ゴーレムの正体は (はんでぃかむ)
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悪魔かな

書き貯めとかないです。どの位で更新できるのかも不明。


 守護者たちとの温泉慰安計画はるし★ふぁーさんの置き土産、浴場でのマナー違反を取り締まるライオンの像の乱入により、慌ただしい中でのお開きとなった。

 

「それにしても、装備を外した状態とはいえ女性守護者達の攻撃でなんのダメージも受けないようなゴーレムとは……」

「アインズさま」

「どうしたのだシズ」

 

 CZ2128・δ、ライオンの像を止めるためにマーレに呼びに行かせた戦闘メイドプレアデスの一人だ。

 

「はい、あのゴーレムの素材のことなのですが」

「ん、心あたりでもあるのか?」

「玉座の間の扉の前に並んでいる像の素材と同じかと思われます」

 

 なに、とういうことは一時期アインズ・ウール・ゴウンで独占していた鉱山から取れる超々希少金属だ、それでは装備を外した守護者たちでは傷もつけられないはずである。そしてそれはギルド武器の素材に必要な分の他は、幾人かの仲間たちや、玉座の間への侵入を防ぐ迎撃用の72柱の像を創るためにるし★ふぁーに渡していたはずだ。

 そこでふとアインズに疑問が浮かぶ。

 72柱の像は完成していなかったのではないのか? さすがにるし★ふぁーであっても、もうこれ以上手に入らないかもしれない素材を、目的のものも作り終えずにイタズラのためのものに使うだろうか? アインズは足をとめ、ナザリック地下大墳墓のギミックに関しての知識ならば右に出るものはいないであろう、自動人形(オートマトン)に問いかける。

 

「ふむ、それではあのライオンは例の悪魔の像の一体なのか?」

「申し訳ございません、わかりかねます」

 

 ギミックについて知っていても、その姿形までは把握していないのだろう。自動人形(オートマトン)の表情に変化はないが、頭を下げるその姿を見れば本当にそう思っていることが伺われる。

 

「よい、私もるし★ふぁーさんが作っていた像のモチーフについて特に知っているわけではない。それに像がもし完成しているのならば確認は必要だろう。私はこれから図書館へ向かう」

 

 かしこまりましたとシズは、礼をした後アインズの後ろにつく。

 コキュートスの配下が配置された9階層の廊下を抜け、豪奢な景色からすこし薄暗く感じる場所へついた。重厚さを感じる色合いの木目の入った両開きの巨大な扉、玉座の間の扉ほどではないが、図書館へ向かう途中に合流した今日のアインズ様当番であるインクリメントが扉に手をかけ押し開く。

 ギイイと穴の軋む音が聞こえてきそうな見た目ではあるがそのようなことはなくスムーズに扉は開いていく。

 

「インクリメントよ、司書を一人連れて来てくれ」

 

 図書館に置かれている本は無作為に差し込まれているわけではなく、むしろアインズ独りで図書館に忍び込んでも目的の本をすぐに見つけることができるくらいには整然としたところである。それでも司書を呼びに行かせるのは今は大墳墓の主として自ら本を探すというのは部下のいる手前はばかられることである、というNPCを思ってのことだ。

 インクリメントはすぐに戻ってきた。

 

「これはアインズ様、本日はなにをお探しでしょう」

 

 どのような御用でなどと迂闊なことは聞かずに、迅速に主の期待に答えようという気概が見える、スケルトンメイジの司書長だ。

 

「おお司書長、調度よいタイミングだったな。司書長であれば図書館にあるすべての本から探すことができよう。なに先ほど浴場でライオンの形をしたゴーレムを発見してな、どうもるし★ふぁーさんの作った悪魔の像の一体かもしれぬのだ、レメゲトンだったかなそれについて書かれている本を探しに来たのだ」

「これはこれはアインズ様、もったいないお言葉でございます。この大図書館の管理を任されたものとして当然のことでございます。つきましてはレメゲトンの悪魔について書かれた本で御座いますな」

 

 ふむ、と数秒思案したあと、こちらにございますとアインズ達を先導し歩き始めた。図書館には灰色や、茶色、赤茶色、濃紺などの落ち着いた色の背が10段はあるであろう本棚にきっちりと並べられていた。パッションピンクやら金色に輝いたやけに主張の激しいものもあった気がするが、今は気にしなくてもいいだろう。

 目的地についたのか司書長は足を止め、本棚からゴエティア-悪魔図鑑と題された1冊の本を抜き出した。

 

「こちらがレメゲトンの悪魔についての書になります。悪魔についての説明と姿形などの図が記してございます」

「ご苦労、レメゲトンというのは悪魔の名前ではなかったのだな」

 

 もしくは悪魔がいる世界の名前なのかと思っていたが違うらしい。

 

「はい、レメゲトンという本の一部にゴエティアという悪魔について書かれたものがあるようで、るし★ふぁー様が作っておられた72柱の悪魔の像ならばこのゴエティアのもので間違いないでしょう」

 

 ゴエティアに書いてある悪魔は72柱でございますので、と司書長は言う。

 

「なるほど、それにしても姿まで書いてあるのならライオンの悪魔を探しだすのもすぐだろう。この本をしばらく借りていくぞ司書長」

「役に立てたのであれば光栄でございます」

 

 図書館から出て玉座の間へと歩きで向かう。ギルドの指輪を使えば一瞬なのだが、今はシズとインクリメントを連れているので歩きだ。10層へ向かう途中でイワトビペンギンの姿の副執事長であるエクレアが挨拶に来ていたが、挨拶が終わった段階でまだ何やら言おうとしているペンギンをシズは抱き上げたかと思えば、アインズに玉座の間へ向かいましょうと会話を切り上げさせてしまった。エクレアは小脇に抱えられたまま目出し帽を被った、穴は開いていないが、男性執事に仕事を続けるようにと指示?を喚きながらもともに10層への転移門をぬけた。

 

「さて、ここでどの悪魔の像がないのかを確認していけば、ライオンの像が悪魔であるかどうかもわかるだろう」

 

 アインズは像の置かれている広間の中心に立ちぐるりとあたりを見渡す。像の載っていない台座は全部で5つ、奇妙な姿の像の並ぶ広間の天井には4色のクリスタルが光る。

 

「アインズさま、本を開きながらだとこの広間を動きにくいかもしれません、この本置きペンギンをお使いください」

 

 シズが小脇に抱えていたものを持ち直し、エクレアの脇の下に手を入れフリッパーをパタパタしている。

 

「おい、小娘!私は副執事長であって、神域であるこのナザリック地下大墳墓の9層を余すところ無くきれいにするという崇高な使命を与えられているのだ、本置きなどではない!」

「エクレア、アインズ様のために本を開きたくない?」

「うぐ」

 

 副執事長であり、神々の領域とも思える9層の掃除が主な任務であるところのペンギンは、直接的に至高のお方の役に立てる機会など今までなかった。普段は同じNPCの前でもナザリックの支配という野望を語ることをはばからない不躾で不敬なペンギンとして設定されてはいるが、生まれてから初めて直接的にお役に立てるのではないかと期待にしてしまうのはNPCとしての性だろうか。

 

「アインズ様! このエクレア掃除だけでなく、本置きとしても超一流なところをご覧に入れてみせましょう! ぜひ思う存分本をお置きになってください」

 

 若干意味不明なことを言っているのに気づいているのかいないのか、副執事長だったペンギンは羽を広げ、垂らしていた足は地面に立っているかのように曲がっている。本が置きやすいようにかくちばしが邪魔にならないよう上を向きハムスケの服従のポーズのようにも見える。正直手で持ったままでも問題はないと思っているアインズだったが、エクレア自身がすでにやる気満々になってしまっているのでは今更断りづらかった。

 

「あ、ああ。では置かせてもらおう」

 

 どうぞ、と間髪入れずに返事をするエクレアの対応に困惑しながらも、アインズは本の適当なページを開き鳥の足にのせる。エクレアは本が閉じないよう、羽の先だけを少し曲げ両端を押さえページが変わらないよう嘴をおろしていた。

 

「大丈夫か、エクレア?」

 

「もんふぁいあいまふぇん」

 

 首で本を挟んでいるせいか、足元を見るような体勢のエクレアはだいぶしゃべりづらそうだ。

 

「そ、そうかそれならばよい。確認していくのだが、これは順番どうりに並んでいたりするのだろうか」

 

 アインズはエクレアに置かれた本に手を伸ばし最初の悪魔が描いてあるページを開く。

 

「大いなる王『バール』、人とカエルと猫の頭から蜘蛛の足がはえた姿か……」

 

 ユグドラシルの異形種よりも異形としか言いようがない姿だが、ユグドラシルのモンスターとしても見たことはない。3つの頭というだけならケルベロスなど有名なのもいるが、阿修羅の頭から蜘蛛の足を生やしたようなものは流石にいなかっただろう。ともあれここまで個性な姿であればすぐに見つかることだろう。

 案の定、玉座の間の扉のすぐとなり、反時計回りに1つ目の像がそれだった。るし★ふぁーの創る像はどれも今にも動き出しそうなくらい精巧で生物的な雰囲気を醸し出すものではあったが、まさかこの奇天烈な姿でも再現されているとは思っていなかった。人の首がにゅるりと前へでて見下すような目線を感じる。絵だと後ろ姿は分からなかったがそこも蜘蛛の体のような薄く毛の生えた球体が表現されていた。

 

「バールはあると。インクリメント、次の頁をめくってくれ」

 

 目の前で像を観察していたアインズはシズやエクレアとともに少し後方で待機していたメイドに指示を出すと、ページを捲る音が聞こえる。台座にいない5体を探し終えてからが本番だが、もしライオンの像が悪魔の1体であった場合は他の悪魔の像も完成していた可能性が出てくる。そうなるとライオン以外の像、残る4体も探しだすべきだろうか。探すとしても万が一浴場の時のように襲いかかってきた場合、守護者レベルのものでないと太刀打ち出来ない可能性が高い。最悪探すのを手伝わせたばかりにNPCを死亡させてしまうなんてことになりかねない。しもべを使ってもいいがあのゴーレムとやりあえるレベルとなるとそれなりに費用がかさむし、連絡するまもなく殺されてしまうレベルでは死亡したしもべの位置で発見はできるだろうが、それもそれで金の無駄遣いだろう。探さないにしても、あるかもしれないという可能性が生まれた以上誰かが何かの拍子にひっかかってしまいかねない。るし★ふぁーがしかけたであろうゴーレムは、侵入者では無くどう見ても身内用であるのだから。

 この世界に転移して、この場にその姿がないにもかかわらず頭を悩ませてくるるし★ふぁーに文句の一つでも言ってやりたいところである。



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溶岩の底に

 悪魔の像の並ぶ広間の中央から、玉座の間への扉を見て左側の一柱が1番目の悪魔バール、右側の最初の一柱が2番目の悪魔アガレス、3番目の悪魔ウァサゴはバールの隣、4番目の悪魔はアガレスの隣に。簡単にいえば広間中央から見て左側に奇数番の悪魔が、右側に偶数番の悪魔が順に並んでいた。

 

「大浴場にあるライオンの像はシズの予想通り悪魔の像の1体であったな」

 

 72柱の悪魔の像を照らしあわせた結果、ライオンの像の名はマルバス、悪魔図鑑には疫病を癒す力のある悪魔だという。大浴場に疫病を癒やす悪魔とは、るし★ふぁーはイタズラのためだけでなく一応意味を持たせてあの場にライオンの像を配置したのだろうか。もともとロールプレイに偏った構成になっているメンバーの珍しくはないアインズウールゴウンだ、ギルド拠点自体も外面的な意味でも設定的な意味でも相当に凝った作りをしている。1層から最奥の玉座までなにかしらのコンセプトを経て今の形へと落ち着いたわけだから、それにふさわしいだけの意味をもたせていたとしてもおかしくはないだろう。あの場にあったのもるし★ふぁーの意思と言うのならば、広間に並べるのではなくそのままにしておくほうが良いのだろうか。

 

「それに、残りの4体も判明した。シズ、深夜ではあるがゴーレム探しに付き合ってもらうぞ」

 

「かしこまりました」

 

 シズは自動人形(オートマトン)故に、元から睡眠不要、疲労もないはずなので問題無い。他のゴーレムがライオンの像と同じように意図しないきっかけで動き出してしまった場合や像の回収のために、シズは連れて行かざるをえない。

 

「エクレアとインクリメントはすまないがゴーレムの強さを考えると連れていくわけにはいかない、2人とも9層に戻り各自の仕事にもどれ」

 

 アインズはシズに抱かれたエクレアを持ち上げ、本を置くために無理な姿勢を続けて凝り固まってしまったかもしれない肩と首のあたりをすこしだけ揉んでやる。おぉと驚きと悦びの混ざったような声を上げ硬直してしまったエクレアをインクリメントに渡す。

 

「インクリメント、9層に戻るついでにエクレアを執事助手のところまで連れて行ってくれ」

 

「はい、かしこまりました。それと本日は私がアインズ様当番であるため、通常のルーティンから外れております。アインズ様の自室の清掃をおこなってもよろしいでしょうか?」

 

 かまわない、と伝えるとインクリメントは深く礼をして9層への転移門へと歩いて行った。

 悪魔の像を探すことになったのはいいのだが、一体どこから探していくべきなのか。わかっているのは、悪魔の像は侵入者を迎撃するための配置にはなってない可能性が高いこと、見つかりやすい場所にはない、もしくは擬態しているであろうということ、なにかしらの行動を引き金に発動してしまうこと。女性用の浴場に像が置かれていたことからわかるのはそのくらいだろうか。

 

「もともと悪魔の像の置き場のある10層にわざわざ像を仕込むことはしないだろう。9層は一般メイドや戦闘能力のないものたちが多いので探すとしたら一時的に避難させてから探したい。8層は……、いや、8層は後回しだな。シズ、7層から探して順に浅い層へと向かうとしよう」

 

 メッセージで転移門を管理しているNPCに10層と7層を繋いでもらう。荘厳な10層から一変する景色。火山より流れる溶岩が赤々とあたりを照らし、空は一面火山灰の雲により重く苦しい雰囲気を漂わせる。ユグドラシルのフィールドであれば熱波のエリアエフェクトにより火属性のダメージを受けたであろうが、ナザリック内では7層でも負のエリアエフェクトがかかっている、それも今は費用節約のためにカットしているが。

 

「デミウルゴスは、すでにナザリックより出立してしまったようだ」

 

 やはり、忙しかったのだろう。ナザリックで最も働いている7階層の主は、アインズが思いつきで立てた慰安計画のためだけに合間を縫ってわざわざ来てくれていたようだ。悪いことをしてしまったか、と内心で少し反省し次があればエクレアやセバス……パンドラズアクターも含めちゃんとゆっくりできる時間を取れるようにしようと決意した。溶岩の川に沿ってデミウルゴスの配下がいるであろう古代の神殿かたどった場所へと向かう。

 

「ようこそおいでくださいました、アインズ様」

 

 出立してしまったデミウルゴスの代わりにアインズを出迎えたのは、デミウルゴスの配下として与えられた悪魔である魔将達だ。片膝を地面につけ臣下の礼をとっている。

 立って良い、と魔将たちに指示を出すと即座に立ち上がる。

 

「ここへ来たのは、るし★ふぁーさんの作ったゴーレムがないかを探すためだ。あるかどうかも不明ではあるが姿形を伝えるので7階層のすみのすみまで、そう普段は絶対に立ち入らないような場所も含め見まわってほしい」

 

 了解の意を示した魔将たちに、悪魔図鑑の幾つかのページを示し姿形を伝える。魔将はそれぞれにしもべを召喚し八方へ散っていった。

 アインズは神殿を中心に、シズと10層を出る前に呼んでおいたプレアデスのエントマと同じくプレアデスの副リーダーであるユリとともにあたりを捜索していた。

 

「ユリたちは9層の大浴場をつかったことはあるのか?」

 

「恐れながら、アインズ様より受けた休暇の命の際にシズ、エントマ、ルプスレギナとともに利用させていただきました。アインズ様と行動をともにしているナーベラルと王都へ情報収集に行っているソリュシャンは残念ながらまだ一緒には行っておりません」

 

 プレアデスのメンバーは、よく集まって御茶会を開いているらしい。ナーベラルもエ・ランテルの冒険者組合で遠出するような依頼を受けた際などはナザリックに戻して休暇を取らせたりはしているのだが、どうしても冒険者としての都合を優先してしまうため計画的な休暇を取れないでいる。

 

「そうか……ナーベラルやソリュシャンには今の任務がおわったらしばらく自由な時間も必要だな」

 

「いえ、時折ナザリックに帰ってくるので、その時には9階層でお茶をしていますので問題ございません」

 

「そぉです。なーちゃんもそーちゃんもお茶会でいっぱいお話をしているので問題無いですぅ」

 

「それならばよいのだが。あそこを使ったということはライオンの像のことも知っているのか?」

 

 今回の騒動の発端となった大浴場のゴーレムだが、場合によってはあのまま発見されずに終わったということもあったはずだ。

 

「入口に一番近いお風呂の脇にあった像のことでしょうか?」

 

「そうだ。実はあの像はるし★ふぁーさんが仕掛けたゴーレムでな、風呂に飛び込んで入ったりすると暴れだすようにしてあったのだが。ユリたちが使った時に問題がなかったというのであれば、お前たちはちゃんとマナーを守って風呂を楽しんでくれたようで安心したぞ」

 

「はい、ルプスレギナあたりはすこし警戒する必要がありましたが、とても良いお風呂でした。このゴーレム探しもその件と関係が?」

 

「ああ、そのゴーレムがどうやら10層の悪魔の像の1体らしいのだ、おかげでしゅご……、いや、調べてみるとかなり硬度の高い材質だったのでわかったのだが。るし★ふぁーさんの悪魔の像がもし作り終えていたのなら念の為に、場所や発動条件は確認しておかなければいろいろと危ないだろう」

 

 まずい、最初にお風呂に飛び込んだのは守護者でしたーなんてことがばれたらナザリックの運営に支障が出るのではないか? お風呂でのマナーも守れない人のいうことなんて聞きたくないなんてことになったりしたら……もうシズにはバレて、いや、、飛び込んだのがアルベドだということは知らないはずだ。アウラやシャルティアであればまだ子供のすることだからと納得できる! 飛び込んだのが守護者統括でありナザリックの下僕の頂点であるアルベドだということがバレなければ問題はないはずだ。

 

「でもぉ、この辺には像みたいなものは、砕けた柱くらいしか見当たらないですぅ」

 

「像は神殿の入口にあるものくらいだったな」

 

「あれ普通の石材だった」

 

 ゴーレムか普通の石像かを見分けるだけならば上位のアイテム鑑定の魔法を使えばすぐに判別できる。またシズのようなオートマトン、悪魔、ドラゴンが持つような識別眼系のスキルならば見るだけでもわかるだろう。

 

「魔将たちからの連絡もないということはそれらしきものは未だ見当たらずということか、7層にはないのかもしれないな」

 

「あそこにぃ溶岩で半身浴してる像がありますよぉ」

 

 溶岩の中か。溶岩に浸かっている像は神殿の入口に立っていたものと同じに見えることからゴーレムの可能性は低いが、念のために像に近づきアイテム鑑定の魔法をかける。結果はやはり普通の石像であったが。

 

「7層のすみからすみまでとなるとこの溶岩の川底も調べるべきなのだろうか」

 

「ですが、溶岩自体のダメージはアイテムでどうにかなるかもしれませんが、水ではなく泥のようなものなので視界が通らないのではないでしょうか」

 

 いくらアンデットとはいえ、夜目は効いても泥の向こうが透けて見えるなんてことはない。これは潜って手探りで探すしかないのだろうか。

 だいぶ火山に近づいたところにあるにしては、少し幅の広がった川のほとり、溶岩ではあるが、しばらく溶岩の流れを見つめていると水面、溶岩面が波打ち始めた。

 

「紅蓮か」

 

 溶岩が押し上がったかと思うと、ぐんぐんと高さを増していく。真っ赤な溶岩から浮き出た溶岩と変わらぬ色の巨大なスライムが顔を出し、挨拶をするようにプルプルと震えている。最近スライムとの意思の疎通に自信をつけてきたアインズは、紅蓮が出迎えの挨拶に来たのだと一瞬で悟る。

 

「紅蓮よ出迎えご苦労、この辺はお前の守護領域だったか」

 

 豊満な体を揺らし、その通りだという意思を伝えてくる。

 

「紅蓮よ溶岩の中で探してほしいものがあるのだが、悪魔の形の像でな」

 

 アインズは紅蓮に見えるように図鑑の図を指し示していく。しばらくすると紅蓮うねりだしアインズたちの前に1体の像を体内から出した。

 

「ふむ、神殿の入口にあるものとおなじだな。やはりスライムでも溶岩の中では手探りになってしまうか」

 

 溶岩から顔を出していたスライムは落ち込むようにしぼんでいく。

 

「いや、お前を責めているわけではないのだ。しかし、溶岩の底にもちゃんとものをおいていたのだな」

 

 かつてこの層を作ったメンバーの姿が思い浮かぶ。そこまで凝り性なイメージはなかったが、案外手を付け始めたら凝ってしまうタイプだったのだろうか。水ではなく溶岩の底という人目につく可能性が高くない場所にも手を加えていたとは。そこでふとアインズはその実は凝り性だったメンバーとの会話を思い出す。

 

――溶岩の中でこそ映える場所ですが、澄み渡った空とキレイな水の流れとともにあっても美しくできたとはおもいますよ。美しい物を汚して更に美しくなったとなれば、愉悦の美ですね。ぜひ機会があれば澄み渡った7層も見て下さいね、モモンガさん。

 

 性格がいいほうではなかったとは思う、むしろいい性格といったほうが正しいのかもしれない。

 

「超位魔法を使うか」

 

 8階層で使った時はそのすべての範囲に効果が及んだ、それならば7層でも同じことだろう。シズたちに超位魔法を使うことを伝えしばらく待っていてもらう。

 

超位魔法 ザ・クリエイション/天地改変

 

 

 

 

 




一日5000字でかけば10日で終わるとか思ってました。5000字って多いんですね。


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成長とともに

 輝く水面、燦々と照りつける太陽、青々しく茂る草原、吹き抜けるさわやかな風、晴れ渡る空はどこまでも高く見える。ここは悪名高いアインズウールゴウンの拠点、ナザリック地下大墳墓の第7層。太陽の位置は真上、直上から突きつけられる太陽の痛々しいほどの日差しは、足元に広がる草原に白く眩いストライプを描く。超位魔法のせいである。

 目の前を流れる小川には小魚1匹おらず、おおよそ生物の気配を感じない。かわりにいるのは大きな大きな赤い粘体。その足元に広がる想像していなかったほど深い川の底には、白磁の神殿が沈んでいた。水面を通して見るそれは、周りの穏やかさに溶けこむように姿を波に漂わせる。

 先程まで聞こえていた土の煮えたぎる音も、今では川のせせらぎのみの完全なリラクゼーション空間になっている。

 

「これが超位魔法、リザードマンの集落を凍らせた魔法だと聞いておりましたが。至高なる方々の力は守護者の方たちの比ではないというのは知っていたつもりですが、これほどとは本当に格が違いすぎるとしか思えません。さすがはアインズ様」

 

 ユリがアインズを褒め称える。エントマやユリは落ち着かないようにあたりを見渡している。シズはいつも通り表情にも行動にも変化はない。また3分の2か、なんとなくだが2連敗を喫した気分である。

 

「7層すべてが今、春の草原に包まれているだろうな。ユリたちは超位魔法を見るのは初めてだったか」

 

「はい、アインズ様。このような強大な魔法を私達のようなしもべにまで拝見させていただけるとは光栄にございます」

 

 よい、と頭を下げようとするユリを押しとどめる。それよりもこれからが本番だ。7層全体に広がる川底を調べるならもう一度魔将らを集め手分けして探さなければならないだろう。

 

――天誅

 

 突然、どこからとも無く聞こえてくる拡声器で大きくしたような声、川の上流、火山だった山ほうから聞こえてくる。

 

――美しき紅の流れを汚すおろか者共に裁きを!

 

 もう何年も前に聞いた男の声、そしてつい数時間ほど前にも壁越しに聞こえてきた声だ。

 

「るし★ふぁーさんの声か! くそ、発動させてしまった」

 

 変わりきった7層の景色を楽しむ暇もなく聞こえてくる、ギルド(いち)の問題児の声。

 予定では発見して指揮権をアインズに変更さえしてしまえば発動させること無く10層まで運ぶことができたというのに。

 今いる場所から火山までは木の一本も生えていないため見通しがよい、おかげで火山の中腹に猛スピードで川を下ってくる影が見える。

 

「火口にセットしてあったか、地上にあったならばあのあたりを捜索していた魔将が発見しているはずだ、溶岩の中に埋め込んでたのか」

 

 川を下ってくる影がはっきりと見えてきた、胴が細く、下手にバランスを取ればすぐに転覆してしまいそうな船に乗っている。そしてその船に乗っているのは馬だ、更にその上には筋骨隆々の男姿が見える。

 悪魔図鑑の18番目の悪魔バティンのものだ。

 

 火口から降ってきただろう、あの火山はスペースの関係でかなりの急勾配になっていたはずだ。乗っているのが意思を持つものであればあまりの速さにあの船では転覆してしまうだろう。乗っているのが微動だにしないゴーレムだからだろうか、もしくはあの船自体がマジックアイテムであるために転覆せずにいるのかもしれない。周りが水になると同時に発射されゴーレムを運ぶ仕組みにでもなっていたのだろう。超位魔法をどこで発動させるかなんてことは不明なはずだが、7層全域に溶岩が通っているので船の方に細工してあれば発動者の近くまで運べるのかもしれない。海上や海中、そうでなくとも水を使ってギルド拠点を仕上げたことがある人がいたのならそういう移動手段もあることを知っていたかもしれない。

 

 アインズたちが索敵圏内に入ったのか、ゴーレムが動き出し船から飛び、草原へと降り立つと一直線にアインズたちの方へ駆けてくる。

 

「シズ、あれを停止させるにはどうしたらいい」

 

「馬の尻を直接3回叩いて」

 

「くっ、遠距離攻撃や魔法ではダメだということか?」

 

「ダメ」

 

「紅蓮、あの馬の尻を3回叩け!」

 

 ぷるぷると返事が帰ってくると同時に、深紅のスライムはゴーレムを飲み込まんと巨体の一部が川から這いずり出てくる。

 迫り来るゴーレムを包み込む形で拘束しようとするが、ゴーレムがスピード落としたところを完全に捕まるという段階でスライムをすり抜けてしまった。

 ゴーレム製作スキルのレベルが上がっていくと幾つかの耐性をもたせた上で創造することができる。時間停止、行動阻害、拘束などの耐性ももたせることができてしまう。

 ゴーレムを取り逃がした紅蓮が後ろから体を伸ばすようにして追っていくが、ゴーレムにしてはかなりの速さでかけていくバティンの像を捉えることができない。

 

「大浴場の像と同じで、今見たように拘束や行動阻害、時間停止に対しては耐性がついている。私が囮になるから馬の後ろから接近して3発馬の尻に打ち込んでくれればいい」

 

 浴場のライオンと戦った際の注意点をユリたちに説明する。

 

「お待ち下さいアインズ様、それでは御身が危険にさらされることになります」

 

「その意見を聞いている時間(ヒマ)は無いようだぞ〈フライ〉そして〈ファイアーボール〉」

 

 迫り来るゴーレムに低位の魔法をぶつける。草原の一部が焼き焦げるがゴーレムの見た目にはなんの変化もない。しかしゴーレムは明らかにアインズの方へ向かってくるようになった。

 

「もし傷でもつけてしまえば修理にあの金属が必要になってくるからな、ゴーレムを修復するスキルについてはパンドラがいるから問題はないが、素材はもうコレクション用の僅かな量しか無いのだ」

 

 アインズは草原を滑るように飛びながら、ある程度の距離を保ちつつファイヤーボ―ルを一定時間ごとに打ち込んでゆく。

 ユグドラシルのモンスターは一定距離以上離れたり、モンスター自身の持っているスキルでは攻撃の届かない位置にある程度の時間とどまるとターゲットを変更したりPOP位置に戻ってしまう。

 この世界に来てからフレンドリー・ファイア―が可能になったり多少ルールが変わっているところもあるが、ゴーレムがアインズだけを執拗に追っている姿を見る限りでは、ユグドラシルの時に設定されているゴーレムはそのままのルールで動いているように見える。故にアインズは攻撃を受けない距離を取りつつも離れすぎないよう注意し、フライを使っているにもかかわらず上空へ逃げることはない。

 

「シーちゃん、あのお馬さんのおしりをぉ3回叩けばとまるのよねぇ?」

 

「エントマ、それであってる」

 

「いいことぉおもいついちゃったぁ」

 

 そう言うとエントマは地面にいつの間にか呼び出していたおびただしい数の虫達をアインズとゴーレムの間に飛ばす。ゴ―レムはそのままアインズを狙い走り続け、虫の塊の中を何事もなかったように突破していく。

 

「ふっふーん、何匹かゴーレムにぃ乗っかれたみたいなのぉ、それじゃあぁ終わらせちゃおうねぇ。いぃち、にぃの、さぁん」

 

 エントマがゴーレムに張り付いた虫達に命令を出したようだが、ゴーレムは変わらずアインズを追い回している。

 

「あらぁ? 3回叩けば終わりじゃないのぉ?じゃぁ、よぉん、ごぉ、ろぉく」

 

 それから少しの間エントマは虫へ馬のおしりを叩くように命令を出しているようだがゴーレムにはなんの変化も起きない。

 

「エントマ、音がなるくらいには強く叩かないとダメみたい」

 

「えぇーそぉんなぁ、すごぉくいいアイデアだったのにぃ」

 

エントマが飛ばしたような細かい虫では、叩くというよりは触れているレベルだったのだろう。

 

「エントマ、残念だったわね。仕方ないから直接叩きに行くわよ」

 

「はぁい……」

 

 ユリは棘のついたナックルを、エントマは剣のような虫を装備し、馬が正面を通るのを待つ。それを見たアインズは逃げる速度に緩急をつけはじめた。

 アインズは焼け野原になりかけている草原を円を描くように回っている。アインズと同等の戦士であれば本気で走るゴーレムの後ろからでもすぐに追いつくことができるだろうが、純粋な戦士であってもアインズの半分程度のレベルのユリや、近接戦闘はできるが純粋な戦士ではないエントマではただぐるぐる廻る馬に合わせて攻撃を叩き込んでも、3発当てる前に攻撃範囲外まで離れてしまう可能性がある。それ故に、緩急をつけ3発当てられるタイミングを作り出しているのだ。

 

「行くわよ、エントマ」

 

「はぁい、ユリ姉さまぁ」

 

 アインズが目の前を通り過ぎて1秒ほど、馬が目の前を通り過ぎようとする。

 

(ワン)(ツー)、スぁっっ!」

 

 この場にいる者の中では一番攻撃速度の早いユリが3発目をだそうというところで、ゴーレムは前足に重心をのせ後ろ足を浮かせると、そのままユリの頭に後ろ足の蹄で襲いかかっていた。

 くっと顔をしかめ避けきれないと覚悟したユリに紅蓮が覆いかぶさる。

 紅蓮はユリを吸い込み、また己の体を盾にユリをかばった。紅蓮が盾にした部分は四方にはじけ飛んでいた。

 

「ありがとうございます、助かりました」

 

 紅蓮はぷるぷると触手状に伸ばした体を波打たせ、何でもない風に振る舞う。体が弾けた分のダメージは負ってしまったようだが。

 紅蓮の体を吹き飛ばすほどの攻撃がユリの頭にあたっていれば首が飛んで、いや、その美しい顔は潰れてしまっていたかもしれない。

 

 ユリらの一連の行動を、変わらずゴーレムを引きながら観察していたアインズは、メイドたちを危険に晒してしまった自分の失態に気づき憤っていた。

 

 ライオンの像を止めるために尻尾を引っ張った時は、後ろに回ろうが近づこうがターゲット以外には攻撃をしてこなかったのだから、と言うのは言い訳にしかならないだろう。

  

 るし★ふぁーのゴーレム相手では戦闘メイドのレベルではきついことを知っていたのに戦闘に参加させていることに。慰安計画で呼んだばかりだからと守護者をゴーレム探しに呼ばない判断をしたことに。所詮モンスターの挙動と同じだろうとゴーレムがプレイヤー製のものであるということを嘗めていたことに。

 くそが、何が私が囮になるだ。

 

 アインズが内心で葛藤を繰り広げ、ゴーレムを単独で止める方法を考えていると、何やらユリたちの方で動きがあるのが目に入った。

 

「紅蓮さん、次にゴーレムが反撃してきた際には引っ張り戻してください」

 

 ぷるぷると紅蓮はユリの腰に巻きつけた自らの体を震わせる。

 

 命綱だ。まだプレアデスの3人と紅蓮は挑戦する気満々のようであった。エントマは虫を召喚していざというときのために割り込ませようと、シズは魔銃を取り出し馬の蹄を弾き返そうと各々自分ができる最善を模索していた。

 

――ああ、あの子らはまだ成長するのだ。ゲームの頃の決まった命令しか受けられない人形ではない。失敗し、考え、成功させようと努力できる。十分ではないか、私が過保護になる必要なんてなかったのかもしれない。

 

 アインズはこのまま囮に徹することに決めた。どうしても無理なようなら仕方がない。るし★ふぁーさんのゴーレムの1体には消えてもらうことにしよう。

 

「ユリ姉、これもぉ」

 

 自分では馬に3連打を入れるのは厳しいことを察したエントマは、自分の顔を外すとユリに差し出す。エントマが普段つけている人の顔のような模様の虫だ。裏面には昆虫の足がわさわさと蠢いている。もし馬の蹄が顔にあたっても、仮面が犠牲になってくれるかもしれないということだろう。

 

「エントマ、ありがとう。でも私がつけても前が見難くなるだけだから平気よ」

 

 ユリはやんわりとエントマの申し出を断った。装備判定になるので十分に視界は確保できたりもするのだが。

 

 アインズと馬の追いかけっこも6周目を終わろうといていた。

 

「チェストオオオオ」

 

 美女から発せられたとは思えないほどの雄々しい掛け声とともに先ほどの左左右の連打ではなく左ジャブのみの連打でクリアを狙う。

 

「うぐっ」

 

 馬の前足に重心が移り後ろ足が浮き上がってきた段階で紅蓮の縄はユリを引っ張り戻す。

 

「ユリ姉、おしい」

 

 シズがおしいというように、3連打目の左ジャブは出ていた。出ていたのだが馬に届かせるには少し遅かった。

 

「ルプスレギナがいれば補助魔法をもらえたから行けたかもしれないわね」

 

「私はぁ速度を上げる魔法はつかえなぁいです」

 

「そうね、次は1発めを打ち出すタイミングを変えてみましょうか、馬が目の前に来るタイミングでピッタリとあたるくらいに」

 

 その後ユリの雄叫びは10回ほど、草原を抜けていった。

 手を替え品を替え、全部ユリの拳で叩くのではあるが、あとすこしというところで燻っていた。

 

「これ以上試せることは無いのかしら」

 

「タイミングもぉ変えてみたしぃ、移動しながら打ってもみたけどぉ、ダメみたいですねぇ」

 

「アインズ様は完璧に囮役をこなしてくださっているというのにしもべである私達がこのありさまでは……」

 

 ユリは、未だゴーレムを引き続けるアインズを見ると、歯噛みしたいような感情が湧き出てくるのを感じる。

 

「ユリ姉」

 

「シズ、新しい方法を思いついたの?」

 

「別に武器で3回攻撃を当てなくてもいい」

 

 今までの行動を否定するような突然の言葉に、ユリは言葉を詰まらせる。

 

「え? 馬のおしりを3回叩かないといけないのよね?」

 

「そう。でも、馬のおしりに3回攻撃を当てないといけないわけじゃない、いつもの音を出す棒で3回たたけばいい」

 

 馬の尻を3回叩くのであれば、何で叩くのかも、どうやって叩くのかも確かに指定されてはいない。それはそうなのだが、とユリはどうにも腑に落ちないままだ。

 

「音を出す棒って……、別にあれは音を出すためにあるわけじゃないのだけれど」

 

「ふーん、でもあれならユリ姉の攻撃より早く3回叩ける。お茶会の時、ルプを叱るのすごく早い」

 

「し、シズ」

 

「そぉですぅ、ルプを叱る時のユリ姉はこわぁいのぉ」

 

「エントマまで。怖いってことしかわからないし、今は全然関係ないわ」

 

「次はあの棒でやってみる」

 

「はぁ、わかったわシズ。なぜか納得いかないのだけど、これ以外に方法が思いつかないもの」

 

 今まで張っていた気が、一気に緩んでいくのを感じる。

 

 ユリは拳にはめた装備を仕舞い、普段使っている指示棒を取り出す。腰の紅蓮を確認し、すでに12回目となる攻撃ポイントへと移動した。

 よしっ、と気合を入れなおすユリは、手に持った棒のしなり具合を確認する。一番使い慣れた道具と言われれば、確かにこの指示棒であってもおかしくはないが。先程までと同じく命がけな部分もあるままなので、この棒を持ったまま挑むというのはどうしても不安が拭い切れないがやるしか無い。

 アインズ様はプレアデスの3人と紅蓮を見てできると確信しているからこそ、危険な囮役を受け持ったに違いない。智謀の王とも恐れられるアインズ様の指示したことならば達成できておかしくないはずだ、もしできないのであればアインズ様の思惑通りに動けない私達こそが不出来あり、ナザリックのために働く価値などないという烙印を押されてしまうかもしれない。

 ユリは、つながってはいない首を少し左右に揺らしてから集中してアインズ様を追いまわす不届きなゴーレムを待ち構える。

 

 アインズは再び攻撃ポイントで構えるユリの姿を見て驚いた。先程まではギルドの仲間に持たされていた武器を着け、気合十分で構えていたユリの姿ではない。右手に持った棒の先を左手にパシパシと打ち付け、まるでできの悪い生徒を待ち受ける学校で一番厳しいと噂の女教師のような出で立ちである。心なしか、これまでよりも様になっている風にも見えるのは間違いではないだろう。

 そんな女教師の横を、遅刻してないですよーというふうに少し肩をすぼめてアインズは通過していく。

 

「こら!」

 

 女教師の怒声とともにパシパシパシとつくような3連打が聞こえると同時に、アインズを追い回していたゴーレムの蹄の音が鳴り止む。

 音がやんだのを確認したアインズは地上に足をつき、ゴーレムがいた方へと向き直る。

 おお、と感心する声を上げてしまったのはゴーレムを無事止めた安心感からか、我が子らの成長を見届けたという親心かはアインズ以外知る由もないことだが、これで無事1体のゴーレムを確保したことに間違いはないようだ。地上につけた足のまま、目的を達成したユリたちの元へ歩いて行く。

 

「ユリ、シズ、エントマそれに紅蓮。すまな……、いや、よくやった見事だ」

 

 すまないなどという自分の失態のことなど後回しだ、まずは栄誉を称えるべきだろうと言葉を紡ぐ。

 ユリたちは一同に礼をする。

 

「私達の力不足でアインズ様に長い時間囮役という危険にさらしてしまったことを深くお詫びいたします」

 

 はぁ、と生真面目すぎるしもべに少し気を落としながらも、今はおいておく。

 

「反撃があるかもしれないということを失念し、お前たちを危険に晒してしまったのは私だ。私の方こそお前たちに詫びなければならないだろう」

 

そのようなことは、と言いかけるユリを制し、アインズはユリたちの頭を優しくなでてゆく。

 

「お前たちはまだまだ成長していくのだろう。もちろんレベル的な意味ではない、様々な経験をし、これからもこのナザリックのためによく尽くして欲しい、もう一度言っておこう今回の件、見事だった」

 

 

 




火山から船で急降下する体験しよう! 夢の国でみn……ハハッ
ぷれぷれ化したようだ。


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星空の瞬き

 7階層にあった像、地獄の大公爵バティンは炎の源泉に潜む悪魔なのだそうだ。火口に沈めてあったのもその設定からであろうか。

 

「あの悪魔の像のなすがままにされていても悪魔の像の回収はできたとは……」

 

 7階層で発動した超位魔法を解除し、魔将たちを解散させそのまま6階層に向かう途中。シズからゴーレムの止め方についていろいろ聞き出したアインズは、発動してしまった悪魔の像を止める方法が一つでないことを知り、落胆の色を隠せないでいた。

 

「なすがまま、つまりあの悪魔の像が私を捕まえ、5分間地面を引き釣り回せば勝手に止まるという話だったな?」

 

 そう、と答えるシズの横を歩きながら、市中引き回しの刑という言葉が浮かぶが、別にただ引き回されるだけなら今のアインズにとってはなんてことはないである。

 

 停止条件と完了条件。強制的に停止状態にするなら馬の尻を3回叩く。通常通り停止させるなら引き回しの刑を素直に受けてゴーレムに与えられた命令を完遂させる。どちらかを満たせばゴーレムは停止状態になり、指揮権の移譲を行える。

 元々はフレンドリーファイアーのないゲーム内で作られていたゴーレムである、身内を全力で滅ぼしにくるようなことはできない。だからといって何もできないわけではなく、るし★ふぁーが設定したように完全にイタズラ目的で5分間引き回されると考えれば十分に迷惑なゴーレムだ。尻を叩いて止めようとすると反撃してくるのも、どうせダメージは入らないがびっくりさせてやろうか位のものなのかもしれない。

 

 結果として、わざわざ危ない方の橋をわたってしまったのだが、シズはアインズに被害が出る方法を元から選択肢として示さなかった。結局アインズのリサーチ不足ということになるのだろうか。

 

「シズよ、次からはどんな条件であろうと、とりあえず両方の条件を教えてくれ」

 

 ライオンの像を止めるために尻尾を引っ張る方法だけを教えたのは、アインズが今すぐに停止させる方法を聞いたためだ。像のなすがままにされていた場合は水風呂まで連れて行かれ5分間座らせられるというものだった。

 

 了解した、と短い返事をしてきたあたりで6階層への転移門につく。正直なところ、精神的に少し休憩したいところではあったが、普通に暮らしていればゴーレムは発動しないだろうと思えてきた今、捜索を中断してしまうと再開する気分になるかどうかに不安があるためにそのまま6層へと転移する。

 

 「ようこそ、私達の守護階層へ!」

 

 転移門を抜け、6階層の闘技場へと出るとアウラとマーレが出迎えてくれる。その後ろにはアウラのペットである魔獣たちが数えきれないほど並んでいた。

 

「9階層で解散をしたばかりなのにすまないな」

 

 7階層での失態を繰り返さないために予め守護者を呼びつけ魔獣たちを集めさせておいた。森に住む魔獣ならば、もしゴーレムを起動させてしまったとしても、容易に逃げることも可能だろう。

 

「そんな、アインズ様。僕はアインズ様のお役に立てるならとても嬉しいです」

 

 両手で杖を握りしめ、素直な思いを伝えてくるマーレ。

 

「そうか、ありがとうマーレ。早速だがメッセージで伝えたとおり、るし★ふぁーさんのつくったゴーレム探しを手伝ってもらおう。範囲は6層全域、7層でもそうだったが普段はいかないような場所も含めすみからすみまで探して欲しい」

 

 アウラとマーレは承知いたしました、と返事をするとすぐに魔獣たちを闘技場の外の森のなかへ突入させる。

 

「あ、あのアインズ様。全域ということは、あの穴の中もということでしょうか」

 

 ん?ああ、餓食狐蟲王のところか。先日もアウラはあそこに行くのを嫌がっていたな。

 

「ああ、そうだ。だが今回もマーレがあそこに入ってくれるだろう、ついでに餓食狐蟲王に新しい巣の使い心地でも聞いてきてくれ」

 

 思い出したくもないことを思い出してしまうが、アインズは軽く頭を振りそのことを頭から追い出した。そのせいで更に疲れが増したように感じる。

 

「7層でも1体ゴーレムと戦ってきたため少し疲れてしまってな。悪いが、しばらく私はここで休ませてもらう」

 

 6層内での転移なら通常の転移魔法が使えるので、アインズが闘技場で休んでいても連絡があれば即座に現場に向かうことができる。

 

「はい、6層の捜索のことならば私たちにお任せください! すぐにゴーレムくらい見つけ出してみせます!」

 

 そう言うとアウラとマーレも闘技場の外へと向かっていった。

 

 

 ふぅと息を漏らすと、アインズはフライの魔法で空へと浮かび上がる。

 

 リアルでは星の瞬く夜空など馴染みのない光景であったが、6階層に作られた夜空は、現実のもののように輝いている。

 仰向けに浮かび脱力して高度を下げいき、見えないベットに横になるようにふわふわとただ夜空を見上げ、何も考えずに浮かんでいた。

 

「あれは……オリオン座?だったかな」

 

 思い浮かんだ単語を誰が聞いているわけでもないが口にする。

 

 シズならば知っているだろうかと、6層への入口で集合をかけた残りの守護者への案内のため待機しているメイドを呼んでみるかと考えるが、そんな考えもすぐに溶けていき、今はただ自身の心の安らぎを夜空に求めることにした。

 

 しばらくそのままでいると、ぽすん、とアインズは闘技場の中心に落ちる。フライの魔法の効果時間が切れたのだ。土に直に寝るのは服も汚れるし抵抗もあったのでしなかったが、ひんやりとした土の感覚も心地よいものだ。

 アインズが土の感触を手でも感じながら星を数えていると、真上よりやや外れた位置の星が揺れて流れだした。

 

 流れ星まで再現してあるのか、とアインズは初めて見るその光景をじっと見つめていた。

 

――天誅

 

 ぶち壊しである。

 

――神聖なる闘技場で昼寝とはピクニックでもしに来たつもりか! 夜空の星星が許してもこの私が許さん!

 

 本日3回目となる男のセリフだ。

 

 アインズは流れ星がどんどん大きくなっていくのに気がついた。あれは流れていない、こちらに向かって落ちてきているのだ。

 星が落ちて来る様子から目を離さずにすぐに立ち上がる。どんどん地表に近づいてくる光は、自ら光を放っているようだ。

 

 輝く星は闘技場の中心、先程までアインズが寝転んでいた場所に轟音を立てて降り立つ。7階層への入口に背を向け、大きく両足を開き右足を上げるとゆっくりと四股を踏み始めた。左足を上げたかと思うと、どうやったのかそのままの姿勢で体を反転してから左足を下ろすと、尻を突き出したところで動きを止めた。

 

 見た目は長槍を持った引き締まった体の男の像。だが顔はなかった。というよりも頭部がそのまま火の玉のような形になっている。火の玉の頭部はエフェクトでもつけられているのか、星のような青白く強い光が発せられている。アンデットなため視界が光に遮られるというようなことはないが、かなりの眩しさである。

 

 顔が輝く男の像は、馬の像のように追いかけてくるということもなく、像は四股を踏んだ姿勢のまま動かない。確認の為、アインズは悪魔図鑑を開きどの悪魔かを調べる。10層で確認した空欄になっている5体の悪魔の中には、頭部が火の玉になっているような絵で記されたものはなかったはずだ。

 

 悪魔の解説まで読むと、見つけた悪魔以外の1体に思い当たる特徴が書かれていた。

 

 悪魔図鑑の58番目、地獄の大総裁アミー。占星術を司るアミーは燃え上がる炎の姿で現れ、しばらくすると精悍で魅力的な人間の若者の姿になるという。つまり美男子、図鑑に書いてある絵もスラっとした筋肉質の体に整った顔が付いている。

 わかった、ただの嫉妬だ。イケメンを作りたくなかっただけである。ライオンの像の顔などはかなり精巧に、獣基準ではしっかりと整った顔をしていたというのに……。

 

 アインズはるし★ふぁーの起こした嫉妬にまつわる事件を思い出す。

 

 ユグドラシルではイベントとして、その日の決まった時間にログインしていたユーザー全てに嫉妬マスクという、嘆いているような怒っているような模様が描かれた仮面を強制的に配布した。

 そんな悲しみ溢れる嫉妬マスクを配布されたユーザーたちの一部が集い、嫉妬マスクを持たぬもの達を狩っていく集団を作って暴徒と化していた。一部と言ってもかなりの数が集まったようだが、そんな中にアインズウールゴウンのメンバーの何人かも参加したそうだ。

 もちろんるし★ふぁーもその一人だ。問題はそこからで、ギルドメンバーならばるし★ふぁーが連れているゴーレムがいつもと違うことに気づいたであろう。ゴーレムクリエイターやビーストテイマーなど、自身の強さはそれほどにはならない職の者達は、ゴーレムや魔獣などの一緒に戦うためのものを常に連れているので、るし★ふぁーが連れているゴーレムもそれだと認識していたことだろう。

 

 嫉妬マスクをつけたるし★ふぁーが連れているゴーレムは自爆専用の広範囲爆弾だった。連れて行った数は3体、るし★ふぁーのゴーレムクリエイトのスキルとイタズラのためだけに取ったのではないかと思われるような幾つかの職、罠師(トラッパー)などのスキルを組み合わせて作ったそれは、集団のボルテージが最大になった頃に発動した。

 爆発の中心部にいたレベルの低いものは即座に蒸発し、魔法職のような防御力の低いものたちもかなりのダメージを負い、高レベルの戦士であっても爆発に付与されたノックバックの効果で中心部から離れたところもまで押し出されていた。するとどうだろう、中心部には2体のゴーレムと、フレンドリーファイア―が無効なために爆発に巻き込まれなかった関係者と思われる数人がいるだけである。

 そこから先はターゲットが中心部のプレイヤーに移った嫉妬マスクをつけた者達が入り乱れての戦いとなった。もともと違うギルドやフレンドリーファイアーの無効が適応されない者達の集まりである。あいつから攻撃された、こいつの攻撃に巻き込まれたなど、大混乱の中、嫉妬マスクの暴徒らの最後は、自滅という嫉妬マスクを持つ者達にふさわしいとも言える幕切れになった。

 

 後に、きっかけの爆弾を作った犯人はアインズウールゴウンであるという噂がたった。実のところゴーレムの3体のうち1体は、文字花火と言われる何かの記念の時などに使われる打ち上げると文字になる花火が入ったもので、アインズウールゴウン参上という文字を打ち上げていたのだが。かなりの数のプレイヤーの乱戦であったためにそれを見ていたものが少なかったために噂どまりだったのであろう。

 

 それも良い思い出になっただろうか。と頭が火の玉になってしまった像を見て思う。像の声が聞こえたからかシズがすでに隣まで来ていた。

 

「シズ、あれの止め方を教えてくれ」

 

「ゲームに勝てば止まる」

 

「もう一つは?」

 

「ない」

 

 え?ついさっき2つ方法があるのを確認したばかりだ。ゲームと言う単語も気になったが、最初に条件を聞いておこうと思ったアインズは思わぬところで躓いてしまう。

 

「どういうことだ?」

 

「停止条件はもう完了できない」

 

シズは夜空の一点を指し示す。

 

「あそこのブランコに乗っている状態で3回揺らさないとダメ」

 

 夜空の広がる6層ではあるが別に外というわけではない。ここはナザリック地下大墳墓のなか、地下にある1つの空間でしかない。上空に上がっていけばもちろんある程度行ったところで、天井に阻まれてしまう。ここからでは何かがあるようには見えないが、天井にブランコがぶら下がっていて、そこにこの像が置かれていたというのだ。

 

「ブランコに座っているのなら、起動していないのではないか?」

 

天井にぶら下がっている状態で止まっていたと言うなら、それは停止状態でありそこから更に停止させるというのだろうか。

 

「起動していないと光らない」

 

 そう言うと次はゴーレムの方を指差す。光らせるために起動させっぱなしで置いてあったらしい。起動させる条件を満たしたわけでなく、ここへ降り立つ指示の条件を満たしてしまったようだ。

 停止していてもあの強さで光っているのであれば、10階層に並べてもうっとおしいだけであるので、停止させれば消えるというのには安心した。

 

「なるほど、ではゲームというのは」

 

「ゴーレムのお尻に触れば始まる」

 

 また尻か。それも若い男の尻である。

 

「ゲームのはじめ方はわかったではその内容は? 闘技場でゆったりしていたら降ってきたからな、あれと戦えばいいのか」

 

「尻相撲であっちの門に押しこめば勝ち、門と門の直線上からでたりお尻以外で像に触るとやり直し。あと負けてもやり直しになる」

 

 尻相撲……、やったことはないが文字通り相撲を尻で取るのだろう。自分があの像と尻同士突き合わせている姿を想像し頭を抱える。

 四股を踏んでいたのも尻をこっちに向けたのも全部そのためのようだ。アウラやマーレがすでに出発していたことに安堵するしかなかった。

 

「その方法しかないというのなら、姉弟(きょうだい)が帰ってきてしまう前にさっさと終わらせることにしよう」

 

 このナザリックの主ともあろうものが娘息子の前で、成年男性の像と尻相撲をする姿など、とてもじゃないが恥ずかしくてみせられない。

 それにこのまま放置していても、6層まで来た者に尻を突き出す男の像が置いてある闘技場になってしまう。

 シズに離れているように指示し、意を決して像の尻の部分へ手を伸ばす。そっと、触れるだけだ。突き出された尻は男のものであり、全裸というわけでもなく装備をかたどった風に作られているというのに、なぜかいけないことをしているような気分になってしまう。こんなところを他の者達に見られる訳にはいかない。

 

「あれ?」

 

 何も始まった様子はない。

 

「シズ、始まらないようだが。もしかして天井から落ちたせいで壊れてしまったのか?」

 

 外見にはなんの問題も見当たらない。最高硬度の金属でできたゴーレムだあのくらいの高さから落ちた程度でガタが来るような作りにはなっていないはずだ。それでも壊れてしまったのでは仕方ない。70体以上いるのだ形が残っているのならそれでいいだろうと、この状況から抜け出す最短を思い描くアインズは淡い期待を描いてしまう。

 

「お尻以外で触れるとやり直しになる」

 

 つまり手で触れたから反則ですよ、ということらしい。

 

――るぅしぃふぁあああ゛あ゛あ゛ーーー!!

 

 この場にいないのにもかかわらずこちらを手玉に取ってくるようなイタズラを仕掛けてくる男の名を、こらえきれずに叫んでしまう。



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後ろ姿が輝かしい

 ナザリック地下大墳墓第6層、侵入してきたものは挑戦者として闘技場に迎えられる。迎え撃つはこの大墳墓を支配する者達。きっと彼らはここで最後の絶望を味わうことだろう。

 

 闘技場の中央、今まさに絶望の淵に立たされているものがいる。

 

 彼は、観客席にいる者達の強い興味の視線に晒され、どうすることもできないこの状況をいかにして突破するべきだろうかと、普段からは考えられないほどの思考速度であらゆる状況を考えだしている。

 その彼の目の前には光り輝く頭が眩しい、腰を落とし尻を突き出す姿で待ち構える男。

こうなってしまってはもう覚悟を決めるしかないと結論付け、行動に移すべきなのだが……。

 

「アインズ様ー!がんばってくださーい」

 

 普段はおどおどした態度で、あまり大きな声を出さない子ではあるが、この時ばかりは声を大にして闘技場にいるものを応援していた。

 

「どうしてこうなるのだ……」

 

 シズと自身以外は誰もいなかったはずの闘技場。誰も居ないうちに終わらせてしまおうと覚悟を決めたはずだ。

 

 闘技場の観客席には戦いを盛りたてるための音を出すためだけにのゴーレムが並んでいるのだが、今に限ってゴーレムを押しのけるように、至高の御方の戦いをより近くで見たいと、最前列にて立ち見をしているしもべたちの姿が、アインズの目に入る。

 

 もともと闘技場は見世物のためのものだ、現状正しく使っていると言って間違いないだろう。しかし、中央にいるのがこの大墳墓を支配する王で、観客がしもべであるというのはだいぶおかしくはないだろうか。

 

 いやこれが戦闘を見せるというのであればアインズも絶望する必要はない。

 問題はこれからするのは男同士の尻相撲である。土俵はこの闘技場の長径の端にある2つの入場門を繋いだ直線上。

 尻相撲をするには長すぎる。一方的に押し出せたとしてもどれほどの時間がかかるかわからない。どれくらいの時間、羞恥に晒されるのかという恐怖もアインズか踏み切れない要因になっていた。のたうちまわりたい気分を押さえつけ、るし★ふぁーへの呪詛が頭のなかを支配していた。

 

 観客席ではアインズからゴーレム捜索への応援をうけ急遽駆けつけることになった者たちが今か今かと試合が始まるのを待っている。

 

「オオ、アレガるし★ふぁー様ノオ作リニナラレタゴーレム、光リ輝イテイル」

 

「あんな石の塊がいくら光ったところでアインズ様のご威光にはかなわないでありんす」

 

「でもあのゴーレムとなにをするっすか? 槍は持っているけど、すでにアインズ様に背を向けてるっす」

 

「シズ、教えてもらってもいいかしら」

 

「尻相撲であっちの門に押しこめばゴーレムが停止する」

 

「しりぃずもうですかぁ? 馬のおしりの時みたいにぺんぺんして運ぶのぉ?」

 

「うふふふ。わたくしもアインズ様にならお尻ペンペンされたいわん」

 

「ふふーん私はアインズ様に上に座ってもらったことがありん……」

 

 あなたねぇと隣に座るアウラにかなり強めに小突かれた。シャルティアとは反対側の隣に座るマーレも乾いた笑い声を出すだけで姉のことを止めない。

 

「それなら私だって大声で迫られたとこもあるっす」

 

「ルプ、あなたちゃんと反省しているの?」

 

「してるしてる、ほうれん草もちゃんと食べるようにっす、だからユリ姉その棒はしまって欲しいっす」

 

 パシンと指揮棒を打ち付ける音が鳴る。なぜかシャルティアまで背筋を伸ばして固まってしまった。

 

「報告すること、連絡すること、相談することでっす」

 

「シャルティアモダ、マタアノヨウナコトガアッテハ」

 

「わかっているでありんす! 油断しない、慢心しない、警戒を怠らない! これでいいでありんすね」

 

「情況ニ不備、不明ガアル場合ハスグニ報告スルコトモダ」

 

「ちょっと長いから言わなかっただけでありんす!」

 

「あら、アインズ様も後ろを向いたわよん」

 

 しもべたちは会話をやめ、闘技場の中央へと視線を向ける。

 

 アインズも覚悟を決めたようだ。

 先ほどは手で触れたのでなんの反応もなかったが、尻で触れようと反転ししっかりと押していけるように少し腰を落とす。触れるような勢いで行くから気まずくなるのだ、とすこし勢いをつけて像を押し出すように尻と尻をぶつける。

 

 おお、と歓声が上がる。

 

 像はアインズとぶつかった瞬間、数メートル吹き飛んでいた。

 

 アインズは込めた力から想像していた光景との乖離にあっけにとられていると、ゴーレムは尻をこちらに向けたまますり足でカサカサと後ろ向きとは思えない速さで迫ってきた。

 

――なんだあれ気色悪すぎるだろう!

 

 目の前の光景にショック受けたままのアインズは、スタート地点に立ち動けないまま再びゴーレムとの尻合わせをすることになってしまう。

 

「うわわわわ、止まれ止まれ」

 

 思わず素が出てしまうが、このまま押し出されて負けるというものすごく情けない姿が脳裏をよぎり、どうにか気を取り直して尻に力を込め押し返す。

 

 どうもこちらの込めた力で飛んでいるのではなく、あのゴーレムが自分で後ろに、正面だが、飛び下がっているようだ。最初よりも長い距離を飛んでいった。

 飛ばされ、そこからまた相手に迫り押し出すを繰り返すだけで、ゴーレムから勢い良く吹き飛ばされるといった心配はなさそうである。

 

 相手に迫らせず尻を押し続ければ終わる。それならば。

 

「〈ヘイスト〉」

 

 アインズは着地しようとするゴーレムに向かって走りだす。ゴーレムのように尻を向けたままではなくちゃんと正面を向いてだ。

 着地したゴーレムが再びすり足で迫ってくる。

 距離が縮まってきたところで、走る勢いのままアインズは跳ぶと、空中で体を反転させゴーレムの尻にぶつける。

 再びゴーレムは飛んで行く。開始時の距離よりも短い、跳ぶ距離はランダムなのだろうか。

 力を込めたまま触れさえすればゴーレムが自分で飛んでくれるおかげで、跳んだ時の勢いをそのまま着地してからも使えるため、ゴーレムが飛んでいる時間にも距離を十分に詰めることができる。

 

「〈グレーターラック〉」

 

 跳ぶ距離がランダムならば効果があるだろう。アインズは強化魔法を施しつつゴ―レムの着地点に向かって走る。

 

 5回繰り返した頃にはゴーレムの着地と同時に吹き飛ばすことができるようになった。

 そこから、流れに任せてまた3回ほど繰り返す。

 アインズの目算ではあと2回で確実に門へと運ぶことができる。

 反撃、という言葉が不安として湧き出てくるが、尻以外で触れたらやり直しだというルールを自ら破ってくるようには作らないだろうと祈るしかない。

 

 1回、2回と繰り返したところでゴーレムを門へと叩きこむことに成功した。

 

「……案外、楽しかったな」

 

 最後の着地を決めたアインズからは開始前の羞恥はすっかり抜けて、スポーツを楽しんだ後のような爽やかな気分につつまれていた。

 

 これはこれで、しもべにもやらせれば流行るのではないかと。ナザリックスポーツ施設なんて想像が膨らむ。

 思いがけない息抜きとなったアインズは満足気に門へ飛ばしたゴーレムへと近寄る。

 

「うわぁ……」

 

 門を通り抜けたところで停止したのだろう、ゴーレムは着地できずに尻をつきだしたポーズのままうつ伏せに倒れていた。四つん這いになって尻を突き出す姿が、イケメン設定の悪魔の成れの果てである。

 

 この状態もるし★ふぁーの思惑通りなのだろうか。そうだとすればイタズラに関してはぷにっと萌えの戦術以上に優れているのではないかと、自分でも何を言っているんだと突っ込みたくなる考えだが、まだあと2体のゴーレムがこのナザリックに潜んでいると考えると、笑うに笑えなかった。

 

 




うわわわわ(骸骨面)


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少女のように純粋で

 ニューロニストは、生み出されてから最大の好機を迎えていた。

 アインズ様と二人きりでゴーレム探しをすることになったのだ。

 ニューロ二ストたちが6層に着いてアインズの戦いを観戦している間も、アウラの魔獣が東端の南北に広がり西側へとゴーレムを捜索しているところだった。闘技場での戦いが終わってから、その場にいた者たちをゴーレムが起動しても逃げきれるようにチームを分けて、西側の南北に広がってから東側へ向かい、魔獣たちと挟み込む形での捜索することになっている。

 

 

 夜空の下、アインズ様との森林散策デート。アインズ様研究会の同好の士には申し訳ないが、自分が一歩リードしてしまうのは、普段の自分磨きを怠らずにやってきたご褒美なのだから仕方がない。残念なのは捜索という名目上、隣同士に寄り添って歩いているわけではなく、少し感覚を開け右側と左側で分けて捜索していることだろうか。それでもチャンスはチャンスしっかりと活かすことが重要だ。

 

「夜空がとっても綺麗ですわん」

 

 まずは話のきっかけを作ること。ゴーレム探しも重要であるが、今でなければできないことのほうが重要だ。場の雰囲気を考えこの後の流れをつかむのが鉄則である。

 ニューロニストはチャンスを逃さない女である。

 

「ニューロニストはここの夜空を気に入ってくれているか?」

 

「もちろんでございます、私にも鳥のような羽があれば、あの空へと羽ばたいてみたいとおもってしまいますわん」

 

 男は純粋さに惹かれるものだ。夢見がちな少女であればきっと、守りたくなるだろう。ゴーレム探しという至高の方の命令をないがしろにするわけではない、しっかりとあたりを見渡したうえで、ゆっくり進んでいるのだ。

 夜空に輝く星々に心惹かれるのも事実であり、じっと見上げていると自分が今何処にいるのかわからなくなりそうである。

 ニューロニストはロマンティックを理解する女である。

 

「そうか、この夜空を作ったブループラネットさんも、そう思ってくれるのであれば喜ぶだろう」

 

「ゴーレムを探さなければいけないのに、上ばかり気にしてしまって申し訳ございません」

 

 違和感を与えるほどに少女アピールするのは逆効果だ、程々に切り上げるのが吉。

 先ほどまでの少女を思わせるようなイメージから、一人の女性のイメージに切り替えるのだ。

 ニューロニストはギャップを知る女である。

 

「よい、すでに6層ではゴーレムを1体発見しているのだ。見つからない可能性も高いだろう。普段はあまり見ることができない階層を楽しんでくれているのならば問題はない」

 

「6層の夜空は本当に素晴らしいものでございますわん。ところで、アインズ様は音楽はお好きでしょうか? アインズ様は叡智に富む御方この場に合う素晴らしいものもきっとご存知なのでしょう」

 

 自分を優先してくれている男には、素直に応じるべきである。アインズ様研究会ででた幾つかのアインズ様の傾向と対策を思い出す。アインズ様はNPCのことを子のように思っており皆をすべからく愛しているという。それは親子の愛情に近いのではという結論が出ていたはずだ。つまり、自ら子に手を出すようなことはできない。最初は相手に合わせ、子供のように素直な疑問をぶつけるのだ。

 次なる話題、できれば自分が得意な方向へ向かうような会話がベスト。

 ニューロニストは先を見据える女である。

 

「音楽? ふむ、そうだな正直あまり音楽を聞く方では無くてな。ニューロニストは歌でもうたうのか?」

 

「いえ、私は歌わないのですが。楽器を調律をするのが好きなのです」

 

 自分に興味を持ってくれているという質問だ、素直に答え、それとなく自分の趣味を伝え、相手の反応を促す。5層が拠点の自分はあまり9層に自室があるアインズ様と会う機会がないのだ、それも今回のように2人きりなど、今後あるかすらわからない。自分のことを知ってもらう機会は見過ごせない。

 ニューロニストは手応えを感じると押していく女である。

 

「ほう、機会があればニューロニストの好きな音楽でも聞かせてもらいたいものだ」

 

「この前は少し失敗してしまいましたが、次の機会があればアインズ様にも満足いただけるだけの賛美歌をご用意致しますわん」

 

 さりげなく、次に会う約束を取り付けるのだ。チャンスを待っているだけでは他の同好の士よりも不利な位置にいる私には競争相手が多い男へのアピールの機会は巡ってこない。

 ニューロニストはチャンスを自らの手でつくりだす女だ。

 

「賛美歌か、それは楽しみだな」

 

 ニューロニストは確かな手応えを感じる。今、アインズ様の頭のなかでは私と賛美歌を聞いている様子が思い浮かんでいるはずだ。

 

「ニューロニスト止まれ!」

 

 ニューロニストの表情が読みやすいものであれば、ニヤニヤと気持ち悪い笑みをいかべているところであっただろうか。

 突然、地面が浮き上がり、浮遊感を感じる。

 

「きゃあっ」

 

 運は私を味方している。トラップに引っかかり、前後から迫る牙の生えたような葉に挟まれそうになっているのにもかかわらずだ。

 自分は浮きながらも、アインズが飛び込んでくる姿をみて確信した。

 

「この辺りは植物自体がトラップの役割を果たしているせいで解除することができないのだ、先に注意することができなかった。すまないな」

 

「あ、ありがとうございます、アインズ様」

 

 ニューロニストが浮いたところに、アインズは飛び込みそのまま抱きかかえると、無詠唱化したフライの魔法をかけ、上空へと避けたのだ。まさにドラゴンに食われんとする姫を助ける王子だ。

 

 弱っているアピールができる中で自分から手を握ったり、チャンスとばかりに相手に抱きついたりするのは、弱っているのに攻め来るという油断を突きにかかる状態になることを理解できない、頭の足らない馬鹿女のすることだ。こういう時はそっと手を相手のつかみやすい位置に持ってゆけばいい、自分からはなかなか手を出しづらいと思っている相手であっても、勝手にその手を握ってくれるものだ。

 ニューロニストはそっと自分の胸の上に手を浮かせる。するとどうだろう、自分の肩の後ろに回っている方の腕で、体が少し寄せられると手首を曲げ自分の手を握ってくれるではないか。

 この距離であれば常にふりかけている花の香の香水も十分にアピールへと繋がるだろう。

 

「驚かせてしまったようだな」

 

「いえ、落ち着いてきましたわん」

 

 自分を落ち着かせるように、優しく手を握ってくれる。

 状況はまだ終わっていない。五感を持つ者にとって肌などで感じる触覚というのは一番感度が高いものであるだろう。なのに触覚を通してアピールする機会と言うのは、愛し合う二人というのであれば別だが、二人きりになるよりも珍しい機会と言える。それなのに今は二人きりであり、なおかつ肌が、アインズに肌はないが、触れ合っているという絶好の機会。

 

 アインズの腕の中で少し身じろぎをする。

 んんっ、と艶めかしい声をだして相手をドキドキさせるのも手だろうが、子のような存在である自分からそういうドキドキを与えられては困って悪い印象を与えかねない。そんなことになれば、次はあまり近くに寄り過ぎないように接してくるようになるかもしれない。今は自分の感触を覚えてもらうことが、自分を女として意識させるために必要な行動なのだ。

 

 ニューロニストは賢い女である。

 

「すまない、持ち方が悪かったようだな、すぐに降りるとしよう」

 

 地表へ降り立ったタイミングでアインズはメッセージの魔法で連絡を受けたようだった。

 

「ニューロニストよ、ゴーレムが見つかったとマーレから連絡があった。転移するから近くへ……いや」

 

 今回の情況は控えめに言っても大成功である。

 

「〈マス・フライ〉これでお前も空をとぶことができるだろう」

 

「アインズ様、こんな私のために魔法を……」

 

「普段頑張ってくれているしもべに褒美を与えるのはいけないことか?」

 

 そう言うとアインズは、まだ地上に立つニューロニストへと手を伸ばす。

 

 ニューロニストがその手をそっと掴むとそのまま星空へと吸い込まれていく。

 

 その日、6階層の空には2つの影があった、二人は仲睦まじく手を繋いで夜空を飛んでいく。

 

 外見からでは年齢のわからない異形種ではあるが、アインズはその中に、少女を感じ取っていた。綺麗なものに気を取られてしまう姿に、好きなものの話をしたいと思う姿に、驚き怯えてしまう姿に。

 普段は自分の夢を語ることがないしもべたちとの会話のなかで、初めてそれらしいことを聞いたのだ。娘の夢くらい叶えてみせようじゃないかと。

 

 アインズはニューロニストの心の内など知らないのだから。

 



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見目麗しい

「これが、るし★ふぁー様の作ったゴーレムでありんすか?」

 

「ちょっとあんた、ゴーレムのスカート覗き込もうとしてるわけぇ? 頭おかしいんじゃないの」

 

「こんな大股開きで座っているんだから、見えちゃうんじゃないか心配になっただけでありんす」

 

「はいはい、マーレのスカートめくれそうになってる時もチラ見しちゃうくらい、スカートとパンツが大好きな変態さんだもんね―シャルティアは」

 

「だれが変態よ! マーレのパンツになんて興味ありんせん! ちょーっとばかしこのゴーレムの造形が気になったからつい」

 

 スカートがひらめくのに目を奪われてしまうことは否定しない。

 

「ついー、でパンツ覗くんだ」

 

「むきぃーー」

 

 6層にある2匹のドラゴンの寝床、竜の祠。

 

「遅れまして申し訳ございません」

 

「エンちゃんがゴーレム探しから、おやつ探しに夢中になっちゃうから大変だったっすよー」

 

「新鮮なぁおやつがたぁくさんあるのでぇ、わたしはこの階層が大好きですぅ」

 

 外からのものをこの階層にかなりの数移住させて来たせいだろうか。今では6階層にも無数の虫が生息している。

 

「……別におやつはなかった」

 

「そろそろおやつが食べたいっすね―」

 

 闘技場にいたメンバーではあとコキュートスがくるのを待っている。ここからは一番遠い位置で捜索していたはずだ。

 

「シズ、このゴーレムは停止状態ではないようなのだが、動き出す条件はわかるか?」

 

 ゴーレム探しを始めてから、3体目になってようやく発動させずに像を発見することができたのだが、闘技場のゴーレムと同じくすでに起動状態になっており指揮権の移譲が不可能であった。

 

「ワタシガ最後カ」

 

 シズから答えを聞く前にコキュートスが竜の祠に到着した。

 

――天誅

 

――我が名はアスタロト! 私のドラゴンを狙う愚か者たちよ、今こそ裁きをくだそう! ……ねぇこれなにに

 

 音声の編集にミスがあるようだ。

 ちゃんと女性形のゴーレムらしい声があたりに響き渡る。見た目と反してだいぶ幼い声に聞こえるが。

 

「ぶくぶく茶釜様!」

 

 アウラとマーレは同時にその声に反応した。そう、今までのゴーレム時のようなるし★ふぁーの声でなく、ぶくぶく茶釜さんの、それも普段の声でなく仕事でつかうような可愛らしさを全面にだした高めの声である。

 

 ちなみに、ゴーレムが乗っているドラゴンはるし★ふぁーのものでも、ぶくぶく茶釜のものでもない。

 見つけたゴーレムはドラゴンの背に、テディベアのように大きく開脚して乗っており。二本の腕で1枚の鱗を手綱のように掴んでいた。

 巨大なドラゴンに生えている鱗とはいえ、普通の人間サイズでは1枚の鱗を二本の腕で掴むのはかなり不格好になってしまうはずである。

 

 このゴーレム、全長30cmほどで腰にはレイピアがぶら下がっている、恐怖公と同じくらいのサイズだろう。現実離れしたスタイルで、胸は大きく、腰のくびれと小さなお尻。顔の造形もどの角度から観察しても、非常に整っており、目元は大きく、口は小さい。ミニスカートと、胸元だけを隠すような鎧がかたどられたそれは、見ているのが気恥ずかしくなってくるような美少女である。

 

 ペロロンチーノに聞いたことがある、美少女フィギュアというものだろう。

 

 しかし、悪魔図鑑には、その外見と一致するようなものは載っていなかったので、どの悪魔であるかは自己紹介を受けるまで図鑑の解説からの予想でしかなかった。

 

 悪魔図鑑の29番目、巨大なドラゴンに乗り怠惰を司る悪魔アスタロト。

 

 何のアクションも起こしてこないゴーレムに疑問を感じていると。

 

「停止した」

 

 シズの終了を告げる言葉。

 

「は? まだ何もしていないぞ」

 

「手に持ったレイピアで、ドラゴンの背中10回叩くと停止する」

 

 怠惰の悪魔の所業であった。

 まだ何故ゴーレムが動き出したのかもわからないうちに終了してしまう。

 

「アインズ様! ぶくぶく茶釜さまの声がしました! もう一度聞きたいです」

 

「ぼ、僕もご迷惑でなければもう一度だけ……」

 

 双子が願うので指揮権を移す前に、同じ設定でセットし直す。

 その後5回ほど聞かせたところで、また聞けるからと2体のゴーレムを連れて。一旦10層へと戻ることにした。

 

 

 守護者は一旦持ち場に戻し、10層へはプレアデスだけ向かわせ、7層や6層にあったために汚れてしまっている像の清掃を指示する。自身は、9層の浴場においたままのゴーレムの像を取りに行く。メイドたちは誰か一人は着いて行くべきだと申し出たが、すぐに戻るのでしっかりと像のを磨いておくようにいいつけ、どうにか一人で9層へと向かう。

 

「外はやっと朝になったくらいか……」

 

 結局、ちゃんと休むまもなく3体の悪魔の像を見つけ出してしまった。このまま残る一体も見つかればよいのだが。この時間だとそろそろ冒険者組合にも顔を出さなければいけないだろうか。

 

 9層へ転移して階段を下っていき、ギルドメンバーたちに割り振られた部屋が並ぶ道と十字に交差しているあたりへ差し掛かると、羽のしおれた白いドレスをきた悪魔が同じく十字路へと出てきた。

 

「アルベドではないか、こんな時間にどうしてここにいるのだ」

 

 しおれていた羽は一気に生気を取り戻し膨らんでいく。

 

「あいんずさまぁあああ! どうして私を連れて行って下さらなかったのですか!」

 

 叫びながら駆け寄ってくると、体を押し付けてくる。

 

「一体何のことだ、大浴場での事後処理の後は各自解散だと言ったであろう」

 

「インクリメントに聞きました! アインズ様は、あの後シズとゴーレム探しでナザリック内を回っていると!」

 

 アインズの自室の清掃をすると言っていたメイドからどうやって聞いたのだと、いいたいところではあったが、ずいずいと詰め寄ってくるアルベドに気圧され、答えるしかなくなっていた。

 

「あ、ああ、あのゴーレムの像が実はるし★ふぁーさんが作った悪魔の像の1体でな」

 

「そうです! あの浴場で突如として襲ってくるようなゴーレムを探すなどと危険でございます! もし探すのであれば御身を守る盾となれるものが必要だと思うのです! それにユリやエントマは7階層で褒めてもらったと! 私に至らぬところがあるならぜひお教えくださいませ、すぐにでも直してアインズ様のお役に立ってみせますから」

 

 すがるように寄り添ってくるアルベドの頭をなでてなだめさせる。

 アルベドは仲間はずれにされたかと思うと結構気にし続けるタイプなのだろうか。GMコールを知らなかったこともずっと引きずっていたようだし。

 浴場でのことがあるから、なるべくこの件に関してはそっとしておこうと思ったなどとは言いづらくなってしまった。

 しばらく撫でていると少し落ち着いたのだろう。擦り寄る力が弱まってきたところで言葉を投げかける。

 

「アルベドよ。そうではないのだ。そうお前は浴場でしばらくタオル一枚のままでライオンの像のターゲットを引き受けてもらったから他のものよりも休息が必要だとおもって呼ばなかっただけなのだ」

 

「アインズ様、私なら問題はございません。あの時はたしかにリングオブサステナンスも外しており疲労が溜まる状態では有りましたが、私はタンク職、体力だけはほかの誰にも負けない自信がございます、今後はお気になさらずいつでもどんなときでもどこへでもお連れください!」

 

「そ、そうだったな、だからこそ、私を守ってくれる最大の盾だからこそ常に万全でいて欲しいのだ、アルベドよ」

 

 まぁ、と頬に手をやるアルベドを見て、ほっと胸をなでおろす。

 

 



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白昼夢の中に

 ナザリック地下大墳墓の表層、墳墓への入口のある場所へ一人の悪魔が空間に割り込むように姿を現す。

 

 何の事はないただの気まぐれであるが、今回は歩いてアインズのいる9層まで向かおうと入口の階段を降りてゆく。

 

 普段ならば大墳墓を隠している丘の脇に建てられた、木製のログハウスの中の転移扉を使い、直接9層まで行ける。

 

 風呂場で解散を命じられてからまだ半日も立っていないが、自分が任されている魔王計画のために少しばかり必要な物ができてきしまったので、アインズの許可をもらいに戻ってきたのだ。

 少しの数なら量産できるようになったメッセージのスクロールで、連絡を入れれば済むことではあるが。我が慈愛なるこの大墳墓の王は、仕事の経過報告をするたびに自分のことを労ってくれるのだ。

それならば効果時間の決まっているメッセージのスクロールで手短に終わらせられてしまうよりも、直接ほめてもらいたいのである。

 

 ナザリックを出てから戻るまでの時間が早過ぎるので、少しでも時間を稼いでおこうかという後ろめたい気持ちもあったのかもしれない。

 

 1層から3層はシャルティアが管理しているが、だからといってわざわざ通り抜けるナザリックのものを確認しに出てきたりはしない。

 

 4層も湖があるくらいで、最近はリザードマンたちが訓練で使うような道具や、王都から運んできた物資、拉致してきた者たちが持っていたしわけされていない物品が積まれていたりと。臨時倉庫のような場所になっている。

 

 5層の主とはよく9層のバーで酒を呑む仲ではあるが、通るたびに挨拶に出てくるようなことはない。もしかしたら今頃は、統治を進めているリザードマンの集落にいるかもしれない。氷漬けにされた綺麗な死体が、使いやすいように丁寧に並べられている中を歩く。

 

 6層に入ると、なにやら闘技場を使ったような跡を発見した。まだ新しいように見える。

 6層の入口から7層への出口へと向かう途中、丁度闘技場の中央辺りだろうか、何かが引きづられたような跡と、その先には点々とクレーターのような、上から降り立ったら風でこんな模様になるだろうと思われる跡が、出口のほうまでいくつか一直線上に連なっている。

 自分が出て行ってから闘技場を使うようなことがあったのだろうか、とその形跡から何をしたものであるか予想しようとするが、何も浮かんでこない。

 この時間だとまだアウラやマーレは寝ているだろうか。起こしてまで話を聞くのも悪いと思い、そのまま7層への転移門をくぐる。

 

 はっきりと異変を感じたのはこの層に来てからだ、誰も出迎えに来ない。創造主より与えられた12体のしもべ、魔将たちは普段ならば自分が帰ってくると集合し、いろいろと報告を上げてくるはずである。今日に限って初めて誰も出てこない。必ず1体は神殿で待機しているようになっているはずだが、その1体すら見当たらない。

 不安が脳裏をよぎる。おかしい。歩いてきたとしても、ここにくるまでに誰とも会わないことは珍しいことではないだろう、しかし会わなかったのではなく、いなかったのであれば……。

 悠長に歩くのをやめ、転移の魔法で9階層への転移門へと向かう。

 

 9階層、メイドたちが掃除やら細々とした物品の移動補充のために一人くらい見かけてもおかしくはないはずだ。

 

 誰もいない。

 

 急いで、9層で走るのははばかられるので早歩きくらいではあるが、アインズの自室へと向かう。

 

 扉をノックするが、しばらく待っても何の返答もない。念のためもう一度扉を叩くが、同じように中からの反応は返ってこない。

 

 意を決して返事をまたずに扉を開く、中にだれかいた場合非難を受けるかもしれないが、それならばまだ良い。

 

 アインズの自室も空であった。部屋にある扉もすべて開き確認するが、誰もいる様子はない。

 

「どなたもおられないのですか?」

 

 静、と静寂に包まれる。音を立てないようにして作ったものではなく、音を立てる者がいないための静寂。悪魔の身に、不安と、恐怖が湧き上がってくる。

 

 初めてデミウルゴスは、ナザリック内で走ったかもしれない。これは何だ、何が起こっているのかわからない、戦闘の跡のようなものは6層にしかなかった。何者かが侵入してこのような自体に陥ってしまっているのか、それならばなぜ今まで連絡の一つもなかったのだ。デミウルゴスは10層への転移門へと飛び込む。

 

 10層に入ると、デミウルゴスは目を見開く、侵入者が来ていたのだと確信する。広間の中央に見たこともない女の顔をした像が出現していた。スラっとした体つきで胸はないように見える。

 侵入者を迎え撃つゴーレムだろう、それが起動しているということは……。

 

 像を調べるよりも、玉座の間がどうなっているのかが気になった。もしかしたら扉を開ければ、今まさにその侵入者との死闘を繰り広げているかもしれない。

 

 近づけば自動で開くその扉を、待っていられないというふうに一気に押し広げる。

 

 

 玉座の間にも、誰もいなかった。

 

 

 アインズ様はおっしゃっていたではないか……、この世界では私達は強者ではないかもしれないと。

 

 このような事態を、あの時からアインズ様は予想していたのだ。

 

 ろくに戦闘の跡さえ残さず、ただただナザリックの者たちを消してしまえるような存在。自分たちでは想像もつかないような力を持つ者たちがこの世界には潜んでいるのかもしれない可能性。

 

 自分は外へ仕事に行っていたからたまたま助かってしまったのだろうか。いや、助かってなどいない、ここに残っているのは罪である。防衛時の責任者などという守りの要とも言えるような立場にありながら、その責任者だけがここに残ってしまっている。

 

 何も知らなかったなどというのは都合のいいだけの話だろう。

 

 

「どうしたのだデミウルゴスよ」

 

 はっと我に返る。幻聴ではないかとうしろを振り向くと、アインズ様と、その後ろには各守護者、パンドラズアクター、プレアデスの5人、一般メイド、ニューロニスト、恐怖公、エクレアとそれを抱く執事助手、ピッキー、司書長とその配下、魔将、コキュートスの配下の雪女郎に9層の警備のために置かれた者達、シャルティアの配下の吸血鬼の花嫁がいつの間にか後ろに広がっていた。

 

 いなくなったものなど誰もいなかったのだ。

 

「いや、ちょうどいいところに来てくれた、黒棺(ブラックカプセル)から出るのが大変でな、この人数ならいけると思ったのだが、やはり指揮するものが必要なところだったのだ」

 

「あ、ああ……うぅ……よかった」

 

デミウルゴスはその場にへたりこんでしまう。

 

「お、おい大丈夫か、体調でも悪いのか」

 

 アインズが慌てて駆け寄り、座り込んでしまったデミウルゴスの背中を擦り、もう片方の手で手を握る。

 

 デミウルゴスは、悪夢を見た子供のように、しっかりとその存在を確認するように強く手を握り返した。

 

 最後の至高の御方がいなくなる夢、それは何よりも恐ろしいものだった。

 

「も、申し訳ございません、もう少しだけこのままで」

 

 我が至高なる主は、何も言わずそのままでいてくれた。

 

 

 




悪夢を見る悪魔。
何故か一人だけシリアス!


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未だつかめず

 玉座の前の広間の中央にいるのは女性のような顔をした男性の悪魔の像。

 悪魔図鑑の9番目、秘密を司る悪魔パイモンである。

 

――天誅

 

――玉座の前の広間で追いかけっことは、暇な奴らめ、私が直々に仕事をくれてやろう!

 

 誰が走ってしまったのかは、本人のために秘密にしておこう。

 

 すでにゲームには2回挑戦済である。広間全体とパイモンを除く71体の悪魔の像を使ったものである。

 

 1回目はその場にいたものたちだけで、2回目は1回目の反省を踏まえ対策を施してから挑戦した。

 

 ルールは簡単、中央の像の指示通りに像を並び替えていくだけだ。問題数は3問。これはシズから予め聞いていたことだ。

 

1回目で出た反省を上げていこうと思う。

 1つ、悪魔の名前なんて覚えていない。

 2つ、像を持ち上げて運ぶのは大変。

 

 施した対策は人海戦術、像の名前も一つなら覚えるのは容易である。故に71人で挑むことにした。一人一つの像の名前を覚えてもらい、指示が来たら手を挙げる。像を運べるものを一人、または二人ごとに配置してある。移動する場合は、名前を覚えた像とともに移動し、運んだものは終わり次第元の位置に戻る。

 

 ゲームに失敗すると広間に仕掛けられていた転移トラップが発動し2層の黒棺(ブラックカプセル)まで飛ばされるため戻ってくるのも大変だ。

 

 9層と10層のギミックは自動扉のような普段使うものもあったため解除していないかったが。2層に戻されるのも面倒だからといったん解除したのだ、しかしギミックを止めると像がゲームを始めなくなってしまったため、解除は取りやめた。失敗したら黒棺(ブラックカプセル)送りである。

 

「さすがに666時間この像の前で待機するわけにもいかないからな」

 

 停止条件が666時間この悪魔の像の前で待機することだ。

 

「それでは、先ほど確認したとおり、アルベドにゲームを開始させた後、私は中央で運ぶ者の指定と位置を指示すればよろしいということですね」

 

「説明はしたが、いくつか厄介な指示もあってな。運ぶ者を少し遠くから選ばなかったりしないといけないこともある」

 

「畏まりました、命令文が終わるまではタイマーは動かないというのであれば、大丈夫かと思われます」

 

 100秒以内に命令を完了させなければ失敗となる。タイマーは像とともに落ちてきた台座の針が1週するまで。

 

「アルベド、始めてください」

 

 ゴーレム起動させたのは、アルベドである。故に、ゲーム開始者となって悪魔の像とハイタッチをしなければならない。

 

「ゴーレムが嫌いになりそうだわ……」

 

 パンッと像の腕をへし折る勢いでハイタッチをする。

 

――荷運びゲーム!1問目!いぇーい

 

 るし★ふぁー気合の入ったフルボイス実装のゴーレムである。

 

――準備はいいよねー

 

――バールとアモンを入れ替えて!

 

 命令が終わると、台座のタイマーが動き出す。

 

「コキュートスはシクススの像を、シャルティアは司書長の像を入れ替えてください」

 

 すぐに指示が飛び、実行に移る。デミウルゴスの言うところによれば運び屋をあらかじめ絞っておいたほうがいいとのこと。名前の問題がクリアーされたなら、運び屋の数がプレイヤーの数であり、あとはそれを使っていくだけで終わるだろうと。

 

2つの像が入れ替わるとタイマーが止まる。1問目が終わるまでの命令を全部で100秒以内に終わらせないといけないのだ。

 

――カイムとアンドロマリウスを入れ替えて、フルカスは裏返し!

 

 すぐに2個目の命令がくる。

 

「パンドラズアクターはエクレアの像を、ルプスレギナとユリでフォアイルの像を入れ替えてください、エントマたちで手を上げている雪女郎の像を後ろ向きに」

 

――1問目は終わりだよ。次は命令が多くなるから気をつけてね!

 

 今のところは順調だ。1問目では4分の1もタイマーの針は回っていない。

 

 

 

 アインズは71人で黒棺(ブラックカプセル)に飛ばされた時のことを思い出す。

 

「ちょっとペンギン! 変なとこ触ったでしょ!」

 

「お前みたいな小娘に触るわけ無いだろうが!」

 

「恐怖公こっちこないでぇえええ」

 

「恐怖公あっち通ってあっち」

 

「恐怖公の足が頭の上にいい」

 

「吾輩が通らなければ扉をあけられないので少し我慢してください」

 

「アインズ様も変なとこ触ってもよろしいのですよ?」

 

「お前は何をいっているのだ」

 

「ウゴケナイ」

 

「マーレ、スカートがすごいことになってる」

 

「うわわ、早く降ろさないと」

 

「マーレそこで手を下げないでおくんなまし! 胸が落ちるでありんす」

 

「ペンギン! わざとでしょ絶対わざとやってるでしょ!」

 

「やめろ、私をふむんじゃない」

 

「なかなか楽しいっすねー」

 

「ルプスレギナ動かないで、ちょっと首の位置がずれてるのよ」

 

「……狭い」

 

「おやつぅみぃっけ」

 

「エントマやめて、今はそれを持ち上げないで」

 

「あああ、恐怖公の眷属がのぼってくるんですけど!」

 

「恐怖公羽広げないで!」

 

「頭の上を通るなというから飛ぼうと思ったのですが」

 

「お家帰りたい」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 

 しかし今回は、クリアーまで辿り着けそうである。

 

――3問目! 命令は1個だけ順番通り全部覚えてねー

 

――サブナックをヴィネの左と入れ替えて、ムルムルをシトリーと入れ替えて裏返し、ロノウェをラウムと入れ替えて、アミーをアスタロトと入れ替えて、キマリスは裏返し、ビフロンスを左と入れ替えてさらに左とも入れ替えて、ブエルはストラスの右と入れ替えて裏返し!

 

 初めてたどり着く3問目、これクリアーさせる気あるのだろうか。

 

 右手を上げながら、デミウルゴスの方を確認する。なんのことはないように、淡々と指示を出していく。

 

 さすがはデミウルゴス。

 

――おめでとー! 見事3問目クリアだよ! 気分がいいからもう1問! 今度は針は止まらないよ!

 

 あたりがざわめく。

 

――参加者みんなその場で3回転!

 

 時計の針が進み始めと同時にアインズの方へ視線が集中する。ここまで来て黒棺(ブラックカプセル)には戻りたくない。

 

「やるぞ、回れ!」

 

 その場にいる全員が3回まわる。

 

――参加者みんなジャンプ!

 

「跳べ」

 

 全員跳ぶ。

 

――ワンワンワン

 

「ワンワンワン」

 

 ワンワンワン

 

――……何やってるの? はっずかしー! お疲れ様でしたー。

 

 自分の顔がアンデットのものでなければヒドイことになっていただろう。

 

 あたりを見渡すと、ほとんどのものが殺気立っていた。何人か息が切れるほど笑っているようだが。

 

「……さすがだデミウルゴス、見事な采配であったぞ」

 

「ありがとうございますアインズ様、これでゴーレムは全部揃ったということでしょうか」

 

 心が通じあった気がした。

 

「そうだ、やはりるし★ふぁー……さんはすべてのゴーレムを作り終えていたようだな」

 

 なかったことにしたのだ。今までどおり呼ぶべきだろう。

 

「そのようです。それとこれが、クリアと同時にタイマーとなっていた箱から出てきたのですが」

 

 そう言って1冊の本を差し出してくる。

 

 るし★ふぁーゴーレム大全。先ほどの事もあってこのまま破り捨てたいところであるが、かつての仲間が残した品だ、確認はするべきだろう。

 

 本を開くと、るし★ふぁーの作った72柱の詳細な説明と、ナザリックで使っているゴーレムのことが書かれていた。一通りページを確認すると、あとがき、と書いてあるページを発見した。

 

 合金というものをご存知ですか。金属の混ぜあわせてより使いやすくしたものです。

 このユグドラシルでも合金の概念があるのですが、超々希少金属についての合金は未知な部分が多いためいろいろと試してみたのです。

 別に作れとは言われていないのですが、その試作品もいくつかナザリックの各所へ忍ばせてみました。

 ぜひともその目で確認してください! るし★ふぁー

 

 

――るしふぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!

 

 アインズのゴーレム探しは続く。




これで、ゴーレムの正体は、は終わりです。
ここまで読んでくださった方々に、心より感謝申し上げます。
本当にありがとうございました!


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