魔導王の試練場 (とし3)
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魔導王のちょっとムリゲなダンジョン

 ―――魔導王の試練場と呼ばれる迷宮がある。

 

 それは魔導王アインズ・ウール・ゴウンが作り出した、冒険者を育成するための迷宮だ。

その地下迷宮を突破で来た者は、魔導王の出す懸賞金と共に、無条件でミスリルのプレートが

与えられると、ギルド長がお墨付きを与えている。

 

 偉大なる魔導王の魔法で生み出されたその迷宮には、罠や魔物が犇めきあい。

更には冒険者達を深淵へと誘う誘導灯のごとく、貴重な魔法の装備が収納された宝箱までもが

迷宮の中に幾多も配置されていると噂される。

 富と名声を求めて魔導王の支配領全土から数多くの冒険者が迷宮に挑んでいった。

 

 しかし試練場が作られて半年、攻略が確認された冒険者はまだいない…

 

 

 

「はぁ…」 

 

 

 

 アインズが溜息を吐く。

 中級冒険者の実践支援のために作成した、迷宮の攻略者が今だ現れていないからだ。

 

(1から作るのがめんどくさくて、何年か前にWizardry150年記念ガチャで手に入れた、

迷宮セットを使って手を抜いて作ってしまったのが失敗だったのだろうか?おかしいなぁ…

難易度はVery Easyに設定してあるし、即死やレベルドレイン、致命的な転移事故もOFF…

 レベルも17~18程度の冒険者チームなら十分クリア可能なはずなんだけどなぁ…)

 

 「大変申し訳ありません、陛下。多額の投資をして頂きながら、半年の期間が経過しても攻略者が出ないのは想定外でした」

 ギルドマスターのアインザックが渋い顔をして頭を下げる。

 

 「頭を上げよアインザック、これは想定の範囲内だ。…現在攻略はどこまで進んでいる?」

 「現在は白金級冒険者の〝黒壺〟が金級冒険者チーム2個と連合を組み7階層まで攻略済み、

8階層で救難信号を出して陛下の手の物により救助されています」

 「そうか…まあ攻略自体が目的ではない、冒険者の腕が上がればそれで問題は無い」

 

 あと1歩2歩って所まで攻略は進んでいるようだ。アインズ自体がWizardryもプレイしたことが無い事もあり、原因の特定ができない。時間が許せば自らがモモンとして攻略に参加したかったのだが、中級者用として告知した事もあり困った事になっていた。

 

(うーん、事前にテストプレイしておけばよかったなぁ…でもなぁ…色々忙しかったし。

いや、当面の課題は一般的な冒険者の視点を身に着けるべきか、その点で言えば漆黒の剣の存在は惜しかった)

 

 アインズが追憶に浸っている間もアインザックが報告を継続する、アインザックはこちらの報告でも申し訳なさそうに頭を下げる。未知のエリアの探索速度が想定以上に遅いだからだ。

 しかしこれもアインズは問題ないと考える。

 続いて上位冒険者の未知のエリアの探索率に応じて支払われる報奨金、功績において支給される魔法の武具、冒険者達の死亡率と蘇生状況が奉告される。そして冒険者学校の1期生の卒業の話が来た所で、アインズはここに興味を持ちアインザックに目を合わせる。

 

 「1期生は陛下が提案なされたレベリングの成果で、短期間で戦闘力だけなら金冒険者並に育っています。俄かに信じられない速度ですな。卒業を迎えた1期生は、しばらく銀級冒険者として経験を積み重ねてもらう事になります。…ただ」

 「冒険者の仕事が少ない…か」

 

 アインザックが黙ってうなずく。

 アインズもそうなるだろうなぁ…と予想しながら手はうってなかったのだ。

 現実問題、対モンスター用の傭兵としての銀冒険者の需要は大幅に減っている。当然ながら魔導国による治安維持活動のせいだ。

 更に魔導国の統治下に置かれた国の騎士の大多数が職を失い、冒険者として転職する者も増えたために下位の冒険者の層が無駄に増え、少ないパイを更に奪うあうことになってしまっている。

 

 「ふむ…1期生か、今回の件に利用できるかもしれんな」

 

 心配そうなアインザックを横に、アインズは鋭利な顎に手をやり、そう呟いた。

 

 

 

 

 魔導王の冒険者ギルドの改革は、様々な支援体制を冒険者に齎した。

 代表的な物の一つが冒険者学校の設立だ、魔導王の試練場が中位冒険者の支援の目的に作られたとすれば、こちらは低位冒険者の支援となる。

 

 エ・ランテル冒険者学校。

 今までも冒険者としての最低限の説明程度の講習はあったが、魔導国の冒険者学校は違う。

銅(カッパー)や鉄(アイアン)級の初心者に毛が生えた程度の冒険者を、半年の間ミスリル級の講師の元で学ばせ、最低限の技術を体に叩き込ませる事によって、新人冒険者の7割以上が最初の1年で死ぬか引退だと言われる悲惨な事態を改善する取り組みであった。

 英雄モモンが推薦し、魔導王アインズ自ら講師役に勧誘した、チーム〝虹〟を講師に据え。

 魔法学、植物、鉱物の判別、各種魔物の特徴、ギルドシステムと依頼人との応対方法の座学。

 実技としては、森の歩き方から植物採取の仕方、野営や獲物の解体、不死者を使った戦闘訓練。

 本来なら秘匿され、高い金を支払ってでも得たいレベルの教育が無償に近いレベルで提供される。

 

 無論、誰もが入学できるわけではない。

 集団面接を行い、合格した者だけがエ・ランテル冒険者学校の一期生として入学ができるのだ。

「面接だけか」と甘く見ること無かれ、面接に挑んだ若手冒険者や冒険者志望の大半が、この面接で冒険者の道を諦め実家に戻ることになる。

 後の世に最大の難易度、この時点で精神力は英雄級と語り継がれる一期生を面談する相手は、

ギルド長のアインザック、漆黒の英雄モモン、そしてかの魔導王アインズ・ウール・ゴウンだったのだから…

 

 彼らが入学して地獄のような訓練を受ける中、世界は大きく変化しようとしていた。

 予想もしなかった帝国の自主的な属国化、現在ではバハルス領域と呼ばれるようになったかの地が、正式に魔導国の版図に組み込まれていた。

 また王国も、若手王国貴族によるランポッサⅢ世の殺害から始まる大規模な内乱が発生し、地獄絵図になっていた。

 

 終わりの見えぬ内乱に、ラナー王女が魔導王に軍事介入を求め、魔導王がラナー王女に助成し軍勢を差し向ける。魔導王の武力を借り、犯罪組織〝八本腕〟の主であり、悪魔王と呼ばれる反乱の首魁、フィリップを打倒した後、ラナー王女は混乱の責任を取り王位を返上する。

 壊滅状態の王国を魔導国に併合してもらうように願い、リ・エスティーゼ王国はリ・エスティーゼ領域として魔導国に併合される。

 

 慈悲深き魔導王は併合した皇帝や王女を領域守護者として任命し、騎士団こそ解散させられたものの、大きく自治権を認められ、安定した統治が実施された。

 それにより混乱は最低限に抑えられ、更には魔導国の支配領域では魔導王の配下による不眠不休の治安維持が行われ、都市部近郊であれば護衛も無しで安全に出歩ける環境になり。支配領域の魔導王に従わぬ魔物には、冒険者と合同で害獣狩りが実施された。

 偉大なる守護者の統治。帝国、王国、魔導国の国境撤廃による交易の活発化。冒険者達による人類の勢力圏の拡大。

―――人類は今こそ黄金時代を迎えようとしていた。

 

 そんな激動の時代の中、冒険者学校の1期生徒は卒業の時を迎えようとしていた。

無事に冒険者学校を学園を卒業できた生徒に対しては、魔導国の刻印入りの【銀】ランクのプレートと共に、副賞として、英雄モモンをイメージして作られた〝死を切り裂く双剣〟が縫い込まれた真紅のマントが授与される。

 

 

 「「「乾杯ー!」」」」

 

 

 乾杯をするのは冒険者学校の卒業を終えた生徒たち、技術訓練で同じ班になったことが縁でチームを組む事となった、生まれたばかりの新人冒険者チーム〝シードリーフ〟の4人だ。

 彼らは地獄のような半年の訓練を終え、定宿に決めた安宿、〝野バラ咲く路〟でなけなしの金を出し合い、細やかな卒業パーティを開いている。

 酒も料理も質が良いとは決して言えなかったが、今日ばかりは憧れていた英雄達の世界へ1歩踏み出せたと心を満たしていた。

 

 「無事卒業できましたが今後はどうします?我々は訓練を受けたとは言え、経験の浅い名ばかりの銀級…探索が許可された行動範囲は既知のエリアのみ。魔導王陛下の掲げる未知を既知に変えるような仕事はできませんぞ。」

 

 良い感じに酒が入り、気分が高揚して来た所で生真面目な【神官】のマシュー・マロウが現実に戻すような発言をした。現実問題、魔導王配下が治安維持をする今、対モンスター用の傭兵としての仕事は大幅に減少している。

 低位冒険者では高位冒険者のように未探索エリアを調査して報酬を得ることもできず。

中位冒険者のように、上位冒険者が調査たエリアを走破し地図を埋めていく作業にも参加ができない。

 

「そうだね。しばらくは地道に薬草を採取して売るか、行商人の護衛をするか…魔物退治?」

 

「俺は魔物駆除に1票、魔物を狩る事で力を取り込み、能力が上がるって説を実践したいぞ」

 

「…今はコツコツ信用と実力を積み重ねる時期」

 

 リーダーで【戦士】なオレガ・オレガノと、元鉄級冒険者で【盗賊】なニゲラ・サティバ

そして紅一点の【魔法使い】ソレル・リトルヴィの3名が今後のビジョンを示す。

 彼らは手に入れた力に溺れず、今は地道に力を付けるべきだと考えていた。

地に足をつけ1歩1歩進んでいく姿勢、それは少しのミスが死に直結する冒険者の心得としては、とても大切な事である。

 

「…魔導王の試練場に挑むと言うのはどうだ?」

 

 そんな中、無謀としか言えない発言と共に、チームの会話の中に入り込んで来た男が居た。

全員が訝し気な顔をしてその男を見ると、反射的に飛び上がり、直立して最敬礼をする。

 

 「「「「お疲れさまです!モックナック教官!」」」」

 

 現れた男はチーム〝虹〟のリーダーであり、冒険者学校の担当教官のモックナック。

 何故こんな場末の酒場に上位冒険者が来るんだ!?とか、なんて無茶な事を言い出すんだとか混乱していたが、半年間みっちり鍛えられた彼らは反射的に上官に対する姿勢を取っていた。

 …調教済である。

 

 「モックナックでかまわんぞ、敬礼も不要だ。君達はもう学校を卒業した独立した冒険者だ。

 

そう言って皆を席に座らせる。

 

 「教官…いえ、モックナックさん。流石に今の提案は無茶ですよ。僕らはまだ銀級の冒険者ですし実力不足です。」

 

 リーダーが代表して無謀な提案に拒否反応を示し、他の3人も同意するように首を振る。

 皆も内心ではいつか挑戦したいと言う気持ちはあったんだろうが、ベテランの白金や金が攻略できない難度の迷宮では、今の自分たちでは役不足だと言うことは十二分に理解していた。

 

 「ふむ、まあ…私もそうは思ったんだが、君たちに指名で依頼が来ててな…」

 「指名依頼ですか?冒険者学校を卒業したばかりの僕たちに?」

 

 モックナックが見せて来た指名依頼の用紙に〝シードリーフ〟の全員が凍り付く。

依頼者の名前は〝アインズ・ウール・ゴウン〟それは魔導王直々の指名依頼であった。

 

「こ…これは断れないな」

「で、でも無理だろ…あの白金級もリタイヤしてる迷宮だぞ!?」

「…無理、2階以降の凶悪さは良く耳にしてる」

「無理でしょうなぁ」

 

 死刑宣告のような指名依頼に冒険者チーム〝シードリーフ〟の全員が絶句する。

 指名依頼は強制では無い、強制ではないが相手が悪い。今では超大国となった魔導国の支配者であり、冒険者達の庇護者である〝アインズ・ウール・ゴウン〟直々の指名依頼なのだ。

 新人冒険者チーム〝シードリーフ〟は動揺を隠せずモックナックを縋るような目で見つめる。

 

 「落ち着け…内容をよく見ろ、攻略依頼ではなく探索依頼だ。魔導王陛下は試練場の調査報告書を求められている」

 「調査…ですか?」

 

 魔導王の指名依頼は攻略依頼ではな調査依頼だった、落ち着いて考えてみれば当然である。

自ら金と時間をかけて育てた冒険者を無駄に死なせるような理由は流石に無いだろう。指名依頼の内容は意外なものだった。

 

 『冒険者達の攻略が停滞している原因を調べたい』

 

 なるほど、魔導王のような超越者にしてみれば羽虫の苦悩はわからないのかもしれない。

 全員がそう納得する。配下のアンデットはどれも一騎当千、街中で衛兵をしているデスナイト単体でもアダマンタイト級の冒険者チームに匹敵する強さを持つのだ。

 更に魔導王陛下が一番知っている冒険者は、かの英雄モモン。彼を基準に難易度を設定したと考えるなら攻略者が出ないのも不思議ではない。魔導王陛下の中で冒険者と言うものの実力を高く評価しているのだろう。

 報酬は出来高制、レポートの良し悪しで報酬を決定する。最低でも銀ランク冒険者相当の金額は支払われる。冒険者学校では調査報告書の書き方も授業であったために、卒業生へのテストなのだとこれも全員が納得した。

 

 迷宮探索に必要なものを買う準備金、経費として貴重な治癒のポーションが数点、

更には死亡時の蘇生1回無料券などの信じられない好待遇。

 モックナックの「魔導王陛下は次世代のモモン殿を見据えて動いておられる、その候補生に選ばれるとは幸運な事だ」との発言にコロッとやられ、新人冒険者の一団は心を決め指名依頼を受けることにした。

 

 ―――未知を既知に変える冒険者の卵たち。

 そんな彼ら1期生にまず求められたものは未知なる土地への探索では無く。

 今だ攻略者の現れない、未知なる魔導王の試練場の攻略だった。



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殻の中の小鳥

 ――冒険者の卵たちは嘴打ちのために魔導王の試練場へ挑む。

 割るべき殻は迷宮では無く、自分自身の籠る殻だ。

 

 

 魔導王の試練場の入り口に真紅のマントを着込んだ4人と1匹の姿が見える。

〝死を切り裂く双剣〟が縫い込まれたマントを羽織る彼らは、新人冒険者チーム〝シードリーフ〟の4人。それと冒険者学校の新マスコットでスードゥドラゴンの〝ドラヤキ〟くんが1匹だ。

 

 余談だが「お揃いユニフォームで団結力を高めるのはどうだろう?」と言うモモン殿の提案で、卒業生には真紅のマントが配られたのだが、これが実に評判が良く、冒険者学校の生徒たちは卒業しても変わることが無く、強い団結力を保ったと言われる。

 ユニフォーム制度の成功を見て、魔導国も孤児院に導入する。子供達は共通の制服を用意され、戦闘訓練とナザリック愛を叩き込まれ〝アインズ・ユーゲント〟と言う次世代の魔導国を背負う人材が育成されるのだが、これはまた別の話。

 

 「どうしてこうなった…」

 

 オレガが極小サイズの真紅のマントを羽織り、楽しそうに騒ぐ竜を見てボソリと呟く。

 ただでさえ不安な任務に、何でマスコットの面倒までみにゃならんのだ!と言う気持ちはあるがクライアントからの依頼は断れない。紅一点のソレルだけは「可愛い…」とご機嫌だが、本当ならば不安要素の追加は極力避けたかったのだ。

 

 「同行させるように言われただけで、護衛するようには指示は受けてませんから」

 「まっ、小さくてもドラゴンだからな、大丈夫だろ」

 

 残りのメンバー2人がリーダーを慰める。

 スードゥドラゴンはとても小さな竜だ。体長30cm、特徴的な長い尾を合わせても全長90cm、体重も3kg程度しか無くとても貧弱だ。しかし超小型の愛玩用の竜とは言え、野良ゴブリンの数匹程度は余裕で狩れる実力は持っている。

 

「…頑張ろう、ドラちゃん」

 

 何故か一番の乗り気の〝ドラヤキ〟くんを右肩に乗せたソレルがそう呟き、冒険者達は迷宮の門をくぐった。

 

 

 冒険者ギルドからは10階層まであると公言されている〝魔導王の試練場〟は、魔導王の大魔術により1瞬で創造されたと言われる。実際の所、ここは半年以上前には何も無い土地だったのだからこれは事実なのだろう。お伽噺のような馬鹿げた内容でも、あの魔導王なら可能だと、今では誰もが思えてしまう。

 整備された石作りの迷宮なのに、内部は十分な換気がされており、一定期間で魔法の明かりが用意され、ああ、これは訓練なんだと思えるくらいに侵入者に対しては便利な作りになっている。

 その反面、配置されている罠は凶悪な物が多く、半年が経過した今も攻略者が居ない。

 

 「迷宮の中なのに臭いが籠ってなくて過ごしやすいな…」

 

 「涼しく空気も清浄ですし、これも魔導王のお力でしょうか」

 

 先輩冒険者から聞いた話では、地下1階は魔物は徘徊しておらず危険は少ないと教えられた。

 ただし扉には召喚用の魔法陣が用意されて居るものもアリ、不用意に開けると魔物が召喚される仕組みだと言う。これは魔物が溢れないようにする安全対策の意味も含まれているのだろう。

 

 新規の冒険者に大して格下と思わず先輩たちは協力的だ。魔導王の指示と言うのもあるが、攻略が停滞している現状を打開をするために、1人でも多くの冒険者が挑戦して欲しかった。

 中堅冒険者達は攻略一番乗りを目指すより、迷宮の突破の方に意識を切り替えていたのだ。

 

 「扉があるぜ…△のマーク付きだ」

 

 「開けるしかないだろう、皆準備はいいか?」

 

 リーダーの確認に全員がうなずく、△マークは先陣の冒険者チームが書き残した、魔物が出現する召喚魔法陣有りのマークだ。気持ちを切り替え戦闘の準備に入る。

 扉を蹴とばして開けた瞬間、黒い煙が形を作り、3体の〝人間型の生き物に〟変形する。

 「まずは牽制っと!」とニゲラはナイフを投げつける、投げたナイフは化け物1体の顔に突き刺さり、化け物は「ブヒィィ」と情けない声を出して顔を抑え込んだ。怯んだ化け物にマシューの追撃が入る。メイスの1撃が綺麗に化け物の顔にめり込み、化け物は壁まで吹き飛んで崩れ落ちた。

 体制を崩したマシューの元に2匹目の化け物が攻撃を仕掛ける、しかし慎重に準備をしていたオレガに側面から攻撃をしかけられ、致命傷を負う。そのまま返す刃で3体目の化け物を切り飛ばし、後は倒れた魔物に全員で攻撃を仕掛けトドメを刺した。

 

 「これは豚鬼(オーク?)」

 

 倒れた魔物を見てソレルがぼつりと呟く。外見的特徴からして授業で教わった魔物の特徴に似ていた。詳しく調べようと近寄ると豚鬼(オーク)と思われる魔物は、再び黒い煙に戻り消滅した。

 そこには少量の銅貨だけが残されていた。討伐証明部位の獲得が省略され一気に換金される仕組みのようだ。…あの魔導王の作り上げた事だからと、もう驚くことは無かったが、便利さに皆が感心した。

 

 その後も探索は順調に進んだ、犬鬼(コボルト)や動死体(ゾンビ)が出現する魔法陣のある扉を傷を負うことなく余裕で突破。【この先暗闇、準備無きものは引き返せ】と書かれた親切な看板超え、持ち込んだ松明の明かりで問題なく暗闇通路を切り抜ける。先発の冒険者の先輩に感謝しつつ、地下1階の探索を継続した。

 …そんな中、とある部屋に入った瞬間、4人は奇妙な既視感に襲われる。

 

 「この臭いはどこかで?」

 「おいおい、あの彫像って…」

 「この部屋にも先生の祭壇があるんですなぁ」

 「…折角だから挨拶する」

 

 〝シードリーフ〟の一行は彫像の前に置かれた祭壇に向かい、迷いなく祈りを捧げる。

 すると石像は鈍い金色の光を放ち、怪しい化物となって襲い掛かって来る。素早い動きだが、今の〝シードリーフ〟に反応できないほどではない。突撃をオレガが盾で防ぎ、押しかえす。

 そこにソレルが第二位階魔法【蜘蛛の糸】を飛ばし、化け物は蜘蛛の巣に手足を取られ身動きが取れなくなっていた。

 ニゲラが化け物のヘイトを稼ぎ牽制、オレガが体制を立て直せないように安定して傷を入れる。そこにマシューが狙った強力な1撃を叩き込む。ソレルは万が一に備え魔法の発動準備中だ。

 化け物は「グァアアアアアアァ」と苦悶の声を上げながら両手を振り回し暴れるが、蜘蛛の糸は剥がせず、バランスの悪い攻撃は盗賊にかすりもしない。

 驚異的なタフネスを見せた化物だったが地道に生命力を削られ限界値を超えて活動を止めた。

 

 「「「「フィリップ先生ありがとうございました」」」」

 

 黒い霧に戻り散っていく化け物を相手に、怪我の治療も後回しで一期生4人全員がそろって頭を下げる。倒した化物の名前は〝フィリップ・ゴースト〟と言って、冒険者学校の実戦訓練で卒業までに何十回と戦った戦闘教官であり、素早い行動と異常なタフネス、そして異常に低い攻撃力と、まさに初心者冒険者を育てるがために生み出されたような不死者だ。

 新人冒険者のために倒されても倒されても何度も呼び出され訓練に付き合ってくれることから、生徒からは先生と慕われていた。

 

 …ちなみに実際、実戦訓練で怪我の絶えない冒険者のために、魔導国の守護者統括と言う、美しい女性が用意してくれた化け物である。

 

 

 

 

 次に部屋を使う人のために部屋を清掃し、備え付けの予備のお香を焚いた後は、再度お祈りをする。十分な休息を取って迷宮の探索を再開した。

 探索中、『関係者以外立ち入り禁止』と壁に殴り書きがされている奇妙な部屋を見つけた。

 これは調べるか否か迷ったが、迷宮内の情報は把握しておきたいと言う思いから、全員一致で

「最低限の確認をするべきだ」と言う事で話がまとまった。

 スードゥドラゴンの〝ドラヤキ〟くんが嫌そうにグルグル鳴いていたのが気にかかったが…

 

 ノックをし、中に人が居ないか呼びかける…反応が無い。留守なのか何もないのか…

 気を取り直して「魔導王陛下の指令で迷宮の調査に来ました」と呼びかけた瞬間、物凄い勢いで扉が開かれた。

 

 「おおおおお!師の使いの方でしたか…申し訳ありませぬ。

  は、はぁああ…そっその、その恐ろしいまでの魔力は…やはり」

 

 外見だけ見れば御伽噺に出てくる魔法使いのような立派な外見をしている老人。

 だが異常なほど興奮し、血走らせた一人の狂人が目の前に現れた、パーティ全員はその熱狂さから何もできず膠着してしまう。冒険者としては致命的なミスだ。…だが誰が彼らを責められよう。相手は英雄の壁を超えた〝逸脱者〟の1人〝フールーダ・パラダイン〟その人だったのだから。 

 名前は知らなくとも、その溢れる剥き出しの熱量に耐えられる人間は少ない。

 

怯えたスードゥドラゴンがシュッと不快な驚きを持った威嚇音を鳴らすと、次の瞬間姿を消す。 

驚いたメンバーが周囲を見渡すと…パーティ全員が魔導王の試練場の入り口に立ち尽くしていた。

 

 「あ…ありのまま今起こった事を話すぞ!俺は狂人チックな老人に会ったと思えば何時の間にか迷宮の入り口に来ていた…何を言っているのか、わからないと思うが 俺も何をされたのかわからなかった…」

 「いや俺らも体感したから理解はできるが…わかんねーよ!」

 「罠か何かの1種ですかな?テレポーターなる罠が存在すると聞きましたが」

 「…あれは多分魔法?でも何位階?理解できない」

 

 『ドラヤキです、お疲れさまでした。次回探索日をギルドに伝えておいてください』

 

 現状に理解が及ばず動揺している〝シードリーフ〟の一行を横に、首をフルフルさせて気持ちを整理した〝ドラヤキ〟くんが全員に念話を飛ばす。ふらふらとび去って行くスードゥドラゴンを眺めながら、全員が唖然とした顔をしていた。

 

 

 

 

 「ひいっ、怖っ!?」

 

 エ・ランテルのパナソレイ都市長の住居を改造した、アインズの寝室から叫び声が聞こえる。

今日のアインズ様当番だったシクススが、護衛の配下を呼び寄せ慌てて主の安否を確認を急ぐが、感情抑制が働いたアインズは、支配者に相応しい声を取り繕い問題が無い事を伝え騒ぎを収る。

 

 (はぁ…反射的に帰還の魔法を唱えてしまった…使い魔との共感的リンクは要注意だな。

こんな時は異形種の便利さを実感する。…冒険者受けを考えて竜にしたのが失敗だったかね?)

 

 (いや…それより経費削減でフールーダの研究室を迷宮内に設置したのが間違いだったか。誰が来ても開けないように伝えておいたはずなのだが…)

 

 冒険者学校の新マスコットである、スードゥドラゴンの〝ドラヤキ〟くん。

 それは気分転換…迷宮視察用に【上級使い魔召喚】で呼び出した使い魔であった。

 

 手持ち無沙汰になったシクススにお茶を入れるように指示をする、戻ってくるまでに再び使い魔に接続し、次回の調査日をギルドに報告するよう連絡を入れる。

 最後こそ酷かったが、久しぶりに冒険らしいものに参加できて、気持ちは満足していた。

 感情抑制に注意しながら、アインズは用意されたお茶の香気を楽しんだ。

 

 

 

 

 一方、取り残された冒険者チーム〝シードリーフ〟の4人は活動拠点にしている〝野バラ咲く路〟に戻り反省会が行われていた。

 

 「会話できるなんて聞いてないですよ…」

 「だよなぁ…部屋に入る前に嫌がってたよなアイツ」

 「そうだな、あいつも仲間として考えるべきだった」

 「…同意、愛玩用としか見て無かった」

 

 大きな怪我も負わず、宝箱を拾って罠外しに成功し、鉄製のショートソードを1本手に入れた。

攻略に必要そうな意味ありげな鍵も入手し、1回目の挑戦としては成功と言っても良い内容だったのだが、最後の内容が全員の心に影を残していた。

 あれが危険な罠だったり、恐ろしい化け物の場合、死んでいたのだから。

 

 ――実戦と言う名の光と、経験と言う栄養素で〝シードリーフ〟は静かに成長する。




マピロ・マハマ・ディロマト!


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雛鳥の囀り

 ――魔導王の試練場で中堅冒険者の意識が改善される。

 

 隠し扉には案内を付ける、魔物が出る扉には魔法陣を示す印を付ける、

 閉鎖する扉には閉まらないように杭や楔を徹底的に打ち込む。

 回転床には回転方向と壁に案内を記載する、落とし穴の周辺には注意書きを残す。

 ガスや煙が出る穴には詰め物をする、魔法が使えなくなるエリアには着色し警告する。

 それは冒険者の攻略への執念のようなものが見える見事な仕事であった。

 

 中堅冒険者達も最初からこのような協力体制を取っていたわけではない。

 自分たちがこそが〝魔導王の試練場〟を攻略して名を上げるのだと野心を持ち、

 お互いを敵視し出し抜こうとしていた。

 

 …だが残念な事に彼らの大半はモンスター相手の傭兵でしかなかった。

 人や動物を殺す〝殺意ある罠〟への対処する腕がある者は居たが、謎の原理で嫌がらせを仕掛ける迷宮の理不尽な罠には無力であり、次々と冒険者の心を折っていった。

 そんな彼ら冒険者達にも変化がみられた、一部の冒険者が迷宮に罠の記載を始めたからだ。罠を書き込む冒険者の数は増え、今ではパーティの枠を超え冒険者同士で攻略状況を話し合うようになっていった。

 

 アインザックはこの光景を見て、魔導王陛下がこの試練場を作った真の目的を理解した。

 魔導王陛下は冒険者が一つの目的に向け、共に行動する状況を作りたかったのだと。

 

 

 …一方その頃、魔導王の修練場では。

 

 

 (うわぁ…罠が徹底的に処理されてる!?攻略に必要だと言っても訓練にならないんじゃないか?今回は後出し修正になるから直せないけど、次回からは定期リセット日を作って罠の再配備をしたほうが良いんだろうか?)

 

 使い魔である〝ドラヤキ〟くんに意識を繋いだアインズは、迷宮の惨状に頭を抱えていた。

 

 

 

 

 ――探索を開始して16日。

 

 冒険者チーム〝シードリーフ〟は順調に迷宮の攻略を進め、地下7Fまでの探索を進める。

異常なほどの攻略速度は〝シードリーフ〟の直接の功績では無く、先輩冒険者達の恩恵によるものだが…

 

 「後方から巨人1体、推定アースジャイアント、来るぞ」

 

 後方の警戒に当たっていたニゲラがメンバーに危険を知らせる、地下7Fまで来ると流石に魔物が手ごわくなって来ていた。毒や麻痺、更には石化への対策も必要になってくるし、地上では英雄が挑むような怪物も、劣化した模造品としてだが登場する。今出現した怪物だってそうだ。

 

 戦闘は【盗賊】のニゲラが敵を誘導し、【戦士】のオレガと【神官】のマシューが連携して、狙った1撃を叩き込む。【魔法使い】のソレルが後方から状況に応じて魔法を使う事になっていた。最近では【マスコット枠】だったドラヤキくんが気まぐれで(アインズ様ログイン中)とは言え、

周囲の警戒と、後衛のソレルの護衛を担当してくれるおかげで安定感は高くなっている。

 

 ニゲラが相手の敵意を引き付け攻撃を誘導する。その隙にソレルが第二位階魔法【酸の矢】を飛ばし、巨人の右脚を酸で溶かす。魔法を無効化する敵が増えてくる下層だが、酸と言う物質召喚系での攻撃は無効化されないのは冒険者の研究で解明済みだ。

 そこにマシューが力+3の付与の付いた魔法のメイスで追撃をかける。相手は思わずよろめき、首が射程範囲に入った所でオレガが武技<斬撃>を使い巨人の頭蓋骨を両断する。

 

 巨人の頭蓋骨を叩き切ったのは、探索中に見つけた宝箱から手に入れた『ロングソード+2』と言う立派な魔剣だ、試し切りでオーガを1撃で真っ二つにした事から、オレガは「真っ二つの剣」と名前を付けて呼んでいる、パーティ全体の装備の強化も特筆すべき最近の変化点だ。

 

 今回の探索では迷宮の先駆者である白金級冒険者〝黒壺〟率いる4部隊からなる探索団に同行していた、 総勢17人+1匹の大所帯だ。前回の調査隊が12人だったことから大幅な増員をかけたと言えよう。

〝黒壺〟率いる調査隊は前回の遠征で〝黒壺〟から1名、金級冒険者チーム〝ノーベンバー〟から3名の死者を出している。地下8階まで到達するも地下9階への道を発見できず、遠征部隊の三分の一を死なす大失敗だ。命からがら帰路に付き、魔導国の迷宮管理チームに安くない金を支払い、メンバーの救助と蘇生を依頼していた。

 

 単体での調査に限界を感じた〝シードリーフ〟は〝黒壺〟が二度目の遠征を行うと聞いて売り込みに行った。彼らの使命である『停滞の原因』の解明ならば、一番先行している冒険者達に同行するのが一番早い、との結論が出たからだ。同行の要望は欠けた戦力を少しでも補いたい〝黒壺〟にも願ったりな事で即座に協力体制に入った。

 

 「ハッハッハッ、巨人を苦も無く倒すかよ…モナークの野郎が銀級を調査団に入れたと聞いた時はどうかと思ったが、大当たりの部類のようだな」

 「ええ予想外の拾い物でしたね、粗削りですが下手な金級冒険者より戦闘力はあります」

 

 声をかけてきたのは〝黒壺〟の切り込み隊長であるギーコと、参謀であり魔法使いのシィルの2人、後方の異常を感知し駆けつけた2人は、人も荷物も無事な事に安堵し、上機嫌なギーコがオレガの背中をバシバシ叩いて激励した。

 

 地下7階を最短距離で駆け抜け、地下8階への階段へ到着する。

 調査団はをキャンプを張り〝黒壺〟から翌朝挑む地下8階層の陰湿さを教えられた…

 

 耳にした地下8階の凶悪さは信じられないレベルだった…階段を下りて直後に回転床が敷き詰められ、地下7階に戻ることができない。しかも現状地下9階へも道が見つかっていない以上は、迷宮内部に閉じ込められる事になる。前回の遠征で帰還で来たのは運がよかったに過ぎない、負傷者を地下7階との間の階段で休ませていた事が幸いして、ロープを渡し、それを伝う事により回転部分を踏まずに移動することができたのだ。

 

 …新規参加者の全員が悪意満載の罠に絶句し、魔導王の悪意にドン引きしていた。

 

 (いやいやいやいや、俺だってこんな悪意全開の迷宮なんて作らないぞ!風評被害だ!?)

 

 その噂の魔導王も、ナザリック地下大墳墓の事を棚に上げてドン引きをしていた。

 

 

 

 

 「なるほどね…」

 「考えるものですなぁ」

 

 〝シードリーフ〟の面々が感心する、冒険者が迷宮に挑む影で他の業種も頑張っていたのだ。

特殊な薬剤とスライムと水を混ぜる事により強固な粘着性をもった液体が薬師ギルドと共同開発で作られる。これを床面に巻いて一定時間経過すると回転床が動かなくなる仕組みだ、荷台に積んであった大量の材料をばら撒き、次々と回転床を停止させていく。この薬剤は後に冒険者だけでなく建築など様々な分野で応用される技術となり、必要は発明の母とは言ったもので、この時期に様々な技術革新が魔導国で起きていた。

 

 万が一に備え、1チームをベースキャンプとして階段に残し調査を開始する。

魔封じの空間に入り込んで魔法が使えなくなり危険に陥るアクシデントもあったが、それ意外は順調に調査を進めた。

 

 

…しかし、それでも地下9階への階段が見つからない。

 

 「全部で地下8階までってオチでははないのか?」

 「いえ、迷宮を作り上げた魔導王陛下が全10階と述べていたみたいですし」

 「隠し扉か?…いや全部探しただろ?何かやり残しでもあんのか」

 「…理不尽」

 

 (おかしい…取り扱い説明書には全10階の迷宮ってあったんだけどなぁ…)

 

 探索3日目、何の成果も得られず。

 

 探索4日目、食糧の関係から本日の探索を終えたら帰還することになった。

 

 壁を叩き、音の反応を聞き、隅から隅までの徹底調査が行われる。

 迷宮へ泊まり込む事での疲労の蓄積、道が見つからない苛立ち…そしてそれらが招く油断。

 …迷宮の悪夢は1歩1歩滲みよってきていた。

 

 最初の犠牲者は金級冒険者チーム〝地獄の壁〟の【斥候】ジョッシュ。

 暗闇から生えた藍色の鱗を持つ剛腕に不意を突かれ、1撃でその身を肉袋と化した。

 

 2人目の犠牲者は同チームの【軽戦士】のゲッタ。

 彼が不幸だったのは真っ先にパーティの耳である斥候を失ったことであろう。

 突如現れた青ざめた蒼の皮膚を持つ巨体の悪魔に対峙し、身動きの取れない【魔術師】のミリガンの前に立ち「びびってんじゃねえ!」と気合を入れて攻撃をしかけるも、麻痺毒を受けた所に強靭なアゴで噛みつかれ死亡する。

 

 リーダーである【重戦士】グリーグは、即座に《メッセージ/伝言》のスクロールを使い、他の冒険者達に『救援求む』の短文を飛ばし。【森司祭の】デイブと【魔術師】のミリガンを庇って後退戦を始めた…

 

 

 〝シードリーフ〟が到着した時、そこは地獄絵図だった…

 仲間を呼び、数が増えたのか4体の巨大な悪魔が〝地獄の壁〟を蹂躙していた。

 

 「撤退!」

 

 地下1階で反応できなかった時の反省を生かす、停止した思考を起動させ、オレガが味方に指示を出す。《メッセージ/伝言》を使い他のメンバーに『地獄の壁全滅、撤退推奨』と連絡を入れ全力で逃げ出した。

 

 「何だよありゃ!?」

 「が、外見から判断するに高位の悪魔ですかな?」

 「ありえない、ありえない」

 

 階段がある方に悪魔が居ないのが幸運だった、悪魔どもが死体を嬲ってる間に距離を稼ぐ。

 道中、白金級チーム〝黒壺〟と合流し事情を報告しつつ階段を目指した。

 …もう1隊探索に出ているチームがある、金級冒険者チーム〝赤肩〟だ。

彼らとも合流できたのだが満身創痍だ、後方から<氷の光線>を受けたのか、所々凍傷が見える。

 

 足の負傷も酷い…このままでは追い付かれるであろう、追撃している悪魔は2匹。

オレガとモナークはお互いの目を見て頷きあう。

 

 「敵、悪魔2匹、迎撃して後方の安全を確保する!シィルは先行し階段周辺で守りを固めろ!」

 「負傷者と介添え人の方は先行して階段へ進んでください!」

 

 金・銀合同の〝シードリーフ4名〟と〝赤肩〟から1名で1体。

 白金級の〝黒壺3名〟でもう1体の悪魔と戦うことになった。

 

  【魔法盾】X4

  【悪からの守り】x4

 

 ソレルとマシューが前衛に守りの魔法をかける、出し惜しみ無しだ。

 効果が確認されたと同時に、オレガが<能力向上>の武技を使い悪魔を迎え撃った。

 悪魔の腕から放たれる剛腕の1撃を<要塞>の武技を使った盾で防ぐ。

 

 〝赤肩〟の槍使いが<剛撃>を使い、悪魔の脇の下から<穿撃>を叩き込む。

ニゲラがオイル瓶を叩きつけ、そこにソレルが<炎の矢>の呪文を撃ちこみ大炎上させた。

<炎の矢>自体はレジストされてしまったようだが、オイルの炎は効いているようだ。

 

 悪魔は邪魔な人間を薙ぎ払おうと尾撃の準備をする、しかしマシューが先を読み、尾に渾身の1撃を叩き込み動きを止めた。オレガはその隙を見逃さず暴れる悪魔の腕を狙い<斬撃>を叩き込み片腕を奪った。

 

「ギゥエエエエエェェ」

 

悪魔が奇妙な絶叫をする。

 

<双剣斬撃>

 

悪魔の叫び声と同時に〝黒壺〟の切り込み隊長、ギーゴが悪魔の首を刎ねていた。

何故こちらに?とも思ったが、白金級の冒険者達はすでに受け持ちの1匹を倒し、援護に来てくれたようだった。

 

「…チッ、遅かった、今の叫びは嫌な予感がする、仲間を呼ばれたかもしれんぞ…」

 

「申し訳ありません…」と謝罪を入れるも、お前らは十分に頑張っていると慰められた。

だが、彼の予感は的中した…階段直前になって6匹もの悪魔が追いかけて来たのだ。

…全員が必死に階段に向けて走り出す。

 

「斉射用意…放て!」 

 

〝黒壺〟の参謀シィルの指揮の元、ベースキャンプを警護していた金級冒険者〝森狩〟全員が弓を装備し悪魔を狙う。

弓の一斉斉射は、飛んでくる悪魔の羽に突き刺さりバランスを崩していた。

 

殿を務めた〝黒壺〟のモナークが階段を登り切り、全員が安堵する。

迷宮の魔物は階段を越えて移動することができず、あの悪魔も例外ではないようだ。

 

「また大きく犠牲を出してしまったな…今回の調査は失敗だ、すまない地上に戻ろう」

 

ボソリと呟いたモナークの言葉が静かな空間に響き渡る。

皆が無言で帰路の準備をする…

 

今回の遠征で稼いだ費用も、救助と蘇生費用で大半が飛ぶだろうと言う意識もあり。

全体の気持ちは暗い、特に〝黒壺の4人は〟心が折れてしまったかのようにも見えた。

 

〝シードリーフ〟だけは目的が違う、彼らの任務は『原因の調査報告』だ。

そう、彼らの任務だけは成功なのだ。だがそれを喜ぶ気にはなれなかった…今回悔しさは何時までも棘のように心に残る。

 

…彼らは新たな決意を決めた、必ず迷宮の制覇を見届けてやると!

 

 

――悔しさをバネに〝シードリーフ〟達は今日も成長を遂げる。

 

 




…SS書いて練習していたら、ますます書き方がわからなくなりました。


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渡り鳥に宿り木を

 

 アインズはどうしても試練場の、地下9階の件が気になって仕方なかった。

 優先順位は低いのだが、スッキリしない事への不快感が耐えられなかったのだ。

 

 「フィース、私は街に出るぞ」

 

 魔導王が護衛を引き連れ、自身の作り出した〝魔導王の試練場〟へと向かう。

試練場だけに向かうのも不自然な事から、途中、冒険者学校に向かい、1期生を育て上げた

〝虹〟のモックナックに、以前にギルド長に与えた程度の短剣を贈り激励をする。

 

 「さて、現在の迷宮の管理者は誰だったか…」

 「プレアデスのルプスレギナ様が現在監視ルームにいらっしゃると思われます」

 

 「ル…ルプスレギナか」

 

 正直、嫌な予感しかしなかった。

 

 アインズはメイドの先触れを止め、ひっそりと迷宮監視室に向かう。

 迷宮監視室は迷宮内部各所に仕掛けられた目玉の悪魔-アイボール-を使い、24時間体制で迷宮の監視ができる部屋だ。魔法で姿を消しこっそり中を覗いてみると、畳に寝っ転がり、座布団を枕にして、モニターを見ながら、右手でポテチを食べて大爆笑しているルプスレギナが居た。

 

「あー、楽しい!最高!もう、大好き!」

「地下9階への階段なんてないのに、延々と探してる光景は最高すね、うひひひひ」

 

 …アインズは大きくため息を吐いた。

 

 「ルプスレギナよ!」

 

 その声に反応して、ルプーは一瞬で寝転んだ姿から正座体勢に変化する。

 完全にだらけた体勢から、一瞬で何もなかったかのような顔ができるのは、正直大したもんだと無駄に感心した。色々言いたいことはあったのだが、先ほど聞いた『地下9階への階段が無い』と言う内容が引っかかっていたのだ。

 

「別にそのままで構わんぞ…それより先ほどの地下9階への階段が無いとの発言だが」

 

「あ、はい、流石はアインズ様っす。まさか地下5階~8階までが無意味と言うトラップとは…。

 存在しない地下9階への階段を必死になって探して、罠に翻弄され凶悪な悪魔に次々殺されていくの見るとゾクゾクしてくるっす!直接手出しができないのは残念っすけど最高の玩具っすよ!

…でも何でブルーリボン手に入れて関係者専用のエレベーターで進まないんすかね?」

 

 えっ、そんな仕掛けなの!ブルーリボンって何だよ!と動揺するが、それを表に出すことなく抑え込み、何百回と練習した支配者に相応しいカッコイイポーズを決め、ルプスレギナに問いかける。

 

「今の話を聞く限り、お前はブルーリボンを手に入れたのか?」

 

「遺体を簡単に回収するために手に入れたっすよー?

 ナザリックの人員でも所持して無いと、5階以降しか動かないっすから」

 

 なるほど関係者専用直通エレベーターか、たしかにそれっぽい部屋はあったが〝シードリーフ〟の連中は何故か触れて無かったな?地下9階へ進む道はエレベーター限定っぽいが、それはどうなんだ?思考トラップって奴か?普通は階段が正攻法でエレベーターは近道って考えるものな。

 …んっ?エレベーターの概念はあるのか?この世界?

 

 「ふむ、そうか…ブルーリボンを入手した冒険者は現れないのか?」

 

 「んー、前に何チームかが迷宮コントロールセンターの前まで行ったっすけど…

 『この領域は部外者立ち入り禁止 入るべからず 』の看板見て引きあげちゃったっすね」

 

 ぶ、部外者立ち入り禁止かー。放置された迷宮や敵対組織の迷宮じゃなくて、魔導国の国営施設だもんなー、そりゃ引き返すわ。何とかしないといけないなぁ…でも今更冒険者ギルドから告知させるのも問題だしなぁ。

 

 そう考えていると プアーッ プアーッ プアーッ と奇妙な音のサイレンが鳴りだす。

 これは?とアインズが問いかけると、ルプスレギナは顎に人指し指を置いて考えるように答えた。

 

 「んー、救援信号の音っすね、8階層で死者を出した調査団が戻ったのかな?」

 

 「そうか、私もそろそろ戻るつもりだったし、救助に行ってやるが良い。

  お前がこの迷宮を良く監視し、働いているのは理解した。これからも頑張るのだぞ」

 

 知りたいことの大半が聞き出せたアインズは、満足して迷宮監視室を去っていった。

 頭を下げてアインズを見送ったルプスレギナは、満面の笑みを浮かべて飛び跳ねる。

 

 

 「おほーっ、アインズ様に褒められちゃったっすよ!

  グレーターデーモンもどきを送り込んで正解だったっすー!」

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 オレガは調査報告書を書くのを止め、溜息を吐く。

 悔しかった…化け物に追いかけられ、逃げるしかなかった自分の弱さが。

 悲しかった…先に進む道を見つけられず犠牲を出して帰還した事が。

 

 陰鬱な気持ちを振り払うために、赤マントを羽織り街に出かける。この〝闇を切り裂く双剣〟が刺繍されたマントを羽織ると、憧れの英雄の事を思い出し勇気が湧いてくるのだ。

 共同墓地の城壁に昇り中を眺める、ここはオレガにとって始まりの地だ。エ・ランテルに生まれ、家族のツテで衛兵に就職し、巡回業務を繰り返し、時々沸いたアンデッドの駆除する騒動はあったが平和な日々だった。…あのズーラーノンの起こしたアンデッド騒動が起きるまでは。

 

 当時の自分は城壁を閉ざしアンデッドが溢れないために祈るだけだった

異常な数のスケルトンが城門から溢れないように、必死で槍でスケルトンを叩き落とした。

 もう駄目なんだなと思った…その時、不思議な事が起こった。漆黒の全身鎧を着こんだ1人のカッパーの冒険者が1000を超えるアンデッドの波に突撃し、単騎で蹴散らして行ったのだ。

 

 その男が剣を一振りするごとに多くの化け物が薙ぎ払われた。巨大な双剣を振り回し進む様子は暴風のようであり…その姿はまさに漆黒の英雄と言うべき存在だった。

 

 後から知った事だがその男は〝漆黒〟のモモン。当時は最低ランクのカッパーであったが、短期間で冒険者の頂点-アダマンタイト-へと昇格して行った。

 

 英雄に憧れ、衛兵を辞職。…家族には馬鹿なことだと怒られた。

 無職同然のカッパー級冒険者になって、夢も希望も無い下積み労働を延々と繰り返していた。そんな折、魔導王陛下の立てた冒険者学校の募集があり、必死で入学を目指した。

 

 半年間仲間達と一緒に必死(物理的な意味で)の訓練を繰り返し、当時の自分と比べれば異常な強さは得られていると実感はしている。だけど俺はあの英雄に一歩でも近づけたのだろうか。そんな事を考え上を見上げると、雲一つない空がどこまでも続いていた…。

 

 クルルルルゥと鳴く声が聞こえる。…この声はスードゥドラゴンの〝ドラヤキ〟くんだ。

 

 数回空を旋回すると、スーッと滑空してきてオレガの肩に止まる。これは、もしかして慰めてくれているのだろうか?そうオレガが考えるが〝ドラヤキ〟くんは無言で羽繕いをしているだけだ。

…そんな中、不意に声をかけられる。

 

 「ここに居たのかドラヤキ、探したぞ」

 

 声の先を見ると信じられない人物が存在していた。身体全体から滲みだす英雄のオーラ、それを包む漆黒の全身鎧、真紅のマント、2本の巨大な大剣を背負った英雄モモンがそこには存在していた。

 

 

 「んっ?そのマントは…冒険者学校の1期生か?」

 

 

 英雄本人から言葉をかけて貰えた、冒険者学校の面接で会って以来なので緊張してしまい。「ハ、ハイ…」とカタコトになりながら返答をする。

 

 「あぁ、挨拶が遅れたな。面接で会ったと思うが、チーム〝漆黒〟のモモンだ」

 「も、もちろん存じています、チーム〝シードリーフ〟のオレガです」

 

 英雄は気軽に握手にも応じてくれた、甲冑の上からだが今日は手を洗わないと心に決める。更にありがたい事に「先輩冒険者として悩みがあるなら聞くぞ」との優しい言葉も頂けた…。流石に申し訳ないので断ろうとしたら『相談しとけ!』と〝ドラヤキ〟くんから強めの念話が飛んで来た。

 

 モモン殿が借り受けている魔導王の別宅の応接室で、探索の相談を受けられることになった。下手に有名になってしまったために外だと色々聞き耳を立てられて嫌だと言っていたが、あの英雄の私事なら誰だって聞きたいと思う。

 

 …アダマンタイト級の英雄は戦闘だけでなく洞察力も優れているのだと実感した。

 冒険者ギルドで聞いた事のある程度の伝聞と、オレガが伝える情報だけで内情を完璧に把握し、見逃しの可能性を何点か指摘してくれる。特に〝エレベーター〟と呼ばれる階層転移トラップでしか行けないエリアがあるかもしれないと言う話は、罠の心当たりがあって目から鱗だった。

 また「関係者以外立ち入り禁止の立て札があっても調査に必要なら進むべきだ」との冒険者としてあるべき心構えについても教えて頂けた。

 

 …ただ何故か地下1階の関係者以外立ち入り禁止には絶対に行くなと熱心に止められたが。

 

 英雄のオーラは心まで変えるものだろうか…今まで先が見えなかった迷宮も何故だか攻略できる気になってきていた。様々な仮説を教えられただけで、それが正解だと決まったわけでも無いのに先に進めそうな気がしてくる。今は〝シードリーフ〟の仲間達を集めて自慢…もとい教えて貰った話を相談したい。

 

 

 

 

 メンバーを集めて行われた反省会…と言う名前の飲み会は豪勢に行われた。全員の陰鬱な気分を吹き飛ばし明日に繋げるためだ。最初は沈んでいた連中も途中から吹っ切れたように盛り上がり、無関係な冒険者数チームを巻き込んで朝まで大騒ぎをした。

 

 流れが変わると運気も変わるのであろう、飲み会に魔導王の試練場で階層転移トラップを踏んだ男が混ざっていた。金級冒険者チーム〝笛吹男〟の【吟遊詩人】ハインツと言う。彼の話によると、とある個室の中でボタンを押すと地下1階から地下3階に転移していたと言う。

 法則性がわかれば便利なんだろうが、危険な物に触れることは無いと仲間に止められてしまい、その後実験はしていないそうだ。もしかしたら地下9階に飛ぶのかもなと笑っていたが…

 

 「明後日の探索で階層転移トラップに突撃してみたい、魔導王陛下への調査報告書は現段階でも出せるんだが、俺はどうしてもこのまま終わりたくない…すまない俺の我儘に付き合ってくれ」

 

 覚悟を決めて〝シードリーフ〟の仲間達に頭を下げる、無茶な事を言っている事は理解しているが、希望が見えている以上はどうしても挑戦してみたかった。

 

 「構わんぞ、斥候として俺が先行してやる」

 「勝算はあるのでしょう?もちろん行きますよリーダー殿」

 「…馬鹿ばっか。でもそれでこそ私のチーム、当然行く」

 『もちろん僕も行くよ』

 

 全員が即答で了承し、皆が顔を見合わせてにっこりと笑いあう。…本当に良い仲間達を持った。

 これで、もう何も恐くない――!

 

 ――〝シードリーフ〟達は大きな花を咲かせられるのだろうか。



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モンスター配備センター

 階層転移トラップの実験は成功だった。数回の実験で見た事の無いエリアに進めた。

転移の順番、出現する魔物の質、迷宮素材の雰囲気からしてここは地下4階だと推定する。

 

 「どうやらアタリを引いたようだな…未探索エリアだ」

 「でもよぅ、ここ多分地下4階だぜ?地下9階へ行く道なんて無いだろ?」

 「ですが必要な鍵とかがあるかもしれませんよ?」

 「…可能性はある」

 

 道を進むと「この領域は部外者立ち入り禁止 入るべからず 」と看板の貼られた扉が見つかる。

 この扉が魔導国が魔導国関連施設で重要機密がある部屋だったとしたら…そう考えると恐ろしさはあるが、実際の所その可能性は低いと見ている。少し反則だが迷宮関係者と思われるモモン殿との会話で、注意されたのが地下1階の立ち入り禁止区域の件だけだからである。

 

 「迷宮への立ち入り許可は受けているし、魔導王陛下の指令の件もある。

  もし問題になるようなら素直に謝って、穏便に済むように頑張ろう…最悪責任は俺が取る」

 

 そう覚悟を決め、扉を開く…その瞬間大音量のアラームが鳴り響いた。

そして黒い霧が出現してモンスターの形を取り襲撃してくる、甲虫型の魔物でボーリングビートルと呼ばれる魔物が3体出現した、これは話し合いの通用する相手では無さそうだ。

 

 「すまん…面倒な事になった」

 「落ち着け、これはただの警報トラップだ、問題ない」

 「普通に出てくる魔物と変わらない雑魚ですな」

 「殲滅する」

 

 回転し、体当たりを仕掛けて来たボーリングビートルを〝要塞〟を使うまでもなく盾で弾く。

 今愛用している盾は〝支えの盾〟と呼ばれる魔法の盾だ、バランスを崩すことなく攻撃に耐える。深階まで足を進めた〝シードリーフ〟には今では敵では無かった。

 

 

 今更引き返すわけにもいかず、迷宮を先に進む。

 冒険者学校で習った基本に従い右手法(右手側に沿って進む)で進むと、新たなる看板のある部屋を見つけた。そこには「モンスター配備センター」と記載されていた。…迷宮の運営に関わりそうな名前に流石に先に進むのを躊躇する。

 

 『魔導国及び冒険者ギルドは、この先に進むのを正当な攻略であると告げる、

  ただし自分の実力が十分と判断しない場合は進まない事を推奨する』

 

 念話を受け取ったパーティ全員がドラヤキくんを見るも、何も無かったかのように羽繕いをしていた。この小さなドラゴンが冒険者ギルドから派遣されていた事を思い出し、勇気を持って扉を開けた…扉をくぐると通った扉はスッと消滅し、先に進むしかない状況に追い込まれる…そんな中、奇妙な声が聞こえてきた。

 

「かわゆ…」

   「かわゆ…」

 

 扉の先には剣を握りしめ謎の言葉を呟いている異様な男が居た。

その目は正気を保っている感じはしなかった…服の下に蟲でも居るかのように全身を掻き毟り、

体中から血を流し、血に交じり細い虫が垂れ下がっている。

〝シードリーフ〟の一行は強烈な嫌悪感を抱くが、理性で押しとどめ交渉をしようと努力する。

 

「突然入り込んでしまって申し訳ありま…」

 

 声をかけた〝シードリーフ〟に帰ってきた返答は、武技<空斬>の1撃だった。

陽炎のような揺らめきを残しつつ、風の刃が後衛のソレルに飛ばされる。

 

「!?」

 

 反応できないソレルを、万が一の事態に備え控えてたニゲラが突き飛ばす。

間一髪ソレルは死から逃れるが、代償にニゲラが肩に致命的な1撃を貰ってしまう。

 

「戦闘準備!俺は後でいいからオレガに支援を全力だ」

 

【魔法盾】【判断力強化】【敏捷力強化】ソレルが敵に突撃するオレガに支援魔法を飛ばす。

【信仰の盾】【祝福】【腕力強化】マシューも治癒か支援か躊躇うも、オレガに支援をかける。

 オレガは相手が格上の剣士だと直感で理解していた、突撃するのも危険だと理解はしているが

<空斬>と言う後衛に攻撃できる技がある以上は後衛を守るためにも突撃せざるを得なかった。

支援魔法に合わせ、<能力向上>身体強化の武技を使い勝負を決めに出る。

 

 ――<能力向上><能力超向上>

 

 魔法と武技で強化した1撃は、身体能力を強化した男に余裕を持って相手に受け止められてしまった。オレガは驚愕する、相手が<能力超向上>を使う事ができるレベルの相手だと理解してしまったからだ。

 

 衝撃の事態に動揺するも攻撃の手を緩めるわけにはいかなかった、

 狂人にしか見えないはずの男の目に、こちらを見下す視線が混じる。

 

 「くひっ、くひひひひひひひひひひひ」

 

 高速の剣技がオレガを襲う、フル支援の状態のオレガでも防ぐのが手一杯だ。

「ふひひひひひひ」と言う奇妙な笑いをした男の剣が更に加速し、鎧の隙間から傷を増やす。

 相手の剣が魔剣なら、もしオレガに魔法の支援が無ければ結構な痛手になっていたであろう。

 

 【酸の矢】  【傷治癒】 

 

 ソレルが放つ酸の矢を受けた男が距離を取り後退し、その間にマシューが治癒魔術をかけ治療をする。男は使い物にならなくなった左手を忌々しく見つめ、尋常でない殺意をソレルに向けてくる。男の姿が1瞬ぶれると、転移したかと思える速度でソレルに隣接する。

 …だがその右脇腹にはナイフが突き刺さっていた。

 

「ぐるぁああああ、クソックソッ」

 

男は信じられないものを見る目で脇腹に刺さったナイフを見つめ、犯人を捜そうと視線を動かすと、ナイフを投げた姿勢で不敵な笑顔で固まっているニゲラが見えた。

 

ニゲラは敵の【縮地】を読んでいたわけではない。

ただあのドブ川の腐ったような目をした男が取りそうな行動を予想しただけだ。

 

〝左手を奪った憎い、弱そうな後衛の魔術師を狙う、仲間を殺された奴を嘲笑いたい、

 1回防がれた技は使わない、自らの手で殺してやりたい〟そのようなイメージを持っていた。

 

彼は悪人の取りそうな行動については絶対の自信を持っていた。

 

 ――<斬撃>

 

 オレガが腹部に傷を負った男に追撃を入れる、その1撃は見事に決まり相手の右腕を肩から両断していた。両腕を再起不能にした以上、勝敗は決まったものであろう。

 

 「うでっ、うでがぁあああ、またしても俺の腕がああああぁ」

 

 男は傷口を眺めながら初めて意味のある言葉を呟く、傷口からは多数の蟲が零れ落ちていた。

 

 「蟲の化け物か!」

 

 そう呟いたオレガの追撃の1撃は男の心臓を貫く、男は激しく痙攣し、そして動かなくなった。

 

 

 ニゲラは社会の底辺層に生きていた、王国のスラムに生まれ泥を掬い、ゴミ喰らって生きて来た。汚い人間も腐った人間も山ほど見て来たし、貴族の私欲を満たすために働いたこともある。

当時の彼はそんな生き方で良いと妥協していた、それ以外の行き方はできないと思っていた。

 

 そんな中、王都への悪魔が襲撃をかけると言う大事件が発生する。

 その時ニゲラは目撃をしてしまった、絶対に勝てないであろう化け物に立ち向かう兵士や冒険者達を、英雄の出現で死地に向かい反攻に転じる冒険者達の輝かしい姿を。

 

 ニゲラはそれを美しいと思ってしまった…泥や汚物に塗れ地の底に生きる自分もそうなりたいと願ってしまった。彼は自分を知る者がいないエ・ランテルに移住し、冒険者に登録し、カッパーの仕事に腐るでもなく頑張って働き。そんな努力を認められて鉄級に昇進、さらには新しくできる冒険者学校への推薦を受けていた。

 

 冒険者学校では死ぬほど(物理的に)頑張ったし、出会えた仲間たちと馬鹿みたいに夢を語ったりもした。仲間が蟲の化け物を倒した事を確認したニゲラは安心し、意識が消えかけていた。

 

 「ニゲラ、ニゲラ!しっかりしてくれ」 

  オレガが手を握りしめる…男に握られても嬉しくねえよ。

 

 「小治癒!小治癒!…頼む、頼む起きてくれ!」 

  マシューが必死に治癒魔法を唱えている…もう無駄だから大切な魔法は取っておけよ。

 

 「嘘…イヤそんなの…」 

  ソレルは杖を抱きしめるように座り込み泣いている…珍しいものを見たな。

 

 

 「へへ…泣くなよ、冒険者だろぅ?後は頼んだぜ」

  …ニゲラはそう言い残して息を引き取った。

 

 

 〝シードリーフ〟の一団は泣いた…皆が自分のミスだと後悔してまた泣いた。

 しばらくの間、ニゲラが死んだと言う現実に打ちのめされ、それでも立ち上がり先に向けて歩き出した…誰もが黙々と道を歩いた。

 

 マシューがニゲラを背負い前衛では動けない、戦闘力も半減したに近い状態だ。

 次に強力な敵が出たら全滅だろう…そんな思いも浮かぶ。

 先にある扉を開くとどこからか声が聞こえて来た。

 

 “おめでとう、わが魔導国の有能なる冒険者たちよ。

 今こそ諸君自らが真にこれからの冒険において、力となることを証明したのである。

 今日の諸君らの成果を評して、ブルーリボンを授けよう。

 これはこの階にあるエレベータの利用許可証である。

 これなしでは冒険者たちは最深部へ挑む事はできない。

 さあ、行け。そして試練場を乗り越えるのだ!〟

 

 〝シードリーフ〟はブルーリボンを手に入れ、地下9階へと向かう手段を見つける。

 魔導王からの任務を完全に達成したと言う事になるだろう。だが彼らの心は満たされなかった…ニゲラの死が心の大半を占めていたのだから。彼らは落ち込みながらエ・ランテルに凱旋する。

 

 

 モンスター配置センターに1匹残ったドラヤキを通してアインズは確認していたことがあった。

 エントマの仕掛けていた脳に寄生し意識を奪い自由に操る寄生虫〝皮癒蟲〟の性能試験だ。

 試験素体としては名前は忘れてしまったが、ナザリックへと侵入した愚か者の1匹で、たしか…あれはハムスケに武技の練習用として戦って始末された奴だったはずだ。

 武技の研究のために蘇生させたものの反抗的で、使い道がなかったせいでエントマの実験の材料にしたことは覚えている。

 

 実験はまず成功、蘇生の関係で素体の質は落ちていたが、蟲の体でも充分武技を使える事を確認。

懸念材料としては寄生元が興奮すると元の人間の意識が強くなってしまうと言う事だろうか?

 アインズが遺体と思われるものを眺めていると、蟲が巣を修復しようとくっつき傷一つ無いからだに再生する。…たしかこれは血仙蟲と言う種類のだったかな?

 

「かわゆ…」

 

再び虚ろな目をし、奇妙な言葉を呟きながら元帝国ワーカー・エルヤー・ウズルスは次の冒険者を待ち構えていた。

 

 

 迷宮を抜けた〝シードリーフ〟を待ち受けていたのは、赤く特徴的な三つ編みと浅黒い肌をした超美人であった。全員が美しさに見惚れていると、その女は「にしししっ」と楽しそうに笑う。

死んだ仲間を見て笑われた事に全員は少しイラッとするも、続いて信じられない言葉を聞く。

 

 「任務達成ご苦労様っす~」

 「アインズ様…あー魔導王陛下から報酬を先行して届けるように言われたっすよ」

 

 目の前の女性が魔導王陛下の使いの者だと理解する、膝を付いて礼をするか迷っていたところ「いいっすいいっす、そのままでー」と止めらた。

 何故このタイミングで報酬の話なんだろう…と考えるとソレルが報酬に付いて思い出す。

 

 「…蘇生1回無料券!?」

 

 〝シードリーフ〟の残りの2人が希望に満ちた笑顔で赤髪娘の顔を見る。

 

 「そうっす、蘇生しちゃうっす?成功率は100%じゃないから過度の期待は駄目っすよ」

 

 3人がうなずき、ニゲラの蘇生を願う。

 すると赤髪娘は青色の美しい杖を取り出しくるくる振り回しが胡散臭い呪文を唱える。

 

 「ささやき - いのり - えいしょう - ねんじろ!」

 

 不思議と魔力の高まりを感じない…これは失敗だろうか。そう思った矢先に赤髪娘の肩に、どこから飛んできたのかドラヤキくんがとまる。…驚いたのか赤髪娘がビクリとし再度呪文を唱えた。

 

 「さ、ささやき - いのり - えいしょう - ねんじろー!」

 

 青い杖から聖なる波動が生まれ、ニゲラに光が注がれる。…そしてニゲラが目を覚ました。

 

 「おはようニゲラ」

 「おかえりなさい!」

 「…よかった…ホントよかった」

 

 3人がニゲラに抱きつく、ニゲラは「なくなよぅ…」と力なく答えた。

 

 「死んだ事で身体能力が大きく落ちてるっすよ、今とか体が泥みたくなってるはずっす」

 

 褐色娘が現在のニゲラの状況を説明してくれるが、「はは、泥から抜け出すのは慣れてるぜ」とニゲラは気楽そうに答える。

 

 その後、正式に魔導王とギルドに今回の調査報告を提出し地下9階層への道を示す。

 今回の功績で〝シードリーフ〟は金級冒険者へ昇進することが決まった、これで正式に魔導王の修練場に挑める事になる。だが迷宮攻略については先行攻略者の冒険者達に託すことにした、それが筋だと判断したからだ。 

 

 ――〝シードリーフ〟は依頼を果たし、冒険者達に道を示し花を咲かせた。




次から迷宮攻略編になります。


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冒険者達

〝シードリーフ〟が金級冒険者に昇進して2週間が経過した。

 地下9階への突破口が見つかったわけだが、ブルーリボン所持者は4チームしか現れなかった。

 リボンの守護者の難易度もあるが、今までの深層への挑戦で多くの冒険者に死者が出てしまったせいで、蘇生後のリハビリが終わっていない事が原因だろう。〝シードリーフ〟でも盗賊のニゲラがリハビリ中で、低階層での慣らし活動ばかりとなっていた。

 

 目標を前に足踏みをしている中、〝ブルーリボンクラブ会議〟の参加申し込みが来く。

 主催者は〝黒壺〟のモナーク、白金級で8階層攻略の最前線を行っていたチームのリーダーで、地下4階の情報を流した後に〝シードリーフ〟の次にブルーリボンを獲得したチームでもある。

 

 「どうする、このブルーリボンクラブ招待状?」

 「〝黒壺〟ブルーリボン持ちを集めるってことは…多分アレだろ」

 「深層攻略の人員集め…ですかね?」

 「それより…会場の〝黄金の輝き亭〟が気になる…ずいぶん奮発した」

 

 珍しく長文を喋るソレルに皆が注目する…たしかに会場の黄金の輝き亭が気になる、食事的な意味で。エ・ランテル1の高級宿で、〝漆黒〟のモモンが、一時期定宿にしていた事でも有名だ。

 

 「全員参加?」 「ん?代表者だけみたいだな」 「…残念」

 

 「珍しいな?お前さんがそこまで積極的なのは…?」

 

 オレガとソレルの会話にニゲラが混ざる、普段は必要最低限しか行動しないソレルを不思議に思ったのであろう。普段の彼女は控えめと言うか、1歩引いているのに珍しいもの見た気分だ。

 

 「私、ハーフエルフだから…こんな機会でもないと高級店に入れない」

 

 触れにくい回答に全員が戸惑う、エルフは少し前まで帝国で被差別民に近い扱いを受けていた。

街に居るエルフの大半が法国から買われた元奴隷であり…法国であれば現段階でも迫害の対象だ。

 …更にハーフとなれば更に両者から忌み嫌われる。元王国圏ではその手の感情は薄いとは言え敷居が高いだろう。魔導王の下では全ての国民は種族差別を受けない事になっているが、人々の意識が完全に変わるのは長い年月がかかるだろう。

 

 ソレルは帝国貴族と法国に捕まり奴隷となったエルフのハーフとして生まれた。…貴族の娘とは言え所詮は亜人であり奴隷の子、後継者の待遇などは無く、美しい奴隷の商品として扱われる。

 彼女は鮮血帝の無能貴族の大粛清の中、混乱に紛れて運良く逃亡することができ、汚れた少年の格好をして帝都の影でひっそりと生きていた。

 彼女の身を救ったのは、奴隷としての質を上げるために教養や魔法を学べ、一位階魔法を習得できていた事。実力派のワーカー〝フォーサイト〟のハーフエルフが同情して簡単な仕事を回してくれていた事だ。…そのハーフエルフは任務で失敗したらしく戻って来なくなってしまったが。

 

 帝国での庇護者を失ったソレルは帝国を離れ必死に歩き、エ・ランテルに到着する。そこで待っていたのはこの地の新たなる支配者である。魔導国の王が掲げた人種も亜人も異形種も全て等しく国民と認めると言う、信じられない理想論であった…街に馴染む高位の不死者達を見る限り理想では無く現実なのであろう、不死者が生者を苦しめるでもなく人種と共存している不思議な世界。

 その理想のシンパとなったソレルは魔導王の役に立てる存在になれるよう頑張る事を誓い、まるで運命が導いたかと思えるようなタイミングで募集のかけられた冒険者学校の扉を叩く。

 そこで出自を気にしない仲間達に恵まれ(神官のマシューには1瞬怪訝な目をされたが)、友情を深め、才能を開花させ、今では第二位階魔法までを自由に操れる冒険者に成長した。

 

 オレガはしょんぼりしたソレルの頭をクシャクシャと撫でる。

 今度大きく成功したら皆で〝黄金の輝き亭〟でパーティをしようと仲間同士で誓い合った。

 

 

「待ってたぞブルーリボンの立役者である〝シードリーフ〟のオレガ」

 

〝黒壺〟のモナークが背中をバシンと叩く、ここのパーティは体育会系でこんなノリなのは覚悟してたので苦笑いで答える。それと同時に他の冒険者達からの視線がオレガに集中する、他にブルーリボンを入手した白金級冒険者のリーダー達だ。

 

 「白金級冒険者〝炎赤〟のアッシュだ、地下9階への先駆者へ敬意を」

 「白金級冒険者〝鉱石〟のアデライトだよ、初見でよくあの守護者を倒せたね…」

 

 「遅れてしまって申し訳ありません。金級冒険者〝シードリーフ〟のオレガです」

 

 握手を交わし、挨拶をする。

 両者とも白金級冒険者なだけあって品格と歴戦の戦士の貫録があった。お互いの健闘を称え、しばし歓談し食事となる。流石は〝黄金の輝き亭〟と思える料理の数々が出されオレガを驚かせた。

 上等な小麦の粉だけを使った混ぜ物無しのふかふかの白パン、魔法で作られたのではない天然の香辛料で料理された肉料理の数々。サラダに至っては野菜に【保存】の魔法がかけられているのか、冬の朝みたいにシャキシャキだ。

 

 「旨い…」

 

 それしか言葉が出て来なかった…後は無言で食べる食べる。

 懇談会なのに何故無言で飯食ってんだ!と気が付き慌てて周囲を見るも、皆が同じ状況だった。

 

 「これは…」 「流石は黄金の輝き亭ですね…」

 

 2人の白金級も驚いたように食事に夢中になっていた、その姿を〝黒壺〟のモナークがニヤニヤと眺めていた。「これが例の〝漆黒〟が定宿にしてた店のレベルだ…客も店も超一流だな。」との呟きに全員が顔を上げてモナークを見つめる。

 

 「…俺たちも超一流の部類に入らないか?合同で地下9階を突破、そして最深部を攻略する。

  そうすれば上級冒険者である〝ミスリル〟に手が届くだろう…どうだ?」

 予想はしていたが合同攻略の提案だ、オレガはチラリと他の2人の冒険者を覗き込む。

 反応は見事に分かれていた。〝炎赤〟のアッシュは単独クリアを目指し、共同歩調は合わせるが合同での攻略は断った。〝鉱石〟のアデライトは合同攻略に乗り気だった、ブルーリボン入手時に前衛1名、後衛1名と死者を出してしまい、戦力が落ちている事が決め手だったのだろう。

 他の視線がオレガの元に自然に集まる。「〝シードリーフ〟はどうなんだ?」と聞かれたので、

「攻略後の打ち上げは全員参加で〝黄金の輝き亭〟でしてもらえるのなら?」と冗談交じりで回答したら、豪胆なモナークが1瞬引きつった顔をしたが、大声で笑って背中を叩かれ歓迎された。

 

  …そ、そこまで高いのか、この店の支払いは。

 

 お互いの戦力の確認をする、〝シードリーフ〟としても死んで間もないニゲラを地下9階層に同行させるのは躊躇っている。それは2名を戦死させた〝鉱石〟も同じだろう。〝黒壺〟は死んで戦線離脱していた仲間が戻り絶好調だとは聞くが無理をさせる気は無いだろう。

 

 「〝黒壺〟は重戦士1、剣士/盗賊1、魔法使い1 僧侶1の計4人だな」

 

 「〝鉱石〟は詩人の私と、高位魔法使い、野伏/盗賊1、軽戦士の4人ね。

  …メイン盾と僧侶を殺られたのが致命的だったわ、あの糞守護者め」

 

 「〝シードリーフ〟は戦士である私と、魔法使い、僧侶と…盗賊がリハビリ中で、

  後は冒険者ギルドから預かっているマスコットの小竜が1匹ですね」

 

 総戦力11名と1匹〝炎赤〟の連中が居ないのは痛いが仕方がない。

 …8階層で現れたあの悪魔が出なければ良いのだが。

 

 

 地下9階層へエレベーターで降りる。

 どうしても同行すると言ってきかないニゲラと〝鉱石〟の2名はエレベーター前での拠点役として同行することになった。危険があれば即座にエレベーターで逃げられる位置だ。

 

 最深部への道を探すために右手の法則で道を進み、1部屋1部屋潰していく。出現する敵はどれも手ごわいが数の暴力で磨り潰していった。ここで活躍を見せたのが〝鉱石〟のアデライトの<自信鼓舞の呪歌>だ、これは約10メートル範囲の仲間全員に自信を持たせ技能が成功しやすくなる技能らしい。範囲内全体に効果の出る彼女の呪歌は、味方が多ければ多いほど優位に働く、合同攻略に乗り気だったのも納得の性能だと感心する。

 更に〝鉱石〟のウランは第三位階魔法である【火球】の使える高位魔術師であり、大勢の魔物が潜んでいるエリアを範囲魔法で焼き尽くし、数を削れる存在は心強かった。

 武の〝黒壺〟と技の〝鉱石〟と〝可能性〟の〝シードリーフ〟 彼らは迷宮攻略を確信する。

 

 「止まって」

 

 〝鉱石〟の野伏のニッケルが全体に停止をかける、扉の先に何か強力な者が居ると言うのだ。

 全員が警戒態勢を取る。オレガが盾を構え<要塞>の準備をし、〝黒壺〟のモナークが扉を蹴破り、〝黒壺〟のギーゴが突撃する。…扉の先には〝炎の上位天使〟が1体佇んでいた。

 ギーゴの剣が炎の天使を切り裂き、モナークの振るう唐竹割りの1撃で光に帰し消滅させる。

 通常の武器では効果の薄い天使系も、魔導王の修練場で産出された魔法の装備で身を固めた冒険者達には、恐れるほどの相手では無かった。

 

 「待ってくれ!魔物では無い!」

 

 掛け声と共に物陰から5人組の団体が現れる、〝炎赤〟のアッシュとその仲間達だ。

 単独パーティで挑む彼らは召喚した生物を先行させ、危険が無いかを調べた後に進むと言う攻略法を取っていた、探索に時間がかかるだろうが堅実な方法だ。

 一行はこの地でキャンプを張り情報交換をすることにした、生活魔法でお湯を温め、お茶と軽食を取り、体を休め体力を回復させる。共同歩調は守るらしく、お互いのマッピングした地図を見せ合う事で地下10階への道を探す…彼らは左回りのルートで進めて来たと言う事だが。

 

 「またしても地下へ進む階段が無いだと!?」

 

 両者の地図を見比べても地下10階に進む階段は見つからなかった。

 

 「ざけやがって!」

 

 悪質な迷宮構造に〝黒壺〟のギーゴがキレる。地下9階への道で散々苦労し、ようやく抜け道が見つかったと思えばこれだ…彼がキレるのを誰が諌められるだろうか。

「見落としが無いかもう1回調べてみましょう」とオレガが意見し、お互いの探索済エリアを調査しなおす事となったが、道中に最下層に進む道は見つからず、魔物との激戦だけが続いた…

 

 

 …そんな中、拠点から【メッセージ】で「ニゲラが行方不明になったと」救援要請が届いた。



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灰と隣り合わせの

 「すまん…今、地上に居る」

 

 エレベーター前に戻って来た連合チームに届いたのは、ニゲラからのそんな連絡であった。

 慌てて地上に戻り、何があったか問いただすと、ふらふら飛んで行ったスードゥドラゴンのドラちゃんを捕獲しに行った所で、ピットの罠に引っかかり、地下10階へ落ちていったらしい。

 …そこで運よく地上に戻るルートを見つけ脱出したとの事だ。

 

 「褒めるべきか叱るべきか…」と〝黒壺〟モナークは頭を掻きながら大笑いだった。

 実際見つからなかった地下10階への道を見つけ出した事は功績と呼んでいいのだろう。

 

 …最下層への挑戦は後日へ持ち越された。

 戦利品を分け合い、装備を整え、最後の決戦に備える。

 

 

 「くそっ…舐められてるな」

 

 最下層に向かった一団を迎えたのは、金の額縁に掲げられた伝言。

 

〝お前たちは我が主であるアインズ・ウール・ゴウン様に任されたエリアを侵している、

 お前たちが我が守りを破る事はできぬだろう、ましてや偉大なる魔導王に仕える私に勝とうなど夢にも思わない事だ お帰りはあちら ← 〟

 

 墓室のような最下層を1歩1歩突き進むと玄室と思われる部屋に繋がった…

 

 「ここが管理人とやらの部屋か?」

 「1個目にボスってのも風情が無いですし…門番とかじゃないですか?」

 「そうね、どちらにしても戦闘準備しましょう」

 

 3チームのリーダーが打ち合わせをし、支援魔法をかけて【要塞】の武技を準備したオレガが扉を開く。これは雑魚との連戦がある場合、主戦力である白金級の〝黒壺〟と〝鉱石〟を残すためだ、その分報酬の取り分は多めに貰うように話は付けてある。

 手付金として押し付け…貰った、地下9階のドロップ品である、押すと先端が回転する変な剣は何か微妙だったが、深層でのドロップ品だし価値はあるのだろう。

 

 扉を開くと魔素が固まり魔物に変わっていく…通常の雑魚戦闘と変わらない状態に安堵する。

だが眺めていた魔素はみるみるサイズが大きくなり固定化していく…これは巨人…いやドラゴン…赤い…ファイアドラゴンか!

 竜のブレスを警戒し後衛を散開させる、迷宮産モンスターとして弱く設定されているものの、〝竜〟は地上では強さの代名詞のように呼ばれる存在だ。

 

 実体化と同時に叩きつけてくる竜の前足を【要塞】で耐える、体格差による圧力に吹き飛ばされそうになるも、支えの盾と呼んでいる相棒の魔法の盾で何とか踏ん張る事ができた。

 

 「ブレスを吐かれる前に処理をしろ!」

 

 人間風情が自分の巨体から繰り出される攻撃を防いだ事を驚く竜に、パーティメンバーは間髪入れず総攻撃をかける、白金級の冒険者集団が繰り出す破壊力は当然のごとく強く、後衛の支援魔法無しに、いとも容易くファイアドラゴンを魔素に還した。

 

 「ったくよぅ、偽物とは言えこれは火竜だぜ?外なら英雄だ。

  …この修練場に潜りだしてから自分が超人にでもなったかと錯覚しちまうな」

 

 「これは魔導王が冒険者の訓練向けに模造して作った劣化品ですからね…

  増長は駄目ですよ、外で増長は死に繋がります」

 

 戦闘が容易に終わったせいかリーダー格が軽口を叩く。だが、たしかに超人になっていくような錯覚はオレガ達にもあった…オレガは衛兵時代に、スケルトンの大軍に押し切られ英雄の活躍を見ているだけだった頃の自分を思い出す。今の〝シードリーフ〟なら、彼の背中を守るくらいはできるようになったのだろうか…そう思い、拳を握る。

 

 その後も順調に通路を進める、氷の巨人の1団を潰し、ハタモトを名乗る南方の侍を下し、毒の巨人を退治する。数が多い敵に対しては先制して、第三位階魔法を使える〝鉱石〟の高位魔法使い、フローライトの【火球】の大火力で敵全体を焼き尽くす。

 彼女が居なければ黄金の騎士の率いる1団との戦いでは苦戦を免れなかったはずだ。

 

 

 六個目の大部屋に到着した時、ふと部屋の中から違和感を感じた…

「…臭うな」と〝鉱石〟の野伏が告げた後、鼻の良い連中が中から漏れ出す異臭に気が付く。

「血と臓物の臭い」〝黒壺〟のギーゴが中の異臭の臭いを特定する…

 

 魔法使いと神官が前衛に支援魔法を重ね、吟遊詩人が士気向上の呪歌を唱えるのを確認すると、ニゲラが慎重に扉を開く。中で見た物は惨殺された〝炎赤〟のメンバーの5名の惨殺死体。それを確認したのと同時に「ヒーッヒッヒッヒッ」と奇怪な笑い声が部屋に響き渡った…

 

 惨殺死体に気を取られた前衛に、天板に張り付き潜んでいた道化師から吐かれる、凍てつく氷のブレスが襲う。オレガは反射的に【要塞】の武技を使い受けようとしてしまった…

 それは〝炎赤〟の惨殺死体を見た動揺のせいか、それとも今までの魔物が扉を開けてから魔物になると言う固定概念か…または養殖とも言える冒険者学校での教育ドーピングが齎した弊害、実戦訓練の不足が招いた事か、当然のごとく【要塞】で魔法効果のブレスを防ぎきれず膝を付いた。

 

 この時点で幸運だったことは、部屋に入ったのが前衛のみで後衛にまで凍てつく風が届かなかった事だろう。この威力のダメージを後衛が受けたら致命傷になる恐れがあったのだから…

 だが幸福は続かない〝鉱石〟の軽騎士の視界が赤く染まる、その顔には〝炎赤〟のメンバーから抜き出しただろう人間の臓物がくっついていた。

 

 

 「ぐえっ…前が…」

 

 男は視界を塞ぐ臓物を引きはがそうとした所を狙われ、道化師の杖に喉を貫かれ即死した。

 道化師の追撃はまだ続く、「ヒホホホホ」との掛け声と共に、氷のブレスから立ち直れていない〝黒壺〟のギーゴに攻撃をしかけ、左手を石化させる。ギーゴは左手を代償にして右手の悪のサーベルで道化師を切り付けるが、致命傷には遠く、掠り傷に終わってしまった。

 

 

 ギーゴの攻撃に慌てて後退した道化師を確認した〝黒壺〟のモナークが「防御陣形!」と叫ぶ。その声を受け、不意打ちを受けた前衛も冷静さを取り戻し体勢を整え、後衛への守りを固める。

 【マジックミサイル】【マジックミサイル】【マジックミサイル】

 

 3チームの魔法使いが魔法を使って牽制する。

 素早い動きで翻弄してくる相手には、定番の自動追尾機能がある【マジックミサイル】だ。

 

 半数が道化師を貫くが、半数は〝鉱石〟の軽騎士の遺体を盾にされ防がれる。

 仲間の遺体を撃ってしまった事に対して魔術師のソレルとフローライトは動揺するが、〝黒壺〟のシィルは「追撃!動きが止まった今がチャンス!必ず仕留めて!」と間髪入れず追撃の指示を入れる。

 その声に即座に反応したのは〝黒壺〟のモナーク。渾身の1撃で仲間の遺体ごと道化師を両断した。

 

 

 「おおっ…やられちゃったっすねー、うんうん意外とやるっす」

 

 謎の赤髪の三つ編み褐色美女メイドがモニターを見ながら呟く、もう1人くらい始末するつもりだったのに…と少し反省する。味方の遺体を盾にしたら攻撃を躊躇うだろうと人間を甘く見たのが敗因だ。

 

 「この迷宮の管理人として呼ばれている以上は、抜かせるわけにはいかないっすよ!」

 

 謎の駄犬は勘違いしていた…管理者として呼ばれたのが迷宮を攻略させないためだと。

 冒険者を始末する→救助して金を稼ぐまでは理解していたが、それ以上の事は意図的に意識から外していたのだ。…だってそのほうが玩具で遊べて楽しそうだから。

 

 「ポチッとな」 謎のルプスレギナは迷宮の最終兵器を投下するのに躊躇は無かった。

 

 

 部屋に残るは〝炎赤〟の惨殺死体、〝鉱石〟の両断された戦死者が1、そして道化師の落とした宝箱の中から出て来た1個の魔法の鎧。紛れもなく高価なアイテムだとわかるのに、全体の士気は上がらないままだ。この鎧は事前の取り決めから〝シードリーフ〟のオレガが貰い受ける。

 だがその顔に喜びは無く、先ほどの戦いでのミスを引っ張ってしまっているようだ…

 

 仲間の遺体を攻撃してしまったのもあるが、先が見えないのが心を削る。終わりの見えない戦いが絶望を呼び込む。このまま迷宮の主の元に届いても戦えるのだろうか?

 

 撤退を考えるほどに士気がガタガタの中、後方の通路から大型の生き物の足音が聞こえて来た…気力を振り絞って戦闘準備をした冒険者達の前に姿を現したその怪物は…伝説の魔神を連想するような邪悪なオーラをまき散らす黄土色の巨大な悪魔だった。

 




次回多分最終回です


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風よ。骨に届いているか

 

  「あれは…ヤバイな…」

 

 出現した怪物を見た冒険者達は一様にそう呟く。

 冒険者の勘が、今まで戦ってきた経験が『戦ってはいけない』と冒険者達に激しく囁きかける。

 絶望的な雰囲気の中、オレガは自分の顔を殴り覚悟を決める。

 

 「こ、ここは俺が時間を稼ぐから、皆は先に…迷宮を走破してくれ」

 

 オレガの無謀な提案に全員が息を飲み、絶望しかけていた自分を恥じる。

 この場面で恥じずに笑顔だったのは、オレガに付き合う気だった〝シードリーフ〟の他3人。

 

 「俺がじゃなくて、私たち〝シードリーフ〟がです、言葉は正しく使いましょう」

 「はぁ、今回俺は荷物持ちとして参加したんだが…しゃあねぇ2度目の命もくれてやる」

 「…不要、勝って全員で帰る、全員で打ち上げ会する」

 

 こうして〝シードリーフ〟の4人は迷宮攻略の殿を務める事となる。

 

 「フローライト、貴方は〝黒壺〟に同行し〝鉱石〟として迷宮を走破しなさい

  アマルガムとベリルは私と共に後輩ちゃんたちに協力するわ、異論は?」

 

 「「「ありません、了解ですリーダー」」」

 

 魔術師のフローライトを〝黒壺〟に預け、僧侶のアマルガムと野伏のベリルと共に、

〝鉱石〟のリーダーアデライトは〝シードリーフ〟の無謀な提案に付き合おうとする。

 

 「宜しいんですか?」とオレガが問いかけると、「先輩にもカッコつけさせなさい」と

笑顔で答えられた…アマルガムとベリルの2人にも無言で鎧を後ろから叩かれた。

 

 「俺たちの背中を任せる…死ぬなよ」と〝黒壺〟のモナークが言葉をかける。

 「死にたくないので全力で頑張りますよ、万が一の時は蘇生お願いしますね」

 

 オレガがそう答えると、皆から苦笑いが零れた。

 

  「さて…と」「お客様の相手をしなくちゃね」

 

 〝シードリーフ〟と〝鉱石〟の冒険者達は時間を稼ぐため、迫りくる巨大な悪魔と戦闘に入る。

 

 

 壁の標識には、“死者の大魔法使いの事務所” 営業時間はAM9時からPM3時 

 現在、死者の大魔法使いは *在室中*

 

 「ホントふざけやがって!」

 

 〝黒壺〟のギーゴは扉を蹴飛ばし部屋の中に押し込む。後輩たちが時間を稼いでる今、自分達ができる事は、速攻で迷宮の主を攻略することのみだ。終着地点と思われる場所で待機していたのは死者の大魔法使い(エルダーリッチ)と吸血鬼(ヴァンパイア)、それに下位の吸血鬼が3匹。

 

 「いんやぁ、初冒険者だべ!おらぁ…ここで手柄さたててナザリックさいくだ!」

 

 「んだんだ、頑張ってアインズ様に正式に仕えるだぁ…1回だけご尊顔を拝見した機会が

  あったんだが、すんげぇオーラ(漆黒の後光)だっただよ」

 

 このエルダーリッチと吸血鬼は、迷宮産の魔物でもナザリック産の魔物でも無い。

 カッツェ平野において捕獲して来た天然ものモンスターである、よってアインズ様のアンデッド強化の恩恵は無い。それでもエルダーリッチは単体でもレベル22相当の化け物であり、白金級では少々厳しく、ミスリル級でなら勝算十分という存在だ。その護衛に白金級の難易度の吸血鬼とその配下が付いている事から、ミスリル級への昇進の難易度としては十二分だろう。

 

 迷宮の主と思われるエルダーリッチと吸血鬼が何か喋っているが聞いている余裕は無い。

 シィルとフローライトが先制で放った【火球】が炸裂し、吸血鬼と眷属を巻き込んで派手に燃える。

 

 「なんだべや!」

 

 エルダーリッチは初手から大きなミスを犯す、所詮は人間の冒険者が相手であり、死者の大魔法使いである自分の敵ではないと甘く見ていたのだ。

 魔法使いの有利な間合いは遠距離なのに、距離と言う盾が有効に働かない一室での戦闘…これは彼らに非が無いとしても、盾となる下位吸血鬼共を先制攻撃で大きく削られたのは大きい。

 

 突撃してくる重戦士に対し、エルダーリッチは絶対の自信を持った【火球】を投げかける、彼の知っている人間が相手ならこれで消し炭になっていたはずだ。

 重戦士は盾を構えて踏ん張り【耐魔】の武技を使う、魔法に対する抵抗力を強化する武技だ。

 エルダーリッチの放つ【火球】を盾を掲げ首を下げ、全身を踏ん張るようなスタイルで被弾面を減らし迎え撃つ。派手に魔法が炸裂するが魔法の装備と武技と肉体の力で怪我を最小限に抑えた。

 

 炎が消える寸前を狙い距離を詰めていた〝黒壺〟の火神神官のフサーが【焼けつく光】を放ち、聖なる光で5m範囲内の瀕死の下位吸血鬼を焼き尽くした。

 敵前衛が消滅した所へ盾を捨てて身軽になった重戦士のモナークが突撃し【斬撃】の武技を使い、エルダーリッチを両断する。…同時に飛び出していたギーゴも吸血鬼を細切れにしていた。

 白金級では苦戦する魔物が2匹、しかしそれは半年以上この地下迷宮に潜り、幾度も死を乗り越え戦いに明け暮れていたベテラン冒険者の敵ではなかった。

 

 ただ問題なのは。

 

 「前座は終わったぞ!管理者はどこだ、責任者出て来い!」

 

 …圧勝すぎてこの地獄のような地下迷宮のボスだと認識されなかった事だ。

 アインズ様のアンデッド強化がかかり、レベル30相当の強さを得られた、死者の大魔法使いのイクヴァ41みたいな存在であれば話は違ったのだろうが。

 

 

 暴虐を振るっていた黄土色の巨大な悪魔は突然姿を消した…

 悪魔が再び現れない事から、これは迷宮が攻略されたからではないのか?と居残り組は結論付けた。突然飛び出した〝ドラちゃん〟の後を追い、迷宮の最深部に向かっていった〝シードリーフ〟と〝鉱石〟が最深部の部屋で見た光景は、とても信じられない物だった。

 〝黒壺〟のリーダーであるモナークは膝を付き頭を抱え、勇敢なギーゴはガチガチと歯を鳴らしながら立ち尽くし、冷静なシィルやフローライトは恐怖心からか四つん這いになって嘔吐を繰り返している。火神に仕える神官のフサーに至っては膝を付き、目の焦点が合わない状態でブツブツと神に祈りを捧げていた…1瞬、誰もが何が起きたのかと思ったがその答えは目の前にあった。

 

 彼らの心が折れるのも仕方がないであろう、部屋の中には信じられないほど強大な力を感じる、四枚の羽根を持つ獅子の頭を持った天使が6体存在していた。その1体1体が竜や神々を思わせるような存在感と威圧感、そして圧倒的な畏怖を感じさせていた。

 

 「あは‥あははは、ありえないありえない‥なにアレ」

 

 〝鉱石〟のリーダー・アデライトも腰を抜かし座り込んでしまった。

 人間あまりにも強大な存在を目撃すると戦う意思もわかず、全員が武器を手放し茫然となる。

そんな情けない人間達を嘲笑うがの如く、天使の後方からパチパチと拍手が鳴り響く。

 全員が意識をそちらに向けると、天使たちとは真逆の邪悪なオーラ、それも天使たちとは比較にならないほどの強大な魔力を持った存在がこちらに向かってきてこう呟やく。

 

 「えーとだな、改めて迷宮走破おめでとう、君たちはミスリル級の実力を…あれ?」

 

 テンションが上がった状態で急いで駆けつけ、魔力を隠す指輪を付け忘れたアインズ様を見た冒険者達は、全員が意識を失い、気絶した。

 

 

「ふぅ…」

 

 アインズは自室に戻り、一仕事やり遂げたと安堵する。最後の最後で色々問題はあったけども、

一応は一段落だ。あの失敗は忘れよう、…そんなに怖かったか、天使も外見は異形だしな?

 魔力を隠す指輪を忘れ、慌てて出て来たアインズ様が原因なのだが、それは棚に置いておく。

 

 冒険者達が迷宮を攻略するまで予想以上に時間はかかってしまったが、まあ成果は十分だろう。バランス調整は失敗した自覚はあったが、冒険者学校での成果、迷宮で鍛えた冒険者の練度、蟲を使った人間の操作、どれもが概ね合格点と言える成績だ。

 

 ただ、ルプスレギナに管理人としての仕事を細かく説明していなかったために、コキュートスの時と同じような配下を使って防衛する試練だと思われ、無駄に迷宮の難易度を上げてしまっていたのは予想外だったが。…細かく言わずとも伝わるだろうと言う気持ちは駄目だと反省する。

 

 まあ、ルプスレギナも冒険者の救助を含め迷宮の管理を頑張ってたから良しとしておこう。

 

 

 その後、魔導王の試練場を走破した〝シードリーフ〟の一行は自分たちの未熟さを理由に昇進を辞退する。金級冒険者として先輩冒険者達の探索に協力し、1歩1歩地道に成果を稼いでいった。

 先にミスリル級に昇進した〝黒壺〟や〝鉱石〟のメンバーとも合同調査の勧誘を受けたり、情報を交換したり、先輩達に飯をたかったりと色々仲良く関係を築けている。

 (打ち上げで黄金の輝き亭で喰い漁ったせいか、そこへは二度と誘ってもらえなかったが)

 十分な経験を積んだ後、白金級冒険者に昇格し、最終的にはミスリル級の冒険者まで昇格する。

 彼らの残した功績は、マシュー・マロウが効能を見つけた魔力回復効果のある薬草〝マロウ草〟の発見及び、飲みやすくお茶にした〝まろ茶〟の普及。獣人集落との交易路の設立などがあるが。

 一番有名な功績は、アベリオン丘陵でのヤルダバオトの拠点、通称〝人間牧場〟の発見だ。

 この報告は魔導国を動かし、後に世界中の吟遊詩人達を熱中させる、英雄たちの大規模作戦。

大悪魔の手からローブル聖王国を解放する、叙事詩に名高い〝オーバーロード作戦〟に繋がる。

 

 

 〝人間牧場〟へ漆黒の英雄モモンを案内した後に、〝シードリーフ〟は冒険者を引退し、カッツェ平野を開拓すると言う魔導国の募集に参加する。地道な努力と魔導国の全面的な支援もあり、開拓村は徐々に大きくなり、後に街と言っていいほどに発展していったが、それはまた、別の物語。

 

 ――〝シードリーフ〟は大地に根を下ろし、村と共に成長して人々を支える樹になっていった。

 

【個人戦績】

 

 ・オレガ・オレガノ

 元エ・ランテルの衛兵、漆黒の英雄に憧れ冒険者の道を目指す。

 戦士としての才能は凡才であったが、どんな時も逃げず踏み込む勇気を持っていた。

 引退後は開拓村の村長として補佐役のエルダーリッチに色々教わり村を発展させる。

 

 ・ニゲラ・サティバ

 元は王国のスラム出身の盗賊、冒険者の存在に輝きを見て冒険者の道を目指す。

 そこそこ優秀なのだが仲間が傷つくのが嫌で無理をして、その後も数回死ぬ事となる。

 引退後は村の自警団の長となる、村を防衛する死の騎士は、武力としては優秀ではあったが、

 悪党の考えを読んで悪事を事前に防ぐ行為には向いていなかった。

 

 ・ソレル・リトルヴィ

 帝国生まれのハーフエルフ、魔導王の差別の無い国作りに賛同して冒険者となる。

 その後、第三位階の魔法を数点覚えたが、それほど魔法への適性は無かったようだ…

 引退後は村の子供達へ勉強を教える私塾の教師となる。

 

 ・マシュー・マロウ

 本名はサングン・ベンチ・ウォーマーと言い、法国の密偵として魔導国の冒険者となる。

 偉大なる魔導王の存在に触れ、かの御方こそは死の神スルシャーナだと認識し密偵の仕事を放棄

 引退後は村の司祭を務め、死の神を中心とした六大神信仰を広める。

 

 ・ドラちゃん

 種族はスードゥドラゴンで超小型のドラゴン、その実態はアインズ様の使い魔。

 魔導王の試練場をクリアした後は使い魔から解放され、冒険者ギルドのマスコットとなる。

 迷宮走破の時にも同行していたことから、幸運の竜として冒険者に愛される。

 

 

                  Fin            

 




色々話をカットしたり、途中から展開を修正したりしたので
上手くまとまらず御見苦しい結果となってしまいました…

魔導王の試練場を読んでいただいた皆様、申し訳ありませんでした
そして本当にありがとうございました。


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