デスナイトさんのいる村 (めいどすきあき)
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デスナイトさんのいる村

 魔道国、エ・ランテルから半日ほどの場所にある再建中の村。

この村は法国に襲われこそしなかったが、戦争に駆り出された男手のほとんどが戦死したため働き手を失い、また貧しさゆえに他に逃げることも出来ずに残ったものが多く住むこの村には、魔道王より再建まで支払いを待つという条件付きでゴーレムやデスナイトが貸し与えられていた。

 はじめは子や夫を殺した魔導王への恨み、アンデッドへの偏見から石を投げつけられることもあった。また貸し付け自体も税金の一部と考えていた村人も、24時間休むことなく荒れ始めた土地を耕し、防壁の補修増強などに文句も言わずに働き続け、また軍崩れの盗賊に襲われたときはゴーレムが盾となり村民を矢から守り、また年寄りや子供をデスナイトが抱きかかえ避難させたうえで盗賊を撃退した。

 嫌悪から始まった出会いは時間をかけて信頼に変わっていった。一旦村の一部として溶け込んでしまうと村人たちはゴーレムたちに名前を付け、手作りの帽子や腕輪で飾り、デスナイトは村人たちが数か月かけて織り上げたマントを自慢するかのようにたなびかせていた。

 

 

 気が付くと

「俺が死んだらデスナイトになって村を守るんだ」

「あんたみたいなさぼり癖のある子がデスナイトさんになれるわけないだろ」

という会話が出るほどの村の日常になっていた。

 

 そんなデスナイトはいい意味でも悪い意味でも命令に忠実だった。

デスナイトに与えられたのは村人の生命を守ることと村の警備、各種作業の手伝いであり村の近くにある森は警備範囲外となっていたため村の親子連れが薬草を探しに森に入った際それを放置していた。…正確にはデスナイトはどうするべきか判断できなかった。

 

それが間違いだったとデスナイトは思い知らされた。

 

 

 その親子は森に入ってすぐの場所で野獣に襲われ命からがら逃げ帰ったものの子供の腕が食いちぎられ、ひもで縛り止血をしていてもこのままでは助からないのは誰の目にも明らかだった。

 

 デスナイトは村人の生命を守るという最上位命令を守るために、剣と盾を捨て、子供を抱える母親と共に抱き上げ走り始めた。

”アインズ様なら!”デスナイトのその声にならない叫びを村人たちは確かに聞いていた。

 

 整備もされていない野原を、荒野を、小川をエ・ランテルまで一直線に駆ける。その速さの為に親子が息がしづらくなったのに気付くと手で風を遮り呼吸を助ける。

母子を揺らさないように気を付けながらもその速度は緩まない。それが功を奏し巻き上がる砂ぼこりで早期に発見されることになった。

 

◇◇◇◇◇

 

「アインズ様、至急ご報告いたしたいことがあります」

「ん?セバス聞かせてくれ」

「はい、デスナイトが一体けがをした人間を抱きエ・ランテルに向かってきております」

「(ん~村人を守れって命令してあったからかな?)そうか…おそらく急ぎだろうな。ならこちらから向かおう(デスナイトが何のために動いているのかも興味あるしな)」

「ははっ」

 セバスが素早く窓を開けるとアインズはフライで飛び立ち、セバスは窓を閉めた後飛行にも等しいジャンプで後を追いかけた。

 

 デスナイトは主人が近づいてくることに気づき、砂煙が主にかからぬように速度を緩めつつ位置を合わせ、着地したアインズに膝を折り挨拶も程々に事情を説明し始めようとした。

 

「よい、話はあとで聞こう。まずは治療だ」

 

アインズは紫色のポーションを子供に振りかけ、治癒され始めるのを確認し

 

「それでどういう理由だ?…なるほど、自分の間違いでこの子がけがをしたというのだな?」

 

 頭を下げるデスナイトの背中に手作りのマントを見たアインズはデスナイトが村人たちとうまくやってきていたことを確信しつつ母親に声をかける

 

「デスナイトは自分の責任だと言っているが、お前はどう思う?」

 

 野獣に襲われていつの間にか目の前に魔導王本人がいるという状況について行けない母親は混乱していた

 

「えっああ…あのデスナイトさんは、旦那にするならこういう人がいいといわれるぐらい人気者で…えとその…日ごろから感謝しています…いいデスナイトさんを貸してもらえてありがとうございます」

「…ああうん…よくわかった(旦那にしたいとかいいデスナイトとか何この高評価)」

「あと…もし今回の件でだれかが責任をとるなら私が…」

 

 デスナイトが母親の発言を取り消し、自分の責任だとアインズに訴える

 

「いや、デスナイトさんは何も悪いことしてないですよ私がばかな事をしただけ…いや、そうじゃなくて…デスナイトさんは私達を助けてくれただけじゃないですか!それに、あなたは村に必要なデスナイトさんなんですよ!」

 

 デスナイトと母親の責任の奪い合いを見てアインズは笑いだす

 

「はーはっはっはっはっは、お前たちの気持ちはよくわかった。ならこうしよう国民としもべの責任は私にある。だからお詫びにこのデスナイトを村にやろう。同じ村民として扱ってやってくれ。デスナイトは村に戻り村人としてできることを行うがよい…今からしもべではなく国民だな。セバスこの親子の宿泊の手配を頼む」

「はっ、宿を手配しておきます」

 

そして…

デスナイトは今日も畑を耕しつつパトロールをするのだった。

 

◇◇◇◇◇

 

50年後

 

「アインズ様、本日を持ちまして退官となります、今までお世話になりました」

「…そうか、今まで行政官としてよく働いてくれた事感謝する。本当に素晴らしい仕事だった…その功績に報いたいのだが何か希望はあるか?」

「でしたら私が死んだ後デスナイトにしていただけないでしょうか?」

「…構わないが理由を聞かせてくれないか?」

「私は昔獣に腕をかみちぎられ死を待つばかりでした、そんな私をデスナイトは抱えて走りアインズ様のもとまで運んでくれました」

「あの時の子供か」

「はい。今更ですがありがとうございました。デスナイトは私の父であり恩人であり目標でした。私もデスナイトとなりこの国の人々を守りたいのです」

「言っておくが私が命じればお前が守りたいものを殺すこともあるかもしれないがいいのか?」

「その御命令であれば今でも従わせていただきます」

 それは今までのアインズの統治への信頼

「わかったその願い叶えよう。お前の忠誠を永久(とわ)に受け入れよう」

「アインズ様、感謝いたすます」

 

その後デスナイト化は人間種の憧れとなり

あるものは死後自らの村を守り、あるものは国を守るために働いたそうな。

 

 



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