない方がいいからだ。

 

 精神不安定のゼノヴィアが何かの拍子に、イリナに神の不在を漏らしてしまうおそれがあったからだ。

 

 ゼノヴィアをベッドに運んだあと、俺は部長とともに風呂に入っていた。

 

 湯船の中で向かい合って抱き合い静かな時間を過ごす。

 

「今日はいろんなことがあったわね」

 

 部長が俺の胸に顔を埋めながらつぶやいた。

 

 俺は湯船の縁に両手をおいてうなずいた。

 

「ええ。ケロベロスに、バルパー、木場の禁手、コカビエルとの戦闘、白龍皇の来襲……」

 

「それに、あなたもね」

 

「俺も?」

 

 部長の乳首が俺の乳首に触れる。

 

 ゆっくりとお互いの乳首が勃起し始めたことを感じながら、部長は言う。

 

「まさか、コカビエルを一方的に倒して、魔剣エクスカリバーなんてとんでもないものを持っていたとは思わなかったわ。噂の魔王級が本当だってことを改めて知った――」

 

 部長は俺の瞳を覗きこむ。

 

「あなたほどの力の持ち主がなぜ私の下僕悪魔になったの? あなたなら『はぐれ』……、いえ、普通に悪魔として迎え入れられると思うんだけど」

 

 瞳に悲しげな、不安そうな色を含ませた部長。まったく……。

 

 俺は部長に尋ねる。

 

「自信がないんですか?」

 

「……ええ。魔王の妹でもグレモリー家の次期当主でも、あなたを下僕にするような資格は私には……」

 

 俯く部長の顔を無理やり上げさせる。

 

「俺は前にも言いましたが、あなただから眷属になったんです。あなたの生まれや立場などは別にいいんですよ、俺はリアス・グレモリーを気に入って下僕悪魔になったんですから」

 

「――っ!」

 

 部長の瞳に涙が浮んだかと思えば、すぐに顔が真っ赤になった。

 

「俺は強大な力を持っている。確かに魔王級の実力でしょう。ですが、その力をどう振るうか、誰のために振るうのかは俺の自由。俺はあなたの眷属悪魔として力を振るいますし……」

 

 一拍おいてリアス部長の耳元で言う。

 

「1人の男としてもあなたを守りますよ」

 

「っ!」

 

 どんどん真っ赤になっていく部長。

 

 その様子が可愛らしくて笑みがこぼれてしまう。

 

「エイジィィィィ……」

 

 からかわれたと思ったか、部長が怒ってしまった。

 

「まったくもう! あなたってそうやって女の子をおとしていくの?」

 

「ふふ、すみません。確かに俺は女好きで美人に求められれば見境なくセックスしてしまう性分です。ですが、本気で特定の女性を好きになったら、絶対に自分の手で幸せにしないと我慢ならない。イッセーで言うところのハーレムですね。俺は黒歌やセルベリア、ノエル、時雨、レイナーレを絶対に手放しませんし、それにもちろんリアス・グレモリー、あなたも」

 

 そう言うと、リアス部長は俺の首筋に顔を埋めた。

 

「呆れるほどに強欲ね」

 

「はい。今の俺は悪魔ですから」

 

 そのあと、自室にはゼノヴィアがいるので、俺の部屋の向かい側にある、部長の部屋で寝ることなったが、

 

「ぶ、部長……」

 

「ふふふ、あなたも乳首が弱かったの?」

 

 部長が俺の上に乗り、乳首を舌で攻めてきた。

 

「いつもあなたが私の乳首吸いながら寝てるんだから、たまには私も吸わせてもらうわね」

 

「あ、ああ……、そ、そんな、吸わないでぇぇぇぇ」

 

「ふふふ、ビンビンになって可愛らしいわね」

 

 朝方まで部長の攻めは続いた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼノヴィアとイリナが目覚めてから、数日後――。

 

 放課後の部室にやって来た俺と、イッセーとアーシア。部室のソファーには外国人の女の子。

 

 そういえば、確か今日だったな。

 

「やあ、赤龍帝」

 

 緑のメッシュを入れた女の子――ゼノヴィアが駒王学園の制服に身を包んで、驚くイッセーとアーシアに挨拶をした。

 

 動揺を隠せないイッセーがゼノヴィアを指差した。

 

「なっ……なんで、おまえがここに!?」

 

 バッ!

 

 ゼノヴィアが背中から黒い翼――悪魔である証をだした。

 

 ゼノヴィアがふんと鼻息をつきながら言う。

 

「神がいないと知ったんでね、破れかぶれで悪魔に転生した。リアス・グレモリーから『戦車』の駒をいただいた。本当は『騎士』の駒で転生するつもりだったが、姫島朱乃とカミシロを交えて相談した結果、私にはスピード強化より攻撃と防御を強化したほうがいいと『戦車』の駒になったんだ。ちなみにデュランダルがすごいだけで私自身はそこまで少なくなかったようで、駒の消費は1つで済んだみたいだぞ。で、この学園にも編入させてもらった。今日から高校2年生の同級生でオカルト研究部所属だ。よろしくね、イッセーくん♪」

 

「……真顔で可愛い声を出すな」

 

「イリナの真似をしたのだが、うまくいかないものだな」

 

「つーか、転生かよ! 部長、貴重な駒をいいんですか?」

 

 俺も悪魔化の話には驚いたよ。

 

「まあ、デュランダル使いが眷属にいるのは頼もしいわ。これで祐斗とともに剣士の2翼が誕生したわね」

 

 まっ、ゼノヴィアは『騎士』の駒じゃないけどな。

 

「そう、私はもう悪魔だ。後戻りできない。――いや、これで良かったのか? うぅむ、しかし、神がいない以上、私の人生は破綻したわけだ。だが、元敵の悪魔に降るというのはどうなんだろうか……。いくら相手が魔王の妹、黒の聖職者だからといって……」

 

 ゼノヴィアは何やらぶつぶつとつぶやきながら頭を抱えだした。しかも、祈ってダメージ受けてる……。

 

 うーん、アーシアも祈ったりしたらダメージくらってたなぁ。元信徒でも2人とも信仰がぬけていないし、生き甲斐だったんだ。どうにかして祈りのダメージだけでもなくす方法はないのかな~?

 

 イッセーの視線が俺に移る。

 

「エイジ! お前知ってたのか?」

 

「まあな。ゼノたんと怪我したイリナの面倒みていたのは俺だし。代わりに聖剣の『かけら』を回収したのも俺だったからな」

 

「何で俺たちに教えなかったんだよ。それに、ゼノたんって」

 

「ん? 事前に話したら面白みがないだろう? 部室を開けたら意外な美少女が――ってお前が好きなシチュエーションだろ? ゼノたんがどう呼んでもいいと言ったんでな、冗談でゼノたんって言ったら了承してくれた」

 

 そう言ってゼノヴィアを見ると、ゼノヴィアは大きなため息を吐いた。

 

「まさか、そんな呼び方をするとは思わなかったんだ」

 

「……そ、そうか。ところでイリナは?」

 

「イリナなら、私のエクスカリバーを合わせた5本とバルパーの遺体を持って本部に帰った。統合したエクスカリバーを破壊してしまったせいか、芯となっている『かけら』の状態で回収した。まあ、奪還の任務には成功したわけだよ。芯があれば錬金術で鍛えて再び聖剣にできる」

 

「エクスカリバーを返していいのか? てか、教会裏切っていいのかよ?」

 

「いちおうあれは返しておかないとマズい。デュランダルと違い、使い手は他に見繕えるからね。私にはデュランダルがあれば事足りる。あちらへ神の不在を知ったことに関して述べたら、何も言わなくなったよ。私は神の不在を知ったことで異分子になったわけだ。教会は異分子を、異端を酷く嫌う。たとえ、デュランダルの使い手でも捨てる。アーシア・アルジェントのときと同じだな」

 

 ゼノヴィアは自嘲した。

 

「イリナは運がいい。ケガをしていたため、戦線離脱していたとはいえ、あの場で、あの真実を聞けば、心の均衡はどうなっていたかわからない」

 

 コカビエルが神の不在をしゃべったのって、半分俺のせいみたいなもんだから、なんか気まずい……。

 

 そう思っていると、ゼノヴィアが俺の方へ『気にするな』と目をいっていた。

 

 そのあとゼノヴィアはすぐに話しに戻る。

 

「ただ、私が悪魔となったことをとてもお残念がっていた。神の不在が理由だとは言えないしね。なんとも言えない別れだった。次に会うときは敵かな」

 

 ゼノヴィアが目元を細めながら言う。

 

 俺にしてもイリナとの別れは、なんとも言えなかった。「この悪魔がゼノヴィアを誑かしたのね!」って、俺に敵意向けてきたからね……。

 

 まだ手も出していないのに……、あ、いや、……手も出してないのに。

 

 部長の目つきが鋭くなったように感じて言いなおしたが、なに? 心読まれたの?

 

 部長が全員そろったところを確認すると、部長が語りだす、

 

「教会は今回のことで悪魔側――つまり魔王に打診してきたそうよ。『堕天使の動きが不透明で不誠実のため、遺憾ではあるが連絡を取り合いたい』――と。それとバルパーの件についても過去逃したことに関して自分たちにも非があると謝罪してきたわ」

 

 遺憾か……。まあ、こんなところだろう。

 

「しかし、この学び舎は恐ろしいな。ここには魔王の妹がもう1名もいるのだもの」

 

 嘆息しながら言うゼノヴィアに、イッセーとアーシアが驚きの表情で部長を見る。

 

 部長は肯定するようにうなずいた。

 

 まっ、俺なんてその2人の魔王と知り合いなのに、その妹だとは気づかなかったからな。

 

 てか、俺って無知すぎるな。

 

 グレモリー家とかシトリー家って冥界で有名な名家なのに知らないなんて……。

 

「今回のことは、堕天使の総督アザゼルから、神側と魔王側に真相が伝わってきたわ。エクスカリバー強奪はコカビエルの単独行為。他の幹部は知らなかったことだった。3すくみの均衡を崩そうと画策し、再び戦争を起こそうとした罪により、【地獄の最下層(コキュートス)】で永久冷凍の刑が執行されたそうよ」

 

 結局、死んでないわけか。

 

「『 白 い 龍 (バニシング・ドラゴン)』が介入し、……エイジにコカビエルごと怪我を負わされたけど、それは戦闘中に突然介入したこちらが悪いと、問題にはされなかったどころか、代わりに事態を収拾したことに感謝するそうよ」

 

 会談の前の火種にはされたくなかったし、それは本当によかった。

 

「近いうちに天使側の代表、悪魔側の代表、アザゼルが会談を開くそうよ。ヴァーリが話したとおり、アザゼルから話したいことがあるみたいだから。そのときにコカビエルの謝罪するかもしれないなんて言われてるけれど、あのアザゼルが謝るかしら」

 

 肩をすくめながら、部長が忌々しそうに言う。

 

 それにしても、3大勢力の会議ね~。

 

 なんていうか面倒そうだ。

 

「私たちもその場に招待されているわ。事件に関わってしまったから、そこで今回の報告をしなくてはいけないの」

 

「マジっスか!?」

 

 部長の言葉にイッセーが驚き声を上げる。他のメンバーも驚いているようだ。

 

 ゼノヴィアが訊ねる。

 

「……『 白 い 龍 (バニシング・ドラゴン)』は堕天使側なのか?」

 

「そうだ。アザゼルは『神滅具(ロンギヌス)』を持つ 神 器 (セイグリッド・ギア)所有者を集めている。何を考えているかはわからないが、ろくでもないことをしようとしているのは確かだね。『 白 い 龍 (バニシング・ドラゴン)』はその中でもトップクラスの使い手。『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部を含めた強者(つわもの)のなかでも4番目か5番目に強いと聞く。すでに完全な 禁 手 (バランス・ブレイカー)状態。現時点のライバルはキミより断然強い」

 

 4か5か……。

 

 まあ、成長すればもっと強くなるんだろうけど。

 

 驚愕していたイッセーが、ふと気づく。

 

「エイジって、その堕天使の中でも4番目に強いあいつを一撃で倒してなかったか?」

 

 全員の視線が俺に集まる。

 

「ま、俺の実力は魔王並みだからな。いくら白龍皇だからって、幹部ごときには負けねぇよ。っていうか、正確にいうと倒してないぞ。きちんと防御して必要最低限のダメージに抑えやがったからな、あいつ」

 

「そ、そうなのか……」

 

 部長が俺の顔を正面から見た。

 

「……エイジ。3大勢力の会議の時に、正式にどの勢力につくか決めて欲しいと3勢力から要望が来てるわ」

 

「エイジは部長の眷属悪魔だから悪魔側じゃないんですか?」

 

 イッセーが部長に聞く、部長は首を振って言う。

 

「イッセー、そんなに簡単な話じゃないの。エイジは今まで仮面をつけて3大勢力のどれにもつかずに賞金稼ぎとして、賞金首を長い間狩ってきたの。あなたもコカビエルがエイジをなんと呼んだか聞いたでしょう?」

 

 やめて! その名は……!

 

「黒の聖職者――でしたっけ? 冥界でも【 黒い捕食者 (ブラック・プレデター)】って名乗ったり、呼ばれたりしてましたよね?」

 

 そこへゼノヴィアが詳しく説明を開始した。

 

「黒の聖職者――。ここ数年で教会内で有名になった仮面の断罪者だ。神に近い圧倒的な力で悪人や堕天使、悪魔を駆逐し、正体は誰も知らなかった。だが、ここ最近冥界で素顔をさらし、自分が悪魔であることをバラシたことで教会内にも激震が走っていたな。黒の聖職者は女性に優しいし、顔も悪くないし、美丈夫と、ミステリアスな仮面で女性のファンが多かったしな」

 

 ゼノヴィアの説明のあとに部長が続く。

 

「黒い捕食者もだいたいそんな感じね。魔王クラスの実力を持つ賞金稼ぎで、上級悪魔並みの力を持った蒼炎の戦乙女と、魔銃の2人を従え、凶悪な悪魔や危険な悪魔を次々と狩る伝説クラスの賞金稼ぎ。ちなみに冥界ではその黒の捕食者を題材とした物語がブームになっているわ」

 

「神や魔王クラス……。題材とした物語……。エイジってもしかしなくても有名人?」

 

 イッセーが信じられないと俺の顔をみてくる。

 

「まあな」

 

 以前部室で話したこともあったんだけどな。

 

 そうつぶやくと朱乃さんがSな表情で要らない情報を言ってきた。

 

「冥界では知らない女性はいないと言われているほどですわ。少年期から現在の青年期まで全部で6期ほど続いているアニメもありますし、小説やドラマの題材、さらにゲームなど、さまざまなグッズも発売されているんですよ」

 

 一拍おいて、それに――と朱乃さんが続ける。

 

「グレモリー家とフェニックス家の婚約パーティーには冥界のテレビが入っていましたから、その場でずっと隠していた仮面を脱ぎ去り、婚約パーティーでまさに創作通り、お姫さま(部長)を攫ったことで【黒い捕食者(ブラック・イーター)】の人気に火がついてるんですよ」

 

 部長の顔が真っ赤になる。

 

「それはいま言わなくていいでしょ!」

 

 真っ赤になって朱乃さんに怒り、話を強引に戻す。

 

「とにかく! そんな神や魔王クラスでいままでフリーで活動していたエイジが、どの勢力につくかっていうのはすごく重要なことなのよ! 私の眷属悪魔でも本人がきちんと意思表明をしないと3大勢力がヘタに動けなるほどのね!」

 

 部長は顔を少し反らし、改めて聞いた。

 

「で、エイジは、どの勢力につくのよ……」

 

 わかっているくせに……。でも、ツンデレ風の部長のお姿には萌えます!

 

「そりゃあ、当然、俺の王であるリアス・グレモリー。あなたにつきますよ」

 

「……そんなにすぐに決めていいの?」

 

「ええ。事前に3勢力に通達してくれてもいいですよ」

 

 確認する部長に、俺は笑顔で言う。

 

 部長は嬉しそうな笑みを一瞬うかべると、すぐに表情を引き締めた。

 

「わかったわ。あなたが悪魔側についてくれて嬉しいわ」

 

 そう言って話を締めくくった。

 

 そのあと、ゼノヴィアがアーシアに会談のときの態度を謝罪した。2人とも言い子だし、すぐに友達になるな。

 

 3大勢力で会談……。

 

 面倒事が一気に増えていくな。

 

 まっ、いまはそんなことよりも今度の休日だな!

 

 部長と朱乃さんの水着選び! イッセーの誘いを断ってまで……いや、部長の方が先だったな。

 

 イッセーたちはカラオケ、俺は部長と朱乃さんとのデート!

 

 楽しまなきゃ損だ!

 



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停止教室のヴァンパイア
第26話 転生悪魔から卒業? ☆


<エイジ>

 

 

 皆さん、こんにちは。神城エイジです。

 

 春にフリーの賞金稼ぎから転生悪魔になって、もう夏です。季節の流れは早い。

 

 俺は現在床一面がマットのようになっている体育館のような広い空間にいます。

 

 目の前にはきわどい衣装に身を包んだ、幼女から熟女までの悪魔がざっと見、500人ぐらい立っています。

 

 7割ぐらいの女性が背中に黒い翼を生やし、ハート型の尻尾を生やし、獰猛な、嘗め回すような目つきで俺を狙っています。

 

 はい。淫夢、サキュバスと呼ばれる方々ですね。

 

 残りの3割は人間や獣耳の悪魔みたいです。

 

 その方々となぜ俺が向かい合っているかというと。

 

 ずっと続けている悪魔のお仕事で、約一ヶ月前にはいった仕事の予約が発端だったんです。

 

 我らが王、リアス・グレモリーの元へ依頼人からの予約が入り、下僕悪魔が依頼を果たすというシステムなんですが一ヶ月前、聖剣事件より前に、俺を指定した依頼で、『丸一日、朝から貸切りしたい』というもので、詳しい依頼内容はただのデートだったんですが……。

 

 朝、依頼人の下へ転移する魔法陣を潜り、マンションの一室に出たと思ったら、続けてもう一度転移させられて、目を開けてみれば、今現在――といったところです。

 

 特殊な空間のようで地面は柔らかい白いマット。出入り口も完全に閉鎖されていて普通に転移しても出れない。

 

「それで依頼は……いえ、依頼人は誰ですか?」

 

 500人ぐらいいるけど、誰が俺を呼んだんだ?

 

 1人のサキュバスが大きな胸を抱いて聞く。

 

「神城エイジだね?」

 

「ええ。神城エイジですよ」

 

 肯定すると女たちは笑みを浮かべて距離をつめ始めた。

 

「あたしたちはあんたに仕事をとられた女たちよ。あなたが私たちの代わりに快楽を満たさせるから、仕事が減ったのよ」

 

 へ?

 

「俺ってそんなに仕事を奪ったのか?」

 

 精々奪ったとしても200件ぐらいじゃないのか?

 

 俺の疑問に答えるように、金髪ロリっ娘のサキュバスが言う。

 

「件数自体はそこまで多くないんだけど、お兄ちゃんって転生悪魔なんでしょ?」

 

「ああ。最近転生したな」

 

 赤毛のボーイッシュ系のサキュバスが睨む。

 

「その新人悪魔が、私らから仕事を奪うのはイラつくんだよ」

 

 青髪でエロいお姉さま系のサキュバスが舌なめずりをした。

 

「いくら神や魔王クラスって騒がれてるからって、私たちの縄張りを荒らすのは許せないの」

 

 むにゅうぅぅぅっ。

 

 とうとう触れ合う位置までやってきた。

 

 ロリロリな白いウサ耳の獣っ娘が俺のズボンに手をかける。

 

「お兄さんは女性には暴力を振るわない主義なんですよね? この空間はあなたを逃がさないように完全に閉じてますし、私たちにも開けることはできません」

 

 白ウサの隣で、同じく俺のズボンに手をかけている、白ウサによく似た活発そうなロリな黒ウサが言う。

 

「でも、この場所から逃げだす方法は1つだけあるぴょん! 兄ちゃんが、私たち全員を完膚なきまで快楽に堕として屈服させることができれば、この空間から出られるぴょん!」

 

 白ウサが標準語だったから、黒ウサの『ぴょん』はキャラか?

 

「私たちを殺しても空間から出ることができるけど、女好きで有名なあなたはしない、できない。ふふふっ、でも嬉しいでしょう? 500人もの女と、サキュバスとセックスし放題! いくらあなたが女好きで魔王クラスでも、1人の男。私たちにかかれば精気を吸いとられ、快楽で狂わせることなどぞうさもないわ。ふふふ、サキュバスの縄張りを侵した報いを思う存分、体で味わいなさい」

 

 後から抱きつきながら上着を脱がせる、紫色の髪のリーダー風で、ほとんど裸のボンテージに身を包んだサキュバス。

 

「さあ! この男から種を抜き取ってしまいなさいッ!」

 

 その号令とともに500名もの女たちが襲い掛かってきた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

「冗談じゃないわ」

 

 紅髪の美少女さまは眉を吊り上げて、怒りを露にしていた。

 

 リアス・グレモリー部長。俺のご主人さまで上級悪魔のお姉さま。学園では、オカルト研究部の部長もしていた。

 

 とても厳しく、とてもやさしい方さ。俺の憧れのヒトです!

 

 部長は専用の机に座ってぶるぶると全身を怒りで震わせていた。

 

「確かに悪魔、天使、堕天使の三すくみのトップ会談がこの町で執り行われるとはいえ、突然堕天使の総督が私の縄張りに侵入し、営業妨害していたなんて……!」

 

 そう。部長が現在怒っている理由は俺が最近頻繁に契約をとっていたちょいワル系の兄さんが実は堕天使のトップで総督のアザゼル本人だったからだ。

 

 先日、この町で起きた事件が悪魔、天使、堕天使の三すくみの関係に多少なりとも影響を及ぼした。その結果、一度トップ同士が集まって今後の三すくみ関係について話し合うことになったんだ。

 

 俺たちはその事件に関わってしまったわけだけど……。しかもその会談の席に居合わせて、事件の内容を報告しなければならないらしい。

 

 そんななか、突然アザゼルが会談前に接触してきた。営業妨害ってのは正しい。しかもそれが堕天使の総督となると、イベントに困らないようだ。

 

「しかも私のかわいいイッセーにまで手を出そうなんて、万死に値するわ! アザゼルは神器に強い興味を持つと聞くわ。きっと、イッセーがブースデット・ギアを持っているから接触してきたのね……。だいじょうぶよ、イッセー。自分の眷属悪魔を堕天使なんかに渡すもんですか」

 

 部長は下僕の眷属悪魔を大切にかわいがるタイプの上級悪魔だ。自分の所有物を他人に触れられたり、傷つけられるのを酷く嫌う。

 

「しかし、どうしたものかしら……。あちらの動きがわからない以上、こちらも動きづらいわ。相手は堕天使の総督。ヘタに接することもできないわね」

 

 考え込む部長。悪魔と堕天使の関係をこれ以上勝手に崩すわけにもいかないだろう。

 

 部長はその辺かなり厳しいからな。あちらから大きな行動を取ってこなければ、こちらから動くこともない。

 

「アザゼルは昔から、ああいう男だよ、リアス」

 

 突然、この場に誰でもない声が聞こえる。全員が声のした方向へ視線を移してみると――そこには紅髪の男性がにこやかに微笑んでいた。

 

 俺にも見覚えのある顔だ。って朱乃さんたちがその場で跪き、俺とアーシアだけが対応に困っていた。新顔のゼノヴィアも「?」と疑問符を上げている。

 

「お、お、お、お兄さま」

 

 部長が驚愕の声を出していた。

 

 そう、相手は部長のお兄さんで悪魔業界の現魔王『サーゼクス・ルシファー』さまその方だった! おおっ、こんなところで魔王さまに再会とは!

 

「先日のコカビエルのようなことはしないよ、アザゼルは。今回みたいな悪戯はするだろうけどね。しかし、総督殿は予定より早い来日だな」

 

 と、魔王さまがおっしゃられる。その魔王さまの後方には銀髪のメイドさん、グレイフィアさんもいた。魔王さまの『女王』だから当然か。

 

 魔王さまの目の前に移動して部長は跪いた。

 

 俺も急いで部長と朱乃さんたち同様に跪く。俺の行動を見て、アーシアも真似をする。

 

「くつろいでくれたまえ。今日はプライベートで来ている」

 

 手をあげて、俺たちにかしこまらなくていいと促してくださる。全員がそれに従い、立ち上がった。

 

「やあ、我が妹よ。しかし、この部屋は殺風景だ。年頃の娘たちが集まるにしても魔法陣だらけというのはどうだろうか」

 

 部屋を見渡しながら、魔王さまは苦笑されている。まあ、確かに。俺はなれてしまったが、やはり変な部屋ですよね。

 

「お兄さま、ど、どうして、ここへ?」

 

 怪訝そうに部長が訊く。そりゃそうだ。悪魔業界を背負う魔王さまが人間界のいち学舎の部室に顔を出すなんてそうはないだろう。

 

 すると、魔王さまは1枚のプリント用紙を取りだした。

 

「何を言っているんだ。授業参観が近いのだろう? 私も参加しようと思っていてね。ぜひとも妹が勉学に励む姿を間近で見たいものだ」

 

 あー、そういえばもうすぐ授業参観がありましたね。俺のところは仕事を有給取ってまで乗り込んでくると張り切っていた。

 

 なんでも、俺よりもアーシアの授業風景を見たいらしい。娘同然の女の子ができて俺の両親は何かあるたび、お祭り騒ぎだ。

 

「グ、グレイフィアね? お兄さまに伝えたのは」

 

 少々、困った様子で部長の問いにグレイフィアさんはうなずく。

 

「はい。学園からの報告はグレモリー眷族のスケジュールを任されている私のもとへ届きます。むろん、サーゼクスさまの『女王』でもありますので主へ報告も致しました」

 

 それを聞き、部長は嘆息する。

 

「報告を受けた私は魔王職が激務であろうと、休暇を入れてでも妹の授業参観に参加したかったのだよ。安心しなさい。父上もちゃんとお越しになられる」

 

 おおっ、部長のお父さんも! 一度お顔を拝見したことがある。例の婚約パーティーで部長の近くにいたダンディな悪魔男性でした。

 

「そ、そうではありません! お兄さまは魔王なのですよ? 仕事をほっぽリ出してくるなんて! 魔王がいち悪魔を特別視されてはいけませんわ!」

 

 なるほど、部長のお兄さんは魔王だから、いくら肉親とはいえ、特別にしてもらうのを良しとできないのか。しかし、魔王さまは首を横に振る。

 

「いやいや、これは仕事でもあるんだよ、リアス。実は三すくみの会談をこの学園で執り行おうと思っていてね。会場の下見にきたんだよ」

 

 な、な、なにぃぃぃぃ!? マジか!? 俺は驚きを隠さないでいた。いや、俺だけではない、部員の皆がビックリしている様子だ。

 

「――っ! ここで? 本当に?」

 

 部長も目を見開いている。それは驚いて再度訊いてしまいますよね。

 

「ああ。この学園はどうやら何かしらの縁があるようだ。私の妹であるおまえと、伝説の赤龍帝、聖魔剣使い、魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹が所属し、コカビエルと白龍皇の来襲してきた。これは偶然では片づけられない事象だ。様々な力が入り混じり、うねりとなっているのだろう。そのうねりの加速度的に増しているのが兵藤一誠くん――赤龍帝だと思うのだが」

 

 サーゼクスさまが俺へ視線を送る。魔王さまに見つめられると緊張するな……。

 

「あなたが魔王か。はじめまして、ゼノヴィアという者だ」

 

 会話に介入してきたのは新人悪魔でデュランダル使いの『戦車』、ゼノヴィアだ。

 

「ごきげんよう、ゼノヴィア。私はサーゼクス・ルシファー。リアスから報告を受けている。聖剣デュランダルの使い手が悪魔に転生し、しかも我が妹の眷属となるとは……正直耳を疑ったよ」

 

「私も悪魔になるとは思っていなかったよ。いままで葬ってきた側に転生するなんて、我ながら大胆なことをしたとたまに後悔している。……うん、そうだ。なんで私は悪魔になったんだろうか? やけくそ? いや、だが、あのときは正直、どうでもよくて……。でも、悪魔で本当に良かったのだろうか?」

 

 また頭を抱えて考え込むゼノヴィア。

 

「ハハハ、妹の眷属は楽しい者が多くていい。ゼノヴィア、転生したばかりで勝手がわからないかもしれないが、リアスの眷属としてグレモリーを支えて欲しい。よろしく頼むよ」

 

「聖書にも記されている伝説の魔王ルシファーにそこまで言われてはあとに引けない。どこまでやれるかわからないが、やれるところまではやらせてもらうよ」

 

 ゼノヴィアの言葉を聞き、魔王さまは微笑む。その微笑みは部長のものとそっくりだった。

 

「ありがとう」

 

 魔王さまのお礼を聞いて、ゼノヴィアも頬を少しだけ赤く染めていた。

 

「お兄さま」

 

 部長の声が部室に響く。

 

 声の質が少しだけ硬い。

 

「なんだいリアス?」

 

「今までの話の中でエイジの名前が出ませんでしたが、何か理由でもあるんですか?」

 

 そう言えば、魔王さまは1回もエイジの事を話していない。

 

 魔王さまは真剣な顔で部長の顔を見たあと、ふっと笑った。

 

「ああ、そうだったね。リアスにはエイジのことを何も言っていなかったね」

 

 親しげにエイジの名を口にする魔王さま。

 

 魔王さまはニコニコしながら言う。

 

「彼は赤龍帝が呼び込んだというか、私が彼をこの学園に呼んだんだ」

 

 え? えええええええええええええええッッ!?

 

「――なっ!?」

 

 全員先ほどよりも驚く。

 

「彼とは数年前に冥界で会ってね、人間でまだ10歳にも満たない子供なのに危険な仕事をしていたから話しかけたんだ」

 

 部長が驚愕の表情になる。

 

「も、もしかしてエイジが言ってた、冥界で知り合って後見人になってもらったヒトって……!」

 

 満足げにうなずく魔王さま。

 

「そうだよ。私がエイジの後見人だよ」

 

 マジで!? あいつ魔王さまとすでに知り合いだったの!?

 

「まあ、後見人と言っても名前を貸しただけで、土地や家は彼が賞金首の仕事をして稼いだものなんだけだがね」

 

「ではお兄さまがこの学園に呼んだというのは?」

 

「元々エイジは隣町に住んでいたんだけど、リアスが通っている学園に通わせてみたくなってね。彼には私の妹がいるとは何も言わずに駒王学園へ入学するように勧めたんだよ」

 

 魔王さまは大きな声で笑った。

 

「あははは! リアスは美人だからエイジだったら卒業までに手ぐらいだすかと期待していたが、まさか転生して妹の眷属悪魔になるなんて……! あはははは! それに魔王クラスの実力を持つエイジをどうやって転生させたんだいリアス?」

 

「そ、それは……」

 

 部長が口ごもる。部長にも悪魔の駒、それも『兵士』一個で転生させれたことに驚いてたからなぁ、答えられないんだろう。

 

「ああ、そうだった。エイジのことも含めてもう2つほど用件があったんだった」

 

 魔王さまはそう言うと笑うのを止めて部長を見た。

 

 その様子に部長も緊張する。

 

 魔王さまが口を開こうとしたそのとき、部室のドアが開いた。

 

「リアス!」

 

 ドアが開くのと同時に部長の名を大きな声で呼ばれる――生徒会長だった。

 

 すごく慌てた様子だがどうしたんだろう?

 

「さっ、サーゼクスさま!?」

 

 会長さんは魔王さまがいることに気づいて慌てて跪く。

 

 魔王さまは先ほどと同じように楽にするように言うと、会長さんは部長に近づいた。

 

「リアス、たいへんよ!」

 

「どうしたの、ソーナ?」

 

 会長の様子に部長は表情を強張らせた。

 

 こんなに慌てた様子の会長は見たことないからな。

 

 まさかアザゼルが何かしてきたのか?

 

「ブラッ……いえ、神城くんは? 神城くんはだいじょうぶなの?」

 

 エイジ? エイジに何かあったのか!?

 

「今日エイジは朝から依頼でいないけど、まさか、なにかあったの!?」

 

 血相を変える部長。

 

「依頼――やっぱり……」

 

「まさか依頼が罠だったの!?」

 

「……リアス、お姉さまから先ほど連絡が来たの」

 

 会長さんのお姉さまってことは、魔王さま!?

 

「リアス、あなたが神城くんを下僕悪魔にしてから、えっと……、あ、あっちの仕事をさせているんでしょ?」

 

 途中で言葉を止めて真っ赤なる会長さん。あっちの仕事ってなんですか!?

 

 部長も顔を少し赤らめてうなずいた。

 

「え、ええ……。本当は辞めさせようとしたんだけど、契約者や契約を予約していた人間から何十通もクレームが来て渋々許したわ」

 

 やっぱり、あっちの仕事って20歳以上お断りのあの仕事ですか!?

 

「そのクレームが引き金となったの。神城くんの代わりに出てきたその仕事を専門に扱っていたサキュバスなどの悪魔を拒否して、新人悪魔の神城くんを選んだんですもの。面目丸つぶれで相当な恨みが溜まっていたらしいわ」

 

 なんか羨ましいと思ったけど、エイジの奴たいへんなことになっているみたいだな?

 

「で、でも、正式にエイジだけ特例として許可はもらったわよ?」

 

「相手は納得していないのよ! お姉さまによると大勢でエイジを襲う計画を立てていて、今朝からサキュバスたちが一斉に姿を消したそうよ。しかも隔離空間を造りだせる神器持ちも取り込んだという報告もあるわ」

 

『――っ!』

 

 マジで!? サキュバスに襲われるっていったらアレだよね!? いろいろ吸いとられるんだよね!?

 

 羨ましいと叫びそうなったところに木場から声がかかった。

 

「イッセーくん、これは羨ましがることじゃないよ」

 

 へ?

 

「確かに美人とエッチができるだろうけど、サキュバスはマズい。一匹でも男を枯らしつくせるのに、それが大勢で、しかも手加減がないんだよ? 快楽に狂わされて心を失うか、すべての精気を吸い尽くされて死ぬか……。異常に女の子にやさしいエイジくんのことだから、全員殺す力を持っていても、傷つけることはしないだろう」

 

 なんじゃそりぁぁぁぁ!? サキュバスに逆レイプって現実だとそこまで怖いことなのか!?

 

 マジで昇天しちゃうの!?

 

「すぐにエイジを助けに行かないと!」

 

 部長が焦りを隠せずに取り乱す。

 

「抜け殻にされたエイジなんて見たくはないわ! ああっ! でももう夜じゃない! どうすればいいの……」

 

 涙を流し始める部長。自分の眷属悪魔が殺されるかもしれないんだ。そりゃあ焦るよな……。

 

「リアス」

 

 魔王さまから声がかかる。そうだ! 魔王さまなら!

 

「お兄さま……エイジが、……エイジが……」

 

 魔王さまは優しく部長の頭をなでた。

 

「私もそれを言いに来たんだけど、遅かったみたいだね。まあ、彼なら心配ないだろうから、泣くのはおよし」

 

「心配ない?」

 

 部長が首を傾げると、部室の魔法陣が輝きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

「やんっ、そんなに私のオマンコが美味しいの?」

 

 口を塞ぐサキュバスのオマンコはすでに大量の愛液で濡れていた。サキュバスはオマンコを顔に押しつけ、甘い花の蜜のような、それそのものが媚薬となった愛液を俺の喉に流し込み、俺の舌も自身の制御を放れて顔に押し付けられているオマンコを隅々まで舐めまわす。

 

「いい! 気持ちいいよ! すごくいいよお兄ちゃん!」

 

「うん! お兄さんの指、すごくいいよッ!」

 

 両腕に触れる柔らかな肌と、小さな2つの突起、小さな四肢と、両手それぞれに感じるまだ小ぶりで指一本でもキツイ、ヌルヌルの細い穴。

 

 指を動かすたびに幼い少女の甘い悲鳴が聞こえ、指にきゅきゅと咥えてくれる。

 

「うふふっ、乳首が気持ちいいの? 可愛いわね~」

 

「2人同時に吸われるのって気持ちいいでしょ?」

 

 腹や乳首に這い回るヌルヌルの温かい二つの舌。女の興奮した荒い吐息と、体に擦れるさらさらの女の髪。

 

「あははは! 楽しいでしょう! んあっ、私が股を擦りつけてもっと感じさせてあげるね!」

 

「わたしは舌で舐めてあげるわ。あなたのきたない足をわたしの舌でもっと汚してあげる」

 

 大きく開いた両足に感じる熱。

 

 左足はまるで洗うようにジョリジョリとした剛毛を擦りすけられ、右足には大きな2つの塊が乗っかり、足全体、足裏から太ももまで舌で舐めなれる。

 

「感じるか? お前のチンポを私の厭らしいオマンコが全部咥え込んでいるぞ! サキュバスの穴は極上品で、自分の意思で自由に動かせるんだ!」

 

 腰の上に跨り、ペニスを根元まで咥え、ピストンではなく擦り付けるように腰を動かし、ただでさえザラザラで極上の膣道を思いっきり締めつけたり、包み込んだり、ねじったり、一部だけ締めつけたり、吸引したりと予測不可能な動きが俺のペニスを翻弄する。

 

 射精をコントロールされてるようで、支配されている気分だ。

 

「えへへ、お兄ちゃんのお尻ってすっごくおいしいんだね! わたし気に入っちゃったぁぁぁ……」

 

 小さな舌をドリルのように尖らせて、尻の穴をペロペロ舐めてくるロリボディのサキュバス。尻の割れ目に顔を深く入れられ、舌が中に(・・)侵入し、前立腺を刺激される。

 

「――っ!」

 

 ビクッ! ビュルっ! ビュルルルルゥゥゥゥッ!

 

「ああっ! すごいぃぃぃ! すごく濃い! さすがは魔王クラス! なんて濃厚で美味しいの!」

 

 子宮で精液を受け止めたサキュバスが腰の上で歓喜に震えている。

 

 ビュッ! ビビッ!

 

 って射精が止まらない!?

 

 吸いとられる……!

 

 そういや、黒歌たちも修行でまだ帰っていないし、部長とも3大勢力の会談でそれどころじゃなかった……。

 

 この魂から性欲の塊である俺が、一ヶ月もまともに抜いていなかった!

 

 ――バキィィィンッ!

 

 俺の中で抑えられていたものが解放される音がした。

 

 そうだ……。

 

 なんで俺は性欲を抑えていたんだ?

 

 なんで悪魔の仕事で週に数人抱くだけで我慢していたんだ?

 

 俺の中で変異していた『兵士』の駒が疼きだす。

 

「なっ!? なにが起こってるの!?」

 

「まさか私たちを始末するの……」

 

 サキュバスたちが突然俺から発せられたオーラに畏れたのか騒ぎだす。

 

「ハハハハハハハハハハハハッッ! そうだ! なぜ俺はこんな状況でも我慢しているんだ! これは正規の仕事ではないんだ! 俺のすべてを解放して楽しんでもいいじゃないか!」

 

 俺は起き上がり、サキュバスたちに言う。

 

「サキュバスたちよ。さあ、本当の宴を始めようか――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うがぁぁぁぁ! あきゅ! いやっ、お腹いっぱいなの!」

 

 最初に跨っていたサキュバスを退かし、顔面騎乗位していたサキュバスの子宮に精液を注ぎながら突きまくる。

 

 流し込んだ精液で妊婦のように下腹が膨れ、オマンコを荒く突かれすぐに果てる。

 

 さらに俺はそいつを退かすと気性の荒そうなボーイッシュなサキュバスを押し倒して正常位から突き始める。

 

 すると、畏れていたはずのサキュバスたちも俺に負けじと、群がってきた。

 

「うぅーっ! うぅーっ!」

 

 ボーイッシュなサキュバスが首筋を強く噛んでくる。

 

 ズンッ!

 

「あうっ!」

 

 深く一突きすると、可愛らしい悲鳴をあげ、口を放して倒れる。

 

 おお、すごく絞まるオマンコだな! 気持ちがいいぞ!

 

「お兄ちゃん! 私、お尻の穴舐めて欲しいの!」

 

 先ほど俺の尻の穴を舐めていたロリボディのサキュバスが小ぶりな尻を後ろ手に両手で大きく開いて顔の前に差しだしてきた。

 

「ああ! しっかり綺麗に舐めてやる!」

 

 性欲が爆発した俺は二つ返事で割れ目に顔を埋めて舌を伸ばして、苦味と柔らかさと強い締め付け、臭いを味わい始めた。

 

 さらに開いた両手で近くのサキュバスの胸やオマンコへ手を這わせ、ボーイッシュなサキュバスのオマンコを荒らした。

 

 俺の体と精液から放たれる魔力とオーラが空間が一気に侵食する。

 

 サキュバスの女たちだけではなく、すべての女が快楽の顔に染まる。

 

 女同士挿入が待てないのか抱き合いオマンコを擦り合わせる。

 

 サキュバスたちはペニスを生やす能力を持っているが、あえて使用せずに俺のペニスを欲してお互いを慰めあいながら、俺を待つ。

 

 女の甘い悲鳴と吐息が響き、淫水が飛び散り、精液を出された女は、精液を求める女に群がられる。

 

 女の胸に喰らいつき、母乳を啜るように吸ったり、噛んだり、手で弄んだ……。

 

 オマンコをペニスで貫き、熟れたオマンコも、幼いオマンコも関係無しに子宮へ精液を吐きだした……。

 

 尻の穴も同様に愛し、精液を流し込み、白く白濁した便を漏らす女の山ができた……。

 

 口を犯され、胃の中いっぱいに精液を流し込まれて、恍惚の表情で精液混じりの鼻水や涎を垂らした……。

 

 ああっ! もっと! もっと感じたい! 犯したい! 楽しみたい! 解放したいッ!

 

 俺の激情で悪魔の駒が変化する。

 

 背中から翼が勝手に出た!

 

 尾骨辺りがムズムズしたと思ったら何かが生えたのを感じた!

 

 先ほどまで与えるだけだった精気を、女の体から吸い取れるようになった!

 

 黒くて、細長くて、先っぽがハート型の可愛らしい尻尾。

 

 蝙蝠のような羽は変わらないが、サキュバスの羽によく似た形になった羽。

 

 そしてなにより、セックスで精気を体に取り込めるようになっていた!

 

 どうやら俺は本物の悪魔に、サキュバス……いやインキュバスになったようだ。

 

 だが、いまはそんなことはどうでもいい……。

 

 もっと気持ちよく、もっと女たちを満足させたい……。

 

 俺の意思が尻尾を変化させる。

 

 ハートが2つに割れて開くと、無数の黒い触手が生えた。

 

 しかも全て俺の快楽神経に繋がっているのか、実際に肌で触っているように感じ、気持ちいい!

 

 何度か蠢かせて触手のクセや扱い方を体で理解させ、女たちの体を縛ったり、追加機能がついた触手の小さなハートをペニスや、クリキャップや搾乳機のように変化させて犯し始める。

 

 精気が俺とサキュバスたちの間で巡る。

 

 吸いとるだけだった者が、吸いとられ、吸いだされるだけだったものが、逆に吸いとる。

 

 空間は濃厚な快楽に染まりあがった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サキュバスに襲われ始めてから数時間後――。

 

 存分に吐き出して賢者タイムになり、俺が正気を取り戻すと、空間は一面快楽で狂う女たちが倒れていた。

 

 立っている者は俺以外に誰もいない。

 

 白目を剥いて股を開きっぱなしにして気絶している者、小便のシミで黄色く黄ばんだマットを気にもしないで放心している者、口から精液をあふれさせている者、オマンコから精液をあふれさせている者、アナルから精液をあふれさせている者、両方の穴から、はたまた口から、全身を精液漬けにされている者が倒れていた。

 

 やりすぎた?

 

 うん……、まあ、襲ってきたのはキミたちなんだし、サキュバスとして俺を枯らそうとしたんだし、俺が全部悪いわけじゃない。というか俺が被害者だったんだけど……。

 

 精液便所状態になって瞳に光がない女たち、特にロリボディのサキュバスとか罪悪感が……。

 

 うーん……。

 

 とりあえず、【浄化】魔法をかけて空間を綺麗にして、吸いすぎで意識を失ってる娘からキスで精気を吸い取って救出するか……。

 

 それから俺は、サキュバスたち1人1人丁寧に治療して約500人、救出したわけだが、サキュバスたちに懐かれてしまった……。

 

 ……うん。

 

 なんでも大昔の大戦で絶滅したインキュバスのような能力を持ち、サキュバスを満足させて屈服させた俺は、伝説の英雄のように見えているらしい。

 

 本当は、能力を持っていたんじゃなくて、その絶滅したインキュバスに体が完全に変化してその能力を得たんだけど、別にこれは言わなくていいか。

 

 まあ、それだけじゃなくて、得意分野のセックスで負けたからってのと、普通の人間や悪魔たちと比べて精気が、安酒と特一級品の酒ぐらい違って、美味しかったそうだ。

 

 最後に契約完了の報酬として、俺にサキュバスとして活動する権利書と、1人1万ずつで500万と、好きなときにサキュバスを呼んで無償でご奉仕しさせれるように、500人分の個別の魔術通信回線とサキュバスを無制限で呼び出せる特殊な魔法陣の描かれた札をくれて、最後にインキュバスの姿の俺と全員で集合写真を取って、この件は終わった……。

 

 そして、身だしなみを整えて、夜に部室へ戻ってきたわけだが……。

 

 なにやら不穏な雰囲気で、いつもの部員の他に支取先輩、さらになぜかサーゼクスとグレイフィアが部室にいた。

 

「エイジィィィ!」

 

 しかも、突然涙を流しながら胸に飛び込んでくる部長。

 

 困惑の、というか驚きの表情を浮かべるオカルト研メンバーと支取先輩。

 

 ニヤニヤ笑顔のサーゼクス。

 

 目を大きく開いて驚いたように俺をみるグレイフィア。

 

 …………どういう状況なんだ? 

 



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第27話 インキュバスになりました

<エイジ>

 

 

「エイジ、よかった……本当によかった」

 

 サキュバスたちとの契約を終えて帰ってきた俺の胸に、部長が抱きつきながら涙を流している。

 

「ええっと……」

 

「久しぶりだね、エイジ」

 

「お久しぶりです、神城さま」

 

 戸惑っているとサーゼクスとグレイフィアが挨拶してきた。

 

「2人とも久しぶり……」

 

 とりあえず、挨拶を返すが状況が分からない。

 

「エイジ! おまえ無事だったのか!?」

 

「よかった、無事だったんだね」

 

「エイジくん、お体はだいじょうぶですか?」

 

 イッセーと木場、朱乃さんと続き、他のメンバーも近寄ってくる。

 

「えっと、いまどういう状況なんだ?」

 

 サーゼクスがくすりと笑みを浮かべる。

 

「キミがサキュバスに襲われていたと知って、皆心配していたんだよ」

 

 部長が俺の頬をなでながら言う。

 

「先ほどお兄さまとソーナに訊いたの。ゴメンなさいエイジ、私がしっかり依頼内容を確認していれば……」

 

 サキュバスに襲われたことか~、まっ、契約完了したんだし、体のこともあるから全部話すか。

 

「リアス部長、安心してください。ほらきちんと契約を結んできたんですよ」

 

『え?』

 

 対価である契約書と500件ものアドレスの書かれた巻物、特性の札、500万の札束、さらにそれらを持ってサキュバスたちと撮影した集合写真を見せると、サーゼクス以外が驚きの表情になる。

 

「エイジくん、キミって……」

 

 木場が驚愕の表情になり、朱乃さんの顔は笑顔で固まり、アーシアと支鳥先輩もフリーズ、ゼノヴィアは苦笑し、小猫ちゃんは体を隠すように距離をとった。

 

「マジで!? 何人!? っていうか何百人とエッチしたんだよおまえ!?」 

 

 イッセーはきわどい衣装を美女たちの写った写真を食い入るように見つめた。

 

「規格外だとは思っていたけど……」

 

 部長も泣き止んで対価の品物を手に取り震えた。

 

「ああ、あと部長」

 

「なに? なにかあったの?」

 

 尻尾と翼を生やす。

 

『――っ!?』

 

 細長い先端が可愛らしいハートになっている尻尾が現れた瞬間――サーゼクスを含め、部室の時間が停止した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が生やした尻尾について、とりあえず部室のソファーに座って話し始めた。

 

「つまり悪魔の駒が何らかの暴走をして、体をサキュバス、いや、インキュバスに変えたのというのか?」

 

 サーゼクスと向かい合いで座り、俺の両側には部長と会長が腰を降ろしている。

 

 俺は尻尾を振りながら答える。

 

「いままで人間ベースの転生悪魔だったが、俺の体はインキュバスに体の造りが変わったみたいなんだ」

 

 まあ、まだ不安定なんだがな。

 

「精気を吸うこともできたし、この羽と先端がハート型になっている尻尾はもはやインキュバスとしかいえないだろう?」

 

 サーゼクスはぷっと笑いを漏らす。

 

「まさかインキュバスになるとは、エイジならサキュバス500人ぐらいでは枯れはしないと思っていたが、まさか、まさか、本物のインキュバスになるとは……アハハハハッ!」

 

「まったく、そんなに笑うなよ。俺もインキュバスになって戸惑っているんだからさ」

 

「すまないすまない。だがやはりキミは面白いね。妹の学園に入るように手回しして本当によかったよ」

 

 あっ、そういえば!

 

「おまえに妹がいるなんて聞いてなかったぞ! しかもセラたんの妹も通っているなんて一言も言ってなかったよな!?」

 

「セラたんって……、レヴィアタンさまとも知り合いなの!?」

 

 部長が驚いているようだが、それはあとだ。サーゼクスは当然のように言う。

 

「いや、確かに言ったぞ『美少女が多い元女子高の学園』だって、2人とも美少女だろう?」

 

「ああ、美少女だけど!」

 

 両側の部長と会長の頬が赤らんだように見えるが今は、目の前のこの野朗だ!

 

 サーゼクスは『それに』と言って俺の顔を見た。

 

「知ってしまっていたら、運命的な出会いができないだろう?」

 

 ぐっ……それはそうだ……。

 

「まあ、キミがまさか妹の眷属悪魔になっていて婚約パーティーに乗り込んでくるとは思わなかったけどね。ライザー戦のときに久しぶりにキミの顔をみて笑いを堪えるのが大変だったよ」

 

 そう言って笑うサーゼクス。

 

 この野郎……!

 

 尻尾の先端で差して尋ねる。

 

「で、なんでサーゼクスがここにいるんだよ?」

 

「ちょっ、エイジ! 言葉使い――」

 

「いや、いいんだよ、リアス。――もうすぐ授業参観だろう? 妹の授業参観にきたのさ。ああ、あと3大会議の場所がここになったので下見みと……」

 

 雰囲気を変えて俺を真剣な表情で見る。

 

「キミがどちら側につくかを確認にきたんだが、その必要はなかったみたいだね」

 

 俺も雰囲気を変えて真剣に言う。

 

「ああ。俺はリアス・グレモリーの眷属悪魔で、体も完全な悪魔になっているからな。悪魔側につくさ」

 

「キミが悪魔側を選択してくれて嬉しいよ」

 

 サーゼクスは一拍おいて言う。

 

「エイジ、近々3大勢力のトップが会談のために集まるが、一応キミはどの勢力へつくか先にトップの3名と会談を開かないといけないよ。どっちつかずは一番場を混乱させるから、3大勢力は方針を示してくれるだけで、何かの対価を払うとも言っているから、悪魔側につくとしても3大勢力それぞれに対価を要求しないといけないよ」

 

 俺は魔王クラスや神クラスだから、俺がふらふらするだけでもダメってわけか。

 

 要求しろってのは、俺の要求を呑んだってことで、俺を信用するためか。

 

 まっ、無償でどこかの勢力につくより、3大勢力が俺の要求を呑んだから身を固めたってほうが他も安心するんだろ。

 

「了解した。3大勢力すべてにそれぞれ要求するさ。あと悪魔側につくんだから、悪魔側に対して一番重い対価を要求しないと体裁が取れないとか言うんだろ?」

 

「その通りだ。無償で悪魔側につくとキミは言ってくれるが、それでは納得しない者、信用できない者がでてくるだろう。悪魔側への要求は大きいものにしてくれないとこちら側が困る」

 

 そこでサーゼクスの真剣だった顔が一気に緩む。

 

「悪魔側への要求だがウチの妹との婚約でもいいよ」

 

「お兄さま!」

 

 部長が真っ赤になって叫ぶ。

 

 悪魔側につく代わりにリアス・グレモリーを妻にする。

 

 それも魅力的ではあるんだが……。

 

「それはいい」

 

 部長! ショックを受けたような顔をしないでください!

 

「ウチの妹では不満かい?」

 

 分かっていやがるくせに問う魔王さま。絶対1回ボコボコにしてやる!

 

「リアス・グレモリーを政治の対価でもらいたくないんだよ。婚約するなら政治とか抜きで婚約するほうが幸せだろ」

 

 部長が途端に真っ赤になって顔をふせた。

 

 イッセーは「やっぱり焼き鳥男とは違うんだな! 見直したぞエイジ!」と感動しているみたいだけどわけが分からん。

 

「3大勢力への要求はそれぞれきちんと考えておくよ」

 

「わかった。これ以上難しい話をここでしても仕方がない。うーむ、しかし、人間界にきたとはいえ、夜中だ。こんな時間に宿泊施設は空いているだのだろうか?」

 

 宿泊施設ねえ……、ラブホテルなら開いてるんじゃなねえかな?

 

 と、思っていたら、イッセーが手をあげながら言った。

 

「あ、それなら、俺の家に泊まりますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、エイジと妹が迷惑をおかけしてなくて安心しました」

 

「そんなお兄さん! エイジくんもリアスさんもとても礼儀正しい子ですわよ」

 

「ええ、エイジくんは今どき珍しい好青年ですし、リアスさんはイッセーにもよくしてくださる素敵なお嬢さんです」

 

 イッセーの家のリビングで、伝説の魔王とイッセーの両親が挨拶を交わしていた。

 

 っていうか好青年って……。

 

 魔王さまの隣には部長。その後方にはグレイフィアさんが待機している。

 

 その様子を少し離れたい位置から、イッセーとアーシア、そして俺が窺っていた。

 

 一応魔王としての身分を隠し、部長の父親の会社の跡継ぎという設定だ。

 

「そちらのメイドさんは――」

 

「ええ、グレイフィアです」

 

 イッセーの父親の問いにサーゼクスが答える。

 

「実は私の妻です」

 

『ええええええええええええええええッッ!』

 

 部長と俺以外が全員驚きの声を出すが、グレイフィアは無表情のまま、サーゼクスのほっぺたをつねった。

 

 ああ、そう言えば普段はただのメイドさんだったね。

 

「メイドのグレイフィアです。我が主がつまらない冗談を口にして申し訳ございません」

 

「いたひ、いたひひょ、ぐれいふぃあ」

 

 静かに怒っているグレイフィアと、涙眼で朗らかに笑っている魔王さま。隣で部長が恥ずかしそうに両手で顔を覆っていた。

 

 こいつらって結婚してかなり経つのに新婚みたいにイチャイチャするんだよな~。

 

「それでは、グレモリーさんも授業参観を?」

 

「ええ、仕事が一段落しているので、この機会に一度妹の学び舎を見つつ、授業風景を見学できたらと思いましてね。当日は父も顔を出す予定です」

 

「まあ、リアスさんのお父さんも」

 

「父は駒王学園の建設などにも携わっておりまして、私同様良い機会だから顔を出すようです。本当はリアスの顔を見たいだけだと思いますが」

 

「グレモリーさん! お酒はいけますかね? 日本の美味しいお酒があるんですがね」

 

「それは素晴らしい! ぜひともいただきましょう! 日本の酒はいける口なので!」

 

 サーゼクスは妹の眷属悪魔の両親に挨拶と、一応の後見人である俺の隣人として挨拶がてら泊めてもらうことになったそうだが、すでに意気投合して酒盛りを始めてしまった。

 

 そして俺が何故いるかというと、挨拶に同伴しているだけではない。

 

 なぜか俺もイッセーの家に泊まることになっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんな……エイジと寝てはダメなんですか?」

 

 宴が終わり、終身時間となっていた。

 

 イッセーの部屋の前で悲しそうな表情を浮かべて部長が魔王さまに詰め寄り、イッセーが『てめぇ! いつも部長と一緒に寝てるのか!?』と叫んできたが、無視しよう。

 

「今夜は彼らと少し話しながら床につきたいんだ。悪いけど、リアス、今夜だけはエイジと兵藤一誠くんを貸しておくれ」

 

 そうサーゼクスが俺らと話しながら眠りたいといい、すでに来客用の布団を2つ用意してくれていた。

 

「エイジ……」

 

 俺に抱きついてくる部長! 嬉しいですけど! イッセーが号泣してますよ!?

 

 学校では凛としている部長だけど、最近ほんとうに甘えん坊になってきた。

 

「1人で眠れる? 私が隣にいなくても平気? 私は平気じゃないわ。あなたが隣にいないというだけで――」

 

 うん。最近毎晩裸で抱き合って眠っていたからね。

 

 3大勢力の会談の前で本番はお預けくらっていたけど、本番以外なら結構激しいところまでしていたからね。

 

「お嬢さま、さあ、お部屋へ戻りましょう。今夜はお嬢さまと一緒に私もご厄介になりますからね。それではサーゼクスさま、おやすみなさいませ」

 

 言いかけの部長の腕をグレイフィアが引いていく。部長が俺の体から離れていった。

 

「わかっているわよ、グレイフィア……」

 

 名残惜しそうな部長の姿。その光景は子共と離ればなれになるしかない親子の別れのシーンそのものだ。

 

 イッセーに向かってぺこりと頭を下げるアーシア。

 

「あ、あの、イッセーさん、おやすみなさい。私も残念ですが、今夜は自室で眠ります」

 

 ――なっ!?

 

「おまえアーシアといつも――」

 

 驚きいてイッセーを見ると、イッセーは先ほど号泣していた姿がウソのように消え、得意げな表情を浮かべていた。

 

「ふっ、俺ももう子供じゃないってことだ。――最近ずっとアーシアと添い寝している!」

 

 ……添い寝? 添い寝だけか?

 

 誇らしげに笑うイッセーに、同じく部長に手を出せないでいた自分がいたため『ヘタレ』と言うことは出来なかった……。

 

「さ、中に入ろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーの部屋でサーゼクスは、いろいろ3大勢力のこととかアザゼルのことを語ったが、最後のブースデット・ギアの話は俺に衝撃を与えた。

 

『倍加の力をおっぱいにかける』

 

 さすがサーゼクスだった。

 

 まさか、おっぱいに――おっぱいに倍加の力をかけるなんて誰も思いつかないだろう。

 

 イッセーが興奮して部長の大きな胸に倍加をかけてみたいと震えていたから、怒ってするならアーシアの美乳を大きくしたり、小猫ちゃんのぺったんおっぱいにしろと言って、そちら側へ意識を持っていかせたが……。

 

 俺も正直どうなるかすごい気になっていた。

 

 だが、それよりも明日……。

 

 俺の家の住人がやっと帰ってくる。

 

 悪魔側への要求を考えてみたが、結局あれしかなかった。

 



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第28話 黒猫と白猫の邂逅 ☆

<エイジ>

 

 

サーゼクスたちとともにイッセーの家に泊まった翌日、俺はサーゼクスの相手をイッセーと部長に任せて修行へいっていた黒歌たちを迎え入れた。

 

「にゃにゃ!? 少し見ないうちに今度は尻尾が生えたのにゃ?」

 

「さすが我が主。尻尾の形からして伝説のインキュバスになったんですね」

 

「このハート型の尻尾、かわいいですね」

 

「う、ん。可愛い……尻尾」

 

「まったく、ご主人さまの規格外さは異常ですね」

 

 家のリビングに置かれた大きなソファーに座った俺の周りを、黒歌たちが固めるように擦り寄ってくる。

 

 少し暑苦しいが、俺も一ヶ月会えなかったから甘えてきてくれて嬉しい。

 

「でだ。さっきも説明したとおり、聖剣とかコカビエルとか神の不在とかで3大勢力で会談を開かれるわけになったんだが、俺は悪魔側につくことにした」

 

 一拍おいて問う。

 

「おまえたちもついてきてくれるか?」

 

『もちろん』

 

 彼女たちは笑顔で即答してくれた。

 

 すごく嬉しい……っていうか押し倒したいっ!

 

 いや、なんか最近、家ではクールキャラだったのにオープンな陽気キャラに……。

 

 イッセーのオープンスケベの影響かな?

 

 まあ、そんなことより。

 

「ノエルは神の不在はショックじゃなかったのか?」

 

 ノエルはもともとエクソシストだったはずなんだが、黒歌がいても、悪魔化しても、神の不在を知ってもあまり気にした様子はないので少々気になった。

 

 ノエルは俺の腕に胸を押しつけるようにしがみつき、言う。

 

「じ、実は神の不在なんてかなり前から知っていたんです。わ、私にとって、か、神さまはエイジさんだから!」

 

 恥ずかしそうだが、迷いのない宣言。

 

 だが、

 

「てか知ってたの?」

 

「ええ。なんとなくですが。【魔銃ベルヴェルク】の禁手に至ったときに、神さまがいないことを感じたんです」

 

「禁手使えたのか?」

 

「はい。でもかなり制御が難しくて……。実戦では使ったことないんです」

 

 そ、そうなんだ……。

 

 まあ、とりあえずノエルはあとで言わなかったってことを理由にうしろの穴を念入りに攻めるとして……。

 

「3大勢力それぞれになにか要求しろと言われてるんだが」

 

 話を本題へと移行する。

 

「レイナーレ」

 

 足元に座って俺の膝に頬ずりしていたレイナーレに声をかける。

 

「はい。なんでしょうか、ご主人さま?」

 

「とりあえず、修行お疲れさま」

 

 笑顔を浮かべるレイナーレ。

 

「はい! もうかなり強くなりましたからね! 家の警備も家事も万全です!」

 

「うん、ありがとう。……それで堕天使側への要求なんだけど、レイナーレ自身に決めて欲しいんだ」

 

「私が……ですか?」

 

「ああ。レイナーレが望むなら堕天使の幹部にもなれるだろうし、アザゼルやシェムハザの側近にもなれるぞ」

 

 俺の言葉でレイナーレが悲しそうな顔を浮かべる。

 

「……私はあなたに必要ないんですか?」

 

 涙を浮かべて尋ねるレイナーレ。ああもうっ! そんな捨てられそうな猫みたいな顔するなよ!

 

 レイナーレの瞳から指で涙をすくう。

 

「そんなはずないだろ。俺はレイナーレ自身の気持ちを知りたいんだ。仕方なく俺の元にいるのか、それとも自分の意思でここに、俺の周りにいつづけるのかを……」

 

「私はっ! あなたに救われました! あなたが私に言ってくれたように、私はあなたのために生きたいです! アザゼルさまやシェムハザさまには憧れていますけど、私の居場所はここです!」

 

 よかった……。

 

「堕天使のところからレイナーレを連れ戻しにいかなくてもよくなって、よかったよ」

 

「へ?」

 

 意味がわからないという表情のレイナーレに、俺は笑みを浮かべながら言う。

 

「俺が離すわけないだろ? レイナーレが堕天使側を選択するなら、堕天使たちと戦争になってでもレイナーレを奪いにいっていただろうね」

 

「そ、それはそれで……うれしい、ですね……」

 

 レイナーレの顔が真っ赤に染まり、俺は手でレイナーレの頭をやさしくなでた。

 

 次にこの話のメインといえる話へ移る。

 

 後から大きな胸を俺の肩に当てて耳を舐めている黒歌に声をかける。

 

「黒歌」

 

「んにゃ?」

 

「悪魔側につくので、悪魔側には大きめの要求をできる。俺はその要求で黒歌の『はぐれ』認定の取り消しを要求しようと思っている。そこで明日なんだが……」

 

 一拍おいて黒歌に告げる。

 

「サーゼクスを交えて小猫ちゃん……白音との話し合いの場を設けた」

 

「にゃ!?」

 

 驚愕した黒歌は後から俺の目の前に移動して詰め寄った。

 

「白音に会えるのにゃ!?」

 

「ああ。3大勢力の会談前になるべく早く話し合いをしておいたほうがいいからな。明日はサーゼクス、グレイフィア。眷属の主としてリアス部長、それに小猫ちゃんが来る予定だ。こちらは俺と黒歌の2名だ」

 

 一拍開けて言う。

 

「小猫ちゃんは黒歌の事件がトラウマになっているらしいから、小猫ちゃんは何も知らずにここに来る。拒絶されたりするかもしれないから覚悟だけはしておいてくれ」

 

 黒歌の耳と尻尾が、心をありようを表すかのようにゆっくりとおちた。

 

「そうだったにゃ……。私は白音を見捨てたんだったにゃ……」

 

 落ち込む黒歌の頬を手に添える。

 

 黒歌は俺を涙で潤んだ瞳で見つめる。

 

「ねえ、エイジ。……私って迷惑なのかな? 主殺しをして『はぐれ』になって白音を見捨てて、エイジに拾ってもらったけど、迷惑かけてばっかりだし、エイジが仮面つけるようになったのも私が『はぐれ』悪魔で犯罪者だからなんでしょ?」

 

 黒歌っていつも陽気だけど、一度ナーバスモードに移行したらゼノヴィアみたいに悪いほう悪いほうに考え始めるんだよな~。

 

 でも仮面は……。

 

「仮面は単なる趣味だったというか……若気のいたりだったわけなんだが……」

 

「そうにゃの?」

 

 周りの視線が微笑ましく温かいモノになったのを感じたが、無視して、黒歌に声をかける。

 

「おまえの存在が迷惑だなんて一度も思ったことはないぞ。おまえは家族をなくして路頭に迷いかけていた俺の初めての家族だし、冥界で賞金稼ぎをできたのもおまえのおかげだ。それに、ここにいる全員は家族なんだ、迷惑ぐらいいくらでもかけろ」

 

「えいじぃぃぃぃ!」

 

 号泣しながら胸に飛び込んでくる黒歌をやさしく抱きとめる。

 

「いろいろあったんだろうし、小猫ちゃんに拒絶されたりするだろうが、諦めるなよ。元の関係に戻れなかったとしても、自分の想いを伝えるんだ」

 

「ぅんっ! うんっ! 白音に許してもらえなくても気持ちだけはしっかり伝える!」

 

 わんわんと泣く黒歌をあやす。

 

 そして黒歌が泣き止んだあとに、一ヶ月間溜まりにたまった性欲に火がついた。

 

 部長がサーゼクスの観光に付き合っていて留守だし、自分の部屋に黒歌たち全員と入り、24時間魔力が空になり、効果範囲も小範囲だが、通常の空間よりも時間を早めた結界を張ることのできる空間術を黒歌が発動させて、レイナーレを含め全員で盛ってしまったのは俺として当然の行動だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の夜。

 

 神城家のリビングでサーゼクス、部長、小猫ちゃんが座り、グレイフィアはサーゼクスの後ろに立ち、向かい側の席、サーゼクスと部長との間に俺が座っていた。

 

 小猫ちゃんが恐る恐る挙手しながら訊いてくる。

 

「あの……なんで私が呼ばれたんですか?」

 

 まあ、当然だろう。眷族の中でも個別で呼ばれ、さらに魔王、部長、自分が同じ側に座っていて、向かい側に俺、さらに俺の隣には椅子が1つ置かれているんだから。

 

「それは俺が説明しよう。だが、その前に小猫ちゃんに会ってもらいたい()がいるんだ」

 

「エイジ先輩?」

 

 小猫ちゃんは疑問符を浮かべているが、俺はドアへ向かって声をかける。

 

「――黒歌。入ってきてくれ」

 

「――っ!?」

 

 小猫ちゃんの顔が驚愕の表情というより、畏怖や恐怖といった表情になった。

 

「小猫……」

 

 部長が小猫ちゃんを落ち着かせるように肩を抱く。

 

 ガタガタと震える小猫ちゃん。

 

 ドアから入ってきた黒歌は椅子の前に立ったまま一礼する。

 

「はじめまして魔王さま。神城エイジの使い魔、黒歌です」

 

「使い魔……?」

 

 小猫ちゃんが俺を見た。

 

 驚愕、悲しみ、なんとでもとれる視線を向けられるのは、すごく複雑だが耐えるところだ。

 

「ああ。俺の使い魔である黒歌だ」

 

「……白音。久しぶり……」

 

 黒歌も気まずそうに挨拶したが、小猫ちゃんはそれど頃ではないようすだ。

 

 ここでサーゼクスが口を開いた。

 

「まあ、とりあえず座りたまえ」

 

「はい……。失礼します」

 

 黒歌が椅子に座り、改めて話を始める。

 

「先日サーゼクスに伝えたとおり、俺が悪魔側に対する要求は黒歌から『はぐれ』悪魔認定の撤回と、黒歌の罪の軽減、もしくは無罪を要求する」

 

「キミがはぐれ悪魔を使い魔にしているとは聞いたことがあったが、まさか黒歌だったとは思わなかったよ。3大勢力の代表としてみればキミの要求は軽いもので、すぐにのめるだろう案件だが……」

 

 サーゼクスは小猫ちゃんを一度見てから黒歌を睨んだ。

 

 黒歌は魔王から向けられた視線に体をビクッと震わせる。

 

「黒歌は主殺しをした極悪人なんだよ?」

 

 俺はサーゼクスの顔を見ながら言う。

 

「黒歌が主殺しを行った理由からみれば仕方がなかったことだ」

 

「理由……」

 

 小猫ちゃんが小さくつぶやいた。俺は聞こえていたがそれを無視して主張を述べ始めた。

 

「黒歌が何故主を殺したか、その理由は、小猫ちゃん……白音にあった」

 

「エイジ!」

 

 黒歌が俺に向かって叫んだが、手で制す。

 

 小猫ちゃんは意味が分からないという表情をうかべた。

 

「……私?」

 

「ああ。黒歌がもともと眷属悪魔になったのは小猫ちゃんを人質に取られたからだ」

 

「――っ!」

 

 小猫ちゃんが黒歌の顔を驚愕と困惑の表情で見る。

 

 始めはここまで言うつもりではなかったが、いま全部言っておいたほうがいいだろう。

 

「黒歌は転生悪魔になり、渋々ながらも眷属として働いていたそうだが、数年後――。主殺しを行うきっかけが生じた」

 

 一拍おいて言う。

 

「当時主だった悪魔から小猫ちゃんに『仙術』を教えるように命令されたんだ」

 

 小猫ちゃんは目を大きく開いた。

 

「仙術っ!?」

 

「ああ。仙術だ。仙術は習得困難な術で、当然黒歌は幼かった小猫ちゃんに教えるには、危険極まりない術だった。だが、当時の主は無理やりにでも小猫ちゃんに仙術を覚えさせて、眷属悪魔に転生させたかったそうだ。ここまで言えばだいたい予想はつくね?」

 

「…………」

 

 無言で困惑している小猫ちゃんに俺は言う。

 

「黒歌は結果的に小猫ちゃんを救えなかったが、黒歌は黒歌なりに小猫ちゃんを守ろうとして主を殺したんだよ」

 

「で、でも、そんな……!」

 

 ショックを受けて力の抜ける小猫ちゃんを部長が慌てて支える。

 

「小猫!」

 

 サーゼクスは真剣な表情で俺と、そして黒歌を見た。

 

「ふむ……。そういう背景が……。それが真実なら、ただの犯罪者と切って捨てることはできないね」

 

「嘘は言ってないにゃ……」

 

 サーゼクスはうなずくと部長に声をかけた。

 

「リアス。小猫も突然の話で混乱している。どこか別の部屋で休ませてあげなさい」

 

 部長はうなずいて小猫ちゃんを別室へと運んだ。

 

 部長と小猫ちゃんが退出したところで、一度力を抜く。

 

「やっぱりショックを受けたね」

 

「それはそうだろう。姉が眷属悪魔になったのも、主を殺したのも、自分が原因だったと知ればね」

 

 黒歌が俺の横腹に拳をぐりぐりとねじ込んだ。

 

「エイジ! なんであそこまで白音に話したのにゃ!?」

 

「なんでって、言わないほうが酷いだろう」

 

 黒歌の顔を真剣に見つめて言う。

 

「黒歌が小猫ちゃんのためにやったことを知らないほうが、小猫ちゃんにとって酷いことだとは思わないか? それに小猫ちゃんは守ることはできなかったが、黒歌が小猫ちゃんのために転生悪魔にもなって主殺しをして、犯罪者になって、いまも大勢の悪魔から追われているんだぞ。黒歌の想いも事情も知らずに拒絶されるのは、俺が納得できない」

 

「でもエイジ……」

 

 納得いかないというより、戸惑っているような表情の黒歌の手をとる。

 

「それに他の誰から教えられるより、いまこの場でおまえを交えて教えるほうが。小猫ちゃんの混乱が少なくてすむ。どちらにしても拒絶されるというのなら、お互いすべてを知った状態のほうが、俺はいいと思う」

 

「ぅぅ……」

 

 黒歌は小さな唸り声をあげると、サーゼクスたちに向き直った。

 

 俺も向き直って話を始めた。

 

「話を戻すが、悪魔側は俺の要求を受け入れるか?」

 

 サーゼクスは少し考える間の沈黙後、うなずいた。

 

「ああ、わかった。悪魔1人の罪を消すだけで魔王クラスがこちら側につくんだ。こちらはキミの要求を受け入れよう」

 

「感謝する」

 

 そう言って手を差し出し、商談成立の握手をしようとするが、直前でかわされた。

 

「おい」

 

 俺が睨むとサーゼクスはいつもの笑みをうかべていた。

 

「考えたのだが、これでは少々要求が小さすぎるな」

 

「なんだよ。別に欲しいものなんて特にないぞ? あ、いや『悪魔の駒』は欲しいかも……」

 

 サーゼクスはうなずいたあと、わざとらしくリビングを見渡しはじめた。

 

「『悪魔の駒』だね、用意するよ。……そういえばこの家は少々小さいかな? もうすでに3大勢力にキミの正体は知れ渡っているんだし……。うん、新たな対価として家の増築をグレモリー家が行おうじゃないか」

 

 悪魔の駒ゲットだぜ! って家の増築? マジで無償でやってくれんの?

 

「いいのか?」

 

「これぐらい当然だよ。魔王側にエイジがついてくれるんだから、対価としては少ないほうだよ」

 

 サーゼクスはそう言うとグレイフィアが入れた紅茶に口をつけた。

 

 それにしても増築か~。住人が一気に増えて狭く感じていたから渡りに船だけど、今のところってメイドはレイナーレしかいないから掃除とかで負担をかけそうだなぁ~。

 

 しばらく紅茶を飲みながら考え耽っていると、部長と小猫ちゃんが入室してきた。

 

 黒歌は小猫ちゃんを申し訳なさそうな視線で見る。

 

「白音……」

 

「姉さま……」

 

 部長と小猫ちゃんは元の席へついた。

 

 小猫ちゃんが恐る恐る小声で黒歌に尋ねた。

 

「…………姉さまは、力に、溺れたわけじゃ、なかったの?」

 

 黒歌はゆっくりと首を横に振った。

 

「主を殺したときの私は溜まっていた怒りに飲まれて、力を暴走させていたわ」

 

「――っ」

 

 黒歌は辛そうに語った。

 

「……私はなんとか白音を連れて一時的に逃げることができたけど、すぐに追っ手がきて、自分が逃げるためにあなたを置き去りにしてしまった最低の姉よ」

 

「……私のためにしてくれたの?」

 

 黒歌は震える手で俺の服を机の下でつかんだ。

 

 肯定も否定もせず、何も言わず、言えない黒歌。

 

「…………」

 

 そのようすだけで伝わったのだろう。小猫ちゃんは涙を流しながらゆっくりと口を開いた。

 

「…………わ、私は……姉さまが全部悪かった、わけじゃないことを知ったけど……私はまだ姉さまが、あのときの姉さまが怖い……」

 

「白音……」

 

「でも……姉さまが私のためにやってくれたって知って、悲しかったし、嬉しいとも想った。……いきなり今日姉さまに会わされて、話を聞かされて……まだ混乱してるけど……」

 

 小猫ちゃんはそう言って、涙を溢れさせている黒歌をみた。

 

 小猫ちゃんが涙を流しながら言う。

 

「辛いこともたくさんあったけど、守ってくれようとしたことが分かって嬉しかったよ……」

 

「白音ぇぇぇ……ごめん、ゴメンなさい……。守れなくて、ごめん……!」

 

 小猫ちゃんは泣き顔を無理やり笑顔に変えて微笑んだ。

 

「そんなに泣かないで、姉さん。辛い思いもしたけど、いまの私はリアス部長やオカルト研の部員や友達がいて幸せなんだから」

 

 小猫ちゃん……。

 

 そのあと会談は終了し、サーゼクスたちは部長を残して出て行った。

 

 小猫ちゃんはまだ黒歌の顔をあまり見れずに戸惑っているようだが、関係は大きく近づいたように思えた。

 

 家の玄関まで見送ったあとに、リビングに戻ると黒歌は俺に抱きついてきた。

 

「よかったよぉぉぉ、白音に拒絶されなくてよかったぉぉぉぉ!」

 

 涙と鼻水でシャツがぐじゅぐじゅになっていくが、黒歌を慰めるように抱きしめた。

 

 俺をジト眼で見てくる部長は、ため息を吐いたあと言う。

 

「…………今夜はエイジを貸してあげるわ」

 

「部長……」

 

「リアス……」

 

 俺と黒歌が部長の心意気に胸を熱くしてつぶやくと、部長は顔を真っ赤にしたあと指をさしてきた。

 

「今日だけだからね! 明日からはエイジと寝るのは私なんだからね!」

 

「にゃ? 私はリアスも一緒でもかまわないにゃよ?」

 

 バイセクシャルな黒歌はそう言うが……、

 

「なっ!? なに言ってるのよ淫乱猫!」

 

 と叫んでリビングから出て行ってしまった。

 

 まあ、まだ部長はいちおう処女だからね。

 

 ああ、早くもらいたいっ! けど3大会議後になるんだろうな~。部長のことだから会議前に処女もらうと、自分の処女を差し出して悪魔側につかせたとか勘違いしそうだし。

 

 自室に入ると、黒歌は俺の尻尾に自分の尻尾を絡めてきた。

 

 翼と同じようにしまっていることもできるんだが、なぜか尻尾はしまうと窮屈に感じて出した方が落ち着くのだけど、ぶっちゃけ、俺の尻尾って女に触られると気持ちよくなる性感帯なんだよな。

 

 よく悪魔の尻尾は弱点と言うけど、俺の尻尾は性感帯としての弱点で、戦闘活用なんかには問題ないみたいで、傷ついても命に影響はないみたい。

 

 まっ、それはいまおいておくとして……。

 

「今日はありがと、エイジ。白音にはっきり拒絶されなかったし、少しだけ近づけた気がしたにゃ。だから、今夜はたっぷりとサービスしてあげるにゃん」

 

「それは嬉しいな。黒歌――」

 

「なんにゃ?」

 

「おまえはこれからも俺のモノだからな」

 

「にゃん♪ 当たり前にゃ」

 

 尻尾を絡めながら、唇を交わした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あむっ……、ぺろぺろ……、はにゃぁぁぁ」

 

 ベッドの上に仰向けで寝転んだ俺の股に顔を埋め、美味しそうにペニスを舐める黒歌。猫舌のザラザラ感が半端なねぇぇっ!

 

 常人なら痛すぎるか、気持ちよすぎて一瞬で果ててしまうだろうが、人間とは違う舌の感触を俺はベッドに寝転がりながら楽しんでいた。

 

 ぺろぺろ……じゅぶぷ……。

 

 ミルクでも舐めるような舌使いに時おり混じる激しい動き。犬歯や小さな舌、ヌルヌルの温かな体温。喉の奥の当たる亀頭が俺に快楽を送ってくる。

 

「すごい……、すごく気持ちいいぞ」

 

 黒歌は満足げに微笑んだ。

 

「にゃにゃ、まだまだこれからなのにゃあ♪ 今夜はたっぷり私がサービスしてあげるんだから――」

 

 あうっ!? ペニスがスベスベの温かくて柔らかいものに包まれたっ!

 

 こ、これは!

 

「エイジって、ほんとにおっぱい大好きだにゃあ。挟んだだけでもうギンギンにゃ♪」

 

 やはりおっぱいだったか!

 

「おっぱいだけじゃないけど、おっぱいも好きだ。それにしても黒歌のおっぱいは白くてシミひとつなくて、乳輪も乳首もずっと俺がしゃぶっていたのに、くすみもしないキレイなピンク色だな」

 

 そう、まるで処女みたいに。

 

「にゃん、エイジに悦んでもらえるように体はしっかり清潔にしてるのにゃ♪」

 

「うん。黒歌はいつもキレイでいい匂いで可愛くて――愛しているよ」

 

「私もにゃん♪」

 

 嬉しそうにぱくっとペニスをくわえ込むと、黒歌はちゅうちゅう精液を吸いだし始めた。

 

 す、すごい吸引力! っていうか吸引しながら口をもごもごさせたり、雁首の裏を凶悪な猫舌で舐められて、もうヤバい!

 

 しかも竿はおっぱいに包まれていて、乳圧をかけたまま激しく上下運動させるからもう決壊寸前だ!

 

「じゅるる……エイジ、我慢しなくてもいいにゃん♪ 今夜は朝までサービスしてあげるから私の体、ドロドロの精液で汚して欲しいにゃ」

 

 ま、マジで! 朝までいいの!? 我慢しないぞ?

 

 黒歌は止めといわんばかりに亀頭を飲み込み、玉袋を解すように揉んだ。

 

「く、黒歌!」

 

「にゃん!」

 

 ビュクッ! ビュビュッ! ビュルルルルルッ!

 

 腰が持ち上がり黒歌の口の中に腰を進める。黒歌の口内が精液だらけとなり、ペニスに絡みつくのを感じたが、黒歌はすぐにごぎゅん、ごきゅんと精液を飲み下し、ペニスを根元から先端まで口を窄めて、ペニスに付着していた精液を舐めとり、口内でコロコロと転がした。

 

「はにゃー、エイジの精液濃厚でおいしくて大好きにゃあ。昨日もセルベリアにたっぷり抜かれているはずなのに、全然そんな感じがしないのにゃあ……」

 

 まるで酔っているみたいに、トロンとおちた瞳で俺の精液を味わっていた。

 

 まあ、自分でも異常だと思う。インキュバス云々抜きにしても俺の性欲が尽きることなかったもんな。ていうか記憶を探ると歴代の俺も性欲は一度も尽きたことがない。魂から性欲の権化で絶倫みたいだ。

 

「さてと、そろそろ挿入れるにゃ」

 

「クンニはしないのか?」

 

 正直、オマンコ舐めるのも愛液を啜るの大好きだから飲みたいんだけど。

 

 黒歌はベッドの上に膝立ちになって両の指でオマンコを見せ付けてきた!

 

「もう私の、じゅっくり、びしょびしょになっているのにゃ。それに今夜は私がサービスするのにゃん♪」

 

 ニコッと笑顔の黒歌に俺のペニスはダラダラとカウパーを漏らした。

 

「ならサービスしてもらおうかな」

 

 黒歌のサービス期待してるよ!

 

 黒歌はゆっくりと腰を降ろし始める。

 

 ――くちゅっ。

 

 ペニスとオマンコがキスを交わす。黒歌の割れ目に、陰唇にズズズゥゥと食べられていった。

 

 黒歌は顔を上に向けて気持ちよさそうな声でつぶやいた。

 

「あにゃんっ……おっきくて、凶悪にゃ」

 

  俺の視界からペニスが黒歌のオマンコに食べられてしまっていることがよくわかった。そりゃあもう、左右に開いたスジ肉とか、触れ合う陰毛とか、なにより熱々でザラザラなオマンコの感触が最高ですぐに腰を振りたくなる――ああっ、もう! つき荒らしてぇぇぇっ!!

 

 すぷっ。

 

「あうっ!?」

 

 尻の穴に……! 黒歌の指がっ!

 

 黒歌の顔を見ると、楽しそうな子供のような笑みをうかべていた。う、動いちゃだめなのか?

 

「今夜は私が(・・)サービスするのにゃ♪」

 

 そう言うと黒歌は前後に腰を動かしはじめた。

 

「ああ――す、すごい……」

 

 腰の振り方がすごく厭らしい! よく絞まるオマンコにペニスを捕まえられて、無理矢理上に下にと引っ張られているみたいだ!

 

「うふふっ、気持ちよさそうね。エイジってセックスのとき気持ちが顔に出やすいし、幸せそうだから、ついついサービスしてあげたくなるにゃん♪」

 

 そう言いながら今度は左右や円を描くそうに腰を動かしてきた。

 

 ああもうっ! 最高! 最高だぞ!

 

 縦横無尽に腰を振るいながら甘い声をもらしたり、なによりぷるんぷるんのおっぱいの動きに釘づけになってます!

 

「気持ちいい! 気持ちいいよ、黒歌! ヌメヌメでザラザラで最高だ!」

 

「うふふっ、エイジのオチンチンがごりごりに擦れて私も気持ちいいにゃ!」

 

 黒歌がうしろに体を反らさせる。ペニスが引っこ抜かれそうだ!

 

「にゃにゃん♪」

 

 そのままピストンを開始した!?

 

 ズズズゥゥ、ズプンッ、ズズズゥゥ――。

 

 子宮口から膣口まで、最深部と入り口を行ったりきたり、ペニスがしゃぶられ、ザラザラが竿や亀頭をスリスリと鑢掛けしてきて、俺はもう限界だった。

 

「く、黒歌……」

 

 黒歌の名を呼ぶと、黒歌は満足げな、そして、Sな表情を浮かべた。

 

「まだダメにゃよ、これから新術使うんだから」

 

 新術――っ!?

 

 ギキュキュキュキュゥゥゥゥゥッッ!

 

 まるで万力のような締め付けだった。な、なんだこの締まりは!?

 

「うふふふっ、まだまだいくにゃん♪」

 

 グジュジュ、グジュッ、グジュジュッ!

 

 こ、こんどはふかふかで包み込むように柔らかい!?

 

 ギュルルゥゥゥッ!

 

 ね、ねじれ――ペニスがねじられている!?

 

「く、黒歌、まさか――」

 

「そうにゃ、仙術でオマンコ操ってるのにゃ♪」

 

「ま、マジで?」

 

「にゃん♪ エイジがもっと気持ちよくなるよう1人で修行したのにゃあ」

 

 超嬉しい! 修行までして覚えてくれたんだ!

 

 黒歌の背中や尻をなでていた尻尾を、黒歌の尻尾に絡める。

 

 さすが黒歌! サラサラで触り心地抜群だな!

 

「にゃにゃん、そこは尻尾は私も弱い――」

 

 可愛らしい黒歌、愛らしい黒歌、笑顔が素敵で、妹想いで、寂しがりやで……もう我慢できねぇよ!

 

 黒歌を押し倒して正常位になる。

 

「え、エイジ、私が今日サービス――んんっ」

 

 黒歌の口をキスで塞いだあと黒歌に覆いかぶさった。

 

 黒歌の首筋を舐めながら言う。

 

「もう我慢できない……黒歌をもっと感じたい!」

 

 黒歌はふぅとため息を吐くと俺の頭をなでてきた。

 

「しかたないにゃねー、サービスはまた今度にするにゃ。ほらエイジ、好きにしていいにゃよ」

 

 全身から力を抜く黒歌。俺は黒歌のおっぱいを揉みながら、乳首に吸い付いた。

 

 ペロペロと乳輪を舌でなぞり、チュゥゥッ、チュゥゥゥッとコリコリの乳首に赤ん坊のように吸いついた。

 

 腰を振りながらもおっぱいに吸い付く俺に、黒歌は喘ぎ声を上げながら言う。

 

「はぅんっ! あ……、ふ、ふふっ、んんっ――。ま、まったくエイジは最初に出会った頃から変わらないんだから」

 

 ま、まあ、偶然出会って黒歌の怪我の治療が終わってから、俺って黒歌と添い寝するときとかお風呂のときとかでもいつもおっぱい吸ってたからな。

 

 黒歌は俺の頭をぎゅっと抱きしめると訊いてきた。

 

「エイジっ、一生精液便所でもいいから私をエイジの傍においてくれる?」

 

「精液便所じゃなくてもセックスできなくても、黒歌と一緒にいるに決まってるじゃないか!」

 

「ありがと、エイジィィィィッッ!」

 

 ビュルルルルルルルゥゥゥゥッッ!!

 

「あにゃぁぁぁぁぁ~っ!」

 

 精液を子宮で受け止めた黒歌の口から絶叫が漏れ、体が痙攣しているようたが――俺の射精は――俺のセックスは終わってない!!

 

 ジュブッ! ジュプッ! ジュブッ!

 

 射精をしながらつきまくる。

 

 黒歌は口から涎も流した。

 

「え、エイジ! は、はげしぃっ! ま、まだでてるのに、こ、こわれ、ちゃ……」

 

 黒歌の口をキスで再び塞いでペニスを深く挿入して、子宮口に亀頭を固定して栓をした。

 

 フリフリっ。

 

 俺は尻尾の先端を黒歌のアナルに合わせた。

 

 アナルを俺の尻尾の先端がつついていることに驚いて黒歌は大きく瞳を開いた。

 

 ズボボゥッ!

 

「あひゃん!?」

 

 もう1つのペニス、尻尾がアナルを貫いた瞬間――黒歌の口から悲鳴が漏れた。

 

 ああ、すごく気持ちよさそうな黒歌……俺も気持ちいいよ。

 

 キスを交わしながら尻尾でピストンを始めると、黒歌は俺の尻の穴に猫しっぽを挿入()れてきた!

 

 挿入状態のまま、尻尾同士でアナルを犯しあい。俺たちは一気に快楽に飲まれていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌朝――。俺が満足して正気に戻ると、全身精液と体液に汚れ、小便の水溜りに沈んだ黒歌と、その黒歌のアナルに挿入中であった自分のペニスに気づいた。

 

「あにゃ……あにゃぁぁぁ……え、いじぃぃ……ぇいじぃぃぃ……」

 

 黒歌は本物の精液便所と化していた。

 



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第29話 一足早いプール開き ☆

 本番なしだけど、ちょびっとエロシーンあり


<エイジ>

 

 

 目の前に絶景が広がっていた。

 

 以前のコカビエルの事件後、イッセーたちがカラオケにいっていた裏側で、部長と朱乃さんと水着選びにいって、俺の気に入った水着を買ってくれたのだが、とうとうそのお披露目の日となったのだ。

 

 場所は駒王学園のプール。生徒会からプール掃除をすることの対価に、プールの自由使用権をもらって、いままさに、オカルト研究部のメンバーとプールで遊んでいるわけだ。

 

 木場のやつは用事でいないので、男は俺とイッセーの2人だけだ。

 

 そして現在、俺とイッセーは感動にうち震えていた。

 

「ほら、エイジ。私の水着、どうかしら?」

 

 ブッ!

 

 部長の面積の少ない、赤いビキニタイプの水着姿に、イッセーの鼻から鼻血が垂れる。

 

 俺も拳を突き出し、親指を天に向かって立てる。

 

「すごく似合ってます! 部長の紅い髪と白い肌と、スタイル最高で、美しいです!」

 

 部長が嬉しそうに微笑んだ。

 

「そう、ありがと♪」

 

「あらあら。部長ったら、張り切ってますわ。うふふ、よほどエイジさんに見せたかったんですね。ところでエイジくん、私のほうはどうかした?」

 

 と、朱乃さんも登場ッッ!

 

 俺が選んだ水着は黒のビキニタイプで、こちらも面積が少なく、エロかった。

 

「朱乃さんも最高です! もう艶やかな黒髪と黒いビキニと白い肌に、もうその柔らかそうな胸とお尻に夢中です! たまりません!」

 

 妖艶に微笑む朱乃さん。

 

「ふふふ、目が純真すぎて素直に嬉しいですわね」

 

 そりゃあ、純真ですよ! 下心なんてありません! 素直に美しいと感じてますから!

 

 ブハっ!

 

 イッセーの鼻から鼻血が跳んだ。

 

「イッセーさん、わ、私も着替えてました」

 

 そのイッセーの前にもじもじと立つアーシア。

 

 アーシアは学校指定のスクール水着だ。金髪美少女が日本のスクール水着を可愛らしいが胸の「あーしあ」と書かれているところとか、正直ツボだが、あえて言わせてもらうと白のスクール水着がよかった。

 

 イッセーがドクドクと鼻から鼻血を流しながら、アーシアを褒める。

 

「アーシア、かわいいぞ! お兄さん感動だ! よく似合っている!」

 

 アーシアは満足げに微笑んだ。

 

「えへへ。イッセーさんにそう言われるとうれしいです。小猫ちゃんも同じスクール水着なんですよ」

 

 確かにスクール水着で「こねこ」と書かれていた。愛くるしさ全開だったが、やっぱ白猫だし、シロスクが……。

 

 そんなことを考えていると、部長がイッセーに、アーシアと小猫ちゃんに泳ぎ方を教えるように頼んだ。

 

 イッセーはそれを快諾して、2人を連れてプールへと向かった。

 

 1人で2人教えるのは大変そうだけど、これは仕方ないよな。

 

 小猫ちゃんと俺は黒歌の件で少し距離をとっているし、俺がアーシアに泳ぎ方を教えるというてもあるが、それではイッセーにアプローチをかけているアーシアが可哀想だ。

 

 俺は2人を任せて、お姉さま方と遊ぶことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部長と朱乃さんがプールで泳ぐ姿を、俺はプールサイドの床に敷いたビニールシートに寝転がっていてみていた。

 

 決して泳げないわけではないのだ。

 

 うん。正直めちくちゃ泳げる。

 

 でも、部長たちのいるプールには入れなかった。

 

「エイジ」

 

 部長がプールから上がって俺の元へ近づいてきた。部長の体を濡らす水滴が、太陽の光を受けてキラキラと輝いてます、部長!

 

「残念ね。あなたもプールを楽しめないなんて」

 

「いえ、半分以上自分のせいですし、十二分に楽しめていますよ」

 

 そう……、俺がプールに入れない理由は俺自身にあった。

 

「インキュバスの能力をまだ制御できない自分が悪いので……」

 

 部長がやさしく尻尾をなでた。

 

「ぁう――っ」

 

 マジでそこ弱いんです! ペニスで言うならむき出しの亀頭! しかも剥きたてみたいに敏感なんだ!

 

 しかも、この尻尾は俺が興奮すると強力な媚薬を含んだ汗を発するから、部長たちの水着姿をプール内でみて興奮すれば、その強力な媚薬がプールに解けて、まずいことになるから、俺は見学なのだ。

 

 尻尾を納めることもできるが、こちらも性的に興奮すると勝手に生えてしまう。

 

 そう、すべては俺の未熟のせい……。っていうか、性欲を完全にコントロールできる男なんていないと主張したい!

 

 俺の制御能力も性欲を抑えることは無理だったのだ。

 

 水着姿の美少女がいれば、興奮するのは当たり前なのだ!

 

 だが……、だけど……。

 

 部長とシャワーを浴びるしかできなくなってしまったのは、悲しい!

 

 黒歌たちは長年の性交で快楽にはある程度の耐性ができていて、媚薬入りの風呂に入ってもセックスすれば発散できるが、部長はそうはいかない。

 

 部長の処女を媚薬で発情させてもらうのは、俺自身が納得しないし、俺は本来媚薬で堕としてからセックスはしない。あくまで楽しみの1つとして、アクセントで使うだけだから、媚薬で狂わされて処女喪失はプライドが許さない。

 

 部長が申し訳けなさそうに言う。

 

「あなたがインキュバスになったのは私のせいよ。私がしっかり契約内容やサキュバスたち情報を集めていれば……」

 

「せっかくのプールなんですから、そんなこと言いっこなしです。俺がインキュバスになったことで、悪魔側に入れる正式な理由ができたんですし、帳消しですよ。それよりも、プールを楽しんでください。あなたの楽しそうな笑顔が俺の一番の楽しみになるんですから」

 

「そう。……そう言ってくれると嬉しいわ。じゃあ――」

 

 部長がビニールシートに寝転んで小瓶を渡してきた。

 

「美容の特製オイルなんだけどね。塗ってくれないかしら?」

 

 こ、このシチュエーションはっ!?

 

 部長は恥ずかしそうに小声で言う。

 

「あまりいやらしいさわり方はダメよ? あくまでオイルを塗るだけなんだから」

 

「はい! わかっています!」

 

 部長のブラの紐を解いて外す。

 

 ふるっ!

 

 押さえるものがなくなったため、でんっとビニールシートに部長の胸が広がった。

 

 最高です部長! いつも家でみているけど、外でみるのも新鮮で、おいしそうです!

 

「さあ、お願いね」

 

 柔らかそうな白い肌。

 

 そう言えば部長にオイルを塗るのは初めてだった。

 

 俺は手の中でオイルを温める。

 

 ぴと。にゅるぅぅぅ。

 

、部長の背中に触れたあと、オイルを伸ばしながら肌に塗り込むようにしていく。

 

 あーっ! クソ! 最高だぜ! 何度触っても飽きないスベスベの肌! ハリと弾力も手に馴染み、いつまでも触れていたくなる!

 

「ねぇ、エイジ」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「私の体で、エイジが触れていないところってもうほとんどないわね。なんだか、この体をエイジに支配されていきそうだわ」

 

「――ッ!」

 

 触れていないところ! そう、あとは処女膜の先にある一箇所だけなんだ!

 

 そう思うと興奮してきた。

 

 先端がハート型になっている尻尾がまるで犬が喜んでいるように、左右に振っていた。

 

「胸にもオイルを塗る?」

 

「いいんですか!」

 

 こんなとこで揉んでいいのか!? イッセーがみてるのに!?

 

 っていうか俺止まれないよ?

 

「いいわよ。あとで念入りに塗ってちょうだい。ふふふ、それにしてもエイジって実はイッセーよりもおっぱい好きよね」

 

 そ、それは……イッセーなんぞと並べられるのは嫌だが、おっぱい好きは否定しない!

 

「俺は女性の全部が好きなんですけどね」

 

 肯定して受け入れた。

 

「エイジくん♪ 私にもオイル塗ってくださる?」

 

 むにゅぅぅ。

 

 やわらかく、弾力があり、この肌の感触は――!

 

 振り返ろうとしたら、俺の肩から朱乃さんの顔がひょっこり現れた。

 

 あ、朱乃さん! プールで遊んでたんじゃ!?

 

 ぎゅっ。さらに俺の体に腕を回し、うしろから抱きしめてくる! 背中に当たるおっぱいの感触、最高です!

 

 って、背中に感じる2つの突起ッ! 水着きてないの!? まさか、直で当ててるんですか!?

 

「あらあら、部長だけずるいですわ」

 

 非難するように朱乃さんが部長に言う。おっぱいをむにゅむにゅと俺の背中に押し付けながら! 背中で柔らかいものが暴れてる!

 

 コリコリした乳首の感触、最高です!

 

「ちょ、ちょっと、朱乃。私のオイル塗りがまだ終わっていないのよ。そ、それにそんな風にエイジを誘惑したら危ないわ、エイジにたべられちゃうわよ」

 

 部長が上半身だけ起こして、目元をひくつかせていた。明らかに不機嫌だ!

 

 ぶぱぁぁぁッ!

 

 プールでイッセーが鼻血の噴水作ったぁぁぁぁぁッ!?

 

 プールに刑事者ドラマよろしく水死体のように浮くイッセーに、アーシアと小猫が血相を変えた。

 

「イッセーさん! イッセーさん!」

 

「せ、せんぱい!?」

 

 プールで始まる救助活動。すぐにプールサイドに上げられたが、その顔は満足気で満々の笑みだった。

 

 目に魔力が残っているところから、視力を神器で倍加させたんだろう。ってこいつ覗いてやがったのか。

 

 反対側で起こっている救助活動は気づかずに、俺を間に挟んでいがみ合う部長と朱乃さん。

 

 っていうか上半身、丸見えですよ部長……。

 

 ぴた。

 

 朱乃さんの顔が俺の肩に乗っかる。そのままほっぺとほっぺが引っ付いて、スリスリしてくる。

 

「ねぇ、エイジくん。部長が怖いですわ。私はサキュバスに襲われて、インキュバスになってしまった理由を作ってしまったことに責任をとって、エイジくんのいろいろ溜まっているであろうものを吐きだせてあげたいだけなのに……」

 

 かみっ。

 

 ぐわっ! 朱乃さんに耳を甘嚙みされたっ! って、朱乃さんすごく色っぽいです! マジで吐きださせてもらえるんですか!?

 

「本当、エイジくんはおもしろいですわ。部長、エイジくんを私にくださらない? やっぱり、私が将来部長のもとから独り立ちするとき、エイジくんを連れて行きたいですわ」

 

「ダメよ! エイジは私のよ! 絶対にあげたりしないのだから!」

 

「こんなに素敵で強くて男らしい子、他にはいませんわ。――では、たまにエッチにかわいがるぐらい、いいですわよね?」

 

「それもダメよ! もとからの女の子たちは仕方ないかもしれないけど、エイジにはもうあまり特定な女を増やして欲しくないの。エイジが本気であなたを気に入ったら……」

 

「気に入ったらなんですの?」

 

「っ……」

 

「うふふ、そのようすでは、まだ――みたいですわね?」

 

「!」

 

 朱乃さんが俺の耳元で言う。

 

「エイジくん」

 

「はい。な、なんですか?」

 

「部長の処女はもらえました?」

 

「い、いいえ……」

 

「あらあら。意外ね。いつもくっついているのに部長ったらガードが堅いのですね」

 

 朱乃さんの挑戦的な物言い。俺に話しかけているようで、実は部長へ向けているものだ!

 

 部長の表情も徐々に険しいものへ転じてきている。や、ヤバイな……。

 

「だったら、私が代わりに処女をあげましょうか?」

 

 ……。

 

 マジで!?

 

「いま、エイジくんの尻尾がつんつんしているところを、エイジくんので貫かれてもいい、と言ったのですよ。わかる? おっぱいも自由にしていいのよ」

 

 ほ、ほんとに……ほんとにいいの?

 

「エイジくんの欲望のままに、私の体を、蹂躙していいですわよ? あぁんっ、伝説のインキュバスになったあなたとエッチする私を想像しただけで……」

 

 荒い息づかいが耳を襲う! 尻尾が欲しくて欲しくて朱乃さんの股をつんつんとつついた。

 

 ヒュッ! ボンッ!

 

 俺の隣に何かが通り過ぎていき、後方で破壊音が聞こえてきた。

 

 ――うん。プールの飛び込み台がひとつ消えたね。

 

「朱乃。ちょっと、調子にのりすぎよね? あなた、私の下僕で眷属だということ、忘れているの?」

 

 ドスの効いた声音を部長が発する。め、目が据わっていらっしゃるぅぅ!

 

「あらあら。そんな風にされてしまうと私も困ってしまいますわ。――リアス、私は引かないわよ?」

 

 朱乃さんがニッコリ目を留めて、見開いてるぅぅぅ! しかも怒気を含んだ口調だ! 全身から黄金のオーラが包み込み、パチパチと電気が走る!

 

 部長が身を起こし、朱乃さんも俺から離れて立ち上がった!

 

 おっぱい丸出しの2人が、全身に魔力を展開させながら睨み合う!

 

 争いの原因としては不謹慎だが、興奮した。

 

 ものすごい光景なんだが、イッセーは現在気絶中でアーシアに膝枕され、小猫ちゃんは我関せずと読書中。

 

「エイジはあげないわ。――卑しい雷の巫女さん」

 

「かわいがるぐらいいいじゃないの。――紅髪の鋼鉄処女姫さま」

 

「あなただって処女じゃないの!」

 

「あら、そんなこと言うなら今すぐエイジくんに処女をもらってもらうわ」

 

「ダメよ! 私も我慢しているんだから! それにかわいがるのはイッセーや祐斗でいいじゃない!」

 

「イッセーくんにはアーシアちゃんがいるでしょう? 祐斗くんは好みのタイプではないし、エイジくんは正直かなり気に入ってるの」

 

「エイジはダメよ!」

 

 直後、破壊音が巻き起こり、部長と朱乃さんが空中を飛び交い、ケンカと呼べないレベルの女の戦いを始めだした。そ、それより朱乃さん! 気に入ってるってほんとに!?

 

「何が気に入ってるの(・・・・・・・)、よ! だいたい、朱乃は男嫌いだったはずでしょう! どうしてよりによってエイジにだけ興味を注ぐのよ!」

 

「そういうリアスは男なんて興味ない、全部一緒に見えるなんて言ってたわ!」

 

「エイジは特別なの! 大好きなの!」

 

「私だってエイジくんは大好きよ! 元々私が自分の命をかけて女性を守る賞金稼ぎ、ブラック・プレデターの大ファンだってあなたも知ってるでしょ! エイジくんを独り占めはずるいわ!」

 

 朱乃さん俺のファンだったの!? そ、そういえば、妙に詳しかったような……。

 

 ていうか、マジで大ゲンカになってきた! イッセーたちの存在忘れて危険な魔力を打ち合っていらっしゃる!?

 

 こ、これはマズイ!

 

 とりあえず俺はイッセーとアーシア、小猫ちゃんを青いシールドで囲った。

 

『ありがとうございます』

 

 シールドに囲われているため声は聞こえないが、アーシアの口と表情が礼をいっていた。小猫ちゃんもぺこりと頭をさげた。イッセーは大量に、ヤバイぐらい血が抜けていたのでたぶん今日一日もう目覚めないな。起こすヒトがそもそもいないし。

 

 女のケンカというか、親友同士のケンカに介入しても、鬱憤が溜まっていくだけなので、俺はその場から気配を消して立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 用具室へ逃げ込むと、どうやら先客がいたようだ。

 

「おや、カミシロか。どうしたのかな? と、外が騒がしいようだけど?」

 

「現在2大お姉さまの大ゲンカ中でな、いま外には出ないほうがいいぞ。で、ゼノたんはどうしてここに?」

 

「うん。初めての水着だから、着るのに時間がかかった。似合うかな?」

 

 部長や朱乃さんのようなキワドい水着ではないが、体の凹凸を強調しやすいビキニで、いい体をしている。キュッとした引き締まった体で、出るところ出ているし、おっぱいも大きくて、尻も丸くて安産型。

 

「すごく似合うよ、ゼノたん! 初めて着た水着を一番に見れて嬉しいよ!」

 

 教会は露出NG、俗世NGでいろいろ禁じられてるから、初めてなんだろう。

 

 ゼノたんがわずかに顔を赤く染めた。

 

「そ、そうか? いままで私自身興味はなかったんだが、私の身の上が変わった以上、多少なりとも女らしい娯楽を得たいと、最近思い始めたりするんだ」

 

 いい傾向だが変な知識をつけそうだなぁ。――と、ゼノヴィアがかしこまった表情を見せる。

 

「カミシロ。折り入って話がある」

 

「エイジって呼んでくれてもいいよ」

 

「ではエイジ、改めて言うが、私と子供を作らないか?」

 

 …………。

 

 ん? んん? いまなんて?

 

「エイジ、私と子作りしよう」

 

 え? マジで?

 

 ゼノヴィアが俺の胸に抱きついて下から見上げた。

 

「エイジ、私と子作りしよう」

 

「えっと……、プロポーズ?」

 

 真っ赤になるゼノヴィア。

 

「い、いや、そういうわけではっ! そうだな……、順を追って話そう」

 

 自分はキリスト教会の本部であるローマで生まれ育ち、聖剣が使える因子を生まれ持っていたため、幼少の頃から神のため、宗教のため、修行と勉強に励んできた――と。

 

「子供の頃から、これといって夢や目標というものが、すべて神や信仰に絡んだものだったんだ。たとえば、悪魔を倒すには主のため、布教されているのもヴァチカンのためだと疑うこともなかったよ。だから、悪魔となったいま、私の目標、夢がなくなったと言えるんだ」

 

「それはわかったけど、なんでいきなり子供なんだ?」

 

「うん。神に仕えていたときは女の喜びを捨てることにしてきた。我が身、我が心はすべて信仰のために封印してきたんだ。けれど、この通り、現在悪魔だよ。何をしていいか、最初は分からなかった。現主であるリアス部長にそれを訊ねたら――」

 

 ――悪魔は欲を持ち、欲を叶え、欲を望む者。好きに生きてみなさい。

 

 そう言われたそうだ。まあ、部長らしい言葉だな。

 

「だから、私は封印していたものを解き放ち、それを堪能しようと思う」

 

 ゼノヴィアはもじもじと腰を動かしながら言う。

 

「そして、私の新たな目標、夢は――子供を産むことなんだ」

 

「それで俺の子供が欲しいと?」

 

「そうだ。私は子供を作る以上、強い子になって欲しいと願っているんだよ。父親の遺伝子に特殊な力、もしくは強さを望む。エイジは私と同じ年ですでに魔王級の実力の持ち主で、伝説のインキュバスとなった男だ」

 

「えっと……それなら赤龍帝のイッセーでもよかったんじゃないか?」

 

 種馬欲しいなら、アレだけど伝説クラスの神器所有者のイッセーでもよかったんじゃないか?

 

 ゼノヴィアは首を横に振る。

 

「確かにそれもそうなんだが、イッセーはアーシアのもののようだし、なにより私自身がエイジとの子供が欲しかったんだ」

 

 え?

 

「ご飯をおごってもらったり、コカビエルに勇敢に立ち向かう姿や、私が神の不在でダメになっていたとき、助けてもらったのをきっかけか分からないが……。というか、そもそもこの気持ちが『恋』すら分からないんだが、私はエイジの子種が欲しいと心から思っているのは確かなんだ」

 

 マジで? 愛の告白? え?

 

「エイジとの子供は確実に強い子になると思っている。それに私は男を知らないから、相手が経験者だとありがたい。エイジはインキュバス、性交は得意分野だろう? 教会で人気だった黒の聖職者の子をこの身に宿せるのも嬉しい。うん、これは好機なんだ。きっと、主のお導き――うっ! ……ついお祈りしてダメージを受けたが、そういうわけだ。ちょうどここは人気もない。さっそく一度試してみよう。何事も早め早めがいい」

 

 ぶるんっ!

 

 ゼノヴィアが目の前で水着を躊躇いなく脱ぎ捨てる。露になるゼノヴィアのおっぱい。キレイなピンク色乳首。

 

 おいしそうだ! まだ誰にも触らせたことのないゼノたんをおいしくいただきたい!

 

「悪魔の出生も知っている。なかなか子供ができないそうだが、キミはインキュバス。5年か10年以内に妊娠するのではないかと予想しているが、キミなら5年以内も夢じゃないと思う。ああ、子供のほうは問題ないよ。基本的に私が育てる。ただ、父親からの愛を子供が望んだら、そのときだけは遊んでやって欲しいんだ。やはり、子に父と母は必要だからね」

 

 すでに未来予想図も持っているって、かなり本気だな。

 

「さっきも言ったとおり、私には男性経験はない。これから覚えていくつもりだ」

 

 ゼノヴィアに押し倒される俺! 背中に冷たい床が当たったがまったく気にもならない。

 

「――抱いてくれ。子作りの過程をちゃんとしてくれれば好きにしてくれてかまわない。多少乱暴に扱われてもエイジなら、許す」

 

 ヤバイ! マジでヤバイ! ゼノたんが、すんごいかわいいっ! 驚きのかわいさだよ!?

 

「ゼノたん。いいの?」

 

「ああ。好きに抱いてくれ」

 

 両手でゼノヴィアのおっぱいをにぎる。

 

「――んっ」

 

 ゼノヴィアの眉がピクリと動き、乳首が少しずつ硬くなり始めた。

 

 ぺろっ。

 

 おっぱいを下から持上げて口までもっていき、やさしく乳首を舐めた。

 

「あぅんっ……」

 

 ゼノたんかわいい……。乳首もおいしいし、いい匂いだ。

 

 インキュバスの本能がうずき始めた。

 

 スリスリ……。

 

 尻尾がゼノヴィアの尻をなで始めた。

 

「ん……、あ……」

 

 すげぇムチムチしてて締まってるなぁ。これは、締め付けのほうも強くて気持ちいいだろうな。

 

 ピクピクと体を震わせるゼノヴィア。

 

「ぁう……これが、快楽というものか……」

 

「どう? 気持ちいい?」

 

 ペロペロ舐めながら訊ねると、ゼノヴィアは笑みをうかべたてうなずいた。

 

「ああ。悪くない……というか、き、気持ちいいと感じている」

 

 赤くなるゼノヴィアの首にキスしながら、砦となっているパンツを脱がそうと、尻尾を巻きつけてずり降ろそうとしたそのとき――。

 

 ガチャ。

 

 突如、開かれる用具室の扉。振り返ると――。

 

「……エイジ。これはどういうことかしら?」

 

 部長は笑みを引きつらせたまま、立ち尽くしていた。部長の体が薄く紅い魔力で覆われていく。

 

「あらあら。ずるいわ、ゼノヴィアちゃんったら。私が一番にエイジくんに処女を奪ってもらう予定なんですよ?」

 

 朱乃さん、笑ってるけど、なんだか怖いオーラがでてます。

 

 アーシアたちはいないみたいだけど、そう言えばまだシールドかけたまんまだったね。

 

「どうした? エイジ。続きは? 早く子種を注いでくれ」

 

「?」と疑問符を浮べながら胸を押し付けてくるゼノヴィア。少しは空気を読んでください!

 

「子種を注いで」という言葉を聞いてお2人の顔色が変わる。

 

 ガシッ! 部長と朱乃さんに両腕をつかまれ、連行される。

 

「ぶ、部長! あ、朱乃さん!」

 

「なにエイジ?」

 

「なんですかエイジくん?」

 

 怖い笑みの2人だけど……。

 

「言い訳はしません! で、でもやさしくしてくれたら嬉しいです……」

 

「ええ。わかっているわ。私も悪いから。性欲過多で伝説のインキュバスであるあなたから少しでも目を離した私のせい。でもね、エイジ。ゼノヴィアが言っていた『子種』ってどういうことなのかしら?」

 

 ニッコリ笑顔の横に現れる魔力のこもった手。尻叩きですか? 尻叩きなんですか!?

 

「そうですわね。ちょっと、その辺の男心を聞きたいものですわ。どういう経緯があれば『子種』を注いでくれなんて話になるのかしらね?」

 

「うん。なるほど、まずや部長や副部長に勝たなければならないのか。それにエイジにはもともと側近がいたな? いや、だが、エイジはインキュバス。私が頑張れば……うん。本格的に私に火がついたぞ」

 

 2人に腕を抱かれたまま連行される俺に、何やら1人で盛り上がったゼノヴィアが声をかけた。

 

「エイジ、私のターゲットはキミだ。隙あらば子作りするから、それだけは覚えておいてくれ。私も覚悟しておくから、そのときはやさしくしてくれたら嬉しい」

 

「ええっと……、ああ。……わかった。覚悟だけしとく」

 

 2人の機嫌が悪くなったようだが、ゼノヴィアの気持ちを無碍にはできなかった。

 



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第30話 白龍皇来襲

 

<エイジ>

 

 

 プールの用具室でゼノヴィアに、「子供をつくろう」と攻められていたところを、部長と朱乃さんに目撃された俺はお仕置きされた。

 

 うん。アーシア、小猫ちゃん、ゼノヴィアが部室に戻ってくるまで、俺は2人に尻を叩かれた。

 

 そして先ほどやっと解放された俺だったが、校門のほうに力を感じた。

 

 この魔力は……ヴァーリか? そう言えば、イッセーがいない? イッセーがいまいる場所は――って!?

 

「部長! 朱乃さん!」

 

「どうしたの、エイジ?」

 

「どうしたんですか?」

 

「学園に侵入者です! しかも白龍皇で、そいつの近くにイッセーがいます!」

 

『――っ!』

 

 部室にいるメンバーに緊張が走り、俺たちはすぐに魔法陣を起動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 あー、なんか結局気絶してプールが終わっちまったなー。せっかく部長と朱乃さんの水着もよく覚えてないし。

 

 校舎を出ようとした俺の視界に銀が映り込む。校門のところだ。

 

「…………」

 

 ――っ。

 

 一瞬、絵画の一画面かと勘違いそうになるぐらいの美少年だった。

 

 その美少年は、俺と同じか若いぐらいで、ダークカラーの銀髪に、引き込まれるぐらいに透き通った蒼い目、天使のような微笑を浮べていた。

 

「やあ、いい学校だね」

 

「えっと……、まあね」

 

 俺の中の何かが目の前の美少年を警戒し始めた。ドライグの――赤龍帝の籠手が宿っている左腕がうずいた。

 

 こ、こいつは――。

 

「この姿を見せるのは初めてだったな。俺はヴァーリ。白龍皇――『白い龍』だ」

 

 ――やっぱり……左手のうずきはこいつが――っ!

 

「ここで会うのは二度目か、『赤い龍』――赤龍帝。兵藤一誠」

 

 左腕のうすきが燃えるような感じになった。おいおい、ドライグ。こいつマジものかよ!?

 

 こんなところで例の「ライバル対決」を繰り広げるのか? 待ってくれよ、心の準備なんてしているわけないだろう。というか、いまの俺が勝てるわけないだろう!? まだ俺は新人悪魔で修行中なんだぞ!?

 

 やれば絶対にただでは済まないと頭だけでなく、体も反応している。歴代の先輩方が感じてきたものをドライグと神器から通じてきている……。

 

 ――どうする?

 

 身構える俺だが膝は震えていた。くそぅ……なさけねぇ。

 

 そんな俺へヴァーリは不適な笑みを見せる。

 

「そうだな。たとえば、俺がここで兵藤一誠に魔術的なものをかけたり――」

 

 ヴァーリの手が俺の鼻先に迫ったとき――。

 

 ザッ!

 

 1本の剣がヴァーリの首元に刃を突きつけていた。

 

 瞬時に現れたのは木場だった。聖魔剣をヴァーリに向けている。

 

 気配なんて一切感じられなかった。『騎士』の神速で俺のピンチに駆けつけてくれた?

 

 聖魔剣は強烈なオーラを発し続けていた。木場の目つきが鋭くて怖い。

 

「何をするつもりかわからないけど、冗談が過ぎるんじゃないかな?」

 

 ドスの効いた声音で木場は言うが、ヴァーリは少しも動じずに――。

 

「やめておいたほうがいい。――手が震えているじゃないか」

 

 ヴァーリが言うように、木場の手首は震えていた。絶大と呼ばれる聖魔剣を握り締めながら、表情を強張らせている。

 

「誇っていい。相手との実力差がわかるのは、強い証拠だ。――俺とキミたちとの間には決定的なほど差がある。カミシロはともかく、コカビエルごときに勝てなかっただろうキミたちでは、束になっても俺には勝てないよ」

 

 コカビエルごとき――。

 

 確かに、エイジがいなかったらあのときコカビエルに、部長たちも含めてやられていた。体を対価に『赤龍帝の鎧』を使用したとしても、もともと数時間行動不能にするぐらいの強敵だったんだ。

 

 それにこいつは堕天使で4番目ぐらいに強いし、コカビエル「ごとき」と見下せるだけこいつは力を持っているんだろう。

 

「兵藤一誠、キミはこの世界で自分が何番目に強いと思う?」

 

 突然の問いかけ。……強さ? 俺の? わからない。赤龍帝の力は異常だし度々恐れられたりするけど、実際の強さはわからない。俺自身が未熟すぎる。赤龍帝の力がなかったら、俺自身は悪魔に毛の生えた程度の力しかないとドライグに言われてるし……。

 

「未完成のバランスブレイカー状態としたキミは上から数えた場合、四桁――千から百の間ぐらいだ。いや、宿主のスペック的にはもっと下かな」

 

 相手の真意がわからない俺は怪訝に思うばかりだった。俺が弱い、自分は強いって言いたいのか?

 

「この世界は強い者が多い。『紅髪の魔王』と呼ばれるサーゼクス・ルシファーでさえトップ10内に入らなし、神城エイジ――黒い捕食者、黒の聖職者、喰らう者、デビル・イーターなんて呼ばれている彼もトップ10には入っていない」

 

 サーゼクスさまより強いのがそんなにいるのか? というかエイジってサーゼクスさまと同列扱い!? いや、そう言えば実力は魔王クラスなんだっけ? 俺たちが束になっても敵わないコカビエルも、堕天使の幹部で白龍皇のヴァーリも簡単に倒していたし……。

 

「だが、1位は決まっている。――不動の存在が」

 

「? 誰のことだ。まさか自分が一番とでも言うのかよ?」

 

 俺の問いに奴は肩をすくめた。

 

「いずれわかる。ただ、俺じゃないのは確かだ。――兵藤一誠は貴重な存在だ。十分に育てた方がいい、リアス・グレモリー、カミシロ」

 

 ヴァーリが視線を俺の後方に向ける。それを追うと、そこには部長とエイジが立っていた。

 

 おおっ、部長がメチャ不機嫌な表情を浮かべていらっしゃる。その周りにはアーシア、朱乃さん、小猫ちゃんがいた。対応に困っているアーシアと自然体のエイジ以外、全員戦闘態勢をとっていてゼノヴィアは聖剣デュランダルまで構えていた。

 

「白龍皇、何のつもりかしら? あなたが堕天使とあなたが繋がりを持っているのなら、必要以上の接触は――」

 

「――『二天龍』と称されたドラゴン。『 赤 い 龍 (ウェルシュ・ドラゴン)』と『 白 い 龍 (バニシング・ドラゴン)』。過去、関わった者はろくな生き方をしていない。――あなたはどうなるんだろうな?」

 

「――っ!」

 

 野朗の言葉に部長は言葉を詰まらせていた。

 

 部長、どうしたんですか? 俺に関してなのだろうか……。

 

「今日は別に戦いにきたわけじゃない。アザゼルの付き添いで来日したんだがお使いを頼まれてね。そのついでに先日訪れた学舎を見ていただけだ。――あと、ここで『赤い龍』とは戦わない。今のキミには興味もないし」

 

 ――っ。

 

 興味がない……。戦うことにならなくてよかったけど、複雑だ……。

 

「そのお使いってのはなに?」

 

 部長の問いにヴァーリはエイジに視線を向けた。

 

「ブラック・プレデター――神城エイジ。アザゼルがキミと会談をする場を用意した。今夜この紙に書かれた場所にきてくれってさ。――俺はこれを伝えに来たんだ」

 

 小さなメモ用紙をエイジに渡すヴァーリ。

 

 会談? そういえばエイジって魔王クラスの実力者だからなんかいろいろ難しいことしないといけないんだったけ?

 

 エイジは肩をすくめながら面倒そうに言う。

 

「すいぶんといきなりだな。俺の予定は無視か?」

 

「すまないね、こちらもかなり忙しいんだ」

 

「……わかったよ。今夜は開けておく」

 

「感謝するよ」

 

 頭を下げるヴァーリ。完全にエイジより自分が下だと認めていやがる……。

 

 最近俺も少しだけ強くなったのか、部長を始め、木場やゼノヴィア、コカビエルやヴァーリが強化していない俺よりとんでもなく強いことをわかるようになったが、エイジは正直すごいってもんじゃなかった……。ライザーを一撃で倒したり、部長たちと束になって戦っても苦戦したケロベロスをたった1人で、技術と最低限の魔力だけで6体も倒し、コカビエルをボコボコにしたときの拳はまったく見えなかったし、エイジが取り出した黒い剣は、正直、聖剣エクスカリバーが可愛く感じてしまうほどのオーラを纏っていた。しかも、ヴァーリも一撃で瞬殺したし。コカビエルに部長を殺すといわれたときや戦闘中のプレッシャーや体を包んでいる黒い魔力、殺気は――バケモノだと思った。

 

 ヴァーリが校門から出てく――。

 

 はぁ……。ヴァーリがいなくなったことで緊張が一気に解れたけど、マジで俺って情けないなぁ……。魔王クラスの友達を自分が弱いからバケモノだと思ったり、ヴァーリに怯えて……。

 

 寄り添ってきたアーシアは無言で俺の汗ばんだ手を握ってくれる。ありがとう、アーシア。落ち込んでいた気持ちが少しだけ上向きになったよ。

 

「エイジ。アザゼルとの会談だけど――」

 

「ええ。この件には部長たちが同伴するのはやめておいたほうがいいでしょう。まっ、1人でいきますよ」

 

「1人でだいじょうぶなの? いちおうセルベリアたちの誰かを連れて行ったほうがいいんじゃない?」

 

「そうですね……。うん、レイナーレがアザゼルに憧れていましたし、彼女でも同伴させようかな」

 

 ――レイナーレっ。

 

 俺の初めての彼女だった――というか騙されていただけだけど。俺とエイジ、アーシアを殺して……、いや、エイジは死ななかったらしいし、殺されたアーシアって偽者だったから……。俺を殺して、エイジを悪魔にする切っ掛けをつくって、アーシアを殺そうとした堕天使レイナーレ。

 

 アーシアの事件で部長に殺されそうになったところを、「自分が責任を持つ」ってエイジが引取ったんだったな。いまじゃ完璧に心を入れ替えて、礼儀正しい本物のメイドってことでご近所で評判になっていて……、殺そうとしていたアーシアと殺した俺に謝罪した。

 

 俺は騙されて殺されたから正直まだレイナーレを許せないけど、よく町内の清掃活動とかやっているアーシアはレイナーレを許して、現在では友人になっていて、しかも、お隣ってことでよく作りすぎたおかずの交換とかしてる……。

 

 しかも、なんていうかレイナーレがすごく幸せそうなんだ……。

 

 仮の名前、天野夕麻ちゃんだった頃を知っている俺は――ほんの少しの間だけ彼氏だった俺は、エイジの家でメイドとして働くようになってからレイナーレの笑顔が、俺の彼女としてデートしたときや、敵の堕天使レイナーレだった頃と違っていることに気づいていた。

 

 もう、マジで……、いまのレイナーレの笑顔を見ていれば、俺の彼女になっていたときの笑顔が薄っぺらい、演技だということがわかったはずだ。

 

 ヴァーリが完全にいなくなったあと、エイジは会談の準備で帰ることになり、俺たちも本来部活や悪魔の仕事があったんだけど、この前みたいにアザゼルが営業妨害したり、接触したり、3大勢力の会談に関係なかったけどエイジが襲われたりしたし、部長たちも会談に向けての準備で忙しいから、いまは悪魔の仕事も3大勢力会の会談が終わるまで仕事は休業中なので、他のメンバーも帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ……。

 

 家に帰ってからすぐ俺の口から重たいため息がもれた。

 

 俺はハーレムが目標だけど、俺は女の子を幸せにできるのかな? 部長や、アーシアたちを守れるのかな? 俺を好きになってくれるのかな?

 

 幸せそうなレイナーレの顔を思い出して俺は不安になった。

 

 正直俺って考えてみれば性欲しかなかったなーっと……。

 

 ただ女の子を囲んでエロいことできればそれで幸せだって思ってたんだ。悪魔になってハーレムをもてる可能性がでたから喜んだけど、俺がハーレム作ってもライザーみたいな自己中な男になって女の子を泣かせてしまうんじゃないかって不安になったんだ。

 

 俺って部長に憧れているけど、好きだけど……愛しているかって訊かれたら、たぶんすぐに答えられない。

 

 アーシアは好きだけど妹のようなものだし、おいしいハプニングで裸でお風呂に入ったり、寂しがりやで一緒のベッドでよく寝たり、裸エプロン姿をみせてくれたり……、ぐへへ、あれは絶景だった――じゃなくて! 

 

 とにかく俺はハーレムをもてるのかってのが、不安になったんだ!

 

 ハーレムは俺の人生の目標であることはかわらない! 女性のおっぱいが大好きだし、部長のも朱乃さんのもアーシアのも、小さい小猫ちゃんのおっぱいも大好きだ。他も美人や美少女のおっぱいも大好きだ! ハーレムを持つのは俺の行動理念! おっぱいを求めるのは俺の本能! 将来はハーレム王!

 

 なんだけど、いまの俺じゃあダメだ……。

 

 悪魔としての力はもちろん、男としての魅力もない俺じゃあダメなんだ……。

 

 ハーレムってどうやったらつくれるんだろう?

 

 相棒兼トレーナーのドライグに相談してみるか。

 

「…………なあ、ドライグ」

 

『なんだ、相棒?』

 

「ハーレムってどうすれば作れるんだ?」

 

『ぶっ!? い、いったいなんだいきなり?』

 

 驚くドライグ。まあ、さっきまで白龍皇と一触即発だったもんな。

 

「俺の目標はハーレムなのは知ってるよな?」

 

『あ、ああ……いつも言っているからな』

 

「でもいまの俺じゃあ、ハーレムなんかもてないだろう?」

 

『ああ』

 

 くぅぅうっ! わかっていたけど即答かよ!

 

「どうやったらハーレムがつくれるんだ? 歴代の赤龍帝にはハーレム持ったてやつがいたんだろう?」

 

『ああ、いたぞ。日替わりで別の女を抱く男とか。まあ、龍は力の象徴でもともと異性に対して魅力的にみえるからな』

 

 くぅぅっ、日替わり! 羨ましいぜっ! って魅力的に見えるって。

 

「魅力的に見えるならなんで赤龍帝である俺はモテていないんだよ?」

 

『…………』

 

「おい、ドライグ?」

 

 ドライグはゆっくりと言う。

 

『おそらく相棒は龍うんぬんいう前に、相棒自身に異性としての魅力がないんだと思う』

 

 …………へ?

 

『いつも女の乳を追い回して、学園で3バガと言われていて、更衣室を覗いたり、公衆の面前でエロ本をだして、バカの2人とバカな会話をしているんだ。そんなヤツがモテると思うか?』

 

 そ、そう言われれば……。

 

『そんなヤツを女が好きになるほうが難しい。相棒は以前、隣に住んでいる堕天使レイナーレに騙されてだが彼氏になったのだろう?』

 

「あ、ああ……。突然告白されてな」

 

『なあ、相棒……』

 

 ドライグが悲しみと哀れみが入った声音で言う。

 

『町内で悪い意味で有名な相棒に告白してくる女がいること事態、おかしいとは思わなかったのか?』

 

 ――っ!

 

「た、確かに……俺を好きになる理由とか一目惚れって言っていたけど……。いま考えれば俺のどこに一目惚れする要素があったんだ……?」

 

 俺は落ち込んだ。

 

「……そうだな。確かにエロ坊主と称される俺に一目惚れはおかしいよな。……女の子に好かれるようなことなんか一度もしたことないし。というか覗きとか嫌がられることばかりして、学校で女の子たちに嫌われているし」

 

『だが、まあ、いまの相棒は赤龍帝だから、よく知らない女でも抱けるぞ?』

 

「マジで!?」

 

『あ、ああ。赤龍帝の力を、遺伝子とかを欲する女なら……』

 

 マジか!? 無理だと思っていたけど童貞卒業は簡単なのか!?

 

『種馬として体を求められるだろうな』

 

 種馬……そ、それでもいい! い、いや! 種馬は……!

 

 俺の中で戦いが始まる。

 

 脳内で戦いを始めた俺にドライグが苦笑した。

 

『まあ、相棒がハーレムをつくりたいのなら、近くにいい手本がいると思うんだが』

 

 て、手本!? って俺の近くでハーレム野朗って1人しかいないじゃんっ!

 

「え、エイジか?」

 

 ドライグは肯定する。

 

『そうだ。ヤツはすでに大勢の女を囲んでいるだろう。しかも、伝説のインキュバスになるほどの性に対して秀でた男だ。普通はサキュバスを500匹も相手にできる男などいない。1匹でさえ十人分の精を吸いとる淫夢を逆に倒して、人間ベースの転生悪魔から完全なインキュバスになるなど。おそらくヤツは子作りやエロい面では確実に世界最強だな」

 

 世界最強のエロ男……! ドライグがここまで賞賛するほどなのか!?

 

『それにヤツは相棒が憧れているリアス・グレモリーも囲っているんだぞ』

 

 ――っ! そうだ……エイジは不順異性交遊のブラックリストのトップだし、一緒にエイジと住んでいる部長は、処女じゃない可能性が高い……。

 

 くっ――羨ましすぎる! いくらなんでもモテすぎだろ! セルベリアさんとか巨乳というより爆乳美女だったし! ノエルさんも可愛らしい系の美少女だったし! 時雨さんもくのいち風の格好でスタイル抜群だったし! もとから美少女のレイナーレはメイドになってるし! さらに部長も加えて同棲してるなんて羨ましすぎるッ!

 

 俺の目から涙があふれ出た。 ああっ! クソっ! リア充めっ!

 

『だからヤツを目標にすればハーレムをつくれるんじゃないかと思ったんだが』

 

 なに!?

 

『ヤツは魔王クラスを持ってはいるが、普段は完全に隠してほとんど人間と変わらない。そんなヤツがモテるのは――』

 

 ドライグの言葉を最後まで訊かなくてもわかった。

 

「エイジ自身に魅力があるから――だろ」

 

「ああ。その通りだ」

 

 俺とエイジの違いは単純な戦闘能力だけじゃないのか。……魅力、男としての魅力も足りないのか……。

 

 いや、まあ、わかってわいたんだけどな……。

 

『ヤツから男の魅力や女への接し方を学べばハーレムを持つことも夢じゃないだろう』

 

「――っ。そうか。俺はまだ他にも修行する必要があるみたいだな」

 

 俺の中で目標が定まる。まずは宿敵である白い竜、ヴァーリより強くなる! そしてエイジから男の魅力を学ぶ! そして最後にハーレム王になる! だ!

 

「俺はやるぜドライグ! ハーレム王の夢を叶えて、おっぱいを吸って、幸せなバラ色生活を勝ち取ってやるっ!」

 

 そう俺は窓を開けて外に向かって叫んだ。

 

『相棒らしいが、そういうところも直したほうがいいと思うぞ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 隣の家からイッセーの雄たけびが聞こえたような気がした。

 

 何かあったのかと思っていると、メイド服姿のレイナーレが目をキラキラさせて詰寄ってきた。

 

「ご主人さま! 本当にアザゼルさまに会えるんですか!?」

 

「ああ。さっきも言ったけど、突然今夜、アザゼルと会談することになってな。そこでレイナーレに同伴してもらおうと――」

 

「ありがとうございます! 憧れのアザゼルさまに会えるなんて――」

 

 ぽーと虚空を見つめるレイナーレの頬が薄く朱に染まっていた。ううっ、ジェラシーなんか感じてないんだからな!

 

 リビングのソファーでいじけていると、レイナーレが微笑みながら隣に座ってきた。

 

「だいじょうぶですよ」

 

 へ?

 

「前に言ったとおり、アザゼルさまやシェムハザさまには憧れていますけど、それだけですから」

 

 そう言いながら俺の手に自らの手を重ねた。

 

 そしてその手を己の胸にもってくる。

 

 ぬにゅぅぅ。

 

「ん……、あ……」

 

 レイナーレの胸に指が沈んでいく。ああ、すげぇ気持ちいい。

 

 むにゅ、むにゅと揉むとレイナーレが体を震わせながらも重ねた手を離さずに言ってくる。

 

「私の体と心はすべてあなたの所有物なんです。それに私自身もうあなた無しでは生きれませんから」

 

 ちゅっ。

 

 顔を近づけて頬に軽くキスされた。

 

 ――嬉しい。

 

「ありがとう、レイナーレ」

 

 レイナーレはニッコリと笑顔をうかべて、そのまま押し倒しそうになったが、さすがにリビングで、しかも夕飯前に――ああ、ついでに会談前にやることではなかったので、唇にキスするだけで我慢した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メモ用紙に書かれた場所に俺はレイナーレを連れて向かった。

 

 レイナーレは憧れのアザゼルに会えることが嬉しくて機嫌がいい。ジェラ……いやこのやり取りはもういいか。

 

 さてと、ここか。

 

 アザゼルが指定したマンションの前にやってきた。

 

 うん。強い気配を感じるな。

 

 俺はレイナーレを連れてメモ用紙に書かれていた部屋のドアの呼び鈴をならした。

 

 呼び鈴を鳴らしてすぐ。ガチャッと部屋のドアが開いてヴァーリが顔をだした。

 

「やあ、時間通りだね。そっちは見ない顔だけど付き添いかい?」

 

「そうだ。名前はレイナーレ。堕天使だ」

 

「は、はじめましてヴァーリさま」

 

 表情を引きつらせながらも礼儀正しく礼をするレイナーレ。まっ、ヴァーリは堕天使の幹部だから当たり前の反応か。

 

 部屋の奥から 常闇のような色の黒い12枚の羽根を生やしたちょいワル系のイケメンが登場した。

 

 こいつがアザゼルだろう。っていうか近辺に他に堕天使はいないみたいだな。

 

 軽いノリで手招きするアザゼル。

 

「おー、来たな。ほら、さっさと話を始めようぜ」

 

「本物のアザゼルさま!」

 

 レイナーレの反応からしても本物のアザゼルか。

 

 俺とレイナーレは靴を脱いで部屋に上がり、会談を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テーブルについて会談を始めたわけだが……。場所は会談にはあまり使わない和室&丸いテーブル、さらにカップではなく湯のみで緑茶という、なんとも日本風な場所だった。

 

 しかもアザゼルの格好は和服で、日本を満喫している外国人にか見えなかった。

 

 丸いテーブルに俺とアザゼルが向かい合って座り、レイナーレとヴァーリはそれぞれの主の少し後ろに座っていた。

 

 アザゼルがズズズッと音を立てながら緑茶を飲んだあとに問いかけてきた。

 

「それでおまえの要求ってのはなんだ? おまえがウチの勢力につかなくても、どの勢力についておくかおまえが立場をはっきりさせていると動きやすいし、ある程度の要求ならのむぜ」

 

 威圧などはしていないが、アザゼルの瞳は俺を品定めしようとしているかのように睨んでいた。

 

 俺はアザゼルの瞳を正面から受けて言う。

 

「俺の要求は3つ――。まず1つ堕天使レイナーレが、俺の配下に加わることを堕天使側が認めることだ」

 

『?』

 

 アザゼルとヴァーリが疑問符を浮べていた。まあ、そうだろうな。ここに来る前、最初レイナーレが会談で要求することを知ったときはすごく驚いていたし。

 

 アザゼルが意外そうに訊いてくる。

 

「そんなもん勝手にやればいいじゃねぇのか?」

 

 まあ、それはそうなんだけど。

 

「レイナーレはそちら側の裏切り者となっているからな。それにレイナーレと一部の堕天使がこの土地で行ったことは知っているだろう?」

 

「確か結局失敗したが『 聖母 の 微笑 (トワイライト・ヒーリング)』の神器持ちの女から神器を抜き取ろうとしたんだろ。ああ、あと――」

 

 アザゼルは悪い笑みを浮べて言う

 

「今代の赤龍帝を始末して転生悪魔にしたんだろ。それにおまえも人間から転生悪魔になったって訊いている」

 

 ある程度の身辺調査済みってわけか。

 

「危険な神器を持った人間を始末しないといけないのはわかるが、今代の赤龍帝の兵藤一誠は友人だ。その友人からすればお前がやらせたことに、仕方ないとはいえ納得がいかない」

 

「自身の悪魔化はどうだ? なにも思うところはないのか?」

 

「ない」

 

「そうか。――わかった。堕天使レイナーレがお前の配下になることを総督である俺が認める。レイナーレが引き起こした事件のほうは、あとくされがないよう、こちらで処理することも約束するぜ」

 

「よろしく頼む。で、2つ目の要求だが神器の知識に詳しいアドバイザーを借りれないか?」

 

 再びアザゼルが首を傾げた。

 

「神器のアドバイザー? 確かおまえの配下って別にアドバイザーなんか要らないじゃねぇか? こちらで確認している『魔銃』の女だったかが、かなり神器を使いこなせていると聞いているぞ? それにおまえは神器持ってないんだろ?」

 

「アドバイスするのは俺じゃなくて兵藤一誠や木場祐斗たち悪魔側の神器持ちだよ。俺は神器持っていないからどう神器を鍛えていいかわからないし、悪魔側は神器に対しての研究が進んでいないからな。おまえは神器が大好きで研究しているんだろ? アドバイザーの1人や2人用意できるんじゃないか?」

 

 アザゼルは考えるように顎に手を置いた。

 

「……わかった。アドバイザーの件も受け入れる」

 

「じゃあ、最後の要求なんだが――」

 

 俺は一気に態度を崩しながら言う。

 

「色紙にサイン書いてくれるか? おまえの分とシェムハザの2人分な」

 

『はあっ!?』

 

 レイナーレとアザゼルの驚きの声が重なり、ヴァーリも瞳を見開いて驚いていた。

 

「レイナーレがおまえとシェムハザの大ファンでな、記念にサインを書いて欲しいんだよ」

 

「おい、そんな要求するのか?」

 

「ご主人さま、要求にしてはあまりにも小さすぎるんじゃないですか!?」

 

 アザゼルがそれでいいのかと確認するように聞き、レイナーレも顔を朱に染めて大声を出した。ああ、そう言えばこれは言ってなかったな。

 

 胡座をかいて緑茶を飲む。

 

「俺はもともと悪魔側につくって決めていて、最初から要求なんてするつもりなんてなかったからな。それでは信用できないって言われて仕方なく要求を考えただけだし」

 

 俺はアザゼルに問う

 

「それに、この会談のシナリオはもう決まってるんだろ」

 

「堕天使側の方針がわかっているみたいに言うんだな?」

 

 アザゼルは少しだけ力を解放したようだ。アザゼルから強いプレッシャーを感じた。

 

 俺は緑茶を手に持ったまま余裕な表情で言う。

 

「そりゃあ、コカビエルとの戦いに介入したことからも、おまえは戦争をしようと考えているわけではないとわかるし、おまえの護衛の少なさからいって和平交渉にきたんだろ?」

 

 アザゼルはふっと笑いを漏らすと大きな笑い声を上げた。

 

「アハハハハハ! ああ、そうだぜ。黒の聖職者……いや、悪魔側だからブラック・プレデターか? 俺の威圧にも無反応の自然体だし、さすがは神や魔王クラスって言われている男だな!」

 

 アザゼルが態度を崩して笑う姿に「聞いていた通りな男だな」と思った。

 

「まあ、さっき言った3つ以外に要求することがないなら、その3つの要求をのんだってことで、おまえが悪魔側につくことを信用するぜ」

 

「ああ。そうしてくれればこっちも助かる」

 

「だが、おまえ。もっと大きな要求しなくてもよかったのか? こっちはそれなりの要求をのむつもりだったんだぞ?」

 

「別にいいかな。まあ、くれるというならもらうけど、いまのところそれ以外に俺からの要求なんてないさ」

 

 アザゼルは湯のみの緑茶をすべて飲み干すと日本酒とグラスを取り出した。

 

「それじゃあ、話もまとまったことで酒でも飲まないか?」

 

「俺は未成年だぞ?」

 

 そう告げるとアザゼルは意味深な笑みをうかべた。

 

「なに言ってやがる。おまえが繁華街に出没していること知ってんだぞ。それにおまえと寝た女がおまえがかなりの酒好きだって言ってたし、悪魔なんだから人間の法律は関係ないだろ?」

 

「なんだ。おまえも情報源は女か」

 

 俺と同じく人なりとかを聞いたんだろう。

 

「なんだ? おまえもか?」

 

「ああ。乳が好きで堕ちた天使って有名だぞ」

 

 アザゼルが酒を俺のグラスに注ぎ、そして自分のクラスにも注ぐ。

 

「ハハハハっ、まあ、真実だからな!」

 

 グラスに注がれた酒を飲む。――うん。美味いっ、かなりいい酒だな。

 

「美味いな」

 

「そうだろ。俺も気に入ってる酒だ」

 

 俺とアザゼルが酒を飲み始めるとヴァーリは呆れたように足を崩し、レイナーレはテーブルの上につまみを置いてくれた。

 

「ど、どうぞ。ウチで漬けた漬物です」

 

「ありがと、レイナーレ」

 

「お、気が利くな。――おおっ、美味い!」

 

 そういえば部長が家にきてからあんまり飲んでいなかったな。

 

 アザゼルが酒を飲みながら訊いてきた。

 

「そういえば、おまえの黒の聖職者とか黒い捕食者の通り名の由来って、マジで、女喰いまくるからついたって本当なのか?」

 

 別に隠していてもしょうがないというか、もともと隠してないからいいか。

 

「はぁ、そうなんだよ。冥界で色んな女に手をだしててな。酒の席で俺が抱いた女たちを好きだった男共に、『戦って勝てないヤツ』、『女に喰われるというか喰らう側』で捕食者って罵倒されて、それが通り名になったんだよ。デビル・イーターっていう通り名もそれとだいたい同じ意味だ」

 

「黒い聖職者は、黒い性喰者って意味じゃないよな?」

 

「…………」

 

「マジなのか!? アハハハハッ! マジか! マジでそれが由来なのか!?」

 

「ちっ。そうだよッ! 賞金首や犯罪者とかクズとか倒したら感謝されて貞操もらったりしてたら、誰かが『入れ食いの性喰者だな』とか言いやがったから、神父とか天使が聖職者と勘違いして、そこから黒の聖職者って呼ばれるようになったんだよ!」

 

「アハハハハハッ! どんだけ女喰ったんだよおまえ! まだ17ぐらいのクセして、それだけの通り名がつくなんて普通じゃねぇな!」

 

「うるせぇよ! 女が好きで悪いか! 俺にとって優先順位は女が一番なんだよ!」

 

「アハハハッ! 誰も悪いとは言ってねぇだろ。おまえほどではなくても俺も女好きだし。――そうだ。堕天使の女でも紹介してやろうか? おまえ相手なら喜んで股開くだろうし、虜にできるんじゃねぇか?」

 

「それは魅力的だが、自分の女の前でうなずくほど馬鹿じゃねぇよ」

 

 レイナーレを抱き寄せる。

 

「ご主人さま……」

 

 おおっ、レイナーレが真っ赤になってる! 可愛いなー。

 

「まあ、それもそうだな! それよかこの辺でいい店知らねぇか? 会談まで数日あるから退屈なんだよ」

 

「ああ。そういうことなら繁華街にいい店があるぞ」

 

 俺は地図を数枚渡した。

 

「地図か?」

 

「ああ。近くの繁華街の地図なんだが、青色が普通の居酒屋、黄色がキャバクラ、赤色が風俗店なんだが――まあ、試しにそのどれかの色をタッチしてみろ」

 

 アザゼルは赤色表示の建物をタッチする。

 

 ブゥオォンッ。

 

「こ、これは……」

 

 アザゼルは興味深そうに地図を観察し始めた。

 

「おいおい、そっちじゃないだろ? 表示された画面を見ろよ」

 

「ああ、すまん。いつもの研究クセがでた。ってこれは――」

 

 アザゼルの前に表示されている画面には、所属している風俗嬢が立体で微笑んでいて、軽いプロフィールや好きな性感帯。可能なプレイと料金設定、さらに出勤時間などが表示されていた。

 

「ああ。店舗紹介みたいなもんだが、立体で見たほうが選びやすいし、自分の好みの女を捜せるからな。店側と女たちに許可をもらって個人用に創らせてもらった。遊び専用の地図だ」

 

 アザゼルは地図を観察しながら苦笑した。

 

「おまえってマジで女好きなんだな……。俺の見立てではこの地図は性能だけなら神器に届くぞ? 自動情報収集機能とか、記憶許容量とかで。ところで、普通の居酒屋とかキャバクラって言ったが、なんで店員が美人や美女ばかりなんだよ? 普通そこは料理の説明だろ!? なんで居酒屋でも女の情報が6割超えてんだよ! しかも性感帯やスリーサイズの情報がなんで載ってんだよ! アハハハハハハハハハッッ!」

 

 アザゼルの苦笑が爆笑に変わった。好きなんだからしょうがないだろ!

 

 それからアザゼルとの酒盛りは朝日が昇るまで続いた……。

 

 さてと、次は天使側との会談――ああ、その前に授業参観があったな。

 



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第31話 授業参観

 

<エイジ>

 

 

 アザゼルとの会談が終わってから数日後、駒王学園の授業参観当日。

 

 最近イッセーとアーシアを含めて、部長と4人で学校に登校するようになっていた。

 

 玄関で部長と別れてイッセーたちと教室に入りそれぞれの席につくと、ゼノヴィアが近づいてきた。

 

「おはよう、エイジ」

 

「おはよう、ゼノたん」

 

 挨拶を交わすと、ゼノヴィアは少しだけ顔を赤らめた。

 

「エイジ」

 

「なんだ?」

 

 そう返すとゼノヴィアは頭を下げる。

 

「先日は突然あんなことを言って申し訳なかった」

 

 ああ、子供作ろうってことか。

 

「私はエイジのことを考えずに突っ走りすぎたようだね」

 

「いや、確かにいきなりすぎたけど、ゼノたんに攻められて嬉しかったよ」

 

「そ、そうか? それならよかった。――あっ! ああ、そうだ。今日はコレを渡そうと思ったんだった」

 

 ゼノヴィアはそう言うとごそごそとスカートのポケットを探り始めた。

 

 ていうか周りの視線が集まっているような? まあ、ゼノヴィアは美少女で男にも人気があって、身体機能も高いせいか、女子からも人気があるもんな。

 

 ていうか、女子の視線がいささか多すぎるな。まあ、学校の女子にもかなり手を出してて裏ではかなり有名だからなー。

 

「あ、あった」

 

 ゼノヴィアはスカートのポケットの中から小さな袋に包まれたもの――コンドームを俺に渡してきた。

 

 クラスの全員の視線が、ゼノヴィアが渡し、受け取って現在俺の手の平に乗せられたコンドームに集まった。

 

「まずはこれで練習しようか」

 

「いや、練習って……」

 

 俺が戸惑っていると近くの席で談笑していたイッセーが叫び声をあげた。

 

「バ、バカかぁぁぁああああっ! な、何を大衆の面前で取り出してんだよ!?」

 

 まあ、俺もその意見に同意する。男子高校生には――特に三バカに対しては刺激が強すぎるものだよなぁ。

 

「そう騒ぐことでもないだろう。まあ、私のいた世界では、これの使用にひと悶着あったが、やはりつけたほうが日本のお国柄的にも都合が言いのだと思ったのだ」

 

 ゼノヴィアは叫ぶイッセーに向かって冷静に言うと、俺の顔を見た。

 

「エイジ。つけるのが嫌なら別につけなくても私はまったくかまわないからな」

 

「そうなのか? まあ『できた』場合はしっかり責任を取るが、在学中に妊娠したら卒業できなくなるぞ?」

 

「うむぅ……、確かに卒業できなるのは残念だな」

 

「おまえら、ちょっとは周りの目を……」

 

 っあ。イッセーの言葉でこの場が学校であることを思い出したが、すでにクラス中の視線が集まっていた。

 

 ゼノヴィアはまったく気づいているようすもなく、イッセーの近くにいたアーシアのほうを向いた。

 

「アーシアもイッセーと使うといい。無計画な性交はお互いが傷つくそうだ。男女の関係は難しいね」

 

 そう言うとアーシアにコンドームの袋から一個を千切って手渡した。「?」と疑問符を浮べるアーシアだが、エロメガネっ娘の桐生さんが間髪を入れずにゴニョゴニョと耳打ちしていく。

 

「……うぅん」

 

 途端にカーッと、顔を真っ赤にさせて卒倒するアーシア。まあ、耐性なさそうな子だしいい薬か。

 

 桐生さんはメガネを光らせながら、イッセーに言う。

 

「まあ、使ってもいいんじゃない? アーシアは――」

 

「桐生さぁぁぁんっ! やめてくださいぃぃぃぃ!」

 

 突然、復活したアーシアが桐生さんの口をふさいだ。

 

 そのあと、何やらアーシアにアドバイスみたいなものをやったあと、桐生さんは俺の手を取った。

 

「やっぱり……結構、深爪ね」

 

「やっぱり?」

 

「深爪の男は女遊びが激しいと聞くわ。――そう、女体をまさぐるのに爪が伸びているといろいろと不便だものね」

 

「――っ!」

 

 み、見抜かれた――!? ……いや、まあ隠してないけど……。

 

「なっ、なるほど、爪は深爪にしといたほうがいいのか……」

 

 イッセーがなぜかメモしていたが、それよりも……。

 

「その様子は図星みたいね。さすがは中等部から高等部の1年生から3年生、さらに大学部のお姉さまたちを数々ノックアウトしてきた男ね」

 

『――っ!』

 

 教室から音が消えた。

 

 桐生さんはまるで某少年探偵漫画のあの子のようにメガネをくいっと上げて、俺の顔を真っ直ぐ指差し、語るように話し始めた。

 

「神城エイジ。小学校から中学校まで隣町に住んでいて、気配り上手で女の子をすごく大切にする最高の男――。隣町に知り合いがいてね。教えてもらったの。何でもヴァージン・クラッシャーや最高の初体験を経験させてくれる男と呼ばれて、中学に在学していた3年間のうちに100人以上と経験したそうね。だけどこの駒王学園に入学してから3バカと仲良くなってからはあまり活発に動いていなかった。――いいえ、3バカの所為で女の子が近寄りにくかったが正解でしょう。だけど2年の春から夏にかけて再び活発になってきたという情報を仕入れたわ」

 

「な、なぜそれを――!」

 

 こちらも犯人風なリアクションをとる。ていうか活発になった理由は悪魔の仕事でちょいちょい学園の女の子と寝ているからだ。

 

「私を甘く見ないでほしいわね! あなたの所業が今まで表に出なかったのは、あなたが食べた女の子が『最高に気持ちよくて幸せだった』とかで、セックスしてもらえるだけで満足しているから表にでなかっただけよ! さあ、いい機会だから教えなさい! いったいどんなテクで落したの? 女の子がセックスさせてもらっただけで幸せと思えるほどすごいんでしょ?」

 

 そう言って詰め寄ってくる桐生さん。――ってなにやらクラスの反応で分かれていらっしゃる!?

 

 男子は3バカの松田と元浜を始めとする嫉妬しているメンバーと、興味ありますとイッセーを始めとして、メモ用紙を取り出しているメンバー。そして、別に気にならないという様子だがしっかり聞き耳立てているメンバー。ってか、なんでイッセーがそちら側に? 嫉妬メンバーじゃないってことはアーシアといよいよなのか?

 

 女子は桐生さんを筆頭に気になりますメンバーと、アーシアを筆頭に真っ赤になって話しを聞いている初心な女の子メンバー。もう一組、顔を真っ赤にしている女の子がいるが、こちらは俺が食べた女の子メンバーだった。初心なメンバーとおんなじみたいだからばれないよね!?

 

 そしてマイペースで、すこし――いやかなり天然のゼノヴィアはやはりマイペースだった。

 

「さすがエイジだな。私は初心者だからいろいろ教えてくれよ」

 

「ああ、わかった。一応生理周期とか確認する用のノートも作っといたほうがいいぞ」

 

 と自然に返してしまう俺も俺だったが――。

 

「そうか? 私は別に危険日でもかまわないんだが」

 

 ゼノヴィアもゼノヴィアだった――。

 

 桐生さんに詰め寄られる俺だったが、すぐに教師の登場したことでその場は回避できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとか授業が始まり、開け放たれたうしろの扉からクラスメートの親御たちが入ってきた。

 

 イッセーの両親がイッセーより先にホームステイしているアーシアに手を振り、アーシアも恥ずかしがりながらも小さく手を振るという微笑ましいシーンがあり、和んでいたのだが、イッセーの両親の隣に立っていたメンバーが問題だった。

 

 笑顔で俺に向かって手を振る4人組――そう、本人はそのつもりはないんだろうがお色気たっぷりの黒いスーツ姿のセルベリアに、お気に入りの清楚系の服を着たノエル。セルベリアと同じくスーツ姿にいつも手放さない身の丈以上ある刀を竹刀袋に入れた時雨、さらにメイド服ではないパンクファッションのレイナーレが立っていた。

 

 黒歌がいないがおそらく小猫ちゃんのところだろう。

 

 4人はただでさえ目だつ美人なのに、全員が俺に向かって手を振っているのだ。

 

 朝のこともあってかなり男子からの視線が痛い。

 

 ――とっ、イッセーが殺気だった視線で見てきた。うん、メモ取っていたし、なんか変だと思っていたけど、ようやくいつものイッセーだ。

 

 そのあとは英語の授業でなぜか紙粘土をわたされて「なんかつくれ」って言われて、イッセーがリアス部長に結構似た紙粘度像を造っていた。

 

 俺は特に創っていないというか、能力がありすぎてただ人間の前で物を創れなかった。うん、ただ創っただけなのにいきなり動いたりするからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼休み。

 

 セルベリアたちはかなり目立つし、今朝の一件で教室で静かに食べれる状況でもなかったので、俺は4人と学園の中の中庭で昼食をとった。ちなみに黒歌は小猫ちゃんの教室で、小猫ちゃんを見ながら食べると連絡がきていたので不在だ。

 

 昼食を摂り終えた俺たちは自販機の前で、飲み物を買いに来ていたイッセーとアーシアに会い、さらに同じく飲み物を買いにきていた部長と朱乃さんと会った。

 

「よくできているわね」

 

 紙粘土でできたリアス像を観察していたモデルのリアス部長は、像をイッセーに返して褒めた。

 

 ああ、俺も創っていれば褒められたのに……。と考えていると朱乃さんが微笑を浮べて俺に訊いた。

 

「エイジさんは何も創っていないんですか?」

 

「ええ。創ってません。というか普通の人間の前ではあまり見せれないんです」

 

『見せれない?』

 

 オカルト研メンバーとまだ知らなかったレイナーレが首を傾げた。

 

 俺は少し落ち込みながら言う。

 

「俺が創ったものって時々動いたり、何かの力を持ったりするのでヘタに遊びで創れないんですよ」

 

「そ、それは……」

 

「それはすごい――ですわね」

 

 知らなかったメンバーが何とも言えない空気になったところで、木場が現れた。

 

「あら? 祐斗。お茶?」

 

 部長が訊くと、木場は廊下の先を指さす。

 

「いえ、何やら魔女っ子が撮影会をしていると聞いたもので、ちょっと見にいこうかと思いまして」

 

 木場の返答に首を傾げる一同。てか、撮影会? 魔女っ子? 木場って意外とアニメかコスプレ好きなのか?

 

 カシャカシャ!

 

 フラッシュがたかれ、カメラを持った男どもが、廊下の一角で何かを撮影している。

 

 見えないから人垣の中に入っていこうかなと思っていると、生徒会の匙が近づいてきた。後ろには生徒会の女子メンバーもついていた。

 

「オラオラ! 天下の往来で撮影たーいいご身分だぜ!」

 

 匙は人垣になっていたカメラ男子たちに向かって怒鳴る。

 

「ほらほら、解散解散! 今日は公開授業の日なんだぜ! こんなところで騒ぐな!」

 

 匙に怒鳴られて人垣がクモの巣を散らすように消えていった。

 

 残るは魔法少女だけになったんだが、……その魔法少女にやや問題があった。

 

 可愛らしい衣装を着ていて、短いスカートで、少し動いただけでパンツが見えそうになる衣装を着ているまでは、普通のコスプレイヤーなんだが。うん、俺の同居人メンバーと朱乃さん、木場は彼女の正体に気づいたようだ。

 

「あんたもそんな格好をしないでくれ。って、もしかして親御さんですか? そうだとしても場に合う衣装ってもんがあるでしょう。困りますよ」

 

「えー、だって、これが私の正装だもん☆」

 

 匙が注意を促すが、かわいらしいポージングをして聞く耳を持たないどころか、俺と目が合った瞬間――俺の胸に飛び込んで、というかダイブしてきた。

 

「ブラたーん! ブラたんなんだよね! 大きくなったね~☆」

 

「ああ、久しぶりだな。この前、俺が狙われていることを教えてくれたんだろ?」

 

「うん! ほんとに久しぶりだよー。その情報は結局遅かったみたいだから別にお礼なんていいよー☆ それよりも、最近冥界にこないし、冥界に来ても私に会いに来てくれないからすっごく寂しかったんだから!」

 

 突然俺の胸に、スリスリと体を擦り付けてくる魔女っ子にフリーズしていた部長たちが復活し、匙が嫉妬しているときのイッセーみたいな顔で近づいてきた。

 

「神城! まさかおまえの親御さんか?」

 

「いや、違う。俺の両親はすでに死んでるから」

 

 そう答えると匙は怒りの顔を止めて「そ、そうか。すまない」と謝ってきた。こいつってイッセーに似て真っ直ぐでいいヤツだよなぁ。

 

「あれ? そちらの4人組は?」

 

 いいヤツだから、たまにからかいたくなるんだ。

 

「俺の嫁さんたち。ちなみにこの子も」

 

 そう言って魔女っ子を匙と向かい合わせにして、魔女っ子の肩に両手をおく。

 

 魔女っ子もノリがいいからわかっている。

 

「はじめまして! お嫁さんです!」

 

 と匙に挨拶する魔女っ子。

 

「なにぃぃぃいいいいい! ハーレムメンバーだとでも言うのか!?」

 

「そうだよ! メインヒロインルートだったのに、ドロドロに攻略されて……。もう、ハーレムルート一直線なんだからね☆」

 

 笑顔でポージングする魔女っ子に、匙はポカンとしたあと、俺を親の仇か何かと言わんばかりに血の涙を流して叫んだ。

 

「羨ましすぎるぞ! きさまぁぁぁぁあああああ!」

 

「そうだ! なんで次から次に女の子が集まってくるんだよぉぉぉおおおお!」

 

 っといつの間にかイッセーも匙の隣側に移動して叫んでいた。

 

「ぷっ、ふふふ……」

 

 魔女っ子の口から笑い声が漏れた。

 

「あはははははっ! 少しからかっただけなのに、おもしろい子たちだね! ブラたん☆」

 

「そうだろ、セラたん。見てて飽きないからな」

 

 そう、からかっただけだから! 手にオーラを集めないでください部長! ま、レイナーレ以外、セルベリアたちはお馴染みだからなわかっていて、レイナーレは俺が女に手をだしてもなにも言わない、ただ、エッチの密度が濃くなるだけだ。

 

 そこに後方から支鳥先輩の先導のもと、紅髪の2人組みが近づいてきた。

 

「何事ですか? サジ、問題は簡潔に解決しなさいといつも言って――」

 

 支鳥先輩はそこまで言いかけて、魔女っ子を見かけるなり、言葉を止めた。

 

「ソーナちゃん! 見つけた☆」

 

 魔女っ子は俺の手をとって、肩の上から滑らせて背負うように、俺が後から抱きしめているような体勢になって支鳥先輩へ笑顔を向けた。

 

「ああ、セラフォルーか。キミもここへ来てたんだな」

 

 サーゼクスの言葉に疑問符を浮かべているイッセーに部長が言う。

 

「レヴィアタンさまよ」

 

 ポカンとするイッセーに部長はさらに説明する。

 

「あの方は現4大魔王のお1人、セラフォルー・レヴィアタンさま。そしてソーナのお姉さまよ」

 

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!」

 

 イッセーの絶叫が廊下にこだまするって! マジうるせぇ!

 

「セ、セラフォルーさま、お久しぶりです」

 

「あら、リアスちゃん☆ おひさ~☆ 元気にしてましたか?」

 

 いつも通りかわいらしい口調だが、部長はその対応と嫉妬からか笑顔が硬かった。

 

「は、はい。おかげさまで。今日はソーナの授業参観に? 知り合いであるろいうことは知っていましたが、随分と親しそうですね。エイジとどういう関係なんですか?」

 

「来た目的は、もちろんソーナちゃんの授業参観よ☆ ブラたんとの関係は―」

 

「関係は?」

 

 セラフォルーは部長を十分にひきつけると、ニヤリと微笑んだ。

 

「フラれた相手とフッタ関係なんだよ☆ ブラたんを眷属にしたかったんだけど、フラれちったんだ~☆ もう! 力ずくで強引にベッドに連れ込んだのに、結局眷属になってくれなかったんだよ~。しくしく」

 

『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!』

 

 先ほどのイッセーよりも大くて複数人の絶叫がこだました。

 

 いち早く立ち直った支鳥先輩が顔を真っ赤にしてセラフォルーに詰め寄った。

 

「お、おおお姉さまッ! そ、それ本当なんですか!? べ、ベッドに連れ込んだって……!」

 

 次に部長が立ち直って支鳥先輩の隣に立って詰め寄った。

 

 セラフォルーは2人の剣幕など軽く流して俺の腕を下腹へと持ってきてうなずく。

 

「うん! どうしてもブラたんが欲しかったから。サーゼクスちゃんにどうやってグレイフィアちゃんを射止めたのか聞いて、その通りに強引に迫ってみたの☆ 強引にベッドに連れ込んでブラたんを襲ったのに、初めてだったけど一生懸命がんばったのに、逆にブラたんに負けちゃって、結局眷属にできなかったんだよね~」

 

 軽い感じに言うセラフォルー。てか、あの時ベッドに引きずり込まれた理由って……。

 

 全員が視線をサーゼクスに向けると、サーゼクスは苦笑した。

 

「まさか、本当に実行に移すとは私も思っていなかったんだよ。なにせエイジがまだ10歳ぐらいの頃だったし。まさか、そんな子供を襲うなんてね」

 

 そう言って微笑むサーゼクスに、セラフォルーがぷぅと可愛らしく頬を膨らませた。

 

「あのときサーゼクスちゃんが『絶対この方法なら堕ちるよ』って勧めたんじゃない! 私もまさか初めてだったからって、逆に虜にされるとは思ってなかったの!」

 

 ああ……、何か今日って厄日じゃないのか? てか皆さん「10歳で……」とか、イッセーと匙も床を無言で殴るのやめてください。

 

 一旦話を切ってから、レヴィアたんはこんど支鳥先輩に抱きついた。

 

 そして部長がイッセーに挨拶するように言う。

 

「ご、ごあいさつしなさい、イッセー」

 

「は、はじめまして、兵藤一誠。リアス・グレモリーさまの下僕『兵士』をやっています! よろしくお願いします!」

 

「はじめまして☆ 私、魔王セラフォルー・レヴィアタンです☆ 『レヴィアたん』って呼んでね☆」

 

 相手が魔王ということで緊張しながら挨拶するイッセーと、ピースサインを横向きでチョキする、軽いノリの魔王レヴィアタン。

 

「ねぇ、サーゼクスちゃん。この子がドライグくんなの?」

 

「そう、彼が『赤い龍』を宿す者、兵藤一誠くんだ」

 

 レヴィアたんはこんどはもう1人の紅髪の男性に視線を向けた。

 

「あらあら、グレモリーのおじさま」

 

「ふむ。セラフォルー殿。これはまた奇抜な衣装ですな。いささか魔王としてはどうかと思いますが……」

 

「あら、おじさま☆ ご存じないのですか? いまこの国ではこれが流行りですのよ?」

 

 うん。一部では流行だな。ごく一部の会場とかでは。

 

「ほう、そうなのですか。これは私が無知だったようだ」

 

「ハハハハ、父上。信じてはなりませんよ」

 

 レヴィアたんと部長の親御さんのと会話に困惑するイッセーに、部長は魔王のことを説明する。

 

「言うのを忘れていた――いえ、言いたくなかったけれど、現4大魔王さま方は、どなたもこんな感じなのよ。プライベート時、軽いのよ。酷いぐらいに」

 

 ため息を吐きながら部長は言う。

 

「俺も、サーゼクスもセラたんも『実は魔王なんだ』って言われるまで気づかなかったもんなー」

 

「知らなかったの、エイジ」

 

 部長が意外そうに訊いた。

 

「はい。サーゼクスにセラたんを紹介されたときに、2人が魔王だと教えられたときは信じられなかったです」

 

「そうだったの……というかセラたんって」

 

「セラフォルーにそういうふうに呼ぶように命令されたんです」

 

「そうなの」

 

「はい」

 

 ただの賞金稼ぎだった俺は、悪魔の勢力関係とか知らなくても賞金首の情報があれば生きていけたしな。まあ、2人が魔王だって教えられたときは驚いたけど。

 

 セラフォルーは今度は支鳥会長にいつものハイなテンションで話しかけ始めた。

 

「ソーナちゃん、どうしたの? お顔が真っ赤ですよ? せっかくお姉さまである私との再会なのだから。もっと喜んでくれてもいいと思うよ? 『お姉さま!』『ソーたん!』って抱き合いながら百合百合な展開でもいいと思うのよ、お姉ちゃんは!」

 

 支取先輩は遺憾そうな表情で言う。

 

「……お、お姉さま。ここは私の学舎であり、私はここの生徒会長を任されているのです……。いくら、身内だからとしてもお姉さまの行動は、あまりに……。そのような格好は容認できません」

 

「そんなソーナちゃん! ソーナちゃんにそんなこと言われたら、お姉ちゃん悲しい! お姉ちゃんが魔法少女に憧れているって、ソーナちゃんは知っているじゃない! きらめくスティックで天使、堕天使をまとめて抹殺なんだから☆」

 

「お姉さま、ご自重ください。魔王のお姉さまがきらめかれたら小国が数分で滅びます」

 

 まぁ、魔法少女じゃなくて魔王少女だからな。

 

 イッセーと匙が少し離れたポジションで小声で話していた。

 

「なあ、匙。先日の堕天使幹部が来襲してきたとき、会長はお姉さま呼ばなかったけど……これを見る限り、仲が悪いからってわけじゃないよな?」

 

「逆だ、逆。話ではセラフォルー・レヴィアタンさまが妹を溺愛しすぎているから、呼ぶと大変なことになるってさ。妹が堕天使に汚されるとわかったら、何をしでかすかわからなかったらしいんだよ。即戦争だよ。あそこはセラフォルーさまを呼ばずにルシファーさまを呼んで正解だ。しかし、俺も初めてお会いしたけど、これは……」

 

 支鳥先輩の胸に抱きついたセラフォルーに言う。

 

「お姉さま……それより神城くんに手をだしたことは本当なんですか?」

 

 セラフォルーは笑顔でうなずいて支鳥先輩に言った。

 

「うん! そう言えばソーナちゃんってブラたんの大ファンだったね☆ あっ! まさか姉妹丼!? ソーナちゃん、お姉ちゃんとブラたんとの3Pコースをご所望中なの!?」

 

「なっ!? なにを言っているんですかぁぁぁああああ!」

 

 顔を真っ赤にして支鳥先輩が叫んだ。そして「うぅ、もう耐えられません!」と目元を潤ませながら、この場を走り去っていく。

 

「待って! ソーナちゃん! お姉ちゃんを置いてどこに行くの!」

 

 セラフォルーが支鳥先輩を追って走りだした。

 

「ついてこないでください!」

 

「いやぁぁぁん! お姉ちゃんを見捨てないでぇぇぇぇぇっ! ソーたぁぁぁぁん!」

 

「『たん』付けはお止めになってくださいとあれほど!」

 

 魔王姉妹の追いかけっこが開幕した。

 

「うむ。シトリー家は今日も平和だ。そう思うだろ、リーアたん」

 

「お兄さま、私の愛称を『たん』付けで呼ばないでください!」

 

 へぇ、部長って家では「リーア」って呼ばれていたのか。

 

「そんな……リーアたん。昔はお兄さまお兄さまといつも私のうしろをついてきたのに……。反抗期か……」

 

 ショックを受けるサーゼクス。半分はからかっているな。

 

「もう! お兄さま! どうして幼少時の私のことを――」

 

 パシャ!

 

 怒った部長を写真に撮る部長のお父さま。感無量そうだった。

 

「いい顔だ、リアス。よくぞ、ここまで立派に育って……。ここに来られなかった妻の分まで私は今日張り切らせてもらおうか」

 

「お父さま! もう!」

 

 ああ、かわいいな部長。

 

「魔王さまと、魔王さまの御家はおもしろい共通点があるのですよ」

 

 ポカンとしている皆に朱乃さんが心底愉快そうに微笑みながら言う。

 

「魔王さまは皆さまおもしろい方ばかりなのです。そして、そのご兄弟は例外なく真面目な方ばかり・うふふ、きっとフリーダムなご兄弟が魔王さまになったせいで、真面目にならざるを得なかったのでしょうね」

 

 と、そこへ――。

 

「おや、イッセー」

 

「あっ、父さん」

 

 イッセーの両親が現れた。

 

「兵藤一誠くん、ご両親かな?」

 

「は、はい。俺の両親です」

 

「そうか。うむ」

 

 部長のお父さんがイッセーの両親の前に立つ。

 

「はじめまして、リアスの父です」

 

「こ、こ、こここここここここれは、どうも! あっ、えっと、兵藤一誠の父です! リアスさんには部活でいろいろお世話になっておりますようで、えーと、その……」

 

 すごく緊張しているイッセーの父親。逆に余裕の表情の部長のお父さん。

 

 一通り挨拶すると俺の方へとやって来た。

 

「久しぶり――になるのかな。神城エイジくん」

 

 握手を求めてくる部長のお父さん。

 

「はい。――あの件は申し訳ありませんでした」

 

 あの件はライザーとの婚約パーティをぶち壊したことだ。そのことに頭を下げると、部長のお父さんは首を横に振る。

 

「いや、謝らないでくれ。もう、あの件は別にいいんだ。ふふふ、まさかキミほどの男を娘が射止めるとは……」

 

 とおかしそうに笑う部長のお父さん。

 

「お父さま!」

 

 顔を真っ赤にする部長。

 

 そんな部長の顔の写真を撮ると、俺の背後に控えていた四人の中で一番年長そうに見えてデジカメを持ったセルベリアを交えて、イッセーの両親と再び話を始めた。セルベリアもなぜか母親のように対応して礼儀正しく挨拶を交わして話し始めた。

 

 部長のお父さんは木場に向かって手をあげる。

 

「木場くん」

 

「はい」

 

「すまないが、落ち着ける場所まで案内してくれないだろうか?」

 

「はい。それでは、ご案内します」

 

 木場はセルベリアと一誠の両親に一礼すると、廊下を歩きだした。

 

「それではリアス、神城エイジくん、兵藤一誠くん。私は少しお話をしてくる。サーゼクス、あとは頼めるな?」

 

「はい、父上」

 

 っておまえは残るのかよ!

 

「リアス」

 

「なんでしょう、お兄さま」

 

「ちょっと、いいだろうか。すまないね。エイジ。妹を少し借りるよ。朱乃くんも一緒にきてくれるかな?」

 

「はい」

 

 朱乃さんも応じていた。

 

 それからサーゼクスは2人をどこかへ連れて行った。取り残された俺らは何もすることがなかったので教室に戻った。

 



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第32話 開かずの教室の吸血鬼

 

<エイジ>

 

 

 授業参観のあとイッセーの家に集まり、授業参観で録画したビデオの鑑賞会が始まり、俺と部長とアーシアは羞恥プレイにさらされた。

 

 俺はセルベリアたちに、部長はサーゼクスのお父さんに、アーシアはイッセーの両親に、ビデオを鑑賞しながら賞賛されるという、何とも恥ずかしかった。

 

 イッセーも鑑賞会ではしゃぐ両親にようすに顔を赤くしていた。

 

 そんなことがあった日の翌日の放課後。

 

 俺は旧校舎一階の「開かずの教室」とされていた教室の前に立っていた。

 

 部員全員が集まっていた。なんでも厳重に封印されている部長の最後の眷属悪魔、『僧侶』が中にいるそうだ。

 

 先日、サーゼクスが部長と朱乃さんを連れて行ったのは、なんでも『僧侶』の封印を解くためだったらしい。

 

「――さて、扉を開けるわ」

 

 部長は扉に刻まれていた呪術の刻印を解いてから扉を開く。

 

「イヤァァァァァアアアアアアアッッ!」

 

 ――ッ! とんでもない声量の絶叫がなかから発せられる。部長は予想していたのか驚くこともなく、ため息をつくと朱乃さんと共になかへ入っていってしまった。

 

『ごきげんよう。元気そうでよかったわ』

 

『な、な、何事なんですかぁぁぁぁ?』

 

 声からして年下の男。声の位置から身長は低めだな。

 

『あらあら。封印が解けたのですよ? もうお外に出られるのです。さあ、私たちと一緒に出ましょう?』

 

 朱乃さんのやさしい声。いたわりを感じる。やさしく接してあげようって感じだが、しかし――。

 

『やですぅぅぅぅぅ! ここがいいですぅぅぅぅぅ! 外に行きたくない! 人に会いたくないぃぃぃぃっ!』

 

 かなりの引きこもりみたいだ。

 

 部屋の中に入ってみると、床にへたりと力なく座り込み、部長と朱乃さんから逃げようとしている。金髪と赤い双眸をした人形みたいに端正な顔立ちをした男がいた。しかも、駒王学園の女子の制服に身を包んでいた。

 

 イッセーがそいつを見て嬉しそうに叫ぶ。

 

「おおっ! 女の子! しかも外国の!」

 

 素晴らしいといわんばかりに喜ぶイッセーに苦々しく伝える。

 

「おい、イッセー。こいつは男だぞ。おまえ男の娘がいけるタイプだったのか?」

 

「え?」

 

 イッセーから距離をとる。

 

 部長も喜んでいたイッセーに告げた。

 

「さすがエイジね。イッセー、見た目、女の子だけれど、この子は紛れもない男の子よ」

 

「いやいやいや、どう見ても女の子ですよ、……え? マジで?」

 

「女装趣味があるのですよ」

 

 横から朱乃さんが言った。

 

「ええええええええええええええええええっ!?」

 

 イッセーは驚愕の叫び声を上げた。

 

「ヒィィィィィッッ! ゴメンなさいゴメンなさぁぁぁぁぁい!」

 

 謝る女装男子。イッセーは頭を抱えて、その場にしゃがみこんだ。ああ! その気持ちはすごくわかるぞ! というか……。

 

「どうしたの、エイジ。顔色が真っ青よ? しかも震えてるじゃない」

 

 部長が訊いてくる。――そうだ。俺の体は嫌な汗を出して力が急に抜け、足がふらついていた。

 

「お、俺は……男の娘とか性別が男なのに女みたいなヤツは苦手なんです……。ほら、俺の尻尾も力無しに萎えているでしょう」

 

「あら? それは大変ですわね。だいじょうぶですか?」

 

 朱乃さんが微笑みながら胸で俺の頭を受け止めて体を支えてくれる。ああっ、柔らかい乳パワーで俺の気力が少しずつ回復してきた。

 

「朱乃さぁん」

 

 俺は泣きながら朱乃さんの胸に顔を埋めた。

 

「よしよし、うふふ、エイジさんにも弱点があったんですねぇ」

 

 頭を撫でてくれる朱乃さん。

 

 顔だけ女装男子に向けると、イッセーが女装男子に鬼の形相で怒鳴っていた。

 

「女装趣味ってのがさらに残酷だ! 似合っている分、余計に真実を知ったときのショックがデカい! 引きこもりなのに女装癖かよ! 誰に見せるための女装ですか!?」

 

「だ、だ、だ、だって、女の子の服のほうがかわいいもん」

 

「かわいいもん、とか言うなぁぁぁぁ! クソッ! 野朗のクセにぃぃぃ! 俺の夢を一瞬で散らしやがってぇぇぇぇぇっ! お、俺は、アーシアとおまえのダブル金髪美少女『僧侶』を瞬間的にとはいえ、夢見たんだぞ!? 返せよぅ! 俺の夢を返せよぅ!」

 

「……人の夢と書いて、儚い」

 

「小猫ちゃぁぁぁぁん! シャレにならんから!」

 

 朱乃さんにパワーをもらっていると、部長に引き剥がされた。

 

「こら朱乃! 何してるのよ!」

 

「エイジさんを慰めていただけですわよ」

 

「それは私がやるわ!」

 

 部長が俺の頭を胸で挟む。結構強い力だ。普通だったら窒息してしまうが、俺ならだいじょうぶ! 尻尾も上に向いて左右に揺れている!

 

「と、と、と、ところで、この方は誰ですか?」

 

 女装男子が部長に訊く。部長は俺の頭を胸に押し付けながら言った。

 

「あなたがここにいる間に増えた眷属たちよ。『兵士』の神城エイジと兵藤一誠、『戦車』のゼノヴィア、あなたと同じ『僧侶』のアーシア」

 

 紹介されたようで、「よろしく」と3人は挨拶するが、俺の鼻と口は完全に谷間の間で塞がれているために言葉はでない。

 

「ヒィィィ、人がいっぱい増えてる!」

 

 対人恐怖症でもあるのか?

 

「お願いだから、外に出ましょう? ね? もうあなたは封印されなくてもいいのよ?」

 

 部長はやさしく言うが――。

 

「嫌ですぅぅぅぅ! 僕に外の世界なんて無理なんだぁぁぁぁぁっ! 怖い! お外怖い! どうせ、僕が出てっても迷惑をかけるだけだよぉぉぉぉっ!」

 

「ほら、部長が外に出ろって――」

 

「ヒィィィィ!」

 

 イッセーがたぶん少しだけ強引に手か何かを引っ張ったんだろう。女装男子の悲鳴が聞こえた。

 

 それと同時に俺の頭をなでていた部長の手がピタリと停止した。

 

 一ミリも動いていない。

 

「あれ? 部長?」

 

 部長の胸から顔を出して顔を見ると部屋の中にいた人物やものが、景気が停止していた。

 

 本当は見たくもなかったが、部屋で動いていた女装男子に訊いてみる。

 

「おまえがやったのか?」

 

「へ? 動けるんですか?」

 

 …………。なんとも気の抜けた返答だった。

 

「おまえが時間かなんかを止めたんだろ?」

 

「は、はい! っ! 怒らないで! 怒らないで!」

 

 突然、叫び始めた女装男子。俺の気力ゲージを表している尻尾が床に付く前に女装男子に話しかけた。

 

「別になにも悪さをするつもりもなさそうだし、怒りはしないから解除してくれないか?」

 

 フラフラになりながら頭を撫でてやる。

 

「す、すみません! 僕! 神器が上手く制御できなくて……! もう少しすれば解けると思うんですけど、すみません!」

 

 ああ、尻尾が床に――。

 

 そのぎりぎりの中で時間が元にもどった。

 

「あれ? いつの間にエイジが女装野朗の近くに?」

 

「おかしいです。何かいま一瞬……」

 

「……何かされたのは確かだね」

 

 イッセーとアーシア、ゼノヴィアが驚き、他のメンバーは納得とうなずいていた。

 

「さすがエイジね」

 

「ええ。やはり効きませんでしたね」

 

 部長と朱乃さんがうんうんとうなずいていたが、もう限界――。

 

「エイジ!」

 

 フラフラ~っと床に倒れる寸前でゼノヴィアに救われた。ゼノたんの胸……女の子の本物の匂い……。

 

「おまえ! エイジになにをしたんだ!」

 

「ええっ!? ぼ、僕はなにも――」

 

 ゼノヴィアの怒鳴り声に、驚きの声を上げる女装男子。

 

 そこに部長が説明を始めた。

 

「ゼノヴィア。エイジが倒れてたのはその子じゃないわ。……いいえ、その子のせいなんでしょうけど。その子が直接的にしたのは時間を止めたことだけよ」

 

「時間を止めた?」

 

 新加入メンバーが首を傾げるとていると、朱乃さんが説明し始めた。

 

「その子は興奮すると、視界に映したすべての物体の時間を一定の間停止することができる神器を持っているのです」

 

 結構強力な神器だな。

 

「彼は神器を制御できないため、大公及びサーゼクスさまの命でここに封じられてたのです」

 

 部長は女装男子をうしろからやさしく抱きしめ、俺たちに言う。

 

「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷属『僧侶』。いちおう、駒王学園の一年生なの。――そして、転生前は人間と吸血鬼のハーフよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『 停止世界 の 邪眼 (フォービトゥン・バロール・ビュー)』?」

 

 イッセーの問いに部長はうなずいた。

 

「そう。それがギャスパーの持っている神器の名前。とても強力なの」

 

「時間を停めるって、それ、反則に近い力じゃないですか?」

 

「ええ、そうね。でもあなたの倍加の力も、白龍皇の力も反則級なのよ?」

 

 そうだよなぁ。倍加とか半減とか反則すぎるよなぁ。

 

「問題は、それを扱えないところ。それゆえギャスパーはいままで封じられてきたのよ。無意識に神器が発動してしまうのが問題視されていたところなの」

 

「しかし、そんな強力な神器を持った奴をよく下僕にできましたね。しかも駒1つ消費だけで済むなんて」

 

 イッセーの言葉に部長は一冊の本を宙に出現させた。そしてペラペラとページをめくり、イッセーに差し出した。

 

「駒の消費が1つで済んだ理由はエイジのときと違ってきちんとギャスパーにあるわ。――『 変異 の 駒 (ミューテーション・ピース)』を使ったの」

 

「……ミューテーション・ピース?」

 

 イッセーに木場が説明を始めた。

 

「通常の『悪魔の駒』とは違い、明らかに駒を複数使うであろう転生体が、ひとつで済んでしまったりす特異な現象を起こす駒のことだよ」

 

「部長はその駒を有していたのです」

 

 と朱乃さん。木場がさらに続ける。

 

「だいたい上位悪魔の10人に1人はひとつぐらい持っているよ。『悪魔の駒』のシステムを作り出したときに生まれたイレギュラー、バクの類らしいけど、それも一興としてそのままにしたらしいんだ。ギャスパーくんはその駒を使った1人なんだよ」

 

 へぇ、そんな便利な駒が……サーゼクスに追加で頼んでおくか。

 

「問題はギャスパーの才能よ」

 

「部長、どういうことですか?」

 

「彼は類希な才能の持ち主で、無意識のうちに神器の力が高まっていくみたいなの。そのせいか、日々力が増していってるわ。――上の話では。将来的に『禁手』へ至る可能性もあるという話よ」

 

 イッセーが驚いた。まあ、禁手になれないで困ってるのに、何もしないで禁手になるほどの才能の持ち主に驚いているんだろう。てか、禁手か~……。

 

 時間停止の禁手は結構強そうだな~。しかも制御できないのは怖い。

 

 部長は困り顔で額に手を当てていた。

 

「そう。危うい状態なの。けれど、私の評価が認められたため、いまならギャスパーを制御できるかもしれないと判断されたそうよ。私がイッセーと祐斗を『禁手』にいたらせたと上の人たちは評価したのでしょうね」

 

 ああ……、たぶん俺の加入も評価を上げる一員になったとサーゼクスに訊かされたな。ていかサーゼクス、相手が男の娘だと最初から言っとけよ……。

 

「……うぅ、ぼ、ぼ、僕の話なんてして欲しくないのに……」

 

 イッセーのそばに置かれた大きなダンボールから声がした。イッセーはそれを無言で蹴った。

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 悲鳴が聞こえてきた。当然、ギャスパーだ……。

 

「能力的には朱乃に次いで4番目なんじゃないかしら。ハーフとはいえ、由緒正しい吸血鬼の家柄だし、強力な神器も人間としても部分で手に入れている。吸血鬼の能力も有しているし、人間の魔法使いが扱える魔術にも秀でているわ。とてもじゃないけど、本来『僧侶』の駒ひとつで済みそうにないわね」

 

 そうなのか~……。ちなみに能力番付けは俺、部長、朱乃さんのトップスリーだ。

 

 それからギャスパーの紹介が行われた。

 

 なんでもデイウォーカーで日の光が平気……だけど本人は太陽の光が苦手ではなく、嫌い。

 

 授業に出ていない。ダンボールが自分の世界で満足。外の世界嫌い。

 

 さらに吸血鬼なのに血が嫌いで飲むのも苦手。飲まないといけないそうだが、あんまり飲みたくないそうで、レバーも嫌い。

 

「……へたれヴァンパイア」

 

 そんなギャスパーに小猫ちゃんが吐き捨てるような痛恨な一言を放った。

 

「うわぁぁぁぁん! 小猫ちゃんがいじめるぅぅぅぅ!」

 

 1年生同士だから容赦がないんだろ。小猫ちゃんが生き生きしている。

 

「とりあえず、私が戻ってくるまでの間だけでも、イッセー、アーシア、小猫、ゼノヴィア、あなたたちにギャスパーの教育を頼むわ。私と朱乃は3すくみのトップ会談の会場打ち合わせをしてくるから。それと祐斗、お兄さまがあなたの禁手について詳しく知りたいらしいから、このあとついてきてちょうだい」

 

「はい、部長」

 

「さてと――」

 

 部室の中のメンバーたちの視線が俺に集まる。

 

「だいじょうぶなの、エイジ」

 

 部長が俺の頭をなでてくださる!

 

「な、なんとか……」

 

 現在俺はソファーに寝転がり、うつ伏せで部長に膝枕されていた。

 

「おまえ、本当にだいじょうぶか?」

 

 膝枕されているのに嫉妬の視線ではなく本気で心配してくるイッセー。あはは、たぶんマジで体調が悪く見えるんだろう……いや、マジで悪いんだけど……。

 

「……ああ、部長のおかげで回復してきた」

 

「エイジくんにも弱点があったんだね」

 

 木場が言ってくるがそちらを向く元気もない。

 

 部長の匂いを嗅いだり、膝に顔を埋めて言う。

 

「前から苦手は苦手だったんだが、昔はここまで苦手じゃなかった……たぶんインキュバスになったのが原因だと思う……」

 

「いつもの元気のいい尻尾が落ち込んでいるところをみると、そうみたいですわね」

 

 朱乃さんが尻尾を優しくなでてくる。ありがとうございます! 少し元気になりました!

 

「本当は会談の準備の間だけでもエイジにギャスパーの神器の特訓を任せようと考えたけど、この様子を見ると無理そうね」

 

 残念そうな部長、俺は慌てて膝から頭を起こす。

 

「ぶ、部長! さっきは久々に見たのと体の変化にビックリしただけで、慣れれば別に――」

 

「ひぃぃぃぃっ!」

 

 ギャスパーの悲鳴。イッセーががぱっとダンボールを開けていた。

 

 女装した男……可愛いのに男……美少女なのに俺の嫌いな男……。

 

「あふぁ……」

 

 俺の全身から力が急激に抜けた。尻尾も力がなくぺたりと真下に垂れた。

 

 俺は崩れ落ちそうになったところで部長の胸に抱きとめられた。

 

「ちょっとこれはマズイわね」

 

「く……す、すみません部長……」

 

 部長は俺をやさしくおっぱいで包んでくれた……。ああ、視界いっぱいにおっぱい……女の子の匂い……。

 

 部長のおかげで尻尾も少しだけ元気になったよ。

 

「どうやら女性に抱きつくと気力が回復するみたいですわね」

 

「ええ、おそらく異常な女好きでインキュバスとなったエイジからしてみれば、男だけど美少女な男の娘は見るだけで気分が悪くなったり、体が拒絶反応を起こして行動を停止させようとするみたいね」

 

 朱乃さんと部長が冷静に分析してくる。そうなんです、マジで男の娘だけは……。

 

 部長は俺の頭をなでながら言う。

 

「エイジ」

 

「…………はい」

 

「この弱点はマズイわ。魔王クラスの実力者がただの男の娘に負けてしまうかもしてないのよ」

 

「そ、それはわかっています。だ、だから、お、男の娘を視界に納める前にこ、殺せば……」

 

「それはできるでしょうけど、同じ眷属悪魔のギャスパーを見れなくなるでしょ? 間違って殺されるのは論外、少しずつでいいから慣れなさい」

 

「う……は、はい……」

 

 部長には逆らえない……み、見たり日常会話ぐらいはできるようになろう……。

 

「あ、あの!」

 

「なにギャスパー?」

 

 ギャスパーが部長に声をかけたようだ。ダンボールに入っているか、出ているかわからないが、そんなの関係無しに部長を抱きしめて胸に顔を埋めた。

 

「羨ましいけど、こんなに弱ってるエイジ見るのは初めてだな」

 

「そうだね。いつも最強で無敵で弱点なんかないみたいだったのに」

 

「ああ、だが、弱っているエイジはレアだな」

 

 イッセーと木場とゼノヴィアの声が聞こえた。ぅぅ……苦手なんだから、しかたねぇだろ……。

 

 ギャスパーが部長に訊いた。

 

「そのヒト、僕の神器がまったく効かなかったんですけど、何者なんですか?」

 

「説明していなかったわね。この子は冥界で黒い捕食者って呼ばれている魔王クラスの実力者なの。実力差がありすぎて、ギャスパーの神器が効かなかったんでしょうね」

 

「そ、そそそそのヒトって、ブブブブブラック・プレデターさまなんですか!?」

 

 声を震わせて驚くギャスパーにイッセーが言った。

 

「戦っているときとか、普段でも強そうに見えるんだけど、いまの姿は魔王クラスの実力者には見えないよなぁ」

 

 うるせぇよ!

 

「とりあえず、エイジ。ミカエルとの会談の準備もあるだろうから、時間の合間でいいから男の娘を克服する努力をしなさい」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

「ほら、走れ。デイウォーカーなら日中でも走れるはずだよ」

 

「ヒィィィィッ! デュランダルを振り回しながら追いかけてこないでぇぇぇぇッ!」

 

 夕方に差し掛かった時間帯、旧校舎近くで吸血鬼が聖剣使いに追いかけられていた。

 

 傍目から見たら完全な吸血鬼狩りです。

 

 なんでもゼノヴィア曰く、「健全な精神は健全な肉体から」らしくて、ギャスパーを鍛えるために聖剣で無理やり追い回して走らせているそうだ。

 

「私と同じ『僧侶』さんにお会いして光栄でしたのに、目も合わせてもらいませんでした……ぐすっ」

 

 残念そうなアーシア。ちょっと涙目だ。

 

 家でよく「もう1人の『僧侶』さんに会いたいです」って、心待ちにしている様子だったしな。せっかくの出会いも相手が極度の人嫌いじゃ仕方ない。ま、アーシアよりも……。

 

「エイジよりはマシだと思うよ」

 

「そ、それもそうですね」

 

 アーシアはうなずいた。そう、現在のエイジの状態よりもマシだ。

 

 小猫ちゃんがニンニクを持ってゼノヴィアと共にギャスパーを追いかけていた。

 

「……ギャーくん、ニンニクを食べれば健康になれる」

 

「いやぁぁぁぁん! 小猫ちゃんが僕をいじめるぅぅぅぅ!」

 

 1年生同士、仲がいいのだろうか……? 唯一、小猫ちゃんがいじれるキャラだとも聞いたが……。いじめている? てか、小猫ちゃんは「ギャーくん」と呼んでいるのか。

 

「おーおー、やってるやってる」

 

 と、そこへ生徒会メンバーの匙が現れる。

 

「おっ、匙か」

 

「よー、兵藤。解禁された引きこもり眷属がいるとかって聞いてちょっと見に来たぜ」

 

「ああ、あそこだ。ゼノヴィアに追いかけ回されているのがそうだぜ」

 

「おいおい、ゼノヴィア嬢、伝説の聖剣豪快に振り回してるぞ? いいのか、あれ。おいっ! てか、女の子か! しかも金髪!」

 

 嬉しそうな匙。だと思うよね。

 

「残念、あれは女装野朗だそうです」

 

 それを聞き、心底落胆した様子の匙。ガックリしてる。

 

「そりゃ詐欺だ。てか、女装って誰かに見せたいためにするものだろう? それで引きこもりって、矛盾がすぎるぞ。難易度高いなぁ」

 

「だよな。意味のわからん女装癖だ。似合っているのがまたなんとも言えん。ほら見ろよ。女装男子の登場でエイジなんて見る影もないぞ」

 

 匙が気づいていないようなので、俺はいつもの存在感をまったく感じさせずに真っ白になっているエイジを指差した。

 

「うおっ!? こ、これが、本当にあの神城なのか?」

 

 うん。見えないよな。顔面蒼白で気配もなく棒立ちしている置物みたいだもんな。

 

「ああ。なんでも、もともと男の娘が苦手だったそうなんだが、インキュバスになったことでさらに酷くなったそうなんだ。男の娘を視界に入れるだけでも気力が抜けていったり、触れただけで行動不能になったりはさすがにヤバイから、こうしてギャスパーの特訓を遠目から見させて男の娘に対して耐性をつけてるんだ」

 

 匙は置物のようになっているエイジを珍しそうに上から下まで眺めた。

 

「へぇ~。神城に弱点なんてあったんだな。おっ、これがインキュバスになった証の尻尾なのか。――っておい兵藤……」

 

「ん? どうした?」

 

「神城の尻尾って灰色なのか?」

 

「灰色? いや、エイジの尻尾は濃い黒、漆黒みたいな色だぞ」

 

 そうだ。キレイな黒だったはず――って色が抜けてらっしゃるぅぅぅぅ!? しかも、呼吸も小さくなってるぅぅぅ!?

 

 俺は急いでゼノヴィアに向かって叫んだ。

 

「ゼノヴィア! 急いでチャージしてくれ!」

 

「わかった!」

 

 ゼノヴィアが追いかけっこからはずれてエイジの頭を胸で挟んだ。

 

「おおっ! なんて羨ましいんだ!」 

 

 匙が叫んだ。ああ。俺も激しく同意する!

 

「よしよし、エイジ」

 

 ピク……。

 

 エイジの尻尾が少しだけ動いた。

 

 ゼノヴィアはエイジの頭を胸に抱きながらやさしく背中をなでた。

 

「ふむ。弱っているエイジか。コカビエルのときは慰められる側だったが、慰める側もいいものだな」

 

 エイジの尻尾が少しずつ黒くなり始めた。

 

 そして灰色から黒に変わったところで復活した。

 

「ぜ、ゼノたん……」

 

 なんとも弱弱しい声。

 

「そうだ、私だ。だいじょうぶだ。私は正真正銘の女だ」

 

「ああ……ゼノたん…………」

 

 すごく情けない姿。いつものエイジとは思えない弱っているエイジ。

 

「おい、あれってマジで神城か?」

 

「ああ。俺もあそこまで男の娘に弱いとは思わなかった」

 

 信じられないものでも見たような匙。あ、そういえば――。

 

「そういえば、なんでおまえジャージと軍手装備なんだ?」

 

「そりゃあ、花壇の手入れだよ。一週間前から会長の命令でな。ほら、ここ最近学校行事が多かっただろう? それに今度魔王さま方もここへいらっしゃる。学園をキレイに見せるのは生徒会の『兵士』たる俺の仕事だ」

 

 えっへんと胸を張って堂々としているが、それっとつまり雑用じゃ……? 、ああ。こいつの気持ちを折っても仕方ないから黙っておこう。

 

 ザッザッ……。

 

 そんな話をしていたら、ここへ近づいてくる誰かの気配。俺がそちらへ視線を向けたとき――。俺は目を疑った。

 

「へぇ。魔王眷属の悪魔さん方はここで集まってお遊戯してるわけか」

 

 浴衣を着た悪そうな男性――。俺はそいつに見覚えがあった。

 

「アザゼル……ッ!」

 

「よー、赤龍帝。あの夜以来だ」

 

 全員が突然現れたそいつを怪訝そうに……いや、エイジだけまだ泣いている子共みたいにゼノヴィアの胸に頭を埋めていた。

 

 アーシアが俺のうしろへ隠れ、俺も彼女を守るようにブースデッド・ギアを出現させ、匙も驚愕しながらも神器である右手の甲にデフォルメ化したようなトカゲの頭を出す。

 

 ゼノヴィアも剣を構えたが、その胸にはまだエイジがくっ付いていた。少しはシリアスにしろよ! って、そんなに余裕がないのか!? コカビエルとヴァーリは簡単に一方的に倒したのに!?

 

「ひょ、兵藤、アザゼルって!」

 

「マジだよ、匙。俺はこいつと何度か接触している」

 

 俺のマジな反応で理解したのか、匙も戦闘の構えを作りだしていた。

 

 アザゼルは俺たちの姿勢に苦笑する。奴は殺気どころか、戦闘をする気配すらうかがわせなかった。

 

「やる気はねぇよ。ほら、構えを解きな、下級悪魔くんたち。ここにいる連中が集まったところで俺に勝てないのはなんとなくでもわかるだろう? 俺だって、下級悪魔相手にいじめなんかするつもりはない。ちょっと散歩がてら悪魔さんのところに見学だ。聖魔剣使いはいるか? ちょっと見にきたんだが」

 

 と、奴は言うものの、誰も構えを解くことはしなかった。堕天使の言うことなんか信用できるものかよ! てか、木場狙いか! あと、エイジもいい加減立ち直れ! あれ? 集まったところで勝てないって、魔王クラスのエイジも楽勝なのか?

 

「木場ならいないさ! 木場を狙っているならそうはさせない!」

 

 木場がレアな禁手となったから、オファーでも出すつもりか?

 

「……ったく、コカビエルにも勝てなかったくせに俺と勝負なんかできるわけねぇだろうにさ。――そうか、聖魔剣使いはいないのかよ。つまんねぇな。じゃあ、神城はいるか?」

 

 へ? なにを?

 

「神城もいねぇのか? 会談のときにいいもんくれたからその礼と会談で要求されたことでもしにきたのに」

 

「えっと、気づいてないのか?」

 

「ん? なんだ?」

 

「エイジならそこにいるぞ」

 

 俺はゼノヴィアの胸、正確にはエイジを指さす。

 

 アザゼルはゼノヴィアの胸に抱きついているエイジを見ると目を大きく開いて驚いた。

 

「ど、どうしたんだこいつ? なんか最初あったときと全然様子が違うんだが?」

 

 やっぱりこいつも存在に気づいてなかったのか!

 

 エイジはいま気づいた様子でゼノヴィアの胸から顔を出した。

 

「あぁ……アザゼルか……」

 

「お、おう。どうしたんだ? やけに元気がなさそうだが?」

 

 エイジの様子に驚いているアザゼル。

 

「すまんがいまは俺のことを放っておいてくれると助かる……。俺に、なにか話があるなら後日でいいか?」

 

「あ、ああ。いいぜ」

 

 アザゼルがうなずくのを確認するとゼノヴィアの胸の中に戻り、ゼノヴィアも片手で剣を構えながら、空いたほうの手でエイジの頭を抱きしめた。

 

「ほんとにどうしたんだこいつ?」

 

「い、いろいろあったんだよ!」

 

 俺はそれしか言えなかった。――まさか、男の娘が苦手すぎて弱っているなんて言えなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからアザゼルはギャスパーの神器と匙の神器について情報と、ギャスパーの神器をどう特訓すればいいのか、アドバイスをしてくれた。

 

 アザゼルが立ち去ってから、顔を見合わせて反応に困っていたが、匙が息をついたあとに動きだす。

 

「……とりあえず、その新顔くんに俺の神器を取り付けてみるか。その状態で神器を使ってもらって練習でもしようぜ。その代わりに今度おまえらに俺の花壇を手伝ってもらうからな」

 

 匙の提案にうなずき、ギャスパーの神器の修行が開始された。

 

 匙が【 黒 い 龍脈 (アブソリューション・ライン)】の舌をギャスパーに接続し、余分な力を抜き取る。アザゼルの言ったように吸引は可能だった。……マジで神器に詳しいんだな、あの総督さん。

 

 その後、俺たちが投げるバレーのボールをギャスパーが視界に映した瞬間、停止させていき、エイジは尻尾が灰色に変わり機能停止する前にゼノヴィアのおっぱいで回復させるという羨ましい特訓をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の夜。

 

 3大勢力の会議で重要なポジションにいるエイジ以外が依頼解禁になって、俺の悪魔家業の仕事にギャスパー同行させたが、依頼に連れて行ったギャスパーが依頼人に襲われそうになって神器の力を暴走させて、時間を止めて、また部屋に引きこもったてしまった。

 

『ぼ、僕は……こんな神器いらないっ! だ、だって、皆停まっちゃうもんだ! 怖がる! 嫌がる! 僕だって嫌だ! と、友達を、な、仲間を停めたくないよ……。大切な人の停まった顔を見るのは……、も、もう嫌だ……』

 

 部屋のなかですすり泣くギャスパー。l

 

 家から追い出され、どちらの世界でも生きられないギャスパーは路頭に迷った。そのときヴァンパイアハンターに狙われ。一度命を落した。そこを部長に拾われたらしい。

 

 けど、強力な力を有するギャスパーを当時の部長では使いこなすこともできず、封印を命じられていた。そして、解禁されて現在にいたる。

 

「困ったわ……。この子をまた引きこもらせてしまうなんて……。『王』失格ね、私」

 

 落ち込む部長。部長は悪くない。ギャスパーも悪くないさ。悪いのはむしろ俺だ。期待をされて仕事に付き合わせたのに、俺は何もできなかった。

 

「部長、サーゼクスさまたちとの打ち合わせがこれからあるんでしょう?」

 

「ええ。でももう少しだけ時間を延ばしてもらうわ。先にギャスパーを――」

 

「あとは俺に任せてください。なんとかしてみます」

 

 俺の申し出に部長も強く異を唱えることはできなかった。打ち合わせも大事だからだ。

 

 3大勢力のボスたちが会合するんだ。それのセッティングは大切だろう。

 

「だいじょうぶです。せっかくできた男子の後輩です! 俺がなんとかします!」

 

 と、胸を張って宣言する。強がりだ。本当は自身があまりない。この手の繊細そうなタイプは苦手だからな。だけど、この件はエイジを頼ることはできないし、たまには俺も格好つかせてもらうぜ。

 

「……イッセー。わかったわ。お願いできる?」

 

「はい!」

 

 俺の勢いある返事を聞いて、部長は微笑んでうなずいた。

 

 部長は名残惜しそうに心配そうにギャスパーの部屋の扉を一瞥し、この場をあとにした。

 

 部長を見送ったあと、俺は深呼吸し、扉の前に座り込んだ。

 

「おまえが出でくるまで、俺はここを一歩も動かないからな!」

 

 いろいろ考えてみたが、バカな俺にはこれしかできない! 座り込み!

 

 …………。

 

 持久戦。と、息巻いて一時間ほど座り込んでみたが、変化はなし。出てくる気配もない。

 

 ……こうやって、黙って座り込むだけじゃダメか。そう感じて語りかけることにした。

 

「……怖いか? 神器と……俺たちが」

 

『…………』

 

 俺は扉越しに話しかける。

 

「俺も最強のドラゴンが宿った神器を持っている。でも、おまえみたいにヴァンパイアとか、エイジや木場みたいにすごい生き方をしてきたわけでもない。普通の男子高校生だったんだよ」

 

 どこまで通じるかわからない。だけど、俺の正直な気持ちを話そう。

 

「俺は……正直、怖い。ドラゴンの力を使うたび、体のどこかが違う何かになっていく感じがするんだ。悪魔のこともよくわからないし、ドラゴンってのもどういうものかもわからない。だけど、前に進もうと思う」

 

 それしかないからな、俺には。

 

『……どうしてですか? も、もしかしたら、大切な何かを失うかもしれないんですよ? せ、先輩はどうして、そこまで真っ直ぐ生きていられるんですか……?』

 

「……うぅん……。俺はバカだから、難しいことはわからないんだ。ただ――」

 

『ただ?』

 

「――部長の涙を二度と見たくない。レーティングゲームをやったときさ、俺のせいで負けたんだ。俺が自分の実力を過信して、エイジに敵の『女王』と『僧侶』を押し付けて、敵の王と一対一で戦っている部長の元に行って、記憶がないぐらいにボコボコにやられてさ。俺が目の前で敵にボコボコにされるのに耐えられなくなった部長がエイジがまだ残っていたのに投了して、俺たちは負けたんだ。情けないったらありゃしねぇ。敵の『騎士』にすらまともに勝てないのに、『王』なんて倒せるはずねぇのに。俺は1人で先走って部長の元に向かって、時間稼ぎにもならないどころか、俺がキッカケで負けちまったんだ」

 

 俺は拳をぎゅっと握りしめた。あのときのことは――いま思い出しても悔しい。

 

「結局、部長はエイジが救う始末。しかも俺がボコボコにした『王』を一撃で倒しちまうし、俺自身は何も守れなかったんだ。情けねぇよな。まったく……。それが、何も守れなかった俺自身が嫌で毎日修行して、一日でも早く自分の神器を使いこなせるように頑張っているんだ」

 

 ギィ……。

 

 鈍い音を立てながら、扉が少しだけ開かれた。

 

「なあ、ギャスパー」

 

「……はい」

 

「弱いままじゃ何も守れないんだぞ。神器を怖がっているだけじゃあ、いざというとき大切な人や仲間を守れないんだぞ。――それでもいいのか?」

 

「……で、でも、僕じゃ、ご、ご迷惑をかけるだけです……。引きこもりだし、人見知り激しいし……神器はまともに使えないし……大切な人なんて守れるわけが……」

 

 俺はギャスパーの顔をおさえると、両目を覗きこんでやる。

 

 ここに神器があるのか。時間停止する能力。

 

「俺はおまえのことを嫌わないぞ。先輩としてずっと面倒みてやる。……まあ、悪魔としてはおまえのほうが先輩だろうけどさ。でも、実生活では俺が先輩だから、任せろ」

 

「――っ」

 

 ギャスパーは目をパチクリさせるがお、俺は続ける。

 

「俺ひとりじゃ守れない。力を貸してくれ。俺と一緒に部長を支えよう。おまえが何かに怖がるなら、俺がそれを吹っ飛ばしてやる。伝説の龍の力を使いこなしてな」

 

 ニカッと笑ってみるが、ギャスパーはコメントに困っている様子だ。

 

「俺の血、飲むか? アザゼルの野朗が言ってたことが真実なら、俺の血を飲めば神器を扱えるかもしれない」

 

 あのとき、アザゼルはそう言っていた。それで済むなら安いものだ思う。

 

 だが、ギャスパーは首を横に振る。

 

「……怖いんです。生きた者から直接血を吸うのが。ただでさえ、自分の力が怖いのに……これ以上何かが高まったりしたら……僕は…僕は……」

 

「うーん、神器に翻弄される自分が嫌か。でも俺はその能力がうらやましいけどな」

 

「――っ」

 

 俺の一言に心底驚いた表情をギャスパーが浮かべる。え? 何その反応……。

 

 俺はいかにギャスパーの時間停止の能力が素晴らしいか俺なりに説明して、俺の野望を教えた。

 

 そう。サーゼクスさまに提案された赤龍帝の譲渡の力を部長のおっぱいに使うことだ。

 

 俺の真っ直ぐな想いを耳にして、ギャスパーは驚くような表情を見せるが、じんわりと瞳を潤ませる。

 

「……す、すごいです、イッセー先輩。強大な神器を持っていながら、そこまで卑猥に前向きに向かい合えるなんて……。ぼ、僕にはとうてい及ばない思考回路ですが、なぜだか少しだけ夢と希望を感じました。イッセー先輩の煩悩って勇気に溢れているんですね」

 

「そうだろうそうだろう! 強大な神器なんだ! ようは使いようだ! 俺は性欲を満たすために神器を使うね! 籠手に宿っているドラゴンにも宣言した! 俺は部長の乳を吸い! そして、新たな目標としてギフトを部長の乳に譲渡する! いや、朱乃さんのおっぱいに譲渡してもいい! うはっ! 夢が広がるなぁぁぁぁ!」

 

「ぼ、僕もなんだか少しだけ勇気が湧いてきたような気がします。本当に少しだけだけど……」

 

 と、いつの間にか俺がギャスパーと話しこんでいると木場が現れた。

 

「さすがイッセーくん。ギャスパーくんとすぐに談笑できるなんてね」

 

 おお、丁度いい。

 

「木場、話がある」

 

「なんだい、イッセーくん」

 

「俺はおまえとギャスパーは男だ」

 

「そうだね。でも、そんなことを訊いて突然どうしたの?」

 

「俺はグレモリー眷属の俺たち3人でおこなえる連携を考えた」

 

「それは……興味がそそられるね。どういうのかな?」

 

 おっ、木場も食らいついてきた。よし、俺のプランを話そう。

 

「まず、俺がパワーを溜める、そして、それをギャスパーへ譲渡して周囲の時間を停める。その間、俺は停止した女子を触り放題だ」

 

「――っ。………………また、エッチな妄想をしていたんだね。それはそうと、それだけなら僕の役目はないんじゃないの?」

 

 俺のプランに木場は軽く言葉を失っていたが、冷静に突っ込んでくる。

 

「いや、ある。おまえは禁手化して、俺を守れ。もしかしたら、エッチなことをしている間も敵が来襲してくるかもしれない。これは大事な連携だ。俺が溜めて、ギャスパーが停めて、俺が相手を触り、おまえが俺を守る。完璧な陣形だ」

 

 エイジの奴は――あいつはこんなことしなくても触れるから作戦なんかいらないだろうな、クソッ! うらやましいわけじゃ……いや、うらやましいんだけど!

 

「イッセーくん、僕はイッセーくんのためならなんでもするけど……一度、真剣に今後のことを話そうよ。――力の使い方がエッチすぎるよ。ドライグ、泣くよ?」

 

『木場はいい奴だなぁ』

 

 涙声で訴えるな、ドライグ! 俺は宿主なんだから、おまえは俺のエロ妄想に尽力してくれよ!

 

「木場、てめえ! そんな憐憫な眼差しで俺を見るな! イケメンめ! おまえはいいさ! エイジほどでもないだろうが、女の子を喰い放題だろうけどな! 俺は食べることすらままらないんだよ!」

 

「……キミのことだから、気づいたら気づいたでそっちにハマりこみそうだし、アーシアさんは甘やかしそうだから言うのを止めておくよ……。覚え立ては怖いと言うからね」

 

 アーシア? 木場が意味深なことを言っているが、まあいい。

 

「よし。男同士、(はら)を割って話そう。エイジがいないが……。――第1回『女子のこんなところがたまらない選手権』! まずは俺からだな! 俺は女子のおっぱいと足を見るね!」

 

 それから俺たち男3人は真夜中の旧校舎で思う存分語り合った。

 



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第33話 朱乃さんの抱えているもの ☆

 本番なしだけど、エロシーンあり


<エイジ>

 

 

 次の休日の早朝。

 

 俺は朱乃さんの神社にやってきていた。

 

 天使側の代表ミカエルとの会談のためだ。

 

 会談は朱乃さんの神社の本殿で行われ、天使側にだした俺の要求は2つ返事で受け入れられ、昼前ぐらいに終了した。

 

 会談後にイッセーが天使側からプレゼントされる龍殺しの聖剣『アスカロン』(悪魔が触れてもだいじょうぶなように調整済み)を貰いにくるということで、神社の入り口まで会談に立ち会ってくれた朱乃さんと一緒に俺はイッセーの迎え向かった。

 

 階段を下りながら朱乃さんが訊いてくる。ってか、巫女服姿最高です!

 

「本当に天使側に要求することがアレだけでよかったんですの? もっと要求してもよかったのに」

 

「ええ。俺にとって大事なことですし、他に何も思いつきませんでしたしね」

 

 俺は苦笑して答えると、朱乃さんはうふふと微笑んだ。

 

「本当に女性に優しいんですのね」

 

「いや~、優しいって言うか自己満足で。普通だったらここまでしないんですけどね」

 

「あら? そうですの?」

 

「はい。俺も女性に優しいとか甘いとか言われてますけど、きちんと区別はつけているんですよ。代わりの効かない――自分自身の命をかけて、自分自身で守りたいっていう、特別の女性たちがいるんです」

 

 朱乃さんは意外そうに少しだけ驚いたあとに微笑む。

 

「特別でも女性『たち』ってつくところがあなたらしいですわね」

 

「ええ。こればっかりは性分ですから……」

 

 と、前方にイッセーを発見した。

 

「よう、イッセー」

 

「あっ! エイジ。それに朱乃さんも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーを無事にミカエルの下まで連れて行き、『アスカロン』を受け取らせたあと、ミカエルも帰り、イッセーは木場たちとギャスパーとの訓練があるといって帰り、俺は朱乃さんの家に招かれていた。

 

「お茶ですわ」

 

「ありがとうございます」

 

 向かい合って朱乃さんとお茶を飲む。

 

 以前泊めてもらったことがあるが、こうして落ち着いて2人っきりで話すことはなかったな。

 

 朱乃さんと2人っきりのお茶会、すごく嬉しいんだけど……先ほどから朱乃さんの表情は重い……なにか大事な話でもあるのか? 

 

「エイジさん……」

 

「はい。なんですか?」

 

 訊ねると朱乃さんは恐る恐るといった感じで言う。

 

「私の話を……私のことを訊いてもらってもいいですか?」

 

 真剣な表情――。俺も真剣な表情でうなずいた。

 

「以前コカビエルが言ったと思いますが、私はバラキエルの……。私は堕天使の幹部バラキエルと人間の間に生まれた者なんです」

 

 朱乃さんはゆっくりと語り始めた。

 

「母は、この国のとある神社の娘でした。ある日、傷つき倒れていた堕天使の幹部であるバラキエルを助け、そのときの縁で私を身に宿したと聞きます」

 

 ってことは朱乃さんは堕天使と人間のハーフか?

 

 そんなことを考えていると突然、朱乃さんが背中から羽根を生やした。

 

 いつもの悪魔の両翼と違い、片方が悪魔の翼で、もう片方が堕天使の黒い翼だった。

 

「汚れた翼……。悪魔の翼と堕天使の翼、私はその両方を持っています」

 

 朱乃さんは堕天使の翼を憎々しげに手に持っていた。

 

「この翼が嫌で、私はリアスと出会い、悪魔となったの。――でも、生まれたのは堕天使と悪魔の羽、両方を持ったもっとおぞましい生物。ふふふ、汚れた血を身に宿す私にはお似合いかもしれません」

 

 自嘲する朱乃さん。俺は朱乃さんの目を見て言う。

 

「俺は朱乃さんが好きですよ」

 

「――えっ?」

 

「出生のことなんかは抜きで、俺は朱乃さんが好きです」

 

「私は堕天使でも悪魔でもない、おぞましいバケ―」

 

 最後まで言わせない。

 

「朱乃さんはおぞましくなんかありません。バケモノでもありません。俺にとって朱乃さんは堕天使だとかそういうもの抜きで素敵な先輩ですよ。俺は部室で飲む朱乃さんのお茶も好きです。朱乃さんの笑顔が好きです。堕天使の血なんて関係ないんです。朱乃さんだから好きなんです」

 

 俺の言葉を聞いて、朱乃さんは泣いていた。

 

「私……、私だから……?」

 

 俺は朱乃さんの堕天使の羽根を手でなでた。

 

「はい。朱乃さんだからです。朱乃さんが自分に流れる堕天使の血が嫌いなら、俺がその血ごとあなたを愛します――って俺、何口走ってるんだ!?」

 

 ちゅ。

 

 唇で口を塞がれた。っていうかキスされた!?

 

「……殺し文句、言われちゃいましたわね。……そんなこと言われたら……本当に本気になっちゃうじゃないの……」

 

 ほ、本気?

 

 朱乃さんは俺の両肩に腕を絡め抱きついてきた!?

 

「あ、朱乃さん?」

 

 対応に困り、咄嗟に抱きしめ返した俺の耳元で朱乃さんが囁く。

 

「決めましたわ。私、決めました。エイジくん、リアスのこと、好き?」

 

「はい、もちろん好きです」

 

「リアスはさっき言ってた特別な女性なの?」

 

「はい、そうです」

 

「……そうよね、あちらも本気でアプローチかけてるし、同じ家に住んでるんだし、他にもたくさんいるみたいだし、本妻は無理ね。あと何人『特別』がいるかもわからないし……」

 

 えっと? いったいどうしたんですか、朱乃さん。

 

「ねぇ、エイジくん」

 

「は、はい……」

 

「何番目でもかまいませんわ」

 

「え?」

 

「そう、何番目でも――あなたは性欲の固まりだし、『特別の女』なら何番目でも愛してくれそうですし。それに魔王クラスの実力者にして冥界女性の――私の憧れ、エイジくんに愛を注いでもらえるんですもの。これから楽しくなりそうですわ」

 

 なにやら1人で盛り上がっている朱乃さん。

 

「ねぇ、エイジくん。『朱乃』って呼んでくれる?」

 

「い、いいんですか?」

 

「ええ。私が呼んで欲しいんですの」

 

「じゃ、じゃあ――朱乃」

 

「……うれしい。エイジ……」

 

 ぎゅっ。俺をさらに抱きしめてくる朱乃さん。今の声はいつもの凛とした朱乃さんの声じゃなく、普通の女の子の声だった。

 

「ねぇ、これから2人っきりのときは朱乃って呼んでくれる」

 

 甘えるような声。『副部長姫島朱乃』の姿ではなく、1人の女子高生になってしまっていた。たぶん、誰かに甘えたかったんだろう。

 

「はい。いいですよ」

 

 俺はそう言って朱乃さんの髪をやさしくなでた。

 

「うふふ、そんなにやさしくされたら甘えたくなっちゃうわよ?」

 

 すごく可愛らしい朱乃さん。ああ、俺もうメロメロです!

 

「朱乃に甘えられるのは嬉しいですよ」

 

「あらそうなの? じゃあ、もっと甘えさせてもらいましょうか?」

 

 朱乃さんはそう言ったあと、大きく口を開けた。そして目で「キスして」と訴えてくる。や、ヤバイ!

 

 ちゅぅぅ。

 

 俺も大きく口を開いて、朱乃さんの大きく開いた口にかぶせるように重ねた。

 

「んちゅ……はぅ……うむっ……」

 

 俺の口の中に侵入してきた朱乃さんの舌をやさしく舌で舐める。すげぇ……朱乃……おいしい……。

 

「エイジぃ……んんっ……」

 

「朱乃……」

 

「あなたたち、何やっているのかしら?」

 

 朱乃さんの口の中へ涎ごと舌を伸ばし、朱乃さんが唾液を飲み込んで俺の舌が朱乃さんに吸われそうになったところで、部長の声と共に襟を掴まれて朱乃から引き離された。

 

 つぅーっと銀色の橋が架かったが、気にする余裕もなかった。

 

「ぶっ、ぶ、部長っ!?」

 

 部長は額に手を当て、大きく息を吐く。

 

「まったく油断も隙もないわ……。エイジを誘惑するなんて……、しかもキスまで……ッ!」

 

 ぎゅぅぅ! 痛い! 俺の尻尾が部長に思いっきり抓られる! いたたたたた!

 

 部長は低く迫力のある声で俺に訊く。

 

「ミカエルとの会談は?」

 

「無事に終わりました!」

 

「ミカエルは? イッセーに例の剣を渡したの?」

 

「は、はい! ミカエルも、もう帰りました!」

 

「なら、ここにもう用はないわ! 帰るわよ!」

 

 この場から踵を返した部長に急いで続く。朱乃さんに頭を下げる。途中で申し訳ない!

 

「さっきのは私のファーストキスですからね。――それにしても『特別』のリアス部長がうらやましい限りですわ」

 

 うしろからつぶやく朱乃さん。いつもの朱乃さんの声に戻っていた。

 

 朱乃さんの声に部長は一度立ち止まり、俺の腕を引いていく。まるでここから早く俺を遠ざけようとしているかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コツコツコツコツコツコツッ! 神社の石段を降りる部長の足音は怒りに満ちたものだった。

 

 その後からついていく俺だったが、石段の半ば辺りで部長は石段を外れて、森の中へ俺を引きずり込んだ。

 

 完全に前後左右木々で囲まれた森の中で部長が立ち止まり、うしろを――俺のほうへ振り返った。

 

「……ねぇ、エイジ」

 

 暗い表情の部長。

 

「はい」

 

「朱乃は……朱乃なのね」

 

「はい?」

 

「朱乃は副部長。けれど『朱乃』なのね……私は?」

 

 えっと……。

 

「部長……ですよね?」

 

 俺が「部長」と答えたとき、部長は肩を落した。

 

「………………そうね。私は部長だわ。――でも『リアス』なの」

 

 すごく気落ちしてしまった声のトーン。まさか――。

 

「リアスって呼んでもいいんですか?」

 

「え?」

 

 少しだけ驚いたような部長。

 

「部長って呼べって言われてたから、かなり我慢していたんですが……。これからリアスって呼んでいいんですか?」

 

「我慢……してたの?」

 

 意外そうな部長って――。

 

「当然じゃないですか! いつも呼びたかったですよ!」

 

 そうだ! ベッドの中で一番雰囲気がいいときにしか名前を呼べないのは辛いんだ!

 

「部長が許可してくれるのなら。俺はこれから『リアス』と呼びます! というか呼ばせてください!」

 

 俺が両肩を持って言うと、部長は真っ赤になって俯いて小さな声で「いいわよ」とつぶやいた。

 

 心を込めて名前を呼ぶ。

 

「リアス」

 

 すると部長からもかえってきた。

 

「エイジ」

 

 嬉しいそうな顔と恥ずかしげな顔がまじった状態でにつぶやく部長――いや、リアスを抱きしめ、唇を交わした。

 

 二度三度とキスを重ねたところで部長が少しだけ離れて、その場にしゃがんだ。

 

 カチャカチャと音が鳴ったと思えば、ベルトが外された!? 

 

「り、リアス? まさか……」

 

 部長はそのままズボンのチャックをおろさせると、俺のペニスを取り出した。

 

 部長は俺のペニスを握り、前後に扱きながら言う。

 

「朱乃とキスしたんでしょ。私はそれ以上をしてあげるわ」

 

「そんなに張り合わなくても別に……」

 

「ふふっ、本当はそれよりも、いますぐあなたの精液を飲みたいのよ」

 

 リアスは微笑みながら玉袋をなでると亀頭にキスをして、ペロペロとフェラを始めた。

 

「あぅっ、り、リアス……」

 

 リアスの小さな舌がむき出しの亀頭を舐める。

 

「んじゅ、んじゅ……レロッ――ふふっ、少し舐めただけでもうカウパーでドロドロになっちゃたわね」

 

 カウパー液を指に絡めながら微笑むリアス。

 

「そ、そりゃあ、リアスにされてるんだから……」

 

「ふふっ、あなたに『リアス』って呼ばれると胸が満たされるわ。ちゅっ。それにいつもよりオチンチンが大きい気がするわ」

 

 亀頭にキスして、リアスは竿部分を手で掴む。リアスの細く、長い、キレイな指で上下にやさしく扱かれる。

 

「俺もリアスって呼べるようになって嬉しいんですよっ」

 

「私も嬉しいわ、エイジ」

 

 手で竿を扱きながら、亀頭を口に含み、じゅぽっ、じゅぽっと唇や舌、喉まで使って扱いてくれる。ああ、最高に気持ちいい……。

 

 ――っ!?

 

「り、リアス……そ、そこは――!」

 

「ふふっ、森の中だし、あまり時間はかけられないからね」

 

 リアスはそう微笑むと、俺の尻尾をスカートの――ショーツの中へ入れた! 素股をするように、マンスジ、お尻の割れ目に挟まれ、一気に射精感が募る。

 

「ああ、あなたの尻尾……。私の肌に吸い付いてるみたい……」

 

 尻尾の感触を感じながら、畳み掛けるように俺の尻穴に指を差し込んで前立腺を刺激し、玉袋をやさしく握ってきた。

 

「あうっ――」

 

 ビュッ、ビュルルルルルゥゥゥゥッ!

 

 我慢の限界を超えて、リアスの口の中で吐き出される俺の精液。

 

 ゴキュッ、ゴキュッ。

 

 リアスの喉が大きく何度も動く。ペニスの根元まで咥え込み、唇を絞めて亀頭の先端まで、体液を拭いとり、けふっというかわいらしいゲップをしてから、リアスは立ち上がった。

 

「ごちそうさま。ふふっ、すごくおいしかったわ」

 

 と少し赤い顔で微笑んでくるリアス。

 

「リアスっ!」

 

 俺は衝動的にリアスを抱きしめる。尻尾をうしろ側に移動させるとペニスでショーツをつついた。

 

「あんっ……こら、エイジ、ダメよ……」

 

「でも、リアス。すごく欲しい……」

 

 つんつんとショーツ越しに膣穴をつつくが、部長は両手で俺の胸を押して拒んだ。

 

「ここは、外だし……それに会談が終わるまでは我慢しないと……」

 

 そ、それはそうだけど……。

 

「もうすぐ会談が始まるし、いまエイジに抱かれたらそれしか考えられなくなるわ……」

 

 困り顔の部長。部長も我慢しているんだ!

 

「わかりました。じゃあ、今夜思いっきり甘えさせてください」

 

 そう言うとリアスは笑顔でうなずいた。

 

「ええ、本番はダメだけど。たっぷり甘えさせてあげるわ」

 

 その日の夜。

 

 俺はリアスに思う存分に甘えさせてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3大勢力それぞれとの会談が終わった俺は、学園で行われる3大勢力会談までの間、リアスと朱乃さんとの『悪魔側』として会談へ参加する打ち合わせの合間を縫うように、ギャスパーの神器コントロールの修行をイッセーたちと共に手伝った。

 

 そして数日後、3大勢力のトップが集まった会談が駒王学園で始まる――。

 



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第34話 トップ会談

 

<エイジ>

 

 

「――さて、行くわよ」

 

 部室に集まるオカルト研究部の面々。リアスの言葉にうなずいた。

 

 そう、今日は3大勢力の会談の日だ。ついにこの日がやってきた。この日が終われば俺はリアスの……。

 

 会場となるのは、駒王学園の新校舎にある職員会議室だ。今日は休日。時間帯は深夜。

 

 すでに各陣営のトップたちは新校舎の休憩室で待機しているらしい。

 

 そして、何よりもこの学園全体が強力な結界に囲まれ、誰もなかへ入れなくなっていた。もちろん、会談が終わるまで外にも出られない。

 

 俺たちはリアスのあとに続いて部室をあとにしようとする。

 

『ぶ、部長! み、皆さぁぁぁぁぁぁん!』

 

 部室に置かれた段ボール。引きこもりのヴァンパイアが入っている。

 

「ギャスパー、今日の会談は大事なものだから、時間停止の神器を使いこなせていないあなたは参加できないのよ?」

 

 とリアスがやさしく告げていた。

 

 まあ、確かに神器をコントロールできないのは困るけど、それよりも男の娘が俺の傍にいること事態が困る。

 

「ギャスパー、おとなしくしてろよ」

 

「は、はい、イッセー先輩……」

 

 何やらうしろでイッセーとギャスパーとのやり取りが行われているが、……スマン。いま気力を消費するわけにはいかないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンコン、リアスが会議室の扉をノックする。

 

「失礼します」

 

 リアスが扉を開くと、そこには――。

 

 特別に用意させたという豪華絢爛そうなテーブル。それを囲むように見知ったやつらが座っていた。

 

 悪魔側、サーゼクスとセラフォルーと給仕係りのグレイフィア。

 

 天使側、金色の羽のミカエルと美少女の天使さん。

 

 堕天使側、黒い悪魔の翼を12枚生やしたアザゼルと白龍皇のヴァーリ。

 

 アザゼルと目が合うと、アザゼルは口の端を愉快そうにあげた。ちっ、この前情けないところ見られたんだったな。

 

 3勢力のトップは皆正装で、装飾の凝った衣装を身に纏っていた。ちなみに俺も冥界で通っている黒と赤の衣装だ。

 

「私の妹と、その眷属――ひとり変わったのはいるが皆知っていると思う」

 

 おい、変わったのってなんだ、変わったのって!

 

「先日のコカビエル襲撃で彼女たちが活躍してくれた」

 

「報告は受けています。改めてお礼を申し上げます」

 

 ミカエルがリアスへ礼を言う。リアスは冷静に振る舞い、再度会釈をするだけだ。

 

「悪かったな、俺のところのコカビエルが迷惑をかけた」

 

 あまり悪びれた様子もないが、こちらもコカビエルの対応にやってきたヴァーリを、戦闘中だったからといえ、話も聞かずに打ち倒してしまったので何も言えない。

 

「そこの席に座りなさい」

 

 サーゼクスの指示を受け、グレイフィアが俺たちを壁際に設置された椅子を促してくれる。その席には支鳥先輩がすでに座っていた。

 

 会長の隣にリアスが座る。その横に俺が座り、その後には朱乃さん、木場、イッセー、アーシア、ゼノヴィア、小猫ちゃんと続いて座った。

 

 それを確認したサーゼクスが言う。

 

「全員がそろったところで、会談の前提条件をひとつ。ここにいる者たちは、最重要禁則事項である『神の不在』を認知している」

 

 支取先輩はコカビエルの話を聞いていないはずだから、会談前に誰かから聞いたんだろう。

 

「では、それを認知しているとして、話を進める」

 

 こうして、サーゼクスのその一言で三大勢力の会談が始まった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会談は順調に進んでいった。

 

 サーゼクス、セラフォルー、ミカエル、アザゼルの4人がそれぞれ喋り続けていた。

 

 俺は暇だったのでリアスの顔を眺めていると、リアスが苦笑した。俺の手を握り、握った。リアスの手はわずかに震えていた。――緊張しているんだろう。

 

 俺は無言でリアスの手を握り返す。だいじょうぶだと、やさしく――。

 

(あらあら、部長とエイジくんは会談中でもラブラブですわね)

 

(エイジの手から勇気をもらってるのよ。やっぱり、これが一番効果あるわね)

 

 リアス! 俺の勇気ならいくらでも持っていってくれ!

 

 リアスの手に集中しながら会談を聞いていると、部長のコカビエル襲撃の報告となり、アザゼルが和平の話を持上げてきた。ってアザゼルが神器持ちを集めてたのは3大勢力の戦争のためじゃなくて、やっぱり研究のためかよ。

 

「そう。次の戦争をすれば、3すくみは今度こそ共倒れだ。そして、人間界にも影響を大きく及ぼし、世界は終わる。俺らは戦争をもう起こせない」

 

 アザゼルは真剣な面持ちになる。

 

「神がいない世界は間違いだと思うか? 神がいない世界は衰退するか? 残念ならがそうじゃなかった。俺もおまえたちもいまこうしやって生きている」

 

 アザゼルは腕を広げながら言った。

 

「――神がいなくても世界は回るのさ」

 

 まっ、それもそうだな。大昔に死んでいて、いまも俺らは何も変わらずに生きているんだから、神は本当に必要なものだったのかわからないよな。

 

 それから会談は戦力うんぬんの話しに移り、現在の兵力と、各陣営との対応、これからの勢力図の話しに移った。

 

「――と、こんなところだろうか?」

 

 サーゼクスのその一言で、お偉い方々が大きく息を吐いていた。

 

 それからミカエルが俺たちのオカルト研の方へ視線を向けていた。

 

「さて、話し合いもだいぶ良い方向へ片付きましたし、黒の聖職者……いえ、黒い捕食者と赤龍帝どのお話を聞いてもよろしいかな?」

 

 全員の視線がこちらに向いた。

 

「赤龍帝はわかるが、俺もか?」

 

 3大勢力のトップたちはうなずいた。

 

「ええ。この場でもう一度どの勢力へつくか宣言して欲しいのです。あなたは魔王や神と同格の力と有能な僕をお持ちですから、この場で改めてあなたがどちらの勢力へ付き、和平に合意してくれるかを訊きたいのです」

 

 ああ、そういうことね。

 

 俺は尻尾と羽根を出して言う。

 

「個別の会談でも言ったと思うが、俺は人間ベースの転生悪魔から本物の悪魔になったみたいだから、当然悪魔側だし、俺の王は1人だからな」

 

 俺はリアスの手を握る。

 

「俺は俺が認めた王の元にいくさ」

 

「え、エイジ……」

 

 部長の顔が真っ赤になる。

 

「あははははっ! お前が悪魔側についた理由は本当にそれだったのか! くくくくくっ、まさか誰も魔王クラスの男が『惚れたから』って理由でどこの勢力につくか決めるなんて思わないだろうな!」

 

 とアザゼルが笑い声をあげ、サーゼクスも俺らを見て笑い声を漏らし、ミカエルはなぜか満足げにうなずき、セラフォルーは顔を膨らませて俺を睨んでいた。

 

 アザゼルが笑い終えたところで、イッセーに訊ねた。

 

「で、赤龍帝、おまえは?」

 

 アザゼルに訊かれたイッセーは見返るのほうを向いて、アーシアに言った。

 

「アーシア。アーシアのことをミカエルさんに訊いていいかな?」

 

「イッセーさんがお訊きしたいのでしたら、構いません。私はイッセーさんを信じていますから」

 

 イッセーはミカエルを見て訊いた。

 

「アーシアをどうして追放したんですか?」

 

 え? いまここで?

 

 俺は驚いたが、ミカエルは真摯な態度で答えだした。

 

 神が死んで神が使っていた『システム』だけが残り、その『システム』をミカエルたち上級の天使の一部が引き継いで『システム』を使い、信徒に加護を与えていたそうだが、その『システム』は容易に扱えるものではなく、いろいろ不都合が起こったそうで、その不都合が禁手というバクや、アーシアの神器で悪魔や堕天使の傷を癒すことができたり、木場が本来交じり合うことのない魔と聖の聖魔剣を創りだせた理由で、神の不在を知られるわけにはいかなかったから、アーシアを切り捨てたという話だった。

 

 そして他にも『システム』に影響を及ぼすものがあった。

 

 神の不在を知るものだ――。つまり、ゼノヴィアもどちらにしろ教会側から追い出される運命だったのだ。

 

「そうです、ゼノヴィア。あなたを失うのはこちらとしても痛手ですが、我々『熾天使(セラフ)』と一部の上級天使で神の不在を知った者が本部に直結した場所に近づくと『システム』に大きな影響が出るのです。――申し訳ありません。あなたとアーシア・アルジェントを異端とするしかなかった」

 

 ミカエルがアーシアとゼノヴィアへ頭を下げる。

 

 ミカエルが謝ったことに2人は目を丸くしていたが、すぐにゼノヴィアは首を横に振り、微笑んだ。

 

「いえ、ミカエルさま、謝らないでください。これでもこの歳になるまで教会に育てられた身です。いささか理不尽を感じていましたが、理由を知ればどうということもありません」

 

「あなたが悪魔に転生したこと。そてはこちらの罪でもあります」

 

「いいのです。……多少、後悔も致しましたが、教会に仕えていた頃にはできなかったこと、封じていたことが現在私の日常を華やかに彩ってくれています。そんなことを言ったら、他の信徒に怒られるかもしれませんが……。それでもいまの私はこの生活に満足しているのです」

 

 ゼノたん、俺たちとの生活をそんな風に感じていたのか……。

 

 アーシアも手を組みながら言う。

 

「ミカエルさま、私もいま幸せだと感じております。大切なヒトたちがたくさんできましたから、それに憧れのミカエルさまにお会いしてお話もできたのですから光栄です!」

 

 ミカエルはゼノヴィアとアーシアの言葉に安堵の表情を見せていた。

 

「すみません。あなたたちの寛大な心に感謝します。デュランダルはゼノヴィアにお任せします。サーゼクスの妹君の眷属ならば下手な輩に使われるよりも安全でしょう」

 

 ミカエルはそして今度は俺を見て笑った。ま、まさか――。

 

「もしも、あなた方がまだ信仰心を失わずに祈りを捧げたいというのでしたら、あなた方には悪魔への祈りのダメージをなくす措置をとりますがどうされますか?」

 

「お祈りしてもいいんですか!」

 

「私も神がいないとわかっていても祈りは捧げたいです」

 

「ええ。個々の会談の席で黒い捕食者殿が要求されたことなのでだいじょうぶですよ」

 

 ――っ!

 

 再び部屋のなかの視線が俺へ集まる。って――。

 

「こんなところで内容をバラスなよな」

 

 俺の抗議の声にミカエルは微笑むだけだ。本当にこいつ天使か? 

 

「ありがとうございます、エイジさん!」

 

「ありがとう、エイジ」

 

 2人が嬉しそうな顔でお礼を言ってくる。

 

「べ、べべ、別に他に要求することがなかっただけだ!」

 

 そう言って顔を背けると、イッセーが「ツンデレか?」とつぶやいたので殴っておいた。

 

 それからイッセーがアザゼルにレイナーレの事件で悪魔になったことや、アーシアが殺されそうになったことを言ったが、アザゼルに当然なことだし、悪魔化して不都合があったかと訊かれて軽く論破されていた。

 

 それからアザゼルは『世界をかえることのできる力を宿している』白龍皇のヴァーリと赤龍帝のイッセーに世界をどうしたいか訪ね、ヴァーリは戦いを求め、イッセーは世界が平和になってアーシアや女の子たちをエッチなことをしまくると宣言して、全員から苦笑され、リアスには呆れられていた。

 

 そして、イッセーの『赤龍帝の力を仲間を守ることに使う』と宣言していたところでイッセーの声が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーが固まっている。いや、部屋のなかにいるほとんど者が停められいた。

 

「これはギャスパーか?」

 

 俺がつぶやくと、サーゼクスがうなずいた。

 

「ああ、そうだろうね。おそらく会談を狙ったテロだ」

 

 テロか……まあ、テロぐらいあるか。

 

 サーゼクスはグレイフィアと話し合いを始めた。

 

 動ける人数を確認すると、お偉いさんの全員とリアス、木場、ゼノヴィア、そしてイッセーが先ほど時間停止から回復した。

 

「エイジは魔王クラス、イッセーは赤龍帝を宿す者、祐斗は禁手に至り、イレギュラーな聖魔剣を持っているから無事なのかしら。ゼノヴィアは直前になってデュランダルを発動させたのね」

 

 リアスは冷静に状況を整理し、ゼノヴィアは聖剣デュランダルを異空間へ納めながら言う。

 

「時間停止の感覚はなんとなく、体で覚えた。――停止させれる寸前にデュランダルの力を盾に使えば防げると思ったけど、正解だった」

 

 ゼノヴィアってスペックマジで高いなぁ。

 

 で、外を見てみると新校舎が攻撃されていた。

 

 黒いローブ姿の魔術師で、かなりの人数が攻撃していて攻撃の音が鳴り止まない。

 

 アザゼルは敵が魔術師で人間が悪魔のように力をふるえるようになった存在だと説明し、さらに譲渡系の力でギャスパーの時間停止の神器の力を増大させて暴走させていることを説明した。

 

「ギャスパーは旧校舎でテロリストの武器にされている……。どこで私の下僕の情報を得たのかしら……。しかも、大事な会談を付けねらう戦力にされるなんて……ッ! これほど侮辱される行為もないわっ!」

 

 リアスは全身から紅いオーラを放ちながら怒りを露にした。

 

「ちなみにこの校舎を外で取り囲んでいた堕天使、天使、悪魔の軍勢も全部停止させられているようだぜ。まったく、リアス・グレモリーの眷属は末恐ろしい限りだ」

 

 アザゼルが部長の方に手をポンと置くが、リアスは容赦なく払いのけた。

 

 払いのけられたアザゼルは嘆息しながらその手を窓に向ける。すると、外の空に無数の光の槍らしきものが出現して、バッ! アザゼルが手を下げるのと同時に光の槍が雨となって、魔術師たちに降り注ぐ。テロリストどもは防御障壁を展開するが、それをなんなく貫いて一掃してします。

 

 あーあ……可愛い女の子ばっかりだったのに、もったいねぇなぁ。

 

 アザゼルの一撃でかなり数は減ったが、また再び新たな敵が転移してきて攻撃を再開する。

 

「さっきからこれの繰り返しだ。俺たちが倒しても倒しても現れる。しかし、タイミングといい、テロの方法といい、こちらの内情に詳しい奴がいるのかもしれない。案外、ここに裏切り者がいるのか?」

 

 呆れるようにアザゼルは息を吐く。

 

「ここから逃げられないんですか?

 

 イッセーの質問にアザゼルは首を横に振る。

 

「逃げないさ。学園全体を囲う結界を解かないと俺たちは外へ出られない。だが、結界を解いたら人間界に被害を出すかもしれないだろ。俺は相手の親玉が出てくるのを待っているんだよ。しばらく篭城していれば痺れを切らせて顔を出すかもな。早く黒幕を知りたいもんだ。それに下手に外へ出て大暴れすると敵の思う壺かもしれないってわけだ」

 

 じゃあこのまま待つのかな?

 

「というように、我々首脳陣は下調べ中で動けない。だが、まずテロリストの活動拠点となっている旧校舎からギャスパーくんを奪い返すのが目的となるね」

 

 と、サーゼクスが言う。まっ、あいつに動きを停められてる間に他の奴にグサッと殺されたらマズイもんな。

 

「お兄さま、私が行きますわ。ギャスパーは私の下僕です。私が責任を持って奪い返しに行きます」

 

 強い意志を瞳に乗せて部長が進言する。サーゼクスはふっと笑う。

 

「言うと思っていたよ。妹の性格ぐらい把握している。――しかし、旧校舎までどう行く? この新校舎の外は魔術師だらけだ。通常の転移も魔法に阻まれる」

 

「――つ」

 

 部長が口ごもる。俺は1枚の栞を懐から出す。

 

「これを使えば旧校舎の部室まで転移できます」

 

「え!?」

 

「これは俺が以前創っておいた魔法で妨害されずに、栞に登録された場所へ転移できることのできる魔道具なんです。使いきりで、もともと1人用ですが、2人までなら転移可能です」

 

「それがあれば部室までいけるな」

 

「ちなみにどこに出るの?」

 

「…………シャワールームの前です」

 

「…………いまは深くは聞かないでおくわ」

 

 で、誰がギャスパーを助けに行くとなったんだが、1人はリアスで、もう1人は――。

 

「俺が行きます!」

 

 とイッセーが手をあげた。

 

「そうね。エイジはギャスパーを視界に入れれないし」

 

 と部長が言い。2人でギャスパーを救出作戦に向かうことになった。

 

 ううっ……きちんとギャスパーを克服していれば……。

 

 そのあとイッセーはアザゼルから対価無しで禁手化でき、神器を制御できるようになるリングをギャスパーの分と合わせて2つ貰って、旧校舎へと転移する用意を始めた。

 

「さてと……じゃあ、神城、ヴァーリ」

 

「なんだよ、アザゼル」

 

「おまえらは外で敵の目を引け。黒い捕食者と白龍皇が前に出てくれば、野朗どもの作戦も多少は乱れるだろうさ。そてに何かが動くかもしれない」

 

「俺はいいぜ。り……、部長たちの存在を少しでもあちら側に気づかれない状況にしたほうがいいからな」

 

 俺は二つ返事でうなずいたが、ヴァーリはうなずかない。

 

「俺がここにいることはあっちも承知なんじゃないかな?」

 

「だとしても、転移不能な場所で赤龍帝が中央に転移してくるとまでは予想していないだろう。注意を引きつけるのは多少なりとも効果はあるさ」

 

「旧校舎のテロリストごと、問題になっているハーフヴァンパイアを吹き飛ばしたほうが早いんじゃないかな?」

 

「和平を結ぼうってときにそれはやめろ。最悪の場合、それにするが、魔王の身内が助けられるなら、助けたほうがこれからのためになる」

 

「了解」

 

 アザゼルがそこまで言ってやっとうなずいたヴァーリ。

 

 カッ! ヴァーリの背中に光の翼が展開する。

 

「へぇ、キレイなもんだな」

 

 光り輝く翼に感想をもらすと、ヴァーリはふっと笑った。

 

「―― 禁 手 化 (バランス・ブレイク)

 

『Vanisihing Dragon Breaker!!!!!!』

 

 音声のあと、ヴァーリの体を真っ白なオーラが覆う。光が止んだとき、奴の体は白い輝きを放つ全身鎧(フル・プレート)に包まれていた。最後にマスクがシュバッとヴァーリの顔を覆った。

 

 イッセーが禁手化したヴァーリに注目していた。おそらく、自分と違って完璧に禁手になれるヴァーリとの力の差を感じているんだろう。

 

「さてと……俺も新に得たインキュバスの能力でも使うか」

 

 そう言いながらバッと背中にサキュバスの羽と先がハート型になっている漆黒の尻尾を出した。

 

「なんだ? インキュバスの能力を使えるようになったのか?」

 

 アザゼルが訊いてくる。

 

 俺は尻尾を動かしながら言う。

 

「ああ。かなり苦労と修行を重ねてサキュバスに力の使い方を教わったりして、だいたい6割から7割ほどサキュバスの……いや、インキュバスの能力を自在に使えるようになったな。まあ、その代わり本来の能力が不安定になって、本来の能力は使えなくなっているがな」

 

「おいおい、それでだいじょうぶなのか?」

 

「サキュバスの能力は攻撃性がないのに、だいじょうぶなの?」

 

 アザゼルと心配そうな顔になったリアスが訊ねてくる。

 

 俺は自身を満々でうなずく。

 

「ああ。だいじょうぶだ。俺は能力だけじゃなくて戦闘技術も磨いているからな。それにインキュバスとなった俺の初のデビュー戦だ。思う存分暴れさせてもらうさ」

 

 窓のほうを向いてヴァーリの隣に並ぶ。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「ええ。いってらっしゃい」

 

 俺はリアスの言葉を背に戦場へ飛び出した――。

 



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第35話 激戦 赤龍帝VS白龍皇

 

<エイジ>

 

 

 俺とヴァーリは戦場の真ん中まで移動すると、左右に離れた。

 

 ドドドドドドドンッ!

 

 離れたところでヴァーリが魔術師風の敵に一騎当千の活躍を見せていた。夜の空に光の軌跡を描きながら、魔術師の集中砲火をまったく気にもせずに宙を舞い、大質量の波動弾を校庭に放っていた。

 

 俺は地上に脚をつけて魔術師たちの攻撃をさばいていた。必要最低限の力で避けながら、防御しながら魔術師たちを集める。

 

 チラリとヴァーリがこちらを見た。おそらく俺の力量が見たいのだろう。

 

 ふふふっ、それなら存分に見せてやろうじゃないか! インキュバスの能力が戦闘に使えることを! 男は普通に滅殺だか、インキュバスが女に相手の戦闘にどれだけ有効かを見せてやろう!

 

 俺は様々な魔法が飛び交うなか両手を広げた。

 

「さあ、俺の新たな力! そして黒い捕食者の名がダテではないことを証明しよう!」

 

 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!

 

 俺は高速で移動して近くにいた魔術師から駆逐していく。

 

 男は手から出した魔力弾を至近距離で放って消滅させ、女は瞬間移動しながら魔術師ローブの上からや、服の中に尻尾を侵入させて胸とオマンコ、尻の穴はもちろん、全身の性感を刹那の間に刺激し、過剰な快楽を脳へ送られた。

 

 快楽を脳へ送られた女は、一瞬の間に感じた快楽によって脳内麻薬を過剰なまで分泌させられ、一瞬でアヘ顔になり、全身の穴を緩ませながら地に崩れ落ちていった。

 

 他人からは俺が現れ消えるたびに男が消え、女が崩れ落ちるように見えているはずだ。

 

「いやぁぁぁぁあッッ!」

 

「あひぃぃぃぃいいッ!」

 

「あうんぅぅぅぅッ!」

 

 ヴァーリのところからは破壊音が、俺のほうからは艶のある女の断末魔が響いた。

 

 俺が夢中になって女のオマンコに尻尾を突っ込んで気絶させながら倒していたときだった。

 

 ドッガァァァァァアアアアアンッ!

 

 アザゼルが堕ちていた。え? なにが起こったの? 夢中になりすぎて全然状況がわからないんですけど?

 

「エイジ!」

 

 と、リアスが旧校舎の玄関に登場した。イッセーも少し怪我しているみたいだったがだいじょうぶそうで、ギャスパーもきちんといた。

 

 少し離れた位置にいる部長に大声で言う。

 

「よかった! 救出は成功したんですね!」

 

「ええ! こっちは作戦成功だけど……」

 

 アザゼルのほうに部長は視線を向けた。俺もアザゼルのほうを見ると、ヴァーリに話しかけていた。ってかアザゼル、結構ダメージ受けてるな。

 

「……チッ。この状況で反旗か、ヴァーリ」

 

「そうだよ、アザゼル」

 

 まばゆい輝きを放ちながら、リアスたちの前にヴァーリが降りた。その傍らには肌の露出が激しいスリットの深く入ったドレスに身を包んだ女がいた。

 

「和平が決まった瞬間、拉致していたハーフヴァンパイアの神器を発動させ、テロを開始させる手筈でした。頃合いを見てから私と共に白龍皇が暴れる。3大勢力のトップの1人でも葬れれば良し。会談を壊せばそれで良かったのです」

 

 女が説明してくる。ってヴァーリが裏切り者かよ。しかもイッセーが女にすげぇ厭らしい顔を向けてる。余裕もないのによく欲情できるな。

 

「いやらしい視線を感じるわ。――その子が赤龍帝なのですか、ヴァーリ」

 

「ああ、残念ながら、そうだよ。本当に残念な宿主なんだ」

 

「残念残念言うな! 俺だって懸命に日々を生きてんだ! ……って、なんでおまえとアザゼルが対峙している? つーか、その姉ちゃん誰だよ?」

 

 アザゼルとヴァーリのやり取りを見てまだ状況理解できないのかおまえは……。

 

「エイジまで残念そうな顔で見るなぁぁぁ!」

 

 女は哀れむような視線でイッセーに見た。

 

「なるほどね。本当に残念な子みたいね。ヴァーリ、殺すの?」

 

「どうしようか迷っているのが本音だ。正直、俺は彼にそこまで期待をかけているわけじゃないんだ」

 

「……まったく、俺もやきが回ったもんだ。身内がこれとはな……」

 

 自嘲するアザゼル。

 

「いつからだ? いつから、そういうことになった?」

 

「コカビエルを本部へ連れ帰る途中でオファーを受けたんだ。悪いな、アザゼル。こちらのほうがおもしろそうなんだ」

 

「ヴァーリ、『白い龍』がオーフィスに降るのか?」

 

 オーフィス? 確か無限龍のオーフィスだったか? そいつかボスなのか?

 

「いや、あくまで協力するだけだ。魅力的なオファーをされた。『アースガルドと戦ってみないか?』――こんなことを言われたら、自分の力を試してみたい俺では断れない。アザゼルは、ヴァルハラ――アース神族と戦うことを嫌がるだろう? 戦争嫌いだもんな」

 

 ってヴァルハラってセルベリアの故郷じゃん!? それにヴァーリってマジで戦闘狂なんだな。

 

「俺はおまえに『強くなれ』とは言ったが、『世界を滅ぼす要因だけは作るな』とも言ったはずだ」

 

「関係ない。俺は永遠に戦えればいいんだ」

 

「……そうかよ。いや、俺は心のどこかでおまえが手元から離れていくのを予想していたのかもしれない。――おまえは出会ったときから今日まで強い者との戦いを求めていたものな」

 

「今回の下準備と情報提供は白龍皇ですからね。彼の本質を理解しておきながら、放置しておくなど、あなたらしくない。結果、自分の首を絞めることになりましたね」

 

 と女がアザゼルを嘲笑した。

 

 苦笑するアザゼルを尻目にヴァーリは自身の胸に手を当て、イッセーに向かって言う。

 

「俺の本名はヴァーリ。ヴァーリ・ルシファーだ」

 

 ルシファー?

 

「死んだ先代の魔王ルシファーの血を引く者なんだ。けど、俺は旧魔王の孫である父と人間である母との間で生まれた混血児。――『白い龍』の神器は半分人間だから手に入れたものだ。偶然だけどな。でも、ルシファーの真の血縁者でもあり、『白い龍』でもある俺が誕生した。運命、奇跡というものがあるなら、俺のことかもしれない。――なんてな」

 

 ブンッ!

 

 俺が話しに聞き入っていると目の前の女が切りかかかってきた。

 

 魔術師じゃないのかよ!

 

 そこからヴァーリが寝返った分の敵を倒すために断片的にしか話を訊けなかったが、ヴァーリの隣にいた女はカテレア・レヴィアタンと、セラフォルーがレヴィアタンになる前の旧魔王の血筋のものらしく、しかも旧魔王はほとんど、オーフィスがトップであるテロ組織の『禍の団(カオス・ブリゲード)』に入ったそうだ。

 

 しかもアザゼルは人工神器なるものを使い擬似禁手化して、黄金の全身鎧に身を包みカテレアと戦闘を開始し、リアスとギャスパー。イッセーとヴァーリはそれを観戦していた。

 

 敵の数が減ってきたところで、加勢に来ていた木場とゼノヴィアに雑魚敵を任せて、そろそろアザゼルたちに加勢に行こうかと思っていたら、腕を触手のように変化させたカテレアにアザゼルが左腕を捕らえられ、自爆のカウントダウンに入っていた。

 

「アザゼル!」

 

 おまえが死んだら3大勢力の会談が破綻して、部長の処女が貰えなくなる!

 

「ゼノたん! 木場! ここは任せたぞ!」

 

「ああ!」

 

「え? わ、わかったよ!」

 

 俺はインキュバスの切り札を持ってカテレアへ向けて高速で接近した。

 

 バシュッ!

 

 俺がアザゼルとすれ違う瞬間――。アザゼルが自分の左腕を切り落とした。

 

「ッ!? 自分の腕を!?」

 

「なっ!? 神城!?」

 

 驚くカテレアと驚愕のアザゼル。

 

「切り落として逃げれるならもっと早くしろや!」

 

 俺はカテレアの胸にダイブした。

 

「なに勝手に捕まりにいってるんだ!?」

 

「おまえを助けてやりにきたんだろうがっ!」

 

 カテレアがニヤリと笑みを浮べて触手を俺の腰を何十にも巻きつけてきた。

 

「アハハハハハッ! アザゼルは無理だったが、黒い捕食者! おまえだけでも道連れにしてやる!」

 

 自爆用の術式に魔力を溜めていくカテレア。結構魔力が多いな。オーフィスから何かもたったって言っていたし。

 

 俺の背後でリアスとイッセーの叫び声が聞こえた。

 

「エイジッ!」

 

「エイジッ!」

 

どんどん集まっていく魔力! もう爆発寸前だ!

 

「くっ、仕方がない! り、リアス。すみません」

 

「エイジ! 何を言ってるの!」

 

 涙を流しながら叫ぶリアス。って、死ぬ前の言葉じゃありませんよ!?

 

「かなりヤバイ状況なので、封印していたインキュバスの真の能力を解放します!」

 

「へ?」

 

 間の抜けた声が聞こえたが、それどころじゃなかった。

 

「ふっ、何をするつもりか知らないけど、あと10秒もしない内に爆発――っ!」

 

 チュュュウッ!

 

『なっ!?』

 

 驚きの声がいくつも聞こえた。まあ、そうだろう。カテレアの唇を奪っているんだから。

 

「うぼっ!? うぅっ!」

 

 カテレアの目が大きく見開き、自分が触手で捕らえているのも忘れて、触手にしていないほうの腕で俺を押しのけようとしてくるが、俺は唇を離さないっ!

 

 ジュルルルルっ!

 

 カテレアの唾液ごと爆発に使用するはずだった魔力を吸引する。

 

 くっ! だが、まだ吸引率が間に合わないな。やはり切り札を使用するか。

 

 俺は尻尾を持上げる。

 

 パカッ。

 

 尻尾のハートが2つに割れて、間から無数の尻尾を生やした。

 

 シュルルルルゥゥゥ……。

 

「――っ!」

 

 カテレアの体に細い無数の尻尾が絡み付きカテレアの体を締め上げる。

 

 カテレアの大きな胸が醜く歪み、何本もの尻尾がスリットから侵入し、蠢く。

 

 カテレアの口から甘い悲鳴が漏れ、体が痙攣し始める。

 

「あぶぅんっ! ど、どこに入ってっ――んんっ!? あふぁ……だ、ダメぇぇぇ……」

 

「お、おお、これは……」

 

「なかなか……」

 

 後でイッセーとアザゼルの息を飲む声が聞こえたが、まだまだ、これからだ! 

 

 吸精ならぬ吸魔!

 

 黒歌たちとのセックスと依頼を受けたセックスで何度も修行してやっと精気と魔力を吸い分けることに成功したインキュバスの奥義!

 

 無数に増やした尻尾を体を拘束し、さらにオマンコとアナルから何本も尻尾を侵入させ、体内から魔力を吸い上げる。

 

 ジュブブブブブブブブブブブッッ!

 

 さらに尻尾が高速振動し始め急激に魔力を吸い上げる。さらに尻尾にはかなり強い媚薬となる体液が分泌され、性感も刺激されているので、絶頂状態となり体の力が抜け落ちて抵抗できなくなる。魔力を抜かれることでさらに虚脱感が生まれ、なす術もなく一方的に倒されてしまう極悪な絶技なのだ!

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あぁああああああああああッッ!」

 

 カテレアの体から完全に魔力が抜け落ち、体から完全に力が抜け、触手からも解放される。

 

 抵抗できないまで魔力を搾り取った俺はカテレアを解放する。

 

 唇を離し、尻尾をもとの一本に戻す。

 

「ごちそうさま」

 

 そう言った瞬間――カテレアの体は地面へ崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アヘ顔状態で気絶したカテレアを抱えてアザゼルの元へ移動する。

 

「おい、神城。あれがインキュバスの能力か?」

 

 アザゼルが訊いてきた。俺は自身を持って答える。

 

「ああ。通常のサキュバスは精気しか吸い込むことしかできないが、俺はその技をさらに次の段階へ進め、魔力や気。あらゆる力を吸いとれるようにしたんだ」

 

「さっきのカテレアの魔力は魔王クラスに近かったんだぞ。それをすべて吸い込めるっておまえ、どれだけ力を隠しているんだ?」

 

「さあな。それよりも左腕はだいじょうぶなのか?」

 

「ああ。別に心配ねぇよ」

 

 そこにリアスたちが近づいてきた。

 

「エイジ!」

 

「エイジ先輩!」

 

 リアスが目に涙を流しながら抱きついてきた。

 

「本当に……心配したんだからっ!」

 

「死んじゃうかと思いました!」

 

 ギャスパーも涙目だ。ふっ、カテレアからたっぷり吸いとったから見ても平気だぜ。

 

 イッセーはというと……別の意味の涙を流していた。

 

「エイジぃぃぃぃっ! おまえは毎回毎回ッ! なんてうらやましいことをしているんだぁぁぁぁああっ!」

 

 そう言って叫ぶイッセーの気持ちに呼応するかのように赤龍帝の籠手の宝玉が光り輝いていた。

 

 そこにヴァーリが問いかけてきた。

 

「しかし、運命ってのは残酷だとは思わないか?」

 

 アザゼルは即座にヴァーリに向かって構えをとったが、ヴァーリは関係ないと話し始めた。

 

「俺のように魔王プラス伝説のドラゴンみたいな思いつく限りの最強の存在がいる反面、そちらのようにただの人間に伝説のドラゴンが憑く場合もある。いくらなんでもこの偶然は残酷だと俺は思うな。ライバル同士のドラゴン神器とはいえ、所有者2名の間の溝はあまりに深すぎる」

 

 おお、イッセー。ぼろくそに言われてるのに、言われていることに気づかずにポカンとしてる。

 

「キミのことは少し調べた。父は普通のサラリーマン。母は普通の専業主婦で、ためにパートに出ている。両親の血縁はまったくもって普通。先祖に力を持った能力者、術者がいたわけでもない。もちろん、先祖が悪魔や天使に関わったこともない。本当に何の変哲もない。キミの友人関係も特別な存在はいない。キミ自身も悪魔に転生するまで極普通の男子高校だった。――ブースデット・ギア以外、何もない」

 

 ヴァーリは哀れむような表情で、イッセーを嘲笑う。

 

「つまらないな。『ああ、これが俺のライバルなんだ。まいったな』って。せめて親が魔術師ならば、話は少しでも変わったかもしれないが……。そうだ! こういう設定はどうだろうか? キミは復讐者になるんだ!」

 

 ヴァーリは思いついたことを話した。

 

「俺がキミの両親を殺そう。そうすれば、キミの身の上が少しはおもしろいものになる。親を俺のような貴重な存在に殺されれば晴れて重厚な運命に身を委ねられるとは思わないか? うん、そうしよう。どうせ、キミの両親は今後も普通において、普通に死んでいく。そんなつまらない人生よりも俺の話した設定のほうが華やかだ! な?」

 

「殺すぞ、この野朗」

 

 ヴァーリの話しにイッセーが殺気を放ちながらつぶやいた。

 

「……おまえの言うとおり、俺の父さんは朝から晩まで家族のために働く極普通のサラリーマンだ。俺の母さんは朝昼晩と俺たち家族のためにうまい飯を作ってくれる普通の主婦だ。……でも、俺をここまで育ててくれた。俺にとって最高の親なんだよ」

 

 イッセーの力が静かに高まっていく。

 

「……殺す? 俺の父さんと母さんを? なんで、てめえなんかの都合に合わして殺されなくちゃいけないんだよ。貴重だとか、運命だとか、そんなの知るかよッ!」

 

 イッセーがヴァーリを睨む。

 

「やらせるか」

 

 左腕を掲げた。

 

「てめえなんぞに俺の親を殺されてたまるかよォォォォォォォォォッッ!」

 

『Wwlsh Dragon Over Booster!!!』

 

 音声が聞こえたと思ったら、イッセーの神器が真っ赤なオーラを解き放ち始め、イッセーの体が赤い全身鎧に包まれた。

 

「――っ。見ろ、アルビオン。兵藤一誠の力が桁違いに上がったぞ。怒りという単純明快な理由が引き金だが、これは……ハハハハ、心地よい龍の波動だな」

 

『神器は単純で強い想いほど力の糧とする。兵藤一誠の怒りは純粋なほど、おまえに向けられているのさ。――真っ直ぐな者、それこそドラゴンの力を引き出せる真理のひとつ』

 

「そうか。そういう意味では俺よりも彼のほうがドラゴンと相性がいいわけか」

 

 バカのほうが相性がいいのか。

 

「だが! 頭が悪いのはどうだろうか! 兵藤一誠! キミはドライグを使いこなすには知恵が足らなさすぎる。これは罪だよ」

 

「さっきからベラベラ俺がわからないことを言ってんじゃねぇぇぇぇぇっ!」

 

「そう! それこそ、バカというやつなんだ!」

 

 イッセーの背中部分の噴出口からオーラが噴きだして、イッセーがヴァーリに向かって飛び出し戦いの幕があがった。

 

 戦いはやはりイッセーが劣勢。龍殺しの剣を装備しているが当たらなければ意味はないし、イッセーの力は倍加、ヴァーリの力は半減だが、ヴァーリは半減させた力の一部を吸いとっているようで力が上がっていく。

 

 しかもイッセーに剣の才能はないから攻撃が当たることはなく、呆気なくカウンターをとられていた。

 

 このままじゃ、イッセーが何もできずに負ける、と思っていたら、イッセーは剣を籠手のなかに収納したままヴァーリの兜を殴りつけた。

 

 ヴァーリには予想外の攻撃方法だったらしく、イッセーの攻撃がヒットし兜を破壊させた。

 

 さらに半減させた魔力の噴出口で、神器の本体である翼に譲渡をかけて、吸いとる力と吐きだす力を一気に高めて暴走させた。

 

 そのコンボに慌てて距離をとろうとしたが、イッセーは逃がさないとヴァーリの腹部をアスカロン入りの籠手で殴りつけた。

 

 だがそこまでしてもヴァーリとイッセーの力の差は開いたままだ。

 

 そこでイッセーはヴァーリの鎧の欠片から宝玉を抜き取り、自分の右手の籠手の宝玉を叩き割り、ヴァーリの宝珠を叩き込んだ。

 

「ま、マジでやるのか!?」

 

 白龍皇の力を取り込む気なのか!?

 

「うがあああああああああああああああああッッ!」

 

 イッセーの口から絶叫が響く。

 

「ぬがあああああああああ! あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああっっ!」

 

 おいおい、いくらなんでもやべぇんじゃないか!?

 

 俺たちが溜まらず、止めに入ろうとしたところで、イッセーが叫んだ。

 

「俺の想いに応えろォォォォォォォッッ!」

 

『Vanisihing Dragon Power is taken!!』

 

 音声が鳴り終わるとイッセーの右手が白い籠手になっていた。

 

「……へへへ、『 白龍皇

の 籠手 (ディバイディング・ギア)』ってとこか?」

 

『あり得ん! こんなことはあり得ない!』

 

 ヴァーリの龍、アルビオンが驚愕の声音を出していた。

 

「いや、可能性は少しだけあった。俺の仲間が聖と魔を融合して、聖魔剣なんてものを創りだした。それは神がいないためにバランスは崩れているから、実現可能になったらしい。まあ、お偉いさん方の言葉を借りるなら。システムエラーとか、プログラムバグとかいう状態か? それをちょっと利用したのさ」

 

『……「神器プログラム」の不備について、実現させたというのか? いや、しかし、こんなことは……。思いついたとしても実際に行うのは愚かだ……。相反する力の融合は、何が起こるかわからない。それがドラゴンの関わるものだとしたら、死ぬかもしれなかったんだぞ? 否、死ぬほうが自然だ』

 

「ああ、無謀だった。――だが、俺は生きている」

 

 イッセーの言葉にドライグの嘆息する声が聞こえた。

 

『だが、確実に寿命を縮ませたぞ。いくら悪魔が永遠に近い時間を生きれるとしても――』

 

「一万年も生きるつもりないさ。だが、やりたいことは山ほどあるから、最低でも千年は生きたいけどな」

 

 パチパチパチ。

 

 ヴァーリがイッセーに向けて拍手を送った。

 

「おもしろい。なら、俺も本気を出そう! 俺が勝ったら、キミのすべてとキミの周りにあるものすべても白龍皇の力で半分にしてみせよう!」

 

 ヴァーリが空中に漂い、腕を大きく広げる。光の翼も大きく伸びていく。

 

「半分? 俺の力ならともかく、俺の周囲を半分にするってどういうことだ?」

 

 イッセーの問いかけヴァーリは哄笑をあげる。

 

「無知は怖い! 知らずに死ぬのも悪くないかもしれないな!」

 

『Half Dimension!』

 

 宝玉の音声と共にまばゆいオーラに包まれたヴァーリが眼下に広がる木々へ手を向ける。

 

 グバンッ!

 

 木々が一瞬で半分の太さになった。ま、まさか――。

 

 グバババババンッ!

 

 さらに周囲の木々が圧縮されるかのように半分になっていく。やはりか!

 

「イッセー!」

 

「なんだ、エイジ!」

 

「ヴァーリが本気になったら世の中の女性のおっぱいが半分にされてしまうぞ!」

 

「な、なんだと!?」

 

 驚愕のイッセー。そりゃそうだろう。おっぱい好きの巨乳好きであるイッセーにとってそれは世界の終わりを意味する。そして俺もおっぱいが半減させられてしまうのは嫌だ!

 

「イッセー! よく聞け! ヴァーリを倒さないと、リアスたちはもちろん。桐生さんいわく最近すごく成長しているアーシアのおっぱいが平たい何もない平原になるんだぞ!」

 

 イッセーの表情が無表情になる。

 

 そしてギギギ首だけ動かして信仰者で停止させられているアーシアのほうに視線を向けた。

 

「ふ……ふざけんなァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 イッセーが憤怒の表情でヴァーリを睨む。

 

「貴様ッッ! アーシアのォォォォォ! 俺のアーシアのおっぱいを平原にするつもりかァァァァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

『BostBostBostBostBostBost!!!!!』

 

 イッセーの鎧の各所にある宝玉から音声が幾重にも鳴り響いた。

 

「許さないッッ! 絶対にてめえだけは許さないッッ! ぶっ倒してやるッッ! ぶっ壊してやるッッ! ヴァーリィィィィィィィィッッ!」

 

『BostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBostBost!!!!!!!!!』

 

 イッセーの周囲が弾け飛んだ。立っいた地面も大きく抉れ、クレーターと化し、旧校舎の窓が全部割れ、外壁が崩れていった。

 

「さすがイッセー! おっぱいのためならどこまでも力を出す男!」

 

「アッハッハッハッハッ! なんだそりゃ!? マジかよ! 女の胸が小さくなるって理由でドラゴンの力が跳ね上がりやがった!」

 

 褒め称える俺とゲラゲラと爆笑するアザゼル。

 

 イッセーは指をヴァーリに突きつけた。

 

「アーシア・アルジェントに手を出してみろッ! 二度と転生できないぐらい徹底的に破壊してやらぁぁぁぁぁっ! この半分マニアがぁぁぁぁぁっ!」

 

 イッセーの叫びに夜空の雲が割れる。隠れていた満月が姿を現す。

 

「今日は驚くことばかりだ。まさか女の乳でここまで力が爆発するとはおもしろい!」

 

 ヴァーリがイッセーに向かって飛び込んでいくが、そのヴァーリよりもイッセーは俊敏に動き、ヴァーリを捕らえると――。

 

「これは部長おっぱいの分!」

 

 ヴァーリの腹部を右拳で殴る。

 

『Divide!!』

 

 同時に流れる音声。白龍皇の半減の力を使用したようだ。ヴァーリを覆うオーラが激減した。

 

「ぐはっ!」

 

 吐瀉物を口から吐きだすヴァーリにさらにイッセーは追撃をかける。

 

「これは朱乃さんおっぱいの分!」

 

 顔面への一撃でヴァーリの兜が割れた。

 

「これは成長中のアーシアおっぱいの分!」

 

 光の翼が発生している背中の噴出口を破壊した。

 

「これはゼノヴィアおっぱいの分!」

 

 勢いよく、空中高く蹴り上げる。

 

「最後だッ! これは半分にされたら丸っきりなくなっちまう小猫ちゃんのロリおっぱいの分だぁぁぁぁぁあああああああッッ!」

 

 イッセーが止めと猛スピードでタックルをかました。

 

「ガハッ!」

 

 吐血するヴァーリにイッセーが言い放つ。

 

「小猫ちゃんはなー! 小さいおっぱいを気にしてんだぞ!? それを半分!? アーシアの成長し始めたおっぱいを平原にだと!? 俺が許さない! おっぱいを奪うことを許さない! もともと小さいおっぱいがもっと小さくなる苦しみがおまえは理解できるのか!? この半分マニアめッ!」

 

 憤怒するイッセーに対してヴァーリは嬉々とした笑みを浮かべていた。

 

「……おもしろい。本当におもしろい」

 

『ヴァーリ、奴の半減の力に対する解析は済んだ。こちらの力の制御方法と照らし合わせれば対処できる』

 

「そうか。これであれは怖くないな」

 

 解析できれば対処できるのか? 俺もやっておこうかなぁ。

 

「アルビオン、いまの兵藤一誠ならば白龍皇の『 覇 龍 (ジャガノート・ドライブ)』を見せるだけの価値があるんじゃないだろうか?」

 

『ヴァーリ、この場でそれは良い選択ではない。無闇に『覇龍』となればドライグの呪縛が解けるかもしれないのだ』

 

「願ったり叶ったりだ、アルビオン。――『割れ、目覚めるは、覇の理に――』」

 

 ヴァーリが何かを唱えようとしたところでアルビオンが怒鳴る。

 

『自重しろ、ヴァーリッ! 我が力に翻弄されるのがおまえの本懐か!?』

 

 イッセーがトドメとばかりに一撃を放とうとしたところで、空から何者かが降りてきた。

 

「ヴァーリ、迎えに来たぜぃ」

 

 爽やかそうな顔つきの男性だった。そいつがヴァーリに話しかける。

 

美猴(びこう)か。何をしに来た?」

 

 ヴァーリは口元の血を拭いながら立ち上がった。

 

「それは酷いんだぜぃ? 相方のピンチだっつーから遠路はるばるこの島国までやってきたのによう? 他の奴らが本部で騒いでいるぜぃ? 北の田舎(アース)神族と一戦交えるから任務に失敗したのなら、さっさと逃げ帰って来いってよ? カテレアは――あの様子じゃ、ミカエル、アザゼル、ルシファーの暗殺に失敗したんだろう? なら監察役のおまえの役目も終わりだ。俺っちと一緒に帰ろうや」

 

「……そうか、もう時間か」

 

「なんだ、おまえは?」

 

 イッセーが乱入してきた男を指さして訊いた。

 

「――闘戦勝仏の末裔だ」

 

 アザゼルが答えた。

 

「ソッコーで把握できる名前で言ってやる。――奴は孫悟空。西遊記で有名なクソ猿さ」

 

「そ、そ、孫、悟空ぅぅぅっ!?」

 

 イッセーが驚きの声をだした。

 

「正確に言うなら、孫悟空の力を受け継いだ猿の妖怪だ。しかし、まさか、おまえまで『禍の団』入りとは世も末だな。いや、『白い龍』に孫悟空か。お似合いでもあるな」

 

「あとは豚と河童と三蔵法師だな! がんばって仲間を探せよ!」

 

 ゴンッ!

 

 あだっ! 

 

「いまはふざけるところじゃないでしょ」

 

 リアスに頭を殴られた。

 

「ハハハハッ! さすが黒い捕食者。この状況でも余裕だな!」

 

 猿が大きな声で笑い声を上げた。

 

「俺は仏になった初代とは違うんだぜぃ。自由気ままに生きるのさ。俺っちは美猴。よろしくな、黒い捕食者、赤龍帝」

 

 美猴は棍を手元に出現させるとくるくると回し、地面に突き立てた。すると地面に黒い闇が広がり、美猴はヴァーリを抱えてその影に沈むように消えた。

 

「待て! 逃すか!」

 

 と、イッセーが捕まえようとするが――。

 

 カッ!

 

 イッセーの神器は解除され、つけていたリングも崩れ去り、ヴァーリはイッセーに強くなるよう言ってから完全に気配を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘を終えて俺たちが校庭に足を踏み入れたとき、3大勢力の軍勢が入ってきて、戦闘後の処理を行っていた。

 

 サーゼクスが俺たちを捉えると、手をあげる。

 

「無事だったか。良かった。――アザゼル、その腕はどうした?」

 

 片腕のアザゼルを見てサーゼクスがアーシアに手を向ける。アーシアはそれに応じて、アザゼルの傷口に回復の神器を当てた。淡い緑色の光がアザゼルの腕の傷を癒すが、失った腕までは治らない。

 

「カテレアに捕まって自爆されそうになってな。仕方なく切り落とした」

 

「ん? カテレアは生きているようだが?」

 

 サーゼクスが俺が脇に抱えているカテレアを見て疑問符を浮べた。

 

 アザゼルが苦笑しながら言う。

 

「神城の奴が俺を助けようとしてな。俺が腕を切り取ったと同時にカテレアに飛びついて、カテレアの自爆に使おうとしていた魔力をすべて吸いとったのさ」

 

「切り損もいいところだよな」

 

 俺がつぶやいたあと、サーゼクスが謝罪した。

 

「そうか。彼女の件は悪魔側に問題があった。その傷に関しては――」

 

 サーゼクスの謝罪を切るように、アザゼルは「いらない」という意思を見せた。

 

「俺も……ヴァーリが裏切った」

 

「……彼は裏切ったか」

 

「もともと、力にのみ興味を注いでいた奴だ。結果から見れば、『ああ、なるほどね』と納得はできる。――だが、それを未然に防げなかったのは俺の過失だ」

 

 いつものアザゼルではない。やはりヴァーリに裏切られたことにショックを感じているようだ。

 

 ミカエルがアザゼルとサーゼクスの間に入る。

 

「さて、私は一度天界に戻り、和平の件と『禍の団』についての対策を講じておきます」

 

「すまないな、今回このようなことになって。会談の場をセッティングした我々としては不甲斐なさを感じている」

 

「サーゼクス、そう責任を感じないでください。私としては3大勢力が和平の道を共にすすめることに喜んでいるのですよ? これで無益な争いも減るでしょう」

 

「ま、納得できない配下も出るだろうがな」

 

「それは仕方がありません。長年憎しみ合ってきたのですから。しかし、これからは少しずつでも変わっていきましょう。――問題はそれを良しとしない『禍の団』ですけどね」

 

「それについては今後連携を取って話し合おう」

 

「では、私は一度天界へ帰ります。すぐに戻ってきますので、そのとき正式な和平協定を結びましょう」

 

 と、この場をあとにしようとするミカエルと木場の目が合った。

 

「ミカエルさま、例の件、お願いします」

 

 と木場が頭を下げた。

 

「あなたから進言のあった聖剣研究のことも今後の犠牲者を出さぬようにすると、あなたからいただいた聖魔剣に誓いましょう。大切な信徒をこれ以上無下にすることは大きな過ちですからね」

 

「やったな! 木場!」

 

「うん、ありがとう、イッセーくん」

 

 イッセーと木場のやり取りを微笑ましくみていたミカエルにアザゼルが言う。

 

「ミカエル、ヴァルハラの連中への説明はおまえがしておけよ。下手にオーディンに動かされても困るからな。あと、須弥山(しゃみせん)にも今回のことを伝えておかないとうるさそうだ」

 

「ええ、堕天使の総督と魔王が説明しても説得力がないでしょうから、私が伝えておきます。『神』への報告は慣れていますから」

 

 それだけ言い残すとミカエルは大勢の部下を連れて天へと飛んでいった。

 

 アザゼルが堕天使の軍勢を前に言い放つ。

 

「俺は和平を結ぶ。堕天使は今後一切天使と悪魔とは争わない。不服な奴は去ってもいい。だが、次に会うときは遠慮なく殺す。ついてきたい者だけ俺についてこい!」

 

『我らが命、滅びのそのときまでアザゼル総督のためにッッ!』

 

 怒号となった部下たちの忠誠。かなり慕われているようだな。

 

 アザゼルは「ありがとよ」と小さく礼を言うと、堕天使たちに指示を出し、堕天使たちはその指示に従い転移の魔法陣を展開させて消えていった。

 

 最後に残ったアザゼルがサーゼクスに手を振る。

 

「後始末はサーゼクスに任せる。俺は疲れた、帰るぞ」

 

 そして魔法陣を展開させようとしたところでこちらのほうを向いて言った。

 

「そうだ、赤龍帝。当分、ここに滞在する予定だからそっちのリアス・グレモリーの『僧侶』ともども世話してやるよ。制御できないレア神器を見るのはムカつくし、神城の要求でアドバイザーを送る手筈だったしな」

 

「え?」

 

 間の抜けた声を出してアザゼルと俺を見るイッセー。

 

「赤は女を。白は力を。――どちらも驚くほどに純粋で単純なもんだ」

 

 アザゼルはそれだけ言うと、口笛を吹きながら去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西暦200××年7月――。

 

 天界代表天使長ミカエル、堕天使中枢組織『神の子を見張る者《グリゴリ》』総督アザゼル、冥界代表魔王サーゼクス・ルシファー、3大勢力格代表のもと、和平協定が調印された。

 

 以降、3大勢力の争いは禁止事項とされ、協調体制へ――。

 

 この和平協定は舞台となった俺たちの学園から名を採って『駒王協定』と称されるようになった。

 



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第36話 新任教師アザゼル

 

<エイジ>

 

 

「てなわけで、今日からこのオカルト研究部の顧問となることになった。アザゼル先生と呼べ」

 

 着崩したスーツ姿のアザゼルがオカルト研究部の部室にいた。

 

「……どうして、あなたがここに?」

 

 額に手を当て、困惑している様子のリアス。

 

「神城から訊いていないのか? 神器のアドバイザーを要求されたんでな。そこで神器に一番詳しい俺がやってきたんだよ」

 

「エイジぃぃ?」

 

「いや、俺もまさかこいつが来るとは思ってなかったんですよ」

 

「まさかアドバイザーが堕天使の総督だとは想わないよな~」

 

 と、イッセーが言い、なんとかリアスの怒りがアザゼルへ戻った。

 

「セラフォルーの妹に頼んだら、この役職をもらってな! まあ、俺は知的でチョーイケメンだからな。女生徒でも食いまくってやるさ!」

 

「それはダメよ! ってソーナがそんなことを」

 

「堅いな、リアス・グレモリー。いや、何。サーゼクスに頼んだら、セラフォルーに言えと言うんだ。だから頼んだ」

 

「それはわかったが、その腕は? 千切れたのをまたくっつけたのか?」

 

 俺の問いにアザゼルは答える。

 

「いや、腕は切ったあと消滅したからな。これは神器研究のついでに作った本物そっくりの義手だ。光力式レーザービームやら、小型ミサイルも搭載できる万能アームさ。一度、こういうの装備してみたかったんだよな。片腕を失った記念に装着してみたわけだ」

 

 バシュッ! アザゼルの左腕が飛びだした。くるくると横に何回転もする。

 

 おおっ、本物そっくりな分気持ち悪っ!

 

「俺がこの学園に滞在できる条件はグレモリー眷属の悪魔が持つ未成熟な神器を正しく成長させること。まあ神器マニア知識が役に立つわけだ。おまえらも聞いただろうが、『禍の団』ってけったいな組織がある。将来的な抑制力のひとつとして、『赤い龍』とおまえら眷属の名が挙がった。というよりも、対『白い龍』専門だな。仕入れた情報では、ヴァリ覇自分のチームを持っているって話だ。仮に『白龍皇眷属』とよんでおくか。判明しているメンツはいまのところヴァーリと孫悟空を合わせた数名だ」

 

「ヴァーリたちはまたここを攻めてくるんスか?」

 

 イッセーの問いかけにアザゼルは首を横に振った。

 

「もう攻めてこないだろうさ。いちおうチャンスだった3大勢力のトップ会談での暗殺だが、それも失敗した。奴らの当面の相手は天界、冥界だ。冥界は俺の命令で堕天使が悪魔と共闘する。そう簡単に冥界を落すことはできない。天界もセラフの連中が黙っていないだろう。それに天界には居候の強い聖獣、魔獣もいるしな」

 

「……戦争か」

 

「いや、まだ小競り合いレベルだな。奴らも俺たちも準備期間と言える。安心しろ、おまえらがこの学園の高等部どころか、大学部を卒業するまで戦なんて起きやしない。学園生活を満喫しとけ。――ただ、せっかくの準備期間だ。いろいろと備えようじゃねぇか」

 

「うーん……」

 

「赤龍帝、難しく考えるな。どうせ、脳が足りねぇんだから、余計な心配をしても埒が明かんぞ。おまえの敵はあくまで白龍皇ヴァーリだ。それだけは忘れるな」

 

 イッセーの顔つきが変わる。目標が定まったからだろう。

 

「おまえがヴァーリを退けたのは、ミカエルからもらった龍殺しの剣と赤龍帝の力が合わさったからだ。あと、奴は手を緩めていた。そうじゃなければ負けていたな。というよりも今回は相性のおかげで戦えたに過ぎない。仮にヴァーリが並みの力を持つドラゴン以外の存在だったら、おまえは殺されていた」

 

 アザゼルの言う通り、おそらく大したダメージも与えられずに負けていたな。

 

「それで、白龍皇の力はあれから使えるのか?」

 

「いえ、まったく機能しません」

 

「だろうな。あんな強力なもの、そう簡単に扱えるはずがない。他のドラゴンの力を取り込むまではいい。それを自由に使えるかはまた別だ。下手をすれば禁手に至るより難しい技術かもしれない。だが、一度取り込んだ力はドライグの魂に登録されているだろう。あとは修行しだいだな。――それも地獄のようなしごきを長期的にこないしてだ。弱いくせに無茶に張り切ると死ぬぞ」

 

 アザゼルがイッセーに忠告する。

 

「赤龍帝の力も不安定すぎる。爆発力は凄まじいが、それも一時だ。相手が格下ならそれで瞬時に倒せるだろうが、格上の相手には封殺される。おまえも悪魔としてレーティングげーむにも参加するなら、強大な赤龍帝の力を安定させろ。それもこれも、まずは禁手になってからだな。かといって、レーティングゲームも一筋縄じゅない。駒の消費1つの『兵士』が『王』をとるなんてことも起こる」

 

「エイジみたいにイレギュラーとかですか?」

 

「いや、そういうことだけでなく、すべては戦いしだいなんだ。それも含めておまえらに教えないとな」

 

「レーティングゲームに詳しいんだな」

 

「ゲームのファンは悪魔だけじゃなんだぜ? 和平協定のおかげでゲームを堂々と観戦する天使や堕天使も多く出るだろうよ」

 

「とりあえず、長時間戦える体作りからだな」

 

「……はい」

 

 イッセーはアザゼルを真剣な表情で見る。

 

「俺、強くなれますか?」

 

 アザゼルはにんまりと悪戯な笑みを見せて答えた。

 

「強くさせてやるよ。俺は暇な堕天使さまだからな」

 

 気合の入ったような表情のイッセー。アザゼルはそして木場のほうを向いた。

 

「そうだ、聖魔剣の。おまえ、禁手状態でどれぐらい戦える?」

 

「現状、一時間が限界です」

 

「ダメだな。最低でも3日は継続できるようにしろ」

 

 アザゼルの言葉で木場もイッセーと同じように気合の入った表情になっていた。

 

「お、俺は、限定条件付きで10秒ですけど……」

 

 恐る恐る言うイッセーにアザゼルは半眼になっていた。

 

「おまえは一から鍛え直す。白龍皇は禁手を一ヶ月は保つぞ。それがおまえとの差だ」

 

 まっ、まずは完璧な禁手を目指さないとな。

 

 次にアザゼルの視線が朱乃さんへ向いた。

 

「まだ俺らが――いや、バラキエルが憎いか?」

 

 バラキエル……朱乃さんの父親だったな。朱乃さんは厳しい表情で返す。

 

「許すつもりはありません。母はあのヒトのせいで死んだのですから」

 

「朱乃、おまえが悪魔に降ったとき、あいつは何も言わなかったよ」

 

「当然でしょうね。あのヒトが私に何かを言える立場であるはずがありません」

 

「そういう意味じゃねぇさ。いや、まあ俺がおまえら親子の間に入るのも野暮か」

 

「あれを父だとは思いません!」

 

 朱乃さんはそうハッキリと言い切った。

 

「そうか。でもな、俺はおまえがグレモリー眷属になったのは悪かないと思うぜ。それ以外だったらバラキエルもどうだったかな」

 

 アザゼルのその言葉で朱乃さんは何も返すことはなかった。ただ黙って、複雑そうな表情を見せていた。

 

 で、話がひと段落したところで疑問を口にする。

 

「結局、俺もヴァーリ専門なのか?」

 

 ヴァーリは瞬殺できる相手なんだが?

 

 アザゼルは首を横に振った。

 

「いや、おまえはもちろん違うさ。というか、おまえ、あとどれだけ力を隠しているんだ?」

 

「隠している力?」

 

「とぼけるんじゃねぇよ。ヴァーリもオーフィスの力で強化されたカテレアの魔力をすべて吸い出すことは出来ないんだぞ。だが、おまえはカテレアの魔力を吸い出せた。吸い出せたってことは器がそれだけでかいってことだ。魔王クラスの魔力を吸い取っても顔色ひとつ変えず、さらに吸い出したはずの魔力分おまえの魔力が上がったわけでもない」

 

 アザゼルは真剣な顔で俺を見る。

 

「おまえは俺の見立てじゃ――グレード・レッドやオーフィス並みの力は秘めている」

 

「グレード・レッド? オーフィス? なんだそれ?」

 

 イッセーの頭に疑問符が浮ぶ。すると、イッセーの左腕に籠手が現れ、ドライグが説明する。

 

『白いのが言っていた不動の1位。偉大なる赤、『 D × D (ドラゴン・オブ・ドラゴン)』、『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』と、無限龍、『ウロボロス』のオーフィス。世界最強のドラゴンたちだ』

 

「エイジがその世界最強クラスだと言うの……?」

 

「世界最強……」

 

 リアスやイッセーたちが息を飲んで俺を見た。

 

 部室のなかの視線が集まり、俺は肩をすくませて言う。

 

「力を隠しているわけじゃねぇよ。ただリミッターを常につけているだけだ」

 

「リミッターか……」

 

「ああ。まっ、解放すれば世界最強なんだろうけど。いまのところ開放する気はないな」

 

「…………そうか」

 

 アザゼルはそれだけつぶやくと、イッセーに向き直った。

 

「おい、赤龍帝――イッセーでいいか? イッセー、おまえ、ハーレムを作るのが夢らしいな?」

 

「ええ、そうっスけど……」

 

「俺がハーレムを教えてやろうか? これでも過去数百回ハーレムを形成した男だぜ? 話を聞いておいて損はない」

 

「マ、マ、マママママッマママ、マジっスか?」

 

「ああ、マジだ。おまえ、童貞か?」

 

「は、はい!」

 

「よし、女を教えてやる。適当に美女でもひっかけて男になったほうがいいな。これでも俺は人間の女の乳を揉んで堕ちた身の上だ。エロに関して妥協はねぇさ」

 

「そ、そんなことで堕ちたんスか!? え? マジで!?」

 

 イッセーの疑問に俺とリアスで答える。

 

「ああ。そいつは童貞卒業して堕ちた天使だぞ。結構有名な話だ」

 

「ええ、伝承の通り、グレゴリの幹部たちは人間の美女に誘惑されて、天界の貴重な知識を教えてしまって堕ちたのよ」

 

 それを聞いてアザゼルは笑っていた。

 

「あの頃は俺たちも若くてな。童貞丸出しで『神さまはエラい!』、『神さまはスゴい!』って妄信したもんだ。ハハハッ、結局誘惑に負けて女抱きまくったら、童貞失って、天使の位も失っちまった」

 

 イッセーが感動したような目でアザゼルを見た。

 

「あー、なんだか、急に堕天使たちに親近感が湧いてきたよ」

 

「おおっ、話がわかるじゃねぇか。そうだ、男なら欲望のままに生きろ。女を食らえ! 抱いて抱いて抱きまくれば、自身と共に強さもついてくる。――俺が卒業式をプロデュースしてやろう。部下の美少女堕天使を何人か紹介してやる。伝説のドラゴンが相手ならあいつらも喜んで抱かれるだろう」

 

「うおおおおおっ! マジで!? 卒業できるんですか!? 俺、先生についていきます!」

 

「おー、そうか。よし、じゃあ童貞卒業ツアーにでも出かけるか」

 

 目を輝かせるイッセーとどこかを指差してポーズを決めるアザゼル。

 

「まさに、エロ師弟の誕生だな」

 

 俺がため息を吐きながら言うと、アザゼルがこちらを見て悪戯な笑みを浮かべた。

 

「なに言ってやがる。おまえはある意味俺よりたちがわるいじゃねぇか。カテレアも襲撃に参加していた女たちも足腰立たなくなるほど絶頂させて倒すし。通り名の本当の由来――こいつらにも教えてやろうか?」

 

 ――っ!

 

「あ、あああ、アザゼルっ! そ、それは……」

 

「本当の由来? 魔力が黒いとか、敵を圧倒的な力で駆逐するからじゃないの?」

 

 リアスが顎に手を当てて考え始めた。

 

 アザゼルはケラケラと笑いながら、言う。

 

「魔力が黒いのは由来の一部なんだが、黒の聖職者って、本当は聖なるではなく、性交の性、職ではなく喰らう。――つまり、性を喰らう者って意味なんだよ!」

 

 ブハハハハッ! っと笑うアザゼル。

 

 リアスがニッコリ笑みになって訊く。 

 

「まさか、黒い捕食者も?」

 

「ああ。個別の会談のときに言ってたぜ。ロリから熟女、種族関係無しに抱くから、男達につけられた罵倒が由来だってな!」

 

 ギギギっと部長がこちらに視線を向けた。

 

「まったく、あなたは遺伝子レベルまでエッチな子なのね」

 

「え、エッチなのは認めますが、これだけは言わせてください」

 

 俺は頭を下げたあとに言う。

 

「一夜限りで全員同意の上での行為で、避妊を完璧にやっていたので、俺に後悔はありません!!」

 

 そう言い放った瞬間――。憤怒したイッセーが俺へ向けてギャスパーを投擲し、ギャスパーに抱きつかれた俺はカトレアや襲撃に参加していた女たちから奪った精気が急速に消失し、その場で気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みに入る前日。つまり終業式が終わったあとのことだ。

 

 俺は名前の由来をアザゼルにバラされ、それでリアスが怒り、約束していた処女をもらえずに本番を禁止されていたが、それが今朝、学校の玄関で分かれる際に「今晩しましょうか?」と誘われ、嬉しくて浮かれていたんだ。

 

 これでリアスの処女をもらえる! つながれる! って喜んで会談で要求した新家の豪邸に帰り、ベッドメイキングを済ませ、リアスの帰りを待っていたんだが――。

 

「こんにちは」

 

「や、どうも。今日からお邪魔するよ」

 

 なぜか朱乃さんとゼノヴィアが大荷物を持って俺の家の玄関の前に立っていた。

 

 朱乃さんは玄関に出てきた俺を確認するなり、

 

「エイジくん!」

 

 抱きついてくる! い、いきなり大胆だな!

 

「朱乃、ただいまあなたのもとへ到着しました。エイジくん……」

 

 潤んだ瞳で見つめてくる朱乃さん。ああっ、かわいい!

 

「……あ、朱乃とゼノヴィアもこの家に同居することになったの……。お兄さまの提案でね。ちなみに小猫は改築したイッセーの家に住むことになっているわ」

 

 そういや、イッセーの家もサーゼクスがついでにって言って改築したんだっけな。まあ、二件も大きな家が建ったおかげで道と近所の人がいなくなったけど。

 

 ――って! マジで!? マジで、朱乃さんとゼノヴィアも家に住むの!? まあ、部屋はくさるほど余るようになったけど……。

 

 俺がリアスに確認するように視線を送ると、遺憾そうにうなずいて、事実であることを表し、話し始めた。

 

 その話では、サーゼクスが眷属のスキンシップ向上のためにそういう提案をしたそうだ。

 

 リアスは最後まで抵抗したそうなんだけど、魔王クラスの実力者である俺を監視下におくという理由もあると、言いくるめられて、朱乃さんとゼノヴィアの同居が成立してしまった。

 

 で、朱乃さんは俺の家に着くなり、俺にべったり抱きついてきて離れてくれない。

 

 さらに黒歌とセルベリア、時雨とノエル、レイナーレも甘えてきて、顔や腰、背中とおっぱいを押し付けられて幸せ気分なんだが、リアスの視線が痛い……。

 

「エイジくん♪ 私、今夜は一緒に寝ますわ。うふふ。一度、ベッドのなかでエイジくんと一夜を共にしたかったの」

 

「こら、朱乃! 今夜は私が!」

 

 リアスが朱乃さんを怒鳴る。

 

「ただ寝るだけですわ。寝るだけ」

 

 と微笑みながら俺の耳を甘く噛んでその様子を見せつけた。

 

 黒歌たちは2人のやり取りがおもしろいのか観戦モードで俺に体を擦り付けていた。

 

「ふむ、アーシアとご近所さんか。これは挨拶に行ったほうがいいな」

 

 と、ゼノヴィアはマイペースでご近所挨拶のことを考え始めた。

 

 ……今夜もたぶんお預けだなぁ……。

 



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冥界合宿のヘルキャット
第37話 夏休みの計画


 

<エイジ>

 

 

 夏になりました。高校生活2回目の夏休みに突入しました。

 

 皆さんはいかがお過ごしでしょうか? 俺は現在ひじょ~うにっ! ヤバイ状況です……。

 

 右側に裸のリアスがいつものように、俺の腕を枕にすやすやと寝息を立てているところまではいいんですが……。

 

「ぅん……」

 

 左側になぜかゼノヴィアが寝ているんです! かわいらしい水色のパジャマ姿で、俺の腕枕している腕がおっぱいの下を通ってヘソへ、抱きしめるような状態で、手を少し動かすだけで悩ましげな吐息が漏れるんです! 

 

 しかも、いま、タオルケットのなかをもぞもぞと動きながら、俺の足元からこちらへ迫ってくる何かが……。あっ! さっきペニスになにかがあたった! てか、この柔らかさはおっぱい! しかも、感触からいって朱乃さん!?

 

 ぷはっ。

 

 タオルケットのなかから朱乃さんが登場した。やっぱり、朱乃さんだった!

 

「――っ」

 

 なにやら朱乃さんの顔が赤い――って! 俺って寝るとき裸じゃん!? 足元からってことは……。

 

 朱乃さんは目を伏せながら顔を赤くしてつぶやく。

 

「お、男の子のって以外に大きいんですわね……」

 

 や、やっぱり! 俺の息子を見たんですね!

 

 俺が朱乃さんの顔を見ると、朱乃さんは微笑んだ。

 

「うふふ。おはよう、エイジくん」

 

「お、おはようございます」

 

 姫島朱乃先輩。オカルト研究部の副部長で、3年の先輩で、学園のお姉さま的な存在。

 

 いつものポニーテールのせいか、いまのほどいた状態の黒髪が艶っぽく感じていた。

 

 朱乃さんは薄い生地で出来ている浴衣姿で、朱乃さんの体の感触がすごく伝わってくる!

 

 ちゅっ。

 

 朱乃さんが俺の首筋へキスをしながら抱きつき、足を絡めてきた。

 

 朱乃さんのショーツの感触がペニスの上に感じた。わき腹をやさしく朱乃さんの指がなぞりあげていく。

 

「エイジくんの体って、すごいのね。無駄な肉がないくろいに絞り込まれてて。たくましくて……。でも、ゴツゴツしているわけじゃなくて……。うふふ、男の人の肌って、想像以上に気持ちいいのね。それともエイジくんの体だから? エイジくん。私の体は気持ちいいかしら」

 

 身動きできない俺の耳にダメ押しともいえる息が吹きかけられる! ああっ……!

 

「ふふっ、興奮しているんですね。ビクビクしているのを感じますわ」

 

 そりゃあもう! 朱乃さんの太ももに挟まれた俺の息子が興奮してますから!

 

「うふふ、うれしい。この体、もっと楽しんでくれてもよろしいんですよ? 私もエイジくんの体をもっと深く知りたいわ。――と言っても怖いお姉さんが隣で寝ているから限界があるのかしら。でも、バレるかバレないか、この瀬戸際が楽しくもあるわね」

 

 朱乃さんが少しだけ身を起こして、俺に覆い被さる。俺を見下ろす朱乃さん。黒い髪がパラパラと俺にかかった。

 

 朱乃さんの顔がどんどん俺に近づいてきて、唇が触れ合った。

 

 ちゅっ。

 

「このまま時間が止まってしまえばいいのに……。なんてロマンチックなこともいいけれど、やっぱり――」

 

 唇を交わし、朱乃さんのショーツに亀頭が触れたところで、その声は聞こえてきた。

 

「朱乃。何をしているのかしら? いつこの部屋に入ってきたの?」

 

 ――っ!

 

 俺は恐る恐る視線だけ隣に移す。紅髪のお姉さまが不機嫌極まりない半眼で朱乃さんを睨んでいた。お、起きてたんですか?

 

 朱乃さんは俺の頬にキスしている様子を見せつける。

 

「スキンシップですわ。私のかわいいエイジくんと素敵な朝を始めようと思ったものですから侵入してしまいました。だって、独りのベッドは寂しいもの」

 

 朱乃さんの一言でリアスの眉がつり上がる! キレちゃった!?

 

「『私の』? あなた、いつエイジの主になったの?」

 

 ぶるぶると全身を震わせながらリアスは言う。

 

「主じゃなくて先輩ですわ。後輩をかわいがるのは先輩のつとめでしょう」

 

 リアスが朱乃さんに顔を近づけて怒りのこもった声音で言う。

 

「先輩ならイッセーや祐斗をかわいがればいいじゃない」

 

「誰をかわいがるかは私の勝手でしょう?」

 

「く……、ここは私にとって聖域に近い空間なの。昔からいた黒歌たちならしかたがないとしても、他の者まで入れるわけにはいかないわ! ここは私とエイジの部屋なの!」

 

 俺の部屋なんだけど……。って、ゼノヴィアに気づいていないのか? 朱乃さんが来る少し前に侵入してきたんだが。

 

「あらあら。お嬢さまは意地悪ですわね。エイジくんに他の女を抱くことを許しているのに私はダメだなんて――私に取られるのが怖いのかしら」

 

「……一度、あなたと話し合わなくてはいけないようね」

 

 リアスの体が紅いオーラに包まれた! 臨戦態勢!?

 

「あら、話し合うという割には攻撃的なオーラが漂いますわね」

 

 笑む朱乃さんも薄く黄金のオーラを纏い始めた! こっちもか!?

 

「話し合いよ。あくまで」

 

 バチバチと火花を散らしながら睨み合うリアスと朱乃さん……ああ、朝のベッドでのバトル……そういや、昔は黒歌たちもやってたなぁ。

 

「ぅん……、もう、朝か……」

 

 と、ゼノヴィア起床! や、やばい! この天然マイペースの介入はマズイ!

 

「ゼノたん、まだ眠っててもいいよ……」

 

 俺はゼノヴィアの頭を胸で抱きしめた。こ、このまま眠ってくれ!

 

「ん、エイジ……。ふむ、わかった。まだ眠っていよう」

 

 俺の胸でゼノヴィアの寝息が聞こえてきた。よ、よかった眠ってくれた……。

 

 ぼふっ! ぼふっ! ぼふんっ!

 

 音のするほうへ振り向けば、今度はリアスと朱乃さんの枕投げ合戦が開始されていた。

 

「だいたいね、朱乃はすぐに私の大事なものに触れようとするからイヤなのよ!」

 

 リアスの勢いよく枕を投げ、朱乃さんの顔面にヒットする! 顔に当たって枕が下に落ちても、朱乃さんはニコニコ顔だった――と思ったら、目を見開いた!?

 

「あら、ちょっとぐらい良いじゃないの! あなたは本当にケチだわ、リアス!」

 

 落ちた枕を拾い上げて、リアスの顔面にぶつける! も、もろだ……。

 

 顔から枕を払いのけるリアス。ちょっと涙目だった。

 

「私が決意するたびに毎回毎回邪魔に入って!」

 

「あなたの手が遅いからでしょう!」

 

 枕を投げあう2人。

 

「ここは私とエイジの家なの! お兄さまも朱乃も私とエイジの間の邪魔ばかりするんだもの! もういや!」

 

「サーゼクスさまのご意向を無視する気!? 魔王さまよりエイジくんなのね! ――私にもエイジくんを少しは貸しなさいよ!」

 

「ダメ! 絶対にダメなんだから!」

 

 2人のケンカは朝食の準備を済ませたレイナーレが起こしに来るまで続き、ゼノヴィアは結局最後まで見つからずに、自然に部屋を出て、自分の部屋へ着替えに帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食の席。

 

 最近住人が増えて手狭に感じていた空間は、ものすごく広い空間へと変貌していた。

 

 晩餐間などで使用する大きなテーブルに、もとから住んでいた自分とリアスを含む7人と朱乃さんとゼノヴィアの合計9名が座っていたが、部屋はまったく窮屈ではなく、リビングもかなり広い空間で、家具も一級品で各種最新のゲーム機まで用意されていた。

 

「それにしても、すごい家になったな~」

 

 食後のお茶を飲みながらしみじみとつぶやいた。

 

 レイナーレが家の図面を取り出した。

 

「7階建てで地下4階まであります。一階は客間とリビング、キッチン、和室。二階はご主人さまとリアスの部屋と黒歌の部屋、3階はセルベリアとノエルと私の部屋、4階は姫島朱乃と、ゼノヴィアの部屋と書斎や物置など。5階は時雨の部屋と武器庫と空室が1室、6階以降は空き部屋となっていて、いまのところゲストルームとなっています」

 

 レイナーレは図面を捲りながら説明を続ける。

 

「屋上には空中庭園もあり、地下1階は広いスペースの部屋。トレーニングルームにも出来ますし、映画鑑賞などもできます。大浴場も設備しています。地下2階は丸々室内プールです。温水も可能です。地下3階は書庫と倉庫になっています。地下4階は空間を広げて大規模な修行ができる広大なフィールドになっています」

 

 リアスが部屋の隅に設置された物を指差しながら言う。

 

「エレベーターもあるから地上7階から地下4階までスムーズに乗り降りできるわ」

 

 エレベーター……。どこの豪邸だよ……。

 

「ああ、それと、隣のイッセーの家もついでに改築したの。あっちは6階建てよ。日当たりとかも考えて家との間の距離は少し離したけどね」

 

 そう言われて部屋の外を見ると、確かに大きなマンションのような家が少し離れたところに見えた。

 

 と、そこで朱乃さんと目が合った。

 

 朱乃さんはいつも部室で見せていた笑顔とは違い、特別なヒトに見せるような親しみのある華やかな笑顔を浮かべて俺へ向けて微笑んでいた。

 

 ぎゅっ。

 

 いたっ!? 見ると横でリアスが俺の尻尾を抓っていた!

 

 し、嫉妬してくれるのは嬉しいけど尻尾は……。リアスは優雅にお茶を飲むと全員を見ながら言った。

 

「これから隣のイッセーの家へ行くわ。そこで、オカルト研究部のみんなと黒歌たちとの顔合わせをしましょう。夏休みの件も伝えないといけないし。ちなみに黒歌のことは前もって説明済みだから。だいじょうぶよ」

 

「じゃあ、出かける用意でもするかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーの家に入り、リビングで全員集まった。やっぱりすごく大きくなっているな。

 

 リビングにはオカルト研究部の部員と俺の配下……悪魔になったから眷属や下僕か? が全員で14人が集まっているが、まだまだスペースに余裕があった。

 

 とりあえず、オカルト研究部のメンバーが先に1人ずつ自己紹介を行い、次に黒歌たちが自己紹介を始めた。

 

「元はぐれ悪魔でいまはエイジの使い魔。白音……小猫の姉の黒歌にゃん」

 

「エイジの使い魔!? ていうか、小猫ちゃんのお姉ちゃん!? ほ、本当に?」

 

「ほんとにゃん」

 

「でもおっぱいが――」

 

「失礼です」

 

「げふっ!?」

 

 イッセーが驚きの声を上げて、黒歌の巨乳と小猫ちゃんのぺったんおっぱいを交互に見て、小猫ちゃんに殴られ沈められた。

 

 次にセルベリアが立ち上がって自己紹介を始めた。

 

「私は北欧出身のヴァルキリー。セルベリア・ブレスです」

 

「ヴァルキリー……やっぱりアース神族だったのね」

 

「ええ。元ですがね。エイジさまが北欧を訪れたときに知り合い、忠誠を誓いました」

 

 と、セルベリアはそれで自己紹介を終えた。

 

 次にノエルが自己紹介を始める。

 

「私はノエル・ヴァーミリオンです。人間で、元エクソシストで教会本部で仕事していました。数年前に、ある仕事をしている最中にエイジに助けられて。色々あっていまは一緒に暮らしてます」

 

 まるで軍人のように自己紹介するノエルを見て、ゼノヴィアが呆れたようにつぶやいた。

 

「まさか、『魔銃ベルヴェルク』の神器所有者で、教会からいなくなった凄腕のエクソシストがエイジの仲間になっているなんて思いもしなかった」

 

「えっと、それは色々あったんです……」

 

 と、自己紹介を終え、時雨に移る。

 

「香坂、時雨。……人間。趣味は、刀集めと……、エイジとえ――」

 

「そ、そこまでな!」

 

 慌てて時雨の口を手で覆う。この娘ってすごい天然というか世間知らずで、あまり羞恥心がないから、時々驚くようなことを突然、口走るんだよな!

 

「と、とりあえず、時雨は口下手だけど、いい娘だからよろしく」

 

 と、強制終了! 最後、レイナーレな!

 

「大半は知っていると思うけど、私は堕天使レイナーレ。兵藤一誠を一度殺して、神城エイジが悪魔になるきっかけを与えて、アーシアも殺そうとした堕天使よ」

 

「それはもういいですよ。レイナーレさん。イッセーさんと出会えてお友達も増えましたし」

 

「ああ。俺も悪魔になってハーレムの夢がもてたから、もうぐちぐち言わない」

 

 とアーシアとイッセーが言い。レイナーレは深く頭を下げる。

 

「ありがとう」

 

 そして顔を上げてメイド服に手を当てて言う。

 

「いまはご主人さま……、エイジさまのメイドとして働いているわ」

 

 と、全員の紹介が終わった。

 

 リアスが全員を見て言う。

 

「じゃあ、これから今回全員を集めた本来の目的を話すわよ」

 

「本来の目的ですか?」

 

 イッセーが訊ねると、リアスはうなずいて口を開いた。

 

「夏休みは冥界に帰るの」

 

「冥界に帰る!?」

 

 ショックを受けたような顔のイッセー、どうしたんだ?

 

「ええ。毎年、夏休みには故郷に帰るんだけど、あなたたちは私の眷属で下僕の悪魔なのだから、主同伴は当然。一緒に故郷へ行くの」

 

「あ、そ、そういうことですか」

 

 安心したようなイッセー。捨てられるとでも勘違いしたのか?

 

「エイジは私の眷属悪魔だから、冥界に帰る私に同伴することになるわ。当然、エイジの眷属であるあなたたちも冥界へ行くでしょう?」

 

 リアスが黒歌たちに尋ねる。黒歌たちはうなずく。

 

「当然にゃん♪」

 

「もちろんです」

 

「はい」

 

「うん」

 

「メイドですので」

 

 リアスは確認を取ると、黒歌とレイナーレにカードを渡した。

 

「これは身分証明書みたいなものよ。これを持っていれば冥界にどうどうと入れるわ」

 

「にゃ」

 

「ありがとうございます」

 

 黒歌とレイナーレはリアスからカードを受け取った。

 

「エイジとセルベリアたちは、すでにお兄さまからそれぞれ通行証が発行されているのよね?」

 

「はい。もらってます」

 

 と、次にリアスはアーシア、ゼノヴィアを見て微笑む。

 

「そういえばアーシアとゼノヴィアは初めてだったわね」

 

 部長の問いにアーシアはうなずく。

 

「は、はい! 生きているのに冥府にいくなんて緊張します! し、死んだつもりでいきたいと思います!」

 

 アーシア! あまり意味がわからないよ! 楽しい旅行なのに楽しい旅行らしくないよ!

 

「うん。冥界――地獄には前々から興味があったんだ。でも、私は天国に行くため、主に仕えていたわけなんだけれど……。悪魔になった以上は天国に行けるはずもなく……。天罰として地獄に送った者たちと同じ世界に足を踏み入れるとは、皮肉を感じるよ。ふふふ、地獄か。悪魔になった元信者にはお似合いだな」

 

 沈んでいるゼノヴィアに元信者で経験者のノエルが言う。

 

「大丈夫ですよ。慣れれば気にならなくなりますから」

 

「……そうなのか?」

 

「ええ。大丈夫です」

 

 と、経験者が慰めていた。

 

「8月の20日過ぎまで残りの夏休みをあちらで過ごします。こちらに帰ってくるのは8月の終わりになりそうね。修行やそれら諸々の行事を冥界でとりおこなうから、そのつもりで」

 

 リアスはそう俺たちにスケジュールを申し付けてくれた。今年の夏も冥界か~。いや、今年は冥界メインか。去年の夏は冥界で賞金首を狩りながら、学園の女生徒たちの処女を食べていたからな~。

 

「あー、でも、俺、夏休みやりたいことがあったんですけど」

 

 と、イッセーが言った。まあ、突然聞かされたことだしな。なにか先約があるのは当たり前か。

 

「あら、イッセー。どこか行く予定でもあったの?」

 

「はい。海やプールに行こうかなーって」

 

「アーシアと?」

 

 と、俺が尋ねるとイッセーは手をぶんぶん振った。

 

「ち、ちげぇよ! 元浜と松田とだよ!」

 

「……そうか」

 

 アーシアががっくり落胆しているが、イッセーは気づいていないようだ。ってか、気づけよ! それにそれ以前にアーシアをデートに誘ってやれよ!

 

「海は冥界にはないけど、大きな湖ならあるわ。プールだって、この家だって私の家にもあるのよ? 温泉もあるし、それではダメなの?」

 

 と、部長が尋ねるとイッセーはいやらしい顔つきになった。

 

「……いやらしい妄想禁止」

 

 小猫ちゃんが半眼でイッセーに突っ込んだ。あれ? ツッコミが弱いな? 元気もないぞ?

 

「イッセーくん、想像以上にスケベな顔だったよ」

 

「先輩は想像力が豊かで楽しそうです……うらやましいなぁ……」

 

 木場が爽やかに言い、ギャスパーは心底うらやましそうにつぶやいた。ちなみに俺はギャスパーを視界に納めれるぐらいまで克服し、いまのようにダンボール着用状態ならまったく、平気なのだ!

 

「おまえらはこの夏、女の子とデートしないのかよ?」

 

「僕は修行があるからね」

 

 と木場が言い。

 

「僕はいいです。……ひ、引きこもりなんで、インドア派だし、お家でネットしながらかわいい服を着られればいいんで……」

 

 とギャスパー。

 

 イッセーの視線が俺へ来る。

 

「…………おまえは? 桐生に去年は女生徒を大食いしたって聞いたけど? 今年はしないのかよ?」

 

 かなりうらやましそう、というか……、血の涙を目に溜めて、拳が白くなるほど力が込められている。

 

「今年は冥界に行くって訊いてたしな。誘ってくる子はいたけど全部断ったよ。今年の夏は冥界で賞金稼ぎの仕事か、修行だよ」

 

「く、そうか……」

 

 とイッセーは血の涙を止め、力を抜いた。若干嬉しそうなのは気のせい――。

 

「――ふっ、大食い阻止だな」

 

 気のせいじゃなかったようだ。

 

 とりあえず、ソファーの背もたれに体を任せた。

 

「悪魔の仕事も修行で休みだし、久々にゆっくり冥界ライフを楽しむさ」

 

「エイジ……」

 

「エイジくん……」

 

 申し訳なさそうなリアスと朱乃さん。え? なんでそんな暗い顔に?

 

「どうしたんですか?」

 

 訊ねると、書類の束を朱乃さんが渡してきた。えっと……なんだ?

 

 書類を受け取ってパラパラ目を通していくと……。

 

「え?」

 

 と俺の口から間の抜けた声が漏れてしまった。

 

 部長が遺憾そうに言う。心の底から遺憾そうに、申し訳なさそうに……。

 

「あなたに、依頼の予約が3,000件もきてるの……」

 

 朱乃さんも書類のトータル部分に指差しながら言う。

 

「夏休みが始まる少し前に、エイジくんが悪魔の仕事で、そっち系の仕事を受けていることが冥界に広まったみたいなの。しかも、この前サキュバスたちからお墨付きの許可証も貰って、インキュバスになったでしょ?」

 

「は、はい……」

 

「伝説のインキュバスで、しかも、冥界で大人気の黒い捕食者に、この世のものとは思えない女の喜びを感じさせてもらえるって広まって、いきなり依頼件数が跳ね上がったの……」

 

 …………。

 

「で、でも、3,000件は多すぎでしょ?」

 

 そう言うと部長は首を横に振った。

 

「いいえ、3,000件は現時点で、予約打ち切りにしたから3,000件なの。……グレモリーに寄せられた本当の依頼件数は10,000件以上よ」

 

「ま、マジですか?」

 

 確認するように2人に訊く。

 

「ええ。大マジよ」

 

「はい。大マジですわ」

 

 と、うなずいた。

 

「それでエイジには、修行と平行して急遽仕事をやってもらわなくちゃいけなくなったの」

 

「ええ。冥界と人間界両方を魔法陣で移動しながら」

 

 2人はハンカチを取り出して涙を拭き取り、俺に抱きついた。

 

 両方から抱きしめてくる。ああ、おっぱい最高です……。

 

「ゴメンなさい、エイジ。こんな大事になるなんて……!」

 

「私もあなたの人気を甘く見ていましたわ! まさか、依頼件数が1人で1,000件も超えるなんて思いもしなかったの……!」

 

 俺はとりあえず、2人を抱きしめ返して、笑顔を浮かべた。

 

「だいじょうぶですよ! 夏休みは2ヵ月あるんですから修行と平行しながら3,000件きちんとこなしてみせますから!」

 

 と言ったが内心は動揺しまくりだった……。3,000件か~……。

 

「3,000件もエロい仕事がやれるのか!? うらやまし――」

 

「代わってくれるか、イッセー?」

 

「代われるものなら代わりたいっ! あ、いや……、やっぱり3,000人は……3,000件は……」

 

 イッセーは苦悩し始めた。

 

「すすすす、すごいです! さすが黒い捕食者っ! 人気者です! 尊敬します!」

 

 と、言ってくれるギャスパー。だけど、限度があるだろ。限度が……。

 

「エイジくん。尻尾が床に堕ちてるよ」

 

 う、うるさい木場! 縮みあがっているわけじゃないんだからな!

 

「さすが、エイジだにゃん!」

 

「ええ。さすがエイジさまです」

 

「あははは……」

 

「さすが」

 

 と、自分のことのように誇る黒歌とセルベリア、時雨。ノエルは乾いた笑顔で俺の身に起こるであろう事を心配してくれているようだ。

 

「え、えっとさすがです」

 

 レイナーレも困惑しながら褒めてきた。

 

「ふふ、さすが私が見込んだ男だ」

 

 そこにゼノヴィアまで褒めてきた。いや、これは褒められてもあまり嬉しくないんだけど……。

 

 そんな混沌な状況をかき消すように笑い声が響いた。

 

「アザゼル」

 

「アハハハハッ! すげぇな神城! 夏休みだけで3,000件もエロい仕事をしなきゃいけないなんて、しかも、本当は10,000件以上だって!? アハハハハハッ! さすが黒い捕食者! 食べまくりだな!」

 

「少し前にこっそり家に入ってきて、リビングの一角に腰をおろして様子を眺めていたアザゼルがなんのようだよ」

 

『ッ!?』

 

 かなり不機嫌な声音で言うと、リアスたちとレイナーレは面食らったように驚いた。ちなみに俺の眷属はレイナーレ以外、アザゼルの侵入に気付いていた。

 

 アザゼル笑いながら言う。

 

「俺も冥界に行くぜ」

 

「ど、どこから、入ってきたの?」

 

 部長が目をパチクリさせながらアザゼルに訊く。

 

「うん? 普通に玄関からだぜ?」

 

 平然と答えるアザゼル。

 

「……気配すら感じませんでした」

 

 木場が気持ちを正直に口にした。

 

「そりゃ修行不足だな。俺は普通に来ただけだ。神城とその眷属、レイナーレ以外は家に入る前から気づいていたぞ。それよりも冥界に帰るんだろう? なら、俺も行くぜ。俺はおまえらの『先生』だからな」

 

 まあ、確かに説明するのが上手いし、先生とか講師とかに向いてるよなこいつ。

 

 アザゼルは懐からメモ帳を取り出すと、開きながら読み上げる。

 

「冥界でのスケジュールは……リアスの里帰りと、現当主に眷属悪魔の紹介。と、新鋭若手悪魔たちの会合。それとあっちでおまえらの修行だ。俺は主に修行に付き合うだけだがな。おまえらがグレモリー家にいる間、俺はサーゼクスたちと会合か。面倒くさいもんだ」

 

 嘆息するアザゼル。マジでめんどくさそうにしている。

 

「ではアザゼル――先生はあちらまで同行するのね? 行きの予約はこちらでしておいていいかしら?」

 

 リアスの問いにアザゼルはうなずく。リアスも先生つけるみたいだな~。

 

「ああ。よろしく頼む。悪魔のルートで冥界入りするのは初めてだ。いつものは堕天使のルートだからな」

 

「アザゼル」

 

「なんだ、神城」

 

「俺も先生つけたほうがいいか?」

 

「おまえは俺から学ぶことなんかねぇだろ? それにおまえに先生って呼ばれるのは、なんかヤダ」

 

 こ、こいつ……!

 

「じゃあ、アザゼルでいいな」

 

「昼間学校で会ったときは一応、敬語と先生つけろよ」

 

「了解」

 

 さてと……冥界か~。いや、2ヶ月で3,000件かぁ~。予約が(・・・)3,000件ってことは、新規契約もあるだろうから3,000件はノルマで、さらに増える可能性があるのか……。

 



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第38話 冥界到着

 

<エイジ>

 

 

 旅立ちの日。俺たちは最寄の駅にやってきていた。駅のエレベーターのなかにある電子パネルに冥界の通行証となるカードをかざすと、地下にある冥界行きの地下鉄へのホームに行けるのだ。

 

 駅のホームについたところで学園の夏の制服姿から冥界行きの衣装に変身する。

 

 そして列車に皆で乗り込もうとしたところでリアスに声をかけられた。

 

「エイジ、あなたは私と一緒に一番前の車両に来てもらうわ」

 

「……リアス?」

 

 リアスの言葉で朱乃さんの笑顔の質が変わった!?

 

 リアスも朱乃さんの変貌振りにビビッてすぐに理由を説明し始める!

 

「サーゼクスお兄さまが、エイジと連絡を取りたいそうなのよ! べ、別に私がエイジと2人っきりでいたいわけじゃないの」

 

「そうでしたか」

 

 と、なんとか朱乃さんが元のニコニコ笑顔に戻ってくれた。

 

「じゃあ、俺はリアス部長と。黒歌たちはイッセーたちと。アザゼルはどうするんだ?」

 

「俺はグレモリー領を抜けて、どっちにしろ魔王領で会談するからいい。まあ、イッセーたちと一緒の車両でいいさ」

 

「そう。じゃあ、またあとでね。行くわよ、エイジ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアスと第一車両へやって来た俺は、モニター画面に映っているサーゼクスと会話をしていた。

 

「それで、キミにはハンデを背負ってもらいたいんだよ」

 

「その新人悪魔同士のレーティングゲームに、魔王クラスがいたらやっぱりマズイのか?」

 

「そうだよ。通常のレーティングゲームなら問題ないんだけど、今回は新人悪魔同士の実力を測るためのものだからね。それに、キミが持っている能力もマズイ。インキュバスの能力は別にいいんだけど、他の能力は反則クラスだからね」

 

 苦笑するサーゼクス。隣に座ったリアスが言う。

 

「能力というと【王の財宝】と【千の顔を持つ英雄】ですか?」

 

「……リアスは、エイジが持っているその能力をどこまで知っているのかな?」

 

「私が把握している情報では、【王の財宝】には聖剣や魔剣、様々な道具が保管されている宝物庫で、【千の顔を持つ英雄】は望んだ武具を発動時間内に限り具現化できる。――と、いうところまでです」

 

 サーゼクスは苦笑しながら話す。

 

「ああ、確かにそうなんだが、リアスが考えている以上にその2つの能力は反則クラスなんだよ。【王の財宝】とはいうけど、保管されている道具のほとんどは神滅具クラスばかりで、【千の顔を持つ英雄】も特殊能力のないが、様々武具を創り出せるだけだと言うけど、エイジは武具の達  人(マスタークラス)以上の使い手だからね。あの【武器の申し子】と名高い香坂時雨の師匠でもあるんだ。そんな彼が、特殊能力は付けれないとしても、望む武具を好きなだけ出せるのだから反則だろう?」

 

「…………そ、それは、そうですね」

 

 苦い表情のリアスにサーゼクスは続けて言う。

 

「それに、エイジは魔法はもちろん、仙術まで身につけ、そのうえ妖術まで使えて、それぞれ最高位の使い手だ。魔力の総数値も測定不能。そんな彼が、新人悪魔のレーティングゲームに参加すれば数十秒で終わらせてしまうだろう? ――まあ、私も全力で倒そうと思えば、新人悪魔など数十秒もかからないけどね」

 

 サーゼクスは書類をこちらへ見せる。

 

「そこでだ。エイジには大きなハンデを背負ってもらった状態でレーティングゲームに参加してもらうんだ」

 

「えっと……。【王の財宝】と【千の顔を持つ英雄】の使用禁止と、出力制限、中級悪魔程度の魔力にする。あとは広域殲滅や過剰攻撃をするような仙術、妖術の使用不可だ」

 

「中級悪魔程度の出力制限って!? すでに能力のほとんどが封じられている状態なのに、仙術や妖術までも使えないの!?」

 

「中級悪魔程度の魔力じゃ、どちらにしろ【王の財宝】と【千の顔を持つ英雄】は発動できないな。それに仙術も妖術もか」

 

 サーゼクスは笑みを浮べながら言う。

 

「だが、これぐらいハンデをつけてもキミなら楽勝だろう? それにリアス」

 

 驚いていたリアスにサーゼクスが話しかける。

 

「え、は、はい。お兄さま」

 

「『王』なら全ての駒を使いこなしてこそだろう?」

 

「っ!」

 

「エイジがハンデを背負っているといっても強いことに変わりはない。そして、他の駒――イッセーくんや木場くんと、いい駒もたくさんあるんだ。全部の駒を使いこなしなさい」

 

「……はい」

 

 リアスは力強く、しっかりとうなずいた。

 

 そんなリアスにサーゼクスは満足げな笑みを浮べる。

 

「じゃあ、リアス、エイジ。また詳しいことは書類で送るから通信を切るよ」

 

「はい、お兄さま」

 

「ああ、じゃあな、サーゼクス」

 

 と、画面からサーゼクスが消えた。リアスがこちらを向いて訊ねてきた

 

「エイジはだいじょうぶ? 中級悪魔程度の力しか出せないし、能力のほとんどが封じられるのは大きなハンデよ?」

 

 俺はリアスと視線を合わせて笑顔で言う。

 

「大丈夫です。力を出せないといっても、俺には長年培った戦闘技術がありますし。リアスを負けさせたくありませんから」

 

 そう言うとリアスは頬を少しだけ朱に染めてうなずいた。

 

「ええ、そうね。ハンデぐらい関係ないわよね! あなたは私の自慢の眷属悪魔なんだから」

 

「これはこれは、お邪魔でしたかな?」

 

 リアスが微笑みながらキスをしてきようとしたところで、第三者がひょっこりと現れた。

 

「レイナルド」

 

 この車両の車掌をしている初老の男性悪魔だ。

 

「レイナルドと知り合いだったの、エイジ」

 

 驚き顔のリアスに説明する。

 

「はい。サーゼクスに人間界に帰るときや冥界に来るときはこの列車を使っていいと言われて、仮面で顔を隠す前からの知り合いです」

 

「エイジ殿、リアスさま、お久しぶりです」

 

 レイナルドは帽子を取って頭を下げたあと、楽しそうに笑う。

 

「ホッホッホッ、まさかエイジ殿とあの小さな姫が……、長生きはするものですな」

 

「れ、レイナルド……」

 

 リアスは顔を真っ赤にして俯いた。

 

 リアスが真っ赤になっている間にレイナルドは本人確認するための装置を取り出し、照合を始める。

 

「俺は人間から転生悪魔になったあと、本物のインキュバスになったからデータが変わってると思うが、大丈夫か?」

 

「はい。サーゼクスさまからエイジ殿のデータはきちんと預かっています。ホッホッホッ、それにしても、転生悪魔から絶滅したインキュバスに転生するとは、おかわりない……、いいえ、成長され続けておられるようですね」

 

「そ、それは別にいいだろ」

 

 とりあえずレイナルドの話を切って照合認証を受ける。余計なことは言わないで!

 

「あ、レイナルド。これから後の車両に行くんでしょ? 私たちも後ろの車両に行くから同行するわ」

 

 と、レイナルドと一緒にイッセーたちがいる車両へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイナルドと一緒に後部車両へ行き、全員分の照合認証を終わらせた俺たちは、トランプなどで時間を潰していた。

 

 そして出発から40分ほど過ぎた頃、レイナルドのアナウンスが聞こえてくる。

 

『もうすぐ次元の壁を突破します。もうすぐ次元の壁を突破します』

 

「外を見ていてごらんなさい」

 

 と、リアスはイッセーとアーシア、ゼノヴィアに言う。

 

 イッセーとアーシアが窓に張り付いたとき、ちょうど景色の暗がり一色から変わり、風景が出現する。

 

「山だ! 木もある! ハハハハッ! すげえ! すげぇぇぇぇぇっ!」

 

「すごいすごいです!」

 

 イッセーとアーシアが興奮しながらはしゃぎあっていた。

 

「もう窓を開けていいわよ」

 

 と、リアスの許しをもらってイッセーとアーシアは急いで窓を開け、冥界の空気を楽しんでいた。

 

「ここはすでにグレモリー領よ」

 

 リアスが自慢気に口にする。

 

「じゃあ、いま走っているこの路線も含めて全部部長のお家の土地ですか!?」

 

 驚くイッセーはリアスに質問する。

 

「グレモリー領土ってどれぐらいあるんですか?」

 

 そこにイッセーの向かいの席に座っていた木場が答える。

 

「確か、日本でいうところの本州丸々ぐらいだったかな?」

 

「ほ、本州ぅぅぅぅっ!?」

 

 大声を張り上げるイッセーに、リアスも木場もうなずいた。

 

「冥界は人間界――地球と同程度の面積があるけど、人間界ほど人口はいないわ。悪魔と堕天使、それ以外の種族を含めてもそれほど多くもないし。それと海もないからさらに土地が広いのよ」

 

 リアスのお姫さまっぷりに打ち震えるイッセー。

 

「本州ぐらいといってもほとんど手付かずなのよ? ほぼ森林と山ばかりよ」

 

 そう言われてもイッセーはどうリアクションをとっていいかわからず固まり、アーシアは「????」状態。ゼノヴィアに至っては考えるのを止めたのか、時雨と木場を交えて冥界の刀剣について話し始めた。

 

「そうだわ。エイジ、イッセー、アーシア、ゼノヴィア。あとであなたたちに領土の一部を与えるから、欲しいところを言ってちょうだいね」

 

「りょ、領土、もらえるんですか!?」

 

 驚愕するイッセーに当然とリアスは言う。

 

「あなたたちは次期当主の眷属悪魔ですもの。グレモリー眷属として領土に住むことが許されるわ。朱乃や祐斗、小猫、ギャスパーだって自分の敷地を領土内に持っているのよ」

 

 リアスは魔力で「ポン!」と宙に地図を出現させると俺たちに見せてきた。

 

 グレモリーの領の地図だった。

 

「赤いところはすでに手が手が入っている土地だからダメだけど、それ以外のところはOKよ。さあ、好きな土地を指差してちょうだい。あなたたちにあげるわ」

 

 と、言うリアスのお言葉でイッセーとアーシアがフリーズし、ゼノヴィアは聞いていないふりをしていた。

 

 ちなみに俺は土地をもらうことを保留させてもらった。ゆっくり選びたいしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレモリー領についたところで、魔王領へ向かうアザゼルと別れる。

 

「じゃあな、アザゼル」

 

「じゃあ、先生あとで」

 

「お兄さまによろしくね、アザゼル」

 

 俺とイッセー、リアスの言葉にアザゼルは手を振って応えた。

 

 改めてアザゼルを抜かしたメンバーで駅のホームに降りた瞬間――。

 

『リアスお嬢さま、おかえりなさいませっ!』

 

 怒号のような声と共に、

 

 パンパンパンパン!

 

 と、花火が上がり、兵隊たちが銃を空に向けて放ち、楽隊らしき人たちが一斉に音楽を奏で始め、空にも魔獣にまたがった兵士たちが飛び、旗を振っていた。

 

 ああ、すげぇ歓迎モードだな。

 

「ヒィィィ……! 人がいっぱい……」

 

 あまりの人の多さにギャスパーがイッセーの背中に隠れる。歓迎に来た人で多いのは執事やメイドだった。リアスがそちらへと近づくと一斉に頭を下げて、

 

『リアスお嬢さま、おかえりなさいませ』

 

 迎え入れてくれる。

 

「ありがとう、皆。ただいま。帰ってきたわ」

 

 リアスは満面の笑みで返していた。それを見て、執事やメイドさんたち笑みを浮べる。

 

 そこへ銀髪メイドのグレイフィアが一歩出てきた。

 

「お嬢さま、おかえりなさいませ。お早いお着きでしたね。道中、ご無事で何よりです。さあ、眷属の皆さまも、お客さまも馬車へお乗りください。本邸まで移動しますので」

 

 グレイフィアに誘導されて、豪華絢爛そうな馬車の元へ向かう。荷物はメイドたちが運んでくれるそうだ。

 

「私は下僕たちを行くわ。イッセーやアーシアは初めてで不安そうだから」

 

「わかりました。何台かご用意しましたので、ご自由にお乗りください」

 

 グレイフィアはリアスの意見を快諾してくれた。

 

 一番前の馬車に俺とリアス、イッセー、アーシア、朱乃さん、ゼノヴィア、グレイフィアが乗り込んだ。6人乗りになのだが、馬車は大きく造られているので別に窮屈ではなかった。ちなみに他のメンバーは2台の馬車に別れて乗った。

 

 馬車が進み始めて数分ほどすると、リアスの屋敷……というか、城へ到着した。

 

「着いたようね」

 

 リアスがつぶやくと、馬車のドアが開かれた。執事らしき方が会釈した。

 

 リアスが先に降りて、あとから俺たちも続く、2、3台目の馬車も到着して、他のメンバーも降りてきた。

 

 両脇にメイドと執事が整列して、道をつくっていた。レッドカーペットが巨大な城のほうに伸びており、大きな城門が「ギギギ」と音を立てて開かれていく。

 

「お嬢さま、そして眷属の皆さま、お客さま。どうぞ、お進みください」

 

 グレイフィアが会釈をして、俺たちを促してくれる。お客さまっての黒歌たちだな。俺の眷属でリアスの眷属じゃないから『お客さま』なんだろう。

 

「さあ、行くわよ」

 

 リアスがカーペットの上に歩き出そうとしたときだった。メイドの列から小さな人影が飛び出し、リアスのほうへ駆け込んでいく。

 

「リアスお姉さま! おかえりなさい!」

 

 紅髪のかわいらしい少年がリアスに抱きついていた。

 

「ミリキャス! ただいま。大きくなったわね」

 

 リアスもその少年を愛おしそうに抱きしめていた。

 

「あ、あの、部長。この子は?」

 

 イッセーが訊くと、リアスはその少年を改めて紹介してくれる。

 

「この子はミリキャス・グレモリー。お兄さま――サーゼクス・ルシファーさまの子供なの。私の甥ということになるわね」

 

 ――サーゼクスの子供!?

 

「話には聞いていたがマジで子供いたんだな、あいつ」

 

「あら、知らなかったの?」

 

「はい。グレイフィアに実際に俺と会わせるのは教育に悪いと言われて……」

 

 俺はグレイフィアを見て言うと、グレイフィアは視線をそらした。

 

「そうなの。まあ、しかたないわね」

 

 と、リアスも皆もなんで納得するんだ!? 俺って教育にそんなに悪いか!?

 

「ほら、ミリキャス。あいさつして。この子たちは私の新しい眷属なのよ」

 

「はい。ミリキャス・グレモリーです。初めまして」

 

「こ、これは丁寧なあいさつをいただきまして! お、俺……いや、僕は兵藤一誠です!」

 

 と、年下の子供に緊張しまくりのイッセーだった。

 

 俺も挨拶しようとすると、ミリキャスが目を輝かせて訊ねてきた。

 

「本物のブラック・プレデターさんなんですか!?」

 

「ミリキャスはあなたのファンなのよ」

 

 と、リアスが言ってきた。

 

「ああ、そうだよ。賞金稼ぎ黒い捕食者、ブラック・プレデターこと、神城エイジだよ。よろしく、ミリキャス」

 

「うわー! 本当に本物なんですね!」

 

 と大喜びするミリキャス。かなり恥ずかしいが、嬉しくもあるな。

 

「あと、ちなみに魔王の名は継承した本人しか名乗れないから、この子はお兄さまの子でもグレモリー家なの。私の次の当主候補でもあるわ」

 

 説明を終えるとリアスはミリキャスと手を繋いで門のほうへ進みだす。

 

「さあ、屋敷へ入りましょう」

 

 巨大な門を潜り、なかを進む。次々と城のなかの門も開門されていく。

 

 玄関ホールに着いたところで、グレイフィアが言う。

 

「お嬢さま、さっそく皆さまをお部屋へお通ししたいと思うのですが」

 

 グレイフィアが手をあげるとメイドさんが何人か集合した。美少女メイドの登場でイッセーの顔が緩んでいた。

 

「そうね、私もお父さまとお母さまに帰国のあいさつをしないといけないし」

 

 リアスは「うーん」とこのあとのことを考え中の様子だった。

 

「旦那さまは現在外出中です。夕刻までにおかえりになる予定です。夕餉の席で皆さまと会食しながら、お顔合わせをされたいとおっしゃられておりました」

 

「そう、わかったわ、グレイフィア。それでは、一度皆はそれぞれの部屋で休んでもらおうかしら。荷物はすでに運んでいるわね?」

 

「はい。お部屋のほうはいますぐお使いになられても問題ございません」

 

 イッセーとアーシアが驚きの連続でフラフラしているから、そろそろ休ませたほうがいいよな。

 

「あら、リアス。帰ってきたのね」

 

 そのとき、上から女性の声が聞こえてきた。

 

 階段から下りてきたのはドレスを着たすごい美少女で、目つきが少しキツめのリアスに良く似た亜麻色の髪の女性だった。

 

 正直、飛びついて口説きそうになったが、なんとか堪えた!

 

 リアスはその人を確認するなり、微笑んだ。

 

「お母さま。ただいま帰りましたわ」

 

 や、やっぱりか! 子供を産んだことのある女性特有の瞳と、雰囲気からそうじゃないかと思ってたんだ。飛びつかないでよかった……。

 

「お、お、お母さまぁぁぁああああっ!? だって、どう見ても部長とあまり歳の変わらない女の子じゃないですか!」

 

 イッセーが絶叫を上げた。

 

「あら、女の子だなんてうれしいことをおっしゃいますのね」

 

 リアスの母親は頬に手をやり微笑む。うわー、すげぇかわいいな。

 

「悪魔は歳を経れば魔力で見た目を自由にできるのよ。お母さまはいつもいまの私ぐらいの年格好なお姿で過ごされているの」

 

 うん。かわいいなぁ。リアスは完全に母親似だよな。と、ついつい大きな胸元や腰に視線がいってしまう。

 

 冥界に入って出しっぱなしにしている尻尾をリアスが持つ。

 

「……私のお母さままで手を出さないわよね?」

 

「はい! も、もちろんです!」

 

 だから尻尾を解放して! つねったらダメですよ!

 

「あら、リアス。その方が神城エイジくんね」

 

 そ、そういえば……!

 

「こ、婚約パーティーのときはすみませんでした」

 

 と頭を下げるが、リアスの母親はクスッと小さく笑う。

 

「いいのですよ。――それよりも、初めまして、私はリアスの母、ヴェネラナ・グレモリーですわ。よろしくね、神城エイジくん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄関ホールから数時間後、俺たちはダイニングルームにいた。

 

 席に座るのは俺たち眷属悪魔と、俺の眷属の黒歌たち、それに主のリアスと、その両親と、ミリキャス。

 

「遠慮なく楽しんでくれたまえ」

 

 リアスの父親の一言で会食は始まった。

 

 大きな横長のテーブル。豪華な料理と、天井も豪華なシャンデリア。俺たちが与えられた部屋もすごく天蓋付きのベッドもあり、室内にそのまま生活できるほど家具も充実していた。

 

 その部屋に通されてすぐに、ゼノヴィアが転がり込んできた。なんでも落ち着かないらしくて1人では無理だったそうだ。まあ、教会で質素な生活をしてたんだから仕方ない。それと、もともとアーシアの部屋を先にたずねたそうだが、アーシアはイッセーの部屋に行くというので、ゼノヴィアは俺の部屋に来たそうだ。

 

 ちなみにアザゼルは食事には間に合わなかった。どうにも会談が長引いているらしい。

 

「うむ。リアスの眷属諸君、ここを我が家と思ってくれるといい。冥界に来たばかりで勝手がわかならいだろう。欲しい物があったら、遠慮なくメイドに言ってくれたまえ。すぐに用意しよう」

 

 朗らかに言うリアスの父親。

 

「ところで神城エイジくん」

 

「はい」

 

「今日から、私のことをお義父さんと呼んでくれてもかまわない」

 

「え?」

 

 予想外の言葉だぜ。っていきなり何を言ってるんだ!?

 

「お、お父さんですか……? え?」

 

「あなた、性急ですわ。まずは順序というものがあるでしょう?」

 

 リアスの母親が夫をたしなめる。

 

「う、うむ。しかしだな、彼はもはや転生悪魔から絶滅したインキュバスの純血悪魔になったのだろう。純血同士、めでたいではないか」

 

「あなた、浮かれるのはまだ早い、ということですわ」

 

「そうだな。どうも私は急ぎすぎるきらいがあるようだ」

 

 リアスの父親は深く息を吐かれる。どうにも奥さんの尻に敷かれているようだ。発言力的にリアスの母親のほうが家では強いようだが、夫婦仲は円満そうだ。

 

 とうのリアスは恥ずかしそうにしていて、食が進んでいない様子だった。

 

「神城エイジさん。エイジさんと呼んでもよろしいかしら?」

 

 リアスの母親がそう訊いてくる。

 

「はい。別に呼び捨てでも構いませんよ」

 

 と、当然、快諾した。

 

「しばらくこちらに滞在するのでしょう?」

 

「はい。リアス……部長が、リアスさまがこちらに入る間はこちらに滞在させていただく予定です」

 

「そう。ちょうどいいわ。あなたには紳士的な振る舞いも身につけてもらわないといけませんから。少しこちらでマナーのお勉強をしてもらいます」

 

「そ、それはサーゼクス……さまやセラた――、セラフォルーさまに一通り教えてもらいましたが?」

 

 うん。俺完璧にできているはずだけど、なにかマズッたか?

 

 リアスの母親は微笑みながらうなずき提案してくる。

 

「そうね。とりあえずマナーのほうは問題ないようね。それなら、悪魔の歴史や仕来りなどには興味ありますか?」

 

「はい、興味あります。いままでじっくり勉強する暇はなかったので」

 

「そう。ならこれを機に勉強してみない?」

 

「それはいいですね。悪魔になったことですし」

 

 と、3,000件も仕事をこなさないといけないのに不用意に発言してしまい、さらにリアスの母親は満足気に頷いて「じゃあ、お勉強しましょうか」と言ってきて、俺も自然と頷いてしまった……。仕事に勉強まで追加されるなんて……!

 

 バン!

 

 テーブルを叩く音。見ればリアスがその場で立ち上がっていた。

 

「お父さま! お母さま! 先ほどから黙って聞いていれば、私を置いて話を進めるなんてどういうことなのでしょうか!?」

 

 その一言にリアスの母親は目を細める。俺たちを迎え入れてくれたときの笑顔はそこにはなかった。

 

「お黙りなさい、リアス。あなたは一度ライザーとの婚約を解消しているのよ? それを私たちが許しただけでも破格の待遇だとお思いなさい。お父さまとサーゼクスがどれだけ他の上級悪魔の方々に根回ししたと思っているの?」

 

 と、リアスの母親は何かを取り出して見せてきた。

 

 そこにはいくつもの雑誌の表紙に、婚約会場で仮面を取った俺がリアスをお暇様抱っこしている様子が写っていて、見出しには『黒い捕食者がリアス・グレモリーと熱愛!?』や、『婚約パーティに乱入! リアス・グレモリーを攫うために脱ぎ去った仮面!!』などと書かれていた。

 

「ううっ」

 

 リアスの顔が真っ赤に染まる。

 

「あなたが、魔王クラスの実力者であるエイジくんを眷属悪魔にしたことについては賞賛するところですが、次期当主としの自覚を持ちなさい。それに、あなたは表向きでは関係ないとされていますが、誰だってあなたを魔王の妹として見るわ。3大勢力が協力態勢になった今、あなたの立場は他の勢力の下々までに知られたことでしょう。以前のように勝手な立ち振る舞いもできないのです。そして何よりも、今後のあなたを誰もが注目するでしょう。魔王クラスの実力者と、赤龍帝を配下に加えていますしね。リアス、あなたは今後の世界で重要な立場に立っているのですよ? 二度目のわがままはありません。甘えた考えは大概にしなさい。いいですね?」

 

 その言葉にリアスは悔しそうにしながらも言い返せない様子だ。納得できないまま、椅子へ勢いよく腰をおろした。

 

 リアスの母親は息を一度吐いたあと、笑みを俺たちへ向ける。

 

「リアスの眷属さんと、お客さまたちにお見苦しいところを見せてしまいましたわね。話は戻しますが、ここへ滞在中エイジさんには特別な訓練をしてもらいます」

 

「俺だけですか?」

 

 すると、リアスの母親は笑みを止め、真面目な表情で真っ直ぐにおっしゃった。

 

「あなたは――次期当主たる娘の最後のわがままですもの。親としては最後まで責任を持ちますわ」

 

 リアスのほうへ視線を向ければ俺と視線を合わせたあと、先ほどよりも顔が真っ赤になった。

 

 それにしても今日はリアスのレア顔をよく見れるな。って黒歌たちは遠慮無しに黙々と目を輝かせながら食事を食べていて、レイナーレはメイドさんにレシピを聞いていた。マジでこいつらマイペースだな……。

 



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第39話 若手悪魔、集合です!

 

<ヴェネラナ・グレモリー>

 

 

 我が家に娘と、娘の眷属とエイジさんの眷属の皆さんが到着した次の日。

 

 私はエイジさんが秘めている才能に畏れおののいていた。

 

「本当に、エイジさんが書斎の本をすべて読破したの?」

 

「は、はい、奥さま。何でも【風読みの眼鏡】という本を2倍から50倍の速度で読めるようになる魔道具を使用して、午前中の間にすべてお読みになられました」

 

「冥界の文字も? 彼は幼い頃から冥界で賞金稼ぎをしていたそうだから、ある程度は読めると思っていましたが、書斎には翻訳が難しい本もあったはずよね?」

 

「ええ、そうなんです。若さまも読めない部分を訊いてこられましたが、すぐに文字を覚えてしまわれました……。その他、計算や魔法学や悪魔学や政治方面でも優れていました。グレモリーの歴史もしきたりもすでに覚えられました」

 

 教育係りに指名した悪魔からの報告を聞いて、信じられないと思う反面、冥界で有名になり、魔王クラスといわれている黒い捕食者なら当然だと思う自分がいた。

 

 教育係りに使命した悪魔は深々と頭を下げてきた。

 

「もはや自分に教えられることなど、なにもございません。若さまがすでに習得している知識は専門家レベルです」

 

「まさか、そんなに?」

 

「はい。読むだけではなく、すべて読んだ本を完璧に理解されています。しかも一度で。知勇に飛びぬけて優れている若さまのような人物を覇王や覇者という者なんでしょう。一介の悪魔である私は、若さまの力に引き込まれてしまいます。――ああ……、姫さまもすごい方を連れてきたものですな」

 

 興奮したような、感激しているような教育係りの悪魔。私が選んだ一流の教育係りにそこまで言わせるなんて……。

 

 私はミリキャスと勉強しているという彼の元へと会いに向かった。

 

 部屋のドアを少しだけ開いてなかを覗くと、エイジさんが私のところに報告にきた教育係りの悪魔の代わりにミリキャスに勉強を教えていた。

 

 すごく丁寧な教え方で、楽しく授業を行うその姿は様になっていた。まるで、熟練の教育者ね。

 

 ミリキャスが問題を解きながらエイジさんに訊いた。

 

「お兄さまはなぜそんなに勉強がお出来になるのですか?」

 

 私も気になっていたこと。さすが私の孫ね、いい質問だわ。

 

 エイジさんは「うーん」と唸るとゆっくりと答えた。

 

「きちんと勉強していないと、好きな女の子に恥をかかせるかもしれないから、かな」

 

 ――っ。

 

「好きな女の子に?」

 

「うん、そうだよ。ミリキャスはいま好きな女の子はいるかい?」

 

「いいえ。そういうのはまだわかりません」

 

「じゃあ、将来だな。未来の自分が勉強やマナーが出来ていないと、好きな女の子を満足にエスコートすることも出来ないだろう? 俺は、自分が不甲斐ないせいで女性に迷惑がかけることが一番嫌なんだ。つまならい勉強も、将来の自分のためと思えば辛くはないし、むしろ将来が楽しみになるのさ」

 

「お兄さまはお姉さまのために勉強するんですか?」

 

「違うよ。全部俺のため。自分自身が納得いくためにがんばるんだよ。ミリキャスもグレモリー家のため以前に、まずは自分の将来のためって考えて勉強したほうがおもしろいよ」

 

「おもしろいですか?」

 

「ああ、おもしろいさ。それに、何が自分の役に立つかは分からないけど、色んな知識は持っていて困ることはまずないし、ミリキャスはこんないい環境で勉強させてもらえるんだ。いまのうちにたくさん勉強しておけば将来が楽になるだろう。――さっ、続きを始めようか?」

 

「はい! お兄さま」

 

 ミリキャスが元気よく返事をして問題を再び解き始めた。

 

 ふふふ、勉強は将来の自分のためですか。まだ17歳ほどなのに自分の考えと理論を持っているんですね。

 

 私はゆっくりとドアを開けてなかに入った。

 

「おばあさま!」

 

 とミリキャスが笑顔で迎え入れてくれる。エイジさんも私に軽く頭を下げる。

 

「エイジさん、ミリキャス。お勉強ははかどっているのかしら?」

 

「はい!」

 

「ええ」

 

 と、返事を返すミリキャスとエイジさん。私はエイジさんのほうへ近づく。

 

「ふふふ、まさか午前中の間に冥界の勉学を学び終わってしまうなんてね。ミリキャスにも勉強を教えていたみたいだし」

 

 そう言うと、エイジさんは苦笑した。

 

「もともと基礎はサーゼクスさまとセラフォルーさまに教えてもらっていましたし、幼い頃から冥界で賞金稼ぎの仕事をしていましたから」

 

 そういえば黒い捕食者のアニメは、幼少期から青年期のいままで続いていたわね?

 

「エイジさんは何歳ぐらいから冥界で賞金稼ぎのお仕事を? といいますか、なぜ冥界で賞金稼ぎという危ない仕事をされていたのですか?」

 

 気になったので訊ねてみる。

 

「そうですね。だいたい8歳ぐらいですね」

 

 8歳!?

 

「8歳のときに両親が交通事故に遭って亡くなって、身内もいなかったので施設へ入れられそうになったんですが、自分は施設に入るのが嫌で逃げ出してしまったんです。そのあとすぐに怪我していた黒歌を拾って冥界に渡ったんです」

 

『はぐれ』悪魔の黒歌……、なぜ主を殺したのか事情はすでに訊きましたし、今は『はぐれ』ではなくエイジさんの使い魔でしたわね。昨夜の夕餉の席でも危険な気配は感じませんでしたし、小猫とも険悪という雰囲気ではありませんでした。小猫も、黒歌が近くにいるのに恐れている様子もありませんでしたね。

 

「冥界に渡ってからは、賞金首の悪魔や堕天使を倒しながら生活費を稼いでいました。人間界と違って、冥界は子供でも仕事は出来たのが幸運でした。サーゼクスさまとは賞金稼ぎを始めてから1年ほど経った頃にお会いして、それが縁で人間界に家と仮の保護者として戸籍をお借りして、人間界に自宅を持ち、再び人間界の学校に通えるようになりました」

 

 微笑みながら、思いだすようにエイジさんは話しますけど、かなり壮絶な人生ね……。ミリキャスも若干引いていますし……。

 

「それからは人間界と冥界を行き来しながら賞金稼ぎとして働いていました。今年の春にリアス……リアスさまと出会い、転生悪魔になるまでは。――と、今は転生悪魔ではなくインキュバスですね」

 

 本当に壮絶な人生ね。賞金稼ぎなんて危険な仕事を幼い頃から行い、人間から転生悪魔になって、滅びたはずのインキュバスになるなんて。まあ、それよりも、きちんと2人きりのときとかは『リアス』と普通に呼んでいるのね。ふふっ、同じ家に住んでいるのに、まだ処女だったみたいだから心配したけど、だいじょうぶみたいね。

 

 ああ、そういえば――。

 

「あなたは娘の、リアスの眷属悪魔になったことに後悔はないのですか? 『兵士』の駒1個でイレギュラーで転生したことから、あなたは同意していないときにリアスが勝手に眷属化させたのでしょう?」

 

 そう、魔王クラスの者が、勝手に格下の上級悪魔相手に勝手に眷属にされたのだから、憤りがあってもおかしくはないはず。

 

 私の問いにエイジさんは笑みを浮べて答え始めた。

 

「後悔などありませんよ。勝手に眷属に、というか転生悪魔にされたときは戸惑いましたし、転生悪魔にした悪魔が最低な者だったらすぐに逃げていました。でも、リアス・グレモリーの人なりをみて、自分自身から彼女の眷属悪魔になり、彼女を支えたいと思ったんです。ふふっ、まあ、一言で言えば惚れたんでしょうね。彼女に」

 

 嬉しそうに微笑む姿は独特の色気が感じられました。ふふっ、さすが転生悪魔から大勢のサキュバスたちを屈服させてインキュバスとなった者ですね。女を惑わすような色気が強いですわ。

 

「母親として、その言葉はすごく嬉しいですわ」

 

 ふふっ、しかもグレモリー家に彼と一夜を共にしたいという依頼が、もうすでに2万件ほど寄せられていましたし……。まあ、本来グレモリー家の者が行う仕事ではありませんが……。インキュバスの彼ならば仕方がないでしょう。避妊も完璧に行っているようですし。彼を通して上流階級の悪魔の方々と数多くの大きなパイプをいくつも作れましたから。魔王のひとりであるセラフォルー・レヴィアタンさまとも仲がよいみたいですから、許しましょう。

 

 ふと、時計を見る。もうそろそろですね。

 

「もうすぐリアスが帰ってきます。今日は若手悪魔たちが魔王領に集まる恒例の行事があるものですから」

 

 リアスと変わらない年齢の若手悪魔が一堂に会する。ふふふ、名門、旧家といった由緒正しい上級悪魔の跡取りたちと、上級悪魔や魔王の皆さんに彼がグレモリーの眷属であると見せつけないとね。

 

 ああ、やはり私は悪魔ね。彼が欲しくてたまらないわ。魔王クラスの実力者で知にも優れている。どうやってもグレモリー家に取り込みたいわ。もしリアスがダメだったら私が誘惑しましょうか? うふふ、赤龍帝も手に入りましたし、これからの冥界は本当に退屈しないわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 部長たちとグレモリー城観光ツアーから帰ってきてすぐ、エイジと合流して例のグレモリー家専用列車で魔王さまがいらっしゃる領土へ移動した。ちなみに、エイジの眷属さんたちは部外者ということでグレモリー家のお城で留守番してる。

 

 途中、宙に展開する巨大な長距離ジャンプ用魔法陣を何度か潜り抜けて、列車は進んだ。

 

 列車に揺られること3時間。到着したのは――都市部だった。

 

 駅もホームも近代的だよ! 自動販売機だってあるじゃん! 多少デザインが俺の住む世界とは違うけど、遠くに見える建物も最先端の様相を見せている!

 

「ここは魔王領の都市ルシファード。旧魔王ルシファーさまがおられたと言われている冥界の旧首都なんだ」

 

 と、木場が説明してくれる。ここはルシファーさまがいた都市なわけね。ちなみに俺たちの格好はエイジ以外は駒王学園の夏の制服だ。俺たち眷属のユニフォームみたいなもんだが、エイジは元から着ていたコスチュームのほうが馴染むらしく、部長もエイジがこちら側についたことを知らせるために、あえて冥界で知られている格好を許したそうだ。

 

「このまま地下鉄に乗り換えるわよ。表から行くと騒ぎになるからね」

 

 木場がそう言う。地下鉄もあるのか! 本当、人間界と変わらないところも多いな!

 

「キャーッ! リアス姫さまぁぁぁぁっ!」

 

 突然、黄色い歓声が聞こえてくる。見ればホームにいた悪魔の方々が俺たち――部長を見て憧れの眼差しを向けていた。おおっ、部長は人気者なのか?

 

「部長は魔王の妹。しかも美しいのですから、下級、中級悪魔から憧れの的なのですよ?」

 

 朱乃さんがそう説明してくれた。マジか! 部長は冥界じゃチョー有名人ってこと?

 

「まあ、それよりもいま人気なのは――」

 

 と、朱乃さんが続けて言おうとしたところで、

 

「キャーッ! ブラックさまよ! ブラック・プレデターさまぁぁぁぁっ!」

 

 先ほどより大きな歓声が響いた。見れば女性の悪魔さんがたが熱い視線をエイジに送っている! 写真を撮ろうとしている悪魔もいるじゃん! それに比べて、男はまったく歓声をあげていないが……。

 

「うふふ、エイジくんは――、というか黒い捕食者は冥界の女性の憧れですからね。創作の世界のエイジくんはもちろん、魔王クラスの実力者で女性にやさしく大事にしてくれると有名で、仮面をとった素顔も美形だったことで、いま冥界の女性たちのあいだで一番有名なんですよ」

 

 朱乃さんが再び説明してくる。そ、そういや、エイジって冥界ではものすごい有名人だっていってたな。女性悪魔たちが熱狂しまくってる。まあ、名前と正体が知れてから1万件以上も依頼が来るほど人気者だもんな。

 

 まあ、うらやましいとは思ってるけど……、悲鳴みたいな歓声と獲物を前にした肉食獣ばりの獰猛な目つきはさすがに怖いな。

 

「ヒィィィィ……。悪魔がいっぱい……」

 

 俺の背中でギャスパーが悪魔の多さと声に反応して慌てふためいていた。引きこもりに辛い日が続いてますな。

 

「困ったわね。これ以上騒ぎになる前に急いで地下の列車に乗りましょう。専用の列車は用意してあるわよね?」

 

 部長は連れ添いの黒服男性の1人に訊く。俺たちのボディーガードらしく、グレモリー城から何人もついてきてくれていた。

 

「はい。ついてきてください」

 

 こうして俺たちはボディーガードさんのあとに続いて、地下鉄の列車へと移動したのだった。

 

「リアスさまぁぁぁぁっ!」

 

 部長は男性からも大人気のようで苦笑しながらも男の群れに手を振っていた。

 

「エイジさまぁぁぁぁっ!」

 

 部長に次いで女の子からエイジを呼ぶ声がいくつも聞こえた。ってエイジって名前知られてるんだ!? あ、まあ、婚約パーティで正体ばらしながら名前を叫んでたな。ああ、エイジの野郎、堂々と歓声に応える姿が様になってるし、手を振られた女の子も顔を真っ赤にして喜んでる。ううっ、イケメン&気遣い&力は反則だな……。俺もエイジみたいにモテモテになれるのかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下鉄から乗り換え、さらに揺られること5分ほど。

 

 着いたのは――都市で一番大きい建物の地下にあるホームだった。

 

 若手悪魔、旧家、上級悪魔のお偉いさんが集まるという会場がこの建物にある。ボディーガードの人たちはエレベーター前までしか随行できないようで、そこで待機となった。

 

 俺たちは部長を先頭に地下からエレベーターに乗り込む。広いエレベーターだ。

 

「皆、もう一度確認するわ。何が起こっても平常心であること。何を言われても手を出さないこと。――上にいるのは将来の私たちのライバルたちよ。無様な姿は見せられない」

 

 部長の言葉はいつも以上に気合が入っていて、凄みがあった。

 

 エイジは優雅というか堂々としていたが、俺もアーシアも生唾を飲んで気持ちを落ち着かせていた。よし! 緊張しまくりだけど、俺の他にも『兵士』がいるんだろうし、無様なところは見せないぞ!

 

 かなり上に上がったところで、ついにエレベーターが停止し、扉が開く。

 

 一歩をそこへ踏み出すと、そこは広いホールだった。エレベーターから出ると、そこには使用人らしき人がいて、部長や俺たちに会釈してきた。

 

「ようこそ、グレモリーさま。こちらへどうぞ」

 

 使用人のあとに続く俺たち。通路に進んでいくと、一角に複数の人影が――。

 

「サイラオーグ」

 

 部長はその人影の1人を知っている様子だった。

 

 あちらも部長を確認すると、近づいてくる。男性だ。見た目、俺たちと同い年ぐらい。

 

 黒髪の短髪で野生的なイケメンだった。活動的な格好をしていて、すごく体格が良くて筋肉質だな。プロレスラーみたいだ。でか、武道家系悪魔さん? 瞳は珍しい紫色だね。

 

 どことなく、顔の面影は部長――いや、サーゼクスさまに似ているような気がする。

 

「久しぶりだな、リアス」

 

 部長とにこやかに握手を交わしていた。おおっ、若手悪魔さん? やはり、上級悪魔なんだろうか? とりあえず、下級悪魔の俺でも迫力ある魔力の波動を感じ取れる。

 

 その人の眷属らしき悪魔たちはこちらに視線を送っていた。……強そうな悪魔の皆さまばかりなんですけど……。

 

「ええ、懐かしいわ。変わりないようで何よりよ。初めての者もいるわね。彼はサイラオーグ。私の母方の従兄弟でもあるの」

 

 部長はその悪魔さんを俺たちに紹介してくれる――って、従兄弟!?

 

「俺はサイラオーグ・バアル家の次期当主だ」

 

 バアル! バアルって、魔王に次に偉い『大王』じゃなかったけ!? 部長のお母さんはバアル家出身の悪魔だったのかな?

 

 驚く俺をよそに部長はバアル家の次期当主さんと会話を再開させる。

 

「それで、こんな通路で何をしていたの?」

 

「ああ、くだらんから出てきただけだ」

 

「……くだらない? 他のメンバーも来ているの?」

 

「アガレスもアスタロトもすでに来ている。あげく、ゼファードルだ。着いた早々ゼファードルとアガレスがやりあい始めてな」

 

 心底嫌そうな表情だ、このイケメンさん――サイラオーグさんだったけ?

 

 つーか、何をやり合い始めたの?

 

 疑問に感じる俺だが――。

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

 建物が大きく揺れ、巨大な破砕音が聞こえてくる! ええっ!? 何事!? 近くから聞こえてきたんですけど!?

 

 部長はそれが気になったのか、躊躇いもなく音のしたほう――大きな扉へ向かった。

 

「まったく、だから開始前の会合などいらないと進言したんだ」

 

 サイラオーグは嘆息しながらも自分の眷属らしき者たちと部長のあとに続く。

 

 何々!? 何なの? 俺たちは疑問と不安にかられながらも主の部長のあとを追うしかなかった。

 

 開かれた大きな扉の向こうには――破壊さら尽くした大広間があった! テーブルも椅子も装飾品も全部破壊されている!

 

 中央には両陣営に分かれた悪魔の皆さま方が睨み合っていた! 武器を取り出していて一触即発の様相だ!

 

 一方は邪悪そうな格好の魔物や悪魔さんたち。もう一方は比較的普通そうな悪魔の一行さんたち。ただ、両チームともおそろしいほどに冷たく殺意に満ちたオーラを放っていた。

 

 怖い! すんごい怖い! なんてオーラの質と量だよ! 俺らよりも上に感じるぞ! 

 俺の視界に広間の隅でテーブルを無事に保ったまま、優雅にしている悪魔眷属の者たちも映った。やさしげな表情の少年悪魔を中心に……不気味そうなフードを被った者たち。

 

「ゼファードル、こんなところで戦いを始めても仕方なくて? 死ぬの? 死にたいの? 殺しても上に咎められないかしら」

 

 睨み合う2チームの片方。女の悪魔がクールに言ってくれる。「殺す」とか怖いこと言っているな……。

 

 おおっ、でも、すっげえ美少女! 俺と同い年ぐらいかな? メガネをしていて――冷たく鋭い視線が怖い。やっぱ怖いや。オーラから伝わる魔力の波はすごく冷たいし……。

 

 青色のローブを着ていて、肌の露出は少ない。それがちょっと残念。

 

「ハッ! 言ってろよ、クソアマッ! 俺がせっかくそっちの個室で一発しけこんでやるって言ってやってんのによ! ――って!?」

 

 顔に魔術的なタトゥーを入れてて、緑色の髪も逆立っている。上半身裸で体にも魔術的なタトゥーが入ってて、ズボンにも装飾品をジャラジャラつけてる、ヤンキーみたいなっていうかヤンキー悪魔の言葉が途中で止まった。

 

 それもそのはず、目の前でいがみ合っていた相手がいきなり姿を消したのだから驚くだろう。

 

 ――って、どこに消えたんだ?

 

 部長も会場の悪魔たちもいきなり消えた美少女悪魔さんを探すが、俺たちのすぐ近くにいた。

 

 いや、マジで……。少し離れたところに位置する窓際で発見した。

 

「お久しぶりです、シーグヴァイラ。またお会いできて嬉しいです」

 

「こ、これは、か、神城さまっ。わ、私もお会いできて嬉しいです」

 

 そう。いつの間にか窓側に移動して先ほどの美少女悪魔を、これまたいつの間にか移動したエイジが口説いていたのだ! いったいいつの間に!?

 

 全員の視線が集まる中、先ほどまで殺気を冷たいオーラを放っていたはずの美少女悪魔さんは、恋する乙女のように頬を赤らめてうっとりとエイジにあいさつしていた。これには先ほどのヤンキー悪魔も声が出ない様子だ。

 

「これから新人悪魔同士の会合があるのでしょう。先ほどの無礼で下品な輩は忘れて、化粧を直してきてはどうでしょう? なにもせずともお美しいですが、化粧をしたあなたも美しいですから」

 

 と、美少女悪魔さんの頬をエイジが手でやさしく触れながらキザぽっく言う。す、すげえ……マジで様になってる!

 

 うっとりと頬を赤らめた美少女悪魔さんは嬉しそうに微笑むとうなずいて化粧室へと眷属悪魔さんたちを連れて広間から出て行った。

 

 美少女悪魔さんが出て行ったところで部長の元へとエイジが戻った。

 

「……うまく場を収めたわね」

 

「どうやら、まだ収まっていないようです」

 

 部長がエイジを褒めたが、エイジは苦笑して首を横に振った。

 

「おい貴様ぁぁぁぁっ! 下級悪魔風情が何、俺の邪魔してやがるんだぁぁぁっ!」

 

 と、ヤンキー悪魔が突っかかってきた! ヒィ! ま、マジでヤンキーだ! しかも、眷属の悪魔たちもお怒りのようだ!

 

「無駄なものに関わりたくはなかったのだが、こうなってしまえば仕方がない」

 

 襲い掛かってきそうな雰囲気の中、サイラオーグさんが首をコキコキと鳴らして前に出た。

 

 ちょっとちょっと! 危険ですよ、そっちは! 自分が狙ってた美少女悪魔がエイジとすごくいい雰囲気というか、メロメロにされたところ見て、ヤンキー悪魔がマジ切れしてんだから!

 

 俺は彼を制止しようとするが、部長が俺を止める。

 

「イッセー、彼――サイラオーグをよく見ておきなさい」

 

「え? は、はい。でもどうしてですか? 従兄弟だから?」

 

「――彼が若手悪魔ナンバー1よ」

 

 ヤンキー悪魔とその眷属たちの視線がサイラオーグさんに集まった。

 

「グラシャラボラス家の凶児ゼファードル。これ以上やるなら、俺が相手をする。いいか、いきなりだが、これは最後通告だ。次の言動しだいで俺は拳を容赦なく放つ」

 

 サイラオーグさんの迫力のある一言! すっげえ凄みだ! 俺もピリピリとプレッシャーを肌に感じたよ!

 

 その一言にヤンキー悪魔は青筋を立てて、怒りの色を濃くする。

 

「バアル家の無能が――」

 

 ドゴンッ!

 

 激しい打撃音! ヤンキーは言葉を全部言い切る前に――サイラオーグさんの一撃で広間の壁に叩き飛ばされていたっ!

 

 ガラッ……。

 

 壁からヤンキーが落ちる。――すでに気を失ったようで、床に突っ伏していた!

 

 ――1撃!

 

 あんなに強い魔力を放っていたヤンキーをたった拳の一撃で!?

 

「言ったはずだ。最後通告だと」

 

 迫力あるサイラオーグさんの言動に、

 

「おのれ!」

 

「バアル家め!」

 

 ヤンキーの眷属が主をやられた勢いで飛び出そうとなるが――。

 

「主を介抱しろ。まずはそれがおまえらのやるべきことだ。俺に剣を向けてもおまえたちにひとつも得はない。――これから大事な行事が始まるんだ、主をまずは回復させろ」

 

『――ッ!』

 

 その一言にヤンキーの眷属たちは動きを止めて、倒れる主のもとへ駈け寄っていった。

 

 それを確認したあと、サイラオーグさんは自分の眷属に言う。

 

「スタッフを呼んでこい。広間がメチャクチャすぎて、これではリアスと茶も出来ん」

 

 俺はサイラオーグさんのひと挙動ひと挙動に惹かれてしまっていた。

 

 この人、強い! そして、かっけぇぇぇぇっ! これが若手悪魔ナンバー1の男!

 

 俺は生まれて初めて年の近いカッコイイ男と出会ったかも。

 

 サイラオーグさんがエイジに手を差し出した。エイジが握手を求められてる!

 

「先ほどの動き。この俺にもまったく見えなかった。さすが魔王クラスの実力者だな」

 

「まあ、それほどでも。――先ほどのパンチもなかなかでしたよ」

 

 エイジがサイラオーグの握手に応える。って、マジでサイラオーグさんにも動きが見えなかったの!? マジでどれだけ強いんだよエイジ!

 

「あ、兵藤! 神城!」

 

 と、そこに聞き覚えのある声が。振り返れば、そこには見知った駒王学園の制服に身を包んだ人たち。

 

「匙じゃん。あ、会長も」

 

「ごきげんよう、リアス、兵藤くん。……神城くん」

 

 匙とソーナ会長も広間に到着したようだ。って、エイジの格好見てなんか目が輝いていたような……。そういやコカビエルと戦う前にもこんな感じだったなぁ。

 



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第40話 新人悪魔の会合

 

<イッセー>

 

 

「私はシーグヴァイラ・アガレス。大公、アガレス家の次期当主です」

 

 先ほどのメガネのお姉ちゃん――アガレス家のお嬢さまに俺たちグレモリー眷属はあいさつしてもらう。

 

 大広間はあのあと、駆けつけたスタッフの魔力によって修復され、ほぼ元に戻った。

 

 改めて若手が集まり、あいさつを交わしていた。さっきのヤンキーとその眷属を抜かした者たちでテーブルを囲んでいる。

 

 部長――グレモリー眷属、会長――シトリー眷属、サイラオーグさんのバアル眷属。そして、先ほどのヤンキーがグラシャラボラス眷属らしい。

 

 しかし、この姉ちゃん、大公の次期当主かよ! 大公さまは、俺たち悪魔に命をくだす魔王さまの代理人!

 

 魔王さまが会社の社長なら、大王さまは副社長、大公さまは専務だと部長に聞いたことがある。その大公の次期当主の姉さんが先ほどからエイジにすごく熱い視線を送ってる! エイジもそれににこやかに応えているし、結構親しそうだ。

 

「ごきげんよう、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主です」

 

「私はソーナ・シトリー。シトリー家の次期当主です」

 

 部長と会長が続けてあいさつする。

 

 主たちが席に着き、眷属はその主の後方で待機している感じだ。どこも一緒。

 

「俺はサイラオーグ・バアル。大王、バアル家の次期当主だ」

 

 堂々と自己紹介してくれるサイラオーグさん。やっぱり威風堂々している。やっぱりナンバー1は格が違うんだろうな。

 

 先ほど、騒ぎのなか優雅にお茶を飲んでいたやさしげな雰囲気の少年も口を開く。

 

「僕はディオドラ・アスタロト。アスタロト家の次期当主です。皆さん、よろしく」

 

 なんともやさしげな声だとこ。虫も殺せないような感じだけど、そこは悪魔。この人も裏じゃすごいかもしれない。

 

 アスタロト……。えっと、確か、現ベルゼブブさまが出た名家だっけ。

 

 さっきのヤンキーはグラシャラボラスだから、現アスモデウスさまが出たところだったはず。

 

 あんなのが次期当主でいいのか? 話では、フリーダムすぎる魔王さまの影響で兄弟は皆真面目だと聞いていたんだけど。

 

「グラシャラボラス家は先日、御家騒動があったらしくてな。次期当主とされてた者が不慮の事故死をとげたばかりだ。先ほどのゼファードルは新たな次期当主の候補ということになる」

 

 サイラオーグさんがそう説明してくれた。

 

 マジか。グラシャラボラス家は大変なことになっているんだな。しかし、あんなのが次の候補では大変だと思うんだが……。ま、他のお家のことには首を突っ込まないほうがいいかもね。

 

 こうして若手悪魔6名がそろったわけだ。どの悪魔の眷属さんも強そうなのばかりだ……。俺が一番弱く見えてそうでさ……。気が引ける。

 

 グレモリーがルシファー、シトリーがレヴィアタン、アスタロトがベルゼブブ、グラシャラボラスがアスモデウス、そして大王と大公。この6家ってことか。

 

 すげえメンツだ! 何、このドリームメンバー! なるほど、これが有望な若手悪魔なわけね。確かに有望というか、将来を背負って立ちそうなメンバーだよ。

 

 皆、上級の世界にいるせいか、振る舞いや漂うオーラが違う。このメンバーを集めて旧家や上級悪魔のお偉いさんは何を見たいのかな?

 

「おい、兵藤。間抜けな顔を見せるなよ」

 

 匙が嘆息しながら俺にそう言う。

 

「だってよ、上級悪魔の会合だぜ? 緊張するじゃないかよ。皆、強そうだ」

 

「何言ってんだよ。おまえは赤龍帝だぞ? もう少し堂々とすればいいじゃないか。神城を見てみろよ」

 

「エイジを?」

 

 匙に言われてエイジを見ると、エイジは堂々と部長の後ろに待機していた。しかも、アガレス家の姉ちゃんだけじゃなく、次期当主の悪魔さんやその眷属たちに品定めしているような視線を送られている。

 

「さすが、『黒い捕食者』だよ。探るような視線も殺気も歯牙にかけずに堂々と主の後で待機してるんだ。マジで格が違う。冥界に来てから会長の城で神城の活躍するアニメとか映画や捕らえた賞金首のリストを見せてもらったけど、本当に魔王クラスだよあいつ」

 

 と匙が羨望の眼差しでエイジを見ていた。

 

「眷属悪魔はこの場で堂々と振る舞わないといけないんだ。相手の悪魔たちは主を見て下僕を見るんだからな。だから、おまえがそんなんじゃ、先輩にも失礼だ。神城みたいにちったぁ自覚しろ、おまえはグレモリー眷属で、赤龍帝なんだぞ」

 

 匙から強面に意見されて、俺もちょっと驚いた。

 

「おまえは先輩自慢の眷属だからな。……俺だって、会長の自慢になってみたいさ」

 

 匙は苦笑しているけど……。なんだ? どうしたんだ、こいつ?

 

 疑問に感じる俺。そこへ扉が開かれ、使用人が入ってくる。

 

「皆さま、大変長らくお待ちいただきました。――皆さまがお待ちでございます」

 

 ついに行事とやらが始まる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たち若手悪魔の面々が案内されたのは、異様な雰囲気が漂う場所だった。

 

 かなり高いところに席が置かれており、そこに偉そうな方々が座っている。さらにその上の段にも偉そうな悪魔の皆さん。

 

 もうひとつ上の段には見知った顔の方――魔王サーゼクスさまがいらっしゃった。隣にはセラフォルーさま。今日は魔王少女の姿じゃないのね。

 

 俺たちはお偉いさんに高い位置から見下ろされている状態だ。正直、あまり気持ちのいいものじゃない。お偉いさんたちも俺らを見下した目で見ているからだ。嫌な感じだぜ。

 

 俺たちは部長のうしろに並んで待機していた。特にすることもないんだけどね。それでも緊張するなぁ。だって、すっごく静寂なんだもん……。仕方ないから、他の眷属の女の子を見ていよう。

 

 獣娘や元人間の娘もいるみたいだしさ。あとで仲良くしてもらえたら最高だな。

 

 などと俺が下心全開にしていたら、部長を含めた若手6人が一歩前に出る。ヤンキーも復活して同様に一歩前へ出ていた。頬の腫れはいまだに引かないようで生々しい痕を残していた。まあ、あれだけのパンチだ。アーシアの回復神器でも当てない限り、すぐには消えないだろう。

 

「よく、集まってくれた。次世代を担う貴殿らの顔を改めて確認するため、集まってもらった。これは一定周期ごとにおこない、若き悪魔を見定める会合でもある」

 

 初老の男性悪魔が手を組みながら、威厳の声で言う。

 

「さっそく、やってくれたようだが……」

 

 今度はヒゲたっぷりの男性悪魔が皮肉げに言う。さっきの騒動のことだな。さっそくやってましたね。俺もビックリです。若手の至り?

 

「キミたち6名は家柄、実力共に申し分ない次世代の悪魔だ。だからこそ、デビュー前にお互い競い合い、力を高めてもらおうと思う」

 

 一番上の段のサーゼクスさまがおっしゃられる。

 

 ってことは、ここにいる眷属悪魔たちでレーティングゲームをやれってことか? そういえば、アザゼル先生が言ってたな。冥界での合宿中にレーティングゲームをセッティングしたって。もしかして、これのことか?

 

「我々もいずれ『 禍 の 団 (カオス・ブリゲード)』との戦に投入されるのですね?」

 

 サイラオーグさんがいきなり直球を訊く。こりゃすごいこと訊ねるもんだね。

 

「それはまだわからない。だが、できるだけ若い悪魔たちを投入したくないと思っている」

 

 サーゼクスさまはそうお答えになられる。その応えにサイラオーグさんは納得できないように眉をつり上げた。

 

「なぜです? 若いとはいえ、我らとて悪魔の一端を担います。この歳になるまで先入の方々からご厚意を受け、なお何もできないとなれば――」

 

「サイラオーグ、その勇気は認めよう。しかし、無謀だ。何よりも成長途中のキミたちを戦場に送るのは避けたい。それに次世代の悪魔を失うのはあまりに大きいのだよ。理解して欲しい。キミたちはキミたちが思う以上に我々にとって、宝なのだよ。だからこそ、大事に、段階を踏んで成長して欲しいと思っている」

 

 サーゼクスさまのお言葉にサイラオーグさんも「わかりました」といちおうの納得をしたようだ。でも、不満ありそうな表情だな。

 

 その後、お偉いさんたちの難しいお言葉やら魔王さまからの今後のゲームについてなど、難しい話が続いた。俺はちんぷんかんぷんで頭がパンクしそうだった。

 

 早く終わらないものか。って、終わったところで休む間もなく、合宿の修行が始まるんだよね。でも、ベッドで一眠りぐらいしてから修行に臨みたいもんだ。

 

「さて、長い話に付き合わせてしまって申し訳なかった。なに、私たちは若いキミたちに私たちなりの夢や希望を見ているのだよ。それだけは理解して欲しい。君たちは冥界の宝なのだ」

 

 サーゼクスさまの言葉に皆聞き入っていた。魔王さまの言葉には嘘偽りが含まれていないのが聞いていてわかる。やっぱ部長のお兄さんだね。基本的におやさしいと思うんだ。

 

「最後にそれだけの今後の目標を聞かせてもらえないだろうか?」

 

 サーゼクスさまの問いかけに最初に答えたのはサイラオーグさんだった。

 

「俺は魔王になるのが夢です」

 

 ――っ! いきなり、言い切ったよ、この人! すげえ!

 

『ほう……』

 

 お偉いさんたちも、正面から迷いもなく言い切ったサイラオーグさんの目標に、感嘆の域を漏らしていた。

 

「大王家から魔王が出るとしたら前代未聞だな」

 

 お偉い男性悪魔の方がそう言う。

 

「俺が魔王になるしかないと冥界の民が感じれば、そうなるでしょう」

 

 また言い切った! すっごいな、この人!

 

 驚く暇もなく、次は部長が言う。

 

「私はグレモリーの次期当主として生き、そしてレーティングゲームの各大会で優勝することが近い将来の目標ですわ」

 

 なるほどね。それが部長の夢、目標なのか。初めて耳にした気がする。堅実だな。部長らしいや。おし! 俺ら眷属はその部長の夢のためにがんばるぜ!

 

 そのあとも若手の人たちが夢、目標を口にし、最後に残ったのはソーナ会長だった。

 

 そして、ソーナ会長は言う。

 

「冥界にレーティングゲームの学校を建てることです」

 

 学校か! へぇ、会長は学校を建てたいんだな。

 

 と、俺は感心していたのだが、お偉いさんたちは眉を寄せていた。

 

「レーティングゲームを学ぶところならば、すでにあるはずだが?」

 

 確認するかのようにお偉いさんは会長に訊く。

 

 会長は淡々と答える。

 

「それは上級悪魔と一部の特権階級の悪魔のみしか行くことが許されない学校のことです。私が建てたいのは下級悪魔、転生悪魔も通える分け隔てない学舎です」

 

 おおっ、差別のない学校か。それはいいな。これからの冥界にとって、良い場所になるんじゃないかな。匙も誇らしげに会長の夢を聞き入っていた。

 

 しかし――。

 

『ハハハハハハハハハハハハハハハッ!』

 

 お偉いさんたちの笑い声がこの会場を支配する。

 

 俺は意味がわからなかった。なんでお偉いさんたちが笑い出したのか。部長のほうへ顔を向ければ、目を細めて難しい顔になっていた。え? え? どういうこと?

 

 理解できない俺。匙も突然の笑い声に驚いていた。

 

 そしてお偉いさんたちは嘲笑を浮べながら口々に言う。

 

「それは無理だ!」

 

「これは傑作だ!」

 

「なるほど! 夢見る乙女というわけですな!」

 

「若いというのはいい! しかし、シトリー家の次期当主ともあろう者がそのような夢をかたるとは。ここがデビュー前の顔合わせの場でよかったというものだ」

 

 わからない。どうして会長は――バカにされているんだ?

 

「……いまの冥界がいくら変わりつつあるとしても、上級と下級、転生悪魔、それらの間の差別はまだ存在する。それが当たり前だといまだに信じている者たちも多いんだ」

 

 隣で木場が淡々と口にしていた。

 

「なんだ、それ? だって、部長のお家は俺たちを普通に迎え入れてくれたじゃないか」

 

「イッセーくん。グレモリーは情愛が深い悪魔の一族だ。あまり人間にも下級悪魔にも差別的な目を向けない。……だけど、フェニックスを思い出してくれ」

 

「――っ」

 

 木場の言葉に脳裏でライザー・フェニックスが思い出される。確かに、あいつは俺をバカにしていた。下級だと下僕だと。俺に差別的な態度を取っていたかもしれない。

 

 そんななかでも会長は真っ直ぐに言う。

 

「私は本気です」

 

 セラフォルーさまもうんうんと力強くうなずいていた。「よく言った!」と言わんばかりのご様子だ。魔王という立場上、妹を応援できないのだろうが、それでも心配そうだった。

 

 しかし、冷徹な言葉をお偉いさんは口にする。

 

「ソーナ・シトリー殿。下級悪魔、転生悪魔は上級悪魔たる主に仕え、才能を見出されるのが常。そのような養成施設をつくっては伝統と誇りを重んじる旧家の顔を潰すこととなりますぞ? いくら悪魔の世界が変革の時期に入っていると言っても変えていいものと悪いものが……」

 

 ピリッ!

 

 会場の空気が一瞬凍った。会場のすべての悪魔が目を大きく見開いて驚き、動けないでいた。な、何? 何が!?

 

「すみません、発言を許可してほしいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 ――エイジだった。すごい笑顔だけど背景というか、体から漂うオーラはとんでもない! 先ほどのアガレスの姉ちゃんとヤンキー悪魔のオーラより格段に強い!

 

 お偉いさんたちもかなりビビッて顔に汗をかいているほどだ。

 

「……い、いいだろう。発言を許す」

 

 お偉いさんの許可を出した。さ、さっきまでの高圧的な態度が一変してる!

 

 一歩前に出て軽く会釈してから口を開くエイジ。

 

「あなた方はソーナ・シトリー殿をなぜ笑うのですか?」

 

「そ、それは下級悪魔や転生悪魔は、主に才能を……」

 

「では下級悪魔や転生悪魔は弱いというのですか?」

 

 エイジはお偉いさんに笑顔を向けるがマジで怖い! お偉いさんマジでビビッているよ! エイジは一応転生悪魔で下級悪魔になってるけど、実力は魔王クラスだから、言葉の重圧がすごく重い! 

 

「下級悪魔や転生悪魔でも才能があるものは存在します。ソーナ・シトリー殿が将来学校を設立し、下級悪魔や転生悪魔たちに教育を施せば、悪魔全体の力を高めることになるでしょう。――確かに伝統や格式は大事です。ですが、先ほどサーゼクスさまがおっしゃった通り、次世代の悪魔たちは宝。その次世代の悪魔たちが成長する場が多くなることは素晴らしいことではないですか?」

 

「……う、うむ。そ、それはそうだな……」

 

 おおっ! お偉いさんがうなずいている!? 言いくるめられてる!? いや、言いくるめるって言うより圧力かけて脅しているに近いな……。

 

 エイジはあの怖い笑顔を向けながらさらに続けた。

 

「それに、この会合は有望な新人悪魔が集まり、自らの目標や夢を掲げるが目的ですよね? その会合でソーナ・シトリー殿が掲げた目標や夢を笑うとはあまりにも失礼ではないですか? 偉大な悪魔なら、どんな夢や目標も応援しろ、とまでは言いませんが、受け入れる度量を見せてもいいはずではないのですか」

 

『………………』

 

 お偉いさんたちは黙ってる。え、エイジ……少し言いすぎじゃないか? セラフォルーさまは「グッド!」と満面の笑みで拳を突き出して親指を立ててるけど。

 

 長い沈黙のあと、ソーナ先輩の目の前に位置していたお偉いさんの悪魔が頭を下げた。えっ!? 他のお偉いさんたちも頭を下げてる!

 

「……ソーナ・シトリー殿、どうやらこちらに無礼があったようだ。下級悪魔や転生悪魔の学校を建てることを素直に応援はできないが、認めよう。笑いものにしてすまなかった」

 

 お偉いさんたちが自分たちの非を認めた! っていうかすげえな、エイジ。まるで隙を見せない! マジで格の違いってのを見せられた気がする!

 

 ソーナ先輩はお偉いさんたちからの突然の謝罪に、少し戸惑いながらも受け入れた。

 

 と、そこでエイジからお偉いさんたちへ発せられていた重圧がなくなり、エイジは部長の後ろのポジションに戻った。お偉いさんはエイジからの重圧から解放されて大きなため息を吐いていた。

 

 そこにニコニコ笑顔のサーゼクスさまが提案してきた。

 

「新人悪魔同士のレーティングゲームで執り行うつもりだったんだ。リアス、ソーナ、戦ってみないか?」

 

 ――っ! い、いきなりだな! 魔王さま! 予想外のことに俺と眷属も驚愕した。

 

「…………」

 

「…………」

 

 部長と会長も顔を見合わせ、目をパチクリさせて驚いていた。

 

「もともと、近日中にリアスのゲームをする予定だった。アザゼルが格勢力のレーティングゲームファンを集めてデビュー前の若手の試合を観戦させる名目もあったものだからね。だからこそ、ちょうどいい。リアスとソーナでひとゲーム執り行ってみないではないか」

 

 サーゼクスさまのお話から察するに、その間戦試合とやらはアザゼル先生が俺たちに用意していた合宿修行の総仕上げをする予定ゲーム!

 

 ――俺らの相手は会長! 生徒会!

 

 マジか! いきなり駒王学園に通う悪魔同士が対決!?

 

 部長は一度息を吐くと、挑戦的な笑みを会長に見せる。おおっ! 部長はやる気だ!

 

 会長も冷笑を浮べだした! こっちもやる気全開!

 

「公式ではないとはいえ、私にとっての初のレーティングゲームの相手があなただなんて運命を感じてしまうわね、リアス」

 

「競う以上は負けはしないわ、ソーナ」

 

 さっそく火花が散ってる! おいおいおいおい! 部長対会長、オカルト研究部対生徒会かよ!

 

「リアスちゃんとソーナちゃんの試合! うーん☆ 燃えてきたかも!」

 

 セラフォルーさまも楽しげだ!

 

「対決の日取りは、人間の時間で8月20日。それまで各自好きに時間を割り振ってくれてかまわない。詳細は改めて後日送信する」

 

 サーゼクスさまの決定により、こうして部長と会長のレーティングゲームが開始されることになった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お偉いさんたちとを含めた新人悪魔の会合を終えてすぐ。次々と新人悪魔やその眷属が帰っていくなか、エイジのもとへアガレスの姉ちゃんとその眷属の女の子たちがあいさつに来ていた。

 

「先ほどはお見苦しいところをお見せしてしまいましたわね」

 

「キミみたいな美少女に暴言を吐こうとしたんだ。あれは100%グラシャラボラス家の次期当主が悪いよ」

 

「そんな美少女だなんて……」

 

 と、頬を赤らめるアガレスの姉ちゃん。すげえな、マジでヤンキー悪魔と睨みあってた同一人物と思えねえ! って部長と朱乃さんの体からオーラが出てる!? え、エイジ! ヤバいぞ! 気づけ!

 

「じゃあ、またお会いしましょう、神城さま」

 

「はい、また」

 

 恥ずかしそうに小さく手を振りながら帰っていくアガレスの姉ちゃんとその眷属たち。

 

 そのあと部長の元に戻ろうとしたエイジの腹に何かが飛び込んできた――レヴィアタンさまだった!

 

「ブラたん! さっきはすっごく格好よかったよ!」

 

 レヴィアタンさまが満面の笑みでエイジの首に手を回して抱きついてる。かなりご機嫌のようでぴょんぴょん飛び跳ねている。

 

「セラたん、ちょっと――んっ!」

 

 なあぁぁぁぁ!? キスされやがった! しかも口にっ!

 

「お姉さま! 何をしているんですか! はしたなすぎます、離れてください!」

 

 後方からソーナ会長がやってきて無理やりレヴィアタンさまを引き離そうとしているが、レヴィアタンさまはまったく離れる気がないご様子で頬をエイジに擦り付けている! なんてうらやましいんだ!

 

 そこに、とうとう我慢できなくなったのか部長と朱乃さんがエイジの耳を引っ張った。

 

「いたたたた……」

 

 それでようやくレヴィアタンさまからエイジが引き離された。

 

「もう! お姉ちゃんとブラたんとのラブシーンを邪魔しないでよ!」

 

 不満そうにおっしゃるレヴィアタンさま。ソーナ会長はそれを無視してエイジに向かって軽く頭を下げた。

 

「先ほどはありがとうございました」

 

 ああ、さっきお偉いさんが会長さんの夢を笑ったことに意見して、お偉いさんたちに謝罪させたからか。

 

「いや、別にいいですよ。それよりも、その夢を大事にしてください。俺は支取会長の夢を応援しますよ」

 

 エイジは自然な笑みを浮かべて言った。その笑みで会長さんは顔を赤らめた。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「……さっきはありがとな」

 

 と、匙も一言で小さい声だったがエイジに礼を言っていた。そこに再びレヴィアタンさまが爆弾発言をする。

 

 ニコニコ笑顔でエイジと支鳥会長の手を取りながら、

 

「なになに、ソーナちゃん☆ やっぱり私とブラたんの3人でエッチする? お姉ちゃん、大歓迎だよ☆」

 

「な、何を言っているんですか!? もうっ! 帰りますよ!」

 

「あんっ、ブラた~ん! また今度ね~☆」

 

 ソーナ先輩はレヴィアタンさまの手を引きながら帰っていった。だが満更でもない様子の会長。……匙はショックを受けた様子で泣きながら帰っていった。

 

 俺たちも帰ることになったが、エイジは部長と朱乃さんから尻尾を引っ張られていた。

 

「さあ、エイジ。会合であんな大胆な発言したから帰ったらお説教よ。ソーナがバカにされたからといってもね」

 

「そうですわね。新人悪魔の会合で他の新人悪魔にも手を出していましたし、お説教は必要ですわね」

 

「…………はい……」

 

 弱々しい声のエイジ。あの尻尾って確か、男にとって大事なところだったよな? 時々お仕置きとして抓られたりしてるみたいだけど、すげえ痛そうだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、シトリー家と対決とはな」

 

 グレモリー家の本邸に帰ってきた俺たち。そこで迎え入れてくれたのはアザゼル先生だった。広いリビングに集合し、先生に先ほどの会合の顛末を話したんだ。

 

「人間界の時間で現在7月28日。対戦日まで約20日間か」

 

 何やら先生は計算をし出す。

 

「しゅ、修行ですか?」

 

 俺が訊くと先生はうなずく。

 

「当然だ。明日から開始予定。すでに各自のトレーニングメニューを考えてある」

 

「でも、俺たちだけ堕天使総督のアドバイス受けていいのかな? もうこっちには魔王クラスが1人いるのに。反則じゃないんですか?」

 

 他の若手から文句があってもおかしくないと俺は感じちゃう。

 

 しかし、先生は嘆息するだけだ。

 

「別に。俺はいろいろと悪魔側にデータを渡したつもりだぜ? それに天使側もバックアップ体制をしているって話だ。あとは若手悪魔連中の己のプライドしだい。強くなりたい、主の存続を高めたい、って心の底から思っているのなら脇目も振らずだろうよ」

 

 あー、そう言われればそうなのかな。

 

「うちの副総督も各家にアドバイスを与えているぐらいだ。ハハハ! 俺よりもシェムハザのアドバイスのほうが役に立つかもな!」

 

 アザゼルは陽気に笑った。

 

「あと神城だが、こいつには大きなハンデがかせられることになっている。インキュバスの能力以外の特殊能力封印と、中級悪魔程度の魔力出力制限。――なんだが、俺的にはインキュバスの能力が一番厄介だと思うんだけどな」

 

 先生は一拍おいて言う。そうか、今回エイジはハンデつきなのか。まあ、そうしないと強すぎて困るんだろうなあ。新人悪魔同士のゲームだし。

 

「まあいい。明日の朝、庭に集合。そこで各自の修行方法を教える。覚悟しろよ」

 

『はい!』

 

 先生の言葉に全員が重ねて返事をした。よし! 何はともあれゲームは決まってしまったんだ! それに備えて修行せねば! 何よりもあのヴァーリに少しでも近づかないといけない!

 

 ――っと、そこへグレイフィアさんが現れる。

 

「皆さま、温泉のご用意ができました」

 

 ――ッ! それは最高の報告だった!

 



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第41話 温泉と悪魔のお仕事 ☆

<エイジ>

 

 

 グレモリーの庭の一角にポッツリと存在している和風の温泉。

 

 俺はさっそくイッセー、木場、アザゼルと共に浸かっていた。あー、癒される。いいお湯だ。

 

「旅ゆけば~♪」

 

 温泉に浸かりながら鼻歌混じりな堕天使の総督。黒い12枚の翼も全開にしていた。

 

「ハハハハ、やっぱ冥界――地獄といえば温泉だよな。しかも冥界でも屈指の名家グレモリーの私有温泉とくれば名泉も名泉だろう」

 

「そうだな。いい湯だ」

 

 湯に肩まで浸かりながら同意した。そういやアザゼルって日本通だったな。

 

 イッセーと木場は並んでタオルを頭にのせてまったり湯に浸かっていた。

 

 さっき木場がイッセーに「背中を流そうか」って、頬を赤らめて言っていたが、やっぱり木場はイッセーが好きなのか?

 

 まあ、2人の間に入るまい。巻き込まれるのは嫌だし、BL展開はよそでやってくれ。

 

 あー、それにしても野朗と温泉かよ。

 

 アザゼルがにやけながら訊いてきた。

 

「おいどうした、神城。やっぱり女がいないといまいち元気がでないか?」

 

「ああ、野朗共と入ってもな~。別に野朗と入るのが嫌という訳じゃないが、隣に自分の女がいるんだ。野朗と自分の女……、いや、野朗と女のどちらと一緒に入りたいかと言えば決まっているだろう」

 

「ハハハハ、ああ、それもそうだな」

 

 アザゼルと話していると、イッセーが温泉の入り口へ向かうのが視界に入った。

 

「キャッ!」

 

 かわいらしく悲鳴をあげるギャスパー。

 

「おい、どうした? おまえ顔色悪いぞ?」

 

 アザゼルが訊いてきたがいまの俺に答える余裕はない。

 

 ギャスパー! なんでタオルを胸の位置で巻いてるんだよ! なんで女みたいな悲鳴あげてるんだよ! 

 

 しかも、イッセーに体を見られて頬を赤らめてるし……。

 

「……お、おまえな! 男なら胸の位置までバスタオル羽織るなよ! 普段から女装しているからこっちも戸惑うって!」

 

「……そ、そんな、イッセー先輩は僕のことをそんな目で見ていたのですか……? 身の危険を感じちゃいますぅぅぅぅ!」

 

「うっさい!」

 

 イッセーが温泉に向かってギャスパーを投げてきやがった!

 

 ドボ――――ンッ!

 

「いやぁぁぁぁん! あっついよぉぉぉ! 溶けちゃうよぉぉぉ! イッセー先輩のエッチィィィィッ!」

 

 ああ、尻尾に蓄えたパワーが……。これは、反則だよ……。

 

「おーい、神城。おまえ本当に大丈夫か? っていうかマジでギャスパー、いや、男の()が苦手なんだな」

 

「……ああ。なんとかな。男の()は見るだけなら、だいじょうぶになったんだが。さっきのはパンチが効きすぎたんだ……」

 

 まだ蓄えたパワーが残っている。隣の女湯からリアスの声が聞こえてきた。

 

『イッセー、ギャスパーにセクハラしちゃダメよ?』

 

 イッセーがリアスに言われて恥ずかしくなったのか温泉に飛び込んできた。若干涙目だった。

 

「そういやエイジ」

 

「なんだ?」

 

「おまえはリアスの胸を揉んだことはあるのか?」

 

 アザゼルは両の五指を宙でわしゃわしゃさせながら訊いてくる。言うことでもないが、まあ、隠しててもしょうがないからな。

 

「ああ。あるな」

 

「なにぃぃぃぃいいいいいいい!?」

 

 イッセーが大声を出しながら近くに寄ってきた。

 

「マジで!? マジで部長のおっぱい揉んだことあんのか!?」

 

 血走った目で睨んでくるイッセー。

 

「なんだよ胸ぐらいで……」

 

「おっぱいぐらいとはなんだ! おっぱいぐらいとは! ゲフッ!?」

 

 とりあえず、ウザいので軽く殴って黙らせた。

 

 アザゼルは今度俺からイッセーのほうへわしゃわしゃさせた手をイッセーに向けて訊いた。

 

「ところでイッセー」

 

「は、はい……」

 

「おまえは女の胸を揉んだことはあるのか?」

 

「ちょ、ちょっとだけなら……」

 

 イッセーは湯船に顔を半分沈めてつぶやいた。

 

「そうか。じゃあ、こう――」

 

 うなずいたアザゼルは、人差し指を横に突き立てて言う。

 

「女の乳首を指でつついたことはあるか?」

 

 アザゼルは指で宙をおすようにしていた。

 

「――っ! ……い、いえ、まだです」

 

 イッセーの反応を見て、アザゼルは嘆息する。

 

「なんだ、おまえ。乳を指でつついたことがないのか? 乳首をな『ポチッ』とじゃなくて、『ずむっ』とつつくんだよ。指が胸に埋没していく様は圧巻だぜ?」

 

 イッセーがアホ全開でアザゼルに詰め寄った。

 

「ち、乳首は玄関のブザーじゃないんですよ!?」

 

 アザゼルはイッセーの言葉に首を横に振り、にやけた。

 

「いや、あれはある意味ブザーに近い。押すと鳴るんだよ。『いやーん』って。なっ、エイジ」

 

「そうだな。確かに鳴るな色々な音色のブザーが」

 

「――ッッ!?」

 

 イッセーが驚愕に震える。

 

「おっぱいって、乳首って、そんな機能があったんですね……。俺は揉んで吸って挟むのがおっぱいだと思っていました。そっか、つついて鳴くんだ……」

 

 アザゼルがイッセーの頭をポンポンと叩く。

 

「だからおまえはまだまだなんだよ。女の胸はそれこそ無限だ。下手すりゃウロボロスのオーフィスよりも無限の可能性が詰まってるんだぜ? 俺はそれに魅了されて、女の乳にハマッて堕ちた。後悔はしてない」

 

 すげえ恥ずかしいことを堂々と言うな。さすが堕天使総督さまだ。

 

 イッセーが頬に涙を伝わせながらアザゼルに震える声で言った。

 

「先生――。おっぱいをつつきたいです……」

 

 アザゼルはイッセーの頭をわしゃわしゃとなでながら、激励の言葉を送った。

 

「ああ、諦めるなよ。イッセー。おまえならできる。諦めたら、そこでおっぱい終了だぞ?」

 

「はい。はい!」

 

 なんていうか、某バスケット漫画の名シーンが別の意味で男臭くなって、とてつもなく残念なものに……。

 

 そんなときに隣の女湯から話し声が聞こえてきた。

 

『あら、リアス。またバストが大きくなったのかしら? ちょっと触ってもいい?』

 

『そ、そう? ぅん……。ちょっと、触りかたが卑猥よ、あなた。って、そういう朱乃も前よりもブラジャーのカップが変わったんじゃないの?』

 

『前のは多少キツくてもそのままにしていたものだから……。けれど、最近は大きく見せてもいいかなって思えたのよ。見せたい相手がいると、女は大胆になるわね、リアス』

 

『……そ、そうね。けれど、あまりあの子を刺激しないでしょうだいね。あの子はただでさえ野獣なんだから』

 

『私はお2人ほどないのでうらやましいです……』

 

『あらあら、アーシアちゃん。アーシアちゃんだって以前よりも大きくなっているのではなくて?』

 

『そ、そうでしょうか……? で、でも、まだこの大きさじゃ……好きになってもらえそうにありません……』

 

『アーシア、黒歌さんが言うには揉んでもらうと大きくなるそうだぞ? こんな風に――』

 

『はぁんっ! ダ、ダメですぅ! ゼノヴィアさん! あっ……うぅぅん……そんな、イッセーさんにもこんなことされて……んんっ! 手つきがいやらしいです……』

 

『ふむ、アーシアのは私と違って触り心地が良いな。なるほど、これなら男も喜ぶかもしれないね』

 

『ゼノヴィアの胸も、気持ちいい……』

 

『――っ。し、時雨さんっ! んんっ、そ、そうだろうか?』

 

『そうですよ! セルベリアさんみたいな爆乳とか黒歌さんやリアスさんや朱乃さんみたいな巨乳よりも、私みたいな美乳が一番良いんです!』

 

『そう言えば、セルベリアの胸って私や朱乃よりも大きいわね……』

 

『ええ。それにすごく大きいのに形も整っていますし……』

 

『うふふっ、しかもセルベリアってとっても感じやすいのにゃん♪』

 

『こ、こら! 黒歌! 胸を揉むな!』

 

『やっぱり、いいなぁ……』

 

『ノエルまで何をする!?』

 

『うわわ……私の倍はあります……』

 

『す、すごいわね……』

 

『ええ……』

 

 …………。

 

 ああ、混ざりたい。あっちの女風呂に行きたい!

 

 って、イッセー! 鼻血の量がマジでやばいぞ! それに――。

 

「何覗こうとしてやがる!」

 

「お、男なら仕方がないんだ!」

 

「それは分かるが、俺の女がいるのに覗かせて溜まるか!」

 

「なんだ、おまえ。覗きたいのか?」

 

 アザゼルがいやらしい笑み浮かべた。

 

「エイジ、別にいいじゃねぇか、裸ぐらい。それに、温泉で女湯覗くのはお約束ってもんだろ?」

 

「そ、それは……」

 

 お約束は同意するが……。このエロ坊主のイッセーの視線に俺の女がさらされるのは……。

 

 と、悩んでいるとアザゼルがイッセーの腕と俺の腕を掴む。そして――。

 

「まあ、覗きよりも男なら混浴だろ、イッセー! エイジ!」

 

 ぶぅぅぅぅぅぅうううんっっ! 俺とイッセーを投げ飛ばしやがったぁぁぁぁッ!

 

 イッセーと宙に吹き飛ばされ、空中でリアスたちと目が合った瞬間、体勢を整え、イッセーを男湯へ向けて蹴り飛ばそうとすると、視界が塞がれた!。

 

「きゃぁぁぁぁあああああっ!」

 

 という悲鳴! 薄い胸、臭い――そして視界に映された肌色と小さな乳首……。

 

「グハッ!?」

 

 ギャ、ギャスパーだと!? しかも、タオルなしで……! う、うげぇぇぇええええ! 最悪だ! アザゼルの野朗! ギャスパーを投げやがったな!

 

 俺の体から急速に力が奪われていく……。

 

 空中で弾かれるような一瞬の接触だったが俺の気力を削るには十分だった。

 

 そのままギャスパーは目を回しながら男湯へ、俺とイッセーは女湯へダイブした。

 

 ドッボォォォォォォンッ!

 

 俺とイッセーは勢いよく温泉に叩きつけられた。くっ、不覚……!

 

 ザバッ! 力が入らない体でなんとかお湯から顔を出すと、一足先に飛び出したイッセーが鼻血を大量に噴出しながら気絶し、「イッセーさん! イッセーさん!」とアーシアに必死に呼びかけられていた。あいつエロいクセに免疫力皆無だからな。おそらく女の裸(大勢の)を見すぎて血がなくなったんだろう。さっきも鼻血流していたし……。

 

 イッセーはかなりヤバイ状態のようで、アーシアが慌てて外へ引きずっていく。小猫もアーシアに助けを求められて渋々と温泉から出て行った。

 

「あら、エイジ。……すごく具合悪そうね?」

 

「本当、尻尾の色が薄くなっていますわ」

 

 リアスと朱乃さんがお湯に沈んだ俺を胸で抱きあげてくれた。視界がリアスと朱乃さんのおっぱいで塞がれた。

 

「う……、ギャ、ギャスパーの胸が、顔に……。お、俺……」

 

 そうつぶやくと、朱乃さんがおっぱいを俺の顔に押し付けてきてくれた。

 

「あらあら、かわいそうですわね。わたしの胸で回復してください」

 

「あ、朱乃さん……」

 

 いいんですか? と目で尋ねるとやさしい笑みでうなずいてくれた! ありがとうございます! 朱乃さん!

 

 ぱくっ。

 

 ピンク色の乳首を咥える。

 

「あんっ……」

 

 朱乃さんの体がビクッと震えた。ああ、おいしい……。男の娘の胸が俺の記憶から消去されていく。

 

 口の中で舌を使って乳首を転がしながら吸いついた。

 

 ちゅぅぅ、ちゅぅぅ……。

 

「ぁん……、そんな、激しく舌で転がしたら……! んっ! そんなに吸ってもおっぱいはでませんわよ?」

 

 関係ないなしに吸っていると、後頭部に新たなふくらみを感じた。

 

「わ、わたしのも吸ってみないか?」

 

 ゼノたん! 朱乃さんの乳首から口を離してゼノヴィアの乳首に吸い付いた。

 

「あっ……、ふふっ、これが母親の気持ちというものか? なかなか心地良いな」

 

 嬉しそうなゼノたんの声……。声に女の艶っぽさが出ているところからして、感じてる?

 

 ああっ、それにしてもおいしい。朱乃さんより少しだけ大きな乳首で、コリコリに勃起してて、ゼノたんの味がする……。

 

「ふふふっ、弱ってる姿は本当にかわいらしいわね。母性本能をくすぐられるわ」

 

 朱乃さんが背中に胸を押し当ててきた!

 

「こら! エイジを勝手に誘惑しないの! エイジも、私がいるんだからまずは私のを吸いなさい!」

 

 がばっと朱乃さんとゼノたんから引き離され、俺はリアスの胸に抱かれた。口元に乳首が差し出される。

 

「リアス……」

 

「ええ、私が元気をあげる。いつもみたいに好きに吸いなさい」

 

 赤い顔で微笑むリアス……。俺は口を大きく開けて乳首に吸い付いた。

 

「――ぁんっ、少し吸い付かれただけなのに、すごく感じちゃったわ……。ふふっ、エイジに開発されちゃったのかしら?」

 

 体を悩ましく震わせながらもやさしく頭をなでてくれるリアス。

 

 いつも寝るときに吸わせてもらってるからおなじみの味だな。早く孕ませて母乳飲みたいなぁ。

 

 ちゅぱっ、ちゅぅぅ……。

 

「ぅん……ふふっ、おいしい?」

 

「うん、おいしぃ……」

 

 本当においしいよ、リアス。

 

 くちゅっ……。

 

 んん!? 手、手に何か……。

 

 こ、このプニプニの割れ目と間の吸い付くような感触と小さな小穴と手首に触れるザラザラする太い毛の集まりのようなものは……。

 

「んっ……」

 

「こ、これは、なかなか刺激が強いな」

 

 見れば丁度、俺の手が伸びた位置には朱乃さんとゼノたんが! しかも、朱乃さんのうしろにはノエルが、ゼノたんのうしろには時雨がいて、なにやら耳元でこっそり指示を出しているじゃないか!

 

 しかも、尻尾から大きな快楽が伝わってきた! って!? この感触は!?

 

 尻尾に意識を向けてみると、柔らかい肉壺の感触が! この感触はセルベリアか!?

 

 丁度背後に位置していて見えないが感触はセルベリアだった。気持ちよくなり回復してくると尻尾が暴走し始めた!

 

 尾骨に少し痛みを感じると何かが生える感覚が! 少し前に経験した尻尾が初めて生えた時の感覚だった。しかも、俺の感覚では2本同時に生えた! 俺の尻尾、合計3本になっちゃった!?

 

 その尻尾の先端が2つの『穴』を捉えた! こ、この感触は!

 

「え、エイジ……、いま、そこはダメにゃんっ」

 

「ご、ご主人さまっ……?」

 

 や、やっぱり、黒歌とレイナーレか!

 

 少し離れたところから悩ましい声が聞こえ始めた。温泉の湯が膣内に入らないように栓をするように入り口付近で一部が膨らむと、尻尾が俺の意思を離れて肉壁を犯し始めた!

 

「う、うしろの穴が……! ん、んんっ! 入り口でどんどん膨らんで……!?」

 

「うっ、ぅぅんっ! き、きつ、いっ……!」

 

 黒歌とレイナーレの艶っぽい声が漏れてから、リアス、朱乃さん、ゼノヴィア、ノエル、時雨、黒歌の甘い声が温泉に響き始めた。俺は慌ててわずかな理性で防音の結界を張った。

 

「エイジ! もっと、もっと強く吸ってぇ!」

 

 リアスが両腕で俺の頭を抱き寄せる。

 

「あぅっ! あんっ! んんっ……、もっと……、もっと弄っていいのよ、エイジくん」

 

 朱乃さんの手が俺の手をつかみ、オマンコまで運び、擦るように指示してくる。

 

「か、体か熱いっ、そ、それに頭がぼーっとしてきた……。し、時雨さん、い、いまは胸を揉まないでくれ、ないか……」

 

 ゼノヴィアが俺の手を股で挟み、うしろから時雨に搾るようにおっぱいを揉まれながら体を震わせた。

 

「アハハ、朱乃さんったら処女のなのに淫乱ですね~!」

 

 ノエルは朱乃さんの首筋を舐めながら言った。酔ってるのか、ノエル!? いつものおまえはどこにいった!?

 

「ゼノヴィアのおっぱい……、気持ち、いいよ」

 

 時雨はゼノヴィアの胸を揉みながら耳元で囁いていた。

 

「エイジさまの尻尾……すごく気持ちいいですぅ!」

 

 セルベリアの艶かしい声と共に膣が尻尾をきゅっきゅっと締め付けてきた。

 

「あふぅぅ。尻尾が膣のヒダに吸い付いてきてヤバイにゃん……」

 

 黒歌のザラザラの膣が尻尾の表面にヤスリをかけているみたいに擦ってきた。

 

「ご、ご主人さまが望むのでしたら、どんなに乱暴に扱われても構いませんっ!」

 

 レイナーレが両手も使って尻尾を扱いてきた。

 

 ああっ! やべぇ! ま、マジで射精しちゃうっ!

 

「あぅぅっ! も、もうダメっ!」

 

 射精しようとしたところでリアスが微笑んだ。

 

 ぎゅうっ! ペニスを握られ射精途中の精液が竿の中で逆流した!

 

 な、何を!? と思っていると、リアスがお湯の中に消えた!

 

 パクッ。

 

 ペニスが温泉とは違うぬくもりとぬめりがある穴に入れられた! 同時に手が外され、射精途中の精液と新に精製された精液が放たれた。

 

 ぐきゅ、ごきゅっ!

 

 こ、このヌメヌメあったかと動きとちろちろと裏スジや雁の間の皮を舐めてくる感触は!

 

 ザバッ。

 

 リアスがお湯から出てくる。

 

「ごちそうさま」

 

 笑顔で言うその唇には温泉の湯で薄まった白濁の精液の痕が……。やっぱりさっきの感触は口だったのか!

 

 ていうか、マジでヤバイ! 皆おかしくなってる!?

 

 発情してる! って! 発情!? ま、まさか俺の尻尾の媚薬成分の汗が温泉に溶けたのか!?

 

 そう言えば、いくら濁っている温泉だからって皆、大胆すぎるよな。特に朱乃さんとゼノヴィアは処女なのにオマンコ触らせてくるし! 普段のノエルは奥手のはずなのに、今はすごくエッチな子になってるし!

 

 射精して賢者モードになっている俺は即座に【眠りの霧】を発動させて、全員を寝かせる!

 

 そしてのぼせないように脱衣所まで運んで、グレイフィアを呼び、この場をあとにした。

 

 と、とりあえず、水気を拭き取ってバスタオルを巻いておいたから風邪はひかないだろう。

 

 あとで知ったが、イッセーはかなりの量の血液を失なっていたらしく、アーシアと小猫ちゃんに連れられて医務室へで看病されていたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 俺は悪魔のお仕事である契約取りに向かった。

 

 夏休みが始まってすぐに舞い込んできた俺指名の契約3,000件をこなすためだ。

 

 うん……、約1ヵ月とちょっとでこなすのは無理な量だよね。毎日100件近くはこなさないといけない計算だし……。新規の契約もあるだろうし……。

 

 だが! 任されたからにはっ! 俺を待っている美女や美少女のためなら! リアスのためならがんばれる!

 

 夏休みが始まってからがんばって、朝昼晩と休まず働いて秘密兵器を使用してなんとか現時点で約700件ほど終わらせたし!

 

  あと、約2,300件! なんとか終わらせてやるぜ!

 

 そして仕事を終わらせればリアスたちとのんびり冥界の夏休み! 修行もあるけど、少しぐらい遊んでもいいはずだ!

 

 じゃあ、今回も依頼人の元へ向かって転移しますか!

 

 今夜の目標は80件だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転移のゲートを潜ると俺の目の前には女の子が2人座っていた。

 

 8畳ほどの部屋でかわいらしい女の子の部屋だった。

 

 ベッドの上で2人並んで腰を抜かしていた。あれ? この子たちって――。

 

「村山さんに片瀬さん?」

 

 ポニーテールで巨乳美少女の村山さん。美脚美少女で茶髪でカチューシャをつけているショートカットの片瀬さん。

 

「か、神城くん?」

 

 やっぱり……、同じ学校で学年の剣道部所属の2人組みだった。ベッドに並んで座っている2人の前には怪しげな魔法陣が描かれた紙が……。

 

「キミたちが俺を呼んだの?」

 

「え、あ……、は、はい!」

 

 村山さんが緊張しながら返事をした。片瀬さんが俺の背後でゆれる尻尾を指差して訊いてくる。

 

「か、神城くんって悪魔だったの!?」

 

「そうだよ、俺の正体は悪魔さん。キミたちはその魔法陣を使って俺を召喚したわけだけど、――なにがしてほしいんだい?」

 

 笑顔で訊ねると、2人は顔を見合わせて俯いたあとに話し始めた。

 

「え、えっと……、私たち3年の先輩にこの紙を使って悪魔召喚すれば、神城くんと……」

 

「そ、その……え、エッチしてもらえるって聞いて……」

 

 真っ赤になりながら言う2人。

 

「お、思い切って、試してみたら、ほ、本当に出てくるなんて、お、思わなかったの」

 

 片瀬さんが気まずそうに言った。あ、大人なジュースが2本ほど発見……。思い切ってっていうか、酔っ払ってだね。

 

 ま、いいや。意識もハッキリしているみたいだし、破れかぶれってわけでもなさそうだから。

 

 村山さんと片瀬さんの目の前まで移動してから訊く。

 

「まあ、それはいいよ。それより、悪魔の契約は結ぶかい? 別に結ばなくてもペナルティなんかはないから安心してくれ」

 

 そう言うと村山さんが訊いてきた。なんだ? すごく恥ずかしそうだ。

 

「あの……、その悪魔契約ってを結べば神城くんが、ほ、奉仕……え、エッチしてくれるって本当なの?」

 

「本当だけど、それも3年生の先輩に?」

 

「うん。ご、ゴムとか使わないでも避妊できて、それに……最高の初体験できるって噂になってて……」

 

 片瀬さんがもじもじと俺の股間辺りに視線を向けた。

 

「そ、その契約って対価は大きいの?」

 

「だいたい1回3,000円とかぐらいなんだけど、初回サービスでいま身につけている下着と俺との写真でいいよ」

 

「写真? な、なにか悪いことに――」

 

「いや、使わない使わない。単なる記念だし下着と合わせて個人的に楽しむものだよ。それにいままで結構写真撮ってるけど、悪用したとか流出したとか悪い噂もないだろ?」

 

「それはそうね……」

 

 2人は納得したようにうなずくと、再び顔を見合わせてうなずきあった。

 

「下着と写真ね……。うん、わかったわ」

 

「ど、どうせ大人になったら初体験するんだから。――うん、それならエイジくんに奪ってもらうほうが……、というか、エイジくんに奪われたい……。最高に気持ちいいらしいし……」

 

 と、話がまとまったようだ。

 

「俺と契約を結ぶ?」

 

 そう訊くと2人はうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、えっと、じゃあ、私から……」

 

 ベッドの上に村山さんが裸で仰向けになっている。裸を男に見られていることが恥ずかしいようで右手で胸を隠し、左手で股間を隠していた。

 

「わ、私はとりあえず見学してるわ」

 

 片瀬さんは一応下着姿でベッドのすぐ近くの床に座っていた。こちらは上下セットの青色と白の縞模様がかわいらしい下着だった。

 

「キレイだね」

 

 俺はパンツ一枚だけ残して服を仕舞い、村山さんに覆いかぶさり、唇を交わした。

 

「んっ……神城くん……」

 

 柔らかい唇を舌でなぞるように舐めて唇同士を何度も触れ合わせる。

 

「ん、ぁあ……」

 

 村山さんもノッテきた様子で、村山さんのほうから舌がこちらへと侵入してきた! ふふっ、大胆だな。

 

 ちゅぅぅっ。

 

「――っ!」

 

 伸びてきた舌を吸ってあげると村山さんは大きく目を開かせた。秘所を隠していた腕もいつの間にかはずれ、俺の首に回されていた。

 

「ちゅっ、……ぁむ……、すごぃ……」

 

 村山さんの口から甘い吐息と共に唾液が唇の端から漏れ始めた。

 

 村山さんがキスに夢中になっている間にブラジャーを素早く脱がせ、唇から首筋、鎖骨とゆっくりキスをしたり、舐めたりしながら、おっぱいの頂に到着した。キレイな色だ。ふふっ、結構巨乳で、バランスもいいし、吸いやすいカタチだな。

 

 パクッ。

 

「ぃやんっ」

 

 ビクッと体が跳ねた。ふふっ、感度もいいみたいだな。

 

 乳首をコロコロと舌で転がし、ズムムっと舌で乳首を押したり、吸ったり、噛んだりと味合わせてもらう。

 

 そして、今度は手で解すように弄っていたもう片方のおっぱいを咥えてしゃぶり始める。

 

「そ、そんな……! は、激しいっ! んんっ、乳首が、乳首がおかしくなっちゃうぅぅっ!」

 

 ビクッ、ビクッ!

 

 村山さんの体が何度も跳ねる。軽い絶頂をキスのときから迎えていたが、今回は大きい。

 

「ひゃんっ!?」

 

 片手を股間へ滑り込ませると案の定びしょ濡れだった。

 

 乳首からわき腹やヘソを舐めながら性感を下部へ下ろしていき、ショーツに手をかけた。

 

 太ももから左右の骨盤へ向かって手を伸ばし、両サイドからショーツをつかむ。

 

「脱がせるよ?」

 

 訊ねると村山さんは荒い呼吸をしながらも無言でうなずいた。

 

 ショーツを脱がせて閉じた太ももに手を差し込んで大きく開く。

 

「やんっ!」

 

 ピッタリ閉じてて型崩れもしていない処女オマンコを両手の指で開くと恥ずかしそうな悲鳴をあげて両手で顔を覆う、村山さん。ああ、かわいいなぁ。

 

「びしょ濡れでいやらしいオマンコだね」

 

 顔を近づけて鼻を動かして匂いを嗅ぐ。

 

「か、神城くん……」

 

 恥ずかしそうな村山さん。

 

「ふふっ、匂いもいやらしいね。それに味も……」

 

 ペロッと愛液を舌で舐め取り、言う。

 

「いやらしい雌の匂いだ。ふふっ、キミは本当にいやらしくてかわいい女の子だよ」

 

 ペロペロとまずはオマンコの周りを舐めていく。

 

 村山さんは体をのけ反らせて耐えているようだが、その姿もいじらしくて興奮するんだよな。

 

 だんだんと舌を内側へと向けていく。

 

「はぅっ、そ、そこは汚い……」

 

 俺の頭を押しのけようと両手で押してくるが、俺は逆にオマンコに喰らいついた!

 

「キミの体に汚いところなんてないさ。それに、すごくおいしいよ」

 

 じゅるるっと愛液を啜り、処女口に舌を差し込んで広げるように動かした。

 

「ぁうぅっ! わ、私のなかに神城くんの舌が挿入(はい)って……!?」

 

 押しのけようとしていた腕から力が抜ける。この辺が頃合だな。

 

 絶頂間近で口を離して、ペニスを取り出した。

 

「ヒッ!」

 

「お、おっきい……」

 

 村山さんから悲鳴が漏れ、呆然と観察していた片瀬さんは両手で顔を覆いながら指の間から覗いていた。

 

 俺はペニスで村山さんの割れ目にペニス挟めて前後に動かした。ペニスがカウパーと愛液で濡れていき、村山さんは膣口や尿道口、さらにクリトリスをペニスで擦られ、もう絶頂寸前だった。

 

「か、神城くんっ! わ、私、もう……!」

 

 うん、わかっているよ。もう限界なんだろう? 挿入れて欲しくて堪らないんだろう? 瞳の奥に隠れた雌の本能と、発情した雌の匂いでわかるよ。

 

 片手でペニスを持って亀頭を膣口へ固定する。

 

「挿入るよ」

 

「……う、うんっ……!」

 

 村山さんはシーツを握り締めて体を強張らせる。力みすぎだな。このままじゃ痛いだろう。

 

 俺は亀頭を少し入れると片岡さんの両手を自分の両手を重ねて顔の横まで持ってこさせると、覆いかぶさったまま、やさしくキスをしてつぶやいた。

 

「だいじょうぶ、なにも心配しないでいい。キミのすべてさらけ出して、俺に全部任せて……」

 

「…………」

 

「怖がらないでいいんだ。2人で最高の初体験にしよう」

 

「…………ぅん、神城くん」

 

 涙を一滴落すと、村山さんは泣き笑いの表情を浮かべて全身から力を抜いた。

 

 ズズッ……ミ、ミチッ。

 

「……ぅっ……」

 

 村山さんの処女膜が破けた感触がペニスから伝わってきた。俺はペニスをどんどん進ませ子宮口という最深部まで到着させた。

 

 全身から汗を流し、荒い呼吸で、微笑を浮かべる村山さん。

 

「す、すごい……、これがセックス……。神城くんのが熱くて、私のなかに入ってるのが、繋がってるのがわかるわ」

 

 少し痛そうな表情だが嬉しそうな片瀬さんに俺も笑顔でうなずいた。

 

「俺もキミと繋がっているのがわかるよ。すごく熱くて気持ちいい」

 

 そう言うと村山さんは顔を赤らめて訊いてきた。

 

「う、動かないの? お、男の子が動かないと気持ちよくならないんでしょ?」

 

 膣の動きがペニスに伝わってきた。あれ? もう順応したのか?

 

 俺は動きたいと思う気持ちを制御できたがあえて訊く。

 

「動いていいの?」

 

 訊くと村山さんの膣がきゅっと締まった。

 

「……か、神城くんにもき、気持ちよくなって欲しいから……」

 

 頬を赤らめて恥らいながらもつぶやく姿に萌えた! 俺のペニスが村山さんのなかで跳ねる。

 

「んんっ」

 

 甘い声が漏れる村山さんの唇に再度キスして熱っぽく言う。

 

「2人で気持ちよくなろう」

 

 そう言って前後に腰をピストンを開始する。処女だったことはもちろん、さすが剣道部! 鍛えているからか締まりも良くて、吸い付きもよかった。

 

 子宮が精液を求めているかのように、最深部で吸いつかれ、しかも正常位からバックに移って後からピストンすると、熱気にあてられて発情した片瀬さんがすごく近くで観察し始めてきて、村山さんがセックスを見られていることに羞恥して子宮がきゅんきゅん締まって、その恥ずかしそうな顔といったら愛らしくて、大量の精液を子宮にぶちまけてしまった。

 

「あひぃぃ……、きもちぃぃ……」

 

 村山さんが開きっぱなしの膣口から破瓜の血混じりに精液を垂れ流してうつ伏せ状態のがに股でベッドに沈んでいた。その顔は幸せそうで満足気だった。

 

 さあ、次だ!

 

「きゃっ!? 神城くん!」

 

 俺は発情状態で村山さんを見ていた片瀬さんに後から抱き着いて、唇を奪い、下着を脱がせ全身に愛撫をして性感を刺激すると、片瀬さんを横向きに寝かせて、美脚を持ちあげL字に開かせるとその間に体をすべりこませて、持上げた足を抱いて、ペニスを挿入した。

 

「あぅぅぅっ! ほ、ほんとにお、大きすぎ、よ……、もう、いっぱいじゃない……」

 

 震える片瀬さんの子宮口に亀頭で擦りつけるようにぐりぐりと擦り付けると、片瀬さんの顔が蕩ける。この子は少し乱暴に扱われるほうが好きみたいだな。

 

 俺が激しくピストンを行い子宮口に亀頭でノックすると片瀬さんはすぐに絶頂を迎えた。

 

 精液を子宮に流し込むと白目をむいて気絶したが、やはりその顔を喜びに満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村山さんと片瀬さんがアヘ顔状態で気絶したあと、俺は浄化魔法でキレイにしたあと裸の2人を両脇に抱えて目覚めるの待っていた。

 

「……ぅ……んっ……?」

 

「う~ん……」

 

 村山さんと片瀬さんが起きたようだ。

 

『――っ!?』

 

 2人が俺を見てさらに裸の自分を見て、驚きの悲鳴をあげた。とりあえず俺は2人にさやしく落ち着かせるように頭をなでながら『契約』について思い出させていった。

 

 真っ赤になったままシーツに隠れる2人。

 

「すごく気持ちよかったし、かわいかったよ」

 

 笑顔でそう言うと、2人も小さな声で言った。

 

「私も、気持ちよかった」

 

「うん、私も」

 

 よしよし、と2人を両脇に抱いてから契約で約束した下着と写真を3人で撮った。

 

 そのあと俺が召喚されてからこの部屋は防音と時間を早める結界に覆われてて、俺が魔法陣で帰ると結界は解除され、部屋で過ごした時間は数時間だったが、現実では10分ほどしか経っていないことを告げた。

 

「じゃあ、また学校で。あと、また契約がしたくなったら魔法陣に呼びかけてね」

 

 と、最後に2人とディープキスをしてから次の依頼者の元へ向かった。

 

 今回は新規契約だから、あと、まだ80件!

 

 この時間を早める結界(グレモリー支給)があれば何とか3,000件すべてこなせるぜ! まあ、自分でも結界を張れるけどめんどいし疲れるからな! これなら魔力を流すだけで済むから楽なんだ! まあ、その分脆いんだけど。

 



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第42話 皆は修行してるのに! ☆

 本番はないけど、ゼノヴィアと時雨とのシーンあり


<エイジ>

 

 

 次の日。昨夜の目標依頼件数だった80件の依頼を無事達成した俺は、リアスたちとグレモリー家の広い庭の一角に集まっていた。

 

 今回の服装は皆ジャージで、アザゼルもジャージ姿だ。庭に置かれているテーブルと椅子に皆座って、さっそく修行開始前のミーティングとなった。

 

 それにしても、昨夜は村山さんと片瀬さんのあとの依頼は大変だった……。とんでもないプレイを要求してくる女ばっかりだったからな。陵辱、レイプ、SM、野外露出、調教とか狭い部屋にぎゅうぎゅうづめでセックスさせられたり、アナルセックスできるように複数の女を開発したり、おなじみの風俗店で練習代として何度も新人の女の子に体を弄られたり……。

 

 しかもそのあとで深夜、朝方に帰宅するとゼノヴィアが俺のベッドで寝てて、俺が帰ってきたことに気づいて起きたゼノヴィアに押し倒されて永遠にキスしたりって……まあ、キスだけで朝になったし、ゼノヴィアも半分寝ててキス以上の行為は行わなかった。

 

 ――っと、ミーティングが始まるし、気持ちを入れ替えるか。

 

 資料やデータらしきものを持ったアザゼル。

 

「先に言っておく。いまから俺が言うものは将来的なものを見据えてのトレーニングメニューだ。すぐに効果が出る者もいるが、長期的に見なければならない者もいる。ただ、おまえらは成長中の若手だ。方向性を見誤らなければ良い成績をするだろう。さて、まずはリアス。おまえだ」

 

 アザゼルが最初にリアスを呼ぶ。

 

「おまえは最初から才能、身体能力、魔力すべてが高スペックの悪魔だ。このまま普通に暮らしていてもそれらは高まり、大人になる頃には最上級悪魔の候補となっているだろう。だが、将来よりいま強くなりたい、それがおまえの望みだな?」

 

 アザゼルの問いにリアスは力強くうなずく。

 

「ええ。もう二度と負けたくないもの」

 

「なら、この紙に記してあるトレーニング通り、決戦日直前までこなせ」

 

 アザゼルから手渡された紙を見て、リアスは首を傾げる。

 

「……これって、特別すごいトレーニングとは思えないのだけれど?」

 

「そりゃそうだ。基本的なトレーニング方法だからな。おまえはそれでいいんだ。すべてが総合的にまとまっている。だからこそ、基本的な練習だけで力を高められる。問題は『王』としての資質だ。『王』は時によって、力よりも頭を求められる。魔力が得意じゃなくても、頭の良さ、機転の良さで上まで上り詰めた悪魔だっているのは知っているだろう? ――期限までおまえはレーティングゲームを知れ。ゲームの記録映像、記録データ、それらすべてを頭にたたき込め。『王』に必要なのは、どんな状況でも打破できる思考と機転、そして判断力だ。眷属の下僕悪魔が最大限に力を発揮できるようにするのがおまえの仕事なんだよ。ただ、これも覚えておけ、実際のゲームでは何が起こるかわからない。戦場と同じだ。それにおまえは情愛が深すぎて甘すぎる。ライザー戦でも仲間が倒されていくのが耐え切れないと、まだ神城がいたのに『投了』するぐらいだからな。精神面も鍛えなおしておけ」

 

「――ッ」

 

 リアスは無言だが、しっかりとアザゼルの言葉にうなずいた。

 

「次に朱乃」

 

「……はい」

 

 アザゼルに呼ばれるものの、朱乃さんは不機嫌だ。やっぱり堕天使が嫌いなのか?

 

 アザゼルは朱乃さんに真正面から言う。

 

「おまえは自分のなかに流れる血を受け入れろ」

 

「――ッ!」

 

 朱乃さんもストレートに言われたせいか、顔をしかめた。だが、アザゼルは続けていく。

 

「フェニックス家との一戦、記録映像で見せてもらったぜ。なんだありゃ。本来のおまえのスペックなら、敵の『女王』を苦もなく打倒できたはずだ。――なぜ、堕天使の力をふるわなかった? 雷だけでは限界がある。光を雷に乗せ、『雷光』にしなければおまえの本当の力は発揮できない」

 

 そういや、堕天使の血を引いているってことは悪魔でも光が使えるんだったな。悪魔ばかりのレーティングゲームで悪魔の弱点となる光の力をふるえれば強くなるだろうな。

 

「……私は、あのような力に頼らなくても」

 

 朱乃さんは複雑極まりない様子だ。まあ、朱乃さんの家で打ち明けられたときの様子からいって当たり前だろうな。

 

「否定するな。自分を認めないでどうする? 最後に頼れるのは己の体だけだぞ? 否定がおまえを弱くしている。辛くとも苦しくとも自分をすべて受け入れろ。おまえの弱さはいまのおまえ自身だ。決戦日までにそれを乗り越えてみせろ。じゃなければ、おまえは今後の戦闘で邪魔になる『雷の巫女』から『雷光の巫女』になってみせろよ」

 

「…………」

 

 アザゼルの言葉に無言になる朱乃さん。ん? 俺を見た?

 

「エイジくん」

 

「はい」

 

「私のすべてを受け入れてくれるんでしわよね?」

 

 不安げに訊いてくる朱乃さん。俺は真剣な表情でうなずく。

 

「ああ。受け入れるよ」

 

 そう答えると朱乃さんはいつもの笑顔を浮べた。

 

「それなら、がんばってみますわ」

 

 アザゼルは朱乃さんを一瞥すると、次に木場のほうを見た。

 

「次は木場だ」

 

「はい」

 

「まずは禁手を解放している状態で一日保たせてみせろ。それに慣れたら、実戦形式のなかで一日保たせる。それを続けていき、状態維持を一日でも長くできるようにしていくのがおまえの目標だ。あとはリアスのように基本トレーニングをしていけば十分強くなれるだろうさ。剣系神器の扱い方はあとでマンツーマンで教えてやる」

 

「剣術のほうは……おまえの師匠にもう一度習うんだったな?」

 

「ええ、一から指導してもらう予定です」

 

 へぇ、やっぱり木場には剣の師匠がいたか。我流っていうより戦い方からして由緒正しい剣術だったしなぁ。

 

「次、ゼノヴィア。おまえはデュランダルを今以上に使いこなせるようにすることと――」

 

 アザゼルの言葉が途中で止まり、俺の顔を見た。

 

「神城、おまえって確か聖剣や魔剣を創りだせたよな? それにおまえの眷属っていうか女に【武器の申し子】、香坂時雨だったか? あいつにゼノヴィアを鍛えさせることはできないか?」

 

「聖剣や魔剣で簡単なモノなら2、3日で創れるぞ。時雨にゼノヴィアを鍛えさせるのは――」

 

「私、よりもエイジが、教えたほうが、いい」

 

 と、少し離れた位置でお茶を飲んでいた時雨がつぶやいた。

 

 俺の言葉の途中に口を挟んできた時雨にアザゼルが問いかける。

 

「なぜだ?」

 

「私は、力で、押すタイプじゃない……。技術と速さ。それに、エイジは私の師匠……、教えるのも上手い」

 

『――っ!』

 

 時雨の言葉に【武器の申し子】という通り名とその意味を知っている俺の眷属と列車で聞いていたリアス、そして新人悪魔で裏に詳しくないイッセー以外が驚いた。

 

「マジかよ……。【武器の申し子】の師匠って……。――いったいどれだけのスペックを秘めてるんだ、おまえ」

 

 とアザゼルが驚きながらこちらを見てきた。そこにマイペース娘のゼノヴィアが頭を下げてきた。

 

「では、これから指導をお願いする。私を鍛えてくれ、エイジ」

 

「え、あ……」

 

 俺が返答に困っているとゼノヴィアは黄昏るように遠く空を見上げてつぶやいた。

 

「ふふ、また新しい私とエイジの関係だな。師匠と弟子……。弟子としてエイジに鍛えられるのか。いや、それより弟子が師匠の子種で孕むのは……。……いやいや、それはある意味真理じゃないか? 私が弟子となって師匠との子供に私が剣を教えれば、新たな流派ができるんじゃないか? うん、それもよさようだな……」

 

 と、ぶつぶつとつぶやき始めたので、保留して次へと進んだが、おそらく俺が師匠になるだろうな。

 

「次にギャスパー」

 

「は、はいぃぃぃぃ!」

 

「そうビビるな。おまえの最大の壁はその恐怖心だ。何に対しても恐怖するその心身から鍛えなきゃいかん。もともと、血筋、神器共にスペックは相当なものだからな。『僧侶』の特性、魔力に関する技術向上もおまえを大きく支えてくれている。専用の『脱ひきこもり脱出計画!』なるプログラムを組んだから、そこまでは真っ当な心構えをできるだけ身につけてこい。全部が無理でも人前に出ても動きが鈍らないようにしろ」

 

「はいぃぃぃぃぃっ! 当たって砕けろの精神でやってみますぅぅぅぅ!」

 

 当たって砕けろって……。それに脱ひきこもり脱出計画……、その内容に興味があるな……。

 

「同じく『僧侶』のアーシア」

 

「は、はい!」

 

「おまえも基本的なトレーニングで、身体と魔力の向上。そして、メインは神器の強化にある」

 

「アーシアの回復神器は最高ですよ? 触れるだけで病気や体力以外なら治しますし」

 

 ……イッセー、おまえは本当にアホな子だ。アザゼルがイッセーのアホな意見に丁寧に説明を始めた。

 

「それは理解してる。回復能力の速度は大したもんだ。だが、問題はその『触れる』って点だ。味方がケガしているのに、わざわざ至近距離まで行かないと回復作業はできない」

 

 リアスがアザゼルに訊く。

 

「もしかして、アーシアの神器は範囲を広げられるの?」

 

「ご名答だ、リアス。こいつは裏技みたいなもんだが、『聖母の微笑』の真骨頂は効果範囲の拡大にある」

 

「アーシアの神器遠距離も可能ってことスか!?」

 

 イッセーの問いにアザゼルはうなずく。

 

「俺たちの組織が出したデータの理論上ではな。神器のオーラを全身から発して、自分の周囲にいる味方をまとめて回復なんてことも可能なはずだ」

 

 イッセーは手放しで喜んでいるようだが、それ相応の技術も必要になるだろう。

 

「だが、問題は敵味方の判断ができずに回復させてしまいそうなことだ。敵味方を判別し、味方だけを回復できればいいんだがな……。アーシアの生来のものが不安だ」

 

 生来のものっていたら、やっぱり――。

 

「アーシアはやさしいからな、敵が傷ついてしまったら心で癒したいと思ってしまい、それが原因で迷いなどが生まれて神器の力が弱くなるかもしれないんだろう? それにそんなアーシアが敵味方を区別して癒すことは無理だろうな」

 

 俺の言葉にアザゼルはうなずいた。

 

「ああ、そうだ。おそらく、アーシアは敵味方を判別する力は得られないだろう。それに効果範囲拡大はこのチームにとって諸刃の剣となりかねない。だが、それでも効果範囲拡大は覚えるべきものだ」

 

 さらに回復の力を飛ばすことをできるようになるよう修行するように言いつけて、アザゼルは次に移った。

 

「次は小猫」

 

「……はい」

 

 小猫ちゃんは相当気合の入った様子だが、少々入れ込みすぎだな。

 

「おまえは申し分ないほど、オフェンス、ディフェンス、『戦車』としての素養を持っている。身体能力も問題ない。――だが、リアスの眷属には『戦車』のおまえよりもオフェンスが上の奴が多い」

 

「……わかっています」

 

 ハッキリ言うアザゼルに悔しそうな表情の小猫ちゃん。

 

「リアスの眷属でトップのオフェンスは、ずば抜けて神城。次に木場とゼノヴィアだ。禁手の聖魔剣、聖剣デュランダル、凶悪な平気を有してやがるからな。ここに予定のイッセーの禁手が入ると――」

 

「小猫、おまえも他の連中同様、基礎の向上をしておけ。その上で、おまえが自ら封じているものを晒けだせ。黒歌もいるんだ、マンツーマンで仙術の修行でもつけてもらえ」

 

「…………仙術……」

 

 暗い表情の小猫ちゃん。昔の黒歌のように力に飲まれることが怖いんだろう。それを近くで見ていたからなおさら。

 

「大丈夫、小猫ちゃんならソッコーで強くなれるさ」

 

 そんな小猫ちゃんにイッセーが気軽に言いながら頭をなでようとしたが――見事に払いのけられた。

 

「……そんな、軽く言わないでください……っ」

 

 険しい表情の小猫ちゃん。あーあ、ダメだなイッセー。最近の小猫ちゃんの様子みてたら思いつめてるのが丸わかりなのに、デリカシーがなさすぎる。

 

 空気が多少重たくなったなか、アザゼルは時計を気にしていた。

 

「さて、次にイッセーだ。おまえは……。ちょっと待ってろ。そろそろなんだが……」

 

 空を見上げるアザゼル。って、この近づいてくる気配は――。

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 地響きと共に目の前に来襲してきた! くそ! 少しはおとなしく着地しやがれ!

 

 風を操り舞い上がった砂埃を消し、視界をクリアにすると、やっぱりいやがった。

 

「――ドラゴン!」

 

 イッセーが驚愕の表情を浮かべた。

 

 アザゼルは得意げにうなずく。

 

「そうだ、イッセー。こいつはドラゴンだ」

 

 俺は来襲してきたドラゴン――タンニーンに手を振る。

 

「よお、タンニーン。久しぶりだな」

 

「ああ、久しぶりだな、神城」

 

 あいさつを交わす俺たちにリアスが恐る恐る訊いてきた。

 

「え、エイジ……。最上級悪魔のタンニーンと知り合いだったの?」

 

 あれ? 気づいていなかったのか?

 

「久しぶりだな、グレモリーの姫よ」

 

 タンニーンの言葉にリアスは思い出したようだ。

 

「ま、まさか婚約パーティから逃げたときに乗った……」

 

 タンニーンはうなずく。

 

「ああ。あのとき背に乗せていたな」

 

「――っ」

 

 驚きと共に、背中で何度もキスをしていたことを思い出したのか、真っ赤になるリアス。タンニーンはアザゼルを見た。

 

「アザゼル、よくもまあ悪魔の領土に堂々と入れたものだな」

 

「ハッ、ちゃんと魔王さま直々の許可をもらって堂々と入国したぜ? 文句でもあるのか、タンニーン」

 

「ふん。まあいい。サーゼクスの頼みだというから特別に来てやったんだ。その辺を忘れるなよ、堕天使の総督殿」

 

「ヘイヘイ。――ってなわけで、イッセー。こいつがおまえの先生だ」

 

「ええええええええええぇぇぇぇえええっ! この巨大なドラゴンが!?」

 

 と絶叫しながら叫ぶイッセー。そのイッセーを無視して左腕に赤龍帝の籠手が現れドライグとタンニーンが会話を始めた。

 

「久しいな、ドライグ。聞こえるのだろう?」

 

『ああ、懐かしいな、タンニーン』

 

 イッセーがドライグに訊ねる。

 

「知り合いか?」

 

『ああ。――こいつは元龍王の一角だ。「五大龍王」のことを以前話しただろう? こいつ、タンニーンは「六大龍王」だった頃の龍王の一匹だ。聖書にも記された龍をタンニーンというのだが、こいつをさしている』

 

 アザゼルが補足説明をする。

 

「タンニーンが悪魔になって、『六大龍王』から『五大龍王』になったんだったな。いまじゃ転生悪魔のなかでも最強クラス。最上級悪魔だ」

 

 なぜか感心し始めたイッセー。

 

「『魔  龍  聖《ブレイズ・ミーティア・ドラゴン》』タンニーン。その火の息は隕石の衝撃にも匹敵するとさえ言われている。いまだ現役で活動している数少ない伝説のドラゴンだよ。悪いがタンニーン、この赤龍帝を宿すガキの修行に付き合ってくれ。ドラゴンの力の使い方を一から教えてやって欲しいんだよ」

 

 アザゼルはタンニーンに頼み込む。まあ、ドラゴン同士なら安心だな。

 

 だが、アザゼルの頼み事にタンニーンは嘆息する。

 

「俺がしなくてもドライグが直接教えれば良いのではないか?」

 

「それでも限界がある。やはり、ドラゴンの修行といえば――」

 

「元来から実戦方式。なるほど、俺にこの少年をいじめぬけと言うのだな」

 

 タンニーンは目を細めながら楽しげに言う。

 

「ドライグを宿す者を鍛えるのは初めてだ」

 

『手加減してくれよ、タンニーン。俺の宿主は想像以上に弱いんでな』

 

 ドライグがそう言うが、

 

「死ななければいいのだろう? 任せろ」

 

 と、答えるタンニーン。まあ、死ぬ気で修行しないとイッセーは弱いままだからな。

 

 うんうんと納得したようにうなずくアザゼル。

 

「期間は人間界の時間で20日ほど。それまでに禁手に至らせたい。イッセー死なない程度に気張れや」

 

 そう言い残すとアザゼルはイッセーをタンニーンに預けた。

 

 で、最後に残った俺だ。

 

「次は神城」

 

「はい」

 

「おまえは自分で修行しろ」

 

「は?」

 

 トレーニングメニューはなしか?

 

「何を不思議がってるんだ? おまえは俺よりも強いんだから俺に教えられることなんかないだろ。まあ、あえて言うなら魔力の出力制限がかかった状態での戦いに慣れておくぐらいか? あとは、先ほどのゼノヴィアに剣術を教えたり――」

 

 とアザゼルは言葉を切って苦笑する。

 

「それに、悪魔の仕事があるんだろ? くくっ、確かまだ2,000件ぐらいこなさなきゃいけないとは人気者は困るな」

 

 ――くっ! そ、そう言えばそうだ。俺にきちんと修行する時間はあまりない。秘密兵器にも限界があるからな。

 

 リアスと朱乃さんが気まずそうに謝ってきた。

 

「ゴメンなさい、エイジ。私がしっかりしてなかったせいで……」

 

「私も、ゴメンなさい。依頼の管理は私の仕事でしたのに……」

 

 ほぼ全部身から出たサビなので、こちらも気マズい……。

 

「だ、だいじょうぶですよ。もう1,000件近く終わらせているんですから! あ、あと2,000件さっさと契約をとりますよ!」

 

 と空元気で答え、そのあと、タンニーンがグレモリー領の山を借りてイッセーを連れ去り、全員それぞれの修行に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それぞれの修行に別れ、俺はゼノヴィアと時雨を連れてグレモリー家の訓練施設にやってきていた。

 

「じゃあ、ゼノヴィア、全力でかかってくるんだ」

 

「わかった」

 

 野外に造られた、中世の闘技場のように石畳が敷かれた訓練施設で、木刀を持ってゼノヴィアと立ち合う。

 

 ゼノヴィアが木刀で切りかかってくる。俺はその木刀を避けたり、自分の木刀で弾いたり、滑らせたりして攻撃を見切り、防御する。

 

 これは練習試合などではない。ゼノヴィアの技量を測るためのものだ。

 

「……ハァ……ハァ……ハァっ……!」

 

 2時間ほどでゼノヴィアの集中力が切れたようだ。荒い息と剣筋が乱れてきた。それに力も入っていない。ちなみにこの2時間、ゼノヴィアの攻撃は俺にかすりもしていない。

 

「ここまでだな」

 

「ま……、まだまだ……っ!」

 

 木刀を床に突き立ててなんとか立っている状態のゼノヴィアだったが、闘志は消えていない。

 

「諦めないその根性は認めるが、これはゼノたんの技量を測るためのものなんだ。長引かせても良いことはないぞ?」

 

 そう言うとゼノヴィアは前のめりに倒れ――って、床に顔面ダイブ決めそうになったところで受け止めた。

 

「だいじょうぶか、ゼノたん」

 

「ハァ……ハァ……っ、だ、だいじょうぶだ……」

 

 すごく荒い息。全然大丈夫そうじゃないな。

 

 とりあえず、動けなさそうなので技量のことや新しい武器についての話もあるから、ゼノヴィアを抱きかかえ、時雨と闘技場の近くのミーティングルームへと移動した。

 

 で、ミーティングルームへ移動した俺たちは向かい合って今後についての話し合いを行った。

 

「先ほどゼノたんの剣術を見せてもらったが、あれでは全然ダメだな」

 

「ダメ……か……」

 

 暗い表情になるゼノたん! だけど、ゼノヴィアの為なのでハッキリと言う。

 

「ゼノたんの剣術はハッキリ言って素人に毛が生えた程度。聖剣デュランダルの破壊の能力に頼りすぎだ。【破壊の聖剣】を振っていたときも剣術ではなく力任せの攻撃だったし。ゼノたん、剣術をきちんと習ったことはあるか?」

 

 俺の問いにゼノヴィアは首を横に振る。

 

「いや、ない……。私はもともと聖剣デュランダルの適合者だったから、そのついでに因子を入れられて【破壊の聖剣】を持たされ、聖剣使いのエクソシストになったが、きちんと剣術を習ったことはない。強いて言えば我流だ」

 

 やっぱりか。

 

「じゃあ、俺と時雨が剣を一から教えよう。ただ能力に振り回されるだけじゃあ聖剣も可哀想だし、ゼノたんも成長しないからな。俺はこの夏休み仕事があるから時雨に頼むことも多いと思うけど、夏休みが終わってからは俺も積極的にゼノたんに剣を教えるよ」

 

 そう言うとゼノヴィアは深々と頭を下げた。

 

「これからよろしくお願いします、エイジ師匠、時雨師匠」

 

「よろしく、ゼノたん」

 

「……よろしく」

 

 と、こうして師弟関係が結ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今度はゼノたんの新しい武器を考えないとな」

 

 師弟関係を結び今度は新しい武器の話しに移った。

 

「ゼノたんはパワータイプだからなー。どういう剣がいいかな?」

 

 俺が訊くとゼノヴィアは顎に手を当てて考え始めた。

 

「私は木場のようにスピードタイプでないからな。長剣で、あまり細くないタイプがいい」

 

「そりゃあ、そうだな。細くなくて強度があり、長剣かー……」

 

 うーん……。まあ、心当たりのある剣は【王の財宝】のなかに無数存在するけど、たぶん使用する魔力が足りないだろうし、使い方を間違えば危険だからなぁ。

 

 新しく製作してみるか。

 

「うん、新しく製作してみよう。そうだな、ゼノたんがいま持っているのは聖剣なんだから、もう1本は龍殺しの剣にするか」

 

「龍殺しの剣っ! そんなものが創れるのか!」

 

 興味津々のゼノヴィア。俺はうなずいた。

 

「ああ、創れるよ。とりあえず、龍殺しの剣は2日後までには創っておくよ」

 

「そんなに早く……」

 

 驚くゼノヴィアに俺は告げる。

 

「それよりも、これから地獄のような特訓の負け明けだけど、だいじょうぶか? 剣を一から覚えるのはかなりきついぞ?」

 

 俺の問いにゼノヴィアはいい笑顔で答えた。

 

「強くなれるんだろう? それなら構わないさ。それにエイジ師匠にしごかれるのなら大歓迎だ」

 

 と喜びのゼノたん……。ゼ、ゼノたんってMな人?

 

「そうか、それならさっそく始めよう。まずは基本的な剣の振り方からだ! まずは魔力で重くした木刀で素振り2,000回! 今日中に実戦で培った我流剣術の色を抜いて、俺たちの剣技を覚えやすいように矯正する!」

 

 テンションを上げて言う俺にゼノヴィアは元気よく「はい!」と返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数時間後――。

 

 夕方の闘技場でゼノヴィアは大の字になって屍のように転がっていた。

 

「ハァ……ハァ……、ま、まったく、力が入らない……」

 

 時雨に膝枕されたまま荒い息のゼノヴィアに言う。

 

「ふふっ、情けない姿だが、俺が言いつけたメニューを泣き言も言わずにきちんとこなしたんだ。偉いぞ、ゼノヴィア」

 

 そう言うとゼノヴィアは微笑み、大きく息を吐いた。

 

「まさか一日目で指1本まともに動けなくなるほど疲れるとは思っていなかった……」

 

「それは仕方がないさ。それだけ濃厚なトレーニングだし。まあ、その分効果が表れるけどな」

 

「ああ、まったく力が入らないほど体を虐められたんだ。これで強くならなかったら嘘だ」

 

「だいじょうぶ、強くなれる」

 

 口数の少ない時雨もゼノヴィアを励ました。

 

「さてと、そろそろ風呂に行くか。汗をかいたままじゃ気持ち悪いだろ?」

 

「そうだな。じゃあ、エイジが風呂に入れてくれるか?」

 

 はい?

 

「俺がか?」

 

「ああ、この通り体がまったく動かないんだ。1人じゃお風呂に入れない。て、手伝って欲しいんだ」

 

 時雨がいるだろう! とは、あえて言わない! なぜならゼノたんも知っていて言っているのだから!

 

「いいのか? 体を洗うついでに色々と触らせてもらうぞ」

 

 そう言うと、ゼノヴィアは軽く頬を赤らめた。

 

「構わないさ。むしろ、さ、触って欲しい……。いや、それよりいっそ、その場で子作りしてくれても構わないぞ」

 

 そ、それは魅力的だけど、まだリアスのもらっていないのにリアスの眷族の処女からもらうのは、何か申し訳ない。

 

「セックスは今後の楽しみに取っておくとして、お風呂に行こうか」

 

「ああ」

 

「うん」

 

 俺はゼノヴィアと時雨を連れてお風呂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さすがグレモリー家、訓練施設にもお風呂があった。俺たち以外誰も利用者がいないようなので、女風呂へ直行する。

 

 時雨に支えられているゼノヴィアのジャージの上着を脱がして、今度はズボンを脱がせた。

 

 うん、色白で滑らかな肌だ。

 

「ん……」

 

 わき腹を少しなでるとかわいらしい声が漏れた。

 

「キレイな肌だな」

 

 スポーツ用の黒セットのスポーツブラとパンツタイプのショーツを脱がしながら褒める。

 

 ゼノたんの気恥ずかしそうな、恥じらい顔! 最高!

 

「わ、私は鍛えていて筋肉がついてゴツゴツしていないか?」

 

 不安そうに訊いてくるゼノヴィア。俺は胸の谷間からヘソ下まで辺りまで手でやさしくなでて言う。

 

「ゴツゴツなんかしてないさ。女の子らしい、触り心地のいい肌だよ」

 

「……そ、そうか」

 

 安心したように微笑むゼノヴィア。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「ああ」

 

 裸になって3人で風呂に入る。なかなか広くてキレイで、温泉のようだ。さすがグレモリー家だな。

 

 ゼノヴィアを横抱きにして椅子に座らせると、シャワーの蛇口を捻ってお湯を出す。ゼノヴィアの体から表面の汗が流れ落ちたところで、一旦、シャワーを止めて手の平に特性のハンドソープをたらして手の中で温め、まずはゼノヴィアの背中を両手で洗っていく。

 

「ひゃ!」

 

 背中に両手で触れたとき、ゼノヴィアからかわいらしい声が漏れた。ああ、かわいいなぁ~。

 

「ぅん……、んんっ……」

 

 背中から脇、横腹、尻へと手で丹念に清めていく。背中側が終わる頃にはゼノヴィアは先ほどの修行の時より体を震わせていた。

 

「さあ、今度は前だね」

 

「ん……」

 

 ゼノヴィアの体を正面から見つめる。かわいらしい乳首がピンッと尖がっていて、股からお湯とは違うものが流れていた。

 

「やっぱり、キレイだ。鍛えられていてバランスもいいし、なにより、ゼノたんの反応がかわいいよ」

 

「んんっ! ほ、褒められるのは嬉しいよ」

 

 コリコリに勃起した乳首はあえて外して鎖骨から谷間に抜けて下乳から、両のわき腹、さらに太ももへと手で清めていく。

 

「ぁん……ぅぅ……」

 

 じれったさそうな表情のゼノたん! 絶頂寸前で手を止めてるから歯がゆいんだろう! ふふっ、欲しくなってきただろう、自分がいやらしい女になってきたと思うだろう!

 

「洗い終わったよ」

 

 ここで時雨が体を洗い終えて戻ってきた!

 

「エイジは、私が、洗ってあげる」

 

 と、後から俺の胸に手を這わせてきた! ううっ! 乳首を執拗に弄られるっ!

 

「ねぇ、気持ちいい?」

 

「す、すごく、いいよっ……」

 

 マジで最高! やわらかいおっぱいが背中でつぶれてて、顔を首辺りに擦り付けられるのは気持ちいいよ! しかもゼノヴィアの位置からは見えないけど、3本の尻尾が時雨の下半身に巻きついてて、全部の尻尾から一度にオマンコ、アナル、太ももの付け根と尿道の入り口やクリトリスの感触まで伝わってくるから、最高に気持ちいいよ!

 

「す、すごいな……っ」

 

 ゼノたんがつぶやいた。――あれ? 目線が下に……。

 

「寝るときなどにたまに見させてもらっていたが、こんなにじっくり見たことはなかった。……ぅんっ、大きくて長いし血管がビクビクしていて格好いいな」

 

「そ、そうか?」

 

 自慢の息子ではあるが、そんなに褒められるとは……。

 

「触ってみるか?」

 

「い、いいのか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「で、では――」

 

 ゼノヴィアの手がペニスに触れる。まだ握力は回復していないようで、握るというか触れるに近いがそれでも興奮した。

 

 ビクッっ。

 

「お、おお……、跳ねるのか。す、すごいな。それになぜだろう? 目が、手も離せない。これが女の本能とでもいうのか?」

 

 元聖職者のゼノたんが恐る恐る俺のペニスに触れてきて、しかも、嬉しそうに楽しそうに触るんだから、興奮しないわけないだろう!

 

 って俺もそろそろ。

 

「俺もゼノヴィアの触らせてもらうよ」

 

「えっ!?」

 

 くちゅぅ。

 

「あうっ!」

 

 ピッタリ閉じているマン筋を押し開くように、手の平の中指の先がアナルの入り口にくるように合わせて、指の付け根から手の平全体でこじ開けるように押すと、愛液で濡れているのがよく分かった。

 

 ずっと体を弄っていたから、もうびしょびしょだな。

 

 中指と薬指を尻の割れ目からマン筋にかけて掬うように手で愛液を絡めとる。

 

 指に絡む愛液を弄りながらゼノヴィアに見せ付ける。

 

「ゼノたんのオマンコからすごい涎がたれてるな?」

 

「こ、これは……その……」

 

 恥ずかしがるゼノヴィアに突然時雨の手が動いた!

 

 ふみゅっ。

 

「んあっ!? な、なにを……」

 

 時雨が俺の脇の下から潜らせた手でゼノヴィアの両胸を揉んだんだ! しかもなかなか動きが激しい!

 

「あ、あぅぅっ……、し、時雨ししょぉぉっ、んあっ! そ、そんなっ! は、激しっ!?」

 

 さすがは時雨! 乳という凶器の扱いをわかっている!

 

「正直になったほうが、いい」

 

「――っ!」

 

 時雨の言葉にゼノヴィアが目を見開いた。

 

「ここには、私たち、しか……いない。誰も見ていないから」

 

「し、時雨師匠……」

 

 ゼノヴィアは時雨の名をつぶやくと、せつなそうな顔で俺を見つめた。こ、これは……!

 

「私はせ、性的に興奮、しているみたいだ。……そ、そので、できればもっと気持ちよくしてくれないか」

 

 ゼノたん! すげえよ! マジでスペック高いよ、ゼノたん! いつもクール系なのに、なにその弱々しい表情!?

 

「ああ、任せてくれ」

 

 俺はゼノヴィアのオマンコを触り、入り口からスジ、さらに包皮に隠れた小さなクリトリスと弄り始めた。

 

「あ、ああっ……! あ、ああ、ああっ、ああああっ!」

 

 さらにアナルへともっていく。

 

「そ、そこは……!」

 

 一段といい反応を見せてくれるゼノたん! 教会の関係者ってコッチの穴のほうが好きな子が多いんだよなぁ。

 

「コッチも愛するよ」

 

「そ、そこは不浄の……」

 

 アナルを捉えた指先から、肛門がひくついているのがよくわかった。

 

「全身の力を抜いて、俺にすべて任せるんだ」

 

 指に絡む愛液を潤滑油にしてアナルへ向けて進める。

 

 つぷっ。

 

「あ、ああ……っ!」

 

 カエルのように股を大きく開いて天井へ顎を向けるゼノヴィア。第2間接まで入ったな。

 

 ああ、きゅきゅ肛門が締まるのに、なかはフカフカでぐちょぐちょですごくあったかい……。

 

 くちくちっと弄るとゼノたんの体が震えるから興奮する!

 

 ふるふると太ももを閉じたり開いたりとしながら荒く息を吐くゼノヴィア。

 

 もうっ、愛液も垂れ流して――って!

 

 おしっこ漏らしちゃってる!?

 

 シャアアアァァァァァっ。

 

 俺の二の腕とペニスがゼノヴィアのおしっこで汚れる。健康的な黄金色だなぁ。

 

 と和んでいたら、きゅぎゅと時雨がゼノヴィアの乳首を摘み上げた!

 

「きゃんっ!?」

 

「悪い子にはお仕置き」

 

 と――Sじゃないな。純粋な師匠として粗相をしたゼノたんを怒ってるみたいだ。

 

 ゼノヴィアは乳首を摘まれながらも謝罪の言葉を口にする。

 

「ご、ゴメンなさい……! おしっこ漏らして、ひっかけてゴメンなさいっ!」

 

 その謝罪に時雨は満足げにうなずく。

 

「今度から、漏らすときは、きちんと言う」

 

「………………はい」

 

 返事を聞いたあと時雨はさっきと同じ愛撫に移り、俺は指の根元までアナルに差し込んだ。

 

「すごいな、ゼノたん! 指の根元まで入ったぞ」

 

「そ、そんな、言わないでくれっ。そ、れに、あ、あんまりう、動かさないで」

 

 絶頂の限界が近いゼノヴィア。あとでマッサージもあるし絶頂させるか。

 

「あぐぅぅぅっ! そんな、かき回すなんて! ぅあっ!? そ、そこはクリトリスは……! し、時雨師匠までち、乳首をっ、あ、あぅっ! ああ、ああああっ! あああああああああああぁぁぁぁぁあああああっ!」

 

 アナルに差し込んだ指で腸をぐちょぐちょとかき回しながら、クリトリスを弾き、連携するように時雨も乳首をしごき、ゼノヴィアが絶頂の波に襲われ、呆気なく撃沈する。

 

 ずずずっん。ゼノヴィアのアナルから指を引き抜き、指に絡み、引き抜く際に出てきた茶色い汚物を浄化で消し去り、ゼノヴィアを抱えて時雨と共に湯船に浸かる。

 

 それから、ゼノヴィアが満足げに熟睡していたので、ゼノヴィアの体を触りながら目覚めるまで湯船のなかで時雨とセックスを楽しんだ。

 

 そして、そのあと、悪魔の仕事に向かう前にゼノヴィアの体に疲労が残らないように秘儀【マジカルエステ】で体中の疲労した筋肉を解して癒し、さらに16時間相当の睡眠に相当するレベルで回復させた。

 

 さあ、今夜の仕事は何かな?

 

 っていうか、俺も普通に修行してぇ! 冥界でバカンスしてぇ! 

 

 ゼノヴィアの剣の製作と修行、さらに悪魔の仕事2,000件! &自分自身の修行って、今年の夏はマジでハードだよぉぉぉおおおおおっ!

 



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第43話 イッセーは山のなからしいけど、まあ、仕方がないよな その1 ☆

<エイジ>

 

 

 修行が開始されて数日後。ゼノヴィア用の剣の製作も終わり、時雨と一緒に剣術を教えていたとき、グレモリー家の使いの者から小猫ちゃんが倒れたと知らされた。

 

 なんでも、アザゼルに与えられたトレーニングメニューを過剰にこなしたそうだ。

 

 それで小猫ちゃんの見舞いに、丁度リアスの母親に呼ばれていた俺は向かった。

 

「やあ、小猫ちゃん、だいじょうぶ?」

 

「エイジ……先輩」

 

 ベッドに横たわった小猫ちゃん。疲労の色が濃いな。それにネコミミ尻尾付だ。黒歌も部屋で待機していたが、心配そうな表情だ。

 

「修行で無理をしたそうだね。――ちょっとゴメン、触るよ」

 

「え?」

 

 仰向けの小猫ちゃんの額を手で触る。うん……。筋肉疲労にやはりストレス物質が多いな。

 

「うん、無理をしすぎたみたいだね。まあ、これぐらいなら明日には動けるようになるけど……」

 

 俺は腕まくりをしながら言う。

 

「さてと、とりあえず小猫ちゃん」

 

「はい?」

 

「――服を脱いでくれるかな?」

 

「――っ!」

 

 ボガッ!

 

 顔面を思いっきり殴られた……。デリカシーがなかったし、いきなりだったからな。まあ、ワザとなんだけど……。

 

「いや、ゴメンゴメン。単なる疲労回復のマッサージだよ。服を脱ぐとしても下着まででいいし、タオルをかけてもいいから」

 

 説明すると小猫ちゃんは黒歌のほうを確認するように見た。

 

「だいじょうぶにゃ、エイジは無理やり襲ったり、その気のない女には手を出さないにゃん。それにエイジのマッサージはすごいからうけといたほうがいいにゃ」

 

 黒歌がそう言うと小猫ちゃんは少し悩んだあと、「少しうしろを向いていてください」とマッサージを受けることを了承したようだ。少しは姉妹関係が修復されているようでよかった。

 

 ベッドにうつ伏せになる小猫ちゃん。見事なロリボディで胸と尻にタオルを置いているけど、尻のほうは白い尻尾が隠すのを邪魔するように生えているので尾骨の辺りまで肌が出てた。

 

 ――っと、いまは鑑賞している場合じゃなかった。

 

「じゃあ、マッサージするね。だいたい20分ぐらいで終わるから」

 

「…………はい、お願いします」

 

 疲労した筋肉を癒すように腕や足、背中や腰とツボを刺激しながら生態電流での治療を行っていく。

 

「ぁぅぅ……、ぅあっ…………ぁああ……」

 

 小猫ちゃんの口から吐息がもれる。意外と女らしい甘い声だな。少しくすぐったくなるとだけだろうと思ったけど、気持ちよさそうに感じていた。

 

 そこから首筋、わき腹や太ももの付け根、足裏から尻まで丹念に手で解しながらツボを刺激して、疲労を取った。

 

 疲労を取り終えると今度は癒すマッサージに移る。

 

 これはなでるように触れながら心も癒すマッサージ! マジカルエステの秘儀! 肉体だけではなく心まで癒す魔法の愛撫! しかも仙術を少量使用して気脈の回復、腰痛、便秘、生理痛の解消から軽減効果大! さらに房中術で男の陽と女の陰の気を循環させ、小猫ちゃんを芯から癒す!

 

 ――20分後。マジカルエステを受けた小猫ちゃんはマッサージの最中に深い眠りについた。

 

 小猫ちゃんの隣で控えている黒歌に言う。

 

「じゃあ、俺は部長のお母さんに呼ばれているから行くな」

 

「ありがとにゃん。これで明日には疲労も残らないにゃん」

 

「別にいいさ。小猫ちゃんも仲間だし、おまえの妹だからな」

 

 そう言うと黒歌は嬉しそうな笑顔を浮べた。

 

「まあ、基礎力を上げる修行はもちろん、仙術の修行はかなりきついからな」

 

 そう言うと小猫ちゃんの尻尾とネコミミを見る黒歌。

 

「私のときみたいにエイジと繋がったまま仙術を会得できれば楽なのに」

 

 つぶやく黒歌に俺は苦笑する。

 

「黒歌のときは裏技みたいなものだし、小猫ちゃんのは……まだ小さいしな」

 

 俺のじゃ色々と壊れちゃうよ。

 

「それもそうにゃね。ゆっくり地道に段階ふませていくにゃ」

 

「ああ、それが一番いいだろう。あまりあせらずにじっくり土台を作らないといけないからな」

 

「にゃん。それはよくわかってるにゃ、まずは基礎からはじめるにゃ」

 

「うん。じゃあ、またあとでな」

 

「にゃっ、今度たっぷりサービスしてあげるにゃん」

 

「ああ、楽しみにしてるよ」

 

 俺は部屋をあとにしてリアスの母親の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、そこでターン。いいわね。キレもいいわ」

 

 グレモリーの本邸からそこそこ離れた位置にある別館。そこの一室で俺はリアスの母親とダンスの練習に励んでいた。

 

 別館に着くなり、リアスの母親にここへ連れてこられたんだ。で、そのままダンスの練習開始したんだけど……。

 

「さすが、本当にすごいわね。ダンスもサーゼクスやレヴィアタンさまから?」

 

「ええ、一通り習いました。それにヴァルキリーの眷属であるセルベリアにも基本的な社交界の立ち振る舞いや礼儀を教え込まれています」

 

 話しながらもステップを乱さない。そうなのだ。俺は一通りのダンスなどもお手のものなんだ。

 

 って、それより本当にキレイだな。ドレス姿のヴェネラナさん。見た目も同世代ぐらいで、髪が亜麻色なところと胸が熟してて柔らかいこと以外、まったくリアスと見た目は同じ見た目なんだけど、そこに人妻属性と子持ち属性が合わさると、すごい色気を感じる!

 

 ダンスの練習用に流していた曲が終わる。ヴェネラナさんは満足げにうなずいていた。

 

「マナーもダンスも合格ですわね」

 

 俺はヴェネラナさんに尋ねてみた。

 

「そういえば、なんで俺だけにこんな指導を? 木場やギャスパー、特にイッセーに教えなくていいんですか?」

 

 ヴェネラナさんが言う。

 

「木場祐斗さんはすでにこの手の技術を身につけてます。さすがは『騎士』ですわ。ギャスパーさんは吸血鬼の名家の出。頼りない振る舞いをされてますけれど、いちおうの作法は知っていますわ。問題は平民の出のあなたと兵藤一誠さんでしたけど、あなたの礼儀作法やダンスなど余裕で合格点レベルですわ。あと兵藤一誠さんはいまごろ、きちんと教師役の悪魔に冥界の文字はもちろんダンスや礼儀作法を覚えさせられているところでしょう」

 

 でも確かイッセーって修行で山に行っていたよな? 連れ戻して覚えさせてるのか?

 

「いずれはグレモリー眷属として社交界に出なければいけませんからね」

 

「社交界……」

 

 まあ、リアス・グレモリーの眷属だったらあり得る話だな。

 

 ヴェネラナさんは視線を横にずらして口元にてをやった。

 

「……っと、口が滑りましたわね。そういうこともあるかもしれないという話です。それはともかくあなたはリアスのことをどう呼んでいるの?」

 

「え? ぶ、部長ですけど……」

 

「嘘ね」

 

「……はい」

 

 さすが2児の母でリアスの母親……。軽く見抜かれた。

 

「プ、プライベートでは『リアス』と呼ばせていただいています」

 

 怒られるか? と思って告白したが、ヴェネラナさんの反応は意外とにこやかだった。

 

「そうですか。まあ、プライベートならそれでいいですわね。でも社交の場や普段はきちんと『さま』をつけたり、『マスター』や『部長』と呼びなさい」

 

「は、はい」

 

 俺がうなずくとヴェネラナさんは含みのある笑顔でワザと小声になって尋ねてきた。

 

「それで、もうリアスとしているんですの?」

 

 し、してるって……この場合アレしかないよな。

 

「い、いいえ。まだ……」

 

「あら、そうなの? インキュバスになるほど性欲が強い悪魔であるのに?」

 

 驚くヴェネラナさん……。まあ、自分でもそう思うんだけど。

 

「いつもしようという雰囲気になると、度々邪魔が入りまして……」

 

 そう、コカビエル来襲とか、3大勢力会議の微妙な立ち位置の関係上でとか、朱乃さんとゼノヴィアと同居するようになって抱く話が流れたり、悪魔の契約3,000件で夜時間がなかったりして……。

 

「そう、する気はあるのね……」

 

 聞こえないように小声で言っているようですが、聞こえていますよ、ヴェネラナさんっ!

 

「まあ、それはいいでしょ。それよりもあなた」

 

「はい?」

 

 ヴェネラナさんが俺の顔を見つめてきた。

 

「ダンスやマナーは文句はありませんが、もう少し色気を抑えなさい」

 

「え?」

 

「ダンスの際に体に触れたり、夕餉のときにメイドに飲み物を告がれたときにお礼を言ったり、困っているところに手を貸すのはいいのです。むしろ褒めるところですが、あなたは少々色気が強いのです。下心なしで純真に女性の手助けをするのは立派ですが、手助けされた女性……いいえ、一度ダンスを踊った女を引き込む魅力があなたにはあるのですよ」

 

 え? マジ? ダンス踊っただけで?

 

「ええ。箱入りの生娘だけじゃなく、好きな男がいない少女なら誰でも虜になるでしょうね。下手すれば人妻で子持ちの女性までも」

 

 断言するヴェネラナさん。

 

「まあ、そこもインキュバスの特性といってもいいですが、まだリアスも処女で……しかも、一ヶ月も経たないうちに悪魔の契約で予約分だけでもう2,000人以上抱いているわけですし……」

 

 と考え始めるヴェネラナさん。

 

「まあ、そのことはいまは置いておきます。さあ、レッスンを続けますわよ」

 

「はい」

 

 それからより詳しい社交のマナーを覚えながら昼食を食べ、乗馬などのレッスンを夜まで受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜。俺はグレモリーの転移魔法陣で契約取りに向い転移したんだが……。

 

「あれ? ヴェネラナさん?」

 

「はい。そうですよ、エイジさん」

 

 なぜが目の前にヴェネラナさんがいた。あれれ?

 

「えっと、まさか今回俺を呼び出した依頼人さんはヴェネラナさん?」

 

「ええ、そうですよ」

 

 俺の問いにうなずく、ヴェネラナさん! え!? マジで!?

 

「とりあえず、一部の部屋の時間を早める結界を張ってくれないかしら?」

 

「あ、はい」

 

 とりあえず道具を起動させる。部屋が一瞬紫色になると、外界から切り離された。これで誰も入ってこれない密室になった。

 

 それにしてもここはヴェネラナさんの部屋なのか? 公爵夫人の部屋にしては狭いような? 俺とゼノヴィア、それに時々俺の眷属が使っている客間と大して変わらない部屋だった。

 

 ヴェネラナさんはベッドに腰掛けたまま微笑んだ。

 

「さてとじゃあ依頼なのですが」

 

 俺の体を足から頭の先まで見つめるヴェネラナさん。え? この感覚は――。

 

「確かエイジさんってマッサージがお上手でしたわね?」

 

「は、はい。得意です」

 

 小猫ちゃんに聞いたのか?

 

「ではマッサージしてもらえるかしら? 対価はそうね~。まあ、あとで考えるわ」

 

「……わかりました」

 

 俺がうなずくとヴェネラナさんは着ていたドレスを脱いだ! ええっ!? 

 

 まったく恥じらいを見せずに俺の前で全裸になるヴェネラナさん! さすが、リアスの母親! 裸になることにためらいがないぜ!

 

 うつ伏せになって手招きしてくるヴェネラナさん! て、手つきがいやらしいです……。

 

「し、失礼します」

 

 ベッドに乗り、俺の目の前にヴェネラナさんの裸が置かれた。ベッドに広がる胸に、それに出産経験が本当にあるのか疑いたくなる丸い尻肉とピッタリ閉じてる処女口のようなオマンコとダークローズのアナル。

 

 ご、ごちそうです……。すごいおいしそうです。

 

「ではお願いしますわね」

 

 微笑みながら両手を顔の下で組んで体から力を抜くヴェネラナさん!

 

「はい」

 

 俺は精神誠意、愛情を込めた手でヴェネラナさんの熟れた肉体を愛撫していく。小猫ちゃんのときと同じように優しく解すように背中側を終わらせると、ヴェネラナさんは満足そうに仰向きになった――ってちょ!?

 

「あ、あの……色々と見えてますよ?」

 

 一応、言うけど、ヴェネラナさんは特に気にした様子もないどころか逆に訊いてきた。

 

「やはりおばさんの肌なんて見たくはありませんか?」

 

 引き込むような妖艶な表情だ……。俺は首を横に振った。

 

「いいえ、すごく見たいです。それにあなたのような美しい方をおばさんなどとは思えませんよ」

 

「うふふ、そうですか。それは嬉しいわ」

 

 ヴェネラナさんは微笑むと俺の手をとって自らの胸に持ってきた。

 

 ぎゅむ……、ああ、やっぱりリアスのとは違う。こっちはやわやわで熟れてる……。

 

「これは悪魔の契約なのですから、気にしないでマッサージを続けてくださらない?」

 

 そんなこと胸を触らせてもらいながら言われるとマジでやっちゃうよ!

 

「わかりました」

 

 俺の手が指がヴェネラナさんのおっぱいを解し、さらに搾乳するように乳首をしごき、わき腹や太もも、にの腕とマッサージを施していく。

 

「あぅんっ! こ、これは……そ、想像い、以上ですわ……! き、気持ちいぃっ、も、もっとお願いしますわっ」

 

 気持ちよさそうに目を細めながら喘ぐヴェネラナさん! おおっ! オマンコから愛液がだらだらと……リアスみたいに濡れやすいんだな。

 

「んんっ、あはぁぁ、最高よぉぉ……」

 

 腰が悩ましく動き、股が開いた。

 

 ヴェネラナさんから送られる視線! こ、これはやれいうことですね!

 

 うなずいて「こちらもマッサージしますね」と言うと、ヴェネラナさんは股を開いた。

 

 ぐちゅぐちゅのオマンコ。あったかくてヌメヌメで、やはり処女ではない。この貪欲な吸い付きと濡れ具合。さらに物欲しそうに口を開けた膣口は極上のものだった。

 

 右手の中指で一度スジの間をなでてから中指を膣口へ持ってきた。ぐずず……、どんどん飲み込まれていく指。指に絡み付き、咥えるような、しゃぶるような動きにペニスを入れたときの快感を予想して俺のすでに勃起状態だったペニスがさらに堅くなる。

 

「気持ちいいですか、ヴェネラナさん」

 

 膣のなか奥まで指を差し込み、弄りながら聞くとヴェネラナさんは嬉しそうな表情を浮かべたまま俺の首に腕を回してきた。

 

「ええっ……、とっても」

 

 熱っぽくつぶやく、ヴェネラナさん。すごく気持ちよさそうで指がふやけてしまいそうになるほどびしょ濡れだ。

 

「ヴェネラナさんの体も柔らかくて温かくて、すごく気持ちいいですよ」

 

 ぐちゅ、ぐちゅっん。

 

「あぅっ! そ、そこはダメえぇぇぇっ!」

 

 膣の上側を中指をくの字に曲げて擦り上げるとかわいらしい悲鳴が漏れた。

 

 体を震わせて逃げようとする、ヴェネラナさん。俺はあいたほうの左腕を背中に回して逃がさないよう捕らえる。

 

「――っ! そ、そこを刺激されるとっ……そ、粗相をしてしまいますわっ」

 

「だいじょうぶです、我慢しないで出していいですよ」

 

 指を増やして擦りあげる。

 

「あ、あぅぅううっ……そ、そんな……!」

 

 逃がさない! というかヴェネラナさんもノッテいる様子で逃げないし、大きく股を開いてくれた! これはイケということだな!

 

 ヴェネラナさんの上半身を持上げ、真後ろに周り、俺の体を背もたれに起こすと、左太ももの下を通して、下から左手の指でぷっくりした丘の陰唇を開き、右脇の下を通して右手の中指と薬指を入れて上側の膣肉を削った。

 

 ビクンッビクンッと体を痙攣させる、ヴェネラナさん。もうそろそろ限界が近い様子だ。ここで畳みかける!

 

 ジュッ、ジュッ、ジュッ、ジュッ、ジュッ! っと、激しくも膀胱を正確に刺激しつつ、耳元でやさしくつぶやく!

 

「さあ、我慢しないでいいんですよ。俺が見といてあげますから、安心して欲望を解放してください」

 

「あ、ぁぅううっ! …………も、もう……ダメぇえええええええええええっ!」

 

 ピッっ、ピュピュっ、シャァァアアアアアアア…………。

 

 ヴェネラナさんの膀胱が決壊して黄金水でアーチを描いた。おおっ! 絶景! すげえ飛んでるし、濃い色の黄金水だな! しかも絶頂したみたい! きゅっきゅっと指が絞められる!

 

 シーツに大きなシミをつくるヴェネラナさんをうしろから抱きしめた。

 

「あ、ああ…………、そ、粗相をしてしまいましたわ……」

 

 真っ赤な顔で自ら流した黄金水で作ったシーツのシミを見ながらつぶやく、ヴェネラナさん。

 

「すごくかわいらしくて美しかったですよ」

 

「ほ、ほんとに? あまりにも情けな――」

 

「情けないなど思っていませんよ。それよりもヴェネラナさんの恥ずかしそうな顔に興奮しました」

 

 うしろからペニスをヴェネラナさんの腰辺りに擦り付ける。ヴェネラナさんは「そうですか」と安心するように微笑んだ。

 

「これでいちおうマッサージは終わりです。体は楽になりましたか?」

 

 浄化でベッドを清めて訊くと、ヴェネラナさんはうなずいた。

 

「ええ、すごく楽になりましたわ。まるで体が羽根みたい」

 

 と褒めてくれた。これもいちおう仕事だからな。きちんと目的は果たしておかないと。

 

「では契約の対価をいただけますか?」

 

「はい、対価ですね」

 

 うなずいたヴェネラナさんは――なんと、俺のズボンを引きおろしてきた!

 

「え!? な、なにを……!?」

 

 驚く俺のペニスをパンツから取り出し、両手で包みこんできた!

 

「ですから対価をですわ。私の体が対価になるのかわかりませんけど、いまだけは私の体を好きに楽しんでください」

 

「えっ! いいんですか!? 対価にしては大きすぎますよ!」

 

「ふふっ、そうまで褒めてもらえると嬉しいですわ。皆には内緒よ?」

 

 ビクビクっとペニスが跳ねた。正直な息子だな。ヴェネラナさんは笑顔を浮べてペニスにキスをした。

 

「ふふっ、そんなに私を犯したいの? すごく嬉しそうね」

 

 うふふっと、フェラチオを始めてきた!

 

「あぅぅううっ!」

 

 い、一気に全部咥えられた!? す、すげえ、喉奥まで使って裏スジだけじゃなくて、あちらこちらを舐める舌にペニスを咥えて醜く歪む顔はいやらしくて最高だ!

 

 じゅぼっじゅぼっとフェラチオされながら玉袋までマッサージしてくれる!

 

「ぷはぁっ……ふふっ、夫のよりも大きくて堅くて長いですわ……」

 

 …………。

 

 ……なんか一気にあの、人のよさそうな悪魔さんで、リアスのお父さんに悪い気なったけど、ここまできたら怖気づくほうが女に失礼だ!

 

「すごく気持ちいいです、ヴェネラナさん」

 

「いまだけはヴェネラナと呼んでください」

 

「はい、ヴェネラナ……」

 

 ニッコリ笑顔のヴェネラナさんが再びペニスを咥えようとするけど、俺も触りたい!

 

「俺もヴェネラナのオマンコしゃぶりたいです」

 

 ハッキリそう言うと、ヴェネラナさんは俺を押し倒してきた。

 

 ベッドに仰向けになる俺の顔に丸い尻が向けられ、股間が目の前に差し出された。

 

「どうぞ、好きにしてください。これは契約の対価なんですから」

 

「はい……、ありがとうございます」

 

「はうっ! ぅんんっ、私も負けていられませんわね……」

 

 オマンコにしゃぶりつくと、ヴェネラナさんが再びフェラチオを開始してきた。

 

「オマンコもキレイですし、いやらしい蜜が滴り落ちてますね」

 

 少し開いたオマンコからトロリと愛液がこぼれ落ちている。

 

「あなたのも、顎が外れそうなぐらいたくましくて……。カウパーの味といい、クセになりそうですわ」

 

 俺はヴェネラナさんのオマンコに口をつける。舌を伸ばし、熟れたピンク色のオマンコを舐める。次々に漏れ出る愛液を啜りながら、ヴェネラナさんはカウパー汁を啜りながら、お互いの性感を高めていく。

 

 そして、お互いの絶頂がリンクし、射精と共に、ヴェネラナさんのオマンコから潮が噴出し、俺の顔を汚す。

 

 ゴクゴクゴクッっ!

 

 ヴェネラナさんの喉が何度も動き精液を搾り取られる。吸引機のように強く吸い付かれ、どんどん精液を飲み下されていく。

 

「はぁ……はぁ……こんなに濃厚でおいしい精液は初めてですわ……。それに量も多くて萎える様子どころか大きく堅くなってるし……」

 

 ヴェネラナさんはペニスから口を離し、うっとりとした艶のある声でつぶやいた。

 

 ああ、すごくエロなぁっ! もう我慢できない!

 

「キャっ!」

 

 我慢できなくなった俺は、ヴェネラナさんを押し倒して後背位の体勢になる。

 

 押し倒されたヴェネラナさんもノリノリで、自ら犬のように伏せた。挿入しやすいように、お尻だけ掲げて、その状態でシーツを握って挿入を待った。

 

 俺はヒザ立ちになって、ペニスの先端をヴェネラナさんのオマンコにあてがう。

 

 角度を合わせ、むっちりとした丸いお尻を両手で鷲掴んで、腰を進める!

 

 ずぷぶ……っん!

 

 先端を埋めると、吸い込まれるかのようにペニスが一気に飲み込まれ、子宮口まで入った!

 

 抵抗がないわりに、一度入れると……ううっ、何だ!? すげえ! マジで蜜壷じゃん! 脂が乗ってて、フカフカで、貪欲に絡んできてっ、そんなに精液が欲しいのか!?

 

「ああっ! 本当に大きいですわ! なんて大きさなの!? すごい! こんなの咥えたら、開きっぱなしになってしまいますわっ!」

 

 そう叫びながらお尻を悩ましく動かすヴェネラナさん。

 

 俺は完全にヴェネラナさんの体に覆いかぶさり、逃げられないように両手を重ねると、ピストンを開始し始めた。

 

 パンパンパンパンパンパンパンパンっ!

 

 肉を叩く音が部屋に響く。あえてお預けせずに一気にスパートをかけて花弁を踏み荒らし、獣のようにセックスする!

 

 腰を引くとペニスを逃がさないように喰らいつき、腰を進めると逆に最深部までペニスを受け入れ、やさしく包み込む! しかも、犯される姿も艶かしくて最高! マジで腰が止まらねえっ!

 

「あ、あああっ、はげ、激しいですわ! そんなに、されたらこ、壊れてしまいます!」

 

 ヴェネラナさんが悲鳴を上げるが止まらない。それどころかヴェネラナさんの両手を取って後へ引き、腰を突き出してペニスで子宮口をこじ開けるようにぐりぐりと押し付ける!

 

「あ、ああっ……、ここのままじゃ、あ、あなたに……、あなたに染められてしまうっ! そ、そんな、も、戻れなくなるっ!」

 

 余裕のない表情! 母親の、年長者や貴族の誇りをすべて剥がし、内に秘めた雌を呼び起こした! うしっ! そろそろころあいだな!

 

「もう、もうっ……!」

 

 結界寸前の理性。俺は一段と強くペニスを子宮に押し付けてセットすると、ヴェネラナさんのクリトリスの包皮を向く。

 

「そ、そろそろ射精()します!」

 

「い、いま子宮には……! それにそこを弄られるとっ!」

 

 制止の声は聞かない。俺はクリトリスを指でくりくりと弄りまわしながら、精液を子宮に叩き込んだ!

 

 ビュッ、ビュルルルルルルルゥゥゥゥゥゥっ!

 

「あ、あああ、ああああっ、い、いくぅぅぅぅぅうううううううううううう~~~~~~!」

 

 体をのけ反らせながらヴェネラナさんは盛大に絶頂した。

 

 子宮いっぱいに精液を流し込まれて満足げな顔をしているが、膣のほうはまだまだ満足していないみたいだ。

 

 さすが人妻、子宮いっぱいに射精したのに、まったくペニスを離してくれないどころか、まだ欲しいと吸いついてきた。

 

「まだまだ欲しいそうですね?」

 

「…………え!? も、もう私は……ふぅぅんっ!」

 

 再びピストンを開始する! 好きにしていいと言われたんだ! 若い男の性欲を舐めないでほしいな! 

 

「そ、そんな……抜かないで2回目だなんて!」

 

「2回だけじゃありません! 俺が満足するまで何度でも楽しませてもらいます!」

 

「ぁんっ! そ、そんなにされたら堕ちちゃうぅぅぅうううう!」

 

 俺は欲望に身を任せて思う存分、ヴェネラナさんの体に貪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間後。俺はヴェネラナさんの胸に顔を挟まれた状態で抱き合うように添い寝をしていた。

 

 あのあと11回にわたって抜かないまま交わり続け、ヴェネラナさんの腹を妊婦のように変えてしまい、さらにそのあとアナルを舐めさせてもらい、アナルの処女をおいしくいただき、部屋中いたるところ、机や椅子、トイレの中やバスルームなどで交わり続け、十二分に性交を楽しんだ。

 

 で、現在は事後の空気を改めて味わいつつ、おっぱいを吸わせてもらっている。

 

 頭の上側からヴェネラナさんの声がかかる。

 

「私のおっぱいはおいしいかしら?」

 

「はい。濃厚で甘くて、最高です」

 

 そう。濃厚なのだ! ヴェネラナさんは妊娠していなくても母乳がでる体質の方らしく、その母乳を吸わせてもらっているんだ!

 

「うふふっ、久しぶりにおっぱいあげたわ。エイジくん、この屋敷では私のことを義母さまと呼んでいいわよ」

 

 肉体関係を結んだあとだし、個人的には母とは思えないんだけど……。まあ、それでも十二分に嬉しい。

 

「……義母さま」

 

 つぶやいたあと、乳首を再び口に咥えた。ヴェネラナさんが俺の頭を撫でた。

 

「ふふっ、私があなたのお母さまの代わりに甘えさせてあげますわ」

 

 包み込む様に抱きしめてくれるヴェネラナさん……。そう言えば、父さんと母さんが死んで10年近くになるのか……。

 

 俺の目から自然と涙がこぼれた。あ、あれ? なぜだ? と涙を拭う俺をヴェネラナさんが強く抱きしめてきてくれた。

 

「無理はありません。あなたがいくら強いといってもまだ17歳。そんな子が両親を亡くして幼い頃から命のやり取りをしていたのですから」

 

 ヴェネラナさん?

 

「前もって時間を早める結界の能力を強くしておきましたから、いまは安心しておやすみなさい」

 

 俺はうなずいて意識を手放した……。

 

 …………。

 

 俺は歴代の記憶を受け継いでいるが、それは俺の記憶であって記憶ではなかった……。

 

 この世界の人格は俺のものだし、両親は俺だけの両親だった。

 

 記憶はもっていたけど、両親は普通の両親として大好きだったし、事故で死んだときは【王の財宝】に3つだけ存在している色々な条件の下、チート能力の一部を対価に蘇生させようともした。

 

 結局、条件の1つである魂がすでに成仏してなかったために蘇生できなかったが、条件さえ整っていれば、俺はチート能力を引き換えにでも両親を蘇生していただろう。

 

 こうしてヴェネラナさんのぬくもりを感じてながら寝ていると、昔の両親との思い出が蘇る。

 

 記憶はあっても俺の根っこはまだ子供だということだろう……。

 

 数時間ほど経った頃、急に意識が浮上してきた。

 

 あれ? 股間に違和感が?

 

 完全に起きたが寝たフリをしたまま、感覚を鋭敏にして状況確認を行う。

 

「寝顔は子共みたいだけど、こっちは凶暴な怪物さんね」

 

 ヴェネラナさん!? なんで手コキを!?

 

「あふぅ……やっぱりすごくたくましいわね。よく眠っているようだし……少しぐらい……ね」

 

「ね」って何!?

 

 もぞもそを動いて俺を仰向けにするヴェネラナさん! ま、まさか――!

 

「ふふふっ、義母さまの蜜壷も使って癒してあげるわ。……ん、やっぱり大きいわね」

 

 うおっ! やっぱりマジで、す、睡姦ルート突入!?

 

 ペニスが包まれる感覚! やっぱり! しかも子宮口までズッポリ入ってる!

 

「本当にやみつきになりそうね……」

 

 そう言いながらヴェネラナさんが俺の体に覆いかぶさり抱きついてくる。激しい動きはしないようだが、膣が別の生き物のようにペニスをしゃぶったり、なでたり、包みこんだり、吸いついたりで気持ちがいい!

 

 激しくはないが蕩けるような甘い快楽。女のすべてで癒してくれる……。最高だ!

 

 俺は寝たふりを続けたままヴェネラナさんに体を預けて思う存分癒された。

 

 それから再び数時間後。俺はいつもいより元気いっぱいで仕事へと向かった。

 



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第44話 イッセーは山のなからしいけど、まあ、仕方がないよな その2 ☆

<ヴェネラナ>

 

 

 性的にエイジさんを食べた……。というか食べられてから数日。リアスの眷属の皆さんはそれぞれきちんと修行を行っている。

 

 エイジさんはこの数日、ものすごいスピードで仕事をこなし、3,000件あった仕事も、すでにあと600件ほどまで消化していた。

 

 でも、600件といっても本当はそうではないのよね。

 

 グレモリー家に寄せられているエイジくん指名の契約はもう3万件を超えちゃったのよね~。

 

 しかも、その依頼の契約内容のほとんどは性的なものばかり。

 

 爆発的に依頼が増えた背景を探ってみると、【黒い捕食者】という人気だけじゃなくて、エイジさんが襲われたサキュバスたちからの噂話や体験談などが理由のひとつで、その他はリピーターが多かった。

 

 さすがエイジさんね。一度契約を受けた女性のほとんどがリピーターになっているし、見せてもらった契約完了のアンケートの感想覧にも大満足しているようなことが書かれていたし。

 

 それに冥界での契約が一番増えて、グレモリー家と多くの上級悪魔との太いパイプがもてたことは行幸ね。

 

 まあ、その一番の理由が一部の上級悪魔の奥さまの間でエイジさんとのセックスが流行っているかららしいけど……。

 

 うふふ、【人妻キラー】に【至高の男娼】ですか。色々なあだ名がつけられているようですね。まあ、確かに人妻キラーですわね。夫の性欲が衰えてきた……、いいえ、性欲の強い私まで完全に堕とされましたから。ええ、まさか心も体も満たされるなんて思いませんでしたわ……。

 

 ――っ。あらやだ……。少し濡れちゃったわね。うふふ……またしてもらおうかしら?

 

 まあ、それよりはいまね……。

 

「ぅん……エイジ…………、エイジ……」

 

 深夜。ノックをせずに娘の部屋に入ると案の定だった。

 

「ぁああっ、寂しい……寂しいわ……エイジ……」

 

 リアスがベッドに寝転がりエイジさんのシャツを片手に、もう片方の手で自慰をしていた。

 

 静かにベッドに近づき声をかける。

 

「リアス」

 

「――っ!? お、お母さま!?」

 

 慌ててシャツを後に隠す、リアス。その程度で裸で、しかもそんなに濡れた陰唇で何をしていたのかを誤魔化せるはずないでしょうに。

 

 それにそれよりも……。

 

「まったく、部屋で1人自分を慰めるとは、我が娘ながら情けないですわね」

 

「――っ!」

 

 リアスの顔が真っ赤になる。やれやれだわ……。

 

「そんなことをするぐらいなら、いますぐエイジさんに抱いてもらえばいいものを」

 

「なっ!? お、お母さま、何を言うんですか!」

 

「何を、ではありません。相思相愛で同じ家に住んでいるのにいつまでも処女という、情けのない娘に呆れているんですよ」

 

 私はベッドに腰掛けて言う。

 

「リアス。あなたは確かにグレモリー家の次期当主で魔王の妹、それに世界にとって重要な位置にいてわがままを言ったり、不用意な発言は出来ませんが、――男女の仲は別なのですよ」

 

「お、お母さま……?」

 

「ふう……。その様子ではわからないようですね。――はっきりと言いましょう。私たちはあなたがエイジさんの子を宿してもいいと言っているのです」

 

「――っ!?」

 

 驚くリアスの頬をなでる。

 

「もしも相手が中途半端な相手なら反対したり、それ相応の教養を身につけさせていたでしょうが、エイジさんに限っていえば、それはありません。転生悪魔とはいえ、いまの彼の体は純血悪魔で、しかも絶滅したインキュバス。さらに魔王クラスの実力者で、教養も勉学も超一流なのですから。どうあってもグレモリー家に引き込みたい人物ですしね」

 

「お母さま……」

 

「――それとリアス。彼は強くもあるけど弱くもあるのよ」

 

 忠告するように言うと、リアスは驚いたように目を開いた。

 

「エイジが弱い……ですか?」

 

 意外そうなリアス。まったく、この子は……。

 

「そうよ。考えてもみなさい、彼はまだ17歳なのですよ。その17歳の彼がいままでどんな生活を送っていたのかを……。彼が女性を大好きなのは周知の事実ですが、彼は心の奥で癒しと他者とのつながりを欲しているのですよ」

 

「……つながり?」

 

「そうです。つながりです。彼がセックスが好きなのもそのつながりを感じたいからでしょう」

 

 そう。彼は愛情に飢えていた。私の胸の中で流した涙は、彼の心の闇だったのだろう。

 

「リアス。彼が好きなら意地を張らずに、隠れて自慰などせずにすべてをさらけ出してぶつかりなさい。本当の意味であなたが彼の心の拠り所になってあげなさい」

 

「…………」

 

 リアスは黙って俯く。

 

「それに、いまでさえ彼の周りには大勢の女性がいるのよ。彼の元に来る主な仕事も女性を癒すことが主です。あなたがそうやって出遅れている間にも彼は多くの女性と交わり、関係を深めていくのをあなたは良しとするの?」

 

「それは……」

 

「私から言いたいのはここまでです。あとは自分で考えて決断しなさい」

 

「……はい」

 

 私はリアスの部屋をあとにする。ここまで助言してあげたのですから、あとは自分でやるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 いつものように悪魔の仕事の合間に、俺はゼノヴィアの修行を手伝っていた。

 

 かなり厳しい修行で、毎回指1本動かせなくなるほど肉体を疲労させ、さらに技術を学ばせ、暇しているノエルやセルベリアも巻き込んでゼノヴィアに修行を施していた。

 

 ちなみにレイナーレはグレモリー家のメイドたちや、料理長などから様々な技術を学ばせてもらいメイドスキルを上げている。あの子は戦闘メイドってわけじゃないからな。

 

 その修行の甲斐もあり、もともと才能があったゼノヴィアの剣技レベルは人間でいうところの準達人クラス。俺の流派では初級の入り口に立ったところだ。

 

 聖剣デュランダルも完璧とまではいわないが使いこなせるようになり、さらに龍殺しの剣の扱いにも慣れ、さらに二刀流も教え込み、対処能力と状況判断能力を身につけ、課題だった力任せの剣技も改善された。

 

 もはや上級悪魔でもかなり上の実力を有しているだろう。

 

 それにゼノヴィアは初日からいままで弱音も吐かずに黙々と訓練をこなすし、根性もあるし、心も強い。

 

 ちなみに修行後の俺や時雨たちとお風呂に入ることも好きになっているようで、本当に色々と触らせてもらった! マジで色々だ! 狭い処女口も指2本ぐらいなら咥えられるようになったし、膣だけでイケるようになった! アナルのほうも本格的に開発し始めたし、ゼノたんはアナルが大好きみたいで、舌を入れて舐めると嬉しそうな悲鳴を上げてくれて、お礼としてフェラチオやパイズリや素股なんかご奉仕してくれる! リアスがまだだから本番はしていないけど。

 

 と、話が逸れたな。

 

 いまはそれど頃じゃなかったんだった。

 

 そう。いま俺の目の前でネグリジェを脱ごうとしているリアスが、いまの俺の最優先事項だったのだ。

 

 夕餉が終わり、お風呂に入って部屋で仕事へ行く準備をしていた俺のもとに、リアスがネグリジェ姿でやってきたんだが、いきなり服を脱ぎ出したんだ!

 

「……エイジ。今夜は悪魔の仕事はお休みよ」

 

「り、リアス?」

 

 俺をベッドへ押し倒してズボンを脱がせる、リアス。

 

「――っ!」

 

 キスされた! っていうかいきなり舌入れて、手でペニスをしごいてきた!

 

「んじゅ……んんっ……」

 

「はぁぅん……、あふぅ……」

 

 いつもより激しいキス! しかも手コキもいつもと違ってる!

 

 お互いの唇が離れ、唾液の橋を作る。

 

「リアス……」

 

「エイジ」

 

 リアスは真っ赤になりながらも俺の上着を脱がした。そしてお互い生まれたままの姿になると、正面から抱きついてきた!

 

 リアスはいつもより興奮しているようで、オマンコがびしょ濡れで愛液が俺の体を濡らす。

 

「エイジ、今夜はゼノヴィアは部屋に戻ってこないわ」

 

「え?」

 

「今夜は……、今夜は私がエイジを貸しきるわ」

 

「それって……」

 

 リアスはうなずいたあとに微笑んだ。

 

「いつかのときみたいに言うわ。私の処女をもらってちょうだい」

 

「――っ!」

 

 マジか!? ついにか! いいんだな!?

 

「リアス……」

 

「エイジ……」

 

 押し倒し返してベッドの中央にリアスを寝かせ、もう一度キスをする。今回のキスは先ほどのキスと非でないほど、獣のように唾液を交換し、舌を絡め、口内を蹂躙した。

 

「リアス、大好きです、愛してます」

 

「ええっ、私も! 私も愛しているわ!」

 

 首筋から胸へ舌で舐めながら、両手で胸を根元から解すように揉む。リアスの大きな胸に俺の指が埋まり、感触が伝わってくる。

 

「んんっ! ぁあんっ、……本当におっぱいが大好きなのね」

 

「おっぱいだけじゃない! 全部大好きだ! 高飛車なキミも、かわいらしいキミも、楽しそうなキミも、甘えてくるキミも全部大好きだ」

 

「――っ」

 

 リアスの体が跳ねた。ああっ、本当に愛おしい……。いままで抱くことのできなかった分。感情が溢れ出る。

 

 リアスも俺と同じだったようだ。

 

「私も! 私もエイジが大好きよ! すごくエッチだけど、私をいつも助けてくれて、私自身を見てくれて愛してくれる。――愛してるわ、エイジ」

 

 体を擦り付け合う! ペニスをリアスの体に擦りつける。早く繋がりたい!

 

 股の間に入りオマンコを指で広げる。いつも見てるけど……。

 

「キレイだ……、すごくおいしそうで、もう我慢できない……」

 

「ぅんんっ! え、エイジっ」

 

 オマンコに喰らいつく!

 

 少し開いたオマンコのスジに顔を埋め、舌を伸ばしてなかを探るように舐める。ちょっと甘酸っぱい味が舌に広がり、リアスの濃い匂いが鼻をつき抜ける。

 

「すごく、おいしいよ、リアス」

 

 膣口を舌でつんつんと弄り、クリトリスに鼻を擦りつける。顔に当たる少し太い紅毛がくすぐったい。 

 

「あっ、あぅんっ! だ、だめっ、も、もう……、い、イクぅぅうううううっ!」

 

 ピッ、プシャァァァアアアア……。

 

 突然リアスの体が跳ねたと思った瞬間、リアスのオマンコから潮が噴出した。

 

 少し白く濁った潮が顔にかかるが、気にせずに口でオマンコを口で塞ぐ。飛び散る潮を受け止めて、喉に流し込む。

 

 潮って味覚的にはおいしくないけど、興奮したときとかセックスのときは美酒に思えていくらでも飲めるんだよなぁ。

 

 しみじみそう思いながら俺はリアスのオマンコを舐め続ける。

 

「はぁはぁ……、んっ、はぅぅ……」

 

 潮を噴かせながら絶頂したリアスは脱力したようにベッドに倒れた。今の顔を見せまいと左腕で顔を隠し、右腕で体を抱いている。

 

 俺はリアスの両膝に手を入れて左右に開く。膝を開いた中心に添えられたオマンコはすでにじっとりと濡れていた。

 

「はぁ……はぁ……、エイジ……私、もう、我慢できないわ……」

 

 両手を腰のほうへ持ってきて熱っぽくリアスはつぶやいた。

 

「俺もだ。いますぐリアスと繋がりたい」

 

 リアスのつぶやきにうなずき、俺は体をリアスの股の間にいれる。正常位の体位で、カウパーですでに濡れているペニスを、オマンコのスジを滑らせて愛液を絡め、物欲しそうにリアスの呼吸に合わせてクパクパと口を開けている膣口に亀頭をセットする。

 

 外れないように手を添え、リアスと見詰め合う。

 

「いくぞ、リアス」

 

「ええ、きて、エイジ」

 

 腰を進める。ペニスの亀頭が、リアスの膣口をいっぱいに拡げていく。

 

 ズズズッ、ミチッ!

 

 処女膜にペニスが触れる!

 

「――んっ!」

 

 痛みを感じているのかリアスの顔が歪む。シーツを後ろ手にぎゅっと握り、目を閉じる。

 

 ここで止めたままにしておくほうが痛みを長引く。リアスもそれが分かっているのか、必死に力を抜いて、大きく股を開く。

 

 俺はさらにリアスに覆いかぶさるように腰を進めていく。

 

 ミチミチッ、ブチッ!

 

 確かな手応え! 完全に処女膜を引き裂いた!

 

 ズズズズ……っ。 

 

 狭い穴を掘り進めるように、細かい突起が壁中についた、リングのような狭い通路をペニスで拡げる! 想像以上の極上オマンコだ!

 

「んあぁっ! ふ、太……っ、それに子宮までき、て……」

 

 こつんっ。

 

「んあぁあああっ!」

 

 最深部である子宮口にまでペニスが到達し、リアスの口から悲鳴が漏れた!

 

 結合部に目線を送ると、紅い血が流れていて、リアスが乙女から女になったことを、俺がリアスの処女を奪った事実を実感させた。

 

 やっとリアスと繋がった。

 

「リアス! 俺、俺っ!」

 

 その喜びを抑えることができない。動きたい! 我慢できない! リアスを犯したい!

 

 俺の心を察してか、リアスは両手を広げて俺に向けてきた。瞳の端に涙を溜めたまま、嬉しそうに微笑んだ。

 

「いいわ。あなたの好きに動いて」

 

「ああ、もう我慢できないっ! リアスを犯したい! ありがとう、リアス」

 

 俺はリアスにお礼を言って、ゆっくりと腰を動かし始める。

 

「あ、ぁんっ! …………っ! すごっ、すごいっ!」

 

 小さく、強く絞まる膣道をペニスの雁首や胴に浮んだ血管で引っかきながら、俺はピストンの速度を速めていく。

 

 ジュブジュブジュブっ……。

 

 激しく腰を動かし、ペニスを子宮目掛けて打ちつける!

 

 処女の血が次から次からあふれる愛液に流れ落され、リアスの膣と俺のペニスが2人の境界をなくし、ひとつの生き物のように感じられた!

 

「リアス! すげえ気持ちいいっ!」

 

「私の中っ! そんなにっ、こっ、擦らないでっ……!」

 

 リアスが俺の腕を掴みながら震えたが、抑えられない。

 

「そんなの無理だ! 気持ちよすぎて止まらない!」

 

 俺は腰を振りながら手を伸ばし、リアスの胸を揉む。ハリがあって乳首もコリコリだな!

 

 下から持上げ、円を描くように強い力で揉みしだき、乳首を摘まんで指先で扱く。

 

「はぁんっ! そ、そんな胸まで……っ!」

 

 俺の腕を掴むリアスの手から力が抜ける。快感に戸惑うように体をビクつかせた。

 

「ああっ、リアスっ!」

 

 体をもっと倒してリアスに覆いかぶさり、さらに脇や首筋にキスする。体に浮き上がった汗がしょっぱく、脇に顔を埋めると、恥ずかしいのか気持ちいいのか、オマンコがキュンキュン締まった。

 

「はぁはぁ……、だ、めぇぇっ、んっ、き、きもち、よすぎて……、あぅんんっ……」

 

 気持ちよさそうに喘ぐ彼女の表情と甘い吐息も最高だ!

 

「いいっ、気持ちいいわっ! あ、あうぅぅうっ、エっ、エイジっ! 私、も、もうっ……」

 

 いちだんと強く膣が締まり、ペニスがしごかれる! 亀頭に子宮口が吸いついてくる!

 

 そろそろ限界なんだな! 俺もそろそろ限界だし、思いっきり射精しよう!

 

「一緒にいこう、リアス!」

 

「んっ、ええっ! 一緒に!」

 

 リアスに覆いかぶさり、体を抱くように抱きしめる!

 

 リアスからも両手が俺の背中に回され、――っ! 両足まで俺の尻に抱きついてきた!

 

 もう我慢できない!

 

 俺は腰を打ちつけ、子宮口で欲望を解放し、精液を子宮に叩き込んだ!

 

 ビュッ、ビルゥゥゥウウウッ、ビュビュッ……、ビルルゥゥ……!

 

「ああああ、あああぁああああああっ! い、イクゥゥぅぅうううううううううううううううう~~!」

 

 リアスの絶叫が部屋に響く。

 

 ああっ、すげえ! マジで止まらねえっ! 玉袋に貯蔵していた分が全部出てる!

 

 無理やり子宮を拡げながら精液を出してるみたいだ!

 

「はぁ……、はぁぅん……、はぁ……はぁ……」

 

 ゆっくりとリアスの四肢から解放される。

 

 ベッドに両手をついて起き上がり、ゆっくりとオマンコからペニスを引き抜くと、白濁した精液が、広がった膣口からドクドクと流れ落ち、シーツに大きなシミを作った。

 

 リアスの隣に寝転がり、唇にキスを交わす。

 

「愛してるよ、リアス」

 

「私も、愛しているわ」

 

 疲労の色が濃いながらも花の咲くような微笑むを見せるリアス。

 

 俺はリアスを胸に抱いて、2人でそのまま抱き合いながらねむ――らなかった。

 

 まだ股間はギンギンというより、さっきより興奮していた。

 

 精液と愛液まみれのペニスがまだまだ元気なことに気づいたリアスが苦笑する。

 

「うふふ、1回じゃ終わらないことは覚悟してたわ。まだ少し痛いからやさしくしてね」

 

 俺の鼻をツンと指で押して、リアスは微笑んだ。

 

「はい!」

 

 リアスに感謝してから2回戦目へと移る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアスの処女をおいしくいただき、何度も交わったあと、俺はリアスと一緒に部屋のお風呂入っていた。

 

 俺の体を背もたれにして、股の間に腰をおろしたリアス。

 

 俺の尻尾から媚薬成分が染み出るかもしれないけど、湯船に一緒に浸かっていた。まあ、よほど興奮しない限りだいじょうぶだし、思う存分リアスの体で抜いてもらったから、現在軽い賢者モードに入ってるからな。

 

 それよりも、いつもより狭いバスタブで少しぬるい湯にゆったりと2人だけで浸かる雰囲気が大好きだ。

 

 リアスの腰に手をまわし、密着してお互いの体温を感じながら静かな時間を過ごす。

 

 そんな時間のなかでリアスが口を開いた。

 

「ねえ、エイジ」

 

「はい、なんですか?」

 

 後ろを振り返り、ちゃぷと湯から手を出して俺の頬にその手を添えるリアス。

 

「私の処女をもらえて嬉しかった?」

 

「もちろん。幸せでしたよ」

 

 リアスの体を抱きながら笑顔で断言すると、リアスは嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「そう。嬉しいわ」

 

 リアスは体を入れ替え、今度は向かい合いで抱き合う。

 

 胸同士がくっ付き、リアスの下腹辺りにペニスが触れる。

 

「エイジ……。処女でなくても私が好き?」

 

 不安そうな声。まったく、何を言うんだ?

 

「当たり前でしょ。処女や非処女で俺は女性をみませんし、そもそもあなたを愛しているという気持ちも本気ですし、変わりませんよ」

 

「そうなの?」

 

「もちろん。不安なんですか?」

 

「正直言うと、私はあなたが私の眷属になってくれていることが嬉しいけど、不安よ。魔王クラスで、冥界の人気者であるあなたに、上級悪魔の私なんかが『王』でいいのか不安なの」

 

「俺の『王』はあなたひとりですよ」

 

「エイジ……」

 

「相応しくない相応しいなどの問題以前に、俺自身があなたに魅力を感じて眷属悪魔となったんですから、周りの者の声など気にしないでいいんです。それに――」

 

「それに?」

 

「自信がないのでしたら俺と修行してみませんか?」

 

「エイジと修行?」

 

「ええ。アザゼルの考えてくれたトレーニングよりもかなりキツイ修行ですが、その分大きく成長できますよ」

 

「…………強くなれるの?」

 

「あなたがその気になれば、俺が強くしてみせます」

 

「それならお願いしようかしら」

 

「はい。あ、でも、まだ悪魔の仕事が残っているので合間合間になりますけど……」

 

 そう言うと、リアスは俺の首筋を噛んできた! ええ!?

 

「悪魔の仕事ってやっぱりエッチなことばかりなの?」

 

「え、ええ……。人間界はもちろん、冥界の色々な場所に呼び出されて……」

 

 リアスが俺のペニスを下腹辺りで押してきた。

 

「私にも落ち度があるけど、やっぱりあなたを他の知らない女に抱かせるのはいいものではないわね」

 

「り、リアス……」

 

 少し考え込んだリアスは笑顔でうなずいた。

 

「私、決めたわ」

 

「決めたって何を?」

 

「エイジ、あなたが仕事で女を抱くことは……、すごく嫌だけど……。仕方がないわ、そこはインキュバスってことで許すわ。でも、これからは仕事で女を抱く以上に、私を愛することを誓いなさい」

 

 えっ、それって……つまり……。

 

「あなたが愛すると誓ってくれるなら、私はどんなエッチなプレイでも受け入れるわ」

 

「ほ、本当に!?」

 

「え、ええ……。でもいくらプレイでも他の男とかに抱かせるのは――」

 

「他の男なんかに渡すわけありません!」

 

「そう、そうよね。うふふ、まあ、今夜はもうあまり激しいのは無理だけど、激しくないのだったらなんでもしてくれていいわよ」

 

 な、なんでも!? 耳元まで口を持ってきて囁く、リアス。

 

「これからたっぷり甘えさせてあげるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふ、甘えん坊さんね」

 

「し、仕方ないじゃないですか」

 

 ベッドの上で抱き合う俺とリアス。裸であることはいつものことだったが、今夜はそれだけではない!

 

 くちゅぅ……。

 

「あんっ、エイジのがなかで跳ねたわ」

 

 そう! ペニスを入れさせてもらったまま抱き合っているのだ!

 

 しかも、乳首もしゃぶらせてもらってるんだ!

 

「お母さまが言っていた通りね……」

 

 ……………え?

 

「な、何をおっしゃっていたんですか?」

 

 恐る恐る訊ねる。まさかエッチしてしまったことじゃないよな?

 

 リアスは微笑みながら俺の口へ乳首を入れてきた。赤ん坊に母乳をあげる母親のように頭をなでてくれる。

 

「エイジ……。私が、リアス・グレモリーがあなたの帰る場所になってあげるわ」

 

 リアスの言葉で心が温かくなる。

 

「さあ、おねむりなさい、エイジ」

 

 ――ありがとう、リアス……。

 




誤字修正。


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第45話 イッセーは山のなからしいけど、まあ、仕方がないよな その3 ☆

<リアス>

 

 

 エイジと繋がってから3日。私はゼノヴィアと一緒にエイジの修行を受けていた。

 

 家の離れにある訓練施設で久々にゼノヴィアの様子を見たときは言葉を失ってしまった。

 

 以前、コカビエル来襲のときに祐斗やケロベロス、フリードと戦ったときとは戦い方からなにからすべてが変わっていたからだ。

 

 いまもエイジに修行の手ほどきをしてもらっている私の隣で、【武器の申し子】である時雨と剣を交わしているけど、ゼノヴィアが振るう剣に優雅さと祐斗以上の剣技を感じた。

 

 聖剣デュランダルや【破壊の聖剣】を使用していたときよりも、おそらくいまのゼノヴィアは強いだろう。修行を開始してからゼノヴィアを見ていたが、聖剣デュランダルやエイジが精製したという龍殺しの剣との二刀流なども十二分に使いこなし、さらにセルベリアやノエルも加わり様々な状況でも生き抜く術と状況判断能力を養い、遠距離攻撃に対する対処ほうまで教え込んでいた。

 

 本当に、アザゼルの提示したトレーニングメニューよりも数倍密度が濃い。

 

 基礎力の鍛錬、剣の習得も体を限界以上まで酷使するもので、模擬戦も実戦と変わらず怪我もするし、骨折もする。

 

 まさにハードメニューだけど、確実にそれだけ強くなれていた。

 

 始めはエイジの修行が辛くて泣き言ばっかり言ったりしてたけど、3日目となると修行を黙々とこなすことが出来るようになった。

 

 まあ、おそらく修行後のご褒美……のようなものが原因なんだろうけど……。

 

 今日も夕方まで苛烈な修行に耐え、指1本動かせない状態でゼノヴィアと共に床に転がっている。

 

 全身から力が抜け、魔力も限界値まで減らされている。――修行で倒れる。たぶんいまの私とゼノヴィアは少し前に倒れた小猫よりも酷い状況だろう。

 

 まるで体がいうことをきかないのだから。そう、本当に体がいうことをきかないの……。

 

 修行初日なんて疲労しすぎとすべての穴が緩んで……。いえ、それはもう忘れましょう……。

 

 そんな全身脱力状態で危険な状態だけど、もう私に恥なんかないわ! もう情けない姿は全部エイジに見られたし! あれを片づけたのもエイジだったし! ここまできたら本当に私はエイジ無しでは生きられないわね……。

 

 修行が終わり、床に突っ伏している私とゼノヴィアを抱えて、お風呂へと向かう。

 

 体が動かないからお風呂でエイジに体を洗ってもらうんだけど、それが本当に気持ちがいい……。

 

 丁寧な手つきと、好きな人に体を洗ってもらうのは嬉しい。全身くまなく手で洗われて湯船を浸かり、そのあとエイジから全身にマッサージをしてもらうんだけど……。

 

 そのエイジのマッサージ、【マジカルエステ】という技らしいんだけど、それが本当に気持ちよくて癒される。全身を痛めつけた状態でそのマッサージを受けるのはある種の麻薬……クセになるほど気持ちよくていつの間にか眠っていて、さらに翌日すべての疲労が抜けてて前の日よりも体の調子が良くなるのよね~。しかも高度な仙術の混ぜ込んでいて骨折とかも治っちゃうんだからすごい。

 

 まあ、度々マッサージの途中でそのままエッチしちゃうけどね。

 

 エイジの精液を口で飲んでたときも思ったけど、エイジの精子って濃厚でおいしいのはもちろんだけど、かなりの魔力を内包しているようで、子宮で受け止めると失った魔力が回復するのよね。それにインキュバスの能力と仙術の房中術を合わせてセックスしているみたいで最近肌の調子なんかもすごくいいわ。

 

 私がエイジとセックスしたことを知って、ゼノヴィアもエイジとセックスする許可をもらいにきたから許可を出したわ。

 

 どうせ仕事で大勢の女を抱いてるんだし、知らない女を抱いているより知っている女のほうが抵抗も少ないし、正妻としての余裕をみせとかないといけないからね。

 

 本当はエッチさせたくないんだけど、彼のすべてを受け止めるのは1人じゃ無理なのよ。

 

 なんせ500人ものサキュバスに勝利したほどの男なんだから……ええ、1人でというか毎日エイジと倒れるまでセックスしてたら頭が変になっちゃうわ。

 

 …………黒歌たちが私や朱乃、ゼノヴィアがアプローチをかけているのに、余裕で静観していたわけもわかったわ。

 

 まあ、正妻の座は譲らないけど……。

 

 さてと、そろそろ私のマッサージの番ね。今日も疲れを癒してもらいましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 ゼノヴィアだけではなく、リアスの修行もつけ始めて4日目の朝。グレモリー家の本邸の廊下を歩いていたら朱乃さんを発見した。

 

「おはようございます、朱乃さん」

 

「ええ、おはよう、エイジくん」

 

「悪魔の仕事と両立してきついとは思いますけど、ゼノヴィアちゃんの修行のほうは進んでいますか?」

 

「はい。もともと剣の才能もありましたし、きちんと修行をこなしていますから。聖剣デュランダルに振り回されない程度の能力と、いまの木場以上の剣技を身につけましたよ」

 

「まあ、本当に? そんなに強くなったんですの?」 

 

「ええ、かなり厳しい修行ですし、3日ほど前からリアス部長も一緒に修行されてるんですよ」

 

「…………リアスも?」

 

 やべえ……。墓穴掘ったか? 朱乃さんのニコニコ笑顔が氷点下になった。

 

 朱乃さんが首を少し横に傾けてニッコリ笑顔を浮べた。目の光がやべえ!

 

「私もエイジさんに修行をつけてもらっていいかしら?」

 

「い、いいですけど……かなりキツイですよ?」

 

「構いませんわ。……負けていられませんし」

 

 最後のほう、小声でつぶやいた朱乃さん! マジで! 朱乃さんも修行参加!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も、もうダメですわ……」

 

「だ、だらしないわね、朱乃……」

 

「ふ、仕方がないさ……。私も初日からずっと鍛えてもらっているが、毎回動けなくなる」

 

 修行4日目、朱乃さんも加わって本日の修行のメニューを完遂したんだが……。

 

 リアス、朱乃さん、ゼノヴィアの3人が案の定、指1本動かせずに、さらに魔力も限界まで抜かれていて動けずに床に突っ伏している。

 

「エイジ、お風呂に行こ……う」

 

 時雨がゼノヴィアを背負ってやってきた。って時雨!?

 

「ほら、リアス。私たちも行くぞ」

 

「ええ、ありがとう、セルベリア」

 

 セルベリアがリアスを背負う。修行初日の朱乃さんが話の流れに軽く混乱してるじゃん!

 

 そこにノエルが朱乃さんが言う。

 

「朱乃さんもお風呂に行くよね?」

 

「え、ええ。全身汗でベトベトは気持ちいいものではありませんし……」

 

「そうだよね、じゃっ、私が運んであげる」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 ノエルが朱乃さんを背負った。

 

 そしていつもみたいに訓練施設の風呂に行こうとするけど、おい!?

 

「ほら、エイジ。何をやってるのよ、早く行くわよ」

 

「え!? お、俺も一緒でいいんですか!?」

 

「何を言ってるのよ。いつも一緒に、というか洗ってもらってるじゃない」

 

 リアスが余裕の笑みを浮かべて微笑んだ! 朱乃さんの目が驚きで大きく開いてる!

 

「リアス、まさか修行してからずっと……」

 

 朱乃さんの言葉に肯定する、リアス。

 

「ええ、いまみたいに体が動かないから、エイジと一緒に入って体を洗ってもらっているの」

 

 マジで言っちゃった! 朱乃さんの顔がニッコリ笑顔になった。

 

「…………そうなの。へぇ……。じゃあ私も洗ってもらいましょうか」

 

「そうね、いいんじゃないかしら」

 

「随分と余裕ね、リアス」

 

「別に。ただ考え方を変えただけよ」

 

「考え方を? そういえばリアスの歩き方がここ数日変だったような……」

 

 や、ヤベぇ! ってリアスが朱乃さんに意味深な笑顔を送った!

 

「――っ」

 

 完全に気づいた様子の朱乃さん! 瞳に炎が燈ったようだ!

 

「そう、そうなの……。負けないわよ」

 

 波乱の幕開けか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練施設の風呂に移動してから、風呂に入っているわけだが、すでにリアス、ゼノヴィアの体を洗い終え、浴槽で疲れを取っていた。

 

「さあ、よろしくお願いしますわ」

 

 髪を下ろした朱乃さんが俺を誘ってくる。朱乃さんの美しい肢体、大きなおっぱい! 黒く薄い毛が乗った慎ましいオマンコ! かわいらしいへそ!

 

「はい!」

 

 俺は両手にボディソープを纏わせて背中からやさしく洗い始めた。

 

「んっ……、ふふ……、これはなかなか気持ちいいですわね」

 

 朱乃さんの細く女性らしい柔らかい腕を脇から指先にかけて洗う。スベスベで気持ちいい!

 

 首から鎖骨、そして下乳のほうから恐る恐るおっぱいに手を伸ばす! お、怒るかな?

 

 怒るかもしれないと思っていたけど、朱乃さんの反応は逆だった。

 

「エイジくん、いいですわ……。しっかり全身の隅々まで洗って……」

 

「は、はい」

 

 逆に許可をもらった俺はおっぱいを根元から乳首の先端まで丹念に手で清めていく。

 

「うぅん……、すごく、いいわ……」

 

 朱乃さんのわき腹から腰に移動し、太ももから足の裏まで洗う。気持ちよさそうな朱乃さん! だけど、一番気持ちいいのは俺です! スベスベでもち肌で吸い付いてくる肌の感触は最高でした!

 

 洗い終え、シャワーでボディソープを落そうとすると、リアスから声がかかった。

 

「あら、エイジ。まだ洗ってないところがあるじゃないの」

 

 洗ってないところ? ってまさか!?

 

「――っ!」

 

 朱乃さんも気づいたようだ。大きく開かせた目でリアスを凝視している。一方のリアスは涼しい顔で朱乃さんに挑戦的な笑みを浮かべていた。

 

 ごく……。

 

 朱乃さんが喉を鳴らした。覚悟を決めるように一度目を閉じた。

 

「……そうね。エイジくん。私の隅々まで洗ってくださらない?」

 

 朱乃さんっ! 俺がリアスとゼノヴィアのオマンコとアナルを洗っていたところ見てたでしょ!?

 

「い、いいですけど、朱乃さんが魅力的過ぎて加減がきかなくなると思いますよ?」

 

 マジで隅々まで洗うよ!? いいの?

 

 朱乃さんはこくりとうなずいた。

 

「ええ、いいですわよ。あっ、でも、処女膜は傷つけないでくださいね?」

 

「りょ、了解しました!」

 

 朱乃さんの膝の間に座って、オマンコに手で軽く触れる。

 

「――っん……」

 

 朱乃さんの口から悩ましい声が漏れる。人差し指と中指をV字に大きく開き、太ももの付け根を洗い、次にぷっくりした子丘でピッタリと閉じている陰唇を指で開いた。

 

「あぅぅ……」

 

 朱乃さんの体がピクリと震える。ドロリとした愛液が滴り落ちた。薄いピンクでクリトリスも慎ましく小粒で包皮に覆われ、膣口も小さく小指がやっと入るぐらいだ。

 

「キレイですよ、朱乃さん」

 

 褒めならが指で洗うと朱乃さんは頬を赤らめた。

 

「ほ、本当に?」

 

「ええ、ピンク色で、お尻の穴まで美しくて好みです」

 

「……うふふ、そうですか? 少し恥ずかしいですけど、嬉しいです」

 

 くちゅくちゅといやらしい音と共に朱乃さんの口から甘い吐息が漏れた。俺の体に自らの体を預け、オマンコから感じる快楽に酔っているみたいだ。

 

 朱乃さんのオマンコを指で磨き上げる。膣のなかも、処女膜を傷つけないように小指を使って恥垢を掬い取り、クリトリスも包皮越しに愛撫を始めた。

 

「ぅんっ! ……エイジ……もっと、激しく……。あんっ! い、いいわっ! そのまま、そのまま、あぅうううううううう…………っ!」

 

 朱乃さんの体が数度跳ねる。ビクビクと体を震わせて、俺の手や下半身に朱乃さんの股間から放出される黄金水で汚される。

 

「はぁ……はぁ……、ごめんなさい……。私ったら」

 

 顔を羞恥の色に変えて謝る朱乃さん。そんな朱乃さんをやさしく抱きしめて背中をなでる。

 

「俺の朱乃さんの体に触れられて嬉しかったですし、気にする必要はないですよ。それよりも気持ちよかったですか?」

 

「ええ、とってもよかったわ……」

 

 朱乃さんはそのまま俺の耳元で小声で囁く。

 

「いますぐお返しをしたいけど、体が動かないから。私が動けるようになったら期待しておいてね」

 

 ま、マジ!? 期待しちゃってもいいの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂から上がって、まだ動けない3人をそれぞれの部屋に連れて行って、マッサージを行うことになった。

 

 そこでまずはリアスの部屋に行き、マッサージをするわけだが、リアスが俺の仕事用の時間を早める結界を作り出す装置を起動させてきた。

 

 そしてマッサージを普通に行っていたんだが、マッサージである程度動けるようになったリアスが、俺に仰向けで寝るように言い、そのまま騎乗位でセックスを開始してしまった!

 

 なんでも精子がなかに欲しくなったそうで、思いっきり精液を出していいと言われ、結界も張ってあったから思う存分犯させてもらい、そのあとも甘えさせてもらった!

 

 再びマッサージに戻り、リアスが寝たのを確認して結界を解いて部屋から出る。

 

 そして現在、朱乃さんの部屋にやってきていた。こちらでも時間短縮のために結界を使うことにした。

 

「ではお願いしますわ」

 

「はい、朱乃さん」

 

「いまは2人っきりなんですから、『朱乃』と呼んでください」

 

「……朱乃」

 

「はい、エイジ」

 

 たまに見せる少女のような笑顔の朱乃さん! 破壊力抜群だぜ……。

 

 朱乃さんはベッドにうつ伏せで寝ているんだけど、服もタオルすらつけてなくて完璧な裸だ。

 

 風呂上りで艶が増した黒髪が朱乃さんの真っ白なシミひとつない肌を引き立て、小ぶりで丸いお尻やおいしそうな太ももが晒されていた。

 

「じゃあ、いきますね」

 

「ええ」

 

 朱乃さんへのマッサージを開始する! まずはやさしくなでるように触れて、手で触られることに対しての抵抗をなくし、徐々に背中と腰の筋肉を解しながら、二の腕から指先、肩と、ゆっくり下へ下へと降りていき、お尻を両手で揉む。

 

「はぅんっ……、本当に気持ちいいですわ……。――それに安心する……」

 

 腰とお尻の筋肉から疲労を取り除きながら太ももから、ふくらはぎ、足の指へと愛撫する。

 

「気持ちいですか?」

 

「はい。……んっ、とっても癒されますわぁ……」

 

 朱乃さんは気持ちよさそうに、目を細めて全身の力を抜いて脱力した。

 

 そして背中側を終えて、前もするか迷っていると、少し動けるようになった朱乃さんが自らの体を仰向けにしてきた!

 

 そして誘うような潤んだ目つきで、

 

「こちら側もよろしくお願いしますわ」

 

「い、いいんですか?」

 

 ゴクリ……。勝手に喉が鳴った。

 

 ああっ! 重力に負けずに突き出たおっぱいとぴんっと勃起しているピンク色の乳首! それに風呂で触らせてもらったオマンコが……!

 

 朱乃さんの裸に釘づけになっている俺に、朱乃さんが苦笑した。

 

「うふふ、先ほどもお風呂で見られましたし、あなたは数えきれないほどの女性の裸を見ているんじゃないんですの?」

 

「それは……そうなんですけど。やっぱり女性は千差万別といいますか……。朱乃が美しくすぎて興奮しないほうが無理なんです」

 

 正直に言うと朱乃さんは顔を朱に染めて「うふふ」と微笑んだあと、体から力を抜いてゆっくりと瞼を閉じた。

 

 これは準備出来たという意思表示!

 

「失礼します」

 

 朱乃さんの鎖骨に触れる。

 

「ん……」

 

 朱乃さんの眉が少しだけ動いた。

 

「全部……お任せしますわ」

 

「はい、任せてください」

 

 鎖骨からおっぱいに手を持っていく。リアスとまた違った、柔らかな胸で、乳首の形も色も清楚そうな薄いピンク色!

 

 疲労をすべて落すためにおっぱいを全体、いたるところを揉んだり、ツボを刺激し、体の全てを解放しやすくしてマッサージの効果を上げるために、性感も軽く刺激する。

 

 五指で乳首を中心におっぱいを掴みながら上下に揺る。手に魔力を通らせ振動波を発生させ、血行促進させたり、その指で乳首を摘んだりしたりと、おっぱいを愛撫した。

 

「あぅ……そ、そんなに……っ」

 

 朱乃さんの体がビクビク震える!

 

 性感を刺激しつつ、おっぱいから腹やわき腹を癒し、次に太ももへ移る。足先や腕などはすでに背中の時点で終わらせているのでマッサージは終了。

 

 朱乃さんも気持ちよさそうな息を吐いているんだけど、朱乃さんがゆっくりと股を開いてきたんだ!

 

「え、エイジ……、こっちもお願い……」

 

 求めるような眼差しに俺の野獣が目覚めた!

 

 ここ最近、契約で何人もの人間や悪魔、堕天使から異種族とたくさんの女を抱いて、ゼノヴィアと修行後の戯れや、屋敷で時々隠れて眷族とエッチしてたり、ヴェネラナさんや、念願だったリアスまで抱いていた俺は我慢が出来なかった!

 

「朱乃!」

 

「きゃっ! エイジ、んんっ……! どこに頭を……!? ――っ! し、舌が……っ」

 

 朱乃さんの股間に顔を突っ込んでオマンコに喰らいつく!

 

 寝転んで両腕を朱乃さんの太ももの下を通して逃げられないように固定し、ペロペロとオマンコを舐める!

 

 少し開いたオマンコを舌でなぞり、膣口から尿道口、一番上にあるクリトリスと舐めていく。

 

「エイジっ、そ、そこは汚いですわっ」

 

「汚くなんてないです! すごく美しいですし、おいしいです!」

 

「あ、ああっ! そ、そんな、す、吸われて、るっ」

 

 口をつけて染み出してくる愛液を、じゅるるっといやらしい音をたてながら味わう。リアスよりもちょっぴり薄く、サラサラした愛液だった。

 

「朱乃の愛液……、朱乃の……」

 

「……ぅうっ、エイジは悪い子ですわ……」

 

 口元に手を当て、薄く涙を浮べてつぶやく朱乃さん。

 

「ゴメンなさい! でも、裸の朱乃に我慢するなんて出来ない!」

 

 そんな俺に朱乃さんは息を吐き、手を伸ばして俺の頭をなでてくれる。

 

「まったく……仕方がない、子ですわ……っん……、ね」

 

「すみません」

 

 口で謝りながらも朱乃さんのオマンコを舌で味わう。ああ、それにしてもおいしい! サラサラで飲みやすくて、香りも良くて、クリトリスや尿道口、膣口はいつまで舐めていても飽きがこない!

 

「んっ、はぅっ……、あ、ああっ……」

 

 朱乃さんの吐息を聞きながら俺はクンニを続ける。

 

 何度も朱乃さんが絶頂して潮を噴いても、お漏らししても、俺は夢中になって舐め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……、はぁ……、はぁはぁ……、……はぅぅ……」

 

 朱乃さんの荒く、甘い息。

 

 オマンコはすでにふやけていて、俺の顔面は朱乃さんの体液だらけ……。

 

 何分……いや、何十分……下手すると1時間以上、俺は舐めていたのか?

 

 正気に戻った俺は、顔を上げて起き上がる。そして朱乃さんに声をかける。

 

「えっと……だいじょうぶですか?」

 

「はぁ……、はぁ……、はぁぁぁぁ~……」

 

 朱乃さんが大きな息を吐いて荒い息を整えた。

 

 そして久々のSな顔になった!?

 

 朱乃さんは胸を腕で隠し、微笑む。

 

「うふふ、マッサージのおかげで少し体が自由になりましたわ」

 

「そ、それはよかったです」

 

「エイジ、お風呂場で私が言ったこと……覚えてますか?」

 

 えっと、確か……。

 

「『私が動けるようになったら期待しておいてね』でし――っ!?」

 

「はい。動けるようになったので、おかえししてあげますね」

 

 俺の勃起したペニスを朱乃さんが両足裏で挟んできた! さらに器用にベルトとズボンを引き下ろしてペニスを引きずり出した!

 

「あ、朱乃……?」

 

「うふふ、本当に熱くて、堅くて、大きくて、長くて……、たくましいですわ」

 

 Sな微笑みを浮べたまま、朱乃さんは足でペニスをふみふみしてくる!

 

「あらあら、ビクビクしてますわよ? カウパーでしたっけ? 気持ちいいと出るんでしたわね。足で踏まれて嬉しいんですの?」

 

 それは、もう、最高!

 

「あらあらあら、もう足がドロドロですわ。本当に気持ちよさそうですわね。うふふ、女の足に踏まれて興奮するなんて、変態さんなんですね、エイジって」

 

 頬に手を添え、汚れた足を見せつけ、朱乃さんが微笑む。

 

「あ、朱乃の足が極上すぎるんだよ……」

 

「あら、嬉しいわ。それならもっとがんばってあげようかしら?」

 

 朱乃さんはSな笑みを浮べたまま、親指と人差し指をY字に開き裏スジにそって上下させつつ、もう片方の足の指で玉袋や尻の穴目掛けて攻撃してくる。

 

 そのSな雰囲気や、朱乃さんの全身にマッサージしたり、オマンコを舐めていた分の興奮もあり射精感が近づいてきた。

 

 それを察知した朱乃さんが俺のペニスを両足の裏で強く挟み、前後に捏ねるように動かしてきた!

 

「あ、朱乃っ、俺、もうっ!」

 

「あらあら、まだ射精してはダメですわよ?」

 

「――っ」

 

 朱乃さんの足の親指が亀頭の発射口をふさぐ! こ、これではっ!

 

 朱乃さんはSというよりも、ドSな笑みを浮かべた。完全に『女王(クイーン)』から『女王さま』になってる!

 

「そういえば、エイジ」

 

「は、はい、何でしょうか?」

 

「以前私の家で言いましたわよね、――私がたとえ汚れていても、あなたが私を愛してくれると……」

 

「はい。って、そもそも朱乃さんは汚れてなんかいませんよ」

 

「うふふ、そう言ってもらえるのは嬉しいですわ。――でも、いまは言うだけじゃなくて証明してくださらないかしら?」

 

「証明?」

 

「はい。私の全てを受け入れ愛してくれることを証明すると約束するなら、射精させてあげますわ」

 

「そんなの答えは決まってますよ! 証明します! 証明してみせます!」

 

 大声で言うと朱乃さんはニッコリ笑って亀頭から指を離して両足でしごいてきた!

 

「うぅっ……!」

 

 がに股でさっきまで舐めていたせいでマン筋が広がってチラチラとなかのピンクを覗かせていた。すげえ、びしょ濡れだし、クリトリスがぴんって起ってる!

 

「うふふ、約束しましたわよ。さあ、我慢せずにお出しなさい」

 

「だ、射精()しますっ!」

 

 ビュッ、ビュルルルゥゥゥウウウウウッ!

 

 ペニスを通って俺の精子が朱乃さんの体に降り注ぐ!

 

「うふふふっ、これがエイジの精子……、んちゅっ……おいし♪」

 

 うっとり恍惚の表情で、精液をその身に浴びて、白濁液でトッピングされたピンク色の乳首から白濁液を指で掬い取り、俺に見せ付けるように口のなかで転がした。

 

「あ、朱乃……」

 

 すげえエロい! なんてエロさだ! うっとり精子を舐めながら朱乃さんが妖艶な笑顔を浮べた!

 

「さてと、じゃあ、証明してもらえるかしら?」

 

 ニッコリと笑む、朱乃さん。

 

「はい! もちろん、証明してみせます!」

 

 俺は即答して朱乃さんの体をうつ伏せに寝かせる! やっぱり、証明するならアレしかないよな!

 

 朱乃さんの足元に移動し、お尻の割れ目に顔を擦り付ける!

 

「きゃ、エイジくん!?」

 

「朱乃の体は汚れてなんかない! 俺が全てを受け入れ愛します!」

 

「エイジ……、んあっ!」

 

 両手で左右の尻肉を掴んで開き、さらに顔を埋めて鼻を動かす。ああっ、朱乃さんのお尻の穴! 朱乃さんの匂い!

 

「そ、そんな、匂いを嗅がないで……」

 

「ダメです! 約束ですし、こんなにキレイなんですから恥ずかしくなんてないですよ!」

 

 口を開け、舌を伸ばしてヒクヒクしている肛門に触れる。

 

「ひゃっ!?」

 

 朱乃さんの口から小さな、かわいらしい悲鳴が漏れて、体が跳ねる。

 

「朱乃……」

 

「だっ、ダメですわ! そ、そんなとこっ……! ひゃ、んんっ! ああっ……、エイジの、舌がっ!」

 

 伸ばした舌で、お尻の谷間に沿うように尻穴を舐めると、朱乃さんはぷるぷると体を震わせた。

 

「ううう……、ふくぅっ……!」

 

 声を堪えるような声。視線を朱乃さんの頭に向けると、朱乃さんは両腕で枕を抱き込んで耐えるように、ピクッビクッと体を反応させていた。

 

「朱乃の、すごくおいしいです」

 

 つぶやきながら舌先で肛門をつつく。

 

「いやぁぁ……、んっ……、つ、つんつんしない、でぇぇっ……」

 

 ああ、つつくだけじゃないよ!

 

 俺はゆっくりと肛門に舌を一気にねじ込み始める。

 

「あうっ! え、エイジっ!? そ、そんなっ、わ、私の……、に舌が入っていって……っ!」

 

 ズズズっと、ゆっくり沈んでいく舌に朱乃さんは逃げようとするが、逃がさない。

 

 俺は両手で朱乃さんの尻肉を掴み、顔を埋め、挿入の速度を上げて一気に舌を突き入れていく。

 

 朱乃さんのオマンコから大量の愛液が滴る。どうやら肛門も弄られて興奮しているようだ。

 

 俺はねじ込んだ舌をピストンしながら、壁を広げるように舐めた。舌がほんの少しだけ痺れるのを感じ、朱乃さんの味を脳内に保存する。

 

「はぅぅぅ……、エイジの舌が……、舌が……私の……」

 

 枕に顔を埋めながらつぶやく朱乃さん。気持ちよさそうな声で、羞恥だけじゃなくて、きちんと舐められて感じてきたようだ。

 

 もっと気持ちよくなるようにと、オマンコのほうにも指を這わせる。

 

「あうっ、はぁはぁ……、そ、そこも……っ」

 

 アナルを弄りながらもオマンコを弄る。愛液や潮、おしっこなどで汚れたオマンコを指先で弄り、感触を楽しむ。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、んっ、エイジぃぃ……」

 

 舌を抜き、口のなかで苦味など朱乃さんの味を楽しみながら告白する。

 

「朱乃に汚いところなんてないんです。俺は、朱乃の全てを受け入れます」

 

 そして再び思う存分朱乃さんのアナルを弄くる。

 

「エイジ……、わ、私……」

 

 肛門にキスすると、朱乃さんはびくっと体を跳ねさせて、告白の答えを返してきた。

 

「私を……もらってくれる?」

 

 恐る恐る、不安がりながらの告白に、俺は誠実に、自信をもってうなずく。

 

「はい」

 

 すると朱乃さんは顔をこちらに向けて、 

 

「ありがとう、エイジ。――大好きよ」

 

 と微笑んだ。

 

「俺も大好きですよ」

 

 朱乃さんと微笑み合ったあと、再び朱乃さんのアナルに口付ける。今度は約束でも証明でもない男と女の性の営み。愛の語らいだ。

 

 全てを晒し、欲望に愛欲に忠実になってお互いを求め合い性感を高め合う。

 

 舌を一段とアナルにねじ込み、舐りながらクリトリスをつつく!

 

「あっ、んんっ、んっ! いっ、い、イクゥゥゥゥウウウウウウウウウウウ~~~~!」

 

 朱乃さんのアナルが一段と締まり、俺の舌を咥える。クパクパと何度も締まったり緩んだりと気持ちよく、膣口が触れている指に吸いついてきた!

 

 ああっ、もう本当にかわいいな!

 

 絶頂がおさまった朱乃さんのアナルから舌を抜き取り、横に並ぶ。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

 朱乃さんの息が整うまで隣に寝転がって頭をなでる。本当に艶々な髪だな~。

 

 しばらくなでていると朱乃さんが寝返りをうつように仰向けになった。

 

 むっと、かわいらしく頬をふくらませて俺を睨んでくる朱乃さん。まあ、睨むといっても本気で怒っているような怖い顔じゃなくて、萌えるような笑顔だった。

 

「まったく、女の子のお尻を……、しかもなかまで舐めるなんて」

 

「す、すみません……。でも、あれぐらいしないと朱乃が自分のこと嫌いなままじゃないかと思って……。というか、その俺も受け入れるって証明したかったですし……」

 

 むっとした顔から大きく息を吐いて、朱乃さんが少女のような笑みになる。

 

「本当にまったくですわ。……まあ、気持ちよかったですし、許してあげますわ」

 

 かわいらしい笑顔の朱乃さん! 恥じらい顔も最高です!

 

 俺は行為のあとの残り香や体液などを浄化魔法で清める。

 

 部屋と体がキレイになると、朱乃さんはベッドに寝そべり訊いてきた。

 

「そういえば、エイジはリアスといつも裸で寝てましたわね?」

 

「え、あ……はい」

 

 肯定すると朱乃さんは含みのある笑顔になった!

 

「時間を早める結界で囲んでますから、ゼノヴィアちゃんを待たせることもありませんし。少しの間、私も添い寝してあげましょうか? もちろん、――裸で」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 即座に食いついた俺に朱乃さんは笑みを強めると、すぐ隣をポンポンと叩いて誘うようにつぶやいた。

 

「ええ、さあ、いらしてください」

 

「はい!」

 

 俺は服を全て脱ぎ去り、朱乃さんの横に寝転んだ!

 

「うふふ」

 

 朱乃さんはクスクスと笑みを溢すと、足を絡めながらおっぱいで俺の頭を抱きしめた!

 

「あ、朱乃?」

 

「私のおっぱい、吸っていいですわよ」

 

 微笑みと共に差し出されるピンクの乳首!

 

「いただきますっ!」

 

 ぱくっと咥える。

 

「あんっ……」

 

 ああ、すげえビンビン! こりこりで、グミみたいで、なんて吸い付きやすい乳首なんだ!

 

「おいしいですか?」

 

「うん……」

 

 やさしく頭をなでてくれる、朱乃さん。癒されるぅぅぅ……。

 

 ぬちゃ……。

 

「――っ!」

 

「リアスに断っていませんし、本番はお預けしときますけど……挟むぐらいはいいですよね」

 

 ペニスを朱乃さんのデルタに挟められる! 上にマンスジ! 左右にむっちり太ももに挟まれる!

 

 最高です! 挟まれるだけで気持ちいです!

 

「さあ、安心しておやすみなさい」

 

「はい………」

 

 俺は朱乃さんの体に包まれて眠りに堕ちた……。素股も最高!

 



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第46話 イッセーは山のなからしいけど、まあ、仕方がないよな その4 ☆

<エイジ>

 

 

 朱乃さんの胸のなかで思う存分癒されたあと、俺はゼノヴィアの元へ、自分に与えられた客間へ戻った。

 

 結界を張っていたが、もうすでに30分近くゼノヴィアを待たせていることになっていたから急いで戻ったわけだが、ゼノヴィアの姿が見当たらない。

 

 いや、見つからないというか……天蓋付きのベッドのシーツが膨らんでいた。

 

 待たせすぎでスネてしまったか?

 

「ゼノたん」

 

「…………」

 

 無言だけど起きているみたいだ。思い切ってシーツをとってみる。

 

 …………。

 

 あれ? 目を擦る。……あれ? もう一度目を擦る。

 

 うん。見間違えじゃないな。

 

「ゼノたん? なんで戦闘用のボンテージ着てるの? いや、いつもの戦闘用じゃないな。それ、なんで変なところに切れ目が入っているの?」

 

 ゼノヴィアがベットの上にボンテージ姿で寝転がっていた。しかも、見た目はいつも着用しているのはボンテージなのだが、今着ているボンテージには装飾などが着いておらず、肌に吸いついているボンテージ生地だけだった。

 

 さらに、そのボンテージの股間の部分に大きな切れ目が入っていた!

 

 体のラインが浮かび上がっている上に、股部分に切れ目まで入っているというのに、当の本人はまるで気にした様子どころか、意外そうな表情だった。

 

 ゼノヴィアは顎に手を当てて首をかしげる。

 

「ふむ……。エイジは着衣プレイも好きだと聞いたのだが、違ったか? それに男とセックスすると決めた女は勝負服という服装でセックスするんだろう?」

 

 そんなこと誰が教えたんだ? ていうか、正確には勝負下着だ。戦闘服じゃない。まあ、その格好も官能的で魅力的なんだけどさぁ。

 

「時雨師匠とかなりの確立でくのいちのシノビ装束のままでセックスをしたり、セルベリア師匠は軍服を着たまま尋問SMプレイをしたり、ノエル師匠もたまにコスプレしてセックスしたり、レイナーレとはメイド服を着たままご主人さまプレイしたり、黒歌とも和服を着たままプレイが好みなんだろう?」

 

 ドヤ顔のゼノヴィア……。って、それを知っているってことは情報源は……。

 

「エイジが部長と朱乃さんのマッサージにいっている間に、私がエイジに抱かれる許可をもらったということで、経験者たちにアドバイスをもらったときに、ついでに教えてもらったんだ」

 

 得意気な顔を浮べていたゼノヴィアが、急に恥じらい顔になる。肌にピッタリと張りついてるボンテージの生地に触れながら、上目づかいで訊ねてくる。

 

「どうだろうか? 率直な意見を聞かせてもらいたいんだが……」

 

「興奮した!」

 

 もちろん即答だよ、バカ野朗っ! すっごくかわいいよ!

 

「そ、そうか? ふふ、やはりリサーチしておいて良かった」

 

 微笑むゼノたんが、股を大きく広げてきた! 切れ目が開いていき、オマンコが見える!

 

「――って、動けるの? ゼノたん」

 

「ああ、セルベリア師匠とノエル師匠に動けるようになるように回復させてもらった。修行で鍛えた筋肉まで回復させて、修行の効果を落さないぐらいまでにな。まあ、そのことはいいだろう」

 

 ゼノヴィアは覚悟を決めた様子で、さらに股を大きく開く。切れ目から飛び出しているプニプニのオマンコが少し口を開いて涎を垂らしている。

 

 濡れてる? そう思ってオマンコを覗くと、ゼノヴィアが顔を逸らしながら告白してきた。

 

「じゅ、準備は事前に済ませているし、体も温まっている。――覚悟もすでに決めている」

 

 ――っ。

 

「さあ、エイジ、おまえのペニスで私を貫き、思う存分に性を放ってくれ」

 

 ゼノヴィアはそうつぶやき、お尻の裏側から両手を回してオマンコの花弁を開いた。

 

 厚いオマンコのスジ肉を、人差し指で大きく開いてオマンコを差し出してきた。

 

 ペニスを挿入して欲しいと、小さな膣口がクパクパと収縮し、愛液が伝ってシーツを濡らす。

 

 本当に奥まで濡れてるようだ。って、それよりマジで!? いきなりするか!? 準備って……オナ……。いやいい。それはいいんだ。うん。

 

 それよりも――。

 

「本当にいいんだな?」

 

 ゼノヴィアは俺の問いにしっかりとうなずいた。

 

「ああ。……恥ずかしいことだが修行を始めて、その、時々体が疼いて仕方がなかったんだ……。だから、部長から許可が下りて、本当に嬉しいんだ」

 

「そうか。――うん、わかったよ」

 

 ゼノヴィアの気持ちを受け入れる。服を脱いで全裸になり、ベッドにあがる。

 

 大きく開いているゼノヴィアの股の間にヒザ立ちになる。そして、ゼノヴィア自身の指によって大きく開かされているオマンコのスジにペニスを挟めた。

 

「あっ」

 

 スジに挟めたまま、腰を前後に動かして愛液を竿にコーティングする。

 

「んっ、あぅっ、あ、熱いな……」

 

 いつもは隠れているスジ肉の間をペニスで擦られて感じているのか、ゼノヴィアの口から甘い吐息が漏れた。

 

 俺はゼノヴィアの愛液で濡れたペニスの先端を膣口に合わせる。体を倒し、ゼノヴィアの腰辺りに両手をついて顔を覗き込む。

 

「いくぞ、ゼノヴィア」

 

「ああ、きてくれ、エイジ」

 

 ゼノヴィアは視線を合わせたまま笑みを浮べる。俺はゆっくりと腰を前へと持っていき、膣口に亀頭をめり込ませていく。

 

「んっ、ぐぅっ!」

 

 ゼノヴィアの口から小さな悲鳴が漏れる。小さな膣口よりも何倍も太い亀頭が、ミチミチと膣口を拡げていく!

 

 くっ、最初からすごい締めつけ!

 

 充分に濡れているが、処女だからか? いや、鍛えているからか? かなり締まるっ!

 

 腰の角度を変えて斜め下に、体重を乗せてキツキツで狭い膣口を広げ、膣道を掘削していく。

 

「ぐっ……、っん、あぐんんっ!」

 

 苦しそうなゼノヴィアに覆いかぶさり、どんどんペニスをなかに挿入する。

 

「ゼノ……たんっ!」

 

 欲望のままに腰を突き出し、強引に掘り進め、何十にも重なった小さなゴムを無理やり拡げていくような感覚と快感を味わいながら、さらに奥のほう進めていく!

 

 ペニスを3分の2ほど差し込んだところで、無数の粒のようなものが密集していて亀頭がその粒に擦られた。そこだけ他と違っていて、丁度亀頭の上辺りに当たっている。

 

 ああ、この亀頭に当たってる粒の感触といい、半端ない締めつけといい、動いたら最高なんだろうなぁ。

 

 そんなことを考えながら俺はペニスを子宮口まで挿入した。

 

 亀頭のすぐ先に、他の肉よりも少し硬い、小さな輪のような感触を感じる。少し腰を前へやるとコツっと何かにぶつかるような手応えを感じて、同時にゼノヴィアの体が大きく跳ねる。

 

「くっ、あうっ!」

 

 おそらく子宮口までペニスが入ったんだろう。俺は上半身を持上げて、結合部に視線を向けた。

 

 オマンコのスジが大きく、ペニスの形にそっていやらしく開いていた。愛液混じりに破瓜の血を見つけるが、すでに血は止まっているようで、染み出す愛液のほうが多いようだ。

 

 再び俺は上半身を倒してゼノヴィアに言う。

 

「ゼノたんの処女……確かにもらったよ」

 

 挿入しているペニスをオマンコのなかでビクビクさせて言った。

 

 ゼノヴィアは子宮のある下腹辺りに両手を乗せるように置き、幸せそうにつぶやく。

 

「ああ。エイジに処女を捧げた」

 

 その状態でしばらく見詰め合う。

 

「ふっ」

 

「ふふっ」

 

 見詰め合っていると、自然と笑みが漏れた。

 

 息を吐き、空気を戻してゼノヴィアとキスをする。

 

「ん……、あふぅ……、あ……」

 

 ぴったりと唇同士を合わせ、2度3度と重ね、ゆっくりと口を開いて舌を絡めていく。

 

「じゅっ、ん……、はぁ……あ、エイジ……、ちゅぶ……っ」

 

 口内で唾液を溜めて、舌に絡めてゼノヴィアの口内へ送り込む。ゼノヴィアも口内で唾液を溜めて、舌に絡めて俺の口内に送り込んでくる。

 

 甘く、脳が蕩けて、くらくらするような、甘露だった。

 

「ゼノたん……」

 

 一旦、キスをやめて口を離す。口を閉じて口内にツバをたっぷりと溜めた。そして、その溜めた唾液を、雛鳥のように口を大きく開けて舌を突き出すゼノたんの口内に流し込む。

 

「うく……、ぅく……、ぅん……。……あ、ぐっん。……はぁぁぁ……」

 

 ゼノヴィアはゆっくりと、口内で俺の唾液を味わい、胃の中におさめていき、トロンと快楽で蕩けた表情でハニカム。

 

「ゼノたん、今度は俺に頂戴」

 

 俺の容貌にゼノヴィアはうなずき、口内にツバを溜めた。

 

 口内にたっぷりと唾液を溜めたゼノヴィアが大きく口を開く。

 

 俺はゆっくりと顔を近づけていき、舌をゼノヴィアの口内差し込み、唇を重ねた。

 

 ゼノヴィアの口内に溜まった唾液を差し込んだ舌でかき混ぜ、じゅるるっといやらしい音を立てながら啜り飲む。

 

 ああ、ゼノたんの唾液、本当に甘い……。膣もキュキュゥッと強く締まるし、最高だ。

 

 唾液を啜り終え、体を起こしてゼノヴィアに訊ねる。

 

「どう、ゼノたん。まだ痛い?」

 

 蕩けた表情で快楽を貪っていたゼノヴィアは自分を落ち着かせ、首を横に振った。

 

「……いや、想像以上に痛くはなかった。少しヒリヒリしているだけだ」

 

 そして、ゼノヴィアは顔を真っ赤にしながら続けて言う。

 

「そ、それよりも体が疼いて仕方がないんだ。……う、動いてくれないか?」

 

 腰辺りを抱いて、恥ずかしそうにゼノヴィアは顔を逸らす。チラチラとこちらの顔色をうかがうように視線だけ向けてくる。

 

 このたまに見せる乙女な顔がそそるんだよなぁ。

 

 しみじみそう思いながら俺はゼノヴィアに言う。

 

「じゃあ、動くぞ」

 

「あ、ああっ」

 

 笑顔でうなずく、ゼノヴィア。俺は上体を起こして、腰だけ突き出している格好で、腰を引く! うおぉぉっ! すげえ! 想像以上だ! なんて抵抗! なんて締まりだ!

 

「んっ、ああああ……っ!」

 

 ゼノヴィアの体が大きく震える。

 

 俺はゼノヴィアの両膝を掴んで腰をピストンさせる。ぐぽっぐぽっとポンプのような、ピッタリと隙間なくフィットしていて、ペニスを離したくないと引き止めるような抵抗は愛らしく、ゼノたんのボンテージを押し上げてつんっと立っている乳首もすごくかわいい!

 

「ああっ、ゼノたんっ!」

 

 腰を打ち付ける度に、プルプルと揺れる胸に俺は我慢できなくなった。黒のボンテージ生地越しにピンッと立った乳首を咥える。

 

「あっ!」

 

 乳首を咥えられてゼノヴィアの体がピクッと跳ねた。俺は両膝を掴んでいた手を胸へと持ってきて、強く胸を揉み始める。

 

 ボンテージ生地の上からでも心地かよく、弾力のある胸の感触を味わいつつ、生地の下から伝わってくる熱を感じて興奮が高まった。

 

 胸に喰らいつくように顔を埋めて、手で卑しく突き出すように握って乳首を咥え込む! 口のなかで舌を動かしてペロペロと乳首を舐めしゃぶり、赤ん坊のように吸いつく!

 

 口内にボンテージの生地が吸い込んだだろうゼノヴィアの汗の味と臭いが広がった。

 

「はぁはぁ……、んんっ、だ、だめぇ……っ」

 

 ゼノヴィアが我慢できないといった声音でつぶやき、四肢を使って抱きついてくる。

 

 大きな快楽によって自分が抑え切れないのか、全身を使い、強い力でしがみつくように抱きついてくる。

 

「エイジっ! エイジィィィッ!」

 

 叫びながら全力で抱きついてくるゼノヴィア。膣道に全部入りきらずに残っていたペニスの竿分が、子宮を押し上げるように深々と刺る。

 

 ゼノヴィアは俺の頭を抱きながら叫ぶ。

 

「いいっ! すごく気持ちいいっ! これが……、これが子作りなんだな! ああっ、最高に気持ちがいい! エイジ! もっと……、もっと動いてくれぇぇぇっ!」

 

 ゼノヴィアはそう叫び声を上げながらオマンコを蠢かせる。くっ、ゼノたん、覚醒したのか! すごく乱れまくってる!

 

「はぁはぁっ、はぁはぁっ……、ああっ、私はいま、すごく幸せだ!」

 

 ゼノヴィアのそんな言葉と共に、オマンコが一段とキュルルルゥゥゥっと締まる。子宮が精液が欲しいとペニスに吸いつく!

 

 俺もそろそろ限界だしな!

 

 俺はゼノヴィアの体を強く抱いて叫ぶ!

 

射精()すよ、ゼノたん!」

 

 その言葉にゼノヴィアはぎゅうっと四肢に力を入れて、

 

「ああ、思う存分射精してくれ!」

 

 と、受け入れる体勢をとってうなずいた。

 

 ビュッ、ビュビュッ! ビュルルルルルルゥゥゥゥゥっ!

 

 オマンコのなかでビクッ、ビクッとペニスが跳ねながら精液が子宮に注がれていく!

 

「あっ! ああっ! あっ、熱っ! んあっ、あああっ……、ああぁぁぁあああああああああああああああっ!」

 

 生まれて初めて子宮内に感じるであろう精液の熱に、ゼノヴィアの体が跳ねた。ベッドに仰向けになったまま後ろに反り返り、体を痙攣させるように何度も大きく震わせる。

 

「ああ……、あはぁあああ……」

 

 ゆっくりとゼノヴィアの体から力が抜けていく。俺の体を拘束していた手足が外され、ベッドへとだらしなくなげだされる。

 

「はぁはぁ……、すごく、気持ちよかったよ、ゼノたん」

 

 射精が完全に終わってら、ペニスをゆっくりと引き抜く。

 

 ゼノヴィアの膣口は閉じずに、ぽっかりと口を開かせたままになっており、その開いたままになっている穴からドクドクと白濁した精液が流れ落ちていた。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、はぁはぁ……」

 

 荒い息で放心している、ゼノヴィア。俺はゼノヴィアの体をやさしく抱きしめる。

 

「よくがんばったな」

 

「…………ん……」

 

 俺の言葉が届いたのか、ゼノヴィアは小さくうなずいたあと意識を手放した。

 

 気絶するように眠ったゼノヴィアの体を抱きしめる。ふふっ、まあ、仕方がないよな。回復させたといっても疲労は残っているわけだし。初体験で派手に絶頂してたからな。

 

 しばらく体を抱いたあと、浄化魔法で体をキレイに清めた。

 

 そしてゼノヴィアを起こさないように注意しながら、全身に【マジカルエステ】をかけて心身ともにゼノヴィアを癒した。

 

 これで明日の修行も支障はないだろう。

 

 満足げに、やり遂げたという表情で眠るゼノヴィアに腕枕をして俺自身も眠りへとついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝。口のなかにコリコリしたものを感じて目覚ました。

 

 目を開けて見るとゼノヴィアが、俺の体の上に四つんばいになって跨り、乳首を口に咥えさせて喘いでいた。

 

「ん……、ふふ、そんなにおっぱいがおいしいのか? 本当にかわいいな」

 

 興奮しているようで、ゼノヴィアは俺が起きたことにまったく気づいていない。

 

 カリッ。

 

 口に含んでいた乳首を少し甘噛みする。

 

「んあっ!」

 

 ゼノヴィアの短い悲鳴が鳴ったあと、全体重をこちらに預けてきた。顔面いっぱいに感じる。おお、ゼノたんにおっぱいに押しつぶされてるっ!

 

 完全に目が覚めたぜ!

 

 俺はゼノヴィアのおっぱいをもみもみと揉みながら訊ねてみる。

 

「ゼノたん。何やってたんだ?」

 

「ぁうっ……、エイジはおっぱいを吸いながらのほうが安眠できるのだろう?」

 

 ゼノヴィアはさも当然だと言わんばかりつぶやいた。……うん、まあ、そうだけど。

 

「冥界に着てから、一緒の部屋で寝るようになってから、ほぼ毎日吸われながら寝ていただろう。当初、昨夜の計画では私は処女を奪われたあと、私がエイジを抱きしめておっぱいを吸わせる予定だったんだ。だが、情けないことに昨夜はあのまま眠ってしまって結局出来なかったので、いましているんだ」

 

「修行後で初めてだったんだから、仕方ないさ。情けなくなんてないって」

 

「嬉しい言葉だが、私自身が納得しないんだ。――さあ、まだまだ朝食の時間まで時間がある。エイジの好きなようにおっぱいを弄んでくれていいぞ。あ、も、もし、それだけでは物足りないのであれば、セックスしてもらってもまったく構わない」

 

 ゼノヴィアは胸で俺の顔を挟みながら熱っぽく言う。

 

 これはイクしかないだろ!

 

 俺は、朝から盛りのついた野獣になった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食の30分前にゼノヴィアを犯すのを止めて朝風呂に一緒に入りながらゆっくりした時間を2人だけで過ごした。

 

 朝食を摂り、修行へと移る。

 

 黒歌からの報告では小猫ちゃんは仙術の入門編を少しずつ覚え始めたそうだ。

 

 レイナーレも冥界の料理を次々とマスターして、時々試作品を創ってきてくれる。

 

 時雨、セルベリア、ノエル、俺の4人での修行はかなり厳しいのだが、ゼノヴィア、リアス、朱乃さんの3人を確実に強くしていった。

 

 そういや、修行前にアザゼルから「朱乃を頼む」って言われたけど、そんなの当たり前だ。

 

 朱乃さんはすでに俺のなかで特別な女の1人なんだからな。

 

 3人に修行をつけながら数日。

 

 ゼノヴィアは聖剣デュランダルと、新たな龍殺しの剣の二刀も実戦レベルで扱えるようになった。さらに剣だけじゃなく、飛び道具用のナイフ(毒や属性付加可能)を数本装備し、投擲の技術に、格闘技術まで教え込み、習得させた。

 

 リアスはアザゼルが言ったとおりレーティングゲームを学ばせ、さらに問題だった精神面を叩きなおし、滅びの魔力の威力向上と、無駄部分を取り除いて効率化を図り、いざというときの格闘術に、さらに俺製作の新特殊武器の扱いを教えた。俺とセルベリアで戦術指南を行ったが、戦術のほうは経験もないので身になるのはもっと先になるだろうし、武器の扱いを覚えるだけで手一杯そうなのでさわり程度だ。

 

 朱乃さんは先日のアレが効いたのか、自分を受け入れ、堕天使の力を受け入れて雷に光を宿して雷光を宿せるようになっていた。そして、雷光になってからはこちらも無駄部分を取り除いての効率化を計り、さらに光の槍を創りだし、雷を纏わせ雷光の槍を創り、その投擲訓練、作成時間の短縮を図り、こちらにも格闘訓練を施した。さらにゼノヴィアとリアスが俺の製作した武器のもらったことに不機嫌になったので、朱乃さん専用の武器を作成し、その訓練も修行に追加した。

 

 俺の見立てでは3人とも若手ナンバー1のサイラオーグに匹敵するほどの実力はつけたはずだ。

 

 まあ、毎回魔力をほとんど使い切らせ、指1本動かせない状態まで虐めているんだから、これぐらいの向上は当たり前だろう。模擬戦で骨とか折ったり重傷になったりしたからな。

 

 本来だったら基礎訓練だけで3、4日動けない状態なんだ。それをマジカルエステで癒し、セックスでも仙術とインキュバスの能力を使用して精気の循環を行い、体を活性化させて動けるまでに完全に回復させてるからな。

 

 まあ、朱乃さんの場合はまだ処女をもらっていないからセックスではないけど、フェラチオや素股、足コキやアレ以来お気に入りとなったアナル舐めで、セックスしたのとそこまで変わらない効果を生みだしている。ちなみに朱乃さんは逆にアナルを舐めるのも好きだった。うん、言葉攻めされながらで最高だった。

 

 悪魔の仕事を行ないながら修行をつけていると、8月20日のレーティングゲームまであとわずかという日数までせまっていた。

 

 ……そして現在、俺の目の前には朱乃さんが四つんばいでお尻をこちらに向けてきていた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が現在いる場所は、朱乃さんに与えられた、グレモリー家の客間の一室のベッドの上。いつものようにマジカルエステで疲れを癒してから、色々してもらうことになっていたんだが、今夜の朱乃さんはどこか緊張しているなと思っていたら、案の定だった!

 

 それで朱乃さんはマッサージの順番を最後にしたんだな!

 

 左手を股の下から潜らせて、Vの字に指でくぱぁとマンスジを開いて誘ってくる朱乃さん!

 

「さあ、エイジ。私の処女……おいしくいただいてくれますか?」

 

 指で開かれているオマンコから愛液が伝い、ベッドにポタポタと落ちていた。朱乃さんの体から感じる雰囲気も、発情した雌のそれだった。

 

「朱乃……」

 

 すでに愛撫を終えて、オマンコのほうも準備ができている。

 

 俺は朱乃さんの後ろに回って、ペニスに片手を添える。ペニスもすでにカウパーと愛液で濡れていた。

 

 いつもは太ももとオマンコの間に挟めて素股で楽しんでいたが、今回は違う。ヒザ立ちになって、ペニスを膣口にセットする。

 

「あっ……」

 

 膣口に触れたペニスに、朱乃さんの体がビクッと震えた。

 

 きちんと狙いを定め、朱乃さんの腰を両手で抱くように掴む。細く、プニプにしている女の子らしい腰つきだ。

 

「さあ、一思いに……」

 

 顔だけ振り返らせて、笑顔を浮べる朱乃さん。

 

「はいっ、いただきます」

 

 俺はうなずき、腰を進めはじめる。

 

「あっ、んんっ……!」

 

 ペニスを畏れて前へ逃げようとする朱乃さんを、その細い腰を抱いて引きとめ、ペニスを挿入していく。

 

 ぐちゅっ、ズズズ……。

 

「くっ……、なかに……っ」

 

 朱乃さんの口から荒い息が吐き出される。

 

「ぐっ、朱乃の……、すごいっ!」

 

 ゆっくりと、どんどん朱乃さんのなかにペニスが飲み込まれていき、熱く、フカフカでじゅっくりと濡れている肉がペニスに絡みついてくる。入り口は強く絞まってるのに、なかはもうペニスを受け入れてる! なんてエロいオマンコなんだ!

 

 朱乃さんのオマンコに感激しながら、腰を引き寄せペニスを挿入し続ける。

 

「んっ……、あんっ! ……ぅんんんんっ!」

 

 朱乃さんの顎が持ち上がり、気持ちよさそうな吐息が聞えてくる。痛みではなく、快感を感じているようだ。ふふ、丹念に開発した甲斐があったな。

 

 ミチッ……。

 

「んあっ!」

 

 オマンコからなにかを引き千切る音が響き、朱乃さんの体が跳ねる。どうやら処女膜を完全に引き千切ったようだ。

 

「あ、あああ……」

 

 朱乃さんは破瓜の痛みに震えているようだが、朱乃さんのオマンコは違った。ペニスをもっと奥へ導くかのように抵抗を弱めた。

 

 俺は腰をつき出してペニスを奥へと挿入し、亀頭を子宮口まで進める。

 

 尻の穴を絞めるように力を入れて、オマンコのなかでペニスを跳ねさせる。

 

 子宮口付近で止めていた亀頭が、ペニスが跳ねることによって、子宮口にキスをした。

 

「んくっ!? んっ!」

 

 子宮口をつつくようなキスに朱乃さんから声が漏れた。

 

 俺は朱乃さんにペニスを挿入した状態で動きを止めて、オマンコの感触を味わう。

 

「奥、奥……、私の奥に……私とエイジが繋がって……ひとつになってる……」

 

 熱っぽくつぶやいた朱乃さんのオマンコは、ペニスをふにふにとやさしく包み込む。包み込みながらペニスに絡みつき、もごもごと卑しく蠢いた。

 

 ああ、なんてやさしい……いや、甘えん坊なオマンコだよ!

 

 処女の固さはあるが、ペニスを包み込みながら、舐めているような暖かな肉壷。しかも腰を少し引くと一生懸命引きとめようと強く絡みついて! 精液が欲しいと言わんばかりに子宮口が吸いついてくる。

 

 俺は上半身を少し倒し、朱乃さんの腰を抱く。

 

「気持ちいい、気持ちいです! 朱乃と繋がれて幸せです!」

 

 あの朱乃さんと繋がれた喜びをかみ締め、オマンコの感触と共に快楽を味わいながら叫ぶ。

 

「私も……、あなたと繋がれて幸せよ」

 

 朱乃さんが顔をこちらに向けてつぶやいた。顔はいままで見た朱乃さんのなかで、一番すごく美しく感じた。

 

 朱乃さんの笑顔に見とれていると、朱乃さんがクスリと小さく微笑み、

 

「さあ、そろそろ動いていいわよ」

 

 と、言ってきた。

 

 俺は腰を掴んだまま、訊ねる。

 

「でも、まだ痛いんじゃないですか?」

 

 処女膜を完全に破いたときは快楽よりも、痛みを感じていたはずだ。

 

 そう心配する俺に、朱乃さんは首を横に振った。

 

「いいえ、それほどあまり痛くはない、です、わっ。――んっ、今までエッチなことたくさんしていたからかしら? それともエイジのだからかしら? 今の私は、痛みより幸せな気持ちで心が満たされてるの」

 

 だから……と、続けて、

 

「今はエイジを強く感じたいから、私を感じて欲しいから」

 

 ――お願い。

 

 と、そう笑顔を浮べた。

 

「まったく。そんなうれしいこと言われたら、もう我慢できるわけがないじゃないですか」

 

「うふふ、でも、本当にそう思ってるのよ」

 

「ふふ、わかりました。俺も朱乃を感じて、感じてもらいたいですから。――動きますよ」

 

「ええ、私が受け止めてあげますわ」

 

 朱乃さんの笑みと共に、俺はピストンを開始する。

 

 腰をゆっくりと引きながらオマンコの強い絞まりを楽しみ、腰を進めて奥へ引きこむような、フカフカでやわらかなオマンコの感触を味わう。

 

「ああっ、すごくいい……」

 

 朱乃さんのオマンコ、最高だぁ!

 

 じゅぶぶっ、じゅぶっと、子宮口をつつくのは刺激がまだ強すぎるので、触れるか触れないか、絶妙な位置でピストンしてオマンコを楽しむ。

 

「はっ……、ん……、はぁはぁ……、エイジぃぃ……。すごく、いいわぁ……」

 

 朱乃さんは両腕を顔のまえに置いて、顔を前へ向けたまま見えないペニスをオマンコから感じとって、気持ちよさそうな声を紡ぐ。

 

 そんな朱乃さんに覆いかぶさるように、両肩辺りに手をついて、俺は腰を激しく動かす。

 

「俺も、俺も気持ちがいいです! 腰が止まらないっ!」

 

 一定の速度で腰を動かし、度々思い出したかのように子宮口を突き上げる。

 

「はぅぅっ、はぁはぁ……すごい……。エイジのオチンチンが、私のオマンコを擦ってるっ。あっ、くぅんん……っ」

 

 繋がったまま起き上がり、朱乃さんの両足を跨いでベッドの上に中腰で立つ。そして上体を屈めて朱乃さんの白く美しいラインを描いている背中に胸で覆い、さらに朱乃さんの胸に両手を伸ばす。

 

 自重によってベッドのシーツに広がっている胸を両脇のほうから触れる。やわらかく、スベスベのモチ肌。汗で濡れているせいか、いつもより手に吸いついてくるように感じる。

 

 俺はゆっくりと手を差し込み、胸とシーツの間に手を滑り込ませた。歳に似合わず手から溢れるほどの巨乳を鷲づかみ、ニギニギと力を入れて揉み込む。

 

「はぁはぁ……、や……っん、つかれながら、お、おっぱいまで弄るんですの?」

 

 朱乃さんが流し目で訊いてくるが、俺は無視して朱乃さんの白く細い首筋に舌を這わせた。

 

 いつものポニーテールではなく、髪を下ろしてストレートヘアにしている朱乃さんの首筋は、普段と違った色香を匂わせ、さらに汗で艶やかになっている黒髪が、すごく官能的だった。

 

 首筋や背中に浮ぶ汗を舌で舐め取りながら囁く。

 

「おいしいよ、朱乃……」

 

「んっ、んん……、ダメですわ……。そんな、舐めるなんて……」

 

 くすぐったさそうに顎を持上げてつぶやく朱乃さんだけど、オマンコのほうは悦んでいるみたいに、強く絞まり、愛液を大量に分泌していた。

 

 そして、朱乃さん自身も逃げるようなことはしておらず、愛撫を受け入れている。

 

 ピストンを続けていると、朱乃さんのオマンコがきゅっきゅううっと強く絞まり、子宮口が亀頭に吸いついてくるような感触を感じた。

 

 どうやら絶頂が近いらしい。

 

 俺は朱乃さんの胸を強く掴んで乳首を指先で摘み上げる。すでに快楽に支配されているようだし、痛みよりも快感のほうを感じるだろう。

 

「あっ! ぐんっ、んんんっ! だっ、ダメ! わ、私っ! い、イクゥゥゥッ!」

 

 朱乃さんの体がビクッビクッと跳ねる。オマンコが強く絞まり、射精を促してくる。

 

 だけど、まだ俺は、足りないっ!

 

「朱乃っ!」

 

 朱乃さんの腰を掴んで腰を振るう! 絶頂中で、強く絞まるオマンコを強引に突き荒らす!

 

「エイジっ!? ――あんっ! だ、ダメッ! い、いまつかれると……っ!」

 

「朱乃っ、朱乃っ、朱乃っ!」

 

 朱乃さんの名前を叫びながら、俺は腰を打ち付ける。

 

 パンパンパンパンと、肉を叩く音が室内に響く。

 

「ああっ……、ああっ! わ、私の、お、オマンコが……、はぁはぁ……っ、エイジのオチンチンに、壊され、るっ……!」 

 

 顔の前で両腕を組んで作った輪に、朱乃さんは顔を埋めて悶える。

 

 許容量を超える快感に腰を引いて逃げようとしているが、昂ぶりを抑えられない俺は朱乃さんの腰から手を回して、むっちりとした太ももを抱えるように抱いた。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁっ……!」

 

 荒い息づかいの朱乃さんをもっと追い込むかのように、俺は朱乃さんのクリトリスに両手を伸ばす。 

 

「――っ!?」

 

 指先がクリトリスに触れた瞬間、再び朱乃さんの体が大きく跳ねた。どうやらまたイッたらしい。

 

 俺は朱乃さんのクリトリスを、包皮の上からやさしく、指先の腹で押して、くるりと捏ねた。

 

「ひんっ!? あ、あああ……っ! そ、そこはっ!」

 

 必死に腰を動かして逃げようとする朱乃さん。だけど、腰を打ちつけながらもう片方の手で結合部をなぞると、逃げることも忘れて快感を貪り、絶頂に達す。

 

「はぁはぁっ、はぁはぁっ! も、もう……、わ、私……、頭が、おかしく……」

 

 朱乃さんもそろそろ限界のようだ。俺自身ももう射精間近で、竿まで昇って来た精液で膨らんでいる。

 

 俺は腰を激しく動かしてスパートをかける!

 

 もっとこの蜜壷を味わっていたいが、射精の瞬間はもっと気持ちがいいし、朱乃さんのほうも限界のようだからな!

 

「朱乃っ! 出すぞ! なかに、出すからな!」

 

「んっ! あ、んっ、ええ! なかに、エイジのを、注いでぇぇぇっ!」

 

 朱乃さんの絶叫と共に、オマンコが収縮しながらペニスに絡みつく! 精液をもらえると悦んでいるみたいだ!

 

 俺は朱乃さんの腰を引き寄せ、亀頭を子宮口にめり込ませて、

 

 ビュッ! ビュビュッ! ビュゥゥウウウウウウ~ッ!

 

 精液を流し込む!

 

「――っん! 熱っ! ああっ、だ、ダメェッ! わ、私っ、また、イッ、イッちゃうううううううう~ッ!」

 

 朱乃さんが背を反らせながら顎を天井へ持上げる! 子宮に流し込んだ精液の熱に、また絶頂したようだ。

 

「ああ……、朱乃に吸われてるっ」

 

 精液を舐めしゃぶりながら吸いついてくるオマンコに、俺は満足げな息を漏らして快感を味わった。

 

 お尻だけ掲げてうつ伏せで絶頂している朱乃さんも、俺と同じように中出しセックスの余韻を味わっているようだ。

 

 フカフカのベッドに顔を埋めながら、朱乃さんはつぶやく。

 

「はぁはぁ……、おなかが熱い……。はぁ……、はぁ……、こ、これが……中出しなのね。子宮に精液を流し込まれるときの快感なのね……。はぁ……、はぁ……、んっ。口で飲むのと全然、違うわ……。すごく、満たされて……、幸せ……」

 

 朱乃さんのそんなうれしいつぶやきと共に、ゆっくりとベッドに倒れ伏した。ヒザから完全に力が抜けて、ペニスに支えられている状態になった。

 

 俺が腰を引いてオマンコからペニスを引き抜くと、支えを失ったお尻もベッドに降りていった。

 

 朱乃さんはうつ伏せで倒れているように寝転んでいて、全身汗だく、ぽっかり開いたオマンコからは大量の精液を漏らしていた。

 

 朱乃さんの横に寝転がり、軽く、体重をかけないように包むように覆いかぶさる。

 

 長い黒髪をまとめて、反対側に寝かせて、汗の玉が浮んでいる真っ白な背中にキスする。

 

 汗を舌で舐め取り、今の気持ちを素直に耳元で言う。

 

「最高に気持ちよかったです。俺、いますごく幸せです」

 

「私も、幸せですわ……」

 

 そう小さな声でつぶやいた朱乃さん。

 

 彼女を気遣ってしばらく一緒に寝転んで休もうとしたら、朱乃さんがゆっくり起き上がった。

 

「朱乃?」

 

「エイジ……」

 

 朱乃さんは自分の体重を乗せて俺の胸を押す。俺は抵抗せずに身を任せ、ベッドに仰向けで寝かせられた。

 

 何を……?

 

 疑問符を浮べる俺を無視して、朱乃さんは這うように俺の腰元に顔を近づけていく。

 

「あ、朱乃?」

 

 名を呼ぶと、朱乃さんは顔をこちらに向けて、

 

「私が汚したんですもの。お掃除してあげますわ」

 

 と、微笑んだ。

 

 横から、髪を耳にかけて、俺に咥えるところを見せ付けるように、口を大きく開けて朱乃さんはペニスに口をつけた。

 

「んっ!」

 

 思わず声が漏れる! 無理もない。様々な体液で汚れたペニスを朱乃さんに掃除して貰っているのだから。

 

「はぁはぁ……、んじゅ……、じゅぶ……、はぁはぁ……」

 

 まだ疲れが残っているためか、朱乃さんは荒い息使いながらも、丁寧にペロペロとペニスから体液を舐めとっていく。

 

 竿に手を添えて、玉袋まで口に含んで愛おしそうに掃除してくれる。そんなにされると、またしたくなるじゃないか!

 

 射精して間もないというのに、ギンギンに硬く勃起するペニス。

 

 朱乃さんはそんなペニスを見て、

 

「あらあら、うふふ。さっきよりも元気になっちゃいましたね♪」

 

 と、うれしそうに竿を上下に扱きながらつぶやいた。

 

「そ、それは……、あ、朱乃が弄るから……」

 

 いつの間にか主導権を奪われている。

 

 朱乃さんは、男を虜にするような悪魔の微笑を浮べて誘うように訊ねる。

 

「ふふふ、もう一度しますか?」

 

「いいんですか!?」

 

 ほとんどノータイムで飛びついた俺に、朱乃さんはニッコリうなずいた!

 

「ええ、今夜は私の貸切ですわ」

 

「貸切っ!」

 

 なんといい響きだろうか!

 

 感激していると、朱乃さんはごろりとベッドに仰向けで転がった。

 

 隣に寝転がって、片手を伸ばして俺の頬に手を添えて微笑む。

 

「さあ、たっぷり愛してください」

 

 ――っ!

 

「はい!」

 

 俺は元気のいい返事を返して、朱乃さんに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局朝方まで朱乃さんとセックスしてしまった。

 

 天蓋付きのベッドに、胡座をかいて座る俺のヒザに、もたれかかるように寝ている朱乃さんを見ていると、しみじみそう想う。

 

 昨夜の最後辺りは暴走してしまって、ほとんど気絶している朱乃さんを犯し続けてしまい、休憩を挟んだあと、お仕置きと称して尻の穴を弄られたり、足コキで抜かれたりと、何度もセックスしてしまった。

 

「ん……、んっ……」

 

 ヒザの上で眠る朱乃さんの頭に手を置いて、やさしく髪をすかす。

 

 見た目通り、細く、艶やかなサラサラとした髪の毛だ。

 

「ぅん……」

 

 やさしく髪をすかしてやると、うれしそうな、子供のような無垢な笑みを浮べて体を摺り寄せてくる。

 

 そんな朱乃さんを愛おしく想いながら、ふと考える。

 

 朱乃さんが抱えているものについて。

 

 俺は朱乃さんと父親である堕天使のバラキエルとの間に何があったのかは知らない。

 

 朱乃さんやアザゼルの様子からかなり複雑な事情があるようだった。

 

 好きだからこそ事情を知って朱乃さんから重荷を取り除いてあげたいが、それはまだだ。

 

 朱乃さんが自分から話してくれるまでは我慢しないといけない事柄だ。

 

 少々もどかしく想わなくもないが、俺に出来る事は朱乃さんを受け入れて癒して、愛を与えることだけだ。

 

 まあ、難しく考えてもしょうがないよな。

 

 でも、

 

「朱乃が自分を嫌っていても、俺は朱乃のすべてを受け入れるから」

 

「……ん」

 

 ヒザに顔を擦りつけてくる朱乃さん。俺はそんな彼女の頭を愛情を込めて撫で続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼノヴィアとリアス、朱乃さんの3人と修行したり、セックスしたりで最近サボり気味だった悪魔の仕事を、俺は現在ほぼ休憩なしで、行っていた。

 

 なにせ件数が件数だ。少し休んだだけで一気に忙しさが増してしまう。

 

 ああ、それにしても最近の依頼人は本当に個性が強いな。変なプレイばかりを要求されているような気がする。

 

 例えば、浮気している夫が、浮気相手の女とセックスしている文字通りすぐ傍で、気配と姿を隠して、気づかれないように中出しセックスして欲しいだとか、

 

 露出願望のある女の子の護衛役&相手として、真夜中の公園で露出プレイをしたり、久々にあった5人組みのサキュバスを雌豚調教&精液漬けしたり……。野生の動物は怖いけど獣姦に興味があるとかで、まさかの犬や馬、蛇や豚なんかに変身させられて、初獣姦の相手をしてあげたり。

 

 本当に、様々なハードプレイばかりを強要させられている……。

 

 普通のデートなんかの契約や、男女の仲を取り持ったり、捨てた男への復讐なんかの依頼もあったけど、ほとんどの依頼で結局セックスすることになってるし。

 

 はぁ、おそらく俺の魂にはそういう呪いといえるものが憑いているんだろうな。

 

 ランダムで受ける新規の契約でさえ、本来サキュバスが受けるような依頼ばかりなんだから……。

 

 まあ、仕事で抱いているその分、黒歌を筆頭に俺の眷属たちやリアス、朱乃さん、ゼノヴィアとのセックスが濃厚なものに変わってるから損得でいえば、得だからいいけどさ。

 

それに、この休憩なし&時間短縮の結界で、悪魔の依頼は急速に消費されて、残り200件までなんとか消費できたし。

 

 おっと、本日最後の依頼の時間だ。コレが終わればラスト200件を切るな。

 

 さあ、はりきっていくかぁ~! 疲れてるけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 契約用の転移魔法陣を潜ると、そこにはまたもやヴェネラナさんがいた。

 

 ……え?

 

 ヴェネラナさんはすぐ目の前で木製のベンチに座っている。しかも、いつものドレス姿ではなく、お風呂上りのような、タオルを1枚、体に巻きつけて足を組んで微笑んでいた。

 

 ヴェネラナさんの体を超えて、その背後や周りに視線を送り、場所を確認する。

 

 肌に感じていた通り、前にセックスしたときの部屋じゃなかった。まるで銭湯の脱衣所のような場所で、何故かグレモリー家には似つかわしくないレトロな造りの場所だった。

 

 あ、あれ? 転移する場所間違えたのか? よく漫画とかであるお風呂や脱衣所に間違って――とかの。それともまた――。

 

「おまちしてましたわ。エイジくん」

 

「あ、は、はい。すみません」

 

 ど、どうやら転移の失敗ではないようだ。

 

 戸惑う俺をよそに、ヴェネラナさんはうふふと上品に微笑む。

 

 おいしそうなムッチリとハリのある太ももを見せ付けるように持上げ、足を組み替える。

 

 今のヴェネラナさんはすごく目の毒だ。体から色香が染み出している。

 

「あの……、ヴェネラナさんが今回の依頼人なんですか?」

 

 俺はせめてもの抵抗として体を見ないように、少し顔を逸らして訊ねた。

 

 ヴェネラナさんは笑顔でうなずく。木製のベンチに手をついて、やはりこの人はリアスの母親だと思わせる、微笑みだ。

 

「ええ。本来の依頼を1件キャンセルして私が割り込んだの。ほとんど休まずに、文句も言わないで仕事をこなしてくれているエイジくんを癒してあげるためにね」

 

「いっ、癒す……ですか?」

 

「ええ、そうよ」

 

 ヴェネラナさんは木製のベンチから立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。両手を伸ばして俺の頬に添えて、赤い唇を動かし言葉を紡ぐ。

 

「私がたっぷり癒して差し上げますわ」

 

「……は、はい。お願い、します……」

 

 俺はその甘ったるい言葉と微笑みに、ほとんど無意識にうなずいてしまった。

 

「うふふ。じゃあ、まずは服を脱がしてあげますわ」

 

「はい」

 

 ヴェネラナさんは慣れた手つきで服を脱がしていく。

 

「すごい肉体ね」

 

 俺の上半身を裸にさせたヴェネラナさんが、指先で割れた腹筋や胸に触れる。

 

 触れるか触れないかの絶妙な力使いで、体に触れられる。

 

 そして、ベルトを外され、ズボンを脱がされ、下着を奪われる。

 

「あらあら、もう大きくなってるわね」

 

 視線を下半身に向けたヴェネラナさんがクスクスと微笑む。

 

「す、すみません」

 

 と、なぜか赤くなって謝ってしまう俺。なんだか初々しいというか、こういうプレイは興奮するな。

 

 ヴェネラナさんも同じようで、口元に手を当ててクスリと笑んだ。

 

「いいのよ。私の体で興奮してくれてるんでしょう? あなたのような子を興奮させてしまうなんて、私も捨てたものではないわね」

 

 自称気味にそう言いながら、ヴェネラナさんは胸に片手を置いて、俺の言葉を待つ。

 

 俺もお決まりのセリフをなぞるように、ヴェネラナさんの体に視線を集めてつぶやく。

 

「ヴェネラナさんはすごく、魅力的だから……」

 

「うふふ。そう言ってもらえるとすごくうれしいわ」 

 

 ニコニコと微笑んだヴェネラナさんは、思い出したように俺の鼻の頭にツンと指で触れて、

 

「ああ、それと、今は2人っきりなんだから『ヴェネラナ』と呼んでちょうだい」

 

 と、甘えるようにつぶやいた。

 

 俺は、

 

「はい。ヴェネラナ」

 

 とコクリとうなずく。

 

「うふふ。じゃあ、エイジ。行きましょう。私がたっぷりと癒して差し上げますわ♪」

 

 満足げに微笑んだヴェネラナは、俺の手を引いて、お風呂場の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレモリー家の敷地の、どこに設けられているかはわからない、西洋風なグレモリー家には似つかわしくないように思える、日本情緒が溢れるお風呂場に、俺はいた。

 

 小規模ながらも広い浴槽に、その後ろの壁一面に描かれている富士山が美しい。 先ほどいた脱衣所もレトロな銭湯のような造りだったから、大体予想していたが、まさかここまでとは、正直驚かされた。

 

「どうですか? 気持ちいいですか?」

 

 背中のほうからヴェネラナさんにそう訊ねられる。

 

 現在、俺は風俗店なんかでお馴染み、座席のない特殊な椅子に座っていた。一見すると、家庭や銭湯、温泉旅館なんかでもお馴染みの椅子だけど、俺が座っているこの椅子には不自然な場所に凹みが存在していた。座ったまま色々弄りやすそうな、凹みが。

 

 フニュン……。

 

 背中に何とも心地のよい感触を感じる。時おりコリコリしたものが背中に擦れ、耳元に寄せられているヴェネラナさんの口から吐息が漏れた。

 

「はい、すごくいいです」

 

 俺は素直に感想を口にする。

 

 ヴェネラナさんは「そうですか。うふふ」と微笑み、さらに体を擦りつける。まさに人間スポンジだった。

 

 ああ、まさかリアスの母親であるヴェネラナさんにソーププレイをしてもらえるなんて……。

 

 感激と後ろめたさ、「これは仕事の正統なご褒美だ」と喜んでいる自分がせめぎ合い、複雑な気持ちになっているが、快楽だけはしっかり感じていた。

 

「さあ、後ろは終わりましたわ。今度は前ですわね」

 

「ヴェ、ヴェネラナさん……」

 

「ダメよ。ヴェネラナと呼ぶの」

 

「は、はい。ヴェネラナ」

 

「うふふ。よろしい」

 

 クスクスと微笑んだヴェネラナは、座っている俺の前に跪く。グレモリー家特製らしいローションをチューブからひり出し、自分の体に塗りこんで温める。

 

 丸く、柔らかく熟れた大きな胸が、くびれた腰がローションによってキラキラと輝いている。

 

 体にローションを塗り終えたヴェネラナさんは、改めてつぶやく。

 

「さあ、ご褒美よ。私の体で癒してあげるわ」

 

「ヴェネラナ……、うぐ……」

 

 ヴェネラナの大きな胸と、自分の胸が重り合う。熟してやわらかくなった胸が広がり、コリっと勃起している乳首同士が擦れて、くすぐったさとともに快感を感じる。

 

「ん……、うふふ。私のもエイジの乳首も、すっかり硬くなってるわね」

 

 ヴェネラナさんは体をスポンジ代わりにして、俺の体を磨いていく。

 

 胸から腹を熟れた胸で磨き、立ち上がって俺の片腕を取る。

 

 前に差し出した腕を跨ぎ、情欲で支配された笑みを浮べたまま、腕を股に挟んだ。

 

「あっ、ううん……」

 

 大胆にオマンコのスジに腕を挟み込み、前後に動かして磨いていく。

 

 肩に美しく切り揃えられた髪よりも少し太い亜麻色の毛と、ツンッと勃起してるクリトリスを押しつけながら、指先へと、オマンコを中心に角度を変えながら磨いていく。

 

「さあ、指も癒してあげますわ」

 

 そうつぶやいてヴェネラナさんは手の平の上で股を大きく開いた。俺はヴェネラナさんの意図と読み取って、まずは親指を膣口からなかへと挿入した。

 

「んっ、んんんっ……!」

 

 ヴェネラナさんの声と共に、オマンコが蠢き、動かしてもいないのに指を肉が絡みつき、絞めつけられる。さらにそのままヴェネラナさんは腰を使い、まるで他人の指をペニスに見立ててオナニーでもするかのように動き始めた。

 

 十二分に親指をオマンコのなかで磨くと、今度は人差し指と……。5本すべての指をオマンコのなかで磨きあげた。

 

 そしてヴェネラナさんは何度も絶頂しながらも、もう片方の腕もきちんと洗い終えた。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……」

 

 ヴェネラナさんはすでに蕩けた顔で、荒く息を吐いている。

 

 快感で震える自分の体を抱きしめてヴェネラナさんは微笑む。

 

「はぁ……、はぁ……。いまの私、すごく興奮してるわ。すごく気持ちいい……。まだ始めたばかりなのに、何度も絶頂してしまうなんて。……やはり義理の息子になるかもしれない殿方としてるからなのかしら? それとも夫も入れたことのない、私の秘密のお風呂でしてるなのから?」

 

 …………。

 

 ……独り言のようだし、後半のつぶやきは聞えなかったことにしよう。

 

 ペタンと床に腰をついたヴェネラナさんは、俺の股間を見て満足げに笑む。

 

「うふふ。前にしたときよりも大きくて太いみたい……。あなたも興奮してるのね。硬くて、ビクビクして、血管が浮き出てて、すごく逞しいわ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 賞賛されてうれしくも思いながらも恥ずかしくなり、少し照れながらお礼を言うと、ヴェネラナさんはゆっくりと上半身を股間に、ペニスに近づけ始めた。

 

 両ヒザの間に体を滑り込ませ、さらに両手で俺の足を大きく開かせる。

 

 至近距離から、重力に負けず、ビンッと上にそそり立っているペニスを見つめてニッコリと微笑む。

 

「あ……」

 

「ふふっ、私のおっぱいで癒してあげるわね」

 

 ヴェネラナさんが上半身を倒す。大きく熟れた胸の谷間にペニスが挟まり、さらに胸の両側から手で中心に挟み込まれる。

 

 すごくやわらかくて温かい、スベスベの極上おっぱいにペニスを包み込む。

 

「すごく、硬い。それに熱い……。おっぱいから顔を出してかわいいわ……」

 

 そうつぶやきながら、ヴェネラナさんは胸を上下に動かし始めた。

 

 極上のおっぱいに包み込まれ、さらに圧力をかけられた状態で擦られる。

 

 ヌルヌルのローションが愛液で、おっぱいの肉が膣道で、胸の間から飛び出す亀頭に時おりキスをしたり、吸いつくヴェネラナさんの顔が子宮口と、まるでオマンコに入れられているときみたいに気持ちがよかった。

 

「すごく、いいです! すごく気持ちいいですっ!」

 

 俺はヴェネラナさんの両肩に手を置いて快感を貪る! ああっ、すごいっ! スベスベで、ローションでペニスがヌルヌル滑って、最高だ!

 

「うふふ、オチンチンのほうもビクビク震えて悦んでますわ。お好きなときに射精なさってくださいね」

 

「んっ……、ぐっ……、ああっ、出るっ! 出します!」 

 

「ええ♪ たっぷりお出しなさい♪」

 

 ヴェネラナさんはペニスを挟めたまま、大きく胸を上下させる。俺は我慢を止めて、欲望を解放し始める。

 

 ビュッ、ビュビュッ、ビュウゥゥゥウウウウッ……!

 

 亀頭の割れ目から大量の精液が噴きだし、ヴェネラナさんの頭や顔、首へと降りかかり、胸へ落ちて体に伝って床に落ちて行く。

 

「はぁはぁ……、すごく、気持ちよかった」

 

 本当に、腰が砕けてしまうようなすごい快感だった。

 

 それにヴェネラナさんは大きな射精が終わっても、胸の谷間でペニスを挟み込んで、上下に擦り続けて、射精途中でも気持ちよく最後まで抜いてくれて、なんだか、すごくいい気分だ。

 

 最後の仕上げとヴェネラナさんは尿道口に口をつけた。赤くプルプルしている唇が尿道口に重ねられ、尿道に残っていた精液まで啜りあげて、ヴェネラナさんはやっと体を離した。

 

「うふふふ……、ドロドロになっちゃったわ」

 

 ヴェネラナさんは頭や顔、首筋や、胸など、全身を汚している精液を、化粧水でも塗るように手の平で広げて全身に染み込ませる。

 

「…………」

 

 俺は、そんなものすごく官能的なヴェネラナさんの姿に言葉を失ってしまう。

 

 俺は動かず、初心な童貞になって、いやらしくエッチなお姉さんであるヴェネラナさんに食べてもらうのを椅子に座って待つ。

 

 そんな俺を、ヴェネラナさんは聖母のような微笑を浮べてやさしさで包む。首に手を回され、背中を擦られ、安心感と同時に体に触れている女の肉体にペニスを硬くしていく。見えない背中側で、聖母のような微笑の裏に隠された、発情した雌の笑顔があることを知っていながらも。

 

 ヴェネラナさんは体を少し離して微笑む。

 

「さてと、続きを始めますわよ?」

 

「はい、お願いします」

 

 それだけ言葉を交わして、ヴェネラナさんは次の愛撫へと移った。温かいシャワーで体に付着した精液を洗い落とし、改めて体にローションを塗って、今度は太ももに跨った。

 

「どう? 気持ちいいかしら?」

 

「はい、オマンコが吸いついてきて……、入れたくなってしまいます」

 

「うふふ。うれしいけど、まだダメよ。全部終わったら私のオマンコで癒してあげるから」

 

「はい……」

 

 ヴェネラナさんはそのままスネまでオマンコで磨いていくと、足元に腰を下ろした。

 

 腕で足を持上げて、胸に乗せるように抱えて、俺の顔を上目使いで覗きながら足の指を口に含んだ。

 

 ちゅぱちゅぱといやらしい音を立てて足の指を口内で舐め清めていく。足をとって、自らの胸を踏ませるように擦りつけさせ、磨き、片方の足も同じように磨き清めていく。

 

 ヴェネラナさんはシャワーを手にして自分の体を清める。

 

「仕上げね。流すわよ」

 

「え? 今度はヴェネラナの番じゃ……」

 

「私はまた今度お願いするわ。今回の目的はあなたを癒すことですからね」

 

「だ、だけど……」

 

 なんと、言いますか……。ヴェネラナさんの体を余すことなく手で洗いたいというか……。

 

 俺のそんな気持ちを察してか、ヴェネラナさんは微笑む。手で擦りながらシャワーを当てて、俺の体を清めていく。

 

「ふふっ、大丈夫よ。湯船のなかでたっぷりと触らせてあげるわ」

 

「い、いいんですか!?」

 

「ええ。お風呂から上がったあともね。――さあ、流し終えたわ」

 

 ヴェネラナさんは湯船へと向かい、後ろを振り返って「私の自慢の温泉なのよ」と微笑み、俺を誘う。

 

 俺はヴェネラナさんのあとについていき、湯船に浸かる。ああ……、さすがヴェネラナさん自慢の温泉だな。気持ちいい。前に入った温泉よりも温度が温めで、長湯を楽しめるようにしてるのか?

 

 湯船に座り、手足を伸ばしていると、ヴェネラナさんが微笑みを浮べたまま正面から腰を跨いできた。

 

「さあ、私のなかで癒してあげるわね」

 

「えっ!?」

 

 驚く俺を他所に、ヴェネラナさんは俺の両肩に手をついて腰をおろし始める。

 

 つん……。

 

「あっ」

 

 ヴェネラナさんのオマンコと、ペニスが触れ合う。

 

 ヴェネラナさんは腰を動かして、位置を合わせると、再び腰をおろし始めた。

 

「んっ! さすが……、ですわね。あくっ……、あ……」

 

 口から甘い吐息を漏らしつつも、腰を下ろしてペニスを根元まで咥え込んだ。

 

 肩から後ろに、首に腕を絡みつかせ、ヴェネラナさんは息を吐く。

 

「私の体で、癒してあげるわね」

 

 そう微笑んだヴェネラナさんのオマンコは、前に味わったときとは違う感触だった。

 

 言葉通り、激しく腰を打ち合い、性器同士を擦りあって快楽を得るセックスではなく、包み込みこまれるような、やわらかくやさしい感触で、不思議と体から余計な力が抜けて……、抱きついてくるヴェネラナさんの熱を強く感じた。

 

 大きな胸やスベスベの肌。匂いなど、母性を強く感じてすごく安心した。

 

「ヴェネラナ……」

 

 背中に手を回して抱きつき、胸に顔を埋める。

 

「いつもお疲れ様。いまはゆっくりリラックスしなさい」

 

「はい……」

 

 体から力を抜いて、ヴェネラナに体を預けて俺はゆっくりと目を閉じ、このゆっくりと流れる時間を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 湯船で十二分に癒されたあと、お風呂から上がった俺たちは、別室にあるベッドルームに移動した。

 

 そして、お風呂で約束していた通り、俺はヴェネラナさんの体を堪能させてもらった。

 

 朝方近くまで腰を打ち付け、快楽を貪った。

 

 大きく手足を広げて仰向けで眠るヴェネラナさんに覆いかぶさるように、体を重ねて、母乳を吸わせてもらいながら、眠った。

 

 さてと、起きたら久々に皆が集まっての修行の報告会だな。

 

 俺はリアスたち3人と修行していたから、他のメンバーがどんな修行をおこない、どのように成長したのか訊くのが楽しみだ。

 




 2/21に一部追加。


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第47話 修行の報告会とパーティ

 

<イッセー>

 

 

「おりゃああああっ!」

 

『Explosion!!』

 

 神器から増大した力が俺の体に流れ込んで、一気に身体能力が向上した!

 

「これを避けられるか!」

 

 タンニーンのおっさんが大きく口を開けた!

 

 ゴォォォンッ! ドォォォォンッ!

 

 俺は連続で吐き出される火の玉を素早く避けて、前方へ手を向けた!

 

 イメージは巨大な魔力の弾! それを撃ちだす! ドラゴンショット!

 

 ドンッ! 俺は左腕から巨大な魔力の塊を撃ちだした! 大きさ的にもおっさんの半分はありそうな一撃だ! 以前に山を吹っ飛ばした威力以上はあるはず! おかげで俺の魔力は底上げ+撃ちだしでほとんど空だ! 貯蔵できる魔力の少なさが俺の弱点! こればかりはどんなに威力やらを底上げしても限界がある!

 

「ふんっ! 少しはまともなものを出すようになったものだッ!」

 

 おっさんは避けずに真っ正面から魔力の弾を受け止める気だ!

 

 ドォオオオオォォォォンッ!

 

 おっさんはぶっとい両腕でそれを正面から受け止め、勢いよく口からブレスを吐き出した!

 

 ドッ! ゴォォォオオオオオオオッ!

 

 俺の魔力の弾はおっさんのブレスの一撃で遥か彼方の空へ弾き飛ばされてしまう!

 

『Reset』

 

 増大されていた俺の力が元に戻り、一気に疲労が襲ってくる。

 

 おっさんは自分の両手を見ていた。プスプスと小さな煙を上げていた。俺の魔力の弾がおっさんの手を焼いたのかな?

 

「いい一撃だ。最初に出会った頃に比べると、確実にドラゴンの力が高まっている。体力も申し分ないだろう。俺との鬼ごっこも一日ぶっ続けでできるほどだ」

 

 珍しくおっさんが褒めてくれる。

 

 俺は肩で息をして、常に腰に備えている水筒をあおっていた。この水筒、水分補給はもちろん、神器の力を譲渡して水のパワーを高めておっさんの火の息を多少相殺し弱めたりもできる。まあ、俺もいろいろと対処方法を考えていたわけですよ。

 

 格好もボロボロ。ジャージなんて、大事な部分を守るぐらいしか機能していなくて、上半身は完全に破れて裸。うん。胸板も厚くなったか。余計な贅肉も取れたし。

 

 いきなり山でのサバイバルにも慣れたよ。山の動植物を見つけ、焼いて食ったりしてたし、葉っぱの布団で寝たりしたよ。かなり、野生的な能力まで身につけてしまった。まさか、俺が夏休みに山猿みたいな生活を送るとは思わなかったけど……。

 

 そのサバイバルのおかげで火種の魔力を身につけて、神器の能力と合わせることで、おっさん直伝の火技ができるようになったりした。大火力! いつか披露してやるぜ!

 

 で、現在はもうすでに8月15日だ。シトリー眷属とのゲームは8月20日。あと5日。時間的に仕上げの時期なのだろう。

 

 集合時間も近い。一度ゲーム前に集まって、休息を取る日も想定されている。修行でたまった疲れをその日に取るためだ。

 

 あと、ゲーム前に魔王さま主催のパーティもあるらしく、俺たち眷属や他の若手悪魔も招待されているそうだ。つまり、もう修行をしている時間はない。

 

「おまえも今日までよくやった。――しかし、残念だったな。もう少し日があれば可能だったかもしれない。明日で修行は終わりだが……おそらく無理だろう」

 

 タンニーンのおっさんは息を吐く。ああ、わかっているよ。俺は期間内にこなせなかったんだ。体力も何もかも以前より向上した。――けど、禁手には至れないまま修行を終えることとなったんだ。

 

 俺の修行は――目標をこなせなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、俺はこれで。魔王主催のパーティには俺も出席する。また会おう、兵藤一誠。それとドライグ」

 

 グレモリー本邸前。俺はタンニーンのおっさんの背に乗って帰ってきた。いやー、怪獣ドラゴンの背中は快適だし、圧倒的だね! 短い間の空中旅行だったけど、最高だった!

 

「うん。おっさんありがとう! パーティでまた!」

 

『すまんな、タンニーン。また会おう』

 

「ああ、俺も楽しかった。あのドライグに協力したのだからな。長生きはするものだ。そうだ、俺の背に乗ってパーティ入りするか?」

 

「本当に? いいの?」

 

「ああ、問題ない。神城も俺をタクシーとして呼び出すからな」

 

 マジで!? あいつ最上級悪魔のおっさんをタクシーにしてんの!?

 

「俺の眷属を連れて、パーティ開催日にここに来よう。詳しくはあとでグレモリーに連絡を入れる。では、明日、またここへ来よう。さらばだ!」

 

 それだ言うと、おっさんは羽ばたいて空へと消えていく。

 

 俺は手を振って見送った。

 

『甘い龍王だ』

 

「良いヒトだと思うぜ。会ったときは怖かったけど……。ドラゴンってカッコイイな!」

 

『俺もおまえもドラゴンではあるんだぞ?』

 

 そうだけどざ……正真正銘のドラゴンって、あんなにデカくて雄大な生物をいうと思うんだ。俺とおまえじゃ、ひょろい元人間の悪魔と神器の一部じゃないか。

 

『そりゃ、そうだがな』

 

 だろう? やっぱあれこそザ・ドラゴンだって!

 

「やあ、イッセーくん」

 

 聞き覚えのある男の声に振り返ると――そこには木場。ジャージ姿だったけど、ボロボロだった。俺ほどじゃないけどさ。

 

 イケメンフェイスもだいぶ引き締まったように見える。

 

「……良い体になったね」

 

 木場が上半身裸の俺の姿を見て、そう言う。俺は身を隠そうとする!

 

「や、やめろ、なんだ、その目は……そういう目で俺の体を見るな!」

 

 なんなく身の危険を感じてしまった! だって、たまに怖いよ、こいつ!

 

「ひ、酷いな。僕は筋肉がついたねって言いたかっただけなのに」

 

「おまえは……変わらないな」

 

「まあ、僕は肉がつきにくい体だからね。うらやましいよ」

 

 そういえば木場のオーラが濃くなっているように感じられた。

 

 あれ? 俺、魔力の流れを見るのが以前よりも向上してる? これもおっさんとの修行の成果だろうか? 冥界の自然と一体化しすぎたから、感覚が鋭くなったのか?

 

「イッセーさん! 木場さん!」

 

 城門から出てきたのは――シスター服姿のアーシアだった。あー、やっぱり、アーシアはこれだよね!

 

「アーシア、久しぶりだな」

 

「イ、イッセーさん! ふ、服を着てください!」

 

 俺の裸を見て慌てるアーシア。俺の裸を見て恥ずかしいというよりも俺の行為が恥ずかしいから上に何か着ろという意味だろう。なんだかんだでこの子は俺の裸、見慣れていたりする。

 

「あら、外出組は皆帰ってきたみたいね」

 

 次に現れたのは――部長ッ! お久しぶりだぁぁぁぁぁっ! 俺の部長! 俺のお姉さま! お変わりなくおうつく……、――っ! 

 

 すげえ! 部長のオーラが段違いに上がっているのを感じる! しかもなんか前より一段とキレイになってる!?

 

 木場も部長がオーラが段違いに上がっていることに言葉をなくしているようだ。

 

「イッセー、祐斗、随分強くなったみたいね」

 

 ニッコリ笑顔の部長! 寂しい山篭りサバイバルだったから、会えて嬉しいんだけど……!

 

「……部長も、すごく強くなられてみたいですね」

 

 木場が俺の言いたいことを代わりに言ってくれた!

 

 部長は木場の言葉にうなずいた。

 

「ええ、かなり厳しい修行をみっちり受けたからね」

 

 自信たっぷりと胸を張る部長! おおっ! 久々のおっぱいも少し成長しているようだ!

 

「さて、皆。入ってちょうだい。シャワーを浴びて着替えたら、修行の報告会をしましょう」

 

 どうやら、俺は久しぶりに文化的な生活が送れそうだ。

 

 しかし、禁手に至れなかった報告をするのは――情けない限りだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちリアス・グレモリー眷属が全員集合したのは実に2週間以上ぶりだった。

 

 アザゼル先生から修行プランをもらったあと、俺はドラゴンに連れ去られたけど、皆もあのあと解散したらしい。だから、あれ以来の集合となる。

 

 正直、こんなに眷属が離ればなれで生活したのは初めてかもしれない。――って、俺がメンバーに加わってからだと思うが。それ以前は俺もいないからわからんし。

 

 外で修行していた俺と木場はシャワーを浴びて着替えたあと、グレモリー家の会議室に集まっていた。

 

 で、集まって修行の内容を話していた。木場は師匠との修行顛末。俺もタンニーンとのサバイバル生活を話した。

 

 皆、軽く引いていた。木場も外で修行していたらしいけど、山小屋、またはグレモリーが所有している別荘で生活しながら修行していたらしく、俺のように山で動植物をハントしてドラゴンの火炎を避けていた生活は想像を絶していたらしい。

 

 あれ? あれれれれ? おかしいな。なんで? もしかして、俺だけ辛い目に遭ってましたか? 野宿でしたよ? 毛布もないし、枕もない。冥界に生えている巨大な葉っぱを敷いてそこで眠ってたんだけど……。

 

「あの先生、なんか、俺だけ酷い生活送ってませんか?」

 

「俺もおまえが山で生活できていたから驚いたよ。途中で逃げ帰ると思っていたかなら。まさか、普通に山で暮らし始めていたとは俺も想定外だった」

 

「ええええええええええええええええええええええええっ!? 何それ……? お、俺、冥界産のウサギっぽい奴とかイノシシっぽい奴を狩ってさばいて焼いて食べたんですよ……? 水だって、山で拾った鉄鍋で一度沸騰殺菌してから水筒に入れてたし……」

 

「だから驚いているんだよ。おまえ、たくましすぎるぞ。ある意味、悪魔を超えてる」

 

「酷い! こちとらあのお山でドラゴンに一日中追いかけ回されて生活してしてたのにぃぃぃっ! 何度死にかけたことか! うえええええええんっ!」

 

 あまりのことに俺は泣いちまった! だって! だって! だってさああああっ!

 

「かわいそうなイッセー……。よく耐えたわね。あの山は名前がなかったけど、『イッセー山』と命名しておくわ」

 

 部長がよしよしと頭をなでてくれる! 間に机がなかったら抱きついていた! それほど俺はショックだった! それにしても、酷い! アザゼル先生酷い! 俺、ドラゴンに連れ去られたんだからね! いまだに眼下で部長が手を振っているのを思いだすんだ! 誘拐だよ! あれ、いま考えても誘拐だって!

 

「いや、そいれでもかなり体力が向上したようだな。これでいざ禁手に至っても鎧を着ている時間はそこそこあるだろう。――しかし、禁手には至れなかったか」

 

 アザゼル先生は俺が至れなかったことにさほど残念というほどでもなさそうだった。

 

「ま、至れない可能性は予測していた範囲でもある。ああ、おまえがショックを受けることはないぞ、イッセー。禁手ってのはそれほど劇的変化がないと無理ということだ。サバイバル生活と龍王クラスのドラゴンとの接触で何かが変化すると思ったんだが、時間が足りなかったな。せめて、あと一ヶ月……」

 

 無理! あんな生活あと一ヶ月も送ったら、俺は部長欠乏症で死ぬ! 部長の顔を一ヶ月も見れないなんて耐えられずに死ぬ!

 

「じゃあ、次の報告だな。リアス、朱乃、ゼノヴィア、小猫、そしてエイジだ」

 

 あえてアザゼル先生が遅らせていた4人だ。

 

 部長と朱乃さん、ゼノヴィア……。その3人が修行前よりも格段にオーラが強くなっていたり、身のこなしにキレが増しているからだろう。俺もこの短期間で、どんな修行をすればそんなに強くなれるのか気になって涙も止まった。

 

 部長と朱乃さん、ゼノヴィアが修行の報告を開始した。

 

 ――って! ゼノヴィアの修行をエイジがつけているのは知っていたけど、部長と朱乃さんも遅れてだけどその特訓に参加したそうだ! 2大お姉さまとゼノヴィア! それにセルベリアさんたちも修行の手伝いしてたって……! ハーレムじゃん!?

 

 俺、女ッ気が皆無なお山で修行していたのに、こいつは美少女や美人に囲まれてたのか!?

 

 部長たちは思い出すように語る。

 

「毎日毎日、修行のたびに指1本も動かせなくなるまで虐められたわね」

 

「ええ、魔力も極限まで使い果たさせられて……」

 

「基礎訓練から武器の振り方だけでなく、近接戦闘の手ほどき、状況判断能力、危険さっち能力を鍛えさせられたり、さらに模擬戦では骨折、吐血が当たり前だったな……」

 

 …………。

 

 ……指1本動かせない? ……魔力を極限まで使い果たす? 骨折、吐血?

 

 ……え? そんな修行を毎日送ってたの? ってかエイジってそんなにも厳しかったの? 女にはやさしいと思ってたんだけど……マジなの?

 

 アザゼル先生も引いていた。

 

「マジでそんな無茶な修行してたのかよ……。まあ、その分強くなってるが疲労は溜まらないのか? そんな修行。一日でも受ければ数日動けないと思うんだが?」

 

 アザゼル先生の問いに部長が説明する。

 

「普通はそうだけど、エイジが持っている能力……。というか、【マジカルエステ】という技術で、エイジにマッサージをしてもらったら、疲労も残らないし、体の調子が逆によくなったていたから問題はなかったわ」

 

「マジカルエステ、ねぇ。そんなに効果があるのか?」

 

「はい。エイジ先輩のマッサージは、本当にすごい効果がありました」

 

 と、熱弁する小猫ちゃん。アザゼル先生が俺の修行の様子と、部長のお母さんからの伝言、冥界の文字とマナーなんかを教えるために一旦、城に帰ってくるように言われたときに、丁度、小猫ちゃんが修行のやりすぎで倒れたんだったよなぁ。見舞いに行ったらぐっすり寝てたけど、エイジのマッサージを受けて眠っていたのかな?

 

 ぎりぎりまで虐めて回復させて、虐めての繰り返しと、そのなかでの訓練の結果。部長と朱乃さんは数段実力が上がり、始めからエイジの修行を受けていたゼノヴィアは聖剣デュランダルとエイジが創りだした龍殺しの剣という、なんとも俺とドライグにとっては危険極まりない剣を扱えるようになったそうだ。

 

 次に小猫ちゃんなんだが、こちらも黒歌さんに仙術の手ほどきを受けて、なんとか初級段階まで力を使いこなせるようになったらしいが、少しだけ表情が暗かった。

 

 そして最後にエイジの修行報告の番なんだが……。

 

 座ったまま眠っていた。

 

「いままで何を言わないからおかしいとは思っていたが。まさかこいつ眠っていたのか?」

 

 アザゼル先生も意外そうにつぶやいた。

 

「エイジ、起きなさい」 

 

「は、い……すみません」

 

 部長の呼びかけひとつで目を覚ますエイジ。おいおい、何を寝てるんだよ!

 

 アザゼル先生が苦笑しながら訊ねた。

 

「で、おまえの修行は? 3人を格段に強くしたみたいだが。いや、それよりも悪魔の仕事とやらはこなせたのか?」

 

 ――っ! そういやこいつ夏休みが始まってすぐに3,000件というおそろしい量の仕事の依頼が来ていたんだったな……。ほとんど女とエッチする、なんともうらやましい仕事らしいけど、いくらなんでも3人に修行をつけながら3,000件をこなすなんて無理だろう。

 

 エイジはうとうとしながらも報告を始めた。

 

「……時間を早くする結界を張る魔具を借りているから、悪魔の仕事はあと200件で、終わる。……自分の修行も合間合間でしていたから大丈夫だ……」

 

「合間合間って、中級悪魔程度まで魔力も制限させられて、能力も使えないんだろ? 大丈夫なのか?」

 

 俺が聞くとエイジはノータイムで答えた。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 断言するエイジ。アザゼル先生が眠たそうなエイジの顔を見ながらつぶやいた。

 

「まあ、【武器の申し子】と称されてる武器の使い手の師匠だし。もともと規格外だから大丈夫か」

 

 と嘆息するアザゼル先生! エイジってアザゼル先生にも規格外認定だよ!

 

 アザゼル先生は先ほどより真剣な表情でエイジに訊ねる。

 

「そういや、おまえってきちんと休んでるのか? リアスたちの修行をみながらマッサージしたり、そのあとも悪魔の契約取りに行って、その合間に自分の修行をして――って。おまえ、まともに寝てるのか?」

 

 ――っ! そ、そういえば、悪魔の契約取りでも月30件でも多いくらいなのに、夏休みからいままででもう2,800件も仕事をこなしてるんだよな? しかも、部長たちの修行に自分の修行もしてれば眠る時間なんて……。

 

 いまもこうして眠たそうに報告会に参加しているんだし……。

 

 こいつ、かなり無理しているんじゃないか? 

 

 俺も心配になって「大丈夫か?」と訊こうとしたそのとき――。

 

「ああ。時間短縮の結界があるから、悪魔の契約で抱いたあとに一緒に添い寝させてもらったりしてる。それに、リアス部長たちもセルベリアたちも気遣ってくれるから大丈夫だ。いま眠いのは昨晩常連のサキュバス複数との契約が連チャンしたからなんだよ。まあ、昨日ラストに依頼を受けた人と契約したあと、その人に癒してもらったし。さっきまでゼノたんに添い寝してもらったから、体調はむしろいい」

 

「普通、サキュバスとしたら不能になるまで吸いとられるか、しばらく動けなくなるんだけどね……」

 

 木場が苦笑いして、アザゼル先生は、

 

「そうか。なら大丈夫だな」

 

 とか言ってるけど、俺は納得できねぇえええええええええええええええっ!

 

「なんだよ、それ! 俺なんかお山だぞ!? お山の葉っぱで妄想の抱き枕だったんだぞ! 話し相手はおっさんとドライグだけで女の子なんていなかったんだぞ! なのに……なのにおまえは……!」

 

 先ほどよりも俺は泣いた! 大泣きした! もう前が涙で見れないっ!

 

「俺も女の子と修行したかったぁぁぁぁ! 俺もおっぱい揉む仕事がよかたぁぁぁぁっ! なんで、俺のところにくる契約は変態ばっかりなんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」

 

「イッセーくん……」

 

 木場が両手を広げて抱きついて来いという眼差しを送ってきた! 男の胸なんかに抱きつきたくねぇぇぇぇんだよぉぉぉぉぉおおおおおおおおっ!

 

『おおっ、この力は……』

 

 ドライグの声が聞こえたような気が……。

 

「イッセーさん……」

 

 いや、アーシアの声が聞こえた!

 

 アーシアのほうを見ると両手を恥ずかしそうに広げていた! 木場と同じボーズだけど、感動が違う!

 

「アーシアぁぁぁぁあああああああああああああっ! うぇぇぇえええええんっ!」

 

 アーシアの胸に抱きついて涙を流す! 木場がうしろで残念そうな表情になった気がしたが、知らねえっ! 俺はアーシアの胸に顔を埋めて思う存分涙を流した!

 

 エイジのバっカやろぉぉぉぉぉうううううう!

 

「じゃあ、報告会は終了。明日はパーティだ。今日はもう解散するぞ」

 

 先生の一声に報告会は終了した。

 

 こうして、俺のサバイバル生活は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の夕刻。俺は駒王学園の制服に身を包んで客間で待機していた。今日はパーティだからね。今日は半日たっぷり眠った。おかげでだいぶ疲れは取れた気がする。

 

 久しぶりの制服だ。このところジャージだったし。やっぱりしっくりくるなぁ。

 

 いちおう、腕章をつけている。グレモリーの紋章付きだ。これでパーティOKらしい。女子は準備に時間がかかるとのことで、全員メイドさんたちに連れてかれた。

 

 エイジの奴はギリギリまで契約取りに行かせられているようでまだいない。それに木場もギャスパーも用事があるとかってどっかに行っちゃったけど……。

 

「兵藤か?」

 

 聞き覚えのある声に振り返れば――匙だった。って、どうしてここに匙が!?

 

「匙、どうしてここに?」

 

「ああ、会長がリアス先輩と一緒に会場入りするってんでついてきたんだ。で、会長は先輩に会いに行っちまったし。仕方ないんで屋敷のなかをうろうろしてたら、ここに出た」

 

 この本邸、本当に中も広いからな。迷い迷ってここに着いたか。

 

 俺から少し離れた席に座る匙。真剣な面持ちで言う。

 

「もうすぐゲームだな」

 

「ああ」

 

「俺、鍛えたぜ」

 

「俺もだ。山で毎日ドラゴンに追いかけられてた」

 

「そ、そうか。相変わらすハードな生き方してんな。まあ、俺も相当ハードなメニューをこなしたけどさ」

 

 そうか。こいつもこいつで修行に励んだわけだな。当然だろう。主の勝敗がかかっているんだ。気合も入る。匙は頬をかきながら言う。

 

「兵藤。先月、若手悪魔が集まったときのことを覚えているか?」

 

「ああ。それがどうした?」

 

「あれ、俺たちは本気だ。……お、俺……。せ、先生になるのが夢なんだ!」

 

 突然、匙は顔を真っ赤にしてそう言う。

 

「先生? 何かを教えるのか?」

 

 俺の問いに匙は紅潮しながらも真摯に答える。

 

「会長は冥界にレーティングゲーム専門の学校を設立しようとしてる。ただの学校じゃないんだ。悪魔なら上級下級貴族平民関係無しに受け入れる、誰にも自由な学校なんだ。会長に聞いたんだ。悪魔業界は少しずつ、差別や伝統やらなんかが緩和されてきたけど、まだまだ根底の部分で受け入れがたい部分もあるって。だから、レーティングゲームの学校もいまだに上級悪魔の貴族しか受け入れていない。ゲームは誰にも平等でなければならない――。これは現魔王さまがお決めになられたことだ。平等なのに下級悪魔の平民にはゲームの道が遠いんだよ。おかしいだろ? もしかしたら、貴族以外の悪魔でもやり方しだいでは上級悪魔に昇格できるかもしれないのによ。可能性はゼロじゃないはずなんだ!」

 

 匙の真剣な意見に俺は驚きと共に感嘆していた。

 

 こいつはこいつなりに将来を真面目に見ているのだ、と。

 

「会長はそれをなんとかしたいって言ってた。下級悪魔でもゲームができるってことを伝えたいって。だから、この冥界に誰でも入れる学校をつくるんだよ! 会長はそのために人間界でも勉強されているんだ! スポットが決して当たらなかった者たちに可能性を与えるんだ! 1パーセントでも! ゼロに限りなく近くても! ゼロじゃなきゃ上級悪魔になれるかもしれないんだ! 兵藤! 俺たちだって、その可能性を信じて上級悪魔になろうとしているだろ?」

 

「ああ、その通りだぜ」

 

 そうさ。俺は上級悪魔になることを目標にしてる。可能性がゼロでも百パーセントにしてやるって気合も持ってるぜ。匙は拳を振り上げて宣言する。

 

「だ、だからこそ、俺はそこで先生をするんだ。いっぱい勉強して、いっぱいゲームに勝って、いろんなものを蓄える。それで『兵士』のことを教える先生になるんだ。会長が俺にも手伝って欲しいってさ。こんな俺でも学校の先生になれるかもしれない……。お、俺、むかしはバカなことばっかりやっていてさ。親にも迷惑かけたし、周りの人間にも嫌われてた。でもよ、会長となら、夢を見れるんだ! 俺は生涯会長のお側にいて、会長の手助けをする! 会長の夢が俺の夢なんだ!」

 

 匙は照れながら言う。

 

「へへへ。お袋にはさ、悪魔になったこと内緒だけど、それでも将来の夢を話したら泣いちまってよ。先生になるんだ! ってガラにもないこと言ったからかもしれないな。でもよ。悪くないよな。お袋の安心した顔ってよ」

 

 それが匙の夢か。俺とは――違う道なんだな。同じ『兵士』だから、もしかしたら戸思ってたけど、やはり、人それぞれだ。こいつにはこいつの夢がある。

 

 俺は将来主のもとから独立したいと目標を立てた。こいつは主のもとで終生仕えるとした。同じ時期に悪魔になっても目指す道はまったく違う。

 

 そういえば、エイジの夢はなんなんだろう? あいつも俺と同じ時期に……いや、あいつは最初から普通の高校生じゃなかったな……。最初から裏側の、しかも最深部に近いところにいるような人間だった。

 

「立派な目標だと思うぜ、匙。いい先生になれよ」

 

「ああ、そのためにも今度おまえたちを倒さなきゃいけないんだけどな」

 

「あー、なるほど。なら、ダメだ。俺たちが勝つさ!」

 

「いや、俺たちだ。上にバカにされた以上、俺たちは結果を見せなきゃいけない。神城の奴には上に謝罪させてもらったり、夢を応援してもらったりって恩があるが、ゲームには関係ないからな」

 

 お互い笑いながらも瞳は真剣そのもの。――負けるわけにはいかないさ。

 

 しかし、先生か。ふいにアザゼル先生を思いだすが……まあ、さすがにこいつはそれにはならないだろう。

 

「ところで匙」

 

「なんだ?」

 

 俺は指で宙をつつく。

 

「女性の乳をつつくとブザーになるらしいぜ」

 

「……な、なんだよ、それ?」

 

 おっ、興味深そうに聞き入る匙。さすが俺と同じスケベだ!

 

「アザゼル先生に聞いたんだ。おっぱいの可能性は無限だと。俺も揉むだけじゃなくてそろそろつつかないと次の次元にはいけないのかもしれない。しかし、つつくか……」

 

「……なあ、兵藤。俺よ。俺、いつになったら主さまのおっぱい揉めるのかな?」

 

 真剣にそう相談されてしまった。

 

「俺だってそう揉んでいないさ。幸運に幸運が重なったから揉めたんだ」

 

 匙が怒りの瞳で詰め寄ってくる!

 

「なんだよ、その幸運ってよ! 俺には一切降りてこないぞ!?」

 

「俺だって1回きりしか揉めてないんだ! そんなにすぐには……、いや、この前、アザゼル先生に女風呂に投げ込まれたときに、部長たちとエイジの眷属の女の子のおっぱいを一瞬見れたっけ? しかもそのあと鼻血で出血多量になったときアーシアと小猫ちゃんに看病してもらってたときに朦朧の意識のなかで確かにおっぱいの感触が……」

 

 自然と思い出して、にやけてしまったのがいけなかった。匙は心底ショックを受けたような表情となる。

 

 ふらふらと俺のもとから離れていき、椅子にガクンと力なく座った。その様は、酷いものだった。目を大きく開き、全身をガクガクと震わせている。

 

「……女風呂に投げ込まれる? ……先輩たちのおっぱいを見た? ……アーシアちゃんと小猫ちゃんに看病? ……おっぱいの感触? ……なんだ、それ……。お、俺は……一度もそんなこと会長とも……いや、女の子とも」

 

「さ、匙……? おーい……」

 

 呼びかけてみるが、反応がない。ただただ小声でつぶやいているだけだ。

 

「イッセー、お待たせ。あら、匙くんも来ていたのね」

 

 振り向くと――ドレスアップした部長! そして部員の面々!

 

 すっげぇええええっ! 皆、お化粧してドレスを着込んで! 髪も結ってる!

 

 皆、お姫さまみたいだぜ! 朱乃さんも今日は西洋ドレス姿! うわぁああああ! やべぇええっ、チョーかわいい。超絶を通り越した美人さんだよ!

 

 アーシアも恥ずかしげにしているけど、すごくドレスが似合っている。ゼノヴィアも着慣れていない様子だけど、十分お嬢さまで通じる!

 

 小猫ちゃんも一回り小さなドレス姿だけど、ロリコンに誘拐されても仕方ないかわいさだ!

 

 問題はギャスパーだ。

 

「なんでおまえまでドレス姿なんだよ!」

 

 ギャスパーもドレスで着飾っていた! 似合っているのが何とも言えません! 用事があるからいなくなっていたと思ったら、こういうことか!

 

「だ、だって、ドレス着たかったんだもん」

 

 もうこいつは……。女装癖もここまでくれば大したもんだ。

 

 最後にドレスアップしたソーナ会長と、どこぞの王子さまのようなイケメンが――って!

 

「……お、おまえ、エイジなのか?」

 

「もちろん、エイジだ。何を驚いているんだ?」

 

 足元から頭のてっぺんまで観察する。本当にエイジだった。しかも、どこぞの王子さまみたいな、豪華な装飾がつけられた衣装を完璧に着こなしている! 正直、悪魔になってエイジの裏側知るまで、松田と元浜と俺が絡んで二次元少女の話をする残念イケメンだと思っていたけど……。あの賞金稼ぎの衣装といい、マジで何でも着こなして、いま着ている服のように王子さまのような豪華な服がすごく似合う!

 

 くっ……! 何だこのオーラは!? 木場以上だとぉぉおおおお!?

 

「ケッ! イケメン、死ねっ!」

 

 俺は全ての気持ちをその言葉に込めて吐き捨てた。

 

「サジ。サジ、どうしました?」

 

 その隣で、ソーナ会長が匙の様子を怪訝そうに見ていた。

 

 匙、そこまでショックだったのか……。

 

 ドレスアップも終えた頃、軽い地響きと共に何かが庭に飛来する重い音がしてきた。

 

 しばらくして執事さんが来て言う。

 

「タンニーンさまとそのご眷属の方々がいらっしゃいました」

 

 おっさんは約束通りに迎えに来てくれた!

 



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第48話 パーティ

 

<イッセー>

 

 

 おっさんが約束通りに迎えに来てくれて、俺たちは庭へ向かった。

 

 庭に出てみると圧巻だった!

 

 タンニーンのおっさんと同じサイズのドラゴンがおっさん含めて10体ぐらいいる!

 

 でっけえええっ! すごいな! おっさんの眷属って全部ドラゴンなのか!

 

「約束通り来たぞ、兵藤一誠」

 

「うん! ありがとう、おっさん!」

 

「おまえたちが背に乗っている間、特殊な結界を背中に発生させる。それで空中でも髪や衣装やらが乱れないだろう」

 

 このドラゴンの気の遣いよう! さすが最上級悪魔!

 

「ありがとう、タンニーン。会場まで頼むわ。シトリーの者もいるのだけど、だいじょうぶかしら?」

 

「おおっ、リアス嬢。美しい限りだ。そちらの件は任せてくれ」

 

 かくして俺たちはドラゴンの背に乗り、冥界の大空へ飛びだした! 俺はタンニーンのおっさんの頭部に乗っていた! 特等席だ! 角をつかんで空を見渡す!

 

 うわっは! やっぱ、ドラゴンの背から見る風景は絶景だ! 冥界来てからファンタジー体験ばかりで飽きないぜ! けど、ドラゴンに追いかけ回されるのだけはカンベン!

 

『ドラゴンの上からこの風景を見るとは。なんとも言えん体験だ』

 

 珍しくドライグが苦笑していた。元はドラゴンだもんな、ドライグも。

 

「ハハハハ、それは面白い体験だろう、ドライグ。しかし、力のある強大なドラゴンで現役なのは俺を含めても3匹か。いや、俺は悪魔に転生しているから、元の姿で残っているのはオーフィスとティアマットぐらいだ。残りはやられて封印されたか、隠居したか。玉龍もミドガルズオルムも二度と表に出てこないだろう。そして、ドライグ、アルビオン、ファーブニル、ヴリトラは神器に封じられてしまった。――いつの時代も強いドラゴンは退治される。強いドラゴンは怖い存在だものな」

 

 おっさんは少しだけ寂しげな口調でそう言った。

 

「そういや、ドラゴンのおっさんはどうして悪魔になったんだ?」

 

 俺の問いかけにおっさんは真面目に答えてくれた。

 

「大きな戦もできなくなったこの時代、レーティングゲームをすれば様々な連中と戦えると思ったことがひとつ。そして、理由にはもうひとつある」

 

「もうひとつ?」

 

「……ドラゴンアップルという果物は知っているか? 龍が食べる林檎のことだ」

 

「うぅん、初めて聞いたよ。てか、そのまんまの名前だ」

 

「とあるドラゴンの種族には、ドラゴンアップルでしか生存できないものもある。ところが人間界に実っていたそれらは環境の激変により絶滅してしまったのだ。もう、その果実が実るのは冥界しかない。しかしな、ドラゴンは冥界では嫌われ者だ。悪魔にも堕天使にも忌み嫌われている。ただで果実を与えるわけもないだろう? ――だから、俺が悪魔となって、実の生っている地区を丸ごと領土にしたんだよ。上級悪魔以上になれば、魔王から冥界の一部を領土としてちょうだいできる。俺はそこに目をつけたんだ」

 

「じゃあ、食べ物に困っていたそのドラゴンの種族はおっさんの領土に住んでいるのか?」

 

「ああ、おかげさまでそいつらは絶滅を免れた。それと俺の領土内でそのドラゴンアップルを人口的に実らせる研究もおこなっている。特別な果実だ、研究には時間がかかるだろう。それでもその種族に未来があるのであれば、続けていったほうがいい」

 

「おっさんは良いドラゴンなんだな」

 

 俺の言葉におっさんは大きく笑った。

 

「良いドラゴン? ガハハハハハハハッ! そんな風に言われたのは初めてだ! しかも赤龍帝からの賛辞とは痛み入る! しかしな、小僧。種族の存続させたいのはどの生き物も同じこと。人間も悪魔もドラゴンも同じなのだ。俺は同じドラゴンを救おうと思ったに過ぎない。それが力を持つドラゴンが力のないドラゴンにできることだ」

 

「……すげぇな。俺はただ闇雲に上級悪魔になりたいってだけだ。そ、それと、ハーレムを作りたいってだけで突っ走ろうとしてた。こんな心構えじゃダメなのかな?」

 

「若いうちはそれでいい。雄ならば女や富が欲しくなるのは必定。度が過ぎるのはよくないが、動く原動力となるならそれでいいではないか。だがな、兵藤一誠、ハーレムだけを最終目標にするのはもったいないぞ。強くなれば雌が寄ってくるのは当然だ。問題は女も富みも得たあとにある。……まだ若いおまえには難しい話かもしれんな」

 

 うん。ちょっと難しいかも。

 

 タンニーンのおっさんは含み笑いをする。

 

「まあ、ハーレムを近くで作っている神城のようにはならないほうがいいぞ。というか、誰もあいつのようにはなれないだろうな」

 

 そ、そういや、エイジとおっさんって知り合いだったよな? 部長とライザーの婚約パーティのときに脱出用の乗り物代わりをしたらしいし。

 

「おっさんって、どこでエイジと知り合ったんだ?」

 

 俺が尋ねると、おっさんは思い出すように遠くを見てつぶやいた。

 

「…………数年前にな。俺の領地に神城が侵入してたんだが……」

 

 言いにくそうなおっさん。

 

「エイジが何かやったのか?」

 

「――龍が大きさを魔力で変えられたり、人型になれることは知っているか?」

 

「うぅん。悪魔が魔力で見かけを操作できることは部長に教えてもらったけど」

 

 おっさんはうしろに首を少し向けると嘆息した。

 

「数年前に領地に侵入した神城が、……俺の娘に手をだしたんだ」

 

 え!? ええええええええええええええええええええええええっ!? マジか!? マジなのか!?

 

『娘ができていたのか!?』

 

 ドライグも驚きの声をあげていた! おっさんは深いため息を吐きながら遠くを見だした!

 

「ああ。俺のひとり娘で。本当にかわいく、美しく、気品も能力も申し分のない娘だったんだ……。そんな娘を神城が……」

 

 哀愁ただようおっさん! マジで娘さんのことかわいかったんだな。

 

「しかも俺のかわいい娘だけじゃなくて、神城は俺の領地に住んでいた多くの雌たちに手をだしていたんだ……」

 

「ほ、本当なのか?」

 

「…………。……俺のすぐ隣で他のより少し小型の龍がいるだろう」

 

 おっさんは首だけ少し動かして視線を送る。俺もそれにならっておっさんの視線を追った。

 

 視線の先におっさんよりも2回りほど小さい龍がいた。

 

「あ、ああ……。変な飛び方してる奴だよな?」

 

「その変な飛び方は龍の求愛行動だ。……そして、あれが俺の娘だ……」

 

 おっさんは大きく、呆れたようなため息を吐いた。ま、マジでぇええええええええ!? エイジの奴! おっさんの娘や同族の龍たちにまでも手をだしてんの!?

 

「はぁ、まったく……」

 

 再び正面に向き直り、一段と深いため息を吐くおっさん。ドライグ共々重たい空気に包まれた! タンニーンのおっさんの雰囲気がすげえ暗い!

 

「そっ、そういえば、おっさんってエイジの乗り物代わりになったり、結構仲がいいんじゃないか!」

 

『そうだぞ! 嫌いな相手なら背に乗せたりしないだろうっ?』

 

 俺だけじゃなく、ドライグまでがおっさんの暗い空気を何とか変えようとする!

 

 だけど――。

 

「ドラゴンアップルを増やす手伝いもしてくれたし、人間にしてはものすごく強いし、確かに、神城のことが嫌いなわけではない……。が、納得できないのだ」

 

 タンニーンのおっさんは忌々しそうな口調に変わりだした! ひぃっ! 小声でつぶやき始めた!

 

「ああ、本当に納得できない。なぜウチの娘が……。しかも、ほとんどの若い雌たちまで……! わざわざ龍の姿から人間の姿に変身してまでするか……!? しかも、転生悪魔からインキュバスになるだと? 高位のインキュバスは百パーセント交配した側の能力と特徴を次代に残す……。ああっ……、これでますます妻が娘の味方になることだろう。昔は父上、父上と甘えてきた娘が……。かわいい俺の娘が……」

 

「お、おっさん……」

 

 お、俺はもう無理だ! ド、ドライグ! 同じ龍なんだし任せるぞ!

 

『あ、相棒!? それはいくらなんでも酷いのではないか!?』

 

 仕方ないだろう! 俺に、愛娘を男に取られた父親の気持ちなんかわかるわけないんだから!

 

『……くっ』

 

 嫌そうだけど、何とか引き受けてくれたようだ。がんばれドライグ! 旧知の仲だろ!

 

『……タンニーン』

 

「……なんだ、ドライグよ」

 

『そ、その……、誰もがいずれは娘と別れることになるのだから、遅いか早いかではないのか?』

 

「神器に封印されて……。いや、生まれてからずっと。一度も、妻も娘もできたことがない、お前に言われてもなぁ……」

 

『…………』

 

 タンニーンのおっさんが、「フゥ……、やれやれ、これだから独身は」と呆れているような口調でつぶやいた! ドライグの心に重大なダメージが!

 

『どうせ……』

 

 ドライグ?

 

『どうせ俺は独身だよぉぉぉぉっ! 独身のまま封印されちまったよぉぉぉぉっ!』

 

 ご、号泣! 号泣だよ! おっさん! どうしてくれんだ!?

 

「ど、ドライグ……、まあ、気にするなって」

 

『うおおおおん! うおおおおおおんっ!』

 

 だ、ダメだ……。完璧に落ち込んでしまった……。

 

「はぁああああ……。なぜだ……なぜ俺の娘が……」

 

 タンニーンのおっさんも羽ばたき方まで落ち込んでいる!

 

 もう俺しかいない!

 

 俺はパーティ会場に着くまでの間。二匹の龍を必死に慰めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティ会場に無事に到着し、タンニーンのおっさんとその眷属の龍と、あと娘さんの龍は大型悪魔用の待機スペースへ行くということで分かれた。

 

 それにしても、エイジに顔を擦りつけて鳴いているおっさんの娘の龍を見たときのおっさんの様子は心にくるものがあったな……。

 

 父親が前にいるのに、気にするようすもなく男に甘える娘に、タンニーンのおっさんの頬から大粒の涙がこぼれていたことは秘密だ。

 

 そしてリムジンに乗り換えてパーティ会場に移動したんだが、初めてのリムジンだったけど、ドライグがまだ立ち直っていなかったので楽しめなかった……。

 

 タンニーンのおっさんに言われたことがよっぽどショックだったようだ。

 

 リムジンのなかで部長もソーナ会長に宣戦布告されたそうだ。俺も匙から宣戦布告されたことを話し、眷属皆で真っ正面から受けて立つ決意を固めた。すすり泣く左手を慰めながら。

 

 そうこうしている内に会場となっているホテルに到着。出て行くと、大勢の従業員に迎え入れられる。そのまま中に入り、フロントで朱乃さんが確認を取って、いざエレベーターへ。

 

「最上階にある大フロアがパーティ会場みたいね。エイジ、イッセー、各御家の方に声をかけられたら、ちゃんとあいさつするのよ?」

 

「はい」

 

「は、はい。それはそうと部長。今日のパーティは……若手悪魔のために魔王さまが用意されたんですか?」

 

「それは建前。どうせ私たちが会場入りしても大して盛り上がりもしないわよ。これは毎度恒例なの。どちらかというと、各御家の方々の交流会みたいなものね。私たち次期当主はおまけで、本当はお父さま方のお楽しみパーティみたいなものよ。どうせ、4次会5次会まで近くの施設で予約入れているでしょうし。私たちとは別行動で会場入りしているのがいい証拠。若手より猛者気に集まって、すでにお酒でできあがっているのではないかしら」

 

 部長は不機嫌そうな顔で愚痴を口にしていた。隣で朱乃さんとエイジも苦笑していた。

 

 はぁ、部長はこの手のパーティ……というよりもお父さんたちの行動にうんざりしているんだな。魔王主催とはいえ、社交界とはまた違った気軽なパーティのひとつらしいので、お父さんたちはハメを外せる数少ない催しとして大変楽しみにしているという。

 

 エレベーターも到着し、一歩出ると会場の入り口が開かれる――。

 

 きらびやかな広間が俺たちを迎え入れてくれた! フロアいっぱいに大勢の悪魔と美味そうな料理の数々! やっぱり天井には巨大なシャンデリア! ここ最近、シャンデリア見過ぎだろう、俺!

 

『おおっ!』

 

 部長の登場に誰もが注目し、感嘆の声を漏らしていた。

 

「リアス姫。ますますお美しくなられて……」

 

「サーゼクスさまもご自慢でしょうな」

 

 と、部長に皆見とれている。部長は盛り上がりもしないって言ってたけど、十分盛り上がって……。

 

『きゃ~!』

 

 ――っ! エイジが前に出た瞬間、会場にいた女性の悪魔たちが悲鳴のような歓声をあげた!

 

「な、何?」

 

「すごい声だな?」

 

 部長とエイジが戸惑いの表情の浮かべた。俺も混乱してる! だって会場の女性悪魔の大半が部長とエイジを見ているんだから! ギャスパーも驚いて俺の背に隠れているし! いったいなんなんだ!?

 

 いつものニッコリ笑顔の朱乃さんが説明してきた。

 

「部長、忘れてたんですか? 全冥界で婚約パーティが放送されていて、雑誌や新聞の一面を飾ったこと」

 

「――っ!」

 

 部長の頬が真っ赤に染まる! そういや、仮面をつけた伝説クラスの賞金稼ぎで冥界の人気者になっていたエイジが、長年つけていた仮面を取って部長を助けたことが話題になっているんだったな。

 

 よく見てみると、会場の女性悪魔たちだけではなく、お偉いさんの悪魔たちも注目していた。

 

 やっぱり、神や魔王クラスの正体不明の賞金稼ぎがグレモリー家の眷属悪魔になったことが気になっているんだろう。

 

 しかも、グレモリー家からエイジが純血悪魔で滅びたはずのインキュバスに体が完全に変化したという情報を積極的に流してるって、なぜか木場が女性誌を読みながら言っていたな。しかも、俺のに与えられた客間で……。

 

 何かを期待するような眼差し! 会場は異様な雰囲気だ! もう盛り上がりまくりっていうか、主役レベルじゃないですか!

 

 部長は一度目を閉じて、覚悟を決めると、エイジの顔を一瞬、チラリと見た。

 

 エイジは部長のそれだけの動きで、わかったような顔になり腕を部長へ差し出した!

 

 部長はその腕をとって、会場の悪魔の皆さんに微笑みを浮べて会場入りした!

 

 すげえ! なんてコンビネーションなんだ! 傍から見たら率先してエスコートする男性とエスコートさせている女性にしか見えない!

 

 部長も自分の下僕悪魔であることを、周りに印象づけるようにエイジを見せ付けた!

 

 この辺の差なのか!? 俺とエイジの差は! この差を埋めれば……! いや、さっきの部長のモーション……、俺だったら完全に見逃していたな……。うう……ハーレムの道が遠すぎる……。

 

「ほら、イッセー、あなたもあいさつ回りするわよ」

 

「へ?」

 

 間の抜けた顔の俺だが、なんでも伝説のドラゴンが悪魔になったことは有名らしく、あいさつしたいって上級悪魔の方々が大勢いらっしゃったみたいだ。

 

 そんなわけで俺は部長と、部長をエスコートしているエイジに連れられてフロアをぐるりと一周するハメになった。部長の家の家庭教師悪魔さんに仕込まれた紳士的な振る舞いが予想以上に効果が出て驚いた。

 

 なるほど、修行を一時中断してまでマナーを教えられたけど、部長の眷属になった以上、必須スキルだったわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、ちかれた」

 

 あいさつも終え、俺は解放されたわけだが……。

 

 フロアの隅っこに用意された椅子に俺とアーシア、ギャスパーが座っていた。部長と朱乃さんは遠くで女性悪魔さん方と談話してる。

 

 木場は――女性悪魔の皆さんに囲まれていた! クソ! イケメン死ね!

 

 と言いたいところだけど、さすがにこの手のパーティは初めてだったんで、俺もアーシアたちも気疲れして、隅でぐったりしていた。

 

 エイジはというと、部長や朱乃さんのすぐ近くに立っていた。その3人を囲むように人だかりができていた。皆ほとんどが女性悪魔さん方で、お偉いさんの悪魔も混じっている。

 

 マジで、すげえ人気だよなぁ。あいさつ回りしたときも赤龍帝より、神や魔王クラスの賞金稼ぎが完全に悪魔に転生したことに注目してたし……。いや、まあ、自分で言ってて、単なる転生悪魔の赤龍帝よりも、神や魔王クラスの実力者が人間ベースじゃなくて本物の悪魔になったほうが注目するよなぁ。

 

 それに朱乃さんが言っていた、冥界の女性悪魔の人気者というのを改めて理解した。エイジのサインなんて欲しがる悪魔や握手求めてくる悪魔とかがたくさんいるんだぜ。まんま大物有名人扱いだよ。

 

 部長のエスコートも完璧で、俺みたいな奴とは本当に格が違う。立ち振る舞いも堂々としていて部長への気遣いもできて、お偉いさん方にも臆せずあいさつできる。

 

 人間界と冥界……、エイジには冥界のほうが似合っているように感じた……。まあ、悪魔らしい黒い尻尾がいつの間にか3本に増えて尻辺りから伸びているし……。

 

「イッセー、アーシア、ギャスパー、料理をゲットしてきたぞ、食え」

 

 先ほど席を立ったゼノヴィアが大量の皿を器用に持ってやってきた。皿の上には豪華な料理の数々。

 

「ゼノヴィア、悪いな」

 

「いや、何。これぐらい安いものだ。ほら、アーシアも飲み物ぐらい口をつけたほうがいいぞ」

 

「ありがとうございます、ゼノヴィアさん……、私、こういうの初めてで、緊張して喉がカラカラでした……」

 

 アーシアはゼノヴィアからグラスに入ったジュースをもらうと、口をつけ始めた。

 

 俺はもらった料理に手をつける。……箸も完備なんだな。まあ、転生悪魔がこのなかに俺たち意外にもいるだろうし、各種つまむものは用意するか。

 

 そこに、人だかりのなかからエイジが出てきた。

 

「よお、人気者だな」

 

 と俺は手をあげる。

 

 エイジは少しだけ小さく嘆息すると、「まあな」と返した。少しだけウンザリしている様子だった。まあ、あれだけか次から次にあいさつしてたらな。

 

 エイジはウェイターからグラスを受け取るとジュースを飲んだ。かなり疲れている様子だ。

 

 そこにドレスを着た女の子が、エイジのほうを睨んでいた。誰だ? エイジのファン?

 

 いや、どこかで見た気が……。

 

「久しぶりだな、レイヴェル・フェニックス」

 

 エイジが女の子にあいさつした。フェニックスって、部長の元婚約者の焼き鳥野朗の妹か。レーティングゲームで見た気がする。

 

「お、お久しぶりですわね、黒い捕食者。……それに赤龍帝」

 

 俺はついでかよ! エイジがレイヴェルに訊いた。

 

「ライザー・フェニックス。――兄は元気か?」

 

 レイヴェルは嘆息する。

 

「……あなたのおかげで塞ぎ込んでしまいましたわ。よほど敗北と、リアスさまをあなたに取られたことがショックだったようです。ま、才能に頼って、調子に乗っていたところもありますから、良い勉強になったはずですわ」

 

 あらら、手厳しい。兄気もバッサリ切りますか。毒舌だな。

 

「ハハハハ……容赦ないね。いちおうおまえも兄貴の眷属だろう?」

 

 俺は苦笑した。

 

「それなら、現在トレードを済ませて、いまはお母さまの眷属ということになっていますわ。お母さまが、自分の持っていた未使用の駒と交換してくださったの。お母さまは眷属になりたい方を見つけたら、トレードしてくれるとおっしゃってくださいましたから、実質フリーの『僧侶』ですわ。お母さまはゲームしませんし」

 

 俺は耳慣れない言葉に訝しげに思った。

 

「あら? ご存じないの? トレード。レーティングゲームのルールのひとつで、『王』である悪魔の間で自分のこまを交換することができますの。同じ種類の駒であることが条件ですわよ」

 

 へぇ、そういうものもあるのか。

 

「と、ところで黒い捕食者――」

 

「別に通り名で呼ぶ必要はないさ。俺の名は神城エイジ。冥界に俺の名前は公開されたことだし、普通に『エイジ』と呼んでくれても構わないぞ」

 

「お、お名前で呼んでもよろしいのですか!?」

 

 すげえ嬉しそうなんだけど! まあ、有名人から気軽に名前で呼んでいいと言われれば誰でも喜ぶよな。

 

「コ、コホン。で、では、遠慮なく、エイジさまと呼ばせていただきます」

 

「さまはつけなくてもいいけどな」

 

「いいえ、これは大事なことです! あなたは魔王クラスの実力者なんですよ!」

 

 魔王クラスの実力者って、やっぱ冥界ではエイジってすごく上の立場のヒトなんだよなぁ。悪魔の世界って実力主義なところあるし。

 

 そこへさらに見知ったお姉さんが登場する。

 

「レイヴェル。旦那さまのご友人がお呼びだ」

 

 確か、ライザー眷族の1人だ。俺の顔をフリッカーでボコボコにしてくれたイザベラというお姉さんだっけかな。洋服破壊で見られた裸体は脳内に保存されている。

 

「わかりましたわ。エイジさま、今度、お会いできたら、お茶でもいかがかしら? わ、わ、わ、私でよろしければ、手製のケーキをご、ご、ご用意してあげてもよろしくてよ?」

 

 レイヴェルはドレスの裾をひょいと上げ、一礼して去っていった。

 

 俺にはあいさつも無しですか~。

 

「やあ、兵藤一誠」

 

 今度はイザベラさんが話しかけてくる。

 

「あんたはフェニックス家のイザベラさんだよね?」

 

「ああ。あのときはいい一発をもらった。まだ覚えているよ。また強くなったそうじゃないか。キミが強くなればなるだけ私の話も自慢話になるからな」

 

「えーと、あいつ……レイヴェルの付き添いですか?」

 

「まあ、そんなとこ。あの子はあの子で我が主ライザーさまと同じぐらいつかめないところがあるものだから……。婚約パーティでの黒い捕食者との一戦以来、レイヴェルさまは黒い捕食者の話ばかりをしているんだ。ライザーさまを一撃で倒してリアス姫を救ったのがとても印象だったようだ」

 

「文句とかじゃないのか?」

 

「いや、逆だ。レイヴェルさまは元々黒い捕食者の大ファンだったからな。間近でアニメや映画のようにお姫さまを救う姿を見てしまったからな……」

 

 イザベラさんは最後まで言わずに、エイジのほうに顔を向けた。

 

「それでお茶の件だが……」

 

「ああ、全然OKだ。あと、ライザー・フェニックスがずっと立ち直れない状態が続くようであれば、立ち直る手助けをするぞ。俺にも責任があるからな」

 

「本当か? それはありがたい。レイヴェルも喜ぶだろうし、私たちも助かる。さて、私はこれにて失礼する。良い宴を」

 

 そのままイザベラさんは手を振って去っていた。

 

 そのあとは魔王さまのあいさつが終わり、華やかなパーティが開催された。

 

 部長と朱乃さん、エイジは魔王さまのほうへあいさつに行き、初のパーティで疲れている俺たちは部長たちが戻るまで料理を食べたり休んでいたりした。

 

 エイジの元に同い年ぐらいの黒髪で清楚なお嬢さまがあいさつに着ていたけど、たぶんその黒髪のお嬢さまがタンニーンのおっさんの娘さんなんだろう。頭に小さな角が生えていたし……。

 

 すげえ親しそう、というか、エイジにべったりだった。最後は執事風の悪魔さんに泣きつかれて連れられておっさんのもとに戻らされてた。たぶんおっさんが殺気を放っていたからだろう。会場の一部からおっさんの殺気のような強い気配がしてたし……。

 

 それからパーティも無事にお開きになり、俺たちグレモリー眷属とシトリー眷属の面々は会場入りしたときと同じようにリムジンでタンニーンのおっさんが下ろしてくれた場所まで戻り、おっさんの眷族の龍の背にそれぞれ分かれて乗って、匙やソーナ会長たちとそこで別れ、俺らも龍の背に乗ってグレモリーと戻った。おっさんは2次会3次会に参加するらしくまだ帰らないそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。俺はひとりでグレモリー家の中庭のベンチで、冥界の黒い闇の空に浮べられた月を見ていた。

 

 なんとなく、ひとりになりたかったからだ。

 

「……イッセー先輩?」

 

 聞きなれた女の子の声――小猫ちゃんだった。

 

「どうしたんですか? こんなところで」

 

「なんとなく、ひとりになりたかったんだ」

 

 まあ、ただ感傷に浸ってるんだけどな。

 

「結局、修行したのに俺って禁手に至れなかったんだよなぁ……」

 

 月を見ながらつぶやく。小猫ちゃんに愚痴を漏らすなんて情けねぇなぁ……。だけど俺は止まれなかった。

 

「同じ時期に悪魔になったエイジは俺と比べ物にならないぐらい強いのに……」

 

「それは考えても仕方がないと思いますよ……? エイジ先輩は人間の頃から神や魔王クラスといわれてたほどのヒトですし……」

 

「ああ、頭じゃ理解してるよ。俺みたいな伝説のドラゴンが宿っただけの才能無しの転生悪魔と、小さい頃から命のやり取りをしていて、実力も神や魔王クラスで。通り名までつけられているエイジと比べるほうが間違ってるって」

 

 でも……。

 

「でも、心のなかでは無理なんだ……! すごくエイジがうらやましいっ! 強くて女の子にモテモテで! しかも、部長やあの美人の眷属さんたちと同じ家に住んでるんだぜ? 学園でも女の子喰い放題なんてうらやましすぎるだろ!? 俺なんておっぱいひとつまともに揉めないんだぜ!?」

 

「…………………」

 

 小猫ちゃんから発せられる空気が一気に冷たくなったような気がした。俺は空に浮かぶ月に向けて手を伸ばす。

 

「エイジの存在が遠い……。俺は伝説のドラゴンを宿しているのに、あまりに弱すぎるんだ……。才能の欠片もないことはもちろん、匙みたいな誇れるような目標も、それに向かって進む手段も努力もどうすればいいか、わからないんだ……。お山に篭って修行したクセに部長や朱乃さん、ゼノヴィアは俺よりも数段強くなっているし、その3人を鍛えたのはエイジだ」

 

 どんどんナーバスになっていく。

 

「同じ『兵士』でも違いすぎるよな……。知ってる? 歴代の赤龍帝は皆、短時間で禁手に至ったってさ……。何か月もかかっているのは、俺だけだって。わかってたんだ。もうずっと前からわかっていたんだ。赤龍帝の力が宿っていても、俺がクズなんだ、俺がダメなんだ」

 

 涙があふれた。ポタポタと地面に落ちる。小猫ちゃんは首を横に振った。

 

「……イッセー先輩はクズじゃないです。……知っていますか? 歴代の赤龍帝は皆、力に溺れた者が多かったって。……絶大な力に呑み込まれたんだと思います。私の姉も昔、私を助けるために仙術の力に呑み込まれました……」

 

「黒歌さんが?」

 

「はい……。仙術の力に呑み込まれた姉を見たとき、私は本当に怖かったんです。……イッセー先輩。無理に力を求めようとしないでください……。私は力に翻弄されて暴走するイッセー先輩を見たくないです……」

 

 小猫ちゃんはやさしく微笑んだ。

 

「私はイッセー先輩には、やさしい『赤い龍の帝王』になってもらいたいです……」

 

 ――っ。小猫ちゃん……。俺は……。

 

「ごめん、小猫ちゃん。先輩なのに弱気なんが言って」

 

 俺は頭を下げた! 女の子の小猫ちゃんに慰められるなんて、やっぱりダメだよな!

 

 そう! 俺はいずれ――。

 

「いずれ俺は、ハーレム王になるんだから、こんなことで落ち込んでちゃダメだよな!」

 

「…………はい?」

 

 この雰囲気で一番口に出たらマズイところが口に出たぁぁぁぁあああああああああああああっ!

 

「……い! いや! も、もちろん、やさしい『赤い龍の帝王』にもなるよ!」

 

 慌てて訂正したけど、小猫ちゃんからは吹雪のような冷たいオーラが!

 

にも(・・)ですか。…………最低です。やらしい赤龍帝……」

 

 小猫ちゃんが、ぼそっとそうつぶやいて立ち去っていく! ああ、待ってぇえええええ! さっきのは違うんだぁぁぁあああああ! 違わないけど、違うんだぁぁぁぁああああああ!

 

 立ち去った小猫ちゃん。

 

 俺はしばらくベンチに座って放心していた……。

 



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第49話 グレモリーVSシトリー 開幕!

 

<イッセー>

 

 

 シトリー眷属とのゲームの前日の晩。俺たちはアザゼルの部屋に集まってミーティングをしていた。

 

「リアス、ソーナ・シトリーはグレモリー眷属のことをある程度知っているんだろう?」

 

 先生の問いに部長はうなずく。

 

「ええ、おおまかなところは把握されているわね。たとえばイッセーや祐斗、朱乃、アーシア、ゼノヴィアの主力武器は確認しているわ。――フェニックス家との一戦を録画した映像は一部に公開されているもの。さらに言うならギャスパーの神器も小猫の素性も割れてるわ。エイジに関してはアニメやドラマなんかで知っているとは思うけど、魔力制限があるから戦い方も変わるでしょうし、あまり情報をしられていないと思うわ」

 

「ま、ほぼ知られているわけか。で、おまえのほうはどれぐらいあちらを把握してる?」

 

「ソーナのこと、副会長である『女王』のこと、多数名の能力は知っているわ。一部判明していない能力の者もいるけど」

 

「不利な面もあると。まあ、その辺はゲームでも実際の戦闘でもよくあることだ。戦闘中に神器が進化、変化する例もある。細心の注意をはらえばいい。相手の数は8名か」

 

「ええ、『王』1、『女王』1、『戦車』1、『騎士』1、『僧侶』2、『兵士』2で8名。まだ全部の駒はそろっていないみたいだけれど、数では私のほうが1名多いわ」

 

 次にアザゼル先生は用意したホワイトボードに何かを書いていく。

 

「レーティングゲームは、プレイヤーに細やかなタイプをつけて分けている。パワー、テクニック、ウィザード、サポート。このなかでなら、リアスはウィザードタイプ。いわえる魔力全般に秀でたタイプだ。朱乃も同様。木場はテクニックタイプ。スピードや技で戦う者。ゼノヴィアと小猫はパワータイプ。アーシアとギャスパーはサポートタイプ。さらに細かく分けるなら、アーシアはウィザードタイプのほうに近く、ギャスパーはテクニックのほうに近い。イッセーはパワータイプで、サポートタイプのほうにもいける。ギフトの力でな」

 

 いきなり、たくさん覚えることが出てきて俺は困惑したが、つまりゲームをする眷族にはいくつかタイプがあるってことね。で、俺はサポートもできるパワータイプ、と。

 

「そういえばエイジは何タイプなんですか?」

 

 俺が訊くとアザゼル先生は嘆息した。

 

「こいつはいわえる万能型だ。パワー、テクニック、サポートを全て兼ね備えたな」

 

 ま、マジか……! いや、この場合は納得か。

 

 アザゼル先生は嘆息したまま、十字を線を引いて、上下左右の端に各タイプ名を書いてグラフを描いた。

 

 俺たちがどの位置のタイプなのか、グラフに名前を書いていく。俺はサポート寄りのパワータイプのところだ。木場はテクニックタイプのところ。アーシアはウィザードよりのサポートのところ。ギャスパーはテクニックタイプに近いサポートタイプのところ。小猫ちゃんはパワータイプのところ。

 

 そこまで書いてアザゼル先生は手を止めてこちらを見てきた。

 

「神城。……リアス、朱乃、ゼノヴィアの3人に修行を積ませすぎだ」

 

 ん? どうしたんだ? アザゼル先生は3人のタイプの位置に書いた。

 

 ――っ! 俺だけじゃなく、木場や小猫ちゃんが驚いた!

 

「ゼノヴィアはテクニックタイプよりのパワータイプ。朱乃はウィザードタイプのテクニックタイプ。リアスはパワータイプよりのウィザードタイプ。――昨日、神城の修行の様子を一度見せてもらったが、神城、おまえの修行って地獄だな」

 

 アザゼル先生が地獄と判断するほどの修行!? タンニーンのおっさんにお山でサバイバル修行させたアザゼル先生がそんなに言うほどの厳しい修行だったの!?

 

「俺の見立てじゃ、ゼノヴィアの剣技は木場を軽く超えているし、朱乃も雷光を使えるだけになっただけじゃなくて、応用技まで会得している。リアスもパワー上がって魔力運用の効率もよくなっているし、新装備もついた。そして、その全員に無手での近接格闘訓練まで覚えさせるって……」

 

 ゼノヴィアって木場より剣の技術が高くなったの!? しかも近接戦闘までって! それに部長の新装備ってなんだよ!

 

 俺と木場たちが絶句していると、アザゼル先生は思い出すように遠くを見た。

 

「あれは修行ってより拷問だな……。準備運動から体に負荷をかけているし、模擬戦で骨折ったり血を流したり……。実戦とほとんど変わらない状況で実力が上の相手から動けるか動けない境界線で、攻撃され続けるなんて……。よく耐えれたなおまえら」

 

 感心と哀れみの視線を向けるアザゼル先生! 部長たちとエイジの4人は苦笑していた!

 

 そんな修行をしていればいやでも強くなるよな。

 

「小猫にしてもこの短期間で仙術を会得するなんてすごいぞ。普通は何年もかけて修行するのに」

 

 アザゼルの言葉に小猫ちゃんは意外そうな表情になる。

 

「私はまだ全然会得できていないですよ? まだ姉さまにも初級程度だと言われてますし……」

 

「初級?」

 

「はい」

 

「おまえが黒歌に教えられている仙術は中級レベル以上のものばかりだぞ?」

 

「え?」

 

 小猫ちゃんは信じられないという様子だった。アザゼル先生がエイジのほうを再び見た。

 

「まさか、中級レベルの仙術は、おまえたちでいうところの初級だったりするのか?」

 

 エイジはしばし顎に手を当てて考えるような素振りを見せた。

 

「世界の仙術の基準は知らないからなんともいえないな」

 

「…………」

 

 アザゼル先生は長い間沈黙すると、気を取り直してミーティングを再開した。パワータイプやテクニックタイプ、サポートタイプの弱点と対処法、気をつけておくべきことなどを丁寧に説明してくれた。

 

 そしてアザゼル先生からアドバイスをもらい、アザゼル先生が退出したあとも、俺たちは決戦の日まで戦術のことを話し合ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決戦日――。

 

 グレモリーの居城地価にゲーム場へ移動する専用の巨大な魔法陣が存在する。

 

 俺たち眷属はその魔法陣に集まり、もうすぐ始まるゲーム場への移動に備えていた。

 

 エイジとアーシア、ゼノヴィア以外、駒王学園の夏の制服姿だ。エイジは冥界でお馴染みの赤と黒の衣装、アーシアはシスター服、ゼノヴィアは出会った当初の頃にきていたあのボンテージっぽい戦闘服だ。3人ともそちらのほうが気合が入るらしい。で、シトリー側も駒王学園の制服のようだ。

 

 部長のお父さん、お母さん、ミリキャスさま、アザゼル先生が魔法陣の外から声をかけてくれる。

 

「リアス、一度負けているのだ。勝ちなさい」

 

「次期当主として恥じぬ戦いをしなさい。眷族の皆さんもですよ?」

 

「がんばって、リアス姉さま」

 

「まあ、今回教えられることは教えた。あとは気張れ」

 

 この場にいないのは先にゲーム場に行っているエイジの眷族たちと、サーゼクスさまとグレイフィアさんだ。サーゼクスさまとグレイフィアさんもすでに用心専用の会場へ移動されているようだ。そこには3大勢力のお偉いさんだけでなく、他の勢力からのVIPも招待されているという。先生もこのあとその会場に移動するらしい。

 

 そんだけ注目されてんだ、部長と俺らの試合……。やっぱ有望な若手悪魔って点と、魔王の娘2人が戦うところで注目浴びてんだろうな。

 

 緊張感漂うが、魔法陣は容赦なく輝きだした。

 

 ――ついにゲームが始まる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法陣でジャンプして到着したのは――テーブルだらけの場所だった。

 

 ……どこかの広いレストラン? とか思って周囲を見渡してみれば、どうやら飲食フロアらしく、テーブルの周囲にファストフィードの店が連なっていた。

 

 これも全部専用空間に用意された本物そっくりのレプリカか。悪魔の力は相変わらず凄まじい限りだ。

 

 はて? どこかでこの場所見たことある気が……。店の配置とかも記憶のどこかで一致する。

 

 俺はフロアから少し出て奥を見渡す。そこは――広大なショッピングモールだった。

 

「駒王学園近くのデパートが舞台とは、予想してなかったわ」

 

 部長が言う。

 

 そう、ゲームの舞台は俺たちがよく通うデパートだった! そのとき店内アナウンスが聞こえてくる!

 

『皆さま、このたびはグレモリー家、シトリー家の「レーティングゲーム」の審判役を担うことになりました、ルシファー眷属『女王』のグレイフィアでございます』

 

 ライザーとのゲームのときと名乗りが違うな?

 

『我が主、サーゼクス・ルシファーの名のもと、ご両家の戦いを見守らせていただきます。どうぞ、よろしくお願い致します。さっそくですが、今回のバトルフィールドはリアスさまとソーナさまの通われる学舎「駒王学園」の近隣に存在するデパートをゲームのフィールドとして異空間にご用意いたしました』

 

 ゲーム会場が見知った場所だから、やりやすいとは思うが、それはシトリーも同じだ。あっちもこのデパートには何度も来ているだろうからな。

 

 舞台となっているこのデパートは二階建てだ。高さ的には大したことない。

 

 しかし、1階2階と吹き抜けの長いショッピングモールとなっており、横面積がかなりのものになっている。屋上は駐車場。その他にも立体駐車場も存在している。

 

『両陣営、転移された先が「本陣」でございます。リアスさまの本陣が2階の東側、ソーナさまの「本陣」は1階西側でございます。「兵士」の方は「プロモーション」をする際、相手の「本陣」まで赴いてください』

 

 俺たちと敵の陣地はデパートの端だ。俺たちは2階の一番東側。相手は1階の一番西側だ。俺たちの陣地の周りには、ペットショップ、ゲーセン、飲食フロア、本屋、ドラッグストアが存在している。本陣下の1階には大手古本屋の支店とスポーツ用品店。

 

 相手側にあるのは食材品売り場と、電気屋、ジャンクフード店、雑貨品売り場だ。

 

『今回、特別なルールがございます。陣営には資料が送られていますので、ご確認ください。回復品である「フェニックスの涙」は今回両チームにひとつずつ支給されます。なお、作戦を練る時間は30分です。この時間内での相手との接触は禁じられております。ゲーム開始は30分後に予定しております。それでは作戦時間です』

 

 アナウンス後、すぐに皆で集まる。時間は一分も無駄にできないだろう。

 

「バトルフィールドは駒王学園近くのデパートを模したもの。屋内戦ね」

 

 部長が飲食フロアの壁に描かれた大きなデパート内の案内図を見ながら言った。部長の手元にはチェスのマス目に区切られた専門の図面も存在する。

 

 部長が送られてきたルールの紙に目を通す。

 

「今回のルール、『バトルフィールドとなるデパートを破壊し尽くさないこと』――つまり、ど派手な戦闘をおこなうなって意味ね」

 

 部長は目を細め、このルールをどうしたものかと考えている様子だった。

 

「……なるほど、以前の私や副部長にとっては不利な戦場だったな」

 

「ええ、そうですわね。修行前は効果範囲の大きい殲滅型の攻撃しかできませんでしたから」

 

 ゼノヴィアと朱乃さんが修行の成果が現れると、自身たっぷりにつぶやいた。朱乃さんもゼノヴィアも近距離戦闘できるようになっているんだったな。――って、俺ががんばって修行で覚えたドラゴンショットは使えないのかよ!

 

「シトリー眷属も朱乃とゼノヴィアが広範囲の攻撃から、範囲指定の近距離戦もできるようになったことは想定外のはずよ。裏をかけるわね」

 

 部長が嬉しそうにつぶやく。木場が意見を口にする。

 

「ギャスパーくんの眼は今回効果が望めませんね。店内では隠れる場所が多すぎる。商品もそのまま模されるでしょうし、視線を遮る物が溢れています。闇討ちされる可能性もありますし……困りましたね」

 

 部長は木場の言葉に首を横に振った。

 

「いえ、ギャスパーの眼は最初から使えないわ。エイジのハンデと同じように、こちらに規制が入ったの。『ギャスパー・ヴラディの神器使用を禁ずる』だそうよ。理由は単純明快。まだ完全に使いこなせないからね。眼による暴走でゲームのすべてが台無しになったら困るという判断でしょう。イッセーの血を与えるのも禁止。アザゼル開発の神器封印メガネを装着のことよ。『ギャスパー専用に作ってあるため、体への悪影響なし』――と。本当、用意がいいわね」

 

 ギャスパーの神器はダメってか! そういや、ギャスパーの修行は神器だけ順調じゃなかったって聞いた。いろいろやってはいるけど、ギャスパーの眼はまだまだ時間がかかりそうだ。お外に解放されただけでも良しなのかな。

 

「では、ギャスパーは魔力とヴァンパイアの能力で戦えと?」

 

 俺の問いに部長はうなずく。

 

「そういうことね。もともと時間停止はリスクが大きかったわ。カウンタータイプの存在だでなく、能力を吸収する神器を持つ匙くんが相手側にいるのだもの。どんな返し技をされるかわからないのよ。幻術で封殺。他にも視界を奪う術はある。そんなこと言っていたらゲームや戦闘なんてできやしないのだけれど。細心の注意を払うのは当然ね」

 

 ヴァーリも部長と同じことを言っていたな。眼から発動するとわかっているなら対処もしやすい、と。部長は続ける。あ、ギャスパーがさっそくメガネをかけてるぞ。

 

「……レーティングゲームは、単純にパワーが大きいほうが勝てるわけでもない。バトルフィールド、ルールによって戦局は一変するわ。力が足りなくても知恵しだいで上に上がれる土壌もあるからこそ、ここまで冥界や他の勢力の間で流行ったのよ。今回は私たちにとって不利なルールかもしれないわ。けれど、これをこなせなければこれからのゲームに勝ち残ることなんてできない。『「兵士」でも「王」を取れる』――これはチェスの基本ルールでもあり、レーティングゲームの格言よ。つまり、『やり方しだいでは誰でも勝てる可能性がある』ということを示唆しているわ」

 

 朱乃さんもエイジも部長の意見に賛同し、うなずいた。

 

「そうですわね。実際の戦場でも、このような屋内戦が今後あるかもしれません。そうなった場合、今日この日のように力が完全に発揮できないこともあるでしょうし。いい機会かもしれませんわね。チームバトルの屋内戦に慣れておくのに今回の戦闘は最適ですわ」

 

 頭の良い皆が話し合うなか、俺は恐る恐る手をあげる。

 

「あ、あの、部長。俺、禁手になることやパワーを上げる修行に必死で、力を抑えて戦う練習なんてしてもせんけど……」

 

「わかっているわ。今回、完全に裏目に出たのよ。戦場とルールはランダムで決まるとはいえ、今度のゲームはイッセーにとって最悪に近いかもしれないわ。倍化させたあなたのパワーは絶大よ。ルール上、建物を破壊したらアウト。ドラゴンショットもできるだけ撃たないこと。デパートが倒壊するかもしれないから。格闘戦でなんとか凌いでちょうだいね。……難しいことばかりでゴメンなさい」

 

「……は、はい。って、正直、不安すぎますけど……」

 

 部長はそう言ってくれるけど、同じ広範囲型のパワータイプのゼノヴィアと朱乃さんは範囲を絞ることを習得しているし、部長も近接格闘の修行もしてるから、実質、俺だけなんだよなパワーをコントロールできないの……。

 

 しかも、俺だけが辛い修行を受けていたって思ったら、部長たちのほうが骨が折れたり血を吐いたり、毎回指一本も動けなくなるほどの修行を積んでいたし……。

 

 3大勢力の会議で部長と眷属の仲間を守るって言ったのに、まったく守れてないな……。

 

 そのあとは作戦を話し合い、戦場であるショッピングモールの様子を偵察にそれぞれ動き、細かい戦術まで決めていった。

 

 そして、作戦が始まって半分が過ぎた頃、いちおうプランは固まった。

 

 部長は俺たちを見渡して言う。

 

「ゲーム開始は15分後ね。10分後にここに集合。各自、それまでそれぞれのリラックス方法で待機していてちょうだい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一旦別れて戦闘前のリラックスをしに向かう。

 

 部長と朱乃さんはエイジを連れて飲食フロアの店舗に入って、エイジが給仕役になって3人でお茶を楽しんでいた。そういや、最近、朱乃さんまでキレイになってきてエイジとよく一緒にいるところ見るけど、エイジの奴、朱乃さんにも手を出していないよな? もし出していたら絶交だぜ! 部長だけじゃなくて2大お姉さまを全部手に入れるんだったら、俺と松田、元浜の3人で闇討ちをかけてやる! まあ、負けるだろうけど……。

 

 ギャスパーはドーナッツ店のドーナッツを食べようか食べまいかしている。

 

 アーシアとゼノヴィアはハンバーガー店前であれやこれや話していた。木場は飲食フロアの手前にあるドラックストアで物色中。そっか、薬品とかもまんまコピーみたいだから、何かを持っていこうとしているのかな。

 

 皆、それぞれのリラックス方法で開始前まで過ごそうとしていた。で、俺はとういうと――。

 

 その場をあとにして、飲食フロア近くにある本屋に入っていた。

 

 ぐふふふ。なんとなく、思ったんだよね! モール全部再現ってことはこの本屋も同様だろう! 俺はエッチな本のコーナーに行き、誰もいない店内で1人エロ本をあさる! あったあった! すげえええええ! このエロ本すべてが読み放題! 素敵なバトルフィールドもあったもんだ! あー、どれから見ようかな! すごい量の金銀財宝を見つけたトレジャーハンターってこんな気持ちなのだろうか? よりどりみどり!

 

 これ、全部お持ち帰り可能? 持って帰りたい! アーシアと住んでいるのだから、エロ本なんていらないだろうと悪友2人やクラスの男子は言うかもしれない。

 

 そうじゃない! そうじゃないんだよ! あれはあれ、これはこれ。だってさ、アーシアは俺からしたら妹なんだ! 一緒に添い寝してくれて、兄のように慕ってくれるアーシアに手なんて出したら嫌われそうだし、かといって日々悶々と過ごすのは健康な男子高校生として性欲を持て余す。

 

 こういうのを見て、アーシアとできないことを日々発散するわけですよ。あー、ハーレム野朗のエイジみたいになったら、毎日エッチできるだろうし、こんな本いらないんだろうなぁ。

 

「……イッセー先輩、そろそろ集合です」

 

 俺が大喜びでエロ本を読んでいると、小猫ちゃんがひっこり現れた! うああああああああっ! エロ本読んでいるところ見られたぁぁぁぁっ!

 

「こ、小猫ちゃん! これはその!」

 

 俺はあたふたしながら誤魔化そうとするが、小猫ちゃんは半眼で息を吐くだけだ。

 

「まったく……試合前に何をやっているんですか」

 

「ご、ゴメンなさい! 魔がさしたんです、ゴメンなさい!」

 

 俺は即座にその場で土下座する。

 

 小猫ちゃんは大きく息を吐くと、訊いてきた。

 

「そういえばイッセー先輩って、エイジ先輩と付き合いが長いんですか?」

 

 え? どうしたんだいきなり?

 

「エイジと知り合ったのは高校入学してからだから、友達になってから1年と半分ぐらいだよ」

 

「1年と半年……」

 

「まあ、1年以上友達だったけど、俺ってエイジの何も知らなかったんだよなぁ」

 

 俺の言葉に小猫ちゃんが意外そうな顔になった。

 

「あいつの両親がかなり前に死んでて、実は冥界で賞金稼ぎしていて、実力は魔王クラスで……。……女の子に裏ではすごくモテモテだったり……」

 

 ぐしゃ。おっと、雑誌がボロボロに……。落ち着け、男の嫉妬はみっともないぞぉぉ。

 

「って! マジであいつモテモテなこと隠しやがって! 女の子の知り合いとかたくさんいるくせに、俺らに女の子を紹介しないとはどういう了見だ! いや! いまからでも遅くはないのか!? あいつに頼めばエッチな女の子を紹介してもらえるんじゃないか!? そうだよ! サキュバスの女の子とも知り合いなんだし――」

 

「……イッセー先輩?」

 

「ご、ゴメンなさい!」

 

 怒気を含ませた小猫ちゃんの声に俺は我にかえって、床に頭を擦りつけた! ああ、床が冷たいぜ!

 

 小猫ちゃんは気を取り直して話し始める。

 

「イッセー先輩。なぜエイジ先輩は猫又である姉さまや私を怖がらないんでしょう? なぜ人間ベースの体から、尻尾まで生えた悪魔の体になったのに笑っていられるんでしょうか?」

 

 そ、そんなこと相談されてもなぁ……。

 

「俺も小猫ちゃんのこと、猫又だって教えられても別に怖くなかったけど?」

 

「――え?」

 

 意外そうな小猫ちゃん。

 

「いや、なんで怖いのさ。逆にネコミミ姿がラブリーだったし、怖がる理由なんてないだろ?」

 

「…………」

 

 俺の言葉で小猫ちゃんの顔が困惑という色になった!

 

「……修行が始まる前、イッセー先輩に酷いこと言いました」

 

 あー、俺が気軽に言って、小猫ちゃんが怒ったときのことか。

 

「気にしなくていいよ。俺も悪かった。事情を知らなかったとはいえ、俺は――気の利かない先輩だったよ」

 

「そんなことありません」

 

 小猫ちゃんは決意を固めた表情になる。

 

「私はこれから猫又の力を乗り越えて、仙術を習得して、姉さまにつけてもらった通り名である『冥界猫(ヘルキャット)』の名を冥界に轟かせるつもりです」

 

 宣言するように言う小猫ちゃん! 小猫ちゃんにも目標があったんだ!

 

 俺も顔を上げて小猫ちゃんに宣言する!

 

「俺も小猫ちゃんに宣言する。俺は小猫ちゃんが言ったような力に溺れない、やさしい『赤い龍の帝王』を目指すよ」

 

「イッセー先輩……」

 

 嬉しそうに微笑む小猫ちゃん。――っ! 土下座している俺の視界にある物が映り込んだ! こ、これは――!

 

 俺の視界に映り込んだのは――ピンクと白のシマパンだった!

 

 角度がいいから丸見えで、さっきまでずっとエロ本を読んでいたせいで目が離せない!

 

 いけないと分かっていても、目が離せない! 顔が緩む! 鼻血が出そうになる!

 

「――っ!」

 

 小猫ちゃんがバっとスカートを抑えた! ああっ、桃源郷が……。

 

 って!

 

「……最低です、イッセー先輩」

 

 吐き捨てるようにそれだけ言うと立ち去っていく小猫ちゃん!

 

「エッチでゴメンなさいぃぃぃぃぃ!」

 

 仕方ないんだ! 俺の近くにリアルハーレム野朗のエイジとイケメン木場がいるから仕方がないんだよぉぉぉぉ!

 

 お山での修行で女っ気がなかった所為で性欲が溜まってるんだよぉぉぉぉ!

 

「……やらしい赤龍帝です、やっぱり」

 

 小声でつぶやいたみたいだったけど、聞こえてるよ小猫ちゃぁぁん! 待ってぇぇぇ、おいていかないでぇぇぇぇ! エイジのことはもういいんですかぁぁぁぁ!

 



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第50話 VSシトリー眷属 前半戦

 

<イッセー>

 

 

 ――定刻だ。

 

 俺たちはフロアに集まり、開始の時間を待っていた。

 

 そして、店内アナウンスが流れる。

 

『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は3時間の短期決戦形式を採用しております。それでは、ゲームスタートです』

 

 ゲームスタート!

 

 って、ブリッツ!? 短時間で決めろってか! こういうこともある! だから今回割きに作戦時間を設けたわけね。ルールってその都度に変わるってことでいいのかな。レーティングゲームは奥が深いぜ。部長が椅子から立ち上がり、気合の入った表情で言う。

 

「指示はさっきの作戦通りよ。イッセーと小猫、祐斗とゼノヴィアで二手に分かれるわ。イッセーたちが店内からの進行。祐斗たちは立体駐車場を経由して進行。ギャスパーは複数のコウモリに変化して店内の監視と報告。進行具合によって、私と朱乃とアーシアがイッセー側のルートを通って進むわ。エイジはその私たちの護衛よ」

 

 部長の指示を聞き、全員が通信用のイヤホンマイクを取り付ける。

 

「さて、かわいい私の下僕悪魔たち! もう負けは見せられないわ! 今度こそ、私たちが勝つッ!」

 

『はいッ!』

 

 全員、気合が入っていた。当然だ! もうあんな敗北はいらない! 俺たちは勝つんだ! 絶対に!

 

「では、ゼノヴィア、行くよ」

 

「ああ、木場」

 

 先に動いたのは木場とゼノヴィア。フロアを飛びだし、立体駐車場に繋がる道へ向かった。駐車場に偵察に行った木場の話では駐車場に車は存在していたという。しかし、ただの作り物だったみたいだ。

 

 さて、木場たちが行ったあとは俺たちだ。

 

「小猫ちゃん、行こうか」

 

「……はい」

 

 俺と小猫ちゃんもその場をあとにして進みだす。小猫ちゃんはこの戦闘から仙術を使うらしいけど……。さっきのは俺が悪かったから機嫌直してぇぇぇぇ!

 

 ま、まあ、いまはそれはおいておこう。それよりもゲームだ。

 

「イッセー、よろしくね」

 

「イッセーさん! がんばってください! 負けないで!」

 

「うふふ、がんばってくださいね」

 

 部長もアーシアも朱乃さんもチョー期待してくれてる! うおおおおっ! 良いところ見せないとな! エイジも声をかけてくれたけど、久々の女の子の応援で聞こえなかった!

 

 俺と小猫ちゃんは走るわけでもなく、歩くわけでもない、微妙な歩幅で進んでいた。

 

 店内は響きからさ。走ると相手に距離を測られそうなんだ。しかも店内は横に長い一直線のショッピングモール。物陰に隠れながら進むしかない。

 

 まあ、大きなデパートといっても端から端まで歩いても10分もかからないだろう。それを注意しながら動いていく。

 

 あるところまで進んで、自動販売機の陰に隠れて俺たちは前方の様子をうかがっていた。

 

 ……うーん。見える範囲では敵なし。すでに開始してから5分ぐらい経つが警戒しながら動いているせいか、4分の1程度しか進んでなかった。

 

 俺たちは戦いを回避しているように見えて、実は陽動だったりする。

 

 と、隣で小猫ちゃんが――ネコミミを頭に生やしていた!

 

 そのネコミミがぴこぴこと動く! さらに尻尾まで生やして殺人的なかわいさだッ! おかしい。俺がこんなに興奮するなんて!? ロリ属性はなくて獣ロリ属性はあるっていうのか!? 小猫ちゃんは猫又モードで必殺のかわいらしさだッ!

 

 小猫ちゃんは遥か先に指さして言う。

 

「……動いています。真っ直ぐ向かってきている者が2人」

 

「わかるのかい?」

 

「……はい、現在、仙術の一部を解放していますから、気の流れでそこそこ把握できます。さすがに姉さまみたいに詳細まではわかりませんが……」

 

 なるほど。しかし、このネコミミがセンサーになっているのかな? すごい便利じゃないか。

 

 これが周囲全体の気を読むという仙術! 思えばニオイで何が起きたかある程度分かっていたのも猫又だったからか。猫だから人間ベースの悪魔よりも鼻が利いていたんだな。

 

「……あとどのぐらいでこちら方面に進む奴らと出会う?」

 

「……このままのペースなら10分以内です」

 

 ――10分か。

 

 覚悟を決めておいたほうがいいな。神器は通常で使うか? それとも禁手か? 迷うところだが、まだ相手がどんな能力者かわかったわけじゃない。

 

 俺は――素じゃ体力自慢がいいところだ。魔力はてんでない。神器で引き上げたところですぐにガス欠。……強力なパワーがあっても使いどころを間違えれば即負ける!

 

 ……俺は常に危うい状態なんだ。それだけは肝に銘じておかないと。

 

 小猫ちゃんが俺のことを意外そうに見つめていた。え?

 

「な、なに?」

 

「……いえ。イッセー先輩って、いざというときになると戦士の顔になりますね。普段はいやらしい顔つきなのに……」

 

 ……マジで? 俺ってそんなに普段から、やらしい顔つきでしたか? ま、まあ、普段からエロ妄想しているからなぁ……。

 

 俺が自分の顔を手でまさぐっているそのときだった――。

 

「――ッ!」

 

 小猫ちゃんが突然、前方の天井を見上げた。

 

「……上っ!」

 

 なんだなんだ? 驚愕する小猫ちゃんの視線を追うと――。

 

 天井へ一直線に伸びるロープ――否、ライン! ターザンみたいなロープ使いで天井から降ってきたのは――。

 

「――兵藤か! まずは一撃ッ!」

 

 匙だった! 膝蹴りの体勢のまま俺目掛けて攻撃を仕掛けてくる! しかも匙の背中に誰か乗ってやがるぞ!

 

 俺は素早く籠手を盾にしてガードした!

 

 ドゴンッ!

 

 落下の勢い+蹴り+2人分の体重で俺の籠手を通して衝撃が体に伝わってくる!

 

 一撃くらった勢いで体勢がぐらつくが、なんとか持ち直し、俺は前方の――敵に向かってかまえた。

 

「よー、兵藤」

 

 現れたのは匙。その隣には匙の背中に乗っていた――少女。生徒会のメンバーか。確か一年生だったな。よく匙のうしろについて共に行動していた。

 

 匙の右腕は――黒い蛇が何匹もとぐろを巻いている状態だった。以前とは形がまったく違う! 前はデフォルメなトカゲの頭部がくっついているだけだった。神器が変化したのか!? ……つーか、俺の籠手に黒い蛇が巻きつかれており、匙の神器と繋がっていた。さっき一発もらったときに繋がれたのか!

 

 右腕にもラインが繋がっているのが……こちらは匙の神器と繋がっていない。遥か先のどこかと繋がっているようだ。相手本陣までこちらのラインは繋がっているのか?

 

 不気味だけど、力を吸われている感じはない。

 

 俺が匙の神器に視線を送っているとあちらも気づいたのか、苦笑しながら言う。

 

「まあ、俺も修行したってことさ。おかげでこれだ。で、天井から店内の様子を見ようとラインを天井に引っ付けて上がってみたら、遠くの物陰に隠れてる2人が見えたんだ。気づいてないし、チャンスとばかりにターザンごっこで奇襲さ」

 

 なるほどね。そう来たか。ああ、なんとなくわかっていたよ。

 

 もし、最初に出会うとしたら、おまえだって。なんとなくわかっていた。

 

 おまえもそう思っていたんじゃないか? なあ、匙。

 

 俺たち似てる。何から何まで似てた。スケベなこと、主に一途なこと、バカなこと、真っ直ぐしか突っ込めないこと。

 

 似すぎだった。だから、すぐにわかっちまったよ。俺とおまえは今日戦うって。

 

「こっちも修行したんだぜ。夏休みの大半をドラゴンと追いかけっこに費やしてな!」

 

 悪いな、匙。俺はおまえを倒して先に進むぜ。今日勝つことが一番大事なんだ。

 

 前回ゲームに負けたのは俺のせいだったし、俺はヴァーリに近づかないといけない。あいつはいつか俺を狙ってくる。そのとき、部長やアーシアたちに危害を加えるかもしれないんだ。

 

 それを防ぐためにも俺は強くなる!こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだよッ!

 

 そう、気合を入れたときだった。俺と小猫ちゃんの耳に信じられないアナウンスが届く。

 

『リアス・グレモリーさまの「僧侶」1名、リタイヤ』

 

 ――ッ! なんだと!? どっちだ!? まだ開始して間もないんだぞ!? アーシアは部長と――。匙がにやける。

 

「やられたのはおそらくギャスパーくんだよ」

 

 ……やられたのはギャスパー? 何があった? 早すぎるだろう? 監視のためにコウモリに化けて店内を動き回っていたんじゃないのか?

 

「ギャスパーくんは引っかかったんだ」

 

 怪訝に思う俺へ匙は続ける。

 

「ルール上、ギャスパーくんの神器は封じられていることはこちらにも連絡があった。そうなると、必然的に使ってくる能力はヴァンパイアの力。コウモリに変化して店内の様子をうかがうだろうってさ。で、会長が思いついたのさ。俺らは本陣を活用しようってな」

 

 本陣? 食材品売り場だよな、あちらは。匙はさらに続ける。

 

「まずはシトリー本陣で一部の眷属が不審な動きをする。すると、監視きたギャスパーくんは気になって追うだろう? さらに不信な行動を見せれば、他に飛ばしていたコウモリも呼び寄せて複数で監視を始める。多くのコウモリが集まればこちらのもんだ。コウモリが多く集まれば何かあったとき、それが本体へ化ける。近くまでコウモリを集合させたところで――吸血鬼の苦手なニンニクだ。俺たちの本陣は1階西側の食材品売り場。ニンニクなら大量に置いてある。ギャスパーくんを捕らえるなんて容易(たやす)いってことだよ」

 

 ニンニクの臭いでやられたところを捕獲して撃破されたってことか! そんな! こんなやられ方あるのかよ!

 

「シンプルだろう? んでもって、これ以上ないほどの倒し方だ。いくら修行をしたっていってもニンニク克服まで視野に入れていないだろうって会長が言っていたんだよ。本陣の位置からできた偶然の発想だったけど、それでも撃破は撃破だ」

 

 ……盲点だったとでも言うのか? いや、いくら効果的だとしてもニンニクぐらい我慢しろよ、ギャスパァァァァァァァァアアッ! 初っぱなからギャグ張ってどうするよ!

 

 ギャー助! あとでニンニク克服練習だ! 主食もガーリックライスかガーリックトーストに変えてもらうからな! 監視もろくにせずに戦線離脱とかあり得ん!

 

『相棒、倍加は危険だ。奴の神器と繋がっている以上、倍加すればその分の力をあちらに取られる』

 

 ――ッ! そうか、匙の神器は繋がった先のエネルギーを吸う能力。いま、俺の神器とあちらの神器が繋がっている以上、倍加は危険ってことか!

 

『それに、いま神器は動かん』

 

 …………………。

 

 え、ええええええええええええええええええええええええええええっ!?

 

 なっ!? どういうこったよ、ドライグ! なんでこんな肝心なときに!

 

『神器が曖昧な状態になっているのだ』

 

 曖昧って! ブーステッド・ギアを見ると、籠手の宝玉も光が灯っていない! 薄黒くなっていた!

 

『あの修行で、次の分岐点に立ったのだ。あと一押しで神器が変わると思うのだが、その変化が通常のパワーアップか、禁手かはわからない』

 

 つまり、俺の神器は分岐点の手前で止まっていて、普通のパワーアップか禁手かで迷っているってことか?

 

『簡単に言うならその通りだ。選択肢が増えている状態で、どちらに進んでいいものかブーステッド・ギアのシステム自体が混乱しているのだ』

 

 普通のパワーアップと禁手どっちでもいけるってことか?

 

『ああ、普通のパワーアップならば気合一閃で果たせるかもしてないが、禁手は劇的な変化がおまえのなかで生まれなければ至れない。ただ、これだけは覚えておけ。いまのおまえには禁手に至れるチャンスが到来している。あとはおまえしだいだ』

 

 そんなことを言われてもですね! どうしたものか……。いきなり、劇的な変化って言われてもわからんって! 何をどうすれば禁手ですか!? そもそも、なんでこんな大事なときに!?

 

『それと、通常のパワーアップを選んでも神器にあちらの神器が繋がっている状態ではあまり意味はないだろう。禁手に至れれば、至ったときの衝撃の余波で吹き飛ばせるだろうが……』

 

 クソ! なんてこった! いきなり大ピンチじゃねぇか!

 

 俺は距離を取るため、その場から一旦引こうとするが――グンッとラインに引っ張られて体勢を崩す! やっぱり匙の神器は厄介だ!

 

「逃がすかよ、兵藤!」

 

 そのまま一気に間を詰められ――ドンッ! 腹部に蹴りを食らう!

 

 ガハッ! 俺は匙の蹴りを上体を崩す。だが、すんでで腹筋に力を入れて最悪のダメージは回避した。へへへ、基本トレーニングもちゃんとこなしたからな。腹筋には自信があるぜ!

 

「へぇ、結構マジで蹴ったんだけどな。おまえもハンパじゃないトレーニング積んだようだな」

 

 匙も思ったほどのダメージを与えられずに苦笑していた。

 

 逃げるのは無理か! なら、正面からぶつかる!

 

 俺は匙から距離を取ることを諦め、一気に向かう! 生身での殴り合いはそこまで得意じゃないが、基本的なトレーニングは積んでいる! 格闘するだけの体は作ってあるんだ! あとは己の身体を信じる!

 

 拳を握り、匙へ殴りかかろうとするが――。匙は右腕からラインを俺へ放つ! 俺の力を吸うつもりか!? 警戒する俺だが、ラインは俺を通り過ぎて、ある店舗のライトへ張りついた。

 

仁村(にむら)! さっき店で取ってきたグラサンだ!」

 

 匙と匙の後輩が懐からサングラスを取り出して、装着した! 何を――っ。疑問に思うおれだが、すぐに意味を理解する。

 

 カッ!

 

 証明がまばゆい光を発し、俺と小猫ちゃんの視界を焼く! クソ! 目つぶし!

 

『やられたな。ライトにラインを繋いで魔力を送ることで一瞬だけ光を弾けさせた』

 

 冷静に解説するな、ドライグ! ダメだ! 目が開かな――。

 

 ドゴンッ!

 

「ぐはっ!」

 

 再び腹部に衝撃が襲う! 今度は腹筋をしめなかったせいか、もろに食らった! さらにくの字に体を曲げた俺の背中に匙の一撃が加わる!

 

 いってぇぇぇぇっ! 痛みがこみ上げてくるなか、俺のあごを――。

 

 バガンッ!

 

 匙のアッパーらしきものが鋭く射抜いていった!

 

 あまりの衝撃に、俺は床に突っ伏した。

 

 ……くっ……。やられた。完全に初手を取られた……。しかも、かなりのダメージだ。

 

 あごをやられた衝撃で歯がガタガタいっている。口のなかもそのとき切った。血の味が口内に広がる。目が回復してきた――。突っ伏したまま、顔を上げると……。

 

 こちらへ手を向け、魔力の弾を放とうとしている匙の姿がっ! 一気にトドメをさす気かよ! 俺は急いで立ち上がり、横に転がった!

 

 ドンッ!

 

 放たれた魔力の一撃で床に大きな穴が開く! なんて威力! 完全にトドメ用じゃねぇかよ! 危ない! 何もできずに退場するところだった。俺もギャスパーのこと言えないぜ!

 

「……やるじゃなぇかよ、匙」

 

「兵藤。俺は本気だよ。俺は本気で赤龍帝と呼ばれるおまえを倒す」

 

 ――っ。匙の瞳は決意に満ちていた。凄まじいまでの本気がうかがえる。

 

 さらに匙は手を向け、魔力の一撃を放とうとしていた。

 

 ドンッ!

 

 再び放たれる高出量の魔力の塊! 大きさは大したことはない。おそらく、建物をできるだけ壊すなというルールに従っているのだろう。

 

 だが、俺ぐらいの相手を倒すには十分な威力の一撃だ!

 

 俺が避けた先に会った店舗が魔力の一発で破壊される。

 

 しかし、これだけの一撃、匙はどうやって生み出している? あいつも俺ほどじゃないが、魔力が低いと聞いた。なのにこの威力を生み出す要因はなんだ?

 

 俺はそのとき我が目を見開いた。匙の神器は自身の胸部――心臓に向かって伸びていたからだ。

 

 ――この一撃の源流は、匙の命かッ!?

 

「匙! おまえ! おまえは自分の命を……魔力に変換してやがるのかッ!?」

 

「そうだ。魔力の低い俺が高威力の一撃を撃ちだすにはこれしかなかった。神器の力を命に変換する。見ての通りだよ。『命がけ』ってやつだ」

 

「本当に死ぬ気か……ッ!」

 

 匙は――真剣な眼差しで笑んでいた。

 

「ああ、死ぬ気だよ。死ぬ気でおまえらを倒すつもりだ。――おまえに夢をバカにされた俺たちの悔しさがわかるか? 夢を信じる俺たちの必死さがわかるか? この戦いは冥界全土に放送されている。俺たちをバカにしてた奴らの目の前でシトリー眷属の本気を見せなきゃいけない!」

 

 ふと、俺はその光景に見覚えがあった。

 

 ――そう、これは俺がライザーとのゲームで部長を助けに行ったときとそっくりだ。

 

 自分の命なんて顧みず、ただただ部長を救うことだけに拳を注いだ。体が疲労とダメージで苦しくて辛かったけど、必死にライザーに食い下がった俺の情景と重なった――。

 

 匙、おまえはあのときの俺と同じってわけか。

 

 そのあとも俺と匙は避けたり、詰め寄ったりの激闘を繰り広げていたが、その横では小猫ちゃんが匙の後輩と攻防を始めていた。

 

 そこにアナウンスが聞こえてくる。

 

『ソーナ・シトリーさまの「騎士」1名、リタイヤ』

 

 ――っ。木場とゼノヴィアのどちらかだな。よくやったじゃねぇか!

 

 だがいまは戦闘中! 喜ぶのはあとだ!

 

 小猫ちゃんは格闘に秀でていることは知っていたが、その格闘の腕前も数段上がっているように感じる!

 

 って小猫ちゃん、マジで強くなってる! 匙の後輩の女の子ガードをかいくぐると、拳に薄い白色のオーラをまとわせ、相手の胸に両手を当てる!

 

双 纏 手(そうてんしゅ)!」

 

 ドゴンッ!

 

 両手から衝撃波のようなものが飛びだし、まともに攻撃をくらった匙の後輩の女の子はズザサササァァァっと5メートル近く吹き飛んだ!

 

「……気をまとった拳であなたに打ち込みました。同時にあなたの体内に流れる気脈にもダメージを与えたため、もう魔力を練ることはできません。さらに言うなら内部にもダメージは通ってます。……もうあなたは動けません」

 

 小猫ちゃんがそう言う!

 

 先生が言っていた。

 

『小猫の仙術と格闘を混ぜた本来の戦い方は確実に武器となる。相手の肉体だけでなく、体内を巡る気脈にまでダメージを与える一撃は敵のオーラを根本から折る。だが、力に呑み込まれそうになったら、すぐに使うのをやめなければならない。仙術は気を読めるようになり、扱えるようにもなるが、世界に漂う邪気や悪意まで吸い込んでしまうからな。小猫の姉が昔力に飲まれたのは邪気を吸いすぎたせいだ』

 

 これが小猫ちゃんの拳打! 気のこもった一撃を相手に打ちだす。外的ダメージはもちろんだが、メインの破壊力は――体の内側へのダメージ! 拳に込められた気が相手の内側に通り、内臓やらにダメージを与える!

 

 拳のダメージだけでも凄まじいのに、内部も破壊する拳!

 

 …………。まあ、さっきの必殺技みたいのだけで十分倒せそうだけど……。

 

 エイジを除けば、俺たちのなかで一番効果的な攻撃をする眷族かもしれないな。

 

 匙の後輩はぴくりとも動けず、体が光り輝き、この場から消えていなくなる。深刻なダメージを負ったため、リアタイヤとして転送されたのだろう。

 

『ソーナ・シトリーさまの「兵士」1名、リタイヤ』

 

 アナウンスも聞こえてくる。これでグレモリーチーム1名、シトリーのチーム1名が欠いたことになる。

 

「私はお姉さまよりも強い冥 界 猫 (ヘル・キャット)になるんです。負けません!」

 

 さて、小猫ちゃんが格好よく決めてくれたんだ、俺も先輩として気張らないとな!

 

 しかし、匙の魔力の弾を避けるだけでも俺は苦戦していた。体をかすめるだけでもかなりのダメージを受ける。あの魔力にこめられたものは相当な代物だ。文字通、魂がこもってやがる!

 

「ハァハァ……ハァハァ……」

 

 だが、魔力を撃ち続ける匙の疲弊ぶりもかなり酷い。あれじゃ、()たないぞ!

 

「……イッセー先輩、加勢します」

 

 小猫ちゃんが間に入ろうとする。

 

「ダメだ、小猫ちゃん。匙とサシでやらせてくれ」

 

 俺がそれを拒否すると、小猫ちゃんは首を横に振る。

 

「ダメです。これはチーム戦。協力しましょう」

 

「ああ、小猫ちゃんの言うことはもっともだ。けどな、小猫ちゃん。匙は、あいつは俺と戦っている間、小猫ちゃんに直接的な攻撃は加えてこなかった。その気になれば、ラインを小猫ちゃんに飛ばして力を吸うこともできたはずだ。それでもそうしなかったのはなぜだと思う?」

 

 俺の問いに小猫ちゃんは、

 

「私にラインを繋げても、仙術で逆に私がそのラインを通して毒を吸わされるかもしれないからですか?」

 

「え?」

 

「そうなの?」

 

「え? 違うんですか?」

 

「「……………」」

 

 俺と匙の動きが止まった。小猫ちゃんは俺たちの様子に少し驚きながら、俺の問いの回答を言い始めた。

 

「わ、私が匙先輩を警戒しながら戦っていたと気づいていたから……」

 

「…………」

 

 匙は何も言わない。……いや、言えないんだ……。こ、ここは俺が!

 

「違うよ、小猫ちゃん!」

 

「ああ、違う!」

 

 匙も持ち直した! 匙がにんまり笑いながら答える!

 

「悪いな、塔城(とうじょう)小猫ちゃん。俺はタイマンで兵藤に、赤龍帝に勝ちたいんだ。言ったろ? 俺たちの夢は本気だ。学校を建てる。差別のない学校を冥界につくる、そして俺は先生になるんだ……。俺の夢……。この戦いは冥界全土に放送だ。だからこそ意義がある。『兵士』の俺が! 同じ『兵士』である赤龍帝・兵藤一誠に勝つことがよッッ! 俺は赤龍帝に勝つ! 勝って堂々と言ってやる! 俺は先生になるんだッ!」

 

 匙は本気だった。その眼差しは強く、一切曇りも陰りもない。

 

 俺も小猫ちゃんに言う。

 

「てなわけだ。こいつの挑戦から逃げたらさ、俺、格好悪いじゃん? やらないと――。だから、やらないといけないんだ。ダチだからさ、こいつを本気で倒してやらないとしょうがないんだよ。やってやらねぇとよっ! 俺が部長に顔向けできねぇんだよッ!」

 

 そう、俺たちは似てる。どこからどこまで似てた。――不器用でバカなんだよな。

 

 小猫ちゃんはそれを聞き、拳を収め、距離を取る。

 

「「ありがとう」」

 

 俺と匙は同時に小猫ちゃんへ礼を言った。

 

 でも、どうして匙は神器だけじゃなく俺のほうにもラインを投げて力を吸わないんだ?

 

『おまえの力を吸っている間に神器の倍加能力を復活させられて、同時に流れ込んでくるのを防ぎたいのだろう。おまえの力とブーステッド・ギアの力を同時に吸ったら、体が耐えられずに自爆すると認識しているのだろうな。――まあ、神器がまともに動かないいまではあまり意味がないが』

 

 複雑な神器ですこと! って俺の神器がまともに動かないことを気づかれたらヤバイんじゃないか?

 

『ああ、体にラインを繋げられて、一気に力を吸われるだろうな』

 

 マジで大ピンチ!

 

「――埒があかねぇや」

 

 嘆息する匙の手元にいままでにない質量の魔力が集まりだす! なんて大きさだ! この辺一帯に影響出るぞ!

 

 と感じていたら、その魔力が圧縮されていくかのように萎んでいく。そして、匙の手元に生まれたのはソフトボール大ほどの魔力の弾だった。

 

「これで周囲に影響出さず、お前の体だけを完全に破壊できる」

 

 それを作りだした匙は――もう肩で息していた。渾身の一撃。それを生みだしたんだ。

 

 あれで俺を仕留める気だ。匙は小さく笑う。

 

「俺はおまえがうらやましかったんだ。主である先輩の自慢。赤龍帝。誰もがおまえを知っている。けど、俺はおまえと同時期に『兵士』になったのに何もねえ。何もねえんだよッ! だから、自慢を、自身を手に入れるんだ。赤龍帝のおまえをぶっ倒してよッッ!」

 

 匙の方向。知らなかった。こいつがそんな風に俺を見ていただなんて……。

 

 でも俺は――おまえの夢を乗り越える! 俺には俺の、部長には部長の夢がある! それをかなえるために必死こいてんだよな、お互い!

 

 ドゥンッ!

 

 匙がついに渾身の一撃を撃ちだした! 俺は避けようとするが――。

 

 匙はブーステッド・ギアに繋いでいた自分側のラインを話しん、俺の足元に飛ばした!

 

 ブーステッド・ギアと足元の床がラインで繋がっちまった! 俺が引っ張ろうとするが、ラインは強固なまで硬く、ブーステッド・ギアを床から放してくれない!

 

 マズい! これじゃ、迫ってくる魔力の弾を避けられないッ!

 

 俺も覚悟を決めるしかないか! 魔力の塊が俺を襲う!

 

 ドォオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 受けた瞬間、魔力の一部が弾け、周囲にオーラが広がっていく!

 

 その瞬間だった。

 

『Divide!』

 

 俺の右腕に白い籠手が出現し、匙の一撃を受け止めいていた。――よかった。こっちは動いてくれたか。

 

 ……でも半分、ダメージをくらった。だけど、白龍皇の力で半分は消滅させたぜ。こちらの体ももう保たないけどな……。だが、もうダメージは受けないさ!

 

「――ッ! 俺の魔力弾を半減したのか?」

 

 驚愕する匙。

 

「いちおうな、山ごもりで発動できるようになっていたんだよ。ただし、いくつか条件があってよ。ひとつ、発動する確立は一割以下。これは博打に近い。ふたつ。これがまた覚悟がいるんだよな。――俺の生命力だ。発動の成功、失敗にかかわらず使おうとすると俺の生命力を削る。こんなに怖い賭けもないだろう?」

 

 賭けは成功した。だが、俺の生命力は削られただろう。役目を終えたのか、白い籠手はすぐさま右腕から消え去る。まだまだ使いこなせないどころか、具現化もままらない。

 

「俺も命をかけさせてもらうぜ。こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ!」

 

 殴り合いの戦いに使う気はなかったが、赤龍帝の籠手に収納していたアスカロンを取りだす! 現在の不安定な神器だけどアスカロンを取り出すことぐらいはできる!

 

 バキンッ!

 

 俺を床に縛りつけていたラインが切れた!

 

「なっ!?」

 

 驚愕する匙。

 

 以前禁手化したときに使用したときより一段と使いこなせないが、匙の神器に宿るのは龍の力!

 

 そのまま右腕に繋がっているラインも切ろうとするが、匙が間を詰めてきて――ドンッ! ブーステッド・ギアに蹴りをくらわせてきた!

 

 右腕のラインから狙いが逸れる! だが、籠手に蹴りが入ったのでそこまでダメージはない!

 

 匙は俺の右腕に繋げたラインを引きながら言う。

 

「それが龍殺しの聖剣アスカロンか。俺の龍の力を宿した神器にとっては最悪だな。だが、おまえが剣を使えないのは調査済みだ」

 

 匙が冷静に言ってくる。ちっ、そこまで調査されてんのかよ!

 

「だがブーステッド・ギアに収納した状態なら扱える! オーラと威力は弱くなるけど、俺はもともと剣は使わねえ! この拳でおまえを倒してやる!」

 

 俺はブーステッド・ギアにアスカロンを収納し、そのまま匙へ向けて拳を突きだした!

 

 匙もかまえをとった! 拳を俺のほうへ向けてくる!

 

「こい、兵藤ッ!」

 

 負けないぞ、匙ッ!

 



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第51話 VSシトリー眷属 中盤戦

 

<木場>

 

 

 ゲームが開始してから数分。僕――木場祐斗とゼノヴィアは立体駐車場に入っていた。

 

 薄暗い駐車場を警戒しながら進んでいく。お互い、任務で密偵が多いせいか、この手の進行は得意だ。

 

 僕が先に進み、物影から見定めてから、ゼノヴィアを呼んで進む。これを何度も繰り返して、徐々に駐車場のなかを進んでいった。

 

 2階の駐車場から、専用の通路を降りて、一階に行く作戦だ。エレベーターも機能しているが、乗っている間に襲撃されるのは怖い。

 

 一番確実な方法で進むしかないだろう。

 

 2階から通路を進んで、1階の駐車場へ足を踏み入れたときだった。

 

 ――前方に人影。

 

 見れば、メガネをかけた黒髪長髪の女性が1人――。

 

 知っている。会長の『女王』、「生徒会副会長」真羅(しんら)椿姫(つばき)先輩。手に持つのは長刀(なぎなた)だ。

 

 そう、彼女は長刀の使い手と聞く。かなりの有段者とも。

 

「ごきげんよう、木場祐斗くん、ゼノヴィアさん。ここへ来るとはわかっていました」

 

 淡々と話す真羅先輩。その横から2人――。長身の女生徒と日本刀を携えた細身の女性。長身の女性が由良(ゆら)さん。『戦車』だ。日本刀を持つ女性が巡りさん。『騎士』だ。

 

 由良さんは体術に秀でており、巡りさんは悪霊退治を生業としていた一族の出。

 

 なるほど、立体駐車場に3名を配置したか、ソーナ会長。いい読みです。こちらを手堅くしましたか……。僕たちが攻撃の本命だと読まれていたのだろう。

 

 僕は手元に聖魔剣を創りだす。ゼノヴィアも空間から剣を取りだした。

 

「それがエイジくんに創ってもらった剣かい?」

 

 そう。ゼノヴィアの手には聖剣デュランダルではない剣が握られていた。

 

 僕の問いにゼノヴィアはうっとりと剣を胸に抱いた。

 

「ああ、そうだ。これがエイジが私のためだけに創りだしてくれた龍殺しの剣。真・リュウノアギトだ」

 

 真・リュウノアギト――名前の通り本当に龍の骨……そう、龍のアギトを加工して制作されたもののようで、イッセーくんが持っている龍殺しの聖剣アスカロンと同等レベルのオーラだ。

 

「だけど、そんな大剣をまともに振れるのかい? 『戦車』といっても見た限りじゃ振り回すこともかなりキツイ気がするんだけど」

 

 僕の問いにゼノヴィアは得意げな笑みを見せる。

 

「無論だ。この剣は特殊でな。製作者であるエイジと使い手である私にはこの剣の重さはそこらの剣と一緒なんだ。だが私たちでないモノなら――」

 

 ゴォウッ!

 

 ――っ! 空気が裂ける音! その音でかなりの重量を有していることがうかがえる!

 

「この剣の本来の重さに加え、私の魔力強化しだいで最大300kgまで重くした超重量の剣戟を味わうことになるだろう」

 

 なんて剣なんだ! こんな剣を創りだせるなんて、やっぱりすごいなエイジくんは!

 

『リアス・グレモリーさまの「僧侶」1名、リタイヤ』

 

 ――っ! アナウンスから聞こえてきたのは仲間の敗北だった。アーシアさんとは考えにくい。方法はわからないが、ギャスパーくんがやられたか。

 

「冷静ですね」

 

 真羅先輩がそう口にする。

 

「ええ、こういうのに慣れておかないと身が保ちませんから」

 

 僕はいたって冷静に返した。心中でははらわたが煮えくり返っている。仲間をやられた悔しさは僕だって持っているからね。

 

 ギャスパーくん。おそらく、力を発揮できずにやられたのだろう。僕がキミの分まで力を振るおう。

 

「まったく、あいつは体の鍛えが足りないから」

 

 横でゼノヴィアも嘆息していた。彼女も冷静――だと思っていたんだが、その目は座っていた。

 

「だが、かわいい後輩をやられたのでね。仇は討たせてもらうよ」

 

 彼女から凄まじいまでのプレッシャーが放たれる。味方である僕にもピリピリ伝わってくるよ。意外に彼女も身内に甘い。ああ見えてもギャスパーくんをかわいがっていた。彼の敗北の報せは彼女にとって。許し難いものだろう。

 

 お互いに獲物をかまえ。じりじりと間合いを詰めながら――飛びだした!

 

 ギィィイイイィィンッ!

 

 僕と真羅先輩の剣が交える。その勢いに剣から火花が散り、激しい金属音を奏でた。

 

 バギンッ!

 

 隣で剣同士のモノではない音が聞こえた。見ればゼノヴィアの剣の一撃で巡さんが吹き飛んでいた!

 

 しかも巡さんの剣も無残に破壊され、巡りさん自身も重傷を負ったようで、光になって消えていた!

 

『ソーナ・シトリーさまの「騎士」1名、リタイヤ』

 

 アナウンスが巡さんの敗北を伝えた! おそらくゼノヴィアの大剣を剣で受け止めたのだろう。普通の大剣だったら耐え切れたかもしれないし、力を受け流せたかもしれない。だけど、ゼノヴィアの大剣は普通じゃない。重量+剣を振るスピードでとんでもない威力が生まれているんだ。あれを受け流すことなど並みの悪魔にはできないだろう。僕でさえも無理だと思う。

 

「なっ!」

 

「そんな!?」

 

 驚愕する真羅先輩と由良さん。

 

 そこに再びアナウンスが鳴り響く。

 

『ソーナ・シトリーさまの「兵士」1名、リタイヤ』

 

 おそらくイッセーくんと小猫ちゃんだな。

 

「次はおまえだ!」

 

 そのまま由良さんに切りかかるゼノヴィア。

 

 ゴォウッ! ゴォォウッ! ゴォォォウッ!

 

 …………もう、剣を振っている音じゃないよ……。

 

「きゃああああああああああっ!」

 

 まるで台風のような剣戟に巡さんは逃げるだけで精一杯だ! まるで反撃を許さない剣戟! 相手の逃げ場を奪い、追い詰める剣戟!

 

「……マズイですね」

 

 真羅先輩がつぶやいた。――っ。真羅先輩は僕から距離を取ろうとする。逃がすか!

 

 僕の速さの剣戟! 聖魔剣を振りかぶり居合い切りのように一瞬で間合いを詰めて叩き切る!

 

 僕が居合い切りのモーションから飛び出した――その瞬間だった。

 

「――神器、『追憶の鏡(ミラー・アリス)』」

 

 真羅先輩の前に装飾された巨大な鏡が出現する!

 

 ――っ! ダメだ! もう止められないっ!

 

 僕の剣がその鏡を切り裂く。

 

 ズォオオンッ!

 

「――ッ!?」

 

 割れた鏡から波動が生まれ、僕を襲う!

 

 僕の体から鮮血が噴きだす!

 

「この鏡は破壊されたとき、衝撃を倍にして相手に返します。――私はカウンター使いです。本来パワータイプのゼノヴィアさんの攻撃でカウンターを取りたかったですが。仕方がありません」

 

 冷笑を浮べる真羅先輩。――っ。確かにスピードタイプの僕よりゼノヴィアのあの凄まじい攻撃を倍にしたほうが効果はあるな。

 

「がはっ!」

 

 僕は剣を床に突き刺し、倒れるのを何とか防いだ。それにしてもかなりのダメージをくらった……。

 

 ――やられた! 聞いていた能力とは違う。変化と成長を遂げ新たな能力を得たか!

 

「だいじょうぶか、木場!」

 

 ゼノヴィアが大声で聞いてくる。ハッキリいってマズイ。僕は元々防御力は低い。かなりダメージで素早い動きはもちろん、リタイヤ寸前だ。

 

 止めを刺される――。と思っていたら真羅先輩は背を向けて駐車場から逃げていった。

 

 巡さんは真羅先輩の逃亡をサポートするようにゼノヴィアに立ち向かっていた。

 

 だが、ゼノヴィアの攻撃は一撃必殺の剛剣にして早さと技術も兼ね備えていた。すぐに追い詰められて撃破された。

 

 アナウンスが鳴り響くなか、ゼノヴィアはこちらにやってきた。

 

「だいじょうぶか、木場」

 

「いや、かなりのダメージを受けたみたいだ。このままだったらリタイヤしてしまう」

 

 情けない。修行したのにまるで修行の成果をだす前にやられてしまうなんて。

 

 先ほどドラッグストアで取ってきた治療グッズを展開する。

 

「僕は何とか体を動かせるまで治療してから追う。ゼノヴィアは先に行ってくれ」

 

「それはダメだ」

 

 ゼノヴィアは首を横に振った。治療グッズを手にとって僕の治療を始めた。

 

「私が治療を手伝う。ダメージを負っているおまえがやるより、私がやったほうが早く戦線に復帰できる」

 

「それは……」

 

「私は味方をそう簡単に見捨てないんだ」

 

 僕の治療を始めるゼノヴィア。僕はおとなしく治療を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 匙との殴り合いになって数分。

 

 俺と奴はいまだに拳を放ち合っていた。どう見ても匙のほうが有利だ。俺は――すでにボロボロ。ラインを束ねて手甲のようにした匙が俺を殴りつけてくる。俺もアスカロン入りの籠手で殴るが、警戒されていてラインとの連携で避けられてカウンターを取られる。

 

 何度も殴り倒された。だけど、それでも俺は立ち上がる。足だってもうガクガクいっている。

 

 力も吸われているからだんだんと体から力がなくなってきた。

 

 匙が俺の体を殴るたびに心身に響く。

 

「勝つんだっ。今日、俺はおまえを倒して、夢の第一歩を踏むッ!」

 

 眼前のあれはなんだ? 俺ほどではないとしてもダメージを負っているのに、あれはなんだ?

 

 そのとき俺の脳裏にタンニーンのおっさんに修行中言われた言葉が再生される。

 

『小僧。よく聞け。一番怖い攻撃とは「こもった一撃」だ』

 

『こもった一撃?』

 

『ああ、おまえがいまから参加するレーティングゲームは、様々な者たちが様々な思いで戦っている。欲のため、道楽のため、家のため、女のため、富のため、そして夢のため。いろんな思いが交錯している。なかにはゲームに一生をつぎ込んだ者もいるぐらいだ。そんな地獄の釜のように入り乱れた参加者のなかで、一番おそれなければいけない一発がある。それが「こもった一撃」だ』

 

『それ、必殺技? 神器とか? 魔法?』

 

『――違う。小僧、拳を握ってみろ。おまえのそこには何が握られている?』

 

『………………わからない』

 

『そこに「こめる」のさ。夢を、あるいは魂を。そいつの一生をその拳に「こめる」。こいつが何より危険でな。他の攻撃など覚悟する時間があればある程度どうとでもなる・でも、それだけはダメだ。「こもった一撃」は体の芯に届く。これが効く。おそろしいまでに効く。魔力と科学があるこの冥界でもその一撃のダメージを明確に表すことができなくてな。でも、食らった者はそれがわかる。――ああ、これはヤバい、とな。その一撃を放てる相手は紛れもなく本物であり、強敵だ。絶対に手を抜くな。相手が格下でもそれが放てるなら話は別だ。一撃でも食らえば戦況が一変するぞ。あれは通る。あれはどんな防御をしても体の芯に届くのだ』

 

 いまならわかるよ、おっさん。匙の一発は俺に通る。俺の芯に届いて確実にダメージを与えてくる!

 

『この気迫。神器に眠る「 悪邪の龍王 (プリズン・ドラゴン)」ヴリトラの力が匙の想いに応えているのか』

 

 ドラゴン系神器ってのは怖いな。ドライグ。

 

「兵藤ォォォォッ!」

 

 ダメージを食らっているはずなのにまったくそれをみせず、匙は攻撃の手を休めない。

 

 俺も応じて、打撃合戦を始めるが、本当に体がヤバい。

 

「ひとつ聞かせろォッ! どうなんだよ! 主さまのおっぱいはやわらかいのか!? マシュマロみたいって噂は本当か!? 女の人の体は崩れないプリンのごとくというのはマジなのか!?」

 

 匙は嫉妬に燃えた瞳で殴りかかってくる!

 

 こちらの隙を見てラインを飛ばし、後方のベンチに接続して力の限り振り回してくる! 俺は腕をクロスさせて防いだが、大ダメージを受けた!

 

「おっぱいをもんだとき、どう思ったんだよ! ちくしょぉぉおおおおおっ!」

 

 なんだか、夢を語った一撃よりこっちのほうが激しくないか!? ていうか、俺もそんなにおっぱいもめてないぞ! いや、アーシアのは寝ているときにもんでしまったことはあるけど……。

 

 って! さらに家具屋にラインの複数を伸ばして、そこから大型家具をしこたま引っ張って宙で弧を描くように俺の真上に持ってきた! あのまま家具を振り落とす気か!

 

 マジでヤバいぞ! 神器は動いてくれないし、体のダメージも酷い!

 

 だが、諦めるわけにはいかない!

 

 俺は振り落とそうとする匙の考えを逆手にとって、全力で匙目掛けて走りだす! まるで自殺行為だ! 家具かひとつでも当たれば即リタイヤ! だが、それでも負けられない!

 

 俺は何とか匙の攻撃をかいくぐり、家具を振り下ろすことに集中していた匙のあご目掛けてアッパー気味の一撃を入れた!

 

 ドゴッ!

 

 匙がうしろに倒れそうになったが、寸前で堪えた! バカな!? アスカロン入りの籠手で殴ったんだぞ!?

 

「俺だってもみたい! もみたいんだよぉぉぉぉっ!」

 

 ぶわっ! ついに匙は悔し涙を垂れ流した!

 

「乳房すら見たことなんてないんだぞ! 乳首なんて一生拝めるかわからないんだ! それをおまえは自由気ままに見やがってぇぇぇぇぇっ! 神城の奴もだ! 何人何百人、いや、何千人入れ食いすれば気が済むんだぁぁぁぁぁ!」

 

 魂の叫び! 涙が血の色に見えるのは幻覚か!?

 

「神城の弱点が男の娘だからって理由で女装させられる気持ちが分かるか!? 女性ものの下着を自分で着ることになった俺の辛さが分かるか!? しかも修行で男の娘を克服してると分かって、急遽作戦変更になって女装セットを記念に渡された俺の気持ちが分かるかぁぁぁぁっ!」

 

 マジか……。こいつそんなことまで修行していたのか!

 

 ゴンッ!

 

 匙を殴り飛ばすが、奴はすぐに立ち上がる! クソ! なんて気合だ!

 

「でもな兵藤! 一番はそれじゃない! 先生だ! 先生なんだよ! 俺は先生になっちゃいけないのか!? なんで俺たちは笑われなきゃいけない!?」

 

 そして――匙は俺に吼えた。否、これを見ている多くの者たちに向かって――。

 

「俺たちの夢は笑われるために掲げたわけじゃないんだッ!」

 

「ハァ……ハァ……っ、俺は笑わねぇよ! 命をかけてるおまえを笑えるわけねぇだろうがよッ!」

 

 向かってくる匙を俺は――殴った! カウンターを取るような一撃は入った!

 

 だが、それでも匙は立ち上がる。まるで効いていないみたいに倒してもすぐに立ち上がる。

 

「今日! 俺は! おまえを超えていくッッ!」

 

 匙のその叫びは、俺の心にまでズドンと重く響いた。

 

 匙の拳が俺に襲いかかる。何十発も打ち込まれ、顔は腫れ上がって右目はもう見えない。歯も折れ、口からポタポタと血を垂れ流した。だけど俺は倒れるわけにはいかない! 倒れても必死こいて立ち上がる!

 

 ……クソッ。神器も動いてくれないし、体からは力が少しずつ抜かれている……。このままじゃ負ける……。

 

 どうすりゃ、勝てるんだ……。

 

 俺も殴り返しているのに、アスカロン入りの拳で殴っているのに……。ダメージは確実に負っているはずなのに……。

 

「来いよ、兵藤。来いよ! 兵藤ォォォォォッ! 終わりじゃないだろう!? まだまだ俺は余裕だぞ! こんなんで終わりなんかにするつもりはないだろう!? 俺たちバカにできることなんざ、突っ走ることぐらいなもんだろ!」

 

 匙はそう吼えるが――もう俺の体は動かない……。

 

 禁手に至れれば、いや、神器が動いてくれれば……。

 

 ……どうすれば禁手に至れるんだ? ……どうすれば匙に勝てるんだ?

 

 俺が倒れそうになった寸前――。

 

「イッセー先輩!」

 

 今にも飛びだしてきそうな小猫ちゃんが俺の狭くなった視界に映りこんだ――。

 

 ……そうだ! もう俺は負けるわけにはいかないんだ! 俺は部長のためにもどうしても負けるわけにはいかないんだ!

 

 ぐっと倒れるのを堪える!

 

 禁手に至れる方法は確か劇的な変化だったよな、ドライグ。

 

『ああ。その通りだ』

 

 劇的な変化。俺を劇的な変化させるもの……そうか――!

 

 俺は匙から一気に距離を取り、小猫ちゃんの前に立った。

 

「小猫ちゃん」

 

「どうしたんですか?」

 

「一生のお願いだ。――乳首をつつかせて欲しい」

 

「なっ!?」

 

「兵藤! いきなり何を言って――」

 

「黙れ、匙!」

 

「――っ!」

 

 俺の怒鳴りに言葉を止める匙。すまないな、サシの勝負だが、負けるわけにはいかないし、戦闘に加わせるつもりもないから許してくれよ。

 

「頼む、小猫ちゃん。この方法なら俺が禁手に至れる可能性があるんだ」

 

「で、でも、この戦いは冥界全土に放そ――」

 

「頼む! 小猫ちゃん! 俺は……! 何もできないまま、実力を出せないまま匙に負けたくないんだ!」

 

 俺は深く頭を下げる!

 

「………………」

 

 小猫ちゃんは無言だ。頼むからつつかせてくれ! いまここに女の子の乳は小猫ちゃんのしかないんだ!

 

「………わかり……まし……た」

 

 小声だがはっきり聞こえた声!

 

「本当に、いいの!?」

 

「こ、今回限りです……」

 

 と胸をこちらに向けてくる小猫ちゃん! 嬉しいけど、それじゃあ、まだダメなんだ!

 

「ゴメン小猫ちゃん。おっぱいをだしてくれないか? このままつついてもあまり効果ががないような気がするんだ」

 

「なっ!?」

 

 真っ赤になって驚く小猫ちゃん。それはそうだろう服を脱げなんて言われたら……。だけどこれしか方法はないんだ!

 

「おい兵藤、……それってセクハラなんじゃないか?」

 

 匙が後方でつぶやいたが、止めるようなことはしない。こいつのスケベ心が俺を止めるのを良しとしないんだろう。おっぱいが見れるかもしれないと思ってんだろうな。だが、残念。きちんと隠すから見せないぜ!

 

「小猫ちゃん、頼む!」

 

「う、ううぅぅ……」

 

 小猫ちゃんはがばっと上着を捲る。かわいいブラジャーだ! 試合前に見たシマパンとセットになっていたようで、ブラジャーもピンクと白のシマシマだった!

 

 ブラジャーを両手でずらしながら手でおっぱいを隠す! ほとんど手で隠れている小さなおっぱいだけど、感動だ!

 

 俺のなかで何かが変化していくのを感じる!

 

 どっちの乳首をつつく……。すごく悩むところだが、……ボリュームがいまいちだし。巨乳好きの俺が片方だけつついても禁手に至れない可能性がある。

 

「は、早くつついてください……」

 

 小猫ちゃんが両手を外した! かわいらしい小さなピンク色の乳首! 感動! 感動だぜ!

 

 俺は両手の人差し指をそれぞれの小猫ちゃんの乳に標準を合わせる。これでいい。これで打ち損じはない。

 

 ボロボロの体だったが、状況が俺に信じられない活力を与えてくれていた!

 

 そして、生唾を飲み込んだあと、一気に乳首目掛けて指を――ずむっ

 

 むにゅっ。

 

 小さいが確かにある弾力性、やわらかさ、肌の質感、これが女の子のおっぱい!

 

 激しくさせず、あくまでやさしくおっぱいに指を陥没させていく。

 

 ブブッ。

 

 俺の指で形を変える小猫ちゃんのおっぱいを見て、鼻血が噴き出た。――そのときだった――。

 

「……にゃぁん」

 

 小猫ちゃんがわずかに声を漏らす――っ。俺はそれを聞き逃さなかったッ!

 

 俺のなかで何かが革命的に弾ける――。

 

 広がる。広大なものが――俺の脳裏を支配していく。

 

 止まらない涙のなか、俺には見えた。

 

 ――宇宙の始まりが。

 

『なんてことだ! ――至ったッ。本当に至りやがったぞォッ!』

 

 ドライグが俺のなかで笑い、産声をあげた。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 宝玉に光が戻り、それどころか、いままでにない質量の赤い膨大なオーラを解き放ち始めた! そのオーラが俺の全身を包み込んでいく!

 

「……最低です。やらしい赤龍帝だなんて……」

 

 床に崩れ、落ち落ち込みながらも小猫ちゃんが突っ込んでくれた。ゴメンね! 俺はやらしい赤龍帝だったみたい!

 

 そして――。全身を覆うオーラは鎧と化して、俺を包み込んでいた。

 

 禁 手 (バランス・ブレイカー)、『赤 龍 帝 の 鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』ッ! おっぱいつついてここに降臨ッッ!」

 

 ドゥゥゥゥンッ!

 

 俺の放つオーラで周囲が吹き飛ぶ! 俺を中心に小さなクレーターができあがっていた。……よし、体中に力が溢れてる! これが――禁手!

 

『相棒、おめでとう。しかし、酷い。俺は本格的に泣くぞ、そろそろ』

 

 ドライグが賛辞を送ってくれる。そして涙声だった。

 

「ああ、ありがとうよ。そしてエロくてゴメン! で、首尾はどうよ?」

 

『時間にして30分の間、禁手状態を維持できる。鍛錬の成果が出たな。弱いおまえの初めての禁手状態にして、まずまずの制限時間だ』

 

 マックスの倍増しで何回だ?

 

『マックスで放てば5分消費すると思ってくれ。最大で5回。他の行動も含めると6回は無いに等しい。譲渡も同様だ』

 

 うまくこの力を使えば、15分は戦えるかな。短期決戦で広範囲の攻撃はできないけど、アスカロンと攻撃力と防御力が跳ね上がったいまの俺なら匙に勝てる!

 

「マジで至ったのか!?」

 

 驚愕する匙。右腕につけられたライン以外が禁手に至ったオーラで弾けとんだ! 右腕のラインは特別みたいで吹き飛んでいないが十分だ。っていうか、匙の奴、鼻血でてるけど、見たのか!? クソッ! ただ見しやがって!

 

「待たせたな、匙。これが俺の本気だ! 俺はおまえを倒す! ――この一撃に俺もすべてをこめる! おっぱいつついた男の力をみせてやるぜぇぇぇぇッ!」

 

 俺は拳を振り上げて匙へ突っ込む! 鎧の背部にある噴出口から魔力が噴き出し、爆発的な速度が生みだされる!

 

「――っ。早い!?」

 

 ガダンッッ!

 

 匙の顔面を俺の一撃が完全に捉えた! そのまま振り抜き吹っ飛ばすッ! これが俺の「こもった一撃」だぁぁぁぁああああああああああっ!

 

 ガシャァァァンッ!

 

 遠くの背後にあった店に突っ込む匙。ピクリとも動かない。

 

 光になって消えていく匙……。

 

「俺の……、勝ちだ」

 

『ソーナ・シトリーさまの「兵士」1名、リタイヤ』

 

 こちらは8人。相手側は4。数では大きく勝ったが、まだ油断できない。それに俺がこの状態でいられる状態もあと20分と少しあるが、俺の体力や体は匙にやられてもうボロボロだった。いつ禁手が解けるか分からない。

 

「……イッセー先輩」

 

 小猫ちゃんが俺の右腕を指さす。そう、匙が消えても右腕についたラインだけは消失しない。鎧に包まれても、このラインだけは消えることがなかった。アスカロンで断ち切ると血が噴き出した。

 

「ううっ……」

 

 一気に目眩に襲われるが、何とか堪えた。

 

「だいじょうぶですか?」

 

「ああ、何とかね」

 

 心配そうな小猫ちゃんになんとか言葉を返した。

 

 そのとき、通信機に連絡が入る。

 

『オフェンスの皆、聞こえる? 私たちも相手本陣に向けて進軍するわ』

 

 部長からの通信。そうか、部長もついに動くのか。序盤から中盤も終わり、一気にラストスパートだ! 俺は大きく深呼吸したあと、小猫ちゃんに言う。

 

「行こう」

 

 小猫ちゃんもうなずき、俺たちは最後の決戦におもむいた。

 



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第52話 VSシトリー眷属 後半戦

 

<イッセー>

 

 

 ショッピングモールの中心に、中央広場みたいなところがある。

 

 円形のベンチに囲われて、その中心には時計の柱が存在していた。よく、買い物に疲れた客が座っているところだ。そこまで歩を進めたところで俺は足を止めた。

 

 当然だろう。――ソーナ会長が眼前にいるのだから!

 

「ごきげんよう、兵藤一誠くん、塔城小猫さん。なるほど、それが赤龍帝の姿。凄まじいまでの波動を感じますね。誰もが危険視するのは当然です」

 

 冷静な口調で言ってくる。

 

 会長は結界に囲われていた。結界を発生させているのは、生徒会のメンバーの『僧侶』2人だ。先ほど断ち切ったラインが『僧侶』の1人のほうに伸びている?

 

 その近くにもメガネの副会長さん、真羅先輩が立っていた。この人も美少女さんなんだよな! しかもグラマーな体つきだし!

 

 少しして、木場とゼノヴィアが俺と小猫ちゃんの来た方向とは逆から現れた。――ゼノヴィアは無傷っぽいが、木場のほうがかなりの怪我を負っているようだ。

 

「……ソーナ、大胆ね。中央に来るなんて」

 

 部長のお声、振り返れば部長もここに到着していた。

 

「そういうあなたも『王』自ら移動しているではありませんか、リアス」

 

「ええ、どちらにしてももう終盤でしょうから。それにしてもこちらの予想とは随分違う形になったようね……。でも、イッセー。ゲームの最中に禁手に至るなんてよくやったわ」

 

 部長が褒めてくれた! 情けない至り方でしたが、褒めてくれた!

 

 部長は厳しい表情を浮かべていた。予定では木場とゼノヴィアが会長を倒す目的だった。俺たちはそのための囮だったわけだけど……。どうにもその辺を全部読まれていたらしい!

 

 会長さんのほうが一枚上手? いや、俺は部長を信じる!

 

 ――っ。

 

 一瞬、俺の意識が遠くなった。…………あれ。…………あれれ?

 

 ととと、俺はその場でよろめく。……あれれ? 意識の混濁が少しずつ強くなってきたぞ……?

 

 ついにはその場で俺は膝をついた。

 

「……イッセー?」

 

 俺の変化に部長が気づき、アーシアが回復の神器をかけてくれる。淡い緑色を放ちながら、俺の体をやさしい光が包むが――痛みは取れたが、意識が遠くなるのだけは無くならない!

 

 部長が『フェニックスの涙』を取り出そうとするが、踏みとどまった。アーシアの神器で完治しないということは、涙も効果が薄いと判断したのだろう。

 

 眷属全員が俺の変化に気づき、困惑しだした。そのなかで会長さんだけが小さな笑いを漏らしていた。

 

「アーシアさんの神器でも『フェニックスの涙』でも効果はありませんよ。リアス、私はライザーとの一戦を収めた記録映像を見ました。その結果わかったこと、兵藤くんはおそろしいまでに戦いを諦めない子だということです。仲間のため、自分のため。そしてリアスのために――」

 

 会長はさらに続ける。

 

「ダメージなどでは倒しきれないかも知れない。何度打倒してもあなたは立ち上がる。私たちにとって、あなたのその『根性』と呼ぶものが赤龍帝の力と相まって驚異的な存在だった。そう、諦めずに立ち上がり続ければ、あなたはいつか敵を倒せると信じきっている。その心構えが赤龍帝の力に直結し、パワーを幾重にも増大させてきた。現にゲームの最中に禁手至ったことが何よりの証拠です」

 

 あ、あれはおっぱいをつつけたからなんだよな……。

 

「だからこそ、違う形であなたを倒すしかなかったのです」

 

『僧侶』の1人は抱えていたバッグから――パックを取りだした。

 

 そのパックの中身は赤い。血のように。さっきまで俺の右腕に繋がれていたラインがそのパックに繋がれていて――まさか、そのパックに入っているのって……。会長がその中身を告白する。

 

「――あなたの血です。人間がベースとなっている転生悪魔。人間は体に通う血液の半分を失えば致死量です。知っているでしょう? レーティングゲームのルール。ゲーム中、眷属悪魔が戦闘不能状態になると、強制的に医療ルームへ転送されます」

 

 ――匙! まさか、おまえ! 最初からこれを狙ってッ!

 

 ガクン! 一気に俺の体から力が抜ける!

 

「もう手遅れです。もう、あなたは医療ルームに転送されるだけの血を失いました」

 

 会長の冷淡な一言!

 

「――ソーナ。あなたは――ッ!」

 

 会長を睨む部長。その表情は焦りの色がうかがえた。

 

 部長と俺たちは完全に裏をかかれたんだ……。

 

「そう、サジの神器を用いて、兵藤くんの血を少しずつ少しずつ吸い取っていたのです。対象のエネルギーを吸い取るのが本来の能力である神器で血液を吸い続けるには、相当な修行と緻密なコントロールがいりました。しかし、サジはそれを完遂させたのです」

 

 マジかよ! せっかく禁手化して倒したのに、手遅れだったのか!?

 

「兵藤くん。あなたはリタイヤが近いでしょう。これから攻撃も一度か二度しかできないではずです。理由は失血。あなたの鎧は堅牢。あなたの攻撃力は強大。けれど倒し方は探せばいくらでもあります。あなたを物理的に倒せなくてもゲームのルールがあなたを戦闘不能と見なします」

 

 俺は――もう立ち上がる力すら残っていなかった。完全にやられた……。

 

 そんな、そんな方法があったのかよ……。会長の戦術は俺たちの上の上をいっていたのか!? 会長が部長に訊く。

 

「リアス、あなたはこの戦いに何を賭けるつもりでしたか? 私は――命を賭けるつもりでした。私の夢はとても難しいものです。ひとつひとつ壁を崩していかなければ、解決の道が切り開けません」

 

 会長は真っ正面から部長へ言う!

 

「リアス、あなたのプライドと評価は崩させてもらいます」

 

 会長の言葉に部長は苦虫を噛みつぶしたようだった。心底悔しいに決まってる! この戦い、確かに部長に有利だ。有利すぎて勝つのが当たり前とさえ思われている。

 

 その状態でのこれだ。部長は敵に手を打たれれば打たれるだけ、評価を下げることとなる! 会長はそれも狙っていた!

 

 ソーナ・シトリー! どこまで計算してやがったんだよっ!

 

 会長の視線が俺に移る。

 

「サジは――。彼は、ずっとあなたを超えると言っていました。サジにとってあなたは同期の『兵士』である、友人であり、越えたい目標だったのです」

 

 ――っ。

 

 会長の言葉に俺は得心した。匙が俺に向ける気合と覇気。それは明らかに高密度だった。

 

 あいつは――最初から俺を狙っていたのか。

 

「でも、あなたには伝説のドラゴンが宿っている。ただそれだけで、彼はあなたに劣等感を持っていました。私は――そんなものがなくとも戦えると、あの子に伝えたかったのです。そして、それはサジに伝わりました。もうすぐ消え行くあなたに言いましょう。上ばかりを目指していたあなたのように、匙はあなたを倒すことを目標に走っていたのです。――夢を持ち、懸命に生きる『兵士』はあなただけじゃない! あなたを倒したのは匙元士朗です!」

 

 ――今日! 俺は! おまえを超えていくッッ!

 

 匙のあの言葉が俺の脳裏で蘇った。

 

 匙――。おまえは……俺を倒すために修行してたってのかよ!

 

 ……クソ。匙。匙よ。おまえ、すげえよ。殴られても殴られても、俺を倒すことだけを考えていた。自分が直接倒せなくても爪痕だけ残せば仲間が倒してくれると信じて――。

 

 でもよ、その心配はなさそうだぜ。俺はおまえの攻撃だけで沈みそうだ。

 

 だが、新必殺技を披露せずに消えるのは嫌だ!

 

 俺は最後の力を振り絞って立ち上がる! 少しだけ距離を取った。グレモリー、シトリー、いまここにいる全員を捉える位置に立つ!

 

 倒れるなら、わんぱくしてから突っ伏したい! 俺は両手を前に出して、部長のおっぱいに標準を合わせる!

 

「リタイヤ前に……俺は俺の煩悩をはたしてから消えようと思う」

 

 そう、どうせ消える身の俺だ。ならば最後の最後で全部を出し尽くして去ろうではないか! 俺はうちに残るパワーをすべて脳内に注ぎ込む。閃け、俺の妄想ッッ!

 

 最後のオーラが俺の全身を包み込む! パワーに注ぐんじゃない! 頭に注ぐんだ!

 

「高まれ、俺の欲望ッ! 煩悩解放ッ!」

 

 赤龍帝の力を使って、俺はさらに高みを目指すッ! もう少し保ってくれ、俺の体ッ! 俺はさっきまでの俺を越えるんだ! これはやり方しだいでは無敵の技となる!

 

「広がれ、俺の夢の世界ッ!」

 

 刹那、お入れを中心に謎の空間が展開する、それを肌で感じて――グレモリー、シトリー、両眷属の女性は身を守る格好になっていた。

 

 けど、安心して欲しい。俺の新必殺技は直接的な被害を出すものではない。派手さは洋服破壊に比べたら無いに等しいんだ。

 

 そして俺は部長に――部長のおっぱいに声を投げかける。

 

「あなたの声を聞かせてちょうだいなッ!」

 

『イッセー、大丈夫かしら……。あまり変なことをすると体に障っちゃう……』

 

 おっぱいから、かわいらしい声が聞こえてくる。

 

 なるほどなるほど。ふふふふ。聞こえる。聞こえるぞ! 良好なりッ!

 

「部長、いま俺を心配してくれましたね? 変なことばかりしていると体に障ると……」

 

 俺の言葉に部長は驚愕の表情を浮かべる。

 

「イッセー! ど、どうしてそれを……?」

 

 俺は会長の――会長のおっぱいに質問する。

 

「あなたはいま何を考えている?」

 

『もしかして、心の声が聞こえる技を開発したのかしら☆ ソーナ、困っちゃう☆』

 

 なるほど、ソーナ会長はそうくるのか。

 

 持ち主の性格と必ずしも一緒というわけでもないんだな。部長のおっぱいは幼女のような声だった。会長のおっぱいはお姉さんのセラフォルー・レヴィアタンさまに似ていた。

 

「ソーナ会長、いま俺の新必殺技が心の声を聞けるものだと思いましたね?」

 

 俺の告白に会長は酷く驚いていた。

 

「ふふふ、違う。当たっているけど違うんですよ。俺は聞きたかったんです。胸もうちを! 否! おっぱいの声を!」

 

 俺は格好つけたポーズで堂々と新必殺技の名を叫んだ!

 

「新技、『乳語翻訳(パイリンガル)』ッッ! 俺の新技は女性限定でおっぱいの声が聞こえるんですッ! ……ハァハァ。質問すればおっぱいは偽り無く俺にだけ答えを教えてくれる! ……ハァハァ。相手の心がわかる最強の技なんですッ! うっ、血が足りねぇ……」

 

 決まった! あまりにも決まってしまった! 血が思いっきり足りないからフラフラで死にそうだけど、俺は満足だった! 俺だけにしか聞こえない声! 聞きたかった!

 

 俺は山にこもっているとき、性欲も断っていた。そこで俺が感じたのは圧倒的なおっぱいへの渇望。

 

 触りたい。吸いたい。つつきたい。挟みたい。俺は修行僧のように悟りを開き、幾日も考え、ふと気づいた。

 

 ――おっぱいとお話したい。

 

 おっぱいへの深い感謝とありがたみに気づいたとき、俺はおっぱいと話してみたくなったんだ。おっぱいは何を想い、何を語るのか? 俺は知りたくなった。

 

 そのときはパワー不足で、その想いを達せなかったが、赤龍帝の力ならば可能性は広がる! そして、ついにおれは完成させた!

 

「ヘイ! そこの『僧侶』のお姉さんのおっぱい、どうなのさ!」

 

「いや、聞かないで!」

 

『僧侶』のお姉さんは身の危険を感じ、胸元を隠すが――遅い!

 

『木場きゅん! 木場きゅんと同じ戦場に立てるなんて幸せ!』

 

「なんだよ! エイジに続いて木場もモテやがって! もう1人の『僧侶』のお姉さんのおっぱいはどうなんだい!」

 

 視線を向けるだけで相手はしゃがみこんでしまった!

 

「やめてください! キモい!」

 

『兵藤怖い……。なんであんな強そうな鎧着てるのに、ただの変態にしか見えないのかしら……』

 

 ……2連続のその結果に俺はその場に崩れ落ちた。うぅ。体も限界か……。

 

 クソ! 聞いちゃダメなこともあるよね! そうなんだよね!

 

 ふと周囲を見渡したとき――全員、目元をひくつかせていた。

 

 ……あれ? そんな、こんなにも最強の技、どうして驚かない?

 

 会長は目元をひくつかせ、部長は額に手を当てて嘆息していた。

 

「リアス……。これはちょっと……」

 

「ゴメンなさい……」

 

「怖い技だと思うけど、プライバシーの侵害で、このままでは女性悪魔と戦えませんよ?」

 

「ええ、厳重注意しておくわ……」

 

 あれれれ!? 何、この反応!? 絶対に役立つ能力だと思うんですが! ていうか、これじゃ、まるで俺が――。

 

「……本物のど変態じゃないか!」

 

『ど変態ですッ!!』

 

 

 グレモリー、シトリーから総ツッコミを俺はくらった!

 

「――っ」

 

 俺は……絶句した! バカな……。俺の耳には皆のおっぱいの声が聞こえてくるんだぞ。

 

 ほら! 技だって完全に決まってる!

 

「アーシアのおっぱい、いま何を考えているのかな!?」

 

『イッセーさんったら、ケガばっかりでどうしようもないです! で、でも、治して上げないこともないんだからね!』

 

 ああ、なんてことだ。アーシアのおっぱいはツンデレだったのか!

 

 こんな風におっぱいが相手の考えていることを話してくれるんですよ!?

 

「……少しは格好良いと思ったのに。……やらしい赤龍帝。幻滅です」

 

 あう! 痛烈な小猫ちゃんの一言!

 

 うっ! ……ダメだ。意識の混濁が限界だ。血が足りん……。

 

 ……よし、最後に会長の作戦を読めるところまで読もう。

 

「会長のおっぱいさん! いまの作戦はどういう感じか教えておくれ!」

 

『この特殊な結界は「僧侶」の2人が作ってくれた囮なの☆ 精神だけ結界に置いて、姿は立体映像なのよん☆ 精神がこちらに来ていれば、体の気配とか消せるし、結果以内にオーラがあるように見せることも可能だもん☆ 本当の私は屋上でーす☆ 結果以内の私を狙うよう攻撃させて、少しでも疲弊させるのが作戦だったりするのよ☆』

 

 なるほどなるほど。あれは映像なのか。しかし、精神だけはこちらに来ていると。

 

 とりあえず、俺は会長のおっぱいの声を皆に話す。

 

「皆、会長のあの結界は……囮だ。結界のなかに立体映像を出す『僧侶』2人の術なんだ……ここで無駄に結界を攻撃させて少しでもこちらを疲弊させる作戦なんだ……。本物は屋上だ! 映像に精神だけ移しているみたいだぜ……。小猫ちゃんの索敵が屋上の会長を捉えきれないのもそのせい。でも、精神がこちらにきているから、パイリンガルも効いて映像のおっぱいが話してくれたのかな……?」

 

 俺はそれだけ伝えると、その場に倒れこむ。

 

「イッセーさん!」

 

 アーシアが俺へ駆け寄ってこようとするが――会長の『女王』が俺の元に行かせまいとする。

 

 アーシアはその場で祈りのポーズを取ると、その体が淡く輝きだし、周囲一帯に広がろうとする。これは、アーシアの回復能力が範囲拡大したものか? 修行の成果だな!

 

 回復は意味がないってわかっているはずだ。それでも俺を心配するのは生来のやさしさからだろう。アーシア、本当に良い子だ。おっぱいはツンデレだし、無敵だな!

 

「それを待っていました!」

 

『僧侶』の1人が会長の立体映像を解く。結界と会長の映像が消えるが、相手の『僧侶』はかまわずにアーシアの回復領域に足を踏み入れた。

 

 回復するつもりか? いや、彼女はダメージなんて受けていない。

 

『僧侶』は両手を広げると、叫ぶ。

 

「反転!」

 

 ドンッ! 淡い緑色の光が一瞬で変質し、赤い危険なものを発する。

 

「――あっ」

 

 その瞬間、アーシアの体が光り輝いて消えていく……!?

 

「……回復の反転はダメージ……。アルジェントさんの回復能力は絶大……それを反転すれば……」

 

 アーシアの回復領域に入ってきた相手の『僧侶』は血を吐きながらも満足げな表情を浮かべていた。なんだ! 何が起きた!?

 

「……グレモリーの回復要因を倒しました……会長……」

 

 会長の『僧侶』とアーシアが同時に消えていく。

 

 ……クソ。アーシアを持っていかれた……。お、俺も……。

 

 俺の体が光に包まれていく。俺ももうダメだ……。敵の本陣に乗り込んで『女王』にプロモーションしたかった……。それもできずに敗れるとは……情けない!

 

 でも、『乳語翻訳』ができて俺は満足だ……。

 

 ……匙。俺は――。

 

『ソーナ・シトリーさまの「僧侶」1名、リタイヤ』

 

『リアス・グレモリーさまの「僧侶」1名、「兵士」1名、リタイヤ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<アザゼル>

 

 

 俺――アザゼルはVIPルームで苦笑いをしていた。

 

「……これが現赤龍帝か」

 

 観戦している重鎮の誰もがつぶやく。VIPルームは唖然となっていた。

 

 当然だ。食い入るように観戦していたのにモニターに映ったのは乳をつついて禁手に至る姿とバカな新技だ。

 

 突然、小猫に詰め寄って乳をつつかせてくれ、だもんな。しかも、それで禁手に至るし、タンニーンとの修行はなんだったんだと言いたい。観戦しているだろうタンニーンもため息吐いたな。

 

 それにバカな新技。

 

 ――パイリンガル。

 

 あまりにも頭が悪すぎる。エロに寛容な俺でさえ、一瞬何が起きたかまったく理解できなかった。この俺がこうなるのだから、他の連中は心中は酷いことになっているだろうさ。

 

 モニターに映るリアスは――顔を真っ赤にしていた。同情はするが、いやはや、これはおもしろい。

 

 しかし、このパイリンガル。派手さは皆無だが、実際のところ、恐ろしい技だ。

 

 相手が女なら、高確率で戦いの様子が逆転する。何せ、心の中を露にされるんだからな。これほど相手にとって怖い技も無い。

 

 それにしても、どんどん女に嫌われる技を開発するな、あいつは。本当にモテる気あるのか?

 

 それにしてもシトリーは本当に死ぬ気でゲームに挑んでいるな。今回のゲームで寿命を削るような戦いをしやがる。

 

 今回はシトリーの覚悟を見届けてやる。どこまでやれるか見せてみろ。

 

「ほっほっほっ、おもしろい一戦じゃな」

 

 クソジジイのオーディンが満足そうにモニターを見ている。あのわがままジジイが褒めるなんてな。

 

「サーゼクス」

 

「はい」

 

「あのドラゴンの神器を持つ小僧じゃが」

 

「兵藤一誠くんですか? 赤龍帝の」

 

 しかし、オーディンの声は意外なものだった。

 

「いや、シトリーの『兵士』のほうじゃよ」

 

 ……なるほど、そっちに注目するか。オーディンは話を続ける。

 

「いい悪魔じゃな。大切にするがいいぞ。ああいうのが強くなる。赤龍帝の小僧を倒した功績は大きいぞい。これだから悪魔どものレーティングゲーム観戦は楽しいわい。弱者が一戦の間に化ける。これぞ、真の試合というものじゃよ」

 

 あのオーディンが数時間前まで存在すら知らなかった者に最大級の賛辞を送る。

 

「そうでしょうそうでしょう! オーディンおじいちゃんったら話がわかるんだから☆」

 

 セラフォルーも妹の眷属を褒められて、ご機嫌のようだ。いまのいままで泣きそうな顔でハラハラ見ていたのにな。

 

 ソーナ・シトリーのあの『兵士』。匙元士朗と言ったか。イッセー以上にこの試合で評価を一変させたと言っていいだろう。

 

 全冥界に放送されたこの試合。案外、赤龍帝よりも名も無きドラゴン神器使いのほうが有名になるかもしれない。

 

 それにしても、小猫の奴……全冥界に乳をつつかれているところを放送されるなんて、かわいそうだな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<木場>

 

 

 イッセーくんとアーシアさんがバトルフィールドから消えたあと、この場に残ったのは僕――木場祐斗と主であるリアス部長、エイジくん、朱乃さん、ゼノヴィア、小猫ちゃんの6人だった。

 

 相手は残り3名。会長、真羅先輩、『僧侶』の生徒会メンバー。

 

 ――3人取られたか。いやリタイヤはしなかったが、ダメージが酷い僕も合わせて4人――半分取られたことになる。

 

 優勢と言われていたゲームが、いざ始まってみてば大番狂わせ。優勢と見られていた側が半分もやられる。上で見ている上級悪魔の方々の苦言が聞こえてきそうだ。

 

 確実に部長の評価は下がる。けれど、これ以上下げさせるわけにもいかない。

 

 僕たちのチームのムードメーカーだったイッセーくんが消えた。これは……大きい。僕はなんとか耐えているが、部長の心中は如何に。アーシアさんが残っていれば、彼女はショックを受けていたかもしれない。

 

 現メンバーは――いまのところ変化はない。衝撃はあったとしても、戦いに影響出なければ問題はないのだが……。

 

 本当にレーティングゲームは何が起こるかわからない! 力だけでは勝てないことを僕たちは学んだ。

 

 僕が思考を巡らせている間に、部長はすぐに気持ちを切り替えた。

 

「小猫、気は感じる?」

 

 眼前にいる2人を警戒しながら、部長が小猫ちゃんに訊ねる。

 

「……はい。先ほどは感じ取れませんでしたが、いまは屋上に会長の気を感じます。さっきの結界は会長の姿をあるように見せるための虚偽と幻影、そして本人の気と位置を感じ取られないようにする特殊なデコイだと思います」

 

 ネコミミをぴくぴく動かして、会長の気を探っているようだ。小猫ちゃんもイッセーくんがいなくなっても戦える様子だ。

 

「では、そちらのお2人を倒して『王』を倒しに行きましょうか」

 

 朱乃さんも黄金のオーラをバチバチと放ち戦闘態勢をとる。それにしても本当にどれだけの修行を積んだんだ!? ゼノヴィアといい本当に実力が跳ね上がっている!

 

「そうだな。先ほどの木場の借りもあるし、アーシアの仇をとらせてもらわないといけないからな」

 

 ゼノヴィアも真・リュウノアギトを構えた。まるでイッセーくんが退場したことにショックを受けた様子も見せない! まあ、目は座っていて凶悪なオーラは噴き出ているが……。

 

 それでも『王』である部長を一番後方に、さらに『王』である部長を守るようにエイジくんが立ち、負傷している僕も後方に。朱乃さんとゼノヴィアはそれぞれ『女王』である森羅先輩と『僧侶』である草下(くさか)さんと対峙した。

 

「ああ。アーシアとイッセー、それに木場の仇を取らせてもらおう」

 

 ゼノヴィアが真・リュウノアギトを『僧侶』の草下さんに向ける!

 

「さあ、始めましょうか。かわいい後輩たちの仇討ちですわ」

 

 朱乃さんがいつもの魔術とは違う。雷の槍を手元に出現させた! 朱乃さんが近接武器!? しかも、雷には光が宿っていて高密度な魔力が練られている!

 

「私に近接武器で挑むつもりですか?」

 

 真羅先輩が少し不機嫌そうに言った。それはそうだろう。朱乃さんは本来遠距離の広域型。その広域型の朱乃さんが長刀の有段者である真羅先輩に槍で挑もうというのだから、なめていると思われても不思議ではない。

 

 だが、朱乃さんはニッコリ笑みを浮べた。

 

 ヒュンッ!

 

「――っ!」

 

 軽く槍を振った朱乃さん! その素振りだけで決して初心者ではないと思わせるほどの鋭い突き!

 

 朱乃さんは槍を構えながら言う。

 

「広域型だけではなく、近距離戦闘もエイジくんとの修行で覚えさせられましたから。――夏休み前の私と一緒にしないでくださいね」

 

 ――っ。本当にエイジくんはどれだけの修行を積ませたんだ? たった二週間程度……いや、部長と朱乃さんは途中参加だから修行時間はそこまでないはずなのに、僕では勝てる気がしなくなっている……。

 

 たまらず僕はエイジくんに話しかけた。

 

「エイジくん」

 

「なんだ?」

 

「僕にも修行をつけてくれない?」

 

「…………骨が折れたり毎回虫の息になったりして、アーシアの回復神器も使用不可能。さらに俺のマジカルエステは陽と陰の、男と女の気が関係しているから使用不可能状態で、死なずに、毎日受けれればいいぞ」

 

「…………ゴメン。僕には無理みたいだ」

 

「そうだな」

 

 …………。女の子限定で実力を跳ね上げる凄腕トレーナーなんだね。男の僕じゃ、骨が折れて虫の息なった状態、しかも回復なしじゃ、死亡するよ……。

 

 気持ちを切り替えて戦闘に目を向ける。

 

「いくぞ!」

 

「いきますわよ!」

 

 丁度、2人が同時にシトリー眷属の2人に向かっていくところだった。

 

 ゼノヴィアが真・リュウノアギトを縦横無人に振りかぶりながら突進する!

 

鮫  特  攻(スコントロ・ディ・スクアーロ)!」

 

 まるでひとつの台風の塊! 床だけでなく空間が引き裂かれていくような剣戟だ!

 

 その剣戟を前にても『僧侶』の草下さんは逃げようとしない! 両手を突き出して――。

 

「反転」

 

 ――っ! まずい! と僕がそう思ったときだった!

 

 ピタッ。

 

 凄まじい剣戟がピタリと止まったのだ! さらに――。

 

 ザクッ! ゼノヴィアは懐から投擲用のナイフを投げて草下さんの腹に突き刺した!

 

「――えっ?」

 

 驚愕の声が草下さんの口から漏れた。――それはそうだ。神器を発動させた瞬間、剣戟が止み、さらに腹にナイフが刺さっていれば、誰だって驚く。

 

「私が素直に怒りに任せて正面から特攻すると思っただろう? 以前の私ならそうしていたが、地獄の修行を受けて怒りをコントロールし、小手先の戦法と相手の裏をかくことを学んだ私は、いままでよりも強くなっている。――アーシアの仇。確かに取らせてもらったぞ」

 

 そう言ってからゼノヴィアは草下さんに刺さったナイフを抜いて仕舞う。草下さんはそのまま崩れ落ちて光になって消えた。

 

『ソーナ・シトリーさまの『僧侶』1名、リタイヤ』

 

 次に朱乃さんと真羅先輩の戦いに目を向ける。

 

「――くっ!」

 

「ほらほら、私はまだまだいけますわよ?」

 

 ヒュヒュンッ! ヒュンッッ!

 

 朱乃さんが雷光の槍を振りかぶる! すごい! 真羅先輩と互角以上に渡り合い、真羅先輩は防戦一方だった!

 

 まるで舞うような高速の突き! 真羅先輩は何とか直撃は受けていないようだが、雷と光で体が傷ついていった。

 

「ハァハァ……、いつの間にこんな技術を……!」

 

 肩で息をしながら訊ねる真羅先輩。僕も朱乃さんが近距離戦闘で十二分に戦えることに驚いている!

 

「うふふ。この夏休み。本当に地獄の特訓をしたんですのよ。毎日指1本動けなくなるまで虐められて、骨を折られたりは当たり前。初日はエイジさんとゼノヴィアさんの修行に混ぜてもらったときは後悔しましたけど。近接戦闘であなたとここまで戦えているのですから、修行の成果を実感できてすごく嬉しいですわ」

 

 朱乃さんは肩で息をしている真羅先輩とは違い、余裕そうに槍を構えて矛先を真羅先輩へ向けた。

 

「ハァハァ……、そんなに……すごいんですか?」

 

 突然訊ねてきた真羅先輩。会話を長引かせて体力を回復する気なのか? 朱乃さんも気づいていて技と槍を向けたまま答えた。

 

「ええ。短期間で強くなれる修行は女の子限定ですけど……。魔術や妖術から仙術、様々な武器の扱いから格闘技まで全て最高レベルの使い手ですわ。あなたたちも強くなりたいのであれば弟子入りしてみてたら? 神器は専門外だけど、それ以外なら彼は名トレーナーよ」

 

 朱乃さんの雰囲気が変わる! 勝負を仕掛ける気だ!

 

「……ッ。本当に神城くんが修行をみていたなんて計算外だわ……。だけど、ただで負けるわけには行かないのよ!」

 

 真羅先輩も長刀をかまえた!

 

 張りつめる空気!

 

 先に朱乃さんが飛びだした! 早い! 修行をする前の僕ぐらいの速度はある! 朱乃さんの足元を見ると魔力で光っていた。肉体強化の魔術か!

 

「止めよ」

 

 と槍で貫こうとした瞬間。真羅先輩は長刀を捨てて前方に例の鏡を出現させた!

 

 このタイミングでカウンター!? 僕が驚いていると、さらに驚くことが起きた!

 

 朱乃さんが持っていた雷光の槍が鏡に当たる寸前で、砕け散ったのだ! 結果、鏡は割れずに朱乃さんにダメージはない。

 

「こんどこそ、本当の(・・・)止めですわ」

 

 ザシュッ。朱乃さんが言った瞬間――、真羅先輩の背中に先ほど消えたはずの雷光の槍が刺さっていた!

 

「――なっ!?」

 

 驚愕する真羅先輩に、朱乃さんは冷笑を浮べて話し始めた。

 

「私はもともと広域型ですし、雷光の槍をどこでも、自由に何本でも創りだせますわ。――時間さえあれば」

 

「――っ!」

 

 ――っ。真羅先輩の会話にのったのは光の槍を真羅先輩の後方に創りだすためだったのか!

 

「カウンター型であることは知っていましたし、大振りで、ここぞという場面で神器を発現させることは読めていましたから、逆手に取らせていただきましたわ。――イッセーくんたちの仇。討たせていただきましたわ」

 

『ソーナ・シトリーさまの「女王」、リタイヤ』

 

 本当に2人とも格段に強くなっている!

 

 これで相手の残りは――『王』、ソーナ・シトリー会長のみとなっていた。

 



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第53話 VSシトリー戦 決着

 

<リアス>

 

 

 ソーナとのゲームもいよいよ終盤戦。あちらはもうすでに『王』ひとりのみ。こちらはイッセー、ギャスパー、アーシアの3人を取られ、祐斗もアーシアで回復させられなかったから実質4人を取られたことになったわ。

 

 イッセーと祐斗がやられるなんて思いもしなかったわ。本当にゲームではなにが起こるかわからない……。

 

 朱乃とゼノヴィアがソーナの『女王』と『僧侶』に圧倒的な力で勝ってくれたけど、私の評価は確実に下がるわね。

 

 優勢とされていたゲームだったけど、完全にソーナの策に引っかかって4人も取られいるですもの……。

 

 でも、私もここで立ち止まるわけにはいかないの。私のために戦ってくれたかわいい下僕悪魔たちのためにも!

 

 私たちは6人全員でデパートの屋上へとやって来た。ゲーム内部なので外の空は白く、何もなかった。

 

 負傷している祐斗はエイジが抱えてくれている。今回のゲームはもともと相手の人数も少なかったからエイジには目だった活躍はしてもらっていないけど、ゼノヴィアと朱乃、それに私をここまで強くしていたのだから、裏の立役者ね。もちろんイッセーたち神器持ちにアドバイスしてくれたアザゼル先生もだけど。

 

 前方にソーナが立っている。ソーナはこちらに視線を送ると、苦笑していた。

 

「ソーナ、どうして屋上に?」

 

 私の問いにソーナは苦笑したまま答えた。

 

「最後まで『王』が生きる。それが『王』の役割。『王』が取られたら、ゲームは終わってしまうでしょう?」

 

 彼女なりのゲームに対する考え……。

 

「……そう、深くは聞かないわ」

 

「リアス、サジは赤龍帝に勝ちました。イッセーくんにもあなたにも落ち度なんてない。――あの子をなめないで。必死なのはあなたたちだけじゃありません」

 

「ええ、身をもって体感できたわ。――さあ、決着をつけましょう、ソーナ」

 

 私は一歩前へ出る。ゴメンなさい、皆。この勝負だけは一対一でやらせてちょうだい。

 

「危険を感じたら、即座に助けに入ります。わがままは聞きません」

 

「…………」

 

 祐斗がそう言ってくる。ええ、当然ね。『王』である私が負ければソーナの逆転勝利。いままでの戦いが、がんばりがすべて無駄になるんですから。エイジや朱乃、ゼノヴィアに小猫も戦闘態勢のままその場を動かない。本当に危険になったら止めると、態度で示してくれていた。

 

 ありがとう、皆。私のわがままをきいてくれて。

 

 ソーナの周囲に水のオーラが集まり、しだいに何かが形成されていく。この水の量、尋常じゃない。デパートのあらゆるところから水を集めているのね。

 

 さすがは水の魔力を得意とするシトリー家。セラフォルーさまは氷、ソーナは水が得意だったわね。

 

「さて、リアス。私の水芸、とくと披露しましょうか」

 

 ソーナは大量の水を魔力で変化させ、宙を飛ぶ鷹、地を這う大蛇、勇ましい獅子、群れをなす狼、そして巨大なドラゴンを幾重にも作りだした。

 

 ふふっ、あなたも相当修行していたみたいね。

 

 でも――。

 

「ソーナ。本当に、私も必死なの。この夏休み、本当に地獄のような修行をしたわ」

 

「…………」

 

 ソーナは無言でこちらへ様々な形の水でできた獣を放つ。私は冷静に異次元に収納していた武器を取る。

 

「――っ!」

 

 ソーナが驚きの表情になる。それもそうよね。いつものように滅びの魔力も魔弾も展開しないんだから。それに、もともと武器など使わない私が取り出した武器が――弓だったのだから、驚くなというほうが無理よね。

 

「いくわよ。ソーナ」

 

 私は弓を構えて向かってきていた水でできた獣たち軍勢の丁度中心に狙いを定めて弓を引いた。

 

 滅びの魔力を矢のように形成。さらに弓が射出の瞬間、矢に強化や拡散など色々な特殊効果を付加できる武装。本来滅びの魔力を道具が受けてしまえば消滅してしまうけど、この弓は別。私専用に創られた私だけの弓! まあ、滅びの魔力で滅びない武器を創るためにエイジに体の隅々を観察されたけど……後悔はないわ! もともとゼノヴィアだけにエイジ特製の武器を持つのが納得できなかったから、強請って渡されたのがこの弓! この弓を扱えるようになる修行はきつかったけど、私はおかげで強くなれた。

 

「ルイン・アロー」

 

 弓から矢を放つ。矢が放たれたその瞬間――放たれた矢が滅びの魔力の渦を作りながらソーナ目掛けて飛んだ。

 

 ヒュッ、ゴォォォォォォオオオオオオッ!

 

「――っ!?」

 

 驚愕しているソーナ。それはそうでしょう。たった一撃で水の軍勢が消し飛んだのですから。それにしても、われながらなかなかの威力ね。修行したかいがあったわ。

 

 ソーナは床に座り込んでいた。きちんと狙いを反らしていたから無傷だった。

 

「ソーナ。投了しなさい。もとよりこちらは6人、あなたは1人。さらに地獄の特訓をうけた私は夏休み前とは別人よ」

 

 弓を構えてそう宣言する私。以前はパワーの私とテクニックのソーナで実力は互角だったけど、修行を受けた私は様々な面でも強化されているのよ。

 

 ソーナは座り込んだまま、投了した。

 

『投了を確認。リアス・グレモリーさまの勝利です』

 

 私の初めての勝利だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 ゲーム終了後、俺が目を覚ましたのは医療施設の一室だった。ベッドの上にいた。

 

 そういや、俺がここで厄介になるのは初めてか。

 

 俺の場合はケガというより失血だ。匙にボロボロにされていたけど、アーシアの神器で回復させられていたし、あのあと、すぐに血を入れられて、こうして動けるようになっている。廊下に出て、自販機でジュースなんて飲んでた。

 

 俺たちは勝った。

 

 けど、俺、アーシア、ギャスパーを失い、負傷した木場。ゲーム前に圧倒的と言われていたグレモリー眷属はその評価を下げてしまった。

 

 特に開始早々にギャスパーを失ったことと、赤龍帝である俺がやられたことは特に評価を下げたらしい。禁手に至って少しは評価が上がったが、せっかく禁手に至れたのに相手の策略でやられてしまったのはその分大きく評価を下げた。

 

 部長は――悔しそうだった。朱乃さんとゼノヴィアが圧倒的な力で『女王』と『僧侶』を倒して、『王』であるソーナ会長も部長の新装備の新必殺技の一撃で降伏させて勝ったらしいが、それでも評価は下がったからだ。

 

 初の勝利がこれではな……。策略に嵌って負けてしまった俺としては素直に喜べない。

 

 膨大な力が眷属にあるのに、俺たちの完全な勝利に程遠かった。

 

 うーん! こんな調子じゃマズい!

 

 俺は頭を振り、気分を入れ替え、匙の病室に行くことに決めた。あいつのケガもすでに完治してる。ゲーム中では敵同士だったけど、一戦終われば、いつもの友達さ。

 

 さてさて、あいつにさっきつついた小猫ちゃんのおっぱいを自慢して――。

 

「これを受け取りなさい」

 

 匙の病室からサーゼクスさまの声が聞こえてくる。少しだけ開いている扉から、なかの様子をうかがう。なかにはサーゼクスさま、会長、ベッドの上の匙。

 

 匙はサーゼクスさまから何かを受け取った様子だった。高価そうな小箱を手に持っている。

 

「あ、あの……これは……?」

 

 緊張して震えている匙。

 

「これはレーティングゲームで優れた戦い、印象的な戦いを演じた者に贈られるものだ」

 

 サーゼクスさまは微笑みながら言う。しかし――。

 

「お、俺は……兵藤に負けました……。こ、これを受け取っていい立場ではありません」

 

 匙は悔しそうにベッドのシーツをつかんでいた。

 

「そうだ。けど、結果的にイッセーくん――あの赤龍帝を倒した。禁手に至るという誰も想定していなかったことが起きても、その禁手さえ無効化させたんだよ。私たちはキミの戦いを観戦席で興奮しながら見ていた。あの北欧のオーディンもキミに賛辞を贈ったほどだよ」

 

 サーゼクスさまは小箱の勲章を取りだし、匙の胸につけた。

 

「自分を卑下してはいけない。キミだって、上を目指せる悪魔なんだ。私は将来有望な若手悪魔を見られてうれしい。もっと精進しなさい。私は期待しているよ」

 

 そして、サーゼクスさまは匙の頭をなでる。

 

「何年、何十年先になってもいい。――レーティングゲームの先生を目指しなさい」

 

 サーゼクスさまの一言に匙は――無言で泣いていた。とめどなく涙は流れ、顔はくしゃくしゃになっていた。

 

「……サジ、あなたはたくさんの人々に勇姿を見せたのですよ。あなたは立派な戦いをしたのですから」

 

 ソーナ会長は我慢していたものを目から溢れさせていた。

 

 きっと、会長もうれしかったんだろう。自分の自慢の眷属が大きく評価されたことが。

 

 匙は胸の勲章を触り、涙を手でぬぐい、力強くうなずいた。

 

「……はい……ありがとうございます!」

 

 …………。

 

 俺はそれ以上聞くのは失礼だと感じ、その場をあとにする。

 

 ……匙、おめでとう。

 

 俺はヴァーリだけがライバルだと思っていた。ヴァーリだけが倒すべきライバルと信じて疑わなかった。――それは違ったんだ。間違っていたんだ。

 

 だからこそ、今度改めて面と向かって言うよ。

 

 すまなかった、と。

 

 なあ、匙。俺とおまえどっちが先に上級悪魔になって夢を叶えるのかな?

 

 俺は――負けない! 絶対にだ。そして、次戦うときは必ず勝つ!

 

 だから、またやろうぜ。

 

 俺のライバル、匙元士郎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が病室に入る直前の部長を見つける。

 

「部長」

 

 部長もこちらに気づき、微笑む。そのまま病室に入り、談笑を始めた。

 

「イッセー、ゲームお疲れさま。よくやってくれたわ。でも、あまり私にも、ゲームの最中胸を出すように強要した小猫にも恥をかかせないでね? あなたは本当に性欲が過剰なのだから」

 

 部長は苦笑する。あああああ、恥をかかせてしまいました。あのときは必死だったから忘れていたけど、全冥界放送で小猫ちゃんにセクハラしちゃったよ!

 

「す、すみません……。どうにも新技やらパワーアップが煩悩に繋がりやすくて……」

 

「あの技はゲーム時には封印よ」

 

「ええええええええええええええっ!? マジですか!?」

 

 ウソ! マジで!? どうして!? あ、変態的だからか!

 

「だって、女性悪魔と戦えなくなってしまうもの。だから、禁止」

 

「うぅ、部長がそう言うなら従いますぅぅぅ」

 

 俺は涙目でうなずいた! 残念だ! 無念極まりない! まさか、たった一度の命とは! あ、でも実戦では使っていいのかな?

 

 部長が苦笑する。

 

「けど、やっと一勝したわ。前回に比べたらマシだけど、それでもこちらもイッセー、アーシア。ギャスパーを取られて、祐斗も負傷した。才能に恵まれ、力に溢れた眷族と呼ばれようとも、本番で力を発揮できなければ意味がないわ。勝つ確立が高くても負けるときは負けてしまう」

 

 部長の言う通りだ。

 

 俺たちも一歩間違えれば負けていたかもしれない。相手は俺たちよりも勝つ確立が低くても必死で向かってくる。あちらもまた勝つことを信じて前進してくるのだから。

 

 妥協、油断なんてものをしていたら、勝てる試合も勝てやしない。

 

 当たり前のことを俺も部長も改めて思い知った。

 

 ……難しいな、ゲーム。戦闘も同じか。

 

 そして、上級悪魔への道も見えてきた分、遠く感じた。

 

 だけど、届かない距離じゃないんだ。いつか俺も部長のように――。

 

 コンコン。

 

 ふいに病室のドアがノックされる。「はーい、どうぞ」と返事をしてみると

エイジだった。

 

「よお、意外と元気そうだな」

 

 と病室に入ってきた。

 

「俺はアーシアに回復させられてたし、失血だけだったし、もう血を入れられたからな」

 

 俺が返すとエイジは茶色い紙袋を掲げた。

 

「見舞いの品で持ってきたんだが、その様子なら、これはいらないな」

 

 茶色い紙袋。中身は本のようだが――っ!

 

 俺が凝視すると、エイジはニヤリと笑みを浮べた。やっぱり中身はあれなのか!?

 

 男子高校生の見舞いの品といえば、あれなんだよな!?

 

「いる! もちろんいるに決まっているだろう! ありがとう、エイジ! おまえの見舞いは最高だ!」

 

 俺はエイジの手から紙袋を奪い中身を取り出した! うひょー! やっぱエッチな本だ! しかも3冊も! アーシアと買い物に行くからあまり買えなくなった品!  最高だぜエイジ!

 

「まったく……」

 

 部長が苦笑している! すみませ! すみません、部長!

 

 俺がエロ本を大事に抱えて頬ずりしていると、再び病室の扉がノックされた。

 

 今度現れたのは見たことのないじいさんだった。帽子を被って、隻眼だ。しかも長い白ヒゲだし。

 

「じいさん、誰っスか?」

 

 俺が怪訝に訊くと、じいさんは笑う。

 

「わしは北の田舎ジジイじゃよ。赤龍帝、もう少し修行が必要のようじゃな。まあ、精進せい」

 

 急になんだ、この馴れ馴れしいジジイは。でも、俺のこと赤龍帝って知ってる?

 

「オーディンさまですね? 初めてお目にかかります。私、リアス・グレモリーですわ」

 

 部長は知っているようだ。オーディン? はて、どこかで聞いたことがあるようなないような……。

 

「うむうむ。サーゼクスの妹じゃな。試合見ておったぞ。まあ、ああいうこともある。おぬしも精進じゃな。しかし、うむむ。デカいのぉ。観戦中、こればかり見とったぞい」

 

 じいさんは部長のおっぱいをやらしい目つきで見ている!

 

「久しぶりだな、スケベジジイ」

 

 とここでエイジがじいさんに声をかけた。なに? 知り合い?

 

「おお、そうじゃな。セルベリアは元気でやっとるかの? 大勇者よ」

 

 大勇者!? エイジのこと大勇者って呼んだ!?

 

「ああ、元気だよ。毎日楽しそうだ。俺もセルベリアがいて楽しいしな。あと、大勇者はやめてくれよ。名前も公開してるんだ。神城かエイジで呼んでくれ」

 

「ほっほっほっ。そうかそうか。では、エイジ。完全に悪魔に転生したらしいの? しかも絶滅したインキュバスに。まったく。昔からとんでもない女好きだとは知っておったが、とうとう性欲の悪魔になるとは。長生きはするもんじゃな」

 

 じいさんは楽しそうに笑う。昔からの友人のようだ。ってセルベリアさんも何か関係があるみたいだな?

 

「セルベリアはオーディンさまから与えられたのね?」

 

 部長はあごに手を当てながら訊いた。部長もエイジとじいさんが知り合いだったとは知らなかったようだ。

 

「はい。昔北欧で賞金首を狩っていたときの縁で。――まあ、いきなり大勇者と呼ばれたのは驚きでしたけど」

 

 エイジの言葉にじいさんは心底おかしそうに笑った。

 

「ほっほっほっほっ。驚いたのはこっちじゃよ。わしが少し留守にし取る間に堅物で通っていたセルベリアや何人ものヴァルキリーをモノにしとったんじゃからのう。いまだにお主の元で働きたいという者がおるし。わしと戦って、互角の戦いをした人間じゃかなのう」

 

 エイジって本当にどこでも――いや、何をやってんだ!? タンニーンのおっさんといい、いくらなんでも入れ食いしすぎだろ!?

 

「オーディンさまと互角に戦った……」

 

 部長は驚いていたがそれどころじゃない! クソ! 俺はエロ本で発散しているのに! クソッ!

 

「悪魔になったからといってもお主は変わっておらぬようじゃし。そうじゃ、いっそのことお主のところで働きたいというヴァルキリーの女たちを送るかの? お主なら何人でも相手にできるじゃろ?」

 

 と言うじいさん! ぜひ俺にも送って欲しい! っていうか、いつまで部長の胸をいやらしい顔で見てるんだ! 俺以外がやらしい目つきで見ちゃいけないんだよ! 猛抗議しようとしたら、いつの間にか入室してきていた鎧着たキレイな女の子がじいさんの頭をハリセンで叩く。

 

「もう! ですから卑猥な目は禁止だと、あれほど申したではありませんか! これから大事な会談なのですから、北欧の主神としてしっかりしてください!」

 

「……まったく隙のないヴァルキリーじゃて。わーとるよ。これから天使、悪魔、堕天使、ギリシャのゼウス、須 弥 山(しゅみせん)帝 釈 天(たいしゃくてん)とテロリスト対策の話し合いじゃったな」

 

 じいさんは頭をさすりながら、半眼でつぶやいた。

 

「まあよいわ。サーゼクスの妹と赤龍帝。世は試練だらけじゃがな、楽しいこともたくさんあるぞい。存分に楽しんで、存分に苦しんで前へ進むんじゃな。がむしゃらが若造を育てる唯一の方法じゃよ。ほっほっほっ。――それからエイジ」

 

 じいさんはエイジに視線を向けた。鎧の女の子を指差して言う。

 

「こやつをもらわんか? 器量よしじゃが堅くての、男ひとつもできんのじゃ。お主ほどの大勇者にもらわれてば、こちらとしてもうれしいんじゃが」

 

「な、何を言ってるんですかオーディンさま!」

 

「なんじゃい。お主がこやつのファンであることはヴァルキリーたちにはもとより、周知であろう? 別に問題なのないではないか」

 

「なんで周知されているんですか!? それに問題ありまくりですよ! 彼はまだ未成年の学生らしいじゃないですか!」

 

「ほっほっほっ。こやつはすでに自立しておるよ。それに、悪魔に年齢は関係なかろう。まったく……、これだから男ができんのじゃ。セルベリアを少しは見習わんか」

 

「どうせ! どうせ私は、彼氏いない歴=年齢の戦乙女ですよぉぉぉぉっ! セルベリアさんに完全に先越されちゃってますよぉぉぉぉっ! うわぁぁぁぁんっ!」

 

 鎧の女の子は号泣しながらどこかへ走り去っていった……。じいさんもそのあとに続くように病室をあとにした。何者だったんだ? あのじいさん……。いや、それより俺の部長のおっぱいに注目しやがって! 部長のおっぱいに手を出したら俺の敵、確定だ! そんなことは絶対に許さん! もちろんエイジであってもな!

 

 そのあと部長とエイジに聞いたことだけど、あのじいさんは北の神さまらしい! ただのスケベジジイにしか見えん!

 

 ……本当、世の中、俺のわからんことばかりだぜ。ていうか、エイジってVIPとの繋がりって全部女関係なのかよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 レーティングゲーム後。グレモリー家では祝勝会が行われていた。

 

 評価を下げてしまったことは忘れていまは勝利を祝っていたわけだが……。

 

 シトリーとのレーティングゲーム、俺まったく活躍してないじゃん!

 

 ほとんど働いていないのに勝利を祝うのは……。いや、『王』の護衛は大事な仕事なんだけどね。

 

 まあ、それにしても、黒歌たちは本当にマイペースだ! 晩餐会にだされている料理を次から次に平らげてる! 時雨とノエルはゼノヴィアとアーシアと談笑しながら料理をつまみまくっているし。セルベリアは先ほどから高給そうなワインを何本も開けている。

 

 レイナーレはまたもやメモ帳を片手に料理のレシピを聞いていた。

 

 黒歌はというと小猫ちゃんにべったりで料理を次から次に運び、さらに小猫ちゃんはその料理をその体のどこに入るんだ? と疑問に思うほど料理を食べ続けていた。

 

 本当に自由だな。

 

 現在リアスはご両親とお話中。まあ、様子からして苦言をもらっているわけじゃなさそうだ。

 

 木場は血が足りないとばかりに料理を食べているイッセーの世話をまるで恋人のようにしていた。ギャスパーはイッセーのすぐ近くでお食事中。

 

 で、俺はというと、朱乃さんと並んで料理を食べていた。

 

「見ていていただけましたか? 私の戦いを」

 

「ああ、見ていたよ。修行の成果が出ていたし、強くなっていたな」

 

 そう褒めると、朱乃さんがニコニコ笑顔で体を寄せてきた。ああ、かわいいなぁ。

 

「おい、神城!」

 

 いい雰囲気のなか空気が読めない奴――アザゼルが声をかけてきた。おまえ、各勢力とのテロリスト対策の話し合いに行っていたはずじゃないのかよ。

 

「おまえの製作した武器! ありゃあ、何だ!? ゼノヴィアの武器は見せてもらっていたが、リアスの武器は見せてもらっていないぞ!」

 

 興奮した様子のアザゼル。そういやこいつ、神器も好きだけど、特殊な武器とか道具の研究とか好きだったなぁ。でも、空気は読んで欲しいよな。朱乃さんの笑顔がすげえ怖いものに変わってるぞ。

 

「なんでリアスの消滅の魔力を弓がまとえるんだ!? 普通消滅するだろう! それに他にも特殊機能をつけてるんだろ! 見せろ! 研究させろ! 研究させてください!」

 

 アザゼルゥゥ……。

 

 テンションの高い、子供みたいなキラキラした瞳のアザゼルに、俺も朱乃も2人の間に入られた怒りも収まった。

 

 こういう、アザゼルは面倒だなぁ。

 

「設計書は見せられないが、試作機ならある。それをやるから勝手に研究してくれ」

 

「おお! マジか! ありがとよ、神城! さっそく研究に行くぜ!」

 

【王の財宝】から試作機を出して渡すと、アザゼルはおもちゃを与えられた子供のように喜び、祝勝会など忘れて会場から出て行った。

 

 それから朱乃さんとゆっくり談笑していると、リアスが両親を連れてやってきて5人で談笑した。ちなみにミリキャスはもう夜も遅いということですでに退席している。

 

「エイジ先輩。……ちょっと、いいですか?」

 

 祝勝会も終わりかけ、そろそろ部屋に戻ろうとしたところで、小猫ちゃんに話しかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小猫ちゃんに連れてこられ場所は、グレモリー家の中庭だった。ベンチに腰掛ける。空には丸い満月が昇っていた。冥界独特の人間界とは違う月だ。

 

 小猫ちゃんが話を切り出しにくそうにしていたので、こちらから話しかける。

 

「なにか悩み事か?」

 

「いえ……、悩みというわけではないんです。その……、聞きたいことがあって」

 

「ん。なんだい?」

 

 首をかしげると、小猫ちゃんはそこでネコミミと尻尾を生やした。猫又の姿。黒歌と違ってこっちは白猫だから、耳も尻尾も白いな。

 

 その状態で、小猫ちゃんは恐る恐るといった風に訊ねてきた。

 

「……エイジ先輩は、お姉さまや私のことがなぜ怖くないんですか?」

 

「怖い?」

 

「……はい。エイジ先輩はお姉さまが仙術に飲み込まれていたときに会ったんですよね?」

 

「ああ。8歳ぐらいのときにな」

 

「怖くは……なかったんですか?」

 

 小猫ちゃんの問いに空を見上げながら考える。黒歌が怖くなかったのか、かぁ。

 

「別に怖くはなかったな。まあ、最初に出会ったときは殺気を振りまいてこられたけど、怖いとは思わなかったな」

 

 俺の言葉に小猫ちゃんは意外そうな表情になった。

 

「なぜ怖くなかったんですか?」

 

 うーん……。そりゃあね~。

 

「俺がバケモノだからかな?」

 

「――えっ?」

 

 驚く小猫ちゃんに俺は言葉を続ける。

 

「俺ってさ。すごく小さい頃から強かったんだよ。なにせ生まれた瞬間から自我があったぐらいだぜ? しかも、他の子供とは違う特殊能力なんてものも備わっていたしな。両親の目を盗んで特訓して、子供だけどかなり強くなってたんだ。両親は気づかないまま交通事故で2人とも一片に死んで最後まで俺の異常性に気づかないで……。いや、気づいていたんだろうな」

 

 あの愛情を注ぎまくってくれた両親が気づいていないわけないよな……。

 

「……エイジ先輩」

 

 おっと、話の続きだったな。

 

「まあ、両親が死んで、引き取り手もなくて孤児院に入れられることになったんだけど。俺みたいな他とは違うバケモノが馴染めるわけないだろ? だから、孤児院に向かうトラックから逃げ出したんだ。そして、これからどうしようか途方にくれていたときに出会ったのが黒歌だったんだ。最初に出会ったときは黒歌は黒猫の姿でさ。大怪我しているみたいで、首輪もしてないから野良だと思って、拾ったんだよなぁ」

 

 マジで昨日のように思い出せるな。

 

「俺も両親亡くした直後で、天涯孤独くんだったから、家族が欲しかったんだろうな。俺は他とは違うバケモノだったから。家族や拠り所が欲しかったんだろう。だから、黒歌が殺気を放ってきても、まったく怖くなかったんだと思う。この世界で一人ぼっちは嫌だから黒歌を受け入れたんだと思う。まあ、いまは愛している女だから傍にいてもらってるけど」

 

 小猫ちゃんは無言で訊いていた。俺はもう少し話を続ける。

 

「それから黒歌がはぐれ悪魔だってことを知って、冥界っていう世界があることを知って、冥界に渡ったんだ。能力を隠したままでも隠さなくても、人間界で小さな子供ってのは生きづらいからな。冥界で賞金稼ぎとして働いて、冥界を転々としながら生活してたんだ。そんなこと『普通』の子供にできると思うか?」

 

 小猫ちゃんに訊ねると、首を横に振った。

 

「そうだろ? 『普通』なら無理さ。さらに俺はその頃から魔力の扱いも仙術も誰よりも優れていて、様々な知識も持っていた。倉庫扱いしている【王の財宝】にもとんでもない代物が無数に入っている。――俺はさ、本当にバケモノなんだよ。人外クラス……、いや、今は人外なんだけど。まあ、いうならば世界の枠を超えたバグキャラだな」

 

「バグキャラ……」

 

「そ。バグキャラ。まっ、バグキャラだからかなぁ。世界から外れた者ってことで、俺はすごい寂しがり屋でさ。ひとりは絶対に嫌。常に誰かと共にいたい。誰かと繋がっていたいって……。心だけでも体だけでも、絶大な力は忘れて、愛し愛し合う。俺が女好きなのもそれが原因の一部かな? まあ、生来女好きだったみたいだけど」

 

 本当に原因の一部だろうなぁ。俺って初代の記憶からいって規格外の女好きみたいだから。正直、純粋に女好きが9割ぐらいだと思う。

 

「――まあ、結論を言うと、他を怖いなんて思えないぐらい俺はバケモノだったってことだよ」

 

「エイジ先輩は……、バケモノなんかじゃありません」

 

 小猫ちゃん?

 

「バケモノなら寂しいなんて思いません……。エイジ先輩はリアス・グレモリー眷属の『兵士』です。とんでもない女誑しで、女好きな。私たちの仲間です……」

 

 ――っ。

 

「ありがとう。小猫ちゃん」

 

 頭をなでると小猫ちゃんは目を細めていた。 

 

「そういえば、エイジ先輩って目標とか夢とかあるんですか?」

 

「ん? なんで?」

 

「いえ……、ただ気になったんです」

 

 うーん……、目標や夢ねぇ……。小猫ちゃんは俺の目をしっかり表面から見て言う。

 

「部長はレーティングゲームの大会で優勝する。ソーナ会長は分け隔てない学校を建てる。――私は、いつかお姉さまを超えて冥 界 猫(ヘルキャット)という通り名を冥界に轟かせることが目標であり、私の夢です」

 

 ヘルキャット――か。こりゃあ、俺もきちんと答えないといけないな。でも、俺の夢って最初から決まってるんだよなぁ。

 

「俺の夢は――、幸せな家庭を築くこと、だな」

 

「幸せな家庭ですか?」

 

「ああ。もともと考えていたことだったんだけどさ。人間界で大学まで行って、卒業したら冥界に渡って、大好きな女たちと静かに暮らしたいってね。そこで幸せに暮らせれば満足だ。ってな」

 

「…………」

 

 無言な小猫ちゃん。どうしたんだろう? と思っていたら突然口を開いた。

 

「……エイジ先輩は絶大な力を持っているのに、それで満足なんですか?」

 

 そう訊いてくる小猫ちゃん。まあ、絶大な力持ってる奴の掲げる夢にしては庶民的だよなぁ。

 

 ――でも。

 

「俺はそれで満足だよ」

 

 小猫ちゃんの頭をポンポンと触れるように手で叩く。それから手を満月に向けて伸ばす。

 

「俺の力の使い方は決めているからな。この力は大好きな女たちのために使うって。世界に興味なんてない。俺が興味あるのは、俺を愛してくれた女たちの幸せだよ。俺も幸せになって女も幸せになる。――それっていいことじゃないか」

 

 そう。すべては世界の美女、美少女のため。俺を愛してくれる女たちのために。

 

 俺が宣言すると小猫ちゃん微笑を浮べていた。

 

「ふふふ、エイジ先輩らしいですね」

 

 かなりかわいい微笑だった。いつもの感情薄なものではなく、本当の笑みだった。

 

「まあ、インキュバスになっちゃうぐらい女好きの俺だからな」

 

 俺は肩をすくめた。まったく、そんなに笑わないでもいいだろ。かわいいけど……。

 

 俺は仕返しに小猫ちゃんに顔を近づけた。

 

「――っ。……エイジ先輩?」

 

「小猫ちゃんも俺とくるかい?」

 

「ええっ!? わ、わたし……!」

 

 驚き顔の小猫ちゃん。慌ててる姿がなんともかわいらしい。

 

「俺は見ての通り、性欲過多、愛欲の塊、インキュバスだからね。愛する女性はどんな種族であろうと受け入れて最大の愛情を注ぐんだ」

 

 猫耳がヒクヒク動き、尻尾をひらひらと揺れる。小猫ちゃんの顔が真っ赤になる。

 

 小猫ちゃんは俯いて視線を迷わせる。

 

「え、あ……わ、わたしは……」

 

 ふふっ、混乱しているね。そろそろやめてあげよう。ベンチに座りなおして笑みを浮かべる。

 

 俺の様子にかわかわれたと気づいた小猫ちゃんは顔を膨らませる。

 

「からかいましたね、エイジ先輩」

 

「ふふっ……」

 

 笑みを漏らすと小猫ちゃんはベンチから立ち上がった。スタスタと立ち去ろうとする彼女の背に声をかける。

 

「愛する女性は、どんな種族でも受け入れて愛情を注ぐ――ってのは、本当だよ。小猫ちゃん」

 

 まあ、女性ならもとからどんな種族でも受け入れるんだけどね。

 

 うしろからでも顔が真っ赤になっていることがうかがえた。すごくかわいいな。

 

「……お話、ありがとうございました。エイジ先輩」

 

 そう言ってから小猫ちゃんは屋敷へと戻っていった。

 

 冥界の空に浮ぶ月を、俺はしばらくひとりで眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 中庭へ出て行くエイジと小猫ちゃんを追った。いや、正確には追ってはいないな。現在俺がいる場所はパーティ会場なんだし。

 

「ほら、赤龍帝。さっさと集音機に倍加をかけるにゃ」

 

 小猫ちゃんのお姉さん、黒歌さんが急かしてくる。いま俺がいる場所はパーティ会場。そう、周りには黒歌さんだけじゃなく、この場に居ないアザゼル先生以外が集音機を取り囲んでいた。

 

 近くに行けばバレるから、集音機にブーステッド・ギアの倍加をかけて、部屋のなかから小猫ちゃんとエイジの会話を聞こうという計画なんだが、これって盗聴じゃ?

 

「あ! 話し始めたようですわ! イッセーくん早く!」

 

「イッセー!」

 

 朱乃さんと部長が急かしてくる! 2人に頼まれたら俺は断れないんだ! 小猫ちゃん、エイジ、スマン!

 

『Boost!!』

 

 音声がなると、集音機から2人の会話が聞こえてくる。この集音機って部長のお母さまが執事に用意させたものだ。ちなみにマイクなどは食器を片づけるメイドたちが移動しているときにこっそり仕掛けさせたようです。さすがグレモリー家。連携が取れてるぜ!

 

 スピーカーから2人の会話が聞こえてくる。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 2人の話の内容に……、特にエイジの言葉に俺たちは誰も口を開けなかった。

 

 まさか、自分をバケモノと思っていたなんて……。それに、ただの女好きと思っていたけど、そんな背景があったのか。

 

 そして、エイジの目標――いや、夢か。

 

 あいつの夢は俺からすれば意外だった……。

 

 幸せな家庭……か。俺の目指していたハーレムと同じようで、まるで違う。

 

 声だけで分かる。あいつはただのハーレムじゃなくて、ハーレムの中身まで考えているんだ。

 

 俺はただ女の子を囲えたらいいと思っていたのが、恥ずかしく思えた。

 

 部長たちもエイジと小猫ちゃんの会話にそれぞれ考えるような表情を浮かべていた。

 

 俺もただのハーレムを創りたいってだけじゃダメだな。皆みたいにしっかりとした目標や夢を考えないと。

 

 それから俺たちは特に会話もすることなく、解散した。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 8月後半――。

 

 俺たちグレモリー眷属と黒歌さんたちは、本邸前の駅で冥界とのお別れのときを迎えようとしていた。

 

「それでは、エイジくん。また会える日を楽しみにしているよ。いつでも気兼ねなく帰ってきてくれてかまわんよ。グレモリー家をキミの家と思ってくれたまえ」

 

 大勢の使用人をうしろに待機させて、部長のお父さんがエイジに言う。

 

「ありがとうございます」

 

 うれしそうに礼を言うエイジに、部長のお母さんも声をかけた。

 

「人間界ではリアスをよろしくお願いしますわね。娘はちょっとわがままなところがあるものだから、心配なの」

 

「お、お母さま! な、何をおっしゃるのですか!」

 

 部長は顔を真っ赤にしていた。かわいい部長!

 

「はい。もちろんです」

 

 エイジは堂々と部長のお母さんに返した。それにしても、うれしそうだよな。部長の両親が本当の親のように接してくれるからなのかな?

 

「……うぅ、私は涙もろくなったものだ。我が家の将来は明るい……」

 

 部長のお父さんが号泣していた。ええええええっ! なんでなんで?

 

 横で部長のお母さんが嘆息していた。

 

「ちょっと、あなた。そこは父親らしく、『娘はまだやらん!』ぐらいは言って返すものですわよ?」

 

「そんなことを言ってもだな、エイジくんは魔王クラスの有望株で、リアスもすでに私の力を超えそうなぐらい成長しているだ。そろそろ落ち着いてもいいものではないかと思ってな」

 

「隠居めいたことをおっしゃるのは、せめてリアスが高校を卒業してからにしてください」

 

 ???? なんだか、盛り上がってるけど、何なんだ……?

 

「リアス、残りの夏休み、手紙ぐらいは送りなさい」

 

 サーゼクスさまがご子息のミリキャスさまを抱えながら言う。そのすぐ後方にはグレイフィアさんが待機していた。

 

「はい、お兄さま。ミリキャスも元気にね」

 

「うん、リアス姉さま!」

 

 列車に乗り込み、窓からサーゼクスさまたちに最後の別れを告げる。

 

 あ――。

 

 そのとき、俺は気づいた。サーゼクスさまとミリキャスさま、そして――。

 

 そのスリーショットは親子に見えたんだ。やっぱり、そうだったんですね。俺の家でのあれは冗談ではなくて――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰りの列車。

 

 俺は手つかずだった学校の宿題に追われていた。

 

 そうだよ! 冥界に来て忙しかったけど、これをすっかり忘れてました!

 

 しかも思い返してみれば、俺、大切な高校2年生の夏休みの大半をドラゴンと山で過ごしていたんだぜ? 泣けるなんてもんじゃねぇぇぇぇっ!

 

 あんな山でサバイバルで貴重な青春を使っちまった! 女っ気たっぷりすぎるエイジと違いすぎだろ! 

 

 そのエイジは夏休みの宿題を夏休み始まってからの2日で完全に終わらせているそうで、昨晩まで仕事に追われ、3,000件の予約依頼を完遂させて、現在列車で就寝中だ。爆睡しているといってもいい。

 

 一方の俺はというと、号泣しながら、現国の宿題に手をつけていた。

 

 しかし、冥界での生活はすごい体験ばかりだった。そして、いろいろ勉強になった。

 

 俺たちは強い――パワーに関しては。けど、俺たちよりも統制の取れたチームが相手の場合、どんなにこちらのパワーが強大でも戦術しだいでやられる。まあ、エイジがやられるところなんて想像できないが……。いや、あいつはパワーだけじゃなかったな。それに男の娘を克服するまえだったら、女装した匙にやられていたかもしれないんだし。

 

 ……俺の将来『王』としてゲームをやるなら、いまのうちからそういう戦術とかを考えておかないとダメだろうな……。

 

 だってさ、俺のパワーが伝説のドラゴンでどんなに強くても無闇に突っ込んで相手の術中にハマってやられたら、そこで即終了だ! 俺が『王』だからやられたら投了だよ! 今回も力では全体的に勝っていたはずなのに、神器が発動不能になるっていうイレギュラーと血を抜かれるというからめ技で匙に負けたんだし……。

 

 うわぁ……、先行き不安すぎる。

 

 通路を挟んで斜め前に座る部長に俺は話しかける。

 

「部長」

 

「なに?」

 

「俺、ハーレム王になるためにいままでがむしゃらにやってきました。それが目標でしたし、いままでもそれになりたいって気持ちも変わりません。――ただ、タンニーンのおっさんが俺に言ったんです。最終目標にそれを持ってくるのは勿体無いって」

 

 俺は部長の前の席で眠っているエイジを見てから言葉を続けた。

 

「俺はただのハーレムじゃなくて、エイジみたいなハーレムを創りたいって。誰にも負けない魅力でゲームにも強いハーレムを創れたら最高ですよね」

 

 部長は俺の言葉を聞き、かなり驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んでくれる。

 

「夏の合宿は成功みたいね。冥界で他の悪魔に出会えたこともあなたにとって大きなプラスになったようだし。私も大きく学んで前に進めたからね」

 

 はい! 俺、がんばります!

 

 と、そこでエイジがこくりこくりと電車の揺れで首を揺らしていると、そこへ小猫ちゃんが現れて……、エイジのひざにお座りしたぁぁぁぁっ!?

 

 俺は何が起きたかわからなかったが――小猫ちゃんはエイジのひざの上にお座りして、ネコミミをぴこぴこ動かしていた。

 

「こ、小猫ちゃん……?」

 

 俺がどうしたのか混乱していると、エイジは首を小猫ちゃんの肩に乗せて、小猫ちゃんの腰に腕を回した! 何やってんだぁぁぁぁっ!

 

 燃え上がった嫉妬心にしたがって、エイジを起こそうと立ち上がったその瞬間――。

 

「にゃん♪」

 

 満面の笑みが俺の視界に飛び込んできた。うん。なんか、もうそれだけで俺の脳みそが弾け飛んでた。

 

「にゃはは~。白音もエイジが気に入ったみたいにゃね♪」

 

 エイジの隣に座っていた黒歌さんが満面の笑みで小猫ちゃんの頭をなでていた。

 

 エイジのヒザに座る小猫ちゃんに、部長と、その隣に座った朱乃さんはまるで母親のような笑みを浮かべていた。

 

 あれ? 前は怒ってたのに、どうしたんだ?

 

 俺はしばらく動けなかったが、夏休みの宿題がたっぷりあったので、泣く泣く席に戻って現国の宿題と格闘を始めた……。

 

 こうして、列車は俺たちの住む人間界へと――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間界側のホームに列車はたどり着き、俺は背伸びをした。

 

「うーん、着いた着いた。さてさて、我が家に帰ろうぜ、アーシア」

 

 アーシアに振り返ったときだった。謎の優男にアーシアが詰め寄られていた。

 

「アーシア・アルジェント……。やっと会えた」

 

「あ、あの……」

 

 困惑しているアーシア。こりゃマズい! 変質者さんですか? うちのアーシアには指1本触れさせませんよ!

 

「おいおいおい! アーシアに何の用だ!」

 

 間に入る俺! しかし、謎の優男は真摯な表情でアーシアに訊いていた。

 

「……僕を忘れてしまったのかな。僕たちはあのとき出会ったはずだよ」

 

 優男は――って、こいつ、どこかで見たような。優男は突然胸元を開き、大きな傷痕を見せてきた。深い傷痕だ。アーシアはそれを見て、目を見開いていた。

 

「――っ。その傷は。もしかして……」

 

 アーシア? 覚えがあるのか?

 

「そう、あのときは顔を見せれなかったけれど、僕はあのときの悪魔だ」

 

「――っ」

 

 その一言にアーシアは言葉を失っていた。

 

「僕の名前はディオドラ・アスタロト。傷痕が残らないところまで治療をしてもらえる時間はあのときなかったけれど、僕はキミの神器によって命を救われた」

 

 アーシアの過去は聞いている。偶然。1人の悪魔を助けたことで魔女の烙印を押された。

 

「ディオドラ? ディオドラね?」

 

 部長が彼に覚えがあるようだった。……あ、思い出した。こいつ、例の若手悪魔の会合に出ていたぞ! あのときの美少年の上級悪魔! 確か、現ベルゼブブが出た御家の!

 

 ディオドラはアーシアのもとに跪くと、その手にキスしようとするが、空を切った!

 

 あれ? アーシアは? と思ったらエイジがアーシアを抱えていた。ナイス、エイジ! 優男、残念!

 

 とそこで俺はエイジの異変に気づいた。ディオドラをまるで汚物でも見るかのような目線を送っていたからだ。

 

 ディオドラはエイジや俺たちを無視して、そいつはアーシアに言った。

 

「アーシア、僕はキミを迎えにきた。会合のとき、あいさつできなくてゴメン。でも、僕とキミの出会いは運命だったんだと思う。――僕の妻になって欲しい。僕はキミを愛しているんだ」

 

 ――そいつは俺の目の前でアーシアに求婚したのだった。

 

 暑かった夏が終わりを告げ、長くなるであろう秋がもうすぐ始まろうとしていた。

 



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体育館裏のホーリー
第54話 新学期と転校生


 

<エイジ>

 

 

 冥界から帰ってきて数日が経った。この最後の夏休みの数日間で、京都の未亡人狐とその娘さんに会いに行っていたらすぐに夏休みは終了。2学期が始まった。

 

 そして2学期が始まってなのだが、ただいま混乱中。

 

 昨夜はリアスと楽しんで眠りについたはずだったが、例によっていつの間にか、増えていた……。

 

 ベッドの奥側にリアスが寝ているんだけど、俺を挟んで反対側に何故か黒歌が寝ていて、腹の上では小猫ちゃんがすやすやと規則正しい寝息を立てていらっしゃったからだ。

 

 黒歌はいつも通りなんだが、小猫ちゃんは違う。なぜ小猫ちゃんが?

 

 はじめはイッセーのところに居候させてもらう予定だったが、夏休み合宿で黒歌との姉妹関係がうまく修復できたようで、姉妹一緒に住みたいという黒歌の希望にのるかたちで小猫ちゃんは同居を決めたところまではいいんだけど……、小猫ちゃん、最近のスキンシップが激しいよ!

 

 毒舌やツッコミは健在だけど、事あるごとに俺のひざの上に座ったり、ベッドに侵入してくる! しかも、小猫ちゃんの寝間着姿は白ワイシャツ! ロリボディでそれは反則クラスのかわいさで思わず食べそうになる(性的な意味で)!

 

 普段の反応はいつもと同じなんだけど、家にいるときは黒歌と一緒にこうして懐いてくる。俺はいつ懐かれたんだ?

 

 まあ、とりあえずいいか。

 

 それよりもいまはアーシアのことだ。

 

 ディオドラ・アスタロト……。

 

 あいつの放つ醜悪な臭いと、優しい薄っぺらい笑顔の裏側。そして、【黒の聖職者】として教会関係者の女の子たちと遊んでいたときに聞いた噂――。

 

 いや、うん。正直、いまも教会関係者とは現在進行形で会ったりしているんですけどね。俺が悪魔になってもさほど驚かなかったし……。

 

 とりあえず、ディオドラには要注意だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 夏が明け、すでに新学期――2学期だ。

 

 始業式もとっくに終え、駒王学園は9月のイベント、体育祭の準備へと入っていた。

 

 この時期になると、非常に頭にくる出来事があった。

 

 この時期になると、非常にあか抜けた連中が増えるからだ。いわゆる夏デビューとかいうやつ。

 

 夏休みを境にいままでの自分を変え、大胆なイメチェンを果たす者が出てくる。まあ、去年、1年生の頃に比べるとその数は少ないと思うけど、それでも今年もそれらの者たちが現れていた。

 

 ――夏で自分を変えて、彼女ゲット!

 

「そして、童貞卒業か。夏は一種の男子高校生の壁だよな」

 

 と、メガネの男子の元浜がうんうんとうなずきながら言う。

 

 悪友の1人だ。

 

「おおっ、元浜。例の情報は得たのか?」

 

 俺の問いに奴はうなずく。

 

「ああ、いま松田が最終確認をしに出かけていたが――」

 

「おおおーい! イッセー、元浜! 情報を得てきたぞ!」

 

 教室に入り込んできたのは松田だ。どうやら例の情報を得てきたらしい。

 

「やっぱり、隣の組の吉田、夏に決めやがった! しかもお相手は3年のお姉さまらしいぜ!」

 

『くそったれッ!』

 

 俺と元浜はその場で吐き捨てるように毒を吐いた!

 

 やはりか! 吉田め、あの野朗! 2学期に入ってからチャラくなった上に随分と態度が大きくなったと思ったら、そういうことか。

 

「同じクラスの大場も1年生がお相手だったって話だしな」

 

 うしろへ振り向くと、爽やかな笑顔で大場が手を振ってきた! ちくしょおおおおおおっ! 非童貞めぇぇぇぇぇっ!

 

 男の貞操をそんなに軽く捨てていいのか! いいよね! 俺も捨ててぇぇぇぇっ!

 

 去年からやっていることだが、2学期入って早々に俺らがかき集めていたのは、知り合いの『夏』だ。夏に卒業する男子が多いのは周知の事実で、俺ら童貞からしてみればその情報はのどから手が出るほど欲しい!

 

 だって、どいつが童貞でどいつが夏に済ませたか、すっげぇ気になるじゃんか!

 

 仕入れた情報では、童貞卒業した男子の割合が去年と比べて又上がった! 学年男子のそこそこはエッチしちゃってる!

 

 男子高校生にとって、エッチしたかしてないかは大きなステータスだというのに! あの非童貞が俺たちに向ける蔑んだ目が恨めしい!

 

『ああ、こいつ、まだ女を知らないんだ』って目がムカつくんだよぉぉぉっ!

 

 俺は机に突っ伏し、頭を抱えた!

 

 クソッ! こんなはずじゃなかったのに!

 

 俺だって、今年の夏にあか抜けて童貞を捨てる予定だった! それがまさかの冥界入りですよ! 夏に地獄へ行っていたなんて、そんな男子高校生がいますか!?

 

 います! 俺のことです!

 

 しかも山でドラゴンに追いかけられていたんだぞ! 信じられるか、こんなバカなことがぁぁぁっ! 貴重な高校2年生の夏休みを怪獣と生死をかけて過ごしていたなんて誰も信じちゃくれないし、話したくもない!

 

 結局、夏のエロエロイベントも温泉だけであとは何にもなかった! 何にもなかったんだよぉぉぉっ! 一昔前に比べると天と地だが、それでも可能な限り上を目指したんだ!

 

 部長との初体験! 朱乃さんとのベッドイン!

 

 そんな甘いイベントは冥界に一切ありませんでした!

 

 それどころかエイジの家に部長と黒歌さんたちだけじゃなくて、朱乃さんとゼノヴィアも住んでいたし! しかも、俺の家に来る予定だった小猫ちゃんも黒歌さんと一緒に住むってエイジの家に……。

 

 本当に松田と元浜が今年の夏も何もなかったのは幸いだった。俺、こいつらに先を越されたら自殺するぞ、マジで。

 

「童貞臭いわね!」

 

 くくくと俺たちを嘲笑いながら登場したのはメガネのクラス女子――桐生だった。口元をにやけさせて、鼻をつまんでいた。

 

「桐生! 俺たちを笑いにきたのか?」

 

 元浜の問いに奴はうなずく。

 

「ふふふ、どうせあんたたちのことだから。意味もない夏を過ごしたんでしょうね」

 

「うっせ!」

 

「神城を見てみなさいよ」

 

 桐生の言葉で俺たちは席替えで窓側の一番後ろのに席になったエイジを見た。

 

 ――っ! 前の席に座ったゼノヴィアと談笑しているのはいつものことだが。

 

「な、なぜ、村山と片瀬が……」

 

 元浜がショックを受けた様子でつぶやいた通り、エイジの周りに村山と片瀬がニコニコ笑顔で談笑していた! ただの談笑ならよかっただろうが、桐生がわざわざ言うほどだ、何かあるんだろう。

 

 桐生は非童貞組みの俺たち……いや、男子高校生にとって、とんでもないことを話し始めた!

 

「あんたらが夏に非童貞を調べるのと同じように、私たちも非処女を調べているのよ」

 

『――っ!』

 

 ま、まさか――!

 

「私の調べでは今年の夏に非処女になった女の子の8割は、あいつよ」

 

『な、なにぃぃぃぃいいいいいいいっ!』

 

 俺たちは絶叫した! 当然だ! 俺たちが食うに困っているのに! エイジの奴は今年の夏も大食いだと!? しかも、夏に一緒に冥界に行って大半を冥界で過ごしていた裏事情を知っている俺は、その大食いは大半が悪魔の依頼でやったことだと予想できた! 俺の依頼は変人ばっかりなのに! あいつは! あいつはぁぁぁっ!

 

「ちくしょぉぉぉっ! マジか! マジで村山の胸を!」

 

「ああああああああっ! 片瀬の足を!」

 

「クソォォォォォオオオオオオっ! 俺たちと違いすぎるにも程があるだろぉぉぉぉううううっ!」

 

 俺たちは血の涙を流した! エイジの席を親の仇とばかりに睨んだ! だが、それでも、奴との差は埋まらない!

 

 童貞の俺たちと食い放題のエイジ! 友人だと思っていたのに!

 

 松田も元浜もあまりのショックに崩れ落ちて地べたに倒れている。かくいう俺も机に突っ伏し、涙を流した!

 

 桐生は俺たちの様子を笑い、訊いてきた。

 

「ところで兵藤。最近、アーシアがたまに遠い目になるんだけど、何か理由知ってる?」

 

 問いの理由はわかる。ディオドラとの一件だろうな。俺はそれを感じていた。

 

 授業でさされたアーシアは珍しく慌てていて、教科書を逆さまにしていたなんてこともあった。

 

 とうのアーシアは他の女子と談笑などしていたが……。

 

 アーシアもすっかりクラスの人気者だ。男子女子関わらず人気がある。美少女なのはもちろん、話をしているだけで癒されるからな。

 

 男子のなかには恋愛感情よりも癒し目的で話しかけてくる者もいる。下心よりも先に近くで見て癒されたいって感じなんだろうな。

 

 まあ、わからなくもない。実際、アーシアと一緒にいるとだいぶ心が落ち着いてくるもんな。

 

 俺の視線に気づいたアーシアへ手を振った。笑みを浮かべるアーシアだが、どこかぎこちない……。うーむ、やっぱり、気にしているのは確かだよな。

 

 さて、プロポーズは問題。どうしたものか。ディオドラが最近ラブレターとか大きなプレゼントとか送ってくるのも、悩みのひとつなんだよなぁ。

 

 と、考え込む俺を桐生が怪訝な表情で見ていた。

 

「なんだよ?」

 

「いえね、あんた、2学期に入ってから女子からの評判が多少上がったのよ」

 

 ――ッ! マジか! でも、どうして?

 

「だいぶ締まった顔つきになったし、私の目から見ても体つきが随分たくましくなったと思うわ。ワイルドになった、なんて言う女子もいるぐらいだし」

 

 うーん。そうか。自分の顔に手をやり、確認する。ガタイが良くなったのはわかる。そりゃ、山でドラゴンと過ごせば自然とそうなるだろうさ。野生的な生活も送っていたし。

 

 しかし、ワイルドか。なるほど、ふふふ。見ている者は見ているんだな。なんていうか、俺の魅力が夏で増して女子をとうとう魅了し始めましたか?

 

「ふふふ、鍛えていますから。ま、俺も夏で成長したってことさ」

 

 あごに手をやりニヒルに笑う俺を見て桐生は肩を落す。

 

 な、なんだよ、その落胆ぶりは……。よくわからねぇぞ。

 

「お、おい! 大変だ!」

 

 突然、クラス男子の1人が急いで教室に駆け込んでくる。どうしたどうした?

 

 そいつは友人から渡されたミネラルウォーターを一口あおり、気持ちを落ち着かせると、クラス全員に聞こえるように告げる。

 

 一拍あけて――。

 

『えええええええええええええええええええええええええええええええっ!』

 

 クラス全員が驚きの声をあげたのだった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、このような時期に珍しいかもしれませんが、このクラスに新たな仲間が増えます」

 

 先生の言葉に皆がわくわくしていた。

 

 男子のテンションはおかしなぐらいに高まっている! だって女子だもん! そりゃテンション上がりますよ!

 

 女子も男子の反応に呆れつつも興味津々な様子は俺たちを変わらない。

 

「じゃあ、入ってきて」

 

 先生の言葉に促されて入室してきたのは――。

 

『おおおおおおおおおおおおおおっ!』

 

 歓喜の声が男子からわき上がる。

 

 登場したのが、栗毛ツインテールの相当な美少女だったからだ。

 

 しかし、俺は喜びよりも驚きのほうが先で、目玉が飛び出るほど。ビックリしていた。

 

 見れば、アーシアも同様で、ゼノヴィアに至っては目を丸くしてポカンとするほどだ。あのエイジでさえも驚いていた。

 

 当たり前だって! こ、この子が突然そんな風に現れたら、関係を持った者たちは驚きもするさ!

 

 栗毛の転校生はペコリと頭を下げたあと、にこやかな表情で自己紹介をしてくれる。

 

 首から提げている十字架が輝きを放つ。以前と髪型は変わってツインテールにしているけど、間違いない!

 

「紫藤イリナです。皆さん、どうぞよろしくお願いします!」

 

 そう、夏前にゼノヴィアと共にエクスカリバー強奪事件で来日した紫藤イリナその人だった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと来てくれ」

 

 休み時間、男子や女子からの質問ぜめのイリナの手を引き、俺、アーシア、エイジ、ゼノヴィアの4人は人気のない場所へ急いで連れだした。

 

 紫藤イリナ。いちおう、俺の幼なじみ。小さな頃に外国へ引っ越してしまい、そこで境界の祝福を受けて、プロテスタント専属の聖剣使いとなった。

 

 以前、堕天使の幹部に教会が保管と管理をしていたエクスカリバーがコカビエルたちに強奪され、その一件でゼノヴィアと共に来日したんだ。

 

 ゼノヴィアは真実を知り、やけくそ気味に悪魔となって日本に残ったが、イリナはそのまま元も場所へ帰った。

 

 それ以来会っていなかったわけだけど……まさか、このような再会とは……。

 

 いやー、ビックリした。突然だもん。敵ってことではないよね? 3大勢力は協定結んだし。じゃ、じゃあ、イリナがここに来た理由は――。

 

「おひさ~、イッセーくん、エイジさん、それにゼノヴィアも!」

 

 ガバッ! イリナがゼノヴィアに抱きつく。ってなんでエイジだけ『さん』付け?

 

「ゼノヴィア! 元気そうで良かった! 立場上複雑だけど、素直にうれしいわ!」

 

「ああ、久しぶりだね、イリナ。元気そうで何よりだよ。イリナが胸に下げた十字架がチクチクと地味なダメージを私に与えてくるのは天罰だろうか……」

 

 元聖剣コンビの再会か。ゼノヴィアも笑みを見せていた。

 

 さてさて、何から訊こうか。と、迷っているとゼノヴィアが切りだす。

 

「なぜ、ここに?」

 

 うん、シンプルかつ一気に聞きだせる質問だ。

 

「ミカエルさまの命により使いとしてここに転校してきたの。詳しくは放課後に。場所は噂の旧校舎で、ね?」

 

 そんなふうにイリナはかわいくウインクをしたのだった。

 

 部長にケータイメールで聞いてみると、案の定ご存知でした。

 

 よし、まあ、放課後を待とう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

「紫藤イリナさん、あなたの来校を歓迎するわ」

 

 放課後の部室。オカルト研究部のメンバー全員、アザゼル先生、ソーナ会長が集まり、イリナを迎え入れていた。

 

「はい! 皆さん! 初めまして――の方もいらっしゃれば、再びお会いした方のほうが多いですね。紫藤イリナと申します! 教会――いえ、天使さまの使者として駒王学園にはせ参じました!」

 

 とあいさつした。

 

 そしてイリナの説明を聞くと、聖書に記された神がすでに死んでいることを知っていて、さらに転生天使という、悪魔の駒と同じ原理で人工的に人間から天使へと転生させる技術で、天使化したそうだ。

 

 それにしても、悪魔のレーティングゲームの天使版、『御 使 い(ブレイブ・セイント)』ねえ。

 

 悪魔がチェスで、天使がトランプを元にしていて、イリナはミカエルの A (エース)だそうだ。

 

 しかも、変異の駒と同じように隠し要素なるものも存在しているらしい。

 

 アザゼルは10年、20年後に悪魔と天使がレーティングゲームをする時代がくるかもしれないとか、言っていたが、それじゃあ、天使がかなり有利だと思うんだけど……。光の槍とか悪魔にとって大弱点な攻撃しまくられたらヤバいだろ。

 

 まあ、俺は特に天使と戦いたいとか、そこまでゲームには興味ないしなぁ~。リアスを負けさせないのは当たり前なんだけどな。

 

 紹介が終わったあとは、神の不在をまだ知らされていないソーナ会長の眷属である生徒会メンバーと合流して、イリナの歓迎会がおこなわれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イリナが転校してきてから数日が経過――。

 

「はいはい! 私、借り物レースに出まーす!」

 

 手をあげる元気いっぱいのイリナ。

 

 すでにクラスに融けこんでいた。持ち前の明るさのおかげで男女問わず人気も高い。

 

 ちょうどクラスはホームルーム中で、体育際で誰が何の競技をするかを決めているところだった。

 

 俺はすでに種目も200mと400mを走ると決まっているので気楽だ。いや、内心本来のスペックに加えて、悪魔の力まで加わっているからズルしているみたいで、少々いたたまれないんだけどな。手加減して負ければクラスに悪いし、手加減しなければ……実験動物コースだな。

 

 元気いっぱいのイリナなんだけど。この子まで俺の家に住んじゃったんだよなぁ。

 

 事の発端はミカエルの奴が品定めという、俺の監視をイリナに命じたことと、ゼノヴィアが以前よりも格段に強くなっていることを見抜き、どうして強くなったのかをゼノヴィアが自慢するように、俺と時雨が師匠であることをバラしたせいだ。

 

 監視もできて強くなれて一石二鳥! と荷物を持って俺の家に転がり込んできた。まあ、イリナは元気よくて美少女だし、同居が嫌というわけじゃないし、むしろ歓迎するぐらいなんだけど……。

 

「お兄ちゃん! 私と二人三脚にでようよ!」

 

 隣に座ったイリナが腕を絡めてニコニコ笑顔で頬を擦りつけてくる。

 

 …………。

 

 そう。ゼノヴィアの頼みでもあったし、グレモリー家がきちんと対応してくれて悪魔の仕事は格段に減っていたのでイリナも弟子に取ることにしたんだけど、修行2日目でイリナが俺を兄のように慕うようになった……。

 

「イリナも俺も、もう競技はノルマ分出ることが決まっているから、まだ決まっていない人から優先しないと」

 

「うん! お兄ちゃんが言うならそうする!」

 

 元気よく返事をしてくれるイリナ。この子って聖剣持ち帰るとき、ゼノヴィアを誑かした悪魔! って恨まれていたはずなんだけどなぁ~。

 

 地下4階の仮想フィールドでリアスたちと同じように修行を2日続けてやって、指1本動かせないところを【マジカルエステ】で治したりしていると慕い始めてきた。

 

 一人っ子で兄が欲しかったことと、何でも昔近くに住んでいたお兄さんに似てるという理由で『お兄ちゃん』と呼ばれるようになった。ちなみに近くに住んでいたお兄さんが実は俺だった……、という設定はない。幼少期にイリナと会った記憶はないし、俺は元々住んでいたのは隣町だし。

 

 ああ……。それにしても、周囲の視線。特に男共の視線が痛いな。まあ、大半の奴らから見れば、少し前に転校してきた美少女に、いつの間にか『お兄ちゃん』と呼ばれて慕われている男……だもんなぁ。しかも、桐生さんのおかげで学園の女の子たちに手広く手を出していることもバレてるし。

 

 教室中の男子が俺を睨んでいる最中に、桐生さんが同じく俺を睨んでいたイッセーを騙して、二人三脚へ立候補させ、イッセーがアーシアと二人三脚することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして深夜。悪魔の仕事を終えた俺と黒歌たち、俺の家に住み着き始めたリアスを始め、イリナが一堂に会して地下4階の修行用フィールドで修行に励んでいた。

 

 リアスの修行を同じ中距離から遠距離射撃型のノエルが修行をつける。【滅殺 の 弓(ルイン・アロー)】の扱い方、そして命中率と。基本的な弓による射撃の感覚をつかむために、ノエルが操る目標を延々と弓で打ち抜かせた。

 

 朱乃さんの修行は、ヴァルキリーであるセルベリアが担当し、広域殲滅魔法はもちろん。雷光の槍の錬度を高めるために、槍の扱いの基礎、さらにどの空間にでも、素早く雷光の槍を創りだして、射出したり、自由に操るための修行を行なった。新装備のほうも修行も積ませ、かなり強化できている。

 

 小猫ちゃんは黒歌が引き続き仙術を教え、小柄でも大柄の相手できるようにと、あらゆる中国拳法を俺が直接教えた。

 

 ゼノヴィアは以前と同じように俺と時雨で剣術を叩き込み、聖剣デュランダルと龍殺しの真・リュウノアギトによる二刀流や、聖剣のオーラの応用から、速度で負けないように、肉体強化の術式の効率化を図り、小手先技用のナイフの錬度も上げた。

 

 新加入したイリナはゼノヴィアと同じように、基本的な剣術を一から教え直し、【擬態 の 聖剣 (エクスカリバー・ミミック)】のより運用性のある、変幻自在に形を変えられるという能力を活かさせる攻撃方法を自分で模索させたり、小手先の技や肉体強化の魔法、無手による格闘術と教えた込んでいった。

 

 その全員にいえることだが、各個の長所を伸ばす修行と別に、基礎訓練は毎回きっちり行なっている。土台がしっかりしていないと脆く、崩れやすくなるからな。

 

 そして、今日も無事に全員の訓練が終了した。

 

 瀕死だが体を動かせるぐらいまで修行に耐えられるまで成長したリアスたちを連れて、まるで密林の湖のような、適温の温度のかけ流し温泉が湧き出ている風呂に皆で浸かっていた。

 

 さすがグレモリーが用意した修行フィールド。温泉付とかマジで豪華だよな~。概観も凝っていて滝がシャワーになってるし。

 

 いちおうこのお風呂は混浴ということでタオル着用可で、俺も小猫ちゃんとイリナがいる手前、腰にタオルを巻いて入浴していた。

 

 リアスや朱乃さんたちは当然タオルなしで堂々としている。イリナと小猫ちゃんはしっかりタオルを巻いていたが……。

 

「お兄ちゃん~」

 

「にゃあぁぁぁ……」

 

 修行直後による肉体&精神疲労と、タオルで裸体を隠してリラックスしているせいか、イリナと小猫ちゃんは俺を背もたれに温泉に癒されていた。いや、タオル越しだけど、そんなにくっつかれると、色々感じるものがあるぞ? ただでさえ性欲過多なんですから……。

 

 このままじゃ襲っちまうよと警告の意味と、これで離れるよな~っと思って2人の腰に腕を回したが……。イリナも小猫ちゃんも、ちっとも離れようとはしない。まったり目を細めて幸せそうに温泉を楽しんでいらっしゃった。

 

 恋人ならこのままゆっくりエッチな雰囲気にもっていくところだけど……。2人には色々な事情もあるからまだできない! イリナは堕天使化するかもしれないし、小猫ちゃんは色々と小さすぎるから準備をしないといけないし、まだライクとラブの間がハッキリしていないからこちらから手が出せないからな。

 

 ちなみに興奮して尻尾から媚薬成分が出ないように、現在尻尾にカバーをすっぷりとかぶせています! まあ、見た目はコンドームみたいで窮屈だけど仕方がない。魔法で無色透明にしているし、プールや温泉に1人だけ入れないよりはマシだ。

 

 これで冥界のグレモリー家の温泉のような乱交の一歩手前状態にはならない! さらにいうと、動けないイリナや小猫ちゃんの体を洗うのはノエルやゼノヴィア、それと黒歌に任せて、俺は隠れてところでリアスたちの体を洗わせてもらっています! いまのところ怪しまれているようだが、している内容につては気づかれてはいない!

 

 ちなみに俺も修行を積んで、3本に増えた尻尾の操り方を完璧にマスターした。尻尾を使って4人同時に【マジカルエステ】も今ではお手の物だ。

 

 現在修行に参加していないレイナーレは後方支援要員として、メイド道を突き進んでいる。大きな家の掃除も魔法などを使って効率よく、ホコリ1つ残さず清潔に掃除できて、洗濯も完璧! 料理にいたってはいうことなし! 本当にいつの間にか家事のスペシャリスト、スーパーメイドさんになってた。

 

 いつもは深夜2時を回ったぐらいで就寝するわけだが、今回は朱乃さんとセックスすることに決まった。

 

 自室のベッドで朱乃さんとたっぷりセックスし終わり、満足そうに朱乃さんが膣から精液を漏らしながら眠りにおちる。

 

【浄化】魔法で体をキレイに清めたところで、リアスがこっそりと入室してきた。

 

 リアスはいつものように俺のベッドに入ると、フェラチオで興奮させて精液を飲んだあと、覆いかぶさるかたちで膣にペニスを挿入して、ゆっくりそこでセックスして、そのまま挿入したまま安心したように眠りに落ちる。

 

 最近毎回このパターンで多い。

 

 リアス以外の誰かとセックスしたあと、行為が終わるとリアスが部屋に入ってきて、自分の匂いを上書きするように膣にペニスを入れたり、舌で体を舐めてきたりする。

 

 まあ、リアス以外にいえたことでもなく、朱乃さんが入ってきたり、ゼノヴィア、最近では小猫ちゃんを連れた黒歌も侵入してきてベッドに寝ているなんてことも多々あった。

 

 他の女の子と仲良くしてもあまり表面で怒らずに、余裕そうにしているけど、皆、セックスが濃厚になってきた。

 

 いや、本当に……。8月半ばにリアスたちとセックスし始めて、すでに何回セックスしているか分からない。当然何年も一緒にいる黒歌たちが一番わからないんだけどな。

 

 まあ、それにしても毎回濃厚なセックスで楽しませてもらっています! リアスと朱乃さんに甘えさせてもらったり、逆に甘えさせてあげたり、ゼノたんに体中を舐めてもらったり、フェラチオとかぶっかけプレイ以外はなか出しだからな! かなり楽しいぜ!

 

 今夜も朝方俺の部屋のドアが静かに開いた気配がした。歩き方の匂い的に小猫ちゃんと黒歌だな。

 

 そして、黒歌と小猫ちゃんも加わって添い寝していると、レイナーレが起こしに来た。

 

 また新しい日の幕開けだ。

 



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第55話 取材とテレビ出演 

 

<エイジ>

 

 

 体育際の練習が始まり、賑わいをみせていた頃の放課後。オカルト研の部室で各若手悪魔のレーティングゲームの記録映像をチェックしていた。

 

 アザゼルが巨大モニターの前に立って言う。

 

「おまえら以外にも若手たちはゲームをした。大王バール家と魔王アスモデウス家のグラシャラボラス家、大公アガレス家と魔王ベルゼブブのアスタロト家、それぞれがおまえらの対決後に試合をした。それを記録した映像だ。ライバルの試合だから、よーく見ておくようにな」

 

『はい』

 

 アザゼルの言葉に皆が真剣にうなずいた。

 

「まずはサイラオーグ――バアル家とグラシャラボラス家の試合よ」

 

 記録映像が開始され、数時間が経過する。

 

 …………。うん。サイラオーグの一方的な優勢だった。

 

 サイラオーグの魔力ではなく、圧倒的な身体能力一点での戦い。駒を全て失ったグラシャラボラス家の『王』とサイラオーグが一騎打ちをしているときに見せている徒手空拳は我流ながらも、基本に忠実で威力もあった。

 

「……凶児と呼ばれ、忌み嫌われたグラシャラボラスの新しい次期当主候補がまるで相手になっていない。ここまでのものなのか、サイラオーグ・バアル」

 

 木場が険しい表情で目を細めた。……忌み嫌われたって、だからグレてあんなヤンキー悪魔になったんじゃねぇの?

 

 ギャスパーがゲームを見てイッセーのうしろに隠れて震えていた。イッセーも表情が険しい。

 

「リアスとサイラオーグ、おまえらは『王』なのにタイマン張りすぎだ。基本、『王』ってのは動かなくても駒を進軍させて敵を撃破していきゃいいんだからよ。ゲームでは『王』が取られたら終わりなんだぞ。バアル家の血筋は血気盛んなのかね」

 

 アザゼルが嘆息しながら言う。リアスは恥ずかしそうに顔を赤くしていた。まあ、いまは弓っていう遠距離攻撃を覚えさせているから正面からのタイマンはないだろう。もちろん、ソーナ会長は特例だ。

 

「そういや、あのヤンキー悪魔って、どれぐらい強いんですか?」

 

 イッセーがリアスに訊ねた。イッセー、いちおう上級悪魔なんだから、ヤンキー悪魔はないだろう……。

 

「今回の六家限定にしなければ決して弱くはないわ。といっても、全次期当主が事故で亡くなっているから、彼は代理ということで参加しているわけだけど……」

 

 リアスの返答に朱乃さんが続く。

 

「若手同士の対決前にゲーム運営委員会が出したランキングでは、1位がバアル、2位がグレモリー、3位がアガレス、4位がアスタロト、5位がシトリー、6位がグラシャラボラスでしたわ。『王』と眷属を含み平均で比べた強さランキングです。それぞれ一度手合わせして、一部結果が覆ってしまいましたけれど」

 

「しかし、サイラオーグ・バアルだけは抜きんでている――というわけですね、部長」

 

 イッセーの言葉にリアスはうなずく。

 

「ええ、彼は怪物よ。『ゲームに本格参戦すれば短期間で上がってくるのでは?』と言われているわ。逆を言えば彼を倒せば、私たちの名は一気に上がる」

 

「もしかして、ライザーより強い?」

 

「両者がやってみないとわからないけれど、私の贔屓目で見てもサイラオーグのほうが強い気がするわ」

 

 まあ、そうだろうな。ライザーのメンタル的にもサイラオーグに降参するだろう。何度もぶっ飛ばされて泣きながら投了宣言するライザーが簡単に思い浮かんだ。

 

「ま、グラフを見せてやるよ。各勢力に配られたものだ」

 

 アザゼルが術を発動させ、宙に立体映像的なグラフを展開させた。

 

 そこにはリアスやソーナ会長、サイラオーグなど、6名の若手悪魔の顔が出現し、その下に各パラメータみたいなものが動きだして、上へ伸びていく。

 

 ご丁寧にグラフは日本語だ。グラフはパワー、テクニック、サポートウィザード。ゲームのタイプ別。あと1個は『キング』と表示されていた。

 

 おそらく『 王 (キング)』としての資質だろう。リアス、ソーナ会長、アガレスの姫さんがそこそこ高めで、現時点ではソーナ会長のほうがリアスより上。サイラオーグはかなり高めで、グラシャラボラスは一番低かった。

 

 リアスのパラメータはウィザード――、魔力が一番伸びて、パワーもそこそこ伸び、テクニック、サポートは真ん中よりも少し上の平均的な数値だった。

 

 サイラオーグはサポートとウィザードは若手のなかで一番低いが、パワーが高く部室の天井までに伸びていた。極端すぎるが、それだけパワーが凄まじいってことだろう。

 

 まあ、これは修行前の数値なんだろう。俺の見立てじゃリアスの実力は武器を使ってサイラオーグと同じぐらいだし。

 

「ゼファードルとのタイマンでもサイラオーグは本気を出しやがらなかった」

 

 アザゼルが言うと、イッセーが恐る恐る訊ねた。

 

「やっぱ、天才なんスかね、このサイラオーグさんも」

 

 アザゼルは首を横に振った。

 

「いや、サイラオーグはバアル家始まって以来の才能が無かった純血悪魔だ。バアル家に伝わる特色のひとつ、滅びの力を得られなかった。滅びの力を強く手に入れたのは従兄弟のグレモリー兄弟だったのさ」

 

 ――っ。

 

「でも若手最強なんでしょう?」

 

「家の才能を引き継ぐ純血悪魔が本来しないものをしてな、天才どもを追い抜いたのさ」

 

「本来しないもの?」

 

 イッセーの問いに俺が言う。

 

「――凄まじい修行。そうだろう? アザゼル」

 

 アザゼルはうなずいた。

 

「そうだ。サイラオーグは、尋常じゃない修行の果てに力を得た稀有な純血悪魔だ。あいつには己の体しかなかった。それを愚直なまでに鍛え上げたのさ」

 

 やっぱりか……。

 

「奴は生まれたときから何度も何度も勝負の度に打倒され。敗北し続けた。華やかに彩られた上級悪魔、純血種のなかで、泥臭いまでに血まみれの世界を歩んでいる野朗なんだよ」

 

 通りで他の悪魔と立ち振る舞いが自信が違ったのか。

 

「才能がない者が次期当主に選出される。それがどれほどの偉業か。――敗北の屈辱と勝利の喜び、地の底と天上の差を知っている者は例外なく本物だ。ま、サイラオーグの場合それ以外にも強さの秘密はあるんだが」

 

 丁度、試合映像が終わった。

 

 サイラオーグ・バアルの勝利だ。

 

 最終的にグラシャラボラスのヤンキーが物陰に隠れ、怯えた様子で自らの敗北を宣言することで戦いが終わった。まんま先ほど俺が想像したライザーと同じだな。

 

 そして、今度俺たちが戦う相手はディオドラで、そのあと戦うのがサイラオーグだとアザゼルから聞かされた。なんでもグラシャラボラスの次期当主候補が今回のゲームで再起不能になったらしい。

 

 まあ、それにしても……。

 

「サイラオーグ・バアル。――実におもしろい男だな」

 

「なんだ? 戦ってみたくなったのか?」

 

 アザゼルが訊いてきた。俺は首を横に振る。

 

「いや、戦いたいというより、鍛えてみたい」

 

『――っ』

 

 部室にいた面々が驚き顔になった。ん? なんでだ?

 

「おまえなぁ。対戦相手の男を鍛えたいと思うまえに、イッセーと木場とかをまず鍛えろよ」

 

 アザゼルが呆れたように嘆息した。イッセーが半眼で、木場が苦笑した。

 

「そうだぞ。部長たちばっかり鍛えて、俺らは強くしないっておかしいぞ」

 

「そうだね。以前、僕が修行させて欲しいって頼んだときも断ったのに、サイラオーグさんはいいってのは……」

 

 2人は不満そうに言うが、なあ。

 

「そりゃあ、短期間での強化の話だったからだ。長期的な目でならゆっくりと修行をつけれる――が、おまえらは俺に弟子入りする必要もないだろ?」

 

 驚いた顔になる2人に俺は告げる。

 

「まずはイッセーだが、おまえはいま、神器の扱いに慣れることが先決だろう? 俺は神器持ちじゃないから修行の仕方などわからないし、神器研究大好きアザゼルに習うほうがいい。それにイッセーには『倍加』があるんだし、基本的な筋トレ、スタミナを上げるだけで飛躍的強くなれる。そういうトレーニングは1人でも十分できる」

 

 今度は木場。

 

「木場は神器持ちのところはイッセーと同じ。あと、おまえにはきちんとした師匠がいるんだ。俺に弟子入りするのは不義理。とりあえず、いま習っている流派の剣をまずは極めろよ」

 

 と2人に言うと、しぶしぶ納得したようでうなずいた。

 

「ギャスパーもアーシアも神器関係で俺が伸ばすよりも、まずは神器の扱いを覚えることが専決だからな」

 

 リアスが苦笑しつつ俺に訊いてきた。

 

「じゃあ、なんでサイラオーグを鍛えたいなんて思ったの?」

 

 皆、興味津々といった表情になった。

 

「それはまあ、サイラオーグがどこまで昇るかみて見たいって興味が湧いたんです。彼に師匠がいないのであれば俺が立候補して直々に育てたいですね。彼なら俺の武術を冥界に広めてくれそうですし」

 

 そうだ。俺の培っている武術を純粋に冥界に広めてくれそうで将来が期待できるんだ。こいつならどんなにキツい特訓でも耐えてくれそうだし!

 

「……おまえ、武器の扱いだけじゃなくて、武術までなのか……?」

 

 アザゼルが驚きというより、呆れのはいった声でつぶやいた。

 

「だから純粋格闘スタイルのサイラオーグは俺から見たら、最高の素材だな。下地は十分できているようだし。武術を教え込んだら、どれだけ強くなるか……」

 

「……弟子にしたいならレーティングゲームが終わってから弟子にしなさいよ」

 

 わかってますよ、リアス。リアスは深呼吸をひとつしたあとに言う。

 

「さてと、まずは目先の試合よ。今度戦うアスタロトの試合映像も研究のためにこのあと見るわよ。――対戦相手の大公家の次期当主シーグヴァイラ・アガレスを倒したって話だもの」

 

「大公が負けた!?」

 

 イッセーが驚の声をあげる。まあ、大公が負ければ驚くか。

 

「私たちを苦しめたソーナたちは金星、先ほど朱乃が話したランクで4位のアガレスを打ち破ったアスタロトは大金星という結果ね。悔しいけど、所詮対決前のランキングはデータから算出した予想にすぎないわ。いざ、ゲームが始まれば何が起こるかわからない。それがレーティングゲームよ。――けれど、アガレスが負けるなんてね」

 

 部室の片隅で人一人分の転移用魔法陣が展開した。

 

 ――っ! この醜悪な魔力と気配は!

 

「――アスタロト」

 

 朱乃さんがぼそりとつぶやいた。やはりか……。一瞬の閃光のあと、部室の片隅に現れたのは爽やかな薄っぺらい笑顔を浮べる優男だった。

 

 そいつは開口一番に言う。

 

「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いにきました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部室のテーブルにはリアスとディオドラ、顧問としてアザゼルも座っていた。

 

 俺たち他の眷属は部室の片隅で状況を見守るが、俺だけは奴の正体に気づいているので、アスタロトの下種に軽く殺気を放っていた。

 

 アーシアは困惑した表情をしていた。不安げなアーシアの手をイッセーが無言で握ってやっていた。

 

「リアスさん。単刀直入で言います。『僧侶』のトレードをお願いします」

 

「いやん! 僕のことですか!?」

 

 僧侶で勘違いしてる身を守るように悲鳴をあげているギャスパーはイッセーにツッコミもらっていたし、無視する。

 

「僕が望むリアスさんの眷属は――『僧侶』アーシア・アルジェント」

 

 ディオドラは躊躇いも無く言い放ち、アーシアのほうへ視線を向けた。

 

 ピリッ……!

 

『――っ!』

 

 ああ……。こいつが駅でアーシアに求婚してから、秘密裏に調査してこいつの裏側を知っていたから、殺気が漏れてしまった。部屋の全員が驚きの表情で俺を見てるな。

 

 まあ、それはいまはいい。

 

 俺はリアスの裏に立って笑顔という仮面をつけて言う。

 

「申し訳ありませんがお断りします。即刻出て行ってくださいますか? ……下種野朗……」

 

 あ、小声で本音が漏れてしまった。まあ、聞こえていなくても聞こえていてもいいか。

 

 ディオドラは爽やかな笑顔のまま俺を睨むと、リアスのほうを向きなおした。

 

「あなたではなく、いまは王と話しているので。――こちらが用意するのは――」

 

 自分の下僕が載っているのであろうカタログらしきものを出そうとしたディオドラへリアスが言う。

 

「ゴメンなさい。この子が言ったとおり、私はトレードをする気はないの。それはあなたの『僧侶』と釣り合わないとかそういうことではなくて、単純にアーシアを手放したくないから。――私の大事な眷属悪魔だもの」

 

 真っ正面から言うリアス。イッセーが感激したように震えた。

 

「それは能力? それとも彼女自身が魅力だから?」

 

 ディオドラは淡々と訊いた。

 

「両方よ。私は、彼女を妹のように思っているわ」

 

「――部長さんっ!」

 

 アーシアは口元に手をやり、グリーンの瞳を潤ませた。心底うれしかったんだろう。

 

「一緒に生活している仲だもの。情が深くなって、手放したくないって理由はダメなのかしら? 私は十分だと思うけれど。それに求婚した女性をトレードで手に入れようというのもどうなのかしらね。そういう風にアーシアを手に入れようとするのは解せないわ、ディオドラ。あなた、求婚の意味を理解しているのかしら?」

 

 迫力ある笑顔で問い返すリアス。求婚の意味などこいつは始めから分かっていない。というかわかるつもりない。

 

 ディオドラは笑みを浮かべたまま言う。

 

「――わかりました。今日はこれで帰ります。けれど、僕は諦めません」

 

 ディオドラは立ち上がり、アーシアの元へ寄ろうとする。俺はその進行方向をふさぐように立ちふさがる。

 

「……どいてくれませんか?」

 

 笑顔のまま言うディオドラに笑顔で返す。

 

「申し訳ありませんが、それはできません。即刻おかえりください」

 

「――っ」

 

 少しプレッシャーをかけながら言うと、ディオドラは近づくのは諦めたようだが、その場でアーシアへ向かって言った。

 

「アーシア。僕はキミを愛しているよ。だいじょうぶ、運命は僕たちを裏切らない。この世のすべてが僕たちの間を否定しても僕はそれを乗り越えてみせるよ」

 

 運命……。こいつ……。いますぐ殺してやろうか?

 

 俺が動こうとしたとき、アザゼルのケータイが鳴った。いくつかの応答のあと、アザゼルはおれたちに告げた。

 

「リアス、ディオドラ、ちょうどいい。ゲームの日取りが決まったぞ。――5日後だ」

 

 寿命が延びたなディオドラ……。

 

 その日はそれで終わり、ディオドラは帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディオドラが帰ったあとの部室。イッセーとアーシアだけを先に帰宅させてもらい、他のメンバーとアザゼルが部室残っている状態で口を開いた。

 

「皆に集まってもらったのは他でもない。ディオドラ・アスタロトのことです」

 

 俺が口頭でそう言うと、リアスが訊ねてきた。

 

「そういえば、エイジはディオドラに敵意をずっと送っていたわね。ディオドラに何か裏があるの?」

 

 俺はうなずき、話し始めた。

 

「俺はディオドラの体に染み付いた臭いと、教会内で密かに流れている噂を元に奴の調査を行なったんです」

 

「調査――ですか?」

 

「教会内の噂?」

 

 朱乃さんとゼノヴィアが眉を潜める。

 

「ああ、教会の『聖女』や信仰にあつい女性が消えるという噂です」

 

『――っ』

 

 ここまでの話でリアスとアザゼル、それに朱乃さんが気づいたようだ。

 

「そこで判明したことを簡潔に述べると、ディオドラ・アスタロトは下種野朗のなかでも最低だということでした」

 

 俺は全員の顔をみてから説明を続けた。

 

「――奴は教会に通じた女が好きで、熱心な信者や教会本部になじみが深い女ばかりを誘惑して手篭めにするクソ野郎で、奴の眷属や屋敷でかこっている女たちも元信者や聖女と呼ばれていた女ばかり。しかも、やり方は様々。狙った女を堕とすためなら、本当になんでもする下種なんです」

 

 これからが一番重要な話だ。

 

「アーシア。――アーシア・アルジェントが『聖女』から『魔女』にされて追放されるシナリオも、ディオドラがアーシアを手に入れるために考えた計画だったそうです」

 

『――っ!?』

 

 皆が驚き顔になった。俺はさらに調査結果を言う。

 

「さらにレイナーレたち一部の堕天使がアーシアを連れ去ったとき、俺たちが介入しなければ、奴が神器を抜き取られて死亡したアーシアを悪魔の駒で下僕悪魔にする手筈だったそうなんです」

 

「――っ!」

 

 ゼノヴィアがあまりの怒りに唇を噛みしめた。そして他の部員たちもそれぞれ怒りを瞳に宿らせた。

 

「奴は始めからアーシアを妻にする気などない。奴が目的なのはアーシアの体だけ」

 

 俺が告げるとリアスは冷静に心を落ち着かせるように大きく息を吐いた。

 

「ありがとう、エイジ。黙って調査したことは少し嫌だったけど。ディオドラの本性を知れたわ。これで、絶対にアーシアを渡せなくなったわ」

 

「ええ、アーシアちゃんをそんな男にあげられませんわ」

 

「ああ。私の友人を、教会の女性の敵を許すわけにはいかない」

 

 朱乃さんもうなずき、ゼノヴィアも殺気を振りまきながら決意を固めた。

 

 木場も小猫ちゃんもしっかりうなずいた。

 

「こりゃあ、アーシアはもちろん、イッセーにも下手に話せないな」

 

 アザゼルが納得という風につぶやいた。

 

「ディオドラのことは試合の直前ぐらいにイッセーに話すつもりです。いずれは嫌でも知ることになるだろうし、イッセーにレーティングゲームで思う存分怒りを解放して欲しいですから」

 

 俺の言葉に2人を退出させたことに、皆納得した様子だ。

 

「それもそうね……。いま教えても無茶な修行をしたりしそうだし……」

 

 リアスはあごに手を当てて考え込んだ。

 

「試合前に言ったほうが気合も入るだろうからな」

 

 とアザゼルも賛成した。

 

 とりあえず、ディオドラを滅殺することが決定した。

 

「ちなみにどこから情報収集した情報なんだ?」

 

 アザゼルっ! 余計な質問を……!

 

「そうね。ディオドラの評価を確実に落とす情報ですもの。エイジ、いったいどこから情報を集めたの?」

 

「……………」

 

 リアスの問いに俺は苦笑いのまま固まった。……どうしよう? 言おうかなぁ?

 

「何か言えないような情報もとなの?」

 

 リアスが怖い笑顔を浮べた。こ、これは正直に言うしかないか……。

 

「じ、実は……」

 

「実は?」

 

 朱乃さんがかわいらしく首を傾げた。

 

「実はディオドラのかこっている女たちなんですが……。ほとんどが俺のお得意さまでして……」

 

『――っ』

 

 部室の空気が凍った気がした。俺は説明を続ける。

 

「調査していくうちに、俺の契約取りのお得意さまにディオドラが囲っている女たちの多くが含まれていることが分かりまして……。契約取りにいったときに、聞いてみたらディオドラの本性やらアーシアをいま狙っていることなどを教えてくてました」

 

 アザゼルが怪訝そうに訊ねてきた。

 

「その情報。当てになるのか? っていうか、ディオドラの奴、おまえが自分の女たちと寝ていることを知ってんのか?」

 

「確実に知らないだろうなぁ」

 

 俺がそうつぶやくと、今度はリアスが訊いてきた。

 

「なんでそう言えるの?」

 

 ん~。下種がどう思われてもしったことでもないし、正直に答えるか。

 

「えっと、他言無用でお願いしますよ?」

 

 俺は全員に確認を取ってから言う。

 

「ディオドラなんですが、……実は下手なんです」

 

 俺の言葉で皆がポカンとなった。

 

「……あいつはセックス大好きみたいなんですけど、まったく気持ちよくなれないそうで……。そこで欲求不満な彼女たちは俺を呼び出して欲求不満を解消しているそうなんです」

 

「……マジか?」

 

 アザゼルが訊ねてきた。俺はうなずく。

 

「あっちのほうは平均的らしいそうですが、自分勝手だから嫌われているみたいなんですよ。まあ、他に行くところないから嫌々付き従っているようですが……。俺が呼ばれるときはディオドラの屋敷から離れた場所で呼ばれて、最初は4,5人だったんですが、いまでは屋敷の女の子たちのほとんどとがお得意さまになってるんです」

 

 まあ、ほとんどじゃなくて、実際のところは全員なんだけどな……。俺の言葉を訊いてアザゼルは大声で爆笑した。

 

「ハハハハハハハハハハハっ! マジか! マジでか!? あいつ、自分の女が他の野朗に寝取られてんのに気づきもしないで他の女に求婚してんのか!? アハハハハハハハハっ! その話を聞くと奴が哀れに思えてきたぜ! ハハハハハハハっ!」

 

 大爆笑のアザゼルと違い、こちらは別な反応。リアスたちはニコニコ笑顔で笑顔をうかべ、小猫ちゃんは半眼で俺を睨んだ。

 

 今夜はリアスたちにお説教かなぁ……。

 

 あ、あとアザゼルにもう1つ言っておかないといけない情報があるんだった。

 

 まあ、不確定情報だからリアスたちに言えないけど、アザゼルには伝えておいて損はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアスたちにこってり色々としぼられてから数日後。イッセーが白龍皇のヴァーリにディオドラを警戒するように言われたそうだ。

 

 ディオドラの試合映像を観戦したとき、ディオドラは1人でアガレスの姫さんの眷属を圧倒して見せたことと、わざわざヴァーリが警告してきたことから、奴はおそらくあれを使ったのだろう。まあ、確証はないからまだ報告はしないが……。『禍の団』に所属しているヴァーリが警告してきたことと、短期間で簡単に強くなれる方法を考えれば大体の予想はつく。

 

 十中八九、俺の予想どおりだろうが、まあ、どちらにしろ血祭り決定だな。

 

 ちなみにその日の夜。他にもリアスから報告があった。

 

 その報告はまさかの冥界のテレビ出演が決まったことだった。

 

 まったく、面倒そうだなぁ……。

 

 俺がベッドに寝転がっていると、リアスが腕を絡めてきた。

 

「どうしたのエイジ? テレビ出演が嫌なの?」

 

「……まあ、いままで創作のなかでテレビとかでていましたからね。ご本人登場でどうなるか……」

 

 期待を裏切りそうでかなり怖いんだけど……。

 

「うふふ、エイジくんならだいじょうぶですわよ」

 

 リアスの反対側、俺のもう片方側に寝転んだ朱乃さんも腕を絡めてきた。

 

 リアスも朱乃さんも微笑んで言う。

 

「「まあ、皆が想像していたのより、エッチなヒトだったぐらいに思うでしょうけど」」

 

 って、息ピッタシでそんなこと言われても……。とりあえず、2人の胸に挟まれている腕から幸せを感じながら、ため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、テレビ出演の収録の日。

 

 俺たち眷属悪魔は専用の魔法陣で冥界にジャンプした。

 

 到着したのは、都市部にある大きなビルの地下。

 

 転移用魔法陣のスペースが設けられた場所で、そこに着くなり、待機していたスタッフの皆さんに温かく迎えられた。

 

「お待ちしておりました。リアス・グレモリーさま。そして、眷属の皆さま。さあ、こちらへどうぞ」

 

 プロデューサーの人に連れられ、エレベーターを使って上層会へ

 

 廊下を歩いていると、その先から見知った人が10人ぐらい引き連れてやってきていた。

 

「サイラオーグ。あなたも来ていたのね」

 

 そう、リアスが声をかけたのはサイラオーグだった。イッセーがサイラオーグの『女王』にだらしない顔になっていたが、無視だ。

 

「リアスか。そっちもインタビュー収録か?」

 

「ええ。サイラオーグはもう終わったの?」

 

「これからだ。おそらくリアスたちとは別のスタジオだろう。――試合、見たぞ」

 

 サイラオーグの一言にリアスは顔を多少しかめた。

 

「お互い、新人丸出し、素人臭さが抜けないものだな」

 

 サイラオーグは苦笑する。まあ、こいつなりの励ましの言葉か。

 

 サイラオーグの視線がイッセーに移る。

 

「どんなにパワーが強大でもカタにハマれば負ける。相手は一瞬の隙を狙って全力でくるわけだからな。とりわけ神器は道の部分も多い。何が起こり、何が起こらされるかわからない。ゲームの相性も大事だ。おまえらとソーナ・シトリーの戦いは俺も改めて学ばせてもらった。――だが」

 

 ポンっとサイラオーグはイッセーのカタをたたく。

 

「おまえとは理屈なしのパワー勝負がしたいものだよ」

 

 ふむ……。やっぱりおもしろい男だな。とサイラオーグは俺にも視線を向けてきた。

 

「神城エイジ。もちろん魔王クラスといわれるあなたとも」

 

 だが、そのあとすぐにサイラオーグは肩をすくませた。

 

「まあ、今回の大会で大きなハンデを背負っていては満足に――」

 

 俺は闘気を解放して黙らせる。そして驚きの表情の浮かべているサイラオーグに告げる。

 

「あまりなめるなよ、サイラオーグ・バアル。魔力制限やハンデを背負っているといっても、俺にはおまえと同じように長年の修行で得た肉体と技術がある。余計なことを考える前に修行しろ」

 

 サイラオーグは驚きの顔からうれしそうな、好戦的な顔になってうなずいた。うわっ、こいつ120%バトルマニアだ……。コカビエルやヴェーリレベルだよ……。

 

「これは失礼したな。――だが、おもしろい。それでこそ魔王クラスとよばれる男だ。ハハハっ、これは本当に楽しみだな」

 

 サイラオーグは眷属を引き連れて楽しそうに去っていった。

 

 サイラオーグとのあいさつ後、一度、楽屋に通され、そこに俺たちは荷物を置いた。

 

 アザゼルは他の番組に出演らしいのでついてきていない。イリナは家で黒歌たちと留守番。

 

 今回はあくまで俺たちグレモリー眷属のみの取材だった。

 

 その後、スタジオらしき場所へ案内され、中へ通される。まだ準備中で、局のスタッフたちがいろいろと作業をしていた。

 

 先に来ていたであろうインタビュアーのお姉さんがリアスにあいさつする。

 

「お初にお目にかかります。冥界第一放送の局アナをしているものです」

 

「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」

 

 リアスも笑顔で握手に応じた。

 

「さっそくですが、打ち合わせを――」

 

 と、リアスとスタッフ、局アナのお姉さん交えて番組の打ち合わせを始めた。

 

「……ぼ、ぼ、ぼ、ぼぼぼぼぼぼ、僕、帰りたいですぅぅぅ……!」

 

 イッセーの背中でギャスパーが震えだした。そのイッセーも緊張しているようで固まっていた。

 

「眷属悪魔の皆さんにもいくつかインタビューがいくと思いますが、あまり緊張せずに」

 

 スタッフの方が声をかけてくれる。

 

「えーと、姫島朱乃さんとゼノヴィアさんはいらっしゃいますか?」

 

「私が姫島朱乃ですわ」

 

「私がゼノヴィアだ」

 

 朱乃さんとゼノヴィアが呼ばれ、2人とも手をあげる。

 

「お2人には質問がそこそこいくと思います。お2人とも、人気上昇中ですから」

 

「マジっスか!」

 

 イッセーが驚きの声をあげると、スタッフはうなずく。

 

「ええ、朱乃さんには男性ファンが、ゼノヴィアさんは男性ファンに加えて女性ファンが増えてきているのですよ」

 

 まあ、前回のシトリー戦は冥界全土放送で、かなり活躍していたからな。俺が2人に視線を向けると微笑んでくれる。うん、すっごくかわいいです!

 

「えっと、もう一方、兵藤一誠さんは?」

 

「あ、俺です」

 

 イッセーも人気なのか? イッセーが手をあげたが、しかし、スタッフは首をかしげる。

 

「……えっと、あなたは……」

 

 わからないのかよ!

 

「あの俺は『兵士』の兵藤一誠です。いちおう、赤龍帝で……」

 

 おそるおそる言うイッセー。自分で自己紹介かよ。笑えるな。スタッフがそこで手をポンとした。

 

「あっ! あなたが! いやー、鎧姿が印象的で素の兵藤さんがわかりませんでした」

 

 確かに! って顔になるイッセーだが……。よく思い出せ、イッセー。おまえが鎧姿になったのは匙との最後の場面で、パイリンガルまでだったということを……。

 

 鎧姿よりも完全におまえの素の存在感が薄すぎることに、気づけ……。

 

「兵藤さんには別スタジオで収録があります。何せ、『乳龍帝』として有名になってますから」

 

「乳龍帝ぇぇぇぇっ!?」

 

 驚愕の声を出すイッセーにスタッフは嬉々として続ける。

 

「子供にすごく人気になっているんですよ。子供たちからは『おっぱいドラゴン』と呼ばれているそうですよ。シトリー戦でおっぱいおっぱい叫んでいたでしょう? あれが冥界の全お茶の間に流れまして。それを見た子供たちに大ヒットしているんです」

 

 俺は笑いを堪えきれずに大声で笑う。

 

「――っ! あははははははははっ! マジかよ! 赤龍帝じゃなくて、乳龍帝か! 新しい呼び名がついたな! あはははははっ!」

 

「てめえ! エイジ! 笑ってんじゃねえよ!」

 

 真っ赤になって怒鳴るイッセーに謝りながら言う。

 

「ゴメンゴメン。あははっ。うん。なんというか、乳龍帝か。だが、これからのドライグは歴史に乳龍帝という名を刻むことだろうな。――ニ天龍……。乳龍帝と白龍皇か……くくく……。片方がすごく残念だ」

 

 やべぇな、笑いが抑えられない……! 俺に釣られてリアスたちも大笑いしないまでも口もとを抑えて堪えているし。

 

『うっ、うおおおおおおんっ……』

 

 突然、イッセーの腕に籠手が現れたと思ったら、ドライグの泣き声が聞こえてきた。

 

『ニ天龍と称された俺が……赤龍帝と呼ばれ、多くの者に畏怖されたこの俺が……。うおおおおおおおおおんっ、うおおおおおおおおおんっ……」

 

 ……マジ泣きしているようだ。…………ゴメン、笑いすぎたな。

 

 と、スタッフはそんなこと無視して今度は俺のほうを向いてきた。

 

「黒い捕食者の神城エイジさんですね?」

 

「ああ。そうだよ」

 

「あなたも別スタジオで収録です」

 

 まあ、イッセーがなったぐらいだし、冥界で創物扱いの俺も別スタジオになるだろうとは予想していたからな。

 

「わかっ――」

 

 俺がうなずこうとしたら、スタッフの言葉はまだまだ続いていた。

 

「兵藤一誠さんとスタジオ収録後に、休憩をはさんで別スタジオにてリアス・グレモリーさまと一緒にレーティングゲームでの雑誌の取材が5件と、黒い捕食者としての雑誌取材が13件。それぞれの雑誌に使用する写真撮影などが予定されていています」

 

「…………」

 

 俺は無言でリアスを見た。リアスは両手を合わせてかわいくゴメンというポーズをとった。

 

 …………今日中に帰れるよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 収録語、俺たちは楽屋でぐったりしていた。

 

 皆、緊張していたらしく楽屋に着くなり壁にもたれたり、テーブルに突っ伏していた。

 

 番組は終始リアスへの質問で、シトリー戦はどうだったか? これからどうするのか? 注目している若手はいるか? との質問ばかりだった。

 

 リアスはグレモリー家の次期当主として、高貴な振る舞いで、笑顔で淡々と答えていた。

 

 その後、俺に質問がいくと、会場の女の子たちが歓声をあげてくれた。はい。きちんとだらしないところは見せずに笑顔で対応しました。ゼノヴィアのときは男女両方から歓声があがり、朱乃さんのときは男性ファンが「朱乃さま」と叫んでいた。

 

 そして――イッセーのときは子供たちから「ちちりゅーてー!」「おっぱいドラゴン」って声をかけられていた。それを聞いたイッセーのなんともいえない気持ちをあらわしたような表情は本気で笑いそうになった! まあ、がんばって堪えたけどさ。

 

「ところでイッセー、別のスタジオで何を撮ったの?」

 

 俺とリアスとは違って先に別スタジオで収録を終えたイッセーにリアスが楽屋のお菓子をつまみながら訊いた。

 

「内緒です。スタッフの人にも本放送まではできるだけ身内にも教えないでくれっていわれたんで」

 

 イッセーは「ニヒヒ」と悪戯っぽく笑いながら言った。

 

「わかったわ。放送されるのを楽しみにしましょう」

 

 リアスも楽しげに期待している様子だった。

 

 俺とリアスは休憩が終わり、別スタジオで収録へ移動するために、朱乃さんとイッセーたちは帰るために席を立とうとしたときだった。

 

 楽屋のドアがノックされ、入ってくる者がいる。

 

 髪を縦ロールにしている美少女だった。

 

「エイジさまはいらっしゃいますか?」

 

「レイヴェル・フェニックス。どうしてここに?」

 

 俺と視線があうレイヴェル。一瞬、パァっと顔が輝いたように見えたが。すぐに不機嫌な表情に変わる。

 

 手に持っていたバスケットをこちらへ突きだす。

 

「こ、これ! ケーキですわ! この局に次兄の番組があるものですからついでです!」

 

 俺はバスケットを受け取り、中身を確認する。

 

 おいしそうなチョコケーキが入っていた。……うん。この感じからいって。

 

「パーティのときに言っていたレイヴェルの手製のケーキかい?」

 

「え、ええ! そうですわ! ケーキだけは自信がありますのよ! お、覚えていてくれたんですね」

 

「まあね。ありがとう。でも、お茶の約束のときでも良かったのに」

 

「ぶ、無粋なことはしませんわ。アスタロト家との一戦が控えているのでしょう? お時間は取らせませんわよ。ただ、ケーキだけでもと思ったのです」

 

 ふふ、いい子だし、かわいらしいな。俺は【王の財宝】からナイフとフォークを取りだしてチョコケーキを切って一口食べる。便利だよね、【王の財宝】。

 

「うん。おいしいよ、レイヴェル。ありがとう、家でもゆっくり食べさせてもらうよ」

 

「本当ですか?」

 

「ああ、本当。お茶も今度ちゃんと別にしような」

 

 ナイフとフォークをしまってそう言うと、レイヴェルは目を潤ませ。顔を最大級に紅潮させていた。

 

「……エイジさま、今度の試合、応援してます!」

 

 バッ! レイヴェルは俺たちに一礼したあと、その場を足早に去っていく。

 

 そういえば、初心な子だったなぁ。俺が微笑ましく笑みを浮かべていると、うしろから尻尾を引っ張られた! 痛いです! うしろを振り返るとリアスが怖い雰囲気のリアスたち!

 

「さあ、取材にいきましょうか。エイジ」

 

「私もついていきますわ。――エイジくんが他の女の子に手を出さないために」

 

「うむ。それなら私もついていこう」

 

「先輩は監視していないとすぐに女を増やしますね」

 

 と、リアスだけでなく、朱乃さんとゼノヴィア、小猫ちゃんも取材についてくることに……というか、尻尾を引かれて連行されました……。

 

 ちなみにレイヴェルのチョコケーキは【王の財宝】に収容した! これで長時間の取材とお説教でも腐ることもないし新鮮のままだ!

 



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第56話 グレモリーVSディオドラ&禍の団 前編 

 

<リアス>

 

 

 テレビ収録から数日、ディオドラとのレーティングゲームがいよいよ始まろうとしていた。

 

 オカルト研の部室に集まって、各自思い思いの戦闘準備を整えている私の可愛い下僕眷属の気合も十分入っていて、コンディションもいい。

 

 私自身も、可愛いアーシアを貶めて酷い目にあわせようとしたディオドラに対する怒りで戦意が高揚して魔力が体中をふつふつと高まってきている。

 

 ディオドラ、今回のレーティングゲームは容赦はしないわ。

 

 私たちの全力を持って、二度とアーシアに近づけないように、心の底から恐怖を刻み込んであげる。

 

「そろそろ時間ね」

 

 時計を見て立ち上がる。

 

 部室の床に描かれている転移用の魔法陣に皆で乗って、転送を待つ。

 

 転送が無事に終了したら、イッセーとアーシアを呼び出してディオドラの本性を伝えないといけないわね。

 

 ……正直、アーシアに伝えるのは辛いし、ディオドラの事なんて話したくもないけど。こればっかりは仕方がないわ。

 

 アーシアがショックを受けると思っていても。いずれは話さないといけない日が来るかも知れないんだから。

 

 ゆっくりと魔法陣の光が強くなり、私達はレーティングゲームが行なわれるフィールドへと転送された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたのか……?」

 

 魔法陣の光が収まって一番初めにイッセーが口を開いて、きょろきょろと観察するように、周りを見わたした。

 

 転送された場所は広大な場所で、一定間隔に太い柱が並んでいて、地面は石造り。さらに後方には巨大な神殿が鎮座していた。

 

 ここが私たちの本陣になるの?

 

「リアス!」

 

 後ろに立っていた朱乃が大声で私を呼んだ。

 

 その大声で、後ろを振り返って見ると、エイジがいなかった。

 

「エイジくんだけ、別の場所に転送されたようです!」

 

「なんですって!?」

 

 別の場所!? ゲーム側の不手際? 転送の失敗? でも、ちゃんと魔法陣は……。それにエイジだけ特定して別の場所に――。

 

「やられた……!」

 

 そういうことか!

 

「これはやっぱり……」

 

「ど、どうしたんですか、部長!? 朱乃さんまで!?」

 

 朱乃が不安そうにつぶやき、私と朱乃の態度に戸惑うイッセー。

 

 考えついたことを説明しようとした瞬間――、神殿とは逆方向に無数の魔法陣が出現する!

 

「……アスタロトの紋章じゃない!」

 

 祐斗が剣をかまえる。この魔法陣の紋章は――。

 

「魔法陣全てに共通性はありませんわ。ただ――」

 

「全部、悪魔。それに魔法陣から察するに『禍の団』の魔王派に傾倒した者たちよ」

 

「――ッ!?」

 

 私の言葉にイッセーとアーシア、ゼノヴィアが驚きの表情を浮かべた。

 

「まさか、クズだとは思っていたけど『禍の団』とも通じて、レーティングゲームまで汚してくるなんて……!」

 

「忌々しき偽りの魔法の血縁者、グレモリー。ここで散ってもらおう」

 

 囲む悪魔の1人が挑戦的な物言いをしてきた。冗談じゃないわ! 今すぐに消し去って――。

 

「キャッ!」

 

 悲鳴! この声は――アーシア!

 

 アーシアの方向へ振り向くと、そこにアーシアの姿はなかった!

 

「イッセーさん!」

 

 空から声! 空を見上げると、そこにはアーシアを捕らえたディオドラの姿があった!

 

「やあ、リアス・グレモリー。そして赤龍帝。アーシア・アルジェントはいただくよ」

 

 なにをふざけた事を……!

 

「アーシアを話せ、このクソ野郎! 卑怯だぞ! つーか、どういうこった! ゲームをするんじゃないのかよ!?」

 

 イッセーの叫びに、ディオドラは始めて醜悪な笑みを浮かべた。やっぱりそっちが本性なのね。

 

「バカじゃないの? ゲームなんてしないさ。キミたちはここで彼ら――『禍の団』のエージェントたちに殺されるんだよ。いくら力あるキミたちでもこの数の上級悪魔と中級悪魔を相手にできやしないだろう? ハハハハ、死んでくれ。速やかに散ってくれ」

 

 ……随分と余裕そうね。私はゼノヴィアにアイコンタクトを飛ばしてから、殺気を体に身に纏ってディオドラを睨む。

 

「あなた、『禍の団』とも通じたというの? 最低だわ。しかもゲームまで汚すなんて万死に値する! 何よりも私のかわいいアーシアを奪い取ろうとするなんて……ッ!」

 

「彼らと行動したほうが、僕の好きなことを好きなだけ出来そうだと思ったものだからね。まあ、最後のあがきをしてくれ。僕はその間にアーシアと契る。意味はわかるかな? 赤龍帝、僕はアーシアを自分のものにするよ。追ってきたかったら、神殿の奥まで来てごらん。素敵なものが見られるはずだよ」

 

 そう言ってディオドラが嘲笑する。――まだダメよ、ゼノヴィア。まだ……。

 

 完全に調子にのってるディオドラに、さらに私は言葉を発する。

 

「ディオドラ! エイジはどこへやったの!?」

 

 するとディオドラは嘲笑を濃くして話を再び始めた。

 

「ああ、捕食者か。捕食者ならこことは離れた位置に転送したよ。彼は厄介だからね。ここにいる悪魔たちの3倍の数で襲わせてもらっているよ」

 

「――っ!」

 

 ここよりも3倍って、少なくても3000近くの悪魔のなかに……。

 

 エイジの身を心配する私たちにディオドラは口もとに手をあてて微笑んだ。

 

「まあ、彼は能力の大半を封じられているみたいだから、過剰戦力だったかも知れないけどね。周りを悪魔に囲まれて、今頃泣いているんじゃないかな?」

 

 ……本当に最悪ね。話していて不快だったわ。でも――、時間を稼いだおかげで、ゼノヴィアの準備は整ったようね。

 

「アーシアを離しやがれ! 俺がてめぇをぶっとばしてやる!!」

 

「まったく、転生悪魔の汚らわしいドラゴン風情が僕をぶっとばせるとでも――」

 

 ディオドラへ向って、怒り心頭で吼えるイッセー。ディオドラは余裕そうに目を瞑ってやれやれと口を開こうとした、この瞬間!

 

 ゼノヴィアの姿が掻き消える!

 

 ザシュッ!

 

「がああああああッ!?」

 

 ディオドラの悲鳴。アーシアを捕らえたまま空に浮かんでいたディオドラの腕が飛び、鮮血が溢れだす。

 

 そこへゼノヴィアの声が響いた。

 

「アーシアは確かに返してもらったぞ」

 

 しゅたっと、アーシアを片手で抱きかかえてゼノヴィアは地面に降り立った。

 

「ゼノヴィアさん……」

 

「大丈夫か、アーシア」

 

「はいっ!」

 

 ゼノヴィアの言葉にしっかりとうなずくアーシア。――成功してよかったわ。ゼノヴィアが周りの悪魔たちに気づかれないように、身体強化の魔法をかけるまでが問題だったんだけど。ディオドラが自信過剰のバカで助かったわ。

 

「アーシア!」

 

 急いでアーシアの元へ駆け寄るイッセー。

 

「イッセーさん!」

 

「よかった、本当によかった!」

 

 安心するように涙目、いえ、号泣しながらアーシアの安否を気遣うけど、油断しすぎよ。まだディオドラは生きてるんだから。

 

 案の定ディオドラはこちらへ向って殺気を飛ばしてきた。

 

「ぐあがががっ! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! よくも、よくも! 僕の腕を……! 絶対にお前たちを嬲って、犯して、陵辱して、屈辱と痛みを存分に味あわせたあと殺してやる!」

 

 瞳を赤く充血させながら狂気に近い殺気を放ってくるが、先ほどまでの余裕そうな顔をなくし、片腕を失い、服は鮮血で染まり、荒く息を吐いているその姿は滑稽に映った。

 

 ゼノヴィアはそんなディオドラへ向って、まだ血がついている大剣、真・リュウノアギトの切先を向けて言い放つ。

 

「私の親友に手を出してみろ! 今度は私の一閃にて命を刈り取るぞ!」

 

「ゼノヴィアさん……」

 

 凛々しく言い放つゼノヴィアと、片腕に抱かれるアーシア。まるで勇者とお姫様ね。……あれ? このポジションってイッセーなんじゃ?

 

「そうだ! 家のアーシアに二度と近づくんじゃねえぞ!」

 

 ……うん、イッセーは剣士や魔法使いみたいな外野ポジションになってるわね……。

 

「クソッ! クソォッ! 絶対に殺してやるからな!」

 

 一方のディオドラは傷が深いようで、捨て台詞を残してその場から退散した。

 

 このまま放っておいても害にしかならないだろうし、レーティングゲームを汚した借り、かわいいアーシアを犯そうとしたり、かわいい下僕悪魔のイッセーをイジメた借りを返さないとね。

 

 でも、いまはそれよりも――。

 

「まずは目の前の悪魔たちね。ハンデを背負っているとしても、エイジは1人でも十二分に強いし、いざとなったら自分で封印破棄できるから。私たちは目の前の悪魔たちを倒したあと、あらためてディオドラを倒しましょう」

 

「そうですわね。ディオドラをしっかり痛めつけてあげないと」

 

「ああ、あの男が二度とアーシアに近づけないように今度こそし止めてやらないとな」

 

「部長、仙術でディオドラの位置を捕捉しました。現在は神殿のなかにいるようです。早くこらしめに行きましょう」

 

 私の言葉に朱乃、ゼノヴィアをはじめとして全員が同意し、猫化した小猫がディオドラの現在地を伝えてきた。

 

 ふふっ、やっぱりまだこのフィールド内にいるのね。下手に逃げられなくてよかったわ。

 

 まずは目の前の悪魔たちと、私たちが戦闘態勢をとると、旧魔王派の悪魔たちも魔法陣を展開して魔力を高め始める。

 

 その一触即発の状況で突然朱乃が後ろに向って、雷光の槍を突き放った。

 

「おっと、危ないのう」

 

 朱乃が放った雷光の槍を簡単にかわす老人――って、

 

「オーディーンさま! どうしてここへ?」

 

 VIPルームの観戦室にいるはずなんじゃ? ていうかさっき、朱乃のスカートを捲ろうとしたわね。まったく、エッチなお爺さんなんだから。

 

 オーディーンさまは私たちの疑問に答えるように、長くて白いあごひげをさすりながら言う。

 

「うむ。話すと長くなるんじゃがのうぅ。簡潔に言うと、『禍の団』にゲームを乗っ取られたんじゃよ」

 

 やっぱり。

 

「いま、運営側と各勢力の面々が協力態勢で迎え撃っとる。ま、ディオドラ・アスタロトが裏で旧魔王派の手を引いていたまでは判明しとる。先日の試合での急激なパワー向上もオーフィスに『蛇』でももらい受けたのじゃろう。このままじゃとお主らが危険じゃろうと、そんじょそこらの力の持ち主では突破も破壊も難しい結界を、ミーミルの泉に方目を差し出したときに得たわしの能力で突破して、お主らの救援にきたんじゃが、その様子では必要なかったようじゃな」

 

 と笑うオーディンさま。確かに修行で強化された朱乃の雷光による超広域殲滅魔法なら、固まっているいまの悪魔たちは逃げる暇もなく殲滅できていたでしょうけど。

 

「いえ、助かります。私たちはディオドラに借りを返さなければいけないので」

 

「そうかそうか、そりゃあよかったわい」

 

 そこに旧悪魔側から声をあげる。

 

「相手は北欧の主神だ! 討ち取れば名が揚がるぞ!」

 

 そして放たれる無数の魔力の弾。かなりの数だけど、打ち落とせないこともない。

 

 向ってくる魔力の弾を打ち払おうとしたとき、オーディンさまが杖を一度だけトンと地面を突く。

 

 ボボボボボボンッ!

 

 こちらへ向ってきていた魔力の弾が全て消滅した! すごい! どうやったのか分からなかったわ!

 

「ホッホッホッ」

 

 オーディンさまが発する笑い声に、旧魔王派の悪魔たちも顔色を変えていた。

 

 

「本来ならば、わしの力があれば結界も打ち破れるはずなんじゃが、ここには入るだけで精一杯とは……。はてさて、相手はどれほどの使い手か。ま、これをとりあえず渡すようにアザゼルの小僧から言われてのぅ。まったく年寄りを使いに出すとはあの若造どうしてくれようか……」

 

 意外と、ではないけど、オーディンさまは小言が多いわね。

 

 オーディンさまから渡されたのはグレモリー眷属の人数分の小型通信機だった。

 

「ん? エイジはおらんのか?」

 

 1つだけ余った通信機にあごひげをさするオーディンさまに、うなずいて答える

 

「はい。転送のときにエイジだけ離れた場所へ飛ばされて」

 

「ふむ。まあ、あやつは1人でも大丈夫じゃろう。ほれ、アスタロト家のアホを拷問しにいくんじゃろう? ここはジジイに任せて神殿のほうまで走れ。ジジイが戦場に立ってお主らの援護をすると言っておるんじゃ。めっけもんだと思え」

 

 オーディンさまが杖をこちらへ向けると、私たちの体を薄く輝くオーラが覆う。って、落とし前をつけにいくだけで、拷問はしないわよ! ……たぶん。

 

「それが神殿までお主らを守ってくれる。通信機もエイジと合流したら渡しといてやるから、ほれほれ、さっさと走れ」

 

「でも、爺さん! 1人で大丈夫なのかよ!」

 

 イッセー、仮にも北欧の主神を爺さん呼ばわりは失礼でしょう……。それに私たちが心配するような人物でもないわ。

 

「まだ十数年しか生きていない赤ん坊が、わしを心配するなぞ――」

 

 私が思っていた通り、オーディンさまは左手に槍を出現させて。

 

「――グングニル」

 

 旧魔王派の悪魔たちへ向って一撃を繰りだした。刹那――。

 

 ブゥゥゥウウウウウウンッ!

 

 槍から極大のオーラが放出され、空気を貫くような鋭い音が辺り一面に響き渡った。

 

 ――ッ!

 

 オーディンさまが放った一撃が作り出した痕跡は遥か先まで一直線に伸び、深く地面を抉り、悪魔たちも数十人ほどは消し飛んでいた。……まったくなんて威力よ。

 

「なーに、ジジイもたまには運動しないと体が鈍るんでな。さーて、テロリストの悪魔ども。全力でかかってくるんじゃな。この老いぼれは想像を絶するほど強いぞい」

 

 さすがオーディンさま。この一撃で悪魔たちはいっそう緊張の色を濃くして、攻めるに攻められなくなっている。

 

「すみません! ここはお願いします!」

 

 ディオドラが逃げると面倒だから、オーディンさまに感謝してから、全員で神殿へ走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神殿の入り口に入ってからすぐに、オーディンさまから渡された通信機を耳に装着した。

 

 すると聞き覚えのある声が聞えてくる。

 

『無事か? こちらアザゼルだ。オーディンの爺さんから渡されたみたいだな』

 

 ――アザゼルだった。

 

『言いたいこともあるだろうが、まずは聞いてくれ。このレーティングゲームは「禍の団」旧魔王派の襲撃を受けている。そのフィールドも、近くの空間領域にあるVIPルーム付近も旧魔王派の悪魔だらけだ。だが、これは事前にこちらも予想していたことだ。現在、各勢力が協力して旧魔王派の連中を撃退している』

 

 やっぱり観戦しているほうも襲われたのね。でもそれよりも予想していたってのは――。

 

『最近、現魔王に関する者たちが不審死するのが多発していた。裏で動いていたのは「禍の団」旧魔王派。グラシャラボラス家の次期当主が不慮の事故死をしたのも実際は旧魔王派の連中が手にかけたってわけだ』

 

 さらにアザゼルの言葉は続いて、旧魔王派は現魔王や魔法の血縁者が集まるこの場を狙ってテロを起こしたと説明した。

 

 ……ほんとうに随分と恨みは深いわね。

 

 まあ、現魔王を恨まない理由も分からなくもないけど。

 

 そして、ディオドラがいきなり強くなった理由も、ウロボロスのオーフィスから力をもらっていたならうなずける。

 

 まったく、『禍の団』は厄介ね。

 

 とりあえず、今回のゲームは――。

 

「このゲームはご破算ってことね」

 

『悪かったな、リアス。戦争なんてそう起こらないといっておいて、こんなことになっちまっている。今回、おまえたちを危険な目に遭わせた。いちおう、ゲームが開始する寸前までは事を進めておきたかったんだ。前もってディオドラが『禍の団』に通じているかもしれないという情報を得ていたし、おそらく奴らもそこで仕掛けてくるだろうと踏んでいたからな。案の定、その通りになったが、おまえたちを危ないところに転送したのは確かだ。この作戦もサーゼクスを説得して、俺が立案した。どうしても旧魔王派の連中をいぶり出したかったからな』

 

「もし、俺達が万が一死んじゃったらどうしたんですか?」

 

 イッセーの何気なく発した言葉に、アザゼルは真剣な声音で言った。

 

『俺もそれ相応の責任を取るつもりだった。俺の首で事が済むならそうした』

 

 自分が死ぬのも覚悟してたってことね。

 

 でも――。

 

「アザゼル先生、エイジが別の場所、しかも敵の真っ只中に転送されてしまったんですけど」

 

『まっ、あいつなら大丈夫だろ』

 

「「「「…………」」」」

 

「先生、アーシアがさっきディオドラに攫われそうになったんです!」

 

『――っ。大丈夫だったか?』

 

「はい! ゼノヴィアがディオドラの隙をついて無事です!」

 

『それはよかった。そこは旧魔王派の連中が次々と転送されているし、これから本物の戦場になるだろう。その神殿には隠し地下室が設けられている。かなり丈夫な造りだ。戦闘が静まるまでそのに隠れていてくれ。あとは俺たちがテロリストを始末する。このフィールドは「禍の団」所属の神滅具所持者が作った結界に覆われているために、入るのはなんとかできるが、出るのは不可能に近いんだよ。――神滅具「 絶   霧 (ディメンションロスト)」。結界、空間に関する神器のなかでむ抜きんでているためか、術に長けたオーディンのクソジジでも破壊できない代物だ』

 

「先生も戦場に来ているんですか?」

 

『ああ、同じフィールドにいる。かなり広大なフィールドだから、離れてはいるが』

 

「アザゼル」

 

『なんだ、リアス』

 

「エイジは1人で敵のなかに放り出されたんだけど?」

 

『ん? それがどうした?』

 

 それがどうしたって――。怒鳴りそうになった私にアザゼルが冷静な声で言う。

 

『ハンデを背負ってるっていっても、あいつが雑魚にやられるわけねぇだろ。ほんとうにやばかったら自分で封印解くだろうし、おまえだって大丈夫だって思って神殿のほうに向ったんだろう』

 

「そ、そうだけど……」

 

 私たちもエイジが無事だって信じてるけど、もうちょっと言い方ってものがあるんじゃないの?

 

『まあ、あいつは大丈夫だ。丁度俺の位置から悪魔たちを相手に、あいつが無双している様子が見えるからな。……だがそれにしても、中級悪魔並みの魔力と戦闘技術だけでどれだけ戦えるんだ? 周りを囲んでいる悪魔たちが次々に減らされていってるんだが……』

 

 ……うん、ほんとうに心配の必要はないみたいね。

 

 と、ここでイッセーがアザゼルに向って言った。

 

「先生! 俺たちはこれからディオドラの奴をぶっ飛ばしにいきます!」

 

『おまえら、いまがどういう状況かわかっているのか?」

 

 イッセーの言葉にアザゼルは怒気を含ませながら返した。イッセーはそれでも諦めずに言う。

 

「む、難しいことはわかりません! でも、アーシアは俺の仲間です! 家族です! 俺はもう二度とアーシアを失いたくないし、このままディオドラを逃がしたら、またアーシアを狙ってくると思うんです!」

 

「イッセーさん……」

 

 イッセーの言葉にアーシアが感動したようにつぶやいた。まったく……。

 

「アザゼル先生、悪いけれど、私たちはこのまま神殿に入ってディオドラを倒すわ。ゲームはダメになったけど、ディオドラをここで完膚なきまでに叩いておかないと、またアーシアにちょっかいをかけてきそうだから」

 

 私の言葉に、朱乃が続けた。

 

「アザゼル先生、私たち、3大勢力で不審な行為をおこなう者に実力行使をする権限があるのでしょう? いまがそれを使うときでは? ディオドラは現悪魔勢力に反政府的な行動を取っていますわよ?」

 

 通信機の先でアザゼルは嘆息していた。

 

『……ったく、頑固なガキどもだ……。ま、いい。今回は限定条件なんて一切ない。だからこそ、おまえたちのパワーを抑えるものなんて何もない。――ぞんぶんに暴れてこい! 特にイッセー! 赤龍帝の力を裏切り小僧のディオドラに見せつけてこいッ!』

 

「オッス!」

 

 気合の入った声でイッセーが答える。

 

『最後にこれだけは聞いていけ。大事なことだ。奴らはこちらに予見されている可能性も視野に入れておきながら事を起こした。つまり多少的に勘付かれても問題ない作戦でもあるということだ』

 

「相手が隠し玉を持ってテロを仕掛けてきていると?」

 

『ああ、それが何かはまだわからないが、このフィールドが危険なことには変わりはない。ゲームは停止しているため、リタイヤ転送は無い。危なくなっても助ける手段はないから(きも)に銘じておけ。――十分に気をつけてくれ』

 

 援軍、不意打ち、不意な事態に対処できるように常にかまえておきましょう。

 

「さてと、エイジも頑張っているようだし、私たちも行動開始するわよ」

 

 皆を見渡してから、小猫に訊く。

 

「小猫、ディオドラの位置は?」

 

「神殿の奥に感じます。いまは動いていないようです」

 

「そう、ありがとう」

 

 私はここでアーシアのほうへ視線を移す。

 

「アーシア」

 

「はい」

 

「ディオドラの本性はわかったでしょ。ここから先に進むと知らなければよかったと思える話も出てくると思うわ。それでもあなたは一緒に来る? 来たくないのなら護衛をつけて――」

 

 私の言葉を遮ってアーシアが首を横に振った。

 

「いいえ、私も皆さんと一緒に行きます。ディオドラさんがほんとうはあんな人だとは思っても見ませんでした。おそらく傷を負って私の前に現れたのもワザとだったんだと、思います」

 

 アーシアは俯いて涙を拭ったあと、再び顔をあげた。

 

「それでも私は皆さんと一緒に行きたいです」

 

「そう、わかったわ」

 

 私はアーシアを抱きしめる。

 

「部長さんっ」

 

「私はあなたをかわいい下僕悪魔で、妹のように思っているし、みんなもアーシアの味方だということは覚えておいて」

 

「はいっ」

 

 瞳から涙を溢すアーシア。こんないい子を貶めるなんてディオドラ、たっぷり痛みを味合わせてあげるわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 神殿のなかは、広大な空間だった。大きな広間がずっと続く感じだ。広間に巨大な柱が並ぶぐらいで他に目立ったものはない。

 

 神殿を抜けると、さらに前方に新たな神殿が現れ、そこを目指す。それが何度かしていくうち、とある神殿のなかに入ったとき――気配を感じた!

 

 俺たちは足を止めて、一斉にかまえた。

 

 前方から現れたのは――フードを深く被ったローブ姿の小柄な人影が15人ほど。

 

『やー、リアス・グレモリーとその眷属の皆』

 

 ――っ!

 

 ばっとアーシアを守れるように前へでる!

 

 神殿中にディオドラの声が響く! どこからだ!

 

『ハハハ、赤龍帝。辺りを見渡しても僕は見つからないよ。僕はこのずっと先でキミたちを待っているからね。――はぁ、まったく、そちらの戦車にやられた腕が痛むよ』

 

 はっ! 自業自得だろ!

 

『それにアーシア』

 

 びくっと、ディオドラに声をかけられたアーシアが震える。

 

『僕はキミを諦める気はないからね。絶対に、絶対に手に入れて見せるよ』

 

「おまえなんかに渡すわけないだろう! それよりも今からおまえのとこに行ってぶっ飛ばしてやる!」

 

 本当にイラつく奴だ!

 

『まったく、キミの意見は聞いていないよ、赤龍帝。――まあ、わざわざ僕の元にアーシアを届けてくれるっていうんなら助かるよ。――ああ、それとそれまでちょっとした遊びをしよう』

 

 遊び?

 

『レーティングゲームの代わりだよ。お互いの駒を出し合って、試合をしていくんだ。一度使った駒は僕のところへ来るまで使えないのがルール。あとは好きにしてもいいんじゃないかな。第1試合は「兵士」8名と「戦車」2名を出す。ちなみにその「兵士」たちは皆すでに「女王」に昇格しているよ。ハハハ、いきなり「女王」8名だけど、それでもいいよね? 何せ、リアス・グレモリーは強力な眷族を持っていることで有名な若手なんだから』

 

 無茶苦茶だ! いきなり、『女王』にプロモーションした『兵士』全部と『戦車』2名と戦えってのか! 10人もいるんだぞ! その後方にも5人もいるのに!

 

 ディオドラの眷属はフードを深く被って顔を隠していた。でも、性別は知っている! 確か、『兵士』8名は全部女の子だ! いいなー、ハーレム眷属……。いやいや、ディオドラの野郎とうらやましがっちゃいかん!

 

「いいわ。あなたの戯れ言に付き合ってあげる。私の眷属がどれほどのものか、刻み込んであげるわ」

 

 部長は快諾した! マジか! いいの?

 

 俺が部長にほんとうに相手の言いなりになっていいのか訊ねようとしたとき、ディオドラの眷属から声をかけられた。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

 女の子の声! 絶対美人さんだ!

 

『どうした?』

 

 え? ディオドラが返すのか? 俺たちに言ったんじゃなかったのか?

 

 俺たちが疑問に思っていると、後方に待機していた5人も前に来て、通路の奥、ディオドラがいるであろう方向へ向って頭を下げた。

 

 ……へ?

 

 皆が固まっていると、眷属のなかで1番立派な衣装を身に纏った女性が口を開いた。

 

「これまでお世話になりました、ディオドラさま。私たちと屋敷に勤める眷属全員、今をもってディオドラさまの下を去らせていただきます」

 

 え、ええええぇぇええええええええ~~~!!? いきなり仲間割れ!? っていうか眷属全員に見捨てられてる!?

 

『なん、だと……!?』

 

 聞えてくるディオドラの声もまるで思っても見なかったようで、驚愕などの感情が表れていた。

 

『な、なぜだ!?』

 

「いえ、なぜと言われましても……」

 

 おそらく「女王」の眷属が、「あなた、ほんとうに分かってないんですか?」という風に困ったような声をだした。

 

 そこへ再び飛ぶディオドラの大声。

 

『それに「女王」に「僧侶」、「騎士」のおまえたちは、もっと奥の神殿でリアス・グレモリーたちと戦う予定だったろう! なぜ全員が集まっているんだ!?』

 

 飛んでくる大声にうんざりしたように「女王」が答える。

 

「先ほど言った通り、私たちはディオドラさまの下から去る、と言っているんです。あなたのためなんかで現魔王政府を裏切って、危険を冒したくありませんので。もう眷属ではありませんから、命令権も受け付けないので、命令違反などではないですよ」

 

『くっ、はぐれ悪魔にでもなるというのか!? 居場所のないおまえらがどこへ――』

 

「ああ、転職先はすでに紹介されてすでに決まっているので、心配しなくても大丈夫ですよ。退職金もいりませんし、屋敷においている私物もきちんと片づけたのでご心配なく」

 

『ぐぅッ……!』

 

「「「「……………」」」」

 

 ……おい、これどうすればいいんだ?

 

 俺たちも、そしてディオドラさえも口を閉ざして混乱していると、ディオドラの眷属――、いや、元眷属? の1人が紙を渡してきた。

 

 部長が紙を受け取ると、丁寧に説明を始める元眷属さん。

 

「これはこの神殿の地図です。その地図のドクロマークがディオドラさまの居場所になっていますので、進むのでしたらお気をつけください」

 

「あ、ありがとう……?」

 

 混乱しながらもお礼を言う部長に、さらに元眷属さんが続けて言った。

 

「それと、この先を進むと、フリード・ゼルゼンというはぐれ神父がいます」

 

「――っ!」

 

 あのクソ神父のフリードがいるのか!?

 

「なんでも捨てられたところを拾われて、改造手術を受けさせられていまは人間を止めていて危険なのでご注意ください」

 

「なんだか悪いわね。色々と教えてもらっちゃって」

 

「いえ、神城さまには新しい職場からなにから何までお世話になっているのでいいですよ。それよりも、皆さんお気をつけて」

 

 深く頭を下げる元眷属さんたち一堂。元眷属さんたちは隠し地下室にテロが終わるまで隠れてるそうだ。

 

 ていうか、またエイジがなんか関わってるのかよ。

 

 先ほどまで余裕を見せていたディオドラの声は聞えない。

 

 …………。

 

 ディオドラもここまで来ると哀れだな。

 

 気を取り直して皆で先に進もうとすると、元眷属さんの1人がアーシアに声をかけてきた。

 

「アーシア・アルジェントさん」

 

「は、はい」

 

「いまいる場所を自分の居場所と思って幸せに感じているなら、それまでの過程は関係ありません」

 

「え?」

 

「真実をディオドラから、誰かから聞いてもどうか心を強く保ってください」

 

 真実? なんのことだ? 本性の他にまだなにか隠しているのか?

 

 俺が疑問に思っている一方で、アーシアは何か思い当たるふしでもあるのか、ゆっくりとうなずいた。

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元眷属さんたちからもらった地図通り神殿の奥へと進んで行くと、俺たちの視界に見覚えのある者が映り込む。

 

「や、おひさ~」

 

 白髪の神父――。

 

「フリードッ!」

 

 元眷属さんたちからの情報通り、あのクソ神父が現れた。ほんと懐かしいな。エクスカリバー事件のとき以来か。こいつまだ生きてたんだな。

 

「まだ生きてたんだなって、思ったっしょ、イッセーくん? イエスイエス。僕ちんしぶといからキッチリチャッカリ生きてたんござんすよ?」

 

「だから、俺の思考を読むなって!」

 

 ったく、相変わらず俺の考えていることを当ててくる野郎だ!

 

 でもいまは――。

 

「元眷属さんたちから聞いたけど、おまえ人間止めたのか?」

 

「ヒャハハッ! そうだぜぃ! 僕チン人間止めちったのよ!」

 

 奴はにんまりと口の端を吊り上げ、人間とは思えない形相で哄 笑(こうしょう)をあげる!

 

「ヒャハッ! ヒャハハハハハハハッハハハハハハハッ! てめえらに切り刻まれたあと、ヴァーリのクソ野郎に回収されてなぁぁぁぁぁあっ! 腐れアザゼルにリストラ食らってよぉぉぉぉおおっ!」

 

 ボコッ! ぐにゅりっ!

 

 異様な音を立てながら、フリードの体の各所が不気味に盛り上がる! 神父の服を突き破り、角だかなんだかわらないものが体から生えていく。全身が隆起していき、腕も足も何倍も膨れ上がった。

 

「行き場なくした俺を拾ったのが『禍の団』の連中さ! 奴ら! 俺に力をくれるって言うから何事かと思えばよぉぉおおおっ! きゅはははははっはははっ! 合成獣(キメラ)だとよっ! ふははははははははっはははははっはっ!」

 

 背の片側だけコウモリのような翼が生え、もう片側には巨大な腕が生えてきていた。顔も原型をとどめないほど変質し、突き出した口には凶暴な牙が生えそろう。ドラゴンのような頭部になっていった。

 

 ……なんてこった! 人間を止めたとは聞いていたけど、これは酷すぎる! 腕も脚も全身めちゃくちゃで、統合性なんてないからだのつくり! どういう頭の構造をしていれば、こんな風に人を作り替えられる!?

 

「フリード神父……」

 

 変化を遂げた眼前の巨躯の生物はフリードの面影など、一切残されない異形の存在だった。他の部員たちも顔をしかめ、アーシアは口もとを覆って、悲しそうにフリードの名をつぶやいた。

 

「ヒャハハハハッ! おやおや、これはアーシアちゃん! お久しぶり~♪ ここにいるってことは、うまくディオドラ・アスタロトに捕まらないですんだみたいだね! ヒャハハッ! ヒャハハハハハッ!」

 

「フリード神父、なんでそんな……」

 

「なに哀れんだ視線を僕ちゃんに向けてんだよぉおおおお! 相変わらず聖女さまは博愛主義者ですか!? すげぇキメェんだけどぉおおおおお!? ヒャハッ! そうだった、そうだった! アーシアちゃぁぁん! ディオドラ・アスタロトの趣味って知ってるかなぁああああ?」

 

「――っ」

 

「そうそうアーシアちゃんも薄々気づいてると思うけどぉ、親切な神父さまが優しく教えてあげるね! ディオドラ・アスタロトの趣味ってやつをさ。これが素敵にイカレてて聞くだけで胸がドキドキするんだぜ!」

 

 憤怒の表情を浮かべて叫んでいたフリードの顔が、途端に気持ちの悪い笑みに変わり、突然、耳にしつこく残る不快な笑い声と共に、アーシアへ向って話し始めた。

 

「ディオドラの女の趣味さ。あの坊ちゃん、大した好みでさー、教会に通じた女が好みなんだって! そ、アーシアちゃんみたいなシスターとかそういうのさ!」

 

 女の趣味? アーシアみたいなシスター……。

 

 フリードは大きな口の端を上げながら続ける。

 

「しかも狙う相手は熱心な信者や教会の本部になじみの深い女ばかりだ。俺さまの言ってることわかるよねー? さっきイッセーくんたちがぶっ倒してきた眷属悪魔の女たちは元信者ばかりなんだよ! 自分の屋敷で囲ってる女どもも同じ! ぜーんぶ、元は有名なシスターや各地の聖女さま方なんだぜ! ヒャハハハ! マジで趣味良いよなぁぁぁっ! 悪魔のお坊ちゃんが教会の女を手篭めにしてんだからよ! いやはや、だからこそ、悪魔でもあるのか! 熱心な聖女さまを言葉巧みに超絶うまいことやって堕とすんだからさ! まさに悪魔のささやきだ! ちなみにここには「騎士」の2人がいるはずだったんだがどっか消えちゃってさあ! せっかく食ってやろうと思ってたのによぉおお!」

 

 こいつディオドラが眷属悪魔や屋敷の下僕悪魔たちから見限られたことを知らないのか? 元眷族悪魔の人がアーシアに言ったことって、いや、だけどそれより――。

 

「じゃあ、アーシアは――」

 

 俺の言葉にフリードは哄笑をあげて、アーシアを狂気を孕んだ濁った瞳で睨んだ。

 

「そう! アーシアちゃんが教会から追放されるシナリオを書いたのは元をただせばディオドラ・アスタロトなんだぜ~。シナリオはこうだ。ある日、シスターとセックスするのが大好きなとある悪魔のお坊ちゃんは、チョー好みの美少女聖女さまを見つけました。会ったその日からエッチをしたくてたまりません。でも、教会から連れ出すには骨が折れそうと判断して、他の方法で彼女を自分のものにする作戦にしました」

 

 ――っ。

 

 ……ちょっと、待ってて。そ、そんな、アーシアは――。

 

「聖女さまはとてもおやさしい娘さんです。神器に詳しい者から『あの聖女さまは悪魔を治す神器を持っているぞ』というアドバイスをもらいました。そこに目をつけた坊ちゃんは作戦を立てました。『ケガをした僕を治すところを他の聖職者に見つかれば聖女さまは教会から追放されるかも☆』と! 傷痕が多少残っていてもエッチできりゃバッチリOK! それがお坊ちゃんの生きる道!」

 

 ――あのとき、彼を救ったこと、後悔してません。

 

 俺の脳内で、笑顔でそういったアーシアが思いだされる。

 

 …………。

 

 なんだよ、それ。なんなんだよ、それはよ……。

 

 アーシアを嘲笑うかのようにフリードはトドメとばかりに言った。

 

「信じていた教会から追放され、神を信じられなくなって人生を狂わされたら、簡単に僕のもとに来るだろう――と! ヒャハハハハ! 聖女さまの苦しみも坊ちゃんにとってみれば最高のスパイスなのさ! 最底辺まで堕ちたところを掬い上げて、犯す! 心身共に犯す! それが坊ちゃんの最高最大のお楽しみなのでした! それはこれからも変わりません! 坊ちゃん――ディオドラ・アスタロトくんは教会信者の女の子を抱くのが大好きな悪魔さんなのでした! ヒャハハハハハッ! 残念だったね、アーシアちゃん!」

 

「やっぱり……そう、だったんですか……」

 

 アーシアの悲しそうな声が響く。ディオドラの本性を知り、ここまでの間でアーシアも薄々気づいていたんだろう。

 

 自分が騙されていたという事を……。

 

 アーシアの表情はうかがえないが、見なくても俺にはわかる。悲しい涙を流しているアーシアの姿が、俺には見える!

 

 アーシア……。

 

 俺は。

 

 心の底で生じたそれを我慢できそうになかった。

 

 握りしめる拳からは血が噴きだしている。

 

 フリードを激しくにらみ、1歩前へ出ようとしたときだった。

 

 俺の肩を木場がつかむ。

 

「イッセーくん。気持ちはわかる。だが、キミのその想いをぶつけるのはディオドラまで取っておいたほうがいい」

 

 冷静な物言いだ。だが、俺はそれが癇に障った!

 

「おまえ、これを黙っていろって言う――」

 

 そこまでぶちギレて、木場の胸ぐらをつかもうとしたが――。木場の顔を見て、手を止めた。

 

 ――木場の瞳は怒りと憎悪に満ちてきたからだ。

 

「ここは僕が行く。あの汚い口を止めてこよう」

 

 迫力ある歩みで木場は俺の横を通り過ぎていく。

 

 俺の怒りが一瞬冷めてしまいそうなほど、木場の全身から放たれるオーラは攻撃的な殺意に包まれていた。

 

 木場は異形の存在と化したフリードの前に立ち、手元に聖魔剣を一振り創りだす。

 

「やあやあやあ! てめえはあのとき俺をぶった斬りやがった腐れナイトさんじゃあーりませんかぁぁぁっっ! てめえのおかげで俺はこんな素敵なモデルチェンジをしちゃいましたよ! でもよ! だいぶ強くなったんだぜぇぇ? 無敵超絶モンスターのフリードくんをよろしくお願いしますぜぇ、色男さんよぉぉぉっ!」

 

 木場は剣をかまえると冷淡な声で一言だけ言う。

 

「キミはもういないほうがいい」

 

「調子くれてんじゃねぇぇぇぇぞぉぉぉぉっ!」

 

 憤怒の形相となったフリードは全身から生物的なフォルムの刃を幾重にも生やしてこちらへ――。

 

 フッ!

 

 木場が視界から消え――。

 

 バッ!

 

 刹那、俺たちの眼前にいたモンスターのフリードは無数に切り刻まれて四散した!

 

「――んだ、それ。強すぎんだろ……」

 

 頭部だけとなったフリードは床に転がり、大きな目をひくつかせていた。

 

 ――一発かよ!

 

 フリードが攻撃の姿勢を見せたとたんに勝負を一瞬で決めやがった! 神速で切り刻んだに違いない! うわぁ……。俺、目で捉え切れなかったぞ。

 

「……ひひひ。ま、おまえらじゃ、ディオドラの裏にいる奴らは倒せねえさ。計画も修正されて、結局アーシアちゃんは――」

 

 ズンッ!

 

 頭部だけのフリードに木場は容赦なく剣を突き立て、絶命させた。

 

 木場は聖魔剣についた血を空で払う。飛び散った血液が半円を描いた。

 

「――続きは地獄の死神相手に吼えるといい」

 

 決め台詞まで言い放つこのイケメン!

 

 ……クッソォォオオオオッ! 男の俺でもカッコイイとか思っちゃったじゃないか! こいつ、また強くなったんじゃないか? フリードの実力がどれほどのものかわからなかったぐらいだ。どりあえず、木場のほうが圧倒的に強かったことだけは理解できる。

 

 フリード……。あいつとは腐れ縁だぅたけど、最後はなんとも言えないものだった。

 

 こいつもある意味で被害者なのだろうか?

 

「フリード神父……」

 

 アーシアはフリードの亡骸に祈りを捧げていた。

 

 あんなに酷いことを言われて、酷いめにも遭わされたというのに。

 

 アーシアが祈りを捧げている姿は、すごく悲しく映った。

 

「アーシア」

 

「ゼノヴィアさん」

 

 祈りを捧げているアーシアを優しく後ろからゼノヴィアが抱きしめる。

 

「すまない」

 

「どうしてゼノヴィアさんが謝るんですか?」

 

「私たちはレーティングゲーム前から、ディオドラ・アスタロトがクズで、アーシアに嘘をついていたと知っていたんだ」

 

「「え?」」

 

 ――え? アーシアと俺の言葉が重なる。部長に確認するように視線を送るとうなずいて話し始めた。

 

「少し前にエイジが元ディオドラの眷属悪魔に教えてもらったそうなの。眷族で知らないのはイッセーとアーシアだけだったの」

 

「な、なんで教えてくれなかったんですか!?」

 

 俺は大声を出して部長たちにくいかかる! 知っていれば! 知っていれば!

 

「ディオドラに嘘をつかれていたアーシアがショックを受けると思って言えなかったの。……ほんとうはレーティング開始前にイッセーだけには話して、レーティングが終わってからアーシアに話そうと思ってたんだけど、フリードに告げられたり、ディオドラに告げられる前に私が先に教えておけばよかったわ」

 

 そう言って唇を噛む部長。他の部員たちも申し訳なさそうにしてる。

 

 その皆の表情に頭の一部の冷えた部分で理解した。

 

 ……そうだ……。誰がディオドラに裏切られているとアーシアに教えられるんだ? 聖女から魔女に堕とされて、教会から追い出されて堕天使に殺されようとしたアーシアに、悪魔を救ったことに後悔していないと微笑むアーシアに、誰が言えるんだ?

 

 それにレーティングゲーム前に俺に告げようと思った部長たちの考えも分かる。

 

 最初から告げられていたら、俺はアーシアの前で自分が抑えられなくなる。ディオドラを視界に入れた途端に襲い掛かったと思う。

 

 どうせ痛めつけるなら、相手は上級悪魔でも、お坊ちゃんでも痛めつけても不問にされるだろうこのレーティングこそが、俺にディオドラのことを話す1番の場所。

 

 ディオドラへの怒りを溜めて思う存分発散できるように部長はレーティングゲーム開始前に俺に話すことにして、アーシアへは全て終わってから伝えようとしたんだ。

 

 ゼノヴィアに抱きしめられていたアーシアが優しく言った。

 

「ゼノヴィアさん、皆さん、私は大丈夫です」

 

「アーシア」

 

 アーシアは笑顔をつくって話し始めた。

 

「……なんとなく、そういうんだろうとは思っていたんです」

 

 予想はしていたといっても、ショックなことにはかわらない。

 

 でも、アーシアは――。

 

「確かに私はディオドラさんに騙されて、教会から魔女と呼ばれて追い出されました。でも、いまの私はすごく幸せなんです」

 

「アーシア……」

 

 涙声でアーシアを抱きしめるゼノヴィアに手を重ねて、優しく目を瞑ってアーシアは続ける。

 

「イッセーさんとオカルト研の皆さんと、お父さまとお母さまがいるところが、私の居場所です。私は皆さんに出合えたこと、皆さんと一緒にいられることは、いままでの人生のなかで1番幸せに感じているんです」

 

 そう言ってアーシアは笑顔を俺たちに向けてくれた。

 

「アーシア」

 

「はい、イッセーさん」

 

 俺は。

 

「ディオドラをキッチリぶっ飛ばしたあとは、皆で帰ろう! 二人三脚の特訓もしないといけないし、父さんも母さんも体育際をすごく楽しみにしてるんだからさ!」

 

「はい!」

 

 ディオドラから絶対にこの娘を守る!

 

 そして絶対に、ディオドラを許さない! プライドをズタズタに引き裂いてからぶっ飛ばしてやる!

 



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第57話 グレモリーVSディオドラ&禍の団 後編 

<エイジ>

 

 

 ディオドラ・アスタロトとのレーティングがいよいよ始まると思っていたら、変な場所に飛ばされました……。

 

 リアスたちもいないどころか、周りは殺気をだしてる悪魔たちに囲まれてました。

 

 俺以外には殺気をだしている悪魔たちしかいません。

 

 うん、まさに孤立無援です。

 

 俺は1人なのに対して、少なくても2,000人以上の悪魔が囲んでいる。

 

「え~と……」

 

 いや、どういう状況? ディオドラとのレーティングゲームは?

 

 俺が頭をかいてリアスたちの位置と無事を確認していると、周りを囲っていた悪魔の1人がご親切にも説明してくれた。

 

「俺たちは『禍の団』の旧魔王派だ。黒い捕食者、おまえを討ち取らせてもらう」

 

 ……『禍の団』って、テロリスト集団だったよな? 裏でディオドラが繋がっているかもしれないとは予想していたけど。

 

 ん~……、それにしても旧魔王派かぁ。確か現悪魔政府に不満を持っている連中だよな。

 

 今行なわれている新人悪魔のレーティングゲームは、魔王はもちろん、政治家、貴族、それにその他勢力からの来賓が観戦に来ているんだし、テロリスト集団にとって最高の襲撃イベントになる。現にレーティングゲームの会場にこいつらがいるってことは、レーティングゲームそのものが乗っ取られた?

 

 手引きしたのは……。

 

「ディオドラか。やっぱりあいつはおまえらとグルなのか?」

 

「ああ、ディオドラ・アスタロトは最初からこちら側だ。今頃おまえの仲間も別働隊が襲撃しているはずだ」

 

 これはご丁寧に。やっぱりあのクズ悪魔は裏切り者だったか。

 

 それにしても別働隊ね。

 

 え~と……、確かにリアスたちの方も1,000人ぐらいの悪魔がいるみたいだが、十分対処可能なレベルだし、なぜかオーディンの爺さんも近くにいるようだから大丈夫だろう。

 

 逆にここでこいつらをし止めずにリアスたちの元へ行くほうが面倒なことになりそうだ。まだディオドラもいることだし。

 

 説明してくれた悪魔の男はおかしそうに笑い始めた。

 

「ふふふふっ、いかにおまえが魔王クラスの実力者といわれていようと力の大半を封じられ、この数を相手になど出来ないだろう。――黒い捕食者。ここがおまえの死場所だ」

 

「まったく……、随分と面倒なことになったようだな」

 

 素直な感想が口からもれた。ああ、まったく。まったく面倒だ。

 

 あ~……、【王の財宝】、【千の顔を持つ英雄】はもちろん他の能力も使用不可能。中級悪魔程度の魔力制限付きで、2,000以上の上級から中級、下級までの悪魔たちと、紛れ込んでる魔女なんかとのバトル。

 

 まあ、傍から見ればかなりのハンデだけど――。

 

「おまえら程度にこのハンデでも足らないだろうな」

 

 ただ、面倒なだけだ。

 

「――なに?」

 

 おおう、周りの皆さんから迸る魔力。あきらかに怒気を孕んでいる。

 

 俺は向けられてくる怒気を受け流して肩をすくませる。

 

「でも事実だ。おまえらと俺ではこれでもまったく足りない。おまえらは俺に対する認識が甘すぎる」

 

 そして、魔力ではなく、闘気を、殺気を体に纏う。

 

「――っ!」

 

 悪魔たちの顔が強張る。まるで時間を止められているかのように口を噤み、動きを止める。

 

「俺は魔力を封じられようと、能力を封じられていようとも、今までに培った経験と技術がある」

 

 最近はまったく戦うところがなかったから、魔王クラスだとか、強い印象は薄くなっていると思うが、ここらで認識を変えさせるか。

 

 構えをとって、悪魔どもに向って鼓舞する。

 

「それに、インキュバスと完全に転生した俺は、戦闘で女に対しては最強で最凶の能力を持っている。この場で襲い掛かってくる女は十二分の覚悟を持ってかかって来い! 男は死ぬ覚悟を持って挑んで来い!」

 

「な、なめるなぁぁああああああ!」

 

 お互いに殺気をぶつけ合い、俺と『禍の団』の戦闘――いや、一方的な蹂躙劇が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くらえぇええええっ!」

 

「死ねぇえええええっ!」

 

「覚悟ぉおおおおおっ!」

 

 とかいう悪魔たちの叫び声と共に、周囲360度、さらにその後方からいくつも魔法陣が空に浮び、魔力の弾が無数に飛んでくる。

 

 ――ああ、本当に甘い。こんな攻撃で俺を捕らえられるとでも思っているのか?

 

 俺は素の身体能力で地面を蹴って、敵陣のなかへ突っ込む!

 

 ドォオオオンッ!

 

 俺がさっきまでいた地面が爆せる。

 

「――どこに!?」

 

 いくつもの動揺の声が周りから上がる。やっぱりこいつらは雑魚だ。俺の速度に追いついていない。

 

「なっ!?」

 

「いつの間に!?」

 

 突然現れたように見えたのだろう悪魔たちが驚愕の表情を浮かべていたが、関係無しに拳を顔に叩き込んで絶命させる!

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!

 

 マシンガンのように打ちだす拳には中級悪魔程度の魔力しか込められていないが、その密度は高く、さらに速度と技術を持って威力を一点に収束させて打ち出しているため、拳に直接当たらずとも突き抜けた衝撃が、『禍の団』の悪魔たちの頭部がはじけ飛ばす!

 

 頭部をなくしたり、避けたが完全に避けきれずに虫の息になっている悪魔たちを見下ろして言う。

 

「とりあえず、いまので数十人は始末したな」

 

「――っ! この化け物がぁあああ!」

 

「仲間の仇だ!」

 

 などと突っ込んでくる悪魔に無慈悲に拳を叩き込んで絶命させ、インキュバスの能力を解放する。

 

 バッ!

 

 背中に大きな羽根が生え、尻尾が生える。

 

「死ねぇえええっ! ――うぐっ!?」

 

 後ろから襲い掛かってきた女悪魔を尻尾で絡める。

 

「何だこれは!?」

 

 もがく女悪魔を無視して他の女悪魔や魔女を無数に分裂させた尻尾で絡めとり、空中に持上げる!

 

「キャアアアア!?」

 

「なに!? なんなの!?」

 

 空から女の叫びが聞えるが、テロリストに下手な慈悲は不要。女だということで生かしてやるが、戦闘不能にはさせてもらうし、痛い目にはしっかりあってもらう。

 

 倒した悪魔たちが持っていた槍をニ振り掴む。

 

 ブゥウウウウウッンッ!

 

 槍をくるくると高速で回して腕に掴む。――うん。なまっていない。

 

「全員覚悟しろ!」

 

 周りにいる悪魔から、槍で貫き、払い、叩いて絶命させる!

 

 さらに続けて尻尾のほうで空中に浮べた女悪魔や魔女を官能的に締め上げる!

 

「くぅうううんっ!」

 

「クソっ! このっ! ちゃんと闘え!」

 

「服のなかまで触手が――」

 

「いやっ!? なんで!? なんで気持ちいいのぉおおお!?」

 

 空中でいくつも聞える艶っぽい厭らしい声。尻尾をロープのように使って縛り上げ、快楽で脳を犯しながら吸性と吸魔を行なう!

 

 そして女たちからギリギリまで魔力を吸いとり、理性を失う限界まで、戦闘不能になるまで追い込んでいく!

 

 あははははっ! 空から振り落ちる愛液の雨……! 戦陣の空気!

 

 丁度いいからインキュバスの能力も使って暴れさせてもらおう!

 

 あははははっ! ああっ! それにしても久々の戦闘だ!

 

 思う存分に自分を振るう!

 

 それぞれの得物を持って襲い掛かってくる悪魔たち。

 

 剣で切りかかってくる者、手甲で殴りかかってくる者、槍で突いてくる者、戦斧を持って攻撃してくる者など様々な悪魔たちが襲い掛かってくる。

 

 さらに少し離れた位置では無数の魔法陣が展開されて魔力の収束を感じる。

 

 味方は相変わらず1人なのに、相手側は転移魔法陣から次々と仲間を送り込み、倒しているのに人数は減らないどころか、増えていく。

 

 孤立無援の状態で、まさに絶体絶命だろうが――。

 

「――まったく負ける気がしないな」

 

 剣を向けてくる悪魔の一撃を踏み込むことでかわし、さらに同時に胸を貫く!

 

「このっ! ――キャ!?」

 

 胸を刺し貫いた槍を捨て、手甲で殴りかかってくる女悪魔の手を取り、柔術と合気道の応用で捕らえて拘束する。

 

「いまだ!」

 

「チャンスとでも思ったか?」

 

「――なっ!?」

 

「――ぐぅっ!」

 

 女悪魔を捕らえる隙を狙って悪魔が槍を突いてきたが、その切先をこちらの槍で切っ先で弾くように逸らし、戦斧を持っていた悪魔の腕を貫かせた。自分の槍はそのまま槍で突いてきた悪魔に向けて放ち、胸を刺し貫く。さらにその槍を高速で引き抜き、反対方向にいる戦斧を持っていた悪魔の首に石突きをめり込ませてへし折った。

 

「ああ、あああああぁあああああああああっ!」

 

 目の前で起こる惨劇に恐怖で悲鳴を上げる女悪魔の服の間から手を差し込んでおっぱいを掴む。

 

 ほう、これはなかなか――。

 

「や、やめてっ!」

 

 恐怖の悲鳴を上げる女悪魔の体の感触を楽しみつつ、続いて向ってくる悪魔を倒す。

 

 女悪魔のおっぱいを掴んでいる手に、空中でイキ狂って愛液や潮を噴き出させながらアヘってる女達から吸いとった魔力を、インキュバスの能力で強い媚薬に変換させ、捕らえた女悪魔の肌にすり込みながら揉んだ。

 

「あ、ああっ!? い、いやぁあああああ! 胸が! 胸がおかしくなる! やめ、やめてぇええええええっ!」

 

 腕のなかで悶える女悪魔のおっぱいを揉みながら、トドメとばかりに乳首を摘み上げて、ペニスに変身させた尻尾でオマンコを刺し貫き、絶頂させる。

 

「あひぃいいっ! あひぃいいいいい……ッ!」

 

 だらしないアヘ顔を浮べながら全身から様々な体液を漏らす女悪魔を地面に捨てて、さらに魔力を魔法陣に収束させていた悪魔たちへ槍を投擲し、再び敵陣に突っ込んでいく!

 

 様々な武器を向けてくる悪魔たちから武器を奪いながら倒したり、無手で両手両足を叩き折ったり、女の性感を媚薬とテクニックで過剰に刺激させて脳をショートさせて次々と倒していく!

 

 尻尾の激しい愛撫で戦闘不能となった女たちを放して、替わりに次々に女悪魔や魔女を捕らえて、魔力や精気を吸いとり、性感を刺激させて戦闘不能にさせていく!

 

 あははははっ! 久しぶりに武を振るうのも楽しいな!

 

 剣を振るって肉を切断し、骨を両断し、剣圧を固めて飛ばして一閃にて数十の命を奪う!

 

 槍を払って体を叩き潰し、高速で回転させて魔弾をかき消し、肉体を貫き、投擲して数十の命を消し飛ばす!

 

 斧で地面を割り、命を刈り取る剣風を起こし、武器ごと命を奪い取る!

 

 拳と脚を使って潰し、捻じ曲げ、へし折り、肉体を砕いて圧倒する!

 

 向ってくる女悪魔や魔女を無数の尻尾で縛り、貫き、体のなかをのた打ち回らせ、媚薬を浴びせ、飲ませ、一方的な激しい愛撫で犯して、狂わせ地面に落としていく!

 

「中級悪魔程度の魔力しか出せなくても! 能力の大半を封じられていようとも関係ないんだよぉおおおおおおっ!」

 

 ここに戦力が集まればリアスたちの負担も減るし、どちらにしろこいつらを放っておく事もできない。

 

 常にリアスたちの無事を確認しながら、俺はまだまだ出てくる敵を滅ぼすために、存分に自分を振るう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺――アザゼルはレーティングゲームのバトルフィールドで旧魔王派どもをある程度片づけていた。いや、もうほとんど片づけられていた。

 

「骨のない連中にゃ」

 

「まったくもって統率も取れていないし、兵士の質も悪いな」

 

「あんまり強くなかったですね」

 

「雑魚……ばかり」

 

「皆さんが強すぎなんですよ!」

 

 エイジの眷属たちがほとんどのテロリストを片づけているからだ。

 

 いや、マジでこいつら強くないか?

 

 特に黒歌っていう猫又と、セルベリアとかいう青みがかった銀髪で軍服姿の爆乳女って下手すると俺よりも強いんじゃね?

 

 黒歌の奴なんてオーディンでも壊せない結界を、時間があれば空間を操る仙術で破壊できるとか言ってるし。セルベリアって奴は巨大な槍と盾を振るって、単なる槍の一撃で数十人を一瞬で消し飛ばしてるし、盾は何人もの上級悪魔が魔力を収束させた、魔王クラスに近い魔弾を完璧に防いじゃってるし……。

 

 ノエルって奴も『魔銃ヴェルベルク』を完璧に使いこなして遠距離から無双してる。時雨って奴も様々な武器で次々に悪魔たちをしとめていっているし、元俺の勢力にいた堕天使レイナーレとかいう奴も援護がすごくうまい。自身の戦闘能力も高めで、サポートに秀でてる理想的な支援役だ。元は中級の堕天使だったようだが、今は上級、それもおそらく幹部クラスの実力は持っているだろう。

 

 まったく、あいつ自身もそうだが、あいつの女たちも化け物ばっかりだな。

 

 ゴォオオオオオッ!

 

 ……ああ、それに1番は奴だな。

 

 遠くに見える神城。

 

 1人で敵のなかに放り出されたとは聞いたが、まさに無双していた。

 

 ていうかありゃなんだ!?

 

 空中に何十人いや、ヘタすると100人ぐらい空中に『禍の団』の女たちが吊るされていて、アヘっていやがった!

 

 地上ではエイジの奴が敵から武器を奪ったり、無手での格闘で倒しまくる。

 

 あいつってマジでいまハンデ付けてんのか?

 

 正直、あの状態でも勝てる気がしないんだが……。

 

 ほんと怖ろしいな……。

 

 まあ、それはそれとして――、空中で触手に縛られてる女たちは眼福だな! 地面で男たちが無残に倒されていっているぶん混沌としているが……。

 

 いや、だがいまはそれよりも気になることがあったんだ!

 

 俺はとある場所へ向って宙を飛んで向う。

 

 ――俺が開発した人工神器の核でもある宝玉に宿ったドラゴン、ファーブニルが、オーディンの力で部下と黒歌たちを連れて、このフィールドに入ってからずっと反応を見せていたのだ。

 

 フィールドの1番隅っこに人影をひとつ視認する。宝玉がさらに輝きを増した。

 

 俺はその人影の前に降り立つ。……腰まである黒髪の小柄な少女。黒いワンピースを身に着け、細い四肢を覗かせている。

 

 少女は端正な顔付きだが、目線をフィールドの反対側を注視していた。

 

 ……俺は目を細め、静かに言う。

 

「――おまえ自身が出張ってくるとはな」

 

 少女は俺の声に反応し、こちらへ顔を向けた。薄く笑う。

 

「アザゼル。久しい」

 

「以前は老人の姿だったか? 今度は美少女さまとは恐れいる。何を考えている? ――オーフィス」

 

 そう、こいつは『 無限 の 龍神 (ウロボロス・ドラゴン)』――オーフィス! 『禍の団』のトップ! 間違いないぜ。こいつから漂う不気味で言いようのないオーラはオーフィスのものだ。

 

 以前会ったときはジジイの姿だったが、今回は黒髪少女かよ。まあ、こいつにとっては姿なんてものは飾りに過ぎないか。いくらでも変えられる。

 

 こいつ自身が出張ってくるってことは、今回の作戦はそれほどこいつにとって重要でデカいのか?

 

 だが、先ほど見つめていたフィールドの場所は中央の神殿ではなく、――神城が戦っていたところだ。

 

「見学」

 

「高み見物ね……。それにしてもボスがひょっこり現れるなんてな。ここでおまえを倒せば世界は平和か?」

 

 俺は苦笑しながら光の槍の矛先を突きつけるが、奴は首を横に振った。

 

「無理。アザゼルでは我を倒せない」

 

 ハッキリ言ってくれる。だろうさ。俺だけじゃおまえを倒しきれない。それはわかっている。だが、おまえをここで倒せば『禍の団』に深刻な大打撃を与えるのは確実なんだよな。

 

「では、2人ではどうだろうか?」

 

 バサッ!

 

 羽ばたきながら、舞い降りてきたのは――巨大なドラゴン!

 

「タンニーン!」

 

 元龍王のタンニーン!

 

 こいつもゲームフィールドの旧魔王派一掃作戦に参加していたのだが、一仕事を終えてこちらに向ってきたようだ。それに黒歌たちももうすぐこちらへ向かってくるだろう。全員でかかればオーフィスといえど倒せるはずだ。

 

 タンニーンは大きな眼でオーフィスを激しく睨む。

 

「せっかくの若手悪魔が未来をかけて戦場に赴いているというのにな。貴様が茶々を入れるということが気に入らん! あれほど、世界に興味を示さなかった貴様が今頃テロリストの龍王だと!? 何が貴様をそうさせたと言うのだ!」

 

 俺もタンニーンの意見にうなずき、さらに問いただす。

 

「暇つぶし――なんて今頃流行らない理由は止めてくれよな。おまえの行為ですでに被害が各地で出ているんだ」

 

 そう、こいつがトップに立ち、その力を様々な危険分子に貸し与えた結果、各勢力が被害をもたらしている。死傷者も日に日に増えてきた。もう無視できないレベルだ。

 

 何がこいつを突き動かし、テロリスト集団の上に立たせた? 俺にはそれだけがわからなかった。いままで世界の動きを静観していた最強の存在が何故いまになって動きだしたのか?

 

 そのオーフィスの答えは予想外のものだった。

 

「――静寂な世界」

 

 …………。

 

 一瞬、何を言ったか理解できなかった。

 

「は?」

 

 俺は再び問い返す。するとオーフィスは真っ直ぐこちらを見つめて言った。

 

「故郷である次元の狭間に戻り、静寂を得たい。ただそれだけ」

 

 ――っ!

 

 そ、それが理由だってのか? 次元の狭間。簡単に言うなら、人間界と冥界、人間界と天界の間にある壁のことだ。世界と世界の分け隔てる境界。そこは何も無い「無の世界」と言われている。

 

 オーフィスはそこから生じたのは知っていたが……。

 

「……ホームシックかよと普通なら笑ってやるところだが、時限の狭間ときたか。あそこは確か――」

 

 俺の言葉にオーフィスはうなずいた。

 

「そう、グレートレッドがいる」

 

 次元の狭間は現在、奴が支配している。なるほど、オーフィスは奴をどうにかして次元の狭間に戻りたいのか。

 

 まさか、それを条件――グレートレッドを追いだすのを条件に旧魔王派の悪魔や異端児に懐柔されたってのか?

 

 ――そうか、ヴァーリの目的!

 

 俺の思考が何かをだそうとしたとき、オーフィスがある一点を見つめて、俺に向って訊いてきた。

 

「あの者はなにもの?」

 

「なんだ? 奴が気になるのか?」

 

 オーフィスは俺が返した問いにうなずいた。

 

「教えてやる義理は無いが、教えてやる。あいつは神城エイジ。魔界では黒い捕食者と呼ばれている転生悪魔だ」

 

「転生悪魔?」

 

 首を傾げるオーフィス。

 

「まあ、その疑問もわからないことでもない。いまの奴は完全なインキュバスだからな」

 

「インキュバス……」

 

 オーフィスが少しだけ笑った気がしたが見間違いか?

 

「いくらおまえが最強といわれている存在だとしても、奴も規格外の化け物だ。さらにあいつの眷属も強いからな。ここでおまえを倒せないこともないぞ」

 

 タンニーンが牙を剥きながら威嚇するが、オーフィスはまったく気にもしないで神城が戦う様子を見ていた。

 

 一体どうしやがったんだ?

 

 俺が疑問に思っていると、オーフィスの横に魔法陣が出現し、何者かが転移してくる。

 

 そこにあらわれたのは貴族服を着た1人の男。

 

 そいつは俺に一礼し、不適に笑んだ。

 

「お初にお目にかかる。俺は真のアスモデウスの血を引く者。クルゼレイ・アスモデウス。『禍の団』真なる魔王派として、堕天使の総督である貴殿に決闘を申し込む」

 

 ……ハハハ、こいつはまた……。首謀者の1人がご登場ってわけだ。

 

 俺は頭をポリポリとかきながら、つぶやく。

 

「旧魔王派のアスモデウスが出てきたのか」

 

 ドンッ!

 

 確認するやいなや、そいつは全身から魔のオーラを迸らせた。色がドス黒いな。こいうもオーフィスの力を得たか。

 

「旧ではない! 真なる魔王の血族だ! カトレア・レヴィアタンの敵討ちさせてもらうッ!」

 

 カトレアは死んでいないし、正確に倒したのは神城の奴なんだがな……。まあ、この様子じゃ聞いていないだろう。

 

「まあ、いいぜ。タンニーン、おまえはどうする?」

 

「サシの勝負に手を出すほど無粋ではない。オーフィスの監視でもさせてもらおうか」

 

 こいつも根っからの武人だね。ドラゴンにしておくのが勿体無いぐらいだ。

 

「頼む。さて、混沌としてきたが、俺の教え子どもは無事にディオドラの元にたどり着いている頃かな」

 

 俺が不意に口にしたことだが、オーフィスはそれを聞き、首を横に振る。

 

「ディオドラ・アスタロトにも我が蛇を渡した。あれを飲めば力が増大する。倒すのは容易ではない」

 

「ハハハハハハハハハハッ!」

 

 俺はオーフィスの言葉に爆笑した。わかってねぇ! わかってねぇよ、オーフィス!

 

「なぜ、笑う?」

 

 怪訝に首をかしげるオーフィスに俺は告げた。

 

「蛇か。そりゃ、けっこうだ。だが、残念なことにそれじゃ無理だな」

 

「なぜ? 我が蛇、飲めばたちまち強力な力を得られる」

 

「それでも無理だ。先日のゲームじゃ、ルール上、力を完全に発揮できなかったがな」

 

 タンニーンとの修行、あれがいかなるものか、ディオドラ・アスタロトは身を持って知ることになるだろう。

 

 修行相手が龍王だ。元龍王とはいえ、いまだ現役の伝説のドラゴンが1人の小僧を追いかけ回したんだぞ? 加減をされていたとはいえ、普通なら死ぬ。死んで当たり前だ。

 

 ――だが、あいつは耐えきった。生きて生還し、ゲーム(実戦)で禁手に至ったんだよ!

 

 その意味をおまえらはまだわかっていないし、もうひとつ忘れているのさ。

 

 神城が鍛えたリアス、朱乃、ゼノヴィアの実力を! あいつら自身は自覚は無いようだが、あいつらの戦闘能力は最上級悪魔に匹敵するほどだ!

 

 元々才能があったとしても、エイジの奴がたった2ヵ月足らずでリアスたち3人を強化するとは誰も思っていなかっただろう!

 

 俺も思っていなかった!

 

 俺はファーブニルの宝玉を取り出し、例の人口神器の短剣をかまえた。

 

「さて、ファーブニル。付き合ってもらうぜ。相手はクルゼレイ・アスモデウス! いくぜ、禁手化ッッ!」

 

 次の瞬間、俺は黄金の全身鎧に包まれていた。

 

 イッセー、おまえを制限するものはここのどこにも無い。

 

 ――暴れてみせろッ!

 

 と、俺がカッコ良く決めようとしたところで乱入する転移用魔法陣があった。

 

 その紋様は――。そうか、おまえ自らが出張るか。

 

 輝く魔法陣から現れたのは、紅髪の王――サーゼクス。

 

「サーゼクス、どうして出てきた?」

 

 俺の問いに奴は目を細める。

 

「今回結果的に妹を我々大人の政治に巻き込んでしまった。私も前へ出てこなければな。いつもアザゼルばかりに任せていては悪いと感じていた。――クルゼレイを説得したい。これぐらいしなければ妹に顔向けできそうにないんでね」

 

 ったく、こいつは……。

 

「……お人好しめ。――無駄になるぞ?」

 

「それでも現悪魔の嘔吐して直接聞きたかった」

 

 俺はかまえていた槍を一度引いた。

 

 サーゼクスを視認した途端、クルゼレイの表情が憤怒と化す。

 

「――サーゼクス! 忌々しき偽りの存在ッ! 直接現れてくれるとはッ! 貴様が、貴様さえいなければ我々は……ッ!」

 

 見ろ。これが現実だ。奴らにとって、おまえの存在は最大級に忌むべきものなんだよ。

 

「クルゼレイ。矛を下げてくれないだろうか? 今なら話し合いの道も用意できる。前魔王の血筋を表舞台から遠ざけ、冥界の辺境に追いやったこと、いまだに私は『他の道があったのでは?』と思っていならない。前魔王子孫の幹部たちと会談の席を設けたい。何よりも貴殿とは現魔王アスモデウスであるファルビウムとも話して欲しいと考えている」

 

 サーゼクスの言葉は真摯だ。それゆえ、クルゼレイの感情を逆撫でる。

 

 ――無駄だ、サーゼクス。

 

 もともと、こいつらにおまえたち現魔王の言葉は届かない。おまえは甘いんだ。

 

 激昂するクルゼレイ。

 

 案の定クルゼレイは憎悪をあらわにして叫び、典型的な雑魚の親玉の発想を思わせる話をはじめ、結局説得は無駄となり、サーゼクスは戦う道を取らざるえなかった。

 

 オーフィスの蛇で強化されたクルゼレイだったが、現魔王であるサーゼクスには敵わず、滅びの魔力によって消滅させられた。

 

 まったく後味の悪い……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 俺たちがたどり着いたのは――最深部にある神殿だった。その内部に入っていくと、前方に巨大な装置らしきものが姿を現す。

 

 壁に埋め込まれた巨大な装置で、あちらこちらに宝玉が埋め込まれ、怪しげな紋様と文字が刻まれていた。

 

 これ、何かの術式魔法陣を形作っているのか? 

 

 と、俺はその中央を見て、叫んだ。

 

「ディオドラァァァァアアアアッ!」

 

 装置の真ん中に、血が付着していた服から着替えたのだろう新品の服を着た、やさしげな笑みを浮かべたディオドラが立っていた。

 

 片腕を叩ききったはずだか、両手はしっかり生えていて、怪我をしている様子も無い。

 

 だが、いまはそれよりも――。

 

「やっと来たんだね。待っていたよ」

 

 こいつをぶん殴りたくて仕方がない! 俺は禁手のカウントダウンを始めていた・カウントが終了したら。俺はディオドラをぶん殴る! 全力で! 全速で! あの野郎の顔面をぶち抜いてやるっ!

 

「ディオドラさん……」

 

「やあ、アーシア。よく来たね。キミを待っていたんだ」

 

 何事もなかったようにアーシアに笑顔を向けるディオドラ。――この野郎っ!

 

「この装置を動かすのはキミが必要だからね。さあ、こっちへおいで」

 

「…………」

 

 少し様子が変だな? やっぱり眷属全員に見捨てられたことが効いているのか?

 

「薄汚い赤龍帝や黒い捕食者のおかげで全ての予定が狂ってしまったよ。あの堕天使の女――レイナーレが一度アーシアを殺したあと、僕が登場してレイナーレを殺し、その場で駒を与える予定だったんだ。まったく、ほんとうだったら僕の眷属に加えたあとアーシアを犯して楽しむ計画がここまで送らされるなんて! ほんとうにキミたちは僕の障害だよ! ほんとうに邪魔だ!」

 

 笑みを取り繕うことも出来ない様子で狂気の向けてくるディオドラ。

 

「黙れ」

 

 自分でも信じられないほどの低い声だった。

 

 なんとなく、子悪党かなって思っていた。俺の直感っていうのかな。曖昧な表現だけど、ライザーと会ったときと同じ感覚をこいつから感じていたんだ。

 

 とんでもない。

 

 子悪党どころか、こいつは遥かに超越した外道! いや、鬼畜だった!

 

 こんなクソ野郎がアーシアに愛を語っていたのかよ!

 

 ヴァーリが俺の親を殺すと言ったとき以上に――怒りを抑えることができなかった。

 

 俺が我慢の限界に達しようとしたときもディオドラは下劣極まりない言動を止めない。

 

「僕から放れていこうとしている奴らは後回しにして、まずはアーシアを犯そう。なあ、赤龍帝。アーシアはまだ処女だよね? 僕は処女から調教するのが好きだから、赤龍帝のお古は嫌だな」

 

 こいつだけは――。

 

「あ、でも、赤龍帝から寝取るものまた楽しいのかな?」

 

 絶対にぶん殴らないと気が済まない――。

 

「キミの名前を呼ぶアーシアを無理矢理抱くのも良いかもしれ――」

 

「黙れェェェェェェェェッ!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!』

 

 俺のなかで何かが勢いよく弾け飛んだ!

 

「ディオドラァァァァァァァァァァッァッ! てめえだけは! 絶対に許さねぇッ!」

 

 膨大な赤いオーラに包み込まれて、俺は赤龍帝の力が宿った全身鎧を身に纏った。

 

 俺の想いに神器が呼応したのか、2分と経たずに禁手と化した!

 

「部長、皆、アーシアを頼みます。――それと、絶対に手を出さないでください」

 

「イッセーさん」

 

 待っててアーシア、すぐにあいつの口を塞いでくるから。

 

「イッセー。全員で倒すわ――と、言いたいところだけれど、いまのあなたを止められそうもないわね。アーシアは私たちに任せなさい。――その代わり手加減してはダメよ」

 

 部長は最高の一言を発してくれる。ええ、そのつもりですよ。

 

「ドライグ、聞えるか」

 

『なんだ、相棒』

 

「今回だけ、好きにやらせてくれ」

 

『……わかった』

 

 俺の姿を見て、ディオドラは楽しげに高笑いしていた。

 

 その全身がドス黒いオーラに包まれていく。

 

「アハハハハ! すごいね! これが赤龍帝! でも、僕もパワーアップしているんだ! 「戦車」の女に切り落とされた腕もすでに完全に再生した! まったく最高だよオーフィスの『蛇』は! この力を使えばキミなんて瞬殺――」

 

 ゴォォォォオオオオオッ!

 

 俺は背中の魔力噴出口から火を噴かし、瞬間的なダッシュで間を詰める!

 

 ドゴンッ!

 

 そのまま奴が言い切る前に俺は打拳をディオドラの腹部に鋭く打ち込んだ。

 

「……がっ」

 

 ディオドラの体がくの字に曲がる。その顔が激痛に歪んだ。

 

 俺の速度に反応できなかったようだ。打ち込んだ拳をそのままねじり込み、中身を潰そうとした。

 

 ごぼっ……。

 

 ディオドラが内容物を血と共に口から吐きだした。

 

 俺は拳を引きながら、訊く。

 

「瞬殺がどうしたって?」

 

 ディオドラは腹部を押さえながら、後ずさりしていく。

 

「くっ、こんなことで! 僕は上級悪魔だ! 現魔王ベルゼブブの血筋だぞ!」

 

 ディオドラは手を前に突きだすと、魔力の弾を無数展開した。

 

「キミのような下級で下劣で下品な転生悪魔ごときに気高き血が負けるはずがないんだッッ!」

 

 ディオドラの放つ無限にも等しい魔力弾の雨が俺へ向ってくる。

 

 俺は避けもせずにその雨のなかを1歩1歩歩みだした。弾を手で弾いたり、跳ね返したりしながら、詰め寄っていく。鎧に被弾しても俺は気にせず前進していった。

 

 ありがとうよ、タンニーンのおっさん。あのしごき、効果があったなんてもんじゃねぇよ。相手は上級悪魔でドーピングして強くなっているはずなのに、攻撃がまったく怖くない。

 

『そうだ。龍王との修行はおまえを相当鍛え込んだ。シトリーとの一戦はその修行を生かしきれなかったが、禁手に至れた。この制限なしのいまならば修行の成果を、力を出し切れる』

 

 ああ、ドライグ。匙との勝負ではほとんど使えなかったけど、いまなら違う。

 

 それにこいつ相手なら殺意全開でぶん殴れるぜ。

 

『単純なパワー勝負なら、現在のおまえはかなりのものだよ』

 

 奴の眼前まで迫ったとき、ディオドラは魔力の攻撃を止めて、距離を取ろうとした。

 

 ゴオッ!

 

 俺は背中の魔力噴出口を瞬時に噴かして、すぐにディオドラに追いついた。 その瞬間奴は幾重にも防御障壁を作りだす。

 

「ヴァーリの作った障壁よりも薄そうだな」

 

 バリンッ!

 

 俺の拳が防御障壁を難なく壊して貫いていく。

 

 ゴンッ!

 

 顔面への一撃! やっと入れてやった! これほど気分が晴れる一撃はない!

 

 殴られた勢いでディオドラの体が床に叩きつけられる。奴は顔から血を噴出させて、涙を溢れさせていた。

 

「……痛い。痛い。痛いよ! どうして! 僕の魔力は当たったのに! オーフィスの力で絶大なまでに引き上げられたはずなのに!」

 

 俺はディオドラの体を引き上げ――オーラのこもった拳を打ち込む! 腹部に一撃!

 

「ぐわっ! がはっ!」

 

 さらに顔面に一撃! またまただッ! オーラを右手に終結させて、莫大な量でディオドラに叩き込もうとする!

 

「こんな腐れドラゴンに僕がぁぁぁぁっ!」

 

 ディオドラは左腕を前方へ突き出し、分厚そうなオーラの壁を発現させる。

 

 ガンッ! バチッバチッ!

 

 俺の拳がオーラの壁にぶち当たり、勢いを相殺されそうになった。

 

 こんなもの――。こんなのもがどうしたってんだッ!

 

「アハハハハハハハハッ! ほら見たことか! 僕のほうが魔力は上なんだ! ただのパワーバカの赤龍帝が僕に敵うはずがないんだよっ!」

 

 にんまり笑うディオドラの前で俺は赤龍帝の力を容赦なく振り込んだ!

 

「――そのパワーバカのパワーを見せてやろうか?」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 ゴォォォォォオオオオオオオオオッ!

 

 背中の魔力噴出口から膨大なオーラが噴きだして、拳の勢いが増していく。

 

 ビキッ! 壁に少しだけひびが生まれる。そして――。

 

 バリンッ! 壁は威力が増大した俺の一撃にはかない音を立てて消失していった。

 

「わりぃな。パワーバカだから、こんな風に力押ししかできねぇや。でもいまのおまえ相手なら十分か」

 

「ひっ」

 

 一瞬で顔色を変えたディオドラに、

 

「俺ん ()のアーシアに近づいてんじゃねぇよッ!」

 

 俺は真っ正面から叫びながら拳を繰り出した!

 

 グシャッ!

 

 前に突きだしていたディオドラの左手を叩き折り、その勢いで顔面に拳をぶち込んだっ!

 

 ゴスンッ!

 

 顔面に鋭く突き刺さる俺の拳! ディオドラは拳の一撃に怪しげな魔術装置の壁へと吹っ飛び、背中から激突していた。

 

 床に落ちたディオドラはおろおろと地を這いずりながら叫んだ。

 

「ウソだ! やられるはずがない! アガレスにも勝った! バアルにも勝つ予定だ! 才能のない大王家の跡取りなんかに負けるはずがない! 情愛が深いグレモリーなんか僕の相手になるはずがない! 僕はアスタロト家のディオドラなんだぞ!」

 

 ディオドラが手を上へ突き上げると、俺の周囲に魔力で作りだした鋭い円すい状のものが幾重にも出現させる。

 

 鋭い切先がすべて俺に向き、そのままミサイルのように射出してきた!

 

 ――全部は(かわ)しきれない!

 

 身を屈め、あるいは横にジャンプし回避するが、それにも限界がある。いくつかのトゲトゲを拳と蹴りで弾き飛ばすが――。切先がうねりはじめ、意思を持ったかのように俺の体にまとわりついてきた!

 

 ザシュッ!

 

 鎧の隙間を探すようにぬって、1番装甲が薄い部分を破壊して俺の体を貫いてきた!

 

 クソ……痛ぇぇぇっ! 切先に魔力を集結させて、鎧に小さな穴を開けたのか。

 

 だが、まだだ! 俺を射抜くトゲトゲを両手で全部まとめて一気に体から引き抜いた!

 

 抜いた勢いで血が床にしたたり落ちる。

 

 もう一度、同じ攻撃をしようとするディオドラに俺は背中のブーストを噴かして瞬時に詰め寄り、蹴りを放った。

 

 メキッ……。

 

 鈍い音が神殿にこだまする。俺のキックはディオドラの右大腿部をぶち抜き、骨を粉砕したようだ。

 

「ちくしょぉぉおおおおおおっ!」

 

 苦痛に顔を歪ませるディオドラがこちらに手を向け、魔力を急激に集めだした。最大に高めた魔力の波動を撃ちだすつもりなんだろう。

 

 俺も奴に手を突きつけた。手にドラゴンのオーラを集めていく!

 

 ドシュゥゥゥウウウウウウウッ!

 

 俺の右手から赤い選考が走り、ディオドラの手からも極大な魔力弾が撃ちだされる。

 

 ドオオオオッ!

 

 お互いの一撃が宙でぶつかり合い、攻め合うが――。

 

 こんなもので――。俺が止められるものかよッ!

 

「いけぇぇぇぇぇぇっ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 神器から増加された力が流れ込み、俺のドラゴンショットのパワーを底上げしていく!

 

 ドンッ!

 

 ドラゴンショットはディオドラの魔力をふっ飛ばして、奴のすぐ横をかすめていく。

 

 奴の横を通り過ぎたドラゴンのオーラは魔術装置ごと神殿の一部分を大きく抉り、壁を突き抜け、外にまで達していた。

 

 それでも奴はもう一度魔力を練り込もうとするが――。

 

 ドゴォォオオオオオンッ!

 

 俺は勢いよく拳を床に叩きつけた。神殿そのものが大きく揺れる。

 

 奴は床にできた巨大なクレーターを見て、目元をひくつかせていた。

 

 ディオドラは――ガチガチと歯を鳴らし、震え上がっていた。わざと外した。当てても良かったんだけどな。……クソ。甘ちゃんだよな、俺……。

 

 歩み寄り、もう一度奴を引き上げる。

 

 俺は鎧のマスク部分を収納し、素の状態でにらみつける。全身から赤いオーラを激しく発しながら、

 

「二度と、アーシアに近づくなッ! 次に俺たちのもとに姿を現したら、そのときこそ、本当に消し飛ばしてやるッ!」

 

 ディオドラの瞳は――怯えの色に染まっていた。

 

『相棒。そいつの心はもう終わった。――そいつの瞳はドラゴンに恐怖を刻み込まれた者のそれだ』

 

 ……そうかよ、ドライグ。俺はディオドラを放した。奴はガチガチと震えるだけだ。

 

「イッセー、トドメを刺さないのか?」

 

 と、ゼノヴィアが真・リュウノアギトとデュランダルまでだしてその切っ先をディオドラに突き立てて訊いてくる。

 

 その瞳は凶悪なほど、冷たいものとなっていた! まずいな。こいつ、殺意がマックスになってやがる! ていうか、なんて膨大なオーラだよ! それと真・リュウノアギトのオーラをこちらに向けないで! そいつの龍殺しのオーラはドラゴン属性の俺には怖すぎるから! 

 

「アーシアにまた近づくかもしれない。いまこの場で首をはねたほうが今後のためじゃないのか?」

 

 ゼノヴィアは本気だ。俺か、部長が応じればすぐさまディオドラの首を飛ばしてミンチに変えるだろう。

 

 だが、俺は首を横に振った。

 

「……こいつもいちおう現魔王の血筋だ。いくらテロに加担したといって、殺したら部長や部長のお兄さんに迷惑をかけるかもしれない。もう十分に殴り飛ばしたさ」

 

 部長も俺の言葉に眉をしかめ、瞑目していた。部長自身も激怒していたけど、ディオドラの処分は上に任せると心中で決めているのだろう。

 

 ゼノヴィアは心底悔しそうにしていたが、真・リュウノアギトを勢いよく壁に向って振った。

 

 ゴォォォオオオオオオンッ!

 

 ……おいおい、少しでも憂さを晴らしたかったんだろうと思うが、壁に大穴つくるなよ……。

 

「……わかったよ。イッセーがそう言うなら私は止める。――だが」

 

「ああ、そうだ」

 

 俺とゼノヴィアは拳と剣、それぞれをディオドラに向けた。

 

「「もう、アーシアに言い寄るなッ!」」

 

 俺たちの迫力ある声にディオドラは瞳を恐怖で潤ませながら何度もうなずいた。

 

 俺たちはディオドラを解放すると、アーシアのほうへ戻った。

 

「イッセーさん!」

 

「アーシア、終わったよ」

 

 俺は抱きついてきたアーシアの頭をやさしくなでてやる。

 

「もうディオドラにも手を出させない。これからも約束通り必ず守るよ」 

 

 終わったことに安堵したのか、アーシアはうれし泣きをしていた。

 

 あとは先生たちが事を納めるまで、神殿地下で待機していればいいだろう。

 

 と、考えていたら、部長が冷静な声を発した。

 

「まだ終わりじゃないみたいよ、イッセー」

 

「え?」

 

 呆ける俺とアーシア、それに木場とギャスパー。小猫ちゃんが神殿の1点を指差した。

 

「部長、あそこに隠れています」

 

 隠れている? まさか、まだ伏兵がいたのか!?

 

 急いで俺たちがかまえを取って小猫ちゃんが指差した1点を警戒すると、ただの壁だったところが変化し、そこから軽鎧とマントを身につけたはじめてみる顔の男が現れた。

 

「まさか私の存在に気づく者がいるとはな」

 

 ……なんだ、この体の芯から冷え込むようなオーラの質は……。

 

 部長がその男に訊く。

 

「あなたはいったい何者?」

 

「お初にお目にかかる。忌々しき偽りの魔王の妹よ。私の名前はシャルバ・ベルゼブブ。偉大なる真の魔王ベルゼブブの血を引く、正統なる後継者だ。先ほどの偽りの血族とは違う。ディオドラ・アスタロト、この私が力を貸したというのにこのザマとは。先日のアガレスとの試合でも無断でオーフィスの蛇を使い、計画を敵に予見させ、アーシア・アルジェントを捕らえるのにも失敗。下僕にも見捨てられ、おまけにアーシア・アルジェンとの神器を反転させるための装置まで破壊されるとは、貴公はあまりに無能で愚考が過ぎる」

 

 ――旧ベルゼブブ!

 

 こんなときにボスの登場かよ!

 

 ディオドラは旧ベルゼブブの末裔――シャルバ・ベルゼブブに懇願するような顔となった。

 

「シャルバ! 助けておくれ! キミと一緒なら、赤龍帝を殺せる! 旧魔王と現魔王が力を合わせれば――」

 

 ビッ!

 

 シャルバの手から放出した光の一撃がディオドラの胸を容赦なく貫いた。

 

「クズが。おまえがいたところで何の足しにもならん」

 

 嘲笑い、吐き捨てるようにシャルバは言う。

 

 ディオドラは床に突っ伏すことなく、塵と化して霧散していった。あの消え方はまさか、光の力なのか?

 

 いや、いまはそんなことより――、こいつはヤバイ……。

 

 感じる圧力はあきらかにディオドラよりも強くて、魔力の質もドス黒い……。

 

 ――勝てるのか?

 

 と、俺のそんな弱気な考えを霧散させるように、部長がシャルバのほうへ1歩足を進めた。

 

 シャルバは部長を憎悪に満ちた瞳でにらむ。

 

「さて、サーゼクスの妹君。いきなりだが、貴公には死んでいただく。理由は当然。現魔王の血筋をすべて滅ぼすため」

 

 冷淡な声だ。よほど現魔王に恨みがあんだな。

 

 主張と家柄、そして魔王の座を取り上げられて、冥界の端に追いやられたそうだし、恨みは相当ももんだろう。

 

「グラシャラボラス、アスタロト、そして私たちグレモリーを殺すというのね」

 

 部長の問いかけにシャルバは目を細める。

 

「その通りだ。不愉快極まりないのでね。私たち真なる血統が、貴公ら現魔王の血族に『旧』などといわれるのが耐えられないのだよ」

 

 シャルバは嘆息した。

 

「今回の作戦はこれで終了。私たちの負けだ。まさか、ディオドラがまったく役目も果たせずにやられるとは思ってもみなかった。――いや、やはり現魔王などといわれているだけの存在だということか。まあ、今回は今後のテロの反省点としよう。クルゼレイもサーゼクスに殺されたようだが問題ない。――私がいればヴァーリがいなくても十分に我々は動ける。真のベルゼブブは偉大なのだから。さて、去り際のついでだ。――サーゼクスの妹よ死んでくれたまえ」

 

「直接現魔王に決闘も申し込まずにその血族から殺すなんて卑劣ね」

 

「それでいい。まずは現魔王の家族から殺す。絶望を与えなければ意味がない」

 

 シャルバの言葉に、部長は紅いオーラを全身から迸らせた。

 

 ものすごいオーラだ! シャルバも顔に緊張の色をみせた!

 

「ほう、なかなかの魔力だな。現魔王の妹ということだけはあるようだ」

 

「シャルバ・ベルゼブブ! 私たちがここであなたを滅してあげるわ!」

 

 現魔王の血族グレモリー眷属VS旧魔王の血族シャルバとの一戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャルバとの戦いの火蓋が切られてからすぐ、部長の指示が次々に飛んだ!

 

「アーシアは後方で回復! イッセーとギャスパーも後方でアーシアを守りながら神器や魔法で援護! さらに祐斗も後方で防御に徹して! 小猫は他に敵が潜んだりしていないか、転移してこないか仙術で索敵して、敵の転移を妨害できるなら妨害もお願いするわ!」

 

「「「「「はい」」」」」

 

 指示された通りに配置に着く!

 

 部長の指示がさらに飛ぶ!

 

「オフェンスは私、朱乃、ゼノヴィアよ! ゼノヴィアは近接で! 朱乃はゼノヴィアと連携して中距離から魔力を使用して攻撃! 新装備も使っていいわ! 私は2人が戦っている間に力を溜めるわ! 皆! シャルバを消し去るわよ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 全員で改めて返事を返す! すげえ! 部長はもうシャルバを倒す作戦考えついたのか!? 

 

 陣形をとる俺たちにシャルバを全身から魔力を迸らせながらかまえを取って、狂気と憎悪孕んだ瞳で叫び声を上げた。

 

「偽者の魔王の妹の分際で、調子に乗るなぁぁあああああああああッ!」

 

 ――っ! なんてドス黒い魔力だよ!

 

 全員が激戦となるだろうシャルバとの決戦を前に緊張しているなか、ゼノヴィアがゆっくりと前に、シャルバへ向って歩いていった。

 

 お、おい、ゼノヴィア!?

 

「丁度いい。いままでの怒りを全てぶつけさせてもらうぞ、旧魔王の血族」

 

 完全に眼が据わってる!? いや、それよりそんな相手を挑発するような物言いは――。

 

「私を旧などとよぶなぁぁああああああああっ!」

 

 俺の予想していた通りに怒りで顔を歪めるシャルバ……。いつもと違うゼノヴィア。ぶち切れ寸前なんだね。

 

 両手に持った真・リュウノアギトの龍殺しのオーラと聖剣デュランダルのオーラが増大してゼノヴィアの体を包み込む!

 

 いまのゼノヴィアは色んな意味でものすごくヤバい……!

 

 放れているのに龍殺しのオーラと聖剣のオーラで恐怖を感じる!

 

 ビュオッ! ガキンッ!

 

 ――っ! ゼノヴィアの姿が掻き消えたかと思ったら、シャルバの正面に現れ、シャルバの  軽 装  (ライト・アーマー)を真・リュウノアギトと聖剣デュランダルを振りかぶってバツ字に切り裂こうとしているところだった。

 

「――くっ!」

 

 ブウンッ! と空を切るゼノヴィアの一撃! あの野郎あのタイミングで避け――。

 

 バキッ!

 

 シャルバの軽装に傷がついた!? 当たっていないのに!?

 

「な、なに!?」

 

 シャルバからも驚きの声が漏れた。俺が混乱していると、隣でアーシアを守るような陣形をとっていた木場が疑問に答えるようにつぶやいた。

 

「剣圧――おそらくゼノヴィアは龍殺しのオーラと聖剣のオーラを、それぞれ剣に纏わせて斬撃に乗せて圧縮して、カマイタチのように飛ばして攻撃してるんだ」

 

 そういえばディオドラのときも剣を振った先に突き抜けて攻撃が発されていたな。ゼノヴィアの攻撃に感嘆するように見つめる木場。

 

 さらに朱乃さんの声が響く。

 

「私もいますわよ? お忘れなく」

 

「――っ!」

 

 いつの間にか空中に無数に展開されている雷光の槍! シトリー戦でみせたという、手に持って雷光の槍として振るったり、空中に設置して相手を貫ける魔法だとは知っていたけど、ここまでの数をだせたのか!? 軽く100は超えてるぞ!?

 

「うふふっ、どこまで耐えられます?」

 

 ドSな笑顔で微笑みながら朱乃さんが雷光の槍を射出し始める! さらに時間差で放たれる雷光の槍と連携するように、ゼノヴィアも切りかかった!

 

「この――、うぐっ!」

 

 シャルバも切りかかってくるゼノヴィアに反撃しようとしていたが、朱乃さんの雷光の槍がそれを邪魔し、さらに動きを停めたところをゼノヴィアの剣が振るわれる!

 

 朱乃さんとゼノヴィアの連携でシャルバがどんどん追い詰められていく!

 

 ていうか俺たち後方に回った連中の仕事する必要がまったくない! ゼノヴィアの木場とは違う、俺に近い圧倒的な力による高速移動でシャルバの攻撃をかわして切りかかり、朱乃さんが雷光の槍を放ってシャルバの動きを邪魔をしたりと、シャルバの体力を確実に削っていく!

 

 追い込まれていくシャルバに、さらに追い討ちをかけるように、我らの部長が動く! 紅いオーラを、身の丈近くある、弓に添えられた滅びの魔力を纏った矢に収束していく!

 

 ものすごい魔力! 完全にシャルバを超えている!

 

 そこに部長の指示が俺に飛んでくる。

 

「イッセー! 『 赤龍帝からの贈り物 (ブースデッド・ギア・ギフト)』を!」

 

「はい!」

 

『Transfer!!』

 

 最大強化した赤龍帝のオーラがさらに部長の力を高める!

 

「なんだこのオーラはッ! ――っ! 滅びの魔力とドラゴンの魔力だと!?」

 

 最大級の危険を感じ取っただろうシャルバは表情を強張らせた。最初の余裕なども吹き飛び表情には死の恐怖をみせていた。

 

「ゼノヴィア、朱乃。小猫は補助を」

 

「「はい」」

 

 部長の冷静な声でゼノヴィアが後方に跳び、朱乃さんが無数の雷光の槍で逃げ場を封じ、小猫ちゃんは両目を瞑って両手を広げ、耳と尻尾をピクピクと動かした。

 

 小猫ちゃん、かわいいけどなにをやってるの?

 

 かわいらしい小猫ちゃんを観察していると、シャルバが驚愕の表情を浮かべて叫んだ。

 

「なに!? 転移魔法が発動しないだと!?」

 

「仙術でこの空間での転移や転送を防がせてもらいました。もはや逃げ場はありません」

 

 仙術ってそんなこともできたの!?

 

 部長が冷淡な声でシャルバに告げる。

 

「あなたを生かしておけば再び障害になる。私の家族や現魔王の家族に手を出させないために、この場で消し飛んでもらうわ!」

 

 部長の言葉にぶち切れるシャルバ。怨嗟の声を上げながら全身にオーラを纏わせていく。

 

「おのれおのれおのれおのれッ! 偽りの魔王の妹ごときが! あの憎たらしいヴァーリと同じ薄汚いドラゴンごときが! なぜ正統な血族である俺が――」

 

「あなたはやりすぎなのよ。――死になさい。シャルバ・ベルゼブブ」

 

 部長の弓から矢が放たれる!

 

 ズギュウウウウウウウウウウウッッ!

 

 矢が螺旋を描きながら空気を、空間を切り裂きながら一直線にシャルバへ向って飛んでいく!

 

 怒りと憎悪に周りが見えていないシャルバは矢から逃げずに正面から対抗してきた!

 

「がががががぁあああああっ!」

 

 シャルバは両手を突き出し、幾重にも障壁を張って矢を受け止めようとする。

 

 だが、滅びの魔力とドラゴンのオーラが一点に収束された矢を止めることは叶わない。

 

 シャルバの障壁を次々に突き破って、どんどんシャルバへと迫っていく!

 

「クソッ! クソッ! こんなはずでは! こんなはずではなかったのに、何故――」

 

 ドォォォオオオオオオオオオンッッ!

 

 シャルバは最後まで憎悪と怒りをあらわにしたまま、部長の矢の一撃によって神殿ごと滅ぼされた。

 

 あははは……、俺らの部長はすげえな……。

 




 シャルバ完全退場……。リアスが容赦ない。まあ、実際力があれば、危険人物のシャルバを殺せるときに殺すよな。襲われてるんだし。

 朱乃さんの新装備……orz


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第58話 偉大なる赤! ☆

<エイジ>

 

 

 インキュバスの能力も使いながら、久しぶりに戦場を駆けながら敵を削っていると、途中でオーディンに出くわし、フィールド内の現状と、リアスたちの現状を教えてもらった。

 

 オーディンからもらった情報は、まずフィールドがレアな神器で、神滅具に属するものが創りだしたと思われる結界で覆われていて、なかに入るのが困難で、破壊も困難だということ。

 

 さらに、結界のなかに『禍の団』の悪魔たちが転送され続け、旧魔王の血族の悪魔も戦いに参加しているということだった。

 

 そして、リアスたちの現状も教えてもらったが、心配の必要はなかったようだ。

 

 イッセーの赤龍帝のオーラと、ディオドラの魔力のぶつかり合いから、神殿でディオドラと戦っていたことはわかっていたし、ディオドラの魔力の反応が弱くなり、イッセーの魔力が高まったままで、ディオドラの魔力の反応が消えたことで、イッセーが勝利したことも察していた。

 

 さらに、リアスたちの近くに魔王クラスの魔力の反応を感じて少し心配したが、リアスの魔力の大きな高まりと、神殿の上部を破壊しながら空へと飛んでいく滅びの魔力を宿した矢。それと同時に消える魔力の反応でリアスたちが無事だということも。

 

 リアスたちのほうが完全に片づき、悪魔たちが転移してくる量も極端に減ってきたし、アザゼルやタンニーン、それに黒歌たちもフィールド内にいるようなので、残党狩りは任せて、オーディンから渡された通信機でリアスたちへ連絡を取る。

 

「こちらエイジ。みんな無事か?」

 

『おおっ、エイジ! そういや別のところに飛ばされてたんだったな!』

 

 聞えてきたのはイッセーの声だった。まったく、俺が『禍の団』と戦っていたというのに忘れていやがったのかこいつは……。

 

 俺のことを忘れていただろうイッセーにどんなお仕置きをしてやろうかと考えていると、通信機からリアスの声が聞えてきた。

 

『こっちは無事よ。全員大した怪我も負っていないし。それよりもエイジ。敵の真っ只中に放り込まれたんでしょ。怪我はない?』

 

 声は冷静なものだったが、かすかに不安の色が混じっていた。心配してくれているんだろう。

 

 あえて元気に答えることでリアスたちの不安を払拭させる。

 

「もちろん、全然大丈夫ですよ! 久しぶりに暴れられましたし、有象無象の雑魚ばかりでしたので怪我もありません」

 

『さすがエイジだな』

 

「ゼノたん。ゼノたんも無事?」

 

『ああ、ディオドラをイッセーが倒したあと、シャルバ・ベルゼブブという旧魔王の血を引く魔王クラスだろう悪魔が出てきたが、連携で先ほど始末した。怪我もないし、アーシアも無事だ』

 

「そう、よかった」

 

 安堵の息を吐くと次に朱乃さんの声が聞えてきた。

 

『とりあえず合流しませんか? エイジさんはどちらに――」

 

「いや、こっちからそっちに向うよ。俺のいる位置からさっきリアスの矢が見えたし。そこに行くほうが早いだろう」

 

『そうですね。お待ちしてますわ』

 

『じゃあ、エイジ。こちらへきてちょうだい』

 

「了解しました」

 

 通信を一旦切り、尻尾で捕らえていた悪魔たちを解放してから空へ飛び上がり、神殿へ向って飛翔する。

 

 ……ずっと誰かの視線を感じていたが、とりあえずいまは無視して、リアスと先に合流しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアスたちと合流しようとしたとき、リアスたちの近くに空間の裂け目が生まれた。

 

 その空間の裂け目の奥から感じるのは数人分の気配。そのなかによく知った気配も混ざっていた。

 

 空間の裂け目から誰かが出てくる前にリアスたちと合流する。

 

「とりあえずは合流できたな」

 

「エイジ!」

 

「エイジさん!」

 

 イッセーとアーシアが俺の登場に嬉しそうな声を上げるが、まだ油断しないほうがいい。

 

「……エイジ」

 

「はい、『禍の団』のようです」

 

 裂けた空間を警戒していたリアスにうなずく。

 

 空間の裂け目からゆっくりと現れたのは俺が感じていたように、白龍皇ヴァーリ。それと、古代中国の鎧を着た男――孫悟空の美猴(びこう)だった。それともう1人。はじめてみる顔だった。背広を着ていて、手には神々しいオーラを放っている剣を持っていた。おそらく聖剣。腰にも1本さしてるってことは聖剣の二刀流か?

 

「その剣は――」

 

 木場の興味深そうな視線とつぶやきを感じてなのか、背広の男は自慢するかのように説明してくれる。

 

「おお、これは聖魔剣使い殿。お初にお目にかかります。私はアーサー・ペンドラゴンの末裔。アーサーとお呼びください。そして、この剣は聖王剣コールブランド。またの名をカリバーン。史上最強の聖剣とよばれているものですよ」

 

「アーサー王の末裔、それに史上最強の聖剣……。腰のも聖剣みたいだけど」

 

「こっちは最近発見された最後のエクスカリバーにして、7本中最凶のエクスカリバー。『  支配 の 聖剣  (エクスカリバー・ルーラー)』ですよ」

 

「――っ! 行方不明になっていたというエクスカリバーか」

 

「ふふっ、聖魔剣の使い手さんと聖剣デュランダルの使い手さん。剣士としてあなた方と是非とも手合わせしたいものですね」

 

「この場で戦おうということなのかい?」

 

「それもいいですね」

 

 木場くん、あとカリバーン使い。自分たちの世界に入らないでくれるかな。

 

 と、にらみ合いながら挑発し合うこいつらは無視して、俺たちを代表してイッセーがヴァーリに訊ねた。

 

「ここで俺たちと戦うつもりか、ヴァーリ」

 

「やるつもりはない。ただの見学に来ただけさ」

 

 イッセーの問いを否定するヴァーリ。確かに木場とカリバーンだけ盛り上がっているだけで、ヴァーリや美猴(びこう)からは敵意の類は感じられなかった。ていうか見学? 何を見学するんだ?

 

 俺が疑問に思っていると、ヴァーリはイッセーに向って声をかけた。

 

「ディオドラ・アスタロトを倒したみたいだな、兵藤一誠。ライバルが成長してくれて嬉しいよ」

 

「ふんっ、最後は別の奴にトドメを刺されたけどな」

 

 けんか腰にヴァーリに答えるイッセーだったが、ヴァーリの視線はすぐに俺とリアスのほうへ移った。

 

「それに神城エイジ」

 

「なんだ?」

 

「ハンデを背負っている様子をまったく見せない武神のような活躍、見せてもらったよ。素晴らしい戦闘技術だね。そんなキミと戦うのが本当に楽しみだ。それと――リアス・グレモリー」

 

「何のようかしら、ヴァーリ」

 

 いつでも対処できるように弓を手にしたまま聞き返すリアス。ヴァーリはそんなリアスを嬉しそうに見ながら言う。

 

「少し見ない間にものすごく強くなったようだな。まさかオーフィスの『蛇』で魔王クラスまで強化されていたシャルバ・ベルゼブブを、赤龍帝ではなく、リアス・グレモリーが滅ぼすとは思っても見なかったよ。キミと戦うのも面白そうだ」

 

「はぁ……、あなたって根っからの戦闘狂なのね」

 

「まあね」

 

 呆れるように言うリアスに、ヴァーリは笑みを浮かべてうなずいた。

 

「てめえ、ヴァーリ! 部長に手をだしたら承知しねえからな!」

 

「落ち着きなさい、イッセー」

 

 赤龍帝のオーラを体から溢れされるイッセーを諌めて、リアスは改めてヴァーリたちに尋ねる。

 

「それで、見学って何を見学しに来たの? ただ私たちを見学しに来たわけじゃないんでしょ」

 

「もちろん。――空中を見ていろ、そろそろ奴が現れるはずだ」

 

 奴? 疑問はあったが、俺たちはヴァーリに言われた通りに空中を見上げる。

 

 すると――。

 

 バチッ! バチッ!

 

 空間に巨大な穴が開いていく。そして、そこから何かが姿を現した。

 

「あれは――」

 

 穴から出現したものを見て、イッセーは驚いて口を開きっぱなしにして空中を見上げていた。リアスや他の眷属も同様に口を開けて驚いていた。

 

 ヴァーリは口元をゆるくにやけさせながら言う。

 

「よく見ておけ、兵藤一誠。あれが俺が見たかったものだ」

 

 空中にとてつもなく巨大な生物――真紅のドラゴンが雄大に泳いでいく。

 

 随分とデカいな。タンニーンよりも大きいし、軽く100mは超えているだろう。

 

「『赤い龍』と呼ばれる龍は2種類いる。1つはキミに宿るウェールズの古のドラゴン――ウェルシュ・ドラゴン。赤龍帝だ。白龍皇もその伝承に出てくる同じ出自のもの。だが、もう1体だけ『赤い龍』がいる。それが『黙示録』に記されし、赤いドラゴンだ」

 

「黙示録……?」

 

「『 真なる 赤龍神帝 (アポカリュプス・ドラゴン)』グレードレッド。『真龍』と称される偉大なドラゴンだ。自ら次元の狭間に住み、永遠にそこを飛び続けている。今回、俺たちはあれを確認するため、ここへ来た。レーティングゲームのフィールドは次元の狭間の一角に結界を張ってそのなかで展開している。今回、オーフィスの本当の目的はあれを確認することだ。シャルバたちの作戦は俺たちにとって、どうでもいいことだった。――まあ、その計画もはじめから失敗していたようだがな」

 

「でも、どうしてこんなところを飛んでいるんだ?」

 

「さあね。いろいろ説はあるが……。あれがオーフィスの目的であり、俺が倒したい目標だ」

 

 ヴァーリの目標ねぇ……。

 

 そのとき、ヴァーリはいままでに見せたことのない真っ直ぐな瞳でイッセーに言った。

 

「俺が最も戦いたい相手――『  D × D  《ドラゴン・オブ・ドラゴン》』と呼ばれし『真なる赤龍神帝』グレードレッド。――俺は『真なる白龍神皇』になりたいんだ。赤の最上位がいるのに、白だけ一歩手前止まりでは格好がつかないだろう? だから俺はそれになる。いつか、グレードレッドを倒してな」

 

「…………」

 

 イッセーは夢を語るヴァーリを無言で見つめていた。

 

「まあ、『真なる白龍神皇』が目標のヴァーリと、ハーレム王が目標のイッセーじゃ、自分の目標が小さく見えても仕方ないよなあ」

 

「うるせぇ! ハーレム王は立派な目標の一部だし、俺も大きな目標を探してる途中なんだよ! リア充の入れ食い男は黙ってろ!」

 

 おおう、酷い言い草だ。軽くショックを受けていると、また誰かがこの場にやって来た。

 

「グレートレッド、久しい」

 

 前もって察知できた俺以外には、いきなり現れたかのように感じたんだろう、皆驚いていた。

 

 現れたのは黒髪の黒ワンピースの少女だった。イッセーが驚愕の表情を浮かべてつぶやいた。

 

「誰だ、あの娘……? さっきまでいなかったぞ」

 

 ヴァーリがそれを確認して苦笑する。

 

「――オーフィス。ウロボロスだ。『禍の団』のトップでもある」

 

 ――っ。へぇ~……、確かにかなりの力の持ち主のようだ。それにこの感じ、俺を覗いていた奴はこいつだな。

 

 少女――オーフィスはグレードレッドに指鉄砲のかまえでバンッと撃ちだす格好をした。

 

「我は、いつか必ず静寂を手にする」

 

 バサッ。

 

 今度は羽ばたき。

 

 ドスンッ!

 

 巨大なものが降ってきたと思ったら、タンニーンとアザゼルだった。

 

 確認したイッセーが2人に近づく。

 

「先生、おっさん!」

 

「おー、イッセー。ディオドラを無事に倒したみたいだな」

 

「はい!」

 

「リアス嬢も、まさかシャルバ・ベルゼブブを倒せるとは、短期間でものすごく成長したようだな」

 

「あ、ありがとうございます。タンニーンさま」

 

 シャルバ・ベルゼブブのことは通信で聞いていたんだろう。うん、それにしても本当にリアスたちは成長したな。

 

 師匠として鼻が高いよ。

 

 弟子の成長に喜んでいると、アザゼルとタンニーンが空を飛ぶグレードレッドに視線を向けた。

 

「懐かしい、グレードレッドか」

 

「タンニーンも戦ったことあるのか?」

 

 先生の問いにおっさんは首を横に振る。

 

「いや、俺なぞ歯牙にもかけてくれなかったさ」

 

 ん~……、まあ、グレードレッドから感じる力的にそれも当然だな。俺も【王の財宝】の宝具無しなら、変身しないと勝てそうにないし。

 

「久しぶりだな、アザゼル」

 

 ヴァーリがアザゼルに話しかける。

 

「クルゼレイ・アスモデウスは倒したのか?」

 

「ああ、旧アスモデウスはサーゼクスが片付けた。……まとめていた奴らが取られれば配下も逃げだす。シャルバ・ベルゼブブのほうもリアスたち片付けたみたいだしな」

 

「お兄さまは?」

 

 リアスがアザゼルに訊く。

 

「結界が崩壊したからな。観戦ルームに戻ったよ。あ、ちなみに加勢に来ていた黒歌たちも観戦ルームに戻ったぞ」

 

 フィールド内にきていたことは知っていたけど、大人しく観戦ルームに戻ったのは意外だな。てっきりこっちにくると思っていた。

 

 アザゼルがオーフィスに言う。

 

「オーフィス。各地で暴れ回った旧魔王派の連中は退却及び降伏した。――事実上、まとめていた末裔どもを失った旧魔王派は壊滅状態だ」

 

「そう。それもまたひとつの結末」

 

 オーフィスは全然驚く様子もなかった。『禍の団』はいくつも危険分子が集まってできてる組織らしいし1つぐらい派閥が消えても痛くないんだろう。

 

 それを聞き、アザゼルは半眼で肩をすくめた。

 

「おまえらのなかであとヴァーリ意外に大きな勢力は人間の英雄や勇者の末裔。神器所有者で集まった『英雄派』だけか」

 

 英雄派ねえ、アーサーって奴は英雄派なのか? それともヴァーリ派だろうか?

 

「さーて、オーフィス。やるか?」

 

 アザゼルが光の槍の矛先をオーフィスに向けるが、オーフィスは眼中にないように踵をかえす。

 

「我は帰る」

 

 戦闘意欲はないようだが、こちらはそれで納得できるわけもなく、アザゼルをはじめとしてタンニーンが戦闘態勢をとろうとする。

 

 戦闘態勢をとられたオーフィスはというと、なぜかこちらに視線を送ってきた。

 

「忘れていた」

 

 ゆっくりと俺目掛けて歩いてくるオーフィス。誰もが想像していなかった事態に全員の対応が遅れる。

 

「なんだ、俺に用でも」

 

「おまえ、黒い捕食者?」

 

 首をかしげながら訊いてくるオーフィス。ていうかロリっ娘だから下から見上げられるポジションになってかわいらしいと思ってしまった。

 

「ああ。そうだ」

 

 肯定するとオーフィスは俺に向って両手を伸ばし、頬っぺたを両手で挟んできた。

 

 なにがしたいんだ、こいつ……。

 

「エイジ!」

 

 周りから警戒の色を見せる叫びがいくつも飛んできたが、相手に戦闘意欲はなしだし、見かけロリ美少女を皆で虐める趣味はないので、手で大丈夫だと皆を制する。

 

「黒い捕食者と神城エイジは一緒?」

 

「ああ」

 

「神城エイジはインキュバス?」

 

「ああ」

 

「『禍の団』に入らない?」

 

「入らない」

 

「だったら、我との子を作って」

 

「ああ――って、なっ!?」

 

「なっ!? いきなり何を言ってるの!?」

 

 どこでそういう話に飛んだ!? いきなり禍の団の勧誘されて断わったら、何故、子作りに飛ぶ!? リアスたちも驚いちゃってるじゃねえか!

 

「エイジ、すごく強いインキュバス。インキュバスはどの種族でも交尾できる。我との子を作って育てればグレードレッド、倒せる」

 

「確かに。インキュバスはどの種族ともセックスし放題。それに、サキュバスもだが、インキュバスは孕ませた子供に、かなり高い確立で自分と母体の因子を色濃く受け継げさせるという特性があったはずだ」

 

「神城エイジの因子とオーフィスの因子を混ぜ合わせて生まれる子供か。そんな子供が成長すればグレードレッドを倒すのも容易いか」

 

 オーフィスの話しにうなずくアザゼルとヴァーリと、興味深そうにつぶやき始めたグレモリー眷属。

 

「じゃあ私とエイジの子供にはかなり高い確立で滅びの魔力が受け継がれるってことね」

 

「私の堕天使の血も受け継がれるの? いえ、でもエイジさんは私を全て受け入れてくれるとおっしゃいましたし、それはそれで――」

 

「ふふっ、その話を聞けてよかった。私の子供は強い子であって欲しいからな。高い確率でエイジと私の力を受け継がれるなら、確実に強い子になるだろう」

 

「わ、私も猫魈の子供が……」

 

「ちくしょおおおおおおお! なんでこいつばっかりモテやがるんだぁあああああっ! 俺もドラゴンじゃなくてインキュバスに転生したかったよぉおおおおおおお~~!!」

 

 いや、男としては嬉しいけど、いまは、ね。あとイッセー、うるさいから血の涙を流して叫ぶな。そんなこと言ったらドライグもかわいそうだろ。

 

「神城エイジ。我を孕ませる」

 

「いや、いきなりそんなこと言われても……」

 

 まっすぐこちらの目を見つめてくるオーフィス。なんだろう……この状況は。

 

「我ではダメ?」

 

 首をかしげて訊いてくるオーフィス。無表情で、ショックを受けているようには感じないけど、かわいい少女な分、心にダメージが……。

 

「いや、そんなわけじゃな、ないけど。その――」

 

 なにかこの場を切り抜ける言い訳! 断わる理由はないか!?

 

 視線をずらそうにも頬っぺた固定されているし……。ていうか皆! 助けてくれない!?

 

「何故だ……。オーフィスまで神城と交尾するだと? 俺の配下の雌たちといい、俺の娘といい、何故ドラゴン同士でつがいになろうとは思わんのだ! ユウカナリア、そんなにパパが嫌いなのか? パパはおまえのことを思って――。昔はパパにべったりだったのに何故なんだ……」

 

 た、タンニーン!? だ、ダメだ。なにかのスイッチが入っちまってる。声的にも戦闘不能だ。

 

「我、エイジの子種が欲しい。すごく強いインキュバスなら『無限』の我を孕ませられる可能性がある」

 

 大胆な告白だな。どっかで聞いたことがある覚えもあるけど。

 

「む、無理だ」

 

「何故?」

 

「その――……から」

 

「何?」

 

「……俺のはかなりデカいから、その(なり)じゃたぶん裂けるから」

 

 ……これぐらいしか断わる理由が思い浮かばなかった……。

 

「裂ける?」

 

 首をかしげるオーフィス。

 

「え、やり方を知らないのか?」

 

 俺の問いにコクリとうなずいた。

 

「たぶん知っていたけど。忘れた」

 

 ま、まあ、永い時間生きてるそうだし、ありえるか。それなら――。

 

「だったらなおさらダメだ」

 

「ダメ?」

 

「俺の子が欲しかったら、恋愛とか知識を得てからにしてくれ」

 

「ん、わかった。ならまた会いに来る」

 

 思っていたよりも呆気なく解放される俺。オーフィスは1歩後ろに下がると、一瞬でどこかへ消えた。

 

「えっ、え? 結局先延ばしになっただけなのか?」

 

 俺、無限龍とも交尾するの?

 

 こうして、なんとも締りの悪い終わり方で、この騒動は幕を閉じることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『禍の団』の旧魔王派とディオドラ・アスタロトが起こした今回の事件が、サーゼクスやアザゼルたちによって様々な収束を見せていくなか、俺はというと、

 

「まったく、無限龍までに求婚されるなんて」

 

「うふふふ、喜んでいいのか悪いのかわかり難いですわね」

 

「ふっ、さすがエイジだ。世界最強のドラゴンにまで求められる子種をもらえて私は幸せだよ」

 

 冥界にあるグレモリー家のお屋敷の一室で、両手両足を縛られている状態で3人から淫行を受けていました。

 

 裸でベッドにまんぐり返しならぬ、チン繰り返しをさせられている俺に、制服姿のリアスが俺の顔面にオマンコを擦りつけながら、ペニスの亀頭をぱくりと咥えながら舌で射精口をほじり、横に座って俺の玉袋を弄りながら、巫女服姿の朱乃さんが竿に横から喰らいついてハーモニカのように唇で挟んだり、キスしたりしてくれて。俺の後ろ側、尻のほうに座ったゼノヴィアがお尻の穴を舌を深く突っ込んできて前立腺を刺激してきた。

 

 これはなんて天国! 全身が気持ちいい!

 

「にゃははは、エイジ。今度は私たちの相手もあるから覚えておくにゃよ」

 

 リアスたちの他に黒歌もあとでしてくれるみたいだし、本当になんて天国だよ!

 

 リアスが腰を前後に動かして、俺の顔面にヌレヌレオマンコを擦りつけてくる!

 

「ぅん……こら、エイジ。これはお仕置きなんだからね」

 

「はい! 存分にご奉仕させてもらいます!」

 

「もうっ、全然わかってないわね。こ、こら、そっちから攻めるのはダメよ」

 

 舌で王さまにご奉仕しようとするが、リアスは拒むようにオマンコをぐりぐりと顔面に押しつけてきた。

 

「じゅぶっ、ぁはっ、すげぇ、おいしぃ……。じゅぱぁ」

 

「こら、だから攻めるのはダメよ」

 

「うぎゅ」

 

 射精口を指で穿らるという大きな快感で動きを停めると、リアスは腰をゆっくりと上げた。

 

 ポタポタと顔面に愛液のしずくが滴り落ちる。

 

 美しいオマンコに顔面を覆われるのもいいけど、視界いっぱいに厭らしく愛液を漏らしているオマンコを観るのもいいなぁ~。

 

「さてと、とりあえず誰からやるか決めましょう。セルベリアたちはあとでたっぷり時間が取ってするってことだし、私たち4人で順番を決めるわよ」

 

「私は今日見学でいいにゃよ。その代わりエッチの様子を見せてもらうけど」

 

 黒歌不参加!? め、珍しいな。

 

「そうなの? じゃっ、私たち3人で決めましょう」

 

 唐突にはじまるじゃんけん大会。商品は俺とセックスする優先権。

 

 そういえばこのあと事件の後始末とか事情聴取が待ってたな。サーゼクスからもう今日は休むように言われたあとすぐに部屋に連れ込まれたから忘れてた。

 

「じゃあ、まずは私だ」

 

「ゼノたん」

 

 ゼノヴィアがボンテージを脱いでから近づいてきた。ベッドに仰向けで転がされている俺を立ったまま跨って、オマンコを大きく開いて見せてきた。

 

「ほら、見えるか。エイジのを弄っただけでもうじゅっくり濡れてしまっているんだ」

 

 顔を赤らめて指で弄り始めるゼノたん! 指を2本差し込んで膣道をかき回し、愛液がポタポタと体に降ってくる!

 

「ゼノたん、すごく厭らしい……。ああっ、もう俺も――」

 

 ビクッビクッ! と反応を見せるペニス! 尻尾までゼノたんを犯したくてたまらないと蠢いている!

 

「ふふっ、そんなに求められると嬉しいな。ちょっと待っててくれ、自分で挿入するから」

 

「じ、自分で!?」

 

「こういうのもいいだろう」

 

「ああ、好きだ!」

 

 ビンッと起ってるペニスに向って、厭らしく左右に大きく股を開きながら腰を下ろしていく!

 

 くちゅっ。

 

 ペニスとオマンコが触れる!

 

「――っ」

 

 ゼノたんのあごが持ち上がり、感じているようだ。ゼノたんはそのまま手は使わずに腰だけ使ってオマンコに挿入しようとしている。

 

「――くっ」

 

「んぅ……はぁ……、もっちょっと右かな?」

 

 穴から亀頭がずれたり、クリトリスを突いたりと、この焦らされて興奮が高まっていく!

 

 ああっ、すっごく挿入したい!

 

 こちらから腰を進めて貫こうと思っていると、ゼノヴィアが微笑んだ。

 

「んっ、ここだな。――くぅううっ!」

 

 ズブブブンッ。

 

「くうっ!」

 

 挿入(はい)った!

 

「くっ、子宮が押し上げられて……!」

 

 気持ちよさそうに両手を腹においてくるゼノたん! 蕩けた顔がすごく厭らしいです!

 

「んふぅ、本当に太くて、長いっ。杭で貫かれたみたいだが、それがいいっ!」

 

 ゼノたんが動き始める! 腰で円を描いたり、前後に揺れたりと、ペニスがぎゅっぎゅっと締められながら引っ張られて、ゼノたんの膣がペニスで拡げられていくのがわかるから興奮する!

 

「すごくいいよ、ゼノたん……」

 

 体の上でおっぱい揺らしながら、下ではゼノたんのオマンコを拡げてペニスが咥えられているところが見えて。もう感激してしまったよ。

 

「いつもと違って動けないエイジを犯すのもいいな。これが悪魔になったということなのか。エイジに厭らしいことをしたくてたまらない」

 

「ふふっ、ゼノヴィアもやるわね」

 

「あらあら、いつもと違ってだらしない顔ですわね」

 

 ゼノたん、その悪魔認識はちょっと違うと思う。リアスと朱乃さんも少しは突っ込んで。

 

「はぁ、はあっ……、あくぅっ、エイジ。私は――」

 

 ジュブっと腰を上げてピストンを開始するゼノたん! 上下に激しく揺れるおっぱいを自らの両手で愛撫し始める。

 

 おっぱいを下から持上げるように揉んだり、乳首を指で摘んで引っ張ったりして快感を楽しみながら、時おり片方の指で左右に広げられたマンスジを擦り性感を高め、ペニスを締めてくるゼノたん!

 

「ああっ、ああっ! 私の子宮口がノックされてる! 子宮がこじ開けられる!」

 

「ゼノたん! そろそろ――」

 

「エイジ! こ、このまま子宮に精液を注いでくれ! 私を孕ませてくれ!」

 

 ピストンを止めて子宮口を亀頭で咥え込もうと体重をかけてくる! そこまで俺の精液が欲しいのか!

 

「ゼノたんっ! わかったよ!」

 

 思いっきり射精()させてもらう!

 

 ゼノヴィアの子宮口に亀頭がセットされたのを感じる! 射精口に子宮口が吸いついてきて、膣が痙攣しながらペニスを強く締めつけてくる!

 

「で、射精()るっ!」

 

 ビュッ、ビュッ、ビュゥウウウウウウウウッ~~!

 

「あ、ああっ! 出てる! (なか)に、エイジの精子がたくさん出てる!」

 

 ゼノヴィアの子宮に精液が注がれていく! このまま孕まれても別にいい!

 

「ふふふっ、たっぷり、まだ注がれている。エイジの精子……温かいな」

 

 倒れ込むゼノヴィア。胸に顔を乗せて、嬉しそうにつぶやいていた。

 

「ゼノたんも温かいよ」

 

 このままキスして2ラウンド目に突入しようかとしていると、リアスから待ったがかかった。

 

「次は朱乃よ。ゼノヴィアはまた後でしてもらいなさい」

 

「ふう……仕方がないか。エイジ、また子作りしよう。いや、今度は後ろの穴で――」

 

「ゼノヴィアさん、あとがつっかえていますから、早く代わってくださいますか?」

 

「ああ、すまない。すぐにどくよ」

 

 起き上がってぐじゅっとオマンコからペニスを抜く、ゼノたん。子宮からドクドクと白濁した精液が溢れてきた。

 

「おっと、せっかく注がれたのにこれでは勿体無いな」

 

 ゼノヴィアはこぼれ落ちる精液をオマンコを手で塞ぐことで、落ちないようにする。そこに黒歌の悪戯っぽい声が飛んだ。ゴソゴソと懐から何かを取り出す黒歌。

 

「にゃ、これで栓をしとけば落ちないにゃよ」

 

「おお、これはいい。ありがとうございます、黒歌さん」

 

 ゼノヴィアは黒歌から渡された物を見て助かったと礼を言って受け取った。逆三角形というか円錐の――それはプラグ!? しかも、エグい返しがついていて抜きにくくなってる!

 

 受け取ったゼノヴィアは平常運転でプラグをオマンコに差し込んで栓をする。少しは躊躇おうよゼノたん……。

 

「んっ。これでシャワーを浴びても漏れないな」

 

 とか言いながらシャワールームに消えていった。おいおい……。

 

「さてと、でははじめましょうか」

 

「は、はい」

 

 今度は朱乃さんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、じゅっ、じゅぶ……はぁ、結構汚れましたわね」

 

「あ、朱乃……」

 

 朱乃さんが仰向けで寝ている俺の股に顔を突っ込んで、ゼノヴィアとのセックスで汚れたペニスを綺麗に舌で舐めとっていく。

 

 亀頭から裏スジ、竿、玉袋からお尻の穴まで美味しそうに舐めてくる朱乃さん。寝転がった状態で天井を見ている分、感覚が鋭敏になって隅々まで舌でお掃除されているのがすごく感じられる。

 

「うふふっ、仕上げですわ。んじゅぅ……」

 

「あうっ」

 

 根元近くまで……いや、喉を使ってのディープストート! ジュルジュルよだれを吸い取りながらペニスを唇でしごき上げるられる!

 

 すごい! いつのまにこんな!

 

 なんとか射精せずに済んだけど、俺の興奮は最高潮だ。縛られていなかったら朱乃さんに襲い掛かっていただろう。

 

「じゅぽっ、あは♪ 綺麗になりましたわ」

 

「あ、ありがとう、朱乃」

 

 満足気に微笑む朱乃さん。早く射精したいです……。

 

「じゃあ、始めましょうか」

 

 パサッ。

 

「――え?」

 

 拘束から解放された。朱乃さんを見るとベッドに四つんばいになってて巫女服の袴を半分だけ、アナルとオマンコの少し下ぐらいまで引き下ろしていた。

 

「朱乃?」

 

「よろしいですわよ、エイジ」

 

 ニッコリと微笑む朱乃さん。マジで……?

 

「大好きな年下男子に欲望の限り犯されるのがクセになっちゃったみたいなの。さっ、早く」

 

 朱乃さんは頬を赤らめ、誘うようにお尻を振ってくる。ああっ、朱乃さんのオマンコからくじゅくじゅと愛液が――。

 

 朱乃さんに近づいていく。

 

 ペニスはギンギンで血管が浮きでていて、カウパーもポタポタと漏らしている。

 

「あんっ」

 

 両手で朱乃さんの形のいいお尻を掴むけど、逃げない。

 

「朱乃!」

 

「存分に楽しみましょう♪」

 

 ぐじゅ、――ズンッ!

 

 興奮している俺は穴に標準を合わせてすぐに朱乃さんのオマンコにペニスを突っ込んで、最深部の子宮口をノックした。

 

「あはっ! い、いきなり奥まで……!」

 

 キュウキュウと締めつけてくる朱乃さんのオマンコ。やわらかくて奥で粒粒してるものが亀頭にあたって、膣肉もペニスを包み込むように絡みついてくる。ああっ、最高! 思わず腰が砕けそうになってしまう!

 

 朱乃さんは愛液の量も多くて、ペニスを少し引き抜くとぐちゅぐじゅと厭らしい音が響いた。

 

 朱乃さんの甘く荒い息づかいと合わさって興奮を駆り立てる。

 

 挿入してから時間が経つにつれてどんどん具合がよくなっていくオマンコ。やさしくペニスを抱きしめたかと思ったら、痙攣しているかのように度々強く締まり、子宮口の吸いつきも変化があって、いつまでも腰を打ちつけて味わっていたいと思ってしまう。

 

 それに――。

 

「あんっ、エイジ! すごいわっ、もっと、もっとパンパンして!」

 

「朱乃は本当に激しくされるのが好きだな」

 

 腰をパンパンと鳴るように激しく打ちつける度に見せてくれる艶姿は、なんともいえないエロスを感じた。

 

 しかも現在の朱乃さんは巫女服着用、半脱ぎ袴!

 

 無理矢理犯している感が半端ない! 蹂躙しているみたいで楽しい!

 

 バックを主体に体位を変えながら存分にオマンコを解し、ラストは覆いかぶさって小刻みに腰を振る!

 

「ぁんっ、ああっ、そ、そんなにノックされてしまいますと、子宮が、子宮口が開いてしまいますわ!」

 

「このまま子宮に俺の精子をたっぷり注ぎ込んでやるよ!」

 

 覆いかぶさったまま両手を朱乃さんのおっぱいを掴んで抱き寄せ、強くおっぱいを握りながら、腰を小刻みに振って子宮口をこじ開けていく!

 

「いやぁっ、開いてる! 子宮が、エイジのを――んんっ!」

 

 グッン!

 

 子宮口に亀頭が完全に刺さった!

 

「あ、あああ……ッ!」

 

 瞳から涙を流し、口を開けて舌を突き出し、涎をシーツに垂らしながら全身を痙攣させる朱乃さん。ずっとSMちっくなプレイをしていたから子宮姦もできるようになったんだよな。

 

 ――いまだ!

 

 体を完全に密着させた状態で朱乃さんの耳元につぶやく!

 

「俺に染まれ、朱乃」

 

「――んくっ!」

 

 ビュッ! ビュルビュゥウウウウウ~~~ッ!

 

「ああぁんっ! エイジの精子が! んんっ、そ、染まる! 体の内側から子宮から支配されちゃうぅうううううっ!」

 

 朱乃さんの叫び声が部屋に響く。朱乃さんは体をビクッビクッと痙攣させながらベッドに突っ伏したが、子宮は相変わらず精液を飲み続け、表情も緩みきった悦びの顔だった。

 

 最後の一滴まで精液を注ぎ込んだあと、ズプッとペニスを引き抜くと、ぽっかり大穴を開けたままヒクヒクしている膣道から精液が垂れてきた。

 

「勿体無いにゃん、早く栓をするにゃん」

 

 と、黒歌が近づいてきた。いや、いくつ持ってるんだよ、プラグ。

 

 ペニスにこびりついていた体液を朱乃さんの内股やお尻に、自分のものだと匂いをつけるように擦りつける。

 

 そして、リアスのほうへ視線を向ける。

 

「こ、今度は私の番だけど……」

 

 先ほどまでノリノリだったのに、急に周りのギャラリーを気にし始めるリアス。

 

「ベッドも汚れてるし、朱乃も疲れているでしょうから、そのまま寝せてあげて。わ、私の部屋でしましょう、エイジ。――2人っきりで」

 

 ん? なんか言い回しが――。

 

「エイジ」

 

 はい。突っ込んじゃダメなんですね。

 

 2人っきりと言ったリアスに黒歌が意を唱えた。

 

「にゃ、見学は?」

 

「ゴメンなさい。私は完全にエイジと2人っきりでしたいの」

 

 謝るリアス。おそらく朱乃さんが普通の状態だったら、からかいにおったんだろうけど、朱乃さんは現在アヘって撃沈しているため、リアスにも公開セックスをさせようとする女は、見学の黒歌ぐらいだったのだが、その黒歌は呆気なくリアスの頼みを聞き入れた。

 

「まあ、十分記録させてもらったしいいにゃ。じゃっ、今度2人っきりで子作りしようにゃ、エイジ」

 

「ああ、約束な」

 

 ご機嫌の様子で部屋をあとにする黒歌。黒歌の手に小型のビデオカメラが見えたような気がしたが、誰も指摘する者はいなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朱乃さんの処理をして、シャワー上がりのゼノたんと別れをつげたあと、俺はリアスの部屋に招かれていた。

 

 その部屋にある天蓋付きのベッドの上で、リアスの腰に抱きついて俺はピンク色の乳首に夢中でしゃぶりついていた。

 

 俺の頭を優しく撫でながら訊ねてくる、リアス。

 

「美味しい? エイジ」

 

「ああ、ほんのり甘くて飲みやすくてすごく美味しいよ」

 

 ヴェネラナさんみたいに母乳がでるようになったリアスのおっぱいを味わう。

 

「ふふっ、今日はたっぷり頑張ったからとことん甘えさせてあげるわ」

 

 最近――というか、はじめてセックスしてから、リアスはどんどん俺に甘くなっていっている気がする……。

 

 もちろん普段の学校などでは部長と呼んでいるし、悪魔の仕事やレーティングゲーム、修行でもキッチリこなしている彼女だけど、エッチになると本性が露見するように甘えん坊になったり、こちらの要求するマニアックなプレイに喜んで応じてくれたりと、段々とリアスに依存していかれるような関係になりつつあった。

 

「リアスのおっぱい美味しい、ちゅっ、ちゅじゅぅぅ……」

 

「ぁんっ♪ うふふ、いっぱい飲んでいいのよ。私のかわいいエイジ」

 

 リアスにやさしく頭を撫でられる。どうしよう……。俺のほうもリアスに依存してるかも。

 

 舌で乳首からにじみでてくる母乳をペロペロと舐めながら、今度はお互いの性器を手で弄りはじめる。

 

「うふふ、朱乃とゼノヴィアにあれだけ射精したのに全然衰えてないわね。カウパーもトロトロ出てるし、そんなに私が欲しいの?」

 

 細くて長い美しい指先でペニスを弄られる。

 

 仕返しとばかりにこっちもリアスのオマンコを弄りはじめる。

 

「当たり前だろ。それにリアスだってオマンコじゅっくりふやけてるし、したいんじゃないのか?」

 

 じゅぶじゅぶと厭らしい音をオマンコからたてさせながら、亀頭を手の平でぐりぐりと捏ねられたり、指で玉袋をマッサージされながら、微笑みあう。

 

 リアスの片方の手が、オマンコを弄っていた手に添えられる。

 

「エイジ、ここも舐めてくれる」

 

「もちろん」

 

 乳首から口を放して起き上がり、ベッドに膝を立てたまま、M字開脚して仰向けで寝転がったリアスの股に四つんばいになって顔を差し込む。太ももの内側を舌で舐めながらオマンコのほうへ進む。

 

「んっ……、エイジぃ……」

 

「すごく美味しそうだ」

 

 紅いストロベリーブロンドの陰毛、その下に見える色素の濃いめのオマンコ。半分顔をだしたクリトリスは小まめサイズで愛らしく、小さな尿道のすぐ下には、クパクパと口を広げたり閉じたりしている膣道があって、愛液がそれら全てを煌かせていた。

 

「もう。恥ずかしいから早く、お願い……」

 

「ああ、わかった。ペロっ、はぁ……、じゅるる……、レロッ、ぅん、おいしぃ」

 

 ゆっくりとオマンコに舌を這わせていく。

 

「あ……、ぅん、エイジ……。はぁ、……いい。すごく、いいわ」

 

 オマンコの間からどんどん溢れてくる愛液。マンスジと太ももの付け根や、膣口から香るリアスの強い香りに興奮を高めながら、クリトリスを舌で弾いたり、尿道口を舌で穿ったり、膣口に喰らいついて舌でかき回すと、リアスものってきたようで、足を伸ばして俺のペニスを足裏で弄り始めてきた。

 

「足コキって――」

 

「うふふ、朱乃にもしてもらってるんでしょ。はぁはぁ……、私もおかえしにしてあげるわ」

 

「それは嬉しいな。――ううっ」

 

 リアスの両足の足裏でペニスが挟まれ、足裏を交互に前後に動かされてペニスの竿を弄られる。

 

 捻られてるみたいで気持ちがいい!

 

 しかもリアスが足を伸ばしたことで太ももが閉じられ、頭が股に固定される。リアスの陰毛が顔に押しつけられて、リアスの匂いが鼻から口、肺のなかまで満たされる。

 

 次第に激しくなっていく動き。

 

 オマンコにねじ込んだ舌をきゅうきゅうと締められたり、ペニスがビクッビクッと跳ねてきはじめた。

 

「エイジ……そろそろ――」

 

「ああ、そうだな」

 

 起き上がってリアスのオマンコから口を離し、再びM字にしたリアスの股の間に体を入れる。リアスの膣口にペニスの先端を固定してゆっくりと腰を進める。

 

 ググッ。

 

「あ、くっ……!」

 

 ゆっくりと拡げるように掘り進めていく。

 

 グジュッ、ヌジュッっと、ペニスを押し込むと膣壁がペニスを包むように絡みつき、引くとグボッ、グブッっと、愛らしく甘えん坊のようにペニスを離さないと締めつけてくる。

 

「あ、ああっ、いい、いいわ! ――んんっ」

 

 悦びの声を上げるリアスの口を、覆いかぶさって唇を重ねて塞ぐ!

 

「んちゅ、はぁ、ちゅ……、レロぉ、じゅちゅぅぅぅ~」

 

 ピッタリ合わせた唇どうしの間を通らせて、舌でお互いの口内をかき回し、唾液を混ぜ合わせながら啜りあう。

 

「んじゅっ、はぁはぁ、ぁん……、エイジぃ……」

 

 少しだけ唇を離すと、蕩けた表情のリアスがかわいらしい舌をこちらへ突き出してきた。

 

「リアス……」

 

「あひゅ……」

 

 リアスの舌を咥えてちゅぅぅっと、吸う。膣がきゅんきゅんと締まる。

 

 再びキスを再開させながら腰を動かしてオマンコを擦る!

 

「~~~~っ!」

 

 ペニスの形をオマンコにすりこむようにかきまわすと、リアスは瞳を大きく開かせてビクッビクッと体を痙攣させた。

 

 軽くイッたな。

 

「愛してるよ、リアス」

 

「はぁはぁ……私もよ、エイジ」

 

 荒く息を吐きながら、膣をきゅんきゅんと締めてくる。本当にかわいいな~。

 

 あらためてキスをしてから、頭の位置で力なく置いているリアスの手と、自分の両手を重ねて、リアスをベッドにはりつける。

 

 ピストンの速度を上げて、リアスの弱点である膣道の上部、膀胱を擦る!

 

「ああ……、温かくてフカフカで、厭らしく絡みつきながらキュンキュン締められて、最高だよ、リアス」

 

「もうっ。――ふふ、あなたのも最高よ。んんっ、熱くて私のなかでビクビク跳ねて……、私を満たしてくれる。――愛してるわ、エイジ」

 

 リアスの両足が俺の腰を引き寄せる! すでに降りてきていた子宮をペニスが持上げる!

 

 コツンコツンと先端で小突き上げ、リアスを抱きしめる!

 

「ぁんんっ、エイジ! こ、このまま子宮に射精()してぇっ! あなたの精子で孕ませて!」

 

「ああ! 子宮たっぷりに注いでやるからな!」

 

 がばっとリアスに覆いかぶさって射精する!

 

 ビュッ、ビュッ、ビュルゥウウウウウウウウウ!

 

「あはぁああああああぁあああああああああ~~!」

 

 たまりに溜まっていた精液が、ダムの決壊のように大量にリアスの子宮に注ぎ込まれる! なんて開放感だ!

 

 ビュルゥウウウウ……ビュッ、ビビュッ!

 

 まだ射精()てる! 止まらねぇ!

 

「すごぃぃっ! いっはいっ! いっはい射精()でるぅうううううっ!」

 

 舌をだらしなくだし、背を反らしながら絶頂するリアス。オマンコが柔らかくペニスを包み込み、精液を浴びた膣が悦んでいるみたいに吸いついてきた!

 

 ああっ、まだまだ足りねえっ!

 

 ズンッ!

 

「あひっ!? ――エイジ!?」

 

「ごめんリアス! 俺、このまま――!」

 

 ――このまま続けたい!

 

 妖艶な笑みを見せてリアスは頬っぺたにキスをしてきた。

 

「うふふ、いいわ。全部受け止めてあげる」

 

「リアス!」

 

 俺は抱きついて再び腰を振る。衝撃で前後左右に跳ねるおっぱいに顔を埋めてリアスを感じながら2回目を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、ちゅっ、ペロっ、うふふ」

 

「り、リアス……」

 

 人外同士ゆえに、体力が尽きて性欲が収まるまであれから10回近くまでセックスし続けた俺とリアスは、現在ベッドに抱き合ったまま寝転がっているわけだが、

 

「エイジに包まれていると本当に安心するわ」

 

「そ、そうか?」

 

 赤ん坊のように乳首に吸いつかれたり、舌で乳首を転がされたりと、最初とは逆になっていました。

 

 俺は乳首に吸いつくリアスの頭を優しく撫でる。

 

 リアスは嬉しそうに微笑みながら、普段はまったく見せない――いや、絶対に見せないだろう幼い姿を見せて、俺に甘えていた。

 

「最近、2人っきりで出来なかったしね」

 

「まあ、そうだな」

 

 いつも朱乃さんやゼノヴィア、黒歌たちとかと一緒にしたり、夜寝るときもベッドには結構リアス以外の女性がいたからな。

 

「だから、今夜はたっぷりと甘えさせてもらうわ」

 

 そうリアスは嬉しそうに微笑んだ。俺はそんなリアスを優しく抱きしめた。

 

 ――確かに、こんな甘えん坊のリアスは見せられないよなぁ。

 




 オーフィスをエンカウント。

 改めて考えると、世界最強と釣り合える存在で、どの種族とも交配できるインキュバスってヤバいな……。


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第59話 新たな能力の使い道とは? ☆ 

 ※今回は獣姦描写あり。お気をつけください。


<エイジ>

 

 

 駒王学園の体育祭が迫っていた俺たちグレモリー眷属組みは、テロの事情聴取を受け終えたあと、サーゼクスやアザゼルに事後処理を任せて人間界へと帰り、無事に誰1人欠ける事無く体育祭を終えた。

 

 ディオドラのことも終わって、二人三脚で1位とってアーシアもイッセーとの距離が縮まったようだし、めでたしめでたしだ。

 

 そういえば、事件を起こす切っ掛けとなったディオドラ・アスタロトだが、リアスたちの証言で共犯者であったシャルバ・ベルゼブブに殺されたと死亡認定された。そして、アスタロト家は信用の一切を失い、次期当主が『禍の団』に力を借りていた罪も重くて、現当主は解任。

 

 アスタロト家はしばらくの間、魔王輩出権も失ったそうだ。

 

 ちなみに現魔王のベルゼブブも責任を問われたそうだが、同時期に現ベルゼブブのところも『禍の団』関連の襲来を受けていて、そこにサーゼクスたち現魔王の3人の擁護もあって、非難の声も収まった。

 

 それとディオドラの眷属や、屋敷にいたシスターや聖女といった教会関連の女性は『禍の団』との直接的なつながりもなく、ディオドラだけが『禍の団』と通じていたと証明され、ディオドラが得ていた『禍の団』の情報を現魔王側へ提供したりしたので、たいした罪には問われなかったそうだ。現在は俺の仕事のつたいで人間界や冥界などで新たな生活をはじめている。

 

 そして、現在俺たちはというと、

 

『ふはははは! ついに貴様の最後だ! 乳龍帝よ!』

 

『何を! この乳龍帝が貴様ら闇の軍団に負けるはずがない! 行くぞ! 禁 手 化(バランス・ブレイク)

 

 兵藤家の地下一階にある大広間で鑑賞会をしていた。

 

 巨大モニターに映う観賞作品は――『乳龍帝おっぱいドラゴン』という特撮作品だ。なんでも、冥界で絶賛放送中の子供向けヒーロー番組らしい。

 

 題名から想像できると思うが、主役は乳龍帝こと兵藤一誠だ。

 

 まあ、主役と言っても、イッセー自身が役者を演じているわけじゃなく、背格好が似ている役者にCGでイッセーの顔をハメこんで加工している。

 

「……始まってすぐに冥界で大人気みたいです。特撮ヒーロー、『乳龍帝おっぱいドラゴン』」

 

「なんでも放送開始されて早々に視聴率が50%を超えたそうなんですよ」

 

 俺の膝上に黒歌と一緒に座っている小猫ちゃんが、尻尾をふりふりさせながら言う。補足事項を言ってきたノエルもそうだけど、小猫ちゃんもけっこう冥界の番組に詳しいよな。

 

 ちなみに物語のあらすじはこうだ。

 

 伝説のドラゴンと契約した若手悪魔のイッセー・グレモリーは、悪魔に敵対する邪悪な組織と戦う変身ヒーローである。

 

 おっぱいを愛し、おっぱいのために戦う男。邪悪な悪事を働く輩を倒すため、伝説のおっぱいドラゴンとなるのだ! という物語。

 

 俺もはじめて観たが結構面白い。イッセーは恥ずかしそうにしていたけどな。

 

 なお、著作権などはグレモリー家が仕切っている。聞いた話では『おっぱいドラゴン』でだいぶ稼ぎ始めたようだ。グッズも販売されたとか……。相変わらず悪魔は行動が早い。

 

 イッセーの元には、すでにおもちゃ版ブースデッド・ギアの試作品が送られてきていて、見せてもらったが、非常に出来がよく、音声も忠実に再現されていた。

 

「この番組に出てる赤龍帝の鎧は本物にそっくりだね。すごい再現率だよ」

 

 木場がうんうんとうなずきながらポップコーンを食べていた。

 

 うん、本当にそっくりだ。

 

『いくぞ、邪悪な怪人よ! とおっ! ドラゴンキィィィィィィックッ!』

 

 鎧を着た『おっぱいドラゴン』が怪人に見事な必殺技を決める。派手な爆破演出などが巻き起こっていた。

 

 そのあと、敵の新兵器の力でピンチになった主人公だが、そこへ――。

 

『情けないぞ、おっぱいドラゴン!』

 

「おっ、俺ぇええええええええええっ!?」

 

 登場したのは冥界でお馴染みの衣装を着た――俺だった! もちろん、本物じゃなく、俺と背格好の役者にCG加工で俺の顔を貼りつけたものだ。

 

「黒い捕食者の新シリーズがはじまったことを記念して、『乳龍帝おっぱいドラゴン』にもライバルキャラとしてエイジさんも出演してるんですよ」

 

 驚く俺をよそに、頬に手を当てた朱乃さんがにっこり笑顔を浮べて言った。そういや俺を題材にした番組……、本人登場する前はイケメン俳優だったけど、いまじゃ全部CG加工されちゃってるな。

 

『ブラック・プレデター!』

 

『俺のライバルはその程度なのか? おっぱいドラゴンの力はそんなものなのか!?』

 

 なにやらおっぱいドラゴンに発破をかけてる黒い捕食者(  俺  )……。おっぱいドラゴンはぷるぷると全身を震わせながら叫びをあげる。

 

『そんなはずがないだろう! 俺は乳龍帝おっぱいドラゴン! おっぱいの可能性は無限大なんだ! 俺は、俺はッ! おっぱいが大好き、乳龍帝おっぱいドラゴンなんだぁああああああああッ!!』

 

 体から赤いオーラを迸らせるおっぱいドラゴン。いきなり両手を大空へ向って掲げる。

 

『ドライグ!』

 

『おうよ!』

 

『世界中のおっぱいよ! 俺に力を貸してくれぇぇぇえええええええっ!』

 

 左腕の宝玉からドライグの相槌が聞えたかと思ったら、おっぱいドラゴンが再び叫び始め、さらに続けてナレーションが入る。

 

『おっぱいドラゴンは左腕のブースデッド・ギアに宿った伝説の龍、乳龍帝ドライグの力を借りて、世界中のおっぱいから力を集めることができるのだ!』

 

 いつのまにかドライグまでもが乳龍帝に……。いや、このナレーションの仕方だとドライグが元々乳龍帝みたいだな。ていうか、なんでナレーションの声がサーゼクス……。

 

 おっぱいドラゴンが両手を翳すシーンに、コマおくりで色んなおっぱいが映り、それに連れて合間で映ってくるおっぱいドラゴンの体を包むオーラが、どんどん高まっていく。

 

 そのオーラを両手を掲げた大空へと集めて直径30mほど大きな玉を創りだした。

 

『くらえ! これが俺の……おっぱいドラゴン玉だぁああああああああ~~~~ッ!』

 

 ドォオオオオオオンッ!

 

 おっぱいドラゴンから放たれた玉によって怪人が吹き飛ぶ。…………おっぱいドラゴン玉……。

 

『さすが俺のライバルだ』

 

 黒い捕食者はおっぱいドラゴンの活躍に満足げにつぶやいていた。怪人を滅ぼしたおっぱいドラゴンは今度は黒い捕食者のほうを睨むが、ここで新らたに役者が登場してきた。

 

『もう用はないでしょ、帰りましょう。 黒い 捕食者 (ブラック・プレデター)

 

 登場したのはドレスを着た――リアスだった。もちろん、他と同じように顔をCG加工されてる。

 

『ああ、そうだな。 滅 殺 姫 (ルイン・プリンセス)

 

 すっと身を黒い捕食者( 俺 )に身を寄せる滅殺姫(リアス)。黒い捕食者が空間を切り裂いて2人が通れるぐらいの穴を作り、そのなかへ消えていく2人の様子を見て悔しそう? におっぱいドラゴン(イッセー)はにらみ、言う。

 

『滅殺姫! おまえの至高のおっぱいは、おっぱいドラゴンの俺が絶対に突かせてもらうからな!』

 

『ふっ、このおっぱいは俺のものだ。おまえが乳龍帝おっぱいドラゴンであろうと、誰であろうと渡しはしない』

 

 何を言っているんだ、こいつらは……?

 

「ライバル側には至高のおっぱいを持つ滅殺姫っていう紅髪の女がいるんだよ。そして、乳龍帝はその至高の乳首を突きたくて、ライバルの黒い捕食者を目の仇にしててな。裏の題目では、乳龍帝から乳を守る黒い捕食者と、至高の乳をつつけるのか乳龍帝! っていうのが――」

 

 スパン! ノリノリで説明するアザゼルの頭をリアスがハリセンで叩いていた。

 

「……ちょっとアザゼル。グレイフィアに全部聞いたわよ? し、至高のおっぱいだとかいう案をグレモリーの取材チームに送ったのはあなたよね? おかげで私が、こ、こんな……」

 

 リアスは顔を真っ赤にして、怒りに耐えている様子だった。

 

「いいじゃねぇか。冥界のガキどもの多くが観てる番組に出たことで、ガキどもからの支持も得るようになって、逆におまえの人気が高まったって聞いたぜ? 別番組の黒い捕食者系のメインヒロインにも抜擢されて、いまじゃおまえも立派な有名人なんだからよ」

 

 アザゼルは叩かれた頭をさすりながら言った。

 

 そういえば、今度冥界で発売される若者向け情報誌も「黒い捕食者、神城エイジとリアス姫特集」から「皆も至高のおっぱいを手に入れよう! 黒い捕食者もおすすめ! おっぱいが美しくなる弄り方」なる記事に変わるから、近々取材させて欲しいとか聞いていたな。

 

「……もう、冥界を歩けそうにないわ」

 

 リアスはため息混じりにそうつぶやく。イッセーも複雑そうな表情を浮かべていた。

 

 俺はリアスの肩に手をおく。

 

「リアス」

 

「エイジ」

 

 振り返ったリアスに、イッセーの左腕に出現して『おっぱいドラゴン乳龍帝』の観賞会を、一緒に観ていたブースデッド・ギアを指差して言った。

 

「大丈夫です。――アレよりもマシですから」

 

「…………そうね」

 

 リアスは赤龍帝ドライグから乳龍帝ドライグへとなった落ちぶれドラゴンの現在の姿を見てうなずいた。

 

『……………………』

 

「ド、ドライグさん?」

 

 イッセーが何も反応しないドライグに呼びかけるが、反応がない。いや、反応はあったのだが、宝玉が点滅しながら光が段々薄くなるっていう縁起がわるい反応をしている。

 

 普段ではあり得ない輝きに、イッセーが血相を変えてドライグに呼びかける。

 

「ド、ドライグ!? どうしたんだ、ドライグ!」

 

『……………』

 

 ドライグから返事は返ってこない。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

 アザゼルがイッセーの左手を取って、ブースデット・ギアの宝玉に手を(かざ)して調べる。

 

 しばらくしてアザゼルはふぅと息を吐いた。

 

「……ヤバいな。乳龍帝ドライグと言われたのがあまりのショックだったようだ。ドライグの存在が消えかかっている」

 

 普段とはうってかわって真剣な表情。アザゼルの顔には汗が浮んでいて、焦っているようすが伺える。

 

『お……れ、は……、……じゃない。……俺は、……乳龍などでは……。俺は、伝説の……、赤龍帝……』

 

「ドライグ~~! しっかりしろ!」

 

 左手に呼びかけるイッセー。すごいよ、イッセー。伝説の赤龍帝をここまで追い詰めるなんて。

 

「先生っ! ど、どうしたら……、どうしたらいいんですかっ!?」

 

『あ、相棒……』

 

「ドライグ! しっかりするんだ、ドライグ!」

 

『……俺は……、乳龍などでは――』

 

「ああ、わかってる! わかってるよ! おまえは伝説の――」

 

 ――赤龍帝だ。とイッセーが言おうとしたとき、イッセーとドライグの熱いやりとりなどを無視して『乳龍帝おっぱいドラゴン』を観賞していたイリナが、立体映像機器を取り出した。

 

「あっ! 忘れてた! 魔王ルシファーさまとアザゼルさまからこれを預かってたんだ!」

 

「お、おい! いまそれは――」

 

 アザゼルが制止の声をあげた瞬間、イリナは機器のボタンを押した。

 

 すると――。

 

『おっぱいドラゴン! はっじっまっるよー!』

 

 そんな元気のいい声と共に、立体映像が出現した。

 

『ぐはっ!』

 

「ドライグ~!?」

 

 立体映像に映しだされた、禁手の鎧姿のイッセーがそう声を出すと――子供たちが集まってくる。

 

『おっぱい!』

 

 映像の子供たちは映しだされたイッセーの周囲でそう大きな声で言った。

 

 そして、ダンスを始めるイッセーと子供たち。軽快な音楽も流れ出した。それにともないイッセーと子供たちもさらに踊り出す。

 

 宙に文字――タイトルと歌詞が表示された。

 

 ――なんだこれは。 

 

「おっぱいドラゴンの歌」

 

 作詞・アザ☆ゼル

 

 作曲・サーゼクス・ルシファー

 

 ダンス振り付け・セラフォルー・レヴィアたん

 

 …………。

 

 ………………。

 

 なんだこれは……。

 

 ていうか、作詞作曲、振り付けと何してるんだ、こいつらは!?

 

 ピキッ!

 

『グッ、グハァアアアアッ!』

 

「ド、ドライグぅうううううう~~~!?」

 

「マズいぞ、イッセー! 宝玉にヒビが入っちまった! このままではマジでドライグが消滅しちまう! すぐにグリゴリの機関に運んで治療しねぇと!」

 

 アザゼルは急いで転移魔法陣を展開させる。この展開には誰もが呆気を取られ、リアスも慌ててアザゼルにドライグの安否を確かめた。

 

「だ、大丈夫なの?」

 

「一応ドライグがこうなるんじゃないかと思って、神器用の精神安定剤を開発してある。それよりいまはイッセー……、いや、ドライグに胸の大きな女を近づけさせるな! 容態が悪化する!」

 

「そ、そう……」

 

 どう反応していいのかいまいちわからないようだったが、リアスは素直に引き下がった。

 

「よし。行くぞ、イッセー! ドライグをしっかり励ましていろ!」

 

「はっ、はい! ドライグ、ゴメン! 本当にエロくてゴメン! おまえは立派な赤龍帝だから――」

 

 こうしてアザゼルと一緒にグリゴリへと転送されるイッセーとドライグ。この急展開に、誰もが反応できなかった。

 

 そして、2時間後――。

 

 アザゼルから通信で、イッセーはドライグにつきあって3日ほどグリゴリの病院に入院して、カウンセリングを受けることになった。

 

 ――この話をきいて俺たちは、乳龍帝関連でドライグをからかうのは自重しようと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーがドライグ共々入院することになった日の深夜。俺はセルベリアの部屋に来ていた。

 

 最近2人っきりでしていなかったセルベリアとたっぷりセックスするためだ。

 

 セルベリアは部屋の中央辺りに敷いた鏡のような板の上で、黒いノースリーブのワンピースとスリットが深く入ったミニのタイトスカート。黒いパンティーストッキング、黒いブーツという、いつもの軍服姿のまま、鎖で両腕を背中の位置で拘束され、両足は閉じられないように、足首の位置で鉄棒を間に括りつけられて、顔と両膝だけ床につけ、お尻だけを掲げたような格好にされていた。

 

 拘束されているセルベリアはすでに発情した雌の顔になっていた。

 

「じゃ、じゃあ、はじめてください……」

 

「ああ、はじめようか」

 

 俺はセルベリアより少し離れた位置に立ち、新らたに目覚めたインキュバスの能力を使用する。

 

 ゴゴゴゴッ、ゴクゥンッ!

 

 鈍い音と共に俺の全身が変化しはじめる!

 

 顔が変形し、別の耳が頭に生え、口が裂けて牙が生え、全身が体毛に包まれる!

 

「ハアァァァ……」

 

 完全に変化を終えて息を吐く。すごいな、マジでフェンリルに(・・・・・・)なってる。

 

 前も姿形だけなら変身することはできたけど、今回のインキュバスで変化したフェンリルは、その能力や特性も全て会得していて、俺はフェンリルそのものになっていた。

 

 魔力の色が影響してフェンリルとしては異質な漆黒の毛並みだけど、それ以外は完全にフェンリルの特徴を受け継ぎ、魔王クラスの実力ぐらいだろう。

 

 そして、いまは2メートルほどに体の大きさを調整しているが、本気になれば15メートルクラスのフェンリルにもなれる。

 

「ああ、すごい……」

 

 セルベリアが嬉しそうな声を漏らす。よく半獣人スタイルで楽しんでいたけど、完全獣ははじめてだからな。

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 荒い息が勝手に漏れてだらしなく垂れた舌から熱い唾液が床にこぼれる。

 

 本物の獣のように四本足でセルベリアに近づいていく。

 

 セルベリアの深めにスリットの入ったタイトスカートのなかに顔を突っ込んで鼻をくんくんと鳴らしながら匂いを嗅ぐ。

 

「ああ……、そんなにくんくん嗅がないでください……」

 

 セルベリアの言葉を無視し、ストッキング越しに、長くなった舌で陰毛からアナルまで関係無しにペロペロとオマンコを全体を舐め始める。

 

「はぁはぁ……、んんっ、く、うあ……」

 

 長い舌にオマンコを舐められ、セルベリアはヒザを閉じそうになるが、股の間に取り付けた鉄の棒がそれを阻む。

 

「はぁ……、はぁ……、うっ、ううっ……」

 

 セルベリアの太ももが震える。股を閉じられないもどかしさを感じているのか?

 

「が、わう」

 

 フェンリルフォームの俺は人語は話さず、犬になりきる。

 

 セルベリアの腰から足の先まで覆っているストッキングに、俺は鋭い牙を引っ掛ける。

 

 ビリッ。

 

「――っ!」

 

 ビリリィィッ。

 

 厚めのストッキングが簡単に切り裂かれる。

 

 ビリビリと股の部分を引き裂かれ、ビショビショに濡れた、厭らしいカタチをした薄いピンク色の美しいオマンコを曝される。

 

 ん~、結構使い込んだんだが、処女みたいに色素が薄いなぁ。

 

「はぁはぁはぁ。じゅぶ、ちゅぶ、ベロベロ……、はぁはぁ……」

 

 犬の荒く熱い息をオマンコにあてながら、臭いを嗅いでさらにペニスを硬くする。犬になってるせいか雌の臭いが強くて……、クラクラする。

 

「はぁはぁ……、んっ、くっ……。はぁはぁ……、エイジの……、フェンリルになったエイジが私のっ……!」

 

 丸いお尻を揺らしながら、次から次へとオマンコから愛液を滴らせるセルベリア。床に敷いている鏡にポタポタと落ちていく。

 

 ははっ、すごく興奮してるな。

 

 そういや、初めて半獣人に変身して犯したときから、獣姦系が大好きになってたもんなぁ。

 

 今回は完全獣に変身しているし、ヴァルキリーだからって犬=フェンリルをチョイスしたこともよかったみたいだ。

 

「がう!」

 

 俺は吼えてセルベリアのスカートに噛み付く。

 

「ああっ!」

 

 フェンリルに完全になりきり、セルベリアのスカートを引き千切る。

 

 これでほとんどセルベリアの下半身を隠しているものはなくなった。

 

 俺は四つんばいで拘束されているセルベリアの背に後ろからに覆いかぶさる。

 

 完全に勃起してデカい角のようになったフェンリルペニスを、セルベリアのマンスジに合わせて擦りつける。

 

「はぁはぁはぁっ」

 

「んっ……はぁっん……、これがフェンリルの……エイジのおチンポ……、はぁはぁ……、んんっ」

 

 腰を小刻みに動かし、セルベリアのオマンコにペニスを擦りつける。オマンコのスジを押し広げ、愛液を絡ませる。

 

「はぁはぁはぁっ、はぁ……っ」

 

「くっ、……じ、焦らさないでく――、あが、ああっ!?」

 

 ズズンッ!

 

 セルベリアが話している途中に腰を引いてフェンリルペニスでオマンコを貫く!

 

「ぐっ、ぐうううっ!」

 

 ほとんど不意打ち気味に、強引に、強い力で一気に奥まで挿入されたセルベリアが悲鳴を漏らした。

 

 快楽を感じているのか、それとも苦痛に苦しんでいるのか、セルベリアのことを完全に無視して、犬に――フェンリルになりきってセルベリアを犯す!

 

 パンパンパンパンと最初から激しく腰を打ちつけ、雌の体を楽しむ。

 

「あがあああっ、息が……っ! 子宮までおチンポが挿入(はい)って……、ああっ、ぐひぃっ!」

 

 セルベリアの口からよだれが飛ぶ。

 

 前へ逃げようとしているが、全身を拘束されているために、セルベリアはされるがままに犯される。

 

 ああ、すげぇ気持ちいい! フェンリルペニスは長くて人間の時のように雁首がないから、子宮口をこじ開けて、子宮を押し上げるようにピストンできるし、皮が引き寄せられて突出している部分のほとんどが敏感な亀頭状態だから、いつもよりも感じてしまう!

 

「はぁはぁ、わうっ! はぁはぁはぁ、わうぅぅっ!」

 

 犬の本能に従って激しくオマンコを突き荒らし、セルベリアに覆いかぶさった状態で息は荒げて、涎をセルベリアの頬へポタポタと落とす。

 

 悲痛な悲鳴を上げながらも快楽を味わっているセルベリアは、顔を横にずらしてペロリと唾液を舐めとった。上から口に向って唾液を落してやると、うれしそうに大きく口を開いて受け止めた。

 

「はぁっ、ああっ、すごいです! エイジさま、私はも、もうっ……!」

 

 キュギュゥゥゥっとオマンコを締めてくるセルベリア。拘束されている体をビクッビクッと跳ねさせながら絶頂に達したようだ。

 

「わうぅぅっ!」

 

 セルベリアの絶頂に合わせて俺も射精を開始する。

 

 ビュルン!

 

 灼熱に煮えたぎった精子をセルベリアの子宮に直接射精する。

 

「ひぅっ! ひっ、ひいいい……っ」

 

 セルベリアは快感を感じて体を床に押しつける。絶頂に合わせて吐き出された精液に気持ちよさそうな表情を浮けべていたが――、これからが本番だ。

 

 グルンッ。

 

「――っ!?」

 

 くるっと体勢を変えて、お尻同士をくっつける格好になる。

 

「はぁはぁ、がうっ……」

 

 ドクンッ、ドクンッ、ドグンッ!

 

「な、何、私のなかで大きく? ――あ、あぐぅぅ……!?」

 

「がううう……」

 

 フェンリルペニスの根元が、ポコッと大きくなっていき膣道から抜けないように栓をした。

 

「ああっ、そうか……これからが――」

 

 フェンリルそのものに完全に変身しているという意味に、セルベリアも気づいたようだ。最初のものは先走り汁のようなもので、これからが本番だということに――。

 

 大きくなったコブでオマンコを完全にロックしてから、ゆっくりとたまりに溜まった欲望を開放する。

 

 ビュルルルルゥウウウウウウウウ~……。

 

 人間時を水鉄砲だとすると、いまの形態はホースから出される水だ。しかも、人間時でも射精量の多い俺だから、普通では考えられないぐらい、たっぷりと煮えたぎった精液がセルベリアの子宮に注ぎ込まれる!

 

 すげえ! 射精時間が長い分、気持ちよすぎる! セルベリアに種付けしてるって、すげぇ実感する!

 

「がはっ! あ、あぃっ……、ぐ、ぐあぁああああああああ~~! 熱いぃいいいいいい~~!」

 

 尻のほうからセルベリアの気持ちよさそうな絶叫が聞えてくる!

 

 俺は腰を小刻みに揺らし、セルベリアの膣道をパンパンに膨れ、コブのようになった部分でぐりぐりと刺激させながら、ありったけの精子をセルベリアの子宮にどんどん流し込んでいった。

 

「はぁ……、はぁ……、は、はひぃぃ……。はぁはぁ……、うっ、も、もう……入らな……い、です。お腹が……」

 

 セルベリアからギブアップの声がでたが、現在の俺は本能に忠実な犬。ヘタリ堕ちるセルベリアを無視して、精液が子宮にこびりついて取れなくなるように、セルベリアの体を揺らす。

 

「はぁはぁ……、くうっ……、エイジさま……」

 

 セルベリアはすでに自分で体を支える力もないようだ。俺のフェンリルペニスで立っている状態だ。

 

 それから1時間近く経ってからやっと、セルベリアの膣道を栓していたフェンリルペニスのコブが小さくなった。もはや言葉を話せず、熱い息を吐きながら度々体をビクッビクッと痙攣させるセルベリアから、フェンリルペニスを抜いた。

 

 ズズズズッ……、ズボッ。

 

「はふぅ」

 

 自然と口から充実したため息が漏れた。まさに獣になりきってのセックスだった。

 

 後ろを振り返って見ると、栓を失い、いつもの倍近くまで大きく広げられた膣口の奥から、ドロドロと白濁した精液が漏れでてきていた。

 

「はひゅぅぅ……、はひゅぅぅ……」

 

 少し調子に乗りすぎたか? セルベリアの腹が妊婦みたいに膨れちまった。

 

 フェンリル状態のまま顔のほうへ回って見ると、鏡になっている床に映った自分の顔を見ながら幸せそうにしているセルベリアがいた。

 

 ……まあ、人間よりも強い体だし、多少の無茶も快感か。

 

「がう」

 

 拘束を牙で破壊するように外し、セルベリアが上に着ているノースリーブの襟元を口で噛んで無理矢理、上半身を起こさせる。近くのベッドを背もたれに、座らせる。

 

「……ふへ?」

 

 絶頂の余韻などで呆けているセルベリアを無視して、大きく裂けた口でセルベリアのおっぱいに喰らいつく!

 

「はぐっ、はぐっ……じゅるる……」

 

「ああっ、エイジさま……」

 

 ああ、これがやってみたかったんだよ! セルベリアの爆乳に喰らいつく! 大きな口がないとできなかった芸等だが、いまの俺なら出来る! ちなみに牙や爪には神殺し能力がありますが、いまは安全仕様で、怪我の心配などはありません。

 

 未だに身動きがとれないセルベリアの爆乳をはぐはぐと甘噛みしながら、大きく膨れた腹に前足を置いて体重をかける。膣口から夥しい量の精液が漏れでてきた。

 

 ハハハ、子宮からドバドバ精液が出できた。惚れ惚れする量だな。

 

「はふぅー、はぐっ」

 

「くあっ、む、胸が食べられて……、んっ、ひぐっ……」

 

 プルプル震えるセルベリア。

 

「エイジさまぁ……」

 

 セルベリアは片手で俺の顔に触れながら、ゆっくりとM字に股を開いた。お、なんだ? まだ欲しいのか?

 

「はぁっ……、うんっ……」

 

 セルベリアのトロトロに蕩けた顔がさらに緩む。

 

 覆いかぶさって乳を喰らっている俺の体の下から手を滑り込ませ、セルベリアはペニスを掴んだ。うっ、ほとんどズル剥けの亀頭状態だからすごく、痛気持ちいいっ!

 

「――っん」

 

 セルベリアはそのまま手でペニスをオマンコのほうへともっていく。

 

 ぐちゅりと、おびただしい量の精液で子宮内まで犯されているオマンコとペニスの先端が触れ合った。

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 まだ、欲しいのか。自然と笑みがこぼれる。本当に野獣になった気分だ。

 

 俺は腰を進める。

 

 奥から溢れてくる精液を押し返すようにペニスをめり込ませていく。

 

「ひっ、ぐううっ!」

 

 セルベリアは悲鳴を漏らしつつもペニスからは手を離さず、挿入が終えるまで耐える。上から覗くと、セルベリアの下腹に、ペニスの形が浮かび上がっているのがよく見える。

 

 俺は爆乳から口を外してセルベリアの頭の両側に前足をつく。

 

「はっ、ぐっ、うっ、ううっ……。くっ……」

 

 腰を振って、ペニスをピストンさせて オマンコを擦り合わせる。何重にも重ねられたゴムのような狭く、ヌルヌルのオマンコを楽しみ、体の下で快楽で震えているセルベリアのエロイ姿を眼で楽しみながらピストンし続けた。

 

「はぁはぁ……、ああっ、ぐっ、うっ……! はぁっ、はぁっ……、うぐっ! ふ、ひぃっ……!」

 

 きゅっきゅうううっと絞まるオマンコ。子宮はすでに精液でいっぱいのくせに、まだ欲しがって吸いついてくる。

 

 何度も絶頂しているのか、ビクビクと体を震わせ、吼えるセルベリア。

 

「がうっ!」

 

 俺はひと吼えして、再びセルベリアの子宮目掛けて射精する。

 

 ビュッ! ビュビュッ! ビュルルルッ!

 

 玉袋に新たに生成された精液を、セルベリアの子宮に注ぎ込む。

 

「ひっ、ひゃ……! ああっ、ま、また出て……るっ! はぁはぁっ……! んぁああああああ~!」 

 

 セルベリアは俺の体を両手でしがみついて悲鳴を上げる。俺は腰を小刻みに振りながら、そんなセルベリアに射精し続けた。

 

 さてと、フェンリルフォームはあと5時間ほどで解けるから、まだまだ楽しませてもらうぞ、セルベリア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 昼休み中の駒王学園。俺はエイジに松田と元浜、それにアーシアたちと弁当を食べていた。

 

「そういや、もうすぐ修学旅行だぜ。班を決めないとな」

 

 元浜がたまご焼きをつまみながら言う。

 

 そっか、修学旅行が近かった。俺たち2年生は京都へ行く。最近……というか、ドライグのカウンセリングとかですっかり忘れてたぜ。

 

「えっと、3,4名で組むんだっけ?」

 

 俺が言うと松田がうなずく。

 

「そうそう。泊まるところが、4人部屋らしいからな。ま、俺ら3人で組むしかない。嫌われ者だからな、俺ら」

 

 言うな、ハゲよ。その辺は痛いほどわかっている。

 

 生死をかけた夏休みが明けて、多少は俺の評価が変わったようだが、基本的に俺たち3人はエロエロ男子高校生として女子に嫌われている。女子の割合が大きい学校だから、その辺、厳しい部分もあるんだよな。

 

 アーシアをはじめ、ゼノヴィア、イリナ、桐生とは仲が良いんだけどさ。こうして、一緒に弁当も食っているし。しかし、他の女子は全滅に近い。

 

「神城エイジ、とついでにエロ3人組。修学旅行のとき、うちらと組まない? 美少女4人組でウッハウハよ」

 

 メガネ女子の桐生がそう申し出してきた。厭らしい顔つきでウッハウハとか言うな! それに俺たちはついでかよ!

 

「ああ、おまえ以外美少女3人組な」

 

 うんうんうなずく松田だが、すかさず桐生に頭を叩かれる。

 

「うっさい! まあ、こいつは置いといて。兵藤、アーシアがさ。ね?」

 

「イッセーさん、ご一緒してくれますか?」

 

 ニッコリ笑顔でアーシアが訊いてくる。んもう! アーシアちゃんったら、そんな風に訊かれたら、俺、まいっちゃうなぁ!

 

「もちろん。OKに決まってるだろ!」

 

「はい!」

 

 だきっ! 弁当そっちのけで抱き合う俺とアーシア!

 

「あ、あんたら、体育際終わってからさらに仲良くなったわね……。四六時中、ラブラブ光線出しながら話しているし」

 

 メガネをくいっとあげながら桐生が言ってくる。

 

「ふふふ。俺とアーシアは一心同体! 常に共にあるのさ。な?」

 

 と、俺はアーシアに「あ~ん」してもらってウインナーを頬張った。

 

「はい。イッセーさんとずっと一緒です」

 

 そう、俺とアーシアは体育際を終えたあと、なんだか、1歩近づいた気がした。前は兄と妹って、俺は思っていてさ、兄的な意識でアーシアを守ろうとしていたんだけど……。

 

 う、うん。二人三脚のあとに、キ、キスしたあとは妙に俺もアーシアを意識しちゃって……。妹よりも身近にいる女の子として見ることが多くなったんだ。同時にさらに愛おしくなってしまった。

 

 前から愛おしかったけど、ディオドラから奪還して改めてアーシアが俺のなかでとても大事な存在なのだとわかったんだ。

 

『一生一緒にいなきゃいけない!』って、強く思えた。恋人とは違う、家族としての異性っていうのかな。それは妹とも違うんだ。

 

 お互いが死ぬそのときまで俺とアーシアは一緒にいると思う。それが何百年、何千年後かはわからないけどね。俺はアーシアを生涯大事にするよ。

 

「で、神城エイジはどうなの? もう誘われちゃった?」

 

 桐生がエイジに訊ねる。エイジは困ったような表情をした。こいつの場合俺たちと別の意味で男子に嫌われているから、まだ班は決まっていないだろう。

 

「エイジでいいよ、桐生さん。それと俺って、修学旅行は他の生徒と違う扱いで泊まる部屋も最初から1人部屋になってるんだ」

 

「へ?」

 

 エイジの言葉の意味に俺たちが呆けていると、ゼノヴィアが代わりに説明した。

 

「生徒会側からエイジを勝手に行動させると、かなりの確立で異性交遊を行なうだろうと警戒されていてな。監視しやすいように1人部屋に隔離して、班も2人組みで組んで行動するようになるそうなんだ。ちなみにそのもう1人というのは生徒会の副会長で、修学旅行中に問題を起こさないように監視としてついてくるだと」

 

「副会長って真羅椿姫先輩が!?」

 

「なんでわざわざ3年のお姉さまが!?」

 

「エイジぃいいいいっ! またおまえはぁあああああっ!」

 

 俺は泣いた。松田と元浜も血の涙を流しながらエイジに詰め寄った!

 

「まあ、落ち着けよ」

 

「これが落ち着いてられるか! おまえばっかり食いすぎなんだよ!」

 

「俺たちに全然回ってこないのも、俺たちに彼女が出来ないのも全部おまえのせいだぁああああ!」

 

「部長や、ゼノヴィア、小猫ちゃんや黒歌さんたちっていう美女や美少女たちを囲んでいるくせいに、これ以上俺たちから女を奪うつもりか~~~~!」

 

 俺の悲痛な叫びに、桐生がメガネをくいっとあげた。興味津々とゼノヴィアとイリナの間で、レイナーレお手製の弁当を食べているエイジに詰め寄り、桐生は鼻息を荒げながら訊ねた。

 

「部長ってリアス先輩のことよね!? エイジくんって、リアス先輩と同棲してるの!? いや、他にも同棲してる女がいるの!?」

 

「なにぃいいいいいい!?」

 

「ほんとうなのかそれは!?」

 

 松田と元浜が狂ったように頭を両手で押さえながら、悶え苦しんだ。

 

 それに追い討ちをかけるように、お弁当を食べていたイリナとゼノヴィアが肯定した。

 

「私もお兄ちゃんの家に住んでるよ。ゼノヴィアもだよね」

 

「ああ、朱乃先輩もな」

 

 ――っ!

 

 なん……だとぉ!?

 

「これはまったくの予想外だわ! さっすが神城エイジ! 駒王学園の綺麗どころを入れ食いしてるなんて!」

 

 興奮する桐生……。松田と元浜は――あまりのショックで気絶してる! こいつらにはこの話はあまりに酷すぎたんだ……。周りにいた男子生徒までもが血の涙を流して机に突っ伏している。

 

「クソ……、クソォォォォオオオッ、俺の人生の目標であるハーレムを量産しやがって!」

 

 桐生はメモ帳を取り出してエイジに質問をはじめた。

 

「ねえねえ! 一体どんな手段で堕としたの? エッチはもうした? 噂になってるテクニックってどんなの?」

 

 桐生の質問内容に松田と元浜、周りの男子生徒たちが立ち直れないまでも聞き耳をたてた。他の男と女の話しとか聞きたくない気もするけど、聞きたくなってしまうのは男の悲しいところだよな。

 

 かくいう俺もハーレム建造の参考までに聞きたい! 思わず殺意が湧いてしまいそうになるのを抑えて、エイジの言葉に聞き耳をたてる。

 

「で、どうなの? どんな方法で堕としているの?」

 

 キラキラとした瞳で質問する桐生に、エイジはふぅっと小さく息を吐くと、弁当箱を片付けて、手をとった。

 

「ん?」

 

 手を握られて疑問符を浮べる桐生にエイジは微笑んだ。

 

「――っ!」

 

 ――っ、なんて色気のある笑みだ! エロいことには変わりないが、俺らスケベの下品な笑みではなく、エロスな大人の男の笑顔だった!

 

「え、エイジくん?」

 

 あのエロいメガネ女こと桐生が完全にのまれちまってる!

 

「ふふっ」

 

 エイジは微笑むと桐生の指を弄り始めた!

 

 中指と薬指の間をさすりながら、やさしく開き、その間に指を入れて弄る。指同士を絡めているだけなのに卑猥だ! すごく卑猥だ!

 

「え、エイジくん……。……あっ、いや……」

 

 桐生の顔がどんどん赤くなっていき、口からもエッチな声が漏れた! 

 

 いきなりはじまった卑猥な行為に、教室内の男子生徒だけでなく女子生徒たちまでもが顔を赤らめ、エイジと桐生に引き込まれていく。

 

 桐生が悩ましく膝を擦り合わせはじめたそのとき、エイジは桐生の耳元へ顔を寄せてつぶやいた。

 

「――気になるなら試してみるかい?」

 

 昼休み中なのにしんっと静まっていた教室内に、エイジの声は響く。

 

「~~~~っ!」

 

 桐生は脳内の許容量をオーバーしてしまい、その場に崩れ落ちようとしたその時、エイジが桐生の体を受け止めてさらに追い討ちをかけた。

 

「このまま保健室に行こうか? それともトイレがいいかな?」

 

「あ、わ、わたしは――」

 

 いつもと違って乙女な桐生に誰もが呆気に取られている。

 

 エイジはSな顔で桐生の頬を撫でた。

 

「――試したいんだろう?」

 

「~~~~っ!」

 

 桐生は声にならない悲鳴を上げたあと、ガクっと倒れ落ちた。――いや、倒れ堕ちた。

 

 俺や松田、元浜や男子生徒たちも前かがみで行動不能にされた……。

 

 これが百戦錬磨のインキュバスと童貞との差か……。

 

 俺もいまは童貞野郎だが、絶対に童貞捨ててハーレム創って、ハーレム王になってやるぅううううう!

 

 あっ! そろそろドライグの薬の時間だ。精神安定剤を飲ませてやらないと。

 

 ……ゴメン、ドライグ……。でもハーレムの夢は諦められないから。

 

 ちなみに修学旅行の班は、男子は俺、松田、元浜の3名。女子はアーシア、ゼノヴィア、イリナ、桐生の4人名と、予定が合えばエイジが加わって、京都の町を巡ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後の部室にて。

 

 下校時間を間近にして、俺たちはお茶をしながら修学旅行の話をしていた。

 

 顧問のアザゼル先生は今日部室に来ていない。最近、冥界に帰って何か話し合いをしているようなんだ。トップは大変だよね。それでも学園に顔を出しているんだから、学園生活が楽しいんだろうな。

 

「そういえば2年生は修学旅行の時期だったわね」

 

 部長は優雅に紅茶を飲みながら言う。

 

「部長と朱乃さんは去年どこに行ったんですか?」

 

 俺の質問に朱乃さんが答えてくれる。

 

「私たちも京都ですわよ。部長と一緒に金閣寺、銀閣寺と名所を回ったものですわ」

 

 部長がうなずきながら続ける。

 

「そうね。けれど、意外に3泊4日でもいける場所は限られてしまうわ。あなたたちも高望みせず、詳細な時間設定を先に決めてから行動したほうがいいわよ? 日程に見学内容と時間をキチンと入れておかないと痛い目に遭うわね。バスや地下鉄での移動が主になるでしょうけど、案外移動時間も時間がかかってしまうものだわ」

 

「移動時間まで把握しておかなかったのがいけませんでしたわね。部長ったら、これも見るあれも見るとやっていたら、最後に訪れる予定だった二条城にい行く時間がなくなってしまって、駅のホームで地団駄踏んでいましたわ」

 

 朱乃さんが小さく笑って言うと、部長は頬を赤らめた。

 

「もう、それは言わない約束でしょう? 私もはしゃぎすぎたわ。日本好きの私としては憧れの京都だったから、必要以上に町並みやお土産屋さんに目が行ってしまったの」

 

 思い出を楽しそうに語る部長。よっぽど京都が楽しかったんだろうな。

 

「修学旅行で訪れるまで京都へ行かなかったんですか? 移動は魔法陣ですればいいとおもいますし」

 

 俺がそう言うと、部長は人差し指をノンノンと左右に振った。

 

「わかってないわね、イッセー。修学旅行で初めて京都に行くからいいのよ? それに移動を魔法陣でするなんて野暮なことはしないわ。憧れの古都だからこそ、自分の足で回って、空気を肌で感じたかったの」

 

 ああ、部長のお目目が爛々と輝いていらっしゃる。部長って、日本的なことになると夢中になるよなぁ。

 

 そういや、アザゼル先生も修学旅行についてくるって言っていたし。

 

 カップのお茶を飲み干したあと、部長は話題を変える。

 

「旅行もいいけれど、そろそろ学園祭の出し物について話し合わないといけないわ」

 

「あー、学園祭も近かったですね。うちの高校って、体育際、修学旅行、学園祭は間が短くて連続でおこなうからな。そう考えると俺ら2年生は大変だ」

 

 そう、学園祭は旅行のあとにある。二学期は学校行事が多いもんな。

 

 部長は朱乃さんからプリントを受け取って、テーブルの上に置いた、どうやら、オカルト研究部の出し物をそれに書いて生徒会に提出するみたいだ。

 

「だからこそ、いまのうちに学園祭について相談して、準備しておかないと。先に決めてしまえば、あなたたちが旅行に言っている間に3年生と1年生で準備できるものね。今年はメンバーが多くて助かるわ」

 

 部長の言う通りだ。修学旅行も大事だけど、学園祭もがんばらないといけない!

 

「学園祭! 楽しみです!」

 

 楽しそうなアーシア。アーシアはこういうイベント好きだもんな。

 

「うん。私もハイスクールでの催しは楽しいぞ。体育際も最高だった」

 

「私もこういうの初めてだからたのしみだわ~。良い時期に転入したよね、私! これもミカエルさまのお導きだわ!」

 

 と、ゼノヴィアは瞳を爛々と輝かせ、イリナも点に祈るポーズでそう言った。教会トリオは学園祭を心底楽しみにしているようだ。

 

「そういえば――」

 

 去年のオカルト研究部ってお化け屋敷だったでしたよね? と言おうとしたところで、さきに気になっていたことを訊ねることに変えた。

 

「生徒会副会長の真羅先輩が、エイジの監視役ってことで修学旅行についてくるって本当なんですか?」

 

「――っ」

 

 俺の一言で部長と朱乃さんの表情が変わった。エイジもさすがに気まずそうな表情を浮かべていた。ざまあみろ!

 

 部長は悩ましげに息を吐いた。

 

「生徒会側からブラックリスト入りしているエイジに監視役をつけるって話を聞いたとき、本当は私と朱乃が一緒について行って監視する予定だったんだけど……」

 

 ま、マジで!? 部長と朱乃さんという両手に華だったと!?

 

「それだと頼りにならないし、身内だと処罰が甘くなるだろうと、却下されたんですよね」

 

 却下されてよかったな!

 

「ソーナは生徒会長で学園から離れなれないから、副会長の椿姫を監視としてつけることにしたの。他の生徒会の2年生メンバーの匙君たちもすでに修学旅行で仕事があったし、旅行を楽しんで欲しい。1年生では心もとないからってね」

 

「へぇ、そうなんですかぁ……」

 

 俺はエイジのほうをにらむ。にらまれたエイジはというと、話しには参加しないと膝に座ってお菓子をつまんでいる小猫ちゃんを撫でていた。

 

 クソゥ……、マスコットの小猫ちゃんまでいつの間にか手なずけやがって!

 

 いつかぶん殴ってやるからな!

 

 俺が殺意も込めてエイジをにらんでいると、俺たちのケータイが同時に鳴った。

 

 全員、それが何を意味しているのか知っているため、顔を見合わせていた。

 

 雰囲気を変えて、真剣な声音で言う。

 

「――行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある廃工場。

 

 そこに俺たちグレモリー眷属+イリナは訪れていた。

 

 すでに日は落ちていて、空は暗くなっていた。そしてその廃工場にはいくつもの神器所持者たちが怪我を負ったり、死体だったりと倒れていた。

 

 ここ連日、俺たちグレモリーの管轄で『禍の団』の英雄派の神器所有者が現れ、俺たちに戦いを挑んできているんだ。

 

 英雄派の神器所持者に俺たちを襲わせる行動は、イリナの考察によると、禁手化させるための経験値稼ぎや実験なんかに俺たちが利用されているのだと。

 

 何十人、何百人死のうと1人が禁手に至れればいいという狂った考え方だが、いまはそんなことよりも――。

 

「グルァアアッ! エイジ! 朱乃さんとデートなんてどういうことだぁあああ!」

 

 朱乃さんとエイジが明日デートするってなんでなんだよ!

 

「いや、これは結構前から決まっていたし、おまえに言われることでもなぁ……」

 

「そんなこたぁ関係ねぇえんだよ! どうしておまえばっかり!」

 

「おまえもアーシアとデートすればいいだろ……」

 

「――なっ!?」

 

 呆れるようにつぶやく、エイジ。そ、そんなことできるわけねぇだろ!?

 

 ていうか部長はいいの!? 結構嫉妬深い人なんじゃなかったけ?

 

 俺は部長の様子を覗き込んだが、普通にいつも通り朱乃さんと談笑していた! なんだこのドライな反応は!?

 

 ま、まさか……、一緒に住んでいるだけでエイジと部長は付き合っていないとか?

 

 俺とアーシアみたいな関係とか?

 

 まさか本当に!?

 

 いや、でも……。

 

 普通、付き合っているならこの反応はないよな?

 

 …………。

 

 ……エイジとは付き合っていない……、のか?

 

 それならまだ俺にチャンスがあるんじゃ……。

 

 エイジと朱乃さんのデートよりも、俺はそちらのほうが気になった。

 




 修学旅行についてくることになっちゃった真羅先輩!

 そもそも、修学旅行といシチュエーションで、異性交遊で規格外レベルの学園の問題児を野放しにするか?

 教師を監視に? 普通の人間では無理。

 アザゼル先生は? 人格的にダメでしょ。逆に問題起こしそう。

 2年の生徒会メンバーをつける。クラスも違うし、すでに仕事がある。それにせっかくの修学旅行だ。

 匙以外は女性だし、1年生の生徒会メンバーでは頼りにならない。

 オカルト研から監視を……。別の意味で頼りにならない。

 ソーナ自らは学園の生徒会長だし無理。

 なら副会長じゃね?

 3年生が1人ついてくることになっているけど、他よりはマシだし、裏の関係者で真面目タイプだし。

 オーフィスに狙われているエイジの護衛や連絡員にもなるからね。

 という感じて真羅先輩が加わりました~。
     


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放課後のラグナロク
第60話 北欧の主神オーディン来訪


<エイジ>

 

 

 朱乃さんとのデートを開始して1日が経過していた。そう、1日が。

 

 デートは先日の朝から始まってウインドウショッピングや映画、水族館とありふれた若者らしいデートだったが、夜、夕食を摂ったあと、自然とラブホテルへと行くながれになってしまってたのだ。

 

 そして現在は昼を軽く回ったところ……。

 

 完全に2人きりでのセックスだったし、デートあとということもあってか色々と燃え上がってしまって先ほどやっと起きたのだ。

 

 とりあえず、もうホテルから出なければ。お互い下着は昨日のものだが、他はデートで買った服に着替えてからホテルから出た。

 

 デートということでいつもよりもおしゃれして、ポニーテールからストレートヘアにしている朱乃が微笑みながら手をつないできた。

 

「うふふ、楽しかったですわね」

 

「ああ。久しぶりに朱乃とゆっくりできたな」

 

 手を恋人つなぎにして、さあ家に帰ろうとなったところである気配を感じ取った。そちらの方向へ顔を向けると、話しかけられた。

 

「久しいの。大勇者よ」

 

「オーディン?」

 

 現れたのは――北欧の主神、オーディンだった。帽子を被っていて随分とラフな格好をしている。背後にガタイの良い男性とシトリーとのレーティングゲームのあとに会ったことのある、パンツスーツを着込んだ真面目そうな美女を連れていた。

 

「ほっほっほ、北の国から遠路はるばる来たぞい」

 

「ど、どうして、ここに?」

 

 そうだ。どうして日本の町に来たんだ? 観光か? この爺さんの場合テロが頻繁に起こっていても無視しそうだし。と思っていたら、横から真面目そうなお姉さんが入ってくる。

 

「オーディンさま! こ、このような場所をうろうろされては困ります! か、神さまなのですから、キチンとなさってください!」

 

 この人、オーディンに結構苦労かけられているみたいだな。あと、鎧姿も綺麗だったけどその服装もナイスだよ!

 

「よいではないか、ロスヴァイセ。お主、勇者をもてなすヴァルキリーなんじゃから、こういう風景もよく見て覚えるんじゃな」

 

「どうせ、私は色気のないヴァルキリーですよ。セルベリアさんよりもおっぱいちいさいですよぉぉぉ」

 

 キミも十分大きいほうだからな。セルベリアの爆乳と比べるほうが間違っていると思うぞ……。

 

「あなたたち、さっきここから出てきたわね! ハイスクールの生徒なんでしょ? まだ早すぎるわ! お家に帰って勉強しなさい勉強」

 

 なんだか、ヴァルキリーのロスヴァイセに怒られてしまった。少し羨ましそうな視線がなかったらもう少し素直に反省できたんだが……。

 

 と、横を見れば朱乃さんがオーディンの付き添いらしいガタイの良い男性に詰め寄られていた。

 

「……あ、あなたは」

 

 朱乃さんは目を見開いて、驚いている。見覚えのある人? 堕天使のようだけど……、まさか――。

 

「朱乃、これはどういうことだ?」

 

 男性のほうはキレ気味だ。声音に怒気が含まれている。結構な迫力だな。

 

「……か、関係ないでしょ! そ、それよりもどうしてあなたがここにいるのよ!」

 

 朱乃さんは目つきを鋭くして、にらみ付けていた。先ほどまでのラブってた雰囲気はない。つないでいる手が力が入っている。

 

「それはいまどうでもいい! 先ほどこの建物のなかから出て来たな? ……な、なな、何をやっていたんだ?」

 

 朱乃さんのほうへ飛ばすと見せかけて、俺のほうへと全力で殺気を飛ばしてくる。

 

「なんだっていいでしょ! あなたには関係ないことよ!」

 

 大声で叫ぶ朱乃さん。予想は出来ているけど……訊ねる。

 

「あなたは?」

 

「……今日はオーディン殿の護衛として来ている。堕天使組織グリゴリ幹部、バラキエルだ。――姫島朱乃の父親でもある」

 

 ……やっぱり朱乃さんのお父さんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほっほっほ、というわけで訪日したぞい」

 

 兵藤家の最上階に設けたVIPルームでオーディンが楽しそうに笑っていた。

 

 なんでも日本に用事があって、そのついでにこの町へ来たようだ。下手なところよりも悪魔、天使、堕天使、3大勢力の協力態勢が強く、俺と黒歌たちがいるこの町にいたほうが安全みたいだ。

 

 俺の家にはVIPルームとかないし、隣で集まりやすいって理由で兵藤家に集まったわけだが、すごいことになってるな、兵藤家。少し前まで完全な一般人だったのに、いまでは神さままで訪れちゃうなんてさ。

 

 兵藤家にはグレモリー眷属と俺の眷属扱いの黒歌たちも全員集合している。アザゼルも久しぶりに顔を出していた。

 

 あのあと、俺と朱乃さんはリアスたちと合流し、イッセーに連絡してからそのまま兵藤家に連れて帰ってきたのだ。朱乃さんはお父さんの登場に当惑していて、不機嫌になってしまっていた。いまもあまり前に出ず、ニコニコ笑顔すら止めていた。

 

 朱乃さんのお父さん――バラキエルもこの場にいるけど、朱乃さんは視線すらも交わさない。無視しようとしていた。……お父さんとの確執は根深いようだ。

 

 堕天使バラキエル。賞金稼ぎだし、聞いたことはある名前だった。武人気質で堅物。アザゼルと肩を並べるほどの実力者だという話で、一発の攻撃力なら堕天使随一だそうだ。

 

「どうぞ、お茶です」

 

 レイナーレがオーディンに対応していた。すごいね。もはや完璧なメイドさんだよ。家事も戦闘補助もなんでもござれのハイスペックメイドさんだよ。

 

「かまわんでいいぞい。しかし、相変わらずセルベリアは爆乳だのう」

 

「オーディンさまも相変わらずですね」

 

 呆れたようにつぶやくセルベリアに、うんうんとロスヴァイセもうなずいていた。

 

「おお、もちろんお主もな。そっちもデカいのぅ。ほっほっほ、眼福じゃ」

 

 このスケベジジイ……。リアスと朱乃に黒歌と交互に厭らしい目で見るなよな。あとノエル、君はそのスタイルでも充分綺麗だから、何もない胸の前で手をスカスカさせないでくれ。切なくなるから。

 

「もう! オーディンさまったら、厭らしい目線を送っちゃダメです! こちらは魔王ルシファーさまの妹君なんですよ!」

 

 ロスヴァイセがオーディンの頭をハリセンで叩いた。この前のリアスといい、どこから出しているんだ? ハリセン。

 

「まったく、堅いのぉ。サーゼクスの妹といえばべっぴんでグラマーじゃからな、そりゃ、ワシだって乳ぐらいまた見たくもなるわい。と、こやつはわしのお付ヴァルキリー。名は――」

 

「ロスヴァイセと申します。日本にいる間、お世話になります。以後、お見知りおきを」

 

 オーディンの紹介でロスヴァイゼがあいさつしてくれた。こいつも美人だよな。年は俺より2、3上ぐらいか?

 

「彼氏いない歴=年齢の生娘ヴァルキリーじゃ」

 

 オーディンが厭らしい顔つきで追加情報をくれる。ロスヴァイセは酷く狼狽しだした。

 

「そ、そ、それは関係ないじゃないですかぁぁぁぁっ! わ、私だって、好きでいままで彼氏ができなかったわけじゃないんですからね! 好きで処女なわけじゃなぁぁぁぁいっ! うぅぅっ!」

 

 あー、その場にくずれおれて、床を叩きだしたぞ。セルベリアが慰めるように背中をさすっていた。

 

「まあ、戦乙女の業界も厳しいんじゃよ。器量よしでもなかなか芽吹かない者も多いからのぉ。最近では英雄や勇者の数も減ったもんでな、経費削減でヴァルキリー部署が縮小傾向での、こやつもわしもお付になるまで職場の隅にいたのじゃよ」

 

 オーディンはうんうんうなずきながら言う。そういえば俺が北欧に行ったときもそうだったな。

 

「爺さんが日本にいる間、俺たちで護衛することになっている。バラキエルは堕天使側のバックアップ要員だ。俺も最近忙しくて、ここにいられるのも限られているからな。その間、俺の代わりにバラキエルが見てくれるだろう」

 

「よろしく頼む」

 

 と、言葉少なにバラキエルがあいさつをくれた。

 

 俺たちはオーディンの護衛なのか……。

 

「爺さん、来日するにはちょっと早すぎたんじゃないか? 俺が聞いていた日程はもう少し先だったはずだが。今回来日の主目的は日本の神々と話をつけたいからだろう? ミカエルとサーゼクスが仲介で、俺が会議に同席――と」

 

 アザゼルが茶を飲みつつ訊いた。

 

「まあの。それと我が国の内情で少々厄介事……というよりも厄介なもんにわしのやり方を批難されておってな。ことを起こされる前に早めに行動しておこうと思ってのぉ。日本の神々といくつか話をしておきたいんじゃよ。いままで閉鎖的にやっとって交流すらなかったからのぉ」

 

 オーディンは長い白ヒゲをさすりながら嘆息していた。どこも色々と厄介事を抱えているんだな。

 

「厄介事って、ヴァン神族にでも狙われたクチか? お願いだから『神々の黄昏(ラグナロク)』を勝手に起こさないでくれよ、爺さん」

 

 アザゼルは皮肉げに笑っていた。

 

「ヴァン神族はどうでもいいんじゃが……。ま、この話をしていても仕方ないの。それよりもアザゼル坊。どうも『禍の団』は禁手化できる使い手を増やしておるようじゃな。怖いのぉ。あれは稀有な現象と聞いたんじゃが?」

 

 ――っ。

 

 俺たち眷属は皆驚いて顔を見合わせていた。やっぱり各勢力に神器所有者をぶつけていたのは禁手化させるためだったのか。

 

「ああ、レアだぜ。だが、どっかのバカがてっとり早く、それでいて怖ろしくわかりやすい強引な方法でレアな現象を乱発させようとしているのさ。それは神器に詳しいものなら一度は思いつくが、実行するとなると各方面から批判されるためにやらなかったことだ。成功しても失敗しても大批判確定だからな」

 

「なんですか、その方法って」

 

 イッセーの問いかけにアザゼルは丁寧に答える。

 

「リアスの報告書でおおむね合っている。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる作戦だよ。まず、世界中から神器を持つ人間を無理矢理かき集める。ほとんど拉致だ。そして、洗脳。次に強者が集う場所――超常の存在が住まう重要拠点に神器を持つ者を送る。それを禁手に至る者が現れるまで続けることさ。至ったら、強制的に魔法陣で帰還させる。おまえらの対峙した神器使いが逃げたのも禁手に至ったか、至りかけていたからだろう」

 

 そういえば、襲ってきた神器所持者で影を操る神器使いが途中で逃げていたな。

 

 アザゼルは続ける。

 

「これらのことはどの勢力も、思いついたとしても実際にやれはしない。仮に協定を結ぶ前の俺が悪魔と天使の拠点に向って同じことをすれば批判を受けると共に戦争開始の秒読み段階に発展する。自分たちはそれを望んでいなかった。だが、奴らはテロリストだからこそそれをやりやがったのさ」

 

 神器を持った人間をそんな目に遭わせたら、各方面から批判がくるのも当然だろうな。

 

 アザゼルの説明でイッセーが何か言いたそうな表情を浮かべた。アザゼルもイッセーに気づいたようだ。

 

「自分はそのような目に遭って禁手化に至りましたけどって訴えかけるような顔だな、イッセー」

 

「そりゃそうですよ、先生」

 

「だが、おまえは悪魔だ。人間より頑丈なんだぜ?」

 

「それでも死にかけました!」

 

「あー、まあ、おまえだから別にいいんだよ」

 

「あーっ! それでまた片付けるぅぅぅっ! 酷いよ、先生!」

 

 泣き叫ぶイッセー。最終的に禁手化できたのは小猫ちゃんのおかげだろうけど、言わない。……全冥界放送で乳首をつつかれたところを放送されて泣いた小猫ちゃんのために……。

 

「どちらにしろ、人間をそんな方法で拉致、洗脳して禁手にさせるってのはテロリスト集団『禍の団』ならではの行動ってわけだ」

 

「それをやっている連中はどういう輩なんですか?」

 

 イッセーの問いにアザゼルが続ける。

 

「英雄派の正メンバーは伝説の勇者や英雄さまの子孫が集まっていらっしゃる。身体能力は天使や悪魔にひけを取らないだろう。さらに神器や伝説の武具を所有。その上、神器が禁手に至っている上に、神をも倒せる力を持つ神滅具だと倍プッシュなんてもんじゃすまなくなるわけだ。報告では、英雄派はオーフィスの蛇に手を出さない傾向が強いようだから、底上げに関してはまだわからんが」

 

「禁手使いを増やして何をしでかすか、それが問題じゃの」

 

 オーディンは特別深刻そうな顔でもなく、普通に茶を飲みながら言った。まあ、スケベジジイでも北欧の主神さまだし、普通の奴よりも剛胆だろう。

 

「まあ、調査中の事柄だ、ここでどうこう言っても始まらん。爺さん、どこか行きたいとこはあるか?」

 

 アザゼルがオーディンに訊くと、オーディンは厭らしい顔つきで両手の五指をわしゃわしゃさせた。

 

「おっぱいパブに行きたいのぉ!」

 

「ハッハッ、見るところが違いますな、主神どの! よっしゃ、いっちょそこまで行きますか! 前にエイジから色々な風俗店のマップも貰ってるし、俺んところの若い娘っこどももこの町でVIP用の店を最近開いたからな。まずはそこに招待しちゃうぜ!」

 

「うほほほほっ! さっすが、アザゼル坊じゃ! わかっとるのぉ! でっかい胸のをしこたま用意しておくれ! たくさんもむぞい!」

 

「ついてこいクソジジイ! おいでませ、和の国日本! 着物の帯をくるくるするか? あれは日本に来たら一度はやっておくべきだぞ! 和の心を教えてやるぜ!」

 

「たまらんのー、たまらんのー」

 

 2人は盛り上がって、部屋を早々と退散していった。このエロ総督とスケベ爺さんが本当に、堕天使の総督と北欧の主神なんだよな……。

 

 リアスも額に手をやって、眉をしかめていた。

 

「オーディンさま! わ、私もついていきます!」

 

 ロスヴァイセが追っていったけど、

 

「おまえは残っとれ。アザゼルがいれば問題あるまい。それよりもセルベリアにでも男の落とし方でも習っとれ」

 

「――うぐっ! だ、ダメです! 私も行きます!」

 

 などというやり取りを廊下でしていたようだが、そのまま付いていったようだ。

 

 部屋に残された俺たち眷属とバラキエルは同時にため息をついていた。ちなみに黒歌たちは笑っていました。あんまり関係ないからって酷い……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朱乃、おまえと話し合いをしたいのだ」

 

「気安く名前を呼ばないで」

 

 兵藤家から自宅に帰ろうと階段を下りていると途中で、朱乃さんの姿が見えなかったから探しに来てみたら、5階の廊下で朱乃さんとバラキエルが何やらもめていた。

 

「……黒い捕食者と逢引していたとはどういうことだ?」

 

「私の勝手でしょ。なぜ、あなたにそれをとやかく言われるのかしら?」

 

 朱乃さんの声はいままで聞いたことのないほど冷たく鋭い。顔もニコニコフェイスではなく、不機嫌なものだった。

 

 盗み聞きするのは失礼だろうけど、俺が関わっていそうだし、ここまで来たら去るのは無理だ。

 

「噂は聞いている。なんでも幼い女から年のいった女まで、どんな相手とも寝る破廉恥な男だと。それにインキュバスだと。インキュバスは絶滅する前までは、世界でサキュバスと合わせて1、2位を争うほど破廉恥な種族だといわれていたんだぞ」

 

「確かに悪魔の仕事とかでそういう仕事も多くしているし、エッチだし、インキュバスだけど。女性に対してエイジは誠実よ」

 

 …………。

 

「心配なのだよ。おまえが……卑猥な目に遭っているのではないかと」

 

 娘を心配する父親。……タンニーンのときを思い出すな。バラキエルは悪い奴に見えないが朱乃さんといったい何があったんだろう……。

 

「それがどうしたの、あなたに何の関係あるのよ」

 

「わ、私は父として――」

 

 そこまで言いかけたバラキエルに朱乃さんは言い放った。

 

「父親顔しないでよっ! だったら、どうしてあのとき来てくれなかったの!? 母さまを見殺しにしたのはあなたじゃない!」

 

「…………」

 

 その一言にバラキエルは黙ってしまった。ここまでだな。ワザと見つかるように物陰から顔をだす。

 

「エイジ。……聞いていたの?」

 

 くん(・・)は付けないんですね。いつもと違って全然余裕がないんだろう。

 

「はい、すみません」

 

 朱乃さんに素直に謝る。そのときバラキエルが俺を見て激怒した。

 

「ぬっ! 破廉恥な! 男が盗み聞きなどと! おまえのような破廉恥悪魔と娘の交際は断じて認めん! 認めんぞ!」

 

 おおう……、破廉恥悪魔ときたよ。事実だけど、少し傷つく……。

 

 バチッ! バチッ!

 

 バラキエルは手に雷光を走らせる。

 

 ……ヤバいな。堕天使の幹部であるこいつの雷光よりも、朱乃さんの雷光のほうが密度もあって殺傷力がありそうだ。鍛えすぎたのか?

 

 バッ。

 

 朱乃さんが俺とバラキエルの間に入り、そして俺を庇うように抱きしめた。

 

「彼に触らないで。私からこの人を取らないでください。いまの私には彼が必要なのよ……。だから、ここから消えて! あなたなんて私の父親なんかじゃない!」

 

 ……朱乃さんの叫び。それを聞き、バラキエルは雷光を止め、瞑目して言った。

 

「……すまん」

 

 言葉少なにそれだけ謝ると、この場を去っていく。あれほどの立派なガタイを人の背中が……少しだけ寂しそうだった。

 

「朱乃……」

 

 俺をぎゅっと抱きしめる朱乃さん。何とも言えない感情を含んでいるようだった。

 

「お願い。何も言わないで。……少しの間、このままで。お願い、エイジ……」

 

 その声は涙で震えていた。

 

 ……親子の間に何があったかわからないけど……。

 

 俺は朱乃さんをやさしく抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 オーディンの爺さんが訪日した次の日。俺たちはグレモリー眷属はグレモリー家主催で冥界のイベントに主役として参加していた。

 

「はい、ありがとう」

 

 握手とサイン会だった。

 

 俺たちの前に長蛇の列ができ、子供一人一人にサイン色紙を渡して、握手をしていく。

 

 子供たちは俺の汚い悪魔文字で書いたサインをうれしそうに受け取り、握手をしてあげると満面の笑みで、

 

「おっぱいドラゴン! がんばってね!」

 

 って、声をかけてくれるんだ。

 

 その光景を見ているだけで、俺は鎧のなかで男泣きしていた。

 

 くっそぉぉぉぉおおっ! むちゃくちゃうれしいじゃねぇか!

 

 俺、この子たちのためにおっぱいドラゴンやっていくよ!

 

『ふははははは……、おっぱいドラゴン。……俺は、おっぱいドラゴン……』

 

 ど、ドライグ……。

 

『もうどうでもいいさ。俺は乳龍帝ドライグで、おまえも乳龍帝……。ふははははは……』

 

 完全な精神病患者となってしまったドライグ。ゴメン、ドライグ! エロいのは止められないし、おっぱい大好きなんだ!

 

『別にいいさ、相棒。これはこれで面白いから。……ふは、ふははははは……」

 

 力なく笑いだすドライグ。そろそろお薬の時間だから頑張って!

 

 子供たちに対応しながら周りを見てみると、木場のところに女の子がすっげー並んでいた。う、うらやましいぃぃぃぃっ!

 

 木場も番組内で敵役の『ダークネスナイト・ファング』となっていた。格好も適幹部の凛々しい鎧姿だ。

 

 俺は本来あれをのぞんでいたんじゃないのか! 子供の絶大な支持に最初の思惑が消えてしまったけど、俺が掴み取りたかった現実を木場が手にしていた。

 

 いいもん! 俺はどうせおっぱいドラゴンさ!

 

 かわいらしい獣ルックの衣装を着る小猫ちゃんのところには大きなお友たちがたくさん。

 

 小猫ちゃんも『ヘルキャットちゃん』としておっぱいドラゴン味方役になっていた。小猫ちゃん、嫌がらずにていねいに対応してる。

 

 プロだ! 小猫ちゃんにプロ魂を見た! 最新話でピンチとなった乳龍帝におっぱいつつかれるっていう、シトリー戦の一部映像を差し替えた話があったときはボコボコにされたけど、いまは完全に大人な対応を見せている!

 

 ……さて、そろそろ目を背けるのは止めるか。

 

 俺は視線をエイジと部長のほうへ向ける。うん……。俺の列の3倍以上の長さの行列……。

 

 この特撮、俺が主役なんだよなぁぁぁああ!?

 

 なんだこの差は!?

 

 確かに子共たちは俺のほうが断然多いけど! 子供向け特撮の主人公としていいんだろうけども!

 

 エイジの列はほとんど女性悪魔さんたちで、俺が欲しかった美人ママさん人気だけじゃなく、幼い女の子までって……。

 

 俺の1番の理想系を体現しているじゃないか!

 

 よく見ると俺の列に並んでいる子供も、男の子の割合が圧倒的に多いし!

 

 ちなみに部長は男性7割、女性3割の行列だった。この人も冥界の人気者だということを改めて知りました。

 

 高速でサインをして次々に笑顔で対応していくエイジと、同じく笑顔で対応する部長を横目で見ながら、俺も子供たちに対応していった。

 

 サイン会もひと通りこなし、俺たちは楽屋のテントへと戻っていった。

 

 あー、ちかれた。俺も鎧を解除して、素の状態に戻っている。

 

 エイジと部長も戻ってきたが、疲労困憊と机に突っ伏していた。

 

 部長大丈夫かな? エイジはどうでもいいけど。

 

 そこへスタッフがエイジに近づいていく。

 

「エイジさま。お疲れさまですわ」

 

 エイジにタオルを持って行ったのは――縦ロールヘアのお嬢さまでライザーの妹、レイヴェル・フェニックスだった。

 

「あ、レイヴェル。ありがとう」

 

 礼を言ってレイヴェルからタオルを受け取り、エイジは汗を拭いた。

 

 レイヴェルは俺たちが冥界でイベントすると聞きアシスタントとして、協力してくれていた。

 

「こ、これも修行の一環ですわ! それに冥界の子供たちに夢を与える立派なお仕事だと思えるからこそ、お手伝いをしているのです! べ、別にエイジさまやグレモリー眷属のためってわけじゃありませんわ!」

 

 などというが、結構真剣に仕事をしてくれていた。

 

 最初であった頃は高飛車で、人を小馬鹿にするいけ好かないお嬢さんだと思ったけど、いまは誰とでも普通に話している。

 

 ……いや、エイジにはツンデレみたいな態度を取ったりしていたな。まさかこいつもエイジ狙い!?

 

 俺がそんなことを考えていると、部長が時計を見て言った。

 

「皆、そろそろ人間界に帰還する時間よ」

 

「あー、そうでした。今日はこのあと、オーディンの爺さんの護衛だった」

 

 あのクソジジイ、来日してから無茶な注文ばかりしてきやがってさ。おっぱいパブには行くわ、道ばたを歩いている姉ちゃんをナンパするではやりたい放題!

 

 一度、あの頭をロスヴァイセさんみたいにハリセンで叩きたいぜ!

 

「そう、早く戻らないといけないわ。レイヴェルもお疲れさま。今日はありがとう」

 

「い、いえ、勉強のためですから」

 

 部長のお礼の一言にレイヴェルも頬を赤く染めていた。

 

「じゃあ、また今度な」

 

 席から立ち上がったエイジはレイヴェルにそう微笑んだ。

 

「は、はい! イベントのときは呼んでください。わ、私でよろしければなんでもお手伝いしますから」

 

「ありがとう、レイヴェル」

 

「い、いえ……」

 

 部長のときよりも頬を赤らめてうれしそうなレイヴェル。クソゥゥゥ! 完全にエイジ狙いだろ、こいつ!

 

 このあとすぐに、俺たちは人間界へ帰っていった。

 

 握手イベント、またやりたいが、エイジと木場の2人と一緒は嫌だ! 女性人気が全部持っていかれる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冥界でのイベントを終え、オーディンの爺さんの日本観光に付き合わされたあと、エイジを除く、俺と木場とギャスパーの男組みは戦闘訓練をしていた。

 

 ゴウゥゥゥゥゥゥッ!

 

 禁手状態の俺が背中の魔力噴出口から火を噴かして、ジグザグに神速で木場を追う。

 

 木場の『騎士』としての脚は俺を超えている。だけど――。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 倍加して、瞬間的なダッシュ力を一気に高めれば直線では抜ける!

 

 背中のブースとが大出力で噴きだし、木場との距離を一気に詰めた!

 

 ギィィィィンッ!

 

 木場が聖魔剣を振るい、俺はアスカロンを出現させて、それを受け止める。

 

 ギィン! ギィン! ギィィィィンッ!

 

 お互い、高速で移動しながら縦横無尽に動き回る。その間、一瞬の隙も見せずに剣を振るった。

 

 ……クソッ。剣じゃ、分が悪い。徐々に押されていき、木場の刃が俺の鎧に届くようになってきていた。

 

 聖魔剣のスピードがどんどん上がってる! 切っ先なんて俺の胴体視力じゃ、捉えきれなくなってきた。木場がトップスピードに入ったら一気に攻め込まれるだろう。

 

 ――懐に飛び込んでの肉弾戦しかない!

 

 ゴウッ!

 

 俺は背中のブーストを一瞬だけ大きく噴かせて、木場の懐に入り込んだ!

 

 ショートレンジからのボディーブロー! 木場は俺と違って生身だ。防御力に関しては圧倒的にこちらが上。攻撃力もこちらのほうが上。当たれば勝機は増える!

 

 だが――。

 

 ガキャンッ!

 

 金属が殴打される音が響いた。木場は剣の柄頭をボーリングの球のように膨れ上がらせて、俺の兜を横殴りにしてきたんだ。

 

 俺のブローを察知していたのか、木場はカウンターを打ってきやがった!

 

 ……頭を打たれたせいか、一瞬意識が視界がぐにゃりと歪んだ……。脳を揺らされた。

 

 直接的な攻撃を加えられないなら、中身を刺激するってか。

 

 このまま2撃目を食らうわけにはいかないので、すぐにその場を離れようと後退しようとしたんだが――。

 

 俺は足元を凍らされて、地面と繋がってしまっていた。

 

「――氷の聖魔剣だよ」

 

 木場の手に氷で出来ている剣が握られていた。これじゃ、足が封じられて、逃げられない!

 

 バチッ! バチッ!

 

 さらにもう1本、反対の手には電気を帯びる聖魔剣が――。

 

 雷の聖魔剣か! あれを使って俺を内部から感電させる気か!

 

 くっ、回避不可能か! なら――。

 

 バチッ! バチバチッ!

 

「――くぅっ!」

 

「――なっ」

 

 驚いた木場の顔。当然だろう。電撃を受け止めたんだから。がぁああっ! 超いてぇえええっ! だけど――。

 

「隙あり!」

 

 まさか電撃を正面から受けるとは予想していなかっただろう。完全に無防備になっている木場のどてっ腹に、俺は力を込めたブローを打ち込もうとする!

 

 タイミングはバッチリ! 逃げられないと勝利を確信していたら、木場は右足の先から刃を生えさせて、蹴りを放とうとしていた! そんなところにも剣を作れるのか!

 

 俺のブロー、木場の足の聖魔剣が交差しようとした瞬間、けたたましい音が鳴り響いた。

 

「そ、そこまでですぅ! 制限時間がきましたぁ! ス、ストップですよぉぉ!」

 

 ギャスパーが大きなベルを持って、ぴょんぴょん跳ねていた。

 

 俺と木場はお互いすんでの位置で攻撃を止めていた。こちらのほうが出は速かったけど、電撃のダメージがこちらの攻撃を遅らせ、ほとんど同士討ちの状態にしてしまったようだ。

 

 模擬戦は時間制限を設けている。俺と木場はお互い苦笑しながら手を引いていった。

 

 今日は引き分けか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たまにイッセーくんの練習量についていけないときがあるよ」

 

 練習後、スポーツ飲料をあおりながら木場はそう笑っていた。

 

 模擬戦のあとはお互い各々の方法で自主トレだ。

 

 木場は休憩。ギャスパーは空中を飛び回る謎の小型ロボットを目で停める練習ロボットは先生が作ったギャスパー専用の練習アイテムだ。

 

 俺は鎧を解除してスクワットをしながら、木場の言葉に苦笑していた。

 

 俺自身、ディオドラとの戦いで何かが変わったような気がする。

 

 前よりも禁手化できる時間が延びだし、倍加できる回数も増えたからな。

 

「でも、まだまだだ。俺のライバルである白龍皇のヴァーリは『覇龍』とかいう、禁手よりもすごい力が得られる技も習得できてるそうだし。まあ、俺自身対価しだいでは『覇龍』が使えるそうだけど、対価はとんでもなく大きいし、その場限りで使えない。だから俺は――違う方法で強くなる。才能がないなら努力で埋めりゃいいし、魔力が足りないなら体力で補えばいい。俺は諦めないよ。サイラオーグさんだって、そうやって次期当主の座を手に入れたっていうじゃねぇか。先駆者がいるなら、俺はさらにがんばれるさ」

 

 そう、それに目標だって近くにいるんだ。あいつを目指すならこの程度の修行でも足りないと思う。

 

 子供たちのヒーロー役でもあるんだしね。格好悪いところを子供たちに見せたくないんだ。

 

「けどよ、スピードじゃ、おまえに勝てないよな、木場」

 

 俺がそう言うと、木場は首を横に振る。

 

「背中のブーストを噴かしての瞬間的なダッシュでは僕に引けを取らないよ」

 

「直線はな。直線で詰めてもおまえ、大概避けるじゃねぇか。やっぱ、おまえみたいに高速でジグザグに動けるようにしないといけないんだろうけど、背中のブーストはまだ使いこなせていないからなぁ。現状じゃ、真っ直ぐしかできないや」

 

「慣れるしかないだろうね。でも、パワーでは僕を圧倒的に上回っているよ。それに赤龍帝を相手にするって、相当なプレッシャーだからパンチが飛んでくるたびに肝が冷える。命が何個あっても足りないよ」

 

 そりゃどうも。でも当たるまでが長いんだ。木場はカウンターを混ぜてくるから、どこで攻めていいか、迷うからね。

 

 最近、俺と木場とギャスパーはアザゼル先生とサーゼクスさまが作ってくれた頑丈なバトルフィールドで修行していた。冥界グレモリー領のとある地下に作ったものだ。

 

 俺と木場とギャスパーじゃ能力上、普通のばしょでは思いっきり修行できない。本気になったら、風景吹っ飛ばしたり、周囲を剣だらけにしちまうからな。

 

 トレーニングできる空間は家の地下にもあったけど、強度が足りなくて使用できなかったんだよな。

 

 そこへお2方からのプレゼント!

 

 前回、ディオドラの件で活躍したご褒美らしい。

 

 家から専用の魔法陣でジャンプして、ここへ来ている。かなり特殊な作りだから、テロリストに気取られることはないようだ。

 

 ゲームに参加する上級悪魔なら、似たような場所を持っているようで、若手悪魔の俺たちは特例という形でいただいていた。

 

 この特例は若手のなかでは俺たちと――サイラオーグさんのチームだけらしい。

 

 だけどここって普段は俺たちぐらいしか使わないんだよな。

 

 エイジの奴は自分自身で空間術とかいう技を使って仮想フィールドを作れるらしく、ウチみたいに元から地下にあった訓練用の部屋を自分たちで弄って修行しやすい空間にしているそうなんだ。エイジたちは近いし、使い慣れたところだから、基本はそっちで修行して、合同練習の時は皆でこっちのフィールドでするっていうのがいまの形だからな。

 

 エイジは部長たちや黒歌さんたちと修行。羨ましい気もしないではない――いや、めちゃくちゃうらやましい!

 

 ――んだけど、最近エイジの奴、忙しいらしいんだよな。

 

 部長たちも、修行は自主トレや黒歌さんたちとの模擬戦とかで、エイジ自身も自分の修行だけでいっぱいいっぱいだそうなんだ。

 

 ちなみに忙しい理由ってのは、悪魔の仕事が多いから。なんでも素性がバレてからどんどん悪魔の依頼が増えていて、グレモリー家側が稼げるうちに稼ごうと、エイジを働かせているそうなんだ。

 

 だからエイジはオーディンの爺さんの護衛もしながら、悪魔の仕事を請け負っている。

 

 とんでもなく忙しいそうだが、それでもうらやましいっ! 俺の変態相手の契約とは違って、あいつのは契約のほとんどはエッチなものばっかりだし!

 

 俺もインキュバスに転生したかったと、悪魔の契約で変態の相手をするたびに毎回思う……。

 

 い、いや、それを考えても仕方がないだろ!

 

 いまは俺自身のレベルアップが先決だ!

 

 先決なんだけど――。

 

「俺たち、強くなっているよな……?」

 

 俺はスクワットしながら木場に訊く。

 

「もちろん。部長や朱乃さん、ゼノヴィアに大分差をつけられているけど、僕たちの実力も確実に上がっているよ。もう並みの上級悪魔なら圧倒できるぐらいまでにはね。でも、油断はいけない」

 

「ああ、俺とおまえの能力は広く知られているし、対処されやすいんだよな」

 

 俺の弱点は変身前に強力な攻撃に対処できないのと、倍加能力が発動すると体を覆うオーラが一気に弾けるから、パワーの増大が傍から見るとすぐに察知させられてしまう点だ。

 

 木場の弱点は生身のため防御力があまり高くない点と、脚だ。脚は木場の長所でもあるけど、短所でもある。脚を狙われたらアウトなんだ。

 

 それにしても――。

 

「部長たちに随分と差をつけられたな~」

 

「そうだね。夏休み前までだったら、上級悪魔の枠組みのなかにいたけど、いまの部長たちの実力は最上級悪魔に近いレベルだよ。仙術を習得した小猫ちゃんも上級悪魔レベルぐらいの実力はあると思うよ」

 

「最上級悪魔……」

 

 タンニーンのおっさんクラスの実力者ってことなんだよな。改めて木場の口から訊かされると、部長たちとの差を強く感じる。

 

「部長や朱乃さん、ゼノヴィアは元々才能があって、女性限定だけど、凄腕トレーナーのエイジくんが鍛えたんだし、小猫ちゃんもお姉さんで元SSランクのはぐれ悪魔、仙術のエキスパートでもある黒歌さんが直々に鍛えたそうだし――」

 

 木場は苦笑しながら続ける。

 

「部長たちの修行はほんとうに厳しくて、骨とかが折れたりと大きな怪我を負ったり、魔力が空になるまで消費させられたり、修行中ずっと負荷をかけたままだったりして毎回指1本動かせなくなるぐらいまで追い込んだ上で、アーシアの回復系神器は修行で培った筋力や魔力を元に戻すからって使用不可能らしいからね。そんな地獄のような特訓を受けたら嫌でも強くなるだろうし、短期での強化も納得できるんだよね」

 

「地獄の特訓かぁ……。俺たちは参加出来ないんだったよな?」

 

「うん。エイジくんは仙術と陰陽道って、男性と女性の陽と陰の気を循環させて相手を回復させる術と、特別なマッサージを併合して、相手の体の歪みを整え、自己治癒能力を引き上げさせて回復させる術は女性にしか使用できない能力だからね。僕らだったら――」

 

「骨を折られても、大怪我しても、動けなくなってもアーシアの神器は使用禁止で、自分の力だけで回復しなきゃいけなくなるんだろ。しかも、自己治癒能力だけで」

 

 木場の言葉に続けて言うと、木場は苦笑しながらうなずいた。強くなれるっていっても、大怪我を負ったり、極限まで疲労してるのに、すぐに治癒できないんじゃ修行どころじゃないからな。俺たちには部長たちと同じ修行は無理ってことだ。

 

 それにしても、陰陽道かぁ~……、女性と男性の気を混ぜ合わせて回復させる仙術ねぇ。

 

「それって黒歌さんや小猫ちゃんとかはできねぇの?」

 

 仙術を操る妖怪らしいし、異性だし陰陽道ってのができるんじゃね?

 

 木場は首を横に振った。

 

「前に訊いたけど出来ないそうだよ。確かに仙術のエキスパートで小猫ちゃんよりも成熟した黒歌さんなら、陰陽道を使って生命力を回復させることはできるそうだけど、大怪我は治せないんだって。エイジくんの場合は魔法みたいな特別なマッサージと仙術を合わせているからこそ、大怪我を負っても、極限まで疲労していても、24時間以内には治癒できるそうなんだ」

 

 美少女の小猫ちゃんや、巨乳で美人さんの黒歌さんにマッサージしてもらえると思ったのに……。

 

「俺たちも部長たちみたいな特訓が出来ればなぁ」

 

「まあまあ、部長たちも楽して強くなってるわけじゃない、というか、僕たちよりもすごく厳しい修行を積んでいるんだし、僕たちは僕たちで強くなるための修行をしようよ」

 

「…………。そうだな。腐っててもしょうがねぇし、成長していないわけじゃないんだもんな!」

 

 スクワットから腕立て伏せに移る俺に、木場は言う。

 

「それに部長たちから学ぶことも多いと思うよ」

 

「へ?」

 

「イッセーくんの戦い方だけど、ゼノヴィアのが特に参考になると思うよ」

 

「ゼノヴィアの戦い方……。確かにディオドラからアーシアを助けたときとか、シャルバって奴と戦ってるときの戦い方はすごかったな」

 

 ディオドラの事件での最後の戦闘を思いだす。あのときのゼノヴィアは、禁手化した俺や『騎士』の木場と同じぐらいの速度で動けていたと思う。

 

「長い距離でみれば僕たちのほうが早いだろうけど、短い距離での速度では僕たちよりおそらくゼノヴィアのほうが速いと思うよ」

 

「マジで!?」

 

 ジェットを噴かせた俺や、『騎士』の木場よりも早いの!?

 

 驚く俺に、木場はうなずいた。

 

「うん。ゼノヴィアは『戦車』の特徴であるバカげた攻撃力と防御力を移動にも使っているからね。それに魔術も覚えて、移動する際に足場が崩れて力が分散しないように、同時に足場を強化してダッシュしやすくしたり、魔術で身体能力も底上げしているから瞬発力はものすごいよ」

 

 ゼノヴィア、魔術も覚えたのかよ……。

 

「そ、そういえば、部長も朱乃さんもすっごく強くなってましたよね」

 

 ギャスパーの言葉に木場は再びうなずく。

 

「そうだね。部長は魔力量も増えて、滅びの魔力の威力も上がって、さらにその滅びの魔力を圧縮して矢として打ちだせるまでのコントロールを得ていたし、エイジくん特製の武器の力だけじゃなく、王としての堂々とした風格と、どんな事態にも対処できるように精神的にも成長していたね。朱乃さんも魔力量も増えて、雷光の槍を使っての槍術の腕も見事だったし、その雷光の槍を空中に留めたまま、自由に射出したり、まだ新装備とかいう武器も持っているそうだからね。総合値の面でも強化されているから、ほんとうに僕らよりも強くなっているよ」

 

「あ、改めて説明されると、部長たちってほんとうに強くなっちゃったことがわかりますね」

 

 ギャスパーは驚きつつも、感心しているような表情でつぶやいていた。

 

「…………」

 

 …………そうなんだよな。

 

 アーシアを……、部長たちも眷族全員を守るって決めたのに、実力が開く一方なんだよな。

 

 それに俺って、龍殺しにあったら要注意なんだし……。

 

 腕立て伏せを止めて起き上がり、スポーツドリンクをあおる。

 

 アスカロンは悪魔でも使えるようにしてあって、俺の武器だから、いままであんまり危険なんて感じていなかったけど、シャルバ戦で見たゼノヴィアの龍殺しの剣、真・リュウノアギトの龍殺しのオーラを直に感じたときは死の恐怖のようなものを感じて、龍殺しが俺の弱点だと改めて認識した。

 

 俺の赤龍帝の鎧がどんなに防御力があっても、龍殺しの剣の前では意味がないだろう。

 

 龍殺しの特製を持った相手は俺以外のグレモリー眷属が対処する予定だけど、それだけじゃなくて、

 

「将来部長の元から独り立ちしてレーティングゲームの『王』になるなら、やっぱりチーム戦も考えないといけないよなぁ」

 

「そうだね。1人が強くなるのもいいけど、一強のチームじゃ先が知れるし、『王』が取られたら終わりだからね」

 

「サイラオーグさんみたいに『王』自らってのもいいけど、それに対応した戦術を敷かれたらヤバいし、俺自身弱点が多くて対処されやすいからな。いまのうちにチームバトルに慣れておくさ。はぁ、ほんとうに厳しいな。悪魔業界! 俺も『王』になったら、いざというとき以外は自重しないとな」

 

 と、こんな風に俺たち男子組みは日々集まって修行やら、ゲーム戦術やらを話していた。

 

 俺もいつまでも「わからねぇ!」じゃ、先行き不安だし、超えたい目標があるから、必死こいて木場たちと勉強していたんだ。おかげでそこそこ話せるようになってきたんだよな。さっきまでは自分と部長たちとの差について話していたけどね……。

 

「戦術論も様になってきたな」

 

 そこへ第3者の声が。振り向けばアザゼル先生だった。

 

「ほら、差し入れ。女子部員お手製のおにぎりだ」

 

 俺たちはそれに喜び、さっそく頬張っていた。自分たちの修行もあるのにわざわざありがとうございます! うん、うまい! このおにぎりはアーシアの味だ。やさしい味がするんだよなぁ。アーシアも今回はエイジの家で修行してたんだっけ。

 

 休憩する俺たちの傍に先生も座り笑う。

 

「いい体つきになってきたな、イッセー。鍛錬を積み重ねてきたものだとすぐにわかる」

 

「もっと強くならないと最強の『兵士』になれませんからね。部長に約束したことなんで、将来独り立ちするまでには同じ『兵士』のエイジを殴れるぐらいにはなっておかないといけないんですよ」

 

「エイジを殴れるぐらいか。……かなり難しいな」

 

 苦い表情を浮かべるアザゼル先生。……そんなに難しいのか?

 

「まっ、目標は高いだけいい。それより、おまえが将来リアスのもとから独り立ちするときが来たら、アーシアを連れて行くんだって?」

 

 アーシアから聞いたのか?

 

「ええ、まあ」

 

「やるじゃねぇか」

 

「いや、アーシアとはずっと一緒にいるって約束しましたし。俺もアーシアと一緒にいたいんです」

 

 アーシアとは離れたくないもんな。

 

 先生が俺の頭をくしゃくしゃ撫でながら言う。

 

「だがな、イッセー。おまえが将来『王』になるなら、ひとつ覚えておかないことがある」

 

「何ですか?」

 

 とたんに真剣な目つきになって先生は言う。

 

「――犠牲だ。ゲームのとき、手駒を見捨てなければいけないことが必ず起きる。そのとき、おまえはどう出るか。そこで『王』としての資質が試されるんだよ」

 

「……助けるっていう選択肢を捨てろと?」

 

 俺の問いに先生は首を横に振る。

 

「助けてもいい。助けられるのなら、そうすべきだ。実戦でも重要なことだな、仲間を助けるというのは。――だがな、ゲームではそういうわけにはいかない。リタイヤ転送がある以上、死ぬことは少ない。そうなると、重傷の仲間を見捨ててでも、次の行動に移らなければいけないときがあるんだよ」

 

「……難しいこと訊くんスね」

 

 俺は仲間を見捨てられない。仲間がピンチになったら最大加速で助けに行くもんな。

 

「おまえが眷属のなかで1番親愛度が高いからな。それが将来のゲームで弊害となるだろう。――木場」

 

 先生の視線が俺から木場に行く。

 

「はい」

 

「おまえはゲーム中、最悪のとき、リアスとイッセー、どちらを選ぶ」

 

「部長を選びます」

 

 先生の言葉に木場は迷う様子もなく答えた、ああ、それで正解だ。俺も、こいつが俺を選んだらこの場で殴ったと思う。

 

 ゲームでの最悪の状況で生かすべきは俺じゃない。『王』の部長だ。『王』を取られたら、すべてが終わりだからだ。

 

 先生はそれを確認して続ける。

 

「その覚悟を他の仲間にも持たないといけない。おまえらはグレモリー眷属のためか、愛情が深い。仲間への親愛は悪魔のなかでもトップクラスだろう。それが武器でもあり、弱点なんだよ。『こいつらは仲間を見捨てない』と他の悪魔に覚えられたら、確実に戦術に組み込まれて狙われる。バカのひとつ覚えで仲間を救うことばかりして敗北していたら、評価も落ちるだろう。おまえたちに今後のゲームで必要なことは目の前で倒れた仲間がいても捨てる覚悟だ。ソーナ・シトリーは夏休みのゲームでそれをおまえたちに見せたはずだ。実戦で仲間を捨てるなとは言わない。だけどな、ゲームではそれを頭に入れておけ。特にイッセーは独り立ちする予定ならば、そこをちゃんと確認しておくんだ。――おまえが『王』のゲームで最後まで生かすべきはおまえであり、眷属の悪魔じゃない」

 

 ――将来の眷属を犠牲にする覚悟、か。

 

 その覚悟を俺は持たないといけないし、もうひとつ苦い思い出があった。

 

 ライザーとの一戦のことだ。

 

 あのときことは、いまでも夢に見る。

 

 最終局面で、俺はエイジが自分よりも強いとわかっていたに、敵の『女王』と『僧侶』を押しつけて部長の救援にいったせいで敗北した。

 

 俺が自分の……独りよがりな考えで救援に行ったくせに、ライザーに手も足も出せずにボコボコにされて、あまつさえ投了させる原因になってしまったんだ。

 

 いまの俺ならわかる。

 

 あのときは間違えだったと。シトリー戦を経験して身にしみて理解したんだ。

 

 俺や木場……『王』以外は駒で、『王』がゲームに勝つための勝率を駒が上げないといけないのに、あのときの俺は強力な味方の駒を止め、その駒の代わりに『王』の元へ行き、逆に『王』を窮地に追い込んだダメな駒なんだったと。

 

 それこそシトリー戦の匙のように、敵と刺し違えるつもりで自分よりも強力な駒が『王』の元へ向わないように足止めしないといけなかったんだと。

 

 だけど――。

 

 ――だけど、もう間違わない。

 

 あんな惨めな不甲斐ない想いをするのはもうたくさんなんだ!

 

 俺は深呼吸をして、木場とギャスパーに言った。

 

「木場、ギャスパー。俺らもそろそろ覚悟を決めなきゃいけない」

 

 木場がうなずく。

 

「ゲームの際、目の前で倒れた眷族を捨てる覚悟だね?」

 

「ああ、俺たちは――レーティングゲームで部長を勝たせないといけない。そのために俺たち自身も勝率を上げるために自分から犠牲になる覚悟も持っておこうぜ」

 

 俺の意見にギャスパーも口元にご飯粒をつけながら応じた。

 

「は、はい! そ、その通りですぅ!」

 

「だから、部長のために笑って倒れよう。ただし、倒れる時は全力を出し切ってから、前のめりで倒れようぜ。敵に背中を見せたら格好悪いからな。正々堂々、真っ正面からぶつかって倒れよう」

 

 俺の言葉に2人は笑顔でうなずいた。

 

「うん」

 

「はい!」

 

 そうさ。俺たちが散るときはカッコ良く散ろうぜ。部長のためにさ。

 

 でも、それ以前に勝とう。勝ちたいって精神だけは捨てちゃダメだ。

 

 その横で先生が頬をポリポリかいていた。

 

「カッコイイこと言ってるけどな、イッセー。おまえは女を相手にするときどうにかならないものか……。パイリンガルとドレス・ブレイクが有効なのはわかるが、それにばかり集中すると、そこを狙われるぞ。ていうか、弱点わかりやすすぎだ。半裸の女が出てきたら、どうする?」

 

「眼福です!」

 

 俺の即答に先生は肩を落とした。

 

「ダメだ、こいつ。負けるって」

 

 そ、そんなこと言われても眼前にエロエロお姉さんが出てきたら、理性を保つことなんてできないって! あー、だからそこを付け狙われて隙ができそうなのか。

 

 うーむ、エロに慣れればいい? 無理だ! 目の前のエロスを無視してまで俺は突っ込むことなんてできないよ!

 

 そんな俺の思考を察したのか先生はふぅーとため息を吐いて言う。

 

「おまえ、そのスケベ根性が原因で普段のリアスたちの修行に参加できないことに気づいているのか?」

 

「え!? いったい何のことですか!?」

 

「……気づいてなかったか。いや、まあ、いいだろ」

 

 そう締めくくって話を終わらせようとする先生に詰めよって訊く。

 

「ちょっと待ってくださいよ! 俺が原因って何で――」

 

「……はぁ、わかった。丁寧に説明してやるよ。修行だがな、グレモリー眷属の奴らだけだったらよかったかも知れんが、修行には黒歌たちも加わるんだ。身内扱いだろうグレモリー眷属の奴らと違って、黒歌たちは――いや、一般の奴らは、おまえのスケベ根性にそこまで寛容じゃなねぇんだよ」

 

「それは……」

 

 どうしよう、何も言い返せない……。

 

 さらに先生は追い討ちをかけるように続けた。

 

 洋服 破壊 (ドレス・ブレイク)とかいう触っただけで服を破壊する技持ってて、いつ服を破壊されて全裸にされるかわからない。乳の声を聞くとか言ってプライバシーを侵害されたりするかわからない。好きな男がいるのにそんな男とわざわざ模擬戦したり、戦ったりすると思うか? いや、好きな男がいなくても年頃とか関係なくても、そんな男と戦いたいと思うか?」

 

「……お、思いません」

 

 そんな変態と模擬戦でも戦いたくなんかねぇよ! たとえ変態能力を使わないって言っても信用できん! そんな変態なんかと部長やアーシアを戦わせたくねぇ! ――って、その変態って俺じゃん!?

 

「それにおまえは黒歌に嫌われているからな」

 

「ええっ!? 小猫ちゃんのお姉さんに!?」

 

 おっぱいも大きくてエッチそうな美人なネコミミお姉さんに嫌われてる!? ていうか、サラッとそんなこと言わないでくださいよ!

 

「言っとくがこれは100%おまえが悪い。黒歌は小猫の姉だからこそ、小猫に恥をかかせたおまえが気に入らないんだとよ」

 

「小猫ちゃんに恥をかかせた? …………。――っ! まさか――」

 

「気づいたか。そうだ、シトリー戦との一戦でおまえが禁手化するためにやったことだ」

 

「で、でも、あれは――」

 

 あの場合、ああでもしなきゃ禁手化できなかったと――。

 

「あの戦闘は冥界全土に放送されているって先に言っておいたよな?」

 

 ――っ。冥界全土に放送!

 

「お茶の間に乳をさらして、乳をつつかれているところが放送されたんだぞ。冥界のネットにもその映像が流出して、もう消すこともできん」

 

 ボコボコにされて終わったと思ってたら、なんだがす、すごいことになっちゃってる!

 

「それにな――」

 

 アザゼル先生はそう言って懐から何かを取り出した。

 

「な、なんですか、これ……?」

 

 先生が出したのは――小さな人形だった。

 

「『乳龍帝おっぱいドラゴン』が冥界のハンバーガーチェーン店とコラボをすることになってな。お子さま用のセットを頼むとついてくるおもちゃだ。こちらがおまえの人形。こっちが『ヘルキャットちゃん』こと小猫人形だ」

 

 た、確かに俺の禁手状態をデフォルメしたような人形だ! こっちはロリなマスコットみたいなかわいらしいお人形だよ! すごく精巧だね。

 

「ギミックもあってな。両方集めるとお得なんだ。この部分をこうすると――」

 

 小猫ちゃんのお人形の服が捲れた! 下着までついてるし、小猫ちゃんの小山がキチンと再現されてる! 先生が俺の人形の手を動かして、小猫ちゃん人形の胸部分を押した。すると――。

 

『にゃん』

 

 ――ッ!?

 

 小猫ちゃんのエッチなボイスが鳴り響いた! 何これ!? すごくない!?

 

「と、声が出る」

 

 自慢げに先生が胸を張った。

 

「何これ! チョー欲しいっス! うわー! これ、ヒット商品になりますって!」

 

 俺はぶるぶると身震いしながら、人形を手に取った。

 

 す、すごい! これは神聖なおもちゃだ! こ、こんなものが作れるのか! 部長の人形や朱乃さんの人形はないのか!?

 

「ハハハハハ、だろうだろう! サーゼクスも『画期的なおもちゃだ!』って絶賛してたぞ! 俺はこういうのを考えるのが大好きなのさ! いいか、おまえも上級悪魔になりたいなら、アイディアも大切にしろ!」

 

 豪快に笑う先生がいやにまぶしかった!

 

 まぶしかったんだけど……、

 

「こ、これも黒歌さんに嫌われた理由なんですか……?」

 

 俺の問いに先生は大きくうなずいた。

 

「ああ、そうだ。小猫なんてレーティングゲームの映像が冥界に流れたことだけでもショックを受けてたってのに、追い討ちするように特撮でシトリー戦の映像が使われたり、この商品の発売だろ? 小猫の奴がとうとう部屋に引っ込んじまってよ」

 

 はっはっはっ、と笑う先生。全然笑い事じゃねぇよ!

 

「すぐに小猫ちゃんと黒歌さんに謝りに――」

 

 がっ。

 

 木場に肩をつかまれ、止められた。

 

「なんだよ! 俺は謝りに――」

 

「いまイッセーくんがいっても逆効果だと思うよ」

 

「――っ」

 

「そうだぜ。いまいっても黒歌の奴に仙術で種抜かれて再起不能にされるかもしれねぇからな」

 

「せ、先生……その種ってまさか――」

 

 冷たい汗が体から流れた。先生は遠い目をしながら言う。

 

「おまえの思っている通りだ。仙術ってのはそういうこともできんだよ」

 

「オカマにされちゃうの!?」

 

「おそらくな。だからほとぼりが冷めるまではあまり近づくな。気づいたら、ってことになるかもしれねぇから」

 

「了解しました!」

 

 先生にビシッと敬礼する! ゴメン、小猫ちゃん! ほんとうはすぐに謝りにいきたいけど、黒歌さんに種無しにされるのは嫌だ!

 

 そのあとは、改めて先生に『覇龍』を使うな使用禁止だと注意され、先生自身も俺の神器の新しい可能性を探ってくれると約束してくれて、俺たち3人は修行を再開させた。

 

 …………それはそうと、小猫ちゃん、ゴメンなさい……。

 

 まさか、こんなことになるなんて……。

 

 また今度謝りにいくよ……。

 





 木場くんとアザゼル先生が原作と同じようにいい説明役になってる。



 やべぇ、2万字超えた……。


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第61話 北欧の悪神ロキ現る

<リアス>

 

 

 オーディンさまが来日して数日が経ったある日の夜。

 

 スレイブニルという八本足の巨大な軍馬の馬車に私たち、アザゼル先生、オーディンさま、ロスヴァイセが乗っていた。

 

 いまはその馬車で空を飛んで、夜空を移動している。

 

 軍馬が大きいせいか、馬車も大きく、外には護衛として、いつでもテロリストなどを迎え撃てるようにするために祐斗、ゼノヴィア、イリナ、そしてバラキエルが空を飛んでついてきていた。

 

「日本のヤマトナデシコはいいのぉ。ゲイシャガール最高じゃ」

 

 オーディンさまが満足げな表情で「ほっほっほっ」と笑っていた。

 

 まったく。

 

 護衛する私たちの身にもなってほしいわ。ここのところ、この巨大な馬車に乗って、日本の各地を連れ回されている。都内のキャバクラに行ったり、遊園地に行ったり、お寿司屋に行ったり。オーディンさまの好き勝手に日本を観光していた。

 

 日本観光は好きなんだけど、オーディンさまの行くところってエッチなお店が多くて、未成年で高校生ってことで、店内に入れず、入り口付近の待合室で待機させられたりって色々と疲れるのよねぇ。

 

 見れば眷族の皆も疲れた表情を浮かべていた。イッセーも疲れているようだし、その隣ではイッセーの肩に頭をよせて眠っているアーシアがいるし。

 

 朱乃は……。心ここにあらずで、機嫌が悪く、話しかけないでとオーラが全身から放たれているしまつ。

 

 父親で嫌っているバラキエルの近くで、オーディンさまの護衛をすることがストレスを溜め込む要因になっているみたい。

 

 すっごく対応に疲れるオーディンさまだけど、いまは大事にお客さま。私たちは文句もあまり言わずに付き添っていた。

 

「オーディンさま! もうすぐ日本の神々との会談なのですから、旅行気分はそろそろお収めください。このままでは、帰国したときに他の方々から怒られます」

 

 ロスヴァイセはここ数日、ずっとクールに対処して、オーディンさまに付き添っていたけど、もう我慢の限界みたいで、額に青筋を立てていた。

 

「まったく、おまえは遊び心のわからない女じゃな。もう少しリラックスしたらどうじゃ? そんなだから男の1人もできんのじゃよ。なあ、セルベリア」

 

 オーディンに話をふられて、悪魔の仕事で忙しいエイジの代わりに護衛としてきていたヴァルキリーのセルベリアは、深いため息を吐いた。

 

「それもそうでしょうけど、もう少し言い方というものはなかったのですか、オーディンさま」

 

「言い方と言われてものぉ。こやつみたいなクソ真面目な彼氏いない歴=年齢の生娘ヴァルキリーにはこれぐらい言わんと訊かんじゃろぉ」

 

「…………」

 

「か、か、彼氏いないのは関係ないでしょう! す、好きで独り身やっているわけじゃないんですからぁぁぁっ! セルベリアさんもなんで無言になっちゃうんですかぁぁぁっ!」

 

 涙目になるロスヴァイセ。ほんとうに色々と疲れるわね。

 

 はぁ……、それにしても家に帰りたいわ。エイジの顔が見たい。

 

 今夜は何時ぐらいに帰ってくるんだったかしら?

 

 グレモリー家から直々に悪魔の仕事を申しつけられているたせいで最近忙しいのよね。

 

 ……まったく、父さまもお母さまも、いまが稼ぎ時だからってエイジに仕事をやらせすぎなのよ。

 

 エイジの仕事の関係上、他の上級悪魔や権力者と深いパイプを繋げやすくなるかもしれないけど、少しは減らして欲しい。

 

 確かに彼の場合はエッチが大好きのインキュバスで、エッチをすればインキュバスの能力もあって、逆に色々と回復できたりするでしょうけど、1日に何十件仕事をさせていたら、多忙すぎていつかは倒れちゃうわ。

 

 いまでも多忙なのに私たちもないがしろにせず1人ひとりと濃厚な――、いえ、どちらかというと私たちに甘えだしてきたわね。

 

 仕事でストレスが溜まるのだろう。私たちとは愛を囁きあうような濃密なエッチがさらに濃度を増したし、家や学校にいるときは誰かの傍に身を寄せていたりって、しょ、正直うれしかったり……。

 

「どうしたんじゃ、リアス嬢。顔が赤いぞい」

 

「い、いえっ、なんでもありません!」

 

 顔が熱い。自分でも顔が真っ赤になってるのがわかる。危ない危ない、ちょっとエイジとのエッチを思い出しかけたわ。

 

 ガックンッ!

 

 ヒヒィィィィィィィンッ!

 

 ――ッ!

 

 突然、馬車が停まり、私たちを急停止の衝撃を襲った!

 

 不意の出来事に皆が体勢を崩しているなか、こういう不測の事態に対してこそ鍛えられている私や、師匠役も務めたりするセルベリアは即座に体勢を立て直して戦闘態勢を取った。

 

「何事ですか!? まさか、テロ!?」

 

「わからん! だが、こういうときはたいていろくでもないことが起こるもんだ!」

 

 ロスヴァイセと先生も警戒していた。

 

 さっきのは馬の鳴き声だった。すくなくとも馬に何かあったんだろう。

 

 警戒しながら馬車の窓から外を見ると――バラキエルを中心に祐斗とゼノヴィアとイリナがそれぞれ展開して、戦闘態勢になっていた。

 

 私は馬車の窓を開けて、何が起きたのかとセルベリアたちと前方に目を配る。

 

 ……前方に若い男性らしき者が浮遊している。整った顔立ちだけど目つきが少々悪い。

 

 身につけているものはオーディンさまの正装として着ているローブの色を、黒をメイン変えたようなものだった。

 

 男性を確認したセルベリアとロスヴァイセが心底驚いたような表情になり、アザゼル先生は舌打ちしていた。いったい彼は何者なの?

 

 男性はマントをバッと広げると口の端を吊り上げて高らかにしゃべりだした。

 

「はっじめまして、諸君! 我こそは北欧の悪神! ロキだ!」

 

 悪神ロキ! まさか、そんな……。

 

「……ロキ。北欧の神がくるなんて」

 

 私たちが驚いていると、アザゼル先生が黒い翼を羽ばたかせて、馬車から出ていく。

 

「これはロキ殿。こんなところで奇遇ですな。何か用ですかな? この馬車には北欧の主神オーディン殿が乗られている。それを周知の上での行動だろうか?」

 

 アザゼル先生が冷静に問いかける。

 

 ロキという神さまは腕を組みながら口を開いた。

 

「いやなに、我らが主神殿が、我らの神話体系を抜け出て、我ら以外の神話体系に接触していくのが耐えがたい苦痛でね。我慢できずに邪魔をしに来たのだ」

 

「堂々といってくれるじゃねぇか、ロキ」

 

 アザゼル先生の言うとおりほんとうにね。まったく堂々と悪意を込めて言うなんて。アザゼル先生もロキのその態度に怒っているみたいだし。

 

 でも一方のロキはアザゼル先生の怒りなんてどうでも言いように、楽しそうに笑う。

 

「ふははは、これは堕天使の総督殿。本来、貴殿や悪魔たちと会いたくなかったのだが、致し方あるまい。――オーディン共々我が粛清を受けるがいい」

 

「おまえが他の神話体系に接触するのはいいってのか? 矛盾しているな」

 

「他の神話体系を滅ぼすのならば良いのだ。和平をするのが納得できないのだよ。我々の領域に土足で踏み込み、そこへ聖書を広げたのがそちらの神話なのだから」

 

「……それを俺に言われてもな。その辺はミカエルか、死んだ聖書の神に言ってくれ」

 

 アザゼル先生は頭をボリボリかきながらそう返す。

 

「どちらにしても主神オーディン自らが極東の神々と和議をするのが問題だ。これでは我らが迎えるべき『神々の黄昏』が成就できないではないか。――ユグドラシルの情報と交換条件でも得たいものは何なのだ」

 

 アザゼル先生は指を突きつけて訊いた。

 

「ひとつ訊く! おまえの行動は『禍の団』と繋がっているのか? って、律儀に答える悪神さまでもないか」

 

 ロキはおもしろくなさそうに返す。

 

「愚者たるテロリストと我が想いを一緒にされるとは不快極まりないところだ。――おのれの意志でここに参上している。そこにオーフィスの意志はない」

 

 その答えを聞いて、アザゼル先生は体の力が抜けていた。

 

「……『禍の団』じゃねぇのか。だが、これはこれでまた厄介な問題だ。なるほど、爺さん。これが北が抱える問題点か」

 

 アザゼル先生が馬車のほうに顔を向けると、オーディンさまがロスヴァイセと引き連れて馬車から出るところだった。足元に魔法陣を展開して、魔法陣ごと空中を移動していく。

 

「ふむ。どうにもの、頭の固い者がまだいるのが現状じゃ。こういう風に自ら出向くアホまで登場するのでな」

 

 オーディンさまはあごの長い白ヒゲをさすりながらそう言った。

 

「ロキさま! これは越権行為です! 主神に牙をむくなどと! 許されることではありません! しかるべき公正な場で異を唱えるべきです!」

 

 ロスヴァイセは瞬時にスーツ姿から鎧に変わり、ロキに物申していた。

 

 しかし、あいては聞く耳を持たない。

 

「一介の戦乙女ごときが我が邪魔をしないでくれたまえ。オーディンに訊いているのだ。まだこのような北欧神話を超えたおこないを続けるおつもりなのか?」

 

 返答を迫られたオーディンさまは平然と答えた。

 

「そうじゃよ。少なくともお主よりもサーゼクスやアザゼルと話していたほうが万倍も楽しいわい。日本の神道を知りたくての。あちらもこちらもユグドラシルに興味を持っていたようでな。和議を果たしたらお互いに大使を招いて、異文化交流をしようと思っただけじゃよ」

 

 それを聞き、ロキは苦笑した。

 

「……認識した。なんと愚かなことか。――ここで黄昏をおこなおうではないか」

 

 ゾクっ……。

 

 ふいに悪寒が私を襲ってきた。凄まじいまでの敵意が私の肌をビリビリと刺激してくる。

 

「それは、抗戦の宣言と受け取っていいんだな?」

 

 アザゼル先生の最後の確認にもロキは不適に笑む。

 

「いかようにも」

 

 ゴォォオウッ!

 

 突如、ロキに波動が襲いかかった!

 

 何事かと目を配れば――ゼノヴィアが真・リュウノアギトとデュランダルを両手それぞれに持って、振るったようだった。龍殺しのオーラと聖剣のオーラが立ち上っている。

 

「先手必勝だと思ったのだが」

 

 ゼノヴィアは平然とそう言った! そ、そうだけど、確かにそうだけど早すぎよ!

 

「どうやら、この程度ではあまり効かないようだ。さすが北欧の神か」

 

 ゼノヴィアの言葉に視線を戻せば――服が破れ、少しだけ血を流しているロキがいた。

 

 ゼノヴィアも結構本気でやったと思ったんだけど、この程度のダメージしか与えられないなんて。

 

「なかなかの威力だったぞ。私は久々に己の血を見たぐらいだ。まさか神である私に手傷を負わせるとはな。――貴公の名はなんというのだ?」

 

「ふっ、悪神とはいえ神に褒められるのはうれしいものだな。リアス・グレモリーの眷属悪魔、『戦車』のゼノヴィアだ」

 

「ゼノヴィアか。――覚えておこう」

 

 ゼノヴィアは臆せず、堂々と悪神ロキに言い放った。

 

「マジかよ。あいつ、神に怪我負わせやがったぞ」

 

「ほう、若いくせにやりおるわ」

 

 アザゼル先生とオーディンさまが驚きの表情でゼノヴィアを見ていた。こんな状況でも眷族が褒められるのはうれしいわね。

 

 先手を取ったゼノヴィアに続こうと、祐斗も聖魔剣を創りだし、イリナも光の剣を手に発生させていた。

 

 それを見てロキは笑う。

 

「ふはははっ! 貴様らでは、無駄だ! これでも神なんでね、たかが悪魔や天使の攻撃ではな」

 

 ロキはゼノヴィア以外はまったく歯牙にかけないという態度を見せて、左手を前にゆっくりと突きだす。

 

 その手に得たいの知れないプレッシャーが集まるのを、鍛えられた危機察知能力が感じ取った。

 

 あれを放たれたら、マズい!

 

 収納用の空間から弓を取りだし、急いで滅びの魔力を収束して矢の形に形成する!

 

 矢を形成していると音声が馬車のなかで響いた。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!』

 

 その音声が終わると共にイッセーの体が赤いオーラが包み込み。鎧へと形作られていった。

 

 生身よりは禁手かで鎧を纏っていたほうがいいわね。赤龍帝の鎧を身に纏ったイッセーは――って、

 

「イッセー、待ちなさい!」

 

「――っ!? なんですか、部長!」

 

「なんですかじゃないわよ! あなた、まだ空も碌に飛べないのにロキに突っ込んでいこうとしたでしょ!」

 

「で、でも、ブースターを吹かせ続ければ――」

 

「それでも一時でしょ。相手は神、悪神ロキなのよ。オーラを消費し続けながら慣れていない空中戦で勝てる相手じゃないの! せめて遠距離攻撃をしなさい!」

 

「す、すみません……」

 

 まったく、殺されるつもりなの!? と叱るとイッセーは外へ飛びだすのを止めた。

 

 そんな私を見て、ロキは左手に力を集めるのも止めて、うれしそうに口の端を吊り上げる。

 

「紅い髪。グレモリー家……だったか? 現魔王の血筋だったな。先ほどの制止は正解だったぞ。今代の赤龍帝のようだが、空もまともに飛べないのなら話にすらならんからな。――ふむ、体から溢れるオーラの量や密度に、手に持った弓と矢は……。ふははっ、現魔王の血筋とは名ばかりではないようだ」

 

「……かなり評価してくれるのね?」

 

「当たり前だ。その弓の性能も見事なものだろうが、膨大な量の魔力を収束、圧縮し、それを矢の形に創りだしているのは貴公だ。その弓矢から感じる力からして、このまま、ただ力を振るっていたのなら、その矢は確実に我の体を貫いていたことだろう。ハハハハ、――現魔王の血族か。なかなか侮れん」

 

 ……ど、どうしよう……。こんなに私個人が評価されたことって初めてだから、少し……いえ、かなりうれしいわ。

 

「ふっ、当たり前だ。私の『王』なのだからな」

 

 ちょっ、ちょっと、ゼノヴィア!

 

「ほう、それならば納得だ。貴公の名も教えてもらいたいものだな」

 

「グ、グレモリー家次期当主、リアス・グレモリーよ」

 

 朱乃を引き連れて外に出て言う。少しつまずいちゃったけど大丈夫よね?

 

「リアス・グレモリーか。これは面白くなってきたな」

 

 うれしそうなロキ。……戦闘狂なのかしら? はぁ、ヴァーリといい強くなったら強くなったで、目をつけられるのね……。

 

「ロキさま」

 

「おお、これはこれはセルベリア・ブレスではないか」

 

 私たちに遅れて馬車から出てきたセルベリアを見て、ロキは若干驚いたような表情を見せた。

 

「北欧から出て大勇者の従者になったはずの貴公がなぜここにおるのだ?」

 

 ちょっ、ロスヴァイセは一介の戦乙女扱いだったのに、セルベリアには礼をはらうの?

 

 セルベリアは【戦乙女の槍】を発動させ、巨大な旧時代の戦槍を発現させた。体から蒼いオーラを迸らせ戦槍の先端をロキに向ける。

 

「主の代わりにオーディンさまの護衛をしているんです。北欧の神であるロキさまであろうと、オーディンさまを害することは許しません」

 

 そう宣言するセルベリアにロキはふぅとため息を吐いた。

 

「オーディンの護衛に、堕天使の幹部が2人、天使が1匹、リアス・グレモリーとゼノヴィア、他にも悪魔がたくさん、赤龍帝も付属。そして、歴代最強のヴァルキリーと称される蒼炎の戦乙女までとは……。オーディン、ただの護衛にしては厳重だ」

 

「おぬしのような大馬鹿者が来たんじゃ。結果的に正解だったわい」

 

 オーディンさまの一言にロキはうんうんとうなずき、不適な笑みをつくった。

 

「こちらが厳しいかも知れんが、よろしい」

 

 言うと、マントを広げ、高らかに叫ぶ。

 

「出てこいッ! 我が愛しき息子よッッ!」

 

 ロキの叫びに一拍空けて――宙に歪みが生じた!

 

 歪みから感じるこの気配……、それにロキの息子といえば……!

 

 ヌゥゥゥッ。

 

 空間の歪みから姿を現したのは、私が予想していた通り、10メートルぐらいはありそうな巨大な灰色の狼だった。

 

 ぞくっ……。

 

 狼に睨まれた瞬間、全身が震えた。狼にロキ以上の恐怖を感じる……。

 

 周りを見れば、眷属の全員が全身を強張らせて震えていた。朱乃とゼノヴィアは修行でこういうプレッシャーに慣れているからまだマシだけど、イッセーやアーシア、祐斗は狼からの重圧でまともに動けそうにない。

 

「マズイ……。おまえら、あのデカい狼には手を出すなッ!」

 

 アザゼル先生の表情もいままでに無いほど、緊張に包まれたものだった。

 

「先生! あの狼、何なんですか?」

 

 イッセーの問いにアザゼル先生は搾り出すように言葉を発した。

 

「――神 喰 狼(フェンリル)だ」

 

『――ッ!?』

 

 アザゼル先生の一言に全員が驚愕し、同時に納得したかのようだった。

 

「フェンリル! まさか、こんなところに!」

 

「やっぱりフェンリルだったわね……」

 

 祐斗が驚きの声をあげ、私の予想は正しかったとうなずき、警戒態勢を取った。

 

「イッセー! そいつは最悪最大の魔物の一匹だ! 神を確実に殺せる牙を持っている! そいつに噛まれたら、いくら赤龍帝の鎧でも保たないぞ!」

 

「――ッ!」

 

 呆けていたイッセーにアザゼル先生の説明が飛ぶ。説明を聞いたイッセーはフェンリルに対して警戒態勢を取った。

 

「そうそう。気をつけたまえ。こいつは我が開発した魔物のなかでトップクラスに最悪の部類だ。何せ、こいつの牙はどの神でも殺せるって代物なのでね。試したことはないが、他の神話体系の神仏でも有効だろう。上級悪魔でも伝説のドラゴンでも余裕で致命傷を与えられる」

 

 すーっ。

 

 ロキの指先が私に向けられる。

 

「本来、北欧のもの以外に我がフェンリルの牙を使いたくはないのだが……。まあ、貴公ほどの悪魔なら良いだろう」

 

 ……嫌な予感がする。いつでも対応できるように体内に魔力を循環させ、身体能力を引き上げておく。これで近接戦闘が苦手な私も少しの間だけなら高速で動ける。

 

「魔王の血筋を抜きにしても、我が子にその血を吸わせるのことは良い経験になり、糧になる。――やれ」

 

 オオオオオオオオオオオオォォォォォォォォオオオオオオオオオオンッッ!

 

 闇の夜空で灰色の狼が透き通るほど見事な遠吠えをしてみせた。

 

 その鳴き声は、私たちの全身を震え上がらせ、さらに聞き惚れてしまうほどの美声だった。

 

 フェンリルが戦闘態勢に移ったと、私の脳が理解した瞬間――私の周りの時間が遅くなる。

 

 刹那の時間が体感では3秒、5秒と延びた。

 

 フェンリルの体勢が変わり、脚が曲げられこちらへ襲い掛かろうとしていることが理解できた。

 

 周りが遅くなったなかで、私はフェンリルに対応するために周りを無視したように動き始める。

 

 少し前だったなら向ってくるフェンリルに対して走馬灯のように感じ、体を動かす暇も無く噛み殺されていただろうけど、いまは違う。

 

 早くなった思考に、魔力で強化された体がきちんとついてきているのだ。

 

 ひゅっ。

 

 空を蹴るフェンリル。周りのほとんどの人にはフェンリルが消えたように感じただろうが、私から見れば少し早い速度で、こちらへ向ってこようとしているようにはっきりと見えている。

 

 私はフェンリルが来る前に翼を羽ばたかせジャンプする。

 

 このジャンプで攻撃は回避できた。フェンリルはまだ気づいていない。

 

 幸いロキに放つ予定で力を留めておいた矢がある。弓に矢を添えて狙いを定める。

 

 このタイミングと油断しているだろうフェンリルなら、攻撃をはずして停まるだろう瞬間に脳天を打ち抜ける!

 

「ルイン――」

 

 ――っ!

 

 矢を撃とうとしていると、イッセーが突っ込んできていることに気づいた。私を助けようとしてくれたんだろうけど、私はさっきまでいた場所にいない。

 

 このままじゃ、私の代わりにその場に割り込んだイッセーがフェンリルの牙に襲われる!

 

 予定を変更して動いているフェンリルとイッセーの間を狙って矢を放った。

 

 ヒュッ、ボォゥッ!

 

 矢は空気を切り裂き、音速を超えてフェンリルの元へ向って飛んでいく。

 

「触るんじゃ――ッ!?」

 

 私を噛み殺そうとしていたフェンリルを、何かを叫びながらイッセーが殴ろうとしていたけど、私がイッセーとフェンリルが接触する前に矢を放ったことで、フェンリルは危機を感じて急停止し、イッセーの攻撃は空を切った。

 

「あれ!?」

 

 イッセーが驚きの声をあげた。周りを見て消えたように見たんだろう私を探している。

 

「イッセー、ここよ」

 

「ぶ、部長……よかったぁ」

 

 体を強化し続けたまま声をかけると、イッセーは安心したように肩をおろした。身を案じてくれてうれしいけど、フェンリルが眼前にいるから気を抜くには早いわよ。

 

 私は周囲を確認する。思っていた通り、即座にフェンリルに対応するために内側で密かに力を高めている朱乃やゼノヴィア、蒼炎を戦槍に収束して密度を高めているセルベリアを確認した。

 

 フェンリルが私を睨んだ。先ほどとは比べ物にならないプレッシャーを感じる。完全に警戒されたみたい。先ほどのような不意打ちはもう効果がなさそうね。

 

「まさか、フェンリルの速度に対応し、矢まで放つとは……、それに地面の一部、矢の大きさほどの空間が綺麗に消滅している。ここまでの矢とはな。どうやら危ないのはこちらのほうだったようだな」

 

 ロキはそう言いながら観察するように私を見てきた。

 

「赤龍帝が割り込まなかったなら、攻撃を外したことでできる隙をつかれてフェンリルがやられていたかもしれんな」

 

「おいおい……シャルバを倒したことは聞いたけど、どこまで強くなってんだよ……」

 

 アザゼル先生がうんざりしたように言ってくる。私だって神や神喰狼に対応できてることに驚いてるんだから言わないで!

 

「じゃあ俺は部長の邪魔を――」

 

「イッセー」

 

「部長……」

 

「結果的にそうなったかもしれないけど、気にしないで。それよりもフェンリルの速度に反応するなんて成長したわね。――守ろうとしてくれてありがとう」

 

「部長……。はい!」

 

 この子もほんとうに成長したわね。最初は下級悪魔の力も持っていなかったのに。

 

「とりあえず仲間だけでも削っておくか」

 

 私がロキのほうへ向き直る。ロキが再びフェンリルに指示を送ろうとするが――。

 

「やらせません」

 

 セルベリアがフェンリルの前に立ちはだかった。蒼炎の戦槍を向けられたフェンリルは動くに動けないとその場で睨み合いを始めた。

 

「ちっ、セルベリア・ブレスまで昔よりも強くなっているのか」

 

 分が悪いとロキは表情を硬くした。

 

「こっちも忘れてんじゃねぇぞ、ロキィィィィッ!」

 

 アザゼル先生とバラキエルが光の槍と雷光をロキに向けて放った。

 

「フェンリルを使わずとも、貴様ら堕天使2人程度では我の相手は無理だ」

 

 魔法陣が盾となって空中に広がっていく。

 

 アザゼル先生とバラキエルの攻撃は容易に防がれてしまった。

 

「――ッ! 北欧の術かッ! 術に関しては俺らの神話体系よりも発展していたっけな! さすがは魔法、魔術に秀でた世界だ!」

 

 アザゼル先生が憎々しげに吐き捨てた。

 

 ……で、でも私の矢ならたぶんロキの防御魔法陣を貫きそうね。消滅の魔力の特性に加えて、エイジとセルベリアから魔法陣を貫通させる魔法や魔術も習っているし……。

 

「だったら、同じ術式で!」

 

 ブィィィィィィンッ!

 

 ロスヴァイセがロキと同様の魔法陣を宙に何重にも展開して、縦横無尽の魔法攻撃らしきものを放出させた。

 

 すごい出力ね。さすがオーディンさまの付き人ね。

 

 でも――。

 

 バババババババズンッ!

 

 ロキは防御魔法陣で全身を包み、ロスヴァイセの攻撃を防いでしまった。

 

 やっぱりまだ出力が足りない。

 

「では、次はこちらの手番だな」

 

 ロキとフェンリルから感じるプレッシャーと殺気が高まっていく。

 

「おもしろそうな状況だな。俺たちも混ぜてくれないか」

 

 その言葉と共に私たちとロキの間に白銀が降りてきた。

 

「ヴァーリ……」

 

 私たちの目の前に現れたのは白龍皇ヴァーリだった。

 

「よお、リアス・グレモリーにおっぱいドラゴン!」

 

 横から金色の雲に乗って出てきたのは美猴(びこう)だった。

 

 ……なんでヴァーリたちが?

 

「――ッ! おっとっと、白龍皇か!」

 

 ロキがヴァーリの登場に嬉々として笑んだ。

 

「初めまして、悪の神ロキ殿。俺は白龍皇ヴァーリ。――貴殿を屠りに来た」

 

 ヴァーリの宣戦布告を聞き、いっそう口の端をロキは吊り上げるが……。

 

「ふむ。今代の二天竜が見られたし、このままではこちらの分が悪いか。――今日は一旦引き下がらせてもらう」

 

 ロキはフェンリルを自身のもとに引き上げさせる。

 

 ロキはマントを翻すと、空間が大きく歪みだして、ロキとフェンリルを包んでいった。

 

「だが、この国の神々との会談の日! またお邪魔させてもらう! オーディン! 次こそは我と我が子フェンリルが、主神の喉笛を噛み切ってみせよう!」

 

 ロキとフェンリルがこの場から姿を消した。追撃はなしね。あくまで護衛なんだし。

 

「ふぅ、何とかなったか」

 

「まさかフェンリルまで持ち出してくるとはのぉ」

 

 アザゼル先生とオーディンさまが安堵のため息を吐いた。堕天使の総督や北欧の主神でもフェンリルの牙は怖いんだろう。まあ、防御不可能みたいだしね。

 

「うわっ、うわわっ!」

 

 と、イッセーの驚く声が聞えたからそちらのほうへ顔を向けてみれば――。

 

「おいおい、おっぱいドラゴンは空も満足に飛べないのかぃ? ったく、悪魔で背中から翼が生えてんだから飛べよな。その翼はお飾りか?」

 

「ま、まだ飛ぶことに慣れてねぇんだよ! ちゃんと訓練して少しは飛べるようになってたけど、いまは禁手化で力使い果たしてるから飛ぶ余力がないんだ。――だから助けてくれてありがとう!」

 

 …………。禁手化が解けたイッセーが美猴の金色い雲に乗せられ、救助されていた。

 

 戦闘が終わって力を抜いたことも原因だろうけど、飛行している間ずっとブーストを噴かせていたから禁手化の時間が一気に減って、飛べなくなったんだろう。

 

「――って、イッセー! そいつらは『禍の団』でテロリストなのよ! 何のん気に助けられているの!」

 

「すっ、すいません!」

 

「まあまあ、今回俺らは戦いに来たんじゃねぇんだし、そうカリカリするなよ」

 

「戦いに来たんじゃないですって?」

 

「ああ。詳しくはヴァーリが説明するからどっか話せるところに移動しようぜぃ」

 

 美猴の言葉を聞いて、私はアザゼル先生とオーディンさまに視線を送る。

 

「まあ、いいか。――わかった。とりあえず、駒王学園に移動して話すぞ」

 

 アザゼル先生はあからさまにため息を吐いて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  駒王学園のグラウンドに馬車を止めてヴァーリたちと話し合いを始めた。

 

 リーダーであろう白龍皇ヴァーリが最初に口を開いた。

 

「先ほども言った通り、俺たちは兵藤一誠たちと戦いに来たわけじゃない」

 

「じゃあ、何しに来たんだよ?」

 

「オーディンの会談を成功させるにはロキを撃退しなければいけないんだろう?」

 

 イッセーがヴァーリをにらむ。ヴァーリはイッセーの視線を無視して全員を見渡し、遠慮無しに言う。

 

「このメンバーと赤龍帝だけではロキとフェンリルを凌げないだろうな。しかも英雄派の活動のせいで冥界も天界もヴァルハラも大騒ぎだ。こちらにこれ以上人材を()くわけにもいかない。二天竜が手を組めばロキとフェンリルも撃退できる。――と、話を持ちかけようとしたんだけどね」

 

 ヴァーリは途中で肩をすくめてこっちを見てきた。

 

「まさかリアス・グレモリーや双剣使いのゼノヴィアがここまで強くなっているとは。ここに黒い捕食者の神城エイジまで加わると、俺たちが加勢する必要もなさそうだ」

 

「そりゃ、そうだな。実際、イッセーがリアスを助けに突っ込んでなかったら、油断していただろうフェンリルは消滅の矢の一撃で屠れていただろうしな。それにエイジだけじゃなく、セルベリアや黒歌たちが加わればロキとフェンリルを同時に相手にしても十二分に打倒できる」

 

 アザゼル先生はため息を吐きながら断言する。まあ、そうでしょうね。アザゼル先生やヴァーリが評価する私たちよりも、黒歌たちのほうが強いし、その全員が相手になればロキとフェンリルがいても倒せると思う。

 

「だからこちらは下手(したて)にでることにした」

 

 私がそんなことを考えていると、ヴァーリはゆっくりと頭を下げてきた。

 

「オーディン殿。ロキとフェンリルの撃退に手を貸させてくれませんか」

 

 ――っ! あのプライドの高い白龍皇ヴァーリが頭を下げて頼むなんて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 オーディンの護衛をリアスたちに任せ、最近ものすごく増えた悪魔の仕事に行っていると、リアスたちから連絡が来た。

 

 オーディンの護衛中に、北欧の悪神ロキとその息子であるフェンリルに襲われたそうだ。

 

 連絡を聞いてはじめはかなり心配したが、護衛対象のオーディンをはじめ、全員無傷でロキもフェンリルも撃退したと聞いて安心した。

 

 安心したのだけど……、アザゼルから「リアスたちをどれだけ鍛えてんだよ」と非難に近い声音で言われ、理由を聞いてみて、改めてリアスたちを鍛えすぎたと反省しました。

 

 いや、ほんとうに鍛えすぎたみたい。

 

 才能もあって、覚えも早くて、弱音は吐くけど投げ出さないから修行レベルの上げ続けていたからなのか、まさか北欧の悪神ロキとフェンリルを上級悪魔のリアスと転生悪魔の聖剣デュランダル使いだったゼノヴィアの実質その2人だけで撃退するとは思ってもみなかった……。

 

 それにリアスたちの師匠役であるウチの黒歌やセルベリアたちは、リアスたちよりも強いんだから――うん。これは皆鍛えすぎたな。

 

 俺を除いたメンバーだけでも十分にヤバいよ。世界征服できるかもしれないよ。

 

 戦う機会はあったけど、本気で戦う相手なんてめったにいなかったから世界から見たセルベリアたちの強さなんてあまり気にしていなかったけど、今回の件で俺の鍛え方は世界からかなりずれていて、ヤバいものだと理解しました。

 

 特に2ヵ月足らずにリアスが不意打ちでもフェンリルを屠れるようになっている事実はおかしい。神滅具所持者とかなら神器のおかげとかいうのも考えられるが、上級悪魔がここまで短期間で成長するのは色々とヤバい。

 

 シャルバ・ベルゼブブを、連携を使ったといえ簡単に屠った時に気づけていれば……。

 

 リアスやゼノヴィアはもちろん、朱乃も上級悪魔の枠組みを大きく外れちゃってるよ。

 

 もうフェンリルに不意打ち食らわせれるぐらいだから、たぶんやり方によっては堕天使の総督であるアザゼルを一対一で倒せるよ。

 

 黒歌に仙術はもちろん、中国拳法も習い始めた小猫ちゃんも上級悪魔クラスの実力はあるだろうしね。

 

 残りの新人レーティングゲーム、グラシャラボラスはリタイアとして、サイラオーグとアガレスとか結構簡単に勝っちゃったりしないよな?

 

『聞いてるのエイジ?』

 

「あ、はい。すみません」

 

 そういえばまだリアスと通信中だった。

 

「それで、ロキとフェンリルを撃退してからなんでしたっけ?」

 

『はぁ、聞いていなかったのね』

 

「す、すみません。ちょっと考え事をしてました……」

 

『まあ、いいわ。エイジは最近グレモリー家から仕事を押し付けられて別の意味でたいへんなんだし。――じゃあ、改めて説明するわよ』

 

「はい」

 

『ロキとフェンリルを撃退したあと、白龍皇ヴァーリとその仲間が現れて、オーディンさまと神々の会談をロキとフェンリルの邪魔させずに進めるための撃退作戦に、白龍皇たちも参加することになったのよ』

 

「え?」

 

 俺はリアスの言葉がよくわからなかった……。

 

 なんでいきなりヴァーリが? 『禍の団』でしょ? 

 

『色々な疑問もあると思うけど、それは全部明日改めて話すことになったから、そのときに全員と合わせて詳しく説明するわ』

 

「は、はい……」

 

『とりあえず、今日はもう終わり。あなたも仕事は終わったんでしょ?』

 

「はい、終わっていま帰るところです」

 

『じゃあ、早く帰ってきて』

 

 リアスの言葉と共に脳内にうれしそうな笑みを浮かべているリアスの顔を浮んだ。

 

「わかりましたけど、なんていうかすごくうれしそうですね?」

 

『あら、やっぱりわかる? うふふ、私の機嫌がいいのは、悪神とはいえ神のロキやヴァーリに私自身が高く評価されたからかしらね』

 

 うふふ、と子供っぽい笑い声をもらすリアス。こ、これはかなりクル……。通信機越しでなかったら、いつもは見せない褒められ微笑む少女のような華やかな笑顔を見せてくれたことだろう。

 

『これもエイジや黒歌たちに鍛えてもらったおかげね。魔王の妹とかグレモリー家の娘とかじゃなく、私自身を評価してもらえる日がこんなに早く来るなんて』

 

 超ご機嫌だね。これはイケるかな~?

 

「ご褒美期待しても――」

 

『ええ、もちろんよ。どんなマニアックなプレイでも喜んで楽しませてあげるわ。――だから、早く帰ってきなさい。エイジ』

 

 ――よし、早く帰ろう。速攻で帰ろう。ヴァーリが何故参戦とかあとででいいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 俺はいま冥界に創られた訓練用のフィールドで、ひたすら飛ぶための訓練を行っていた。

 

 オーディンの爺さんの護衛中、悪神ロキとフェンリルという巨大な狼に襲われ、本格的な戦闘に移ろうとしていたところで白龍皇ヴァーリたちが乱入したことで、結局戦闘にならずに後日会談のときに襲うと捨て台詞を言い残したあと、ロキとフェンリルは帰っていったんだけど……。

 

 俺は何もできないどころか、足手まといになってしまったからだ。

 

 フェンリルから部長を守るために禁手状態でブーストを噴かせて、フェンリルと部長の間に割り込んだ――つもりだったんだけど、部長は俺が反応する前にフェンリルの攻撃をかわしていて、さらに油断していて攻撃をかわされたことで動きを停めるだろうフェンリルを倒そうとしていたそうなんだ。

 

 俺が割り込まなきゃ部長はフェンリルを倒していた。

 

 部長は気にしなくていいと、助けてくれてありがとうと言ってくれたけど、結果的に俺は足を引っ張って邪魔をしてしまったんだ。

 

 ほんとうに自分が情けない。

 

 俺の目標はエイジを超えてハーレム王になって、自慢できる眷属を集めてレーティングゲームすることなのに、『王』である部長も守れもしない。

 

 まあ、守る守らない以前に、魔力も才能もある上級悪魔の部長よりも、下級悪魔で才能なし魔力も赤ん坊並みの俺のほうが弱いんだろうけどさ。

 

 女を守るのは男の役目!

 

 ――とか以前に、好きな女の子を自分が守りたいって想うのは当然だろ?

 

 守られる側から俺は守る側になりたいんだ。

 

 守る側になりたいのなら、へこんでいる暇はない。部長は――朱乃さんやゼノヴィア、それに小猫ちゃんも、どんどん先に行くんだから、俺も追いつくためには訓練を積まないといけないんだ。

 

 今日、俺は飛べないことで迷惑をかけて戦力にもならなかったし、美猴の金色の雲に助けられた。

 

 飛べないことがこんなにも足を引っ張ることになるなんて思いもしなかった。禁手化した際のブーストでの移動のほうが素早く動けるからって、悪魔として飛ぶ事を放棄していたんだ。

 

 空中戦の可能性があることや、ブースト噴かせ続けて飛んでいたらすぐに力が尽きるなんて、少し考えればわかっていたことだろうが!

 

 ブーストを鍛える前に飛行できないといけない!

 

 禁手化せずに翼をだし、俺は自然体で立ち、翼を感じる。

 

 転生悪魔である俺は最初から翼が生えていなかったので、まずは翼を意思通りに動かすところから始める。

 

 幸い悪魔の翼は少し動かすだけで空を飛べるし、はじめてだったけど結構上手く動かせている。

 

 翼を動かして短い距離を飛んだり降りたりを1時間ほど続けていると、飛ぶことに慣れてきた。

 

 10分ぐらいは飛び続けていられるようになったし、小回りも効くようになってきた。

 

「さてと、そろそろ禁手で飛ぶための練習をするか」

 

 鎧を着ている状態で飛べなかったら意味が無いからな。基本ができるようになったんだから、今度は禁手化した鎧状態で飛ぶために色々考えないといけない。

 

 カウントもすでに終えているし、飛ぶ感覚を忘れないうちにはじめよう。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!』

 

 赤龍帝の赤いオーラが体を包み鎧を形成していく。

 

 ここからだ。

 

 今の状態では翼は生えていないんだ。飛行するためには翼がいる。

 

「え~と、イメージと想いがあれば神器は応えてくれるんだよな?」

 

『ああ、アルビオンの宝珠を取り込んだときのように強いイメージと想いがあれば、おそらく翼が生えるだろう』

 

「そういや、アルビオンの宝珠を取り込んだのもイメージでのごり押しだったな。なあ、ドライグ、鎧から翼を生やすって難しいのか?」

 

『いや、さほど難しくはない。歴代の赤龍帝にも翼を生やして飛行した奴もいたからな』

 

「先任者がいるなら安心だな。とりあえずイメージを固めて……」

 

 ドライグとはじめて会ったときの翼がいいな。赤龍帝の鎧にあいそうなドラゴンの翼。

 

「…………」

 

 グググ……。

 

 10分ほどイメージを固めながらオーラを背中に送っていると反応が返ってきた。これは手応えがあるぞ。

 

 ググググッ、バッ!

 

 確かな手応えが背中から感じた! おおっ、マジでちゃんと翼が生えてる!

 

 生まれたてみたいでまだ動きも形も弱々しいけど、もうすぐしたら悪魔の翼で飛んだときのように飛行できるだろう!

 

 思いのほか上手くいっているので、続けて集中して翼を形成していっていると、誰かがくる気配を感じた。

 

「よお、イッセー」

 

「アザゼル先生」

 

 現れたのは――アザゼル先生だった。なんでここに? オーディンの爺さんとロキとフェンリルの対策を練っていたんじゃなかったのか?

 

「見てたぜ。飛ぶ訓練か」

 

 どうやら俺の考えはお見通しのようだ。素直にうなずく。

 

「はい。ほとんど何もできないどころか部長の邪魔をしてしまったので……、飛ぶぐらいはできるようになっておこうと思って」

 

 俺がそう言うと、先生は肩をすくめた。

 

「まあ、自由に空を飛べない悪魔なんて転生悪魔ぐらいだし、空中戦はいずれ必要になるだろうから覚えておいて損は無いな。いまは赤龍帝の鎧に翼を生やして飛ぶところか」

 

「はい」

 

 先生なんだか元気がないな?

 

「ほら、さっさと特訓開始しろ。俺が見といてやるからよ」

 

「えっ!? いいんですか?」

 

「ああ。忙しいには忙しいが色々と誤算があったからな。戦力は十二分。対策もまあ、ヴァーリたちがそろう明日からだ。いまはおまえの特訓を見てやるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 バッと頭を深く下げる。神器研究の第一人者のこの人が手伝ってくれるなら特訓もうまくいくだろう。

 

「じゃあ、ほれ。とりあえず羽ばたいてみろ」

 

「はい!」

 

 悪魔の翼と動かし方はあまり代わらないようだ。でも――。

 

 …………バサッ! …………バサッ!

 

 ゆっくりしか羽ばたけないし、大量の土ぼこりを舞い上げるだけで、なかなか飛び上がらない。飛び上がっても、飛び続けられずに高度が伸びたジャンプだ。

 

「あれ?」

 

 なんで上手く動かせねぇんだ? 首をかしげているとドライグが話しかけてきた。

 

『相棒、まず俺が翼を制御してから飛んでみるか』

 

「そんなことできるのか!?」

 

『まあな。赤龍帝の鎧は俺自身でもあるから、相棒を通して鎧に干渉するぐらいはできる』

 

「お、意思を持っている神器特有のやり方だな」

 

 アザゼル先生は感心したように言う。

 

「じゃあ、とりあえず頼めるか?」

 

『ああ。任せろ』

 

 翼から意識を外すと、すぐにドライグが俺の代わりに翼を動かし始めた。

 

 バサッ、バサッ!

 

「おおっ! すげぇ!」

 

 きちんと羽ばたけてるし、落ちないで空を飛べてる! それにかなりの速度だ!

 

『飛ぶのに慣れたら少しずつ干渉を弱めていく。ゆっくりでいいから自分で飛んでみろ』

 

「わかった!」

 

 俺は休憩を挟みつつ2時間ほど訓練用の空間の空を飛び続け、最終的にドライグの干渉なしで飛べるようになった。

 

 飛べるようになったので地面に降りて一旦禁手化を解く。

 

「はぁ~……」

 

 これまでに溜まった疲労をため息と共に吐き出す。飛ぶのって結構疲れるな。

 

「――これじゃダメだな」

 

「え?」

 

 アザゼル先生?

 

「まだコントロールが甘いし、飛び上がるのに時間もかかる。ドライグのサポートがないと高速で飛べないのも痛いし、ブーストも噴かせられていない。――このままじゃダメだ」

 

 バッサリと切ってくるアザゼル先生。

 

「そ、そんなこと言われてもはじめてなんですし――」

 

「――はじめてとか関係ねぇんだよ! おまえはこんなんじゃないだろう! この程度じゃないだろう!? おまえの想いってのはこの程度なのか!?」

 

「――っ!」

 

 俺の胸倉を掴んで引き寄せて大声を上げるアザゼル先生。……そうだ。はじめてとか言い訳するなんて、アザゼル先生が怒るのは当然だ。それに俺の想いはこの程度なんかじゃない!

 

「先生――」

 

「――アザゼル先生」

 

 俺が言葉を発しようとしていたら、第三者の声が割り込んできた。アザゼル先生は顔だけ動かして第三者を見た。

 

「木場か」

 

 現れたのは木場だった。木場は四角いダンボールの箱を持っていた。先生に怒られているところなんて、みっともねぇところを見せてるな。

 

「ちゃんと持ってきたか?」

 

「はい」

 

 アザゼル先生の問いに木場はうなずく。そしてダンボールの箱を俺とアザゼル先生の足元に置いた。

 

 ボンッ。

 

 かなり重たい物のようだ。アザゼル先生は俺から手を離した。

 

「よくやった。――イッセー」

 

「……はい」

 

 木場に礼を言い、俺の方をにらむ先生。返事を返すとアザゼル先生は地面に座り、俺も座るように指示してきた。

 

 俺は指示に従って地面に座る。丁度ダンボールを挟んでアザゼル先生と向かい合う格好になった。先生は俺の顔を真剣な表情で見ながら言う。

 

「少しまえに、俺はおまえには他の赤龍帝よりも別の可能性があると言ったな?」

 

「はい」

 

「木場に用意してもらったこれは、その可能性を爆発的に引き上げるアイテムだ」

 

 ――っ! 俺の可能性を爆発的に引き上げるアイテム!?

 

「そんなものがあるんですか!?」

 

 俺はアザゼル先生に飛びついた! そんなアイテムが存在していたのか!

 

「ああ。ある」

 

 アザゼル先生はうなずくが表情はすぐれない。何かを悩んでいるようなそんな表情だ。そしてその表情のまま、俺を正面から見ながら言う。

 

「このアイテムを上手く使用すれば、確かに爆発的な神器の成長が望めるだろう。――だが、その分リスクも当然高い。最悪の場合、『覇龍』を使用するよりもリスクがある。それでもおまえは――」

 

 ……アザゼル先生。アザゼル先生の言葉に俺は続けてはっきりと言う。

 

「使います」

 

 このまま足手まといは嫌だし、もうすぐ悪神ロキやフェンリルとの戦いもあるんだ。俺が覚悟を決めないでどうするっていうんだよ! 俺の想いは! 俺の想いはこの程度のリスクなんかで尻込みするようなもんなんじゃねぇんだ!

 

「……そうか」

 

 アザゼル先生は一度うなずくと、俺の左腕に発現している赤龍帝の籠手を見た。

 

「だが、ほんとうのところを言うと、この方法はイッセーよりもドライグ――神器であるおまえのほうが圧倒的にリスクが高いんだ」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

『…………爆発的な神器の成長が対価だ。宿主よりも神器のほうが危険になるのは当然だろうな』

 

 当然のように言うドライグ。おまえにリスクを背負わせるなんて俺には――。

 

『ふん。強くなりたんだろ、相棒』

 

「――っ! それは、そうだけど……。おまえが――」

 

『俺は大丈夫だ。伝説の二天竜、赤龍帝のドライグだぞ。リスクぐらいどうというものでもない』

 

 そう言って俺のなかで笑うドライグ。――っ、なんて……なんてカッコイイドラゴンなんだよ!

 

 ここまで言われたら使わないって選択肢なんか選べねぇじゃなぇか!

 

「……アザゼル先生」

 

「……覚悟は決まったか? イッセー、ドライグ」

 

「はい!」

 

『ああ』

 

 アザゼル先生の最後の問いに俺とドライグはそろって返事を返した。

 

 アザゼル先生は深いため息を吐いてダンボールに手をかけた。

 

 一体どういうアイテムなんだ?

 

「いくぞ!」

 

「はい!」

 

 アザゼル先生は両手でダンボールの箱を開く! なかからは――。

 

「こ、これは――!」

 

「どうだ、イッセー! これがおまえをパワーアップさせるためのアイテムだ!」

 

『…………』

 

「すげぇ! すげぇよ、アザゼル先生! すげぇヤバい!」

 

 アイテムの効果はマジで絶大だ! ディオドラ戦とときより少し弱いけども、普段と違ってものすごいオーラが体の奥から溢れ続けていく!

 

「俺の予想通りいい高まりっぷりだ! さあ、その高まった気持ちを神器に乗せて禁手化しろ!」

 

「はいっ!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!』

 

 赤いオーラが体を包んで鎧を形成していく! おおっ! 最初から翼が生えてる!

 

 アザゼル先生はこちらにアイテムの一部を投げ渡してきた! 俺はしっかりと受け取る!

 

「さあ、全てを解放して飛び上がれ! おまえの俺に可能性を見せてみろ、イッセー! おまえの想いがどれだけ強いか見せてみろ!」

 

 アザゼル先生が両手を広げて大声で叫ぶ! すげぇ高いテンションだ! 俺もそのテンションにのるぜ!

 

 両手にアイテムをもって開く! 隅々まで観察、堪能! うひょひょひょ~!

 

 バッ!

 

 背中の翼がいままでと違って力強くなっている! それに完全に翼の感覚も捉えている!

 

 「これならいけるッ!」

 

 バサッ! バサッ! バサァァァッ!

 

 おおっ! マジで自由自在に動かせてる! 試しにブーストを使ってみたけど、かなり使えている!

 

 しかも、しかも! まだまだどんどん高まっていく!

 

 すげぇ! すげぇよ! うひょぉ、ひょぉおおおおおおお~ッ!

 

 飛んでるぜぇええええええ~!

 

『…………』

 

 おいおいどうしたんだよドライグ? 自由自在に空を飛べてるんだぜ? アザゼル先生の言ったとおり、さっきまでよりもものすごく成長してるのに。

 

『…………』

 

 本当にどうしたんだ? いつまでも返事を返してこないドライグが気になって、俺は地面に降り立って禁手を解除する。

 

「アザゼル先生! 俺、やりましたよ!」

 

 とりあえずアザゼル先生の元へ走ると、アザゼル先生は笑みを浮かべていた。

 

「あっはっは。まさか、マ、ジ、で、上手くいくなんてな~。発破をかけてテンションを高めさせた状態で、コレ見せて思考を陽動すれば、おまえの場合、もしかしたら神器のコントロールが上達するんじゃないかって、お試しだったんだけどな。……まさか上手くいくなんて」

 

 へ? ど、どういうことですか?

 

 外野で見守っていた木場のほうへ視線を送ると、やれやれと苦笑していた。

 

「僕もまさかこんなもので神器の力が高まったり、コントロールが飛躍的に上がるとは思っても――いや、どこかでイッセーくんなら、と、思っていたのかもしれないね」

 

「ああ、まさかこんなもんでパワーアップするなんてな」

 

 ちょっ、木場にアザゼル先生も、こんなものって――。

 

「こんなものって酷い! これがどれだけすごいものなのかわかってないんですか!?」

 

 俺はダンボールに抱きつく! これは『そんなもの』なんじゃない! コレは――。

 

「エロ本だろ」

 

「エッチな本だよね」

 

 断言するアザゼル先生と木場。

 

「まさかエロ本読ませたぐらいで飛ぶなんてな~」

 

「まさかエッチな本なんかで飛べるようになるなんてね」

 

 ――うっ。いやでも――すごくエロいよ?

 

「乳首を押して禁手に至ったおっぱいドラゴンのイッセーなら、テンションが高い状態ですごくエロいエロ本でも読ませれば、パワーアップしたり神器の新たな可能性を見せてくれるんじゃないかって思ったけど、まさか成功するなんてな。リアスたちが短期間でバカみたいに強くなっちまってて、少し自棄になって考えたトレーニング方だったんだけどな」

 

「あははは、アザゼル先生からイッセーくんのパワーアップできるかも知れないって言われて、深夜のコンビニとか書店を回ってエッチな本を大量に買いに行かされたことは無駄じゃなかったことを喜べばいいのかな? ダンボールを持ったまま、エッチな本を買いに行かされて、そのダンボールいっぱいにエッチな本が入っていることとか。買い集めているところで、学園の友達と会って、未成年なこととかがバレて、偶然通りかかったお巡りさんに補導されかけて、『騎士』自慢の脚を使って逃げて……、『騎士』の脚があってよかったなんて思いたくも無いところで思ってしまったり、自宅からここにジャンプしようとした帰り道に、散歩中の黒歌さんと小猫ちゃんに偶然出くわして、黒歌さんにダンボールの中身を空けられて……、ダンボールの中身を見た小猫ちゃんに『祐斗先輩までイッセー先輩と同じ変態になってしまったんですか?』って、泣かれて、黒歌さんに『白音を泣かすんじゃない!』って、怒られて殴られたんだよねぇ」

 

 お、おい、木場……?

 

「あはははははははは……、しかも黒歌さんに殴られてダンボールの中身を地面に広げちゃったんだよね。しかもかなり痛くて大きな音も出でさ。深夜での大きな音に周りの住人も何事だって、結構な数の住人が顔を出してね……」

 

 も、もういい。もういいよ、木場……。

 

「逃げようにも隠れようにも、黒歌さんは仙術で殴ったみたいで体も満足に動かせなくて……。ああ、一生懸命にエッチな本を拾い集めるのは辛かったなぁ。仲良くしてた周りの住人さんもダンボールにぎっしり入ったエッチな本や、そのなかのハードなエッチな本に引かれてね。ものすごい冷たい視線を送られたり、自宅に帰ってすぐに近所に住んでいるお姉さんなんかに、『そんな本なんかより楽しませてあげるわ』って自宅で落ち込んでいる最中に入って来られていきなり押し倒されたりって、あははははは……。目的通りイッセーくんはパワーアップできたみたいだし、僕が苦労した甲斐もあったのかな?」

 

 そう笑顔で首をかしげる木場から、一筋の涙がこぼれていた。

 

 …………。

 

 土下座でもして謝りたいけど、色々重すぎて謝れない……!

 

 最後のお姉さんに押し倒されたのはうらやましいとか、俺だったらそんなこと無しでただの変態扱いだよ! とか思っちまったけど……。

 

 濁りに濁った瞳で「ああ、もう自宅には帰れないね」と笑う木場に、俺は声をかけれなかった。

 

「まあ、そう落ち込むなよ。冥界全国放送やグッズ発売されちまってる小猫よりはマシなんだからよ」

 

「…………そうですね。僕はまだやり直せるレベルですよね?」

 

「ああ、大丈夫だ。見られたのは一般人ばかりだし、辛くなったら記憶を消せばいいだけなんだからな。それに、おまえはしっかりとイッセーの役に立ったよ」

 

「そう……ですね」

 

 アザゼル先生が木場を慰める! でも、慰めてる内容は酷い! そもそもあなたが木場にエロ本をダンボールいっぱい買ってくるように指示したんですよね!? 慰められてる木場もそのこと忘れてるんじゃないのか!?

 

 アザゼル先生は木場から今度は俺の方へ視線を向けた。

 

「さてと、行くか。イッセー」

 

「え?」

 

 いきなりどこに行くって言うんだ? 俺が疑問符を浮べているとアザゼル先生は俺の左腕を指差した。

 

 指を挿された左腕に視線を向わせると――。

 

「――っ!? ド、ドドドド、ドライグゥウウウウウウ!?」

 

 宝珠はもちろん赤龍帝の籠手全体にヒビが入っていた! いまにも壊れそうな赤龍帝の籠手!

 

「アザゼル先生! ドライグは!?」

 

 詰め寄ると、アザゼル先生は目を伏せて言った。

 

「最初に言っただろう。『覇龍』よりもリスクがあるかもしれないと。まったく、だから覚悟はいいかと訊ねたのに。あっさり壊れかけてやがる」

 

 アザゼル先生は俺の左腕をとって、赤龍帝の籠手の状態を調べていた。

 

「……結構ギリギリだな。――いや、マジでヤバい。『ドライグはやっぱり乳龍帝おっぱいドラゴンだな!』とか、からかおうとしてたんだが、冗談を言っている暇はマジでない!」

 

 ピキッ、ビキビキッ……。

 

 嫌な音と共に神器のヒビが増えていく! その様子にアザゼル先生も完全に真剣モードに切り変わっていた!

 

「イッセー! ドライグ用の精神安定剤は持っているか!」

 

「はい! 常備してます!」

 

「なら、急いで赤龍帝の籠手にふりかけろ! 少しでも状態を安定させるんだ! 俺はその間にグリゴリの医療施設までのゲートを繋ぐ! 前もって医療班は編成しているから、おまえはこのまえみたいにドライグが消えないように呼びかけ続けろ!」

 

「はい!」

 

 アザゼル先生の指示に従って常備している精神安定剤をふりかける! 

 

 ふりかけると赤龍帝の籠手に刻まれたヒビが少し薄くなった。ドライグに大声で呼びかける。

 

「ドライグ! ドライグっ! 大丈夫か! ドライグ!」

 

『……あ……ぼう……?』

 

 ほんの少しだけど反応があった! カウンセラーを受けたときに、ドライグがまたこういうことになった場合の対処法は教わっている!

 

「ドライグ! 伝説の二天龍、赤龍帝ドライグ! 白龍皇アルビオンのライバル、赤龍帝ドライグ! 聞えるか!?」

 

『あ、……ああ……』

 

 よし! 昔の栄光、呼び名での呼びかけは確実に効いてる!

 

「赤龍帝ドライグ! 気をしっかり持ってくれ!」

 

『あい……ぼう……』

 

「ここにいるぞ!」

 

 赤龍帝の籠手を優しく撫でる。

 

『……すま、ない』

 

「何、謝ってるんだよ! 俺のほうが謝るところだろ!」

 

『俺は、予想……していたんだ』

 

「え?」

 

『劇的な相棒のパワーアップには女が必要。前から理解していたし、もう全て諦めて乳龍帝おっぱいドラゴンでもいいと思っていたんだ。アザゼルからパワーアップの話を持ちかけられて女が関係していると予想して覚悟を決めたんだが……この様だ』

 

「ドライグ……」

 

 そんな……全部わかってて俺の為に……。

 

『今回、エロ本なんてものを読んで相棒がパワーアップすること事態には耐えていられたんだが、相棒のスケベ根性に応える神器。――俺自身に俺自身が耐えていられなくなったんだ。……まったく、情けないな』

 

「情けないなんて、そんなことはない! 俺が……、俺が乳龍帝なのが……」

 

 両目から涙が溢れる。ドライグがよく見えねぇよ。

 

『俺と相棒は一心同体なんだ。いまの俺は伝説の二天龍、赤龍帝ドライグではなく――』

 

「おい! 転移のゲートが繋がったぞ! 医療班の準備も終わってる! 乳龍帝ドライグを早く搬送するぞ!」

 

『ち、乳龍帝ドライグ……、グハァッ!』

 

「ドライグゥウウウウウッ!」

 

 何さらっと止め刺しにきちゃってるんスか!? 先生!

 

「ほら、明日の夜には帰らないといけないんだし、さっさと行くぞ! ――ちっ、一度壊れかけたからもう耐性がついたと思ったんだが、誤算だったぜ。だけど、まあ、神器の新たな可能性は見えたからよしとするか」

 

 小声でアザゼル先生がなにかブツブツつぶやいていたけど、いまの俺はドライグを慰めるので精一杯でそれどころじゃない!

 

「頑張れドライグ! 傷は浅いぞぉおおお!」

 

「あははは、イッセーくんの前では赤龍帝もかたなしだね。その様子じゃ、明日は学校に行けないみたいだから、部長と学校と僕が連絡しておくよ」

 

 木場! おまえにも正直ドライグを慰める手伝いを――。

 

「ああ、でも僕も明日学校に行きたくないな。小猫ちゃんは話さなくても黒歌さんなら、部長たちに僕がエッチな本をダンボールいっぱいに持ち歩いていたことを話すだろうし。部長たちにも会いたくないな。ロキとフェンリルに襲われた深夜にエッチな本を買い歩くなんて、確実にお尻叩きコースだしね。いや、お尻叩き以前に病院送りにされちゃうのかな? あはははは……、でも僕は仲間を見捨てない、守ると誓ったんだし、変態扱いされようと僕は……僕は――」

 

 木場は頭を抱えて葛藤し始めた。木場も精神的にやべぇっ! もとから変態扱いとか慣れていない爽やかなイケメンには、ショックが大きすぎたんだ!

 

 転移のゲートを潜る前に木場に声をかける。

 

「木場!」

 

「イッセーくん……」

 

「帰ってきたら、エロ本のこととか俺が部長たちにきちんと説明してやるから安心しろ!」

 

「ほんとうに?」

 

「当たり前だろ! これ以上俺は変態扱いされても同じなんだしきっちり説明してやる! それに家に住んでいられなくなったら、――俺の家に住めばいい! 幸い部屋もたくさん余ってるし、もともと俺のせいだからな」

 

「いいのかい?」

 

「ああ、いいぜ! でもアーシアには絶対手を出すなよ?」

 

「うん、もちろんだよ。ありがとう、イッセーくん」

 

 木場は涙を流しながら笑顔で礼を言ってきたが、礼を言われることなんかしていないんだよな。実際。

 

 よし! じゃあ、ゲートを――って、大事なことを忘れてた!

 

「木場!」

 

「なんだい?」

 

「そのエロ本は俺の部屋に隠しておいてくれ! ――そうだな、ダンボールごとクローゼットのなかがいいな。そういうことでクローゼットのなかに入れといてくれ!」

 

「…………わかったよ」

 

 木場はうなずいてくれた。

 

 これで思い残すことはねぇな! ドライグの治療に専念しよう!

 



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第62話 ロキ対策会議

 まさかの2万字越え……。いいところで場面を切れませんでした……。


<エイジ>

 

 

 悪神ロキとフェンリルに襲われた次の日。兵藤家の地下一階の大広間に皆集まっていた。

 

 俺たちグレモリー眷属+イリナ、俺の眷属扱いとなっている黒歌たち、アザゼル。バラキエル、シトリー眷属――そして『禍の団』のヴァーリチームという異様な面々だった。

 

 イッセーの家にヴァーリや美猴(びこう)がいるなんて、イッセーの家、完全な集会場になってるな。

 

 悪神ロキとフェンリルを打倒するための会議に、まさか『禍の団』のこいつらも参加するなんてな。アザゼルやサーゼクスが承諾したそうだが、ほんとうによく承諾したな。

 

 ロキを屠るとヴァーリは言っていたそうだが、それが真意なのか? こいつらが頭を下げてまで俺たちに協力させろと言ったのは何故なんだ? まだわからないな。

 

 オーディンとロスヴァイセは別室で本国と連絡を取り合っているらしい。

 

 ロキが日本に来たことはあちらでも大問題になっているそうだ。

 

 さて、俺たちはさっそくロキ対策について、話し合いを始めていた。

 

 今回の件は魔王であるサーゼクスも知っていて、堕天使側にも天界にも情報は伝わっている。

 

 オーディンの会談を成就させるために3大勢力が協力して守ることになった。

 

 協力といっても、協力態勢の強いここにいるメンバーで力を合わせてなんとかしろって意味なんだけどな。

 

 つまり、ロキを俺たちで退けろってことだ。

 

 相手は神。だけど、1番厄介なのは奴が連れている神 喰 狼(フェンリル)だ。

 

 生みだしたロキをも凌ぐ能力を有した本物の怪物。封じられる前の二天龍に匹敵するほどの力を持っているらしく、アザゼルやタンニーンでも単独では勝てないそうなんだ。

 

 俺が知っている天然もののフェンリルよりは力は劣るだろうな。というか、そいつを倒しかけたリアスは、アザゼルやタンニーンよりもやっぱり強いのか……。

 

 二天龍の力を完全に引き出せていないイッセーやヴァーリよりも強いだろうしな。

 

 ……改めて鍛えすぎたと実感している。

 

「だが、『覇龍』を使用すれば勝てる可能性はある」

 

 とかヴァーリは言うけど、イッセーが『覇龍』を使用すれば死ぬし、ヴァーリも膨大な魔力消費を引き換えに『覇龍』が使えるといっても数分間しか保たずに、ロキまで確実に保たない。下手をすればヴァーリも命を削って死ぬかもしれない。

 

 ロキとフェンリルはこのメンバーで勝てるだろうが、犠牲が出る可能性が高いんだ。

 

 もともと何名か戦死するのは確実だと言われているんだし。

 

 リアスたちが総合値で上がってるといっても、フェンリルの牙は防御をたやすく貫いて命を奪うからな。ほんとうに厄介だ。

 

 加勢は期待できない。どの勢力からも、だ。英雄派から神器所有者を送り込んでくるテロはいまだに断続しており、各陣営を混乱させている。

 

 各種拠点は警戒をマックスにしているため、戦力は()けないし、それどころか、会談に使用する会場の防衛ために、ノエル、レイナーレ、時雨の3人を残さないといけなくなっているのからな。それでも戦力は十二分だといっても犠牲者を出さなくするためにいて欲しかった。

 

 いまは犠牲が出ないように勝つ方法を模索しているところだ。ロキやフェンリルには対抗策があるから作戦会議中。

 

「まず先に。ヴァーリ、俺たちと協力する理由は?」

 

 ホワイトボードの前に立ったアザゼルが一番の疑問をヴァーリにぶつける。

 

 頭まで下げたらしいし、どうして協力をしたいか理由を聞いてみたいな。

 

 ヴァーリは不敵に笑むと口を開く。

 

「ロキとフェンリルと戦ってみたいんだ。美猴たちも了承済みだ。この理由では不服か?」

 

 結局戦闘大好き野郎なわけか。ある意味清清しいよ。

 

 それを聞いてアザゼルは怪訝そうに眉根を寄せる。

 

「まあ、不服だな。だが、いまは戦力になる奴が欲しいのも確かだ。いまは英雄派のテロの影響で各勢力ともこちらに戦力を割けない状況だ。英雄派の行動とおまえの行動が繋がっているっ見方もあるが……おまえの性格上、英雄派と行動を共にするわけないか」

 

「ああ、彼らとは基本的にお互い干渉しないことになっている。俺はそちらと組まなくてもロキとフェンリルと戦うつもりだ。――組まない場合は、そちらの邪魔になってでも戦闘に介入させてもらう」

 

 ……一見脅しにとれるけど、実際はかなり下手に出てるな。どうしても戦いたいからやらせてくれって聞えるし。

 

「サーゼクスも悩んでいる様子だったが、旧魔王の生き残りであるおまえからの申し出を無碍にできないと言っていてな。本当に甘い魔王だが、おまえを野放しにするよりは協力してもらったほうが懸命だと俺も感じている」

 

「納得できないことのほうが多いけれどね」

 

 リアスがアザゼルの意見にそう言う。文句はあるようだけど、悪魔の王たる魔王が良しとするならば、リアスも強くは言えないのだろう。

 

 ソーナ会長も了承の様子だった。かなり不満のある表情だけどね。

 

 勝手に動かれるよりは監視下に入ってもらったほうが対応しやすいんだろうけど、こいつが素直に言うことを聞くかどうか……。

 

 リアスが応じるなら俺もそれに従うが、ヴァーリが変な行動をしたら、拘束ぐらいはさせてもらおう。

 

 他の眷属は文句もあるみたいだが、渋々応じているみたいだった。

 

 アザゼルはヴァーリをじっと見る。

 

「何か企んでいるだろうがな」

 

「さてね」

 

「怪しい行動を取れば、誰でもおまえを刺せることにしておけば問題ないだろうな」

 

「そんなことをするつもりは毛頭ないよ。ま、かかってくるならば、ただでは刺されないさ」

 

 アザゼルの言葉にヴァーリは苦笑するだけだった。

 

「……まあ、ヴァーリに関してはいったん置いておく。さて、話はロキ対策のほうに移行する。ロキとフェンリルの対策をとある者に訊く予定だ」

 

「ロキとフェンリルの対策を訊く?」

 

 アザゼルがリアスの言葉にうなずく。

 

「そう、あいつらに詳しいのがいてな。そいつにご教授してもらうのさ」

 

「誰ですか?」

 

 イッセーが挙手して訊く。

 

「5大龍王の1匹、『 終末 の 大龍 (スリーピング・ドラゴン)』ミドガルズオルムだ」

 

 ああ、あの……。

 

「まあ、順当だが、ミドガルズオルムは俺たちの声に応えるだろうか?」

 

 ヴァーリの問いにアザゼルは応える。

 

「二天龍、龍王――ファーブニルの力、ヴリトラの力、タンニーンの力で 龍 門 (ドラゴン・ゲート)を開く。そこからミドガルズオルムの意識だけ呼び寄せるんだよ。本体は北欧の深海で眠りについているからな」

 

 へぇ。ドラゴンってそんなこともできるのか。

 

「もしかして、お、俺もですか……? 正直、怪物だらけで気が引けるんですけど……」

 

 匙がおそるおそる意見を言っていた。そういやこいつがヴリトラの神器持っているんだっけ。

 

「まあ、要素のひとつとして来てもらうだけだ。大方のことは俺たちうあ二天龍に任せろ。とりあえずタンニーンと連絡が付くまで待っていてくれ。俺はシャムハザと対策について、話してくる。おまえらはそれまで待機。バラキエル、付いてきてくれ」

 

「了解した」

 

 アザゼルとバラキエルはそう言って大広間から出て行く。

 

 残されたオカルト研究部と生徒会。黒歌たちに、そしてヴァーリたちの面々。

 

「エイジ」

 

「ん? なんだヴァーリ」

 

 ヴァーリの手には封書のようなものが握られていた。

 

「オーフィスからの手紙だ」

 

『――っ!』

 

 一気に部屋の空気が変わる。――っ。『禍の団』のトップからの手紙って……。

 

 これは――受け取っていいのか? リアスに確認するような視線を送る。リアスは真剣な表情を浮かべたままゆっくりうなずいた。

 

 俺はヴァーリから手紙を受け取る。『禍の団』トップからの手紙に、リアスとソーナをはじめとして部屋の大部分のメンバーが俺の後ろにまわって、手紙の内容を知ろうとしていた。他に見せるなとも言われていないし、ヴァーリも気にしていないようだからいいか。

 

 封書から手紙をだす。……随分とかわいらしい便箋だな。

 

『我、おまえの子種で孕ませて』

 

 ……は?

 

『我、おまえの子種で孕ませて』

 

 …………。達筆な文字。手紙にはその一文以外、何も書かれてはいなかった……。

 

 手紙を寄越したヴァーリのほうへ視線を向ける。ヴァーリは苦笑して言う。

 

「オーフィスからのラブレターだよ。以前のキミの言葉をそのまま、恋など色々と知ったら孕ませてもらえると思ったらしくてね。そこのアーサーの妹、ルフェイという子に色々指導してもらった結果、その手紙になったんだよ」

 

 アーサーの妹なんていたのか。

 

 ――って、

 

「こ、これが指導した結果なのか? ず、随分と積極的なラブレターだな。こんなのもらったのは生まれて初めてだ……」

 

「まあ、元々恋愛や人の営みなんかに興味なんてない『無限の龍』だからね。プロセス以前に恋や愛なんてそもそもわからないんだろう。いまはルフェイから色々教えてもらわれながら勉強中だ」

 

「『無限の龍』オーフィスが私の妹を頼ってくれる光栄なんですが、私の妹は少しばかり……」

 

 はぁ、とため息を吐くアーサー。いや、ちょっ!? なんか色々大変なことになっていないか!?

 

「はっはっは! まったくモテモテだな! さすがエロ過ぎてインキュバスに成った男! うらやましいぜぃ!」

 

 状況についていけないこちらを無視して、爆笑する美猴。少し馴れ馴れしくないか、こいつ?

 

「おい、兵藤。神城の奴って『無限の龍』のオーフィスに求愛されてんのか?」

 

「ああ……、ああ、そうなんだよ! また美少女から告白されやがったんだよ!」

 

「はぁ、美少女? 『無限の龍』って龍の姿じゃないのか?」

 

「龍なんかじゃねぇよ! ゴスロリの、すげぇかわいい美少女だよ! 小猫ちゃんみたいなロリかわいいタイプと違う、綺麗系のクールなロリっ娘だ!」

 

「なん……だと? そ、そんな龍が存在していたのか……。しかも、神城に告白だと?」

 

「しかもこいつ! 部長や朱乃さん、ゼノヴィア、小猫ちゃんまでと同棲してるんだぜ!」

 

「はあっ!? その話って噂じゃなかったのか!?」

 

「噂なんかじゃねぇよ! こんなこと! 夢でも妄想でもありえねぇのに……。エイジは……、エイジはあっ!」

 

「俺なんか同棲以前に、女の裸なんて生で見たことないし、告白されることすら難しいというのに……。ここまで差があるのか……っ!」

 

 ……後ろでイッセーと匙が騒ぎ出して号泣しているようだが、皆無視してる。

 

「とりあえず、まだ返事をもらうことなど考えていないだろうから、返事はあとででいいと思うよ」

 

「わ、わかった……」

 

 封書に戻してから【王の財宝】にしまう。……【王の財宝】、完全な倉庫になってるな。

 

「まったく、何かと思えばラブレターなんて」

 

 部長はやれやれとため息を吐いていた。……すみません。

 

「おーい、赤龍帝!」

 

 とりあえずオーフィスからのラブレターの件が終了してすぐ、美猴が手を挙げる。

 

「な、なんだよ……」

 

 少し離れたところで匙と涙を流していたイッセーが訊くと、美猴はイタズラっぽい笑顔で言った。

 

「この下にある屋内プールに入っていいかい?」

 

 …………。予想だにしない質問に誰もが言葉を失っていると、血涙を流さんばかりのイッセーが大声で叫んだ。

 

「勝手に入りやがれぇええええええええええ!」

 

 おおう、すげぇ迫力。だけど美猴はまったく気にせず笑顔で、

 

「おっ、気前いいな。じゃ、暇してる間、入らせてもらってくるぜぃ」

 

 と、出て行ってしまった。これでいいのか、孫悟空の末裔……。

 

「こ、これが失われた最後のエクスカリバーなんですね! はー、すごーい」

 

「ええ。ヴァーリが独自の情報を得まして、私の家に伝わる伝承と照らし合わせて、見つけてきたのですよ。場所は秘密です。それよりも私はゼノヴィアさんが使っている龍殺しの剣に興味があるのですが、見せてもらえないでしょうか?」

 

「うむ、この剣に目をつけるとはさすがだな。エクスカリバーも見せてもらったことだし、私も見せよう」

 

 声のする方へ顔を向ければ、イリナとアーサーがエクスカリバーについて話していて、そこに元エクスカリバー使いのゼノヴィアも参加し、真・リュウノアギトを異空間から取り出して、アーサーに渡していた。

 

 アーサーはゼノヴィアから受け取った真・リュウノアギトを興味深そうに観察していた。

 

「ほう、コレはすごい。見事なまでの龍殺し剣だ。なるほど、龍のアギトなど、上質な龍の素材を魔術などで加工して創りだしているのですか。それにこの超重量……、シトリー戦のビデオを拝見した際、あなたは軽々と、しかもまったく体の軸をブラさずにこの重い剣を振るっていましたね。それも特殊な機能なのですか?」

 

「わかるのか。その通りだ。この剣の最大の特徴は龍殺しのオーラで間違いないんんだが、確かにもうひとつ機能がある」

 

 ゼノヴィアは得意げにアーサーに説明を始める。

 

「その機能は、振っている側である私には普通の長剣ほどの重さ、振るわれている側には超重量の大剣となるように重量を変える。というものでな、私はこの超重量の剣をそれほど筋力など必要とせずに自由に、しかも普通の長剣ほどの速さで振れるんだよ。さらに言うと、重量は私の魔力によってもっと重くすることが可能。しかも、どんなに重くしても、持ち主の私には長剣並みの重さ。私の1番の剣なんだ」

 

「自分と相手で感じる重さが違う……。だから高速で、軸もぶれさせることなく振れるのですね。龍殺しのオーラだけで厄介な上に、見かけに反して使い手には普通の剣。受け手には超重量の大剣。下手に受け止めようとしたら重量によって武器が壊れ、逸らそうとしても見た目に反する力で失敗する。そもそも長剣を振っているときと変わらない力で、超高速で切りかかられ続けたらひとたまりもないですね。これはほんとうにすごいです」

 

 ……メチャクチャ褒められているな。男でも手放しで褒められるのはうれしいな。

 

 ここでイリナが自慢するように会話に入ってきた。……嫌な予感がする。

 

「私も今度お兄ちゃん聖剣創ってもらうんだよ! ゼノヴィアだけじゃずるいからね!」

 

 イリナの言葉を訊いて、アーサーは一瞬で目つきを変えた。

 

「お兄ちゃん? この龍殺しの剣はあなたのお兄さんが創った物なのですか? それに先ほど聖剣も創ると聞えたような……」

 

「うん。本当のお兄ちゃんじゃないけどね」

 

「本当の兄ではない? ああ、義理というものですか。それよりもこれほどの龍殺しの剣を創りだし、聖剣まで製作できる人物に私も是非お会いしたいものですね」

 

 おそらくおまえの考えているだろう義理じゃないと思うぞ。あと、もう――。

 

「もう会っているんだがな」

 

「ちょっ、ゼノたん!?」

 

「ん? 言ってはダメだったか?」

 

「……いや、そういうわけじゃないんだけど……」

 

 正直、かなりの確立で面倒事になるだろうから言って欲しくなかったけど、そんな自分の彼氏を自慢するみたいな誇らしげに胸を張られては、咎めることなど俺にはできないっ!

 

「ほう、あなたが……」

 

 アーサーが「私、すごく興味あります!」みたいな視線で見てきた。

 

 俺は視線をそらした。

 

「他にはどんな剣を創れるんですか?」

 

 アーサーが訊ねてきた。……答えない。というのは無理のようだ。

 

「……色々だよ」

 

「それは剣以外にも色々、という意味ですか?」

 

 首をかしげるアーサー。詳しく頼む。という視線を送ってきた。

 

「…………」

 

「私の剣はもちろん。部長が扱ってる弓など、他にも色々創れるのさ」

 

「ほう、それはすごいですね。あの弓も剣同様に素晴らしい武器でした」

 

 俺が黙っているとゼノヴィアが代わりに応えた。って、ゼノヴィア!? 『禍の団』に俺が色々道具を創れるって分かったら面倒なことになるだろ!?

 

 頭を抱えていると、イリナが腰に手を当てて自慢するように話し始めた。

 

「ふふふっ、私の聖剣なんて10種類の姿に変身ができる剣よ! 爆発の剣に、音速の剣っ! 他にも色んな特殊能力を持った剣に変身できるのよ!」

 

「10種類の剣に変身できる聖剣ですか」

 

「新しい剣か……。今後のために私も神殺しの剣を創ってもらおうかな? エイジなら神殺しの剣も創れそうだし」

 

「神殺しの剣まで……」

 

 まあ、創れないことも無いけど、いまはこれ以上仕事を増やすのは止めてくれ。最近朝方ぐらいにしか家に帰れていないことが多いんだから……。それに簡単に言うけど、10種類に姿を変わる剣って、特殊な機能を持った10種類の剣を1本1本創らないといけないんだよ? それだけで普通の剣の10倍手間がかかって疲れるのに、神殺しの剣の製作までしてたら、ずっと工房に閉じこもっていないといけなくなるんだよ?

 

 とりあえず3人から視線を外して周りの様子を見てみる。

 

「シャルバ・ベルゼブブを滅したときといい、フェンリルを倒しかけたときといい、ほんとうにキミはどんどん強くなるな」

 

「まっ、まあね。かなり厳しい修行も積んでるし、当然よ」

 

「――っ! ちょっとリアス! あなたそんなに強くなっていたの!?」

 

「え、ええ。そうよ。夏休みからかなり厳しい修行を続けていたから」

 

「この短期間での急成長。――その修行の内容が気になるな」

 

「そうよ! 私にも教えなさい!」

 

 リアスとヴァーリと会話に割って入るソーナ会長。ヴァーリとキャラの崩れたソーナ会長に詰め寄られて、リアスは困ったような表情をうかべていたけど、それと同時に注目されてうれしそうだった。

 

 そしてもう一方でも何やら騒ぎが起こっていた。

 

「白音に近づかないでくれる?」

 

「ちょっ、黒歌さん! ま、待ってください! 昨夜のは間違いなんです! あれは――」

 

「自分のじゃないとでも言うの?」

 

「そ、そうです! あれは全部イッセーくんの――」

 

「にゃあ~? でも、白音の使い魔が自宅へ持って帰ってるところを見てるにゃよ。『祐斗先輩があんなものをたくさん持って深夜徘徊してるはずがない。あれは祐斗先輩のじゃない』って、確かめに行かせたら、自宅までしっかりもって帰ってたよね? 変態のおっぱいドラゴンだからって罪をなすりつける気かにゃ?」

 

「……祐斗先輩」

 

「ちっ、違うよ、小猫ちゃん! そんな眼で見ないで! ほんとうにあれは全部イッセーくんので――、ほら、イッセーくん、説明してよ!」

 

「なんであいつばっかりモテるんだ? 何がダメなんだ? 何が違うんだ? あははははっ、そういや違いなんていっぱいあったなぁ……」

 

「兵藤、おまえなんてまだいいほうだ。俺なんか……、俺なんか女の子と同棲なんて一生出来ないかもしれないんだぞ? おっぱいだって揉んだこともないんだぞ? おまえなんてアーシアちゃんと一緒に暮らせてるだけマシなほうだ」

 

「……そうなのかな、匙。俺、アーシアと暮らせてるだけでマシなのかな」

 

「ああ、マシだよ。うらやましくて変わって欲しいぐらいだよ」

 

「ちょっとイッセーくん!? あれは僕のじゃないって早く説明してよ!」

 

「祐斗先輩……」

 

「ち、違うんだよ小猫ちゃん! 僕は嘘なんか……!」

 

「せっかく誰にも話さないで私たちの胸のなかだけに留めてあげようと思ったけど、やっぱり止めるにゃん♪」

 

「なっ――!?」

 

「リアスたちにも全部話すにゃん♪」

 

「そっ、それだけはほんとうに止めてください! なんでもします! なんでもしますから! だから、それだけは止めてくださいっ! お願いします!」

 

 黒歌に向って見事な土下座をする木場。こいつらの間にいったい何があったんだ?

 

「はあ……」

 

 と、ここで聞えてきたため息。声の方向へ顔を向ければ、部屋の隅で朱乃さんがため息を吐いていた。バラキエルが来てからずっとこの調子なんだよな。今回の共同作戦、色々な不安要素を含んでるな。

 

「どうしようかにゃ~?」

 

「お願いだからそれだけは止めてください!」

 

「祐斗先輩……」

 

 あ、とうとう木場が泣き始めた。何度も土下座をするために顔を上げる度にイッセーを激しく睨んでいた。イッセーも何か関わっているのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 アザゼル先生が帰ってきたあと、俺と匙とヴァーリは転移魔法陣で兵藤家から飛んだ。

 

 例の龍王を呼び寄せるためだ。特別に用意したところで意識を呼び寄せないとダメらしいとのこと。

 

 着いた場所は――白い空間だった。レーティングゲームの会場とかに使われる場所かな? 辺りを見てみても特に目立ったところは――あった。

 

 大きなドラゴンと小型のドラゴンが佇んでいた。

 

「先日以来だな、おまえたち」

 

「タンニーンのおっさん!」

 

 そう、タンニーンのおっさんだった。そっか、ミドなんたらを呼びだすために各ドラゴンの力が必要だって言ってたもんな。

 

「……そちらがヴリトラか」

 

 匙を見るおっさん。肝心の匙はビビッて全身を震わせていた。

 

「ド、ド、ドラゴン……龍王! 最上級悪魔の……!」

 

 緊張と尊敬が混じっている様子だ。

 

「緊張すんなよ。おっさんは強面だけど、いいドラゴンなんだ」

 

「バ、バカ! 最上級悪魔のタンニーンさまだぞ! お、お、おっさんだなんて!」

 

 なんだよ、匙の奴……。確かにタンニーンのおっさんはすごいと思うけどさ。

 

 俺に指を突きつけて匙が言う。

 

「最上級悪魔ってのは、冥界でも選ばれた者しかなれない。もっと言えば、レーティングゲームの現トップ10内のランカーが全員最上級悪魔だ。冥界での貢献度、ゲームでの成績、能力、それらすべて最高ランクの評価をしてもらって初めて得られる、悪魔にとって最上級の位なんだよ」

 

 と、匙が熱弁する。はー、そ、そこまですごかったのか。

 

 最上級悪魔。俺も目指してみたいな。でも、冥界での貢献度って、自分の領土で何ができるかってやつじゃなかったかな。うーむ、道は険しいか。

 

「……白龍皇か。妙な真似をすればその時点で俺は躊躇いなく噛み砕くぞ」

 

 おっさんがヴァーリを睨む。とうのヴァーリは苦笑するだけだった。

 

「ねえ、お父さん」

 

 そんなときに、女性の声が聞えた。声がしたほうへ視線を向けると、どうやら声の主はおっさんの隣にいた小型のドラゴンだったようだ。

 

「ああ、そうだったな」

 

 おっさんは何かに気づいたようにつぶやいた。おっさんは俺たちを見回して言う。

 

「娘のユウカナリアだ」

 

「えっと……、はじめましてユウカナリアです」

 

 おっさんに促されて、小型のドラゴンが首を少し曲げて挨拶してきた。冥界でタンニーンのおっさんに送ってもらったときに、エイジに求愛ダンスしてたおっさんの娘か。随分と礼儀正しい感じだな。パーティで人間バージョンを少し見たと思うけど、ドレスを着ていた美人ぐらいしか記憶にない。

 

『タンニーンに娘ができていたのか!』

 

 アルビオンが驚きの声をあげる。アルビオンの驚きようにおっさんは笑顔を浮べてうなずいた。

 

「まあな。俺の自慢の娘だ」

 

「ほう、聖書に記されているドラゴンのタンニーンも親バカだったわけか。俺は堕天使の総督、アザゼルだ」

 

「はじめまして、ユウカナリアです」

 

 先生もはじめて知ったのかユウカナリアさんを興味深そうに見ていた。

 

 俺たちもあいさつを返さないと……っと、自己紹介をしようとしていたときだった。

 

「ねぇ、お父さ~ん、エイジは~?」

 

 一気にユウカナリアさんの雰囲気が変わった。というか崩れた。タンニーンのおっさんもユウカナリアさんの態度にあからさまに不機嫌になっていく。

 

「……俺は知らん」

 

 ユウカナリアさんの質問に顔を背けるおっさん。ユウカナリアさんは不機嫌なおっさんを無視してアザゼル先生に顔を訊ねた。

 

「ねえ、アザゼルさん。エイジはどこにいるの?」

 

「ああ、エイジの奴か――」

 

 ぞくっ――!

 

「…………」

 

 アザゼル先生が頭をかいて答えようとしたとき、タンニーンのおっさんからものすごい殺気が放たれた! おっさんは無言で「話すな」と言わんばかりに先生を威圧する。す、すげぇ、これが最上級悪魔の殺気か……。ヴァーリも額から汗を流していた。

 

「もう、エイジがいないんじゃ私が来た意味ないじゃない!」

 

「むっ、そんなことはないと思うが……」

 

「お父さんもエイジが来ないこと知ってたんじゃないでしょうね?」

 

「そ、それは――」

 

 ……おいおい、何やら親子喧嘩始めちまったぞ? っていうか娘のほうが強そうだな。……おっさんと娘さんのやりとりに現代のお父さんを見た気がする。まあ傍から見る限りではドラゴン同士のケンカだけど……。

 

 俺はアザゼル先生に小声で話しかける。

 

「先生、エイジの奴もここに来る予定だったんですか?」

 

「ああ、タンニーンのほうから連れて来いと言われていたんだが……」

 

「なら、どうして連れてこなかったんですか?」

 

 先生、エイジについて来いなんて言わなかったよな?

 

「…………あいつにはいま、朱乃の傍にいて欲しかったからつれて来なかったんだが、まさかこんなことになるとはな……」

 

 気まずそうに答える先生。朱乃さんの傍にエイジを? どういうことなんだ?

 

「ま、前もって伝えておかなかったんですか?」

 

 匙がおそるおそる訊ねる。アザゼル先生は首を横に振る。

 

「いや、タンニーンには伝えておいた。タンニーンが娘に話さなかったんだろ」

 

 やれやれだとアザゼル先生はため息を吐いた。

 

「もういいわ!」

 

「コ、コラ! 待ちなさい!」

 

 何やら大声が……。どうやらユウカナリアさんがこれ以上話しても無駄だとタンニーンのおっさんとの会話を打ち切ったようだ。

 

 ユウカナリアさんはズンズンとこちらに歩いてくる。

 

 おっさんの隣にいたから分かりにくかったけど、おっさんよりも小型といっても、俺たちから見ると十分大きかったんだな。

 

 ――って!

 

 ユウカナリアさんがドラゴンの姿から人間の姿に変身した!

 

 うおっ! やっぱり美人だ!

 

 整った顔立ち! お尻近くまで伸ばされた青かがった紫色の髪! 大きくて形のいいFカップはあるだろうおっぱい! 腰も細くくびれていて、お尻も程よい大きさ! 太もももむっちりしている、ものすごい美人! 頭に生えた小さな角もすっごくかわいい!

 

 服装はおっぱいを強調させるようなヘソを出したタンクトップに、ジャケット。いまにも下着が見えてしまいそうな超ミニのタイトスカート! エッチなお姉さんルックだった! パーティでは大人しめのドレスだったのに普段はこんな大胆な服を着てんのか!

 

「ねえ、あなたたちはエイジがどこにいるか知らない?」

 

 訊ねてくるユウカナリアさん! 俺も匙もユウカナリアさんの姿に目を釘づけにされていた!

 

「ねえ、知らないの?」

 

 ――っ。俺と匙がぼーっとしていると、ユウカナリアさんはヴァーリのほうへ視線を向けた。

 

「ねえ、あなたは知ってる?」

 

「あ、ああ……、エイジなら――っ」

 

 ヴァーリの言葉が途中で止められる。原因は……おっさんだった。おっさんがユウカナリアさんの後ろでヴァーリを血走った眼で睨んでいたからだ。

 

 おっさんに気づいたユウカナリアさんは後ろを振り返る。

 

「もう! 邪魔しないでよお父さん!」

 

「邪魔とはなんだ! 邪魔とは! それよりも、またおまえはそんなはしたない格好をして! 人間の格好になるなら、せめてまえに買ってやったドレスのような服装にしなさい!」

 

「え~、お父さん買ってくれるドレスって動きづらいし、古臭いから嫌」

 

「なっ、ふ、古臭いだと!?」

 

「うん♪」

 

「…………」

 

 バッサリ切るユウカナリアさん。……おっさんはとうとう何も言えずに黙っちまった。パーティで着ていたドレスっておっさんが送ったものだったのか。ていうか、色々と怖ろしい娘さんだな、おい。

 

 ユウカナリアさんは再び俺らに視線を移した。

 

 まるで品定めするような視線で俺と匙、アザゼル先生を見比べると、匙の目を正面から見て声をかける。

 

「ねえ、あなた」

 

「は、はひっ!」

 

 緊張しまくって声まで裏返ってる匙に、ユウカナリアさんは笑顔で訊ねる。

 

「エイジがどこにいるか知ってる?」

 

「あ、そ、それ……それは……」

 

 完全にユウカナリアさんに飲まれている! タンニーンのおっさんはどこか遠くを見ている! 匙に逃げ場はない!

 

「ねえ、お、し、え、て」

 

 ここでユウカナリアさんの追い討ち! 距離を詰めて、顔を近づけての問い!

 

 俺と同じ……、もしかすると俺以上に女性に対する免疫のない匙は、完全に折られてエイジの居場所を話し始める。

 

「か、神城は……、人間界の兵藤の家にい、います……」

 

「兵藤の家?」

 

「そ、そこの奴の家で、神城の家の隣で……」

 

「それで、どこから行けばいいの?」

 

「お、俺たちがここに来るときに使った転移用の魔法陣がまだあるはずだから、そ、そこから行けば……」

 

 匙は催眠術にかかったようにスラスラと答えていく。匙の視線はかすかに当てられている大きなおっぱいに釘づけだ! うわぁああああっ、うらやましいっ!

 

「うん、ありがと♪」

 

「ど、どういたしまして」

 

 ユウカナリアさんは体を離してお礼を言う。匙は少し残念そうだったけど、

 

「これはお礼よ」

 

「――っ!!」

 

 ――っ! き、キスだとぉおおお!? 匙の奴! 前に俺が部長にされたときみたいに額にキスされやがった!

 

 匙は驚愕から顔を真っ赤にしたあと、幸せそうに顔を緩ませていやがった! お、俺が答えていればぁぁぁ!

 

「じゃっ、お父さん。私はエイジのとこに行ってくるから。帰りは1人で帰ってね♪」

 

 ユウカナリアさんはそうおっさんに言い残すと、俺たちが来るときに使った転移の魔法陣に乗って、姿を消した。エイジのところに行ったんだろう。

 

「――って、エイジの奴はあんな美人のお姉さんとも色々やってんのか!? クソォオオオオオオオオオオオ!!」

 

「ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ……。俺には会長が、会長とできちゃった結婚するんだ。ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ……。俺には会長が……」

 

「……まさに俺の理想だ」

 

「おい、ヴァーリ。ぼけっとしてどうしたんだ? ……アルビオン、ヴァーリはどうしたんだ?」

 

『いや、俺にもわからない。どうしたんだ、ヴァーリ』

 

「グォオオオオオオオオオオオオオ! 俺の娘に手を出すとはいい覚悟だな、小僧ぉおおおおおおおおおおお!!」

 

「俺には会長、俺には会長、俺には会長、俺には会長……」

 

「お、おい! 落ち着けタンニーン! そいつは別に何も――」

 

「うるさい、アザゼル! 貴様は黙っていろ!」

 

「――っ! や、ヤバい……。完全に理性を失ってやがる!」

 

「アルビオン」

 

『気づいたかヴァーリ。タンニーンが少しマズいことに――』

 

「俺がタンニーンを倒せば彼女を――、いや、エイジを倒せば彼女は俺を――」

 

『ど、どうしたんだヴァーリ! しっかりしろ!』

 

「俺の娘に手をだす男は全て滅ぼしてくれる!」

 

「おいおい、まさか本気でこのフィールドを吹き飛ばすつもりか……!?」

 

「アザゼル」

 

「ヴァーリ! 手を貸せ! タンニーンの攻撃を半減させるんだ! このままじゃフィールドが吹っ飛んじまう!」

 

「まかせろ。タンニーンぐらい倒せないとダメだろうからな」

 

「いやいやいや、倒すって何言ってんだよ?」

 

「アルビオン、彼女はまさに理想のドラゴンだとは思わないか」

 

『ヴァーリ、私にはいまのおまえがまったく理解できない』

 

「クソォオオオオオオオオオオオオオオオ! 絶対エイジを超えて俺がハーレム王になってやるぅううううううう!」

 

『ふははは、相棒も相変わらずだな。ふはははは……』

 

「俺には会長、俺には会長、俺には会長……、会長とできちゃった結婚する、会長とできちゃった結婚する、会長とできちゃった結婚するんだぁあああああああああ!」

 

「俺の娘は誰にも渡さぁぁぁああああああああんっ!」

 

「……………………もうおまえら勝手にしろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、じゃあ気を取り直してはじめるぞー」

 

 パンパンとアザゼル先生は手を叩いた。

 

 あれ? 俺はいままで何を……?

 

「いいからさっさと『終末の大龍』呼びだすぞー」

 

「そうだな……俺ももう帰りたいし」

 

 タンニーンのおっさんは嘆息しながらつぶやく。娘さんが出ていってから元気ねぇな。

 

「確か『終末の大龍』って、世界の終末に動きだすものの一匹で、使命が来るときまで眠りについているんだったよな」

 

 アザゼル先生の言葉にタンニーンのおっさんはうなずく。

 

「ああ、あいつは基本的に動かん。たまに地上へあがってきていたこともあったが、そのときですら寝ていた。数百年前、ついに世界の終わりまで深海で過ごすと宣言していたしな」

 

 そ、そんなドラゴンが龍王に……。基準がわからないよ。

 

 でも、会いたくても会いにくいのはわかった。深海のそこじゃ、さすがに会えないわ。

 

「さて、魔法陣の基礎はできた。あと各員、指定された場所に立ってくれ」

 

 先生たちに促され、俺たちはそれぞれ、見知らぬ紋様が描かれたポイントに立った。

 

 自分たちの下に描かれている紋様がそれぞれ、二天龍、龍王を意味するものらしい。

 

 各自指定ポイントに立ったことを先生が確認すると、手元に小さな魔法陣を操作して、最終調整をしているようだった。

 

 カッ。

 

 淡い光が下の魔法陣を走りだし、俺のところが赤く光り、ヴァーリのところが白く光った。先生のところが金色に、匙のところが黒く、おっさんのところが紫色に光り輝く。

 

『それぞれが各ドラゴンの特徴を反映した色だ』

 

 と、ドライグが説明してくれる。

 

『ここにはいないが、ティアマットが青。玉 龍(ウーロン)が緑を司っている』

 

 へぇー。って、正直、色がどうこう言われてもよくわからんけどさ。

 

 魔法陣が発動した。しかし、何も反応がなく、俺たちは数分間その場で立ち尽くすだけだった。

 

 ……本当にそのミドなんたらさんの意識とやらが来てくれるのか?

 

 怪訝に思う俺だが、魔法陣から何かが投影され始めた。立体映像が徐々に俺たちの頭上に作られていくが――。

 

 俺はどんどん広がっていく映像の規模に口が開きっぱなしだった。見れば匙も――。

 

「俺は、俺は会長が……」

 

 キスされた額をさすりながらいまだに悶えていた。いい加減目を覚まそうな。

 

 そして――。

 

 俺たちの眼前に映しだされたのはこの空間を埋め尽くす勢いの巨大な生物だった。

 

 で、でけぇぇぇぇぇぇええええええっ!

 

 うわ、このドラゴン、グレードレッドさんより断然デカいぞ!

 

 姿はでっかい蛇のようだ。頭部はおっさんみたいなドラゴンだけどね。長い体でとぐろを巻いている様子だった。

 

 体が長細いタイプのドラゴンなのか。そういや、ドラゴンにはドライグやおっさんみたいに西洋のドラゴン然としたタイプと東洋の長細い蛇みたいなタイプがあると聞いたことがあるな。

 

 俺が驚いているのを察したのか、おっさんが言う。

 

「ドラゴンのなかで最大の大きさを誇るからな、こいつは。グレードレッドの5、6倍はあるだろう」

 

 じゃ、じゃあ、5、600メートルですか……? 怪獣の域を超えてる!

 

 ビビる俺の耳に特大にデカい奇っ怪な音が飛び込んでいた。

 

『………………ぐごごごごごごぉぉぉおおおおおおおおん……』

 

 ……いびき?

 

 寝てますか、このドラゴンさんは……。

 

「案の定、寝ているな。おい、起きろ、ミドガルズオルム。……俺はもう帰りたいんだ」

 

 タンニーンのおっさんが話しかけると、巨大なドラゴンはゆっくりと目を開いていく。おっさんユウカナリアさんがいなくなってから一気にやる気なくなったな。

 

『…………懐かしい龍の波動だなぁ。ふああああああああああっ……』

 

 大きなあくびをひとつ。わー、でっけぇ口! おっさんを余裕で丸呑みにできる大きさだよ!

 

『おぉ、タンニーンじゃないかぁ。久しぶりだねぇ』

 

 なんともゆったりした口調だな。

 

 そのドラゴンが俺たちを見渡す。

 

『……ドライグとアルビオンまでいる。……ファーブニルと……ヴリトラも……? なんだろう、世界の終末なのかい?』

 

「いや、違う。今日はおまえに訊きたいことがあってこの場に意識のみを呼び寄せた」

 

 タンニーンのおっさんがそう言うが……。

 

『…………ぐ、ぐごごごごん……』

 

 ミドガルズオルムは再びいびきをかき始めた。ダメだ! このドラゴン、話している途中で寝ちゃうじゃん!

 

「寝るな! まったく、おまえと玉龍だけは怠け癖がついていて敵わん!」

 

 口から炎を吐かんばかりに怒るおっさん。ミドガルズオルムも大きな目を再び開けていた。

 

『…………タンニーンはいつも怒っているなぁ……。それで僕に訊きたいことってなんなのぉ?』

 

「おまえの兄弟と父について訊きたい」

 

 おっさんがそう訊く。

 

「……兄弟と父? そ、そんなことを訊くんですか? ロキとフェンリル対策じゃ?」

 

 俺が疑問に思い先生に問う。

 

「ミドガルズオルムは元来、ロキが作りだしたドラゴンでな。強大な力を持っていながら、その巨体と怠け癖から北欧の神々も使い道が見いだせず、海で眠るよう促したんだ。せめて、世界の終末が来たときだけ何かしろと言ってな」

 

「そ、それで『終末の大龍』なのか……。まさにスリーピングなでっかい龍だ」

 

 おっさんの質問にミドガルズオルムは答える。

 

『ダディとワンワンのことかぁ。いいよぉ。どうせ、ダディもワンワンも僕にとってどうでもいい存在だし……。あ、でも、タンニーン。ひとつだけ聞かせてよぉ』

 

「なんだ?」

 

『ドライグとアルビオンの戦いはやらないのぉ?』

 

 俺と――ヴァーリを交互に大きな目で見ていた。

 

「ああ、やらん。今回は共同戦線でロキとフェンリルを打倒する予定だ」

 

 おっさんの言葉にミドガルズオルムは笑ったように見えた。

 

『へぇ、おもしろいねぇ……。2人が戦いもせずに並んでいるから不思議だったよぉ』

 

 そう言ったあと、改めて質問に答えだした。

 

『ワンワンはダディよりも厄介だよぉ。牙で噛まれたら死んじゃうことが多いからねぇ。でも、弱点もあるんだぁ。ドワーフが作った魔法の鎖、グレイプニルで捕らえることができるよぉ。それで足は止められるねぇ』

 

 ワンワンね。まあ、この大きさのドラゴンから見たら、小さなワンワンだよな。

 

「それはすでに認識済みだ。だが、北からの報告ではグレイプニルが効かなかったようでな。それでおまえからさらなる秘策を得ようと思っていたのだ」

 

『……うーん、ダディったら、ワンワンを強化したのかなぁ。それなら、北欧のとある地方に住むダークエルフに相談してみなよぉ。確かあそこの長老がドワーフの加工品に宿った魔法を強化する術を知っているはずぅ。長老が住む場所はドライグかアルビオンの神器に転送するからねぇ』

 

 先生がヴァーリのほうを指さす。

 

「情報は白龍皇に送ってくれ、こちらは頭が残念で辛い」

 

 ゴメンなさいね! バカで!

 

「でも、ドワーフとかエルフって本当にいるんですね」

 

 俺は思ったことを口に出していた。

 

 だって、ファンタジー小説や映画でしか知らない存在だし。まあ、それを言うなら悪魔や天使がいるんだから、いて当たり前なのか。

 

「大概は人間界の環境激変で異界に引っ込んだがな。一部の奴らはまだ人間界の秘境に住んでいる」

 

 ヴァーリが情報を捉え、口にする。

 

「――把握した。アザゼル、立体映像で世界地図を展開してくれ」

 

 先生がケータイを開いて操作すると、画面から世界地図が宙へ立体的に映写される。ヴァーリは一部を指していた。先生は素早く、その情報を仲間に送りだしていた。

 

「――で、ロキ対策はどうだ?」

 

 おっさんは急かすように訊く。そうまでして家に帰りたいのか?

 

『そうだねぇ。ダディはミョルニルでも撃ち込めばなんとかなるんじゃないかなぁ』

 

 ミドガルズオルムの話を聞いて、先生はあごに手をやった。

 

「つまり、基本、普通に攻撃するしかないわけだな。オーディンのクソジジイが雷神トールに頼めばミョルニルを貸してくれるだろうか……」

 

「トールが貸すとは思えないが。あれは神族が使用する武器のひとつだからな」

 

 先生の意見にヴァーリがそう言う。

 

『それなら、さっき言ったドワーフとダークエルフに頼んでごらんよぉ。ミョルミルのレプリカをオーディンから預かっていたはずぅ』

 

「物知りで助かるよ、ミドガルズオルム」

 

 先生は苦笑しながら礼を口にした。

 

『いやいや。たまにはこういうおしゃべりも楽しいよ。さーて、そろそろいいかな。僕はまた寝るよ。ふあああああっ』

 

 大きなあくびをするミドガルズオルム。少しずつ映像が途切れてきた。

 

「ああ、すまんな」

 

『いいさ。また何かあったら起こして』

 

 それだけ言い残すと、映像がぶれていき、ついには消えていった。

 

 ミドガルズオルム。おっきくて変な龍王。また会うことはあるのかな?

 

 こうして俺たちは龍王からの情報を得て、動きだすことに――。

 

「そういや、イッセー」

 

「なんですか、アザゼル先生」

 

「木場に謝っておけよ」

 

「へ? 何かしましたっけ?」

 

「ここに来る前のこと。覚えてないのか?」

 

「えーと……、なんか色々ありすぎてほとんど」

 

「まったく、おまえという奴は……」

 

 俺が頭をかきながらそう言うと、アザゼル先生は嘆息した。え? 何かあったけ? エイジがオーフィスからラブレターをもらってショックで匙と慰めあっていたことぐらいしか覚えていないんだけど。

 

「仕方がないから、教えてやる。俺たちがここに来る前。木場はダンボールいっぱいに入ったエロ本を、ロキとフェンリル戦のあとの深夜に買いに行ったことがバレてな。リアスに魔力の込められた手でお尻叩き1000回の刑――」

 

 ――っ! まさか俺がせいで木場の尻が――。

 

「――ではなく、精神病を疑われてな。グレモリー領の病院につれて行かれそうになってたんだよ」

 

 …………。

 

「……え? まさか嘘――ですよね?」

 

 アザゼル先生は首を横に振る。

 

「木場は自分のではないと主張していたが、黒歌と小猫が、木場がダンボールいっぱいに入ったエロ本を抱えたところを見ていて、しかも自宅へ持ち込んだことまで証言されてな。木場はおまえに弁護してもらおうとしていたが、おまえは木場に気づかずに黙っていたから、おそらくそのまま、な」

 

「な、じゃないですよ! アザゼル先生も事情を知っていたんだから俺の代わりに弁解してくれてもよかったんじゃないですか!」

 

「まあ、そうなんだが。木場はおまえに助けて欲しがっていたようだったし、俺が言うよりも、おまえが言ったほうが説得力があるみたいだったから言わなかったら時間が来てな。そうなった。だからしっかり木場に謝っとけよ」

 

 尻叩きよりもマズいことになってんじゃん! ああ、もうっ! 早く木場を助けに行かねぇと!

 

 ロキとフェンリル対策はあとだ!

 

「なあ、タンニーン」

 

「……なんだ、白龍皇」

 

「お義父さんと呼んでもいいかい?」

 

「燃やし尽くされたいか、小僧」

 

 いま助けに行くからな、木場!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

『終末の大龍』ミドガルズオルムに、ロキとフェンリルの対策を訊くために、アザゼルがイッセーと匙とヴァーリをつれて行こうとしていた頃。

 

「祐斗、まさかあなたがこんなことになるなんて……。私が自分の修行ばかりに集中していたからなのね。……ゴメンなさい」

 

「違うんです……。違うんです部長。本当に僕の物ではないんです! 謝らないでください!」

 

「ええ、わかってる。わかってるわ。――ちょっと疲れているだけなのよね」

 

「ぼ、僕は疲れていなんか――」

 

「木場さん! いま『 聖母 の 微笑 (トワイライト・ヒーリング)』を発動させますから!」

 

「アーシアさん?」

 

「アーシアはそのまま全力で、祐斗の頭の治療を続けてちょうだい。私はグレイフィアに連絡して悪魔専用の精神科医を探すわ。――心配しないで、きっと大丈夫よ」

 

「部長?」

 

「木場! しっかりするんだ! おまえまで変態になったら……、私たちと誰もレーティングゲームを組んでくれなくなる!」

 

「ゼノヴィア、僕は正気だよ」

 

「なんてことなの! イッセーくんの変態は感染するものだったの!? ああっ、ミカエルさま! 私の幼なじみは周囲にも影響を及ぼすほどの変態だったようです。これ以上変態を増やさないために私はイッセーくんをこの手で――」

 

「ねえ、紫藤さん。僕はもう変態認定されているのかな?」

 

「祐斗先輩ぃぃぃ! 祐斗先輩がイッセー先輩みたいに変態になったらと思うと僕はぁぁぁ~!」

 

「……ギャスパーくんまで」

 

「ええ、……ええ、そうなのよ。祐斗がイッセーみたいに変態になっちゃったみたいなの。お願い、グレイフィア。いますぐ精神科医を用意して」

 

『そ、それは……。わかりました。直ちに名医をご用意いたします。お嬢さまはあまり彼を刺激しないように、グレモリー家へつれて来ていただけますか』

 

「わかったわ。ありがとうグレイフィア」

 

「ぼ、僕の精神は病んでなんか……! あれは本当に全部イッセーくんの特訓用の道具で! ほら、イッセーくんも説明してよ!」

 

「……………」

 

「イッセーくん!? 黙ってないで何とか言ってよ!」

 

「……行くぞ、イッセー、匙、ヴァーリ」

 

「ちょっと、アザゼル先生! まだイッセーくんに僕が無実だということを――」

 

「行くぞ」

 

「アザゼル先生っ!」

 

 木場の叫びは空しく響き、アザゼルたちは部屋から出て行った。再びリアスがやさしく木場に話しかける。

 

「祐斗、アザゼル先生とイッセーたちはこれから行かないといけないところがあるの。――大丈夫だから、ね? 落ち着いて。私たちと一緒に先生に診てもらいましょう」

 

「だから違う。違うんですって! 妙に優しくしないでください! それに何度も言っているとおり僕はイッセーくんみたいな変態なんかじゃな――」

 

 木場は両手で頭を挟んで横に振る。かなり精神が疲弊している様子がうかがえる。その様子にギャスパーが立ち上がった。

 

「部長、僕が祐斗先輩を停止させます!」

 

「ギャスパー、『停止世界の邪眼』をコントロールできるようになったの?」

 

「大丈夫です! 任せてください! 僕は……、僕が祐斗先輩を停止させます! 僕はもう神器を畏れません! 祐斗先輩を、仲間を助けます!」

 

 浮んだ涙を拭ってそう言い放つギャスパー。少し前では考えられなかったその姿にリアスは感動して涙を流していた。

 

「ギャスパー、成長したわね」

 

「何を涙ぐんで感動しているんですか!? ギャスパーくんも! 僕は別に――」

 

 木場が再び叫び始めたその時、ギャスパーの神器が発動する。木場が口を開けたまま停止していた。

 

「――うん、ちゃんと祐斗だけ停止してるわね。ギャスパーはできる範囲でいいからそのまま祐斗を停止させていて」

 

 ギャスパーの成長を実際に確認したリアスは満足そうにうなずいた。成長したなギャスパー。

 

「はい!」

 

「皆、これから私は祐斗をつれて冥界に行ってくるわ。アーシア、あなたの神器も役に立つだろうから私についてきてちょうだい」

 

「はい!」

 

「いい返事ね。じゃあ、私たちは冥界に行って来るわね。明日には私たちだけでも戻ってくるから、報告はそのときにお願い」

 

 と、リアスは転移用の魔法陣を足元に展開させ、アーシア、ギャスパーの3人と、イッセーみたいに変態になった木場をつれて冥界へと転移して行った。

 

 はぁ……、まさかあの木場が深夜に、しかもロキとフェンリルと戦ったあとに、街中を駆け回ってダンボールいっぱいのエロ本を買い集めていたなんてな……。その現場を目撃したという黒歌と小猫ちゃんに訊ねてみる。

 

「本当にあいつがダンボールいっぱいのエロ本抱えていたのか?」

 

 俺の問いに黒歌は自信たっぷりにうなずく。

 

「そうにゃ。昨日の晩に白音と散歩していたときに、あの『騎士』――じゃなくて、変態2号がダンボールいっぱいに入ったエッチな本を抱えてたのにゃ」

 

「そうなんだ……。小猫ちゃん、見間違いとかは――」

 

「見間違いなんかじゃありません!」

 

 言葉を遮って大声をだす小猫ちゃん。瞳には涙がうかんでいて――。

 

「祐斗先輩がダンボールを落としたときになかから出てきたのは、全部……、全部エッチな本だったんです! 10冊、20冊なんかじゃなくて、100冊以上はありました! それに祐斗先輩、落としたエッチな本を必死にかき集めて……、まるでイッセー先輩みたいに……」

 

 涙を流しながら小猫ちゃんはそう語る。……小猫ちゃん、楽しみにしていた『乳龍帝おっぱいドラゴン』でレーティングゲームの映像が流されて、続けざまに人形まで創られてから部屋に引きこもりがちだったもんな。さらにイッセーみたいな変態に、爽やかで紳士な騎士だった木場がなったことが、かなりショックのようだ。

 

 黒歌の胸に顔を埋めてすすり泣きを始めてしまった。

 

「……黒歌」

 

「にゃん。先に家に帰らせてもらうにゃ」

 

「ああ、気をつけてな」

 

 黒歌は小猫ちゃんをつれて転移の魔法陣で帰っていった。

 

「私も気分が優れないので帰らせていただきますわ」

 

 朱乃さんも黒歌と小猫ちゃんのあとを追うように帰り、ここに大勢いても仕方がないと、ソーナ会長も『女王』以外の眷属を帰宅させ、俺のほうもセルベリア、ノエル、レイナーレを帰宅させた。

 

 時雨はゼノヴィアとイリナ、そしてアーサーの聖剣談議、というか刀剣談議に参加し、この場に残っている。

 

 とりあえず、この場に残った連中を確認する。

 

 この場にいるのは俺、時雨、ゼノヴィア、イリナ、ソーナ会長、真羅椿姫先輩、アーサーの7名だった。

 

「【武器の申し子】といわれるあなたの刀まで見れるとは、私は幸運のようです」

 

「……ん」

 

「なるほど、これも素晴らしい一品です。まさに刃金の真実を秘めている刀。これほど見事なまでの刀は見たことがありません」

 

「わ、私にも見せてもらえませんか?」

 

 あれ? 椿姫先輩まで刀剣談議に加わったぞ? そういえば椿姫先輩って長刀(なぎなた)の有段者だったよな。

 

 西洋剣には余り興味はないけど、日本の刀とかには興味あるタイプなのかな?

 

 アーサーが視線で時雨に確認をとってから、椿姫先輩に刀を手渡した。

 

 椿姫先輩は興味深そうに刀身を見つめている。

 

「……すごい。これは本当に見事な刀ですね。波紋から何から何まで美しく、纏っている雰囲気も精錬でいて力強い。魅力的な刀です」

 

 椿姫先輩は時雨に礼を言ってから刀を返す。ふぅっと満足そうなため息を吐く一方で物欲しげに刀に視線を送っていた。

 

 ここでアーサーが再びこちらを見てきた。

 

「この刀もあなたが製作したのですか?」

 

「えっ!? そ、そうなんですか!?」

 

 椿姫先輩が飛びついてきたけど、首を横に振って否定する。時雨が口を開けて答えた。

 

「この……刀は、僕の父が作った……刀」

 

「ほう、この刀をあなたの父上が……」

 

 感心するようなアーサーをよそに、椿姫先輩が時雨に向って頭を下げた。

 

「こ、香坂さん! 私にその方を紹介していただけないでしょうか!」

 

「なん……で?」

 

 かわいらしく首をかしげる時雨に、椿姫先輩は土下座するような勢いで言う。

 

「私は夏休みのレーティングゲームで朱乃さんに手も足も出せずに敗北してしまったんです。そこで私は神器だけでは勝てないことを改めて学び、長刀の有段者だという肩書きだけだったことにも気づきました。……私はこれからのレーティングゲームで会長を負けさせないように力が欲しいんです」

 

「椿姫……」

 

 感動した様子のソーナ会長。椿姫先輩は真剣に時雨に懇願する。

 

「私の力となる刃金の真実を秘めた刀を創りだせるほどの刀匠に、私も長刀を――」

 

「父……もう、いない」

 

「――っ!」

 

 時雨の言葉に、懇願していた椿姫先輩は目を大きく開かせる。アーサーは心の底から残念そうに言う。

 

「それは残念ですね。これほどの刀を打てる刀匠が亡くなってしまうなんて」

 

 椿姫先輩は肩を落としていた。時雨に頭を下げる。

 

「……すみませんでした」

 

「別にい、い」

 

 肩を落とす椿姫先輩に、時雨は言葉を続けた。

 

「私の……父はもう、いない……けど、エイジは父から造り方教わっていて、免許、皆伝? もらってる、から」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

 椿姫先輩がこちらに迫ってきた。ま、まさか――。

 

「神城くん」

 

「……はい」

 

「私に長刀を作ってもらえませんか!?」

 

「……それは――」

 

 正直、椿姫先輩には悪いけど断わりたいっ。昼間は学校、夜は悪魔の仕事がフルタイムで入っていて、ゼノたんは神殺しの剣なんて要求してこようとしてるし、イリナ用の剣もまだ5割ぐらいしかできていないし、その上ロキとフェンリルとの戦いだろ。房中術で色々回復させたりはできるけど、プライベートでのエッチじゃないから、完全には気を休められないし、朱乃さんとのデート以外で最近ちゃんとした休みもとっていないんだよなぁ。はぁ……、多忙で死んでしまうから、椿姫先輩の申し出は断わりたいです。

 

「ダメ――ですか?」

 

 ――っ。上目使い&潤ませた瞳×椿姫先輩みたいな普段は誰にも弱みを見せない知的系美人にそう強請られたら……、強請られたら――断われないじゃないですか!

 

 俺は笑顔でうなずいて言う。

 

「わかりました。お引き受けします。先客があるので完成は遅れますが、ソーナ会長の次のレーティングゲームまでには作っておきますよ」

 

「ほ、本当ですか! あっ、ありがとうございます」

 

 ぱぁぁっと明るくなった顔で、綺麗なお辞儀をする椿姫先輩。

 

 物欲しそうな視線を今度はアーサーが送ってくる。

 

「私にも創っていただけませんか?」

 

「……『禍の団』抜けてテロリストから完全に足を洗ったら考えてやるよ」

 

「うーん、それは残念です」

 

 そう言って申し出を断わると、アーサーは引き下がった。まっ、『禍の団』を抜けたとしても個人専用の武器は創れないから結局汎用武器になるけど、それで十分だろ。ていうかこれ以上仕事を増やされたら死ぬ。

 

「よかったですね、椿姫先輩!」

 

「ありがとう、紫藤さん」

 

「あはは、イリナでいいですよ」

 

「私もゼノヴィアと呼び捨てでいい」

 

 何やら3人の仲良くなる切っ掛けを作ってしまったようだ。なんとも微笑ましい百合の花が背景に見える……気がする。……いや、幻覚だな。疲れてるんだろう。

 

 ふぅっと息を吐いて目を瞑ってスケジュールを組んでいると、ソーナ会長がすぐ隣までやって来て、小声で話しかけてきた。

 

「最近多忙だと聞いています。紫藤さんの剣の製作などもあるのに、椿姫の長刀まで創るなんて、――大丈夫なんですか?」

 

「正直言うと、すごくキツいです」

 

 小声で返す。ソーナ会長は俺の言葉を訊いて申し訳なさそうな表情を浮かべる。俺はそんなソーナ会長に言う。

 

「まあ、キツいのは確かですけど、椿姫先輩にはご迷惑をおかけして修学旅行に同行してもらうことになっていますし、その他でも生徒会の方々には迷惑をおかけしているので、これぐらいは恩返しさせてください」

 

「ふふっ、そういえばそうでしたね。あなたにはかなり迷惑をかけられていました」

 

「はい。だからこれぐらいはむしろ当然なんですよ」

 

 ソーナ会長はクスりと笑みをもらした。こちらも笑顔でうなずいて返す。いや、本当に色々迷惑もかけてるからね。これぐらい恩を返しておかないと。

 

「そういえば神城くん」

 

「はい。なんでしょう」

 

 先ほどとはうって変わったような真剣な眼差しでソーナ会長はこちらを見上げてきた。

 

「本当にリアスは悪神ロキに手傷を負わさせたり、不意打ちとはいえ、フェンリルを屠れるような実力を身につけたのですか?」

 

 リアスとはライバルだそうだから、ライバルの急成長が気になってるんだろう。さっきもリアスに問い詰めていたし……。

 

 隠していてもバレるし、隠す必要もないので俺は素直にうなずく。

 

「はい。夏休みからずっと地獄のような厳しい修行を積んでいたのと、武器の特性もあって、――おそらくすでに最上級悪魔に近いレベルにまでは成長していると思います」

 

「最上級悪魔っ!?」

 

 なんとか小声レベルに止めて驚愕の声を上げるソーナ会長。顔を近づけてきて問い詰めてきた。

 

「いったいどんな修行をしたのですか? 先ほどリアスに訊いても要領を得なくてわからなかったんです」

 

「えっと……」

 

 俺はとりあえず掻い摘んでリアスたちの修行を簡単に説明した。まあ、掻い摘んでとはいうけど、俺ぐらいにしかできない危険で無茶な修行法だということはしっかりと教えました。

 

 …………。

 

「…………」

 

 その結果、ソーナ会長はあごに手をやって何やら考え中。時おりブツブツと、

 

「私たちもその修行をつけてもらったほうが……、でも彼はすごく忙しいし、新人同士のレーティングゲームで他の新人の駒に指導してもらうのは――」

 

 などと思考をめぐらせていた。

 

 ……ソーナ会長、お願いですから、これ以上仕事は増やさないでください。俺、本当に死ぬから……。

 

 ガチャ。

 

 俺がそんなことを考えていると、部屋のドアが開いた。イッセーたちが戻ってきたのかと思ったら――。

 

「エっ、イジィイイイイイイイイ~!」

 

 聞きなれた声と――。

 

 だきぃ。

 

 視界を覆う暗黒。顔全体、いや、頭全体に感じる弾力のある極上の柔らかさ! それにこの匂いには――!

 

「ユウカナリア」

 

「エイジ、エイジ、エイジ! もう、やっと会えた!」

 

 Fカップの巨乳に俺の頭を挟んだまま、ユウカナリアはうれしさを体全体で表す。ユウカナリアさん~、気持ちいい反面、首が痛いですよー。身長差を補うために翼で飛んでる分体重が乗って特に。

 

 とりあえずFカップから脱出してユウカナリアを地面に降ろす。

 

「エイジ~」

 

「よしよし」

 

 甘えるように抱きついてくるユウカナリアの頭を撫でる。ユウカナリアはうれしそうに目を細めていた。

 

「ん~、エイジの匂い……」

 

 ユウカナリアは胸に抱きつきながら鼻をヒクヒクさせて満足げな声をもらした。こうなったらしばらくは離れないんだよな。

 

「エイジ」

 

「えっと、神城くん」

 

 ユウカナリアの頭を撫でていたら、ゼノヴィアとソーナ会長に話しかけられた。視線から察するに「知り合いか?」と訊ねたいんだろう。

 

「ユウカナリア」

 

「ん」

 

 俺はユウカナリアに一言かけてから、ゼノヴィアやソーナ会長たちのほうを向かせて紹介を促した。

 

「はじめまして、私はユウカナリア! 元龍王、タンニーンの娘で、エイジの恋人でーす!」

 

 ユウカナリアはゴロゴロと喉を鳴らす猫のように、俺の腕を取って自分の体を抱きしめさせた上で、ニコニコ笑顔で自己紹介をした。

 

「あなたがタンニーンさまの――って、神城くんの恋人!?」

 

「ああ、イッセーを鍛えたというあのドラゴンか」

 

 恋人発現に驚愕するソーナ会長の一方で、ゼノヴィアはただ単にタンニーンの娘であることに驚いていた。……まえから度量が大きいよね、ゼノたんって。

 

「聖書に記されてるドラゴンの娘に会えるなんて! 私は紫藤イリナっていいます! イリナって呼んでください!」

 

「ええ、よろしく。イリナ」

 

 ……イリナもだけど、ユウカナリアも色々と軽いよね。一応悪魔と天使なんだよ?

 

「はじめまして、私はアーサーといいます」

 

「シトリー眷属『女王』の真羅椿姫です」

 

 ナチュラルに挨拶するよなアーサー。いまは協力関係だからって『禍の団』所属のテロリストなんだから椿姫先輩より先に挨拶するなよ……。

 

「ひさし、ぶり」

 

「あーっ! 時雨!」

 

 よっ、と手を顔の横の高さまで上げて挨拶する時雨。ユウカナリアは時雨を見て笑顔を濃くした。

 

「本当に久しぶりじゃない! もう、たまには遊びに来なさいよね!」

 

「うん、今度……行く」

 

「なら、よし!」

 

 それからゼノヴィアとソーナ会長とも改めて挨拶を交わし、ユウカナリアからここへやって来た経緯を掻い摘んで聞きた。

 

「じゃあ、まだ呼びだしてもいないんだな」

 

「ええ、まだしばらくかかるみたいよ」

 

 ソファーに腰を下ろした俺の膝の間に体を埋めて、胸に背もたれにしながらユウカナリアは答えた。

 

「ん~、それなら私たちも帰っちゃう?」

 

「明日訊けばいいしな」

 

 左側にゼノヴィア、右側にイリナが密着するように座り、頭のほうでは俺の頭が股の間の中心に来るように、ソファーの背もたれの上で時雨がしゃがんでいた。かなりきわどい格好だ。……イッセーや匙がこの場にいたなら喜んで時雨のスカートのなかを見ていただろう。

 

 ちなみに俺は合計4人の美女と美少女に文字通り囲まれているが、全然暑苦しくない。……便利だよな、魔法って。

 

 仲良く? ソファーに座る俺たちに、ソーナ会長は額に手を置いて息を吐いた。

 

「……そうですね。家主不在のままこの場にずっと留まるのは気が引けますし、報告は明日にしてもらいましょうか」

 

 ソーナ会長のその一言で帰宅ムードに移行するかと思われたが、ここでユウカナリアの発現で空気は変わる。

 

「ならエイジ、工房に行きましょうよ。聖剣創らないといけないんでしょ。私はエイジが創ってるのを横で眺めさせてもらうからさぁ」

 

 ニコニコ笑顔でそう言うユウカナリア。そういや物創りの様子を見るのが好きだったな、この子。……まあ、毎回ふとしたときに工房の奥のベッドルームに直行ルートか、そのまま作業台ルートに入るけど。

 

 だけど今回はタイミングが悪い。おそらくエッチはお預けだ。さっきまで刀剣談議をしていたから、

 

「工房? そこで聖剣を創っているのですか?」

 

 ほら、まずはアーサーさんが食いついてきたよ。

 

「ええ、私がいくつか持ってる異空間のなかにエイジの工房があるのよ」

 

 ユウカナリアも簡単に答えちゃって……。

 

「エイジの工房か……。エイジ、私の真・リュウノアギトもそこで製作したのか?」

 

「あー、うん、そうだよ」

 

「じゃあ、私の剣もそこで創っているのね!」

 

「うん……」

 

 ゼノたんとイリナも食いついてきた。そして他よりも行動力のあるイリナが手を上げて言う。

 

「はーい! 私も聖剣創るところ見てみたいです!」 

 

 それに続いて、ゼノヴィア、アーサー、椿姫先輩が手を上げた。

 

「私も聖剣が創られるところをみて見たい」

 

「聖剣を創る刀匠の業。是非とも見たいものです」

 

「わ、私も、どうやって刀剣が創られているのか気になります」

 

 え~と……。

 

「神城くん。私も見させていただいてもいいでしょうか?」

 

 ……ソーナ会長もですか。

 

「じゃあ、皆で工房に行きましょう。いまゲートを繋ぐわ」

 

 さらに追い討ちするかのように工房の家主であるユウカナリアも賛同する。工房へ繋がる転移用の魔法陣を部屋の壁に描き始めた。基本ノリのいいお姉さんなんだよね。

 

「よし、繋がったわ! じゃあ、行きましょ」

 

 ソファーから立ち上がらせて、腕を絡まされて工房へ連行されていく俺。……え~と、ナニコレ? いきなり工房見学ツアーですか?

 

 ていうか、何も言ってないよな俺? さっきまで帰宅する雰囲気だったけど、本当にイッセーと匙とヴァーリはいいの? 冥界に緊急搬送された木場は?

 

 俺はいくつも疑問符を浮べるも、工房へと足を進めた。

 

 ……あ~……、そういや美猴がこの家の屋内プールで遊んでいなかったっけ?

 

 …………ん~、まっ、いいか。

 

 それから5時間。俺は工房で刀剣製造の講義を行ないながら、実際にイリナ用の10種類の姿に変身する聖剣の内の1本を作製した。

 

 作製後、鏡のように澄み切った刀剣に映る皆の満足そうな顔と、俺の疲労困憊の顔が妙に印象に残った。

 

 ちなみにお預けになったセックスはまた後日。ユウカナリアの工房で7本目の剣の作製するときにおこなうことになりました。

 

 イッセーたちと木場はどうなったかな?

 




 後日談というか、やっぱり1話完結のギャグ漫画とかのノリじゃなくて、起きたフラグはできるだけしっかり回収したいよね。

 それで木場が勘違いされてどれだけかわいそうになろうとも……。

 いや、嫌いなキャラだから……とかじゃないよ?

 むしろイッセーより好きなキャラだから! なんていうか話的に不幸になってしまうだけで……。  


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第63話 バラキエルと姫島朱璃と姫島朱乃 ☆

<イッセー>

 

 

 昨日は本当に大変だった。

 

 アザゼル先生から木場が冥界の病院へ連れて行かれそうになっていたと聞いて、急いで自宅へ戻ると、屋内プールで遊んでいた美猴以外誰もいなくなっていたし、木場のことを隣のエイジの家に訪ねに行ったら門前払いどころか鬼の形相の黒歌さんに種抜かれそうになるし……。

 

 家の前で土下座を続けて、なんとか木場が冥界の病院に搬送されたことを聞き出したけど、転移の魔法陣の創り方も知らない俺が冥界に行く手段なんてなかったから、一度家に帰ってアザゼル先生に頼んで転移の魔法陣を開いてもらって、グレモリー家のお屋敷まで行って、木場の居場所を訊ねて、やっと木場に会えたんだよな。

 

 そして、無事に木場に会えたんだけど、四方を中から外が見えない特殊なガラスで囲まれた病室で、中央のベッドで頭を抱えてブツブツとつぶやいていた木場は見ていられるものじゃなかったな……。

 

 慌てて部長に木場の無実を伝えて、木場を開放してもらったけど、木場は精神が不安定になったままで今回の戦闘は不参加になって結局入院するはめになった。俺も部屋に隠していたダンボールいっぱいのエロ本を没収されて、部長にお尻叩き2000回と、アーシアからその間中お説教を食らって、ギャスパーは木場を疑ってしまったことに罪悪感を感じて、ダンボールに引き篭もったまま木場に謝り続け、グレイフィアさんからは呆れられてしまった……。

 

 うう……木場、本当にゴメン! 俺がちゃんと弁解していれば……。

 

 おまえの疑いも晴れてエロ本も助かったのに! 俺って奴は本当にダメな奴だ!

 

 このまま病室で、精神が不安定になってしまった木場に付き添っていたいが、いまはロキとフェンリルに集中しないといけない!

 

 部長たちはもう俺の家の地下にある大広間に集まっている頃だ。俺も行かないと。

 

「……イッセー……くん」

 

「木場……」

 

 不安定になった精神を癒すために眠りについていた木場が目を覚ました。

 

「戦いに行くのかい? 僕も……行くよ」

 

 木場は起き上がろうとしていた。木場も戦いに参加するつもりなんだろう。だけど……!

 

 俺は木場の両肩を掴んでベッドに寝かせる。

 

「イッセーくん?」

 

 不思議そうな表情の木場が不安がらないように笑顔で言う。

 

「今回の戦いは俺たちで十分さ! おまえは休んどいてくれよ」

 

「でも……」

 

「いいから。今回はヴァーリたちとの共同戦線で戦力は十分あるんだし、な」

 

「でも僕はリアス・グレモリー眷属の『騎士』だよ?」

 

「『騎士』にも休養は必要だろ。それに原因になった俺が言うことじゃないんだろうけど、神器は使い手の精神に影響される。いまのおまえじゃ、最悪神器が発動しなくなったりするかもしれない。だから今回のところは休んでいてくれ」

 

「そう……。そうだね。僕自身でも神器が扱えるかわからないし、うん。今回は皆を信じて待っているよ」

 

 木場は俺の言葉にうなずいていた。冷静に自分の状態を理解して身を引いてくれたが、――その瞳にはまだ光はない。

 

 ――っく、ゴメン。ゴメンよ、木場……! 時間があれば見舞いに来るから。

 

 目を閉じて眠りにつく木場に何度も謝りながら、俺は自宅へと繋がれている転移の魔法陣が設置されている部屋へ向った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝、俺たちは地下の大広間に集まっていた。俺たちもシトリー眷属も今日は学校に出ない。俺たちを模した使い魔に代わりに学校生活を送ってもらう予定だ。――ちなみに木場が入院している間も、使い魔に木場の代わりに学校生活を送ってもらう予定だ。

 

 ロキとの決戦が近づいているので、休まないといけない。学園生活を楽しみにしていた眷属の面々は残念がっていた。皆、学校好きだもんな。俺も大好きだぜ!

 

 あ、そういえば眷属のなかでエイジだけが「久々に休める」と喜んでいたな。何でも最近まともな休みがなかったそうで、悪魔の仕事も休みになったことと聞いてガッツポーズしてたっけ。まあ、学園生活のあと夜はほぼフルタイムで悪魔の仕事をやっていたそうだから当然か。まったく人気者は辛いねぇ。

 

 ソーナ会長は自分が学園に行けないことのもどかしさを感じているようだ。生徒会長ゆえか、「自分がいない間に何か起こるのではないか?」とそわそわするらしい。

 

 と、先生が小声でつぶやきながら現れた。

 

 顔は不機嫌極まりない様子だ。

 

「オーディンの爺さんからのプレゼントだとよ。――ミョルニルのレプリカだ。ったく、クソジジイ、マジでこれを隠してやがった。しかし、ミドガルズオルムの野郎、よくこんな細かいことまで知っていたな」

 

「すごいものなんですか?」

 

 俺が訝しげに訊くと再度言い直してくれる。

 

「北欧の雷神トールが持つ伝説の武器のレプリカだ。それには神の雷が宿っているのさ」

 

 へー、すごそうだな。

 

「はい、オーディンさまはこのミョルニルのレプリカを赤龍帝さんにお貸しするそうです。どうぞ」

 

 ロスヴァイセさんから渡されたのは――普通のハンマーだった。

 

 えー、これなの? 日曜大工で使うハンマーみたいだ。何やら豪華な装飾やら紋様が刻まれているけどさ。

 

「オーラを流してみてください」

 

 ロスヴァイセさんに言われて、俺は力強く魔力をハンマーに――。

 

 カッ! 一瞬の閃光。そのあと、ハンマーがぐんぐん大きくなって――。

 

 ズドンッ!

 

 俺の身の丈を越す巨大なハンマーとなって、大広間の床に落ちた。持つところはともかく、頭の部分がすっごいデカくなったぞ!

 

 落下した衝撃で大広間自体が大きく振動してしまった。

 

 ……あまりの重さで、床にハンマーが埋まってしまったよ。

 

 ふんぬぅぅぅぅぅっ! 力一杯持上げようとするが、ピクリとも動く気配がない。なんて重さだ! 禁手状態でもないと持上げられないか? でも、禁手でもこの重さだと思うように振り回せそうにないような……。

 

「おいおいおい。オーラ纏わせすぎだ。抑えろ抑えろ」

 

 先生が嘆息しながら言う。その通りに魔力のオーラを抑えて見たら、縮小して、両手で振るうにはちょうどいいサイズになった。

 

 ……けど、重さは変わらんぞ! うぬぬぬぬっ! やっぱり、持てない!

 

「禁手になれば持てるだろう。とりあえず、いったん止めろ」

 

 先生に言われて、ハンマーから手を離す。すると、元のサイズに戻った。

 

「レプリカっていってもかなり本物に近い力を持っている。本来、神しか使えないんだが、バラキエルの協力でこいつの使用を悪魔でも扱えるように一時的に変更した。無闇に振るうなよ? 高エネルギーの雷撃でこの辺一帯が消え去るぞ」

 

「マジっスか! うわー、怖い!」

 

 先生の言葉を聞いて、軽く戦慄した。そんなトンでもない武器を俺に持たせるのか。

 

「でも、俺よりもエイジに持たせたほうがいいんじゃないですか? 強いし」

 

 俺の疑問に、先生は嘆息しながら答える。

 

「まあ、それもそうなんだが。オーディンが言うにはこいつ、すでにこれよりもトンでもない武器を持ってるそうなんだよ」

 

「これよりもトンでもない武器!?」

 

 アザゼル先生は詳細を知らないのか、エイジに視線を送る。エイジは先生の言葉に心当たりがあったのかうなずいた。

 

「ああ、アレか。そういえば前にオーディンの爺さんと戦ったときに最後に見せたっけ」

 

「おまえ、オーディンの爺さんと戦ったことがあるのかよ……」

 

 先生はどっと疲れたように嘆息していた。そういや爺さんとはじめて会ったときにもそんなことを言ってたような?

 

「で、いったいどんなトンでもない武器なんだ? おまえが研究用にくれた試作の弓も興味深いものだったが、今回のはもっとトンでもない、歴代のおまえが製作して溜め込んだ【王の財宝】にしまわれているヤバいもんなんだろ! できれば研究させて欲しい。弄らせて欲しい。触らせて欲しい!」

 

 あー、アザゼル先生の瞳が途中からキラキラしだした。マッドモードに入っちゃってるね。

 

 エイジはアザゼル先生に詰め寄られて困ったような表情を浮かべていた。言いづらい武器なのか?

 

「さあ、研究させてくれ!」

 

 ――って、それでも関係無しに言い寄るんですね、先生。完全に相手のこと無視してる。

 

 アザゼル先生に詰め寄られたエイジは諦めたように口を開いた。

 

「とりあえずここでは出せない大きさだから、説明だけでいいか?」

 

「おう!」

 

 笑顔でうなずく先生。あなたは子供ですか?

 

「まず、名称はゴルディオンハンマーという」

 

「おおっ! 期待できそうな名前だな! で、効果は? 特徴は? どんな武器なんだ?」

 

 アザゼル先生ェ……少しうるさいです。そんな先生にエイジは言う。

 

「見かけは巨大なハンマーで、全長15m、重量140t。敵に向って打ち下ろすと――、辺り一帯が光になる」

 

「……は?」

 

 ……アザゼル先生をはじめ、誰もがエイジの説明に目を点にしていた。……全長15mってビルぐらい大きいんじゃね?

 

 アザゼル先生は頬をかきながら訊ねる。

 

「光になるのか?」

 

「ああ、光になる」

 

「どうして?」

 

「さあ? 歴代の誰かが製作して放り込んだものですから俺にはわからない。説明書には『要注意、気軽に振り下ろすとみんな光になるよ』としか書かれていなかった。オーディンと戦ったときに出して、少し傾かせただけでも空気が光に変わってしまって、これはダメだと、お互いが戦いを止めるきっかけになったんだ」

 

「…………」

 

 とうとうアザゼル先生も黙ってしまった。そんなトンでもない武器とは誰も予想していなかったんだろう。――って、それを爺さんと戦ってるときに出したの? 空気まで光に変えるって凶悪すぎる!

 

「ふふふ……ふふふふふ……」

 

 あれ? アザゼル先生が肩を震わせながら笑い出したぞ? どうしたんだ?

 

「神城!」

 

 ガバッと顔を上げてエイジの肩を両手で掴む先生。……こ、怖いな。狂気を感じる……。

 

「それは是非とも研究しないといけないだろ! どうやって光に変えているのか、どんな素材で創られたものなのか、色々研究しないといけないとは思わないのか!」

 

「え、そ、そうか?」

 

 ものすごい形相で叫ぶ先生にエイジが気圧されてる!

 

「ああっ、そうだ! そんな興味深いアイテムを研究もしないなんて、罪だ! おまえが研究しないというなら俺に、この俺に研究させてくれ! 大丈夫だ! 悪用はしない! 少し、少し研究させてもらうだけだから!」

 

「お、おい、アザゼル。話が逸れてはいないか?」

 

 堕天使総督の行動に見ていられなくなったのか、バラキエルさんが先生をエイジから引き離すが――。

 

「放してくれバラキエル! 神器だけじゃなく、異世界の武器を研究できるチャンスなんだ!」

 

「ええい! 落ち着け!」

 

「頼む! 神城、俺に研究をっ!」

 

 バラキエルさんの拘束も振り切って懇願する先生の執念に皆が引いていた。あー、俺のスケベ根性も傍から見ればこんな感じなのかなぁ。あ、とうとう部長が話が進まないとエイジに研究させてあげるように促した。

 

「エイジ、話が進まないし、よかったら見せてあげてちょうだい」

 

「……はい、わかりました。アザゼル、ロキとフェンリルとの戦いが片付けば貸すよ」

 

「おお、本当か! ありがとよ!」

 

 すげぇうれしそうな先生。よかったですね。

 

 ご機嫌になったアザゼル先生は何かに気づいたように俺のほうに向き直った。

 

「ああ、そうだ。おまえがそれを渡された理由だが、1番は赤龍帝の籠手の能力のひとつである譲渡の力だ。倍加させた力を雷に譲渡すると、さらにトンでもない威力を持った雷が出せるだろうと、おまえが選ばれた。あとは理由をあげるなら重いハンマーを持つならパワーバカのおまえが1番だからって理由だ」

 

「そ、そうだったんですか」

 

 アザゼル先生の理由を聞いて納得しましたよ。確かにエイジを除くと、神器で倍加した力を譲渡できて、ハンマーそのものも重い分、パワーバカの俺が持ったほうがいいハンマーだ。

 

「そうだ、ヴァーリ、おまえもオーディンの爺さんにねだってみたらどうだ? いまなら特別に何かくれるかもしれない」

 

 先生が愉快そうにそう言う。止めてくださいよ! ライバルがこれ以上強くなるなんて怖いったらありゃしない!

 

 しかし、とうのヴァーリは不適に笑いながら首を横に振った。

 

「いらないさ。俺は天龍の元々の力のみ極めるつもりなんでな。追加装備はいらない。俺が欲しいものは他にあるんでね」

 

 ――っ。

 

 ……いまの一言。ちょっとグサリときた。そうだよな。こいつには溢れるほどの才能がある。俺みたいに努力したり他の力を得なくても、自分の才能だけで十分に強いんだ。

 

 魔力の量、技量では、絶対に勝てないと言われた。その他の身体能力でも、あちらはなにもしなくても全部がすごくて、俺は努力しないと身につかない。

 

 悔しい。

 

 自分のライバルとされる者が、俺を遥かに超える素質を持っているのだから。

 

 ……いや、俺には俺だけの成長があると思うんだ。自分だけの方法で強くなって、ヴァーリにも、そのヴァーリよりも強い、目標としてるエイジにもいつか勝ってみせる。

 

 諦めたらダメだ。絶対に――。

 

「美猴、ちょうどいい。おまえに伝えておいてくれと伝言をもらっていたんだった」

 

 先生は美猴へ視線を向ける。

 

「あん? 俺っちに? 誰からだい?」

 

 美猴は自分に指をさして、怪訝そうにしていた。

 

「『バカモノ。貴様は見つけしだいお仕置きだ』――だそうだ。初代からだ。玉 龍(ウーロン)と共におまえの動向を探っているようだぞ」

 

「あ、あのクソジジイか……。俺がテロやってんのがバレたんか。しかも玉龍もかよ!」

 

 先生の言葉に美猴は顔中汗をダラダラ出して、青ざめていた。

 

 あらら、いつものカラカラ笑っているこいつがこんな風に焦るなんてな。

 

 うん? 初代? も、もしかして、初代孫悟空とかそういう方ですか……?

 

「美猴、一度おまえの故郷に行ってみるか? 玉龍と初代孫悟空に会うのは楽しそうだ」

 

「……止めとけよぅ、ヴァーリ。引退気味の玉龍はともかく、初代のクソジジイは正真正銘のバケモノだぞ。現役って言っても差し支えねぇし。あのジジイ、仙術と妖術を完全に極めてっからマジで強ぇんだ……」

 

 ロキとフェンリルを前にしても余裕そうに笑っていた美猴がこれほどビビるなんて。

 

 先生が咳払いをして俺たち全員に言う。

 

「あー、作戦の確認だ。まず、会談の会場で奴が来るのを待ち、そこからシトリー眷属の力でおまえたちをロキとフェンリルごと違う場所に転移させる。転移先はとある採石場跡地だ。広く頑丈なので存分に暴れろ。ロキ対策の主軸はリアス、神城、ゼノヴィアと二天龍のイッセーとヴァーリだ。フェンリルの相手は他のメンバー――グレモリー眷属と黒歌、セルベリアに加えてヴァーリのチームで鎖を使い、捕縛。そのあと撃破してもらう。ノエル、レイナーレ、時雨の3人は残ってシトリー眷属と一緒に会場防衛。絶対にフェンリルをオーディンのもとに行かせるわけにはいかない。あの狼の牙は神を砕く。主神オーディンといえど、あの牙に噛まれれば死ぬ。なんとしても未然に防ぐ」

 

 それが作戦。シトリー眷属が俺たちを敵ごと転移させ、部長たちに俺とヴァーリを加えた5人でロキの相手。フェンリルは他の人たちに任せる。

 

 ……プレッシャーだ。俺たちの相手は神さまなんだからな……。

 

 アザゼル先生の作戦に部長が不安げにつぶやいた。

 

「私とゼノヴィアもロキ対策なのね」

 

 部長も神さまを相手にするメンバーに入ったことに不安を隠せない様子だ。そんな部長をアザゼル先生は――なに言ってるんだこいつという表情の視線を送っていた。ちょっと、アザゼル先生! その視線は酷いんじゃないですか!?

 

「おまえなぁ、仮にもロキを傷つけることができて、フェンリルも屠れるような戦闘能力を持ってんだぞ。ゼノヴィアなんてロキに傷を負わせた。そんなバカみたいな成長してんだから、ロキと相対するメンバーに抜擢されるのは当然だろ」

 

「そ、そうなのかしら?」

 

「ああ、下手すりゃ俺よりも強い可能性があるんだからな」

 

「わ、私とゼノヴィアはアザゼル先生と同じぐらい強くなってたの?」

 

 アザゼル先生は嘆息しながら部長にそう言う。先生の言葉を聞いて、部長は顔を引きつらせていた。部長自身に自覚なかったんですか!? 確実に俺よりも強いですよ!

 

 アザゼル先生は息を吐く。

 

「さーて、話を戻すぞ。フェンリルを捕縛するための鎖のほうはダークエルフの長老に任せているから、完成を待つとして、あとは……。匙」

 

 先生が匙を呼ぶ。

 

「なんですか、アザゼル先生」

 

「おまえも作戦で重要だ。ヴリトラの神器あるしな」

 

 先生の一言に匙は目玉が飛び出るほど驚いていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! お、俺、皆みたいなバカげた力なんてないっスよ!? とてもじゃないけど、神さまやフェンリル相手に戦うのは! て、てっきり会長たちと一緒にみんなを転移させて、会場防衛するだけだと思ってましたよ!」

 

 かなり狼狽している。確かに匙の力は有能だけど、さすがに神さまやフェンリル相手だと辛すぎるだろう。

 

 先生もそれを理解していて、嘆息していた。

 

「わかってるよ。おまえに前線で戦えとは言わない。――だが、ヴリトラの力で味方のサポートをしてもらう。特に最前線で戦う奴らのサポートにおまえが必要なんだよ」

 

「サ、サポート」

 

「そのためにはちょっとばかしトレーニングが必要だな。試したいこともある。ソーナ、こいつを少しの間、借りるぞ」

 

 会長に訊く先生。

 

「よろしいですが、どちらへ?」

 

「転移魔法陣で冥界の堕天使領――グリゴリの研究施設まで連れて行く」

 

 楽しげな先生の顔。

 

 あー、これはあれだ。地獄のしごきに違いない。

 

 俺の経験だが、先生があんな風に楽しそうなときは大概関わった奴が地獄を見る。

 

 まだ出会って数ヶ月だけど、先生のその辺はだいぶわかってきたよ。

 

「匙、先生のしごきは地獄だぞ。俺も冥界で死にかけたし。しかも研究施設だ。おまえ、死んだな」

 

 俺は友の肩に手を置き、憐憫(れんびん)の眼差しを送った。それを聞き、さらにビビりまくる匙。ドライグの治療でグリゴリの医療機関には何度かお世話になったこともあるが、研究施設はな~……、マッドな先生のことだし、はたして五体満足で帰ってこれるか。

 

「はっはっはー。じゃあ、行くぞ匙」

 

 先生は嫌がる匙の襟首をつかみ、そのまま魔法陣を展開した。

 

「マジかよ!? た、助けてぇぇぇぇぇっ! 兵藤ぉぉぉぉぉっ! 会長ぉぉぉぉっ!」

 

 魔法陣が光り輝き、泣き叫ぶ匙を包んでいく。

 

 さよなら、匙。おまえのことは忘れない!

 

 まあ、それはいいとして、匙に俺たちのサポート? どうするつもりなんだろうか、先生は……。

 

『おまえとの一戦であの少年のうちに眠るヴリトラが反応を始めていた。それに関係するのだろうな』

 

 ドライグがそう言う。はー、なるほど。どうなるか楽しみだぜ。

 

「そういや、ドライグ。アルビオンとは話さないのか?」

 

 せっかくの再会だ。何か話すことでもあるかなって思った。それに、最近心労を溜めさせて何度も瀕死にさせてしまったから、これで少しでも心労を取り除いて欲しいとも。

 

『いや、別に話すこともないが……。なあ、白いの』

 

 ドライグがみんなに聞えるように話しかけるが――。

 

『…………話しかけるな。私の宿敵に乳龍帝などいない』

 

 アルビオンの反応は冷ややかなものだった! おおっ、そんな!

 

『ま、待て! ご、誤解だ! 乳龍帝と呼ばれているのは宿主の兵藤一誠であって!』

 

 ドライグが弁明しようとしていた。おい! なんだ、罪を全部俺になすりつける気か! って確かに俺がわるぅございました!

 

『……ち、乳をつついて禁手に覚醒し、赤龍帝ドライグから乳龍帝ドライグ、乳龍ドライグと呼ばれるようになるなどと……。酷い有様で私は泣きたいぐらいだよ、赤いの』

 

 アルビオンの声は落胆の色を含んでいる。それを聞き、うちのドライグが泣いた。

 

『俺だって泣いたんだぞ! 涙が止まらんのだ! うおおおおおんっ! それにあまりの扱いに消滅までしかけたんだぞぉぉぉぉっ!』

 

『ぐずっ。どうしてこうなった……。我らは誇り高き二天龍だったはずなのだ……。テレビで宿敵を模した「おっぱいドラゴン」などというヒーロー番組を見たときの私の気持ちがわかるか? ライバルであるはずの赤龍帝ドライグが、乳龍帝ドライグとして出演していることを知ったときの私の気持ちがわかるか? ……うう』

 

 …………。

 

 な、なんだ、これ……。伝説のドラゴン。二天龍と称された二匹が……泣いてるよ。

 

 複雑な心境の俺だが、ヴァーリも反応に困っていた。

 

「……アルビオン、また泣いているのか。兵藤一誠を模したテレビ番組を見ていたときもすすり泣いていたな」

 

 そんなことが……。俺、ドライグを消滅させかけた上、アルビオンまで泣かせちゃったよ……。

 

 ヴァーリが多少困った顔で俺に訊いてくる。

 

「――すまない、兵藤一誠。こういうとき、どうやって慰めるべきだろうか?」

 

「知るか! 俺に訊かれてもさ! とりあえず、ゴメンなさい! どうせ俺はおっぱいドラゴンですよ!」

 

 もう! どうにでもなりやがれっ!

 

『うおおおおおおんっ! うおおおおおおんっ』

 

 ああっ、ドライグがヤバい! 待ってろ! いまお薬用意するから!

 

 こんなどうしようもないやり取りをしながらも俺たちは対ロキ戦のために準備を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 ロキとフェンリル対策の準備を進めていくなかで、俺は朱乃さんに呼びだされ、自宅にある朱乃さんの部屋へとやって来ていた。

 

 部屋に備え付けられたベッドに並んで腰を下ろす。

 

 隣に腰を下ろした朱乃さんの表情は暗く、何か思いつめているようだった。朱乃さんはゴソゴソとスカートのなかからあるものを取り出す。

 

「それは――」

 

 一定の空間内の時間を早くする結界を張るための道具だった。朱乃さんはそれに魔力を流して発動させる。朱乃さんの部屋の壁が紫色の結界に一瞬包まれた。見かけはいつもと変わらない部屋だが、部屋の時間の流れは外とは違う。

 

「エイジ……」

 

 朱乃さんは結界を張る道具を床に置くと、俺を押し倒してきた。

 

 胸に顔を埋めて抱きつくと、服に手をかけて上着を脱がせ、カチャカチャとベルトを外してズボンを剥ぎ取ると、ペニスを取り出した。

 

「あむっ……じゅるぅ、じゅぶっ……エイジぃ……」

 

 朱乃さんは大きく口を開けて、取り出したペニスを咥えられる限界まで一気に咥える。唾液を口に溜めて顔を前後に揺らし、いやらしい音を響かせながらペニスに舌を絡めた。――くっ! いきなりですか……!

 

「あ、朱乃……」

 

 いきなりのフェラチオに混乱しながらも、ペニスを咥え込んでちゅうちゅうと吸ったりと、激しいフェラチオを行なってくる朱乃さんを前後に揺らされる頭を掴んで止めようとするが、朱乃さんは止まらない。

 

 それどころか両手で腰に抱きついてきて、精子を吸い出さんばかりに尿道口に吸いついてきた。

 

「じゅるぅぅっ、はあっ、……じゅぶ……レロレロ……」

 

「ううっ……!」

 

 激しいフェラチオに腰を浮かせそうになる。朱乃さんの頬が卑しくペニスの形に変わったり、甘く噛みつかれたり、喉の奥で扱かれたりと射精感が募っていく。

 

 朱乃さんの頭にはペニスから精子を吸いだす以外のことはないといわんばかりに、一心不乱にしゃぶりつき、プルプルとした唇で挟んだり、ヌメリを帯びた暖かな舌先で雁首を舐めあげたりと攻めてくる。

 

「じゅ、じゅるるぅぅぅぅ……」

 

 どんどん募る射精感とバキュームフェラが合わさり、決壊する。

 

「あ、朱乃……で、射精()るっ!」

 

 ビュルッ、ビュルルルルゥゥゥゥゥッ!

 

「はぶっ、じゅるるぅっ……、ごくっ、ごくっ、ごきゅっ……じゅるぅぅぅ……」

 

「あ、ああ……」

 

 ビュッ、ビュビュッ……。

 

 尿道に残った精液まで一気にすすり出すようなバキュームに射精が収まらない。朱乃さんは大量の精子を残さず吸出しゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んでいく。

 

 最後の一滴まですすり飲んだ朱乃さんは唇を閉じて顔を上げていき、じゅぽんっといやらしい音を響かせて口を放した。

 

「はぁ……、はぁ……、エイジ……」

 

 朱乃さんは熱っぽい視線を送ると、体を起こして服を脱いだ。上着を捨て去り、スカートを下ろし、ブラジャーを外して体を摺り寄せてきた。

 

「お願い……、私を抱いて……」

 

「……朱乃」

 

 胸に抱きついてこちらを見上げる朱乃さん。涙を瞳に溜めていた。

 

 父親であるバラキエルと再会が朱乃の精神を追い詰めているのだろう。俺は体を入れ替えて朱乃さんをベッドに押し倒し返した。

 

「エイジ……、――んっ」

 

 見上げてくる朱乃さんと唇を合わせる。朱乃さんは少し目を見開くと安堵したように腕を首に回して抱きついてきた。

 

 唇をピッタリと合わせたまま開き、舌同士を絡ませる。

 

「んちゅ、ちゅっ、あむっ……、はぁ……んんっ……」

 

 朱乃さんのおっぱいを掴んで弄る。相変わらず滑らかでさわり心地のいい美しい胸だ。

 

 優しく揉んでいると乳首がピンッと勃起し始めた。おかえしをするように朱乃さんの手が俺のペニスに伸ばされた。亀頭を掴んで上下に扱いたり、人差し指で尿道口を穿ったりと愛撫してくる。

 

 俺は左手をおっぱいから離して朱乃さんのオマンコへ移動させる。ショーツ越しでもオマンコはじっとりと湿っていて、奥からまだまだ愛液が染み出てきていた。

 

 挿入(いれ)ても大丈夫だな。

 

 キスを止めて上半身を起こす。

 

「はぁはぁ……、エイジぃ……」

 

 幼い少女のような弱い姿の朱乃さん。潤んだ瞳で俺を求めてくる。

 

 俺は完全に服を脱ぎ、朱乃さんのショーツに手をかけてするすると脱がせる。これでお互い裸になった。

 

 朱乃さんは股を大きく開いた。

 

「エイジ、お願い……私を慰めて……」

 

 外側から腕を回してオマンコのスジを指で拡げてドロドロと愛液を溢しながら誘ってくる。

 

 俺は股の間に体をいれてペニスの先端をクパクパと開いたり閉じたりしている膣口に合わせ、ゆっくりと腰を進ませる。

 

 グジュ、グズズズズ……。

 

 亀頭が膣口を拡げる。亀頭が膣口に咥え込まれると、あとはスムーズに最深部の子宮口まで挿入された。さらに腰を進めて子宮口を押しひろげて亀頭の先端が食い込むかたちで根元まで咥え込まれた。

 

「朱乃、全部挿入(はい)ったよ」

 

「……っん。――うん、エイジを強く感じるわ」

 

 朱乃さんは両手で子宮辺りをさすりながら満足そうに微笑んだ。朱乃さんの両膝を抱えて体勢を整える。

 

 そして、朱乃さんの体のすぐ横に手をついてゆっくりと覆いかぶさる。

 

 重力で横にいやらしく広がった朱乃さんのおっぱいに顔を埋めて舌を這わせた。

 

 朱乃さんの味が舌から口内に広がる。乳首に狙いを定めて口を開けてしゃぶりつく。

 

「んっ……、ああ……、エイジに吸われてるぅ。おっぱいが、全身が熱いぃぃぃっ!」

 

 口内で乳首がコリコリと硬くなり、オマンコがキュウキュウと締り、絡みついてきた。

 

 朱乃さんは両手を俺の背中に回し、股を開いて腰を動かし始めた。

 

「――っく、朱乃のオマンコが吸いて……」

 

「ああ……、エイジ、私を感じて! もっと私を犯して!」

 

 朱乃はオマンコを緩めたり締めたりと緩急をつけながら、強請るようないやらしい顔でこちらの情欲を猛らせてくる。

 

「朱乃ぉっ!」

 

「――あうっんっ!」

 

 俺は上体を起こす。それと同時に抱きついていた朱乃さんも、俺につられるように上体が起こされる。正常位から対面座位の格好になって、下から朱乃さんのオマンコを突き上げる!

 

 ギシギシとベッドが軋む。

 

「朱乃、朱乃っ、朱乃ぉぉぉっ!」

 

「ああっ! すごいぃぃっ! 子宮口が拡げられて、子宮にめり込んでる! ああっ、もっと私を狂わせてぇぇぇっ!」

 

 朱乃さんは両手で胸に抱きつき、両足を曲げて俺の腰に抱きついてきた。俺も朱乃さんを抱きしめ返して密着し、ベッドの反動を使ってピストンし、ペニスでオマンコを擦りあう。

 

 朱乃さんはたまりに溜まったストレスを発散させるように乱れ、肩に齧りついてきた。

 

「んーっ! ふぅーっ……、はぁああんっ!」

 

 ずんっとオマンコを突き上げると、朱乃さんは肩から口を離して笑顔でのけ反った。すげぇエッチな顔……。オマンコもいつもより絡みついてくるっ! 

 

「んあああっ! くるっ! すごいのがっ! い、イクぅぅぅっ!」

 

 朱乃さんのうれしそうな悲鳴と共に膣の感じが変わる。オマンコが強く締まり、子宮の吸いつきを増す。絶頂が近いんだろう。俺もそろそろ射精()そうだ。

 

「朱乃っ、中に射精すぞ!」

 

「うんっ、いっぱい射精して! んっ、……はあっ、イクゥゥゥウウウウウウウウ~!」

 

 朱乃さんは両手両足で力いっぱいに抱きついてくる。くぅぅっ、で、射精るぅぅぅっ!

 

 ビュッ! ビュルゥウウウウウウッ! ビュッ、ビュッ!

 

 ビクビクと体が震え、快感が思考を埋め尽くす。たっぷりと朱乃さんの子宮に精液を吐き出した。

 

 抱きしめ合った状態で朱乃さんは幸せそうにつぶやく。

 

「はぁ、はぁ……、はぁ、はぁ……、エイジのがたくさん入ってる」

 

 結合部に視線を向けると、子宮に収まりきらなかった精液が膣肉とペニスの間から漏れ出てた。

 

 そのまま朱乃さんの艶やかな黒髪を撫でる。子供をあやすように背中をさする。

 

「エイジ……」

 

 朱乃さんはそうつぶやくと胸に顔をつけて瞳を閉じた。

 

 少しでも気を休めてください。

 

「――俺がずっと傍にいますから」

 

「ありがとう、エイジ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朱乃さんとセックスをしてから1時間ほど経った頃。俺は朱乃さんと並んでベッドに仰向けで寝転がっていた。

 

「うん――、決心がついたわ」

 

 朱乃さんはそう言うと、仰向けになっている俺に体を重ねるように覆いかぶさり、正面から見つめてきた。

 

 朱乃さんの表情はこれまで見たなかで一線をかくすような真剣なものだった。朱乃さんは俺に問う。

 

「エイジ、訊いてくれる? 私と母……それに父の話を」

 

 即答……、なんてことはできない。俺も朱乃さんの話を訊く覚悟を決めてからゆっくりとうなずいた。

 

 意を決した朱乃さんは話し始める。

 

 朱乃さんのお母さんは日本のとある有名なお寺の巫女だった。

 

 名前は姫島(ひめじま)朱璃(しゅり)というそうだ。

 

 朱乃さんのお母さんがいる寺の近くにある日、敵勢力に襲撃されて重傷を負ったバラキエルが飛来し、朱璃さんは傷ついた堕天使の幹部を救い、手厚く看病したそうだ。

 

 そのとき朱璃さんはバラキエルと親しい関係になり、朱璃さんは朱乃さんを身ごもった。

 

 バラキエルは朱璃さんと生まれたばかりの朱乃さんを置いていくわけにもいかず、近くに居をかまえ、そこから堕天使の幹部として動いていたそうだ。

 

 3人で暮らしているところに、朱乃さんのお母さん、朱璃さんの親類が、黒い翼を持つ堕天使の幹部に娘が洗脳されて手篭めにされたと勘違いし、とある高名な術者たちをけしかけてきたそうだ。

 

 幸いそれはバラキエルの力でなんとか退けることができた。けれど、術者のなかにはバラキエルにやられて恨みを持つ者もいて、その術者たちは堕天使と敵対している勢力に、バラキエルの住む場所を教えた。

 

 バラキエルが不在のときに、朱璃さんと朱乃さんが住まう家を襲撃される。

 

「私の記憶――、あなたに――」

 

 朱乃さんがそうつぶやくと、額を合わせてきた。脳裏にある風景が映しだされていく。

 

 聞えてきたのは小さな女の子が唄う歌だった。

 

『――あんたがたどこさ。ひござ、ひごどこさ』

 

 平屋建ての小さな家の庭で、まりつきをしている小さな女の子がいた。

 

『朱乃、どこ?』

 

 朱乃さんそっくりの女性が、小さな女の子――朱乃さんを呼んでいた。

 

『母さま!』

 

 朱乃さんが女性――お母さんに呼ばれて、勢いよく抱きついた。

 

 黒髪つやつやのやさしそうなお母さんだ。キレイでいてそれで儚く感じる。

 

『母さま。父さまは今日のいつごろ帰ってくるの?』

 

『あら、朱乃。父さまとどこに行くの?』

 

 お母さんの問いに小さな朱乃さんは満面な笑みで答える。

 

『早く帰ってきたら、一緒にバスに乗って町へ買い物に行くの!』

 

<寂しかった>

 

 ――っ。

 

 ……朱乃さんの声だ。

 

 場面は移り、バラキエルと小さな朱乃さんがお風呂に入っていた。

 

『父さまの羽、嫌いじゃないよ。黒いけど、つやつやで朱乃の髪の毛と一緒だもの!』

 

『そうか、ありがとう。朱乃』

 

<いつも父さまがいてくれたから、良かったのに>

 

 家の縁側でお母さんに髪をすいてもらっている小さな朱乃さん。

 

『ねえ、母さま。父さまは朱乃のこと好きかな?』

 

『ええ、もちろん』

 

 朱璃さんは微笑みながらやさしくとかしていた。

 

<たまにしか父さまに会えなかったから>

 

 そして、場面は急展開した。

 

 ボロボロの室内。タンスが倒され、畳が大きく抉れていた。テーブルはひっくり返されて、夕食が辺り一面に散らばっている。

 

 部屋のなかのすべてが荒らされていた。

 

『その子を渡してもらおう。忌々しき邪悪な黒き天使の子なのだ』

 

 術者らしき者たちが複数で小さな朱乃さんと朱璃さんを囲んでいた。

 

『この子は渡しません! この子は大切な私の娘です! そして、あの人の大切で大事な娘! 絶対に! 絶対に渡しません!』

 

 朱乃さんを庇うようにして朱璃さんが叫ぶ。

 

『……貴様も黒き天使に心を穢されてしまったようだ。致し方あるまい』

 

 術者が刀を抜き放ち、斬りかかった――。

 

『母さまぁぁぁぁっ!』

 

 次に映されたのは――血まみれのバラキエルだった。

 

 術者を全て殺害し、その身は鮮血に濡れていた。

 

『母さま! いやぁぁぁっ! 母さまぁぁぁっ!』

 

 朱乃さんは……息絶えた朱璃さんの体を揺らし、嗚咽を漏らしていた。

 

『……朱璃……』

 

 バラキエルは震える手で妻に触れようとするが――。

 

『触らないでっ!』

 

 小さな朱乃さんは怒りを父親にぶつけた。

 

『どうして! どうして、母さまのところにいてくれなかったの!? ずっとずっと父さまを待っていたのに! 今日だって、早く帰ってくるって言ったのに! ううん! 今日はお休みだって言ってたのに! 父さまがいたら、母さまはしななかったのに!』

 

『…………』

 

『あの人たちが言ってた! 父さまが黒い天使だから、悪いんだって! 黒い天使は悪い人なんだって! 私にも黒い翼があるから悪い子なんだって! 父さまと私に黒い羽根がなかったら、母さまは死ななかったのに! 嫌い! 嫌い! こんな黒い翼大嫌い! あなたも嫌い! 皆嫌い! 大嫌いっ!』

 

<父さまが悪くないことぐらいわかっていた。けど――。そう思わなければ、私の精神は保たなかった……。私は……弱いから……。寂しくて……ただ、3人で暮らしたくて……>

 

 朱乃……。

 

 ――意識が浮上していく。

 

「これが……私の記憶……。私の本当の想い……」

 

 朱乃さんの目からは涙が溢れ顔にポタポタと落ちてきた。

 

 これが朱乃さんの記憶と想い……。

 

 涙を流す朱乃さんをやさしく抱きしめる。彼女が落ちつくまで、やさしく――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ち着きを取り戻した朱乃さんは、俺の上に覆いかぶさったまま、いままでの、これまでの話を語り始めた。

 

 朱璃さんが亡くなってから数年後に、堕天使とのハーフだったから住んでいた家を追われたこと。

 

 天涯孤独な身となって各地を放浪し、その放浪生活のなかでグレモリー家とトラブルになり、トラブルを切っ掛けに、朱璃さんの親族に処分されそうになって、そこでリアスに出会い、救われたこと。

 

 リアスの悪魔の駒の『女王』を貰い、転生悪魔になって眷族になったことを。

 

 朱乃さんは全て話してくれた。

 

 伝えられた朱乃さんの記憶。そして想い。

 

「朱乃さんはバラキエル、お父さんのことを――」

 

「……ええ。――私は父さまのことが嫌いじゃない……。ただ……、どうしていいかわからないだけ。それに、父さまを拒絶する一方で、心の奥底で私は……、父さまにもっと会いたかったと、もっと頭をなでてもらいたかったと、遊んで欲しかったと……、父さまや母さまと3人でもっと暮らしたいと願っているの。……母さまが死んだ原因は父さまにないことはわかってる。でも――」

 

 朱乃さんは泣き顔を見せないよう、胸に顔を埋めて続ける。

 

「それでも、父さまとどう接していいかわからないの……」

 

 そうつぶやいて朱乃さんは両手を俺の背中にまわして抱きついてきた。

 

 …………。

 

 朱乃さんとバラキエル、そして朱璃さんの関係……。悲しい記憶をどうにかすることは俺にはできない。

 

 でも――。

 

「――傍にいます」

 

「え?」

 

 顔を上げる朱乃さんの涙を指で拭いとる。

 

「さっきも言った通り、あなたが悲しんだり、辛いことが起きたりしても、俺が傍にいます。俺があなたを守ります。こうやって抱きしめます。あなたが堕天使のハーフであろうとなかろうと、俺はあなたを、姫島朱乃を愛します」

 

「エイジ……」

 

「お父さんとのことはゆっくり考えていきましょう。お互い無限に近い時間を生きる存在ですし、俺も、何ができるかわかりませんけど、俺にできることはなんでも手伝いますから」

 

 これが俺の朱乃さんに対する想い。決して朱乃さんのためだけじゃない。俺自身のためにも朱乃さんが幸せでいて欲しいと願っている。朱乃さんには笑顔でいて欲しいから。

 

「……ありがとう、エイジ。私もあなたを愛しているわ」

 

 やさしく抱きしめると、朱乃さんはそう小声でつぶやいた。

 

 体を密着させて抱きしめ合う。お互いの存在を感じながら目を閉じようとしていると、

 

『うふふ、まるでプロポーズね』

 

 朱乃さんとは違う女性の、笑う声が聞えてきた。

 

 ……え?

 

 周囲に視線を向わせる。……誰もいない。朱乃さんも聞えたようで周囲を確認していた。

 

 さっきの声、聞き覚えが――。

 

『まさか娘のプロポーズシーンが見られるなんてね』

 

「「…………」」

 

 無言で朱乃さんと顔を見合わせる。お互い何も行なっていないことを視線で確認し合う。お互い身に覚えのないことのようだ。

 

 朱乃さんは起き上がってベッドから降り、周囲をもう一度見回し、大声で訊ねる。

 

「まさか母さまなんですか!? 母さま! どこにいるんですか!?」

 

 朱乃さんの声に答えるように、どこからともなく声が返ってくる。

 

『こうして話すのは久しぶりね、朱乃』

 

「母さま!」

 

 やはり朱璃さんのようだ。朱乃さんは涙を浮べて朱璃さんを探す。

 

 俺もベッドから降りて立ち上がる。声を発している朱璃さんらしき者は意思を持って朱乃さんと会話ができているようだ。意思があるなら魂がある。魂がまだ現世にあるのなら、もうひとつの希望が見えてくる。このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

 能力の一部を解放して、霊視で朱璃さんを探す。

 

 朱乃さんの守護霊の可能性が高いと思い探してみるがいない。部屋のなかにもいないようだしどこに――。

 

「母さま! どこにいるんですか!? 姿を見せてください!」

 

 朱乃さんが叫ぶ。すると――、

 

『――ここよ。朱乃』

 

「――っえ?」

 

「は?」

 

 朱乃さんの声に、俺も続いて声を漏らす。

 

『私はここにいるわ』

 

 再度朱璃さんの声……。いや……、でも――、

 

「お、おっぱいから母さまの声が聞える……?」

 

 目を見開いて自身のおっぱいを見る朱乃さん。そう……、そうだ! なんでおっぱいから朱璃さんの声が聞えてくるんだ!? おっぱいから声を聞き取るのはイッセーの専売特許だろ!? なんで俺と朱乃さんに……。たとえ声の主が朱璃さんだとしても、なんでおっぱいからの声を送信して俺たちも受信しているんだ!?

 

 俺たちが混乱していると、朱乃さんのおっぱいが光り輝き始めた。…………。

 

「な、何が――」

 

 朱乃さんは光り輝くおっぱいをどうしていいかわからないと戸惑っていた。まあ、そりゃそうだよ……。自分のおっぱいが光れば誰でも驚き、戸惑う。

 

 だけど、朱乃さんの戸惑いなんて関係がないといわんばかりに光りは強くなり、おっぱいの先端からまるで母乳が噴出しているかのように、乳首から光が床へと流れ出ていき、しかもそれが女性の、朱璃さんを形成していった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 俺と朱乃さんは無言で、そのようすを見ているだけしかできなかった。……イッセー、おっぱいって本当にすごいんだな……。アザゼルが無限大の可能性秘めてるっていう話もうなずけるよ……。

 

「か、母さま……なんですか?」

 

 恐る恐る朱乃さんは訊ねた。

 

『ええ。そうよ、朱乃』

 

 朱璃さんは微笑んで肯定する。両手を広げて朱乃さんを抱きしめる。

 

「あ……」

 

 朱乃さんが声を漏らす。大きく開かれた瞳が段々と細められ、涙が溢れだす。

 

「母……さま」

 

『ええ、大きくなったわね、朱乃』

 

「――っ。……母さまっ、母さまぁぁぁぁっ!」

 

 朱乃さんは朱璃さんの胸に顔を埋めて涙を流し、抱きしめる。……ど、どうしよう……。感動的なシーンで、感動しているのに……、7割ぐらい感動しているのに、残り3割を頭と心が処理できない。どうしておっぱいから朱璃さんが……。

 

『よしよし。もうそんなに泣かれちゃうと困っちゃうわ』

 

「うっ……、ううっ、母さまぁ……」

 

 朱璃さんは朱乃さんの髪をすかしながら微笑む。少し落ち着きを取り戻した朱乃さんは顔を上げて朱璃さんに訊ねる。

 

「母さま、どうして……? 亡くなったはずなのに……」

 

『ええ、私は確かに死んでいるわ。いまの私は魂だけの幽霊よ。……あのとき、私はまだ小さいひとり娘を残して逝けなくてね。成仏できずに朱乃の守護霊になっていたのよ』

 

 守護霊がなんでおっぱいから……。いや、それよりも魂があるのならあの方法が使える。

 

『朱乃、本当に大きくなって背も髪も伸びたのね』

 

「私も……、母さまみたいに美人になった?」

 

『ええ、魅力的な女の子になったわ』

 

 朱璃さんの言葉を訊いて朱乃さんはうれしそうに微笑んだ。朱璃さんが言う。

 

『朱乃。父さまを許してあげて。あの人は確かに私を守れなかったかもしれない。これまで他者をたくさん傷つけてきたかもしれない。――でもね、あの人が私と朱乃を愛してくれているのは本当で、私もあの人を愛していて幸せだった。だから、朱乃もあの人を愛してあげてね』

 

「母さま……」

 

 朱璃さんはそう微笑むと朱乃さんをもう一度抱きしめた。

 

『うふふ、まさか娘のラブシーンだけじゃなくて、プロポーズされてるところまで見ることができて、こうやって言葉を交わして抱き合えるなんてね』

 

「か、母さま……そ、それは……」

 

 朱璃さんの言葉に朱乃さんは頬を赤らめる。そのようすに朱璃さんは満足そうに微笑み、こちらに視線を送ってきた。

 

『ありがとう。あなたのおかげでこうして娘と話もできて、もう一度触れ合うことができたわ。それに娘の心の支えになってくれたようだし、あなたにはいくら感謝しても足りないわ』

 

「い、いえっ、お、俺は別に何も……」

 

『うふふ、あなたのおかげよ。ただ見守っていることしかできなかった私に力を与えてくれたんだから』

 

「エイジが……?」

 

 朱璃さんの言葉で朱乃さんがこちらに視線を向けてくるが、まったく身に覚えがありません、と視線で否定する。

 

 俺と朱乃さんの疑問に答えるように朱璃さんが言う。

 

『あなたたちがエッチをする度に少しずつ力を貰っていたの』

 

「「ええっ!?」」

 

 驚く俺たちに朱璃さんは頬を染めて続ける。

 

『うふふ、最初は朱乃と体を同調させて力を貰ってたんだけどね。最近おっぱいを集中的に愛してくれ始めたから、ね』

 

 ……ね。じゃないですよ朱璃さぁぁぁんっ! なんですかその理由! 俺と朱乃さんのプライベートはどこにいったんですか!?

 

 驚愕する俺たちに、朱璃さんはため息をひとつ吐いて続ける。

 

『でもね。まだあなたたちにハードなプレイは早いと思うわ。知識もあるみたいだし、段階を踏みながら楽しんでいるみたいだけど、SMはせめて高校を卒業してから――』

 

「か、かかか母さまっ……!?」

 

「しゅ、朱璃さん……!」

 

 朱乃さんと一緒に顔を真っ赤にしながら朱璃さんを止める。止めようとしているのだが――、

 

『それにね。いくら時間を早くする結界があるからって毎回5回以上もするのはダメよ。あとアダルトグッズもあんなにいらないでしょ。若いうちから激しいエッチばっかりしているとダメな子になっちゃうから気をつけなさい』

 

「母さま……もうその辺で……」

 

「お願いしますから……」

 

 実の母親から夜の生活を注意されている朱乃さん。その恋人である朱乃さんと一緒に注意される彼氏である俺……。

 

 どんな羞恥プレイですか……! ――って朱璃さぁぁぁんっ! いまの微笑みと最初の朱乃さんに向けた微笑みがまったく違うように感じるんですが!? なんかドSオーラをビンビン感じるっ!

 

『――うふふ……』

 

 俺の視線に気づいたのか微笑む朱璃さん。絶対ドSですよ、この人……。朱乃さんのS気質はこの人の遺伝なのか? あー、S気質って強ければ強いほど、反転したときは極端なM気質になるんだよなぁ。

 

 ……って何を考えているんだ俺は……。最近エロス脳が強いぞ……! そういう仕事が多いからか?

 

 俺と朱乃さんのようすにご満悦のようすの朱璃さん。ニッコリ微笑むと朱璃さんの体が光り、透け始めた。

 

 血相を変えて朱乃さんが朱璃さんの顔を見上げる。

 

「母さま!」

 

『エイジさん、朱乃を……娘を頼みます。私はもう――』

 

「母さまぁぁぁっ!」

 

 光になろうとしている朱璃さんにすがりつく朱乃さん。――って、まさか成仏するのか!? 成仏したら蘇生ができなくなる! 

 

「朱璃さん!」

 

 朱璃さんの肩をつかむ。朱璃さんは少し驚くような表情を見せる。

 

「朱璃さん、消えないでください!」

 

 蘇生できるかもしれないんだ! 魂が現存するいまなら!

 

『ダメよ、エイジさん』

 

「――っ。でも――」

 

 生き返らせる方法があるなら、生き返らせるための条件がそろっているいまなら、

 

『あなたにせまられたら、本気になっちゃうじゃない……。死んでいるといっても、不倫はダメ……ダメなんだから』

 

 朱璃さん…………あなたは何を言ってるんですか?

 

『でも……、あなたとなら……、恩もあることだし体だけの関係なら――』

 

 何が体だけなんですか!? 朱璃さぁぁぁん!

 

「エイジ……?」

 

「いえ、ち、違いますよ! そんなつもりじゃなくて……」

 

『あら、私に魅力ないのかしら? ……まあ、あなたよりも年上だし、仕方ないのかもしれないわね』

 

「十二分に魅力的ですから、悲しそうに言わないでください朱璃さん!」

 

『あら、そう? うふふふ』

 

 くぅ……話が進まない……。ワザとか? この人、ワザと場を混乱させようとしてないか? からかってるときのこの人の笑顔。すげぇー、輝いてるんだけど……。

 

 ああ、もういいから本題に入るぞ。

 

「お願いですから消えないでください。あなたの魂があれば蘇生させられるかも……いいえ、蘇生させられるんです」

 

 俺の言葉に朱璃さんを始め、朱乃さんも大きく目を見開く。

 

「――っ! エイジ、それは本当なの!?」

 

「はい。俺のそう、こ……じゃなかった。【王の財宝】のなかに蘇生させるための道具があるんです。それを使って儀式を行なえば朱璃さんの肉体の再生と、その肉体に魂を定着させて蘇生できます」

 

 不安や不信といった感情を与えないよう、確信をもって彼女たちに伝える。

 

『私は――生き返れるの?』

 

 朱璃さんは信じられないと言葉をもらした。朱璃さんの目を正面から見て「はい」と答える。

 

「だから、お願いですから現世に留まっていてください」

 

 朱璃さんの両目から涙が溢れる。

 

『私は――生き返ってもいいの?』

 

「――はい。確かに死者の蘇生は許される行為ではないかもしれません。……ですが、蘇生ための手段があり、条件も揃い、それに見合う力があるのなら。大好きな女の子の母親を救えるのなら、俺はあなたを生き返らせることを選びます」

 

「エイジ……」

 

 朱乃さんが見つめてくる。俺はどうであれ、この人たちの運命を背負うことになるんだ。覚悟を決めて、もう一度、自分に誓うように、世界に宣言するように言う。

 

「俺は朱璃さんを生き返らせます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 ロキとフェンリル対策の準備を進めていくなかで、俺と部長は地下の大広間で雷のハンマーことミョルニルの使い方について確認していた。

 

 そこへ魔法陣が出現し、銀髪メイドさんが現れる。

 

 グレイフィアさんだった。書類らしきものを持っている。

 

「お嬢さま。頼まれていた魔法の鎖、グレイプニルに関する書類です。当日、戦場に直接鎖が送り届けられることになっております」

 

「ありがとう、グレイフィア」

 

 部長は書類を受け取り、ペラペラとめくって目を通していた。

 

 ……俺はふと部長とグレイフィアさんがそろったところで訊きたいことができてしまった。

 

 おそるおそるお2人に話しかける。

 

「あ、あの。部長とグレイフィアさんがいるので、ちょっと訊きたいんですが……」

 

 グレイフィアさんがクールな視線をこちらへ送ってくれる。うっ……、先日の木場の件で呆れられていたから送られてくる視線が妙に冷たい。

 

 サーゼクスさまの『女王』にして、奥さん。そして、ミリキャスさまのお母さん。

 

「なんでしょう?」

 

「……え、えっと」

 

 俺はちょっとだけ言い(よど)んだあと、意を決して口を開いた。

 

「朱乃さんについてです。理由はわかりませんが、バラキエルさんを意識しているようで、機嫌も悪そうだし……。バラキエルさんと朱乃さんの間になにかあったんですか?」

 

 部長とグレイフィアさんがお互い目を合わせる。そのあと、部長が口を開いた。

 

「……そういえばまだイッセーとアーシアには話していなかったわね。アーシア」

 

 部長はそう言うとアーシアも呼び寄せた。部長の声を聞いて同じく大広間にいたアーシアがこちらにやって来る。部長は俺とアーシアにソファに座るよう促したあと、再び口を開いた。

 

「これから話すことは朱乃の人生に関わることよ。アーシアにもグレモリー眷属の一員として知っておいてもらいたいの」

 

「朱乃さんのですか……」

 

「ええ」

 

 いきなり重要な話を聞かされることになってアーシアは戸惑ったが、すぐに真剣な表情となって「わかりました」とうなずいた。俺のアーシアと同じように聞く覚悟を決めてうなずく。

 

 部長はそんな俺たちを見てうなずいたあと、話し始めた。

 

「バラキエルと朱乃は親子なの」

 

「え……」

 

「――っ」

 

 部長の言葉に驚愕する俺とアーシア。……朱乃さんとバラキエルさんって親子だったの!? いや、でも――。

 

「朱乃さんは悪魔じゃないんですか?」

 

 俺の質問に部長は首を振る。

 

「悪魔よ。……でも元は堕天使と人間のハーフ。私の『悪魔の駒』で転生悪魔になったのよ」

 

 朱乃さんが堕天使と人間の元ハーフ……。そ、そういえばアザゼル先生が夏休みの修行前に朱乃さんに向って自分の血を受け入れろとかなんとか言ってたっけ? タンニーンのおっさんとの修行のインパクトで色々不確かな情報だけど、そんな話があったと思う。

 

「なんで朱乃さんは堕天使と人間のハーフから転生悪魔になったんですか?」

 

 アーシアはおそるおそる訊ねた。当然の疑問だ。堕天使と人間のハーフが悪魔に転生するなんていったいどんな事情があったんだ?

 

「これから言うことは本当に他言無用よ」

 

 部長は俺たちの顔を見て確認を取ったあと、息を吐いて話し始めた。

 

 …………。

 

 ……部長から聞かされたのは朱乃さんの壮絶な人生だった。

 

 有名な神社の巫女だった朱乃さんのお母さんとバラキエルさんが出会い、朱乃さんが生まれ、親子3人で暮らしていたけど、朱乃さんの親族が朱乃さんのお母さんが堕天使に娘が洗脳されて手篭めにされたと勘違いして術者を送ってきて、その術者を一度はバラキエルさんが撃退するも、撃退された術者の復讐により、堕天使と敵対している各勢力に3人の居場所をバラされて襲撃を受け、そのときバラキエルさんが偶然不在だったことも不幸に繋がって、朱乃さんのお母さんが、朱乃さんを庇う形で死んでしまう。

 

 朱乃さんはバラキエルさんがギリギリで助けたそうだけど、親子の間に溝ができてしまい、朱乃さんはバラキエルさんを拒絶し、住んでいるところも追われ、日本各地を放浪することになり、そこで部長と出会って『悪魔の駒』をもらって眷族になった。

 

 …………まさかいつも笑顔でニコニコしている朱乃さんにそんな壮絶な出来事があったなんて……俺の想像を遥かに超えていた。

 

「けれどね、イッセー、アーシア。私の眷属となり、私のもとで悪魔として第二の生を送り出した朱乃は以前と比べてだいぶ明るくなったわ。何よりもエイジと出会ってからは、堕天使のイメージも緩和してきたの。……お母さまが亡くなられたことはどうすることもできなかった事件だったと。朱乃自身も心の底では理解しているはずなのよ。けれど、それを素直に受け入れられるほど、まだ朱乃は強くないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………俺が全部悪いのさ」

 

 朱乃さんのことを聞いた俺はそのあと、最上階のVIPルームで1人作業していた先生にそのことを報告したんだ。

 

 そして先生も語りだした。――俺が悪かったんだ、と。

 

「あの日、バラキエルを招集したのは俺だ。どうしても奴じゃなきゃこなせない仕事だった。だから、無理を言って呼び寄せたんだよ。そのわずかな間に……。――俺が朱乃とバラキエルから、母と妻を奪ったんだ」

 

「……先生。だから、朱乃さんのことバラキエルさんの代わりに見ようと?」

 

「…………」

 

 先生は作業している手を休めず、何も答えない。

 

 そこへ部屋に入ってくる者がいた。

 

「アザゼル、いま戻った」

 

 ヴァーリだった。

 

「ああ、おまえか。どうだ?」

 

 先生の問いかけにヴァーリは手を前に突きだし、小さな魔法陣を宙で展開した。

 

 これは――。魔法陣に描かれている紋様が北欧の神さまたちが使っていたものに酷似している。

 

「北欧の術式はそこそこ覚えた。ロキの攻撃にいくらか対抗できるはずだ」

 

 ヴァーリが手に持っていたのは奴がずっと読んでいた本だ。

 

 ……まさか、ロキに対抗するため、魔術の本を読んで北欧の魔術を覚えたのか? この短期間で? ……魔力の才能、か。にしてもこの少しの間で覚えるなんて……。

 

 先生がそれを確認してうなずいた。

 

「わかった。……よし、作業もひと段落ついたし、俺も少し休む」

 

 俺とヴァーリを置いて、先生が部屋を出ていった。

 

 取り残された俺と――ヴァーリ。微妙な空気が流れる。ヴァーリはソファに座り、俺も遠くの椅子に座った。奴は例の本を読み返している。

 

 ヴァーリは必要のないときは、美猴たちと外に出ていた。必要のあるときだけ俺の家に姿を現す感じだ。必要以上にこちらと慣れ親しむつもりはないってことだろう。まあ、それはこちらも同様なんだけどね。

 

 俺も退出しようと想ったんだけど、なんでか、ちょっとだけこいつと話してみようなんて興味が湧いた。

 

 話題を難易も思いつかないんだけど、頭をポリポリかきながら、ふと口にする。

 

「……しかし、悪神とはいえ『神』と戦うことになるとはな」

 

 答えなんて期待してなかったけど、意外にもヴァーリは本を読みながら返してきた。

 

「よく覚えておくといい。良い神もいれば、悪い神もいる。ま、良い神ってのも物の見方を変えれば、邪に見えてしまうこともあるが……」

 

「悪い神さまか……。なんで平和が嫌いなのかな? 俺、悪魔だけど、普通に暮らして部長たちと毎日楽しく過ごせればそれだけで十分なのによ」

 

 ヴァーリは本を閉じて、真っ直ぐ俺へ顔を向けて言った。

 

「キミにとっての平和が、苦痛に感じてしまう者もいるということだ」

 

 人、立場によって、楽しく過ごせる基準が違うのかな……。それはそれですごく悲しいことだ。戦争なんてしたくねぇよ。

 

 うーん、おっぱいの素晴らしさを知れば皆平和になれるような気がしなくもないが。

 

「おまえにとってもいまの世界は苦痛か?」

 

 俺の問いにヴァーリは天井を見上げた。

 

「退屈なだけだ、だから、今回の共同戦線は楽しくて仕方がない」

 

 その口もとは怖いぐらい吊り上がっていた。

 

 戦闘狂、か。本当に戦いが好きなんだろうな。

 

「嫌になるよな。強い奴がわんさかいるんだからさ」

 

「――しかし、だからこそ、世界はおもしろいんだ。俺は誰よりも強くなる」

 

 ヴァーリの夢、か。同じ二天龍でも俺のとは違うよな。

 

「俺は最強の『兵士』になって、上級悪魔になれればいいや。俺だけのハーレムを作るんだ」

 

 まあ、目指せるなら最上級悪魔も狙いたいけど、自分の領土で何か起こさないといけないらしいからな。あ、おっぱいドラゴンでひと財産狙える……?

 

 うーん、どうなんだろう! あー、でも夢が広がるなぁ。

 

「キミらしいことだ」

 

 ヴァーリは笑んでいた。

 

「あー、もう1個目標あったか」

 

 そう、肝心なことを忘れていた。俺は真っ直ぐヴァーリを見つめて言った。

 

「――俺、おまえを必ず超えるぜ」

 

 それを聞いて、ヴァーリはいままで見たこともないほど、うれしそうな笑顔で言う。

 

「ああ、俺のところまで来たらいい。キミが強くなるたびに俺はうれしいよ。才能がなくて、弱い赤龍帝だと失望した時期もあったが、キミはいままでの赤龍帝とは違う成長をしてきている。――ドライグと対話しながら、赤龍帝の力を使いこなそうとする者はおそらく初めてだろう」

 

 本当か、ドライグ?

 

『その通りだ。以前も言っただろう? おまえは歴代のなかで1番俺と対話する宿主だ。――そして、俺の力に溺れず、過信もせず、赤龍帝の力を使いこなそうとしている』

 

 ドライグの言葉にヴァーリが続く。

 

「ただ思うがままにその強力で凶悪な力を振るう宿主ばかりだった。最終的にドライグの力に溺れ、戦いで散っていった」

 

『おまえは歴代で1番才能の無い赤龍帝だ。パワーも何もかも弱い。――だが』

 

「歴代で1番力の使い方を覚えようとしている赤龍帝だ」

 

 ドライグとヴァーリにそう言われ、ちょっと照れた。最近ディオドラ戦以外では活躍していなかったし、ロキとの始めての戦闘では足を引っ張っていたから。でも、俺自身が思う以上に俺のことを期待していないか? 結構なプレッシャーを感じるんだけど。

 

 アルビオンも話しかけてくる。

 

『その手のタイプが1番厄介なのだよ。相手にしたとき、あまり隙を見せないのでね』

 

 その意見にヴァーリがうなずく。

 

「そうだな。そして、いま、おもしろいことを思いついた。――将来、俺のチームとキミのチームでレーティングゲームみたいな戦いができたらおもしろいかもしれない、と」

 

 俺の眷属とヴァーリのチームでゲームか。

 

 ……うん。うん。うん! なんだか楽しそうだ。

 

 よくわからないけど、その対決だけは本当に楽しそうな気がしたんだ。

 

「へぇ。それはいいな! 俺、強くて最高な眷属集めるぜ? しかも皆、美少女&美女ばかりだ!」

 

「ふふふ、ではそのときを楽しみにまとうか。まずはグレモリー眷属と戦うのが先になるかもしれないが。――いつか必ず倒しあおう」

 

「リアス・グレモリー眷属だっておまえたちに負けやしないさ。でも、テロみたいな方法で攻めてくるんじゃねぇぞ」

 

「ふふふ。それは約束できないな。まあ、いまはリアス・グレモリーやゼノヴィアの2人にさえ『覇龍』なしでは勝てるかどうかわからないし、姫島朱乃も俺より強いだろうから、なるべく大人しくしておくさ」

 

 …………え?

 

「はぁ!? え、部長とゼノヴィアと朱乃さんっておまえが『覇龍』を使っても勝てるかどうかわからないのか!?」

 

 驚愕する俺にヴァーリは意外そうに言う。

 

「ん? 気づいていなかったのか? いや、話を聞いていなかったのか? リアス・グレモリーとゼノヴィアはロキから認められて名を呼ばれ、アザゼルがロキ対策メンバーに加入させるほどの実力者だぞ。特にリアス・グレモリーがフェンリルを倒しかけたと驚かれていただろう」

 

「あ、ああ……」

 

「はっきり言って、いまの俺1人では『覇龍』を使用してやっとフェンリルを倒せるか倒せないかのレベルだ。だが、リアス・グレモリーは不意をついたとはいえ、フェンリルを倒しかけた。いや、そもそもフェンリルの隙をつくことすら難しいことだ。――単独でここまで戦えるリアス・グレモリーは俺よりも上だ」

 

 部長が白龍皇のヴァーリよりも上。俺よりも上だってことは知っていたけど、まさかヴァーリよりも強くなっていたなんて……信じられないけど、事実なんだろう。

 

「コカビエルとのときは歯牙にもかける価値のない存在だったのに、短期間で3人も俺を超えるまでに成長するなんてな。相当辛く厳しい修行を積んだと話していたが、努力を惜しまず、才能に恵まれ、いい師に恵まれ、環境に恵まれたからこその結果なんだろうな」

 

 ヴァーリは心底楽しそうに、うれしそうに笑んでいた。

 

「俺よりも強くなった3人を鍛えた師たちは当然俺を歯牙にかけないほど強いだろうし、エイジはその師たちすら超えてグレードレッドやオーフィスクラスの実力者。いやもしくはそれ以上の強者かもしれない。ふふふ、世界のランキングに載っていない強者がこれほど存在し、下からも駆け上がってくるなんてな。退屈だった世界が楽しいものに感じられてきたよ」

 

 いくらなんでも戦闘狂すぎるだろ……、こいつ。

 

 ヴァーリは高まったテンションを落ち着かせるように息を吐くと、こちらを見つめてきた。

 

「そういえば、兵藤一誠」

 

「なんだ?」

 

「最強の兵士になると言っていたが、それは同じ『兵士』である神城エイジを超えるということか?」

 

「――っ!」

 

 ……そうだ。最強の兵士になるためにはエイジを超えなきゃならないんだ。世界最強と並んでも不思議じゃない、魔王クラス、サーゼクスさまと同レベルだろう実力者のエイジを……。

 

 いまの俺じゃ絶望的なぐらいエイジと差がある。それは理解しているけど――。

 

 ――最強の兵士になりなさい――。

 

 部長に誓った俺自身との約束。最強の兵士になるという目標だ!

 

「――ああ……、ああ! 俺はエイジを超える! 一発ぶん殴るだけじゃなく、最強の兵士に俺がなる!」

 

 そうヴァーリへ宣言する。いつか絶対にエイジを超えてハーレム王になって最強の兵士に俺がなるんだ!

 

 ヴァーリはそんな俺をうれしそうに言った。

 

「俺の目標もグレードレッドに加えてエイジを倒すことだ」

 

「――っ。おまえもエイジを打倒が目標かよ」

 

「当然だろ。コカビエルが暴走したとき歯牙にもかけられずに敗北したんだ。必ず強くなって奴を超えてやる」

 

「だったら競争だな。俺が先に超えるかおまえが先に超えるのか」

 

「それだったら俺が有利すぎるな。まずは『覇龍』か『覇龍』に変わる力を得てからにしろ」

 

「う……」

 

 ごもっともな意見だ。あー、まずは『覇龍』以外の方法で強くなる方法を探すところから始めないといけないんだった。

 

「うむうむ。いいのぅ。青春だのぉ」

 

 うおっ! いつの間にか、俺とヴァーリの間にオーディンの爺さんが現れていた。いろいろな作業を終えたのかな?

 

 何やらえらく感心している様子だった。

 

「今回の赤白は、個性的じゃい。昔のはみーんんあただの暴れん坊でな。各地で大暴れして、勝手に赤白対決なんぞして周囲の風景を吹き飛ばしながら、死におった。『覇龍』も好き勝手に発動しおってな。山やら島やらいくつ消えたかの」

 

 ため息交じりに爺さんはそう語った。

 

 爺さんのうしろに付いてきていロスヴァイセさんも言う。

 

「確かに片方は卑猥なドラゴンで、片方はテロリストという危険極まりない組み合わせですけど、意外にも冷静ですね。出会ったら即対決が赤龍帝と白龍皇だと思っていました」

 

 卑猥で申し訳ございません!

 

 でも、本当に俺とヴァーリは珍しい天龍なんだな。過去の先輩たちと俺たちの違いってなんだ?

 

「ところで白龍皇。お主は……どこが好きじゃ?」

 

 爺さんがヴァーリにいやらしい目つきで訊く。……爺さん、まさか、白龍皇相手にエロ話か?

 

「なんのことだ?」

 

 首をかしげながらヴァーリが聞き返す。

 

 すると爺さんはロスヴァイセさんのおっぱい、尻、太ももと指していく。

 

「女の体で好きな部分じゃよ。こっちの赤龍帝は乳じゃ。お主も何かそういうものがあるんじゃないかと思うてな」

 

「心外だ。俺はおっぱいドラゴンなどではない」

 

 心底心外そうな表情でヴァーリは言った。ゴメンね! 全部、俺のせいだよね!

 

「まあまあ、お主も男じゃ。女の体で好きな部分ぐらいあるじゃろう」

 

「……あまり。そういうものに感心がないのでね。しいて言うなら、ヒップか。腰からヒップにかけてのラインは女性を表す象徴的なところだと思う。……特にタンニーンの娘でユウカナリアといったか。母性を感じされる肢体。束縛されない自由な鳥のような性格。全体的なバランスはもちろん、腰のラインも美しくヒップも大きすぎずかといって小さすぎずで丸く、太ももも美しかった。漂うドラゴンの雰囲気も心地よかったな」

 

 ……おいおい、いきなりどうしたんだ、こいつ。

 

 俺の視線に気づいたかヴァーリははっと我を取り戻す。こいつ……もしかしなくても、

 

「ユウカナリアさんのことが好きなのか?」

 

 俺がそう訊ねるとヴァーリはうなずいた。

 

「ああ。そうだな。俺はどうやら彼女が気に入ったようだ」

 

「はっきりと言う奴だな。でもユウカナリアさんってエイジの恋人らしいぞ」

 

 傷が大きくならないうちに早めに教えてやったのだが、ヴァーリはまったく気にしたようすも無く、

 

「それがどうした。俺が彼女を気に入っているんだ。恋人がいようが関係ない。恋人がいるならそいつよりも俺を好きになってもらえるように努力し、奪い取ればいいだけだ」

 

 と、はっきりとヴァーリはそう答えた。恋人がいても関係ない、か。こいつらしい言葉だ。俺もエイジから部長を奪い取る――と言う自信なんてない。そもそも部長がもう非処女になっていると思うと……あぁああああああああああああ~~~~!! 発狂しそうになっちまう! 俺よりも先に部長の初めてを誰かに全部奪われていたら立ち直れねぇ……! 俺の部長が穢されるなんて我慢できるかぁぁぁぁっ!

 

 ヴァーリが答え、俺が頭を抱えているときだった。

 

「…………なるほどのぉ。ケツ龍皇というわけじゃな」

 

 爺さんがぼそりとつぶやくと――。

 

『…………ぬ、ぬおおおおん……』

 

 アルビオンが無念の涙を流している様子だった。

 

 俺は爺さんに言う。

 

「爺さん、止めてあげて。いま、二天龍はとても繊細な時期なんだよ! それにヴァーリの告白が全部吹っ飛んだじゃないか!」

 

 俺ですらドライグとアルビオンが不憫に思えてきた! こいつら、もしかしたら人生で初めてすすり泣くほどショックを受けているのかも。

 

 ……俺、いまさら遅いかもしれないけど、もっとドライグを大切にしようと思うんだ。

 

「アルビオン泣くな。相談ならいつでも聞いてやる」

 

 あのヴァーリがやさしい言葉を相棒にかけてやがるぜ!

 

 皆さん、二天龍は繊細な時期に突入してます。

 

「かわいそうなドラゴンじゃな。うむ、『かわいそうなドラゴン』でひとつ童話ができるかもしれんな」

 

 爺さん! いい加減怒るよ!

 

 爺さんは咳払いをひとつすると言った。

 

「やはり、若いもんはいい」

 

 突然、年寄り臭いことを言いだす。

 

「どういうこと?」

 

 俺が訊くと爺さんはヒゲをさすりながら言う。

 

「なーに。この歳までわしはジジイの知恵袋ひとつで何事も解決できると信じておった。だがの、それは年寄りの傲慢じゃ。真に大切なのは、若いもんの可能性じゃよ。ほっほっほ、今頃になってそれがわかってきてのぉ、おのれ自身がどれだけ愚かだったのか……。わしの傲慢がロキを生んだのじゃろう。そして、わしもいままでの傲慢で今度は若いもんが苦労しとる」

 

 爺さんの目は悲哀に満ちていた。

 

 うーん。お偉い人の考えはよくわからんよね。

 

「よくわからないけど、1歩1歩前に進めばいいんじゃないの?」

 

 俺は何気なく口にした。それは俺が常に信条として持っているものだ。けど、爺さんはポカンと間の抜けた顔になっていた。

 

 な、なんだよ、その反応……。すると、「くっくっく」と今度はおかしそうに笑った。

 

「……若さはいい。年寄りをも刺激してくれる。ああ、そうじゃな。その通りじゃ」

 

 なんだか、わからない。けど、爺さんは満足そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<アザゼル>

 

 

 ロキ対策の準備がひと段落して、少し休もうとしていたときだった。神城が大事な話があるからと、バラキエルをつれて神城家の地下1階にある大広間までこいと言ってきたのだ。

 

 十中八九、朱乃の件だと思ってバラキエルと共に大広間へと向ったのだが、俺とバラキエルの予想を遥かに超えるものだった。

 

『久しぶりね。あなた』

 

「朱璃! 本当に朱璃なのか!?」

 

『ええ、そうよ』

 

 数年前に死んだはずのバラキエルの妻がそこにいたのだ。バラキエルは半透明の魂だけの妻を確認すると、涙を流しながら半ば信じられない様子で話しかけていた。

 

 俺はバラキエルとその妻から少し離れた位置に立っていた制服姿の朱乃と神城を問い詰める。

 

「これはいったいどういうことなんだ!? なんでバラキエルの妻がいるんだ!?」

 

 バラキエルの妻で朱乃の母親である姫島朱璃は数年前に死んだはずだ! なぜここに存在して見えているんだ!?

 

 俺の疑問に答えるように神城が説明を始める。

 

 なんでも死後成仏できずに朱乃の守護霊となっていたそうだ。

 

 それがエイジから朱乃を通して姫島朱璃に力が送られ、一時的とはいえ半実体化し、こうして話せるようになっているという話だったが……。

 

「……すまん。もう一度言ってくれるか? いったいどこから出できたって?」

 

「朱乃のおっぱいからだ」

 

「…………」

 

 …………こいつもイッセーに侵食――はないだろう。イッセーみたいな変態じゃないし、こいつは純粋なエロい男だ。

 

 こいつが正常ならさっきの話は事実……。

 

 念のために確認するように朱乃に視線を向ける。朱乃は両手でおっぱいを隠して頬を朱に染めて顔を背けていた。

 

「……はぁ、マジでおっぱいってすげぇんだなぁ……。おっぱいの可能性は無限大ってマジだわ。……今日から神器じゃなくておっぱいの研究でも始めようかなぁ」

 

 女の胸を調べる。おっぱいの研究する。女の乳を探求する。そんな堕天使の総督にもうなっちまおうかなぁ……。

 

 ハハハハ、『乳博士おっぱい堕天使アザゼルさん』とかいう番組でも始めようかなぁ。『乳龍帝おっぱいドラゴン』とかにゲスト出演とかしてさ。

 

「――ゼル! ――アザゼル!」

 

「――っは!?」

 

 ――お、俺はいったい何を……!?

 

 正気に戻って周りを見ると、いつの間にか邂逅を終えたバラキエルと姫島朱璃がこちらへやって来ていた。

 

「おい、アザゼル。大丈夫か?」

 

 バラキエルが怪訝な表情で訊ねてくる。俺は額に手を一度当てて顔を上げる。

 

「あ、ああ、大丈夫だ。……この急展開に少し戸惑ってしまっただけだ」

 

「そうか。俺もだ。まさか妻とこうして再び話すことができるなんて思いもしなかった」

 

 そう言って涙を拭うバラキエル。おまえはまだ姫島朱璃がどこから出てきたか聞いてねぇのか……。聞いたらどうなるんだろうな……言ってみたい気もする。

 

「もう話を始めてもいいか?」

 

 と、ここでエイジが口を開いた。なんだ? 朱璃に会わせるだけじゃねぇのか?

 

 俺がそう思っていると、バラキエルが代わりに質問した。

 

「何かまだあるのか?」

 

 その声には少しばかり期待と不安がのようなものが入り混じっているように感じた。まあ、当然だろうな。乳から出てきたとは聞いていないだろうが、エイジがなんらかの手伝いをしたとは聞いているだろうし、良いことか悪いことか、どちらの話が聞けるか興味はあるはずだ。

 

 俺とバラキエルの考え通り、案の定エイジの口から言い放たれた。

 

「――姫島朱璃さんの蘇生の話だ」

 

「「――っ」」

 

 俺とバラキエルは目を大きく見開いて驚いた。特にバラキエルはエイジの肩を両手で掴んで、

 

「妻がっ! 朱璃を蘇生できるのか!? 生き返らせれるのか!?」

 

 と、大声で叫んでいた。エイジはバラキエルから掴みかかられているが顔色一つ変えずにうなずいてみせた。

 

「ああ。もちろんだ」

 

「あ……ああ……」

 

 バラキエルの手から力が抜ける。涙が再び目から溢れる。膝をついて両手で顔を覆い嗚咽を漏らす。

 

 ……朱乃はそのバラキエルの姿を複雑そうに見つめていた。いまのこいつにどんな感情が渦巻いているのかわからないが、負の感情や敵意といったものは感じられなかった。

 

 俺はエイジに訊ねる。

 

「本当にできるのか? 死者蘇生」

 

 死者蘇生は大禁術とされる行いだぞ。そんなほいほいとできていいのか?

 

 だがエイジは俺の疑問を吹き飛ばすように――。

 

「【王の財宝】にリスクや条件が厳しいが、死者蘇生できるアイテムが3つ存在しているし、『悪魔の駒』も一種の蘇生道具だろ。『悪魔の駒』や新しくできた天界の『御使い』のように人間から人外への転生できたりできるんだ。朱璃さんも肉体があればそのシステムで普通に転生できたはずだし、魂もきちんとある。死者蘇生は人間には難しいかもしれないが、俺たちは人外。わりと難しいことでもない」

 

 ――っ。そうだったな。確かに人間から悪魔に転生させる『悪魔の駒』は死体にも有効だった。死体から悪魔に転生するのも一種の死者蘇生だ。そう考えると肉体を用意するだけで死者蘇生が可能ってことになるのか……。

 

「まあ、朱璃さんの肉体は魂がきちんと定着するように再構成しなければいけないから現段階では1番難しいけど、すでに朱璃さんの肉体は解析済み。【王の財宝】にはいっている死者蘇生のアイテムを使うまでもなかった。朱璃さんの死者蘇生は、まずは肉体の再構成をして次に魂の定着と、これで死者蘇生完了だ」

 

 …………ずいぶんと簡単そうに言うが、ものずごく難しいことだからな。肉体の再構成から魂の定着ってドンだけ多才なんだよ……。あと、肉体を解析済みって、さっきこの女エロい表情になったぞ。人妻に何した?

 

 若干色々なことで俺が引いていると、神城は「ロキ対策で時間もないし、始めるか」とつぶやいた。

 

「――って、いまからするのかよ!?」

 

 俺が驚愕すると神城はうなずいた。

 

「当然だろう。いつ消えてしまうかわからないんだ。早ければ早いほどいいんだ」

 

 そ、それはそうだろうが……。

 

「エイジぃ~、道具持ってきたにゃー」

 

 と、ここで黒歌がやって来た。……道具?

 

「ありがとう、黒歌。じゃあ部屋の中央に置いてくれ」

 

「にゃん♪」

 

 黒歌が返事を返すと、部屋の中央辺りの空間が歪み、道具が置かれていく。これは――。

 

「祭壇?」

 

 日本の神社なんかでよくみる神を祭る祭壇のようなものができていた。

 

 エイジは朱璃のほうを振り向いて言う。

 

「では打ち合わせ通りにお願いします」

 

『はい。こちらこそよろしくお願いします』

 

 朱璃は頭を深く下げると祭壇へと進み、中央に鎮座している台の上へ仰向けで横たわった。

 

 エイジがその台の元へと進む。

 

 中央の空間を切り取るように結界が張られる。

 

 結界が張られた瞬間――場の雰囲気が神聖なものへと変化した。

 

 ――っ。結界を張られているのに神聖なオーラがビリビリと伝わってきやがる……!

 

 とうとう結界から漏れでる神聖なオーラが、俺たちを越えて部屋中を満たす。

 

 俺とバラキエルは堕天使だから光に耐性があるが、ここまで神聖なオーラだと俺たちも辛い。当然、転生悪魔の黒歌も額に汗をかき、朱乃も息苦しそうにしていた。

 

 ……ってこいつらなんでこの程度ですんでんだ? 普通ここまで神聖なオーラに当てられたら上級悪魔でも気絶か昇天ものだぞ? 耐性があって堕天使組織であるグリゴリのトップにいる俺たちでさえ辛いのに、神聖なオーラが弱点のはずのこいつらがなんでこの場にい続けていられるんだ?

 

「――って、神城は無事なのか!? 結界から漏れでてる分でもこれほど神聖なオーラなんだぞ! 純血の悪魔になってる神城に耐えられるものなのか!?」

 

 俺が大声でそう黒歌と朱乃に訊ねるが、2人は答えない。

 

 ――っ。

 

 俺は結界のなかを見て神城の様子を確認する。――っく、案の定背中の羽と尻尾が溶け始めてやがる!

 

 こいつらなんで止めねぇんだ!? ヘタすりゃ本当に消滅するぞ!?

 

 エイジも自分の体なんて関係無しに朱璃の体の再構成と続けてやがる! 全身で聖水を浴びているようなもんだぞ!? いや、聖水よりも神聖なオーラだ! おそらく全身の毛穴を針で刺されるだろう激痛以上も痛みを感じているはず! 精神が死ぬぞ、神城っ!

 

 全身に傷を負いながらも朱璃を蘇生させようとしている神城に、バラキエルが何を言えずに、見守っていることしかできないでいた。

 

 俺も同じく何も言えない。ここで止めてもバラキエルの妻は蘇生できないだろうし、バラキエルと朱乃から母親を奪った原因である俺に何かを言う資格などない……。

 

 ――クソっ。本来なら俺が痛みを背負う役目なのに……。

 

 俺が自分の無力を感じていると、朱乃が言った。

 

「エイジは絶対に大丈夫」

 

 自分自身に言い聞かせるように、結界で傷を増やしていく神城から目を逸らさずに言った。

 

 黒歌も朱乃の言葉に同意するようにうなずいた。

 

「にゃん。エイジは女のためだったら力を惜しまないし、死んだりして絶対に私たちを悲しませたりしないにゃん」

 

 ……心の底から神城のことを信じている。そういう想いが言葉から伝わってきた。

 

 ――ピリッ!

 

 ――っ。神聖なオーラがさらに高まった。どうやら肉体の再構成を終えて魂の定着に入るようだ。

 

 ……チッ。神城の体もそろそろ限界だ。もうほとんど翼と尻尾が留めていねぇ。

 

 クソッ、まだ終わらないのか!

 

 俺に出来ることは――、そうだ!

 

 呆然と様子を見ているバラキエルを置いて俺は部屋をあとにする。

 

「アザゼル……先生……」

 

 部屋を出たところでリアスと出くわした。かなり辛そうだ。

 

「エイジは……?」

 

 こいつも事情を……。純血の悪魔だから部屋にいられなかったのか。

 

「まだ終わっていないが、大丈夫だ」

 

「……そう」

 

 俺は何の確信もないがそうリアスを励ました。そうしないと心労で潰れてしまいそうだったから。

 

 リアスに会ったことで少し落ち着きを取り戻したのか、狭くなっていた視野が広がり、リアスの他にもゼノヴィアや小猫、セルベリアやシェリー、時雨やレイナーレ、それにイリナが部屋の外にいたことに気づいた。

 

 全員エイジのことを想っているのか、表情からは心配と共に信頼といったものも感じ取れた。

 

 だが、ここで消費する時間はない。

 

「リアス、アーシアを呼びに行くぞ。おまえも来てくれ」

 

「――っ! エイジが怪我したの!?」

 

「冷静になれ。大丈夫だと言っただろ」

 

 狼狽するリアスを制して話を進める。

 

「大丈夫なんだが、聖なるオーラでかなりのダメージを負っていることは確かだ。神城の治療のためにアーシアを呼んでおいて損はないだろ」

 

「――っ。……そう、そうね。わかったわ」

 

 リアスは俺の話しにうなずいた。……ライザー戦のときのこいつだったら、動くことさえ出来なかっただろうな。

 

 リアスをつれて俺は転移の魔術を使い、兵藤家の地下にある大広間へ移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 痛い……、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛いっ!!

 

 まるで身を引き裂かれ続けている上に全身を業火で焼かれているような痛みだ!

 

 神聖なオーラがここまで痛いなんて……!

 

 聖剣を製作しているときの非じゃない! 結界で周囲を囲ってることもあるだろうが、神聖なオーラが濃厚すぎて息すらできない……!

 

 久しく感じていなかった痛みで意識が飛びそうになる!

 

 少し動いただけでも激痛が全身から伝わってくる!

 

 だ、だが――!

 

 絶対に朱璃さんを蘇生させる!

 

 ここまでの痛みを飲み込んで寸分の狂いも許されない作業を行なうなんて予想もしていなかったけど、負けられない!

 

 絶対に蘇生させるんだ!

 

 俺は両手を朱璃さんの半透明になっている体に翳し、肉体の再構成を続けていく。

 

 足から頭へと、狂いそうになるような痛みを感じながら、背中の翼や尻尾の感覚がなくなっているのも無視して集中して再構成を続けやっと再構成まで終わった。

 

『…………』

 

 朱璃さんがこちらを心配そうに見つめているのに気づいた。いまにも泣いてしまいそうな表情だった。

 

 いまの俺は口を動かすことができない。大丈夫、心配ないと視線で言い。魂の定着へと移行した。

 

 ――っ!

 

 くぅっ! ものすごく痛い!

 

 魂の定着を行なうための祭壇は清らかでないと、不純なものが朱璃さんの体に影響を及ぼしたり、魂を穢したりするので、さらに清めなきゃいけなかった。

 

 朱璃さんや朱乃さん。さらに俺のためと言えど、この痛みは反則レベルだ……!

 

 早く終われと願いつつも、魂の定着という繊細な作業では手を抜けず。丁寧に行なわなければいけなかった。

 

 細胞から何から何まで肉体と魂と同化させていく。

 

 ああ……、もう痛みも感じなくなってきた……。

 

 朦朧とする意識を無理矢理気力で繋ぎとめて、最後の仕上げに入る。

 

 魂を完全に体と同化させた状態で結界内の神聖なオーラを集めて朱璃さんに流し込む。

 

 ――く、……もう、意識が……。

 

 ――カァアアアッ!

 

 意識が途切れそうになった瞬間、朱璃さんの体が光り輝いた。

 

 朱璃さんの瞼がゆっくりと持ち上がっていく。

 

 ――成功した……。

 

 それを確認すると気が抜けてしまい、周りを囲んでいた結界が崩れ、俺は後ろへと倒れ――。

 

「エイジっ!」

 

 ――なかった。ゆっくりと後ろに倒れたんだけど、誰かに抱きとめられていて、床と接触しなかった。

 

 うーん……頭に感じる2つの柔らかな感触と、涙を溢れさせたままこちらを覗いてくる朱乃さんの顔。

 

 朱乃さんが抱きとめてくれたのかぁ……。

 

「エイジぃっ!」

 

「エイジさん!」

 

 ボーっとしていると、耳に再び声が――。

 

「アーシア! すぐに治療を始めてちょうだい!」

 

「はい、わかりました!」

 

 リアスとアーシアだった。アーシアが神器を発動して緑色の光が俺の体を包む。

 

 目を閉じてその光に身を委ねる……。

 

 あー……さっきまで感じなかった痛みがぶり返してきたけど、これは治っている証拠だよなぁ……。

 

「エイジ、ありがとう……っ! ……本当に……ありがとう……」

 

 泣きながら頬を頭にすりつけてくる朱乃さん。痛みを味わってまで死者蘇生してよかったと思い、俺は朱乃さんのおっぱいを枕に体から力を抜いた。

 

「まったく、本当に無茶をして」

 

 リアスが俺の手をやさしく両手で包みながらつぶやいた。

 

 目を閉じていてもわかる。

 

 俺の周りには他にも黒歌やゼノヴィアたち家の皆がいる。皆大好きで大切な人たちが俺を心配してくれている。

 

 俺はそれを幸福に思いながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<姫島朱璃>

 

 

 目を開ける。視線を動かす。手足が動く。心臓の鼓動。温かさ。痛み。死んで失われたものが全て元に戻っていた。

 

 ゆっくりと確認するように思い出すように体を試しながら、祭壇から起き上がる。

 

 空気を肌で感じる……。

 

 本当に私は生き返ったのね。

 

 涙が出そうだけど、まだ我慢する。私のため、私たち親子のためにがんばってくれた彼にお礼を言うのが先ね。

 

 足を動かして歩く。

 

 足から伝わる床の感触。体の重さ。何もかもが懐かしい。

 

「朱璃!」

 

 夫が大声で私の名を呼んだ。耳の鼓膜を揺らして心に響く。

 

「……ぁぅ……」

 

 まだ声帯がなれていないみたいね。声を出すのを止めて笑顔でうなずいた。

 

「朱璃ぃぃぃっ! ――っ!?」

 

 感激の涙を流しながら夫が走ってきたけど、避ける。驚きの表情の夫に視線で謝ってエイジくんの元へ向う。

 

「……母さまぁ……」

 

 私の姿を確認してさらに涙を流す朱乃の頭を撫で、腰を下ろして、朱乃を背もたれに眠っているエイジくんに頭を深く下げる。

 

「ぁ……」

 

 声が出ないんだったわね。眠っていてもいまの感謝の気持ちを、ありがとうと伝えたい。

 

 ――そうだ。

 

 エイジくんに顔を近づける。

 

「母さま?」

 

 途中で怪訝そうな娘の声が聞えてきたけど、感謝の気持ちは伝えないと思い。エイジくんにキスをした。

 

 これが私の感謝の気持ちよ。

 

 と、想いを伝えるように唇同士を合わせてキスをした。

 

「か、母さま……!?」

 

「しゅ、朱璃……!?」

 

 ――って、感謝の気持ちを表しただけでなんで、目を大きく見開いたり、床にヘタリこんでいるのよ……。

 

 ――っ。なんで私裸なの!?

 

 立ち上がろうとしたとき、床を見たときに気づいた。霊体だった頃はちゃんと服着てたのに!

 

 体を再構成したからなの? 私は立ち上がるのを止めて体を慌てて隠した。

 

 何か体を隠すものは――と思っていると、背中のほうから白い翼が迫ってきてすっぽりと体を覆い隠してくれた。

 

 あれ? これは――。

 

「わ、私と同じ天使の翼!?」

 

 茶髪のツインテールの()が自らも白い翼を背中から生やした。まったく同じ……というか、

 

「わ、私の聖なるオーラよりも神聖……!」

 

 そう、彼女よりも白く大きく神々しさを感じられた。

 

「ど、どういうことだ、アザゼル」

 

 夫が堕天使の総督であるアザゼルさんに訊ねた。私も彼のほうへ視線を向けると、アザゼルさんはあごに手をやって、自らも考えをまとめながらも話し始めた。

 

「……俺も自信はないが……。肉体の再構成を神聖なオーラが充満した結界内で行なっていたし、蘇生される体が神聖なオーラを元に構成させているとしたら。天界にあるシステムが作動して人間としてじゃなく、天使として転生……ではなく、蘇生させたんだと思う」

 

「そ、そんなことが……、神と魔王が死んでバランスが崩れているいまだからこそなのか……?」

 

「まあ、詳しくはわからねぇ。だが、完全な天使として蘇生できていようだぜ」

 

「そ、そうか……」

 

 私が天使、ね。堕天使、天使、元堕天使と人間のハーフで、現悪魔と堕天使のハーフ。……随分と複雑な家族構成になっちゃったけど、いまはとにかく――。

 

 ――着る物が欲しいわ……。

 




 朱璃さん蘇生完了。

 いや、いま何万字ぐらいかな~って確認するために投稿欄で文字数確認してビックリ。

 34098字……。

 ギリギリだった……。しかも作者は完全に終わるところまで書いてロキ戦まで書こうとしてました。たぶんそこまで書いてたら文字数オーバーでしたね。

 なので、途中ですが一旦切り、で次回からロキ戦突入です。


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第64話 リアスの看病 ☆

<イッセー>

 

 

「えっ!? そ、それ本当なんですか!?」

 

 最近色々と忙しいなか、1日だけ通えることになった学校の放課後。オカルト研の部室で、部長から部員全員に告げられた話の内容に驚愕していた。

 

 部長は一度ゆっくりと目を閉じたあと、うなずいた。

 

「ええ。今回のロキとの戦いにエイジは参加出来なくなったわ」

 

「――っ」

 

 エイジがロキとの戦いに参加できない。これは痛すぎる戦力ダウンだ。今日も使い魔がエイジの代わりに通っていたけど、悪魔の仕事でもしているんだろうと思っていた。

 

「ど、どうして参加できなくなったんですか? あ、朱乃さんもおやすみみたいですけど、な、何か関係が?」

 

 ギャスパーがオドオドしながら部長に訊ねる。

 

 部長はギャスパーの問いにうなずいた。

 

「ええ、それをいまから説明するわ」

 

 部長は説明を始める。

 

 …………。

 

「し、死者蘇生……!?」

 

 部長の説明を聞いた俺は驚愕した。なんでも先日、朱乃さんのお母さんの魂を発見したエイジが死者蘇生の儀式を執り行い、朱乃さんのお母さんを無事蘇生させたけど、その死者蘇生の儀式で大怪我を負ったそうなんだ。

 

 でもエイジが大怪我を負うなんて……、俺には考えられない。魔王クラスとか称されて冥界でも超有名人なあいつが大怪我を負うなんて、とてもじゃないけど信じられない。

 

 そんな俺の疑問に答えるようにアザゼル先生が言う。

 

「神城が大怪我を負った原因は儀式にあった」

 

「儀式が問題?」

 

 俺が首をかしげると、先生はふぅっとため息を吐いて言った。

 

「あいつが行なった死者蘇生の儀式は、神聖なオーラが充満している結界のなかで執り行われていたんだ。……イッセー、悪魔にとって神聖なオーラはどんな存在だ?」

 

「そ、それはもちろん猛ど――っ!」

 

「――そうだ。神聖なオーラは悪魔にとってみれば猛毒に変わりない。上級悪魔でも聖水をかけられれば焼けどを負ったような怪我と、それに勝るとも劣らない激痛が走る。……奴は猛毒が充満している結界内で姫島朱璃の肉体の再構成から魂の定着までの術式を執り行った。当然、神城の体は神聖なオーラに犯され、全身に大怪我を負ったのさ」

 

 ぜ、全身に大怪我……。まえに俺がレイナーレと戦ったときに光の攻撃を食らったことはあるけど、あれは尋常じゃないぐらい痛かったな。特にエイジはいまは純血悪魔。神聖なものは人間ベースの俺よりも効果あるだろう。

 

「ほ、本当に、エイジさん……、全身がボロボロで……、神器で治療してもあんまり効果がなくて……」

 

 アーシアが嗚咽を漏らしながらつぶやいた。アーシアは知っていたのか?

 

 部長が涙を流すアーシアの頭をやさしく撫でて言う。

 

「アーシア、あなたはよくやったわ」

 

「部長さんっ……」

 

 アーシアは顔を伏せて涙を拭う。俺はアザゼル先生に訊ねる。

 

「エイジの怪我ってそこまで酷かったんですか?」

 

「……ああ」

 

 アザゼル先生はうなずいた。そして遠く、エイジの家のある方向を見つめながらつぶやいた。

 

「神聖なオーラで全身を焼けただれるなんてもんじゃなくてな。酸をかけられたように溶けていた。……翼や尻尾なんてもう原型さえ留めていなかった」

 

「――っ!」

 

「そ、そんな……!?」

 

 俺とギャスパーは大きく目を見開いた。ま、まさかそんな大怪我を負ったなんて……。

 

 アザゼル先生は嘆息しながら言う。

 

「まったく、肉体の再構成なんて繊細な術式を、全身を傷つけられながらやるなんて正気じゃねぇよな。ダメージが大きすぎてアーシアの神器でもなかなか治らなねぇし、ロキ戦で一番期待できていた戦力がなくなっちまった。――まっ、そのおかげでバラキエルの妻は生き返ったんだがよ」

 

 あんまりとも思える言葉だったけど、アザゼル先生の表情はうれしそうだった。先生は朱乃さんのお母さんのことをずっと後悔していたみたいだったから、お母さんを生き返えらせることができてうれしかったんだと思う。

 

 でもエイジは――。

 

「……エイジは無事なんですか?」

 

 酷い大怪我を負ったそうだから、心配だ。

 

 俺の問いに部長が答える。

 

「ええ、心配ないわ。アーシアの神器でかなり回復できていたし、自己治癒に加えて黒歌が仙術で治療してくれていて、今日休んだ朱乃も看病しているはずだから。――戦闘に参加させられないのは、今回の大怪我といままでのハードスケジュールで溜まった疲労が大きかったから、大事をとって会談のときは後方で待機してもらうことになったの。何かあれば前線にも出せるわ」

 

「……そうなんですか」

 

 よかった。あんまり大事にはならなかったみたいだ。

 

「――って、朱乃さんが看病しているんですか!?」

 

「え、ええ、そうだけど。どうしたの、イッセー?」

 

「黒歌さんだけじゃなくて、朱乃さんからも手厚い看病っ! な、なんて羨ましいんだ!」

 

『…………』

 

 呆れたような視線をいくつも感じるけど関係ない! 二大お姉さまである朱乃さんからの看病なんて羨ましすぎるだろ! 和服美人の黒歌さんにも看病してもらえてるみたいだし! きっとエッチな看病されてるんだぁぁぁっ! うわぁぁぁん~!

 

「アザゼル先生」

 

「なんだ、リアス」

 

「最近イッセーがどんどんわからなくなってきたの。……どうすればいいのかしら?」

 

「なんだ? いまごろこいつが理解不能な変態だと気づいたのか?」

 

「…………そうね。もともとそういう子だったわね……」

 

 あ、でも! 部長がエイジの看病を朱乃さんに任せるってことは、やっぱり部長はエイジのことをそれほど好きじゃないんじゃないか!?

 

 部長って嫉妬深いところがあるのに、エイジにベタベタしていないし、朱乃さんとデートすることも容認したり、今回の大怪我を負っているのに朱乃さんに任せて自分は部活にでて看病してないしっ!

 

 それに恋人とか付き合ってるとかはっきりと宣言していないしなぁ。部室でも一緒にいるところを見ていない。そもそもあまりエイジって部室にいる時間もない様子で仕事に行ってるし、その仕事もエロいこと。

 

 ということは部長とエイジはそこまで親密な関係じゃない?

 

 こ、これはますます可能性が見えてきたんじゃないか?

 

 ……お、俺にもまだチャンスがあるんじゃねぇか?

 

「おい、リアス。突然泣き出したと思ったら今度は血走った目でイッセーがおまえを見てるぞ?」

 

「…………きっと、エイジがいないなかで、悪神ロキとフェンリルを相手取って戦うことに緊張しているのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 久しぶりに皆が学園生活を謳歌しているなか、俺は自宅のベッドで療養していた。

 

 先日の死者蘇生で負った大怪我と、いままでのハードスケジュールで溜まった疲労を癒すためだ。

 

 まっ、負った大怪我はといっても、アーシアが神器で治してくれたし、疲労なんかは黒歌が仙術で治療してくれてもう回復しているんだけど、心配性なリアスたちは休養だけじゃなく、ロキとフェンリル戦は「私たちに任せて」と、後方待機にされちゃったんだよね。

 

 まあ、俺が戦力から抜けたとしても、リアスや朱乃、ゼノたんは最上級悪魔に近い実力をもってるし、小猫ちゃんとかと一緒に、スーパーサイヤ人ばりのなんちゃってスーパーモードなんかも習得させているから、十二分にロキとフェンリルぐらい倒してくれそうだけど。

 

 ん~……、それにしても暇だ。

 

 さっきまで朱乃さんをはじめ、自宅で待機しているメンバーが手厚すぎるといっても過言ではない看病をしてくれていた分……とても暇だ。

 

 現在の時刻は夕方の6時を少し過ぎたあたり。

 

 まだリアスたちが部活している時間帯だ。

 

 悪魔の仕事はロキのことが終わるまでやすみだから、大体7時ぐらいに帰ってくるな。

 

 それまで寝ようかなぁ。

 

 そんなことを考えていると、部屋のドアが静かにコンコンとノックされた。

 

 返事を返す前にゆっくりとドアノブがまわされ、ドアが開く。

 

「起きてたのね、エイジ。」

 

 リアスだった。

 

「あれ? オカルト研の部活は?」

 

 まだ部活の時間のはず――。

 

「ロキとフェンリルの対策を考えないといけないし、2人も部員が不在で学園祭の出し物の相談もできないから、早めに解散したの」

 

 リアスはそう言うと俺が寝ているベットへ近づいて、額に手を当てた。

 

 ほんのり温かいリアスの手……気持ちいいなぁ。

 

「うん、熱もないみたいね」

 

 リアスは微笑むと、ベッドの端に腰を下ろした。

 

 やさしく頭を撫でてきてくれる……。

 

「ゼノヴィアとイリナ、小猫も一緒に帰ってきたんだけど、いまは地下のトレーニングルームで修行してるわ。あなたの抜けた穴を自分が埋めるってはりきってね」

 

 ああ……、だからここにいないのか。なんだか休んでいるのが申し訳ないな。

 

「うふふ、いいのよ。あなたはいままでずっとがんばってくれていたんだから」

 

 俺の心を読んだように微笑むリアス。

 

「……顔にでてました?」

 

 リアスは微笑んでうなずく。

 

「ええ。自分だけがやすんでいるのが申し訳ないってね。……まったく、そんなこと思わなくていいのに」

 

「でも、俺もリアスの眷属悪魔ですし……」

 

 俺がそう言うと、リアスは少しだけ悲しい表情を浮かべた。

 

 俺の頬に片手を添えて正面から目線を合わせたまま、リアスは言う。

 

「……眷属悪魔だからあなたはがんばってくれているの?」

 

「えっ?」

 

「ロキとフェンリルやレーティングゲームで戦うのも眷属悪魔だから? 眷属悪魔じゃなかったら私に従わなかった?」

 

 リアスの問いに俺は首を横へ振る。

 

「いいえ。眷属悪魔なんて関係なく、あなたに尽くしたと思います。……確かに眷属悪魔になったことが知り合うきっかけになったとは思いますが、いまは――」

 

 いまは――と、そこまで言いかけて俺は気づいた。リアスがあとに続く俺のセリフを聞きたかったからこんな風に問いかけてきたのだと。

 

 このまま的外れなことを言ってもいいけど、丁度いい機会だし、言う。

 

「――いまはリアスだからこそ尽くしています」

 

「――っ!」

 

 俺の言葉でリアスの真剣だった表情が少しだけ変化を見せる。目じりと口元の緩みを必死に隠そうとしているのがうかがえた。

 

「ロキとフェンリルを相手取って戦うのも、レーティングゲームで戦うのも、リアスが大好きだからです。……リアスのために何かしたい。リアスを殺そうとする者から守りたい。リアスが幸せだと、俺も幸せになりますしね」

 

 そう言ってリアスの頭に手を置いて撫でる。リアスは自分の胸に手を持ってきて顔を真っ赤にしていた。

 

 リアスは胸から今度は頬を両手で挟むと、深呼吸を繰り返しながら悶えていた。

 

 この()って本当にわかりやすいよね。……少し心配になるぐらい。

 

「ん……、はぁはぁ……っ、ん。……はぁ」

 

 リアスが息を整えながら落ち着きを取り戻してきた。まだ赤い顔のまま、笑顔を浮かべて言う。

 

「……私も、……私もエイジが大好きよ」

 

 言ってから顔をさらに真っ赤にして俯き、もじもじとこちらを覗ってくるリアス。

 

 ――っ! こ、これはなかなかの破壊力だ……!

 

 普段のお姉さまなリアスとまるで雰囲気が違うのも、彼女の魅力を引き立たせていた。

 

 こちらが手を伸ばしてリアスの手を取ると、自然なかたちで指を絡めてきて、ぎゅっと握ってきた。

 

「……エイジぃ……」

 

 ああっ、すごくかわいいんだけど!

 

 襲っていい? 襲っていいよな!?

 

 最近リアスとじっくりしてなかったし、誰もいないし、このまま押し倒しても――。

 

「あら?」

 

 ――っ!

 

「――ふふっ、大きくなってるわね」

 

 襲おうとしていると、リアスから先に動いてきた!

 

 いつの間にか夏用の布団として使用しているタオルケットを押し上げてテントを作っていたペニスをやさしくタオルケット越しに触れられる。全裸で寝ているから、むき出しの亀頭が擦れてちょっと痛くて気持ちいいのがなんとも……、って――。

 

「り、リアス……?」

 

「看病とかいって朱乃や黒歌たちにさんざん抜かれてると思っていたんだけど、全然そんな様子はないわね。――まあ、元から絶倫だったからあんまり不思議じゃないけど」

 

 なでまわしながら何を言ってるんですか!? というか、かわいらしく「抜かれてないの?」と視線で訊ねるのは止めてください! いたたまれなくなるから!

 

「……い、一応かなり抜かれたんですが、どうも怪我が治ってから以前よりもすごく調子がよくなって……、すぐにこうなっちゃうんです」

 

 …………俺も何を告白しちゃているんだ?

 

「それはいけないわね。あなたの恋人としても見過ごせないわ。がんばったご褒美もあるし、私が抜いてあげるわね♪」

 

 リアスは微笑むとタオルケットを捲ろうとする。

 

「――って、ロキとフェンリル対策とかはいいんですか!?」

 

 俺はの言葉を無視するように、リアスは魔力を使い、全裸になった。

 

 滅びの魔力で服を消すのって、イッセーの洋服破壊のように一瞬でバラバラになるというわけじゃなくて、焼き消えるに近くてゆっくりだから余計エッチだなぁ。

 

 ――って、そんなことじゃなくて……。

 

 リアスは人差し指を立てて口もとにもっていき、悪戯っぽく微笑む。

 

「これも大事なことなのよ。恋人の欲求ぐらい受け止めてあげたいし、私自身、ロキと戦うための勇気の素にさせてもらうから。――エイジは楽にして快楽を貪っていてちょうだい」

 

 リアスのその言葉に俺は……、自分でも気づかないうちにうなずいていた。

 

「ふふっ」

 

 リアスがタオルケットを捲くる。

 

 リアスはベッドを這うように移動しながら移動し、ときおり胸で足を挟んだりしながらペニスへと近づいてきた。

 

 股の間に入り込んだリアスが、うっとりとペニスを見つめてくる。

 

 リアスは見せつけるように舌を伸ばし、亀頭をペロッと舐めた。

 

 むき出しの亀頭にリアスの舌が這い回る。皮の間まで舌でキレいに磨かれ、尿道口にキスをしてから軽く吸いついてきた。

 

「ああっ……」

 

 快感で声が漏れる。ペニスから感じる快感だけではなく、股の間に入り込んだリアスのやわらかく温かい肉体の感触が興奮をさらに掻き立てた。

 

「……じゅちゅっ、……はぁ。――うふふっ、どんどん硬く、熱くなっていくわね♪ カウパーも吸っても吸っても出てくるわ」

 

「だ、大好きな相手にフェラチオされてるんだ。そうなって当然だろ」

 

 いや、それにしてもエロい表情だ……。幸せそうに尿道口を舌先で磨いてくる。

 

「ふふっ、私も大好きなあなたが悦んでる姿を見てると……、このペニスのいやらしい臭いを嗅いでると、すぐにびしょ濡れになっちゃうのよ」

 

 リアスはそうつぶやくと、俺の片足を跨いでオマンコを擦りつけてきた。

 

「ほら、わかる? あなたのペニスを少し舐めただけでこんなに濡れてるの」

 

 リアスが擦りつけるように腰を動かすたび、じゅくじゅくと足が湿り気を帯びていく。……うわぁ、本当にびしょ濡れになってるよ。太ももにも押しつけられている乳首の勃起も感じる。

 

「んんっ、はぁ……、それにしてもあなたのペニスっていい臭い。頭の奥まで沸騰して発情しちゃうわ。……ん、じゅぶ」

 

 スンスンと犬のように鼻を鳴らしながらペニスの臭いを嗅がれる。両手でペニスを握られ、亀頭をパクリと咥えられた。

 

「――うっ、り、リアスっ」

 

 リアスは亀頭を咥えると顔を上下に動かし始めた。

 

「んじゅ、んじゅ……、じじゅ、ぐじゅ……、あふぅ、ふじゅっ……」

 

 顔を上下に動かしながらも、舌を器用に使って亀頭から裏筋、皮の隙間、雁首の裏側まで舐められる。

 

「く、くぅっ……、今日は一段と激しいな」

 

 快感で腰が浮き上げってしまう。いつもならゆっくりと快感を高めていくのに、今日は随分とハイペースだ。

 

「ふー……、じゅるるるるぅぅぅっ!」

 

 リアスは息を鼻から吐くと、俺の疑問には答えずに、いきなりバキュームフェラで精子を吸い上げてきた。

 

「――うっ!? で、射精()るっ!」

 

 当然何の警戒もしておらず、快感に身を任せていた俺は呆気なく快感に飲み込まれ、射精してしまった。

 

 ビュッ、ビュルルルルっ、ビュビュゥゥゥ~!

 

 仰向けでのけ反りながらリアスの口内に精液を吐き出していく。

 

「ごきゅっ、ごぐっ……んふー、ゴクゴクっ、ごぎゅっ……ふー、じゅるるぅっ」

 

 リアスはおびただしい量の精液を喉をゴクゴクと鳴らしながら胃のなかに収めていった。

 

「じゅるっ、じゅじゅぅぅぅっ」

 

 リアスは最後の一滴まで尿道から吸い上げると、ゆっくりと唇を離した。

 

 射精による快感と開放感などを感じて息を吐いている俺に、紅の髪に負けないほど紅く、みずみずしい唇の端からわずかに漏れる精液を指を使って拭い、ペロッと舐めて、子供のような笑顔でリアスは言った。

 

「これからロキ対策でますます忙しくなるでしょうし、最近朱乃に譲っていた分、私がエイジに甘えたり、甘えさせてあげたいの。……だからね。いまは楽しみましょ♪」

 

「あ、ああ……」

 

 リアスの言葉に自然とうなずいてしまう。

 

「じゃあ、時間もないことだし、さっそく始めましょ♪」

 

 リアスがベッドの上に膝立ちになる。

 

 両手の指でオマンコのスジを左右に開くと、腰を少し落としてペニスに擦りつけてきた。

 

 オマンコのスジに挟めたペニスにぐじゅぐじゅといやらしい音を立てながら愛液が絡みつかせ、リアスは腰を少し浮かせて膣口はもちろん、尿道口やクリトリスに亀頭から漏れるカウパーを混ぜるように、焦らすように擦り合わせた。

 

「ん……はぁっ、…………熱ぃぃ……」

 

 リアスが膣口に亀頭の先端を合わせ、ゆっくりと腰を落とし始めた。

 

 リアスの小さい膣口がミチミチと大きく広がっていく。

 

 相変わらず処女みたいに狭いな。

 

 ゆっくりとペニスを飲み込んでいくオマンコを眺めながら、亀頭から伝わるリアスの膣肉の感触を味わう。

 

 小穴だった膣口が驚くほど広がり、亀頭を完全に咥え込んだ。

 

「はぅうんっ、……ふふっ、ほら、見てる? あなたのオチンポ、私のなかに飲み込まれていくわよ♪ あ、ああっ……、すごいっ、太くて、長いわっ。私の膣があなたのオチンポのカタチに変えられていくのがわかるっ……、あんんっ」

 

 リアスはあごを持上げ、背を逸らしながらも腰を落としてペニスをどんどん膣に収めていく。

 

 ペニスの現在地を示すかのように、両手の位置がオマンコから下腹辺りへ変わっていってるところがエロい。それに呼び方もペニスからオチンポに変わってる。……完全に発情したな。

 

「俺もリアスを感じるよ。リアスのオマンコを通じて、リアスの熱を感触を……」

 

 そう言ってリアスを見つめる。セックス中に見つめられるのが好きなリアスはうれしそうな表情を浮かべて膣をきゅっきゅっと締めてきた。

 

「エイジぃ……」

 

 ううっ、それにしても気持ちいいっ。愛液は粘度が高くてドロドロで量が多くて、膣壁はペニスを受け入れて包み込むように絡みつき、膣から出そうとすると出さないように、子宮口がちゅぅぅっと吸い付いてくる。リアスのあまり表に見せない甘えん坊の性格が表れているようだった。

 

「んっ、はぁんっ!」

 

 ゆっくりと腰を下ろし続けていると、コツンと子宮口という行き止まりに達した。子宮口に亀頭が口づけしたことで、リアスの体がビクッと跳ねる。

 

 リアスの体がゆっくりと前へ倒れていく。リアスは俺の両胸に両手をついて倒れるのを防いだ。

 

「はぁ……、はぁはぁ……ぅんっ、……はぁぁぁ……」

 

「少しイッた?」

 

 俺が悪戯っぽく訊くと、リアスは素直にうなずいた。

 

「……うん、……だって久しぶりにエイジに甘えられるって思ったら自分がコントロールできなかったの……」

 

 頬を赤くして、幼い少女のような表情で、膣をキュンキュン締め付けながらのそのセリフ……。

 

 ――こっちも、興奮するじゃないか!

 

 ペニスが俺の興奮を表すように跳ねる。

 

「――っん、ぁんっ、私のなかでエイジのオチンポがビクビクしてる……」

 

 リアスの体がさらに前へ倒れる。近づいてきた大きなおっぱいを両手を伸ばして掴んだ。

 

「――あんっ」

 

「いつ触っても気持ちいいなぁ」

 

 ムニュムニゥと両手の指をいっぱいに伸ばしてワシ掴む。指が白い肌に食い込み、スベスベでみずみずしい肌も跳ね返すように反発してくる。

 

「ああ……極上の触り心地……、最高だよ」

 

 乳首なんてコリコリだし、ずっと弄っていても飽きないなぁ……。

 

「んっ……エイジ……、そ、そんなに弄らないでぇ……、おっぱいだけでイッちゃうわ」

 

 乳首を引っ張ったり、指で扱いていると、リアスの膣がまた痙攣し始めた。もうイきそうなのか? イき癖ついちゃったかな?

 

 名残惜しくもおっぱいの愛撫を緩めて、下乳に触れたり、わき腹を触ったりという愛撫に移る。性感を少し刺激するだけでもオマンコが締まるのでおもしろい。

 

 ん~、それにしてもリアスって肉付きがいいよなぁ……。

 

 太っているわけでもないのに、適度にやわらかくてお尻も丸くてむっちりしてるし、大人の肉体に除ける確かな若さがなんとも言えない。

 

「ああっ、エイジっ、エイジ……エイジぃぃっ……」

 

 リアスがぺたんと俺の腰に乗ると、悩ましく腰を動かし始めた。

 

「んっ……あぁ、……はぁはぁ……、んんっ……」

 

 前後に揺さぶるように揺すったり、お腹に力を入れて膣を締め上げたりと段々と激しくなっていく。

 

 リアスが膣に力を入れたのかペニスがぎゅうぎゅうと締まり始める。

 

「すごいっ、リアスのオマンコが俺のチンポにしゃぶりついてる!」

 

 感想をいやらしくも素直に伝え、リアスの太ももを両手で掴んでペニスを膣のなかでビクビクと跳ねさせる。

 

 あははは! ペニスが口でしゃぶりつかれていたときと同じ……いや、それ以上の快楽を感じるよ!

 

 

「あはぁっ、私を感じてくれているのね! んっ……あんっ、ふふっ」

 

 リアスは笑顔を見せると、今度は俺の腹に両手をついて、前かがみになり、上下に腰を激しくふり始めた。

 

 1回1回腰を浮かせ、下ろすたびに、子宮口に亀頭がめり込む。

 

「ひゃんっ! エイジっ、ああっ、そ、そんなに突き上げられると、し、子宮が……子宮口が開いちゃうぅぅぅっ!」

 

「いつもみたいに子宮に直接欲しいんだろ! こじ開けて子宮に直接射精してやるよ!」 

 

 リアスの言葉通り、子宮口が開き始めたことを感じ取っていた俺は、リアスの腰を両手で掴んで下から思いっきり突き上げる。ふふっ、リアスは子宮姦が大好きだからなぁ。どれほど乱れ狂うか楽しみだ。

 

 こじ開けられ始めた子宮口に亀頭をねじ込んで一気に貫く。

 

「ああっあああぁぁああああああああ~~~~!」

 

 リアスの絶叫が部屋に響く。ズゴッと亀頭が子宮の壁に入って止まる。

 

 丁度雁首辺りが子宮口に閉められる。

 

 絶叫してビクンビクンと白目を剥いてアヘっているリアスの下腹辺り、子宮を腹の上から撫でながらつぶやく。

 

「ほら、わかるか? 子宮まで俺のチンポが入ってるぞ」

 

「はひぃ……はぁぁぁ……はひぃぃ……」

 

 このままではリアスが後ろに倒れてしまいそうなので、上半身を起こして騎乗位から対面座位に体位を変える。アヘっているリアスを胸で包むように抱きしめて耳元で囁く。

 

「愛しているよ、リアス」

 

「――っ」

 

 俺の言葉を脳内が捉え反響させているのか、だらしなかったアヘ顔が幸せそうな笑みに変わり、弱々しくもリアスの両腕が腰にまわされぎゅうっと抱きしめられた。

 

 リアスの膣がキュンキュン締まる。リアスは顔を上げてこちらを見つめると熱っぽくつぶやいた。

 

「わはひも――あいひている……」

 

 口を少し開けて舌をチロッと伸ばして雛鳥が餌を求めるように愛らしくキスを求めてきた。

 

「リアス……ちゅっ、ちゅじゅっ……」

 

「はぁん……エイジぃ、ちゅっ、んじゅ……」

 

 リアスと舌を絡め唾液を交換し合いながら、ベッドのスプリングを利用して腰を上下に動かし始める。

 

 雁首が子宮口に引っかかり、腰を少し動かすたびにアヘるリアスが愛おしく、結合部から聞えてくるいやらしい音や、お互いの呼吸や心臓の鼓動が脳内に響き心を満たす。

 

 ああ……最高の抱き心地だよ……。愛らしい外見はもちろん、甘えん坊な内面や尽くしてくれる献身な愛撫。どれをとっても最高クラスだ。

 

 キスを続けながら快感を高めあっていると、リアスの膣が強く締まり、子宮口がビクビク痙攣し始めた。

 

 精液を欲しがっているんだろう。リアスの蕩けた表情からもうかがえる。

 

 射精感が募っていた俺もスパートをかける。

 

「んぐっ――!」

 

 リアスの唇を自分の唇で完全に塞ぎ、ベッドに押し倒して抱き合った状態で子宮の最深部までペニスをめり込ませた。

 

「んふぅっ……ふぅぅっ……、ふ、んふぅぅぅぅ……」

 

 声を出せないリアスは鼻を鳴らして抱きついてくる。快楽に犯された視線で俺を見つめ、俺の精液を全身で受け止めると意思表示をするように、両足まで使ってもしがみついてきた。

 

 本当に愛らしいな。

 

 俺はそんなことを想いながら欲望を解放する。

 

 煮えたぎった精液が尿道を駆け上がり、リアスの子宮に直接吐き出される。

 

 ビュビュッ、ビュルルルルルゥゥゥゥ~ッ!

 

「ふぅんんぅぅぅぅぅ~~~~!」

 

 唇も離さない。唾液をリアスの口内に送り続けながら、全ての精液がリアスの子宮に吐き出されるまで抱きしめ続ける。

 

 ビュルッ、ビュビュッ! ビュルルッ!

 

「ふもぅ……、ふむぅ……」

 

 雁首を子宮口で締めつけられていようと関係なしにいつも以上の精液をリアスの子宮に注ぎ込む。リアスは体を痙攣させながらも精液を子宮で受け止め続けた。

 

 ああ……、それにしても本当によく出るなぁ。リアスの子宮はもういっぱいなのにまだ射精()でるよ。

 

 これでも朱乃さんや黒歌を始め、20回以上は抜かれているのに全然萎えない。

 

 ん~、このまますぐに2ラウンド目に突入してもいいけど、収まりがつかなくなりそうだし、このあとリアスは予定があるからなぁ。

 

 しばらく悩んだ末に俺は唇を離して膣からペニスを引き抜いた。栓が抜かれたことで子宮に収まりきらなかった精液がドロドロと漏れだし、俺自身も尿道に溜まっていた精液の残りをリアスの体に降り注いだ。

 

「んむぅぅ……はぁ……、はぁはぁ……、エイジの臭いでいっぱいぃぃっ……、オマンコからも溢れて……るぅぅぅ……」

 

 リアスは大股開きのまま精液を幸せそうに受け止めた。

 

 ぽっかりと開いた膣口から漏れ続ける精液が次から次へと溢れ、ベッドに大きな水溜りならぬ、精液溜まりを作った。

 

 ははっ、たっぷり中出してしまったな。フェンリルフォームに負けないぐらい射精したんじゃないか? そういえばインキュバスになって、精液も強化されてただでさえ妊娠しやすくなったんだし、一応避妊魔法使っとくか。

 

 避妊魔法をかけ終わる。

 

 幸せそうなアヘ顔を浮べて大股開きで、虚ろな瞳で天井を見上げているリアスを改めて眺めた。

 

 ベッドの上で、一糸纏わぬ全裸で、紅い髪の美少女が、体のいたるところに精液を付着させ、ぽっかり開いたままのオマンコからもドクドク精液を溢れ返させながら、快楽に支配された表情で、虚ろな瞳で天井を見上げている。

 

 ……この惨状だけを見ると集団陵辱されて堕ちた紅髪の美少女だな。

 

 そんなことを考えていると、起き上がれるまで回復したリアスがいつものようにペニスに向って近づいてきて、様々な体液で汚れたペニスに舌を伸ばしてきた。

 

 いわえるお掃除フェラなんだが、悪魔といえど高校生にここまで仕込んでしまったことにちょっと罪悪感を覚える。

 

 まあ、とうの本人はというと……。

 

「はぁはぁ……、私とエイジの匂いが混ざってる……、ふふっ、私の匂いが取れないように口でキレイにしてあげるわね……」

 

 うれしそうな表情で舐めしゃぶっていた。

 

 俺はリアスの頭に手を置いて、紅い髪を指ですかしながらつぶやく。

 

「最高だったよ、リアス」

 

「んっはぁっ、私もよ……レロッ、あはぁぁぁ……おいしい……」

 

 リアスはペニスを清め続ける。股の間に顔を突っ込み、玉袋を顔に擦り付けながら、舌を伸ばして尻の穴までチロチロと舐めてくる。

 

 本当にいやらしく育ったなぁ。

 

 玉袋を片方ずつ口内で磨かれていると、ドアがコンコンとノックされた。

 

「はぁ……んじゅっ、んじゅ……エイジぃぃぃっ」

 

 リアスは来訪者に気づいていない。

 

「リアスっ」

 

「んもぅ、何なの? 私はオチンポ舐めるのに忙しいんだから……ああっ、ビクッてなった。うふふっ、まだ満足できないの? ビクビクしててかわいいわね」

 

 訂正。リアスはトランスしてて状況判断能力も思考能力も停止している模様。

 

 部屋の外から声がかけられる。

 

『ご主人さま、レイナーレです。起きておられますか?』

 

「れ、レイナーレか。――ああ、起きているよ」

 

 このシーンを見られたら、色々刺激が強すぎて確実にヤバいだろう小猫ちゃんじゃなくてよかった。小猫ちゃんにエッチはまだ早いからね。

 

 ほっと胸を撫で下ろしていると、レイナーレはとんでもない……いや、最悪のことを告げた。

 

『お客さまがお見舞いに来られました』

 

「……客? 見舞い?」

 

『はい、イッセーさまとアーシアさま、ギャスパーさま。そして、ソーナー・シトリーさまと真羅椿姫さまがいらっしゃっています』

 

 ――なっ! このシーンを見せちゃいけないだろう人たちがここまでそろうなんて……!

 

 ど、どどどどうする、この状況っ!?

 

 リアスとベッドの上でお掃除フェラ中。しかも、リアスのオマンコからは白濁した精液が漏れてて、完全に情事のあと!

 

 しかも部屋の臭いも獣臭のような、イカ臭いような、色んな匂いで溢れてる。

 

 どうやって誤魔化せばいいんだよ! 見当もつかねぇよ!

 

『失礼します』

 

 混乱する俺にレイナーレからの死刑宣告!

 

 ドアノブがまわされ、扉が開いていく。

 

 俺の危機察知能力が反応し、時間が引き延ばされる。

 

 とりあえず誤魔化さないと! もう少しソフトな状況だったら、キスシーンだったりしたら、実はリアスと付き合っててさ~っとかで乗り切れるだろうけど、完全にセックスあとのお掃除フェラシーンなんて見せられるわけがない!

 

 特にエロイッセーなんて現場を脳内保存しそうだし、アーシアには刺激が強すぎる! ギャスパーはどうなるか予想もできないけど、ロクなことにもならなさそうだし! ソーナ会長とか生徒会メンバーには不純異性交遊の現行犯で捕まっちまう!

 

 どうする!? 部屋の臭いなんかは魔術で消せるが、リアスは? 転移させる? ダメだ。この部屋は飛び入り参加とかで乱交騒ぎにならないように簡単に転移できないよう、この前設定したばかりだ。結果、転移魔法による脱出は無理!

 

 魔力で全裸のリアスに服を着せる。……ダメだ。ペニスのことしか頭にないいまのリアスは服を着せても正気に戻らないだろうし、どうやってベッドから下ろす? それに立ったらオマンコから精液が垂れるだろうしなぁ……。よって却下。

 

 ……ま、マジでどうする? いっそ見せ付けるか?

 

 いや、ダメだ。リアスのエロい姿を他の男……特に最近変態さ加減に磨きがかかってきたイッセーなんぞに見せてたまるか!

 

 こうなったら――!

 

 俺は最後の手段を使うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よお、意外と元気そうだな。エイジ」

 

「大怪我を負ったと聞きましたが、元気そうで安心しました」

 

 イッセーとソーナ会長が声をかけてきてくれる。

 

 俺はベッドから上半身だけを起こし、膝を曲げて座った状態で対応する。

 

「まあ、アーシアの神器で怪我も治してもらいましたし、黒歌だけじゃなく自分でも仙術使って疲労も抜きましたからね。逆に体の調子がいいぐらいですよ」

 

 ソーナ会長もいることだし、敬語で話す、が、体を包んでいる大きめのタオルケットの下では……。

 

『んじゅ、んじゅ……じゅぶぶっ……はぁ、レロッ、じゅるるぅぅ……』

 

 ――全裸のリアスがフェラチオを続けていた。

 

『じゅるるるる~っ』

 

「――うっ」

 

 バキュームフェラによる快感で声が漏れてしまう。――って、リアス! 『サイレント』使って消音してタオルケットに軽い幻影魔術かけてるっていっても限度があるんだし、俺自身は動けないんだから止めて!

 

「お、おい……大丈夫か、エイジ」

 

「まだ先日の怪我が……」

 

 ほら、皆心配しているじゃん! 時間もなかったから最後の手段で部屋の消臭をして、タオルケットに気づかれない程度の薄い魔力で隠蔽魔術をかけて、リアスを隠してやり過ごそうとしているのに、何でさっきよりフェラチオが激しくなってるんだ!? スリル味わってるんですか!? そういや露出の気が少しありましたね!

 

「だ、大丈夫だ。別に問題ない」

 

 俺はそう誤魔化すが――。

 

「ダメです! 私が神器で治しますから痛いところを出してください!」

 

 とアーシアに止められる。アーシア、痛くはないんだよ。気持ちいいだけで……。

 

「さあ、エイジさん!」

 

 淡い緑色の光を放ち、タオルケットを剥ぎ取らんばかりに顔を近づけてくるアーシア。……アーシアってこんなに熱血だったけ? ていうか俺タオルケット取ったら全裸だし、タオルケットのなかには全裸のリアスがフェラチオしてるからね。タオルケットを剥ぐのだけは止めて。お願いだから……!

 

 ……ここでタオルケットを脱がないでいると、怪しまれる? いや、怪しまれることはないかもしれないけど、あからさまに拒絶するのはマズいな。ここは素直に脱げるところまで脱いで素直に治療された風を装うか。

 

「じゃあ、頼むよ」

 

「はい、任せてください!」

 

 俺は下半身にいるリアスが絶対に見えないように、上半身を覆っていたタオルケットを下ろした。

 

『…………』

 

「なんだ、どうかしたか?」

 

 上半身のタオルケットを下ろしただけなのに、色々な注目を集めてる。まさかキスマーク!? ――はない。今回痕が残るようなプレイはやっていないはずだ。

 

 俺が疑問に思っていると、イッセーが声をあげた。

 

「なんで上半身裸なんだよ!?」

 

「そ、そうです! なんで裸なんですか!」

 

 イッセーの大声に続いて、ソーナ会長が怒鳴り、頬を染めて後ろを向く。……ああ、そういうこと、ね。

 

「すみません。俺、いつも寝るときは何も着ないので……」

 

 と、体を隠そうとするが、アーシアに止められた。

 

「そのままでいいです! 私の神器は直接触れたほうが効果がありますし、……どこが痛いんですか?」

 

「あ、ああ……。は、腹辺り……かな?」

 

 背中は集中的に治してもらったし、仮病で一番初めに考えつくのって大抵頭か腹だよな……。

 

「わかりました!」

 

 アーシアはうなずくと神器で腹を治してくれる。やさしい緑色の光が腹を癒して――。

 

 ――なっ!?

 

 ビクッ、ビクンッ! 

 

『うふぅぅ……』

 

 ペニスが回復した!? というかリアス! 口にペニスを含みながら微笑むな! 声は聞えなくても舌の動きでうれしそうに笑ったの気づいてるからな! いまはそういう状況じゃないでしょ!

 

「どうですか、エイジさん? 痛みは引いていってますか?」

 

「あ、ああ……、ありがとう。おかげで随分と楽になっていっているよ」

 

 ……本当に色んな意味でね……。

 

「それはよかったです。……でも、もうあまり無茶は止めてくださいね。またエイジさんが死に掛けるようなことになったら……」

 

 と、アーシアが涙を浮べながら言ってくれる。それに便乗するカタチでイッセーとギャスパー、ソーナ会長と椿姫先輩がうなずいた。

 

 ……随分と皆に心配をかけたようだ。……ベッドで淫行してた、いやしてる最中だから正直かなりの罪悪感……。

 

「ありがとう、アーシア。それに皆も」

 

 俺は感謝の気持ちを表すように頭を下げた。

 

 アーシアの治癒を受け終わると、椿姫先輩が近づいてきた。

 

「それにしてもすごい体ですね」

 

 感心するように、見とれるように体をジロジロと観察される。

 

「戦闘向きの理想的な肉体。どれほどの修行を積めばこんな肉体に……」

 

 と何やら興味深そうだ。他のメンバーを見ると同じく体を観察していた。

 

「そ、そんなに見ないで欲しいんですけど。恥ずかしいので」

 

 ジロジロと見られるのは誰だって羞恥心が煽られるよな。特に下半身でリアスにペニスをおいしそうにちゅうちゅうと吸いつかれていると。

 

「ご、ごめんなさい。でも本当に見事な体ね」

 

「ええ、本当に。無駄な肉なんて一グラムもないような美しい肉体……」

 

 椿姫先輩が謝り、褒めてくる。椿姫先輩の意見に賛同したソーナ会長はどこかおかしい感じがする……。

 

 何というか熱っぽい視線をものすごく感じるんだ。

 

 頬も上気してるし、少し鼻息が荒い。ゆっくりと近づいてきて、とうとう肌に触れてきた。あなたさっきまで顔背けていませんでしたっけ? ……あと、貞操の危機なんかも感じちゃうんですか……。

 

「これが黒い捕食者の体……。私の予想してた以上……、素晴らしいわ」

 

「ソーナ会長?」

 

「――っ! あ、ご、ゴメンなさいっ。あまりに美しかったから、つい……」

 

 慌てて手を引っ込めて頭を下げる。いや、そこまで恐縮されるとなぁ。

 

「別にいいですよ。気にしてませんから」

 

「そ、そう? ならもう少し……」

 

 サワサワ……、うふふ……、サワサワ……。

 

「……会長?」

 

 恍惚の表情で筋肉をなぞり時おり笑みを溢すソーナ会長。椿姫先輩も普段とはまるで違うその様子に困惑していた。

 

 ……まさか筋肉フェチ? ……姉のセラたんはハードプレイ好きのはっちゃけ性癖よりも随分と清いけど、視線にセラたんと同じヤバいものを感じます……。絶対他に誰にも言えないような性癖隠し持っているだろ、絶対。

 

 ハミぃぃっ。

 

「――っ」

 

 ペニスが甘噛みされた。リアスの歯が竿の皮をやさしく挟み、じゅるじゅると唾液を浴びせながら尻の穴にまで指を差し込んで刺激してきた。

 

「だ、大丈夫? 神城くん」

 

「あ、はい。大丈夫ですよ」

 

 快楽でのけ反りそうになる俺の様子にソーナ会長も正気に戻る。

 

 いきなり何をするんですか! ソーナ会長に触られていたからか嫉妬したのか? 俺はせめてもの仕返しとして、タオルケットに窓側の手を差し込んでリアスのおっぱいを掴んで乳首を人差し指でクリクリと捏ねて抓った。

 

『うふぅぅっ、じゅっ、じゅっ、レロレロっ……ぅん……はぁっ、じゅぶぶっ、むふぅ……』

 

 うん。結果逆効果だったみたい。興奮が増した様子でフェラがすごいことになった。

 

「……やっぱり、まだ本調子ではないようね。長居するのも気が引けるし、私たちはもう戻るわ。リアスとロキのことで会議しないといけないし」

 

「あ、はい。わざわざ、ありがとうございました」

 

 リアス、ソーナ会長が会議するとか言ってるよ! キミも行かなくていいの?

 

『ふもぅ……レロっ、はぁん……』

 

 玉袋を夢中で舐めながら片手の平で亀頭をぐりぐりと刺激してくる。……まだいいってことね。

 

「気にしないでください。私たちのほうも色々とお世話になってますから。――椿姫」

 

「はい。神城くん、長刀の件はいつでもいいので、いまはしっかりやすんでいてくださいね」

 

「はい、わかりました」

 

 椿姫先輩の言葉にうなずく。ソーナ会長は椿姫先輩をつれてドアの方へ向うと軽く頭を下げて部屋をあとにした。レイナーレも同行して見送りに行く。

 

 で、残ったのはイッセー、アーシア、ギャスパーの3人……いや、リアスを含めて4人なんだが――そろそろヤバい。

 

 リアスがさっきから前立腺を刺激しながらディープスロートでじゅぼじゅぼしてくるからもう射精しそうなんだ!

 

 正直イッセーたちにも出て行って欲しい!

 

 見られながら、隠れながら射精とか……興奮するけど、わざわざ見舞いに来てくれているのにするのは避けたい!

 

 俺のそんな願いが通じたのかイッセーたちも帰宅する空気になった。

 

「じゃあ、俺たちもお暇するか。ロキ対策に向けて修行しないといけないしな」

 

「そうですね。あまり長居するとエイジさんのお体に触りそうですし」

 

「はいっ、神城先輩や祐斗先輩の分までがんばります!」

 

 イッセーたちがドアの方へ向かう。……ふうっ、やっと射精できる。

 

「ああ、見舞いありがとうな。特にアーシア。先日は本当に助かったよ」

 

「い、いえ、私は何も――」

 

「何もってことはないだろ。アーシアの神器がなかったらここまですぐには回復しなかったし、感謝しているよ。――ありがとう」

 

「――っ。はい、どういたしまして」

 

 アーシアは笑顔を浮べて頭を下げた。本当なら俺のほうが頭を下げるところなんだけどな。

 

 ギャスパー、アーシアと退出していって最後のイッセーがもう一度声をかけてきた。

 

「じゃあ、またな」

 

「ああ、またな」

 

 と、ドアを静かに閉めた。

 

 …………。

 

 …………さて、と。

 

 さっきから精液を出せと懇願してるお姫さまにお望みの物を献上しようかな。

 

射精()すぞ、リアス。一滴も溢したらお仕置きするからな」

 

 Sモードに入って両手でリアスの頭を掴んで引き寄せる。

 

『んぐっ!』

 

 まだサイレントが続いて声は聞えない。ずらしたタオルケットの隙間から覗く顔が俺を見つめてきた。リアスが両手で息ができない、苦しいと太ももを押す……風の演技をする。

 

 まあ、悪魔でその気になれば数時間は呼吸しなくても大丈夫だし、苦しいはずもないよな。嫌悪とかいう気持ちも感じられないし、押しのけるように見せかけて顔を押し付けてきてるし。

 

 リアスの喉が動く。水を飲むような動きが、膣に挿入しているような感触に近い。さらにリアスの口内に、喉にペニスを挿入しているというシチュエーションがさらに快感を高めた。

 

 くうっ、もう射精()る!

 

 我慢していた分、たまりに溜まった精液がリアスの喉を通って胃のなかへ収められていく。

 

 ビュビュルルルゥゥゥゥ~! ビュゥゥゥッ。

 

『ふぶぶぅぅっ! ゴクゴクゴクッ、ゴギュッ、ゲボッ』

 

 苦しそうなリアスだが、手を離しはしない。リアスの鼻からいやらしく白濁した精液が漏れるがお構い無しに射精し続ける。

 

「ほら、まだまだ射精るぞ。もう限界か?」

 

『ふぶぅぅっ、ゴギュッ……ふぅぅっ、ゴクゴクっ……はひぃぃ……』

 

 リアスが脳内まで蕩けさせてしまいそうだったから拘束を外す。するとリアスは口を離して呼吸を行い。いまだに射精途中だった俺のペニスは空気を取り入れようと口を開くリアスの顔に精液を浴びせかけた。

 

 リアスの紅の髪からおっぱいと、いたるところに精液が降りかかる。

 

『あ、ああ……』

 

 リアスは両手で頬を挟んで恍惚の表情を浮かべた。

 

「――だが、これで終わりなわけがないだろう。――リアス」

 

『…………』

 

 リアスが俺を見上げてくる。俺の言葉に気づいたようにリアスはペニスの掃除を行なうが、それではない。

 

「全部飲めと言ったのに飲みきれなかったな」

 

『――っ』

 

 目を見開くリアスにドSモードに移行し、SMプレイを開始した俺はリアスのあごに手を添えて言う。

 

「お仕置きしないとな」

 

『――っ』

 

 俺の言葉にリアスは一瞬うれしそうな表情を浮かべると、すぐに表情を変えて許しを請うようにペニスに口づけをしたり頬を擦り付けたりしてきた。

 

「そういえば長い間トイレに行ってなかったな。――リアス」

 

『――っ! …………ああぁ』

 

 リアスは亀頭の先端、正面に陣取るとおもむろに口を大きく開いた。

 

 サイレントを解除して訊ねる。

 

「なんだ、リアス?」

 

「わたひぃが、わたひぃが便器になりぃますぅ……、エイジの便器にぃ……なりましゅぅ」

 

 本当に手馴れたものだな。最初は遊びで演技混じりでやってたのに、いまでは本物の肉便器願望でなってる。

 

「どうお、……おはひくだしゃい」

 

 口を開けたままそう言うリアス。視線は尿道にロックオンされてて精液でもない老廃物が放たれるのを待ち望んでいた。

 

 俺はドSな笑みを浮かべてリアスの頭に手を置いてなでる。

 

「くくく、いい子だリアス。お仕置きは免除してあげよう。――ほら、口を開けろ。注いでやる」

 

「はひっ」

 

 リアスは口を大きく開く。舌を突き出し、まだかまだかと待ち望んでいる。

 

 俺は勃起して少々出し辛かったが、ゆっくりと力を抜いてジョボボボォォ……っと小便をリアスの口内に放った。

 

 しだいと勢いを増す小便がリアスの口内で跳ね返り、いやらしい音が鳴り響かせる。リアスは溢さないように両手を口の周りに添えてゴクゴクと、まるで大好物のジュースを飲んでいるかのように喉を鳴らしながら飲み下していく。

 

「俺の小便はそんなに美味しいか?」

 

「うむぅ、ゴクゴクゴク……じゅるるっ」

 

 俺の問いに答えるように亀頭に口をつけて小便を吸いだそうとしてくるリアス。……元々甘えん坊のMだったけど、ここまでエロくなるなんてな。

 

 イッセーなんかに見せたら鼻血もの――っ!

 

 この気配は――!

 

 ガチャ。

 

 ドアが開く――!

 

 バ、バッ!

 

 危機を感じた俺は一瞬でリアスの頭を掴んで蓋をするようにペニスを突っ込み、隠蔽魔術のかかったタオルケットを体に被せた。

 

「う――」

 

 リアスが抗議の声でもあげようとしたんだろうが消音で塞がせてもらう。

 

 状況がわからないだろうリアスに、わかるようにもわざとらしく声に出して言う。

 

「ど、どうしたんだイッセー。何か忘れ物か?」

 

「いや、そういうわけじゃねぇんだけど、ていうかさっきすごい音しなかったか?」

 

「いや? そんなことはないと思うぞ」

 

「そうか?」

 

『――っ』

 

 リアスもイッセーが現れたことに気づいたようだ。ていうか、なんでさっき帰ったのに戻ってきてんだ!? 他人の家なんだしノックぐらいしろよ! ていうかいいところで邪魔するなよ!

 

「それで、何のようなんだ?」

 

 さっさと帰ってくれ、途中で小便止めるのはキツいんだからさ。

 

『じゅっ』

 

「――っ!」

 

 リアスが息継ぎか呼吸でもしたんだろうけど、そのせいで小便が再び漏れていってしまう。止めてるところを吸うのは反則だって!

 

「おい、大丈夫か? アーシアを呼ぶか?」

 

「大丈夫だ。問題ない。それよりも帰ったんじゃないのか?」

 

 心配してくれるイッセーには悪いが、早く用件を言えと視線で訴える。

 

「帰ろうとしたんだけど、言っておきたいことあってさ」

 

「言っておきたいこと?」

 

「ああ……」

 

 うなずくイッセー。リアスが小便で溺れちゃうから早く言え! もうこの娘、精液と小便で胃がヤバいんだって! 最後は全身に浴びせかけるつもりだったのに、おまえが入ってきたから全部飲み干すしか選択肢がなくなったんだからさぁ!

 

「今回おまえは戦闘に参加できない分、俺ががんばるから! 俺が部長や朱乃さんを守るから安心してやすんでくれ!」

 

 イッセーは胸を張って言う。……正確には俺だけじゃなく、木場も戦闘に参加できないんだけどな。……主におまえのスケベ根性のせいで。

 

「ロキやフェンリルなんかに絶対に誰も死なせない! 傷つけさせねぇ! 絶対に部長を守って見せる! おまえに約束する! ………………これで部長も俺を……」

 

「………………そうか」

 

 熱い告白だけど、終わったあとでニヤケてブツブツ言うなよ。雰囲気崩れるから。

 

 それに最近のおまえって正直俺のなかで評価がものすごく低いんだけど……。

 

 悪魔になってから上がったり下がったりで、夏休みからドンドンおまえの評価が下がっているわけだけど、気づいているか?

 

 おっぱい突いて禁手に至ったのは別にどうでもいいけど、『洋服破壊』とかいう技で女の服を破壊して全裸にしたり、『乳語翻訳』とかいうプライベートを完全に無視した、最悪なタチの悪い読心術を開発したり、泣いているドライグとかアルビオンとか見てると、ね。不憫でかわいそうで……。しかもスケベが原因でドライグ死にかけてるのに相変わらずのスケベ根性まるだしだし……。

 

 それに、1番気に入らないのはアーシアのことなんだけどな。

 

 あれだけアプローチされているのに気づかない。出かけるとなるとまずは元浜や松田を思い浮かべたり……。まあ、それは長年モテなかったからだろうけど、あからさまに誘ってくださいオーラを出しているアーシアに少しは気づいてやってくれ。

 

 まったく、ハーレム作るならまずはアーシアの好意に気づいて大事にしろよ。

 

 美女や美少女なんかが登場する度に興奮して服を脱がそうとか考えるなよ。あいかわらず元浜や松田と更衣室を覗いたり、普通なら退学ものだ。先日の一件でも疑いをかけられた木場の弁護もしないで放っておいて、精神病棟にぶち込まれたあとで自分が全て悪いとか……。正直、ライザーより評価が低かったりするんだよな……。

 

 注意してもいいけど、こいつの場合「俺からエロを取ったら何が残るんだ!」とか言って聞かなさそうだ。

 

「俺が言いたいことはそれだけだ!」

 

 イッセーはそれで帰っていくかと思われたが、近づいてきて小声で話しかけてきた。……それだけじゃなかったのかよ。

 

「なあ、エイジ」

 

「……なんだ?」

 

「怪我してんだし、あんまりエロ本とか読まないほうがいいぜ」

 

 ――ふう……。

 

「帰れ」

 

 俺は最高の笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーが今度こそ帰ったのを確認してから、『サイレント』を解除した。

 

 すでに小便は止まっていた。タオルケットを取り払ってなかを見ると、リアスが陰毛に鼻を埋めてペニスに頬ずりしていた。

 

 リアスの頭をよくがんばったなと撫でる。

 

「ん……」

 

 リアスの口からうれしそうな声が漏れる。俺の下半身とリアスは色んな体液で汚れていてものすごくエロい。……はぁ……、この姿をイッセーに見せつけてやればよかったかな? それともオカルト研で恋人宣言するか?

 

 そんなことを真剣に考えながら、よしよしとしばらくリアスの頭を撫でていると、黒歌がドアを空けて飛び込んできた。

 

 何やら機嫌が悪い様子だ。鼻を摘まんで手を払っている。

 

 ……えっと小便とかじゃないよな? 結構嗅いでいるし、飲んだりしてるし。

 

「ここもにゃ! まったく、あの乳龍帝のガキめ!」

 

 あ、そういうこと。

 

 消臭スプレーならぬ、浄化魔法で清める黒歌。あまりの効果に俺とリアスの匂いも汚れだけじゃなく部屋自体すっきりしたけど、黒歌の機嫌は直らない。

 

「白音と私がいない間に侵入するなんて! レイナーレもなんであんな変態を家に入れたのにゃ!」

 

 黒歌は怒り心頭のようすで黒いオーラを撒き散らす。発情状態から脱したリアスが魔力で駒王の制服に着替えながらつぶやいた。

 

「……イッセーって黒歌に随分と嫌われているようね」

 

 俺はうなずいてからリアスに言う。

 

「まあ、当然だな。冥界全土に放送されているのを知っていて小猫ちゃんに迫って、胸を肌蹴させた上で乳を突いたんだ。……全冥界で放送されてネットに映像が流出して、楽しみにしていた特撮番組でトラウマになりかけたその映像が流れたり、グッズ販売されたりって、一時期マジで引き篭もりそうになっていた小猫ちゃんに追い討ちかけて引き篭もりにしたんだし、何回も泣かせてるしな……。姉妹の仲が回復して重度のシスコンになった黒歌にとってイッセーは完全な敵なんだろう」

 

「…………それはさすがにフォローできないわね。私だって家族の裸の映像や写真がネットに流出とかなったら怒るもの。イッセーの『洋服破壊』もレーティングゲームで使用禁止させたほうがよさそうね。子供も見るものだし、苦情がきそうだから」

 

 リアスは頭を抱えてつぶやいた。

 

 黒歌は完全に浄化されたことを確認すると、俺に抱きついてきた。

 

「エイジぃっ! エッチ! エッチしようにゃ! いますぐ乳龍帝のこと忘れさせてほしいにゃああ!」

 

 体全体、特に鼻を擦りつけながら臭いを嗅いでくる黒歌を片腕で抱き返すと、リアスが起き上がって言った。

 

「ちょっと黒歌! エイジはまだ疲れて――」

 

「リアスもしてたくせにずるいにゃ! エッチさせてくれないなら乳龍帝を始末しにいくにゃ!」

 

「――っ」

 

 ほ、本気の目だ……。そこまでイッセーが嫌いか。

 

 黒歌は両手を着物に手をかけて脱ぎ始めた。

 

「ちょっ、黒歌――」

 

 リアスは声をあげる。黒歌はお構い無しに服を脱いでペニスに跨って挿入すると、前後左右に腰を動かし、上下にピストンを開始し始めた。

 

「にゃぁぁんっ! エイジっ、エイジのがあの忌々しい乳龍帝を忘れさせてくれるにゃぁぁぁっ!」

 

 黒歌が腰に抱きついて乳首に吸い付いてくる。……いきなりスパートかけてやがる……!

 

「ちょっと黒歌! さっき私がせっかく臭いをつけたのに!」

 

 抗議の声をあげるリアス。……リアス? 何に対して抗議しているんですか?

 

「もうっ、リアスも止める気がないのにゃら空気を読んで出て行くにゃ。……それとも一緒に混ざるにゃ?」

 

「え……、わ、私は、ロキ対策の会議がもうすぐあるし……」

 

「それなら――、……にゃん」

 

 黒歌の最後の一言で空間が変化する。これは――いつもの結界?

 

 黒歌は俺とリアスの疑問に答えるようにつぶやいた。

 

「簡易用の、2時間ぐらい外界と隔離する結界にゃ。……これで時間の問題は解決したにゃ」

 

「えっ……」

 

「んもうっ、面倒だにゃん!」

 

 戸惑うリアスに黒歌はそう言い放つと、空間から鎖を召喚した。

 

 鎖に拘束されるリアス。

 

 あれ? フェンリル用の鎖じゃないよな? あれは当日に届くらしいし、明らかに人間用だし……。いや、何故人間用の鎖なんて持ってるんだ?

 

「ちょっ、黒歌!?」

 

 驚くリアスをよそに黒歌は腰を振り続け、鎖を操って股を開かせると俺の顔に落としてきた。

 

「ぐ……、黒歌?」

 

 これにはさすがに戸惑う俺だが、黒歌は普通に、当然のように、

 

「さっ、リアスを発情させるにゃ。乳龍帝のことなんか完全に忘れるぐらいたっぷり交尾するにゃん」

 

 と、言って腰を振りまくり、膣を蠢かせペニスをオマンコでしゃぶった。

 

「はぁ……、まっ、俺も体力が回復する……というか、アーシアに回復させられてかなり溜まってるからなぁ」

 

 それに目の前で揺らさせてるリアスの尻とか、ペニスに感じる快感から逃げられるわけないしな。

 

「ちょっ、エイジまで!?」

 

 リアスは驚いているようだが、

 

 「……ごめん。先に謝っておく。回復した俺の欲望は2人ぐらいじゃ受け止められないと思うから」

 

「にゃん♪ どんとこいにゃ! 何も考えられなくなるぐらい犯して欲しいにゃ!」

 

「…………エイジ」

 

「なんですか?」

 

「……ロキ対策の会議は受けれるようには加減してちょうだい」

 

「……善処します」

 

「…………」

 

 俺はリアスの尻を掴む。スカートで覆われて影になっているが、正確に紫色のアダルトな紐パンを目視できている。最近脱ぎやすいように紐パンを穿くようになったんだよな。

 

 両手の指で再度の紐を解いて脱がせる。

 

 うん、黒歌の強力な浄化魔法で精液も愛液もキレいになってるな。

 

 太ももに腕を回してオマンコに口をつけて俺はクンニを開始した。まだペニスの影響で穴を広げている膣口に舌を差し込んで味と匂い、感触を楽しむ。

 

「ああっん! エイジの舌が……んんっ、ペロペロされてるぅぅっ!」

 

「にゃははっん♪ リアスもやっとノッテきたにゃ。エイジィ、そろそろ1回目の子種が欲しいにゃん」

 

 快楽の宴が再び開幕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーディンと日本の神々の会談が行なわれ、ロキが襲ってくるだろう日の夕方。バラキエルと朱璃さんが家を訪れた。

 

 家のリビングのテーブルで、バラキエルと朱璃さんの2人と向かい合うように座る。俺の隣には朱乃さんが座り、レイナーレが給仕を行う。レイナーレ以外のリアスや黒歌は決戦に備えてやすんだり作戦の確認を行なっているので不在だ。

 

 まずバラキエルがテーブルに頭をあてんばかりに深々と頭を下げた。

 

「神城エイジ。妻を蘇生させてくれたことに、心から感謝する」

 

 続いてバラキエルの隣に座っていた朱璃さんも頭を下げて礼を言う。

 

「こうして夫と娘とまた話したり触れ合えたりできたのはあなたのおかげです。本当にありがとうございます」

 

 俺は素直に2人から礼の言葉と感謝の気持ちを受ける。なんだかこうして改まってお礼されると恐縮してしまうな……。

 

 まだ朱乃さんはバラキエルに対しての気持ちが整理できていないからか、無言で視線を逸らしていた。

 

 娘のツンとした態度にバラキエルは表情を暗くするが、こちらを向いて申し訳なさそうに訊ねてきた。

 

「死者蘇生の儀式での怪我はもう大丈夫なのか? 戦いに参加できないと聞いたが……」

 

「ロキとの戦いは大事をとって参加しないだけよ。怪我はちゃんとアーシアさんの神器で治ってるし、仙術で内部からも癒したからあなたが心配する必要はないわ」

 

 バラキエルの問いに朱乃さんが答える。

 

「そ、そうなのか……」

 

「………………」

 

「………………」

 

 バツが悪そうに引き下がるバラキエルと、会話はするが相変わらずツンケンしている朱乃さんに、俺と朱璃さんは苦笑してしまう。

 

 とりあえず話を変えようと口を開く。

 

「体の調子はどうですか、朱璃さん。何か違和感などはありませんか?」

 

「ええ、背中に翼が生えたぐらいで昔よりもずっと調子がいいですよ」

 

 朱璃さんがそう言って場を和やかにするよう微笑む。翼って……そういえば天使になっちゃってたんだった。人間に転生させられなくて申し訳ない気もしないでもないが、人間に蘇生させた場合でも、バラキエルと娘の朱乃さんと同じ時を生きるために、同じように人外なっていたそうだから別に俺が悩むことでもないか。

 

「まさか天使になって生き返るとは、いや生き返らせることができるとは思っても見なかった」

 

 と、バラキエルさんは語るが、朱乃さんはドSな微笑を浮べて毒を吐く。

 

「本当に、母さまを生き返らせれたのは偶然が重なった幸運とエイジががんばったおかげということをきちんと理解してくださいね。普通だったら母さまとは会話すらもできずに死んだままだったんですから」

 

「……そうだな……」

 

 ズゥゥンッと落ち込むバラキエル。この人感情の起伏が激しいよなぁ。

 

 朱璃さんもヤブヘビにならないようにスルーして……、いや、ワザと無視していらっしゃる? 細められた瞳から現役SM嬢ばりのドSな気配を感じたんだけど。

 

 ん~、それに、この親子3人の間に自分がいることが少々場違いな気がする……。親子3人で会話させたほうがいいんじゃないかな。

 

 そんなことを考えていたら、朱璃さんが頬に手を当ててニッコリ笑顔でぶち込んできた。

 

「朱乃」

 

「……はい、母さま」

 

「また3人で暮らす? 皆人外で3大勢力も協力関係にあるいまなら、今度は親子3人で一緒に暮らせるわよ」

 

「――っ!」

 

 朱乃さんの目が大きく開かれる。バラキエルと朱璃さんと3人で暮らす。それは朱乃さんにとっての幼い頃の幸せだった思い出で願いだったはずだ。

 

 だけど――。

 

「しゅ、朱璃……その話しはまだ……」

 

 バラキエルが諌めるように朱璃さんに声をかける。確かにこの話しは朱乃さんにはまだ早い。

 

 朱乃さんの顔を覗こうとすると、朱乃さんの手が伸びてきて俺の手を握ってきた。

 

 朱乃さんは朱璃さんの顔を正面から見ながら顔を横に振る。

 

「いいえ、母さま。いまの私の家はここです。…………父さまのことを抜きにしても、私はずっとここで皆と暮らしていきたいの。――……ごめんなさい、父さま、母さま」

 

「そう……か」

 

「ふふっ、そう。わかったわ」

 

 バラキエルが肩を落としながらつぶやき、朱璃さんも少し残念そうにうなずき、息を吐くと、

 

「まあ、仕方がないわね。婚約してる相手と同棲してるんだもの。両親と暮らすよりも恋人を選ぶわよね」

 

 と、ぶっこんできた。

 

「かっ、か、母さま! そ、それは――」

 

「なにぃいいっ!? 恋人!? 同棲!? いや、婚約しているだと!? いったい何の話だぁぁぁっ!」

 

「あ、あなたには関係ないでしょ! それよりも母さま! なんでこのタイミングでそれを言うんですか!」

 

「うふふ、あらあら、ごめんなさいね。まだ秘密だったの」

 

 驚愕するバラキエルと、顔を真っ赤に染める朱乃さん。そしてその様子を眺めて微笑む朱璃さん……。

 

 バラキエルが最初に動き、怒鳴り声をあげて俺の胸ぐらを掴んできた。

 

「神城エイジぃぃぃっ! いったいどういうことだ! 貴様のことは認めてやったが、そこまで許した覚えはないぞ!」

 

「い、いや、そ、それは……」

 

「ちょっと! エイジに乱暴しないで! この人は私の大事な人なんだから!」

 

 俺の胸ぐらを掴んでいるバラキエルの腕を掴んで叫ぶ朱乃さん。その修羅場に朱璃さんが少し離れた位置から眺めながらおもしろそうに煽る。

 

「そうなのよね。エイジくんのためだったら、色んなご奉仕もしちゃうのよね。うふふ。でも妊娠には気をつけなさい。学生のうちに妊娠すると色々苦労するわよ」

 

「母さまっ!」

 

「な、ななな……貴様ぁっ! 表に出ろ! 娘を傷モノにした落とし前をつけさせてもらうぞ!」

 

「お、落ち着いてください、お父さん」

 

 自然とでた何気ないセリフがまたバラキエルを興奮させてしまう。

 

「誰が義父さんだぁぁぁっ! おまえを息子などとは絶対に認めんからなぁっ! 朱乃は一生嫁に出さんぞぉぉぉっ!」

 

「だからそれはあなたには関係ないでしょ! 私がエイジを好きなんだから!」

 

 朱乃さんは興奮するバラキエルに、威嚇するように体から雷光を放つ。

 

「うふふ、本当に生き返ってよかったわ。孫の顔も随分早く拝めるみたいだし、未来は明るいわね」

 

「ぐ、ぐぬぅぅ……!」

 

 苦しそうに、悲しそうにバラキエルの顔が歪み、血走らせた瞳から血の涙が滲む。

 

「しゅ、朱璃さんっ、それ以上煽らないでください! 色々とマズイですから! 朱乃さんのお父さん、血の涙流してますから!」 

 

「俺は娘のことを大事に……家族のことを一番に思い、朱璃が死んでからも、朱璃と朱乃のことは一日も忘れたこともない! 俺から大切な家族を奪う者は例え神であろうと許さん! 俺の家族を二度と失ってたまるかぁぁぁっ!」

 

 感情の処理を超え、狂化したバラキエルが片手で俺の胸ぐらを掴み、もう片方の手に雷光を纏わせる。……おいおい、マジですか? 部屋が無茶苦茶になるぞ。というか、レイナーレは? あ、巻き込まれないようにキッチンに引っ込んやがる。

 

 クソッ、とりあえず雷光を消すか。

 

「うふふ、あなた。その辺で止めましょうか」

 

「止めるな、朱璃! 俺はこの男を始末しなくてはいかんのだ!」

 

 朱璃さん、いまのバラキエルに何を言っても――。

 

「――あなた。いい加減にしましょうね」

 

「ぐぬぬぅ……」

 

 大声ではないがリビングに透き通る朱璃さんの声に、バラキエルは萎縮する。おおう……、狂化していたバラキエルが落ち着いてきたぞ。胸ぐらを掴んでいた手もゆっくりと離された。

 

 ふぅっと息を吐いて席に座りなおす。バラキエルに視線を向けてみると、ぷいっと逸らされる。うん、好感度が最低に戻ったようです。

 

「まったく、あなたは。朱乃はもう18歳なんですから恋人ぐらいいますよ。悪い男に引っかかっているわけでもないんですから、いちいち目くじらを立てないでください」

 

 呆れたように朱璃さんは言うけど、あなたが煽ってましたよね。楽しそうに場を混乱させて悦んでましたよね?

 

「だ、だが、朱璃。この男はインキュバスで大勢の女を囲んでいてだな……」

 

「あら? 悪魔は元から一夫多妻制なんでしょ。人外同士、人間の常識は当てはまらないわ。それにインキュバスだからって種族で差別するのはダメよ。私たちのように堕天使と人間が結ばれるわけでもないんだし、悪魔同士結ばれてるんだから反対する理由はないわ」

 

「そ、それはそうだが……くぅっ」

 

 何も言えなくなったのはわかりますが俺を睨まないでください、バラキエルさん……。

 

 朱璃さんにフォローされ、認められてかなり機嫌がよくなった朱乃さんが、畳み込むように腕を絡めて、バラキエルに見せ付けるように胸を押し付けてきた。

 

「あ、朱乃……!」

 

「ふん……」

 

 ショックを受けるバラキエルを鼻を鳴らして無視すると、ゴロゴロと甘えるように顔を擦り付けてきた。

 

「あらあら、ラブラブね」

 

「あははは……」

 

 朱璃さん、これ以上煽らないでっ! あとラブラブっていう表現は若干古――。

 

「そうそう、まえにも注意したけどその歳からあまり無茶なプ――」

 

「しゅ、朱璃さんっ」

 

 ――お願いですから続きを言わないで! 視線で懇願すると、――まっ、いいでしょう。と、朱璃さんはそれ以上は言わないでくれた。

 

 っていつまで睨んでるんだよ、バラキエル……。

 

「とりあえず目先のことね。悪神ロキが会談を邪魔しに来るんでしょう」

 

 朱璃さんが言うと、バラキエルは睨むのを止めて、訂正。あからさまに睨むのを止めてうなずいた。

 

「ああ、今日の会談を邪魔しに襲いに来るだろう。――神とフェンリルが相手だ。厳しい戦いになるだろうな」

 

 今夜の戦闘って俺は後方待機なんだよね。

 

 朱璃さんは心配そうに言う。

 

「私は足手まといになるから戦場にはいけないけど、2人とも必ず生きて帰ってきて。生き返って早々に未亡人になるなんて嫌ですからね、あなた。朱乃も、生き返ったのに今度は娘が死ぬようなことになるのはやめてちょうだい」

 

「ああ、約束する。絶対に死なないし、朱乃も守ってみせる。生きて必ず帰ってくる」

 

「はい。約束しますわ」

 

 うなずく2人に朱璃さんは微笑むと、俺の方を再び視線を送り、悪戯っぽい表情を浮けべたあと、

 

「もし、2人とも帰ってこなかったらエイジくんをもらうから、覚悟しておいてね」

 

 と、素晴らしい笑顔でまたもや爆弾を投げ込んできた。

 

 このあと再び修羅場と化したのは言うまでもない……。

 




 次からやっとロキ戦です。


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第65話 VS悪神ロキ 

<イッセー>

 

 

 ――決戦の時刻。

 

 すでに日は落ちて、夜となっている。

 

 俺たちはオーディンの爺さんと日本の神さまが会談するという、都内のとある高層高級ホテルの屋上にいた。

 

 高いところにいるせいか、風がびゅーびゅー激しい。

 

 周囲のビルの屋上にシトリー眷属が各々配置され、待機していた。遠目で小さな人影が佇んでいるのがわかった。

 

 匙は遅れるって言っていたな。……どんな特訓をさせられているのやら……。戦闘終了後に登場なんてことだけは止めてくれよ匙くん。

 

 先生は会談での仲介役を担うために爺さんのそばにいる。

 

 戦闘には参加できない先生の代わりにバラキエルさんが同じく俺たちと屋上で待機。バラキエルさんは見るからにやる気満々という感じだった。奥さんが生き返ったからなのかな?

 

 ロスヴァイセさんも戦闘に参加ってことで鎧姿のまま、セルベリアさんと一緒に待機中。

 

 遥か上空にはタンニーンのおっさんも! さすがにそのままでは人の目に留まって大騒ぎになるかもしれないので、普通の人間には目視できないよう術をかけているようだ。ユウカナリアさんみたいに人間に変身もできるそうだけど、ドラゴンとして人間に変身するのは嫌らしい。まったく古風なドラゴンさんだよ。

 

 ヴァーリたちは少し離れたところでそのときを待っている。

 

 ちなみに、エイジは後方待機なんだけど、いまは俺たちと一緒のビルにいて朱乃さんとなんだかいい雰囲気で会話してる。……うん、すごくうらやましい。

 

 だけどそんな雰囲気のなかで、なんか俺、位置関係的に少し外側にいたり……。

 

 部長、朱乃さん、ゼノヴィア、黒歌さん、小猫ちゃん、セルベリアさんにロスヴァイセさん、ノエルさん、時雨さん、レイナーレと、エイジの輪。

 

 エイジたちの輪との間にギャスパーとアーシアがいて、アーシアの隣に俺。

 

 と、いう位置関係……。

 

 いや、こうなってる原因はわかってるよ。

 

 うん、黒歌さんと小猫ちゃん……、特に黒歌さんが俺を敵視してるからなんだよね。敵視される原因も100%以上俺にあるけど、そこまで嫌いますか!? 小猫ちゃんに謝ろうと近づいただけで殺気を放たれて睨まれたよ!

 

 しかも黒歌さんが俺を敵視しているためか、エイジの眷属の皆さんも俺を避けてるような感じがしたり……。

 

 俺ってそこまで悪いことした!?

 

『……悪いことしたんじゃないか? 大抵の女は好きでもない相手に服を脱がされたりするのは嫌だろう』

 

 ――ううっ! ドライグからの一言が心に突き刺さる!

 

 で、でも、『洋服破壊』は男のロマンで――。

 

『はぁ……、相棒』

 

 な、なんだよ? あからさまにため息なんかついて。

 

『される側のことを少しは考えたほうがいいんじゃないか?』

 

 ――っ。

 

『女からすれば相棒は服を脱がしたり、乳の声を聞くとかプライベートを無視して変態で、警戒するべき相手だろ。そんな変態に近づきたくないのは当たり前だし、この対応でもまだやさしいと俺は思うがな』

 

 な、なんだかドライグが説教キャラになって、る? 精神安定剤の副作用か最近妙に落ち着いてきてるんだけど、この元大暴れ迷惑ドラゴン。

 

 ああ、せめて木場がいればこのハブられてる輪が少しはマシに――。

 

『木場も相棒が原因だったはずじゃないか』

 

 …………どうしよう、味方がいない……。

 

「――時間ね」

 

 部長が腕時計を見ながらつぶやく。

 

 ――っ。ドライグと話してたら会談が開始される時間になった。エイジとノエルさん、時雨さんとレイナーレの4人がそれぞれの持ち場へ移動した。

 

 さて、残すはやっこさんが来るのを待つだけ。

 

 約束通り来なかったらどうしよう……。実はすでにホテルに入っていて、変装して爺さんに近づいていたりとか……。

 

「小細工なしか。恐れ入る」

 

 ヴァーリが苦笑した。部長たちが空を見上げている。何事? ――と、思ったら。

 

 バチッ! バチッ!

 

 ホテル上空の空間が歪み、大きな穴が開いていく。

 

 そこから姿を現したのは――悪神ロキと巨大な灰色の狼、フェンリルだった!

 

 ……正面から、堂々と出てきやがった!

 

「目標確認。作戦開始」

 

 バラキエルさんが耳につけていた小型通信機でそう言うと、ホテル一帯を包むように巨大な結界魔法陣が展開し始めた。

 

 会長を始めとしたシトリー眷属が俺たちとロキ、フェンリルを戦場に転移させるため、大型魔法陣を発動させたんだ。

 

 ロキがそれを感知するが、不適に笑むだけで抵抗は見せなかった。

 

 そして、俺たちは光に包まれ――。

 

 …………。

 

 次に目を開いたとき、そこは大きく開けた土地だった。

 

 岩肌ばかりだ。確か、古い採掘場跡地だったな。いまは使われていないらしい。

 

 眷属を確認。戦闘に参加しないエイジと木場を除外して、部長を始め、イリナも含めて全員いる。

 

 黒歌さんもバラキエルさんもセルベリアさんとロスヴァイセさんも同様。

 

 ヴァーリたちも少し離れたところに転移していた。

 

 そして、前方にロキとフェンリル。確認したところで俺は禁手のカウントを開始していた。

 

「逃げないのね」

 

 部長は皮肉げに言うと、ロキは笑う。

 

「逃げる必要はない。どうせ抵抗してくるのだろうから、ここで始末してその上であのホテルに戻ればいいだけだ。ふふふ、それにわざわざ戦力を分散させてくれたしな。我にとってはこちらのほうが都合がいい。それと、会談をしてもしなくてもオーディンには退場していただく」

 

「貴殿は危険な考えにとらわれているな」

 

 バラキエルさんがそう言う。

 

「危険な考えを持ったのはそちらが先だ。各神話の協力など……。元はと言えば、聖書に記されている3大勢力が手を取り合ったことから、すべてが歪みだしたのだ」

 

「話し合いは不毛か」

 

 バラキエルさんが手に雷光を纏わせ始めた。その背中には10数枚もの黒き翼が展開していく。

 

 と、俺のカウントも終わったぞ。素早く昇格+禁手化!

 

Welsh(ウェルシュ) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!!』

 

 カッ!

 

 赤い閃光を放ちながら、俺の体に赤龍帝の力が鎧となって具現化する。よし。力が溢れてくる。

 

Vanishing(バニシング) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!!』

 

 ヴァーリも一切曇りのない白い 全 身 鎧 (プレート・アーマー)に身を包んだ。

 

 俺とヴァーリが同時にロキの前に出る。

 

 それを見て、ロキが歓喜した。

 

「これは素晴らしい! 二天龍がこのロキを倒すべく共同するというのか! こんなに胸が高鳴る事はないぞッ!」

 

 ビュッ!

 

 ヴァーリが仕掛けた! 空中で光の軌道をジグザグに生みだしながら、高速でロキに近づいていく。

 

 俺もそれに併せて背中の魔力噴出口を全開にした!

 

 空中からヴァーリが、地上から俺が突っ込んでいく!

 

「赤と白の競演ッ! こんな戦いができるのはおそらく我が初めてだろうッ!」

 

 嬉々としてロキは全身を覆うように広範囲の防御式魔法陣を展開させる!

 

 ――と、思ったら、その魔法陣から魔術の光が幾重もの帯となって、俺たちに放たれるッ!

 

 追尾性の高い攻撃みたいだ! 空中を飛び回るヴァーリ目掛けて、幾重もの光の帯が向かっていく!

 

 俺のほうにも何十もの攻撃が前方から放たれてきた!

 

 ヴァーリは空中で曲芸のように飛び回って、それをすべて回避した。俺は当たろうが何されようがお構い無しに突貫した!

 

 バッ! ババッ!

 

 俺の体に魔術の攻撃が突き刺さるが――このぐらいなら問題ない! 一気に詰める! 右拳に力を込めて、ロキ目掛けて低空飛行の最大加速で突っ込んでいく! 背中からは特訓の末に出せるようになったドラゴンの翼を生やしていた!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 バリンッ!

 

 俺の突撃にロキを覆う魔法陣が全部音を立てて消失する! そこへヴァーリが空中からバカげた質量の魔力の一撃を――。ヴァーリの手元に魔力以外の術式が展開した。

 

 あれが覚えたばかりの北欧の魔術か?

 

「――とりあえず、初手だ」

 

 バァァァァァアアアアアアアッ!

 

 掃射した! 俺は瞬時にその場をあとにする! 危なぇ! あの野郎、ロキの防御を俺が崩した途端に間髪入れずに攻撃してきやがった!

 

 この採掘場の三分の一ぐらいを包むほどの規模の一撃!

 

 なんつー攻撃だッ! とんでもねぇぇぇぇっ!

 

 攻撃が止んだあと、ロキのいた場所を見れば――底の見えない大きな穴が生まれていた。

 

 これでも攻撃範囲は狭めたんだろうけど、一撃の攻撃力がハンパじゃない!

 

 …………改めて思う。俺のライバルは異常です!

 

「ふはははは!」

 

 ――ッ! 高笑いが聞えてくる。

 

 その方向を見れば、宙に漂う人影。――ロキだ。ローブはいくらか破れているが、ロキ自信は無事な様子だった。

 

 あの一撃で無傷かよ。……神さま、怖ろしいわ。

 

 こうなりゃ、例の秘密兵器! 俺は腰につけていたハンマー――ミョルニルを手に取り、魔力を送って手ごろなサイズにする!

 

 両腕をなんとか振り上げて、ロキに突きつける。

 

 ロキがそれを見て目元をひくつかせた。

 

「……ミョルニルか。レプリカか? それにしても危険なものを手にしている。オーディンめ、それほどまでに会談を成功させたいか……ッ!」

 

 俺がこれを持っていることよりも、オーディンの爺さんがこれを渡したことにキレている様子だった。

 

 普通の状態じゃ重くて持てなかったけど、禁手のいまならなんとか支えられる。

 

 振り上げ、構えた格好で背中からブーストを噴かす!

 

 ゴオオオオオッ!

 

 ロキに高速で向かっていき、目標を捉えて一気にハンマーを振り下ろした!

 

 出ろッ! 神をも倒せるっていう雷よっ! 念じながらぶっ放す!

 

 ドオオオオオオオオンッ

 

 ロキに避けられた! 地面に大きなクレーターが生まれていたが……肝心の雷が発生しなかった!

 

 ……どういうことだ? これ、神をもビリビリさせる雷が生まれるんじゃないのか?

 

 俺はその場で何度も振り回してみるが……雷はビリッとも発生しなかった!

 

 ふ、不良品か、これぇぇぇぇえっ!

 

「ふははは」

 

 俺の情けない姿にロキが笑う。

 

「残念だ。その槌は、力強く、そして純粋な心の持ち主にしか扱えない。貴殿に邪な心があるのだろう。だから、雷が生まれないのだ。本来ならば、重さすらも無く、羽のように軽いと聞くぞ?」

 

 マジか! 邪な心? ………………う、うん。心当たりがありすぎます!

 

 俺、エロエロだから! おっぱいドラゴンだし! 部長にいいところ見せようとしているから使えないのか!

 

「そろそろこちらも本格的な攻撃に移ろ――っ!」

 

「私のほうもやっと準備が終わったよ。――とりあえず挨拶代わりだ」

 

 ロキが指を鳴らそうとした瞬間、ロキの背後にゼノヴィアが現れた! さらに次の瞬間、ロキの背中から鮮血が噴き出した!

 

「――って、ゼノヴィア! いつの間に!?」

 

 それになんかゼノヴィアの全身からオーラみたいなのが噴き出ててる!

 

「ぐぬぅっ!」

 

 ロキが苦しそうな声を出し、慌ててゼノヴィアから距離を取った。ヴァーリがものすごいを攻撃しても無傷だったのにゼノヴィアのヤツ、一撃でかなりのダメージをロキに負わせやがった!

 

 ロキはゼノヴィアを睨み、笑んだ。

 

「……赤と白の競演で忘れていたよ。二天龍などよりも障害になるだろう存在がいることを」

 

 ゼノヴィアは息を吐き、剣先をロキに向けながら言った。

 

「ふっ、だったらもう1人の障害も忘れてはいけないんじゃないか? ――まあ、私たちなどよりも強い者だったら、この場にも……いや、会談会場にわんさかいるよ」

 

「……まったく、そのようだ、なっ!」

 

 ズオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 突然轟く轟音。――っ! な、なんだ!? ロキが居た場所が……空間が抉り取られてた!?

 

 轟音と惨状を作り出したと思わしき場所を探すと――凛々しく弓を構えた部長が立っていた。

 

 ま、まさか先ほどの一撃は……。

 

「もう、ゼノヴィアがバラすから外れちゃったじゃないの」

 

「……すまない。そういうつもりではなかったんだ」

 

 部長が放ったみたいですね……。――って、え、外れた?

 

「…………まったく、その武器は反則だな」

 

 ロキの声! 声のほうへ視線を向けると片腕を無くし、かなりの重傷を負ったロキが空中に立っていた。

 

 す、すげぇ! なんて威力だよ! …………俺とヴァーリ、もう必要ないんじゃないか?

 

 ロキの言葉に部長はうなずいて弓を大切そうに指でなぞった。

 

「ええ、いい武器でしょ。『赤龍帝の籠手』のような倍加能力はないけど、この弓は私の滅びの魔力を溜めて矢として放つことができるの。……本来の私の収束されていない魔力だったらあなたの魔術に防がれてダメージを負わせることは不可能なんだけど、この弓で魔力を収束すれば手傷ぐらいは負わせられる。さらにこの弓に魔力を溜めて放てば――神をも滅ぼせる威力で攻撃できるようになるのよ」

 

 ……魔力の収束とチャージ能力か。確かにそれだったらロキの分厚い防御も抜ける。

 

「まるで聖書の神が創りだした神器だな。……創りだしたのは何者だ?」

 

「あら、気になるの?」

 

 聞き返す部長にロキはゆっくりと首を横に振った。

 

「…………いや、それほどの弓を製作できる者。そしてリアス・グレモリーの関係者を考えれば製作者の割り出しなど容易い。――あの者が敵側についた時点で終わりだったのか……」

 

「だったら降伏してくれないかしら? これ以上戦うのも不毛でしょう」

 

 部長はロキに降伏を促した。……か、完全に部長の優位だな。

 

「だが、断わる」

 

 ロキは首を横に振り、部長の降伏勧告を切り捨てた。

 

「もう止まれるものでもない。振り上げた矛を収めるなど許されん。それに――私が絶対に負けるとは限らないだろう」

 

 そう言うとロキは魔術を発動させて怪我を一瞬で癒した。クソッ! 回復系の魔術も使えるのかよ!

 

「まさかこれも使うことになるとは思いもしなかったな」

 

 ロキはそういうとローブ姿から漆黒の鎧姿に変わり、手元に2メートル近い、黒く何の素材でできたかわからない西洋風の槍が出現した。

 

 ぞくっ!

 

 な、何なんだあの槍……。とんでもなくヤバい気配がする!

 

「ま、まさかあれは――」

 

 バラキエルさんもランスを見て驚愕していた。

 

 全員の顔が強張る様子をロキはうれしそうに眺め、そしてランスを天に掲げて言う。

 

「ふははは、知っている者もいるようだな! そう、この槍は神殺しの概念が込められたミストルティン! オーディンのグングニルに勝るとも劣らない代物だ!」

 

 ミストルティン!? …………て、なんだ?

 

『元はヴァルハラの西に生えていたヤドリギだ。伝承でロキはバルドルの盲目の弟ヘズを騙して、ミストルティンの元になったヤドリギをバルドルに向かって投げさせ、矢となったヤドリギがバルドルを貫き、バルドルを殺したとされている』

 

 説明ありがとうドライグ! でもサッパリわからん! とにかくヤバい代物ってことはわかるんだけど。

 

『ヤバいなんてものじゃない。あれはどんなものでも貫く槍だ。俺やアルビオンの鎧など、あの槍のまえでは裸同然だ。……伝承通りならある意味フェンリルの牙よりも怖ろしい力を秘めている』

 

 なっ――! そんなにヤバいのかよ!

 

「まさか伝承のミストルティンが実在していたとは……」

 

 バラキエルさんが憎々しげにつぶやくとロキは笑みを浮かべた。

 

「正確にはこの槍は伝承のヤドリギではない。これは新なヤドリギを元に武器として製作した戦闘用のミストルティンだ! ――さあ、準備は整った! リアス・グレモリー、ゼノヴィア……、存分に死合おうではないか!」

 

 ロキはそう言い放ち、部長とゼノヴィアに戦いを挑む。クソッ! 俺たちのことは無視かよ!

 

 ロキがゼノヴィアに向って槍を振り回す。ゼノヴィアは槍を紙一重でかわしながら、両手に持った剣で斬りかかる。

 

 ギィン、ギィィン、ギィンッ!

 

 金属のかち合う音と共に周囲に衝撃が走る。ロキはうれしそうに槍を振り回しながら叫ぶ。くっ、離れてんのに余波が伝わってきやがる……。どれだけの攻撃力が一撃一撃に込められてんだ……!

 

「ふははははっ! 他の者も見ているだけではつまらないだろう! ――神をも殺す牙。それを持つ我が僕フェンリル! 一度でも噛まれればたちまち滅びをもたらすぞ! おまえたちの相手はこの獣だ!」

 

 フェンリルが1歩前へ進みだした。

 

 フェンリルの威圧感が、殺気がどんどん高まっていく。

 

 フェンリルが牙を向いてこちらへ攻撃を仕掛けようとした瞬間。黒歌さんが手を前へ翳した。

 

「にゃん♪」

 

 ブゥゥゥイイイイイイィィィィンッ!

 

 黒歌さんが笑むのと同時にフェンリルを覆うように魔法陣が展開し、その魔法陣から巨大で太い鎖が出現してくる! ――魔法の鎖、グレイプニル。予定より早めに届いたはいいが持ち運ぶのが難儀だったため、黒歌さんが独自の領域にしまい込んでいたんだ。

 

 シュルルルルルルルルルゥゥゥゥッ!

 

 黒歌さんが両手を素早く動かすのと連動するように、鎖がフェンリルへと襲い掛かる。まるで結界のように張られたフェンリルの行動を鈍らせ、鎖はフェンリルの体に絡みつき、締め付けた。

 

「むっ! グレイプニルか! だがグレイプニルの対策など、とうの昔に――」

 

 バヂヂヂヂヂヂヂヂッ!

 

 口の端を持上げて笑みを浮かべようとしたロキだったが、表情が険しくなる。

 

 オオオオオオオオオオオオオンッ……。

 

 巨大な狼が苦しそうな悲鳴を辺り一帯に響かせる。

 

「――フェンリル、捕縛完了だ」

 

 バラキエルさんが身動きできなくなったフェンリルを見て、そう口にした。

 

 やった! フェンリルの制止に成功ぉぉぉぉぉっ!

 

 すっげぇぇぇっ! 完璧じゃん! 鎖を強化してくれた見知らぬダークエルフさんたちはいい仕事をしましたな!

 

 フェンリルの動きを封じれば、あとは油断しなきゃ俺たち眷属たちだけで余裕で倒せるはず。

 

 ――となると、こちらはロキだけか。まあ、そのロキもゼノヴィアと部長だけで十分そうだけど。

 

 ロキはフェンリルの動きを封じられたことで、焦るかと思ったのだが、まだ不適に笑いながらゼノヴィアと戦っていた。

 

 ゼノヴィアは右手に持った真・リュウノアギトで上段から切りかかりながら訊ねた。

 

「まだ何か策があるのか?」

 

「まあな!」

 

 ロキは襲い掛かってくる剣の腹を槍で弾いてかわし、槍を持っていない手から魔術の弾丸をゼノヴィアに放ち、距離を取った。

 

 ゼノヴィアから距離を取ったロキは両腕を広げた。

 

「フェンリルよりスペックは落ちるが、出し惜しみはできないようなのでな」

 

 グヌゥゥゥゥン。

 

 ロキの両サイドの空間が激しく歪み出した。

 

 ……な、なんだ? 何をする気――。

 

 ヌゥン。

 

 空間の歪みから、何かが新たに出てくる。

 

 灰色の毛並み。鋭い爪。感情がこもらない双眸。

 

 そして、大きく裂けた口!

 

「スコルッ! ハティッ!」

 

 ロキの声に呼応するかのようにそれらは天に向って吼えた。

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 夜空の雲が晴れ、金色に輝く満月が姿を現す。

 

 月の光に照らされて、二匹の巨大な獣――狼が咆哮をあげていた。

 

 ……フェンリルッ! ウソだ! なんで!? どうして!?

 

 1匹じゃなかったのかよ!?

 

 俺だけじゃなく、全員が驚き顔になっていた。いや、唯一、ヴァーリだけが楽しそうにしていた。

 

 2匹の新たなフェンリルを従え、ロキが言う。

 

「ヤルンヴィドに住まう巨人族の女を狼に変えて、フェンリルと交わらせた。その結果生まれたのがこの2匹だ。親よりも多少スペックは劣るが、牙は健在だ。十分に神、そして貴殿らも屠れるだろう」

 

 ……子供がいたのか、フェンリルに……。

 

 んなこと、知らなぇよ! ミドガルズオルムもそんなこと言ってくれなかった! あのドラゴンでも知らなかったことなのか! 最悪じゃないか!

 

 ロキが二匹のフェンリルに指示を送りだす!

 

「さあ、スコルとハティよ! 父を捕らえたのはあの者たちだ! その牙と爪で――」

 

 スギュゥウウウウウウンッ!

 

「――なっ!?」

 

 叫ぼうとしていたロキが驚愕の声をあげる。

 

 当然だ。轟音が鳴り響いたかと思えば、新たに出現した2匹のフェンリルの内、1匹が血だらけになって地面に沈んでいたんだ。誰だって驚く。

 

「スコル!?」

 

 ロキは狼狽しながら傷ついたフェンリルに治癒魔法をかける。俺たちは治癒魔法をフェンリルにかけているロキを止めることも忘れて、無慈悲な攻撃を放ったであろう人物へ視線を集めた。

 

「え……、えっ!? も、もしかしていま攻撃したらダメだった?」

 

 困ったような表情を浮かべる部長。……いや、攻撃はしていいですよ。というか攻撃して当然なんですが、見事すぎる不意打ちに皆どうリアクションしていいか困ってるだけなんです……。

 

「いや、さすが私の『王』だ。敵が油断し、口上を述べている途中での無慈悲な一撃。一見卑怯で、空気の読めない行動に見えるが、効率的でいい手だった」

 

 いち早く我にかえったゼノヴィアがフォローのような言葉をかけるが、全然フォローになってねえ!

 

「ひ、卑怯……、空気の読めない……」

 

 ほら、部長が落ち込んじゃったじゃねぇか!

 

「効率的で有効的な手段ですから、あまり気にしないでください」

 

「そうにゃ、バカみたいに戦闘中に話してるヤツが悪いのにゃ」

 

「……そ、そうよね。私は間違ってないわよね」

 

 セルベリアさんと黒歌さんがそう部長に声をかけている間に、ロキは治療を終え、再びこちらを睨んで両手を広げた。

 

「先ほどは油断してしまったが、もう油断も容赦もしない! ――さあ、スコルとハティよ! その牙と爪で奴らを食い千切るがいいっ!」

 

 ビュッ!

 

 風を切る音と共に二匹の狼があれの仲間たちのもとへ向かっていく!

 

 一匹はヴァーリのチームのほうへ。もう1匹はグレモリー眷属の方へ向ってきた!

 

 くっ! もう鎖はない! あの親フェンリルのほうに使っちまったからな!

 

「ふん! 犬風情がっ!」

 

 ゴオオオオオオオッ!

 

 タンニーンのおっさんが業火を口から吐きだしていた! おおっ! さすが元龍王だ! 子フェンリルを大火力の炎で包み込みやがった!

 

 ……けど、子フェンリルは炎のなかでも何事も無かったように動き続けている! ダメージは受けている! でも、決して怯む様子はなかった!

 

 あの2匹は真っ正面から倒すしかない! 俺が仲間のほうへ視線を送っていると、ロキとゼノヴィアが再び戦いを始めていた。

 

「ふはははっ! 動きが落ちているぞ! 体から迸っていたオーラも弱くなっているな!」

 

「ふんっ、術が切れ掛かっているだけだ。すぐにまた術をかけなおすさ!」

 

 ロキとゼノヴィアが槍と双剣を交し合う。ロキが言った通り最初よりゼノヴィアの動きが目に見えるほど落ち、体から噴き出していたオーラも少なくなっていた。

 

 こ、これはヤバいんじゃないか!? 加勢したほうがいいだろ!

 

 俺が背中のブーストを噴かせようとしていると、ロキはバッと後方へ下がり、槍を投擲するような体勢に移った! なんだ!? 槍からものすごいオーラが出てるぞ!?

 

「イッセー! いますぐ私に力を譲渡して!」

 

 部長から指示が飛ぶ! 俺はすぐに部長の指示に従い、溜め込んだ赤龍帝の力を部長へ譲渡する!

 

Transfer(トランスファー)!!』

 

 神器から流れる音声と共に、譲渡した力が部長を強化し、部長はそのオーラを弓に集めてロキへ向けて構え、放った。

 

 部長が弓を放ったのと同時にロキの手から槍が消え、ロキとゼノヴィアの間で光がはじけた!

 

 ガガガガガガガガガガガガガガッ、ガンッ!

 

 力と力のぶつかり合い。轟音が辺り一帯に鳴り響き、周囲の空間にも傷痕をつける! 

 

 一段と大きな音が鳴り響き、光が止むと、大きなクレーターが作られ、ロキの手に槍が戻っていた。

 

 ロキは驚きと感心が入り混じった様子で部長を睨む。

 

「まさかミストルティンの攻撃が相殺されるとはな」

 

「……私も驚いてるわよ。赤龍帝のオーラで強化したのに相殺するのがやっとだったことにね」

 

 部長も驚きの表情を浮かべてロキが持つ槍を見つめながらつぶやいた。

 

「ははははっ、楽しそうだな! そろそろ俺も混ぜてくれよ!」

 

 ヴァーリがロキと睨み合いをしていた部長とゼノヴィアの間に、空から高速で舞い降りてきた!

 

「……相手が神格だと半減の力がうまく発動できないからな。少しずつでもその力を削らせてもらう!」

 

 ドゥ! ドオウ! ドオオオオンッ!

 

 ヴァーリの手元から幾重にも魔力の攻撃を北欧の術式と混ぜながら撃ちだしていた。そのことごとくがロキの魔術でなぎ払われるが、全部が打ち消されるわけでもなく、何発かロキの体に当たっていた。しかし、魔術の壁を突破してもロキの鎧に全て防がれ、まったくダメージを与えられていないようだ。

 

「さすがは白龍皇! 短期間で北欧の魔術を覚えたようだが――甘い!」

 

 七色に輝く膨大な魔術の波動をロキが放っていく。ヴァーリは背中の光の翼を大きく展開して迎え撃つ格好だった。

 

『DividDividDividDividDividDividDividDivid!!』

 

「――これぐらいの攻撃ならば触れなくとも半減の力は発動できる。が、消耗が激しいのでね」

 

 あの半分にする領域の応用技か? ロキ本体にはまだ効かなくても、その攻撃には有効なのか。こいつも成長して新しい力を得ているようだ。怖い怖い!

 

 だけど、いくつか撃ち漏らしたものがヴァーリの鎧を撃ち抜く! 白龍皇の鎧が大きく破損するが、ヴァーリはすぐさまそれを復元させていった。

 

「いっけぇぇぇぇええええええええええっ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 俺も間髪入れず、ドラゴンショットを特大でロキに放つ! ハンマー使えなきゃ、こうやって攻撃していくしかねぇ!

 

 ドオオオオオオオッ!

 

 鋭く向かっていく俺の一撃だが、ロキは不適に鬼気迫る表情を浮かべて真っ正面から俺の攻撃を受け止め――。

 

 ドンッ!

 

 ヴァーリのほうへいなす! ヴァーリへ俺のドラゴンショットが向うが――奴は高速で動いて避けてしまった。

 

「ふはははは。白龍皇のほうは熟練した強さを誇り、赤龍帝のほうは凄まじい気合を込めて一撃を放ってきている。技術はないが、意外に侮れないものだ。うーん、すごい! 想いのこもった一撃というものはうちに響くもの。どれだけの想いをいまの攻撃に込めたものか。――鎧が無ければ腕ぐらいしびれていたかもしれんな」

 

 そう褒めてくるロキだが、全然余裕そうだ。まったく、なんて防御力してんだよ、あの鎧……。魔術の障壁を抜いた上で、あの鎧の防御力を突破するなんて無理じゃないか?

 

 だけど、赤龍帝の力を最大まで引き上げて部長に譲渡すれば……。

 

「赤と白の競演も十分楽しんだ。それに、リアス・グレモリーとゼノヴィアの2人を相手にするのにおまえらは邪魔だ。――特に赤龍帝! 倍加した力を譲渡されるのは面倒極まりない! そちらからぶっ殺しだッ!」

 

 あらら! ちょうど俺が考えていたことを読まれましたか!

 

 ロキはこちらを向く。――先に俺を取る気か!

 

「――何度も俺を無視するな!」

 

 ブゥンッ!

 

 ヴァーリが瞬時に動いて、こちらに攻撃の矛先を向けていたロキの背後を捕らえた!

 

 いける! ヴァーリは手にデカい魔力の一撃を込めている! あれが間近で当たればいくらロキでも――。

 

「避けろ!」

 

 ゼノヴィアが突然叫んだ! え!? なに――。

 

 バグンッ!

 

 ヴァーリが――横から現れたフェンリルの大きな口に食われた。

 

「ぐはっ!」

 

 吐血するヴァーリ! 牙が白銀の鎧を難なく砕き、ヴァーリの体を完全に貫いている。

 

 ヴァーリの鮮血がフェンリルの口もとを赤く濡らす。

 

 子フェンリルじゃない。親のほうだ! ……なんで親フェンリルが! 見れば鎖がついていない。まさか!

 

 振り向けば子のフェンリルが口に鎖をくわえていた! 俺の仲間と戦う振りして、親を解放したのか!

 

「ふははははっ! まずは白龍皇を噛み砕いたぞ!」

 

 哄笑するロキ!

 

「ヴァーリッ!」

 

 俺はヴァーリを救出するためにフェンリルへ突貫する! ハンマーは元のサイズに戻しておく。予定通りにいかないもんだよ!

 

 ヴァーリ! ここでおまえが終了ってのも作戦が成り立たな――くわないけど! 俺のライバルがこんなところで死ぬのは見過ごせない! いつか俺のチームとヴァーリのチームで戦うんだ! 絶対に助ける!

 

 俺の突貫に特に身構える様子も見せず、フェンリルは真っ正面から俺を迎え撃とうとしていた。……俺の攻撃なんて、怖くないってか!

 

「この駄犬がッ!」

 

 俺が鼻面に力のこもったストレートを打ち込もうとする! ――が。

 

 ザシュッ!

 

 ――ッ!

 

 前足を薙いでくる!

 

 爪で俺の体を赤龍帝の鎧ごと難なく切り裂きやがった……ッ! 痛えぇぇえ……ッ!

 

 ごふっ! 口から、腹から、血が飛び散る! マズい。ヴァーリがやられて、残った俺まで倒れたら――。

 

「ぬぅ! そいつらはやらせんっ!」

 

 タンニーンのおっさんが火炎の球で俺たちを支援してくれる! すごい熱量と大きさの炎だ! けど、フェンリルはやはり逃げる素振りも見せない!

 

 怪獣対決! サイズは似たようなもんだ! だったら、狼よりもドラゴンのほうが強く見えるさ!

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 例の透き通る美声での咆哮ッ! おっさんの炎がこの一帯の空気を震わせる狼の咆哮に打ち消されていく! マジか! 龍の一撃も咆哮ひとつで削除ですか!

 

 ビュッ!

 

 フェンリルの姿が一瞬で消えた!

 

 ザシュンッ!

 

 何かが切り裂かれる音! そして!

 

「ぐおおおおおおおおっ!」

 

 おっさんの悲鳴が聞こえてきた!

 

 ……おっさんの体がずたずたに切り裂かれてるッ! おっさんの血液が戦場に舞う!

 

 神速で動き、おっさんを爪で切り裂いた!

 

 ……………ッ! 俺はもどかしい思いに駆られていた! 伝説のドラゴン! 俺を鍛えてくれた恩人! あんなに強くて雄大なおっさんが為す術もなく切り裂かれたッ!

 

 なんだか、すごく悔しい。ドラゴンってのは最強の生物だって、聞いたのに! ドラゴンは誰よりも誇り高いと聞いていたのに!

 

 眼前のフェンリルはすべてを軽く破壊していくんだ!

 

 おっさんは血を口から吐きだしながらも奥歯にしまっていた何かを噛み砕いて飲んでいた。瞬時におっさんの傷が煙を立てながら消えていく。おっさんはフェニックスの涙を使ったんだ。いちおう、メンバー全員フェニックスの涙を所持しているからね。フェニックスの涙は今回の一戦のために悪魔サイドが送ってくれた物資だ。

 

 俺も懐から小瓶を取りだして、傷口にフェニックスの涙をぶっかけた。

 

 シュゥゥゥゥウッ。

 

 傷口から煙を立ち上らせながら、フェニックスの涙は俺のダメージを癒していく。

 

 ……しっかし、危なかった。あの爪、俺の体を深く抉りやがった。なんて攻撃力だ! 赤龍帝の鎧の硬さがあいつ相手だとまるで意味を成さない! だから、ヴァーリの鎧も難なく砕いたのだろう。おっさんの体もあれだけ大きく切り裂いた。フェンリルは牙、爪、その他全部が規格外なんだろうな。伝説のドラゴン3体を相手にして、無傷で全部突破ってどういうことだよ……ッ!

 

 この狼はとんでもない怪物だッ!

 

 前衛の俺とヴァーリはフェニックスの涙をいくつか持たされている。でも、噛まれている状態だと、フェニックスの涙を使ったところで貫かれている状態は変わらないから、意味がない。あそこから、解放してやらないと。

 

「まったく、伝説のドラゴンが3体もいて情けない」

 

 ズオオオオオオオォォォォオンッ!

 

 声が聞えたと思ったら、突然青い閃光が走り、フェンリルの胴体を貫いた! ――っ!? な、何が――!?

 

「ぐぅ……」

 

「ほら、さっさとフェニックスの涙を飲め」

 

 慌てて周囲を確認すると、フェンリルの口から吐きだされたであろうヴァーリが地面に転がっていて、その前にセルベリアさんが槍と丸い盾を装備して立っていた。

 

 さ、さっきの一撃はセルベリアさん?

 

 グオオンッ。

 

「ふっ、まだ生きていたか」

 

 フェンリルの声に気づいて構えるセルベリアさん。フェンリルは胴体から血を流し、かなりのダメージを負っている様子だ。

 

「――って、すげぇ! 一撃でフェンリルに大ダメージを負わせたよ、あの人!」

 

 俺たちの攻撃なんてまったく効く様子もなかったのに、どんだけ強えんだよ!

 

「クッ! セルベリア・ブレスか……!」

 

 ロキもフェンリルを一脚され憎々しげにセルベリアさんを睨んでいた。

 

 セルベリアさんはロキの視線を正面から受け止め、無言で槍の先を向けた。

 

「……やはり貴殿も力を増していたようだな。フェンリルも傷ついたいま、もうなりふりかまっていられんか。――こい、我が下僕たちよ!」

 

 今度は何をするきだよ!

 

 ロキの足元の影が広がり、そこから――巨大な蛇! いや、体が長細いドラゴンが複数現れる!

 

 ……あの姿、見覚えあるぞ! かなり小さくなっているけど、間違いない!

 

「ミドガルズオルムも量産していたかッ!」

 

 タンニーンのおっさんが憎々しげに吐いた!

 

 そう! その通りだ。ミドガルズオルムそっくりで、タンニーンのおっさんぐらいのドラゴンが1、2、3……5匹!

 

 ゴオオオオオオオゥッ!

 

 量産型どもがいっせいに炎を吐いてきやがった!

 

「その程度でッ!」

 

 ゴバァァァァンッ!

 

 量産型ミドガルズオルムの炎はタンニーンのおっさんの火炎で吹き飛ばされていく。

 

 うはっ! やっぱ本物のドラゴンの炎はすっげえよな!

 

 この攻防で戦局が大きく動く!

 

「こなくそ!」

 

「いい加減にくたばりなさい!」

 

 美猴と朱乃さんの声。ヴァーリチームとグレモリー眷属たち、それに黒歌さんが子フェンリル2匹と激戦をくりひろげていた。

 

「雷光よッ!」

 

 カッ! ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 バラキエルさんが朱乃さんの放つ雷光の10倍以上――極太とも言える大出力の雷を天から落とし、子フェンリルにぶつけるが――。

 

 奴ら、ダメージを受けても平気な様子で攻撃を再開してくる! いまのでだいぶダメージを受けたと思うんだが……戦闘意識的なものが俺の認識を超えている!

 

「ギャスパーさん! フェンリルの視界を奪ってください! 小猫さんはその瞬間に仙術での打撃でフェンリルの動きを止めて、黒歌さんが止めをさしてください!」

 

 部長の代わりに朱乃さんが司令塔となって指示を飛ばす! ギャスパーの体が無数のコウモリと化していく。

 

「えいえいえい!」

 

 コウモリと化したギャスパーがフェンリルの目に集まり、視界を奪う! いいぞ、ギャスパー!

 

「少しでもフェンリルの気を断ちます!」

 

 ギャスパーのおかげで視界が一時的に塞がっている子フェンリルの懐へ入り、小猫ちゃんが一撃を入れる!

 

浸 透 拳(しんとうしょう)!」

 

 ゴホォウッ!

 

 小猫ちゃんが張り手のように子フェンリルの腹に拳打を決めると、まるで衝撃が後ろへ突き抜けたかのようにフェンリルの背中側の毛が逆立ち、ホコリが舞い上がった! 子フェンリルの口から血が吹きだす!

 

 こ、小猫ちゃん……いつの間にロリっ猫娘から格闘猫少女に転向したんだ?

 

「ギャスパーくん、すぐにそこから離れて! 黒歌さん、止めをお願いします!」

 

 朱乃さんの指示を受けてギャスパーが子フェンリルから退避し、入れ替わるように黒歌さんがフェンリルの前に立った。黒歌さんが胸の前で手を合わせ、そして開いた。その手の間から黒くものすごい密度のオーラを感じる。

 

「さあ、食らうにゃ! ――にゃんにゃん波ぁぁぁっ!」

 

 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウッ!

 

 黒歌さんがそう叫びながら両手をフェンリルへ向って突き出すと轟音が響き、黒いオーラの球体がフェンリルの体を包み込んだ!

 

 グオオオオオオオオオ…………。

 

 フェンリルから苦しそうな声が漏らすが、黒歌さんの技から抜け出せずに、やがて声も出せなくなって地面に沈んだ。

 

 黒いオーラの放出を止めて技を解除したあとには全身に裂傷を負い、地面を鮮血で染め上げたまま動く様子がない子フェンリルがいた。

 

 す、すげえっ! 連携で子フェンリルを1匹倒しちゃったよ! ていうか最後の黒歌さんの技! 高濃度のオーラで敵の全身を包み込んで攻撃するって、かわいらしい名前のわりに凶悪だ!

 

「さあ、皆さん! もう1匹を始末しますわよ!」

 

 朱乃さんはそう叫ぶとヴァーリチームのほうへ視線を向け、即座に援護へ向う。

 

「――こいつはどうだ?」

 

 ゴバァァァァァァァァンッ!

 

 少し離れたところではタンニーンのおっさんが大出力の火炎を量産型ミドガルズオルムに吐きだしていた! 戦場を炎の海が大きく包み込む!

 

 炎のなかで量産型ミドガルズオルムの1匹がもがき苦しんでいる様子だった! さっすが元龍王の火炎だ! 量産型のミドガルズオルムは炎のなかで消し炭になっていた。

 

「もう一丁!」

 

 ゴオオオオウゥゥンッ!

 

 おっさんは大きく息を吸い込み、特大の火炎球を口から吐きだして量産型のミドガルズオルムをもう1匹弾き飛ばした! 地面に大きなクレーターを創り爆風を巻き起こすけど、頼もしい限りだよ!

 

 すげえ。龍王の量産型なんておっさんの相手にならないんだな。やっぱり、おっさんは強い!

 

「やらせません!」

 

 ロスヴァイセさんも北欧の魔術を展開して、タンニーンのおっさんの援護をしている!

 

 雨のように魔術の球が降り注ぎ、敵に突き刺さっていく。

 

 おおっ、ミドガルズオルムに確実にダメージを与えているな。セルベリアさんといい戦乙女ってすごい!

 

「回復を! そちらも!」

 

 合間合間にダメージを受けた者へアーシアが回復のオーラを飛ばす。連携で手傷を負う者は少ないが、効果は絶大でかなり役に立っている!

 

 グレモリー眷属と黒歌さんが討ち果たした子フェンリルとは別のもう一匹の子フェンリルを攻撃しているヴァーリチームも相手を押しているように見えた。

 

「オラオラオラオラオラ!」

 

 美猴が如意棒の乱打で子フェンリルを何度も殴打していく!

 

「デカくなれ、如意棒ッ!」

 

 ドンッ!

 

 うおっ! 巨大なサイズになった棒を美猴が振るい、子フェンリルの頭部へ鋭く打ち付ける!

 

「にゃはは♪ 動きを止めるにゃ」

 

 そこへ黒歌さんがフォローを入れて子フェンリルの足元をぬかるみに変えた。この人本当に多才だよな。

 

 足を取られ、動きを封じられた子フェンリルに絶大なオーラを放つ聖剣で斬りかかる者がいた。――聖王剣のアーサー!

 

「――とりあえず、方眼を奪っておきますか」

 

 ザシュッ!

 

 子フェンリルの左眼を聖王剣で大きく抉っていく!

 

「次は爪」

 

 さらにそのまま肉ごと前足の爪をそぎ落としていく! うわぁぁぁ! すごい残酷な攻撃をしやがるぜ、あの剣士! しかもすました顔でそれをやるから怖い!

 

「――そして、その危険な牙も! この聖王剣コールブランドならば、子供のフェンリルごとき空間ごと削り取れるはずです!」

 

 ゴリュッ!

 

 聖王剣が空間を震わせながら、牙を削り取った!

 

 ギャオオオォォォォン!

 

 さすがの子フェンリルも、左眼、爪、牙とやられて、激痛で悲鳴をあげていた。

 

 ――強い。

 

 これがヴァーリの仲間か。いくら相手が子フェンリルで、黒歌さんのフォローもあったとはいえ、尋常ではない強さのはずだ。

 

 それをこれといって苦戦する様子もなくたった2人で相手取って戦っていたなんて……。

 

「さてと、私もあの犬を始末するか」

 

 と、ここで親フェンリルと対峙していたセルベリアさんも動くようだ。槍に尋常じゃないオーラが収束され、全身からも蒼いオーラが噴き出している。……全身からオーラってゼノヴィアと同じ術? いや、セルベリアさんが教えたのか?

 

 セルベリアさんが槍をフェンリルへ向けると、フェンリルは警戒している様子を見せた。俺やおっさんの攻撃は無視していたのに。あの槍は警戒しなければいけないほど危険な力を秘めてるってことなのか?

 

「……待ってくれ」

 

 セルベリアさんが槍に蒼いオーラを集めて放とうとしていると、フェニックスの涙で怪我を回復させたであろうヴァーリが立ち上がり、セルベリアさんを止めた。

 

 セルベリアさんはフェンリルから視線を放さず訊く。

 

「なんですか?」

 

「そのフェンリルは俺が倒す」

 

 力強くそう宣言するヴァーリに、セルベリアさんは冷笑を浮べた。

 

「手も足も出せていないあなたがですか?」

 

 ヴァーリはセルベリアさんの言葉を無言で飲み込み、うなずいた。

 

「ああ、俺が倒す。……残念だがいまの俺では鎧をまとい、神殺しの概念と鎧の防御力を無視するミストルティンまで装備したロキを倒すことは不可能だ。……加勢したところで足を引っ張るだろう。――だが、このまま何もしないわけにはいかないんでね」

 

「……そうですか、まあいいでしょう」

 

 セルベリアさんは槍を引いてヴァーリに親フェンリルの相手を譲った。

 

「感謝する。……兵藤一誠」

 

 ヴァーリが俺に話しかけてきた。

 

「……ロキと、その他はキミと美猴たちに任せる。――俺はこの親フェンリルを確実に殺す」

 

 それを耳にしてロキが笑う。

 

「ふははははははっ! 貴様が? どうやってフェンリルを殺すというのだ! まるで相手になっていなかったではないか!」

 

「――あまり天龍を、このヴァーリ・ルシファーを舐めるな」

 

 ぞっ……。

 

 ヴァーリは寒気がするほどの睨みをロキにくれたあと、静かに口ずさみだした。

 

 同時に神々しいオーラがヴァーリから発せられる! 鎧の各宝玉が七色に輝き出していた。

 

 カアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

「我、目覚めるは――」

 

<消し飛ぶよっ!><消し飛ぶねっ!>

 

 ヴァーリではない声が響いていた。 ……白龍皇の内に存在する歴代所有者の思念だろうな。こんな怨念のこもった声を発するのか……ッ! 俺の内にもこんな怨念が眠っているんだろうな。

 

「覇の理に全てを奪われし、二天龍なり――」

 

<夢が終わるっ!><幻が始まるっ!>

 

「無限を妬み、夢幻に想う――」

 

<全部だっ!><そう全てを捧げろっ!>

 

「我、白き龍の覇道を極め――」

 

「「「「「「「汝を無垢の極限へ誘おう――ッ!」」」」」」」

 

Juggernaut(ジャガーノート) Drive(ドライブ)!!!!!!!!』

 

 この採掘場跡地全域をまばゆく照らす、大出力の光がフェンリルの口から溢れ、そして狼自信をも呑みこんでいく。

 

 すげぇぇぇえええええっ! もう俺じゃ計れないぐらい圧倒的なパワーを感じてしまう。

 

「兵藤一誠、これが『覇龍』だ」

 

 ヴァーリの白銀の鎧もオーラの増大と共に徐々に変化していく。龍を模した全身鎧から、完全に龍のようなフォルムに変化してる。

 

 巨大な光と化したヴァーリがフェンリルを睨む。まったく警戒する様子も見せていなかったフェンリルも『覇龍』を警戒し、体から殺気を噴き出させた。

 

「いくぞ――」

 

 ドオオオオオオオンッ!

 

 ――っ! ヴァ、ヴァーリの姿が消えたと思ったら、親フェンリルの体が後ろへと吹き飛んだ!

 

 吹き飛ぶフェンリルにヴァーリは追撃し、白龍皇のオーラでフェンリルの体を包む。

 

『DividDividDividDividDividDividDividDivid!!』

 

 鳴り響く音声と共にフェンリルの体が小さくなり、感じていた力も小さくなっていく。す、すげえ……素早さだけじゃなく、基礎能力から半減の能力まで爆発的に強化されてるようだ。……これが、『覇龍』……。

 

 ライバルと違って短時間でも『覇龍』を発動できない俺は、畏怖や感心などの色々な思いで見ていると、戦場の空から何者かが現れた。

 

 ふわふわと空から侵入者が降りてくる。

 

「うわ! もうヴァーリが『覇龍』を発動してる!」

 

 空から降ってきたのは魔女スタイルの魔女っ子だった。な、なに? ヴァーリの知り合い?

 

 俺が疑問符を浮べていると、ヴァーリがフェンリルを押さえつけながら魔女っ子に向って叫んだ。

 

「ルフェイ! 俺とフェンリルを予定のポイントに転送しろッ!」

 

「は~い♪」

 

 なんとも緊張感のない返事を魔女っ子は返すと、転移用の魔法陣が親フェンリルの足元に広がり、この場から消えていく。

 

「ヴァーリ!」

 

 叫んでみたものの返事などあるはずもなく。ヴァーリは完全に転移した。

 

 あいつ、『覇龍』の影響が俺たちに及ばなくするために親フェンリルをどこかへ転移させて戦うつも――りなわけはないか! 予定のポイントとか言ってやがったし、よからぬことでも企んでいたんだろう。

 

「じゃあ、あと2匹! 転移させるよ~!」

 

 魔女っ子はそう言うと、子フェンリルの足元にも転移の魔法陣を展開させる。瀕死か死んでいるだろう子フェンリルも転移させるのか?

 

 まさかこいつらの狙いは――。

 

「ま、待ちなさい、ルフェイ! 子フェンリルまではいらな――」

 

「じゃあ、転移させるからね!」

 

「少しは話を――」

 

「えい!」

 

 魔女っ子の行動に狼狽しながら転移の光に包まれ子フェンリルと共に消えていくアーサー。やれやれといったポーズをしながら同じく光に包まれて美猴までもが消えていった。

 

「じゃあ皆さんさようなら~♪」

 

 最後に魔女っ子はこちらに頭を軽く下げてから同じく転移魔法を使用して、この場から消えた。

 

 え~と……、と、とりあえずフェンリルの脅威は去ったと考えればいいのかな? 色々と納得できないけど……。

 

 あとはロキとミドガルズオルムの量産型が数匹か。

 

「むう、これ以上集まられては厄介だ」

 

 子フェンリル組が俺たちの加勢に動こうとしていると、ロキが再び空間を歪め、先ほどよりも数を増して量産型ミドガルズオルムを出現させた。

 

 10体近くのミドガルズオルムがフェンリル対策組みに襲い掛かる!

 

 追加で10体もミドガルズオルムを出せるのかよ! 俺がそう悪態をついていると、俺の視界に黒が映り込んだ。

 

 ブオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 黒い炎らしきものが地面から巻き起こり、うねりとなって、ロキと量産型ミドガルズオルムを包み込んだ!

 

 今度は何事だよ!?

 

「――ッ! この漆黒のオーラは!?  黒邪の龍王 (プリズン・ドラゴン)か!?」

 

 ヴリトラ? 匙か! そういえばなんとなく匙のオーラの質に似ているかも。でも、炎まで持っていなかったぞ、あいつ。

 

 地面に現れた巨大な魔法陣。その中心から、黒い炎がドラゴンの形となって生みだされていく。

 

『兵藤一誠くん。聞えますか? 私はグリゴリの副総督シェムハザです』

 

 ――っ。

 

 緊急用に耳につけていたイヤホンマイクから、聞き覚えの無い声が。ああ、先生の同僚の方だ。

 

「あ、どうも。あのでっかい黒いドラゴンを送ってくれたのはシェムハザさんですか?」

 

『ええ。アザゼルに匙くんのトレーニングが終わったら、こちらへ転送するように言われましたから』

 

「あれ、やっぱり匙ですか!?」

 

 あらー、まるで炎のドラゴンじゃないか。真っ黒だよ。黒い炎がドラゴンを形作っている感じだ。あれがヴリトラなのか。

 

『ええ、アザゼルが少々計算ミスをしてしまったようでして。トレーニングを開始したのですが、このままの状態になってしまいまして。時間が来たので、この状態のまま送ってみることにしたのです。まあ、敵と味方の区別だけはついていうようですね』

 

 結果オーライっスか! うーん。堕天使って大胆だよな。

 

「何やったんですか?」

 

『彼にヴリトラの神器を全部くっつけました』

 

 また、そんな無茶を……。

 

 口元を引きつらせる俺へ服装得さんは続ける。

 

『ヴリトラは退治されて神器に封じ込まれるとき、何重にもその魂が分けられてしまった。そのため、ヴリトラの神器所有者は多いのです。だが、種別で分けると「黒い龍脈」、「邪龍の黒炎」、「漆黒の領域」、「龍の牢獄」、この4つです。これらの神器が多少の仕様の違いで各所有者に秘められていたのですよ。そして、我が組織グリゴリが回収し、保管していたそれらのヴリトラの神器を匙くんに埋め込みました。あなたとの接触がヴりとらの意識が出現していたのですべての神器が統合されるかもしれないとアザゼルは踏んだのです』

 

 なるほど、それで先生は匙を連れて行ったのか。

 

『結果、神器は統合され、ヴリトラの意識は蘇りました。――が、蘇ったばかりで暴走してしまったようですね。しかし、匙くんの意識は残っているようなので、あなたがドライグを通じて語りかければ反応するはずです。あとはあなたにお任せします。できますか?』

 

「……ええ、なんとかやってみます。いざとなったら、力尽くで匙を止めます」

 

 匙――ヴリトラの黒い炎がロキと量産型ミドガルズオルムを包み込み、その動きを封殺していた。炎が意思を持つかのように蠢き、蛇が巻き付いているように見えた・

 

「くっ! なんだ、この炎は!? 動けん! ……ぬぅ! 力が徐々に抜けていっている!? これはあの黒いドラゴンの力か!? 特異な炎を操る龍王がいたと聞いたことがあるが、まさか、これがッ!」

 

 ロキも狼狽している様子だった。量産型ミドガルズオルムが炎のなかで暴れるが脱出はできそうになかった。

 

『ヴリトラは直接的な攻撃よりも特異な能力を持っていました。パワーは龍王のなかでは弱いかもしれませんが、こと技の多彩さ、異質さは随一でしょう』

 

「……すっげぇな。あの、副総督。他にもヴリトラ神器があるなら、同じことをして量産できるんじゃ?」

 

『可能性はゼロに近いでしょう。もともと神器をあとから付加するのは危険な行為でして、下手をすると死に至ります。しかし、今回のケースはあなたと匙くんがお友達で、お互い通じ合えたからこそ、ヴリトラの意識は奇跡的に復活できたのです。同じ経緯で同じ現象が起こるかどうかは難しいところでしょうね。ちなみに新たな力を付加してもうちに眠る「悪魔の駒」は変動していません。基本ベースは「黒い龍脈」ですからね。彼自身の生身のステータスも特に変化しないでしょう』

 

 匙限定か。ヴリトラパワー、また厄介な力を手に入れやがって!

 

『それはともかく、あの力はいまの匙くんでは長続きしませんよ。敵が封殺されている間に早く倒してしまいなさい』

 

「了解!」

 

 よっしゃ! だったら決着つけようせ!

 

 俺はミョルニルを手にして巨大なハンマーに変えた! ――っ! 重い! やっぱり軽くなってねぇ……!

 

 だけど、関係ねえっ! このまま思いっきり、ぶっ飛ばしてやる!

 

 俺がブーストを噴かせてロキに突っ込もうとしたそのとき。ロキが体に巻きつく黒い炎に逆らって槍先を匙に向けた。まさか――。

 

「目障りなドラゴンめ! 先に滅ぶがいい!」

 

 ロキがそう叫ぶと槍から神々しくも黒々した神殺しのオーラが放たれ、ロキの体に巻きついていた匙の黒い炎が霧散した。……ヤバい、ヤバいぞ! あの一撃はヤバいっ!

 

 黒い炎の龍となっている匙も避けるどころか警戒する様子も見せない! 暴走してるからか! あんなのまともに食らったらマジで死ぬぞ!

 

「匙っ、避けろぉぉぉっ!」

 

 咄嗟に俺がそう叫ぶが、匙は相変わらず避ける様子もなく、ロキも槍を投擲した。

 

 周りがスローモーションになり、槍が匙の体目掛けて飛んでいく様子が見えた。俺は匙を助けようとブーストを噴かせているが槍にまったく追いつけない。

 

 このままじゃ、本当に匙が……!

 

 俺が諦めかけたそのとき。銀色の閃光が俺の横を、まるで時間軸が違うかのように追い抜き、槍の前で止まった。

 

 ズォオオンッ!

 

 銀色の閃光と槍との衝突で起こった衝撃と爆音で、周囲の時間が元に戻る。

 

 さっき駆け抜けていったのは、

 

「セルベリアさん!?」

 

 銀髪に赤い瞳。長身に特大サイズのおっぱいは見間違わない! セルベリアさんが匙と槍との間に入って、ロキの槍を丸い盾で受け止めてくれている!

 

 ロキの槍から噴き出るオーラと、セルベリアさんが体から放っている蒼いオーラが衝突し、均衡し、槍と盾が火花とオーラを弾けさせる。

 

 その様子にロキが驚いたような、感心したような様子で叫ぶ。

 

「まさかミストルティンを受け止めるとは! もはや貴殿は戦乙女の領域を超えているな!」

 

「ふふ、力だけでいうとそうなのでしょうが、私は永遠に神城エイジさまの戦乙女です!」

 

 セルベリアさんは冷笑を浮べてそう宣言する! 言葉にもまったく迷いのようなものがない! 完全にエイジの虜になってやがる……! この爆乳!

 

 ぞっ……。

 

 一瞬、背筋に冷たいものを感じた! ああっ、見ればセルベリアさんが真っ赤な瞳でこちらを汚物でも見るかのような視線で見下していらっしゃる! ま、まさかいつも爆乳見てたのがバレて……、いやでもあのサイズのおっぱいは滅多に見れないし、視線がいっても仕方がな――。

 

 ぞっ……!

 

 再び向けられるトンでもない殺気……。

 

 す、すみません……。

 

 俺が後ろに下がると、セルベリアさんはふんっと不機嫌そうにロキに向き直り、体から膨大な量の蒼いオーラを噴き出させて盾を破ろうとしていたロキの槍を弾いた。

 

 弾かれた槍はロキの元へ戻り、ロキは槍を構え直した。

 

 睨み合うロキとセルベリアさんに、もう1人の戦乙女のロスヴァイセさんが興奮した面持ちで声をあげた。

 

「さっすが先輩です! まさかミストルティンを防ぐだけじゃなく、弾くなんて! 私もオーディンさまの護衛として負けていられません!」

 

 と、魔法陣を空中に展開させて匙の黒い炎に捕まっている量産型ミドガルズオルムたちに魔術攻撃を縦横無尽にぶっ放した!

 

 ドオオオオオオオオンッ!

 

 明らかにいままでよりも多大なダメージをミドガルズオルムが食らってる!

 

「ぼ、僕も! 祐斗先輩の分までが、がんばります!」

 

 ロスヴァイセさんの攻撃に溜まらず、黒い炎から抜け出そうとする量産型ミドガルズオルムに、フェンリル対応組みのギャスパーも加わり、神器である『停止世界の魔眼』で動きを停める!

 

「私もミカエルさまのエースとして手柄をあげさせてもらうわ!」

 

 動きを停めたミドガルズオルムに、止めとばかりに切りかかるイリナ。おおっ! ちゃんとギャスパーの時間停止が効いてる! そっか! 匙の力でパワーを吸われているから、少しずつ弱体化しているんだ!

 

 ――って、ロキを拘束していた黒い炎が解けたままじゃないか! あの鎧と武器も厄介だし、また黒い炎で拘束してもらわないと!

 

『匙、匙聞えるか?』

 

 俺は神器を通して、黒い炎のドラゴンと化している匙の意識へ接触を試みた。

 

『…………うぅ』

 

 おっ! 反応あり!

 

『匙。俺だ、イッセーだ』

 

『ひょ、兵藤か……? 俺、いまどうなっている……? なんだか、とてつもなく熱くて体が燃え尽きてしまいそうなんだ……』

 

『意識をしっかり保てよ! せっかく格好良く登場したんだから、最後の最後まで仕事をしてからぶっ倒れてくれ!』

 

『……どうすればいい?』

 

『周りに何か見えるか?』

 

『……黒い炎のなかに、細長くて大きなドラゴンが見える……』

 

『そいつらをそのまま繋ぎ止めていてくれ。そう念じればいいと思う。とにかく、強く思え! あと、槍を持った人型は見えないか?』

 

『…………見えた。……黒い鎧を着た槍を持った奴と、蒼いオーラを放ってる槍の……、爆乳』

 

『…………よし! その爆乳は味方だ! 黒い鎧のほうが敵の親玉なんだ! また黒い炎を出してなんとか拘束してくれないか?』

 

『……わかった。やってみる』

 

 黒い炎のドラゴンの体がゆっくりと揺らめき、ロキへ向って黒い炎の一部が放たれた。おおっ! やればできるじゃねぇか!

 

「ふっ、甘いぞ!」

 

 ロキは黒い炎を簡単にかわす。くっ、そりゃあ危険度がわかってんだから避けるよな!

 

「そろそろ私も加わろうか!」

 

 黒い炎を避けたロキに向って、オーラを全身から噴き出されているゼノヴィアが攻撃を仕掛けた!

 

「ゼノヴィアか!」

 

「今度こそ倒させてもらう!」

 

 ゼノヴィアの2振り大剣が×字に振られる! ロキはそれを槍を盾にして防ぎながら後方へ飛び、衝撃を流す!

 

「ぬうぅぅぅっ! ――っ!」

 

「私たちも忘れたらダメにゃ♪」

 

「……鎧が強固でも内側からなら!」

 

 後方へ飛んだロキに追撃するよう黒いオーラを纏った黒歌さんと、黒歌さん同様白いオーラを纏った小猫ちゃんが拳 低(しょうてい)を打ち込む!

 

 今度は反応できなかったロキは背中に黒歌さんと小猫ちゃんの拳低をまともに食らい、地面を転げながらふっ飛んだ!

 

「ぬぐぅぅっ! ごはっ! 鎧を通してダメージが……! これが仙術か!」

 

 ロキは血反吐を吐きながらも立ち上がる。すげぇ! 内側に直接ダメージを与える仙術か! それじゃあ鎧も意味がないよな!

 

「ぬぅ! あの忌々しい炎まで……!」

 

 かなりの大ダメージを負ったであろうロキに追い討ちをかけるように、匙の黒い炎が巻きついた! よし、あとは止めだな!

 

 俺が再びミョルミルを持って背中のブーストを噴かせ、ロキに止めを刺そうとしていると、部長が弓を構えていた。

 

 我らが部長が凛々しくも弓を構えてトンでもないほどのオーラを矢の形に圧縮しながらロキに狙いをつけていたのだ。

 

 こ、これは、いま行けば巻き込まれるよね……?

 

 俺がそう思って躊躇っていると、部長の後ろに朱乃さんが立っていることに気づいた。朱乃さんが部長の肩を叩いて、ニッコリ笑顔で言う。

 

「部長、最後は私にやらせていただけませんか?」

 

「…………まったく、……わかったわ。――好きにしなさい」

 

 朱乃さんの言葉に最初は部長も驚きの表情を浮かべて困惑していたが、ふぅっとため息を吐くと、弓に溜めていた魔力を霧散させた。

 

「ありがとうございます」

 

 朱乃さんは部長に軽く頭を下げ、前へ出る。

 

 ズオオオンッ!

 

 部長と朱乃さんとのやり取りの間に、体に溜めたオーラを放ってロキが匙のオーラを散らした。荒い息を吐きながら朱乃さんを睨む。

 

「はぁはぁ……、貴様が相手か……ッ!」

 

「ええ、私が相手になりますわ」

 

 ロキの視線を正面から受け止め、朱乃さんは手元の空間を歪めて手を突っ込んだ。

 

「朱乃! 深手を負ってるとはいえロキの相手は――」

 

「心配ありませんわ」

 

 バラキエルさんが心配した面持ちでそう叫ぶが、朱乃さんは一言で切り捨てた。……うーん、前は反応も返さなかったし、返したとしても口調が刺々しかったけど、いまはそういう感じはしない。お母さんが生き返ったから少しは関係がよくなったのか?

 

 ズゥゥンッ。

 

 朱乃さんが空間から取り出したのは無数の刃が付けられたムチだった。そのムチは持ち手の部分だけでなく、刃にも黄金で装飾が施されていた。複雑な紋様から魔術的なものなんだろう。

 

 バチンッ!

 

 朱乃さんは地面を叩くと、バチィイッ! と雷光が爆せた!

 

 な、なんだ!? あのムチ! バラキエルさんの出した特大の雷光よりも力を感じる!

 

「雷光……まさかバラキエルの娘か……」

 

 ロキはそうつぶやきながら槍を構えた。

 

「…………」

 

 朱乃さんは無言で体から雷光を迸らせながら戦闘態勢を取る。や、やっぱり関係はまだ悪いのか? 俺にはよくわからないな……。

 

「私も彼の代わりにがんばると約束いたしましたから。――あなたを倒させていただきますわ」

 

「ふんっ! だったらくるがいい! 返り討ちにしてやろう!」

 

 ロキは槍を朱乃さんへ向けてそう言い放つと、空中に無数の魔法陣を展開させ始めた。

 

 あれは俺とヴァーリに向けて撃ったのと同じ、追尾型の魔力の球を出した魔法陣! しかもかなりの魔力が込められている!

 

 やっぱり全員で一気に倒したほうがいいんじゃないか!? 俺は『赤龍帝の鎧』があるから魔力の球を防げるけど、鎧を着てないメンバーは……!

 

 だが、俺のそんな心配と裏腹に朱乃さんはニッコリ笑顔を浮かべ続け、部長もまったく動揺している様子などもなかった。

 

「いつまでもその笑みが続くとは思うな!」

 

 ロキが魔法陣から無数の魔力の球を出現させ、それを朱乃さん目掛けて放つ。

 

 無数の魔力の球が朱乃さんへ迫るが、朱乃さんは縦横無尽にムチを振り回し、ロキの放つ魔力の球を全て打ち落とした! す、すげえ! さっすが我らが副部長!

 

「くっ、やるな! だがミストルティンまでは防げまい!」

 

 ロキが槍を構えて朱乃さんに突っ込んでくる!

 

「確かに。私にはその槍は防げません。――ですが、槍以外ならいくらでも防ぐ手段を持ってますわよ」

 

「なにを――っ!」

 

 朱乃さんが指をパチンと鳴らすと、槍を構えて迫っていたロキの前へ何かが飛来した!

 

「ちぃっ!」

 

 ズガガガッ!

 

 ロキが慌てて回避行動をとる。その瞬間ロキの進行方向だった先に何かが刺さっていた。あ、あれはシトリー戦や元魔王の血族との戦いで見せた雷光の槍!

 

 どこから落ちて――。

 

 と、疑問に思って空を見上げると、俺たちをもすっぽりと覆うように無数の魔法陣が展開されていた!

 

「い、いつの間に!?」

 

 ロキも空を見上げて驚愕していた! ま、まさかこれだけの魔法陣を一瞬で?

 

 疑問に答えるように朱乃さんが言う。

 

「本当はフェンリル用に少しずつ用意していたものだったんですが、使う必要もなくフェンリルが倒されてしまいましたから。このまま消すの勿体無かったので、あなたを倒すために、数と質を高めて改めてあなた用に仕掛けさせてもらいましたの。――幸いにも私は司令塔で魔力の消費もなにもほとんどありませんでしたし、仕掛ける時間もたっぷりありましたので」

 

 …………ロキを倒すためにじっくり準備していたんですね……。だったらこの空を覆うような魔法陣にも納得です……。

 

「ぐう……」

 

 ロキは喉を鳴らしながら憎々しげに朱乃さんを睨む。まあ、ロキからしたら他と戦っている間に罠をそこら中に仕掛けられたもんだからなぁ。

 

 朱乃さんがムチで地面をバチィイッ! と叩いて戦闘態勢をとった。

 

「待たせている方がいるので、さっそく終わらせていただきますわ」

 

「受けてたつ。――くるがいい!」

 

 ロキが槍を再び構えなおした瞬間、朱乃さんの姿が消えた! どこへ行ったか慌てて視線を向けると高速でロキへ突っ込んでいた! は、早ええっ! 初速がトンでもなかった!

 

 ロキも一瞬朱乃さんを見失ったようだったが、すぐに朱乃さんの姿を捉え、槍先を向けようとするが――。

 

 ガガッ!

 

 空中の魔法陣から飛来する雷光の槍が狙いを定める邪魔をする!

 

「むうっ!」

 

 ロキが飛来する雷光の槍に気をとられている隙に再び朱乃さんの姿が消える! 朱乃さんを見失ったロキは周囲に視線を向けると、気配を察したのか突然後ろを向いて槍を突き出した!

 

「そこか!」

 

 ロキの声と共に槍が突き出されるが、ロキの槍の先にあった物は飛来してくる数本の雷光の槍だった。

 

「なに!?」

 

 ロキが驚愕の表情を浮かべるが攻撃を止めることはできないようだ。突き出されたロキの槍は飛来する数本の雷光の槍の内1本を消し去るだけで、他の数本の雷光の槍は防げずにその身に受けた。

 

 バチバチバチバチバチィイイッ!

 

 ロキの体を中心に雷光が爆発する!

 

 す、すげえ! 明らかに堕天使幹部であるバラキエルさんが放つ雷光の威力を超えてる!

 

 辺り一帯を光らせていた雷光が止んだあとには、かなりのダメージを負ったであろうロキが片膝をついていた! 漆黒の鎧だからわかり難いが、鎧も焦げて無数のヒビが見て取れた。

 

「ぐ、ぐうぅぅっ……」

 

 ロキはよろよろと立ち上がりながら朱乃さんの姿を探す。

 

「ここですわよ」

 

「――っ!」

 

 ダメージを負いながらも朱乃さんを警戒して周囲を探すロキの後ろに立って、わざと声に出して自分の居場所をバラした。あ、朱乃さん!? 止めを刺す絶好の機会だったじゃな――、あ、この眼って――。

 

「これで終わり、ではないですよね? ……まだ私の『雷光鞭』も見せていないので、もう少しがんばっていただきたいのですが」

 

 や、やっぱり……初めてはぐれ悪魔との戦闘を見せてもらったときのド、ドSな眼だ!

 

「ふ、ふざけるなぁあああああああっ!」

 

 ロキが舐められたと思ったのか青筋を浮べながら槍を突き出そうとするが――。

 

「あらあら、まだ元気そうで安心しましたわ」

 

 朱乃さんがムチを振るい、そのムチを巧みに操ってロキの槍に巻きつけて停めた!

 

「な、なんだと!? ――うっ、ぐぁあああああっ!」

 

 驚愕するロキをもっと驚かせるように槍に巻きついたムチが雷光を放つ! 雷光と共にロキの悲鳴が周囲に響いた。

 

 溜まらずロキは雷光を体に伝わせているだろう槍から手を離して朱乃さんから距離を取る。朱乃さんはムチを払って槍を明後日の方向へ飛ばすと、ニッコリと笑顔を浮べて自慢するようにつぶやく。

 

「すごいでしょ? このムチは振るうことによって、刃に刻まれた装飾が共鳴し合って私の雷光の力を高めてくれるんですのよ。だから雷光の槍よりも高密度で威力のある雷光を放つこともできますの。――ふふっ、他にも色々な機能を秘めているんですけど、いまはこれぐらいかしらね」

 

 そうつぶやいた朱乃さんはロキへ向ってムチを横一閃に振う。ロキは避けようとするが、思いのほかダメージが深いのか完全には逃げられず、腕にムチの一撃を食らい、さらに腕を打った瞬間に捕まえるように巻きつけられた。

 

「ぐぬぅっ」

 

 今度は雷光が爆発することはなかったが、ムチにつけられた無数の刃が輝きながらギリギリと鎧越しにロキの腕を締め上げた。

 

 朱乃さんがムチを少し引くとロキの顔が苦痛に歪み腕から血が流れ落ちた。ロキの鎧を貫通して体に直接ダメージを与えているのか!?

 

「どうですか? 雷光を刃に溜めることで切れ味が上がって、刃を伝って内側にも雷光を浴びせることができるようになってるんですよ」

 

 微笑みながらそう説明してくる朱乃さんをロキは睨みながら、反撃しようと片手にものすごい魔力を収束していた。

 

「これでも――」

 

 ロキが高出力の魔力を放とうとした瞬間、再び朱乃さんが動く!

 

「させませんわ」

 

「あがああぁあああっ!」

 

 朱乃さんのムチから高出力の雷光が放たれ、集中力を失ったロキは収束していた魔力を霧散させる!

 

 ……ド、ドS度もあがってませんか?

 

「さあ、仕上げですわね」

 

 朱乃さんはそうつぶやくと一旦ロキの腕からムチを外した。外したムチに雷光を込めて再びロキへ振るう。

 

 今度はロキも避けることもできずにムチを体に食らう。

 

 体に完全に巻きついたことを確認すると朱乃さんは笑みを浮かべてムチを引き、無数の刃でロキの鎧に傷をつけた。って!? あれ? ロキの体に雷光できたロープみたいなのが残ってる!?

 

「これも『雷光鞭』の能力ですわ。私の意のままに雷光の姿と性質を変化させることができますの。……今回の変質された雷光はロープですわ。拘束しつつ雷光でダメージを与える。……本当に、なんて私向きの武器なんでしょう」

 

 うっとりと笑顔を浮べる朱乃さんにロキは恐怖を感じるように顔を強張らせた。

 

「あ、朱乃……?」

 

 バラキエルさんも娘のドSぶりに引いているようだが、若干うれしそう? 娘が強くなったことがうれしいのかな?

 

「イッセーくん」

 

「――っ! は、はい!」

 

 突然朱乃さんに話しかけられた。な、なんだろう? あのドSぶりを見せられたあとではいやでも警戒してしまう。

 

「ミョルニルを貸していただけませんか?」

 

「へ? あ、は、はいっ」

 

 俺は朱乃さんの指示通り、ミョルニルを元のサイズに戻してから渡す。

 

「あ、朱乃さん! そのミョルニルは純粋な心がないと扱えないそうです!」

 

 一応注意するためにそう言った俺に、

 

「わかっていますわ。力強く、純粋な心がなければ扱えないけど、純粋な心があれば羽のように軽く、雷がでるのでしょう。――その条件なら私にも扱えるでしょう」

 

 朱乃さんは自信たっぷりにそう言い放つ。…………え? 純粋?

 

 ぞっ……。

 

 ――っ!? なっ、なんだか寒気が……。

 

「さあ、止めといきましょうか」

 

 朱乃さんがミョルニルに力を込める。するとミョルニルがどんどん大きくなり――。

 

 ズンッ!

 

 ……地面にめり込んだ。

 

 や、やっぱり純粋じゃないから――。

 

「あらあら? どうしたのかしらね?」

 

 朱乃さんが微笑みながら雷光を迸らせ、ミョルニルの柄の部分を掴んだ。

 

 バチバチッ!

 

 朱乃さんの雷光に反撃するようにミョルニルも雷を放つが、まったく気にした様子もなく雷光を放ち続ける。

 

 その様子を見て拘束されているロキが鼻を鳴らして嗤う。

 

「無駄だ。その槌は力強く、純粋な心の持ち主にしか扱えないと言っているだろう。――貴様のような邪悪な者にはあつかえな――」

 

「少し黙っていてくれますか?」

 

「ぬぐっ!」

 

  ロキを拘束している雷光のロープが締まり、ロキを黙らせた! あの状況でよく言う気になったな……。

 

 ロキを黙らせた朱乃さんはミョルニルの柄を握って静かにつぶやく!

 

「いい加減にしないと溶かしてしまいますわよ? 使い手にも攻撃する不良品のようですし……。そうですわね、溶かしたあとはどこかの公衆トイレの便器にでも変えて別の方法で役立ってもらいましょうか」

 

 ほ、本気の眼だ……。

 

 心なしかミョルニルが戸惑ってるように見える……。

 

「さあ、私に従いなさい」

 

 …………。

 

 ズウン……。

 

 ……ミョルニルが持ち上がった。

 

「な、なん、だと!?」

 

 ものすごい力技に締め上げられているのにも関わらずロキが声を漏らす。……うん、俺たちも驚いてる……っていうか、引いてるよ。最後のミドガルズオルムを倒してるのに誰も、何も言おうとしないし、最近急成長しているギャスパーも縮こまって震えちゃってる……。

 

「本当に羽のように軽いわね。さてと、お待たせしました。さっそく止めを刺させていただきますわ」

 

 朱乃さんはそういうとミョルニルを振り上げ、雷光を体に纏いながらミョルニルをロキ目掛けて振り下ろした。

 

 ドンッ!

 

 ミョルニルが吸い込まれるようにロキに打ち込まれた!

 

「仕上げですわ!」

 

 朱乃さんの言葉に合わせてミョルニルからとんでもない量の雷が発生するっ!

 

 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!

 

 特大の一撃が、ロキを呑みこんだ。

 

 ロキの体が――大きく煙をあげた。その姿はすでに崩れていた。

 

 鎧も砕かれ文字通りボッロボロになったロキが地面にできた巨大なクレーターの中心に沈んでいた。

 

「……まさか……聖書に記されし神の、禁手という現象や……神滅具の力ではなく、次代の存在に神が倒されるとは……。……もはや世界の行く末など誰もわからないか……」

 

 それだけ言い残して、完全に気を失ったようだ。

 

 ……これで決着か。

 




 イッセー活躍してねぇ!


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第66話 戦後処理と暗躍する影

<イッセー>

 

 

「よ、匙」

 

 俺は戦場の中心で大の字になって気絶している友人を起こしていた。

 

 すでに黒いドラゴンから、元の姿に戻っていた。

 

「んあ、兵藤か……。戦いは?」

 

 意識は戻ったようだが、体は動かないようだ。俺はアーシアを呼び寄せて、回復をするように促した。

 

 上半身だけ起こす匙に俺は言う。

 

「終わったよ。いろいろ……本当にいろいろあったが、俺たちの勝ちだ」

 

 俺の言葉に匙は苦笑した。

 

「……そうか。俺、意識がほとんど無くてさ……。でも、おまえの声は聞えた。うれしかったよ。身を焼かれそうな辛いところに声が聞えてきてさ。心強かった」

 

「ハハハハ、任せろよ。しかし、あんな風に暴れてちゃな」

 

「マジか。俺、暴れてた?」

 

「ああ、バッチリな。でもおかげでロキに大ダメージを与えられたよ。すっげー良いサポートだったぜ」

 

 それを聞いて、匙は安堵した様子だった。

 

「……ならいいや。でもよ」

 

 匙は戦いのあとを見渡した。採掘場跡地はボロボロ。大きなクレーターが何個もできていてもとの姿は無かった。本当、戦争の跡地だよな。

 

 他のメンバーは勝利に歓喜していた。皆ほとんど怪我も負わなかったしな。

 

 ヴァーリチームはあれから姿を見せない。おそらく生きているだろうがここには戻ってこないだろう。

 

 ボロボロのロキは捕らえられたあと、セルベリアさんとロスヴァイセさんに北欧の魔術でいろいろと術封じをかけられていた。

 

 ミョルニルってハンマー、レプリカなのにすげー威力だったな。俺が倍加しなくてもあの威力だったし。

 

「おまえ、こんな戦いを何度もしてたんだな。神とか魔王とか、二天龍とかさ」

 

 匙が感心したように言うが、

 

「だけど俺ってまともに活躍したことねえんだよなぁ……。確かに俺のところは毎回事件が起きるけど、ほとんど部長やエイジたちが対処するからまともに活躍したのって数回ぐらいなんだよ」

 

「そうなのか?」

 

 意外そうに訊いてくる匙にうなずく。

 

「ああ、今回のだってほとんど俺は活躍できなかったよ。2天龍が出張るまでもなく、部長や黒歌さんたちが活躍してフェンリル倒すし、ロキは朱乃さんが倒してくれたし」

 

「ひ、姫島先輩がロキを倒したのか!?」

 

「まあ、驚くのもわかるけど。あれは――すごかったな……。元から大ダメージを負って弱っていたといっても神なのに、朱乃さんが一方的にロキをいたぶって……最後はミョルニルで、な」

 

「…………す、すまん兵藤……。俺はまだ話しについていけないみたいだ……」

 

「あははは、俺だってついていけないから安心しろ」

 

 本当についていけていないからな。

 

「治りました!」

 

 アーシアが微笑む。匙が治ったようだ。

 

「アーシア、他の人も見てやってくれ。俺はほとんど怪我もしてないし回復はいいから」

 

「はい、わかりました」

 

 俺の言葉にアーシアは仲間のもとへ駆け寄っていく。

 

 そのとき、バラキエルさんが朱乃さんに話しかけているところを発見した。

 

「本当に成長したんだな……」

 

 バラキエルさんはなにやら感傷に浸っているようだ。対する朱乃さんはつんっとした態度で腕を組んでつぶやく。

 

「かなりの修行を積みましたので当たり前です。……それよりも私はまだあなたを許したわけじゃないんですからね!」

 

「…………ああ、わかってる……」

 

 う~ん……、やっぱり前みたいな険悪な雰囲気じゃないよなぁ。部長もやれやれって感じで肩をすくませてるし……。

 

 そのあとバラキエルさんはすぐに後方支援として他の場所で待機している味方のもとへ転移魔法陣で先に送った。

 

「よし、兵藤一誠まだ動けるな? 戦後の処理だ。この土地を直すぞ」

 

 俺はタンニーンのおっさんの言葉に、大きくうなずいた。

 

「ああ! 何もできなかった分、戦後処理ぐらいさせてもらうぜ!」

 

「良い心がけだ。では、とりかかるか」

 

 俺はさっさく戦後処理に取り掛かる!

 

 ……ああ、それにしても今回は何もできなかったなぁ。

 

 ほとんど部長や朱乃さんが活躍していたし……、赤龍帝の力だけに頼るのはダメなのかな?

 

 それともアザゼル先生が言うように神器を理解して禁手を進化させたほうがいいのか……匙の黒い龍を見て神器にはまだまだ可能性が残されてることが十分理解できたけど、これからどうやって鍛えていけばいいんだろ?

 

 ……死ぬのを覚悟してエイジを頼って修行をつけてもらう?

 

 …………ダメだ……。ライバルに頭を下げて、ライバルを倒すために修行つけてもらうなんて嫌だ……。

 

 かなりの確立で死ぬことになりそうだし、そもそもエイジは神器持ってないしな。

 

 ……ん? エイジ? …………。

 

「ああああああ~~っ!」

 

「ど、どうした兵藤一誠?」

 

 突然声をあげる俺に同じく戦後処理をしていたタンニーンのおっさんが聞き返してきた。

 

 俺は頭を抱えながら地面にヒザをつく。

 

「せっかく活躍するって言ってきたのに、実際はほとんど活躍できてなぇじゃん!」

 

 俺が今回したことってなんだ!? え~……と、一番初めにロキと戦ったぐらいか? まあ、相手にもされずに終わったけど。

 

 あとヴァーリを助けようとして親フェンリルに反撃食らってフェニックスの涙を消費して、朱乃さんに止め用としてミョルニル渡しただけじゃねぇかぁぁぁっ!

 

「まあ、それは仕方がないだろう。ロキの想像も超えてリアス・グレモリーや姫島朱乃を始めとして強者が大勢いたのだ。それに元々、多対一の戦闘では明確に誰かが活躍したといえるものでもないからな」

 

「だ、だけど……」

 

 エイジに俺が守るって言ったのに、逆に俺が守られるなんて……。

 

「まあ、それだったら次回こういうことが起きたときに活躍できるように修行したらどうだ?」

 

 落ち込む俺にタンニーンのおっさんが声をかけてきてくれる。

 

「くっ……、ありがとう、おっさん。少し元気がでたよ」

 

「そうか。だったら作業に戻れ。朝までには終わらせるぞ」

 

「…………」

 

 その後、俺はヴァーリのが空けた穴なんかを埋めるため、朝方近くまで作業をしていたんだ。

 

 クソ! ヴァーリのバカ野朗ォォォォォォッ! おまえも手伝ってから帰れよォォォォォッ! いったいどこ行きやがった!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Vali Lucifer>

 

 

「久しぶりの『覇龍』は堪えた。できれば使用の回数を控えたいところだ。このままでは俺が保たないだろう。――で、そちらはどうだ、アーサー」

 

「支配を司るこのエクスカリバーの力でなんとかできそうですよ。――フェンリルを。制限付きなのでフェンリルの力はだいぶ下がってしまいますが……。しがし、牙が目的でロキとの戦闘の最中にフェンリルを奪おうとして、無事成功したのはよかったですが、結果3匹も捕まえることになるとは……」

 

「……それは俺も想定外だった。まあ、親子3匹のフェンリルは使えるだろう。増えても困ることはない」

 

「まったく物好きですね」

 

「ヴァーリ、曹操から連絡がきたぜぃ」

 

「美猴、奴はなんと言ってきた?」

 

「要約すると『こちらは独自に動く。邪魔だけはするな』だそうだぜぃ」

 

「曹操、お互い何もないことを祈ろうじゃないか。かかってくるのであれば遠慮なしだ」

 

「しっかし、リアス・グレモリーは怖ろしいねぇ。眷属もバケモノぞろいだが、それをまとめる本人も単なる上級悪魔の枠を超えてるぜぃ。駒王学園で初めて会ったときは全然強そうじゃなかったのによぉ」

 

「まったくだな。この短期間で急成長を遂げていた。リアス・グレモリー、ゼノヴィア、姫島朱乃、それにまだ発展途上だろう搭上小猫の4人は要注意だな。……それを鍛えた神城エイジももちろん」

 

「それにしても姫島朱乃さんが持っていた武器も素晴らしかった。私も機会があれば専用の武器を製作してほしいものです」

 

「あの武器って黒い捕食者が創った武器だったのかよぉ。あいつの眷属といい、どれだけの戦力をもってんだ?」

 

「ふふふ、俺がいつか神城エイジに本気をださせるさ」

 

「そういや、なんで親フェンリルに『覇龍』を使ったんだ? あの爆乳の一撃で胴体に穴開いてたんだし、『覇龍』使わなくても勝てただろぉ?」

 

「ああ、そのことか。……まあ、確かに勝てただろうが、赤龍帝である兵藤一誠に『覇龍』がどういうものか見ていて欲しかった……からなのかもしれないな」

 

「なんだそりゃあ?」

 

「自分でもよくわからないんだ。もしかしたら何もできない自分が許せずに『覇龍』を使ったのかもしれない」

 

「本当によくわからねぇなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Boss×Boss>

 

 

『通信報告で悪いが、今回も身内が助けられたようだ。アザゼル』

 

「まあな。今回こそは危ないと思ったが、思いのほかおまえの妹とその眷属が強くて助かったよ」

 

『ああ、聞いているよ。シャルバを倒したことは聞いていたが、まさか悪神ロキを倒せるまで力をつけているなんてね。うちのリーアたんは本当に成長した』

 

「感傷にふけるのはいいが、サーゼクス。例の件を言わなくていいのか?」

 

『昇格の話があるという件か?』

 

「まえから昇格の話がでていた神城はもちろん、朱乃にゼノヴィア、イッセーに木場がその話が浮上しているんだろう?」

 

『うむ。コカビエル襲来、三大勢力会談テロ、旧魔王派のテロ、これらをリアスたちは防いでいる。昇格の功績としては十分だろう。さらに今回のロキ襲撃を防いだ件も大きな功績だ。5名の昇格は確実といっていいだろうが……』

 

「なんだ? 何か問題でもあるのか? 成績には問題ないと俺は思うがな。神城は当然として、朱乃はバラキエルの娘で、弱っているところで戦ったとはいえ、悪神ロキを倒しているし、ゼノヴィアの飛びぬけた戦闘能力を有し、イッセーは赤龍帝で人気者。木場は特異な聖魔剣を持っている。さすがにメンツを下級悪魔という枠に入れたままはできないだろう」

 

『……ああ、まったくその通りだ。……その通りなのだが……』

 

「早すぎるか?」

 

『ああ、それもある。特にイッセーくんなど半年前まではただの人間だったのだ。昇格すれば話題となり、敵の的となって狙われる。彼は赤龍帝という名も背負っているからな。正直こちらとしては力を付ける意味でももう5年、いや、3年は待ちたいところなのだが、世論と流行が彼らを強く後押ししているのだよ』

 

「ハハハハ、魔王は大変だな。で、おまえの心情としては?」

 

『……イッセーくんと祐斗くんにはまだ昇格して欲しくないね。力もまだ付いていないし、精神面などで不安もあるから』

 

「そういや木場は精神病院に入院してたな」

 

『私もまさか彼が精神を病ませて入院するとは思いもしなかったよ。普段の彼はいつも冷静沈着で何事にも余裕を持っていたからね。彼の師匠も驚いていたよ。まあ、だから彼にはまだ昇格は早いと思うんだ』

 

「まあ、そうだな。正統派すぎて絡め手に弱そうだし。だけど、戦闘面では合格なんだよな」

 

『まあね』

 

「だったら、イッセーは何で昇格して欲しくねぇんだ? 精神面は不安定だが、それが良い意味に働いて強くなったりするし、禁手といい問題はないだろ」

 

『私もそれはわかっている。だが、私の心情としては彼にまだ「おっぱいドラゴン」でいてほしいのだ』

 

「ま、そうだな。もう少し様子見するのも必要だろう。――ああ、そういや結局神城の奴は上級悪魔に昇格するか、最上級悪魔に昇格するか決まったのか?」

 

『……一応いままでの功績や悪魔としての成績や実力なども考慮して最上級悪魔の昇格試験を受けさせることになったんだが……』

 

「なんだ?」

 

『ウチのリーアたんまで最上級悪魔の昇格の話が出たんだ……』

 

「なっ!? ……あ、まあ、それも当然か。てか、昇格の話で暗い声出してたのもそれが理由かよ」

 

『まさかウチのリーアたんにまで最上級悪魔への昇格の話がくるなんて……。確かにシャルバを倒したのはリーアたんで、眷属も魔王クラスのエイジを始め、赤龍帝や聖魔剣などと上級悪魔に昇格予定のメンバーで、実は小猫まで昇格の話が浮上したりと、眷属全員が上級悪魔以上なんてものすごい眷属だし、その眷属をまとめる『王』なんだから最上級悪魔になるための試験を受ける資格は、昇格する資格は十分あると思うが! まだ早い……、まだ早いんだ! まだリーアたんは二十歳にもなっていないんだよ!? リーアたんに最上級悪魔という肩書きは重いと思うんだ……』

 

「……はぁ、しかたねぇんじゃねぇか? 眷属に最上級悪魔や上級悪魔がいたらトップはそれと同等かそれ以上じゃないと示しもつかねぇだろ」

 

『それは私も理解しているよ。だけど、私のリーアたんが遠くへ行ってしまうような気がしてならないんだ……』

 

「……あー……、まあ、おまえがすごいシスコンなことはわかったから、英雄派についての話に移ろうぜ。このあともいろいろ忙しいし」

 

『そうだったな。すまない。――それで、何かわかったのか?』

 

「生きて捕らえて俺のもとで調査していた神器所有者が――変死したよ」

 

『――っ。全員か?』

 

「ああ。原因はオーフィスの蛇だ」

 

『やはり飲んでいたのか』

 

「いや、違う。所有者自信は飲んでいなかった。――神器に絡めせるタイプの新しい蛇だった。その新型蛇を使って神器を激しく刺激していたみたいだ。おそらく、所有者ではなく、神器自体の潜在能力を強制的にひき出していたんだろう。しかも神器の攻撃力ではなく、禁手に関連する謎が多く不確定要素も多い部分を刺激するように仕掛けられていたようだ。1番繊細で危険なところだ。下手をすれば神器が壊れる。強力な術のオンパレードで実験してやがるな。新型蛇の残りカスを調べたが、所有者が死ぬか、禁手に至ると役目を終えて停止するように作られていた。禁手使いの増加なんて、諸々含め俺たちが現状やろうと思っても真似できない芸当だ」

 

『……それらが禁手使いを増やす手段か。神器がバーストして壊れると所有者は死ぬ。どちらにしても禁手に至らなければ死んでもいいという算段か』

 

「禁手使いのバーゲンセールも怖いが、1番警戒すべきは――俺たちが知らない新たな神滅具が誕生することだ」

 

『……荒れそうだ。神器の対策か。考えてみれば、敵に回して1番厄介なのは特異な能力の多い神器かもしれない』

 

「単純なパワータイプなら問題は解決しやすいんだがな。パワータイプを容易に封殺できる能力が多いのが痛い。神器はおもしろいが、だからこそ怖いんだ」

 

『――神の置き土産、か。いままで私たちを陰で支え、特殊能力のひとつに過ぎなかったものがこうして我らの前に立ちふさがろうとするとは……』

 

「まっ、神城が創りだすアイテムや異空間の倉庫に入ってるアイテムもかなり危険な代物ばかりなんだけどな」

 

『そのことについても報告は聞いているよ。確かに危険視すべきことだが……まあ、彼が創りだすアイテムは基本女性専用のもので、その女性専用の特別仕様だからね。悪用される心配はほぼないし、異空間に存在する数々のアイテムも彼はまったく使用しないで、文字通り本当の便利な倉庫と使用しているようだからね。彼が本気で世界を滅ぼそうと思わない限り大丈夫だろう』

 

「まあ、正直言うと、あいつとあいつの女共に手が世界を滅ぼそうとしたら誰も止めれないってことなんだろ」

 

『……その通りだ。悪魔や堕天使、天使に連なる3大勢力の他に、アース神族のヴァルキリーやダークエルフ、日本の妖怪からヴァンパイヤと、他にも彼を慕っている者は多いんだ。もしウチのリーアたんが彼を転生悪魔にして悪魔側につかせなかったら、4つ目の大勢力になっていただろうね』

 

「ハハハハ、まったくだな。俺のところにもあいつを支持する堕天使が多くいるぜ。あいつがどこの勢力にもつかずに新しい勢力でもつくるものなら女たちをほとんど持っていかれてた」

 

『まさに捕食者だね。彼は』

 

「まったくだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

「あー、もうすぐ修学旅行だ」

 

 オカルト研究部の部室でイッセーが見事にだらけていた。ロキとの戦いも終えて、もうすぐ行く予定の修学旅行に夢中のようだ。

 

 ロキの襲撃を食い止め……、俺は後方支援部隊で人手も足りていてほとんど何もしなかったな。

 

 まあ、無事に会談を終えたオーディンは、良い収穫を得たとミョルニルのレプリカを持って帰っていった。

 

 ヴァーリは戦いの最中にフェンリルを3匹も奪ってどこかに消えたという話だ。かなり大きな問題にはなったそうだが、製作者のロキを捕らえたことでフェンリルに関する事柄が明らかにされるだろうから新たに対抗策が生まれるだろうと話していた。

 

 リアスたちの話を訊く限りではヴァーリは最初からフェンリルが目的だったらしい。あんな獣もらってどうするって、まあ、牙や爪が目的なんだろうな。良い武器の素材にもなるし、仲間にできれば力強いだろうから。

 

 まっ、何か危害を加えるなら滅ぼすまでだよな。

 

 アザゼルは今日ここにいない。

 

 役目を終えて帰還するバラキエルの見送りに行くそうだ。まあ、すぐに朱璃さんを受け入れる準備をしたら引き取りに戻ってくる予定だから、アザゼルと朱璃さんだけがいまは見送りに行っている。

 

「イッセーさん、ここのところ忙しかったですから、次こそは旅行のお買い物に行かなくてはダメですね」

 

 アーシアが修学旅行のしおりを見ながら誘いをかけていた。

 

 俺もソファに座ってしおりを開く。そういや行き先は京都だったな。八坂の屋敷にでもあいさつに行くか。

 

「エイジ、修学旅行にはどんな下着を着けていけばいいだろう? 女性誌には流行の下着を着けていくといいと書いてあったが、黒歌さんとセルベリアさんは大胆な下着がいいと言ったんだ」

 

 ゼノヴィアがしおりを拡げながら言ってきた。ゼノヴィアの言葉が聞えたのかアーシアが顔を真っ赤にしていた。イッセーも話が気になるようで、わかりやすいスケベな顔をして聞き耳を立てていた。

 

「りゅ、流行の下着に、だ、大胆な下着ですか……?」

 

「うん。皆で入る風呂ではまず下着から見事に着こなせていないとあとで笑われるそうだぞ。私もいままでそんなこと気にもしなかったが、最近は気を使っていてな。きちんと相手の好みの情報から自分に合う下着を調べたりしているんだ。わからないのであれば一緒に買い物に行こうか?」

 

「お、お願いします!」

 

 アーシアがバッと頭を下げた。ゼノたん……、本当に女の子らしくなったね。でも、穴あきショーツとかはまだアーシアや小猫ちゃんには早いから、教えないでね。 

 

「白が一番よ! それこそ主とミカエルさまが『良し!』と唸ってくださる下着本来の姿だと思うの!」

 

 イリナがハイテンションに言う。実際にミカエルが白パン見て『良し!』と唸ったら大事件だぞ。

 

「イリナ、白の下着にもいろいろな種類があるんだぞ。その辺も考慮しないと困るのはイリナ自身だぞ」

 

「そ、それは……、そうね。私も年頃の女の子なんだし周りがオシャレしているのにしないのはダメよね」

 

「わかってくれたか。じゃあ、今度の休みに修学旅行用の下着を買いに行こう」

 

「……ええ、同行させてもらうわ」

 

 どうやら教会トリオは修学旅行用に下着を買いに行くそうだ。……う~ん、でも信仰に厚くて俗世NGだったイリナも結構変わったな。神の不在も関係するだろうけど、最近お兄ちゃんと慕う以上の親愛といった感情を感じるんだよなぁ。よくゼノヴィアに勧められて女性誌も読み始めたりしてるし……。

 

 どこかでフラグ立てたか? 心当たりは、まあ、あるけど。コカビエルの件で看病したり、家に住むようになってから修行あとにマッサージしたり、慰めたりと……。でも、手を出したら堕天しそうだから困りものだよなぁ。

 

 もしものときように堕天せず自由にデートしたり、性行為できる空間や簡易結界でも創るかな? 天界のシステムがまともに機動していないいまなら割と簡単そうだし。

 

 ああ、そういや木場のことを忘れていたな。あいつって確かまだ精神病院に入院してるんだっけ。あと2、3日で退院してそのままイッセーの家に下宿するらしいな。それにギャスパーも下宿しないとかするとか。兵藤家の男率が上がってきたな。これが学園に知れ渡ったらイッセー×木場とか+ギャスパーとか腐な女子とか、いろんな妄想の糧になるんだろうな。

 

「もう、終わりだわ!」

 

 悲鳴をあげる女性の声。部室の中央からだ。

 

 見れば銀髪の女性――ロスヴァイセさんが号泣していた。

 

「うぅぅぅぅっ! 酷い! オーディンさまったら、酷い! 私を置いていくなんて!」

 

 オーディンに置いていかれたそうだ。あー、でも、オーディンが帰るときにセルベリアに何か話していたから理由はあるんだろうな。まだ知らされていないようだけど。

 

「リストラ! これ、リストラですよね! 私、あんなにオーディンさまのためにがんばったのに日本に置いていかれるなんて! どうせ、私は仕事がデキない女よ! 処女よ! 彼氏いない歴=年齢ですよ!」

 

 もう、やけっぱちになっているな。

 

「もう、泣かないでロスヴァイセ。この学園で働けるようにしておいたから」

 

 リアスがロスヴァイセの肩に手を置く。

 

「……グスン。ほ、本当に?」

 

「ええ。希望通り、女性教諭ってことでいいのよね? 女子生徒ではなくて?」

 

「もちろんです……。私、これでも飛び級で祖国の学び舎を卒業しているもの。歳は若いけれど、教員として教えられます」

 

 そういえば北欧のヴァルキリーのなかでも成績優秀の期待の新人だったっけ、ロスヴァイセさんって。

 

「けど、私、この国でやっていけるのかしら……? かといって国に戻っても『どのツラ下げてオーディンさまのあとから帰還したのか?』って怒られるでしょうし、あげくの果てに左遷されそうだし……っ! うぅ……せっかく安定した生活が遅れそうな職に就けたのに!」

 

 相当落ち込んでいるな。護衛するべき主神がボディガード残して先に帰還してたら、どのツラ下げてってことになるよな。普通なら。

 

 俺がそんなことを考えていると、部室にある転移用の魔法陣が光り輝いた。

 

「セルベリアさん!?」

 

 転移用の魔法陣から出てきたセルベリアにロスヴァイセが驚く。

 

「ここにいたか。ロスヴァイセ」

 

「は、はい!」

 

 ロスヴァイセさんはビシッと敬礼せんばかりに姿勢を正して返事する。そういえばヴァルキリーって戦乙女ゆえに上下関係というか階級などに厳しかったな。

 

「これからおまえはオーディンさまの護衛任から解かれ、我が主で勇者もある神城エイジさまの下でヴァルキリー見習いとして働くことになったのは知っているな」

 

「……………へ?」

 

 ロスヴァイセはまったく身に覚えがありませんと間抜けな声を漏らす。「知っていたんですか?」と、俺にロスヴァイセさんを始めとして周りのメンバーも視線を送ってくるが、俺は知らない。何か話していたのは知っているが、内容は知らないから首を横に振る。

 

 部室の様子を見てセルベリアは小さなため息を漏らし、再び説明を始めた。

 

「詳しい経緯などは省くが、今回のロキ襲来でロスヴァイセはまだまだ弱く、オーディンさまのボディガードには実力ということが証明されたのでな。これからの成長具合も考慮してエイジさまの、もとい私の下において再び戦乙女見習いとして修行を積んでもらうことになったのだ」

 

「へ!? そ、そんなことオーディンさまは一言も……」

 

「まあ、あえて言わなかったか、嫌がらせか悪戯の両方だろうな。きちんと書状も発行されているから安心しろ」

 

「そ、そうだったんですか……」

 

 こちらの預かりとなると書状があるので、オーディンよりあとに帰ってもそこまで問題にならずに、本国に帰ることができると喜んでいるのだろう。安心したような表情が見て取れた。……見て取れたのだが……。

 

「ちなみにオーディンさまのボディガードを解任されたことは事実で、修行のために残るわけなので給与や手当てはでないそうだ。……いよいよヴァルキリーの財政が厳しくなってきたようだな」

 

「なっ!? ただ働きなんですか!?」

 

 そ、それはいくらなんでも酷いぞ……。

 

 セルベリアも困ったような表情で言う。

 

「まあ、おまえが見習いから再び一人前のヴァルキリーとして認められたら本国から給与や手当てもでるだろうし、そのまま本国からエイジさまのヴァルキリーと就職すれば……うむ、一生金に苦労しないだろうが……」

 

 まあ、夏休みに黒歌たちが高ランクはぐれ悪魔を狩ってくれていたし、【王の財宝】にも貴金属や金塊や宝石などといった本当の財宝もあるからな。金には困らないだろうね。

 

「そ、それは本当ですか!?」

 

「ああ」

 

「不束者ですがこれからよろしくお願いします!」

 

 ロスヴァイセさんが俺の元へ来て頭を下げた。うん。ものすごい変わり身。不束者ですがって日本で覚えたの? たぶんオーディンやアザゼルだな

 

「ああっ、まさかもう再就職先も決まるなんて! しかもオーディンさまのようなセクハラ爺さんではなく、歴代の勇者のなかでも飛びぬけた実力と人気を誇る方に仕えられるなんて! うふふふっ、これって実は勝ち組路線に乗ったんじゃないですか!?」

 

 今度は随分とハイテンションで上機嫌だね。

 

 だけど、再び待ったがかかる。

 

「残念だがその勝ち組路線は見習いを卒業してからだぞ」

 

「な、んですって……?」

 

「まずは再び正式な戦乙女になってからだ」

 

「……ああ、そうだった。私、見習いに戻されたんだった。……アハハ、また収入0に……」

 

 崩れ落ちるロスヴァイセに待ってましたとリアスが動いた。

 

「それなら見習いを卒業するまで私のところでアルバイトしない?」

 

「アルバイトですか?」

 

「ええ、さっきの教諭の話よ。修行は夜からでしょうから問題ないでしょ?」

 

「……そうですね。私も昼間はいろいろと忙しいですし」

 

 そういえば料理教室と編み物教室に通い始めたんだよね。家事ができるレイナーレとゼノヴィアが読んでる女性誌に影響されて。

 

「で、でもセルベリアさんの修行は相当厳しいものになるでしょうから、教師との両立は――」

 

 躊躇うロスヴァイセにリアスは書類を取り出して見せた。

 

「ちなみに教諭になって、私の眷属になると、こんな特典やあんな特典が付くのよ?」

 

 書類に目を通したロスヴァイセさんが驚愕の表情になっていた。

 

「ウソ! 保険金がこんなに……。こっちのは掛け捨てじゃない!」

 

「そうなの。さらにそんなサービスもこのようなシステムもお得だとは思わない? これでもアルバイトなのよ?」

 

「すごいです! アルバイトなのにこんなに手厚いだなんて! あ、悪魔ってこんなに貰えるんですか……っ! 基本賃金から違うわ! ヴァルハラと比べても好条件ばかりです!」

 

 ――本格的な戦乙女の買収にはいった!

 

 リ、リアス、すっかり保険屋のお姉さんになっているような……。まあ、悪魔ってのはそもそも欲を持った者への交渉を生業としているから、仕方がないか。

 

「まだまだあるわよ。私の眷属になるならこういうのも得られるわ」

 

「……グ、グレモリーといえば、魔王輩出の名門で、グレモリー領の特産品は好評で売り上げもとても良いと聞いています。で、でも私は神城さまの見習いヴァルキリーになってセルベリア先輩の下で修行をしないと――」

 

「あなたが仕えることになるエイジは悪魔だし、いまはアース親族とも協力体制にあるんだから、別にあなたが悪魔化しても別に問題ないでしょう? それにエイジも私の眷属悪魔扱いなんだから。まあ、簡単にいうと上司の上司にあたる立場かしら? その関係図であなたが私、エイジ、あなたの順で並べば大丈夫でしょ」

 

「ううっ、そ、そう言われると大丈夫のような……」

 

 もう一押しだな……。

 

「あとあなたの住む家もきちんと手配するわよ。8畳以上の個室で部屋のなかにもトイレ、バス付きのうえ、万能メイドのサポートも付いてきて家賃も格安。衣食住がほぼ満たせてお金にも余裕ができるわよ」

 

 勧誘を続けるリアスが止めとばかりにポケットから、紅い駒を取り出した。それにしてもリアスが提示した物件に心当たりがあるのだが?

 

「――そんなわけで、私の眷属にならない? あなたのその魔術、『騎士』としての特性を得ることで魔術の移動砲台要員になれると思うの。ただ駒の消費がひとつで済めばいいのだけれど」

 

 皆、リアスの申し出に驚いていた。まあ、最後の駒だし仕方ないよな。

 

 有望株で魔術を使える戦乙女は確保しておきたいだろう。ちょうど移動型の魔術使いがいなかったし。朱乃は武器を使えば中距離で、雷光の槍で遠距離からの高火力の固定砲台として戦ってもらったほうがいいからな。

 

「……どこか運命を感じます。私の勝手な空想ですけど、それでも冥界の病院であなたたちに出会ったときから、こうなるのが決まっていたのかもしれませんね」

 

 ロスヴァイセさんは紅い『悪魔の駒』を受け取った。その瞬間、まばゆい紅い閃光が室内を覆い――ロスヴァイセさんの背中に悪魔の翼が生えていた。

 

 ……あれ? 眷属化が『兵士』の駒3つ分の消費で済んだのか? 正直戦乙女で魔術に長けているから『戦車』でギリギリだと思っていたんだけど……。ん~、リアスが成長したことで駒の消費が減ったのかな? 『王』が強ければ眷属化に使用する駒の消費が減るそうだし。

 

 銀髪の元ヴァルキリー――ロスヴァイセさんが俺たちに一礼する。

 

「皆さん、悪魔に転生しました、見習いヴァルキリーのロスヴァイセです。何やら、冥界の年金や健康保険が祖国よりもとても魅力的で、グレモリーさんの提示してくださったアルバイトの条件もよく、将来的に一人前のヴァルキリーとしての定職先の安心度もかなり高いので、悪魔になってみました。どうぞ、これからよろしくお願い致します」

 

 若干、洗脳されたかのような表情になってるな……。

 

「というわけで、皆、私――リアス・グレモリーの最後の『騎士』は彼女、ロスヴァイセとなりました」

 

 リアスが笑顔で改めてそう紹介していた。

 

「ま、いいんじゃないか。私も破れかぶれだったしな」

 

 と、ゼノヴィアが茶を飲みながら言う。まあ、ゼノたんも最初は神の不在を知ったショックで悪魔になったからな。

 

『よろしくお願いします!』

 

 皆もロスヴァイセさんを快く迎え入れていた、が……、将来的にセルベリアと共に俺の戦乙女となるのだろうか? いや、美人だし器量もいいし、性格も真面目そうで拒否する理由もないけど、勇者の戦乙女に就職って、普通の就職じゃない永久就職だぞ? だからもう少し考えて欲しいような気もしないではないが、まあ、見習い扱いだからいまはいいか。

 

「ああっ! これでオーディンさまのセクハラに悩まされずに済む! しかも見習いに戻されたといってもお給料はいままでよりも多そうだし、手当ても充実! 見習いを卒業したあと、戦乙女としての就職先もいま一番人気の勇者さまですからね! 一気に勝ち組路線に入っちゃいましたよ!」

 

 満面の笑みを浮かべるロスヴァイセさん……、俺はあなたの将来を結構真面目に心配して悩んでいたんですけど、必要なかったみたいですね……。

 

 でも、これで眷属は全部埋まったな。

 

 リアス、朱乃さん、木場、アーシア、ゼノヴィア、小猫ちゃん、ギャスパー、ロスヴァイセさん、イッセー、俺。10人全部そろった。

 

 集団戦用にフォーメーションとか考えたほうがよさそうだな。あ、イッセーの考えたギャスパー、木場、イッセーのふざけたフォーメーションじゃない、エロくないやつな。

 

 そんな風に考えていると俺へ朱乃さんが弁当箱を差しだしてきた。

 

「エイジ、これ、食べてみてくれる?」

 

 肉じゃが? これって確か……。俺は【王の財宝】から箸を召喚して肉じゃがを食べる。

 

 ちょうどいい塩梅の味が口のなかに広がる。

 

「……うん、美味しいです。……家庭の味ってやつですね」

 

 ああ、本当に美味い! やさしい味付けで箸が止まらない! いつものレイナーレのご飯も美味しいんだけど、これは懐かしい感じがして美味しい!

 

 俺が食べる横で朱乃さんがうれしそうに微笑んでいた。

 

「良かった。エイジに喜んでもらって。――っと、口に」

 

 ん? 食べ方は魔王2人とそのメイドに厳しく躾けられたから綺麗なはずだけど。確認するように口元に手を伸ばそうとすると、朱乃さんの顔が近づいてきた――。

 

 ……え? この場でキス? え?

 

 ちゅっ。

 

 戸惑っている間に朱乃さんの唇が口元に触れた。

 

 ぺろっ。

 

 唇が離れる瞬間に舌で口元を舐められる。

 

「ああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!」

 

 イッセーが旧校舎を揺らさんばかりに絶叫する。あ、え……、ここでするの?

 

「うふふ。大好きですわ、エイジ」

 

 うしろにまわって首に腕を絡めてくる朱乃さん。顔は見えないけど笑顔であることを感じ取れた。

 

「クソぉぉぉぉっ! うらやましいぃぃぃぃっ!」

 

 とりあえず血涙流しながら叫ぶイッセーは無視して……。

 

「朱乃……、部室では自重しなさい」

 

「ふむ、見せ付けられるのはなんだか悔しいな。私もしようかな」

 

 と、リアスが少し不機嫌になりながら注意し、ゼノヴィアは朱乃さんに便乗しようと身を乗り出してきた。

 

「あ、朱乃さん、すごく大胆です……」

 

「わ、私もあ、甘え……、で、でも堕天しちゃうかもしれない……。ああっ、どうすればいいんでしょうかミカエルさまぁぁぁ……」

 

 アーシアは顔を赤らめ、イリナは自分の世界に入っていた。

 

「さすがはエイジさま。あ、それでは私は用事があるので帰らせていただきます」

 

 セルベリアは感心するようにうなずいたあと、何かを思い出したように転移用の魔法陣を使って部室から消えた。用事って習い事だろ……。

 

 小猫ちゃんは……、

 

「…………」

 

 顔を真っ赤にしてこちらの様子をうかがっていた。な、なんだろ? 少し前までは他の女の子とイチャついたら不機嫌になるか逆に擦り寄ってきていたのに、最近はビクビクしてる。たまに朝布団のなかに潜り込んできて抱き枕にするのは変わらないけど、こちらから抱きつくとビクッと体を震わせて湯気が出るかと思わんばかりに顔を赤らめるんだよなぁ。それにしては逃げないし、襲われ待ちのように思ってしまう……。

 

 いまも小猫ちゃんの視線が股間辺りにいったりしてるし、黒歌ともこそこそ何かをしているようだし……。

 

「おおおおおおおおおおおおおおっ! 俺もモテてぇぇぇっ! モテてぇんだよぉぉぉぉっ! 何でエイジばっかりモテやがるんだぁぁぁぁっ!」

 

「い、いいい、イッセー先輩! お、おおお落ち着いてください!」

 

「ギャスパーぁぁぁぁっ! クソぉっ! 何でおまえは男なのに……男なのにかわいいんだぁぁぁぁっ!」

 

「ひいっ! な、ど、どうしたんですか……?」

 

 血走った瞳のイッセーが暴走したのか、ダンボールのなかで震えていたギャスパーを引っ張り出して肩に手を置いた。イッセーの行動に涙を浮べて怯えるギャスパー。

 

「もう俺にはおまえしかいない! 乳はないし、男だが、かわいいし性転換すればおまえは立派なかわいい女の子だ! ギャスパー! 女になってくれ!」

 

「い、いやですぅぅぅっ! じょ、女装は趣味ですけど、本物の女の子になりたくないですぅぅぅっ!」

 

「頼むギャスパー! 俺にはおまえしか――っげぶぁっ!?」

 

「まったく! 何をやっているんですか、あなたは! スケベで変態だとは聞いていましたが、ここまで変態だとは思いませんでしたよ!」

 

「ロスヴァイゼぇざぁん、あ、ありがどうございまずぅぅ……」

 

 ……暴走したイッセーは新入り『騎士』の強烈な一撃を後頭部にもらって沈み、ギャスパーは無事救出された。

 

 部室の床に沈むイッセー。これが童貞をこじらせた性欲過多でオープンスケベの高校2年生の成れの果てか……。

 

 ……本当にモテない男だったらサキュバスを紹介するが、こいつの場合アーシアの想いを無視してるから放置だな。

 

 というか、迫るなら男の娘のギャスパーじゃなくてちゃんとした女で一途なアーシアに迫れよな。一緒に住んでるんだろ……。

 

 はぁ……、好意を無視してたらその誰かにアーシアを持っていかれるぞ、イッセー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Dad>

 

 

 事件も終わり、俺――アザゼルは日本の土産を買う予定のバラキエルの買い物に付き合っていた。

 

 他のバカどもがバラキエルに、帰ってくるついでにと頼んだらしい。ったく、どいつもこいつも……。ま、総督の俺がこれだから仕方ねぇか。

 

 デパート内のベンチで休んでいると、買い物袋を幾つも手に持つバラキエルが帰ってきた。

 

「……うむ。頼まれていたものはこれで全部か」

 

「お疲れ」

 

 俺の横にバラキエルが座る。クタクタっぽいな。こういう無骨な武人に買い物はしんどいものだろう。しかし、一度頼まれたことは完遂しちまうんだよな。

 

「バラキエル、ほれ、これ」

 

「なんだ、この包みは?」

 

「いいから、開けてみろよ」

 

 バラキエルが開けると、そこにはひとつの弁当箱。

 

「……弁当?」

 

「言っとくが朱璃からじゃねぇぞ」

 

 ここにくる途中、朱乃に渡されたものだ。父に渡してくれってな。神城の影響と母親が戻ってきたおかげで随分と前向きになったみたいだ。

 

「これは――」

 

 弁当箱を開けると――色彩豊かで見事な和の料理が入っていた。

 

 バラキエルは俺のほうに視線を向ける。俺は苦笑しながらうなずいて「食えよ」と手で促した。

 

 箸を取り、おそるおそる煮物の芋を口に運ぶ。

 

 その瞬間――バラキエルの頬から涙が一筋伝った。

 

「……肉じゃが……朱璃の味だ」

 

 夢中でそれをがっつき始めた。無言で、ただただ箸を進める。

 

 俺は親友に言ってやった。

 

「朱乃のこと、俺やリアスたちに任せろよ。問題ないさ。あいつが惚れた男は女に対しては誠実で、女を守るためなら何でもするいい奴だからよ」

 

 バラキエルは箸を止め、目元を手で覆う。涙混じりに震える声で俺に言ってくる。

 

「彼が……朱乃を大事に……守ってくれると信じたい」

 

「ああ、だいじょうぶだ。奴はいままでもちゃんと朱乃を守ってるし、これからも守るさ。おまえも朱璃を失わないようにきちんと守れよ」

 

「ああ……、ああっ。早く受け入れる体制を整えて迎えに行くさ。絶対に……今度こそは守ってみせる」

 

 バラキエルは涙を流しながら力強くうなずくと食べるのを再会した。口いっぱいに肉じゃがを頬張りながら。

 

 いままで拒絶していた娘が作った愛した女の料理に、もう二度と食べられないと、会うこともできないと思っていた愛した女が戻ってきたんだ。

 

 今度こそ俺もこの幸せを失わせないようにしないとな。

 

 神城。おまえの前じゃ言えなかったけどよ。

 

 ――ありがとう。俺も救われた気がしたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Heros>

 

 

「曹操、そろそろ勘付かれた頃だと思うよ」

 

「ああ、そうだろうな。そう、それでもいいんだ。人材も集まってきた。では、次の段階へいこうか」

 

「そうだね。ものはそろいつつある。頃合だよ」

 

「――さて、最初の交渉相手は誰にするか?」

 

「協力態勢を外堀から剥がしていく。――乗るかな?」

 

「乗るさ。今時全面戦争など流行らない。だから旧魔王派は潰れたんだ。まずは交渉だ。手堅くいくぞ、ジークフリート」

 

「了解。魔王と魔物、そしてドラゴンを退けるのは――」

 

「いつだって、英雄と勇者だ」

 




 これにて悪神ロキ編終了! 次回は原作8巻のグレイフィア訪問とグレモリー家の試練を1話予定しています。

 その後は、修学旅行編ですね。



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第67話 グレモリー家の試練 前編

 あくまで前編です。


<エイジ>

 

 

 修学旅行を前にしたある日の休日、朝からリアスの表情が険しかった。

 

「大変だわ」

 

 いつになくリアスは慌てていた。皆がソファや床に座ってくつろいでいるリビングで1人立ってあっちに行ったりこっちに行ったりとしている。

 

「リアス、どうしたんだ?」

 

 家では最近完全に敬語なしで話すようになった俺が訊ねてみる。

 

 本当に今日のリアスは朝から少しおかしい。突然、レイナーレを手伝うといって家の掃除を念入りにしたり、身だしなみのチェックも10分おきぐらいにやったりと、そわそわしている。

 

 悪神ロキを撃退した俺たち、朱璃さんも早急にバラキエルが堕天使側の受け入れ態勢を整えて我が家から出て行った。

 

 オーディンの一件がすべてが終わった俺たち2年生は間もなく京都へ修学旅行だ。

 

 そろそろ2年生グループ……正確にはゼノたんとイリナ、アーシアの教会トリオが旅行に向けた準備をするため、最寄のデパートへ買い出しに行く予定で、すでにアーシアは家でゼノヴィアたちと女性誌を広げていたりする。そして俺も、イッセーと木場と女子とは別のデパートで買い物する予定なんだが、リアスが気になる。

 

 あ、何故ゼノたんたちと違うデパートに行くかというと、修学旅行のお楽しみ&女子同士の情報交換というか交流会をするとか。それに精神病棟からやっと退院した木場を気遣ってのことだ。なんでも女性が苦手になったそうだ。まあ、あのあとじゃ仕方ないよな。BLな展開へ進まないように祈っとく。

 

 俺の問いに、真剣な面持ちでリアスが答える。

 

「お義姉(ねえ)さまが来るのよ」

 

「おねえさま? ああ、グレイフィアさんのことか」

 

 俺が言うと、リアスは静かにうなずいた。

 

 グレイフィア。リアスの屋敷のメイドで、上級悪魔の名家グレモリー家のスケジュールやら経済事情など、あらゆるものに深く関わっている。

 

 そして、リアスの兄――魔王の眷属悪魔にして、妻でもある。つまり、家族構成的に見るとリアスの義理の姉に当たる。

 

 けど、リアスはいつもグレイフィアを「グレイフィア」と呼び捨てにしてなかったか? まあ、正体を露見させるまでは俺も堂々と呼び捨てしていたけどさ。なんで今日は「お義姉さま」と呼んでいるんだ?

 

 疑問に思う俺に朱乃が声をかけてくれる。家では朱乃と呼んでいるのに、いつまでも心のなかでさん付けは失礼だからな。これから心のなかでも朱乃と呼び捨てにしよう。

 

「今日、グレイフィアさまはオフをいただいたそうですわ」

 

「オフって、ああ、今日はグレモリー家のメイドじゃないってことか」

 

「ええ。普段はグレモリー家に仕えるメイド。グレモリー家の娘であるリアスと主従の関係にあります。けれど、オフとなれば話は別になるようなのよ。そのときだけ、立場的にリアスの義姉となるのです」

 

「……部長はお義姉さんになったときのグレイフィアさんが怖いんです。……チェックが厳しいらしくて」

 

 と、小猫ちゃんが言う。なるほどねぇ。

 

「部長にも苦手な人がいるんだな」

 

 うんうんうなずくゼノヴィア。まあ、リアスも名家のグレモリー家の次期当主とはいえ、ひとりの女の子だからな。

 

 それで、メイドではないときのグレイフィアはお姉さんモードになるのか? リアスの緊張ぶりからすると、何か起こりそうな予感がするな。

 

「それでオフの日に訪問ってわけか」

 

 俺の言葉に朱乃さんは小さく笑いながら答える。

 

「ええ、何やら義姉としてリアスに話したいことがあるそうなの」

 

 俺と朱乃が会話している横でリアスはもう一度部屋の様子をチェックしていた。万能メイドに成長したレイナーレが毎日綺麗にしてくれているから、これ以上片付けても意味がないと思うよ。

 

「お、お茶の容易もしておかないといけないわ」

 

「お客さま用の茶葉はきちんと用意しています」

 

「そ、そう、ありがとう。レイナーレ」

 

「そうだ、エイジ、あなたもきちんと……しているわね」

 

「まあ、これから買い物に行く予定だしね」

 

 身だしなみは大丈夫。

 

 リアスが再びそわそわし始めたそのときだった。

 

 ピンポーン。

 

 玄関のチャイムが鳴る。イッセーと木場との買い物は現地集合なので2人ではない。まあ、訪問客はリアスの様子から、だいたい想像つくけど。

 

 リアスは急いでリビングから飛び出して、玄関へと向っていく。本来来客の対応をするメイドのレイナーレもその行動にため息を吐き、俺たちも顔を見合わせてうしろからついていった。

 

 開かれる玄関から姿を現したのは――メイド服ではない貴族のような衣装に身を包んだ銀髪の美しい女性だった。うん、服装から髪型までメイドのときと違う、新鮮なグレイフィアだな。

 

 普段は転移魔法陣で行き来しているグレイフィアが玄関から来たってことは、リアスの義姉として正式に訪問する儀礼のようなものなんだろうな。

 

 玄関からは外に停められている豪華なリムジンが見えた。本当に悪魔の財政は潤ってるようなぁ。セルベリアを引きつれて、日用品を買うために100均にわくわくしながら向った金欠ヴァルキリーとの金銭格差が悲しい……。

 

 グレイフィアは俺たちに視線を向けたあと、

 

「ごきげんよう、皆さん」

 

 と、気品の溢れる微笑を浮べつつ、丁寧なあいさつをしてくれた。次にグレイフィアの視線がリアスに移る。

 

 朗らかに微笑みながらグレイフィアがリアスにあいさつをした。

 

「ごきげんよう、リアス」

 

「ごきげんよう、お義姉さま」

 

 リアスも朗らかな笑みを返すが、どこか緊張の色が見て取れる。

 

「お久しゅうございますな、姫さま」

 

 第3者からの突然の声。声のしたほうへ視線を向けると――顔は東洋のドラゴンで、全身を紅い鱗に覆われている、胴体は鹿のような馬のような姿をした2メートルほどの生き物がいた。

 

 俺の視線に気づいたのか、そいつは俺に頭を下げてきた。

 

「これは黒い捕食者殿。お初にお眼にかかる。私はサーゼクスさまにお仕える『兵士』――炎駒(えんく)と申す者です。以後、お見知りおきを」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 と、俺もあいさつを返す。どこか麒麟に似ているな。

 

「エイジ、彼は炎駒。麒麟と呼ばれる伝説上の生き物で、お兄さまの眷属なの。久しぶりね。元気そうで何よりだわ」

 

 リアスも炎駒という麒麟の頬を手で撫ぜる。

 

 でも、麒麟って――、

 

「麒麟ってコレじゃないのか?」

 

『え?』

 

 疑問符を浮べる皆の前で、俺は新しく目覚めたサキュバスの能力、性行為したい種族に体を変化さることができ、さらに性交することで相手の因子を取り込み、その種族に変身できるという能力を使用して麒麟に変身した。

 

「そ、その姿はまさか――」

 

 炎駒という麒麟が驚いている。いまの俺の姿は炎駒とほぼ同サイズの、ユニコーンのような白く輝く一角の角を持った馬の姿で、蒼い鱗に覆われ、白いタテガミと蒼白い雷を纏った姿だからな。驚くのもあたり前か。

 

「麒麟といったら俺としてはこっちだと思ったんだけど……」

 

「そういや昔、世界中を回ってたときに会ってるにゃ」

 

 と、黒歌も続けてそう言う。

 

「あ、え? 温かいし、このさわり心地……、ただ姿を変えただけじゃないの?」

 

 そんななかリアスがさわさわとタテガミを触りながらつぶやいてきた。そういや言っていなかったなと、新しい能力に最近目覚めたことを話す。……話し終わると……。

 

「黒い捕食者殿!」

 

 炎駒が鼻息荒く、顔を近づけてきた。

 

「な、なんだ?」

 

「是非とも私にその麒麟とどこで会ったか教えてもらえませぬか!?」

 

「…………は?」

 

「……炎駒」

 

 戸惑う俺と、炎駒のいきなりの行動を咎めるようにグレイフィアが名前を呼ぶが、炎駒は止まらない。

 

「その麒麟は、私とは違う種類ですが確かに麒麟です!  しかも蒼白い雷を操る白銀に輝くそのタテガミを有する麒麟は、麒麟のなかでも最上位の存在なんです! どこにいるのかわからない麒麟のなかでも幻の一族に、まさか黒い捕食者殿が出会っているとは! も、もし良ければどこに住んでいるのかを私に――」

 

「炎駒」

 

 詰め寄る炎駒に、グレイフィアから絶対零度の視線と共に怒りを孕んだ声音が飛んだ。

 

「で、ですが、グレイフィアさまぁぁぁ……」

 

「はぁ……、魔王の眷属とあろう者が情けない声を出さないでください。あなたは一応私の護衛として来てもいるんですから」

 

 グレイフィアは頭に手を置いてため息を吐く。俺も変身を解いて元の姿に戻る。途中炎駒が残念そうにこちらを見ていたが、まあ、すまん。これ以上玄関で立ち往生させるのもな。

 

「うう……、わかりました。グレイフィアさまを送り届けたことですし、私はこれにて持ち場に戻りまする……」

 

「ええ。ここまでありがとうございました。炎駒。私1人でもよかったのですが……」

 

「何をおっしゃいます。我らが偉大なる『女王』にして、主の奥方であるグレイフィアさまが正式に訪問されるのに護衛もなしでは……。と申しましても私がいなくても問題がグレイフィアさまを襲うなどと露ほども思いも致しませぬが。それに黒い捕食者殿のお屋敷に少しでも幸運が訪れさせることができれば幸いだと思い、馳せ参じたところもあります。何よりも姫さまと若である黒い捕食者殿の顔を拝見できて良かった。……ついでに年頃の麒麟を紹介してもらえたらそれこそ幸運……いえ、なんでもありませぬ」

 

 本音が漏れてるぞーっと、言おうとしたらグレイフィアの視線が強制的に黙らせた。

 

「そういや、麒麟ってすごく縁起が良いされている種族だったな。もし家に訪れれば良いことが起こるとか言ってたっけ」

 

「ちなみに神聖な生き物である麒麟を眷属にできたのは悪魔のなかでもサーゼクスさまだけです。本来、悪魔と相容れな間柄ですもの。それを可能にさせた時点でサーゼクスさまは他の方々と一線を画していますわ。うふふ、それをいうとエイジも一線を画す存在ですわね」

 

 と、朱乃が麒麟の追加情報を教えてくれた。でも俺って悪魔になってから1、2回麒麟の隠れ里を訪れたけど、別に気にされなかった……あ、いや、長老とかには最初いい顔はされなかったけ。まあ、悪魔になってもまったく変わらなかったし、サキュバスになってからは呆れられてるからかもしれないけど……。

 

 そこに小声で朱乃が言う。

 

「悪魔側にいる麒麟は炎駒さまだけですから。はっきり言ってしまうと、結婚相手がいないんですの」

 

 相容れない存在で、普通の麒麟側から見れば悪魔になった変わり者とかいう扱いだろう。麒麟が他にいる話に食いついた理由がよくわかったよ。

 

「炎駒、少しの間だけでも寄っていけばいいのに」

 

 リアスがどこか寂しげに言うと、

 

「そうですか?」

 

 バッと食いつき、視線は俺にロックオンされていた。

 

「……炎駒」 

 

 そこに再びグレイフィアから発せられる含みのある声が響くと、

 

「ハハハ、そのお言葉だけで炎駒は十分ですぞ。私もサーゼクスさまの眷属として、役目の多い身。冥界に戻り、それを果たさねばなりませぬ。しかし、姫さま、昔のように私の背に乗り、共に野山を駆け巡りたいものですな。それではこれにて。皆々さまと再びお会いすることを願っておりまする」

 

 炎駒はそれだけ言い残すと――紅い霧となって、この場から消えた。消える瞬間に俺の方を見て『麒麟(嫁候補)の情報求む!』と言った気がしないでもない。……というか知らない。俺は、何も、見ていない。

 

「私が冥界にいた頃、炎駒は話し相手になってくれていたの。よく背に乗せてもらったわ」

 

 リアスは微笑みながら俺に言ってくれた。そっか、リアスの成長を見守ってきた者のひとりなんだな。……それに加えてずっと独り身でもあるようだけど。

 

 懐かしさにちょっとだけ浸るリアスにグレイフィアは咳払いをひとつ。リアスは再び緊張の面持ちとなった。それを確認し、グレイフィアは訊いてくる。

 

「さて、あいさつは手短に。それではお家あがらせてもらってもよろいしいのかしら?」

 

 こうして、俺の家にリアスの義姉としてのグレイフィアが訪問してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、リアスが迷惑をかけていなくて安心したわ」

 

「はい、貴族らしい礼儀の正しいいい娘ですから、迷惑などはまったくありません」

 

「にゃはは、リアスが来てから騒がしくなったけど、こうして白音とも仲直りできたからにゃ」

 

「そうですね、家も賑やかになって楽しいですし」

 

「うん……、楽しい」

 

「まあ、家事も手伝ってくれますし……」

 

 グレイフィアをまじえてセルベリア、黒歌、ノエル、時雨、レイナーレの会話だ。あれ? キミら俺の保護者的な立場だったけ?

 

 グレイフィアが俺の家にいるメンバーとリビングで朗らかに談笑していた。

 

 俺の横に座るリアスの笑顔のままだが、どこかぎこちない。

 

 この家に住む者たちとアーシアを含め、一堂に会していた。セルベリアたち4人はもちらん、朱乃、ゼノヴィア、小猫ちゃん、イリナが同じく卓を囲んでいた。

 

「リアスは少々わがままですから、眷属の皆さんにご迷惑をおかけしているのではないかと心配だったんです」

 

「そんなことありませんわ。リアスはこの家にホームスティしている私たちの中心となって、みんなの面倒をよく見ているのですよ」

 

 朱乃がニッコリ笑顔でリアスをフォローする。確かにまとめ役してるよな。

 

「良いお友達、良い後輩に恵まれて、リアスは本当に幸せ者ね」

 

 グレイフィアが微笑む。その微笑は本当にうれしそうなものに見えたんだ。

 

 しかし、すぐに厳しい視線となり、リアスと俺を交互に見ていく。え? こ、婚約の話とか?

 

「あとは……殿方かしらね」

 

 発現後、他の皆もグレイフィアが言わんとしていることは理解している様子だったが、ほとんどノータッチのようだ。……ほ、ほんの少しだけ嫉妬してほしいなぁ~と、思ってしまったりしたが、まあ、悪魔って一夫多妻制だし、俺性欲の権化のインキュバスだからな。数人程度じゃ性欲過多でぶっ壊してしまうから、1人に絞るってまず無理だってことを身をもって知っているんだろう……。この前のアザゼルの道具によって起きてしまった乱痴騒ぎで。

 

 リアスは顔を真っ赤にさせながら、グレイフィアに言う。

 

「お、お義姉さま……、も、もうその話は進んでいるのですか?」

 

「ええ。かなりの速度で進んでいるわよ。外堀を埋めるためにエイジさんには最近忙しく働いてもらっていたんですから」

 

「え!? そうだったんですか!?」

 

「あら、言っていなかったかしら? グレモリー家と友好関係にある有力貴族の悪魔たちや人間界でも高い地位にいる相手と接待してもらっていたのよ」

 

「そんなこと一切知らされてません!」

 

 リアスは狼狽しながら大声怒鳴った。当然俺自身も訊かされてないよー。それに接待って肉奉仕じゃ……?

 

 グレイフィアはまったく気にした様子もなく紅茶を飲んで言う。

 

「オーディンさまの会談や悪神ロキ襲来で伝わっていなかったんでしょう。でもそのおかげで外堀は埋まったようだから、安心していいのよ」

 

「うっ、そ、それは……よかったです、けど……」

 

「リアスもわかっていると思いますが、悪魔はただでさえ、出生率が危ぶまれています。特に名家の血を絶やすわけにはいかないのです。いずれ、あなたにも次代の子の親になってもらいたい。お義父さまとお義母さま、そして私とあの人の願いでもあるのよ」

 

 グレイフィアは真剣な面持ちでリアスに言い聞かせていたが、空間を歪めてから取り出したものが雰囲気をぶち壊す。

 

 いや、見た目は普通の長方形のお菓子箱で、リアスに渡して来たんだけど、視線で開けるように言われてリアスが開けて中身を見て……時が停まったんだ。

 

「お、お義姉さま? こ、これはいったい……?」

 

 リアスが受け入れられないと頬をヒクつかせながら訊ねると、グレイフィアは少しだけ頬を赤らめて、

 

「でもね、いくら悪魔の出生率があやういといっても、あなたもまだ高校生なんだし妊娠するには早いでしょう? 魔術でも避妊できるようだけど、いつもつけていないと、なかに出すことがクセになってしまうでしょうから。……その、きちんと使いなさい」

 

 と、紅茶を飲んで話を一方的に切った。

 

「…………」

 

 固まる俺と部長の前にあるのは、お菓子箱のような箱に、仕切りまで使って綺麗に並べられた正方形の小さなビニール袋に入った円形の物……つまりコンドームだったのだ。

 

 しかも入っているのは数種類、数珠繋ぎになっていて少なくても100個以上入っているようだ。

 

 ……これはグレイフィアが買ったのだろうか? 用意させたんだろうか? どちらにしても赤面していたことは確実だな。

 

 リアスはそっと箱を閉じた。

 

 リビングにいる皆がリアクションも取れずに無言になるなか、その雰囲気をぶち壊そうと朱乃が動いた。

 

「そ、そういえばサーゼクスさまとグレイフィアさまのラブロマンスは悪魔の女性にとって、伝説でしたわね!」

 

「……ええ、そうね。当時の立場で言えば、私とあの人との恋愛は複雑でしたから」

 

「……劇にもなってます」

 

 と、小猫ちゃんが言う。そういやあったね。昔サーゼクスに自慢されながら観賞させられたっけ。

 

「と、とても興味あります!」

 

 アーシアも興味津々の様子だ。女性は恋愛話に目がないからなぁ。

 

 グレイフィアは気恥ずかしそうにしながらも「コホン」と咳払いひとつして、表情を改める。

 

「私たちの一件もあるものだから、どうしてもあなたに想いを乗せてしまうの。私はあなたにただ立派な上級悪魔のレディになって欲しいのよ。次期当主としての自覚を強く持ってもらいたいわ。そのためにもいろいろ改善しないといけない部分が多分にあるわね。自分のわがままとお金で解決できると思っている点。思い立ったらそう行動しすぎてしまう点。独占欲が強いところは緩和したようね。ハイスクールを卒業したら社交界にお呼ばれされる機会も格段に増えるわ。最近のあなた自身の活躍で周囲からわがまま娘という認識は薄れていってるし、例の特撮番組の影響で一般の悪魔たちには良いご支持をいただいて、エイジさんには上流階級の悪魔たちとのパイプとして有効に動いてもらいましたが……。とにかく、いまのうちにあなたのパートナーの勉強を進めないといけません。大学生になったら、早め早めに結婚の準備もしなくてはいけないのよ? 大学を卒業したらすぐに次期当主となり、夫を迎え入れないといけないのだから。そのときまでにお義父さまとの引継ぎはすべて、スムーズに終えてなければいけないわ。それはわかっているのよね? 私としてはいまのうちに身を固めておくのも良いと思うの。まあ、少し前まではレーティングゲームばかりにかまけて、女性らしさが失われていくように感じて心配していたから、最近女性らしくなったのは良かったわ。だけどあなたは――」

 

 ああ、グレイフィアがリアスにマシンガントークで説教を始めた……。

 

 リアスも言い返せずに顔を真っ赤にして、お説教を受けている。普段は見せない怒られてしゅんとしている姿もいいなぁ。

 

 てか、いまのグレイフィアはまるでメイド時に溜めていたものを吐きだすがごとく言葉が止まらない。

 

「まあまあ、グレイフィア。リアスはよくやっているではないか」

 

 第三者の声。やっと止めに来たか。リアスが第三者の登場に驚いて立ち上がった。

 

「お兄さま!」

 

 そう、冥界の魔王さまにしてリアスの兄であるサーゼクス・ルシファーだ。

 

 グレイフィアがマシンガントークをしている間に、玄関のチャイムを鳴らして入ってきたんだよな。グレイフィアとリアスの2人は気づかなかったみたいだが、レイナーレは気づいて玄関まで出迎えに行き、すでにサーゼクスの分の紅茶まで用意しているぞ。

 

「やあ、リアス。ごきげんよう。元気そうで何よりだ。皆も変わりないようだね」

 

 サーゼクスはにこやかに微笑む。

 

「お土産を持ってきている。私がプロデュースしたリアスの写真集だ。タイトルは『グレモリー家の次期当主にして私の自慢の妹 ~リーアたん成長編~』。幼少の頃から日本のハイスクールに入学するまでの成長記録なのだよ」

 

 などと、リアスの写真集を取り出して、俺たちに配る。てか、私の自慢の妹ってオープンなシスコンだな。でも、写真集は感謝だ。……うむ。中学生のリアス。この頃から他の女生徒よりも発育がいい。

 

 当のリアスは顔を真っ赤にしながら「見ないで! 見ちゃダメ!」って、みんなから本を回収していた。ふふふ、簡単に渡した俺の写真集は即席で複製したダミーだからな。本物はあとでたっぷり楽しませてもらうよ。

 

「サーゼクス、今日は4大魔王だけで話し合う重大な会議があったはずでしょう? まさか、抜け出してきたのかしら?」

 

 グレイフィアの眼が鋭く光る。サーゼクスは特に気にすることもなく、平然と答えた。

 

「ハハハ! 私はここから会議に参加しようと思ってね。私の映像だけリアルタイムであちらに転送すれば会議は成立――痛い痛い痛い。痛ひよ、グレイフィア」

 

 グレイフィアはサーゼクスの頬を思いっきり引っ張っていた。サーゼクスは笑顔だが、その眼にはうっすらと涙が浮んでいた。

 

「……あなたはどうして私がオフのときはやんちゃばかり……。やはり、今日、オフなんていただかなければ良かったかもしれないわ。いまからでもメイドに戻ろうかしら」

 

 グレイフィアは不機嫌な顔でぶつぶつと小声でつぶやいていた。マジで怒ってるな。

 

 カッ。

 

 テーブルの上に突然小さな魔法陣が光を発しながら3つ出現する。

 

 ザ……ザザザザ……。

 

 テーブルに立体映像らしきものが各魔法陣から映し出される。ノイズ混じりの映像が徐々に正常となっていく。すると、そこには3人分の顔が映りだした。

 

『サー……ゼ……クス……。……サーゼクスちゃん……聞こえるー……? おーい、サーゼクス……ちゃーん……』

 

 まだノイズが混じっているけど、この声と口調はよく知っている。

 

 ――と、完全に顔と声がハッキリとした。

 

『サーゼクスちゃん! もう、勝手に人間界に行っちゃうんだもん! 私だって、人間界に行きたいのにぃ!』

 

 やっぱり魔王少女のセラフォルー・レヴィアタン。通称セラたんだった。

 

「やあ、セラフォルー。すまない。いま、エイジの家に来ているのだよ」

 

 サーゼクスの説明を受けて、セラフォルーは視線をこちらへ向ける。

 

『あーっ、ブラたん! 待ってて! 私もいまそっちに!』

 

「落ち着いてくれ。これから会議なんだからいま移動されては困るよ」

 

『うー……』

 

 サーゼクスの言葉を訊いてセラフォルーはかわいらしく唸る。恨めしくサーゼクスを睨んだあと気を取り直してあいさつしてきた。

 

『サーゼクスちゃんにはあとから話を聞かせてもらうとして……。皆、久しぶりだね☆』

 

「ごきげんよう、セラフォルーさま」

 

 リアスがあいさつをしていた。

 

『はい、ごきげんよう、リアスちゃん。もう。サーゼクスちゃんったら、そちらに行くなら最初から言ってよねー! せっかく久しぶりにブラたんに会えたのにー! アジュカちゃんもファルビーも時間に厳格なサーゼクスちゃんが席にいないものだから、不思議がっていたんだから!』

 

 セラフォルーがぷんすか怒っていたが、相変わらず全然怖くないな。

むしろかいらしいし。

 

 てか、魔王同士の会議するって言ってたな。セラたんも現魔王の名をデフォルメした名を呼んでいたし、テーブルには残り2つの映像が映し出されてるしな。  

 

『サーゼクス。おまえが会議を抜け出して人間界に行くということは、何か事件が起きたか、おもしろいことが起こるかのどちらかだ。――後者なんだろう?』

 

 妖艶な顔つきの美少年が口元を妖しく笑ませて言う。

 

『……えー、めんどいことは止めてよね。僕、働きたくないぞ……』

 

 もう一方は頬杖つきながら眠たそうな顔をしている男性。

 

 ……どちらも見覚えがある。テーブルを囲う皆が固まっていることにサーゼクスが気づいた。

 

「エイジは顔見知りだろうが、他のみんなにはまだ紹介していなかったね。そちらの妖しげな雰囲気の男性がアジュア・ベルゼブブ・主に術式プログラムを始めとした技術開発の最高顧問だ」

 

 アジュカ・ベルゼブブの視線が俺に移る。

 

『妖しげな雰囲気なのは悪魔的でいいじゃないか。――と、皆さん初めまして。――そして、久しぶりだな。神城エイジ。最近おもしろいものを開発し始めたそうじゃないか。やっとキミも開発研究の喜びに目覚めたようだね』

 

「……まあ、物を創るのは楽しいと思ってるが、アジュカほど熱心ではないぞ」

 

『ふふふ、誰しも始めはそう言うのさ』

 

 妖しく微笑むアジュカ。『悪魔の駒』を作った張本人だが、……やっぱり少し苦手だ。主に何か含みある雰囲気が。

 

 さらにサーゼクスが紹介する。

 

「それで、そちらのめんどうくさそうにしているのがファルビウム・アスモデウス。主に軍事を統括している」

 

『……どうも。ファルビウムです』

 

 ……紹介終わりか。相変わらずのめんどうくさがりだな。

 

「「「「「ごきげんよう、ベルゼブブさま、アスモデウスさま」」」」」

 

 皆もあいさつをする。

 

『ちょっと、ファルビー! リアスちゃんの眷属の皆さんとブラたんたちがあいてなんだから、きちんとあいさつしないとダメなのよ!』

 

 ファルビウムはセラフォルーに怒られるが、まったく気にした様子もなく机にだれて、逆に働きすぎだと言い。さらにだれる。

 

 ……魔王少女セラフォルーが外交面、面倒くさいのNGの働きたくないファルビウムが軍事、マッドなアジュカ。そこに能天気なサーゼクス……。

 

 冥界のトップはゆるゆるだなぁ。能力は文句なしなんだろうけどさ。

 

 魔王たちのやり取りがひと段落すると、ベルゼブブが興味深そうにつぶやいた。

 

『それでサーゼクス。何が起こるんだ?』

 

 サーゼクスは微笑んだあと、リアスと俺を交互に見て、口を開く。

 

「実はリアスにグレモリー家の例の儀式をゆかりの遺跡で受けてもらおうと思っていてね。グレイフィアがここを訪れたのもそれが目的でもある」

 

「「「おおっ」」」

 

 サーゼクスの言葉を受けて、3人は笑みを見せる。どういうことだ?

 

 疑問に思うのは俺だけじゃなく、リアスもだった。肩眉を上げていた。

 

「お兄さま――いえ、ルシファーさま、それはどういうことなのでしょうか? 遺跡とは先祖代々重要としてきたあの場所でしょうか?」

 

 リアスの問いにサーゼクスはうなずく。

 

「うむ。グレモリーの者はある程度の歳に達するとの遺跡にて、通過儀礼をおこなうのだ。――親愛なる者と共に。意味はわかるね、リアス?」

 

 そのサーゼクスの一言を聞いて、リアスはいままでにないほど顔を赤らめていた。あー、つまり正式に婚約者になるための儀式みたいなものか?

 

『それはおもしろい。会議よりも重大だ』

 

『サーゼクスちゃんのとき以来ね! ――うふふ、これが成功してもしなくてもブラたんルートが開けるわね☆ 寝取りルートも不倫ルートもお妾さんルートも……ああ、本当に楽しみ☆』

 

『あー、それはおめでとー。先に祝っておくよ』

 

 アジュカにセラたん、ファルビウムも儀式について知っているようだ。てか、セラたん……、小声でも危ない発言は自重してね。皆人外で耳がいいんだからさ。

 

 グレイフィアは立ち上がり、リアスに改めて言う。

 

「そういうことなのです、リアス。それがお義父さまとお義母さまからの言付けなのよ。私たちを安心させて欲しいというのはあなたに儀式を行なってもらうことなのです。拒否は認めません。それぐらいの安堵をあなたは私たちに与えてくれないといけないわ。――うちの人が余計な方々まで引き寄せてしまったけれど。サーゼクス、わかっているよね? 帰ったら、再教育ですよ?」

 

 旦那のほっぺたを思いっきり引っ張って、冷たい視線をむけるグレイフィア。本当に仲いいよな。

 

「ハハハ、ほういうことらから、リーアたん。エイジとがんびゃぅってくれたまへ……。いたひいいたひよ、グレイフィア」

 

 サーゼクスはほっぺたをつねられながらも笑顔だけは絶やさない。けど、涙だけはぼろぼろ流されていた……。家庭内の力関係では嫁が最強のようだ。

 

 ていうか、会議はどうしたんだ?

 

「はぅぅぅぅ、エイジ……ど、どうしよう……」

 

 俺はかわいらしく困った声と顔を向けて倒れるようにもたれかかるリアスを慰め、一緒に買い物に行く予定だったイッセーと木場に「今日は行けなくなった」というメールを出した。

 

 それにしても立て続けに起こる事件といい、現魔王4人の来訪なんてどんどん日常とかけ離れていってるなぁ。

 

 ひと昔前は戦闘なんて賞金稼ぐときだけで、ほとんど自由気ままにひっそり暮らしていたのにさ。

 

 まっ、楽しいから別にいいけど。

 

「見てください! 細やかな生活用品は全部百均でそろえたんです! 日本には百円均一のお店があって、素晴らしい限りです! 安いって最高ですね!」

 

 百円でしこたま買い物してきたロスヴァイセと付き添いをしていたセルベリアが帰ってきたのは、魔王夫妻が帰ったあとのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうわけで、その日から数日が経った。

 

 俺とリアスは冥界グレモリー領のとある山岳地域に存在する遺跡に来ていた。今回の格好は冥界用の衣装ではなく、リアスと一緒で駒王学園の制服だ。

 

 セルベリアたちと眷属の皆は家で留守番。皆来たがってはいたけど、さすがにグレモリーの重要な場所らしいんで関係者以外踏み込むことすらできないようだ。

 

 ここに招かれるってことは、もう俺も正式なグレモリーの関係者ってことなんだろうな。

 

 眼前に岩肌だらけのなかに精巧な石造りで形作られた遺跡の大きな入り口がある。両脇に石柱が立ち並び、石柱と石柱の合間に歴代のグレモリー家の人たちを模した石像も建っていた。

 

 全体的に豪華な創りで破損箇所などもない。さすがはグレモリーが重要な場所というだけはあるな。

 

「ふぅ……、まさかもうこの試練を受けることになるなんて……」

 

 俺の隣で深いため息を吐くリアス。

 

「まあ、いいんじゃないですか。遅かれ早かれ行なわれていた儀式のようですし」

 

「そう……、そうね。いつかは受けなきゃいけないんだからね」

 

 リアスがそうつぶやいて前を向こうとしているときだった。

 

「とう!」

 

 謎の声。見上げればそこには――。

 

 空高くで何かがキラリと光った。そこから何者かが落下してくる。…………はぁ。俺と、隣で身構えるリアスの前に仮面と特撮衣装みたいなものを装着した者たちが降ってきた。

 

 全員で5人……。そいつらの正体に思い当たっている人数も5人。何やってるんだこいつら? つーか、なんて格好だよ……。まるで戦隊ヒーローのような格好じゃないかよ。しかも、赤、青、黄色、緑、ピンクでそれほどの特徴もない初代戦隊もの……。ちなみに赤、青、緑が男性。黄色とピンクが女性だ。

 

 そいつらは着地したあと、5人でポージングを決める。

 

 ドォォォォォオオオオオオンッ!

 

 5人のうしろに謎の派手な爆発とカラフルな煙が上がる。

 

「な、何者?」

 

 リアスは警戒しているようだったが、あれ? 気づいてないの? まあ、空から降ってきた不審人物以外の何者でもないけどさ。

 

 真ん中の赤い特撮衣装を着た奴がババッとポージングをしながら叫ぶ。

 

「ふはははははは! 我こそは謎の魔王――」

 

 スパン!

 

 黄色がハリセンで赤を殴った。……声ぐらい変えろよぉ!

 

「すまんすまん。コホン。改めて! 我らは魔王戦隊サタンレンジャー! 私はリーダーのサタンレッド!」

 

「同じくサタンブルー」

 

「めんどいけど、サタングリーン」

 

「レヴィアたん……じゃなくて、サタンピンクよ☆」

 

「……はぁ、えーと、サタンイエローです」

 

 …………。

 

 やっぱりおまえらか……。リアスも開いた口が塞がらない状態のようだ。

 

 それにしても魔王戦隊って……。自分から正体をバラしているようなものだよな。

 

 どう見てもレッドがサーゼクス、ブルーがアジュカ、グリーンがファルビウム、ピンクがセラフォルー……。自分でレヴィアたんって言ってたし、もうバレバレだよ。

 

 それに最後のイエローもサーゼクスとのやり取りやスタイルからグレイフィアだとわかる。気恥ずかしそうだし……、真面目なグレイフィアにとって一種の羞恥プレイだよな。

 

「どうだ? いいポーズだろう。昨夜、息子と一緒に練習したのだよ」

 

「何よ! 私だって、かわいいポーズをたくさん考えたんだから☆」

 

 ノリノリでポージングを決めていくサーゼクスとセラフォルー……。

 

 冥界って本当に平和だなぁ……。

 

 こいつらがトップなんだから、そりゃ、『乳龍帝おっぱいドラゴン』なんてふざけた番組が流行るわけだ。魔王になったら厳格な魔王になるだろうサイラオーグに、魔王になって欲しいと思ってきた……。

 

「……リアス、どうする?」

 

 と、リアスに訊ねてみる。サーゼクスがこれじゃさすがにリアスも……。

 

「な、何者かしら……。強大な魔力を感じるわ。魔王戦隊だなんて……魔王クラスが5人も集まったとでもいうの?」

 

 ――っ! まさか気づいてないのか!?

 

 リアス!? あれ、おまえの兄だぞ! 魔王戦隊って名前だし、声すら変えてないし、アホなポージングと魔力の波長で気づくだろ!? 修行でも魔力で相手を誰か判断できるように鍛えたよな!? まさかリアスの深層心理がこの見るからにアホな5人の正体に気づくことを拒絶しているのか?

 

 リアスの怪訝な表情を見て、サーゼクス――いや、サタンレッドが言う。……サーゼクスと呼びたくないから、いまはサタンレッドだ。

 

「我々はグレモリー家に雇われたのだ。この遺跡には3つの知れんがキミたちを待ち受けている。それを見事に2人の力で突破してもらいたい。大事なのはコンビネーションと個々の能力!」

 

 と、レッドが説明をしてくれる横でピンクがあらぬ方向を指さす。

 

「ハッ! 謎の飛行物体を発見!」

 

「なに! 皆、一斉攻撃だ! 『 滅殺 の 魔弾 (ルイン・ザ・エクスティンクト)

 

「『 覇軍 の 方程式 (カンカラー・フォーミュラ)』、業の式!」

 

「……とりゃー、アスモデウス的な攻撃ぃ」

 

「えーと、いちおう、イエローショットで」

 

 チュドォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!

 

 ……滅多に見れないほどの規模の爆発が空中で巻き起こる。

 

 魔王クラスが5人同時に空へ掃射した余波は俺たちだけじゃなく、この山岳地域全体を大きく揺さぶり、空気が激しく震動し、眼下に広がる森林の動物たちが悲鳴をあげて逃げていく……。

 

 あぁ、空まで割れて、不気味な次元の狭間が広がっていくぞ……。さらに色彩鮮やかで煌びやかな光の粒子がこの山を包み込んだ。

 

「―って、ただの悪霊になんてことしてやがるんだ!」

 

「ハハハハ」

 

「てへ☆」

 

 レッドが笑いピンクがかわいらしいウインクをする。ただの悪霊に魔王クラスの一斉攻撃ってなんてオーバーキルなんだよ……。多分完全に消滅したぞ、おい。

 

「それで、試練とは?」

 

 何事もなかったようにリアスが話しかけてる!?

 

「リ、リアス、あれを見なかったのか……? 悪霊に向って全力攻撃してたんだぞ、あいつら」

 

「落ち着いてエイジ。悪霊はよくないから倒すべきだわ」

 

「いや、そうなんだけど! それはそうなんだが! あまりにもオーバーキルだろ!? あー、もういい! 俺もスルーする!」

 

 真面目に対応してたらおかしくなりそうだしな。このノリについていってやるよ!

 

「我々が各試験を受け持つ! グレモリーを受け継ぐ若き2人よ! 見事、三つの試練を超えて遺跡の奥まで到達してみせるのだ! それでは我々は一歩先に各セクションで待っているぞ! フハハハハハハ!」

 

 レッドが素早く遺跡の入り口に入っていく。それに残りの4人が続いていった。

 

 ……残される俺とリアス。まったく、いろんな意味でどんでもないことになったな。

 

「行きましょう、エイジ! ここまで来たら吹っ切れたわ! 私とエイジがどれだけ深い仲か彼らに見せつけてあげましょう!」

 

 リアスの気合のスイッチが入ったのか俺の腕を掴んで遺跡の奥へと進み始めた。

 

 認められれば正式な婚約者として堂々とリアスと結婚できるんだ。恋人としてがんばるしかないよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーゼクスたち現魔王……、いや、魔王戦隊が出した3つの試練は、ダンスやテーブルマナー、筆記試験と悪魔として貴族としての常識問題だったが、元々教え込まれていたのでそれも楽勝で終わり、リアスと喜び合いサタンレッドが待つという最後の扉を潜り合格の報告をするはずだったのだが、その場所が問題だった。

 

 天井がなく、驚くほど広い空間となっていて、コロシアムのような高い壁が円形に広がり、見物席と武舞台があったんだ。

 

 見物席の上から武舞台を見下ろすと、レッドとイエロー――つまり、サーゼクスとグレイフィアが立っていた。

 

 ……場所も漂う空気も明らかに合格の報告だけでは済まない雰囲気で嫌な予感がする。

 

 武舞台へ下りる階段を見つけ、そこから下へ進む。

 

「おめでとうございます、2人とも」

 

 イエローが俺たちを快く迎え入れてくれるが、嫌な予感は的中した。

 

 レッドが1歩前に出て、高らかに叫ぶ。

 

「よし! よくぞ、ここまで来た! しかーし、これで追われるほど、グレモリー家の試練は甘くないのだ! 神城エイジとリアスにはそれぞれ真の最終試験を受けてもらう!」

 

 ああ、やっぱりか。

 

 これまでの試練でさらにテンションが高くなったリアスがレッドに叫びながら返す。

 

「受けて立ちましょう! さあ、試験内容を教えて! 必ず合格して私たちの仲を認めさせてあげるわ!」

 

 レッドは大きくうなずいて言う。

 

「うむ! リアス・グレモリーの最終試験はこのサタンレッドと戦い、私を倒すことだ! 神城エイジの最終試験はサタンイエローが別の場所で行なわれることになっている!」

 

「別々の試験か……」

 

 てか、サーゼクスとリアスが戦うのかぁ。グレモリー家の兄妹対決を見てみたいが、俺はグレイフィアと試験らしいからな。

 

 俺のつぶやきが聞えたのか、リアスが空間を歪めて弓を出し、かまえながら高らかに言う。

 

「大丈夫よ! たとえ相手が魔王クラスでも勝利してみせるわ! 誰にも私とエイジの仲を邪魔させないんだから!」

 

 か、カッコイイ……。と思ってしまったのは言うまでもなかった。

 

 同じくかまえるレッドとリアスが向かい合う。

 

 そして2人を一瞥したイエローが俺の方を向いて言う。

 

「では、戦闘の邪魔にならないよう私たちも別の場所へと移動しましょう。……試験内容は転移後にお教えします」

 

 転移の魔法陣が俺とイエローの足元に展開される。

 

「リアス、俺もがんばってくるよ」

 

「ええ、私も全力でサタンレッドを倒してみせるわ!」

 

 こうして俺たちの最終試験が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<リアス>

 

 

 エイジがサタンイエローに連れられ、別の場所に向ったあと、私とサタンレッドは武舞台の中央で改めて向かい合った。

 

「魔王戦隊サタンレンジャーのリーダー、サタンレッドだ! さあ、最終試験を始めようか!」

 

 かまえるレッドは紅いオーラをまとう! その紅いオーラから感じる力は確かに魔王クラス!

 

 でも! 相手が例え魔王クラスでも関係ない! 弓を構えて同じく紅いオーラをまとう!

 

「グレモリー家次期当主、リアス・グレモリーよ! 絶対にあなたを倒してエイジとの仲を認めさせてみせるわ!」

 

 絶対に勝つ! 勝ってエイジとの仲を認めてもらい、さらに私はグレモリー家次期当主としての自信を得る! ただの飾りではなく、本当の次期当主としての力を示してみせる!

 

 弓に滅びの魔力を溜める私に、レッドは絶大な滅びの魔力を発し始めた!

 

「ふふふ。……シャルバ、フェンリル、悪神ロキをも倒してきたリアス・グレモリーか。緊張するものだ! これほどの高揚感は久しいものだな!」

 

 くっ! 本当になんてオーラよ! それに滅びの魔力って、サタンの家に連なる者なの!?

 

「でも、そんなのは関係ないわ!」

 

 尻込みしそうになる自分を叱咤して弓をかまえる!

 

「とう!」

 

 ブオオオオオオオオオオンッ!

 

「――っ!」

 

 レッドが私に滅びの魔力を放ってきた! これは――避けるしかない!

 

 咄嗟にかまえを解いて避けるけど――。

 

 ギュパン!

 

 後方に飛んでいった一撃は、コロシアムの一角を塵も残さずに大きく削り取った。

 

 まったく、なんて威力なのよ! 私が放つ滅びの魔力と比べて、威力も込められている魔力の密度も何もかも段違いじゃないの!

 

 私の防御力は魔術を使ったとしてもそこまで高くない。一撃でも食らえばヤバいわね。

 

 相手の実力を再確認した私は弓をかまえて収束した滅びの魔力の矢を放つ!

 

 放たれた矢が空間を切り裂きながらサタンレッドへと一直線に向う! サタンレッドは避ける動作も見せずに受け止めるようだけど――。

 

「むっ! これは!?」

 

 受け止めようとしていたサタンレッドが矢が体に触れる前に体を逸らして回避した。目標が逸れてサタンレッドの体のすぐ横を通り過ぎる矢はそのままコロシアムの壁の一部にどこまで続くかわからない深い穴を開けた。

 

 チッ、惜しい! 油断しているいまならまともに食らうと思っていたのに!

 

 サタンレッドは後方に開けられた穴を見つめると、こちらを向いてつぶやいた。

 

「まさかリアスがここまで成長しているなんて……、自分の眼で見るまでは信じられなかったな」

 

 ……サタンレッドの声に懐かしさのようなものを感じる。まさかサタンレッドの正体は私に近しい人物?

 

 ……いいえ、サタンレッドの正体はいまはどうでもいいわ。それよりも勝つ手段を見つけないと!

 

 私は切り札の1枚である、魔力の解放を使う!

 

 エイジや黒歌の仙術による一時的な身体強化の魔力版! これによって私は滅びの魔力を身にまとい続けることができ、魔力による活性化で身体能力が上がり、弓への魔力収束の速度や威力など、様々な能力が一時的に強化され、さらにまとっている滅びの魔力が周囲の空間さえも滅ぼす!

 

「それは!? その姿は!?」

 

 サタンレッドも驚いている様子。まあ、滅びの魔力を全力でまとうと姿が少し変わるからかしらね?

 

「これが私の切り札の1枚目よ。滅ぼされたくなかったら、降参しなさい!」

 

 私は自分自身も鼓舞しながら弓をかまえるが――、

 

「フハハハハハハハハハ!」

 

 サタンレッドは雰囲気を一変させて高らかに笑い声を上げた。

 

「まさか、その姿になれるなんて! フハハハハハ!」

 

「何がおかしいの!」

 

「ああ……、ああ、すまない。いや、自分だけじゃなかったと思うとね……」

 

「何のこと?」

 

 私が怪訝に訊ねると、サタンレッドはこちらを向いて――。

 

「ふんっ!」

 

 私よりも高密度の滅びの魔力を体にまとった。体の輪郭がぼやけるほどの滅びの魔力をまとうなんて……。

 

 サタンレッドは滅びの魔力で空間を滅ぼしながら叫んだ。

 

「さあ! 本当の戦いを始めようじゃないか!」

 

「……くっ! 望むところよ!」

 

 私はさらに出力を上げてサタンレッドに戦いを挑んだ。

 

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

 ――と、戦いが開始してから15分ほど経過した。

 

 はぁーはぁー。

 

 私はもうすでに息を切らせ、体にまとっていた滅びの魔力も消えかかっていた。

 

「どうした、リアス・グレモリー! こんなものか!? エイジへの想いはこの程度なのか!?」

 

 まだ余裕のポーズでサタンレッドがポージングをする。

 

 最初から各上だと思っていたけど、とんでもないわね……。

 

 戦闘が開始してからずっと避けては撃っての繰り返しだったけど、全てが避けられるし、小技を挟んで体に当てたとしても滅びの魔力がそれを自動で防ぐ……。

 

 相手に使われるとこれだけ攻め難い技だったなんて思わなかったわ。魔力量も私より多くてまだまだ滅びの魔力は体にまとい続けられるみたいだし、体から放つ滅びの魔力とは別に、いくつも空中に浮べている滅びの魔力の球も厄介極まりない。

 

 近距離はもちろんダメで、そもそもサタンレッドの防御を抜くほどの魔力を溜められない。

 

 中距離、遠距離戦で撃ち合いで溜める時間がないのだ。収束速度が上がってもすぐに放つのでは魔力の消費が多くなるだけで、サタンレッドの攻撃をかわすのも身体強化が必要だからその分魔力をさらに消費する。

 

 なので、現在ガス欠なわけだけど……、負けられない!

 

 実力差があるのは十分理解している! 魔力が残り少ないのも自覚しているけど、負けられない!

 

「気張りなさいな。グレモリー家の次期当主で滅びの魔力を持っていたとしても、上級悪魔があの状態のサーゼクス相手に10分以上戦えるなんて将来が有望な証拠だ。正直、サーゼクスの妹だったとしても、ここまでやれるとは思わなかった。キミは予想以上の存在だよ、リアス・グレモリー」

 

「……ZZZZZZ……」

 

 応援席から私を応援する声が聞えてくる。――って!?

 

「ベルゼブブさま!? アスモデウスさま!?」

 

 何故魔王のお2人が!? しかも、着ている衣装はサタンブルーとサタングリーンのモノ!

 

 それにベルゼブブさまの言葉! ま、まさか、魔王戦隊サタンレンジャーの正体は現魔王さまなの!?

 

 ……そう考えれば、ブルーがアジュカ・ベルゼブブさま、グリーンがファルビウム・アスモデウスさま……、関係図と背格好などでいうと、いまは姿が見えないピンクがセラフォルー・レヴィアタンさまで、……イエローがグレイフィア、レッドがお兄さま……。

 

 私はサタンレッドに向き直って問う。

 

「……お兄さま、なのですか?」

 

 サタンレッドは私の問いに答えるように、体にまとっていた滅びのオーラを解いて戦隊スーツのヘルメットを外した。

 

 ヘルメットの下から覗く顔は――確かに、お兄さまだった。

 

「まさか、お兄さまがサタンレッドだったなんて……」

 

「まったく、アジュカとファルビウムも簡単に正体をバラすなんて、戦隊モノのヒーローは正体がわからないのが魅力なのに。ああ、リアス、私がサタンレッドであることは皆に秘密だよ」

 

「…………」

 

 お兄さまはいつもの調子で話しかけてきたけど、私はサタンレンジャーの正体が現魔王とグレイフィアであるという事実を受け入れるのに必死で返すことができなかった。

 

 …………まさか現魔王が戦隊スーツを着てサタンレンジャーを名乗っているなんて……! しかも、それが実兄で妻子持ちのお兄さまなんて……! グレイフィアにまであの恥ずかしいスーツを着せるなんてっ!

 

「さあ、リアス! エイジが好きなのだろう? こんな調子でいいのかね? 私を倒すぐらいの気概を見せてくれないと、グレモリー家次期当主としても、とてもじゃないが、まかせられないな!」

 

 …………。

 

 私は目の前で戦隊のポージングを決める兄にお仕置きするためにも、もうひとつの切り札を切った。

 

 空間を歪めて黒い十字架を取りだす。

 

「やる気になったみたいだね」

 

「…………」

 

 弓をかまえ、矢の代わりに黒い十字架を使い、滅びの魔力を込める。

 

 シュウウウウウウウッ!

 

 黒い十字架に滅びの魔力が収束されていき、さらに共鳴するように黒い十字架から膨大な量の滅びの魔力が噴きだし、矢のカタチへと変化した。

 

「……リアス? その魔力は――」

 

 お兄さまが驚いたような表情でこちらを見てくる。わたしは矢を引きながら笑顔で言う。

 

「この黒い十字架には私の滅びの魔力が溜められていて、こうやって魔力を流すと十字架のなかに溜めていた魔力が解放され、矢のカタチとなって具現化するんです。本来なら収束できずに矢にできない量の魔力でも、核と元から込められた矢があるなら溜める時間も必要なく、これまでの私の限界を超えた貫通力も殺傷力も何もかもが別物となった攻撃を放てるんですよ」

 

「り、リーアたん? その攻撃はいくらなんでも、試験とはいえ……、私でも下手すると消滅してしまうよ?」

 

「そうでしょうね。これは1回きりとはいえ、魔王クラス以上の、私の身に大きく余るほどの攻撃を放てますし……」

 

「うん。正直これまで示した力だけで十分、試験には合格しているんだし、もう止めて――」

 

 お兄さまの言葉を待たずに言う。

 

「ですが、サタンレンジャーなどと名乗って現魔王たちとグレイフィア……、そう、お義姉さまにあんな戦隊スーツを着せるのはいくらなんでもダメでしょう! ミリキャスという大きな子供もいるんですよ! ミリキャスがしったらなんて思うか考えないんですか!」

 

「そ、それは、で、でも――」

 

「問答無用です!」

 

 私は、黒い十字架で最大以上まで強化した矢を撃ちだした。

 

「ま、マズい!」

 

 咄嗟に回避行動を取るお兄さま。だけど、甘い。

 

 バッ!

 

 ズドドドドドドドドドドドドドド……ッ!

 

 一本だった矢が弾けて無数の小さな矢となってお兄さまに襲い掛かる!

 

「な、なに!?」

 

 お兄さまは空間を埋め尽くさんばかりの滅びの矢に驚愕した様子だが、もう回避は不可能。

 

「反省してください!」

 

 私の声と共にお兄さまを無数の滅びの矢が襲った。

 

 分散させたことで威力が弱まって、おそらく大した怪我も負わせられないでしょうけど、これまでからかわれてきた分も含めて返したわ!

 

 確かな手応えと共に、矢によって舞い上がった砂埃が晴れると、戦隊スーツがボロボロになってあちこちに軽い怪我を負ったお兄さまがヒザをついていた。

 

「アハハハハ! まさかここまでとは! これは完全にサーゼクスの負けだな!」

 

「……キレーな花火だったねぇ……」

 

 ……正直、ベルゼブブさまもアスモデウスさまにも反省して欲しいけど、これはグレモリー家の、エイジと私の仲を認めてもらうための試験。

 

 私はお兄さまに近づいて弓矢を向けて勝ちを宣言した。

 

「この試験、私の合格ですね」

 

「ああ、まさかリーアたんがここまで成長していたなんてね。試験は文句なしの合格、私の完敗だよ」

 

 そう言ってお兄さまは目を閉じて――、

 

「お、に、い、さまっ! あの程度でお兄さまが気絶するわけないじゃないですか! 騙されませんよ、私は!」

 

「ハハハハ、本当に成長したね。リーア」

 




 本当は1話にまとめるはずだったんだけど、いろいろ描きすぎて45000字超えてしまったので分割します。

 あと、次話についてですが、『仮眠』さんに刺激されてしまった感じで以前から考えていた展開にしたので、かなりヤバいです……。

 いや、大体の感想の返信見た人は予想はついているかもしれないと思いますが、本当にいろいろヤバいです。

 覚悟のうえに次話をご覧ください。


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第68話 グレモリー家の試練 後編 ☆

 最初に謝っておきます。 ごめんなさい! 欲望と妄想が暴走しちまった!


<エイジ>

 

 

 リアスと別れてサタンイエロー――グレイフィアからだされる試験に、普段よりも真面目に取り組もうとしている俺にだされた試験は、完全に俺向きの内容だったのだが、その内容に戸惑いを隠せないでいた。

 

 戸惑う俺に、グレイフィアは特に気にした様子もなく言う。

 

「どうぞ、ご自由にお使いください」

 

「いやいやいやいや、ちょっと待ってくれよ! いくらなんでもこれは――」

 

「私では、不服ですか?」

 

「いや、そんな不機嫌になられても……」

 

 つれてこられた場所は、妖しい証明が目立つ、大きめのダブルベッドが置かれた最小限の家具が置かれた部屋。

 

 そして、そのベッドの上に大人っぽく薄く、面積の少ない黒のブラとガーターベルト付きのショーツを着たグレイフィアが胸を隠すように抱いていた。

 

「さあ、どうぞ」

 

 ベッドで羞恥に顔を赤らめるグレイフィアとは別の場所から、同じグレイフィアの声がする。

 

「いや、どうぞって言われてもさぁ……」

 

「……やはり私の体では不服ですか?」

 

「そういうわけじゃないけど……」

 

「でしたら別に問題はないでしょう。あなたはいつも通りにインキュバスとして食らえばいいだけなんですから」

 

「だけど……」

 

 後ろから聞える「早く犯せ」というグレイフィアの声の主とは違い、ベッドの上では顔を赤らめ、体を隠して股を閉じているグレイフィアがいるわけで……。

 

「先ほどから説明している通り、そこにいる私はアジュカ・ベルゼブブさまの協力の下、製作された私を模した人形なのですから、遠慮などは要りません」

 

 グレイフィアはそう言い放つけど、

 

「いくらなんでも似すぎなんだって! 友人の妻を犯せっていうのか、おまえは!?」

 

 髪型から、顔の作りから、体つきまで何から何まで一緒じゃねぇかよ! ホクロの位置まで一緒って怖いぞ! いや、ちょっとウエストが細くて胸や尻のカタチが……、これアジュカじゃなくて、グレイフィアが最後仕上げたのか? 何か本物よりもスタイルがいいぞ。ほんの少しだけど……。

 

「言葉遣いに気をつけてください。これは正式な儀式で、試験なのですから。……純血のインキュバスであるあなたに合わせて、歴代の試験内容まで変えたのですよ」

 

 心のなかを読み取られたのか少し視線がキツくなったが、反論だけは続けさせてもらう。

 

「いや、歴代の試験内容を変えてもらったことについては感謝するべきなんだろうけど、相手役がおまえに似てるのは問題だろ! せめて相手を別の容姿にしてくれよ……」

 

 俺、おまえとサーゼクスの身分と派閥違いの大恋愛を知ってるんだぞ……。知ってるし、仲も良いのに子持ちの人妻を寝取るような真似はあまりしたくない。それが友人の妻ならなおさらだ。

 

「まあ、私にも思うところがないわけではないですが……」

 

「そうだろう、だから――」

 

「私と人形の感覚リンクには必要だったのです」

 

「……は?」

 

 感覚……、リンク?

 

「つまり、ベッドの上のグレイフィアとセックスすると、おまえにも伝わるってことか?」

 

「ええ、その通りです」

 

「もっとヤバいじゃないか!」

 

 ご本人にも感覚伝えながらって、どんな特殊なプレイだよ!? 

 

「誰がこんな試験を思いついたんだ!?」

 

 サーゼクスか!? サーゼクスなのかっ!

 

「それは――奥方さまです」

 

「なっ!? 奥方さまって、ヴェネラナさんが!?」

 

 リアスの母親であるあの人が!? ……いや、あの人ならやりそうだなぁ……。 

 

「奥方さまはインキュバスを計るのには、やはり性行為が一番だとおっしゃいまして。まったくの別人を代役として立てるという手も確かにあったのですが、それでは信用が十分とも言えませんので、私の遺伝子を素にホムンクルスという、私に似せた人形を製作し、感覚だけリンクさせるという手段をとることになったのです」

 

「…………」

 

「納得いただけましたか?」

 

「……はい」

 

 ……もう、どうにでもなってください……。

 

「では始めてください。私は後方の椅子に座って終わるまで待っています。それと、この部屋に入室してから部屋の内部の時間を進める結界が発動し続けているので、時間のほうは気にしないでください」

 

 そう言って締めくくり、椅子に腰を下ろそうとしたグレイフィアだったが、もう一度口を開くことになった。

 

「サタンピンク……、いえ、セラフォルー・レヴィアタンさま」

 

 気配を消してベッドに近寄ろうとしていた戦隊服を着ているセラフォルーが動きを止めた。マスクで表情は見えないが、おそらく冷たい汗を流しているだろう。

 

「な、なにかな? グレイフィアちゃん」

 

 子供が、叱られてるのが怖いといったような声音で、明らかにグレイフィアを畏れていた。グレイフィアはため息を吐いたあと、セラフォルーの腕を引いて隣の椅子に座らせた。

 

「いまはグレモリー家の将来が掛かった試験中なのですから、自重してください」

 

「うう……、久しぶりにブラたんとエッチできるチャンスなのにぃ……」

 

「試験が終わってからにしてください。さあ、レヴィアタンさまはこちらで見張っておきますので、あなたも開始してください」

 

「……わかり、ました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 改めてベッドの上に恥ずかしそうに顔を赤らめ、下着姿で体を隠しているグレイフィアを模した、ホムンクルスに向き直る。

 

 ベッドの上のグレイフィア……、もうグレイフィアでいいか。そのグレイフィアはキラキラした銀髪から髪型、スタイルと全てが本人と似ていた。

 

 うーん、正直ここまで似ていると本当にやりにくいんだけど、スイッチが入ったら止まらなくなるんだよなぁ。さすがインキュバスというか、性欲1番になってしまうからな。

 

 とりあえずムードをだしてスムーズに行なえるようにと、体に手を伸ばそうとすると、ビクッとグレイフィアの体が跳ねた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 無言で見つめ合ったあとグレイフィアが顔を逸らす。少しだけ唇を噛んで恥辱に耐えるような表情だ。……ああ、やりにくいっ!

 

「ど……、うぞ。…………どうぞ、犯してください……」

 

 ベッドの上にグレイフィアが仰向けで寝転がり、体の陰部を隠していた腕をゆっくりとどかした。……ああ、眼に涙を浮ばせて、唇を噛んで視線を逸らすところまで完璧だよ。脅されて体を開く美人妻をリスペクトしてるな……。

 

「さあ……」

 

 嫌々ながらもゆっくりと股から力を抜いて開いていく。

 

 大人っぽい黒の下着にガーターベルトが映える。

 

 うん……、うん。もう深く考えても仕方がないんだし、合格できるように全力で犯そう。

 

 そうだ。曲がりなりにも人妻であるグレイフィアを犯せると思ってプラスに考えよう。今夜限りと割り切ろう。

 

 ……そうしないと羞恥しながらM字開脚してるグレイフィアに失礼だし。

 

「始めるぞ」

 

「……はい」

 

 その声にはいやそうな拒絶を多少孕まれていたが、もう止めない。

 

 服を全部脱いで、まだこちらを直視しないグレイフィアの股の間に体を入れてやさしくわき腹をなぞる。

 

「んっ……」

 

 ぴくっと震えるグレイフィア。感度は良好のようだ。恥らう姿も上品で綺麗だ。

 

「綺麗だな」

 

「くっ、な、なるべく早く……済ませてください……」

 

「それはできない。これは試験だからな」

 

 薄く浮き上がった肋骨をなぞり、下腹――子宮辺りを撫でたり、太ももやお尻を撫でたりと、じっくりと性感を起こしていく。

 

「……っ、これが感覚リンクですか……思ったよりもキツいですね……」

 

 後方からグレイフィアのつぶやきが聞えたが、無視して続ける。

 

「はぁはぁ……、はぁっ、くっ、んんっ……、ほ、ほんとうに、いやらしい手つきですね」

 

 非難するような視線だけど、頬は赤く染まり、息使いも発情している雌のそれだった。

 

 まだ始めてから10分と経っていないのに、黒いショーツはぐっしょりだ。いくらなんでも早すぎる。やっぱり、俺の魔力には発情させる能力があるみたいだな。インキュバスという種族で、高濃度の媚薬が尻尾から滲みでることから大体の予測はついていたが、ここまで効果があるとは……。

 

 だが、媚薬効果を持つ魔力のことは言わずに、指で軽くショーツを触りながらグレイフィアに言う。

 

「なんだ? まだ開始して10分も経っていないぞ。もう下着から溢れるほど濡れてるじゃないか」

 

「――っ! そ、それは……」

 

「ここまで濡れやすいとな。……溜まっていたのか?」

 

「そんなことは――、くっ!」

 

 反論するグレイフィアを黙らせるように、ショーツ越しにクリトリスを指で触れる。もちろん気づかれない程度に媚薬化している魔力をまとわせた指で、だ。

 

「まあ、いいか。それよりもそろそろ本格的に始めよう」

 

「……はぁはぁ、わ、わかりました」

 

「息が荒いぞ、大丈夫か? さっきので軽くイッたようだし、少し休憩するか?」

 

「――くっ……」

 

「うわぁ、ブラたん、ドSスイッチ入っちゃってる。人妻グレイフィアちゃんが美味しく食べられちゃう~☆」

 

 からかうようなセラフォルーの声が聞えたが、同じく無視して続ける。

 

 体のラインをなぞるように触れながら訊ねる。

 

「どうする?」

 

 訊ねられたグレイフィアはこちらを睨むと、覚悟を決めたか、

 

「……どうぞ、続けてください」

 

 と、つぶやいた。最近本当にSが入ってきたなぁと思いながら、腕を背中に回してグレイフィアのブラジャーを外した。

 

「これはなかなか……」

 

「そ、そんなに見ないでください」

 

「いや、これは見ないと勿体無い」

 

 胸を隠そうとしていた両手を押さえて胸に視線を向ける。そこには白い肌を彩るように、まるで十代のような綺麗なピンク色で、思わず吸い付きたくなるような、吸い付きやすい大き目の丸い乳輪と、ツンと勃起した乳首があった。

 

「ここまで綺麗な色だと、子供を産んだようには見えないな。胸のカタチも整っているし、十二分に10代で通じる美しさだ」

 

「そ、そんな……」

 

 褒められ慣れてないのか、戸惑っている様子のグレイフィアに愛らしさを感じ、体を倒して胸を舐め始める。

 

「く、んっ……!」

 

 いやらしく、サーゼクスがやらないような、下乳から乳首を通って首筋まで舌でなぞり、ワザと少しだけ腰を振って、ショーツ越しにペニスをオマンコに擦りつける。

 

「い、いや……」

 

 鎖骨を通って首筋を舐める俺を拒絶するように首を上げて目を細めるグレイフィアだが、もう止まらない。

 

 覆い被さり、胸同士をくっつけて体温や心臓の鼓動といった夫以外の雄の存在を感じさせながら、首筋をペロペロと舐めながら何度も軽くキスをする。

 

「や、やめ……」

 

 顔を逸らすグレイフィアを逃がさないように、両手の指を恋人のように組んで、耳元に顔を寄せて囁く。

 

「すごく気持ちいいみたいだな、もっとして欲しいか?」

 

 俺の囁きにキッと視線をキツくして睨んでくるが、耳を齧り、舌先で耳の穴を犯すと途端にグレイフィアは表情を緩めた。

 

「あ、ああ……、やめ、やめてぇ……耳がおかしく、おかしくなって……!」

 

「なんだ? 耳を舐められるのが好きなのか? ふふっ、いや、いやらしいことが好きなんだな」

 

「そんなことは、あり、ませんっ! わ、私は、グレモリー家のメイドで、ある以前に! 魔王サーゼクス・ルシファーの妻で、ミリキャスの母親なんですから!」

 

 気丈に言い放ち、俺を睨んでくるがまったく威厳というものが感じられない。そこはホムンクルスゆえなのか重みがないな。

 

 そんなことを考えたあと、睨んでくるグレイフィアの唇を奪った。いま舌を入れたら噛まれそうなので舌は入れないが、唇を重ね合わせて無理矢理唾液を送る。ほとんど口の端からこぼれているが、関係無しに唇に垂らして無理矢理飲み込ませる。

 

 ゴクッ、ゴクッ……。

 

 グレイフィアの喉が鳴る。流し込んだ唾液を飲んだようだ。

 

 俺は唇を離して起き上がる。キッとにらんでくるグレイフィアを受け流す。

 

「はぁはぁ……、くっ、なんてものを飲ませるんですか……」

 

「そう言うわりには美味しそうに飲んでいたようだったけどな」

 

「……そんなことはありません」

 

 グレイフィアはふんっとそっぽを向く。……まったく、犯し甲斐があるな。Sを飛び越えて鬼畜ルートに走ってしまいそうだ。

 

「そうなのか。じゃあ、今度は美味しく飲んでもらえるようにがんばらないとな」

 

 拘束を解いた手でグレイフィアの頭を優しくなでながらつぶやく。

 

 そして、俺は両手でグレイフィアの胸を鷲掴んだ。

 

「な、いきなり――」

 

「おお、触り心地も最高だな。やわらかいし、大きさも丁度良いし、揉みやすい」

 

 グレイフィアの胸に指を沈ませながら揉む。これはいいな。

 

「くっ、はぁはぁ……、うっ、ん……」

 

「乳首もビンビンでかわいいな。ほら、もっと楽しませてくれ」

 

 胸の少し手前のほうを掴み、手の平で乳首を捏ねて感触を楽しむ。グレイフィアが後ろ手にシーツを掴みながら抗議の声をあげる。

 

「ん、あぁっ、……はぁっ、はぁ……、はぁ……、んんっ、ひっ、人の胸を弄ばないで、ください……っ!」

 

 顔を真っ赤にして、体を悩ましく動かしながら、快楽から逃げようとしながらも、試験ゆえに逃げられないってところか。

 

「ハハハ、これはまだまだほんの序の口だぞ? これからもっと弄らせてもらうんだからな」

 

「そ、んな!?」

 

 お、これは後ろのグレイフィアかな? 振り向いてみると、グレイフィアが椅子に深く座って体を抱いてビクビク震えていた。

 

 愛撫しないでも感じるって便利だな、感覚リンク。実際に触らないから味気なく感じるけど、見られながらオナニーされてるみたいで、独特の楽しさがある。

 

 ベッドの上のグレイフィアに向き直り、一旦胸から手を離す。

 

「さあ、本格的に弄ろうか」

 

 指をくねらせてグレイフィアに見せ付ける。イッセーほど下品ではないが、いやらしさを全面に出してこれから触るとアピールする。

 

「ヒッ……!」

 

 グレイフィアから小さな悲鳴が漏れた。胸を隠そうとする前に掴む。

 

「やっ! ……あっ、あぁんっ、い、いやぁぁぁ……、はくぅ、んんぅぅ……」

 

 グレイフィアのそんな甘い声を聞きながら、グレイフィアの快楽に犯され始めた表情を眺めながら胸に愛撫を施していく。指をいやらしく動かして下から持上げたり、手の平で潰したり、乳首を摘まんで引っ張ったり、摘まんで爪で擦ったりと思う存分に胸を楽しませてもらう。

 

「もっ、もう、や、やめてくださ……いっ、……お、お願い……ですから」

 

 溜まらず胸を揉み続ける俺の手首を掴んでくるが、まるで力が入っていない。

 

 俺は愛撫を続行し、顔をグレイフィアの胸の間に埋め、脇から手の平で胸を寄せて顔を挟み込む。

 

 おお、これは気持ちがいいな!

 

「や、やめてくださいっ……! いやっ、舐めないでください! あんっ!」

 

「いい匂いだ。最初の匂いと違う発情した雌の匂いだな。ん、味もなかなかだ」

 

 くんくんとワザとらしく鼻を鳴らし、胸に舌を這わせた。

 

 俺はショーツ越しでも関係なしに腰を進めてオマンコをつつく。

 

 うわぁ、すごく濡れてるなぁ。

 

「――っ! は、離れてください! あ、当たってます!」

 

 腰をくねられて避けようとするグレイフィア。これは当ててるんだよ。

 

 オマンコの具合といい、性感は十分刺激できたな。そろそろか。

 

 体を起こしてグレイフィアの快楽で蕩けた顔を正面から見つめて言う。

 

「もうグレイフィアも我慢できないだろう。挿入するぞ」

 

「ま、待って! 待ってください! い、いま挿入されたら……!」

 

「なんだ? まだ解れてないのか?」

 

「なっ――、キャッ!」

 

「ふふっ、びしょ濡れ……、というか、大洪水だな。これではショーツの意味もないな」

 

 おそらくいまの俺の笑顔はドSなモノなのだろう。目を大きく見開くグレイフィアを無視して両膝を抱えてマングリ返しの状態にしているのだから。

 

 顔の前にオマンコを持ってきた俺は、ショーツに鼻を近づけ、臭いを嗅ぐ。

 

「や、やめて、ください!」

 

 顔を真っ赤にして逃げようとしているグレイフィアの腰から腕を回して、両膝を掴んで拘束する。そして愛液を舌で舐めとり、つぶやく。

 

「さすがグレイフィア。いい匂いと味だ。いつまでも味わっていたくなる」

 

「赤龍帝が一番の変態だと思っていましたが、あなたも変態です!」

 

「ふふっ、それは酷いな。イッセーのようなド変態と一緒にしないで欲しい。俺は楽しみながらもセックスを盛上げるためにやってるんだから」

 

「こんなことで興奮するわけがないじゃないですか!」

 

「そうは言うけど、グレイフィア。キミはすっごく興奮しているみたいだけど?」

 

「そんなことあるわけが――!」

 

 抗議の声をあげるグレイフィアを黙らせ、堕とすためにショーツに片手を突っ込んで愛液を絡めて見せ付ける。

 

「ほら、こんなにびしょ濡れじゃないか。糸まで引いて……そんなに待ちきれなかったのか?」

 

「くっ……」

 

 悔しそうなグレイフィアの顔に、指からこぼれ落ちる愛液を数滴落としたあと、ショーツをずらしてオマンコを観察する。

 

「ふふっ、毛の処理も完璧、汚れもないようだけど。随分といやらしいカタチをしている」

 

「――み、見ないでください!」

 

「恥ずかしいのか? でも、それも気持ちいいんだよな? オマンコからも愛液がたっぷり湧き出てるし」

 

 じゅるるっ……。

 

 口をつけて愛液をすする。ホムンクルスだからだろう処女膜も確認し、膣口から尿道口に舌を這わせ、ドリルのように突き出した舌先を膣道に差し込んだ。

 

 ズボズポと浅くピストンさせながら穴を広げ、愛液を啜る。

 

「や、いやぁっ! はうっ……」

 

 愛撫を激しくしていくにつれて抵抗を始めたグレイフィアを押さえ、大人しくするために媚薬と化した魔力を込めながらクリトリスを唇で挟み込むが――、

 

「ああっ、ああぁああああああああああああああああああああッ!」

 

 ビュッ、ビシュゥッ、ビュビュッ!

 

 絶叫を上げ、体を痙攣させながら潮を噴かせた。……少々込めすぎたようだ。

 

「くっ、はぁはぁ、んんっ……はぁ……」

 

 後方からは絶叫は聞えなかったが、グレイフィアの切羽詰ったような荒い声が聞えた。

 

 マングリ返しを止めて、ベッドの上で仰向け状態で荒く息を吐くグレイフィアの頬に手を添えてつぶやく。

 

「盛大にイッたな。ふふ、グレイフィアは随分と淫乱だからやりやすいな」

 

 いまさら媚薬効果とか言っても仕方ないし、このまま突っ走らせてもらうよ。

 

「はぁはぁ……、んっ、はぁ……、そ、それは……」

 

 まだ整わない息使いでも反論しようとするグレイフィアに微笑んで止めを刺す。

 

「ああ、それとドMでもあったな」

 

「――っ!」

 

 絶句するグレイフィアにさらに続けて言う。

 

「イジメれば、イジメるだけ気持ちよくなってしまうんだもんな。何度もイってしまうぐらいに」

 

「…………」

 

 無言のグレイフィアだが、現在彼女の脳内では様々な感情や想いなどが駆け巡って混乱しているころだろう。

 

 このままほっとけば立ち直るかもしれないが、俺にとっては一気に叩き込むチャンスだ。逃す理由はない。

 

 ショーツをするすると脱がせてペニスの標準をオマンコに合わせる。

 

 ぐじゅ……。

 

 亀頭とオマンコが触れ合うが、グレイフィアは逃げようとしない。まだ混乱しているようだ。

 

「いくぞ」

 

「…………痛っ!」

 

 ギチギチと処女口を亀頭が広げ始めてやっとグレイフィアは我にかえったようだ。

 

「ううっ、これは――! いや! それだけはやめてくだ――」

 

「もう止まれないよ」

 

 逃げようとするグレイフィアに覆い被さり、腰を前へ進める。

 

 ズズズッ。

 

 ペニスがゆっくりとグレイフィアの膣を侵していく。

 

「くっ、太いぃっ、……い、いやぁぁぁっ。サー、ゼ、クス……」

 

 グレイフィアが歯を食いしばり、涙を流しながら、ペニスをゆっくりと咥えこんでいく。

 

 奥へ奥へと侵入し、侵していくペニスを膣肉で締めつけ、進行を阻むが、それ自体が快楽を生み出すこととなる。

 

 覆い被さっているために見えないが、グレイフィアの処女膜からは血が流れているだろう。それを想像しながらどんどん挿入し続ける。

 

 ペニスの3分の2が入ったところで、グレイフィアがすがるように体を抱きしめてきた。

 

「あっ、ぐううっ……! や、やあっ……!」

 

 グレイフィアの口から苦しそうな声が漏れる。俺の背中に爪が食い込んでいるが、ワザとではないようだ。

 

 こちらはやさしくグレイフィアを抱きしめる。スベスベの背中をさすりながらゆっくりと腰を進めていく。

 

「いや、はぁはぁ……ど、どこまで、いったいどこまで挿入するの……!?」

 

 ん? なんだ? まだまだ挿入るぞ?

 

「くっ、深っ! はぁっ、ふ、深すぎる! こ、こんなの……! こんなの知らない!」

 

 なんだ? 子宮に突っ込んだり、子宮を突き上げるセックスは未経験か? まあ、俺のは元々デカい上にインキュバスになったからサイズは自由自在で変幻自在だから、関係なくもあるんだがな。ていうか、悪魔って魔力で若いままでいたり、容姿をある程度自由に変えられたはずだからサイズ調整もいけると思うんだけど、いまはいいか。

 

 それよりも堕とすのが先決だ。

 

 悲鳴をあげるグレイフィアの唇を奪い、耳元で囁く。

 

「知らないならこれから俺が教え込んでやる! オマンコがガバガバになっても安心しろ! すぐに治しておまえの気が済むまで犯してやる!」

 

「そ、そんな! いやぁ! それ以上は入ってこないでぇぇぇっ!」

 

「ハハハハッ!」

 

 俺は楽しそうに高笑いする。いまの俺って人妻を犯す悪役そのものだなぁ……。そもそも何のためにしてたんだっけ?

 

「いやぁっ! いやぁっ! あの人の以外を知りたくない! やめてぇぇぇっ!」

 

「ちょっ!?」

 

 そう言うなら腰を両膝で挟んでくるなよ。驚いたじゃないか。

 

「ああっ、深い! 子宮に届くぅぅぅっ! いやぁぁぁっ!」

 

 痛っ……。肩に食らい付かれた……。

 

 ていうか、いつの間にか俺のほうが逃げられなくなったんですけど……?

 

 両手両足口まで使ってきてるんですが?

 

「クソッ! ここまでくればどちらにしろ最後までやるしかないか!」

 

 改めてグレイフィアを犯し始める! 抱きしめ、無理矢理唇を奪い、押しつけ舌を絡ませ、唾液を流し込みながら、腰を前後に動かす!

 

「むぅっ! ふー……っ、ふー……っ! んぐっんっ!? ふぐっ! ふー……っ!」

 

 グレイフィアが苦しそうにしても唇は離さない! 離さずにさらに唇を押し付け、腰を動かし続ける!

 

 すると苦しそうに、離れようとしていたのがなくなり、逆に抱きしめ合い、唇を離すころには何度も絶頂を迎え、仰向けで、両手両足からは力が抜けてベッドにだらしなく広がり、虚ろな、トロンと惚けた表情で天井を見上げ続けているグレイフィアが……。

 

 後方でも虫の息というか、快感に脳内を犯されているグレイフィアがいるようだ。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、はぁはぁ……」

 

 ベッドの上のグレイフィアがこちらを見つめてくる。これで終わりですか? と訊いているようだった。

 

 俺はその視線にドSな笑みを浮かべ、グレイフィアをうつ伏せにしてから耳元で、

 

「これで終わるわけがないだろ。まだ射精しもないし、1回で終わるとも限らないんだからな」

 

「――っ!?」

 

 グレイフィアの瞳に明らかな怯えが宿るが、同時にその奥底に快楽を渇望する淫乱な光が宿ったのが見えた。

 

 仕上げをするために起き上がる。グレイフィをうつ伏せにしてヒザを立てさせ、尻を無理矢理上げさせる。土下座をしているような状態になったグレイフィアのオマンコを見つめると、まだ先ほどまで挿入されていたためか、ぽっかりと大穴が開いていた。

 

「さあ、今度は射精してもらえるようにがんばれよ」

 

 グジュ、ズズズズズンッ。

 

「ああっ! あああぁぁぁぁっ!」

 

 絶叫するグレイフィアを無視して腰を激しく振り始める。

 

「んっ、はぁはぁ……っ! ああっ、ぐうっ!」

 

「いいぞ、グレイフィア! もっと叫べ! もっと声を上げて楽しめ!」

 

 パンパンパンパン。そんな肉を叩くような音を部屋に響かせながら、俺はグレイフィアの尻に腰を打ち付ける。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……、んぐっ、ううっ! やあああ……」

 

 グレイフィアの尻を両手で掴み、子宮口に何度も亀頭を打ち付ける。

 

「ああっ、最高に気持ちいいぞ、グレイフィア!」

 

「ううっ、ううう……、や、やめへぇぇぇ……、も、もうう……」

 

 そう泣き声をあげたグレイフィアからはいつものクールな振る舞いなどは見る影もなく、ただただ子供のように涙を流して体を震わせている。

 

 俺はグレイフィアのオマンコを味わいながら、そんなグレイフィアをさらに追い詰めるために大声でつぶやく。

 

「ハハハハ! なにが『やめて』だ! 自分から俺を求めて腰を振ってるくせに!」

 

「――っ!? そ、そんひゃ、わ、わたひっ!」

 

「おいおい、まさか気づいてなかったのか! ほら、感じてみせろ! 俺はいま腰を振ってないぞ!」

 

 笑い声を上げる俺を、信じられないといった風に戸惑い、自分が自ら腰を振っていたことに気づいたグレイフィアは声を上げる。

 

「そ、そんにゃ……! わ、わたひっ……」

 

 俺は腰を突き出した状態で動きを止めて、いやらしく腰を動かし続けているグレイフィアを上から見下ろす。

 

「ほらな。おまえは口では拒絶してるが、本心では俺が欲しいんだろう? だから今もこうして腰をふっているんだろう?」

 

「そっ、そんなことは……!」

 

 気丈にもグレイフィアは声を上げて否定しようとするが、俺はグレイフィアの体に覆いかぶさり、耳元で甘く、

 

「素直になれよ、グレイフィア。おまえは。夫ではなく、今は俺を求めてるんだ。俺に犯してほしくて自分から腰を振ってるんだろう?」

 

「――っ!」

 

 大きく瞳を見開いて体を硬直させたグレイフィアの耳元で、甘く、誘導するように、誘惑するように囁く。

 

「これはちゃんとした試験でもあるんだ。何も恥じることはないさ。おまえは今だけ。今だけ俺に体を委ねてくれれば、それでいいんだから」

 

「…………」

 

 顔を合わせないよう、そっぽを向いているグレイフィアに語りかける。

 

「今は俺だけを感じてくれないか、グレイフィア」

 

「――っ」

 

 俺の言葉にグレイフィアの体が少しだけ反応をみせた。俺はハッキリとしたグレイフィアの返事が返って前に、体を揺らし、ピストンを再会させ始めた。

 

「グレイフィア、グレイフィア……、俺を感じてくれ」

 

 愛しい人に呼びかけるように名前を囁き、やさしくペニスでオマンコを擦る。

 

「んっ……、うっ、……くっ、はぁ……、はぁ……」

 

 体の下で吐息を漏らすグレイフィア。シーツをぎゅっと掴み、夫とはまるで違う他人に犯されることに耐えている様子だが、俺は関係無しに声をかけ続ける。

 

「グレイフィア、気持ちいい。すごくいい。最高だ。グレイフィア」

 

「くっ、ううっ……」

 

 グレイフィアのオマンコがきゅんきゅんと絞まる。手荒く扱ったあとにやさしく恋人のように求められているのが、効いているらしい。

 

「はぁ……、はぁ……、う、うぅん……!」

 

「グレイフィア、俺を感じてくれ。俺を、今だけでいいから」

 

「……んっ、う……」

 

 グレイフィアの首筋に顔を埋めてキスを行なう。愛情を示すように背中に舌を這わせて汗を舐め取る。

 

「はぁはぁ……、ん、くぅっ……」

 

 グレイフィアのオマンコが強く絞まる。また絶頂を迎えたようだ。

 

 俺もグレイフィアと体を重ねるように密着する。シーツを握りしめている手に、自らの手を重ねて、射精を開始する。

 

「うっ、くうっ! グレイフィア、出すぞ!」

 

「――っ!? だっ、ダメですっ! そ、それだけは……っ! やっ、やあああっ!? なっ、なかでビクビクしてっ……!」

 

 我に返って逃げようとするグレイフィアだが、完全に覆いかぶさられているために逃げられないし、何度も絶頂を迎えさせられたグレイフィアにはそんな力は残っていなかった。

 

 グレイフィアはオマンコのなかで射精しようと跳ねるペニスを感じていながらも、逃げられなかった。

 

 ビュルッ! ビュルルッ! ビュルルルルゥウウウウウ~!

 

 ペニスから精液がグレイフィアのオマンコへと吐き出される。

 

「――っ!? あ、熱っ! いやっ、いやあああっ! 精液がっ! サーゼクスのじゃないのが私のなかに注がれてっ……! くっ、ううう……!」

 

 グレイフィアの体がビクビクと跳ねる。尻を揺らし、もがくが、逃げ場などはすでにない。

 

 俺はグレイフィアに聞えるように、うれしそうな声音で言う。

 

「グレイフィア。ああっ、グレイフィアのなかに俺の精子が……」

 

 覆いかぶさった状態で、感動に打ち震えるように、精液を子宮に吐き出しながら……。

 

「はぁはぁ……、はぁ……、はぁ……、いや、あああ……」

 

 悲しむような声を上げるグレイフィアを無視してうれしそうにつぶやいた。

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

 グレイフィアは虚ろな瞳で息を吐く。終わったと、そう絶望するかのように。サーゼクス以外の精液を子宮に受け入れてしまったと、夫と裏切ってしまったと思い、悲しんでいる様子だ。

 

 そんなグレイフィアを俺は後ろから抱きしめる。

 

「グレイフィア」

 

 愛情を込めて名前を呼んで、安心させるように抱きしめる。

 

 抱きしめ、体に手を這わせ、首筋に顔を埋めて匂いを嗅いで、自分の匂いをグレイフィアの体に染みこませるように、グレイフィアが誰の女になったのかをわからせるように匂いを擦りつけた。

 

「はぁ……、はぁ……、もう……、気は、すみましたか?」

 

 虚ろな瞳のまま、グレイフィアはそう訊ねてきた。

 

「気が、済んだのでしたら、離れて……、ください」

 

 さすがというべきか、グレイフィアはそうしっかりとつぶやいた。

 

 俺がこのまま素直に離れれば、すぐに起き上がって体を隠し、俺を殺さんばかりに睨んでくるだろうが、

 

「まかさ。これで終わりなはずがないだろう」

 

 俺はさも当然のようにつぶやいた。

 

「――っ」

 

 絶句するグレイフィアに、まだまだ犯したりないとオマンコのなかでペニスを硬くしながら、つぶやく。

 

「俺はもっとグレイフィアを感じたいからな」

 

「そ、そんな――」

 

「さあ、グレイフィア。2回目を始めようか」

 

 驚愕で染まったグレイフィアの顔を楽しみながら、俺はグレイフィアの腰を両手で掴んで引き寄せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああっ! いやぁぁぁっ! 入ってる! 子宮に! 精液が! あぁあああああああああああっ!」 

 

 グレイフィアの子宮に1度目の射精を行い、2度、3度と回数を増やして腹が膨れるほど子宮たっぷりに射精し、グレイフィアが「もう入らない」と泣き喚くと、尻穴を指で解してアナルを犯した。

 

 さらにアナルを犯され、精液をたっぷり流し込まれてグレイフィアが泣くと口を犯し、全てを犯しつくしたあとに浄化をかけて2順目を行ない、再び犯しつくして浄化し、3順目を迎えたころで再び愛を囁き、やさしく愛情を込めて犯していたのだが、

 

「はぁはぁ……、はぅんっ! もう、私も我慢の限界! 私も犯してブラたん……」

 

 ずっと静観していた、というかオナニーをしていたセラフォルーが我慢できないと参加してきた。

 

 仰向けに寝転がっている俺に跨らせ、グレイフィアに自分で動かせて騎乗位を楽しんでいたんだが、仕方がない。

 

「じゃあ、セラたん。まずはオマンコ慰めてやるよ。こっちに来てくれるか?」

 

「うん☆」

 

 笑顔で返事を返すセラフォルー。

 

 俺の意図を読み取り、指示される前に顔の上に跨った。ヒザ立ちでサタンピンクの衣装についてるスカートを両手でたくし上げて、オマンコを見せつけてくる。

 

「ほら、わかるでしょ? もう待ちきれないの……。グレイフィアちゃんばっかりじゃなくて、私も犯してよぉぉぉ……」

 

 こちらは厚手のショーツというよりパンツのようだが、ぐっしょりと濡れて受け止め切れなかった愛液の雫が、顔にポタポタと落ちる。

 

「ああ、本当だな。すごくおいしいそうなオマンコだ」

 

 俺は笑みを浮べる。本当に久々だな。セラたんのロリマンコ。

 

「ふふふ、ありがと☆ さあ、美味しく食べて」

 

 セラフォルーは笑むと、腰を下ろして顔に跨ってくる。ぴったりと閉じたロリマンコのスジがやわらかくて気持ちがいい。

 

 体位的に鼻先にセラフォルーのアナルが、ロリマンコが口元を塞ぐ。

 

 鼻をヒクヒク動かしながら、舌でパンツをつつく。

 

「ああんっ、お尻の臭いを嗅ぎながらオマンコ舐めるなんて、ブラたんのエッチ~。もうっ、私も仕返しするんだからぁ」

 

「んぐっ!」

 

「ふふっ、ブラたんも乳首弄られるのが好きなんだよね☆ ふやけるまで私が弄ってあげるからね☆」

 

 ちゅっ、ちゅっという音と共にセラフォルーの唇を感じる。

 

 セラフォルーの少しザラついた、ヌルヌルとした舌が乳首を始め、いたるところに這い回る。

 

 さらにペニスからはキュウキュウに吸いついてくるグレイフィアのオマンコの感触が伝わり、どんどん興奮していく。

 

「はぁはぁ、ああっ、エイジさんのがオマンコのなかでビクビクしてる! また、また熱い精液をください!」

 

 完全に堕ちたグレイフィアが叫び、俺もそれに答えるように下から突き上げる。

 

 ズンズンと下から突き上げて性器同士を擦れ合わせ、再び精液をグレイフィアの子宮に吐き出す。

 

「また射精すぞ! グレイフィア!」

 

 ビュルッ! ビュビュウウウウウウウゥゥゥゥッ!

 

「はぁんっ! 熱っ! 射精(でて)る! 子宮に直接種付けされてるぅぅぅぅ!」

 

 射精後の開放感と征服感などと共に、ビクッビクッとグレイフィアの体が痙攣しているのが伝わってくる。

 

 射精が完全に終わってもグレイフィアはオマンコからペニスを抜こうとしない。絶頂で気絶してしまったか、はたまたペニスの虜となったか。まあ、まだこれからセラたんの相手をしないといけないし、これ以上休み無しで続けるとさすがに精神が壊れてしまうだろうから一旦グレイフィアの相手は止めてベッドに寝かせておく。

 

「じゃあ、今度は私の番だね☆」

 

 セラフォルーが笑顔を浮べてペニスを掴む。戦隊スーツの手袋越しだけど、セラフォルーの細くて温かい手の感触が伝わってくる。

 

「まずは洗わないとね☆ ――あむっ、……じゅるる。……あはぁ、エッチぃ臭いだぁ。すっごく興奮しちゃう」

 

「セラ、たんっ……」

 

 じゅぼじゅぼと慣れた様子でセラフォルーがペニスを最深部まで口で咥え込む。玉袋をコロコロと指で弄りながら、唇を閉めてヌルヌルの小さな舌先で亀頭や雁首を磨いてくれる。

 

 セラフォルー自慢のテクニックに腰砕けになりながら快感を感じていると、セラフォルーは口を股間につけたまま両手でパンツを脱いだ。

 

 ぐっしょり濡れた白いパンツを隅に放ると、ペニスを片手で扱きながら微笑んできた。

 

「本当に久々……。ブラたん、お願い……、いつもみたいに思いっきり私を犯して」

 

「いいのか? インキュバスになって性欲が増大したいまの俺はヤバいぞ」

 

「もちろんだよ☆ 陵辱系鬼畜ヒロイン並みにドロドロに犯してちょうだい☆」

 

 セラフォルーはそう言うと仰向けになり、自分で両膝を両腕で抱えてオマンコを差し出してきた。

 

「さあ、お願い。ブラたん」

 

 俺はセラたんの願いを快諾して、襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲い掛かると決めた俺は、まずセラフォルーの戦隊スーツを脱がしにかかった。

 

「いやぁぁぁ☆ 襲われるぅぅぅ♪」

 

 雰囲気を出すために叫んでいるようだけど、期待するような声音と表情が隠しきれていないし、手足もワザとバタつかせているが、バタつかせているだけだった。

 

 俺はセラたんの逃げ場を塞ぐように覆いかぶさり、戦隊スーツの胸元を両手で掴んで乱暴に引き裂いた!

 

 ビリビリビリッ!

 

 そんな音を響かせながら戦隊スーツが大きく裂ける。うわ、破けやすっ!

 

「きゃあああああっ~~!」

 

 セラフォルーの悲鳴が部屋に響く。予想していたよりも大きく裂けてしまった戦隊スーツから、小柄なわりに大きいセラたんの胸が飛び出してきた。

 

 収縮性が高いスーツによって根元を締めつけられ、前へ突き出されている両乳がセラたんの呼吸に合わせてプルプルと震える。

 

 まるでプリンだなこれは……。

 

「いやああっ! 見ないでぇぇぇぇっ!」

 

 両腕で胸を隠すセラフォルー。俺はセラフォルーの両腕を払って、乱暴に両手で胸を掴む。ニギニギと乱暴に握り、乳首を指で挟めてくいっと引っ張る。

 

「きゃんっ!」

 

 セラたんがあごを持上げて体をビクッと震わせる。感度もいいし、小柄でロリっ娘っぽい容姿なのに巨乳というギャップも愛らしいからすごく興奮してしまう。

 

 乳首に食らいつき、舐めしゃぶり、吸いつきながら片方の手で開いているほうの胸を弄る。

 

「ああんっ! やあっ、やあぁぁ! おっぱいが食べられてるぅぅぅっ! やだぁ、やめてぇぇぇ♪」

 

 両腕で俺の頭を胸に押しつけながらセラたんが叫ぶ。完全にノリノリの様子でトロンとした瞳で涎を垂らして喘ぎ声をあげている。

 

 俺はセラたんの勃起してコリコリになった乳首を乳輪ごと歯で甘噛みながら、片手をセラたんの下半身に持っていく。

 

「そこはダメぇぇぇぇっ!」

 

 セラたんの叫びを無視してスカートに腕を突っ込む。オマンコの形を探るように触りながら膣口を指先でつつく。

 

「や、やぁぁぁ……」

 

 セラフォルーは指から逃げようと腰をくねらせる。だが俺は関係無しにオマンコに指を突っ込んだ。

 

「あああっ! うくっ……」

 

 まずは指を1本入れて膣道をかき回す。じゅくじゅくといやらしく濡れていて、肉ヒダの感触が気持ちいい。

 

「ハハハ! 淫乱な穴だな! 1本では満足できないか!」

 

「やっ! やあっ! やめてぇぇぇっ!」

 

 嫌がるセラフォルーを無視して、俺は2本、3本目と指を増やしてズボズボと前後にピストンさせながら弄り続ける。

 

「はぁはぁ……、ちょっ、激しっ!? はっ、激しすぎだよ! ああっ、ブラたんっ、ダ、ダメぇぇぇぇっ!」

 

 素に戻って両手でオマンコを弄り続ける俺の腕を掴んでくるが、それでも止めない。それどころか、もっと虐めてやろうと指を曲げてヌレヌレで熱い膣道から膀胱を刺激した。

 

「やあっ!? ん、んんっ、で、でちゃう! でちゃうよぉぉぉ!」

 

 ビュッ、ビュシュゥゥゥゥゥ……。

 

 セラたんのつぶやきと共に、手首に勢いよくでる温かい液体が浴びせられる。漏らしたか。

 

 液体が止まるまで弄り続けたあとで体を起こしてセラフォルーを見下ろす。

 

 セラフォルーは両腕で顔を隠し、小刻みに体を震わせ、股の間に入れている俺の腕を無視して必死に閉じようとしていた。

 

 オマンコを弄っていた指でクリトリスを押す。クリトリスを弄られ、体をビクッと反応させたセラフォルーの隙を狙って、もう片方の腕を股に差し込み、両手で無理矢理股を開かせる。

 

「いやぁぁぁっ! それは見ないでぇぇぇ!」

 

 そう叫ぶセラたんを無視して顔を近づけて鼻を鳴らし、訊ねる。

 

「漏らすほど気持ちよかったのか?」

 

「……うぅ……」

 

 セラたんはその問いに体をビクッと跳ねさせ、泣き顔を浮べた。もっとイジメたくなるような、生粋のドMが見せるような期待を奥底に孕んだ被虐的な表情だった。

 

 俺は戦隊スーツのスカートを破き、脱がせる。

 

 そして、セラフォルーの両膝を抱えてペニスの先端をオマンコにあてがった。

 

「ブラたん……」

 

 甘く、愛らしい声音でセラたんはつぶやく。

 

 その声を耳が捉えた瞬間――俺のなかでインキュバスの本能が覚醒した。

 

「おまえの望み通り、全身から俺の臭いが取れなくなるまで犯し尽くしてやるからな!」

 

 昂ぶった理性を抑えず、一気にセラたんのロリマンコを貫く!

 

「ひぎぃっ! あぐぅぅっ!」

 

 セラたんの顔が苦痛に歪むが、それさえも快感を高ぶらさせるスパイスと思ってピストンを開始した。

 

 ジュボジュポと激しくオマンコを突き荒し、セラたんのロリマンコがくぽくぽと大きく口を開いて明らかにサイズの合っていないだろう巨大なペニスを、一生懸命に受け入れる様子を眺めながら、セラフォルーのロリで、狭いがじゅくじゅくでやわらかいオマンコの感触を味わいつくす。

 

「やぁんっ、はげ、激しすぎるっ! オマンコが捲れちゃうぅぅっ! も、もっとゆ、ゆっくり……! このままじゃ、壊れちゃうよぉぉぉっ!」

 

「安心しろセラフォルー! 壊れても完璧に治してやる! だから安心していまは俺専用の肉便器になってろ!」

 

 ペニスを差し込んだままセラフォルーの腰を掴んで起き上がらせ、対面座位の状態に体位を変えて体を揺す。亀頭で子宮口をこじ開けるように強く擦りつけた。

 

 送られる快楽に、セラフォルーは悲鳴をあげながら両手両足を絡めてすがりつき、快楽に支配されて堕ちかけた瞳で俺を見つめながら喘ぎ声をあげた。

 

「はぁはぁ……、うぐんっ!? はぁ……、あ、あああ……! し、子宮に入って……!?」

 

 とうとう亀頭が子宮口をこじ開けた。俺は逃がさないように両腕抱きしめながら叫ぶ。

 

「さあ、まずは1発目だ! 直接子宮にたっぷりと子種を注いでやる!」

 

 ビュルゥウウウウウウウウッ! ビュルッ、ビュルルッ!

 

 言葉と共に俺は欲望を解き放つ。煮えたぎった精液が駆け上がり、セラたんの子宮内を埋め尽くした。

 

「ああっ、熱っ! な、なかに出てる! ブラたんの精液で種付けされちゃってるぅぅぅぅっ! はぁあああっ! だ、ダメッ! いやぁあああっ! も、もう入らないよぉぉぉぉっ!」

 

 ビクンッ、ビクンッ!

 

 セラたんの体が大きく跳ねるように痙攣し、すがるように体を預けてくる。

 

 まるで小動物のように愛らしいが、俺は彼女の要望通りに突き放すようにベッドに押し倒し、ペニスを引き抜いて、うつ伏せにしてグレイフィアを犯したときのように、オマンコを後ろから刺し貫いた。

 

 逆流しかかっていた精液が無理矢理奥へと戻される。

 

「あああああああああああああああんっ!」

 

 ペニスを挿入されたセラフォルーの絶叫が部屋に響く。

 

「はぁはぁっ、ブラ……たん?」

 

 セラフォルーが弱々しく後ろを向いて助けを求めるようにつぶやいてくるが、俺はドSモードを解かずに尻を掴んだ。

 

「さあ、第2ラウンドを始めようか、セラたん」

 

 俺の言葉を訊いたセラたんの瞳は、すでに快楽によって支配されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<グレイフィア>

 

 

 神城エイジがグレモリー家の次期当主であるリアスと、正式に婚約するために行なっている試験が私を予想以上に苦しめていた。

 

 グレモリー家現当主の妻であるヴェネラナさまから提案された、インキュバスの格と力を計るため、試験官である私に似せた人形と神城エイジに性行為させて、人形と感覚リンクをさせている私が試験の採点を行なうという試験内容だったのですが、予想していたよりも感覚リンクが強く、不甲斐なくも私は、何度も犯され続ける人形から伝わる快楽に負けて試験を中止させることも出来ずに椅子の背もたれにもたれかかり、体の昂ぶりを必死に押さえることに夢中になっていました。

 

 本当に、私はインキュバスという種族を、神城エイジの底なしの性欲を甘くみていたようです。

 

 嫌々着ているサタンイエローのスーツのズボンのなかでは、じゅっくりと愛液や噴いてしまった潮で濡れていました。

 

 今でさえこれなのです。おそらく感覚リンクが100%ダイレクトに伝わるものだったのなら、私自身も快楽に飲み込まれて神城エイジの上で自分から喜んで腰を振っていた人形のようになったことでしょう。

 

 いまはその人形を休ませてセラフォルーさまを犯しているようですし、いまのうちに感覚リンクを切って、汚れてしまったサタンイエローのスーツを魔力で消し去り、新たにいつものメイド服を着替えましょう。

 

 私は快楽で鈍くなってしまった体を叱咤して起き上がり、魔力でメイド服に着替えた。

 

 下着も完全に新品に換えて、匂いも魔法で消したので気づかれないでしょう。

 

 セラフォルーさまを後ろから獣のように犯されている神城エイジの性欲に不本意にも感服しながら、合格を言い渡してサーゼクスとリアスの元へ戻ろうと、神城エイジに近づいて声をかけようとすると――。

 

 シュルルルルッ。

 

 神城エイジのお尻から生えている大きな1本の尻尾が突然襲い掛かってきた!

 

「――なっ!?」

 

 身の危険を察知して即座に逃げようとする私に、1本だった大きな尻尾が枝分かれするように分裂して体に絡みついてきた!

 

 私は回避できずに分裂した尻尾で体を絞められる!

 

「な、なんのつもり――っ!?」

 

 私が声をかけている途中でも尻尾は関係なしにメイド服の隙間から入り込んで来きた!

 

 神城エイジは気づいていない様子でセラフォルーさまを犯し続けている。

 

 ま、まさか――暴走!?

 

 淫行しやすいようにベッドを中心に発情しやすくする魔法陣を敷いたのが間違いだったのでしょうか?

 

 でも、そんなことを考えるよりも先にこの状況を早くどうにかしないと!

 

「――っん! ……仕方がありません!」

 

 服の隙間から入ってきた尻尾に、胸や股のあいだといった陰部を触られた私は、彼を危険と判断して身を守るために尻尾を引き千切って逃げることに決めた。私はそのための魔力を全身に巡らせる!

 

 ほぼ一瞬で魔力を体に巡らせた私が、尻尾を千切ろうとした瞬間――。

 

「――なっ!? ぶふっ!? ゴボボっ!」

 

 口のなかに分裂した尻尾の1本が侵入してきて、喉の奥でドロリとした喉に絡みつくような液体を流し込まれた!

 

「ぐっ! ――っ」

 

 私は衝動的に口内の尻尾を噛み千切ろうと歯を立てましたが、リアスから訊いていた情報に、インキュバスの尻尾から高濃度の媚薬成分が分泌されているというものがあったことを思い出し、噛み千切るのを止めて手で掴んで力づくで引き抜いた。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、くっ……」

 

 いったい何を飲ませたんだと、引き抜いた尻尾を睨む。引き抜いた尻尾は先端が花のように開いていて、その中央にはホースのように穴が開いたペニスのようなものが生えていた。さらにその穴からは精液のような、白濁したドロッとした液体が漏れいている。

 

 胃のなかに流し込まれたであろうその液体に怒りを覚え、改めて尻尾を引き千切ろうとすると――。

 

「いっ! くっ……、なっ! こ、これは――?」

 

 私の体が急に熱く火照り、溜めていた魔力が霧散し、手足から力が抜けてしまった。

 

 力が抜けて床に倒れ堕ちてしまいそうに私を体に絡みついている無数の尻尾が支え、そのまま空中に浮かせられる。

 

 何とか手足を動かして逃げようとするが、私の体でないかのように、まるでいうことをきいてくれない! このままでは本当にマズい!

 

 私の体に絡みつき、胸や股をいやらしく絞めたり擦ってくる尻尾に貞操の危険を感じるが、尻尾から何かを飲まされたせいで私は動けず、もはや自力で逃げる手段はなかった。

 

「はぁ……、はぁ……、かみ、ひろ、さま……っ、セラ、フォルー……さ、ま……」

 

 呂律も回らなくなってきた舌で何とか神城エイジやセラフォルーさまを呼んでみたが、神城エイジは相変わらずセラフォルーを犯すので夢中で、セラフォルーさまも犯されるのに夢中で誰も気づいてくれない。

 

 空中で股を広げるような格好にさせられた私の眼前に、体に絡みついていない尻尾が差し出された。

 

 まるでこれから犯すぞと言わんばかりに、尻尾の先端のハート型になった部分が開いて、その奥からテラテラと何らかの体液で濡れているペ二スのようなものが現れた。

 

 それはゆっくりとメイド服のスカードに移動した。

 

「や……、め……!」

 

 拒絶の言葉を紡ごうとするが、舌がまわらない! ペニスと化した尻尾がスカートのなかへ侵入する!

 

 ゆっくりと、探るように太ももに触れながら昇ってきてショーツ越しに先端でつつかれる。

 

 本当に犯す気なの……!?

 

 必死に股を閉じようとする私に、尻尾は無情にもショーツを横にどかして膣口を探すように先端でつつき始め、やがて膣口を発見した尻尾はゆっくりと押し拡げながら私を犯し始めた。

 

「あ……、い……あっ!」

 

 私のなかに侵入してくる尻尾に言いようの不快感を感じる! いままで夫以外誰も受け入れたことのない場所が侵される!

 

 細く長い尻尾は私がしらない最深部までおかまいなしに掘り進む!

 

 侵入を拒むことも出来ずにされるがままになって、やがて最深部となる子宮口へと尻尾が到達した。

 

「――っ!」

 

 さらに快感が私を襲う!

 

 尻尾を入れられているというのに、私の体はものすごい快楽を感じてしまう!

 

 犯された人形による感覚リンクと、胃のなかに入れられた液体が原因といえど、快楽を感じてしまうことに、不甲斐なくも不快で暗い気持ちが心を支配するが、私にはもうどうすることも出来なかった……。

 

「はぁ……あぁ……ひぃ……はぁはぁんっ……」

 

 じゅぼじゅぼと私のなかでいやらしい音を響かせながら這い回る尻尾から送られる快楽に、私は抑えることも出来ずに喘ぎ声を漏らしてしまう。

 

 尻尾はそんな私の痴態がうれしいのか、ビクビクと震えながら動きを活発にして、残りの尻尾がメイド服の胸部分に侵入してきた。

 

 尻尾はメイド服のなかに侵入すると、ブラジャーの隙間を押しひろげるようになかへ入ってきて、

 

 じゅちゅっ。

 

「――ううんっ!」

 

 乳首に食らいついてきた!

 

 瞬間、ものすごい快感を乳首から感じてしまう!

 

 まるでブラシのような鋭利な細かい突起が乳輪を磨きながら、小さな口のようなものが乳首を咥え、その口からも針のような突起が生えているようで乳首を刺激し、じゅるじゅると吸い上げてきたのだ!

 

「――か、ああ……っ!」

 

 オマンコで這い回る尻尾と同時に乳首を攻められた私は5分も耐えられずに盛大にイってしまう。言葉がまともに発せられないために悲鳴はあげなかったが、それが良かったのかは私には判断できなかった。

 

 私が盛大にイッてしまってからも尻尾による淫行はまるで止めるどころか、体を縛り上げ終えた尻尾が私を囲うように花開いた。

 

 その瞬間、私は絶望で思考を停止させた。

 

 ……それからのことはあまり思い出したくない。

 

 宙に生贄のように掲げられた私は無数の尻尾で体を嬲られ続けたのだ。

 

 2、3本の尻尾で一度にオマンコを穿り返され、子宮に精液のようなドロりとした体液を流し込まれた。

 

 胸がおかしくなってしまうほどに搾られ、揉まれ、乳首を弄ばれた。

 

 お尻の穴を舐められ、オマンコと同じく犯された。

 

 オマンコとお尻の穴、両方に挿入されて、別々に犯された。

 

 口のなかにも差し込まれ気持ち悪くなるほど体液を胃に流し込まれた。

 

 まるで無数の舌と化した尻尾で首筋や脇やヘソなど全身あますことなく舐められ、体液を全身に浴びせかけられた。

 

 …………そして、最後に、私が何よりも思い出したくないことは――。

 

 ……サーゼクスを裏切ってしまったことだ。

 

 まるで悪魔の本能を刺激されてしまったかのように体が反応し、体に合わせるかのように心も神城エイジを求め、私は抵抗するどころか自分から求めてしまったのだ……。

 

 尻尾の拘束からも解放されたのに、私は快楽を求めることを止められずに、セラフォルーさまを犯している神城エイジを後ろから抱きしめ、振り向きざまに唇を重ね、舌を絡め、首に抱きつき、求める言葉を耳元で囁き、そのまま抱かれてしまった……。

 

 正面から抱き合いながら大量の精液を子宮で受け止め、壁に手をつかせられて後ろから犯され、後ろから突かれながら片足を抱え上げさせられたまま小水とも潮ともわからないものを噴いたり……。

 

 お、お尻の穴を舐められて、そのなかにペニスを挿入されたり……と、まるでサーゼクスとするときとは違う、激しく、いやらしい、快楽を求めたセックスに夢中になってしまったのだ。

 

 もちろん普段の私ならこんなことありえない。……おそらくこんなことになった原因はベッドの下に敷いた魔法陣や、その場で行なわれた淫行によって漂った淫靡な空気、さらに私を襲った神城エイジの体液などが原因でしょう。

 

 そもそも私がおかしくなってしまったまえから、暴走した神城エイジはもちろん、セラフォルーさまも、人形も皆意識がはっきりせずに雄と雌の本能で交わっていた様子でした。

 

 私が参加してからも4人のうち誰1人として正常でなく、最後は人形も含めてセラフォルーさまも犯され抜いて気絶してしまい、ある程度は満足できた神城エイジも誘われるように眠りに堕ちたことで終了し、それから4人で仲良く眠りに堕ちてから数時間後に、最初に目覚めた私が、ようやく自分の身に起きたことを思い出すように今現在状況を理解したところです。

 

 ……まったく厄介なことになったものです。これでは人形を作りだした意味もありませんし、義妹の婿とも肉体関係を持ってしまうなんて……。

 

 ……ですが幸い、現在私以外に起きている者はいない。

 

 4人で寝ていた位置関係も、神城エイジを真ん中に、左側に人形、上にセラフォルーさま、右側に私を抱いて寝ていたので、何とかいまなら誤魔化せるかもしれません。

 

 そうと決まれば、さっそく隠蔽工作にとりかかる! このことが露見すれば様々な関係に影響をおよぼしそうなので迷う時間はない! …………いえ、サーゼクスにバレても、相手的にあの人ならおもしろそうに笑っていそうでしょうけど、私が嫌です!

 

 まずは体を全力で清め、身だしなみを整え、私が残したであろう痕跡を消し去る!

 

 幸いリアスの試験と違って、この試験は映像に残さない。念のために映像記録や盗聴の類は最初から調べあげていて、先ほども念入りに調べたので100%映像や音声など記録されている心配なく、私の痕跡が多少残っても、同系の人形のものだとして誤魔化しも出来る!

 

 メイドスキルをフル活用し、約10分で全ての隠蔽工作を終わらせた!

 

 隠蔽工作後は何食わぬ顔で、最初に座った椅子に座って彼らが起きるのを待つ!

 

 これで何とか誤魔化せるでしょう!

 

 …………。

 

 ……ですが、それにしても、インキュバスの性欲は怖ろしいものでした……。

 

 まさか私がおかしくなって、記憶を飛ばせてしまうほどよがり狂うなんて……、思ってもみませんでした。

 

 ……はぁ、結局試験は文句なしの合格でしょうけど、この試験は危険すぎて二度と行えませんね。

 

 もう一度この試験を行うとなると……っん、く、まだ快感が忘れられないのか濡れやすくなってしまってる……。また下着を替えないと。

 

 メイドスカートのなかに手を入れて下着を脱いでいると目に入ってしまう、ベッドで幸せそうに眠る全裸の3人組み……。

 

 ……私が犯してしまった過ちを、誰も覚えていないことを願います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 目覚めたらいつもの天井でもベッドでも部屋でもないことは、請け負っている悪魔の仕事の関係上珍しくもないことだったが、今回はいろいろと予想外だった……。

 

 いや、全裸であることも、体がいろんな体液で汚れてていろんな臭いが染みついてしまっているところとか、近くに同じく全裸の女性が複数いたりすることは、別に珍しくもないんだが……、いた女性が問題だった。

 

 腹の上、現魔王、セラフォルー・レヴィアタン。

 

 まあ、彼女はかなり前から肉体関係にあったし、魔王と一介の悪魔でも最初から魔王クラスである俺との関係が露見しても別に大きな騒ぎにならないから、問題なし。

 

 問題なしなんだが――俺の、左側に寝ている女性が問題だった。

 

 現魔王、サーゼクス・ルシファーの妻である子持ちのグレイフィア。

 

 ――ああ、完全なアウトだ!

 

 しかも……、

 

「すー……、すー……、エイジぃ……、好きぃ……」

 

 寝言もアウトだ!

 

 腹の上で胸に抱きつきながら涎を垂らしながら寝るセラたんならまだしも、グレイフィアが俺の左腕を枕にそんな寝言をつぶやきながら擦り寄ってくるのはマズいだろう!

 

 ヤバい! これはいつになくヤバい!

 

 どうしてこうなった!?

 

 そもそもなんでここにいるんだ!?

 

 俺は何をして――、

 

「――お目覚めですか?」

 

「……ん?」

 

 グレイフィアの声? でも、グレイフィアはここに――。

 

 セラたんと左側で眠るグレイフィアを起こさないように、少しだけ起き上がって声のしたほうへ視線を向けると、

 

「あれ? グレイフィア?」

 

「…………」

 

 もう1人のグレイフィアがいた。姿勢正しく椅子に座っいるメイド服を着たグレイフィアがいた。

 

 メイド服装備のグレイフィアは、何やら安心したような表情を一瞬見せて言った。

 

「……お忘れですか? あなたはグレモリー家の試練を受けに来たのですよ?」

 

「試練? ……あっ、そういえばそうだった!」

 

 リアスと一緒にグレモリー家に代々伝わるとかいう試練というなの試験を受けに来たんだった!

 

「……えー……と、確かグレイフィアを元に作ったホムンクルスだったな。彼女は」

 

 左側で眠ったままの全裸のグレイフィアに視線を移して言うと、メイド服装備のグレイフィアは肯定した。

 

「はい、その通りです。最後の試練として彼女と性交し、感覚をリンクさせた私があなたを図り、それで合否を決めるという試練でした」

 

「ああ、思い出してきた。確か、このグレイフィアとセックスして――」

 

 …………。

 

 そういや、試練だった! 俺完全に試練とか忘れて人妻犯してなかったか!?

 

 頭を抱える俺をメイド服装備のグレイフィアが鋭い眼光で射抜く。

 

「それで、そのあとは?」

 

「いや、あとって言われても……えっと、セラたんが乱入してきて……」

 

 まさか、セラたんを犯したから不合格とかないよな?

 

 不安を感じた俺に、メイド服装備のグレイフィアはさらに続けた。

 

「……そのあとは?」

 

 何やら真剣だ。食い入るような感じで、わずかだけど椅子から身を乗りだしている。

 

 俺は思い出しながらつぶやく。

 

「えー……と、セラたんを犯して――あれ? 何があったんだっけ?」

 

 霞のように記憶が所々霞ががかって飛んでる。

 

「覚えていないんですか?」

 

 グレイフィアの真剣な様子に何かを感じて待ったをかける。

 

「いや! ちょっと待ってくれ、すぐに思いだ――」

 

「いいです」

 

「え?」

 

「試練は合格です」

 

「合格?」

 

「はい」

 

「でも――」

 

 思い出さなくていいのか? 本当に合格したか実感がまったくないんだけど……。

 

「いいんです。あなたは合格。これにてグレモリー家の試練を終了します。おめでとうございます」

 

「…………」

 

 まくし立てるようにグレイフィアから合格を伝えられた。発言しようにも、いまは何も訊きませんと、いつもは見せない迫力あるニッコリ笑顔を見せられてしまい言葉がでない。

 

 そんな空気を切り替えるようにメイド服装備のグレイフィアが椅子から立ち上がり、手をパンパンと叩いた。

 

「さあ、セラフォルーさまもあなたも起きてください。これからサーゼクスさまとリアスさまのもとへ向わないといけないんですから」

 

 大声ではないが耳に響く声に2人がゆっくりと目を覚ました。

 

「んー……、ふぁあああ……」

 

「んっ……」

 

 セラフォルーが大きなあくびをしてゆっくりと目を開け、裸のグレイフィアも目を開け始めた。

 

「おはよ、ブラたん……」

 

「――っ!」

 

 あいさつしてくるセラフォルーに同じくあいさつを交わそうとするが、それよりも先に裸のグレイフィアがショックを受けたような表情を浮かべ、後ろを向いて顔を両手で覆った。

 

「……グレイフィア」

 

「…………」

 

 名前を呼んでみるが、小刻みに体が震えて嗚咽が聞えてくるだけだ。

 

 彼女とセックスしたとき、自分を偽者の人形だと理解しているようすだったが、記憶は受け継いでいるようでサーゼクスの妻としての誇りを持っていたのは確かだった。

 

 そんな彼女が夫と思っている存在を忘れて完全に堕ちてしまったんだ。

 

 いま彼女の心のなかではいろいろな感情が彼女のなかで渦巻いていることだろう。

 

 だが――。

 

「さあ、セラフォルーさまも神城さまも早く着替えてください」

 

 オリジナルのグレイフィアにはあまり関係のないことだった。

 

 最初からこのために用意した人形であるし、人形がショックを受けようと、それは人形が自分の真似をしているだけで、人形自身の気持ちではないのだ。

 

 人形は感覚をリンクさせやすいように記憶と容姿を受け継いだだけで、オリジナルグレイフィアとサーゼクスのあいだにはまったくの関係ないし、どこまでいっても偽者の人形でしかない道具であり、そもそも愛情や敬意などといった感情を1個の人間と同様に感じる必要などありはしないのだ。

 

 彼女は道具で試練が終わったいまでは用済みの存在であるが、俺にはこのまま放っておくことなどはできなかった。

 

 いまだに嗚咽を漏らし、震えている裸のグレイフィアに視線を向けたまま、メイド服装備のオリジナルグレイフィアに訊ねる。

 

「なあ、グレイフィア。彼女はこのあとどうなるんだ?」

 

 俺の問いにグレイフィアは静かに答える。

 

「……そうですね、元々このためだけに用意したホムンクルスですし、体内の残存魔力が尽きれば自然と機能が停止するでしょう」

 

「――っ」

 

 裸のグレイフィアの肩が跳ねる。……機能停止は人形である彼女にとってすれば死の宣告だからな。

 

 俺は裸のグレイフィアの頭を撫でながらメイド服装備のグレイフィアに訊く。

 

「……グレイフィア。彼女を俺が引き取ることはできないか?」

 

「――っ」

 

「引き取る?」

 

 俺の発言に裸のグレイフィアがゆっくりと振り返り、メイド装備のグレイフィアからは怪訝そうな声で訊きかえされた。

 

 泣き顔を浮べている裸のグレイフィアを目から指で涙を拭い取り、メイド服装備のグレイフィアに言った。

 

「ああ。彼女が人形でおまえの記憶を受け継いでいるだけといっても、このままは、な。……正直、情というか愛着みたいなものが湧いてしまったんだ」

 

「…………」

 

 メイド服装備のグレイフィアから言葉は返ってこない。

 

「……グレイフィアちゃん」

 

 黙っているグレイフィアに、話を訊きながら静観していたセラフォルーも声をかける。

 

 それが効いたのかわからなかったが、メイド服装備のオリジナルグレイフィアは、

 

「……いいでしょう」

 

 と了承してくれた。

 

 了承したグレイフィアに誰よりも驚いた様子の、裸のグレイフィアがバッと起き上がって恐る恐る訊ねた。

 

「……い、いいのですか?」

 

 裸のグレイフィアの問いにメイド服装備のグレイフィアは頭に手を当て、ため息を吐きながらうなずいた。

 

「……人形とはいえ、このまま機能を停止させることに私とて何も思わないわけではありませんので」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 とりあえず機能停止という死を免れた裸のグレイフィアは頭を下げた。そんな様子にメイド服装備のグレイフィアはため息を吐いて椅子から立ち上がり、ベッドに近づいてきて裸のグレイフィアに言う。

 

「神城エイジの所有物になる上で私の記憶は邪魔になると思いますが、それも1、2週間で消えると思うので安心しなさい」

 

 メイド服装備のグレイフィアはさらに続けて、俺とセラフォルーも含めて説明する。

 

「私に似せた容姿はこれからも大きく変えられませんが、記憶のほうは元々感覚リンクをスムーズに行なうための一時的な記憶の転写でしたので。感覚リンクを切ったいま、私の記憶は少しずつ消えていくようになっているのです」

 

 つまりグレイフィアの容姿が基準となるけど、グレイフィアとしての記憶自体は時間が経てば自然に消えるということか。

 

「それと、常に魔力を消費しながら稼動しているので、定期的に魔力の補充が必要になります。ですが、魔力の補充さえすれば普通の悪魔並みに稼動し続け、体の構造的にも並みの悪魔とさほど変わりませんので、治療は冥界の治療機関や回復魔術で治すこともかのです」

 

 と、いろいろと説明してきてくれた。

 

 裸のグレイフィアがメイド服装備のグレイフィアに改めて訊ねる

 

「では私は――」

 

 何を言いたいのか察したメイド服装備のグレイフィアがうなずいて言う。

 

「はい、これからは神城エイジさまの所有物です。……名前も、その容姿でそのまま私の名前ではいろいろと問題があるので、そうですね……、フィア、とでも名乗りなさい」

 

 それを訊いた裸のグレイフィアは一度うつむき、そのあと顔をあげて、

 

「わかりました」

 

 と、しっかりうなずき、俺へ向ってあいさつしてきた。

 

「これからよろしくお願いします。エイジさま」 

 

 ……彼女はグレイフィアの記憶を受け継いでいるぶん、おそらく聡いところも受け継いでいるのだろう。

 

 彼女は自分自身が人形で、オリジナルのグレイフィアの偽者しかないことなど、全ての事情を飲み込んだような、切り替えたような表情をしていた。

 

 俺も彼女の顔を正面から見て改めてあいさつする。

 

「ああ、これからよろしく、フィア」

 

「はい」

 

 どこかぎこちないが彼女は笑顔で返事した。

 

 これからの彼女にはグレイフィアに似せた人形ではなく、出来れば新しいフィアという1個の存在として生きて欲しいと俺は心の底から想った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ての話を終えた俺たちは身だしなみを整え、浄化魔法まで使用して全ての情事のあとを消したあと、リアスとサーゼクスのもとへと向った。

 

 部屋のなかの時間を結界で早めていたので、外では20分ほどしか時間が経っていなかったが、リアスとサーゼクスの対決はすでに終了していたようだった。

 

 グレモリー家にとって神聖な遺跡を、ここまでボロボロにしてよかったと心配しながらも、俺たちは最初の武舞台に向う。

 

 武舞台に向うと、戦隊スーツの頭部分を外したアジュカとファルビウムがいて、説教しているリアスと、同じく戦隊スーツの頭部分を外したサーゼクスが説教されていた。

 

「あ、エイジ!」

 

 武舞台に現れた俺に気づいたリアスが胸に飛び込んできた。正面から受け止めた俺に、リアスはうれしそうに言う。

 

「合格したわよ!」

 

「俺も合格したよ」

 

 そう言うとリアスは、安心したようなうれしそうな笑顔を浮べた。

 

「本当によくやった。2人とも文句なしの合格だよ」

 

「これで旦那さまも奥方さまもご安心されることでしょう」

 

 抱き合う俺たちにサーゼクスとグレイフィアは共に満足げな表情でそう言った。

 

 俺はサーゼクスに向き直り、訊ねる。

 

「これで俺はリアスの正式な婚約者になるのか?」

 

 サーゼクスは笑顔でうなずく。

 

「その通りだよ。正式な婚姻は大学卒業後になるだろうけどね。――これからもリアスを頼むよ、エイジ」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 俺の力を持って絶対に守ってみせるよ。

 

「おめでとう、リアスちゃん!」

 

 横からセラフォルーがリアスに飛びついた。……おめでとうとは言うけど、おそらくセラフォルーのなかでは、今度どんなハードプレイをするか考えているんだろうなぁ。んー、飛びつきようから若干レズでもあるし、3人で、とか考えてるのかな?

 

「……あー、やっと終わった」

 

 ため息混じりでそうぼやくのはファルビウム。相変わらずの面倒くさがりのようだが、魔王業だけはちゃんとしてほしいな。

 

「じゃあ、サーゼクス、俺は兵藤一誠の家に向うよ。二人ともおめでとう」

 

 アジュカはサーゼクスにそう告げたあと、俺たちにも声をかけてくる。

 

「ああ、こっちこそありがとう。――って、イッセーの家に行くのか?」

 

 試験に付き合わせたことも含めて礼を言ったあとで、アジュカがサーゼクスに言ったことに気づいた。

 

 アジュカはマッドな笑みを浮かべた。

 

「ああ、いま彼は神器のなかに潜って『覇龍』とは別の進化を模索しているそうなのでね。身内が迷惑をかけたぶんも含めて、神器を調べたりと協力してやろうと思っているんだ」

 

 身内の不祥事ってのは、やっぱりディオドラか。

 

「キミたちにも本当に迷惑をかけた。特にアーシア・アルジェントさんには謝らないといけないからね」

 

「……そうか」

 

「じゃあ、いろいろとこのあとも仕事が残っているし、俺は行くよ。エイジの体に完全に溶け込んだという『悪魔の駒』を研究したいのやまやまだが、今度にするからそのときはよろしく」

 

「…………わかった。じゃあな」

 

 アジュカは転移用の魔法陣を足元に展開させて姿を消した。

 

 他人に体を弄られたくないが、元々『悪魔の駒』の製作者はあいつだからな。なにかないか調べてもらっていたほうがいいだろう。

 

「じゃあ、僕も帰って寝るよ……」

 

「私も仕事があるから帰るね、またね、ブラたん、リアスちゃん☆」

 

「ああ、またな」

 

 ファルビウムとセラフォルーもアジュカに続いて転移魔法陣で帰った。

 

 さて、ここに現在残っているのは俺とリアス、サーゼクスとグレイフィア、それに――。

 

 ぎゅっ。

 

 俺の服を掴んでいるフィアの5人だ。

 

 フィアの存在に気づいたリアスが驚いたような表情を浮かべる。

 

「あら、この子は? グレイフィアに似てるわね?」

 

「わ、私は……フィア、です」

 

 舌足らず、というか戸惑いながらリアスにあいさつするフィア。そう、リアスがこの子と言ったとおり、彼女はいま魔力の消費を少なくするため、似すぎている容姿をどうにかするために、10歳ぐらいの少女の姿になっていた。まあ、起動したて、生まれたてのホムンクルスゆえの完全な少女化だった。

 

 俺の服の裾を握るフィアの姿は、貴族のお嬢さまのように純白のワンピースを着こなす少女時代のグレイフィアそのものだったのだが、いかんせん精神年齢が高いために表情がどこか硬かった。

 

 俺の代わりにグレイフィアが説明した。

 

「彼女は今回の試験用にアジュカさまが製作されたホムンクルスで、このあと機能を停止させる予定だったのですが、情が移ってしまったという神城エイジさまが機能停止は止めにしてご自分で引き取る申されたのです」

 

「え? ホムンクルス?」

 

「まあ、言ってしまえば人形です」

 

 言葉の意味がわからない様子のリアスにグレイフィアはそう説明し、俺を見て改めて続けた。

 

「人形なのですが、彼は人形とは思っていないようです。アジュカさまが製作したため従来のものより高性能で、魔力の供給さえ定期的に続ければ普通の悪魔と変わりないので、子供を引き取ったぐらいに考えるのもいいでしょう」

 

「そう……、そうね」

 

 リアスは俺の裾を掴んだままのフィアを足元から頭のてっぺんまで観察するように見つめ、

 

「うん、わかったわ。――改めてよろしく、フィアちゃん。私はリアス・グレモリーよ」

 

 と、笑顔で手を差し出してあいさつした。

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 フィアは戸惑う様子を見せるもののリアスの手をとって握手を交わした。リアスはそのまま手を繋ぎ横に並ぶ。

 

 俺もフィアの片方の手をとって繋いだ。

 

「ふふふ、まるで親子のようだな」

 

 サーゼクスが笑みをもらす。確かにフィアを真ん中に両サイドから手を繋ぐとそう見えるけど、フィアは精神年齢が高いからそう言われてすごく恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 

 正直最初は、記憶で言えばサーゼクスの妻であるフィアを心配したんだけど、サーゼクスとオリジナルグレイフィアが並び立っているのに、あまりショックを受けた様子はなかった。やはり聡いんだろう、自分のことを冷静に理解して距離を取っていた。

 

 あまりいまはここに居ないほうがいいかと考えていると、グレイフィアが魔法陣を展開させた。

 

 何をするのか怪訝に思っていると、俺たちの前で魔法陣から鷹とライオンが混じった魔物――グリフォンが現れた。

 

「私たちは魔法陣で一足先に帰るが、キミたちはこれで邸まで帰るといい」

 

 空気を読んだのかな?

 

「わかった。ありがとう」

 

 礼を言ってから乗り込む俺たちにサーゼクスが声をかけてきた。

 

「リアス、エイジ。最後に。パーティで発表する予定のことだが、先に報告しておこう。――サイラオーグとのゲームが決まった」

 

「「――ッ!?」」

 

 サーゼクスの報告に俺とリアスは同時に驚いた。……そうか、ついに。

 

「開催日時は駒王学園の学園祭と同時期になりそうだ。あとのスケジュール調整はこちらでおこなうが、それだけは覚えておいてほしい」

 

 修学旅行の次が学園祭だ。修学旅行から帰ったら、とうとうサイラオーグとのゲームか。

 

 二学期はイベントが目白押しだな。

 

 俺とリアスはそれを確認したあと、グリフォンに跨り、空を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冥界の空をグリフォンで飛ぶこと10数分ほど。

 

 俺とリアスは気持ちいい風に当たりながら、空から地上の景色を見ていた。

 

 そういえば一学期もこういうことがあったっけなぁ。

 

 俺を背もたれにフィアを抱えているリアスが身を寄せてきた。

 

「……あのときのこと、思いだすわね」

 

「ああ、あのときはドラゴンだったな」

 

「ふふっ、とうとう本当に婚約までしちゃうなんてね」

 

「俺ももう婚約までするとは思わなかったな」

 

「あら? あなたは私と結婚する気がなかったの?」

 

「いや、もちろん結婚したいよ」

 

 リアスを後ろから抱きしめる。

 

「ただ、この半年で本当にいろいろあったなと思ってね」

 

 リアスは体を俺にあずけてうなずいた。

 

「そうね。私も半年のあいだにここまで私を取り巻く環境が変わるとは思いもしなかったわ。本当にいろいろなことも起きて大変だったけど――、私はこうしてあなたといれて幸せよ」

 

 顔だけ後ろに向けるリアスと以前よりも自然にできるようになったキスを交わす。

 

「俺も幸せだよ、リアス」

 

「これからもずっと一緒にいてね、愛しいエイジ」

 

「もちろんだよ。愛しいリアス」

 

「………………少しは私のことも考えてイチャついてほしいものです……」

 

 小さく愚痴をもらすフィアに悪いと思いながらも、俺とリアスは再びキスを交わした。

 




 グレイフィアさんの株が多少下がっちまったと思うが仕方ねぇ!

 いや、ほんとすみませんでしたー! otz|||


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修学旅行はパンデモニウム
第69話 京都編のはじまり


<エイジ>

 

 

「将来的にエイジさまのヴァルキリーとなったあとは、グレモリー領に北欧魔術の学舎を設立したり、悪魔の女性からヴァルキリーを輩出したりと新しい事業をしてみたいと思っております」

 

 正式に、勇者とその見習いヴァルキリー兼リアス・グレモリー配下の眷属悪魔となったロスヴァイセが自身で思い描いている未来のビジョンを語り、

 

「天使の私が上級悪魔のお屋敷にお邪魔できるなんて光栄の限りです! これも主と……魔王さまのおかげですね!」

 

 イリナも楽しそうな様子だった。

 

 グレモリー家の試練を終え、修学旅行間近、俺たちグレモリー眷属+イリナと黒歌たちはリアスの両親と共にグレモリー家のダイニングルームでお茶会をしていた。

 

 リアスの眷属がそろったので、記念として改めてリアスの両親に紹介することになったんだ。

 

 使用人の悪魔たちに囲まれてのお茶会にイッセーやアーシアは戸惑っているようだが、これも勉強と、紅茶を楽しみながら会話を続ける。

 

「ハハハ、ロスヴァイセさんは産業に感心をお持ちのようで、グレモリーの当主としては期待が膨らむばかりだ」

 

 リアスのお父さんが朗らかに笑う。

 

 お茶を口にしていたリアスのお母さんであるヴェネラナさんがカップを置くと話題を切り替える。

 

「そういえば、エイジさんたち2年生の皆さんは修学旅行間近でしたわね。日本の京都だったかしら?」

 

「はい、もうすぐ京都に行く予定です。お土産を買ってこようと思っているのですが何がいいですか?」

 

 と、俺が答える。ヴェネラナさんはニッコリ笑顔を浮べて言う。

 

「あら、うれしい。そうね、去年リアスがお土産で買ってきてくれた京野菜のお漬け物がとても美味しかったわね」

 

 うん、ヴェネラナさんのイメージ的に漬け物は合わないけど、リアスも家で美味しそうに漬け物食べてるし、意外と漬け物好きなのかな? 日本のレトロな銭湯に似せたお風呂持ってるぐらいだし。

 

「では旅行先で買ってきますよ。最近すごく美味しい京野菜を代々作っている方とも知り合いましたから」

 

「楽しみにしてるわね」

 

「はい」

 

 そのあとも他愛もない会話を続け、眷族勢揃いの記念お茶会は無事終えていく。

 

 お茶会を終え、俺たちは転移用魔法陣でおのおのの家に帰ろうとしていた。

 

 けど、そのまえにグレモリーの城にサーゼクスが戻られているというので、帰り際にあいさつだけでもということになった。

 

「僕も一緒に行きます!」

 

 ミリキャスもお父さんに会いたいということで俺たちに同伴することに。

 

 サーゼクスが戻ったときに使われている移住区の通路でサーゼクスと――黒髪のお客さんらしき人と鉢合せする。

 

 って、貴族服を着たサイラオーグかよ!

 

「お邪魔をしている。元気そうだな、リアス、神城エイジ、赤龍帝」

 

 こうした普通の状態でも覇気が全身からにじみ出るような圧迫感を撒き散らすのは、はっきりいってマイナスだな。いくらなんでも闘志に満ちすぎだ。

 

「ええ、来ていたのなら一言言ってくれても良かったのに。けれど、そちらも元気そうで何よりだわ。――と、あいさつが遅れました。お兄さま、ごきげんよう。こちらにお帰りになられているとうかがったものですからあいさつだけでもと思いまして」

 

「気を遣わなくても良かったのだが、すまないね。ありがとう」

 

 サーゼクスがミリキャスを抱きかかえながら俺たちに微笑む。

 

 戻っている理由は最近決まったというサイラオーグとのゲーム関連かな?

 

 そんな風に考えていたら、リアスがサーゼクスに訊ねた。

 

「お兄さま、サイラオーグがここに来ていたのは……?」

 

「うむ。バアル領の特産である果実などをわざわざ持ってきてくれたのだよ。従兄弟に気を遣わせて悪いと思っていたところだ。今度ぜひともリアスをバアル家のお屋敷に向わせようと話していたのだよ」

 

 と、サーゼクスが言う。まあ、サーゼクスから言ってもサイラオーグは母方の従兄弟だからな。

 

「今度のゲームについていくつか話してね。リアス、彼はフィールドを用いたルールはともかく、バトルに関しては複雑なルールを一切除外してほしいとのことだ」

 

 サーゼクスの言葉を聞き、リアスは驚き、そして目元を厳しくした。

 

「サイラオーグ、それはつまりこちらの不確定要素はもちろん、全力になったエイジも全て受け入れる、ということかしら?」

 

 リアスの真剣な問いにサイラオーグは不適に笑む。

 

「ああ、そういうことだ。時間を止めるヴァンパイアも、女の服を弾き飛ばし、心の内を読む赤龍帝の技も、魔王クラスといわれる全力の神城エイジも、俺は全部許容したい。――おまえたちの全力を受け止められずに大王家の次期当主を名乗れるはずがないからな」

 

『――っ!』

 

 サイラオーグの告白にイッセーをはじめ、眷属のほとんどが息を呑んだ。

 

 ……ものすごい気迫と覚悟を感じる。こいつは俺たちの全力を望んでいるようだ。

 

 サイラオーグの眼力高い視線がリアスを捉えるが、リアスは体からオーラを噴きださせながら逆に睨み返した。

 

「サイラオーグ、いくらなんでも私たちを舐めすぎよ。エイジの本気を出させたいのなら、まずは私や朱乃を軽くあしらえるようになってから言いなさい」

 

 サイラオーグは大きく目を見開いた。リアスの体から発せられる魔力が質から変わっていることに驚いているのだろう。

 

 リアスはサイラオーグをもう一度睨むとオーラを霧散させた。威圧から解放されたサイラオーグはゆっくりと笑みを濃くしていき、笑い声をあげる。

 

「ハハハハハ! 失礼だが本当にリアスか? 新人同士の邂逅から何があった? 正直見違えたぞ!」

 

 本当に失礼だが、そう思ってしまうのも仕方がないだろうな。いまのリアスは自分自身を信じているし、度重なる実戦を経て、風格というものがわずかだけどついてきたからな。

 

 リアスはそんなサイラオーグの反応に軽く頬を膨らませながら答える。

 

「いろいろあったのよ。修行したり、戦ったりとね」

 

「ああ、聞いているぞ。旧魔王の血族であるシャルバや、フェンリルを率いた悪神ロキと戦ったとな。だが、正直リアス自身がここまで強くなっているとは思わなかった」

 

 サイラオーグはリアスを見たあと、俺のほうへ視線を移した。

 

「やはりあなたが鍛えたのですか?」

 

「まあな」

 

 俺は短く答えた。実際は黒歌たちと一緒にだけど、そこまで説明する必要もないだろう。

 

 サイラオーグは俺をギラギラとした紫色の瞳で見つめながらつぶやく。

 

「いまの俺ではよくてリアスとその『女王』と同レベルか。これではこちらがあなたにかせられてるハンデまで取り払って欲しいと願い出てもおそらく通らないでしょうね」

 

 だが、完全には諦めていない。という感じだな。

 

 空気がギスギスしてきたので、俺は肩をすくませて言う。

 

「正直俺はおまえと戦うよりも鍛えるほうにまわりたいんだがな」

 

 サイラオーグの肩眉が動いた。

 

「……鍛える?」

 

「ああ、おまえは最高の素材だからな。正直俺の武術を教え込んでみたいと思っている」

 

 その言葉にサイラオーグは不快――とまではいかないが不機嫌そうな表情を浮かべて言った。

 

「……あなたが思っているほどの才能はありませんよ」

 

 サイラオーグの言葉にこちらもうなずく。

 

「ああ、こちらもはっきり言って才能には期待していないさ」

 

「――っ」

 

 サイラオーグは俺の言葉に絶句しているようだが、関係なしに続ける。

 

「そもそも俺は才能を持つ持たないなど関係などなしに、おまえの人なりも見て弟子にとりたいと思っているんだからな。――それに、本当に才能がなかったとしても、おまえは才能が無いぶんそれを補うための努力をしてくれるだろう?」

 

 サイラオーグはその言葉に大きく目を広げたあと、笑顔を見せて大きくうなずいた。

 

「――っ。ええ、そうですね。私は諦めが悪いですから」

 

 そんななか隣で見ていたサーゼクスがある提案を口にする。

 

「うむ、ちょうどいい。サイラオーグ、エイジと少し拳を交えてみないかい? 試合ではないからハンデはないよ」

 

「――っ! いいのですか!?」

 

「軽くやってみたらいい。魔王クラスといわれて、ゲームでもガチガチのハンデを背負わされている黒い捕食者の実力を実際に感じてみるのも、キミの成長に繋がるだろうからね」

 

 サーゼクスの提案に食いつくサイラオーグ。

 

 え? お茶会に着ただけでなぜ戦う流れになってるんだ?

 

 サーゼクスは戸惑う俺を無視して、リアスに問う。

 

「リアス、どうだろうか?」

 

 リアスはしばし考え込み、意を決したように答えた。

 

「……お兄さま……いえ、魔王さまがそうおっしゃるのでしたら、断わる理由がありませんわ。エイジ、いいわね」

 

『王』に、リアスに言われたら断われないよ。

 

「わかった」

 

「おおっ!」

 

 俺がうなずくと共にサイラオーグがうれしそうな声をあげた。子供かおまえは!?

 

 俺とサイラオーグが手合わせをする流れになろうとしていると、ここでイッセーが声を上げた。

 

「ちょっと待ってください!」

 

 イッセーの声に誰もが「どうしたんだ?」という視線を向ける。リアスが驚きの表情を浮かべたままイッセーに訊ねる。

 

「どうしたの?」

 

 リアスの問いにイッセーは……。

 

「俺と……、俺と戦わせてください!」

 

 リアスとサイラオーグ、そしてサーゼクスに向って頭を下げた。

 

 イッセーの願いを聞いてサーゼクスが感心するように顎を手をおく。

 

「ふむ……、それは実におもしろい提案だね。若手ナンバーワンのサイラオーグと赤龍帝のイッセーくんとの試合か。個人的にはエイジとの一戦よりも興味があるね」

 

 サーゼクスのその言葉にリアスが驚く。

 

「お、お兄さま! 何を言ってるんですか!? イッセーとサイラオーグが戦うなんて……」

 

 リアスはサイラオーグとグラシャラボラス家のレーティングゲームで再起不能にされた若手悪魔を見ているから、まだ未熟なイッセーが若手ナンバーワンのサイラオーグと戦って潰されてしまわないか心配してるんだろうが……。

 

「部長。大丈夫です」

 

「イッセー、だけど……」

 

「俺がまだ勝てないのはわかっていますから」

 

 イッセーの目は気合に満ちている。おそらく言葉通り勝てるとも、勝とうとも思っていない。

 

 ん? そういえば神器の新しい可能性を探っていたな?

 

 俺は小声でイッセーに訊ねる。

 

「何かつかんだのか?」

 

「ああ、まだ入り口だけどな」

 

 イッセーは俺の問いに小さくうなずいた。

 

 新しい神器の可能性がどういうものかサイラオーグで試してみたいって顔だな。

 

「それなら今回はおまえに譲ってやるよ。元々戦う気分でもなかったし、サイラオーグとはこれからも戦えるしな」

 

「エイジ、ありがとう」

 

「別にいいさ。……サイラオーグもそれでいいか?」

 

 俺が訊ねると、サイラオーグは目を瞑り、うなずいた。そして再び好戦的な笑みを浮かべて言う。

 

「あなたと戦えないのは残念ですが、私は赤龍帝とも戦ってみたかったんです」

 

 話がまとまったところでサーゼクスがうんうんと笑顔でうなずく。

 

「では、私の前で若手ナンバーワンの拳と赤龍帝の拳、見せてくれ」

 

 それを受けてサーゼクスは――、

 

「これは良い機会をいただきました。存分にお見せしましょう、我が拳を……ッ!」

 

 気迫溢れる笑みを浮かべていた。

 

 そして、対するイッセーは――、

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 気迫に若干押されながらも返事を返していた。

 

 さてと、この勝負でイッセーは何をつかむんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレモリーの城の地下に駒王学園のグラウンドがスッポリと入りそうなほどに広いトレーニングルームがある。

 

 俺たちグレモリーの者と黒歌にセルベリアといった俺の家族、サイラオーグはそこに場所を移していた。ミリキャスはグレイフィアに連れられて他の場所で待機してる。

 

 そのトレーニングルームの中央でサイラオーグは貴族服を脱ぎ、グレーのアンダーウェア姿になってる。

 

 鍛えこまれた、なかなかの肉体だな。イッセーよりも一回り近く体格が違う。

 

 学生服姿のイッセーはサイラオーグの肉体に気圧されていたが、すぐに気を取り直して戦闘態勢に移る。

 

「ドライグ、いくぞ」

 

『任せろ』

 

 イッセーは籠手を出現させる。生身ではおそらく殺されるだろうからすぐに禁手化するだろう。

 

 禁手化するまでの時間。サイラオーグは何もしてこない。禁手化しているイッセーが全力だと思っているだろう。俺だったら禁手化する前に速攻でイッセーを潰しにかかるけど、まったく好戦的で挑戦的なヤツだ。

 

 ――っと、ここで禁手化までのカウントが終わったようだ。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 音声と共に赤い閃光が『赤龍帝の籠手』から発生し、イッセーの体を包み込んだ。赤いオーラが鎧を形作っていく。

 

 バッ! イッセーが『赤龍帝の鎧』の背中部分に新しくついた翼を大きく広げ、攻撃の構えを取った。サイラオーグも攻撃の構えを取るが、さすがだな。イッセーの荒い構えと比べものにならない、流れるようなモーションで構えた。きっと何年も切磋琢磨して己を鍛えていたんだろう。

 

 構えと取って向い合う2人、まずはイッセーが最初に動く! 

 

 ゴォォォォオオオオッ!

 

 背中のブーストを噴かせて、前方に飛びだした!

 

 右ストレートを放つ構えで、そのままサイラオーグへと向っていく。

 

 サイラオーグは一直線に向ってくるイッセーを目視しているようだが、その場から動かない。

 

 動けるのに、動かない。

 

 そのサイラオーグの様子にイッセーが怒ったのか、そのままサイラオーグの顔に殴りかかった。

 

 ゴンッ!

 

 盛大な打撃音を鳴り響かせて、サイラオーグの顔面にイッセーの右ストレートが食い込む。

 

 避ける動作もせずに、受ける動作も行なわずに、クリーンヒット。イッセーの全力の一発をサイラオーグは顔面に受けた。

 

 ――と、ここでサイラオーグを攻撃したはずのイッセーは後方にバッと下がり、そこで改めて攻撃態勢になった。

 

 鎧で覆われているためにイッセーの表情はうかがえないが、おそらく戸惑っているんだろう。

 

 自分のパワーがサイラオーグにまったく通じなかったことが……。

 

 倍加していないといっても強大なパワーを誇る禁手化状態の一撃が、防御術式もなにもなしにただの身体能力で防がれたことに、サイラオーグに怪我すら負わせられなかったことに、イッセーは戸惑っているんだろう。

 

 サイラオーグは殴られた部分を指でさすると笑みを見せる。

 

「いい拳だ。真っ直ぐで、強い想いが込められた純粋な拳打。並みの悪魔ならこれで終わる。だが――」

 

 サイラオーグが動く!

 

 イッセーの眼前から背後に回って――。

 

「――俺は別だ」

 

 ドッ! ガギャンッ!

 

 サイラオーグのパンチがイッセーに放たれる!

 

 サイラオーグのつぶやきで位置を察知したイッセーが、かろうじで両腕をクロスさせてパンチを受けるが、一撃で籠手部分が破壊された!

 

 体勢を完全に崩されたイッセーは、背中のブーストを噴かして急いで距離を取る。

 

 そして赤いオーラで両腕を包み、再び籠手を形作る。どうやら骨まではいかなかったようだ。

 

 籠手を再生させ、まだ戦意を喪失していないイッセーに、サイラオーグが感心するように笑んだ。

 

「ほう。吹っ飛びはしなかったか。まあ、あいさつ代わりの打撃にすぎないものだからな」

 

 まあ、サイラオーグからしたらそうだろうが、イッセーからしたら冗談じゃないだろう。あいさつ代わりのパンチ一発で攻撃と防御手段であり、切り札でもある『赤龍帝の籠手』が破壊されるんだからな。

 

「俺の武器は3つだ。頑丈な体、動ける足、体術。――いくぞッ!」

 

 スッ!

 

 サイラオーグが素早く移動し、イッセーの真横に入る!

 

 直前でそのことを察知したイッセーが身を捻って、サイラオーグが放ったボディブローを避けるが――。

 

 ブゥゥゥンッ!

 

 という風きり音が鳴り、続いてミシッ……、っと鈍い音がイッセーの鎧の腹部から鳴った。

 

 よく見てみればイッセーの鎧の腹部に亀裂が生まれていた。

 

 かすっただけで『赤龍帝の鎧』を傷つけたのか。ますますおもしろいな、サイラオーグ。

 

「クソ!」

 

 鎧を二度にわたって傷つけられたイッセーは毒づきながら、拳を打ちだす。

 

 ゴッ! サイラオーグはまた避けずに顔面で受ける。

 

 先ほどと同じく目立ったダメージはない。

 

 ゴオッ!

 

 サイラオーグのカウンターが来ると感じたイッセーが、刹那にブーストを噴かしてうしろに飛びのいた。 

 

 ズァァァァアアッ!

 

 サイラオーグの蹴りが空振りするが、空振りした蹴りの威力によってこのトレーニングルームの中央から端まで大きな亀裂を生み出した。

 

 拳打も蹴りも見事な威力だが、2度もはずすなんてサイラオーグはイッセーとの力の差を見せつけてるのか?

 

 イッセーはサイラオーグの力を見せつけられて、

 

「すごいです」

 

 とつぶやいた。その言葉は自然に口からでたという感じだった。

 

 イッセーはサイラオーグに訊ねる。

 

「その強さになるまで、全部、鍛えたんですか?」

 

 イッセーの問いにサイラオーグは言う。

 

「――己の身体を信じてきただけだ」

 

 その一言にサイラオーグのいままでを感じる。魔力が少なく、滅びの魔力も受け継がず、才能がなく、身体だけ必死に鍛えて這い上がってきた自信が言葉に表れていた。

 

 イッセーもサイラオーグの言葉に何か共感するものでも感じ取ったのか、気合が入ったようだ。

 

 戦闘態勢を改めて取り直して、

 

「『戦車』にプロモーションッ!」

 

 と『戦車』にプロモーションした。

 

「『戦車』だと?」

 

 サイラオーグも最強の駒である『女王』ではなく、『戦車』にプロモーションしたことに怪訝な表情を浮かべた。

 

 そしてサイラオーグはイッセーが何故『戦車』を選択したのかを確かめるように移動し――。

 

 イッセーもサイラオーグが攻撃してくるだろうと受ける体勢になって――。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 増加したドラゴンのパワーを全身にみなぎらせて、右の拳にも力を込めていた。

 

 ゴッ!

 

 イッセーの真っ正面に現れたサイラオーグが、イッセーの腹部にブローを一発放つ!

 

 もろにブローを鎧の腹部に受けたようだが、今度の鎧は完全に砕かれていない! おそらく増加したドラゴンのパワーを防御にまわしていたんだろう。

 

 さらにイッセーはサイラオーグが腹部から拳を引く瞬間を狙って、サイラオーグの顔面に右ストレートを打ち込むッ!

 

 ガンッ!

 

 といい音が鳴り響いて――。

 

 ブッ!

 

 サイラオーグの鼻から血が噴き出た。同時に――、

 

「ガハッ!」

 

 イッセーの兜のマスクからも血が噴き出た。腹に食らった一撃が内臓を傷つけていたんだろう。

 

 サイラオーグは鼻の血を指で拭う。――心底うれしそうに笑った。

 

「……『戦車』への昇格か、誤った判断でもなさそうだ。こちらも力を込めて拳を放ったのだがな。おまえの『戦車』としての攻撃と防御は見事だった。やることとやれることが多くなる『女王』よりも攻守のみが高まる『戦車』のほうがパワータイプのおまえには似合ってるのかもしれないな」

 

 これがイッセーが発見した可能性か。神器のパワーアップする方向性を『兵士』の駒の、他の駒になれるという特性を利用してそれぞれの駒の性質に一点特化させて戦うという戦闘法。なるほど、『赤龍帝の籠手』が持つ倍加能力にピッタリな方法だな。

 

 サイラオーグと共に俺も感心しているが、イッセーのようすが少しおかしい。

 

「どうした? 体から疑問が見られる。俺が相手では問題か?」

 

 サイラオーグがそう訊ねると、イッセーは心底意外そうにつぶやきはじめた。

 

「いえ、なんていうか……。上級悪魔の方で、俺のことを……その、バカにする人が多かったので……。サイラオーグさんは最初からマジできているから驚いているんです」

 

 ………………。

 

 サイラオーグはイッセーの言葉を訊いて、息をひとつ吐いた。

 

「そうか。おまえは、いままで過小評価を受けてきたのか。安心しろ。俺はおまえを過小評価などしないッ! 旧魔王派と繋がっていたディオドラを打ち倒し、北欧の悪神ロキと真っ正面から戦い、生き残ったおまえをどうして過小評価などできようか」

 

 ………………。

 

 あ~、いい雰囲気だから言わないけど、イッセーをバカにした上級悪魔ってライザーぐらいだからな? ヴァーリもイッセーをバカにしていたけど、バカにされる理由の大半がイッセーの言動や行動なんかがあってこそだったから、おそらくおまえが考えているようなバカにされたとは違うと思うぞ? ……言わないけど。

 

 そんな俺の内心とは関係無しにサイラオーグはイッセーに向って不適に笑む。

 

「俺はおまえと戦うのが楽しいぞ。いい拳を放ってくれるからな。鼻血を流したのは久しぶりだ。何よりも同じタイプと相対した喜びは大きい。その拳、鍛え込んでいるのだろう? 一発くらえばわかる。――遠慮するな。俺を全力で殴り倒しに来い。そのためにこの場に立っているのだろう?」

 

 サイラオーグが浮べる男気溢れる笑みにイッセーは引き込まれているようだった。

 

「来い! 兵藤一誠! 俺を打倒することだけ考えろッ! 赤龍帝の力を俺に見せてみろッッ!」

 

「ええ、いきますよッ!」

 

 サイラオーグの叫びにイッセーはうれしそうに返事して――。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 真っ正面から突貫してくるサイラオーグに向けて、ドラゴンショットを撃ちだした!

 

 バシュッ! ドォオオッ!

 

 イッセーのドラゴンショットはサイラオーグの横薙ぎの拳打に弾き飛ばされ、トレーニングルームの壁にぶち当たった。

 

 元々魔力が低いイッセーだから『僧侶』でない分、魔力が足りないんだな。

 

 それを先ほどの一撃で理解したイッセーは『僧侶』にプロモーションせずに、そのまま『戦車』でサイラオーグと接近戦をすることに決めたようだ。

 

「――ッ! 俺と打ち合う気かッ! おもしろい! 打ち込んでみせろッ!」

 

 叫ぶサイラオーグに飛びだそうとして――。

 

「イッセーさん!」

 

 突然、アーシアが叫んだ。何事だとイッセーを含めて全員が視線を送ると、アーシアが続ける。

 

「パ、パワーアップです! お、お、お、お、おっぱいを触ればイッセーさんはもっと強くなるんです!」

 

 ………………へ?

 

 アーシアの叫びに全員が間の抜けた顔になっていた。しかし、木場がハッと気づいてアーシアに続く。

 

「そ、そうだ! イッセーくんはおっぱいドラゴンだ! おっぱいを触らせれば力が増す! いや、エッチな本でもイッセーくんはパワーアップ……、パワーアップした……」

 

 おかしな木場の賛同だけど、途中からどうしたんだ? 眼のハイライトが消えてないか?

 

 その他にも――。

 

「白音のおっぱいは絶対につつかせない! 絶対に私が白音を守る!」

 

「冥界放送……、ネットにアップ……、嫌っ! 絶対に嫌です!」

 

 黒歌が小猫ちゃんを庇うようしてイッセーに殺気を飛ばし、小猫ちゃんのトラウマスイッチが入ったかのように黒いオーラに包まれていた。

 

 おい、アーシアの発言で味方が大変なことになってないか?

 

 イッセーがサイラオーグに負けそうになってることに戸惑い、暴走してるアーシアはさらに火の粉を飛ばす。

 

「部長! わ、私でもかまいません! どうか、イッセーさんにお、お、おっぱいの力を! このままでは負けちゃいます!」

 

「な、なんで私なのよ!?」

 

 突然の申し出に困惑顔のリアスにアーシアは熱弁する。

 

「それはリアス部長のほうが私よりも、その……大きいですし、イッセーさんは部長さんのお、おっぱいをいつもつつきたがっているから……」

 

「そ、それは……」

 

 イッセーのいままでの行動で、リアスはイッセーが自分の胸を触りたがっていたことに気づいているが――。

 

「い、嫌よ! わ、私は……、そんな事、できるわけがないじゃないの」

 

 と、真っ赤な顔で、小声になりながら拒絶した。

 

 拒絶したリアスはそのまま俺の影に入ってイッセーの視界から隠れる。

 

 …………………。

 

 うれしいんだけど、何ともいえない雰囲気が場に漂う。

 

 あれ? イッセーの兜のマスク、目のほうから血かでてないか?

 

 そんなイッセーにサイラオーグは怪訝な表情を浮かべる。

 

「……乳を触ると本当に強くなるのか? 噂ばかりだと思っていたのだが」

 

「本当ですぅぅっ!」

 

 サイラオーグのそんな疑問になんと怖がりなギャスパーが大きくうなずいた。

 

「イッセー先輩は小猫ちゃんのおっぱいをつついて禁手したり、飛べなかったのにエッチな本を読んで翼を生やしたりできたんですぅぅっ! イッセー先輩がおっぱいをつついたらすごく強くなるんですぅぅっ!」

 

 イッセーは後輩からものすごく信頼されてるみたいだな。主にスケベなパワーアップ方面で。

 

 ギャスパーはその勢いのままに朱乃のほうを向いて――。

 

「朱乃お姉さまぁぁっ! どうかイッセー先輩におっぱいをつつかせてあげてください!」

 

 ガバッと頭を下げてくる。朱乃はニッコリ笑顔を浮べたまま、

 

「ごめんなさい」

 

 と礼儀正しくイッセーに向って頭を下げた。そしてそのままリアスのように俺の後ろに隠れた。

 

「ぐ、おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」

 

 途端に跪いて床を叩き始めるイッセー……。

 

 この人ワザとやってるだろう! 隠れ方がリアスとまったく一緒だったし!

 

「こ、こうなったら!」

 

 ギャ、ギャスパー!? ふ、服に手をかけて何をする気だ!?

 

「ぼ、僕のを……」

 

 ――くっ、だ、ダメだ……! 見れない! 男の娘が顔を赤らめながら男に胸を差し出す姿なんて見れるかぁっ!

 

「毎度こういうノリなのですか? うーん、アースガルドにはない文化だわ」

 

 ロスヴァイセも呆れつつ、壮絶な勘違いを始めたようだ!

 

「ふ。ふはははははははははははははははははははっ!」

 

 ドロドロのグダグダになっていると、ここで豪快にサイラオーグが笑う。すごく長い笑い声で場の空気が少しだけ変わった。

 

「なるほど、女の胸で強くなれるのか。ふふふ、それは覚えておこう。――赤龍帝、ここまでにしようか」

 

 と、何ともうれしい提案をしてきてくれたが、イッセーは納得できないと起き上がる。

 

「俺はまだやれます!」

 

 先ほどの落ち込みはどこへいったか、覇気を見せるイッセー。

 

 しかし、サイラオーグは首を横に振る。

 

「いい覇気を放ってくれる。だろうな。俺もまだまだ戦える。――だが、これ以上やると、俺も歯止めが利かなくなる。最後の一撃まで味わってしまう。それではあまりにもったいない。おまえはいま何かに目覚めようとしている最中なんだろう?」

 

 俺とイッセーの会話を聞いて察したのか、戦いの最中に気づいたのか。おそらく後者だろうな。

 

 サイラオーグは貴族服を拾い、イッセーに歩み寄って、肩に手を置いた。

 

「ならばそれを得てからだ。最高の状態で殴り合う。それこそが、俺の求める赤龍帝との戦闘だ。俺達の勝負は、後日のレーティングゲームで決めるべきだ。上役の方々と大衆の前で拳を交えてこそ、俺とおまえの評価が決まる。――俺にもおまえにも夢があるのだから、そこで再び見えよう。リアス、神城エイジ、リアスの眷属たち、次に出会うときは夢に繋げるための舞台でだ。――来い。俺は全力でお前たちを打ち倒す」

 

 サイラオーグはそれだえ言い残し、サーゼクスにあいさつしたあと、この場を去っていった。

 

 サイラオーグは俺とも戦いたいとか言ってたけど、サイラオーグの奴、レーティングゲームでイッセーを倒して俺も倒すつもりなのか?

 

 イッセーは評価していたようだが、俺は随分と過小評価されてるようだな?

 

 やはりここはサイラオーグに武術の素晴らしさを伝えて――。

 

 ――っと、いつの間にか鎧を解除したイッセーがサーゼクスとなにやら話しこんでいた。

 

 なんでもイッセーにサーゼクスが手足に封印を施していて力が出ない状態だったと告げて、まだ君は強くなるよと励ましているようだった。

 

 本当ならリアスも近くに行くべきなんだろうけど、さっきおっぱいをつつかせるのを拒否したので、今回は遠目から話を聞くことにしてるようだ。

 

 まあ、スケベ坊主のイッセーがリアスを始めとして女のおっぱいをつついたら確かにパワーアップするだろうけど、絶対につつかせねえからな!

 

 特に俺の家族である黒歌やセルベリアたちと、もう家族同然のリアスと朱乃、ゼノヴィアに、小猫ちゃんやイリナの胸をパワーアップ目的なんぞで絶対つつかせない!

 

 アーシアは……、アーシアはイッセーが好き? ……みたいだから大丈夫だと思うけど。

 

 あ、ギャスパーと木場の胸はどうでもいいよ。はなから男の胸に興味なんてないらしいし。

 

 ああ、そういえば……、イッセーがサーゼクスに励まされ、レーティングゲームへ新たに決意を決めて黒歌たちを含めるグレモリー眷属が帰ろうとしたとき、別れ際、ミリキャスがかわいらしく首をかしげながら、

 

「エイジ兄さま、リアス姉さまが高校を卒業しても『ぶちょう』と呼ぶのですか?」

 

 と訊ねてきたから、皆に聞えないように、

 

「その『ぶちょう』は外用で、家ではいつも『リアス』って呼んでるんだよ」

 

 と答えたが、そろそろ外でもリアスって呼びたいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 そして修学旅行当日。

 

 もう、昨夜は随分なハードスケジュールだった。修学旅行期間会えないからと、リアスや朱乃、セルベリアや黒歌と修学旅行組み以外のメンバーとセックスしたり、まだ出来ない小猫ちゃんにも甘えられたりと朝方近くまでいろいろやっていて大変だった。

 

 いまはところ変わって東京駅の新幹線ホーム。ホームの隅でできるだけ人目を避けて俺たちは集まっていた。

 

 居残り組ではリアスだけが見送りに来てくれていた。朱乃や小猫ちゃん、ギャスパーも来ていたがっていたけど、今日1年生と3年生は通常授業だ。学業をおろそかにしてはならないとしてリアスのみが駅に赴いていた。黒歌たちは……まあ、エッチには参加したけど、もともと遠出とか慣れてたので特に気にしていない様子った。お土産はねだられたが。

 

「はい、これ人数分の認証よ」

 

 リアスが旅に出る2年生にカードらしきものを渡してくれた。全員手に取り、確認する。

 

「これが噂の?」

 

 木場が訊くとリアスがうなずく。

 

「ええ、これが悪魔が京都旅行を楽しむときに必要な、いわゆる『フリーパス券』よ」

 

 京都の名所は寺が多く、パワースポットが多いので、通常悪魔が歩き回るには不都合なんだが、その不都合をなくすために、京都の裏事情を牛耳る存在(陰陽師だとか妖怪だとか)が俺たち悪魔用に発行しているのが、このフリーパス券なわけだ。まあ、俺は最初からも牛耳ってる妖怪やら陰陽師と知り合いだし、仕事用でもグレモリーからフリーパス券もらってるからそこまで驚けない。

 

「私たちのときもそうだったけど、きちんとした形式の悪魔にならこのパスを渡してくれるの。グレモリー眷属、シトリー眷属、天界関係者、あなたたちは後ろ盾があって幸せものなのよ?」

 

 リアスがウインクをくれる。魅了されたイッセーが歓喜の声をあげた。

 

「はい! グレモリーばんざいっス! じゃあ、これを持っていれば清水寺も金閣寺、銀閣寺も余裕と?」

 

「そうよ。スカートか、制服の裏ポケットとかに入れておけば問題なく名所に入れるわ。――バンバン見て回ってきなさい」

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

 返事をしてすぐに裏ポケットにカードを入れる。2枚になったけど、まあいいか。

 

 アーシアのケータイが鳴った。

 

「もしもし。桐生さんですか? はい。ゼノヴィアさんとイリナさんも一緒です」

 

 桐生さんからの呼びだしみたいだ。アーシアは電話を済ませると、リアスに一礼する。

 

「では、部長。私たち、行ってまいります!」

 

「行ってきます」

 

「行ってきまーす!」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

 アーシア、ゼノヴア、イリナがリアスに別れのあいさつをしてこの場をあとにする。

 

「では、僕もこれで。お土産、買ってきます。イッセーくん、行こう」

 

「あ、おい、木場!? 俺とおまえは別のクラスだろ!?」

 

「ゴメン、イッセーくん。新幹線に乗るまででいいから盾になって……」

 

「お、おい、顔色悪いな。どうしたんだよ、木場」

 

「ちょっとまだ女の子が怖くて、ね」

 

「――っ。そうか。わかったよ。出発までいてやるよ」

 

「ありがとう、イッセーくん」

 

「まあ、俺が原因みたいなもんだしな……」

 

 と、木場に連れられてイッセーも去っていった。

 

 残るは俺とリアスのみ。リアスは俺の肩に顔を寄せる。

 

「リアス?」

 

「……もう少しだけこうさせて。もう少しエイジを感じたいの。はぁ、エイジと離れるなんてすごく寂しいわ」

 

 俺はリアスの頭をなでながら笑顔で言う。

 

「大げさだなぁ。修学旅行の間だけだし、家には黒歌やセルベリアたちもいるだろ」

 

「わかっているわ。けれど、寂しいの……」

 

 かわいらしくすがりついてくるリアスを愛おしく思いながら顔を近づける。

 

 リアスも俺に合わせて顔を近づけてきて――お互いの唇が重なった。

 

「帰ってきたらたっぷり甘えていいし、甘えさせてもらうからね」

 

「ええ、帰りを待ってるわ」

 

 そうして離れようとしていたら、再びリアスが顔を近づけてきて――唇が重なった。

 

「これはいってらっしゃいのキスよ」

 

 リアスはかわいらしい笑顔でそう言うと、改めて微笑んだ。

 

「じゃあ、いってらっしゃい、エイジ。帰りを待っているわ」

 

「ああ、行ってくるよ、リアス」

 

 こうして俺の修学旅行は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 新幹線が東京駅を出発してから10分ぐらい経った頃、

 

「俺、実は新幹線初めてなんだよなー」

 

 ウキウキした表情で松田が前の席でつぶやいていた。

 

 俺は新幹線に一度乗った記憶がある。と言っても物心ついたかどうかの頃だったはずだから、いまいち実感は薄いんだが……。

 

 俺は車両の1番うしろの席だった。しかも一人。前は松田と元浜。通路を挟んだあちら側にはゼノヴィアとイリナが座る。

 

 窓から眺める風景は車体が高速で動いているせいか、瞬時に移り変わった、隣でゼノヴィアとイリナが窓から外を眺めて談笑していた。

 

 夏休みのときに乗った冥界行きの列車を思いだしながらしばらく外を見ていると、前の席から軽く黄色い声が上がった。視線を送れば――木場が前の車両から来ていたようだった。俺を確認するなり、こちらへ歩を進めてくる。

 

「え……? ひょ、兵藤のところに?」

 

「そ、そんな……木場きゅんがエロの領域に……」

 

「兵藤×木場きゅんは鉄板なのね!」

 

 女子の悲鳴に近い声! 俺の席は隔離場所ですか!? ちくしょう! 俺にイケメンの友達がいて何が悪い!

 

 俺の扱いの酷さに一時期木場を恨みもしたが、いまは大事な友人で仲間だ。奴を恨む理由は……無いわけでもない! イケメンはやっぱり、若干許しがたい!

 

「隣、座るよ?」

 

 そうこうしているうちに隣の空いている席に木場が座った。

 

「……どうした? やっぱり女子が怖いのか?」

 

 窓枠に頬付けをつきながら、俺は半眼で問う。女子恐怖症になってるそうだが、それでも俺からしたら木場が羨ましいよ。俺と違って何もしていないのに女子のほうから寄ってくるんだからさぁ。

 

「それも……あるんだけど。あちらに着いたときの行動を聞きたくてね。いちおう有事の際を想定してさ」

 

「あー、別クラスだもんな。おまえ、明日どこから行くんだっけ?」

 

 三 十 三 間 堂 (さんじゅうさんげんどう)から行くつもり。そちらは?」

 

「清水寺からかな。そのあと、銀閣寺と金閣寺。3か所比べると距離あるけど、1番有名な名所を一気に回るハードな2日目だ。で、3日目は天龍寺からゆっくり攻める」

 

「天龍寺か。僕の班も3日目にそこへ行くよ。時間があえば渡月橋あたりで会えるかもね。最終日は?」

 

「京都駅周辺を探索しながらお土産買って終了だ。イリナが京都タワー登りたいって言ってたな、そういえば」

 

 班ごとのスケジュールは事前に立てて、先生に報告済みだ。班ごとの専用しおりまで作らされたもんな。

 

「エイジくんはどういう予定か知ってる?」

 

「ああ、エイジは真羅先輩と――」

 

 …………。

 

「どうしたの? イッセーくん」

 

 木場が怪訝そうにこちらを見てくるが――。

 

「そうだったぁぁぁぁっ! エイジの奴! 真羅先輩と2人っきりッ! 2人っきりで京都旅行じゃないかぁぁぁぁっ!」

 

「い、イッセーくん?」

 

「うおおおおおおおおっ! 神城の奴! 生徒会の副会長とデートって、あの野郎! きっと今回の修学旅行で決めるきだぜ、絶対!」

 

「羨ましすぎんだろぉぉぉっ! あの野郎ッ! 駒王の2大お姉さまだけじゃなく、片瀬や村山たちだけに飽き足らず、生徒会まで食らう気なのか!? ますます俺たちにまわってこねぇじゃねぇかぁぁぁっ!」

 

 俺の咆哮に続けて、先ほどまで談笑していた松田と元浜も同調して叫ぶ! そうだよなぁ! 俺たちだって……俺だって、女子と2人っきりでデートしたいに決まってんじねぇかぁぁぁっ!

 

 俺、松田、元浜の男3人はエイジの入れ食い阻止計画や闇討ち計画などを話しだした。

 

 その話し合いである程度落ち着きを取り戻して松田と元浜がエロ談話に戻ったところで、木場が再び、別の事柄について話しかけてきた。

 

「そういえば少し前にイッセーくんって、ベルゼブブさまに会ったんだよね?」 

 

「あー……、うん。会ったよ」

 

 先日、家のインターホンが押されて誰か来たのかな? って玄関に出たらいきなり、

 

「ごきげんよう、赤龍帝。俺は現魔王、アジュカ・ベルゼブブだ。よろしく」

 

 って言って挨拶されたんだよなぁ。

 

「魔王さまが訪問するなんて、いったい何の用だったんだい?」

 

「んー、何ていうかベルゼブブさまに個人的なアドバイスをいただいたんだよ」

 

「アドバイス?」

 

「ああ、『兵士』の特性と赤龍帝の力、俺が使った場合の相性だな。どうにも赤龍帝の力を使うとき、俺は『女王』を扱いきれてないんだ」

 

『女王』にプロモーションすることで力が底上げされるのは確かなんだが、赤龍帝のパワーも含めるとどうやら現時点での俺のキャパシティを超過するようで逆にドラゴンの力を使いこなせていないかとアドバイスを受けたんだ。

 

 ようするにいきなりやることが増えたので、力の流れをうまく調整できていないと苦言を突きつけられたんだ。

 

『女王』になると、力が大きく増して、速度も上がり、ドラゴンショットの威力も上がる。けれど、それらすべてをきちんと使いこなせているかというとそうでもない。

 

『女王』が含む力のなかで『戦車』はともかく、『騎士』と『僧侶』の力は使いこなせていない。速度や魔力が上がっても、勢いに任せている部分も多くていまだに情けない場面もある。

 

 といっても、『兵士』の大きな特徴はプロモーションなわけで、昇格はすべきだ。特に俺みたいにまだ弱い奴は。

 

「――赤龍帝の力を最大限活用したいのなら、まずは『騎士』や『戦車』を使いこなしてみろって言われたんだ。パワー、スピード、それらの特化型に赤龍帝の力をつぎ込んだほうが力の流れとやるべきことがわかりやすくなるんじゃないかって」

 

「……そうなんだ。だからサイラオーグ様との戦いで『戦車』にプロモーションしたんだね?」

 

「ああ、『女王』になったときよりもわかりやすかったよ。力の流れが攻撃と防御のみに伝わっていくのが強く認識できた。――俺、まずは各種の駒の特性で赤龍帝の力を使いこなしてみようと思う。それが、いまよりも強くなるための一番の方法だと思から」

 

 俺の言葉を聞いて木場は笑む。

 

「サイラオーグさんとの手合わせでいきなり試すなんてキミらしいね。またイッセーくんは強くなりそうだ。本当、自分の力について探求しているよ」

 

「強大なパワーを持っていても使いこなさないとサイラオーグさんやヴァーリに勝てそうにないからさ。で、俺とサイラオーグさんの試合を見ておまえの感想は?」

 

 俺の問いに木場はあごに手をやりながら言う。

 

「率直な感想としては、部長と同世代の悪魔でキミとまともなパワー勝負をやって、圧倒してくるなんて脅威としか思えなかったね。しかも素手だ。素手でキミの鎧を壊せるのは若手――いや、上級悪魔のなかでもあの人だけだろうね。正直、僕の防御力はサイラオーグさんの攻撃力にとってみれば紙も同然。足も速い。あれがトップスピードじゃないのはすぎにわかる。正面から打ち合って直撃をもらったら、僕だけじゃなく眷属のほぼ全員が致命傷を受けるよ」

 

「部長や朱乃さんやゼノヴィアたちなんかはかなり鍛えてもらってるから、ものすごく強くなってると思うんだけど?」

 

「それはそうだけど、さすがにサイラオーグさんの全力の攻撃をまともに受ければ、ね。実際にサイラオーグさんは枷をつけられた状態でもイッセーくんの鎧を破壊するほどの攻撃力を持っていたんだよ。敵の攻撃は基本回避する戦闘スタイルの部長たちではいくらなんでも防げないさ」

 

 相変わらず正直な感想を漏らす奴だ。だからこそ信頼がおけるんだけどね。

 

「旅行から帰ったら対サイラオーグさんのトレーニングを改めて再開だな」

 

「そうだね。さて、お土産を買うときになったら連絡してくれないかな?」

 

「どうして?」

 

「中身が被ったらおもしろくないと思うからね」

 

「あ、なるほど。わかった、最終日に連絡する」

 

 その確認を済ませると、木場は席を立って――、座った。

 

「どうしたんだ?」

 

 顔色が悪い。本当にどうしたんだ?

 

 木場は青い顔のまま、心配する俺に小声でつぶやいた。

 

「ごめん……イッセーくん。もう少し……ここにいさせて」

 

 俺はその場で静かに立ちあがり、木場がやって来たほうに視線を向けた。……うん、女子が通路で待ちかまえてるな。このまま行けば元の車両に移動する前に捕まってしまうだろう。

 

 …………まあ、木場がこうなってしまった原因は俺と……、アザゼル先生にあるんだし、助けてやるか。

 

「いいぜ。なんなら京都に着くまでいていいぜ」

 

「イッセーくん……」

 

 木場は安心したような表情を浮かべた。……女子に囲まれる修学旅行なんて羨ましすぎるし、いつまでもここにいていいぜ!

 

 さて、木場との話はこれでひと段落した。アーシアたちは楽しく談笑してる。

 

 松田と元浜の野郎2人は……『……ZZZZZ……』と寝てやがる。

 

 隣の木場も女子に話しかけられないように狸寝入りをしてる。

 

 俺は背伸びをしたあと、瞑目した。

 

 ……京都に着くまで時間がある。神器のなかに潜ろうと思うんだ。これで通算何回目だろうか。かなり潜ってる。悪魔稼業を終えて、風呂に入ったあと、寝る前に必ず一度はやっているし、土日も潜っていた。

 

 すべきことはただひとつ。――歴代の先輩たちと話す!

 

 目を閉じて、ドライグに意識を任せることで神器のなかに入り込んでいく。

 

 …………。

 

 ……暗い場所を抜けていくとそこには白い空間が出現する。広くて、ただ白い空間だ。

 

 テーブル席が置かれ、そこには歴代の先輩たちが座り、うつろな表情でうなだれている。

 

『どーも、俺でーす。また来ましたー』

 

 などと明るく話しかけてみても返事などあるはずもなく……。

 

 俺と年齢と体格が似ている先輩に話しかけても……反応なし。

 

 ドライグの声が上から聞えてくる。

 

『そいつは歴代のなかでおまえと同い年ぐらいの赤龍帝だった。才能に恵まれていてな。「覇龍」に目覚めるのも早かった。――が、力に溺れ、油断したところを他の神滅具所有者に屠られた』

 

『ああ、力に溺れれば相手が白龍皇でなくとも暴れる。あちらにも同様の所有者が過去にいただろう。「覇」の力はその力を一時の間、覇王にするが……。いつの時代も覇王は栄えない。長く続かないものだ。それが世の常だな』

 

 ドライグの声音はまるで自分自身を語るような言い方だった。こいつも過去に力に溺れきったんだろう。

 

『それでも大切なものはあったんだよな?』

 

 先輩は何も言わないが、きっとあったと思う。それでも力に流された。俺も……大切なものを失ったと感じたとき、力を求めた。部長をライザーから取り戻そうとしたとき、俺は左腕を対価にして力を求めた。まあ、結局は不発に終わったけど……。それにしても『覇龍』かぁ。

 

『……我、目覚めるは覇の理を神より奪いし2天龍なり、か』

 

『相棒』

 

『全部は唱えないよ。怖いし。ただ、わからないことがあるんだよな。無限ってんだ? 夢幻もわからん。なんで嗤って、憂うんだろうか』

 

 そんなふうに前にドライグから教えてもらった、覇龍発動の呪文に関しての疑問を口にしていたときだった。

 

『無限はオーフィス。夢幻はグレードレッドを意味するの。オーフィスを嗤い、同じ赤いドラゴンであるグレードレッドを憂いたって感じたのかしら。この呪文、誰が作ったかまでは謎なのよね。やっぱり、神さまかしら?』

 

 ――っ! 第3者の声!? そちらへ顔を向ければ――若い女性が立っていた。ウェーブのかかった長い金髪。スレンダーな体。スリットの入ったドレスを着た美人のお姉さんだった!

 

 ……表情がある! 他の歴だの先輩たちと明らかに違う! 笑みを浮かべたまま俺のことを見てる。

 

『エルシャか』

 

『はーい、ドライグ。久しぶりね』

 

 随分軽い挨拶を交わす女性だな。

 

『相棒、彼女はエルシャ。歴代のなかでも1,2を争うほど強かった赤龍帝だ。女性の赤龍帝では最強だな』

 

 女性最強の赤龍帝!? いままで見たことないぞ! どこにいたんだ?

 

『不思議そうな顔ね、ボク? 所有者の残留し念のなかでも例外が2人いるのよ。私はその1人。ま、神器のなかでも奥に引っ込んでいるから普段はここまで出てこないんだけどね』

 

『……ベルザードと共にもう二度と出てこないと思っていたのだが』

 

『そんなこと言わないでよ、ドライグ。私とベルザードは奥でひっそりあなたのことを応援していたんだから。かつての相棒同士じゃない?ま、彼は猛威士気を失いつつあるけどさ……』

 

 お姉さんは少しだけ寂しげな表情を浮かべていた。

 

『ベルザードがね、いまの赤龍帝くんに興味を持ったらしくて、私を寄越したのよ』

 

『ちなみにベルザードさんとは?』

 

 俺が訊くとドライグが答える。

 

『そこのエルシャと共に歴代最強の赤龍帝だ。男のな。本当に強かった。白龍皇を2度も倒した男だからな』

 

『2度も!? そりゃすげぇぇぇっ!』

 

 エルシャさんが改めて言う。

 

『それでね、これを渡してくれって』

 

 彼女が取りだしたのは――鍵穴のついた箱だった。

 

『あなた、現ベルゼブブに「鍵」をもらったんでしょ』

 

『ええ』

 

 パァ……。突然、手元が光り、小さな鍵が現れた、意識したわけじゃないけど、鍵が出てきやがったよ。これが家に来たときアドバイスと一緒にベルゼブブさまからいただいた「鍵」か。

 

 エルシャさんが笑む。

 

『「鍵ってそのもののことをさしていたわけじゃないけど、手っ取り早く「鍵」も箱もそれらしいもので表現できたみたいね。この箱は赤龍帝のデリケートで、可能性に満ちた部分が入っているのよ。本来開けちゃいけないイタズラできない部分。けれど、ベルザードがね、あなたなら案外やれるんじゃないかって言うのよ。もちろん、「悪魔の駒」を得たあなただからこそできることだと思うけどね』

 

 突然、エルシャさんが「ふふふふふ!」と笑い出す。

 

『おっぱいドラゴン! 乳龍帝! ベルザードと一緒に見てたわ。ここに来て、初めて私も彼も大笑いしたわよ』

 

 と、カラカラと笑っていた。……恥ずかしい! 先輩に見られていたなんて!

 

『恥ずかしがらないで。ドライグも落ち込まないで、楽しみなさいよ。こんなにおもしろい赤龍帝は初めてだわ。ふふふっ、「覇龍」の不気味で呪われた呪文を吹き飛ばしてしまうぐらいおもしろい歌も作られたみたいだし。確か「おっぱいドラゴンの歌」だったかしら? 「おっぱいドラゴン乳龍帝」とかいうアニメも作られたようだし、私もベルザードの心を楽しませてくれたわ』

 

 な、なんでエルシャさんがおっぱいドラゴンのことを!?

 

『うぐぐ……、それは相棒が全て悪いんだ……、俺は関係――』

 

『あら、あなたは「乳龍帝ドライグ」って呼ばれてるんじゃなかったかしら?』

 

『ぐはっ! え、エルシャ! 俺は「乳龍帝ドライグ」などではない! 俺は、赤龍帝ドライグだ!』

 

 ドライグの精神状態を表すかのように白い空間が地震でも起きているかのように震えだした。

 

 その話題でドライグを弄るのはやめて! もう何度も死に掛けるほど参ってるんだから!

 

『ふふふふ、まあ、楽しそうでいいじゃない。私とベルザードなんてまともな最期じゃなかったんだから……』

 

 エルシャさんが箱をこちらへ差しだしてくる。

 

『だからこそ、私も彼も決心がついた。あなたを信じてみるわ』

 

 俺は箱を受け取り、「鍵」を鍵穴に近づけてみた。……ちょうどのサイズだ。きっと合うんだろう。

 

『あなたと今回の白龍皇はいままでと別物ね。お互いを求めているわりに、目標が別にある。なんだろうなぁ。私たちがガチってたのが馬鹿らしくなるわ。――お開けなさい。ただし、開けたらさいごまで責任を持つこと。半端はダメ。何が起こってもそれを受け止めて一歩を踏み込むの』

 

 俺はエルシャさんにそう言われながら、鍵穴に鍵を入れ――カチリと箱を開けたのだった。

 

 ――その瞬間、まばゆい光に包まれ――。

 

 …………。

 

 ……目を開けたら、新幹線のなかだった。

 

 ……あれは夢? ドライグ?

 

『いや、おまえはエルシャから箱を受け取り、開けたぞ』

 

 ……そっか。じゃあ、箱の中身は?

 

『わからん』

 

 おいおいおい! う、うーん! 特別変わったことは体に起きてないな。

 

 神器のほうはどうだ?

 

『そちらのほうも変化なしだ。……ただ、箱の中身は外に飛びだしていった気がするのだが……』

 

 ……な、な、な、なぁぁぁぁああんだとぉぉぉぉっ!?

 

 マジか! 俺の可能性が飛びだしていってしまったのか! このまま消失なんてシャレにならん! エルシャさんだけじゃなく、アザゼル先生やベルゼブブさまに会わせる顔がなくなるぞ! せっかくここまで協力をいただいたのによ!

 

『慌てるな。あれはおまえのものだ。必ずおまえのもとに帰ってくる。そういう因果を持っているのだからな』

 

 とは言ってもよ……。

 

『それよりもしばらく俺に話しかけないでくれ……。昔の相棒にまで「乳龍帝」などと言われたんだ……』

 

『あ、ああ。わかったよ』

 

 そううなずくとドライグの意識が遠のいていくのを感じた。相当ショックを受けてるみたいだな。しばらく不貞寝するつもりのようだ。

 

 はぁ、それにしても俺の可能性はどこにいっちまったんだろう……?

 

 ため息をついて困惑する俺の耳に――。

 

「う、うおおおおっ! おっぱい!」

 

「うわっ! 松田! 何をする! 俺の! 男の乳えおもんで何が楽しい!」

 

 ……前の席で松田と元浜がじゃれていた。クソ! 野郎の乳繰り合いなんて興味ねーよ! それどころじゃねぇんだ!

 

「はっ! 俺はいったい何を……。急に乳を求めだして……それで……」

 

「松田、おまえ、そこまでおっぱい欠乏症にかかって……。よし、今夜ホテルの部屋でエロDVD鑑賞会をしよう! 機材はすべて荷物に積んである!」

 

「マジか!」

 

 ついつい俺もそれを聞いて前の席に身を乗り出してしまった! なんてことだ! ホテルでエロエロDVDが見られるのですか!

 

「おおっ、イッセー! それでこそだ! よーし! この日のために入手した『桃色爆乳景色・金閣寺』と『肌色巨乳模様・銀閣寺』を見ようぜ!」

 

 俺と松田は元浜の言葉に大いに返事をした! いやー、箱の中身はいずれ俺のもとに帰ってくるというし、それならまずはおっぱいだよな!

 

「死ねエロ3人組!」「新幹線のなかまでキモい!」などというクラスの女子や「イッセーくん……」と、隣で呆れた様子の木場は無視した。

 




 久々の更新! 途中まで書いてたのを書き直して急遽あげました!

 ネギま! に浮気してそっちばっかり書いてたけど一段落したから、これからハイスクールD×Dの二期見ながらテンションあげて書いて行きます!


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第70話 波乱の予感 

<エイジ>

 

 

 京都へと向う新幹線の車内。イッセーやゼノヴィアたちと班が別なので、イッセーたちの班とは離れた座席に座っていた。

 

 俺の隣には真羅椿姫先輩。文庫本を片手に京都までの時間を潰していた。

 

 椿姫先輩は修学旅行に参加している2年生たちよりも1年先輩の3年生なのだが、今回特別に俺の監視……、というか首輪として参加することになったんだ。

 

 …………本当に、俺は生徒会からも学園からもどれだけ問題児扱いされてるんだ?

 

「どうかされましたか?」

 

 文庫本から視線を外してこちらを見る椿姫先輩。

 

「いえ、その……、ご迷惑じゃなかったですか?」

 

 本来なら椿姫先輩は学園で授業中のはずで、生徒会の副会長としての仕事もあったはず……、そもそも3年生が2年生の修学旅行についてこなくなってしまった原因に自分がなっていることが少々心苦しいんだ。

 

 俺のそんな問いに椿姫先輩は微笑み、首を横に振る。

 

「別に迷惑などと思っていませんよ。修学旅行に2度もいけることになってうれしいぐらいです」

 

「それならいいんですが……」

 

「ふふ、気遣ってくれるのはうれしいですけど、ちゃんと見返りも貰っているのでいいんですよ」

 

 見返りとは修学旅行前に渡した長刀のことだろう。迷惑をかけている分かなり丁寧に作作ったからな。

 

「これまで見たことがないような見事な長刀で……、しかも武器の手ほどきまでしてもらうんですから、こちらがお礼をいいたいぐらいです」

 

 普段クールな椿姫先輩を考えると珍しい満面の笑みを浮かべていた。心の底から思ってくれているようだ。

 

「ねえ、神城くん、お菓子食べる~?」

 

「椿姫先輩もどうですか?」

 

 ――っと、ここで前の席に座っていたポニーテールで巨乳美少女の村山さんと、美脚美少女で茶髪でカチューシャをつけているショートカットの片瀬さんが身を乗り出してお菓子を差し出してきた。

 

「ありがとう、もらうよ」

 

「ありがとうございます」

 

 俺も椿姫先輩も2人が差し出してきたお菓子を受け取り、食べる。うん、やっぱりジャガッリコとボッキーはおやつの定番だよね。

 

「あ、そうだ」

 

 村山さんが座席の背もたれから少し身を乗り出してきた。手にはトランプが握られている。

 

「京都まで時間あるし、皆でトランプしませんか?」

 

 村山さんの提案に片瀬さんもうなずき、椿姫先輩も誘う。

 

「真羅先輩も神城くんの監視ばかりじゃ楽しめませんし、私たちとも遊びましょうよ」

 

「それもそうですね。生徒会の仕事で同行することになってますが、仕事ばかりしてせっかくの修学旅行を楽しまないのは損ですからね」

 

 椿姫先輩は2人の提案に微笑み、文庫本をしまった。

 

 …………。自業自得とはいえ、問題児扱いが公式になってて嫌だな。

 

 ていうか、さすがはイッセーを含むエロ3バカや天使や悪魔が在籍しているクラスだよな。こちらとしてはありがたいことだけど、椿姫先輩が2年生の修学旅行に参加してるのを不思議がっていないどころか、楽しんでいるようだ。

 

 まあ、駒王学園がそもそも魔窟と呼べる場所で、教師も含む在籍しているほとんどの者が若干ズレていることは今に始まったことではないけどさ。

 

 椿姫先輩が了承したことで村山さんと片瀬さんが手際よく座席を迎え合わせにする。

 

 そして村山さんがカードを切って4人に配った。

 

 カードを配り終えた村山さんにシンクロするように片瀬さんが開始の音頭をとり、それにまたもや村上さんが合わせてくる。

 

「まずは定番のババ抜きから始めましょう!」

 

「罰ゲームとかもありにしますか!」

 

 いつもよりもやたらテンションを高く上げる2人に、椿姫先輩も乗っかり、

 

「罰ゲームですか。ふふっ、望むところです」

 

 と、まるで勝負師のような顔になっていた。ああ、椿姫先輩って見かけから負けず嫌いっぽかったもんなぁ。後輩相手でも手を抜く気なんてまったくないようだ。

 

「ところで罰ゲームって何をするんだ? お菓子でも賭けるのか?」

 

 罰ゲームの内容が少し気になり訊ねてみると、片瀬さんが罰ゲームの内容を提案してきた。

 

「ん~、お菓子じゃおもしろくないし、1番に勝った人が負けた人のなかから1人選んで、その人になにかしてもらうってのはどう? 2位になれば1位からのお願いを1回パスできる権利をゲットで、3位、最下位って要求できる願いが大きくなるとかいうのはおもしろそうじゃない?」

 

 片瀬さんの提案に椿姫先輩がメガネ越しに目を光らせる。

 

「つまり1番に勝った者が敗者になんでも命令していいということですね?」

 

 ババーンッ! という効果音を背負ってカードを格好良く広げる椿姫先輩。

 

 村山さんと片瀬さんにも火がついたようだ。

 

「ええ、そうです! この勝負に勝てば相手になんでも1つだけ命令していいんです!」

 

「そう、なんでも! 敗者は勝者に絶対服従! どんな命令でも叶えないといけないんです!」

 

 3人の勝負魂に火がついたようだ。かなりヒートアップしていて眼が怖い。お~い、2位になった人は命令を拒否できるパス権ゲットするっていうルールを忘れてないか~?

 

 4人が最初にそろっていたカードを抜き終えた瞬間を見計らい、村山さんが動いた!

 

「さあ、まずは私のターン! セオリー通りに時計回りで進めますよ!」

 

 どこかのデュエリストっぽく宣言して、隣に座っている片瀬さんのトランプを1枚引く!

 

「きたわ!」

 

 同じカードがそろったようで、村山さんがそのカードをカードケースのなかに置く。

 

 そして今度は俺の番! 村山さんがカードを差し出してくる。

 

 俺はそのなかの1枚を引いて……、よし! ペアだ。

 

「椿姫先輩」

 

 隣の椿姫先輩にトランプの裏側を向けて広げて差し出す。

 

 椿姫先輩は鋭い眼光で手を伸ばし、広げたカードの前で迷うように手を動かし……。

 

「これです!」

 

 バッと引いて、ニヤリ。

 

「まずは1枚……」

 

 ペアになったカードをケースに収めた。そして片瀬さんにカードの裏側だけを見えるように手に持ち、差し出す。

 

「これよ! くっ……」

 

 即断即決という風に片瀬さんがカードを引くが、どうやらはずれだったようだ。無言で村山さんに裏側を見せたカードを広げて差し出した。

 

「2順目ね。絶対に私が1番初めに抜ける!」

 

 気合たっぷりに宣言して2順目が始まった。

 

 …………これ、俺以外が勝ったら命令されるのは全部俺ってパターンだよな?

 

 殺気というか、気合が篭った視線が集中しててすごく熱いです。

 

 いったいどうなるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新幹線内で始まったババ抜きを10回戦ほど行ない、村山さんと片瀬さんだけでなく、周囲の班も交えてお菓子などを食べながら談笑していた頃、

 

『間もなく京都に到着します』

 

 アナウンスが流れた。談笑していた俺たちはそのアナウンスを聞いてそれぞれが下りる準備に入る。新幹線が駅のホームに停車し、俺と椿姫先輩は荷物を持って、2人そろって外へ出た。

 

 新幹線から降りた椿姫先輩は修学旅行のしおりを片手に俺の半歩前を歩く。

 

「では、まずは改札口へ向いましょう。それから集合場所となっているホテル一階ホールへと行きます。ちゃんとついてきてくださいね、エ……、エイジ」

 

「はい、椿姫せんぱ……、椿姫さん」

 

 少し恥ずかしさの入った声音で俺の名前を呼んだ椿姫先輩……、ではなく、椿姫さんに返事を返す。

 

 なぜ呼び方が変わっているかというのを簡単に、回想を交えながら説明すると、ババ抜きも4回戦辺りを迎えた頃。椿姫さんがババ抜きで初勝利して最下位の俺に罰ゲームを言い渡したときのことだ。

 

『ふふふっ、ついに私が勝利しました! 神城くん、私の罰ゲームを受ける相手はあなたです!』

 

『まあ、勝負でしたし、仕方がないですね。どうぞ、椿姫先輩。なんでもご命令してください』

 

『ふふっ、いい心がけです。では、私は……、そうですね……、うん、「先輩」と呼ぶのをやめてもらいましょうか? それと、私もあなたのことを「エイジ」と呼ばせてもらいます』

 

『え? そんなことでいいんですか? なんでも命令できるんですよ? ……当然、限度はありますけど』

 

『べ、別にいいじゃないですか! 私にとってコレは重要なことなんですから!』

 

 意外そうに訊ねる俺に、顔を背けて椿姫先輩は怒鳴った。

 

 かわいらしくヘソを曲げた椿姫先輩。怒らせてしまったなと、誠意を込めて、

 

『ごめん、椿姫』

 

 と、ちゃんと要望通り言ったのだが……。

 

『――っ! ま、待ってください! い、いきなり、そんな呼び捨てだなんて……』

 

 椿姫先輩はもじもじと恥ずかしそうに、顔を赤らめて縮こまった。普通はここで自分で呼べと言ったくせにだとか、呆れるだろうが、普段クールな生徒会副会長が行なうと……。

 

『『『(か、かわいい……)』』』

 

 あまりのギャップに、椿姫先輩以外でゲームに参加していた全員が萌えた!

 

 椿姫先輩のあまりのかわいらしさに、俺も暴走し始める。

 

『でも、椿姫。呼び捨てで呼び合うことが罰ゲームにはならないんじゃないか?』

 

『え?』

 

『俺としては椿姫に呼び捨てで呼ばれることも、呼び捨てで呼ぶこともうれしいことだからさ。むしろ罰ゲームというかご褒美だからさ?』

 

『そ、そうですか?』

 

 頬を赤らめて恥ずかしそうに両手で顔を隠す椿姫先輩。

 

『もちろん。椿姫のような美少女と親しそうに呼び合えるなんて男としてうれしくないわけがないじゃないか』

 

『――っ、あっ、あああまり私をからかわないでくださいっ……』

 

『ふふっ、そんなつもりはないんだけどな』

 

 もじもじしながらつぶやく椿姫先輩がかわいらしく、自然と笑みがこぼれてしまう。

 

 その笑みをこぼしてしまったのが気に障らなかったのか、椿姫先輩は少し怒った様子でむぅと唸って言う。

 

『ば、罰ゲームにならないと言うなら、そっ、そうですね……。……うん。あなたには私の個人練習に付き合ってもらいます!』

 

『個人練習?』

 

『はい、そうです! いままではゼノヴィアさんやアーシアさんたちと一緒でしたが、みっ、3日間ほどでいいのでマンツーマンで私に長刀の手ほどきをつけてください!』

 

『ああ、わかった。お引き受けるよ』

 

 うん、別に個人指導ぐらい引き受けていいんだけど、椿姫先輩のさっきの言葉、少しおかしくなってなかったか?

 

『そ、そうですか! はい、こちらこそご指導、よろしくお願いします』

 

 そう言ってばっと頭を下げてくる椿姫先輩。……もしかしてかなり動揺してる?

 

 ちなみに椿姫先輩と俺の会話中、片瀬さんと村山さんは先に勝利していて、俺にあるお願いをしていたので途中からはノータッチだった。

 

 まあ、こんな感じで呼び捨てと敬語なし、――はいろいろと体裁的に無理だったので、普段は敬語で名前も椿姫さんと呼ばせてもらうことになったのだ。

 

 椿姫さんについて駅内を歩いていると、

 

「きゃー! 痴漢!」

 

 などと女性の悲鳴が聞こえてくる。

 

「お、おっぱいを……」

 

 男性が手をわしゃわしゃさせながら、痴漢行為に励んでいたが、周りの男性たちに取り押さえられていた。

 

 …………よ、よかった。イッセーじゃなかった。

 

 おっぱいおっぱいと痴漢行為に励む男性にかなり心当たりがあったので、そいつが犯人ではないかと心配したがどうやら違ったみたいだ。

 

「…………ふぅ」

 

 おや? すぐ隣で椿姫さんも同じように安殿ため息を吐いてる。

 

 椿姫さんも俺の視線に気づいたのか、

 

「修学旅行中に生徒から逮捕者がでるのはさすがに……」

 

 とつぶやいた。……ああ、あなたもおっぱいとつぶやきながら痴漢する犯人に心当たりがあったんですね……。

 

 一応、同じように痴漢しそうな心当たり(イッセー)に目を向けてみると、少し前方で桐生さんの先導のもと、宿泊する予定のホテルへと向っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 京都駅から数分歩いたところに大きな高級ホテルが姿を現す。その名も「京都サーゼクスホテル」……あいつ、京都にまで影響力を伸ばしているのか……。

 

 ちなみに少し離れたところには「京都セラフォルーホテル」が建っている。京都駅周辺に高級ホテル建てすぎだろ……。絶対にサーゼクスと張り合ったな、セラたん。 

 

 この「京都サーゼクスホテル」はなんでもグレモリーが運営しているそうで、修学旅行では決して泊まれなさそうな高級ホテルなんだが、運営者のコネで部屋を格安で用意できるようになったそうだ。

 

 入り口に立つボーイに学生証を見せて、ホールのほうへと案内してもらう。

 

 ロビーから少し進んだ先にホールの入り口が見えてきた。入ると、広いホールにすでにかなりの数の駒王学園の生徒が集まっていた。そのなかにはイッセーたちの姿もあった。

 

 俺と椿姫さんが入って間もなく集合時間が来て、各クラス、班ごとに点呼が始まり、いない人の確認が始まった。

 

 全員がホールの床に座り、先生たちの注意事項に耳を傾けていた。

 

 アザゼルとロスヴァイセは何やら2人で話しこんでいるようだが……。

 

 あ、ロスヴァイセの番になって、生徒たちの前に立った。何か注意事項か?

 

「百円均一ショップは京都の地下ショッピングセンターにあります。何か足りないものがあったら、そこで済ませるように。お小遣いは計画的に使わないとダメです。学生のうちから豪快なお金の使い方をしてもろくでもない大人になるだけですよ。お金は天下の回り物。あれやこれやと使っていたらすぐになくなります。だからこそ百円で済ませなさい。――百均は日本の宝です」

 

 百円均一の話かよ!? しかも、すごく熱く語ってるし……。

 

 はぁ、そういえばロスヴァイセは日本に来てから百均で買い物済ませてばかりで、セルベリアから下着ぐらいはいいものを選びなさいって怒られていたな。倹約もいいが、年頃の娘として、もうちょっとオシャレにお金を使ってもいいと思うぞ、俺は。

 

 アザゼルもロスヴァイセの熱弁に額に手をやってしまっている様子だ。

 

 ロスヴァイセの話はそこそこで終わり、他の先生にバトンタッチした。その先生の最終確認が始まる。

 

 ロスヴァイセは就任してすぐに生徒から人気を得た。美人で真面目なのにどこか抜けているから、そこが男子にも女子にもクリーンヒット。さらに生徒と歳が近いため、「ロスヴァイセちゃん」って親しみを込めて呼ばれたりもする。

 

「――っと、以上に気をつけてください。それでは部屋に荷物を置いたら、午後5時半まで自由行動をしていいですが、遠出は控えてください。範囲は京都駅周辺までとします。5時半までには部屋に戻るように」

 

 前に立つ教師の最終確認を聞いたあと、

 

『はーい』

 

 2年生全員の返事での点呼及びホテル内での注意諸々、午後の行動についての説明が終了した。

 

 各々荷物を持って、ホール出入り口でホテルの従業員から部屋のキーを受け取る。通常の生徒は洋室の2人部屋なんだが、俺は生徒会副会長を監視として付けられるほどの問題児らしいので、教師たちが宿泊する部屋に比較的近い、和室で1人寂しく泊まることになっていたんだ。ちなみに3年生である椿姫さんはロスヴァイセと相部屋らしい。

 

 まっ、1人といっても誰かの部屋に遊びに行けばいいだけだし、イッセーなんかは元浜と松田と2人部屋に押し込められて男3人で寝るそうだからな。それよりもだいぶマシだと思う。

 

「お~い、エイジ」

 

 話をすればイッセーが近づいてきた。後ろには元浜と松田が。残りのメンバーである桐生さんたちは別れて女子の部屋に向ったようだな。

 

「一緒に部屋に向おうぜ、1人部屋なんだろ?」

 

「ああ、1人部屋がどうなってるか見たいのか。わかった。俺も洋室に興味があったしな」

 

「じゃあ、行こうぜ」

 

 イッセーの言葉にうなずいて俺たちは部屋へと向った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駒王学園の生徒が泊まるホテルの部屋は広い洋室の2人部屋だ。なかを通されるとおおきなベッドが2つと京都駅周辺を窓から一望できる風景を目の当たりにする。

 

「すっげぇぇぇぇえっ!」

 

「駒王学園に入学してよかったと改めて思うな」

 

「これが俺たちが泊まる部屋か~!」

 

 はしゃぐ松田と静かに感動している元浜、窓に張り付いて叫ぶイッセー。

 

 この部屋はイッセーたち3人の部屋だが……、いったいだれが、ソファか床で寝ることになるんだろう? イッセーたちは忘れているようだが部屋は元々2人部屋でベッドは2つ。隅に布団一式が置いてあるぞ。……おそらく夜には激しい争いが起こるだろう……。

 

 さてと、俺が泊まる予定の1人部屋はどうなってるかな?

 

 男子が泊まる部屋から上に2つ上がり、隅に一部だけ明らかに他と違う和風な引き戸が現れる。

 

 ――開けると。

 

「ここが俺の部屋か?」

 

 先ほど入ったイッセーたちの部屋と明らかにランクが劣る八畳一間の和室だった。古ぼけたテレビ、丸いテーブルなど最低限のものしかない……。しかもすべてが古い……。

 

「あははははは! マジかよ! この部屋だけ和室じゃん! しかも八畳ぐらいか? いやー、さすが学園一の問題児だな!」

 

「ベッドでなく、敷き布団か。しかも1人だけ。これは……旅行資金のやりくりがこんなところに影響を及ぼしたのか?」

 

 爆笑する松田と、笑いを堪えながら分析する元浜!

 

 イッセーは……、

 

「くっ、ぐふふっ……! ぐふっ」

 

 両手で口を押さえて笑いを殺していた……。おい、笑い声も漏れてるし、目元が完全にニヤついてるぞ、コラ。チラチラ見るな。

 

 はぁ……。とりあえずトイレと風呂は……、一応ついてるな。でも洋室ほど華やかな造りではない。

 

 重たいため息を吐いていると、扉がノックされる。

 

「エイジくん? ここに来てます?」

 

 ロスヴァイセだった。すでにジャージ姿だった。着替えたのか。

 

 ロスヴァイセは俺に近づくと、耳打ちしてきた。

 

(こんな部屋で申し訳ありません。一応この部屋は私たちが話し合うときに使うようリアスさんが用意してくれた場所でもあるんです)

 

(ここで話し合い?)

 

(はい。京都で何かあったときに話し合いができるところは確保しておいて損はなしです。まあ、元々その部屋はエイジくんの部屋に割り当てられていたんですけどね)

 

 そう言って不適に笑むロスヴァイセ。すみません、問題児で。

 

 それにしても悪魔な俺たちが話し合う場所兼俺の部屋かぁ~。

 

(大勇者さまをこんな部屋に寝かせるのは抵抗があるのですが、我慢してくださいね)

 

(別にいいよ。自業自得のようだし。それよりも大勇者は止めてくれ)

 

(はい、わかりました。エイジさま)

 

(はぁ、さま付けも止めて。ていうか、ワザとだろ?)

 

(ふふ、すみません。エイジくん)

 

 俺の言葉にうなずいたロスヴァイセは改めて言う。

 

「というわけで、私は教師の会合があるのであとは任せます。午後は自由行動ができるといってもハメを外さないように。……京都の皆さんに迷惑をかけてはダメですよ?」

 

『はーい』

 

 俺たちは元気よく返事をする。

 

「さて、まずはアザゼル教諭を捜すところから始めないと。あの人……、ホールでの確認を終えて早々に姿をくらまして……。これだからグリゴリの総督は……」

 

 と、文句をつぶやきながらロスヴァイセは部屋をあとにした。アザゼル、さっそく消えたか。旅行に行く前から、「舞子だ! まずは舞子だ! 次に京料理をたらふく食うぜ!」と大人な楽しみ方を口にしていたからな。駒王協定前に俺がやったマップも持ってきているようだったし仕事する気ないな、あいつ。

 

 アザゼルが羨ましいのか悔しそうな表情を浮かべていたイッセーに元浜が地図を出しながら言う。

 

「なあ、イッセー。午後の自由時間、本来の予定にないけど伏見稲荷に行かないか?」

 

「伏見稲荷? あー、確か、鳥居がすげー並んでいるところか?」

 

「そうそう。京都駅から一駅で行けるんだけどさ。さっき、他の先生に聞いたらOKが出たんだ」

 

「へぇ、先生の了解を得ているなら行って損ないかもな」

 

 イッセーの意見に松田はカメラのレンズを拭きながら言う。

 

「行けるときに行かないと京都の名所を見て回れないぜ?」

 

「じゃあ、アーシアたちも誘って行くか! エイジも行かないか? 伏見稲荷!」

 

 イッセーが俺も誘ってくれるが……。

 

「すまない。椿姫さんはもちろんだけど、片瀬さんと村山さんたちと京都駅周辺を探索することになってるから」

 

 そう断わると、

 

「なにぃいいいい!? 片瀬とだとぉおおおお!?」

 

「村山と……、村山と神城が……」

 

 元浜と松田がものすごい形相になった……。えっ? こいつらまさか……。いや、2人が好きだったら覗きなんて嫌われることなんかしないよな?

 

 元浜と松田のただならぬ様子にイッセーも戸惑っているようで、いつのもような射殺さんばかりの視線を送ってこない。

 

 それどころか、

 

「お、おい! ほら、アーシアたちを誘いに行こうぜ! なっ? エイジなんか放っておいてさっさと行こうぜ!」

 

 と2人の背中を押して強引に部屋から出て行かせてくれた。ふむ、助かったから、エイジなんかという発言は許そう。

 

 ん~、それにしても伏見稲荷か。京にやってきたんだし、八坂と九重にもあいさつしないといけないが、まあ、あとででいいか。少し前にも会ってたんだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 京都駅から2駅進んだところに「稲荷駅」があり、そこから下車することで伏見稲荷への参道に入ることができる。

 

 俺たちは電車に数分揺られて稲荷駅へ到着した。

 

 到着したのだが……。

 

「イッセーくん。ほら、珍しいものがたくさん店頭に並んでいるよ」

 

「あー、そうだな」

 

「稲荷神社らしく狐がたくさん祭られてるね」

 

「あー、そうだな……」

 

「ここでお土産買っておく?」

 

「あー、そうだなぁ……。――って、なんで女子が1人もいないんだよぉぉぉぉっ! 野郎4人って、野郎4人って……」

 

 クソぉ! なんで野郎4人で京都観光しなきゃいけなんだぁぁぁっ!

 

 し、しかも駅のベンチでは……、

 

「やっぱり俺たちの修学旅行は灰色なんだな……」

 

「ふ、ふははは……、せっかくカメラを持ってきたのに野郎しか写せないなぁ。はははは……、野郎でフィルムを消化するしかないのかぁ……」

 

 残りの野郎2人である元浜と松田がうなだれていた……。

 

「大丈夫かな、イッセーくん」

 

 そんな2人を心配そうに、俺たち3人に新たに加わったもう野郎が心配そうに見つめていた。

 

 金髪の爽やかなイケメン。我らがグレモリー眷属の騎士、木場祐斗だ。

 

 なぜこいつがいるのかというと、俺たちが部屋に荷物を取りに行ったときにホテルの玄関ホールで大勢の女子生徒に囲まれ、青い顔をしていたところを助けたからだ。

 

 まあ、助けたといっても女子生徒に囲まれてる木場が妬ましかったから一緒に来ないかと誘ったわけだが、まさかこんなことになるなんて……。

 

 くうっ! まさかゼノヴィアとイリナだけでなく、アーシアや桐生まで先約があるなんて!

 

 しかも、その予定ってのが椿姫先輩との京都駅周辺の散策らしいし! クソっ! おそらくエイジも一緒だろう!

 

 アーシアたちにやんわり断わられたあと、半ばヤケクソになった元浜と松田に連れられて伏見稲荷へやってきたが、先ほどまでバカみたいにテンションを上げていた2人もいまは熱も冷めてベンチでうなだれている。

 

「ほら、元浜、松田! そろそろ行くぞ!」

 

「イッセー……」

 

「……なんでこの状況で元気なんだよ?」

 

 まるで地獄の底の亡者のような低く淀んだ声で訝しげにこちらを視線を向ける2人。俺もこのまま野郎4人での京都観光なんて御免だが、もうここまで来てしまったんだ。諦めて行くしかないだろ! 嫌だけど……。

 

 俺と木場が参道へ足を向けると、元浜と松田もベンチからゆっくり起き上がりトボトボと歩き始めた。

 

 一番鳥居を抜け、大きな門が出てきた。両脇に狛犬のような狐の像が立っている。

 

「ああ、あれは魔除けの像だよ。本来なら僕たちのような魔の存在を寄せ付けない力があるんだけど、例のパスのおかげで騒ぎが起きてないんだよ」

 

 と、木場が狛犬もどきの狐を見ながら言う。

 

 ん~、そう言われれば……。

 

「何かに見られてる?」

 

 さっきまでいろいろあって気づかなかったが、木場の言葉で俺たちに付きまとう違和感に気づいた。そう、だれかに監視されているような気配がある。

 

「まあ、当然だね。僕とイッセーくんは悪魔だし。ここを司るものにとってみれば外部からの異質的存在だ。事前に話は行ってるんだろうけど、それでも一応の監視はするだろうね」

 

 まあ、考えてみればそうか。京都は日本のいろんな超常的存在が集まっているって聞いていたし、彼らにしてみれば俺たちが部外者なのは確かだ。

 

 ちょいと気にしつつも無事に門を抜けられた。進むと本殿。さらに歩くと稲荷山に登れる階段が見えてくる。俺たちはゆっくりと進んでいく。会話はほとんどない。うしろから時々聞えなくてもいい元浜と松田がエイジに向って唱えている呪詛は聞えていたが……。

 

 そのまま流れで俺たちはついに千本鳥居を見ながら山登りに挑戦をすることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩き始めて数十分。

 

「……ぜーはー……ま、待ってくれ……。ど、どうしておまえたちはそんなに動けるんだ……?」

 

 元浜はすでに息があがっていた。松田がそんな元浜に階段の上から激をとばす。

 

「情けないぞ、元浜! 俺たちは絶対に社まで行くんだろ! がんばれよ!」

 

 松田は運動神経バツグンだから、これぐらいで根をあげない。それよりもどこかの軍曹のような形相で叫ばないで欲しい。

 

「そ、そうだった! はぁはぁ……、俺は、神城を呪うために……、童貞を捨てるために……!」

 

 も、元浜もそういうことを大声で言わないでくれよ……。他の観光客が一気に距離をとったぞ。

 

 ちなみに俺と木場は息も乱れていない。

 

 俺も木場も悪魔で、俺にいたっては夏休みに山籠りを経験しているからな。

 

 途中、休憩所のお店を見ながらも伏見山への挑戦は続く。元浜はすでに息切れ状態だが、まだまだ眼は死んでいない。そこまでエイジを呪って童貞卒業を神に願いたいのか。

 

「おー、絶景だな」

 

 山の景色に思わず声をもらす。

 

「そうだね、イッセーくん」

 

 俺の隣に立って同意するのはイケメンの木場のみ。

 

「…………」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもない……」

 

「せっかくだし写真でも撮っておこうか? アーシアさんたちにも見せてあげよう」

 

「……そうだな」

 

 木場は元浜からカメラを借りて伏見稲荷の山風景を収めていく。そのなかには俺と木場、元浜と松田の悲しいツーショットがあったことは……、すぐに忘れたい。

 

 はぁぁぁ……、しっかし、本当に進めど進めど赤い鳥居ばかりだな。しかも鳥居には会社やお店の名前が記されている。伏見稲荷に願いを込めてお供えしたものだろうか?

 

 はぁぁぁ……、なんだか無性に山を登りたくなってきた。野郎4人での登山が相当俺のストレスになっていたようだ。ああ、頂に立ちたい。立って大声で叫びたい……。

 

「わりぃ、俺、ちょいとお先にてっぺんまで行ってみるわ」

 

 俺は皆に断りを入れてから、階段を勢いよく駆け上がった。

 

 人間だった頃なら、この山登りで死に掛けていただろうけど、悪魔になってから修行漬けだったんで余裕余裕!

 

 他の観光客の邪魔にならぬよう、階段を上っていく。そして、頂上らしき場所に出る、

 

 …………。そこにあったのは古ぼけたお社だ。

 

 うーん、ここが頂上? 正直言うと、途中、他に行く道とかもあって、適当に走ってきたようなものだった。他にも観光できる場所があっただろうな。

 

 辺りは木々でうっそうとしていて、まだ日が出ているというのに薄暗い。

 

 ザァァァァ……。

 

 風で木々がざわめく。人気もないしな。俺以外誰もいないや。さて、どうしたものか。

 

 このお社に手を合わせて下山しようかな。皆もそこそこあがっているだろうし。

 

 お社でパンパンと手を合わせ、

 

『おっぱいをたくさん見て触れますように! 彼女ができますように! 部長と朱乃さんとエッチができますように!』

 

 と、卑猥なで正直な願いを念じる! そして、さらにエイジに対する呪詛を願おうとして脳裏にある場面が思い浮かぶ。

 

 サイラオーグさんと手合わせしたときの場面だ。

 

 あのときサイラオーグさんと戦っていた俺を心配したアーシアが乳をつついたらパワーアップするって提案して……、部長と朱乃さんにおっぱいつつかせてもらえませんかってお願いして……、拒絶されたんだよなぁ。

 

 まあ、人前で乳をつつかせるなんてだれだって断わるだろうけど、うう……。

 

 2人ともエイジの背中に隠れるって……、やっぱり付き合ってんのかなぁ?

 

 呪詛を唱える気にもなれず、少し落ち込みながらその場をあとにしようとしていると――。

 

「……京のものではないな?」

 

 ――っ。

 

 突然の声。周囲に気を配らせると……。

 

 あらら、なんか、俺、囲まれてる? 明らかに人間じゃない気配が複数存在する。

 

 ……強大ってほどでもないけど、数がけっこういそう。って、俺、これぐらい感じられるようになったんですよ! 囲まれるまで気づきませんでしたけど! 確実に成長してる!

 

 少し身構える俺のもとに現れたのは――巫女装束を着た小さなかわいらしい女の子だった。

 

「……女の子?」

 

 キラキラ光る金髪に、金色の双眸。小学校低学年ほどの容姿だ。

 

 だが、頭部に生えるものをみて人でないと理解する。

 

 ――獣の耳。

 

 小猫ちゃんみたいに頭部に耳が生えている、感じからすると猫又ではないな。お尻からはもふもふしてそうな尻尾が! 犬の妖怪? いや、伏見稲荷ってぐらいだから、狐か?

 

 つーか、なんでお狐さまが俺のもとに? 悪魔だから? でもパスがあるしな……。

 

 さっきから感じていた監視の目はこいつらか?

 

 ハッ! まさかおっぱいで不純な願い事は御法度!? などと思っているうちに獣耳の少女は俺を激しく睨み、吐き捨てるように叫ぶ。

 

「余所者め! よくも……ッ! かかれっ!」

 

 少女の掛け声とも共に林から山伏の格好の黒い翼を生やした頭部が鳥の連中と、神主の格好をして狐のお面を被った奴らが大量に出現する!

 

「おおっと! なんだなんだ! か、カラスの、て、天狗……? 狐?」

 

 初めての相手に驚く俺だが、少女は容赦なく指を俺に向ける。

 

「母上を返してもらうぞ!」

 

 天狗と狐神主が同時に襲いかかってくる!

 

 俺は瞬時に籠手を出現させ、そいつらの攻撃をかわしていく! こ、これぐらいならまだなんとかやりすごせるけど!

 

「は、母上? 何を言ってんだ! 俺はおまえの母ちゃんなんて知らないぞ!」

 

 俺は少女にそう叫んだ。マジで知らないって! こいつの母ちゃんのことなんて京都に来たばかりの俺が知るわけないだろ!

 

 しかし、少女は問答無用のご様子だ!

 

「ウソをつくな! 私の目は誤魔化しきれんのじゃ!」

 

 誤魔化してございませんよ! ったく、俺ってば京都についてからというもの全然ついてねぇ!

 

 とりあえず、逃げの一手だが、天狗の錫 杖(しゃくじょう)が俺に降りかかる。一撃食らうか!?

 

 覚悟をしたそのとき――。

 

 ギンッ!

 

 俺の代わりに相手の錫杖を受けてくれる人影が――。

 

「大丈夫かい!? イッセーくん!」

 

 木場が加勢しに来てくれた!

 

 木場は両手に炎の魔剣と氷の魔剣を手にしていて、そのまま錫杖を破壊した。

 

「君たちは何者だい?」

 

 魔剣を構えて殺気を放つ木場。おいおい、確かに襲われていたけど少女に本気の殺気なんか向けるなよ。こいつも相当ストレスが溜まっていたようだな。

 

 木場の殺気に少女一行さまは怯む。そしてすぐに怒りの表情を浮かべた。おい、さっきより怒ってないか?

 

「……そうか、やはりおまえたちが母上を……もはや許すことはできん! 不浄なる魔の存在め! 神聖な場所を穢しおって! 絶対に許さん!」

 

 ……もう話し合いはできそうにない! 木一方的にやられててすごい不快だけどさ!

 

 こうなったら、とりあえずこの場を凌ぐぐらいはやらせてもらおう。

 

 だけど、アーシアがいないからプロモーションは使え――。

 

「イッセーくん!」

 

 ん? 木場? なんだ、どうしたんだ? 

 

 木場は学生服のズボンのポケットからグレモリーの紋章入りカードを取りだし……。

 

「……おい、何でおまえが持ってるんだ?」

 

 それは部長が京都で有事があった際にとアーシアに持たせた、部長の代わりにプロモーションを承認できる代理認証カードだろう? 俺と常に一緒にいるであろうアーシアに持たせたカードだろう?

 

「何かあったときに困ると思ってアーシアさんから借りていたんだよ!」

 

「そ、そうか……」

 

 少し複雑だけど、まあ、実際に役に立ってるんだし……。

 

「助かったぜ、木場!」

 

「うん!」

 

「さてと、行くぜ! え、えーと……」

 

『女王』! といきたいところだが、実戦でも他の駒に慣れておかないとな! この伏見稲荷という名所で戦うには破壊力のある駒ではダメだ。

 

 部長にも直々に「いいイッセー? 京都を壊してはダメよ? 他の勢力にも怒られるし、悪魔の業界にも迷惑をかけるわ。何より私の好きな京都を大切にしてね」と念を押された!

 

 部長の好きな場所は壊せん!

 

「よっしゃ、『騎士』にプロモーション!」

 

 体に力が流れ込み、体が軽くなった感覚を得る! 走り込みで翻弄するだけなら、稲荷大社を傷つけないだろう!

 

 いちおう、ブーステッド・ギアを30秒だけ溜めてから力を増加させる!

 

『Explosion!!』

 

 神器の力を発動! これでよし!

 

 木場は炎と氷の二刀流だ。数で負けている分手数で押し切るつもりのようだが。

 

「木場、よくわからんけどここは京都だ。理不尽なことになってるけど、相手と周辺を傷つけるのはマズい。できるだけ追い返す程度に留めるぞ」

 

「わかったよ」

 

 俺の意見に木場は素直に応じた。できれば殺気も収めてくれ……。

 

 バッ!

 

 一斉に少女の一味が襲いかかってきた!

 

 木場は炎と氷の魔剣でそいつらをいなし、相手の獲物を破壊しながら圧倒していた。俺も敵陣に突っ込み、攻撃を素早く避けながら蹴り飛ばすぐらいの攻撃を放つ。

 

 よし、木場はもちろん、俺も相手よりも上だ! それにずっと2人で修行していたから連携も完璧! 動きもこちらが早いぜ!

 

 実戦のなかで『騎士』の動きを覚えてみせる!

 

 俺たちのほうが上手だと感じた奴らは、後方に退いていった。

 

 少女は俺たちを憎々しげに睨んだあと、手をあげる。

 

「……撤退じゃ。いまの戦力ではこやつらに勝てぬ。おのれ、邪悪な存在め。必ず母上を返してもらうぞ!」

 

 少女がそれだけ言い残すと、一迅の風と共に連中は消えていった。

 

 ……ったく、なんだってんだよ!

 

 俺たちは構えを解いて、意味不明で理不尽な襲来に困惑してしまった。

 

 ――京都。

 

 起こって欲しくなかった何かが起こりそうな予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――修学旅行初日の夜。

 

『ごちそうさまでした!』

 

 俺たちはホテルでの夕食を終えていた。豪華な京料理ばかりでした。湯豆腐、マジうまかった! 湯葉ってあんなに繊細で柔らかな食感なんだな……。京野菜も珍しくておいしかったぜ。

 

 ――やっと一息つけた。

 

 襲撃を受けたあと、俺たちは素早く松田たちと合流し、警戒しながらも伏見稲荷での観光を終えた。元浜も松田も願い事するまで帰らねぇ! ってうるさかったけど無理矢理下山させた。命には代えられないからな。

 

 帰ってから、アザゼル先生とロスヴァイセさんに事を報告。2人とも困惑していた。

 

「なぜ京都で襲撃を受ける?」――と。

 

 事前に俺たち悪魔が京都旅行することは、ここを統べる者たちに伝えているはずだった。

 

 先生はもう一度確認を取ると言っていた。部長に報告すべきか迷ったんだけど、先生が「まだ何が起こったかわからない。余計な心配をあいつに与えるな」と言われて、踏みとどまったんだ。

 

 確かに部長に報告するには情報が足りなさすぎる。ちなみにエイジたちへの報告はアザゼル先生がやってくれるそうだ。まっ、俺たちの近くには一般生徒がいるからそのほうがいいだろう。

 

 ……つーか、飛びだしていった俺の可能性はいずこに……。

 

 いちおう、先生にも報告したんだけど、

 

「いつかおまえのもとに帰ってくるなら、待つのもひとつの手だ。旅行中は待ってみたらどうだ? まあ、ここに来ている俺の配下の者にそれらしいものが見つかったら報告するよう言っておく」

 

 と返されてしまった。

 

 うーん、京都について早々いろいろ起こってるな……。で、これらの件については上役に一任いたしました。

 

 食事を終え、ロビーのテーブルでスケベ2人と女子たち、エイジと椿姫先輩とひょっこり現れた木場を入れて明日の確認とそれぞれの京都観光がどうだったか話した。はい、予想通りエイジと椿姫先輩は一緒に行動していて、アーシアたちもその輪にいたそうです。こちらと違って襲われることもなく、すっごく楽しかったらしい。ちくしょう……。

 

 そのあとは元浜と松田と共に部屋に戻り、くつろぐこと十数分。

 

 先ほどまで部屋のソファやベッドでくつろいでいた全員がタイミングを見計らっていたかのようにそろって起き上がった。

 

「頃合だな」

 

 俺の言葉に2人はうなずく。何も言わなくても、特に会話を交わしていなくても3人の目的は同じだ。

 

 そう! この時間帯、大浴場でお風呂タイムだ! 覗くしかない! いつもは俺たちをバカにしているクラスの女子ども! くくくくく! 俺たちがその全裸を舐めるように見てしんぜよう! 

 

 初日の午後は野郎4人で過ごすという最悪な状況だったこともあり、全員気合たっぷりだ! 自然とこぼれる笑み。湧き上がる性衝動! さあ、行くぞ!

 

 先走る心をなんとか抑えて、3人そろって部屋の扉を静かに開ける。左右確認。……ん?

 

「エイジ?」

 

 廊下をエイジが歩いていた。こちらに向っているようで、手には缶ジュースが5本。

 

 エイジもこちらに気づいたのか歩く速度をあげて近くにやってきた。

 

「おお、イッセー、それに松田に元浜も、まだ部屋にいたみたいだな」

 

「どうしたんだ? そんなに缶ジュースなんかもって」

 

 俺は普段通りに訊ねてみる。まさか覗きしようとしていたことがバレたのか? 前もって潰しに来たとか?

 

 エイジを警戒する俺たち。エイジは俺たちに似てエロ方面で問題児だが、俺たちとはまったく違う! はっきり言って童貞とそうでないもの。モテ男と非モテ男。クソ! こいつは覗きをする必要もないから余裕なんだ! 覗きをしに行くと知ったら絶対に妨害してくるだろう。

 

 元浜も松田もそれがわかってるのか、エイジを警戒している。

 

 エイジは俺たちがいまから覗きをしに行くとは気づいていないのか、両手に抱えた缶ジュースを差し出してきた。

 

「さっき別のクラスの女の子たちにもらったんだけど、いくらなんでもひとりで缶ジュースを5本も飲むのはな。だからおまえらにも分けに来たんだけど……」

 

「おお、マジで? もらっていいのか?」

 

「ありがとよ」

 

「ありがとう」

 

 俺を始め、元浜も松田も礼を言いながら缶ジュースを受け取る。うん、少しまえまでエイジに対して恨み言を言っていた2人とは思えないぐらい爽やかに受け取ったな。

 

 よし、このままエイジを部屋に帰してしまおう。んー、それにしても缶ジュースか。何か仕込んでないよな?

 

 訝しげに缶ジュースを見ると、見たことも聞いたこともない缶ジュースだった! なんなんだ「ドーピングコンソメジュース」って? ものすごく怪しい飲み物じゃないか。

 

「エイジ、このジュースは?」

 

 俺が訊ねるとエイジは缶ジュースを1本脇に抱え、もう1本を開けた。

 

「ああ、京都でしか売ってない珍しいジュースなんだよ。なんでも飲むと一時的に体力が上がったり、視力が上がったりするらしいんだ。不思議だよなぁ」

 

 説明しながらエイジは缶ジュースに口をつける。

 

「……うん、なかなかうまいな。ジュースだと思わなければ」

 

「そ、そうか、うまいのか……。そういえば残りの1本はどうするんだ?」

 

「ああ、これは木場に持って行ってやるつもりだ。それじゃあ、俺の用は終わったから行くな?」

 

「あ、ああ……」

 

「じゃあな」

 

「ジュースありがとう」

 

 俺たち3人が礼を言うとエイジはそのまま廊下を歩いていった。……もう姿は見えない。はぁぁぁ……、なんだよ。別に覗きに行くのはバレてないのか。

 

 缶ジュースも自分で飲んでいたし、取ったのも俺たちだ。木場にも渡すようだから薬の類は仕込まれてないだろう。

 

「とりあえず部屋にジュースを置いてから行くか」

 

『…………』

 

 俺の提案に元浜と松田は無言で、缶ジュースを見つめていた。どうしたんだ?

 

 松田が缶ジュースを観察しながら言う。

 

「なあ、イッセー、元浜。さっき神城の奴が言ってたけど、これ飲んだら視力が上がるんじゃねぇか?」

 

 松田の言葉に元浜もうなずく。

 

「そうだな。一時的らしいが、もしも本当なら体力の他に視力が上がって覗きの成功率が跳ね上がるだろうな」

 

 ――っ!

 

 松田と元浜の言葉に俺は衝撃を受ける! そうだ! エイジは体力の他に視力が上がると言っていた! 視力が上がるなら湯煙で視界が悪くなっていても見えるんじゃないか!?

 

 ごくりと俺たちの喉がなる。

 

 松田が缶ジュースのプルタブに指をかける。

 

「の、飲むか?」

 

 元浜も同じくプルタブに指をかける。

 

「そ、そうだな」

 

 2人に続いて俺も缶ジュースのプルタブに指をかける。

 

「状況的に薬物とかは仕込まれてないだろう。あいつも飲んでいたし」

 

 そもそも悪魔である俺が薬でどうなることもないだろう。例え悪魔にも効く劇薬を仕込んでいたとしてもそれを人間の元浜と松田が飲んでしまったら死んでしまうだろうから、薬の類は仕込まれていないし、仕込まれていたとしても俺には効かないと思う。いや、むしろ2人が寝込めば競争率が減るかもしれない!

 

 俺たちはそれぞれ視線を交わしてうなずいた。

 

 カシュッという音と共に缶ジュースが開く。

 

 俺たちはジュースを口に含み……。

 

「おっ、意外にうまい?」

 

「ジュースというか、もはやスープだな」

 

「これで視力が上がるのか?」

 

 毒らしい味もなく、普通のコンソメスープのようだ。俺たちはそのまま一気に飲み干した。

 

 缶ジュースが胃から体に巡る。なんとなく体が強化されたように感じる。

 

 視力も上がったのかな?

 

 よし、と俺たちは空っぽになった缶ジュースを部屋のテーブルの上に置き、3人で覗きに……、あ、あれれ?

 

「はぁぁ……、なんか急に面倒くさくなったなぁ」

 

「ああ、なんだか覗きに行くのがバカらしくなってきた」

 

「なあ、部屋でテレビでも見ねぇか?」

 

「そうだな。今日はいろいろと疲れたし、部屋でゆっくりするか」

 

 急に覗きに行くのが面倒くさくなった俺たちは大人しく部屋へと戻った。

 

 なんで行きたくなくなったんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 作戦通りに進んだな。これでイッセーたちは部屋で大人しくしているはずだ。

 

 はぁ、イッセーたち覗きの常習犯で3バカが女湯を覗きに行くまえに事前に防げてよかったよ。

 

「ええ、すごく助かりました」

 

 ジャージ姿のロスヴァイセが頭を下げてくる。俺はそれに苦笑しながらうなずく。

 

「いや、いいんだよ。ロスヴァイセ。ここで俺がやらなかったら女子生徒を始め、ロスヴァイセもイッセーの被害にあっていたと思うからな」

 

 本当にそうだ。絶対に被害にあっていただろう。覗かれる女子生徒たちはもちろんのこと、不在のアザゼル……は、逆にイッセーを煽りそうで除外するとして、引率の教師のなかで戦闘力方面でイッセーを止められるのはロスヴァイセぐらいで、ロスヴァイセは美人の女性だ。

 

 イッセーの犯行を止めようとロスヴァイセが立ちふさがるが、スケベ根性丸出しでエロパワーで強化されているイッセーに洋服破壊をかけられ、裸に剥かれるロスヴァイセの姿が容易に想像できてしまうんだ。悲しいことに……。

 

「だから早い段階で無効化できてよかったよ」

 

「はい、本当に助かりました」

 

 改めてロスヴァイセは心の底から礼を言った。うん、年頃の娘としても倹約ヴァルキリーとしても洋服破壊は嫌だよね。

 

 それにしてもイッセーの魔法って性質が悪いよなぁ。実戦やレーティングゲームなどで使うぶんにはしょうがないから目を瞑るけど、たまにイッセーは暴走して一般生徒にも洋服破壊をかけるから、リアスとそろそろ女性を傷つける迷惑な魔法の使用を禁止するように命じるか検討しているところなんだよな。

 

 ちなみにこの場にいない椿姫さんはお風呂中で不在だ。

 

「そういえば、どうやってあの3人組を無力化させたんですか? 特にイッセーくんほど性欲旺盛な生徒を無効化させるなんて、いったいどんな手を?」

 

 気になるんだね、ロスヴァイセ。

 

 俺はロスヴァイセに説明を始める。

 

「イッセーたちに渡したジュースなんだけど、あれには一時的に性欲を低下させる効果を付加していたんだ」

 

「性欲を低下させる?」

 

「そう。3人がジュースを受け取る瞬間に仙術をかけて、ジュースを飲めばどんなに膨大な性欲をもっていようと、30分間は不能になるんだ」

 

「ふ、不能……」

 

 あ~、顔を赤らめてる。そういえばロスヴァイセは純情ヴァルキリーだったね。

 

「まっ、性欲がなくなればイッセーたちは無害というか、無個性の生徒になるからね。正気? に戻る頃には女子生徒が入浴を終えてる。今夜はいま女風呂の警備をしてる生徒会メンバーだけで事足りるよ」

 

「ありがとうございます」

 

「それよりもロスヴァイセもお風呂に入ってきたらどうだ?」

 

「いえ、私は一応教師ですし、あとで部屋のお風呂ですませますので」

 

「そうか」

 

 まっ、下手に入浴しようものなら他の男子生徒から覗きしに来る奴が現れそうだからな。部屋の風呂が安全だろう。……だけど、まえから思っていたが駒王学園の生徒って残念なヤツが多くないか? イッセーたち以外にも覗きを決行している生徒がいるみたいだし、悪魔が経営している駒王学園じゃなく、普通の高校だったら謹慎の上、下手をすれば退学だからな。将来痴漢などで捕まりそうな奴らが多すぎて将来が不安だ。あ、俺は不純異性交遊をしてても証拠を残すヘマもしないからギリギリで大丈夫。

 

「あ、あの……、エイジくん」

 

「ん? なんだ?」

 

 訊ねると、ロスヴァイセは言い難そうにつぶやき始めた。

 

「そ、その……い、一応教師と生徒なので……」

 

「あ~……、そうだな。敬語なしで呼び捨てはマズいよな」

 

 関係的にいえば勇者とヴァルキリーで俺が上だけど、いまは生徒と教師だからな。

 

「ふ、ふたりっきりなら全然いいんですが、学園では教師と生徒なので……すみません」

 

「いや、別にいいさ。……じゃなかった、別にいいですよ」

 

 それよりも学園以外ではなく、ふたりっきりとくくったところが気になった。

 

 ロスヴァイセは頬を赤くしたまま恥ずかしそうにつぶやく。

 

「あっ、い、いまはだ、だれも見てませんので、普段通りでいいですから……」

 

「ふふ。ああ、わかった」

 

 ん~、俺って結構好感度高いのか? セルベリアと一緒に厳しく修行をつけたりしてるだけなんだけどなぁ。あ、買い物に付き合ったりデートもしてたっけ。いつもセール品のジャージ(980円)ばかりを着ていたから歓迎の意味も含めて洋服一式を買ってあげたんだよな。

 

 もじもじとしているロスヴァイセをどうしようか考えていると、俺の元に誰かが近づいてきた。あー、こいつは――。

 

「あー、楽しんでいるところすまない」

 

 アザゼルだった。眼がニヤニヤしてる。おい、コラ。耳元で「いや、これからお楽しみだったか?」とか訊くな。ロスヴァイセも顔を赤らめなくていいからね。

 

「どうしたんだ、アザゼル。外で京料理を食べるんじゃなかったのか?」

 

 おまえが教師の仕事をしに戻ってくるわけがない、と皮肉を込めて言うが……。

 

「なんだ? まだイッセーに聞いていなかったのか? ああ、そういえば俺が伝えるんだったな」

 

「ん? 何か問題でも起こったのか?」

 

 俺の問いにアザゼルは頭をポリポリかいた。

 

「まあ、そんなところだ。俺とおまえたちに呼びだしがかかった。近くの料亭に来ているそうだ」

 

「呼びだし? そこで説明してくれるのか?」

 

「ああ」

 

「ちなみに誰がいるんだ?」

 

 俺が訊くとアザゼルは口元を笑ませた。

 

「魔王少女さまだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちグレモリー眷属とイリナは、夜、ホテルを抜け出てアザゼルの先導のもと、街の一角にある料亭の前に立っていた。

 

「……料亭の『大楽』か。ここにセラたんがいるのか」

 

 料亭から感じる魔力や気配もセラフォルーだった。

 

 俺たちとアザゼルはセラフォルーからの誘いを受けた。

 

 なかに通され、和の雰囲気漂う通路を抜けると個室が現れる。

 

 戸を開けると――着物姿のセラたんが座っていた。

 

「ハーロー! ブラたん、リアスちゃんの眷属の皆、ブラたん以外この間以来ね☆」

 

 いつもながらテンション高いな。だけど、それにしても……。

 

「着物も似合ってるな」

 

 長い髪も今日は和服に合うように結ってあるし、綺麗だ。

 

 俺の褒め言葉に、セラフォルーはうれしそうに両頬を手で隠してニヤけている。

 

「いやん☆ ブラたん。今夜は着たままする?」

 

「いや、うれしいお誘いだけど、いまは遠慮しておくよ。また今度ね」

 

「ん~、仕方ないなぁ」

 

 俺たちがそんなあいさつを交わしていると、

 

「お、兵藤」

 

「匙? それにシトリー眷属の皆も。先に来ていたのか」

 

 イッセーと匙があいさつを交わしていた。

 

「エイジ」

 

「あ、椿姫さん。こちらにいたんですね」 

 

「ええ、お風呂からすぐに呼ばれたのでそのまま来たんです」

 

 そういってみれば確かに少し髪が濡れている。黒い髪が美しく、少し艶っぽい。

 

 ん? 生徒会の女子メンバーのほうから視線を感じる。なんだ?

 

「椿姫先輩、さっき……」

 

「ええ、エイジって呼び捨てで呼んだわね」

 

「それに神城くんも椿姫先輩じゃなくなってるし」

 

「雰囲気もくだけてるよね?」

 

「まさか……」

 

 ……うん、小声で円陣組んで話してるけど、聞えてるからね。人外の悪魔だから。

 

 しかし、『騎士』の巡さん、『戦車』の由良さん、『僧侶』の花戒さんと草下さんといい椿姫さん以外にも生徒会には美人が多いよな。生徒会で1人だけ男子の匙が肩身が狭そうだ。

 

「ここのお料理、とてもおいしいの。特に鶏料理は絶品なのよ☆ 赤龍帝ちゃんたちも匙くんたちもたくさん食べてね♪ あ、ブラたんはこっちね☆」

 

 そう言いながら隣に敷いた座布団をポンポンと叩くセラたん。少し悩んだが隣に座り、俺のあとに続くように他の全員も席に着いた。

 

 席に着くとセラたんが料理をどんどん追加する。俺たちは先ほど料理を食べたばかりだったが、運ばれてくる料理がおいしく、ついつい箸が進んでしまう。見れば、皆もそのような様子だった。

 

「あ~ん☆」

 

「ありがと。セラたん」

 

 料理を摘まんだ箸を俺の口元へと持っていき、隣でせわしなく俺の世話を焼くセラたん。うれしいけど、イッセーと匙が箸を咥えてバリバリしてるから止めてくれ……。ちなみにイッセーだが薬の効果はすでに抜けている。俺が何かを盛ったことには気づいていないようだ。まあ、気を失うとかじゃなく、無気力にさせるだけだからな。アホなこともあって気づいてない。

 

「それで、セラたんはどうしてここに?」

 

 ただ料理を食べにきたわけでもないだろうし、俺に会いに来るなら無理やり家におしかけてくるはずだ。

 

 俺の問いにセラたんは横チョキで答える。

 

「京都の妖怪さんたちと協力態勢を得るために来ました☆」

 

「京の妖怪と?」

 

「うん☆」

 

 あ~、そういえばセラたんって魔界の外交面担当だったな。きちんと仕事してたんだ。それにしても妖怪たちとの協力態勢か。

 

 しかし、セラたんは箸を置き、少々顔を陰らせる。

 

「けれどね……。どうにも大変なことになっているみたいなのよ」

 

「大変なこと?」

 

 俺の問いにセラたんが答える。

 

「京都に住む妖怪の報告では、この地の妖怪を束ねていた九尾の御大将が先日から行方不明なの」

 

「――っ! 八坂が行方不明!?」

 

 まさかあいつが!? 九重は無事なのか?

 

「……知り合いだったのか?」

 

 アザゼルが聞いてくる。俺はそれにうなずく。

 

「数年前からの付き合いだ。あいつには九重という娘もいたはずだが、無事なのか?」

 

「ああ、娘のほうは無事だよ。イッセーと木場が襲われたときに狐の少女がカラス天狗たちを仕切っていたのを見ている」

 

 アザゼルがそう答え、イッセーたちもうなずくが……。

 

「襲われた?」

 

 俺たちは何も聞いてないぞ? 見れば知っていたのは実際に襲われたイッセーと木場だけだったらしく、ゼノヴィアやイリナ、アーシアを始め、他のメンバーは聞かされていなかったようだ。

 

「ああ、その件も含めてこれから話すつもりだ」

 

 そう言ってアザゼルはイッセーたちがどう襲われたかを説明し始めた。

 

 なんでもイッセーは伏見稲荷の社で誘拐犯に間違われて襲われたそうだ。イッセーが襲われたことに気づいた木場が助けに入り、戦ったそうだ。まあ、戦ったといっても誤解されてるとわかっていたので、防戦するだけで実害無しに留めたそうだ。

 

 アザゼルが杯の酒を呷り、言う。

 

「つまり、ここのドンである妖怪がさらわれたってことだ。関与したのは――」

 

「十中八九、『禍の団』よね」

 

 と、セラたんが真剣な面持ちで言った。

 

 …………。

 

「お、おまえら、また厄介な事に首突っ込んでいるのか?」

 

 目元をひくつかせている匙。

 

「ったく、こちろら修学旅行で学生の面倒見るだけで精一杯だってのにな。やってくれるぜ、テロリストどもが」

 

 アザゼルも忌々しそうに吐き捨てる。

 

「ああ、本当にどうしてくれよう……」

 

 ミシッと手に持った箸がきしむ。禍の団が本当に八坂をさらったのなら……。

 

「お、おい、エイジ?」

 

 イッセーが驚いてこちらを見る。見れば他の全員も驚いた様子でこちらを見ていた。

 

 自然と殺気が漏れていたようだ。怒りを飲み込んで心を静め、反省する。いまここで怒ったとしても雰囲気を悪くするだけだ。

 

「すまん」

 

 重くしてしまった雰囲気に対して謝罪する。

 

 それからアザゼルとセラたんは、この件についてまだ公にすることはできないと、京の妖怪と連携してアザゼルとセラたんが事にあたるそうだ。

 

 現状でリアスへの報告もなし。

 

 それと、俺たちには修学旅行を楽しめと言っていたが、身内と言っていい八坂がさらわれたんだ、いつでも動けるように準備しておこう。

 

 普段つけられてるリミッターも解除して体に馴染ませておくか。

 

 …………絶対に、八坂をさらった連中全員に地獄を見せてやる……!

 



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第71話 京都初日の夜 ☆

 とりあえず丸々エロパート。

 片瀬さんと村山さんの情報少ないから上手くできてるかわからない。こんなんだったけ?

 後半ではあの倹約戦乙女さんが……。


<エイジ>

 

 

 京都の妖怪を取り仕切っていた八坂が何者かに攫われたことを知らされ、アザゼルとセラたんがそのことについて調査するから現状は動くなと指示された俺たちは、料亭から旅館へと戻ってきていた。

 

 料亭から戻ると消灯時間が間近に迫っていたので、グレモリー眷属も生徒会メンバーも今夜は解散することになった。

 

 俺は用意されていた部屋に戻る。ちゃぶ台を部屋の隅に置き、代わりに敷き布団を部屋の真ん中辺りに敷いて寝る用意をする。

 

 現在の時刻は夜10時をまわったところ。すでに就寝時間も過ぎていた。

 

 さてと、八坂のことはかなり気になるがまだ俺は動けない。簡単な式紙でも作って探らせたいが、それも新たな誤解を生む可能性があるからダメだ。せめて悪魔が敵でないと相手側が理解するまでは動けない。

 

 なので、いまはセラたんとアザゼルに任せるとして、先に新幹線の罰ゲームで片瀬さんと村山さんに約束したことを果たそう。八坂へを攫った奴らへの怒りは収まらないが彼女たちは無関係だからな。

 

 ……10時29分。そろそろか。

 

 57、58、59……、10時30分となり、さらに数秒。

 

 床に魔法陣が描かれ始めた。魔法陣はいつも仕事で使っているグレモリーの転移魔法陣だ。

 

 さてと、じゃあ行くかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法陣に召喚されてきた場所は女子生徒たちが利用している階にある部屋のひとつ。部屋の利用者はもちろん片瀬さんと村山さんだ。

 

 ふたりの格好はバスタオル1枚。髪が濡れてて艶っぽく、一目で風呂上りであることがわかった。

 

「やあ、こんばんは。片瀬さん、村山さん」

 

「こんばんは、神城くん」

 

「こ、こんばんは……」

 

 軽くふたりとあいさつを交わし、片瀬さんと村山さんが座っているベッド、ふたりの間に座るように片瀬さんにうながされて腰を下ろす。片瀬さんはいつものカチューシャ装備で、村山さんもポニーテールと風呂上りでも個性は健在だ。

 

 積極的に腕を絡めてきながら片瀬さんが聞いてくる。

 

「そういえば監視しに来てる椿姫先輩はどうしたの?」

 

「やっぱりワープみたいに飛んで部屋に来たから気づかないのかな?」

 

 片瀬さんに続いて遠慮がちに身を寄せながら村山さんが首をかしげた。俺は村上の言葉にうなずく。

 

「そうだね。もう就寝時間は過ぎているし、ドアを使って部屋から出てないから、部屋のなかに入られないと気づかないだろうなぁ。ちなみにワープじゃなくて転移魔法っていうんだよ。それっぽい魔法陣とかも出るし、魔法っぽいだろ?」

 

「あははは、そうだね。魔法陣の書かれた紙にお願いすると現れるって魔法だよね~」

 

「そうそう、3時間ぐらい過ごしたのに3分ぐらいしか経ってなかったり、ほんと不思議だよね」

 

「あ、そういえばいつもの結界張っておかないといけなかったな」

 

 指定した空間の時間を早める効果を持つ結界で部屋を囲う。これで事が終わって外に出てもほとんど時間が経たない。ちなみにいらない心配をかけないように隠蔽工作は完璧だ。

 

 一応、簡単にこの術のデメリットをあげると、魔力がかなり必要で術自体を扱うことが難しいこと。それに多用すると周りよりも寿命が減ってしまうことの3点になるんだが、俺の場合は魔力もあって術も問題なく扱える。

 

 まあ、1番のデメリットである寿命も人外の悪魔であること。そして、仙術使いで仙術のひとつである房中術を使ってるから問題はなかったりする。いや、逆にやりすぎて生命力がどんどんあがって寿命がわからなくなってるぐらいだ。

 

「これでよし。……じゃあ、始めようか?」

 

「うんっ!」

 

「……うん」

 

 新幹線でふたりに要求された罰ゲーム。それは悪魔の仕事でよくしているセックスの無料券10枚と、修学旅行初日に部屋でエッチすることだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗くした部屋。俺は2つあるベッドの片方に座っている。

 

「あっ……、ふふ、気持ちいい……」

 

 俺のすぐ隣には裸の片瀬さんが座っている。腰から回した俺の手に胸を弄ばれて気持ちよさそうに喘いでいた。

 

「俺も気持ちいいよ。すごく触り心地もいいし、乳首がドンドン起っていくのがすごくいやらしくてかわいくてもっと弄りたくなる」

 

「んっ、あ、あんまり激しいのは……、んんっ、もっとゆっくり……」

 

「ふふ、わかってるよ。ゆっくり弄ってあげるよ」

 

「ああっ……、くぅんんっ、そ、そんな……、に弄られると……、はぁ……、あっ」

 

 下から胸をもちあげたり、乳輪を爪でかいたり、指で摘まんだりすると、片瀬さんは気持ちよさそうに目を細めて身を寄せてくる。むっちりしたヒザを悩ましく擦り合わせ、その間から女性の匂いが強く香っている。

 

 ――っ。

 

「んっ、じゅっ、じゅふ、はぁはぁ……、じゅちゅぅぅぅ……」

 

 片瀬さんの胸に夢中になっていると、股間のほうから強い快感が送られてきた。

 

 片瀬さんから自分の股間へ視線を向けると、同じく裸で床に座っている村山さんが、俺のペニスを咥えたまま上目使いで睨んでいた。ふふっ、片瀬さんばかりかわいがるからすねたのかな?

 

 ごめんごめんと頭に手を置いてやさしく撫でると、表情はゆっくりと緩ませて、フェラを再開してくれた。

 

「んはぁ、ああ……、あふ、れろ、ちゅっ、はぁぁ、どう? 気持ちいい?」

 

 ペニスから口を放し、顔をペニスに擦りつけながら舌で舐められる。少しざらついた舌がペニスを這い回り、雁首に鼻息があたる。

 

「ああ、最高だよ。上手くなったな」

 

「ありがと♪」

 

 よしよしと村山さんの頭を撫でると、村山さんは微笑んでペニスに頬ずりしながら下へと降りていく。

 

「はぁはぁ……。ふふっ、ここもプリプリしてる……」

 

「んっ、そんなところまで……、んんっ!」

 

 玉袋を口に咥えられ、思わず驚きの声を上げてしまう。丁寧に片方ずつ口に含まれ優しく解される。

 

「ああっ、すごくいいよ」

 

「ふふ、気持ちいい? じゃあもっとサービスしてあげるね」

 

 うれしそうに笑んだ村山さんはさらに胸を押しつける。谷間にペニスを挟めて両腕で圧力をかけて……、まさか……。

 

「これ、パイズリっていうんでしょ? 私、胸には自信があるんだぁ、うふふ」

 

 スベスベでやわらかく、奥に少し硬さの残る乳肉とコリコリした乳首が竿が当たる。谷間からひょっこり顔を出してる亀頭を小さな舌でチロチロと舐めてくれる。

 

「どう? 気持ちいいかな?」

 

 舌で舐めながら上目使いで聞いてくる村山さん。ああ……、

 

「すごく気持ちいいよ」

 

 それに、献身的ですごくかわいらしい。

 

「か、神城くんっ」

 

「ん? ――っ」

 

 名を呼んだ片瀬さんに視線を向けると、片瀬さんはヒザ立ちになって両腕を俺の頭にまわして胸に抱いてきた。胸の谷間に軽く顔を埋めさせて、肩幅までヒザを開いた。

 

 いつものように俺は手をその開かせたヒザの間へともっていく。

 

 ゆっくりとオマンコに指先が触れる。

 

 プリプリとしたスジ肉を指で押して感触を楽しみ、スジ肉を両サイドから指で挟んで捏ねると、少しだけ開いていたスジ肉が閉じて擦り合わされる。

 

 ――ぬちゅっ、くちゅ……。

 

 スジ肉の間からいやらしい水音が響く。

 

 指でスジ肉を大きく開くとドロリと奥から愛液が漏れ出てきて手を濡らした。

 

 本当にもうトロトロだな。自然と笑みがこぼれてしまう。

 

「あっ、はぁはぁ……、ぅんっ、はぁっ……、いいっ! いいよ、神城くんっ、もっと、弄ってぇぇぇ!」

 

 頭を強く抱きしめ、さらにヒザを開く片瀬さん。もっと弄ってと腰を摺り寄せてくる彼女の膣口に中指を膣へ差し込む。

 

「ん、あ、ああっ……!」

 

 片瀬さんは声を上げてオマンコに挿入した指をきゅ、きゅうううっと膣肉で愛らしく絞めてくれる。

 

 夏休みまではガチガチの処女穴だったが、夏休み以降リピーターとなって何度もセックスを経験しているため、もはやその硬さもなく、純粋に性感を貪り楽しめるようになっていた。

 

 指をもう1本増やして膣穴をかきまわす。

 

 挿入した指を開き膣口を広げ、膣肉を指の腹で擦る。

 

「や、やぁっ、かき、まぜちゃ……! う、んっ、ふあ……、だ、ダメぇぇぇっ!」

 

 片瀬さんが感じている快感を現すかのように大量の愛液が溢れだし、指から手首までをゆっくりと伝う。

 

「はぁはぁ……、う、うあ、ふうう……、ふぁああんっ!」

 

 背を逸らしながらビクっと体を震わせる片瀬さんに追い討ちをかけるように乳首を甘噛みしながらしゃぶる。

 

「だ、ダメ……、ダメっ。い、いまおっぱい吸っちゃ……」

 

「ふふ、逃がしてあげないよ」

 

「――っ!」

 

 オマンコをかき回していた手を抜いて、クリトリスを指の腹で押す。

 

「か、神城くんっ……!」

 

 快感に体を震わせ、何かを訴えるような視線を向ける片瀬さんに乳首を舐めながら言う。

 

「ほら、気持ちよくなっていいんだよ。ちゃんとイクところを見ててあげるからね」

 

「――っ、か、神城くん……、んんっ、わ、私……。……はぁはぁっ、うんっ、イク……、イクからね!?」

 

「うん、ちゃんと見てるよ」

 

 そう言って再び中指を膣に指し込んでかき回し、同時に親指でクリトリスを弄る。

 

「あ、やあ、い、イクっ、わ、私……、イクゥウウウウウ~!」

 

 オマンコに差し込んでいる指がぎゅ、ぎゅぅぅぅっと絞まり、ビクッビクッと体まで震わせる片瀬さん。

 

 体に力が入らなくなったのか片瀬さんはそのままヒザを折って座り、そのままゆっくりと後ろに倒れて仰向けになった。

 

「はぁはぁ……、はぁぁぁ……」

 

 顔を覗き込むと気持ちよさそうに息を吐きながら天井を見上げていた。

 

 オマンコも奥までじっとりと濡れているので、このまま襲ってしまおうかと思ったが、

 

「今度は私の番だよ、神城くん」

 

 と、パイズリをしていた村上さんが亀頭を舐めしゃぶりながら自己主張してきた。

 

 俺のヒザに手をついて村山さんがゆっくりと立ち上がる。

 

 眼前に村山さんの裸体が差し出された。形のいい胸とピンク色の乳首、くびれた腰から薄っすらと生えた陰毛。さらに視線を落とすと愛液を床にポタポタと垂らしてるおいしそうなオマンコが……。

 

「すごく綺麗だ」

 

 村山さんの裸体に目を奪われ、自然と言葉が漏れてしまう。

 

 村山さんは「ありがと」とうれしそうに微笑み、訊ねてくる。

 

「このまましようか?」

 

「このままって、座ったままか?」

 

 訊ね返すと村山さんは恥ずかしそうにしながらうなずいた。

 

「じゃあ、しようか」

 

 俺も笑顔でうなずく。

 

 了承得た村山さんは俺の両肩に手を置いてゆっくりとヒザに跨り始める。俺はペニスに片手を添えて近づいてくる村山さんの膣口に先端を合わせる。

 

「んっ……」

 

 くちゅっと、膣口にペニスの先端が入る。

 

 そのまま亀頭まで入れたところで村上さんのヒザの下から両手を差し込み、お尻を掴んでペニスを奥へ挿入しながらヒザの上に座らせる。

 

「あうっ、んんっ! うんんっ、神城くんのが、奥まで入って……! ああっ、熱くて、ビ、ビクビクしてるっ……!」

 

 両肩に置いていた手を首に絡めて、体を丸める村山さん。その視線は俺のペニスを咥え込んでいる自らのオマンコへと注がれていた。

 

「すごいな、オマンコがぎゅうぎゅうに絡みついてくるのを感じるよ」

 

「やぁっ、恥ずかしいから言わないで……」

 

「ふふ、ごめんごめん。――じゃあ、始めようか」

 

「う、ん……。最初はゆっくり、ね?」

 

「ああ」

 

 お尻を掴んだままベッドのスプリングを利用して、ゆっくりと体を揺らし始める。

 

 狭く、きゅっきゅっと絞まるオマンコ。最深部の子宮口まで届いているペニスで膣肉を抉るとさらにオマンコは絞まり、村山さんがかわいく体を震わせる。

 

「ん、ああ……、すご、いっ! うんんっ、はぁはぁ……、――っ」

 

 膣道のなかでペニスをビクッと跳ねさせ、膣肉の感触とを楽しみ、同時に目の前で乱れる村山さんの痴態を楽しむ。

 

「はぁはぁっ、ダメ……、わ、私……、もうダメ……」

 

 何度か軽く絶頂を迎える村山さん。彼女はここからが本番だ。

 

「ほら、しっかり捕まってるんだよ?」

 

「え? ――っ!」

 

 両膝を抱えてベッドから立ち上がる。

 

「か、神城くん!? あぐっ、ぅんっ!」

 

 宙吊りになった村山さんが、俺の首に回していた腕に力を込めてしがみつく。

 

「はぁはぁっ、や……、ん、あっ、ううっ」

 

「いくよ」

 

「あ、――んんっ!」

 

 お尻を掴んで、オマンコが壊れてしまわないように調整しながら腰を振る! 子宮口を軽く小突き、雁首で絡みついてくる膣肉を抉り、セックスを楽しむ。

 

「だ、ダメっ! こ、壊れちゃう! わ、私の、オマンコ……、壊れちゃうよぉぉぉっ!」

 

 膣肉がきゅっきゅと収縮しながらペニスに絡みつき、村山さんの眼に薄っすらと涙が溜まり、口からも涎がこぼれる。

 

 俺は村山さんの片方のヒザから腕を外して片足立ちにさせる。オマンコを圧迫するほど大きなペニスを入れたまま体位を変えたことで膣肉が捻れ、感触が変わる。

 

「はぁはぁ、だ、ダメ! ダメだって……!」

 

 Y字バランスの体勢で横からピストンされ、快楽で顔をトロトロに緩ませているのに制止の声をあげている村山さんに言う。

 

「でも、そういうわりには気持ちよさそうだけど?」

 

「――っ! そ、それは……!」

 

 俺の一言で恥ずかしそうに顔を真っ赤に染める村山さん。唇を重ねると自分から口を開いてキスを受け入れた。

 

「ちゅっ、あふっ、あ、じゅじちゅ……、はぁぁ、ぅん……」

 

 ゆっくりと腰を振りながら舌を村山さんの口内に差し込むと、積極的に舌を絡めてきた。

 

「村山さん、ほら、口を開けて」

 

「あ、う……」

 

 従順に、指示に従い雛鳥のように口を開けた村山さんにツバを垂らす。村山さんはそのツバをおいしそうに口のなかで味わうと喉を鳴らして飲み込み、トロンと顔を緩ませ、再び口を開けておかわりを強請る。

 

「エイジ……、くん……」

 

 ツバを溜めてから再び唇を重ねると、村山さんのほうから舌が伸びてきた。

 

 口内に侵入してきた舌に歯や歯茎をなぞられる。口内を這い回る女の舌の感触にゾクゾクする。

 

 侵入してきた舌を唇で挟んでちゅうっと吸うと、連動するかのようにオマンコもきゅぅううっと強く絞まった。

 

 そのままお互いの快感を高めあうように何度も唇を交わし合い、放して腰を動かす。

 

「はぁっ、はぁはぁ……、エイジ、くんっ」

 

 首筋に顔を埋めて荒く息を吐く村山さん。そろそろ精液が欲しいんだろう。

 

「最後までいくよ?」

 

 改めて確認するように訊ねると、村山さんは「うん」と小声でうなずいた。

 

 確認が取れたところで、しっかりと腕に力を入れなおして村山さんの体を抱いて、激しくオマンコをつき荒らしに始める。

 

「んっ、やぁあああ……、くうっ、んんんっ! かっ、かみっ、しろ、くんっ!」

 

 捻れた膣道を無理矢理ペニスで掘削して子宮口をコンコンとノックする。さすが運動部、かなり絞まるな。

 

「ダメっ、私、ほんとに壊れちゃうよぉぉぉっ!」

 

 それに、涙目で目じりが下がって、口は半開きで端から涎が漏れ、頬は赤く気持ちよさそうな声が漏れてる。すごくエッチな表情だ。

 

「村山さんっ、もっといやらしい姿を俺に見せて!」

 

「や、こんな顔、はぁはぁっ! こんなエッチな顔見られたくないよぉぉぉっ」

 

 村山さんは無理矢理体を曲げて顔を逸らそうとするが、関係無しに突き続けながら覗き込む。

 

「うっ、ううっ、あぐっ! はぁはぁっ、や、だ、もうダメっ! イクっ、イクゥウウウ! わ、私っ!」

 

「いいよ! そのまま! 好きなだけイっていいよ!」

 

 腰に腕を回してオマンコを抉り、子宮口をペニスで強く突き上げる!

 

「や、あああああああっ! イクっ、イクゥウウウウウウウ~~!」

 

 絶叫する村山さんにさらに強い快感を送るため、ぐりぐりとペニスで子宮口をこじ開けるように擦りつけ、

 

射精()す! 射精()すよ、村山さん!」

 

 村山さんが絶頂のピークに達したところで俺も欲望を解放する!

 

 ビュルッ、ビュルルッ、ビュルウウウウウウウウ!

 

「――っ、熱っ! んんっ、くっ、だ、ダメぇえええっ! ま、またイクゥウウウウウウウ!」

 

 ビクッ、ビクッと体を大きく痙攣させる村山さん。

 

 そのまま倒れ込みそうになる村山さんを支えて、子宮がいっぱいになるまで精液を流し込む。

 

「はぁはぁ……、……はぁはぁ……、おなか、いっぱい……。あったかい……。――っん」

 

 射精を終えてオマンコからペニスを抜くと、すぐに収まりきらなかった精液がオマンコからどろりとこぼれ落ちてきた。

 

 太ももを伝う大量の精液。ドMで乱暴に扱われながらイカされることが大好きな彼女は十二分に満足したようで、だらしない表情を浮かべたまま余韻に浸っていた。

 

 余韻に浸る村山さんは放心状態でも勝手に2回戦目を始められるのも好きらしいが、まだもう1人が待ってる。

 

 俺は向かい側のもうひとつのベッドへと連れていって横たわらせる。

 

「お疲れさま、気持ちよかったよ」

 

「――ぅ、ん……」

 

 村山さんの額を撫でてから、そのもう1人が待つベッドへと俺は向った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村山さんとの行為を終えてベッドに戻ると、

 

「はぁはぁっ、エイジくん……、わ、私、もう……」

 

 片瀬さんが待ちきれなかったようで、ベッドの端、壁を背もたれに座って、M字に足を開いて両手でオマンコを弄っていた。

 

 ベッドに乗って覗いて見ると、シーツに小さなシミを作るほどオマンコはすでに準備を終えているようだった。

 

「ごめん、すぐに入れてあげるから」

 

 魔法でペニスを清める。片瀬さんはいつものようにうつ伏せになってお尻を向けてきた。

 

 むっちりとした両膝を掏り合わせながら誘ってくる。お尻の穴の下、オマンコの割れ目が掏り合い、愛液がくちゅくちゅと混ぜられてヒザから伝う。

 

「エイジくん……。私、もう我慢出来ないよぉ……」

 

 片瀬さんはシーツを握りしめ、顔だけこちらに向けて強請るようにつぶやいた。

 

「ああ、わかってるよ」

 

 うなずき、後ろにまわって膣口ににペニスの先端を合わせる。

 

 さあ、始めようか。

 

「んっ、く、ああああっ!」

 

 ゆっくりと腰を進めて膣口をこじ開きながらペニスを沈めていく。

 

 細い膣道を掘り進め、子宮口近くで止める。

 

「はぁはぁっ、ううっん……」

 

 小刻みに震えながらペニスを味わう片瀬さんを眺めてから、腰を前後に動かし始める。

 

「ん……、あぁっ、すごっ……いっ」

 

 ずちゅっ、ぬちゅっと、ゆっくりとした速度で膣道にペニスを馴染ませる。

 

 太さでも長さでも平均を超えるペニスだが、夏の夜の初体験から何度も咥えている片瀬さんのオマンコはペニスのカタチを思い出すかのようにすぐに馴染んでいき、狭い膣道が柔らかく解れ、ピストンがスムーズになっていく。

 

「あっ、ああっ……、んっ……、んんっ」

 

「もっと気持ちよくしてあげるよ」

 

 片瀬さんのお尻を掴んでペニスの角度を変えてピストンする。Gスポットと呼ばれる場所をペニスの雁部分で削ぎ、膀胱目掛けて先端を擦りつける。

 

「――っ、そ、そこは……、だ、ダメっ! んぁっ、ダメだよぉぉぉっ!」

 

 Gスポットから送られる大きな快感に悲鳴を上げる片瀬さんだが……。

 

「ふふっ、本当はもっと弄って欲しいんだろ? 自分から腰を擦りつけてくるぐらいだもんな」

 

「――っ」

 

 俺の言葉に片瀬さんはビクッと体を跳ねさせた。

 

 俺はピストンを止めて片瀬さんの背中に覆いかぶさり、首元に顔を埋めて囁く。

 

「ほら、正直に言うんだ。どうして欲しいのか、俺に言ってくれ」

 

「わ、私……、――っ」

 

 片瀬さんの首筋を舌で舐める。口に片瀬さんの汗の味が、鼻に片瀬さんの女の子の匂いが広がった。

 

 首筋を攻めながら片手を胸に回し、もう片方の手でペニスを咥えて大きく口を開いてるオマンコのスジ肉をなぞる。

 

「ん、はぁはぁ……、や、くぁっ、……んっ」

 

 首筋を舐める度に、胸を鷲づかみ、乳首を摘まむ度に、クリトリスを指の腹で弄る度に、オマンコに挿入してるペニスから片瀬さんがどういう状態なのかが伝わってくる。

 

 動かしていないのに勝手にきゅっ、きゅぎゅぅっとオマンコがひくつき、片瀬さんの唇から甘い吐息と体に汗が滲む。

 

 ああ、本当にいいなぁ。

 

 片瀬さんの両腕を取って後ろに引く。

 

「きゃっ!? エイジく……、んああああっ!」

 

 両手を後ろへ引っ張られたことで片瀬さんの上半身が持上がる。

 

「ほら、気持ちいいか!?」

 

 後ろへ体を引きながら腰を突き出し、子宮口にペニスをめり込ませる。

 

「あぅんっ! だ、ダメ! 私……、ほんとに気持ちよく、気持ちよくなっちゃうよぉぉぉっ! エイジくんの精子、欲しくなっちゃうぅぅぅっ!」

 

 大きな悲鳴を上げる片瀬さん。彼女の表情は快楽で完全に染まっている。

 

 村山さんと同じくドMな片瀬さんだが、痛みも快楽と感じる他に彼女は痴態を見られるのも大好きで、アナルを弄られるのが大好きだった。

 

「そろそろここも虐めてあげようか?」

 

 片手を離してヒクヒクしてるアナルに親指を宛がう。

 

「――っ! お尻の穴!?」

 

「そうだよ。大好きだろ?」

 

「そ、んな……。わ、私っ……」

 

 恥ずかしそうに顔を逸らす片瀬さんに、意地悪するように言う。

 

「弄ってほしいのなら正直に言わないとダメだ」

 

「……ぅぅ」

 

「――ほら、弄って欲しくないのか、欲しいのか? 言ってごらん」

 

 片瀬さんのクパクパひくついてるアナルに親指を当てながら訊ねると、片瀬さんは顔を真っ赤にしながら、

 

「い、弄って……、弄って、エイジくん! 私のお尻の穴! 私、大好き! 私っ、お尻の穴虐められるの大好きなの!」

 

 と大声で叫んだ。

 

「アハハッ! じゃあ、たっぷり虐めてあげないとな!」

 

 片瀬さんのアナルに宛がった指を少し前に突き出すと、ずぶぶ……っとほとんど抵抗もなく指を飲み込んでいった。

 

「くっ、あははぁぁっ! エイジくんの指が入ってる! いいっ! 気持ちいいよぉぉぉっ!」

 

 挿入されることに慣れているアナルは指を容易く受け入れる。

 

 親指を抜いて、人差し指で縦横無尽にアナルを掻きまわす。まだまだ余裕がありそうなアナルだが、いまは指一本でかき回してやろう。

 

「あひっ! んはああっ! くっ、すごい! はぁはぁ……、あはははっ! 気持ちいい! お尻弄られるの好きぃぃぃっ!」

 

 どんどんハイになっていく片瀬さん。

 

 アナルを緩めているぶん、膣道も緩くなっているが、それがピストンをスムーズにしていた。

 

 膣肉を雁首で削ぎながら、アナルを穿り回し続けると片瀬さんが絶頂を迎え始める。

 

「はぁはぁっ! イク! イクよ、エイジくんっ! 両方の穴をズボズボされながら、私っ、思いっきりイクからね!」

 

「ああ! 俺もイク! 存分に中出ししてやるからな!」

 

「うん……、うんっ! いっぱい、いっぱいちょうらい! ――んっ、くぅぅんっ……、あははっ、イクゥゥゥウウウウウ~!」 

 

 ビュッ、ビュビュッっと片瀬さんのオマンコから潮が噴きだし、精子を欲しがって子宮口が強く吸いついてきた! その吸いつきに合わせて子宮口に射精口を宛がい、

 

射精()すぞっ!」

 

 射精を開始する。

 

 ビュル、ビュルゥウウッ、ビュウウウウウ! ビュッ、ビュッ!

 

 何度射精しても量がまったく衰えない精液が片瀬さんの子宮に放たれる。

 

 子宮を一瞬で精液が満たし、満たしても無理矢理注ぎ込まれ続ける精液に片瀬さんの背が弓なりに反れる。

 

「ああぁぁあああああああああああああ~!」

 

 防音しておかなければワンフロア全部に響き渡っただろう声で絶叫しながら絶頂に達した。

 

 絶頂に達している片瀬さんを無視して射精途中のペニスを抜き、すぐにアナルへとペニスを挿し込む。

 

「――んんんんっ! ――っ! く、あ、あ、あっ……!」

 

 ビクッ、ビクッ! っとまるで電流でも流されているカエルのように、大きく体を震わせる片瀬さんの緩みきったアナルへと再び射精する。

 

「ふう……」

 

 射精が完全に終わったところで両手で片瀬さんの尻を両側から挟み込み、ゆっくりズブズブと精液などの体液を無理矢理絞めさせた肛門で拭うように落として抜く。

 

「はぁひぃ……、はぁひぃぃ……。……はぁひぃぃぃ……」

 

 オマンコとアナルの両方から精液を漏らしながらベッドに倒れ伏した片瀬さんはそのまま眠るように気を失おうとするが……。

 

「じゃあ、今度は3人で始めようか」

 

「ん、村山さん?」

 

 いつの間にか復活した村山さんがベッドに上がってきて、うつ伏せで倒れていた片瀬さんの体を仰向けにして覆い被さってきた。

 

「はぁはぁ……、……え? ちょっ……」

 

 状況が飲み込めないという様子を見せる片瀬さんだが、3人でするときにたまにしている。

 

 村山さんは片瀬さんと手を組んで、頭の位置でベッドに貼り付けるとオマンコを同士を重ね合わせながら、

 

「さあ、めしあがれ♪」

 

 と微笑んだ。

 

 俺は魔法でペニスを洗浄して迷うこともなく、2つの貝の間に挿入した。

 

 第2回戦は3Pだな。

 

 それから2時間ほどセックスを続け、明日に疲れを残さないためにも1時間じっくり全身マッサージを行なってから部屋へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自室に帰ると時間はまだ深夜10時30分から少し過ぎたぐらいだった。まあ、時間を停めていたから当然となんだけど。

 

 自室に戻ってゆっくりしていたときだった。

 

 コンコン。

 

 部屋の扉がノックされる。

 

「はい」

 

 返事をすると――。

 

『や、夜分遅くにすみません。ロスヴァイセです』

 

 ロスヴァイセ? こんな時間にどうしたんだ?

 

「どうぞ」

 

『しっ、失礼します!』

 

 そう言って入ってきたのはロスヴァイセだった。なにやら緊張している様子で、服装もジャージ姿ではなく、戦乙女の鎧姿だった。アザゼルとセラたんが調べると言っていたが、何か状況が動いたのか? 

 

「何かあったのか?」

 

 2人きりなので上下関係を逆転させて訊ねる。

 

「い、いえっ、その……」

 

 言いにくそうに言葉を濁すロスヴァイセ。視線は泳ぎ、頬は赤く、体も強張っている。

 

 本当にどうしたんだ? この様子からして状況が動いたことについての報告じゃないよな? 状況が動いた報告ならロスヴァイセはちゃんと報告するだろう。

 

「とりあえず、入り口に立たせているのも悪いし、こっちに来て座らないか? 京都での一件についてじゃないんだろう?」

 

「は、はいっ!」

 

 やっぱり京都での一件ではなく、別件のようだ。

 

 ロスヴァイセは俺が座っている布団の足元、入り口側に正座して座る。

 

 まだ緊張している様子で視線を泳がせ、ふと目線が合うと真っ赤になって顔を俯かせた。

 

 え~と、なんだこの状況?

 

 しばらくロスヴァイセが話し始めるまで待っていたが、話を切り出しにくそうに口をパクパクさせたり、頬を赤らめて視線を逸らすだけだ。

 

 話しにくそうなのでこちらから話しかけてみる。

 

「いったいどうしたんだ? 何か話しにくいことなのか?」

 

「え、えっと、ですね……。その……」

 

 もじもじと恥ずかしそうに、言い難そうにロスヴァイセは話し始める。

 

「…………、……」

 

「ん? ごめん、ロスヴァイセ。もう1回言ってくれないか? 少し聞えづらくて……」

 

「すみませんっ。そ、そのですね……。こ、こんな状況でど、どうかと思うんですけど……、わっ、私と、その……、せ、セックスをして、い、いただけませんか……?」

 

「…………」

 

 今度は聞えた……。最後のほう、小声で早口で聞き取りづらかったけど、聞えた。聞えたんだけど、これは現実か?

 

 悪魔に転生してからのここ数ヶ月、自分でも自覚するほど快楽に酔いしれ、快楽を楽しむ生活をしているが……、いや、まあ、悪魔でも性欲の権化たるインキュバスだから当然だろうけどさ。

 

 あのロスヴァイセが自分からセックスしたいって言うか? 最近勇者が減って就職難で財政難で、人間の女子大生やOLみたいになってきた戦乙女のなかでもお堅い部類に入るだろうロスヴァイセが、深夜に押しかけてきて自分からセックスしたいなど……。

 

 いくら勇者と戦乙女の関係で、元から好感度と信頼度が高めだからって、ガチガチの処女と書いて戦乙女と読みそうなぐらいエロいことに奥手のロスヴァイセが自分からセックスしたいなど言うか?

 

「あ、あの……、エイジさま」

 

「ん? ああ、ごめん。ちょっと考え事……、というか混乱してた。――えーと、ロスヴァイセ?」

 

「は、はい……」

 

「本気……、だよな?」

 

「……はい」

 

 うん、冗談では言わないよな。だから本気なんだろうけど――。

 

「いいのか? 俺がはじめての相手で。こう言ってはなんだが、知り合ってまだ1ヶ月も経っていないし、まだロスヴァイセが仕えるに値する勇者だってところも何も見せてないんだぞ?」

 

 ロスヴァイセと初めて会ったのは夏休み。冥界でソーナ会長とレーティングゲームを行なったあと、そのゲーム中に負傷したイッセーの見舞いに行ったときの病室でだ。そして、その次に会ったのは日本の神々と和平の会談を開くために来日したオーディンの護衛でだ。

 

 日本の神々とオーディンが行なった和平の会談後に、護衛対象であるオーディンが先に北欧に帰ってしまったことで、いろいろあって戦乙女見習いに降格されたロスヴァイセが、戦乙女と再び昇格するために勇者認定されている俺と、その戦乙女であるセルベリアの下で修行兼修行後に俺に仕える予定で、リアスの口ぞえ……、むしろ洗脳? もあって転生悪魔へと転生して一緒に暮らし始めたわけだが、体を許されるまでの関係となっているのかは不明だ。

 

 ロスヴァイセは真剣な面持ちになって、困惑する俺に言う。

 

「わ、私はまだ見習いですが、あなたの戦乙女です。それに、あなた以上の勇者との出会いはこれから絶対にありえないと思うのです。わ、私はこの機会を逃したくありません。…………処女捨てるいい機会ですし、しかも相手は戦乙女の誰もが仕えたいと憧れてる大勇者で玉の輿。最っ高じゃないですか!」

 

 おーい、最後のほうで欲望漏れてますよー。悪魔になって欲望に正直になり始めたか?

 

「――ハッ! い、いえ、まあ、私もその……、生徒を導き監督する教師として参加してる修学旅行の夜で、自ら生徒と淫行に及ぶことについて何も思っていないわけじゃないのですが、大先輩であるセルベリアさんが『主からの寵愛は早めに受けておいたほうが修行に身が入るぞ。まあ、いつ体を許すか、許さないのか決めるのはおまえ自身だがな』とおっしゃられて、偶然その場にいた黒歌さんが『やるなら修学旅行の夜が定番にゃん♪ 消灯時間が終われば教師の義務からも解放されるんだし、気にする必要ないにゃ』と……」

 

「…………」

 

 ロスヴァイセが押しかけてきたキッカケはセルベリアと黒歌か……。ていうかモノマネ上手いな。

 

「も、もちろん、教師の義務を放棄するのは問題だということは理解しています。ですが……、いまこのタイミングを逃すと勇気がでなくて……。――だ、だから、お願いします! 私とセックスしてもらえませんか!?」

 

 思い切って大声で言うロスヴァイセ。本当なら部屋の外に声が漏れていただろうが、前もって防音結界張っておいているので大丈夫。

 

 ロスヴァイセはもうここまで来たら引き下がれないとその勢いのままにじり寄ってくる。

 

 ヒザ立ちで布団に乗ってきて、血走った眼で下半身を見つめながら言う。

 

「は、はじめてなのでじ、自信はないですが……、シュミレーションは何度も繰り返してますし、か、体には自信があるので、気持ちよくできるかと思ってます。で、ではいざ――」

 

 ロスヴァイセが俺のズボンに両手をかける。

 

「ちょ、ちょっとロスヴァイセ!?」

 

 慌てて停めようとするが、1歩遅かった。そのままズボンと一緒にパンツをずらされ、ペニスがボロンっと外へ露出する。

 

「――っ! こ、これが男性の……! お、大きなキノコみたいで、血管が浮いてて、ぐ、グロテスクですが……、見てると股が熱くなって、臭いも男臭くて濃厚で、嗅いでると頭がクラクラして……。こ、これが女性としての本能なんでしょうか?」

 

 頬を赤く染めてペニスを見つめながら感想を漏らすロスヴァイセ。ここまで来られたら俺も答えないといけない。

 

「ロスヴァイセ、改めて聞くが本当にいいのか?」

 

 ペニスから視線を戻して顔を上げたロスヴァイセは俺の目を見ながらうなずいた。 

 

「――はい。まだ短い期間ですが、見習い戦乙女として一緒に暮らし始めて、私は立場を抜きにしてもあなたに好感を持っていると自覚しています。だから、私とセックスしてください」

 

…………。

 

「俺も……、俺もロスヴァイセが好きだ」

 

「す、好きですか!?」

 

「ああ、生真面目で時々融通の利かないところもあるけど、何事にも一生懸命なロスヴァイセが好きだ」

 

「――っ、……キャッ!」

 

 真っ赤になって俯くロスヴァイセだが、俯いた先に丁度露出しているペニスがあったため、慌てて横へ顔を背けた。

 

「ふふっ」

 

 そんなロスヴァイセがおかしくて、かわいくて自然と笑みを溢してしまう。

 

「ムッ……。笑うなんて失礼ですよ」

 

「ゴメンゴメン。でもすごくかわいかったからさ」

 

「――っ。も、もう、あなたは本当に平気でかわいいとか言いますね! ダメですよ、あんまり女性を褒めたら! 勘違いしちゃうじゃないですか!」

 

「勘違い? 違うよ。本気でかわいいと思ったんだ」

 

「――ううっ」

 

 ますます顔を真っ赤にするロスヴァイセ。ああ、もう我慢できないなぁ。

 

「ロスヴァイセ」

 

「…………はい」

 

「一緒に最高の夜にしよう」

 

「――はいっ」

 

「ふふっ、今夜は寝かせないからね?」

 

「え、あ……、で、できれば明日に響かないようにしてもらえると……」

 

 まだまだ長い夜が続きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は深夜11時。薄暗くした和室のほぼ中央に敷いた布団の上に、本来そこで眠るはずの俺ではなく、ロスヴァイセが仰向けで寝転がっていた。

 

 いまのロスヴァイセは部屋にやって来たときの戦乙女の鎧ではなく、一糸まとわぬ裸だった。

 

 悪魔の眼が部屋の暗がりなどを無視して昼間のようにロスヴァイセの裸体を映し出す。

 

 サラサラの細く長い銀髪。蒼い瞳。知的でクールそうに見えるが、どこかやさしげな印象の顔立ち。白すぎない陶器のような肌。戦乙女として鍛え込んでいるためかスレンダーな体つきだが、筋肉は目立たずに女性らしい丸みと曲線を描いている。特に胸のバランスも見事だった。

 

 さらに下へと視線を向けると、産毛すら生えていない恥丘と、その下にロスヴァイセらしく、ぴったりと閉じたオマンコが覗けた。そこから伸びる足も美しく、美の女神と称していいほど美しい。

 

 そんな彼女は緊張しているのだろう。体を強張らせ、両手を腰にぴったりとつけて目を伏せて、少しだけ震えている。

 

 まずは緊張を解さないといけないな。

 

 ロスヴァイセに近づいて腰にぴったりとつけている手を取って、やさしく握る。

 

「ロスヴァイセ」

 

「は、はいっ!」

 

「無理矢理襲ったりしないから、そんなに緊張しなくてもいいんだぞ」

 

 と、やさしくつぶやくが――。

 

「はっ、はい! 私は大丈夫です!」

 

 ロスヴァイセはさらに体を強張らせる。まあ、予想通りだ。

 

 緊張で体を必要以上に強張らせているいまの状態でセックスしてもおそらく上手くいかないだろう。

 

 ロスヴァイセと手を繋いだまま俺も布団に寝転がる。寝転がってただ身を寄せる。

 

「……エイジさま?」

 

 そんな俺に恐る恐るといった様子で声をかけてくるロスヴァイセの緊張がほぐれてくれるようにと、なるべく気安く笑いかける。

 

「エイジって呼んでくれ。さま付きで呼ばれるよりも、エイジって呼んでもらえるほうが嬉しいんだ」

 

「わ、わかりました。……え、エイジ」

 

「うん、やっぱり名前で呼ばれるほうがいいな」

 

 距離がぐっと縮まったように思えるし、恥ずかしそうに俺の名を呼んでくるロスヴァイセはすごくかわいらしい。

 

「ロスヴァイセ」

 

「……はい」

 

「まずはお互いを知り合うためにも触りっこから始めないか?」

 

「触りっこ……、ですか?」

 

「そう、触りっこ。お互いこういうことをするのははじめてなんだからさ。まずは触れ合って知り合いたいんだ」

 

「エ、エイジは様々な女性としてるんですから、女性の体について熟知してるのではないですか?」

 

「まあ、そうだけど。ロスヴァイセとははじめてだろ?」

 

 そう。修行後のマッサージでは触っていたが、セックス目的でロスヴァイセに触れるのははじめてなんだ。

 

「俺はロスヴァイセと触れ合ってお互いをもっと知り合いたい。――ダメか?」

 

「――っ。…………。……ダメじゃ、……ないです」

 

 俺の問いに戸惑いながらも、小声で真っ赤になってしっかり許してくれたロスヴァイセ。――っ、か、かわいすぎるな! 甘えさせたい年上のお姉さんって感じがして甘えさせてあげたくなる!

 

 ロスヴァイセからの許可はもらったが焦らずにゆっくり……、まずは一方的に掴んでいた手を、指を絡めてしっかりと繋ぐ。

 

 少し汗ばんでいるロスヴァイセの手。ロスヴァイセもそれが気になるのか繋いだ手を離そうとするが、離していいのか悩んで、手に力を入れたり、抜いたりする様子もかわいらしく、愛おしかった。

 

 いますぐにでも野獣と化してロスヴァイセの肉体と心を余すところなく犯したいが、我慢する。

 

 ――サワッ。

 

 ――なっ!? ロ、ロスヴァイセさん!?

 

「す、すごいです……。コレが男性のペニス……。熱くて、骨がないのに硬い」

 

 触りっこを始めようと言いましたが、いくらなんでも最初にそこはいきなりすぎませんかロスヴァイセさん!?

 

「――あっ、す、すごい。どんどん大きくなってる。ビクビクしてて、先から何か出てきた? おしっこや精子などとは違うようですね。これがカウパーというものなんでしょうか? ――んっ、これが精巣……玉袋なんですね」

 

「――くっ」

 

 突然玉袋を握られた驚きで声を漏らしてしまう。ロスヴァイセは俺が声を漏らしたことで我に返ったのか、バッと玉袋から手を離す。

 

「す、すみません! 痛かったですか!?」

 

 不安げに訊ねてくるロスヴァイセを心配させないように慌てて否定する。

 

「い、いや! 痛くないよ! むしろ触られて気持ちいいと言うか……」

 

「そうなんですか?」

 

「あ、ああ。あまり強く握られるといたいけど、手の平で転がされるのは気持ちいいんだ……」

 

「そうなんですか……」

 

 俺が痛がったりしていないとわかったロスヴァイセは再び手を伸ばして、玉袋を弄り始める。

 

 生まれてはじめて触れる……、いや、弄る男性器が珍しくて楽しいのか半身になって夢中で弄り続ける。……俺の位置から胸が丸見えになっていることも気づかずに。

 

 ロスヴァイセに夢中で弄られ続けたペニスが元気になり、天井へ向けて弓なりにビィンッとそそり立つ。

 

 赤ん坊の腕よりも太く、長さも20センチ以上はあり、エグいと現すのが1番あっている女泣かせの凶悪な雁首と、浮き出た血管が目立つ竿。大量の精子を生成し、溜め込んでいるのがひと目でプリプリの玉袋。黒く太い陰毛がさらにペニスに迫力を倍加させていた。

 

 そんな凶悪で、ものすごい迫力を放っているペニスだが、ロスヴァイセは平気で弄り続ける。

 

「ええっと、確か……、手で竿の部分を握って上下に擦る……、でしたよね?」

 

 ペニスの竿を細て長い指で掴んで上下に扱き始める。

 

「ああ、すごいです。カウパーがたくさん……。それに、ビクビクしてる。……うふふ、気持ちいいんですね?」

 

「すごく……、すごく気持ちいいよ、ロスヴァイセ」

 

 焦らしたり、弱い部分を集中的に弄ったりというテクニックはなく、ただ上下に扱かれているだけだが、ガチガチの処女であるロスヴァイセが夢中でペニスを弄っているという状況が俺を興奮させた。

 

 そろそろ次のステップに進んでいいか。というか、進みたい。

 

 楽しそうにペニスを弄っているロスヴァイセに声をかける。

 

「ロスヴァイセ」

 

「はい? ――っ!?」

 

 声をかけられて顔を上げたロスヴァイセに顔を近づけて……、不意打ち気味に唇を奪った。

 

「ロスヴァイセ」ともう一度名前を呼んで唇を重ねる。

 

 始めは驚き顔で体を強張らせたロスヴァイセだったが、次第にゆっくりと表情を緩ませ、体から緊張を抜いていった。

 

「……ぁ」

 

 唇を離すとロスヴァイセは潤んだ瞳でこちらの顔を見つめてきた。突然キスしてきたことに戸惑っているけど、何を言っていいのかわからないっといった風だ。すぐに視線を逸らして頬を朱色に染めた。

 

 俺はロスヴァイセと触れ合っている腕とは反対の腕を伸ばして肩に触れる。

 

「――っ」

 

 少しだけ体を跳ねさせたロスヴァイセが受け入れやすいように、陰部ではなく肩に軽く触れるだけに留めてまずは体を寄せ、改めて視線を胸にもっていった状態で「触るぞ?」と訊ねる。

 

 ロスヴァイセもその問い意味……、どこを触ろうとしているのかを理解し、覚悟を決めて小声で「……はい」とうなずいた。

 

 ゆっくりと手をロスヴァイセの胸へともっていき、――触れる。

 

「――っ」

 

 男に触られることに慣れていないロスヴァイセは目を閉じる。おそらく胸に触れている俺の手を払ってしまいそうになるのを我慢しているのだろう。

 

「スベスベでやわらかくて、手に吸いついてくる。それに、綺麗だ」

 

 それに感触だけでなく、ロスヴァイセの体温と心臓の鼓動が手の平から伝わってくる。

 

 手の平に感じる小さな突起がやわらかさのなかに存在し、手を少し動かすとそれが引っかかって気持ちがいい。

 

 指に力を入れて揉んでみる。

 

「――っん、……はぁ」

 

 細く美しい眉を歪み、薄いピンクの唇から甘い吐息がこぼれる。

 

 胸を掴んでいる手を離して指先で乳首に触れる。

 

 本当に先っぽの乳首まで美しい。きめ細かい白い肌の先端を彩るピンク色の乳輪の形といい、小豆ほどの乳首といい、穢れのない美しい胸。

 

 それを好きにできるなんて……。

 

「はぁはぁ……、エ、エイジ……」

 

 ――ああ、ロスヴァイセにもっと……、もっと触れたい。

 

 俺は再びロスヴァイセの唇を奪う。舌を出してロスヴァイセの唇を舐める。

 

「……ぁ、ん……」

 

 少しだけ開いたロスヴァイセの唇に滑り込ませるように舌を差し込み、歯を舐める。

 

「――っ」

 

 ロスヴァイセは驚きで体を震わせるが、逃げようとはしない。

 

 驚き、戸惑っているが、拒絶はしない。

 

 ゆっくりだけど俺を受け入れ始める。

 

「ロスヴァイセ……、ん……」

 

「あ、あふ……。ふぁぐ……」

 

 激しいキスに快楽を感じ、トロトロに表情を緩ませ、体から力が抜けてきた様子のロスヴァイセ。

 

 すっかり拒絶するのも忘れて口を大きく開き、舌先でロスヴァイセの小さな舌を撫でながら、唾液を送り込むとロスヴァイセも自分から舌を動かして唾液を受け取り、ゆっくりと味わうように喉を動かして唾液を飲みほした。

 

 一旦、唇を離してロスヴァイセの顔を覗くと、ロスヴァイセがハッと我に返った。

 

 我に返って先ほどまで行なっていたキスを思い出し、唇に手を当てて恥ずかしそうに顔の朱色を濃くしながら、笑みを浮かべた。

 

 その笑みは、ガチガチの処女だったロスヴァイセが男である俺を受け入れ、快楽に侵され始めたことを現しているようだった。

 

「ロスヴァイセ、俺のも触ってくれ」

 

 ロスヴァイセの手を取ってペニスに触れさせる。

 

 ロスヴァイセも最初だけ戸惑いを見せるものの、すぐにペニスを握って力を込めた。

 

 ペニスの竿を握り、上下に扱き始めるロスヴァイセ。俺もロスヴァイセの胸を掴んで揉み、乳輪を指の腹でなぞり、乳首を摘まむ。

 

「はぁはぁ……、んんっ、うく……」

 

 唇を重ね、激しく舌を絡め、唾液を交換し合いながら快楽に身を委ねて堕ちていく。

 

「はぁはぁ……。ん、あふ……、ちゅ、ん……、はぁはぁ、……エ、イジ……」

 

 女が発情した匂いと情欲に支配された表情。

 

 先ほどからオマンコが気になるようで、もじもじとヒザを悩ましく擦り合わせていた。

 

 ああ、この匂い……、我慢できない……。

 

「ロスヴァイセ」

 

「はぁはぁ……、エイジ?」

 

 唇を離すとロスヴァイセは「もう終わりなんですか?」と残念そうな表情を浮かべ、「もっとキス欲しいです」とおねだりするような視線を送ってきた。

 

 そんな視線を受けて再びキスをしたくなるが、それよりも俺は――。

 

「ロスヴァイセのすべてが見たい」

 

 胸を愛撫していた手を太ももへ、そしてオマンコへともっていき、体を起こしてロスヴァイセを見つめる。

 

「え、エイジさま!? でも、そ、そこは……」

 

 俺の視線を受けて呼び方も戻して戸惑うロスヴァイセだけど……。

 

「…………み、見ても笑ったりしないでくださいね?」

 

 とすぐに許してくれた。

 

 布団に背中をつけて仰向けになったロスヴァイセの下半身のほうへ、ヒザ立ちになって移動する。

 

 長くて細くバランスの良い美脚で隠されたオマンコを見るためにヒザの間に両手を滑り込ませた。

 

「――っん」

 

 ヒザの間に手を入れられたことに思わず声を漏らすロスヴァイセ。

 

 その姿はとてもかわいらしく、いじらしくて、さらに興奮してしまう。

 

 ゆっくりと力を入れてヒザを左右に開く。

 

 まずは肩幅まで開き、途中で閉じたくても閉じれないように体を滑り込ませ、改めてロスヴァイセのオマンコを覗く。

 

 ツルツルした無毛の恥丘。その下で口をしっかりと閉じている柔らかそうなマンスジ。指でやさしく左右に開くと想像していた通りの薄いピンク色が現れ、ほぼ透明でトロリとした雌の匂いがする愛液が間から少し漏れてシーツへと伝った。

 

「綺麗だ。すごく綺麗だよ、ロスヴァイセ」

 

「そ、そんなところ綺麗なはずがありません。……うう、そんなに見ないでください。恥ずかしいです……」

 

「ふふ、だけど、これからもっと恥ずかしくなるぞ」

 

 ゆっくりと上半身を折ってオマンコへと顔を近づけていく。

 

「え? ――っ!? エイジさま!? だ、ダメです! 何をしようと……」

 

 ――ペロ。

 

「く、んんっ!」

 

 ビクッとロスヴァイセの体が跳ねる。

 

「うまいな」

 

「――っ!? エイジさまっ」

 

 自然に口から出た感想に、ロスヴァイセは羞恥を感じたのか両手を使ってオマンコに顔を埋める俺を引き剥がそうとしてくるが……。

 

「ああっ! くっ、はぁはぁ……、やっ、だ、ダメ……、ペロペロしたら……! ――ぁん、んんっ! はぁはぁっ、くぅうんっ……」

 

 プニプニしたマンスジを指で左右に開いて、その間を舌を使ってペロペロと舐めてあげると、引き剥がそうとしている手から力が抜けた。

 

「ああ、すごくいい匂いだ。クラクラするよ。愛液もどんどん溢れてきて……、気持ちいいんだな、ロスヴァイセ」

 

「わ、私のヴァギナをエイジさまが……! はぁはぁっ、エイジさまが私のを舐めて……!」

 

 ロスヴァイセはうわ言のようにつぶやきながらビクッビクッと体を震わせ、オマンコから大量に愛液を溢れさせる。

 

 開かせたオマンコを改めて覗いて見ると、皮を被った小さなクリトリスに、かわいらしい尿道口。そのすぐ下で口を薄く開き、時おりピクピクとヒクついている膣口は処女であることがひと目でわかるほど美しいな円状の淵を描いていた。

 

「ああ、ロスヴァイセ……」

 

 ロスヴァイセの女の部分を改めて見た俺の興奮はさらに昂ぶり、その昂ぶりに従いロスヴァイセの腰に腕を回して顔を直接オマンコに押しつけた。

 

 押しつけて、やさしく丁寧に掃除するように舌でオマンコを舐めしゃぶり、快感を送り込む。

 

 オマンコの内側を舐めつつ、尿道口と膣口を舌の腹で磨き、ゆっくりと解していく。

 

「はぁはぁ……、あぅぅ……、す、すごい……。はぁはぁ、すごく、気持ちいいですぅぅ……」

 

 オマンコを舐められることを受け入れ始めるロスヴァイセ。

 

 俺もロスヴァイセがさらに快楽に身を委ねられるようと、丁寧な愛撫を継続させて快楽を送り込み続ける。

 

「んっ、あ、く……。ん……」

 

 ずっと舐め続けているとロスヴァイセの声音の質が変わり始めてきた。悩ましげで、強い快楽を求め、もっと激しくオマンコを弄って欲しいと望んでいるような声だ。

 

「はぁはぁ……、……っ。はぁぁ……、んんっ」

 

 ロスヴァイセの股が広がってきた。そろそろかな?

 

 顔をさらに埋めて舌先で膣口をなぞる。

 

「――っ」

 

 膣口を弄られてビクッと体を震わせるものの、快楽に支配されているロスヴァイセは抵抗せずに愛撫を受け入れる。

 

 ロスヴァイセの膣口にゆっくりと舌先を侵入させていく。

 

「んっ、あ、ああ……、舌が入って――!」

 

 やわらかくも狭い膣口が舌で押し広げられていき、舌先が処女膜に触れる。

 

「――っん!」

 

 びくりと体を跳ねさせるロスヴァイセ。痛みを与えないようにやさしく舌でやさしく処女膜をなぞる。

 

 舌でなぞり、味わいながら、早くこの膜をペニスで破り、ロスヴァイセのオマンコを楽しみたい。子宮口をこじ開け、たっぷりと精液を子宮に流し込みたいと、そんな黒い男の欲望が溢れ、愛撫を加速させる。

 

「はぁはぁ、美味しい。美味しいよ。ロスヴァイセ」

 

 舐め犬のようにロスヴァイセのオマンコに顔を埋め、鼻でロスヴァイセの雌の臭いを、口でほんのり酸っぱい愛液を味わいながら膣口を舌で拡げていく。

 

「や、あああ……、そ、そんなにペロペロ舐めないでくださいぃぃ……。はぁはぁっ、く、や、んんっ! ――ああっ!」

 

 膣口を解していると突然ロスヴァイセが悲鳴をあげて体を跳ねさせる。

 

 ビクンッと跳ねさせた体が小刻みにビクビクと震え、どろりと愛液が分泌され、侵入させている舌をきゅきゅっと絞めつけてきた。

 

 どうやら軽くイッたみたいだ。

 

 少しだけ愛撫を緩め、膣口から舌を抜いてオマンコ全体をゆっくりと舐めてあげる。

 

「はぁはぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

 イクという感覚をゆっくりと楽しんでいるのか、体に覚えこませているのか、だらしなく股を開いていいようにオマンコを舐められ続けるロスヴァイセ。

 

 まだ完全にオマンコがほぐれたわけでないが、オマンコから口を離して起き上がる。

 

 起き上がると、もう限界だといわんばかりにペニスがそそり立ち、先からカウパーを溢れさせてビクビクと震えていた。

 

「ロスヴァイセのなかに挿入()れたい……。――挿入()れるぞ」

 

 欲望が口から出てしまい。抑えが効かなくなった。

 

 ロスヴァイセの許可も確かめずにペニスの先端を膣口に宛がう。

 

「――っ!」

 

 膣口に触れるペニスを感じて慌てて我に返るロスヴァイセ。

 

「え、エイジさまっ」

 

「ゴメン、ロスヴァイセ。もう少し時間をかけて解してあげたかったけど、我慢できない。いますぐロスヴァイセが欲しくて堪らないんだ」

 

「わ、私……」

 

挿入()れるぞ」

 

 ――クチュ。

 

「――っ! エイジさまっ!」

 

 腰を前に進めて突き入れようとした瞬間、大声をあげたロスヴァイセに慌てて腰を止める。

 

「どうしたんだ? 正直、ここまできて止めるのは無理だぞ。……というか耐えられない」

 

「い、いえっ、も、もう処女を散らす覚悟はき、決めました! わ、私が言いたいのはですね……。その……、避妊具……。――こ、コンドームはつけないのですか!?」

 

 真っ赤になって叫ぶロスヴァイセ。

 

「ああ、コンドームか」

 

「は、はい! い、一応まだエイジさまは学生なわけですし、ま、万が一に出来てしまうと……。い、いえっ! エイジさまとの赤ちゃんがほしくないわけじゃないですよ! むしろほ、欲しい……、というかなんと言っていいのか……。だ、だけどまだ早いというかですね……。と、とにかく避妊は大切だと思う、んです……」

 

 最後は両手の指を合わせながらもじもじと消え入りそうな声でつぶやいたロスヴァイセ。

 

 これはなおさら中出ししないとおさまりがつかないだろ。

 

 ペニスを膣口に宛がったまま、ロスヴァイセの下腹、子宮辺りに手を置く。そして、置いた手に力を流し、小さな魔法陣がロスヴァイセの腹に現れ、消える。

 

「――え?」

 

 疑問符を浮べるロスヴァイセに言う。

 

「安心しろロスヴァイセ。直接避妊の術式を子宮に施した。これから72時間の間、いくら子宮に精子を注ぎ込もうと絶対に妊娠しない。それに魔法で清めているから性病の心配もない」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ああ、だから思う存分に愛し合おう、ロスヴァイセ」

 

「――っ」

 

 キョトンと目を見開いて、即座に顔を真っ赤に染めたロスヴァイセは、そのままハニカミながら「はい」っとうなずいてくれた。

 

「――行くぞ」

 

「はいっ」

 

 改めて了承を得て、ゆっくりと腰を進め始める。

 

 ペニスが小さな膣口にめり込んでいくが、まだ細く硬い処女穴はペニスを拒絶するかのようになかなか進まない。

 

「はぁはぁっ……、くっ、んんっ!」

 

 ただでさえ太く長いペニスだ。処女膜に触れる前でもロスヴァイセは痛みを感じているようで、表情をゆがめていた。

 

「痛っ……、……んぁっ。……はぁ、はぁぁぁ……」

 

 目を細め、指を唇に当てながら、膣口を広げるペニスから逃げようと腰を……、ん? あれ?

 

 逃れようと腰を引いて――。

 

 ――グッ、ググッ……。

 

「痛っ、ああっ、太くて……、キツ……、んん、んっ! はぁはぁ……、うふ……、痛っ」

 

 …………。自分から腰を押しつけてる? 自分から……。

 

 あ、ああ……、そういえばロスヴァイセってドMだったな。痛み=快楽と感じるタイプの。

 

 ああ、何で忘れていたんだろうな。

 

 あまりに初々しいかわいさが目立っていたからなのかな? この子の本質であるドMでムッツリだということを忘れるなんて。

 

 遠慮なんて、はじめからロスヴァイセにはあまり必要なかったんだった。

 

「ロスヴァイセ、……一気に行くぞ」

 

「い、一気にですか?」

 

「ああ」

 

「い、一気に……。わ、わかりました。な、なるべくや、やさしくお願いします」

 

「もちろん、わかってるよ」

 

 うなずいてロスヴァイセの腰を掴む。ロスヴァイセの表情をうかがって見ると、……やっぱり。ほんの少し口の端が上がって、何かを期待するような視線をペニスに送っていた。

 

 その期待にこたえるように腰を進めはじめる。

 

 狭い膣口を無理矢理押し広げながら進み、処女膜へと到達する。

 

「――くっ!」

 

 処女膜に触れられたことによる痛みでロスヴァイセがぎゅっと目を瞑るが、そのまま強引に進む。

 

 ミチミチと千切れるような音と、ロスヴァイセの小さな悲鳴を聞きながらペニスを挿入し続け、最深部である子宮を目指す。

 

「あ、ぐぅぅっ、んぐっ! 痛っ! 痛いですっ! ああっ!」

 

「もう少しだロスヴァイセ! もう少し……!」

 

 覆いかぶさりながら抱きしめ、さらにペニスを進めていく。

 

「あ、あああぁぁぁっ! く、うううっ……、う、うぅー……!」

 

 覆いかぶさりながら抱きしめる俺を、ロスヴァイセは両手両足で抱きしめ返す。さらに丁度ロスヴァイセの口元に肩を差し出してやると、まっていましたと言わんばかりに噛みついてきた。

 

 肩に噛みつきながら、さらに痛みを感じたいとぎゅううっと足で強くしがみつく。

 

 コツンと子宮口にペニスが到達すると、オマンコ全体をぎゅっ、ぎゅうううっと強く絞めつけ、体を痙攣させながら痛み混じりのうれしそうな悲鳴を漏らす。

 

 俺はそんなロスヴァイセを強く抱きしめながら叫ぶ。

 

「最高だ! 最高に気持ちいいぞ、ロスヴァイセ! これがロスヴァイセのオマンコ。熱くて愛らしくぎゅうぎゅうに絞まって、奥までじゅっくりと濡れてて、子宮が精液を欲しがって強く吸いついてくる!」 

 

「やあああっ! そんな……、い、いやらしいこと! い、言わないでくださいぃぃぃっ!」

 

 腰を使ってロスヴァイセの子宮口付近を雁首で擦りあげると、気持ちよさそうに顎を持上げてよがる。

 

「かわいい、綺麗ですごくかわいいよ!」

 

「やっ! も、もうっ、あなたは――、ぁんっ! んっ、ぅんん……」

 

 抱きながら首筋にキスして楽しむ。ロスヴァイセはくすぐったいと身を捩る。ああ、スレンダーな戦乙女が気持ちよさそうに性感を貪っている姿は最高だな。

 

「ロスヴァイセ、どうだ? 気持ちいいか?」

 

「はいっ! …………。――っ! ち、違います! き、気持ちいいだなんて……! あ、……くっ、んんっ! い、痛いだけ……。そう、痛いだけです!」

 

 即答で頷いたクセに、慌てて違うと否定する。ふふっ、そんなところもかわいいなぁ。

 

 少しだけ体を起こし、視線を合わせて訊ねる。

 

「痛いだけ? 本当にか? 俺にはロスヴァイセが気持ちよさそうに、楽しんでいるように見えるけど?」

 

「そ、それは……」

 

 絡みつかせている手足から少しだけ力を抜いて視線を逸らすロスヴァイセ。俺は再びロスヴァイセを抱きつき、耳元で囁く。

 

「いまさら恥ずかしがることもないだろう? いまは裸同士でお互いの欲望と快楽を満たしあっているんだから、あまり意地を張っても仕方がない。それに俺は純粋にロスヴァイセと愛し合いたいんだ」

 

「あ、愛し合う!?」

 

 青い瞳を大きく見開いて驚くロスヴァイセ。おっ、オマンコもギュって絞まった。

 

「少なくとも俺は素直にロスヴァイセを愛してるぞ」

 

「――えっ?」

 

 意外そうに声を漏らすロスヴァイセの体に触れながらつぶやく。

 

「ロスヴァイセの肉体を味わいたい。ロスヴァイセと心を交わしたい。ロスヴァイセを知ってこれまで以上に仲良くなりたい。ロスヴァイセの子宮に精液を吐き出して孕ませたい」

 

「は、孕ま……!?」

 

「ああ、孕ませたいよ。――俺はそれぐらいロスヴァイセが好きだ。愛している。愛してるからロスヴァイセが痛いだけのセックスはしたくない」

 

「――っ」

 

「ロスヴァイセ、本当に痛いだけか? 痛いだけなら気持ちよくなれるように俺はなんでもするぞ。俺だけが気持ちいいなんて独りよがりのセックスを、ロスヴァイセとしたくないからな」

 

「……あ、わ、たし……」

 

「ロスヴァイセ、愛してるよ」

 

「――っ」

 

 耳元から顔を移動させて正面からロスヴァイセの唇を奪う。舌は入れずに重ねるだけで終わらせ、顔を離して正面から見つめる。

 

「…………ぃぃ……、です」

 

 ん?

 

 潤んだ瞳。真っ赤になった顔。口ごもりながら小声で聞き取りづらいが、それも愛らしく見えて、

 

「……い、痛いだけじゃ……、ありません……。い、痛いですけど、気持ち……いいです。エイジさ……。エ、エイジとのセックス……、嫌じゃないです」

 

 一度目を伏せ、正面から見つめなおしてつぶやくロスヴァイセは最高だった。

 

 ああ、もう一度言おう。ロスヴァイセは最高だった。絵に書いたような、甘えさせてあげたい系の年上お姉さんのデレ告白。最高だった。

 

「ああ、ロスヴァイセ」

 

 思わずめちゃくちゃにしてしまいそうになるほどの激情があふれ出すが、何とか踏みとどまってロスヴァイセの体を抱きしめるだけで留めた。くっ、スレンダーな分、抱きしめたときに女の肉が目立ってヤバい……。特に胸とか太ももとか気持ちよすぎてヤバいぞ、おい。

 

「――っ。え、エイジ……」

 

 しかもロスヴァイセもやさしく、自分から受け入れますって態度で表すように抱きついてきて……、が、我慢の限界だ!

 

 再び、ゆっくりと腰を動かし始め、ロスヴァイセのオマンコを擦る!

 

「ん……、エ、エイジっ! く、ぅんっ、わ、私のが……! はぁはぁっ、エイジのペニスが私のなかを擦って……!」

 

「ロスヴァイセ。ロスヴァイセ、好きだ!」

 

「わ、私もっ! 好き、好きです!」

 

 お互いの体を抱きしめ合いながら叫び、唇を交わして腰を打ち付け合う。息づかいに混ざってぐちゅぐちょとペニスとオマンコがいやらしい音を響かせる。

 

「――んっ、ああっ! いいっ! 気持ちいいです!」

 

「俺も! 最高に気持ちいい! ロスヴァイセのオマンコが絞まって最高に気持ちいいよ!」

 

 速度を上げてお互いの性器を擦り合う。戦乙女らしく硬く狭い鉄壁の処女穴だが、またそれがいい。自分のペニスでロスヴァイセの処女穴を変えているようで征服感がものすごい!

 

 ズブ、ジュチュっといやらしい水音を聞きながらオマンコを突き荒す。

 

「あ、はぁはぁっ! ううっ、や……、いいっ! 気持ちいいですっ! エイジぃぃぃっ!」

 

 痛みも確かに感じているだろうが、快楽が勝っているようだ。ロスヴァイセは自ら両足を腰に絡めながらぎゅぅうっと抱きつき、自分から唇を交わし、舌を差し込んできた。

 

 腰を打つ付け合いセックスを楽しんでいると、ロスヴァイセのほうに絶頂の波がおとずれる。

 

「――っん! ああっ、ダメっ! ――っ、う……、ううっん! な、何かがくる!? き、気持ちいいのがきちゃうぅぅ!?」

 

「ロスヴァイセ! イクのか? イクのか、ロスヴァイセ!」

 

「い、イク!? こ、これが絶頂なんですね! ――くっ、ん! す、すごい! 頭が真っ白に……! わ、私……!」

 

 ぎゅうっと全身を使ってしがみついてくるロスヴァイセ。オマンコをきゅんきゅんと痙攣させるように弛緩させて表情もだらしなく快楽に飲まれていた。

 

 ――っ。

 

 そんなロスヴァイセの痴態とオマンコにこちらも快感を感じて射精したくなる。

 

 ロスヴァイセの体を抱きしめ返して言う。

 

「ロスヴァイセ、俺もイきそうだ! このまま中に……」

 

「――っ! な、なか……。だ、ダメです! あ、赤ちゃんができてしまいますぅぅぅっ!」

 

 そう言って拒絶するロスヴァイセだが、行動は逆だった。体に絡ませている手足から力が抜くどころか、強く抱きしめてきたんだ。まるでこのまま孕ませて欲しいと言っているみたいに……。

 

 俺はロスヴァイセに腰を打ちつけ、子宮口に亀頭をぐいぐいと擦りつける。

 

「――っん、ああっ! エイジ! だ、ダメです! わ、私、イッちゃ……! あ、赤ちゃんが……!」

 

「大丈夫だ、安心しろロスヴァイセ! もし孕んだとしても責任もって育てる! だから――」

 

 抱きしめながら唇を奪い、子宮口付近を狙ってペニスの雁首で膣肉を抉ると、目に見えてロスヴァイセが蕩けた。

 

 諦めたように受け入れ態勢となって、

 

「――っ! ああっ、んんん~~~! わ、私っ、い、イクッ! イクゥウウウウウ~~~~! イきますぅううううう~~~~!」

 

 と、大声で叫びながら絶頂を迎えた。

 

 俺もロスヴァイセの絶頂に合わせて欲望を解き放つ。

 

「――射精()る! 射精()すぞ、ロスヴァイセぇぇぇぇっ!」

 

「――っ!」

 

 ビュルッ! ビュルゥウウウウウ! ビュッ! ビュビュッウウウゥゥゥゥ!

 

「あ、熱っ! んんっ、はぁはぁっ! ……あ、うんんっ! な、なかに出てるっ! 私のなかで……、う、蠢いて……! こ、これが精子!? わ、私、中出しされてる!? ん、んんん~……。――っ、ダメ! ま、またイクっ! イクゥウウウウウウゥゥゥ~~~~ッ!」

 

 ギュウウウっとしがみついたまま、ビクッ、ビクッと体を跳ねさせるロスヴァイセ。

 

 俺もロスヴァイセを抱きしめたまま最後の一滴まで精液を子宮に流し込んだ。

 

 ――ああ、それにしてもよく絞まるオマンコだな。キュンキュン絞まっておいしそうに精液飲んでるし、――っん、ヤバイな。たったいま射精()したばかりなのにもう復活してきたぞ。

 

「はぁはぁ……。ん、……はぁはぁ。……はぁ、……はぁぁ……」

 

 ゆっくりとロスヴァイセの呼吸が整っていく。その目を伏せて、桜色の唇から甘い吐息を漏らす姿もとても美しく感じた。

 

 絶頂と初の中出しを経験してその余韻に浸っているロスヴァイセを抱きしめ、改めてロスヴァイセが自分の女になったと再認識する。

 

 最後の一滴まで精液をロスヴァイセの子宮に出し切った頃。ロスヴァイセの四肢から力が抜けて拘束が解かれた。

 

 布団に四肢をだらしなく広げて吐息を漏らすロスヴァイセを覗き込んでみる。

 

 うむ……。

 

 長い銀髪が布団に広がり、外から差し込んでくる月明かりでキラキラと輝き、神々しく、陶器のように白かった肌に玉の汗が浮び、肌色が淡い桜色に変わっていて情事のあとであることを印象付けた。

 

 まだ繋がったままの結合部からは精液や愛液混じりにピンク色の、純潔であった証が見て取れ、自分がロスヴァイセの純潔を奪い、犯したことを強く認識させる。

 

「はぁはぁ……、ん……」

 

 ロスヴァイセの瞳がゆっくりと開く。

 

「ロスヴァイセ。最高だったよ」

 

 やさしく、抱きしめて言うと、ロスヴァイセは小声で「はい」っとうなずいた。

 

 ――うなずいてすぐにクスッと微笑んで、人差し指を俺の唇に軽く置いて、

 

「まったく、ダメって言ったのに。もし赤ちゃんが出来たら本当に責任取ってもらいますからね? ――あ、そういえば避妊してたんでしたっけ?」

 

 とかわいらしく首をかしげた。

 

「…………」

 

「――っん。……エイジ? どうしたんですか、黙って……」

 

「……ロスヴァイセ」

 

「はい? ――っん。……あ、あの、そ、そろそろペ、ペニスをぬ、抜いてもらえませ……、――っん! え、エイジ!? い、いきなりな、なかでビクビクさせないでくださいっ。――え、あの……、エイジ? 聞いてますか?」

 

 首をかしげるロスヴァイセ。布団に縫い付けるように顔の両側に手を置いて視線を合わせる。

 

「ロスヴァイセ、このままもう1回していいか?」

 

「え?」

 

「1回だけじゃ満足できないみたいなんだ。ゴメン。ロスヴァイセをもっと味わいたいんだ」

 

「あ、味わう!? え、ええっと……」

 

「ロスヴァイセが欲しい。もっと欲しいんだ」

 

「――っ! ほ、欲しいですか? で、でもさっきおいしくいただれちゃったんじゃ……」

 

「ああ、おいしくいただいたよ。でも……、おかわりしたい。1回だけじゃ我慢できないみたいなんだ」

 

 人外だといっても、さっきまで処女だったロスヴァイセには酷だろうけど、1回だけじゃ我慢できない。自制できないほど、さっきの年上お姉さん的対応にやられてしまったんだ。

 

「ロスヴァイセ……」

 

「――っ。……し、仕方ないですね」

 

「いいのか?」

 

 改めて訊ねるとロスヴァイセは視線を逸らしながらうなずいた。

 

「じ、自分の勇者さまにそこまで求められているなら、ヴァ、 戦 乙 女 (ヴァルキリー)として応えないわけにはいかないですから。――で、でも明日も教師としての職務があるので響かない程度にお願いしますよ?」

 

「ああ、もちろんだ。もし動けなくなってもすぐに全身をマッサージして回復させるよ」

 

「……え? あの? 出来れば回復させる必要のないぐらいで止めていただけると……」

 

「ああ、ロスヴァイセ……」

 

「――っ! お、おっぱいに顔を埋めて……。やっ、そ、そんなち、乳首を咥えて吸いつかれ……! ああっ、だ、ダメです! し、舌で転がすなんて……! んんっ! や、ああっ、いま腰を動かすのはだ、ダメェエエエエエエ~~!」

 

「ロスヴァイセ、愛してるよ」

 

 俺は再びロスヴァイセと愛し合い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行2日目の早朝。まだ太陽も昇っていない夜とほとんど変わらない頃、寝起きでかすんだ視界に白い肌と銀色が映った。

 

 さらに意識がはっきりしてくると、今度は口に違和感を感じ始めた。

 

 その違和感を探ってみると、小豆ほどのコリコリとしたものが口のなかに入っていた……、というか咥えていた。

 

 白い肌と、咥えている小豆サイズのもの……。昨晩のロスヴァイセとの情事を思い出して大体の予想はついたが……。

 

「なんだ? これ……?」

 

 お約束というか……。口を離し、片手で握ってみた。

 

 うん……。手に少し余るぐらいのムチムチとした感触。ほんのり温かく、手の平の中央にコリコリとしたものが当たる。

 

「ん……、あ……」

 

 …………。上から女性の悩ましい声が聞えてきた。

 

 うん、さらに手を動かして触ってみる。

 

 指全体で潰すように握ってみたり、(こす)ってみたり、やさしく撫でてみたり……、桜色の小豆を彩ってる少し薄い桜色の円を指の腹でなぞってみる。あ、桜色の小豆がピクピクしてる。摘まんでみる。摘まんだまま指で捏ねてみる。おお……、ぷるぷる揺れてる……。

 

「や……、あ……、んっ……、はぁぁ……」

 

 おっ、自分から近づいてきた。口元に差し出してくるってことはいいってこと? 桜色の小豆を咥えて引き寄せるように腕を回してみる。うん、いい匂いだし、少ししょっぱくておいしい。それに温かい。

 

 もう片方の手をもっと温かそうな三角形の隙間に入れてみる。うん、温かい。でもヌルヌルしてる。手を動かしてそのヌルヌルを探ってみる。小さな穴を見つけた。すごい、もっとヌルヌルしてきた。

 

 小さな穴に指が入る。お、おお……、第1間接、第2間接、第3間接まで入った。きゅっと穴が絞まる。なかもヌルヌルだな。それに何重もゴムが重なってるみたいで複雑だ。上のほうを触ってみると少し粒粒があった。

 

「ん……、んんっ!」

 

「――んぐっ!?」

 

 い、いきなり引き寄せられた。胸に顔が埋まる。三角形の隙間が狭くなって指が何度も絞められる。

 

 ちょっと指を時計回りに動かしてみる。

 

 ぐちょぐちゅいやらしい水音が聞えてくる。

 

「あ、んんっ……、や、だ、ダメ……」

 

 おお、小豆がもっと硬くなってきた。歯で甘く噛んでみる。噛みながら引っ張ってみる。離して慰めるように舌先で舐めてみる。プルプルしてる。吸ってみる。あ、下が寂しそうだ。指をもう1本増やしてなかで拡げてみる。上下に開いて、ムワッと温かいのが漏れた。広げたまま逆時計回りに動かしてみる。全身がビクビク震え始めた。

 

「だ、ダメです……。も、もうわ、私っ……! そ、粗相を……、お、お願いですから、ゆ、指を……! や、あ……、ん、うんん~~~!」

 

 おお、下に差し込んでいたところから液体が出てきた。温かいけど、ビショビショになった。

 

 口を離して三角から手を抜いてビショビショになった手を舐めてみる。苦くてしょっぱい。

 

「う、うう~……。酷いですぅぅ……」

 

 あ、マズい。やりすぎた。

 

「おはよう、ロスヴァイセ」

 

「うう~……、おはようございますぅぅ、エイジ。うう……、まったく早朝からなんてことをさせるんですかぁぁぁ……」

 

「ゴメン、寝ぼけてた」

 

「絶対ウソですよね? 絶対に、ウソですよね? 絶対にワザとわかってやってましたよね?」

 

「…………うん」

 

「ひ、酷いですぅぅっ! ワザと年頃の女性にお漏らしさせるなんて、酷いですぅぅっ! プ、プレイの一環でそういうことがあることは知ってましたが、酷いですよぉぉ~。もう、お嫁にいけないじゃないですか~! 私の裸体を見て、純潔を奪って、お漏らしまでさせたんですから絶対に責任とってもらいますよ~!」

 

「あ、うん。わかってるよ。ロスヴァイセは一生俺の戦乙女だ」

 

 ていうか知ってたんだ。お漏らしプレイ。

 

「絶対に逃がしませんからね~……、え? ……え?」

 

 キョトンとするロスヴァイセにもう一度言う。

 

「ロスヴァイセはこれからずっと俺の戦乙女だ」

 

「う、ウソじゃないですよね!? ウソだったら許しませんよ!?」

 

「ああ、ウソじゃないよ。それよりもいいのか?」

 

「え?」

 

「ずっと俺の戦乙女って、毎回こういうセックスしたり、時々激しいプレイしたりするんだぞ? 将来的には何人も子供を孕ませるだろうし、俺でいいのか?」

 

 そう訊ねるとロスヴァイセは真っ赤になってつぶやき始めた。

 

「えっと……、はい。その……、それほどあ、愛してもらえるってことですし……。ヴァ、 戦乙女 (ヴァルキリー)としてこれ以上の幸せはない……、と思いますから。――で、ですが、本格的なこっ、子作りはもっとあとで……、いまはイチャイチャしたい、かなぁ……と。いままで男っ気なかったですし……」

 

「…………」

 

「え、ええっと、つまりですね……。あ、あなたでいい……。いいえ、あなたが……、いいです。こ、これから末永くよろしくお願いしますっ! ……あ、で、でもあんまり激しいのは嫌ですからね!? そ、それに基本は学生らしく避妊具をちゃんと使用してですからね!」

 

 そんなところも忘れず注意してくるロスヴァイセがかわいらしくておもしろくて自然と笑みがこぼれてしまう。

 

「ああ、わかった。これからもよろしく、ロスヴァイセ」

 

「はい! ――って、もうっ、なんで笑ってるんですかぁぁぁっ!」

 

「アハハハ、ゴメンゴメン。あまりにロスヴァイセがかわいらしくてね。――ああ、本当に、かわいくて、我慢できなくなりそうだよ」

 

「――っ! ま、待ってください! も、もう朝なんですよ!? きょ、教職者に戻らないと……! だ、ダメです!」

 

「ん~、ダメ?」

 

「だ、ダメです! こ、こういうのはしっかりしないといけません! ただでさえ昨夜の情事の残りと、さ、先ほどの粗相の掃除をしないといけないんですから!」

 

「じゃあ、セックスは諦めるよ」

 

「ありがとうございます。では――……、えっと、先ほどセックスはと言いませんでしたか? セックスはと……」

 

「うん。セックスはやめておこう。代わりに一緒にお風呂に入ろう。汚れも落とさないといけないからな」

 

「――っ! お、お風呂に一緒にですか!? あ、憧れのシチュエーションですが……、な、何もしないですよね? 一緒に入るだけですよね?」

 

「…………。お湯代も節約になるし、さあ、入ろう。節約好きだろ」

 

「ちょっ!? 普通に無視しませんでしたか、さっき! それに節約は好きですが、いまいうことじゃないですよね!?」

 

 よし、そうと決まればと魔法で自室の風呂に水を溜めて沸かす。温度は少し温めの38度だ。

 

 ロスヴァイセを抱き上げる。

 

「――っ! な、ななな……、こ、これはお、お姫さま抱っこ!? あ、ああ……、だ、ダメです、そんな……。エイジのような極限まで絞り込んだ最高の肉体に抱かれたら、逃げられないじゃないですかぁぁぁっ。ダメ! 私このままお風呂場まで持っていかれてしまう……。す、隅々まで洗われてしまいますぅ~!」

 

「おー……、いい感じに錯乱してるな。本当に全身洗うぞ?」

 

「エイジさまに全身洗われる!? の、望むところです!」

 

「そうかー。それはこっちとしてもうれしいぞー。よし、やっぱりお風呂でやろう。時間止めればいいだけだし、うん。この際だから野獣なところを見せてやるよ」

 

「……あ、あれ? 私いま何を……? あ、エイジ。自分で洗えますよ。何でローション出して両手に塗ってるんですか? え? 特製の美容ローション? いいですね、いい香りです。でもなんで両手をワキワキさせながら近づいてきてるんですか? え? 私が、自分で、私の体を洗ってくれって頼んだ? え、いつですか? さっき?」

 

「さあ、洗おうか」

 

「キャッ! ああっんっ、だ、ダメです! そ、そんなところ……! あ、や、そんな隅々だなんて……! だ、ダメェェェエエエエエエ~~~~~!」

 

 とりあえず、ロスヴァイセのすべてを触って弄って、お返しに湯船のなかで全身を触られた。

 

 十二分に楽しんであと、早朝にゼノヴィアたちの剣の最終調整をしなければいけないことを思い出した。時間を止めていなかったら本当にマズかった。今後気をつける。

 




 はい、後半からロスヴァイセ回でした~。


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第72話 京都2日目の夜 前編 ☆

 予想以上に長くなったので分けました。

 前編はゼノヴィア回です。


<イッセー>

 

「よし! 次!」

 

「はい!」

 

 早朝。旅行2日目の朝。空が白け始めた頃、俺はアーシアとホテルの屋上を借りてトレーニングをしていた。

 

 とにかく、基本的な動きから徹底してトレーニングしていた。アーシアはダッシュのタイミングを取ってくれたり、条件反射の練習をするため至近距離で魔力を放ってくれる。俺は至近距離からの攻撃を瞬時に反応して避ける練習を繰り返していた。

 

 基礎訓練に加え、これらをゲームが始まるまでに朝夕毎日行なう! 何はともあれ、練習だ。それこそ、サイラオーグさんやヴァーリ、そしてエイジとの差を埋める第一だと思う。

 

 ――強くなる!

 

 1歩ずつでいい。それでも確実に前に進むため、トレーニングする!

 

「悪いなアーシア。修学旅行にまでこういうの付き合わせちゃって」

 

 俺は息をあげながら、そう言った。アーシアは首を横に振る。

 

「いいんです。イッセーさんと朝の京都は楽しいですよ」

 

 満面の笑みでそう言ってくれる。ああ、なんていい子なんだろうか! もうアーシアちゃんは俺の大事な大事な自慢のアーシアちゃんでございますよ!

 

「相手がいたほうが効率がいいんじゃないかな?」

 

 木場の声。見れば木場が立っていた。

 

「あの大王家の次期当主サイラオーグ・バアルとの戦いも近いし、僕の神器のちょうどいい慣らし(・・・)にもなるからね」

 

 木場はそう言うと手元に剣を創りだした。

 

 剣から感じるのは聖なるもののオーラ。聖なる剣だ。木場は禁手となったことで魔剣だけじゃなく、ちょっとした聖剣も創りだせるようになったんだったな。本場の伝説の聖剣に比べると全然力が足りないようだが……。いまは創れるようになった聖剣をいろいろと試しているそうだ。

 

 ――しかし、敵か。

 

 自分でも先ほどそう思ってゲンナリした。

 

 ここでも戦いがあるかもしれないのか。俺のドラゴンの力が引き込んでいる? ……それだけは嫌だな。

 

 俺は顔を手でパンと叩いて気合を入れた。気を取り直さないと。

 

「よっしゃ! 朝の点呼前までに一勝負しようか!」

 

「うん! ――あ、そういえば、ゼノヴィアはどうしたんだい? まだ寝てるのかな?」

 

「ああ、ゼノヴィアか……」

 

「ゼノヴィアさんは……」

 

 木場の言葉に俺とアーシアは顔を見合わせて苦笑いになる。いや、ね……。

 

「ゼノヴィアはエイジのところにいるんだ」

 

「エイジくんのところに?」

 

 首をかしげる木場に今度はアーシアが答える。

 

「実はイリナさんと生徒会の椿姫先輩も一緒で、新しく創った剣の最終調整をしているんです」

 

「新しく創った剣の最終調整?」

 

 顎に手を当ててつぶやく木場。いま一瞬木場の目がギラっと光ったような気が……。

 

 気のせいだと思うことにして、頭をかきながら言う。

 

「いやー、俺が朝練にアーシアを誘いに行ったとき、丁度部屋の前でゼノヴィアとイリナが、新しく創ってもらった剣の最終調整をするところ見にエイジの部屋に行こうとしてるところでさ。少し興味があったから俺と寝起きのアーシアも一緒について行ったんだ」

 

 俺は肩をすくませて続ける。

 

「それからエイジの部屋に行って、エイジが魔法で部屋と工房を繋げて、そこでユウカナリアさんとユウカナリアさんの新しい眷属っていう人と鉢合せしてさ。エイジが剣の最終調整しながら、その眷属の人からストーカーの悪魔の封じることができる装置がないかって聞かれて、俺たちにはまったく理解できない話を始めたり……。ゼノヴィアやイリナ、それに同じく見に来てた椿姫先輩は刀剣談議とか始めちゃってさぁ。……ユウカナリアさんも相変わらずエイジにべったりだったし」

 

 刀剣談議にはアーシア参加できないし、俺も話しに加われなかったから自然な流れで俺の特訓にアーシアが付き合ってくれることになったんだよなー。

 

「…………」

 

 無言で顎に手を当てる木場。ん? どうしたんだ?

 

「おーい、特訓しねぇのか?」

 

「あ……、ああ、ゴメン。特訓するんだったね」

 

 そう言って聖剣をかまえる木場。若干ながらそわそわしていて心無いように見える……。

 

「えーと……、もしかしてゼノヴィアたちと刀剣談議したかったか?」

 

「…………。まあね。正直エイジくんが剣を創るところや、ゼノヴィアたちとの刀剣談議には興味あったよ。――でも、いまはイッセーくんとのトレーニングのほうを優先するよ」

 

 気にするなと笑みを浮かべて言う木場。……本当にありがたいぜ。

 

「じゃあ、せっかく付き合ってもらうんだから、さっそくはじめるか!」

 

「うん!」

 

 こうして朝のトレーニングを再会したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――じゃあ、野郎ども! 行くわよ!」

 

「「「おおーっ!」」」

 

 桐生(きりゅう)がメガネをキラリと光らせながらバス停を目指し、俺たち男子が雄叫びをあげた!

 

 大変なこともあった初日だったけど、先生たちのお言葉に甘えて観光できるうちに観光しておこうと想った。匙たちも今日は各所を回るって言ってたしな。ちなみにエイジとは別行動だ。なんでも片瀬と村山につかまってて、エイジは椿姫先輩と一緒にその2人の班と一緒に観光するらしい。

 

 2日目は京都駅前のバス停から清水寺行きのバスに乗ることから始まる。俺たちは京都駅でバスの1日乗車券を買うと他の生徒たちと共に並びながらバスを待った。

 

 乗車したあとは清水寺までバスで移動だ。見知らぬ街の風景を眺めながら下車する予定のバス停に到着。

 

 周辺を軽く探索し、坂を上って清水寺を目指す。おおっ、(おもむき)のある日本家屋のお店が両脇に建ち並んでいる。

 

「ここ三年坂って言って、転ぶと3年以内に死ぬらしいわよ?」

 

 と、桐生が言う。

 

「はぅぅぅっ! それは怖いです!」

 

 アーシアがマジで怖がり、俺の腕につかまった。

 

 だが、すぐにゼノヴィアが……。

 

「ふふっ、アーシア。それはあくまで言い伝えだ。心配する必要はないぞ」

 

 と微笑みながら言った。

 

「そ、そうなんですか?」

 

 怪訝そうに訊ねるアーシアにゼノヴィアはうなずく。

 

「ああ、修学旅行前に黒歌さんにいろいろと教えてもらったからな。なんでも住んでいたこともあったらしくてすごく詳しかったぞ」

 

「そ、そうなんですか」

 

 俺につかまっているアーシアの手から力が抜ける。あ、アーシア? アーシアはドジっ子だから、転びそうで怖いから……、もっと俺につかまっていてくれてもよかったんだぞ?

 

 桐生が少し残念そうにつぶやく。

 

「ん~、知ってたかぁ。つまんない。アーシアさんとゼノヴィアさんならひっかかると思ったんだけどなー」

 

「ふふっ、私は事前に調査してきているからな」

 

「あ、待ってくださーい」

 

 ゼノヴィアが微笑み、桐生やイリナと坂を上っていく。それに遅れないようにアーシアも小走りで走っていく。

 

 自然と取り残されるのは俺たち男子3人。いや、取り残されるっていってもすぐ前にいるんだけどね……。

 

「そういえば黒歌って誰のこと?」

 

「塔城小猫の姉だ。いろいろと博識な方で、私やイリナが住む前からエイジの家で一緒に住んでいる方なんだ」

 

「搭城さんにお姉さんいたんだ。――で、どんな人なの?」

 

「えーと、黒髪で、いつも和服を着てて見るからにお姉さんって感じの人よ。しかもかなりの美人で、お兄ちゃんと1番長い付き合いらしいの」

 

「かなりの美人……。エイジくんと1番付き合いが長い、ね。……へー、そうなんだ」

 

「とてもやさしい方なんですよ」

 

「ふふっ、こういうことには1番食いつくと思っていたが。――桐生も恋をし始めたということか」

 

「――っ!? ちょっ、ゼノヴィアさんっ! 何言ってるのよ!? 私は別にそんな……」

 

「うそっ!? あの桐生さんが恋! ねえねえ、相手は誰なの!?」

 

「私たちが知ってる人なんですか?」

 

「紫藤さんにアーシアさんまで……っ! 紫藤さんなんか少し前までまったく恋愛なんて興味ないって感じだったのに!」

 

「ふふっ」

 

「――っ。……ゼノヴィアさん? そのわかってるぞみたいな笑みは何?」

 

「いや、なに……。――いつもは攻めるほうなのに、攻められると本当に弱くなんだな、と思ってな」

 

「――っ。うう~! ああ、もうっ! この話止めましょ! ほら、さっさと上るわよっ!」

 

 と、桐生とゼノヴィア、イリナとアーシアが俺たちの前で4人輪をつくって盛り上がってるからね。近くにいるのに俺らは空気みたいなんだ。

 

 4人でわいわい上っていく女子たちをよそに寂しく野郎3人で固まって坂を上るが、大丈夫。全然平気だ。なんていったって昨日は完全に野郎4人での行動だったからな! 昨日のことを思い出せば……、いや、思い出したくないな。

 

 坂を上り切ると大きな門が現れる。ここが清水寺か。

 

 門――人王門を潜り、寺へ。

 

「見ろ、アーシア! 異教徒の文化の粋を集めた寺だ! やはり聞くのと実際に見るのは違うな!」

 

「は、はい! 歴史を感じる佇まいです!」

 

「異教徒バンザイね!」

 

 教会トリオは興奮気味に失礼なことを言い合っていた! キ、キミたち、いちおうここにも神さまや仏さまがいるんだからさ。見ていると思うし、あまり失礼のないように、ね?

 

 テレビで見ていた清水の舞台! 下を眺めると……うん、高いけど、いまの俺なら落ちても平気な具合かな? などと思ってしまう。いかんいかん。俺、戦闘的なものが身にしみすぎてるよ!

 

「ここから落ちても助かるケースが多いらしいわよ」

 

「うん、私は落ちても大丈夫そうだ」

 

「私もこれぐらいなら大丈夫そうね」

 

 桐生の説明に感心しながらうなずくゼノヴィアとイリナ。おいおい、他にもいたよ、戦闘的なものが身にしみてるヤツ。

 

 境内に安全と合格の祈願や恋愛成就を願う小さなお社などがあった。

 

 いちおう、賽銭箱に小銭を入れて願っておく。俺も学生だしね。でも悪魔だから、どこまで仏さまが叶えてくれるかわかったもんじゃないか。けど、俺も大学は出たい。

 

「兵藤、アーシアさんと恋愛のくじやってみたら?」

 

 桐生に促され、俺とアーシアは恋愛のくじを引く。……相性はどれどれ。

 

「…………」

 

「どうしたんですか? イッセーさん」

 

 心配そうに覗き込んでくるアーシア。俺は頬を書きながら言う。

 

「えーっと、しょ、小吉だって。だっ、だけど将来安泰とか、書いてあった、よ」

 

「そうなんですか……」

 

 ああっ、アーシアが目に見えて落ち込みだした! 

 

「だ、大丈夫だって! えーと、確か木にとかに結べば良くなるらしいし! うん! 大丈夫だぞ!」

 

 俺はすぐにくじを木の枝に結びつける! クソッ! やっぱり悪魔だから悪い運勢になるのか!?

 

 俺たちはその後、寺を一回りし、記念の品を手軽く買うと、バス停に歩を進めた。

 

「次は銀閣寺。パパッと行かないと時間なんてすぐに過ぎてしまうわよ。アーシアさんももう落ち込まない。勧めた私がいうのもなんだけど、運勢なんてすぐに変わるんだからね」

 

「はい、大丈夫ですぅ」

 

 アーシアは時計を見ながら先導する桐生に力のない返事を返す。確かにいつの間にか午前10時を過ぎていた。あと2か所を回るなら、桐生が言うように落ち込んでいる暇はないし、早足で向わないとダメだ。それになによりも、落ち込んでいては観光を楽しめないだろう。

 

 次は銀閣寺だ。銀閣寺行きのバスに乗り、俺たちは清水寺をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 清水寺から無事に銀閣寺に着き、観光と昼食を済ませた俺たちは、その次に観光する予定の金閣寺へ訪れていた。

 

「金だっ! 今度こそ金だぞ!」

 

 金閣寺に着き、ゼノヴィアが開口一番に叫んだのがそれだった。

 

 先ほどの銀閣寺観光の際に、黒歌さんや他の皆から銀閣寺について事前に教えられていなかったゼノヴィアは、銀閣寺を見て「銀閣寺が銀じゃない!」と開いた口が塞がらないほどショックを受けていたから、金閣寺がちゃんと金なことに喜んでえらいはしゃぎようだった。いやー、本当にチョー喜んでる。

 

「金だぞぉぉっ!」

 

 両手をあげてゼノヴィアがお顔を輝かせるほど、金閣寺は金ピカだ! テレビで見たことあるけど、実際に見るとその輝かしさに圧倒されるわ。

 

 他の生徒たちも来ていて、皆撮影していた。うちの松田も夢中でパシャパシャとカメラで撮ってるもんな。……ああ、昨日とは違って野郎以外を撮れることに涙を流しながら撮ってる。俺も記念に写メしておくか。駒王学園にいるメンバーに送信送信。

 

 見て回ったあと、お土産を買い、休憩所――お茶屋で一休みすることに。

 

「どうぞ」

 

 和服のお姉さんが淹れたての抹茶を運んできてくれた。和菓子も添えてね。

 

 口にしてみると――思っていたほどの苦味はなかった。むしろ、和菓子と共にいただくと風味も感じられてちょうどいいぐらいだ。

 

「うん、悪くないわね」

 

 イリナも気に入っているようだった。

 

「少し苦いです」

 

 アーシアはちょっとダメか。でも、ちょびちょび飲んでいるから、嫌いってほどでもないか。

 

「……金ピカだった」

 

 ゼノヴィアはいまだ覚めぬ夢のなかのようだ。よほど金閣寺を見た感動がデカいみたいだね。目が爛々と輝いているし。お茶どころじゃないか。

 

「ゼノヴィア、記念に祈っておきましょう!」

 

 イリナの提案にゼノヴィアはうなずく。

 

「そうだな」

 

「私もお祈りします!」

 

 アーシアも続き、「「「ああ、主よ!」」」ってトリオは天にお祈りしていた。どういう記念だろうか……。

 

 あ、もう午後2時を回る。かなり早足で観光地を回っているんだけど、目を奪われるばかりで時間の経過がおそろしく早く感じるな。

 

 そういや、金閣寺入ってすぐに鐘突きするのに全員で並んだりしたし、案外時間がかかっているのか。

 

「キャー、痴漢! 変態!」

 

 あ、女性の声だ。気になってお茶屋を出てみると、男性が係りの人に取り押さえられていた。

 

「お、おっぱいを! おっぱいをくれ!」

 

 金閣寺で痴漢かよ。ったく、せっかくの観光気分が台無しだ。

 

「痴漢かー。そういえばさ、朝のテレビニュースでもやってたぜ、痴漢報道。祇園のほうで痴漢があったらしいぞ。昨日の駅といい、ちょっと多いな」

 

 そういう松田に元浜がメガネをくいっとあげながら物申す。

 

「おまえが何を言う松田よ。行きの新幹線で俺に襲い掛かってきたくせにな」

 

 そんなこともあったな。

 

「いや、なんだかさ、あのときは寝ぼけていたというか、意識がおかしかったというか、やたら乳に触りたかったんだよな。なんだろう、あの感覚」

 

 首をかしげる松田。まあ、男子たるもの乳のひとつぐらい常に揉みたいと思うわな。

 

「それは青春だな」

 

 元浜がそう言うと松田も「若さゆえの過ちか!」とうんうんうなずいていた。でも、男の乳はカンベンだ。…………。あれ? なんでジト目で俺を見るんだ、ゼノヴィア、イリナ。アーシアも心配そうに見つめてなんだ?

 

「イッセーさんは痴漢しませんよね?」

 

「え?」

 

 …………。あれ? 俺、アーシアに痴漢しないか心配されてる?

 

「す、するわけないだろ! いくら乳が揉みたいと思っていても俺が痴漢なんかするわけが……」

 

「いや、イッセーの【洋服破壊】という技はかなり悪質な痴漢行為だと思うぞ」

 

 弁解しようとする俺に、ゼノヴィアが一言物申した。

 

「そうね。レーティングゲーム中に【洋服破壊】受けたら冥界全土に裸を放送されるのよね。……それは痴漢よりも酷いかも」

 

 イリナも同意して3人から冷たい目が向けられる。

 

 そ、そう言われると……、た、確かに……。そういえばシトリー眷属とのレーティングゲーム中に禁手化するために小猫ちゃんにお願いして乳首をつつかせてもらったような……。あ、あれも痴漢に入るのか? いや、セクハラ? パワハラ?

 

 そんなふうに悩んでいると――ふいにゼノヴィアのケータイが鳴った。

 

 電話の相手はどうやら朱乃さんで、小猫ちゃんに俺が送った写メに狐の妖怪が心霊写真のように映っているから何か京都で起きていないかという心配の電話だった。

 

 小猫ちゃーん、わざわざゼノヴィアの携帯にかけなくてもいいじゃない。そろそろ許してくれないかなぁー。

 

 なにはともあれ心配の電話だったが、アザゼル先生に京都で何かが起こっていることはまだ部長たちには話すなと言われていたので、その場は誤魔化して電話を切った。

 

 ゼノヴィアが電話している間に俺もケータイを取り出して小猫ちゃんに送った写メを確認してみたけど、俺には普通の金閣寺を写した風景にしか見えなかった。もしかして心霊写真の類? まあ、猫又――小猫ちゃんだからこそわかるものがあるのだろう。

 

 とりあえず、朱乃さんからの電話をアーシアたちにも伝えたほうがいいよな。

 

 と、お茶屋のほうを振り返ると――松田、元浜、桐生が眠りこけていた! 疲れからの眠りじゃないよな……。ゼノヴィアが電話に出て、その内容を俺が聞いていたいた少しの間に眠るなんてあり得ない。

 

 現にアーシアたちは起きている。それに俺よりも先に異変に気づいただろうゼノヴィアが女性店員を怖い顔でにらみつけていた。

 

 怪訝に思い、俺も女性のほうに視線を送る。……なるほど、ゼノヴィアが警戒するわけだ。

 

 頭部に獣耳が生えてるもんな。尻尾も出てるし。……人間じゃないね。見れば周囲はいつの間にか獣耳の方々ばかりだ。普通の観光客は倒れ込むように寝ている。

 

 ……ハハハ、有名な観光地ならさすがに襲来してこないかと高をくくってたら、これだもんな。金閣寺も妖怪さんの縄張りですか。

 

 ゼノヴィアは何もない空間から手元に真・リュウノアギト改を呼び寄せる。元の真・リュウノアギトを強化し、真・リュウノアギト改となった大剣。見かけはほとんど変わらず真・リュウノアギトのままなんだが、オーラの質も力強さも今までと全然違う。ただ構えているだけなのに半端ない龍殺しのオーラがビリビリ感じる。おそらく切れ味も上がっているだろうから俺の『赤龍帝の鎧』も簡単に切り裂いてくるだろう。怖いもんだ。

 

 イリナも手元に新しい剣を出現させ、非戦闘員のアーシアを背後に隠す。こちらの剣もエイジが作成した T C M (テンコマンドメンツ)という10の姿に変わる魔法の剣だ。

 

 TCMの基本形態はレイヴェルトという片手持ちの聖剣らしいのだが、いまは悪魔のアーシアがいるので10種類の姿の内『アイゼンメテオール』という鉄の両手持ちの大剣に変化させて構えていた。

 

 俺も左手を構え、籠手を出現させようと――。

 

「待ってください」

 

 聞き覚えのある声に俺たちはそちらに顔を向けた。そこには――ロスヴァイセさん!

 

「ロスヴァイセさん! どうしてここに?」

 

 俺の問いにロスヴァイセさんは息を()きながら言う。

 

「ええ、あなたたちを迎えに行くようアザゼル先生に言われました」

 

「先生に? 何が起こっているんですか?」

 

 俺が周囲に目を配らせながら訊くが……思ってみれば昨日襲い掛かってきたときのような敵意を妖怪たちから感じない。

 

「停戦です。というか、誤解が解けました。――九尾のご息女があなたたちに謝りたいと言うのです」

 

 ロスヴァイセさんがそう言う。

 

 あらら? 停戦? 誤解が解けた? じゃあ、もう狐さんたちが襲ってくることはないと?

 

 疑問の残る俺たちに獣耳のお姉さんがひとり、前に出て深く頭を下げてくる。

 

「私は九尾の君に仕える狐の(あやかし)でございます。先日は申し訳ございませんでした。まさかエイジ殿のお仲間とは思わず……。我らが姫君もあなた方に謝罪したいと申されておりますので、どうか私たちについてきてくださいませ」

 

 どうやらエイジが京都の妖怪たちと知り合いって本当だったみたいだ。いや、それよりもついてきて欲しいって? どこに? ――と訊く前に狐の妖怪というお姉さんが続けた。

 

「我ら京の妖怪が住む――裏の(みやこ)です。魔王さまと堕天使の総督殿も先にそちらへいらっしゃっております。もちろんエイジ殿とエイジ殿のお付の方も」

 

 どうやら、俺たちが観光している間に上が誤解を解いてくれていたようだった。てか、エイジのお付の方って……もしかして真羅先輩のこと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちが足を踏み込んだのは――異界ともいえる場所だった。

 

 江戸時代の町並みのセットのごとく、古い家屋が建ち並び、扉から窓から通りの道から、面妖な生き物たちが顔を覗かせていた。

 

 金閣寺の人気のない場所に設置してあった鳥居。そこを潜ると一転して別世界だった。

 

 薄暗い空間。独特の空気。先ほど説明した古い家屋群。そして、そこの住人たちが俺たちを迎えてくれた。……一つ目の大きな顔の妖怪、河童らしき頭部に皿のある妖怪、立って歩く狸などなど、お話で聞いていたような生物がたくさんいる。

 

 皆、好奇の視線を向け、俺たちを見ていた。

 

 狐の姫さまがいるという場所まで狐のお姉さんの案内で歩く俺たち。薄暗いなか、唯一の光源といえる灯火が道の先まで点々と続いている。

 

「うきゃきゃきゃ」

 

 うおっ! ビックリした! 提灯に目と口が現れて突然笑いだしたよ! いまの有名な提灯お化けか?

 

「すみません。ここの妖怪たちはイタズラ好きで……。害をなす者はいないと思いますが……」

 

 と、先導の狐のお姉さんが歩きながら謝ってきた。

 

「ここは妖怪の世界なんですか?」

 

 俺の問いだ。この空間は京都と繋がっているってことはわかるんだけどね。

 

 狐のお姉さんが答えてくれる。

 

「はい、ここは京都に住む妖怪が身を置く場所です。悪魔の方々がレーティングゲームで使うフィールド空間があると思いますが、あれに近い方法でこの空間を作りだしていると思ってくれてかまいません。私はたちは裏街、裏京都などと呼んでおります。むろん、ここに住まず表の京都に住む妖怪もおりますが」

 

 裏の京都か。なるほど、悪魔のゲームフィールドに近いのね。

 

「……人間か?」

 

「いんや、悪魔だってよ」

 

「悪魔か。珍しいなや」

 

「あのキレイな外国の娘っ子も悪魔か?」

 

「龍だ、龍の気配もあるぞ。悪魔と龍……」

 

「そういや最近、仮面の旦那も悪魔になったんじゃなかったか?」

 

「ああ、それに今は仮面も脱いでるはずだ」

 

 妖怪たちの話し声が聞えてくる。悪魔が珍しい感じだ。ていうか仮面の旦那?

 

「仮面……。もしかしてエイジのことなのか?」

 

 ゼノヴィアが狐のお姉さんに訊ねた。

 

 狐のお姉さんはうなずいて答えてくれる。

 

「ええ、そうです。よく長の屋敷に黒歌という猫又と一緒に訪れておりました。少しの間ではありますがこの街に住んでいたこともあるんですよ」

 

「へえ、そうなのか。エイジと黒歌さんがここに」

 

 お姉さんの言葉にゼノヴィアは周りを眺めながらつぶやく。やっぱりエイジの奴って裏の世界ではかなり有名人なんだなぁ。

 

 家屋が建ち並ぶ場所を抜けると、小さな川を挟んで林に入る。そこをさらに進むと巨大な鳥居が出現した。

 

 その先にデカい屋敷が建っている。古さと威厳を感じさせる佇まいだ。

 

 あ、鳥居の先にアザゼル先生、学生服姿のエイジと制服姿の真羅先輩、それに着物姿のレヴィアタンさまがいる!

 

「お、来たか」

 

「よう」

 

「…………」

 

「やっほー、皆☆」

 

 この世界に住んでいたことのあるらしいエイジはともかく、アザゼル先生とレヴィアタンさまは妖怪の世界に来ても変わらないな。

 

 真羅先輩はというと、エイジの少し後ろの位置に立って無言で軽く会釈してた。うん、こうして見るとお付の人(・・・・)に見えなくもないね。こちらも妖怪の世界にさほど緊張してる様子はなかった。

 

 エイジとレヴィアタンさまの間に金髪の少女がいた。俺を襲ってくれた女の子。九尾の娘さんでいいんだよね?

 

 今日は巫女装束ではなく、戦国時代のお姫さまが着るような豪華な着物に身を包んでいた。

 

 あー、こう見ると確かに小さなお姫さまだ。

 

九重(くのう)さま、皆さまをお連れ致しました」

 

 狐のお姉さんはそれだけ報告すると――ドロンと炎を出現させて消えてしまった。……あれか? 狐火ってやつ?

 

 お姫さまは俺たちのほうに1歩出てきて口を開く。

 

「私は表と裏の京都に住む妖怪たちを束ねる者――八坂の娘、九重と申す」

 

 自己紹介をしたあと、深く頭を下げてきた。

 

「先日は申し訳なかった。お主たちの事情も知らずに襲ってしまった。どうか、許して欲しい」

 

 と、謝ってきてくれた。

 

 先日襲われたのは木場を除いて俺だけ。全員の視線が俺に集中し、俺は慌てて気味に言う。

 

「ああ、怪我もなかったんだし、別にもういいって。顔をあげてくれよ」

 

「し、しかし……」

 

 うーむ、あのときのこと、俺たち以上に気にしてみるみたいだな。俺はヒザをつき、少女――九重に目線を合わせて言う。

 

「えーと、九重でいいかな? なあ、九重、お母さんのこと心配なんだろう?」

 

「と、当然じゃ」

 

「なら、あんなふうに間違えて襲撃してしまうこともあるさ。もちろん、それは場合によって問題になったり、相手を不快にさせてしまう。でも、九重は謝った。間違ったと思ったから謝ったんだよな?」

 

「もちろんだとも」

 

 俺は肩に手を置き――スカッ。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ……俺は笑顔で続けた。

 

「それなら何も九重のことを咎めたりしないよ」

 

 九重は俺の言葉を聞き、若干申し訳なさそうにしたあともじもじとつぶやいた。

 

「……ありがとう」

 

 ……うん、これでOKだろ。もう誤解は解けた。

 

 立ち上がる俺にアザゼル先生が小突いてくる。

 

「さすがおっぱいドラゴンだな。子供の扱いが上手だ」

 

「ちゃ、茶化さないでくださいよ。これでも精一杯なんですから!」

 

「いやいや、なかなかだったぞ。意外に子供の扱いが上手いんだな」

 

「はい、さすがです! 感動しました!」

 

「ええ、そうね。意外だったわ」

 

 照れる俺にゼノヴィア、アーシア、イリナがうんうんうなずきながら賛辞をくれた。

 

 いや、本当に、マジで精一杯だからねっ! ていうか、さっき肩に手を置こうとして避けられたし! 笑顔浮べるの必死だったんだからね! だからそんなに褒めないで! 恥ずかしいから!

 

「ちょっと見直しました。教師として鼻が高いです」

 

 ロスヴァイセさんのなかで俺の評価が少し上がったようだ。……現状、どれだけ低いのだろうか? 百均が好きらしいし、百均について語り合えば評価が上がりそうだけどさ……。

 

「ま、負けてはいられないわ! こんなところまでおっぱいドラゴンの布教だなんて! 魔女っ子テレビ番組『ミラクル☆レヴィアたん』の主演としては負けられないんだから! ほら、ブラたんもバトル系テレビ番組の主演として宣伝活動しないと!」

 

「え? いや、俺は別に……」

 

 レヴィアタンさまに変な対抗意識を燃やされてるーっ!? エイジにも飛び火して困り顔だし! ――ったく、本当に悪魔は平和だよね!

 

 九重は照れながら俺たちに言った。

 

「……咎のある身で悪いのじゃが……どうか、どうか! 母上を助けるために力を貸してほしい!」

 

 それは少女に悲痛な叫びだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この京都を取り仕切る妖怪のボス――九尾の狐こと『八坂(やさか)』は、須弥山(しゅみせん) 帝釈天 (たいしゃくてん)から遣わされた使者と会談するため、数日前にこの屋敷を出たという。

 

 ところが、八坂さんは帝釈天の使者との会談の席に姿を現さなかった。不信に思った妖怪サイドが調査したところ、八坂さんに同行していた警護の 烏天狗 (からすてんぐ)を保護した。瀕死の重傷だったそうだ。

 

 その烏天狗が死の間際、八坂さんが何者かに襲撃され、さらわれたことを告げたらしいんだ。

 

 で、京都にいる怪しい輩を徹底的に捜していた、と。俺と木場はそのとき襲撃を受けたことになる。

 

 その後、先生とレヴィアタンさまが九重たちと交渉し、冥界側の関与はないことを告げ、手口から今回の首謀者が『禍の団』の可能性が高いと情報を提供した。

 

「……なんだか、えらいことになってますね」

 

 今回の経緯についての説明を受けての、俺の意見だった。

 

 俺たちは屋敷に上がらせてもらっていた。大広間で九重を上座にして座っている。

 

「ま、各勢力が手を取り合おうとすると、こういうことが起こりやすい。オーディンのときもロキが来ただろう? 今回はその敵役がテロリストどもだったわけだ」

 

 先生が不機嫌そうにそう言う。平和な日常を願う先生は、テロリストを絶対に許さない姿勢だもんな。きっと腹のなかは煮えくり返っていると思う。

 

 九重の両脇には先ほどの狐のお姉さんと山伏姿で鼻の長いじいさん。じいさんのほうは天狗の長で、古くから九尾の一族と親交が深いそうなんだ。今回もさらわれた八坂さんと娘の九重を心底心配している様子だった。

 

「総督殿、魔王殿、どうにか八坂姫を助ける協力をしてもらえんじゃろうか? 我らならばいくらでも力を貸し申す」

 

 と、天狗のじいさんもそう言ってくれる。

 

 天狗のじいさんが1枚の絵画を見せてくれた。巫女装束を着た金髪のキレイなお姉さんが描かれていた! 頭部にピンと立った獣耳! ま、まさか……。

 

「ここに描かれておりますのが八坂姫でございます」

 

 マジか! おっぱいチョーデカいじゃん! 巫女装束の上からでもその存在がわかるほどだよ! こ、こんなデカ乳の狐姫をさらってテロリストどもは何を……。ひ、卑猥なことをしていたら俺が許さん!

 

「八坂姫をさらった奴らがいまだにこの京都にいるのは確実だ」

 

 先生はそう口にした。

 

「どうしてそう思うんですか?」

 

 俺の疑問だ。先生はうなずきながら説明してくれる。

 

「京都全域の気が乱れていないからだ。九尾の狐はこの地に流れる様々な気を総括してバランスを保つ存在でもある。京都ってのはその存在自体が大規模な力場だからな。九尾がこの地を離れるか、殺されていれば京都に異変が起こるんだよ。まだその予兆すら起きていないってことは、八坂姫は無事であり、さらった奴らもここにいる可能性が高いってわけだ」

 

 きょ、京都ってそんな事情のある都市だったんですか! 知らんことばかりだな……。

 

 でも、八坂さんが無事なら助けられる可能性も高い。

 

「セラフォルー、悪魔側のスタッフはすでにどれぐらい調査をおこなっている?」

 

「つぶさにやらせているのよ。京都に詳しいスタッフにも動いてもらっているし、ブラたんも索敵用の式紙を放って調査を開始したわ」

 

 先生がエイジを除く俺たち眷属を見渡すように視線を向ける。

 

「神城以外にもおまえたちにも動いてもらうことになるかもしれん。人手が足りなさすぎるからな。特におまえたちは強者との戦いに慣れているから、対英雄派の際に力を貸してもらうことになるだろう。悪いが最悪の事態を想定しておいてくれ。あと、ここにいない木場とシトリー眷属には俺から連絡しておく。そこまでは旅行を満喫してていいが、いざというときは頼むぞ」

 

『はい!』

 

 先生の言葉に俺たちは応じた。結局、旅行どころじゃなくなってきたな。まあ、今日のうちにめぼしいところを回っておいて正解だったか。

 

 九重が手をつき、深く頭を下げる。両脇の狐のお姉さんと天狗のじいさんも続く。

 

「……どうかお願いじゃ。母上を……母上を助けるのに力を貸してくれ……。いや、貸してください。お願いします」

 

 ――っ。

 

 こんな小さな子が頭を下げ、声を涙で震わせている。

 

 お姫さまな言葉遣いをしているけど、まだお母さんに甘えたい歳だろう。

 

 ……俺は心の底で少しずつ怒りが込み上がっていた。

 

 何が目的か知らないけど、『禍の団』の奴ら、会ったら絶対にとっ捕まえてやる! あんな乳の大きいお姉さんをさらうなんて絶対に許されない!

 

 そして思った! 助けたらきっと八坂さんが何かご褒美をくれるんじゃないかって!

 

『うふふ、お主が赤龍帝か? わらわを助けてくれたようじゃな? さて、どんなご褒美を所望するか。ふふふ、よかろう、極上の喜びを教えてやるぞ?』

 

 たらり……。エロ妄想をしていて鼻血が出てしまった。着物を妖艶にはだける九尾のお姉さんが脳内で大変なことになってます! 乳が! 乳がぁぁぁあっ!

 

「……イッセーさん、エッチなことを考えてませんか?」

 

 アーシアがジト目で俺を見ている。アーシアちゃん、こういうことに関してたまに勘が鋭い!

 

 俺は頭を振って切り替える。いかんいかん。幼いお姫さまの懇願なんだぞ!

 

 気持ちを新たに決意し、旅行中の戦闘を覚悟した。

 

 しかし、俺の出ていった可能性はどこに行ったのか……。いまだに帰ってくる気配はなかった。京都にいるのかな……?

 

 なんとなく、そんな遠くにいるような感じでもないんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、いろいろありすぎだ」

 

 夜、俺は部屋のベッドに寝転がっていた。夕飯も済んで風呂にも入った。いやー、バイキング最高だね。しかもどれもこれも高級そうなのばかりだ。

 

 ……妖怪の世界で過ごしたあと、エイジたちと別れて再び俺たちは金閣寺へ戻った。寝ていた松田たちを起こして、そのまま観光を最下位。お土産を買ったりして、期間時間まで金閣寺周辺で楽しんだんだ。

 

 ホテルに帰ってからエイジたちと合流して、木場とシトリー眷属を加えて今後についても話し合った。

 

 明日は、予定通りの観光地巡りをする。ただし、ホテルにいつでも戻れる転移用魔法陣の携帯簡易版を持っていく。俺たちを統括しているアザゼル先生からの連絡しだいで観光を中止してホテルに戻らないといけない。

 

 正直な話、観光どころじゃない雰囲気になってきているんだが……。明日は嵐山方面を攻める予定だったんだけど、そこで九重が観光の手伝いをしてくれるそうなんだ。

 

 初日に襲来してきたときの謝罪と、2日目一緒に行動する予定になっているエイジと真羅先輩が八坂さんの次に狙われるかもしれない九重の護衛するためという意味合いもあるらしい。謝罪については俺も木場も気にしていないからいいんだけどね。

 

 まあ、これも冥界と妖怪の協力態勢の第1歩だそうです。九重自身昔からの知り合いであるエイジに護衛してもらえることに安堵の表情を浮かべていたからな。

 

 まだ幼い子供だけど、相手は妖怪の総大将の娘、超VIPだ。それとの交流を俺たちに一任か……。昔からの知り合いらしいエイジがうまくパイプ役になってくれるだろうけど、明日は失礼のないようにしようっと。

 

 ……部長は何をしているのかな。朱乃さんは……小猫ちゃんは……。あ、ギャスパーもいたっけ。と、駒王学園に残ったメンバーに想いを馳せてみたり。

 

 俺たちが『禍の団』の件に巻き込まれているなんて露ほども思っていないんだろうな。今回の件はまだあちらに対してかん口状態だしな。

 

 ……うぅ、部長のおっぱいが恋しい。朱乃さんのおっぱいが恋しい。一度でいいからあのおっぱいに飛び込みんでみたい! いや、触りたい! 俺、一度ぐらいしか触ったことないんだもん! ああ……、おっぱい触りてぇー。

 

 …………。

 

 さて、就寝時間までどうしたものか。松田と元浜が女風呂の覗きに挑戦するとかでさっき部屋から飛びだしていったが……。俺は……。ロスヴァイセさんとシトリー眷属の強力な布陣の突破に挑戦してもいいんだけど……うーん、どうしたものか。

 

 …………。うん! やっぱり覗きに行こう! 昨日はなぜか急にやる気がなくなって寝てしまったけど、今日は大丈夫! リベンジだ!

 

 さあ、いつもは俺をバカにしているクラスの女子ども! くくくくく! 今夜こそはこの俺がその全裸を舐め回すように見てしんぜよう!

 

 自然とこぼれる笑み、湧き上がる性衝動に駆られながら俺は部屋のドアを開け、先に出て行った松田と元浜のあとを追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 京都の妖怪たちとの誤解が解けて、俺は久々に妖怪が住む裏街へと行き九重と会った。

 

 俺の顔を見た九重は、周りも気にせずに抱きついてきてわんわんと大声で泣いた。母親の八坂がさらわれたことによる不安や、八坂の代わりに妖怪たちをまとめなくてはいけなくなったりと、ストレスが溜まっていたんだろう。

 

 俺は九重が泣き止むまでやさしく背中をさすり、八坂をさらい、九重を泣かせた『禍の団』への怒りを心のなかで燃やしながら、必ず八坂を救いだすことを九重や烏天狗たちに約束した。

 

 九重が泣き止み、落ち着いたところでイッセーたちがこちらに向っていることを知らされ、俺と九重、そして一緒に観光している椿姫さんと代表兼交渉役であるアザゼル、セラたんの4人で出迎えに行って合流した。

 

 合流したあと、妖怪側……つまり九重が正式に悪魔側に謝罪して、八坂の捜索と救助を依頼し、悪魔側は了承した。

 

 これで表立って俺自身が八坂の捜索に参加できるようになったわけだが、修学旅行中は当初の予定通りに観光を楽しめと関係者全員、アザゼルとセラたんに指示されているため、ホテルを抜け出しての単独行動はできない。まあ、抜け出しての単独行動ができないだけで、式紙を動因させていまも京都中捜索させてるんだけどさ。

 

 九重との対談を終えたあと、俺と椿姫さんはイッセーたちと別れ、片瀬さんと村山さんたちの元へと戻り、予定通りに観光してからホテルへと帰った。

 

 ホテルに帰ってから、木場と椿姫さん以外のシトリー眷属を加えて今後について話し合い、明日は予定通りの行動をすることに決めて、何かあった場合には観光を中止していつでもホテルに帰れるよう携帯用の転移魔法陣を持ち歩くことになった。

 

 俺と椿姫さんの明日の予定は、イッセーたちの班と一緒に観光することになっている。そして、それに関連して観光には九重も参加することになっている。

 

 なんでも悪魔勢を勘違いで襲撃したことに対する謝罪に観光案内をしてくれるそうだ。一応観光案内の他にも、次に狙われるかもしれない九重を俺たちが守るという理由がある。

 

 まったく、『禍の団』め。本当に勘弁してほしい。

 

 3大勢力の会談を邪魔したり、洗脳した神器持ちを使って実験したり、レーティングゲームを妨害して首脳たちを殺そうとしたり……。

 

 ああ、特に、今回の八坂をさらったことが許せない。九重を泣かせたことが許せない。

 

 本当に『禍の団』がやったかは確定していないが、八坂をさらった奴は殺すッ!

 

 自分が何に手を出したのかをわからせ、二度と手を出す気にならないよう徹底的に潰してやる!

 

 そう決意して部屋で放っていた式紙から情報を集める。

 

 …………。む~……、特に情報がない。八坂が京都にいるのは確実で、身も無事なことはわかるけど、見つからない。京都中を探しきっていないから確かじゃないが、どこか別の空間……、というか結界に閉じ込めているのか?

 

『禍の団』には空間系の神滅具使いがいるという情報もある。『禍の団』のしわざだった場合、そいつが結界とか張って八坂を隔離している可能性があるな。

 

 その場合、八坂を隠している結界の近くを重点的に探知するか、相手が動くまで待たなければいけない。

 

 もっと式紙を強化して、数も増やして捜索すれば結界を張っている場所ぐらいは特定することもできるかもしれないけど。

 

 九重と別れるときに、もしもさらわれそうになったり、襲撃されたときように、かなり力を込めたお守りを渡したから、今はあまり力を使えないんだよなぁ。まあ、その力も今夜一晩ぐらいで回復するんだけどさ。

 

「はぁ……、とりあえずまだ表立って動けないか」

 

 床の上に敷いた布団に寝転ぶ。食事も風呂も済ませていることだし、京都で起こっている事件のせいで今夜の鍛錬もない。このまま明日に備えて今日はもう寝るかなぁ。もしも夜中に何かあれば式紙を通してわかるわけだし。

 

 そんなことを考えていると、

 

 コンコン。

 

 部屋の扉をノックされる。

 

「はい」

 

 返事をすると――。

 

『エイジ、私だ』

 

 ゼノヴィアの声だ。どうしたんだ? また剣の稽古に付き合ってほしいとかだろうか?

 

 起き上がって扉越しに声を返す。

 

「どうぞ」

 

 扉を開けて入ってきたのは寝巻き姿のゼノヴィアだった。

 

「よう、ゼノたん」

 

「ああ、エイジ。皆で遊びに来たぞ」

 

 そう答えてこちらに近づいてくるゼノヴィア。

 

 ……皆?

 

 ゼノヴィアの後ろ、扉のほうを見てみれば、

 

「し、失礼します」

 

「お、お邪魔します」

 

「……失礼します」

 

 寝巻き姿のアーシアとイリナ、そして椿姫さんがゼノヴィアに続いて入ってきていた。

 

 ゼノヴィアは普段通りの自然体だが、あとの3人は普段と様子が違っていた。

 

 アーシアはそわそわしながら顔を赤くしているし、イリナはいつもの元気な感じではなく、緊張している様子でもじもじしている。……さらに椿姫さんにいたっては、何か大きな覚悟でも決めたかのような目をしている。

 

 …………。えっと、遊びに来たんだよな?

 

 ゼノヴィアは布団の近くまで歩いてくると、アーシアたち3人を座らせ、自分は扉のほうへ歩き出した。

 

「本当は桐生も誘うつもりだったが、他のクラスの女子と京都について情報交換をするそうで来ていない」

 

「え、そうなのか」

 

「ああ、桐生にも是非来てほしかったんだがな」

 

 ゼノヴィアは少し残念そうに言いながら、部屋の扉に何かを貼り付けていた。

 

 それは長方形のお札のようなもので……、5枚。星を描くように張っていた。

 

 何の札を貼っているのか確認したいが、丁度アーシアたち3人が壁になっていてよくわからない。

 

 本当に、遊びに来たんだよな?

 

 扉に札を貼り終えたゼノヴィアが戻ってきた。正座して座っている3人の隣に、自分も並んで座る。

 

 とてもじゃないが、遊びに来た雰囲気じゃないぞ。おい……。

 

「さてと……、エイジ」

 

 真剣な表情で真っ直ぐこちらを見つめるゼノヴィア。

 

「……なんだ?」

 

「京都で事件が起こっているのはわかっているが、私たちは修学旅行の最中でもあるはずだ」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

 何が言いたいんだ? そう疑問符を浮べる俺にゼノヴィアは語り始める。

 

「エイジ。エイジはまず修学旅行といえば何を連想する? ――友達と皆で旅行の計画や旅行先での出来事に夢を馳せる? 飛行機や新幹線、バスなんかに乗って皆でわいわい楽しく騒ぐ? 友達や彼氏や彼女と楽しく観光地巡りで思い出を作る? ホテルや旅館に泊まって豪華な料理に舌鼓をうったり、広いお風呂や温泉で体を癒す? クラスの皆で枕投げをしたり、恋話など夜遅くまで楽しく遊ぶ? ……ああ、そのどれもが修学旅行の楽しみであり醍醐味だろう」

 

 ゼノヴィアは目を閉じてうなずく。

 

 ……確かに、修学旅行の楽しみであり醍醐味だな。

 

 ゼノヴィアの言葉に俺も、アーシアたち3人も引き込まれていた。

 

 ゼノヴィアは再び目を開くと、無言で耳を傾けている俺たちに、堂々と言った。

 

「だが、もうひとつ……。私たちにとって重要なイベントがあることを忘れないで欲しい」

 

「「「…………」」」

 

「重大なイベント?」

 

 アーシアたちは思い当たるフシがあるようだけど……。いったい何のことだ?

 

 そんな疑問符を浮べている俺に、ゼノヴィアは言う……、いや、言い放つ!

 

「私たち年頃の女子高校生の重大なイベントと言ったらアレしかないだろう。――そう、初体験だ」

 

「…………。――っ!?」

 

 はぁっ!? なっ!? ゼッ、ゼノたん!?

 

 混乱する俺にゼノヴィアは冷静に、いつも通りの調子で話し始める。

 

「修学旅行で高まるテンションと、修学旅行といういつもと変わったシチュエーションに勇気をもらって、気になるあの人やあの子に告白。彼氏彼女がいる者で、初体験まで踏み出せていなかった者も、修学旅行を機に体験してみたりと……。修学旅行はいいキッカケをもたらす重大なイベントだろう? ――もちろん初体験を済ませている者も修学旅行でセックスしたって不思議じゃないぞ」

 

「あ、ん……。ま、まあ……、そうだな」

 

 それも確かに修学旅行の楽しみ方だろう。健全な修学旅行とは言えないけど……。ていうか、そもそも修学旅行では男女の仲を深めるぐらいじゃないのか? エッチはしないだろう……。

 

 すでに肯定してしまった俺に、ゼノヴィアは四つんばいになって近づいてくる。

 

 肉食獣が獲物に狙いを済ませたときのような表情で、ゆっくりと、薄く笑みを浮かべて近づいてくる。

 

 畳から敷き布団の上へ移動し、思わず後ろに手をついて仰け反った俺に覆いかぶさるように近づき、

 

「ぜ……、ゼノ、たん……?」

 

「エイジ……」

 

 息がかかるほど顔を近づけたゼノヴィアは、唇を合わせてきた。

 

「――っん!」

 

 やわらかくて温かい、ゼノヴィアの唇。頬に触れる鼻。目の前にゼノヴィアの閉じられた瞳がある。

 

「「「――っ」」」

 

 ゼノヴィアの背中越しにアーシアたち3人の息を飲むような声が聞えた。

 

 一旦唇を離し、笑顔を浮かべるゼノヴィア。その表情は艶っぽくてすごく魅力的だった。

 

 見惚れる俺を、ゼノヴィアが押し倒す。

 

 俺は抵抗せずに布団の上に押し倒される。ゼノヴィアは押し倒された俺の顔の両側に両手をつく。

 

「エイジ……」

 

 今のゼノヴィアの雰囲気はいつもセックスするときのような女の顔をしていた。普段見せている剣士とは違う、女の顔だ。

 

「ゼノたん。あ、アーシアたちが……」

 

 ――見ているぞ? そう言おうとするが、ゼノヴィアは笑みを浮かべて、

 

「大丈夫だ。問題ない。最初からそのつもりだったんだ」

 

 と言った。

 

「え? それって……」

 

 俺の疑問に答えるようにゼノヴィアは言う。

 

「まったく男を知らない、初心なアーシアとイリナに経験者の友達として、セックスというものがどういうものなのか教えてやるつもりでつれてきたんだ」

 

 フフンと得意げに鼻を鳴らすゼノヴィア。

 

 …………。……え?

 

 まさかの言葉に思考が停止して戸惑う。ゼノヴィアの胸越し……、重力で下を向いてる胸が邪魔で覗けない。首を動かして横から3人を覗く。3人は驚いている様子はあるものの戸惑ってはいなかった。むしろ期待しているような、目がこちらに釘付けになっていた。

 

「まったく知識がないと、セックスするときに色々と困るだろうと思ってね。私とエイジとのセックスを見せて勉強させようと思ったんだ」

 

「勉強って……」

 

「ああ、誤解されないように言っておくが、勉強のためにセックスするんじゃない。セックスするついでに勉強させてあげるんだ。――ふふ、修学旅行中に恋人とセックス……。しかも友人たちに見られながらなんて。いつもより興奮してしまうな」

 

 ゼノヴィアはそうつぶやき笑顔を浮べた。おいおい……、まさか露出とか視姦プレイとかに目覚めてないよな?

 

 って、そういえば椿姫さんは? 椿姫さんはどうしてつれてきたんだ? ていうか、椿姫さんって俺の監視で修学旅行に来てるんじゃなかったけ? 止めないでいいの?

 

 ゼノヴィアは仰向けで寝転んでいる俺の下腹辺りに跨るように腰を下ろし、服に手をかけて上着を脱いだ。形のいい白い肌の胸を彩り、覆っているブルーのかわいらしいブラジャーを後ろに手を回して外し、上着と共に床に置く。

 

「ゼノたん……」

 

「ふふっ、そんなギラギラした瞳で胸を見て……。そんなに私が欲しいのか?」

 

 誘惑するようにつぶやき。上半身を折って俺の顔の上に胸を持ってくるゼノヴィア。ゆっくりと上半身ごと体を下ろしていき、胸の中心に顔を埋めさせる。ああ、ゼノたんの谷間、柔らかくていい匂い……。風呂が違うからかな? いつもの匂いと違うなぁ。

 

「――っん。ふふっ、よしよし」

 

 ゼノヴィアは俺の頭に片手を回して固定する。ん? もう片方の手に魔力を込めてる? 何をする気だ?

 

 パチンッ。

 

 ゼノヴィアが指を鳴らした音が聞えたのとほぼ同時に部屋が結界で覆われる。

 

 ああ、結界を張るために魔力を集めていたのか。

 

 ん? この結界って……。

 

「黒歌さんに用意してもらった結界だ。結界内の時間を進める効果はもちろん。いい雰囲気を演出してくれるし、何か起こった場合でもすぐに対応ができるように改造されている。さらにこの結界は周りに結界を張っていることを気づかれないようになっていて、結界の周りには意識を逸らす処理もされている。だから安心して淫行に励めるぞ」

 

 黒歌……。またおまえか……。

 

「さあ、これで場は整った。次は……」

 

「――っ」

 

 ゼノヴィアが手を上着のなかに滑り込ませてくる。やさしく腹筋やわき腹を撫でて、胸に触れ、指先で乳首を弄ってくる。

 

 ゼノヴィアの体温と感触を感じさせられながら性感を刺激されて、俺も興奮し始める。

 

「ゼノたん……。俺……」

 

「ふふっ、いいぞ。今脱がせてやろう」

 

 興奮した俺にゼノヴィアはそう微笑むと上半身を起こし、俺の服を脱がし始めた。俺もゼノヴィアに協力して服を脱いでいく。

 

 上着、ズボンと脱がされていき、下着1枚となり、ゼノヴィアの手がかかったところで、息を飲むような音が……。

 

 視線だけ動かして見れば、いつの間にか布団を囲うようにアーシア、イリナ、椿姫さんが座っていて、俺の股間を食い入るように見つめていた。

 

 こ、この状態で見られるのか?

 

「興奮するだろう?」

 

 ゼノヴィアからの突然の問いかけ。

 

「――っ。…………はぁ。そうだな。ああ、興奮するな」

 

 俺はため息を吐いて諦めたようにうなずいた。……うん、否定できそうになかったんだ。ペニスは勃起して下着にテントを作っていたし、興奮していたのは本当だから。

 

 ゼノヴィアはうなずく俺を見て笑み、下着を脱がした。

 

 下着という拘束具を解かれたペニスは、ビンッという効果音でも鳴らすかのように、天井に向けてそそり立つ。

 

「キャッ!」

 

「す、すごい……。お兄ちゃんの……」

 

「お、おお……」

 

 アーシアが悲鳴をあげて目を覆い、イリナが驚きながらもペニスを見つめ、椿姫さんは恐れおののくような声を漏らした。

 

 そんななかでゼノヴィアは勃起したペニスをうれしそうに見つめ、自分も立ち上がって寝巻きのズボンと下に着ていたブルーのショーツを脱いで全裸になった。

 

 全裸になったゼノヴィアは布団の上に座った。丁度俺の腰辺りだ。

 

「ふふっ、もうカチカチだな。――すぐに私が楽にしてやるからな」

 

 ゼノヴィアは指でペニスの亀頭をツンと触り、微笑む。

 

 そして慣れた手つきで亀頭から雁首、竿から玉袋と触り、上半身を倒して俺の腹を枕にペニスの竿を握って上下に扱き始めた。

 

「んっ、くぅ……」

 

「ああ、相変わらずすごいな。太く、長く、雁首も凶悪で、玉袋もプリプリ。血管は浮き出て陰毛も濃く太い毛で、畏怖を与えるような迫力を感じるペニスだ。――今でもこのペニスが私のなかに何度も入ってるなんて信じられないな」

 

 ゼノヴィアは猫のように体を俺の下半身に擦りつけながら、先ほどから食い入るように見学してる3人に向かって、自慢するかのようにつぶやく。

 

「ほら、アーシア、イリナ、椿姫先輩。これが男のペニスというものだ。すごいだろう? この臭い、この迫力。女の本能から刺激されてしまうような感覚に陥ってしまいそうになるだろう」

 

「「「…………」」」

 

 ゼノヴィアの言葉にごくりと3人のツバを飲んだ。生まれて初めて見ただろう勃起したペニスに釘づけになっている3人の様子にゼノヴィアは満足した様子で微笑み、尿道から漏れ出しているカウパーを指先で掏い舌で舐めとった。

 

「さてと、それじゃあ本格的に始めるかな」

 

 ゼノヴィアはそうつぶやくと体を起こしてペニスの真上に顔を移動させる。そして両手でペニスを真上に真っ直ぐ立たせ、口を大きく開けて亀頭を咥えこんだ。

 

「うっ、ゼノたんっ」

 

 敏感な亀頭がゼノヴィアの口のなかに包まれたことによる快感が走り、さらにちろちろと舌先で尿道口や雁首を撫でられ、腰が浮き上がってしまう。

 

「ちゅ、れろっ……、んんっ、はぁ……、ちゅっ、あむ……」

 

 さらにゼノヴィアは亀頭を口のなかで愛撫しながらも同時に、片手で竿を上下に擦り、もう片方の手で玉袋までを弄ってくる。

 

「はぁはぁ……、ちゅじゅっ、んっ、はぁ……、どうだ? 気持ちいいか?」

 

「ああ、すごく……。すごく気持ちいいよ、ゼノたん」

 

「ふふふ、そうか。もっと気持ちよくしてやるからな」

 

 いつもは蹂躙されるように攻められるのが好きなゼノヴィアだけど、今日は完全に攻める側に回ってる。やっぱり3人に見られているからなのかな?

 

「わわわ……、ぜ、ゼノヴィアさんがエイジさんのオ、オチンチンを……」

 

「す、すごいわ……。これがフェラチオってやつなの……?」

 

「こ、こんな、は、破廉恥な……」

 

 …………ていうか、3人とも近くないか? アーシアももう顔を隠さずに堂々を見てるし、イリナも興味津々と観察してる。椿姫さんも口では否定的なことを言いながらも顔を赤くして鼻息荒く食い入るように見ているし。

 

 なによりも3人共通してヒザを悩ましく擦らせているところが何とも言えない。俺とゼノヴィアを見て興奮してるのが丸わかりだ。

 

「――っん」

 

「ビクビクしてるな。そろそろ射精が近いのか? エイジ」

 

「……わかってて聞いてるだろ、ゼノたん」

 

 ペニスの竿にキスしながら訊ねてくるゼノヴィアにジト目で言うと、ゼノヴィアは「バレたか」とかわいらしく笑い、スパートをかけてきた。

 

「まずは一発目だな。ふふっ、さあ、景気良く吐き出そうじゃないか」

 

 ご機嫌のゼノヴィアはテンションを高くして激しく上下に手を動かし、ペニスを深く咥え込み、いやらしく吸いつく。

 

「んじゅ、んむっ……、ぅん、ふぅ……、じゅぶ、じゅるる……」

 

「――っ。ゼノたんっ、も、もう出る!」

 

「あむっ♪ んじゅるるるぅぅ……」

 

 射精が近くなった俺が声を上げると、ゼノヴィアはうれしそうな笑みを浮かべてペニスを深く咥え込んだ。両手で竿を扱かれながら強く吸われる。

 

「くっ! 出すぞ!」

 

 ビュルッ! ビュルルッ! ビュルルルルゥウウウウウウ~!

 

「ジュルルルルっ! ぶはっ! はぁ、はぁぁぁ……」

 

 精液を一気に吸い取り、口いっぱいに精液を溜めると、ゼノヴィアは口を離した。

 

 口を半分開けて、射精途中のペニスを眺めながら精液を体に浴びた。

 

「わわわ……、あ、あれが精子なんですか?」

 

「い、いっぱいでるのね。ゼノヴィアがドロドロになってる……」

 

「はぁはぁ……、い、勢いよく飛んで、い、いやらしい光景ですね」

 

 外野から観察している3人の声が聞えていないのか、ゼノヴィアは口を開けたまま舌でいやらしく精液をかき混ぜて味わい、ごくんと喉を鳴らして飲み込んだ。

 

 蕩けた微笑を浮べて、

 

「ごちそうさま。すごく濃厚で、おいしかったよ」

 

 とつぶやいた。

 

「「「…………」」」

 

 その様子にアーシアたち3人のほうが顔を赤らめた。

 

 ゼノヴィアは起き上がると、俺の体の上に跨った。

 

 片手の指を自らのオマンコへともっていき、指をV字にして大陰唇を開いた。間からとろりと愛液が伝う。

 

「さあ、エイジ」

 

「ああ」

 

 うなずくとゼノヴィアがゆっくりと腰を下ろしてきた。

 

「「「――っ」」」

 

 腰を下ろすゼノヴィアに、アーシアたち3人が息を飲み、ゼノヴィアが思い出したように声をかけた。

 

「ああ、そうだった。アーシア、イリナ、椿姫先輩。よく見ておいてくれ。これからが本番だからな」

 

 そのつぶやきを聞いてアーシアたち3人の顔が赤みを増して顔を俯かせた。どうやら声をかけられたことで、我に返ったようだ。3人ともかわいらしく視線をさ迷わせている。

 

 ゼノヴィアはそんな3人を無視してゆっくりと腰を下ろしていく。オマンコにペニスの先端が当たり、ゼノヴィアがもう片方の手でペニスを掴んで固定し、挿入していく。

 

「くっ……、うぐぐ……、うっ、んんっ!」

 

 亀頭まで咥え込ませたゼノヴィアは、オマンコとペニスから手を離してさらに腰を落とす。

 

 中腰からベッドにヒザをつけて跨り、俺の胸に両手をつく。

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

 ゼノヴィアは荒く息を吐きながらも、うれしそうな笑みを浮かべた。しっとり汗で艶をえた髪が光り輝いてすごくキレイだ。

 

「ゼノたん」

 

 ゼノヴィアの両手をとって指を組ませる。

 

「す、すごいです……。あ、あんなに大きくて長いのが、ゼノヴィアさんのなかに……」

 

「ふふふ、すごいだろ。アーシア」

 

「……はい」

 

 ゼノヴィアは俺を正面から見つめたまま、アーシアと言葉を交わし、笑む。さらに信じられないといった椿姫さんも声を漏らす。

 

「本当にすごいわ。こ、こんなものが入るなんて……」

 

 ゼノヴィアはそんな2人に見られていることに快感でも感じているのか、オマンコをきゅっと絞めつけた。おいおい、それにしてもアーシア、椿姫さん、少し近すぎないか? 見られるっていうより、もう覗き込まれてるに近いんだけど……。あれ? そういえばイリナは……?

 

 俺は視線だけずらしてイリナのほうを見る。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、はぁはぁ……」

 

 見るとイリナは赤い顔をしたままその場でこちらを見つけていた。股をすり合わせて、体を少し震わせている。切なげな瞳がなんとも言えず、かわいらしい。

 

「はぁ……、はぁ……、エイジ」

 

 ん? ゼノたん?

 

「そろそろ動き始めるぞ」

 

 ゼノヴィアはそう言うと、ゆっくりと腰を揺らし始めた。

 

 まずは前後に揺らして、次に両ヒザを支えに腰を持上げて上下に、そして腰を下ろして円を描くように腰を動かす。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……っ。んっ、くぅっ……」

 

 腹の上でゼノヴィアが甘い吐息を漏らしながら踊る。

 

 形がよく、白く、やわらかい胸が揺れる。

 

 白い肌がほんのりと桜色と熱を帯びて、汗の玉が浮び、光に照らされて輝く。

 

 美しい鎖骨から汗の玉が伝い、揺れる胸の先端から俺の体にぽたりと落ちる。

 

 俺は下から、ゼノヴィアは上から見つめあう。

 

 ゼノヴィアの瞳に映る俺が見える。

 

 ゼノヴィアの瞳に映る俺は、本当に幸せそうだ。

 

 ふふっ、それも当然だな。

 

 好きな女を抱いているんだ。

 

 幸せで当然だ。

 

 ゼノヴィアの両手と組んでいる指にもう少し力を入れて、強く組む。

 

 もっと強く、もっと強く触れ合いたいと想いながら。

 

「はぁはぁ……、んっ、あっ……、ふっ、んんっ……。エイジ……、エイジ……」

 

 俺の名を紡ぎ、ゼノヴィアはさらにオマンコを絞めつけ、踊る。

 

 まるで俺の体を使って自慰するかのように。

 

 自身の快楽と本能に従って腰を動かす。

 

 奥までじっとりと濡れて、熱く、そして狭い膣道を動かし、子宮口で吸いつき、俺のペニスを誘惑して味わい、受精しようと精液を求める。

 

「エイジっ、私は……、私は……っ!」

 

 ゼノヴィアのオマンコが締まりを増して、子宮口がちゅううっと亀頭に吸いついてきた。

 

「エイジっ、イク! 私は……もうっ!」

 

 腰の上でゼノヴィアが体を震わせる。まるで快感に全身を蝕まれたかのようにビクビクと悶え、頬を朱色に染める。

 

 ああ……、すごくいやらしくて、かわいい……。

 

「くっ、うぅんんっ!」

 

 ゼノヴィアの体がビクッと大きく跳ねる。オマンコが収縮し、ペニスに絡みつく。子宮がペニスに強く吸いつく。

 

「ダメっ! い、イクっ! はぁはぁっ、あくっ、イクっ! イクゥウウウウウウウウウウ!」

 

 きゅっ、きゅうううっ、きゅうううううっと何度もオマンコを収縮させ、部屋の外まで聞えんばかりの大声をあげて、ゼノヴィアは絶頂に達する。

 

「ゼノ、たんっ!」

 

 精液を求めてペニスに絡みつく膣道、亀頭に吸い付く子宮口に俺のほうも限界を迎える。

 

「俺もだすぞ!」

 

 ビュっ! ビュルルっ! ビュビュウウウウウ!

 

 ゼノヴィアの返答を待たずに俺はそのまま射精を開始する。オマンコの要望通りにたっぷりと煮詰まった精液を子宮に吐き出していく。

 

「――っ! ああああっ! なかにっ! エイジの精液が私の子宮に注がれてるっ! はぁはぁっ、くっ、ああ、エイジのが……」

 

 ふるふると震えながらゼノヴィアは子宮に吐き出された精液を味わう。目を細めて、くびれた腰を悩ましく動かして。

 

 子宮に感じる俺の熱を幸せそうな顔で味わっていた。

 

「ゼノヴィア」

 

 口のなかで小さく名を紡ぐ。

 

「――ん」

 

 腰の上で幸せそうな顔を浮べ、小さく声を漏らした彼女を見て、俺も幸せな気持ちで満たされた。

 

 射精を終えてなお勃起しているペニスをオマンコに収めたまま、ゼノヴィアは細めていた瞳を開いて俺を見つめてくる。

 

 俺も下からゼノヴィアを見上げる。

 

 俺は彼女の顔を見つめ返しながら、彼女の名を紡ぐ。

 

「ゼノヴィア」

 

 親愛の気持ちを込めて、さらにもう一度「ゼノヴィア」と名を紡ぐと、彼女は照れくさそうな笑みを浮かべた。

 

 乱れた呼吸を整えて、しっかりと気持ちを伝えるように、組んでいる指に力を入れて、ぎゅっと強く組んで、彼女は言葉を紡ぐ。

 

「エイジ、好きだ。大好きだ。私は、エイジが大好きだ」

 

 身から溢れる気持ちを抑え切れないと、伝えたいと、彼女は桜色の唇から言葉を紡ぐ。周りにいる3人のことなど忘れて、愛の言葉を紡ぐ。

 

 今感じている幸せが伝わるようにと、満面の笑みを浮かべて。

 

 子宮に吐き出された精液を確かめるように、麗しき体を揺らしながら。

 

「エイジを好きになれてよかった。私はエイジを愛してる」

 

 そうゼノヴィアは誇らしげに微笑んだ。

 

 ああ……、本当になんて愛らしいんだ……。

 

「俺も、心の底から愛してるよ、ゼノヴィア」

 

 俺の言葉を聞いて微笑み、覆いかぶさるように抱きついてくるゼノヴィアを抱きしめ返し、周りを忘れて2人だけの世界へとのめりこんでいった。

 




 ああ……、これからが大変だ。さっさと書き上げよう。

 とりあえずエロパートがだいぶ続くと思います。

 最初からわかっていたけど、全てを通して修学旅行編を書き上げるが1番キツイという……。

 現在の予定では、悪魔聖女、新米天使、クール副会長、九尾親子

 それぞれにエロパートが……。シチュの段取りや、モチベを保つのがががが……。

 たまには戦闘書きたいです。

 ネギマのほうもエロパートで止まってるんだよね……。


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第73話 京都2日目の夜 後編 ☆

※警告 今回はすべてアーシア回。

 2万5千字を超える文章のなかでほぼ全てをアーシア回となっています。

 正直ここまで長くなるとは思いませんでした……。

 もはや最後まで読んでくださいとは言いません。少しだけでも目を通してもらえればうれしいです。

 あと、要望にあった通り、エロシーンがある回には☆マークをつけるようにしました。


<エイジ>

 

 修学旅行で訪れた京都。そして教員と生徒が宿泊するホテル。そのホテルで俺に用意された1人部屋。時間はもうすぐ9時というところだが、部屋のなかの時間は特殊な結界で早められているために、関係ないか。

 

 その用意された1人部屋には、現在5名がいた。

 

 1人はもちろん俺として、他は遊びにきたというゼノヴィア、アーシア、イリナ、椿姫さんの4人なのだが……。

 

「ほら、エイジ。遠慮するな。アーシアに恥をかかせる気なのか?」

 

「え、エイジさん……。わ、私……、そ、その……お願い、します……」

 

 現在、俺の目の前には全裸のゼノヴィアと、アーシアがいた。下着姿の……。

 

 …………。

 

 いや、全裸のゼノヴィアはともかく、下着姿になってるアーシアについては俺自身、なんでこうなったかはわからない。

 

 最初はゼノヴィアが、初心な女の子たちにセックスを実際に見せて教えてあげる~っとか、結構軽い感じでセックスに発展してゼノヴィアを抱いてたんだが、なぜこうなってるんだ?

 

 えー……っと、確か……。

 

 ゼノヴィアと3回目が終わったぐらいで、椿姫さんとイリナがダウンしたんだよな?

 

 堕天使化防止の結界が張ってあるといっても、イリナはほぼ性に関して無知だったから、刺激が強すぎて気絶。

 

 椿姫さんも顔を真っ赤にして気絶して……。

 

 意外にもアーシア1人が残ってたんだよな。

 

 そこで、ゼノヴィアがまずは気絶した2人を布団に寝かせるとか言って、部屋の押入れの中に置いてあった予備の布団に敷いて、俺がイリナと椿姫さんを寝かせている間に、いつの間にかゼノヴィアがアーシアの寝間着を脱がしてて、現在に到るという。

 

 …………。

 

 マジで、意味がわからない。

 

 今さらながら、アーシアの前で裸ではマズいので、タオルを腰に巻く。

 

 そして、素直に、

 

「すまん。今はいったいどんな状況なんだ?」

 

 と、訊ねてみる。

 

 俺のそんな問いに、先に答えたのはゼノヴィアだった。

 

 ゼノヴィアは後ろからアーシアの両肩を掴み、顔を出して得意げに言う。

 

「なに。前々からアーシアには性の方面で少しは耐性をつけてもらっていたほうがいいと思ったんだ。ほら、アーシアは初心だろ? いざというとき、緊張しすぎて気絶とかされたら心に傷が残って臆病になってしまうかもしれない。――だからこの機会に、エイジにはアーシアの性教育してもらいたいんだ。ああ、無論処女膜は傷つけない方向で」

 

 そして、アーシアもゼノヴィアの言葉に続いて、もじもじとヒザをすり合わせながら、

 

「あ、あの……、は、初めてで、いたらないところもあると思いますが、よっ、よろしくお願いします」

 

 と、頭を下げてきた。

 

「――って、いやいやいや! ちょっと、待て! 待ってくれ!」

 

 俺はこめかみに手を当てて、親指で揉み解す。おいおいおい、なんなんだこの状況……。ゼノたんとセックスして自然と解散、とかいう流れじゃなかったのか? なんでアーシアに性教育する流れになってんだ!?

 

「そもそも性教育って何をすればいいんだ?」

 

 アーシアって元シスターだけど、一応性教育受けてるよな? コンドームがわかるぐらいだし。コオノトリうんぬんはさすがにないだろ? ていうかゼノヴィアとのセックスを食い入るように見てた3人の内の1人なわけだし。

 

 ゼノヴィアはうなずいて言う。

 

「ああ、エイジにやって欲しいことはマジカルエステだ。それもイリナや小猫にするようなものより、少し過激なほうのな」

 

「少し過激なマジカルエステか……」

 

「そうだ。アーシアは今まで性の快感や快楽を味わったことがないらしくてな。オナニーもしたことがないそうなんだ」

 

「ゼッ、ゼノヴィアさんっ」

 

 ゼノヴィアの暴露にアーシアが真っ赤になるが、ゼノヴィアは話を続ける。

 

「私が教えてもいいんだが、私自身最近性に目覚めたばかりでオナニーの正しいやり方など知らないし、教えられないんだ。その点、インキュバスであるエイジなら性の知識については誰よりも豊富で、経験もあるだろ? ほら、よくレイナーレを色々仕掛けを施してる椅子に縛り付けて、ペニスを模したディルドーやピンクローターなどを使ってオナニーさせるプレイで愉しんでるじゃないか」

 

「え、エイジさん……。レイナーレさんとそんなことを……」

 

 ……なんだろう、アーシアから送られる視線がいたたまれない。

 

「間違ったオナニーをして処女膜がなくなったりするのはさすがに嫌だろうし、何よりもアーシアは……」

 

「――っ、そ、それは言ってはダメですっ!」

 

 ゼノヴィアが言葉を続けようとした瞬間、アーシアが慌ててゼノヴィアの口をふさいだ。おいおい、アーシアは、なんなんだよ?

 

 俺を外野においてゼノヴィアに小声でアーシアが抗議しているが、良く聞えない。

 

「お願いですから、それは言わないでくださいっ」

 

「だが、アーシア。黒歌さんが言ってただろう? 欲求不満がかなり溜まっていると。このままじゃ修行の妨げになるかもしれないと。だからエイジにマジカルエステをしてもらうんだろ?」

 

「そ、それは……、そうなんですけど……。あ、あんまりそういうことはエイジさんには知られたく……」

 

「ん? なんだ? イッセーだけでなく、エイジも男性として見てるのか?」

 

「――っ。い、いえ、そ、そういうことでは、なくて、ですね……。誰だって異性にされるのは恥ずかしいじゃないですかっ」

 

「ふむ。まあ、それもそうだな。さすがに好きでもない男に体を預けるのは不安だろう。やっぱり止めておくか?」 

 

「えっ!? い、いえ、その……、こ、ここまで来たのに、いまさらそれは……。そ、それにエイジさんが、き、嫌いというわけでもない、ですし……。元々エイジさんならと決めたことですし……」

 

「そうか? それなら問題ないな」

 

「え? えっと……。……は、はい。あ、改めてが、がんばりますっ」

 

 …………。ええ、俺には何も聞えていませんでした。聞えていませんでしたよ。

 

 2人の話がまとまったところで、ゼノヴィアは先ほどまで俺と使っていた布団に浄化魔法をかけて、そこにアーシアを座らせた。

 

 そしてゼノヴィアは布団から降りて、

 

「私が居てはアーシアも心から気が抜けないだろう。私は今のうちに風呂に入ってくる。ああ、イリナと椿姫先輩も途中で起きないように睡眠の魔法をかけて、2人の姿が見えないように魔法で隠しておくから、安心してエイジに身を任せていいぞ。エイジも、アーシアの処女膜を破かないようにくれぐれも気をつけてくれよ」

 

 と、それだけ言って部屋にある風呂場のほうへと向ってしまった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 部屋に残された俺とアーシア。気まずさに沈黙してしまう。

 

 だ、だけど、この沈黙を続けるのも男としてダメな気がする。アーシアが発言する前にここは俺が――。

 

「え、エイジさんっ」

 

 ――っと、アーシアのほうから話しかけてきた!?

 

 内心の動揺を隠し、自然を装いつつ「どうした?」とつぶやいてみる。

 

 するとアーシアは顔を俯かせながら頭を下げてきた。

 

「す、すみません」

 

「へ?」

 

 いきなりの謝罪に間抜けな声がでてしまう。なんだ? なんでアーシアが謝ってるんだ?

 

 そんな俺を無視して、アーシアは申し訳なさそうに言葉を続ける。

 

「い、いきなり迷惑でしたよね……。性教育してほしいだなんて。……わ、私みたいな、その……、胸の小さな子なんか、いや、ですよね?」

 

「は? 何を言ってるんだ?」

 

「やっぱり、エイジさんも部長や朱乃さんみたいなスタイルのいい女性がいいですよね……」

 

 …………。

 

「……アーシア」

 

「……はい」

 

 俺はアーシアと向い合うように布団の上に座る。そして、俯いたままのアーシアに俺は語りかけるように言う。

 

「アーシアはすごく魅力的な女の子だ」

 

「え?」

 

 顔を上げたアーシアは今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「確かに。リアスや朱乃、同世代のゼノヴィアやイリナ、桐生さんに比べて女性としての発育で劣っているかもしれないけど、アーシアが魅力的な女の子なことには変わりないんだ。それに、そもそも比べないんでいんだ」

 

「でも……」

 

 と、アーシアは胸の前に両手をおく。何もないところにおかれてる両手を見つめて落ち込んでる。……まあ、アーシアのコンプレックスなのだろう。

 

「アーシア。さっきも言ったとおり、アーシアはすごく魅力的だよ」

 

「本当に、そうですか?」

 

「ああ。すごくかわいくて、きれいで、正直我慢するのが辛いぐらいだ」

 

「――っ。そ、そうですか?」

 

「案外疑い深いんだな? 本当だよ。意外と派手な下着が特にね」

 

「――っ! こ、これはゼノヴィアさんが……。しゅ、修学旅行だからって。い、いつもはもう少し大人しいので……」

 

 真っ赤な顔で、必死に言い訳してくるアーシア。そうか、ゼノヴィアが。結構面積の少なくて生地が薄い、レースがあしらわれた純白の下着だったからそうじゃないかと思ってたんだ。

 

「ふふ、すごく似合ってるよ。アーシア」

 

「そ、そうですか?」

 

「ああ、とっても」

 

 そう笑顔を浮かべて、さっそく事の本題へと移る。

 

「で、それで本当にアーシアはいいのか?」

 

「……はい。エイジさんなら……」

 

 胸に手を当ててそうつぶやくアーシアだけど、俺はあえて意地悪な質問をする。

 

「イッセーのことはいいのか?」

 

「――っ」

 

 アーシアがせっかく固めた決意を無駄にするかもしれないが、これだけは聞いておかないといけない。はっきりさせておかないといけない。

 

 アーシアはイッセーが好きなのは、そのイッセー本人以外、周知の事実なはずだから。

 

 どう返答するか俺がしばらく待っていると、アーシアは考えをまとめたようだ。顔を上げた。

 

 そして――。

 

「いいんです。今の私は。イッセーさんに大切に想われているようですけど、あまり……、女の子として、異性としては見てくれていないようなので……」

 

 そう、アーシアは苦笑を浮べた。

 

 ――っ。アーシア……。

 

「桐生さんやゼノヴィアさん、リアス部長にも色々アドバイスしてもらって、がんばってみたんですけど、ね。やっぱり私ではリアス部長みたいにはいかないみたいなんです」

 

「そう、か……」

 

「はい」

 

 今にも泣きそうな微笑みでうなずくアーシア。

 

 アーシアが自分なりにすごく頑張っていたことは俺も知っていた。

 

 イッセーに異性として振り向いてほしいと迫っていたことも知っていた。

 

 なんせ隣の家に住んでいて、グレモリー眷属の一員で、なによりも友達だからだ。

 

 アーシアみたいないい女の子に、こんな辛そうな顔をさせた3バカの1人は何やってたんだ? ていうか、今は何やってんだ? いや、そんなことよりも……。

 

「アーシア」

 

「はい?」

 

 俺はアーシアに片手を伸ばす。ゆっくりと、驚かさないようにその頬に手を添える。

 

 今の俺には、何ができる?

 

 アーシアの欲求不満を解消すること?

 

 アーシアのストレスを抜くこと?

 

 アーシアを強引に犯すこと?

 

 アーシアを癒すこと?

 

 俺は……。

 

「俺は……、いま、だけになるかもしれないけど……」

 

 俺はアーシアの顔を正面から見つめ、頬に触れながら、しっかりとつぶやく。

 

「アーシアを特別な女の子として好きになるよ」

 

「特別、ですか?」

 

「ああ。特別な女の子だよ」

 

 言葉が足りないのはわかってる。だけど、アーシアを好きになるとか、アーシアだけを愛してあげるとか、愛を受け入れるなんて言葉は言ってあげられない。今の状況でその言葉を口にしてはいけない。

 

 はっきりとは口にしないけど、言葉に心を込める。

 

「俺は、こうしてアーシアみたいな魅力的な女の子に触れられることを幸運に思うよ」

 

 全ての事情を一旦置いて、アーシアをひとりの女性と思って触れる。

 

「エイジさん……」

 

「アーシア。俺に触れさせてくれるか?」

 

 何に触れるか言わなかったが、アーシアは無言でうなずいてくれた。

 

 俺はゆっくりと、アーシアに顔を近づける。

 

 正面から桜色の小さな唇を目指して顔を近づけていく。

 

「――っ」

 

 少しだけ、アーシアの体が震えた。

 

 だけど、アーシアは逃げない。目を瞑って、控えめにだが、唇を突き出した。

 

 俺もアーシアの気持ちに答えるように、そのまま、唇を重ねた。

 

 1秒、2秒……と、唇を重ね合わせ。離す。

 

 そして薄く開いたアーシアの瞳を覗き、もう一度唇を重ねる。

 

 温かくて、やわらかく、ぷるぷるとした唇だ。

 

 その唇の感触を楽しみながら、胸の前で握られたままになっている手に、自分の手を重ねた。

 

「んっ……、ん……」

 

 アーシアの唇から声が漏れる。

 

 俺は軽く唇を交わしながら、ゆっくりとアーシアの手を撫でて、緊張を解くように手の平を開かせ、手を繋いだ。

 

 繋いだ手にすがるようにアーシアが力を込めた。

 

 俺は唇を少し離し、舌を伸ばしてペロっとアーシアの唇を舐める。

 

「――っ!?」

 

 唇を舌で舐められ、ハッと瞳を大きく開くアーシア。

 

 俺はそんなアーシアを布団へと押し倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイジ……さん」

 

 布団の上に、仰向けで押し倒されたアーシアが不安げにつぶやいた。

 

 現在のアーシアは純白の下着姿。俺も腰にタオルを巻いただけで、体勢も正常位のような股の間に体を入れているような状態だ。しかも、両腕で体を隠せないように頭の両側で、俺の手によって磔にされている。

 

「アーシア」

 

 相手を不安にさせないように、そう、穏やかな声音で名前を呼び、再び唇を重ねる。

 

 唇を重ね、離しを繰り返し、ゆっくり、焦らず、溶かすように唇の間から唾液を注ぐ。

 

「……ぅ、ん、……ぁ」

 

 小さく喉がなり、アーシアの真っ白な肌が興奮し始めている教えてくれているみたいに、朱色を増し始める。

 

 ――まだまだ、焦らずだ。

 

 あまり体重をかけすぎないように気をつけながら、ペニスが当たって驚いてしまわないように位置にも気をつけながら、アーシアの体に覆いかぶさる。

 

 純白のレース生地の下着が胸に当たる。生地が薄いせいか、アーシアの勃起してる乳首の位置が手に取るようにわかってしまう。

 

 重ねた肌からアーシアのぬくもりと感触が、心臓の鼓動と共に伝わってくる。

 

「アーシア……」

 

「はぁ……、はぁ……」

 

 少し荒くなった呼吸。恥ずかしそうに頬を染めている姿は、本当に愛らしい。小柄で、すっぽりと体に収まり、守ってあげたくなるような魅力をもっていた。

 

 俺はもう一度唇を重ね、今度はその状態で舌を出し、ゆっくりと唇をなぞり、滑り込ませるようにアーシアのなかへと侵入させる。

 

「――っん」

 

 一瞬、驚いて体を硬直させたアーシアだが、異性と深く触れ合うことによって生まれる快楽を少しずつ受け入れ始めたのだろう。ゆっくりと体から緊張を解いてくれた。

 

 俺は快楽を与えつつ、じっくりとアーシアを楽しむ。

 

 ほんのり甘い唾液。

 

 小さくてツルツルとした歯。

 

 そして歯茎と、やわらかい頬の感触。

 

 ああ、本当に、何から何までかわいらしい。

 

「ぁぅん……、ふ、ぅんん……」

 

 アーシアの荒くなった息が小さな鼻から吐かれ、頬を撫でる。少しくすぐったさを感じながら、俺はもっと深くアーシアと堕ちていく。

 

 悪魔になった聖女アーシアではなく、女子高校生のアーシアとして見て、ひとりの女の子として見る。

 

 薄く開いた瞳から、俺を見つめるアーシアの心を理解することはできないが、俺は、いましてあげられることを全力で行なう。

 

「ぁ、ふぅ……、あ……」

 

 だんだんと、アーシアの唇が大きく開き始めた。

 

 薄く閉じていた歯が開き、アーシアのほうから顔を押し付けてきた。

 

 崖からゆっくりと降っていくように、少しずつイッセーではない()を受け入れ始めた。

 

 アーシアのほうから探るように舌を近づけ、俺の舌に触れてきた。

 

「――っ」

 

 俺の舌に触れたアーシアはビクっと驚いて、舌を奥へと引っ込めてしまうが、しばらくじっと待っていると、再び恐る恐る舌を近づけてきた。

 

 ――ざらっ。

 

 少しだけ、そんな感触が舌から伝わる。アーシアの舌だ。口のサイズに比例して小さくて、かわいらしい舌だ。

 

 そんな舌が恐る恐る怯えながらも、俺の舌に触れてくる。

 

 探るように、大丈夫なのか確かめるように。

 

 まるで自分を受け入れてくれるか不安だと言っているかのように。

 

 俺は、受け入れるよ。

 

 ――と、想いながら舌をアーシアの自由にさせる。

 

 触れたいのなら触れさせて、怖がっているのなら、勇気が出るまで待って。

 

 大胆になってきたら、舌をゆっくりと自分のなかへ戻して、代わりに唇を押しつけ、アーシアの舌を自身の口内に招き入れる。

 

 アーシアの舌が唇を撫でて、ゆっくりと俺の口内に舌を侵入させ始めた。

 

 俺がアーシアにやったように、アーシアが歯と歯茎、頬と舌先で撫でて、舌に触れる。

 

 アーシアの舌を歓迎するように俺は舌を絡めると、喜びを表すかのように舌を動かし、口に舌を一旦戻して唾液を絡め、再びその舌を侵入させた。

 

 明らかに期待しているアーシア。俺は期待にこたえるように、唾液まみれの舌を軽く吸った。

 

「――っ!?」

 

 驚くアーシアを落ち着かせるように、すぐに吸うのを止めて舌を絡め、受け入れるよと、アーシアの口内に舌を侵入させて、唾液を掠め取り、飲み下す。

 

 そして、ゆっくりと唇を離した。

 

 唾液の糸がツーッと伸びる。

 

「――っ。はぁ……、はぁ……」

 

 アーシアは目を伏せたまま、口で呼吸を整え始める。

 

 俺はそんなアーシアを見つめながら、ゆっくりと手を離した。

 

 体を少しだけ起こし、アーシアの頬に片手で触れる。

 

 そして、その触れた手を離し、指先で首筋から胸へと移動させていく。

 

「はぁ……、はぁ……、エイジ……さん」

 

 アーシアが潤んだ瞳を薄く開き、何かを察したように声をかけてくるが、俺は短く言う。

 

「脱がせるぞ」

 

「――っ」

 

 アーシアが息を飲んだことがわかる。イッセーの洋服破壊などで裸に剥かれることは多々あったが、これは意味合いが全く違う。合意の上で、そしてその後のことを匂わせての発言と行動だからだ。

 

 俺はアーシアの背中に手を回し、フックを外し、肩ヒモをずらして、ブラジャーを外す。手に取ったそれを布団の脇へと置いて、そして、改めてアーシアの体を見る。

 

「すごくキレイだ」

 

 自然と口から言葉が漏れる。

 

「かわいくて、愛らしくて……、すごく魅力的だ」

 

 真っ白な肌に小さな薄ピンク色のかわいらしい乳首。大きさは確かに少し小ぶりだけど、形は整っていてアーシアの体に良く合っている胸だ。細く、くびれた腰から丸い安産型のお尻、太ももからつま先までのラインも美しく整っている。柔らかそうなおなかとか、かわいらしいヘソや、ショーツに隠されたオマンコとむっちりした太ももが描く逆三角形なんて、すごく魅力的だった。

 

「ほんと、ですか?」

 

「ああ、本当だ。断言するよ。アーシアは魅力的だ。我慢できなくなるほどに、アーシアは魅力的だ」

 

 ――だから、そんな不安げで自信がなさそうな顔をしないでくれ。

 

「アーシア、触れるぞ?」

 

「――っ、はい」

 

 俺は手を伸ばし、アーシアの胸に触れる。まずは手の平で覆うように。

 

「あっ……」

 

 そんな小さな声と共に、アーシアの体が少しだけ震える。

 

 やわらかくて、温かい、奥から心音が伝わってきて、少し指に力を入れると、あのいつも清純そうな微笑みを浮べているアーシアの顔が赤く、それでいて女を感じさせる表情に変化する。

 

 指が埋まり、程よい弾力がかえってくた。

 

 俺はもう片方の手も使い、両手でアーシアの胸に触れる。

 

「――っん、……エイジ、さん……」

 

「やわらかくて、すごく触り心地がいいよ、アーシア。ピンク色の乳首がかわいらしくて弄ってあげたくなる」

 

「でも、小さく……、ありませんか?」

 

「大きさなんて関係ない。俺はアーシアの胸が魅力的だって言ってるんだ」

 

「そ、うなんですか?」

 

「ああ。そうなんだ」

 

 安心させるように微笑み、俺は芯を解すように、小さく円を描くように胸を揉む。手のひらと乳首の間に隙間を作り、コロコロと転がして、アーシアの反応を見て愉しむ。

 

「んくっ、……はぁはぁ、……んっ、うっ、ん……、や、……ぁ」

 

 脇から胸の側面に手を添えて、下側から親指で乳首に向って押し上げる。

 

「すごく愛おしいよ、アーシア」

 

「エイジ、さん……」

 

 俺はゆっくりと上半身を倒し、アーシアの首筋へと顔を埋める。いい匂いだ。シャンプーが同じだったのかな? 髪から香る匂いが似てる。

 

 ペロっと細い首に舌を這わせる。

 

「――っ」

 

 アーシアの体がビクっと震えた。ふふ、かわいいな。

 

 顎を持上げ、顔を逸らしてアーシアはつぶやく。

 

「んっ、や……、くすぐったいです……」

 

「そうか? 俺は、いつもとは違うアーシアが見れてうれしいけどな」

 

 軽く微笑み、俺は首筋から鎖骨へと舌を這わせていく。

 

 真っ白な肌に浮ぶ汗を舐めとり、舌の味覚で味わい、鼻で匂いを味わいながら胸へと顔を近づけていく。

 

「エイジ、さんっ」

 

 胸へ差し掛かったところで、アーシアが少しだけ大きな声をだした。

 

 俺は顔を上げて、アーシアを見つめる。潤んだ瞳でアーシアがこちらを見ていた。

 

 肉食動物に捕食される直前の小動物が慈悲を求めるような視線。

 

 だけど、肉食動物が極上の獲物を前に止まるわけがない。

 

 俺は、ゆっくりと、アーシアの胸に顔を埋めた。

 

「――っ」

 

 谷間というより、小丘の間だろう、胸の谷間に顔を埋め、両手で胸を揉みながら中心へと寄せて、感触を楽しむ。おお、スベスベだな。真っ白くて、キレイだし。最高だ。

 

 少し舌を出して谷間の間だを舐めてみる。

 

「あうっ」

 

 アーシアから漏れる小さな声。舌先に広がるアーシアの味。ああ、興奮する!

 

「キレイだ。本当に最高だよ、アーシア」

 

 俺はつぶやき、アーシアの乳首を咥える。

 

「ひゃんっ!?」

 

 乳首を咥えられてビクッと大きく体を震わせたアーシア。口のなかに感じるコリコリとした小さな突起を唇でやさしく挟んで楽しみ、顔を少し離す。

 

 唾液を帯びた乳首が部屋の明かりに照らされ、欲情を駆り立てる。

 

「ああ、おいしい。おいしいよ、アーシア」

 

 名前を呼びながら舌先でコロコロと小さく清純そうな乳首をもてあぞぶ。

 

「や、んんっ、……だっ、だめ、ですっ。舌で、なっ、舐めるなんて……っ、くぅんん……っ」

 

 アーシアが俺の頭に手を置いてくる。それは戸惑いなどから来る止めて欲しいという意思の表れだったかもしれないが、止まらない。

 

 舌で乳首を弾き、もう片方の乳首も寂しくないように片手で胸を覆い、人差し指と中指の間に挟んで弄ってやる。

 

「ほ、ほんとに、わ、私……、も、もう……」

 

 アーシアの泣きそうな声が聞えるが、それはそれでいい。

 

 俺は乳首を咥えて、ちゅうっと軽く吸いついた。

 

「ふあぁんっ!」

 

 ビクッとアーシアの体が震える。腰の両側に寝かされていた太ももが立てられ、背が反り、アーシアの顎が持ち上がる。

 

 俺はそんなアーシアの反応をうれしく思いながら乳首に吸いつき、口で覆い、そのなかで舌を動かし、乳首を舐める。

 

「はぁはぁ……、はぅぅ……、エイジ、さんっ……。お、おっぱいが、変になってしまいますぅぅ……。つ、強く、す、吸わないで……んっ、な、舐めるのもだっ、ダメ、ですぅ……」

 

 そうつぶやきながら俺の頭を抱きしめるように、両手を絡めてくるアーシア。欲求不満が溜まっていたことはどうやら本当らしい。すごく気持ちよさそうだ。

 

 俺は胸を楽しみつつ、胸を掴んでいないほうの片手を下半身へと伸ばし始める。

 

 わき腹を指先でなぞり、やわらかいおなかを擦り、腰からお尻へと変わる境目を確かめるように撫でて、小ぶりだが丸いお尻に触れる。

 

 本当に触り心地がいいなアーシアの体は。

 

 俺はそんなことを思いながら、腰に巻いていたタオルを緩めて外し、ワザと腰の位置をを動かし、ペニスがアーシアの恥丘の上に乗るように調整した。

 

 すでに完全に勃起状態になっているペニスがアーシアの恥丘に乗り、竿がショーツ越しにオマンコに触れる。

 

 ペニスの熱とオマンコに触れる硬いものにアーシアが気づいたようだ。俺に気づかれないように腰を小さく動かしていた。本当に薄い生地だな。生地越しからでもオマンコの形がよくわかる。

 

 ふと顔を覗いてみると、真っ赤で、恥ずかしがっていることがよく窺えた。

 

 俺はワザと腰を前後に動かし始める。小さく、ワザとだとは気づかれないように。

 

 胸に夢中になって自然と腰が動いてしまった男を装い……、というか、セックスしたいという欲望を隠さず伝えるかのように。

 

「はぁ……、はぁ……、んっ、え、エイジさん……、その……」

 

 ――ペニスが当たってます。

 

 とでも言いたげな様子だが、無視して胸を弄り続ける。

 

「アーシア、ああ、最高だよ」

 

 そうつぶやき、乳首を摘まみ、離して指先で転がし、胸に顔を埋めて頬ずりをして感触を楽しむ。

 

 普段は見せない、いつも無垢な笑顔を浮べているアーシアが、快感に戸惑いオロオロしてる姿が何とも言えない艶かしさを感じさせる。

 

 俺はゆっくりとアーシアの性感を昂ぶらせながら、どんどん心を解していく。

 

 拒絶されないように、心の隙間に入り込むように、前戯とそれに含ませているマッサージで緊張などを解きほぐし、どんどん堕としていく。

 

「あぅ……、はぁはぁ……、くっ、ん……、も……、と……」

 

 悪魔に転生したアーシアは様々な欲望に正直になっている。

 

「エイジ、さん……、私……、ぅん……、はぁ……、はぁ……、気持ちいい……」

 

 そもそもアーシアは性に対する欲望とは皆無だったのだ。

 

「はぁはぁ……、くっ、ふっ、むっ。……っ、もっと……、して、ほしい、です……」

 

 しかも、どこかのバカに、何度も中途半間にお預けにされて、たまに放置されて欲求不満とストレスがかなり溜まっているアーシアが堕ちるのは簡単だった。

 

 アーシアは情欲に沈んだ瞳を浮かべ、俺を自身の胸に抱きながら、つぶやく。

 

「私を、もっと感じてください、エイジさん……」

 

 と。

 

「私を、愛してください」

 

 と。

 

 心の中に溜まっていた闇を吐き出すように、アーシアはつぶやいた。

 

 グリーンの瞳から涙を流しながら、俺に向って両腕を伸ばしながら、アーシアはつぶやいた。

 

 俺は、アーシアに覆いかぶさる。

 

 アーシアの細い腕が首に回され、抱き寄せられる。

 

 首筋に顔を埋めるような格好になったアーシアは、俺の耳元で改めてつぶやく。

 

「私を、慰めてください」

 

 と。

 

 俺は……。

 

 アーシアの耳元に向って優しい声音で、

 

「ああ。今夜は……、今夜だけは愛し合おう、アーシア」

 

 と、返した。

 

 マジカルエステをする前に、まずは性感を刺激して起こそうと密かに計画していたが、もはやその計画を考えていたことも完全に忘れ、俺はアーシアと抱きしめあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敷き布団の上に、仰向けで寝転がるアーシア。身にまとっている最後の布切れであるショーツに手をかけ、俺はそれを脱がせた。

 

「エイジ、さん……」

 

 ショーツを脱がされたアーシアの顔が朱色に染まる。太ももをすり合わせ、右手で控えめに恥丘に置いてオマンコを隠した。

 

 すでに俺もアーシアも本来の目的を忘れている。というか、止まれないでいた。

 

 俺はアーシアだけを見つめて言う。

 

「アーシア。アーシアの全部を見たいんだ。見せてくれないか?」

 

 少し前までは信頼のおける友人のひとりであった俺の言葉。

 

 そんな俺の言葉を聞いて、アーシアは無言でうなずいた。

 

 少しだけ躊躇う様子は見せたものの、それは恥部を他人に見せることが恥ずかしいと躊躇っているだけで、そこには俺を拒絶する意思は存在しない。

 

 コクンとかわいらしく首を縦に振って、ゆっくりと手をどかして腰につけ、ヒザを立て、ゆっくりと太ももを開いてくれた。

 

 俺は移動し、再びアーシアの股の間だに座る。

 

 座って体を倒し、正面からオマンコを視覚に捉える。

 

 恥部に生える黄金の草原、その下にはピッタリと閉じた清純そうなオマンコがあった。

 

 アーシアが太ももを開いているというのに、ほとんど開かず口を閉ざしている肉厚のオマンコ。

 

 そんなオマンコの中身見たさに、右手を伸ばして指でやさしく触れてみる。

 

「――っ」

 

 アーシアの口から声が漏れた。ふふ、すごく敏感みたいだな。

 

 俺はそんなことを思いながら指先でなぞり、左手も伸ばして、オマンコのスジを両手それぞれ、両側から指で優しく触れて、左右に開いた。

 

 クパァ……っと、そんな音が脳内で鳴り響く。

 

 鼻にアーシアの濃い臭いがつき抜け、思わずしゃぶりついてしまいそうになる。

 

「ああ、すごくキレイだ」

 

 本当に……、薄いピンク色で、形も全く崩れておらず、子供のような、穢れを知らない無垢で、清純そうなオマンコ。

 

 包皮をかぶった小さなクリトリスと、その下に見えるのは尿道口。そして、そのまた下に見えるのは膣口か。尿道口より一回りほど大きい穴の奥を覗いて見ると、処女膜が覗けた。それにしてもキレイな処女膜だな。無理矢理ペニスを挿入してぶち破ったら、さぞ爽快で、気持ちいいことだろう。

 

「あ、あの……、あ、あんまり見ないでください……。は、恥ずかしい、ですぅ……」

 

「ああ、ゴメン。すごくキレイで見惚れてた」

 

「――っ」

 

 アーシアの顔がボンッと赤く染まる。

 

 先ほどの前戯によって、すでにオマンコは愛液で濡れていた。

 

 オマンコが卑しい光りを帯びて、それがお尻のほうまで伝っている。

 

「アーシア……」

 

 花の蜜に魅かれるように俺はアーシアのオマンコに顔を埋めた。

 

 左右に開かせた、いつもは肉厚のスジに隠れた薄ピンク色の肉に舌先を近づけ、舐める。

 

「――ひゃうっ!? え、エイジさんっ!?」

 

 アーシアの悲鳴が上げて、反射的に股を閉じようとするが、股の間だに俺が顔を埋めているために閉じられない。

 

 俺はアーシアのオマンコに唇をつけて、舌を伸ばし、尿道口から膣口へと舌を這わせる。

 

 鼻にアーシアのクリトリスが触れる。処女臭ともいえる臭いが興奮を誘い、舌に広がるアーシアの味が舌の動きを活発にさせた。

 

「あうう……、っん! エイジさんのし、舌が……、ひゃうっ! そっ、そこは汚いです、から……や、やめ……」

 

 アーシアはヒザを立てて、両手を俺の頭において弱い力でどけようと押してくる。

 

 俺はそんなアーシアの反応を楽しみつつ、膣口に舌を侵入させ始める。

 

 尿道より一回りほど大きいぐらいの小さな穴に、舌先を挿入して円を描くように広げて挿入させる。

 

「んあっ、し、舌が……なかで動いて……。え、エイジ、さんっ……」

 

 自然とアーシアの股が開いていき、頭に置かれていた手からの力が抜けていく。

 

 俺は少しだけ顔を離し、オマンコを見つめながらつぶやく。

 

「アーシアのオマンコ。すごくおいしいよ。いやらしい味で、いい匂いがして、本当に最高だ」

 

 俺のつぶやきを聞いて、プイっとかわいらしくアーシアが顔を逸す。

 

「――っ。は、恥ずかしいこと、言わないでくださいっ」

 

 おっ、オマンコがクパクパして愛液が染み出してきた。本当はうれしいのかな?

 

「ふふっ」

 

 小さく微笑み、俺は再びアーシアのオマンコに顔を埋めた。

 

 肉厚の大陰唇を内側から外へと舌で広げ、尿道口をくすぐり、膣口に舌を入れて軽くピストンしてやる。

 

「あううっ、んんっ、はぁはぁ……、んっ! はぁはぁ……、あうっ!」

 

 アーシアの体が震え始める。オマンコから大量の愛液が染み出し、膣口がペニスを欲しがり、クパクパと収縮する。

 

 そろそろだな。

 

 俺はアーシアの包皮をかぶったクリトリスへと狙いを定めた。

 

 未発達で小まめサイズのクリトリス。それを包皮ごと唇で咥えて離し、舌先で優しく舐める。

 

「――っんん! あっ、ああっ! エイジ、さんっ! はぁはぁっ、わ、私……、私っ!」

 

 アーシアの体が大きく跳ねた。太ももが震え、背が反りかえる。

 

 クリトリスから感じる大きな快楽に戸惑い、初めての絶頂に怯え、躊躇っているようだが、そんな暇は与えない。

 

 俺は舌先でクリトリスの包皮を剥いて、直接舌を這わせ、同時に指で膣口を刺激した。

 

「はぅうんっ! だ、ダメ……、も、もう、もうっ! はぁはぁ……、くっ、んぁあああああああああああああ!」

 

 ビクッ! ビクッとアーシアの体が跳ねる。

 

 尻を持上げ、ビュッピュッ! っと、俺の顔目掛けて潮が噴出した。

 

 うわー、すげぇでるなー。もう顔面ずぶ濡れだ。

 

 まるで小便のように噴き出る潮に、顔面を汚された俺。口にほのかな塩味が広がった。

 

 そして、一方のアーシアはというと……。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、はぁはぁ……、はぁぁぁ……」

 

 目を隠すように左腕を置いて、口から満足げな息を吐き、生まれて初めてとなるだろう絶頂を愉しんでいた。

 

 俺は顔を上げて、改めてアーシアを見つめる。

 

 艶やかな金色の髪。雪のように真っ白な肌。細い首筋から鎖骨、小ぶりな2つの山と、その頂に添えられた薄ピンク色の小さな乳首。腰からお尻へ向うくびれは緩やかなラインを描いていて、ムッチリとした太ももは下品に、だらしなく左右に開いていて、恥丘に生える金色の草原はしっとりと濡れて肌に張り付いていた。

 

 アーシアの耳元に顔を近づけ、名前をつぶやく。

 

「アーシア」

 

「はぁはぁ……、エイジさん……。私、いま……、頭が真っ白になって……」

 

「ああ。イッタんだろう」

 

「イッタ……、ですか?」

 

「そう。イクとか絶頂とか、最高に気持ちいいことをそう言うんだよ」

 

「これが……、そうなんですか……」

 

 アーシアは今の状態を理解し、確かめるように息を吐いた。

 

 俺はアーシアの耳元に顔を埋めたまま、訊ねる。

 

「どうだった? 気持ちよかったかい?」

 

 そんな問いにアーシアはほとんど無意識に「はい……」とうなずいた。

 

「すごく、気持ちよかったです」

 

 と、顔を隠していた左腕を俺の首に回し、右腕を背中に回して抱きついてきた。

 

「ふふ、アーシアが気持ちよくなってくれて、俺もうれしいよ」

 

 そうつぶやき、しばらく俺とアーシアはそのまま抱きしめ合った。

 

 お互いの匂いを嗅ぎあい、お互いの胸の感触を、体温を感じながらゆっくりと穏やかな時間を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も……、その、エイジさんに……」

 

「ん?」

 

 しばらく抱き合ったあと、俺が起き上がり、続いてアーシアも起き上がってから。アーシアが俺のほうを見ながらつぶやきだした。

 

 アーシアは顔を真っ赤にして、チラチラと俺の下半身を見ながら……って、そういえばタオル外してたな。それにアーシアを触りすぎてフル勃起状態になってる。まるで牛の角みたいに反り返って、太い血管が浮いてて先っぽからカウパーが漏れ出していた。

 

「こ、これは……、その……」

 

 俺が慌ててペニスを隠そうとタオルを探していると、アーシアが胸に手を置いてつぶやいた。

 

「わ、私にも、お返しさせてください」

 

 と。

 

 …………。

 

「……え? お返しって……?」

 

 半ば止まりかけた思考で訊ねてみると、アーシアははっきりと言った。

 

「ぜ、ゼノヴィアさんがしてた、ふぇ、フェラチオ……でしたか? その……私もしてもらったので、お返しを……」

 

「してくれるのか?」

 

 マジで!? アーシアがフェラチオしてくれるのか!?

 

「は、はいっ。初めてですので、あんまり上手にできないかも知れないですけど……、私でよければ……」

 

「――っ!」

 

 や、ヤバイ……、顔がにやけてしまう。自然に、自然に言うんだ。

 

「じゃ、じゃあ、お願いしていいかな?」

 

「はい。頑張りますね」

 

 パアアっと、天使の笑顔を浮べてくれるアーシア。

 

 胡座をかいて敷き布団の上に座る俺に、アーシアが近づいてくる。

 

 視線はすでにペニスに釘づけで、恐る恐る手を伸ばしてきた。

 

「し、失礼しますね?」

 

「ああ」

 

 俺がうなずいたのを確認して、アーシアはペニスに触れる。

 

「――っ。これがエイジさんの……。熱くて、すごく硬いんですね。それに血管が浮き出てて、先のほうから何か染み出ててます……」

 

 アーシアの細く長い指でペニスの竿を握られる。やさしく、包み込むように両手で握られ、感触を確かめられていく。

 

「ふふふ、これが精巣なんですね? プリプリしてて触り心地がいいです。えっと、裏スジあたりが気持ちいいんですよね? あの、皮が被ってないのに痛くないんですか?」

 

「ん、いや、完全に剥けてから最初は擦れるだけで痛かったけど、もう痛くないよ」

 

「そうなんですか?」

 

 つんつんと亀頭に触れて、指の腹で撫ぜてくるアーシア。うん、痛くないけど、敏感だから気をつけてね。ていうか、アーシアのりのりだなぁ。

 

 触ることに抵抗がなくなってきたアーシアは、ペニスに顔を近づけてきた。小さな鼻をヒクヒクと動かしてペニスの臭いを嗅いでいる。

 

「臭いは……、不思議です。濃くて、頭がクラクラなって……、なんだか股が……。んっ、はぁ……、はぁ……」

 

 アーシアの瞳がトロンと堕ちる。眉が下がり、息が荒くなって、妖艶な雰囲気をまとい始めた。

 

 アーシアはペニスの竿を両手で持って、亀頭の前に口を持ってきた。

 

「えっと、舐めるんでしたよね?」

 

「ああ、そうだよ」

 

 問いにうなずくと、アーシアは口を開けて小さな舌を出した。

 

 その小さな舌をゆっくりと亀頭に近づけ、舐める。

 

「――っ」

 

 アーシアの舌の感触に、ビクッと体が反応してしまう。

 

「い、痛かったですか?」

 

「いや、逆だよ。気持ちいいんだ。もっと、舐めてくれるか?」

 

「はいっ。がんばります」

 

 アーシアは一生懸命亀頭に舌を這わせていく。まるで土下座しているかのように、上半身を折って、白く丸い尻を後ろにつきだし、俺の股の間だに顔を埋めてペニスをしゃぶっている姿は最高の絶景だ。

 

 俺は両手を後ろについて、重心を移動させる。これでもっとアーシアの顔が見えるだろう。

 

 一生懸命にペニスに舌を這わせるアーシアに声をかける。

 

「アーシア、そろそろ咥えてみようか?」

 

「咥える、ですか?」

 

「ああ。唾液を溜めて、口を大きく開けて、そうそう、そうだよ。入るところまででいいからゆっくりとね」

 

 俺の指示に従い、アーシアは小さい口をいっぱいに開けてペニスを咥えた。

 

「ああ、いいよ。すごくいい」

 

 技術はなく、ただ咥えているだけで、小さな歯が時々当たってしまうが、それでも気持ちがいい。温かくてヌルヌルしていて、亀頭と竿の境目できゅっと唇が結ばれていて、まるでオマンコに入れてるみたいに気持ちがよかった。

 

「ふもひ、ぃいんですか?」

 

「うん。すごく……、いいよ」

 

 ていうか、今喋られるとマズイよ。不規則で、ザラついてる舌とかいきなり絡んできたり、歯があたったりで射精しそうになる。

 

「アーシア、そのまま前後に顔を動かしながら吸ったり、口のなかで舌を動かして舐めたりするんだ。ああ、手で竿をしごいたり、玉袋を転がすのもすごく気持ちいいんだよ」

 

「ふあい」

 

 アーシアは指示に従ってフェラチオをしてくれる。

 

「――っん、そう……。そうだよ。初めてなのに、上手いな」

 

「♪」

 

 褒められたことがうれしいのか、アーシアは笑顔を浮かべてちゅううっと亀頭に吸いついた。片手で竿を撫でながら、もう片方の手で玉袋を転がして、ペニスと、俺の反応を見て悦んでいた。

 

 ――っていうか、何よりも上目使いのアーシアがヤバイ……!

 

 小リスみたいに両手でペニスの竿を掴んで、頬に亀頭を持ってきて、探るように視線だけ向けてくるアーシアの表情とか!

 

 口を離して舌先でキャンディーみたいにペニスを舐めてきたり!

 

 ペニスの根元から竿に向って舌を這わせたり、頬をつけながら玉袋を転がしてきたり!

 

 もう色々とヤバイ!

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……。……ああ、エイジさんのオチンチンが、ビクビクしてます。射精、しそうなんですか?」

 

 清純そうな微笑みを浮べたまま訊ねてくるアーシア。その微笑みはいつもの清純そうな微笑みなんだけど、今の状況では『あれー? もう射精しちゃうんですかー? ふふふ』といったドSな副音声が脳内で再生されてしまう。いや、もちろんアーシア自身はそんなこと思ってないだろうけどさ。

 

 このまま我慢して、もっとアーシアのフェラチオを楽しんでもいいけど、やめておく。

 

「ああ。アーシアのフェラチオが気持ちよくて、もう射精しそうなんだ」

 

「ふふふ、そうなんですか♪」

 

 うれしそうに微笑むアーシア。あれ? 俺の妄想みたいに実はドSとかじゃないよね?

 

「最後までしてもらえるか?」

 

「はい♪ まかせてください」

 

 アーシアはそううなずき、ペニスを深く咥え込んだ。

 

 前後に顔を動かして、同時に竿を片手で扱き、余ったほうの手で玉袋のほうも刺激する。

 

 根元から解すように、先っぽに向って手淫を施し、亀頭に舌を這わせて、ちゅううっとしゃぶりつく。

 

「――っん、んんっ! アーシア、で、出る! だすぞっ!」

 

 俺は高まった快感に身を任せ、思う存分性を解放する!

 

 玉袋から竿を通って亀頭から尿道口へと向かって精液が駆け上る!

 

 ビュルッ! ビュルルッ!

 

「――んぐっ!?」

 

 第一陣の精液を口内で吐き出されたアーシアが、その量と味、臭いに思わずペニスから口を離そうとしてしまう、が……。

 

「ふむっん、んんっ! ごくっ、ごきゅ……、ぶぶっ、ん……ふっ、ごきゅ……、ごくっ……」

 

 慌ててペニスを深く咥え込み直して、吐き出され続ける精液を無理矢理飲み下し始めた。

 

 男にとってすごくうれしい行動であるが、インキュバスとなった俺の精液には強い媚薬作用があった。

 

 その媚薬作用のある精液を飲み下したアーシアは、元々興奮状態であったことも影響して、さらに快楽に闇へと堕ちていく。

 

 無駄にしてはいけないと飲んでいた精液を、好んで欲しがるように啜り飲み、甘える赤ん坊のようにペニスをしゃぶり始めた。

 

「はぁはぁ……、エイジさんの精液……、すごくおいしかったですぅ……。はぁはぁ……んくっ、はぁぁぁ……。お腹が熱くて、下の辺りがきゅんってなってます……」

 

 ヤバイ……、今のアーシア、すごくエロい。

 

「んんっ、あうう……。私、やっぱりエイジさんと、したい、です……」

 

「……えっ?」

 

 戸惑う俺を無視してアーシア立ち上がる。ふらふらと、力があまり入っていない足で立ち上がると、俺の両肩に手をついて腰を下ろし始め、ゆっくりと降りてくるお尻の真下にはペニスが……。

 

「って、アーシアっ!?」

 

「エイジさん、私……、もう我慢できないんです」

 

「だ、だけど……」

 

「私じゃ、ダメですか?」

 

「違う! そんなことはない!」

 

「じゃあ、いいじゃないですか」

 

 と、腰をおろし始めるアーシア。このままいけば対面座位のような格好で繋がることになるだろう。――って、だからそれだけはダメだって!

 

 止めようとする俺を無視してアーシアは腰を下ろし、オマンコにペニスが触れた。

 

 オマンコのスジを割り開き、ペニスの先端が中に触れる。

 

「ああ、エイジさんのオチンチンが私のに当たって……。とうとう、挿入するんですね。エイジさん、私を愛してください」

 

 ――っ。み、耳元でそんなこと言わないでくれよ! 俺も歯止めが効かなくなるだろ!

 

「アーシア……」

 

「さあ、エイジさん」

 

 アーシアは甘えるような声音で、幸せそうな笑みを浮かべて、ペニスを挿入し始める。

 

 膣口の位置を亀頭を当てて探り、挿入できそうな角度を探り、腰を下ろして挿入し始める。

 

 小さな膣口に亀頭がめり込むように入り始めた。

 

 ミチッ、ミチッと無理矢理拡げていくような音が耳に響く。

 

 そんな痛そうな音が響くなか、アーシアは幸せそうな微笑みを浮べていた。まるで、何ヶ月も何年も待ち望んでいたかのような、幸せそうな笑みを浮かべていた。

 

「アーシア……」

 

 そんな表情を見たら俺には止めれないじゃないか。

 

「エイジさん、大好きです」

 

 亀頭が処女膜らしき壁に触れて、そのまま一気に挿入しようとした瞬間、

 

「――ストップだ。アーシア」

 

 と、俺たちを止める第三者の声がかかった。

 

「ゼノたん」

 

「……ゼノヴィアさん」

 

 声がかけられたほうを見ると、ゼノヴィアが立っていた。

 

 見るからに風呂上りといった格好で、バスタオルだけを首にかけて立っていた。

 

 ゼノヴィアはそのままスタスタと近づいてくると、アーシアの背後に回って、両脇に腕を差し込んで立たせて、俺から引き離した。

 

「ゼノヴィアさん……、私……」

 

 友人の彼氏を寝取っている現場を、その友人本人に見られたときの絶望と自己嫌悪といった負の感情を感じて泣き顔になるアーシアだが……、ゼノヴィアは普通の人ではない。いや、悪魔だということではなく。

 

「まさかアーシアがここまで積極的になるとは思っていなかったが、このまま雰囲気に任せて処女を失ったらアーシア自身が傷ついてしまうぞ。するのなら、アナルのほうを使うんだ」

 

 うん。普通の人じゃないんだ。

 

「えっ? アナル? お、怒ってないんですか?」

 

 恐る恐る訊ねるアーシアに、ゼノヴィアはさも当然のごとく返す。

 

「何を怒る必要があるんだ? 私はアーシアの状態もわかっているし、アーシアがエイジに一定以上の好感を抱いていることも知ってるんだぞ。こうなってしまうかもしれないということは少し予想していたさ」

 

「そ、そうだったんですか?」

 

「まあね。だけど、さすがに雰囲気に流されて処女喪失はマズイだろうから、止めさせてもらったんだ」

 

 ゼノヴィアはアーシアから手を離し、自ら腰を下ろし、アーシアにも視線で腰を下ろすように促した。

 

 そして、三角形の形にお互いを見合わせるように座ると、ゼノヴィアはアーシアの顔をみて満足気に微笑んだ。

 

「うんうん。ここに来る前とでは雰囲気から違うな。ストレスも抜けているようだし、イカされて絶頂も経験したみたいだな」

 

「――っ!? そ、そんなことがわかるんですか?」

 

 アーシアの驚きの声に、ゼノヴィアは当然のごとく、

 

「ああ。隠れて見ていたし、わかるさ」

 

 と、笑顔で、堂々と返した。

 

「「…………」」

 

 まさかの覗き見宣言に俺とアーシアは無言になってしまう。見られていた羞恥とか、怒りとか、そういうのを飛び越えて呆れて何も言えないでいた。

 

 だが、そんな俺とアーシアにペースを乱すゼノヴィアではない。

 

「さあ、アーシア。ここに座ってくれ」

 

「え? は、はい……」

 

 アーシアを敷き布団の丁度中央にくる位置に座らせる。

 

「次に、前に手をついて、上半身も前に持ってくるんだ」

 

「え、ええっと、こうですか?」

 

「いや、もうちょっと顔を前に、尻を後ろにつきだして、そうだ」

 

「ゼノヴィアさん、この格好、すごく恥ずかしいんですけど……」

 

 羞恥で顔を紅くするアーシア。それもそのはず、今のアーシアは犬のような格好で、俺に向ってお尻まで突き出している。それにしても色素薄いなー。お尻の穴までキレイな薄ピンク色だ。

 

 ゼノヴィアはアーシアの言葉を無視して作業を続ける。

 

「さてと、次はコレだな」

 

「そ、それは……」

 

 どこからかゼノヴィアが手元に取り出したモノを見て、アーシアが固まる。手の平サイズで、ピンク色の、イチジクみたいな形をしていてよくCMで見かけるアレに似ていたが、形だけでそれを形作っているものは水晶のような物質だった。

 

 ゼノヴィアはアーシアの目の前にそれを持ってきて、説明を始める。

 

「エイジは知っていると思うが、これはアナルプレイ用の簡易浣腸器だ」

 

「か、浣腸器、ですか?」

 

 おそらくアーシアはアナルプレイの存在自体も知らないのだろうが、薄々何に使うものなのか、感づいているようだ。俺の目の前に置かれた丸いお尻の、小さなピンク色の穴がヒクヒクと収縮している。

 

「まあ、このままではわかりにくいだろう。エイジ、頼む」

 

「え?」

 

 ゼノヴィアからピンク色の浣腸器を手渡された。俺にやれって言うのか?

 

 手に持ったそれを手に、前に視線を向けると、後ろを振り返ったアーシアと視線が合った。

 

 アーシアはウルウルとした瞳を浮べて、

 

「あ、あの……、や、やさしく、してください、ね?」

 

 と、つぶやいた。

 

 ――っ。こ、これは……、燃えるっ! いや、萌える!

 

「ああ、まかせてくれ」

 

 安心させるように、自身を持ってうなずき、俺はヒザ立ちになる。

 

 両手でまずはお尻を掴む。

 

「――っ」

 

 お尻を掴まれたアーシアが、一瞬だけビクッと震えたが、すぐに力を抜いて身を委ねてくれた。

 

 ゼノヴィアもアーシアの緊張を抜くように、やさしく声をかける。

 

「大丈夫だ、アーシア。力を抜いて、全てエイジに身を委ねるんだ」

 

「力を抜いて……、身をゆだ、ねる……」

 

「そうだ。不安なら私が手を繋いでいてやるからな。安心して身を任せるんだ」

 

「はい……」

 

 アーシアの前で正座したゼノヴィア。アーシアはゼノヴィアの手を掴んで受け入れる体制をとった。

 

 俺はゼノヴィアとアイコンタクトを交わしてから、浣腸器の先端をピンク色でキュッとしまったり、開いたりとしているお尻の穴に宛がった。

 

「――っ!」

 

 浣腸器の細長くなった先端がお尻の穴に触れた。

 

 アーシアは反射的にキュッと強くお尻の穴を閉める。それと同時に先端がお尻の穴に咥え込まれた。

 

 ゼノヴィアがアーシアの手を握りながら言う。

 

「ほら、アーシア。ゆっくりと息を吐いて、吸うんだ」

 

「はぁぁぁ……、すぅぅぅ……、はぁぁぁ……」

 

 アーシアが落ち着きを取り戻し始め、ゆっくりとお尻の穴が緩み始めた。

 

 俺はそれを狙って浣腸器の先端部分を根元まで捻じ込む。

 

「あう……、ううんっ!」

 

 よし、根元まで入ったな。通常の浣腸器であればこのあと、太い部分を押して中身の液体を注入するが、これはプレイ用。製作者は言わずと知れた黒歌、そして俺とモニターで愛用者であるセルベリアとレイナーレの共同制作によるものであり、この浣腸器には普通のものではなく、特殊な魔法が施されている立派な魔道具である。

 

 俺はゼノヴィアとアイコンタクトを交わす。

 

 アイコンタクトを受けたゼノヴィアは、アーシアにやさしく話しかける。

 

「アーシア、これからなか(・・)を洗浄するからな」

 

「へ? なか、ですか?」

 

「ああ、なかだ」

 

 ゼノヴィアが微笑む。やさしい、本当にやさしくて暖かい微笑みだ。

 

 アーシアもその微笑みに自然と力を抜いて……、今だ!

 

 浣腸器に魔力を流し込む!

 

「――くひゅっ!? なっ!? あうっ、うぅううううううううううううっ!? おしっ、お尻のなかがっ……! あぁっ、あぁあああああああああああああ~!」

 

 アーシアのお尻がビクビクと跳ねる。俺は浣腸器を挿したまま手を離す。

 

 この特製の浣腸器は使い捨てで、一度差し込んで魔力を流すと、アナル洗浄が終わるまで取れなくなるのだ。

 

「うぐっ、んん~っ! ううんっ! ああっ、ああああああっ!」

 

 アーシアが溜まらずゼノヴィアにすがりつく。ゼノヴィアはよしよしとアーシアの頭を撫でながらあのやさしげな微笑みを浮べている。……うん、一見するとやさしげだけど、色っぽいというか、エロチックな微笑みが隠れてるな。あれは絶対アーシアのあられもない姿を愉しんでる。

 

 アーシアのお尻から生えているピンク色の光りが青色に変わった。その色の変化は、ピンク色の光りが魔法の発動中と、魔力で作り出した液体を放出中の証で、今の青色の光りはその液体ごとお尻の中身を吸い上げ、さらに浄化魔法でキレイに洗浄していることを示している。

 

 そして、その色が淡い赤に変わると……。

 

「ひゃんっ!? な、何かまた出てっ、ますっ!? んぐぅううううううう~!」

 

 特製のローションが出始めます。

 

「はぁはぁ……、ぐうう……、やああ……、うううんっ! はぁはぁ……」

 

 アナル洗浄の際に人体を調べ、その体にあったローションを作成し、行為のあとは精子と共にローションと腸に吸収される、という無駄に手が込んでいる機能を持っている。

 

 そして、お尻の穴にローションが流し込み終わった浣腸器は、役目を終えて消滅した。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、ん。終わり、ですか?」

 

 すでに虫の息となっているアーシアが後ろを振り返って、恐る恐る訊ねてきた。

 

 俺は「いや、まだだよ」と答えて、アーシアのお尻を掴んだ。おっと、お尻の穴から半透明のローションが漏れそうだ。

 

「こ、こんどはな、何を……?」

 

 アーシアのお尻がかわいらしく、キュンキュンと収縮してる。

 

「これからなかに入れたローションを馴染ませながら解していくんだよ」

 

「解す、ですか?」

 

「そう、こうやってね」

 

 俺はそう言って指をお尻の穴につき立てる。

 

「――っ!? ま、まさか……」

 

 アーシアもこの行動にどうやって解すのか察したようだ。驚きの表情を浮かべてこちらを見つめてる。

 

「さあ、アーシア。いくよ」

 

 俺はゆっくりと小指をお尻のなかに挿入していく。

 

「エイジさ……ふぐっ!?」

 

 まずは1番小さくて細い小指を挿入させて、異物を受け入れる感覚を教え込むながら広げていく。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、うぐぐ……」

 

 俺はお尻の穴の感触を味わいつつ、ゼノヴィアにすがりつくアーシアの姿を後ろから眺める。ああー、本当に虐めがいがあるというか、いいリアクションしてくれるよなー。

 

 ゼノヴィアもすがりついてくるアーシアを正面から眺めながら、視線をアーシアのお尻へと向けてつぶやく。

 

「アーシアのお尻の穴にエイジの指が入ってるところがよく見えるよ。どうだい? 気持ちいい?」

 

「あうう……! そ、そんな……。はぁはぁ……、わ、わかりませんっ。ただ、恥ずか、しい、です……」

 

「ふふ、恥ずかしい、か。私にはアーシアがお尻の穴を弄られて、すごく気持ちよさそうにしてるように見えるけどね」

 

「――っ! わ、私……」

 

 ゼノヴィアの言葉を聞いて、キュッと強くアーシアのお尻の穴が絞まった。

 

 お尻の穴をキュキュと絞めながら戸惑うアーシアに、ゼノヴィアはさらに言葉を続けていく。

 

「ほら、アーシア。ゆっくりと意識をお尻に集中させるんだ。お尻の穴で動き回るエイジの指を感じるんだ」

 

「はぁはぁ……、いあ……、そ、そんな風に言われると……、くんんっ! はぁはぁ……、んんっ、ダっ、ダメですっ! お、お尻の穴で、き、気持ちいいなんて、思うのは……」

 

「ふふふ、ダメなんてことはないさ、アーシア。これはきちんとした性交の一種なんだ。気持ちよくなってもいいんだ」

 

「気持ちよくなっても、いい、んですか?」

 

「ああ。そうだよ。だから、ゆっくりと全身から力を抜いて身を委ねるんだ」

 

「身を委ねる……」

 

 ゆっくりとアーシアの体から力が抜けていく。きつく絞まっていたお尻の穴も緩くなり、新たに挿入し始めた人差し指を受け入れ始めた。

 

 やりやすくはなったけど、ゼノヴィア。洗脳してないよな?

 

 完全にされるがままになったアーシアのお尻の穴を、俺は指で蹂躙し始める。

 

 人差し指を根元まで挿入して、引き抜き、さらに挿入して引き抜く。

 

 グポグポといやらしくピストンしながら、なかで指を折り曲げて、指先の腹で壁を掻きながら引き抜く。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、はぁぁん……、いい、ですぅ……」

 

 前へ前へと指から逃げていたアーシアのお尻が、さらなる快楽を求めて後ろへと向けられ始めた。

 

 もっとお尻の穴を弄って欲しくて、もっとお尻の穴に指を挿入して欲しくて、もっとお尻の穴で気持ちよくなりたくて、アーシアはお尻を差し出してくる。

 

 お尻の穴に指を入れたまま、動かさずにいると、アーシアが後ろを振り返り、求めるような視線で訴えてくる。

 

 お尻の穴に指を入れて、ピストンを途中で止めると、アーシアが自分からいやらしくお尻を振り始める。

 

 本人は無自覚のようだが、すでにアーシアはお尻から送られる快楽の虜となっていた。

 

 アーシアはゼノヴィアに抱きつきながらつぶやく。

 

「はぁはぁ……、いい、です。……きもち、いいです……。私……、お尻の穴で気持ちよくなってしまってます……」

 

 まるで懺悔でもするかのようにつぶやき、さらなる深みへ嵌るように、アーシアは自らお尻を振って快楽を求めた。

 

 そんなアーシアをゼノヴィアは愛おしげに眺めながら、金色の髪をすかす。

 

 うれしそうな笑みを浮かべ、やさしく、囁くようにゼノヴィアは言う。

 

「さあ、アーシア。全部吐き出していいんだよ。我慢しなくてもいい。全部受け入れるから……」

 

「ゼノヴィアさん……」

 

 …………。

 

 ゼノヴィアがアーシアに向けた表情と、言葉。それらが何を意味しているのか察しがつくが、それは今はいいだろう。

 

 俺は、アーシアを愛して、アーシアが気持ちよくなれるようにするだけだ。

 

 俺はお尻の穴を弄っていないほうの手をゆっくりとオマンコへと伸ばす。

 

「はぁはぁ……、んっ」

 

「アーシア、こっちも弄ってやるからな」

 

 ぴったりと口を閉じたオマンコを人差し指と中指で開き、そのあとすぐに人差し指を間に滑り込ませた。

 

 ゆっくりと、指でスジをなぞる。プニプニで肉厚のスジに指が挟まれ、指の腹に膣口が吸いついてくる感触を感じる。

 

「んっ! はぁはぁ……、くっ、うあぅぅ……、りょ、両方なんて……、んあああっ!」

 

 気持ちよさげに身を委ねていたアーシアの体が、ビクッと大きく跳ねた。

 

「え、エイジさんっ。わ、私……、また……っ!」

 

「ああ。いいよ、アーシア。思う存分にイっていいよ」

 

 両方の穴を同時に弄られ、声を震わせながらつぶやくアーシアに俺は笑顔で返す。

 

 イキやすいように、手淫していた手を片手に切り替え、膣口に親指を突っ込み、人差し指をお尻の穴に人差し指を突っ込んで、間にある肉を摘まむようにぐりぐりと擦りながら。

 

「うぐぅっ!? あ、ううう……っん、はぁはぁっ、だ、ダメ、です……っ! も、もう、私っ! い、イクっ! イキます! イクゥウウウウウウウウウウ~!」

 

 アーシアの顎が持ち上がり、絶叫が部屋に鳴り響く。

 

 ビクッビクッと体を跳ねさせ、両方の穴が収縮しながら指を咥え込み、奥へと引きずり込む。

 

 アーシアは絶叫し終えると、ガクッと全身から力を抜いて布団へと倒れこんだ。

 

 ゼノヴィアの腰を抱きしめて、ヒザの上に顔を埋め、横を向いて荒い息を整えるように荒い呼吸を繰り返した。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、はぁはぁ……、はぁぁぁ……」

 

 汗で艶を増した金色の髪。

 

 いつも純真無垢な笑顔を浮べている顔も、今は快楽が満たされ満足して余韻に浸っている女の顔となっている。

 

 新雪のように真っ白な肌も、淡いピンク色に火照り、体を伝う玉の汗が煌めき、美しさを増していた。

 

 挿入していた指を抜いたお尻の穴は、閉じることを忘れてローションを漏らし、同じく指を抜いた膣口からも愛液が滴り落ちていた。

 

 ああ……。

 

 完全に快楽を楽しんでいる少女なのに、なんでまだ清純無垢な少女に見えるのだろう?

 

 悪魔であるはずなのに、天使のような輝き。

 

 真っ白で、美しく、清らかな魂。

 

 そんな清らかなまま、ゆっくりと、ゆっくりと染まりつつあるアーシア。

 

 アーシアが自分から俺を求め始めているような感覚。

 

 アーシアの心が、体と連動して少しずつ変化し始めていくような感覚。

 

 警戒や緊張、背徳心などを消し去り、全て俺に委ねるかのような感覚を感じた。

 

 俺が、ここで無理矢理アーシアを犯したとしても、笑顔で受け入れてくれるだろうと、思ってしまえるほどの……。

 

 ……イッセーに向けられていた一途な愛情が、俺に向けられつつある……、ということなのか?

 

「ふふふ、寝てしまったか。それにしても幸せそうな寝顔だな」

 

 そうつぶやきながらゼノヴィアはアーシアの頭をやさしく撫でて微笑んだ。

 

 …………ん? 何か、手に温かいものが広がっていくような……。

 

「ふふ。気が抜けて、尿道口まで緩んでしまったようだな」

 

 ゼノたん。そういうことは口に出さないでいいから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もろもろの処理をしたあと、寝てしまったアーシアを起こし、俺たちは3人で部屋にある狭いお風呂に入ることになったんだが……。

 

「さあ、アーシア。オナニーの練習だ。胸やオマンコなどの性感帯を弄るんだ」

 

「ぜ、ゼノヴィアさん。ほ、本当に練習しないとダメ、ですか?」

 

「本来の目的はオナニーを教えることだっただろう? 覚えておいて損はないのだから、しっかり練習しておいたほうがいい」

 

「で、でも……、見られながら自分で弄るのは、やっぱり恥ずかしいというか……」

 

「ふふ、その恥ずかしいのがいいだろう。というか、そもそも全て見せてエイジには弄らせているのだから、いまさらじゃないか」

 

「――っ」

 

「もう開き直って、エイジに見せつけるようにオナニーしたらどうだ?」

 

「そ、そんな、見せつけるだなんて……」

 

「自分自身の性感を自分で弄りながら、間違っていたり、危なかったりしたら教えてもらう。エイジもアーシアのオナニーを近くで眺められる。なかなかいい手だと思ったのだがなぁ」

 

「ううぅ……。エイジさん。エイジさんは私が……する姿を見たい、ですか?」

 

「しょ、正直に言うと、み、見たい、かな」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「……うん(そんなウルッとした瞳で見ないで~! 居た堪れなくなって心がガリガリと削れていってしまうから~!)」

 

「じゃ、じゃあ……、その見ていて、くださいね?」

 

「わかったよ」

 

 と、洗い場に全裸で立って見せつけるようにオナニーを始めたアーシアを、湯船のなかでゼノヴィアに手コキされながら見るという、変わったプレイをするはめになった。

 

「はぁはぁ……、どう、ですか? 私の……オマンコ、見え、ますか?」

 

 そう恥ずかしそうにつぶやきながら、オマンコを両手の指でくぱぁと開いて見せてくるアーシア。

 

 それと同時に、湯船のなかでゼノヴィアが指を使って勃起したペニスを扱かれる。

 

 俺もお返しとばかりにゼノヴィアの腰から手を回して胸を揉んだり、アーシアの太ももを擦りながら、オナニーすることで快楽に悶えるアーシアを眼でも愉しむ。

 

 ああ……。結構愉しいな、このプレイ。

 

 その後、俺はアーシアにオナニーを教え込んだあと、ひとつの布団を使い、俺を真ん中に、3人で川の字になって3時間ほど眠ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3時間後。眠りから目覚めた俺たちはまず服を着て、浄化魔法をかけて部屋を綺麗にした。

 

 そして、ゼノヴィアが部屋にかけていた結界を解除し、眠らせた上で姿を隠させる魔法も解除して、椿姫さんとイリナを起こした。

 

 起きた2人は俺とゼノヴィアの顔を見て、間近で見たセックスを思い出して顔を真っ赤にしていた。

 

 部屋から出て行くときまで、その赤い顔のまま、無言で、チラチラと様子を覗うように視線を送ってくるから、ちょっと居辛かったな……。イリナは俺の下半身を凝視するし、椿姫さんは俺とゼノヴィアの下半身を交互に見ながらヒザを掏り合わせたりで……。

 

 椿姫さんはともかく、セックスのことを考えすぎた天使のイリナが堕天しないか心配だが、ゼノヴィアがミサンガのようなものを渡していたから大丈夫だろう。俺の予想通りなら、そのミサンガは堕天防止用で黒歌と一緒に作成した魔道具だろうからな。

 

 俺の部屋から自分の部屋へと仲良く帰っていく教会トリオの3人と椿姫さん。

 

 全員が部屋から出て行くのを見送ってドアを閉めようとしていると……。

 

「あの……、エイジさん」

 

「アーシア?」

 

 さっき帰ったはずのアーシアがまた戻ってきた。忘れ物か?

 

 部屋のなかにまだ何かあったかな? と、部屋のなかに視線を送ってみる俺に、アーシアは顔を近づけて……。

 

 ――ちゅっ。

 

 頬に触れるプルッと潤んだやわらかいものの感触と温かさ。それに小さな吐息。

 

 ……え?

 

 顔を正面に向けてみると、アーシアが微笑んでいた。

 

「お礼です。今日はありがとうございました」

 

 と、すっきりした顔で頭を下げて、アーシアはゼノヴィアたちの元へ帰っていった。

 

「…………」

 

 キスされた頬を指先でなぞる。

 

 お礼……、ね。

 

「どういたしまして」

 

 俺は誰もいなくなった廊下に小さくつぶやいて、ドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<その頃のイッセー>

 

イッセー「クソッ! 女風呂を覗けるスポットじゃなかったのかよ!?」

 

元浜「まさか生徒会の手が及んでいるとは……!」

 

松田「諦めるな! こいつらを倒せば秘密のスポットまで少しなんだぞ!」

 

匙「この変態3人組め! やっぱり女子風呂を覗きに現れやがったな! 巡、由良、花戒、草下! 兵藤は俺とロスヴァイセさんが抑える! おまえらは他の変態共を任せるぞ!」

 

生徒会女子メンバー『了解!』

 

ロスヴァイセ「まったく。仕方がない子たちですね」

 

イッセー「匙! 俺はおまえを倒して女子風呂を覗く!」

 

匙「まったく、何堂々と宣言してやがんだ、この変態がっ! おまえには常識ってもんがねぇのか!?」

 

イッセー「はっ! おまえこそ。ほんとは女子風呂覗きたいくせに何言ってやがる!」

 

元浜「そうだそうだ! ひとりでいい子ぶりやがって!」

 

松田「いつも生徒会の女子たちに囲まれやがって! 覗きぐらい許してくれたっていいだろ!」

 

匙「こ、こいつら……っ! 覗きたくても覗かないのがマナーだろうがぁぁぁっ! なに覗いて当然みたいに言ってるんだ!」

 

イッセー「ちっ! 能力は使えない。純粋な肉弾戦か。上等だぜ! やってやる!」

 

匙「シトリー眷属……、生徒会メンバーの名かけてここは通さねえっ!」

 

ロスヴァイセ「覗きは立派な犯罪ですよ。イッセーくん」

 

イッセー「うっ! そ、それでも……! 俺は、女子風呂が、覗きたいんだぁぁぁぁっ!」

 

元浜「よく言った、イッセー!」

 

松田「俺たちの想いと覚悟、見せてやろうぜ!」

 

イッセー「行くぞ、野郎共! 突撃だぁぁぁっ!」

 

イッセー・元浜・松田『うぉおおおおおおおおおおおおおお!』

 

匙「かかってこいやぁああああああああっ!」

 

生徒会女子メンバー『ここは絶対に通しません!』

 

ロスヴァイセ「はぁ……。アザゼル先生も仕事してくれれば楽に……、いえ、あの堕天使なら逆に覗きに協力しそうですね……。ここは私たちで守るしかないですね」

 




 書いては休んで、書いては休んで、書いたから少し文章が変だったかも……。一応、見直したけど。


 今回のアーシア回ですが、本番は行なっていません。前戯に留めてます。

 このまま完全にヒロイン化するかは不明ですが、イッセーとくっつくかも不明です。

 というか、原作ではアーシアを振ってはいないけど、リアスと付き合ってる宣言して別のヒロインズと新たにフラグ建築してるからなぁ……。

 掲載当初に考えていた、ディオドラ編でオリ主がアーシアにフラグを立てて、修学旅行編で喰うというプロットに近いものが出来上がってしまいました。

 さてと、次はクールな副会長か……。

 そして、そのまた次は九尾の親子。

 転生天使は……、帰ってからかな? いい加減物語進めたいし、入れる時間ないし、無理矢理入れたら不自然になるし。

 とりあえずサイラオーグ戦前に考え中です。  

  

 あと、<その頃のイッセー>は、ひとり部屋のオリ主の部屋にアーシアたちが来たことで、

 原作の元浜が知っている女子風呂を覗ける秘密のスポットの話につられて、イッセーも松田と共に3人で覗きに参加した場合を考えて書きました。


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第74話 京都3日目の朝 ☆

 久々の投稿は、連続投稿になります! 文字数がハンパなく多いので読者様も大変……。


<エイジ>

 

 次の日の早朝。早めに起きた俺は、部屋で昨晩街に放っていた捜索用の式紙たちが収集した情報を確認していた。

 

「情報は、ないか……」

 

 一晩中ホテルを中心に京都の街を捜索させていたが、八坂がいる場所や敵が潜んでいる場所も何も特定できなかった。

 

 八坂はいったいどこへ連れ去られたのだろう?

 

 京都の街にいるのは間違いないと思うが、未だに手がかりすら発見できていない。

 

 おそらく空間系の神滅具使いが原因だと思われるが、本当にそうだった場合、今の式紙では広範囲は捜索できても、結界などで隠された場所には気づけない。

 

「もっと力を込めた式紙を大量に放つしかないか……」

 

それでも一定以上に神滅具を使いこなしているだろう使い手が張っている結界を発見できるかわからないが、現状ではただの力の無駄遣いでしかない。敵の動きを抑える牽制にはなるかもしれないが……。

 

 まあ、どちらにしても戦闘を考えると、魔力は残していたほうがいい。

 

 九重に渡したお守りで全体の半分の魔力を使い、一晩中数多くの式紙を飛ばして街中を捜索させていたから今の俺の魔力は全力の4割程度しか残っていない。これ以上魔力を無駄に減らす行為は確実にこちらのマイナスになる。

 

「はぁ……。魔力が多い分、魔力の回復も早ければいいんだけどなぁ……」

 

 思わず重たいため息が出てしまう。最近、大量に魔力を消費する機会が減っていたから、魔力の回復が遅くなっていたのだ。

 

 いつもの修行でも体は鍛えても大量の魔力を消費する機会はなかったし、すぐにリアスたちとセックスして回復していたからなぁ。今度からは魔力を大量に消費して、自然回復させて回復力も高めておかないとダメだな。

 

 昨晩、ゼノヴィアやアーシアとの淫行……、行為によって魔力を回復できたといっても、俺の総保有魔力から見れば微々たるものだ。本格的に魔力を回復しようとしたら、もっと回数と密度を増やさなければいけない。

 

 今のところ俺の魔力は全力の4割程度しかなく、京都中に散らしている式紙達と魔力の回復速度がほぼ同じと、プラスマイナス0といったところだから、

 

「せめて6割、6割まで魔力が回復できれば……」

 

 禍の団の首領である無限龍オーフィスが出てきても負けはしないだろう。世界最強の龍殺しの宝具も無数にあるし、魔力を喰うが隔離型の結界宝具も使えるから、援軍が来るまで持ちこたえられる。

 

 それに、そもそも考えてみると俺にあんなラブレターを渡してきたあのオーフィスなら八坂の誘拐なんて手段ではなく、別の手段を使ってきそうなものだ。……夜這いとか。

 

 …………。

 

 ……まあ、オーフィスは出てきた場合に対処するとして、禍の団の英雄派が相手ならゼノヴィアたちや生徒会のメンバーもいるから対処できるだろう。

 

 いざとなれば仙術を使ってもいいが……、気のコントロールに不安がある。

 

 肉体が完全に悪魔になったことで、魔力をコントロールしやすくなった反面、気のコントロールがし辛くなっているのだ。

 

 ないとは思うが、万が一にでも気のコントロールを間違えて攻撃してしまえば、京都そのものを結界ごと吹き飛ぶ可能性がある。

 

 まっ、吹き飛ぶ可能性といっても、それは気弾みたいな遠距離技が不安なだけで、それらを使わずに純粋な武術を使えば問題ないけど。

 

「気を使った武術で、手加減ってできないんだよなぁ」

 

 肉体がさほど強くない相手の場合、一瞬でスプラッタな肉片に変えてしまうかもしれない。

 

 例をあげると、

 

 ドラグソボールの空孫空が宇宙から帰ってきたあとしばらくして、冗談で奥さんの背中を軽く叩いた瞬間、奥さんが家の壁を突き破って岩に上半身が埋まる。

 

 ナンパァが様子見で繰り出した攻撃を飯津天が腕で受けようとしたら、文字通り腕が千切れ飛んだ。

 

 なんてシーンが現実で起こってしまうかもしれないのだ。特に奥さんの場合はギャグ補正でも大怪我していたのに、ギャグ補正がない分圧死ルートになるかもしれない。

 

 まあ、それも正直いうと俺自身はそれでも別にかまわないが、禍の団の情報や、会談を上手くいかせるためには禍の団がやったという証拠が必要だし……。

 

 …………。

 

「…………。あ~、とりあえず魔力だ! 魔力を回復させる! 魔力がなかったら話にもならないんだし、色々考えるのは後回しだ!」

 

 俺は部屋の真ん中で座禅を組んで、魔力の回復に集中する。

 

 心を落ち着けて、体から力を抜いて……。

 

 ゆっくりと回復していく魔力を感じ取る。

 

 色々考えるのは後回しだ。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ――コンコン。

 

 瞑想していると、部屋の扉がノックされた。

 

 誰か来た? そう思いつつ時計を見る。今の時間は、朝の5時30分を回ったところ。こんな早い時間に誰だ? まだ起床時間まで1時間以上はあるぞ。

 

『あ、あの、起きていますか?』

 

 扉から聞えてきた声は、聞き覚えのある凛とした声だった。少しだけ声に不安がみられたが。

 

「椿姫さん?」

 

 立ち上がり、扉のほうへ近づいていく。カギを開けて、ドアノブを回して扉を開けると――。

 

 声から予想していた通り、駒王学園指定のジャージを着た椿姫さんが立っていた。

 

「お……、コホンっ。――おはようございます、エイジ」

 

「おはようございます、椿姫さん」

 

 礼儀正しく凛とした椿姫さんの挨拶に、こちらもそうあいさつを返す。そして用件を訊ねようとしたところ、椿姫さんは「失礼します」と俺の横を通って部屋のなかへと入っていってしまった。

 

「え? 椿姫さん?」

 

 部屋のなかへ入った椿姫さんに戸惑いながらも扉を閉めて追うと、椿姫さんはそのまま居間へと向い、隅に畳んで積んでおいた布団を手早く広げて上に座ると、三つ指をついてきた。

 

 ……え?

 

「不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」

 

「……へ?」

 

 深々と頭を下げてくる椿姫さんに間の抜けた声を出して、ポカンとしてしまう俺。

 

 まったく話が見えない。

 

 いや、シチュエーションである程度話の流れを予測できてるけど、突然すぎてワケがわからない。いったい何があったんだ、この人に。

 

「椿姫、さん?」

 

「どうか『椿姫』と呼んでください」

 

「……つ、椿姫」

 

「はい」

 

 返事をして顔を上げる。……あれ、軽く化粧してる?

 

「あのさ、椿姫……? 突然で、唐突過ぎて今の状況がよく読みこめないんだけど?」

 

「…………。……あっ。そ、そういえば、そっ、そうでしたねっ!」

 

 ボンっと顔を真っ赤に染める椿姫さん。慌ててなぜこの状況になっているのかを説明し始めた。もじもじ、不安げに視線をさ迷わせながら、片手を胸の前で握ったり、膝をすり合わせるというモーションを見せながら。

 

「えっと、ですね……。ゼノヴィアさんから今エイジの魔力が少なくなってるとお聞きしたので……、その……わ、私とせっ、セックスすればま、魔力が回復すると思いまして……」

 

「あー……」

 

 昨晩から何度揉んだかわからない眉間を指で揉み解す。つまり椿姫さんは俺の魔力を回復させようとセックスしに来たと?

 

「あのっ! ご、誤解しないでください! わ、私はえっと……、え、エイジさんだから来たんです! エイジだから純潔を捧げてもいいと思って、ですね……。うう……」

 

 途中から墓穴を掘ったと、さらに顔を真っ赤にして俯いてしまう椿姫さん。いつものクールさの欠片もない姿に、思わず萌えてしまう。

 

 さらに、座っている椿姫さんが俺の顔を見上げるように顔を上げて、

 

「私とは、したく……ないですか?」

 

 不安げにつぶやいた。

 

 これまでのことからも椿姫さんが言ってる俺の魔力の回復のためうんぬんは建前なんだろうとわかるし、昨晩俺とゼノヴィアのセックスに感化されて、生徒会の仕事もないこの時間にやってきたんだろう。

 

 あー……、うん。それならいいよな?

 

 もう、ゴールしちゃっても。

 

 いずれはこういう事になっていたと思うし、うん。これもいいキッカケだろう。魔力も回復できて一石二鳥だし、よし。

 

 覚悟というか、決心して椿姫さんの前に座る。

 

 そして不安げに見つめてくる椿姫さんを見つめ返して、

 

「魔力関係なしでも椿姫としたいよ」

 

 正直に告白しました。

 

「エイジ……」

 

 その告白を聞いて、ぱああっと表情を明るくしていく椿姫さんはとても魅力的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行で俺専用に与えられた和室。和室にはいつも見慣れている結界が施されて外界と隔離されており、居間に敷いた布団の上には駒王学園のジャージ姿の椿姫さんが四つんばいになっていた。

 

 ジャージ姿で四つんばいになっている椿姫さんが、お尻のほうに座っている俺に顔だけ向けてつぶやく。

 

「ど、どうぞ……」

 

 両手をお尻に回して、自分で下着ごとジャージを引き下ろし、両腕を顔の前で組んで頭を埋める。お尻だけ突き出してこちらに向けている姿は、まるで何かの検査を受けているようだった。

 

 んー、どうやら椿姫さんは早く済ませたいっていうか、緊張して先走ってるみたいだなぁ。

 

 後ろにいる俺から丸見えになってる、少しくすんだお尻の穴の下にあるオマンコは、まだよく濡れていない。

 

 まずは緊張を解すか。椿姫さんの体も味わいたいし、ひとりで気持ちよくなっても楽しくないからな。

 

 俺は椿姫さんの隣に胡座をかいて座る。

 

「?」

 

 横に座った俺に、挿入しないのですか? と椿姫さんが視線を向けてくるけど受け流し、お尻に触れる。

 

「――んっ」

 

 かわいらしい声。桃を連想させる丸いお尻が震えて、最初にその肌に触れた指から逃げようとするが、その前に掌を乗せて撫でた。サラサラとしたきめ細かく滑らかな肌。手触りがよくて手に吸い付き、彼女の体温が伝わってきて、いつまでも撫でていたくなるような魔力が篭っている。

 

「え、エイジ……?」

 

「なんですか、椿姫?」

 

「そ、その……」

 

 言いにくそうな椿姫さん。挿入からの即エッチに入ると思っていたんだろうけど、愛撫は大切だよ。

 

 お尻を撫でつつ、今度は胸へと片手を滑り込ませる。滑らかな肌と重力によってヘソの上まで捲くれていた体操着。体操着と肌の間を通りながら、最初からセックスするつもりだったからかノーブラで布団の上に潰れて広がってる豊かな乳に触れる。

 

「――あっ」

 

 乳に触れた指に驚いたのか、少しだけ上半身を持上げる椿姫さん。俺はそこを狙ってお尻から手を離して肩を掴み、引き寄せるように体ごとこちらへ向けさせる。

 

「エイジ、さん?」

 

 突然の行動に椿姫さんが戸惑っているところを狙って、肩を掴んでいた手を背中へと滑らせ、布団の上へと押し倒す。

 

「きゃっ!?」

 

 椿姫さんの口から短い悲鳴が漏れるが、驚いただけ。

 

「え、エイジ……?」

 

 押し倒されて、小動物のように怯えながら見上げてくる椿姫さん。俺はメガネ越しに椿姫さんの綺麗な瞳を見つめたあと、少しだけ開いている唇を重ねる。

 

「――っ」

 

 緊張しているのか、少し乾いている唇。舌先に唾液を乗せて唇を舐めると、すぐに唾液が馴染んで本来の瑞々しい唇へと戻った。

 

 一旦顔を離す。椿姫さんは驚いた表情を浮かべて固まっている。

 

「い、今のは……?」

 

「キスだ」

 

「…………」

 

 ゆっくりと、カーッと顔を赤くしていき下を向く椿姫さん。胸を守るように両腕を組んだまま、膝を刷り合わせている。ストレートな返答を受けて恥ずかしがってるみたいだ。

 

 ひとつ年上で、生徒会副会長としていつもは知的クールな秘書ポジションにいる椿姫さんの初心な反応に、内心で悶えながら訊ねる。

 

「もっとキスしても?」

 

 確認するように、お願いするように、懇願するように訊ねる。

 

「えっ、あ……。それは……」

 

「ダメか?」

 

「そ、それは違いますっ。で、ですが……」

 

 なかなか踏ん切りがつけられない椿姫さん。どうやら生徒会員としての自制心などが働いて自分から淫行におよべないようだけど……。

 

「なら、いいな」

 

「――んっ」

 

 こっちから積極的にキスを開始する。

 

「あ、う……、え、エイジ、さん……」

 

 唇を重ねて、離すたびに声で止めようとしてくる椿姫さんだけど、本当に止める気はないようだ。押し返すように俺の胸に置かれた両手も力なく置いているだけで、キスを続けていくにつれて抵抗を止めて受け入れ始めた。

 

 胸に置かれていた両手が、背中に回される、

 

 俺は両足と片手で自分の体重を支えて、胸に触れた。

 

 高校生にしては大きな胸。リアスや朱乃に負けないサイズで形もよく、柔らかい。モチに例えるのが1番合いそうな感触で、体操着越しでも充分に楽しめる。

 

 いや、体操着越しだから楽しめるのか。

 

 吸水性や通気性がよくなるためのザラザラとした手触りの生地が摩擦を増やし、ツンッと起って存在を主張している乳首を捏ねるには最適の素材。普段のブラ越しだったり、直接肌に触れたりとは違って楽しい。

 

 俺は体操着越しにやさしく乳首を摘まむ。

 

「あんっ」

 

 ビクッと体を反応させる椿姫さん。痛みをあまり感じさせないように、気をつけながら指を動かす。

 

 吸水性や通気性を上げるために細かい網目状の生地となっている体操着を使い、乳首を捏ねた。

 

「んっ……。……く、あうぅ……っ」

 

 背中に回されている腕から力が抜けていく。椿姫さんの瞳が細くなり、快感が桜色の唇から漏れ出している。

 

「ああ、すごくかわいいなぁ」

 

「か、からかわないでくださいっ」

 

「ふふっ、からかってないよ。本気で言ってるんだ。――椿姫はすごくかわいいって」

 

「――っ! ……う、うう~……」

 

 顔を赤くして、潤んだ瞳で恨めしそうに見つめてくる椿姫さん。そんな姿が無性に子供っぽくてかわいらしい。

 

「椿姫」

 

 愛情たっぷりつぶやいて、唇を重ね合わせる。

 

「んっ」

 

 もう拒まないでキスを受け入れる椿姫さん。背中に回されている腕に再び力を入れられ、積極的に引き寄せられた。

 

 もう緊張も解れてきているようだ。そろそろ次に進んでいいだろう。

 

 唇を少し開いて、舌を出す。椿姫さんのプルプルで瑞々しい唇に触れて、2つが重なってできた割れ目をなぞる。

 

「――んぐっ!? えいひぃ!?」

 

 唇の間を舐めながら口内へ侵入しようとする舌に驚き、口を開けてしまう椿姫さん。

 

 俺はその隙を狙って舌を奥へと侵入させる。

 

 ツルツルした歯を越えて、やわらかい頬に触れて、驚きで暴れていた舌に触れた。

 

「――っ!」

 

 舌に触れた俺の舌の感触に驚き、椿姫さんが完全に動きを停止させるが、停止しているのは表面だけ。口内では椿姫さんの舌が混乱したように蠢き、俺の舌を舐めている。

 

 うー、ゾクゾクするなぁ。椿姫さんの小さめの舌がチロチロと這い回って、ザラついてる感触やほんのり甘い唾液の味がなんとも……。

 

「んぐっ、あふぅ……、あっ……、うむ……」

 

「つば、き、さぁん……」

 

 うわああ……、離そうとしたら逆に舌を入れ返してきたよ。

 

 俺の口内で椿姫さんの舌が這い回る。

 

 歯を舐められて、頬を舐められて、舌を舐められて、唾液を啜られる。

 

「んちゅ……、うぐっ、エイジの……、あふっ……、ふふ……」

 

 ピャピチャといやらしく、舌同士を絡める。おー、一線越えたか? すごく積極的だ。

 

 背中に回されていた椿姫さんの腕が1本だけ外され、そのまま体の間を通って触れる。

 

「――っ」

 

「ああ、大きい……。すごく熱くて、硬くなってる……」

 

 俺のズボンを押し上げてそそり立っていたペニスに。

 

 そして、そのままズボン越しによしよしと子供の頭でも撫でるかのように、やさしくゆっくりと、玉袋のほうから下から上へ、先端の亀頭へと向って撫でられる。

 

「椿姫……っ」

 

 そのつたなく、弱い刺激にさらにペニスが硬くなる。

 

 血が集まり、ガチガチに勃起したペニスが下着ごとズボンを押し上げ、カウパーが下着を濡らし、より強い刺激を求めて触れてくる指に自然と腰を突き出し、

 

「もっと、触ってくれ」

 

 と椿姫さんに抱きついてしまう。

 

 抱きつかれた椿姫さんは少しだけ驚くが、

 

「は、はい……」

 

 愛撫を始めてくれた。

 

 控えめにズボンに手をかけて、下着の内側へと手を侵入させる。

 

「あうっ、熱い……、ですね」

 

「くっ……」

 

「い、痛かったですか!?」

 

「いや、手が気持ちよくて……」

 

「き、気持ち、いいんですね?」

 

「ああ、もっと続けて欲しい」

 

「そ、そうなんですか……。わかりました」

 

 ズボンと下着のなかに手を突っ込み、そのまま奥へ。

 

「きゃっ! こ、これは……」

 

「――っ」

 

「プニプニしてて……、これが精巣……、この竿の表面に走っているの血管、なんでしょうか?」

 

 手を奥まで侵入させて、興味深そうにコロコロと指で転がし、揉むモミしたりと玉袋を弄んでくる椿姫さん。

 

 思い出したように、玉袋から竿を手で掴んで扱いてくる椿姫さん。

 

「くっ、あうう……」

 

 どうやら椿姫さんは玉袋を弄るのがお気に入りらしく、女性らしい長くて細い5本の指で、玉袋を弄ばれた。

 

「ふふふ……」

 

 耳元で聞える椿姫さんの笑い声。そして、玉袋を指で弄ばれるという弱い快感の連続に、思わず椿姫さんの肩に顔を埋めて悶えてしまう。

 

 このまま椿姫さんに飛びついて犯しそうなるのを我慢する俺に、椿姫さんは耳元で囁くようにつぶやく。

 

「気持ちいいんですね?」

 

 Sっ気の混じった甘い声音。エッチなお姉さんのような雰囲気がにじみ出ている。

 

「すごく、気持ちいいよ。……くっ」

 

 下から持上げられて、掌に玉袋を包まれ、指先で根元に触れられる。

 

 掌で玉袋をやさしく包んだまま、さらにつぶやかれる。

 

「仰向けになっていただけますか?」

 

「……仰向けに?」

 

「ええ。せっかくですからね♪」

 

 ニッコリと笑う椿姫さん。俺はその言葉に従って布団の上に仰向けになると、

 

「失礼しますね」

 

 椿姫さんがジャージのズボンと下着を一緒に脱いで、顔に跨ってきた。

 

 俺の顔の前に椿姫さんのオマンコが現れる。きちんと処理されて綺麗に整えられた陰毛と少し肉が薄いスジが少しだけ開かれ、中のピンクが少し覗けている。

 

「――っん」

 

 さらに下腹に感じる感触。柔らかくて温かい、スベスベのモチが2つ広がり、ビンッと勃起してるペニスの竿に指の感触が……っ!

 

 このお互いが体の上下を入れ替えて抱き合う体勢は、69っ!

 

「一応、私も色々と勉強したんです」

 

 椿姫さんがつぶやいた。ペニスを優しく掴んで息を吹きかけ、匂いを嗅いで、……え? 勉強したって?

 

「書籍で、ですけど……。色々な体勢でセックスするやり方や、性感帯が書かれていて……。――だ、だからですねっ。その、私が気持ちよくさせてあげます」

 

「つ、椿姫……」

 

 今はお尻と太ももぐらいしか見えないけど、多分顔が真っ赤になってるんだろうなぁ。

 

「えっと……、まずは舌で舐めるんでしたよね?」

 

「――くっ」

 

 ペロっと、少しザラついた舌の感触が亀頭に走る。

 

「す、少ししょっぱくて苦い……。これがペニスの……、エイジの味なんですね。独特の味ですが、なかなかクセになりそうです。……えっと、じゃあ次は唾液を溜めて……」

 

 今度はドロッとした液体がペニスに落ちて、亀頭から竿を伝う。生暖かい椿姫の唾液だ。その少しヌルッとした唾液を指で擦り込まれながら、亀頭を嘗め回される。

 

「んちゅ……、レロッ、……ん、ちゅ……、はう、あむ……」

 

 飴でも舐めるかのように、敏感な亀頭を舌先で舐められて、思い出したように雁首を口で咥えられた。

 

 椿姫さんの唇の感触が雁首から伝わりつつ、ヌルヌルで温かな口内に包まれる。もごもごと口を動かしてペニスにしゃぶりつき、尖らせた舌先で尿道口を穿られ、チュッとキスをするように吸い付かれる。

 

 上手いっ。本当に、上手い。

 

「すごく気持ちいいよ。椿姫」

 

「ちゅ♪」

 

 さらに大胆になっていく手つき。手応えを感じて喜んでいるのか、さらに片方ずつの手で2つ玉袋を握られ、解すようにマッサージされながら、竿の3分の1まで咥えられて、上下にピストンを開始する。

 

 歯を当てないように大きく口を開けて、まるでオマンコに挿入しているかのように、激しくピストンをしてくれる。

 

「ああっ、いい……っ、椿姫の口が……! 最高だよ、椿姫の口マンコっ!」

 

「じゅぽっ、じゅぶっ……、はぁはぁっ。――ふふっ、射精したくなったらいつでも射精してくださいね」

 

「ああ、わかった! くっ、うぐ……」

 

 じゅぽっ、じゅぼっといやらしい音が部屋に響く。

 

 先ほどまでのピストンに咥えて、強い吸引まで加わり、片手で竿を扱かれ、快感が募る。玉袋から精液が竿へと昇って溜まり、脳内麻薬が絶頂へと導き、俺は快感に従って射精を始める。

 

「だ、射精すぞ!」

 

「んっ」

 

 椿姫さんが一気に亀頭に吸い付き、竿から精液が昇り……。

 

 ビュッ! ビュルルッ、ビュビュゥウウウウ!

 

 亀頭から精液が噴出した!

 

「――ぐうっ!?」

 

 椿姫さんから驚きの声が漏れるが、射精は止まらない! 腰ごとペニスが震えておびただしい量の精液が射精され続ける!

 

「うぶぶっ……、ぐっ、あぶ……っ! ふぶぅ、んぐっ、んぐっ……キャッ!」

 

 椿姫さんの喉が何度も動く。苦しそうな声を出しながらも精液を飲み込み、弱々しい手つきながらもマッサージを続けて、献身的に射精をさせてくれる。

 

「ああ……」

 

 最後まで、しっかりと精液を飲み込み、ペニスを口の中に含んだまま舌で竿を舐めて、亀頭に吸い付き、竿に残った精液まで吸いだしてくれる。そして、最後に唇を使って綺麗に体液を拭い、口からペニスが解放した。

 

 口から吐き出され、敏感になっている亀頭が外気に触れる。亀頭の表面に薄くついた体液が乾くのを感じる。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、うぶっ……」

 

 俺が気持ちよくなっている一方で、荒い息をあげて吐きそうになっている椿姫さん。片手が口元に当てられて、思う存分口内射精してしまったことに罪悪感を感じる一方、何ともいえない満足感が……。あー、でも、初の口内射精で口を離さず全部飲んでしまうなんて、さすが悪魔だよな。体力・精神力・身体能力から全部人間離れしてる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「はぁはぁ……、はい。大丈夫です。そ、それよりも気持ち、よかったですか?」

 

「ああ、最高に気持ちよかったよ」

 

「それはよかった」

 

 顔だけ振り返って微笑む椿姫さん。今度は……。

 

「――今度は、俺が椿姫を気持ちよくしますね」

 

「えっ?」

 

 俺は目の前に見えるお尻を両手で掴む。少しだけ汗が浮んだお尻を掴んで、撫でる。

 

「んっ、エイジ。――っん」

 

 指でオマンコに触れる。人差し指と薬指でスジをなぞり、人差し指を間に挟める。

 

 ジュ……。

 

「すごい……奥から蜜が溢れてきてる」

 

 あまり濡れていなかったのに、今は挟んだ指をたっぷりと濡らすほど愛液が分泌されている。匂いもむせ返るような発情した雌の匂いが香っていた。

 

「あっ……、くっ、ううんっ……」

 

「オマンコが指に吸いついてくる。いやらしいなぁ」

 

「――っ! そ、そんなことつぶやかないでくださいっ」

 

「ああ、ごめんごめん。――でも、すごく綺麗だからさ」

 

「綺麗、だなんて……」

 

「本当だよ。綺麗で、おいしそうだ」

 

 指の腹を膣口にあてがう。熱く、ヌメリ気があり、プニプにしているオマンコの感触を楽しみながらなぞり、膣口に指を引っ掛ける。フェラチオで疲労している椿姫さんは逃げられずに、手淫を受けるしかない。

 

「あんっ……、えっ、エイジ……」

 

 オナニーしてたのかな? 結構柔らかい。指が簡単に入った。

 

「んー、このまま指で楽しむのもいいけど……」

 

「エイジ?」

 

 椿姫さん自慢の美脚を両手で掴む。内股に両手を当ててそのまま上半身を持上げる。顔をオマンコに近づけて……。

 

「キャッ!?」

 

「レロッ……、ふふ、おいしい」

 

「えっ、エイジっ!? ――あんっ、し、舌!? や、やあああっ! ペロペロしないでぇっ!」

 

 椿姫さんのオマンコ。少し味が薄いけど、匂いは濃いなぁ。膣口の感触は、うん。柔軟。

 

「あ、あああ……、入って、エイジの舌が……、私のなかに……」

 

「んじゅっ、んぐ、んん……」

 

 膣道は入り口辺りは解れてるけど、奥は全然狭くて硬い。処女膜は……薄いな。鍛錬してるせいかな? 全然残ってない。

 

「ずぼずぼ……、く……、エイジの舌が這い回って……」

 

 うわああ……、愛液がすごい。顔がもうビショビショだよ。喉にも溜まってるし……。

 

「じゅ、ずぅううう……」

 

「キャアッ! 吸われて……、飲まれてるぅうううっ!」

 

「――っ!?」

 

 ビクッ、ビクッと体を痙攣させる椿姫さん。全身を震わせながら上半身ごと俺の下半身に倒れて……ちょっ!?

 

 ちょろ……、じょろろろろろ……。

 

「あ、あああ……」

 

 俺の下半身のほうから聞えてくるのは、椿姫さんの気持ち良さそうな声。気の抜けたような、息を吐きながら全身の力を抜いているような声だったけど……。

 

 上半身が椿姫さんでいっぱいになりました。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……」

 

 ペニスに息があたる。絶頂&放尿が効いたのか、放心している椿姫さん。それにしても放尿させるって、俺は間違って尿道口にまで吸い付いてしまったのか?

 

 いや、それよりも……、絶頂して俺におしっこぶっかけたこと理解したら、椿姫さんは……。

 

「すっ、すみません! 私ったらなんてことを……」

 

 ……裸土下座で謝りまくって、エッチどころではなくなりそうだな。

 

 …………。

 

 ……よし。

 

 俺は上に乗っている椿姫さんを横に転がして、起き上がる。こちらとしてはこのまま69の体勢で、お互いを慰め合いながら楽しむつもりだったけど、仕方がない。

 

「あ……、うぅ……」

 

 まだ椿姫さんが放心してだらしなく仰向けで寝ている隙に、足元へと移動。

 

 足首から太ももへと手で開かせながら体を股の間へ侵入させる。

 

「え、いひ……?」

 

 トロンとした顔で見上げてくる椿姫さん。俺は膝立ちでペニスを突き出し、手を添えて膣口へとペニスをあてがう。

 

「んっ……、熱い?」

 

「椿姫、挿入(いれ)るぞ?」

 

「ん」

 

 意味を理解しているのか、理解していないのか、よくわからない微笑み。その笑みはあまりに純真そうで、犯しがたい清いものだったけど……。

 

 ズブッ……。

 

「――っ」

 

 むしろ、興奮するっ!

 

 椿姫さんの小さな膣口にペニスを挿す。入り口がメリメリと広がっていきながら、亀頭が沈んでいき、

 

「ぐっ、あああ……、え、いじ……っ!」

 

 苦悶の表情を浮かべた椿姫さんが後ろ手にシーツを握りしめた。

 

「はぁはぁっ、はぁはぁっ……、き、キツい……」

 

 涙を浮べる椿姫に、俺は一旦挿入をやめる。俺のが大きいのもあるだろうけど、本当に狭いな。入り口は柔らかいのに。

 

「大丈夫か?」

 

「はぁはぁ……、はぁはぁ……、は、はい……。き、キツいです、けど……。大丈夫、です」

 

 気丈に微笑んで見せる椿姫さん。俺は上半身を折って、椿姫さんに覆いかぶさるように体を重ねて、つぶやく。

 

「続けるぞ?」

 

「はいっ」

 

 両手が背中に回される。覚悟を決めた表情で目をぎゅっと瞑り、受け入れる体勢を整える。

 

 あぐっ、逆にキツく……絞まってるよ、椿姫さん。かなり挿入しにくいけど、こういう絞まりや硬さは処女だからこそ楽しめるんだよなぁ。

 

 腰をゆっくりと進めていく。

 

 異物を侵入させまいと、ミチミチ、ギチギチと絞まるオマンコ。俺は絞まるオマンコの抵抗を無視して、無理矢理亀頭や竿で掘り進んでいく。

 

「ぐっ、あぐっ……、痛っ……、エイジっ……!」

 

「もう少し、もう少しで奥まで……」

 

 一度目の挿入で子宮口付近まで進めておいたほうが後々楽になるから、頑張って、椿姫さん!

 

 ズズズッ……。

 

「――っんん!」

 

「くっ……、奥まで、入ったよ。椿姫……」

 

「はぁはぁ……、はい。エイジのを、すごく感じています……」

 

 耳元でつぶやかれながら、ぎゅうっと抱きしめられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 椿姫さんと繋がってからしばらく。まあ、実際には数分ほどだけど、挿入からあまり動かず、抱き合ったまま固まっていた。

 

 本当はそろそろ、そろそろ動きたいのだけど……。椿姫さんは処女だったから馴染むまで待っている。

 

 本当に、ギチギチと異物を吐き出そうと蠢く膣の感触にものすごく興奮して突き荒らしたい欲望でいっぱいになっているけど、我慢している。

 

「はぁ……、はぁ……」

 

「大丈夫、ですか? エイジ」

 

「だ、大丈夫ですよ」

 

 うー、うずうずして溜まらない……。魔力を回復させることに集中して気を逸らしているけど、元々魔力の回復は陽の気と陰の気を循環させて混ぜ合わせることになるから……。

 

「はぁはぁ……、ううっ、気持ちいい……」

 

 どうしようもなく、気持ちいいのだ。椿姫さんの気が自分に入りこみ、自分の気を椿姫さんに送り込む行為自体が、セックスのようなもので、精製されて溜まる魔力は性欲を刺激して、鮮明にペニスから膣の感触を伝えてくる。

 

 肉ヒダ1枚1枚の感触、どのように膣道は蠢いているのか、子宮口はどこにあって、どうしているのか、竿を絞める膣口はどうなっているのか、お互いの粘膜がお互いの存在を際立たせ、嫌でも情報が快感と一緒に伝わってきて、腰を動かしたい気持ちにかられてしまう。

 

 ああ、すごく……、いますごく、

 

「――動きたい、ですか?」

 

「――っ!」

 

 椿姫さん……。

 

「その……、な、なかに入ってるので、な、なんとなくですけど……、伝わってきて、ですね……。お、男の子は入れたら動きたくなる生き物だというのは、知っていますし……」

 

 顔を赤くして、こちらを見つめて、つぶやく。

 

「動いて、いいですよ」

 

 恥ずかしそうに、こちらを気遣うように、母性を感じさせながら、

 

「で、でも、やさしくしてくださいね?」

 

 微笑んだ。

 

「――椿姫さん……」

 

「ふふっ、今は椿姫と呼んでください」

 

 ニコッと微笑み注意してくる椿姫さん。…………。……あー、本当に、この人は萌える。普段とのギャップが凄まじくてダメになりそうだ。

 

「――あっ、なかでエイジのが……」

 

「椿姫、動くよ」

 

 つぶやく、抱き合ったまま、体を動かし始める。

 

「んっ……、んんっ……!」

 

 まずは前後に揺さぶるように、体全体でゆっくりと。

 

 ギチギチに絞まるオマンコに、ペニスの形を刷り込み、慣れさせる。

 

「あっ、くっ……、ううっ……」

 

 まだ快楽よりも、痛みを感じているだろう椿姫さんを気遣いながら、上半身を起こし、椿姫さんの両脇の下に両腕を立てるその格好は、腕立て伏せをする体勢に似ていた。

 

 布団の上に両膝をついて、さらに腰を動かす。獣のように四つんばいになって、ペニスをズボズボといやらしくピストンさせて、オマンコを味わう。

 

「椿姫のオマンコ、すごく気持ちいい! ぎゅうぎゅうに締めてきて、最高だ!」

 

 本当によく絞まる! 武道の稽古で下半身を鍛えていることもあってかムチムチしていて弾力があり、竿を扱いてもらっているみたいで最高に気持ちがいい!

 

「あぐっ、……っ、んぐっ……、ああっ! エイジのがなかで動いてるっ! 私のを、ズボズボして……、くううんっ……!」

 

 目を瞑り、背中を逸らす椿姫さん。肉同士をぶつけ合う音と共に、ぐじゅっ、じゅぶっといやらしい水音がペニスから伝わって脳内に響いてきた。

 

 すごい……。椿姫さんのオマンコ。どんどん奥から愛液が漏れてきてる。

 

「はぁはぁっ……、あっ……、くぅっ……!」

 

 段々と、椿姫さんのオマンコの具合が変化し始める。強く絞まるのは相変わらずだけど、ペニスの形を覚え始めたのか、挿しこむときに感じていた無理矢理膣道の形を変えさせるような抵抗が弱くなってきた。

 

 そして、それと共に……。

 

 椿姫さんの腰が、俺の動きに合わせて動き始めた。

 

 その場に固まってペニスを受け入れるだけだったのが、こちらのピストンのリズムに合わせるように、腰を浮かせたり、引いたりと動き、角度を変えたりと積極的にペニスを受け入れ始めたのだ。

 

 腰を動かす速度を緩めて、椿姫さんに訊ねてみる。

 

「もう痛くないか?」

 

「……はぁはぁ、……っん、そ、そうですね。あ、あんまり、痛くは、ないみたいです……」

 

 椿姫さんの言葉のあとにキュッ、キュッと膣道が絞まる。

 

 痛みを感じていないか下半身に意識を集めているのか。なんにしても予測できない絞まりは……、ペニスの感触を探ってるオマンコの感触はものすごくいい。

 

 さらに椿姫さんは自分が感じている感情や感触、刺激を確認するように、自分の下腹辺りに両手を乗せた。自身の体内に他人の、男のペニスが入っていることを認識するように結合部から子宮へと擦り、

 

「痛みよりも、エイジと繋がれていることがうれしくて……、幸せで、胸が苦しいです」

 

 と、微笑んでくれた。

 

 心の底から幸せそうな微笑みを浮べてくれる。

 

 ――ああ、本当に、

 

「俺も……、俺も、椿姫と繋がれて幸せだよ」

 

 彼女に今の気持ちを伝えるように、額にキスを落とす。

 

「エイジ……」

 

 こんなにも俺を慕ってくれる椿姫と繋がれて、本当に幸せ者だよ。

 

 椿姫と正常位で繋がったまま上半身を起こし、椿姫さんの両膝を下から両手で抱えて体勢を整える。

 

 膝立ちの状態になって、両膝を抱えたまま、椿姫のお尻を持上げさせる。

 

 これで、よし……。

 

 本格的にピストンがしやすいよう、準備を終えた。

 

「椿姫、いくぞ」

 

「はぁはぁ……、んっ、はいっ」

 

 もう今にでもイキそうな、軽く何度もイッてるだろう椿姫さんに向って腰を使い始める。

 

「あんっ! くっうんんっ……!」

 

 抱えた両膝を支点に腰を引き、前へと突き出し、オマンコをピストンする。今までのやさしい、拡げ、解すような腰使いではなく、種付けするためのピストンだ。

 

 欲望のままに女を貫き、快楽を味わいながら、子宮に向って大量の子種を注ぎ込むために行なうピストン。

 

 膣口近くまで抜いたペニスを再び子宮へ向って挿入させ、膣道を強引にこじ開け、引く際に雁首で膣壁を抉っていく。

 

「はぁはぁ……、あっ、あっ、ああっ……! す、すごいっ、私のが……、エイジので……!」

 

 後ろ手にシーツを握り、ぎゅっと目を瞑る椿姫さん。きちんと快楽を感じているようで、気持ち良さそうな喘ぎ声を聞かせてくれる。

 

「椿姫のオマンコ、本当に最高だ! 気持ちいい!」

 

「はぁはぁっ、ほんと? 本当に、気持ちいい?」

 

「ああ! すごく気持ちいい! よく絞まって、奥までじっとり濡れてて、俺のを受け入れてくれる! すごく気持ちいいオマンコだ! それに――」

 

「そっ、っん! そ、それに……?」

 

「椿姫が、すごくいい」

 

「――っ」

 

「椿姫としてるってことが、1番興奮してるよ」

 

「エイジっ……」

 

 キュウウウッとオマンコが絞まるっ! つ、椿姫さん、ちょっ……。

 

「エイジっ!」

 

 両腕が首に回され、抱き寄せられる。女子高校生にしては大きな胸に顔を埋めさせられて、頭を撫でられる。

 

「好き! 好きです! エイジが……! 私は、エイジが大好きです!」

 

 俺の頭を胸に抱いて、背中に両腕を回し、両膝まで使って抱きついて何度も大声でつぶやく椿姫さん。……大人しかったり真面目な女性って一線を越えると本当に大胆だよなぁ。

 

「俺も大好きだよ、椿姫」

 

「はいっ!」

 

 さてと、じゃあスパートをかけるか!

 

 俺は椿姫さんの谷間に顔を埋めた状態のまま、再び腰を激しく動かし始める。

 

「くっ……! あっ、ああああっ! いいっ! いいです! ……あぅんっ!」

 

 両膝でロックされているので、体全体を使うように前後に体を揺らし、オマンコだけでなく、他も刺激する。

 

「――っ! エイジっ、い、いま胸は……」

 

「ふふっ、ビンビンに勃起して美味しそうだ」

 

「あっ……」

 

 椿姫さんの期待しているような表情。乳首がピクピクッと震えて、胸の表面に汗の玉が滲みだす。そんなにいじって欲しいのか。思わずにやけてしまう。

 

 俺は腰を使いつつ、椿姫さんの乳首を咥えるために口を開ける。

 

 あー、と口を開けて吐息をふりかけ、

 

「――あっ」

 

 思わず口から漏らした椿姫さんの声を愉しみ、

 

「~~~~っ!」

 

 パクッと口に咥えて椿姫さんの声にならない悲鳴と、乳首を味う。

 

「はぁはぁっ……、んんっ、はぁ……、はぁ……」

 

 余裕のない荒くて艶のある吐息を耳で愉しみ、口に含んでいるグミのような弾力があり、汗でほんのりしょっぱいのに、なぜか甘く感じる乳首を、乳輪ごと吸い付き、椿姫さんの口から漏れる喘ぎ声やオマンコの感触など、体全体で椿姫さんを味う。

 

「椿姫は乳首まで美味しいな」

 

「あんっ……、そ、そんなに強く吸わないでください……」

 

「ああ、ゴメンゴメン。じゃあ、もっとやさしくするな」

 

 胸の先端を咥え込んで、舌でコロコロと乳首を転がし、乳首をやさしく吸引する。赤ん坊よりも弱く、焦らすように……。

 

「――っん。……んん(む、胸が……、むずむずして……)」

 

「美味しいよ」

 

 口から出して舌先で乳首をやさしく撫でるように舐める。

 

「くっ……、あう……」

 

 焦らすように胸を愛撫し続けていると、椿姫さんの声質が変わり始め、積極的に腰が動き始めた。

 

「はぁはぁ……、んっ、はぁはぁ……」

 

 じゅぶっ、じゅぶっといやらしく鳴り響く水音。俺の腰に回されていた椿姫さんの両膝が外されて、大胆に腰を使えるようになったからだ。

 

「くっ、ん……っ! やっ、くぅんんっ! あうっん……っ!」

 

 椿姫さんの声が大きくなり、オマンコがビクビクと震え、蠢き始めた。

 

「エイジ……、わ、私っ……、もっ、もう……」

 

「ああっ、いいぞ! 俺も、そろそろだ!」

 

 両手で胸を揉みながら、腰を前後へピストンさせる! きゅんきゅんと絞まるオマンコと体の下に組み伏せている椿姫さんを見下ろしながら、ペニスで子宮近くを擦りあげる。

 

「あ、あああ……っ、む、胸と一緒に、お、奥を……、奥はダメっ! そんなに擦られると……、んっ、いっ、イクッ! 私、イッちゃいますぅうううう!」

 

 後ろ手にシーツを握りしめる椿姫さん。大きくM字に股を開いて踏ん張り、顎を持上げ、叫び声と共に体を痙攣させ始めた。

 

「俺も、イク! このまま、中に射精()すぞっ!」

 

 射精させようと絞まり、蠢くオマンコ。俺自身も募りに募った欲望を吐き出すために、椿姫さんの両膝を抱え込んで、ペニスを捻じ込み、そのままオマンコの中で射精を開始した。

 

 ビュルッ、ビュルルルッ! ビュビュゥウウウッ!

 

 ペニスをオマンコの中で跳ねさせ、精液を流し込む。

 

「あくぅんっ!?」

 

 椿姫さんの体が大きく跳ねた。子宮口のすぐ前で吐き出された精液が入り口で跳ね返るが、凶悪に開いた雁首がその逃げ場を失わせ、ペニスが跳ねるたびに追加で流し込まれるおびただしい量の精液が子宮口とペニスの空間を埋め尽くし、ダムが決壊でもするかのように行き場を失った精液が子宮口をこじ開け、おびただしい量の精液が子宮へと流れ込んだ。

 

 抱き合ったままの射精からしばらく。射精の勢いが弱くなっていくにつられて、ビクビクッと震えていた椿姫さんの体が落ち着きを取り戻してきた。

 

 そろそろ抜いてあげないとな。

 

 体を離して起き上がり、椿姫さんのオマンコからペニスをゆっくりと引き抜いていく。

 

「くっ……、ああ、あああ……、ああ、あ……」

 

 ズズズ、ズブブ……、雁首でオマンコを引っかきながら、ブルブルと震えて口から息を吐いている椿姫さんを見下ろしながら、完全にペニスを引き抜いた。

 

「――っと」

 

 ビュビュッ。

 

「きゃっ」

 

 小さな悲鳴を上げる椿姫さん。あまりのキツキツのオマンコから解放されたせいか、尿道口に残っていた精液が飛び出してしまった。

 

 飛び出した精液は椿姫さんの顔、特にメガネや、胸やお腹にも飛んでいて……。

 

 なんとも、エロい。

 

「はぁはぁ……、はぁはぁぁ……、体が、熱い……です。お腹も、子宮にエイジの精液がいっぱい入ってるのを感じます……」

 

 M字開脚したまま、下腹を両手で擦りながらつぶやく椿姫さんも、エロい。

 

 ごくっと、思わず喉がなってしまう。

 

「セックスという行為……、すごく、気持ちよかった」

 

 独り言のように、満足そうにつぶやいた彼女を……、正面から、ぽっかり開いている膣口とそこから溢れている精液と、ほんの少しだけ見える破瓜の血と思われる赤色に、ペニスが勃起してしまう。

 

「? エイジ?」

 

「――っ、は、はい」

 

「どうか、したんですか?」

 

 開いていた膝をあわせて横に畳んで、ゆっくりと起き上がった椿姫さん。精液で雑に彩られているメガネを外して、こちらを覗きこんできた。

 

「えっと……、その……」

 

「?」

 

 言葉を濁していると、椿姫さんの顔が自然と俺の下半身へと向けられて、メガネがないことで視力が落ちているのか、何度が目を瞬きさせたり、細めたりして……、

 

「…………。――ああっ」

 

 何かに気づいたと声を漏らした。

 

「…………」

 

 思わず漏らしてしまった声に、口元に手を当てて、恥ずかしそうに顔を赤くして顔を逸らす椿姫さん。

 

「……す、すみません」

 

 悪い事をしたなと顔を逸らしている椿姫さんに、俺は思わず謝ってしまう。いや、本当にゴメンなさい! したばかりなのに勃起させてすみませんっ! あまりに節操がなかったです!

 

「い、いえっ! だ、大丈夫ですから……。エイジが性欲が強いことは最初から理解していますし、その……、それに私をそれだけ求めてくださっているという証でもありますので……、むしろ、うれしい、と思っています」

 

「椿姫さん……」

 

「ふふっ、今は椿姫ですよ、エイジ」

 

「ゴメン、椿姫」

 

 ニッコリと笑顔を見せてくれる椿姫さん。包容力が、母性が滲み出してる。年上のお姉さんって感じがすごく安心する。

 

「椿姫、もう一度、いいかな?」

 

「ええ。もちろんです。――あ、でも、とりあえずお風呂に入りたいですね」

 

 クスっと苦笑するように微笑む椿姫さん。確かにそうだな。お互いの体液で汚れていて、何よりも臭いがものすごい。椿姫さんは精液臭くて、俺は女の、特におしっこ臭い。

 

「じゃあ、お風呂に入りながらしようか、椿姫」

 

「お風呂で、ですか? でも、マットやローションなんて用意していませんよ?」

 

 ……本当に、色々勉強しているようで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 椿姫さんを連れてお風呂へ向い、とりあえずじゃれ合いながら洗いっこしたあと、昔ながらのそこの深い長方形に近い湯船に一緒に浸かっていた。

 

「ふぅぅぅ……」

 

「はぁぁぁ……」

 

 (ぬる)めに焚いた湯船の中で、2人そろってゆっくりと息を吐く。口から漏れる声は幸せな、落ち着いた吐息だ。

 

 湯船自体は足が伸ばせない狭い風呂だが、本当に心地がいい。

 

「気持ちいいですね、エイジ」

 

 蕩けたようなゆっくりとした口調でそうつぶやいてきた椿姫さん。俺も素直に同意する。

 

「ああ、本当に、気持ちいいよ」

 

 湯船のなかに対面座位の体勢で、繋がっている状態なのだ。気持ちいいに決まっている。

 

 俺は椿姫さんの艶やかな黒髪を指で撫でながら、風呂や、挿入したままのペニスでオマンコの感触を楽しむ。

 

「あんっ……」

 

 小さく体を震わせた椿姫さん。そのかわいらしい姿を目でも楽しみ、椿姫さんの黒髪から香るシャンプーの匂いを鼻で味わう。

 

「あ~、本当に極楽だなぁ」

 

 押し付けられている胸の感触が気持ちよくて、乳首のコリッとしていて、極楽極楽。

 

 魔力も回復していくし、椿姫さんともセックスできたし、本当に一石二鳥だ。

 

 6割まで回復できたとはいわないけど、戦闘に問題はないだろう。

 

「――あんっ。もう、なかで跳ねさせないでください……」

 

「ゴメン、椿姫」

 

 さてと、そろそろ風呂から出ないとな。

 

 今日は九重の護衛をしながら京都を巡る予定なんだし。

 



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第75話 英雄派さまご一行です!

<イッセー>

 

 次の朝。俺たちの班はホテルを出て京都駅に向っていた。

 

(あー、それにしても昨夜は残念だったなぁ)

 

 京都駅に向いながらしみじみ思う。昨夜は本当に残念だった。

 

「昨日はおしかったなぁ、イッセー」

 

「もう少しで女風呂が覗けたのによぉ」

 

 隣を歩いている松田と元浜も残念そうにつぶやいた。ああ、マジで同意するよ。

 

「本当に、あと少しだったのにまさか時間切れになるなんてな」

 

 悔やんでも悔やみきれない。せっかく3人で、昨夜、女風呂を覗けるという例のスポットとやらに行ったのに、そこはすでに生徒会――シトリー眷属に押さえられて、それでも突貫したのに、結局女風呂は覗けずじまいだったのだ。

 

 元浜と松田はシトリー眷属の女子たちにボコボコにされて、俺も匙とロスヴァイセさんを相手取って激戦を繰り広げたんだが、やっぱり神器なしで純粋な格闘の2対1……、特に戦乙女のロスヴァイセさんを相手にするのは無理で、結局俺もボコボコにされてしまったのだ。

 

 ボコボコにされた俺ら3人は今でも顔が腫れ上がっていて、バンソーコーなども大量に顔に貼っていた。

 

「いててて……」

 

「いたた……」

 

「大丈夫か、元浜、松田」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

「名誉の負傷だ」

 

 そう言いながら、いい笑顔を見せてくる2人。俺も顔を腫らしていてバンソーコーをつけているが、禍の団の襲撃の可能性があるからと、朝、アーシアの神器でダメージはほとんど回復させてもらっているし、元々痛みには慣れているので、平気だ。

 

 と、まあ、この話題はこれ以上いいや。結局覗きは失敗してボコボコにされて終わっただけなんだし。

 

 さてと、気を取り直して観光だ。今日は嵐山方面を攻める。まずは天龍寺!

 

「天龍寺までは?」

 

 俺が桐生に訊ねると、予定表を見ながら答えてくれる。

 

「えーと、京都駅から嵐山方面行きに乗って、最寄り駅で降りるわ。そこから徒歩で到着ね」

 

「了解。じゃあ、駅まで行くか。部長も言っていたけど、本当、各所への移動はバスト電車なんだな」

 

「まあ、観光地ってそんなもんじゃね?」

 

 俺の意見に松田がそう言う。確かに。そういうもんか。

 

「それよりもちょっとイッセー」

 

 桐生に呼び止められて小声で話しかけられる。

 

「なんだ?」

 

「あんた、アーシアと何かあったの?」

 

「へ?」

 

 桐生の問いに首を傾げる。いきなりなんだ? アーシアと何かあったかって?

 

 桐生は気づかれないように横目でアーシアを見ながら続けた。

 

「今朝から少しアーシアのようすがおかしいのよ。機嫌がよかったり悪かったりって。――あんた、何かアーシアにしたんじゃないの?」

 

「アーシアに……?」

 

 俺の少し前をゼノヴィアやイリナと歩いているアーシアを見つめながら、思い出してみる。

 

 …………。

 

「……特に、何もしてないと思うぞ」

 

「ほんとに?」

 

 桐生から向けられる疑いの目。もう一度アーシアとの出来事を思い出して……、やっぱり特に思い当たらない。俺、アーシアに何かしたのか?

 

「む~……、ほんとに心当たりはなさそうねぇ。じゃあ、あんたがアーシアに何かしたとかないの? アーシアが嫌がることとか」

 

「アーシアが嫌がることっていってもなぁ。昨夜やったことといえば、元浜と松田の3人で女風呂を覗きに行ったぐらい……」

 

「……女風呂? 覗き?」

 

「――っ! ま、まさか、女風呂を覗きに行ったことがダメだったのか!?」

 

「はぁ……、あんたねぇ……」

 

 桐生から向けられる視線。「どうしようもないな、こいつ」と言われているみたいで、桐生はそのままアーシアたちの元へと歩き去ってしまった。

 

「…………」

 

 ひとり、正確には男3人で残される俺たち。

 

 駅へと向う道中、女子たちの後ろを松田や元浜たちと歩きながら、俺は改めて考える。

 

 アーシアの様子がおかしいって、やっぱり女風呂を覗こうとしてボコボコにされた怪我の治療を今朝してもらったのが原因だったりするのかな?

 

 覗きでボコボコにされたり、エロ行動はいつものこととはいえ、やっぱり自業自得なんだから自分で治療しておけばよかったのかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「到着か」

 

 京都駅で嵐山方面域の電車に乗り、無事に最寄り駅についた俺たちは、徒歩で天龍寺へと向かう。

 

 そこらに看板が出ているので迷うこともなく、んでもって、ついに天龍寺に到着した俺たち。趣のある門が俺たちを迎えてくれた。

 

「天龍寺か。天龍に由来があるのかな」

 

『どうだかな。過去、京都でそういう戦いをしたようなしていないような』

 

 ドライグ、記憶が曖昧なのか。やったとしても相当むかしにやったんだろうから、ここの風景も違っているだろう。わからなくなっても仕方ないのかも。

 

 大きな門を潜り、境内を進んで行く。受付で観光料金を払っていたときだった。

 

「おおっ、お主たち、来たようじゃな」

 

 聞き覚えのある幼い声。振り返れば巫女装束姿の金髪少女が立っていた。――九重だ。

 

 そして、九重と共にエイジが立っていた。

 

「よお」

 

 エイジが片手を上げて挨拶してくる。

 

 今日は九重の護衛もあってエイジも俺たちの班と一緒に行動する予定だ。ちなみに、問題児のエイジの監視ということで修学旅行に同行している椿姫先輩は、この3日間で急増している痴漢の警戒にと、教員たちと一緒に京都を回っている。まあ、痴漢はついでのようなもので、本命は一般の生徒たちの護衛らしいけどね。

 

「約束通り、私が嵐山方面を観光案内してやろう」

 

「ああ、頼むな、九重」

 

「うむ」

 

 自信を持って俺たちにうなずく、九重。今日は獣耳と尻尾も隠しているんだな。当然か、俺たち以外に一般の人間もいるわけだし。

 

 松田と元浜がちっこい金髪少女を見て驚いていた。

 

「はー、かわいい女の子だな。なんだ、イッセー、おまえ現地でこんなちっこい子をナンパしたのか?」

 

 失礼な、このハゲめ。いろいろあったんだよ。あと九重の隣に立ってるエイジはスルーかよ。

 

 まったく。こいつらは女の子しか見えてないのか。っと、元浜のほうは――。

 

「……ちっこくてかわいいな……ハァハァ……」

 

 危険な息づかいになってるー!? 失念していた! こいつは真性のロリコンだ!

 

 九重なんてこいつにとってみればどストライクゾーンじゃないか! メガネが危険な輝きを放っていた。その松田を吹っ飛ばし、抱きつく者がいた。桐生だ。

 

「やーん! かわいい! 神城くんの親戚だったりするの?」

 

「いや、親戚じゃないけど……」

 

 抱きついて頬ずりとかしてる! 桐生、ちっこい子好きなのか。あと、今のおまえ、エイジに少し引かれてるぞ。

 

「は、離せ! 馴れ馴れしいぞ、小娘め!」

 

 嫌がる九重だが、桐生はいっそう喜ぶだけだ。

 

「お姫さま口調で嫌がるなんて、最高だわ! キャラも完璧じゃないの!」

 

 ……ダメだ、このメガネ女子。

 

「え、エイジ~」

 

 堪らず助けを求める九重。エイジは桐生に嘆息しながら引き離し、紹介し始めた。

 

「この子は九重。昔俺が京都に住んでいたときにお世話になった家の子なんだ。ゼノヴィアたちの知り合いでもあるから」

 

「九重じゃ、よろしく頼むぞ」

 

 えっへんと堂々とした態度の九重。さすがお姫さま。態度がふてぶてしい。さっきまで桐生に抱きつかれて困っていたのがウソみたいだ。

 

「へえ、そうなんだー。神城くんって京都に住んでたんだ」

 

「まあね。短い間だったけど」

 

 そう言って九重の頭を撫でるエイジ。

 

 と、九重の紹介も済んだな。これで充分だろう。

 

「それで、九重。観光案内って、何を案内してくれるんだ?」

 

 俺が訊くと、九重は胸を張って自信満々に答える。

 

「私が一緒に名所へついて回ってやるぞ!」

 

 ニッコリ笑って九重はエイジの腕にしがみつく。

 

 ……ま、まあ、これも異文化交流だよな。

 

「じゃあ、行くか。九重、さっそく皆に天龍寺を案内してくれるか?」

 

「もちろんじゃ!」

 

 エイジがそう言うと、九重は益々笑顔になった。……この観光案内の本当の目的は護衛とかよりも、九重を元気付けるのが目的だったりするのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、回った回った」

 

 息を吐くのは松田だった。俺たちは九重の勧めで、湯豆腐屋で昼食を取っていた。

 

 俺たちはあのあと九重に案内されて、天龍寺を回り、嵐山を見て回った。誰かに教えられたらしい知識を自信満々に話す様子はかわいらしいものだった。

 

「ほら、ここの湯豆腐は絶品じゃ」

 

 九重が俺たちに湯豆腐をすくって器に入れてくれる。ハハ、ここでも仕切ってるな。九重は心底楽しそうだ。これが普段見せている笑顔なのだろう。その分だけ、頭を下げて俺たちに懇願してきた九重の姿を痛々しく思う。

 

 ……早くお母さんを取り戻せればいいんだけど……。

 

 ととと、九重にすくってもらった湯豆腐を食べないと。……うん、やっぱり京都の豆腐はうまいな! ここのはホテルのよりもさらにおいしい! 豆腐はできたてが1番というからこれもできてからあまり時間が経っていないんだろうな。

 

「和の味がする。悪くない」

 

「はい、いつも食べているお豆腐とは違って風味が新鮮でおいしいです」

 

「お豆腐いいわよねぇ……」

 

 ゼノヴィア、アーシア、イリナもご満悦な様子。と、アーシアと目が合うが――。

 

「…………」

 

 アーシアに目を逸らされてしまった! 今日のアーシアは今朝からずっとこんな感じだ。桐生に指摘されてバカ二人と女風呂を覗きに行ったことを謝ってみたものの、どうやらまだアーシアの機嫌は直っていない。というか、アーシアは本当に機嫌が悪いのか? 機嫌が悪いっていうよりも、これは――。

 

「イッセーくん」

 

 突然の声。この声は――。

 

「おおっ、木場か。そういや、今日はおまえのところも嵐山攻めるんだったな」

 

 隣の隣の席に木場の班が同じく昼食を取っていた。

 

「うん。天龍寺行ってきたのかい?」

 

「ああ、見事な龍が天井にあったぜ」

 

「僕もこれから渡月橋を見てから午後は天龍寺に行こうとしていたところなんだ。楽しみだな」

 

「渡月橋か。俺たちも食べたら行くぜ」

 

 などと話していたら、「秋の嵐山、風流なもんだぜ」という聞き覚えのある声が聞えてきた。

 

「おう、おまえら、嵐山堪能してるか?」

 

 アザゼル先生だった! しかも真昼間から日本酒飲んでるし!

 

「先生! 先生も来てたんですか? って、教師が昼酒はいかんでしょう」

 

 俺がそう避難すると、「いいじゃねえか、あいつも飲んでるんだし」と対面の席に座る女性を指差した。

 

 って、ロスヴァイセさん!? あの生真面目なロスヴァイセさんが昼酒してる!?

 

「ちょっ、先生っ! なんでロスヴァイセさんが昼酒なんてしてるんですか!?」

 

 まさか無理矢理飲ませた!? 動揺しながら小声で訊ねた俺に、アザゼル先生は投げやりに言う。

 

「さてな。いいことでもあったんじゃねぇか」

 

 いいこと? いいことって京都の100円ショップで買い物できたとかか?

 

「うふふふふ~、ん~っ♪ おいしぃですねぇ~♪」

 

 鼻歌混じりでおいしそうに杯を傾けるロスヴァイセさん。見てるだけで機嫌がいいことがわかる。どんないいことがあったんだ? あの生真面目なロスヴァイセさんが飲酒するぐらいだぞ。しかも酔ってるみたいで言語も少しおかしくなってるし。

 

「まったく……。嵐山方面を調査したあとでのちょっとした休憩のつもりだったんだがなぁ」

 

「どれだけ飲ましたんですか、アザゼル先生……」

 

「俺が飲ませたのは最初の一杯だけだ。妙に機嫌がよかったから俺の昼酒に一杯だけ付き合ってもらったら、その一杯で完全に酔っ払っちまって、それからこの様さ」

 

 嘆息しながらつぶやいたアザゼル先生とロスヴァイセさんのテーブルには、ロスヴァイセさんが飲んだと思われる空になった酒瓶が数本。ていうか、やっぱりアザゼル先生が最初の原因じゃないですか……。

 

「ほんとうに、おーでぃんのクソジジイにおいていかれふぁときはどうにゃることかって、おもひましたけど、あたらひぃひょくばや、であひに、めぐりゅあわせてくれはんですから、かんひゃしてますよ。ふへへへへ、ヴァルハラのほかのぶしょのひとたちからはクソジジイのかいごヴァルキリーだなんていわれてたわらひはもういにゃいんですよ~だ! もうにどと、あんにゃやすいおきゅうきんでジジイのみのまわりのせわなんてしてやるもんか~! ふへへへへ~……、ふへへ。う、うう、うおおおおおおんっ!」

 

 …………。

 

 さ、さっきまで機嫌よく笑ってたのに、いきなり大号泣しちゃってる……。

 

「ほんとに、ほんとうにあのクソジジイにはくろうさせられたんですよ! わらしがたっくさんくろうしてサポートしてあげてたのに、やれ、おねえちゃん! やれ、さけだ! やれ、おっぱいだって! アホみたいなことをたびさきでいわれたり……! わらひがどれだけくろうしれたか知らないで! ちょっひょ! きいれいるんれすか!?」

 

「ああ、聞いてるよ、ちゃんとな。はぁ……」

 

 …………。

 

 笑ったり、泣いたり、怒ったり、絡んだり、ロスヴァイセさんって酒癖悪いんだなぁ……。

 

 と、ここでアザゼル先生の視線がエイジのほうへ向けられた。助けを求めてるのか?

 

「…………」

 

「…………」

 

 視線を交わしての無言でのやりとり。数秒視線を交わしたあと、先生は頭をポリポリかきながらロスヴァイセさんに言う。

 

「わかったわかった。おまえの愚痴に付き合ってやるから、話してみな」

 

 そう言うとロスヴァイセさんはパァッと明るい表情になった。

 

「ほんとうれすか? アザゼルせんせー、いがいにもいいところあるじゃないれすか。てんいんさーん、おさけ、じゅっぽんついかでー」

 

 まだ飲むの!? こ、これは大変だ……。って、さっきまでと違ってアザゼル先生の顔がニヤけてる! 何かエイジと取引したな、この堕天使総督……。

 

「おまえら、さっさと食って他に行け。ここは俺が受け持つからよ」

 

 先生が格好良く杯を呷りながらそう言う。さっきまで絡まれて迷惑そうにしていた人には見えないな。

 

 俺たちは顔を見合わせ、エイジはもう一度アザゼル先生と視線でやり取りしてから、先生の言うとおりにすることにした。昼食をソッコーで平らげて、店をあとにした。

 

「そういやエイジ、アザゼル先生と視線交わしてたけど、あれはなんだったんだ?」

 

「ああ、あれか。あれは酔っ払ったロスヴァイセのことを頼む代わりに、ライザーを倒すときに使った2本の槍をアザゼルに見せるっていう、取引してたんだよ」

 

 だからあんなにうれしそうにニヤけてたのか。アザゼル先生、神器とか不思議な武器やアイテム大好きだもんなぁ。……いや、待て。そんな取引があの視線だけで交わされていたのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店を抜け出て、渡月橋を目の前にした俺たち。

 

「ロスヴァイセちゃん、すごいことになってたな」

 

「ああ、あれは相当酒癖が悪いぞ」

 

 松田も元浜も若干引いていた。ロスヴァイセさん、男女問わず生徒に人気あるもんだから、ああいう姿を見ちゃうと男子は困惑するだろうな。俺もビックリした。

 

「きっと、ロスヴァイセちゃんも若いながら苦労してんのよ。相手があのアザゼル先生じゃ、溜まったものをぶつけたくもなるわね」

 

 桐生はうんうんとうなずいて同情していた。

 

「エイジが入ったというところの眷属は大変なのが多いのか?」

 

 九重にそう聞かれてしまう。

 

 訊ねられたエイジは、この場にいるグレモリー眷属に視線を移していき、

 

「…………。……ちょ、ちょっとだけかな?」

 

 そう返した。いやそう返すしかなかったようにみえた。まあ、確かにグレモリー眷属って、良い人多いけど、クセが強いのも確かだな。……あと、俺を見てる時間が1番長かったぞ。……いや、1番俺が問題あるな。おっぱいとかエロ関連で。すみませんっ!

 

「もしも辛くなったら、いつでも京に戻ってきてよいのじゃからな」

 

「ありがとう、九重」

 

「うむ!」

 

 エイジに頭を撫でられてうれしそうな九重だけど、エイジは苦笑してる。理由が理由だけに……。

 

 ま、まあ、グレモリー眷属がクセのある……、個性的なことは置いておいて。次は渡月橋ですよ。店を出て数分ほど観光外を歩くと目の前に桂川が姿を現す。

 

 あの歴史を感じさせる古風な木造の橋が渡月橋か。つーか、ここから見える山の風景が絶景だ! 赤々としていて秋を感じさせてくれる!

 

「知ってる? 渡月橋って渡りきるまでうしろを振り返っちゃいけないらしいわよ」

 

 桐生がそう言ってくる。アーシアが聞き返す。

 

「なんでですか?」

 

「それはね、アーシア。渡月橋を渡ってるときに振り返ると授かった知恵がすべて返ってしまうらしいのよ。エロ三人組振り返ったら終わりね。真の救いようのないバカになるわ」

 

「「「うるせえよ!」」」

 

 俺、松田、元浜が異口同音に桐生に言葉を返した。

 

 気にする素振りすらない桐生は追加情報もくれた。

 

「あと、もうひとつ。振り返ると、男女が別れるって言い伝えがあるそうね。まあ、こちらはジンクスに近いって話だけど」

 

「へえ、そうなんですか」

 

 と、アーシアが感心する隣で、ゼノヴィアは得意げに言う。

 

「ふっ、そんなジンクス程度、私とエイジなら問題ないな」

 

 じ、自信満々で言い切ったよ、この子。

 

 恋人宣言とも取れるゼノヴィアのそんな発言に、エイジにピッタリくっついてる九重が眉をひそめた。

 

「むむ……。また新しい女か、エイジ。昨日のメガネの女といい、京を離れていったい何人の女と……」

 

「えーと……」

 

 ジロリと睨んでくる九重に、困った表情で頬をかいてるエイジ。メガネの女ってのは椿姫先輩か?

 

「少しは控えてはどうなのじゃ」

 

「う……」

 

 九重のような少女に注意されて、困ったような表情を浮かべてるエイジ。もっと言って! もっと言ってやれ、九重! これ以上入れ食いするんじゃねぇって、言ってやってくれッ!

 

「ふふっ、まあそう怒らないでもいいだろう、九重」

 

 俺がそう心の中で九重を応援していると、ゼノヴィアが九重に話しかけた。九重は横目でゼノヴィアを見上げながら言う。

 

「むぅ……。じゃが、この男は放っておけば無尽蔵に女を作ってしまうのじゃぞ。京に黒猫と一緒に暮らしておったときも、無数の女妖怪たちと……」

 

 最後の辺り、言葉を小さくしてつぶやいていたけど、聞えたぞ! エイジのヤツ、タンニーンのおっさんのところのドラゴンや、オーディンの爺さんのところのヴァルキリーだけじゃなく、京都の女妖怪にまで手を出してたのか! クソォォォォォッ! 羨ましすぎるぞォォォォ!

 

「まあまあ。エイジが女好きなのは最初からわかっていることじゃないか」

 

「それは……」

 

 ゼノヴィアは九重に言い聞かせるように、「それにな」と続ける。

 

「もしも他の女にかまけて自分を見なくなってしまうかもしれないと不安なら、エイジが見てくれるように、エイジのほうが夢中になるように、自分を磨けばいいだろう?」

 

「見てくれるように自分を磨く……」

 

 ハッと目を大きくする九重。どうやらゼノヴィアの言葉に思うところがあったらしい。ゼノヴィア、おまえ、普通に諭すことができたんだな。敵にはいきなり切りかかるのがスタンスな子だったから意外だった。

 

「私に、できるじゃろうか?」

 

「もちろんさ」

 

 不安げに聞いた九重に、ゼノヴィアはしっかりとうなずいた。

 

「自分を磨く、か……。私も少し……、がんばってみようかな?」

 

 風に乗って聞えてきた小さな声。この声は――桐生? 

 

 気になって桐生に視線を向けて見ると、桐生はアーシアやイリナと話しながら少し前を歩いていた。……空耳だったのか?

 

「クソ。神城の野郎、片瀬や村山だけじゃなく、ゼノヴィアちゃんにあそこまで惚れられてるなんて……」

 

「九重ちゃんが、九重ちゃんまで、あの野郎に……っ! クソォォ……、呪い殺してやりたいッ!」

 

 隣を歩いてる松田と元浜が血の涙でも流さんばかりに先を歩くエイジを睨んでる。

 

「まったくだ。入れ食いしやがってッ!」

 

 当然俺も加わり、エイジを後ろから睨む! ちったぁモテナイ俺たちにも恵んでくれよォォォォ!

 

「まあまあ、落ち着こうよ。3人とも」

 

 自分の班と少し離れて、俺らの隣を歩いている木場が笑顔で宥めようとしてきたが……。

 

「うるせえ! 黙れ、イケメン王子!」

 

「そうだそうだ! いつも女の子にちやほやされやがって!」

 

「俺だってなぁ、女の子から遊びに誘われたいんだぞォォォ! それなのに、いつも女の子の誘い断わりやがって! 余裕かこの野郎!」

 

「ひ、非道よ、3人とも……」

 

 俺、松田、元浜のモテナイ3人組に怒鳴られ、ズウウンと肩を落とす木場。モテナイ3人組の俺たちには、イケメン王子からの言葉は逆効果なんだよ! ほんといつもいつも女の子たちに誘われやがって!

 

「後ろがうるさいのぅ。少しは静かに観光できぬのか、お主らは」

 

 ううっ、ゴメン九重! 迷惑だよね! だけど、心の叫びを抑えられなかったんだっ!

 

 それからは静かに、3人でエイジを睨みながら無事に渡月橋を渡りきり、反対岸に到着したときだった――。

 

「やっと、現れたか」

 

 エイジがつぶやいた独り言に合わせたかのように、突然、ぬるりと生暖かい感触が全身を包み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 <エイジ>

 

 体を包み込んでいく生暖かい感触のあと、周辺を見渡すと――俺、九重、ゼノヴィア、イリナ、アーシア、イッセー、木場しかこの周辺に人がいなかった。

 

 イッセーの班のメンバーである松田や元浜、桐生さんも、他の観光客も消えてしまっている。

 

 この現状に眷属のみんなは驚き、身構える。

 

 周囲に敵がいないか警戒していると、俺たちの足元に霧らしきものが立ち込めてきていた。

 

「――『絶   霧(ディメンション・ロスト)』」

 

 足元の霧を眺めながら、つぶやく。やっぱり予想が当たってしまってたか。

 

「確か、神滅具のひとつだったよね。これが、そうなのか……」

 

 木場はその場で屈み、足元の霧を手で触るようにしていた。

 

「そういや、エイジは気づいてたのか? ほら、場所が変わる前につぶやいてただろ」

 

「まあな。昨日九重と別れてから、今の今まで京都中に式紙を放って八坂の行方を探してたのに、手がかりすら見つけられていなかったからな。結界系の神滅具使いが相手にいるだろうと予想していたんだ」

 

「そうだったのか……」

 

 感心しているようにつぶやくイッセー。正直、神滅具使いが相手にいるなんて予想、当たって欲しくなかったんだけどな。

 

「おまえら、無事か?」

 

 空からの声。顔を上げれば黒い翼を羽ばたかせてアザゼルが空を飛んできていた。

 

 俺たちのいるところに降り立つと翼をしまいながら言う。

 

「俺たち以外の存在はこの周囲からキレイさっぱり消えちまってる。俺たちだけ別空間に強制的に転移させられて閉じ込められたと思って間違いないだろう。……この様子だと、渡月橋周辺と全く同じ風景をトレースして作り出した別空間に転移させられたのか?」

 

「おそらくそうだろうな。渡月橋を中心に数キロに渡って空間が形成されてるみたいだ」

 

「数キロか……」

 

 俺の言葉にアザゼルも確認するように周囲を見渡した。

 

「アザゼル先生、ここを形作っているのは悪魔の作るゲームフィールドの空間と同じものなんですか?」

 

 イッセーがアザゼルに訊く。確かに、ライザーやシトリー眷属とのゲームで使った空間にそっくりだな。

 

「ああ、三大勢力の技術は流れているだろうからな。これはゲームフィールドの作り方を応用したんだろう。――で、霧の力でこのトレースフィールドに転移させたというわけだ。『絶霧』の霧は包みこんだものを他の場所に転移させることができるからな。……ほとんどアクション無しで俺とリアスの眷属を全員転移させるとは……。神滅具はこれだから怖いもんだぜ」

 

 と、アザゼルはそう言う。ゲームフィールドの応用化、か。再現具合が悪魔に引けを取らないな……。

 

 すぐ隣で九重が震える声で口を開く。

 

「……亡くなった母上の護衛が死ぬ間際に口にしておった。気づいたときには霧に包まれていた、と」

 

 ということは、今の俺たちみたいに隔離されてさらわれたのか。そりゃあ、手がかりが少ないはずだ。

 

 渡月橋のほうから、複数の気配が現れる。薄い霧のなかから人影がいくつも近づいてきて、俺たちの前に姿を現す。

 

「はじめまして、アザゼル総督、そして赤龍帝」

 

 あいさつをくれたのは学生服を着た黒髪の青年だった。

 

 学生服の上から漢服(かんぷく)らしきものを羽織っていた。

 

 手には槍を持っていた。……不気味なオーラを感じる。ただの槍じゃないな。まさか、あの神滅具か?

 

 それにしても黒髪の男、若いな。見た目だけなら、俺らとひとつかふたつぐらいしか違わないんじゃないか? 

 

 青年の周囲には似たような学生服を着たのが複数人いる。若い男女ばかりだ。そいつらも俺たちと歳はそう変わらないと思う。

 

 ……それにしても異様なプレッシャーを放ちやがるな。悪魔やドラゴンとも違う雰囲気と気配。人間、に近いのか?

 

 アザゼルが一歩前に出て訊く。

 

「おまえが噂の英雄派を仕切ってる男か」

 

「曹操と名乗っている。三国志で有名な曹操の子孫――いちおうね」

 

 アザゼルの問いに中心の青年が肩に槍の柄をトントンしながら答えた。曹操の子孫、ね。そりゃあ、すごいな。

 

 三国志で有名な曹操の子孫と知って仰天してるのか、イッセーがアザゼルに訊ねる。

 

「先生、あいつは……?」

 

 アザゼルは視線を相手から外さずにみんなに向けて言った。

 

「全員、あの男の持つ槍には絶対に気をつけろ。最強の神滅具『 黄昏 (トゥルー)() 槍 (ロンギヌス)』だ。神をも貫く絶対の神器とされている。神滅具の代名詞になった原物。俺も見るのは久しぶりだが……よりにもよって現在の使い手がテロリストとはな」

 

『――ッ!?』

 

 アザゼルの言葉に仲間全員が酷く狼狽した。男の正体よりもあの槍に驚きの視線を向けていた。

 

「あれが天界のセラフの方々が恐れている聖槍……っ!」

 

 イリナが口元を震わせながらそう口にする。ゼノヴィアも低い声で続ける。

 

「私も幼い頃から教え込まれたよ。イエスを貫いた槍。イエスの血で濡れた槍。――神を貫ける絶対の槍っ!」

 

「あれが聖槍……」

 

 アーシアが虚ろな双眸で槍を見つめていた。まるで槍に魅了されて、意識が吸い込まれていくような――、マズい!

 

 バッ。

 

 素早くアーシアの両目を手で隠す。

 

「エイジ……さん?」

 

「あの槍をあまり直視するんじゃない」

 

 俺の言葉にアザゼルがみんなに警告するように続けた。

 

「アーシア。信仰のある者はあの槍をあまり強く見つめるな。心を持っていかれるぞ。聖十字架、聖杯、聖骸布、聖釘と並ぶ聖遺物(レリック)のひとつでもあるからな」

 

 九重が憤怒の形相で槍を持つ青年――曹操に叫ぶ。

 

「貴様! ひとつ訊くぞ!」

 

「これはこれは小さき姫君。なんでしょう? この私ごときでよろしければ、なんなりとお答えしましょう」

 

 曹操の声音は平然としているが、明らかに何かを知っているふうな口調だ。

 

「母上をさらったのはお主たちか!」

 

「左様で」

 

 あっさり認めたな。やっぱり、こいつらだったか。

 

「お母上には我々の実験にお付き合いしていただくのですよ」

 

「実験? お主たち、何を考えておる?」

 

「スポンサーの要望を叶えるため、というのが建前かな」

 

 それを聞き、九重は歯をむき出しにして激怒していた。目にはうっすらと涙を溜めている。よほど、悔しいのだろう。母をさらわれたあげく、実験などというわけのわからないことまでさせられそうなのだから。

 

「スポンサー……。オーフィスのことか? それで突然こちらに顔を見せたのはどういうことだ?」

 

 アザゼルが問い詰める。

 

「いえ、隠れる必要もなくなったもので実験の前にあいさつと共に少し手合わせをしておこうと思いましてね。俺もアザゼル総督と噂の赤龍帝殿にお会いしたかったのですよ」

 

 ……ふざけたことを言ってやがる。が、それよりも――。

 

「俺は無視か? おい」

 

 殺気を込めて曹操を睨む。

 

「さっきから意識的に俺を無視しやがって。何のつもりだ? 挑発か?」

 

 俺の問いに、曹操は「ふんっ」と鼻を鳴らして嗤った。槍を持ち直して、まるで軽蔑しているかのような視線を向けてくる。

 

「ああ、これはすまなかった。神城エイジ。あまりに興味がなかったのでね。忘れていたよ」

 

 挑発していると肯定するかのように言い放った曹操。そんな奴の態度に、さらに怒りが溜まっていくを感じる。

 

「……そうか。なら八坂を返してもらうついでに、二度と俺を忘れられないようにしてやろう」

 

 俺は曹操に向ってそうつぶやき、無手で構えをとる。俺が構えをとったのを見て、イッセーも籠手を出現させて、他のみんなも戦闘の態勢を整える。

 

 ……そういや、ロスヴァイセがいないな。

 

「せ、先生、ロスヴァイセさんは?」

 

 イッセーも気づいたのか、アザゼルに訊ねた。アザゼルはその問いに嘆息する。

 

「あいつもこちらに転移してるが、店で酔いつぶれて寝てる。いちおう強固な結界をあいつに張っておいたからそうそう酷いことにはならんだろう。――ちっ、飲ませまくって酔い潰したのは間違えだったぜ」

 

 そ、そうなのか。まあ、酔った状態で戦闘に参加されても大変だし、それが1番かもしれないな。危ないし。今回の戦闘ではロスヴァイセは不参加か。

 

 俺たちが構えてもあいつらは一向に構える様子はなかった。

 

 ……余裕か? それとも何か隠した手があるのか? 相手の英雄派は神器を持った人間の集まりと聞いているが、何かする気なのか?

 

 神器使いは能力が特異なのが多いから攻撃がしにくいんだよな。特にカウンター系の神器使いとか。

 

 ――と、曹操の横に小さな男の子が並ぶ。曹操がその男の子に話しかけた。

 

「レオナルド、悪魔用アンチモンスターを頼む」

 

 それだけ頼むと、男の子は表情もなく、こくりと小さくうなずいた。――途端、男の子の足元に不気味な影が広がっていく。

 

 ……背筋に冷たいものが走る。本能的な、言い知れない戦慄をあの影から感じてしまった。

 

 影はさらに広がり、渡月橋全域を包むほどになった。すると、その影が盛り上がり、形を形を成していく。

 

 腕が、足が、頭が形成されていき、目玉が生まれ、口が大きく裂けた――。一匹だけじゃない! 十……いや、百は超えている。

 

「ギュ」

 

「ギャッ!」

 

「ギュガン!」

 

 耳障りな音――声を発して、そいつらは影から現れた。「創られた」という表現が1番妥当かもしれない現れ方をした、二足で立つ黒い肌のモンスター。全身がぶっとく、肉厚だ。爪も鋭く、牙もむき出しだった。それが大量に前方に並ぶ。

 

 この能力はまさか……。生唾を飲み込みながら、男の子の力に驚愕する俺。アザゼルがぼそりとつぶやいた。

 

「――『 魔 獣 創 造 (アナイアレイション・メーカー)』か」

 

『魔獣創造』……、2人目の神滅具使いッ!

 

 曹操がアザゼルの言葉に笑んだ。

 

「ご名答。そう、その子が持つ神器は神滅具のひとつ。俺が持つ『黄昏の聖槍』とは別の意味で危険視されし、最悪の神器だ」

 

 と、ここでカウントが終わったイッセーが禁手化し、鎧姿となった。

 

「せ、先生、何がなんだか……」

 

 神器に対してほとんど無知なイッセーがアザゼルにそう訊くと、アザゼルが向けて説明をはじめた。

 

『魔獣創造』や『絶霧』がどれほど危険で凶悪な能力を有しているかを。

 

 ていうか、本当に神滅具は反則だな。

 

 イッセーの倍加能力といい、ヴァーリの半減能力、『魔獣創造』は自分が想像した魔獣を木場の『魔剣創造』みたいに自由に創れたり、結界系の『絶霧』は霧で覆ったものを自由に転移させられるから、送った場所によっては国ひとつ、町ひとつ簡単に滅ぼせたり。

 

「どっちも世界的にヤバい神器じゃないですか!」

 

 説明を聞いたイッセーが驚きの声をあげた。アザゼルは苦笑する。

 

「まあ、いまのところ、どちらもそこまでの事件は前例がない。何度か危ない時代はあったんだけどな。しかし、『黄昏の聖槍』、『絶霧』、『魔獣創造』。……神滅具の上位クラス4つのうち、3つも保有か。それらの所有者は本来、生まれた瞬間に俺のところか、天界か、悪魔サイドが監視体制に入るんだが……。二十年弱、俺たちが気づかずにいたってのか……。それとも誰かが故意に隠したのか……。確かに過去の神滅具所有者に比べると、現所有者はほぼ全員、発見に難航している面が目立つな」

 

 そう言ってアザゼルはイッセーのほうへと視線を送る。

 

 そういえばイッセーって、危険な神器を所有しているかもしれないという理由でレイナーレに殺されて、そのあと赤龍帝が覚醒してなかったから、所有していた神器は一般的な『龍の籠手』と判定されて、そのまたあとに、やっぱり危険な、神器のなかではレア中のレアとされる神滅具『赤龍帝の籠手』だと何回も覆ったんだったな。

 

 アザゼルのつぶやきは続く。

 

「……何か、現世に限って因果関係があるのか? もともと神滅具自体が神器システムのバグ、エラーの類と言われているからな……。ここにきてそれらの因果律が所有者を含めて独自のうねりを見せて、俺たちの予想の外側に行ったとかか? それはカンベン願いところだが……」

 

 あー、アザゼルは自問自答は始めると長いなぁ……。まだぶつぶつ言ってる。

 

「先生、その凶悪神器の弱点は?」

 

 イッセーが訊く。当然あるだろうが――。

 

「本体狙いだ。――まあ、本人自体が強い場合もあるが、神器の凶悪さほどじゃないだろう。それに『魔獣創造』は現所有者がまだ成長段階であろうってのも大きい。やれるならとっくに各勢力の拠点に怪獣クラスを送り込めているはずだからな。――倒すなら成熟していない今だ」

 

 やっぱり、本体狙いか。まあ、大抵神器よりも所有者のほうが脆いから当然だな。肉体強化系じゃなく、特殊能力系は特に。

 

 アザゼルの言葉を聞いて、曹操が苦笑いした。

 

「あららら。なんとなく、『魔獣創造』を把握された感があるかな。その通りですよ、堕天使の総督殿。この子はまだそこまでの生産力と想像力はない。――ただ、ひとつの方面には大変優れてましてね。相手の弱点をつく魔物――アンチモンスターを生み出す能力に特化してるんだな、これが。いま出したモンスターは対悪魔ようのアンチモンスターだ」

 

 曹操が手を――フィールドに存在する店のひとつに向けた。

 

 モンスターの1匹が口を大きく開け――。

 

 ビィィィィィィィッ!

 

 一条の光が発せられた刹那――。

 

 ドオオオオォォォォォォンッ!

 

 店が吹っ飛び、強烈な爆発を巻き起こす。

 

「光の攻撃――。こいつは!」

 

 爆風のなか、アザゼルが叫ぶ。

 

「曹操、貴様! 各陣営の主要機関に刺客を送ってきたのは俺たちのアンチモンスターを創りだすデータをそろえるためか!」

 

「半分正解かな。送り込んだ神器所有者と共に黒い兵隊もいただろう?」

 

 あー……、いた、かな? イッセーは思い当たるモノがあるみたいだけど、俺は……、どれも雑魚ばかりで、能力的にも低い奴らばかりだったから、正直よく覚えてない。

 

「あれはこの子が創った魔物だ。あれを通じて、各陣営、天使、堕天使、悪魔、ドラゴン、各神話の神々の攻撃をあえて受け続けた。雑魚一掃のために強力な攻撃も喰らったが、おかげで子のこの神器にとって、有益な情報が得られた」

 

「――あの黒い怪人でデータを収集していたのか!」

 

「禁手使いを増やしつつ、アンチモンスターの構築もおこなった。おかげで悪魔、天使、ドラゴンなど、メジャーな存在のアンチモンスターは創れるようになった。――悪魔のアンチモンスターが最大で放てる光は中級天使の光力に匹敵する」

 

 イッセーの問いにうなずく曹操。神器所有者の禁手使いを増やしつつ、アンチモンスター作成のためのデータ収集ねぇ。こちらをなめている様子もないし、徹底的に弱点をついてくる姿勢は厄介だな。まだバカ正直に戦いを挑んでくる旧魔王派のほうがやりやすい。

 

 憎々しげににらむアザゼルだが、一転して笑みを作り出した。

 

「だが、曹操。神殺しの魔物だけは創り出せていないようだな?」

 

「…………」

 

 アザゼルの一言に曹操は反論しない。

 

「どうしてわかるんですか?」

 

 イッセーが訊くと、アザゼルはにやけながら答える。

 

「やれるならとっくにやってる。こうやって俺たちに差し向けてるぐらいはな。各陣営に同時に攻撃ができた連中がそれを試さないわけがない。それに各神話の神が殺されたら、この世界に影響が出てもおかしくないものな。――まだ、神殺しの魔物は生み出せていない。これがわかっただけでも収穫はデカい」

 

 そうアザゼルは得意げに言ってるが……。神殺しで有名なフェンリルのデータを取られたらどうするつもりなんだ、こいつ……。英雄派と派閥は違えど、同じ『禍の団』にフェンリルを3匹も連れて去ったヴァーリたちがいること、忘れてんじゃねーか? まあ、相手も気づいてないようだから、ここでツッコまないけど。

 

 曹操は槍の切先をこちらに向けた。

 

「神はこの槍で屠るさ。さ、戦闘だ。――はじめよう」

 

 それが開戦の言葉となった――。

 

『ゴガァァァァァッ!』

 

 不気味な泣き声をうならせてアンチモンスターが大挙してこちらに向ってくる。ゼノヴィアと木場が前線に立つ!

 

「木場、調子はどうだ?」

 

「ありがとう、大丈夫だよ」

 

 ゼノヴィアに笑顔で答える木場。そういや少し前まで精神科病棟に入院してたな、こいつ。

 

 ゼノヴィアが敵陣に向って駆け出した! 

 

 まだ武器も装備していないのに――、と、いきなり敵陣の頭上に小さな魔法陣が……。

 

 出現した魔法陣は青い光を放つ。魔法陣の中央から、見慣れている剣が出てきていた。真・リュウノアギト改だ。

 

 ――って!? まさか……!

 

 ズウウン……っと、空中に浮んでいる魔法陣から敵陣中央へと重力に従って落下する、真・リュウノアギト改。ゼノヴィアは口元を少しだけ緩ませて笑い、入れ違うように空へと飛んだ。

 

 ドオオオオォォォォォォンッ!

 

 先ほどの爆発に負けない爆音と衝撃! 真・リュウノアギト改が落下した音だ! あれは使い手が魔力を込めてなくても超重量級の大剣で、龍殺しのオーラに加えて、『改』にしたことで攻撃時に衝撃を生み出す能力も加えたから、落下地点はまるで爆撃を受けたかのようになってる。

 

 曹操たちにも被害がいきそうだったけど、いち早く危険を察知してアンチモンスター以外は無傷のようだ。アンチモンスターのほうはそれぞれ衝撃を受けてダメージを負い、1匹が脳天から直撃を受けたのか、悲惨なことになっている……。

 

 と、空中に飛んでいたゼノヴィアが着地する。まるで選定の儀式のように地面に刺さった真・リュウノアギト改の柄を握り、持上げた。

 

「ふんっ!」

 

 ゼノヴィアの気合の横一閃! 足から腰へ、肩を伝わせ、腕の先へと力を乗せて、その流れるように放った剣戟で、アンチモンスターたちを切り裂き、消滅させる。

 

 剣を振り切ったゼノヴィアに向けて、アンチモンスターの1匹が大きく口を開けて光を放とうと――。

 

 ビィィィィッ! バジィィィィィッ!

 

 発射された光は、いつのまにかゼノヴィアの前方に入った木場の聖魔剣によって弾かれていく。弾かれた光線が離れた位置にある建物に突き刺さり崩壊させた。

 

「これぐらいの光なら、当たらなければ問題じゃない」

 

 そう決めるイケメン王子……いや、『騎士(ナイト)』。まあ、どんな攻撃も当たらなければ問題じゃないからな。……それより、おまえに問題がなさそうで安心したよ。

 

「いや、当たる前に殲滅すればいいだけだ」

 

 真・リュウノアギト改を振りながらゼノヴィアはそう返した。ああ、ゼノヴィアが剣を振るうたびにアンチモンスターが消えていく。脆いな、アンチモンスター。まんま『戦車』に蹂躙される『兵士』みたいだ。少しかわいそうになってきたぞ。

 

 と、俺もそろそろやらないとな! 

 

 隣の九重に声をかける。

 

「九重、昨日渡したお守りは持っているか?」

 

「も、もちろんじゃ。首からしっかり下げておるぞ」

 

 九重はうなずいて首からお守りを取り出す。俺は視線の先にいる曹操を睨みながら九重につぶやく。

 

「そのお守りをしっかり持っているんだ。それを持っていれば大抵の攻撃は自動で防いでくれるし、もしも空間ごと転移させられても居場所が特定できるからな」

 

「うむ! わかったのじゃ!」

 

「いい返事だ。じゃあ、俺は奴を倒しに行ってくるな」

 

「……く、くれぐれも気をつけるのじゃぞ! 聖なるものは悪魔となった今のエイジにとって、弱点なんじゃなからな!」

 

「ああ、ありがとう」

 

 九重の頭をひと撫でして曹操に向って構えをとる。

 

「いくぞ、曹操ッ!」

 

 バッと背中から悪魔の翼と尻尾を展開して、曹操に接近する!

 

「ハッ、神城エイジか!」

 

 曹操は桂川の岸に降り立つと槍をかまえた。――槍の先端が開き、光り輝く金色のオーラが刃を形作る。

 

 先端が開いた瞬間、この空間全体の空気が震えた!

 

 さすがは神滅具の代名詞となった聖槍。神々しい光だ。悪魔としての本能が危険だと警鐘を鳴らしている。

 

 人間からほぼ純潔の悪魔になった俺は、人間ベースの転生悪魔よりも光が弱点になっている。……これは素手じゃマズイか。『王の財宝』は魔力を消費しすぎるから、『千の顔を持つ英雄』を発動させる! 武器は、同じ槍だ。

 

『千の顔を持つ英雄』で創りだした槍を構えて振りかぶる。

 

 ドウゥゥゥゥゥンッ!

 

 俺の槍と曹操の聖槍がぶつかり、強大な波動を生み出す! その衝撃で桂川が大きく並みたち、舞い上がった水しぶきが周囲を飛び散っていく! 渡月橋を中心に川の水が飴のように降り注いでいった。

 

 さあ、八坂を返してもらおうか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 エイジと曹操は攻め合いながら、川の下流のほうへ向って岸を駆けていく!

 

 曹操はエイジに任せるとして、残った相手は俺たちでやるしかない!

 

 まあ、こちらにはアザゼル先生がいるし……、

 

「俺は情報収集に努めるぜ。こっちも神器のデータを取っておかないといけないからな」

 

 スカ○ターみたいなものを片方の目に装着して、アザゼル先生は戦場が見渡せるだろう空中へと飛んだ。

 

 ……え?

 

 …………。

 

 え、エイジとアザゼル先生がいない分、残った俺たちでやるしかないか!

 

 まずはチームの要、回復のアーシアの壁役を作ることが最優先! いつもチームにいる司令塔兼遠距離からの一撃必殺の部長と部長のサポート兼後方からの掩護(えんご)攻撃の朱乃さん。そして打撃+サポートの小猫ちゃん、索敵+サポートのギャスパー、魔法攻撃の移動砲台であるロスヴァイセさんがここにはいない。

 

 超がつくほどの攻撃役であるエイジとアザゼル先生、天使のイリナがいるとはいえ、5人もいないのはチームとしてバランスが崩れてしまう。1から組み立てないといけない。

 

 それに九重も死守しなければ。ここでは俺たち以上に大切な存在だ。エイジが何か対策を講じているとしても、アーシアのさらに後方に下げたほうがいいだろう。

 

 ゼノヴィアが前方に行っちまったが――。

 

 考えろ考えろ考えろ! 「わからない」、「できない」のままじゃ、いつまで経っても『王』になんてなれやしない! 俺は『王』になるんだろう! 部長ならどうする? こういうとき、あの人ならどうするんだろうか? 考えろ!

 

 ぬぅぅぅぅっ! 足りない脳みそで導きだしたものを俺は発する!

 

「ゼノヴィア! おまえはアーシアと九重の護衛! それとロキと戦ったときに使った技がいつでも使えるようにしてくれ! 余裕があるなら今みたいに剣圧みたいなものを飛ばす攻撃でこちらに近づく敵を倒してくれ!」

 

 俺はゼノヴィアに指示を飛ばした! 俺、部長じゃないけど、ゼノヴィア、頼むから言う事を聞いてくれよ!

 

「――っ。了解だ!」

 

 おおっ! ゼノヴィアが応じて、素早く後方に下がり、アーシアの護衛に入った! 正直、俺への好感度が低そうだったから、応じてくれないかと思ってたよ。

 

 もっと考えろ! 部長なら、こういうときどうする? 襲撃を喰らったとはいえ、これは実戦! ここにいる2年生だけでなんとかしないといけないんだ!

 

 容量の少ない脳みそをフル回転で動かす!

 

 ブッ! 考えすぎて鼻血が出た! ……へへっ、鼻血って、エロいこと以外でも出るもんだな!

 

 相手は悪魔に対するアンチモンスターで仕掛けてきてる。いくら俺たちが攻撃を弾こうともまともに当たればダメージはデカいだろう。

 

 そのとき、ふいに木場の能力が脳裏を過ぎった。

 

「木場! おまえ、光を食う魔剣が創れたよな?」

 

「え? うん。――そうか!」

 

 俺の問いに木場はすぐに理解を示してくれた! さすが木場!

 

 木場はレイナーレとの一戦のときに、光の剣を使っていた対フリードで使った闇の剣を足元に何本か創りだした! それを仲間の悪魔たちに放り投げる!

 

「その剣は普段、柄のみだ! 闇の刀身を出したいときは剣に魔力を送ってくれ!」

 

 と、木場からの補足説明! 俺からも追加指示を送る!

 

「ゼノヴィア、危なくなったらそいつを盾代わりに光を吸え! アーシアも不慣れかもしれないが、そいつを持っているんだ! ないよりマシだ!」

 

「意外とやるな、イッセー」

 

「は、はい!」

 

 ゼノヴィアもアーシアも応じてくれた! ゼノヴィアは柄のみの闇の剣をスカートのポケットに入れていた。危なくなったら使ってくれ!

 

 俺は――木場からもらった剣を手に握る。

 

「なあ、ドライグ。この剣の能力を籠手に与えることはできないか?」

 

『無理をすれば命を削る可能性が高いが……この場限り、時間を限定すれば無理なくやれないこともないだろう。だが、多用は禁物だ』

 

「それでいい」

 

 俺はアスカロンが収納されている左手ではなく、右手に光を食らう闇の剣を入れた! 刹那――、右籠手に闇の盾らしきものが出現する。――成功だ!

 

 アスカロンと闇の盾! これで俺の攻防はなんとかなりそう。あとは――。

 

 ――天使のイリナ!

 

 俺はイリナに振り返り指示を送った。

 

「イリナ! 悪いがゼノヴィアの代わりに木場と前線に立ってくれ! 天使のおまえなら光は弱点じゃないよな?」

 

「じゃ、弱点じゃないだけでダメージはしっかり受けるんだけど、悪魔ほどの傷は貰わないわ。――わかった! 私、やってみるよ! ミカエルさまのAだもん!」

 

 イリナは純白の翼を羽ばたかせてゼノヴィアのいた前衛ポジションに行ってくれた!

 

 空中で T C M (テンコマンド・メンツ)を出現させるイリナ。今回の剣は片刃で片手剣タイプの音速の剣(シルファリオン)。確か、使用者の速度を引き上げるタイプの聖剣だったはずだ。

 

 音速の剣を装備したイリナがものすごいスピードで空中を飛び回る! 軌跡が見えそうなスピードでモンスターをかく乱し、隙を見つけて一気に屠っていった。

 

 ……よし! 雑な戦術かもしれないが、全員に指示を出せたぞ! 伊達(だて)に部長のそばであの人の戦いを見ていたわけじゃないんだ! 次は俺だ! 木場たち前衛とアーシアのいる後衛の中間――中衛として戦わせてもらう!

 

「『僧侶』にプロモーションするぜ、アーシアッ!」

 

「えっ!? イッセーさん! 認証カードは祐斗さんが持ってます!」

 

 ……そうなの? そ、そういえば、稲荷神社で木場がアーシアから認証カードを借りたって。そのまま、持ったままだったの?

 

「イッセーくん! プロモーションを承認するよ!」

 

 木場が目の前にいたモンスターを切り払い、叫ぶ。ま、まあ、いいか。

 

「了解ッ!」

 

 木場の合意を得て、『僧侶』となる! 俺の拙い魔力が底上げされた。

 

『僧侶』となった理由はドラゴンショットにのみ集中したいからだ!

 

 俺が魔力でできることなんて知れてるが、それでもやらせてもらう! 不器用の結晶である単純な魔力攻撃――。威力だけなら結構なものだと思うぜッ!

 

「いくぜ、ドラゴンショット乱れ撃ち!」

 

 ドゥ! ドウン! ドゥ!

 

 俺は闇の盾をかまえつつ、左腕から中規模の魔力の塊をアンチモンスター、英雄派の奴ら目掛けて乱れ撃ちでぶち込んだ!

 

 英雄派の奴らは避けていくが、モンスターのほうは俺の攻撃を受けて大量に消え去っていく! 同時に闇の盾が敵からの光の攻撃を吸ってくれる! よし!

 

 九重のほうにも光線が放たれるが、瞬時に円形で緑色のシールドみたいなものが九重を包み込んで、光線を無効化していた。さすが、エイジ、仕込みは万全だな! 

 

 後方からゼノヴィアが放つ剣圧が加わり、前方にいる大量のアンチモンスターを狙い撃ちにした! ゼノヴィア! もう少し龍殺しのオーラを抑えて! すごく怖いよ!

 

 俺とゼノヴィアの攻撃を食らって、アンチモンスターの群れは難なく霧散していく。

 

 しかし、例の少年が足元の影から何度も何度もモンスターを生み出していった! クソ! キリがねぇか! でも、諦めない! これだけの大量生産だ、集中力や体力に必ず限界がくるはず! しかも子供ならそれも早いと思うんだ!

 

 大量のアンチモンスターが放つ攻撃は、たまに俺たちにも打ち込まれるが、すかさずアーシアが回復のオーラを飛ばしてくれるので大事に至っていない!

 

 やっぱり、アーシアは俺たちの生命線だ! マジ、最高だぜ、アーシアちゃん!

 

 ……アンチモンスターが動くだけで、いまだ攻撃の姿勢を見せず、回避行動だけの英雄派の連中が不気味でしょうがない。モンスターに攻撃をやらせて、高みの見物か?

 

 ――と、ドラゴンショットを繰りだす俺の元に襲来する影が複数! 制服姿の女の子が数名! あの服装は英雄派のユニフォームなのか?

 

「赤龍帝の相手は私たちがします!」

 

 槍――あるいは剣を携えて、数名が俺に突貫してくる。

 

「――っ。やめておけ、女性では赤龍帝には勝てないよ!」

 

 腰に何本も帯剣した白髪の優男が叫ぶ。

 

 ふふふ、その通りだ。女の子では俺には勝てん! 俺は素早く脳みそに魔力を送り込んだ! 部長に禁術扱いされてる、俺ができる数少ない魔力のひとつ――。

 

「乳よ、その言葉を解放しろッ! 『乳語翻訳』ッッ!」

 

 俺は女の子たちに向って魔力を解き放った! 瞬間、俺を中心に謎の空間が広がっていく! 技は完璧に入った!

 

「さあ、お嬢さんのお乳たち! 俺に心の内を話してごらん!」

 

 乳が俺とドライグだけにしか聞えない声を話してくれる!

 

『動きで翻弄したあと連携攻撃で一気にたたき込むのよん』

 

 なるほど、連携攻撃するつもりだったのか。

 

『私は右から攻めるぞな』

 

 そちらは右!

 

『こちらは正面からなんだな』

 

 そっちは正面からか!

 

 くわっ! 俺は乳の声を聞いたあと開眼する! ふふふ、手の内胸の内は読ませてもらったぜ!

 

「よっ! ほっ!」

 

 相手の攻撃を全部避けてやった!

 

「バカな! 私たちの動きが把握されている!?」

 

 女の子のひとりが驚愕していた!

 

「読まれるはずがない! 私たちの連携は完璧なはずだ!」

 

 驚く女の子たちに俺は不適な笑みを見せた。

 

「読んだのさ! 否、しゃべってくれた! あんたたちのおっぱいがな! そして食らえ! 『洋服破壊』ッッ!」

 

 俺はもうひとつの技を叫ぶ! そう、避けると同時に触れていたのさ、君たちの制服に!

 

 バババッ! 女の子たちの服がものの見事に弾け飛んでいく!

 

「い、いやぁああああああああっ!」

 

「魔術で施された服が……まるで役に立たないなんて!」

 

 女の子たちが悲鳴をあげて自身の裸体を手で隠す! ううむ! 皆、鍛えているのか良いプロポーションしてるぜ! 鼻血もついつい出ちまう! やっぱり洋服破壊は最高の技だぜ!

 

 女の子たちは恥ずかしさのあまり、素早く近くの家屋に逃げ込んでいった。

 

 ふふふ、相手が女の子なら、俺の妄想の手は止まらない! ここまで見事に技が決まると気持ちがいいことこの上ないぜ! パイリンガルとドレス・ブレイクのコンボは無敵だ!

 

「さ、最低な技じゃな。こんなに酷い技を見たのは生まれて初めてじゃぞ……」

 

 九重が俺の技に呆れていた。ちっちゃな子にそう言われるとちょっとへこむ。

 

「やはり、女では赤龍帝には勝てないか。恥辱にまみれても戦い抜く鋼の精神が必要になるけど……若い女性ではなかなか厳しいね。さすがだよ、おっぱいドラゴン。噂の乳技を見させてもらった。男には通じないけどね」

 

 優男がそういう。れ、冷静に分析されると恥ずかしい。

 

「誰が男にやるもんかよ!」

 

 俺はそう返した! 男にやって何が楽しいってんだ!

 

『お、俺はぁぁぁ……、乳龍帝などではないぃぃぃ、乳技などぉ、使えないぃぃぃ……』

 

 心の中でドライグが唸るようにつぶやく! ヤバい、そういえばこの技にもリスクはあったんだった!

 

「アーシア、回復だ!」

 

「は、はい!」

 

 返事と共にアーシアが左腕の宝珠に、ドライグに向ってオーラを飛ばして回復させてくれる! これで大丈夫だろう。

 

『おううう……、ああああ……、温かいぃ……』

 

 ……大丈夫、だよな? 消滅というか昇天しないよな?

 

 優男がニッコリ笑んだあと、他の英雄派のメンバーに言う。

 

「皆も気をつけて欲しい。彼は赤龍帝。歴代で最も才能がなく、力も足りないが――。その強大な力に溺れず、使いこなそうとする危険な赤龍帝だよ。強大な力を持ちながら、その力に過信しない者ほど、怖ろしいものはないね。あまり手を抜かないように」

 

 …………。

 

 若干、こそばゆい感じをえてしまった。

 

「……敵にそんなことを言われるなんてな」

 

 そうさ、敵にそんなふうに評価らしきものをもらったのは初めてだった。いや、評価ではないか。注意かもしれないが……それでもその手のものを受けたのは初めてだ。

 

 俺の言葉に優男は少し首を傾げる。

 

「そうかな? キミはキミが思っている以上に現赤龍帝の存在は危険視されるに値するものだと僕たちは認識しているけどね。同様にキミの仲間の眷属と――ヴァーリも」

 

 ……や、やっぱり、むず痒い! なんだろう、こんなの初めてだぜ! サイラオーグさんも俺のこと評価してくれていたけど、テロリストにまでそのようなことを言われるなんて……。

 

『……そうだ、俺は赤龍帝。俺は赤龍帝なんだ。誰もが畏れる2天龍の一角なんだ』

 

 おおっ、ドライグも思わぬ敵の評価に持ち直した! もっと、もっと赤龍帝って呼んでやって! 最近、仲間にも敵にも乳龍帝って呼ばれまくってたから、うれしいんだよ!

 

 ああ、それにしても俺を見下さない連中って、すっげぇやりづらいな!

 

「さて、僕もやろうかな」

 

 優男が一歩前に出た。腰に携えていた鞘から剣を解き放つ。

 

「初めまして、グレモリー眷属。僕は英雄シグルドの末裔、ジーク。仲間は『ジークフリート』と呼ぶけど、ま、そちらも好きなように呼んでくれてかまわないよ」

 

 優男――ジークフリートの顔をずっと怪訝そうに見ていたゼノヴィアが、何か得心したようだった。

 

「どこかで見覚えがあるとおもっていたが、やはり、そうなのか?」

 

 ゼノヴィアの言葉にイリナがうなずく。

 

「ええ、だと思うわ。あの腰に帯刀している複数の魔剣から考えて絶対にそう」

 

 …………? どういうことだ? 白髪だから、どうしてもあいつ――フリードを思いだしてしまうけどさ。

 

「どうした、2人とも? あのホワイト木場みたいなイケメンに覚えがあるのか?」

 

「ホワイトって……酷いよ、イッセーくん」

 

 まあそういうな木場よ。物のたとえだ。

 

 俺の問いにゼノヴィアが答える。

 

「あの男は悪魔祓い――私とイリナの元同胞だ。カトリック、プロテスタント、正教会を含めて、トップクラスの戦士だ。――『魔帝ジーク』。白髪なのはフリードと同じ戦士育成機関の出だからだろう。あそこ出身の戦士は皆白髪だ。何かの実験の副作用らしいが……」

 

 ――っ! 悪魔祓い! 教会関係者か!

 

「ジークさん! あなた、教会を――天界を裏切ったの!?」

 

 イリナが叫ぶ。ジークフリートは愉快そうに口に端を吊り上げた。

 

「裏切ったってことになるかな。現在、『禍の団』に所属しているからね」

 

 それを聞いて、イリナはちょっとお冠になった。

 

「……なんてことを! 教会を裏切って悪の組織に身をおくなんて万死に値しちゃうわ!」

 

「……少し耳が痛いな」

 

 ゼノヴィアはぽりぽりと頬をかいていた。まあ、デュランダルの持ち主たるこの娘も破れかぶれで悪魔になったしね。イリナの言葉はそのまま自分に当てはまったんだろう。

 

 クスクスと小さく笑うジークフリート。

 

「いいじゃないか。僕がいなくなったところで教会にはまだ最強の戦士が残っているよ。あの人だけで僕と悪魔になる前のゼノヴィアの分も充分に補えるだろうし。案外、あの人は『御使い』のジョーカー候補なんじゃないかな? ――と、紹介も終わったところで剣士同士やろうじゃないか、デュランダル……、いや、龍殺しのゼノヴィア、天使長ミカエルのA――紫藤イリナ、そして聖魔剣の木場祐斗」

 

 剣士――否、教会関係者だった3人に対して宣戦布告するジークフリートは、手に持つ剣にオーラをまとわせた。

 

 ……あまり良くない波動を放つ剣だな。そういや、ゼノヴィアが魔剣だとつぶやいていたな。木場が『魔剣創造』で創りだす剣に雰囲気が似てる。……ていうか、龍殺しのゼノヴィア? 持ってる大剣が龍のアギトで製作された龍殺しの剣だからか?

 

 ――っ! そうこうしているうちに神速で木場が聖魔剣で切り込む!

 

 ガキィィィィンッ!

 

 聖魔剣を真っ正面から受けてなお、不気味なオーラを微塵も衰えさせないジークフリートの剣――。

 

「――魔帝剣グラム。魔剣最強のこの剣なら、聖魔剣を難なく受け止められる」

 

 つばぜり合う両者。……木場とつばぜり合う奴なんて、久しぶりに見たぜ!

 

 2人ともすぐに飛び退き、体勢を立て直したあと、再び火花を散らしながら壮絶な剣戟を繰り広げ始めた!

 

「……木場と互角……いや!」

 

 木場が徐々に押されてる。木場の表情が少しずつ厳しいものになっていくのが見て取れた! 神速で動く木場の動きが――捉えられている! 目で追えないほどのスピードで斬りかかっても相手はそれを当然のように受け止めていた。あの速度が見えるのか……ッ!

 

 フェイントを入れての攻撃でもジークフリートは木場のフェイントに騙されない!

 

 逆に相手は最小の動きだけで木場の攻撃をいなし、自身の魔剣を繰りだしていた。木場も避けるだけで精一杯になり、カウンターも取れない!

 

 驚愕する俺に英雄派の一人が言う。

 

「うちの組織では、派閥は違えど『聖王剣のアーサー』、『魔帝剣のジークフリード』として並び称されている。聖魔剣の木場祐斗では相手にならない」

 

 ――っ。

 

 あのアーサーと同格ってことか? あいつ、フェンリルの子供相手に結構余裕で戦ってたぞ! じゃ、じゃあ、いまの木場では――。

 

 心配する俺だが、ふたりの剣戟に参加する者がいた。――イリナだった。

 

 横からジークフリードに斬りかかり、木場の加勢をした。

 

「イリナさん!」

 

「加勢するわよ、木場くん!」

 

「――っ。ありがとう!」

 

 木場はこの場で剣士としてのこだわりを捨て、イリナとの同時攻撃に乗った。

 

 2対1でのバトル!

 

 木場の聖魔剣、イリナの『音速の剣』で速度強化された剣戟での同時攻撃っ!

 

 剣の切っ先が見えないほどの剣速による斬撃が三者の間で当然のように起こった。……2人相手でもジークフリードは剣1本でいなしていき、数をものともしてない!

 

 木場が神速で分身を生みながら、かく乱させて相手の死角から攻撃を加える技の構えを取り始めた。さらにイリナがジークフリートの背後に回り、瞬時に『音速の剣』からTCMを炎と氷の双剣を変化させて斬りかかった!

 

 この同時攻撃なら――!

 

 勝利を確信した俺。だが、ジークフリートは背後からのイリナの攻撃を、後ろ手に回して防いでしまう! 振り返らないでイリナの攻撃を防ぎやがった!

 

 さらに空いた手で腰の帯剣を1本抜き放った。

 

 銀光を走らせながら――振り返りながら背後にいるイリナに向って斬りかかる! 危ないッ!

 

「――っ!」

 

 ガキィィィンッ!

 

 寸前のところで、イリナが×の字にクロスさせた双剣が剣戟を防いだ! それでも衝撃は逃がせないようで、イリナの体が数メートルほど後ろへ飛んだ!

 

「大丈夫か!?」

 

「ええ、なんとかね」

 

 天使の羽を羽ばたかせて空中へ逃げながら、俺の問いにしっかり答えるイリナ。制服が少し破けたみたいだが、無事のようだ。

 

 ジークフリードは感心したような、驚いたような表情で言う。

 

「ほう。バルムンクの一撃を受け止めたか」

 

 バルムンク!?

 

「北欧に伝わる伝説の魔剣か……」

 

 ゼノヴィアがジークフリードが新たに出した剣を見つめてつぶやいた。また魔剣か! だが、まだ木場の死角からの攻撃は終わってない! 確実に捉えている! 避けられる術はない! 両手は魔剣でふさがってる! 横薙ぎの一閃がジークフリードの横腹に入る寸前――。

 

 ギィィィィンッ!

 

 金属音が鳴り響く。

 

 木場の聖魔剣は――ジークフリードが新たに鞘から抜いた魔剣によって受け止められていた!

 

「ノートゥング。こちらも伝説の魔剣だったりする」

 

 3本目の魔剣! い、いや、それよりも驚くべきことが起こっている! すでに二刀であるジークフリート。3本目の剣を持てるはずがない。両手が塞がってるからだ。

 

 だが、背中から生えた3本めの腕が魔剣を握り、木場の聖魔剣を受けていた!

 

 な、なんだ、あの腕は!? 銀色で、鱗のようなものに包まれた腕だ! まるでタンニーンのおっさんのような、ドラゴンの腕にそっくりだ!

 

 驚く俺たちにジークフリードは笑みながら言う。

 

「この腕かい? これは『 龍 の 手 (トゥワイス・クリティカル)』さ。ありふれた神器のひとつだけれど、僕のはちょいと特別でね。亜種だよ。ドラゴンの腕みたいなものが背中から生えてきたんだ」

 

 ――『龍の手』! 聞いたことあるぜ! 俺のブースデット・ギアの下位神器! 籠手タイプだったはずなんだが……亜種か! 背中から腕が生えてくるのかよ!

 

 ジークフリードは両手に魔剣を持ち、背中の腕でもう1本を携える。……三刀流!

 

 それを知り、木場の表情がより厳しいものになった。

 

「……同じ神器使い。けれど、あちらは剣の特性どころか、その神器の能力すら、出していない、か」

 

「ついでに言うなら、禁手にもなっていないけどね」

 

 ――っ。残酷なほどのジークフリートの報告! そうだよな、実験を繰り返していた英雄派の構成員が禁手になれないはずがない。

 

 ほぼ素の状態で木場とイリナを圧倒していたのか!? とんでもねぇよ!

 

「――だったら、禁手になる前に倒せばいいだろう!」

 

 上空からの声! この声は、ゼノヴィア!

 

 空中を見上げると、ゼノヴィアが真・リュウノアギト改に強大なオーラをまとわせていて――ま、まさか!

 

「食らえッ!」

 

 真・リュウノアギト改を縦に振り下ろした! オーラでできた巨大なカマイタチがジークフリードに向って飛ぶ!

 

 ジークフリードはそれを見上げ、

 

「これはすごいな」

 

 両腕と背中の腕という魔剣3本で構えをとり、それらを同時に振りかぶった!

 

 ドウゥゥゥゥンッ!

 

 ふたつの強大な力が衝突したことで起こる大爆発! 砂煙が舞い上がり、衝撃がビリビリと伝わる! まるで空間が揺れてるようだ!

 

 攻撃を終えたゼノヴィアは再び九重のそばに着地した。

 

「い、いきなり危ねぇじゃねえか、ゼノヴィア!」

 

 こっちまで被害がくるところだったぞ! ていうか、木場とイリナは無事か!? 特に木場は爆心地にいたようなもんだぞ!

 

 2人の安否を確認するために周囲へ目を配ると、いた! ジークフリードがから結構離れたところに立っている。いつの間に移動したんだ?

 

 俺の疑問に答えるように、ゼノヴィアが手に札のようなものを持って言う。

 

「この通信用の札で奇襲をかけると前もって教えていたからな」

 

 そ、そうだったのか? 意外と考えてたんだな、ゼノヴィア。

 

「でも正直、危なかったよ。タイミングが少しシビアすぎないかい?」

 

 木場が苦笑しながら言った。見れば木場の制服はボロボロになっていた。完全にかわせなかったようだ……。

 

 そんな木場にゼノヴィアは笑みをうかべて言う。

 

「ふっ、おまえなら避けられると信じていたからな。実際にダメージは負ってないだろう?」

 

「――っ。まあね」

 

 いい笑顔をうなずく木場。仲間に信頼されてうれしそうだ。すごく。

 

「ハハハハッ!」

 

 ――っ。この笑い声は、ジークフリード!

 

 ビュオッ!

 

 そんな一陣の風と共に、砂煙が晴れる。砂煙から出てきたのは、制服が少し破れているが、ほとんど無傷の五体満足で笑う、ジークフリートだった! ウソだろ!? あの不意打ちを受けきるどころか、特にダメージもなしかよ!?

 

 驚愕する俺たちにジークフリートはうれしそうに笑みながら言う。

 

「噂には聞いていたが、なかなか。本当に強いんだな。まさか魔剣3本を振るって押し負けるなんて。さすが、黒い捕食者と武器の申し子の弟子だ」

 

 な、なんでエイジと時雨さんの弟子だって知ってるんだ? そんな情報まで手に入れてるのか、こいつらは……。

 

 賞賛の言葉をもらったゼノヴィアは剣を掲げながら言う。

 

「師もいいが、この剣もいいのでね」

 

「確か、真・リュウノアギトでしたか?」

 

「今は、真・リュウノアギト改だ」

 

「……『改』、ですか。――私が所持している魔剣3本に押し勝つほどの魔剣、欲しいですね」

 

「やらないぞ」

 

「それは残念」

 

 そう軽口をたたきながらも、ジークフリートのギラギラとした視線はゼノヴィアの剣に向けられていた。……殺して奪うとか平気でやりそうだな、こいつ。

 

 バサッ。

 

 俺たちの目の前に――先生が降り立った。続いてエイジが降り立ち、同様に英雄派の中心に曹操が戻ってくる。

 

 2人とも攻撃を繰り返しながら、再びここまで帰ってきたのかな? ちらりと2人が攻撃しながら向った下流方面に遠目に見やると――荒地と化していた!

 

 家屋は倒壊し、木々も倒れ、道路や水路も壊れている。もはや嵐山の面影はない。うわぁぁぁ……。衝撃音とか地響きみたいなものは何度も聞えていたけど、ここまでとは……。

 

 でも、英雄派のリーダー格らしいとんでもない神滅具使いの曹操と、魔王クラスや世界最強クラスだって称されてるエイジが戦ったのに、思ったよりも被害が少ないな。

 

 訝しげに思いながらエイジと曹操を見てみる。

 

 エイジのほうは制服が破れていて、少しだけ血が滲んでいた。

 

 曹操のほうも制服が破れているが――。

 

「ハァ……、ハァ……、ハァ……」

 

 疲労の色が目に見えて濃く、消耗していることが見て取れた。

 

 エイジが手に持った槍を曹操に向けて言う。

 

「八坂を返す気になったか?」

 

 ……こ、こちらは怪我はしてるものの疲労の色はまったくない。息も乱れてないし、全然余裕そうだ。さ、さすが……。

 

 槍を向けながら殺気を飛ばすエイジに、曹操は「フンッ」と鼻を鳴らした。まるで返す気がないと言っているようだ。

 

「ちっ、実力では神城に負けてんだから、さっさと『黄昏の聖槍』の能力を見せろよな」

 

 と、小声でボソッとつぶやく先生。ちょっ!? すっごく珍しい神滅具があるからって何を言ってるんですか、先生! ていうか、まだ神器の能力使ってなかったのか!?

 

 曹操は息を整え、首をコキコキ鳴らしながら言う。

 

「いい眷属悪魔の集団だ。これが悪魔の若手でも有名なリアス・グレモリー眷属か。あいつ以外はもう少し、楽に戦えると思ってたんだが、意外にやってくれる。俺の理論が正しければ、このバカげた力を有すグレモリー眷属を集めたのは兵藤一誠――おまえの力だ」

 

 曹操は言葉を切って俺を睨み、言葉を続ける。 

 

「身体能力と魔力の才能はないかもしれないが、ドラゴンの持つ他者を惹きつける才能は歴代でもトップクラスだと思う。ドラゴンは力を集めると言うしな。おまえの場合は良くも悪くもその辺が輝いていたってことなんだろうよ。連続する名うての存在の襲来、各龍王との邂逅、そして多くに支持される『おっぱいドラゴン』が良い例だ。そして『王』なき眷属をこの状況で誰よりも冷静に対処できた。まだ稚拙で穴だらけともいえる采配だが……手馴れたら怖くなるかもしれない」

 

 そんなこと、考えたこともなかった。いままでの出来事が……全部俺によって?

 

 曹操が俺のほうに槍の切先を向けてくる。

 

「だから、俺たちは旧魔王派のように油断はしないつもりだ。将来、おまえは歴代の中でも最も危険な赤龍帝になると確信している。そして、眷属も同様。いまのうちに摘むか、もしくは解析用のデータを集めておきたいものだ」

 

 お、俺――いや、俺たちのことをそんな目で見ているのか? た、確かに俺たちのことを小馬鹿にしていた旧魔王派とは本質的に違うような気がするよ。

 

 先生が曹操に改めて問う。

 

「ひとつ訊きたい。貴様ら英雄派が動く理由は何だ?」

 

 曹操が目を細めながら答える。

 

「堕天使の総督殿。意外に俺たちの活動理由はシンプルだ。『人間』としてどこまでやれるのか、知りたい。そこに挑戦したいんだ。それに悪魔、ドラゴン、堕天使、その他諸々、超常の存在を倒すのはいつだって人間だった。――いや、人間でなければならない」

 

 力強くそう言い放つ曹操。その言葉には確かな決意が込められているようだった。

 

「英雄になるつもりか? って、英雄の子孫だったな」

 

 曹操は人差し指を青空に真っ直ぐ突き立てた。

 

「――よわっちい人間のささやかな挑戦だ。蒼空のもと、人間のままどこまでいけるのか、やってみたいだけさ」

 

 ――人間、か。

 

 ……人間のまま、どこまでいけるの……。それがこいつらの目的?

 

「……人間を止めてしまったあなたに代わってね」

 

 ボソッと曹操が小さく何かをつぶやいたようだが、聞えない。人間を、なんだって?

 

 先生が嘆息しながら俺に言う。

 

「……イッセー。油断するなよ。こいつらは――旧魔王派、シャルバ以上の強敵だ。おまえを知ろうとする者はこれから先、すべて強敵だと思え。特にこいつはそのなかでヴァーリと同じぐらい危険性が抜きんでている」

 

 正直、シャルバに関しては部長たちが連携であっさり倒しちゃったから、いまいちピンと来ないけど……。ヴァーリと同じぐらい、か……。底が知れない雰囲気だけならヴァーリよりもありそうなんだけどね……。

 

 最強の聖槍を持っているだけでも相当な脅威だと思う……。

 

 エイジとまったく怪我をしていない先生がそろったところで、俺たち陣営――相手陣営も改めて身構えた。いまだにアンチモンスターは生み出される。キリがないぜ、まったく。その上、英雄派の構成員はほとんど動いていない。

 

 だが、今度は相手も構えた。――次の第二波で本格的な戦闘になりそうだ。相手には神器所有者が多いんだろう? しかも禁手になれる奴が多い。

 

 本当、俺ってこういうピンチばかりだ。たまには救いの女神でも現れてくれないものかね? まあ、エイジがいれば何とかなりそうなものだけど……。

 

 心中でそう思っているときだった――。

 

 パァァァアアアッ。

 

 俺たちと英雄派の間に魔法陣がひとつ、輝きながら出現する。……知らない紋様だ。

 

「――これは」

 

 先生は知っている様子だった。誰? 堕天使? 怪訝に思う俺たちの眼前に現れたのは――魔法使いの格好をした、かわいらしい外国の女の子だった。

 

 魔法使いが被るような帽子に、マント。まさに魔法使いな格好だ。歳は中学生ぐらいか? 小柄だ。

 

 女の子はくるりとこちらに体を向けると、深々と頭を下げてきた。

 

 ニッコリ笑顔で俺たちに微笑みかけてくる。

 

「はじめまして。私はルフェイ。ルフェイ・ペンドラゴンです。ヴァーリチームに属する魔法使いです。以後、お見知りおきを」

 

 ――ッ! ヴァーリチーム!? なんで、ヴァーリの仲間がこんなところに!?

 

 エイジが女の子――ルフェイを見ながらつぶやく。

 

「ペンドラゴン……、おまえがアーサーの妹か?」

 

「――っ! これは黒い捕食者さま! はいっ! 私がアーサーの妹です! 兄がいつもお世話になっています!」

 

 ハキハキと元気よく答えるルフェイ。あの残酷紳士の妹さんか……。かわいい妹さんがいたのは驚きだけど、エイジのファンかよ。ちっ。

 

 先生があごに手をやりながら言う。

 

「ルフェイか。伝説の魔女、モーガン・ルフェイに倣った名前か? 確かにモーガンも英雄アーサー・ペンドラゴンと血縁関係にあったと言われていたかな……」

 

 ルフェイが目を爛々と輝かせながら、俺に視線を送っている。……俺? エイジじゃなくて、俺?

 

「あ、あの……」

 

 俺に近づくと手を突きだしてくる。

 

「私、『乳龍帝おっぱいドラゴン』のファンなのです! 差し支えないようでしたら、あ、握手してください!」

 

 …………。

 

 え、えっと……。

 

 俺は突然のことに間の抜けた状態になり、反応に困った。こ、こんな緊迫した戦場でそんなことを言われても……。

 

 とりあえず、「ありがとう……」とだけつぶやいて握手してあげる。

 

「やったー!」

 

 すっげえ喜んでる……。エイジのファンじゃなかったの、この子? いや、それよりも何をしに来たの?

 

『ぬ、ぬぅぅん……!』

 

 ――っ! 左腕の宝珠から俺の脳内へと響く、ドライグのうめき声。しっかりしろー! まだ戦闘は終わってないんだぞー!

 

 曹操組みも呆気に取られて、どう出ていいものか、当惑していたり……。だが、頭をポリポリかきながら曹操が息を吐く。

 

「ヴァーリのところの者か。それで、ここに来た理由は?」

 

 曹操の問いにルフェイは屈託のない満面の笑顔で返した。

 

「はい! ヴァーリさまからの伝言をお伝え致します! 『邪魔だけはするなと言ったはずだ』――だそうです♪」

 

「俺は俺の都合で動いているだけで、邪魔をしてるつもりはないのだがな」

 

 そう嘆息する曹操だけど、ルフェイは満面の笑みを崩さず――。

 

「――それでも、うちのチームに監視者を送った罰は受けていただきますよ~」

 

 ドウゥゥゥゥゥゥンッ!

 

 ルフェイがかわいく発言してすぐ、大地を揺り動かすほどの震動がこの場を襲う!

 

 な、なんだ、この揺れ! 地震? 立っているだけで精一杯だ! アーシアと九重は大丈夫か!?

 

「あ、ありがとうございます」

 

「た、助かったのじゃ」

 

 視線を向けて見ると、いつの間にか後方に下がったエイジが2人の間に立って、2人が倒れないように支えていた。

 

「くれぐれも油断するなよ」

 

 エイジは2人を支えながらそう注意する。あっちは大丈夫そうだな。

 

 ガゴンッ!

 

 何かが割れる音! そちらに視線を向ければ、地面が盛り上がり、何か巨大なものが出現する寸前だった! 地を割り、土を巻き上げながら地中から姿を現したのは――。

 

『ゴオオオオオオォォォォォォオオオッ!』

 

 雄たけびをあげる巨人らしき巨大な物体だった!

 

 じゅ、10メートル以上あるぞ! 先生が巨人を見上げて叫ぶ!

 

「――ゴグマゴクか!」

 

 先生の言葉にルフェイがうなずく。

 

「はい。私たちのチームのパワーキャラで、ゴグマゴクのゴッくんです♪」

 

 ゴッくんです♪ って、そんなかわいらしく呼ばれてるのあれが!?

 

「先生、あの動く石巨人的なものは……」

 

 俺の問いに先生が説明してくれる。

 

「ゴグマゴク。次元の狭間に放置されたゴーレム的なものだ。稀に次元の狭間に停止状態で漂ってるんだよ。なんでも古の神が量産した破壊兵器だったらしいが……。全機が完全に機能停止だったはずだ」

 

 ゴーレム! な、なるほどね! だから無機質な感じなのか!

 

「あんなのが次元の狭間にいるんですか!? 機能停止って、あれ動いてますけど!」

 

「ああ、俺も動いているのを見るのは初めてだ。問題点が多すぎるようでな、機能停止させられて次元の狭間に放置されたと聞いていたんだが……動いてるぜ! 胸が躍るな……ッ!」

 

 あー、先生が子供のように目を輝かせておられる……。先生ってこういう神の創ったものとか古代兵器とか好きっぽいもんな。

 

 しかし、ハッと気づいて先生はつぶやく。

 

「そうか。ヴァーリが次元の狭間でうろついていたのはグレードレッドの確認だけじゃなかったんだな」

 

 先生の言葉に俺も思い出す。

 

「そういや、ディオドラとの戦いの最後でグレードレッドを追ってヴァーリたちが次元の狭間から出てきたっけ。あれはこの巨人を探してたのもあったのか?」

 

 先生と俺の意見にルフェイが答えた。

 

「はい。ヴァーリさまはこのゴッくんを探していたのです。オーフィスさまが以前、動きそうな巨人を次元の狭間の調査で感知したことがあるとおっしゃっておられまして、改めて探索したしだいです」

 

「な、なあ、まだあいつのチームにはこういうのいるの……?」

 

 俺がルフェイに訊く。孫悟空、フェンリル親子、ゴーレムの他にまだいるなら、俺、あいつとの将来の戦いがちょいと不安なんですけど……。

 

「えーと、いまのところ、ヴァーリさま、美猴さま、兄のアーサー、フェンリルちゃんと、その子供のスコルちゃんとハティちゃん、ゴッくん、私の8名です」

 

 そ、そうか。8名か。これで全部なのね。それにしても濃すぎる! あいつ、とんでもないメンツを集めたもんだな! 特にフェンリル親子とかありえねえっ!

 

「しかし、先生、次元の狭間ってあんなのやグレードレッドがいるんですね……」

 

「次元の狭間は、ああいう処分に困ったものが行く着く先でもある。グレードレッドも次元の狭間を泳ぐのが好きなだけで実害はないぞ。各勢力でもグレードレッドはブラックリストや各種ランキングに入ることはない。あれは特例だ。つつかず自由に泳がせておけばいいものを……」

 

 先生がそうつぶやくなか、ゴーレム――ゴグマゴクが英雄派に向って、巨大な拳を振り下ろした!

 

 ゴゴゴゴゴゴゴォォォォオオオオオオンッ!

 

 バカでかい破砕音と共に、ゴーレムの一撃が渡月橋を破壊してしまったぁぁぁっ!

 

 ゼノヴィアの一撃でも何とか崩れなかったのに! あああああああ! 嵐山の名物がぁぁぁぁっ! ここが嵐山を模した空間で良かった!

 

 ゴーレムの一撃は大量のアンチモンスターを屠った。英雄派の構成員は全員その場から飛び退き、橋のあちら岸に退避した。

 

「ちっ! ヴァーリがお冠か! どうやら監視していたのがバレたようだ!」

 

 曹操は舌打ちしながら、槍をゴーレムに向ける!

 

「伸びろっ!」

 

 ギュゥゥゥゥン!

 

 槍の切っ先が伸びて、ゴレームの肩に突き刺さる!

 

 ズズゥゥゥゥゥンッ!

 

 巨大なゴーレムがその一撃で体勢を崩されて、その場に倒れていった! うわっ、なんて震動だ! 倒れた衝撃だけで震動が巻き起こり、辺りを大きく揺らす。

 

 あの槍、一撃だけでデカいゴーレムを転ばしやがった! 伸びたり、光の刃を発生したり、多機能だな!

 

 しかし、橋が壊されてしまった。飛んで向こう岸にいくしかないのか?

 

「――少し魔力を食うが、丁度良い」

 

 次の一手を考えていたときだった。アーシアと九重の守りに入っていたエイジが、手元に波紋を生み出し、1本の真っ赤な槍を取り出した。

 

 ライザー戦のときとは違う槍だ。紅いオーラが薄っすらとまとっていて、とんでもない力を感じる!

 

「まさか……、神城、その槍は……」

 

 先生が信じられないものを見るような眼で紅い槍に魅入られていた。また先生の研究者魂が爆発しそうだ。

 

 と、エイジは槍を構えて空中へと飛び上がる!

 

 体ごと捻るように左腕を引いて、右腕を対岸にいる曹操たちに向ける!

 

 そして――、

 

突き穿つ死翔の槍( ゲイ・ボルグ )ッ!!」

 

 槍を放った!

 

 紅い槍は真っ直ぐ、美しい紅い軌跡を描きながら、音速の壁でも突破していくかのように、ギュオォォォォっという風きり音を響かせ、曹操たちへ向っていく!

 

「…………」

 

 曹操は向ってくる槍を無言で見つめ……って、おい! 避けないのか!?

 

 驚愕する俺だが、紅い槍が曹操たちに向けて完全に落下する寸前のところで止まった! な、なんでだ!?

 

 曹操たちの陣営を見てみれば、制服の上にローブを羽織った青年が手元から霧を発生させて紅い槍を止めていた。

 

 ――っ! あれが霧の使い手か! あんなすごそうな槍の一撃を防ぐなんて!

 

「ぐっ……、何て力だ! 『絶霧』で覆っているのに、まだ止まらない! ――曹操っ!」

 

 苦しそうに叫ぶローブを羽織った青年。……どうやら、神滅具でもあの槍は完全に防げていないらしい。ギュルギュルとドリルのように回点しながら霧を削っていっている。

 

「やはり彼がよく使っていた殲滅用対人宝具のゲイ・ボルグは『絶霧』でも防げないか……。全て予想はしていたことだったが、ここまでとはな。――が、祭りの始まりとしては上々だ。神城エイジ!」

 

 奴は俺たちに向けて宣言した。

 

「我々は今夜この京都という特異な力場で九尾の御大将を使い、二条城でひとつおおきな実験をする! ぜひとも制止するために我らの祭りに参加してくれ!」

 

 奴らを中心に霧が濃くなってきた。

 

「神城、もとの空間に戻す気だ! 攻撃を解除しろ!」

 

「ちっ……、手傷ぐらいは負わせられると思ったんだがな。仕方ない」

 

 先生の言葉に、エイジが攻撃を止めた。回点を止めた紅い槍はひとりでにエイジの手元へ戻り、波紋のなかへと消えていった。……多分あの紅い槍が当たってたら、手傷じゃすまないと思う……。

 

 霧が一気に濃くなっていく。曹操たちの姿はもはや見えず、俺たちの体もどんどん霧に包まれて、頭まで完全に霧包まれた。

 

 そんな一寸先も見えない霧が包んでいくなか、

 

「おまえらも、攻撃を解除しておけ!」

 

 先生からの助言が飛んだ。ほ、本物の嵐山に戻るなら、俺の鎧を解除しないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 一拍をあけ、霧が晴れたとき――そこは観光客で溢れた渡月橋周辺だった。俺たち以外、何事もなかったように普通に橋を往来していく。

 

 ……橋は壊れていない。無事にもとの空間に戻ってこられたんだな。

 

「おい、イッセー。どうした、すっげー険しい顔になってんぞ?」

 

 俺の顔を覗き込む松田。そ、そうだ、俺たちは渡月橋を渡ったばかりだった。

 

「…………いや、なんでもないよ」

 

 それだけ返し、俺は大きく息を吐いた。他の眷属メンバーも表情が険しい。さっきまで戦闘してたんだ、そう簡単に気持ちも切り替えられないだろう。

 

 ……ルフェイがいない。デカいゴーレムも同様だ。霧が晴れたと同時に消えたのか。

 

 ガンッ!

 

 先生が電柱を横殴りしていた。

 

「……ふざけたことを言いやがって……ッ! 京都で実験だと……? 舐めるなよ、若造が!」

 

 うわ……、先生がマジギレしてる! こんなに怖い先生を見るのは久しぶりかも。

 

「……母上。母上は何もしていないのに……どうして……」

 

 体を震わせる九重。エイジは黙って九重の頭を撫でながら、敵を見据えるように二条城がある方向を見つめていた。

 

 曹操の襲来。そして、二条城で実験をするという宣言。

 

 部長、どうやら俺たちの修学旅行は思いがけないクライマックスを迎えそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 渡月橋での戦いを終え、俺たちはホテルに帰ってきていた。

 

 それぞれの班や男女に分かれて夕食を取り、風呂にも入り、部屋でくつろいでいた。

 

「あー、うー……気持ち悪いですぅ……」

 

「よしよし、今椿姫さんが新しい洗面器とタオル持ってくるからな」

 

 俺の部屋である小さい和室の真ん中、布団に横向きになって気持ち悪そうにしているロスヴァイセの頭を撫でてやる。

 

 英雄派との戦いのあと、店でひとり酔いつぶれていたロスヴァイセを回収したんだよな。一応、ロスヴァイセ自身で酔い覚ましの薬を調合して飲んだらしいが、まだ具合が悪そうだ。面倒だったからって、どれだけ飲ませたんだよ、アザゼル。

 

「ううー……」

 

 気持ち悪そうにロスヴァイセが唸る。はいはい、よしよし。今はゆっくり休んでてね。

 

 コンコン。

 

 部屋のドアがノックされる。ガチャっと開いて、椿姫さんが入ってきた。

 

「水面器とタオルを持ってきました」

 

 椿姫さんが枕元に水面器を置く。

 

「ありがとうございます」

 

「あ、ありがとう、ございますぅ……」

 

「いえ、これぐらいは手伝わせてください」

 

 俺とロスヴァイセさんの礼を受け取り、椿姫さんは微笑んだ。

 

「それよりも、エイジくんのほうは大丈夫?」

 

 心配そうに訊ねてくる椿姫さん。俺は少し息を吐いて答える。

 

「まあ、はい。大丈夫です。敵が厄介なことは予想してましたしね。八坂にしても何かの実験に使うというなら、確実に生きているということですから。助けるチャンスがあるとわかっただけでもホッとしました」

 

「そうですか。しかし神滅具使いが3人もいるというのは厄介ですね……」

 

「『黄昏の聖槍』、『絶霧』、『魔獣創造』……」

 

「他にも有名な魔剣を3本も使う剣士がいるとか」

 

「旧魔王派のテロリストと違って、油断のない少数精鋭部隊のようでしたし。なお更ため息しかでないですよ」

 

 お互いの顔を見合わせて、ため息を吐く。

 

「うぷっ……そんな状況で私は、酔いつぶれてたなんて……。先輩が知ったらなんとおっしゃるか……」

 

 別の意味でも吐きそうになっているロスヴァイセ。

 

「まあ、今回の主な原因はアザゼルにあるんだ。そこまで気にしなくても」

 

「いえ……、ですが……」

 

 ロスヴァイセは布団から上半身を起こして頭を押さえた。まだ頭痛を感じているようだ。実際にアザゼルが酒を勧めて、話を切り上げようとドンドン飲ませたんだし、ね。

 

「英雄派の襲来があるかも知れない状況で、教職についている自分がお酒を飲んで、おまけに酔い潰れてしまうなんて……。これではエイジさまに顔向けできません。う、うう……うわあああああん!」

 

 膝を抱えて泣き出してしまう。……それについてはフォローができないなぁ。

 

 と、ここで酔いだけではなく、泣き潰れてもらっても困る。胡座をかいたままロスヴァイセに向って両手を広げる。

 

「ほら、ロスヴァイセ」

 

「エイジ、さまぁ……」

 

「おいで」

 

「う、ううう、うわあああん……! ごめんなさいぃ、申し訳ありましぇんでしだぁぁぁ……」

 

 両手を腰に回して号泣し始めるロスヴァイセ。まだ酔いが残っているのか感情の起伏が激しい。背中をやさしく撫でてやる。

 

「よしよし。次、がんばろうな」

 

「はいぃ、がんばりますぅ! わたし、がんばりますぅぅ……」

 

 ダメッ子ヴァルキリー。……うむ、なかなかかわいい。

 

「…………」

 

 ……ん? 視線を感じる。方向と距離からして椿姫さん?

 

 視線だけ向けて見ると、ちょっとうらやましそうに正座してロスヴァイセを見ていた。

 

「あー……、椿姫さん?」

 

「――っ! は、はいっ。なんでしょうか?」

 

「椿姫さんも、来ます?」

 

「あ、え……い、いえっ! そんな……!」

 

 顔を真っ赤にしてメガネを曇らせる。戸惑いを隠せない様子で口をパクパクさせていた。

 

「……」

 

「……」

 

 無言でお見合い。椿姫さんが先にへし折れた。畳からバッと立ち上がり、ずれてもいないメガネをかけなおして言う。

 

「そ、そういえば生徒会のほうで用事があったので、わっ、私は生徒会のほうへ行ってきますっ! そ、それでは……!」

 

 失礼しましたと、そそくさと部屋から退出していった。……あー、椿姫さんってやっぱり初心だなぁ。普段真面目でクールだから、からかってあげると普段とのギャップがかわいらしくて、和む。

 

「うう~……大声が頭に響きますぅ。あ、うぷっ……き、気持ち悪い……。は、吐きそう……」

 

「よしよし、今水面器を用意してあげるから」

 

「す、すびばぜん……。ほ、本当だったら今頃、イッセーくんたちの部屋で鑑賞会を、していた、はずなのび……うぶぶ……」

 

「気にしなくてもいいよ、ロスヴァイセ。あくまで鑑賞会はイッセーたちの班のものなんだし。それに関係者しかいないこの部屋なら、魔力の回復も落ち着いてやれるからね」

 

「ばぃ、ありがどうございましゅ……」

 

 洗面器から少し顔を離してつぶやく、ロスヴァイセ。即座に魔法で嘔吐物を転移させて浄化する。……魔力の無駄使いに思えるかもしてないが、女性だからね。魔力の消費もスズメの涙程度だし。

 

「ほら、そろそろ横になりな。集合の就寝時間まではまだ時間があるし、それまで休んでていいからね」

 

「はい……、ありがとうございます」

 

 ロスヴァイセは布団の上に横向きで寝転がる。かけ布団では重いから、タオルケットをやさしくかけて、と……。

 

「あ、あの……」

 

「ん? どうした、ロスヴァイセ」

 

 訊ねてみると、ロスヴァイセは心細そうに小さくつぶやいた。

 

「よ、よかったら、手を……。握っててもらえませんか?」

 

 あー……。

 

「だ、ダメだったら別に、その……」

 

 ギュっ。

 

「――っ」

 

「これでいいか?」

 

「……はいっ」

 

 うれしそうに笑む、ロスヴァイセ。胸の前で俺の手を両手で包み込む。……最近、かわいい年上お姉さんとの絡みが多い気がするな。

 

 落ち着いたのか、ロスヴァイセは寝息を立てて眠りに入った。本当に、これだけならいい思い出話で済んで、楽しい修学旅行で終わったはずなのに……。

 

 これから『禍の団』の英雄派から八坂を取り戻さなければいけない。

 

 八坂は無事なんだろうか? それが1番不安だった。




 最後のエイジのサイドは次話が四万字を越えたので、こちらに入れることになりました。なので、少し切れが悪いです。

―あとがき―

 木場、途中から喋ってねぇ。

 あと、D×Dの戦闘描写はすっごい独特だとこの京都編ですごく感じました。

 戦闘シーンなのに時間系列が一列ってのがなんとも……。まあ、一人称で素人主人公イッセーが疑問を浮べて、解説役のアザゼルが答えていくっていうスタイルだから仕方がないけどさ。

 話していない連中はほとんど、棒立ち&牽制中ってのがね。

 アザゼル先生の解説で神器の情報が素人連中に伝わるのを放置してたり、英雄派も油断しないと何度も言うわりにはものすごくツメが甘かったり。

 ちゃんと皆で真面目に戦えよって思ってきます。


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第76話 決戦! グレモリー眷属VS英雄派 IN京都 前編

 最初を前に移したから、何とか38000字で収まった!


<エイジ>

 

 就寝時間を間近にして俺の部屋にグレモリー眷属+イリナ、シトリー眷属、アザゼル、『セラたん』ことセラフォルーが集まっていた。

 

 この部屋で今夜のことについて話し合うところだ。今夜のこと――二条城でおこなわれるという八坂を使った英雄派の実験とらやだ。

 

 ……それにしても、部屋が狭いな。立ち見が出来るぐらいしかない。やっぱり八畳一間の部屋に10人以上は無理だろう。場所を変えられなかったのか?

 

 ゼノヴィアとイリナなんて押入れのなかから話し合いに参加してるぞ。……まあ、意外と居心地よさそうだけど。

 

 ちなみにロスヴァイセは顔を真っ青にしながらも参加していた。一応、集合時間間近までこの部屋で休んでいたから体調のほうも回復していたんだけど、今のぎゅうぎゅう積め状態で狭い部屋にいるせいか、具合がまた悪くなってきたみたいだ。

 

 アザゼルが皆を見回して口を開いた。部屋の中心に敷かれた京都の全体図から立体映像が浮んでいる。この立体映像の地図は俺が前に渡したマップの技術を流用してんのか。そういや渡したままだったな。

 

「では、作戦を伝える。現在、二条城と京都駅を中心に非常警戒態勢を敷いた。京都を中心に動いていた悪魔、堕天使の関係者を総動員して、怪しい輩を探っている。京都に住む妖怪たちも協力してくれるところだ。いまだ英雄派は動きを見せないが、今日と各地から不穏な気の流れが二条城を中心に集まっているのは計測できている」

 

 アザゼルが地図の一箇所を押すと、紫色で色づけされた不穏な気らしきものが立体映像に写し出された。

 

「不穏な気の流れ?」

 

 木場がアザゼルに訊く。

 

「ああ、京都ってのは古来、陰陽道、風水に基づいて創られた大規模な術式都市だ。それゆえ、各地にいわえるパワースポットを持つ。この映像を見てもわかるとおり、清明神社の清明井、鈴虫寺の幸福地蔵、伏見稲荷大社の膝松さん、挙げればキリがないほどに不思議な力を持つ力場に富んでいる。それらが現在、気の流れが乱れて、二条城のほうにパワーが流れ始めているんだよ」

 

「ど、どうなるんですか?」

 

 匙が生唾を飲みながら訊く。

 

「わからんが、ろくでもないことは確かだ。奴らはこの都市の気脈を司っていた九尾の御大将を使って『実験』とやらを開始しようとしているんだからな。それを踏まえた上で作戦を伝える」

 

 アザゼルの言葉に皆がうなずいた。アザゼルが改めて言う。

 

「まずはシトリー眷属。おまえたちは京都駅周辺で待機。このホテルを守るのもおまえたちの仕事だ。いちおう、このホテルは強固な結界が張っているため、有事の際でも最悪の結果だけは避けられるだろう。それでも不審なものが近づいたら、シトリー眷属のメンバーで当たれ。真羅椿姫、おまえの神器は守りに使えるから、当然おまえもだ」

 

『はい!』

 

 アザゼルの指示にシトリーの皆が返事をする。

 

「次にグレモリー眷属とイリナ。いつも悪いが、おまえたちはオフェンスだ。このあと、二条城のほうに向ってもらう。正直、相手の戦力は未知数だ。危険な賭けになるかもしれないが、優先すべきことは八坂の姫を救うこと。状況が悪ければ、他の奴らが囮になっているうちに、神城が全力で八坂を確保して逃げろ。奴らは八坂の姫で実験をおこなうと宣言しているぐらいだからな。……まあ、虚言の可能性も高いが、あの曹操の言動からすると本当だろう。――俺たちが参戦することを望んでいるフシが多分にあったからな」

 

「お、俺たちだけで戦力足りるんですか?」

 

 イッセーが質問する。まあ、オフェンスといっても6名しかいない。英雄派の戦力を考えて、全員生きて帰ることを考えれば足りないだろう。

 

「安心しろ。テロリスト相手のプロフェッショナルを呼んでおいた。各地で『禍の団』相手に大暴れしている最強の助っ人だ。それが加われば奪還の可能性は高くなる」

 

「助っ人? 誰ですか?」

 

 木場が訊く。

 

「とんでもないのが来てくれることだけは覚えておけ。これは良い報せだな」

 

 アザゼルが口の端を愉快そうに吊り上げていた。相当の手練れが来るんだろう。

 

「それとこれはあまり良くない報せだ。――今回、フェニックスの涙は3つしか支給されなかった」

 

「み、3つ!? た、足りなくないですか!? いちおう、対テロリストなんですし!」

 

 匙が素っ頓狂な声をあげて、アザゼルに問う。

 

「ああ、わかっている。だが、世界各地で『禍の団』がテロってくれるおかげで涙の需要が急激に跳ね上がってな。各勢力の重要拠点への支給もままらない状態だ。もともと大量生産できない品だったもんでな、フェニックス家も大変なことになっているってよ。市場でも値段も高騰しちまってただでさえ高級品なのに、頭に超がふたつはつきそうな代物に化けちまった。噂じゃ、レーティングゲームの涙使用のルールも改正せざる得ないんじゃないかって話だ。おまえたちの今後のゲームに影響が出るかもしれないことだけは頭の隅に置いておけ」

 

 まあ、それも当然か。テロが起これば怪我人が出て、それを回復させるためには涙が必要になってくるんだから。

 

 アザゼルが続ける。

 

「これは機密事項だが、各勢力協力して血眼になって『聖母の微笑』の所有者を捜している。レアな神器だが調査の結果、アーシアのほかに所有者が世界に何人かいることが発覚しているからな、スカウト成功は大きな利益になる。冥界最重要拠点にある医療施設などにはすでにいるんだが。スカウトの1番の理由は――テロリストに所有者を捕獲されないためだ。優秀な回復要員を押さえられたらかなりマズい。現ベルゼブブ――アジュカも回復能力について独自に研究しているそうだが……。まあ、いい。それとグリゴリでも回復系人工神器の研究も進んでいる。実はアーシアに回復の神器について協力してもらっていてな。そのお陰でいい結果も出ている」

 

 アザゼルの言葉にアーシアが照れる。

 

 ……それにしても、三大勢力が神器所有者をスカウト、ね。イッセーたちにはスカウトと言ったが、やってることは『禍の団』と同じで捕獲(・・)なんだろう。むしろ神器所有者である人間を本来あるべき形から別の、天使や悪魔に転生させる分、こちらのほうが性質が悪いといえる。だからこそ、アザゼルやベルゼブブは人工神器や回復能力について研究を進めているんだろう。他の種族を巻き込まないように、自分たちで解決できるように。

 

「てなわけでだ。この涙は――オフェンスのグレモリーに2個、サポートのシトリーに1個支給する。数に限りがあるから上手に使ってくれ」

 

『はい!』

 

 アザゼルの指示に皆が返事をする。アザゼルの視線が匙に移った。

 

「匙、おまえは作戦時、グレモリー眷属のほうへ行け」

 

「お、俺っスか?」

 

 匙が自身を指でさしていた。予想外のオファーだったのだろうが、すぐに自分の役目が理解できたようだった。

 

「……龍王、ですか?」

 

「ああ、そうだ。おまえのヴリトラ――龍王形態は使える。あの黒い炎は相手の動きを止め、力まで奪うからな。ロキ戦のようにおまえがグレモリーをサポートしてやってくれ」

 

「そ、それはいいんですけど、あの状態って、意識を失いかけて暴走気味になりやすいんです」

 

「問題ない。ロキのときと同じようにイッセーがおまえの意識を繋ぎとめてくれるんだろう。イッセー、そのときは匙に話しかけてなんとかしろ。――天龍なら、龍王を制御してやれよ」

 

「は、はい!」

 

 イッセーが返事を返す。イリナが手をあげる。

 

「あの、このことは各勢力に伝わっているのですか?」

 

「当然だ。この京都の外には悪魔、堕天使、天使、妖怪の者たちが大勢集結している。奴らが逃げないように包囲網を張った。――ここで仕留められるなら、仕留めておいたほうがいいからだ」

 

 アザゼルの言葉にセラたんが続く。

 

「外の指揮は私に任せてね☆ 悪い子がお外に出ようとしたら各勢力と私が一気にたたみ掛けちゃうんだから♪」

 

 明るく言うセラたん。暴れすぎるなよ、くれぐれも……。

 

「それと駒王学園にいるソーナにも連絡はした。あちらはあちらでできるバックアップをしてくれているようだ」

 

 それは助かるが、ソーナ会長ひとりで大丈夫なのか? あと、リアスたちは……。

 

「先生、うちの部長たちは?」

 

 イッセーの質問にアザゼルは顔を少ししかめた。

 

「ああ、伝えようとしたんだが……タイミングが悪かったらしくてな。現在、あいつらはグレモリー領にいる」

 

「何かあったのか?」

 

 俺の問いにアザゼルはうなずいた。

 

「どうやら、グレモリー領のとある都市部で暴動事件が勃発してな。それの対応に出ているようだ」

 

 暴動ねぇ……。

 

「旧魔王派の一部が起した暴動だ。『禍の団』に直接関与している輩でもないらしい。それでも暴れているらしくてな、あいつらが出て行ったわけだ。一応、将来自分の領土になるであろう場所だからな。――それにグレイフィアが出陣したと報告を受けた。まあ、あのグレイフィアが出たとなると、相手の暴徒共もおしまいだろう。正確かどうかはわからないが、グレモリー現当主の奥方もその場にいるそうだ。――グレモリーの女を怒らせたら大変だろうさ」

 

 アザゼルが若干体を震わせながらそう言った。

 

「まあ、『亜麻髪(あまがみ) 絶 滅 淑 女 (マダム・ザ・エクスティンクト)』、『紅髪(べにがみ)滅殺姫(ルイン・プリンセス)』、『銀髪(ぎんぱつ) 殲 滅 女 王 (クイーン・オブ・ディバウア)』がそろっちゃうのね☆ うふふ、暴徒の人たち、大変なことになっちゃうわね♪」

 

 不吉極まりない2つ名を連呼するセラたん。本当に大変なことになりそうだ。

 

 グレモリーの女性は全員おそろしい2つ名持ち。これはリアスのお父さんもサーゼクスも私生活で奥さんに頭が上がらないはずだ。

 

「……おまえも将来大変だな」

 

 アザゼルが俺の肩に手を置き、うんうんうなずいていた。

 

「うるせえよ、不良天使。それより俺のところのヤツらは、どうしてる?」

 

 留守を預けていた俺の眷属? というか家族だな。

 

「ああ、あいつらならソーナのほうを手伝ってもらってる。さすがにひとりじゃ厳しいからな」

 

「そうか」

 

 さすがにあいつらまで暴徒の対応に行ったら、グレモリー領が焦土と化すかも知れないと心配していたが。バックアップにまわっているのならそんな心配は必要ないだろう。アザゼルが咳払いをして、改めて皆に告げる。

 

「と、俺からの作戦は以上だ。俺も京都の上空から独自に奴らを探す。各員一時間後までにはポジションについてくれ。怪しい者を見たら、ソッコーで相互連絡だ。――くれぐれも死ぬなよ? 修学旅行は帰るまでが修学旅行だ。――京都は俺たちが死守する。いいな?」

 

『はい!』

 

 全員が返事をして、作戦会議は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦う準備はすでに済んでいたので、先に合流地点となっているロビーにやって来ていた。

 

 まだ俺以外誰も来ていないようなので、ロビーの横のテーブル席についていると、ホテルの玄関から疲れた、というか呆れた様子のアザゼルとロスヴァイセがやって来た。

 

「……神城か」

 

「どうかしたのか?」

 

「いや……、まあ、あとでイッセーが来たときに話す」

 

 歯切れが悪いまま、俺の正面の席に腰を下ろしたアザゼル。ロスヴァイセは戦乙女として律儀に、俺が座っている席の後ろに立とうとしていたので、椅子を引いて隣に座らせた。

 

 アザゼルが息を吐きながらつぶやく。

 

「そういや……、神城」

 

「ん?」

 

「この件に方がついたあと、サーゼクスとリアス……まあ、色々交えて話しがある」

 

「話し……か?」

 

「ああ。かなり重大な話だ」

 

 真剣なアザゼルの様子から本当に重大な話をする気なのだろうということが窺えた。俺もしっかりとうなずいておく。

 

「……わかった。心しておくよ」

 

 と、ここでイッセーが戦う準備を終えてロビーにやって来たようだ。アザゼルが席から立ち上がる。

 

「イッセー、こっちに来てくれ」

 

「はい?」

 

 何事かと怪訝に思いながら近づくイッセーに、アザゼルは懐から何かを取り出す。――赤く輝く宝玉みたいなものだった。アザゼルが言う。

 

「さっきな、ホテルの外で痴漢騒ぎがあったんだ。で、俺が偶然居合わせて女の乳をももうとしていた男をとっちめたんだが……そうしたら、体からこれが飛び出してきてな。もしかしたらと思うんだが……」

 

 ……ち、痴漢から宝玉が……? そういや、修学旅行から妙に京都で痴漢が多かったな……。俺の監視という建前で修学旅行に同行した椿姫が痴漢の対応に追われたほどだ。

 

『その宝玉は――』

 

 ドライグがイッセーだけでなく、アザゼルや俺たちにも聞えるように言葉を発した。

 

「どうした、ドライグ」

 

 イッセーが訊くとドライグが言う。

 

『ああ、それは新幹線でおまえのなかから飛び出していった箱の中身だ』

 

 …………。

 

「やっぱりか。宝玉を軽く解析したら、おまえのオーラが検出できたんでな」

 

 アザゼルは予想が当たっていたようでうなずいていた。

 

 アザゼルからイッセーが宝玉を受け取る。

 

 ……おい、ワケがわからないぞ。

 

『うむ。間違いない。俺とおまえの波動を感じるぞ。いや、待て。……なんてことだ』

 

 突然、ドライグは落胆の声音となった。

 

「ど、どうした?」

 

 イッセーが訊くとドライグは低いテンションで衝撃の事実を告げてくれる。

 

『……軽く宝玉の情報を調べてみたのだが……、箱の中身、おまえの可能性は……様々な人間の体を移りながら京都中を旅して回ったようだ。――相手の、ち、乳を触ることで』

 

 ……。

 

「あー、なるほどな。京都の各地で連日起こってた痴漢騒ぎは、おまえの可能性――この宝玉が人間を媒介にして伝わっていたわけか。つまり、男女問わず、乳をもむことで京都中を駆け巡っていたってことだな。この宝玉に触れてしまった者は、誰でもいいから胸が触りたくて仕方なくなったのか」

 

「そ、そんなことが!? ……なんてこった、京都で起こってた痴漢騒ぎは俺の可能性が起していたのか……」

 

 アザゼルの言葉にショックを受けているイッセー。……えーと、赤龍帝の、イッセーの精神世界にあった箱から飛び出したイッセーの可能性とやらが、イッセーの体から飛び出して、ひとりでに京都中を巡って人間に憑依しながら痴漢を働き、それが戻ってきた? ……うん、理解したくはないが、理解した。 

 

「それでドライグ、この宝玉の塩梅はどうなんだ?」

 

『……まだわからん。力が高まっているのは確かなのだが……。し、しかし、この都市にいるいろいろな人間の胸を触って力を高めてくるとは……これでいいのか、おまえの可能性は……』

 

 イッセーの問いにうんざりした声で返すドライグ。

 

「もういっそのこと捨てちまえよ。そんな可能性」

 

 碌なものが生まれそうにない。いっそのこと消せば平和になりそうだ。

 

「言うな! これでも俺の可能性なんだぞ!」

 

 宝玉を両腕で抱きしめて守るイッセー。

 

「……京都の方々に多大な迷惑をかけるなんて……。イッセーくんのせいで痴漢してしまった方々のフォローをあとでしておかないといけませんね」

 

 ロスヴァイセが冷静にそう言う。その通りだ。痴漢の冤罪で捕まっているかもしれない人々の人生がかかっているんだから。

 

「俺がなんとかしておく。しかし、イッセーの可能性が何か特異な力でもかき集めているのか? 乳力と書いて『にゅーパワー』と呼ぶようなものが魔力やドラゴンの力以外にイッセーのなかにあるとか……? イッセーをみているとあり得そうでな」

 

 アザゼルが首をひねりながらそうつぶやいていた。乳力ねぇ。それはいいが――。

 

「イッセー。ドライグは大丈夫か?」

 

「……へ?」

 

 俺に指摘されて左腕に『赤龍帝の籠手』を出現させるイッセー。左腕の宝珠は案の定弱々しい光で点滅していた。ウルトラ○ンのカラー○イマーみたいだ。

 

「ど、ドライグぅぅぅっ!?」

 

『……………』

 

 返事がない。とうとう消滅したか? ストレスで。

 

「い、いまお薬上げるからな! 頑張れドライグぅぅぅっ!」

 

 ポケットから粉薬を取り出して宝珠へ振り掛けるイッセー。宝珠にサラサラサラ~と白い粉を振り掛け、左腕の籠手を右手でやさしくなでながら「おまえは赤龍帝、2天龍のドライグ」だとつぶやいている。ああ、この光景も見慣れてきたなぁ。

 

「まったく、他者を救ったり、他者に迷惑をかけたり、理解不能なことばかりですね、イッセーくんは。……うっぷ、また吐き気が……」

 

 小声でつぶやきながらも口元に手をやり吐き気と戦うロスヴァイセ。また背中を擦ってやる。あー、よしよし。楽にしてあげたいけど酒に特効薬ってないんだよなぁ。

 

 アザゼルがため息を吐きながら言う。

 

「おまえ、大丈夫か? ホテルに帰ってきてから吐きっぱなしなんだろう?」

 

「うう……、す、すみません……。本来なら私がアザゼル先生を止めなければいけなかったのに……」

 

「まあ、最初の一杯を勧めたのは俺だからよ。そんなに気を落とすなよ。って、本当に大丈夫かよ?」

 

「……あ、ありがとうございます。……ちょっと、トイレ行ってきます」

 

 我慢できなくなったのか、トイレへ駆け込むロスヴァイセ。

 

「……ゲロ吐きヴァルキリーか。とりあえず、宝玉は持ち主であるおまえが持っていろよ、イッセー。何が切っ掛けで力が溢れてくるか分からないからな」

 

 アザゼルがイッセーに言う。さて、作戦まであと何分ぐらいだ?

 

 時間を確認していると、イッセーがアザゼルに三国志の曹操はどんな人だったのかと質問していた。

 

「おまえはどういう認識なんだよ?」

 

「……えっと、劉備のライバルで、悪役でしょうか」

 

 イッセーが認識を聞いてアザゼルが苦笑する。

 

「まあ、そのイメージは『三国志演義』の影響だろうな。確かに曹操は虐殺などの悪行を行なった。だが、当時としては画期的な政治をやったのも曹操だ。俺が個人的に1番と思うのは人材の発掘か」

 

「人材?」

 

 首をかしげたイッセーにアザゼルは説明する。

 

「ああ、曹操は才能があればどんな身の上の者でも使った。そのせいか、魏は人材に富んだ国となったよ。皮肉なことに英雄派の曹操もまた人材に目を向けたようだ。あいつはあらゆる才能をかき集めているらしいからな。祖先と違う点もあるが。奴は人間を中心に人材を拉致に等しいやり方で集めている。人材は悪魔でも天使でもなく、あくまで人間。そこに英雄派のこだわり、目的が見え隠れするところだ。そして、目的のためならそいつらを洗脳してまで使い、テロに投入する。禁手使いの増加と魔獣創造のためにやった一連のテロはやり方としては実にえげつないところだ」

 

 人間に拘るか……。人外に恨みでもあるんだろうか? まあ、三大勢力が今までやっていたことを考えれば大体の予想はつくが……。

 

 首をひねるイッセーにアザゼルが訊く。

 

「どうした?」

 

「いえ、人間がどうたらとか、悪魔がどうたらとか、俺らしくないことを少しだけ考えていました。……それと英雄。英雄派の正メンバーは英雄の子孫とかで形成されていて、身体能力が天使や悪魔に引けをとらないんですよね? 『英雄』ってなんですか? あ、意味的なものじゃなくて、存在についてです」

 

「英雄ってのは特別な力、能力を持ち、本来ならばそれを使い、人類にとって大きな功績を残したり、巨悪を倒すことができる存在だ。ヒーローになれる力を持って生まれたといってもいい。まあ、そういうのは神器を持って生まれた者がほとんどだ。稀に、神城のように最初から英雄としての資質や能力をもって生まれる人間がいるがな」

 

「エイジみたいな……」

 

 こちらを見つめてくるイッセー。俺は肩をすくませて言う。

 

「まあ、『英雄』なんてものは所詮幻想のようなものなんだし、そこまで気にしなくてもいいだろうよ」

 

「……幻想、か……。ま、確かにな」

 

「へ? 幻想?」

 

 うなずくアザゼルと首をかしげるイッセー。俺はイッセーに向って説明し始めた。

 

「元々『英雄』ってのは、人々がそいつを『英雄』だと認めるか、認めないかで決まるんだよ。どんなに能力を持っていようと、どんなに優れていようと、認められなければ『英雄』とは称えられない。考えてもみろ、三国志の曹操だって最初から『英雄』だったわけじゃないだろう?」

 

「そういや、そう考えてみると確かに……。劉備とかも最初は人徳がある少し偉い人ぐらいだったもんな」

 

 これにはピンときたようで、イッセーがうなずく。これは通じたか。

 

「つまり『英雄』という存在は、能力があって、なおかつ多くの民衆に認められ、称えられる存在ということだ。――まあ、もっと大雑把に言えば、誰かが誰かを『英雄』と称えれば、そいつは英雄ということになる」

 

「そ、そんなに簡単なのもなのか?」

 

「意外と単純で簡単なものさ。――まあ、さっきアザゼルが言った通り、『特別な力、能力を持ち、本来ならばそれを使い、人類にとって大きな功績を残したり、巨悪を倒すことができる存在』というのも当てはまるだろうが。結局のところ負けてしまえばそこまでの存在だ。そもそも神器が宿ったからといっても、全員が英雄になれるわけではないし、幸せになれるわけでもない。『英雄になれる力を持って生まれた』って、英雄になれないヤツもいるだろうし、なりたくないのに英雄にならされたヤツもでてくる。そして、なかにはその力をふるい、悪者として名を轟かせた者もでてくるだろうよ」

 

 ここで息を吐く。相容れるはずがなかった3大勢力が手を組み、そこら中でテロが横行している。この混沌としている世の中では、人を超える神器を宿した人間はどうしてもまともに生きれないんだろうな。

 

「英雄、か。ヒーロー。人間だった頃、凡人だった俺からしてみればそれだけで羨望の的なんだけどな。英雄との戦い……。まあ、俺は悪魔でドラゴンだから、ヒーローにしてみればいい悪役でしょうね」

 

 イッセーのつぶやきに同意する。

 

「そりゃあ、当然だろうよ。あいつら……というか、『人間』から見れば、俺たちは存在そのものが『悪』なんだからな」

 

「……人間から、か……」

 

 それだけつぶやいて静かに自分の両手を見つめるイッセー。

 

「悪魔になった自分の存在と、英雄――人間という相手の存在にいつて考えていたのか。……ったく。おまえは何になりたい? 何がしたい?」

 

 アザゼルがイッセーに訊く。イッセーは間髪入れずに答えた。

 

「上級悪魔になってハーレム王! というか、眷属や部長のためにがんばります!」

 

「それでいいじゃねぇか。それで突き進め。おまえはそれでいけるだろう?」

 

 噴き出しながらアザゼルが言う。イッセーはハッと気づいたように、表情を明るくした。

 

「あ、それでいいのか。それともうひとつ。――九重のお母さんを助けます!」

 

 ハッキリとそう大声で宣言したイッセーの頭をアザゼルがくしゃくしゃと撫でる。

 

「おまえがそれで良かったよ。しかし、おまえはいいが、アーシアたちは相手が人間だと割り切れない部分もあるだろう。だが、おまえが突き進む限り、あいつらもついてくるはずだ。おまえはおまえのままでいろ。それが眷属の成長に繋がる」

 

「わかりました! 兵藤一誠! 仲間と共に突貫してきます!」

 

 イッセーはアザゼルにそう宣言して、丁度ロビーに下りてきた仲間の元へと走っていった。

 

 ふたり残った席で、俺はアザゼルを睨む。

 

「……アザゼル」

 

「そう睨むなよ」

 

 先ほどイッセーを元気付けていた顔を一変させて嘆息するアザゼル。やっぱり意図的にイッセーの考えを誘導しやがったな。

 

「最初から裏の世界を知っている連中ならともかく、あのバカ(イッセー)やアーシアには、悪魔とか人間とか種族うんぬんを考えさせるにはまだ早いだろう? なにせ悪魔に転生したのはほんの半年前で。それまで裏のことなんてまったく知らなかったんだからよ」

 

「それは……、そうだろうが……」

 

 それを言われると、あまり強く言えなくなる。確かにイッセーは半年ほど前まではただの変態3人組のひとりだった。教会で聖女をしていたアーシアも神器については何も知らず、不思議な力を持っている程度の認識だった。そんな元一般人たちに裏の事情や種族のことを理解しろ、というのも難しい話だ。

 

「まあ、この件が無事に片付いたら、イッセーにもその辺りのことをきちんと説明するさ。……ん? そういや、リアスの奴は説明してなかったのか?」

 

 気づいたようにつぶやくアザゼル。最近、教師役がいたにはまってきたのか「説明は自分が」みたいに思ってきてんのか?

 

 アザゼルの問いに答える。

 

「一応、リアスもイッセーやアーシアを含めて説明していたんだがな。どんどん状況が変わっていくから、頭が追いついていないんだろうよ。なにせ、駒王協定が結ばれるまでは堕天使と天使、エクソシストは危険な存在で天敵だったのに。今ではすっかり協力関係なんだからな。……誰が敵で誰が味方か。悪魔に転生してからゆっくりと生まれる自覚がまるでない状態だ」

 

「そりゃあまた……」

 

 アザゼルが呆れたようにため息を吐いた。俺は席を立ちながら言う。

 

「とにかく。全部はこの戦いが終わったあとだ」

 

「ああ、無理に説明して動けなくなっちまっても困るしな」

 

 アザゼルも同意して席から立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーたちと合流してホテル入り口から出ようとすると、自動ドアの先でシトリー眷属が集まっていた。

 

「匙、くれぐれも気をつけて」

 

「はい、真羅先輩」

 

「元ちゃん、無理しちゃダメよ」

 

「そうよ、元ちゃん。明日はみんなで会長へのお土産買うって約束なんだから」

 

「おう、花戒、草下」

 

「元士郎、テロリストにシトリー眷属の意地を見せてやるのよ?」

 

「わかってるよ、由良」

 

「危なくなったら逃げなさい」

 

「足なら鍛えてるよ、巡」

 

 匙が仲間に激励をもらっているところだった。そういえば夏休みが明けてから眷属同士がいっそう仲良くなったってソーナ会長がうれしそうに話していたな。

 

 なぜか匙を見つめてため息を吐いたイッセー。そんなイッセーの肩に木場が手を置く。

 

「部長不在のいま、仮としても僕たちの『王』はイッセーくんだ」

 

 突然の発言に驚愕するイッセー。

 

「――っ! マ、マジかよ! 俺が『王』!? いいのか、それで!? エイジは!?」

 

「俺は最初から八坂の救出を第一に動くから眷族の指揮から外れてるよ」

 

「そ、そうなのか?」

 

 あー、話してなかったっけかな?

 

「だ、だけど、本当に俺が『王』でいいのか?」

 

 自身を指差しながら訊いてくるイッセーに、木場は怪訝な様子で返す。

 

「何を言ってるんだい。キミは将来部長のもとを離れて『王』になろうとしている。それならこのような場面で眷属に指示を送るのは当然となるんだよ?」

 

「そ、それはそうかもしれないが……」

 

 不安げなイッセーに木場は言う。

 

「昼間の渡月橋での一戦、キミは土壇場の判断とはいえ、僕たちに指示を出していた。それが最善だったか、良案だったかはわからないけれど、僕たちは無事にいまここにいる。だから、僕は少なくとも良い指示だったと思える。――だからこそ、今夜の一戦、僕たちの指示をキミに任せようと思うんだ」

 

 木場の言葉に感動するイッセー。最近、本当に仲がいいよな、こいつら。

 

 横からゼノヴィアも言う。

 

「そうだな。私やイリナ、アーシアは指示を仰いだほうが動ける。昼間のおまえは咄嗟とはいえ、部長の欠けたチームをうまくまとめたと思うぞ」

 

「うんうん。けど、イッセーくんは無茶して飛び出しすぎるのはダメよ?」

 

「そうです。無理は禁物です」

 

「このチームに入って間もない身なので、チームでは先輩のイッセーくんに任せます」

 

 と、イリナとアーシアに続いて、ロスヴァイセも言う。今度は俺の番か?

 

「まあ、将来おまえが『王』になったときに良い経験になるだろうしな」

 

 木場以外の皆からも言葉をかけてもらい感動していたイッセーだが、視線がゼノヴィアの手に持っているものに向けられた。魔術呪文を記して布で何重にも巻いて封印している長い得物。ああ、使うのか。

 

 ゼノヴィアがイッセーの視線に気づき、長い得物を見せる。

 

「ああ、これか。数時間前にやっと私の体に馴染んだんだ。――エイジに改良してもらったデュランダルだよ」

 

「やっと体に馴染んだ?」

 

 疑問符を浮べるイッセーにゼノヴィアは軽く説明する。

 

「元々扱いにくい剣だったんだけど、改良されて能力が格段に上がったことで、さらに扱いにくくなってね。数日かけて私が主だと剣に認めさせた上で、剣の力を体に馴染ませないとまともに使えなかったんだよ。――使えるようになって、いきなり実践投入だが、それも私とデュランダルらしくていいだろう」

 

「大丈夫だとは思うけど。くれぐれも気をつけて使うんだよ、ゼノたん」

 

 燃費向上や性能向上と共に、ゼノヴィアの希望で新たに追加した能力『神殺し』は、そのオーラの制御を間違うだけで相当危ないんだからな。

 

「わりぃ、少し話し込んじまった」

 

 匙が手で謝りながら合流してきた。他のシトリー眷属は「オフェンスお願いします」、「共に明日を迎えましょう」と激励をくれたあと、素早く京都駅のほうへ向っていく。

 

 グレモリー眷属+イリナ、そして匙。これが二条城に向うオフェンス陣だ。

 

「よし、二条城に向おう」

 

 こうして俺たちは一路、曹操が掲示した場所、二条城へ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホテルを出て、京都駅のバス停に赴く。

 

 ここからのバスに乗って二条城まで行く予定だ。一応、皆、冬服の制服姿。ゼノヴィアやイリナは例の教会特製の戦闘服を下に着ているそうだ。いざとなったら、制服を脱いで動きやすくするらしい。

 

「うっぷ……」

 

 ロスヴァイセが口を手で押さえて時おり襲ってくる吐き気と戦っていた。いまだ体調は優れないようだ。どれだけ酒を飲ませたんだよ……?

 

 ――と、バス停でバスを待っているときだった。後ろから服を掴まれる。

 

「エイジ! 私も行きたい!」

 

 金髪の巫女装束幼女――九重だった。なんでここに? 妖怪のいる裏京都で待機してるはずじゃ?

 

「……九重」

 

 振り返って視線を合わせるためにしゃがむ。九重は俺の目を正面から見返し、

 

「私も母上を救う!」

 

 と、言った。

 

「危ないから待機しているよう、俺や皆も言わなかったか?」

 

「言われた。じゃが! 母上は私が……私が救いたいのじゃ! 頼む! 私も連れて行ってくれ! お願いじゃ!」

 

 必死に頭を下げる九重。

 

 ……あ~……。

 

「――修行は、続けていたか?」

 

「――っ! うむ、バッチリじゃ!」

 

 俺の問いの意味に気づき、九重は元気よくうなずいた。それなら、連れて行こう。危険な場所だけど……。俺が渡したお守りも首から下げているようだし。何よりも九重の母親を救いたいという気持ちを尊重してやりたい。心配だけど……。

 

「じゃあ、行くか」

 

「うむっ!」

 

 立ち上がり、九重と手を繋いだときだった。

 

 ――俺たちの足元に薄い霧が立ち込めてくる。

 

 同時にぬるりとした生暖かい感触が全身を襲った。

 

 ……昼間の『絶霧』での転送か。

 

 皆も現象を把握したときには、霧は俺たちの全身を覆っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧が晴れたあと、周囲を確認してみると、近くに金閣寺が見えた。

 

「……金閣寺?」

 

 俺の隣に立っている九重がつぶやいた。どうやら、手を繋いでいたからか俺と一緒に転移させられたらしい。

 

「ああ、どうやら、昼間と同じく『絶霧』で転移させられたみたいだな。俺たち以外に人気もないみたいだな」

 

 ざっと辺りの気配も探ってみるが、やっぱり誰もいない。

 

「じゃ、じゃあ、ここも別の空間に創られた擬似京都なのか? きゃつらの持つ技術は凄まじいのぅ」

 

「まあ、あいつらはどの勢力からも技術を盗み放題だからな。大方、テロをするついでに色々と技術のほうも盗んでいったんだろう」

 

 合理的に動く連中みたいだし、使える技術ならなんでも取り込んで使うだろうよ。

 

「――と、さっそくお出ましみたいだな」

 

 ほとんど前触れもなく、俺と九重の周辺の地面に無数の魔法陣が出現し始める。魔法陣のタイプは転移用。それも魔力をあまり消費しない、簡単なものだ。

 

 輝く魔法陣からモンスターが出現する。

 

 モンスターの出現に九重が身構える。狐耳と尻尾を出して、いつでも攻撃できるよう両手に炎を灯した。

 

「こいつらは昼間の――!」

 

「『魔獣創造』で創りだした、アンチモンスターか」

 

 俺も制服から冥界などで使用する衣装に着替えて構える。当然ながら、制服よりもこちらのほうが防御力が高いからな。

 

 アンチモンスターは転移魔法陣から出現し続ける。もう100匹は軽く越えてる。

 

「九重、大丈夫か?」

 

 俺が訊くと、九重は敵を見据えたままうなずいた。

 

「実戦は初めてじゃが。修行はきちんと続けておった。エイジのお守りも持っておるから、死にはせぬ。……奥の手もあるしの。エイジは私を気にせずに敵の殲滅に力を注ぐのじゃ」

 

「……わかった。危なくなったら、すぐに呼ぶんだぞ?」

 

「うむっ!」

 

 俺は九重を右腕で抱き、『千の顔を持つ英雄』を発動させる! 手元に出現させたのは巨大な手裏剣(しゅりけん)だ。中央にある穴に左手を入れて持つ。

 

 体ごとねじるように手裏剣を持った左腕を引いて――。

 

「――まずは開戦の一撃だ!」

 

 正面のアンチモンスターたちに向って投擲する! 高速で回転する手裏剣は正面にいたアンチモンスターの胴体を真っ二つにしながら飛んでいった。っと、そろそろか。

 

 くいっと手裏剣を投擲した腕を手前に引く! すると、手裏剣は回転の速度を維持したまま、その場で停止した。

 

 回転しつつその場で停止している手裏剣。よく目を凝らしてみれば、投擲した俺の腕と手裏剣を繋いでいるワイヤーの存在に気づくだろうが。ここにいるのは知能の低い、というか知能があるのかわからないモンスター。避けることも考えず、突っ立ったまま、その場から逃げずに攻撃に移ろうとしている。

 

 俺はワイヤーを持った腕を横へと薙ぐ! 手裏剣に遠心力が加わり、俺と九重を中心に手裏剣が1回転する!

 

 ズババババババッ……!

 

 周囲を360度囲んでいた無数のアンチモンスターたちが手裏剣と俺の腕を繋ぐワイヤーによって真っ二つになっていく!

 

 1回転し終えたところで役目を終えた手裏剣を消すと――。

 

 手裏剣から俺たちの間にいた、俺たちの周囲を囲んでいたアンチモンスターたちはただの肉片と化していた。

 

「せ、殲滅せよとは言ったが……。少々かわいそうじゃのぅ……」

 

 先ほどまで元気よく気味の悪い鳴き声を発していたアンチモンスターたちのあまりの惨状を見て九重も引いていた。一瞬で築かれた肉片の山に……俺も、そう思う。

 

 一方、敵のほうはやはりというか、一瞬で仲間たちが肉片に変えられても気にした様子はない。攻撃の範囲外にいた連中は口を大きく開かせて、すでに光線を放つ体勢に移っていた。

 

「飛ぶぞ、九重!」

 

「うむ!」

 

 バッと飛び上がり空中へと逃げる。

 

 ビィィィィッ!

 

 先ほどまで俺たちが立っていた地点を光線が襲った――が、目標となっていた俺たちは空中にいる。光線はそのまま対角線上にいた仲間のモンスターに命中した。

 

「ギャギィ!」

 

「ギャギャッ!」

 

 お互いの光線が命中し合い、ダメージを受けてうめき声を上げるモンスター。運悪く頭を吹き飛ばされたり、体の大部分に光線が命中したモンスターは消滅したようだ。

 

「おいおい、まだまだ出てくるのかよ?」

 

 転移魔法陣が再び地面に発生し、消滅したアンチモンスターの穴を埋めるように、新たなアンチモンスターが出現した。

 

 九重が地面を覆うモンスターたちを見つめて顔を青くした。

 

「うえええ、気持ち悪いのじゃ……」

 

「……確かに。まるでゴキブリみたいだな」

 

 黒いし、蠢いてるし、奇声まで発して考え無しに光線を撃って、倒してもあとから無尽蔵に出現してくる。まんま、害虫だな。

 

 アンチモンスターたちの顔が空中で制止している俺たちに向けられる。攻撃目標を確認したモンスターたちは機械的に口を開いていき――。

 

「エイジ! ここは私に任せるのじゃ!」

 

 そう言って九重が俺の前に出る。少しだけ高度を落として、体勢を地面と水平になるようもっていく。両手を地面にいるアンチモンスターたちへ突きだして、灯したままだった炎で大きな輪を創りだした。……炎の輪?

 

 ビィィィ――、

 

 地面を覆うように蠢いている無数のアンチモンスターたちから、これまた無数の光線が放たれた!

 

 俺たちへ向って一直線に飛んでくる光線! しかしそれらは全て俺たちに到達する前に、九重が創りだした巨大な炎の輪のなかに吸い込まれるように消えていく!

 

 ――ィィィ……。

 

 光線を放出し続ける限界を迎えたのか。光線はどんどん細くなっていき、完全に放出が終わった。

 

 九重は光線の放出が終わったのを確認して叫ぶ!

 

「これは全て返すのじゃ!」

 

 九重の叫びに応えるように炎の輪の内側から無数の光線が放たれる! 光の光線! アンチモンスターが放った光線だ。

 

 光線がアンチモンスターたちへ向って雨のように降り注ぐ! 光線の雨を受けてアンチモンスターたちは断末魔をあげながら大量に消滅していった。

 

 炎の輪から光線を放出し終え、息を吐く九重。

 

「ふううう……、結構ギリギリじゃったのじゃ」

 

 そうつぶやいて体勢を戻す九重。俺は消えていく炎の輪を観察する。

 

「空間術……。いつの間に」

 

 炎の輪の内部の空間を異空間に繋げて光線を吸い込み、そのあとカウンターでそのまま光線を放つ術。空間術でも高位に属する術だ。本当に、いつの間に覚えたんだ?

 

「無論黒猫からじゃ。元々私は空間というか『場』を操る術に長けておったようでな。今となっては黒猫よりも空間術が使えるじゃろう」

 

 九重は自慢するように胸を張る。黒猫っていうと黒歌からか。そういえば、母親の八坂も『場』を操る能力に長けていたな。

 

 ブブブブ……。

 

 衣装の懐に入れている通信札が震えた。懐から札を取り出す。

 

『エイジ。……エイジ、聞えるか?』

 

 通信の相手はゼノヴィアだった。

 

「ああ、聞えてるよ。今は九重と一緒に昼間と似た擬似フィールドにいる。場所は金閣寺の近くだ。――ゼノたんたちは?」

 

『よかった、通じたか。私も、というかバス停にいた全員が擬似フィールドにバラバラに飛ばされたみたいだよ。私はアーシアとイリナの2人と一緒に飛ばされた。今は3人で二条城へ向かっているよ。他の眷属の皆も二条城を合流ポイントに集結する予定だよ』

 

「……そうか、わかったよ。ありがとう。俺たちも二条城に向かうよ」

 

 ゼノヴィアとの連絡を終える。

 

「九重」

 

「うむっ、二条城で合流じゃな! ……じゃ、じゃが……」

 

 九重が言葉を不安げに濁す。まあ、さっきも大量に屠ったはずのアンチモンスターがまた大量に出現したらな。

 

 俺は再び『千の顔を持つ英雄』を発動させる。出現させた武器は全長3メートル近くある両刃の大剣だ。

 

「二条城に向かうにしても、ここでこいつらの数を減らしておかないとあとが面倒だ」

 

 新たに出現してきたモンスターたち。数は100を越えている。それにしてもほとんどノータイムで無尽蔵に転送されてくる。おそらく俺たちをこのフィールドへ転送させる前にモンスターを創り貯めしておいたんだろう。……目的は足止めと消耗、ついでにデータ収集といったところか。

 

「私も戦うぞ! 黒猫から格闘術も学んでおる!」

 

 そう意気込んで両手両足に炎を付加する九重だが――。

 

「ダメだ。格闘で1匹1匹倒していては時間がかかりすぎるし、敵陣に九重が紛れることがあったら、一度に大量に屠れなくなる」

 

「――っ」

 

 俺の言葉にショックを受ける九重だが。この場で悠長に戦っているわけにはいかない。こうしている間にも八坂が実験に使用されるかわからないんだ。

 

 俺は九重の頭を片手でひと撫でして言う。

 

「まあ、ここは俺に任せてくれ。九重には二条城で働いてもらうから」

 

「……うむ。じゃが、これぐらいはさせてくれ」

 

 そうつぶやいて九重は俺が持つ大剣に炎を付加した。

 

「『千の顔を持つ英雄』は燃費がよいが創りだす武具に特殊効果を付けられぬからな。これで少しは攻撃力が上がったはずじゃ」

 

「属性付加までできるようになっていたのか」

 

「私も成長しているということじゃ」

 

 少し驚きながら言うと、九重は頬を少し赤らめて返した。

 

 空中でのやり取りの間に、またアンチモンスターが攻撃に移ろうとしていた。

 

「じゃあ、俺は地上に降りて殲滅してくる。九重は……」

 

「このまま空中で囮役にでもなっておく。お、お守りもあるから心配しなくてよいぞ!」

 

 そう言って首に下げたお守りを握りしめる九重。正直、それでも心配だけど……。

 

「行ってくる」

 

「うむ!」

 

 九重を信じ、俺は大剣を構えて地面で蠢くアンチモンスターたちに向っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次々に出現し続けるアンチモンスターをあらかた掃討し、転送されるモンスターの数も減ってきたところを見計らって、俺は九重を抱えて二条城へと向った。

 

 途中襲い掛かってきたアンチモンスターを蹴散らしながら、二条城の東大手門へとたどり着いた。

 

「俺たちが最後みたいだな」

 

 二条城のまえにはすでに他のメンバーが集まっていた。抱えていた九重を下ろして皆と合流する。

 

 最初にこちらに気づいたイッセーが声をかけてくる。すでに禁手化して赤龍帝の鎧姿か。

 

「おっ。エイジと九重も着たな」

 

「悪い。少し手間取った」

 

 そう皆に対しても謝っていると――、

 

「おげぇぇぇ……」

 

 近くの電柱で吐いているヴァルキリーの鎧に身を包んでいるロスヴァイセを発見した。匙はそんなロスヴァイセを気遣いながら背中をさすっている。

 

 イッセーが何とも言えない表情で言う。

 

「俺もさっき木場から聞いたんだけど。なんでもロスヴァイセさん、刺客との戦闘で激しく動き回ったそうで、たまらなくなったんだと……」

 

「……そうか。まあ、動き回ればな」

 

 それにしても今日は厄日だな、ロスヴァイセ。今日1日だけで好感度というか年上&教師としての威厳が下がりまくってるだろう。

 

 と、改めて戦闘準備を整えながらここで軽く、転移させられてからの情報交換を行なう。

 

 その情報交換でわかったことは、まずフィールドが二条城を中心に形成されていて広大だということ。俺と九重以外のところには、それぞれ神器使いの刺客が送り込まれたということだ。

 

 イッセーも影を使う神器使いの刺客と戦い、木場も神器使いの刺客を送られたらしい。他にも戦闘服姿に着替えてるゼノヴィアやイリナと、皆少し服が破けたりしていたが、目立った怪我はなさそうだ。

 

 教会トリオからの報告を訊くと、敵が神器の能力を使用する前にイリナが『封印の剣』でその能力を封印して、刺客が戸惑っている間に『音速の剣』に変化させて一方的に仕留めたらしい。……神器使いなのに、その神器を封印されたら丸腰にされたのと同じだからな。禁手化以前に神器が使用不可能になった刺客の絶望した顔が浮んでしまう。

 

 ……それにしても、神器使いの刺客を送られずに、アンチモンスターだけを大量に送り込まれ続けたのは俺たちのところだけか。んー、誰を送り込んでもモンスターたちと一緒に殲滅されると予想していたから、神器使いを使わなかったのか? まあ、『魔獣創造』で無尽蔵に創りだせるモンスターより、神器使いのほうが貴重だからな。最初から負けると予想していれば、足止めや消耗させるには代えのきくモンスターを送るだろう。

 

 いちおう、フェニックスの涙は使用される状況になっておらず、イッセーと木場がそれぞれひとつずつ持っている。

 

 今のところは順調だといっていいだろう。

 

 ゴゴゴゴゴゴ……。

 

 情報交換もひと段落したところだった。鈍い音を立てながら巨大な門が開き始めた。

 

 完全に開け放たれた門。まるで入って来いと言わんばかりだ。門を見て、木場が苦笑した。

 

「あちらもお待ちしていたようだよ。演出が行き届いている」

 

「まったくだ。舐めんな」

 

 木場が皮肉を言い、イッセーが息を吐く。

 

 全員、確認しあうと二条城の敷地へと歩を進めていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 二条城を中心とした広大な仮想フィールドへとバラバラに転送された俺たちは、それぞれ送り込まれた刺客を倒して二条城で合流し、今は二条城の敷地内を進んでいるところだ。

 

「僕が倒した刺客は本丸御殿で曹操が待っていると倒れる間際に言っていたよ」

 

 木場が走りながらそう言う。

 

 2つの丸庭園を抜け、本丸御殿を囲む水堀が見えてくる。本丸御殿に続く『 櫓門 (やぐらもん)』という門を潜った。

 

 たどり着いたのは――古い日本家屋が建ち並ぶ場所だった。キレイに整備された庭園も見える。

 

 英雄派の気配を探る俺たちに声が投げかけられる。

 

「禁手使いの刺客を倒したか。俺たちのなかで下位から中堅の使い手でも、禁手使いには変わりない。それでも倒してしまうキミたちはまさに驚異的だ」

 

 庭園に曹操の姿を捉える。……建物のあちらこちらの陰から構成員が姿を現した。全員、変わらずの制服姿だ。

 

「母上!」

 

 九重が叫んだ。九重の視線の先に――着物姿のキレイな女性が佇んでいた。頭部に狐の耳、複数の尻尾が見える。この御仁が九尾の御大将か。

 

「母上! 九重です! お目覚めくだされ!」

 

 九重が駆け寄って声をかけても御大将――八坂さんは反応しない。瞳も陰り、無表情だった。

 

 九重が曹操たちを睨みつける。

 

「おのれ、貴様ら! 母上に何をした!」

 

「言ったでしょう? 少しばかり我々の実験に協力してもらうだけですよ、小さな姫君」

 

 曹操はそう言うと、槍の石突きで地面をトンッと叩く。刹那――。

 

「う……うぅぅ、うああああっ!」

 

 八坂さんが悲鳴をあげはじめ、様子が激変していく! 体が光り輝き、その姿を徐々に変貌させていった! どんどんデカくなっていって、9つの尻尾も膨れ上がっていく!

 

 オオォォォォンッ!

 

 夜空に向って咆哮をあげる巨大な金色の獣――。俺たちの眼前に現れたのは、でっかい狐の怪物だった!

 

 デカい! フェンリルと同じぐらいあるんじゃないか!? 9つの尻尾の分、フェンリルよりも大きく見える。

 

 ブウォンッ!

 

 と、誰もが狐の怪物に見入っているなか、俺たちよりも前に歩み出たエイジが胸の前に小さな波紋を出現させた!

 

 エイジが胸の前に出現している小さな波紋に左腕を突っ込んで引き抜く。引き抜いたエイジの左腕には黒い籠手が装着されていた。

 

 続いてエイジは右腕も波紋に突っ込んで引き抜く。引き抜いた右腕いは先ほどとは対照的な白い籠手が装着された。どちらも龍の頭が付けらている籠手だった。

 

「王の財宝……」

 

 エイジがつぶやくと波紋が広がり、身の丈の半分ぐらいはある大きな盾を出現させた。盾を左腕で取ると、続いて剣の柄が波紋から出現し、エイジは右腕で柄を掴んで引き抜いた。

 

 籠手に続いて、大きな盾と、両刃の長剣を装備したエイジ。

 

 おいおいおい! いつもよりものすごい重装備じゃないかよ!? しかも全部『王の財宝』から出した武器だ! あのなかのものって、神滅具にも負けないトンでもない効果をもったものばかりだったよな? それを4つも装備って。……それだけ怒っているということなのか?

 

 エイジは長剣の切っ先を曹操に向ける! 五角形の盾を構えて突き出した部分を地面に触れさせ――。

 

 リィン。

 

 瞬間、鈴のようなキレイな音色が脳内に響き渡った。

 

 ……。

 

 ……了解。了解したぜ。へへっ、さすがだぜ、エイジ。『王の財宝』から4つも武器を出したのはそういうことだったのか。

 

 俺は曹操に向って問い詰める。

 

「曹操! こんな擬似京都まで作って、九尾の御大将まで操って、何をしようとしている!?」

 

 曹操はエイジを警戒しつつも、槍の柄を肩にトントンとしながら答え始めた。

 

 なんでも術式発生装置らしい京都の都市の力と九尾の力を使って儀式を行い、グレードレッドを呼び出すらしい。

 

「グレードレッド? あのでっかいドラゴンを呼んでどうするつもりだ? あいつ、次元の狭間を泳ぐのが好きで実害はないんだろう?」

 

 少なくともアザゼル先生からはそう説明されている。

 

「ああ、あれは基本的に無害なドラゴンだ。――だが、俺たちのボスにとっては邪魔な存在らしい。故郷に帰りたいのに困っているそうだ」

 

 ――オーフィスか。

 

 俺の脳裏にある少女姿のオーフィスが思い出される。テロリスト共のボス。三大勢力から見たらラスボス的な存在だよな。……俺のなかのイメージではエイジに求愛する無表情少女だが。

 

「……それでグレードレッドを呼び寄せて殺すのか?」

 

 俺の問いに曹操は首をひねる。もうそろそろか……。

 

「いや、さすがにそれはどうかな。とりあえず、捕らえることができてから考えようと思っているだけさ。いまだ生態が不明なことだらけだ。調査するだけでも大きな収穫を得ると思わないか? たとえば『龍喰者』がどれぐらいの影響をあの赤龍神帝に及ぼすのかどうか、とか。まあ、どちらにしろ、ひとつの実験だ。強大なものを呼べるかどうかのね」

 

 ……ドラゴンイーター?

 

 初めて聞く単語に俺は訝しくなるが、どうせろくでもない代物だろうさ。

 

「……よくわからねぇ。よくわからねぇが、おまえらがあのデカいドラゴンを捕らえたら、ろくでもないことになりそうなのは確かだな。それに九尾の御大将も返してもらう」

 

 俺がそう言うと、ゼノヴィアが剣を曹操に向ける。

 

 ――布に包まれたままのデュランダル。ゼノヴィアが体に青いオーラを灯すと布がはじけ飛び、姿を現した。

 

 鞘がなかったデュランダルだが、今は黄金の文字がところどころに描かれた白銀の鞘に収められている。

 

 もう一度ゼノヴィアがデュランダルへオーラを流すと、鞘が音もなく各部位にスライドしていき、変形していった。

 

 これが新しいデュランダルか。前みたいに攻撃的なオーラは感じないが……。鞘だったものが力を全部刀身に押さえ込んでいるからなんだろう。軽く探ってみると、底知れない力をデュランダルから感じた。鞘も含めて新しいデュランダルということか。

 

「イッセーの言う通りだ。貴様たちが何をしようとしているのかは底まで見えない。だが、貴様の思想は私たちや私たちの周囲に危険を及ぼす。――ここで屠るのが適任だ」

 

 ゼノヴィアの宣戦布告に木場がうなずく。

 

「意見としてはゼノヴィアに同意だね」

 

「同じく!」

 

 イリナも応じてTCMを構えた。今回の剣も速度重視の『音速の剣』だ。

 

「グレモリー眷属に関わると死線ばかりだな……」

 

 嘆息しながら匙が言う。ゴメンね、匙。うちはこういうことばかりだから……。

 

「ま、学園の皆とダチのためか――」

 

 その匙の腕、足、肩に黒い蛇が複数に出現し、奴の体を這いだした。全身に黒い蛇をまとわせていく。さらに匙の足元から黒い大蛇が出現し始めた。

 

 大蛇は匙の傍らに位置すると黒い炎を全身から迸らせて、とぐろを巻く。匙の左眼だけ赤くなり、蛇の目のようになっていった。

 

 信じられないほどのプレッシャー! 先生、匙のこと強化しすぎでしょ!? こ、こいつ、通常形態でも冥界で戦ったときと比べ物にならないほどパワーアップしてんぞ!

 

「……ヴリトラ、悪いが力を貸してくれ。兵藤がフォローしてくれるそうだからよ、今日は暴れられそうだぜ?」

 

 そうつぶやく匙の周囲にも黒い炎が巻き起こっていた。

 

 大蛇が低い音声でしゃべりだす!

 

『我が分身よ。獲物はどれだ? あの聖槍か? それとも狐か? どちらでもよいぞ。我は久方ぶりの現世で心地よいのだよ。どうせなら、眼前の者どもをすべて我が黒き炎で燃やし尽くすのもよかろうて』

 

 おおう、怖いこと言ってんな、あの炎の龍。つーか、喋れるほど意識が復活してんだな。あれが龍王の一角か。タンニーンのおっさんとは違う重圧だ。こっちは不気味で怖いや。

 

 ブウォォォオオンッ!

 

 突然、ゼノヴィアが天高く掲げるデュランダルが力を解放させた! とんでもない破壊のオーラが噴出し、ぶっというえに10メートルはゆうにあろうかというほど巨大なオーラの刃を創り出していた!

 

 長ぇえええっ! ぶってぇぇえええっ! でっけぇぇえええっ!

 

 しかも巨大なオーラを放出続けるだけでなく、きちんと剣を形を形成して留まらせている。絶大なパワーを完全に掌握しているようだ。

 

 つーか、タイミングが早い気がするんだけど! まだ匙の奴は『龍王変化』してないよ!?

 

「――初手だ。食らっておけッ!」

 

 ゼノヴィアは俺の心の叫びなぞ吹っ飛ばすように10メートル以上ある、オーラで形成した巨大な剣を――英雄派のほうへ一気に振り下ろした!

 

 巨木が横倒しになるように新デュランダルの一撃が曹操たちのほうに放たれていく!

 

 ザッバァァアアアアッ!

 

 ゼノヴィアが振り下ろした一撃は本丸御殿の家屋を丸ごと吹き飛ばす。剣に込められたオーラの波動が大波となって、建物、公共物、風景を飲み込んでいった!

 

 地は真っ二つに裂かれ、その衝撃で生まれた震動に俺たちは足を取られて、その場に膝をつくしかなかった!

 

 攻撃が終わったあと、眼前には――ことごとく消滅し、膨大なオーラの一撃は二条城の堀を越えて、城外の建物や道路まで跡形もなくぶっ壊していた!

 

 ……バカげてる! とんでもない攻撃力じゃないか!

 

「ふー」

 

 ゼノヴィアが肩で息をして、額の汗を手で拭っていた。デュランダルは変形した状態のままだが、オーラは消えている。

 

 ふー、じゃなぞ! 一仕事終えたみたいな顔しやがって! いきなりオーバーキルめいた攻撃をかますんじゃない!

 

「おい、ゼノヴィア! 一発目から飛ばしすぎだろ!」

 

いくら敵の目をくらませる一撃を放つように言われていても、あれはやりすぎだろ! 俺が興奮気味に言うが、ゼノヴィアは手でVサインを作りながら返した。

 

「開幕の一発は必要だ」

 

「ロキのときもいきなりだったよね!? おいおいおい……」

 

 こいつには何を言っても無駄か!

 

「これでも極力威力を調整したほうなんだ。ほら、私自身にはあの術を使っていないだろう?」

 

 た、確かに……。あのロキを圧倒していた魔力をまとい続ける術を使用していない。

 

 ゼノヴィアは新デュランダルをコツコツ叩く。

 

「この新しいデュランダルは数段強化されて新しい能力を加えた分、かなり制御が難しくなってね。実はこの鞘はデュランダルの力を制御する拘束具でもあるんだよ」

 

 つまり鞘を変形させて刀身と同化させてるのは制御するためってことか……。と、とにかく、とんでもなく危ない武器だということはわかった。

 

 ゼノヴィアは剣をかざしながらつぶやく。

 

「だから、銘は『デュランダル』のまま。もっとも、その前には『聖剣』ではなく。別の称号がつくがね」

 

 あくまでデュランダル、か。それに『聖剣』デュランダルじゃなく、別の称号が付くってやっぱりアレだよな? 龍殺し以上に危険極まりない、とんでもない称号。

 

「ま、初手で倒せるほどだったら苦労もないな」

 

 ゼノヴィアの視線が前を捉えている。

 

 ……そういうことだよな。俺も今の一撃で奴らがやられてくれるほど、甘いなんて思っちゃいなかったさ。

 

 ゴッ!

 

 何もなくなった建造物跡――地面から腕が突き出てくると、一気に土が盛り上がり下から複数の英雄派メンバーが現れる。彼らを薄い霧が覆っていた。

 

 全員、見た目は汚れているが――無傷っぽいな。あの霧がデュランダルのオーラを防いだのか?

 

 最初に地面から腕を突き出した2メートルはあろうかという巨躯の男が首をコキコキと鳴らし、後方で曹操が槍で肩をトントンとやっていた。あの一撃で平気か。そのぐらいじゃないと各勢力に対してテロなんてしようないよな……。

 

 曹操があごに手をやりながら笑む。

 

「いやー、いいね♪」

 

 本気で楽しそうな一言だった。

 

「キミたち、もう上級悪魔の中堅――いや、トップクラスの上級悪魔の眷属悪魔と比べて遜色がない。魔王の妹君は本当に良い眷属を持った。レーティングゲームに本格参戦すれば短期間で2桁台――10年以内にトップランカー入りかな? どちらにしても、末恐ろしい。シャルバ・ベルゼブブはよくこんな連中をバカにしたものだね。ああ、だから死んだのか」

 

 曹操の言葉にジークフリートが苦笑する。

 

「古い尊厳にこだわりすぎて、下から来る者が見えなかった、といったところでしょ。だから、ヴァーリにも見放され、旧魔王派は完全瓦解したわけさ。――さて、どうするの? 僕、いまの食らってテンションがおかしくなってるんだけど?」

 

「そうだな。とりあえず……」

 

「――へへっ」

 

 ――思わず笑い声を漏らしてしまう。

 

「? どうかしたかい、赤龍帝?」

 

 曹操が槍で肩をトントンとやりながら訊ねてくる。俺は構えをとりながら言う。

 

「いや……こっちの作戦に見事にハマってくれたみたいで、な」

 

「……作戦だと?」

 

 槍でのトントンを止めて怪訝な顔を浮べた瞬間――。

 

「曹操ッ! 九尾だ!」

 

 制服にローブを羽織った魔法使い風の青年から声が飛んだ! 曹操が怪物と化した九尾のほうへ顔を向けると――。

 

 白と黒の籠手から出現させている巨大な手で九尾を拘束しようとしているエイジの姿があった。その背中にはしがみついている九重の姿もあった。

 

「神城エイジ……ッ!」

 

 怒りを含ませた声音でつぶやいた曹操。こちらに目をやってつぶやく。

 

「幻影……。いや、変わり身と入れ替わったのか」

 

 曹操が言っているのは、俺たちのそばに代わらず剣と盾を装備して立っている、もうひとりのエイジと九重のことだろう。

 

 俺が説明するように言う。ハハハ、やっと説明する側になれたな。

 

「さっきのゼノヴィアの一撃はエイジたちが分身と入れ替わるためのものだったのさ。会話を長引かせていたのも、分身を創りだすまでの時間稼ぎだ」

 

「いつの間にこんな作戦を……」

 

「エイジが出した盾さ。あれには味方全員に作戦を伝える効果があるらしくてな。ちなみに剣のほうは囮だよ」

 

 盾を地面に触れさせたときに聞えた音色は俺たちに作戦を伝達させるものだったんだよな。いきなり作戦が流れ込んできたから驚いたけど、成功したみたいでよかったぜ。役目を終えた分身たちは光になって消えていく。

 

「俺たちはまんまと術中に嵌ったわけか。――だが、こちらも九尾を奪われないように対策ぐらい講じていたさ」

 

 余裕を崩さずに言う曹操。九尾とエイジたちを見ると――。

 

 籠手から出現させたエイジの巨大な手が、九尾に触れるのを防いでいる霧が。

 

「『絶霧』ッ!」

 

 クソッ! ゼノヴィアの一撃を防いだときみたいに『霧』で守ってるのか!

 

「さてと、それではいまのうちに九尾の狐にパワースポットの力を注ぎ、グレードレッドを呼び出す準備に取り掛かるとしよう。――ゲオルグ!」

 

「……すまないが曹操、それは無理のようだ」

 

 曹操に一言にローブを羽織った魔法使い風の青年――ゲオルグとやらが答える。へ!? む、無理?

 

 と、巨大な手を阻んでいた霧が霧散した! 巨大な2つの手が九尾を捕らえる!

 

 オオォォォンッ!

 

 咆哮をあげる九尾だけど、しっかりとエイジが押さえ込んでいる。よっしゃああッ! 九尾の捕獲成功だ!

 

「……ゲオルグ?」

 

「そう睨まないでくれ。仕方がないだろう。あのままでは『絶霧』を解析されそうだった。……どちらにしろ、アレが奪われるのは時間の問題だったことだし。こんな実験で『絶霧』を解析されるほうが困るだろう?」

 

「ちっ……。グレードレッドを呼んでみたかったんだがな」

 

 曹操は心底残念そうにつぶやく。こっちは呼ばれちゃ困るんだよ!

 

「さーて、どうしたものか」

 

 曹操は俺たちに向き直る。

 

「九尾を使った作戦は早々に淘汰してしまったようだし。『魔獣創造』のレイナルドと他の構成員は外の連合軍とやりあっている。彼らがどれだけ時間を稼げるかわからないところもある。外には堕天使の総督、魔王レヴィアタンがいるうえ、セラフのメンバーが来るという情報もあった。……うーむ、どうしたものか」

 

 そうはつぶやくものの、曹操の余裕は消えない。何を考えてやがる!?

 

 曹操は考え込む素振りを見せたあと、ニヤリと笑んで言う。

 

「このまま引き下がる――と、いうのもバカな話だしな。あいつが九尾の狐の対応に追われている間に、グレモリー眷属たちの力を見ておくのもいいだろう。――ジャンヌ、ヘラクレス」

 

「はいはい」

 

「おう!」

 

 曹操の呼び声に細い刀身の剣を持った金髪で異国のお姉ちゃんと、先ほどの巨体の男が前に出た。

 

「彼らは英雄ジャンヌ・ダルクとヘラクレスの意思――魂を引き継いだ者たちだ。ゲオルグ、ジークフリート、おまえたちはどれとやる?」

 

 曹操の問いにジークフリートは抜き放った剣の切っ先を――ゼノヴィアに向けた。

 

 それを見てジャンヌと呼ばれたお姉ちゃんとヘラクレスと呼ばれた巨体の男が顔を笑ませた。

 

「じゃあ、私は天使ちゃんにしようかな。かわいい顔してるし」

 

「俺はそっちの銀髪の姉ちゃんだな。随分、気持ち悪そうだけどよ!」

 

 それぞれが視線を交わした。……ゼノヴィアがジークフリート、イリナがジャンヌ、ロスヴァイセさんがヘラクレス……。

 

「んじゃ、俺は赤龍帝っと。ゲオルグは聖魔剣とヴリトラくん、どっちがいい?」

 

 曹操がゲオルグに訊ねながら木場と匙に視線を送る。木場が聖魔剣を構え、匙の炎が勢いを増す。俺は匙を手で制した。

 

「……匙、おまえはエイジと九尾の御大将だろ。なんとか、あそこから解放してやってくれ」

 

「俺は怪獣対決、か。まあ、神城がいる分気持ちが楽だな。……了解した。兵藤、死ぬなよ」

 

「死ぬかよ、そっちも気張れ」

 

「これでもここに来る前、『女王』にいちおうプロモーションしてたんだからさ。最初から気合は十分だッ!」

 

 そのやり取りを得て、匙の体が黒い炎に大きく包まれた。しだいに炎は広がり、巨大に膨れ上がっていく。

 

「――『 龍 王 変 化 (ヴリトラ・プロモーション)』」

 

 炎がいっそう盛り上がる! 漆黒の炎は形をなしていき、体の長細い東洋タイプのドラゴンへと変貌していった。

 

 ジャァァアアアアッ!

 

 巨大な黒いドラゴンが鳴く――。九尾の御大将と真っ正面から対峙する。無事、匙が龍王へと変化した。黒い炎が押さえつけられている九尾を囲み、どんよりとした薄暗いオーラを放ち始める。異質な能力が多いというヴリトラ。悪神ロキ戦でも有効だった。種族は違うけど、九尾の御大将にも効果があればいいんだが……。

 

 俺はアーシアに言う。

 

「アーシアは後方で回復役だ。昼間みたいにオーラを飛ばして回復させてくれるか?」

 

「はい!」

 

 うなずいて後方に下がるアーシア。制服にローブを羽織ったゲオルグが顎に手を当てながら言う。

 

「どうやら僕の相手は聖魔剣使いになったようだね」

 

「僕じゃ不満かい?」

 

 木場が聖魔剣の切っ先を向けながら問う。ゲオルグは首を振る。

 

「いや。『騎士』相手だと僕では何ともつまらない戦いになりそうだと思ってね」

 

 ゲオルグが片手を空に向ける。空に各種様々な紋様の魔法陣が縦横無尽に出現した!

 

「……魔法陣から察するにざっと見ただけでも北欧式、悪魔式、堕天使式、黒魔術、白魔術、精霊魔術……なかなか豊富に術式が使えるようですね……」

 

 ロスヴァイセさんが目を細めながらそうつぶやいた。……つまり『絶霧』使いな上にとんでもない魔法使いでもあるってわけか。

 

 ゲオルグは遊ぶように空中で魔法陣の動かしながら言う。

 

「元々は儀式のために用意していた魔法陣さ。ま、これだけあればキミが僕の元にたどり着く前に屠れるだろうね。言ったろ? つまらない戦いになると。どうする? 今からでも戦う相手を代わるかい? ヘラクレスとかいいんじゃないかな?」

 

 にこやかにそう告げてくるゲオルグ。……こいつの性格最悪だな。だけど……。

 

「木場……」

 

 ここは相手を代わったほうがいい。いくらなんでも相性が最悪すぎる。まだ魔術でのフルバーストだったりと遠距離でも戦えるロスヴァイセさんのほうが戦えると思う。

 

 心配する俺を木場は手で制してくる。

 

「大丈夫だよ、イッセーくん」

 

 聖魔剣を構えなおしてゲオルグに向って言う。

 

「あまり僕を舐めないでもらえるかな?」

 

「ふふ、別に舐めてるつもりはなかったんだけどな」

 

 どうやらこのまま戦うつもりのようだ。……死ぬなよ、木場!

 

 俺の相手は――曹操。英雄派のリーダー格。最強の神滅具を持つ男。

 

 ったく、なんで俺って最近こうボス的存在とばかり相対してんだろう?

 

「ま、いいか。おまえ、ヴァーリより強いのか?」

 

 俺の質問。曹操は口の端を楽しそうに吊り上げて肩をすくませた。

 

「さあ。だが、弱くはないかな。よわっちい人間だけどね」

 

「嘘こけ。エイジとやりあっても負けなかった奴が弱いはずねぇだろ」

 

「ハハハハ、負けなかっただけでも弱くないか。確かに。あいつ相手ならそうなんだろうな。……以前と比べ物にならないほど弱くなっていたとしても」

 

「……エイジが弱くなった? 何を言ってるんだ?」

 

「ふっ、昔の……『人間』だった頃の神城エイジだったら、昼間の時点で俺を殺すか捕らえることぐらいはできていたってことさ。いや、もしかしたら英雄派すべてが昼間の時点で捕らえられていたかもしれなかった」

 

「い、いくらなんでもそれは無理だろ……?」

 

「彼ならそれぐらいできたさ」

 

 確かな確信を言葉に込めてつぶやいた曹操。曹操は九尾を押さえ込んでいるエイジを眺めながら言う。

 

「悪魔になって彼は本当に弱くなった。昔の彼だったら『黄昏の聖槍』相手でも退かずに対処できたはずさ。悪魔になんか転生して『光』という弱点が出来てしまったから、『黄昏の聖槍』の能力を使用していない状態でも俺は負けなかったんだよ。……いや、それだけじゃなかったか……」

 

 曹操は槍を握りしめて続ける。言葉に憎悪を含ませて。

 

「神城エイジを無理矢理悪魔などに転生させて誑かした現魔王の妹、リアス・グレモリー……。そのリアス・グレモリーが新人悪魔のレーティングゲームに参加するという理由で、普段から力を制限させるリミッターなんかを付けられていたのも理由のひとつだろうよ。肉体と力がかみ合っていない。ただでさえ肉体が別物に変化しているのに、普段からリミッターなんかをかけられていたため、変化した肉体に能力が馴染んでいないんだ」

 

 ……こいつ、よくエイジのことを分析してるな。俺たち以上にエイジのことを知ってるんじゃないか?

 

「……いったいどこで運命が狂ってしまったんだろうな」

 

 曹操はエイジを見つめながら小さくつぶやいた。その眼差しには悲しみや失望のようなものが含まれているようだった。

 

 オオオオォォォンッ!

 

 ジャアアァァアアアッ!

 

 匙と九尾の御大将の咆哮! エイジが出現させていた巨大な手がいつの間にか消えている。

 

 匙が放つ黒い炎が舞い、九尾の御大将の周囲を完全に包囲した。炎が怪しげな揺らめきをすると、九尾の御大将の全身からオーラが放出されていく。その現象に御大将は苦しんでいる様子だ。

 

 これはロキ戦でも見せた、相手のパワーを奪う技か? このままいけば無傷で戦闘不能にできるかも! なんて都合の良いことを思っていたら――。

 

 九尾の御大将が口を開けた! 喉の奥から炎の光が見えてくる。や、ヤバ……。

 

「封ッ!」

 

 突然聞えたエイジの声! 発生源は上空のほうからで――な、なんだありゃあ!?

 

 突然、上空から飛来してくるもの! すべて鳥居のようだけど、それは巨大どれも特大サイズ! ひとつが今まさに炎を放とうとしていた九尾の御大将の首を押さえ込んだ!

 

 間髪入れずに残りの鳥居が飛来してくる!

 

 ドドドドドドォォオオオオンッ!

 

 九尾の御大将の両腕両足、胴体、9つの尻尾と空から飛来してきた巨大な鳥居が押さえつけた!

 

 オオオォォンッ!

 

 九尾の御大将はもがきながら鳥居をどうにかしようとするが、ビクともしないようだ。その間にヴリトラと化した匙が黒い炎で九尾の御大将を包み込む。

 

『よし! とりあえず身動きは封じられたな!』

 

『集中しろ、我が分身よ。我の力は高い集中力が必要となる。動きを封じ込めても、まだ九尾の膨大な妖力をどうにかしないとならんのだぞ』

 

『ご、ごめん……』

 

 匙とヴリトラの会話がブースデット・ギアを通して聞えてくる。

 

『俺の譲渡、必要か?』

 

 と、神器を通して俺が訊く。いちおう曹操との戦いが始まって援護ができなくなるまえに聞いてみたのだが……。

 

『いらぬ。我が分身が我の力を使いこなせていないこの状況で赤龍帝の力が加算されてしまえば暴走しかねぬ。実戦の中で我が分身が力の特性を覚えていくしかあるまいて』

 

 ヴリトラさんにそう返されてしまった。

 

 了解。匙、気張れよ! 危なくなったら、俺もできるだけ助けに入るからよ!

 

『……あいよ! まあ、神城が九尾の御大将を目覚めさせるまでの間ぐらいは粘らせてもらうさ! おまえもそいつらぶっ飛ばしてこいよ!』

 

 おう、任せろ! と、神器で会話をしているなか、九重を背中に背負ったエイジが上空から九尾の御大将の頭へと降り立った。

 

 ゼノヴィアの初手のまえに、盾によって伝えられた作戦では、心を失わされている九尾の御大将の精神世界に九重と入って意識を取り戻させる。って、作戦だったよな? 時間は少しかかるらしいけど。意識が完全に取り戻せればこっちのものらしいから、匙はエイジたちが精神世界に入っている間、ヴリトラの力で九尾の御大将が暴れないように押さえながら暴走している力を抜いて、俺たちはそれが終わるまで英雄派の足止め、だったはず!

 

 ……足止めだったはずなんだが、どうやら英雄派はエイジと九重の邪魔をする気はないようだ。英雄派メンバーはグレモリー眷属とそれぞれにらみ合ったままそこを動かなかった。

 

 開幕は匙とエイジたちが受け持ってくれた。次は俺たちか!

 

「木場! ゼノヴィア! 少し離れて戦ってくれ! 九尾の御大将からこいつらを少しでも離したい!」

 

『了解!』

 

 2人は応じて、駆け出す。ジークフリートはゼノヴィアを追うが――。

 

「僕は別に動かなくてもいいからね」

 

 ゲオルグのほうはそのままその場に立っている。……ま、まあ、魔法使いだし、当然か。

 

 どうしたものかと思っていると――ゲオルグは肩をすくませて言う。

 

「まあ、このままこの場で戦っていたら曹操と赤龍帝の戦いに巻き込まれかねないからね。のってあげるよ」

 

 ゲオルグの足元に魔法陣が出現する。さらに続けて魔法陣が短い間隔で出現し続け、ゲオルグはその魔法陣を使い、短距離の転移を繰り返しながら移動していく。

 

 木場もそれを追って離れていった。

 

 ギィン! ギィィンッ!

 

 ぶつかり合う金属音! 銀光を走らせ、火花を散らし始めるゼノヴィアとジークフリート!

 

 三刀流のジークフリートがゼノヴィアに斬りかかり、ゼノヴィアは繰り出される剣戟をすべてデュランダルで受け止めていき、隙あらばデュランダルにオーラの刃をまとわせて斬りかえしていた!

 

 ジークフリートから繰り出される剣戟の隙を狙い、横なぎに振るわれるデュランダル!

 

「――ハハッ! 危ない危ない」

 

 ゼノヴィアの反撃を後ろに飛ぶことで避けたジークフリートが笑む。……ゼノヴィアを相手にしてるのに全然余裕そうだな。

 

「新しくなったデュランダル、かぁ……。魔剣を受け止めてもビクともしないなんて。まえのデュランダルには興味がなかったけど。それは欲しいなぁ」

 

「はぁ……、これもやらないぞ」

 

 うんざりしたようにため息を吐くゼノヴィア。そういや昼間も真・リュウノアギト改を欲しがってたけ。こいつ魔剣だけじゃなくて聖剣も収集してるのか?

 

「ふぅぅ……」

 

 ゼノヴィアが息を吐き、片手で額を拭う。見れば若干汗をかいているようで疲労しているようだ。……あれ? いつものゼノヴィアはこれぐらいじゃ全然疲れないのになんでもう疲れてるんだ? あの魔力をまとう技も使ってないのに。

 

「? もう疲れたのかい?」

 

 ジークフリートも意外そうにゼノヴィアに訊ねる。ゼノヴィアは素直にうなずいた。

 

「まあね。私にはまだまだこのデュランダルを使いこなすことができないみたいでね。正直言うと使えるというか、持てるようになったのは今日の朝だったんだよ。――やはりぶっつけでの実戦投入は無茶だったと後悔しているよ」

 

 やれやれだと首を振るゼノヴィア。おいおい……、そんな剣を実戦で使うなよ。

 

「アハハハハハハ! そんな剣を僕たち相手に使うなんて。キミはおもしろいなぁ!」

 

 心底楽しそうに笑うジークフリート。笑い声を出しながら思う存分笑い――。

 

「――じゃあ、僕もおもしろがられるように、大サービスしないとだね!」

 

 ぞくり……。

 

 先ほどまで笑っていたジークフリートから言い知れない重圧が解き放たれた……ッ! 背筋に冷たいものが走り抜け、殺気が膨らむ!

 

「――禁手化ッ」

 

 ズヌッ!

 

 ジークフリートの背中から――新たに3本の銀色の腕が生えてきたぁああっ! うわっ、阿修羅みてぇだ! 新しい腕は大剣してあった残りの剣を抜き放つ。

 

 ――六刀流かよッ!

 

「魔剣のディルヴィングとダインスレイヴ。それに悪魔対策に光の剣もあるんだよ。これでも元教会の戦士だったからさ」

 

 6本の腕それぞれに剣を握る。その姿はまさに阿修羅だ。

 

「これが僕の『 阿修羅 と 魔龍の宴 (カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)』。『 龍 の 手 《トゥワイス・クリティカル》』の亜種たる神器は禁手もまた亜種だったわけだね。能力は単純だよ。――腕の分だけ力が倍加するだけさ。技量と魔剣の数だけで戦える僕には十分すぎる能力だ。さて、キミはどこまで戦えるかな?」

 

 俺がゼノヴィアを心配しているなかでイリナもジャンヌというお姉ちゃんと激戦を繰り広げていた。

 

「音速の剣ッ!」

 

 TCMを『音速の剣』に変化させているイリナが高速で斬りかかっていた。『音速の剣』による速度強化を受けたイリナはほとんど視認できない速度で動き回りながら斬り込んでいるが――。

 

「いいね! 天使ちゃん! 速い速い! 私の速度に追いつきそうだよ! 意外とできるんだね! お姉さん感激しちゃった!」

 

 ジャンヌはそれ以上の速度でイリナの攻撃をよけている! しかも、喜びながら! 楽しそうに!

 

「このっ!」

 

 イリナがバッと後ろに下がり、光の槍を創りだしてジャンヌ目掛けて投げつける! 申し分ない速度! ていうか、銃弾みてぇだ!

 

「ん~、あっまーい!」

 

 イリナから放たれた光の槍をジャンヌが細剣――レイピアで弾く!

 

「今度はお姉さんから行くよ~!」

 

 ジャンヌが体勢を低くし、一気に詰め寄った! レイピアでイリナに斬りかかる!

 

「――っ!」

 

 ジャンヌの攻撃をイリナが『音速の剣』で受け止める。

 

 キィィンッ!

 

 金属を打ち鳴らして2人がつばぜり合う! 均衡するせり合い! ジャンヌが不敵に笑んだ! ――何か企んでいる!

 

「――聖剣よ!」

 

 叫ぶジャンヌの足元から剣が生えてくる! イリナは驚きながらそれを、身をよじって避けていた! そこにジャンヌの鋭い突きが襲い掛かるが――翼を羽ばたかせて上空に退避していた。

 

「あ、危ないわね」

 

 空中で冷や汗を拭うイリナをジャンヌはおかしそうに笑った。

 

「やるやる! へぇ。見くびってたな。さすが天使ちゃん」

 

「これでも天使長ミカエルさまの(エース)なんだから! 舐めないで!」

 

「そっかー。ミカエルさんのねー。わかった。お姉さんもジーくんみたいに大サービスで見せちゃう」

 

 ウインクするジャンヌ。……ジーくん? ジークフリートのことか? って、大サービス? まさか、ジークフリートのように――。

 

「お姉さんの能力はね。『 聖 剣 創 造 (ブレード・ブラックスミス)』。そっちの聖魔剣のヒトが持つ神器の聖剣バージョン。どんな属性の聖剣でも創れるのよ? でも、このままじゃ、木場の聖剣には勝てないわ。けれど、例外ってあると思わない?」

 

 ニッコリ笑むお姉さん。ジャンヌの神器は木場の聖剣バージョンか。そういうのがあるって知ってたし、木場も禁手になった影響でそちらもできるようになっていた。

 

 けど、例外……? 俺は嫌なイメージしかできなかった――。そして、それは当たる。

 

「――禁手化」

 

 ドォォォオオオンッ!

 

 かわいく笑むお姉さんの足元から大量の剣――聖剣が生み出され、すごい勢いで重なっていく! 聖剣が何か大きなひとつの物体を形作ろうとしていた!

 

 ――ジャンヌの背後に創りだされたのは幾重もの聖剣でできあがった巨大なドラゴンだった!

 

 聖剣で形作られたドラゴンかよ! なんてもの創りやがったんだ、あの姉ちゃん!

 

「この子は私の禁手。『  断罪 の 聖龍  (ステイク・ビクティム・ドラグーン)』。ジーくん同様、亜種よ」

 

 微笑むジャンヌだが、イリナは厳しい表情をしていた。

 

「聖ジャンヌ・ダルク……。聖人の魂を引き継ぐ人と戦うなんて、天使としては複雑よね。けど、これもミカエルさまと皆のため! 平和が1番!」

 

 おおっ、『音速の剣』を掲げて気合を入れなおしている! イリナも踏ん張ってくれよ!

 

 ドゴォンッ! ドオオンッ!

 

 炸裂音を何度も響かせて爆破合戦に入っているのはロスヴァイセさんと巨漢のヘラクレスだった。

 

「くっ! 魔術を受けてもモノともしないなんて!」

 

 縦横無尽に魔法を繰り出しているロスヴァイセさんだが、それらをまともに受けてもヘラクレスは狂喜して突っ込んでいく!

 

「ハッハッハーッ! いいねぇ! いい塩梅の魔法攻撃だッ!」

 

 ――ッ! 笑ってやがる! ロスヴァイセさんの北欧魔術フルバーストを受けても平気で突っ込んでいる! いや、ダメージは受けているぞ! 小さいが全身に傷を負っている。

 

 つーか、あの魔法攻撃を食らってあれだけのダメージだなんて、どんだけ頑丈なんだ!

 

 ドォォォンッ!

 

 ヘラクレスが拳を突き出すたびにその場が炸裂する! まるで手に爆弾でも握って拳を繰り出しているかのようだ!

 

 ロスヴァイセさんが軽やかに避け、ヘラクレスの拳が空振って後方の樹木に突き刺さる。刹那――炸裂音と共に器が木っ端微塵に爆ぜた!

 

「俺の神器は攻撃と同時に相手を爆発させる『 巨人 の 悪戯 (バリアント・デトネイション)』ッ! このまま、あんたの魔法を拳で弾きながら爆発ショーをしてもいいんだけどよォ。どいつもこいつも禁手になったら、流れ的に俺もやっとかないとあとでうるさそうでな! 悪いが、一気に禁手になって吹っ飛ばさせてもらうぜ! おりゃああああああああッ! 禁手化ゥゥゥゥッ!」

 

 男が叫び、その巨体が光り輝きだした! 光が男の腕、足、背中でゴツゴツした肉厚のものに形成されていく!

 

 光が止んだとき、男――ヘラクレスは全身から無数の突起を生やしていた! あの突起物……まるでミサイルの形だ……。い、いや、まさか――。

 

「これが俺の禁手ッ! 『超人による悪意の波動』だァァァァァァアアッ!」

 

 ヘラクレスの攻撃の照準が――ロスヴァイセさんにッ! ロスヴァイセさんもそれを認識したのか、動いて距離を取る!

 

「このままではこの場が荒れそうですね」

 

 ロスヴァイセさんが空中へ飛び上がる! 空中に出現させた魔法陣を足場にしてジャンプし、俺たちから少しでも遠く、離れるように。ロスヴァイセさん、俺たちをあのミサイルから遠ざけようと――。

 

「ハッハッ――! いい女だぜ! 仲間を爆破に巻き込ませないように俺の気を逸らそうってか! いいぜ! 乗ってやるよォォッ!」

 

 ヘラクレスは嬉々として高笑いしていた。本願御殿の上空にいるロスヴァイセさんは空中で振り向き様、魔法陣をひとつ展開し始めた! って、ひとつ!? さっきまで無数に魔法陣を展開して魔法のフルバーストをきめていたのに! まっ、まさか酔いが原因で魔法陣が展開できなくなったのか!?

 

 ヘラクレスのミサイルが発射態勢になって、一気に撃ちだされて――。

 

 そうはいくか! 俺はヘラクレスのほうに左腕を突き出し、ドラゴンショットの態勢に入った! ミサイルが撃ちだされた瞬間にこいつで少しでも多く撃ち落す!

 

 ドラゴンショットを撃ちだそうとしたとき――。

 

「おっと、キミの相手は俺だ」

 

 みだり腕の先に曹操が瞬時に移動してきた! じゃあ、このままおまえが食らえッ!

 

 ドゥッ!

 

 ドラゴンショットが俺の手から撃ちだされ――バンッ! 曹操が槍のわずかな挙動で俺の手を上に弾いた! 弾かれた手からドラゴンショットが撃ちだされ、あらぬ方向に飛んでいってしまった!

 

 その間にもヘラクレスから撃ちだされた無数のミサイルがロスヴァイセさんのもとへ――。

 

 ドッゴォォオオオオンッ!

 

 無数のミサイルはロスヴァイセさんが展開する魔法陣に直撃した瞬間、空中で巨大な爆発を巻き起こした! 激しい爆風が当たり一帯を襲う!

 

 ――ロスヴァイセさんっ!

 

 魔法陣ひとつであの爆発は防げなかっただろうと俺が最悪のイメージを過ぎらせていると、爆煙のなかから人影が!

 

「ふぅ、危なかったですね」

 

 そう片腕で汗を拭いながら空中から地面へと着地したのはロスヴァイセさん! いつの間にか丸い盾を装備している。貝殻のような中心に向う螺旋が描かれた盾。あれで爆発を防いだのか? ていうか、あの爆発で無傷!?

 

 無傷で攻撃を受けきったロスヴァイセさんに、ヘラクレスも驚いているようだ。

 

「ハハッ! 俺の一撃を完全に防ぎやがったか! すげぇな、その盾!」

 

「ええ、まったくです。……正直いうと、この盾にここまで防御力があるとは思いませんでした。先ほどの爆発を盾が完全に吸収してくれたおかげで、私は無傷ですみました」

 

 ロスヴァイセさんの返答にヘラクレスが眉をひそめる。

 

「なんだ? それもあのデュランダル使いと同じで初の実戦投入の武器なのか?」

 

 ロスヴァイセさんは首を横に振る。盾を持っていないほうの手元に魔法陣を展開させた。魔法陣から剣よりもずいぶんと長い柄が出現する。

 

 ロスヴァイセさんが柄を掴むと魔法陣が上へと昇っていき、柄から先端までを明らかにした。あれは……槍!? 西洋風の、ランスって武器か? らせん状の装飾が施されたよくわからない鉱物で創られているもののようだ。

 

 ロスヴァイセさんが完全に魔法陣から取り出したランスと丸い盾を構えた。

 

「北欧最強ヴァルキリーだった方からお借りした武器です。もっともスペアのほうですが」

 

「――っ」

 

 ヘラクレスの表情が驚きに変わる! あの爆乳さんの武器だったのか! そういやよく似てるな。ランスの長さや盾の大きさは一回り小さいけど。

 

 ヘラクレスが突然腹を抱えて笑い出す。

 

「【蒼炎の戦乙女】セルベリア・ブレスの武器か! そりゃあ、俺の攻撃を受けてもビクともしないわけだな! ハッハッハッハッ!」

 

 バンバンと膝を叩いて納得だと笑うヘラクレス。よ、喜んでやがる!? さっきのジャンヌといい、英雄派は皆戦闘狂なのか!?

 

「クッハッハッハッハッ! 確か【蒼炎の戦乙女】の盾は北欧の主神オーディンのグングニルの一撃にも耐え切ったと聞く! 神の攻撃にも耐え切った盾に俺の攻撃がどこまで通じるのか、試させてもらうのもよさそうだな!」

 

 再びミサイルの発射態勢に入るヘラクレス! ロスヴァイセさんはそんなヘラクレス目掛けて槍を構えた。こ、この構えって……。

 

「――盾だけでなく、槍のほうも忘れないでもらえますか? この槍の一撃はフェンリルの胴体を軽々と貫き、命を奪いますよ」

 

 ギュルルルルル……!

 

 槍の装飾となっていた螺旋状の突起が高速回点し始め、それに伴なって蒼いオーラが立ち上り始めた!

 

「――むっ!?」

 

 槍の様子に危機感を覚えたのか、ミサイルの発射態勢を止めるヘラクレス。ロスヴァイセさんはそのまま回点を続けさせ、槍から放たれる蒼いオーラを収束。槍にまとわせて――。

 

「――食らいなさい!」

 

 蒼いオーラを撃ちだした! 槍からヘラクレスへ向って一直線に蒼いオーラの光線となって襲い掛かる!

 

「――ぐぬっ!」

 

 ドゴンッ!

 

 光線がヘラクレスへ直撃する直前! ヘラクレスは故意に爆発を起して体を無理矢理移動させ、ロスヴァイセさんの一撃を回避した! 光線はそのままヘラクレスが立っていたところからその後方を槍と同じ円状に抉りとっていった! な、なんて威力だよ……。フィールドの端まで飛んでいったんじゃねえか?

 

「ハッハッ! 危なかったなあ!」

 

 爆発を起してまで回避したヘラクレスは楽しそうに笑っていた。自分で起した爆発によるダメージはなさそうだ。ちっ、しぶとい野郎だな。

 

 でも、槍と盾を装備したいまのロスヴァイセさんはヘラクレスよりも攻撃力、防御力、機動力とも高くて有利なはず! これは楽勝か!?

 

 そう思ってロスヴァイセさんを見ると――。

 

「おげぇぇぇ……」

 

 先ほどの凛々しくて勇ましい姿はどこへやら。近くの電柱にもたれかかって吐いていた。……ゲロ吐きヴァルキリー……。

 

「……アーシア、回復できるか?」

 

「え、えっと……、お酒に関してはちょっと……」

 

 電柱に吐いてるロスヴァイセさんを指差す俺にアーシアは気まずそうに答えた。そ、そうか……。まあ、神器で回復させることができるなら最初からやってるよな。

 

「おいおい、ちったぁ真面目に相手しろよなぁっ!」

 

「す、すみません……」

 

 敵であるヘラクレスに怒られるロスヴァイセさん。……何とか構えて再び戦闘に入ったようだ。

 

 それにしても禁手、禁手。どいつもこいつも禁手化になりやがって! 俺の心中を見透かしたように曹操が愉快そうに笑った。

 

「いいだろ? 禁手のバーゲンセールってやつは。人間もこれぐらいインフレしないと超常の存在相手に戦えないんでね」

 

 槍をくるくると回し、俺からゆっくりと距離を取る。……一見、相手は隙だらけだ。攻撃を加えたいところだが、カウンターを放ってきそうでさ。

 

「おまえも奴らみたいにここで禁手になるのか?」

 

 俺がそう訊くと、曹操は首を横に振った。

 

「いやいや。そこまでしなくてもキミたちは倒せる。だが、九尾を使っての実験が失敗に終わった今、今日は十分に赤龍帝を堪能するつもりだよ」

 

「……こいつは舐められたもんだ。でも、俺をバカにしているようには思えないな」

 

「ああ、どうやればキミの力を引き出して戦いを満足できるか考えているところだ」

 

 まるでヴァーリだな。それのゆったり版。あいつは実力行使で俺の力を見計ろうとしていた。こいつは俺の行動ひとつひとつにまで興味津々の眼差しを向けてくる。

 

 曹操が人差し指を1本立てた。

 

「仲間がキミを倒せるある説を唱えた。時間を早める能力の神器でキミに攻撃する。禁手の制限時間はどんどん早まっていき、満足に戦えないまま鎧は解除されてしまう。仲間が持つ能力にそういう制限時間があるものに効果がある神器があるのさ。時間の経過を一気に加速させて、浪費させることができる。ただ、それだけの能力だ。直接的な攻撃力も特異な能力もない。ただただ、制限時間を操作できるだけだ。しかし、時間制限のあるキミには決定的な打撃となる。――だが、おそらくこれではキミを倒せない」

 

 ……何が言いたい? 俺は曹操の会話の意図が見えないでいた。

 

「キミは神器を深く知ろうとしている。もし、自ら禁手を解除し、10秒ごとに倍加していく禁手前の神器能力にそれを付加しようとしたら……? 瞬時に倍加していく厄介な存在と化すだろうな。もちろん、禁手状態で食らった禁手前の神器がそういう影響を及ぼすかどうか不透明だ。けれど、神器の深奥に潜るキミなら、その可能性を叶えそうでね」

 

「何が言いたい?」

 

 俺が問うと、奴は肩をすくめるだけだった。

 

「案外、姑息な手よりもストレートな攻撃のほうがキミを無理なく倒せるんじゃないかって話さ。――キミはテクニックタイプを注意深く警戒していて、そのタイプでは逆にやりづらいんじゃないかってね」

 

 ……おまえのほうがやりづらいぜ。ちょっとしか面識ないのに、俺のことを分析するもんだな。怖いもんだ。

 

「だが、兵藤一誠。キミにも決定的な弱点がふたつある。あの神城エイジにも克服できない種族としての弱点。――龍殺しと光だ。ドラゴン、悪魔、ふたつの特製を有するキミは凶悪な分、自然と弱点も多くなってしまうわけだ。俺はこの弱点ってのに注目していてね。この世に無敵の存在なんていないという証明をしてみたいと感じている。ま、この話はここまで。――さて、やろうか」

 

 曹操が槍の切っ先を俺に向けた。俺もバトル開始か。

 

 まずはプロモーションだけど……。

 

「アーシア、認証カードは?」

 

「はい! もってます!」

 

 俺にそう返事を返してくれるアーシア。……よし。それならえーと……、『騎士』にプロモーションするか? それとも『僧侶』? いや、実戦での練習にこだわっていても相手が悪すぎるか。ここは一気に行こう。

 

「アーシア! 『女王』にプロモーションだ!」

 

「はい!」

 

 アーシアの同意により、俺は『女王』となった! 体に力が流れ込む!

 

 あれからトレーニングはした! 実戦でもある程度各駒の特性を使えた! ここで少し成果を出してみるぜ! ドラゴンの翼を展開し、背中のブーストを勢いよく噴出させる!

 

 ゴオオオオォォオオッ!

 

JET(ジェット)!』

 

 拳を突き出したまま猛スピードで曹操に一撃を繰り出す! あれこれ考えたが、やっぱり、まずは突貫で様子見だッ!

 

 前方に猛進していく俺! 曹操は槍をくるくると器用に回しながら、俺の拳が当たるすんでで身を軽やかにかわした!

 

 ――ッ! 俺の突進には対応できるか! なら――ッ!

 

 俺はその場でブーストの軌道を変えて、曹操の避けた方向に2度目の突貫をかました!

 

 同時に両手に魔力を集める! 曹操が避ける瞬間を見計らって、ドラゴンショットのダブルを野郎に――。

 

 ガッ!

 

 曹操は俺の右手を蹴り上げ、槍の払いで左手を横に弾いた! ドラゴンショットが先ほどと同じようにあらぬ方向に撃ちだされていってしまう!

 

 ちくしょう! やっぱ、最小の動きだけで俺をいなしやがる!

 

 ズンッ!

 

 悔しがる俺の腹部に何かが――。腹を見れば、曹操の槍が深々と刺さって――。

 

「ごふっ」

 

 腹から込み上がってきた大量の血が口から吐き出された。

 

 ……や、やられたっ!

 

「――弱くはないんだけどね。真っ正面からの戦いだとまだ隙が多いな」

 

 ズルリッ。

 

 曹操が槍を腹からゆっくりと抜いていく。

 

 ――瞬間、俺の腹部、否、全身に激痛が走り回った。傷口を中心に体のあちらこちらから煙も上がり始める。

 

 ……い、いてぇぇぇ……。こ、これは……聖剣と同じ痛み……。……傷口から煙があがるのも似た現象だ……!

 

 そ、そうか、聖なる槍だから……痛みと効果が……。

 

 ――マズい、意識が薄れて――。

 

「イッセーさんっ!」

 

 パァ。

 

 俺の体を緑色のオーラが包み込んだ。腹の激痛がしだいに緩和していく。

 

 ……アーシアが回復のオーラを飛ばしてくれたか。危なかった。いま、確実に意識が飛びかけたぞ。

 

 だが、まだ傷口が完全に塞がらない。煙も少し上がっている。というか、再び傷が開こうとしているじゃないか! 遠距離からの回復だと心もとないってことか。

 

 俺は懐からフェニックスの涙を取りだし、腹の傷にかけた。……傷がようやっと塞がっていく。さすがフェニックスの涙だ。

 

「いま、死に掛けたのがわかったかい? 聖槍に貫かれて、キミは消滅しかけたんだ。案外、すんなりと逝くだろ?」

 

 軽く笑う曹操。

 

 ……お、俺、今死に掛けた……だと? マジか。あの一撃、確かに腹部に深々刺さって致命傷だとは思ったが、あれぐらいは過去にも経験があるし、まだ多少は動けると思ったんだ。カウンター狙いで顔面にパンチでも入れようとしていた。

 

 ――消滅しかけていただと?

 

 悪魔が聖なる攻撃を受けて、消えるっていうあれのことか? 俺が、いま、そうなろうとしていた? か、体からかなり煙が出ていたし、俺、存在が消えようとしていたのか……?

 

 曹操が肩に槍をトントンしながら言う。

 

「よく覚えておくといい。いまのが聖槍だ。キミがどんなに強くなってもこの攻撃だけは克服できない。――悪魔だからね。あのヴァーリであろうとも悪魔である限り聖槍のダメージは絶対だ。たとえ、神城エイジだったとしても聖槍は防げない」

 

 よーく、わかりましたよ。あの槍には触れないほうがいいのね。そういや、エイジも素手じゃなく武器で戦ってたっけ。……さて、俺はどうしたものか。一応籠手に収納しているアスカロンを出せるけど、剣の才能が皆無な俺は槍の達人っぽい曹操にまったく勝てそうにない。まだ素手のほうがやれそうだ。

 

 ん~、どうしたものかね。

 

 曹操が俺の反応を見て、きょとんとしている。

 

「……あらら、ビビんないな。もっと怖がっておもしろい様を見せてくれると想像していたんだが……」

 

「あ? 怖いに決まってんだろう? だけどよ、ビビってもいられなくてさ。おまえの顔に一発いれないとあとで皆に怒られそうなんだよ。赤龍帝やってんのもけっこうキツいんだぞ」

 

「アハハハハハッ!」

 

 曹操が突然大笑いした。……なんだ、こいつ。さっきから表情がコロコロ変わりやがるぜ。

 

「いいな、それ。ヴァーリがキミを気に入る理由が少しわかった気がする。なるほど、これはいい。ヴァーリ、いいのを見つけたなぁ」

 

 笑い声を指で拭うと――曹操は槍の先端を開かせて光の刃を作り出した!

 

「――やろう」

 

 ピリッ……。

 

 曹操からのプレッシャーが真下。ちったぁやる気になったってことか?

 

 俺は右手を突き出し、ドラゴンショットを極大で撃ちだそうとした!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 ドンッ!

 

 どデカい一発を曹操に放った!

 

「そいつを生身にもらうのはマズいか」

 

 曹操は槍でそれを弾こうと――。俺はそれを予想していた。撃ちだした瞬間に背中のブーストを噴出させて、飛び出す!

 

 魔力の弾を弾いたところを横殴りする!

 

 曹操が槍で勢いよく極大のドラゴンショットを――両断しやがった! 真っ二つですか! まあいいさ! 槍を振るったところに右拳を一閃!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 増大した威力のパンチで曹操に殴りかかるッ!

 

「パワーのなかのパワーを感じるよ!」

 

 曹操は嬉々としながら、槍を素早く戻して俺の腕を払おうとする。――いまだ! この右の一撃は大味のフェイントだ! 右拳を相手の直前で止める! 曹操の払いが空を切った。

 

 俺は次の左の拳を突き出す! 同時に籠手の中に収納しているアスカロンに力を譲渡した!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

『Transfer!!』

 

 アスカロンの刃を籠手から出現させ――俺はその場から飛び退いた! 飛び退き様にアスカロンから波動を繰り出す!

 

 バシュッ!

 

 アスカロンのオーラが曹操に向った。アスカロンの一撃が曹操に触れる瞬間――。

 

「――おっと」

 

 ひらりと曹操が身をひるがえして避けた! あ、あれを避けるのかよ!?

 

 曹操が肩で槍をトントンさせながら笑む。

 

「危ない危ない。危うく腕が飛んでしまうところだったよ。昼間の神城との戦いを経験していなかったら危なかったな」

 

 エイジとの戦いの経験……まさかこいつも実戦で強くなるタイプなのか?

 

 いや、それよりも……やっぱりこいつにも弱点があったか。

 

 ――人間であるがゆえの生身。

 

 肉体の強度なら、ドラゴンで悪魔の俺のほうが上だということ。英雄派がいくら常人より遥かに頑丈でも、ヴァーリほど硬いとは思えなかったんだよな。いまの曹操の発言を聞いて、核心したぜ。こいつの防御力は低い!

 

 ――勝てる、まではいかなくても戦える。

 

 俺が戦意に火を灯しながら、再び構えを取ろうとしたときだった。

 

 ガシャッ!

 

 俺の鎧が崩れ始めた! ……な、なんだ、これ?

 

「先ほどの攻撃をかわす前、キミが飛び退くときにいくつか斬っておいた。少し時間差が生じたようだが、ちょっとした槍の攻撃でも赤龍帝の鎧は壊せるようだ」

 

 ……いつの間にか、攻撃を食らっていたわけね。フェイントを入れた攻撃をすることに夢中で気づかなかったぜ。

 

 ドライグ、悪いが鎧を修復してくれ。

 

『……わかっている。だが、聖槍の効果だと思うが、ちょいと修復に手こずりそうだ』

 

 マジかよ。どんだけあの槍は俺に厄介な代物なんだよ!

 

「しかしいい攻撃だった。強い強い。こちらもギアをもう少し上げないと危なそうだな」

 

 曹操の野郎、楽しそうだ……。でも、あいつの肉体がこれ以上頑丈になるとも思えないし、一撃入れれば勝てるとは思う。もちろん、あいつの攻撃をまともに受ければ俺も一撃で死ぬ可能性が大きいけどさ……。

 

 これが弱点ってやつか。本当に怖いな。一発で形勢逆転なんてよ。しかも相手は禁手になっていない。まだまだ強くなる要素がある……。

 

 ああ、ほんと俺の相手って強い奴ばかりで困るな。

 




 この話でも、ハイスクールD×Dの世界が見えてきたり。

『禍の団』 英雄派

 英雄とのつながり。

 リーダー格の曹操は英雄の子孫。

 ゲオルグは不明。

 ジークフリートは不明。

 ジャンヌとヘラクレスは、英雄の魂を受け継いだから英雄派。

 英雄の魂を受け継いだという一文から、おそらく初代ジャンヌや初代ヘラクレスの神器を受け継いだと意味だと予想。

 つまり、アザゼルが言っていた通り、ジャンヌとヘラクレスといった過去の英雄は、ハイスクールD×Dの世界では神器を宿した人間。

 人間……なんだけど、神器所有者なら人間の戦争ではまず負けそうにないんだよなぁ……。

 正直、ハイスクールD×Dの歴史ってどうなっているか理解できない。

 それに、新撰組の沖田宗司がサーゼクスの眷属とかなっているのなら、初代曹操とか初代ジャンヌとかも眷属になってるんじゃねーの?

 日本よりもそういう有名な英雄のほうを悪魔が眷属にしそうなものなのに。 


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第77話 決戦! グレモリー眷属VS英雄派 IN京都 後編

<イッセー>

 

 二条城を中心に展開された広大な仮想フィールド。それぞれが英雄派と相対し、エイジや匙、九重たちが九尾の御大将を救おうとしているなか。俺は英雄派のリーダー格らしい『黄昏の聖槍』を使う曹操を相対していた。

 

 少し間合いをあけてお互いの出方を窺う。油断は即死亡。武器の相性と肉体の強度の関係からお互い防御力はあまり関係ない。いい一撃が入ればどちらも死亡、もしくは大怪我だ。

 

 ――うかつには動けない。

 

 そんな曹操を相手にどう戦おうかと苦慮しているときだった。

 

 ドドドドドドドッ!

 

 戦場の一部で連続した破壊音が鳴り響いた。見れば空中に無数に展開されている様々な魔法陣から地上の一点に向けて魔法攻撃の雨が注がれていた! あれは――『絶霧』使いか! まさか魔法攻撃を受けている場所に木場が!?

 

「木場さん!」

 

 アーシアから悲鳴混じりの叫びが聞えてくる!

 

 ――木場! 木場の安否が気になって叫ぼうとしたときだった。

 

「――大丈夫だよ」

 

 風に乗って、声が聞えてくる。――木場の声?

 

 降り注がれていた魔法攻撃の雨が止み、舞い上がった土煙が突然起こった一陣の風によって晴れると――。

 

 五体満足でイケメンスマイルを浮べている木場が! 制服はボロボロになっているようだが、怪我らしい怪我は見当たらない! あの魔法攻撃の雨をどうやって防いだんだ?

 

 俺が疑問に思っていると、魔法攻撃を行なっていた『絶霧』使いのゲオルグが訊ねた。

 

「すごいね。僕の魔法を防ぐなんて。その剣に秘密があるのかい? 見たところ聖魔剣じゃないようだけど」

 

 聖魔剣じゃない? 木場の手元を注目して見ると、確かに聖魔剣ではない剣がふた振り。双剣で戦ってたのか?

 

 木場は両手に持った剣を構えながら言う。

 

「イリナさんの『封印の剣』を参考にして『魔剣創造』で創造した『魔法吸収の剣』と『魔法無効化の剣』だよ。どうやら僕は最近、禁手化したことで創れるようになった聖魔剣の威力ばかりに気を取られていたようでね。『魔剣創造』の特性や能力を忘れていた。僕の元々の持ち味は『騎士』のスピードと、どんな属性の剣でも創造できるという対応能力だったのに。――まあ、思い出せたキッカケはキミたちの昼間の襲撃の際、イッセーくんがアンチモンスターの光対策で僕に闇の剣を創りださせるという指示だね」

 

 ちらりと俺の方へ顔を向ける木場。イケメンスマイルでウインクを送られる。お、俺のおかげ?

 

「つまり対魔法用の剣を創造して俺の魔法に対応したわけか。これは聖魔剣を使っていたときよりも手こずりそうだ」

 

「言っただろう? 僕を舐めないで欲しいと」

 

「ふふ、舐めたつもりはなかったんだが。結果的にはキミを舐めたことになったようだ。すまなかったね」

 

 そう言って笑むゲオルグと木場。

 

 仕切りなおしと構え直し、木場はゲオルグの魔法攻撃を両手に持った剣で無効化しながら接近しようと試み、ゲオルグは木場を近づかせないように短距離の転移で移動しながら魔法を放っていった。

 

「封印の剣!」

 

 イリナの声。木場とゲオルグから目を離してそちらに向ければ――。

 

 聖剣でできたドラゴンに追われながらジャンヌと戦っているイリナが。

 

 一見、聖剣のドラゴンに追われながらジャンヌと戦っているイリナが不利そうだけど……。

 

「ちょっと、それは反則でしょー!」

 

 ジャンヌのほうが悲鳴を上げていた。ていうか、イリナの攻撃を防戦一方で避けている。

 

「ちょっ、危なっ! なんなのよ、その剣! 神器を封印する剣だって聞いていたけど、物質透過能力があるなんて聞いてないわよ!」

 

「平和が1番! 聖人の魂を受け継ぐ人でも容赦できないわ! さあ、観念しなさい!」

 

 あー……、そういや『封印の剣』で斬られた相手は短時間でも神器を封印されるんだっけ? 神器使い相手が神器を封じられるのは武器を取り上げられるのと等しいし、やられる側といては確かに反則だわな。しかも、あの剣って物理攻撃が効かないっていうか、文字通り物質を通り抜けるし。

 

「お姉さん、天使ちゃんにはおとなしく『断罪の聖龍』とだけ戦ってくれたらうれしいんだけどな~」

 

「それは謹んで遠慮させてもらうわ! 元々私は対人が得意だし、あんな大きなのまだ倒せないから! それよりも直接あなたを倒させてもらうわ!」

 

「や~ん! 天使ちゃん、怖~い!」

 

 そう言いながらも隙あらばイリナに斬りかかるジャンヌ。イリナは片手に出現させた光の剣でそれらをいなし、片手で『封印の剣』を振るっていた。

 

「そろそろ限界かい!?」

 

 ジークフリートの楽しそうな声。見ればゼノヴィアがデュランダルを支えに片膝をついていた!

 

「ハァ……ハァ……」

 

 肩で息を吐くゼノヴィア。見るからに疲労の色が濃い。それに戦闘服のあちこちが破けて血が流れていた。

 

「アーシア!」

 

「はい!」

 

 俺の意図を読んだアーシアが、ゼノヴィアに向って回復のオーラを飛ばす! ジークフリートはそれを邪魔せず六本の剣をゼノヴィアに向けて笑んでいる。

 

 と、緑色のオーラに包まれたゼノヴィアが立ち上がった。

 

「ありがとう、アーシア」

 

 そうお礼を言いつつ、ジークフリートにデュランダルを向けるゼノヴィア。――だが、突然剣を下げた。

 

 まるで戦意を失ったようなゼノヴィアの行動にジークフリートが訝しげに訊ねる。

 

「諦めたのかい?」

 

「いや」

 

 ゼノヴィアは首を横に振る。空間を歪めてそのなかにデュランダルをしまう。

 

「?」

 

 疑問符を浮べるジークフリートだが、ゼノヴィアが新たに出現させた魔法陣に合点がいったようだ。

 

「なるほど、武器を変えるのか」

 

 ゼノヴィアがうなずき、魔法陣から武器を取り出す。

 

「やはりデュランダルはまだ使えないようだ。戦いのなかで慣れていくかとも思ったんだが。おまえ相手では慣らす暇もない。ここは元々私にあっている剣を使わせてもらうとするよ」

 

「うん。そっちのほうが僕も楽しめそうだ」

 

「……根っからの戦闘狂だな」

 

「それはお互い様だろう?」

 

「ふっ、違いないな。私も戦うのは好きだ」

 

 そう笑んで魔法陣から真・リュウノアギト改を取り出すゼノヴィア。

 

 両手に構えて――。

 

「おまえの禁手よりもインパクトで劣るが、私も隠しだねを見せよう」

 

 真・リュウノアギト改にオーラを込める! いつもの破壊とか龍殺しなどの物騒なオーラとは別の類のオーラ! 刀身全体にオーラをまとわせ、両手を離す! オーラをまとったままゼノヴィアの胸の前、空中に浮いている真・リュウノアギトが光り輝き――。

 

 ――2つに別れた。

 

「ハハッ! 双剣に分離もできるのか!」

 

 目を輝かせるジークフリート。ゼノヴィアはふた振りの双剣となった真・リュウノアギト改を構える。

 

「私は双剣のほうが得意なのでね。強化するときに追加してもらった機能だよ。一撃の威力は下がるが、手数は倍。しかも、長剣のサイズといっても重さは普通の剣とそう変わらないが、相手にとっては超重量級の剣となる。それに加えて――」

 

 ゼノヴィアが双剣の力を解放する! 離れているこちらまで感じられる龍殺しのオーラ! 龍殺しの双剣!

 

 ゼノヴィアは双剣を構えて言う。

 

「おまえの神器は龍タイプ。その6本の龍の腕にこの龍殺しのオーラは猛毒だろう?」

 

「ああ、確かに」

 

 ジークフリートはうなずく。……りゅ、龍でもある俺のもうひとつの弱点だよな。いつも見てるだけで背筋が寒くなる。

 

 ジークフリートは6本の腕でそれぞれ剣を構える。楽しそうに笑い――。

 

「まあ、当たらなければいいだけさ。それより、おもしろくなりそうな戦いを楽しませてもらうよッ!」

 

 ゼノヴィアに向って飛び出した! ゼノヴィアは高速で突っ込んでくるジークフリートを見据えて双剣を構えている。その場で受け止める気か!?

 

 キィィィンッ!

 

 金属音と衝撃波を放ちながら2人はつばぜりあう! すげえっ! 6本の剣を2つの剣だけで防いでる!

 

「怯むどころか笑うとは、想像以上の戦闘狂だな!」

 

 ゼノヴィアは力任せに剣を振るい、ジークフリートごと剣を弾く! ジークフリートはひらりと後ろへ飛んで地面へ着地する。

 

 今度はゼノヴィアが双剣で斬りかかっていった。……その顔も楽しそうだった。うん、キミも十分戦闘狂だよ。

 

「おげぇぇぇぇぇ……」

 

 戦場から聞えてくるそんな声。

 

 …………。……この声は――ロスヴァイセさんだよなぁー。

 

「あぅぅ……気持ちわるぅ……」

 

 案の定近くの電柱に手をついて吐いているロスヴァイセさん。と、ヘラクレスは?

 

 ゴッ!

 

 倒壊した家屋が盛り上がり――ヘラクレスが現れる。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……。クソが……」

 

 荒い息を吐きながら肩を上下させるヘラクレス。目立った怪我は見受けられないが、疲労の色が目に見えて濃い。

 

 ヘラクレスは息を整えながら再びミサイルの発射態勢に移る!

 

「うう……」

 

 ロスヴァイセさんも青い顔をしながら槍と盾を構える!

 

 お互いが力をそれぞれの武器へと集めて狙い――。

 

「食らいやがれぇぇええええええ!」

 

「貫けっ!」

 

 攻撃をぶつけ合う!

 

 ヘラクレスからは無数のミサイルが。ロスヴァイセさんからは蒼いオーラの光線が放たれる。

 

 ドドドドドドドッ!

 

 ロスヴァイセさんの光線がミサイルを撃ち落としながらヘラクレスへと向かった!

 

「――むんっ!」

 

 ヘラクレスが両手をクロスさせて光線を受け止める! 凄まじい勢いの光線! ヘラクレスの巨体が後ろへ飛ぶ!

 

 と、撃ち落されずに残ったミサイルがロスヴァイセさんに向った! ロスヴァイセさんは盾を構えて――。

 

「――くっ!」

 

 ドドドドドドォォオオンッ!

 

 巻き起こる大爆発! 見るからに凄まじい威力の攻撃を受けてロスヴァイセさんの安否が心配になるところだが……。

 

「ふぅ……」

 

 土ぼこりが晴れたあとには先ほどと変わらずに立っているロスヴァイセさんが。……す、すげぇな。どれだけ防御力が高いんだよ、あの盾。

 

「う~……、気持ちわるぃ……。み、水ぅ……」

 

 魔法で水を出して飲んでいるロスヴァイセさん。……使い手のほうは随分と防御力が低そうだ。特に肝臓の。

 

 ゴッ!

 

 崩壊して瓦礫の山になっているところからまたぶっとい腕が生えてくる。瓦礫をどかしながらヘラクレスが現れる。

 

「ハァ……ハァ……。へへっ、さっきよりも防げたぜ」

 

 そう笑って首をゴキゴキと豪快に鳴らすヘラクレス。さっきからずっと攻撃の撃ちあいをやっていたのか? 瓦礫に埋もれる→出る→撃ちあい→瓦礫に埋もれる。の、ループ。

 

「いい加減、潰れてください……」

 

「ハッハッハッ、いいじゃねぇか! さあ、もう一発撃ちあおうぜ!」

 

 再び構えるヘラクレス。ロスヴァイセさんはうんざりしているようだが再び構えた。

 

 …………。

 

 ……こっちは即死攻撃同士で殺伐としてんのに他は楽しそうだな、おい。

 

 曹操が肩に槍をトントンさせる。

 

「これは想像以上だな。頭角を現しているデュランダル使い以外は禁手で相対すれば高い確率で、さほど時間もかからずにこちらが勝つ……と、読んでいたんだが。どうやら戦力を読み間違えていたようだ」

 

 うんうん、と感心している曹操。そりゃあ、よかったな。

 

 オオオオオォォォォンッ!

 

 突然聞えてきた九尾の御大将の咆哮! 見れば九尾の御大将の巨体がどんどん小さくなっていた!

 

 もしかして――。

 

「ちっ、予想より大分早いな」

 

 曹操が舌打ちしながらそう言うと、九尾の御大将は九尾のバケモノから完全に美女へと戻っていた! エイジと九重が両側から九尾の御大将を支えている。

 

『兵藤、こっちは片付いたぜ。九尾の御大将の妖力も散らし終えたし、心も神城と九重が取り戻した』

 

 匙からの連絡! よっしゃ! 第一目標である九尾の御大将を救い出せたぞ!

 

『了解! おまえの意識のほうは大丈夫か?』

 

『かなり疲れたが、大丈夫だ。そっちの援護にまわるか?』

 

『……いや、いくらなんでもあの聖槍はヤバい。体が炎だからって、俺と同じで龍で悪魔のおまえが光のオーラをあれだけ当てられたら消滅しちまう』

 

『そ、それは……』

 

 匙の龍王モードは物理攻撃が効きにくくなるけど、光に対しては未知数なところがあるからな。それを考えると、聖剣使いのジャンヌや魔剣と聖剣を使っているジークフリートの相手も止めておいた方がよさそうだ。下手に援護なんてすると集中攻撃を浴びそうだし。

 

 うーん……、じゃあ、ロスヴァイセさんか木場の援護か……。

 

 俺が必死にそんな作戦を考えているときだった。

 

「そろそろ潮時かな」

 

 曹操が肩に槍をトントンさせるのを止めた。

 

「……潮時? 逃げんのか?」

 

 俺が訊くと曹操は肩をすくませた。

 

「九尾の御大将が完全に解放されてしまったからね。乱れていた力場も正常になりつつあるし。このままこの場にいたら、今度は捕まってしまいそうだからね」

 

「……俺たちがこのまま逃がすと思ってるのか?」

 

 俺は構えをとる! 昼間あったときよりも確信している。こいつらの存在はヤバい! このまま逃がしたら、とんでもないことになる!

 

『相棒、鎧の再生が終わったぞ』

 

 ドライグからの報告。いいタイミングだぜ、ドライグ!

 

「好き勝手やってくれた分、おとしまえをつけさせてやる!」

 

 そう言って翼を羽ばたかせ背中のブーストを勢いよく噴出させる!

 

「――それは遠慮させてもらう」

 

 トンッ。

 

 曹操が軽やかに後方へとジャンプした。――逃がすか!

 

 ゴオオオオオオオオオォォォォオオッ!

 

『JET!』

 

 曹操を追って猛スピードで突っ込む! 左の拳を突き出して顔面を狙う!

 

「――おっと」

 

 最小の動きで俺の左の拳をかわす曹操! だけど、バカ正直な攻撃が避けられることは最初からわかってる。俺は突き出した左の拳を開いてドラゴンショットを放つ!

 

「――っ!」

 

 これには曹操も驚いたようだが――曹操は超反応を見せて避けてしまう! これも避けるのかよ!?

 

「――ハハッ! 隙あり、だな」

 

 そう笑んだ曹操。ドラゴンショットを避けた動作でそのまま俺の懐へ入り――。

 

 ――それも予想済みだよッ!

 

『JET!』

 

 全力で逆噴射をかけて猛スピードで後ろへ下がる!

 

 聖槍が俺の腹部の鎧をかすめる! よし、ギリギリかわせ――。

 

 ズンッ!

 

 突然伸びてきた聖槍を俺の腹部に突き刺ささった! な、なんだと……!? 確かに間合いから外れていたはずなのに!? 驚愕しながら曹操を見ると、聖槍を持っていた部分の位置が中央から端へと変わっていた! この野郎ッ! 当たらないと思って投げるように持ち手をスライドさせながら突いてきやがったのか!

 

 ハハッ、確かに聖槍にとって俺の鎧の防御力はそこまで高くないからな。そこまで力を込めなくても鎧を貫けるのなら、肉体に刺されば大ダメージを与えられるのなら、突き方を変則的にしようが関係ないか……。

 

 ズブッ!

 

 逆噴射をかけていたため俺の体が後方へと飛び、聖槍が抜ける。俺はそのまま後方へと飛び続け――。

 

 ヤバい……痛みで、着地が……。

 

 ドゴォオンッ!

 

 まともに着地できずに地面へと叩きつけられてしまった。

 

「ごふっ!」

 

 着地の衝撃と聖槍のダメージで大量の血が口から吐き出される!

 

「イッセーさん!」

 

 アーシアの悲鳴混じりの叫びが聞えてくる。

 

 パァ。

 

 俺の体を緑色のオーラが包み込む。今回は一撃目よりも刺さりが甘かったせいか煙はすぐに収まった。助かったぜ、アーシア。

 

「ふむ、フェニックスの涙には劣るものの。なかなかの回復力だな」

 

 アーシアを見つめながら曹操が感心した様子で笑んでいる。

 

 ……まったく、何してんだ、俺。……なんでこんな情けない様を見せてんだよ……。俺だけじゃねぇか、まともに戦えてねぇの。匙やエイジ、九重も目的を達成したり、他の眷属の仲間も英雄派の禁手使い相手でも戦えてるのに……。仮にも俺は『王』なのに……。

 

 アーシアの回復のオーラを受けて俺が起き上がっても、曹操は俺に視線を向けない――。

 

 奴は俺をそこまで脅威とは感じていないんだろう。曹操が畏れているのは俺の将来性や可能性であって、今の俺じゃない。曹操が始めから畏れていたのはエイジだけだ。曹操は始めからエイジばかりを気にしていた。

 

 ……その理由はわかる。俺なんかよりもエイジが強いんだし警戒して当然だ。

 

 ――だけど……。

 

 ……俺は、赤龍帝なんだろう? おっぱいドラゴンだって、冥界ではやし立てられてさ……。

 

 …………。――悔しい。

 

 俺は鎧のなかで震え、悔し涙を流し続けていた。……なんで俺は弱い? 肝心なときにいつもこれだ。

 

 どうしても一歩力が足りない。……努力しても努力しても、どうして手が届かない奴が多いんだよ……。

 

 これが俺の限界なのか……? なんで俺は……。

 

 俺はその場に膝をつき、悔しさのあまりに地面を叩いた。仲間は戦えているのに、目的を達成できているのに……。赤龍帝の俺だけが戦えていない。

 

 聖槍使い相手だからって関係ない。純粋に弱い自分が悔しい……。

 

 いや、諦めたくない! ここで終わりなんて嫌だ! まだ俺は戦える!

 

 ……でも、曹操に手が届かない……。何度いっても負けるイメージしか浮ばない。逆に周りの足手まといになってしまう。それがたまらなく悔しくて……俺は……。

 

『泣いてしまうの?』

 

 ――っ。俺の内に語りかけてくる誰か。この声は――。

 

 ……エルシャさん?

 

『ええ、そうよ。どうして泣いているの?』

 

 俺の内側から語りかけてきたのは神器の内部にいる先輩のエルシャさんだった。

 

 ……俺、悔しくて……。どうしてこんなに自分が弱いのか……。肝心なときにまったく役に立てないんです。

 

『そう、それは悔しいでしょうね。けれど、忘れたの? 以前、堕天使の総督が言っていたことを――。あなたは可能性の塊だと――』

 

 そのとき、アザゼル先生に以前言われたことが蘇る。

 

 ……歴代赤龍帝と比べて才能は最低だけど、可能性の塊。

 

<おっぱいドラゴン! けっこうなことじゃねぇか。ドラゴンでもそんな新しい2つ名を得られたのは随分久しいことなんだぞ? 身体能力、魔力がヴァーリや他の伝説のドラゴンに劣っていたとしても違う側面からおまえだけの方法で赤龍帝の力を使いこないして強くなっていけばいい。これからも努力と根性、そして意外性から活路を見つけていけよ>

 

 そうだ、先生はそう俺に言ってくれた。

 

 俺は、俺だけの側面から俺だけの方法で赤龍帝の力を使いこなす……。

 

 ――俺はおっぱいドラゴンだから!

 

『そうよ、それがあなた。現赤龍帝であり、おっぱいドラゴン。私とベルザードが見た可能性! さあ、今こそ解き放ちましょう! あなたの可能性を!』

 

 カァァァアアアッ!

 

 俺の懐から光が漏れる。取り出してみると、宝玉が赤く光り輝いていた。

 

 こ、これは……。

 

『その宝玉を天にかざして。呼びましょう!』

 

 よ、呼ぶ? 怪訝に思う俺にエルシャさんは高々と宣言した。

 

『そう、あなただけのおっぱいをッ!』

 

 刹那――、パアアアアアアアアッ!

 

 宝玉がいっそう輝き、この一帯全体を照らすほどの光量となった!

 

「……なんだ?」

 

 曹操もその光に気づき、こちらに顔を向けていた! 離れた戦場で戦っていた仲間や英雄派たちまでも!

 

 宝玉から光が照らされ、何かを映しだしていく。それはしだいに人の形を成していき、ひとり、ふたりと増えていった。

 

 な、なんだ、これ……。疑問に思う俺にエルシャさんが答える。

 

『その宝玉はこの京都で様々な人の間を巡ってきた。あれはその者たちの残留思念が人の形になったものよ』

 

 つ、つまり、俺のせいで痴漢になった皆さんの残留思念ってことですか……?

 

 残留思念の皆さんは総勢千人を超えそうな規模だった! この宝玉はどんだけ京都で痴漢作用していたんだよ! 謝る人が多すぎるだろっ!

 

『おっぱい……』

 

『お、おっぱい』

 

『おっぱいーん』

 

『大変なおっぱい……』

 

 ……残留思念が突然おっぱいおっぱい口走り始めた。おいおいおいおい! 変態の見本市になってませんか!?

 

「「「「おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい」」」」

 

 残留思念の大群が呪詛のようにおっぱいおっぱいとつぶやきながら、のろのろとおぼつかない足取りで動き出していく。何かの陣刑を取っていった。

 

「「「「「「おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい」」」」」」

 

 これはひどいっ!

 

 それしかいえない光景だった。おっぱいおっぱい言いながら残留思念が――儀式めいた様相で円形に並んでいく。

 

「……おっぱいゾンビか?」

 

 曹操がそうつぶやいた。そうですね! ゾンビのように見えますね!

 

 残留思念――おっぱいゾンビは円形を形作ると、今度は人の形を崩して地面に融けていった。そして、円形に光が走り出し、中央に紋様が刻まれていく。広大なひとつの魔法陣となっていった。

 

 ――おっぱいゾンビが魔法陣に!

 

 衝撃的な出来事の連続で俺は何がなんだか分からなくなってきたが、エルシャさんが語りかけてくる。

 

『準備は整ったわ。――呼びましょう』

 

 な、何をですか? もうわけの分からないことだらけで思考が麻痺しかけてます!

 

『――あなただけのおっぱいよ!』

 

 俺のおっぱい――。そう言われて最初に脳裏を過ぎったのは紅髪のお姉さま――。

 

『さあ、叫んで! 召喚(サモン)、おっぱい! ――と!』

 

 さっきから状況がぶっ飛びすぎてついていけないけど、叫ぶしかないか!

 

「――召喚ッ! おっぱいぃぃぃぃぃッ!」

 

 パァァァァァァァアアアアアアアアッ!

 

 魔法陣が輝きだした! 紋様に刻まれた文字には「おっぱい」と書かれているし、おっぱいを形にした象形文字まで魔法陣に描かれている!

 

 呼び出すのか! ま、まさか、いま俺が脳裏に思い描いたあの人を――。

 

 魔法陣の中央に何かが出現しようとする。一瞬の閃光が辺りを照らす! 現れたのは――。

 

「……あ、あれ?」

 

 何も現れないぞ? あの……、エルシャさん?

 

『呼び続けなさい』

 

 は、はい……。

 

「召喚ッ! おっぱいぃぃぃぃっ!」

 

 再び閃光が辺りを照らす! しかし、何も現れない! どうこと!?

 

『呼びかけが弱いのよ! もっと、心の底からおっぱいを求めて叫ぶのよ!』

 

 俺の呼びかけが弱いから……ッ! ……わかりました。

 

 俺は息を吸い込み、背中を逸らして、ブレスを吐くように力を溜めて呼びかける!

 

「召喚ッ! おっぱいぃぃぃぃいいいいいっ!」

 

 おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱいッ!

 

「召喚、召喚、召喚、召喚ッ! 召喚ッ! おっぱいぃぃぃいいいいいいっ!」

 

 おっぱいを渇望する俺の魂の叫び! その叫びに呼応するかのように魔法陣が強く光り輝く! まばゆい輝きを放ち、当たり一帯を閃光で照らす!

 

 感じるのは確かな手応え! 魔法陣から現れたのは――光り輝くおっぱいだった。

 

 おっ、おっぱいぃぃぃぃいいいいいいっ!?

 

 魔法陣の中央に光り輝いてるおっぱいが浮んでる! なんだ、ええっ!?

 

 当惑している俺にエルシャさんが言う。

 

『乳翻訳を使うのよ!』

 

 乳翻訳!? そうか! あの乳と話すのか!

 

「乳よッ! その言葉を解放しろ! 乳翻訳ッッ!」

 

 エルシャさんの指示通りに空中に浮いているおっぱいに乳翻訳をかける! すると――。

 

『私はおっぱいの精霊。あなたが私を呼び出したのですか?』

 

 おっぱいが言葉を発した! 呼び出されたことについても驚いていないようだ!

 

「――ていうか、おっぱいの精霊だと!?」

 

 わけがわらない! どういうことだ!? 俺は部長のおっぱいを召喚するつもりだったのに、なんでおっぱいの精霊が召喚されたんだ!?

 

『私はすべてのおっぱいを司りし神――乳神さまに仕える精霊です。あなたの頑ななまでのおっぱいへの渇望に応じて召喚されたのです』

 

 そんなバカな! そんなバカなことが起こりうるのか!?

 

「え、エルシャさん!」

 

 事情を知っているだろうエルシャさんに訊こうとするが――。

 

『まさか異世界の神を呼び出してしまうなんて。あなたの可能性はそこまで……』

 

 なにやらエルシャさんも予想外なことだったらしい! 内側で驚いてるよ! ど、どうすりゃいいんだ!?

 

 当惑している俺にエルシャさんは真面目に語りかけてくる。

 

『――つつきなさい』

 

「え……?」

 

 我が耳を疑った。いま、信じられない言動が聞えてきた。

 

 しかし、エルシャさんは再び言う。

 

『あの光り輝くおっぱいをつつくのです』

 

「つ、つつくんですか?」

 

『そうよ。つつくの。搭城小猫のおっぱいをつついたように。――ポチッと』

 

「ポチッと!? いやいや、つついてどうするの!?」

 

 何を言ってんですか、この人! 本当に女性で歴代最強の赤龍帝なの!? このお姉さん錯乱しているとしか思えないよ!

 

 驚愕する俺なんてお構い無しにエルシャさんは続ける。

 

『あなたの可能性を開く最後の決め手。それが乳首をつつくことなの。あなたにとって女性の乳首はスイッチ――。あなたの可能性という名の扉を開くためのスイッチなの』

 

 ダメだ。頭がおかしい。この展開はさすがに俺の想像を超えている。エルシャさん、俺にとっての乳首は決して覚醒ボタンってわけじゃないんですよ!?

 

『――いえ、覚醒ボタンだわ。理解しなさい。私は近くで見ていて確信を得ているのよ』

 

 酷い! 酷すぎる! しかし、説得力があるのはなぜだ!?

 

 そう思っているのも束の間、突然、おっぱいが輝きを増した!

 

 パァァァァアアアアアアア……ッ!

 

 キラ☆ キラ☆ キラ☆

 

 ……エルシャさん、あれは……?

 

『おっぱいの精霊があなたの可能性を開くために力を集めているのよ』

 

 ……え?

 

『おっぱいを司る乳神に仕える精霊……。その精霊が京都で集めた力を媒介にあなたを覚醒させるつもりなのよ』

 

 ゴメンなさい。意味がわかりません。ていうか、京都で集めた力って宝玉のあれだよね!? ああ、俺の理解不能なことが起こりすぎて涙が出てくるんですけど!

 

『あれをつつくことであなたは変わる。劇的な変化を遂げるわ。あなたのなかの「悪魔の駒」はあと一押しで力を解き放つ。その一押しが――』

 

 スイッチ――。乳首を――。

 

 ブハッ。

 

 鼻血が噴き出る。わかった。俺はやっと理解できた。この状況を飲み込んだよ。

 

 俺は魔法陣の中央に浮んでいるおっぱいの元へと歩み寄る。

 

 ――すごい。

 

 何てきれいなおっぱいなんだ。……あれ? このおっぱいって――。

 

『あなたが思い描いているあなたの理想のおっぱいです』

 

 おっぱいの精霊がそう教えてくれる。俺の理想のおっぱい……。つまり、部長のおっぱい。

 

 ブブッ。

 

 鼻血が噴出する。ありがとう、おっぱいの精霊。

 

『さあ、乳龍帝。つつきなさい』

 

 ブルンとおっぱいが震えると――ピンク色の乳輪と乳首が淡い桃色の輝きを放った。

 

 ――キレイだ。

 

 なんだか、難しいことを考えるのがバカらしくなってきたぜ……。

 

 これが、おっぱいの魅力、可能性か……。

 

 光り輝くおっぱいってキレイなんだな。

 

 俺は籠手の指部分だけ鎧を解いて、両手人差し指の照準を輝く乳首に向けた。

 

 ……思い出すぜ。禁手になったときのことを。あのときは小猫ちゃんの乳首で覚醒した。

 

 そして今度はおっぱいの精霊の乳首で何かを得ようとしている。

 

 ――すごい。女性のおっぱいはすごい。女性のおっぱいがあれはなんでもできるような気がしてきた。今なら世界中から元気じゃなくておっぱいの力を集めておっぱいドラゴン球もつくれるような気がしてきた。

 

 覚悟はいいか、ドライグ?

 

『ハハッ! もちろんだ、相棒! 一思いにやっちまえ! 乳神という異世界の神の精霊まで呼び出したおまえだ! 後先考えずに目の前にある乳をつついちまえ!』

 

 ……すごいハイテンションだ。ていうか、もうこれは自棄だな。もうここまできたら自棄になるしかないんだろう。ゴメン! ゴメンよ、相棒! あとでアザゼル先生と一緒に心のケアをするからね! いまはあの乳をつつかせて! 俺、あの乳をつつかなきゃいけないんだッ! つつかなければいけないものがあるんだよッ!

 

「いくぜ!」

 

 俺は宣言し、鼻血を噴出させながら、乳首をつついた。

 

 ずむずむっと。極上の柔らかさ、乳首のコリッとした感触、指が乳に埋まっていく光景。それらすべてが全身を駆け巡り、脳みそに最高の快楽を与えてくれる。

 

『……ぁふん……』

 

 最後にトドメの桃色吐息ぃぃぃぃっ! この声は部長の声ッ! クソッ、ここまで再現してくれたのか、おっぱいの精霊さまっ! 最高だぜぇぇえええええっ!

 

 カッ!

 

 おっぱいがまばゆい閃光を放ち始める!

 

 おっぱいが輝きを放ちながら天高く昇っていき、この空間全体を桃色に照らしていった!

 

 ……すげぇ。おっぱいが天に昇っていく! 光り輝きながらっ!

 

 俺は涙をこぼしながら、自然と手を合わせていた。

 

 ――ああ、乳よ!

 

 天高く昇っていたおっぱいは、その後、光と共にこの空間から消えていった。

 

『また会える日を楽しみにしていますよ、乳龍帝』

 

 ――そんな言葉を残して。

 

「……なんだったんだ、あれは?」

 

 曹操たちも仲間たちも呆然として、いまの現象にどうしていいかわからずにいた! ですよね! いきなりおっぱいゾンビが出現したかと思ったら、次は光り輝くおっぱいが召喚されたんだもんね!

 

 ――ドクン。

 

 突如、胸が脈打つ。

 

 ――ドクンッ。

 

 再び高鳴る。これは――。

 

『来たわね。さあ、行きましょうか!』

 

 エルシャさんが叫ぶと、鎧の各部分にある宝玉から、赤い閃光が溢れ出るっ……! 体の内側から熱くて……力強い何かが……湧き上がってくる……ッ!

 

 抑えられない! こんなにも神器の底に力が眠っていた? まさか、『覇龍』?

 

 いや、違う。いままでに感じたことのない力の波動だ。けど、どこか懐かしいものを感じる。ドライグ、これは――。

 

『ああ、俺も感じるぞ、相棒……。懐かしいものを思い出させてくれる。これは――本来の俺のオーラだ。激情に駆られ、「覇」の力に身を任せていたものじゃない。呪いでも、負の感情でもない。これは――俺が肉体を持っていた頃の気質だ。ただただ、白いあいつに勝ちたかった頃の――』

 

 ドライグの楽しそうな声音。

 

 何がドライグに起こったかわかりかねたが、赤いオーラが全身から迸り、俺と周囲を包み込んでいった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 匙と協力して九重と八坂の精神世界に入り、八坂の精神を正常に戻して現実世界に戻ってくると――。

 

 おっぱいおっぱいと念仏のようにつぶやくおっぱいゾンビが二条城に溢れ、それがおかしな魔法陣に変化したかと思ったら、光り輝くおっぱいが召喚された。

 

 どうやらその光り輝くおっぱいというのはイッセーの可能性……つまり痴漢で力を集めていた宝玉が作り出した魔法陣で召喚した、覚醒のためのスイッチらしい。

 

 …………。

 

 ……自分自身でも何を言っているかわからないが、これは現在現実で実際に起こっているらしい……。

 

「……エイジよ。……妾はまだ捕らわれておるのか?」

 

 九重と一緒に両側から支えている金髪の美女。獣耳と9本の尻尾が生えている。この人こそ、九尾の御大将こと八坂だ。八坂は光り輝くおっぱいと向かい合っている赤い全身鎧姿のイッセーを見ながら問いかけてきた。

 

「現実世界のはず……だと思う……」

 

 そうとしか俺は答えられない。確かにここは現実世界のはずなんだが……。

 

 戻ってきてすぐに起こったおっぱいゾンビ出現とか、光り輝くおっぱい召喚でここが現実なのか不安になってる。

 

 と、魔法陣の真ん中で浮いている光り輝くおっぱいの乳首をイッセーが押した。……ポチッと。スイッチを押すみたいに。わざわざ鎧の腕部分を収納して素手で、押した。

 

 すると、何が起こるわけでもなく。光り輝くおっぱいは輝きを増して天上に昇っていった。

 

 ……これで終わり?

 

 今度は九重がつぶやく。

 

「あの赤龍帝はいったい何をしたのじゃ?」

 

「……俺も、知りたいよ……」

 

 いったい何がしたかったんだ? 乳首を押しただけで終わりなのか?

 

 見れば英雄派と戦っていた他の仲間たちまでも戦いを止めてイッセーの行動を見つめていた。敵である英雄派はイッセーが巻き起こすトンでも現象にまったく慣れていないのか、隙だらけの棒立ちで天上に昇っていくおっぱいを見ながら当惑しているようだった。

 

 そんな、誰もが当惑して動けずにいると――。 

 

「どうせ俺も変態ですよぉぉぉおおおおおっ!」

 

 イッセーが突然叫び声を上げた! な、なんだ!? 乳首をつついてからの間、何かあったのか?

 

「いくぜぇぇぇぇぇぇええっ! ブーステッド・ギアァァァアアアッ!」

 

 イッセーの声を共に、赤龍帝の鎧を包んでいた赤い閃光が極大のオーラとなって辺り一帯に解き放たれる!

 

 明らかにいつもより強い力! しかも、オーラの質が純粋なものへと変化している! あの乳首を押す行為はちゃんとした意味があったのか!

 

 イッセーが曹操を睨みながら叫ぶ!

 

「いこうせッ! 赤龍帝をッ! 俺たちの力をッ! グレモリー眷属の底時から、とくとぶっ放してやるぜェェッ!」

 

Desire!(デザイア)

 

Diabolos!(ディアボロス)

 

Determination!(デイターミネイション)

 

Dragon!(ドラゴン)

 

Disaster!(ディザイダー)

 

Desecration!(ディシクレイション)

 

Discharge!(ディスチャージ)

 

 鎧の腹部についているイッセーの可能性だという宝玉が数々の音声を鳴り響かせていき、壊れているかのように『D』を繰り返し始めた!

 

『DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDD!!!!!!!!』

 

 イッセーが高らかに叫ぶ!

 

「モードチェンジッ! 『 龍 牙 の 僧 侶 (ウェルシュ・ブラスター・ビショップ)』ッ!」

 

 イッセーがその場で踏ん張りを利かせると、鎧の肩から背中にかけて赤いオーラが集まり形をなしていった。

 

 できあがったのは背中のバックパックと、両肩に装着された大口径のキャノン。

 

 ブゥゥゥゥン……。

 

 静かな鳴動が始まり、赤龍帝のパワーがキャノンの砲口に集まっていった。

 

 すごい魔力だ! 『僧侶』の駒にプロモーションした影響で魔力が底上げされているのか? いや、それだけじゃない! 以前にプロモーションしたときよりも遥かに魔力の量が多い! それにプロモーションするための認証カードの認証も必要していないようだ。

 

 砲口からとんでもない量のオーラがバックパックに溜まっていく! 

 

「……あれは、マズいな……」

 

 曹操がぼそりとつぶやいた。どうやらイッセーが溜めているパワーの量に危機感を覚えたようだ。

 

 って、あの凄まじいオーラが爆発したら味方の俺らもヤバいじゃないか!

 

 俺は急いで味方の位置を確認し、転移魔法陣を発動させる! イッセーと曹操が戦っている位置に近いゼノヴィア、イリナ、アーシア、ロスヴァイセ、木場をこちらへと移動させる!

 

 と、俺がこちらへと転移させたことをいち早く理解したゼノヴィアが、俺と九重に支えられている八坂を見て安心したように息を吐いた。

 

「九尾の御大将を助けだせたんだな」

 

「さすがお兄ちゃん!」

 

「本当によかったです」

 

「信じていたよ、エイジくん」

 

「……うぐっ、お、おめでとうございます……」

 

 アーシア、イリナ、木場、ロスヴァイセと八坂の無事を喜んでくれている。すごくうれしいのだけど、今はそれどころじゃない。

 

「皆! イッセーが特大の砲撃を今にもぶっ放しそうだから気をつけろ!」

 

 空を飛んでいる匙を含めてそう注意する! イッセーに直接注意できればいいのだけど、いま注意できる状況じゃない。

 

『――っ!』

 

 全員がイッセーから放たれるだろう砲撃を警戒して構えた瞬間――。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

「吹っ飛べェェェェェェェェェェッ! ドラゴンブラスタァァァアアアアアアアッ!」

 

 ズバァァァアアアアアアアアッ!!

 

 イッセーの肩に装備されたキャノンから極大の一発が放射されていくッ! おいおいおいおいっ! 倍加能力も加わってとんでもない威力になってるぞ! 覚醒したてだからって、こんなもんを仮想フィールドでぶっ放してんじゃねぇぇぇぇっ! エネルギーを放射するだけで精一杯みてぇだし、危険すぎるだろぉぉぉっ!

 

 英雄派のほうへ放出されていく大出量のエネルギーッ!

 

「おもしれぇ、受けてやるぜ、伝説のドラゴンさんよッ!」

 

 ロスヴァイセと戦っていた全身にミサイルを生やしている巨体の男が、曹操と砲撃の間に立ちふさがる! イッセーの一撃をその身で受けようとするが――。

 

「受けるなッ! 避けろッ!」

 

 曹操が叫び、槍の石突きで巨体の男をその場から吹っ飛ばした! 曹操自身も素早く砲撃を回避していた。他の英雄派のメンバーたちもそれぞれ砲撃が当たらないところへと移動したようだ。

 

 外したキャノンの一撃は、誰にも当たることなく遥か後方へと飛んでいき――。

 

 ドォォォォオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 空間全体を震わせるほどの大爆発と共に背景の町並みが丸ごと巨大なオーラに包み込まれていく!

 

 ……エネルギーが広がって、町全体を激しい光が包んでいく!

 

 光の止んだ後に残ったものは――何もなかった。放たれた先の風景が消滅し、ゲームフィールドにまでダメージを与えたようで、空間が歪みだしていた! ……いくらなんでも閉鎖空間で撃つ攻撃じゃないぞ、おい……。

 

「凄まじい威力だな。私もあれぐらいの一撃を放ってみたいものだ」

 

 ゼノヴィアが何もなくなった町を見てそう言う。砲撃の威力に感心しているようでうんうんとうなずいている。……お願いだから止めてください。戦いごとに広大なさら地が増えるよ。

 

「…………」

 

「…………」

 

 八坂と九重は無言で固まっている。無理もない。あんな砲撃みたら誰だって思考が停止する。しかも破壊されたのは擬似空間とはいえ京都の町だ。……いまは声をかけられないな。

 

「……町が丸ごと吹き飛びやがった! おい! こんなの立て続けに放たれたらこの空間が保たんぞ!」

 

 巨体の男が砲撃の威力を見て驚愕の声音を出していた。

 

「擬似空間の町が歪む、か。ここはかなり強固に創られているんだけどね。……なんて威力だよ」

 

 いつの間にか6本腕になっているジークフリートが笑みを止めて、目を細めていた。……うん。本当に、擬似空間を強固に創ってくれていた英雄派に少しだけ感謝だ! もしもさっきの一撃をこの擬似空間が受け止められずに崩壊して、現実世界にまで影響を及ぼすことになったら……京都の住民の命やイッセーの精神もヤバかった。

 

「曹操ォォォォォオッ!」

 

 イッセーが曹操の名を叫び、背中のキャノンをパージした! パージされたキャノンは淡い光となって霧散していく。

 

「モードチェンジ! 『 龍 星 の 騎 士 (ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)』ッ!」

 

 バッ!

 

 イッセーがドラゴンの翼を羽ばたかせ、曹操に向う! 鎧の背中部分に存在する、以前よりも倍となったブーストを盛大に噴出させる! 空気を震わせながらイッセーは空を切るように飛んでいく!

 

「すごいスピードだ!」

 

 木場が驚きの声をあげる。イッセーは飛びながらさらに叫ぶ!

 

「――装甲パージッ!」

 

 イッセーが叫ぶと、赤龍帝の鎧の各所がパージされていく! 胴体から、腕から、足から、頭部から厚い装甲が外れていった!

 

 最低限の装甲だけになって飛んでいくイッセー。鎧の形状がさらに変化し、スリムなフォルムと化した。

 

「てめえに体当たりぐらいなら問題ねぇよァァァァッ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 イッセーが曹操を捉え、正面から突っ込んでいく!

 

「――速いッ!」

 

 曹操が槍のを前方に構える! イッセーを正面から受ける気か!

 

 ドンッッ!

 

 イッセーの体当たりが正面から曹操に命中する!

 

「ごふっ!」

 

 曹操が軽く吐瀉した。曹操を捕まえた状態でイッセーが飛び続ける!

 

「――やっと、捕まえたぜ。これなら、文句ねぇだろ?」

 

 イッセーがそう言うと、曹操はうれしそうに笑った。

 

「――まったく、キミは正面から本当に突っ込んでくるんだなッ! だが、その装甲の薄さで俺の槍は耐えられないだろうッ!? パワーアップ早々悪いが、これで終わりだっ!」

 

 確かに。曹操の言う通りだろうが――。

 

「モードチェンジッ! 『 龍 剛 の 戦 車 (ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)』ッ!」

 

 イッセーもそれは承知済みだったようだ。イッセーの叫びに呼応するように赤いオーラが再び全身を包み込み、パージした分の装甲を修復させていく。だが、オーラの形成はそれだけに留まらない。さらに鎧を分厚く、肉厚にさせた。

 

 イッセーの両腕に大量のオーラが集結していき、通常の籠手の倍――いや、5、6倍はあろうかという極太の様相を見せた。

 

 鎧が変化したことで神速が止まり、空中でイッセーと曹操が投げ出された。曹操がイッセーを捉え、光の刃がイッセーに向っていく!

 

 ガシュッ!

 

 ……イッセーは右の分厚い籠手を盾代わりにして、その槍の一撃を受けた。籠手に突き刺さる聖槍。どうやら貫く途中で止まっているようだ。

 

「――もっと出力をあげないと、この鎧は壊しきれないというのかッ! 上級悪魔なら瞬殺できる出力なんだぞッ!」

 

 そう叫ぶ曹操に、イッセーは大きくなった左の拳を構えた!

 

「おっぱいドラゴンなめんな、このクソ野郎ォォォォォォォッッ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 イッセーは極大な左の拳を曹操目掛けてぶっ放した! ――瞬く間に曹操が槍を籠手から抜き放ち、盾のようにしたが――。

 

「こんにゃろォォォォォッ!」

 

 ドンッッ!

 

 拳がインパクトした瞬間、籠手の肘部分に新たに生まれた撃鉄が打ち込まれた! 膨大なオーラを噴出させながら、拳の勢いが増し、曹操は勢いよく地面へと叩きつけられた!

 

 ぶ厚い鎧を装着したままイッセーが地に降り立った。そこは曹操が落下した衝撃で地が割れ、激しい土煙をあげていた。

 

 ……サァァァァ。

 

 イッセーの分厚くなっていた装甲が霧散して、風に乗って消えていく。

 

「……はぁはぁ……」

 

 イッセーが息を上げ、その場にひざをついた。どうやら先ほどの技は消耗が激しいらしい。

 

 疲労困憊なイッセー。

 

 ――だが、それにしても強くなった。

 

 おっぱいゾンビとかおっぱい召喚は置いておくとして。

 

 イッセーは本当に、強くなった。

 

 半年ほど前までは変態三人組のひとりだったのに。

 

 当初は2天龍の片割れ、白龍皇であるヴァーリに失望されていたのに。

 

 今では『黄昏の聖槍』使いで英雄派のリーダー格を殴り倒せるまでに成長している。

 

 本当に、どこまで強くなる気なんだ?

 

 イッセーの成長が、アザゼルのいう無限の可能性が少し楽しみになってしまう。

 

 と、イッセーが立ち上がるのと同時に、納まり始めた土煙のなかで曹操が立ち上がった。

 

 ……すごいな、あの攻撃を生身で受けて立てるのか。済んでのところで槍を盾にしたからと人間が耐えられるような一撃ではないんだけどな。

 

 地面に叩きつけられた衝撃で生まれたクレーターから曹操が上がっていく。

 

 鼻と口から血を流していた。それを拭い、首をコキコキ鳴らしながら言う。

 

「これは赤龍帝殿。先ほどは失礼した。驚くべき変化を遂げたようだ。十分な強さを土壇場で得るなんてね。槍で守らなければ死んでいたよ」

 

 いや、死んでおけよ、いっそ。ていうか、腕も無事なのかよ? 普通もう槍が持てなくなってるはずじゃないのか?

 

「『悪魔の駒』のルールを逸脱したキミだけの特性か……。まるでイリーガル・ムーブだな」

 

 チェスの用語で不正な手、ね。イッセーは知らないようだったが、曹操が丁寧に説明したようだ。さっきのモードチェンジ3連発のことを『 赤 龍 帝 の 三 叉 成 駒 (イリーガル・ムーブ・トリアイナ)』と名づけるんだと。

 

 まあ、強力な力を得たわけだが、それだけスタミナとオーラを消費するらしい。要修行だな。

 

 イッセーが息を吐き、曹操に言う。

 

「あんた、やりにくすぎるんだよ。ちょっと俺たちのことを舐めたかと思うと、今度は冷静に見てくるしさ」

 

「いや、キミを少しでも軽んじた俺が愚かだった。本当にすまなかった。強力な力に溺れず赤龍帝の深奥を知ろうと動いているキミはやはり強敵だ。反省をしなければいけない」

 

 曹操は肩に槍をトントンとすると続ける。

 

「――楽しい。ヴァーリと個人的に一戦して依頼の戦闘高揚かもしれない。やはり、伝説のドラゴンと戦うのは最高だな。俺が心底英雄の子孫だという証拠か」

 

 ……楽しいね。結構なバトルマニアのようで。と、イッセーが意外そうに曹操に尋ねる。

 

「昼間のエイジとの戦いは楽しくなかったのかよ?」

 

 そう訊ねられて曹操は俺の方へと視線をやり――。

 

「……正直、落胆したよ。悪魔に堕ちても英雄のなかの英雄だと思っていたのに。俺たちを捕らえられないなんて。まあ、武術のほうは噂以上に凄まじかったけどね」

 

 ふんっ、と軽く鼻を鳴らしてイッセーのほうへ顔を戻す。イッセーも「そ、そうか」とつぶやくだけだ。……あの野郎……ッ! 確かに捕まえられなかったけど、ボコボコにやられていたおまえが言う事じゃないだろうがっ!

 

「あんた、このまま全勢力と激戦をするつもりか?」

 

 イッセーの問いに曹操は首を横に振った。 

 

「冗談。元々この戦力では長期戦に向かないし、先ほども言っていただろう? 潮時だと。こちらはグレモリー眷属の力が計れただけで満足しているんだよ。それに各勢力が協力した兵力にはいくらなんでも勝てない。そちらに大損害を出せるだろうが、こちらは確実に全滅だ。不意打ちを狙った一点突破のほうが効率がいい。だからこの組織にいるのは割がいいわけさ」

 

 ……そういう理由もあって『禍の団』に所属しているわけか。まあ、戦争だったら数が重要だけど、テロを起すのなら少数精鋭のほうが色々と自由が利くよな。ある程度知名度がある組織に所属してれば報復とかを恐れて表立って襲ってくる敵も減るし。

 

「さてと、じゃあ九尾の御大将とそのご息女のお守りをしている神城がこちらに来ないうちに退かせてもらうとするか」

 

 曹操がそう言ったときだった。

 

 バジッ! バチッ!

 

 空間を震わす音が鳴り響く。空間を裂く音?

 

 音の方向へと視線を向ければ――空間に穴が生まれつつあった。

 

 曹操の逃げ道? いや、曹操も空間の穴を怪訝そうに見つめている。どうやら関係がないようだ。

 

「……まさか赤龍帝の膨大なオーラが真龍を呼んだ? いや、呼び出すための魔法陣は発動していない。九尾の御大将の意識も戻った今、それはありえない。……それに、裂け目から伝わっているのは闘気……ッ!」

 

 曹操が空間の裂け目を見つめながら、そうつぶやいたときだった。

 

 オオオオォォォォォォン。

 

 空間の裂け目から姿を現したのは――10数メートルほどの、体が細長い東洋タイプのドラゴンだった。

 

 緑色のオーラを発しながら夜空を幻想的に舞うドラゴン。あいつは――。

 

 曹操が叫ぶ。

 

「――西海龍童、玉龍かッ」

 

 やっぱり五大龍王の玉龍か。ってことは、あの人も来てるのか?

 

 玉龍の背に視線を向けてみると――小さな人影らしきものがひとつ。人影がドラゴンの背から飛び降りる。

 

 かなりの高さから降りたはずだが、人影は高さなどなかったかのようにスッと地上に降り立った。

 

「大きな『妖』の気流、それに『覇』の気流。それらによって、この都に漂う妖美な気質がうねっておったわ」

 

 年老いた声。幼稚園の年長児ほどの身長。金色に輝く体毛。黒い肌でしわくちゃの顔。法衣を着ていて、首から珠のひとつひとつが大きい数珠。サイバーなデザインのサングラスをかけていて、口には煙管。手には長い根。

 

 初めて会ったときと何も変わらない。

 

 かの西遊記で有名な闘戦勝仏、初代孫悟空だ。

 

 煙管を吹かしながら、初代孫悟空は不適な笑みを浮かべてる。

 

「おー、久しい限りじゃい。聖槍の。あのクソ坊主がデカくなったんじゃねーの」

 

 初代孫悟空が曹操にそう言う。早々は目を細めて笑んだ。

 

「これはこれは。闘戦勝仏殿。まさか、あなたがここに来られるとは。各地で我々の邪魔をしてくれているようですな」

 

「坊主、イタズラが過ぎたぜぃ。ワシがせっかく天帝からの使者として九尾の姫さんと会談しようと思っていたのによぉ。拉致たぁ、やってくれたもんだぜぃ。ったく、関帝となり神格化した英雄もいれば、子孫が異形の業界の毒なんぞになる英雄もいる。『覇業は一代のみ』とよく言ったもんじゃ。のぅ、曹操」

 

「毒、ですか。あなたに称されるのなら、大手を振って自慢できるものだ」

 

 ……随分と親しそう、というか、知り合いみたいだな。それにしても曹操が畏敬の念を持って初代孫悟空に接している。俺にはすげぇ態度が悪いのに。他の英雄派のメンバーは……さすがに初代孫悟空の登場に危機感を覚えてるのか、警戒レベルを最高にしてその場で硬直していた。

 

 と、俺たちもそろそろイッセーのところに行くか。もうあの危ねぇ砲撃も撃たなさそうだし。

 

 視線でそうやり取りをしてから、イッセーの元へ近づいていくと――。

 

「……誰だ、あの猿のような……じいさん?」

 

 イッセーがそんな疑問の声をあげた。かなり有名な御仁だが、まあ、実物は知らなくて当然か。

 

「あのヒトが西遊記で有名な初代孫悟空だ」

 

 歩みながらそう教えてやると、

 

「あ、エイジ。――って、しょ、しょ、しょ、初代孫悟空ぅぅぅぅうううっ!? あ、あの猿のじいさんが!?」

 

 イッセーは心底仰天して驚いた。信じられないと指まで指してる。俺は肩をすくませながら言う。

 

「このヒトたちがアザゼルが言ってた強力な助っ人なんだろうよ」

 

「そうだったのか!」

 

 初代孫悟空がイッセーのほうへと視線を送り、しわくちゃな口元を笑ませた。

 

「赤龍帝の坊や。よーがんばったのぉ。いい塩梅の龍の波動だ。だが、もう無理をしなくていいぜぃ? ワシが助っ人に来たからのぅ。あとはこのおじいちゃんに任せておきな」

 

 初代孫悟空は俺のほうを見て――。

 

「んん? なんじゃい。感じておった妖の気流が小さくなったと思っておったが。もう九尾の姫を救い出しておったのか」

 

 俺と九重に両側から支えられている八坂がうなずく。

 

「はい。エイジや九重、悪魔や天使の皆さん方のおかげで……」

 

「そりゃあ、よかったのぅ。元気そうで安心したわい」

 

 からからと笑う初代孫悟空。空中を飛んでいるドラゴン――玉龍もうれしそうな声をだした。

 

『ハッハッハッハ! じゃあ、俺の仕事は終わりか! オイラ、ここにはいるだけで疲れてたんだよなー! 確かに白龍皇の仲間の魔女っ子に手助けしてもらったけど、正直、もう闘うとか勘弁してほしかったんだわ! ハッハッハッハ! おわっ! ヴリトラだ! ヴリトラがいるぞ! どれぐらいぶりだぁ? おーい、ヴリトラー!』

 

 相変わらずテンション高いな……。てか、心なしか『龍王形態』の匙が困っているように見える。まあ、龍じゃないから言葉は伝わってこないけど。

 

 初代が煙管を吹かしながら言う。

 

「まったく。五大龍王のなかで1番若手だからといって落ち着きがなさ過ぎるのぅ。そんなに元気がありあまっとるなら現役を続けんかい。目立った戦いが終わった瞬間にいの一番で引退なんぞしおってからに」

 

 そう愚痴る初代孫悟空だが、玉龍のほうはヴリトラに夢中のようだ。こちらでは何を言っているか相変わらず聞き取れないが、確実に匙が困っているのは伝わってくる。……あいつ、悪魔事情や裏の世界についてイッセーよりも遥かに理解力があるからなー。玉龍に絡まれて戸惑っているんだろう。

 

「――まあ、よいか。敵は奴らだけのようじゃしのぅ」

 

 曹操へと向き直る初代孫悟空。曹操の周りに散らばっていた英雄派のメンバーが集結する。

 

「さてさて、赤いのには悪いがのー、てっとり早く曹操の子孫にお仕置きせんとなぁ」

 

 初代孫悟空が――曹操に歩み寄る。ジークフリートが6本の腕を展開させながら、初代孫悟空に突貫する!

 

「ジーク! 相手にするな! おまえでは――」

 

 曹操が制止させようとするが、ジークフリートは嬉々として立ち向かっていった!

 

「お猿の大将! あの孫悟空なら相手にとって不足は――」

 

「――伸びよ、棒よ」

 

 ドンッ!

 

 初代孫悟空が静かに漏らしたあと、手に持っていた棒が凄まじい速度で伸びていき、ジークフリートを難なく吹っ飛ばしていく。

 

「――ッ!」

 

 ドォォォォンッ!

 

 ジークフリートは一発で瓦礫の中に吹き飛ばされてしまった。初代孫悟空相手に特攻とか、本当に無茶するな、あいつ。

 

「ワシにとって不足じゃったようじゃの。若い魔剣使い、腰が入っとらん。走り込みからやり直せぃ」

 

 初代は一瞥すると、『絶霧』使いの青年が初代孫悟空へ向って手を突き出した。

 

「――捕縛する。霧よッ!」

 

 初代孫悟空を包み込むように霧が集まるが――。

 

「――天道、雷鳴をもって龍のあぎとへと括り通す、地へ這え」

 

 トンッ。

 

 初代孫悟空が呪文をつぶやき、棒で地面を一度叩くと、霧が嘘のように霧散していった。

 

「まだ神器の練り方が弱いの。そこの赤い龍のように対話したらどうじゃい?」

 

「――ッ! あの挙動だけで我が霧を……ッ! 神滅具の力を散らすか!」

 

『絶霧』使いは仰天しているようだが。相手が初代孫悟空じゃなぁ。神滅具といっても禁手状態でもないなら初代の拘束は無理だろう。

 

「槍よッ!」

 

 ギュゥゥゥゥンッ!

 

 隙を突いたかのように曹操が聖槍の切っ先を伸ばし、初代孫悟空を奇襲しようとするが――。

 

 初代孫悟空は指先ひとつで槍を止めてしまう。

 

「……良い鋭さじゃわい。が、それだけだ。まだ若いの。ワシの指に留まるほどでは他の神仏も滅せられんよ。――貴様も霧使いも本気にならんでワシにかかろうなどと、舐めるでないわ」

 

 初代孫悟空の一言を聞き、曹操は笑みを引きつらせていた。

 

「……なるほど、バケモノぶりは健在のご様子ですな……。周囲に広く認知されているのは若い頃の強さだと訊く。いまは如何ほどですかな?」

 

 曹操の問いかけに初代は不適に肩をすくませるだけだった。

 

 ジークフリートが瓦礫から立ち上がり、曹操に告げる。

 

「曹操。ここまでにしよう。初代孫悟空は『禍の団』のテロを何度も防いでいる有名人だ。これ以上の下手な攻撃はせっかくの人材が傷つくよ。僕も甘かった。――強い」

 

 それを聞き、曹操も槍を下ろした。

 

「まあ、元々退くつもりだったしな」

 

 バッ!

 

 英雄派メンバーが素早く一か所に集結し、霧使いが足元に巨大な魔法陣を展開し始める。転移魔法陣、逃げる気か! 曹操が捨て台詞を吐く。

 

「ここまでにしておくよ。初代、グレモリー眷属、赤龍帝、神城エイジ、再び見えよう」

 

 って、何を逃げようとしてやがる! まだ八坂を攫ったこと、九重を悲しませたこと、修学旅行を台無しにしたことについての落とし前をつけさせてないんだぞ!

 

 俺は八坂と九重を仲間たちに預けて飛び出す! 曹操を目指して一直線に飛翔する!

 

「――神城エイジ!」

 

 曹操が槍を構える。俺は曹操の目の前で左腕を突き出して言う。

 

「このまま無事に逃がすと思うのか?」

 

「……逃げさせてもらうさっ!」

 

 曹操が不適に笑んで槍を突き出してくる。俺の心臓を狙って放たれた槍。俺はそれを見切り、体勢を低くして滑り込むように懐へと入り込む!

 

「――っ!」

 

 曹操の表情が驚きのものへと変わる! 懐へと入り込んだ俺を上から睨むが、もう遅い。俺は左の拳を曹操の腹部目掛けて放つ!

 

 ドンッ!

 

「がはっ!」

 

 放った拳は曹操の腹部へ深くささり、曹操の体がくの字に折れた! 曹操の口から強制的に息が吐き出される!

 

 ――もう一撃ッ! 即座に左腕を引いて、右の拳を硬く握りしめる!

 

 ドンッ!

 

「ぐぅっ!」

 

 確かな手応え! 2度目の拳を受けた曹操の体が後方へ飛ぶ! とりあえずまずは2発だ。

 

「――曹操っ!」

 

『絶霧』使いの青年が飛び出し、曹操を体で受け止めた。『絶霧』使いの男が曹操に大声で呼びかける。

 

「曹操! 大丈夫か!? 曹操ッ!」

 

「……がはっ! ぐっ、はぁはぁっ……!」

 

 打撃をもらった腹部を手で押さえる曹操。内蔵にもダメージが伝わったのか、吐血していた。……それにしても、本当にタフだな。籠手の効果を使っていないとしても人間が耐えられるような一撃じゃないのに。

 

「よくもっ!」

 

「死にやがれぇええええええっ!」

 

 聖剣らしきレイピアを持った金髪の女と巨体の男が俺へと向ってきた。

 

 金髪の女はレイピアを突き出し、矢のように高速で斬りこんでくる!

 

 金髪の女から初撃に放たれた突きをギリギリまで引きつけ――かわす。

 

「――くうっ!」

 

 初撃をかわされた金髪の女はすぐに後方へ下がり――。

 

「――聖剣よ!」

 

 そう叫ぶ。最初から避けられることを読んでいたようだ。驚いた様子もなく、次の攻撃に移った。俺を囲むように全方位から数本の聖剣が生えてくる。これは木場の『魔剣創造』と同じ――望んだ聖剣を創造できる『聖剣創造』か。

 

「オオオオオォォォオオオオッ!」

 

 背後からする強烈な気配。巨体の男だな。背後からの同時攻撃か。空気の流れからして放とうとしているのは腕での攻撃か。ロスヴァイセと戦っていたときと今は姿が違っていたから、禁手前か禁手後で神器の能力が今は違うんだろう。さっきはミサイルを放つ攻撃をしていたから、おそらく今は近接系の能力。

 

 周囲から生える数本の聖剣と豪腕による連携攻撃が俺に襲い掛かる。

 

 ――が。

 

「――まだまだ俺を殺すには足りないな」

 

 俺は後ろへ下がりながら聖剣を出現させた金髪の女に手を伸ばし、英雄派の制服らしい服の襟首を掴んで引き寄せる!

 

「――ッ!」

 

 金髪の女は驚愕の表情を浮かべる。が、すぐに表情を引き締め、俺の背後に向って叫ぶ。

 

「私に構わないでやりなさい!」

 

「――ッ! ああっ! 全力でぶっ放してやるぜぇぇぇええええっ!」

 

 金髪の女の叫びにうなずき、巨体の男は豪腕を振り下ろす!

 

「――こっちも食えぇぇえええっ!」

 

 背後から振り下ろされる豪腕と共に金髪の女が叫び、周囲から生やした聖剣と手に持った聖剣を俺目掛けて突き刺してきた。おいおい、仲間もろともかよ。

 

 ドォォォンッ!

 

 巨体の豪腕が体に触れたと同時に爆発した! ほとんどない時間差で金髪の女の攻撃が放たれる!

 

 俺は避ける動作も見せずにそれらすべてを受け入れる。

 

「――ッ」

 

「――なんだと!?」

 

 金髪の女と巨体の男の表情が驚愕に染まる! それもそのばずだ。俺は爆発と聖剣を攻撃をほとんど同時に受けたというのに、全くの無傷なんだから。

 

「ふぅ」

 

 小さく息を吐く。突き刺さることも、傷つけることもかなわず衣装や素肌で止まっている聖剣たち。俺が少し動くだけで聖剣たちはガラスのように脆く、砕け散った。

 

「あ、ああ……、ああああ……っ!」

 

 襟首を掴まれている金髪の女が動揺を隠せず狼狽する。巨体の男の爆発を受けて制服がボロボロになっているのにも関わらず、恐怖に染まりきった顔で俺を見つめ、震える声でつぶやく。

 

「嘘……、嘘よ。聖剣……、聖剣が悪魔を傷つけもできずに砕けるなんて……」

 

 俺は片方の手でまだ砕けていない聖剣を掴む。……うん、悪魔ほど光のダメージを受けない。

 

「どうやら成功したらしいな」

 

 バリッ、バリバリッ。

 

 手で聖剣を砕く。砕いた破片を掌でさらに潰し、手を開く。砂へと変わってしまった聖剣の欠片が風に吹かれて飛んでいった。

 

 俺のそんな行動に驚き、戦場にいた者たちが俺へ視線を集める。俺は『絶霧』使いに支えられ、ジークフリートに守られている曹操に視線を向ける。

 

 背中へと意識を向け――。

 

 バサッ。

 

 ――翼を生やす。

 

 コウモリのような悪魔の翼ではなく、白い――天使の翼を。

 

「な、なぜ……」

 

 曹操が信じられないといった表情で俺の背中に生えた天使の翼を見つめた。俺は天使の羽を動かして言う。

 

「半年ほど前、俺は『悪魔の駒』で人間ベースの悪魔に転生したあと、『悪魔の駒』が暴走して完全な純潔悪魔へと、インキュバスの体へと変化した――と思っていたんだが、どうやらそれは違ったらしい」

 

 俺は天使の翼を引っ込め、今度は悪魔の翼を出現させる。

 

「……天使から悪魔に戻った? 天使と悪魔の両方になれるのか?」

 

 俺を観察するように見ながらそう訝しげにつぶやく『絶霧』使いだが――。

 

「――少し違う」

 

 首を横に振って続ける。

 

「俺はもっと異質な存在だ」

 

 そう言った瞬間、背中に生えていた悪魔の翼が消失し始める。黒い光の粒になって悪魔の翼だけでなく、尻尾まで消失し始める。

 

 そして、開いているほうの手を上に向けると紅い粒が集まっていき、ある形を形成していく。

 

 それは紅い――チェスの駒。

 

 ――『兵士』の駒だった。

 

 曹操は俺の手の上にあるものを見て、目を大きく見開いた。

 

「まさか『悪魔の駒』なのか!?」

 

「ああ、リアス・グレモリーに入れられていた『悪魔の駒』の『兵士』の駒だ」

 

「それが――」

 

 曹操が手に持っている『兵士』の駒に憎悪を込めた視線で睨む。が、すぐに視線は俺へと移された。俺の体を足元から頭まで見つめ、笑んだ。

 

「つまり今の神城エイジは純粋な人間だということか」

 

「……純粋とは違うがな。確かに人間だ」

 

「――ハハッ」

 

 俺の返答を聞き、曹操がいきなり笑い声を漏らした。な、なんだ、こいつ……?

 

「……曹操?」

 

 曹操の様子に『絶霧』使いが声をかける。曹操はその声が聞こえていないのか、起き上がり、俺へと近づき始めた。

 

 槍を肩でトントンさせながらうれしそうな顔を浮べて近づいてくる。どうしたんだ、こいつ……。

 

「あ……、ぅあ、あ……」

 

 ――おっと、そういや金髪さんを掴んだままだったな。金髪さんは攻撃をすることも忘れて完全に心折れて呆然としているようだ。聖剣で傷つかなかったり、簡単に聖剣を砕いたことがものすごく堪えたらしい。

 

 ……このまま隔離空間にでも転移させて捕まえるか? そう考えていると――。

 

「神城エイジッ!」

 

 曹操が聖槍を構えて正面から突っ込んできた! 仲間を捕まえていることもお構い無しに聖槍で突いてくる!

 

「――おっと」

 

 俺は聖槍をひらりとかわす。攻撃をあっさりかわされた曹操は笑んだまま――こいつ!

 

「――もらった!」

 

 体勢が崩れるのも構わずに聖槍から片手を外し、俺の掌にある『悪魔の駒』へと片手を伸ばした!

 

 曹操の手が『悪魔の駒』に触れる寸前――。

 

 ドンッ!

 

「がはっ!」

 

 俺は蹴りを曹操に叩き込み、無理矢理距離を離させた。……『悪魔の駒』を狙ったのか?

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 曹操はすぐに空中で体勢を整える。ダメージや疲労から荒い息を吐きながらも俺の手をロックオンし続けていた。

 

 ……これはもうしまったほうが良さそうだな。とりあえず『悪魔の駒』を『王の財宝』のなかへと収納する。曹操は完全に収納されるまで『悪魔の駒』を穴が空くほど睨み、いまだに人間(?)状態のままの俺へ視線を向けた。

 

「神城、エイジぃ……」

 

 狂気を孕んだ表情で俺を見つめる――というか、睨んだ。……それにしても、なんでこいつは嬉しそうなんだよ……?

 

 曹操が再度槍を構えて突っ込んでくる! 俺は片手に持っていた金髪さんを解放して曹操と相対する!

 

「槍よッ!」

 

 曹操が聖槍の出力を上げて突いてくる! 俺は片腕を突き出し、指を立てる。

 

 トンッ。

 

 聖槍が俺の籠手で覆われた指で止まる。先ほど初代孫悟空が行なったように。

 

「――ッ! ハハッ! さすがッ!」

 

 曹操の表情が驚愕から即座に笑顔へと変化する! 俺は曹操が次の手に出る前に踏む込む! 指で止めている聖槍を弾き、曹操の無防備な顔面目掛けて左の拳を放つ!

 

 ドンッッ!

 

 俺の一撃が曹操の顔面を捉えた! 殴られた反動で曹操が後ろへと吹っ飛ぶ!

 

「――ッ!」

 

 吹き飛んでいく曹操の体をジークフリートが受け止める。衝撃を殺すように後ろへと飛びながら。

 

 数メートル飛んでやっと止まった曹操。

 

「ぐぅぅぅ……ッ」

 

 ジークフリートに支えられながら曹操は顔を手で覆う! 曹操は右眼から鮮血を散らしながら、こちらに顔を向ける!

 

 血で染まった顔面。曹操は右眼を手で押さえながら狂気に顔を歪ませたっ!

 

「……強い……。強い強い強い強いッ! ハハッ! これが本物の神城エイジか! これが英雄のなかの英雄の力……ッ!」

 

 か、確実に右眼を潰してやったのにすごく元気そうだ……。ていうか、首の骨を折る気で殴ったんだが……。

 

 曹操は槍をかまえると、力強い言葉――呪文のようなものを唱えだした。

 

「――槍よッ! 神を射抜く真なる聖槍ッ! 我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの――」

 

 ジークフリートが曹操の口と体を手で押さえた。

 

「曹操っ! 唱えてはダメだ! 『黄昏の聖槍』の禁手――いや、『覇輝』を見せるのはまだ早いッ!」

 

「――ッ!」

 

 ジークフリートを振りほどこうとする曹操。今の曹操には俺しか見えていないようだが――。

 

「いい加減にしろ、曹操ッ!」

 

『絶霧』使いの青年にまで言われて、何とか激情を収めてくれたようだ。曹操は深く息を吐く。ジークフリートが言う。

 

「――今度こそ退却だよ。『魔獣創造』――レオナルドも限界の時間だろう。外のメンバーではこれ以上の時間稼ぎもできないだろうし、僕らのほうもこれ以上の戦闘はさすがにマズい。各種調整についても十分にデータも得られるし、いい勉強になっただろう」

 

 ジークフリートは初代を睨めつけていた。先ほどの攻撃をよほど根に持ったようだ。

 

 曹操が左眼で俺を捉える。肌寒くなるような視線。……おい、色んな意味で危なそうな視線なんだが……。

 

「わかっているさ。初代殿、赤龍帝――否、兵藤一誠」

 

 曹操の視線がイッセーに向けられる。曹操はイッセーを見ながら続ける。同時に『絶霧』使いが転移魔法陣を起動させ始めた。解放したジャンヌもヘラクレスが抱えていて、転移魔法陣の上に曹操たちと立っていた。

 

「ここいらで俺たちは撤退させてもらうよ。まったく、ヴァーリのことを笑えないな。彼と同じくキミを甘く見すぎてしまったようだ。キミはなぜか土壇場でこちらを熱くさせてくれる。今度は完全な強さを手に入れたキミと戦ってみたいものだ」

 

 曹操はイッセーにそんな言葉を送り――。

 

「神城エイジ」

 

 今度は俺へと視線を移した。その視線は昼間やこの夜での不機嫌さなんて微塵も存在しておらず、むしろ畏敬の念さえ感じられた。

 

 曹操は槍を肩でトントンさせず、しっかりと持って言う、

 

「やはりあなたは人間のままが1番輝いている。その今の力こそが。俺が心の底から憧れた英雄としての神城エイジだ」

 

 …………。

 

 魔法陣がいっそう輝きを増した。曹操が消える間際に俺に言った。

 

「――今度戦うときはこの槍の真の力をもってして全力で戦おう」

 

 それだけ言い残し、彼ら――英雄派はこの空間から消えていった。

 

 …………。奴らが消えた瞬間、どっと疲れが襲ってくる。

 

 あれが英雄派、か。曹操……、最強の神滅具……。わけのわからないことだらけだ。

 

 ただ、ひとつだけ言える。

 

 英雄派、特にあの曹操という男は――ものすごく不気味だ。

 

 ……ホモではないとは思うが、人間になった俺を見る視線が危ない。

 




 自重しなくなる曹操……。 次回、エピローグ。

 九尾親子は番外へ。やっぱり昨日の今日ではできなかった……。

 あと自分も、ここのえ → 九重 と変換していますが、

 九重=ここのえ ではなく、九重=くのう

 と、読みます。

 次回、エピローグ!

 立ちまくるフラグ!

 原作がインフレで突っ走りまくって、俺は爆発しそうです!

 いくら初代孫悟空だからって、聖槍の一撃を指で止められるわけがないだろうっ! 曹操相手に苦戦してた堕天使総督アザゼル先生どんだけ弱いんだよ!?

 もう全盛期であろうと、三代勢力を初代孫悟空とか天帝の勢力だけで倒せるんじゃねぇの?

 あと、不利だからってイッセー考えなさすぎるだろ! もしも『僧侶』の一撃で擬似空間が壊れて現実空間まで更地になったら、どうする気だったんだ……?


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第78話 修学旅行の終わり 

<イッセー>

 

 激闘を終え、俺たちは京都の擬似空間から元の世界に戻り、宿泊しているホテルの屋上にいた。

 

「はぁ……、疲れたぁ……」

 

 大きく息を吐いてその場に座り込む。他のみんなも俺と同じようにその場にヘタリこんでいた。それにしても本当に疲れたな。今晩はもう禁手になれないぞ……。

 

「救護班! グレモリー眷属とイリナ、匙を診てやってくれ! ケガはともかく、魔力と体力の消耗が激しい!」

 

 と、アザゼル先生が他のスタッフに指示を飛ばす。俺のところにもスタッフさんがやって来て処置を始めてくれた。

 

 結局作戦は英雄派の撤退という形で終わっていた。京都を囲んでいた連合軍部隊も英雄派構成員と『絶霧』のアンチモンスターとの激戦を終えて戦後処理となっているようだ。

 

 京都を囲んでいた連合軍部隊の包囲網からは、連合軍と戦っていた『魔獣創造』の少年が囮用のアンチモンスターを大量に出現させて逃亡の隙を作ったそうだ。まあそれにしても、連合軍部隊から逃げ切るなんてな。わかっていたけど、本当に厄介な相手だ。

 

 ちなみに俺たちは追跡や追撃戦に加わる体力も残ってなくて、全員がいまだにへたり込んでる。エイジも精神世界に潜るとかいう、繊細で慣れていない術を使って珍しく地面に座って休んでいた。

 

「大丈夫ですか、ゼノヴィアさん」

 

「ん。ありがとう、アーシア。さすがに今日は疲れたよ」

 

 心配そうにゼノヴィアに話しかけるアーシア。ゼノヴィアもさすがに新しいデュランダルを使用しての戦闘は相当疲れたらしい。……まあ、ぶっつけ本番で新しい剣を使って、結局違う剣に代えたんだから、自業自得の面も大きいけどね。

 

 皆も治療を終えたけど、いちおうのために運ばれていく。

 

「ゴメン、イッセーくん。情けないけど、お先に」

 

 木場が謝りながら俺に言う。俺は手を上げて応えた。『絶霧』使いの弾幕のような魔法攻撃を、『魔剣創造』で創りだしたふた振りの剣で切り裂きながら、かわしながら戦っていたからな。相当疲労したようだ。担架に乗せられて運ばれていった。お疲れさん。

 

「元ちゃん!」

 

「元士郎!」

 

 担架で運ばれていく匙にシトリー眷属が付き添っている。心配そうに涙まで浮べていた。

 

 匙は龍王変化の消耗が激しく、すべてが終わったあと、気を失ってしまった。俺が内側から話しかけて暴走を止めることもなく、なんとか力を使っていたように感じる。あいつも成長してるってことか。てか、匙、おまえも仲間に愛されてんな。

 

 あのあと、部長からも電話がかかり、事の顛末があちらにも伝わった。京都から帰ってきてからじっくり訊くことがあるそうです。

 

 ……特に、俺に……。

 

 なんでもグレモリー領で起こった暴動を鎮圧し終え、グレモリー家の城で部長が着替えをしていたときに、突然足元に魔法陣が浮かび上がったそうな……。

 

 『絶霧』とか結界系の魔法を警戒していた部長は、突然出現した見たこともない怪しげな魔法陣から離れ、その場から逃亡。それでも自分を追って何度も出現する魔法陣から全力で逃げ続けていたそうだ。……結局その魔法陣は、一段と大きな魔法陣になり、それも部長がよけると、ぱったりと出現しなくなったんだと。

 

 アザゼル先生からこちらの状況を報告する際、俺が新しい禁手化に目覚めたことを喜んでいた部長。事の顛末を詳しく訊かれて、俺がおっぱいゾンビが変化して出来た魔法陣でおっぱいを召喚しようとしていた話と、蛍光色のピンク色でおっぱい文字で描かれ魔法陣という話を訊かれたあと……部長の声の温度が下がった。

 

 い、今までずっと、休まる暇もなくグレモリー家の城で突如出現した魔法陣を警戒し続けていたそうだ。

 

 ……お、俺、死ぬのかな?

 

 そんなふうにどんよりしていたところに猿のじいさん――初代孫悟空さんが近づいてくる。

 

「赤の坊や」

 

「あ、はい!」

 

「おまえさんは独力で『覇』の力とは違う、えらいものを得ようとしているようじゃな。いいこった。『覇龍』は、ろくでもない。ただの力の暴走じゃい。暴力そのもの。それでは、死ぬ。おまえさん、大事な女がいるんじゃろ? おっぱいドラゴンと呼ばれるほどじゃからな」

 

 ほ、褒められた! あの西遊記の主人公格に褒められるなんて光栄の極みだぜ! てか、女の話か!

 

「いや、ハハハハ。ええ、いちおう」

 

 部長とか、アーシアとか、朱乃さんとか、他の眷属の皆にイリナも大事だ。

 

「なら、泣かすな。おまえさんは夢と女で強くなるタイプだぜぃ。それにな、赤龍帝と白龍皇はもともと力の塊じゃ。なんも『覇龍』にこだわらんでもいくらでも強くなれる。――だがの、おまえさんはまだ危ういか」

 

 俺の顔を覗き込みながら初代はそうつぶやく。

 

「?」

 

 俺は真意まではわかりかねたが、初代は煙管を吹かすと笑う。

 

「それと、うちのバカが迷惑かけたようじゃな。それは謝るぜぃ」

 

 あ、美猴のことか。まあ、迷惑といってもそこまで迷惑してないけどね。

 

 初代が俺の頭を撫でる。

 

「……感情は『覇』を呼び込む。それだけは覚えておくとええ。努力を怠らずに精進せぃ。――さて、天帝のおつかいが済んだらバカを探しにいくかの。あやつめ、白龍皇とやんちゃしおって。共に仕置きじゃな。――それでは達者での。玉龍、九尾のもとに行くぞ」

 

『あいよ、クソジイイ。そういや、あいつにはなんも言わなくてもいいのか?』

 

 玉龍が少し離れたところで休んでいるエイジのほう顔を向ける。初代孫悟空は煙管を吹かせて言う。

 

「また今度、どうせ話すことになるのじゃ。今はええ」

 

『ふーん、そうかよ。じゃあな、ドライグ』

 

 それだけ言い残し、初代と玉龍は行ってしまった。

 

 ……残された俺は震える手でグーパーした。……手が痺れる。スタッフの方に回復させてもらったけど、まだまだ疲れてんだな。

 

 ――神器に眠っていた力と『悪魔の駒』を組み合わせた俺の新しい力。

 

 まだ改善の余地は十分にある。またいちから修行だな。

 

 ……サイラオーグさん、ヴァーリ……そして、曹操。

 

 俺は負けないよ。絶対に強くなる。もっともっと。いつか、夢が叶うと信じて――。

 

 エルシャさん、ベルザードさん、酷い別れ方だったけど、どこかで見ていて下さい。

 

 ……本当に、ポチッと、ポチッと、すむずむいやーんとベルザードさんに言われて、エルシャさんも消えていくという酷い別れだったけど……。

 

 赤龍帝として、おっぱいドラゴンとして、やれるところまでやってみます。

 

 京都最後の夜、俺は夜空を見上げながら、新たな決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行最終日――。

 

 前夜に大決戦をしたせいか、寝てもまるで疲れの取らなかった俺たちグレモリー眷属は、疲弊しきった体を引きずって、最終日のお土産巡りを敢行した。

 

 ……ぜーはーと息を切らしながら、京都タワーを見てきたぜ。

 

 お土産も買い、京都を離れるときが来た。

 

 京都駅の新幹線ホームで九重と八坂さんが見送りに来ていた。

 

 九重と八坂さんは俺たちとも挨拶を終えて、今はエイジとアザゼル先生、レヴィアタンさまを交えて何かを話している。

 

 んー……、いったい何を話してるんだろう? よく聞えない。アザゼル先生が難しい、というか呆れたような表情を浮かべてるのはわかるんだけど……。

 

 そういやアザゼル先生、昨晩から難しい顔をしてたな。エイジが体に溶け込んでいた『悪魔の駒』を取り出すことができて、人間に戻れたっていう話を訊いたときから。

 

 結局『悪魔の駒』を使わないでも、インキュバスの能力で純潔悪魔になれるんだから、別に難しい顔をする必要はないと思うんだけどなぁ。

 

 ピピピピピ。

 

 発車の音がホームに鳴り響く。九重がエイジに叫ぶ

 

「エイジ! また来るのじゃぞ! 九重はいつだって京都でおまえを待っておるからな!」

 

「ああ、次は皆で来るよ。またな、九重」

 

「うむ!」

 

 それを確認すると八坂さんがおっしゃる。

 

「アザゼル殿、エイジ、赤龍帝殿、そして悪魔、天使、堕天使の皆々、本当にすまなかった。礼を言う。これから魔王レヴィアタン殿、闘戦勝仏殿と会談するつもりじゃ。良い方向に共に歩んでいきたいと思うておる。二度と、あのような輩によってこの京都が恐怖に包まれぬよう、協力態勢を敷くつもりじゃ」

 

「ああ、頼むぜ、御大将」

 

 アザゼル先生も笑顔でそう言い、八坂さんと握手を交わした。そこにレヴィアタンさまも手を重ねる!

 

「うふふ、皆は先に帰っていてね☆ 私はこのあと八坂さんと猿のおじいちゃんと楽しい京都を堪能してくるわ☆」

 

 レヴィアタンさまも楽しげだ。レヴィアタンさまはこのまま京都に残って妖怪側と改めて交渉するようだ。さすが外交担当の魔王さまだね。

 

 それだけのやり取りをして、俺たちは新幹線に乗車した。

 

 ホームで九重が俺たちに叫んだ。

 

「ありがとう、エイジ、イッセー! 皆! また会おう!」

 

 手を振る九重に俺たちも手を振った。

 

 プシュー。閉じる新幹線の扉。発車しても九重は手を振り続けた。

 

 ――京都。3泊4日の旅。

 

 出発から今日まで、短いけど色々ありすぎた。清水寺、銀閣寺、金閣寺、嵐山、二条城……。それ以外にもたくさんの思い出が得られた。

 

 また来よう。九重や八坂さんに会うために――。今度は部長や皆も連れて――。

 

 ……あ。俺はそこで思い出した。

 

「八坂さんにお願いしてお礼におっぱい見せてもらうの忘れてたぁぁぁぁあっ!」

 

 そうだよ! それも込みで頑張っていたのに! いろいろ起きて初心を忘れてしまった! クソ! これも京都の空気が俺の調子を少しおかしくしたに違いない!

 

「うわぁぁぁんっ! 九尾のおっぱいぃぃぃぃぃっ!」

 

 俺は扉にかじりつき、無念の叫びを発したのだった――。

 

「どうしようもないな、おまえは……」

 

「イッセーさん……」

 

「はぁ、イッセーくん……」

 

 ゼノヴィア、アーシア、イリナの教会トリオがそろって頭に手を当ててつぶやく。でも、九尾のおっぱいなんだぞ! すごくでっかいおっぱいだったんだぞぉぉぉぉ! うわぁぁぁん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 京都から帰還し、俺たちは兵藤家の一室で部長に怒られていた。

 

 正座をする俺たち。エイジ、アーシア、ゼノヴィア、木場、ついでになぜかイリナも反省状態だった。ロスヴァイセさんは旅行疲れで帰宅早々、自宅の自室で休んでいます。相当、体調を崩されていたようです。教員としても大変だっただろうし、あとは酔って吐いていたしな……。

 

 部長が半眼で問い詰めてくる。

 

「なんで知らせてくれなかったの? ――と言いたいところだけれど、こちらもグレモリー領で事件が起こっていたものね。でも、ソーナは知っていたのよ?」

 

「は、はい……」

 

 説明はすべて済んでいる。でも、朱乃さんも小猫ちゃんも少々ご立腹の様子だった。

 

「こちらから電話をしたときに、少しでも相談が欲しかったですわ……」

 

「……そうです、水臭いです」

 

「で、でも、皆さん無事で帰ってきたのですから……」

 

 ギャスパァァァァァッ! 庇ってくれるのか! おまえはいい後輩だな!

 

「まあ、リアス。襲ってきた英雄派の連中にも負けるどころか、皆勝ってたんだし。木場も禁手だけじゃなく『魔剣創造』での戦い方や強くなるためのヒントも得て、おまけにイッセーはあっちで劇的なパワーアップをしたんだから、大目にみてやれ。実際、すごい収穫を得たんだぞ」

 

 と、先生もフォローをしてくれる。

 

 部長も息を吐きながら、そこはうなずいていた。

 

「それは、まあ、うれしいけれど……」

 

 ……うなずいていたんだけど、部長の顔が俺に向けられて……。

 

「そういえば、イッセー」

 

「は、はい……」

 

「パワーアップしてくれたのはうれしいけど、京都の皆さんに随分と迷惑をかけたそうね?」

 

「うっ……」

 

「パワーアップのきっかけに何度も怪しげな魔法陣で私を呼び出そうとしてたみたいだし」

 

「あうっ……」

 

 次々に指摘されて、どんどん小さくなっていく俺……。背中の汗が半端ないっ。お、怒ってる! 部長が怒ってる!

 

 京都で俺の可能性とやらが起した事件やあの場面について、アザゼル先生やドライグを含めて説明してくれたおかげでだいたい理解されている。最初は皆信じられない様子だったけど、ドライグに泣きながら説明されて、部長を含める居残り組みの皆も知っていた。

 

 余談だが、俺のせいで痴漢になってしまった方々にはきちんとフォローがされ、普段の生活に戻っている。皆さん、本当にゴメンなさい!

 

 アザゼル先生が俺に改めて言う。

 

「おまえの力の選択はいいと思うぜ、イッセー。おまえのライバル――ヴァーリは『覇龍』の力を極めようとしていて、本当の意味で覇王の天龍になろうとしている。おまえがヴァーリと同じ道を進んでも覇の力に飲まれるだけだろう。イッセーは覇道ではなく、王道で行け。『王』を目指しているなら丁度いい」

 

 王道か。なるほどね。

 

 俺がヴァーリの真似をしてもあいつに追いつけるとは思えないしな。いまの調子で前に進むしかない。……でも、先生。部長はまだお怒りなので、もう少しあとで言って欲しかったです……。

 

 小さくなったまま正座する俺。部長が息を吐いて姿勢を戻してくれた。

 

「ふぅ……。まあ、英雄派を撃退するために頑張ったり、パワーアップしてくれたんだからね。今回は許してあげるわ」

 

「ぶ、部長っ」

 

 お許しをもらえて感激する俺に、部長は指を立てて注意してくる。

 

「でも、イッセー。あまり周りに迷惑かけないようにするのよ?」

 

「はい! すみませんでした! 今後気をつけます!」

 

 しっかりとうなずいて部長に頭を下げる! やった! お仕置きなしだ!

 

 朱乃さんが思い出したように手をポンと叩き、口を開く。

 

「そういえば、妖怪の世界でも『乳龍帝おっぱいドラゴン』の正式な放送が決定したそうですわ。――また有名になりそうですわね、イッセーくん」

 

「マジっスか! あー、なんだか、すげーことになってきてますねぇ……。実際わきませんよ」

 

 本当、とんでもないことになってんな、俺の特撮番組。今度は妖怪の世界かよ。

 

 ゼノヴィアがうんうんとうなずく。

 

「イッセーはいずれは全世界の子供たちのヒーローかな。うん、出世や夢実現も間近かもしれないね」

 

 俺はゼノヴィアの意見に首をひねる。

 

「そうかぁ。一向に女子たちにモテるような気配が感じられないんだが……。このままじゃハーレムじゃなくて、子供たちに囲まれそうだ」

 

「それは……、イッセーが鈍いだけじゃないか?」

 

「ん~……、そうなのかなぁ」

 

 よくわからない。そもそも俺はモテたことなんてねえからなぁ。エイジや木場と違って。

 

 心当たりがなくて頭をかく俺。先生が「あ」と何かを思い出したようだった。

 

「そういや、学園祭前にフェニックス家の娘が駒王学園に転校してくるそうだぜ?」

 

 ――っ! 部長と朱乃さん、小猫ちゃん、ギャスパー意外の全員がその一言に驚いた!

 

「レイヴェルがですか!? マジっスか!」

 

 俺の問いに先生が続ける。

 

「ああ、リアスやソーナの刺激を受けて日本で学びたいと申し出てきたらしい。学年は一年だったか。もう手続きは済みそうだって話だったな。小猫と同学年か。猫と鳥でウマが合わなさそうだが……それを見るのも一興か」

 

「……どうでもいいです」

 

 先生の一言に小猫ちゃんは不機嫌な声音だった。あれ? 小猫ちゃんはレイヴェルが嫌い? そういや、話しているところ、見たことないか。同学年なんだから、仲良くね。

 

「でも、なんで急に転校してくるんでしょうね?」

 

 俺の疑問に先生は意味深ないやらしい顔をエイジに向ける。

 

「…………。……ああ、そういうことか」

 

 確か、レイヴェルってエイジが好きだったな。いつもイベントの手伝いをしてくれるとき、エイジの世話を焼いてたし。差し入れとかもやってたもんな。

 

 俺の想像は正しいと、先生もうなずく。

 

「そういうことだろうよ。リアスも大変だな、次から次に」

 

 先生の言葉に部長は肩をすくませる。

 

「もう慣れたわよ。それに、それよりも今はもっと重大な案件の処理をしないといけないんだから、それどころじゃないわ」

 

 重大な案件? 英雄派のことかな?

 

「そういや、そうだったな」

 

 先生も重いため息を吐いた。え? もしかして本当に何かあったのか?

 

 気になって訊ねようかと考えていると、部長が息を吐いて、

 

「とりあえず、この件についてはここまでにしましょう」 

 

 と話を変えた。部長が改めて俺たちに向けて口を開く。

 

「さて、もうすぐ学園祭よ。あなたたちがいない間、準備も進めてきたけれど、ここからが本番よ。それに――」

 

 部長が真顔で続ける。

 

「サイラオーグ戦もあるわ。レーティングゲーム、若手交流戦では最後の戦いとも噂されているけれど、絶対に気は抜けないわ。改めてそちらの準備に取り掛かりましょう」

 

「「「「「「「「はい!」」」」」」」」

 

 部長の言葉に皆、大きく返事をした。

 

 そうだ、学園祭も大事だが、サイラオーグさんとの一戦も大事だ。

 

「イッセーくん、体力が復調したら、手合わせしてくれないかい? 京都で自分の神器の可能性について新しい発見ができたから、色々と試してみたいんだ。キミの力を借りたい」

 

「ああ、木場。ゲームの日まで模擬戦の繰り返しだな」

 

 木場とのトレーニングも再会だな。

 

 この新しい力がどこまであのヒトに通じるか、早く試してみたい。それにあの状態で『女王』に目覚めないといけないんだ。課題は多いな。新しい力がゲームで使えるかどうかも問題だし……。

 

「でも、俺は部長と皆と共に必ず勝ってみせる!」

 

 俺は決意を新たにした。

 

 ――必ず、サイラオーグさんに勝つっ! 勝ってみせるっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Boss×Boss>

 

「サーゼクス、こちらで得た英雄派のデータをそちらに送る。神器――上位の神滅具が3つも保管か。さらに禁手祭り。グレードレッドを呼び寄せようとしたり、まだ他にも計画と手札があるようだ。テロリストどもめ」

 

『彼らには「悪魔と妖怪の共闘関係を壊す」という名目があったようだからな、アザゼル。中心メンバーの思惑はともかく、下の者たちにとって、これ以上ない「正義」の理由だ。結果、京都を包囲していた各勢力の部隊にも大きく被害が出てしまった。「魔獣創造」のアンチモンスターもそうだが、相手に禁手の使い手が多かったのが想像以上に戦況を悪化させたようだ』

 

「人間からみれば悪魔、堕天使、妖怪などは敵――モンスターにしか見えないだろうからな。奴らの行動原理の切っ掛けは三大勢力の和平か。悪魔と堕天使の和睦だけで衝撃だろうに、その上、天界まで悪魔と堕天使に和協するとなったら、『天まで寝返った』と危機感と憤慨を感じる人間が出てきてもおかしくない。――それで妖怪との交渉は?」

 

『それはうまくいった。今後は堕天使側とも交渉したいそうだ』

 

「そうか、シェムハザが進めていた話し合いのテーブルに無事につけそうだな。それと帝釈天や初代孫悟空と玉龍を各地に派遣していたのは知っていたか? 今回も助っ人として来てもらったんだがな」

 

『天帝――帝釈天は聖書の神が死んだ今、ゼウスと並び、トップクラスの力を持つ神仏だ。単独でうしろから聖槍で貫かれでもしたら各勢力のバランスが再び崩れる。テロリスト相手に初代を遣わすのは最良の手だろう』

 

「しかし、英雄――人間が俺たちの敵とはな。俺たちは勇者パーティに退治される予定のラスボスか? それとも隠しボスか?」

 

『いつだって人間は儚く怖い存在だよ』

 

「まあ、そうだな。――それと、イッセーたちが京都でまた戦果をあげたぞ。これは昇格確実か?」

 

『うむ。もう十分なぐらいだ。次のゲーム結果しだいで私から推挙するつもりだ』

 

「――サイラオーグ戦か。サイラオーグもテロ相手に戦果をあげていたな」

 

『若手でそのようなことができるのは現状バアル、アガレス、グレモリー、シトリーだけだが、敵の幹部クラスと相対できるのはサイラオーグとリアスの眷属だけだろう。それゆえに両者の眷属には大きな期待がかかっている』

 

「期待か……。そういや、神城の件はどうなった?」

 

『エイジの件か……。まあ、前々から話はでていたのだが、やはりリアスの眷属のまま、というのは無理のようだ。今回の天使化、そして人間化でエイジが悪魔という枠に嵌らないことを完全に証明されてしまったからな。それに「悪魔の駒」を取り出せたことも効いているようだ』

 

「そうか……。まあ、自由にどの種族にでも変化できるなら悪魔の眷属のままとはいかないか。実際のところ、今まででも現魔王の妹とはいえ、上級悪魔で若いリアスの眷族にしておくだけでもギリギリだったんだろ?」

 

『……まあね。悪魔側の元老たちはずっとリアスよりももっと力のある悪魔の元にエイジを置くことを勧めに勧めていたよ。明らかに「王」と「兵士」の実力が違いすぎるってね』

 

「そりゃあ『王』が『兵士』よりも弱かったら格好もつかねえし、暴走や反旗でもしたとき止めることもできねぇからな。当然だろうよ」

 

『……ところでアザゼル?』

 

「ん?」

 

『この情報は表に出していない、というか出せない情報なのだが。なぜ知っているのかな?』

 

「あー……。そりゃあ、和平を結んだっていっても相手側の情報ぐらい集めるだろ。信用するために」

 

『……それもそうだな。すまない』

 

「別にいいってことよ。それより――」

 

『わかっているよ。この件については当事者であるリアスにもすでに伝えている。丁度グレモリー領に戻っていたからね』

 

「そうだったのか? そういう風にはあんまり見えなかったが……いや、眷族のまえだったから見せなかったのか? ……ハハッ、あいつも『王』として成長してるってことか」

 

『うれしいことだが、同時に残念でしかたないよ。せっかくエイジとそろって最上級悪魔への昇格の話があがっていたのに。他の勢力までエイジがどの種族にも自由になれると伝わっている今は、こちら側に留めておくと新たな火種になりかねない。特に天界がうるさいだろうね』

 

「そいうや朱璃が純潔の天使に蘇生した話聞いて、熾天使の連中が騒いでいたな。まあ、あっちは純潔の天使なんて生まれねぇどころか、やったら堕天。『御使い』のカードで天使を増やせるようになる前からインキュバスになった神城を狙ってやがったし、神城なら人間や天使にもなれるんじゃないかって指摘したのもあいつらだ。それが証明された今、そりゃあうるせえだろうよ」

 

『熾天使の天使たちはあの無限龍であるオーフィスに見初められたエイジとの子供こそが次の聖書の神になるのではないか、話しているそうだからね』

 

「なんだよ、おまえもちゃっかり他の勢力について情報収集してんじゃねぇかよ」

 

『もちろん。信用するためには情報が必要だからね』

 

「……チッ。食えない野郎だぜ。――それで、神城の処遇はどうするつもりなんだよ?」

 

『現段階ではリアスの眷属から除名。悪魔の勢力からも籍を抜いてもらうという意見が一番有力だよ。「悪魔の駒」も取り出せるのなら丁度いいだろうってさ』

 

「つまり神城は人間に戻って、フリーの賞金稼ぎに戻るってことか。なら俺の勢力で――」

 

『――と、すぐに他の勢力にスカウトされる可能性があるので、今ももめにもめているというわけだ』

 

「…………」

 

『いちおう三大勢力のどこにも属させないといった会議を近々開く予定だよ』

 

「……それを先に言えよ」

 

『すまない。――まあ、どうなってもエイジはリアスの眷属のままという事にはならないという話さ』

 

「リアスの眷属でいられないならサイラオーグ戦はどうなるんだよ?」

 

『不参加、ということになるだろう』

 

「そうか……」

 

『まあ、仕方がないさ。元々新人悪魔にハンデを負っているといっても、あのエイジの相手をさせるなんて無理だったんだから』

 

「そりゃあ、そうだろうが……」

 

『まあ、エイジが抜けたとしてもリアスの眷族たちは十分強いさ。イッセーくんも新しい能力に目覚めたんだろう?』

 

「まあな。少し見たが、あれは相当おもしろい能力だったぜ。レーティングゲームで反則に近い能力だがよ」

 

『他の上役は別にかまわないとおっしゃっている。それも一興だそうだ。あとはサイラオーグしだいだが……。おそらく彼は――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Bael>

 

「サイラオーグ、聞いた?」

 

「どうした、シーグヴァイラ・アガレス」

 

「リアス・グレモリーの赤龍帝がまた新たな力に覚醒したって噂よ」

 

「それは素晴らしい限りだ。そうか、ついにか。実に楽しみだ」

 

「けれど、ゲームをする場合、それは不正に近い能力だと聞いたわ」

 

「問題ない。俺は容認して臨む」

 

「アジュカ・ベルゼブブさまのご贔屓もあったとも言われているのよ」

 

「一向に構わない」

 

「……そういえばエイジさまはゲームに参加できないそうよ」

 

「俺は一向に構わな……なんだと?」

 

「このままじゃグレモリー眷属にも悪魔の勢力にもいられないって話しよ」

 

「……どういうことだ?」

 

「それは……、ちょっと顔が怖いわよ、あなた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Heros>

 

「京都での計画は失敗だったけれど、もうひとつの計画のほうは調整がまた進んだよ。近いうちにお披露目できそうだね、曹操」

 

「そうか、それは何よりだ、ジークフリート」

 

「予定通り、ひとつは僕がもらうよ。――曹操もひとつ使うかい?」

 

「俺はこの槍で十分だよ」

 

「――で、神城エイジにやられた傷はどうだい? 潰された目の具合は?」

 

「傷のほうはすでに治してもらったが、目のほうはもう使い物にならない。きれいに潰されてしまったからな」

 

「フェニックスの涙を持っているのにわざと使わないなんてね……。では代わりの眼を用意しよう。いずれ眼の代償でも彼に払ってもらうかい?」

 

「まさか、三流の敵役でもあるまいし。それでは寂しいじゃないか。この眼の傷も神城エイジと戦ったいい記念だ。――人間に戻った神城エイジ。おまけに兵藤一誠とヴァーリという俺にとって最高のニ天龍までいる。楽しいなぁ、まったく」

 

「……うれしいのはわかるけど、傷口はあまり触らないほうがいいよ、曹操」

 




 今回は短いです! 次回から10巻突入!


―あとがき―

 ずっと立ててたフラグが今回で大きなものに変わりました。

 まあ、どうせレーティングゲームなんてサイラオーグ後はもうやらないだろうから、脱眷属でもおk。

 サイラオーグとはレーティングゲームとは別に戦います。


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第79話 処分決定? ☆

 すみません! だいーぶ更新が遅れてしまいました!


<イッセー>

 

「ずむずむいやーん!」

 

「「「「「ずむずむいやーん!」」」」」

 

 ステージに立つ俺の掛け声に、客席の子供たちも最高の笑顔で反応した。

 

 学園祭を目前にして、俺は冥界の旧首都――ルシファードにある大型コンサート会場のステージ中央で、「乳龍帝おっぱいドラゴン」のヒーローショーに出演していた。

 

 通常は代役の方が専用のコスチュームを着ることでショーを執り行っているのだが、サーゼクスさまからのオファーで今日は本物の俺が出演することとなった。

 

 俺の他にもお助けキャラであるヘルキャットの小猫ちゃんや悪役のダークネスナイト・ファングの木場がステージに立っている。

 

 体操着&ブルマ姿というマニアックなコスチュームを着ている小猫ちゃんが手を振ると、子供たちと一緒に小猫ちゃんファンの大きなお友達から声援があがる。

 

 木場のほうにはお母さん方をはじめ、多くの女性ファンがついていた。……クソ、うらやましいぜ、木場の野郎! でも――。

 

「「「「「おっぱいドラゴーン!」」」」」

 

 俺を求めるちびっ子たちの声援にはたまらないものがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー」

 

 ヒーローショーでの大方の出演を終えた俺は、舞台裏で一息ついていた。

 

 これが終わったら、次は学園祭の準備再会だ。けっこう、大掛かりなものを用意するから男手が足りないんだよなぁ。戦力になるエイジのヤツはこのところ忙しいし。最近は俺や木場が連日突貫準備に励んでいる。

 

『……では、おっぱいドラゴンのクイズコーナーです』

 

「「「「うおおおおおおっ! ヘルキャットちゃぁぁぁぁぁんっ!」」」」

 

 舞台でクイズコーナーの司会を担当する小猫ちゃんに、大きなお友達から声援が向けられているようだ。舞台裏から様子を窺うと、体操着&ブルマからスクール水着へとコスチュームチェンジした小猫ちゃんが笑顔でお客さんたちに手を振っていた。小猫ちゃん、スマイルは満点だけど、目が死んでるよ……。

 

 早くヘルキャットの衣装が定着すればヒーローショーがコスプレショーみたいにならずに済むと思うけど、毎回変わる衣装がヘルキャットの人気を上げてるんだよなぁ。

 

 それにしても、俺たちって違う方向で有名になってるな。ありがたいことだけど、まさかここまで「乳龍帝おっぱいドラゴン」が人気になるとは……。それだけ冥界には娯楽が少なくて、こういうのが物珍しいのだろう。

 

 さらに冥界のメディアでは、ロキ襲来や京都の事件などのニュースを報じており、そこで作戦に参加していた俺たちグレモリー眷属のことを大々的に報道してくれたようで、冥界の子供たちのなかではテレビの「おっぱいドラゴン」と実際の俺の行動が混同されている。つまり、子供たちのなかではテレビのヒーローがロキや『禍の団』相手に活躍してるってことになってるんだ。

 

 俺は嘆息し、頭を抱えた。

 

 ……うれしい反面、複雑だ! 有名になるのはいいけどさ! 戦が珍しい悪魔業界でなんで俺たちだけが激しい戦闘に巻き込まれる!? その相手も伝説の存在で旧魔王や神さまだぜ!? あげく英雄の子孫までとバトルしちまってよ! どんだけの確立で遭遇してんだ、超常バトルによ! そもそも俺はゲーム以外であんまり活躍してねえし! 伝説の赤龍帝だけど、赤龍帝らしく活躍したことなんてほとんどねぇよっ!

 

 ……まあ、最近やっと新しい力にも目覚めてこれからの可能性が大きく開けたし。子供たちから送られる声援もうれしい。今日のイベントも最高に楽しいよ。

 

 けど、激戦ばかりなのはカンベンだ。俺自身もう二度と死にたくないし、それ以上に仲間も危険に晒されるのは嫌だ。メンバーの誰かが死んだら、俺マジへこむぞ……。

 

 でも、そんな戦いに巻き込まれたこそ、今のメンバーがいるのも確かなんだよな。コカビエルとの戦いがあったからこそゼノヴィアが仲間に入り、ロキとの戦いがあったからこそロスヴァイセさんが仲間になった。今までの戦いがあったからこそ、皆は強くなって絆も強くなった。それらを考えると本当に複雑だよ。

 

 やっぱ、ドラゴンの特性――天龍だから力を呼び込むんだろうか。悩むよな、そこのところ……。一連の事件は俺のせいじゃないか? って思いが日々高まってるしさ。

 

 …………。

 

 これ以上考えるのは止めよう。この件は悩むほど、どツボにハマる。起きたことは受け入れて、最善の努力をする。それしかない。

 

 今の俺には、悩んで立ち止まってる暇なんかないんだ。

 

 サイラオーグさんとのゲームまでに新しく手に入れた力をちゃんと使いこなせるようにしないといけないし……。

 

 悪魔の駒を自分で抜いて人間に戻ってしまったエイジの処遇がどうなるか、まだわからないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 イッセーたちがヒーローショーで出払っている頃。俺とリアスはサーゼクスから呼び出し――もとい出頭命令をくらい冥界にいた。

 

 夏休みに将来有望の新人悪魔たちの顔合わせと年寄り悪魔たちへの紹介が行なわれたあの場所で、俺とリアスはサーゼクスを含む魔王3人と元老の悪魔、それに大王家のバアルにグレモリー家の現当主、堕天使総督アザゼルというお偉いさんたちを交えて俺とリアスの今後のことについての話し合いをしていた。

 

 ……まあ、話し合いといってもお偉いさんたちばかり議論していて、当事者である俺とリアスは蚊帳の外なんだけどさ。

 

 それにそもそもこの議論、内容を簡単に説明していくと……、

 

 俺、自由に色んな種族になれる。

 

 人間から純潔の悪魔になったんじゃなかったのか?

 

 純潔悪魔になって得た能力を鍛えすぎて、種族の壁とか超えちゃった。

 

 ならばグレモリー眷属である証、『悪魔の駒』は?

 

 テロリストとの戦闘の際に自分で摘出しました。摘出後も悪魔の能力使えますし、再び入れることも可能です。

 

 自分の意思で簡単に眷属を抜けれ、人間にも悪魔の天敵だった天使にもなれるなんて……。

 

 もう一度『悪魔の駒』を入れてグレモリー眷属になります?

 

 自分の意思で簡単に眷属を辞めれるなら意味はない。枷がないのなら有望だとしても新人悪魔に魔王クラスである俺を抑えられるはずがないし。俺がリアスの眷属である意味もない。そもそも眷属とは自分よりも能力が劣っている下僕のことを指しているので、リアスの眷属として俺は最初から不適格だとか。

 

 リアス自身、お偉いさんたちの話しに納得してしまい、何も言えない。

 

 なら、グレモリー眷属じゃなくなったこいつをどうするのか?

 

 戦闘力で同格とされる現魔王や大王家の眷属にしようにも『悪魔の駒』を自分で摘出できるのなら意味がない。他の種族にもなれるのなら、何も悪魔陣営だけが神城を独占する権利はないだろうと、堕天使総督。

 

 ……と、3大勢力だけでなく、敵陣営にも新勢力にもなりえそうな俺をどうするのかという議論をお偉いさんたちは永延と続けているわけだ。

 

 あー……それにしても暇だなぁ。お偉いさんたちばかり話し合ってて全然こっちは話に交えようともしてこないし。正直、当事者を蚊帳の外においたこの議論にはあまり意味がないと思うので帰りたいのだけど……。間近に迫ってるサイラオーグとのレーティングゲームにも関係があるから無視して帰れないんだよなぁ。

 

 思わずあくびをしてしまいそうになり――、

 

「エイジ」

 

 隣のリアスに注意される。……いやでもね、リアス。

 

「…………」

 

「……わかったよ」

 

 作ったようなニッコリ笑顔での睨み&無言で再度注意され、崩しそうになっていた姿勢を正す。

 

「そういえば。リアスは平気なんですか? 俺が眷属じゃなくなっても」

 

 隣のリアスに小声で訊ねる。正直、俺がお偉いさんたちからの圧力で眷属を抜けさせられたりした場合、リアスが1番反発して反論するかと思ったんだけど、随分と大人しい。しっかりとお偉いさんたちの言葉を聞いて、その言葉の意味など考えてるっぽいし。

 

 俺の疑問にリアスは小さく息を吐いてからつぶやく。

 

「もちろん平気じゃないわ。……でも、エイジの立場や現在の状勢なんかを考えると、私の眷属でいるよりも個人として自由に立ち回れたほうがいいと思うの」

 

「……まあ、確かに。俺自身に悪魔でいうところの眷属っぽいのが結構いますしね」

 

 黒歌とかセルベリアとかノエルとか時雨とか……。まだ皆に紹介してないヒトも大勢いるし。リアスの眷属として指揮下にあるより別勢力として自分で別の部隊の指揮をとったほうが対テロリストの戦力も上がるだろう。

 

 リアスは苦笑しながら言う。

 

「そもそもエイジの力は最初から私を超えていたでしょう? それも、私が手足も出ないほどにね。――王よりも強すぎる眷属で、自身の王や女王を鍛える。それは、眷属としての範疇を越えていると私も思っていたわ。例えエイジや私がいくら眷属とその王という関係に満足しているとしても、他の悪魔たちからはそうは見えないでしょ?」

 

「……そうだな」

 

 事情を知らないヤツから見れば、リアスが俺を無理矢理眷属にして操っているようにも見えかねない。最初はものすごく弱くて最近強くなってきて注目度が上がっているイッセーとかなら眷属を生長させたのは王の功績ってことになるんだろうが……。

 

 リアスは俺の頬に手を当てて微笑む。

 

「それにね、エイジ」

 

「?」

 

「私の眷属じゃなくなっても、あなたは私と一緒にいてくれるでしょ」

 

 ――っ。……や、ヤバい。いまものすごくムラっと……コホン。萌えた。うん、効いたよ。リアスの笑顔と言葉……かなり効いたよ。

 

 頬に添えられた手を握りながら俺はしっかりとうなずく。

 

「はい。いつまでも」

 

「ありがとう、エイジ♪」

 

 返事を聞いて少し頬を赤らめたリアスと2人で微笑みあう。

 

「――では、神城エイジから『悪魔の駒』をリアス・グレモリーに返却。以降、神城エイジは3大勢力とは別の新たな勢力として扱い。さらに、リアス・グレモリーとの正式な婚約を条件に悪魔サイドと協力関係を結ぶ。――ということで、いいですね? 皆さん」

 

 …………。

 

 ……あれ? いつの間にかサーゼクスが議論の内容をまとめていて、他の悪魔たちやアザゼルもその内容にうなずいていて……議論が終了してた。さっきまで激しく議論していた悪魔のお偉いさんたちも席から立ち上がっていてすでにお帰りモードだ。

 

 え? 本当にこれで終わりですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マジで、あれで議論が終わってた。

 

 主の了承なく『悪魔の駒』を摘出して一時的にでも眷属から外れたというのに、『はぐれ』認定されることもなく。特に処分らしい処分もなかった。

 

 まあ、こっちが聞き流してる間にグレモリー眷属から外れて新たな勢力となり、さらっと悪魔側と協力態勢を組むことにされてたけどさ。

 

 周りからの反対もなくリアスと正式な婚約を結べるなら、むしろ俺にとってプラスといえる。元々、どうなったとしてもリアスの側につくつもりだったし。3大勢力から追放されていた場合でも、旧悪魔側や英雄の子孫たちとも思想が合わないので加入するつもり協力態勢を組むもなかったからな。

 

 本当に、変に話が大きくならず運がよかったよ。やっぱり悪魔のお偉いさんたちも魔王クラスっていわれてる俺やその仲間たちと敵対するより、むしろ味方側に取り込んだほうがいいと思ったんだろうね。ただでさえ荒れに荒れてる世界情勢なわけだし。

 

 議論が行なわれたビルの一室。俺とリアスが用意されていた待合室で休憩していると、サーゼクスとアザゼルが入ってきた。ちなみに2人の格好は駒王協定でおなじみの正装である。

 

「婚約おめでとう、エイジ。これからは私のことをお義兄さんと呼びなさい」

 

 俺たちに近づき、ニッコリと微笑むサーゼクス。

 

「……では、お義兄さま。そのニヤつきがまったく隠せてないキレイなお顔を一発殴らせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「それはダメだよ。あくまで今は婚約の段階で、まだ非公式だからね。眷属抜けして新勢力となったばかりのキミが悪魔側の魔王であるボクを殴れば、即外交問題だよ?」

 

「ちッ……」

 

 舌打ちする俺に、サーゼクスはますます笑みを強めた。俺をからかえて悦んでやがる。結構なSだよな、こいつも。

 

 アザゼルが小さく息を吐いて言う。

 

「まっ、婚約と協力態勢を組むぐらいですんでよかったじゃねぇか。下手すりゃ『はぐれ』認定されてたかもしれねぇんだからよ」

 

「全くだね。――まあ、最大の戦力と眷属を同時に失ってしまったリアスには悪いが、これですんでよかったと私は思ってるよ」

 

 サーゼクスの言葉にリアスもうなずいた。

 

「はい。私もエイジが眷属からいなくなるのは残念ですが、これですんでよかったと思っています。――それに、遅かれ早かれ魔王クラスのエイジが新人悪魔である私の眷属であり続けることが不可能なことぐらい、わかっていましたから」

 

「そうか……」

 

「だから気になさらないでください、お兄さま」

 

「リアス……」

 

 魔王と新人悪魔という立場のなかにも兄妹愛が感じられるサーゼクスとリアス。一方の堕天使総督のアザゼルは――。

 

「意外だな……」

 

 リアスの様子をみて驚いていた。

 

「なにが意外なんだ? アザゼル」

 

「いや……。リアスならもうちょっと感情的に反論でもしてくるかと思ってたんだがよ……。意外と周り見えてるみたいで驚いちまった」

 

 それはまあ……以前のリアスなら俺もそうなっていたと思う。夏休み以降の訓練やセルベリアから毎晩のように行われる『王』になるための勉強会を行ない、自分に自信を持つ前のリアスだったなら。

 

「リアスも日々成長してるってことだろ」

 

「……その成長のスピードがあまりにも異常すぎんだよ、おまえら全員は」

 

「それは確かに」

 

 実際、リアスと出会ってまだ半年ほどぐらいしか経っていない間に、悪魔として最底辺の力の持ち主だったイッセーも今じゃ赤龍帝として各勢力から一目置かれる存在となっているし。朱乃やゼノヴィアもかなり強くなった。木場のヤツもコカビエルの一件で禁手に至って、小猫ちゃんも仙術を次々に習得していき急成長中。アーシアも回復能力や回復速度が上がり、今じゃ対象に触れてなくても回復させることができる。新たに眷属入りしたロスヴァイセまでも日々成長しているんだから……うん、異常だな。異常すぎだ。

 

 ちなみに家にいるレイナーレもメイドとしてのスキルを上げ続けてるし、堕天使としてのレベルも中級だったのが今では上級堕天使レベルにまでなっている。

 

「ああ、学生ライフをエンジョイしてた半年前が懐かしいなぁ……」

 

 たまに賞金稼ぎしながら各地を巡ったり、学校の友達とバカな話で盛り上がる。先なんて考えていない、今を楽しむお気楽ライフが懐かしい。

 

 まっ、今の生活に不満があるわけじゃないけど。

 

「そういえば、サーゼクス」

 

「なんだい、エイジ」

 

「グレモリー眷属じゃなくなった俺は、やっぱりサイラオーグとのゲームには出場できないのか?」

 

「うん。グレモリー眷属じゃなくなったエイジの出場は認めてあげられない。すまないね、リアス」

 

「そうですか……」

 

 リアスは少し残念そうな表情を浮かべた。そんなリアスにサーゼクスが笑いかける。

 

「だけど、リアス。エイジが出場できなくなったとしても、キミにはまだまだ自慢の眷属たちがいるだろう?」

 

 その言葉にリアスはハッとなる。サーゼクスの顔を見上げ、微笑む。

 

「はい、お兄さま。私には自慢の眷属たちがたくさんいました。例えエイジが眷属から抜けてゲームに参加できなくなっても。私の眷属たちは負けたりはしません」

 

「そうだね、リアス。例えエイジがサイラオーグ側の臨時コーチになったとしても、リアスは負けたりしないね」

 

「はい! …………。……え? あの、お兄さま?」

 

 戸惑うリアスを無視して、サーゼクスは俺の肩に手をおく。

 

「ではそういうことでよろしく頼むよ、エイジ。サイラオーグたちを鍛えてくれたまえ」

 

「……突然の話しで全くわけがわからないんだが、サーゼクス?」

 

 サーゼクスは苦笑しながら説明を始める。

 

「実は今回の議論を行なう前にアザゼルと一緒にバアル家の現当主と対談していてね。そこでキミがゲームに参加できないことを知ったサイラオーグが、是非とも戦わせてくれと言ってきて……」

 

「どうせなら鍛えさせようぜ、って俺が進言したんだ。ほら、前におまえも鍛えたいって言ってただろ?」

 

「それは……そうだが……」

 

 タイミングが悪すぎる。せめてグレモリー眷属とのゲームの後にしてくれよ……。

 

「ちなみにバアル家の現当主とサイラオーグはすでに了承済みだよ。現当主も次期当主であるサイラオーグを成長させるならと、今回の議論でもこちら側についてくれたんだ」

 

「最初から魔王3人と大王家までついてたからな。議論のほうも比較的スムーズに終わっただろ?」

 

 それって裏取引じゃねえか! という、ツッコミはリアスと一緒に飲み込んだ。

 

 と、ここでリアスがある疑問を口にする。

 

「あの、エイジがサイラオーグを鍛える場合、エイジの立場はどうなるんですか? サイラオーグたちを鍛えたあとに、私たちにサイラオーグの戦術や情報を流したりとか……。させたりしないと思いますが、その辺りについてはどうなされるつもりなんでしょうか?」

 

 言葉に小さなトゲを含ませつつ、サーゼクスに訊ねるリアス。サーゼクスも「当然の疑問だね」とうなずいた。

 

「もちろん、その点についても考えているさ」

 

 サーゼクスのあとに続いてアザゼルもうなずいて――あ、嫌な予感がするぞ、おい。

 

 ものすごーく嫌な予感を感じる場所は部屋の出入り口。意識を部屋の外に飛ばして探ってみると……こちらに近づいてくる大きな魔力が7つ。その中で知ってる魔力は魔王である2人と、リアスの父親であるグレモリー家現当主。フェニックス家の兄妹。知らない魔力の2つで、ひとつは議論が行なわれていた会場で感じたバアル家当主の魔力だった。最後の魔力に関しては検討もつかない。

 

 ……だが、魔王の一角にして冥界一のマッドサイエンティストであるヤツと、堕天使総督にして神器狂いのマッドサイエンティストの2人が一緒の場所にいるだけで嫌な予感は確信へと変わってしまう。

 

「何をするつもりだ、アザゼル」

 

「なあに。ゲームが開始するまでの間。おまえでも簡単に解除できない、解除した時点でバレる、誤魔化そうとしてもわかるかなり強い契約を結んでもらうだけさ。――まっ、違反したからっておまえには大きなペナルティはない契約だから安心しろ」

 

「おまえにはって、俺以外にはあるのか?」

 

「契約違反の内容しだいではグレモリーとバアルのどちらかがゲームを行なう上で不利になるな」

 

「拒否権は……ないようだな」

 

「ああ。今回は大人しく諦めてくれ。一応、バアル家に便宜をはらってもらうため契約でもあるんだからよ」

 

 俺たちには全部事後承諾だがな! ……まあ、害のある契約というわけでもなさそうだし。内容を確認した上で受けよう。こればっかりは仕方ないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数時間後。俺たちは駒王学園へと戻っていた。学園祭の準備が行なわれ始めたオカルト研究会の部室のソファに座り、一息を入れる。すでに日は暮れていて外は真っ暗だ。

 

 本来であれば悪魔の仕事をするオカルト研究会の部員たちの誰かが部室にいるのだけど、学園祭の準備やレーティングゲームなどと忙しい今は誰もいない。それぞれが学園祭の準備やレーティングゲームに向けてのトレーニングを行なっているんだろう。

 

 数時間冥界で拘束され、お疲れモードのリアスは俺の膝を枕にして仰向けに寝転がる。俺の方へ体を向けて、甘えるように抱きついてきた。

 

「う~……」

 

 顔を擦りつけながら、かわいらしい唸り声をだすリアス。俺は慰めるようにリアスの髪をすかすように撫でる。

 

「はぁ……。今日は本当に疲れたわ」

 

「そうだな。俺も、色々あって疲れたよ」

 

 2人して大きく息を吐く。このまますぐにでもベッドに入って休みたいところだが、まだまだやらなければいけないことが残っている。

 

 俺がグレモリー眷属を抜けることになったこと。

 

 抜けたあとは新たな勢力という扱いになって、冥界などの勢力と協力関係を結ぶことになったこと。

 

 その関係でサイラオーグとのゲームに出場できなくなったこと。

 

 便宜を払ってもらう代わりにバアル家と取引してサイラオーグを鍛えることになったことなどなど……。

 

 これからグレモリー眷属たちへの説明をしなければいけないのだ。まだまだ休めない。

 

「そろそろ、かしらね……」

 

 名残惜しそうにリアスが体を起こすと、部室に設置された転移用の魔法陣が輝きだした。怪しく部屋を照らす魔法陣の輝きが収まると、朱乃が現れる。服装は駒王学園の制服である。……グレモリー眷属といいシトリー眷族といい学生服=戦闘服になってきたな。

 

 ソファに座っている俺たちを確認した朱乃がニッコリと微笑む。

 

「おかえりなさい、リアス、エイジ」

 

「……ただいま」

 

「ただいま、朱乃」

 

 機嫌のよさそうなニッコリ笑顔を浮べてる朱乃さんに、お疲れモードのリアスは少し肩を落とす。そんなリアスの様子に朱乃は口元に手を当てて微笑んだ。

 

「あらあら。その様子は、冥界でたっぷりとしぼられたようですわね?」

 

「…………」

 

 クスクスと笑う朱乃をリアスはジト目で睨むが……それは逆効果だ。Sモードになるぞ。散々イジメられ……弄られてリアスが「うーっ、うーっ」唸る姿が脳裏に浮ぶが……今は遊んでいる暇はない。

 

「とりあえず、皆が来る前に急いで現状を説明がしたいの。座ってくれるかしら、朱乃」

 

「ええ。わかりましたわ」

 

 いつもとは違うリアスの反応に、朱乃は微笑みを止めて俺たちとは反対側の席に腰を下ろした。姿勢を正して、リアスと2人で説明を開始する。

 

 説明の内容は冥界で決まったことのすべてだ。

 

 すべての話を聞き終えた朱乃は……、

 

「あらあら、そうなんですか。リアスとエイジの婚約ですか。おめでとうございます」

 

 満面の笑みを浮かべていた。

 

 ……いや、なんで?

 

 リアスも朱乃の態度の意味がわからないのか、かなり戸惑っているようだ。

 

「……あ、朱乃?」

 

「あら? どうしたの、リアス」

 

「……その、怒らないの?」

 

「怒る?」

 

「私たち、婚約したのよ?」

 

「はい、お聞きしましたわ」

 

「……怒らないの?」

 

「怒られたいんですか?」

 

「そういう、わけじゃないけど……」

 

 どんどん声が小さくなるリアス。王の威厳がまったくないぞぉ。

 

 完全に口を閉ざしてしまったリアスに朱乃は微笑み、席を立つ。そのままゆっくりとこちら側のソファへとやってきて、リアスとは反対側の俺の隣へと腰を下ろした。

 

 朱乃は蠱惑的な微笑みを浮かべて、俺の頬に手を添えた。やさしい手付きで頬を撫でながら体を寄せてくる。大きくてやわらかい胸で腕を挟み、もう片方の手で胸に挟んでいる腕を誘導し、スカートの中へと手を誘い入れた。

 

 スカートのなかに入った手が、手触りの良い薄い布に触れる。

 

「ぁんっ……」

 

 朱乃の口から艶かしい声が漏れる。甘い吐息を耳元で漏らされ、自然と下半身に血液が集まっていく。

 

 流れるような手つきで朱乃さんはズボンのチャックに手をかけ、ペニスを取り出した。

 

「あ、朱乃!? あなた、いきなり何を……」

 

 驚きの声をあげるリアスに、朱乃はニコニコ笑顔で当然のようにつぶやいた。

 

「婚約者がいる男を寝取るのって、一度やってみたかったんです」

 

「なっ……!?」

 

 言葉を失うリアスをSな笑みで眺めつつ、朱乃は馴れた手つきでペニスを上下に擦り始める。竿を握って強弱をつけつつ、耳を舌で攻めてくる。さらにスカートのなかに入れさせた手にオマンコを擦りつけてくる。

 

 見せ付けるような朱乃の攻めに、リアスが顔を赤くしながら叫ぶ。

 

「はっ、離れなさい、朱乃! これから皆が来るのよっ!」

 

「あら? ですが皆さんが来るまで、まだ1時間以上は時間がありますわよ?」

 

「それはあなたに前もって説明して、そのあと打ち合わせするために用意した時間よ!」

 

「でしたら、説明はすでに終わりましたし。打ち合わせは……楽しみながらということにしましょう」

 

 朱乃は一旦席から立ち上がり、俺の上へ座ってくる。その格好は正面から抱き合う対面座位だが、ペニスは挿入していない。ショーツ越しにオマンコを擦り付けられてるかたちだ。

 

 朱乃が俺の首に両手を絡めて抱きついてくる。足を大きく開き、ソファに両膝をついて体を密着させる。正面から俺の目を見つめて、キスを求めてくる。

 

「朱乃ッ!」

 

 そんな朱乃をリアスが怒鳴るが、朱乃は止まらない。

 

「いいじゃありませんか、リアス。修学旅行からずっとお預けなんですよ。私、もうこれ以上我慢できませんわ」

 

「お預けなのは私もよ!」

 

「リアスは今回の件で婚約者になったんでしょう? だったら、私にも何かご褒美があってもいいじゃない」

 

「そ、それは……」

 

 婚約の件を持ち出され、途端に弱くなるリアス。朱乃は「それに……」と続けて言う。

 

「さっきの話の通りなら、明日からゲームが終わるまでずっとお預けになるんでしょう?」

 

「……そう、だけど……でも……」

 

「家も別にされて、監視もつくのよ。今しかないじゃないの」

 

 朱乃はそう言うと、唇を合わせてきた。……うわぁ、もう舌絡めてきた。そうとう溜まってたんだろうなぁ。

 

「うぅ……」

 

 と、聞えてきた声に反応して隣へ視線を送ると……リアスがもじもじと膝をすり合わせていた。ちらちらと時計を見て、顎に手を当てて悩み、うんうんと唸り、息を吐きながら肩を落とす。……ああ、これはリアスが負けかなぁ。

 

 悩んだ末に意思を固めたリアスは部室に魔法をかける。かけた魔法は部室に設置してる転移の魔法陣を一時的に起動させなくするものだ。おそらく集合時間よりも前に部員が入って来れなくするめだろう。

 

 魔法をかけ終えたリアスが制服を脱いでいく。ボタンを外し、スカートのチャックを下ろす。

 

「あら、リアス。あなたもするの?」

 

 朱乃のからかうような言葉に、リアスは鼻を鳴らす。

 

「当然でしょ! 朱乃たちがしてる隣でお預けなんて絶対に嫌よ! ほら、エイジ!」

 

「は、はい……んぐっ!?」

 

 呼ばれて顔を向けた瞬間、唇を重ねられる! 朱乃とのキスに上塗りでもするかのように激しいキスだ。唾液を流し込まれ、舌で口内を蹂躙される。

 

「ん……うむっ……はぁはぁ……ぅん……」

 

「んぐ……り、リアス……」

 

「あらあら、私のことを忘れてもらっては困りますわよ」

 

「あ、朱乃……」

 

 朱乃は自分のスカートの中へ片手を入れた。……何かを解くような音。この感じからして紐かな? 

 

「ふふっ、まずは私からですわね♪」

 

 微笑み、朱乃は腰を浮かせる。膝立ちになって角度を合わせ、ゆっくりと腰を下ろしていく。

 

「――あんっ。ふふふっ、久しぶりですから、少しキツイわね」

 

 じっとりと濡れた膣口の感触。スカートに隠れて見えないが、手に取るようにわかる。亀頭の先端が膣口に入ってる! おお、久々の朱乃のオマンコだ!

 

「少し……待ってくださいね、エイジ」

 

「ああ」

 

 朱乃は俺の肩に両手を置くと、ゆっくりと腰を沈めてきた。

 

「んっ……はぁはぁっ、んんっ、あぁ……大きい……」

 

 小さな膣口をいっぱいに広げ、ペニスが奥へ奥へと咥え込まれていく。咥え込まれたペニスから朱乃の体温が伝わってくる。

 

「ぁんっ、エイジが私のなかでうれしそうに跳ねてますわ」

 

「朱乃も、うれしそうに絡み付いてきてるよ」

 

 本当に、違う生き物のようだ。ぐちゅぐちゅで、いやらしくペニスに絡みつき、キュウっと絞めてくる。

 

「うふふっ。――ぁんっ!?」

 

 ゆっくりと腰を下ろしていたはずの朱乃がビクッと体を跳ねさせた! まるで生まれたての小鹿のようにブルブルと体を震わせ、顔からは大量の汗が流れる。……どうしたんだ?

 

 朱乃はゆっくりとリアスのほうへ顔を向ける。

 

「り、リアス?」 

 

「何かしら、朱乃?」

 

 リアスはニッコリ笑顔で首を傾げる。……まさか……。

 

 疑惑を確かめるために朱乃のお尻へ両手を伸ばしてみると……やっぱりだ。

 

 朱乃のスカートの内側にリアスの手が入れられていた。

 

 いやこれは、スカートの内側に入れられてるだけじゃない! 朱乃の反応や俺が気づいてなかったことから見て、アナルに何かイタズラされてる!

 

「な、何するのよ、リアス」

 

「あら? 何って、エッチをするんでしょう?」

 

「――っ」

 

 当然のようにそう返したリアスに朱乃は驚く。リアスはやってやったと言わんばかりに黒い笑みを浮かべて、

 

「さあ、時間もないことだし。3人で楽しみましょう♪」

 

「あぐっ、んっ……!」

 

 さらに朱乃のアナルを弄り始めた。

 

「はぁはぁ……はぁはぁっ……え、エイジ……!」

 

 ビクビクと震えながら朱乃がすがり付いてくる。前の穴にはペニスが挿入されていて、後ろの穴にはリアスの指が捻じ込まれてるからなぁ。かなり辛そうだ。

 

 辛そうなんだが……。

 

「じゃあ、続けようか。朱乃」

 

「そ、そんな……」

 

 イジメられてる朱乃もかわいいんだよなぁ。

 

 俺は朱乃のお尻に回した両手で尻肉を掴み、左右に開く。

 

「なっ……。――くひぃっ!?」

 

「あらあら、すごいわね。指が根元まで咥え込まれちゃったわ」

 

 朱乃の背後にリアスが回り込み、耳元で囁く。朱乃は首を横に振って何とか逃げようとするが、オマンコにはずっぷりとペニスが挿入されているために動けない。

 

「リアス……お願いだから、今は……ひぐぅっ……! ズボズボしないでぇぇっ!」

 

「ふふっ、こんなにビクビク震えちゃって……かわいいわね、朱乃。――でも、だぁーめ」

 

「そ、そんな……」

 

 涙を浮べ始めた朱乃を無視してリアスは体を倒す。近づいてくるリアスの唇に、俺も体ごと顔を近づけ、唇を重ねた。

 

 間に朱乃を挟み、2人で唇を重ねあう。

 

「はぁはぁ……ううぅ……」

 

 俺たちの間で朱乃が体をビクビクと痙攣させながら涙を流し始める。オマンコがキュウキュウとペニスを絞めてきて……もうイッちゃったのか。まあ、2穴責めだからなぁ。

 

 と、一旦唇を離して、朱乃の顔をリアスと一緒になって舐め始める。

 

 慰めるようにリアスが涙を舐め取り、俺が首筋を丁寧に舐めあげる。

 

「やぁああ……っんん! やめ……今は……!」

 

 必死に顔を背けて逃れようとする朱乃だが、俺たちは逃がさない。顔を背けても顔を舐め続け、耳の穴や鼻など、いたるところに舌を這わせていく。

 

「……んっ! はぁはぁ、はぁはぁっ……も、もうっ! いやぁああああ……!」

 

 悲鳴をあげながら失禁してしまった朱乃を見て、リアスは満足そうに微笑み、アナルから指を抜いた。

 

 除菌シートで指を丁寧に拭きとり、俺の背後に回って抱き着いてくる。両手で頬を撫でつつ、虚ろな表情の朱乃を愛おしそうに眺めた。

 

「本当に、朱乃はかわいいわ♪」

 

 ……厳密に言えばイジメられて落ち込んでる朱乃が、だろう。リアスの場合。

 

「お、覚えてなさいよ、リアス」

 

「ええ。その元気が残っていればね♪」

 

 リアス……。このあと重大発表をする予定だってこと、忘れてないか?

 




 古本屋の50円セール……アレは、おそろしいものだ。

 学園黙示録、今まで毎回ツタヤで借りてたんですが、おやすく全巻手に入りました。


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