どうしてこうなった? 異伝編 (とんぱ)
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艦これ短編

 ※これはアニメ艦これを題材にした作品です。幾つか私見の入った解釈や改変などがあります。
 また細かな軍事知識は持ち合わせておりません。一応調べていますが間違った知識を披露してしまうこともあるかもしれません。ご了承ください。


 ある時、人類はとある外敵からの攻撃により危機に陥っていた。

 それは海からの進軍。海の底から現れた謎の艦艇群。それらを人類は深海棲艦と呼称した。

 艦艇群とあるだけに、深海棲艦は駆逐艦級から超弩級大型戦艦まで多彩を極める艦種が存在し、その苛烈な攻撃により人類は制海権を失いつつあった。

 

 深海棲艦には人類の既存の兵器による攻撃は効果がなかった。

 いや、全くなかった訳ではないが、深海棲艦には通常の兵器や戦略・戦術が効きにくかったのだ。

 それは深海棲艦の全てが人間大から大型の獣程度の大きさしか持たないことが最も大きな理由であった。

 兵器は時代と共に改良を成され、その攻撃対象も変化していった。単体の人間を攻撃する武器から、より多くの人間を同時に攻撃出来るように大きく強く変化していった。

 そしていつしか大型の兵器は同じく大型の兵器を相手にその力を発揮するようになっていった。

 軍艦で人間を攻撃する者はいない。軍艦は敵の兵器――軍艦や戦闘機など――を攻撃する為の兵器なのだから。

 

 だが深海戦艦は先も述べているように精々が大型の獣程度の大きさしか持っていない。そんなものにどうやって攻撃を当てろというのか?

 軍艦から放たれる砲弾を、遠く離れた人間に当てる。それは弓で100m以上離れた位置から米粒を正確に射るくらいの難易度と言えば分かりやすいだろうか。

 いや、並の人間であれば例え砲弾が直撃せずともある一定の距離内に着弾させればその衝撃で殺すことも出来るだろう。

 だが相手は深海棲艦だ。見た目が人間大だろうとその性能は軍艦のそれなのだ。いや、軍艦すら凌駕していると言えよう。

 そんな相手に直撃しない攻撃などどんな意味が有ると言うのか? ない。それどころか資源の無駄であった。

 そして例え直撃したところで倒しきれないのが深海棲艦なのだ。

 

 逆に深海棲艦の攻撃は人類に大打撃を与えた。

 深海棲艦は艦艇群だ。その攻撃力もそれに相当する。しかも通常の軍艦と違って人間大な故にその機動力も大きく上回っている。

 人間大の大きさで、海の上を自由に移動し、その攻撃力は軍艦を海に沈めるには十分過ぎる火力を持つ。

 そんなものを相手に戦えるような武器も、兵器も、戦術も戦略も、人類は持ち合わせていなかったのだ。

 

 人類は敗北に敗北を重ね、やがて制海権を喪失。それは人類にとって非常に大きな損害であった。

 このまま人類は深海棲艦によって徐々に滅びの一途を辿るのであろうか?

 いや、そうはならなかった。深海棲艦という脅威を前に、唯一対抗出来る存在がいたのだ。

 

 それこそが、在りし日の軍船(いくさぶね)の魂を持つ娘たち。艦娘(かんむす)である。

 艤装(ぎそう)と呼ばれる武器を装着し、生まれながらにして深海棲艦と互角に戦う力を持つ彼女たち。

 その活躍により、制海権奪還に向けた反攻作戦が開始されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 ある一人の艦娘がいた。彼女の名前は吹雪(ふぶき)。駆逐艦の艦娘である。

 駆逐艦と一口に言っても様々であり、彼女は特型駆逐艦と呼ばれる艦船だ。

 従来の駆逐艦と速度は同等に、その上で重武装化を果たした新たな駆逐艦の基準となったのが特型駆逐艦だ。

 つまり彼女も駆逐艦として立派な性能を持っているということなのだ。――なのだが……。

 

「はぁ……どうして上手く行かないんだろう……」

 

 彼女は、落ちこぼれだった。

 

 艦娘とは娘とあるようにその見た目は人間の女性と殆ど変わらない容姿をしている。

 艤装を装着していない艦娘を一目見て知らない者が艦娘だと見抜くのは難しいだろう。

 そんな彼女たちがどうやって海上で深海棲艦と互角の戦いを繰り広げられるというのか。

 答えは簡単。艦娘は海の上を滑るように自由に移動出来るのだ。

 これは艦娘にとって特別なことではなく、当たり前の基本性能だ。そうでなくては軍船(いくさぶね)の力を有しているなどとは言えないだろう。

 

 だが彼女は、吹雪は少々勝手が違った。

 海上に浮けないわけではない。ないのだが……彼女はいわゆる運動音痴と呼ばれる部類の存在だったのだ。

 訓練してもまともに海上を進むことが出来ない。そんな艦娘は果たして戦力になると言えるだろうか?

 否。言えるわけがない。ここが従来の軍であれば彼女はとっくの昔に除隊させられているか後方任務へと移動させられていただろう。

 だが彼女は普通の兵ではない。深海棲艦と戦える人類唯一の力、艦娘なのだ。そんな貴重な戦力を捨てるような馬鹿はいない。例え今は役立たずだとしてもだ。

 これで艦娘が気軽に量産出来る兵器であれば話は別だっただろうが……。

 

 ともかく、彼女は落ちこぼれだった。まともに海上を進めない艦娘など彼女以外にはいるとは思えないと言われるくらい落ちこぼれだった。

 努力家ではある。性格も明るく前向きで、座学などは非常に優秀だった。だが運動音痴だ。

 今もこうして必死に訓練を積んでいるのだが、さっぱり上手く行っていないようだ。

 と言っても、彼女はまだ艦娘として軍に入って日が浅く、実戦は当然として訓練時間も大したものではないのだが。

 訓練し続ければいつかは他の艦娘と同様に海上を自由に走れるようになるだろう。尤も、他の艦娘たちは大した訓練なく海上移動が出来るのだが。

 

 そういう理由で彼女はこの鎮守府の提督から戦力外扱いされていた。鎮守府にいられるのは先の説明の通り艦娘だからというだけだ。

 それを理解しているからこそ彼女は精一杯努力している。……結果は散々だったが。

 

 吹雪は食事の為に一旦訓練を止め、宿舎へと移動する。もちろん食事の後も訓練は続行するつもりだったが。

 

(頑張って早く戦場に出られるようにならなきゃ!)

 

 決意を新たにし落ち込んでいた気持ちを吹き飛ばして吹雪は前を向いて進む。

 そんな時だ。吹雪の耳にある話し声が聞こえてきたのは。それは鎮守府で働いている一般兵士の会話だった。

 当然だが鎮守府には艦娘以外に普通の人間も存在している。艦娘は戦力であって、必要なのはその戦闘力だ。

 雑務などの鎮守府を運用する為に必要な細かな仕事を艦娘に任せることは基本的にない。その為に人間の兵士も鎮守府内で働いているのだ。

 そんな彼らの会話は吹雪にとって人生を変える程の衝撃を与えた。

 

「すごいな呉鎮守府の一航戦は!」

「ああ! たった一艦隊で数十を超える深海棲艦を相手に勝利! 素晴らしい戦果じゃないか!」

「俺が聞いた話だと百に届く数だったと聞いたぞ!?」

「それは話を盛りすぎではないか? 一艦隊では弾数が持つとは思えん」

「確かにそうだな。流石にここまで話が届くうちに誇張されたのだろうな」

「それとは別に、自分は赤城という空母型艦娘一人の戦果が大きいと聞きましたが」

「ああ。誇張もあるかもしれんが、撃破数の内の六割が空母赤城によるものらしい。これは確かな筋の情報だ」

「本当か! 一人で六割か。そんな艦娘が内の鎮守府にもいてくれればなぁ」

「無茶を言うな。この海域は深海棲艦の攻め入る量や回数が少ないんだ。それ程の戦力を回してくれるものかよ」

 

 段々と話が上司や軍に対する不満に変わっていったが、彼らのそんな話は吹雪の耳にはすでに入っていなかった。

 

(たった一艦隊で数十、ううん百もの敵を!? それも一人でその内の六割!?)

 

 未だ戦場に出る事すら叶わぬ吹雪にもその戦果の偉業が理解出来た。

 有り得ないと言ってもいいだろう。いや、これが生涯に渡る戦果ならば理解出来る。

 だが赤城はそうではない。そもそも深海棲艦と艦娘が戦いだしてからそれほどの年月は経ってはいない。

 それは自然と深海棲艦と戦う回数も少ないということを意味する。未だ実戦経験をしていない艦娘は吹雪以外にも当然存在しているし、実戦経験が一度や二度という艦娘など鎮守府のどこにもいるだろう。

 例え艦娘と深海棲艦の戦いの発端から常に最前線で戦い続けていたとしても、そこまでの戦果を出すことなど出来るだろうか? 大抵の人間――艦娘も含む――がこう言うだろう。無理だ、と

 

 だが吹雪の中で既にこの話は現実の物と認識していた。下らない法螺だとか、他の鎮守府を鼓舞する為に戦果を誇張した結果だとか、そんな風に考える事はなかった。

 この話を信じた者が次に思うことが幾つかある。尊敬・嫉妬・畏怖・恐怖などだ。圧倒的な力という物は必ずしも万人が受け入れられる物ではない。中には恐怖し怯える者もいるだろう。

 だが吹雪の中には尊敬という感情しかなかった。自分が戦場に立つことはおろか海上に立つことさえ覚束ない中、伝説とも言えるような戦果を誇る者もいる。

 吹雪は赤城を尊敬し憧憬し、いつしか赤城の横で共に戦うことを夢見るようになった。

 

(ああ、いつか絶対に赤城さんと一緒の艦隊になって、赤城さんの護衛艦になるんだ!)

 

 吹雪の決意は固かった。思い立ったが吉日と言わんばかりに行動を開始した。

 

「提督! お願いがあります!」

 

 吹雪は鎮守府を任されている提督に異動願いを出したのだ。

 吹雪のいきなりの願い届けとその迫力に圧倒されていた提督だったが、その転属願いは受理された。

 別にこれは提督が吹雪のことを想っての事ではない。ぶっちゃけると戦力にならない吹雪を厄介払い出来るという判断だった。

 吹雪が呉鎮守府へと異動すればこの鎮守府の艦娘の保有艦隊数に空きが出来る。そうなれば軍の上層部に新たな艦娘を要求する事も出来るだろう。

 言うなれば吹雪の異動願いは渡りに船だったのだ。

 

 そうして陳情した吹雪自身が呆気に取られる程迅速に呉鎮守府への異動が決定したのだった。

 

 

 

 

 

 

「失礼しました!」

 

 呉鎮守府へと異動して来た吹雪は鎮守府到着後すぐに呉鎮守府提督に着任の挨拶をした。

 呉提督は異動したてで誰が見ても緊張していると理解出来る吹雪を優しく迎え入れた。

 だが吹雪は挨拶を終えて提督室から退出したというのにどこか落ち込んだ雰囲気を漂わせ、しかも溜め息をついていた。

 

「はぁ……」

 

 なぜ吹雪がこうも落ち込んでいるのか。それは提督から第三水雷戦隊への配属命令を受けたからだ。

 提督は吹雪が未だに海上をまともに移動出来ないことを理解していた。恐らく吹雪が異動する前の鎮守府から吹雪の詳しい情報を得ていたのだろう。

 だというのにどうして戦隊の中に組み込むのか。このまま戦場に出れば夢である赤城の護衛艦になるどころか味方の足を引っ張ってしまうだろう。

 提督は優しくこう言った。失敗も経験の内だ、とか、君が失敗してもそれを助けてくれる仲間がいる、とか、本番でなら意外と上手く出来るかもしれないよ、と……。

 しかし、前向きだが失敗続きで自分に自信がない吹雪には提督の言葉は慰めにもならなかった。

 

 失敗したらどうしよう。そんな吹雪の考えはある人物の登場によって一旦掻き消えた。

 

「あのぅ~」

「は、はい!?」

 

 そこにいたのは吹雪と同じ第三水雷戦隊に所属する駆逐艦・睦月(むつき)であった。

 互いに挨拶を交わした後、二人は鎮守府の中を共に歩みだした。

 睦月はとても面倒見が良く思慮深い性格をしていた為、着任したばかりの吹雪に色々と世話を焼こうとしたのだ。

 それは吹雪にとっても嬉しい話だった。赤城に憧れて呉鎮守府に着任したのは良いが、知り合いなど一人もいなかった為心細かったのだ。

 こうして優しく迎え入れてくれ、その上面倒まで見てくれる睦月に対して吹雪の好感度は急上昇中であった。

 

 睦月自身も特型駆逐艦という従来の駆逐艦を上回る性能と言われている駆逐艦が新たに同じ戦隊に配属されることはあらかじめ聞いていたのでそれなりに緊張していたのだ。

 だが出会ってみれば吹雪はとても話し易く真面目で好感の持てる人物だった。緊張もなくなり、気が合う仲間や友達として一緒に過ごせそうだと嬉しく感じていた。

 

 意気投合した二人はそのまま鎮守府内を楽しそうに歩いていく。

 吹雪は鎮守府の案内と施設の説明を睦月から受け、異動前の鎮守府と比べその大きさや整えられた設備の良さに素直に感動する。

 そうして案内されやがて吹雪は第三水雷戦隊に与えられた一室に辿り付く。

 そこで吹雪は新たな仲間たちに出会った。

 

「夕立ちゃん。吹雪ちゃん連れてきたよ」

「ぽい~?」

「吹雪です! よろしくお願いします!」

「夕立だよ。あなたが特型駆逐艦の一番艦~? 何だか地味っぽい~」

 

 妙な語尾を口癖とする少女。彼女は吹雪・睦月と同じく駆逐艦の艦娘、夕立である。

 少々おちゃらけた性格のようで大雑把なところもあるが、その性根は悪いわけではない。

 

 もちろん駆逐艦以外の艦娘も第三水雷戦隊には存在する。軽巡洋艦の川内・神通・那珂の三人がそれだ。

 この三人は同じ川内型と言われる型の軽巡洋艦であり、言うなれば姉妹のようなものである。

 それだけにそれぞれ仲はいい。その性格には大分個性差があるが。

 

 例えば長女の川内。彼女は大の夜戦好きだ。これには元となった軍船(いくさぶね)が夜戦ばかりで戦っていたことが原因だと思われる。

 口を開けば夜だ夜戦だと叫び、夜戦がなくとも夜に活動することも多い。どうやら夜行性のようだ。

 

 そして三女の那珂。艦隊のアイドルを自称する少々痛い子である。

 自分のことを那珂ちゃんと呼んでおり、よく無許可でビラ配りをしたりステージで歌ったりと勝手なアイドル活動をしてたりする。

 

 最後に次女の神通。夜戦馬鹿な姉とアイドル馬鹿な妹に挟まれた可哀想な子である。

 丁寧でしっかりとした性格で、姉と妹のブレーキ役となることが多い。大抵ブレーキになってないが。ちなみに第三水雷戦隊の旗艦(リーダー)を勤めている。

 

 個性豊かな新たな仲間たちに囲まれて、吹雪の新たな鎮守府での生活が始まった。

 

 

 

 

 

 

 吹雪は睦月に引き続き鎮守府の案内をされる。

 第三水雷戦隊の部屋と艦隊の仲間への紹介を優先した為まだ鎮守府内を殆ど回ってはいなかったのだ。

 ちなみに暇だった夕立も付いて来ている。

 

「ここが教室っぽい」

 

 その言い方ではここが教室ではない可能性もあるということだろうか。

 夕立の口癖を深く考えては駄目だと出会ってものの数分で吹雪は悟った。

 

「今日は日曜日で誰もいないから、明日皆に紹介するね」

「うん、ありがとう」

 

 睦月の言葉に礼を述べ、そこで吹雪は黒板の隣に貼ってある授業の時間割を見つける。

 そしてそこにある一つの単語がふと気になった。

 【演習】。それは実戦を模した訓練を指す言葉だ。それによって吹雪は様々な連想をした。

 演習によって実戦を思い浮かべ、実戦から深海棲艦を思い浮かべ、更にそこから赤城の戦果を思い浮かべ、そして自らの夢を夢想する。

 

「どうしたの吹雪ちゃん?」

 

 睦月は突然トリップしたように幸せそうな笑みを浮かべている吹雪を怪訝に思い声を掛ける。

 どうやら吹雪は夢想状態から覚めていないようだ。「えへ、えへへ、私が赤城さんを守るんだぁ」などと口走っている。かなり危ない状態のようだ。

 

「吹雪ちゃん帰ってこーい!」

「はわっ! え? 何どうしたの!?」

 

 夕立が珍しく語尾を付けずに叫んだ所でようやく吹雪は現実世界に帰還した。だが自分がトリップしたことは覚えていないようである。

 

「どうしたのはこっちの台詞っぽい。いくら呼んでも返事なかったぽい~」

「あは、あはは。ご、ごめんね夕立ちゃん、睦月ちゃん」

「それはいいんだけど……。何か気になることでもあったの吹雪ちゃん?」

 

 そう言われて吹雪は自分が何を考えていたのかを思い出す。

 

「そうだ! ねぇ、この鎮守府には一航戦の人達がいるんだよね?」

「うん、いるよ。赤城先輩と加賀先輩だよね」

「あ、噂をすれば!」

 

 空に響く音を聞きつけて夕立が教室の窓際まで移動する。吹雪と睦月も同じように窓際まで移動した。

 そして空から聞こえる音の正体を見る。そこには綺麗に編隊を組んで飛行する戦闘機の姿があった。

 

「一航戦の先輩たちの練習っぽ~い」

「あぁ~、やっぱりここにいるんだぁ!」

 

 夕立の言葉に興奮を隠しきれない吹雪。

 

「たった一艦隊で百以上の深海棲艦を相手に完全勝利したあの伝説の艦娘たち! しかもその内の六割は赤城さんの活躍って話なんだよね!」

 

 瞳を爛々と輝かせて我が事のように嬉しそうに話す吹雪を見て、これは完全に一航戦に、特に赤城に憧れていると睦月と夕立は気付いた。

 というかこれで気付けない奴がいたら恐らくそれは日本語を理解出来ていないだろう。

 

「あはは。その話、やっぱり有名なんだね」

「もちろんだよぉ! 私は赤城さんの護衛艦になりたくてここに来たんだから!」

 

 完全にアイドルの追っかけである。いや、同じ艦娘同士だからアイドルによるアイドルの追っかけと言った方が正確だろうか。

 

「でもその話ちょっと間違ってるっぽい」

「え?」

 

 夕立の突然の声に吹雪は動揺する。

 もしかしたら噂は誇張された物に過ぎず、赤城の戦果は大したものではなかったのでは? そんな考えが一瞬で脳内を巡ってしまった。

 それは仕方ないだろう。実際に直接戦果を見たわけでなく人伝に聞いただけだ。

 しかもその話の内容があまりにも過剰な内容なのだ。誇張されていたとしてもおかしくない程にだ。

 

(いや、それでも! 例え戦果が少なかろうとも赤城先輩が立派な艦娘であることに変わりはないはず!)

 

 だが吹雪の赤城への憧れは揺るがなかった。

 例え赤城の戦果が百もなかろうとも、それでも数十はあるだろう。それぐらいなければそこまでの誇張表現は有り得ない。

 実際の戦果が数機程度だとしたらそれを百に盛る訳がないのだから。

 だったら十分過ぎる程の戦果だ。数十だとしても伝説と言えるだろう。

 吹雪はそう考えて赤城への憧れを落とすことはなかった。

 

「倒したのは確か百五十を超えてるっぽい」

「増えるのっ!?」

 

 まさかの増量である。戦果が下方修正どころか上方修正されてしまった。吹雪の頭が混乱する。

 

「いや、でも、赤城先輩がその内の六割っていうのは、違ったりするんだよね?」

 

 まさかの戦果増量のせいで何故か信じていた噂を自ら疑い出してしまった。吹雪は己を見失っているようだ。

 

「うーん」

「あ、やっぱりそれはないんだ……」

 

 夕立の悩み方からして流石に一人で百五十の内の六割撃破という戦果はなさそうだと吹雪は悟った。

 一艦隊でまさかの百五十以上の撃破だったが、その内の何割かは赤城のはず。

 六割が誇張であったとしても、五割、いや四割でも恐ろしい戦果だ。

 艦娘の一艦隊は最大で六人編成だ。六人の中で一人が四割の撃破ならば十分過ぎるだろう。吹雪の憧れは憧れのままなのだ。

 

「まああれ(・・)も赤城先輩の力だから、やっぱり赤城先輩の戦果でいいんじゃないかな?」

「そうっぽい~?」

「?」

 

 なにやら二人だけで納得しているようだが、会話の意味が理解出来ない吹雪は置いて行かれている。

 だがそんな吹雪の疑問は次の夕立の言葉に吹き飛ばされる事となった。

 

「それなら赤城先輩の戦果は八割くらいっぽい~」

「また増えたっ!?」

 

 吹雪の許容量はそろそろ限界だ。

 夕立の話が真実ならば、百五十以上の撃破数の内八割、百二十以上の深海棲艦を赤城一人で撃破したということになる。

 

「え? いや、流石にそれは……」

 

 これには赤城崇拝(ただし互いに出会った事はない)の吹雪も苦笑いである。というか流石に簡単には信じ切れない。

 

「私たちもその伝説の一戦は見てないの。先輩たちから話を聞いただけだから。でも嘘じゃないと思うよ」

「伝説の一戦以外でも赤城先輩のあれ(・・)を見た事はあるし、多分本当っぽい」

あれ(・・)?」

 

 吹雪は先程から二人が思わせぶりに口にしているあれ(・・)とやらが気になる。

 だが二人はそんな吹雪に対して少し微笑みながら異口同音に答えた。

 

『見れば分かる(よ)(っぽい)』

 

 ……少々同音ではなかったようだ。

 とにかく、どうやら赤城のあれ(・・)とやらを話すつもりは今はないようだ。

 

「えー、意地悪言わないで話してよー」

「そうだ。それなら今から一航戦の先輩たちの所へ行ってみない? もしかしたらあれ(・・)も見られるかも」

「え!? 行く行く!」

 

 睦月の申し出は渡りに船というべきか、吹雪にとって最高の提案だった。

 こうして元いた鎮守府から異動願いを出してまで呉鎮守府に来たのは(ひとえ)に赤城と共に戦いたいが為だ。

 そんな吹雪が赤城を見に行こうと言われて嬉しくない訳がなかった。

 

 

 

 

 

 所変わって、吹雪たちは鎮守府内にある鍛錬所の一つに来ていた。

 そこはまるで弓道場を模したような鍛錬所であった。射場があり、矢道があり、海の上にだが的がある。

 少々変則的だが誰が見ても弓道場だと思うだろう。

 

 何故鎮守府内に弓道場があるのか? その答えは吹雪の視界の中にあった。

 

 そこには、和弓を構え、弦を引き絞り、的に向かって矢を放つ艦娘の姿があった。

 

「わぁ……きれい」

 

 弓を射るその凛とした佇まいと一直線に飛んでいく矢姿。そしてその矢が小型の戦闘機へと変化し的を射抜く様を見て、吹雪は素直に感動した。

 

 矢が戦闘機に変化するという本来なら有り得ない現象。これこそが空母型の艦娘に備わっている力である。

 

「あれが第一航空戦隊。通称一航戦の誇り、赤城先輩だよ」

「あの人が……」

 

 とうとうその御姿を拝見する事が出来、吹雪は至上の多幸感に包まれていく。どうやら脳内麻薬がドパドパ溢れているようだ。

 艦娘にも脳内麻薬があると実証されるのも近いかもしれない。

 

 だが、そんな吹雪のトリップは赤城の隣に立つ女性、赤城と同じく一航戦である加賀によって冷水を浴びたかのように覚めることとなる。

 

「断りもなく入ってきては駄目よ」

「す、すみません!」

 

 三人を代表して睦月が謝罪する。といっても加賀も本気で怒っているわけではないが。

 加賀はドライな性格をしており、規則は規則と注意しただけのことだ。この程度で罰するようなことはない。

 ただ一見冷たそうに見える為、注意を受けた側である三人は少々萎縮してしまったのだが。

 

 そうして三人が萎縮している間に赤城と加賀は三人の近くにまで近寄ってきた。

 赤城は見慣れぬ艦娘がいることを不思議に思い、もしかして話に聞いていた特型駆逐艦なのかと確認の為吹雪に声を掛けようとする。

 だがそれよりも早くに吹雪が赤城に対して言葉を掛けた。

 

「あの! 私特型駆逐艦の吹雪と言います! あ、赤城先輩ですよね! その、私、今は未熟ですけど! いつか絶対赤城さんの艦隊で一緒に戦えるくらい強くなりますから! だから、その」

 

 突然の、まるでプロポーズでもするかのような勢いのある告白に赤城も少々戸惑ってしまう。

 だがすぐに吹雪が何を言いたいのかを理解して、穏やかで包みこむような笑顔を吹雪へと向けた。

 

「ええ、楽しみに待っていますよ吹雪さん」

「は、はい!」

 

 憧れの存在からのそんな思いがけない温かい言葉に、吹雪は感動して敬礼で返す。

 だが次の赤城と加賀の会話に吹雪は疑問を抱いた。

 

「でも、困ったわね。私の事を尊敬してくれているのは嬉しいのだけれど、あれは私だけの力じゃ――」

「――そんな事はないわ赤城さん。あの力(・・・)は赤城さんがいなくては意味がないのだから」

「でもあれはあの子の……あら? そう言えばあの子はどこに?」

 

 誰かを探すように辺りを見渡す赤城。

 あの子とやらを探しているのだろう。吹雪も釣られて回りをきょろきょろと見るも、この場には他に誰も居はしなかった。

 

「きっとまた間宮に行っているのでしょう。全く……」

「ふふ、そう言わないであげて加賀さん。あっと、ごめんなさいね吹雪さん。それじゃあ私たちはまだ訓練の続きがあるから、これで失礼しますね」

 

 

 

 

 

 赤城たちと別れた吹雪たちは鎮守府内にある甘味所・間宮へと移動していた。

 そこで間宮名物の特盛り餡蜜に舌鼓を打ちながら話に花を咲かせていた。

 

「あ~赤城先輩素敵すぎる~!」

「確かに赤城先輩はかっこいいっぽいー」

「そうよね。でも残念。吹雪ちゃんにあれ(・・)を見せられなかったね」

 

 睦月にそう言われて吹雪は当初の疑問を思いだした。

 

あれ(・・)って結局何なのー!? 赤城先輩たちも何か意味深な事を言ってたし、気になるよー!」

 

 結局気になっていた何かを知る事は出来なかった。それが余計に気になる吹雪。

 だが、そんな吹雪の気持ちはすぐに切り替わる事になる。

 

『っ!?』

 

 突如として鎮守府内に鳴り響く警報。それが吹雪の様々な疑問を吹き飛ばした。

 軍事基地にて警報が鳴る。その意味を軽視する者はこの場には存在しない。

 

 深海棲艦に対して、反撃の狼煙が上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 空母赤城率いる主力の第一機動部隊。

 戦艦金剛率いる第二支援艦隊。

 軽巡洋艦神通率いる第三水雷戦隊。

 今、呉鎮守府において稼動可能な全艦隊が出撃準備を終えて出港の時を待っていた。

 

「秘書艦の長門だ――」

 

 司令官である提督の秘書艦を務めている戦艦長門から全艦隊へと通達が送られる。

 遠征に出ていた第四艦隊が敵深海棲艦と遭遇し、その際敵棲地を発見した。

 呉鎮守府正面海域を制圧している艦隊の棲地であると推測され、これより敵棲地を強襲するという作戦が通達される。

 

 長門の言葉に多くの艦娘たちが沸き立つ。いよいよ深海棲艦への反撃の狼煙が上げられるのだ。興奮するのも無理はない。

 だが、長門の次の言葉に多くの艦娘たちがどよめいた。

 

「皆心して聴け。第四艦隊からの情報によると、敵の総数は数え切れない、という物だったそうだ」

『っ!?』

 

 本来軍に置いて曖昧な内容を正式な情報として伝達することは殆どない。

 長門も軍に所属する艦娘としてそういった未確定の情報を公にして軍内部の不安を煽る様な真似など本来はしないだろう。

 だが、それでも伝達しなければならない規模の敵だったのだ。

 敵深海棲艦と遭遇した第四艦隊が、命からがら逃げ延びて伝えてくれた情報だ。蔑ろにする事は出来なかった。

 

「それでもお前たちに出撃を命じるのは、このままその敵深海棲艦を放置していれば更にその数は増し、確実にこの鎮守府へと進撃してくるからだ」

 

 つまり、これ以上敵が強大になる前に先に敵を叩けということだ。

 放置してより強大になった深海棲艦がこの鎮守府に攻撃を仕掛けてくれば、確実に鎮守府は壊滅するだろう。

 赤城が一度の出撃で百を超える戦果を上げた伝説と呼ばれる艦娘だとしても、数に任せた波状攻撃を仕掛けられれば鎮守府を守りきれる訳がない。

 だが逆にこちらが攻撃を仕掛け敵棲地にいる敵旗艦を叩けば敵の統率は乱れ、その隙を突いて勝利を掴む事も出来るだろう。

 

 敵深海棲艦の狙いは長門には理解出来た。恐らく赤城だ、と。

 

 これまでにも細かな深海棲艦との戦闘はあったが、大きな戦闘は二回だけだ。

 その一度目は赤城によって大半の深海棲艦が撃破された。

 そして二度目。深海棲艦は赤城を脅威と見たのか二百もの艦隊を繰り出してきた。

 だがそれも赤城率いる第一機動部隊によって大打撃を受けて逃走した。

 

 深海棲艦はここで確実に赤城を水底(みなぞこ)へと沈めようとしているのだ。

 その為に近海から多くの戦力を集めたのだろう。

 

「布陣は、一航戦赤城たちを主力とした第一機動部隊が敵棲地を強襲。第二支援艦隊と第三水雷戦隊はこれを援護」

『え?』

 

 長門のこの命令には幾人かの艦娘が疑問を覚えた。

 第一機動部隊と第二支援艦隊の布陣は問題ないだろう。

 だが第三水雷戦隊。この艦隊は本来なら先の二つの艦隊よりも先行して主力の前衛として警戒に当たるのが基本だろう。

 

 そんな当たり前の疑問に対して、長門はすぐに答えを返した。

 

「今回の敵総数は二百以上だと推測される。その様な数を相手に先行していては務めを果たす事も出来ずに壊滅の危機に追いやられるだろう。だからこそ、今回は全艦隊が一丸となって敵棲地を一気に攻め落とす」

 

 長門の命令を理解した艦娘たちの何人かは死を覚悟した。その殆どが経験の浅い艦娘たちだ。

 当然だ。戦力比が何倍もの敵を相手に突撃しろというのだ。作戦が成功したとしても誰かが死ぬ。いやそもそも成功するのか?

 まだ経験の浅い者がそう思うのは無理もないだろう。

 

「……こうして敵がこの海域に集中しているということは、他の海域では敵は手薄になっているという事だ」

『!』

 

 長門のその言葉の意味を誰もが理解した。

 そう、例えここで死んだとしても、この作戦が失敗したとしても、それは無駄にはならない。

 他の海域で戦っている艦娘たちが、必ず多くの制海権を取り戻してくれるだろう。例え死しても礎にはなれるはずだ。

 そう思った瞬間に、誰しも死の恐怖を乗り越えられた。いや、死にたくはない。死にたいわけがない。

 それでもこの死地に飛び込む勇気が湧いて来たのだ。

 

「案ずるな。私もお前たちを無闇に死地へと送り込みはしない。……赤城、あの子(・・・)は?」

「大丈夫です」

「そうか……」

 

 長門と赤城の間にまたも吹雪が理解出来ない会話が成されていた。

 どうやら赤城に何かしらの秘密があるようなのだが、それが何なのかは理解出来ない。

 だが吹雪以外の艦娘はどうやらその秘密を知っているようで、どこか先程よりも安心感が増している様に吹雪は感じられた。

 

 そんな少し緊張感が抜けた者達を嗜めるように長門からの通達が続く。

 

「本作戦の目標は深海棲艦の脅威を排除し、この鎮守府正面海域からの海上護衛航路を回復する事にある。各自、心して作戦に掛かってほしい。油断は禁物だ」

 

 結局赤城の秘密が何なのか知る事も、そして呉鎮守府に来て一度も訓練をする機会もなく、吹雪の初実戦が始まろうとする。

 

「暁の水平線に勝利を刻むのだ!」

 

 長門のその締め括りの言葉と共に、とうとう吹雪の初実戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

『第三水雷戦隊。出撃して下さい』

 

 通信室から下された出撃命令。それを聞いて吹雪は覚悟を決める。

 もうここまで来れば何をどう言おうと出撃を取り止める事など出来る訳がない。

 だったらもう覚悟を決めて出撃するしかない訳だ。そう、覚悟を決めて、まともに動く事が出来ない海上に……。

 

「第三水雷戦隊。旗艦神通、行きます」

「吹雪、行きまーす!」

 

 旗艦である神通の出撃に合わせ、吹雪もまた出撃する。

 吹雪の下半身に艤装が装着される。そうしてカタパルトから射出されるように、吹雪は海上へと出撃した。

 

「きゃあぁぁぁぁあぁ!」

 

 ……悲鳴を上げながらだったが。

 

 海上へと出撃されていく最中、吹雪の上半身にも艤装が装着されていく。これで吹雪は真に深海棲艦に対抗する力を手にした事になる。

 

「うわぁぁあぁぁ!?」

 

 ……まともに海上を動く事が出来ればの話だが。

 

「特型駆逐艦! 陣形崩れてるよー!」

「す、すみません!」

「大丈夫?」

「どこか調子悪いっぽい?」

「う、うん、だいじょうぶ、あ、あわわ!」

 

 綺麗な陣形を組んで移動する他の第三水雷戦隊と違い、吹雪はどうにかして彼女たちに付いて行くのがやっとだった。

 心配する睦月や夕立の声にも余裕なく返事をするしか出来ないでいた。

 

「吹雪ちゃんもしかしてあなた……」

 

 そんな吹雪の動きや態度を見て、神通は何かに勘付いたようだ。

 吹雪も神通に悟られたと気付き、思わず目が泳いでいた。

 

 そうして吹雪の驚愕の事実に全員が異口同音に叫ぶ。

 

『実戦経験がない(っぽい)ー!?』

 

 ……いや、やはり少々同音ではないようだ。恐らく夕立がいる限りその面子で異口同音が成される事はないのだろう。別段どうでもいい事ではあるが。

 とにかく、吹雪のまさかの実戦経験零という事実に全員が唖然とした。それは決して吹雪を悪く思っての事ではない。

 前鎮守府では実戦経験を積ませる所か、練度を積む事すらさせてもらえなかったと言うのか。そういう吹雪が以前に務めていた鎮守府に対しての反応だ。

 だがそれは前鎮守府が悪いということではない。どちらかというと前鎮守府は吹雪を守っていたと言えるだろう。

 

「私、運動が……」

 

 そう言い掛けた吹雪は、言葉を言い終える前に海上を転がり滑っていった。

 それを見た第三水雷戦隊は全員が吹雪の言いたい事を完全に理解した。

 ああ、運動音痴なんだ、と。

 

「何で言わなかったの?」

「司令官が心配ない。皆が助けてくれるって……」

「いいかげんっぽーい……」

 

 司令官には恐らく何らかの考えがあるのだろう。

 だがまともに動く事が出来ず実戦経験なしの状態で、初実戦でこのような戦地に送り込まれた本人はたまった物ではないだろう。

 それはある意味足手纏いを任された他の艦娘も同様である。

 だが戦場は彼女たちに状況の整理を許す時間を与えなかった。

 

「皆さん! 第二支援艦隊が敵深海棲艦と戦闘を開始! 私たちもすぐに敵海域に突入します!」

 

 旗艦である神通からの報告に全員が第二支援艦隊が展開している方角を見る。

 その海域では既に味方と敵によって多くの砲弾が飛び交っていた。

 第二支援艦隊とはほぼ横並びに陣形を拡げて移動していた第三水雷戦隊もすぐに敵との戦闘海域に入るはずだ。

 

 そして神通のその言葉はすぐに現実の物となった。

 

「っ! なんて数!」

 

 突如として海面に深海棲艦が現れた。

 吹雪は初めて(まみ)える深海棲艦に怯えを見せる。予想よりも大きく異形であった事も原因だろう。

 この大型の異形の魚のような見た目は駆逐イ級と呼ばれる種類の深海棲艦だ。見た目は恐ろしいが深海棲艦の中ではその脅威度は低いと言える。

 だが問題はその数だ。イ級は数えられるだけで二十は出現していた。しかもそれ以外の種類の深海棲艦も存在している。中には未確認の種類すらいた。

 未確認も含め、これらは全て駆逐艦級だった。だが問題は数だ。これだけの数に責め立てられれば個々の練度で勝っていようともいずれは力尽きるだろう。

 

「砲雷撃戦初め!」

 

 神通の攻撃命令により、第三水雷戦隊は次々と各々の艤装から攻撃を繰り出す。

 何せ敵の数は甚大だ。とにかく撃って攻撃をして敵の数を減らさなければ話にならないだろう。

 

「きゃあああ!」

 

 だがその数を減らすという行為すら容易ではなかった。

 数が数だけに敵からの攻撃の密度が高く、攻撃どころか回避に専念せねばすぐに撃破されてしまう程だったのだ。

 

「このままでは……! ここは一度陣形を組み直します!」

 

 このまま攻撃に晒されるままでは確実にやられてしまう。

 そう悟った神通は一度陣形を組み直してから再度攻撃を開始することを提言する。

 苛烈な攻撃を掻い潜りながらどうにかその場を切り抜けようとする。

 だが、やはり数で圧倒的に劣るということは大きな不利であった。

 

「うわぁぁあ!?」

 

 最初に被弾したのは川内だ。撃破にはいたってないがあちこちを損傷し艤装は中破している。戦闘力は大幅に下がっただろう。

 

「か、顔はやめてー!」

 

 続けて那珂も損傷する。損傷は小破と言ったところだが、今は小破でもこのままではいずれ撃破されてしまうだろう。

 

「川内さん、那珂ちゃん……!」

 

 頼れる仲間たちが傷ついていく。これが戦いなのだと吹雪は実感する。

 敵艦は更に数を増し、確実に第三水雷戦隊を追い詰めようとしていた。

 このままでは皆やられてしまう。そんな未来を想像し、吹雪は戦場を恐怖する。

 だが、傷ついた仲間は誰もこの現状に恐怖していなかった。

 誰もが敵に負けじと攻撃を返していく。

 

「どうして……」

 

 どうしてこんなどうしようもない様な状況でも戦う事が出来るのだろうか。

 そんな吹雪の疑問には、吹雪の隣で弾幕を張り続けている睦月が答えてくれた。

 

「大丈夫だよ吹雪ちゃん。私たちには助け合える仲間がいるんだから」

「え――」

 

 睦月のその答えはすぐに目に見える形で現れた。

 戦場の空を多くの戦闘機が編隊を組んで飛び交っていく。

 戦闘機はそれぞれに備わっている機銃や爆弾などの武装で次々と敵深海棲艦を撃破していった。

 

「あれは!」

「主力艦隊っぽいー!」

 

 第二支援艦隊と第三水雷戦隊の僅か後方に位置していた主力の第一機動部隊が戦列に加わったのだ。

 その中でも一航戦である空母赤城と加賀の航空攻撃だろう。この攻撃によって前線は勢いを取り戻した。

 

「私たちも続きます!」

 

 第三水雷戦隊も主力艦隊に負けじと攻撃を加え続ける。

 そして吹雪もまた不慣れながらも砲弾を放ち続け、危なげながらもどうにかこの海域を切り抜ける事が出来た。

 

 だが、これはこの作戦の前哨戦に過ぎない。最終目標は敵棲地にいる敵艦主力を撃破し、この海域全般を開放する事である。

 しかし前哨戦とも言える戦いに全艦隊で出向いた為、主力の第一機動部隊も損耗してしまっている。

 このような状態で敵本隊が待ち構えている敵棲地に赴き、果たして任務を遂行する事が出来るのだろうか。

 

 そんな吹雪の不安が具現したかのような光景が、吹雪の視界に広がっていた。

 

「うそ……」

 

 空は暗雲が覆い、海も何故か不気味に暗く染まっている。

 その中央にある泊地に、敵の旗艦がその姿を現していた。

 それだけではない。敵旗艦を守るように、そして攻め込んできた艦娘たちを屠る様に、数え切れない深海棲艦が伯地の周りに終結していたのだ。

 

「こんなの無理だよ……」

 

 吹雪がそう呟いたのは誰にも聞こえなかったが、例え聞こえていたとしても誰も咎めなかっただろう。

 初の実戦でこの様な光景を見せられては心が折れたとしても仕方のない事だ。

 どうすればこの絶望から逃れられるのか。不安と恐怖に押し潰されそうだった吹雪は助けを求める様に後ろを振り向き、尊敬する赤城の姿を探した。

 赤城はすぐに見つかった。彼女は弓道場で見た時と同じように弓を構えていた。

 その表情には微塵も恐怖の色は感じ取れなかった。凛とした佇まいのまま、正射必中の心得を以ってして、矢を放った。

 

「赤城先輩……」

 

 赤城のその姿を見て、何時の間にか吹雪の中の不安や恐怖は何処かへ消えてなくなっていた。

 

(これが、私が憧れた人……)

 

 この大軍を見ても、この戦力差を見ても、赤城は微塵も揺るいではいなかった。

 それが吹雪に力を与える。赤城と共にならば必ず勝てると。

 それを証明するように、赤城が放った矢は戦闘機へと姿を変え、敵旗艦に向かって一直戦に飛翔し……爆発四散した。

 

「……え?」

 

 吹雪は呆然としたが、まあ驚く事ではない。

 あれだけの深海棲艦に守られた旗艦にたった一機の戦闘機で何が出来たというのか。

 哀れ戦闘機は過剰とも言える対空攻撃によって海の藻屑となった。……戦闘機は、だが。

 

「来るよ吹雪ちゃん!」

「え?」

「刮目するっぽい!」

「ええ?」

 

 睦月と夕立の言葉に慌てふためく吹雪。先程から何が何やら訳が分からない状態だ。

 だがそんな吹雪の動揺は一瞬で更なる動揺によって塗り替えられる事となった。

 

 砕けた戦闘機から一つの小さな影が飛翔する。

 それを狙って海上から先程よりも更に凄まじい対空攻撃が加えられた。

 深海棲艦は理解しているのだ。これこそ、自分たちの同胞を沈めた最強最悪の敵。

 妖精であると!

 

「ええー!?」

 

 妖精が自在に宙を飛び、無数の砲弾を掻い潜る!

 いや、全ての弾丸を避け切れてはいない。だが命中してもいない。

 なぜなら、妖精の体に触れた弾はその軌道を変えて深海棲艦へと降り注いでいるのだ!

 

「ええぇぇ!?」

 

 自ら放った攻撃で撃破されていく深海棲艦。だが彼女らも負けてはいない。

 空母型が戦闘機を繰り出し、駆逐艦型が機銃で弾幕を張り、軽巡・重巡型が中口径主砲を放ち、戦艦型が大口径主砲の火力で押し込む。

 妖精がいる地点はまさに地獄そのものだ。あの場にいればどんな艦娘だろうと物の数秒で撃破されているだろう。

 

 だが妖精はそうはならなかった。全身を何かオーラの様な光が覆ったと思うと、それらの攻撃の全てを弾き返したのだ。

 

「嘘でしょぉぉぉおぉぉ!?!?」

 

 常識とは何だったのか。妖精とは何だったのか。大口径主砲って弾き返せるの? どう言う事なの?

 最早吹雪の脳は限界だった。何が現実で何が夢なのかも曖昧だ。もしかしたら今は夢の中で、目を覚ますと以前の鎮守府の布団に包まれているのかもしれない。

 

 そもそも妖精とはあんなに強いものなのか? 否、そんな訳がない。

 妖精とは艦娘を様々な面で補助をしてくれる重要かつ大事な味方である。

 その仕事ぶりは様々だが、戦場に置いて最も重要な仕事として、戦闘機の操縦がある。

 空母が放った戦闘機は妖精が操縦しているのだ。そういう意味では彼女たち妖精は強いと言えるだろう。

 空母の強さは妖精なくして語る事は出来ないのだから。

 

 だがこれはない。この妖精の強さはそんな次元の話ではないだろう。

 どこに戦艦が放った大口径主砲をオーラで弾き返す妖精がいる。どこに無数の銃弾を正確に敵へと返す妖精がいる。

 妖精がそれだけ強ければ空母型の艦娘は全員戦闘機から妖精を取り出して放つだろう。その方が効率的である。

 

「え? 妖精さんが? 妖精さんで? 妖精さんじゃなくて? 妖精様ですか?」

「落ち着いて吹雪ちゃん!」

「気持ちは分かるっぽい。でも今は戦闘に集中しようよ」

「これで落ち着いていられるわけないよ!」

 

 正論である。初見でこれを冷静に処理出来る者が果たして世界に何人いるのだろうか。

 ちなみに某鎮守府の秘書艦は数日程現実逃避したという。

 

「あれって何なのぉぉぉ!?」

「あれこそ、赤城先輩の伝説の立役者!」

「妖精を超え艦娘を超え深海棲艦を超え、全ての生物の頂点に立つ、妖精女王!」

『その名もヨウちゃん(だよ)(っぽい)!』

 

 睦月と夕立が交互に、そして最後には同時にあの奇怪な妖精について説明する。

 

「ヨウ、ちゃん?」

 

 今もなお二百を超える深海棲艦を相手に互角以上の戦いを繰り広げる存在の名前にしては随分可愛らしいものだ。

 だがまあ見た目は普通の妖精その物なので可愛くても可笑しくはないのだが。

 そんな可愛く二頭身で短い手足を付けて身長三十cmもあるか分からないデフォルメされたぬいぐるみの様な存在がこの強さという事が既に可笑しくはあるが。

 

「そう、ヨウちゃんだよ」

「ヨウちゃんは赤城先輩が放つ戦闘機の操縦妖精として何時の間にか生まれてたっぽい」

「他の妖精さんと違って戦闘機が無くなってもああして自由に動けるし、その強さも意味分からないくらいとんでもないの」

「あまりにも意味分かんなくてその内皆思考するのを止めたっぽい……」

「だから吹雪ちゃんも深く考えない方がいいよ。すぐに達観出来るから」

 

 またも交互に詳しく説明されたが、それで納得出来る程簡単な存在ではないだろう。

 

「いやそんな事言われて――きゃっ!?」

 

 あまりの光景と話の内容に完全に戦場から気を逸らしてしまっていた吹雪は、近くの海に着弾した敵の攻撃に驚き身を竦めてしまう。

 

「吹雪ちゃん!?」

「あ……」

 

 そして目の前に急に現れた深海棲艦。すでにその深海棲艦は攻撃態勢に入っていた。

 避ける事は不可能。最早これまでか。死を覚悟した吹雪だったが――次の瞬間には妖精……ヨウちゃんから放たれたビームの様な攻撃でその深海棲艦は消し飛んでいた。

 

「……」

「(ぐっ!)」

 

 吹雪が見るとヨウちゃんが吹雪に向かって親指を立ててサムズアップしているのが分かった。大丈夫だ、こっちは任せろ、と言っているかのようだ。

 そのままヨウちゃんは全身からビームを四方八方に放ち深海棲艦を次々と沈めていった。

 更には敵の数が減ってくるとビームを放つのを止め、近くに寄ってその小さな腕や足を振るって自分よりも遥かに巨大な深海棲艦を木っ端微塵に粉砕していった。

 

 終いには旗艦だと思われる人型の深海棲艦――深海棲艦の上位個体は艦娘の様に人型をしている事が多い――に対してサブミッションらしき攻撃を仕掛けている。

 あの短い手足でどうやっているというのか。その前に旗艦である深海棲艦はその身をバリアらしき物で守っていたのだが、そんなものヨウちゃんは殴って壊していた。深海棲艦も唖然である。

 いまや敵旗艦はヨウちゃんの繰り出す数多のサブミッションで涙目になっている。何度もタップを繰り返しギブアップを表現しているようだが、ヨウちゃんに容赦は無い。

 周りの深海棲艦たちもリーダーを守りたいのだが、攻撃するとリーダーを巻き込んでしまうのであたふたしている。

 最早先程までの空気は何処かへ消え去っていた。吹雪はもう深く考えるのを止めた。

 

「ヨウちゃん凄いねー!」

『ねー!』

 

 

 

 

 

 

 呉鎮守府近海海域奪還作戦成功。全艦娘帰還。

 敵深海棲艦撃破数三百二十六(確認出来うる限りの数なのでこれ以上の可能性有り)。

 その内八割が赤城(その内更に九割がヨウちゃん)による物である。

 この情報は瞬く間に全鎮守府に伝わり、赤城最強伝説を更に膨らませる原因となった。

 

 この戦果は全てが赤城の物となっている。これは軍としては当然の情報操作だ。

 敵深海棲艦を倒したのはヨウちゃんが殆どだが、それを馬鹿正直に広めて信じる者がどれだけいると言うのか。馬鹿にされて終わりなのが関の山だろう。

 そもそも空母級が放った戦闘機の操縦者である妖精が敵を撃破すればそれはその空母級艦娘の戦果となるのだ。だからヨウちゃんの戦果が赤城の戦果となっても別に不思議な事では無い。

 

「……私の力ではないのですけど」

「いえ、赤城さんがいなければヨウちゃんも生まれていないわ。だから赤城さんがそんなに気にする事はないの」

「(コクコク)」

 

 がっくりと肩を落とす赤城を励ます加賀。そんな二人の肩をポンポンと叩き加賀の言葉を肯定するように頷くヨウちゃん。

 妖精は話す事が出来ないからこうしてジェスチャーで感情や想いを表現するのだ。

 流石の規格外妖精もそこら辺は妖精の範囲内に収まっているようだ。もっとも、戦闘機乗りの妖精だというのに自由に出歩ける時点でどうかと思うが。

 

「加賀さん、ヨウちゃん、ありがとう」

 

 赤城の礼の言葉にヨウちゃんはぐっと親指を立てて応える。

 そんな仕草に赤城は笑みを浮かべる。ヨウちゃんがどういう存在なのかは解明されてないが、心優しく赤城の、いや艦娘の味方だということは確信を持って言えた。

 だったら他の妖精のように信頼して接するだけだ。

 

 

 

 さて、赤城が改めてヨウちゃんへの信頼を確認しその絆を深めているところで、ヨウちゃんという規格外妖精について説明しよう。

 率直に言えば、彼女は転生者と呼ばれる存在である。転生者と言えば読んで字の如く死して生まれ変わった者だ。

 仏教徒であればこの世の生物は命が輪廻転生して巡っているのだと信じているだろう。実際はどうなのか転生者であるヨウちゃんにも完全には理解出来てはいないが。

 

 普通の輪廻転生と違い、ヨウちゃんには生前……前世の記憶が残っているのが特徴か。

 それはそういう能力をかつてのヨウちゃんが作り出したことが原因だ。

 これはとある目的の為に意図して作り出した能力だったが、それが意図していない結果を生み出してしまった。

 

 それが転生人生である。ヨウちゃんは死んでは生まれ変わり死んでは生まれ変わりを繰り返すようになったのだ。

 しかもその能力をある程度の制限があるとは言え引き継いで生まれ変わっていく。記憶があるから技術なども引き継げる。

 つまり生まれ変われば生まれ変わる程に強くなっていくのだ。もちろん様々な要因により前世より弱くなる事も有るには有るが。

 

 ともかく、そんな延々と続く転生人生を歩んでいたが、これは真実永遠に続くわけではない。終わる方法が幾つかあるのだ。

 その最たる方法が自殺である。自殺をすれば転生の能力が発動しなくなるというルールを能力の中に組み込んでいるのだ。

 最も、今の彼女に自殺をするつもりはない。それは負けの様な気がするのだ。まあ本当にどうしようもなく生に疲れたら自殺をするかもしれないが。

 今は生まれ変わったら以前の人生は大事な事以外忘れ、今の人生を楽しもうと割り切っているようだ。現在の妖精人生(妖精生?)も中々刺激的で楽しんでいるヨウちゃんである。

 

 他の転生を終える方法としては、単純に確率の問題と、もう一つある方法が有る。

 確率とは、能力発動が絶対ではないことを現している。その人生で長く生きれば生きるほど転生の能力は発動しやすくなるのだ。生まれてすぐにでも死ねば発動確率はほぼ0%だろう。

 ちなみにこうして今も転生している事からこれまでは確実に発動してきている。正直ヨウちゃん自身この確率については完全に綺麗さっぱり忘れている条件であった。

 

 もう一つ……最後に残された方法。それは女性と性交することでこの転生能力が消滅するというものだった。

 なぜこの様な条件を組み込んだのか? それはヨウちゃんの最初の人生が大きく関わっているのだが、ここでは記す事も憚られる。

 とにかくヨウちゃんはこれまでの人生で女性と一度たりとも性交する事なく過ごしてきた。

 それは別にヨウちゃんが女性嫌いという訳ではない。……単純に一度もその機会が巡ってくる事がなかったのだ。

 

 大抵は女性として生まれてきた。性別がある生命に転生すれば性別の確率はほぼ半々だ。

 だが運が悪いのか、何故かほぼ全て女性として生まれてきたのだ。女性に生まれれば余程の状況にならない限り女性と性交などするわけがない。

 一応は男性として生まれる事も有るには有った。だが、男性というか、それは雄だった。

 雄。人間には使われない性別の総称だ。つまりはその時は人間ではなく異種の存在だった。異形である。

 そして同種の雌ももちろん異形だ。精神は人間であり、その美的感覚も人間のままである当時の彼には同種との性交は御免であった。

 結局彼――当時のヨウちゃん――はその生涯を童貞で終えた。最後は涙したのを覚えている。こればかりは今もなお忘れる事が出来ない悲しい記憶となってこびりついていた。

 

 さて、そんな彼(彼女)が巡り巡って生まれ変わったのが、妖精であった。

 初めて意識が出来たのは戦闘機の中であった。これには流石に驚愕である。今まで生まれた時は当然赤子なのが殆どなのに、急に意識が浮上したと思ったら戦闘機の中なのだ。

 戦闘機の操縦は何故か理解出来た。これは戦闘機の操縦妖精に生まれつき備わっている特性なのだろう。

 だがそれを別としていきなりの状況に久しぶりに戸惑っていたヨウちゃんはいきなり敵の機銃に被弾。そのまま戦闘機は無残に爆発四散した。

 

 しかしそこは百戦錬磨どころか百生練磨というくらいに戦い続けて来た経験を持つヨウちゃんだ。

 戦闘機が四散する前に中から飛び出し、状況を確認。海面には多くの異形(深海棲艦)が存在、本能としてそれらを敵と判断する。

 後はまあ説明するまでもないだろう。結果だけを述べよう。哀れ深海棲艦は海の藻屑と化した。

 

 そこからは産みの親とも言うべき赤城に驚かれたり、加賀に驚かれたり、秘書艦を呆然とさせたり、間宮で特盛り餡蜜を食べてご満悦したりと楽しい日々を送っているわけだ。

 

「こらヨウちゃん待ちなさい。まずは入渠して汚れを落としますよ」

「(……こくこく)」

 

 いつもの様に戦闘を終えて間宮にて好物の餡蜜を食べに行こうとしたヨウちゃんだったが、そこは赤城によって止められた。

 傷は付いてないが戦場故に汚れはある。砲弾が飛び交う中にいたのだ。煤汚れなどは流石にあった。

 楽しみにしていた餡蜜が少しお預けされたが、まあ入渠(お風呂)は嫌いではない。というか元日本人なヨウちゃんなので大好きと言っても過言じゃなかった。

 

 すぐに赤城の言葉に嬉しそうに頷き、そのまま赤城の肩に乗って共に風呂場を目指す。

 

「お風呂が終わったら一緒に餡蜜を食べに行きましょう」

「私も行くわ」

「(ぐっ!)」

 

 入浴後の餡蜜を楽しみに思い笑顔全開のヨウちゃん。全力でサムズアップしていた。

 ままならない転生人生を送っているが、彼女は何だかんだで楽しんでいるようであった。

 

 




 この先に欝展開なんてありません。深海棲艦死すべし慈悲はない。ただしほっぽちゃん、キミだけは別だ。
 ちなみに艦これ編に続きはありません。ぶっちゃけ書く意味がないw このまま主人公が大暴れして哀れ深海棲艦となるだけですので。


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NARUTO編 NARUTO 第一話

 かつて、戦国の世があった。

 そこではチャクラと呼ばれる特殊な力を操る者達が血で血を洗う戦いを繰り広げていた。彼らはこう呼ばれていた。忍、と。

 国々が自国の利権や領土拡大の為に争い、その戦力として忍は一族単位の武装集団として国に雇われ戦争に参加していた。

 更には国の戦争に関係なく、いや戦争で多くの仲間や家族を殺された恨みや悲しみが広がったせいで、戦争以外でも忍は多くの一族がいがみ合い殺し合う様になっていった。

 

 そんな戦国時代、忍と国民の平均寿命は僅か30歳前後と言われている。

 その平均を大きく下げていたのは、多くの幼い子ども達の死だった。

 10歳にも満たない子どもが忍として戦場に出てその多くが死に、そして国民もまた戦争の巻き添えとして子どもを含めて死んで行く。

 

 いつまで続くのか、いつ終わるのか分からない地獄の様な時代。それを地獄だと思わず常識だと認識してしまう世の中。

 そんな時代に、ある一人の少女が生きていた。

 

 彼女の名は日向ヒヨリ。忍の一族でも有名な日向一族、その宗家の姫君である。

 ヒヨリはこの戦国の世を憂えていた。他の忍と違い、ヒヨリは殺しを好まなかった。

 いや、他の忍も好んで敵を殺す者は少なかったが、それでも敵は殺す物として当たり前に思っていた。

 だがヒヨリはそうではなかった。国の利権の為に雇われ、一族の利権の為に敵を殺す。そんな生き方しか知らない自身の一族や他の一族を哀れに思っていた。

 

 何故ヒヨリがその様な考えに至ったか。それは彼女が前世の記憶を有した転生者であるからだ。

 平和な世界で生き、平和に育った経験を持つヒヨリにとって、この戦国の世しか知らない人々は憐憫の対象となったのだ。

 いや、大人ならばいい。大人が大人の都合で戦いに生きるのは否定しない。ヒヨリとて争いはともかく競い合う意味を持った闘いならばそこまで嫌いではない。

 だが、子どもを巻き込むなら話は別だ。戦争に子どもを投入し、十にも満たない歳の子が殺されていく。そんな世の中は間違っている。

 だからこそ、子どもを戦争に加担させる事が当たり前だという常識が、ヒヨリには我慢出来なかった。

 

 大人が大人の都合で、国が国の都合で戦争しているならばヒヨリも特に思うところはなかっただろう。

 国にとっての戦争とは政治の延長という側面もあるだろうし、場合によっては戦争をしなければ国が滅んでいた事態もある。戦争の全てを否定はしない。

 もちろん自国が一方的に他国に攻撃されて滅ぼされるのを許容するわけはないが。

 それは別として、子どもを駆り出してまで殺し合いを繰り返すこの世界の常識はヒヨリには受け入れがたかった。

 

 

 

 ある日の事。ヒヨリは日向一族の集落を抜け出し一人木の上に立っていた。

 いつまでも続くこの戦国の世に気が滅入り、少し気分転換をする為にこうして景色を眺めていたのだ。

 高い所から目を凝らせばどこまでも遠くを見渡せるような気がするのでヒヨリは高所が好きだった。

 ヒヨリはその両目を白眼へと変化させ、周囲360度全てを見渡す。

 

 白眼。これは日向一族が保有する血継限界と呼ばれる特殊な力である。

 血継限界とは忍がチャクラを練って生み出す術では再現出来ない特殊な力の事を指す。

 その希少な能力の中でも白眼は三大瞳術と呼ばれ恐れられていた。

 その能力はほぼ360度に渡る視界と透視能力に望遠能力、そして個人レベルでのチャクラの性質を見抜く事も出来るという優れ物だ。優れたチャクラ感知能力を持つ忍もチャクラの性質に関しては同じ事が出来るが、白眼だとそれ以上の精度で見抜く事が出来る。

 それだけではない。人体にあるチャクラの流れ――経絡系――や、その白眼の瞳力が強い者はチャクラ穴――点穴とも呼ばれる――と言われる経絡系上にあるツボも見極める事が出来るのだ。

 これらは戦闘に置いても感知に置いても非常に優秀な能力であった。だからこそ日向一族は忍の中でも強者として名を馳せていたのだ。

 

 この白眼の能力はヒヨリの今までの人生でも得た事のない力だ。特に透視と望遠の能力は便利に思っていた。

 というか、ぶっちゃけそれ以外の白眼の能力は大抵がヒヨリの経験で補う事が出来ていた。白眼を発動させなくても経絡系を感じ取れる事がその証拠であろう。

 これは日向一族には絶対に秘密にしている事である。言えば多分へこむ。経験だけで白眼が真似られては悲しくてならないだろう。

 

 ともかく、ヒヨリはこうして高所から白眼にて遠くを見渡すのが最近の楽しみになっていた。

 集落にいるとやれその力を一族の為に使えだの、敵を殺すのを躊躇うなだの年寄り共が煩いのだ。

 彼らもヒヨリの非凡な力を理解しつつあるのでヒヨリに期待してそう言っているのだ。ヒヨリとしてはたまったものではなかったが。

 

 そうして今日も年寄りの小言から逃げ出し遠方を見つめる。新しい発見はないかと色々と見通すのだ。

 ちなみにこれまでに幾つもの忍一族の集落や村などを見つけている。ヒヨリがその気だったならば既に幾つかの集落が日向によって滅ぼされていただろう。

 それだけヒヨリの望遠能力は優れていた。並外れたチャクラを白眼へと注ぎ込む事で桁違いの距離を見通す事が出来たのだ。

 

 そんな風に遥か遠方を眺めていたヒヨリは気になるものを見つけた。

 それは二人の少年だ。どうやら川原で戦っているようだ。だがそこに殺気は感じられない。恐らく同じ一族なのだろう。鍛錬でもしているのだろうか。

 そう思ったヒヨリは白眼で見た二人のチャクラ性質でその考えを否定した。

 

(これは……二人のチャクラ性質が違い過ぎる)

 

 チャクラは個人個人でその性質が異なる。これは指紋と同じ様なもので完全に一致するチャクラ性質を持つ者はいない。

 なのでこの二人の少年のチャクラの性質が異なっていたとしてもそれはおかしな事ではないのだ。

 だが、それでも似たようなチャクラの性質という物はある。それは家族や一族など近しい血縁関係にある者達のチャクラ性質がそうだった。

 

 この二人は完全に別物のチャクラ性質を持っていた。いや、どこか似ていると言えば似ている様に何故か感じるが、その性質はやはり別物だ。

 つまりこの二人は同じ一族の忍ではないということだ。だとしたらやはりこれは別の忍一族同士の殺し合いなのだろうか?

 

「……いや、やはり殺気はない」

 

 ヒヨリは思わずそう呟く。それどころか二人は実に楽しそうに戦っていた。完全に鍛錬の為の組み手としか思えない。

 そして勝った方はひたすら喜び、負けた方はすごく悔しがり、すぐに再戦したり、別の勝負方法で競ったりしている。

 

「これは……」

 

 もしかしたら彼らは同盟を結んでいる忍の一族なのかもしれないとヒヨリは考える。

 大抵は争うしかないが、稀に忍同士で手を組む事はあるにはあった。それでもこうして共に研鑚を積む事はまずない事だが。

 しかしその考えも否定した。ヒヨリは二人のチャクラ性質を見抜いたのだ。

 

「千手と、うちはだと?」

 

 千手一族とうちは一族。それは日向に勝る程の知名度を持つ忍一族である。有名故にヒヨリも戦場で見かけた事があり、そのチャクラ性質も見た事があった。

 二人のチャクラ性質はこのそれぞれこの二つの一族に似通っていた。まず間違いなくその一族に名を連ねる者達だろう。

 しかも二人の動きやチャクラの練り方、術の練度からして、まだ少年だと言うのに並の大人よりも強いという逸材であった。余程の才を持って生まれたのだろう。

 

 そんな二人がどうしてこの様に楽しげに共に在るのか、ヒヨリは理解に苦しんだ。

 二つの一族は敵対している事で有名なのだ。両一族は共に強大な力を持つので、戦争で千手が雇われれば対抗する為にうちはが雇われ、うちはが雇われればその逆の現象が良く起こっていた。

 両一族は幾度となく戦場で殺し合って来た因縁の間柄だ。だというのに、こうして共に研鑚を積むなど有りえないだろう。

 

 そればかりか二人はこの世界の未来についても話し合っていたのだ。これにはヒヨリも驚愕である。

 ……ちなみにあまりに遠方なので当然会話は聞こえていないが、口の動きからその内容を把握していた。ストーカー真っ青の能力である。

 

 それはさておき。二人の会話から、互いに一族の名を知らないのだろうとヒヨリは感づいた。

 姓を見ず知らずの相手に口にしない。それが忍の共通の掟だ。姓を知られればそれが殺し合いに発展する事は多いのだ。

 

 それでも、二人は互いの姓を知らぬままでも、お互いに今の世の中をどうすれば変える事が出来るのかを話し合っていた。

 少年だからだろう。方法は見つからずともどうにかして未来を良くするんだという意気込みに溢れていた。

 

 そんな二人を見て、ヒヨリは思った。

 

(この、二人となら)

 

 二人の少年と比べて打算的な己のその思考に嫌気が差すヒヨリ。

 だがそれでもやらなくてはこの世界は変わりはしない。この二人と共にならば今の世を変革する事が出来る。

 日向一族だけでは多くの忍を屠らなければ実現は難しくとも、この二人と、そして千手一族とうちは一族と共になら……。

 

 思い立ったが吉日という奴だろう。ヒヨリはすぐにその場から飛び立ち二人の少年――千手柱間とうちはマダラの元へと向かった。

 

 それが……悲劇を生んだ。もしヒヨリがもう少し熟考してから行動に移していれば、起こらなかっただろう悲劇が……。

 

 

 

 

 

 

 千手柱間とうちはマダラ。千手一族とうちは一族、両一族きっての才能を誇る少年達は、偶然川原で出会ってから互いに無二の親友となった。

 いや、偶然ではなかったのかもしれない。互いが川原にやって来る理由は、川を見ていると心の中の嫌な気持ちが流れるような気がするという同一のものだった。故に二人の出会いは必然だったのかもしれない。

 出会ってすぐに二人は同じ理由で川原へ来ているのだと直感した。性格は違うが互いに何か通じるものを感じた二人はすぐに惹かれ合っていった。

 

 そして互いにこの戦乱の世を憂い、変えようとしていることを知る。

 それは今の世にあって異端と言っても良い考えだ。誰もが自分たちの一族の繁栄と、そしてそれ以外の一族の打倒を願っている。

 それが当たり前の考えの世の中で、こうして同じ理想を持つ者同士が出会えた事は奇跡に等しかっただろう。

 

 互いの理想を知ってから、二人はちょくちょくと会う様になった。姓は互いに知らないまま、忍の技を競い合ったり未来について話し合ったりしたのだ。

 まだ理想が高すぎて実力も手段も追いついてはいなかったが、それを覆す力を付けるべく共に研鑚していた。

 

 そんなある日の事だ。いつもの様に組手で力比べをし、休憩がてらに未来について語り合う。

 いつもと同じ日々だ。辛い世の中だが二人で理想を目指すのは互いの最大の楽しみだった。だが、そんな二人の日々は早くも終わりを告げる事となった。

 

 

 

「でも具体的にどうやったら変えられるかだぞ。先のビジョンが見えないと……」

「まずはこの考えを捨てねぇことと、自分に力をつけることだろが。弱い奴が何を吠えても何も変わらねぇ」

 

 理想実現に必要な事は何か。未だ具体的な方法は見つからないが、何をするにも力は必要だとマダラは言う。

 それは柱間も理解していた。どんなに崇高な理想を語ろうとも、この戦乱の世でそれを示すには一定以上の力が必要だ。力のない理想を語っても、それは騙りにしかならない。

 

「そだな……とにかく色々な術をマスターして強くなれば、大人もオレ達の言葉を無視できなくなる」

「苦手な術や弱点を克服するこったな……まあオレはもうその辺の大人より強ェーけどよォ……」

 

 マダラの言葉は嘘ではない。二人は少年と呼ばれる歳でありながら既に並の大人を凌駕する実力を有している。

 そんな自信のある言葉を吐きながら、マダラはその場を離れ下に川が流れる崖の端まで移動した。

 何をするのか疑問に思った柱間だったが、すぐにマダラの行動を理解した。

 

 立ちションである。

 それを理解してすぐに柱間はマダラの真後ろに立とうとした。

 そうすれば小便が止まる繊細なタイプだと以前にマダラが口走った事を思い出したからだ。

 それを確認してやろうと悪戯心を出し、柱間は気配を消してマダラの背後に立つ。

 そして……悲劇は起こった。

 

 

 

「フウ~~……」

 

 小便が川に落ちる音が響く。だがそれもすぐに止まってしまった。

 マダラの小用が終わったわけではない。柱間が後ろに立った為に集中出来ずに小便が止まってしまったのだ。

 

「……」

「ホントに止まるんだ……」

「だからオレの後ろに立つんじゃねェーー!!」

 

 マダラは後ろに立つ柱間に怒鳴りながら文句を言う。

 その時だ。マダラの後ろに立つ柱間の、その更に後ろに急に人が降り立ったのは。

 

『!?』

 

 二人の更に後ろに突然発生した気配に驚愕しつつも、二人はすぐに反応して何があっても対応出来るように構えようとする。

 上空から降り立つという、明らかに一般人の登場方法ではないそれに、二人は急な訪問者が忍であると察する。

 忍の世は敵だらけだ。例え二人が別の一族でありながら無二の親友だとしても、それは例外中の例外に過ぎない。

 柱間とマダラの理想は未だ理想であり忍の世に欠片も浸透していない。ならばこの訪問者とも敵対する可能性は高い、高すぎるだろう。

 二人はこの相手が自分達の一族ではない事を咄嗟に祈る。もしそうであれば、この好敵手とも、同じ理想を求める同胞とも呼べる親友との日々が終わってしまうのだから。

 

 そうして二人は急な訪問者に振り向く合間の一瞬で様々な想いを抱く。

 そして二人が振り向いた先に見た者は……同年代くらいの少女であった。

 だが少女であろうと忍は忍。年齢や性別などそこに関係ない事を二人は嫌というほど理解していた。

 それを変えたいと思っている矢先にこうして別の一族と出会ってしまうのか。そう思っていた二人だが、少々少女の反応が可笑しい事に気付く。

 

 何か目的が有ってこの場に来たのは明白だ。そうでなくては二人が一緒にいるこの場に現れる理由がない。

 理由としては互いの一族の者が別の一族と出会っている為に相手を殺しに来たのか。

 二人は同時にそう考える。どちらもこの少女と初対面なので、互いに相手の一族の者なのだと想像したのだ。

 もう一つはどちらの一族の忍でもなく別の忍一族の者かという所か。こうして別の一族を発見した為に少しでも戦力を減らす為に二人を殺しに来たのか。

 それならば一人で来るとは考えづらい。恐らくどこかに伏兵がいるだろう。そう思い目の前の少女だけでなく伏兵も警戒する。

 

 だが、警戒する少女は二人を見て何故か視線を逸らした。

 いや、二人ではなくマダラを見て、だ。それはマダラも、そして柱間も視線と気配で理解した。

 

「お前……何者だ!?」

 

 様子の可笑しい少女にマダラは警戒心を顕わにする。

 柱間と出会った時は偶然かもしれないが、この少女は二人を目指して来たとしか思えない登場の仕方だ。

 何故か顔を赤らめていたりと様子が可笑しいが、警戒しない訳にはいかなかった。

 

「待てマダラ! まだ敵と決まった訳ではないぞ!? それに彼女に敵意は見られん!」

「油断すんな柱間! どっかに他の敵が潜んでるかもしれないぜ! こうしてるのはオレ達を欺く演技の可能性もある!」

 

 どちらの言う事も正しく間違ってはいない。

 少女に敵意はなく、しかしだからと言って演技の可能性もある。警戒心を解く理由にはならないだろう。

 流石に少女との出会い方が悪かった。あれではこの戦国の世で警戒するなという方が難しい。

 

「何の目的でここに来た!?」

「えっと……その……」

 

 マダラの詰問に対して少女は答えにくそうにうろたえている。

 それがさらにマダラの警戒心を大きく刺激し――

 

「その、股間……見えてますよ?」

 

 ――マダラは崖から飛び降りた。

 

 後に延々と笑い話にされるマダラの悲劇であった。

 

 

 

 

 

 

「何かすいませんでした」

 

 びしょ濡れの服で焚き火に当たるマダラにヒヨリは土下座する。

 戦乱の世を変えてくれるかもしれない人材の発見に少々浮かれていたようで、まさか小用中だったとは思ってもいなかった様だ。

 タイミングがとことん悪かった結果だ。マダラが小用を催したのが僅かでも前後していれば、柱間がマダラの後ろに立とうとしなければ、ヒヨリの到着が少しでも前後していれば、起こり得なかった悲劇である。

 

「いや……もういいよ」

「でも、その、見てしまいましたし。いえ私は気にしてないんですよ。互いに子どもじゃないですか。まだご立派な物でもなかったですし可愛い物を見させてもらったといいますか」

「もういいっつってんだろお前よー!! 少しは男の気持ちを理解して言葉を選んで話せや!?」

 

 ヒヨリの精神攻撃! 効果は抜群だ! マダラの男としてのプライドはズタズタだ!

 

「男の……気持ち……」

「何でお前が落ち込んでんだよ!? 意味わかんねぇわ!」

 

 マダラの言葉によってもはや男であった頃の気持ちなど記憶の残滓にも残ってないなぁと思いださせられたのだ。

 マダラの反撃! 効果は抜群だ! ヒヨリは精神に多大なダメージを受けた!

 

「――だ」

「あ? 何言ってんだ柱間?」

 

 そんな風にヒヨリとマダラが互いの心にダメージを与えている所、柱間が何かしら呟いているのをマダラが気付いた。

 そして柱間はどこかキリッと表情をきつくしてこう言った。

 

「お前……何者だ!?」

「ぶふぅ!?」

 

 柱間のごく最近どこかで聞いた様な台詞にマダラが噴き出した。

 

「油断すんな柱間! どっかに他の敵が潜んでるかもしれないぜ! こうしてるのはオレ達を欺く演技の可能性もある!」

「がぁ!?」

「何の目的でここに来た!? ……股間おっぴろげて言う台詞ではないぞ! アハハハハハハハハハハハッ!!」

「元はと言えばお前がオレの後ろに立ったのが原因だろォがァァ!!」

 

 股間を晒した状態で放ってしまった台詞を真似する事でとことんマダラを煽っていく柱間。

 当然マダラがそれに耐えられる訳もなく、二人はそのまま殴り合いへと発展していった。

 と言っても互いに殺意はない。これくらいは親友同士の悪ふざけの範疇なのだろう。

 

「ふふっ」

 

 そんな仲の良い二人を見てヒヨリはくすりと笑みをこぼす。

 どれだけ永く生き、どれだけ経験を積もうと、こういったやり取りは見てて飽きる事がないな、と。そう思い、心から微笑んだのだ。

 まあ、それを見てどう判断するかは人それぞれなのだが。

 

「お前も笑ってんじゃねーっ!?」

「あはは、ああ、ごめん。嬉しくてつい」

「……ふん。何が嬉しいのやら。変わったやつだ」

「まあ恥ずかしいのは分かるが少女に当たるのはどうかと思うぞ?」

「お前はしつけーんだよ柱間ァ! そんな事より! お前は一体何者だおい!?」

 

 ようやく話が本題に戻ったようだ。いや、マダラが無理矢理に戻したというべきか。

 それも致し方ないだろう。誰だって自分の恥部の話を蒸し返されたくはないものだ。

 

「えっと、今更ですが初めまして。私は日向ヒヨリと言います。ぶっちゃけ日向一族の忍です。よろしく」

『!?』

 

 ヒヨリのいきなりのカミングアウトに柱間もマダラも驚愕する。

 当たり前だ。忍の姓は見知らぬ相手に教える物ではない。これは全忍の不文律とも言うべき掟なのだ。

 それを出会って十分足らずの相手に教えるなど前代未聞と言っても過言ではないかもしれない出来事だ。

 そんな前代未聞の自己紹介をしたヒヨリは唖然とする二人に更に言葉を続ける。

 

「いやぁ、日向って白眼にならなくても瞳が解りやすいくらい白みがかってますからね。どうせばれるなら初めから教えても問題ないでしょう?」

 

 ヒヨリの言う通り、日向一族は常に瞳の色彩が薄い。具体的にはやや薄紫がかった白色と言った所か。

 そのせいで瞳を見れば日向一族だとばれる可能性は大いにあるのだった。

 と言ってもそれは日向一族について多少なりとも知識や対面がある場合の話で、自ら積極的に教える理由にはならないだろうが。

 

 そしてこの忍が争う戦国の世にあって、他の一族と出会った忍がする事はただ一つ。

 

「……」

 

 マダラは無言で苦無(くない)を構える。柱間も苦無を構えてはいないがやはり警戒している様だ。

 それを見て、やはり早過ぎたかとヒヨリは落胆した。もちろん名前だけで自己紹介をすませた方がいいのはヒヨリも理解していた。

 これが偶然出会ったのならばそれで良かっただろう。その時はヒヨリも姓までは名乗らなかっただろう。無駄な争いなど好むヒヨリではない。

 

 しかしヒヨリは目的が有って二人に接触した。その目的はもちろんこの忍の世の変革の為だ。

 だと言うのにだ。姓も名乗れずにどうして忍の世が変革出来るというのだ。それでは今までと何も変わらないではないか。

 たかだか姓を名乗るだけだが、この世界では大きな一歩なのは理解している。だが、それでも前に歩まなければ作りたい未来に辿りつける訳がない。

 

 ヒヨリは柱間やマダラの警戒心が籠もった視線を受けても目を逸らすことなく二人を見据える。

 

 ――けどやっぱり早過ぎたかなぁ。もうちょっと仲良くなってからでも良かったかなぁ。

 

 などと内心動揺していたが、それはおくびにも出していない。これも長年の経験による賜物である。

 

『……』

 

 柱間もマダラも、ヒヨリに対してどうすればいいのか考えあぐねていた。

 敵意があれば交戦していただろう。だがヒヨリからは微塵も敵意は感じられない。

 そして何より、あんな出会い方をして、あんな馬鹿なやり取りをして……そんな相手をすぐに敵だと見做したくなかったのだ。

 

 そんな二人の葛藤を知ってか、ヒヨリはその口を開いた。

 

「姓も……名乗れない世の中なんて……嫌なんですよね私」

『!?』

 

 それは二人の願いの根源の一つだ。

 柱間もマダラも、互いの姓を知らずにいる。

 そんな世の中を変えたいと願ってこうして二人で共に研鑚を積み、方法を論じてきた。

 だが、そんな二人なのに未だに互いの姓を知らない。それは今までにも何度も気に掛けていた事だった。

 相手に教えたい。だがそうするとこの関係は崩れてしまう。それは恐らく確実な事だろうと互いに予想していた。

 

 だが柱間は悩み逡巡した末に、意を決した様に面を上げて言葉を発した。

 

「オレは……オレの名前は……」

「止めろ柱間!!」

 

 それをマダラは止めた。柱間が何を言おうとしたのか理解したのだ。

 それを聞けばマダラは柱間を許せなくなる。今まで柱間と接してきてそう感づいているのだ。

 聞きさえしなければ知らなかったですむ。だが、知ってしまえば……。

 

「マダラ! 解ってる! お前の言いたい事は! だが、オレ達の作りたい忍の世は、姓を名乗れぬ世界ではないぞ!?」

 

 柱間もまた理解していた。マダラが自分の姓を知ってどう思うかを。そしてマダラの姓がなんであるかを、マダラと同じ様に感づいていたのだ。

 

「オレは! 千手柱間ぞ!!」

 

 言った。名乗ってしまった。最早後戻りは出来ない。

 もう今までの関係は終わりを告げてしまったのだ。マダラもそれを感じ取り、自らの姓を名乗った。

 

「オレは……うちはマダラだ」

 

 そう名乗ったマダラの瞳に小さな勾玉の紋様が一つ浮かび上がっていた。

 それはうちは一族特有の血継限界、写輪眼である。

 その能力は凄まじいの一言に尽きる。ずば抜けて高い動体視力を有し、相手に幻術を見せたり、催眠に掛けることも可能。

 その上、体術・幻術・忍術の仕組みを看破し、またその術をコピーして自らの物とする事が出来る。全ての術を無条件でコピー出来るわけではないが。

 

 写輪眼は成長すると瞳に勾玉が三つ浮かび上がる様になる。つまりマダラの写輪眼はまだ完全ではないという事だ。

 だがそれでも十分過ぎる能力を持つのが写輪眼だ。日向一族の白眼と共に三大瞳術に数えられている程の物である。

 

 そしてその開眼条件はかなり特殊である。

 それは、うちは一族の者が激しい感情の変化が起きた時、脳内に特殊なチャクラが噴き出し、視神経に反応して眼に変化が現れて写輪眼となるのである。

 つまりマダラは写輪眼が開眼する程に激しい感情の変化が起きたという事だ。

 

「柱間……お前は千手。何となくそうじゃないかって思ってた。でも、出来れば違ってほしかった……オレの兄弟は千手に殺された」

 

 それがマダラに激しい感情の変化をもたらした要因。マダラに取って千手一族は家族の仇だったのだ。

 そしてそれだけではない。真に写輪眼を開眼した理由、それはマダラが柱間と敵対する事を決意したからだ。

 柱間と敵対する事を決意した事で激しい感情の変化をもたらすほど、マダラは柱間の事を親友として認めていたという事である。

 

 そして、そんなマダラの告白は柱間にも苦しい過去を思い起こさせた。

 

「オレの……オレの兄弟も、うちはに殺された」

「!? そうか……やっぱりオレ達は殺しあうしかないようだな」

 

 柱間の告白を聞き、マダラはこうなるべくしてなったのだと思う。

 互いに兄弟をそれぞれの一族によって殺されたのだ。最早手を取り合えるわけもないだろう、と。

 だが、マダラと同じ境遇であるはずの柱間の考えは違った。

 

「違う! そんな事はない! オレ達は分かりあえただろ!? 別の道もあるはずだ!」

 

 柱間は、この状況でなおマダラと手を取り合う未来を捨てていなかったのだ。

 それがマダラには信じられなかった。マダラの中には千手に対する憎しみが今も渦巻いている。

 

「どうしてそんな事が言える! オレは弟を殺した千手が憎い! お前だって!」

「オレだって! 憎くないと言えば嘘になるさ! でも、そうやってずっと憎しみだけで戦っていけば結局何も変わらないぞ!」

 

 二人の様々な感情が入り交ざった討論は加速していく。

 そんな二人と違い、どこで声を掛けたらいいのかタイミングを計るヒヨリ。

 今はこうして互いに思っている事をぶつけた方がいいと思って見守っているのだ。

 

「マダラ、お前は5人兄弟と言ってたな……もう、一人も残っていないのか?」

「……一人だけ、弟が残っている」

「オレも、4人兄弟だった。そして、一人だけ弟が残っている」

「それがどうした!?」

「オレ達がこの世界を変えたいと願ったのは、幼子が戦場に出るこんな世界に嫌気が差したからだろ! これ以上、兄弟を失いたくなかったからだろ!」

「ッ!」

 

 柱間の必死な言葉がマダラの心に突き刺さる。

 

「オレ達にはまだ守りたい者がいるだろう! オレは、オレはこれから生まれてくる仲間や家族にこの地獄の様な世界を見せたくないぞ!」

「それは……」

 

 それはマダラとて同じ想いだ。だからこそマダラは柱間と意気投合し、今まで共にいたのだから。

 

「オレは集落を作りたい! そこでは子どもがちゃんと強く大きくなるための訓練する学校があるんだ! 個人の能力や力を合わせて任務を選べる様にする! 依頼レベルをちゃんと振り分けられる上役を作る! そうすれば子どもを激しい戦地へ送ったりしなくていい、そんな集落だ!」

「何を……! そんな物は夢物語だ!」

 

 いや、夢かもしれない。だが実現してほしい。マダラは激昂しつつもそう思った。

 本当にそんな集落が出来れば、今みたいに幼子が使い捨ての道具の様に無闇に死んだりはしなくなる。

 人が生きている限り全ての不幸がなくなる事はないのは分かっている。だが、それでも確実に今よりは少なくなるはずだ。

 そしてそんな集落が出来れば、今度こそ弟を失わずにすむのではと、最後に残ったたった一人の弟を守る事が出来るのではと、柱間の夢物語に希望を感じたのだ。

 

「今は夢だ! でもお前が協力してくれたらきっと実現出来る! オレと同じ夢を見たお前となら! だから頼むマダラ!」

 

 そう言って柱間は苦無を構えるマダラの前で土下座をした。今の無防備な柱間を殺す事などマダラには容易いだろう。

 

「柱間何を……!?」

「頼む! 共に夢を追ってくれ! お前とならば夢は夢ではなくなる! 全てが終わった時、お前の憎しみをオレにぶつけてもいい! だから頼む! 頼む!」

「集落が出来たなら、夢が叶ったなら……オレに、殺されてもいいというのか」

「ああ。だが、それで最後にしてくれ。その後は集落を頼んだぞ。お前になら任せられるからな」

「馬鹿が……出来てもいない集落を託されても迷惑なんだよ」

 

 マダラはいつしか苦無を落としていた。目の前の馬鹿は、この状況になってまだ自分を信頼し、命がけで頼み込んできたのだ。

 そんな想いの丈をぶつけられてはマダラの怒りも恨みも薄れてしまったのだ。

 今でも千手は憎い。柱間に対してもまだわだかまりがあるだろう。

 それでも……弟を想い、弟が平和に生きていく世界を作りたいと願う気持ちは柱間と同じだ。

 そして、柱間とならそんな世界が作れると思っているのもまた同じだった。

 

「マダラ!」

 

 苦無を落とし殺意が薄れていく事でマダラの戦意がなくなった事を柱間は悟る。

 想いが通じたのだと柱間は喜色満面の笑みを浮かべ面を上げた。

 そこに見えたのは写輪眼ではなくなった瞳のマダラの顔だ。

 

「気色わりぃ顔見せんな! ……他人の、腑を見るこたぁ……出来ねー」

 

 それはマダラがかつて柱間に言った言葉。

 敵同士でも腹の中を見せ合って本音を語って隠し事をせず、そうして仲を深める事が出来ればと願っていた。

 だが本当にそうする事は不可能だ。人の腹の中の奥、腑までは、本音までは確認する術はないのだ、と。そうマダラは言った。

 

「だが、今回だけは信じてやる。お前のさっきの言葉が、腑を見せたもんだってな」

「マダラ……!」

 

 柱間以外ならば、マダラは相手が何を言っても信じはしなかっただろう。

 柱間だからこそ。互いにたった一人残った弟を想い、幼子が理不尽に死す世の中を憂い、そんな世界を変えたいと努力している。

 そんな自分と同じ境遇の柱間だからこそ、その腑を見ずとも言葉を信じる事が出来たのだ。

 

「う、うう。オレは、オレは嬉しいぞ……!」

「だぁぁ! 泣くなうっとうしい! お前落ち込みやすいだけでなく感激屋でもあんのかよ!」

「うう、感動です! いけませんね歳を取ると涙もろくなってしまって……!」

「そういやいたなお前よぉ!! その歳で何ほざいてんだ!?」

 

 だーだーと涙を流す柱間の横で、一連の話を聞いて感動して涙をほろりと流しているヒヨリ。

 歳を取るとなんて言っているが、どう見ても柱間やマダラと同年代である。馬鹿にしてるのかとマダラが思っても仕方ないだろう。 

 

「で、結局お前は何なんだ?」

「日向ヒヨリ。性別女性。年齢・体重・スリーサイズは秘密です。知りたかったら私の心を射止める事ですね」

「んなこと知りたくもないわアホがァァ!」

「え……もしかしてホ――」

「そこから先は言わせねぇぞ!」

「マダラ……お前オレの体を狙って……」

「ぶっ殺す!」

 

 マダラの瞳に写輪眼が宿る。しかも勾玉は二つだ。本気の殺意である。

 

『ぎゃああああああ!!』

 

 哀れ。二人は殺意の波動に目覚めたマダラによって大地の養分と化してしまった。

 ……という事はもちろんなかったが。

 

「冗談! 冗談ですってば!」

「この! くそ! 避けるな!」

「避けるよ! 当たれば痛いでしょ!」

「落ち着けマダラ! オレが悪かったぞ!」

「黙れこらぁぁぁ! やっぱりお前とは相容れねぇぇぇ!」

 

 この騒動は柱間とマダラが倒れこむまで続いたという。

 

 




 日向は木ノ葉にて最強を実現したかった。後悔はしていない。あと、柱間とマダラの仲を保ちたかった。ついでにもう一人加えて三忍とか第七班みたいなトリオを作りたかった。後悔はしていない。


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NARUTO 第二話

『ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ』

「お疲れ様でした。いい勝負でしたね。僅差でマダラの勝利かな」

 

 倒れ伏している二人の頭上。何時の間にか樹上へと避難していたヒヨリが二人を労う。

 三人の騒動は次第に柱間とマダラのタイマンへと移行していった。

 まあヒヨリがさりげなく柱間を盾にして逃げたせいだが。

 

 そんな二人のタイマンはヒヨリの判定ではマダラの勝利と出た。

 これまでの組手から柱間とマダラでは僅かに柱間の方が上であったが、その僅かな差を写輪眼が覆した結果だろう。

 

「よ、よし、オレの……勝ちだぜ柱間……」

「ぐ、次は……負けんぞマダラァ……」

 

 既に互いに勝負の原因については忘れてしまっているようだ。

 マダラなんて柱間に辛勝とは言えまともに勝てたおかげでむしろ機嫌が良くなっているくらいだ。

 

 ヒヨリは樹上から降り立ち二人へと近づいていく。

 

「さて、それでは私が何の為にあなた達へと近づいたのかを教えましょう」

『……あ』

「……忘れてましたね?」

 

 勝負の原因どころかヒヨリの目的を暴く事すら忘れていたようだ。

 もしヒヨリの目的が二人の命ならばこの状況なら確実に殺されていただろう。

 

「安心してください。私の目的は、私の夢を叶えるのにあなた達の力を貸してほしい事です」

『夢……?』

「はい。私の夢は……子どもが戦場に出ずに、自由に遊べて、学ぶ事の出来る世界を作る事です」

『それは……』

 

 その夢は、二人と同じ夢だった。

 

「一族に関係なく子ども達は仲良く遊べ、一族に関係なく子ども達は共に学び、一族に関係なく協力しあえる。そんな世の中であってほしい」

「柱間と同じ夢……」

「違うぞマダラ。オレ達の夢ぞ」

 

 そう言ってくれる柱間にマダラは嬉しく思う。こういう奴だからこそ、性格は違えど共にいる事が出来るのだと。

 そんな二人を見てヒヨリも嬉しく思う。この二人となら絶対に成し遂げられると。

 

「一人では無理だと思っていた。そうして今の世の中を憂いているだけだった。でも、あなた達を見つけてそれが夢ではなくなったと思いました」

「……どうやってオレ達を見つけたんだ?」

「白眼で。会話は口の動きを読みました」

『おい?』

 

 まさかの覗き見である。これにはマダラどころか柱間も耐えられず突っ込んだ。

 

「いやね。今の世に嫌気が差してふと遠方を見つめていたら気になる二人がいましてね。だってチャクラ性質が違う一族のそれなんですよ? この時勢にあって違う一族同士の子どもが一緒に仲良く修行したり語りあっていたら気になるのも仕方ないでしょう?」

「だからと言って覗くかおい」

「そしたらこの乱世にあって私と同じ考えを持っているじゃないですか。この二人とならこの不毛な乱世を終わらせる事が出来るんじゃないかと思いまして」

「無視してるぞこやつ……」

「存外図太い神経してんな」

「そう思ったらいても立ってもいられず…………あ、その節はすいませんでした」

「オレの股間を見ながら言う台詞かテメェェェ!!」

 

 きっと一生ネタにされるのだろう。マダラとヒヨリを見て柱間はそう確信した。

 

「というわけで! 私もあなた達と一緒に集落作りをさせてください!」

「断る!」

「マダラ、お前個人的な感情で言ってないか?」

「いーや違うね! 股間見られた事なんか関係ねー! 嘘じゃねぇぞ!」

 

 誰が見ても関係していると思うだろう。そんな必死さがマダラから伝わっていた。

 

「大体こいつの言ってる事が嘘じゃないとどうして分かる?」

「オレは……嘘じゃないと思ってる。他の目的があるなら……自分から姓を名乗らないだろ?」

「それは……!」

 

 それはマダラにも解っていた。あの時姓を名乗った理由が今なら解る。

 あれはヒヨリの誠意だったのだ。遠くから覗き見し、目的有って近づいてきた。だからこそ嘘偽りなく姓も含めて自己紹介した。

 そして、姓も名乗れない世の中は嫌だというヒヨリの本音も知らしめる為の自己紹介だったのだと。

 今の世を変えたいと本気で願っている事を誰よりも早くに明言したのだ。

 

「オレ達どころか下手すればオレ達の一族と敵対しかねない。そんな可能性があったのに、姓を名乗ったんだ。オレは……信じたい」

「……」

 

 柱間の言う通り、姓を名乗る事は二人はおろかその一族まで敵に回しかねない愚行とも言える。

 だがそれでもヒヨリは姓を名乗った。それが分からない程馬鹿ではないだろう。つまりそれだけ自分達に賭けたのだとマダラも理解出来る。

 二人を殺す事が目的ならその機会はいくらでもあった。もしかしたら姓を名乗る事で二人を仲違いさせるのが目的かもしれない。結果的にそうなる可能姓は高かったと言えよう。

 だがそこまで疑っていてはもう誰も信用出来なくなるだろう。マダラは自身と柱間の夢を叶える為には他人を信用する必要がある事を思い出す。

 

「……分かった。ただし一度でも裏切ったら二度と信用しないからな」

「もちろんです!」

「……」

 

 マダラが渋々と言った感じにヒヨリを認めたところ、それを聞いてヒヨリは喜びを顕わにする。

 そして柱間はヒヨリの台詞を聞いて、「いや、そいつはもちろんじゃなくてもろちんだっだぞ」などと口走ろうとしたが止めにした。

 恐らくこれを口にしたが最後、マダラとは完全に敵対関係になる様な気がしたのだ。やるなら時間が経ってほとぼりが醒めてからだ。あまり連続してからかうと相手を怒らすだけだろう。

 三年後くらいにまたからかってやろうと決意して、それを一切表には出さずに柱間は二人に話し掛ける。

 

「よし! これでオレ達は同志だ! これから三人でどうすれば良いか考えて行こうぞ!」

「お前今なんか良からぬ事を考えてなかったか? オレの首筋がチリチリするんだが?」

「気のせいぞ気のせい! オレは仲間が増えて嬉しく思ってただけぞ! アハハハハハ!」

 

 どこかわざとらしい乾いた笑いをしながら、柱間はそう言って誤魔化す。

 マダラもジト眼で柱間を見ているが、実際に証拠はないのだからこれ以上の追求はしなかった。

 

「さて! 今日の所はこれで終わりにしよう。思った以上に時間が過ぎている。これ以上は一族に余計な心配をされるだけぞ」

「……そうだな。下手に疑いを掛けられたらこの集まりも終いだ。今日は一旦解散して、また後日に会って話そうぜ」

「そうですね。ちょっとお待ちを……」

 

 そう言って白眼を発動するヒヨリ。感知に自信のあるヒヨリだが周囲に気配は感じない。だが完全に気配を消していればヒヨリでも感知出来ないやもしれない。

 この世界はヒヨリも初めての世界であり、どんな能力があるのか見当もつかないのだ。自身が強者である事は自覚しているが、絶対である等とは過信出来ない。

 取り敢えずヒヨリの感知と白眼による知覚にて誰もいなければ一先ずは安心と見ていいだろう。

 

「……周囲5kmに渡って人はいないか。ここがばれているという事は今の所ないと思いますよ」

「それが白眼か……オレも目には自信あったけど、望遠に関しちゃ負けてるな……くそ」

「写輪眼もすごいですよ。さっきの戦いを見る限り洞察力は高まっていますし、聞いた話だと見ただけで術をコピー出来たり、眼が合うだけで幻術を掛ける事も出来るんだよね。羨ましいですよー」

「そうか? まあそうだな。でもお前の白眼だって大したもんだぜ」

 

 そう言って笑い合うマダラとヒヨリ。マダラも目覚めたての写輪眼を褒められて満更ではないようだ。さっきまでの疑りは何処へ行ったのか。

 だがそんな二人を尻目に一人落ち込んでいる者がいた。そう、柱間である。

 

「ははは……お、おい? どうした柱間?」

「あの、何かあったの?」

 

 急に落ち込んでいる柱間を心配して二人が優しく声を掛ける。

 そんな二人の心配は、ぶっちゃけ意味のない物だった。

 

「どうせオレだけ何も持ってないぞ……二人だけ便利な目を持っててずるいなんて思ってないぞ……これっぽっちも悔しくないぞ……」

 

 二人からすれば果てしなく下らない理由で落ち込んでいた。

 こんな事を言ってるが三人の内一人だけ特別な眼を持っていない事に対して落ち込んでるのは明らかだ。

 まあ柱間も本気の本気で写輪眼や白眼を羨ましいと思っているわけではないが。

 

「お、おい。そんな事で落ち込むなよ。瞳術がなくてもお前は強いだろ?」

「そ、そうですよ。それにほら、こんなの持ってたら敵から狙われやすくなるから、持ってない方がいい事もありますよ」

「……慰めるでないぞ。別に落ち込んでなんかないぞ……」

『(う、うざい!)』

 

 ……思っているわけではないはずだ。

 

 

 

 ともあれ、三人は同志として友として幾度となく集った。

 

 

 

「思うに私達三人がそれぞれの一族の長になればいいんですよ」

「なるほど。うちはと千手と日向。この三つの一族がそれぞれ協力すれば!」

「忍の一族間のバランスは一気に崩れるぞ! そうすれば他の一族も力を貸してくれるやも知れぬ!」

「その為にはオレ達が強くならなくちゃな。よーし! 早速修行をするぞ!」

 

 

 

 ともに未来について話し合い――

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、ちょ、ちょっと待つぞ……」

「はぁ、はぁ、ひ、ヒヨリ……お前、強すぎだろおい……」

「私は私より強い奴に会いに行く……」

 

 

 

 ともに研鑚し――

 

 

 

「あ、こっちを目指して誰か来ますよ」

「何!?」

「誰ぞ?」

「白眼で確認した所、私達より少し年下の男の子ですね。チャクラ性質からして千手一族かな」

「それは恐らく弟の扉間ぞ! オレを探してるのか!?」

「やべぇな。見つかったら終いだぜ」

「取り敢えず逃げましょう!」

『おう!』

 

 

 

 時に逃げたり――

 

 

 

「だ、だから……強すぎぞヒヨリ……」

「もう……お前一人で……いいんじゃないか……」

「私一人でどうにかなるなら二人を見つけて喜びませんよ。私だって子どもだから体力とか足りませんし」

 

 

 

 時に理不尽に泣いたり――

 

 

 

 そうして三人は強くなっていった。

 

 

 

 そして、時は流れた。

 

 

 

 

 

 

 広大な森を一望出来る大きな崖の上で、三人は向かい合っていた。

 

「……これからオレ達はそれぞれ一族の長になるべく行動する」

「ああ。もうこうして会う事も出来なくなるな」

「全てが上手く行けばまた三人で笑い合える日々が来ます。その時を楽しみに待っていますよ」

「ああ」

「そうだな」

 

 三人が一緒に行動するようになってそれなりの年月が経つ。

 だが、いい加減それぞれの家族から疑われ始めたのだ。

 無理もないだろう。月に何度も姿が見えない日々があるのだ。後を付けられた事も何度もあった。

 修行をしてると誤魔化したり、付けられる度に撒いたり、例え気付けなくてもヒヨリの白眼や感知で気付いて逃げたりして、一族にこの集いが気付かれる事はなかったが、それももう限界だろう。

 このままでは強硬手段を取られると判断した三人は、もうこうして三人で集う事を終わりにした。

 

「これからオレ達は戦場で何度も出会う事になると思う……一族同士でぶつかり合って、互いの一族を殺す事もあると思う……」

 

 柱間の言う事は、これまでの話し合いで既に理解していた事だ。

 既に千手とうちはは幾度となく戦場でぶつかりあっている。これから三人が長になる過程でも、それは起こるだろう。

 

「けど、それでもオレ達はやるしかない。オレ達の夢を叶えるにはオレ達が長になるしかない!」

「ああ。一刻も早く長になる。それが一族同士の殺し合いを防ぐ一番の近道だ」

「ええ。私達が長となり、それぞれの一族で協力を結ぶ。そうすれば」

「オレ達の夢は夢でなくなる!」

 

 三人の夢。この広大に広がる森と大地に大きな集落を作ること。

 子どもが子どもらしく育つ事が出来る集落を。一族の垣根を無くす事が出来る集落を。

 それを夢見て、三人は共に歩んできたのだ。

 

「必ず夢を実現するぞ!」

『おう!』

 

 柱間の想いを籠めた叫びに二人が同意する。

 

「必ずヒヨリに勝つぞ!」

「おう!」

「お……おう?」

 

 柱間の想いを籠めた叫びにマダラが同意する。

 ヒヨリは困惑している。

 

「ヒヨリに一度も勝てないのは納得いかんぞ!」

「そうだ! 何でそんなに強いんだこらァ!?」

「そこはその……年季が違うとしか、ねぇ?」

「オレ達と同い年だろうが!! それなのに二人掛かりで勝てないのは納得いかねー!!」

 

 実年齢はともかく、中身は年季が違うどころではないのは秘密である。

 戦闘経験で言えば言うに柱間やマダラの数千倍ですむかどうか。文字通り桁が違いすぎた。まだ若い二人が敵わなくても仕方ない事だ。

 まあ、それを知らない二人が納得出来るわけがなかったが。

 

「そこはほら、女の子の方が成長は早いといいますし」

「一族の女でオレより強い奴なんてもういねーよ!」

 

 すでに柱間もマダラも一族の中では一級の実力者となっている。

 二人に勝るのはそれぞれの父親を含め僅か数人と言うところだろう。女性だけならば皆無と言えた。

 

「丁度いいぞマダラ。この機に徹底的に修行してヒヨリを超えようぞ!」

「ああ。いつか絶対に追い抜いてやる。うちはの血を舐めるなよ」

「ほほう。面白い。いつでも挑戦を待ってますよ。ふはははははは!」

『ぐぅ、むかつく!』

 

 ヒヨリという大敵を相手に負けじと対抗する柱間とマダラ!

 果たして二人はこの強大な敵に打ち勝つ事が出来るのか!

 

 

 

 さて、この楽しげな茶番にも終わりを告げる時が来たようだ。

 

「……二人とも。扉間とイズナがあなた達を探しているようです」

「……そうか」

「もうお別れだな」

 

 ヒヨリの感知網に柱間の弟である扉間と、マダラの弟であるイズナの存在が引っかかったのだ。

 柱間もマダラもヒヨリの感知を疑ってはいない。それ程に感知に置いてヒヨリの練度は高かった。

 どうやら扉間とイズナはそれぞれの兄を探しているようだ。それぞれの一族の集落が別の場所にあるから扉間もイズナも互いに出会ってはいないが、この場まで来れば確実に戦闘となってしまうだろう。

 これで完全に終わりであった。

 

「別れじゃないぞマダラ! オレ達は再びここに集う!」

「そうだな。その時まで死ぬなよ柱間。オレはお前に勝ち越すんだからな」

「アハハハハ! その時を楽しみにしてるぞマダラ! だからお前も死ぬなよ!」

「……私の心配は?」

『ない』

「鬼! 悪魔! 忍!」

『いや忍だよ』

「か弱い女の子になんて失礼な奴らだ!」

『……はっ』

「鼻で笑いやがった!?」

 

 お前がか弱かったら人間は全員死にかけの老人だとばかりに笑う二人。

 そうして最後まで仲良く口喧嘩をして、三人は別れを告げた。

 

「それじゃあな」

「ああ」

「またね」

 

 後に集落を作ると決めた森を一望出来る崖の上にて、三人は再会の約束をしてその場から立ち去り、それぞれの一族の元へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 柱間とマダラと別れてからヒヨリは日向一族の長となるべく行動を開始した。

 いや、一応は長となる下準備はヒヨリが産まれた時から出来ていた。

 そう、ヒヨリは日向一族の本家の姫君であった。正確には現日向当主の次女であり第三子と言うべきか。

 

 日向の歴史は古い。その歴史を遡ると忍の祖と言われる六道仙人へと繋がる。

 六道仙人、その名を大筒木(おおつつき)ハゴロモ。彼こそがチャクラの教えを説き忍宗(にんしゅう)を広めた忍の祖。

 忍の神として崇められた始まりの人物とされており、乱れた世界に安寧と秩序をもたらす創造神とも、世界を無にする破壊神とも伝えられている実在したかも曖昧な神話の存在だ。

 説明の通り、今では六道仙人は神話やお伽話としてしか語り継がれず、多くの人がその存在を空想上の人物だと思っている。だが彼は確かに実在していた。

 

 そして大筒木ハゴロモには弟がいた。その名は大筒木ハムラ。

 ハムラはある理由にて月へと旅立ったが、その時に地上に残された子孫が後の日向一族であった。

 これは千年もの遥か昔の出来事だ。故にそれを知っている者は日向一族でも極一部である。

 

 話を戻そう。千年という永き年月に渡って伝わってきた血を持つ一族だ。

 当然その血統に対する誇りも並の一族のそれではない。

 宗家の血は絶対であり、分家は宗家を立てる為の礎に過ぎない。全員ではないが、そう思っている日向一族は宗家・分家問わずに多い。

 誇り高き日向一族に取って一族の掟は絶対であり、どれほど優秀だろうと分家の人間が宗家に成り変わって長となる事は不可能なのだ。

 

 故に、ヒヨリはギリギリだが日向の長、当主となる資格を有していた。

 尤もヒヨリが長となる確率は非常に低いと言える。理由は日向が掟を重んじているからだ。

 基本的に長となるのは当主の第一子だ。この場合はヒヨリの兄である。これは余程の事がない限り覆される事はない。それが名家の掟という物だ。

 万が一ヒヨリの兄が死した場合は次に第二子、長女であるヒヨリの姉が長となるだろう。そしてその姉が死した場合、ヒヨリが長となるのだ。

 つまりヒヨリが長となるには兄と姉が死なねばならない訳だ。柱間とマダラに長となると言ったが、流石にヒヨリもそれは許容出来ない。

 

 宗家のみが一族の長となれる掟だからヒヨリには長になれる可能性があり、掟を重視する一族だからこそ第一子が長に選ばれやすい。何とも皮肉な事である。

 まあ第三子という立場だからこそ、ヒヨリが頻繁に一族の集落から姿を消していても注意はされど厳重に罰せられたり、隔離されたりはしなかったのだが。

 そうでなくてはあれ程頻繁に柱間とマダラに会う事は出来なかっただろう。

 こういった名家に置いて子どもは後継者のみを重視して、それ以外は後継者が死んだ時の為の予備と考えられている事も多かった。

 今代の日向の当主もそうであったというだけだ。それ故にヒヨリはあまり父親が好きではなかったが。まあ親には変わらないので憎くまではないが。

 

 話を戻そう。どうすればヒヨリが長になれるかだが、まだ方法はあった。可能性は低いが、この戦乱の世ならばこその方法が。

 平時ならば先の説明の様に何らかの理由で兄と姉が死なねばまず無理だろう。

 だが、戦乱の世ならば話は違う。戦乱の世に一番必要なのは何か。多くの者がこう言うだろう、それは力だ、と。

 そしてその力を日向一族の誰よりも持っていると自負しているのがヒヨリである。

 

 忍の強さは主に体術・幻術・忍術の三つの項目で計られる。その中で日向が得意としているのが体術だ。

 日向には柔拳と呼ばれる独自の体術があり、その力は触れただけで相手の経絡系にチャクラを流し内部から破壊する事が出来るという凶悪なものだ。

 経絡系は眼には見えぬ物だが、日向一族は白眼にて見切る事が出来る。そして白眼の瞳力が強い者は点穴すら見抜き、その点穴を突く事で相手のチャクラの流れを止める事も出来る。

 白眼と、この恐るべき体術こそが日向を強者足らしめている最大の要素と言えよう。

 

 さて、ヒヨリの強さだが。彼女は転生者である。そしてその転生回数は一度や二度ではなかった。

 そう、ヒヨリは幾度となく転生を繰り返して来たのだ。何故ヒヨリがその様な転生人生を歩むようになったかは今は置いておくとしよう。

 ヒヨリはある理由から強くなりたかった。そして転生を繰り返す度に強くなる為に修行を続けた。まあ二度目の転生で既に最初に強くなる理由はないも同然になってしまったのだが。

 

 そしてヒヨリは転生しても記憶と技術、そして生命のエネルギーとも言うべきモノを引き継いでいた。

 そのエネルギーは世界によって呼び名は様々だ。オーラとも、気とも、そしてチャクラとも呼ばれる。

 そう、ヒヨリは転生して修行をし続けた事により、膨大なチャクラをその身に宿していたのだ。

 

 ヒヨリに匹敵するチャクラを持つモノはこの世には現状存在しなかった。そう言っても過言ではない程のチャクラ量だ。

 あまりに膨大故に絶対に恐れられるだろうと予測している為、一族の誰にもチャクラ量に関しては秘密にしていた程だ。

 ちなみにこの予測は今までの転生人生による経験則だ。まず間違いないとヒヨリは思っている。

 

 チャクラは忍にとって最も重要な力の源だ。チャクラを練って忍術を繰り出し、体術を強化し、相手のチャクラを乱す事で幻術に掛ける。

 チャクラ無くして忍は語れないだろう。チャクラは忍という兵器を動かす為の燃料と言った所か。当然多ければ多いほど有利なのは言うまでもない。

 同じ術でも籠められたチャクラが違えばその威力も違ってくることもある。同じ技術、同じ忍術、同じ知力で忍が戦えば、チャクラが多い方が勝つ確率が高くなるだろう。

 そんなチャクラを誰よりも多く有している。それだけでヒヨリは圧倒的に他の忍よりも有利だった。

 

 そして体術。日向流の柔拳に関してはともかく、千年を超える研鑚が築き上げたヒヨリの体術レベルは父である日向当主など歯牙にも掛けぬ程だ。接近戦にてヒヨリに勝つ事は日向をしてまず不可能と言えるだろう。

 柔拳に関しても既に体得済みだ。元々ヒヨリの極めていた体術は元の世界で柔術や合気と呼ばれる武術だ。柔拳とはそこそこ相性も良く、それ故に覚えも早かった。恐らく後数年もせずに純粋な柔拳の技術も父を超えるだろう。

 

 まあ忍術と幻術に関しては未だお察しレベルではある。体術と比べると月とスッポン、鯨とミジンコ程の差があるだろう。

 この二つに関して本格的に修行するのは日向に認められて長となり、戦乱の世を終えてからでも良いとヒヨリは思っている。理由はやはり日向が体術に重きを置いているからだ。

 

 さて、日向にあって既に最強と言える力を有していたヒヨリだったが、今までは目立たずに一族の中で過ごしてきた。目立てば目立つほど自由に動きにくくなるから、それが嫌だったのだ。

 だが最早そんな事は言えない。共に夢を叶えようとする柱間とマダラ。今ごろは必死になって長となるべく行動している二人を前に、目立つのが嫌だとか口が裂けても言える訳がなかった。

 

 そうしてヒヨリは日向一族で頭角を現していった。

 その圧倒的な力を徐々に周囲に知らしめ、兄や姉を差し置いても当主に据えるべきだと言う意見を日向の長老連から出させる程に成長した姿を見せ付けた。

 そしてとうとう一族の多くに認めさせ、兄と幾つかの契約を結んだ結果、ヒヨリは日向の当主となった。

 

 

 

 

 

 

 長きに渡った戦乱の世。その一部にだが、終止符が打たれようとしていた。

 互いにいがみ合い憎しみ合い、殺し合って来た千手一族とうちは一族が同盟を結んだのだ。

 そしてそれと同時に日向一族もその二つの一族と同盟を結んだ。

 

 これにより戦乱の世のバランスは千手・うちは・日向の忍連合軍によって一気に崩れる事になる。

 最強の忍一族はと問われて出てくる答えの大半がこの三つの一族だ。それが手を組んだとなると他の一族に勝てる見込みは万が一、いや億が一にもなかった。

 そして忍連合は周辺国家にて火の国と呼ばれる大国と手を組み、国と里が同等の立場で組織する平安の国づくりを始めた。

 その国づくりには猿飛一族や志村一族と言った名の知れた忍一族も協力し、それに伴い更に多くの忍一族が同盟の元に集った。

 

 

 

 かつて崖から一望出来ていた広大な森は、今ではその多くが切り開かれ大きな里へと変化していた。

 その里を崖の上から見下ろす三人の男女の姿があった。

 

「見よマダラ、ヒヨリ。これが、オレ達の――」

「ああ。夢の実現だ」

「長かったのか、それとも短かったのか……ようやくここまで来ましたね」

 

 かつてと違い大人となった三人は、子どもの頃に語り合った夢が現実になった事に素直に感動していた。

 里が出来上がっていく様を見てもどこか浮世離れした物を見ている気分だったが、こうして三人揃ってかつて夢を語った崖の上から夢の塊を見る事でようやく実感したのだ。

 

「何をいうかヒヨリ! まだまだこれからぞ! 猿飛一族や志村一族も仲間に入りたいそうだからな。これからこの里はもっと大きくなるぞ!」

「聞いた話じゃまだ他にもいるらしいな」

「ええ。恐らく火の国周辺に潜んでいた一族の多くがここへと集うようになるでしょうね」

 

 それは火の国の中という限定した空間かもしれないが、その中では忍の一族同士での殺し合いが殆ど無くなるという事を示している。

 それこそがこの三人が望んで止まなかった世界への架け橋なのだ。

 

「火の国から里の代表を決めるよう要請があってな。火の国を守る影の忍の長……名を火影としようと思うのだが、どうだ?」

「ひねりのない安直な名前だなおい。ま、悪くは……おい、お前まだ治ってなかったのかその落ち込み癖……」

 

 密かに自信があったネーミングを安直と言われ、ぶつぶつと何かを呟きながら落ち込んでいる柱間。大人になってもかつての癖は抜けてない様であった。

 

「うーん、まあ火影でいいんじゃない? どうせやるのは柱間でしょうし」

「うん? 何を言う。オレはマダラを推薦しようと思ってたところぞ」

「オレ!? ……冗談だろ?」

「何を言う。あの時約束したではないか。全てが終わった時、お前に集落を、里を託すと」

 

 かつての、一歩間違えれば殺し合いになっていたあの時。その時の約束を、柱間は未だに忘れてはいなかった。

 マダラの全ての憎しみをその身に受け止め、そして里をマダラに託すと。

 そんな柱間に、マダラは本当の馬鹿を見た気がした。底抜けの馬鹿で、そして度がつく程にお人好しを。

 

「……馬鹿が。そんな約束忘れちまったよ。オレは長なんて柄じゃねーよ。うちはだけでも精一杯なんだ。お前かヒヨリがやればいいさ」

「そういう面倒なのは人に丸投げするのがヒヨリ流長生きの秘訣。よって私はパス」

「なんぞそれ!?」

「ふむ。マダラさんや、柱間さんは何やらご不満の様子。ここは一つ多くの一族が集う里にちなんで多数決で決めませぬか?」

「それはいいな。では、柱間が火影になるのが良いと思う人は挙手を」

 

 即座にマダラとヒヨリの手が上がった。三人中二人が賛成。よって可決である。

 

「はい決定。おめでとう柱間、お前がナンバーワンだ!」

「悔しいが……お前なら許せるぜ……頑張れよ柱間!」

「なんぞこの茶番はー!!」

 

 怒鳴る柱間に笑いながら逃げるマダラとヒヨリ。

 戦乱の世を、理想のために駆け抜けた。意に沿わぬも、どうしても必要な戦いを一族間でした。

 千手も、うちはも、日向も、この里が出来るまでに多くの忍が死んでいった。この中の三人で、相手の一族を殺していない者は一人としていない。

 それはどうしても避ける事が出来ない必要な戦いだったのだ。限りなく死を少なくしても、人のやる事に限界はある。

 ましてや彼らは一族の長となった者達だ。その立場上、一族を優先して守らなくてはならない。そうしなければすぐに一族の者から不満が溢れるだろう。

 

 何度も何度もそんな戦いを繰り広げ、何度も何度も別の一族を憎み恨みもした。それでも理想の為に心を殺して戦い続けた。

 その結果が目の前にあるのだ。もう、一族間で殺し合う事はないのだ。

 火の国以外では未だに忍一族の闘争は続いている。完全に無くなる事はないだろう。

 だが、それでもこうして自らの手が届き眼で見える範囲でだが、争いを減らす事が出来た。

 ようやく、三人揃って馬鹿な話で笑い合う事が出来る様になったのだ。

 

「おお、そうだ柱間! この里だが、木々が茂り木の葉が舞う里故に木ノ葉隠れの里っていうのはどうだ?」

「ごまかす気かマダラ! 大体人のセンスを安直呼ばわりしておいて、お前のネーミングも安直ではないか!」

「ぬぬ、二人が里に関する名前をつけたなら私も何か考えねば!」

「どうしてそこで張り合うのだヒヨリよ……」

「うーむ。里長の名称に里の名前と来たから……火影直属の護衛部隊の名前でも……四天王……いや、死天王……弐天羅刹……八卦衆……煉獄……光輪疾風漆黒矢零式……うう、何故か頭が痛い……!」

「どうしたヒヨリ!?」

「お、おい、何があった!?」

 

 何故か頭を抑えて大地に膝をつくヒヨリを心配する柱間とマダラ。

 まあ気にする事はないだろう。遠い過去の痛々しい傷痕が疼いただけなのだから。

 

「ふ、ふぅ……わ、私は何かを名付けるのは止めておくとしよう」

「それがいいぞ……」

「ああ、見てて痛々しかったぜ……」

 

 そんな風に幼かった頃を思い出す様な話を繰り広げながら、三人は里の為に働き続けた。

 ちなみにヒヨリは最後に思い浮かんだ言葉を何処かで聞いたような気がしていたが、まあ気のせいだろうとすぐに忘れる事にした。

 

 

 

 里の長、火影には柱間が就任した。これはマダラとヒヨリだけでなく火の国や里の民意と上役との相談によって決定された。

 もちろんマダラやヒヨリもその候補として名が上がっていたが、柱間にその両人からの推薦が有ったというのが大きかった。

 そしてマダラとヒヨリの両人も火影の補佐役としての立場につく事になった。

 これはぶっちゃけると二人から火影を押し付けられた柱間の意趣返しである。

 

 木ノ葉隠れの里のシステムが思いの他上手く回っていた為、他国の忍達もそれを真似する様になってきた。

 火の国の忍が纏まった事に対して危機感を覚えたのもあるのだろう。やがて火の国と同等に大国と言われる四つの国にもそれぞれ大きな忍の隠れ里が出来た。

 これを後に忍五大国と呼ぶようになった。

 

 これにより他国でも一族間の小競り合いや任務での殺し合いは少なくなっていった。

 三人の夢が世界に広がろうとしていたのだ。少なくとも柱間はそう思っていた。

 

 だが、事はそう簡単には動かなかった。

 

 

 

 一族間での争いはなくなったが、だからと言って忍同士の争いがなくなったわけではない。

 忍五大国の誕生は、新たな戦乱の世の幕開けとなったのだ。

 

 一族間ではない、大国間での争い。忍五大国を中心として忍界全体を巻き込む初の大戦。第一次忍界大戦が勃発したのである。

 

 多くの忍が争い、そして死んでいった。だが、思いの他早くに戦争は終結へと辿り着いた。

 その決め手となったのが、木ノ葉の里の三人の忍。千手柱間、うちはマダラ、日向ヒヨリである。

 三人は圧倒的な力を他国に示した。そうする事が終戦に繋がる近道だと三人で判断したのだ。

 敵対するのも馬鹿らしくなる程の力を見せ付ける。言うなれば木ノ葉の里を作る為に三人がした事と似たようなものだ。

 

 もちろん敵も国を背景に持つ故に一族間の争いの様に、はい負けました、と言って戦争が終わる事はない。

 だが、このまま戦争を続けても確実に木ノ葉の利となるだけと判断した各里の長達――影達――は、木ノ葉からの休戦条約に飛びついた。

 

 ちなみに余談だが、この三人はその圧倒的な力から木ノ葉の三忍と他国からは恐れ、自国からはより敬われる様になった

 

 優勢だった木ノ葉からの提案故に、残りの忍五大国も条約や協定に関して無茶を通したりはしなかった。

 むしろ木ノ葉から各国の戦力バランスの為に尾獣と呼ばれる強大なチャクラの塊であり巨大な魔獣を各国に分配した。

 もちろんタダではなかったが。いや、柱間本人はタダで分配しようとしていたが、柱間の外付け政治回路である扉間によって阻止された結果だ。

 

 とにかく、これにより第一次忍界大戦は終戦へと導かれた。だが――

 

 

 

 いつからだろうか。木ノ葉の歯車は狂い始めていた。

 第一次忍界大戦から数年後……うちはマダラが木ノ葉の里に反旗を翻したのだ。

 何故木ノ葉の里設立の立役者であり、第一次忍界大戦の英雄であり、うちはの現当主であるマダラが反旗を翻したのか。その真相は明らかになってはいない。

 そもそもうちはマダラが木ノ葉に反旗を翻した事実を知る者自体が里の極一部の上層部のみだった。里の安定の為に闇に葬られた歴史の真実である。

 

 ともかく、反旗を翻したマダラは柱間と激しい死闘を繰り広げた。

 地形が変わる程の激戦の末、勝利したのは柱間だった。この時、うちはマダラは死亡したとされる。

 

 そしてそれから程なくして、柱間はマダラを追うようにこの世を去った。

 

 多くの者が悲しむが、時の流れは人を待ってはくれない。火影が亡くなったのだ、次代の火影が必要となった。

 二代目火影に選ばれたのは柱間の弟、千手扉間だった。ヒヨリにもその話は来ていたが、ヒヨリはそれを自分には相応しくないと断ったのだ。

 ヒヨリとしては最大の友であった柱間とマダラがいなくなった事で時代の流れを感じたのだ。もう、自分が前に出る幕ではないのだと。

 ヒヨリは火影をサポートし、里を見守る役目に終始する事を決意したのだ。

 

 

 

 時は流れる。

 

 

 

 扉間はその政治手腕で里に多くの制度や施設を設け、柱間が残した里をより良く導いていった。

 時折その現実主義な性格により人によっては非道と思われる政策を提案していたが、全ては里の為を思っての事だった。

 尤も、あまりにあまりだと判断された政策はヒヨリが口を入れる事で若干修正されていったが。

 

 その一つがうちは一族による警務部隊の設立だろう。

 当初の扉間の予定では暴走の可能性のあるうちは一族に里の中枢への権限を無くし、それでいて里の警備を取り締まるという立場を与える事でうちはを一つに纏め監視しやすくする為の政策だった。

 だが、それでは里の上層部から遠ざけられた事に対していずれ反発が来る可能性があるとヒヨリから示唆され、扉間は火影が選ぶ優秀なうちはの忍を代々の火影の補佐とする事でそれを緩和させる様にした。

 そして日向一族から不満が出ないように日向からも同じ様に火影の補佐を選ぶようになった。これによりうちはの動きを日向が見張ることが出来るという意味合いも持たせていた。これはヒヨリには秘密にしていたが。

 

 扉間がここまでうちは一族を危険視しているのには理由がある。

 それはうちは一族が愛情と憎悪に支配された呪われた悲しい一族だからだ。

 うちは一族の愛情は非常に深い。だが、うちははそれを封印してきた。

 一度うちは一族の者が愛情を知ると、その強すぎる愛情が暴走する可能性を秘めていたのだ。

 

 愛を知ったうちはの者がその強い愛情を失った時、それがより強い憎しみに取って代わり人が変わってしまう事があるのだ。

 扉間はそれを戦乱の世で幾度となく見てきた。そしてそうなる事でうちはにある症状が発現する。それこそが写輪眼である。

 更に写輪眼は心の憎しみと共に力を増していく。その行き着く果ては扉間にも分からない。だが、憎しみに捉われた者が里に安定をもたらすとは扉間は思えなかったのだ。

 

 扉間とてうちはを蔑ろにするつもりはない。扉間にとってどの一族とて里に危険性があるものと注意深く捉えていた。ただうちはが特に考慮すべき一族だっただけだ。

 うちは一族に警務部隊を任せた事がその証だろう。犯罪者を取り締まる部隊だ。信用の置けぬ者には与えられない役目と言える。

 更に火影の補佐という大役もうちはと日向から選ばれるので、うちはが蔑ろにされていないという分かりやすい実証となった。

 他の一族が火影の補佐に選ばれぬ事に不満を覚えるかもしれないが、元々木の葉の設立の立役者がうちはと日向だ。更に里長たる火影は一族に関係なく優秀な忍が選ばれる。そうであれば特に不満も上がらなかった。

 この火影の補佐は次第に火影の右腕左腕と称されるようになってくる。

 

 他にも扉間は忍の養成学校――通称アカデミー――を設立したり、中忍試験の制度を定めたりと、次々と里の基盤を作り出した。

 これらを見て、やはり二代目火影は扉間しか有りえなかったとヒヨリは語っている。ちなみにその時扉間は面倒だから押し付けただけではないのかと呟いたそうだが、定かではない。

 

 そんな扉間も火影の座を次代に譲る事となる。

 それは雲隠れの里との会談の際、雲隠れの里の忍の一部が起こしたクーデターが切っ掛けであった。

 クーデターにより扉間は瀕死の重傷を負ったのだ。共に会談へと赴いていた忍を逃がすため、一人残って多くの敵を相手に囮を務めたのが原因だ。

 瀕死の重傷を負いつつも、扉間は木ノ葉へと帰還した。だが、傷ついた肉体を治療する事が得意な医療忍者はこの時代には数が少なく、またその質も良くなかった。

 そうして扉間はその傷が元で死亡した……わけではなかった。

 

 扉間はこの瀕死の重傷を乗り越え生き延びたのだ。それは何故か?

 ヒヨリがその溢れんばかりのチャクラと、白眼を利用して鍛えた医療忍術を超える再生忍術を用いた事で、半ば無理矢理治療した為である。

 九死に一生を得た扉間は、火影後継者として猿飛ヒルゼンという忍を推薦。火影引退後、忍としては一線を退くも多くの優秀な忍を育てる事となる。

 

 

 

 時は流れる。

 

 

 

 三代目火影が木ノ葉を治める時代は長く、二度も大戦が繰り広げられた。

 それが第二次忍界大戦と第三次忍界大戦である。これにより多くの忍が戦争を経験し、そして死んでいった。

 

 第一次忍界大戦より約二十年。再び起こった大戦である第二次忍界大戦。

 この大戦で、二代目火影であった扉間も死亡した。忍として一線を退いており、最早木ノ葉に自らが要る必要がなくなったと判断したのか、窮地に陥った里の忍を助ける為に奮戦し死亡したという。

 その大戦の最中、木ノ葉のある三人の忍が二代目三忍と謳われる様になる。初代三忍は既に一人しか残っておらず、その偉業も力も既に過去の物として捉えられている事も多かった。これも時代の流れなのだろう。

 

 そして、第二次忍界大戦から更に二十年程の年月が経ち、第三次忍界大戦が勃発。

 その大戦にて、初代三忍で最後まで生き延びていた日向ヒヨリもその命を落とした。

 平均寿命が三十歳と言われていた時代から生き延び、齢八十近くまで生きたのである。当時の力はすでに全盛期の半分以下だったと言われている。

 それでもなお戦場に赴き、多くの同胞を助け、最後には尾獣の一体を食い止めて、瀕死の重傷で里に帰り、畳の上で死んだという。

 

 

 

 そして……少しだけ時は流れる。

 

 

 

 戦争によって多くの人が命を落とした。それは変えられぬ事実であり、悲しい現実だろう。

 だが、生があるから死があり、そしてまた死によって失われる命があるなら新たに生まれる命もあるのだ。

 

「おぎゃぁ! おぎゃぁ!」

 

 ここ木ノ葉の里にも新たな命が芽生えていた。とても喜ばしいことだろう。赤子の父も母も、そして産婆もその誕生を喜んでいた。

 

「おめでとうございます! 無事元気な赤子が産まれました!」

「おお、良くやった! 良くやったぞ! ホノカ!」

「ありがとうございますあなた……初めまして、私があなたのお母さんよ」

「おぎゃぁ!(あ、どうもよろしくお願いします今世の母さん、そして父さん)」

 

 さて、この赤子だが、実は普通の赤子ではなかった。産まれたての赤子に自我がある時点でまあ普通ではないだろう。

 まだ喉や舌が発達してないからまともな発語は出来ないが、それも半年もすればそれなりに喋れる様になるだろう。至って異常な赤子である。

 それもそのはず、この赤子は転生者である。かつては日向ヒヨリと名乗っていた人物が死んで生まれ変わったのがこの赤子なのだ。

 さて、そんな赤子が産まれてまず最初に気になる事があった。

 

「おぎゃあ……(ところで差し支えなければ早く私の性別を教えてくれませんか? まだ産まれて間もないので自分の肉体も把握出来ないんですよね……)」

 

 それはこの者が最も重要視している自身の性別である。

 この転生者、これまでに幾度も転生を繰り返しているが、その大半が女性として生まれてきた。

 そして数少ない女性でない転生は、男ではなく雄であったり、そもそも性別がない存在に生まれたりと散々だったのだ。

 ちなみにこの者の記憶が残っている最初の性別は男である。運がないとしか言い様がなかった。

 

「あなた、この子の名前は?」

「うむ、以前に話し合った様に、女の子だからアカネと名付けよう!」

「おぎゃあ(知ってた)」

 

 それはそれは諦観が籠もった泣き声だったという。

 

 




 マダラが離反したのには理由があります。まあそれが開かされる場面まで進む事が出来るかどうか……。


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NARUTO 第三話

 さて、またも女性として産まれたアカネであったが、まあ何事もなかったかのようにすくすくと育っていった。

 そもそも彼女の起源は男性であるかもしれないが、すでに最初の人生の何倍もの時間を女性として過ごしているのだ。もう中身は殆ど女性といっても過言ではなかった。

 彼女の根幹にあったとある目的の為には男性に生まれなければいけないが、まあ気長に待とうと言えるくらい達観していた。それくらいの長き人生を歩んできたのだ。

 

 そんな彼女の苗字だが、なんと前世と同じく日向であった。これにはアカネも驚いた。

 転生の度に異世界に行く事が多いアカネが、二度続けて同じ世界で生まれた事は数える程しかない。というかこれが二回目だった。

 そして前世と同じ一族として生まれたのもまた驚きだった。多くの一族が住まう木ノ葉にて連続で日向で生まれるなどどれだけの確率なのか。

 もっとも、転生自体が珍しいというレベルではないので他と比較する事など出来はしないが。

 そもそもこの世界には多くの国があるのだから木ノ葉で産まれたこと自体が珍しいと言えよう。

 

 だが、アカネは知らない事だがこれには一応の理由があった。

 それはアカネの内蔵するチャクラの量に関係している。

 アカネは幾度もの生を経て、膨大なチャクラを生まれながらにその身に宿している。

 その為転生をするには器となる肉体がそのチャクラに耐えられる素養を持ってなければならないのだ。

 もし素養のない肉体に生まれ変わっていれば、アカネは数年と持たずに死んでいただろう。下手すれば産まれてすぐに死亡していた可能性もある。

 それを防ぐ為に無意識に魂が強い肉体を求めた結果、再び日向一族に生まれ変わったのだ。

 

 もっとも、確率で言えば日向に生まれ変わるのが低かった事は確かだ。

 アカネの転生体としての候補に上がる一族には、千手一族・うずまき一族・うちは一族などが日向以外にあった。もちろんこれら以外にも幾つか候補はあっただろうが。

 その中でもっとも器として理想的なのが千手一族とうずまき一族だ。この二つは特に生命力が強い一族として知られているからだ。

 この候補はあくまで候補であり、転生時に選んでいる訳ではない。日向に生まれ変わったのは完全に運である。なので、低い確率を引き当てた事に間違いはなかった。

 

 まあそんな事はアカネには知った事ではなく、とりあえず今の人生を楽しむ事にしようと考えていた。

 アカネはこれでも転生のベテランである。……アカネ以外にそんな存在がいて、それをアカネが知ればすぐにでも友達になりに行くだろうが。

 とにかく、アカネが転生してからまず最初にする事がある。前世は前世、今世は今世と頭を切り替える事だ。

 

 前世を引きずったままでは今世に色々と面倒事を持ち込むことになるからだ。

 前世はああだった。前世は良かった。などと考えるのは今世に対して失礼だろう。特に産んでくれた父母に対して一番失礼だ。

 前世の両親の方が良かったなどとは口が裂けても言えないし、思うこと自体が失礼だ。なので、頭を切り替えるわけだ。

 

 そうする事で新しい人生を楽しむ事も出来る。子ども時代も慣れれば楽しいものなのだ。ベテランは切り替えが早かった。

 ……流石に赤子の内にされる(しも)の世話だけは永遠に慣れる事はなかったが。

 

 さて、頭を切り替えたアカネだったが、日向一族に転生した事は少々頭が痛い思いだった。それは日向一族の特異体質・白眼が原因であった。

 白眼は相手のチャクラを色で見分ける事が出来る。そしてチャクラの色は個人個人で違う。

 似ているチャクラ性質をしている者は色も似ているが、それでも瞳力の強い白眼ならば見分ける事が出来るだろう。

 そしてアカネのチャクラの色は前世であるヒヨリの色と瓜二つ……というか完全に同一の物だった。まあ魂が同一人物なので当然と言えば当然だ。

 

 日向一族とて常時白眼を発動している訳ではないが、それでもアカネを白眼で見る機会が全くないという事はまずないだろう。

 そしてその白眼の持ち主がヒヨリのチャクラ性質を良く知る者であったら……その時は、アカネ=ヒヨリという図式が出てくるかもしれない。

 そうなればまず間違いなく面倒事が起こるだろう。

 

 もし完全にばれた場合何かの実験台にされる、とかは別にいい。逃げ切る自信はあるからだ。

 だが敬われた場合、これが困る。新しい人生で楽しみたいのに最初から敬われるなどたまったものではない。

 そして敬われるだけの土台がある事はアカネも理解していた。何せヒヨリは木ノ葉では伝説と謳われた三忍の一人にして、日向では最強の長として尊敬と畏怖を集めていたのだ。

 

 まあそこまではいい。許容範囲と言えた。だが、アカネにとって最も恐ろしい事は、今世の父と母に忌み嫌われる事だった。

 自分の子どもが前世の記憶を持っており、すでに大人顔負けの知識や実力を有している。

 産みの親として、育ての親として、これを容易に受け入れる事は難しいのではないだろうか? 人によっては自分の子ではないと捨てる者もいるだろう。

 そしてアカネはこれまでの経験でそれを良く知っていた。だからこそ恐れるのだ。

 

 もちろん両親がそう言った人柄ではないと理解しているが、だからばれるのが怖くないという事にはならない。

 だからと言って出来る事はアカネにはなかった。ばれたくないからと言って逃げ出す訳にもいかないのだ。

 今は事態が動くまでは二人の子どもとして甘えさせてもらうだけだった。

 

 

 

 そして、早くも事態が動く切っ掛けが起きてしまった。

 それはアカネが一歳の時に起きた事件が原因だった。

 

 九尾の封印が解けたのである。

 

 

 

 

 

 

 四代目火影・波風ミナトの妻・うずまきクシナ。彼女は九尾の人柱力だった。

 九尾とは尾獣の一体である。尾獣はその名の通り尾を持っており、それぞれ一本から九本の尾を持つ九尾を含めて九体が存在している。

 そして尾獣を封印術により体内に封じられた者が人柱力と呼ばれる存在である。

 

 人柱力は忍の里にとって非常に重要かつ繊細な立ち場にある。

 強大なチャクラの塊である尾獣をその身に宿すのだ。その戦力は小国など容易く滅ぼす事が出来るだろう。

 それだけの力を誇る人柱力は里にとって重要な切り札となる。

 

 だが、尾獣という強大な力を宿すのだ。当然リスクは高かった。

 人柱力となった人間はその身に宿る尾獣により常に不安定で暴走の危険性を孕んでいるのだ。

 そしてそんな人外とも言える力を身に宿している人柱力は恐れられ遠ざけられる事が多い。

 里としても強大な戦力である人柱力は最重要機密の存在であるため、他里に見つからないように隔離や軟禁、幽閉をしている場合もある。

 

 国を左右する程の戦力である人柱力。その一人であるうずまきクシナは妊娠していた。もちろん赤子の父親は波風ミナトである。

 人柱力の妊娠、そして出産。これは非常に危うい可能性を孕んでいた。

 人柱力が出産を行う際、尾獣の封印式が弱まり封印が解ける可能性が高まるのだ。

 

 九尾の復活は里にとって危険極まりない事件である。

 そうはならないように封印術に長けた忍が護衛を務め、木ノ葉の里より離れた場所にて結界を張って慎重に出産が行われるようになった。

 

 そして出産最中、九尾が封印から抜け出そうともがく事があったが、出産自体は無事に成功した。

 

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

「元気な男の子ぞえ!!」

 

 出産に立ち合っていた三代目火影の妻・ビワコが産まれたての赤子を取り上げる。

 

「ハハ……! オレも今日から父親だ……!!」

 

 出産という女性にしか分からない偉業を傍で見守り、痛みに叫ぶ妻の声を聞き続け、そうして産まれてきた我が子にミナトが感動し涙を流す。

 

「ナルト……やっと会えた……」

 

 想像以上の痛みに、女として母として耐え抜き、ようやく出会えた愛しい我が子の名を呼んでクシナは喜びの声を上げる。

 

 だが、感動も喜びも二の次にしなければならない。こうしている間にも弱まった封印から九尾が抜け出そうとしているのだ。

 九尾を完全に押さえ込んで再び強固な封印術にて縛らなければならない。

 ミナトがそうしようとした矢先の事だった。

 

「ああああぁあぁぁぁぁぁあ!?」

「これは!?」

「いかん! 九尾が出てこようとしてるぞえ!」

 

 今まで以上の勢いで九尾が封印から抜け出ようとしていたのだ。それはミナトや監視役のビワコも予想外の出来事だった。

 それはまるで外から九尾を引っ張り出そうとしている力が働いている様だった。

 

「は、早く封印式を強化するのじゃ! このままではまずいぞえ!!」

「はい! クシナ、もう少し頑張ってくれ!」

 

 慌て、しかし冷静に忍達は対処する。

 だが全ては少しだけ、本当に少しだけ遅かった。

 

「!? 結界が破られた!」

 

 出産場所を守る為に仕掛けていた結界が破られた。それはつまり何者かがこの場に侵入して来た事を意味する。

 九尾が急激に封印を破ろうとしている事、そして何者かの襲撃。この二つが偶然な訳がない。

 

「何者だ!?」

 

 気配を察知したミナトが苦無を投げる。だが侵入者はその苦無をいとも容易く回避した。

 

「……」

 

 侵入者は全身をマントで、そして顔を面で隠した明らかに不審人物と言える容貌だった。

 声も発しない侵入者の狙いは九尾、すなわちクシナだろうと判断してミナトはクシナの前に立つ。

 

 だが、侵入者が最初に狙ったのは九尾を宿すクシナではなく……産まれたばかりの赤子・ナルトだった。

 

 ――火遁・豪火球の術!

 

 侵入者はナルトと、そしてナルトを抱き上げていたビワコに向けて強大な火遁の術を放った。

 九尾の封印式を強固にする為の邪魔になるのでナルトをビワコがクシナから遠ざけていたのがミナトにとって最大の不幸だった。

 ミナトがナルトを守る為にはどうしてもクシナから離れなければならない。だが、ミナトにとって産まれたばかりの我が子を見捨てる訳にもいかない。

 二者択一。ミナトが選んだのは……今何とかしないと死んでしまうナルトだった。

 

 ミナトは黄色い閃光との異名が付くほどの忍である。その名に恥じない速度でナルトへと近づき、そしてナルトを抱くビワコもろとも飛雷神の術を発動し、その場から消え去った。

 飛雷神の術とはチャクラを用いて付加したマーキングへと一瞬にして跳躍出来る時空間忍術である。

 あらかじめ用意していたマーキングへとミナトはナルトとビワコを連れて避難したのだ。

 

「くっ!」

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

「す、すまぬミナト! じゃが、このままではクシナが、九尾が!」

「分かっています!」

 

 ビワコの叫びにそう返しつつ、ミナトは焦りながらも冷静に思考していた。

 あの侵入者は何者なのか。あの豪火球の術は並の豪火球と比べて桁違いの威力と大きさだった。

 普通の忍が使う豪火球の術ならばミナトは容易く対処出来るだろう。だが、先の豪火球はその威力ゆえに飛雷神の術で回避する以外には対処しようがなかったのだ。

 咄嗟の判断を要されていたのも原因だった。あと少し、本当に一瞬とも言える間があれば豪火球を時空間結界にて別の場所に飛ばすという対処も出来たのだが……。

 とにかく、侵入者の狙いが九尾なのは確か。一刻も早くにクシナの元に行かねばならない。

 

「ビワコ様! ナルトをよろしくお願いします!」

「うむ! 任された!」

 

 ビワコにナルトを託し、ミナトは飛雷神の術で再びクシナの元へと瞬間移動する。

 クシナに施された九尾の封印式には飛雷神のマーキングが書き足されているのだ。これによりミナトはいつでもクシナの元へと移動する事が出来た。

 だが、全ては僅かに遅かった。

 

「クシナ!」

「う……ミナト……」

 

 クシナがナルトを産む為に用意された場所は木の葉の里から場所にある離れた大きな岩をくり抜いて作られていた。

 その岩場がすでに崩れ去っていた。そしてクシナは全身から鎖を出して、岩場の外に出ようとしている九尾を縛り付けていた。

 

「九尾が! ……危ないクシナ!」

 

 ミナトはクシナへと向かってくる豪火球の術を時空間結界にて別の場所に飛ばす。

 豪火球の術を放ったのは言うまでもない。全身を覆い隠した不気味な侵入者だ。

 一体何者なのか。ミナトがそう思っていた時、クシナがある情報を口にした。

 

「ミナト……早く……九尾が口寄せされようとしている」

「っ! それでか!」

 

 ミナトは出産を終えた時の急激な九尾の復活に得心がいった。九尾が口寄せされた為である。

 本来ならば口寄せの術で口寄せされたところで九尾が封印から抜け出る事はまずない。

 だが、出産時に封印が弱まっていれば話は別だ。それならば口寄せの術で強引に召喚出来なくはないだろう。しかしそれは一つのある事実を示していた。

 口寄せの術で召喚出来る生物は、その生物との契約を交わした術者以外には不可能なのだ。

 つまりこの侵入者は九尾と契約を交わしているという事である。そしてこれまでの情報を全て統合すると、ミナトの脳裏に一人の忍の名が浮かんできた。

 

「お前は……うちはマダラなのか?」

 

 桁の違う豪火球の術、出産時に九尾の封印が弱まる事を知っている、九尾を口寄せでき、木の葉の結界に引っかかる事なく出入りする事が出来る忍。

 そんなものはうちはマダラくらいだろうとミナトは見当したのだ。

 だが、うちはマダラは初代火影と戦い死亡したはず。そう思いミナトは考え直す。

 

「いや、そんなはずはない……彼は死んだ」

「……」

 

 それに対しても仮面の男は何も返さない。無言で攻撃をしようと印を組んで……しかしその動きが何故か止まってしまった。

 

「?」

 

 突如として動きを止めた男を不審に思うも、今が好機と判断してミナトは反撃に転じようとする。

 だが、男は音を立てて煙と共にその場から消え去って行った。

 

「これは! ……あの男、口寄せされていたのか?」

 

 男が消えた時の独特の消え方が時空間忍術の一つ口寄せの術で召喚された者が消える時と同じ現象だった事からミナトはそう見抜いた。

 それはつまりあの男には協力者か、男を裏で操る黒幕的存在がいるという事である。

 九尾を狙う不穏な影を危険に思うが、今はそれどころではなかった。

 

「うう!」

「クシナ!」

「グルルルルル!!」

 

 九尾がクシナの封印を無理矢理引き千切ろうとしているのだ。

 今はまだクシナの体から出ている鎖状の封印術が九尾を縛り付けているが、それも時間の問題だ。

 九尾を、尾獣を抜かれた人柱力は死んでしまうのだ。クシナが未だ存命なのはクシナがうずまき一族と呼ばれる生命力に溢れた一族の末裔だからだ。

 だがそれにも限界はある。クシナの命はまさに風前の灯火と言えた。そしてクシナが死ねば九尾は自由となり、封印されていた怒りと憎しみを周囲にばら撒くだろう。

 一番最初に狙われるのは……この場から最も近く大きな里、木ノ葉だろう。

 

「ミナト……ナルトは……?」

「無事だ! 今はビワコ様が守って下さっている! それより!」

「私なら、もう駄目よ……」

 

 クシナも自らの死を悟っていた。尾獣を抜かれて死なない人柱力はいないのだ。もう残された時間は僅かだろう。

 

「このまま私は……九尾を引きずりこんで……死ぬわ」

 

 そうすれば九尾の復活時期を延ばす事が出来る。そう言ってクシナはミナトやナルトを救う為に最後の力を振り絞ろうとする。

 人柱力がその身に尾獣を宿したまま死亡した場合、宿っていた尾獣は一旦チャクラへと分散し、そして再び元の尾獣の形に戻る。

 だが尾獣が元に戻るのには数年程の時間が出来るのだ。そうすれば九尾の脅威からは一時的に逃れられるだろう。

 

「今まで……色々とありがとう」

 

 クシナの、今生の別れの言葉にミナトの感情は激しく渦巻いた。

 

「クシナ、君がオレを……四代目火影にしてくれた! 君の男にしてくれた! ナルトの父親にしてくれた! それなのに……!」

 

 守る事が出来なかった。今もなお死を以って自らと子どもを守ろうとしてくれる愛しい女性を、守る事が出来なかった。それがミナトを(さいな)める。

 

 だがクシナはそんなミナトを慰めた。

 こんな状況でも、ミナトに愛されて嬉しいと、愛する我が子が産まれて嬉しいと、もし生きて家族三人で暮らしている未来を想像したら幸せだと、そう言って今を肯定したのだ。

 心残りがあるとしたら、大きくなったナルトを見てみたかった。クシナのその言葉を聞いて、ミナトは決意した。

 

「クシナ……君が九尾と一緒に心中する必要はないよ。その残り少ないチャクラはナルトとの再会の為に使うんだ……!」

「え? ……どういうこと?」

 

 ミナトはクシナを九尾ごと連れて飛雷神の術で移動する。行き先は……ナルトのいる場所だ。

 正確には最初にナルトとビワコを避難させた場所だ。当然そこには飛雷神のマーキングがしてある。

 そうして辿り付いた場所ではビワコがナルトを抱きかかえてあやしていた。

 

「おぬし達! 九尾! 封印は解けたのかえ!!」

 

 突如として現れたミナトとクシナ、そして何より九尾にビワコは驚愕する。それによりビワコにあやされて泣き止んでいたナルトも再び大声で泣き出した。

 

「ビワコ様、ナルトをこちらに」

「どうするつもりじゃ?」

「九尾をナルトの中に封印します」

『!?』

 

 ミナトの言葉はクシナにもビワコにも信じがたいものだった。

 九尾の持つチャクラ、力は膨大の一言に尽きる。それは人柱力に九尾を押さえ込める特別な力を有するうずまき一族の人間を選ぶ事からも伺えるだろう。

 並の人柱力では九尾を封印する事など出来るはずがない。それだけの力を九尾は有していた。九尾一体で他の尾獣の数体分の力を持っているかもしれない程だ。  

 そんな九尾を産まれたばかりの赤子に封印すればどうなるか……。封印は遠からず破壊され、確実に九尾が復活する。そしてその時人柱力であったナルトは……言うまでもないだろう。

 

「そんな事をしたらナルトが!」

「大丈夫だ。九尾のチャクラを陰と陽に分けて、陽のチャクラだけをナルトに封印する。八卦封印でね」

「……確かに、それならばまだ可能じゃ。この際……致し方あるまいえ」

「ビワコ様まで!」

 

 ミナトの案にビワコは賛同する。それにクシナは納得が行かないが、ビワコの考えは木ノ葉の里を思えば当然の帰結なのだ。

 尾獣は忍の里の軍事バランスとなっている。各里にはそれぞれ尾獣とその人柱力が存在し、それが牽制しあって戦争や政治的なバランスを保っている。

 だが、九尾ほどの尾獣が木の葉から無くなってしまえばどうなるか。木ノ葉が弱体化したと考え、多くの他里が木ノ葉に戦争を仕掛けて来るやもしれなかった。

 しかも数年たって九尾が復活した場合、どこでどの様な被害が出るか計り知れない上、他里に九尾を奪われるとより厄介な結果となるだろう。

 ミナトは火影として、里を守る長としてそれを認める訳にはいかなかったのだ。

 

「大体、どうやって九尾のチャクラを半分に……!」

 

 どうやって九尾をチャクラを陰と陽に分けるのか。

 ミナトのその答えは、クシナにとってもナルトにとっても残酷なものだった。

 

「屍鬼封尽を使う」

「……! でも……あの術は術者が!」

「それはならんぞえミナト! 火影が里からいなくなっては里が……!」

 

 クシナとビワコが動揺する程の術・屍鬼封尽。それは術の効力と引き換えに術者の魂を死神に引き渡す、命を代償とする封印術である。

 術の発動と同時に術者と封印の対象にしか見えない死神が現れ、術者と対象の魂を喰らう。

 そして死神に喰われた魂は死神の腹の中で互いに絡み合い憎み合い永遠に闘い続け、未来永劫苦しみ続けるのだ。

 命を代償とし、死後すら地獄もかくやという苦しみを味わわされるだけに、この封印術は非常に強力だった。そう、九尾のチャクラを陰陽で分ける事が出来るくらいに。

 

「ビワコ様、申し訳有りませんがそれ以外に方法はありません。木ノ葉は……しばらく三代目に任せます。火影を引退したばかりで引っ張り出して悪いですけど……」

「……そうか。ふん、ヒルゼンならアチシが尻を引っぱたいてでも働かせてやるえ。心配はするなえ」

「ありがとうございます」

 

 ミナトとビワコが今後について話し終わるが、まだ納得がいかない者がいた。そう、ナルトに九尾を封印するという事に、ミナトが屍鬼封尽をするという事に納得のいかない者が。

 

「なんで……! なんでナルトに……! どうしてミナトが……!」

「君の言いたい事は分かる。でも――」

 

 ミナトは言う。かつてミナトの師から聞いた世界の変革の予言。そしてそれに伴って起きる災い。

 今回の襲撃者とその裏にいる存在は、必ず災いをもたらすとミナトは確信していた。

 そして、それを止める事が出来るのはナルトだと。ナルトが人柱力として未来を切り拓いてくれると何故か確信したのだ。

 

「この子を信じよう。何たってオレ達の息子なんだから!!」

 

 そう言って、ミナトは屍鬼封尽の術を発動した。

 

 そして、いくつかミナトとクシナは会話を交わし、ビワコにナルトを託した。そして九尾は両親の想いと共にナルトに封印された。

 

 

 

 

 

 

(九尾のチャクラが消えた……!)

 

 アカネは九尾のチャクラが消失したのを感じ取る。

 アカネの感知能力は全ての忍の中でもトップクラスだ。それ故に九尾が復活した瞬間に、木ノ葉の忍の誰よりも早くにそれを察知した。

 だが、それだけだ。察知しただけ、それ以上の事は何も出来なかった。

 当然だ。アカネがいかに転生者であり、前世の能力を引き継ぎ、優秀であろうとも、いまだ一歳の幼子なのだ。

 そのような歳でまともな力を発揮出来るわけがない。せめてあと三年も経っていればと歯噛みをしていたが、九尾は里の者に託す以外になかった。

 

 そうして焦燥していたが、九尾のチャクラは数分足らずで消失した。封印に成功したのだろうかと気になるが、今それを知る(すべ)はアカネにはない。

 今はただ情報が入るのを待つしかなかった。

 

 

 

 九尾復活の情報はアカネには一切入ってこなかった。父親も母親も、それらしい事は言わずに何事もなく生活をしている。

 九尾が復活して暴れていれば甚大な被害が出ているだろうが、その気配も微塵も感じられない。やはり九尾は再び封印されたのだろう。

 そして代わりに入ってきた情報が、四代目火影ミナトとその妻クシナの死去であった。

 

(……ミナトとクシナが逝ったのか)

 

 ミナトはアカネが知る限りでも優秀と言える忍だった。才能だけでなく、思慮深く里を想う良き忍だった。だからこそ火影となれたのだろう。

 そしてクシナ。彼女は里の問題児だった。幼少期は特徴的な見た目によって馬鹿にされており、その馬鹿にした男子を返り討ちにしたという曰く付きだ。赤い血潮のハバネロという異名まで付いたくらいだ。

 だが、良い子だったとアカネは思っている。そうでなくてはミナトが見初めるわけがない。

 そんな二人が亡くなってしまった。悲しくあるが、アカネは九尾の復活が原因である事はまず間違いないと考える。

 九尾の人柱力であったクシナは九尾の封印が解けた為に死んだのだろう。そしてミナトは九尾から里を守る為に死んだのか。その辺りはアカネには詳しくは分からなかったが。

 

 次にアカネが考えるのが何故九尾の封印が解けたのか、である。

 

(……出産か?)

 

 九尾の封印式は非常に強固だ。その封印を解いて人柱力から九尾を抜き出すには万全の準備が必要だし、そして時間が掛かる。

 だが、アカネが知る限り一度だけ九尾の封印が破られそうになった事がある。それが九尾の前人柱力・うずまきミトの出産である。

 その時は危うくも封印が破られる事はなかったが、今回はそうならなかった。ヒヨリの中ではそう予想された。

 

(となると、二人の子どもは……)

 

 ミナトとクシナ以外に亡くなった人の話はアカネも耳にしない。つまり死んでいないのか、そもそも生まれなかったのか、それとも……その存在を隠されているかだ。

 もし存在を隠しているのだとして、四代目火影の子どもを隠す理由。それはその子どもが非常に重要な立場にあるという事だ。他里はおろか、木ノ葉の者――もしかしたら大人は皆知っているかもしれないが――にも隠すほどの理由。

 

(……人柱力か?)

 

 アカネの行き付いた結論がそれだ。だがその結論はすぐに霧散した。

 何故ならいくらうずまき一族の血を引くとはいえ、赤子では九尾のチャクラを抑えきれないと考えたからだ。

 

 それからも色々と推察してみるが、所詮推察は推察だ。見てもいないのに全てを理解する事は出来ない。

 今はまだこの状況を甘んじるしかないだろう。だが、いつまでもそれでは駄目かとアカネは思う。

 

(全く。転生しても忍はゆっくり出来ないな。前世では立場上のしがらみがあった分色々と遊ぼうと思っていたのに)

 

 九尾の復活。それに伴う火影の死。これが出産の不手際であるとはアカネも思ってはいない。

 あのミナトや三代目火影である猿飛ヒルゼンがいるのだ。そんな不手際を起こす様な下手な真似はしないだろう。

 ならば第三者の存在が介入したはずだ。木の葉の結界を超えて、厳重な警護を敷かれていたであろう出産場所を襲い、火影を出し抜いて九尾の封印を解く。

 並大抵の忍では不可能な所業だ。つまり大物が関与しているわけだ。それは木ノ葉を揺るがす大きな災いとなる可能性もあった。

 

(木ノ葉は私と柱間と、そしてマダラの夢の里。そして私の子の様な存在でもある。それに仇なすならば……!)

 

 アカネの前世、ヒヨリに子どもはいない。そもそも結婚自体をしていなかった。

 それはかつての兄との契約による結果だったが、アカネはそれを後悔はしていない。

 代わりに木ノ葉の里という大きく素晴らしい子を作る事が出来たからだ。そしてその里に住む者達も皆ヒヨリが、アカネが守りたいと願う者達だ。

 

 ならばそれを害する事を許すわけにはいかない。いかなる難敵であろうとも木の葉を守る為ならば立ち向かう所存だった。

 

 その為にはいずれ日向の当主と長老に自分の正体を告げる必要があるだろう。

 今のままでは年齢と分家という立場が足かせとなり、自由に動く事が出来なくなるだろう。

 その上ヒヨリである事を教えるのが遅くなれば遅くなるほど信用されにくくなる。幼い内に教えた方が信憑性が増すのだ。

 成長すれば出来て当然でも、幼少時ではまず不可能という事は多くある。それらを幼い内に見せつけ、更にチャクラ性質の色を見せればヒヨリを良く知る長老は納得するだろう。

 そして現当主である日向ヒアシ。彼ももちろんヒヨリと面識がある。というかヒアシの祖父がヒヨリの兄なのだ。面識があって当然である。

 ……ちなみにヒヨリが兄から当主の座を譲ってもらう為に交わした契約は、子孫を残さぬ事と、兄の子が次期当主となる事の二つである。

 

(ヒアシと長老への報告は私に呪印を刻む時がいいか。確か三~五歳くらいになったら刻まれるはず。そのくらいの年齢なら今よりも多少の力は発揮出来るだろうし)

 

 呪印を刻むとあるが、日向の分家の生まれは必ず額に【籠の中の鳥】を意味する呪印を刻まれる掟となっている。

 この呪印は日向宗家と、そして白眼を守る為に作られたシステムだった。

 白眼は三大瞳術の一つに数えられ、忍にとって非常に有用な能力である。それ故に白眼を有する日向一族は繁栄していたのだ。

 だからこそ、白眼は他の忍から狙われていた。白眼を奪い取り別の忍に移植すれば、例え日向一族の忍でなくても白眼の能力を得る事が出来るのだ。

 

 それを防ぐ為に作られたのが呪印である。呪印を刻まれた分家の忍が死す時、呪印はその者の白眼の能力を封印して消えてなくなるのだ。

 それだけではない。宗家の者が秘印を結ぶと呪印は効果を発揮し、分家の者の脳神経を簡単に破壊する事が出来る。これは分家が宗家を裏切る事がない様に仕組まれた物だ。

 もっとも、白眼を守るという意味でなら呪印も認めていたが、宗家が分家の命を物理的な意味で握っているこの効果はアカネは好きではなかった。

 もちろん好き嫌いで判断し、私情を持って動く事は忍としても日向の長としても失格であると理解していたが。

 

 ちなみに四~五歳で多少は力を発揮出来るとアカネは考えているが、それは何もおかしな事ではなかった。

 この世界では優秀な者は齢六歳くらいで忍者アカデミーを卒業し、下忍として働きだす事もままあるのだ。まあ戦時下や里の戦力補強が急務である時のみの話だが。

 ヒヨリであれば四~五歳くらいで上忍並の力は発揮出来るだろう。

 

(ま、呪印を刻むと言っても、私には呪印とか効果ないんですけどねー)

 

 そう、アカネに呪印は効果を及ぼさない。それは日向一族に伝わる秘術ではなくアカネだけの特異体質だった。正確にはアカネの二度目の人生で作り出したある能力が作用した結果だが。

 その能力により、アカネは呪印や幻術といった能力が無効化されるのだ。もっとも無効化には術の効果に見合ったチャクラが消費される為、無尽蔵に無効化出来るわけではなかったが。

 まあ無尽蔵と言ってもおかしくないチャクラ量を有しているので、この世の大抵の呪印、幻術、封印術、その他陰遁等の術の大半は無効化出来るのだが。

 つまりアカネを倒すには物理的なダメージを与えるしかないのであった。幻術使いは涙目である。

 

 気になるのは呪印が刻めない事が問題となるかもしれない事だ。

 前世がどうあれ今のアカネは日向の分家の生まれだ。宗家を敬う立場の分家に呪印が刻めないとなったら色々と体面が悪いだろう。

 

(うーむ。まあヒアシや長老に考えさせるか)

 

 ヒヨリ時代と相変わらずの丸投げであった。果たして彼女は成長をしていると言えるのだろうか。

 まあかれこれ千年以上は生きているので、逆に言えばこれ以上精神的には成長しないのかもしれない。

 百に満たない人生でアカネ以上に精神的に成長している人間もいる事を考えると情けない限りである。悲しいが、これが彼女の人間としての器の限界なのだろう。

 下手に長く生きすぎてあまりに強い力を手に入れてしまっているので大抵の困難が力づくで切り抜けられるのが原因の一つかもしれない。強いというのも考え物だった。

 

 




 日向は木ノ葉にて最強をやりたいのだ。なので日向のままなのです。ヒアシコラを真実にする時が来たのだ!


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NARUTO 第四話

 さて、時は流れアカネも三歳となっていた。すくすく育ったアカネは肉体が大分思い通りに動くようになって来ていた。

 長きに渡る人生に、多くの転生。この中で一番辛いのが成長過程の期間である。

 どうしてもまともに体は動いてくれず、かつては丸三日寝ずに闘えていた体力は見る影もない。

 成長して体がまともに動くようになっても、体力は一から付け直さなくてはならないのだ。これがまた苦行だった。

 技術面ではしばらく修行していなかった分の錆落としや、新たな肉体と技との齟齬を無くしていけばいいのだが、体力は本当にひたすら反復して付け直すしかないのだ。

 こればかりは本当にうんざりする事もあるアカネだった。

 

 それでも毎日の様に幼い体に無理が行かない程度に走りこみを続ける日々を送るアカネ。

 そんな日々にとうとう転機が訪れた。そう、アカネに呪印を刻む日がやって来たのである。

 

 

 

「父上、本日はヒナタ様のお誕生日なのですね」

「……うむ。宗家の嫡子であるヒナタ様の二歳の誕生日だ。今日は盛大な祝いとなるだろう。その目出度い席に我らの様な分家の端くれも招待して下さったのだ。決して無礼な事をしてはいけないぞ」

「かしこまりました父上」

 

 宗家の目出度い席に招待された事を光栄と言うが、アカネの父である日向ソウは浮かない顔であった。

 それはアカネも察していた。そしてその理由も。

 

 宗家に何らかの祝い事があり、それに招待される分家の者の中に呪印が刻まれていない幼子がいる。

 幼子の内に宗家という超えられない絶対の壁を刷り込み、幼子の内に呪印を刻む事で呪印が当たり前の物だと刷り込む。そうするには盛大な祝いの日が都合良い。

 盛大であればあるほど、多くの分家が宗家に傅いている姿を見れば見るほど、その眼には宗家が絶対として映るのだから。

 

 自分の子に呪印を刻まれる。その一生を宗家という大きな籠の中で飼い殺しにされる決定的な楔を刻まれるのだ。それを喜ぶ親は少ないだろう。

 いや、日向にあっては少なくはなかった。分家は宗家の為に命を賭して忠誠を誓う事が当たり前だと思っている分家の人間は多い。そしてそれは決して間違った考えでもなかった。

 宗家という日向にあって最も重要な血を未来永劫残すのは一族として当然の義務なのだから。

 そしてこれはアカネも否定はしていなかった。そういう伝統によって残されていく文化や因習は古き歴史を知る貴重な宝にもなるのだから。

 

「うむ。流石はオレとホノカの子どもだ! きっと宗家の方々もアカネを気に入って下さるさ!」

 

 ソウはすぐに浮かなかった表情を隠し、アカネを不安がらせない様に努めた。

 それがアカネには逆に辛い。実は前世の記憶や力を引き継いでいます、等と口が裂けても言えない気持ちになってしまうのだ。

 だが今日はそれを宗家だけでなく、父と母にも教えるつもりであった。隠したままでは呪印を刻めない理由を教える事が出来ないだろう。

 いや、そういう特異体質であると誤魔化す事は出来るかもしれないが、このまま誤魔化したままでいるのは少々気が引けたのだ。

 

(これでヒヨリとしての立場を得る必要がなければずっと二人の子どものままでいられたのになぁ……)

 

 覚悟は決めていてもそう思わずにはいられない。覚悟とは、父と母に捨てられる覚悟である。前世を告げるならばそうなる可能性は大いにあるのだ。

 そうしなければならない原因を作り出した九尾復活の裏にいる犯人。そいつは絶対に許さないと改めて誓うアカネであった。

 

「アカネは宗家のお屋敷は初めてでしたね」

「はい母上」

 

 等と言っているが、もちろん初めてなのはアカネとしてである。

 ヒヨリ時代では実家として使用していたのだ。知らない場所など殆どなかった。まあ改築や増築などされていれば話は別だが。

 

 かつての我が家を思い出しつつ、アカネは父と母に連れられて懐かしき宗家の屋敷へと赴いた。

 

 

 

「ヒアシ様、ヒナタ様のお誕生日おめでとうございます」

「うむ。足労だったなソウよ」

「勿体無いお言葉です」

 

 日向ヒナタの誕生祝いが盛大に開かれ、そして長き歴史を持つ日向らしく厳かに終えようとしていた。

 そして全てが終わる前に、最後のしきたりが行われようとしていた。

 

「それではソウよ。娘をしばし預かるぞ」

「……はい」

 

 全ては宗家の、ひいては日向一族の為。心が痛むがそう納得し、ソウはヒアシの言葉に頷いた。

 

「アカネだったな。付いて来るのだ」

「はい」

 

 アカネはヒアシの後を付いていく。ここでヒアシに全てを話すわけにはいかない。周囲には多くの分家の者がいるからだ。

 前世について教えるのは当主であるヒアシとその父の長老、そして父と母だけで十分だ。それ以上は情報の漏洩という危険性も考えると秘密にしておくべきだろう。

 なので一度ヒアシに付いて行き、周囲に人がいなくなった時を見計らって話を持ち出すつもりなのだ。

 

 ヒアシの後を追いながら、宗家の屋敷を見渡すアカネ。そのほとんどは記憶にある通りだった。

 かつての我が家の懐かしさに目移りしているアカネを、ヒアシは初めて訪れる宗家の屋敷に興味津々なのだろうと思っていた。

 

 聞いた話では三歳にして天才と言われる分家の寵児との事だったが、こうして見ると年齢に相応な少女だとヒアシは感じていた。

 だが歳相応であるのは悪い事ではない。優秀であれば多少は眼を瞑れるだろう。これくらいで期待外れだと感じる事もない。

 それに分家の者だからと言って宗家より劣るとは限らない。ヒアシは双子の弟を思い浮かべて僅かに顔をしかめる。

 

 宗家に産まれた双子。それがヒアシとその弟ヒザシだ。

 殆ど産まれたタイミングは同じだが、僅かに早く産まれたヒアシは兄に、僅かに遅く産まれたヒザシは弟という立場になった。

 そしてその僅かな時間で出来た立場の差は、後に大きな差となったのだ。

 

 兄のヒアシは宗家の当主となり、弟のヒザシは分家の一門に落ちたのだ。

 同じ宗家の人間として生まれ、容姿も実力も互角でありながら、産まれたタイミングが僅かに違っただけで決定的な立場の差が出来てしまった。

 かつては兄弟として振舞えたが、今ではそれもままならない。当主としての立場が、分家としての立場がそれを許さないのだ。

 

 今でもヒアシは弟が当主の座を継げば良かったと思っている。

 周囲からは互角と言われていた二人の実力だが、ヒアシはそうは思っていない。ヒザシの方に僅かにだが日向の才の天秤は傾いていたと実感していたのだ。

 だが、ほんの僅かな差は周囲には理解されず、また理解されたとしてもその程度の差では弟であるヒザシが日向の当主となる事は出来なかっただろう。日向という伝統ある名家において兄弟の差を覆すには、圧倒的な力量差が必要となるのだ。

 

 ヒアシはそんな過去を思い出し、僅かに残ったしこりの様なモノが胸に去来する。だが、ヒアシはすぐに気を取り直す。

 そして後ろから聞こえた恐ろしい言葉を耳にして、驚愕と共に後ろを振り向いた。

 

「ヒザシの事を気にしているのですか?」

「!?」

 

 その言葉自体は、特に恐ろしいと言えるものではないだろう。

 だが、この場所で、この時に、そしてこの者が、自身に放ったとなれば話は大きく変わる。

 何故たった今考えていた事を、僅か三歳の幼子がぴたりと言い当てられるのだ。

 心や記憶を読む術などヒアシの記憶にはあるにはあるが、それは相応の術者が入念な準備と長い時間を掛けて行える術だ。

 そんな術を掛けられた記憶など当然ヒアシにはなく、そもそもたった今思考していた事をヒアシに術を掛けられたと認識させずに一瞬で読み取る事など出来る訳がない。 

 

 ならばヒアシがヒザシに対して負い目を感じている事を知っていて鎌をかけたというと、それも考えがたい。

 相手は三歳の少女なのだ。ヒアシとヒザシの確執など知る由もなく、例え分家の誰か――この場合は両親の可能性が高い――が教えていたとしても、この場でこのタイミングで確認してくるものだろうか?

 ありえない。それがヒアシの見解だ。だからこそヒアシの中で目の前の少女が一瞬で不審人物へと変化していった。

 

「貴様何者だ」

 

 日向アカネに化けている別人、もしくは日向アカネの精神を乗っ取った何者か。

 いずれにせよ日向に、ひいては木ノ葉に仇なす存在だろう。ヒアシは瞬時に臨戦体勢を取り、両目の白眼を発動させた。

 

「いや、驚かせてすみませんヒアシ」

「……答えぬか。ならば――」

 

 もはや問答不要。言葉を捨て力にて答えを聞きだそうとするヒアシ。

 柔拳にて相手の経絡系にチャクラを流し込み、死なない程度に痛めつけようとして――

 

 ――その攻撃は、アカネを覆うチャクラの塊にて弾かれた。

 

「なっ?!」

 

 ――馬鹿な! これは……!

 

 自身の攻撃を弾いた防御法。それにヒアシは見覚えがあった。

 日向宗家に代々口伝にて伝えられる秘術・回天。それは全身のチャクラ穴からチャクラを多量に放出し、そのチャクラで攻撃を受け止めるというもの。

 そして更にそこから自身の体をコマの様に高速回転させる事であらゆる攻撃をいなして弾き返す。

 

 これは日向でも柔拳を極めて高いレベルで習得した者しか体得出来ない奥義である。

 チャクラ穴から放出されるチャクラはコントロールが難しく、上忍と言えども手や足や体の一部からの放出を術や技に利用するのが限界だ。

 それを全身で可能とさせるのが柔拳の極意である。そしてそれを可能としているのが白眼であろう。

 白眼により全身のチャクラ穴から放出されるチャクラを認識し制御する事が出来る日向だからこその秘奥であった。

 

 だが、アカネがたった今ヒアシの前で披露した防御法は回天であって回天でない似て非なるものだった。

 回天とはチャクラを放出し、己の体を回転させて敵の攻撃を弾き返す技だが、先のヒヨリはその身を一切回転させていなかったのだ。

 それはかつてヒアシが先々代の当主であった木ノ葉の伝説の三忍、日向ヒヨリに見せられた回天を超える奥義・廻天。

 己の身ではなく全身から放出されるチャクラその物を高速回転させる秘中の秘であった。

 

 この廻天の利点は自分が回転していないという点につきる。

 回天であれば敵の攻撃をその場で弾くしか出来ないが、廻天であれば敵の攻撃を弾きながら移動したり、別の行動を取る事が出来るのだ。

 その自由度の差は非常に大きな違いを生み出す事になるだろう。だが、チャクラを全身から放出し、かつ敵の攻撃を弾けるレベルで高速回転させるには非常に高度なチャクラ制御を要する。

 なのでこの術を考案したヒヨリ以外には先代も現当主であるヒアシも体得する事が出来なかった奥義なのだ。当然回天すら伝えられていない分家に至っては言うまでもない。

 

 だが、その秘奥の術を僅か三歳の、しかも分家の者が披露してみせる。今のヒアシの驚愕はいかほどか。

 

「お前は……一体……!」

「ふむ……白眼で見ても分からないのか?」

 

 だとしたら少し面倒だな。等と呟くアカネに対し、ヒアシは驚愕に染まりつつも白眼にてアカネの肉体を見つめる。

 そして、唐突に信じがたい事実に気付いた。

 

「こ、このチャクラの色! まさか、いやそんな馬鹿な……だが、確かに……!」

 

 ヒアシの白眼に映る忘れようもない色のチャクラ。そしてヒヨリのみしか体得出来ていない廻天。自身とヒザシの確執に、それを見抜く洞察力。

 その全てがヒアシの中で繋がっていった。

 

「良かった。どうやら気付いてくれたようですね。久しぶりだねヒアシ。言葉を交わすのは私の死の間際だから……4年振りくらいか?」

「まさか……ひ、ヒヨリ様……なのですか……!?」

 

 こうも多くの動かぬ証拠を見せ付けられたヒアシはその答え以外は出てこなかった。

 齢四歳にしてただならぬ雰囲気を発しているアカネに気圧されてヒアシは二の句が継げなくなっている。

 もっとも、アカネはヒアシが理解してくれた事が嬉しくてただ笑っていただけなのだが。

 

「良ければ貴方と長老……ヒルマと話がしたいのです。あと、私の父と母も一緒に。内密の話なので、場所は選んでください」

「うむ、は、いや、いえ……分かりました」

 

 あまりの出来事にアカネに対してどう対応していいのかヒアシの中で定まっていないようだ。

 分家の子どもが実は先々代当主でしたなどという奇想天外な事実を突きつけられれば仕方のない事だと言える。

 ヒアシは未だ動揺を抑えられずにアカネに言われた通りに行動した。

 

 

 

 

 

 

 日向宗家の屋敷、その奥にある一室。そこには数人の日向一族が集まっており、その周囲にはそれ以外の人は完全に払われていた。

 その場にいるのは当主である日向ヒアシと先代当主ヒルマ、そして分家の日向ソウとその妻ホノカに、二人の子であり渦中の人物であるアカネの5人である。

 

「……ヒアシ様、私達に内密の話があるとの事でしたが、それはどの様な話なのでしょうか……?」

「もしや、アカネが何か粗相を……!?」

 

 急にヒアシによって呼び出されたソウとホノカは戦々恐々としていた。

 宗家と分家の身分差は大きく、その当主となれば尚更だ。そんな存在から急に呼び出されては悪い出来事しか頭に浮かばない二人であった。

 

「ヒアシよ。ワシも何故呼び出されたのか理解できん。一体何があったというのだ?」

 

 ヒアシの父であり先代当主のヒルマもまた何も知らされずにヒアシによってこの場に呼び出されていた。

 内密の話があるとだけで呼び出したのだ。ヒアシが無駄な事をしない性格であると知っているヒルマからすれば相応の何かがあるのだろうとは理解していた。

 だが、その密会に日向の分家でも宗家との関わりも薄い者達を共に呼び出しているせいで、余計に何があったのか想像だに出来ないでいた。

 

「……父上、ヒヨリ様のチャクラを覚えておいでですか?」

「む……。当然だ。あの方は日向の長き歴史に置いても最強と謳われた御方。その力の一端しかワシも触れてはおらぬが、それでもお主よりはその力をヒヨリ様の傍で体験してきたわ」

 

 自分の事を長老ではなく父と呼ぶヒアシに一瞬だが怒気を発するヒルマ。伝統を重んじる一族なので当主の立場にあるヒアシが分家の者がいる場でその様な発言をした事に怒りを覚えたのだ。

 だがヒルマはヒアシに向けようとした注意の言葉を抑えた。ヒアシは日向当主として十二分の才覚を発揮してこれまでの責務をこなしてきた。ここに来てそれが崩れたという事はそれ相応の事態が起きたという事だろう。

 ならば注意をする時間すら惜しい。先々代当主についての質問の意図は理解出来なかったが、ヒルマはそれが必要な事だろうと判断して知ってる限りを答えた。

 

「……今すぐ白眼を発動し、日向アカネのチャクラを確認してください。ソウにホノカよ、お前達もだ」

「ぬぅ」

「は、はい」

「かしこまりました」

 

 ヒアシの言葉に疑問を覚えつつも、全員が白眼を発動してアカネのチャクラを見る。

 ソウとホノカはアカネのチャクラを見つつ、一体何の意味があるのかと怪訝に思う。

 その眼に映っているのはいつもと変わらない娘のチャクラだった。経絡系のどこにも異常はない、全く健康な愛しい娘だ。

 それともチャクラ穴を見抜く事も出来ない未熟な白眼では見つける事が出来ない異常があったのだろうか? 二人がそう不安に思い始めた所で不意に物音が聞こえた。

 

 二人が物音の原因へと視線を向ける。そこには狼狽し体勢を崩して慄いているヒルマの姿があった。

 眼の焦点は凝視するようにアカネへと向いており、体は震え口は大きく開かれている。

 そんな長老の姿を見た事も想像した事もないソウとホノカに理解出来た事は、長老がここまで驚愕するほどの何かが娘にあるという事だった。

 

「ひ、ヒアシ様! 一体何があるというのですか!?」

「娘に……! アカネに何が……!?」

 

 誠実で生真面目な父が、温厚で礼儀正しい母が、日向当主に対して言を荒げて追求する。

 それがどれほどの事かをアカネは心の底から理解する。それほどまでに、自分の身を案じてくれているのだと……。

 ますます正体を明かす事に対して気が重くなってきたが、それでもやらなければならない事だと自分を叱咤してアカネは気を取り直した。

 

 そしてヒアシは取り乱すソウとホノカを見てある事実に気付いた。

 

「……そうか。ソウとホノカはヒヨリ様を白眼にて見た事はなかったのだな」

 

 そう、二人はヒヨリを白眼で見た事がなかったのだ。分家の者が宗家の当主を白眼で見る機会などそうそうない。

 しかも二人が産まれた時の日向の当主はヒルマであったためヒヨリと出会う機会はより少なかったのだ。

 しかも組手や戦場でもない限り白眼にて宗家の人間を見るなど不敬と言えるだろう。だから二人はヒヨリのチャクラの色を知ってはいないのだ。

 

 そして、ヒアシの言葉に困惑する二人に答えを教える様に……いや、更なる困惑を呼び出す様にヒルマはある言葉を口にした。

 

「おお……これはまさしく……ヒヨリ様のチャクラじゃ……!」

『!?』

 

 ヒヨリ様のチャクラ。この言葉が何に向けられた言葉なのか、これまでの流れで理解出来ない程二人は愚かではなかった。

 愛する我が子であるアカネのチャクラが、日向の先々代当主にして伝説の初代三忍と謳われている日向ヒヨリと同一なのだ、と。

 

「そ、それは一体どういう事なのですか?」

「アカネが、ヒヨリ様のチャクラを……?」

 

 ヒルマの言葉の意味を理解出来ても、どうしてアカネのチャクラがヒヨリのチャクラと同一なのかまでは理解出来ない。

 そしてその疑問の答えはヒルマも、そしてヒアシも持ち合わせてはいない。それに答えられるのはアカネしかいなかった。

 

「それは私が、日向ヒヨリの生まれ変わりだからです」

 

 その言葉は、この場のアカネを除く人間の人生に置いて最大の衝撃となって駆け抜けた。

 

 

 

 誰もが声を発する事が叶わない中、アカネは滔々(とうとう)と説明した。

 そして長きに渡る沈黙が降り立ち、その沈黙をゆっくりとヒアシが破った。

 

「……父上、ヒヨリ様……いえ、アカネ様は、ヒヨリ様のみの秘奥を使われました」

「ッ! ……そうか。ならば最早疑う余地はない。この御方は粉う事なくヒヨリ様の生まれ変わりじゃ」

 

 分家の者がいる故、宗家のみの秘伝となる回天、そしてその発展系の廻天の名は明かせなかったが、ヒアシの言葉はヒルマに十分に伝わった。

 齢三歳の身で廻天を体得する。それはヒルマにとってアカネの言葉を肯定する何よりの証となった。

 

「それでは、本当に!」

「アカネは……私達の子は、ヒヨリ様の……」

 

 現当主と先代当主。日向に置いて絶対の権力者である二人の言葉を疑う術をソウとホノカは持っていない。

 その信じがたい、信じたくない事実に、二人は俯き耐え忍ぶ事しか出来なかった。

 

「父上、母上……今まで秘密にしてきて、申し訳ございません……!」

 

 そんな二人に対してアカネは頭を下げて謝る事しか出来なかった。

 初めて出来た子どもが、実の子ではあれどその中身には前世の記憶が詰まっていたのだ。

 苦労しながら子どもを育み、その成長を見守ってきた親として騙されたと考えても何らおかしくはないだろう。

 

「あ、アカネ……」

「ああ……」

 

 アカネに対して何かを言おうとして、何を言えば良いのか分からないソウとホノカ。

 だがそんな二人に向かってヒルマは怒気を顕わにした。

 

「おぬしら……! アカネ様を呼び捨てにするとは――」

 

 あまりの出来事にまだ動揺は収まっていないが、既にヒルマの中ではアカネはかつて絶対の力を誇っていた日向の誉れ高き忍・日向ヒヨリその人だ。

 そして日向ヒヨリは宗家の当主を務め、木ノ葉を築いた伝説の三忍でもある。分家風情が対等な立場で物を言うなど許されるわけがない。

 だがヒルマの怒気は、当のアカネによって止められる事となった。

 

「ヒルマ……日向ヒヨリとしての立場を持ち出し、利用しようとしている私が言うべき事ではないのは分かっている。だが……父上と母上を許してくれ」

 

 そう言って頭を下げてヒルマに頼み込むアカネ。尊敬し敬愛する存在からそのように言われては逆に困惑するしかないヒルマだった。

 

「あ、頭を上げて下されヒヨリ様!」

「父上と母上は私を産み育ててくれたのだ。前世は関係ない、今の私にとって二人は掛け替えのない両親なんだ。……頼むヒルマ」

「……分かりました。ソウとホノカじゃったな。先の言に対しておぬし達に責は問わぬ。そしてこれからもじゃ」

『寛大なお心、ありがとうございます』

 

 ヒルマの許しの言葉に二人は頭を下げて感謝の意を示す。

 だがヒルマの言う”これから”という言葉に関してはどうすればいいのか二人は悩んでいた。

 その答えはすぐに出る事はなく、今はただ静かにこの場の流れを見守るしかなかった。

 

「ヒヨリ様、こうして私達に前世を明かされたその理由は……」

「ああ、二年前の九尾復活が原因だな」

「……やはりそうでしたか」

 

 アカネの言葉を聞いて、ヒアシは全てを理解した。

 アカネは九尾の復活とその裏にいるだろう黒幕の存在を日向ヒヨリであった頃から察知していたのだ、と。

 九尾の復活は里にとって滅亡の危機となる程の大事であり、それを利用しようとする黒幕の危険性もまた同等と言えるだろう。

 それを防ぐ為に、里を守る為に、転生の秘術によって再び日向にて生を受けたのだ。そう理解してヒアシはアカネへの尊敬を深めていった。

 ヒアシ、渾身の勘違いであった。

 

「しかし、流石はヒヨリ様。九尾の復活を予見されていたとは」

「気付く事は出来ても、当時の私は一歳の幼児でしたからね。流石に九尾を抑えるには力不足でした。もう少し早く生まれていれば、四代目の犠牲もなかったやもしれないというのに……」

 

 微妙にずれている二人の会話だが、両者ともそれには気付いていないようだ。

 

「……恐らく九尾復活の裏には何者かの手引きがあったはず」

「……はい。現場に居合わせたビワコ様がその犯人を目撃しています。といっても、全身を布で覆っており、顔は仮面で隠していた為何者かは未だ不明ですが」

「そうか。……もうヒアシは分かっているだろうが、私がこうしてヒヨリという前世を明かしたのは、私が自由に動けるように色々と手を貸してほしいからだ」

 

 アカネは日向の分家の生まれの為、宗家の命令には絶対服従を強いられる。

 そして順当に育ってもアカデミーに入り、卒業すれば上忍率いる忍の一班の中に組み込まれ、自由に動く事は出来なくなるだろう。

 その上この先修行をするにも相手を探すのに苦労するという問題もあった。それらを解決する為にこうして宗家に全てを明かしたのだ。

 

「私の修行の場と相手、そして下忍として縛られない立場。これらを用意してもらえますかヒアシ」

「……立場に関しては私専属の付き人としましょう。優秀故に幼い内から育てるという名目ならば里の上層部も疑わないでしょう」

「ふむ、いいですね。それならばあなたの命令でいかようにでも動く事が出来ますし」

「修行相手に関しては……私では如何でしょうか?」

「ほう。……ええ、問題ないですよ。ヒアシがどれだけ強くなっているか楽しみです」

 

 修行の相手を自ら買って出るヒアシの目を見て、アカネは少し楽しそうに笑った。

 

(弟への嫉妬と後ろめたさ。それらを振り切りたいというところか。うんうん、そういうのは嫌いじゃないぞ)

 

 ヒアシの感情を読み取っていたようだ。自分よりも優秀な弟に抱く僅かな嫉妬と、優秀な弟を当主にしてやれなかった後ろめたさ。

 それらを弟よりも強くなる事で振りきり、自分が当主として相応しいと証明しようとしているのだろう。

 そしてそれが自分だけでなく弟を思っての考えである事もアカネは見抜いていた。名家の双子というのは中々厄介な様だ。

 

「さて、取り敢えず大まかな事は決まりましたね。公の場では私の事は分家の娘として扱って下さいよ。もちろんヒヨリという名で呼ぶのは禁止です」

「もちろんでございます」

「後は……私の呪印なんですけど、どうしましょうか?」

 

 本来アカネが呼ばれた目的を口にして、アカネ以外の全員が「あ……」という間抜けな声を出した。

 誰もその事について忘れていたようだ。ヒアシもヒルマもこの問題に関して悩みだした。

 日向ヒヨリであるアカネに対して呪印を刻むという大それた事をする訳には、だが分家の者に呪印を刻まない訳には、等とどうすればいいのか分からず混乱している当主と前当主。

 そんな二人にアカネはちょっとした爆弾発言をした。

 

「まあ私に呪印は効果ないのですけど」

『……は?』

 

 混乱が収まらない二人にアカネは説明する。

 

「いや、かつてそういった術を開発しまして。私に作用する陰遁や封印術に呪印の類は自動的に無効化するのです。自動故に私の意思でもこの能力を切る事は出来なくて……」

 

 結構無茶苦茶言ってるのだが、アカネは”てへぺろ”くらいの気持ちで説明していた。

 

「それは、その……どうしようもないですな」

「うむ……しかし、それならば他の者達にヒヨリ様……アカネ様に呪印が刻まれていない事をどう説明したものか……」

「それなんですよねぇ。いっその事、額に呪印と同じ刺青でも彫りましょうか」

「ヒヨリ様に刺青を彫るなどと!」

「別に刺青くらい構いませんよ。どうせその気になったらすぐに元に戻せますし」

 

 刺青とは針や刃物などで体を少し刻んで傷を作り、その傷に色素にて着色させることで完成する。

 傷の付け方で色々な見た目の刺青を作る事が出来るので、日向の呪印に似せた刺青を彫る事も可能だろう。

 そして元々は傷なので、アカネがその気になれば一瞬で治療して元通りに戻す事も出来るのだ。

 もっとも刺青は既に塞がった傷と言えるのでそのままでは治療のしようがなく、元の額に戻すには一旦刺青を額の肉ごと削ぐ必要があるのだが。

 まあ多少肉体を失ったくらいならば瞬時に再生が出来るので何の問題もなかった。それが出来るのはヒヨリ含めて数人程度しか忍世界にはいないが。

 

 

 

 

 

 

 結局アカネの呪印に関しては刺青で誤魔化す事に決まった。

 刺青に関しては後々用意をしてから彫る事になり、それ以外にも幾つか細かな話をして、この場は解散となった。

 

 ヒアシとヒルマは解散後しばらく興奮し、二人して夜遅くまで酒を呑みつつ昔話に花を咲かせていたりする。

 そしてアカネとその両親であるソウとホノカ。家族三人は宗家の二人とは対照的に静かに帰路についていた。

 

「……」

「……」

「……」

 

 三人ともに無言のままに家路につく。誰も何も言う事が出来ないでいた。

 ソウとホノカは驚愕の事実によって大きなショックを受けており、そんな二人に対して何を言えばいいのかアカネには思いつかなかった。

 何を言っても、被害者と言える二人に加害者と言える自分が声を掛けた所で御為ごかしにしか聞こえないだろうからだ。

 自分の想いは既に宗家の屋敷にて話している。後は二人がどう受け止めてくれるかだ。最悪捨てられる事になろうとも、アカネは二人を恨むつもりはなかった。

 

 そうしてゆっくりと無言で家路につく中、ソウがその重たい口を開いた。

 

「今までの、多くが嘘だったんだな?」

「ッ! ……はい」

 

 ソウに柔拳の鍛錬を受けていた時も、ホノカに様々な教育をされていた時も、アカネの中では全て経験して来た事のおさらい程度だったのだ。

 筋が良いとソウに褒められ嬉しそうにしていたのも、今では演技としか見られないだろう。多くの思い出は転生という詐欺のような力によって穢されたのだ。

 

「あなた……アカネは……」

「分かっている。お前は黙ってなさい」

 

 夫にそう言われては貞淑な妻としては何も言う事は出来ない。

 ホノカは夫に全てを託して静かに夫と娘を見守った。

 

「なら、オレ達と過ごした全ても、嘘だったのか?」

 

 一緒に笑い、一緒に悲しみ、一緒に食事をして、一緒に風呂に入り、一緒に寝て、家族として過ごしてきた三年間。

 その全てが演技だったのか? 表では子どものフリをしてその裏ではうんざりしていたのか? それに対する答えはアカネには一つしかなかった。

 

「そんな事ない……! それだけは、絶対に……!」

 

 そう、そんな事はなかった。確かに迂闊に話せる内容ではない為に二人を騙す事になったが、両親としての二人を愛しているし、共に暮らす日々に幸せを感じている事に嘘はなかった。

 だからソウの言葉はすぐに否定した。それを信じてくれる可能性は低いが、だからと言って楽しかった日々を否定する事も出来なかったのだ。

 

「そうか……」

 

 そう返事をするだけで、またソウは無言となった。

 またもしばらく重たい空気の中を無言にて家路につき、とうとう三人の家に帰りついた。

 そして玄関を開けずに、しばらく無言だったソウはアカネへと向き直してから口を開く。

 

「お前がヒヨリ様の生まれ変わりなのは……理解したよ。それを言えなかった理由もな。それでも、その事に怒りが湧かないなんて言えば嘘になる」

「……」

 

 アカネも覚悟していたが、実際に聞けば心に突き刺さる言葉だった。

 

「だけど……家族で過ごした三年間、あの充実した日々の全てが嘘だったなんて、オレだって思いたくない」

「父上……」

「思ってたまるか……! お前の笑顔も、泣き顔も、全部が演技だって言うならオレは人間不信になっちまう……!」

「父上……!」

「例え前世がなんであろうとアカネはオレ達の子どもだ! オレがアカネを愛しているって気持ちに嘘はない! 文句あるかホノカ!」

 

 ソウは自分自身に言い聞かせるように叫び、ホノカにもこの結論に文句があるかを確認する。

 それに対して、ホノカは優しく微笑んで答えた。

 

「文句などあるわけがありません。アカネは私がお腹を痛めて産んだ、正真正銘私の子ですよ。前世があろうとも関係ありません」

 

 それはソウに対してではなく、アカネに対して語りかけた言葉だった。

 

 葛藤はあっただろう。悩み苦しんだだろう。蟠りがないと言えば嘘になるだろう。それでも二人はアカネをヒヨリとしてではなく我が子として受け入れようとしているのだ。

 

「いいんですか……。これからも、父上と母上と呼んでも……二人を愛しても……二人に愛されてもいいんですか……!?」

「当たり前だ!」

「二人に、本当の事を話さなかったのに……!」

「子どもの隠し事や悪戯なんていくらでもある! 後で叱ってやるから覚悟しろ!」

「はい……! いっぱい、叱って下さい……!」

「ふふふ。それじゃあアカネが叱られている内に食事の準備をしておきますね」

 

 以前のような親子関係に戻る事は不可能だろう。純真な子どもではないと思い知らされた事に変わりはないのだから。

 だがそれでも、この家庭から笑顔が消え去ることはない。そう思える程に重たい空気は払拭し、三人は家へと戻っていった

 

 




 日向の祝い事や呪印が刻まれるタイミングや理由に関しては捏造です。
 原作を見る限りではそこまで盛大な祝いを開いている光景は見れず、呪印も宗家の嫡子が三つになった時に刻まれたとネジは言っていました。
 それは宗家の嫡子が三つになった時にまだ呪印を刻まれていない分家の人間は年齢問わずに呪印を刻まれる様になるのか。それとも分家の人間が4歳くらいになった時(ネジは4歳で呪印を刻まれた)に刻まれるのか。その辺りがさっぱりです。
 まあこの小説内では今回のようにしました。ご了承ください。
 また、先代当主であり長老である彼の名前は勝手に私が名付けたものです。原作では確か名前は明かされていません。

 ちなみにアカネは前世のヒヨリ時代にて両親に転生について教えていません。それを言いたくないくらいに冷めた親子関係でした。
 まあ今回だって特別ですけど。連続して同じ世界で転生して、前世の立場を利用した方が良い状況になったからこそ話したのですし。こうして転生について話した人生は稀です。


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NARUTO 第五話

 日向宗家の屋敷の中にある大きな道場にて、息を切らして床に倒れこむ者がいる。

 厳しい稽古を積んでいる最中なのだろう。床には汗と思われる水滴があちこちに散らばり、その中には赤い水滴も存在していた。

 倒れ込んでいる者――日向ヒアシ――は不規則な呼吸を出来るだけ素早く整え、立ち上がって目の前の相手と対峙する。

 

「はぁっ! はぁっ! ぐぅ、も、もう一本、お願いします!」

「ええ、何度でもお受けします」

 

 ヒアシと対峙しているのは四歳の誕生日を迎えたばかりの少女、日向アカネである。

 大人と子ども。見た目でも、そして実際の年齢でもそれくらいの差がある二人が道場で対峙し合い、そして大人であるヒアシが息を切らせ倒れる。これを何も知らない者が見れば確実に自身の眼を疑うだろう。

 

 ヒアシの実力は低くない。というよりも、木ノ葉の里でヒアシに勝る実力者は数える程しかいない。

 日向の当主には相応の実力も求められるのだ。ただ宗家の嫡子に生まれただけで成れるほど安い立場ではない。

 ヒアシは日向の長い歴史の中での歴代の当主と比べても、上から数えた方が早い実力者と言えた。

 

 だが、それでもアカネを相手にすると力不足な感が否めなかった。だがこれに関してもヒアシが悪い訳ではない。

 日向流柔拳を学んで数十年、転生を繰り返して多くの武術を学ぶ事千年。そんな規格外を相手に勝てという方が可笑しいのだ。

 

 ヒアシの攻撃はアカネに掠る事もなく、逆にアカネの攻撃をヒアシは防ぎ切る事は出来ない。

 柔拳の技術では確かにアカネが(まさ)っているが、ここまで一方的になるほどの差はない。ならば何故こうもヒアシはアカネに翻弄されているというのか。

 その答えが、アカネを最強足らしめているアカネ最大の武器の一つ、読みである。

 

 アカネ程戦闘経験を持つ人間はまずいないだろう。幾千幾万を超える闘争を乗り越えたアカネの読みの深さはいつしか未来予知に匹敵する程に至ったのだ。

 相手の動きを、その呼吸や表情、チャクラの流れ、感情の変化、筋肉の動き、足捌きや体裁き、多くの材料から先読みして対応する事が出来るのだ。

 アカネに勝つにはアカネ以上の技術か、先読みしても避ける事の出来ない規模の攻撃か、先読みすら覆す程の動きを要求されるのだ。そしてそのどれもをヒアシは有していなかった。

 

 ヒアシが幾度となく道場の床に転がされ、とうとう立ち上がる事が出来なくなった時点で本日の修行は終了した。

 

「お疲れ様です。今日はこれくらいにしましょう」

「……」

 

 ありがとうございました。そう言葉にする事も出来ないくらいにヒアシは疲労しているようだ。

 仕方あるまい。この組手の前にもチャクラコントロールやその技術を高める修行をぶっ倒れるまでしていたのだ。

 回復してすぐにこれではスタミナも尽きえよう。

 

 だが日向当主がこの有様では他の者に示しがつかないという物だ。不意な来訪があった場合にだらしない姿を見せては日向の沽券に障るだろう。

 なのでヒヨリは自分のチャクラをヒアシへと分け与える。これで多少はマシになるだろう。

 

「……ふ、不甲斐ない姿を晒し、申し訳ありませぬ……」

「気にしないでください。ヒアシには世話になっていますしね」

 

 そう、アカネはヒアシにかなり世話になっている。

 こうして修行に付き合ってもらう事で戦闘の勘も取り戻す事が出来た。当主直々に付き合ってもらっているのだ、この時点で本来ならあり得ないだろう。まあヒアシにも利点がある事なのだが。

 それにアカネがヒアシの付き人という立場を得られたのも大きい。これがなければ今後の展開にかなり差し支えていただろう。

 

「ふぅ、もう結構ですアカネ様。ありがとうございます」

「アカネと呼び捨てにしてもいいのに。むしろ立場上、私の方があなたの事をヒアシ様と呼ばなければいけないんですよ?」

 

 ヒアシは宗家で、アカネは分家。例え前世がどうであろうが今の立場はそうであり、これが覆る事はない。

 そうである以上アカネの言う事は正しいのだが……。

 

「誰もいない修行中ならば問題はないでしょう。もちろんそれ以外では宗家として振る舞わせていただきますが」

 

 だが、頑としてヒアシは――ヒルマもだが――周囲に誰もいなければアカネに対して上位の者に対する振る舞いを取ってきた。

 それほどアカネの前世であるヒヨリに敬意を示しているのだろう。

 アカネはヒアシを見る事で最初と二度目の人生で当時のアカネに対して並外れた敬意を払っていた一人の女性を思い出す。

 

(……いや、比べるとヒアシに悪いな、うん)

 

 あれは敬意というか、最早狂信の類に近かった気がしたのだ。恐らく命令すれば世界征服だろうと行動に移した事だろう。

 遥か過去を思い浮かべ、冗談になってないなとアカネは首を横に振った。

 

「? 何かあったのですか?」

「ああ、いえ、何もありませんよ。そろそろ結界を解除しますか」

 

 結界。それはこの道場内に張られているチャクラを外に漏らさない為の防壁である。

 これのおかげでアカネが全力でチャクラを練っても道場外の者には気付かれないだろう。数秒間は、という条件が付くが。

 全力でチャクラを練って開放などすれば、まず道場が崩壊し、そして結界が吹き飛び、その後屋敷に甚大な被害が出るだろう。

 

 ヒアシもそこまでの力をアカネが持っているとは想像だにしていないが、それが木ノ葉の三忍の力なのである。

 千手柱間とうちはマダラが全力で闘った時など地図を大きく書き換えなければならないほどの被害が出るのだ。山の一つや二つで済んだら御の字と言えるだろう。

 もっとも、それを知っている者はこの世でも一握りしか残っていないが。大半がお伽話の類と思われている嘘の様な本当の話であった。

 

 結界を解除し、普段の立場である日向当主とその付き人へと戻る二人。

 そんな二人の前に一人の少女……いや、幼女が現れた。

 

「ち、ちちうえ、アカネねえさま、おつかれさまです……」

 

 どこか自信無さげに話し掛けるこの少女の名は日向ヒナタ。ヒアシの娘であり、後の日向当主となる予定の宗家の嫡子である。

 一年近く前から父であるヒアシの付き人となったアカネとも当然交流があり、物心付く頃から一緒にいたのでアカネの事を姉として慕っているようだ。

 アカネとしても自分を慕ってくれる年下の少女を本当の妹のように愛おしく思っていた。

 

「うむ……」

「ヒナタ様もお勉強をなされていたのですね。お疲れ様でした」

 

 ヒナタは現在二歳――もうすぐ三歳になるが――だ。日向の宗家ならばそれくらいの年齢から色々と教育されるのだ。

 幼い頃からの英才教育が後の当主を作り出す事になる。……全ての人間が英才教育を受けたからと言って才能の花が開く事はないのだが。

 

「あの、アカネねえさまは……きょうはとまっていかれるのですか?」

「それは……」

 

 何処か期待を籠めた様なヒナタの瞳を見て、アカネはちらりとヒアシに視線を送る。

 ヒアシはそれに気付き、若干諦めた様に頷いた。

 

「構わん。今日は疲れただろう。アカネよ、今日の所は屋敷にて逗留する事を許す」

「ありがとうございますヒアシ様。お言葉に甘えさせて頂きます」

 

 二人の会話を聞いて、ヒナタはその顔に歳相応の笑顔を咲かせた。

 

「じゃ、じゃあ、きょうもいっしょにねてくださいますか?」

「ええ、喜んで。今日はどの様なお話をいたしましょうか?」

「それじゃあ――」

 

 楽しそうに話している二人を見て、ヒアシも僅かに表情を崩す。

 ヒナタは初めて出来た我が子だ。当主として厳格な態度で接さなければならないが、それでも子が喜んでいるのを見て嬉しいと思うのは父として当たり前の感情だろう。

 だからこそ。子がいるからこそ理解出来る。我が子に呪印を刻まなければならないと思えば、それはどれ程の葛藤と苦しみがあるのか、と。

 もちろんヒナタは宗家の人間ゆえに呪印を刻む事は特別な理由がない限りはあり得ないし、例え我が子に呪印を刻まれる分家の者の思いを理解したとしても、伝統にして日向を守る為に必要なこの儀を止めるつもりもない。

 だが、双子の弟であるヒザシの息子に呪印を刻む日が近づいていると思うと、僅かに感傷的になってしまったのだ。

 もうすぐヒナタは三歳の誕生日を迎える。その目出度い日に、ヒザシの息子・日向ネジは呪印を刻まれるだろう。宗家を守る為の道具という役目を与えられる為に。

 その日を思い、ヒアシはある決意をした。

 

 

 

 

 

 

 この日、木ノ葉は記念すべき日を迎えていた。

 忍五大国の一つ、雷の国にある雲隠れの里との間に同盟条約が結ばれる事になり、木ノ葉では来訪した雲隠れの忍頭を歓迎する盛大なセレモニーを行っていたのだ。

 長年木ノ葉と争っていた雲隠れと同盟という名の和解が出来たのだ。戦争が好きだという忍は少なく、平和を望む者達はその思いをセレモニーにて発露していた。

 

 だが、下忍から上忍に至るまでほぼ全ての忍が参加したそのセレモニーに、唯一参加していない一族があった。それが日向一族である。

 当然セレモニーに参加しなかったのには訳がある。その日は日向の嫡子である日向ヒナタの三歳の誕生日という記念すべき日だったのだ。

 全ての日向一族はヒナタを祝う席に参加していた。そこで初めて日向ネジと日向ヒナタは邂逅した。

 

 ネジが見たヒナタの印象は、自分よりも小さく可愛らしい子であった。ネジはこの時四歳であり、子どもらしい素直な感想と言えよう。

 そしてその感想を隣に立つ父ヒザシにも素直に小さな声で呟いた。

 

「かわいい子ですね父上」

 

 そんな息子の声に、ヒザシは浮かない顔をするだけで何も答える事が出来なかった。

 

「……」

「……どうしたのです父上?」

 

 父親の様子が可笑しい事に気付き、ネジは心配したように話し掛ける。だが、それに対してもヒザシは誤魔化すように何でもないと言う事しか出来なかった。

 尊敬し愛する父の想いはネジには理解出来ない。これから宗家に絶対服従の証を刻まれるなどネジは知りようもないのだ。

 

 日向ヒザシの根には宗家への憎しみの芽があった。双子として生まれ、実力もほぼ互角の兄ヒアシ。その兄に全てを持っていかれたのだ。

 生まれた順番が違えば当主となっていたのはヒザシだった。二人の違いは生まれた時間。それだけで、宗家と分家と言う超えられない壁を兄弟の間に築かれたのだ。

 兄として接してきたヒアシと対等の口を聞く事はもうあり得ず、常に兄が上、弟は下という身分を強制される。

 

 ヒザシが双子の弟ではなく、普通に歳の離れた弟として生まれていれば諦めもついただろう。だが、僅かなのだ。本当に僅かな差で、ここまで大きな差が出来てしまったのだ。

 実力は互角と言われていたが、ヒザシは自分が兄より優れている自信があった。そしてそれは真実だ。二人が百回闘えば、その内六割はヒザシが勝利しただろう。

 だがその僅かな差は、数分あるかないかという産まれた時間の差という僅かな差に押し潰されたのだ。

 

 この境遇に立って、納得しない者は少なくないだろう。自分の方が当主に相応しいと吠える者は多くいるだろう。

 ヒザシもそれらの想いを抱いていた。だがそれを全て飲み込んだのだ。宗家が争って日向に利する事など一つとしてない。それを理解しているヒザシは自分の想いよりも一族を重視したのだ。

 

 だが、同じ想いを子どもにも背負わせるとなれば話は別だった。

 父親の目から見てもネジの才能は別格だった。日向の天凛を授かって産まれたとすら言えるだろう、そう言える程の片鱗を齢四歳にしてネジは見せていた。

 このままネジが育っていけば、自分を超えて日向の歴史上でも数える程の実力者に育つだろう。それほどの確信がヒザシにはあった。

 だがその才覚も分家の身として産まれた瞬間に、宗家に全て捧げる事が決定してしまった。それがヒザシは悔しかった。

 

 自分の事ならば想いを飲み込む事が出来た。だが我が子となれば親としての想いがまた出てくるのだ。それが親と言うものなのだろう。

 何故宗家よりも優れているネジが分家の身に甘んじなければならない? 何故宗家の為に命を捨てる覚悟を持たなければならない? なぜ? そんな思いがヒザシの内心を回り巡る。

 いや、宗家がネジよりも優れているならばこんな想いも抱かなかっただろう。だが、お世辞にも宗家の嫡子たるヒナタに才能があるとは言えなかった。

 ヒザシがヒナタを見た事は数回しかないが、その数回でネジとヒナタの才能の差を理解出来るほどに二人の差は大きかった。それだけネジが優秀と言う事でもある。

 そんな劣る宗家の為に、日向の天凛たる我が子は生きねばならない。ネジの定めはヒナタを守り日向の血を絶やさない様に生きる事と決まっていた。ヒナタを守る為ならば死すら厭わない様に教育されるのだ。

 

 それをどうして許せる? どうして納得出来る? 何故自分が当主ではない? 当主であればネジにその様な生き方を強要する事はなかった。

 これらの考えはヒザシの中では小さな、しかし確かに残るしこりの様な物だ。平静を装えても、宗家に服従を誓っていても、決して消し切る事の出来ない想い。

 ヒザシは兄であるヒアシを恨んではいない。だが、宗家は恨んでいた。実力ではなく、産まれた順番ただそれだけで当主を決めた宗家を。

 

 そしてこれからネジに忌まわしい呪印が刻まれる。その事実がヒザシの中の宗家への恨みをより引き出していた。先程ネジの言葉に反応出来なかったのはその為だろう。

 

「……いや、何でもない……」

 

 宗家への恨みと、どうしようもないという諦め。二つの相反する感情は、諦めが勝った。

 宗家に逆らう事は出来ず、逆らった所で呪印にて罰せられるのみ。そしてその罰は……死だ。

 ネジを残して無駄死にをする訳にもいかず、ヒザシは全てを諦観するしかなかった。

 

 だが、そこでヒザシに思いもよらない出来事が起こった。

 

「ヒザシよ。ネジを預かる前にお前に用がある。付いて来い」

「え? あ、はい!」

 

 このままネジの呪印を刻む儀式を行うのだと思っていたヒザシに取って、その言葉は予想外だった。

 一体どの様な用があるというのか。疑問に思うも宗家の命令に従うしかないヒザシは無言で進むヒアシの後を付いていく。

 

 そして到着したのは宗家の屋敷にある道場だった。ヒアシに付いて中に入ると、そこには一人の少女の姿があった。

 ヒザシにも覚えがある少女だ。齢三歳にしてヒアシの付き人になるという日向の歴史でも異例の抜擢を受けた少女、日向アカネだ。

 先程はネジに日向の天凛があると思っていたし、それは真実だとヒザシは言える。だが、こと才能という点に置いてはアカネの方が上ではという考えはかつてからあった。

 生半可な才能で兄が分家の人間を傍に置くとは思っていないのだ。

 

 アカネは二人が道場内に入室してすぐに立ち上がり、一礼をしてから道場の端へと寄る。

 何故ここにアカネがいるのか、一体兄はどうして自分をここへ連れてきたのか、疑問ばかり募るが、ヒザシに出来る事はヒアシの言葉を待つだけだった。

 そして、ヒアシは驚愕の言葉を放った。

 

「ヒザシよ。今から私と決闘を行ってもらう」

「なっ!? 決闘!? 私と、ヒアシ様が!?」

 

 修行ならまだ分かる。かつては同じ宗家の一員として、兄弟としてよく共に鍛錬をした二人だ。

 だが決闘となれば話は別だ。分家の人間が宗家の、しかも当主に対して決闘をするなど許されるわけがない。

 例え決闘を行ったとしてもヒザシが本気で闘える訳もなく、それはヒアシも理解しているはずだ。

 

 だが、ヒアシはヒザシが更に驚愕する言葉を放ってきた。

 

「安心しろ。例え私に勝っても罰はない。いや、それどころか褒美すらやろう」

「ほ、褒美……ですか?」

「うむ……ヒザシよ。お前が勝てば日向当主の座はお前に譲る」

「なっ!?」

 

 それはヒザシにとって、いや日向の人間にとって爆弾級の発言だった。

 勝負に勝てば当主の座を譲る。そんなとんでもない当主交代の理由など聞いた事はない。恐らく日向の歴史上でもありえないだろう。

 

「それとも、別の褒美が良いか? ネジに呪印を刻まないというのはどうだ?」

「っ!!」

 

 ヒザシはここに来てようやくこれがヒアシの挑発なのだと理解した。

 全力で掛かって来い。それでも私は負けはしない。そうヒアシは言外に言っているのだ。

 

「……本気、なのですね」

「二言はない。お前が勝てばどちらでも好きな褒美を選ぶといい」

「……分かりました。全力でお相手いたします」

 

 ヒザシの思いが白眼となって現れる。勝ってやる。そんな思いがヒザシの中に溢れていた。

 ヒザシはこの勝負に勝ったとしてもヒアシが約束を守る事はないだろうとは思っていた。

 宗家は宗家、分家は分家だ。それが覆ることはない。先の言葉は自分に本気を出させる為の方便なのだろうと思っている。

 何の為にそんな事をするのか。そんな事はヒザシにはどうでも良かった。ヒアシに勝って、その天狗となった鼻を叩き折ってやる。当主の座はオレに相応しかったのだと教えてやる。

 それらの思いがヒザシを全力で勝負に挑ませた。

 

「後ろの者はこの決闘の見届け人だ」

「日向アカネと申します。此度の決闘の見届け人を承りました。よろしくお願いいたします」

 

 堂の入った挨拶に、ヒザシから放たれる圧力にも動じない態度だ。それだけでやはり只者ではないと伺えた。

 だが次の瞬間にはヒザシの中からアカネの存在は消えてなくなった。目の前にいるのは敬愛する兄にして憎むべき宗家の当主。

 そんな存在を相手に勝つにはその全てを持って集中して戦いに臨まなければならないのだから。

 

「それでは、両者前へ」

 

 アカネの言葉に従い二人が一定の距離まで近づく。すでにヒアシも白眼を発動している。両者とも臨戦体勢は完全の様だ。

 そして……決闘の合図が降りた。

 

「始め!」

 

 

 

 

 

 

「それまで!」

 

 勝負は決した。地に立つ者と地に倒れる者。一目見て明確な差が勝負の結果を表していた。

 勝ったのは……日向ヒアシだった。

 

「う、ぐ、ぅぅ……」

 

 数十の点穴を突かれ、チャクラを練る事も出来なくなったヒザシは全身の痛みに苦しみ呻く。

 そんな痛みの中、ヒザシは思う。この決闘になぜ負けたのか、と。

 いや、完敗だった。何故負けたと説明するならば完全に地力の差と言う他ないほどに、ぐうの音も出ない完敗だった。

 だからこそ解せない。自分と兄の実力差はここまでではなかったはずだ、と。むしろ、自分の方が若干だが強かったはずだ、と。

 油断はなかった。全身全霊で勝ちにいった。勝つという気概はあれど、気負ってはいなかった。気負って勝負を急いては勝つ事の出来ない実力者だと理解していたからだ。

 それでも負けた。自らの身分が分家の座に落ちてからも、いや落ちたからこそ一層の努力をして修行に励んできた。それでも……負けたのだ。

 

「ふ、ふふ……わ、たしの、負けですね……何をしても、宗家には勝てないのか……」

 

 ヒザシの心に去来するのは運命には抗いようがないという諦めだった。

 そんなヒザシの諦めの言葉に対して、ヒアシはそれを否定した。

 

「違うぞヒザシ。お前は宗家に負けたのではない。兄である私に負けたのだ」

「……え?」

 

 ヒアシが何を言っているのか、ヒザシには理解出来なかった。

 宗家と分家に別れてから今まで、ヒアシと兄弟として接してきた事はなかった。

 ヒアシは当主として、ヒザシは分家として振舞わなければならない為、二人の本心はどうあれ兄弟としての関係は終わったものだったのだ。

 少なくともヒザシはそう思っていた。いや、ヒアシも少し前までは同じ思いだった。

 

 ヒアシはヒザシに近づき点穴によるチャクラ封じを解除する。これで多少は楽になるし、チャクラを練る事も出来るだろう。

 そしてヒザシに対して見せた事もない様な笑みを浮かべてこう言った。

 

「どうだ。私の勝ちだぞヒザシ」

 

 それはヒザシが聞いた事もないヒアシの言葉だった。強気な態度を示していても、こんな風に自慢げに話す事はない人だった。

 だが、今のヒアシの表情は実に晴れ晴れとしており、そして何よりも楽しそうだった。

 呆気に取られているヒザシにヒアシは更に言葉を続ける。

 

「お前が当主になれなかったのは弟だからではない、私の方が強かったからだ」

「それは……!」

 

 その、一歩間違えれば嫌味としか受け取れない言葉を、何故かヒザシはヒアシの思いやりなのだと感じ取った。

 弟だから当主になれなかったのではない。私の方が強かったからお前は当主になれなかったのだ。だから、生まれを呪わず、前を向いて歩いてくれ。そう、言っている様に感じたのだ。

 上からの立場による言葉にも思えるだろう。あまりにも不器用な言葉だろう。だから余計にヒアシが真に自分の事を想ってくれているのだと理解が出来たのだ。不器用な兄らしいな、と思えたのだ。

 

「ヒザシ。辛いかもしれんが、ネジに呪印は通例通りに刻む。これは日向という家と血を守り、他里に白眼を渡す事を防ぎ里を守る為にも必要な事だ」

「……はい、承知しております」

 

 それは日向の分家として生まれた者には逃れられぬ運命。だが、それでも当主たるヒアシがその運命に対して僅かなりとも想うものがあると知れて、ヒザシは満足だった。

 

「すまぬな」

「ヒアシ様が謝られる事は……」

「これは当主としてではない。お前の……兄としての言葉だ。これくらい素直に受け取れ」

「っ!?」

 

 ヒアシの言葉の意味をヒザシは理解した。今は宗家と分家ではなく、一介の兄弟として接しろと。

 

「……いいんですか、兄さん?」

「……たった二人の兄弟だ。しきたりや伝統は守るべき物だが……誰もいない時くらいは、構わんだろう。そう思わないかヒザシ」

 

 一体何があったらあの厳格で強気で頑固な兄がこんなになるのだろうか。ヒザシはもしや偽者なのではと白眼を発動してそのチャクラや経絡系を調べた程だった。

 

「なぜ白眼を開く?」

「いや……偽者なのかなって」

「お前……!」

「はは……すまない兄さん、つい……」

 

 ヒザシは少しばかり不機嫌になった兄を見てこれはまずいと感じてすかさず謝罪する。

 だが、ヒアシは少し顔を顰めるもすぐに表情を柔らかく――ヒザシがギリギリそうだと思える程僅かにだが――して、それ以上は何も言ってこなかった。

 そんな兄を見て、やはりどこか変わったのだろうとヒザシは思う。娘であるヒナタが生まれ育っていった過程で何かあったのかと推測するが、しかしすぐにどうでもいいかと思いなおした。

 過程はともかく、今という結果は悪くはない。こうして再び兄弟として接する事が出来る様になれるとは思ってもいなかった。

 そう思うと、何処か清々しい物がヒザシの中に通って行った気がした。これまで募った宗家への恨みやしこりが吹き飛んで行くような、何かが。

 

 そうしてヒアシだけでなくヒザシも晴れ晴れとした表情になって、そこでふとヒザシは気付いた。

 兄は誰もいない時くらいは兄弟に戻ってもいいだろうと言っていたが、この道場にはヒアシとヒザシ以外にもう一人日向の人間がいる事に。

 その当の本人であるアカネは兄弟二人を見て、うんうんと頷いていた。ようやく兄弟が多少は元の関係に戻れた事を喜んでいる様である。

 

「兄さん、彼女は……?」

「む? ああ、アカネならば問題はない。この事を口外する様な奴ではない」

 

 ヒアシのアカネに対する信頼にヒザシは驚く。兄が子どもに対してここまでの信頼を見せるなんて思えなかったのだ。

 その疑問はヒアシにも、そして当然アカネにも察せられていた。ヒザシの疑問に気付いたアカネはヒアシへと目配りをする。

 それでアカネが何を言いたいのか理解したヒアシは、アカネに本当によろしいのですかと確認の為にしばらくアカネを見つめたが、アカネはそれに対して首を縦に振った。

 

「ヒザシよ。実は私は先程の決闘でずるをしていてな」

「ずる……ですか?」

 

 ずると言われてもヒザシには何の事だか分からなかった。

 先程の決闘は純粋に力と力、技と技のぶつかりあいであり、そして順当な力負けでヒザシは負けたのだ。宗家のみに伝わる秘伝なども使われておらず、そこにずるやイカサマなどが絡む要素はなかった様に思えた。

 

「うむ。実はな……」

 

 わざと答えを言わずに溜めを作るヒアシ。意外とエンターテイナーの気質もあるのかもしれない。

 

「実は、ここ一年ほど日向ヒヨリ様に稽古をつけられていてな。おかげで数段実力が上がったわ」

「なるほどヒヨリ様に稽古を。道理で強くなって……なって……は?」

 

 日向ヒヨリに稽古をつけられた。なるほど強くなるのも納得だ。……日向ヒヨリが生きていればの話だが。

 

「兄さん何を……!? まさか、当主としての激務や責任による心労が兄さんを祟って!」

「その言葉かなり不敬だと理解してるかお前?」 

 

 だが事情を知らない人間ならばヒザシの言葉に頷く者が殆どだろう。それほど荒唐無稽な事をヒアシは言ったのだから。

 

「だけど流石にそれは信じられない。せめてヒヨリ様本人を連れてきてくれない事には……」

「どうも、私が日向ヒヨリです」

「……え?」

 

 声に釣られて横を向くと、そこには日向ヒヨリのみに許された秘術・廻天を使用しているアカネの姿があった。

 チャクラは高速で回転しており、その勢いはあらゆる攻撃を弾くだろう。かつて幼い頃にヒヨリに見せてもらった秘奥技とまさに瓜二つだった。

 そして白眼にて捉えたアカネのチャクラは、まさに日向ヒヨリのチャクラそのものであった。

 

 

 

 事の顛末の全てを説明されたヒザシは納得しがたい超常現象を納得した。納得せざるを得ない物証の数々を見せ付けられては納得するしかあるまい。

 そして最後にヒアシが決闘終了後に晴れやかな笑顔を見せて実に嬉しそうに勝利を宣言していた理由も知る事が出来た。

 

「……この一年間。ヒヨリ様、もといアカネ様との勝負で一度たりとも勝つ事が出来なかったからな。久方ぶりの勝利に浮かれてしまったのだ。許せヒザシ」

 

 しれっとそんな風に言うヒアシ。ヒザシとしては別に怒ってはいないが、このヒアシがたった一つの勝利に浮かれるという事実の方が恐ろしかった。

 

(一体どれほど負け続ければあの兄さんがこうなるんだ?)

 

 それはもう大の大人が少女に負けて負けて負けて、負け続ければ勝ちに貪欲になりもするというものだ。

 相手が伝説の忍と理解していても、中身は少女ではないと言えど、だからと言って負けて仕方ないで済ませられる程ヒアシも歳を取ってないという事だ。

 

「さて、そろそろ戻るとしよう。いい加減ネジが待ちくたびれている事だろう」

「それは……そうですね」

 

 ネジの元に戻るという事はネジに呪印を刻むという事だ。ヒザシはそれを悲しく思うが、以前ほどではなかった。

 少しは前向きに物事を考えられる様になった証拠だろう。分家が宗家に尽くす事に変わりはないが、窮屈ながらも分家なりの自由があり、宗家にも宗家なりの窮屈さがあるのだ、と。

 こうして兄弟としてヒアシと向かえ合えてヒザシはそれに気付けた。ならば、兄が立派に宗家としての務めを果たしているならば、自分も分家としての務めを果たすだけだ。

 それがヒザシが開き直った結果辿り着いた境地である。

 

「ところで兄さん、お願いがあるんだけど」

「む? まあ、叶えられる程度なら聞こう」

「オレもアカネ様と一緒に修行をしてもいいんだよね?」

 

 ヒアシにとってそれは実に複雑な頼みだった。

 以前の様に共に修行に励める事は素直に嬉しく思う。だが今の優位性を縮められるのではという若干情けない思いもほんの僅かにだがあった。

 兄として常に弟より上にありたいという複雑な感情なのだ。かと言って断ると懐の小さい人間と思われるだろう。

 

「まあ、構わん。もちろんアカネ様の了承を得られたならの話だが」

 

 と、結局はそう言うしかないわけだ。 

 

「私は一向に構わん。というか、二人掛かりで相手をしてくれると嬉しいですね。そろそろ私も修行の段階を上げたいので」

 

 アカネとしても願ったり叶ったりな提案だ。ヒアシは十分な実力者だが、一人が相手では出来ない修行もある。それに二対一くらいならばハンデとしてはまだ足りないくらいだ。

 まあ、そう匂わせるような言動に、ヒアシとヒザシが反応しないわけがなかったが。

 

「ほほう。我ら二人を同時に相手にすると」

「いくらヒヨリ様とはいえ、怪我くらいは覚悟していただきますよ」

 

 二人から放たれるプレッシャーにニコニコと笑顔で応えるアカネ。それはもう嬉しそうに笑っていた。

 後日、二人が道場の床にへばりついていた姿があったが、結界のおかげで誰にも見られずに済んだようだ。

 

 




 日向ヒアシ「日向(ヒヨリ)は木ノ葉にて最強」


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NARUTO 第六話

 時は流れる。

 雲隠れの里との同盟条約が結ばれてから、木ノ葉の里は戦争とは久しく無縁の平和な日々を送っていた。

 戦争を経験してきた忍たちはそれを謳歌していた。もちろん日々の修行は欠かしていないが。

 中には物心ついた頃から戦争を経験して来た忍もいるのだ。こうして平和な日々が続き、そして今後もそうであってほしいと願っている者が殆どだろう。

 

 もっとも、里の忍の多くは知り得ない情報だが、実際には雲隠れの里との同盟条約後には実は一悶着あったのだ。

 それは雲隠れの里の忍頭が、日向宗家の嫡子である日向ヒナタを誘拐しようとしていたからである。木ノ葉と同盟を結んだのも初めから日向ヒナタを、日向の白眼を狙っての事だったのだろう。

 

 正確にはこの事件、誘拐ではなく誘拐未遂で終わっている。日向ヒナタは雲隠れの忍頭に攫われ掛けたが、すぐに助け出されたのだ。

 その時ヒナタを救ったのが日向アカネである。というか、アカネは雲隠れの忍頭が日向一族の土地に忍び込んだ瞬間からその気配を察知していたのだ。

 アカネの感知能力は世界一! かどうかはアカネ自身も分からないが、少なくとも並ぶ者は少ないという自負はあった。これくらいの気配探知など朝飯前だった。

 

 日向の敷地内で気配を消して移動する。まあ忍であれば修行中だったと言えるかもしれない。真夜中だったが。

 一応は気配を追ってしばらく(けん)に回っていたアカネだが、気配は日向宗家の屋敷へと侵入していった。完全に黒だろう。

 

 アカネはすぐに宗家の屋敷へと駆けつけた。侵入者は未だ屋敷の中にいるようだ。それをアカネは白眼にて確認する。

 さて、ここでアカネは少々困っていた。確認した侵入者が雲隠れの忍頭だったのである。

 雲隠れを歓迎するセレモニーに参加していなかったが、それでも彼の顔は木ノ葉では一躍有名になった。当然アカネも容姿くらいは知っていた。

 これで侵入者が木ノ葉の裏切り者とかだったら悲しいが話は簡単だった。さっさと倒してお終いだ。

 だが同盟条約を締結したばかりの雲隠れの忍となれば話は別だ。下手な事をすれば話が拗れて同盟が崩壊しかねない危険性を孕んでいた。

 侵入して来たのは相手側だが、それで話が終わりなら苦労はしない。特に雲隠れの長である雷影は激情家で有名だ。無茶苦茶な理論で戦争を吹っかけて来ても可笑しくない程にだ。

 

 かと言って放置は言語道断だ。何せこの侵入者はアカネの愛する妹分であるヒナタを担いで攫おうとしているからである。

 死なない程度に痛めつける。忍頭の運命はこの瞬間に決定していた。

 

 

 

 さて、ぼこぼこにされて全身の点穴を死なない程度に突かれて数多の関節を外されて自殺も出来ない様に徹底的に捕縛された忍頭。彼を巡って雲隠れとはいざこざが起こった。

 木ノ葉側は里に忍び込むだけでなく里の人間を攫うとはどう言う了見だ、と雲隠れを責め立て、雲隠れ側はそいつが勝手にした事だから里は関与していないと突っぱねた。

 これで忍頭が死んでいればそれを理由に木ノ葉を脅し、再び戦争を仕掛けると匂わせてから落とし所として忍頭を殺した日向の下手人を寄越せと言うつもりだった雲隠れだが、流石に死んでいないのならばそこまでは言えないでいた。

 というか、死んでいたとしても侵入して人攫いをしようとした時点でどう考えても悪いのは雲隠れである。それでそんな事を言えるのなら面の皮が厚いというレベルではないだろう。

 

 結局この事件は雲隠れの落ち度として話はついた。雲隠れ自体は里の関与を認めなかったが、それでも犯人が雲隠れの忍頭である事に変わりはない。

 しかし木ノ葉としても人的被害がなかっただけに雲隠れへの要求もさして重い物にはしなかった。下手に拗れて再び戦争が起こるのは避けたかったのだ。

 なので雲隠れがそれなりの賠償金を払う事で今回の事件は手打ちとなった。多少は木ノ葉と雲隠れの間にしこりは残るだろうが、戦争にまでは発展しないだろう。

 

 そうして細かな事件が有りつつも、木ノ葉は概ね平穏だった。そう、まるで嵐の前の静けさの様に。

 

 

 

 

 

 

 木ノ葉の里の入り口にある“あ”と“ん”の文字を掛かれた巨大な門の前に三人の男女がいた。

 

「アカネ姉さん、本当に行くんですか……」

 

 一人は日向ヒナタ。成長し大きくなった彼女は幼い頃と同じ様に自信無さげに、そして寂しそうにアカネに尋ねる。

 この自信のなさに関してはアカネもそれなりに修正しようと努力していたが、まあ殆ど意味がなかった。ここまで来れば生まれついた資質と言えよう。

 

「ええ。それがヒアシ様から与えられた私の任務ですから」

 

 二人目は日向アカネ。妹分であり守るべき宗家の一員でもあるヒナタのその懇願する様な瞳に精神にダメージを食らっているようだ。

 だがそれを振り切ってでもやらなければならない事がアカネにはあるのだ。

 

 日向アカネは現在十三歳となっていた。既にアカデミーは卒業し下忍になっている。それからは中忍試験は受けず、下忍のまま過ごしていた。

 アカネは普通の忍と違って三人一組(スリーマンセル)を組んではいない。アカデミーを卒業してからは一人で任務も受けずに只管に修行していた。

 理由としては体力不足を補う為だった。技術に関しては前世へととっくに至り、その上でまだ修行を積み重ねている。だが体力だけは新しく身に付けるしかないのだ。

 どうして体力も持ち越せるように能力を組んでいなかったんだ最初の私、などと実際にどうやるんだそれというツッコミが入るツッコミを自分自身にしているアカネであった。

 

 そうしてアカネが十分な体力を得たと実感したのが今の年齢なのだ。ちなみにヒアシなどはもう十分なのでは、と数年前からアカネにぼやいていた。

 無駄に長く生きている分目標も無駄に高くなっていたアカネであった。

 

「ヒナタ様ももう十二歳。アカデミーも来年には卒業なされます。これからは立派な忍として頑張らなくてはならないのですよ。そろそろ姉離れをするべきですよ」

 

 実際に妹離れが出来ていないアカネの台詞ではなかった。もしヒナタが本気の本気で甘えて行かないでと言えば、しょうがないですねぇなどとベタベタに甘えさせて一日か二日は留まっていただろう。

 それをさせない為にか、この場にはもう一人ある人物がいた。それが三人目にしてこの場で唯一の男、日向ネジである。

 

「アカネの言う通りですヒナタ様。アカデミーの卒業は問題ないでしょうが、この先ヒナタ様は多くの任務をこなして中忍を目指さなければなりません。宗家の嫡子として恥ずかしくない姿を見せる為にもアカネにかまけてばかりではいけません!」

 

 日向ネジは宗家の嫡子である日向ヒナタのお守り役である。年齢も近く、実力も高く、そしてネジの父親が日向当主であるヒアシの弟だという事が評価されての役目だ。

 そしてネジはその役目に充足感を感じている。守るべき姫は頼りなく才能もなくかなりおどおどとして情けないと口には出さずとも思っているが、だからこそ守り甲斐があるというものだとはりきっていた。

 

「ネジ兄さん……今何か言った?」

「いや何も? それよりも、オレの言っている事をちゃんと聞いているんですか? まったく、これもアカネがヒナタ様を甘やかしすぎるからだぞ!」

「何を言うネジ! 私はヒナタ様を甘やかして甘やかして、これでもかと言うほど甘やかしたいんだ! これでも我慢してる方なんだからな!」

 

 もう駄目だこいつ。早く何とかしないと。ネジはヒアシとヒザシに心の中で助けを求めた。誰も応えてはくれなかったが。

 

「ネジこそしっかりとヒナタ様を守るんですよ! 全く何でヒナタ様の守役なのにヒナタ様の傍を離れて下忍として働いているんだか」

「木ノ葉の下忍だからだよ! 馬鹿かお前は!」

 

 全くである。戦時でもないというのに流石に宗家の嫡子と言えども護衛が恒常的についているなど有りえない。

 

「なんでこの馬鹿がオレよりも強いんだ……!」

 

 ネジの心の底からの思いが声となって響き渡る。ネジとアカネが出会ってから数年、ネジは何度かアカネと手合わせをした事があるが一度たりとも勝った試しはなかった。

 幼い頃から神童や天才と言われ自信があったネジとしては同年代の、しかも女性に負け続ける事が悔しくて堪らなかった。

 その悔しさをバネに必死に修行をして、宗家にしか伝わっていない回天や柔拳法八卦六十四掌という奥義を独力で身に付けるに至っていた。

 それを知った時のネジの父ヒザシはそれは驚愕していたものだ。ネジのその努力がアカネに負けたくないという理由なのを知って複雑な表情をしていたが。

 無理だと悟らせるべきか、この悔しさによる成長を見守るべきか悩んだのだ。最終的に後者を選んだが、ネジがどう足掻こうと勝ち目がないと知っているヒザシとしては複雑だった。

 

「はっはっは。私に勝とうなど千年は早いなネジ君」

「おのれ……!」

 

 アカネの言葉を挑発と受け取るネジ。まあ誰だって本当の意味で千年早いなどと言っているとは思うまい。

 

「さて、名残惜しいですがそろそろ出発するよ。ヒナタ様お元気で。しっかりと修行するんですよ。ヒナタ様はお優しいから最後の一歩を踏み込めませんが、そこを乗り越えたらきっと日向の才能を開花なされます」

「アカネ姉さん……!」

 

 しばしの別れを悲しみアカネへと抱きつくヒナタ。それをアカネは優しく受け止める。

 

「憧れている人がいるのでしょう? だったら、その人の事を想えばヒナタ様ならきっと出来ます」

「ええ!? な、ナルト君は、そ、その……」

 

 先程までの悲しみに暮れた顔とは一転、ヒナタの顔は誰が見ても分かるくらい真っ赤になっていた。ナルトに懸想しているのは明白である。

 アカネもナルトと直接の面識はないがどういう人物なのかはある程度は知っている。ヒアシから九尾事件と四代目火影の残した子どもについては詳しく聞いているのだ。

 九尾の人柱力な上に四代目の子どもという極めて扱いの難しい存在であり、その両方とも一般的には隠された情報である。といっても九尾の人柱力に関しては里の重要な軍事力になるので木ノ葉の忍で中忍以上ならば大抵が知っているが。

 そのせいか一部の忍からはあまりいい目では見られていない節があった。九尾復活の事件では幸い九尾は里に被害を与えていない為、目に見える迫害は受けてはいない。

 だがやはりどこか遠目から蔑んだり恐れるような目付きでナルトを見ている大人の姿がちらほらと目撃されていた。

 幼い子どもは意外と敏感で、そういった大人の感情の機微に晒され続けるといつしか気付いてしまう。ナルトもそうだった。

 父親も母親もいないという事と、大人から好意的に見られない事が多い事。これらが重なりいつしかナルトは悪戯をする事で自分を見てもらおうと表現するようになっていた。

 

 アカネもこの辺りの大人の感情については色々と思うところがあったが、流石にそれを変える事は難しかった。

 こういう事は他人ではなく本人がどうにかして変えなければ上手く行かないものなのだ。他人が横から止めたとしても大人達の内心は簡単には変えられない。一時抑えるのが限界だろう。

 まあ表だって迫害されてないだけ人柱力としては悪くはない扱いと言えた。それにナルトも一人ではない。

 忙しいが後見人としてナルトに「じいちゃん」呼ばわりされている三代目火影に、その妻のビワコは忙しい夫に代わってナルトの面倒を良く見てあげていた。本当の孫の様に扱っているのでナルトもかなり懐いていた。

 大人がナルトに余所余所しくしている為に、その子どももナルトに対して馴染まずに仲間外れにする事もあったが、全ての大人がナルトに対してそう言う態度ではないし、子どももまた同様だ。

 ナルトにも友達と呼べる者はそれなりにおり、一緒に遊んだり悪戯をしたりと年齢通りのヤンチャ振りを見せている。

 

 さて、そんなナルトだが九尾が体内にいる故にその強大なチャクラが影響して上手くチャクラを練る事が出来ず、そのせいでアカデミーでは落ちこぼれ呼ばれをされている。

 それでもめげる事なく火影になるという夢の為に毎日必死に努力をしており、その落ちこぼれでも諦めずに努力を続ける姿を見続けて、ヒナタはいつしかナルトに惹かれ憧れていったとのだと、いつの頃かアカネは本人に聞いていた。

 実に微笑ましい事だ。感動的だ。だが恨めしい。それがヒナタから惚気られたアカネの感想だった。順調に姉馬鹿の道を進んでいるようだ。おかげで常識の道からは更に外れてしまったが。

 

 さて、そんな愛しのヒナタからネジへと視線を向ける。

 

「ネジも元気で。ヒナタ様を頼みましたよ」

「ふん、言われるまでもない」

 

 そっけなく答えるがネジもアカネが嫌いな訳ではない。むしろ尊敬すらしていた。負け続けて悔しいので表に出す事はないが。

 それでもこうしてしばらく会えなくなると寂しく思うくらいの感情は見せていた。

 

「……せいぜい無事に帰って来い。オレがお前に勝つまでお前に死なれたらオレが困るんだからな」

「ふふ。ええ、あなたが満足するまで相手をしてあげますよ」

 

 聞きようによっては微妙に怪しい台詞である。だがこの場にいるのはまだ少年と少女。その言葉を変な捉え方をする事はなかった。良い事だ。一人だけ中身が怪しいが、まあ気にしない方が良いだろう。

 

「では、任務もありますので私はこれにて」

「いってらっしゃいアカネ姉さん! 無事に帰ってきて下さい」

「さっさと行け。お前が長期任務している間にオレはもっと強くなってやる」

 

 二人から見送られ、アカネは木ノ葉の里から出立した。

 

 

 

 

 

 

 さて、アカネが木ノ葉の里から出立した理由、言うなれば任務の内容だが、それは九尾復活の裏にいる存在について調べる為だった。

 あれから既に十三年という年月が経つが、木ノ葉ではナルトを狙う存在は現れる事はなかった。

 諦めたのかと考える事はアカネはなかった。諦めたのではなく、力を蓄えているか、九尾を狙う事が出来ない状況にあったのか。

 とにかく理由は分からないがいずれ何らかの方法でナルトから九尾を奪い取る算段だろうとアカネは考えている。

 

 アカネも十分な戦闘力を身に付けたと自負しており、例え九尾を狙う存在がどれ程強大だろうと最悪逃げ延びて情報を持ち帰る事くらい出来ると踏んでいた。

 今のアカネを倒すなら千手柱間とうちはマダラが協力して殺しに掛かる必要がある。それくらいの戦闘力を既に取り戻していた。

 ……いや、これには語弊があるかもしれない。取り戻したというのは正確ではなく、アカネはヒヨリ時代より強くなっているのだ。

 

 ヒヨリ時代ではしなかったいくつかの忍術の修行や術の開発。これにより闘いの引き出しを増やしたアカネはヒヨリの時よりも強かった。

 今なら柱間とマダラの二人掛かりでも勝てるのではとアカネが考えるほどにだ。

 今ではこの力を振るえる相手を欲しがっているくらいだ。九尾を狙う存在に若干期待している不謹慎なアカネであった。

 

 

 

「おじさん、蕎麦もう一杯追加で」

「あいよ!」

 

 旅を続ける事数日。アカネは久しぶりに里の外を満喫していた。今は中々いい味の蕎麦屋を見つけたので満足いくまで食べている所だ。本当はざる蕎麦の方が好みだがつゆ蕎麦も悪くはない。

 先日は美味しい団子を、その前は鍋料理が評判の宿に泊まり、その前はジューシーなステーキをたらふく食べていた。

 幸い予算はそれなりに多く持っていた。任務に必要だろうと貯めていた貯金と、ヒアシから頂いた必要経費がたんまりとだ。

 

「ふぅ。ご馳走様でした」

「ありあした! いい食べっぷりだったなお嬢さん! 気分がいいから少しだけまけといてやるぜ!」

「ありがとうございます! そうだ。聞きたい事があるんですけど、この辺りで食事が美味しい宿ってありませんか?」

「あーっと、それならこの先の大通りの角を右手に曲がって、そこから少し歩いた場所に――」

 

 ……任務を忘れているのではないかと疑える程満喫しているようだ。

 だがもちろんアカネが任務を忘れた事など一秒たりともない。ないったらない。

 こうして適当に食べ歩きしている様に見えるかもしれないが、定期的に白眼で周囲を見渡して怪しい場所がないか調べているのだ。

 白眼はこういった探索には非常に有効な能力なのだ。透視眼は伊達ではない。決して覗き魔には渡してはならない能力だ。

 

「……覗き魔がいた」

 

 まさかの覗き魔発見であった。アカネが先程教えてもらった旅館には温泉があり、昼間からも良く旅館客が利用している有名な温泉らしい。

 その温泉の女湯をめっちゃ覗いている人物を白眼にて発見してしまったアカネ。

 さて、こうして覗き魔を発見したならばどうするか。それは無視するか、法的機関に連絡するか、直接叩きのめすか、まあ色々あるだろう。

 だがアカネはそれらをする前に、まず頭を抱えていた。それは何故か?

 

「じ、自来也ぁ……」

 

 それは、覗き魔が知り合いだったからだ。

 自来也。それは木ノ葉の里では、いや他里においても非常に有名な人物であった。

 かつて第二次忍界大戦にて多大な活躍をし、雨隠れの里の長であり“山椒魚の半蔵”という二つ名を持つ忍世界でも高名――忍にとって名が売れる事は実力の高さを指す――な忍と激戦を繰り広げ、その半蔵本人から認められた程の実力者。

 それこそが初代三忍の名を受け継ぐ木ノ葉の誇る二代目三忍、大蛇丸・綱手・自来也の三人であった。

 その木ノ葉の今を生きる伝説の忍が、女湯を覗きその顔をだらしなく歪めて悦に浸っているのだ。情けなくて頭も痛くなるというものだ。

 もういっそ初代三忍として三忍の称号を引っぺがしてやろうかと考えるほどだった。

 

 だがまあ自来也が以前と然して変わってはいない様なのでそこは少し安心したアカネだった。

 二代目三忍とはヒヨリ時代に彼らが三忍と謳われる以前から面識があった。

 彼らは三代目火影の弟子だったのだ。それも全員が優秀だったのでヒヨリとしても先が楽しみであった三人だった。

 

 だが、今の木ノ葉に三忍の影はなかった。

 大蛇丸は禁術に手を出し、その上人体実験を繰り返す様になった為に今ではビンゴブック――犯罪者の手配書――にて最高ランクのS級犯罪者の烙印を押されており、当然木ノ葉からも抜け忍となって逃げ出している。

 綱手は抜け忍にこそなっていないが度重なる戦争で大切な人を亡くしてしまい、そのせいで血液恐怖症となり里から離れ放浪し続けている。

 そして自来也。彼は里を抜けた大蛇丸の調査をする為と、もう一つ個人的な事情により世界各地を巡っていた。言うなれば彼だけは木ノ葉の忍として今も立派に活動していると言えよう。

 ……アカネの目には女湯を覗いてだらしなく笑う姿しか映っていないが、立派なのである。

 

 さてさて。まさかの覗き魔がかつての知り合いだった事は驚きだが、だからこそ余計に覗きを許せないというものだ。

 アカネは気配を完全に消し、念のため遥か昔の人生で作っていた能力を発動する。

 その能力とは、チャクラを他人に察知出来ない様にするというものだ。例え全力でチャクラを練ってもそれを感知する事も視認する事も出来ない優れ物だ。白眼であっても見抜けないだろう。

 完全に気配を消しきったアカネはそっと自来也の裏へと回る。当の自来也は今も「ええのぅええのぅ」等と女湯に入っている女性にばれない程度の小声で女湯の神秘について感想を述べていた。

 

 アカネは心の中で「南無……」とだけ呟き、軽くチャクラを足に籠めて……自来也の股間を蹴り上げた。

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!?」

 

 自来也の声にならない叫びが周囲に、世界に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「よっこらせっと」

「うう……」

 

 アカネはあまりの痛みに悶絶し最終的に気絶してしまった自来也を担いで街から離れた川原へとやって来た。

 そこで自来也を大地に下ろし、気付けの為に水をぶっかける。覗き魔に掛ける情けはないのである。

 

「ぶはぁっ! な、なんじゃこれはぁ!?」

「目が覚めましたかこの覗き魔め」

「むお? お前は誰……ぐおおぉぉ、ま、まだ玉がぁっ! くぅぅ! ワシの大切な息子をあの世に旅立たせようとしたのはお前かのぉ!? なんて事をしてくれたんじゃ!」

 

 自来也が気絶して既に結構な時間が経過しているが未だにあそこは痛むようだ。潰れてはいないかを確かめつつ、自来也は男に対して恐ろしい事を仕出かしたアカネへと詰め寄る。

 

「覗いていた奴が悪いんですよ」

「何を言うか! あれは覗きではなく取材じゃ! 女体を直に目にする事でインスピレーションを湧き立てより良い作品を作る! その為に必要な事なのだ!」

 

 要約すれば自分の為に必要だから覗いた。だから何も悪くはない、である。悪くないわけがなかった。

 

「何だその無茶苦茶な理屈は。あなたがどう言おうが覗きは覗きです。全く三忍ともあろう者が情けない……」

「お? ワシの事を知っておるのか?」

 

 木ノ葉の三忍として名は売れている自来也だが、容姿に関しては若い忍にはあまり知れ渡ってはいない。自来也が大蛇丸を追って木ノ葉を出たのがかなり昔の事だから仕方ない事だ。

 なので名前を名乗る前から自分の事を三忍と知っていた歳若いアカネに対して不思議に思ったわけだ。

 

「ええ、知っていますよ。木ノ葉の誇る二代目三忍の一人自来也でしょう。まあ今のあなたを見て誇りに思う里の人がどれだけいるのやら……」

 

 はぁ、と思い切り溜め息を吐くアカネ。その言動を聞いて自来也は憤慨する。

 

「なんじゃとぉ! 女子(おなご)じゃからと思っとったら大層な口を聞きおって! 自来也様と言わんか自来也様と! 全く最近の若い奴は礼儀を知らんの……」

 

 自分を知っているという女性に久方振りに出会えて内心喜んでいた所をぞんざいに扱われ、上げて落とされる様に感じた様だ。そのせいかぶちぶちと小言を言うように文句を言っている。

 アカネとしても一応は目上の立場にあるので様という敬称を付けようとは思っていたが、まああの情けない顔を見せられてはその気も失せるというものだ。

 

「尊敬されたかったら尊敬出来る様に見せなさい……あんな出会いをしてどうして敬う事が出来ますか」

「ふん、口は達者だのぉ。まあいい。ワシは女性には優しいフェミニストよ。今回ばかりは許してやる」

 

 などと言っているが、その実本当に自来也は怒ってはいない。見た目や言動で誤解される事もあるが、自来也の性根は善性だ。女子供相手に本気になる様な人間ではなかった。

 それはアカネも知っているかつての自来也と同じであった。歳を取っているが言動は然して変わらず、そして内面も以前と同じである事に安堵する。

 それはつまり信用の置ける木ノ葉の忍であるという事だ。そこでアカネは自来也に協力してもらおうと考えた。

 

「ところで自来也……様」

「うん? 言い直した所はまあ褒めてやる。それで、どうした? サインならくれてやらんでもないぞ?」

「いえサインはいりません。というか、作品とか言ってましたが何を作ってるんですか?」

「おお! 良くぞ聞いた! ワシが手がけているのはこれよ!」

 

 話が妙な方向にずれているが自来也があまりに嬉しそうなので止めるのも何だなとアカネは最後まで聞く事にした。

 そして自来也が懐から出したのは一冊の本、小説だった。

 

「イチャイチャ……パラダイス?」

「うむ! これはワシの実体験を元に描かれた小説よ! 恋に愛! 出会いに別れ! 人と人の複雑な恋愛模様を描いた渾身の一作よ!」

「へぇ……読ませてもらってもいいですか?」

「うむ!」

 

 あの自来也が物書きをするようになるとはアカネも意外だった。

 タイトルからして恋愛物だろうが、どんな小説なのかと気になり、自来也から手渡されてペラペラと中を読んでいく。

 そうして読み進めていく内に段々とアカネの手が震えてきた。そして自来也に向かって叫んだ。

 

「ご大層な事を言っても中身は所詮エロ本じゃないですか!!」

 

 エロ本を所詮と言い張るアカネ。彼女の根源である始まりの人生では大層お世話になったというのにこの扱いである。

 もうアカネに男であった頃の残滓は残っていないのかもしれない……。

 

「かぁーッ! これだから女子(おなご)はいかん。男にとってエロ本とは己を導き賢者へと至らせる悟りの書よ! エロ本がなければどれほどの男が欲に狂った事か! それを所詮とは片腹痛いわ!」

「うっ……!」

 

 自来也の気迫に圧されてしまうアカネ。それほどまでに自来也の説得力は高かった。

 

「って、そうじゃありません! 私はあなたとエロ本の話をしたいわけじゃないんです! 全く……」

 

 かつての日向ヒヨリにここまでエロ本エロ本と連呼させたのは忍多しと言えども自来也だけだろう。

 まさに二代目三忍の名に偽りなし。恐るべきは自来也よ。

 

「そう言えば何か言っとったのォ。ワシに何か用でもあるのか?」

「ええ。自来也様は大蛇丸を追っているのでしょう? その情報を教えてもらいたいのですが」

「!?」

 

 そう、自来也は確かに大蛇丸を追っている。自来也のかつての同期であり、同胞であり、同じ三忍であり、ライバルであり、そして友でもあった大蛇丸。

 そんな大蛇丸が大罪を犯して木ノ葉から去っていった。抜け忍となった大蛇丸が何をしようとしているか、その一部だが自来也には分かっていた。

 木ノ葉への復讐である。自分を認めず四代目火影に選ばず、禁術の実験をしていた所を見つかり逃亡せざるを得なくなった。そんな大蛇丸が木ノ葉をいつまでも放っておくとは思えなかったのだ。

 だからこそ同じ三忍であった自来也が大蛇丸の調査に乗り出したのだ。

 

 それはいい。本当の事だし、木ノ葉でも知っている者はいる。歳若いアカネが知っているのも担当上忍に教えてもらったという事も有り得るだろう。

 だが、何故それを知りたがるのかが疑問だった。大蛇丸は非常に危険な存在だ。それは強さ以上にその性質が問題だった。

 老若男女は大蛇丸の前に等しく意味がない。大蛇丸は他人の事を己の役に立つか立たないか、邪魔をするかしないかくらいにしか考えていない。

 役に立つならば徹底的にコマにして使い潰し、邪魔をするならば何であろうと排除する。その際邪魔者が有用な実験材料になるなら血の一滴まで研究し尽くすだろう。

 そんな狂人について知ったところで良い事などない。下手に近づけば良くて死、悪くて一生実験動物だ。

 

「……どうして大蛇丸について知りたがる?」

「十三年前の九尾復活について知っていますね?」

「うむ」

 

 あの事件は自来也にとっても痛々しく忘れがたい事件だった。

 四代目火影波風ミナトは自来也の自慢の弟子であった。その付き合いは師と弟子の関係だけでなく私生活にまで及び、生まれてくる子どもの名前も自来也が名付け親になった程だ。

 それほどまで付き合い長く信頼置ける弟子が火影となって喜んだのも束の間、あっという間に死んでしまったのだ。

 忍の世を変革するとまで思っていた弟子の一人が亡くなった事を自来也がどれだけ悼んだ事か。九尾復活は忘れるわけがない事件である。

 

「あの事件の裏にいる犯人を追っているのですが、その容疑者の一人が――」

「大蛇丸という事か。なるほどの」

 

 何故この少女がそんな重要な任務を負っているのか。何故そんな重要な任務を三忍とは言え自身に話すのか。

 疑問はあるが、どうして大蛇丸について知りたいかは分かった。

 だがそれに対する自来也の答えはこうだった。

 

「断る。悪い事は言わん。お前は里に帰れ。大蛇丸はお前なんぞの手に負える奴じゃあないんでのぉ。あたら若い命を捨てる事もなかろうて」

 

 それは任務を帯びた忍にとって侮辱とも取れる言葉だ。

 だがそれを言われた本人は静かに微笑んでいた。

 

「本当に。あなたが四代目になっても良かったと私は思っていたんですけどね」

 

 あの言葉が自来也の優しさから来る物だとアカネは理解していたのだ。

 自来也は自由奔放な性格故に火影として里に縛られるのを好まないのはアカネも知っている。だが自来也ならば火影に相応しい器であるともまた知っていた。

 当の自来也はまるで自分の事を昔からの知り合いの如くに話してくるアカネに疑問を覚えていたが。

 

「今からでも五代目火影になりませんか? 三代目もいい歳ですし、隠居させてあげなさいな。師を労わるのも弟子の役目ですよ?」

「……お前、本当に何者だ?」

 

 アカネと会話していると自来也は何故か昔を思い出してくる様な気になり不思議に思っていた。

 昔の知り合いのような、いや、それどころか目の前の少女が齢五十の自分よりも年上のような気さえしてくるのだ。

 

「ふふふ、そうですね。あなたにならまあいいでしょう」

 

 何がいいのだろうか。自来也がそれを聞き返す前にアカネは立て続けに言葉を吐く。

 

「私の名前は日向アカネです」

「……日向一族か」

 

 だが聞いた事はない名前だ。やはりさっきの感覚は気のせいかと自来也が思いなおしたところで、アカネがチャクラを練り始めた。

 

「ぬう!?」

「力があれば大蛇丸について聞いても問題はないでしょう? さあ、試してみなさい!」

 

 有無を言わさぬアカネの圧力が自来也を襲う。

 それに自来也は無意識に反応して攻撃を選択していた。

 

――火遁・炎弾!

 

(しまったァ! あまりのプレッシャーについ!)

 

 アカネが放ったプレッシャーにより防衛本能が刺激されたのだ。アカネに今まで敵意がなかったのも原因だろう。急なプレッシャーに咄嗟に動いてしまったのだ。

 自来也の口から炎の塊が吐き出される。自来也の使う火遁の術の中では弱い部類の術だが、それでも人間一人を殺すには十分な威力だ。

 その、人間を殺すにたる威力の炎弾は、身じろぎ一つしていないアカネの目の前で消し飛んだ。

 

「な、なんじゃとぉッ!?」

 

 避けるなら忍として合格だ。当たれば忍としては落第点だ。耐えられずに死ねば忍失格だろう。防ぐならば状況によるが一流とも二流とも取れる。だが、かき消すとなれば忍としてどの程度の実力と評せばいいのだろうか。

 

(チャクラの放出で炎を消し飛ばしたのか! 日向の回天ではなく、部分的に放出したチャクラのみで! 何という奴だ!)

 

「ついでだ。お前の実力がどれ程上がっているかも試してやろう」

「ぬぅ!? 舐めるなよ小娘! 北に南に西東! 斉天(さいてん)敵わぬ三忍の白髪童子蝦蟇使(はくはつどうじがまつか)い! 泣く子も黙る色男! この自来也様を試そうたぁ百年早いわぁッ!」

 

 自来也は大仰なポーズを取り見栄を切る。それが勝負開始の合図となった。

 

 




 うちは壊滅? そんなもの、うちにはないよ。

 アカネにより起こった木ノ葉の変化。

 うずまきナルト……九尾の被害が殆どなかった為原作よりも多少は迫害が抑えられている。だがやはり両親がいない事や四代目の子であると隠されている事、そして九尾の人柱力である事が理由で迫害自体は受けている。

 うちは一族……二代目の死亡次期がずれた為に三代目とダンゾウに教育が行き届き、原作での二人の不和がなくなる。そのおかげで滅ぶ事なく今も木ノ葉の警備部隊としてエリート街道まっしぐら。日向と比較的仲が良い。

 うちはイタチ……うちは一族がクーデターを目論んでいなかったので今も普通に木ノ葉の忍となっている。そもそも暗部に入ってない。そのせいか実力は若干だが原作より劣る。それでもうちは最強の一人。

 うちはサスケ……イタチが一族皆殺しなんてしてないのでお兄ちゃん大好きっ子のまま。でも兄に対する多少のコンプレックスはある。兄に追いつきたくて必死に努力している。原作は原作で兄を殺す為に必死に努力していたので実力差はなし。

 うちはシスイ……うちは一族がクーデターを目論んでおらず、ダンゾウも暴走していないので今も普通に生きている。その腕と人格から火影の右腕に選ばれた。うちは最強の一人。

 うみのイルカ……九尾が里を攻撃していないので両親は顕在。アカデミーの教師として立派に働いている。原作と同じくナルトの理解者にして恩師。

 大蛇丸……木ノ葉から逃げる際原作と違い三代目に本気で狙われ命からがら逃げ延びる。そのせいで三代目に結構恨みを持っている。イタチが里抜けしていないから今でも暁の一員。

 猿飛ヒルゼン……殆ど原作と変わっていないが、原作よりも若干現実主義になっている。それでも理想家である事は変わらず、ダンゾウといい感じにバランスを取っている。大蛇丸を可愛がっていたがあまりに非道に走った為、悲しくはあるが処分を断じた。

 志村ダンゾウ……原作と乖離しまくりの人物。二代目の思想を履き違える事なく受け継いだので里の為に里の人間を無闇に犠牲にする事がなくなった。と言っても本当に必要ならそうする覚悟もある。ヒルゼンと二人でいい感じのバランス。裏の火影。五代目就任の声も上がったが裏に徹したいから断っている。まさにDANNZOU。

 日向ネジ……父親が死ななかった為原作と違い宗家への恨みはない。ヒナタの事も才能はないと思っているが蔑むような事はしない。アカネに対してライバル心を持っており必死に努力しているが、原作も宗家憎しと必死に努力していたので実力に差はない。

 日向ヒアシ……性格など原作と殆ど変わってないが若干丸くなった。弟との関係は良好。実力も原作よりも伸びており日向最強(アカネを除く)の一人。

 日向ヒザシ……アカネが色々したせいで生き延びた。兄との関係も良好になり宗家への恨みも薄れている。日向最強(同上)の一人にして火影の左腕となっている。

 日向ヒナタ……性格は原作と殆ど変わっていない。ネジとの関係は良好となっている。アカネの事を姉と呼び親しんでいる。原作と変わらずナルトの事が大好き。

 日向ハナビ……特に変化なし。強いて言うならばアカネの事を父も認める強者として自身も認め尊敬している。出番? はははこ奴め。

 他にも変化のある人物はいるけどそれはまだ秘密。


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NARUTO 第七話

「ふっ!」

「ちぃっ!」

 

 懐へと接近しようとするアカネに対して自来也は忍法・針地蔵にて自分の髪の毛を鋭い針に変化させ、それで全身を覆う事でアカネに触れられるのを防ぐ。

 日向の体術は触れるだけで対象の経絡系を攻撃し内臓に直接ダメージを与える防御不可能な柔拳だ。触れられたが最後、自来也と言えどダメージは免れられない。

 ならば初めから接近戦は捨てるまでだった。触れられさえしなければ柔拳は発動しない。中距離から遠距離を保ち忍術などの遠距離攻撃にて仕留める。それが日向への一般的な対応法だ。

 初手を針地蔵にて防ぎ、次に距離を取る。それが自来也の選択だった。

 

 だが、その選択がすでに間違いだった。

 

「はぁっ!」

「ぐふぉおぉっ!?」

 

 アカネは鋭い針の山に何ら躊躇する事なく拳を叩きこんだ。普通ならその拳は無数の針によってズタズタになっているだろう。

 だが針山に叩きこんだ拳には傷一つ付いていなかった。そればかりか針地蔵にて防御していた自来也が吹き飛んでいく始末だ。

 

(な、なんちゅう馬鹿力! こりゃあ綱手と同じ攻撃か!)

 

 三忍の綱手は医療忍術のスペシャリストだ。そして医療忍術には非常に高度なチャクラコントロールを必要とする。

 そのチャクラコントロールを応用し、攻撃する箇所にチャクラを集中する事で攻撃力を跳ね上げる技術がある。それを綱手は得意としていた。

 綱手がその気になれば指一本で大地を割る事も出来るほどだ。拳を叩き込めば大地は広範囲に渡って砕け散るだろう。

 その綱手と遜色ないレベルの攻撃をアカネは放っていたのだ。もし針地蔵がなくまともに今の一撃を受けていれば、それだけで勝負は決していただろう。

 アカネの拳が傷一つ付いていないのもチャクラを集中して防御力を高めていた為だった。

 

(こうして吹き飛んでいると綱手に全力で殴られた時の事を思い出すわい……)

 

 若干のダメージを受けて勢いのままに吹き飛ばされながら、自来也はかつての死の恐怖を思い出す。

 若かりし頃に女湯の綱手の覗きをした事がばれて綱手から全力で殴られ、両腕と肋骨六本の骨折及び内臓破裂という重傷を負い死の境をさまよった時の事を。

 もしこれで死んでいれば三忍として最も最低な死に方をした忍として別の意味で伝説になっていただろう。生きていて良かったものである。

 

「それにしても……」

 

 優に100mは吹き飛んだか。ようやく地面に降り立った自来也はある疑問をアカネにぶつけた。

 

「お前本当に日向か!? 日向が剛拳なんぞ使うんでないわ!」

 

 剛拳とは肉体を用いて直接攻撃にて対象の外部を破壊する攻撃。一般的にはこちらの攻撃方法が肉体による直接攻撃では基本だろう。内部破壊を主とする柔拳の方が珍しいのだ。

 だがその珍しい武術を基本戦術として取り入れているのが日向なのだ。白眼との相性も非常に良く、日向の長き歴史に渡って練り続けられた技術と言えよう。

 言うなれば日向の誇りの一つと言えるのが柔拳だ。だというのに思いっきり剛拳を放ってくるアカネに自来也も驚愕だった。

 

「失礼な。柔拳も剛拳も等しく敵を倒す為の技術。状況によって使い分ける事も必要でしょう。そもそも、日向が剛拳を使って何が悪い!」

「お前に日向の誇りはないんかのぉッ!?」

「…………もちろんありますよ?」

 

 絶対ない。そう確信した自来也であった。

 

「ええい! まあこうして距離を取れたから良しとしよう! ここからが本番よ! もはやお前を女子供とは思わん! 全力で相手をしてやろう!」

「わたし、かよわい、おんなのこだよ?」

「やかましい! どこの世界に人間を100mも殴り飛ばすか弱い女子(おなご)がおるっ!?」

 

 自来也は極当たり前の正論を吐きながら指を僅かに噛み切った。

 これは口寄せの術を使用するのに必要な行為である。血を地面や巻物などに擦り付ける事で術式が発動するのだ。もちろん必要な印と相応のチャクラを必要とするが。

 そして自来也が口寄せしたのは、巨大なガマ蛙であった。流石は自分の事を蝦蟇使いというだけの事はあるだろう。口寄せされたガマの大きさは50mほどもあった。

 

「……ガマブン太か」

「ブン太まで知っとるとはのォ……」

「なんじゃい自来也ァ! 久しぶりにわしを呼んだと思うたらこないなガキを相手にさせる気かワリャ!」

 

 煙管を咥え、腹にはサラシを巻き、法被を着て、そしてこの言動。まさにヤクザそのものと言えるこの赤い巨大ガマこそ、自来也が契約しているガマでも最強最大のガマ蛙、ガマブン太である。

 扱い辛い性格をしており、ガマブン太を口寄せ出来るのは現状自来也以外にはいない。それくらい気位が高いのだ。気に入った人間でないとその頭の上には乗せようとはしない。

 だがその力は確かである。巨体故の破壊力、水遁系の術、ガマ特有の生物としての力などを有しており、全力で闘えば地形が変わるほどだ。

 

「気を抜くなよブン太! 見かけで判断すると痛い目を見るぞ!」

「ああん!? ……ん? あいつ何処かで見た事ありゃせんか?」

 

 自来也の言葉にアカネを注意深く確認したブン太。そこでブン太はアカネに対して既視感を覚えた。

 見た目も多少はある。だがそれ以上にアカネのチャクラをかつて何処かで感じた覚えがあるのだ。

 

 確かにブン太とアカネは面識があった。正確にはブン太とヒヨリに面識があったというべきか。

 ブン太は妙木山と呼ばれる秘境に住むガマであり、この秘境にすむガマは仙術と呼ばれる特殊な力を使用する事が出来る。

 仙術とは自然エネルギーを利用した術の事だ。自然エネルギーを取り込む事で感知能力が高まるのである。

 

 今はまだ仙術チャクラ――本来のチャクラに自然エネルギーを加えたもの――を練っていないが、それでも自然エネルギーを感じ取れるブン太は感知能力もそれなりに高い。

 そんなブン太がアカネのチャクラに反応している。つまりはかつて感じた事のあるヒヨリと同質のチャクラに反応しているという事だ。

 まだアカネがヒヨリである事に気付いていないが、いずれ気付く可能性もあった。

 まあアカネは自来也には自分の正体を教えるつもりなので何の問題もなかったが。

 

「ふふふ、ブン太が相手なら私も口寄せをしましょう!」

「なに!?」

「はん! どがいな相手じゃろうがわしの敵じゃあないわ!」

 

 アカネも自来也と同じ様に指に傷を作り、そして印を組んで……莫大なチャクラを練り込む。

 

「な、なんというチャクラ……! あやつは人柱力か何かか!?」

「チャクラに尾獣の気配はないわい! ありゃああのガキだけのチャクラじゃあ!! あない馬鹿でかいチャクラ練りこんで何呼ぼうっちゃうんじゃあ!?」

 

 自来也とブン太が驚愕するほど莫大なチャクラを練り上げて口寄せされる物。それは一体何なのか。

 大地に手を置く事で口寄せの術式が広がる。そして莫大なチャクラを消費してある生物が口寄せされた。

 

「……あれ? 綱手様ではないのですか?」

 

 それはとても可愛らしい声だった。そして、とても小さかった。

 それは、人間が一般的にナメクジと呼んでいる生き物で、人間が一般的にナメクジと認識出来る大きさだった。具体的には小指くらいの大きさである。

 

「……」

「……」

「……あ、わりゃカツユか?」

「あらブン太さん。お久しぶりですね」

 

 口寄せされたのはカツユ。妙木山と同じく秘境と呼ばれる湿骨林に住む巨大ナメクジ……そのほんの切れ端の様な分体であった。

 ちなみにブン太とカツユの会話から分かるように、二人――二匹?――は知り合いである。結構古い仲であった。

 さて、口寄せされたカツユは召喚主であろうアカネへと向き直る。小さなナメクジが一生懸命に体を方向転換している様はどこか可愛くもあるかもしれない。

 

「あのー、あなたが私を口寄せしたのですか?」

「……はい」

「この口寄せ……私を口寄せ出来て、かつこの程度の大きさしか口寄せ出来ない……まさかあなたは!」

「い、言わないでぇ……」

 

 どうやらアカネの正体に気が付いた様子のカツユ。ヒヨリとカツユが口寄せ契約を結んでいたのでそこから気付くのも当然の帰結である。

 ちなみに正体に気付いたのはアカネがほんの切れ端の様な小さな分体しか口寄せ出来なかったからだ。そう、かつてのヒヨリもそうだったのである。

 そう……ヒヨリは、アカネは口寄せが……というより時空間忍術全般が非常に苦手であった。もう完全に適正がなかった。

 アカネとしてはヒヨリの肉体ではないのだから適正も変わっているのではと思って試しに口寄せの術を使ってみたのだが、結果はご覧のあり様であった。

 ちなみにアカネが言わないでと言っているのは正体について言わないでほしいではなく、この程度の大きさしか口寄せ出来ないという点である。

 

「どうして生きているのですかヒ――」

「解!」

 

 口寄せの術を解除したと同時に、白い煙と同時に音を立ててカツユ(超ミニ分体)は湿骨林へと還っていった。

 

「……」

「……」

「……」

 

 三者三様の意味が籠められた沈黙が場を支配する。

 訂正しよう。三者二様であった。一人と一匹の思いは同じだからである。

 

「……おい。こがいな阿呆がほんまに強いんか?」

「……ワシも自信がなくなってきた。さっきのは幻術でも見せられてたのかのォ……」

「……私にだって、苦手な事くらい……ある」

 

 扉間やミナトが得意としていた飛雷神の術や、様々な契約動物を呼び出せる口寄せの術などの時空間忍術の事をアカネは気に入っていた。

 ヒヨリ時代から空いた時間があればそれはもう練習していた。そうして会得出来たのが、馬鹿でかいチャクラで適正のなさを強引に振り切ったカツユとの口寄せである。

 それでも微々たる大きさのカツユしか呼び出せないのだが。ちなみに三忍の一人である綱手は数十メートルはあるカツユ(同一ナメクジ)を呼び出す事が出来たりする。

 

「さあ勝負の続きと行きましょう!」

「おお! 掛かって来いひよっこがぁ!」

「優しいのぅ自来也。見なかった事にしてやるんかい」

 

 あまりの哀れさに取り敢えず先の事を見なかった事にしてあげた自来也である。やはり彼はフェミニストなのだ。

 

「やかましいブン太! この屈辱を怒りに変えてお前達にぶつけてやる……!」

「完全に逆恨みだのぉ……。まあ良い! ブン太! あ奴から離れるように動いてくれ! 綱手ばりの馬鹿力で殴られるでのォ!」

「なんじゃいわしゃただの足がかりかい! 振り落とされんようにしろよこの阿保がぁ!」

 

 自来也がブン太を口寄せしたのは単純な戦力としてではなく、アカネを近づかせないようにする為だった。

 巨大なガマ蛙が移動するのと、人間が移動するのでは当然歩幅が違い過ぎる。しかもブン太は蛙らしく跳躍が得意であった。

 一度の跳躍で一気に距離を取り、遠距離から自来也が攻撃をする。

 

――蝦蟇油弾!――

 

 自来也の口から可燃性の高い油が一気に放出される。当たれば体は油で(まみ)れ動きを多少なりとも阻害されるだろう。

 そして油で塗れた体は火遁の術で焼き払われる事になる。蝦蟇油弾と火遁の相性は抜群だ。その火力は骨も残さない程だ。

 まあ当たればの話だが。遠距離からの攻撃は確かに近接主体の忍には有効だが、距離があれば攻撃は避けやすくなるものだ。

 ましてや相手は日向ヒヨリの生まれ変わりのアカネだ。遠距離攻撃をアカネに当てたいならば超広範囲の術か超高速の術を使わなければならないだろう。

 

 蝦蟇油弾を躱したアカネは自来也に接近せず、遠距離戦に付き合う事にした。

 日向にも中・遠距離用の術はある。それに接近戦はヒアシとヒザシを相手に十分な修行を積んでいた。ならば遠距離戦もたまにはこなすかというのがアカネの考えだ。

 修行相手にされている自来也としたらふざけるなという考えかもしれないが。

 

――八卦空掌!――

 

 八卦空掌。掌からチャクラによる真空の衝撃波を放つ柔拳の遠距離攻撃である。白眼を用いれば遠方の敵の急所を的確に射抜く事も可能だ。

 威力に関しては個人個人で違う。要は籠められたチャクラとチャクラを放出する技術によって威力が変化するわけだ。

 アカネの威力に関してはまあ自来也の反応を見れば分かりやすいだろう。

 

「ぬおお!?」

 

 自来也はブン太の上で思いっきり横っ飛びする。そして自来也のすぐ真横を八卦空掌が通り過ぎていった。

 その時自来也の耳に入った音は大砲の弾でも横切った様な音だった。

 ふと自来也が後ろを見ると大きな雲にどこか不自然な、しかし綺麗な大穴が空いていた。どうやら八卦空掌の軌道線上にあった雲のようだ。

 

「……殺す気か!」

「ははは。三忍ともあろうお方が何を仰る。死にはしませんよあれくらいなら。多分威力なら綱手の一発の方が上ですよ上。だから何とかなりますって。私はあなたを信じています!」

「そんな信頼いらんわ! ブン太ァ! 油だ!」

「もうお前加減する気ないじゃろ? まあええわい! こいつ相手に加減の必要はないじゃろうからなぁ!」

 

 ブン太が自来也の要求に応える。今から二人がする合体忍術は非常に強力かつ超広範囲の術だ。一介の忍にする攻撃ではないだろう。

 だがまあここまで来てアカネを一介の忍と判断するほど自来也は馬鹿ではない。

 ちなみにブン太もどうやらアカネの正体に気付いたようだ。これほどまでにチャクラを嫌というほど感じさせられたら気付きもするものだ。

 自来也ももしかしたら気付いているのかもしれない。そうでなくてはこの様な術を使いはしないだろう。……多分。

 

――火遁・蝦蟇油炎弾!!――

 

 小さな町程度なら軽く飲み込む程の巨大かつ強力な火遁がアカネを襲う。

 ブン太の口から出た大量の油と自来也の火遁が合わさった結果だ。

 その迫り来る死の炎に向かって、アカネは両手を突き出した。

 

――八卦空壁掌!――

 

 それは両手で放たれる八卦空掌だ。だが並の使い手では個人で使用する事は叶わず、二人以上の日向一族が同時に八卦空掌を放つ事で八卦空壁掌となる。

 これを個人で放つ事が出来る日向はアカネとヒアシとヒザシの三人だけだ。

 そして威力は八卦空掌の倍、どころではない。両手で放つ事でチャクラの放出量を増し、さらに放出面積を広げる事で術の範囲も大きく広げる事が出来る。もちろん面積を狭めて貫通力を上げる事も出来る。

 

 蝦蟇油炎弾と八卦空壁掌がぶつかり合う。範囲と量では蝦蟇油炎弾が、面積辺りでの威力は八卦空壁掌がそれぞれ勝り、やがて二つの術は互いに相殺し掻き消えた。

 

「ぬぅ、これすらも防ぐか! 流石は!」

「!? おいぃ! 奴はどこじゃあ!?」

「なに!?」

 

 ブン太の言葉に驚き炎が消え去った大地を見るが、アカネが元いた場所には誰もいなかった。

 そればかりか、どれだけ探そうともアカネの姿はない。

 

「ブン太! 仙術で探れ!」

「もうやっとるわい! じゃがあのガキのチャクラをとんと感じん! どないなっとるんじゃい!?」

 

 自然エネルギーを取り込み仙術チャクラを練り上げていたブン太は、仙人モードで感知能力を大幅に上げていた。

 だがそれでもアカネのチャクラを捉えることが出来ないでいた。気配も微塵も感知出来ない。一体何処にいったというのか。

 そんな二人の疑問はすぐに解決した。

 

「っ!?」

「な、なんじゃとぉ!?」

 

 二人がアカネに気付いた時には、すでにアカネは自来也の後ろを取ってそっと掌を自来也へと当てていた。

 アカネは八卦空壁掌を放ってからすぐに炎を目眩ましに上空へと跳躍したのだ。そしてチャクラを感知出来ないようにかつての能力である【天使のヴェール】を発動させた上でチャクラと気配を消している。これで仙人だろうが何だろうがアカネのチャクラを感知する事は出来ない。今のアカネを捉えるには目視か、アカネの気殺以上の知覚能力を有するしかなかった。

 

 柔拳使いに触れられている。それを意味する所を理解出来ない自来也ではない。

 

「……ワシの負けですのォ」

「ええ。私の勝ちです」

 

 素直に負けを認めた自来也を見て、そっと手を下ろしてアカネは微笑む。

 これにて、近くの街を大騒ぎさせた傍迷惑な勝負は終わりを告げる。

 巨大蝦蟇や雲を貫く衝撃波や蝦蟇よりも巨大な炎などを放っておいてばれないわけがなかった。

 

 ……ちなみにそれを知った二人は脱兎の如く別の街へと逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんでした!」

 

 今、街道から僅かに逸れた森の中で一人の大男が少女に対して土下座していた。

 大男の名は蝦蟇使いの仙人・自来也。そして少女はもちろん日向アカネであった。

 

 どうしてこうなったか。それはまあ、アカネの正体に自来也が気付いたからに他ならない。

 というか、実は先の戦闘中に自来也はアカネの正体がヒヨリである事には気付いていた。と言っても気付いたのはかなり後半だったが。

 見た目が違い過ぎる――老女と少女――し、そもそもヒヨリが死んでいるのでアカネがヒヨリであるとは思考の端にもなかったのだ。

 だが流石にあれだけ闘えばそのチャクラからアカネがヒヨリである事に気付いたのだ。

 

 自来也にとってヒヨリとは言うなれば木ノ葉の下忍にとっての自来也と同じだ。

 自分が子どもの頃から三忍と謳われ今の木ノ葉の礎を築いた伝説の忍相手に、小娘だのひよっこだのと言い放ったのだ。まあ(こうべ)を垂れもしよう。

 

「気になさらずに。今の私は所詮は礼儀知らずな小娘のひよっこ。三忍にして斉天(さいてん)敵わぬ白髪童子蝦蟇使(はくはつどうじがまつか)い、泣く子も黙る自来也様にその様に畏まられると恐れ多いですよ」

 

 ニヤニヤしながら心にもない台詞を吐くアカネ。完全に自来也の反応を楽しんでいるようだ。歳を取ると性格が悪くなるのかもしれない。

 

「し、しかし、その件に関してはワシとて言い分がありますぞ。ヒヨリ様は確かに亡くなられたはず。それがどうして生きて、しかも若く別の肉体でいるのですか?」

 

 これに関しては自来也も詮索しなければならない重要な件だ。もしかしたら他者の肉体を乗っ取るという非常に凶悪にして外道な術を用いて今も生き永らえているのかもしれないのだ。

 いくらヒヨリが木ノ葉の伝説とは言え、その様な外道に落ちれば里の為にも倒さねばならなくなる。今までのアカネの言動に怪しいモノを感じていないが、だからと言って油断出来る相手ではない。

 

 そんな風に自来也に怪しまれているアカネはと言うと、何故か遥か過去に外道な事をしたような気になって心にちくちくと刺さる物を感じていた。

 まあ身に覚えはないので気のせいだろうと思い、自来也の疑問に答える。無知とは時に己を助ける術となるのだ。何もかも知ればそれで良いという物でもない。

 

「これは私がかつて作り出した術による結果ですね。言うなれば新たに生まれ変わる術、輪廻転生を果たしたわけです。だから正真正銘この体は私の生まれ持った体ですよ」

「なんと! 輪廻転生……その様な術を……。ッ!? もしやヒヨリ様は輪廻眼を持っておられるのですか!?」

 

 輪廻転生と輪廻眼。輪廻という共通の言葉を持つそれに自来也はもしやと勘ぐる。

 輪廻眼とは、白眼・写輪眼と同じ三大瞳術の最後の一つにして最も崇高な瞳術と言われている。

 他の二つの瞳術と違い血継限界として引き継がれる物ではなく、その開眼方法は明らかになっておらず、そもそも誰が開眼するかも知られていない伝説の瞳術だ。

 だが自来也はその輪廻眼に見覚えがあった。もっとも、その持ち主も今では死んでしまったという話を自来也は耳にしたが。

 

「いえ、輪廻眼なんてとんでもない代物は持ってませんし、私でも今まで見た事ありませんよ。この術は私オリジナルの私にしか使用出来ない秘術です。瞳術や血継限界ではありませんよ」

「……そうですか。しかし、生まれ変わりとはまたとんでもないですのォ。あのヒヨリ様がこんなピチピチギャルになるとは……」

 

 すでに老境の身であったヒヨリを思い出しながら今のアカネと見比べ、どこかいやらしい目付きをしている自来也。

 誰であろうと変わらないその姿勢には一貫した物を感じる。まさに(おとこ)である。

 

「剛と柔。どちらがいいですか?」

「空が青いですなぁ。お、鳶ですぞ」

 

 アカネの脅しを聞いて空を飛ぶ鳶を見ながらそう言ってすっとぼける自来也。

 

「全くあなたは。まあいいです。私の事はヒヨリではなくアカネと呼んで下さい。もちろん敬称も敬語も必要ありませんよ。今の私に肩書きなど下忍くらいしかありませんからね」

「しかし、そう言うわけには……」

 

 自来也としては先人にして憧れでもあるヒヨリにその様な態度を取る訳にはと思っている。

 だがアカネとしては自来也程の忍に畏まられる所を誰かに見られると色々と勘ぐられるし、フレンドリーに接してくれた方が色々とやりやすいというものだった。

 

「私は気にしないので、あなたも気にしないで下さいな」

「そうですか? それじゃあ普段通りにするかのォ。改めてよろしく頼むぞアカネよ」

 

 自来也の順応性の高さは三忍一なのかもしれない。この態度の変化には流石のアカネも驚いていた。

 

「え、ええ。それで結構です」

「いやぁ、元々敬語は苦手でのォ。そう言ってくれると助かるわい」

 

 かつては里の狂気と恐れられた事もある自来也である。そんな男が敬語を得意とするわけがなかった。

 まあ流石の自来也も人によっては敬語を使うのだが、相手が使わなくて良いと言うなら遠慮なく甘えるだけだった。

 

「ところで、色々と疑問は解けたが……あの口寄せはどういうことなんだ?」

「……恥ずかしながら、私は時空間忍術が苦手でして」

「それでもアレはないぞ? どうしてあれだけのチャクラを練り込んであの程度のカツユしか呼び出せんのかさっぱり分からんわい」

 

 自来也としては最早時空間忍術の適正がないときっぱり言われた方が納得が行くレベルであった。

 なまじわずかばかりでもカツユを口寄せ出来た事から全く適正がないわけではないだろうが、通常のチャクラでは恐らくカツユの欠片たりとも口寄せ出来ないだろうから、アカネのチャクラが膨大でなければ確実に時空間忍術の適正は零という烙印を押されていただろう。

 

「なにを! 私がその気になればもっと大きなカツユを口寄せ出来るという所を見せてあげましょう!」

「お、おい?」

 

 そう言ってアカネは四方に結界を作り出す。しかもその結界は多重結界となっていた。これならアカネが全力でチャクラを練っても結界は壊れる事もなく外に漏れる事もないだろう。

 そう、全力でチャクラを練っても、だ。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「お、おお! ちょ、ちょい! ちょい待て! アカネ! いや、アカネ様! あんた国でも破壊する気ですかいのォ!?」

 

 自来也が慌てて敬語になり、慄いてそう口走る程に馬鹿げたチャクラをアカネは発していた。

 あまりのチャクラに空間が歪んで見えるほどだ。結界も相当なレベルの結界を多重に展開しているというのに軋んでいるようだ。

 そしてアカネは狼狽する自来也の言葉など気にもせずに更にチャクラを高めていった。そして、カツユを口寄せした。

 

「口寄せの術ぅぅ!」

 

 音と共にカツユが現れた。その大きさは先のアカネの口寄せとは比べ物にならないほどだ。

 まさにナメクジと牛くらいの差があるだろう。

 

「はぁ、はぁ、よし!」

「ああ、やはりヒヨリ様! 姿は違えどあなたはヒヨリ様ですね!」

 

 口寄せされたカツユは召喚主であるアカネに擦り寄って問い詰める。

 だがアカネはそれどころではないようだ。どうだ、と言わんばかりに胸を張って自来也に向けてドヤ顔を見せていた。

 

「確かにでかくなっとる。ただ……同じチャクラを綱手が使えるなら、恐らく湿骨林にいるカツユ全てを口寄せしてなお余っていたであろうなぁ」

 

 だがまあ自来也の感想としてはそんなものだった。

 湿骨林にはカツユの本体が存在し、綱手をして口寄せ出来るカツユの大きさは本体の十分の一にも満たない大きさだ。

 アカネの口寄せしたカツユなど数千分の一あるかどうかが良い所だろう。

 

「……私に時空間忍術を教えてくれませんか?」

「……ワシにだって、出来ない事くらい……ある」

 

 三忍であり四代目火影を育てた自来也も、あれだけのチャクラを籠めておきながらこの程度の口寄せしか出来ない相手に時空間忍術を教え込むのは不可能というものだった。

 

「……そろそろ私にも説明してもらえないでしょうか?」

 

 カツユの寂しげな声が辺りに響いた。

 

「そうでしたね。これは他言無用ですよカツユ」

 

 アカネは忍術・かくかくしかじかを使った。

 まるまるうまうま。カツユは全てを理解した。

 

「なるほどそうだったのですか。ヒヨリ様……いえ、アカネ様と再び会えて嬉しいです」

「私もですよカツユ。再びこうしてあなたをベッドにして横になる事が出来るとは、嬉しいですねぇ」

 

 アカネは牛ほどの大きさのカツユの上に乗って寝転がっていた。

 これが意外とプニプニして柔らかくて気持ちいいらしい。アカネ(ヒヨリ)談であるので諸説あり。

 

「シュールな光景だの……」

 

 傍から見たら巨大ナメクジに埋まりかけている少女である。ちょっとしたホラーだろう。自来也の感想も(むべ)なるかな、である。

 

「いつまでもこうしていたいですが、口寄せには制限時間がありますからねぇ……私の全力で呼べるのがこの大きさですから、そう何度も呼ぶ事は出来ませんし……」

「アカネ様……」

 

 口寄せの術で呼び出された口寄せ動物は一定時間になると元の場所へと戻るのだ。

 アカネとカツユは別れを名残惜しそうにしながら二人……一人と一匹で抱き合っていた。

 

 そうしてカツユが湿骨林へと戻った後、アカネと自来也は本題へと戻った。というか、閑話が長すぎである。

 

「というわけで、大蛇丸の情報について私が知る事に異論はありませんね?」

「もちろん」

 

 アカネの実力を嫌というほどに知った自来也だ。今更大蛇丸を追うなとは言えなかった。

 それに九尾を狙う者を追えば自然と大蛇丸にも行きつくのだ。自来也は今まで自分で集めた情報からその可能性が高いと見ていた。

 そうして自来也は大蛇丸に関して、そして大蛇丸が所属する組織に関して知ってる限りを話した。

 

 

 

「暁……ですか」

「うむ。ワシも奴らに関しては多くは知らぬ。知っているのは各地で様々な術を集めている事と、組織の構成員の殆どがビンゴブックに載ってる一癖も二癖もあるS級犯罪者というくらいだ」

「その中に大蛇丸が?」

「そうだ。そして奴らの狙いは恐らくだが――」

「九尾……いや、九尾を含む尾獣か」

「……そうワシは睨んでおる」

 

 それが自来也の知る暁の全てであった。あまりにも少なく、だと言うのに危険性を感じる情報だ。

 暁が何の為に各地から危険な術を集めているかは分からないが、犯罪者集団のやる事が世界平和であるはずがない。

 アカネも自来也も当然そう考えている。……実は暁には世界平和を目的とする人物も何人かいたりするのだが、まあ方法が方法なのでこの二人が受け入れる事はないのだろう。

 

「なるほど……それで、暁のアジトは?」

「いや、そこまではワシも……もし知っとったら?」

「そりゃさっさと襲撃して潰しておこうかと」

 

 面倒な事は纏めて終わらせるに限る。力一杯にそう言うアカネに呆れるしかない自来也であった。

 

「無茶苦茶な……大蛇丸が下に付くほどの組織だぞ? まあ奴の事だから何か目的があるんだろうが。それでも大蛇丸が一構成員という豪華千万な組織だ。その目的も知らずに事を進めるといくらお主でも痛い目を見るやも知れんぞ?」

 

 などと言う自来也だが、言っておいて何だがこの化け物に勝てる奴っているのかのぉ? 等と考えていた。

 まあ、お前実は尾獣じゃねぇの? というチャクラを見せられればそうなるかもしれない。

 

「うーん。そうですね。急いては事を仕損じるとも言うか。自来也もいる事だし、じっくり暁について調べるとしよう」

「え? ワシも一緒になのか?」

「え? それはまあ、あなたが一緒なら色々と捗るでしょう? 一人より二人とも言いますし。敵も複数いるようですし。あなた強いですし。修行相手に持ってこいですし」

「最後ちょっと待て」

「さあ行きますよ! 取り敢えず次の街で英気を養いましょう。全力でチャクラ練ったから疲れましたし」

「人の話を聞かんかぁ!」

 

 こうしてアカネと自来也の珍道中は始まったのであった。

 道中自来也の実力が否が応にも伸びた事は言うまでもない。



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NARUTO 第八話

 自来也との珍道中? そんなものはなかった。時は加速する!




「ワシは一度里に戻るぞ」

 

 それはアカネと自来也が共に暁と大蛇丸について調べる為の旅に出てから一年程が経った時の事だった。

 

「ふむ。それはいいのですが、やはり大蛇丸ですか?」

 

 これまでの調査で二人は大蛇丸が何やら暗躍しているのを察知していた。

 というか、自来也からしたら暗躍していない大蛇丸というのを想像出来ないのだが。

 ともかく、どうやら大蛇丸は木ノ葉に対して何らかの動きを見せている可能性がある。

 そう判断した自来也は木ノ葉の里が手遅れになる前に里へ戻ろうとしている訳だ。かつては里の狂気と言われた男だが、里を愛する気持ちは人一倍なのである。

 

「奴は木ノ葉に、三代目に対して恨みを抱いているからのォ。木ノ葉に何らかの干渉をする可能性は高い。それが木ノ葉の為になる可能性は、まずないな」

「そうですか……なら私も一度木ノ葉に帰りますか。どうも暁に対しては今の所手詰まりですしね」

 

 アカネも自来也の話を聞いて一度木ノ葉へ戻る事に決めた。

 というのも、暁について調べていたのはいいが、当の暁が目立った動きを見せていないので中々尻尾を掴めそうになかったのだ。

 一度だけ暁と思わしき敵に接触したのだが、その敵を倒してからはとんと情報が入らなくなったのだ。

 

「後手に回ってるね。あの敵も私達の情報を得る為の尖兵だったのでしょう。恐らく捨て駒だな」

「だろうのォ。それに同じ見た目の敵が複数いた。分身とは違う実体で。そういう術なのか、はたまた別の何かか……」

 

 世界は広い。長年生きてきた二人にも知らない術は多くあるのだ。

 そしてそういった存在を集めているのが暁だ。自分達の常識に当てはめて考えるのは危険というものだろう。

 

「相手がアクションを掛けて来るのを待つのも一つの手かもしれませんね」

「うむ……それが取り返しのつかない一手でなければ良いのだが……」

 

 相手が仕掛けた最初の一手が取り返しのつかない一手であれば、もはやどうしようもない。

 だがそんな事を言っていては初めから何も出来ないのだ。今は出来ることをするしかない。自来也はそう自分を納得させた。

 まあ隣にいる少女の見た目をした別の何かがいればどんな一手もひっくり返せそうな気がしているのだが、自来也は己の精神衛生上考えないようにした。

 

「それでは懐かしの里へ帰るとしますか」

「アカネはまだ一年程度だろうに。ワシは何年になるかのぉ」

 

 そんな風に話しながら二人は木ノ葉への帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 木ノ葉の誇る三忍の一人大蛇丸。と言っても既に抜け忍となってる彼は木ノ葉の誇るとは言えない存在に堕ちているが。

 彼は今、木ノ葉隠れの里にて暗躍していた。正体を隠し中忍試験に参加し、めぼしい存在を目を凝らして探していたのだ。

 それは己の新たな器を探す為だった。大蛇丸はある禁術を開発していたのだ。

 

 それこそが、他者の肉体を乗っ取り自らの物とし、永劫を生き続ける最悪の禁術、【不屍転生(ふしてんせい)】である。

 そして器となる肉体の素養が高ければ高いほど、それを元にした大蛇丸の力も高まる事になる。

 特に大蛇丸が興味を示しているのは努力では得られない力、血継限界の持ち主達だ。

 それも他の忍術で代用が利く氷遁や沸遁などの性質変化系統の血継限界ではなく、肉体その物に効果が現れる体質系統の血継限界をだ。

 

 これまでで幾つかの器と成り得る候補を捕獲し、その中でも最大のお気に入りがあったのだが、そのお気に入りは既に壊れていた。

 死病を患った器など器足り得ない。だから大蛇丸は古巣である木ノ葉に新たな器を求めてやってきたのだ。

 そして現在大蛇丸が狙っている最大の器候補が、写輪眼という素晴らしい瞳術を有するうちは一族であった。

 

 だがうちは一族ならば誰でも良いという訳ではない。

 写輪眼を開眼していないうちはなど必要としていないし、例え写輪眼があったとしても才能が足りなければ大蛇丸の食指は動かない。

 その大蛇丸が厳選した素材が、うちはイタチとその弟うちはサスケであった。

 

 うちはイタチは大蛇丸からしても完璧な忍と言えた。

 才能、肉体、精神。そのどれもが突出した力を持ち、うちはの長き歴史に置いても才能という点でイタチに並ぶ者はあのうちはマダラくらいなのでは、と大蛇丸に思わせる程にだ。

 だからこそ、イタチは大蛇丸の器候補に上がっていながら器には出来なかった。そう、イタチが強すぎるからだ。

 

 全力で闘えば勝てはせずとも負けはしないと大蛇丸は思っている。だがそれでは肉体を乗っ取るなど不可能と言えた。

 相手の肉体を乗っ取るのだ。相手が自分よりも強くては乗っ取りようがないのだ。

 大体イタチも他のうちは一族と同じく木ノ葉の里の警備部隊に入隊しているのだ。里にいるイタチを狙って他の忍に悟られないように体を乗っ取る。そんな事が出来るわけがなかった。

 現状大蛇丸がイタチを乗っ取るには様々な点から不可能と言えた。

 

 そして次に目を付けたのがサスケだった。

 イタチの弟であり、偉大な兄に追いつこうと必死に努力をしている天才少年だ。

 優秀な兄に対して多少のコンプレックスはあるが、それでも兄を慕い兄を目指して今も中忍試験を受けている。

 

 イタチに比べるとサスケは劣るかもしれない。

 イタチは七歳でアカデミーを卒業し八歳で写輪眼を開眼させ十歳で中忍に昇格したという異例の経歴を持っている。

 対してサスケは十三歳でアカデミーを、写輪眼も同じく十三歳で、そして今中忍試験を受けている最中だ。

 

 単純に考えて兄が出来ていた年齢で弟が出来なかったら、それは兄よりも弟が劣っていると判断されるだろう。

 少なくともサスケやうちは一族はそう思っている。

 

 だが大蛇丸は違う。サスケはまだ芽が出たばかりの若葉なのだ。花開くのはまだ先の話。

 そしてその才能の花が開花すれば、サスケはイタチをも上回る忍になると大蛇丸は確信していた。

 中忍試験を忍んでサスケを観察した甲斐が有ったと言うものだろう。サスケの才能を垣間見た大蛇丸は歓喜していた。あれがもうすぐ自分の物になると思って。

 

 残虐非道で知られる大蛇丸だが中忍試験中は目立った動きをしなかった。

 大蛇丸が中忍試験に参加したのはサスケの才能を確かめる為だったからだ。

 下手な動きを見せれば木ノ葉の忍が自身を狙って来る事は理解していた。

 そこらの凡百な忍が束になって掛かってきても返り討ちにする自信はあったが、先のうちはイタチや日向ヒアシ、三代目の現右腕左腕のうちはシスイに日向ヒザシが来れば流石にどうしようもない。

 

(やはり木ノ葉は厄介ねぇ……ペインの言う通りここは木ノ葉の力を削いでおきましょうか)

 

 大蛇丸は自身が所属する組織・暁のリーダーであるペインに言われた事を思い出す。

 今回の中忍試験を機に、木ノ葉の戦力を削れ、と。出来るならば潰しても構わないとの事だった。

 その際九尾の人柱力であるナルトを確保出来ればより良いのだが、これは最重要ではないようだ。

 

 現状ナルトを捕らえても封印された九尾を奪う事は難しいからだ。

 正確には奪ってもすぐに目的の為に活用する事が出来ないのだ。

 ナルトを捕らえ九尾をいつでも活用出来るように常に監禁し続ける事も出来るが、優先事項としては今はまだそこまで高くはない。

 それよりも今後も障害と成り得る木ノ葉の優秀な忍を少しでも間引きしておく方が先決だった。そうすれば今後も動きやすくなるというものだ。

 逆に言えばS級犯罪者にして強者ばかりが集まっている暁が警戒するほど今の木ノ葉の里は力があると言えた。

 

 木ノ葉には忍のエリートであるうちは一族と日向一族が揃っているのだ。

 木ノ葉の里が建立された時から共に瞳術の使い手として競い合ったり、協力しあったりしている両一族の仲は悪いものではなかった。

 特に一族で優秀な忍が火影の護衛として選ばれる事でその両者の仲も深まり、それは一族へと反映されていったのだ。

 そんな優秀な一族が揃っている木ノ葉と敵対すれば勝てるにしても手痛い反撃を受けるだろう。

 そうならない為にも木ノ葉で一暴れする様に大蛇丸は言われていた。

 

(狙いは中忍試験本戦当日。諸外国の大名がいる中で惨劇を起こせば例え里の被害が軽微でも里に入る依頼は減るでしょう)

 

 もっとも、大蛇丸はそんな生易しい結果で済ませるつもりは当然なかった。

 こうして目立つ事を避けて隠れ潜んでいるのだ。その日が来れば徹底的に暴れるつもりであり、そしてその最大の狙いも決まっていた。

 

(三代目……猿飛先生ィ……あなたと闘える時を楽しみに待ってますよ……その時はとびっきりのプレゼントを贈ってさしあげましょう。くくく)

 

 三代目火影猿飛ヒルゼン。自らの師にして自らを火影に選ばなかった男。里から逃げる切っ掛けとなった恩師。

 三代目に逆恨みに近い憎しみと、未だ無くならぬ若干の敬意を宿し、大蛇丸は三代目へのプレゼントを思い狂気に顔を歪める。

 

(あの4人を見た時の猿飛先生の顔が楽しみだわぁ……)

 

 狂った三忍大蛇丸。彼は中忍試験を途中でリタイア。変装に使用していた草隠れの忍の姿を脱ぎ捨てて木ノ葉から一度離れ、木ノ葉崩しの最後の準備に掛かった。

 

 

 

 

 

 

 アカネと自来也が木ノ葉に戻って来たのは中忍試験の本戦準備期間中であった。

 中忍試験は幾つかの試験を乗り越えた者だけが本戦へと出る事が出来る。その本戦へ出場する忍に一ヶ月の準備期間が与えられたのだ。

 この準備期間で中忍試験中に傷ついた体を癒したり、新たな力を求める修行をしたりするわけだ。

 

「ではここからはしばらく別行動を取るかの」

「いいですよ。私も一度宗家へ報告しに行きたいので」

 

 里の入り口で一旦別行動を取る二人。

 アカネはヒアシにこれまでの情報を報告し、そして気になっていたヒナタに会いに行くつもりだ。

 ヒナタはアカデミーを卒業したばかりなので中忍試験を受けていない可能性もあるが、受けていたとしたらどうなっているかも確認したい。

 

 そして自来也は久しぶりの木ノ葉でのんびりと覗き……もとい取材に張り切るつもりだった。

 なにせこの一年間は殆どアカネと共に過ごしていたのでまともに覗きをする事も出来なかったのだ。

 これを機に思う存分取材という名の覗きを捗らせるつもりだった。

 ちなみにアカネ自身を取材対象にしようとした事があったが……その時は人生二度目の死の予感を覚えた自来也だった。

 

 

 

 アカネは懐かしい日向の敷地へと戻ってきた。

 一年程度では然してどこも変わってないな、と当たり前の感想を胸に抱きつつ歩いていると、ふとある人物と出会った。

 

「おや、これはシスイさん。お久しぶりです」

「ん? ああ、確か君はアカネちゃんだったね。久しぶり、大きくなったじゃないか。いや、綺麗になったと言った方が正確かな」

 

 その人物とはうちはシスイ。火影の右腕と呼ばれる凄腕の忍である。

 名前の通りうちは一族であり、その優秀さは幼い頃から知れ渡っていた。

 うちは最強と名高いうちはイタチも尊敬する忍であり、今ではイタチと共にうちはの両翼とまで言われている。

 

「あはは。ありがとうございますシスイさん。ところで今日はどうしたんですか? ヒザシ様に何か御用でも?」

 

 ヒザシは火影の左腕と呼ばれており、二人は共に火影を警護・補佐する立場にある。

 なので任務上だけでなくプライベートでも二人は親しくなっていた。

 こうしてたまに日向の敷地にヒザシに会いにやって来る事もしばしば有る。逆もまた然りだ。

 そうして以前にアカネとシスイは出会ったのだ。もちろんシスイにとってアカネは優秀な日向一族くらいの認識だが。

 

「ああ……ちょっと色々とね」

 

 なるほど。任務に関する事か。そうアカネは推測する。

 任務には極秘の内容もあり、それは当然自里の忍にも秘密にすべき事もある。ベラベラと機密情報を話していては忍失格だろう。

 

「そうですか。お仕事お疲れ様です」

「いや。……そう言えばアカネちゃんは中忍試験は受けないのか? 今年はもう無理だが、君ならいつでも中忍試験に合格する事が出来るだろうに」

「ありがとうございます。でも、中忍試験とか怖いからいいですよ。私は一生下忍でのんびりするんです」

「そ、そうかい……。それじゃあオレはこれで。元気でねアカネちゃん」

 

 変わった子だと思いつつも、まあそういう忍が一人くらいいてもいいかと思い直しシスイは去っていった。行き先はヒザシの所だろう。

 

「ふむ。シスイさんが任務か……」

 

 火影の右腕が任務とあらば厄介事しか考えられないだろう。ヒザシに相談しに行くほどならば尚更だ。

 大蛇丸が本格的に動いているのかもしれないなと考え、アカネは宗家の屋敷への足を速めた。

 

 

 

「ヒアシ様。ただいま戻りました」

「うむ」

 

 宗家の屋敷にてヒアシと再会したアカネはまずは帰還の挨拶をする。

 アカネの立場はヒアシの付き人だ。屋敷の中には多くの使用人もおり、彼らに馴れ馴れしい態度を見せるわけにはいかないのだ。

 丁寧に、身分の差を理解した応対をしてヒアシに招かれるままに後ろを付いて行く。

 

 そうして誰もいないヒアシの私室に到着し、二人は白眼で確認をしてからいつもの態度に戻る。

 

「お疲れ様でしたアカネ様」

「いえ、それほど疲れは……いやまあ多少は疲れる事はあったかな?」

 

 ヒアシの労いの言葉を否定しようとし、しかし自来也との一件――正確には口寄せの一件――を思い出して言葉を改める。

 ヒアシとしてはあのアカネが素直に疲れる事があったという言から何かしらの事件に巻き込まれたのかと勘ぐっていた。

 

「もしや九尾復活の犯人を突き止めたのですか!?」

「ああ、いえ。実は三忍の自来也と出会いましてね。それで少々ありまして」

「二代目三忍の自来也様に? ……もしや、自来也様もアカネ様の正体を?」

「ええ。彼なら信用出来ますから。それと、幾つかの情報も得ました」

 

 そうしてアカネはこの一年間で得た情報をヒアシへと伝える。

 

「……なるほど。大蛇丸に暁ですか」

「はい。大蛇丸が構成員となっているほどの組織です。少数の様ですが全員が精鋭、その力を侮ることは出来ません」

 

 質で数を凌駕する事は可能かと言われればアカネもヒアシもこう言うだろう。可能である、と。

 1の力を持つ忍が百人集まるよりも、100の力を持つ忍一人いた方が強い場合は多々ある。

 もちろん状況によって話は変わる。いくら強くても一人では手が回らないが百人ならば可能という事はいくらでもあるだろう。要は力の方向性の違いだ。

 だがその方向性が合えば最高の質は最大の力となるのだ。暁のメンバーはそれぞれが常識では計れない力を持つ者達。少数だからと油断していたら痛い目を見るのは明白だ。

 

「そう言えば先程シスイに会いました。何やらヒザシに用が有ったみたいですが、何か知っていますか?」

「ヒザシに? いえ、そう言う話は何も。……そう言えば最近うちはシスイが日向の分家の娘と逢引している所を何度か目撃したという話を聞いた事がありますな」

「……逢引?」

「はい、逢引です」

 

 アカネはすぐに白眼を使って周囲数kmを確認する。

 するとシスイと顔を赤らめた日向の娘が一緒に歩いているのを発見。近くにあった茶屋に入り中で楽しく会話をしているようだ。

 紛う事なき逢引である。

 

「……逢引ですね」

「覗き見は感心しませんが……」

 

 白眼の悪い使用例である。

 火影の右腕が来るほどだから余程の大事でも起こったのかと思っていたらこれである。

 まさかアカネもシスイが逢引の為に日向一族の敷地へ来ているとは思ってもいなかった。

 

「まあ、平和な事で何よりです……大蛇丸を見た者はいないのですか?」

「そう言う情報は上がっていませんな。中忍試験中は警備体制も強化しなければならないですし、その為にヒザシに火影様の近辺に異常はないかを確認したので確かかと」

 

 火影の左腕であるヒザシならば大蛇丸ほどの忍が木ノ葉の里の内部で見つかれば確実に報せが届くはずだ。

 それがないのだから大蛇丸は木ノ葉にいないのか、それとも未だに見つかっていないのかのどちらかだ。

 

「相手が大蛇丸ならば見つかっていない可能性も高いですね」

「可能性はあります。日向の者には白眼による監視を強化させましょう」

「見つけてもけして一人で先走らない様によく伝えておきなさい。必ず上に連絡する様にと」

「もちろんです」

 

 見つけました。でも倒されました。では意味がないどころかあたら命を無駄にするだけだ。

 それを防ぐ為にもまずは報告を義務付けねばならない。それほど大蛇丸は危険だった。

 戦闘力で言えば自来也と差は殆どないかもしれないが、禁術や予想出来ない術などを使ってくるので厄介さで言えば大蛇丸が上と予想されていた。

 まあ自来也もこの一年で強くなっているので実際にどうかは分からないが。

 

「では私はこれで。あ、そうだ、ヒナタは中忍試験を受けたんですか?」

「……受けましたが、第三試験の予選試合にて落ちました」

 

 第三の試験、言うなれば現在準備期間後に行われる本戦の事だが、その出場者が予想以上に多かった為に急遽行われた予選の事だ。

 予選の勝者のみが第三試験本戦に出場出来るようになる。つまりは篩い落としが行われたわけだ。

 

「そうですか……。残念ですが、中忍試験はまた次の機会に受ける事が出来ます。それと、ヒナタは無事ですか?」

「ええ。幸いと言いますか、不幸と言いますか、予選の相手がネジでしたので。然程怪我もなく――」

「ほ、ほほう。ネジが、相手ですか。あの護衛め……! ヒナタを負かすとは……! いや、勝つのはまだしも傷つけるとは……!」

「勝負! 勝負ですゆえ! ネジに落ち度はありませぬ! 何とぞお怒りを御静めください!」

 

 護衛の癖に護衛対象を傷つけるという、アカネからしたら大罪とも言える愚行を犯したネジにその怒りを向けるアカネに、ヒアシは娘を傷つけたネジを庇う様に語りかける。

 宗家の人間を分家が傷つけたのだが、そこは試験の中の勝負という事くらいヒアシも理解しているのでそれで強権を振りかざす程狭量ではない。

 もちろんアカネも宗家だの分家だので怒ってはいない。ただ単純に溺愛するヒナタを傷つけられた事と、その相手がよりにもよって気心の知れたネジだという事が偶々重なったせいで怒りが湧いたのだ。

 

「大丈夫です。私は冷静だ。ちょっと本戦に出場するネジに激励と少々の修行をつけて来ようと思う。それではな」

「誰ぞ! 誰ぞおらぬか!? アカネを止めよ! ネジに逃げろと伝えるのだ!」

 

 ヒアシの叫びも虚しく、いつもの如くアカネとの密会中は人払いをしているのでこの叫びに応える者は誰もいなかった。

 その日、木ノ葉のどこかで少年の悲鳴が聞こえたそうだが、特に問題にされる事はなかった。その件に日向の長が関わったそうだが、定かではない。

 

 

 

 

 

 アカネがネジを一通りぼこぼこ、もとい修行をつけて来た翌日。

 アカネは自来也を探して木ノ葉の里をウロウロとしていた。

 

「何処に行ったんだかあのエロ仙人は」

 

 本人が聞けば否定しそうな本当の事を言いつつ、白眼にて周囲を見渡し自来也を探すアカネ。

 だが里の内部には自来也の姿はなかった。代わりにちらほらと砂隠れの忍がいる。中忍試験により他里の忍も内部に入って来ている為だろうが、それでも砂隠れの忍の割合が多い事が気になった。

 なのですぐにヒアシに確認を取ったのだが、本戦への出場者で砂の忍が多く残っている為だろうとの事だった。

 それならと納得したアカネだが、一応は注意を向けておく。どうにも砂隠れの忍からピリピリとした緊張感を感じたからだ。

 

 杞憂ならばいいのだがと思いつつ、アカネは再び自来也を探す。白眼の望遠能力の範囲を広げて周囲を見渡すと、里の外れにある滝近くの川辺に自来也がいるのを発見した。

 ようやく発見したかと思い、次に何故そんな場所にと疑問を抱くアカネだが、その傍にいる人物を見て更に疑問が深まった。

 

(あれは……ナルトじゃないか。どうして自来也とナルトが一緒に――)

 

 そう疑問に思いつつも、二人の行動からすぐにその疑問は晴れた。

 どうやら自来也はナルトに修行をつけているようである。自来也も可愛がっていた弟子の波風ミナトが残したナルトに何か思うところがあったのかもしれない。

 それとも九尾の人柱力だからその力の使い方を教える事で暁に対するナルトの抵抗力を高めておこうとしたのか。いや、両方だろうなとアカネは判断した。

 

 アカネはこうして白眼でナルトを観た事は何度かあった。

 そして白眼でナルトを《観る》度に柱間とマダラを思い出す事があるアカネであった。

 かつてアカネが柱間とマダラを白眼で観た時に何故か二人のチャクラが二重になって見える事が何度かあった。

 それと同じ事がナルトを白眼で観た時に起こっているのだ。そしてそれはこれまでこの三人以外には起こった事はない現象だ。

 この感覚が何なのか。もしかしたらナルトと接触する事でそれを理解出来るかもしれない。

 これもいい機会かと思いアカネは二人が修行している川原へと飛び立った。

 

 

 

 自来也はナルトに口寄せの術を教える為、その前準備としてナルトに水面歩行の業をやらせていた。

 これはナルト自身のチャクラを使い切らせ、ナルトの中に封じられた九尾のチャクラを発動させやすくする為である。

 ナルトはまだまだ未熟であり、本人が練り上げるチャクラだけでは口寄せの術が出来ないのだ。いや、出来はするが役に立つ程の口寄せ動物を呼ぶ事が出来ないと言うべきか。

 だが九尾のチャクラを上手く利用すればそれこそガマブン太すら口寄せ出来るだろう。まあ自来也はナルトがそこまで出来るとは思っていなかったが。

 

 そうしてナルトに水面歩行の業をやらせつつ、本人は近くの水辺で水着を着て遊んでいる女性を隠れて眺めていた。

 傍から見ると完全に変態である。大蛇丸はお姉言葉で喋る人体実験マニアで、綱手は賭け狂いの若作り婆。木ノ葉の三忍にまともな人間はいないのかも知れない。

 

「エヘヘ……ぐぼぉっ!?」

 

 そんな変態を横から蹴り飛ばす者がいた。それはこの変態と一年間旅をした女性、アカネである。

 

「あなたは本当に、本当に……」

 

 アカネは心底情けなさそうに溜め息を吐いていた。

 これが本当に自分達の三忍の名を継いだ二代目三忍の一人なのだろうか? そういった思いがアカネの中を巡っていた。

 柱間やマダラが生きていたらそれはもう嘆くだろうと思いながら、いややっぱり柱間辺りはガハハハと笑ってそうかと思いなおしていた。

 

「うおおお……い、痛いのぅ、何するんじゃアカネ!」

「ああ?」

「いや、すいませんでした……」

 

 神聖な覗き……ではなく取材を邪魔された挙句蹴り飛ばされた自来也はアカネに怒りを向けるが、アカネのドスの効いた返しにすぐに手のひらを返した。

 今のアカネに逆らえば殺される。それをこの一年間で良く理解していた自来也であった。

 

「な、何なんだってばよ……」

 

 川の上でフラフラと水面歩行の業をしていたナルトは目の前で繰り広げられた喜劇に疑問を覚えつつ、チャクラを使い果たして川に沈んだのであった。

 

 

 

 

 

 

「おお、目覚めたか」

「……んあ? エロ仙人?」

「エロ仙人ではないっちゅうに。まあ良い。ようやく殆どのチャクラを使い切ったようだのォ。早速技を教える!」

「おお! 待ってましたぁーー! ……ん? あれ、さっき変な姉ちゃんがいなかったか? エロ仙人を蹴っ飛ばしたやつ」

 

 チャクラを使い切った事での気絶から目覚めたナルトは新たな技の伝授に素直に喜びを顕わにする。

 だがすぐに気絶前に見た光景を思い出し、その疑問を口にした。

 

「ああ、うむ。アカネならそこじゃ……」

「あん?」

 

 自来也の言葉に自来也が指の指す方向をナルトが見ると、そこには息も絶え絶えになって大地にへばっている女性の姿があった。

 

「……どうしたんだってばよ?」

「うむ、これからお前に教える口寄せの術の練習をあやつもしていたのだが……上手く行かんでチャクラ切れを起こしたのだ。あんなアカネを見るのは初めてだのォ」

 

 今ならセクハラし放題では? 等と考えた自来也であるが、すぐにその考えを却下した。

 やるならここでアカネを殺す覚悟をしないと確実にアカネが元の調子に戻ったら殺されるからだ。

 

「ふーん。あの姉ちゃんも修行中なんだな。上手く行ってないみたいだし、大変なんだな。おーい! 頑張れよー!」

「ぷっ! く、くっくっく……!」

 

 下忍のナルトに心配されて応援される修行中の日向ヒヨリ、という構図を思い浮かべた自来也は笑いを堪えるのに必死であった。

 もちろんその笑いはアカネの耳に届いており、あとでぶっ飛ばすと決意されていたので意味のない堪えであったが。

 だが限界までチャクラを振り絞ったせいで今はその元気もなく、ナルトの応援に手をヒラヒラとさせて応えるしか出来ないアカネであった。

 

「さあ、あやつに関しては後で教える。今は口寄せの術を教えるから良く見とけ!」

 

 そうして自来也の指導によるナルトの口寄せ修行が始まった。

 

 

 

 始まったのだが……。

 

「もーお前死ね! 才能ナシ!」

 

 ナルトの才能の無さは、自来也が匙を投げかける程であった。

 いや、進歩はしている。ナルトとていつまでも成長しないわけではないのだ。

 

「良く見ろってばよ! 後ろ足生えてんじゃねーかよ!」

 

 そう! ナルトの口寄せした蛙には後ろ足が生えているのだ! ……語弊があったかもしれない。正確にはナルトが口寄せしたのは蛙ではなく、おたまじゃくしであった……。

 ナルトは口寄せの修行を始めてから十五日間の間、おたまじゃくししか口寄せ出来ていないのだ。

 確かに成長はしている。最初は見たまんまおたまじゃくしだったが、今は後ろ足が生えているのだ。徐々に蛙に近づいていると言えよう。

 だがまあ普通の忍からすれば微々たる成長なのだが。

 

 しかしこれはナルトの才能がない事が原因ではない。ナルトは九尾という強大なチャクラの塊が体の中にいる為に、九尾が阻害となって経絡系からチャクラを練るのが苦手なのだ。

 成長すれば徐々にナルトの体と九尾が慣れて行く事で緩和されるだろうが、幼い内は特に負担が掛かり術などが苦手となるのだ。ナルトが落ちこぼれと言われる原因であろう。

 

「大体! アカネだってオレと変わんないってばよ!」

「うっ!!」

 

 突如として話を振られたアカネは図星を指されて呻いていた。

 そう、アカネもナルトと同じくここで口寄せの修行をしているのだ。

 もちろん修行なだけに馬鹿でかいチャクラで無理矢理口寄せするのではなく、普通のチャクラで普通にカツユを口寄せしようとしていた。

 

 だがまあ結果はお察しである。もうカツユと判別をつける事も出来ないほどに小さなナメクジを口寄せする始末。

 カツユが何か喋っている時も、小さすぎてその声が聞き取れない程だ。

 

「な、ナルト。私は口寄せが苦手なだけで、他の術はそこそこ使えるんですよ?」

 

 正真正銘真実だが、結局は口寄せが出来ない事に変わりはなかったりする。

 

「ふーん。どんな術?」

「えーと。日向の柔拳でしょ、螺旋丸系統でしょ、それからせ――」

 

 アカネが幾つか会得した術を口にしていると、途中でナルトが口を挟んできた。

 

「え! アカネも日向の柔拳ってやつを使えんのか!?」

「それはまあ。私も日向の一族ですし。て言うか日向アカネって自己紹介したでしょうに」

 

 ナルトはそこまで頭に入ってはいなかったようだ。まだまだ頭を使うのが苦手な歳なのだ。きっと成長すれば賢くなる……と思いたい。若者の可能性は無限なのである。

 

「じゃあさじゃあさ! オレと組手してくれよ! 次の対戦相手はネジっていう奴でさ! そいつも柔拳使うって話なんだ! あの野郎サスケばりのいけすかねー奴でさ! 絶対勝ってやるんだ!」

「いいでしょう。ネジに負けないくらいに叩きこんであげましょう! ですから必ずネジに打ち勝ちなさい!」

「お、おう……」

 

 ナルト視点ではかっこつけて話したり上から目線で話してくるネジを良く思ってはおらず、絶対に負けてやるものかと意気込んでいた。

 そのネジが使う柔拳と同じ物を使えるアカネに組手を頼んだのだが、ナルトが思っていた以上にアカネが乗り気で逆にナルトが引いてしまっていた。

 アカネとしてはヒナタを傷付けたネジをまだ許していなかった。いや、本当はもう怒ってはいないのだが、ナルトがネジに勝つと面白いだろうと思っていたりする。

 

「まあ組手はいいがの。お前ら口寄せの修行を完了させるのが先じゃないんかのォ?」

『あ、はい……』

 

 自来也に突っ込まれて二人は口寄せの修行を再開した。

 後に自来也がナルトをわざと窮地に落とし入れる事でナルトを追い詰め、無理矢理九尾のチャクラを引き出させる事に成功する。

 それによりナルトはようやく口寄せの術を成功させる事が出来た。なおアカネについては言うまでもない。

 

 ちなみにナルトのチャクラが二重になって観える現象に関しては何も掴めなかったりする。




 色々変更あってドスはサスケへの嫉妬を拗らせて我愛羅を殺しに行ってはいないし、殺されてもいません。けどドスは本戦に出場していなかったりする。
 なおサスケは呪印をつけられていません。


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NARUTO 第九話

「なぜ私は口寄せが、時空間忍術が出来ないのか……」

 

 アカネは修行を終えてすぐにそう述べた。

 

 あの後、ナルトは口寄せの術に成功してからチャクラの使いすぎで気絶し病院に入院した。だがすぐに退院し、約束していた通りアカネと二人で柔拳に対抗する修行を積んでいた。

 そしてアカネはナルトに一通りの修行をつけた後、こっそりと未だ諦めきれていない口寄せの修行を一人でしていた。もちろん結界を張って周囲にばれない様にしてだ。

 だがまあ何十年も上手く行ってない物がいきなり出来るわけもなく、結局いつもの様にミクロなカツユを口寄せするだけに終わっていた。

 

 さて、修行を終えて家に戻り一休みしたアカネは今日が中忍試験の本戦だと思いだし、試験会場に向けて白眼を発動した。これでここからでも試合を見る事が可能である。白眼様々であった。

 ある程度の試合を見てアカネは満足そうに頷いた。下忍故にまだまだ未熟だが、注目すべき戦いは幾つかあった。まずはナルトとネジの試合だろう。

 二人の勝負はやはりというべきかネジが優位に立って進めていたが、土壇場になってナルトが爆発的な底力を発揮して最後にはネジを叩き伏せていた。

 これにはアカネも驚いていた。ナルトを鍛えたアカネだったが、それでもナルトの勝率は一割にも満たないと思っていたからだ。

 九尾の人柱力だからという理由ではなく、ナルトの諦めない根性と気合が生んだ勝利だろう。これはアカネも素直に称賛していた。

 

 もう一つ、木ノ葉の奈良一族の少年と砂隠れのくノ一との試合もかなり見応えがあった。

 純粋な戦闘力では砂隠れのくノ一が圧倒していただろう。風遁を利用したり奈良一族の影縛りの術――若い忍は影真似の術と呼ぶ――の効果や範囲を見切り戦術を組み立てていた。戦闘力だけでなく頭も切れるようだ。

 だが奈良一族の少年の頭脳はその更に上にあった。力量の低さを手持ちの武器と頭脳を駆使して覆したのだ。この試合に期待していなかった多くの観客も引き込まれる程見事な戦法と言えた。

 最後には自身のチャクラ切れを見越してさっさとギブアップをしてしまったが、頭脳に見合う実力とチャクラを手に入れたらと思うと将来が楽しみな逸材である。恐らく今回中忍試験を受けたどの下忍よりも隊長に向いているだろう。

 

 そして第三試験一回戦最後の試合。これが始まりの合図となった。そう、大蛇丸による木ノ葉崩しの始まりである。

 その試合はうちは一族の期待の少年うちはサスケと砂隠れの我愛羅という忍の闘いであった。

 そしてアカネは我愛羅を見た瞬間にある事実に気付いた。

 

(砂隠れの人柱力か!)

 

 アカネは我愛羅の中に我愛羅以外のチャクラを感じ取り、そしてその正体に気付いたのだ。この禍々しくも強大なチャクラ。完全に尾獣のそれであった。

 我愛羅の中には一尾という尾獣の一体が封印されていた。一尾は昔から砂隠れが所有していた尾獣だ。砂隠れの忍である我愛羅が一尾の人柱力なのもおかしな話ではない。

 そして人柱力が中忍試験を受ける事も珍しくはあれどあり得ない話ではない。実際ナルトも同じ様に試験を受けている。

 だが人柱力には常に暴走の危険性が伴っている。尾獣と完全に共生できる人柱力など忍の歴史でも稀なのだ。

 この試験で暴走の可能性も有り得る。そう判断したアカネは取り敢えずどうなっても対処しやすい様に試験会場へと移動を始めた。

 

 移動しながらアカネは白眼の焦点を試験会場から全体へと拡げる。

 大蛇丸が暗躍している可能性と、砂隠れの人柱力、そしてピリピリと気を張り緊張していた砂隠れの忍。これらがどうにも気になったのだ。

 そしてアカネは見た。火影である猿飛ヒルゼンの隣で中忍試験を観戦している砂隠れの風影。その中身が大蛇丸であるという事実を。

 

 更に里の外壁近くに砂隠れの忍が百人程木々に隠れて待機しているのを発見。この時期にこんな場所にこんな人数が集まって何をする? まさか仲良く遊びに来たというわけがないだろう。それを証明するかのように、試験会場にて事態は動き始めた。

 

 試験会場では幻術が発動し多くの観客や木ノ葉の忍――主に下忍だが――を巻き込んで深い眠りへと(いざな)っていた。

 その瞬間を狙って風影に扮していた大蛇丸は三代目火影を連れて会場の屋根へと移動する。そして潜ませていた部下に強力な結界を張らせて周囲と孤立させた。

 

「ちっ! 砂と大蛇丸が手を組んでいたか。大蛇丸の狙いはヒルゼンの様だが……」

 

 アカネはヒルゼンの強さを知っている。木ノ葉の全ての術を網羅しているとも言われており、実際に全てではないがほぼ全ての術を理解している。

 そして五大性質変化である火遁・水遁・雷遁・土遁・風遁の全てを扱え、その術の使用法もまた効率的だ。教授(プロフェッサー)との異名は伊達ではない。

 だがそれも全盛期の話だ。今のヒルゼンは齢七十が近い老齢の身。スタミナも衰えチャクラも全盛期の半分にも満たないだろう。

 そんな状態で五影と同等の実力と言われる三忍の大蛇丸を相手に闘い倒す事が出来るのか。そう考えると流石にアカネも不安が勝る。

 

 だが危機に陥っているのは火影だけではない。突如として襲ってきた砂隠れと音隠れの忍に混乱した木ノ葉の民の多くは逃げ惑っている。しかも敵の中には大蛇丸が口寄せした家よりも大きな大蛇もいた。

 木ノ葉には忍だけでなく一般人も多い。砂と音の忍も一般人を狙うよりはまず木ノ葉の忍を攻撃するだろうが、身を守る術を持たない彼らを放置していたら忍術合戦に巻き込まれ被害は拡大する一方だろう。

 かと言って火影を見捨てる訳にもいかない。火影とは里の中心的存在だ。それが万が一にも死んでしまえば里の損失は非常に大きい。

 

 周囲の忍を片付けるか、それとも火影であるヒルゼンに加勢するか。結論はどっちも同時にやればいいというものだった。

 

「影分身!」

 

 影分身の術。これは実体のない通常の分身とは違い、術者と同じ肉体を持つ分身を生み出す高等忍術だ。更に無数の影分身を生み出す多重影分身という禁術に指定された危険な術もあるが、今回は三体の分身を生み出すだけに留めた。

 無数の影分身を生み出すとチャクラを均等に分散する為に一体あたりのチャクラ量は少なくなってしまう。それでは強大な敵が現れた時に本体ならいざ知らず分身では対処出来ない可能性もある。

 あとはアカネの実力なら三体の分身で十分だというのもある。敵が弱ければ一掃し、強ければ三体という少ない人数だからこそのチャクラ量で対応する事も可能だろう。

 

「もいっちょ影分身!」

 

 その上で殆どチャクラを籠めずに弱体化した影分身を百体ほど作り出す。この弱体化影分身には木ノ葉の住民を助ける為に動いてもらうつもりだった。その上でこの弱体化影分身で対応出来そうな忍は倒すようにする。

 

 アカネ本体はヒルゼンのいる試験会場を目指し、影分身は四方に別れそれぞれの役目を果たす為に活動を開始した。

 それでも守りきれない部分はあるだろうが、それは自里の忍を信じて託した。木ノ葉はこの程度で揺らぐほど貧弱な木ではない。友と築き上げた何者にも負けない大木なのだと。その大木の若葉達を信じてアカネは駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 中忍試験第三の試験本戦。その中の一戦、木ノ葉のうちはサスケと砂の我愛羅との戦闘中にそれは起こった。

 火影と共に観戦していた風影――砂隠れの長――が、突如として会場内を覆った幻術の発動を合図として火影を連れて会場の屋根へと移動したのだ。

 そして音隠れの忍を使って自分と火影を中心に四方へと結界を張らせる。四紫炎陣と言われるその結界は触れただけで対象を燃やし、その強度も並大抵ではない強さを誇っている。

 これだけだと砂が木ノ葉を裏切り戦争を仕掛けた様に見えるだろう。事実多くの砂の忍がこの戦争に加担している。

 

 それは風の国が行った軍縮によって砂隠れの里の戦力維持が難しくなった事が起因している。軍縮による戦力低下に危機感を感じた風影は音隠れと組んで木ノ葉を襲ったのだ。

 全ては里の為。風の国の大名に国の危機管理の甘さを教え、里の回復の為に木ノ葉を襲ったのだ。これ以上時が経てば木ノ葉を襲う戦力を完全に失う為、今この時を最後の機会として。

 

 だが全ては大蛇丸の、ひいては暁の手の内だった。

 里に木ノ葉を襲う様に命令した風影は……既に殺されており、その姿は大蛇丸の物とされていたのだ。そう、三代目を襲った風影は大蛇丸が化けていた物だったのだ。

 

 大蛇丸の狙いは初めから三代目火影の命。それは禁術を開発していた所を見つけられ、木ノ葉から追い出された恨み……だけではなかった。

 真の理由は二つ。一つは止まっている物を見るのが退屈という極個人的にして手前勝手な物。

 そしてもう一つは自らの組織からの命令である木ノ葉の戦力低下であった。火影を殺す事は間違いなく里の戦力低下を招くだろう。

 

 もちろんそれを黙って見過ごす木ノ葉ではない。暗部と呼ばれる木ノ葉の部隊が三代目に加勢しようとする。

 だが四紫炎陣に阻まれて加勢は叶わなかった。外から四紫炎陣を破るのは優秀な忍である暗部でも簡単ではなかったのだ。

 内側で結界を張っている4人の音忍を倒せばいいのだが、それも音忍が内側から更に結界を張る事で自分達の身を守っていた。

 暗部達は三代目火影を案じながらも見守るしか出来ないでいた……。

 

 

 

 三代目と大蛇丸が対峙し、二人が放つプレッシャーは高まり続けて行く。

 やがてプレッシャーは物理的な力すら持つようになり、二人の中心にある屋根の一部はひび割れる程に高まった。そしてそれが戦闘開始の合図となった。

 

 三代目は手裏剣を一つだけ投擲し、印を結んでその手裏剣に対して術を掛ける。

 

――手裏剣影分身の術!――

 

 それは影分身と呼ばれる従来の分身の術ではなく実体を持った分身を生み出す高等忍術と手裏剣術を組み合わせた術。

 投擲された手裏剣は無数の実体を持つ手裏剣を生み出し、大蛇丸を襲う。

 

――口寄せ・穢土転生!!

 

 それを大蛇丸は口寄せの術の一種で防いだ。

 それはかつて二代目火影が考案した禁術中の禁術。死者を浄土から穢土に口寄せして自由に使役するという、まさに死者を冒涜する術であった。

 二代目は敵であるならば死者であろうと利用する程に現実主義者であり、その有用性からこの術を考案したのだが、あまりに非道な術ゆえに禁術として封じられていた。

 それを大蛇丸が解き明かして己の術としたのだ。

 

「ひとつ! ふたつ!」

 

 そして口寄せされた死人が収められている棺には文字が書かれていた。

 一つ目の棺には【初】、二つ目の棺には【二】。これを見て三代目は口寄せされた死人の正体を理解し、三つ目の口寄せだけは口寄せ解除の印を組む事で防いだ。

 だからこそ、四つ目の口寄せを防ぐ事が出来なかった。

 

「よっつ! ……ふふふ。三人目は防いだ様ですが、この方は防げなかった様ですねぇ」

「四人目!? まさか!」

「さあ、懐かしい顔とご対面ですよ猿飛先生ぃ……!」

 

 三代目が危惧していたのは自分を除く初代から四代目までの三人の火影を口寄せされる事。

 そしてその危惧の通り、口寄せされたのは死した火影である。だがそれならば四人目はいないはずだ。

 火影は現在までで四代目まで存在しており、三代目を除き全員亡くなっている。ならば口寄せされるのは三人のはずだ。

 だが三代目はすぐに最後の一人に思い至った。木ノ葉を語る上で外す事の出来ない、火影と同等の位置にいた人物を。

 

 そして三代目はかつて木ノ葉にあった懐かしい面々と再会する事になる。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって木ノ葉の東口門。ここには巨大な蛇が複数体も口寄せされて暴れていた。

 あまりの巨大さゆえに討伐に駆けつけた忍も手が付けられないでいたが、その巨大蛇を圧倒する巨大蛙が突如として現れた。

 

「忍法・口寄せ! 屋台崩しの術!!」

 

 空から降り立った巨大蛙はそのまま巨大蛇を踏み潰してしまう。

 そしてその巨大蛙の上には三忍である自来也が立っていた。

 

「ヒヨっ子ども!! その小せー目ェ根限り開けて良ーく拝んどけ! 有難や! 異仙忍者自来也の! 天外魔境暴れ舞い!」

 

 木ノ葉の忍に囲まれ注目を浴びている自来也は調子に乗って見栄を切る。

 だが見栄を切った対象である残りの巨大蛇はその見栄を見る前に息絶えていた。

 

「……あれ?」

「お疲れ様です自来也様」

「流石は三忍の一人……噂以上の実力ですね」

 

 残った二匹の巨大蛇を倒したのは二人の忍。うちはシスイとうちはイタチであった。

 二人は巨大蛇の出現を聞き、まずは並の忍では止められないだろうそれを防ぐ為に駆けつけたのだ。

 だがまあ自来也がいれば来る必要もなかったかと思っている所だが。

 

「シスイにイタチか……お前ら揃いも揃って人の見栄張りを邪魔しおってからに!」

「ははは……申し訳ありません。ですが、非常事態ですので……」

「まあ良い。三代目は?」

「試験会場で大蛇丸と……」

「我々は加勢よりも里をと三代目に命じられたのです。ですが、自来也様がいらっしゃるならば今からでも三代目の加勢に――」

 

 シスイは火影の右腕としてその護衛も兼ねている。だが三代目はシスイと左腕のヒザシの加勢を断り、里の防衛を課したのだ。

 自分よりも里を大事にしている三代目らしい命令である。だが、里に三忍である自来也が加勢してくれたとあらば後顧の憂いもなく三代目の加勢に行けるというものだ。

 あの結界も強固であるが、シスイとイタチならば破壊する事も可能であり、また加勢に加わったところで三代目の邪魔になる事も無い実力の持ち主である。

 

 だが、すぐにでも三代目を助けに行きたい二人を自来也は止めた。

 

「まあ待て。三代目の加勢は必要ないのォ」

「自来也様何を!?」

 

 三代目を守る必要がないと言いのける自来也にシスイは憤慨する。

 だが、自来也も何の意味も無くそんな言葉を吐いた訳ではなかった。

 

「すでに三代目にはとびっきりの加勢が行った。これ以上は過剰戦力というものだの」

 

 自来也の感知に高速で試験会場に近づいて来る良く知ったチャクラの持ち主が引っかかっていた。

 あれが加勢する限り、三代目が死ぬ事はまずない。その確信が自来也にはあった。

 

「それよりも、里を守る方が先決だの。上を見ろ」

 

 自来也の言葉を聞く前から、シスイとイタチもそれに気付いて既に上を見ていた。

 そこには上空を飛ぶ巨大な鳥の様な物に乗った一人の忍の姿があった。

 その忍は雲の模様が入った黒色の衣を付けていた。そしてそれに自来也は見覚えがあった。

 

「暁か……どうやら大蛇丸と一緒に里を攻めてきた様だの。一筋縄では行かん相手だ。気を引き締めろよ」

『はっ!』

 

 三人は警戒しながら空を飛ぶ暁の一人を見る。

 空を飛んでいる故に中々手出しは出来ず、遠距離の忍術で牽制するかと考えていると、空を飛ぶ暁は空から何かを落とした。

 

「あれは……!? 高密度のチャクラが籠められている! 爆弾か!」

 

 イタチが写輪眼にて投下された物体を見切る。それは粘土にチャクラを混ぜて起爆させる起爆粘土と呼ばれる動く爆弾だ。

 そこまではイタチも知らないが、チャクラを大量に含んでおり、そして上空から落とした事で爆弾だろうと予測したのだ。

 あれだけ上空にいるのも爆発の範囲から逃れる為。つまりそれ相応の威力を持った爆弾という事が予測された。

 

 イタチとシスイはすぐに爆弾に対処すべく万華鏡写輪眼を発動する。

 万華鏡写輪眼とは写輪眼開眼者がある条件を満たす事で開眼する事が出来る写輪眼を超えた写輪眼である。

 その力は万華鏡の名の通り個人によって変わる。イタチの左目には月読(つくよみ)、右目には天照(アマテラス)という瞳力が、シスイの両目には別天神(ことあまつかみ)という瞳力が宿っている。

 そして両目の瞳力を宿した者にのみ使用可能な須佐能乎(スサノオ)。この須佐能乎こそが二人が使用しようとしている術である。

 

 須佐能乎はチャクラで構成された巨人を作り出し、術者を守る絶対防御の鎧と化す術だ。

 そしてそれは同時に強力な攻撃手段にもなる。あのうちはマダラもこの瞳術の使い手であり、その威力は山を斬り大地を裂き地形を大きく変えた程だ。

 だが今二人が求めているのは防御としての須佐能乎だ。これで空から落ちてくる爆弾と思わしき物体から里を守るつもりなのだ。

 

「イタチ。お前は須佐能乎を使うな。お前の体の事を知らないと思っているのか?」

「……シスイ。オレの事は気にするな。お前こそ、良い人が出来たんだろう? ここで死ぬのは先のないオレだけで十分だ」

 

 イタチは死の病に侵されていた。今はまだ良いが、もう数年もすると命を失くすだろう死病だ。

 それを知りつつ、いや知っているからこそ、イタチはここで木ノ葉の為に散っても良いと思っていた。

 弟の事は気がかりだが、それでも弟が生きる里を守る事は弟を守る事に繋がるのだ。

 爆弾の威力が須佐能乎で防げる程度ならば良いが、予想以上という事はどんな時でもある物だ。

 里の為に生かすべきは先のあるシスイ。そう考えているイタチはシスイを置いて爆弾へと飛び立とうとする。

 

 だが――

 

「なっ!?」

「あれは!?」

 

 爆弾が里に落ちるよりも、爆弾を防ぐ為にイタチが飛び立つよりも先に、一人の少女が爆弾を掴んでいた。両手で収まり切らない爆弾をチャクラで覆っている。それで爆発を防ぐつもりだろうか。

 イタチも、その少女を知っているシスイも、その少女の行動に驚く。そして自来也は頭を抱えていた。

 

「流石にそれは無茶なのでは――」

 

 途端に爆音が辺りに響いた。その爆音は爆弾の威力の程を理解させるに十分なほどであった。だが、木ノ葉の里には一切の被害はなかった。

 あの少女が身を挺して守ったのかと、その自己犠牲を嘆きながらもイタチが空を見ると、そこには爆発の影響で吹き飛ばされているが五体満足な少女の姿があった。

 しかも空中で姿勢を制御し、その上でチャクラを放出する事で軌道まで修正して元の位置へと戻っていく。

 

「な、なんとまあ。死なんとは思っとったがダメージ無しとはの。あやつ、本当に人間か?」

 

 自来也は少女の、アカネの頑丈さにほとほと呆れていた。流石にダメージくらい負うかと思っていたが、あの爆発を間近で受けても無事の様だ。

 ちなみに流石のアカネもあの爆発を直接喰らえばダメージも負うし、死ぬ可能性もある。あれはチャクラで爆弾を覆い、一箇所だけ穴を開けてそこから爆発を逃がしていたのだ。当然自身の肉体もチャクラで強化して守ってある。

 それにより威力を最小限にしていたのだ。その結果が無傷な姿なのだが、空を飛ぶ暁の一員もこの結果に大きく動揺したようだ。

 

 アカネはチラリと自来也を見て、すぐに上空の暁を無視して試験会場へと駆けて行く。どうやら自来也達に上空の敵を任せたみたいだ。

 そして自来也達も暁の動揺を見逃す程お人好しではなかった。

 

――火遁・大炎弾!――

――風遁・大突破!――

――火遁・龍炎放歌の術!――

 

 自来也とイタチが火遁を、シスイが風遁を放ち上空の暁に攻撃をする。強力な火遁は風遁を受ける事で更に強大となり、そのまま上空の暁へと迫って行った。

 渾身の爆弾を防がれた暁の一員はそれに気付くのが遅れて回避し損なってしまう。だが、完全に喰らったわけではないようで、上空を覆う大火炎の中を大きな鳥の様なモノが突き破っていくのが三人の目に映った。そしてそれはそのまま木ノ葉から飛び立っていった。

 

「……逃げおったか」

「その様です。分身などではありません」

 

 写輪眼は忍術や幻術を見抜く力を持っている。そのため先程逃げたのは分身などの囮ではないと見抜いたのだ。

 

「しかし、アカネちゃんは一体……」

「おお、シスイはアカネを知っておるのか」

「ええ、日向の敷地で何度か。……ですが、あそこまでの実力を持っているとは……」

「まあ今はそれどころではあるまい。気になるだろうが、一先ずは里の防衛に専念せよ」

「そうですね……。イタチ、大丈夫か?」

「問題ない。それでは自来也様。私達はこれにて……」

 

 二人は里の防衛の為に各地に散っていった。

 

――三代目を頼むぞ、アカネ――

 

 そしてアカネに想いを託し、自来也もまた別の場所を襲う砂の忍を倒す為に移動するのであった。

 移動の先々で無数のアカネ(影分身)を目撃したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 試験会場では試験を観戦していた木ノ葉の上忍が攻めて来た砂の忍に対応していた。

 突如として同盟国が敵国へと変わり、火影も連れ去られ敵に襲われているという危機的現状だが、上忍達は三代目火影を信じてまずは襲い来る砂の忍に対処するよう冷静に行動する。

 

「三代目が心配だ。一気に奴らを叩くぞカカシ!」

 

 ……若干一名は冷静さを欠いているようだ。だが襲い来る砂の忍に不覚を取る事無く次々と倒している。その腕は上忍に相応しいようだ。

 

「落ち着けよオビト。上は暗部に任せろ。火影様はそうやすやすとやられるような人じゃない」

「お前には老人を労わる心がないのかこの人非人!」

「お前ね……三代目を老人扱いするのはどうなの?」

 

 軽口を言い合いつつも二人の動きは止まっていない。矢継ぎ早に攻撃を繰り出し、見事なコンビネーションで砂忍を仕留めて行く。

 この二人こそ木ノ葉一のコンビネーションを誇るはたけカカシとうちはオビトである。

 両者は対称的に片目のみに写輪眼を持っていた。カカシは左目に、オビトは右目にだ。これは両方とも元々オビトの写輪眼なのだが、かつての戦争でいざこざがあり左目の写輪眼をカカシに譲った結果だ。

 その時は死を覚悟したが故の写輪眼のプレゼントだったが、オビトは日向ヒヨリに助けられる事で九死に一生を得たのだ。

 右半身が岩に潰されるという重傷を負っていたが、ヒヨリの二代目火影すら癒した再生忍術にて命を長らえたのだ。そのせいで多少寿命が縮まってしまったが。

 再生忍術は対象の細胞分裂の回数を急激に速めて細胞を再構築する術だ。だが人の一生の細胞分裂回数は決まっている為、それを速める事は寿命を縮める結果に繋がるのだ。

 まあすぐに死ぬか、寿命が縮んでも生き延びるかならば大半の人間が後者を選ぶだろう。事実オビトもヒヨリには感謝していた。元々老人愛護が強いオビトだったが、そのせいで余計に老人愛護が高まっていたりする。

 

 とにかく、両者とも同じ瞳を持ち、長年の友にしてライバルとも言える関係だ。

 おかげでそのコンビネーションも群を抜いていた。同じくカカシのライバルを自称する体術の達人マイト・ガイも嫉妬する程であった。

 

「お前らぁ! 相変わらず仲がいいなぁ羨ましいぞコンチクショー!」

「お前は相変わらず暑苦しいんだよ! 火遁使ってるんじゃねーのか!?」

 

 ガイは木ノ葉でも、いや世界で見ても右に出る者が少ない体術を披露して次々と砂忍を倒し、オビトも写輪眼を駆使して敵の動きを読みながらカウンターを決めていく。

 この二人も意外と仲が良かったりする。と言うか、かつて中忍試験でガイにボコボコに負けた経験のあるオビトはガイもライバル視しているのだ。

 青春と熱血が大好きなガイもそんなオビトを気に入っており、いつでもどこでも挑戦を受けて立っている。そんな関係を続けている内に仲も良くなっていったのだ。

 そんな暑苦しい両者を見て呆れるのがカカシであり、そんな三人の関係は木ノ葉では有名であった。

 

「さっさと倒して三代目を助けに行くぞ! そんで怪我したらリンに治してもらう!」

「お前欲望に忠実だね。ほんとそこ等辺は尊敬するよ」

 

 リンとはオビトの台詞から分かる通りオビトの想い人だ。医療忍術の使い手であり、その実力は医療忍者の最先端を行く綱手に次ぐとまで言われている。

 だが、彼女は実はカカシが好きであり、オビトの想いが報われる事は今の所ない。今の所というのも、人の心は移ろうものだからだ。実際リンもオビトに対して想う所が無い訳ではなかった。

 オビトの未来はまだ閉ざされてはいないのだ。人の可能性は無限なのである。……多分。

 

「うるせー! お前が影で隠れてこっそりとイチャイチャシリーズ読んでるの知ってるんだぞオレはァ!!」

「ちょ! おま! それは言わない約束でしょーが!」

「そんな約束した覚えねーよ!」

 

 秘密にしていた趣味を知られていたカカシは思い切り動揺する。

 だがその動揺を怒りに変え、怒りを力に変え、それを全て砂忍にぶつける事にした。

 

「ええい! 一気にやるなら合わせろよオビト!」

「あれか! お前が風遁を使えりゃオレが火遁するのによ! 風遁覚えろよカカシ!」

「四つの性質変化覚えてれば十分でしょ! 行くぞ!」

「おう!」

 

「雷遁!」

 

――水遁・水龍弾の術!――

 

 オビトが放った水龍弾にカカシが雷遁のチャクラを混ぜ込む。

 これが二人の合体忍術・雷水龍弾の術である。雷を帯びた水の龍はオビトの操作により自在に動き、会場内の砂忍を次々と襲っていく。

 触れただけで感電し、その上高圧水流に押し潰されるという強力な忍術によって会場内の砂忍はほぼ全てが無力化される事となった。

 

「やるじゃないかお前達! オレも負けてられん!」

「どうよ見たか! これが未来の火影の力だぜ!」

「オレ達の力だろ。さあ、次の――なんだ!?」

 

 次の敵を倒すぞ。そう言おうとしたカカシは、視界の中で起こった出来事に圧倒されてその先を言う事が出来なかった。

 空に巨大な爆発が広がっていく光景が見え、そしてそれに驚いている内に高速でこちらに迫って来る少女をカカシは見た。

 その少女は会場内に着地し、すぐにその場を飛び立った。目指した場所は、三代目火影と大蛇丸が戦っている屋根の上だ。

 

「あれは!?」

「木ノ葉の下忍か! だがそれにしては!」

 

 それにしては強すぎるチャクラを纏っている。

 ガイのその考えは次のオビトの言葉によって口から出る事はなかった。

 

「あれは……ヒヨリ様だ……!」

「なに!?」

「オレが間違えるものか! あのチャクラはヒヨリ様のチャクラだ!」

 

 オビトはかつてヒヨリに助けられた時にヒヨリのチャクラをその身で感じ取っていた。

 更に右目の写輪眼でもヒヨリのチャクラを確認している。白眼程ではないが高い洞察力を持つ写輪眼によってオビトはヒヨリのチャクラを良く覚えていた。

 そのチャクラと先の少女のチャクラが完全に同質だったのだ。ヒヨリと同じく白眼を発動している少女を、オビトはヒヨリとしか見る事が出来なかった。

 

 そしてオビトの言葉にカカシ達が驚く暇もなく、少女は三代目と大蛇丸を取り囲む結界を突き破って中に侵入していった。

 

 




 主人公による原作との変更点。

 うちはオビト……第三次忍界大戦の神無毘橋の戦いで重傷を負うがヒヨリに助けられて生き延びる。左目はカカシに譲ったため隻眼となっている。今も火影を目指して邁進中。万華鏡は未開眼。

 のはらリン……霧隠れの忍に攫われる事なく、今も生きて木ノ葉の忍として活躍している。医療忍術のスペシャリストに成長した。

 はたけカカシ……オビトとリンが生きているのでオープンむっつりではなくただのむっつりに。愛読書は変わらずイチャイチャシリーズ。誰にも秘密にしているがオビトにはばれていた。万華鏡は未開眼。

 デイダラ……設定的に特に変更はないが主人公のせいで木ノ葉の戦力が原作より整っていたので暁の一員として木ノ葉崩しに助っ人参戦する。


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NARUTO 第十話

 三代目の目の前には懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 【初】と書かれた棺からは初代火影・千手柱間が、【二】と書かれた棺からは二代目火影・千手扉間が、そして最後の【日】と書かれた棺からは……日向ヒヨリがそれぞれ姿を現していた。

 

「ま……! まさか! あの方々は……!?」

「あの方々……?」

 

 結界の外でそれを見た暗部の一人は口寄せされた者の正体に気付いた。

 もう一人はどうやら先代火影とヒヨリの姿を知らない様だ。恐らく若い暗部なのだろう。

 

「久しぶりよのォサル……」

「ほぉ……お前か。歳を取ったな猿飛」

 

 二代目が三代目に気付き、そして初代も目の前の老忍がかつての記憶よりも歳を取った猿飛ヒルゼンだと気付く。

 二人に死亡した時から今日までの記憶は当然ない。死者に記憶などないからだ。言うなれば未来にタイムスリップして来たような感覚と言った所だろうか。

 

「まさかこのようなことで御兄弟お二人と、そしてヒヨリ様に再びお会いしようとは……ん?」

 

 衝撃的な再会に驚き、その再会がこの様な形で成された事を残念に思っていた三代目だったが、穢土転生の最後の一人である日向ヒヨリの様子が可笑しい事に気付く。

 ヒヨリの姿を模っていた塵芥(ちりあくた)は形成された瞬間からすぐに崩れ落ちていき、最後に穢土転生に必要な生贄が中から倒れ出てきたのだ。

 

「これは……!?」

「どういう事なの……!?」

 

 何故ヒヨリの穢土転生だけ崩れ落ちたのか。それは三代目はもちろん、術者である大蛇丸でさえ理解出来なかった。

 術の失敗はなかったはず。死者である日向ヒヨリは確実に浄土から口寄せされたはずだ。だが、事実日向ヒヨリの穢土転生は失敗している。

 穢土転生に必要な死者の一部も、生贄も、術式も完璧だった。なのに何故? 何故日向ヒヨリだけ穢土転生が成功しなかったのか? そんな疑問が大蛇丸の中を巡る。

 

「穢土転生が失敗した? ヒヨリの奴め、まだ生きているのか?」

「ガハハハハ! ヒヨリがそう容易く死ぬはずあるまい! そう言えば、猿飛がそれだけ歳を取っておるということはヒヨリも相当な年寄りになっているのだろう? 見てみたいものぞ!」

 

 日向ヒヨリが生きている。それならば確かに穢土転生は失敗するだろう。穢土転生は死者を呼び出す術なのだから当然の話だ。

 だが三代目はそれはあり得ないと言う事を確信している。

 

「そんなはずは……ヒヨリ様は確かに十五年前の戦争中に現れた三尾を食い止めた時の傷が元で亡くなられたはず……!」

 

 日向ヒヨリの穢土転生が失敗に終わった事は三代目に取って喜ばしい事だが、それに関しては疑問が残る物となっていた。

 確かに日向ヒヨリは亡くなっていたはずである。だというのにどうして穢土転生は失敗したのか。

 大蛇丸も同じ疑問を抱いていたが、ここでこうして悩んでいても仕方のない事だ。今は穢土転生が成功した初代と二代目を完全な傀儡にして、師である三代目を殺すべきだと切り替えて行動に移る。

 

 穢土転生による死者の頭の中に特別性の札を埋め込む事でその死者の人格を殺し完全なる殺戮人形へと化す。

 大蛇丸はこのままでも二人を操る事が出来るが、そうすると二人の制御に力を割く為に大蛇丸自身の三代目への対応が疎かになる可能性がある。

 それを防ぐ為に二人を敵を殺す為のマシーンに切り替えようとしているのだ。

 そして大蛇丸が札を埋め込もうとした瞬間――結界の中に新たな乱入者が現れた。

 

『!?』

 

 三代目も大蛇丸も、結界を張っていた大蛇丸の部下も、結界の外を見守るしか出来なかった暗部も、新たに現れた存在に驚きを隠せなかった。

 その乱入者は、暗部の侵入を拒んだ強力な結界を突き破り、三代目と大蛇丸の間に着地したのだ。これだけの結界を容易く突き破る、味方ならばたのもしく、敵ならば難敵だろう。敵か味方かどちらだ? 三代目も大蛇丸も同時にそう思い、そして三代目はそれが味方であると判断した。

 その姿に見覚えがあったのだ。去年アカデミーを卒業し、日向ヒアシの付き人として三人一組(スリーマンセル)を組まずに一人で下忍として活動しているという日向アカネ。

 木ノ葉にいる忍――アカデミーの候補生は除く――ならば全員覚えている三代目はすぐにアカネの名を思い出した。

 

「お前は……日向アカネか! 何故ここに!?」

「日向? 白眼の娘が何の用かしら?」

 

 乱入者の正体が判明した所で三代目も大蛇丸もすぐに落ち着きを取り戻した。

 三代目はこれから起こるだろう血みどろの殺し合いの中に入ってきたアカネを心配するが、大蛇丸はわざわざやって来た実験サンプルに興味を示していた。

 

「白眼は持ってなかったわねぇ。写輪眼と比べると見劣りするけど、貰えるものなら貰っておこうかしら」

 

 世界各地から集めた珍しい能力を持っている大蛇丸の実験体の中にも日向一族はいなかった。

 日向一族は白眼に対する警戒心が強いので大蛇丸でも奪う事は容易ではなかったのだ。

 結界を突き破っての闖入には驚いたが、三代目を殺すついでに貰っていくのも悪くはない。そう思っていた大蛇丸は、すぐにその考えを破棄した。

 

「う、おお……!」

「これは……!?」

 

 目の前の少女から放たれるプレッシャーに大蛇丸は先程までの考えが甘い物だと理解した。

 あまりのプレッシャーに周囲の屋根はどんどんとひび割れていく。先の三代目と大蛇丸のプレッシャーの比でない。

 大蛇丸は確信した。これは……化け物だ。

 

「ガハハハハ!」

 

 三代目と大蛇丸がアカネのプレッシャーに気圧されている中、初代火影が突如として笑い出した。

 そして大笑いしている初代とは対照的に、隣にいる二代目火影は頭を抱えてアカネを見ていた。

 

「なるほど! お前は本当にオレを驚かせる!」

「穢土転生が成功せんわけだ……」

「……まさかッ!」

 

 大蛇丸は二人の言葉の意味が理解出来なかった。だが三代目は理解出来たのか、驚愕の瞳でアカネを見ている。

 そしてアカネは初代と二代目の言葉を聞いてそれまで放っていたプレッシャーを弱め、二人を見ながら微笑み語りかけた。

 

「安心しろ。すぐに止めてやるから」

「うむ! 任せたぞ!」

「お前がどうしてそのような姿で、今ここにいるのかは知らん。だが、木ノ葉を頼んだぞ」

 

 アカネの言葉に、柱間と扉間は頷いて答えた。

 そして二人の返事にアカネもまた頷く事で返した。

 

「何を!? 木ノ葉は今日終わるのですよ! 先代達は物言わぬ殺戮人形になっていただきましょう!」

 

 大蛇丸からしたら戯言としか言えない台詞を吐く初代と二代目に苛立ち、大蛇丸はすぐに二人の頭に札を突き入れた。

 徐々に二人の体が生気を帯びて行き、生前の姿へと近づいていく。それを見たヒルゼンは警戒を強めるが、そんなヒルゼンに対してまるで部下に対するようにアカネは言葉を発した。

 

「ヒルゼン。下がってなさい」

「しかし……!」

「下がれ。二人は私が止める。大蛇丸もだ」

 

 それは三代目に有無を言わせない圧力を籠めた言葉だった。

 そこから感じ取れる怒りを知り、三代目は大蛇丸を見た。

 

「愚かよの大蛇丸。人の道を外れ外道に成り下がり、その結果逆鱗に触れてしまった」

「逆鱗? 今更あなたの逆鱗に触れたところで……!」

 

 大蛇丸は既に三代目の逆鱗に触れている。少なくない里の忍達を犠牲にして禁術の人体実験をしていた大蛇丸だ。里を想う三代目にとってそれは許せない事だ。

 だが、三代目の言う逆鱗とは己自身の事ではなかった。

 

「ワシではない……この御方のじゃ!」

 

 三代目火影がこの御方と呼ぶ人物だろうアカネを大蛇丸は怪訝に思う。

 何故火影ともあろう者が一介の忍――にしては強いチャクラを纏っているが――をそう呼ぶのか。

 その疑問は、アカネの放つチャクラを感じている内に解けていった。

 

「まさかお前は!」

「扉間も他里の忍にしていた事だ……私が怒るのは扉間の穢土転生の犠牲者からすれば筋違いかもしれない……が! 大蛇丸! この二人を口寄せした事を後悔させてやろう!!」

「あなたは! 日向ヒヨリ!?」

「はぁっ!」

 

 大蛇丸がアカネの正体に気付いた瞬間、アカネの体から更にチャクラが溢れ、一瞬で内へと圧縮されていった。

 体から溢れるチャクラを凝縮する事で、視認出来る程に具現化したチャクラの衣を作り出し身に纏ったのだ。

 

「くっ! まさか生きていたとはね! いや、私と同じ術か!?」

「お前と同じ? それはお前の中にいる白蛇の事か? だとしたら一緒にされるのは不快なんだがな」

「そこまで見抜けるというのね! あなたの白眼はどれ程見通せるのかしら……!」

 

 他人の肉体を乗っ取る不屍転生(ふしてんせい)を開発した結果、大蛇丸の本体は巨大な白蛇と化している。

 そして今の体の奥深くに隠してあるその本体をアカネは白眼にて見抜いていたのだ。

 

「しかも不屍転生ではない……!? いいわ! 興味があるわその術! どうやって蘇った日向ヒヨリィィィ!」

 

 大蛇丸はアカネを捕らえるべく殺戮人形と化した柱間と扉間をアカネにけしかけた。

 殺戮人形故に加減は出来ないが、目の前の化け物は加減をしないくらいが丁度いいだろうとの判断だ。

 下手に手加減などすれば危ういのは己の身だ。

 だが、大蛇丸のその考えはまだアカネという存在を過小評価した考えだった。

 

「……遅すぎる」

 

 柱間が木遁――柱間のみに使用出来る血継限界――の印を、扉間が水遁の印を組みそれぞれ術を発動しようとする。

 だがその術が発動する前に、アカネは二人を通り越して大蛇丸の前へと移動していた。

 しかも柱間と扉間に大玉螺旋丸を叩き付けるというおまけ付きでだ。

 

 螺旋丸とはかつて四代目火影が考案した形態変化を極限まで極めた忍術だ。

 形態変化とは読んで字の如くチャクラの形態を変化させる技術の事だ。性質変化ほどの威力はないが、様々な形態変化により術の幅を大きく上げる事が出来る。

 ちなみに忍術を使用する時に必要な印は形態変化を簡易的に使用する為に開発された物だ。この印を組む事で性質変化をした術に様々な形態を加え、それが火遁や水遁などに代表される術となるのである。

 

 そして螺旋丸は印を用いず形態変化のみで最大の威力を持てるようにする思想で開発された。

 掌からチャクラを放出し、それを乱回転させて更に圧縮して球状に留め、それを対象にぶつける術である。

 言葉にすれば簡単だが実際にこの術を会得するのは非常に困難だ。忍術の会得難易度で言えばAランク。上から二番目である。

 相当なチャクラ操作とチャクラ放出の技術が要される高等忍術であった。現在螺旋丸を会得している忍は数える程だ。

 

 ちなみに術を開発し命名したのは四代目火影だが、アカネはヒヨリとして生まれた時から螺旋丸を会得していた。

 長きに渡る人生で似たような技を開発していたのである。印を用いずに使用出来てかつ高威力を誇るのでアカネも愛用している術だ。

 

 その術を両手で作り出し、その大きさを人一人を飲み込める程に大きくして柱間と扉間にぶつけたのだ。

 それだけではない。穢土転生体は例え体を損傷してもすぐに塵芥が集まり元に戻ってしまう。いくら攻撃しても倒す事が出来ない不死身の兵と化すのだ。

 だからアカネは二人を攻撃した螺旋丸を自身の体から離れてからもそのまま維持し続けた。二人が再生してもすぐに破壊して、再生と破壊を繰り返させる事で行動不能に陥らせたのだ。

 例え二人の肉体が動き螺旋丸からずれた場所で再生しようとしてもすぐにアカネが螺旋丸を操作して二人の体を攻撃し続ける。

 螺旋丸は掌から放出されるチャクラを操作して作り出す術だ。これは掌がもっともチャクラ放出に向いている箇所なのが理由だ。

 それを肉体から離しても維持し続ける。チャクラ放出とチャクラ操作、二つのチャクラの技術が桁外れに高いアカネだからこその芸当である。白眼で二人の位置を確認しているのも要因の一つだ。

 

「所詮は不完全な穢土転生。柱間と扉間が本来の力で蘇っていればこんな攻撃は通用しない。お前がそうしなかったという事は本来の力で二人を復活させると穢土転生の縛りを破られると理解していたからか……」

「ふ、ふふははは! 素晴らしい……! これが! これがお伽話にすらなった初代三忍の真の力!」

 

 大蛇丸をしてアカネの力は桁違いと思わざるを得なかった。

 瞬神と呼ばれた四代目以上の速さ、螺旋丸の高等応用技、そして今も周囲を圧迫する程の圧力を放ちながらも一切の無駄な破壊を生み出していない高密度なチャクラの衣。

 まさに伝説の忍。木ノ葉を築き上げた最強の三忍その一人。

 

「大蛇丸。お前は少々やりすぎた。幼い頃はこうではなかったのに、いつから……」

「さあ、それは私にも分かりませんねぇ……。私はただこの世の全てを解き明かしたいだけなのですよ」

 

 この世の全てを解き明かす。全ての術を知りこの世の全ての真理を理解する。それが大蛇丸の欲望。

 だが人の身でそれを成すには時間が足りな過ぎる。有限の身では全ての真理を理解するなど不可能だ。だからこそ大蛇丸は不屍転生(ふしてんせい)を開発したのだ。

 

「そんな事は全知全能にでもならない限り不可能だ。そしてそれは悠久の時を手に入れても達する事が出来ない境地だ」

「まるで悠久の時を手に入れているかの様なお言葉ですね。死して新たな肉体で蘇ったその秘密……是非とも教えて頂きたい物です……!」

 

 大蛇丸の不屍転生(ふしてんせい)にはある欠点があった。

 それは一度不屍転生(ふしてんせい)を行うと三年ほど時間を開けないと再び使用出来ないという物。

 だがアカネの術にそう言った欠点がないのなら、しかも乗っ取る相手を見繕う必要がないのなら、それは大蛇丸にとって理想の転生忍術と言えた。

 

「無駄ですよ。これは私だけの術。あなたが使う事は不可能です」

 

 アカネの転生能力は忍術ではないのだ。例え誰であろうと、この世の全ての術を会得しようとアカネの能力を会得する事は出来ない。

 

「だったらあなたの体を乗っ取ってでも……!」

「やってごらんなさい。出来るものならね!」

 

 大蛇丸はアカネの肉体を無傷で手に入れる為に幻術を仕掛ける。

 だが幻術の類はアカネの能力によって完全に無効化されてしまうのだ。

 

 幻術が一切効果ないとすぐに悟った大蛇丸は忍術による攻撃を選択した。

 

――風遁・大突破!――

 

 大蛇丸の口から暴風が吐き出され、荒れ狂う暴風がアカネを襲う。

 だがこの攻撃はアカネにダメージを与える為のものではなかった。

 この程度の忍術でアカネを傷つける事は不可能だと大蛇丸も理解している。

 だが屋根の上という不安定な足場を崩し、アカネを宙に吹き飛ばす事なら出来るだろう。

 いくら暴風に耐える為に踏ん張ろうとも、足場その物が吹き飛べば踏ん張りようがないのだから。

 

 そうして宙に吹き飛んだ所を体の中に口寄せしてある草薙の剣で攻撃する。

 草薙の剣は大蛇丸の持つ忍具の中でも最大の切れ味を誇る剣だ。また自在に刀身を伸ばす事も出来る。結界がある為アカネが吹き飛び過ぎない様になっているのも計算づくだ。

 これならばアカネがいかにチャクラの衣で身を守っていようとも貫く事が出来る。大蛇丸は草薙の剣を空中で無防備となっているアカネへと伸ばそうとして――

 

「なッ……!?」

 

 微動だにしていないアカネを見て驚愕する事となった。

 アカネの位置は大蛇丸が風遁を放った時から僅かたりとも後ろに下がってはいない。

 そればかりか足場もないと言うのに宙に浮いて元の位置を維持しているのだ。未だ暴風はアカネを襲っているというのにだ。

 

「くっ!」

 

 大蛇丸はそれでも構わずにアカネに向けて草薙の剣を伸ばした。

 当たりさえすれば致命傷を与える事が出来るはず。そんな大蛇丸の考えはまたも真っ向から否定される事となった。

 

 草薙の剣は確かにアカネに命中した。だが高速で回転するチャクラによって草薙の剣はアカネにかすり傷一つ付ける事も出来ずに弾かれたのだ。

 

――か、回天!? いえこれは!――

 

 そう、大蛇丸が気付いた様にこれは回天ではない。

 肉体ではなく放出したチャクラそのものを回転させる事で攻撃を弾くという、回天の更に上の奥義、廻天である。

 

 アカネは大蛇丸の攻撃を廻天にて弾いた後、そのまま廻天を維持しつつ大蛇丸へと接近した。

 そして放たれるは柔拳の奥義。瞬時に相手の点穴を流れるように打ち続ける事でチャクラの流れを塞き止める日向宗家にのみ伝わる秘伝。

 

――柔拳法八卦六十四掌――

 

「ぐがああ!?」

 

 凄まじい速度で繰り出される攻撃はその全てが大蛇丸の本体である白蛇の点穴を突いていた。

 肉体の奥深くに隠れている白蛇まで浸透するようにチャクラを鋭く突き刺し、その上アカネのチャクラを点穴に突き刺して残しておく。

 これで時間が経っても点穴が解除される事はない。アカネがチャクラを消すか、誰かの手で排除してもらわない限り大蛇丸はまともにチャクラを練る事も出来ないだろう。

 さらには体の内部から焼かれる様な痛みが常に大蛇丸を襲い続ける。これがアカネが大蛇丸に下す罰であった。

 

「これでお前の大半の術は奪った。そしてその痛みは永劫消える事はない。お前が弄んだ人の痛みを僅かでも思い知れ」

「ぐ、うううぅうっぅ! くそ……!」

 

 悪態を吐く余裕もなく大蛇丸は痛みに悶えながら思考する。そんな事をしている暇はないのだ。このままでは木ノ葉に捕われ永劫の苦しみを味わうか、座して死ぬかの未来しか待っていない。

 何とかして逃げなくてはならない。生き延びさえすれば方法はあるのだから。

 

「あなた達!」

『はっ!』

 

 結界を張っていた大蛇丸の部下が結界を解除して主人を守るように飛び出してくる。大蛇丸はそれに呼応する様に後ろへと下がって行った。

 部下に僅かでも時間を稼がせて自分は逃げ切るつもりだろう。だが、この程度の足止めがアカネに通用するわけもなかった。

 

「喰らえ蜘蛛しば――」

 

 アカネに向けてチャクラを流し込んだ粘着性の糸を飛ばしてくる音忍。だが既に糸を飛ばした場所にアカネの姿はなかった。

 

「ど、どこに!」

 

 その言葉を最後に糸を飛ばした音忍は気を失った。

 アカネは経絡系を突いて音忍の一人を気絶させた後、すぐに残りの音忍へと攻撃を加える。

 その速さに対応出来た音忍はおらず、残りの三人もあえなく気を失う事となった。

 

「くっ……役立たずめ!」

「逃げ切れると思うなよ大蛇――む!?」

 

 逃げようと足掻く大蛇丸に止めとなる一撃を加えようとしたアカネ。

 だがその攻撃は寸でのところで止まる事となった。それは何故か?

 

「消えた? この消え方、口寄せ解除か!?」

 

 そう、アカネが攻撃を止めたのは肝心の大蛇丸がその場から急に掻き消えたからだ。

 

「馬鹿な……! プライドの高いあ奴が口寄せされていたじゃと!?」

 

 その事実に大蛇丸の師である三代目火影も驚愕していた。

 大蛇丸が誰かと口寄せ契約をする様な人間だとは思ってもいなかったのだ。

 だが確かに効果的な逃走方法だ。予め口寄せにて現れていたならば、その口寄せを解除すれば確実に元の場所まで時空間を飛び越えて一瞬で移動する事が出来るのだから。

 

「……やれやれ。面倒事を片付けられませんでしたか」

 

 そう呟きつつも、まだ木ノ葉には面倒事が残っている事を思い出し、それをアカネは片付けようと白眼にて当の面倒事を確認する。

 

「……あれは」

 

 アカネが見た物は、面倒事である尾獣が一体・一尾と闘っているナルトの姿だった。

 ナルトはあの一尾を相手にガマブン太を口寄せし、協力して渡りあっている。

 人柱力と力を合わせていない尾獣とはいえ、それでも尾獣は強大だ。

 それを相手に一歩も退かずにナルトは闘っていた。

 

「……ふふ」

 

 これなら大丈夫だ。アカネはそう確信を持って言えた。

 今のナルトは誰かを守る為の目をしており、そして敵を憎む目をしていない。そういう目をした者は強い。アカネはそれを長き人生で知っていた。

 

「もしもの事があれば加勢してあげるから、全力でやりなさいナルト」

 

 もっとも、その必要はないだろう。何故かアカネはそう思えるほどナルトが勝つと信じていた。

 アカネにそう思わせる何かがナルトにはあった。恐らくミナトもそれを感じ取ってナルトを信じて九尾を封じ込めたのだろうとアカネは思う。

 

 そんな風に過去に思いを馳せ、地味に現実逃避をしていたアカネは後ろから感じる複数の視線に気付きつつもあえて無視していた。

 

「……ヒヨリ様」

「おお、そこだ! いけナルト!」

「ヒヨリ様!」

「はて? 私は日向アカネというしがない下忍でして。ヒヨリ様という超絶美女くノ一とご一緒にされるとヒヨリ様に申し訳ないのですが?」

「それで誤魔化せると思っておられるなら些かワシ等を馬鹿にし過ぎですが」

 

 アカネが後ろを振り向くと、アカネの予想通り四人の忍にじーっと見られていた。

 三代目火影、はたけカカシ、うちはオビト、マイト・ガイの四人である。全員生前の日向ヒヨリと面識のある忍だ。

 

「……てへぺろ」

「……」

 

 アカネの過去だろう人物を想像すると果てしなく似合わない仕草と思ったカカシであるが、命が惜しくてそれを口にする事はなかった。

 だが残念。アカネはそれくらい容易に読み取る洞察力を備えているのだ。初代三忍の名は伊達ではないのだ。

 

「何か言いたそうですねカカシさん。下忍なんかに遠慮せず言っても良いんですよ?」

「空が青いですねー。あ、鷹だ」

 

 どこかで聞いた事のある様な誤魔化し方をするカカシ。

 カカシは自来也の孫弟子に当たるので、余計な所まで継承したのかもしれない。

 

「うう、生きてたんですねヒヨリ様!」

 

 オビトは残った右目からだーだーと涙を流していた。

 昔から泣き癖がある子だったなと、オビトの幼い頃を良く知っているアカネはそれを思い出した。

 オビトは小さい頃から老人と仲良くなるのが得意で、木ノ葉の全ての老人と知り合っていた。それは日向ヒヨリも例外ではない。

 そしてオビトは命の恩人であるヒヨリを今も尊敬し慕っていたのだ。亡くなったヒヨリがこうして無事(?)生きていて非常に嬉しく涙を禁じえないようだ。

 

「ヒヨリ様、色々と事情を聞かせてもらいたいのですが……今は非常事態ゆえ後回しにさせて頂きます」

「ええ。私もこの状況で白を切るつもりはありませんよ。……本当ですよ? なんでそんな疑わしそうにこっちを見るんだヒルゼン?」

 

 最初に白を切った本人に言われても説得力という物がないだろう。

 

「この戦争の片が付いたらこの場にいる人と信用の置ける忍を集めておきなさい。その時に全てを説明しましょう。でも、出来るだけ少ない人数でお願いしますよ?」

「かしこまりました。皆の者! すぐに戦争を終わらせるぞ!」

『はっ!』

 

 そうして三代目と共に上忍たちが砂忍との決着をつけにいく。

 と言っても既に大蛇丸は退場し、一尾もナルトが抑えている。残りの砂忍の多くが死亡や重傷で戦闘不能に陥っており、無事な砂忍も大半が戦意を喪失していた。

 そしてナルトが一尾とその人柱力である砂の我愛羅を倒した所で砂隠れは木ノ葉から撤退。

 後に、戦争により里の戦力低下を招くという、本来の計画からすれば真逆の結果を生み出してしまった砂隠れは木ノ葉に全面降伏を宣言。

 木ノ葉はそれを承諾。戦争を仕掛けて来た砂の掌を返した様な申し出だが、木ノ葉としても無駄に戦争を続けて被害を拡大するつもりはなかったのだ。

 こうして木ノ葉隠れと砂隠れの戦争は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 とある薄暗い部屋の中に二人の人物がいた。

 

「危ないところだったわ……」

 

 一人は大蛇丸。全身を襲う痛みに耐えながら大蛇丸は安堵の溜め息を吐いていた。

 口寄せの術を利用した移動法で上手く木ノ葉から逃げ延びた大蛇丸。

 後僅かに口寄せ解除が遅ければ……。やはり口寄せ契約を交わしておいて正解だったと大蛇丸は自分の英断を内心で褒め称える。

 大蛇丸は木ノ葉の戦力を舐めてはいない。今の木ノ葉には自身を脅かす存在が最低でも五人はいると判断していたのだ。

 それが三代目火影・うちはシスイ・うちはイタチ・日向ヒアシ・日向ヒザシの五人である。

 一人一人ならば勝つ自信もあったが、二人同時ならば勝ち目は薄く、三人以上ならばまず勝てないだろう。それ程の実力者達だ。

 だからこそ念には念を入れて緊急避難用に口寄せ契約を結んでいたのだ。

 

「ご無事で何よりです」

 

 そして大蛇丸の隣で彼に医療忍術を掛けている男。彼の名前はカブト。大蛇丸に仕える忍の一人にして大蛇丸が最も重宝している男である。

 このカブトこそが大蛇丸と口寄せ契約を結び、大蛇丸をこのアジトへ呼び戻した張本人であった。

 

「ふん……あなたにしたら私が死んだ方が良かったんじゃないかしら? ああ、私が死ねばあなたの大切な人も危なかったわねぇ……」

「……」

 

 大蛇丸の言葉に無言で返すだけのカブト。彼は望んで大蛇丸に仕えている訳ではなかった。

 かつてカブトはとある孤児院に世話になっていた一人の戦災孤児であった。

 孤児院は火の国や木ノ葉の里から補助金を受けて経営されており、その補助金をより多く得る為に孤児院の職員や子どもは医療忍術にて木ノ葉の忍を癒すという仕事をこなしていた。

 カブトもまたマザーと呼ばれるカブトを拾ってくれた恩人に医療忍術を教わり、多くの忍を癒してきた。

 幸いと言っていいのかカブトには医療忍術の才能があった。いや、不幸だったのだろう。才能があったからこそ、カブトは大蛇丸に目を付けられたのだから。

 大蛇丸は戦争で傷ついた肉体をカブトに癒してもらった時にその才能を見出したのだ。

 

 大蛇丸は木ノ葉を抜け出してから暁に入り、多くの人体実験を繰り返していく中で一つの不満を抱えていた。

 それは術の開発に使用される人間の数が多い為、その補充が追いつかないという事だ。

 あまりに多くの人間を攫って人体実験を繰り返していれば流石に木ノ葉や他里の忍に気付かれやすくなる。

 それを防ぐにはどうすればいいか? 人体実験に使用した人間が使い捨てではなく、再利用出来る様にすればいいのだ。

 

 そんな悪魔の様な思考で大蛇丸は優秀な医療忍者であったカブトを拉致して己の駒とした。

 もちろんただ拉致しただけでカブトが自分の命令を聞くとは思っていない。色々と口憚るような手段を取れば話は別だが、それでも意思が強い者ならば裏切る可能性はある。

 だから大蛇丸はカブトを調べ上げ、カブトが己の命よりも大切にしている者を人質にしたのだ。

 それこそが孤児院のマザー、ノノウであった。

 

 カブトに取ってマザーは命の恩人であり名付け親であり自分の理解者であり、本当の親よりも愛している何よりも大切な存在だ。

 そのマザーは大蛇丸に捕らえられ、いつでも大蛇丸の意思一つで殺せるように処理されてしまったのだ。

 さらに大蛇丸はマザーだけでなく孤児院その物もカブトを脅す材料にした。孤児院はカブトの家というだけでなく、血は繋がってないが兄弟と思っている多くの仲間がいる。

 そんな存在も大蛇丸の手に掛かればいとも容易く破壊されてしまうだろう。カブトは大蛇丸に頭を垂れるしかなかったのだ。

 

 だがカブトも大蛇丸にただ従っているだけではない。虎視眈々と復讐の機会を待ち、そして僅かばかりの嫌がらせに大蛇丸や暁の情報を巧妙に隠して木ノ葉の一部の忍に伝えていた。

 それが大蛇丸と同じ三忍の自来也だったりする。自来也が仕入れていた大蛇丸や暁に関する情報の多くはカブトから手に入れたものだったのだ。

 

「……もういいわ。ぐぅ……少しは楽になったけど……」

 

 カブトの治療を受けた大蛇丸は未だ己を苛む痛みに呻く。

 大蛇丸の本体である白蛇の点穴の内六十四は今もなおアカネのチャクラ針によって塞がっている。

 それは大蛇丸に間断無い痛みを与え続け、しかもチャクラを練る事を阻害し続けているのだ。

 三忍と言われた大蛇丸だからこそチャクラを多少は練る事が出来ているようだが、一般的な忍ならば僅かたりともチャクラを練る事は出来ないだろう。

 そしてそれらはカブトの卓越した医療忍術でも癒す事は出来なかった。

 

「おのれ日向ヒヨリ……!」

 

 静かに怒気を現す大蛇丸の言葉にカブトは内心で驚いていた。

 日向ヒヨリ。とうに死んだはずの人間の名前が出た事に驚き、そして大蛇丸が言うからにはそれが事実なのだと理解して更に驚く。

 

「ふふふ……今なら簡単に私を殺せるわよ?」

「ご冗談を……」

 

 カブトの内心は大蛇丸でも計りきれない。それほど上手くカブトは己を殺していた。

 そしてそんなカブトの内心は大蛇丸への殺意とマザーと孤児院を心配する二つの感情で占められていた。

 今もカブトはこの弱った大蛇丸の首を掻っ切ってやりたい衝動に襲われている。だがそれで殺せたとしても、マザーを助ける事は出来ないのだ。

 マザーがどこにいるかカブトは知らされていない。そして大蛇丸が死ねばマザーも死ぬようになっているとカブトは大蛇丸に説明されているのだ。

 もしかしたらそれは大蛇丸のはったりなのかもしれない。だが大蛇丸ならばそんな仕組みをマザーに仕込むのも容易いと思わされている。

 その思いがある限りカブトは大蛇丸を表面上は裏切る事が出来ないでいた。

 

「ふん……。まあいいわ。木ノ葉崩しは失敗に終わったけど、収穫がなかったわけじゃない……」

 

 大蛇丸は新たな器候補であるサスケと、今もなお生きて伝説の力をそのままに振るったアカネの姿を思い浮かべる。

 

「くくく……」

 

 あの伝説の力を上手く誘導すれば、暁を出し抜く事も可能かもしれない。暁との戦闘で弱った所を上手く突けば乗っ取りも可能かもしれない。

 かもしれないという希望的観測だが、その未来を想像した大蛇丸は暗く歪んだ嗤いを浮かべ、闇の中へと消えて行った。

 

 




 主人公による原作との変更点。

 月光ハヤテ……カブトがスパイとして砂隠れのバキと接触する事がなかったので無事に生きている。ただし病弱なのは変わらない。

 ドス・キヌタ……大蛇丸がサスケを求めている事を知らない為サスケへの嫉妬もなかったので我愛羅に挑む事なくすむ。だが大蛇丸によって日向ヒヨリを口寄せする為の生贄にされた。死に方が変わっただけであった。

 薬師カブト……ダンゾウがDANNZOUなので孤児院から連れ去られる事無く成長し続け人格が歪まず確固たる自身を手に入れている。マザーと孤児院を人質に取られているので大蛇丸に従っている。いつか大蛇丸をぶっ殺してやる。


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NARUTO 第十一話

 木ノ葉の里のある一室に複数人の忍が集まっていた。

 その面子は三代目火影を中心としてそうそうたる物で、木ノ葉のご意見番である水戸門ホムラとうたたねコハル。暗部の中の一部隊『根』の主任である志村ダンゾウ。二代目三忍の一人自来也。火影の右腕うちはシスイに左腕日向ヒザシ。日向の長である日向ヒアシにうちはの長であるうちはフガク。木ノ葉有数の上忍であるはたけカカシにうちはオビトとマイト・ガイにうちはイタチ。

 以上の十三人と後一人が一室に揃っていた。この十三人がその気になれば彼らだけで幾つかの国を落とす事も可能だろう。そんな実力者達だ。

 

 そんな実力者達が一人の少女を見つめていた。現在渦中の人物と化してしまった日向アカネである。

 

「では、説明していただきましょうか」

 

 皆を代表して三代目がアカネへと詰問した。

 対するアカネは必殺忍術・かくかくしかじかを放った。

 

「とまあ、そういうわけでして。一応この事はこのメンバー以外には秘密にしておいてください。外に漏れると厄介事しか呼びませんからね」

 

 アカネの言う事は正しい。転生の秘術などという代物を知れば多くの存在がそれを求めてやってくるだろう。

 例え転生の秘術がアカネにしか使えないのだとしてもそんな事は関係ないのだ。欲にまみれた人間は受け入れやすい事柄のみを事実と信じ、受け入れがたい事実は信じないものなのだ。

 この場の人間以外にも木ノ葉には信用の置ける上に立場もある忍は多くいる。だが秘密というものは多くの人が共有すればするほど漏れやすくなるものなのだ。であるので少なくとも今はこの十三人のみがアカネの秘密を共有する事となった。

 

「なんと……ヒヨリ様が転生なされたとは……」

「こうして目の前にしても信じられん……」

 

 相談役のコハルとホムラは三代目の同期の忍だ。幼い頃からヒヨリの存在を良く知っていた人物達だ。

 その力も死に様も三代目と同じくこの場の誰よりも知っている。だからこそ誰よりもアカネの存在に驚いていた。

 

「御二方、信じがたいとは思いますがこれは真実です。それは私が保証いたします」

 

 日向の現当主にそう言われては疑る事も出来はしない。

 日向ヒアシという人物が下らない嘘を吐く人物でない事をこの場の全員が良く知っているのだ。

 

「間違いないぜコハル婆ちゃんホムラ爺ちゃん! このチャクラはヒヨリ様のチャクラだ!」

 

 オビトはその右目の写輪眼で見切るまでもなく自信を持ってそう言えた。

 自身の右半身を癒してくれた力強く暖かいチャクラを間違える訳がなかった。

 

「ワシも保証しよう。この一年間アカネと旅をしてきたが、まあ間違いなくヒヨリ様の転生体よ」

「ワシも疑ってはおらぬ。あの時の初代様と二代目様の反応。そしてチャクラの質と大蛇丸を容易く撃退した強さ。疑い様などある訳がない」

 

 次々とアカネがヒヨリの転生体であると保証する声が上がる事で、この場の全員がアカネを疑う事はなくなった。

 

「しかし何故それをもっと早くに教えていただけなかったのですか?」

 

 三代目のその言葉にアカネは頬を掻きながら返した。

 

「いやまあ、転生なんて大っぴらにしたくはありませんでしたしね。それに……教えたらダンゾウとかホムラとかダンゾウとかコハルとかダンゾウとかが絶対に私を有効活用してきそうだったし……」

「当たり前です。あなた程の力があれば里にどれだけの貢献が出来るか。あと、ワシの名前が多いのはどういう事ですかな?」

 

 今まで黙っていたダンゾウがアカネの言い分にそう返す。

 ダンゾウは使える物は親だろうが子だろうが使う性分なのでアカネという最大戦力を遊ばせておくつもりは毛頭なかった。

 

「ほらぁ。こうなるから嫌だったんですよ」

「子どもですかあなたは……」

「今は子どもですし。十四歳ですし」

 

 好きだの嫌いだので動かれては忍が務まるか。そう考えているダンゾウであったが、それでアカネを止められる訳もなかった。

 

「それにまあ、ちゃんと木ノ葉の為に働いてるじゃありませんか」

「まあ、それは確かにそうですが……」

 

 そう言われてはダンゾウも強くは言えなかった。実際アカネがいなければ今回の大蛇丸と砂隠れによる木ノ葉崩しはもっと大きな被害を受けていただろう。

 

「あと、暁という組織についても調べてますよ」

「それは既に自来也から聞いております」

「そうですか。では暁の危険性も良く理解出来たでしょう。私は暁に対抗する為に出来るだけ里に縛られずに動きたいんですよね」

 

 里の任務などで動いていてはいざという時に対応が間に合わない可能性がある。

 それを防ぐ為にもアカネは自由行動権を欲していた。これまではヒアシ付きの下忍という立場でそれを得ていたが、こうして木ノ葉の中枢に正体を知られたなら改めてその権利を得る必要があるのだ。

 

「それは了解いたしました。ワシからの特別任務という形を取りましょう」

 

 三代目のその意見に反対する者はいなかった。

 

「ありがとうヒルゼン。それと皆にお願いが。私の事は公には普通に下忍として扱ってくださいね。敬語も必要ありませんし、アカネと呼び捨てで結構です」

「それは……」

「確かに必要な処置ですが……」

「むう……」

「ヒヨリ様を呼び捨てとは……」

 

 アカネのお願いに特に難色を示したのが老人四人だ。

 彼らはヒヨリとの付き合いが長かった為にすぐに了承の意思を見せる事が難しかったのだ。

 

「分かったぜアカネちゃん! いやぁあのヒヨリ様をこう呼ぶなんて思ってもいなかったぜ!」

「お前はお前で馴染むの早いね……。まあ了解だアカネ。これでいいんですよね?」

 

 対してまだ若い――と言っても老人組からしたらだが――者達は柔軟に対応していた。

 

「公の場では下忍として扱い、事情を知る者だけならばヒヨリ様と応対する様にすれば問題ないでしょう」

「ああ。私も屋敷ではそうしていたよフガク殿」

 

 そして老人と若者の中間と言える者達は公私の区別を上手く付ける様にしていた。

 

「まあそう言うわけです。今後ともよろしくお願いしますね皆さん」

『はっ!』

 

 そうしてアカネの正体と今後の対応について一通り話終えた所で、アカネはある事を思い出した。

 

「そう言えばヒルゼン。柱間と扉間はどうなりました?」

 

 穢土転生の術にてこの世に口寄せされた柱間と扉間はアカネによって常に破壊され続ける事で抵抗する事も出来ずにいた。

 その間に三代目火影は封印術にて二人を封印しようとしていたのだが……。

 

「残念ながら……大蛇丸が穢土転生を解除したのでしょう。封印の手前にて穢土転生は解除されました……」

「やはりか……」

 

 そう。穢土転生は口寄せの術の一種なので相手は口寄せにて呼び出された存在なのだ。元の術である穢土転生を解除すれば呼び出された死者は再び浄土へと戻るだろう。

 つまりもう一度大蛇丸が穢土転生を使用すれば再びあの二人が口寄せされる事になるというわけだ。

 

「まあ今の大蛇丸がまともにチャクラを練る事は不可能でしょうが」

「点穴ですか? しかしそれはいずれ回復するのでは?」

 

 三代目の疑問は尤もだ。いくら点穴を突いて経絡系を封じたとしてもいずれは回復するだろう。

 

「いえ、大蛇丸の点穴の奥深くに針の様に鋭いチャクラを残しておきました。それを外さない限り経絡系が癒える事はありません」

「なんと……!」

「その様な技術が!」

 

 アカネの説明に一番驚いているのはヒアシとヒザシの二人だった。

 共に日向最強の二人なのだが、そんな彼らが知らない技術なので余計に驚いたのだろう。

 

「と言ってもこれってあまり使い道ありませんよ? 敵を倒すなら普通に点穴突けばいいだけなんですから。これはお仕置き用の裏技みたいなものです」

 

 そう、敵を倒すという一点ならばこのような技術を使うまでもなく普通に点穴を突くだけで十分なのだ。

 それだけで敵を無力化し倒す事が出来るだろう。まあアカネとしては点穴を突くこと自体が無駄だと実は思っていたりする。

 点穴を十だの二十だの六十四だの突くよりも、経絡系に大量のチャクラを流し込んだ方が早かったりする。

 言うなればわざわざ六十四回敵を攻撃しているわけだ。それよりも柔拳を一回叩きこむ方が早いのは道理だろう。

 点穴は敵を無力化する時か、味方に突いてチャクラの増幅を図る時かのどちらかの方が使い道があるだろう。

 

「お仕置きに拘らなければここで終わりに出来ていたのですが……私の判断ミスですね。すみません」

 

 そう、あの時アカネは大蛇丸をただ倒すのではなく、死にはしないが苦痛が持続する攻撃方法を選んだ。

 全ては大蛇丸に他人の痛みを少しでも理解させる為にだ。点穴を突かれるというのは内臓を直接攻撃されるようなもので、その痛みは慣れ親しめるものではない。

 更にこの世の全ての術を手にしたいと願っている大蛇丸がその術の源であるチャクラの大半を奪われてはその苦しみは想像を絶するものだろう。

 そうして大蛇丸を無効化しておいて、その後捕らえて尋問なり投獄なりするつもりだったのだ。口寄せの術を利用して逃走されるとはその時は想像していなかったアカネであった。

 

「ふむ。まあ逃げられた事は仕方ないでしょう。この話はこれで終わりとしよう。次の話だが……」

 

 ダンゾウが流れを変えるように話を切り出した。その内容とは……火影交代についてだった。

 

「ヒルゼン。そろそろ五代目火影を決める時だろう」

「……そうだな。ワシも歳を取りすぎた。大蛇丸といい暁といい、これから木ノ葉と忍界は大きく動き出すじゃろう。その時にワシの様な年寄りでは木ノ葉を動かすには荷が重い」

 

 それは三代目も自覚していた事だった。元々三代目が今の木ノ葉の火影として立っているのも四代目が早くに死去してしまい、火影として相応しい者がいなかった為である。

 いや、正確には三代目が五代目にと思う者は複数いた。だがその誰もが五代目火影就任を拒んだのだ。

 例えば日向ヒアシ。彼は日向の宗家としての立場からその就任を断った。そして弟のヒザシも宗家の存在を鑑みて宗家より上の立場に立たないよう断っている。

 うちはイタチも自分は若く未熟だとして断り、そしてシスイもまた同じであった。

 

 ちなみにアカネを火影にするという案は流石になかった。若くそして誰よりも強いが、表だった実績が少ないので木ノ葉の忍が認めないだろう。

 ヒヨリという正体を明かすなどもっての他であるし、そもそもヒヨリは木ノ葉創生期の人間だ。そんな彼女に木ノ葉を任せるなど今の木ノ葉はオムツも取れてない赤子と言っているようなものだ。それを容認出来る者はこの場にはいなかった。

 

「ダンゾ――」

「自来也か綱手姫が良かろう。ワシは裏方よ。根が表に出るなど大木を枯らす行為。火影に出来ぬ仕事をするのがワシの役目よ」

「……」

「大体ワシもお前と同じ歳だろうに」

 

 ヒルゼンが全てを言い出す前にダンゾウは自分の思いを語りきった。ヒルゼンも二の句を告げなくなる程の返答であった。

 ヒルゼンとしてもダンゾウに火影をしてもらうのはあくまで次の火影が決まるまでの繋ぎをと考えていたのだが、こうも頑なに断られては口に出す事も出来なかった。

 

「ワシは断る。火影なんて柄じゃないんでのォ。綱手にやらせるのが一番だろうよ」

「だが綱手姫は今どこにいるか……」

「ワシが探してこよう。ついでに旅の供に連れて行きたい奴もいるしな」

 

 自来也が言っているのはナルトの事である。

 これを機にナルトに本格的に色々と指導しようとしているのだ。

 暁がナルトを狙っているのはほぼ確定している。ならば早急にナルトを強くする必要があった。

 ナルトを守るのはナルトそのものが強くなるのに越した事はないのだ。

 

「では頼んだぞ自来也。綱手姫が戻るまでは今まで通りヒルゼン、お主が火影として里を牽引してもらうぞ」

「仕方ないのぅ」

 

 これで一先ずの方針が決定したのでこの会議も終わりとなる。

 

「ではこれにて会議を終了する。今回の戦争の被害は少なかったがなかったわけではない。各自里の復旧に力を貸してくれ」

『はっ!』

「それじゃあ私もこれで」

 

 会議が終了したのでこの場から立ち去ろうとするアカネ。

 だがそんなアカネに声を掛ける人物がいた。それも複数もだ。

 

「アカネ殿。良ければあなたの知識を披露しては下さらぬか。もはや伝説となった初代火影と我らが先祖うちはマダラとの話などを聞かせて頂けるとありがたいのだが」

「知識の披露もいいですが、私は稽古をつけてくれると嬉しいです。あなたのチャクラコントロールは写輪眼でも真似る事が出来ない代物。是非ともご教授願いたい」

「そんな事よりアカネちゃん! 命を救ってくれた恩返しをしたいんだ! ヒヨリ様の好きだった団子屋まだあるから一緒に食べに行かないか? もちろんオレの奢りだ!」

 

 などとフガクの声を皮切りにアカネに対して多くの誘いが出ていた。全部うちはだったが。

 ちなみにアカネが一番惹かれているのはオビトの誘いだったりする。

 

「じゃあ団子屋に――」

「ちょっと待ったーーッ!」

 

 アカネがオビトの誘いに乗ろうとした所で待ったコールが発生。それは何とガイからのコールであった。

 修行の相手でも頼みこむのか? この場の殆どの者がそう考えていたが、ガイの頼みは至って真面目な物だった。

 

「アカネ様! 確かアカネ様は医療忍術の名手だったはず! オビトを癒したのもアカネ様ですよね!」

「え、ええ。まあ薬とかに関しては綱手の方が上でしょうけど。特に最近の薬はあまり知りませんし」

「どうか! どうかリーを! オレの弟子を治して下さい! この通りです! 何とぞ! 何とぞリーを!!」

 

 その剣幕と必死さはアカネをして気圧される程だった。

 だが、本当に真剣な頼み事だった。自分の為ではない。弟子の為に頭を下げる所か土下座をするほどに。それほどまでに真摯に頼みこんでいたのだ。

 アカネはガイのその態度よりも、リーが自身に頼まねばならない程に傷ついている事が気に掛かっていた。ガイの弟子であるロック・リーとアカネはアカデミーの同期なのだ。

 アカネにとってリーは他の同期よりも気になる存在だった。そんな彼を見捨てる事はアカネの選択肢にはなかった。

 

「もちろんです。リーの所に案内してくれますか?」

「おお! 治してくれるんですか!?」

「容態を見てみない事にはなんとも言えませんが……。それでも私に出来る限りの手は尽くしましょう」

「あ、ありがとうございます! これでリーは……リーは忍の道を諦めずに……!」

 

 涙すら見せるガイに、アカネはただ一つ頷いて立ち上がった。

 

「では行きましょうか」

「はい! ありがとうございます!」

 

 アカネは涙ぐみながらも希望を感じて明るい返事をしたガイを伴ってリーがいる病院へと移動しようとする。

 だがそんなアカネの足をまたも止める様な声が掛かってきた。

 

「ああアカネ様。ついでに並の医療忍者では癒せない重傷患者の治療もお願いします。多少の怪我程度ならば放っておいても結構。何もかもアカネ様がしては里の力が育ちませぬから」

「いや、いいけどね……。お前本当にいい根性してるよダンゾウ……」

「立ってるモノは火影でも使う性分ですゆえ」

 

 ダンゾウの言葉に力なく頷いて、アカネは今度こそ病院へと移動した。

 

 

 

 

 

 

「う、うおおおおおお! ありがどうございまずぅぅぅぅぅ!」

 

 木ノ葉の病院内に盛大な叫び声が響いた。病院という環境では非常識な態度だと言えよう。

 だがそうと注意されていてもきっと彼は、ガイは大声で同じ事を叫んでいただろう。

 何故なら二度とまともに歩く事も出来ず、忍としての道を断たれた愛弟子の容態が回復へと向かったからだ。

 

「ガイさん。ここは病院ですよ、お静かに」

 

 はしゃぎ回るガイをアカネは宥め叱る。だがガイの気持ちは分からなくもない。

 大切な人の容態が良くなって嬉しくない者など居はしないだろう。

 

「あ、アカネさん……! ボクは本当に完治したんですか!?」

 

 アカネの治療を受けたリーは半信半疑にそう確認する。

 今まで医者からは何度も再起不能だと言われ、それでも無理を推して修行していたがまともに動く事も出来ず、看護師からも幾度となく止められてきたのだ。

 治療したので治りましたと言われても急すぎて現実感が湧いていないのだ。

 

「ええ。神経系に入り込んだ骨破片は全て取り除き、その際に傷ついていた神経も再生させました。ただし、治療する前に注意したように僅かですがあなたの寿命を削る事になりましたが」

 

 アカネの再生忍術は対象の寿命を削る。これに関しては術式前に説明はしておいた。

 残念ながらリーの傷は普通の医療忍術では回復は難しく、医療忍術と手術を組み合わせた所でその成功率はアカネをして五割、良くて六割と言った所だった。

 成功する確率があるとは言え、この手術に失敗すれば死ぬか良くて永遠に半身不随だ。死ぬ可能性のある手術よりは少々寿命は削れるが確実な再生忍術による治療を選択したわけだ。

 

「多少の寿命くらい構いません! これで、これでボクは夢を諦めなくても……! う、うう……!」

 

 リーには忍術と幻術の才能がない。これは努力でどうにかなる物ではなく、本当にセンスとして持ち合わせていなかったのだ。

 だからリーは残された体術だけを磨き上げた。体術だけでも立派な忍になれると信じて、それを証明する為に努力を重ね続けてきたのだ。

 文字にすれば説明も簡単な目標だろう。だがその努力がどれだけ辛く、そしてその努力を掲げる事がどれだけ過酷だったか。

 まともに忍術も使えない者など忍と呼べるわけがない。そんな嘲笑を浴び続け、真の才能の持ち主と相対して、心が折れそうになった事は幾度もあるだろう。

 だが、それでもリーは自分を信じて努力し続けて来たのだ。

 

 死に物狂いの努力をしてでも叶えようとした夢を諦めずにすむのだと実感した時、リーの瞳には自然と涙が流れていた。

 

「リー……!」

「ガイ先生……!」

 

 ガイもリーと同じく涙を流していた。

 ガイにとってリーはただの弟子ではなかった。

 ガイもリー程ではないが忍術などは得意ではなく落ちこぼれの烙印を押されていた。

 今でこそ口寄せの術の一つくらいは覚えているが、それ以外の術は体術以外にはない。

 恐らく上忍で忍術らしい忍術を使えない者などガイくらいのものだろう。

 

 ガイもいい歳をして青春だの熱血だのと言っているが、かつてはそれを疑問に思った事もあった。青春を信じて負けた時にはそんなものに意味はあるのかと悩んでいた事もあった。

 それでも努力する事を忘れず、自分にとって大切なものを守りぬけるものこそ本当の勝利なのだとかつてのガイも父親から教わったのだ。

 ガイにとってリーは己の生き写しであり、父に教えられた想いと覚悟を伝えるべき後継者でもあるのだ。

 

 リーにとってもガイはただの担当上忍以上の存在だった。

 心が折れそうな時に励まされ、自分を信じ、自分にとって大切なものを守りぬくことを教えてくれた恩師。

 今のリーを形作るのにガイという存在は欠かせない物だ。ガイがいなければリーは忍としての道をとうに諦めていただろう。

 

 二人は涙を流しながら、最高の笑顔を浮かべて抱きしめあっていた。

 

「……」

 

 アカネも二人の様子を見て破顔し、喜びを顕わにしていた。才能がなくとも必死に努力して体術のみで忍の道を切り進もうとするリーの事をアカネは気に入っていた。そんな彼が夢を諦める事なく済んでアカネも嬉しかったのだ。

 

 念のため術の修行は明日からにするんですよ。そう伝えたいアカネだったが、今は二人をそっとしておいてあげたかったので口は挟まなかった

 アカネは書置きを残してそっと気配を消してその場から立ち去った。まだ見るべき患者は何人かいるのでそちらの治療もしなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 リーの治療を終えてから数日後。アカネは木ノ葉に古くからある老舗の団子屋に来ていた。

 古くといっても何百年という歴史があるわけではない。そもそも木ノ葉の里自体が出来てから百年の時も経っていないのだから当然の話だが。

 それでも五十年も店が潰れる事なく営業され続けているのはやはり売り物の団子が美味しいからという一言に尽きる。

 アカネもヒヨリ時代からお気に入りの人気店なのだ。

 

「やっぱり団子と言えば粒餡です。こし餡もみたらしも美味しいですが、団子に限っては何故か粒餡が好きなんですよね」

 

 そう隣に座る男性へ説明してからアカネはもきゅもきゅと団子を頬張る。その顔は実に幸せそうだ。

 その表情を見て隣に座る男性、うちはオビトも破顔して頷いていた。

 

「そりゃ良かった。ここの会計はオレが出すから遠慮せずに食べてくれよな!」

「誘ってもらっておいてなんですけど、いいんですか? 私結構食べますよ?」

「もちろんだよ! オレの命の恩人なんだからこれくらい安いもんさ!」

 

 オビトは数日前に言った通りアカネを団子屋へと誘ったのだ。

 これはかつて命を救ってくれた事への僅かばかりの恩返しであり、アカネに勘定を払わせるつもりはなかった。

 そしてアカネが健啖家である事もヒヨリ時代からオビトは良く知っていた。若い肉体だと言う事も加味して予算はそれなりに用意してあった。

 

「それじゃあ遠慮なく。すいませーん、団子各種3皿ずつお願いしまーす!」

「かしこまりましたー!」

 

 ちなみにこの店の団子の種類は全部で粒餡・こし餡・白餡・みたらし・よもぎ・醤油・きな粉・ゴマ・三色の9種類だ。そして一皿あたりの団子の本数は3本である。

 なので全部合わせれば81本という数になる。普通は食べ切れない量ではあるが、オビトにとっては予想の範疇の数だった。

 

「やっぱり動くと食べる量も多くなっちゃうんですよね」

 

 少し恥ずかしそうにはにかみながらそう言うアカネにオビトは分かっているという風に頷いた。

 

「だよねぇ。オレも修行した後は腹が減って腹が減って」

 

 そう言って趣味嗜好などを恥ずかしがる女性に理解を示し、上手く合わせてあげる男オビト。

 彼もいつまでも子どものままではないのである。誰しも成長し大人になるという事なのだ。

 まあ、その甲斐性を本命相手に発揮出来ているかと言えばお察しなのだが。

 

「むぐむぐ。そう言えば、オビトは火影が夢って言ってたね。今でもそうなの?」

「ああ、その夢は今でも変わっていないさ」

 

 そう、オビトの夢であり目標は火影になる事である。

 それは何も珍しい夢ではない。木ノ葉で成長した忍ならば多くが一度は夢見る目標だ。

 だがそれをいつまでも維持し続ける者は少ない。ある者は実力の壁を知り、ある者は任務で体を壊し、様々な理由で夢を見るのを止めて現実を直視する様になる。

 それでも火影になる者はやはりいる。それに必要なのは火影になるという目標を目指す努力……ではない。

 

「火影になる為に一番大事な事を知っていますか?」

「一番大事な事? ああ……」

 

 オビトは一瞬迷うが、すぐにそれに思い至った。

 実力は必要だ。弱い影では里を守る事は出来ない。だが、それと同じくらい必要で大事な事がある。それこそが――

 

「里と、里に住む人を誰よりも大切に想う気持ち……だろ?」

「はい」

 

 オビトの答えに、アカネは嬉しそうに微笑んで頷く。

 オビトはアカネの知っていた小さな頃から変わっていなかった。精神的にも肉体的にも成長している。だが、芯となる大切な部分は微塵も変わってはいなかった。それがアカネには嬉しかったのだ。

 

「強さは、必要です。強くなければ守りたいモノを守る事が出来ない。でも、ただ強いだけでは火影は務まらない。里を想い里を愛し、里という物を理解している者こそ、火影になるに相応しいのです」

 

 里を理解する。それは里をシステムとして見るのではなく、そこに住む人々を一人の人間だと理解し愛するという事を意味する。

 上に立つ人間は冷酷な判断をしなければならない時がある。時には少数の忍を犠牲にして多くの忍や民を救わなければならない事もあるだろう。

 だが、その時に犠牲となった者を書類の上での数字ではなく、一人の人間として受け止める。これが出来ない者は里の長になる資格はない。

 もしそんな者が火影になりでもしたら、いずれ木ノ葉は滅びてしまうだろう。少なくともアカネはそう思っている。

 

「それを忘れていないあなたなら、きっといい火影になります。五代目はもう決まっていますが、六代目はあなたかもしれませんね」

「ああ。見てろよアカネちゃん! オレはきっと火影になって里を守ってみせる! あのでっかい顔岩にオレの写輪眼を刻んでやるんだ! それで他里に睨みを利かせてやる!」

「ええ、楽しみにしてますね」

 

 それはかつてヒヨリが聞いたオビトの今も変わらぬ夢。

 子どもの様な夢を今も真っ直ぐにぶつけてくるオビトの事がアカネは好ましかった。

 アカネはどこかオビトとナルトが似ているなと考えながら、ふと手に違和感を感じたのでオビトに頼み事をした。

 

「オビト……」

「え? な、なにアカネちゃん?」

 

 何だか憂いを籠めたようなアカネの表情にオビトは動揺する。

 アカネちゃんはヒヨリ婆ちゃん、アカネちゃんはヒヨリ婆ちゃん、と心の中で呟きどうにか動揺を抑えようとしているようだ。

 そんな内心慌てふためいているオビトにアカネがした頼み事とは……。

 

「お代わり、頼んでもいい?」

「あ、はい」

 

 団子のお代わり催促だった。

 話している最中も高速で食べていたので団子がすでに無くなっていたのだ。

 オビトが快く(?)承諾してくれたのでアカネは早速お代わりを頼もうとして、ふとオビトに近づいてくる人がいたので注文を取り止めた。

 

「よおオビトさん」

「ん? ああ、サスケか。どうしたこんな所に? 何かオレに用か?」

 

 オビトを訪ねて来たのはうちはサスケであった。

 サスケとオビトは同じ一族の、いわば遠縁同士なので当然知り合いである。

 何か用があって訪ねて来ても不思議ではないが、その内容は予想出来ないオビトであった。

 

「いや、カカシの奴を探してんだが……ところでオビトさんよ、デートはいいけどよ流石に犯罪じゃねーか?」

 

 ちらりとオビトの隣にちょこんと座るアカネを見てそう呟くサスケ。

 出る所は出ているが、自分とさして変わらない歳の少女と団子屋でお茶をしている二十台後半の男性。

 事案であった。場合によっては一族から逮捕者が出るかもしれない。

 警務部隊として里の治安を一任されているうちはから犯罪者が出るとは……サスケは心を痛めた。

 

「ちげーーよっ! これはデートとかじゃなくて! 恩返し! 恩返しなの! オレこの子に救われたの!」

「……私はてっきりデートかと。おめかしもしてきたのに……」

「おいぃぃ!? アカネちゃんなんて事言ってくれちゃってんのォ!? それにおめかししてたのォ!? 気付けなくてごめんねぇ!!」

 

 アカネの服装は日向の代表的な胴着や忍衣装ではなく女性らしい服装であり、オビトが良く見れば僅かに化粧も施していた。

 この違いに気づかない辺りまだまだオビトは未熟であった。

 

「……警務部隊に配属される前に犯罪者を、それも一族を捕まえる事になるなんてな。あんたの事、嫌いじゃなかったぜ」

「違うから! 話せば分かるから! だからその苦無をホルダーに収めるんだサスケ君!」

「逃げてオビトさん! 私が囮になるからその内にあなただけでも!」

「話ややこしくすんなよ! あんた絶対面白がってやってるだろォォ!!」

 

 まるで悲劇のヒロインを演じているかの様である。まあまさしく言葉の通り演じているのだが。

 

「私の名前は日向アカネです。よろしくね。団子食べます?」

「うちはサスケだ。悪いが納豆と甘い物は嫌いなんだ」

「分かった。お前らオレをおちょくってんだな? いいぞ、ガキが調子に乗っても大人には勝てないと……あ、やっぱりいいです」

 

 唐突に自己紹介に切り替えた二人が自分をからかってると理解し、大人の力という奴を見せ付けてやるとかなり大人気ない事を考えていたオビトだがアカネの強さを思い出して最後の一言は喉から出さなかった。

 勝ち目のない闘いを挑まない。彼は忍として非常に正しい選択をしただけなのだ。けっして臆病だとかではない。

 これがもし仲間や里の民の命が懸かっていたならば必ず命を賭してでも戦いを挑んでいただろう。多分。

 

「で、サスケは何の用があって来たんだ? あ?」

 

 若干不機嫌そうにオビトはサスケに同じ質問をする。

 流石にこれ以上はまずいと思ったのかサスケもオビトをからかうような真似はしなかった。

 アカネとしてはもうちょっとやってもよかったと思っていたが。

 

「カカシの奴を探しているんだ。修行をつけてもらおうと思ってな……」

 

 サスケはナルトと同じ三人一組(スリーマンセル)の班であり、その強さも人となりも良く知っている。

 そしてサスケの知るナルトとは落ちこぼれの負けず嫌いであった。どれだけ負けても勝つ為に努力する根性は認めているが、才能がなければ話にならないのが忍だ。

 だがそんなナルトは一緒に任務をする内に目を見張る速度で成長していった。気がつけば先を行っているはずの自分の後ろを走っているようで不気味に感じたほどだ。

 

 内心ではナルトを認めつつも、心のどこかでは認めまいとする心もある。そして大部分を占めるのが、ナルトに負けてたまるかという想いだった。

 それは今回の木ノ葉崩しの一件で更に膨れ上がった。サスケはこの事件にて砂の人柱力である我愛羅を追っていたのだが、その力に屈し殺され掛けていた。

 それを救ったのがナルトだった。圧倒的な砂の我愛羅を相手に奮闘し、驚くべき力を発揮して最後には撃退してしまったのだ。

 その時は素直にサスケも感嘆した。仲間であるナルトの成長に興奮もしたものだ。

 

 だが全てが終わり冷静に振り返った時、サスケはナルトに助けられた事を恥じていた。

 これがナルト以外ならばサスケもこうは思わなかっただろう。だが何故かナルト相手だとサスケは異常に反応してしまうのだ。

 それが何故かはサスケにも分からない。だが昔からナルトにだけは負けたくないという想いがサスケの中にはあったのだ。

 

 ナルトには負けたくない。そんなサスケがやるべき事はただ一つ、修行である。

 その為に修行相手を探しているのだ。最有力候補であった兄は里の復旧任務で忙しく、父も簡単に時間が取れる立場にはいない。

 そして担当上忍であるカカシに白羽の矢を立てたわけだ。

 

「カカシの奴なら任務だな。里の被害は思ったよりは少なかったけどそれでも平時よりは忙しくなってるからなぁ」

「それなのにあんたはデートとかいいご身分だなオビトさんよ」

「まだ言うかこのクソガキめ! まったくイタチ相手だとああまで態度が変わるのによ」

「ふん。まああんたでもいいか……あんた、雷遁は使えたっけか?」

 

 この際オビトで妥協しようと本人が聞いたら噴飯物の思いを抱きつつもオビトにそう確認をする。

 サスケはここ最近カカシに教わった雷遁に関してさらに修行を積もうとしているのだ。まだ雷遁を覚えたばかりで応用も出来ていないのだ。もっと修行すれば更に発展する可能性を秘めていると言えよう。

 

「悪いがオレが使えるのは火遁と水遁と土遁だ」

「使えねぇ……」

「んだとこらー!」

 

 忍術の性質である五大変化には適正というものがある。

 大体は生まれ持って一つの性質変化の才能を持っているが、努力によって適正を増やす事も不可能ではない。木ノ葉の上忍ともなれば多くが2~3種類の性質変化を有している。

 一族ごとに引き継がれる性質もあり、うちは一族は火の性質変化を生まれついて有している。

 

 この性質変化だが修行して新たに覚える事は確かに出来るのだが、それを実現する為には相当な修行期間が必要になる。一般的には数年は掛かるだろう。更には生来の性質変化と合致していないと威力を保てない場合もある。

 その性質変化を下忍になる前に火遁を覚え、カカシに習って一ヶ月足らずで新たに雷遁を覚えた上に威力も兼ねているサスケは真実天才という事になる。

 

 ともかく、上忍で三つの性質変化を有しているオビトは十分優秀なのだ。

 今はカカシが覚えていない風を覚えようと努力している所だ。風の性質変化を覚えればカカシとのコンビネーションが更に高まるだろう。

 まあ、それも今のサスケにとっては意味がなく役に立たない事なのだろうが。

 

「それなら私が教えましょうか、雷遁?」

「……お前が?」

「アカネちゃん!?」

 

 アカネの会得している性質変化は水と風と雷である。

 元々は水の性質変化を持っていたアカネが、水と同時に使用する事で強力になる性質を選んで風と雷を更に覚えたのである。後は土でも覚えられたらなと思っているところだ。

 

「私も雷遁を使えますし、その応用技もいくつか知っています。多少は役に立てると思いますよ」

「……本当か?」

 

 サスケはアカネの話が信用出来ずにアカネにではなくオビトへと確認をした。

 サスケはその歳では木ノ葉で右に並ぶ者がいない程の実力者だ。下忍になって一年未満だが既に実力は中忍並に至っている。

 そんな自分の修行の相手となれる同年代の少女がいるなどサスケには俄かに信じがたかったのだ。

 

「ああ、雷遁が使えるのは知らなかったけど、アカネちゃんが強い事は間違いない。それだけは保証する」

 

 オビトはそれだけは誰にだろうと保証する事が出来た。

 口憚る事情さえなければ木ノ葉最強だと大声で叫ぶ事も出来ただろう。

 

「他にも美貌とか智謀とかも保証してくれてもいいんですよ?」

「強さと優しさは保証する!」

「おい?」

「……」

 

 このやり取りで若干、いやかなり信憑性をなくしているが、まあサスケも駄目元でアカネに頼んでみる事にした。

 

「まあいい。あんたが雷遁が使えるって言うんなら少しは役に立つだろ。今は時間を無駄にしたくないからな、頼んだぜ」

「ええ! 任されました! さあ、有望な若人を鍛えるぞ~!」

 

 この時何故かサスケは猛烈な悪寒を感じたと言う。

 後に、サスケは何故この時アカネに修行を頼まずカカシの任務完了を待たなかったのかと少しだが後悔する事になる。



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NARUTO 第十二話

 アカネとサスケは木ノ葉にある訓練場の一つに来ていた。ここならば大規模な術を使わない限り誰にも迷惑を掛けずに修行をする事が出来るだろう。

 そしてアカネはサスケが望む通り雷遁の修行と、その為に必要な雷遁の説明を開始した。

 

「雷遁は応用力のある性質です。ただ術として敵に放つだけでなく、肉体活性に応用する事も出来ますし、形状変化と組み合わせると非常に効果的です」

「知っている。オレの雷遁は千鳥だからな」

 

 サスケがカカシから習った雷遁は千鳥と呼ばれる術だ。

 これはカカシのオリジナルの術であり、今やカカシの代名詞となる程有名な術でもある。

 その正体は電撃を帯びた突きだ。言葉にすれば簡単だが、実際はそれ程簡単な術ではない。

 雷遁による電撃を片手に集め、肉体活性による高速移動を用いて対象を貫く。単純だが威力の高い一撃だ。

 その分リスクも高い。あまりに高速で動く為に使用者自体の反応が追いつかない事があるのだ。その場合敵にカウンターを合わせられると目も当てられない惨状になるだろう。

 写輪眼の様な洞察眼に優れた眼を持っている者や、瞳術でなくても反射神経に優れた者でないと危険性が高い術である。

 

 更にこの術は性質変化だけでなく形態変化も加えられている術だ。

 放電している様に見えるのは雷だからではなく、放電している様に形態を変化させる事で攻撃の威力と範囲を変化させているのだ。

 まあこれくらいの形態変化はそれ程難易度の高い物ではないが。だが形態変化によって様々な可能性を広げる事が出来る術と言えよう。

 

「千鳥ですか。カカシさんに習っただけはありますね」

 

 この歳で千鳥を会得する。それは十分に天才の証だとアカネもサスケを評価する。

 性質変化と形態変化。両方を有する術を持つ忍は上忍でも稀なのだ。

 

「では千鳥を更に応用する方法は分かりますか?」

「…………別の形態変化か?」

 

 アカネの問題に対して少しだけ熟考してからサスケはその答えを導き出した。

 

「正解です。さて、例えばどんな形態変化があるでしょうか?」

「そうだな……剣とか槍みたいに伸ばして攻撃範囲を広げるとかだな」

「またまた正解。まあ他にも色々ありますから正解は一つではないですけど。さてさて、千鳥を使えるあなたは形態変化もある程度は修めています。だったら千鳥を剣状にしたり槍状にしたりする事も出来るはずですよ」

 

 サスケはアカネからの言葉により千鳥の可能性を広げる事が出来た。

 千鳥をより極めていけばもっと強くなれる。絶対にナルトに追いつかれてたまるか。そんな思いでサスケの修行が始まった。

 

 

 

「はぁ、はぁ! くそ!」

「はい、ストップ。チャクラが少なくなって余計に形態変化が雑になっていますよ。一旦休憩した方がいいですね」

「くっ……!」

 

 サスケの修行は難航していた。と言ってもまだ一日も経ってはいないのだが。

 サスケのチャクラ量はまだ十分な物ではない。チャクラは身体エネルギーと精神エネルギーを練り合わせる事でチャクラへと転じる。

 そしてチャクラの総量はある程度生まれついての資質が物を言う事が多いが、修行次第で総量を増やす事も可能だ。

 今のサスケは修行不足というよりは成長しきっていないだけだ。まだ十三歳の少年なのだから当然の話だ。

 

 とにかく、チャクラ量がまだ十分でない為に千鳥の練習も難航しているのだ。

 千鳥を発動してそこから形態を変化させようとしているのだが、その千鳥自体サスケは一日に二度が限界とカカシに言われているのだ。

 本来の千鳥と違い肉体活性を使わずに威力も抑えているのでチャクラ消費も大分少ないが、それでも何度も練習していればすぐにチャクラも尽きるというものだ。

 

 チャクラそのものを形態変化させるのは比較的簡単であり、剣状や槍状くらいならばサスケも一時間も経たずに会得出来るだろう。

 だが性質変化と形態変化を組み合わせた瞬間にその難易度は跳ね上がる。チャクラが足りずに練習回数が足りない現状では流石の天才も一日では会得出来なかったようだ。

 

「……そう言うお前は――」

「お前じゃなくてアカネですよ」

「……アカネは千鳥の形態変化が出来んのかよ?」

 

 サスケのぶっきらぼうな話し方にアカネは昔の大切な友達を思い出す。

 彼もサスケと似た様な感じだったなぁ、と遥か過去でありながら色あせない思い出に心を馳せつつ、アカネはサスケの策略に乗ってあげた。

 今のサスケは写輪眼を発動していた。これでアカネが千鳥の更なる形態変化を使用した所を見てコツを盗むつもりなのだろう。

 アカネが出来なければ出来ないで、その時はアカネが修行相手に相応しくないとして一人で修行するだけだった。

 

「出来ますよ。はい」

 

 そう、本当に簡単そうに言って、簡単にアカネは千鳥を発動して形態を変化させた。

 剣状にしたり、槍状にして伸ばしたり、果ては手から離して投擲して遠くの岩を破壊したりまでした。サスケの眼はまん丸だ。比喩だが。

 

「とまあご覧の通りですね。師としては合格ですか?」

「……カカシよりは使えると思ってやる。……明日も暇か?」

「ええ。暇な時間はいつでもお相手してあげますよ」

 

 相変わらず上から目線だが、これでも思春期の少年には精一杯のお願いなのだ。

 アカネとしてはそんな態度には慣れたものでむしろ微笑ましく思っていた。他人の修行に付き合うのも好きなので特に不満に思う事はなかった。

 

「じゃあまた明日に――」

「では今日は体力作りの為に走りこみをして、その後疲れた時にもちゃんと動ける様に組手の修行をしましょう。それが終わればチャクラを回復してあげますからまた千鳥の修行に戻りますかね。最後は体をほぐす為に軽くランニングしながら帰りましょうか。さ、行きますよ」

「え、ちょ、ま――」

 

 何度も何度も千鳥の形態変化の修行をした為にチャクラが底を突きかけ、わざわざ疲れる必要もないほどに疲れているサスケ。

 そんなサスケにアカネの言葉は寝耳に水だった。軽い修行ならまだともかく、アカネの言う内容を判断するに明らかに軽くなどない。

 思わず抗議の言葉を発しようとしたサスケだったが、次のアカネの台詞でその言葉は胸の中にしまわれる事となった。

 

「ナルトならこなせた修行なんだけどなぁ……」

「何してる早く行くぞアカネ!」

 

 ナルトに出来て自分に出来ない。それが我慢ならないというまさに思春期真っ盛りの少年であった。

 我が強いが扱いやすい。それがアカネのサスケに対する評価であった。

 

 

 

「ただいま……」

「おかえりサスケ遅かったわね……って、あなたボロボロじゃない。どんだけ修行したのよもう!」

 

 サスケの帰りを待っていた母のミコトはサスケのあまりのボロボロな姿に驚愕していた。うちはの家紋が入った衣服も見る影もない程だ。

 

 アカネの修行を一通り終えたサスケはボロボロになってどうにか自宅まで帰ってきた。

 あの後徹底的にしごかれたサスケ。走り込みで周回遅れという屈辱を受けた上に組手でもぼこぼこにされたのだ。

 チャクラを回復してもらってからの修行で千鳥の性質変化をある程度会得したのは流石だったが、それがプラスに思えないほど徹底的に力の差を見せ付けられていた。

 悔しさはあったが、アカネに修行をつけてもらえば強くなるという実感はあった。今日だけで一段も二段も成長した自覚があるからだ。

 

「取り合えず風呂に入ってくる……」

「あ、待ちなさい。父さんが呼んでたわよ。先に挨拶してからにしなさい」

「父さん帰ってたのか。分かったよ」

 

 父のフガクは一族の長であり最近は木ノ葉崩しの影響で家にいない時間も多い。

 そんな父がどうしたのだろうかと思いながらも、サスケは父のいるだろう私室へと赴いた。

 

「失礼します」

「うむ」

 

 親子でありながらも礼節を弁えた態度でサスケは入室する。

 フガクは家族想いではあるが、それと同じくらいに立場と言うものを重視する性格だ。

 うちは一族の長としての威厳は家族に対しても発揮しなければならない物として出来るだけ家族を贔屓せずに対応している。

 そんな厳格な父の私室にボロボロの格好で入るのはサスケも気が引けたが、修行に対する理解は忍の一族ゆえに当然高いのでそこまで怒られる事もないだろうと思い直していた。

 

「それは……修行か。休まず良く鍛錬している様だな。その調子で次の中忍試験にも励むんだぞ」

「ありがとうございます……次の?」

 

 フガクはやはりサスケの姿にも理解を示してくれたようだ。それを嬉しく思う暇もなく、サスケは父の言葉に疑問を抱いた。

 

「まだ正式な発表はされていないが、此度の中忍試験で中忍に昇格出来たのは一人だけ。奈良一族のシカマルのみだ」

「っ!? ……そうですか。すみませんでした」

 

 フガクの言葉はサスケに相当なショックを与えていた。サスケとしては中忍試験にかなりの自信があったのだ。

 そして父の期待を裏切ったばかりか、尊敬する兄を乗り越えるという目標も大きく遠ざかった気がしていた。兄が十歳で中忍になったというのに自分は、という思いが強まり自分自身が情けなくなったのだ。

 

「あまり気にするな」

「え?」

 

 中忍試験失格に関して叱られる為に呼び出されたと思っていたサスケはフガクの言葉にまたも驚愕する。

 動揺したままのサスケにフガクは言葉を掛けた。

 

「今回は途中で木ノ葉崩しというあまりにも大きなアクシデントが起こった事も原因だ。従来の中忍試験ならばまだ試験は続いていただろうし、お前は十分に合格する対象に選ばれていた。後はシカマルの戦術の見事さが目立ちすぎたのも原因だな。おかげでお前を含む他の下忍は力押しという印象が強まってしまった。これからはそこら辺も意識して修行するといいだろう」

「あ……は、はい! 分かりました!」

 

 フガクが慰めてくれているのだと理解して、サスケは動揺を抑えられないままに礼をした。

 頭を下げつつもその表情はどこか嬉しそうだ。不合格とはいえあまり褒める事をしない父親に褒められたとなれば年頃の少年として相応の態度だろう。

 

「話はもう一つある。ようやくオレの仕事にも休日が取れそうでな。明日ならば修行の相手が出来るが、どうする?」

「本当父さん!」

 

 フガクの言葉に嬉しくなり思わずサスケの喋り方も元に戻ってしまう。

 下忍になってからは出来るだけ忍として対応する様に心掛けていたのだ。それを忘れる程に嬉しかったのだろう。

 だがそこでサスケは明日の予定が入っている事を思い出し、途端に沈んでしまう事となった。

 

「あ……ごめんよ父さん。明日は他に修行相手が……」

「ふむ。カカシか? まあカカシならば問題はないだろうが」

「いや、日向の……」

「日向?」

 

 どうしてそこで日向の名前が出てくるのか。うちはと日向は木ノ葉結成以来から切っても切れない関係で、合同で訓練をしたりもしてはいる。

 だがサスケが個人で学ぶ様な相手や繋がりがあっただろうかと思案し、日向の天才である日向ネジを思い出す。うちはと日向の天才同士が共に修行しているならば話は分かるという物だ。

 ところが相手はフガクが仰天する程の人物だった。

 

「うん……日向アカネって――」

「それは本当か?」

 

 恐る恐ると修行相手の名前を告げたサスケが最後まで言葉を言い切る前に、フガクはサスケに詰め寄った。この時内心の驚愕を最小限にしか表に出さなかったのは流石と言えよう。

 やばい、怒られるのか。そう思ったサスケだが父に嘘を吐くわけにも行かず、首肯するしか出来なかった。

 

「そうか……」

「あの、明日は断って父さんとの修行を――」

「いや、アカネに修行をつけてもらうといい。その方が良い経験となるだろう」

「……は?」

 

 フガクのまさかの返事にサスケは呆気に取られるしかなかった。

 この父が自分よりも他人、それも下忍を持ちあげるような言動をするなどと、どうして思えるというのか。

 一体アカネは何者なんだ? そういう疑問がサスケの中に巡る。そしてその疑問をサスケは父にぶつけてみる事にした。

 

「アカネって、何者なんですか?」

「…………日向の天才児だ」

「それはネジの――」

「そのネジなど歯牙にも掛けぬほどのな。ヒアシ殿の秘蔵っ子だった故にあまり表立ってはいなかったがな」

 

 フガクは今考え付いた言い訳でどうにか対処する。

 フガクのアカネを手放しで褒める言葉にサスケは徐々に嫉妬を募らせていった。

 歳は一つしか違わない。だというのにどうしてこうも差があるんだ、と。

 そんなサスケの感情の変化を見抜いたフガクはこればかりは致し方ないと思いつつも、サスケを慰める言葉を紡ぐ。

 

「サスケ。アカネに負ける事は恥ではない。……アカネに勝てる忍は数える程だろう。今のお前が負けてもそれは仕方のない事だ」

「そ、そんなに!?」

 

 アカネが強い事はサスケも知っていた。今日の修行だけでそれこそ嫌と言うほどに教え込まれたものだ。

 だがそれでも父がそこまで言うほどとは思ってもいなかった。アカネに勝てる忍は木ノ葉でも火影やうちはと日向の長などの一部の忍のみなのかと驚愕したのだ。

 ちなみにフガクはわざとぼかした言い方をしている。数える程とは現存する忍の中からとは一言も言っておらず、歴史上の忍を含めての事だというのは悟られないように話したのだ。

 

「そしてアカネがそれだけ強いのにも理由がある。だがこれに関しては里の最重要機密だ。ここまで話した事でさえ本来は有り得ない事。故に、これらの情報は誰にも言うんじゃないぞ。もちろんアカネ本人にもだ」

「は、はい。分かりました」

 

 やはり甘くなったか。そう自嘲しながらフガクは溜め息を吐く。ここまで話すつもりはなかったのだが、やはりアカネがサスケのほぼ同年代というのがネックだったのだ。

 アカネという存在に関わってしまえば誰もが自分と比較してその差を確認してしまうだろう。それが同年代ならば自分への劣等感で苛まれる可能性もある。

 だがアカネが十四歳だというのは完全な詐欺なのだ。それなのに詐欺と比較して落ち込んで歪んでしまうのは流石に酷というものだろう。

 

「話は以上だ。明日も頑張りなさい。後は風呂に入って食事をしてからゆっくり休むといい」

「はい! 失礼しました」

 

 サスケが退室してしばらくしてからフガクは難しい表情から僅かに破顔した。

 

「アカネの……あのヒヨリ様の目に適う、か。……ふふ、流石はオレの……いや、流石はサスケだ」

 

 フガクはヒヨリという伝説の忍に見出された自分の子を誇らしく思い、その夜は久しぶりに秘蔵の酒を出して晩酌をする事にした。

 

 

 

 

 

 

 サスケがアカネと修行する様になって十日が経った。

 それまでの修行の内容の一部をダイジェストで送ろう。

 

「何はともあれまず体力! 体力なくして忍が務まるか! 走れ走れー!」

「うおおおおおお! 後ろから千鳥刀振り回しながら追ってくんじゃねー!」

「あ、そこから先はトラップゾーンになってるから気をつけてねー」

「なに!? うおぉぉっ!?」

 

 

「ただ漠然と肉体活性をするのではなくどこを活性化させるか意識しなさい。そうすればより効率的に肉体を強化する事も出来るし、視力と神経系を強化すれば写輪眼に頼らずとも千鳥を安定して使用する事も出来ます。そうすればチャクラ消耗も抑えられるでしょう」

「こうか!」

「おお、飲み込み早いですね。チャクラは応用力が高い力……というか、高すぎる力ですから。とにかく色んな応用法を考えておくように。――とは大違いだよホント」

「ん? 何と違うって?」

「世界の違いへの愚痴さ……。ま、気にしない気にしない。さあ次行きますよー」

 

 

「ぐぅ……今の、なんだ? 写輪眼で見てたのに、体が反応出来なかった……それも柔拳なのか?」

「いえこれは私の……オリジナル……ですよ。合気と言いまして相手の力を利用するんです」

「? 何で言い淀んだんだ?」

「ほらほら細かい事は気にせずに掛かってきなさい」

 

 

「雷遁のチャクラを全身に纏う事が出来れば飛躍的にスピードと攻撃力と防御力が上げられます。雷により神経伝達スピードを上げる事で高速戦闘を可能とし、攻撃力も千鳥を知るあなたなら予想出来るでしょう。何より雷遁チャクラで防御力も高まるという三点セットでお得な術!」

「それはすごいな……! よし……!」

「ただし馬鹿みたいにチャクラを消耗するのでご利用は計画的に」

「それを……先に……言え……」

 

 

「サスケ! ガイさんからいい物を貰ってきましたよ!」

「ま、まさかそれは!」

「はい! 特注の重りです! これで修行もより捗りますね!」

「オレがこんな暑苦しい物を……!」

「何を言う! このアイテムは身体能力の大幅な強化が見込め、その上体力も付くのでチャクラ量も自然と増すという優れ物! しかも戦闘中に外す事で『なに! あんな物をつけて今まで闘っていたのか!?』と相手を驚愕させる効果も――」

「何でこんな馬鹿がオレよりも強い……! 納得いかねー!」

 

 

「もう限界ですか! ナルトならこの程度では――」

「………………」

「あ、駄目だコレ。仕方ないなぁ。チャクラちゅ~にゅ~」

「う、うう」

「良し立て。疲れた時にする修行こそ真の修行」

「こ、殺される……」

「はっはっは。冗談ですよ冗談。今は少し休みなさい」

 

 と、この様に非常に濃密な修行をした二人はその絆と実力を高めていったのだった。……絆も高まっているはずだ。

 

 

 

「サスケも大分成長しましたね」

「そうか? まだ千鳥も三発撃つのが限界なんだがな」

 

 修行の休憩中にアカネにそう言われるも、サスケとしてはそこまで成長したという実感はない。

 強くなったとは思うが、毎回修行でボロボロになる上にたった十日でそこまで成果が出たとは思えなかったのだ。

 だがまあそれはサスケが修行の濃さで色々と麻痺してしまった事が原因であり、実際には修行前は二発が限界の千鳥を三回撃てるようになってるのは相当チャクラ量が増えているという事なのだが。

 あとチャクラコントロールが高まったおかげで千鳥を発動するのに無駄に出ていた余計なチャクラ消費が少なくなったおかげでもある。

 

「それだけ撃てたら普通に中忍のチャクラは超えてると思うけど?」

「……そういやそうだったな」

 

 サスケはかつてカカシが千鳥は四発が限界と言っていたのを思いだす。上忍のカカシでそれなのだから下忍にして十三歳という若さで三発も撃てれば十分過ぎると言っても過言ではないだろう。

 

「まあチャクラは上忍クラスかもしれませんが、今のあなたではその端っこに触れた程度のものです。チャクラを多くするなら基礎鍛錬を欠かさない事ですよ」

「分かってる」

 

 それは本当に嫌と言うほど分かっていた。この十日間で体力が尽きずに終わった試しがなかったからだ。

 目の前の体力おばけは汗を掻く程度で済んでいたというのに自分がこれでは沽券に関わる。負けず嫌いのサスケは女に負けてなるものかと奮起していた。

 アカネはそれを見て女だとこういう時に便利だとほくそ笑んでいたが。

 

「さーて今日の修行は……っと、どうやらナルトが帰って来たようですね」

「ナルトが?」

 

 アカネはナルトと自来也のチャクラを感じ取りその帰還を知る。

 そして二人と一緒に別のチャクラが同行しているのも察知した。一つは綱手と分かったが、もう一つは誰かは判別が付かなかった。

 

(はて、誰だこれ? 綱手の付き人かな?)

 

 アカネも綱手の交友関係を全部知ってるなどは流石になかった。木ノ葉の中でも知らない事などいくらでもあるのだから当然だ。

 なので特に気にする事なく次の修行について考えていた。

 

(サスケとナルトを一度闘わせてみるか? 現状だとほぼ確実にサスケが勝つだろうけど、ナルトの爆発力も侮りがたい。それに……)

 

 アカネは二人に関して気になる事があった。

 それはナルトのチャクラが二重になって見える時がある事だが、それと同じ現象がサスケにも出たのだ。

 柱間とマダラと同じこの現象。そしてナルトを見ている時に柱間が、サスケを見ている時にマダラが思い浮かぶ。

 

 この感覚は何なのかをアカネは知りたかった。もしかしたら二人の転生体なのかとも思ったが、柱間が穢土転生で口寄せされたからにはその可能性も低い。

 取り敢えず二人をぶつけてみたらもしかしたら分かるかもしれないし、二人をぶつける事は両者の成長にも良い影響となるだろうとの考えだ。

 

「良し。サスケ、ナルトと一度組手をしますよ」

「なに? ……いいぜ。オレもナルトと闘ってみたかったところだ」

 

 サスケはナルトと一度闘ってみたかった。任務の中や中忍試験でどんどんと成長するナルトに対して今までとは違うライバル心が芽生え出していたのだ。

 そしてこうして強くなった今、その成果を計る事が出来る相手を求めていたというのもある。アカネ相手ではいまいちそこら辺が掴みにくいのだ。

 

「では早速行きますか」

「ああ」

 

 二人は早速ナルトの所へと移動する。どうやらナルトは里の奥へと向かっているようだ。恐らく綱手を木ノ葉の重役達の所へ連れて行っているのだろう。

 

(あの綱がとうとう火影か。感慨深いなぁ)

 

 アカネは綱手と最初に会った時の事を思いだす。

 あれはまだ綱手が生まれたばかりの事だ。その時からアカネは綱手の事を知っていた。何故なら綱手は千手柱間の孫だからだ。

 初孫が出来た時の柱間の喜びようをアカネは今でも思い出せた。それはもうジジバカの顔をしていたものだ。

 柱間が孫にべったりだったおかげで柱間の賭け事好きを綱手が受け継いでしまったのは残念だったが。

 

 そうして思い出に馳せている内に、アカネは少しだけ綱手と会う事を躊躇する。それはかつての苦い記憶が原因だった。

 綱手には歳の離れた弟が一人いた。名前は縄樹。だが彼はもうこの世にはいない。戦場で命を落としたのだ。かつての戦国の世と比べると遥かにマシになったが、それでも死ぬ時は死ぬのだ。

 縄樹が死んだ綱手は大層落ち込んだが、そんな彼女の心を救ったのがダンという青年だ。ダンと綱手はすぐに恋人となり仲睦まじく過ごしていた。

 それを見てアカネも……ヒヨリもホッとしたものだ。縄樹が死んだ時の綱手は見ていられなかったのだ。

 

 だが……忍びの世は残酷だった。綱手の心の拠り所となっていたダンも縄樹と同じ様に戦場で命を落としてしまったのだ。

 その時綱手は医療忍者としてダンと同じ小隊にいたが、ダンを癒す事は出来なかった。

 腎臓がほぼ丸々消し飛ぶ程の致命傷だったのだ。当時二代目三忍と謳われていた医療忍術のスペシャリストの綱手も失われた臓器を復活させる事は不可能だった。

 

 だがヒヨリならばそれは可能だった。医療忍術を超えた再生忍術。それならばダンの命を救う事は出来た。自分がいればダンを助ける事が出来たのではとヒヨリは自責の念に駆られたものだ。

 当時ヒヨリは別の戦場で他の忍達を助ける為に奮闘していた。多くの忍が命を救われたのはヒヨリのおかげであり、ダンを助けられなかったからと言って自分を責める必要はない。それはアカネも分かっている。

 どれだけ強くともアカネは神でも全知全能でもない。全てを救うなど到底不可能なのだ。

 そして神ではない人間だからこそヒヨリにも好き嫌いというものがある。綱手は大事な親友の大事な孫だ。それに肩入れしたいと思っても不思議ではないだろう。

 しかももう一人の孫、綱手にとっての弟を失っているのだ。残された綱手を守ってやりたかったのだ。体だけでなく、その心も。

 

 綱手はダンが死んだ時に血液恐怖症という精神的な病を患ってしまった。もう第一線で働くのは厳しいだろう。

 あれから長い年月が経っているから既に克服している可能性もあるが……。せめて時の流れが綱手を癒してくれていたらとアカネは願っていた。

 

 



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NARUTO 第十三話

 アカネ達がナルトを目指して移動しているとやがて火影室へと辿り着いた。

 どうやら大分前にナルト達は綱手を重役達に出会わせていたようだ。まだ正式発表はされていないが既に綱手は五代目火影として就任していた。

 そして五代目となった綱手は重要な話があるという事でナルトとサスケを招集する。そこに丁度アカネ達も到着したようだ。

 サスケを呼ぶ為に火影室から出て来たカカシとすぐに出会ったのだ。

 

「ん? 丁度いい所にいたな。五代目様がお呼びだぞサスケ」

「五代目? 三代目はどうしたんだカカシ?」

「三代目様は引退なされたんだ。元々四代目が早くに亡くなってしまった為の一時的な引継ぎだったんだ。ここまで長く里を治めていたのが異例だったんだよ。ま、三代目ほど治世が巧みだった火影もそういないだろうけどね」

「……それで、五代目とやらがオレに何の用だ?」

「お前ね……少しは上司に気を使いなさいよ。火影様だよ火影様。あんまり調子に乗ってると怒られるよ? ……特にフガクさんに」

「う……分かったよ」

 

 相手が担当上忍だろうが火影だろうが自分が認めて尊敬する相手以外には基本的に敬語を使わないのがサスケだ。

 だがカカシがフガクの名前を出したので流石のサスケも口を噤んだようだ。

 

「ところで……なんでお前とアカネが一緒にいるの?」

 

 カカシはサスケの隣に立つアカネに疑問を抱く。この二人に接点などあったのだろうか、と。

 

「それはもちろん。私がサスケの師匠だからです」

 

 カカシの疑問にアカネは胸を張って答えた。どや、と言わんばかりだ。

 

「え!? アカネが!? サスケの!? ……ほ、本当なのかサスケ?」

「……まあな」

 

 サスケの返事にカカシは目を大きく開けて驚く。あのアカネがサスケを弟子にした。これはちょっとした事件である。

 日向ヒヨリが弟子を募集すれば全国から数多の忍が募るだろう。アカネがヒヨリであると知っているカカシからすれば驚いて当然の事件なのだ。

 

「そうか……運が良かったなサスケ」

 

 そんなカカシの言葉にサスケは以前から抱いていた疑問が更に大きくなった。

 一体この女は何者なんだ、と。日向の一族で、強いという事は分かっている。人が良いのも分かる。だがそれだけだ。それ以外には何も知りはしない。

 それだけならここまで疑問には思わなかっただろうが、父であるフガクと担当上忍にして上忍の中でも抜きん出ているカカシの二人が共にアカネを知っており、そして一目置いているという事実が非常に気になるのだ。

 父は日向の天才児と言っていたが、それだけではないような気がしていたのだ。

 

「……」

 

 だがその疑問を素直にぶつけられるサスケではなかった。少なくとも疑問の当人であるアカネがいるのにそんな話題を出す事は出来なかった。

 基本的に捻くれた少年であるサスケは本人に気になっているという事を知られるのが嫌なのであった。

 

「ま、アカネは少し待っててくれるか。呼ばれてるのはナルトとサスケだからさ」

「ええ分かりました」

「ナルトも? 一体なんだってんだよ……」

 

 そうしてサスケとカカシは火影室へと入っていく。

 残されたアカネはナルトが呼ばれた理由はともかく、サスケが呼ばれた理由が分からなかったのでそれについて思考していた。

 ナルトならば恐らく暁に関する事だろう。暁がナルトの中にいる九尾を狙っているのは明白。ならば当の本人にもそれを話しておく事は必要だろう。

 だがサスケに関しては想像出来ないでいた。ナルトと共に呼ばれているという事はもしかしたら暁は関係のない事柄なのかもしれない。

 しかし火影室には自来也もいるようなのだ。それが余計に暁関連の話を想像させていた。

 

「ま、気長に待ちますか」

 

 結局考えても仕方ないので今はそうするしかないという結論に至ったようだ。

 アカネは近くの椅子に座って話が終わるのを待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 火影室にてサスケは五代目火影の綱手と初対面する。そして僅かに驚いた。

 今の若い忍は火影と言えば老人である三代目火影を真っ先に思い浮かべるだろう。それはサスケも同じだ。

 だからこんな若い女性が五代目火影だとは思ってもいなかったのだ。

 もっとも、綱手の見た目は確かに二十代程だが実際は自来也と同じく五十一歳というとても若いとは言えない年齢なのだが。

 これは綱手が老いるのが嫌という何とも女性らしい理由により特別な術を用いて見た目の年齢を自由に変化させている為だ。

 言うなれば若作り婆さんなのだが、それを本人の前で口にすればどうなるかは自来也に聞くと懇切丁寧に教えてくれるだろう。

 

「良く来たな。お前がうちはサスケか」

「ああ……。あんたが五代目火影……様か」

「よお! 久しぶりだなサスケ!」

「おう。それで、一体オレになんの用なんですか?」

 

 早くナルトと勝負をしたいサスケは速攻で話を終わらせようと用件を聞きだし始めた。

 

「ふむ……。あまり良い話ではないが、コレに関しては早い内に知っておいた方がいいだろうと思ってお前達をここに呼んだ」

 

 そう言って綱手は話を切り出した。

 暁。その組織がナルトを狙っているという話を。

 現在自来也とアカネが調べて入手した限りの暁の情報と危険性を説明し、ナルトが狙われている事を伝える。 

 事実、ナルトが自来也と共に綱手捜索の旅に出た時に暁に襲われたのだ。その時は自来也が撃退して事なきを得たが、一歩間違えればナルトは暁の手に落ちていただろう。

 

「そして暁が次にナルトを狙ってくるのは三、四年後だと言う情報が入った。その間にナルトには徹底的に強くなってもらう。お前が強くなる事が暁への一番の抵抗だからな」

 

 なるほど。確かにその通りであるし、ナルトが危機的状況である事も暁とやらの危険性も理解は出来た。だがそれでも分からない事がサスケにはあった。

 

「それとオレにどういう関係があるって言うんだ? 聞いてりゃオレの話は一切出てこないようだが?」

 

 そう、これまでの話とサスケに関わりがないのだ。確かにナルトは同じ班の仲間だが、それを言うならここにいない最後の一人である春野サクラもそうだ。

 だがサクラは呼ばれずに自分は呼ばれる。それがサスケには腑に落ちなかった。

 

「お前も無関係の話ではないからだ。……暁には大蛇丸という奴がいてな」

「大蛇丸?」

 

 初耳、いや何処かで聞いた事がある名前だった。

 サスケはどこで聞いたのかを思いだそうとしている内に、答えを綱手が口にした。

 

「二代目三忍、いや元をつけた方がいいな。そいつは木ノ葉の抜け忍だ」

 

 それを聞いてサスケも思いだした。かつて忍者アカデミーで授業に出た事のある名前だと。

 

「その大蛇丸がどうしたって言うんだ」

「奴はお前を狙っている」

「なに!?」

「なんだって!? どういう事だってばよ綱手婆ちゃん!」

 

 サスケも、今までの話が良く理解出来ずにいたナルトも綱手の言葉に驚愕を顕わにした。

 そんな二人に綱手は知り得る限りの情報を伝える。

 

 大蛇丸が不死の研究の末に開発した禁術・不屍転生(ふしてんせい)。その器としてサスケを狙っているという事を。

 それは大蛇丸が綱手にアカネに封じられた点穴の治療を依頼しに行った時にこぼした言葉から分かった事だった。

 

「今の大蛇丸は本来の力の半分程度も発揮出来ない状態だが、それでも今のお前程度が百人いても相手にならない奴だ。それに抑えられた力をいつ元に戻すかも分からない。そうなればお前が連れ去られる可能性もより高まる事になる」

「ちっ……! 人の体を乗っ取ろうなんて何様だそいつ……!」

 

 誰しも自分の体を他人に渡したくはないものだ。

 当然サスケも自分の体を狙っているという存在を不気味に思いそして憤慨していた。

 

「というわけでだ。お前も乗っ取られたくなければより強くなる事だ。私達も里の仲間であるお前をそう簡単には大蛇丸なんぞに渡すつもりはないが、ナルトと同じ様にお前が強くなる事が一番の自衛の方法だからな」

「ふん……上等だ。その大蛇丸とやらがオレを狙ってくるなら返り討ちにしてやる」

「ほう、いい気概だ。とにかく、今お前達を下手に任務などで外に出して暁だの大蛇丸だのに捕らえられては意味がない。私達も里の外でまで常にお前達を守れるわけではないからな。だからしばらくは里の中で修行に励んでもらう」

「えー! それじゃあ任務とか出来ないって事!? オレってばすっげー難しい任務を次々とこなして里の皆を認めさせて火影になってやろうと思ってんのによー!」

 

 綱手の言葉にすぐに反感の意思を見せたのはナルトだ。火影になりたいナルトは修行に励む事は反対ではないが、任務を受けられないのは御免なのだ。

 そんなナルトを綱手は優しく微笑んで見ていた。生意気で馬鹿なナルトだが、綱手にとっては弟の様な存在なのだ。そういう言動もどこか微笑ましく感じていた。

 綱手はナルトと出会い火影になるまでの経緯でナルトを本物の男と認めていた。出会ったばかりの当初は馬鹿なガキという感想だったが、今では誰よりも守りたい存在と思っている。

 

「これこそがその任務だ。私からお前達に任務を言い渡す。三年間で暁や大蛇丸に負けないくらいに強くなれ! これはS級任務だ。分かったな?」

「S級……! おっしゃー! オレに任せとけ綱手の婆ちゃん!」

「ウスラトンカチが……どれだけ単純なんだお前は」

 

 そう言うサスケも綱手の命令を聞いてうっすらと笑みを浮かべていた。

 暁や大蛇丸に負けないくらいに強くなる。それはむしろサスケの望むところだった。

 

「よーし、やるぞー! ……っと、ちょっと待った婆ちゃん!」

「ん? どうしたナルト?」

「任務ってんならオレ達第七班全員の出番だろ!? ここにはサクラちゃんがいねーじゃん! サクラちゃんはどうすんだってばさ!」

「サクラ? カカシ、誰だそいつは?」

 

 ナルトの言う事も至極もっとも。だが綱手はサクラという存在を全く知らなかった。

 なので第七班の担当であるカカシに説明を任せた。

 

「我々第七班の最後の一人である春野サクラ。今はまだ下忍の域を出ておらず正直力不足は否めませんが、頭脳は明晰でチャクラコントロールも高く、そして根性があります」

 

 意味深な目線を送りながら綱手にサクラの説明をするカカシ。

 その目線とチャクラコントロールに長けて根性があるという説明を聞いて綱手はカカシの言いたい事を理解した。

 

「分かった。同じ班という事ならそのサクラとやらにも同じ任務を受けてもらう」

「おお! 話が分かるぜ婆ちゃん!」

「ただし、サクラの修行は私がつける。それに付いてこれないと私が判断したら、その時点で春野サクラの任務は終了。別の班へ移動してもらう」

「えー! どうしてだよ!?」

 

 綱手の厳しい言葉に反感を覚えるナルト。そしてナルトに対して答えたのはサスケだった。

 

「……弱ければ危険だからだ。そうだろ五代目?」

「そうだ。お前達と同じ班のままいるという事は、暁や大蛇丸と戦う可能性は非常に高い。そこに弱者がいればそれだけで自分はおろか味方に危機を招く事になる」

「そんなのオレとサスケがいりゃあどうとでもなるってばよ! そうだろサスケ!?」

「いや、オレも五代目の意見に賛成だ」

「サスケ!?」

「このバカ、少しは頭を使え! もし五代目が言った様な状況になってオレ達が死んだら残されたサクラは誰が守るんだ!? そうなったらサクラも死んで終わりだろうが! お前はそうしたいのか!?」

「っ! ……それは」

 

 サスケの言う状況を思い浮かべてナルトは意気消沈する。自分が死ぬのならばまだいい。だがサクラが、仲間が死ぬのは何よりも痛かった。

 ナルトが消沈したところで今まで黙っていた自来也が溜め息を吐きつつ口を開いた。

 

「全く。ナルトォ、お前はもう少し話を良く聞けぃ。綱手はそのサクラとやらが修行に付いてこれないなら、と言っておっただろうが」

「あ……。そっか、そうだな! サクラちゃんならきっと綱手の婆ちゃんの修行に付いていけるさ!」

「ふん……」

 

 ナルトはサクラなら絶対に綱手の厳しい修行を乗り越えられると自信を持って言えた。仲間を信じる思いは誰よりも高いのがナルトなのだ。

 サスケも言葉にはせずとも意外と根性のあるサクラならば大丈夫だろうと思っていた。精神を乗っ取るという心転身の術を受けても無理矢理にその縛りを破った女なのだから。

 

「では決まりだな。サクラには私から話しておく。まあこの話を聞いて初めから断る様ならそれまでだがな」

「ナルトの修行に関してはワシが見よう。螺旋丸も含めてこ奴を鍛えるのにワシ以上の人材は……まあ、おるにはおるがワシが適任だろうしのォ」

「ん? お前以外に螺旋丸が使える奴が今の木ノ葉にいたのか自来也?」

 

 自来也が自分以上の人材と口にして頭に思い浮かんだのはもちろんアカネだ。

 だが綱手は未だにアカネの存在と正体を知ってはいなかった。もちろん火影になったので早い内に知らされるだろう情報だが。

 まだこの部屋にはナルトとサスケがいる為に迂闊にアカネの正体に関しては話す訳にもいかないので、今は説明する時ではないと自来也は口を噤んだ。

 

「ああ、まあ、それは後で話すとしよう。サスケに関してだが、うちはの事はうちはに任せるのが良いかの」

「それですが……実は今サスケの師匠をしている人がいまして……」

「ん? お前以外でか?」

 

 元々カカシが今までは担当上忍としてサスケの修行を見ていた。うちはの者を担当上忍にしてはサスケへの贔屓の可能性も考慮して写輪眼を持つカカシに白羽の矢が当たったのだ。うちは一族の大半が警務部隊に入っているというのも大きな理由だが。

 だがこれから先は今まで通りには難しかった。流石のカカシもサスケの修行を見つつ大蛇丸に対応する事は難しい。むしろカカシ自体の戦力上昇も考えなければならない状況なのだ。

 それゆえに今回はうちは一族の誰かにサスケを任せようとしていたのだ。うちは一族の敷地内ならば大蛇丸とてそう易々とサスケを狙う事は出来ないだろうとの考えだ。

 

「ええ……アカネです」

「……マジか?」

「はい」

 

 カカシの言葉に嘘が無いと判断した自来也は感嘆の念を籠めてサスケに話しかけた。

 

「……サスケ、お前よく生きておったの」

「ああ……あんたもか」

 

 同類を見るような目線を自来也はサスケに送った。自来也もアカネと共に旅をした一年間で相当絞られたのだ。もうしばらくはアカネと一緒に旅をしたくないと思うくらいに……。

 サスケも自来也を見て同胞を見つけたような気持ちになりいつもの強気の態度を崩して何度も頷いていた。ここに性格も年齢も違い過ぎる二人の男が分かりあった。多分日向に行けば後二人くらい同胞が増えるだろう。

 

「一体誰なんだそのアカネという奴は?」

「それは……」

「日向アカネってやつだが……知らないのか?」

 

 カカシが口淀んだ瞬間にサスケはアカネの名前を出して綱手の反応を窺った。これにより綱手がどう反応するかを見たかったのだ。だが今までの反応からしてどうにも綱手はアカネの事を知ってはいないようだ。

 

「アカネ? 誰だそいつ? どうして日向の人間がうちはの師をしているんだ?」

「アカネェ!? なんでアカネがサスケの師匠をしてんだってばよ!?」

(ナルトがアカネを知っているのはともかく……五代目はアカネを知らない? カカシや自来也って三忍は知っているのにか? どういう事だ)

 

 これによりサスケはよりアカネの存在が気になる事になる。

 カカシやフガクの反応からしてアカネは上忍からも一目置かれる存在だろう。そして自来也も知っている。なのに同じ三忍の綱手はアカネを知らない。

 単に綱手がしばらく木ノ葉を離れていただけという可能性もあるが、それ以外に何かありそうな気もしていたサスケであった。

 

「あー、アカネについては後でワシから説明する。取り敢えず一旦はこれで解散するぞ」

「……分かった。ナルトとサスケ、お前達には私がサクラに同じ事を話した後に正式に任務を告げる。それまで自由に待機していて構わん。では解散だ」

 

 そうしてナルトとサスケが退室してから、綱手は自来也を睨みつける。

 

「で、どういう事だ? 日向アカネとやらについてはあいつらに話す事が出来ない内容なのか?」

 

 綱手は自来也がアカネについてナルトとサスケに知られない様に二人を遠ざけようとしていたのに気付いていた。

 それほどまでに情報を規制する必要がある存在が気にならないわけがなかった。

 

「ちょっと待って下さい。実は当のアカネがすぐそこにいましてね。どうせ五代目様には知られる事になるでしょうから、ちょっと呼んできますよ」

「おう、そうか。なら頼むとしようかの」

 

 そうして火影室から出たカカシはすぐにアカネを見つける。

 アカネはナルト達が出て行った時に自分が呼ばれるだろうと思って待ち構えていたのだ。ナルト達には後で合流すると話している。

 

「アカネ……五代目様がお呼びだ」

「ええ。……あの子に会うのも久しぶりですね」

 

 アカネは記憶に残る最後の綱手を思いだす。そして思わず目を瞑った。

 当時の綱手はそれはもう荒み落ち込んでいたものだ。最愛の弟と最愛の恋人を戦争で失ったのだ。そうなるのも致し方ないだろう。

 アカネはヒヨリとして綱手とはそれなりに親しい関係を結んでいたが、それでも綱手の心の傷を癒す事は無理だった。

 いや、その時間すらなかったのだ。ダンを失った綱手は程なくして木ノ葉から去ったのだから。

 その綱手が木ノ葉に帰り火影の座についた。安堵と心配と不安と感慨深さが混ざり合った感情を抱きながら、アカネは火影室の扉を開けて中に入る。

 

「失礼します」

「うむ。私が五代目火影の綱手だ。お前が日向アカ……ネ……」

 

 入室して来たアカネを見て綱手は火影として挨拶をする。だがアカネを見てすぐに綱手の言葉は尻すぼみしていった。

 信じられないモノを見たかのように驚きで目を見開いてアカネを見つめる綱手。唇は震え、座っていた体は何時の間にか乗り出していた。

 

「ばあ様……」

 

 そしてポツリとそう呟いた。アカネは確かにヒヨリと同じ日向の一族だが、別段そっくりという訳ではない。

 他の日向の女性を見た時はこんな風にヒヨリを思い浮かべる事はない。だが、何故か綱手はアカネの姿にヒヨリが重なって見えていた。

 

「……いや、すまない。私の勘違いだ――」

 

 勘違いだから気にするな。そう言おうとした綱手の言葉をアカネが遮った。

 

「久しぶり、綱」

「!!」

 

 その言葉に、その優しい眼差しに、またも綱手はヒヨリを思い浮かべる。

 久しぶり。会った事もない相手からのその言葉だが、綱手は何故か不思議とおかしいとは思わなかった。

 そして自然と答えが口から出て来ていた。

 

「ヒヨリ……ばあ様、なのか?」

 

 綱手のその言葉に、アカネは頷いて答えた。

 

「少し長くなるけど、全てを話すよ」

 

 驚愕に身を竦ませている綱手に、アカネはゆっくりと全てを語った。

 

 

 

 そしてアカネの正体とその経緯を知った綱手は溜め息を吐いてゆっくりと腰を下ろした。

 

「ふぅ……。まさかヒヨリばあ様が転生をしていたなんてな……」

 

 予想だに出来なかった事態を目の前にして流石の火影も興奮が冷めやらぬ様子のようだ。

 まあ、予想しろという方が無茶なので誰しもこうなって当然だろう。

 そんな綱手にアカネは優しく、そして嬉しそうに語りかけた。

 

「綱……過去を乗り越えたんだな」

「っ!? ……何でもお見通しか。ばあ様には昔から隠し事が出来なかったな」 

 

 アカネは綱手と接している内にかつて綱手の中にあった負の感情がなくなっている事に気付いた。

 いや、正確には少し違う。無くなっているのではなく乗り越えたのだ。あの凄惨で非情な過去を飲み込み、前を向く事が出来ているのだ。

 自分の力で克服したのか、それとも第三者の手助けがあったのか、それを考えてアカネはふとナルトの存在を思いだした。

 

「……ナルトか?」

「……ああ」

「そう、か」

 

 うずまきナルト。九尾の人柱力であり木ノ葉の下忍。だがそれ以上の可能性を秘めた少年。

 どこか不思議な期待を持たせる事が出来るあの少年ならばと、アカネは思えたのだ。

 

「ナルトには、礼をしなければなりませんね」

 

 自分にも出来なかった事をナルトは成し遂げてくれた。きっとアカネがどんな言葉を並びたてようともそれは綱手の心に響かなかっただろう。

 けどナルトはそんな綱手の心を動かしたのだ。どうやったのかは分からないが、それだけでナルトはアカネにとっての恩人だった。

 大切な親友の孫を救ってくれたのだから……。

 

「後で修行でもつけてあげましょうか」

「お前、ナルトに恨みでもあるんかの?」

「なんで!?」

 

 お礼にとびっきりの修行をつけて強くしてあげようと思っていた矢先の自来也の言葉である。

 

「おい自来也! ヒヨリばあ様になんて口の聞き方だ!」

 

 綱手にとってヒヨリとは尊敬する祖父である初代火影柱間の親友にして初代火影の左腕にして木ノ葉設立の立役者にして、そして気の優しいお婆ちゃんだった。

 美味しいおやつを貰ったり、怪我をしたら治してくれたり、修行の手伝いをしてくれたりと色々と世話をしてもらったものだ。

 そんな尊敬すべき相手に対し対等の口を聞く自来也に憤慨するのも無理はない。

 

「いいんですよ綱。というか、あなたもこう言った事情を知る者達だけの場ならともかく、それ以外では普通に木ノ葉の下忍として扱って下さい。そうしないと厄介ですし」

「それは……確かにそうだが……」

 

 綱手もアカネの言い分は理解出来る。火影ともあろうものが高々下忍を相手に敬う態度を見せては色々と問題だろう。

 

「……分かった。では普段はそうさせてもらう。だがそれ以外ではヒヨリばあ様として対応させてもらうぞ」

「いいですよ。私もその方が嬉しいですし」

 

 再会を喜びあった二人はそう言って互いに笑いあう。

 だがそれも束の間。すぐに二人は先の事に付いて話しあった。

 

「ヒヨリばあ様がサスケを見るならばそちらは安泰だろうが、やはり問題はナルトか」

「ワシが信用出来んか綱手?」

「そうではない。だが大蛇丸だけが狙っているサスケと暁全員が狙っているナルトでは話が違う。一刻も早くナルトには強くなってもらわねばならん」

 

 その物言いと籠められた思いから、綱手が余程ナルトを信用しているのだとアカネは理解した。

 恐らくナルトを弟の縄樹に重ね、その上で過去を乗り越える要因となったナルトに可能性を感じているのだろう。

 ナルトならば九尾の人柱力という境遇を乗り越え、いずれは火影になり里を守る力となると信じているのだ。

 

「けど焦っても意味はありません。まずは地力を伸ばす事が重要です。その上で九尾の力を完全に使いこなせれば……」

 

 そうなればまず敵はない。それほど九尾の力は凄まじいのだ。

 ナルトの中にある九尾のチャクラはどうも完全ではないとアカネは感じ取っていたが、それでも尾獣の中でもっとも強大な力を持っている規格外の尾獣が九尾なのだ。

 ちなみに今のナルトの中にある九尾のチャクラは陽のチャクラのみ。陰のチャクラは屍鬼封尽にてミナトが道連れにして封印してある。半分でそれだから本当に規格外なのである。

 

「うーん、九尾チャクラを自在にコントロール出来れば修行も大幅に捗るのですが……」

「どういうことだばあ様?」

 

 綱手の質問にアカネは九尾チャクラを利用した修行法を伝える。

 それは影分身を応用した修行だ。分身の術とは実体を持たない術者の分身を生み出す術だが、影分身はそれに実体を持たせるという高等忍術だ。

 そして影分身の特性として、影分身が得た情報や経験は影分身を解除した時に本体に還元されるという物がある。

 それを利用して、影分身を大量に出してその分身全てに修行させる事で修行時間を大幅に縮めるという裏技的な方法があるのだ。

 

 もっとも全てにおいて都合良くは出来ていない。まず影分身自体が本体のチャクラを分散して作り出す術なのでこの修行方法だとあっという間にチャクラが切れてしまうのだ。

 これを行うには桁違いのチャクラが必要になってくる。それこそ尾獣のチャクラを自在に操れるくらいでなければ不可能だ。

 だが今のナルトはまだその域に達してはいない。今までにも何回か九尾のチャクラが漏れ出して爆発的な力を見せた事はあるが、自在にとなると難しい。

 そして上手く九尾のチャクラを引き出せた所で問題がある。あまりに九尾のチャクラを引き出していると下手すれば九尾の封印式が緩んで九尾が復活する可能性もあるのだ。

 この修行法は上手く行けば非常に効率的な修行だが同時に危険性も高いのである。

 

「なるほどな……」

「柱間がいればなぁ。あいつ木遁で九尾を縛る事が出来たし」

 

 九尾という天災を抑える事が出来た数少ない忍の一人が柱間だ。木遁の特殊な力で九尾の力や意思を抑える事が出来るのだ。かなりおかしい性能である。流石は忍の神と謳われた存在だ。

 

「落ち込みやすい性格の癖に……」

「ばあ様? 何か言ったか?」

「いや何も。まあ無い物ねだりをしても仕方ない。ナルトには地道に強くなってもらうとしよう」

 

 結局はそれが一番の近道だろう。そう結論付けたアカネだったが、そこにカカシが口を挟んだ。

 

「ちょっとお待ちを。木遁忍術なら一人だけ扱える忍を知っています」

「え?」

「どういう事だカカシ?」

 

 これにはアカネも綱手も困惑した。木遁とは初代火影のみに許された血継限界だ。

 いや、柱間と同じ千手一族にも直系の子孫にも伝わっていないので血継限界とすら言えないのかもしれない。それほどの秘術なのだ。

 それを扱える者が今の世にいるなどとは流石の二人も想像だにしていなかった。

 

「実はかつて大蛇丸がしていたという人体実験の成果でして……」

 

 カカシは事の詳細を語る。と言ってもカカシも全てを知っているわけではなかったが。

 かつて大蛇丸がまだ木ノ葉の里から抜けていなかった時、大蛇丸は様々な研究を秘密裏に行っていた。木遁の研究もその一つだ。

 千手柱間の細胞を利用してそれを幼い子どもに移植し木遁を再現出来ないかという最悪の実験。そして実験台となった子どもはその殆どが死に絶えた。

 いや、大蛇丸は全員が死亡したと思っていた。だが一人だけ生き延びた子どもがいたのだ。

 

「それが後に暗部の一員となったテンゾウという男です」

「大蛇丸め、どこまで……!」

「最悪だな。今度あった時は一切の加減も仕置きも抜きで……」

 

 カカシの説明を聞いた二人は大蛇丸への怒りを顕わにする。隣でそれを見た自来也は少しだけ外道に堕ちた元仲間に同情した。

 

(この二人の怒りを買うか。死ぬのぉ、あいつ)

 

 初代三忍と二代目三忍の紅一点から命を狙われる事になった大蛇丸。彼の運命や如何に。

 

「とまあ、テンゾウはオレも信用の置ける男です。奴ならば九尾を抑える事も出来るでしょう」

「そうか。それじゃあナルトの修行が一段落したらそのテンゾウさんに力を貸してもらいましょう」

「今すぐじゃ駄目なのかばあ様?」

「ええ。最初から他人に頼った修行をしてはナルトの為になりません。三年の時間があるなら二年はきちんと自分の力だけで強くなってもらいます」

 

 自力で影分身による修行が出来るならば話は別だが、そうでないならば頼り切った修行は毒になる。まずは地力を伸ばしてからという事に変わりは無かった。

 

「何時でもテンゾウが動ける様にあいつにはオレから声を掛けておきます」

「うむ。これで大体の方針は決まったな。後は他里にも声を掛け続けておく。暁が人柱力を狙っているならば必ず他の里も狙うはずだからな」

 

 だがそう言いつつも綱手は他里が木ノ葉の話を素直に聞き入れるのは難しいだろうと思っている。

 改めて同盟国となった砂はともかく、雲と土と霧。この三つの里がまともに話を聞くわけがない。例え暁の危険性を説いても自分達ならば大丈夫と言い張り、他里との連携など期待出来ようもないだろう。

 そもそも人柱力とは里にとっての重要な軍事力なのだ。それは最重要機密であり、他里に漏らす訳がない。

 危機的状況になってからでは遅いのだが、その状況にならなければ理解出来ないのが人間なのだ。それでも何もしないままでいるわけにも行かないので、綱手は出来る限り他里へと呼びかけをするのであった。

 

 



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NARUTO 第十四話

 木ノ葉の里に広がる森の中。その森で木々のない開けた土地に数人の忍が集まっていた。

 アカネ・自来也・綱手の師匠組と、ナルト・サスケ・サクラの弟子組、そして第七班の担当であるカカシの計七人である。

 サクラがこの場にいるのは、サクラが綱手から聞かされた任務を受ける事を選んだからだ。今まで彼女はナルトやサスケに助けられてばかりだった。そんなお荷物な自分が嫌で、逆にナルト達を助けてやろうと決心したのだ。

 その時のサクラの意気込みを見て綱手はサクラを気に入った。こうなったら開いた時間を使って徹底的に鍛え上げるつもりだ。

 

 そして今日はナルトとサスケが勝負をする為にこうして集まっているのだった。

 狙われている二人の力を計る為であり、サクラに今の自分とナルト達との差を理解させてより追い付こうとする気概を持たせる為でもあった。

 そしてアカネにとってはナルトとサスケのチャクラを見比べる為でもある。この二人だけどうしてチャクラが二重に感じるのか。その不思議を少しでも解く為だ。

 

 勝負が始まる前からアカネは白眼を発動して二人を見る。こうして見比べると二人は似ているようでどこか違っていた。

 ナルトからは柱間を、サスケからはマダラを思い起こさせるチャクラを感じる。だが二人のチャクラが柱間とマダラに似ている訳ではない。

 二重になっているチャクラがそれぞれ柱間とマダラの二重になっていたチャクラと同一に感じるのだ。

 

(はてさて。これは一体何なのか?)

 

 長い人生を歩むアカネも皆目見当が付かないこの現象。とにかく今は観察に集中するしかなかった。

 

「それじゃあこれよりうずまきナルト対うちはサスケの勝負を始める。まずは互いに対立の印をせい」

 

 自来也の言葉に従い、ナルトとサスケが対立の印を組む。

 対立の印とは木ノ葉の里で古くから守られてきた伝統の訓練方式である忍組手の所作の一つだ。

 組手前に必ず片手印を相手に向ける行為の事だが、両手印で術を発動する所作の半分を意味し、これから戦う意思を示す行為。それが対立の印だ。

 

 そして組手が終わり決着の後に、互いに対立の印を前に出して重ね合わせ結び、和解の印として仲間である事の意思を示す。

 その一連の流れが忍組手の作法一式である。

 

 ナルトとサスケは対立の印を組む事で過去に思いを馳せていた。

 それは二人の最初の戦いの記憶。アカデミーでの忍組手の記憶だ。

 当時の組手はサスケの圧勝だった。家族がいて才能があって強くて、ナルトにとってサスケは眩し過ぎる存在だった。

 それからナルトはサスケをライバル視するようになった。必ずサスケに勝って自分を認めさせる。無意識の内に自分が初めて眩しいと感じた相手に認められる事で第一歩を踏み出せる様に思ったのだ。

 今までは落ちこぼれとしてナルトはサスケの眼中になかった。だが同じ班となって共に任務をし、今ではサスケから闘いたいと言われる様になった。

 そして今目の前に本気のサスケがいる。それがナルトには嬉しかった。

 

「へへ」

「何がおかしい?」

「おかしいんじゃねーってばよ、嬉しいんだ! お前にやっと勝てると思ったらな!」

 

 ナルトの答えにサスケは笑って返す。

 

「ふん。残念だが、今日もオレが勝つ。明日も、明後日もだ!」

「いつまでも落ちこぼれだと思ってんじゃねーぜ!」

「安心しろ……とっくの昔に思っちゃいねェーよ!」

「サスケェーー!」

「ナルトォーー!」

 

 互いの名を叫び、そして勝負が始まった。

 

 

 

 二人は正面からぶつかりあった。

 互いに振りかざした拳を同じ様に受け止め、そしてそこから幾度かの攻防が繰り広げられる。

 天才と謳われたサスケの体術にナルトは付いていっているのだ。それだけでサクラにとっては驚愕だった。

 

(あの落ちこぼれだったナルトが何時の間にかこんなに……とっくに、置いてかれていたんだ……)

 

 それはどこか寂しさを感じさせる現実だった。自分よりも下と見ていたナルトが何時の間にか自分の遥か上に立っている。

 それが悔しくもあり、情けなくもあり、そして悲しくもある。何時までも成長していない自分に腹が立っていた。

 そんなサクラを見て綱手はこれだけでもサクラを連れてきた甲斐があったと思っていた。

 こうした思いがある限り人は努力出来るのだ。これで奮起しない様では忍として端から見込みがないと切り捨てるしかないだろう。

 

 ナルトとサスケの体術合戦は徐々にサスケが優位に進めていった。いくらナルトが急成長したとは言えサスケとの間にあった差を埋める程ではなかった。

 いや、サスケが成長していなければとっくに追い抜いていただろうが、サスケとて成長しているのだ。

 まともにぶつかり合っては不利と判断したナルトは得意術にしてとっておきの切り札を使用する。

 

「多重影分身の術!」

 

 術の発動と共に百を超えるナルトが現れた。影分身で生み出す分身の数を単純に増やしたという術だが、それだけで禁術扱いされている術でもある。

 影分身は術者のチャクラを分散する術故に大量の分身を生み出すとそれだけでチャクラが少ない者ならば気絶する可能性を秘めていた。

 故にこれはチャクラが大量にある忍のみに使用を許された禁術なのである。

 

「いくぞサスケェ!」

「ちぃ!」

 

 大量のナルトがサスケに襲い掛かる。影分身同士が連携して四方は当然として上空からも攻撃を仕掛けてくるのだ。

 これを防ぐのは並大抵の体術では不可能だろう。飛んで逃げようにも上空にも無数のナルトがいる為無事に切り抜ける事は難しい。

 ならば迎撃あるのみ。それがサスケの選択だった。

 

――千鳥流し!――

 

『うわぁあぁ!』

 

 サスケの周囲を覆っていたナルト達が一斉に消滅していく。

 これがサスケがアカネとの修行で新たに覚えた千鳥の発展型である。

 一点に集中していた千鳥を全身から発する事で自身の周囲に高圧電流を流す術だ。

 威力はそこまで高くはないが多くの敵を巻き込み痺れさせる事が出来る。一撃でも攻撃を受ければ消滅する影分身相手には効果的な術だろう。

 

「何時の間にあんな術を!」

 

 これに驚愕したのはカカシだ。元々千鳥をサスケに教えたのはカカシだったが、中忍試験からたった二週間程でこの様な応用技を身に付けているとは思ってもいなかったのだ。

 サスケの天性の才能を褒めるべきか、それとも短期間でサスケに仕込んだアカネを褒めるべきか悩みどころなくらいだ。

 

「ふっ」

「へへっ」

 

 上手く大量の影分身を消滅させたサスケはナルトに強い態度を見せるが、それに対してナルトも笑って返した。

 それを怪訝に思うサスケだったが、次の瞬間にサスケはナルトの態度の理由を理解した。

 

「がぁっ!?」

 

 サスケの足元の地面がひび割れ、突如として地面を突き破ってナルトが現れたのだ。

 そしてサスケの顎を殴りつけて上空へと吹き飛ばす。さしものサスケもこれには反応出来なかった様だ。

 ナルトは大量の影分身を出した時に影分身に紛れて本体を地面の下へと潜らせていたのだ。かつて中忍試験でネジを相手に使用した戦法の応用である。

 

「まだまだぁ! う! ず! ま! き! ナルト連弾!」

 

 これもかつて中忍試験でサスケが使った獅子連弾という体術の物真似で覚えた体術である。

 サスケを意識したが故の物真似だろう。もっとも一人でやっているサスケと違いナルトは影分身と協力しあっての連携体術だが。

 

「ぐ、あ、あぁ!」

 

 顎に強烈な一撃を貰い軽い脳震盪を起こしていたサスケはまともにガードする事も叶わずにナルト連弾を喰らってしまう。

 最後の一撃で大地に叩き付けられたサスケに、ナルトは全ての影分身を一斉に突撃させた。ここで一気に勝負を決めるつもりなのだろう。

 

(まさか! ナルトがここまで成長しているなんて!)

(うそ! ナルトがサスケ君に勝っちゃうの!?)

 

 いくらナルトが強くなったと言っても現時点でのこの展開は予想外だったようだ。

 カカシもサクラもあの落ちこぼれだったナルトが天才のサスケに勝利する瞬間に目を見開いて活目していた。

 だが、その驚愕の瞬間は訪れなかった。

 

「な、なにぃ!?」

 

 決着をつけようとしたナルトの視界からサスケの姿が消え去っていた。

 本体だけではない。無数の影分身全ての視界から消えたのだ。そんな事が有り得るのか? ナルトは動揺しつつも四方を見渡してサスケを探す。

 そして見つけた。何時の間にかサスケは数十メートルも離れた場所に移動していたのだ。

 どうやってあの一瞬でそこまで移動したのかはナルトには分からない。だが見つけたからには本体含む全てのナルトがサスケへの追撃に移行した。

 

「ふぅ……ナルト。お前は強い……強くなった。だが……まだオレが強い!」

 

 脳震盪を回復させるには十分な時間を得たサスケは、大きく息を吐き切り札を使用した。

 それは先程ナルトの攻撃を回避した時と同じ術。あまりのチャクラ消費量の為にまだ短時間しか発動出来ないサスケのとっておき。

 雷遁チャクラによる高速モードである。

 

「はぁ!」

 

 全身に雷遁の衣を纏ったサスケは雷を利用して電気信号の伝達速度を加速させる。これにより目にも止まらぬ高速戦闘を可能としたのだ。これが先程ナルトがサスケを見失った理由だった。

 サスケは瞬きも許さぬ間に次々とナルトの影分身を消し去って行く。その高速攻撃に対応出来る反射神経を今のナルトはまだ身に付けてはいなかった。つまり、抵抗する事すら不可能という事だ。

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

 ナルトが訳も分からぬままに影分身は全て消滅する。そしてどうにか応戦しようとしてチャクラを練ろうとするが、その暇も与えられずにあっという間に倒されてしまった。

 

「それまで! 勝者うちはサスケ!」

 

 倒れたナルトに馬乗りになり拳をすん止めしているサスケ。そしてそれを見た自来也が決着の言葉を放った。

 

「く、くそぉ……!」

「はぁ! はぁ!」

 

 悔しがるナルトに息を荒げるサスケ。勝者はサスケだが消耗が激しいのもサスケだった。

 今のサスケのチャクラではやはり雷遁の衣を発動し続けるのは厳しい物があるのだ。

 対してナルトはまだまだスタミナが残っていた。ナルトのチャクラ量はサスケを凌駕しており、実に数倍の差がある。その上九尾のチャクラを引き出せれば百倍を超えるチャクラを有する事になるのだ。ことチャクラ量でナルトに勝る忍は極僅かと言えよう。

 

 だが勝負はチャクラ量だけで決まるものではない。少ないチャクラも要は使い方次第だ。

 今のナルトはまだ大量のチャクラを持て余しているに過ぎなかった。

 

「では互いに和解の印をせい」

 

 組手が終われば和解の印を組む。ここまでが忍組手の流れだ。

 最初に二人が闘った時はいがみ合って素直になれずに拒みあっていたので和解の印は成立しなかった。

 負けた事が悔しくて才能溢れるサスケに認められていなかった事が悔しくて、ナルトから拒んだ結果である。

 だが――

 

「はぁ、はぁ……。ナルト……オレはもっと、もっと強くなる」

「ッ!」

 

 今でも十分に強いとナルトは思っていた。だがそれでサスケは満足していなかった。

 サスケの目標は優秀で尊敬する兄であり、そして身近にアカネという手が届かない位置にいる存在を知っているのに満足など出来るわけがなかったのだ。

 そんな遠い目標を持っているサスケの瞳を見ているとナルトはまた置いて行かれる様な錯覚を覚えた。しかし、次のサスケの一言でその錯覚は消え去った。

 

「だからお前も追いかけてこい。さっさと来ないとオレはどんどん先に行くぞ」

「……!! へんっ! オレってばお前よりも絶対強くなってやる! 追いつくんじゃなくて追い抜いてやるから覚悟しとけよ!」

 

 サスケはナルトを自分のライバルと認めたのだ。先程の勝負はアカネに修行を付けて貰ったからこその僅差だった。雷遁による高速戦闘がなければどうなっていたかは分からない。それはサスケも自覚していた。

 そしてそんなサスケの思いはナルトに伝わっていた。一番認めて欲しい存在から認められたのだ。嬉しくない訳が無かった。

 ここで二人は初めて和解の印を結んだ。互いに仲間と認め友と認め好敵手として認め合ったのだ。二人の実力が加速度的に飛躍していくのはこれからであった。

 

 

 

「サスケ君もナルトもすごい……」

「本当にね。全く、こりゃうかうかしてたらあっという間に追い抜かれるな」

 

 多重影分身を使った戦術と膨大なチャクラ量を披露したナルトに、覚えたばかりの雷遁を巧みに操り圧倒的な力を見せたサスケ。

 どちらも一ヶ月前には想像出来なかった姿だ。同じ班としてサクラは二人を尊敬し、そして自分の情けなさに肩を落としていた。

 そんなサクラに綱手が声を掛けた。

 

「置いていかれるままでいいのか?」

「ッ!?」

 

 それはサクラの核心を突く言葉だった。先程の二人の忍組手の最中にも感じたその思い。成長し続ける二人に置いていかれたくないという思い。

 このままでいい訳がない。自分だって二人と同じ第七班の一員なのだ。来るべき時に向けて強くなり、二人を守ると誓ったのだ。

 

「いえ、私は二人の後ろにいたくない! 必ず横に並んでみせます!」

「そうか。ならばお前を私の正式な弟子とする! 修行は厳しいぞ?」

「はい!」

 

 サクラも決意を新たにして綱手の弟子となった。これからあの二人に追いつくために必死の修行をするだろう。

 それを見ていたアカネもふとした事を思い付いた。

 

「ふむ。どうせなら私も第七班それぞれに教えましょうか」

「ん? どういうことだばあ……アカネ?」

「サスケばかりに教えるのも何ですから。私の持つ技術をナルトとサクラさんにも授けようかと思いまして。それぞれに合った技術を提供出来そうですし」

「ふむ……。それなら三人一緒に修行をするという事か?」

「いえ、基礎修行ならともかくここから先はそれぞれの方向性に合わせた修行に特化します。三人一緒に修行してもあまり意味はないでしょう。なので、自来也にナルト、カカシ及びうちは一族にサスケ、五代目にサクラさんの修行を付けてもらい、私は空いた時間にそれぞれを見ようかと」

「なるほど……」

 

 アカネがサスケ一人に集中するよりも、これまで培ってきた経験と技術を全員が恩恵に与れるようにした方が全体の戦力向上に繋がるだろう。

 普段は別個に分かれて個人に合わせた特化修行を行い、たまに三人揃って連携や基礎修行を行う様にすればより効果的な修行になる。そう判断した綱手はアカネの意見を取り入れた。

 

「いいだろう。うちは一族には私から伝えておく」

「お願いします綱手様」

 

 そんな二人の会話を聞いていたサクラはナルトとサスケへと近付いて二人に疑問をぶつけてみた。

 

「ねぇ、あのアカネっていう人何者なの? 何で五代目火影の綱手様と普通に話しているの?」

「オレもわからねーってばよ。少しだけ一緒に修行した事あんだけど、すげー強いって事しか知らねーってばよ」

「オレもだ。あいつのおかげで強くなれたんだが、あいつが何者なのかはさっぱりだ。父さんやオビトさん……一族の一部は知っているみたいだが」

 

 謎の女アカネ。そのベールが暴かれる時は果たして来るのだろうか。

 

「なあなあ綱手の婆ちゃん! アカネって一体何者なんだってばよ!?」

((良くやったナルト!))

 

 気になっても聞くに聞けなかった事をあっさりと聞いたナルトをサスケとサクラは内心で褒め称えた。

 どうにもアカネには重要な秘密がある様なので明確に聞く事が憚られていたのだ。それを一切気にせずに質問した馬鹿なナルトを今日ばかりは褒めていた。

 

「うむ。気になるのは分かるだろうがこれは里の重要機密に関わる。よって教える事は出来んし、以後の質問も禁ずる。もちろんこの話を広める様な事もするなよ。特にナルト」

 

 口が軽そうなナルトにアカネの正体など教えればあっという間に里全体に広まり、そして他里にも広まるだろう。そうなった時の厄介さなど考えたくないものだ。

 

「えー! いいじゃん婆ちゃんのけちーっ!」

「何と言おうと駄目なものは駄目だ!」

 

 食い下がるナルトだが綱手が了承するはずもなく、仕方なく引き下がった。

 だが諦めていない事は誰の目にも明白であり、恐らくアカネと二人きりになればその時に本人に確認する事だろう。まあアカネも教えるつもりはなかったが。

 そこでアカネはふと面白い案を思い付いた。

 

「そうですね。私に勝てたら教えてあげてもいいですよナルト」

「本当かアカネ! ようし、その約束忘れんじゃねーぞ!!」

 

 教える気はないなこりゃ。それが大人組全員の感想だったのは言うまでもなかった。

 

 なお、ナルトとサスケのチャクラが二重になって見える現象に関しては何も分からなかった様である。

 

 

 

 

 

 

 暁。それはS級犯罪者としてビンゴブックに名を連ねている凶悪犯罪者集団の集い。

 その活動は多岐に渡り、忍の争いに傭兵として雇われたり、闇相場で賞金を懸けられている凄腕の忍を狩ったり、世界中に散らばる禁術を集めたりなどだ。

 だがそのどれも本当の目的ではなかった。あくまで組織を運営する金や力を目的とした活動なだけで、真の目的は他にあった。

 その目的の為の手段が尾獣狩りである。

 

 暁はある目的の為に九体いる尾獣の全てを手にするつもりなのだ。その為に世界各地から仲間たり得る力と思想を持つ忍を集め活動していた。

 もっとも、真の目的など関係なくただ己の欲望を満たす為に動く者が殆どだったが。暁という組織が自分の欲を満たすのに適しているから属しているだけの者は多かった。

 

 だが暁はここしばらく活動を控えていた。それには二つの理由があった。

 一つは尾獣を人柱力から引き剥がし外道魔像と呼ばれる存在に封印する為の準備期間だ。これらの術と必要な道具を集めるのにかなりの時間が掛かるのだ。

 そして二つ目の理由。それは……日向ヒヨリの存在であった。

 

 

 

「どうして今更活動を抑えろって言うんだよ、なあリーダーさんよぉ」

 

 岩肌に囲まれた薄暗い洞窟の中に複数の気配が漂う。外道魔像と呼ばれる巨大な像の指の上にそれぞれ一人ずつ人間が立っていたのだ。

 だが実際にその場に人はいない。これは術によって遠方にいる人間の意識をこの場に具現し会話しているのだ。

 この場に集まっているのは暁の面々。そして会話の内容は今後の活動方針に関してだった。

 それは三年間に渡って活動を抑えるという、過激派とも言えるメンバーにとっては納得のいかない方針だったのだ。

 その理由を問いかけているのは飛段という男だ。過激派の中でも特に人を殺す事が大好きでジャシンという神を崇めるジャシン教の狂信者だ。

 

「我々の目的は尾獣だ。だが尾獣を封印する為の準備に後三年はかかる」

 

 表だった理由を暁のリーダーであるペインが語るが、それで納得する者はこの場に一人もいなかった。

 

「それならば尾獣狩り以外の仕事をする事に問題はないだろう」

 

 そう言ったのは角都。飛段と二人一組(ツーマンセル)を組んでいる男だ。

 暁は基本的に二人一組(ツーマンセル)で行動するようになっている。そして飛段と組んでいるだけにこの男もかなりの危険人物であった。

 人殺しを好むというより、金のみを信じているので金の為に人を殺すのだ。だが、普段は冷静沈着だがトラブルが起こると激昂し仲間であっても殺してしまうというとんでもない癖もある。

 この恐ろしい二人が組んでいるのには訳があるが、今はそれは置いておこう。

 角都に図星を突かれたペインは活動を抑える本当の理由を話した。

 

「……木ノ葉の日向ヒヨリが生きている。それも若い肉体を得てな」

『!?』

「あ? 誰だそれ?」

 

 暁の殆どがペインの言葉に驚愕する。飛段だけはヒヨリの存在を知らなかったようだが。

 

「馬鹿な……日向ヒヨリは十五年も前に死んだはずだ。それが生きて、しかも若い肉体を得ているだと?」

 

 この事実を一番信じられなかったのが角都だ。角都は他人の心臓を奪い取り自分の物とする事で今も生き延びている老忍だ。

 その年齢は実に八十八歳。あの初代火影千手柱間との戦闘経験を持つという現存する忍の最高齢だった。

 だからこそ日向ヒヨリの存在を良く知っていた。だからこそ死んだはずのヒヨリが生きている事にもっとも驚愕したのだ。

 

「それが本当だとしたらこの上なく厄介ですねぇ」

 

 獰猛な鮫を思わせる見た目とは裏腹に丁寧な物言いをする男の名は鬼鮫。

 水遁を得意とする忍であり、そして鮫肌という特殊な大刀を駆使する。チャクラ量も尾獣並であり尾のない尾獣とまで呼ばれている強者だ。

 

「オレと同じ傀儡か? それともお前と同じ術か大蛇丸?」 

 

 そう聞いたのはサソリと呼ばれる男だ。サソリは己の身を傀儡(くぐつ)と呼ばれる人形に改造した生きた傀儡人形だ。

 人形ゆえに老いる事はなく、その姿は若かりし頃と全く変わってはいない。それならば日向ヒヨリが生きているのにも頷けるという物だ。

 

「……」

 

 そしてもう一つの理由として問われた大蛇丸は日向ヒヨリが生きているという事実をペインが知っている事に内心動揺していた。

 この事実は今はまだ暁には教えずに機を見て暁を翻弄する為に利用しようとしていたのだ。それがどうしてペインにばれていたというのか。

 

「おい大蛇丸。どうなんだ? 返事をしろ」

「さあ……私にも分からないわ」

「理由はどうでもいい。問題は日向ヒヨリが生きているという事だ。そして、ヒヨリは我々の活動を調べているという報告がある。そうだなゼツ」

 

 ペインが問うたゼツという男は暁の情報収集担当の男だ。地面や木に同化するという特異な能力を駆使して世界を巡り情報を集めているのだ。

 

「うん。二代目三忍の自来也と一緒に暁について調べていたよ。隠れていたボクの分身も見つかって一瞬で捕らえられた。あれ、相当強いと思うよ」

 

 と言ってもゼツの戦闘力は暁でも最低、いや世界的に見てもけして高いとは言えないだろう。

 それでも情報収集には非常に役に立つ能力を有しているからこそ暁の一員なのだ。

 

「その日向ヒヨリっていうのはどんな見た目だ、うん」

 

 独特の語尾で話す男の名はデイダラ。起爆粘土と言うチャクラを混ぜた爆発する粘土を使用する術を持ち、大蛇丸の木ノ葉崩しの手助けをした忍だ。

 

「日向の若い女だよ」

「それだけじゃわからねーよ。だが、多分あいつだな、うん。オレの芸術をあんな不完全な形にしたクソ女だ」

 

 デイダラが木ノ葉崩しにて里に落とした起爆粘土はアカネによって防がれてしまった。

 その時の動揺で出来た虚を突かれて手傷を負ってデイダラは撤退したという苦い記憶がある。

 

「お前のC2を防いだのか?」

「……C3だ」

「なに……!」

 

 C2・C3とはデイダラの起爆粘土の種類を表している。そしてC3は起爆粘土の中で最も爆発力が強いデイダラの十八番で、その威力は一つの里を飲み込む程もある。

 それを防いだという日向ヒヨリの実力の高さは最早疑いようがないだろう。

 

「分かったな。それが日向ヒヨリだ。伝説の存在を舐めてかかれば手痛いしっぺ返しでは済まない。本格的な活動は準備の整った三年後、それまでは情報を集めて地下に潜む。そして……準備が整い次第に九尾以外の尾獣を一気に集める。日向ヒヨリにばれる前にな」

「ちっ! 気にくわねーな。いくら強いからってたった一人の人間に怯えてこそこそするなんてよぉ。大体オレが暁に入ったのはジャシン教の教義を満足するまで満たす事が出来るからだぜ。それなのにこれじゃあ本末転倒もいいところだ」

 

 ジャシン教の「汝、隣人を殺戮せよ」という狂った教義を全うする為に飛段は暁に入ったのだ。

 ただ単に暴れるがままに暴れていてはいずれ大きな里から目を付けられて自由に動く事が出来なくなる。それを防ぐ為の暁入りだったのだ。

 それが意味をなさないならば暁を抜ける事もある。暗にそう含ませて飛段はペインに問う。

 

「……各々の趣味を制限するつもりはない。だがけして目立つ様には動くな。五大国には近付かず、小国や小さな隠れ里、一族のみで生きる忍のみを狙え。それらの情報はゼツから受け取れ」

「そうこなくちゃな」

 

 一先ずは満足の行く答えが貰えたようだ。他にもメンバーに不満は大小あるが、それでもペインの言う方針を破るつもりはないようだ。

 

「それではこれで一度解散する。三年まてば……その時は思う存分暴れさせてやる」

 

 ペインの言葉を最後にそれぞれが術から解放されて意識を元の肉体に戻していく。

 だが大蛇丸とペイン、そしてもう一人だけはその場に残っていた。術の使用者であるペインがその二人を解放しなかったのだ。

 

「……? まだ何か用かしら?」

「……お前の知っている情報を全て話してもらうぞ大蛇丸」

「何の事?」

 

 平静を装っているが大蛇丸の内心は動揺に塗れている。ペインは大蛇丸をして謎の多い存在。そんな人物に今のチャクラをまともに練れない自分が逆らった所で勝ち目などある訳がない。

 だがペインではなく、もう一人残った仮面を付けた様に見える男が大蛇丸の予想外の言葉を口にした。

 

「貴様が日向ヒヨリと交戦したのは分かっている。その情報を隠さず話せば、お前を蝕むチャクラの縛りを解いてやろう」

「!?」

 

 大蛇丸の知る限り仮面の男はこれまで殆ど会話らしい会話をした事がなかった。

 それがこんなにも長く話す。日向ヒヨリにかなりの関心を示しているのは明白だった。

 何故そこまでの関心を示すのかは大蛇丸にも分からないが、男の言う事は大蛇丸には願ったり叶ったりではある。

 既にこの身を蝕むチャクラの縛りを解く手立ては立っている。ならばこの取引を利用して別の利を得た方がマシという物だ。

 

「……必要ないわ。どうにかする目処は立ったから……。それよりも、あなたが九尾の封印を解除した時の事を詳しく聞きたいわぁ。興味があるのよね、うずまき一族の封印術にも……」

「……」

 

 仮面の男は無言だが、大蛇丸の情報網の広さと勘の良さには内心称賛していた。良くもまあそこに気付いたものだと。

 ある程度の憶測はあるのだろうが、もしかしたら自分の正体にも気付きかけているかもしれない。

 だがそれならそれで別に構わなかった。大蛇丸は使えるコマであるし、裏切ったところで処分するのも容易く放置した所で支障はない。仮面の男にとって大蛇丸はその程度の価値だった。

 そして九尾襲撃時の出来事を話す事にも何も問題はない。それよりも日向ヒヨリに関する情報を少しでも多く集める方が先決と言えた。

 

「いいだろう。奴に関する情報は少しでもあった方がいい。奴と直接戦ったお前に聞くのが一番だ」

「そう。じゃあ話しましょう」

 

 そうして己の知る全てを大蛇丸は語る。

 大蛇丸が全てを語り終えた後、この場に残っているのは誰もいなかった。

 

 

 

 とある場所にて仮面の男は空を見て呟いた。

 

「生きていた、いや転生したのか……」

 

 あの時、三尾をけしかけて確実に殺したはずの女。それが転生して新たな肉体を得て生きている。

 流石にこれはイレギュラーだった。面倒な日向ヒヨリを確実に殺す為に戦場を操り波状攻撃を仕掛け弱ったところに三尾を投入したのだ。

 だというのにこれでは意味がないどころか若返ったのでむしろ面倒事が大きくなったくらいだ。

 

「まあ、いい。どうせその気になればすぐにでも……」

 

 そう呟く男の声はこの世に全くの興味を持ってない、そんな意思が籠められたかの様な声だった。

 

「所詮ただの余興だ。この世界は等しく存在する価値がない。ならばせめてこのくらいの余興は楽しませてもらわねばな」

 

 そうして男は姿を消した。この世にある全てはただの余興と断じて。この世の全てに価値はないと断じて。

 

 



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NARUTO 第十五話

 アカネがカカシ率いる第七班それぞれに修行を付ける様になって一ヶ月が経った。

 影分身を利用する事で三人同時に別々に修行を付ける事が出来るので改めて影分身の利便性を再確認するアカネ。

 加えて影分身を解除すると本体に経験が戻ってくるので自分の修行にもなるという優れ物だ。この術を開発した二代目火影は表彰物だとアカネは思っている。もっとも、穢土転生を開発したせいでプラマイゼロ、いやマイナスかもしれないが。

 

「しゅ~ぎょう~しゅ~ぎょう~、た~っぷ~り~しゅぎょう~」

 

 等と良く分からない歌を口ずさみながらアカネはご機嫌で歩いていた。

 若者の成長の早さは素晴らしい、とナルト達の成長を思い出して悦に浸っているようだ。

 前から修行を付けていたサスケはともかく、ナルトは何と自来也と綱手を探しに行った十日程で螺旋丸を覚えていたのだ。これにはアカネも驚いていた。

 

 ナルトは器用なタイプではない。発動に必要な印が不要な螺旋丸はナルト向けだがその程度の日数で覚えられるとは思ってもいなかったのだ。

 螺旋丸を考案したナルトの父であるミナトは螺旋丸の完成に三年の年月が掛かっている。完成形を教えられるナルトが早く覚える事が出来るのは道理だが、それでも一から覚えるなら十日というのは素晴らしい速度だと言えよう。

 螺旋丸を使うナルトを見るとアカネはミナトを思いだす。やはり親子だと実感するのだ。血は争えないと言う事だろう。

 今はまだ九尾のチャクラはもちろん自分の膨大なチャクラも持て余しているが、下地が出来上がりそれらを上手く操れる様になれば飛躍的に成長するだろう。

 

 サクラは医療忍術を習い始めたばかりなのでまだ表立った成果は出ていない。だがチャクラコントロールには目を見張る物があるのも確かだった。

 医療忍術は難易度が高く一人前になるには長い年月を修行に費やす必要があるが、サクラならばあと少しである程度の医療忍術を覚える事が出来そうだった。

 綱手と共に一通りの医療忍術を叩き込んだらその後はチャクラコントロールを利用した攻撃方法と、医療忍者に必要な戦闘技術を教え込むつもりだ。その際はこの世界にはいないあの武術の後継者になるかもしれない。

 上手く育てば綱手の後を継ぐ医療忍者に至れるだろう。将来を思うと楽しみになるアカネだった。

 

 サスケに関しては言うまでもない。まさに彼は天才だった。

 うちは一族に当てられたその言葉だが、サスケはその中でも飛び抜けた才を持つ一人だろう。

 アカネの教えを水を吸い取る砂の様に吸収して行く様は見事の一言だった。目下の弱点はチャクラ不足だが、それを克服した時サスケに勝てる忍は数える程になるだろう。

 

 そしてナルトとサスケの関係が上手い具合に作用していた。

 互いに相手をライバルと認識しており、相手に負けてなるものかと修行する事で成長を更に後押ししているのだ。

 そしてそんな二人を意識する事でサクラも二人に付いて行こうと必死に努力する。素晴らしい関係だった。

 

 ナルトがサスケに勝つ→サスケが更に修行する→サクラが二人に追い付こうと努力する→サスケがナルトに勝つ→ナルトが更に修行する→サクラが追い付こうと努力する→ナルトがサスケに勝つ→以下エンドレス。

 これがアカネの思い描く最終段階である。この修行の無限螺旋に至れば三人の実力は否応無く上がっていくだろう。そう思うと歌も歌いたくなるというものだ。

 

「うーん、今日もいい修行日和だ」

 

 空からは燦燦と太陽の光が降り注いでいる。まるでナルト達の成長を祝福しているようだ。……当のナルト達は今日も地獄が始まると朝からどんよりしていたが。

 そんな風にアカネが機嫌良く歩いているとふと見知った人達を見掛けた。アカネの正体を知る数少ない人物であるうちはイタチとうちはシスイである。

 二人は日向一族に用があるのか、日向の敷地に向かって歩いていた。つまり日向の敷地から出て行こうとしていたアカネとは自然とすれ違う事になる。

 

「おはようございますシスイさん、イタチさん」

「おはようアカネちゃん」

「おはよう」

 

 アカネもシスイ達もどちら肩書き通りの立場で会話をする。つまりアカネは下忍であり、イタチは上忍、シスイは火影の右腕としての立場だ。前以って決めてあった通りの対応である。

 

「本日は日向にどの様なご用件でしょうか?」

「ああ、サスケ君から修行の時間を聞いていたがどうやらいいタイミングだったようだね」

 

 アカネはシスイのその言葉からどうやら二人は自分に用があるのだと理解する。

 

「……なるほど。誰も居ない場所の方が都合が良いでしょうか?」

「出来ればね」

「……」

 

 アカネの質問に対し、シスイはイタチを見つつ答えた。当のイタチはどこか不満そうだ。あまり表情を変化させてはいないがアカネにはそう読み取れた。

 用件とはどうやらイタチに関する事のようだ。そう思ったアカネはイタチを少しだけ観察する。そして長き年月によって鍛えられた観察力により、イタチの体にどこか違和感があると感じ取った。

 

「……付いて来てください」

 

 アカネは二人を連れて人気のない場所へと移動する。宗家の屋敷も考えたが、出来るだけ広めたくない話ならば止めた方がいいだろうと思い直したのだ。

 宗家の屋敷ならばヒアシの耳に入るのは確実だ。人払いをするにも表立った立場が低いアカネではヒアシに頼まねば出来ないのだから致し方ないだろう。

 そうして到着した林の中で周囲に他者の気配が無い事を確認し、アカネは二人の用件を聞く前に白眼を発動してイタチの体を詳しく調べた。

 

「……これは」

「流石はアカネ様。イタチの状態を察して白眼にて早くも確認するとは。……どうでしょうか?」

 

 シスイは誰も居ない場所なので口調をヒヨリに対する物へと改める。

 シスイの言葉の意味。それはイタチの容態は大丈夫なのでしょうかという確認の言葉だ。

 それはつまり、イタチの体が病に蝕まれているという事だった。

 

 事の発端は数ヶ月前にイタチが任務を終えて里へと帰還した時だ。

 うちは一族は警務部隊を担当しているが、だからと言って通常の任務を受けられない訳ではない。警務部隊が休日の時や、人が足りている時には里の任務を受ける一族も少ないがいるにはいた。イタチもその一人だ。

 そして久しぶりの長期任務を終えて帰って来たイタチをたまたまシスイが発見した。良く知った仲であり兄弟のいないシスイはイタチを弟の様に思っており、当然気軽にイタチへと声を掛けた。

 いや、掛けようとした。掛けようとしたが、イタチがふらりと道から外れて人気の無い小道に入っていくのを見て声を掛けるのを止めたのだ。

 

 悪戯心が湧いたシスイは少し驚かせてやろうと思いイタチをこっそりと尾行した。そしてそこで咳き込み膝を突くイタチを見てしまったのだ。

 心配して駆け寄ったシスイにイタチは驚きつつも、少し咳き込んだだけだと説明した。その時はシスイもそれで引き下がった。だがそれからシスイはイタチを注意深く観察する様にしたのだ。

 そうして観察している内に、シスイはイタチの体に何らかの異変があると判断した。イタチの動きが若干、本当に若干だが鈍いのだ。それは注意深く観察したシスイだからこそ気付ける程僅かな違いだ。

 しばらくは黙って見ていたシスイだったが、木ノ葉崩しにて自分を犠牲にしようとするイタチを見て我慢も限界が来たのだ。

 そうして医療忍術の第一人者であったヒヨリの転生体であるアカネへと相談に来たわけだ。

 

「……どうでしょうか?」

 

 再びシスイはアカネに確認する。イタチの病気は何なのか? 命に別状はないのか? 治療は可能なのか? それら全てを籠めた言葉だ。

 

「……全く。イタチ、あなた初期症状は自覚していたんでしょう? 私がヒヨリと分かった時点で何故相談しなかったのですか」

 

 アカネの叱る様な口調に、まるで子どもに戻った様だと自嘲しつつイタチは答える。

 

「申し訳ありません……。自分の体の事は良く知っているつもりです。なので、これが不治の病であると知りとうに諦めていました」

「イタチ……! アカネ様! 本当にイタチは不治の病なのですか!?」

「いえ? 治せますけど?」

『……え?』

 

 助かる事のない命と思っていたイタチも、イタチの言葉に嘘がないと理解出来たシスイも、アカネの一言に呆気に取られていた。

 

「いえ、いい自己判断ですよ。良く初期症状の段階でそこまで見抜いていましたね。並の医療忍者ではこの病を手術で治療する事は出来ても治療箇所の発見は困難でしたでしょうから、その判断も間違った物ではありません」

「並の……では!」

「はい。私か綱なら手術と医療忍術を駆使する事で治療可能な病気です」

 

 アカネの言葉にシスイは喜色満面の表情を見せる。イタチも普段の冷静な面を捨てて素直に驚愕を顕わにしていた。

 

「アカネ様! どうかイタチをよろしくお願いします!」

 

 アカネにイタチの治療が可能と知り、シスイは土下座する勢いで頭を下げた。

 

「止めてくれシスイ。オレの為にお前がそこまでする事はない」

「……お前は任務で大切な人を亡くしてしまった。その上この仕打ちはないだろう! お前にだって幸せになる権利はあるんだ!」

 

 イタチはかつて任務にて恋人を失ってしまった。それはこの忍の世界では良くある話だが、だからと言って悲しくないわけがない。イタチはその悲しみによって万華鏡写輪眼を開眼したのだ。

 そしてシスイはイタチに対して心苦しく思っていた。イタチは恋人が死んだというのに、自分は恋人を作り幸せな日々を送っているのだ。

 いや、イタチに幸せになる権利があるようにシスイにもまた幸せになる権利がある。シスイもまた大切な人を喪い万華鏡に開眼した者だ。イタチを気に掛ける事はともかく申し訳なく思う必要まではないだろう。

 だがシスイにとってイタチとは友であり好敵手であり、そして弟の様に信頼を置いている唯一無二の存在なのだ。そのイタチがこのまま病に倒れて死ぬなどシスイには耐えられなかった。

 

「ああ、分かっている。ありがとうシスイ。……お願いしますアカネ様。どうか、オレの体を治療してはもらえないでしょうか」

 

 シスイの想いを受け止めたイタチはアカネに対して深く頭を下げて治療を懇願する。

 幸せになれるかは分からないが、己の命を軽んじる事は止めようと思ったのだ。自分を想ってくれる人が自分が死んだ時にどう想うか、シスイを見てそう考えるととても安易に死を選べなくなったのだ。

 

「……どうやら説教の必要はないようですね」

 

 イタチが自分の死を軽んじていた事を察していたアカネは少しだけ説教をするつもりだったのだが、イタチが考えを改めたのを知りその必要がないと理解した。

 

「二人とも頭を上げなさい。そこまで頼みこまなくてもちゃんと治療はしますよ」

「本当ですか!」

「ありがとうございますアカネ様」

「手術は細かな検査をして綱と話し合ってからですね。しばらくは治療に掛かりきりになりますから当然任務は受けないでくださいよ。警務の仕事も休みなさい。あと、ちゃんと家族には話すんですよ?」

「……はい」

 

 取り敢えずこの場で話す事は終わったので三人は一度ここで別れた。

 アカネは綱手にイタチに関する事情を話しに行き、イタチとシスイはフガクの元へと事情の説明と任務の長期休暇を取りに行く。

 

 イタチの手術が行われたのはそれから一週間後。肺の三分の一を切り取り、それを再生忍術で元の健康な肺に戻すという手術だった。

 再生忍術が無くても手術は成功していただろうが、イタチは肺の機能が著しく落ちていただろう。手術すらしなかった場合はもちろん死が待っていた。

 

 術後しばらくしてイタチは退院。完全に元の健康体に戻っておりかつての技の冴えを取り戻したイタチは今も里の警務と任務とに張り切っているが、家族からの要望もありその仕事量は以前よりも落としているようだった。

 

 

 

 

 

 

 第七班の修行が始まってから既に一年という年月が経った。

 

 今アカネ――影分身だが――の目の前では三人の男性が疲れ果てて大地に転がっていた。

 

「カカシ、またへばったんですか? これで今日の修行中六回目のダウンですよ? オビトは三回、ガイに至っては一度もダウンしてませんよ?」

「もうしわけ……ありません……」

 

 三人とはカカシ・オビト・ガイの木ノ葉の有名な忍達であった。

 何故彼らがアカネの元で修行しているのか? それは少し前にあった第七班vsカカシの勝負が原因である。

 一年間で第七班がどれだけ強くなったか。それを確認する為に第七班の担当上忍であったカカシがナルト達三人と勝負したのだ。

 その内容は鈴取り勝負。カカシが腰につけた鈴を奪うという、第七班の思い出深い勝負である。と言うのもこの勝負はかつて第七班がカカシから与えられた下忍になる最終試験でもあったのだ。

 結果は合格だったが、鈴を奪えた訳ではなかった。カカシがこの三人に忍として、人として必要なモノを持っていると判断したからこその合格である。

 なのでナルト達は今度こそ鈴を取ってやると息巻いて勝負を開始した。

 

 ……結果はカカシの負けであった。鈴を取られただけではない。ナルト達が鈴を奪うのに必要とした時間は僅か二分程度だったので、アカネが勝負を鈴取りから本気の勝負へと変更したのだ。

 もう分かるだろう。カカシは三人と本気で勝負して負けたのだ。ナルトは多重影分身から螺旋丸を加えた体術による連撃を、サスケは大幅に伸びたチャクラ量を利用した雷遁チャクラモードに火遁を巧みに利用した戦術を、サクラは二人をサポートしつつ綱手直伝の怪力にアカネ直伝の合気柔術という武術を、それぞれが修行で身に付けた力をこれでもかとぶつけてきたのだ。流石のカカシも押し負けてしまった。

 いくら自来也に綱手、そしてアカネが鍛えているとはいえたった三人の下忍に、それも教え子に負けたカカシはショックでしばらく落ち込んでいた程だ。

 

 落ち込んでいたカカシだがこのままでは担当上忍の沽券に関わる。そう思い至ったカカシは名案を思い付いた。

 あの三人がアカネに修行を付けてもらい強くなったのなら自分もそうすればいいじゃない、と。

 二日後には後悔していた。なのでオビトとガイを誘い地獄の道連れを作り出したのである。自分だけでないならきっと耐えられると思ったのだ。

 オビトもガイもカカシの申し出を快く受けた。オビトは火影になる為に、ガイは二人に負けない為に、どちらもカカシの申し出は願ったり叶ったりだったのである。

 その二日後にはオビトも後悔していたが。なおガイは一切後悔していない模様。流石は努力の達人である。これにはアカネもにっこりだ。

 

「あなたはチャクラ量が他の上忍と比べて少ないわけではありません。ですが、写輪眼はうちは一族ではないあなたの体には合っていない代物です。便利だからと無闇に使用すればすぐにチャクラ切れを起こします」

 

 それはカカシも理解しているカカシのみの写輪眼の欠点だ。理解しているからこそカカシは普段は写輪眼を布で覆って塞いでいるのだ。

 だがそれでも厳しい戦闘では写輪眼を使用せざるを得ないのだ。それほど写輪眼とは便利な代物だった。

 写輪眼が無ければカカシは自身の切り札である雷切――カカシの千鳥の呼称――をまともに運用出来なくなってしまうだろう。

 それはカカシに決定打とも言える術が無くなる事を意味する。更に写輪眼は相手の術を見切りコピーして自らの物としてしまう能力もある。

 これらが封じられた時カカシの戦闘力は果たしてどれだけ落ちるのか。

 

「あなたの課題は三つです。写輪眼に頼らずとも使える決定力を得る事、写輪眼と同時に術を使用してもすぐにチャクラ切れを起こさないチャクラ量を手に入れる事、そして写輪眼に慣れる事です」

「写輪眼に、慣れる?」

 

 前者二つはカカシも想定していた自身の課題だ。だが最後の一つはどういう事かよく理解出来なかった。

 

「あなたは写輪眼を発動し続けるとすぐに体が参るので普段は写輪眼を使用していませんが、これからは普段から出来るだけ写輪眼を発動していなさい。そうすれば少しずつ体が写輪眼に合わせて慣れて行くでしょう」

「え? そうするとオレはすぐにへばって動けなくなっちゃうんですけど……?」

 

 かつての強敵ザブザとの戦いをカカシは思いだす。あの時も普段はあまり使用しない写輪眼を戦闘中ほぼずっと発動していたので戦闘後は一週間も寝込んでいたのだ。

 戦闘中ではないとはいえ、普段からずっと写輪眼を発動していてはその内に倒れてしまいまたも長い時間寝込む事になるだろう。

 そうすれば体はその間に衰え、修行しても意味がない物となってしまう。

 だが、そんな不安はアカネの前では無意味だった。

 

「大丈夫です。影分身の私があなたに付いてあなたが倒れたらすぐに治療します。チャクラも分けますからすぐに元通りです。これでいつでも何度でも写輪眼の修行が出来ますよ!」

「……よ、良かったなカカシ、アカネちゃんがずっと一緒だってよ」

「うおおお! 羨ましいぞカカシぃ!」

「お前ら……!」

 

 アカネの説明を聞いたオビトはカカシに同情の視線を送り、そしてガイは本気で羨ましそうな視線を送っていた。

 どちらも勘弁してくれというのがカカシの心情だったが。

 

 カカシの問題を指摘した次に、アカネはオビトへと視線を送った。

 

「オビトの課題は欠点が少なく纏まっている事ですね。カカシと違いこれだという決定打がありません。術も火遁・土遁・水遁と多彩で集団の敵に対しては強いですが強敵相手には決定打が無い為に苦戦を強いられるでしょう」

「う……」

 

 これもまたオビトも理解していた課題であった。対集団には効果的な術は多いが、一人の強敵相手は苦手なのである。

 そのいい例がガイであろう。ガイと勝負をしてもオビトは殆ど勝てた試しがない。

 大規模な術を使ってもガイならそれを避けるなり突き破るなりして向かってくるのだ。

 近接戦闘が苦手なわけではないが、それでも決定打がないオビトでは接近戦の達人であるガイ相手に近付かれてはどうしようもないのだ。

 

「あなたも基礎修行は当たり前として、近接主体の決定打を覚えてもらいましょうか。後は風遁を覚える事が出来ればいいですね。影分身は使えますか?」

「ああ、使えるけど?」

「それは重畳。風遁を覚えれば一人で火遁と風遁の合体忍術が使用出来ます。これだけで広範囲の決定打としては十分でしょう」

 

 忍術の属性には相性があり、風遁は火遁に弱い。何故なら火遁と風遁がぶつかり合うと風遁の風を受けた火遁が更に威力を増してしまうからだ。

 逆に言えば味方同士で火遁と風遁を同時に敵に向かって放てばそれは更なる威力の火遁となるのだ。その威力は火遁に強い水遁でも相殺出来なくなる程だ。

 

「というわけで、ナルトと違って土台が出来上がっているあなたは影分身を応用して修行してもらいましょうか。なに? チャクラ切れが起きるって? 安心して下さい。私がいますよ」

 

 アカネという尾獣すら超えたチャクラを持つ化け物が傍にいる限り修行中のチャクラ切れは起こり得ない。

 つまり延々と修行が出来るという事である。素晴らしい天国の様な環境だ。……修行ジャンキーにとってはだが。

 

「オレは、絶対に火影になるんだ……」

 

 自分の夢を再確認する事でオビトは自身を奮い立たせた。きっと彼ならば立派な火影になってくれるだろう。修行を乗り越えられたらだが。

 

 次にアカネはガイへと視線を向ける。そこには期待に胸を躍らせているガイの姿があった。きっと自分にはどんな課題があるのか楽しみなのだろう。

 カカシとオビトを良く知り、二人の欠点と課題を聞いていたガイはそれらの課題を乗り越えた時に二人がどれほど強くなるか理解していた。

 なので自分もアカネの課題を乗り越えた時にどれだけ強くなれるか楽しみで仕方ないのだ。

 

「ガイは何と言うか、今のままで完成していますね」

「えー!? ちょっとアカネ! それはないんじゃないか!? こう、オレにもここが足りないとか、こうすれば良くなるとかあるだろ!?」

 

 ガイはリーを救ってくれた恩からアカネの事を様付けで呼んでいたが、アカネが懇願してどうにか止めてもらえた。

 いや、それが秘密を知る者だけがいる場ならいいんだが、常日頃からアカネが里の何処にいようとも出会えば敬ってくるのだ。秘密を守る気はないのかと問いたい。と言うか問うた。

 アカネやカカシ達が何度も説明してようやく通常の対応をするようになったのだ。まあ、それはいいとしよう。

 ガイは予想と違ったアカネの答えに困惑していた。弱点を克服した時に強くなれるという楽しみが潰された思いだ。

 

「完成してると言われて何で落ち込んでるんだお前は……」

「そうだ! 羨ましいじゃないか!」

 

 逆に憤慨しているのがカカシとオビトだ。自分達は大量の欠点を叩き付けられたというのに、ガイだけはそれがないのだから当然の話だ。

 

「オレだってもっと青春をしたいんだ!」

 

 事情を知らない者には訳の分からない事を口走っているが、どうやら欠点を克服する事に青春を見出している様だ。

 そんなガイにアカネは朗報――と言っていいのだろうか――を伝える。

 

「まあ落ち着いて下さい。完成されているのは通常のガイの事です。あなたの切り札である八門遁甲を使った時は別ですよ」

「え? と言うと?」

 

 欠点があると明確に言われたのに嬉しそうに反応するガイ。そんなガイを馬鹿を見る目で見つめるカカシとオビトであった。

 

「あなたは忍術や幻術を不得意としているのに、体術のみでカカシと互角以上にまで至った素晴らしい忍です。そして八門遁甲を発動すればあなたに勝てる忍は極僅かでしょう。……死門まで開ければまた話は変わるでしょうが」

 

 八門遁甲とは、経絡系上に頭部から順に体の各部にある八つの門――経絡系の弁、言うなればリミッター――を無理矢理外す事で通常では出せない潜在能力を発揮する禁術である。

 門にはそれぞれ開門・休門・生門・傷門・杜門・景門・驚門・死門と名付けられており、後半の門ほど開ける事が難しい。もちろん後半になるに連れ引き出される力も大きくなっていく。

 そして、それだけ強力な術だけに代償も大きい。それこそがこの術が禁術に指定された理由だ。

 術に慣れていない者なら一の門である開門を開けただけでも体は大きく傷つく。その上の門など説明するまでもないだろう。

 そしてどんなに八門遁甲に長けた術者であろうと、最後の死門を開いた者は僅かな時間だが五影すら上回る力を得る事と引き換えに、その命を失ってしまう。

 

「今のあなたはどこまで門を開けますか?」

「……七門までだ」

 

 第七の門・驚門。死門の一つ手前の門だけに、ここまで開いたガイに勝てる忍は本当に数少ない。五影でも怪しいと言えるだろう。

 だがその引き換えにガイの全身は骨までボロボロになるだろう。潜在能力を無理矢理引き出しているのだ。肉体が傷ついて当然だ。

 そして毎回それではその時は危機を退けられても後がない。強敵を倒したはいいが、全身が傷つき動けなくなった時に後から現れた雑魚に殺されては話にならない。

 

「死門は論外として、実質最高の七門までですか。ちょっと開放してもらえますか?」

「ん? ……いや、分かった。では行くぞぉ!」

 

 何故この場で八門遁甲を開放させるのか、その理由はガイには分からなかったが今は師であるアカネの言葉に従いガイは驚門までを開放する。

 そしてガイの体から凄まじいチャクラが溢れだし、その身を碧い蒸気が覆う。驚門を開いた者は体から碧い汗をかく。それが己の熱気で蒸発して碧い蒸気となるのだ。

 

「ではあそこの木まで走って、ここまで戻って来てもらえますか」

「分かった! 行くぞぉ!!」

 

 叫ぶと同時にガイは目にも止まらぬ速さで数百メートルの距離を移動し、そして瞬時に戻ってきた。写輪眼を発動していないカカシとオビトには見る事も叶わぬ速さである。

 

「良し! 戻って来たぞ!」

「お疲れ様。それでは八門を閉じていいですよ」

「うむ! え? ……ぐ、ぐわぁぁぁぁぁ!」

 

 アカネに言われ八門を閉じて元に戻るガイの全身に痛みが走る。

 驚門まで開けて動けばたったあれだけの時間でもこれほどの副作用が待っているのだ。

 

「とまあ、このように八門遁甲は強大な分その副作用もまた強大ですね。今のあなたが副作用無く運用出来るのは第五門か、良くて第六門が限界でしょう」

「お、仰る通りで、おおおおぁっ!」

 

 アカネはガイに治療を施しながら話を続ける。

 

「というわけで、今後のあなたの課題は第七門を副作用無く運用出来る様になる事です。基礎修行と驚門を開き続ける修行を只管繰り返す事になりますね。それとは別に体術の強化もしましょう。体術の先は極めた後にある! 限界を乗り越えて修行し続けて初めて辿り着ける境地があるのです!」

「限界を乗り越える……! う、うおおおお! 分かったぞアカネよ!! オレは限界を超えて更に体術を磨き上げていくぞ!」

「その意気や良し! あなたにも私の影分身を付けましょう! ともに体術の極みへと近付きましょう!」

 

 ああ、最悪の二人が意気投合したのかもしれない。カカシとオビトは同時にそう恐怖していた。

 そんな二人の思いを他所にアカネは影分身を利用した他の忍の強化なども考えていたりする。

 なお、多くの忍(主に男性)に影分身を付けて密着修行した事で後の木ノ葉の里でアカネが複数の男性と付きあって弄ぶ悪女だという噂が立つのだが、今それを知る術はアカネにはなかった。

 

 



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NARUTO 第十六話

 ナルト達が修行を始めて一年と半年が過ぎた。アカネ(本体)とナルトが修行をしている場には、日向の姫君である日向ヒナタの姿もあった。

 さて、何故ナルトと一緒にヒナタがいるのか。その答えは……まあ、野暮というものだろうがすぐに分かるだろう。

 

「な、ナルト君……お疲れ様、こ、これ良かったら飲んで。家で作ってきたの」

「お、サンキューヒナタ! やっぱりヒナタはいい奴だってばよ! ……鬼アカネと違って」

 

 とまあ、この様に甲斐甲斐しく世話をしているのだ。もちろんヒナタも一緒になってナルトと修行をしている。

 憧れていて惚れた男と一緒にいたい。そんなヒナタの想いにアカネが共に修行をする事を提案したのである。

 そして疲れた時や傷ついた時に優しく看護すればその内にナルトもヒナタの優しさと魅力に気付き、いつしか愛が芽生えるだろうという案だ。

 だからこそ、愛する妹分であるヒナタの為だからこそ、アカネはナルトが小さく呟いた言葉を見過ごしてやった。

 

(ヒナタ様がいなくなったら覚えていろよナルトめ)

 

 見過ごしたのは今だけのようだ。ヒナタが離れた時がナルトの最後かもしれない。

 

 さて、こうしてナルトと一緒に修行をしているヒナタだが、ナルトがカカシ率いる第七班という班に入っているように、ヒナタも夕日紅率いる第八班の一員である。

 つまりナルトと違ってヒナタには任務をこなす必要があるという事だ。まあ、ナルトも一応は任務中なのだが。

 そんなヒナタが常日頃からナルトと共にいる事は出来ないだろう。同じ第八班同士による連携修行や任務もあるのだから致し方ない。

 だが第八班の班員達にはある悩みがある事がヒナタの言葉から発覚した。それを解消し、そしてヒナタの想いも遂げられる一石二鳥の案をアカネは考え付いたのである。

 

 では第八班の悩みとは何なのか。それは……自身達とヒナタとの実力差であった。

 

 

 

 

 

 第八班の一員、犬塚キバ。彼は現在アカネ(影分身)の地獄の修行を受けていた。最近ヒナタがメキメキと実力を付けて来て、このままではいられないと思っていた矢先、担当上忍である紅からアカネを紹介されたのである。

 

「もう、無理だ……」

「大丈夫。出来ます。これが出来ればあなたの通牙は更なる威力を得て進化するでしょう」

「オレは日向じゃねぇんだよ! あんたやネジみたいにそう簡単に全身からチャクラを放出なんて出来るか!」

 

 チャクラとは基本的に掌という放出しやすい箇所を使用して術などを発動する。螺旋丸を手から作っているのもそれが理由だ。まあ、アカネは全身のどこからでも螺旋丸を作る事が出来るが。その気になれば「私自身が螺旋丸になる事だ」などという意味不明な台詞を吐いて実行する事も出来る。

 だが全身からチャクラを放出出来るのは経絡系や全身の点穴を見切る事が出来る日向ならではの技術なのだ。キバがアカネに文句を言っているのも間違いではない。いや、間違いではないが、間違っているとも言えた。その理由をアカネがキバに説明した。

 

「全身からチャクラを放出するのは日向の特権ではありません。日向はあくまでその技術に長ける素養があるだけの事。その素養がなくても意識して修行すればいずれは全身からチャクラを放出する事が出来る様になりますよ」

「……んなこと言ったってよ」

 

 アカネに説明されても納得を見せないキバ。こうしてアカネに修行を付けてもらっているのは担当上忍である紅からの指示だからだが、いきなりの事なのでまだ全てに納得が出来ていないのだ。強くはなりたいが、良く知りもしない同い年くらいの少女が相手では納得する事が出来ず修行に身が入るわけもない。

 だからアカネは分かりやすくキバに修行の結果を見せて上げることにした。

 

「いいですか? これが今のあなたの通牙です」

 

 そう言ってアカネは全身を高速回転させながら敵に体当たりするという荒業、通牙を使用してみせた。

 犬塚一族は一族に代々伝わる擬獣忍法という獣そのものに成りきる術にて獣の俊敏性を手に入れ、全身を高速回転させる事で初めて通牙を放つ事が出来る。その通牙をアカネは擬獣忍法無しで放ったのだ。しかもその威力はキバのそれを遥かに凌駕していた。

 

「……す、すげぇ」

 

 これがアカネの修行による成果だとすると、キバは興奮するしかなかった。

 しかもたった一人でこれだ。相棒の忍犬である赤丸と共に放ったならばどれだけの威力になるか。

 

「そしてこれが私の修行を成し遂げた時の通牙です」

「え?」

 

 キバが驚く間もなく、アカネは再び通牙を放った。

 それは最初の通牙と違い、全身からチャクラを放出して纏う事でその威力を格段に上昇させていた。

 威力が増した通牙は全てを切り裂き薙ぎ払い突き進んでいく。その破壊の嵐はキバの想像を遥かに超えていた。触れれば相手が何であろうとも確実に倒せるだろうと確信させる程のものだ。

 

「……」

 

 もはやキバには言葉もなかった。茫然自失となってこの破壊の傷痕を眺めており、そして少しずつ現実感が戻ってくると徐々に興奮が湧き上がっていく。

 

「とまあ、このように通牙でさえこの威力になります。これを極めれば通牙の発展系である牙通牙やそれ以上の術も効力を増す事でしょう」

「すげぇ! すげぇよ! 赤丸! 絶対にこの技を覚えようぜ!」

「オン!」

 

 最初の頃とのその気迫の差にアカネは苦笑しつつ、どうやら修行に対する意欲が湧いてきた事に安堵する。

 ちなみにアカネとしては放出した肉体と同時にチャクラを回転させる事で更なる威力向上をと思っていたのだが、流石にそれは取りやめた。

 それは即ち日向の秘奥と言われている回天の上位、廻天と同じ理屈の奥義になるからだ。流石にそれを他家に教えては日向の沽券に関わるだろう。

 もっとも、当主であるヒアシをして十年の年月を掛けてようやく体得した秘奥中の秘奥を、まだ若いキバが一年や二年で体得出来るわけはないのだが。

 

「では、私の修行に文句はありませんね?」

「ああ! 文句なんてあるもんか! 早く修行を付けてくれ! どうすればいいんだ!? 何でもするぜ!」

 

 気軽に何でもするなどと言ってはいけない。後にキバが自身の子どもにしかと教えた言葉である。

 

 

 

 

 

 ところ変わって、アカネ(影分身)は第八班の最後の一人である油女シノと対面していた。

 

「……」

「……」

 

 互いに無言のままに時間が過ぎていく。

 シノもキバと同じく担当上忍に言われるがままにここへとやって来た。だが、シノにはキバと違う点があった。

 それはアカネの修行を楽しみにしているという事だ。そう、シノはアカネが強く、そして師として有能である事を知っているのだ。

 

「私があなたの師となる日向アカネですが……私で問題はないのですか?」

「ああ……何故なら、お前の評判はヒナタから良く聞いているからだ」

 

 そう、ヒナタは事有る毎にアカネの自慢をしているのだ。

 アカネ姉さんに教わったからこの技が出来る様になった、アカネ姉さんがたくさんの下忍や上忍にまで修行を付けている、等とだ。

 そしてヒナタの実力がここ最近急速に伸びているのもアカネのおかげとの事だ。

 このままではヒナタだけが強くなり、自分達は置いていかれるのでは。そう思った矢先にこの話が来たのだから、シノとしては渡りに船だったのだ。

 ちなみにキバがアカネの事を覚えていないのは単に彼がヒナタの自慢話を聞き流していたからである。

 

「そうですか……」

「……」

 

 シノは期待していた。どのような修行で自分を強くしてくれるのか、と。

 

「では……」

「ああ……」

 

 ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえる。果たしてそれはどちらから聞こえた音なのか。

 

「と、取り敢えず基礎修行をしましょうか」

「……」

 

 シノが期待した様な特別な修行はなかった。

 だがそれも仕方がないのだ。何故なら油女一族は木ノ葉に存在する秘伝忍術を伝承する一族の中でも、更に特殊な一族だからだ。

 油女一族は蟲使いの一族である。この世に生を受けたと同時にその体を巣として蟲に貸し与え、その力を借りて戦うという秘伝忍術の一族だ。

 油女一族は蟲を自在に操り戦闘の殆どを蟲に委ねる代償として、自らのチャクラを餌として与え続ける契約をしているのだ。

 

 そんな特殊な秘伝忍術の使い手に、更なる秘伝忍術の応用や発展など油女一族ではないアカネにどうしてできようか。

 出来る事と言えば基礎修行と近接戦闘修行を付けて、より秘伝忍術の使い勝手を上げるくらいである。

 

「す、すみません。あなたの一族の術は特殊すぎて私ではそれらを発展させる事は難しいんです……」

「……分かっている。何故なら、それが油女一族だからだ」

 

 そう返すシノは、どこか寂しそうであった。

 

「だ、大丈夫です! 基礎修行をしてチャクラを増やせば寄生させる蟲の種類や量を増やす事が出来ますし、近接戦闘力を向上させれば敵への接近時に戦術の幅も広がります! そうすれば秘伝忍術を使用する時に便利なはずです!」

「……そうだな」

 

 これに関してはシノも異論はなかった。確かに新たな蟲の秘伝忍術を覚える事は出来そうにはないが、アカネの修行を成し遂げれば大きな利点を得る事も出来る。

 今寄生させている蟲だけでも新たな戦法を作り出す事も可能かもしれない。そう思えばシノもやる気が漲ってくるというものだ。

 

「では、よろしく頼む」

「はい!」

 

 シノに合った特別な技を伝授出来そうにないので、アカネは基礎修行と近接戦闘修行に力を入れる事でその不備を詫びようと気合を入れる。

 まあ、どう考えても気合の入れ方を間違っているだろう。哀れ、シノは蟲使いだというのに木ノ葉でも屈指の近接戦闘のスペシャリストへと至るのであった。

 

 

 

 

 

 

「だから! アカネちゃんとは何でもないんだって! 信じてくれよリン!」

「オビトの言う通りだ! オレがロリコンだなんて根も葉もない噂だ! オレは無実だ!」

 

 今、木ノ葉の里で大の大人である男性二人が一人の女性を相手に必死に懇願をしていた。

 男性の名はうちはオビトとはたけカカシ。そして女性の名はのはらリン。この三人はかつては同じ小隊を組んでいた仲であり、今でも仲が良く共に食事をしたり任務を遂行したりしている。

 リンは優しくて気立ても良く、木ノ葉でも有数の医療忍者である。嫁にしたいと思っている男性は数多いだろう。だが、彼女はカカシの事が好きなので三十路が近い今でも独身を貫いているのだが。

 

 そんな優しいリンだが、今の彼女に逆らう気概はオビトとカカシにはなかった。

 まさに怒髪天を突くという言葉が相応しいだろう。リンは二人に対して非常に怒り狂っていた。失礼、流石に狂ってまではいない。ともかく怒っていた。

 その理由は、親友であり想い人であるカカシと、親友であり自分を想ってくれているオビトの二人が、十六歳の少女に手篭めにされているという噂を聞いたからである。しかも両者とも同じ少女だ。ここまで聞いて怒りを顕わにしない程、リンは聖女ではなかった。

 

「ふーん。そのアカネって子とは何でもないし、根も葉もない噂、ねえ……。だったら……あなた達の隣にいるその娘は何なのよ!? 説明してもらえるわよね!!」

『ど、どうも。日向アカネと申します』

 

 リンの言う通り、カカシとオビトの隣には件の少女であるアカネ本人がいた。

 ただし本人ではあるが本体ではない。影分身だ。そしてカカシとオビトの二人にそれぞれ影分身は付けているので、今この場にアカネは二人いる事になる。

 

「これまた器用に二人共に同じ娘を(はべ)らせるとはね……」

「待って! 話を聞いて! オレが愛しているのはリンだけだって言ってるだろ!」

 

 オビトが言うように、実はオビトはリンに対して既に告白をしていた。想いを秘めていたのは十数年以上前からなので、遅い告白ではある。

 その募った想いの丈をリンにぶつける事が出来たのはアカネからの発奮があったからだ。オビトの恋心を知ったアカネが後押しをしたのだ。そう、まるで近所の世話好きのおばちゃんの如くにだ。

 そうして一大決心をしてリンに告白をするも、返って来た答えはオビトの期待していた答えではなかった。だが、予想していた答えではあった。

 リンがカカシの事が好きなのは昔から知っているのだ。それでもオビトはリンが好きだった。例え断られようとも、その程度で揺らぐような愛でも恋でもなかったのだ。

 だからオビトは断られても、リンに迷惑にならない程度に自分の愛を証明してきた。プレゼントをしたり、デートに誘ったり、熱い告白を再びしたりとだ。

 

 リンもオビトが自分の事を好きな事は知っていたが、自分はカカシに想いを抱いているので告白されても袖にするしかないと思っていたし、自分がカカシが好きだという事はオビトも知っていると理解していたので告白してくる事はないと思っていた。

 だが急な告白に、断ってからも愛を伝えてくるオビトに、次第にリンの気持ちも揺れていた。いつまで経っても自分を避ける煮え切らないカカシと、ストレートに自分だけを見つめてくるオビト。この二つに揺れるのは乙女(28)として仕方のない事だろう。

 

「頼む! 後生だから最後まで説明させてくれ! ロリコンなんて不名誉な称号がオレに付くなんて耐えられないんだ!」

 

 そしてカカシ。リンが幼い頃から恋心を抱いていた相手。

 だがカカシは過去にリンが敵に捕われた時に任務遂行を優先して見捨てるという選択をした事を悔いていた。

 そのせいでリンだけでなくオビトまでも危険に晒したのだ。自分が任務だけでなくもっと仲間の事を想えば起こらなかっただろう悲劇だ。

 ヒヨリという存在がいたからこそ、今もこうして三人揃って無事に生きているのだが、そうでなければ確実にオビトは死んでいただろう。

 

 リンを見捨てたという最低最悪――少なくとも今のカカシはそう思っている――な選択をした自分が、リンに愛される資格なんてない。

 カカシはそう考えているからこそ、リンの想いを知りつつもそれを避けるように行動しているのだ。そしてそれはリンも分かってはいた。

 いつかは心の傷も癒えて自分の愛を受け入れてくれる。いや、自分が心の傷を癒してあげる。リンはそう想い続けていたのだ。

 

 だがそういった二人への想いも全部台無しだった。

 

 何だこの二人。私の愛を受け入れないのは私が若くないからか。若い女の方がいいのか。どうせ私はもうすぐ三十路のおばさんだ。私だけを愛しているとか言いながら本当は若い女がいいんだろう。この野郎共。

 

 鬼気迫るというべきか。アカネですら恐れる程の殺気をリンは放っていた。カカシとオビトなど最早涙目だ。

 

「お、おち、落ち着いて下さいリンさん……わ、私は二人とは何でもないんです……」

 

 長い人生に置いてここまで動揺した事は数えるほどしかなかったなぁ、などとアカネは軽く現実逃避をしながら過去に思いを馳せていた。

 

「へえ? つまり二人とは遊びだったんだぁ」

 

 だが残念。現実は非常である。アカネは深まるリンの殺気に一瞬で現実へと引き戻された。

 

「ち、ちが……! 遊びとかじゃなくて――」

「じゃあやっぱり本気なんだよね?」

「タスケテ!」

 

 思わず助けを求める程にアカネは追い詰められる。だが、渦中の人物であるカカシとオビトは既に戦意を失っているようだ。

 この役立たずめ! 内心でカカシとオビトをそう罵倒するが、それで味方が増えるわけではない。アカネの命は風前の灯火だ。

 最後に頼りに出来るのは自分自身。なので、影分身のアカネは互いにどちらかを犠牲にしようとし、ほんの僅かに早くオビトに付いていた影分身が自らその体を消滅させて逃げだした。

 残されたのはカカシに付いていた影分身のみだ。

 

「う、うらぎりものー!」

「ちょっと、お・ね・え・さ・んとお話しようかしら?」

「ヨロコンデー!」

 

 お姉さんという言葉を強調するリンに対し、アカネに拒否という選択肢は与えられていなかった。

 なお、影分身の一体が消滅し、その経験と知識が本体のアカネに還元された事でアカネはリンの怒りを知る事になり、木ノ葉から逃げ出そうか画策したというがそれは定かではない。 

 

 

 

「と、言うわけなのです。なので、けっして私と彼らは付きあっている訳ではありません。ご理解いただけたでしょうか?」

 

 アカネはリンの家にまで連れられて、そこでどうにかリンを落ち着かせて釈明をした。

 ここまで来ては全てを話す他はない。その全てとは、アカネの正体がヒヨリである事も含めている。

 アカネが二人に修行を付けている事を説明するにはアカネの力を説明する必要があり、影分身を大量に作ってそれぞれに修行をつける程の実力となると、それはもうアカネの年齢では考えられない物なのだ。

 なので、カカシとオビトがリンは信用出来ると太鼓判を押した事もあり、アカネはリンに自身の正体を明かした上で全てを説明したのである。

 

「……え? これってドッキリ?」

 

 リンの反応も宜なるかな。目の前の少女が伝説の三忍にして木ノ葉設立の立役者である日向ヒヨリだなどとどうして信じれる。

 

「いや、信じられないかもしれないけど、本当なんだリン。オレの写輪眼でもアカネちゃんのチャクラがヒヨリ様と同じなのは確認しているからな」

「ああ。それに日向ヒアシ様や二代目三忍の自来也様に、三代目様もアカネがヒヨリ様だと認めている。他にも何人かの里の重役は知っている事だ」

 

 二人の言葉からドッキリであるという線はなくなった。二人に対して怒ってはいても、やはり最も信頼しているのもこの二人なのだ。なので、二人が嘘を吐いてないのは理解出来た。

 ……その理解を先程の二人のロリコン疑惑釈明時に発揮してやれれば良かったのだが、あの時は冷静さを失っていたのだろう。だから仕方ないのだ。

 

「も……」

「も?」

「申し訳ございませんでしたー!」

 

 それはそれは見事な土下座であった。見る人が見れば惚れ惚れしていたであろう。まあ、そんな土下座への理解者はこの場にはいないのだが。

 

「あ、頭を上げて下さい。誤解される様な配慮の足りない事をした私が悪いのですから」

「いえ! 私達を助けて下さったヒヨリ様に対してあのような仕打ちをしてしまったのです! 本当に申し訳ございません! ……お、オビトを、オビトを助けて下さって……本当にありがとうございました」

 

 それは涙を流しながら発せられた言葉だった。あの時、ヒヨリがいなければオビトは確実に死んでいただろう。それを思うと、何度礼をしてもしたりないくらいであった。

 

「……あなたのお礼は、ヒヨリであった頃にも頂いていますよ。だから、もう気にしないでください。木ノ葉は私の子どもの様な里です。そこに住む人々を守るのは、当然の事ですから」

 

 そう、ヒヨリが存命時にもリンはヒヨリにオビト救出の礼はしている。姿形は違えど同一人物なのだから、同じお礼は一度貰えば十分だ。

 

「はい……ありがとうございますヒヨリ様……」

 

 アカネの優しさにリンは再び涙して礼を述べる。ヒヨリであった頃から変わらない、母の様な慈しみの心を持って接してくれるアカネに感激して。

 ……まあ、その母の様な人を脅して怯えさせるという珍事を成したのだが。柱間やマダラにさえ出来なかった快挙であった。

 

 しばらくして落ち着いたリンは改めてアカネに頭を下げる。

 

「ヒヨリ様! いえ、アカネ様!」

「呼び捨てで結構ですよ。公の場で私がヒヨリとばれても困りますし、下忍の立場にいる私が敬われるのはおかしいですから」

「……じゃあ、アカネちゃん。私にも二人と同じ様に修行を付けてくれないかしら? 私も医療忍者としてもっと腕を上げて皆の役に立ちたいの」

 

 自分にもっと医療忍術の腕があれば、助けられる人も多かったはずだ。リンは常日頃からそう思って修行を怠る事はなかった。

 だが最近自分に限界が見えてきたのだ。これ以上は独力ではどうしようもない壁に当たっていると実感したのだ。

 優秀な師がいれば良かったのだが、既に木ノ葉にはリン以上の医療忍者と言えば一年半年前に帰って来た綱手くらいだった。

 しかし綱手は火影という非常に忙しい立場であり、そして既に一人の弟子を持っている。そんな彼女に弟子入りを申し込むのは少々気が引けたのだ。

 

 だがアカネは違う。医療忍者としては最高峰と謳われる日向ヒヨリの生まれ変わりであり、影分身を利用して多数の忍に修行を付ける事が出来る。

 アカネならば自分の壁を壊してくれるはず。そう願っての弟子入り祈願であった。

 

「……私の修行は厳しいですよ?」

「望むところです!」

「止めておくんだリン!」

「そうだ! 早まるんじゃない!」

 

 アカネの修行の過酷さを身を持って知っている二人はリンの自殺行為を止めようとする。だがリンの決意は固かった。

 

「二人ともアカネちゃんに修行を付けて貰っているんでしょう! 私だけ仲間外れにするつもり?」

「そう言うわけじゃないけどさ!」

「お前が自殺しようとしているのを見過ごすわけには行かないでしょ!」

「あなた達、私の修行を何だと思っているんですか……」

 

 地獄。その一言をカカシもオビトも喉から出そうになって飲み込んだ。言えば最後、地獄も生温い過酷な修行が待っているに違いないからだ。

 だが時既に遅し。二人の物言いから既にアカネの中では修行の三割増しが決定されていた。これで二人とも更にレベルアップする事だろう。目出度い事だ。

 

「まあ、取り敢えずリンさんの修行は後日からにしましょう。今日の所は三人でゆっくり休んで下さい」

「え? それってオレ達の修行も休みってこと?」

「明日から修行が三割増しくらいになってそうで逆に不安だよ……」

 

 カカシ大正解である。流石はコピー忍者のカカシ。頭の切れも大した物であった。

 

 

 

 

 

 

「……どうだ?」

「ええ。問題ないですね。今は完治したと見ていいでしょう。ですが、違和感を感じたら必ず私の所か綱手様の所に相談に来てくださいね」

「ああ、そうするよ。度々すまないな」

 

 今アカネは白眼にてイタチの体を診察していた。イタチの病は手術により完治していたが、再発や転移の恐れがある病だった為に定期的にアカネが診察しているのだ。

 ちなみにイタチの言葉遣いが丁寧ではないのはこの場がイタチの実家であり、近くにミコトとサスケがいる為だ。この二人はアカネの正体を知らないので、下忍に対する振る舞いを取らなくてはならない訳だ。

 

「アカネさん、本当にありがとうございます。あなたと綱手様のおかげで息子は無事に今も生きていられます」

 

 アカネと綱手がイタチの手術をした事はこの一家には周知の事実だ。もう何度も礼をしているが、それでもミコトはしたりないくらいだった。

 サスケの修行を手伝ってくれている事といい、ミコトはアカネにお礼と称して良く家の食事に誘っていた。そういう訳でアカネはちょくちょくサスケの家で食事を摂っていたりする。

 

「気になさらないでくださいミコトさん。私も何度も夕飯をご馳走になってますし、お礼は頂いていますから」

「ミコト。診察も終わった事だから茶の用意を頼む。茶菓子も忘れずにな」

「はい。アカネさん、少し待っていて下さいね。美味しい羊羹があるんですよ」

 

 そう言ってミコトはその場を立ち去った。美味しい羊羹と聞いたアカネの期待度は非常に高まっているようだ。

 

「いや、確かその羊羹は昨日イタチが食べてしまったな。サスケよ、少しばかり買ってきてくれんか。場所は分かるだろう?」

「……すまないなサスケ」

 

 食べた覚えがないイタチは濡れ衣を着せられた事に僅かにうろたえるが、フガクの考えを読み取りフォローすら入れた。空気の読める男である。

 

「アカネが影分身で買いに行けばいいんじゃ――行って来ます!」

 

 影分身という非常に便利な使い走りを用意出来る術を持っているアカネが買いに行けばいいんじゃないかと文句を言うサスケだったが、フガクの一睨みで颯爽と家から飛び出して行った。

 これでしばらくはこの場には事情を知る三人のみとなるだろう。改めてフガクはアカネに頭を下げた。

 

「アカネ様、イタチの病を治していただき、感謝の念が尽きぬ思いです……まことに、まことにありがとうございます……!」

 

 大きな声ではないが、静かに響く思いが籠められた言葉だった。

 ミコトとサスケを遠ざけたのも、うちは一族の当主である自分が下忍を相手に頭を下げている姿を見せないようにする為だった。

 逆に言えばアカネに礼を言いたいが為に二人を遠ざけたのである。その為にわざわざミコトがアカネに出す為に用意していた羊羹を、ミコトに隠れてこっそりと食べたのだ。

 

「父さん……」

 

 あの厳格な父が自分の為にこうして頭を下げて思いの丈を顕わにしてくれているその姿に、イタチは素直に感動する。だからと言って羊羹を食べた犯人を擦り付けるのはどうかと思ったが。

 自分にも他人にも厳しいフガクだが、家族への愛情は内に秘めていた。滅多に表に出す事はないが、命を救ってくれたとなれば話は別だった。

 今まではアカネと一緒にいる時にはサスケやミコトがいた為に簡単な礼しか言えなかったが、こうして機会を作り深く感謝の意を示したのだ。

 

「頭を上げて下さい。ミコトさんにも言いましたが、もうお礼は頂いていますよ」

「ああ……」

 

 アカネに言われて頭を上げたフガクはすぐに佇まいを当主としての物にする。ミコトが近付いてくる気配を感じ取ったのだ。

 

「ごめんなさいアカネさん。羊羹がどこにもなくて……おせんべいならあるんだけど」

「ごめんよ母さん。昨日オレが知らずに食べてしまったんだ。今サスケが買いに行ってくれているから」

 

 フガクは心の中でイタチに謝った。こうもフォローしてくれると余計に心が痛くなるものである。

 

「そうだったの。もうしょうがないわねぇイタチは。そうそうアカネさん、今日も夕飯食べて行くわよね?」

「そう何度も世話になると申し訳ないんですが……」

「いいのよ、そんなに気にしなくても」

「じゃあ、お言葉に甘えてご相伴に預からせてもらいますね」

 

 夕飯に誘う、一度は断る、気にしないでいいのよ、じゃあお言葉に。これがアカネがサスケ宅で食事を摂る一連の流れである。

 既にフガクやイタチも、そしてサスケも何度となく見た光景だ。たまにイザナミ――幻術の一種――にでも掛かっているのかと思うくらいに同じ流れである。様式美なのだから仕方ない。

 

 

 

 そうしてサスケ宅にて夕食が開始される。ちなみにアカネの両親にはちゃんと影分身で夕食をご馳走になる事は伝達済みだ。

 

「サスケ、修行の方はどうだ」

 

 夕食を摂りながらの家族の会話だ。サスケがあの日向ヒヨリの修行を受けているとなるとやはり父としてもうちはの当主としても気になるのだろう。

 幼い頃は優秀な兄と比べられてあまり期待されていないと思っていたサスケは、こうして父が自分に興味を示してくれているのが嬉しかった。

 

「ああ、大分強くなったと思うよ。今なら兄さんにだって勝てるかもね」

 

 それはサスケなりの冗談だったが、それくらい強くなったと伝えたかったのだ。

 

「ふ、大きく出たな」

「ん。まあ六対四くらいですかね」

 

 サスケの言葉を虚勢と取ったフガクは、その後に続いたアカネの言葉の意味が良く理解出来なかった。

 

「六対……四?」

「ええ。イタチさんとサスケが戦った場合の勝率ですよ。イタチさんが六でサスケが四です」

「……え?」

 

 その言葉に一番驚いていたのがサスケである。サスケにとって兄とは優秀すぎる壁で、乗り越えたいと努力をしても決して追いつけない存在であった。

 昔から父は事ある毎に優秀な兄と自分を比べ、優しい兄を尊敬しつつも嫉妬するというコンプレックスを抱いていた。

 そんな兄に、まだ負ける確率が高いとはいえ勝つ可能性を自分が得ている。それがどこか信じられないでいた。

 

「そ、それは本当かアカネ!?」

「あ、ミコトさん、お代わりお願いします」

「お代わりならオレが入れてやる! ほらよ大盛りだ! さっさとさっきの話を詳しく聞かせろ!」

「食事くらい……ゆっくり……食べさせて……下さいよ」

「もう半分飯食い終わってんじゃねーかこのウスラトンカチ! もう少しゆっくり食え!」

 

 肉を食べ、白飯を食べ、そして肉を食べ、白飯を食べる。肉と白飯の相性の良さは異常である。それを堪能しているアカネにサスケの罵倒など耳にも入らなかった。

 

「ふぅ。お茶が美味しい。……で、何でしたっけ?」

「このアマ……! 何でこんなのがオレより強い……!」

「その台詞。ネジにも何度も言われるんですよねぇ。あなたとネジって仲良くなれそうですね!」

「ああ、心底そう思うぜ……!」

 

 ネジもきっと同じ思いを抱いているのだろうと思うとサスケはネジと心が通じそうな気がしてならなかった。

 

「まあサスケをからかうのはこれくらいにしますか」

「いつか絶対ぶっ飛ばしてやる……!」

「楽しみに待ってましょう。先程の話ですが、今のサスケならイタチともいい勝負が出来ますよ。経験の差でイタチが有利でしょうが、十分にサスケにも勝機があります」

「そ、それほどまでに……」

 

 これにはフガクも驚愕であった。サスケに期待はしていたが、それでもイタチと比べると見劣りすると思っていたのは確かだ。

 将来的にはもしかしたらと思っていたが、ここまで早くに芽を出すとは思ってもいなかったのだ。

 期待に目を輝かせてこちらを見るサスケに、フガクはまだまだ子どもかと思いつつも、サスケが望む言葉を口にしてあげた。

 

「流石はオレの子だ」

「父さん……!」

 

 サスケの喜びようと来たらアカネも見た事のないほどであった。それだけ父に認められた事が嬉しかったのだろう。

 

「まあ、下忍のままで修行に身を費やしているのだ。イタチやオレを超えるくらいはしてもらわねばな」

「う……!」

 

 調子に乗らない様に多少の釘を刺しておく事も忘れてはいない。うちは当主の名は伊達ではないのだ。

 

「……」

 

 ちなみにイタチはサスケの成長を嬉しく思いつつも、もう少しは兄として弟の壁で有りたいという思いもあった。

 なのでこっそりとアカネへ弟子入りしようかなと考えていたりする。

 

 

 

 食事をしつつ、サスケとアカネが馬鹿な話をしつつ、それを肴に珍しく食事中にフガクが晩酌をしつつ、そうした団欒が広がる中、ミコトが爆弾発言をした。

 

「ねえアカネさん。アカネさんが良ければイタチかサスケのどちらかの嫁に来ない?」

「ぶはっ!」

 

 それに過剰反応したのは当のアカネやイタチにサスケでもなくフガクであった。

 

「ど、どうしたのあなた?」

「い、いや、何でもない」

 

 ミコトのいきなりの発言に酒を噴き出してしまったフガク。だが、事情を知る者ならば彼を責めまい。事実イタチは父の反応を理解していた。

 フガクからすれば日向ヒヨリが息子の嫁になるという意味不明どころか驚天動地な出来事を聞かされたのだ。驚くなという方が無理である。

 

「うーん」

 

 難しそうな、困った様な表情のアカネを見て、ミコトは少し表情を暗くする。

 

「ダメかしら? アカネさんがいるといつもより明るくなるから私としては嬉しかったんだけど……もしかして、他に意中の人でもいるのかしら?」

「意中の人ですか……。そういう人は……いませんね」

「そうなの? だったら、好みの人はどんな人なの?」

『……』

 

 完全にガールズトークである。周りの男共は若干居心地が悪くなっている様だ。

 

「そうですね。優しい人なら……あ、でも――」

「ふんふん、どんな人がいいの?」

「私と同じかそれ以上に強い人ならもっといいかな」

『結婚する気はないようだな』

 

 フガク、イタチ、サスケの親子三人の言葉が完全に一致した。

 

 

 

 

 夕食も終わり、サスケの家を発ったアカネは帰路へと就く。

 そしてふとミコトに告げた言葉を思いだす。

 

「私と同じくらい強い人、か……。あの馬鹿め……どうして木ノ葉を、私たちを……」

 

 かつての悲しい過去を思いだし、アカネはしばらく夜空を見続けていた。

 

 



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NARUTO 第十七話

 ナルト達が暁に備え、暁が来たるべき未来に備え、それぞれが力を蓄える。そうして時は瞬く間に流れて行った。

 ナルト達が修行という任務を受けてから三年近い年月が経った。その年月でナルト達は強く、そして大きく育っていた。

 

 それを証明するかの様にナルトとサスケは闘いを繰り広げていた。

 三年前と同じ様に体術合戦をし、三年前とは桁違いな技術を披露する。

 ナルトの流れる様な連撃をサスケは捌き、サスケの反撃を紙一重で避ける事でナルトは逆に反撃の機会を作る。だがそれを読んでいたサスケは体を深く沈めてその反撃を躱し、体を沈めた反動を利用してナルトを蹴り上げた。

 

「ぐあっ!」

 

――火遁・豪火滅却!――

 

 空中に吹き飛んだナルトへの追撃としてサスケは火遁の術を放つ。それはかつてうちはマダラが集団の敵を相手にするのに多用していた高等火遁だ。今回単体のナルトに使用したのは影分身を警戒した為である。

 広範囲に広がっていく炎がナルトを襲う。まともに当たれば並の忍ならば骨も残らないだろう。だが、ナルトは並などではなかった。

 

 ナルトは空に吹き飛ばされながら追撃への対処として既に影分身を作りだしていた。豪火滅却を放たれた後に影分身をしても間に合わない可能性があるから蹴り上げられながら影分身の術を使用していたのだ。

 そして影分身は本体の前に現れ、両の手にそれぞれ大きな螺旋丸を作り出す。それを豪火滅却にぶつける事で後ろにいる本体へ炎が向かわない様にする。

 威力と範囲を兼ね備えた豪火滅却を一部分とは言え掻き消す事が出来るのも同時に二つの螺旋丸を作り出す事が出来る様になったからである。

 かつては影分身を利用して初めて片手に螺旋丸を作る事が出来たのだが、今はその必要もないのだ。

 

 更にナルトは次々と影分身を作り出す。影分身が本体を投げたり蹴ったりする事で空を移動しているのだ。

 そうして豪火滅却による炎の壁を上から乗り越えてサスケへと接近。豪火滅却は巨大な炎の壁を作り出してしまうので、術者が対象を見失う欠点もあった。それを突いたナルトの戦術であった。

 

 だがそのような欠点など術者であるサスケには承知の上だ。常に気を張ってチャクラを感知していたサスケはナルトの位置を見失ってはいなかった。

 サスケは感知タイプと呼ばれる感知を得意とする忍ではないが、それでもこの距離ならばこの程度の感知は造作もなかった。

 

 ナルトとサスケは互いに睨み合い、そして計ったかの様にそれぞれが自身の代名詞となりつつある術を展開する。

 ナルトは螺旋丸を、サスケは千鳥を。両方とも一撃で相手を殺し得る威力を持つ術だ。それを相手に叩きつけようとして――

 

「はいストップ!」

 

 第三者の手によってそれを邪魔された。

 ナルトとサスケの術を発動している手首を掴んで合気にてそれぞれを吹き飛ばしたのだ。

 

「うわぁっ!?」

「くっ!?」

 

 ナルトは大地に、サスケは上空にそれぞれが吹き飛ばされる。大地に向かっていたナルトは更に急加速して大地に叩き付けられたのでかなり痛そうに呻いていた。

 空に吹き飛ばされたサスケは空中で姿勢を取り戻し、華麗に着地していたが。これは単に二人の力の方向がナルトが地に、サスケが天に向かっていたのでそれを合気にて利用しただけで、他意はない。そのはずだ。

 

「あ、頭がぁあああ!」

「なにしやがるサクラ!」

 

 ナルトは大地に叩き付けられた頭部の痛みに悶絶し、サスケは勝負を途中で遮るという邪魔を仕出かした第三者、サクラに詰問する。

 そう、合気にて二人を吹き飛ばしたのはアカネではなくサクラだったのだ。サクラは医療忍者として綱手の弟子になっていた。そして同時にアカネに合気柔術という護身術も習っていたのだ。

 医療忍者として類い稀なるスピードで成長したサクラはまさに綱手の後継者と言える程になっていた。

 そして成長したのは医療忍術だけではない。そも、医療忍者は戦闘にて敵の攻撃を受けてはならないと教えられている。

 それは味方を癒す医療忍者がやられては意味がないという理由からだ。

 

 だからアカネは合気柔術をサクラに伝授したのだ。合気柔術は相手の力を利用する武術。その為には相手の力の流れや相手の意を読まなければならない。

 合気の理を三年間みっちりと叩きこまれたサクラは相手の意を読んで攻撃を読む事に長ける様になった。

 そして敵の力を利用した合気柔術に、チャクラコントロールを利用した怪力。これらを武器に闘う様になったサクラの力はナルト達に匹敵するほどに高まっていた。

 

「ごめんごめん。でも、あれ見てよサスケ君」

 

 そう言ってサクラが指を差した方角をサスケが見ると、そこには緊急招集を知らせる煙が上がっていた。

 

「あれは……」

「そ、綱手様からの緊急召集の要請よ」

 

 煙の色を見て、あれが第七班への報せだとサスケも理解する。そして遅れた場合あの五代目が叱責するだろう点もまた理解していた。

 

「ちっ! おいナルト、今回の勝負は次に持ち越しだ」

「あーいてて。分かったってばよ。ちぇっ、今日はオレの勝ちだったのになぁ」

「オレの勝ちに決まっているだろうが」 

 

 二人の実力は大きく向上し、特にナルトはサスケとの差をほぼ完全に埋めていた。修行を始めて三年目から行った多重影分身を利用した修行がその要因だろう。

 だがそれでもナルトがサスケに勝ったのは僅か二回だ。これに関してはサスケを褒めるべきだろう。ナルトの多重影分身修行は尾獣を持たないサスケには真似をする事は出来ない。だがその不利を生来の才能で覆したのだ。

 いや、生来の才能の差を多重影分身で埋めたナルトを褒めるべきなのかもしれないが。どちらにせよ両者とも並の上忍程度なら軽くあしらえる実力を手に入れていた。そして受けに回れば二人でも攻め切れないサクラ。第七班は木ノ葉でも最強の……下忍だった。

 

 そう。何と三年経ってもこの三人は下忍のままなのだ。実力ではとうに上忍クラスに到達していたが、誰もこの三年間で中忍試験を受けなかったのだ。

 中忍試験を受けるという事は、中忍試験に集中して修行の時間が削れるという事。つまり他の第七班に先を越されるという事だ。

 サスケを追い抜こうとしているナルトはそれが我慢出来ず、ナルトに追い抜かれまいとするサスケはそれが我慢出来ず、二人に追い付き追い越そうとするサクラはそれが我慢出来ない。そんな三人の意思が一致した結果である。

 ちなみに三人の同期で下忍のままの忍は誰もいない。一つ上のネジに至っては上忍になっている。

 

「んだとぉー!」

「やるかウスラトンカチ!」

 

 そんな事など全く気にせずに二人は仲良く口喧嘩をしている。

 三年間で成長したのは実力だけなのかもしれない。この二人は相も変わらずであった。

 いや、ナルトは三年間で以前よりも思慮深くなり、サスケもクールというよりは冷静さを持つ様になってはいる。ただ、ナルトとサスケが混ざるとこうなってしまうのだ。

 

「もう、二人とも止めなさいよー。早く行かないと綱手様に怒られるわよ」

 

 そう言いつつもサクラは二人を見て微笑んでいた。

 いつまでも子どもの様に変わらずに友としてライバルとして接している二人が微笑ましく、そして嬉しかったのだ。

 だが、そんな楽しい日々にも終わりが来るのかもしれない。綱手の緊急招集の報せを見て、サクラはそう不安に思ってしまった。

 

 そして、その不安は当たっていた。暁が活動を再開したのである。

 

 

 

 

 

 

「我愛羅が……!」

 

 火影室に呼び出されたナルト達が聞いたのは砂隠れの新たな風影となった我愛羅が暁に捕われたという報告だった。

 我愛羅はかつて砂隠れが大蛇丸と共謀して木ノ葉に戦争を仕掛けた時に切り札とされていた砂の人柱力だ。

 かつては自分の境遇に孤独と憎しみを抱き、周囲にその憎しみを感情のままにぶつけていた我愛羅だが、同じ境遇を持つナルトに負けて、そしてナルトに理解される事で互いに友情を感じる様になる。

 それにより我愛羅は変わった。ただただ憎しみを振りまくのではなく、例え迫害されても負けない強さを持つナルトの様になりたいと思うようになったのだ。他者との繋がりを否定していた我愛羅が、苦しみや悲しみ、そして喜びを他者と分かちあえるのだと思うようになったのだ。

 その心境の変化が良い結果に繋がったのだろう。風影という中核を失っていた砂隠れは我愛羅を風影に任命し、我愛羅は里を守るべく五代目風影へと就任した。

 

 そして……里を守る為に、暁に攫われてしまった。一対一の戦いでは我愛羅は里を襲った暁の一員・デイダラに負けてはいなかっただろう。

 だが里に巨大な起爆粘土を落とされた為、里を守る為に持てる力を振り絞ったのだ。それにより疲弊し大きな隙を作ってしまった我愛羅はデイダラに捕らえられてしまったのだ。

 それを知った砂隠れは同盟国である木ノ葉に連絡を取る。その連絡を受け取った綱手がナルト含む第七班を召集したのだ。

 

「そうだ。そこでお前達に新たな任務を下す。直ちに砂隠れの里へ行き状況を把握し木ノ葉に伝達。その後砂隠れの命に従い彼らを支援しろ」

 

 それは火影としては間違った指令かもしれない。これは暁にナルトという餌を与えるに等しい行為かもしれないからだ。

 だが綱手はナルトの気持ちを理解していた。ナルトと我愛羅は同じ人柱力だ。そして二人はかつて中忍試験で闘った仲である。

 その時ナルトは我愛羅を理解し、そして我愛羅もナルトの理解を得る事で人としての自分を取り戻した。

 同じ人柱力同士分かり合えたのだ。そしてナルトは我愛羅を助けたいと思っている。そんなナルトの後押しを綱手はしてあげたかったのだ。

 そして何より綱手はナルトを信じていた。ナルトならば暁などに負ける事なく任務を達成出来ると。

 

「その任務。私は参加しませんので」

 

 そう言ったのはアカネである。アカネはこの三年間は第七班を初めとする多くの忍の修行に忙しくて暁についての情報収集も出来なかった。

 その暁が再び活動を再開したとなれば厄介ではあるが打倒する好機でもある。地に潜られたままよりは対処しやすいと言えた。そんな好機を逃すわけには行かないだろう。

 だと言うのに何故ここに来て暁討伐の機会を逃す様な事を言い出すのか。それには二つの理由があった。

 

 一つは暁に気付かれない様に近付きたかったから。

 アカネとてこの機会を逃すつもりはない。だが暁にどの様な能力者がいるか分からないまま、あからさまにナルト達と共に行動していては暁にアカネの行動がばれる可能性もあるだろう。

 暁にアカネが日向ヒヨリの転生体である事は周知されていると見ていいだろう。暁に大蛇丸が所属している事からその点はほぼ間違いがないとアカネは考えている。

 アカネが警戒されている可能性は非常に高いと言える。だからこそ暁に見つからない様、第七班にも秘密にして行動するつもりだった。

 

 もう一つの理由は第七班の精神的な成長を促す為だ。

 彼らはアカネの実力の高さを嫌と言うほど知っている。だからこそ、アカネがいればどんな局面でもどうにかなると思っているかもしれない。

 そうであればいざという時にアカネがいなければ精神的に脆くなってしまう可能性もある。どれだけ実力が伸びようともそれでは意味がないだろう。

 それを確認する為にも第七班のみでこの任務を受けてもらい様子を見たかったのだ。まあ、いざとなればアカネが手助けする事に変わりはないのだが、そのいざという事態に陥った時の対応が見たいのだ。

 ……もっとも、第七班の実力の高さから余程の事がない限りそのいざという事態が起こる事もないかもしれないのだが。

 

「アカネが行かなくてもオレは行くぜ! 我愛羅は絶対に助けてやる!」

 

 ナルトのその言葉を聞いたアカネは確認の必要はなかったかなと思えた。そして残りの三人の台詞もまた逞しいものだった。

 

「ふん、我愛羅を助ける義理はないが、暁が相手なら丁度いい。この三年間でオレがどれだけ地獄を見たのか教えてやる……!」

 

 三年間の修行はサスケに地獄を見せたようだ。そのせいか哀しみや怒りを背負わなくても万華鏡を開眼しそうな程にチャクラが荒ぶっている。

 

「そうよね……私達が中忍試験を受ける事もなく修行し続けたのも、元はと言えばそいつらがナルトとサスケ君を狙っているからよね……。一発、ううん、十発は殴らないと気が済まないわ」

 

 今のサクラに十発も殴られれば絶対に途中で死ぬだろう。不死コンビと呼ばれる暁の一員以外はサクラの前に立ってはいけないのかもしれない。

 

(こいつらに負けないように修行して、そのせいで不名誉な称号を得たオレ達の恨みと憎しみと哀しみをオレが代表して暁にぶつけてやる)

 

 カカシは言葉にこそしていないが、暁に対する恨みはナルト達に負けない程に高まっていた。まるで一人ではなく多くの忍の怨念を背負っているかの様である。

 影分身だがアカネとほぼ四六時中一緒にいて修行していたせいで、アカネの修行を受けた三十代前後の忍はその多くにロリコンの称号が里から与えられていた。

 あの時、カカシとオビトを見るリンの冷たい視線を彼らは一生忘れる事はないだろう。そういった恨みの諸々を暁にぶつける時が来たとカカシは普段の様子を捨ててまで息巻いていた。

 

 

 そんな第七班の様子を見てアカネは確信する。うん、こいつらが私に頼り切りになる事ってないな、と。

 そして同時に願った。どうか、彼らと戦う暁が人としての尊厳を保ったままにやられますように、と。

 

 

 

 

 

 

 カカシ率いる第七班は我愛羅救出に向けて木ノ葉を発つ。道中で火の国に来ていた我愛羅の姉であるテマリと偶然合流し、それから三日掛けて砂隠れに到着する。

 ナルト達が全力を出せば二日で辿りつけるだろうが、それでは肝心の暁と戦う時に疲労が大きくなっているだろうし、テマリがいるから移動速度を抑えた結果が三日という時間だった。

 いや、テマリとて木ノ葉崩しから約三年で下忍から上忍となっており大きく成長しているのだが、ナルト達の成長がそれを遥かに凌駕する程だったのだ。

 

 砂隠れの里に到着したナルト達は我愛羅救出に向かう前に我愛羅の兄であるカンクロウの治療を行う。

 カンクロウは我愛羅が連れ去られた時にすぐに弟を救うべく暁に立ち向かったのだ。かつては憎しみのままに殺戮を振りまく弟を疎ましく思っていたが、成長した我愛羅を見てカンクロウも変わったのだ。今では大切な弟であり里の中核を成す風影となった我愛羅を誇りに思っている程だ。

 だが相手は暁。カンクロウ一人では敵うことはなく、あえなく返り討ちにあってしまった。その際に敵の毒を受けてしまい、今まさに生死の境を彷徨っているのだった。

 

 その毒は砂隠れの里のご隠居であり毒の専門家でもあるチヨという老婆でも解毒は不可能な程困難な調合を施されていた。

 だが綱手とアカネの修行を受けて医療忍者として成長したサクラが直接毒を体内から抜き取る事でどうにか大事を切り抜ける。その後は砂隠れにある薬草を用いて解毒薬を調合し、カンクロウの解毒処置は完了した。

 なお、その際にチヨがカカシを見てその容貌からカカシの父であるサクモと勘違いし、カカシに襲い掛かるというハプニングがあったのだが……まあ怪我人は出なかったので問題はないだろう。

 

 解毒薬の準備も整った所で第七班は我愛羅救出の為に暁の追跡に入る。カンクロウから暁の手がかりである匂いの元を託され、そして同時に我愛羅を頼むという思いも受け取ったナルト達は砂隠れを発つ。

 メンバーにはチヨも加わる。理由は我愛羅を攫った暁の一員に、チヨの孫であるサソリが交ざっていたからだ。

 サソリは傀儡の使い手であり、その腕前も群を抜いている。それに対抗する為にサソリに傀儡の術を教えたチヨ本人が出張ったという訳だ。いや、それ以上に孫を止めたいと願う気持ちもあるのだろう。

 

 道中でチヨはナルトの境遇と我愛羅へのシンパシーと想いを知り、時代は変わりつつある事に気付く。同盟など形だけと思っていたが、こうして自里が危機に陥った時に同盟国は即座に救援に来てくれた。

 ナルト達の可能性を見てそれを羨ましく思いつつも、まだ老いぼれにも出来る事はあるかも知れないと思い至り、チヨは一人覚悟を決めていた。

 

 

 

 そしてチヨ含む第七班は暁のアジトの一つだろう場所に辿り付く。だが……その時既に、暁はその場には誰もいなかった。

 アジトは岩壁をくり抜かれた洞窟状になっており、その入り口は大岩で塞がれた上に何らかの封印が施されていたので簡単に中に入る事は出来ない。そしてナルト達では中の様子を確認する術もない。

 だが、アジト内部に既に生きた人間は誰もいない事に気付いたのがこの中にいた。それは第七班でもなければ、チヨでもない。その人物はカカシの忍具を収める鞄の中から声を出した。

 

「これは……まずいな」

 

 突如として響いたその声に第七班は驚愕する。

 

「え!?」

「いま、アカネの声がしなかったか?」

「間違いないわ! アカネの声よ今の!」

「ま、まさか……」

「……そこか!」

 

 そしてカカシとチヨはその声がどこから聞こえたのか見抜いた。カカシは自分の鞄を下ろして鞄を開く。すると中から巻物が一つ飛び出してきた。

 飛び出した巻物は空中で音を立てて姿を変える。そう、巻物はアカネが変化した姿だったのだ。アカネは気配を消して巻物に変化してカカシの鞄の中に潜んでいたのだ。

 

「い、いつの間に……!?」

「誰じゃお主……?」

 

 一体いつの間に潜んでいたのか? カカシは気付かなかった自分を恥じ、そしてチヨは突然現れたアカネを訝しむ。まあ、ナルト達の反応からして敵ではない様だと判断はしているが。

 

「それよりも、風影様が危険です! 中は既にもぬけの空です! いるのは……尾獣を抜かれた風影様のみ……!」

『っ!?』

 

 そう、全ては遅かった。暁は我愛羅を攫ってから凄まじい速度でアジトへと戻り、この三年間で修行した封印術により圧倒的速度で我愛羅から尾獣を抜き取ってアジトから逃げ出していたのだ。

 全てはアカネを、ヒヨリを警戒しての電撃作戦だった。砂隠れが木ノ葉と同盟を結んでいる事は周知の事実。当然暁もそれを知っている。だからこそ、全てを速攻で終わらせてこの場から離れたのだ。

 

「早く中に入らねーと!」

 

 人柱力から尾獣が抜かれる。それにより起こる事実を理解しているナルトは焦って大岩を壊して中に入ろうとする。

 

「待てナルト! この岩には封印が施されている。これを何とかしないと中に入る事は出来ないぞ!」

 

 焦るナルトを止めたのはサスケだ。その写輪眼にて大岩を覆う封印術を見抜いたのだ。

 

「これって五封結界ね。近辺に“禁”と書かれた札を五ヶ所に貼り付けて結界を作っているわ。この岩に一つあるから、残り四つがどこかにあるはず!」

 

 サクラがその知識で封印術の種類と対処法を伝える。

 

「……」

 

 成長した第七班を見て、カカシはもう自分は必要ないかな、と嬉しくもあり悲しくもある思いを秘める。まあ、ナルトは成長しつつも相変わらずなのだが。

 

「だったらさっさとその札を外して我愛羅を助けるぞ!」

「その必要はありません! 事は一刻を争うので強引に行かせてもらいます!」

『え?』

 

 ナルトの意気込みを他所に、アカネは一気に体内チャクラを練り上げる。同時に天使のヴェールを発動しているのでそのチャクラを周囲の者は感じ取る事は出来ないでいたが。

 

「離れていなさい! 怪我をしますよ!」

 

 アカネが叫ぶと第七班は全員がその場から離れていく。アカネがそう言うならばそうなのだと理解しているのだ。チヨも第七班を見てそれに倣いその場から離れた。

 それを確認したアカネはチャクラを右手の一点に集中し、そして封印を無視して大岩を粉々に破壊した。

 

 ナルト達は岩が破壊された瞬間に内部に侵入する。チャクラを練っていない――ナルト達にはそう見えている――アカネが岩を破壊した事に驚愕するが、それでいちいち行動を止めていては命が幾つあっても足りないと達観しているのだ。

 そして内部に侵入したナルト達は……倒れ伏し、ピクリとも動かない我愛羅を発見する事となる……。

 

「が、我愛羅……」

「くっ……!」

「ナルト……」

 

 ナルトの声に我愛羅は何の反応もしなかった。その体に生気はなく、息もしていない事をナルトは悟る。

 サスケもかつて戦った化け物の如き我愛羅がこうして死んでしまった事にどこか悔しさを感じていた。あの強かった我愛羅が、呆気なく死んでいるのを見て何かこみ上げてくるものがあったのだ。

 サクラはナルトの悲しみを知り、そして死者を救う事が出来ない医療忍術の限界を嘆いた。仕方ない事だとは分かっている、死者を治療する術はないと分かっているのだが、それでもやはり救えないというのは悔しいものなのだ。

 

 そんな三人を尻目に、アカネは我愛羅の治療を試みる。

 傍に駆け寄り、心臓をマッサージして少しでも血流を動かして、再生忍術にて尾獣が抜かれた事による経絡系の損壊を修復しようとしているのだ。

 再生忍術は生きている人間にしか効果はない。再生させる細胞が死んでは再生しようがないのだ。だが細胞とは人間が死ねばすぐに死滅するわけではない。もしかしたらという可能性を信じて、アカネは再生忍術を施し続ける。

 

「サクラ! 手伝いなさい! 心臓を直接マッサージするんです!」

「わ、分かったわ!」

 

 アカネの考えを理解したサクラはすぐにチャクラで作ったメスで我愛羅の胸部を切開し、直接心臓をマッサージする。

 そして人工呼吸にて息を吹き込み、我愛羅の蘇生を試みる。少しでも息を吹き返せばアカネがどうにかしてくれる。そう信じてサクラは心臓マッサージと人工呼吸を繰り返した。

 

「……」

 

 それを見て、チヨは決めていた覚悟を取り出した。

 他里の忍である我愛羅の死を本気で嘆くナルトに、悔しそうに呻くサスケ。今も必死で蘇生を試みるサクラと、そしてかつての大敵が風影を必死に助けようとする姿を見て、今が覚悟を示す時だと思ったのだ。

 チヨは我愛羅へと近付いていき、その体にそっと手を添えてある術を発動させる。そして、それを白眼で見たアカネはチヨを止めようとする。

 

「それは……そのチャクラの流れは……! 止めなさいチヨ! それではあなたは!」

「やはり見抜くか日向の姫よ。姿は変われどその瞳力は変わらんな」

 

 チヨは古くから砂隠れの忍として存在している。故にアカネの前世であるヒヨリとの面識も当然あった。だからこそ、アカネのチャクラを感じずともヒヨリという正体に思い至ったのだ。

 日向ヒヨリはそのチャクラを他者に悟らせない。古い忍達はそう知っているのだ。天使のヴェールの存在が逆にアカネの正体を気付かせる事になったのだ。何せ、その様な術者などそう多くいるわけがないのだから。

 当時はその強さに恐れ慄いていたものだとチヨは苦笑する。当時から今も生きている忍で日向ヒヨリを恐れなかった者など一人としていまいと自信を持って言える程だ。

 

「チヨ!」

「もう、ワシの時代ではないのだ日向の姫よ。老いぼれは去り、若い者が時代を動かす力となるのだ」

 

 チヨの覚悟はアカネにも理解出来ない訳ではない。事実、アカネも今までの人生で何度となくそう思った事があるからだ。

 だが、転生を続けるアカネは何度もその考えに至りつつも、何度もそれを否定してきた。歳を取った時にはそう思っても、転生して若い肉体になり仲の良い老人を見ると、歳を取っても生きていて欲しいと願うようになるからだ。

 

「時代とか、そんな事が年寄りが死ぬ理由になるか! ナルト、チヨにチャクラを分けるんだ。サスケはそれを写輪眼でサポートしてくれ!」

「お、おう!」

「……仕方ないな」

 

 ナルトがチヨの手に自分の手を重ねてチャクラを分け与える。そしてサスケは写輪眼でチャクラの流れを見切り、ナルトが過剰な量のチャクラを流し込まないようにサポートをする。

 そしてサクラが心臓マッサージと人工呼吸を行い、アカネが再生忍術を施し、チヨが己の命を代償に初めて可能とする禁術、転生忍術である己生転生(きしょうてんせい)を使用する。

 

 

 

 あらゆる蘇生術を施された我愛羅は程なくして息を吹き返した。そして己生転生(きしょうてんせい)の術者であるチヨも大きく疲弊してはいるが無事であった。

 本来なら己生転生(きしょうてんせい)を用いて死者を蘇生した場合、術者は確実に死亡する。だが、ナルトからチャクラを分けてもらい、サクラとアカネが我愛羅を蘇生していた事で、完全な死者ではなく半死人となっていた我愛羅を蘇生させるのに全ての命を懸ける必要がなくなったのだ。

 まさか生き延びるとは思っていなかったチヨはナルトが我愛羅に笑い掛けている姿を見ながら呆然としていた。そしてそんなチヨにチャクラを分けながらアカネは話し掛ける。

 

「どうですか。生きていればいい物が見られるでしょう」

「……そうじゃな。全く、意外としぶとい物じゃな」

「いい事じゃないですか」

「ワシではないわ、お前の事よ日向の姫よ。どうして若い肉体になって生きておるんだ……」

「ははは……私特有の転生忍術でして……」

 

 アカネの言葉が本当かは分からないが、この姫が生きている木ノ葉に戦争を仕掛けても成功するはずもないとチヨは理解した。

 まあ、アカネに関係なくすでにチヨの中に木ノ葉へ戦争を仕掛ける気などないのだが。ナルト達を見てチヨは木ノ葉への見方を、忍の世界の見方を変えたのだ。

 他里同士でもいがみ合うだけでなく、分かりあう事も出来るのだと……。

 

「ほら、いい物が見れますよ」

「ん?」

 

 それは我愛羅の生を喜ぶナルトと、そのナルトを見て喜ぶ我愛羅の姿ではなかったのかとチヨは思い、そして少しの時間を置いて驚愕する。

 そこには、砂隠れの里から風影である我愛羅を助ける為に多くの忍が駆けつける姿があったのだ。

 かつては我愛羅を蔑み恐れ離れて迫害していた里の忍達が、今では我愛羅の為に駆けつけてその無事に喜びを顕わにしている。そこに嘘はないと長年の経験でチヨは理解していた。

 

「……ああ、こういう物がまだ見られるなら、もう少しばかり生きていたいものだな……」

「そうでしょう。こういうのは、何度見ても、いつになっても、素晴らしい物です……」

 

 この場の誰よりも人生経験を積んでいる二人は、多くの忍に囲まれる我愛羅を見てそう思った。

 

 

 

 

 

「……私の事、秘密にして下さいね?」

「さてのー。ワシ、年寄りじゃからそんな約束覚えられんかものー」

「えぇ……」

「なーんてな! ボケたフリ~! ギャハ、ギャハ、ギャハ!」

 

 個性的な笑いをする様になったな……。自分をからかって楽しんでいるチヨを見てアカネはそう思い、そしてやはり長生きするのは悪い事ではないと苦笑した。

 

 なお、ここに来た意味があったのかを考えている木ノ葉の上忍が視界の隅に映っていたのだが、とりあえずアカネは何も考えないようにした。

 

 

 

 

 

 

 どこか薄暗い洞窟の中。まともな人間なら集まりそうもないそんな場所に、十人の男女が集まっていた。

 

「これで一尾は終わりだ。残る尾獣は八体」

 

 暁のリーダーであるペインが現在の状況を各々に説明する。

 

「その内の七体は既に捕獲済み。後は尾獣を抜き出して封印するのみだ」

 

 そう、ペインが言うように、暁は既に九尾以外の人柱力を捕らえていた。三尾のみ人柱力ではなく尾獣のままに捕らえていたが。一尾は木ノ葉の同盟国である砂隠れの人柱力だったので後回しにされていただけなのである。

 だが尾獣は尾の数が少ない一尾から順に封印する必要があるので、先に捕らえていた人柱力は大蛇丸の薬で意識を奪って捕らえ続けていたのだ。

 全ては日向アカネに悟られない様にするために。それだけの為に暁は三年間地に潜み力を蓄え人柱力の情報を集め、そして全ての準備を整えてから一気に事を起こしたのだ。

 それだけ暁はアカネという存在を警戒しているという事である。……中にはそうでない者もいたが。

 

「全くよぉ。ここまで警戒する必要があるのかそのヒヨリってのはさぁ。いくら強いったって一人だろ?」

「日向ヒヨリを舐めるなよ飛段。……死ぬぞ?」

「それをオレに言うかよ角都。ほんと殺せるものなら殺して欲しーぜ」

 

 飛段はジャシン教と呼ばれる宗教によりある秘術を施され、不死身の肉体を手に入れている。それは文字通り不死身なのだ。

 心臓を貫かれても、首を切り落とされても、体をバラバラにされても生きているだろう。最早人外の術と言えよう。だが、そんな人外の集いが暁なのだ。

 

「例え死ななくても対処の仕方はあるわ。封印でもされたら終わりよ?」

「ちっ! うっせーな、分かってんよ」

 

 大蛇丸に図星を刺された飛段は捻くれた様に舌打ちする。だが実際封印されるのだけは勘弁な飛段だった。

 何せ死にもせず永遠の時間を動きを封じられて過ごさなくてはならなくなるからだ。“汝、隣人を殺害せよ”という狂った教義と殺戮をモットーとしているジャシン教信者としては耐えがたい屈辱だろう。

 

「何度も言うが、あれは人ではなく一種の化け物だ。人柱力など歯牙にも掛けぬ程のな。死なないからと舐めて掛かれば……身体を修復不可能な程に粉々にされるぞ?」

「……」

 

 流石に粉々になれば終わりかもしれない。そう思った飛段は角都の言葉を信じる事にした。

 同じ不死コンビと呼ばれ、自分よりも強い角都がそこまで言うほどだから相当なのだろう。まあ、角都がそこまで言うからこそ、飛段もこの三年間地道に修行をしてきたのだが。

 何せ時間なら無駄にあったし、殺戮を楽しみながらも修行に費やしていたのだ。それは他の暁も同様である。多くの者が日向アカネに、そして木ノ葉に備えて地力を伸ばしていた。

 

「しかし、ようやく暴れられますね。人柱力相手は時間を優先したのでまともに戦わず奇襲にて終わらせたのが殆どですからねぇ。どうにも楽しめませんでしたよ」

 

 鬼鮫はこれからの事を思い獰猛な笑みを浮かべる。三年間地に潜み、こそ泥のように人柱力を連れ攫ったので流石に鬱憤が溜まっているようだ。

 

「そうは言ってもしばらくは封印で時間が取られるがな」

 

 我愛羅を連れ攫った片割れであるサソリはうんざりとした様子で呟く。

 人柱力から尾獣を抜き取る作業はかなりの時間を要するのだ。修行により多少の時間短縮は出来ているが、二尾から八尾までの七体の尾獣を抜き取るとなると多少短縮しても相当な日数が掛かるだろう。そう思うと憂鬱になるものだ。

 

「そういった鬱憤は全部木ノ葉にぶつけてやればいいさ。次こそはオイラの芸術であの女を吹き飛ばしてやるぜ、うん」

 

 デイダラは未だに己の芸術と称する起爆粘土をアカネに防がれた事を根に持っていた。自信のあったC3という大技だけに尚更だ。

 それを晴らす機会がようやく来たと思えば封印術に掛かる多少の日数など何ともない程だ。

 

 無言の者も多いが、やる気が見られる暁の一同を見てペインは言葉を放つ。

 

「ではこれから残る二尾から八尾までの封印を開始する。それが終われば全員で木ノ葉を……潰す」

 

 暁が、その牙を木ノ葉に向けようとしていた。

 

 




 チヨバア可愛いよチヨバア。

 ……すいません。私、ああいうお婆ちゃんって大好きなんですよね。たるんだほっぺたをタプタプしたくなる。

 原作と違い第七班にアカネが付いていると綱手は知っているのでガイ班を助っ人参戦させていません。明らかに過剰戦力だからです。
 そして原作と違い暁が十人いて、そして封印術の修行を積んでいたので一尾の封印が早く終わりました。なので足止めの敵はいませんでした。


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NARUTO 第十八話

 暁が捕らえた尾獣の内、六体を封印し終わるのに要した時間は約二週間。尾獣一体に辺り二日はかかるので、流石に合間に休憩を挟みながらであった。

 そして最後の八尾の人柱力であるキラービーから尾獣を抜き取り封印をする。だが、そこで思わぬトラブルが生じた。

 キラービーを捕らえていた大蛇丸が口寄せにてキラービーを封印の間に呼び出す。それを見た仮面の男はピクリと反応し、滅多に開かない口を開いた。

 

「……分身か」

『!?』

 

 仮面の男の言葉に驚愕する暁。そして仮面の男にその言葉の意味を追求する前に、仮面の男はキラービーに苦無を投げつける。

 薬で意識を奪われた上に鎖で雁字搦めにされたキラービーは当然その苦無を避ける事が出来ない。だが、苦無が命中した瞬間、キラービーの肉体は巨大な蛸の足へと変化した。

 

「これは……」

「情けねーな大蛇丸! いっぱい食わされてるじゃねーか!」

 

 飛段が言うように、キラービーを担当したのは大蛇丸だ。つまり大蛇丸がキラービーに騙されたという事になる。恐らく戦闘中に上手く尾獣の一部を囮にして逃げ出したのだろう。

 

「……申し訳ないわね。私の失態よ」

 

 だがこれは大蛇丸がわざとキラービーを逃がした結果であった。大蛇丸は全てが暁の思い通りに動かないように手を抜いていたのだ。

 このまま暁の思い通りに事が進めば自分の野望を達成出来そうにない。そういう勘のようなものがあったのだ。後は様々な情報を集めた結果からの判断でもある。

 

「どうするんだ? また八尾を捕らえに行くのか?」

「だが確実に逃げてるな、うん。また居場所を探す手間がいるぜ、うん」

「その手間は大体ゼツが払うんですがねぇ」

 

 口々に自分の考えを語る暁に、仮面の男は特に焦る事もなく儀式を続ける。

 

「問題ない。蛸足一本でもいいから外道魔像に封印しておけ」

「……そう言う事だ。全員封印の準備にかかれ」

 

 仮面の男の言葉を聞いたペインはその通りに取り掛かるように全員に命令を下す。

 それを見た大蛇丸はやはりペインの裏にいるのが仮面の男だと確信する。あれが裏でペインを操っているか、それとも共謀しているだけなのかまでは分からないが。

 

 

 

 暁が八尾の蛸足を封印し終える。これで不完全ではあるが捕らえた尾獣は全て封印された事になる。

 

「では、各々休息して最後の準備に取りかかれ。それが終われば……木ノ葉を落としに行く」

「よっしゃー! やっと思い切り人を殺せるぜ! ジャシン様ァァ! 見てて下さいよぉ!」

「お前はこの三年間で大分殺しただろうに。まだ殺したりないのか。まあ、オレは金が手に入ればそれでいい」

「芸術は爆発だ。それを木ノ葉の連中に教えてやるぜ、うん」

「違うな。芸術とは永遠に残る美の結晶だ。オレはこの傀儡の体でそれを永久に伝えていくのだ」

「さて……私も準備に取りかかろうかしらねぇ」

 

 暁のメンバーそれぞれが自分の欲望のままに動ける事に喜びを顕わにする。

 この三年間で溜まった鬱憤を全てぶつける事が出来る機会が来て、真実嬉しいのだろう。

 

「作戦は以前に言った通りだ。では、一度解散する」

 

 そうしてその場から暁は一人、一人と消えていく。最後に残ったのはペインと仮面の男のみだ。

 

「……あの作戦で良かったのか? あれではお前一人で日向ヒヨリを抑える事になるが」

 

 暁には作戦通りと口にしたが、ペインは仮面の男一人であの日向ヒヨリを抑える事が出来るのかと疑問に思い問いかける。

 それに対して仮面の男は不敵に笑い、その問いに答えた。

 

「ふ……問題ない。オレを誰だと思っている?」

「……そうだったな。日向ヒヨリと同じ初代三忍の一人……うちはマダラならば不可能ではないか」

 

 仮面の男、うちはマダラはその言葉に頷き宣言する。

 

「教えてやろう。オレは……うちはマダラは日向ヒヨリに劣らぬという事をな」

 

 マダラは仮面の下にある瞳を怪しく輝かせ、その顔を喜色に歪めた。

 

 

 

 

 

 

 時は僅かに遡る。暁が尾獣封印に時間を掛けている時、木ノ葉の二代目三忍である自来也はある任務をこなしていた。

 それは大蛇丸のアジトの探索である。自来也は自分が持つ情報網から暁がしばらくの間は動けないという事を知っていた。それはつまり大蛇丸も動く事が出来ないというわけだ。

 今が好機と断じて自来也は兼ねてからの任務をここで終わらせようとしていた。その任務とは……。

 

「ここが当たりであって欲しいのぅ……」

 

 既に幾つかのアジトは見たが、そのどれにも目当てのモノはなかった。まあ、多くの実験体がいたのでそれらを開放はしたが。

 そして新たに見つけた大蛇丸のアジトに、どうか目当てのモノがあるようにと祈る。というのも協力者から得た情報で見つけられたアジトはこれが最後だからだ。ここから先は目的のモノを見つけるまで、自力でアジトを探さなければならなくなるだろう。

 焦る気持ちを抑えてアジトを丁寧に探索する自来也。探索の為に自来也は仙人モードと呼ばれる状態になっており、大きく広がった感知能力で周囲を探る。ちなみにかつての自来也は一人で仙人モードになる事は出来なかったのだが、色々と修行した結果それを可能としていた。

 そうして仙人モードでアジトを探る事十数分。とうとう自来也は見つけた。そのアジトの奥にある牢屋の中に捕らえられた一人の女性、孤児院のマザーであるノノウを。

 

「この女性か!」

 

 写真で見た通りの見た目の女性を見つける。仙人モードで目を凝らして見た限り、どうやら変化などの偽者ではなさそうだ。

 自来也が見る限りノノウは衰弱はしているが外傷などはない様である。だがその瞳は開いてはいるが完全に焦点があっておらず、目の前に自来也が現れても虚空を眺め続けていた。

 

「幻術か。薬も打たれているな。大蛇丸めむごい事を……」

 

 大蛇丸がノノウに仕出かした処置を思うと自来也は大蛇丸への怒りと、そして自身への怒りを膨らませる。

 かつては里の同志であったと言うのに、ここまで歪んでしまったのかという怒りと、大蛇丸の近くにいながらそれを止める事が出来なかった自身への怒りだ。

 

 だが今は過去の後悔を思っている場合ではない。自来也はノノウを縛る鎖を壊し、そしてノノウの体内チャクラを正常に戻す事で幻術を解く。

 

「う……」

 

 だが薬を打たれているノノウは幻術から目を覚ましてもすぐに意識を取り戻す事はなかった。

 自来也はそれを気にせずに、更にノノウに施された呪印を解く。

 

「ぬん!」

 

 既にここに至るまでに大蛇丸の研究資料を見てきた自来也にとってノノウを縛る呪印の解除は簡単……とまでは行かなかったが、不可能ではなかった。

 少々面倒な呪印を解除し、これで完全にノノウが自由の身になった事を自来也は確認する。

 どうやら後は薬を抜くだけのようだ。それ自体は特に難しい事ではないのでノノウは大蛇丸から開放されたと見ていいだろう。

 念には念を入れて口寄せ解除の術式をノノウに刻み、そして自来也はノノウを担いでその場から離れて行った。

 

 

 

 

 

 火の国のある場所にて自来也は一人の青年と落ちあう。その青年とは大蛇丸に仕えている忍、薬師カブトであった。

 いや、カブトは大蛇丸に脅されて協力を強要されているだけであり、その内心は大蛇丸への復讐を誓っていた。だからこそカブトは大蛇丸と敵対している自来也に暁の情報を渡していた。

 そしてその見返りがノノウの救出であった。この三年間は暁が動かなかったのでカブトも中々手の出しようがなかったが、暁が尾獣封印の為にしばらくは自由に動けない事を知ってこうして自来也に頼みこんだのである。

 

「待たせたのカブト。ほれ、お前が助けたがっていたノノウだ。受け取れ」

「マザー!」

 

 自来也からノノウを受け取ったカブトは、意識を失っているノノウを心配して声を掛ける。

 

「安心しろ。薬の影響で意識を失っとるだけだの。解毒は施してあるから程なく目覚めるはずだ」

 

 その言葉を証明するかのようにノノウはカブトの声を聞いて少しずつ意識を取り戻していく。

 そしてノノウの目蓋が薄く開かれていく。まだ覚醒しきっていないせいかノノウのぼやけた視界の中に、カブトの姿が映った。

 

「マザー! 良かった! ボクです、分かりますか!」

「……だれ、なの?」

 

 ノノウのその言葉にカブトは頭をガツンと殴られたかの様な錯覚を覚える。だが、すぐにある事を思いだした。

 ノノウは普段から眼鏡をかけている事を。そして今はその眼鏡をかけていない事を。

 かつてプレゼントした眼鏡が無くなっている事を悲しく思うが、今はそれを無視してカブトはすぐに自分の眼鏡をノノウにかける。

 かつて視力が悪くて時計の針が見えなかった時にノノウから貰った大切な、とても大切な思い出の眼鏡だ。あれから十年以上が経つのにこうして大事に使っているのがその証拠だろう。

 そして眼鏡をかけた事でぼやけた視界が綺麗になったノノウは、改めてカブトを見た。

 

「ああ……カブト……良かった、無事だったのね」

「っ! マザー! マザー!」

 

 意識を取り戻し、視力も取り戻したノノウはカブトをカブトと認識する事が出来た。それを嬉しく思わないカブトではない。

 

「もう……駄目じゃないカブト……もう寝る時間でしょ……」

 

 辺りはすでに暗くなっている。時間としては夜の九時を過ぎたところだ。

 孤児院では夜の九時を消灯時間としている。カブトは孤児院を出た後もそれを出来るだけ習慣付けていた。だが今はそれを言うべき時ではないのだが、どうやらノノウの意識は完全には戻っていないようだ。

 

「うん、ごめんよマザー……! あとで叱ってくれてもいいから……今はマザーがゆっくり休んでよ……」

「そう、ね。ごめんなさいカブト……少し、寝るから……」

 

 そうしてノノウは再び意識を失う。いや、眠りについたようだ。まだ体力が戻っておらず、解毒はしたが薬の影響も残っているのだ。

 眠りについたノノウを優しく抱きしめて、自身の頬を伝う涙を拭ってカブトは自来也へと顔を向ける。

 

「ありがとうございました自来也様。あなたのおかげでマザーは無事に戻って来ました」

「うむ。だが大蛇丸がいる限り再びお前もマザーも、そして孤児院も狙われるだろう、の」

 

 自来也の言葉に顔を顰めるカブト。分かってはいたが、マザーが戻ってきた喜びを奪われると思うと怒りと憎しみが煮えくり返る思いになるのだ。

 

「分かっています。大蛇丸は絶対に……!」

「まあ待て。大蛇丸はワシに任せておけ。それがお前の為だの」

 

 カブトのその暗く冷たい思いを知っている自来也はそれを止めようとする。

 復讐に走った者の末路は多くが悲惨な物になる。長くを生きてきた自来也はそれを知っていた。

 

「幸いお前は失ったわけではない。お前が復讐に走って、それで残された者はどう思う? それに大蛇丸の仕出かした事はワシの、木ノ葉の不祥事でもある。お前は孤児院でマザーや兄弟達を守ってやれ」

「……分かりました」

 

 自来也の気持ちを理解したカブトは未だ燻る復讐心を抑える。

 自来也の言う通りだ。こうして無事に戻ってきたマザーを置いて復讐に走るなど本末転倒だ。また離れ離れになるだけである。

 だが、大蛇丸をどうにかしない限り孤児院に平穏は戻らない事も確かだ。自来也がどうにかしてくれるとは言うが、この後に自来也が何をするつもりか知っているカブトとしてはその点が不安であった。

 

「ですが、本当に暁のリーダー……ペインの所に乗り込む気ですか?」

「暁のリーダーであるペインの居場所。それがマザーを助けた時にお前が渡す最後の情報だったな」

 

 そう、それがカブトが自来也に渡す最後にして最大の情報。

 暁という得体の知れない組織のリーダー。ペインの居場所である。これが分かればペインの情報を更に探り、多くの忍による奇襲作戦も可能となるだろう。

 

「安心しろ。ワシとて一人でペインに挑もう等とは思わん。敵のアジトになるのだから、のぅ。それに、お前の所の孤児院にも助っ人を付けておくよう頼んでおくからそっちの問題もないわい」

「……分かりました」

 

 自来也の言葉を信じたカブトは自分の知る情報を伝えていく。ペインの居場所は……雨隠れの里だと。

 

 

 

 

 

 

 ペインの情報を入手した自来也は里へと戻りその情報を火影である綱手へと伝える。もっとも、それは酒を酌み交わしながらであったが。火影として、三忍としてどうなのかと思うが、幸か不幸かそれを注意する者は近くにはいなかった。

 

 自来也から話を聞いた綱手は奇襲作戦にてペインを叩く好機だと判断する。だが、肝心のペインの居場所がまずかった。

 雨隠れの里は土・風・火の三大国に囲まれた小国だ。だから雨隠れはその三大国の戦争に巻き込まれその土地を戦場とする事が多かった。

 それにより雨隠れは閉鎖的な国になり、雨隠れを出入りする者には入国審査と滞在期間中の監視を徹底するようになったのだ。そんな国で奇襲作戦を行おうにも複数の忍が侵入しては気付かれる可能性も高まってしまうだろう。

 だからこそ、自来也は一人で雨隠れに侵入する事にした。

 

 綱手は危険だと一度は反対するが、自来也の説得に押し切られてしまう……わけがなかった。

 いや、その場ではいつも損な役目をさせている事を申し訳なく思う(さま)を見せていたが、内心ではある事を考えていたのだ。

 

 そうして自来也は綱手の心中など知らずに一人(・・)で雨隠れへの侵入任務に出る。

 綱手はそれを見送り、そして何事もなく帰ってくれば自来也の秘めた思いを受け入れてやると誓い……何かしらあって帰ってくればその時はまだまだだと笑ってやるつもりでいた。

 

 

 

 雨隠れへと侵入した自来也は雨隠れの忍を二人ほど捕らえ、彼らから情報を入手する。

 と言っても捕らえた忍は下っ端であり、あまり良い情報を得る事は出来なかった。いや、ペインに関する情報は例え里の上層部でも知らされていない事なので、彼らが知らないのも当然の事なのだが。

 だがその中で自来也は信じられない情報を聞いた。それは、ペインが雨隠れの長であった“山椒魚の半蔵”を殺したというものだった。

 

 半蔵はかつて自来也を含む二代目三忍が戦い、そして敗れた程の実力者だ。忍の世界では知らぬ者がいないとまで言われている忍であり、その強さは世界に知れ渡っていた。

 そんな半蔵と戦い生き延びたからこそ、半蔵は彼らを二代目三忍と呼ぶようにし、それが木ノ葉にも他里にも定着したのだ。つまり、それだけの発言力を持つ人物だったのだ。

 だが、その半蔵がペインに殺された。あの強かった半蔵を倒したというペインに、自来也は底知れぬ何かを感じ取る。

 

 それ以上のペインの情報を得る事は出来なかった。どんな術を使うのか、どんな見た目をしているのか。それらが分からない以上、交戦してでも情報を得るしかない。そう思った自来也は覚悟を決める。

 覚悟を決めた自来也は己の中に封印してあった八卦封印に結合する鍵を解放する。それはナルトの中にいる九尾を封印している術である八卦封印が弱まった時に、再び封印を閉め直す鍵であった。

 自分が死ねばこの大事な鍵も失われてしまう。それを恐れた自来也が一度解放したのだ。ちなみに、鍵は特殊な蛙によって守られている巻物に記されており、その蛙は意識も知恵も持っていた。なので自来也の次の言葉に反発をしていた。

 

「ワシに何かあった時はナルトに蔵入りしろ」

 

 ナルトに蔵入りしろとはすなわちナルトの中に封印されておけ、という意味だ。それは金庫と鍵を一緒に保管する事と同じ意味になるだろう。

 それを蛙は反対する。当然だろう。何処の世界に金庫を開ける鍵を金庫の傍に置く者がいる? それはどうぞ金庫を開けて下さいと言っているようなものだろう。

 

 だが自来也は違った。この鍵はミナトから預かったものだった。そして自来也はそれをいずれナルトに託して欲しいというミナトの願いだと受け取ったのだ。

 ナルトならばいずれ九尾の力をコントロールする事が出来る様になる。そうミナトは信じていただろうと確信しているし、自来也もミナトと同じくナルトを信じているのだ。

 

 八卦封印の鍵をナルトに託した自来也は心置きなく潜入任務を再開する。

 ペインと戦う覚悟は決めていたが、だからと言って堂々と強引に事を進めるつもりはなかった。こうして侵入して別の場所から情報を得たり、ペイン本人を見つけて奇襲で事なきを得られたならばそれに越した事はないからだ。

 だが、自来也が雨隠れの里に侵入した瞬間から、すでにペインは侵入者の存在に気付いていたのだった。

 

 

 

 そして、自来也は懐かしい顔と再会する事となった。

 それは暁の一員にして、かつての自来也の弟子、小南であった。

 小南と再会した事で自来也は薄々と勘付いていたペインの正体をほぼ確信した。自来也が小南と同時に取った弟子は残り二人。その内のどちらか……いや、奴だけだと。

 

 ペイン。痛みを冠するその名を掲げる男の正体。それは、自来也の弟子であり、幼い頃に三大瞳術の一つにして、最も崇高とされる輪廻眼に目覚めた少年……長門であった。

 

 長門と再会した自来也は見た目も、そして思考も大きく変わったかつての弟子を嘆く。

 だが嘆いてばかりではいられない。かつての弟子と言えど、木ノ葉はおろか忍界全てを巻き込む騒動を起こそうとしているのなら倒さなくてはならないからだ。

 長門の目的を聞いた自来也は到底それに共感出来なかった。長門は尾獣を集め、その力を元にして強大な破壊を齎す禁術兵器を開発しようとしていたのだ。

 それを各国にばら撒き、国々が戦争でその力を使用する。そして互いに大きな代償を払って痛みを知り、初めて平和が築かれる。世界に痛みを教える事で世界の成長を促す。それが長門の目的であった。

 自来也には欠片も理解出来ない思想だ。何千何万、いやそれ以上の人間を犠牲にして得られる平和に何の価値があるというのか。

 

 かつての優しかった愛弟子は歪み変わってしまった。ならば、その後始末をつけるのは師の役目だろう。

 そうして自来也と長門。二人の強者の闘いは始まった。

 

 

 

 自来也は長門との戦いの中で妙木山の二大蝦蟇仙人を口寄せし、仙法両生の術にて融合する。これが自来也の仙人モードの最終形態である。

 自来也はかつては一人で仙人モードになる事は出来なかったが、ここ数年の修行でそれを可能とした。だがそれでも二大蝦蟇仙人と融合した方が強いのでこうして口寄せにて呼び出したのだ。

 理由としてはやはり仙人モードの持続時間が挙げられる。周囲の自然エネルギーを集め、それを自身のチャクラと混ぜ合わせる事で仙人モードに至る事が出来る。だがそれではいずれ集めた自然エネルギーがなくなり、元に戻ってしまうのだ。

 それを防ぐ方法として蝦蟇仙人との融合があるのだ。自来也の肩に融合した蝦蟇仙人――フカサクとシマの蝦蟇夫婦――が自然エネルギーを集め続ける事で、自来也の仙人モードを持続するというわけだ。

 これには自然エネルギーを集めるのにしばらく動かずにじっとしなければならないという欠点を補うという利点もある。

 更にはフカサクとシマはそれぞれが幻術や仙術にて自来也の戦闘をサポートしてくれるのだ。これで通常の仙人モードより弱いわけがなかった。

 

 だが、その仙人モードに至った自来也でも輪廻眼の持ち主である長門は強敵と言わざるを得なかった。

 いや、相手が一人ならば既に決着は付いていただろう。だが長門は二人の人間を己の味方として口寄せしたのだ。しかもその二人の両目にも輪廻眼が存在していた。

 これには驚愕するしかない自来也である。伝説とまで称されている輪廻眼の持ち主が同時に三人も現れるなどどうして予想出来ようか。

 

 疑問に思う自来也だが、それで敵が待ってくれるわけもない。三人に増えた事により長門との戦いは更に加速していく。

 その中で自来也は敵の能力の幾つかに気付いた。まず、輪廻眼はそれぞれが視界を共有しているという事だ。これに気付いたのは正確にはフカサクであったが。

 視界を共有する事で誰かが敵を視認していれば、他の二人は敵を見ずともその位置や何をしているのかが分かるという事だ。

 

 更に自来也が気付いたのは、敵の能力が一個体に付き一系統しかないのでは、という事だった。

 最初に戦った長門は口寄せの術のみを使用し、もう一人は術を吸収するという異能のみを使用する。残る一人は分からなかったが、その二人はそれ以外の術を使用する事はなかった。

 

 まだ確定ではないが、これを前提として自来也は賭けに出る。

 

 戦闘で出来た大穴の中に入り自来也は敵と距離を取る。そして二大蝦蟇仙人による音を使った幻術にて敵を幻術の中に落としこもうとする。

 当然それを黙って待つペイン達ではない。自来也を捜索し、そして手遅れになる前に始末しようとする。

 自来也を発見したペイン達はそのまま自来也に駆け寄っていく。だが、その自来也は影分身であった。

 壁に隠れていた本体はペインの後ろを取り、そこから火遁の術を放つ。そうする事で術を吸収する敵がその火遁を吸収するのを自来也は確認した。

 

 自来也の推測は合っていた様だ。そして影分身の自来也はすぐに真正面からも火遁の術を放った。

 後ろからも吸収されているとは言え火遁が放たれ続け、前からも火遁が迫る。術を吸収する者は後ろで火遁を吸収しているので前から迫る火遁は避ける他ない。

 そして逃げ道は上空のみだった。そう判断したペイン達は天井高くへと飛び上がる。だが、それすらも自来也の罠であった。

 

 天井を足場とした敵の一人はその天井に足を取られたのだ。予め自来也が仕掛けていた地面を底無し沼へと変化させる土遁黄泉沼の術である。それを天井に使用していたのだ。

 残る一人は足を取られた味方に手を突く事で黄泉沼からは逃れる事が出来たが、これで完全に分断される事となった。

 そうして各個が分断された事でコンビネーションを失ったペイン達はそれぞれが動きを封じられ、やがて二大蝦蟇仙人が放つ幻術に捕われる事となる。

 

 幻術に掛かり無力化されたペイン達はあえなく自来也によって止めを刺された。

 巨大な剣を胴体に突き立てられたのだ、生きてはいられないだろう。それは自来也も確認をした。

 全てが終わった。そう思った自来也の後ろには……別の敵が存在していた。

 

「油断するなとアンタから教わったはずだが……自来也先生」

 

 そしてその奇襲は自来也を傷つけ吹き飛ばす……ことはなく、自来也の左腕によって防がれる事となる。

 

「油断? そんな物はワシにはないのぉ」

「!?」

 

 完璧なタイミングの奇襲を防がれた事に、新たな敵は逆に動揺する。

 

「ぬん!」

 

 その敵が動揺した瞬間を狙って自来也は大玉螺旋丸を叩きつける。吹き飛ばされていくその敵は完全に意識を、いやその命すら失っていた。

 

「こ、こいつは!?」

 

 倒しはしたものの、いきなり現れた新たな敵にフカサクは驚きの声を上げる。

 

「どうやら前もって口寄せしておいたんでしょうのォ」

「そうか、ワシらの幻術に掛かり切る前に……。だが、これで終わり――」

「とは、行かんようですな……御二方! 気を引き締めて下されよ! ここからが本番のようです!」

 

 自来也の言葉が示す通り、自来也の前には更に新たな敵が現れた。そして、その敵を見た時に自来也は驚愕する事になる。

 

「まさか……その顔……弥彦なのか」

「……」

 

 自来也は新たな敵の顔に弥彦の面影を見たのだ。弥彦とは長門と小南と共に弟子にした最後の一人である。そして、彼ら三人の中でリーダー格となっていた者だった。

 自来也と長門が戦う前に、長門は弥彦は死んだと言っていた。だが、こうして目の前にいる敵はまさしく成長した弥彦にしか見えなかった。

 驚愕する自来也を無視して、弥彦の面影を持つ敵は自身が持つ能力を発動する。

 

「ぐおぅっ!?」

『!!?』

 

 目に見えない強い力に自来也は吹き飛ばされていく。新たに現れた弥彦似の敵に、詳細がつかめない新たな能力。

 そして……吹き飛ばされて壁を突き破り外へと飛び出した自来也の目に、更に理解出来ない光景が広がっていた。

 

「ペイン六道……ここに見参」

 

 そこには先程倒したはずの四人の敵を含む、六人の敵が揃っていた。そしてその六人全員が輪廻眼を宿している。

 そう、暁のリーダーペイン。その名はこの六人全員を指し示す呼び名であったのだ。

 六人で一個の生命のように動く忍。そしてその能力はそれぞれが通常の能力とは一線を画す力を持っている。まさに暁のリーダーに相応しい力の持ち主だろう。

 

「何故だ……弥彦は死んだはずじゃ……」

 

 戦いの前に確かに長門はそう言った。だが目の前にいるペインの中の一人は確かに弥彦だ。

 しかし解せないのはその弥彦が輪廻眼を持っている事だ。輪廻眼を持っていたのは長門一人のはず。弥彦は普通の眼であった。

 六人全員が輪廻眼を持っている事といい、輪廻眼を持っていなかった弥彦が輪廻眼を持っている事といい、死んだはずの弥彦がこうして生きている事といい、倒したはずのペインが生き返っている事といい、もう分からない事だらけである。

 だがその中で分かった事が一つだけあった。それは、長門と思っていた最初に出会ったペインが、長門ではないという事だ。

 風貌が変わっていたが全くの別人というほどの変化ではなく、輪廻眼を持っていたという事もあって最初のペインを長門と思いこんでいた。

 だが弥彦の肉体を見てそれは違うと確信したのだ。弥彦には長門の面影を感じるというのに、この六人のペインの中に長門の面影を感じる者は一人としていない。またも分からない事が増えてしまった。

 

「弥彦なのか……長門なのか……? お前らは一体何なんだ!?」

 

 ここまで分からない事だらけの状況は自来也とて初めてだ。苛立ちと困惑を見せる自来也に対して弥彦は、ペインは言う。

 

「我々はペイン……神だ」

 

 そう言って、ペイン六道は全員で自来也を始末するべく動き出した。

 

 

 

 自来也とペインの戦いは熾烈を極めた。

 ただでさえ一体一体が強く厄介な能力を個別に持っている上に、六人全員が一個の生命のように連携を取って掛かってくるペイン。

 更に輪廻眼による視界の共有によりそのコンビネーションは更に高まっている。このペインを相手に戦って無事でいられる忍が果たしているのだろうか。

 だが自来也はそんなペインを相手に善戦していた。

 

 口寄せを使うペイン――畜生道――が口寄せした巨大な犬を髪の毛を伸ばして操作し対象を締め付ける乱獅子髪の術にて縛り、そしてそれを振り回して巨大な武器とする。

 この巨大犬は増幅口寄せと呼ばれる特殊な術に縛られており、攻撃を受ける度に体が増えるという特殊な口寄せだ。しかも分裂と融合までする事が出来る。

 それは先の戦闘にて理解していたので自来也は髪の毛で縛りつけて増幅しても分裂出来ないようにしたのだ。

 

 巨大な質量の武器と化した口寄せ動物はペインに当たる前に口寄せを解除される。

 そして全身に兵器を仕込んだ傀儡人形のペイン――修羅道――が肉体のあらゆる箇所からミサイルを放つ。

 自来也はそれをシマの火遁とフカサクの風遁、そして自身の蝦蟇油弾を組み合わせて放たれる強大な火遁、仙法・五右衛門にて迎撃。

 そのままあわよくば修羅道をとも思っていたが、それは術を吸収するペイン――餓鬼道――によって防がれてしまう。

 

 対象の頭に手を当てる事で対象の記憶や情報を読み取る能力を持つペイン――人間道――が黒い棒状の武器を持って自来也を攻撃する。

 それを避けて反撃をするが、その反撃は弥彦の肉体を持つペイン――天道――によって防がれた。

 だがそれは自来也には予想された行動だった。どのペインも人間道を庇うには遠く、唯一近くにいた天道のペインのみが助ける事が可能だと読んでいたのだ。

 弥彦の肉体だが、もはや問答は無用。ここで倒さなくてはペインは更なる災厄を生み出すだろう。その果てに平和があったとしても受ける痛みは代償としてはあまりにも高すぎる。

 既に覚悟を決めていた自来也は螺旋丸を作り出し、それに更に火遁を混ぜ合わせた火遁・極炎螺旋丸を放つ。

 

 形態変化の極限である螺旋丸に火の性質変化を組み合わせるという会得難易度で言えば最高峰のSランクに当たる術だ。

 そしてその威力は桁外れと言ってもいいだろう。螺旋丸によって高速回転している渦が炎を帯びて更に威力を増し、あらゆる物を焼き滅ぼす極炎と化すのだ。

 当たればまず死は免れない。そして、避けられるタイミングではなかった。ペイン六道が不可思議な力にて蘇るとしても、肉体が欠片も残っていなければ復活も到底出来ないだろう。

 

(すまんな弥彦! 地獄で会おうぞ!)

 

 だが、自来也のその必殺の一撃は……攻撃対象であるペイン天道によって防がれる事となる。

 

「ぐぅぅっ!?」

「な、なんじゃこれは!?」

「自来也ちゃん!? 大丈夫か!?」

 

 攻撃が当たる寸前に、何故か自来也は後方へと大きく吹き飛ばされ、そして雨隠れの里の周囲を覆っている水へと叩きつけられる。

 この謎の力によって吹き飛ばされるという現象に自来也だけでなくフカサクとシマも困惑しているようだ。

 それもそのはず。極炎螺旋丸は確実に当たるタイミングだった。あの瞬間に何をしようとも避ける事はおろか防ぐ事も不可能なはず。だと言うのに、自来也は突如として謎の力によって吹き飛ばされたのだ。

 

「こ、これはあの時の……!」

 

 水面から上がってきた自来也は驚愕の瞳でペイン天道を見つめ、そしてそれがペイン天道が最初に放った謎の力と同じ物であると判断する。

 相手を吹き飛ばすどころか、自来也の持つ術の中で最大の攻撃力を誇る極炎螺旋丸まで無効化するという有り得ない力。

 これがペイン天道の能力。己を中心として引力と斥力を操るという強大無比な能力である。

 その力は物体はおろか忍術全般を弾き返す。つまりこの力がある限りペイン天道にダメージを与える事は実質不可能というわけだ。

 いや、幻術ならば可能性はあるが、六人の敵に囲まれているこの状況で幻術などしてもすぐに無効化されるか、そもそもペインに効果的な強力な幻術など発動自体を許しはしないだろう。

 

「流石は伝説の三忍。流石は我が師。たった一人でこのペイン六道を相手にここまで戦えるとはな……」

 

 それは素直な賞賛の言葉であり、そして上から見た意見でもある。

 だが真実それは自身が負ける事がないという自負からの言葉なのだろう。ペイン六道に隠された秘密を解き明かし攻略しない限り、ペイン六道に対して勝ち目等ないのだから。

 

「随分と上から目線だのぉ。そういうのはな……」

 

 水面の上に立ち、全てのペインから見下ろされている自来也はそう言いつつ一拍間を置く。

 そして、次の言葉を放つ前に、ペイン餓鬼道の後ろの水面から現れたもう一人の自来也が餓鬼道へと奇襲の一撃を喰らわせた。

 

「なに!?」

「ワシを倒してからほざくんだのゥ!!」

 

 強烈な一撃は確実に餓鬼道の命を奪った。術を吸収する厄介な防御役であるこのペインさえ倒せば、一番厄介なのはペイン天道のみ。

 自来也は水の中に入ってから水面に上がってくるまでに影分身の術を使用していたのだ。それを水中で気配を消して餓鬼道の裏側へと移動させる。

 ペイン六道は視界を共有しているが、その全員が自来也を見ていた上に、囲んでいなかったので後ろに回った影分身に気付くのが遅れたという訳だ。

 

 この時自来也が天道を狙わなかったのは奇襲すらも気付かれた瞬間にあの謎の力で防がれる可能性があったからである。

 あの避ける事も防ぐ事も出来ないタイミングですら弾かれたのだ。能力を発動するのに要する時間は限りなく零に近く、その上予備動作も必要としない。これでは奇襲も成功しづらいだろう。

 確実に殺せるだろう餓鬼道を先に始末する。敵の数は減り、そして術を吸収される事もないからやりやすくもなる。あとは蘇らされない様に攻撃を加え続けることでその隙を無くせばいい。

 だが、そう事は簡単には進まなかった。自来也はまだペイン天道の能力を過小評価していたのだ。

 

「残念だったな自来也先生……」

「ぬ!?」

 

 ペイン天道は餓鬼道と自来也の中心に立ち、そして天道の力を発動する。

 

「な、なにぃ!?」

 

 自来也が驚いたのは天道の力を発動した事ではない。その力の範囲が先程よりも圧倒的に伸びていたからだ。

 自来也は先の攻撃で天道の力の及ぶ範囲を測っていた。だが、今回のそれはその計算を遥かに上回っていたのだ。

 自来也が後方へ吹き飛ばされると同時に餓鬼道の死体も反対方向へと吹き飛ばされる。そしてそこにいたのは地獄道と呼ばれるペインだった。

 

 地獄道が手をかざすと、そこから閻魔を模したかのような巨大な顔が現れる。

 その閻魔像が餓鬼道の死体を口の中に入れ、そして再び口を開いた時……その口の中から餓鬼道は完全な姿となって新たに現れたのであった。

 

「何じゃと!」

「こげん馬鹿な話があるかい!?」

 

 フカサクとシマが驚愕する。ペインと戦い始めて何度目かも分からない驚愕だ。

 だがそれも当然だろう。倒しても倒しても復活をするというふざけた能力を持つ敵を相手にしているのだから。

 

「そ、そうか! あのペインが他のペインを復活させていたのか! だから……!」

 

 だから後ろにいたのか。自来也はペインの陣形を理解した。

 自来也の予想通り、地獄道は他のペインを復活させる能力を持っている。正確には人間の魂を抜き取り、それを死したペインに与える事で復活させているのだ。

 この地獄道こそがペイン六道の生命線だ。だからこそ常に自来也から一番離れた位置で積極的に攻撃をせずに戦闘を見守っていたのだ。

 

「これで再び元の六対一だ。ここまで善戦出来るとはな、伝説に偽りなしか。……だが、もう終わりだ」

 

 ペイン六道が、自来也に止めを刺すべく襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

「くっ……! よ、ようやく一体か……」

 

 自来也はどうにかペインの一人、畜生道を倒す事に成功する。蝦蟇結界により蝦蟇の中に引きずり込んで止めを刺したのだ。

 これにより結界内部に死体を留めておく事で地獄道による復活を阻止する事が出来る。つまりペインの数が減ったという事だ。

 だが、それに至るまでに自来也が受けた傷はとても代償にあっているとは言えなかった。

 全身の多くは傷ついており、右肩にはペインが持っている黒い棒状の武器が突き刺さっている。いくつか骨も折れているだろう。

 自来也の強さを警戒したペインが天道の力を巧みに使い、自来也から攻撃の手段やタイミングを奪いさったのが苦戦の一番の理由だ。

 ペインの生命線は地獄道だが、もっとも厄介なのは天道であると自来也は身を持って知った。

 

「ッ!? 体が……!? チャクラが乱される!!」

 

 畜生道を倒して結界の中で一息ついていた自来也のチャクラが突如として乱される。

 その原因が自来也に突き刺さっている黒い棒だと察したフカサクは即座に自来也から黒い棒を抜きさった。

 黒い棒が抜かれた事で自来也のチャクラの乱れは収まる。正体も奇妙ならば武器まで奇妙と来たものだ。どうすればペインに対抗する事が出来るのか、自来也には見当も付かなかった。

 

(いや……アカネならばどうにか出来そうだから笑えるのォ)

 

 自分よりも遥かに長く生きている理不尽の権化を思いだして自来也は苦笑する。

 きっとアカネならばペイン六道が相手でもどうにかしてしまいそうだと思わずにはいられなかった。

 

 自来也は今ここにいない人間を思う事を止め、ペインの謎について思考を巡らせる。

 ペイン天道の顔は間違いなく弥彦であると自来也は確信する。だが、弥彦は輪廻眼を持っていなかった。

 ならば弥彦が何らかの理由で長門から輪廻眼を奪い取ったのか。しかしそれも解せない。何故なら他にも輪廻眼を持つ者があれだけいるからだ。

 更に戦いの前に人間道が話していた内容からは長門の言葉を思わせるものもあったのだ。ならば目の前で死体となっている畜生道はやはり長門なのだろうか。

 

 自来也がそう思った時、畜生道の額当てが外れ落ちた。激戦の中で留め金が緩んでしまったのだろう。

 そうして畜生道の額が顕わになったのを見た時、自来也はかつての記憶を思いだした。

 

「そうだ……思いだした! こいつは長門なんかじゃない!」

 

 そう。畜生道の体は長門の物ではなかった。自来也は畜生道の額にある横一筋の傷を見てそれを思いだした。

 それはかつて自来也が旅をし始めたばかりの頃に山道で襲ってきた風魔一族の男だったのだ。額の傷を付けたのは自来也なので間違えようがなかった。

 何故その男がペインの一人としてここにいるのか。深まる謎に対して、自来也にはある予想が浮かび上がっていた。

 だが予想は予想。確信には至らない。ならば確信する必要があった。それがペイン打倒に繋がる秘密となるからだ。

 

「ワシはもう一度奴らの前に出て確かめたい事があります……お二人はお帰り下され」

 

 それにはフカサクもシマも猛反対した。既に自来也は死に体だ。生きているのが不思議な程の猛攻を受けたのだ。

 ペイン六道を相手に今も生き延びている。それは自来也の強さの証と言えよう。

 だが次にペインと相対すれば間違いなく自来也は死ぬ。そうフカサクとシマは確信していた。

 

 だが自来也が自身の意見を曲げる事はなかった。今を除いてペインの正体を掴む機会はないだろう。

 先程はああ思ったが、実際にペインを相手にしてアカネですら勝てる保証はないのだ。

 そもそもペインが里を襲ったとして、アカネを頼る事すら出来ない状況に陥る可能性もある。そうなれば多くの忍が命を落とすだろう。

 それを防ぐ為にもここで少しでも多くの情報を手に入れなければならないのだ。

 

 覚悟を決めていた自来也はフカサクとシマに今までの情報と人間道の死体を持ち帰るよう頼む。

 そしてそれを了承したのはシマのみだった。フカサクは自来也に付き合ってペインと戦おうと言っているのだ。

 全てが終わったら自来也と共に飯を食べに帰ると妻であるシマに約束して……。

 

(ありがとうございます……。……ぬっ!?)

 

 自来也は二人の優しさに深く感謝する。だが、次の瞬間に何かに気付いて驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 蝦蟇結界から外へと飛び出した自来也は気配を消して水中を進み、静かに水面から顔を出して修羅道に苦無を投擲する。

 死角から放たれた苦無だが、それは五つの視界を共有するペインには通用しなかった。鋭く投擲された苦無は容易く躱されてしまう。

 そして残る五人全てのペインが自来也を睨みつける。そして同じく自来也も五人のペインを良く見ていた。

 そこで自来也は予想を確信へと変えた。

 

(間違いない! こいつら全員ワシの会った事のある忍だ!!)

 

 その確信を得て、そしてこれまでの全ての情報を繋ぎ合わせた結果、自来也はペインの正体に行きついた。

 この情報を必ず木ノ葉へと伝える。そしてその為にするべき事も理解しており、覚悟も決めていた。

 

「ッ!!」

 

 水面から奇襲を仕掛けてきた修羅道の一撃により自来也は喉を潰される。その上で残る四人のペインがあの黒い棒にて自来也を串刺しにしようとする。

 それを自来也はどうにか二本ほど防ぐが、やはり奇襲により体勢を崩していた事により残る二本を避ける事は出来なかった。

 

「――ッ!」

 

 喉を潰されて声も出ないままに自来也は血を吐き出す。

 だが最後に残った力を振り絞り、一人でも多くのペインを倒そうとして螺旋丸を作り出して……そのまま倒れ込んでしまい、最後の螺旋丸は足場である岩を崩すだけに終わった。

 

 そうして自来也は力なく水中へと沈んで行く。それを見届けたペインは自来也の死を確信する。そして再び同じ言葉を口にした。

 

「伝説の三忍自来也もついに死す、か。我らにこの秘密が無ければ勝てはしなかっただろうな。流石は我が師だ」

 

 そうして自来也の強さを褒め称えた所でペインは誰もいない方向に顔を向けて話だす。

 

「ところで……そろそろ出て来い」

 

 その言葉と共に現れたのはゼツだ。地面や木々と同化するという特殊な能力を持っており、潜入任務や情報収集にはうってつけの男である。

 

「かなりかかったね」「相手ハアノ自来也ダッタノダカラナ」

 

 ゼツはその左半身が白く、右半身が黒く染まっていた。そして思考もそれぞれ左と右で違っているという不可思議な存在であった。その正体を知る者は殆どいない暁でも謎の存在である。

 

「とんだ邪魔が入った。他の奴らは準備が出来ているか?」

「うん。後はペインだけだよ」「サテ、木ノ葉ガ崩壊スルノヲ見学サセテモラオウカ」

 

 ゼツは情報収集に特化した能力ゆえかそれほどの戦闘力は持ち合わせていない。少なくとも木ノ葉襲撃に参加すると途中で倒される事は間違いないと他の暁には思われている。

 なので暁が木ノ葉へと仕掛ける戦争には参加せず、能力を駆使して見学に徹するつもりなのだ。それに関しては暁全員が認めていた。うかつに死なれては今後の情報収集に差し支えるからだ。

 

「悪いが少しばかり時間を貰う。オレも少々消耗したからな」

「そうなの?」「三忍ノ名ハ伊達ジャナカッタカ。大蛇丸ヨリ強インジャナイカ?」

 

 自来也の奮闘はペインを大きく消耗させていた。その回復にはしばしの時間が掛かるだろう。

 それをペインは苦々しく思うも、今はそれを忘れて回復に集中する事にした。

 

「じゃあ回復したら教えてね」「ソノ時ガ木ノ葉ノ最後カ。楽シミダ」

 

 そう言ってゼツは地面へと溶け込み姿を消していく。

 ゼツの姿が消えて無くなった後にペインは小さく呟いた。

 

「さあ、世界に痛みを与えよう」

 

 痛み。それこそが世界を成長させて平和へと至らせる唯一無二の手段。そう信じてペインは歩み続ける。

 

 




アカネ(影分身)「どうも、孤児院の護衛です」
大蛇丸「ちょ、おま」

アカネのこの便利さである。


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NARUTO 第十九話

 今、木ノ葉の里をある衝撃が襲っていた。

 二代目三忍自来也死す。それは多くの忍にとって信じがたい出来事であった。

 三忍とは木ノ葉にとって特別な称号だ。それは初代三忍が木ノ葉の設立者であり、そして並ぶ者がいない実力者だったからである。

 それは二代目三忍も同じだ。多くの忍にとって三忍とは雲の上の存在なのだ。

 

 その三忍である自来也が暁のリーダーであるペインに敗れた。

 強く、里を愛し、忍の文字に恥じない忍耐を持つ彼が死んだ事も衝撃だったが、暁のリーダーが自来也を上回る強さという事もまた木ノ葉を揺るがしている衝撃であった。

 あの三忍でも勝てなかった。それを知って危機感を覚えない忍は木ノ葉にはいないだろう。

 

 そして、自来也の最後の弟子であるナルトもまた、自来也の死を知って嘆き悲しんでいた。

 

 

 

「何でそんな無茶を許したんだってばよ!!」

 

 ナルトは火影室で綱手に詰問していた。暁という危険な組織のリーダーがいるアジトに一人で潜入任務をする。それがどれだけ危険な任務かはナルトにも理解出来る。

 だというのに、そんな危険な任務を自来也一人で行かせたのだ。それがナルトには許せなかった。

 正確には自来也が自ら買って出た任務であり、一人ではないと逆に難しい任務であり、そして綱手は反対をした側なのだが、最終的に一人で行かせた事に変わりはないと綱手はナルトの言葉を否定しなかったのだ。

 

「バアちゃんはエロ仙人の性格を良く分かってんだろ! たった一人でそんな危ねー所に――」

「よせナルト。五代目の気持ちが分からないお前じゃないだろ」

 

 なおも綱手を責めるナルトをカカシが宥める。ナルトとて綱手が親しい人の死をどう受け止めているかは理解している。

 だが、理解出来るからと言ってそれで納得出来る程ナルトは大人にはなっていなかった。

 

「くそ! 大体、そんな危険な任務ならアカネが一緒にいれば良かったじゃねーか!」

 

 それを聞いてアカネは顔を僅かに顰めるが、すぐに表情を元に戻してナルトへと言葉を返した。

 

「私とて常に誰かに付いていられる訳ではありません。忍の世界に死とは切っても切れない物。どんな強者でも死ぬ事はあります。私がいればどうにかなると思っているなら大間違いですよ」

「う……」

 

 静かだが、しかしはっきりとした物言いとアカネから放たれた圧力にナルトは気圧されて何も言い返せなくなる。

 任務と死は隣り合わせ。それは分かっていたつもりだった。だが、親しい人の死に慣れていないナルトにはやはりつもり(・・・)だったという事だろう。

 

「くそ!」

 

 ナルトは五代目火影が自来也だったならば綱手にこんな無茶をさせていなかったと悪態を吐いて火影室から退室する。

 

「ナルト!」

「サクラ……いい。少しそっとしておいてやれ。それよりも、お前も退室しろ。少し緊急の話し合いがある」

 

 そんなナルトを追いかけようとするサクラを綱手は止め、そしてサクラにも退室を促した。

 今のナルトには時間を与えた方がいいという綱手の判断だろう。その言葉に従いサクラはナルトを追う事はなく、自身も退室した。

 

「……オレはいいのか?」

 

 サクラは退室させて自分は残される。それを不思議に思ったサスケは綱手に問い掛ける。

 

「お前には頼みがある」

「……ちっ。分かったよ。オレも今のナルトじゃ戦い甲斐がないからな」

 

 サスケは綱手が何を頼みたいのかすぐに理解した。

 今のナルトは大切な師匠が死んでしまい落ち込んでいる。優しく慰めてあげる事も必要だが、発奮を掛けた方が上手くいく場合もある。特にナルトの様なタイプだとそうだろう。

 

「理解が早いな……流石はライバルというところか」

「ふん」

 

 綱手が親友と言わなかったのは言っても拒否されるからだ。

 だがこんな親友がナルトの近くにいてくれた事を綱手は内心感謝していた。

 

「だが、今日の所は放っておいてやってくれ。あいつも一人で考えたい事もあるだろうしな」

「過保護すぎんぜアンタ。まあいい、それじゃあオレは行くぜ」

 

 そう言ってサスケは火影室を退室する。口ではこう言っているが、親がいないナルトにはこれくらいの理解者がいてもいいだろうという思いもあった。

 

「ウスラトンカチが……」

 

 その理解者を罵倒して出て行ったナルトに若干の怒りを感じつつ、同時に自来也が死んだ事で悲しむ気持ちも理解する。

 自分だったらどうだろうか。そう考えればぞっとする。家族が任務で死んだら自分は怒り憎しみ、そして何を捨ててでも復讐に走るだろう。そんな嫌な自信があったからだ。

 

「ちっ! オレは何を考えている……」

 

 起こっていない出来事を考えて嫌な気持ちになるという何の得にもならない事をする自分が馬鹿らしくなり頭を振る。

 自来也が死んだ事で意外に影響を受けているのか。そう思ったサスケは気分を変えるべく窓から飛び出して外の空気を浴びに行った。

 

 

 

 ナルト達が退室した火影室では残る四人による話し合いが始まっていた。

 まあ、四人と言っても一人は蛙なので三人と一匹というのが正しいのかもしれないが。

 

「さて、問題はペインの能力だな」

 

 綱手はまずそこからだと話を切り出す。ペインの能力が理解出来なければ自来也と同じく返り討ちにあってしまうだろう。

 

「うむ。奴らは――」

 

 ペインの能力を自来也と共に体験したフカサクが知りうる限りの情報を顕わにする。

 それを聞いたカカシはペインの底知れなさに恐怖する。一人で挑んで勝てる相手ではない。ここまでの情報を手に入れた自来也の奮闘に頭が下がる思いだ。

 

「視界の共有と個体ごとの固有能力。大まかにはこれくらいですが、その固有能力がまた厄介ですね」

「うむ。特に復活と斥力の様な能力。これらをどうにかしない限り勝ち目は薄いな。……ばあ様はどうだ?」

 

 ペインの能力について纏めていた綱手はそれらの能力を相手にアカネが勝てるかどうかを確認する。

 どうにも綱手ですら自分を頼る気持ちが零ではないようだ。そう思うアカネだが、まあ人に頼る事は全てが悪い事ではないかと思い直す。

 物事の全てを他人に頼っては成長にはならないが、緊急事態なら話は別だ。それに綱手は常日頃からアカネに頼っている訳ではないので問題はないだろう。

 

「まあ、体験してみない事にはどうとも言えませんね。その斥力とやらが私の想像以上なら私でも苦戦するかもしれません」

「……そうか」

 

 アカネでも苦戦するやもしれないペインの実力に驚くべきか、自来也を圧倒したペインに苦戦で済ませるアカネに驚くべきか。アカネを除くこの部屋の者達は全員が同じ思いを抱いた。

 

「それに伝説の輪廻眼です。他にも能力があってもおかしくはありません」

 

 アカネは友であり同志であり好敵手でもあったうちはマダラを思いだす。

 マダラの持つ写輪眼を超えた万華鏡写輪眼は凄まじい瞳力を有していた。特に完成体と呼ばれる須佐能乎の威力は天を裂き地を砕き山を断つ程だ。

 そして輪廻眼と言えば三大瞳術の中で最も崇高と謳われている代物だ。ならばマダラの万華鏡写輪眼を超えていてもおかしくはない。

 自来也と戦った時ですら本気ではなかったのかもしれない。そうであるならばアカネとて勝てるとは言い切れなかった。

 

「警戒するに越した事はないな……。フカサク様、他に情報はないのか?」

「うむ……どうもあのペインは全て本物ではないようじゃ」

「本物では……ない?」

 

 綱手の言葉にフカサクは首肯し、そして詳細を述べた。

 

「これは自来也ちゃんが気付いたんじゃがの。あのペイン六道は全て過去に自来也ちゃんが出会った事のある忍の様なのじゃ」

「……? つまり、そいつらが全員輪廻眼を持っていたのか?」

「いや、そうではない。自来也ちゃんが出会った時には誰も輪廻眼など持っておらんかったそうじゃ。つまり、ペイン六道は後天的に輪廻眼を得たという事になる」

 

 後天的に輪廻眼を手に入れる。それが事実ならどれ程恐ろしい事か。

 一人ならまだしも、六人もの人間が輪廻眼を後天的に得るなど出来る訳がない。輪廻眼の大量生産を可能とするならそれだけで忍界を牛耳る事が出来るだろう。

 

「これも自来也ちゃんの予想なんじゃがな。恐らく輪廻眼を持つ者はかつての自来也ちゃんの弟子である長門一人じゃろう」

「だったら何故そんなにも輪廻眼を持つ者がいるんだ?」

「……ペイン六道の中に長門とやらはおらんようじゃった。恐らくその長門本体が全てのペイン六道を操っている。そうであるならば納得が行く話じゃ」

 

 フカサクの言葉を聞いた三人はこれまでの情報を吟味する。

 一個体につき一つの固有能力。六人全員が持つ輪廻眼。全ての視界を共有。全身に刺さったチャクラを乱す黒い棒。死体の復活。そしてペイン六道はかつては誰も輪廻眼を持っていなかった。

 長門本人がペイン六道に己の力を分け与えて全てを操作している。確証のない推測だ。だが、確かにそう言われると全てに納得が行った。

 

「だとしたら本体を倒さない限り……」

「ペインを倒した事にはならない、な」

 

 カカシと綱手が難しそうに呻く。ただでさえ強いというのに、本体がどこにいるかも分からずに倒す事が出来るのだろうか、と。

 

「とにかく今は自来也のおかげで手に入れた情報源から新たな情報が得られる事を期待しましょう」

「……そうだな」

 

 黒い棒とペイン六道の一人餓鬼道の死体、そして雨隠れの忍。これら全てを調べ上げれば更なる情報が得られるだろう。

 そうなればよりペインの秘密に近付けるやもしれない。今はそれを待つしかないと綱手も判断した。

 

「さて、ではナルトですが……明日になって本人の気持ちが定まっていれば仙術の修行をつけましょう」

「ようやくか……こう言っては何だが、もっと早くにしても良かったんじゃないか、ばあ様?」

 

 綱手の疑問は分からなくもない。既にナルトの基礎能力は仙術を学ぶに十分過ぎる程に達している。

 仙術を身に付けるには自然エネルギーに負けないくらい多くのチャクラを有していなければならないが、ナルトは完全に基準値を超えていた。

 それでもアカネがナルトに仙術を学ばせなかったのには理由があった。

 

「もちろんナルトに仙術を教える事は吝かではなかったのですが……今の第七班の関係が非常に上手く回っていましてね……」

 

 そう、アカネの言う通り今の第七班の関係は非常に上手く行っていた。それはそれぞれの力関係についてだ。

 ナルトは現状でもサスケとほぼ互角の力量に至っている。それでもナルトはサスケに負ける事が多いので必死に努力して修行し、サスケはナルトに追い付かれまいと修行に更に励み、同じ様にサクラも二人に追い付こうと努力する。

 だがナルトが仙術を覚えてしまうとこの関係が崩れてしまう可能性があるのだ。

 

 仙術を覚えたナルトは確実にサスケを圧倒する実力を得るだろう。もちろんそうなるとサスケも負けじと努力するだろうし、サクラも同じだ。

 だがアカネの理想としては今の力量関係を維持したままの方が実力の伸びが早いのだ。仙術を覚える事はいざとなればいつでも出来るので後回しにした結果である。

 更に言えばナルトの向上心が減少する可能性も考慮していた。サスケを圧倒する実力を得て調子に乗って修行への気の入り方がこれまでと比べて減少するだろうというアカネの予想だ。

 これに関しては修行をしなくなるという事はないだろうが、確実に起こり得る事態だとは思っていた。人間は目標を達成すると気が抜けてしまうものなのだ。

 

「ですが、自来也の死という衝撃を受けたナルトならばその心配もないでしょう。理不尽な力から誰かを守る為には自身にも力が必要。それをナルトなら分かるはずです」

「……そうだな。荒療治だが、これが忍の世だ。ナルトには悪いが今回の件を糧にして欲しい……」

 

 死に慣れては欲しくないが、死と隣り合わせの世界に生きている。その実感はして欲しい。そういう贅沢な願いを籠めて綱手は呟いた。

 

「ナルトならきっと乗り越えてくれる。私はそう信じている」

 

 

 

 

 

 

 自来也の訃報から一夜明けた木ノ葉の朝。ナルトは未だ自来也の死から立ち直れずに自室にて籠もっていた。

 昨夜に恩師であるアカデミーの講師イルカに慰め励まされたが、やはり完全に振りきれてはいないようだ。

 部屋の明かりを点けるのも億劫だ。そんな風にナルトが沈んでいる時、玄関のチャイムが鳴り響いた。

 無視しようかという思いもあったが、何か重要な任務に繋がる話かもしれない。忍としての習性が捨てきれずにナルトはゆっくりと玄関へと移動する。

 そして扉を開いた時に驚愕した。そこには同じ第七班にしてライバルであるサスケの姿があったからだ。

 今までサスケがナルトの家を訪ねた事はなかった。だからこそ余計に驚愕したのだ。

 

「サスケ……な、何の用だってばよ?」

「ちょっと面貸せウスラトンカチ」

 

 いつもなら反応しているその罵倒にナルトは呆ける事しか出来なかった。

 サスケの剣幕に押されての事だが、そんなナルトを見てサスケは苛立ちを覚える。

 

 サスケはナルトの返事を待たずにさっさと移動する。

 

「ちょ、待てよサスケ!」

 

 ナルトは慌ててサスケの後を追う。

 道中サスケは一言も言葉を発さず、それに対してナルトも何も言えなかった。

 

 そうして二人が付いたのは演習場の一つだった。

 

「おい、どうしてこんな場所に来るんだってばよ!?」

 

 まさか今この状況で戦おうと言うのか。だったら別の時にしてくれ。

 そう言おうと思っていたナルトだが、その言葉を口にする事は出来なかった。

 

「ぐあっ!?」

 

 ナルトに背を向けていたサスケが突如として振り返ってナルトを力いっぱい殴りつけたからだ。

 サスケの突然の行動にナルトは反応する事も出来なかった。そしてその隙を突いてサスケは何度もナルトを殴り、蹴り飛ばす。

 

「な、何しやがる……!」

 

 蹴り飛ばされて距離が開いた事でようやくナルトはその言葉を口にする事が出来た。

 怒りを顕わにするナルトに対して、サスケはそれ以上の憤怒を見せていた。

 

「気に入らねェんだよ」

「……なっ!?」

 

 サスケから放たれる怒気と、写輪眼となったその鋭い視線にナルトは気圧された。

 

「さっきから何だその態度は。いつからお前はそんなに腑抜けになった? あの程度の攻撃なんざ修行でいくらでも受けてきただろうが。それが反応する事すら出来ないとはな。無様だなナルトォ!」

「うっ……く……」

 

 サスケは気に入らなかった。今のナルトの全てが気に入らなかった。

 自分に追い付こうと追い抜こうとするナルトはどこにもおらず、ただの負け犬がそこにはいた。

 あの程度の剣幕に気圧されてのこのこと付いて来て、あの程度の奇襲に反応出来ずにただ殴られるままでいて、この程度の怒気に気圧されて何も言えなくなる。

 そんなナルトはサスケの知るナルトではなかった。サスケの知るライバルの姿ではなかった。それがサスケには心底我慢出来なかった。

 

「これがオレと同じ班の一員か! これがオレの認めた男か! これがオレの……クソがっ!」

 

 最後の言葉を飲み込んで、サスケは怒りのままにナルトに突撃した。

 

「ナルトォ!」

 

 忍術も幻術も使わない。ただ体術のみで攻撃する。いや、振りかぶって殴っているだけで、それは体術と呼ばれる物ですらなかった。

 そう、子どもの喧嘩の様に力一杯に攻撃しているだけだ。

 

 五発、六発と殴られていく内に、ナルトにはサスケの思いが理解出来てきた。

 

(……そうか……)

 

 サスケは悔しかったのだ。自分が認めた男が腑抜けになった様を見て。

 サスケとて最初はただ発破を掛けるだけにするつもりだった。だが、ナルトを一目見た瞬間にそんな気持ちが吹き飛んだのだ。

 こんな男が自分のライバルなわけがない。こんな男がオレの……オレの最も親しい友なわけがない。

 そんな思いを籠めて、不器用なサスケはただ全力でナルトを殴りつけているのだ。

 

(すまねぇ……サスケ……)

「おおお!」

 

 サスケが放ったテレフォンパンチをナルトがまともに喰らう。それを見てサスケは目を見開いた。

 サスケには分かったのだ。今の一撃をナルトはわざと受けたのだと。

 そしてナルトは吹き飛びつつも倒れる事なく踏みとどまり、叫んだ。

 

「サスケェ!」

「がっ!?」

 

 助走を付けて思い切り振り被り叩きつけた拳をサスケはまともに喰らう。

 吹き飛ばされつつも、サスケもナルトと同じ様に踏みとどまり、そしてナルトと同じ様に叫びながら前に出る。

 

「うおおおぉ!」

「ぐぅ!!」

 

 またも吹き飛ばされるナルト。そして再びサスケを全力で殴り飛ばす。サスケも負けじとナルトを殴り返す。

 そこにあったのは忍同士の戦いではなく、ただの意地の張り合いであった。

 

 

 

 どれだけの時間が過ぎたのか。本人達は数時間は経ったかの様に思っていたが、実際は十分も経ってはいなかった。

 二人は既にボロボロだ。避ける事もなく全力で殴り合えばそうもなろう。だが、それでも二人の顔はどこか晴れ晴れとしていた。

 

「……今日もオレの勝ちだウスラトンカチ……」

「……当たり前だろうが……お前の方が先に殴ってんじゃねーか」

 

 サスケの言う通り先に倒れたのがナルトだったので勝者がどちらかと言えばサスケだろう。

 だがナルトの言う通り最初にナルトを多く殴っているのでそれだけサスケが有利だったのは当然だ。

 

「……いつまでもウジウジしてんじゃねーよ」

「ああ……分かってんよ」

 

 それ以上の言葉はナルトには必要なかった。言葉以上に分かりやすくサスケが教えてくれたからだ。

 落ち込んでいても何も始まらない。悲しむ事が悪い訳ではない。だが、それで進む事を止めてしまっても死んだ人間は帰ってこない。

 

「エロ仙人の思いはオレが受け継ぐ……そうじゃなきゃ、弟子失格だからな……」

「……ふん」

 

 ナルトの思いを聞いたサスケはようやく自分なりの結論を見つけたかと思い、そしてその結論に至れたナルトを内心で尊敬する。

 自分とナルトの立場が逆であったならば。その時自分は同じ結論に至れるだろうか。その自信がサスケにはなかった。

 

 

 

 

 

 

「なんでこんなにボロボロなのよぉ!?」

 

 顔中ぼこぼこでもはや別人のように膨れ上がっていたナルトとサスケを見てサクラは憤慨する。

 修行でもこんなになった事はないというのに、まさに酷い有様であった。まあ、顔だけを狙ってひたすら防御も回避もせずに殴りあっていたらこうもなろう。

 

「全くもう! 本当に何時まで経っても子どもなんだから!」

「ごめんよサクラちゃん……」

「わりぃ……」

 

 手当てをしてもらっている身としては二人とも謝る事しか出来なかった。

 顔は腫れ上がって痛みを通り越して外の空気が気持ちよくなるくらいに熱を持ち、口内は鉄の味しかしていないのだ。

 これで医療忍者を怒らせて治療をしてくれなかったら当分はまともに動けなくなっているだろう。

 

「ホントにもう……男って馬鹿なんだから……」

『……』

 

 サクラのその言葉に二人は何も言えなかった。ただの侮蔑の言葉とは違う、その言葉に籠められた思いを理解したからだ。

 ちなみに近くにはアカネもおり、サクラの言葉に「うんうん」と頷いて同意していた。どうやらかつての親友達を思いだしているようだ。

 

 アカネが過去に思いを馳せている間にナルト達の傷はサクラの医療忍術により完治する。

 治療を終えたナルトはサクラに礼を述べるとすぐに火影室へと赴いた。自来也の思いを受け継ぐと決めた今、やるべき事は一つだろう。

 

「ばあちゃん! エロ仙人を倒した敵の事を詳しく教えてくれ!」

 

 ナルトがやるべき事は自来也を殺した敵を倒す事である。

 敵討ちをしたいという思いもあるだろう。だが、自来也が倒せなかった敵を自来也の代わりに倒す。それが自来也の意思を継ぐ第一歩だと思ったのだ。

 

「……少しは吹っ切れたか」

 

 突如として火影室に押しかけて第一声が挨拶でないという失礼極まりない態度であったが、綱手は不機嫌になるどころか昨日とは打って変わったその顔を見ることで笑みを浮かべた。

 

「いいだろう。だが、ペインの情報を教えたところで今のお前をペインと闘わせるわけにはいかん」

「なんでだよばあちゃん!? エロ仙人の(かたき)はオレが討たなきゃならないんだ!」

 

 気持ちの整理をつけてやる気を漲らせていたナルトに今の綱手の言葉は納得が行かなかった。

 だが綱手としても言い分がある。負けると決まっている闘いをナルトにさせるわけには行かないからだ。

 

「今のお前ではペインには勝てん。九尾の人柱力であるお前がペインに負けてしまえばどうなるか……お前も風影を通じて理解しているはずだ」

「っ! ……だったら、このまま黙って他の奴らがペインを倒すのをみてろって言うのかよ!?」

 

 暁に負けた人柱力がどうなるか。それは我愛羅の一件でナルトも良く分かっていた。綱手の言い分も理解出来る。

 だが、だからといって「はい分かりました」と言って納得出来るナルトではない。

 それを綱手も良く分かっている。だからこそ、ナルトのその噛みつくような言葉に不敵に笑って答えを返す。

 

「勘違いするな。私は今のお前では、と言ったんだ」

「え? ……どういうことだってばよ!?」

 

 ナルトの疑問には綱手の代わりにフカサクが答える。

 

「ナルトちゃんには妙木山で仙術の修行をしてもらう。仙術を身に付けん限りにはペインに抗う事も出来んからのう」

「せん……じゅつ?」

「そうじゃ。自来也ちゃんも身に付けていた力じゃ」

 

 自来也も身に付けていた。それを聞いたナルトは目を見張りフカサクに掴みかかるように確認をする。

 

「それでホントにペインに勝てるのか!?」

「それは分からん。じゃが、今のままでは勝ち目がない事は確実じゃ」

「……」

 

 それを聞いたナルトはどの道これ以外に方法がないと理解する。

 仙術を身に付けなければ綱手はペインとは闘わせようとしないだろうし、そもそも勝ち目がない。

 ならば答えは簡単だ。例えどれほど厳しい修行だろうと必ず乗り越えて仙術を身に付ける。それ以外にない。

 

「仙術の修行は想像以上に厳しいぞ! それでもやるかえ?」

「エロ仙人にも出来た事だろ? だったらオレだって負けねぇ! やってやる!!」

 

 そうしてナルトの仙術修行が始まった。

 妙木山は木ノ葉から歩いて一ヶ月は掛かる上に、秘密のルートを知らない限り辿り着く事すら不可能な秘境にある。

 だが蝦蟇と口寄せ契約を結んでいる者ならば逆口寄せにより直接妙木山へ移動する事が出来るのだ。

 妙木山へと辿り着いたナルトは蝦蟇仙人から厳しい仙術修行を受ける事になる。

 

 だが、ナルトが修行に励んでいる間も時は全てのモノに等しく流れていく。

 ナルトが妙木山に赴いてから一週間。とうとう暁が木ノ葉へと襲撃を仕掛けたのである。

 

 

 

 

 

 

「ちっ……」

 

 修行が上手く進まずに舌打ちをするサスケにアカネは宥めるように話しかける。

 

「焦る必要はありませんよ。自然エネルギーは簡単に感じ取れるものではありませんから」

 

 アカネの言葉が示す通り、サスケは自然エネルギーを感じ取る修行をしていた。

 もちろんその理由は仙術を得る為であり、仙術を得る理由はナルトに負けたくない為である。非常に分かりやすい男であった。

 

「妙木山以外にも仙術を学べる場所はないのか?」

 

 ナルトが妙木山に旅だってから一週間しか経っていないが、それだけの期間を掛けて修行の成果が出なかった覚えがないサスケは一向に進まない仙術修行に苛立っていた。

 正確には仙術を学ぶ上で最高の環境である妙木山にいるナルトが自分よりも先に進んでいるかもしれない事に苛立っているのだが。

 

「あるにはありますよ。湿骨林と龍地洞です」

「……それはなに(・・)なに(・・)の秘境だ?」

「湿骨林が蛞蝓で、龍地洞が蛇ですね」

「……その中じゃ蛇がマシか。じゃあ――」

「残念。私も龍地洞の場所は知りません。湿骨林なら分かりますよ?」

「……遠慮しとく」

 

 サスケはナルトが仙術修行をしていると聞いた当初は自分も妙木山に行くと言い出していた。

 だがアカネからの説明を聞いて前言撤回した。その説明とは、秘境にて仙術を会得するとその秘境の特徴が現れるというものだった。

 つまり蝦蟇の秘境である妙木山で仙術修行をすると、仙人モードになった時に蛙の影響を受けて見た目が蛙っぽく変化するのだ。

 もっともこれは仙術に対する適正が高ければ変化も少なくなるのだが。ちなみに自来也は少々の影響を受けて見た目が若干蛙化していた。

 

 とにかく、それを聞いたサスケは蛙になる事を拒んで妙木山行きを取り止めた。

 ならば秘境に頼らずに仙術修行をする。それがサスケの考えであったが、流石に何のとっかかりもなしに自然エネルギーを感じ取って吸収する事は天才サスケをして難しかったようだ。

 何の成果も得られない為に妙木山以外の秘境をと確認したが、返って来た答えはサスケにとって残念極まりないものだった。

 蛙・蛞蝓・蛇ならばまだ蛇がマシと思ったが、肝心の蛇仙人の秘境である龍地洞の場所はアカネをして知らなかったのでどうしようもない。

 

「……ナメクジ可愛いのに」

「それだけは共感できねーな」

 

 今すぐカツユを口寄せしてその可愛さをたっぷりと教えてやろうか。そう思ったアカネだったが、流石にそれは止めにした。

 

「とにかくです。秘境に頼らずに仙術を会得するならそれ相応の時間が必要になります。まあ、サスケなら1ヶ月もすれば自然エネルギーを感じ取れる様になるでしょう。ですが問題は別にあります」

「問題?」

「ええ。仙術の説明はしたから覚えているでしょうが、仙術エネルギーとはチャクラの源である身体エネルギーと精神エネルギーに更に自然エネルギーを混ぜ合わせて生み出されるものです」

 

 それは修行の始めにアカネから教わった事だ。ナルトと違いそれなりに記憶力のいいサスケは当然それを覚えている。

 自然エネルギーという外なるエネルギーを加える事で内なるエネルギーのみのチャクラよりも遥かに強くなれると。

 しかも自然エネルギーは世界に溢れ返っている。使えば使うほど消耗する従来のチャクラと違い、取り込めば取り込む程逆に体力を回復するのだ。

 スタミナでナルトに負けているサスケには打ってつけの力と言えた。だからこそサスケは仙術チャクラを会得したかったのだ。

 だが、ナルトと比べてチャクラが少ない。それが仙術を得る上でのネックだった。

 

「自然エネルギーとは非常に強力な力です。その身に膨大なチャクラを持たないと自然エネルギーを取り込んだ時に逆に自然エネルギーに取り込まれてしまいます」

「自然エネルギーに取り込まれる?」

 

 それはどう言う事なのか。想像もつかないサスケに対し、アカネは恐ろしい答えを返した。

 

「自然エネルギーを取り込み過ぎた場合、その者は石へと変化してしまうのです。それも永遠に……」

「!?」

 

 それこそが仙術を学ぶ上で最も重要かつ恐ろしい事実だ。

 自然エネルギーとはあまりに強すぎるが為に下手に利用すると大きなしっぺ返しを受けてしまうのだ。

 

「今のあなたのチャクラ量ならば最低限の仙術を会得する事は出来ます。ですが、取り込める自然エネルギーの量は確実にナルトよりも劣ります」

「……」

 

 サスケのチャクラ量は決して少ないわけではない。木ノ葉の上忍の平均の倍はあるだろう。むしろ多いくらいだ。だが、ナルトはその倍以上のチャクラを持っているのだ。

 そのチャクラの差はそのまま自然エネルギーを取り込める許容量の差に繋がる。取り込む自然エネルギーがナルトよりも少なければどうなるか。それくらい馬鹿でも分かるだろう。

 ナルトとサスケが同じ仙人モードになってもその効力は圧倒的にナルトが有利だと言う事だ。

 

「どうしますか? 会得するには危険が過ぎ、会得した所でナルト程の成果を得られない。それでも仙術の修行を続けますか?」

「……」

 

 アカネの問い掛けにサスケはしばし沈黙し、そしてニヤリと笑う。

 

「少ないチャクラも要は使い様だ。そうやってオレはナルトに勝ってきた。これまでも、そしてこれからもだ。仙術も術である以上武器の一つ。質で劣っても使い手が上ならば何の問題もない」

 

 そう、サスケのチャクラがナルト以下なのは今までも同様なのだ。取り込める自然エネルギーが少なくとも、それもこれまでと変わらないだけの話。

 例え少ないチャクラだろうとそれでもナルトを上回る。手に持つ手段を最大限に生かして戦うのが忍なのだ。

 チャクラ量も、忍術も、幻術も、体術も、戦術も、仙術も、それらは全て手段に過ぎない。それを相手よりも上手く活用した者が勝者となるのだ。

 たかだかチャクラ量が劣るだけで負けるわけには行かない。それがサスケの考えであった。

 

 サスケの答えを聞いたアカネは機嫌良さそうに笑う。

 

「分かりました。それでは仙術の修行を続けましょう。まずは自然エネルギーを感じ取る事からですが……修行の前に言った様に、私がいない時には絶対に仙術の修行をしてはいけませんよ?」

「ああ……オレも石になんかなりたくないからな」

 

 最初に聞いた時はその理由が分からなかったサスケだったが、自然エネルギーを取り込み過ぎた場合は石に変化してしまうと聞けば納得もする。

 誰かにそれを止めて貰わなければ一度の失敗で永遠に自然物の仲間入りだ。それはサスケも御免であった。

 

「ではじっとして自然エネルギーを感じ取る修行を再開します」

 

 自然エネルギーは生物としての流れを止め、自然の流れと調和して初めて感じ取る事が出来る。

 その為には指先一つ動かさずにじっとしなければならないのだ。聞くだけだと簡単だが、実際にそれを実行する事は困難だ。

 動物とは読んで字の如く動く物である。動かずに居続ける事は非常に難しく辛いのである。

 

「くっ……激しい修行の方がまだ楽だぜ……」

 

 今までの修行と全く別物の修行にサスケは地獄の修行の方がまだ楽だったとこぼしてしまう。

 それを聞いたアカネは仙術を会得したら次は仙術の修行が楽だったと思わせてやろうと考え――突如として愕然とした。

 

「な……!」 

「……? お、おい? どうしたアカネ?」

 

 急に振り返ってあらぬ方向を見つめて目を見開くアカネにサスケは驚愕する。

 今までアカネと接して来て、こんな反応をしたアカネを見たのは初めてなのだ。

 心配するサスケを気に掛ける事も出来ずにアカネは小さく呟いた。

 

「穢土転生……なのか? ……マダラ」

 

 うちはマダラ。かつての同志にして好敵手にして、そして最高の友。

 そのチャクラを感じ取り、アカネは驚愕に目を見張った。

 

 




 仙術に関しては独自解釈があります。またナルトが何日で仙術を会得したのか原作を読む限りでは理解出来ませんでしたが、何十日も修行した様な描写もなかったので一週間とさせていただきました。

 SASUKE「全く世話を焼かせやがって、あのウスラトンカチが」
 原作サスケ「だ、誰だこいつ……?」
 原作ナルト「つまり、どういうことだってばよ?」
 原作サクラ(ちょっと熱血入ったSASUKE君も素敵かも……)


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NARUTO 第二十話

 木ノ葉の里から数km程離れた場所にある森の中。

 そこに一人の男が立っていた。仮面を被り顔を隠した男はそこでじっと誰かを待っていた。

 

「……来たか」

 

 待つ事僅か十数秒。僅かなチャクラを発してからその程度の時間でのご到着だ。

 流石は、等とは男は思わない。何故なら相手は日向ヒヨリ、その転生体。ならばこの程度の所業など造作もない事なのだ。

 仮面の男の前には何時の間にか日向アカネが立っていた。二人は僅かに互いを見やり、そして懐かしそうに仮面の男が口を開いた。

 

「まさか転生するなど思ってもいなかったぞ。身体は違えどこうして再びお前と相対するとはな……久しいなヒヨリ」

「……マダラ」

 

 仮面の男――うちはマダラは仮面を外すことなく会話を続ける。

 

「お前ならばオレの発した僅かなチャクラを感じ取る事が出来ると思っていたぞ」

 

 その言葉からマダラが何らかの目的があってアカネをこの場に呼び出した事が分かる。

 ではそれは一体何なのか。今のマダラは暁の象徴とも言える外套を羽織っている。それが意味する所は一つしかないだろう。

 暁の一員であるマダラの用件。それが碌な物ではないと予想しつつ、アカネはマダラが何かを言う前に先にマダラにある確認をした。

 

「お前は……穢土転生で操られているのか?」

「ふ……流石に分かるか。そう、今のオレは穢土転生で蘇った身だ」

 

 やはりそうか。マダラの返事を聞いたアカネは内心でそう呟く。

 柱間と闘い死んだはずのマダラがこうして今ここにいる理由は穢土転生による擬似的な復活くらいしかアカネは想像が出来なかった。

 そして例え実は死んではおらず生きていたという可能性もあるかもしれないが、アカネは白眼にてマダラの仮面の裏を透視しているのだ。

 そこには穢土転生の証である黒ずんだ瞳があった。写輪眼を持つマダラには似つかわしくない黒ずんだ瞳が……。

 

「だがオレは操られてなどいない。オレはオレの意思で動いている」

「……穢土転生の術者は大蛇丸なのか?」

「そうだ。お前への対抗としてオレを穢土転生したのだろうな。だが、その為にオレを生来の実力に近しく蘇らせてしまった。縛りきる自信があったのかもしれないが……ふ、三忍の名を舐めてもらっては困る」

 

 確かに今のマダラは誰かに操られている様子はない。だが操られていないという保証もまたなかった。

 会話だけは自由意志を持たせておいて肉体の主導権のみを得る事も穢土転生は可能だった。そうであるならば油断するわけには行かないだろう。

 

「まあ、それを信用しろというのは無理があるだろう。だが、オレの話は最後まで聞いてほしい。お前がオレに協力してくれるならばそれに越した事はないのだからな」

「協力?」

 

 一体何の協力をさせようと言うのか。疑心暗鬼ではあるが、マダラの話に興味を持ったアカネはその内容を聞く事にした。

 

「そうだ。……なあヒヨリよ。オレ達が目指した平穏な世界には一体いつになったら届くんだ?」

「それは……」

 

 その質問に対してアカネは何も答える事が出来なかった。いや、答えを知らない訳ではない。知っているからこそ答えられなかったのだ。

 長きを生きるアカネはそれを理解していた。人間が生きる世界で完全なる平穏など有り得ないという事を。

 人が二人いれば大小の差はあれど争いは起こる。どれだけ仲が良く協力して生きていても競争とは起こる物なのだ。そしてその競争の果てが戦争である。

 極端だがつまり完全なる平和・平穏とは人が生きていく社会では達成する事は出来ないのだ。

 

「そうだ。オレ達が目指した平和な世界にはいつまで経っても到達する事なんか出来やしない。オレが死んでからどれだけの時が流れた? それでも世界には争いが蔓延っている……無駄だったのさ、オレ達がして来た事はな」

「そんな事はない! 確かに未だに世界には争いはあるし、今でも人は傷つけあっている……。だが! それでも私達がした事は無駄じゃなかった! 争いの中にも秩序が生まれ、無駄な死は少なくなった!」

 

 自分達がしてきた事は無駄ではない。あの最悪の戦国時代を変える為の努力と、成し遂げた成果。それらを否定する事は例えマダラと言えども許す事は出来なかった。

 だが、激昂するアカネに対してマダラは冷たく言い放つ。

 

「違うな。オレ達がした事は新たな戦争を産み出しただけだ。確かに里というシステムが出来た事で小競り合いは減った。だがその代わりに里と里の戦争が出来上がった。結局は回数が減っただけでその規模は逆に大きくなった。これを無駄と言わずに何と言う?」

「それでも確実に犠牲者は減っている。あの血に塗れた時代と比べれば世界はより平穏に近付いている。今は無理でも、完全には無理でも、それでもいつかは戦争がない時代も――」

 

 争いを無くす事は無理でも限りなく少なくする事は出来る。時代は常に流れ続けているのだ、今は無理でもいつかはそこに行きつく。

 争いの少ない平和な世界を知っているアカネにはそれが夢物語ではないと実感していた。

 そんな想いを籠めたアカネの言葉を遮って、マダラはアカネに告げる。

 

「恒久的な平和。それが実現出来るとしたらどうする?」

「な……!?」

 

 恒久的な平和の実現。確かにそれが可能ならば素晴らしい事なのかもしれない。

 だがどうやって実現するというのか。それを問われて答えられる者はいるのだろうか。

 いや、答えだけならば幾つかはあるだろう。例えばだが、この世に生きる全ての人間を滅ぼし尽くせばいい。そうすれば人と人の争いはなくなり、自然本来の必要な争いしか残らなくなる。

 だがそれは本末転倒だ。人が生きていく中での平和が必要だからこそアカネは柱間達と努力してきたのだ。肝心要の人がいなくなれば何の意味も持たないだろう。

 

「オレにはその手段がある。こうして穢土転生で復活出来たのはまさに好機、天がオレに世界を変えろと言っているのだ。そしてお前が協力してくれれば確実に世界に平和を齎す事が出来る」

 

 自信を持って答えるマダラに嘘はない。それはアカネの長年の経験で理解出来た。

 だがそれ以外の何かでマダラは嘘を吐いている。それもまた長年の経験で理解出来てしまった。

 

「……一つ、いや二つ聞きたい事がある」

「……なんだ?」

「何故、柱間と闘った? その方法とは一体何だ?」

 

 アカネが一番確認したかった事。それはマダラが自分達を裏切って柱間と死闘を繰り広げた理由だ。

 ヒヨリであった当時に柱間にもそれを確認したが、柱間曰くマダラは世界を平和にする為だと言っていたという。

 だが何故世界を平和にする為に柱間と殺し合う必要があったのかがヒヨリには理解出来なかった。

 

 そしてもう一つ、恒久的な平和とやらを実現する方法。それが本当ならば確実に非人道的な方法になるはず。そうであるならば協力など出来るわけがない。

 

「……柱間とオレは結局相容れなかったのさ。オレの考えを柱間は理解出来なかった。ならばオレの邪魔になる前に消すしかなかった」

「そんな事で……そんな事で私達を裏切ったのか?」

「それも全ては世界の為なのさ。目的に至るまでに犠牲は必要だ。オレ達もそうしただろう? 互いの一族で殺し合って、な」

 

 マダラの言葉は間違ってはいない。里というシステムを作るまでに柱間もマダラもヒヨリも、それぞれの一族として他の一族と戦って来たのだ。そこに至るまでに死んだ忍の数は十や二十などでは利かないだろう。

 

「だからと言って……!」

「お前が協力してくれればその犠牲も限りなく少なくすむ」

 

 犠牲が必要なのは仕方ないかもしれないが、だからと言ってそれを当然と割り切るのは間違っている。

 そう憤慨するアカネにマダラは優しく語りかける。

 

「オレにはお前が必要だ。共に平和な世界を作り上げ、そして共に生きようではないか」

 

 それはアカネにとって甘美な誘いだ。平和な世界が実現する事は当然望む所ではあるし、友であるマダラと共に生きる事も否はない。

 だがその前に最後の確認が残っている。肝心要の平和な世界を実現する方法。それを聞かなければ話は始まらないだろう。

 

「……どうやって平和な世界を実現するつもりだ?」

「月に己の眼を投影する大幻術、無限月読にて全ての人間に幻術を掛けるのさ」

 

 それはアカネが想像した中で全ての人間を殺す手段を除き最悪の手段の一つだった。

 やはりか。そう落胆したアカネを他所にマダラは次々と己の理想を吐いて行く。

 

「全ての人間を幻術の中でコントロールする。誰もが望む世界をそれぞれに与える。そこには争いもわだかまりもない。完全なる平穏が待っている」

「……もう一度聞く。お前は穢土転生で操られてないんだよな?」

「当然だ。まあ、それを証明しろと言われても証明しようがないがな」

 

 穢土転生で復活した者がその縛りを解く事は不可能ではない。それはアカネも知っているし、マダラならばそれが可能なほどの実力を持っている事もまた知っている。

 だが、そんな事は関係なくアカネには確信出来る事があった。そして、それを実証する為にアカネはある言葉を言う。

 

「お前……何者だ!?」

「? 何を言う。オレはうちはマ――」

 

 マダラの言葉を遮ってアカネは更に言葉を続ける。

 

「油断すんな柱間! どっかに他の敵が潜んでるかもしれないぜ! こうしてるのはオレ達を欺く演技の可能性もある!」

「なに……!? 柱間だと?」

 

 アカネの突然の言葉にマダラは辺りを警戒する。

 マダラの、いや仮面の男のその反応でアカネは完全に理解した。

 そして怒りを籠めて残りの言葉を言い切った。

 

「何の目的でここに来た!? ……どうした、お前はうちはマダラなんだろう? だったら……何故この言葉で怒りを顕わにしない!!」

「……」

 

 当人達だけが知る何らかの暗号か何かか。とにかくそれ(・・)を知らなかった男はメッキを剥がす事となった。

 

「上手くマダラを演じたな……私も最初は騙されかけたよ」

「……いつから気付いていた?」

「貴様が……貴様が私達の夢を無駄だと言った時からだ……マダラが、あれだけ弟を、イズナを思って、イズナの為に里を作り上げたマダラが……! それを無駄だったなどと口にするか! マダラの想いを侮辱したな……イズナァァァ!!」

 

 アカネの身から怒りと共にチャクラが噴き溢れた。尾獣すらも凌駕する膨大なチャクラが物質的な圧力すら伴ってマダラに、いやマダラの体を操っているイズナへと向かう。

 

「ふ、ふふ……ふはははははは! 良くぞ見抜いた! 警戒に警戒を重ねていたつもりだったが、まだオレはお前を見くびっていたようだ!」

 

 だがそのチャクラの暴威を受けたマダラは、いやイズナはそれを涼しげに受け止めていた。

 うちはイズナ。うちはマダラに残された最後にして最愛の弟。マダラが守りたいと願った唯一無二の存在。

 それこそがうちはマダラの肉体を操っている張本人であった。最初に言った穢土転生の術者が大蛇丸というのも大嘘であった。穢土転生体は術者以外には操る事は無理なのだから当然だ。

 穢土転生体に幻術を掛ける事は出来るが、それでも意識を乗っ取り操る事は幻術では出来ない所業である。

 

「イズナ! 何故貴様がマダラを操っている!? 何故貴様が今も生きている!?」

 

 アカネがマダラを操っている存在がイズナだと気付いたのはマダラの演じ方が完璧だったからだ。その口調に表情の変化、更に何十年も前の状況を詳しく知っており、マダラを生前の実力に近しく穢土転生にて蘇らせた上で操る事が出来る。その全ての条件を満たす者などイズナ以外には考えられなかったのだ。

 

 だが、アカネもそこに至った理由や原因までは理解出来ない。それを知るには当人から聞きだすしかないだろう。アカネは木々を軋ませる程のプレッシャーと共にイズナを詰問する。

 

「何故オレが兄さんを操っているか……だと?」

 

 仮面をゆっくりと剥がしていき、それを握りつぶしたイズナはアカネに劣らぬ程の怒気を顕わにした。

 

「それを貴様が言うか! 貴様が、貴様らがそうさせたんだろう!!」

「なに……!? どういう事だ!」

 

 イズナの言葉に身に覚えがないアカネはそれがどういう意味なのかを問う。

 そんなアカネに対してイズナは怒りのままに叫び続けた。

 

「貴様らが兄さんを変えた! どうしてオレ達の兄弟を殺した千手なんかと手を組まなくてはならない! どうして千手柱間なんぞが里の長になる! どうして兄さんはそれを許容した! 全部……全部貴様と柱間のせいだろう!」

「な……!」

 

 それはイズナがずっと溜め込んできた想いだった。

 千手一族は五人いたイズナの兄弟の内三人を殺した憎い敵だ。それは兄のマダラも同じ想いだった。そのはずだった。

 それを変えたのが当の千手一族である千手柱間であり、そして二人の癒着剤の役目となっていた日向ヒヨリであった。

 

 千手柱間がいなければ。そうであれば忍の世を支配していたのは兄のマダラだった。

 日向ヒヨリがいなければ。そうであれば兄のマダラは千手柱間と手を取り合うなどなかった。

 それがイズナの考えである。

 

「いや、オレだって平和な世界がそれで実現出来るなら我慢もした! 兄さんに頼まれれば憎い千手とも手を取り合った! だが現実はどうだ! 里が出来て一族の争いがなくなったら次は里と里の争いだ! 下らない争いにオレ達うちはは便利な道具として駆り出される! そうして得られる物は何だ? 僅かな名誉か? ふざけるな! そんな事で……そんな下らない物の為に弟達の無念を諦めろと言うのか! それを容認した兄さんを見続けて生きろと言うのか!!」

「イズナ……お前……」

 

 そこまでの闇を抱えて生きていたのか。

 ヒヨリであった頃、ヒヨリはイズナと対面した事はほとんどなかった。イズナが避けていた事は知っていた。だが、ここまで思い詰めていたとは思ってもいなかったのだ。

 

「第一次忍界大戦。その終わりが全ての始まりだったのさ。あの戦争でオレは理解した。どれだけの犠牲を払っても、どれだけの我慢を強いても、今のやり方で完全な平和は手に入らないってことがな」

 

 アカネに思いの丈をぶつけつつ、イズナはかつての記憶を掘り起こしていた。

 

 

 

 

 

 

「イズナ……どうすれば分かってくれる?」

「兄さんこそ分かってくれ! 今のままじゃオレ達うちはは里に組み込まれて永遠に道具として使われるだけだ! それに、柱間のやり方では本当の平和なんて手に入りやしない!」

 

 第一次忍界大戦が終結した木ノ葉の里。その中のうちは一族の所有地にて、一族の当主であるうちはマダラとその弟うちはイズナは言い争っていた。

 その原因はイズナが木ノ葉から離反しようとマダラに持ちかけた事から始まる。イズナは里というシステムでも完全な平和には至れないと今のやり方に見切りをつけたのだ。

 

「今すぐに平和を実現する事なんて出来やしないさ。だが、永遠に続くと思われていた一族間の争いを失くす事は出来た。オレ達は少しずつだが前に進んでいるんだイズナ」

 

 だがマダラはそれは早計だとイズナを諭した。確かに戦争は未だになくならないが、一度に全ての争いを無くすことなど出来はしない。それを成す為には少しずつ目標に向かって歩み続けるしかないのだ。

 例え自分達の代でそれを成せなかったとしても、その想いを引き継いでくれた次代の者が、それで無理でもその更に次代の者が世界を少しずつ良くしてくれる。そうすればいつかは平和な世界に行きつくはずだと。今焦る必要はないのだと。

 

 だがそんなマダラの言葉はイズナには届かなかった。マダラ程に千手に対して寛容になれていないイズナにとって、家族や仲間を殺した連中と歩みを共にする事は非常に苦痛だったのだ。

 それでも平和が訪れるならばまだ我慢も出来たが、実際には戦争は未だになくなっていない。先の大戦は木ノ葉の三忍による圧倒的な力により一応の終結を迎えたが、力で迎えた終結などいつ崩壊するか分かったものではない。

 そう考えていたイズナはそれでもすぐに発起したわけではなかった。例えうちは一族が木ノ葉から離反したところでその結果は見えていたからだ。

 木ノ葉が誇る三大戦力である千手・うちは・日向。その力はほぼ拮抗している。うちはのみが離反したところでその結果は想像に難くないだろう。

 

 だが今のイズナはそれを覆す手段を手に入れていた。正確には、その手段に至れる方法を知ったというべきか。

 

「兄さん、オレと眼を交換してくれ」

「なに? どういうことだイズナ?」

 

 突如として眼を交換してくれなどと言い出したイズナにマダラは理由を問いかける。そんな事をして何の意味があるというのだろうか。

 

「オレ達は互いに万華鏡写輪眼に目覚めている……でも、万華鏡は強力な瞳術だけどその分反動が大きい」

 

 イズナの言う通り、万華鏡写輪眼は強力だがデメリットもまた大きかった。

 使えば使うほどに視力を徐々に失っていき、更に肉体に掛かる負担も大きく使う度に全身が痛むのだ。

 

「だけど万華鏡写輪眼を開眼した者同士が瞳を交換するとその反動がなくなる! 視力が落ちる事のない永遠の万華鏡写輪眼を手に入れる事が出来るんだ!」

「なんだと!? どうしてそんな事をお前が知っているんだ!?」

 

 それはうちは当主であるマダラも知り得なかった事である。真実か否かはともかく、何故それをイズナが知っているのか。それがマダラには解せなかった。

 

「うちはに伝わる古文書を紐解いていた時に見つけたのさ……これだよ」

 

 そう言ってイズナは懐に収めていた古びた書物をマダラへと手渡す。それをマダラはじっくりと読み進めて行く。

 

「確かに……そう書いているな……だが、こんな書物があったとは……」

「オレだって驚いたよ。蔵の整理をしている時に棚の上からこれが落ちてきたんだ。オレにはそれが天命に思えたよ」

 

 そう、その偶然をイズナは天恵と受け取ったのだ。これに書いてある事が真実であり、そしてうちは一族に伝わる石碑に書かれていた事をイズナなりに解釈すれば……。

 賭けにはなるが、上手く行けば真の平和を得る事が出来る。例えどれほど可能性が低くとも、それだけでイズナには全てを賭ける事が出来た。

 

「……永遠の万華鏡を手に入れてどうするつもりなんだイズナ?」

「千手柱間に勝負を挑む」

「なに?」

 

 千手柱間に勝負を挑む。それはまさに自殺行為と言えた。

 いや、イズナは強い。マダラと共に研鑚を積み万華鏡写輪眼を開眼しているイズナに勝てる忍など数える程だ。

 だが柱間はその数える程の中に加わっている忍なのだ。例え永遠の万華鏡写輪眼を手に入れた所でイズナが柱間に勝てるとはマダラには到底思えなかった。

 だからだろう。次のイズナの言葉にマダラが肯定してしまったのは。

 

「頼むよ兄さん。これでオレが柱間に負けたら、その時は今の木ノ葉の全てを受け入れるよ」

「……分かった。ただし、戦うのは柱間一人だ。他の忍や里を巻き込む事は許さん」

「ああ、もちろんだ! ありがとう兄さん!!」

 

 そうして二人は互いの両眼を交換し、共に永遠の万華鏡を手に入れた。

 それが……悲劇の始まりとなった。

 

 

 

 

 

 

「オレは貴様らの作った偽りの平和ではなく、真の平和を作る為にこうして兄さんを操っている! 貴様らがいなければ兄さんはオレの意見に賛同してくれたんだ……オレが兄さんを操らなくてはならないのは貴様らのせいだ!」

 

 まるで子どもの癇癪の様な叫びを聴いてアカネは苛立ちを募らせる。

 

「ふざけるな! どうしてお前がマダラを操っているか、その経緯は分からん……だが! マダラがお前の野望に反対した事は間違いないんだろう! だというのに、マダラを操ることで無理矢理協力させている奴が……どの口でほざく!」

「それはこちらの台詞だ! 何度も言わせるな……貴様らさえいなければ良かったのだ!」

 

 話は完全に平行線であった。全ての原因を千手柱間と日向ヒヨリのせいと決め付けているイズナにアカネの言葉は届きはしなかったのだ。

 

「兄さんを操っているオレには世界を平和に導く使命と義務がある。貴様が協力すると言うのならば全てを許すつもりだったが、そうでないならば貴様は計画の最大の障害だ……ここでくたばれ死に損ないが!」

「やってみるがいい。だが、いかにマダラを操っているとはいえ、穢土転生で不完全な力となっているマダラで私を倒せると思っているのか?」

 

 アカネの言う通り、穢土転生は死者を蘇らせるがそれは生前と完全に同じ力で蘇らせる事が出来るわけではなかった。

 いや、並の忍ならばそれも可能だろう。だがうちはマダラという世界最強の一角ともなると穢土転生では再現出来る力に限界があるのだ。

 無限のチャクラを有しており、朽ちる事のない肉体を持っているが、実力としては生前の一割から二割は落ちるだろう。それではアカネに勝てるわけもない。

 だがイズナはアカネの台詞を聞いて不敵に笑った。

 

「ふ、確かにお前の言う通り、今の兄さんの体でまともに戦ってもお前に分があるだろうな」

「……何を狙っている」

 

 イズナのその言葉からアカネはイズナがまともに戦うつもりがないという事を見抜いた。

 ならばどうやってアカネと戦うつもりなのか。口で説明するよりもその身で理解させてやる。そう言わんばかりにイズナはマダラを操ってその力を開放した。

 

「何を狙っているかって? ……こうするのさ!!」

 

 完成体須佐能乎。かつてのマダラの最強の力。両目の万華鏡を開眼したもののみが使用可能となる須佐能乎の、言葉通り完成体だ。

 その力は天を裂き地を砕き山を断つ。地形を大きく変えて地図を書き変えなければならない程の影響を与える力の権化。

 それを……イズナは木ノ葉の里に向かって振り下ろした。

 

「っ!?」

 

 天から振り下ろされた須佐能乎の剣をアカネは廻天にて逸らし弾く。須佐能乎の力は木ノ葉から空に向かって方向を修正されてそのまま天を貫いて消えて行った。

 地形を変える一撃を見事に捌き切ったアカネにイズナは賞賛の言葉を送った。

 

「流石は日向ヒヨリ。この一撃を受けて傷一つ負わないばかりか、見事に木ノ葉を守り切るとはな」

「き、貴様……!」

 

 イズナからの賞賛の言葉を聞いてもアカネは少したりとも嬉しくはない。それどころかイズナの最悪の戦術を理解して怒りを顕わにしていた。

 

「気付いたか。そう、確かに貴様は強い。その力は忍界最高だろうさ。だが……木ノ葉を守りながらいつまで耐えられるかな!?」

 

 そう、それがイズナの作戦。厄介なアカネを足止めし、そしてまともに戦わずに封じる最高にして最悪の戦術。

 アカネが大切にしている友と作り上げた掛け替えのない木ノ葉を人質にしたのである。

 須佐能乎の力は数km離れていようが確実に木ノ葉に届き、そしてたったの一撃で里を半壊させるだろう。その時に生まれる犠牲は数え切れないものとなるのは間違いない。

 それを防ぐ為に、アカネは身を挺して須佐能乎の力を受けなければならない。これがまともな戦闘ならば避ければ済むものを、木ノ葉を守る為に常に庇い続けなければならない。

 そんなアカネに対してイズナはただ全力で木ノ葉に向かって須佐能乎の力を振り下ろせばいい。この状況でどちらが有利かなど言うまでもないだろう。

 

「イズナ! 分かっているのか! お前は、お前はマダラの想いを砕こうとしているんだぞ!?」

「何度も……何度も言わせるな! 貴様が兄さんを語るな! 貴様が……貴様がいなければこうする必要もなかったんだよ日向ヒヨリィィィ!!」

 

 イズナは咆哮と共に須佐能乎の剣を木ノ葉に向けて幾度となく振るう。

 その全てをアカネは廻天にて受け流し、逸らし、木ノ葉に、そして出来るだけ周囲に影響のないように空に向けて力の方向を変えて行く。

 

「はっははははは! そらそら! いつまで持つかな!」

「く、うう!」

 

 アカネのチャクラは膨大であり、そのスタミナも同様であり、そして磨き上げた技術は並ぶ者がいない。

 だが人である限りどんな事にも限界という物が存在する。三日だろうと一週間だろうと戦い続けるチャクラを有していようと、いずれは尽きる。しかもマダラの完成体須佐能乎を受け止める程の廻天となるとその消耗は当然激しい物となる。

 対してイズナの操るマダラの肉体は穢土転生で作られた物。穢土転生体のチャクラはまさに無限。出力そのものは生前を元としている為限界はあるが、どれだけ術を放とうともそのチャクラが尽きる事はない。

 持久戦に置いて穢土転生に勝てる者はこの世のどこにも存在していないのだ。強いて言うなら術者の体力はいずれ尽きるだろうが、アカネと比べてどちらの消耗が早いかなど言うまでもない。そも、術者の体力が尽きようと、術者が死のうと穢土転生は止まらない。持久戦でアカネに勝ち目等有りはしないのだ。

 

「どうした日向ヒヨリ!? 貴様が勝つのは簡単だぞ! 木ノ葉を見捨てればいい! それだけで貴様はその力を十全に振るう事が出来るのだからな!!」

「く……っ!」

 

 そんな事がアカネに出来る訳がない。イズナはそう理解しているからこそ、勝ち誇ってそれを嘲り笑っているのだ。

 

「愚かな奴だ! 誰よりも強い力を持ちながら、無駄に優しい心を持っているからこそ自らそれに枷を嵌めている! 木ノ葉を背にしている時点で貴様の勝ちはなくなったんだよ!」

「はあっ!」

「ぬ!?」

 

 アカネはイズナの嘲笑を無視して廻天にて須佐能乎の力を逸らしつつ、その猛撃の合間を縫って八卦空掌にて反撃をする。

 その一撃はマダラを覆う須佐能乎によって防がれてしまう。須佐能乎は最高の攻撃力を誇ると同時に最高の防御力も兼ね備えているのだ。

 だが、防ぎはしたがマダラの肉体は八卦空掌の威力に押されて数十メートルも後方に吹き飛ばされた。その事実にイズナは驚嘆する。

 

「……心底、貴様に守るべき物がある事を安堵するぞ。完成体須佐能乎の攻撃を受けつつここまでの反撃に転じる事が出来るとはな」

 

 そう言いつつもイズナは攻撃の手を緩めない。イズナはアカネの狙いを理解していた。アカネは須佐能乎の力が木ノ葉に及ばない位置までマダラの肉体を移動させようとしているのだ。

 そうすれば木ノ葉を気にせずに攻撃に集中する事が出来る。だが、イズナがそれを理解していながらアカネの狙いを許すわけがなかった。

 

「ぐぅ!?」

 

 突如として謎の力にて吹き飛ばされるアカネ。目に見えない何らかの力がアカネを襲ったのだ。

 流石のアカネも初見にてそれに対応することは出来なかったようだ。だが、知識として知っていた為にそれが何であるのかは理解した。

 八卦空掌により吹き飛ばされた距離を一気に詰めて元の位置に戻ったイズナにアカネは問い掛ける。

 

「馬鹿な……何故お前に、マダラの両目に輪廻眼がある!?」

 

 何時の間にか両眼を輪廻眼に変化させているマダラを見てアカネは叫ぶ。そう、その力は自来也を圧倒した敵ペイン六道。その中の一体ペイン天道が使用する斥力の力であった。

 ペイン六道以外にも輪廻眼を、しかもマダラがそれを有している事はアカネにも予想外の事態だ。

 

「答える必要はない……。それよりも、これを防ぐ事が出来るかな?」

 

 そう言ってイズナは印を組む。何をしようとしているのか、イズナが組んだ印を知らないアカネはイズナがこれから使用する術が何なのか予測出来ない。

 この世界で長く生きるアカネは多くの印を知っており、印を見れば術の発動前にそれが何であるかを理解する事が出来る。例え知らない印だろうと忍術の印は概ね性質に合わせて組まれ方に法則があるので大抵は予測出来る。

 だがイズナが組んでいる印は見た事もない印だった。子・丑・寅と言った干支の名を冠した十二の基本印とは全く違う印だ。恐らく秘伝忍術か血継限界の類いなのだろう。それならばアカネにも予測は出来なかった。

 

 イズナの術を警戒するアカネだが、印を組んで術を発動するには僅かな間という物が存在する。それを狙わないアカネではない。

 だが、そんなアカネに対してイズナは嘲り笑うように口を開き、そしてアカネはその言葉を聞く前に何が起こったのかを理解した。

 

「いいのか? 木ノ葉が終わるぞ?」

 

 イズナがその言葉を言い終わる前にアカネは木ノ葉へと振り向き、そして空を見る。

 そこには常識では考えられない物があった。いや、超常の力を使う忍という存在に対して常識を問うのもおかしいかもしれないが、そんな忍であっても常識外れの事態が起こっていたのだ。

 それは……木ノ葉の里の遥か頭上。天高くから堕ちる巨大な隕石という有り得ない現象があったのだ。

 人の、個人の力で隕石を落とす。それを成す者を本当に人と呼んでいいのだろうか。

 

「さあ、防いでみせろ!」

 

 言われるまでもない。アカネは両手を勢い良く合わせ、そして周囲の自然エネルギーを吸収する。

 仙人モード。そう呼ばれる状態に至るのに要した時間は一秒未満。両目の周囲に僅かに隈取りが浮かぶくらいの変化という完璧な仙人モードに至ったアカネはその力を隕石に向けて放つ。

 

――仙法・螺旋風塵玉!――

 

 螺旋丸に風遁の性質変化を加えた術・螺旋風塵玉。強大な螺旋の渦に籠められた風の刃があらゆる物を切り刻み微塵と化すのだ。

 アカネはそれを巨大隕石へと撃ち放つ。螺旋風塵玉が命中した隕石は術名の通り粉微塵となり風に乗って散っていく。だが、そうであるにも関わらずアカネは新たな術を即座に発動した。

 

――仙法・八卦水壁掌!――

 

 八卦空壁掌に水遁を加える事で水の重さと高圧水流を得て圧倒的な破壊力を手に入れた八卦水壁掌だ。それは天から降り注ぐ二つ目(・・・)の隕石へと放たれた。

 膨大な水の壁が高速で放たれた事で二つ目の隕石は砕け散りながら彼方へと吹き飛んでいく。瞬く間に放たれた二つの極大仙術。まさに伝説の三忍の名に偽りなし。だが――

 

「良くやった。だが、隙だらけだぞ?」

 

 その言葉を言い終わる前から、いや正確にはアカネが八卦水壁掌を放つ前からイズナはアカネに向けて須佐能乎の剣を振り下ろしていた。

 その一撃を避ける事はアカネには出来なかった。いや、元より避ければ木ノ葉へとその力が届いてしまう。初めから防ぐ以外の方法はアカネにはない。

 問題は……そのタイミングで放たれた須佐能乎の威力を木ノ葉へと届かせない為の廻天を発動する間がアカネにはなかった事だった。アカネに出来たのはせめてその身で少しでも威力を減らすべくその一撃を受ける事だけだ。

 

 イズナの凶刃が、アカネに振るわれた。

 

 




 黒幕イズナ登場。

 MADARA「焦るなイズナ。急ぎすぎては何も掴む事は出来ないんだ」
 原作マダラ「だ、誰だこいつ?」
 原作柱間「り、理想のMADARAがここにいる……」
 原作扉間(無限月読に掛かったかな?)


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NARUTO 第二十一話

 木ノ葉の里は忍界にある忍の隠れ里の中でも最大と言っても良い強国である。

 多くの優秀な秘伝忍術を使える忍を有しており、血継限界も強力な瞳術である写輪眼のうちは一族と白眼の日向一族を有している。

 忍里の中では比較的穏やかな風潮もあり、更に肥沃で広大な土地を持っている為に忍の数そのものも他里と比べて多いのも強国の理由だろう。

 質と数。二つの力を共に有しているからこその強国だ。

 

 だが、その強国であるはずの木ノ葉の里が現在蜂の巣をつついたかの様な騒ぎとなっていた。

 その原因は何かと問われれば誰もがこう言うだろう。「化け物が現れた」と。

 

 化け物。それは二つの存在を指す言葉だった。

 一つは日向アカネ。怒りと共に発したチャクラは大瀑布の如くに木ノ葉へと一瞬で届いていた。

 それを感じ取れなかった忍は一人としていない。下忍はおろか、アカデミーの忍候補生も当然の如く、そればかりかチャクラをまともに感じ取る事が一生ないだろう一般人にすら感じ取れた程だ。

 この時点で木ノ葉の忍は何かとんでもない事が起こっていると漠然と理解し、アカネのチャクラを良く知る者達はそれ以上に恐ろしい何かが起こっているのだと恐怖した。アカネが全力を出す事態など易々と想像は出来ないのだから当然だ。

 

 そしてもう一つの化け物。

 それが突如として森の中から現れたチャクラの巨人、うちはマダラの完成体須佐能乎である。

 数kmは離れている為に流石に須佐能乎の姿は小さく映る程度だが、逆に言えば数kmは離れているというのにその大きさで見えるという事だ。

 多くの忍や民は塀で囲まれている為に巨人を見る事はなかったが、それでも少なくない数の忍は高所からそれを見つけて驚愕していた。

 

 しかもその巨人が巨大な剣を里に向けて振るっているのだ。その一撃は強大な衝撃波となって上空を通過していく。その際に雲は散り散りとなって消し飛んでいた。

 その威力は塀の中からも見えていた。雲を消し飛ばす程の威力を持つ何かが里に向けられている。それを理解して恐慌しない者は殆どいないだろう。

 特に一般人である里の住民は怯え竦んでいた。多くの忍が彼らの避難誘導を率先した事でパニックによる被害は少なく済んだが、それだけでも大騒ぎと言えた。

 

 この巨人に関してはアカネを知る者達も多くが知らない存在であったが、それを理解する者も少ないがいた。

 

「これは……! イタチ!」

 

 マダラの完成体須佐能乎を見たうちはフガクは隣にいる息子のイタチへと確認する。

 あれはオレの知るそれ(・・)であっているのか、と。

 

「須佐能乎なのか……!? だが、オレの須佐能乎とは……」

 

 桁が違う。イタチも須佐能乎に目覚めている史上でも数少ない万華鏡写輪眼の開眼者だ。

 だがイタチの目に映る完成体須佐能乎はまさに桁が違った。振るうだけで天を切り裂き、雲をかき消し、当たってもいない大地を揺るがす。まさに化け物の総称が相応しいだろう。

 

「まさかあれはうちはマダラの……!?」

 

 イタチはその鋭い分析力であの須佐能乎がマダラの力であると推測する。

 それを聞いたフガクはイタチの言葉を一度は否定した。

 

「馬鹿な……! うちはマダラは当に死んでいる! そんなはずは――」

 

 そんなはずはない。その言葉は次のイタチの言葉により飲み込む事となる。

 

「だが、アカネ様から聞かされていたうちはマダラの情報と符号します。それに穢土転生という例もあり、更にはアカネ様という例もまた……」

「……確かに。忍の世に想像を超える出来事など多いという事か」

 

 そう、死者が蘇るという一例を既に二人は二回も見ているのだ。

 初代火影と二代目火影の穢土転生に、転生を果たして今も生きる日向アカネ。それを思えばうちはマダラが復活したとあっても不思議ではなかった。

 

「ともかくこうしてはおられん。イタチ! お前はすぐに火影様にこの情報を伝えよ! シスイがいるとは思うが不在の可能性もある! オレは警務部隊を動かして里の住民を避難させる!」

「はっ!」

 

 迅速を尊ぶ二人の行動は早かった。だが、その二人の動きを止める事態が起こった。

 忍の世に想像を超える出来事など多い。そのフガクの言葉をまさに表している想像を超えた出来事が二人の目に映っていた。

 

 

 

 同時刻。木ノ葉の地に潜む“根”。木ノ葉という大木を目に見えぬ地の中より支えるという目的で作られた暗部、それが根だ。

 その根の創設者でありリーダーのダンゾウは薄暗い地下にあって地上の異変に気付いた。

 

「これは……」

「ダンゾウ様――」

 

 音も無く現れた一人の暗部がダンゾウへと地上の騒動を伝える。

 暗部の説明を聞いたダンゾウはこのチャクラの持ち主に得心がいった。

 強大なアカネのチャクラと、そしてもう一つ感じた別の恐ろしい程のチャクラの塊。この質は遥か以前にも感じた事のあるチャクラだった。

 

(やはりうちはマダラ……復活したというのか?)

 

「ダンゾウ様、如何いたしましょう」

「放っておけ。アカネ様がどうにかするだろう」

 

 そう、うちはマダラを相手に自分達が出来る事はない。ダンゾウはそれを良く理解していた。

 下手にアカネの援護などしようものなら無駄に多くの忍を失うだけである。

 

「では、地上の混乱は……」

「それも構わん。綱手姫はお飾りではない。既に避難誘導の為の組織を向かわせているはずだ」

 

 その冷静な態度は里の民を想っていない様にも思えるだろう。だが――

 

「ワシ等にはワシ等のすべき事がある。ワシの予測が正しければこれより暁が攻め込んで来るはず。根の者は暁に備えて里に散開。見つけ次第交戦し時間を稼ぎ、そして情報を集めよ」

『はっ』

 

 何時の間にか、ダンゾウの周囲には多くの根が傅いていた。

 そしてダンゾウの命令に従って小隊を組み、木ノ葉の各地に散らばっていく。

 戦って勝てとはダンゾウは命令しなかった。いや、勝つ事が出来ればそれに越した事はないのだが、相手は暁だ。まともに戦って勝てたら苦労はしないだろう。

 最も大事なのは最終的に勝つ事だ。場当たり的に交戦するのではなく、防御に徹して時間を稼ぎ被害を少なくし、敵の能力などの情報を手に入れて多くの仲間に伝える。

 そうすればいずれ敵は丸裸となり対処も容易になるだろう。感情のままに動くのではなく感情を制御して里の為に貢献する。それが根の役目なのだ。

 

「さて、そろそろワシも……」

 

 時代は流れている。既に木ノ葉は磐石だ。

 かつてのある事件にて持ち出せなかった覚悟を、今この時に胸に秘めてダンゾウは地上へと赴いた。

 

 

 

 同時刻。火影である綱手と共に日々の業務をこなしているうちはシスイもイタチと同じく須佐能乎の正体とその術者を見抜いていた。

 

「間違いないのかシスイ!?」

「恐らくは……。あれは以前にアカネ様からお話しして頂いたうちはマダラの完成体須佐能乎、恐らくはその使い手もまたマダラかと……」

 

 うちは一族でアカネの正体を知る四人は、アカネに自分達の先祖にして最強のうちはの称号を持つマダラについて語ってもらった事がある。

 そしてその情報とシスイ自身の須佐能乎、そしてあの凄まじい須佐能乎を統合して考えるとその答えに行きついたのだ。

 

「うちはマダラが蘇ったと言うのか……!」

 

 シスイと同じく火影の警護と業務の手助けを任務としていた日向ヒザシもシスイの言葉に驚愕する。

 何が原因かは分からないが、うちはマダラが復活した。しかも見た限りマダラはその力を木ノ葉へと向けている。

 まだ里が無事なのはアカネが守ってくれているからだとヒザシには理解出来ていた。先程のチャクラはその為だったのだろう。

 だが、あのアカネと同等の力を持つ伝説の三忍が敵に回る。その恐ろしさを理解出来ないヒザシではない。

 

「綱手様!」

「分かっている! 今はばあ様が守ってくれているがいつまでもそれで良い訳がない! まずは里の民の避難だ! 恐らくフガクなら既に動いてくれていると思うがそれでは手が足りん! 緊急避難の訓練を積んでいた小隊をすぐに向かわせろ!」

 

 三年前の木ノ葉崩しは忍による被害こそ少なかったがその実逃げ惑う住民が起こしたパニックによる被害が大きかった。

 一度受けた痛みだ。次に同じ事があればそれを失くす、少なくとも被害を減らす事に注力するのは当然の事だ。その為に里の避難場所へと民を誘導する訓練を積んだ忍の小隊を組織していたのだ。

 

「次に各一族の長に木ノ葉襲撃に備えるよう通達しろ。この騒動、マダラだけでは終わらんぞ!」

「……まさか!?」

「暁!?」

 

 綱手の言葉を二人はすぐに理解した。この騒動に合わせて暁が攻めて来る。綱手がそう言っているのだと。

 

「急ぐぞ! 今は僅かな時間も……こ、これは」

 

 僅かな時間も惜しい。そう言おうとした綱手は空を見上げてその一言を発する事が出来なかった。

 空を見上げて呆然とする綱手と同じく、シスイとヒザシもまたそれを見て驚愕するしか出来ないでいた。

 

「ば、馬鹿な……」

「これが……人の業だと言うのか?」

 

 呆然とする三人。いや、この時木ノ葉の殆どの忍がそれを見て同じように呆然としていただろう。

 天を覆い隠すような大岩。そんな物が頭上から落ちて来ているのを見て、一瞬ではあるが呆然とした所でそれを咎める事が出来ようか。

 

「シスイ!」

「分かっている! 綱手様こちらに!」

「っ! お前ら何をする! 私よりも少しでも里の民を!」

 

 シスイは綱手を自らの須佐能乎の中に閉じ込める。外へ出ようとする綱手を羽交い絞めにしてでもだ。

 須佐能乎の防御力は並大抵の攻撃では超える事は出来ない。なのでそれで綱手を守るつもりなのだろう。

 だが、頭上から落ちる圧倒的な質量は並大抵という言葉を遥かに凌駕しているのは明白。だからヒザシは須佐能乎の中に入らなかった。

 僅かでも威力を軽減するべく須佐能乎の前にて廻天を展開するヒザシ。命を懸けて火影を守る。それこそが火影の左腕に選ばれたヒザシの任務なのだ。

 

「止めろヒザシ!! 死ぬぞ!! あんな岩程度私が砕いてやる! だからお前が須佐能乎の中に!」

「これで里の全てが終わるわけではありませぬ! 多くの犠牲は出るが、生き残る者もまた多いはず! その時あなたは必要なのです!」

 

 大岩を砕くという綱手の言葉だが、綱手の怪力を知るヒザシでもそれが自分を生き残らせる為の嘘だと気付いていた。だが、あの大岩に向かおうとしている事が嘘ではないのも気付いていた。

 里の為に、部下の為に命を懸けて大岩を砕こうとする。そんな綱手だからこそ火影に相応しく、今後の木ノ葉に必要な人物なのだ。そんな火影だからこそ命を懸けるのに相応しい。

 

(すまないネジ……生きていてくれよ)

 

 一人残す事になる息子を想い、そして全力で大岩に備えるヒザシ。

 だが、ヒザシの覚悟はどうやらここが発揮する場ではなかったようだ。

 

「こ、これは!?」

「なんと……!」

「……ば、ばあ様か!」

 

 木ノ葉へと降り注がれようとしていた絶望は瞬きの間に消滅したのだ。正確には粉微塵となり砂となって風に乗って彼方へと消え去ったのだ。

 それがアカネの仕業であると理解し、次に新たに落ちる二つ目の大岩に驚愕し、またそれが膨大な水流で砕けながら彼方へと消えるのを見る。

 

『……』

 

 怒涛の展開に三人は言葉もなかった。だが、そうして呆けている事を許してくれるほど暁は優しくはなかった。

 

「……ちっ! 少しぐらいゆっくりさせてくれてもいいものを!」

 

 空を見上げていた綱手はそれに気付いた。そう、天から侵入して来た暁の一員を。

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、分かりやすい合図だ」

 

 空から落ちる巨大な岩を見て、ペインはそう呟く。

 合図。それはマダラ――実際はイズナ――がペインへと教えていた作戦開始の合図だ。

 離れた位置から木ノ葉を眺めていればすぐに気付くと言われて待機していたが、なるほど確かにすぐに気付ける合図の様だ。

 

「そうね。でも、これでは私たちが出るまでもなく木ノ葉は終わりでは?」

 

 ペインにそう訪ねたのは小南だ。作戦も何も、天から落ちる絶望を見れば木ノ葉の未来は容易く想像が出来ていた。

 そして内心でうちはマダラの力を小南は恐れる。完全に信用していたわけではないが、ここまで予想を超えた力を持っているとは流石に思ってもいなかったようだ。

 

「ペイン……」

「ああ、オレも奴を信用はしていない。だが、奴の協力がなければここまでこれなかったのも事実だ」

 

 そう、ペイン――長門が世界平和という目的の為にここまで強大な組織を作り尾獣を集める事が出来たのもマダラの協力あっての物だ。

 あの時、二人の友にして仲間にして、そして最高の家族であった弥彦が死んだ時、マダラがいなければそれから先に何を成せていたか。

 恐らく感情のままに暴れて程なくして力尽きていただろう。マダラが道を示してくれたからこそ今の暁が、今のペインがあった。

 

「もうすぐだ。もうすぐ世界は痛みを知る。そうなれば争いはなくなり世界は平和になる。その時にマダラが世界の悪になるというのなら……オレが殺す」

「……分かったわ」

 

 ペインが、最後に残された最愛の家族である長門がそう言うのならと小南は納得する。

 

「さて、オレ達の出番が来たようだな」

「そうね……日向ヒヨリ、まさかここまでの存在だとは……奴も危険過ぎるわ」

 

 天から落ちる絶望を吹き飛ばしたアカネの手腕に小南はマダラと同じ脅威を覚える。

 人外の者と思わざるを得ない化け物二体。果たして無敵のペインであっても勝てるかどうか。ペインではなく長門の弱点を知っている小南としてはそれが不安であった。

 

「では行って来る。お前はオレの本体(・・)を頼む」

「気をつけて。木ノ葉は強いわ」

「分かっている。だからこその暁の総力戦だ」

 

 そう言ってペインは六道の内、口寄せ能力を持つ畜生道を地獄道によって木ノ葉に向けて投げ飛ばす。

 易々と里を囲む壁を飛び越え、木ノ葉の里を覆う感知結界を突き破って畜生道は里の内部へと侵入し、そして口寄せの術を使用した。

 

「やっとかよ待ちくたびれたぜ! ジャシン様見てて下さいよォォォ! オレめっちゃ殺すから! 本気で殺しまくりますからよォォ!」

「……どうやら日向ヒヨリの足止めは成功しているようだな。これなら心置きなく暴れられる」

「ち、気にくわねーな。オイラの芸術をあの女に魅せつけてやりたかったのによ、うん」

「やられるのがオチだ。それよりも、木ノ葉の連中にお前の良く分からん芸術を見せるんだな。前回は不発だったんだろう?」

「木ノ葉崩し再び……次は防げるかしらねぇ」

「やれやれ。これだけの面子が揃っての任務は暁初ですからねぇ。纏まりがなくて実に暁らしいですよ」

 

 畜生道の口寄せにて現れたのはゼツ・小南・マダラを除く暁とペイン六道だ。

 そしてリーダーであるペイン天道が集合した暁全員に命令を下す。

 

「思う存分暴れろ」

 

 その言葉に従い、暁は木ノ葉を滅ぼすべく動き出した。

 各個に分かれて好き放題に暴れる。それが暁の作戦とも言えない作戦だ。唯一守るべきは九尾の人柱力であるナルトを殺さずに捕らえる事だけ。

 だが暁の運用法としてはこれで合っていた。元々我が強い連中の集まりなのだ。連携して動けと言われてそれが出来れば苦労はしない。せいぜい二人一組(ツーマンセル)が限界だろう。

 そして、暁はそれで何も問題はなかった。我が強いだけの忍が集められた組織ではない。忍界屈指の使い手が集められた組織が暁なのだから。

 

 木ノ葉の里に戦火が舞った。

 

 

 

 

 

 

 迫り来るイズナの凶刃を背後に感じながら、アカネに出来た事は耐える為にチャクラを活性化させる事だけだった。

 耐える自信はあった。仙人モードとなって身体能力が圧倒的に向上しているアカネの防御力は桁違いだ。だが、ダメージは確実に負うだろうし、何より須佐能乎の威力を殺し切る事が出来ないだろう。

 そうなれば木ノ葉は甚大な被害を被ってしまう。だがアカネにはどうする事も出来ない。そういうタイミングでイズナは攻撃を放ったのだ。そうすればアカネがより苦しむだろうと理解して。

 

 だが、アカネが想像する地獄の様な光景も、イズナが想像する愉悦極まる光景も、いつまで経っても来る事はなかった。

 アカネは痛みも衝撃も来ない事を疑問に思うもすぐに体勢を立て直してイズナへと向き直る。するとそこにはアカネに当たる直前で止められている須佐能乎の剣があった。

 

「……なぜ振り下ろさなかった」

 

 確実に当てる機会だったはずだ。自慢になるが、自分にまともに攻撃を命中させる機会など滅多にある物ではないとアカネは自覚している。

 外道な手段を使ってまで手に入れたその機会をイズナが潰すとはアカネには思えなかった。一体何のつもりだ? 疑問に思うアカネはイズナの、いやマダラの苦しそうに歪む顔を見て更に怪訝に思った。

 何故? 何故穢土転生の肉体で苦しそうに呻いているのか。腕がもがれようが首が千切れようが気にせずに戦える不死身の肉体で、何が苦しいと言うのか。

 その答えはイズナ本人が教えてくれた。

 

「ば、馬鹿な……まだ、意識が……!?」

「意識が……? ま、まさか!?」

 

 イズナの言葉から考えられる事はアカネには一つしかない。

 

「何でだ!? 何で邪魔をするんだ……!? 兄さん!!」

「マダラ! マダラなのか!」

 

 二人の叫びに応えるかの様に、マダラの口からイズナではない、そう、マダラ本人の言葉が紡がれた。

 

「この、うちはマダラを……舐めるなよイズナ!」

 

 まだ意識を保っていたとは。完全にイズナは意表を突かれていた。

 イズナがマダラを穢土転生にて口寄せしてから二十年近い年月が経っている。その間にもマダラは何度かイズナの縛りを解いて意識を取り戻していた。

 だが、その度にイズナはより強固に穢土転生の縛りを強くし、マダラの意識を封じ込め続けていた。

 最後にマダラが意識を取り戻したのは十六年程前、九尾復活事件の時だ。おかげで九尾という最強のチャクラの化け物を奪う事が出来なかった苦い記憶をイズナは思い出す。

 当時は他の尾獣を奪い封印する準備が整っていなかった為に九尾は保留にしたが、マダラへの縛りは念入りに強固にしていた。

 だと言うのにこれだ。アカネを守る為に意識を取り戻したと思うとイズナの怒りは更に膨れ上がった。そこまでこの女が大事なのかと。

 

「マダラ……」

「ふ、久しいなヒヨリ。姿は違えどこうして再び会えるとは思ってもいなかったぞ……とんだ再会になってしまったがな」

 

 軽口に聞こえるかもしれないが、今もマダラは必死にイズナの力に抗っていた。振り下ろし掛けている剣は僅かに震えている、それだけ力を籠めて耐えているのだろう。

 自分の為にそこまでの力を発揮してくれている。それがアカネには心底嬉しかった。

 

「ありがとうマダラ……お前のおかげで木ノ葉は無事だ」

「転生しても相変わらずだな……少しは自分の身を心配したらどうだ?」

 

 須佐能乎の力を受ける直前でも自分ではなく木ノ葉を心配していたアカネを見てマダラは変わっていないなと安堵する。

 例え姿が変われどアカネはヒヨリのままだった。それがマダラには嬉しかったのだ。かつての友は友のままであったと感じる事が出来て。

 

「く……ヒヨリよ! イズナはオレの意識ではなく肉体の操作のみに力を注いでいる……! もう、持たんぞ……!」

「っ! 分かった……! 穢土転生のお前の全力程度なら幾らでも受け止めてやる。だから安心しろ!」

 

 イズナはマダラの全てを操る事を諦め、肉体の操作のみに力を注いでいた。ギリギリの所でイズナの縛りに耐えていたマダラは意識はそのままだが肉体の動きを自由にする事が出来なくなった。

 再び振り下ろされた須佐能乎の剣。だがアカネの臨戦態勢は疾うに整っている。その一撃を廻天にて逸らし、空へと受け流していく。 

 

「お前は全く……穢土転生とはいえ、そうも容易くオレの力を止められるのも癪なんだがな!」

「だったらかつてより強い姿を見せてみるんだな! まあ、私も大分強くなっているけどな!」

「ふん! 永遠の万華鏡を手に入れて輪廻眼に目覚めたオレの力を侮るなよ! まだ隠し玉はあるから精々注意するんだな!」

 

 想像を絶する戦いの中とは思えない会話だ。二人は戦いの中であって旧友を確かめあっているのだ。

 

「む! 暁が木ノ葉を襲っているぞヒヨリ!」

「分かっている! だが里の忍は強い! 私たちの子は皆逞しく育ってくれているさ! それに私の影分身も里には多く居るから――」

 

 アカネのその言葉に対抗するように、マダラを操るイズナはある術を発動する。

 その術を見たアカネは不安が的中した事に舌打ちをする。やはり柱間を取り込んでいたのか、と。

 

「その胸のモノはお前の趣味じゃないようだな!」

「誰がこんなモノ(・・・・・)を好きで埋め込むか! 下らない事を言わずに木ノ葉を守れ!!」

 

 合計して二十体の木遁分身のマダラが作り出され、その全てが須佐能乎を発動して木ノ葉へとその力を振るう。

 それを防ぐ為に里に残っていたアカネの影分身全てが対応した。それぞれが廻天にて全ての須佐能乎の力を逸らしていく。

 だが、修行用に作り出された影分身ではそれが限界。全ての影分身がその一撃によって消滅していった。

 

「次はどうする!?」

 

 マダラのその叫びが示す通り、新たな一撃が全ての木遁分身から放たれようとしている。

 

「問題ない!」

 

 アカネはマダラ本体の一撃を捌きながらも一瞬で仙術チャクラを籠めた影分身を二十体作り出した。

 その仙術・影分身達は一瞬でそれぞれ木遁分身のマダラへと駆けつけ、全ての攻撃を捌き切った。

 

「つくづく規格外だなお前は!」

「良く言われる! だが、木遁使ってるお前に言われたくない!」

「黙れ! 何だそのチャクラ量は! 以前よりも増えてるだろうが! チャクラの化け物とか言われている尾獣に謝れ!」

「私が修行で手に入れたチャクラだ! 文句があるなら尾獣も修行すればいいだろうが!」

「修行する尾獣とか笑えないんだよ!」

 

 いがみ合っている様に見えて、その実二人は笑いあっていた。

 再会するまでの長い時間を埋めるかの様に二人は互いに罵倒しながら死闘を繰り広げる。だが、そこに殺意は欠片もなかった。

 これでマダラが操られてさえいなければ。そう思うアカネ。そして楽しく戦っている場合ではない事も思い出す。

 

「いつまでもこうしていたいがそういう訳にもいかないか……! マダラ! 一体何が有ったんだ!?」

 

 須佐能乎の横薙ぎの一撃を下から蹴り上げて弾き、アカネは問う。

 何故穢土転生してイズナに操られているのか。何故イズナは今も生きているのか。何故輪廻眼に目覚めているのか。何故……木ノ葉を裏切り柱間に戦いを挑んだのか。

 少なくとも今のマダラを見てアカネはマダラが木ノ葉を裏切ったとは思えない。何か理由があり、それにイズナが関わっているのは明白だ。

 

「……オレはイズナに頼まれて互いの両眼を交換した。それが全ての始まりだった……!」

「眼を!? どういう事だ!?」

 

 何故兄弟で眼を交換する必要があるのか。それが何になるのか。アカネとてうちは一族の全てを知っている訳ではない。

 当主のマダラ自身イズナが手渡した古文書がなければ、イズナと目を交換しなければ気付かなかった事実だ。

 

「万華鏡に目覚めた者同士が互いの眼を交換すると視力の低下と肉体への負担が無くなる永遠の万華鏡写輪眼に目覚めるのだ!」

「なっ!?」

 

 それは確かに凄まじい情報だ。万華鏡写輪眼は強大な力を誇る。開眼者固有の瞳術に目覚め、極めると須佐能乎という恐ろしい力の権化を手に入れる事が出来る。

 だが、その代償は重い。使えば使うほどに肉体は反動で痛み、そして視力は徐々に低下していく。最後には光を失ってしまうだろう。

 アカネもそれを心配してマダラには出来るだけ万華鏡の使用を控える様に頼み、マダラもそれに応えて別の力を手に入れていた。

 その代償が無くなるというのは喜ばしい事だ。マダラとイズナの力は確実に高まる結果となっただろう。

 だが、どうしてそれが全ての原因となるのだろうか。それがアカネには理解出来なかった。

 

「それだけではない……! 永遠の万華鏡を開眼した者は新たな瞳術に目覚める事があるのだ……! イズナが、そうだ!」

「イズナが!? イズナの万華鏡は天照(あまてらす)加具土命(かぐつち)……新たに目覚めた瞳術は何なんだ!?」

 

 何十合もの攻撃を交わし続けながら二人は情報を共有し合う。そしてアカネはイズナが目覚めた最強の瞳術の名を聞いた。

 

「……別天神(ことあまつかみ)。対象に幻術に掛けられた事に気付かせずに意識を誘導して操る最強幻術だ……!」

「なっ!? ま、まさか……!」

 

 幻術に掛けられた者はいずれそれに気付く事が出来る。相手が格上ならばいつ幻術に掛けられたかも気付く事は出来ないが、その幻術の真っ只中にあれば殺されない限りはいずれ気付くだろう。

 だが別天神は別だ。対象の意識を誘導し、さも自分が考えて決めた意志の様に思いこませる事でその行動を誘導する。対象者がそれに気付く事はない、第三者が解除しない限りは自力での解除は不可能。まさに最強の幻術と言えよう。

 そしてアカネはその幻術の存在を知る事で理解した。マダラが木ノ葉から離反した理由を。

 

「そうだ……! イズナはオレを別天神にて操ったのだ……! そして目的の為にオレと柱間を戦わせたのさ!」

 

 穢土転生となり蘇ったマダラの思考は別天神で操られる前のそれに戻っている。

 だからこそ操られてからの自身の行動を思い出し、自身を殴り飛ばしたくて仕方がなかった。だからこそ別天神の恐ろしさを誰よりも理解していた。

 木ノ葉を、仲間を、友を、全てを捨てて裏切るなど、考えられない事を自ら進んで仕出かしてしまったのだ。それも何の疑問も抱かずにだ。

 

「イズナはオレに対して、自分に疑問を持つなという類いの幻術を仕掛けたのだろう! オレはイズナの言う通りに行動した……何の疑問も抱かずにな!」

「い、イズナ……! 貴様はどこまで堕ちれば!」

 

 何処かでこの会話を聞いているだろうイズナにアカネはありったけの怒りをぶつける。だが、当のイズナは何の痛痒も感じずにマダラを操り攻撃を繰り返していた。

 

「すまぬ……。兄であるオレがイズナを止めるべきだった。オレが不甲斐ないばかりにお前に、柱間に、木ノ葉に、世界に迷惑を掛けてしまった……。オレがあの時イズナを止める事が出来ていれば……!」

 

 マダラの中には後悔が溢れていた。全ての元凶は自分、そういう思いがひしめいているのだ。

 自分がイズナを止めてやる事が出来ていれば。そうすれば全ては上手く行っていたはずだと。柱間とヒヨリと自分。そこにイズナや扉間も加わり、更に自分達の家族が増えて行き、最後には多くに見守られて穏やかに終わる。そうなるはずだった。

 だと言うのにこれだ。何が三忍だ。何がうちは最強だ。何が伝説の忍だ。忍としての締め括りを失敗した己が誇れる事などあるわけがない。

 

「違う! お前が悪いわけがない! お前はイズナを誰よりも想っていた! イズナの為にお前は憎しみを捨てて平和な世界を作ろうと努力した! 私たちはその切っ掛けに過ぎない! それを理解せずに自分勝手な怒りをぶつけてくるイズナこそが!」

 

 イズナこそが全ての元凶。マダラの想いを踏みにじり、全てを自らの思い通りに進めようとする。そんなイズナが元凶でなくて何だと言うのか。

 

「……そう言ってくれるな。イズナの想いはオレにも分かる。あいつは、オレよりも、誰よりも家族を、友を愛していた。だから許せなかったのさ。支払った犠牲に対して得られたモノの小ささに……」

 

 大切な兄弟と、大切な友や仲間たち。それらが死して、その憎しみや恨みを我慢し耐えて、そして得られたのは完全には程遠い僅かな平和。

 その平和もすぐに崩れる砂上の楼閣、少なくともイズナにはそう見えていた。

 

「戦乱の世から、僅か数十年であの里に至った……。それがどれ程の事か、イズナには理解出来ないのか……」

 

 様々な世界の知識や常識を知っているアカネにはそれがどれだけ途方もない事か理解していた。

 世界の流れを変えるという事は非常に困難な道のりだ。長い年月を掛けて徐々に徐々に人々の意識を変えて行き、そうして何百年何千年と掛けて辿り着ける。それが平和な世という物だ。

 だと言うのに、僅かな時間で得た結果を見て見切りをつけて、全てを幻術の中に落とそうとしているイズナはアカネにとってただの我が侭な子どもにしか見えなかった。

 

 確かに完全な平和は到達しようがないが、それでも幻術でそれを強制しようなど間違っている。

 

「オレだって、あの里が尊い物だと理解している。それをもっとイズナに語るべきだった……」

 

 いや、マダラは語らなかったわけではない。ただ、完全な平和という夢物語の可能性を見つけてしまったイズナがそれを理解するのを拒んでしまったのだ。

 イズナがあの古文書を見つけなければ、そしてうちは一族に伝わる石碑を曲解しなければ……話はまた変わっていたかもしれない。

 

「マダラ……」

「……話を戻すぞ。とにかく、オレはイズナに言われるがままに柱間と戦った。それにはある理由があった」

 

 そう、イズナがマダラを柱間と戦わせたのはただ千手憎し、木ノ葉憎しだからではない。

 全ては千手柱間の細胞を手に入れる為だったのだ。

 

「木遁を得る為にか!?」

 

 アカネはその白眼と、そして持ち前の感知能力で疾うの昔に理解していた。

 マダラの胸に柱間の細胞が埋め込まれている事に。だからこそマダラが木遁忍術を使用しているのだろう。

 

「いや違う……輪廻眼に目覚める為にだ!」

「なっ……!」

 

 今日一日で何度驚いただろうか。アカネも今までの人生でそう経験のない事だ。そんなアカネを他所にマダラは全てを説明していく。

 輪廻眼。それはかつて六道仙人が開眼したと言われる伝説の瞳術。そして輪廻眼は何が要因となって開眼するかは全く解明されていなかった。

 突然変異として現れるという説もあり、少なくとも血継限界の様に遺伝で受け継がれている物ではないとされていた。

 

 だが、実際は写輪眼の行きつく先が輪廻眼だったのだ。そしてイズナはうちは一族秘伝の石碑を読み解いてその開眼方法を見つけたのだ。

 石碑にはこんな文があった。“一つの神が安定を求め陰と陽に分極した。相反する二つは作用し合い森羅万象を得る”。

 うちはと千手。それは両方とも六道仙人の直系の子孫であり、その力をそれぞれ受け継いでいる一族。

 陰と陽。うちはと千手。二つの力を手に入れたモノが森羅万象を得る。そうイズナは解釈したのだ。

 

 そして……最強の千手の力を手に入れるべく、イズナはマダラと柱間が闘う様に仕向けたのだ。

 

 その死闘は柱間の勝利で終わったとされている。だが、それは実は誤りであった。

 当時の柱間とマダラの実力は完全に互角。いや、九尾という最強最悪の尾獣を用意していたマダラが有利であった。

 だが実際に勝ったのは柱間だ。それはイズナがマダラにわざと負けるように命じていたからだった。

 ここで勝つと柱間以上に面倒な日向ヒヨリが出てくるだろう。そう予想していたイズナはマダラに戦闘中柱間の細胞を不自然の無い様に手に入れさせ、その上でわざと負けさせたのだ。

 

 この時、柱間は確実にマダラに止めを刺していた。だが、マダラはある幻術にて柱間の目を欺いていたのだ。

 それがうちは一族に伝わる幻術・イザナギである。このイザナギもまた別天神に劣らぬ凶悪な幻術だ。

 本来幻術とは現実ではなく文字通り実体のない幻覚を見せる術だ。だがイザナギは現実に干渉するという幻術の枠を超えた幻術であった。

 

 他者ではなく自身に掛けるという幻術で、不利な事象を「夢」、有利な事象を「現実」に変えるというまさに究極の幻術。

 しかも時間差で術を発動することも可能であり、これによってマダラは柱間に殺されたという現実を書き換えることで表向きには死亡したように装ったのだ。

 ただし、やはり強大な力を持つ幻術ゆえに代償はあり、使用した場合必ず失明するというリスクがある。一度の使用につき一つの目を失明するので、他人の写輪眼を得ない限り二度しか使えないという幻術であった。

 

 そうしてマダラは、いやイズナは千手柱間の細胞を手に入れた。それをイズナは自身とマダラの体へと移植した。全ては輪廻眼を得る為に。

 だが――

 

「だが、それでもイズナは輪廻眼に目覚めなかった……!」

「何だって? じゃあ輪廻眼に目覚めたのはお前だけと言う事か?」

 

 そう、イズナは輪廻眼に目覚めなかった。輪廻眼に目覚めたのはマダラのみ。しかも寿命によって死ぬ間際になってようやくだ。

 それを見たイズナは自分が死の間際になっても輪廻眼に開眼する事はないと悟った。自分よりも優秀な兄が死の間際になってようやく開眼した物を、自分が生きている内に開眼する事はないと考えたのだ。

 うちはの肉体に千手の力を加えても自分は輪廻眼に目覚める事はない。ならばどうすればいい? 考えたイズナは……兄の細胞すら自分の体へと移植したのだった。

 

「柱間と、お前の!?」

「そうだ……オレと柱間。うちはと千手、二つの一族最強の細胞とチャクラ。それらを取り込んだイズナは……」

 

 輪廻眼に開眼したのだ。まさにイズナの執念が産み出した産物であった。

 そうと言うのも輪廻眼の開眼条件をイズナもマダラも真に理解していなかったからだ。

 真に輪廻眼に開眼するにはある特殊な条件がある。それが、六道仙人の息子であるインドラとアシュラ。その二人の転生体のチャクラを一つにするという途方も無く可能性の低い条件だった。

 

 インドラとアシュラは互いに六道仙人から受け継いだ力がある。インドラは仙人の眼《チャクラと精神エネルギー》を、アシュラは仙人の肉体《身体エネルギーと生命力》を。それらを一つにするとどうなるか。そう、六道仙人そのものになるだろう。

 つまりインドラの転生体であるうちは一族の者――この場合うちはマダラ――が、アシュラの転生体――この場合千手柱間――のチャクラを得る事で初めて輪廻眼は開眼するのだ。

 そこまでして初めて六道仙人に近付く事が出来るという訳である。輪廻眼を開眼した者は六道仙人を除きマダラが初めてだ。それほど困難な条件だったのだ。

 

 そう、つまるところイズナは……インドラの転生体でないイズナは本来なら輪廻眼に目覚める事は出来ないのだ。

 だがそれをイズナは執念で乗り越えた。その身にインドラの転生体であるマダラの細胞(チャクラ)とアシュラの転生体である柱間の細胞(チャクラ)を取り込む事でその条件を満たし、そして本来なら開眼するはずもない故に起こった途方もない激痛に耐えて、とうとう輪廻眼に開眼したのだ。

 

「なるほどな……だが、それでも解せない事がある」

 

 マダラの説明を戦いながら聞いたアカネは全てに納得する。マダラが裏切っておらず、そして何のために柱間と戦ったかを。

 途方もない話故に動揺はしたが、それでも筋が通っており理解出来る話だ。だが、それでも解せない点が一つだけあった。

 

「何故イズナは今も生きている(・・・・・・・)?」

 

 そう、それが最後に残る疑問だ。イズナはマダラの弟であり、当然マダラよりは年下だ。

 だがそれでもイズナが今も生きているとしたら百に近い高齢となる。生きているだけならばまだ納得も出来るが、このマダラをこれほど操れる程の力を保ったままとなると納得が行かない現象だ。

 この世界は戦乱の世が続いていた為に人間の平均寿命は短い。それは戦争で早く死んでしまうのが原因だが、それ故にこの世界の人間の最大寿命もまた低くなっているのだ。

 長く生きる事がなく、医療技術なども完全に発達しているとは言い難い世界だ。老いが早いのは当然の話となる。戦乱から離れて医療技術が発展し続け食生活が安定した時代が長く続けば自然と寿命も延びるだろうが、それは先の話だ。

 

 とにかく今の世で八十まで生きれば長寿であり、そして老いによって衰えるのもまた早い。三代目火影である猿飛ヒルゼンは全盛期の半分の実力もないだろう。

 それはアカネも同じであり、かつてヒヨリとして最期に戦った時は全盛期と比べて見る影もない程だった。

 そして老いとは全ての存在に平等に訪れる現象だ。イズナもまた同じ。どうにか今も生き延びていたとしても、その力は全盛期とは程遠いはずなのだ。

 

 その謎に、マダラは更なる驚愕の真実を語った。

 

「イズナは一度死んだ……そして蘇ったのだ。オレの輪廻眼の力、輪廻天生でな……」

 

 輪廻天生。輪廻眼を持つ者が使える多くの能力の一つであり、他人を生き返らせる事が出来る転生忍術。

 砂隠れのチヨが使用していた己生転生(きしょうてんせい)と同じ転生忍術だが、己生転生と違い肉体が滅びた者でも蘇生でき、死から然したる時間が経過していなければ一度に多くの者を生き返らせる事も出来るという瞳術だ。

 もっとも、己生転生と同じく使用した術者はその命を失う事となるのだが……。

 

「だがそれでも若返るわけではないだろう!?」

 

 そう、例え生き返ったとしてもそれは転生とは違って元の肉体で蘇るだけだ。つまり元の老人のままだと言う事になる。

 だが輪廻眼はその理屈すら覆す力を持っていた。輪廻天生にて蘇ったイズナは全盛期の体で復活していたのだ。

 

「そして、輪廻天生の反動で死んだオレを穢土転生にて復活させたのだ……」

 

 それが全ての真相であった。穢土転生で復活したマダラは別天神の影響から外れており、正気に戻ってイズナを説得した。

 だが輪廻眼を開眼し、更に生前