ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

181 / 212
 IFルート『本当にスコープドッグが造られてしまった場合』だと、ホワイトベース脱走後のコズンがどうなるか、という閑話です。


閑話 スコープドッグとむせるコズン

 食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。

 牙を持たぬ者は生きて行かれぬ暴力の街。

 あらゆる悪徳が武装する、ここは戦争が産み落としたソドムの市。

 コズンの体に染みついた硝煙の臭いに引かれて危険な奴らが集まってくる。

 

「夕べ脱走したやつらは、ほとんどやられちまったらしい」

 

 人間狩りの暴力集団から脱走したコズンは、闇商人に拾われていた。

 

「生き残りを始末するためにファミリーのやつら、そしてやつらとグルになってる治安部隊とが躍起になっとる。あそこから逃げ出すとは大したやつだよ、おめぇは」

「あれを…… 俺にくれないか?」

 

 コズンがガツガツと飯を食いながら目を付けていたのは、この闇商人の商品。

 全高4メートルにも満たない人型マシン、ヤシマ重工製のプチモビルスーツ『スコープドッグ』、

 

「ポンコツだぞ」

 

 ……のスクラップ。

 だがコズンは意に介さない。

 

「ここを出る。修理道具も借りたい」

 

 そして黙々と修理を始めるコズン。

 

 

 

『おひげ剃ったら、男前度がアップしましたね』

 

 とサポートAI、サラがささやく。

 スコープドッグのミッションディスクプログラムに組み込まれていた彼女は、コズンのことを色々とサポートしてくれた。

 

「ATM-09-LRC、スコープドッグ・ショーティか……」

 

 スクラップだった機体からの再生案も、彼女が提示してくれたもの。

 ひざ下が大破していたスコープドッグだったが、降着機構のフレームは、これだけで膝上の荷重を支える頑丈なものだったので辛うじて無事。

 それをぶった切って超ショートフレームに加工し、カカトの関節と接続することで、軍にはATM-09-LRC、軽偵察型の機体として登録されているスコープドッグ・ショーティと同仕様に仕上げてある。

 

『機体制御OSにも変更は必要ですが、ヤシマ重工のライブラリに登録されていてどこでも使えますし、何なら自分でミッションディスクをいじっても問題はありません』

 

 とサラが言ったとおり。

 足を短くした結果、重心が下がって安定性が増した上に、アーマードトルーパーの脚部をサスペンションと考えれば、ばね下荷重が大幅に減るのと同じ効果をもたらす結果となり運動性能、操縦性が大幅に向上しているため、制御にも問題は出ない。

(車において「バネ下を軽量化するとフットワークがよくなる」や「バネ下1kgはバネ上10kgに相当」という話はよく聞かれるところ)

 特にスコープドッグは重い機体重量を支えるのとローラーダッシュ走行を安定させるために人体に比べ脚部の肥大化が著しく、これを改善できたことはかなりの効果を上げることとなっていた。

 

『同じ軽量化カスタム機であるATM-09-LCライト・スコープドッグは極限まで装甲と装備を削った結果、高機動性を獲得していましたが、このスコープドッグ・ショーティは原型機のスコープドッグと変わらぬ防御力を保ちつつ、それ以上の軽量化を実現。高機動性を獲得しているものですね』

 

 また低身長化に伴う前方投影面積の縮小、隠密性の向上もあり、本機は偵察や特殊任務向けの機体に位置づけられている。

 

『腕が右腕一本しか再生できなかったのは難ですが』

 

 とサラが言うように、腕に関しては左右のものを共食い整備でニコイチするほか無かったが。

 そのため左腕に関してはマント状のボロ布をまとわせることで、欠損を悟らせないよう、偽装が施されていた。

 

【挿絵表示】

 

「あれが、奴らの根城か」

 

 夜の闇を超えて前方に見えてきたのは、戦争で廃墟と化した街の郊外に建つドーム状の全天候型スタジアム。

 軍から横流しされた装甲車や、民間向け車両に武装を施したテクニカルと呼ばれる即製戦闘車両を擁していた武装集団だったが、そのガレージ代わりにでも使っているのだろう。

 

「しかし、こちらに気付いた様子が無いが……」

『そこが、Light Reconnaissance Custom、軽偵察型の機体として登録されている所以ですよ』

 

 とサラ。

 

『全高がノーマルなスコープドッグの3804ミリから3メートルを割る2930ミリに下げられているだけでなく』

 

 低い全高はそれだけで隠密性を引き上げるが、

 

『通常機体とは異なる、人体比率から著しくかけ離れたシルエットを持つスコープドッグ・ショーティは機体アウトラインが検出しづらいんです。特にこんな低光量環境下(ローライト・コンディション)で用いられる機械の目、赤外線カメラやスターライトスコープによる映像では』

 

 判別は困難か。

 そういう理由から、制作者であるミヤビの『民需用プチモビルスーツ』という意図から外れ、偵察機として軍に型式を与えられ、用いられているのだ。

 

『その上、このマント、ボロボロですけど元は軍用車両の幌か何かですね。赤外線放射量を抑え、背景となる自然環境に疑似的に同化、さらには単色に見えて実際には赤外線反射率が異なる染料で迷彩塗装が施されてます』

 

 そんなものをまとっているので、検知はますます困難になっている。

 

『そもそも…… スコープドッグにはエンジンが積まれていませんから音、静粛性の面でも有利ですしね』

 

 全身に配されたマッスルシリンダーで駆動しているので、動力源となるエンジンは積まなくていいのだ。

 両足のグライディングホイールは、マッスルシリンダー駆動用のポリマーリンゲル液を改質して発電する燃料電池駆動なのだし。

 しかし、

 

「気付かれた!?」

『この距離になると、さすがに異常を検知しますよね』

 

 敵が慌ただしく出てくるが、

 

「ここまで来れば、もう遅い! 突っ込むぞ!」

『はい!』

「バルカン・セレクター!」

 

 スコープドッグはこう見えて搭乗者の音声認識システムを持ち、ミヤビの前世の記憶の中にあるアニメ『装甲騎兵ボトムズ』作中でもキリコがウド編で「バルカン・セレクター!」と言い放ちヘビィマシンガンをフルオートに切り替えて撃ちまくっていた。

 それと同様にコズンの音声コマンドを受けたスコープドッグ・ショーティは短銃身のGAT-22Cヘビィマシンガン改のセレクターレバーを、グリップを保持した右手親指で弾くようにしてフルオート位置に切り替え。

 乱射しながら敵戦闘車両を蹴散らし、ドームへと突っ込む!

 

 

 

「何でまた『バルカン・セレクター』なんだ?」

 

 突然のことで対応しきれていない敵集団を掃射で潰しながら聞く余裕があるコズン。

 履帯、無限軌道をキャタピラー社の商標であるキャタピラーと呼ぶがごとく、この宇宙世紀世界ではガトリング砲全般をバルカンと呼ぶ。

 しかし、さすがにヘビィマシンガン、機関砲に対して使うのは誤用かと首をひねるのだが、

 

『『バルカン・セレクター』はミッションディスクプログラムの名称です』

 

 とサラ。

 アーマードトルーパーのミッションディスクプログラムはパイロットを補助するもので、様々な役割を持つが、

 

『ヘビィマシンガンには専用のボックスマガジンに120発の弾が入るため歩兵で言うアサルトライフル、自動小銃ではなく分隊支援火器(Squad automatic weapon, SAW)、軽機関銃だと認識してフルオートで使おうとされる方が多いのですが』

 

 しかし、

 

『発射レートが高いので、それだとすぐに弾切れしますし、何より振動で弾が散り命中率が下がります。だからGAT-22ヘビィマシンガンは通常、単射での運用が推奨されるのです』

 

 これはミヤビの前世の記憶の中にあるアニメ『装甲騎兵ボトムズ』でも一緒。

 主人公キリコも通常は単射で使っているからこそ、そこからの切り替え描写があったわけである。

 

「だが、そうも言ってられない場合もある」

 

 今、この時のように多数を相手取る場合などにはフルオート射撃は必要である。

 

『そうですね、ですからフルオート射撃時には、その反動を制御し命中率を向上させるミッションディスクプログラムの併用が望ましいのです』

 

 ということ。

 

『スコープドッグにもGAT-42ガトリングガンという手持ちのガトリング砲が用意されていまして。その激しい反動を制御するために組まれたのが『バルカン・セレクター』と呼ばれるミッションディスクプログラムです。これがヘビィマシンガンのフルオート射撃時にも非常に有効なので、流用されているんですね』

 

 そういうことであった。

 そうやって、周囲の敵を潰し終えたコズンだったが……

 

『危険です!!』

 

 サラの警告に反応し、回避行動を取る。

 その機体を追いかけるようにして放たれる重機関銃の掃射がスコープドッグ・ショーティを襲う!

 

「何だぁ、すっぽ抜けただとぉ!?」

 

 質の悪いスピーカー越しに、男の割れた声がドーム内に響く。

 当たったのは機体左肩、腕に相当する部分に被せられた偽装用のボロ布で、当然中身が無いので銃弾は生地に穴を開けるばかり。

 機体に損害は無い。

 

『だぶついた布により敵の目標を誤らせて攻撃をかわすことができたんですね』

 

 とサラ。

 偽装用に纏ったボロ布には、そういう効果もあったらしい。

 そう推察しながらも彼女は並行して頭部、三連カメラターレットを広角レンズに切り替えサーチ、敵を捕捉していた。

 相手は全高4メートル超過の人型の機体。

 スコープドッグより大型のヘビィ級アーマードトルーパー。

 

「スタンディングトータスってやつか?」

 

 その両胸に内装された11ミリ機関銃による射撃だった。

 しかも、

 

マークツーと言えぇい(Say Mk-II)!!」

 

 と叫んだかと思うと、背面のロケットエンジンを吹かし、上昇。

 

「フフフッ・・・おまえら~~~~~ この機体の名を言ってみろ!!」

 

 飛行しながら攻撃を仕掛けて来る。

 

「なんだなんだぁ!?」

『あれはヘビィ級アーマードトルーパー、ATH-14-SA スタンディングトータスMk-II。SAはスペースアサルトを意味すると言われている宇宙機で……』

 

 サラが敵機体を識別。

 

『推力の大きさから重力環境下でも短時間の飛行が可能なんです』

 

 これもまたヤシマ重工の開発機体だが、月のアナハイムエレクトロニクスでもライセンス生産を行っている。

 そこから流れたものだろうか……

 

「宇宙! スペース! ATH-14-SA スタンディングトータスMk-II、おまえがナンバー1だ!!」

 

 そう機体の名を誇示しながら、

 

「スコープドッグは空からの敵には弱い! 俺ならスコープドッグを空から攻めるね!」

 

 と攻撃を仕掛けて来る。

 

「くそっ!」

 

 コズンはヘビィマシンガンで迎撃を図るが、機体各所に姿勢制御ロケットを備えるスタンディングトータスMk-IIはそれをひらりとかわして見せる。

 そうして回避から急速接近!

 

「これでも食らいな!」

 

 左腕から繰り出されるアームパンチ!

 

『そのくらい!』

 

 とコズンの操縦を助け、スウェーで躱そうとするサラだったが、

 

『当たった!?』

 

 スタンディングトータスMk-IIの拳がスコープドッグ・ショーティの顔面にめり込み、ターレット式三連カメラを粉砕!

 

「前が見えねェ」

 

 状態に。

 

『あの機体、アームパンチの伸縮幅(ストローク)を基準より延長しています! 自らの機体を壊しかねない危険行為なんですが……』

 

 とサラ。

 アームパンチは機体に負荷がかかるため、その炸薬量およびストロークには厳密な取り決めがある。

 それを勝手にいじった場合、アームパンチ機構のみならず本体の損壊にまで発展する重大なトラブルを引き起こしかねないのだ。

 

 

 

「ハッハー! ママのオッパイをしゃぶってな!」

 

 至近から左胸部11ミリ機関銃をスコープドッグ・ショーティの頭部に向けるスタンディングトータスMk-II。

 カメラを粉砕、視界を奪ってやった。

 そうされた場合、スコープドッグはバイザーを上げて有視界で戦闘をするしか無いだろうが、そこを狙うのだ。

 しかし、

 

「何っ!?」

 

 

 

 サラはスコープドッグ・ショーティの頭部を180度回転。

 リアカメラを正面に構えることで敵影を捉える。

 

【挿絵表示】

 

「そこ!」

 

 間髪入れずコズンはアームパンチを動作させ、こちらに向けられていた敵の左胸部の11ミリマシンガンを粉砕する!

 

『少しばかりスコープドッグについて知っている風でしたが、甘いですよ』

 

 とサラ。

 コストの安いスコープドッグは後部カメラが省略されていたり、後方監視は動体センサーのみとなっている機体も多く、確かにその場合はメインカメラが損傷すると、バイザーを開けての有視界行動に移らざるを得ないが。

 この機体は将来的に百式に採用されるImage Directive Encode (IDE) システム(画像管理型符号化装置)と呼ばれるセンサーの元になった技術を利用した平面素子によるイメージセンサーを搭載していた。

 ゆえに頭部を180度回転させることで視界を得て、行動を継続することができるのだった。

 

 

 

「クソッタレ!」

 

 叫び、背部、そして脚部のロケットエンジンを強く1、2度わざと吹かし、立ち上る土煙で視界を遮ってからホバリングするように宙に浮き、離脱しようとするスタンディングトータスMk-II。

 しかし、

 

「何!?」

 

 土煙の向こうから、こちらの位置が見えているかのように飛び出してくる、ワイヤー付きアンカーフック!

 

【挿絵表示】

 

 内蔵されたマグネットが胴体に吸着し、巻き取られるワイヤーによって機体が手繰り寄せられる。

 

「おおお!」

 

 

 

『この後部イメージセンサー、可視光域と赤外域の切り替えができるんです!』

 

 サラによる種明かし。

 遠赤外線は可視光線と比較して解像度が劣る一方で透過能力に優れるため、ある程度であれば土煙越しに像を捕らえることもできる。

 しかも相手はロケットエンジンを吹かし、高熱を発しているのだ。

 赤外線画像なら捉えるのは難しくない。

 

「アイゼン!」

『はい!』

 

 コズンの指示で両足側面に配されたターンピックをスパイク、アイゼン代わりに地面に突き立て、そしてウィンチでワイヤーを巻き取りにかかる。

 ライト級並みに軽量化されているスコープドッグ・ショーティと、ヘビー級のスタンディングトータスMk-II、単なる引き合いなら勝てるはずも無かったが、これにより機体が地面に固定されたことと、

 

「地に足が付いていないことが、お前の敗因だ!」

 

 相手が空中に浮いていて踏ん張りが効かないことから、強引に手繰り寄せることに成功!

 そして突き出していた腕、拳に敵機が衝突した後に、その拳をねじ込むようにずらし脇腹に押し付け、一拍置いて、

 

「オラァッ!!」

 

 低い位置から斜め上にかち上げるようにしてアームパンチが炸裂する!!

 

 

 

「がっ、はぁ!?」

 

 スコープドッグ・ショーティのアームパンチを胴体側面に受けたスタンディングトータスMk-II。

 衝撃で側面監視用窓の防弾ガラスが割れ、コクピット内に飛散する!

 

「がああああっ!!」

 

 ロケットエンジン全開で上昇するスタンディングトータスMk-II、危うくドーム天井に激突しそうになるのを避け、

 

「もう許さねぇ!」

 

 右手に持っていた大型の8連装HMAT-38ハンドミサイルランチャーを下方、スコープドッグ・ショーティへと向ける。

 

 

 

「バカ野郎! いくら広いドームったって、そんなもん中で使うやつがあるか!?」

 

 大型の弾頭を備えたミサイルが次々に飛来する。

 コズンは手放していたヘビィマシンガンを、ワイヤーウインチユニットを使いアンカー内蔵のマグネットで吸着、手繰り寄せることで素早く回収、迎撃を図るのだが、

 

「何だこの照準! 当たらねぇぞ!!」

『さすがに後部カメラでミサイルのような動く的への精密射撃は無理……』

 

 ですよ、とサラが言いかけたところに、一発目が着弾!

 直撃は避けたものの、爆風で吹き飛ばされそうに、いや、全高を低くカスタマイズしているスコープドッグ・ショーティだから耐えられただけで、ノーマルな機体だったならなぎ倒されていただろう衝撃波が機体を襲う!

 

「うぉおおぉぉぉっ!!」

 

 コズンはヘビィマシンガンを連射するが、外れた弾がドームの天井の強化ガラスを破るだけで次々に飛来するミサイルには当たらない。

 そして続けざまにミサイルが爆発し、ドーム内は閃光に包まれた……

 

 

 

「塵も残さず吹っ飛んだか」

 

 大穴が空き、すり鉢状にくぼんだ地面、その横に降り立つスタンディングトータスMk-II。

 

「ん?」

 

 天井が壊れたのか、上方で何かが揺れ動く気配。

 機体を反らしてカメラを向けると、そこには、

 

「げぇっ!?」

 

 ガラスが割れて枠だけになってしまったドーム天井にアンカーを引っ掛け、ワイヤーで宙吊りになっているスコープドッグ・ショーティ!

 そう、ミサイルが炸裂する前に連射されたヘビィマシンガンは、こうするのに邪魔になる天井ガラスを排除すると同時に、ワイヤーの射出を隠すための目くらましの役目を果たしていたのだ。

 そして、空中で機体を揺らせたスコープドッグ・ショーティが、スタンディングトータスMk-II目掛け、落ちてくる!

 空中に避けようとするが、

 

 

 

『ブースターがオーバーヒートして飛べないのも計算の内です!!』

 

 とサラ。

 ミサイル攻撃と、その後、爆風をやり過ごすために滞空制限ギリギリまでロケットエンジンを酷使していたことを彼女は見抜いていたのだ。

 敵機が左のアームパンチで迎え撃とうとするが、

 

『それも予測済みです!』

 

 動作せず、あまつさえ動作用カートリッジの暴発でスタンディングトータスMk-IIの左腕が吹き飛ぶ!

 

『さっきの強引にストロークを伸ばした一撃で、既に逝ってたんですよ、その左腕は!!』

 

 よろめく敵機に落下の衝撃を加えたキックを叩き込み!

 傾斜を滑り落ちて行くスタンディングトータスMk-IIに馬乗りになり、その胴体に直付けされた頭部三連カメラを右手で握り込む。

 

「アイゼン!」

『はい!』

 

 コズンの指示で再び脚部、ターンピックを作動!

 敵の機体に鉄杭を撃ち込み、損害を与えると同時に離れられなくする。

 地の底に敵機が叩きつけられると同時に、

 

「アームパンチ!」

 

 アームパンチ機構を動作!

 通常とは違い、敵の頭部を握っていた手のひら、掌底が突き出されカメラを粉砕すると同時に、その頭部をもぎり取る!

 そして伸ばされた腕が元に戻る反動で指が閉じ、もぎ取った顔を握りつぶした!

 頭部カメラを剥ぎ取ったおかげで晒されたスタンディングトータスMk-IIのコクピット、驚愕の表情を浮かべる敵の顔に、

 

「動くな!」

 

 ワイヤーウインチユニットを向けるコズン。

 これはアームパンチとの排他装備としてバウンティドッグに採用されたものより小型で、腕の外側ではなく内側に装備されているもの。

 機体重量が軽いため、バウンティドッグのように強化した肘関節と一体型のフレームに搭載する必要が無く、ノーマルな腕に付けるだけでも強度的に問題が無いこと、射出されるアンカーを小さく、ワイヤーも細くできること、さらには、

 

「このワイヤーウインチユニットはアームパンチの動作ガスをアンカーの射出に利用しているんだ」

 

 動作原理はライフルの銃口にセットし空砲のガス圧で射出する旧式なライフルグレネードと一緒で、アームパンチ機構をロックして、動作用カートリッジのガスを追加した分岐ルートを介しフックの射出に利用する。

 故に射出機構が不要で、外見的に追加された部分にはワイヤーウィンチしか入っていない。

 正確にはさらに前腕内部の空きスペースまで活用することでここまで小型化出来たものだ。

 そして、

 

「それを人間に撃ち込んだらどうなるか、分かるだろ?」

 

 そう告げる。

 相手は少しの沈黙の後、引き攣った、しかしいやらしい笑みを見せて。

 それを見たコズンは片眉を跳ね上げる。

 

「アンタ考えてるな、このワイヤーウインチユニットの連続使用可能回数はアームパンチのマガジンに納まるカートリッジ数、合計7発分までで、アームパンチを利用すればその分減るし、逆もまた同じ。果たしてまだカートリッジが残っているだろうかと」

 

 そうしてコズンは笑う。

 

「実は俺にも分からねーんだ。何といっても派手にブチかましまくったからな。だがな、言ったとおり、このワイヤーウインチユニットはアームパンチの動作ガスを使ってアンカーを飛ばしてるんだ」

 

 繰り返しになるが。

 

「アンタの頭くらいは軽く吹き飛ばすぞ…… どうだ、それでも賭けてみるか?」

 

 相手の返事は、

 

「この短足野郎(ショートドッグ)が!」

 

 だった。

 同時にスタンディングトータスMk-IIに残された武器、まだ無事だった右胸11ミリ機関銃がこの至近距離から火を噴く!

 

「あ?」

 

 しかし吐き出された銃弾はスコープドッグ・ショーティの左肩……

 偽装用のボロ布を貫いただけで終わる。

 最初の銃撃で同じように効果が無かったことを忘れたのか、それともからくりを見抜けなかったのか。

 

「………」

 

 コズンは無言でワイヤーウインチユニットからアンカーをぶち込んだ。

 

短足野郎(ショートドッグ)、ですか……』

 

 それは奇しくも軍でスコープドッグ・ショーティとそのパイロットを蔑むのに用いられている呼称だった。

 欧米の路上生活者(ホームレス)が判を押したように持っている酒瓶のことを示す俗語(スラング)でもあり、最低野郎共(ボトムズ)の、さらに底辺という皮肉も込められた蔑称でもある。

 本機は偵察や特殊任務向けの機体であるが、一般兵に馴染みがあるのは前者。

 つまり自分だけ背が低く目立たなく被弾しにくい機体でこそこそと動き、積極的に戦闘に参加しようとしない臆病者の短足野郎、という扱いなのである。

 まぁ、それはそれとして、

 

『最後のお芝居、要りました?』

 

 と呆れた様子で言うサラに、コズンは片頬を歪めてこう答える。

 

「好きなんだよ『ダーティハリー』」

 

 と西暦の時代の映画の題名を語って見せる。

 実際にはあの瞬間、スタンディングトータスMk-IIの11ミリ機関銃の正面にスコープドッグ・ショーティの胴体があって、下手をすると相打ちの危険があったための演技だった。

 だから会話で気を逸らしつつ、ゆっくりと機体をずらすことで射線を外したのだ。

 偽装用のぼろマントが、その意図を上手く隠してくれていた。

 

『周囲、動体反応ゼロ、敵性体、認められず』

 

 サラがスコープドッグ・ショーティの頭部を360度回転、周囲を走査(スキャン)し危険が無いことを確認したうえで、バイザーを上げる。

 

「ふぅ」

 

 コズンもそれに合わせ、ヘルメットを脱ぎ去ると、冷たい新鮮な外気に素顔を晒し、息をつく。

 

「やれやれだぜ」

 

 と……

 

 晴天の夜明け、壊れかかったドームの天井越しに見える空には絵の具で刷いたかのようにうっすらと青みがかかり……

 朝焼けの朱が美しく差し込み始めていた。




 IFルート『本当にスコープドッグが造られてしまった場合』だと、ホワイトベース脱走後のコズンがどうなるか、という閑話でした。
 本編であったコズンのむせるストーリー。
 やっぱりこういうシチュエーションにはスコープドッグが似合いますよね。
 それも貧乏の極みのスクラップからでっちあげた欠損機体。
 チープさがたまりません。

 そしてコズンも、スコープドッグ・ショーティ搭載のサラというヒロインを得たことで、きれいなコズンになっていそうですよね。
 マンガ『ファイブスター物語』のブルーノとかみたいな、誰これ、別人!? レベルで美化されていそう。

 ではまた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。