続・ジルクニフ日記 (松露饅頭)
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その01

 どうも、作者の松露饅頭です。果たして待ってた人がいたのかどうか、それは判りませんがジルクニフ日記、再開させて頂きます。
 待ってたよーと言う方、その貴重な時間をもっと有(自主規制)のか、有名な某軍師の台詞「ほかにすることはないのですか」を贈らせて頂きたいと思います。
 今回、気の毒にも興味を惹いて開いてしまった方、気の迷いというのは誰にでもあります。悪いことは言わないのでこんなもの読ん(以下、検閲削除)


・・・・・・ごゆるりと御覧下さいませ。


○月○日 001

 私はジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。元・バハルス帝国皇帝にして鮮血帝と言われた男だ。

 皆も知っての通り、栄光あるバハルス帝国は、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国として、その傘下に置かれることとなってしまった。あの圧倒的な軍事力と、その首魁たるアインズ・ウール・ゴウン魔導王の鬼謀・神謀とも言える恐るべき知略の前に、その足下に傅くことを余儀なくされたのだ。

 おかげで私個人の肩書きにも、「元・バハルス帝国皇帝」と、「元」を付けなければいけない所が口惜しさを倍増させる。

 

 しかし、現実は現実として受け入れなければならないだろう。そうでなければ何も始まらないではないか。実際、俺も悩んだが、ロクシーに「何ウジウジしてんだハゲ!」と、鳩尾に一発蹴りを入れられて気が付いた。ハゲてないけど。

 全ては人類種存続の為、今はやつらに歯が立たなくても、未来に望みを繋ぐ為に属国という苦渋の道を選んだのだ。将来、アンデッド共を打ち倒す英雄の登場に望みを託し、あわよくば魔導国内部に火種を育てる手段を選んだのだ。ハゲは関係ない。

 

 そのような思惑は思惑として、現状では大きな混乱も無く、我がバハルス帝国は魔導国の傘下に組み込まれて行った。

 魔導国側の事情は不明だが、とりあえず仮の措置として旧・バハルス帝国の領土は「バハルス領域」と改名され、俺の肩書きも「バハルス帝国皇帝」から「バハルス領域守護者カッコカリ」と改められた。長いし変な名前だが仕方が無い。

 帝国軍は一部の近衛を除いて解体され、代わって治安維持には魔導国の首都エ・ランテル同様、デスナイトの部隊が当ることとなり、行政についてはこれまで同様に俺を中心として当るが、これにも数人のエルダーリッチの行政官が加わることとなった。要はお目付け役だな。

 何でも魔導王が忙しいということで、現在の俺の肩書きも含めて全ては正式の決定ではないということだが、とりあえず暫定であっても旧・帝国の大幅な自治権が認められたことは喜ぶべきだろう。軍権を剥奪されることは想定内だ。

 ちなみに、解体された軍を追われた元・騎士達は、そのまま魔導国主催の冒険者として活動する者や、アンデッドによって開拓されたエ・ランテル周辺の土地への移住者や、旧・帝国内の未開拓地域への開拓者(これにも護衛と労働力としてのアンデッドが割り当てられるので旧来より遥かに安全だ)などに振り分けられた。

 

 ・・・・・・何? 原作でそこまで判明してないって? いいんだよ、細けぇことは。そいいうことにしないと話が進まないだろうが。あんまり細かいことに拘ってるとハゲるぞ? 経験者の忠告は神妙に聞くべきだ。

 

 まあ、それはそれとして、帝国を巡る激動もとりあえず小康状態になったこともあるし、いつの日か、この混乱の時代を懐かしく読み返すことができるといい、そう願って以前のように『続・ジルクニフ日記』を記すことにした。

 危うく作者のやつにタイトルを『じるじるじるくにふ』にされる所だったが、これまで通り俺の直衛として仕えてくれている三騎士に命じて、何とか腕ずくで阻止することに成功したのは幸いだった。何考えてんだアイツ。全く油断も隙もあったもんじゃない。

 

 

 

○月×日 002

 今日は少し遅く目が覚めた。

 正直言って「バハルス領域守護者カッコカリ」の朝は遅い。これまでと違い、軍に関する仕事が丸々減った分、それほど早く起き出して仕事に掛かる必要自体が無くなったというのが実情だ。

 寂しさもあるが、自由に使える時間が増えたと前向きに捉えることにしている。

 

 軍事や治安維持についての陳情・提案については、一応、我々旧帝国の役人が受付け、それを魔導国から派遣された担当のエルダーリッチ(エルダーリッチ達のローブは白と赤が複数人づついるが、一人だけ黒いローブのエルダーリッチがいるのだ)に伝え、さらにエルダーリッチが直接魔導国の担当に連絡することで指示を仰ぐという形式になっている。

 ドラウディロン女王には悪いが、竜王国援軍の話も魔導国に丸投げだ。別に粘った甲斐があったなどとは思ってないぞ?

 その決定のプロセスに我々旧・帝国勢の意思の入り込む余地は殆ど無く、僅かに魔導国からの指示でデスナイトと共に治安維持の任についている旧・近衛の騎士に細かく伝える必要がある場合のみだ。

 要するに通訳のようなもので、これについてもエルダーリッチから直接騎士達に伝えることも多いので出番は少ない。竜王国の援軍にしても、魔導国ならビーストマンのトラウマになってるらしいソウルイーターを数匹派遣すれば即解決するだろうしな。

 

 まあ、占領地域の体制としてはあくまでも暫定とはいえ、これでも相当ぬるいと言える措置だけに、果たして信頼されているのか、それとも少々反乱を起こした所で容易く鎮圧できるという自信の表れか・・・・・・常識的に考えるなら後者だろうが、エルダーリッチ達の言動を見ていると前者のように思えてくる所が少し恐ろしい。何と言うか・・・・・・妙にフレンドリーなんだよな・・・・・・ボディータッチ多いし。

 

 ともあれ、減ったとはいえ仕事がゼロになった訳ではない。

 内政にしたところで、食料と税収の安定確保の為に、未開発地域の開拓・開発計画や、物資の大量安定輸送の為の街道整備計画など、アンデッドという安定した労働力を生かした大規模な開発を実行する計画案を立てねばならない。

 

 そう、ある意味これはチャンスなのだ。今は将来の為に敵の力を利用して旧・帝国領の力を蓄える時期であると見るべきだ。

 A・ンザイ先生も言っていた。「諦めたらそこで試合終了ですよ」と。決して諦めない気持ちから未来は開けるのだ。ところでA・ンザイ先生って誰だろう?

 

 あと、そこのお前、諦めなくてもコールドゲームて言うな。

 

 

 

○月△日 003

 今日は久々にゆっくりと「バハスポ」を読む時間があった。そう、旧名を帝スポと呼ばれていた新聞だ。

 これまで帝国を襲った急激な変化と混乱の日々の中で、ゆっくり新聞を読む時間など無かったのだから、このような時間もたまには許してもらいたい。

 またサボってるとか言うな。当然ちゃんと仕事をこなした上での余暇の時間だ。初回、前回と仕事してるぞアピールはしておいたのだから問題無いはずだ。

 

 ちなみにバハルス帝国が解体されて消滅した為、旧・帝国スポーツ社はバハルス帝国に代わる新たな名称である「バハルス領域」に因んだ「バハルススポーツ新聞社」へと社名を変更したのだそうだ。

 慣れ親しんだ帝スポの名称が消えるのは寂しいが、「帝国」の名称を残しては、一般的な占領政策の観点から旧国名を放置してもらえるとも思えず、無用なトラブルが起こる前に率先しての名称変更は賢明な、致し方ない判断だっただろう。

 

 目立った記事としては、魔導王に誘われてエ・ランテルへと去った八代目武王こと、巨王ゴ・ギンに代わる九代目武王を決めるトーナメントが開催されるらしく、参加者を募っていると言う。

 武王か・・・・・・思えば武王の敗北が、魔導国へ下る決断の決め手だった。今となっては何もかも皆懐かしい・・・・・・。

 しかし、もう過ぎたことだ。願わくば今回のトーナメントで魔導国に対抗し得る人材の手掛かりだけでもいい、発掘できるなら良いのだが、残念ながら帝国からの参加希望者は現時点ではゼロのようだ。

 まあ、それはそうだろうな。現時点でそんな優秀な人材が帝国領内にいたならば、とっくに俺の耳にも届いていただろうから。

 今のところ魔導国からスケルトン死国ほか数名と、王国からマスクド・ランポッサ三世の参加が決定していると・・・・・・まだやる気かあのジジイ・・・・・・。

 

 あと、気になった記事として、北方の都市連合に近い地域において魔導国からの離脱を求める国民投票の呼び掛けの動k・・・・・・ておい、時事ネタはやめろ。「このくらい平気へーき♪」じゃない。

 どうせガセネタだろうが、そんな動きが本当なら魔導国を刺激することになるので非常にマズい。軍事権が無いので何もできないが、ここは下手に大事にならないよう、こちらから率先して穏便に調査・対応を魔導国側にお願いするしか無いか。今は兎に角、目立たないことが重要だ。

 

 あとは・・・・・・特に変わった記事は無いようだが・・・・・・バハルス領域守護者カッコカリ氏の禿疑惑? ・・・・・・くっ、くだらない。完全にガセネタだ。見ての通り、こんなにもフサフサなのに、な、何を根拠に疑惑などと・・・・・・所詮はゴシップ紙ということだな!

 

 ゴホン! ・・・・・・ああ、そうそう、紙名は変わっても、ナザリック殺人事件の最終回は無事に掲載されていた。

 いやー、最後のどんでん返しが凄かったなあ。連続殺人犯がこいつだったとは驚いた。事件の裏にそんな事実が隠されていたとは・・・・・・これはあの糞野郎でも見抜けないんじゃないか?

 ん? 詳しく教えろ? 馬鹿だな、探偵小説のトリックや犯人教えるなんてこと、できるわけないだろ常識的に考えて。

 

 

 

○月◇日 004

 今日は午前中で仕事を終え、昼からは皇城の私室で三騎士達と久し振りに寛いでいた所に、魔導国から派遣されているエルダーリッチの行政官達がゾロゾロと連れ立ってやってきた。

 最初は何かマズイことでも起きたのかと緊張が走ったが、幸いにもそういうことではなく、何やら我々に相談があるのだと言う話だった。

 

 エルダーリッチの言うところによると、現在、魔導王陛下の統治方針はアンデッドや異形種だけでなく人間種、亜人種も含めた全生命種の、ナザリック統治下に於ける平和共存という方針であり、この方針に沿った運営を心掛けてはいるが、やはり、正直なところ種の違う者の考え方や感性の違いに戸惑いもあるのだと言う。

 そこで種を超えた平和的な友好関係の構築に何か良い手はないかと知恵を絞った結果、音楽やダンスなら問題無いのではないか、という結論に至り、ちょっと我々に見てもらった上で、好評なら闘技場辺りを借りての大規模な親睦公演なども視野に入れたいのだそうだ。

 

 そういう話であれば断る理由は何も無い。

 どうやら彼らにとってアインズの言葉は絶対であり、現状アインズの方針が共存であるならば、彼ら配下はその言葉通りに全力を尽くすというのが魔導国のアンデッド達の特性であるようだ。どうもこの辺は野良のアンデッドとは一線を画す特質なのかも知れないな。

 ただ、それもアインズの胸先三寸。ヤツの方針が敵対に変われば、その瞬間から我々人類は滅亡へと一直線ということの裏返しでもある。絶対に油断などできない。

 

 それはさておき、早速見てもらいたいという要請に応じ、三騎士も連れ立ってエルダーリッチに案内された中庭には、既にスケルトンが10体ほど整列していた。エルダーリッチの1体が合図を送ると、先頭のスケルトンが何やら足元に置いたマジックアイテムらしき箱を操作する。

「人○い○長が♪大○鼓♪」「ホ○○○ロック♪(○ネ○○ロック♪)」

 いきなり大音響で曲が流れ出し、リズムに合わせてスケルトン達が踊りだした。

 

 いやいやいや、ちょっと待って。いきなりそれはマズイ。よりによって放送禁止歌って、誰に喧嘩売ってんだ作者おい。

 慌てて止めさせたが、頼むから少しは手加減しろ。何なんだそのチョイス。

 〝激風〟はオロオロしてるし〝重爆〟はもうジリジリと逃げる体勢に入ってるじゃないか。〝雷光〟お前、ウケすぎ。腹抱えて笑ってるんじゃない。

 

 ダメを出されたエルダーリッチ達は少し残念そうだったが、音楽やダンスという方向性自体は良いというアドバイスに気を良くしたらしく、今後もう少し検討を加えて再度挑戦するから、また見て欲しいということだった。

 そのチャレンジ精神は買うが、出来たら次は胃に優しい選曲にして欲しいもんだ。

 

 

 

○月▽日 005

 少し遅いいつもの朝、目覚めるとベッドの端にデスナイトが立っていた。

 過去には戦場で寝起きした経験もあるし、死を覚悟したことも1度ならずあるが、居城のベッドで目が覚めたのと同時に死を覚悟した経験は、さしもの俺も初めての体験だ。走馬灯って目を開いてても見えるんだな。なんだか一気に抜けた気がする色々と。

 

 しかし、デスナイトは俺が目覚めたことに気付いても特に慌てた様子も、いきなり俺を亡き者にしようというような、物騒な行動に出るでもなく、静かに佇んでいるだけだ。

 ベッドの中で固まったまま、深呼吸で無理矢理気持ちを落ち着けてよく見ると、デスナイトはフリルの付いたメイド服らしきエプロンドレスを着ている。

 なんだこれ? デスメイド? 何の嫌がらせだ? ヘルムの代わりにホワイトブリムだし、側頭部から生えた角にリボンまで巻いて。

 

 どうやら危険は無いようなので、そのまま普通に起きて着替え(なんか手伝おうとしてるデスナイトを止めて)を済ませ、部屋を出て誰か事情を知っていそうな者を探すことにする。

 途中で三騎士の内、〝激風〟と〝重爆〟に出会ったので事情を話して尋ねたが、何も知らなかったようで、〝激風〟は普通に引いてたし、〝重爆〟も特に心当たりは無いと言っていた。〝雷光〟にも聞きたかったが、今の居場所は2人共知らないと言う。

 仕方なく執務室の方に向かうと、エルダーリッチの行政官が2人ほど篭って書類と格闘していたが、入ってきた俺を見るなり機嫌の良さそうな声(見た目じゃわからんが、多分)で話しかけてきた。

「どうですかな? 新しいメイドは? お役に立てましたでしょうか」

 

 お前らが犯人か。

 

 いや、確かに最近は魔導国への編入の混乱で皇城で働くメイドの数が減ってしまって、何かと困ることもある、みたいな話はした記憶がある。しかし、だからと言って何でそこでデスナイト?

 胃がキリキリ痛んだが、言うべき苦情は言わせてもらうことにして、皇城のメイドであれば見た目や品位も重視されることを力説させてもらった。

 

 これにはエルダーリッチの行政官も、「確かに、ナザリックでも至高の方々のお住まいになる場では、使用人であれど品格を問われますからな。これは我々が迂闊でありました」と納得してくれたようだった。

「しかし、そうなると人間の居城で働けるに足る見た目を持つ者・・・・・・ナザリックからの派遣は難しいでしょうし、エ・ランテルの方から借りるにしても・・・・・・戦闘要員以外の人員の数は・・・・・・」などと真剣に悩んでくれているようだ。何だ、意外と話せるじゃないかエルダーリッチ。

 

「デスナイトなら余っているし、うってつけだと思ったのですがねえ。ペシュメル殿に相談した時は、それは良い考えだと大いに賛成してくれたのですが・・・・・・」

 丁度そこに〝雷光〟が上機嫌で入って来たので、口を開く前に顔面に一発お見舞いしておいた。お前もグルか。

 〝雷光〟は「まさか本気でやるとは・・・・・・」などとブツクサ言い訳してたが、抜けた本数分殴られなかっただけでも感謝して欲しいものだ。

 

 次は容赦なく毟ってやる。

 

 

 



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その02

○月□日 006

 今日、〝雷光〟のやつから相談を受けた。どうも最近、〝重爆〟の様子がおかしいと言うのだ。

 特に何が、という具体的な根拠があるわけではないそうだが、街に一人で出掛けて長時間留守にしたり、そうかと思うと何やら荷物を抱えて帰って来て部屋に閉じこもる時間が長かったりと、不審な行動が目立つらしい。

 豪放磊落が旨の〝雷光〟にしてはよく気がついたと褒めてやりたい。無神経そうに見えて、見てる所はちゃんと見てるということか。

 

 確かに、〝重爆〟については魔導国の存在が明らかになって以降、帝国を裏切って魔導国に鞍替えをしたい態度が透けて見えるようになっていたのも事実だ。魔導国であれば、彼女の念願である顔にかけられた、あの気の毒な呪いを解くことのできる可能性は高かったから。

 それ自体は騎士として仕えるようになった際の約束でもあるので、はっきりと彼女の口から鞍替えを申し込まれれば、こちらには断る権利も意思も無い。

 ただ困るのは、彼女が魔導国へ解呪の報酬として帝国の機密情報を持ち出すことだったが、帝国が魔導国の属国になってしまった今では既に何の意味も無い話だ。魔導国が望めば彼女に持ち出せる程度の機密なら、こちらから進んで差し出さなければならないのだから。

 

 一度、外出先から帰ってきた〝重爆〟に、それとなく何処へ行ってたのか聞いてみたそうだが、何やら顔を真っ赤にしてショッピングがどうのと、言葉を濁して詳しくは教えてくれなかったらしい。

「俺と違って彼女なら神聖魔法を使えますからね。自分で解呪の方法を調べてるのかも知れません」と〝雷光〟は言う。

 そんな方法はとっくに試してるだろうと言ったが、「最近はエ・ランテルから魔導国の本も流れて来てるって噂だし、毎度買ってくるのも魔導書の類かも知れないじゃないですか」と言われれば、それには確かに反論しにくい。

 

 魔導書の類は重大な被害を及ぼす物も数多いため、一応国内への流入には神経を使っていたが、魔導国への併合に伴う混乱の中、検閲をすり抜けた発禁書の類が無いとは言い切れず、そうであれば我々に内緒にするのも頷ける。

 そして、もし、そうであるならば、三騎士の一員が法に触れる行為に手を染めているということであり、放置は出来ない。特に今は魔導国に目を付けられるような醜聞は絶対に避けないといけない時期なのだ。事の次第によっては躊躇うことなく闇に葬る手段すら考えざるを得ないと思うと心が沈む。

 かつての四騎士も今は3人。これ以上仲間が抜けるような事態は、彼等にとっても決して気持ちいい話じゃないだろうし、俺にとっても信頼する部下を失うのは辛い。

 

 〝雷光〟と2人で暗い考えに沈んでいた所に、丁度〝激風〟がやって来たので、やつにもこれまでの話を伝え、何か良い手は無いかと相談を持ちかける。三騎士の一員として、〝激風〟にも知恵を絞ってもらいたいと思ったのだが、今度は〝激風〟の様子がおかしくなった。

 事態を説明している最中から、どうもソワソワし始めて心ここに在らずの態だ。

 

「何か知っているのか?」と聞くと、「そっ、その件なら何も問題無いですよ! いや、あるんだけど無いんです! そっとしときませんか?」と見るからに狼狽している。

 うん、お前、何か知ってるんだな。動揺しすぎだ馬鹿者。さっさとゲロってもらおうか。

 〝激風〟のやつ、中々しぶとく言い逃れようと抵抗していたが、飲み屋のねーちゃんと遊んでて貴族の令嬢との見合いをすっぽかした件を妹にバラすぞと脅したらアッサリと白状した。

 

 どうやら〝重爆〟のやつ、エ・ランテルから流れてきた魔導国の魔導書にハマっているらしい。

 それ自体は害の無いもので、無害なことは〝激風〟のやつが現在アーウィンタールに駐留するエルダーリッチにも直接確認したそうだ。

 ただ、〝重爆〟にそれを勧めたのが〝激風〟の姉であることから、巻き込まれることを恐れて内緒にしていたらしい。俺の心配を返せ。

 

 事が事だけに当事者である〝激風〟の証言だけでは心許ないので、直接エルダーリッチにも確認することにして、彼等の詰める部屋を訪ねることにする。

 我々の訪問を受け、問い合わせに応じたエルダーリッチは説明してくれた。

「あれならば確かに問題ありません。ナザリックでは俗にウ=ス異本と呼ばれる物の一種で、女性が好む物は男性に若干の精神ダメージを与える効果があるようですが、ロックブルズ殿が好まれる物でしたら、あなた方男性陣が読まなければ大丈夫でしょう」と言う。

 しかし、若干でもダメージを蒙るのなら危険ではないのかと問うと、「まあ、百聞は一見にしかずですな。これは王国産の物ですが・・・・・・」と検閲用の見本(著者は鬼リーダーという人物だがペンネームだろう)を見せてくれた。

 

 見なきゃ良かった。

 

 

 

×月○日 007

 今朝は悪夢にうなされて起きた。どうもまだ先日見たウ=ス異本の影響が残っているようで、最悪の目覚めだ。

 何が悲しくて朝っぱらから「私は深淵を覗きこみたいのだよ!」とか言いながら、狂気の目でフールーダに迫られる夢なんぞ見ねばならんのだ。

 ちなみに〝重爆〟のやつがハマってる問題については、しばらく放置して様子を見ることにした。放置でいいのかって? 仕方が無いではないか。放置以外どうしろと言うのだ。俺には生憎、あれに効く防腐剤など心当たりが無い。

 

 とりあえず気を取り直して、警護の〝雷光〟を連れて少し早目の昼食を採りに街に出ることにする。昼まで寝てたのかとか言うな。昨夜、ロクシー主催のドン・ジャーラ大会に付き合わされて遅かったのだ。

 ちなみに大会の優勝者はこの俺だ。どうだ? 少しは見直しただろう。つまらんとか言うな。他の詳細については語りたくない。忘れたいのだ。

 ただ、百鬼夜行だった、とだけ言っておく。警護役に〝雷光〟だけしか連れてないのもそういうことだ。察して欲しい。

 

 さて、魔導国の傘下となって以降、アーウィンタールの街中はすっかり様変わりしてしまった。

 帝国時代は手の行き届かなかった小路にまで、アンデッドの労働力による道路の拡張や石畳による整備が行われ、工事現場ではガードマン代わりのデスナイトが口にくわえた笛でリズムを刻み、両手の旗を振り回してキレッキレのダンスパフォーマンスを披露しながら通行人を裁いている。ダンスは必要なのか? とも思うが、彼らの言う種を超えた友好を深める手段の一つなのだろう。見物客相手の屋台まで繰り出しているのだから効果は認めざるを得ない。

 

 また、通りには従来の馬車に加えてソウルイーターに引かれた大型の馬車が行き交い、大量の荷物に加えて住民の高速な輸送に恩恵を与えていた。

 高速馬車の往来に伴う事故についても、ある程度知性を持つらしいソウルイーターと、通りを巡回警邏しているデスナイトが連携して住民の安全を最優先に裁いているようだ。不注意で馬車の前に飛び出そうとする者がいても、脱兎のごとく行く手を塞ぐデスナイトの姿が時折見られる。

 通りを当たり前のように闊歩するデスナイトには未だ違和感を感じるが、子供達が「デスナイトさんこんにちわー!」と元気に挨拶しながら歩いている光景を見ると、複雑なものを感じているのは俺だけなのだろうか。

 

 そんなことを思いながら、ふと〝雷光〟の様子に目を向けると、やつも同じ思いだったのか、いつになく真剣な目つきで通り過ぎる馬車を見つめていた。

 そうだな、〝雷光〟も俺がどんな思いで魔導国に抵抗し、どんな思いで苦渋の決断をしたかは知っているのだから、今の状況には忸怩たる思いがあるだろう。その気持ち、俺も一緒だぞ。

 

「・・・・・・まだ方法はあるはずだ」

 万感の思いを込めて声を掛けた俺に、〝雷光〟は不思議そうな顔をして答えた。

「は? 陛・・・・・・じゃなかった、閣下が仰ることは難しくて解んないですけど、方法ですか? 今から運送業始める方法って言っても、もう白猫宅配とか飛脚急便とか、業者一杯いますからねえ、難しいんじゃないですか? あ、魔導国の「ありんす」マークの引○社なんてのも最近見ますね」

 

 うん、〝雷光〟はやぱり〝雷光〟だったわ。深読みして損した。俺の感動を返せ。

 突然、頓珍漢なことを言い出した〝雷光〟は放っといて、俺は昼食を採るべく俺は歩みを進めた。

 

 さて、昼飯食ったら帰って部屋の掃除でもするか・・・・・・。

 

 

 

×月×日 008

 ナザリックの存在が明らかになって以降、その詳細については殆ど謎に包まれ、魔法による情報収集や情報部による懸命な調査によっても、その厚いヴェールを透かして見る事は叶わなかった。

 しかし、旧・バハルス帝国がアインズ・ウール・ゴウン魔導国の傘下となって、これまで多く謎だった事柄が色々と判明している点は、思わぬ収穫と言っていいのではないだろうか。

 暫定とはいえ「バハルス領域守護者カッコカリ」という立場であるが故に、その立場上、質問すれば業務に支障を来たさない範囲で、派遣されて来ているエルダーリッチ達が教えてくれる。

 

 例えば「守護者」という地位だが、何かを守護する立場であることは想像でるものの、俺に力で何かを守れと言われても困ってしまう。どっかの最強解説者じゃないんだから、オーガに「俺が守護ってやる」なんてセリフは絶対吐かない。

 そこで詳しく聞いてみたところ、これはどうも旧・帝国で言う所の大臣や将軍に当る肩書きと捉えて良いようだ。

 

 ただ、「守護者」にも「階層守護者」と「領域守護者」という物があり、「階層守護者」はナザリック地下大墳墓を守るシャルティア・ブラッドフォールン、ガルガンチュア、コキュートス、アウラ・ベラ・フィオーラ、マーレ・ベロ・フィオーレ、デミウルゴス、ヴィクティムの、7人の大幹部のみに許された称号で、単に「守護者」と言った場合には「階層守護者」を指すのだと言う。

「領域守護者」は「階層守護者」の下に位置し、一部の領域のみを管轄するという訳だ。

 

 さらに、これら「守護者」の纏め役として「守護者統括」という地位があり、アルベドという女悪魔が就いているそうだ。要するに魔導国のナンバー1はアインズであり、ナンバー2はアルベドということだな。こんな情報すら以前は入手不可能だったのだ。魔導国の情報統制恐るべしと言わざるを得ない。

 確か、ナザリックでの謁見の際に玉座の周囲に6人いたが、あの場に居なかった者もいるということだな。双子の邪妖精の強さは知ってるし、カエル顔の悪魔がデミウルゴスと呼ばれていたのは覚えている。あの時は王妃だと考えていた女悪魔がナザリックのナンバー2というわけだ。

 個々の能力についても詳しく聞きたかったが、あまり一度に聞きすぎてもあらぬ警戒心を抱かせるだけだと思って止めにした。

 

 ただ、一つ気付いたことがある。

 ナザリック自慢を始めると、エルダーリッチ達の口が異様に軽いことだ。ナザリックがどれだけ素晴らしい(だったら永遠にそこにいて出てくんな!)か、アインズがどれだけ素晴らしい(糞野郎だけどな!)を際限なく語り始めるので、こちらの聞きたい事を聞こうにも進路の修正に手間取ることがあった。

 この事を利用すれば、もっとナザリックに関する情報を引き出すことは難しく無いのではないだろうか。だとすれば大いなる収穫だ。

 

 

 

×月△日 009

 魔導国から派遣されているエルダーリッチの行政官から、人間とアンデッド、双方の交流に役立てたいという演目の相談を受けたことがあったが、前回ダメ出しされた案を踏まえて他のパターンを用意してみたので、また見て意見が欲しいという要望があった。

 今は波風を立てる時ではないし、交流大いに結構ということで、三騎士を連れ立って見に行くことにする。

 

 中庭に着くと、えらく頬骨の張った肌の黒い男を紹介された。名はワーウルフのマイケ・・・・・・もう今回のネタわかっちゃったんだけど、どうすんだこれ。

 どうでもいいけど、いちいち「ポウ!」だか「パウ!」だか叫んでるし、動きもカクカクしてるし、どこか具合悪いんじゃないのか? 大丈夫かこいつ?

 

 そんな心配をよそに、マ○ケルに率いられたゾンビが20体ほど登場し、横長の隊列を組む。先頭のマイ○ルが足元のマジックアイテムを操作して音楽が始まると、甲高い声で歌いながら踊りだし、背後のゾンビもそれに合わせてキレッキレのダンスを踊り出した。

 ていうかゾンビってあんな動けるんだ・・・・・・ちょっとゾンビに対する認識を変えないといけないかも知れない。

 

 曲が終わると我々の評価を求められたが、〝激風〟は「なかなかスタイリッシュですね」などと、それなりに気に入ったらしい。〝重爆〟は「ゾンビはちょっと・・・・・・」と引いていたが、お前、普段あんな腐ったもん見ておいて、腐ってるの平気じゃなかったのか。〝雷光〟は「笑いどころがわからなかった」と言っていたが、俺にはお前のそのセンスがわからん。

 俺的には悪くはないと思うが、やっぱりゾンビは見た目的にどうかと思う、とは言っておいた。

 

 エルダーリッチ達としては、概ね前回より高評価だったことに気を良くしたようで、もう1つあるから見てくれと言う。

 合図と共に颯爽と現れたデスナイトの一団が、「Won't you take my hand ♪~」と、どこからともなく流れ出した曲に合わせて、一糸乱れぬ切れ味のダンスを披露しだした。

 うん、知ってるよこれ、確かどこぞの金貸しのテーマソングだよこれ。

 

 どうでもいいが、デスナイトは歌えないだろ、誰が歌ってるんだと聞くと、エルダーリッチは事も無げに「いわゆる口パクというやつですが、いちいち気にしてたらジャ○ーズやA○Bなんか見れませんよ、ハハハ」と嘯いた。そんなぶっちゃけ話、聞きたくなかった。変な汗出るから。

「目指したのは“歌って踊れるデスナイト”」とか言われても、語呂がいいのが逆にムカつく。

 

 評価を求められた三騎士達の意見は、三人とも概ね良かったようだ。お前ら、デスナイトの存在にすっかり最近慣れ切っちゃってない? 存在自体が異常だって忘れてないか? いや、まあ、俺もあんまり人のことは言えないが。

 ただ、俺個人の意見を言わせてもらうなら、これだけは強く言っておきたい。

 

 デスナイトにレオタード着せるな。

 

 

 

×月◇日 010

 ナザリックに駐在するロウネから荷物が届いた。

 バハルス帝国は魔導国の傘下となったが、その属国化に伴う様々な手続きや連絡業務は減ることなく、むしろ増加の傾向にある。

 そんな中で両国の同盟締結以降、ずっとナザリックに駐在し、ある意味魔導国・帝国双方の事情に明るいロウネの存在価値は増していると言って良いだろう。個人的には早めに魔窟から救い出してやりたい気持ちもあるのだが、今の状況では仕方の無いことだ。

 業務連絡の傍ら、こちらの近況も知らせてあるが、同封の手紙によると今回は「お役に立てれば」ということで便利グッズをいくつか送ってくれたらしい。

 

 見ると30cm四方ほどの箱の1つには「生物注意」と書いてあるが、なまもの? 食べ物か? だったら便利グッズとは言わないよなあ・・・・・・などと不思議に思いながら箱を開けると、中には何やら金色の髪の毛の塊が入っている。こ、こいつ・・・・・・動くぞ。「なまもの」ではなく「いきもの」だったようだ。ていうか、なにこれ気持ち悪っ!

 

 箱の蓋に貼ってあった注意書きには頭髪蟲という蟲の一種で、人の頭に乗せると髪の毛に擬態し、ヘアスタイルも色々変えることの出来る生きたカツラなんだとか。

 飼育は簡単で、葉物野菜を1日に数切れ与えれば良いらしく、この個体の名前は「フサフサ君」と言うらしい。

 試しに少し持ち上げてみた(流石に素手は無理なので棒に毛を絡ませて持ち上げてみたのだ)が、意外なくらいに軽く、毛は人髪と区別が付かない。が、裏返して見ると、節足動物の足がビッシリ・・・・・・え? 乗せるの? これを? 頭に?

 

 残念だが、これは御免蒙りたい。ていうか絶対無理。

 ロウネのやつ、どうしてこれを送って俺が喜ぶと思ったのか、直接会ったら小一時間問いたい。問い詰めたい。

 

 とりあえず、フサフサ君の処遇は後で考えるとして、もう1つの箱を開けてみることにする。

 丁度通りかかった〝激風〟と、たまたま一緒にいて興味を引かれたらしいエルダーリッチ行政官の一人にも事情を説明し、一緒に箱の中身を見てみると、中には折り畳まれた肌色の布のようなものが入っており、広げてみると等身大くらいの人型になっている。なんだこれ。

 一瞬、その色から人の皮製なのかとドキリとしたが、よく見るとテカテカした光沢のある素材のようだ。

 

 エルダーリッチはこれが何かすぐ判ったそうで、何でもエルダーリッチ自身が直接見たことがある訳では無いが、ナザリックの地下宝物殿の奥にある秘宝館に、これと同じ物が飾ってあるという噂があるらしい。そんな貴重な物を、ロウネのやつ、よく入手できたもんだ。何故か〝激風〟が微妙な表情をしているのは気になるが。

 

 同封の説明書によると、空気を吹き込んで膨らませると起動すると書いてあるので、〝激風〟に膨らまさせてみると、つるんとしたゆで卵のような肌色の顔に、やたらとマツゲと唇が強調された真ん丸の目と口が貼りつけられた・・・・・・何だろう、このヒワイな感じ。

 エルダーリッチが言うには、ドッペルゲンガーという種族がモデルだそうで、同種族ならナザリックにも数体いて、中には重要な地位にいる者もいるらしい。

 

 膨らんで起動した空気人形は、命令すれば簡単な作業をさせることが出来るそうだが、確かに、メイド不足の折、簡単な作業をさせる程度なら、先日のデスメイドよりはマシかも知れない。でも、あのツルンとした手で物が持てるのだろうか・・・・・・いや、どこぞの猫型モンスターも丸い手で器用に物を操るとか言うし、できるのか?

 そんなことを考えていると、さっきからソワソワしている〝激風〟が、小声で「か、閣下・・・・・・」と俺の袖を引き、ある事実を耳打ちして教えてくれた。

 

 直ちに停止させ、空気を抜いて厳重に封印させることに決定!!

 



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