ティアナ様は告らせたい~少女(一部女性含む)たちの恋愛頭脳戦~   作:アルブレヒト・ミュンヒハウゼン

6 / 21
これまでのあらすじ
ユウキをめぐる『女の戦い』のはずなのに、なぜかユウキが参戦していた。


今回のみ? の注釈

「今回は参加者が各々動きますので、その視点移動の目安として"side:"という表記を使います」
「作者が名前全部打って"F10"叩くの面倒くさい、というので、頭文字を使用しています。
 ただ、マコトさまとマホさま、主さまとユイさまがかぶりますので」
「マコトさんとマホさんならそれぞれ"T"と"H"、という具合ね。
 でもコロ助、"Y"だとユイ……さんはそのままで、ユウキは"A"なの?」
「"あ"っるじさま~☆ 、の"A"ですよキャルちゃん♪」
「完っ全に主観ね。まぁいいけど」

「ペコさん?」
「えへへ、呼んだだけ、で~す♪」

「ぶっころします……」
「ちょっとコロ助……それあたしのマネじゃないわよね、すごい実感伴ってるんだけど!?」


ペコリーヌは超々々食べたい

 今回は審査員として参加しているはずの【美食殿】のキャルが、なぜかメガネをかけて実況を開始する。

「さぁ、試合開始ね。

 皆が一斉に……おっと、まだ二人が動いてないわね」

 

 

side:T

 

 料理開始が宣言され、皆が一気に動く中、桔梗色のエプロンを着込んだ【自警団(カォン)】のマコトはまず大きな鍋に水を入れ、コンロに掛けた。

(チャーハンといえば、スープを付けるのが常道だろっ!!)

 お湯は沸くのに時間がかかる。そのため、先んじて沸かしておく必要がある。

 60分あれば余裕とは言え、後で必要量が確保できずに焦るよりは早め早めに動いておく。

 否。

 60分で作り切るのではない。60分以内に全て終わらせるのが料理の鉄則だ。

 

「片方はマコト選手ね。マコト選手、鍋に水を入れ……火にかけたわ」

「流石ですね。先んじてお湯を作っています。やばいですね☆」

「どういうこと?」

「お湯はいろいろなことに使えますけど、すぐに沸かすことはできません。なので、一番最初にたくさん用意しておくと焦らずに済みます。

 それに、本来の目的は恐らくですがスープのため、ではないでしょうか」

「キャルちゃーん」

「は、はいどうぞ」

「マコト選手サイドです。仰る通り、まずはスープ用のお湯を作る、というお話が出ています」

「言ってねぇよ!!」

 

 ……バラされても気にしない。あネギとしょうがと鶏ガラ忘れてた。火を弱めて、と。

 即座に食材を取りに行きたいが、まずは調理台のサイズを頭に叩き込む。

(右手側に一歩と半分でコンロ。今は奥で大鍋を沸かしてる。こっちはほぼこのまま。で、手前はチャーハンやその他を作る。

 正面が流しで、両手を軽く広げたくらいの幅。水を出す簡易ポンプはほぼ中央。出はそんなによくない。屑入れは右側、軽く脇を締めるとすぐ。

 左手側二歩で作業台。広さは腕一本分に肘から先の奥行き、てとこか。あまり広くないな)

 攻撃役(アタッカー)の性か、つい拳や肘など、動きの少ない箇所で距離を測るが、それでいい。慣れないことをしなければ、思考は常に最小限で済む。

 把握の後は動きのイメージ。

(……作業スペースからコンロまでが三歩、てのが痛いな)

 チャーハンは火力も重要だが、調理速度も極めて重要だ。

(まな板をコンロ近くの流しの辺に渡して、簡単な作業台を作る)

 作り始めたらまな板は使わないのだから、そこに一人前のご飯や具材を並べておけばいい。

「……よし」

 イメージはできた。あとは作業に取り掛かるだけだ。

 取りに行く食材を頭の中で項目にしていく。

 

マコト特製・正統派チャーハン(一人前)

 

ご飯(冷)    …160g

卵        …100g(一個)

ネギ(白い部分) …10g

塩        …少々

胡椒       …少々

醤油(※)    …大さじ1

ごま油      …小さじ1

ラード      …大さじ2

 

豚バラ肉     …20g

醤油       …45ml

酒        …15ml

ネギ(青い部分) …10g

しょうが(輪切り)…5g

にんにく     …10g

 

ネギ       …10g

醤油(※)    …小さじ1

水        …120ml

 

 

side:S

 

「さぁ、試合開始ね。

 皆が一斉に……おっと、まだ二人が動いてないわね」

 

 そんなキャルの声を尻目に、【サレンディア救護院】のギルマス、サレンは黄蘗色のエプロンをなびかせ、既に食材を確保に走っている。

 意外に素早い【王宮騎士団(NIGHTMARE)】のギルマス、ジュンは既に肉のゾーンに到着している。そのジュンの向こう、【自警団(カォン)】のギルマス、マホと【トゥインクルウィッシュ】のユイは野菜側のようだ。

 そんな中、サレンが狙う食材はなんと魚介だ。

 

 サレンが普段作るチャーハンはご家庭のしっとり系で、具材をたっぷり使う。というのも、サレンにとってチャーハンは余った食材を消費してしまうためのメニューだからだ。そのため、中身は毎回異なる。ただ、味付けは毎回ほぼ同じ方向性にしているため、救護院の子どもたちもそれなりに楽しんで食べてくれる。

 だが、今回は余り物チャーハンではない。好きな具材を使い、それだけで楽しめる、メインとして扱われるチャーハンだ。

 それに、せっかくのチャンスだ。合わせようとしても会えないのに、偶然ならよく顔を合わせるユウキに、今度こそ手料理を食べさせたい。そして、ユウキと一緒に食べたい。

 ただそれだけだ。それに、なんというか、ユウキとの思い出が焼きそばパンしかない、というのも悲しい。もっと、いろいろな思い出を作っていきたいのだ。

 あとで一緒に振り返った時、あの時はこうだったとか、そんな話を……

(ダメね、妄想がダダ漏れ)

 顔が熱を持っているのを自覚すると同時、思考を切り替える。

 

 勝つためにここに立っているのだ。勝った後を考えることは、まだ許されていない。

 なんでもは知らないが、サレンは自分を知っている。

(あたしは天然万能令嬢(アキノさん)じゃない。泥臭く努力してこそ勝利は輝く。常に挑戦者!!)

 挑戦者ゆえ、貪欲に勝利のために一歩一歩積み上げる。

 そこで考えたのが、チャーハンにひと味足す、という作戦だ。

 美味しいものに美味しいものを足せばもっと美味しい、という失敗パターンはやらない。

 ……キャラとしては求められているようだが。

 

 もちろん、日常的に料理をしているだろうマコトには及ばない部分はある。だからといって、最初から負けるとは思っていない……という考え方で戦ってはダメだ。

 負けない、ではない。勝ちに行く。常にそれだけを考える。

 そこで、勝つために美味しいだけでなく目新しいものを作り、大きなインパクトを加えることで加点を狙うことにしたのだ。

(ふふっ、強みを更に伸ばす。あいつの能力みたいね)

 チャーハンをより強化する素材は先程見つけた。普段ならそんな高級食材に見向きもしないが、今回は先んじてすかすかの玉ねぎ、芽の出たじゃがいも、しなびる寸前のにんじん、そして卵を提供しているため、後で費用を請求されることはない……はず。

(出すもんは出したわ。それで文句あるなら……【王宮騎士団(NIGHTMARE)】に対応してもらおっと)

 文句を言ってくる相手が【動物苑】だとしたらその対応で間違いはない。まぁ戦争になるだろうが知らん。【自警団(カォン)】だったら……後で謝ろう。

 

 食材の置いてある机に鎮座する()()を手に取る。採取した当時の形を保っている()()は大きいが、既に戻してあり、サレンの白い指に独特の柔らかさを伝えてくる。

(よかった、既に下処理はされている。なら、後は味を整えて煮込むだけ)

 乾燥したものを戻して、なんてやっていたら数日は掛かる、と聞いたことがあるのでありがたい。

 盛られている皿ごと抱えると、一旦自分の調理台へと戻る。少し水が入っているので、そのまま持ち歩くのは不便なためだ。

 

「ペコリーヌ」

「きゃあーレイ様ーッ!!」

「ちょっとツムギ。ここは関係者以外は立入禁止だ。どこから入ってきたんだ?」

「ひどいですレイ様。今回のエプロンは私が用意したんですよ!! つまり私も関係者!!

 そして!! なぜ!! レイ様の!! エプロン用意したのに!! 出場してないんですかッ!!」

「そ、そうだったね。でも後にしてくれないか?」

「わ、私のために料理をしてくださるんですか!!」

「……当て身」

「どすっ」

 

「……気を取り直して。ペコリーヌ」

「はいはいレイさーん。サレンさんが手にしたもの、でしょうか?」

「ああ。サレンは目玉食材のひとつ、シャークヘッドレイの背びれを使うようだ」

 

 サレンは叫ぶ。

「え、これシャークヘッドレイなの!?」

 

~シャークヘッドレイ~

 海蝕洞の支配者として君臨する、サメエイの魔物。凶猛な欲望を全て捕食に注ぐ海の大悪党

 

「いやぁ、大変でした」

「え、あんたが取ってきたの!?」

「危険でございますよ、ペコリーヌさま。こういうときにわたくしたちがいると、以前」

「いえ、ユウキくんが手伝って……あ」

「……以前ではなく、あとでお話があります、ペコリーヌさま」

「……奇遇ねコロ助、あたしもアホリーヌに言いたいことがあるわ」

「や、やばいですね☆」

 

(……それ、あたしも追加で)

 ともあれ。

 通りで大きすぎると思った。ただ、思っていたよりはきれいな繊維で構成されており、美味しそうと言えば美味しそうだ。

 魔物だが、手にした以上は使う。美味しそうだし。

 

 サレンの驚きの叫びと重なるように、解説席からも悲鳴が上がる。

「というか、また魔物ぉ~!! 前回一切出てこないから油断してたぁ~!!」

「大丈夫ですよ、キャルちゃん♪ シャークヘッドレイのヒレは通常のフカヒレよりも味わい深く、そしてコラーゲンが豊富なんです。

 つまり、美容に最適♪ キャルちゃんのつるつるたまご肌が摩擦係数ゼロに。やばいですね☆」

「ちょ!! 妙に接触多くない!? それに触り方が妙にねちっこいっていうか、ああもう!!」

 うるさい外野を意図的に無視し、食材を揃える。

 

サレン特製・フカヒレあんかけチャーハン(一人前)

 

ご飯(温)        …180g

卵            …100g(一個)

塩            …少々

胡椒           …少々

醤油           …小さじ1

植物油          …大さじ1

 

シャークヘッドレイの背びれ…60g

水            …200ml

醤油           …大さじ1

しいたけ(小)      …15g

しょうが(輪切り)    …5g

しょうが(すりおろし)  …5g

鶏ガラ          …100g

酒            …大さじ1

砂糖           …少々

片栗粉          …小さじ1

 

 全ての食材を確保し、調理に移る。

 きれいに洗ってある鶏ガラを軽く割り、小さめの寸胴に水と一緒に入れる。

 火にかけてから、小さく切ったしいたけ、輪切りのしょうがを入れる。こちらは沸くまでこのまま放置。

 その間、もうひと口には深めのフライパンに水を張り、10個に切り分けた背びれを入れる。

 小さいだけあり、すぐに煮立つ。それを見計らって、すりおろしたしょうがを投入。少し磯臭さを感じたので、匂い消しのためだ。

 軽く湯がいて取り上げ、冷水に晒して洗う。これで下ごしらえは完了。

「さてと」

 胸下で腕を組む。

 少しだけ手が空いたので、簡単に手順を構築する。

(大きめのフライパンで、一気に10人前を作る。

 火力はいいわ。だってウチと同じくらいだから。なら、慣れない方法を採用してあれこれ考えるより、慣れた方法で仕上げた方がいい結果が出るわ)

 まずは寸胴が沸くのを待つ。

 

 

side:J

 

「さぁ、試合開始ね。

 皆が一斉に……おっと、まだ二人が動いてないわね」

 

 王宮内で聞き覚えのある声を背に、菫色のエプロンを装備したジュンは既に食材の並ぶ机に到着していた。

 まず狙うのは肉。それも、脂のしっかり乗った豚の肩肉。比較的ガッツリと食べる時に選びそうな食材だ。

 

 ……審査員がほぼ全員女性であることを忘れているのではない。これにはジュンの思惑がある。

(みんなはチャーハンであることを全面に押し出してくるだろう。何しろチャーハン対決だからな。

 だが、それでは横並びになってしまい、優劣をつけにくい)

 そう。

 ペコリーヌの提唱したチャーハンの定義は、『卵とお米を炒めたもの』。つまり、食感や大まかな味わいで差はつけにくい。ずば抜けるためには相当の自信がなければ難しい。

 そして、それをしてくるのはマコトだと確信している。何しろ、彼女は日常的に料理を作る人間だ。となれば、正統派のチャーハンという、最大にして最強の一手で勝負を仕掛けてくるだろう。

 対するジュンはというと、ほぼ毎日料理はするが、それは自分が食べる分のみだ。

 人様に出しても恥ずかしくない腕前だとの自負はあるが、普段はいくつかの工程を省くことで手頃に食事を済ます、いわゆる手抜き料理に近い。

 手の込んだ調理ができないわけではない。ただ常日頃からやっていないのでどうしても億劫……今回のように大量に作るとなると、手順がかさむし味つけにムラが生じやすい。

 そのため、マコトの繰り出す一撃を普段通りに正面から防ぎ切る自信は、正直ない。

 だから、搦手を使う。

 

 チャーハンをメインではなく付け合わせとしてしまい、それ以外の料理をメインとする。

 

 品数は問わない、ということはジュンの考える方針でも構わないということになる。ならば、与えられた条件を最大限に活用する。

 兜のスリット越しでも分かるような、赤と白が混在した肩ロースを手にした皿に載せる。

 そのまま、隣の野菜コーナーに向かう。揃えるものは決まっているので、後は見つけるだけ……兜、脱いでいいかな?

 

ジュン特製・青椒肉絲チャーハン(一人前)

 

ご飯(温)      …150g

卵          …100g(一個)

塩          …少々

胡椒         …少々

醤油         …小さじ1

植物油        …大さじ1

 

豚肩ロース(細切り) …100g

ピーマン(細切り)  …30g

たけのこ(細切り)  …30g

しょうが(すりおろし)…5g

にんにく(すりおろし)…5g

酒          …大さじ1

醤油         …大さじ1/2

片栗粉        …大さじ1/2

ラード        …大さじ1

ごま油        …小さじ1

 

酒          …大さじ1

醤油         …大さじ1/2

片栗粉        …大さじ1/2

砂糖         …少々

水          …大さじ1

 

 食材を確保し、ずらり、と作業台に並べる。数は多いものの、工程そのものはそう多くない。全てを熱々で出したいので、タイミングが勝負だ。

 

(青椒肉絲は出す直前で仕上げればいいから、まとめて調理。チャーハンは……ちょっと面倒だけど、一回で二人前作る形に)

 面倒、というのは動きがそれだけ多くなるためだ。そのためには体をこれまで以上に円滑に動かす必要がある。

 ……そう、円滑にしなくてはならない。そのために、やることがある。とても重要だ。

「ふぅ……」

 知れず、口から空気の塊が漏れる。

 大丈夫。ここには信頼できる者ばかり。既に見られてしまっている相手も少ないながらいる。ちょっと増えるだけ。

 なし崩しというか、勢いでこの対決に参加することを決めた時に覚悟はしていたものの、やはり時間経過は決断を鈍らせる。

(大丈夫。家の威光を汚すわけではない。いや、ここで勝てないことこそ、家だけでなく王家に泥を塗ることになりかねない)

 一応名義としては【王宮騎士団(NIGHTMARE)】となっているが、実際に金を出してくれたのはなんと『陛下』だ。もう少し丁寧に言うと、『陛下』の従者からの、

「ジュン団長。『陛下』から、善処しなさいとのお言葉を賜りました。己の職務を全うなさい」

 という言付けと、王家の宝物庫から出してきた妙な棺桶のような装置と金の延べ棒一本だ。

 棺桶のような装置はともかくとして、延べ棒は流石に公私混同ということで、会計処理は広告宣伝費として計上しようとしたが、

「ふむ? 団長、延べ棒(これ)では使いにくかろう。

 どうだろう、ワタシの『事業』に出資、と言う形で回してくれないか☆ その代わり、ワタシから現物を支給する。必要な食材をリストアップしてくれればそれでいい☆」

 というクリスティーナの申し出を受け、出資とした。

(……あれ、これって資金洗浄(マネーロンダリング)?)

 とんでもないことに気付いてしまった。

 ……いや、冷静になってはいけない。もうこうなれば勢いだ。

 やけく……勢い任せに、ジュンは自身の兜に手をかけ、そして。

 

「キャル!!」

「はいどう……ぞぉ!?」

 

 スリット越しの狭く、薄暗い視界から開放され、広く明るい【自警団(カォン)】の一室が目の前に広がる。

 そこは壁は白を基調としており、全体的に柔らかい印象を抱かせる部屋だ。カーテンや調度品も暖かさを与える色調で、落ち着きを得られる。

 何度か来ているはずだが、こうして異なる視点を持つと捉え方も変わる。

 同時、兜を取った動きに合わせ、顔横に流していた菫色の髪が一房ふわり、と動く。軽く頭を振り、兜で押さえつけられていた髪の毛を遊ばせると、耳の外側をちりちり、と断続的にくすぐる。常に鎧を着込んでいるジュンにとって、この感触は自分をさらけ出した時のみに感じられるこそばゆさだ。普段であれば自室のみで行う特別な意味を持つ動きだ。それをここ、獣人のテリトリーで行う日が来ようとは。

 否。

 今回の一件。どうにも動き方が違う。何か、獣人側での動きを読み、それを受け入れるかのような柔軟さを持っている。

 これまで種族に対しては総じて静かな敵対関係を築いてきた『陛下』にしては、

(……『陛下』を推し量ることはすまい)

 再び首を軽く振り、大きく息を吸い込む。

 普段使いしているシャンプーの爽やかな香りに混じって、少しだけ汗の臭いがする。兜で蒸れたせいだろう。恥ずかしさはあるものの、こればかりはやむを得ない。それに、これから料理の匂いでごまかせるはずだ。

(……よし)

 余計な事を考え、少しだけ気分を変えることができた。考えることは止める事ができなくとも、目の前の大事に集中すれば一旦考えずに済む。

 兜を取り、正面を見据える。今回は目元を覆うマスクもなしだ。あれもあれで視界を狭めるので厄介なのだ。

 

「……驚きました」

「ジュンさま……このようにお美しい方とは……」

 

 審査員席から聞こえる言葉に、思わず顔が熱を帯びるのを自覚する。そして、それだけのことをしでかしている実感も、じりじり、と胸を焼く。

「言わないでくれ、コッコロちゃん。か、かなり恥ずかしいんだ……」

 思わず、手と体が、晒してしまった顔を隠そうと動く。

 だが、意思を込めてその動きを止め、ぐい、と背筋を伸ばす。

 そして、ぐるり、と周りを睥睨する。一部は見ていなかったり感情が見えにくかったりはするが、一様に驚きを浮かべている。

 その反応に、少しだけ落ち着きを取り戻す。

 そして、

「兜を取らなければ、少年と食事もできないからね」

 改めての宣戦布告を行う。

 

 

side:H

 

「さぁ、試合開始ね。

 皆が一斉に……おっと、まだ二人が動いてないわね」

 

 キャルの声には耳を傾けず、マホは白茶色のエプロンを体に従わせ、野菜の並ぶ机へと向かう。

 先に肉の机に黒鉄の鎧が向かうのが見えていたこともあるが、一番は狙っている食材がありきたりなものだからだ。狭いところに多くの人間が来れば、軽量なマホでは満足に選ぶことができない。マコトは見ての通り熱中すると周りが見えなくなるし、サレンもなかなかに強情なところがある。体格もいいので、いいところを押さえられてしまう。

 ジュンなど飄々としているように見えて短絡だ。突き飛ばすような真似はしなくても、押し返せない時点でマホの負けだ。

 ユイは知らん。

 

 そもそも、マホには余裕がない。

 正直、マコトには太刀打ちできない。何度か【自警団(カォン)】で振る舞ってくれたことがあるが、とても美味しかった。手放しに称賛できる。

 そして、マコトはその手腕を遺憾なく発揮する。となれば、正統派のチャーハンを出してくる。

 では工夫を、と思うが、チャーハンにそこまでの創意工夫を凝らしたところで味わいに変化が出るとは思わない。

 チャーハンと相性のいいおかずのようなものを足す、とも考えたが、マホはそこまで料理が得意というわけではない。基本的な料理はできるものの、応用となると料理本を見ないと自信がない。

 お嬢様として育てられたため、教育は十分だが実践の機会に恵まれなかったことが悔やまれる。

 ならば、

(うちが作れるチャーハンを丁寧に作って出すしかへん。てことは一人ずつにしまひょ)

 できることを粛々とやる。それしかない。

 それに、あまり勝敗にこだわっていない。マホとしては、知り合った皆で、お友達として楽しくご飯が食べられればいい。

 そのために【自警団(カォン)】の一室を開放しただけでなく、【動物苑】のお偉いさんに【王宮騎士団】団長(ジュン)との友誼を結ぶために手を尽くしてくれ、と頼んだのだ。

 当然難色を示したものの、マホも誠心誠意説得した。ジュンの人となりについてはもちろん、彼女の欠点である優しさや、獣人への理解があることも伝えた。

 古今東西、組織は外敵に対しては強くとも、内部からの蚕食には弱い。その可能性を示唆すれば、【動物苑】とて耳は傾ける。今即座にことを構えないから用意をしないのはただの怠慢だ。取れる手段の数は増やすに限る。

 それに、【自警団(カォン)】の施設の開放を既に宣言した、ということも有利に働いた。

 既成事実による事態解決は不慮やたった一手の読み間違えでご破産になるが、関係構築であればそこまで悪いわけではない。何しろ壊れるものはなく、ただ積み上げるしかないのだから。

 その結果、【王宮騎士団(NIGHTMARE)】の団長や王国貴族子女としてではなく、ジュンというマホの友人であれば招くのにも問題はないし、友人を歓待するのに費用が足りないのであれば多少は援助する、という大幅な譲歩が加わった消極的な賛成を得られた。

 

 それだけで、今回の騒ぎを起こした当事者のひとりとしては満足だ。付け加えると、

(王子はんがうちの作ったご飯を食べる。それだけで幸せてんこ盛りや~)

 二人きりでなくてもいい。ユウキと食卓を囲めるだけで、マホにしてみればもう勝利なのだ。

 自然と顔が緩む。

 ただ。

 ちらり、と周りを見ると、皆必死というか、勝負する気マンマンだ。

 元から争うことがあまり好きではないマホにとって、この雰囲気は少々苦手だ。

(まぁ、皆はんと考え方が違ぅんは知っとりますけど)

 とはいえ、空気を読まないのも失礼かと思う。

(うちにできることをしましょか~)

 味ではなく、彩りや盛り付けで演出するのだ。多少の偏りはあるとはいえ、これならマホの得意分野だ。

 

マホ特製・愛情たっぷりマホマホ王国謹製チャーハン(一人前)

 

ご飯(冷)     …160g

卵         …100g(一個)

ベーコン(短冊切り)…30g

ネギ        …10g

酒         …大さじ1/2

塩         …少々

胡椒        …少々

醤油        …小さじ2

ごま油       …小さじ1

植物油       …大さじ1

 

 食材の争奪戦は発生しなかったので、ゆっくりと吟味できた。素材の善し悪しなどよく分かっていないが、とにかくきれいなものを選んできた。

 それより、マホにとっての問題はここからだ。

 

 まな板の上には、まっすぐに伸びたネギ。白く、繊維がしっかり縦に走っているのが見て取れる。たぶん新鮮な証拠なのだろう。

 そっと左端を押さえ、右手にした包丁を恐る恐る握りしめてから、これでは切っている最中にぐらぐらと揺れそうだと気付く。なので、右端から数センチ分内側を支え直す。

 そして、ゆっくりと包丁を右端に添える。

 しゃく、と包丁の刃がネギに食い込む音が耳に、感触が添えている左手に伝わってくる。ただそれだけなのに、体にぶるり、と小さな震えが走る。

 

 きちんと伝えておくと、マホは包丁を使うのは得意ではないのは事実だが、恐れているわけではない。過去に指を切ったとか、そういう痛い話もない。

 マホの凝り性な性格が災いし、全てを同じサイズに切りたがるため、とにかく切るのが遅い。

 それに、今回は周りの空気を読んでしまった。その結果、味での勝負ではなくより見栄えを重視する思考へと転換され、とにかくきれいに切りそろえ、きれいに炒め、きれいに盛り付ける、を至上とした。

「そぉーっと、そぉーっと」

 ゆっくりと、ネギの繊維を断つ。しゃくり、しゃくり、と音は小気味好いが、包丁がまな板を叩く音はスローテンポすぎる。まるで楽譜を確認しながら演奏しているかのようだ。

 そのため、一瞬だけ周りがどよめいたようだがマホには気にする余裕がまったくなかった。

 

 ベーコンも同じ調子で切り終えた頃。

 

「残り時間、あと20分でございます」

 

 コッコロの声が響く。

 

 その声を受け、さぁ、と血が落ちていく感覚を得る。

「……あかん。あと20分しかへん」

 

 

side:Y

 

 珊瑚色のエプロン姿のユイは、皆がすんなりと取り掛かっている中、一人あたふたしていた。

 マホと同時に動き出したのはいいが、食材をどうするか、なんて一切考えていなかったのだ。

 それもそのはず、この戦いには勢いだけで参加したのだから。

 

 一昨日はユウキが話題になっている、というだけで参加表明をしてみたものの、その後思い切り後悔した。

 趣味は料理と明言しているし、マコトほどではないが得意だと断言できる。何しろ実践の回数が多い。ほぼ毎日のように複数の品を人数分作っていれば嫌でも効率よく、そして品質を一定にできるようになる。年頃の女性と比較しても、相当できる方だろう。

 その点で後悔しているわけではない。

 

 もちろん、味にも見た目にも自信はある。ないのはユウキに食べさせるための勇気だ。

 これまで、何度か食べてもらえそうな機会はあった。

 でも、その全ての機会をふいにしてしまった。全ては自分の引っ込み思案というか、踏み込めない性格ゆえなのだが、それ以外にもどうしても自信が持てなかったということもある。

 

 恥ずかしさもある。何しろ、ほぼ身内相手にしかご飯を作ったことがない。

 それに、作る機会もなかった。

(料理を作ってあげるってことは、相手とか自分の家に招いて、ってことだよね……)

 奥手で真面目なユイにとって、手料理は家で作ったものを家族やそれに類する関連の相手と食べるもの、という思い込みに近い捉え方をしていた。

 でも、この戦いの勝者はユウキに食べさせることができるという。

 家族やそれに類する関連の相手でないユウキに、手料理を!!

 その一点にのみ思考が集約され、参加を表明したのだ。

 

 ……分かっている。完全に思考の暴走だ。

 考えてみれば、日頃からヒヨリやレイには手料理を振る舞っている。そして彼女達はユイの仲間であり、家族やそれに類する関連でもない。

 その考え方をユウキにも適用すればいつでもどこでも手料理を振る舞える。

 もっと気楽にしたいなら、【美食殿】と合同クエストを受注し、泊りがけで行えばよかった。

 そのことに気付いたのは今朝、ベッドの中だ。

 

 それと、焦りだ。

 ユウキへの色恋沙汰は自分だけの専売特許だと思っていた。思い込んでいた。

 でも、蓋を開けてみればこの通りだ。

 否。

 どこかで気付いていた。

 マコトの思慕も、ペコリーヌの親愛も、コッコロの献身も、キャルの屈折も、ヒヨリの爛漫も、レイの達観も。

 全て、ユウキを好ましく思う気持ちが一番奥にあることに。

 そして、どの想いもユイに負けず劣らず、燦然と輝いている。

 サレンやジュン、マホとはほぼ初対面だが、恐らく彼女達も、ユウキへの想いは並々ならぬものがあるのだろう。

 

 だから、前に進めなかった。

 

 告白しても失敗するかも、という戸惑いはある。それがユイの抱える最大のボトルネックであることは間違いない。

 ただ、それだけではなかった。

 自分が告白することで、今の環境が一変してしまうことが怖いのだ。

 表面上は変わらないだろう。皆、それくらいの分別は……あると信じよう。大丈夫、このメンバーなら最後衛だから。

 でも、それ以外では変わってしまう。それは確信を持てる。

 それが嫌だった。

 ユイにとっては念願だ。祝福はされたい。

 でも、ユウキを通じて知り合い、形成された集団、そして関連を崩すくらいなら、と思ってしまうのだ。

 分かっている。欲張りなのだ。

 ただ、今それと向き合ってもしょうがない。既に勝負は始まっている。

 手を動かさなければ、ユウキにご飯を振る舞うことさえできない。ただ、先の思考は長続きしそうだ。それで手が止まってしまっては意味がない。

 だから、自分の手慣れた方法で作れるチャーハンにする。

(……10人分なんて一気に作ったことないから、二人ずつくらいで)

 

ユイ特製・ユイちゃんのチャーハンだから「ユイチャハーン」(命名:ヒヨリ)(一人前)

 

ご飯(冷)  …130g

卵      …100g(一個)

ハム     …15g(一枚)

ピーマン   …20g(1/2個)

玉ねぎ    …20g(1/4個)

ソーセージ  …15g(一本)

酒      …小さじ1

塩      …少々

胡椒     …少々

醤油     …大さじ1

植物油    …大さじ1

ごま油    …小さじ1

 

 用意する量が多いので、まずは食材を切りそろえることから始める。

 

 

side:A

 

「さぁ、試合開始ね。

 皆が一斉に……おっと、まだ二人が動いてないわね」

 

 動いていないのはマコト、そして藍鉄のエプロンを身にまとうユウキだ。

 左手は机を押すように置かれ、右手は少しだけ中空に浮かせている。時折動いているのまでは見えるが、それ以上のことは分からない。

「……作業台に向かったままですね?」

 しびれを切らせたペコリーヌの指摘に、

「キャルちゃーん」

 リポーターのヒヨリが声を上げる。

 

「はいヒヨリちゃん」

「いや、一応あたしが答えてから……まぁいいわ」

「騎士クンサイドだけど……ああっと、騎士クンは『お品書き』!! 『お品書き』を書いてるよっ!!」

「なんと……素晴らしいです。シンプルながら、その言葉に込められた思い!! 勝利のためなら嵐の中にでも我が身をなげうつその覚悟、流石でございます!!」

「……どっかの記者と混線してない? いや規模感全然だけど。

 というか……あいつ文字書けるんだっけ?」

「キャルさま、流石にそこまでではございませんよ」

「ええと、ちょっと見せてね……騎士クン、これ間違ってるよ。"そ"は、こう」

「あ、そうか。ありがとう、ヒヨリ」

「うっ……うん……この程度なら、あたしでも教えてあげられるからねっ!! どぉんどん頼ってよ!!」

「わかった」

 

 コッコロの表情は穏やかそのものだが、

「この、泥棒猫が……」

 声色は全く穏やかではなかった。

「怖い怖い怖い!! コロ助の一言一言があたしにも刺さるーっ!! ねぇ、あたしそんなことないわよね!?」

「やばいですね☆」

「え、あたしなんかやっちゃってた!?」

「で、ヒヨリちゃん。ユウキくんはなんて書いてるんですか?」

「お願いだから答えてぇー……」

 

「えっと、『チャーハン』、『スープ』だって」

「"そ"どこいった!! てゆーかその程度で書くな!!

 ……あ嘘、いいわねちゃんとメニューがあるって!!」

「はい、仰る通りですキャルさま。その『お品書き』は【美食殿】ギルドハウスに飾りましょう」

 

 書き終えたユウキは、そのまま食材収集へと向かう。

 毎日にようにコッコロと一緒におつかいに行っているため、鮮度のみきわめはできる。それに、値切り交渉などの厄介もないため、ゆっくりと見定めはできる。

 そうして集めたのは。

 

「キャルちゃーん」

「はいどうぞ」

「騎士クンの用意した食材なんだけど……えっと、マコトのとほぼ同じなんだよね」

 

ユウキ特製・チャーハン ~マコトちゃん風~(一人前)

 

ご飯(冷)    …160g

卵        …100g(一個)

ネギ       …10g

酒        …小さじ1

塩        …少々

胡椒       …少々

醤油       …大さじ1

ごま油      …小さじ1

ラード      …大さじ2

 

ネギ       …10g

醤油       …小さじ1

水        …120ml

 

「これは……えっと……」

「主さま……えぇと……」

 思わずキャル、そしてコッコロも言葉を濁すものの、各々の顔には、『本人がいるのに、真似をして勝てると思っているのか』、とありありと書かれている。

 だが、

「ふむ」

 ペコリーヌはひとり、軽くうなりながら指を顎に添える。その表情には、この状況を少しだけ面白がるような色が見える。他の面々とは異なることを思ったようだ。

 

 ユウキは包丁を操り、ネギをお米と同じくらいの大きさに揃えていく。その動きは基本そのもの。左手は猫の手にしており、右の動きは丁寧で危なげがない。しかも素早い。

「……意外ね」

「主さまはよく夕食のお手伝いをされておりますので、下ごしらえはお得意でらっしゃいます」

「ええ、助かってます」

 あっという間に一本分のネギをみじん切りにすると、次に手にした一本は輪切りにしていく。

 

「キャルちゃーん」

「はいどうぞ」

「騎士クンサイドでーす。ネギの切り方が二種類あるんだけど、確認したところ輪切りはスープ用だそうでーす」

「……はい、ありがとうござい」

 

 そりゃお品書きにスープってあればそうでしょうというよりいい加減他行きなさいよあんた絶対ユウキのところから動く気ないでしょ見え透いてんのよあんたのせいでこっちまでコロ助に目ぇつけられてんだからいい迷惑なのよ、という言葉ではなく、常識的な相槌を言い終える寸前だった。

「キャル!!」

 レイの発した声で遮られる。彼女の切羽詰まった声は珍しく、即座の対応を求められていると理解できた。

 声の発せられた方へと向けた視線の先。そこは【王宮騎士団(NIGHTMARE)】団長、ジュンにあてがわれた調理台だ。

「はいどう……ぞぉ!?」

 目の前で生じた行為は、これまでに発生し得なかった事態だ。そのため、思わず声が上ずってしまう。

 『陛下』であっても……あ、『陛下』は関心持たれてなかった。他の団員がなんと言おうとも応じなかったジュンが、自分の意志で、しかも敵地で、素顔を晒したのだ。

 家訓だのなんだのは本人からも聞いていた。その事実を知っているからこそ、キャルは言葉が出ない。

 だが、

「……驚きました」

 ペコリーヌもなぜか驚きを示している。

 否。

(そうか……いや、そうよね。()()()()()()()()()()()()()()()

 思考を濁す。

 そして、

「ジュンさま……このようにお美しい方とは……」

 コッコロはまた違うことで驚いていた。

 それはキャルも認める。目元やまとう雰囲気はやや尖った印象を受けるとは言え、全体的に均整の取れている美貌だ。レイに近い、クールビューティーといったところか。

 それは本人にも自覚があるようだ。

「言わないでくれ、コッコロちゃん。か、かなり恥ずかしいんだ……」

 無意識にか、手と体が晒した顔を隠そうとしている。

 だが、ぴたり、と止める。そして、顔を真赤にしながら胸を張ると、ゆっくりと、しかし少し引きつった笑顔を浮かべ、

「兜を取らなければ、少年と食事もできないからね」

 勝利宣言をのたまう。

 

 

side:T

 

「既に勝った気でいるってわけか、ハハッ!!」

 犬歯をむき出しにして、獰猛に笑い飛ばす。

 

「まだ早いぜ、団長さんよ!!」

 

side:S

 

「久しぶりに見たわ、ジュンさんの素顔」

 驚きもあるが、懐かしさが勝る。

 

「まだ勝負はついてないわ、団長!!」

 

side:H

 

「……」

※ネギ二本目、2/3を刻み中

 

side:Y

 

「……え、人入ってたの?」

 というか。

 

「あの人【王宮騎士団(NIGHTMARE)】の団長なの!?」

 

side:A

 

「やっぱりきれい」

 

「やめてコロ助、ちょ、それペコリーヌの剣!! それになんか服がす、透けてる!!」

「おー、やばいですね☆」

「って、あんたもなんか背中変!! いいから止まんなさいよーッ!!」

 

side:S

 

 審査員席から、不穏分子を誅する絶好の機会、とか、自発行為だから嘱託殺人にはならない、とか聞こえるが聞こえなかったことにする。大丈夫、法廷では有利な証言するから。

 同時、ジュンの行動には驚いたが、それはそれ。以前よりきれいになっているのは……今は考えない。

 サレンは自分のやることをやる。それだけだ。

 

 フライパンに切ったフカヒレを並べ、寸胴に作った鶏ガラの出汁を流し込む。

 醤油と酒、砂糖を入れてとろ火で加熱し、味を染み込ませる。念の為、しょうがで匂い消しをするがそれは味を整えてから。

 味を整えたら、水溶き片栗粉を入れてとろみをつける。

 

 続いてチャーハン。

 一度で全部を作るので、まだ時間があるうちに着手しなくてはならない。

 とはいえ、今回はあんかけがメインなので、チャーハンはシンプルに。あんかけと絡みやすいよう、しっとり系のチャーハンに仕上げる。

 

「残り時間、30分でございます」

「折返し時間よ。皆、動き続けているわね。ただ、まだ炒めている人がいないけど、大丈夫なのかしら」

「チャーハンはアツアツが大事ですから、皆炒めるタイミングはバラバラになりますよ」

「ふーん……」

 

「キャルちゃーん」

「はいどうぞ」

「サレン選手サイドです。これから炒めに入るようです」

「いや、まだだけど……いいか。始めるわ」

 

 なんでフライング気味なんだろうか。

 宣言されてしまったので炒め始めることにする。

 

 かなり大きめのフライパンを取り出し、植物油をフライパンの底に溜まるくらい注いでからコンロに掛ける。

 卵は全て割ってしまい、先に撹拌しておく。

 そして。

 

「おーっとサレン選手、いきなりほかほかのご飯を投入。しかもかなりの量ね」

「えっと、わたくしの知る手順ではありませんし、全員分を作られるのでしょうか……?」

「炊きたてのご飯の場合、ご飯、卵の順番にすると、ご飯一粒一粒に卵がコーティングされやすくなるんです。

 あんかけチャーハンなので、この方法は理に適っていると言えます。

 それにしっとり系に仕上げるなら、ご飯をぱらぱらにする必要もありませんから、一気にやってしまった方が時間の短縮にもなります」

 

 流石詳しい。そのとおりだ。というかその位置の人は調理法や目論見をバラしちゃいけないって不文律あったと思うんだけど。

 

 木べらを使って、ご飯をフライパンに広げていく。時折下から上へとひっくり返して、まんべんなく油を行き渡らせつつ焼きを入れていく。

 表面のお米にも油のテカリが見えてきたので、溶き卵をぐるり、と回し入れる。

 ここからは素早く動く。

 木べらでフライパンの側面のお米を内側に入れて少しフライパンを揺する。そして、横に切るように木べらでかき混ぜる。素早くかき回し、均しては再びかき回す。

 それらの動きを繰り返して、全体に卵を絡めていく。

 

 フカヒレの様子も見ておく。縁に接した出汁がふつふつ、と小さな泡を吹き出し始めている。軽くフライパンを揺すり、煮込みに偏りが生じないようにするのと同時、熱の入りを均等にする。

 味は少し濃い目。チャーハンをあっさりにしているので、あんかけで味を補う。

 

「残り時間、10分でございます」

 

 いつの間に、と思うが、既にほぼ完成している。後は盛り付けと味の最終調整のみだ。

 何も問題ない。順調そのものだ。

 

 

side:J

 

「残り時間、30分でございます」

 

 コッコロの声は聞こえたものの、ジュンの作業は既に佳境を迎えていた。

 何しろ、人より手間のかかる料理を加えたためだ。

 

 量が多いため、野菜を千切りにするだけでもかなりの時間がかかってしまった。視界が遮られるのを嫌って、兜を脱いで良かったとつくづく思う。手元を見ずに千切りなどしたくない。

 そのおかげもあり、つい先程全て切り終えた。

 

 続いて肉の下ごしらえ。

 肩ロースを、野菜よりもやや大きめに切っていく。肉に味をしっかりと入れて、食べ応えをよくするためだ。

 肉を大きめの器に移し、酒と醤油、すりおろしたしょうがとにんにくを加える。

 

「キャルちゃーん」

「はいどうぞ」

「ジュン選手サイドだけど、この料理はなんだろう……」

「こっちに聞かないでくださーい」

「これはオリジナルの青椒肉絲ですね。本来使われるオイスターソースは少々癖と味の強さがあるので、チャーハンに合わせるのは食べる人を選ぶと思うんです。

 そこで、しょうがとにんにくで漬け込むことで似たような、でもチャーハンを邪魔しない味に仕上げるんだと思います」

 

 武者修行の放浪の旅は無駄ではないようだ。食に偏っているのは少々問題がある気がするが。

 

 中華鍋にラードを入れ、コンロに掛ける。

 その間に、酒と醤油、水と砂糖を混ぜる。そこに、やや緩めの水溶き片栗粉を入れて混ぜ合わせる。味の染み込んだ肉に片栗粉をまぶす。こうすることで焼き付けた時、肉汁を逃さずに封じ込めることができる。

 

 中華鍋がほどよく温まってきたので、千切りにした野菜を投入。素早く全体に油をなじませ、炒める。

 軽く弾けるような音がしてきたら、一旦皿に移す。完全に火を通さず、肉と合わせた後で仕上げるためだ。

 ラードを足し、肉を入れる。すかさずお玉で押し付け、広げる。しばらく動かさないのは肉料理の掟だ。全ては肉汁を逃さないため。

 

 表面の色が白くなってきたらひっくり返すように混ぜる。軽く焦げが浮いていることに少しだけ笑みが溢れる。目論見通りだ。

 数度かき混ぜ、取り分けておいた野菜を合流させると、温度差と多少残っていた野菜の水分が高い音を立てる。そこに、先んじて作っていたタレを流し込む。

 タレが全体に混ざるように中華鍋を軽くあおる。そして再びお玉で軽くかき混ぜて火から下ろす。

 この段階ではここまでだ。後はチャーハンを仕上げた後に、鍋肌にごま油を回しかけて完成。

 

 新しい中華鍋に植物油を流し込んで火にかける。それなりに焼いておかないとパラパラのチャーハンにはならないためだ。

 その間に、作業台に広げていたご飯を集める。

 

「キャルちゃーん」

「はいどうぞ」

「ジュン選手サイドです。えーっと……」

「実はパラパラに仕上げるのに適しているのはこの炊きたてご飯なんです。といっても、すぐに使うのではなく、ジュン選手のように平たく均して水分を飛ばしておく必要があります。

 こうすれば表面の余分な水分は飛ばし、中のもちもちの食感は残すことが出来ます。この残ったもちもちも水分なので、炒めている時に適度に抜けていくんですね。その分、周囲の油や卵を吸収しやすくなり、コーティングされるというわけです」

 

 ……そこまでは知らなかった。というかヒヨリちゃん? が聞く前に答えていたね。それはどうかなぁ、と思うよ?

 中華鍋が温まったので、卵を二つ割り入れる。そして、お玉を使って中でかき混ぜる。周囲が少し固まったのを確認して、二人分のご飯を投入する。お玉で平たく均しながら焼き付けていく。

 

 そろそろ仕上げだ。

 再び青椒肉絲の鍋を火にかけ、チャーハンの鍋には薄く塩胡椒を振る。数度かき回したら完成だ。

 器に一人分をよそう。そして、ごま油を回しかけて仕上げた青椒肉絲を適度に乗せる。

「完成だ」

 すると、いつの間にか現れたコッコロができたての二皿を手に取る。

「お預かりします、ジュンさま」

 小さく一礼し、審査員席へと持っていく。

「ありがとう」

 青椒肉絲に火が入りすぎないように気をつけながら、残りの八人分を仕上げることにする。

 

 

side:Y

 

「残り時間、30分でございます」

 

 コッコロの声を受け、ユイはフライパンをふたつ取り出す。両方とも大きさは同じだが、炒めるものは異なる。

 まず、右側に置いたフライパンに植物油を敷き、温める。その間に、用意した具材を手元に並べる。

 

 温まったフライパンに、斜めに切ったソーセージを入れる。肉の脂を出すためだ。

 焦げないよう木べらで転がしながら、続いて細かく切った玉ねぎを入れる。軽く押さえつけ、火を通す。

 

「キャル」

「忙しないわね。はいどうぞ」

「ユイ選手サイドだけど、まずは具材を炒め始めたよ」

「ユイさまも、わたくしの知る方法ではございませんね。それに、フライパンは小さいように思えます」

「恐らく、ご飯と卵を合わせてから、火を通した具材を最後に混ぜ合わせるためでしょう。

 並んでいる野菜を見ると、水が出やすいものばかりです。これを全部一緒に炒めてしまうと、少ししっとりしてしまいます。

 そこで、先に炒めて油でコーティングして、後で一緒にするんです」

 

 へぇ~、そういう効果があるんだ。知らなかった。流石ペコリーヌちゃん。

 

 玉ねぎが透明になったのを見計らい、塩を振ってピーマンとハムを入れる。軽くかき混ぜ、きちんと塩と油を絡ませる。ただ、これ以上は加熱しない。合わせた時も加熱するためだ。

 続いて、もう一つのフライパンを火にかける。こちらでご飯と卵を炒めるのだ。

 ご飯と卵は二人分。流石に10人分のご飯を一気に炒めるだけの腕力はない。

 

 熱されたフライパンに、卵を注ぐ。すると、じゅわ、と甲高い音が響く。

 軽く木べらでかき混ぜ、ご飯を投入。なじませるようにかき混ぜた後、今度はフライパンに押し付ける。

 

「キャル」

「はいどうぞ」

「ユイ選手サイドだ。炒め始めたのはいいけど、ユイはフライパンをあおらず、ご飯をフライパンに押し付け始めたんだけど」

「あおらなくていいの?」

「ええ、あおるのは中身を宙に飛ばして、直接炎で炙ることが目的なんです。今回はご家庭火力なのであおらなくていいんです。

 それと、フライパンに押し付けるのは加熱のためですね」

 

 へぇ~、そうい【以下略】

 

 ざっくりとかき回した後、具材を掬い、一緒に入れてかき混ぜる。

 木べらで底をさらい、ひっくり返す。全体を切るように動かし、再び底をさらう。

 香ばしい匂いがしてきたので、フライパンの鍋肌から醤油を回し入れる。じゅわ、と水分が飛ぶ音をさせたら、再び木べらでかき回す。醤油は香り付けのためだが、少々の焦げも味わいになる。

 

 お米と具材、そして醤油の焼けた匂いが漂う。

「よしっ」

 火から下ろし、ライス型を手に取る。木べらで掬い、ふんわりと入れる。少しだけ押し込んでから皿へと乗せれば、

「一人前、完成だよ」

 するとコッコロが現れ、できたての二皿を手に取る。

「お預かりします、ユイさま」

 小さく一礼し、審査員席へと持っていく。

「お願いね」

 まず二人分だ。

 あと、八人分。

 

 

side:T

 

「残り時間、あと20分でございます」

 

 コッコロの声を受け、ここでマコトは動く。今までコンロに乗せていた茶色い液体が並々と入った鍋を下ろし、ラードを入れた中華鍋をコンロに乗せる。火力は最大にして、しばらく待つ。

 マコトの考えはシンプルだ。火力がご家庭用なら、時間をかけて加熱し続ければいい。

 一人前を作っている間、もう片方でもう一つの中華鍋を加熱しておけば、タイムラグを最小限にできる。

 スープはアツアツを提供するのではなく、やや熱いくらいにすることで具に入れたネギの香りを立てる作戦だ。

「おっと」

 持ち手にタオルを巻きつける。こうしておかないと持つことすらできなくなる。

 その間に、食材を用意する。

 

 さっきまで煮込んでいた鍋から、薄く茶色に染まった肉の塊を取り出す。塊のままの豚バラを、醤油と酒、ネギの青い部分、しょうがとにんにくで煮込んだ簡易チャーシューだ。

 これをやや大きめにカット。続いてネギの白い部分をお米と同じくらいの大きさに揃えていく。

 もう一本のネギは輪切りにしてスープ用に。

 

 卵は既に一人前ずつに分け、溶いてある。ご飯も同様、一人前に分けてある。

 中華鍋も十分に焼けた。

「うーっし」

 まずは溶き卵。

 真ん中のくぼんだ部分ではなく、その周りに流し込む。

 じゅわ、と激しく甲高い音が響く。それを気にせず、即座にご飯を投入。手にしたお玉で鍋肌に押しつける。押さえつけたまま、簡易チャーシューとネギを掴み、鍋に投入。

 決してあおらない。この火力であおっても効果は薄いし、かき混ぜるためならお玉で十分。

 軽くかき混ぜ、簡易チャーシューを煮込んだ醤油をくるり、と回しかける。

 再びお玉で軽くかき混ぜ、最後に鍋肌にほんの少しごま油を垂らせば、

「完成っと」

 お玉の中にできたてのチャーハンを入れていく。中華鍋の壁を使って押し込み、最後に中華鍋を軽くあおって全てを収める。

「よろしいですか?」

 いつの間にか現れていたコッコロに対し、

「あ、スープもあるからちょっと待ってくれ」

 輪切りのネギを入れた器に、簡易チャーシューを煮込んだ醤油をひとさじ、そして鶏ガラを炊いたスープを入れる。

「これで一人前だ。熱いから気をつけてな」

「承りました」

 小さく一礼し、審査員席へと持っていく。

 時計を見ると、ここまでで一分強。

 さて、あと九人分だ。

 

 

side:H

 

「残り時間、あと20分でございます」

 

 やっと野菜を切り終えたマホは、途方に暮れていた。本来考えていたやり方では間に合わないのは分かっている。

 なので、あっさりと切り替える。

 

 大きめの器に全ての卵を割り入れ、溶きほぐす。

 その間にフライパンに植物油を入れ、同時にベーコンを入れて温める。

 そして、溶き卵の入った器に、刻んだネギと冷ご飯を全て入れてしまう。

 

「キャル」

「はいどうぞ」

「マホ選手サイドだ。マホ選手はええと、ネギ入り卵かけご飯を作り始めたようなんだが」

「ふむ。

 最初にお伝えすればよかったのですが、実はチャーハンには正解がありません。ジュン選手のように炊きたてを冷やす方法もあれば、マコト選手のようにカンカンに焼いた中華鍋で一気に仕上げる方法もあります。

 そして、このマホ選手の卵かけご飯を炒める方法もまた正解なんです。ちょっと炒め方にコツは必要ですが、ある意味で一番簡単かもしれません」

 

 ベーコンが油を吐き出し始めたらベーコンと油を別に取り出す。この油で炒めるためだ。

 一人分のベーコンとベーコン油を戻し、一人分の卵かけご飯をフライパンに流し込む。

 手にしたのは菜箸だ。それで、ダマにならないよう一心不乱にかき回す。

 

「マホ選手流石ですね。そうなんです、すぐに固まってしまうので、とにかくかき回す必要があるんです。やばいですね☆」

 

 こっちは忙しい。振らんといて。

 とはいえ、たったこれだけなので時間はそうかからない。

 パラパラにほぐれたチャーハンを皿によそう。

「一人前、できたぇ~」

 すると、いつの間にかコッコロが佇んでいた。

「お預かりします、マホさま」

 小さく一礼し、審査員席へと持っていく。

「おおきに~」

 この作り方は忙しないが、あと九皿。

 

 

side:A

 

「残り時間、あと20分でございます」

 

 コッコロの声を聞き、ユウキは中華鍋を手に取る。

 マコトがチャーハンを作るところは何度も見てきた。それを真似ればいい……と考え続けて、はや20分。

 ユウキは未だ、ひとつも成功していなかった。

 

 理由は単純だ。これまでユウキはチャーハンをフライパンで作っていた。

 だが、今回はマコトの真似をして中華鍋を使用している。しかも使い方もマコトと同様、カンカンに焼いてから作り始めている。

 マコトほどの調理スピードがあればなんとか形にはなるだろうが、悲しいかなユウキには基本的な調理への知識しかなく、スピードを追求できる程ではなかった。

 

 それを理解しているレイは、実は何度かそれを指摘しようとした。

 だが、ヒヨリによってそれをことごとく阻まれていた。

 

「……ユウ」

「キャルちゃーん」

「はいどうぞ」

「騎士クンサイドでーす。ネギの切り方が二種類あるんだけど、確認したところ輪切りはスープ用だそうでーす」

 

 しょうがなく周囲を見たらジュンが兜を脱いでいたので叫んでしまったが。

 

 ヒヨリはレイに詰め寄る。

「レイさん、あたし達はあくまでリポーター。助言したらダメだよ」

「でもヒヨリ。このままじゃ彼は」

 だが、ヒヨリはこれまで通りレイの言葉を遮る。

「……レイさんは、なんで騎士クンに稽古付けてるの?」

 突然、全く方向性の異なることを言われて、レイは押し黙る。ヒヨリの言わんとしている事が分からなかったためだ。

「正直、騎士クンは剣技はそんな上手じゃないし、立ち回りも先読みができてない。レイさんに太刀打ちできるようになってきているのは、あくまでレイさんの呼吸を読めてきているから。

 何度も立ち会って、何度も模擬戦を繰り返したから、騎士クンは戦えるようになったんだよ」

 レイは小さく吐き出しながらつぶやく。

「……彼には、練習が足りてない、ということか」

 つ、と目をそらされる。

「まぁ……料理のセンスがないだけ、かもしれないけど」

 否定はできないが、

「……分かった。いずれにせよ、時間いっぱいは見守ろう」

 それも教育役の役割、というものだろう。

 苦笑する。

「やれやれ、難儀なことだ」

 

 結局、マコトが作り出したのを真似ることで、なんとか時間内で三人前を作ることに成功した。

 

 

審査(JUDGE)

 

 

 審査員席の中央。『味王』のたすきをかけたペコリーヌが立ったまま口を開く。

「まずは皆さん、お疲れさまでした。素晴らしい戦いでした。

 ただ、一点。皆さんに謝罪をしなくてはなりません。

 このような催しなので、優劣をつけるのが決まりなのですが……」

 そこで、言葉を切り、全員の顔を見回す。

 一様に疲労の色は見えるものの、それ以上にやりきった達成感が滲んでいるを見て取る。

 その事実に、ペコリーヌは破顔する。

「今回は皆さんが勝者です。つまり――」

 

「机を丸くくっつけて、みんなで食べましょう♪」

 

 キャルが苦笑する。

「まぁ、そうなるわよね」

 コッコロは最初から笑顔だ。

「まぁまぁ。ペコリーヌさまらしいご配慮です」

 

 ペコリーヌは続ける。

「皆さんの作ったチャーハンは、キャルちゃんが保温魔法を使ってアッツアツのままです。

 なので、急いで机のセッティングしちゃいましょう♪」

 

 

試食(TASTE)

 

 

 そこは、ペコリーヌの提唱した和気あいあいとした感じの食事会ではなく――

 

「ユウキの、ユウキの分くらいは……」

「自分の……味見しすぎた……」

「……少年の、どれだっけ……」

「……王子はんの、焦げてへん?」

「あーっ、騎士クンに食べてもらう分がー!!」

 

(つわもの)どもが夢の跡、でしょうか……」

 

 皆、薄々気付いていたと思うが、勝負中には言えなかったことがある。

 それを、最初から理解していたキャルが代弁する。

「……普通の女子がチャーハン10人前なんて、食べ切れるわけないわよね」

 

 第一、ユウキも一緒になって参加し、そして一緒に食べていれば優劣をつける意味が消失してしまった。そんな状況で、皆が食べ続けるはずもない。

 ただ一点。

 ユウキに、自分の作った分を食べてもらいたい。

 その初志貫徹だけはすべし、という鋼鉄のような硬い意思だけは取り残されたように皆の中にあった。

 同時、他の面々の分を残してしまうことはやむを得ない必要悪である、という暗黙の了解も。

 

 だが、ペコリーヌは開口一番、

「や~~~ん、いろんなチャーハンが、こんなにたくさん♪ やばいですね☆」

 そう言い放つと、大食い能力(タレント)を発揮、次から次へとチャーハンを平らげていったのだ。

 それは普段の姿なのだが、疲労困憊の参加者には無言の圧力に感じられたのだ。

 『お残し厳禁』、と。

 その結果。

 冒頭のように食べ過ぎ、あるいはペコリーヌの威圧によって混乱状態になるなど、阿鼻叫喚となったのだ。

 

 ただ、それを予期していたコッコロ、そしてキャルは一案を講じてはいたのだ。

 まず、少食のコッコロの発想として、ペコリーヌの目の届かないところでリサイズする、としたのだ。

 

 ペコリーヌが男性が食べるサイズで10人前の作成を宣言してしまったため、加えて皆がその気になってしまったために引っ込みがつかなくなった。というかペコリーヌは食べ切る気マンマンだったので宣言は正しかった。

「では、わたくしが事前に再分配いたします。出来た分を即座に回収し、三口ぶんほどの量にして盛り直します。

 それ以上は全てペコリーヌさまの分、とさせていただきます」

 あまり好ましいことではない。何しろ、作り手の意向や労力を無視してサイズを変えてしまうのだ。怒られて当然だ。

 だが、コッコロ、そしてキャルも、その怒りを無視してまで大量のお残しを許せるほど傲慢にはなれなかった。

「……そうね。それが一番角が立たないと思うわ」

 キャルもコッコロ同様、怒られることには同意した。

 加えて、キャルは皆の思惑に理解があった。そのため、一番最初にコッコロが回収した分をユウキに回すことにした。

 もちろん、ユウキも10人前など食べられない。コッコロにリサイズしてもらってから保管する予定だった。

 だが、

「んー……これでは最初に作った分が冷めちゃいますね」

 ペコリーヌが余計な……重要な懸案事項に気付いてしまった。

 そこで、序盤から振り回されっぱなしだったキャルが口走ってしまった。コッコロが既に回収、リサイズ作業に取り掛かっていることも災いした。

「だ、大丈夫よあたしの保温魔法があるから」

 否。もう少し言葉を足すべきだった。そして、もう少し頑張って食い下がるべきだった。

「そうですか? じゃあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()かけてもらえますか?」

 流石前衛職の耐久役兼攻撃役(タンクアタッカー)。視野が広くいらっしゃる。余計なことばかり。

「あ、あれはユウキの分で……」

「なおさらですよ。ユウキくんだって……今はうまくはいってないようですけど、終わったらあったかいチャーハン食べたいでしょうしね♪」

 ……何も言えねぇ。

 

 こうして。

 早い段階で戦線離脱(リタイア)を宣言したコッコロ、キャル、レイ、そしてヒヨリは常識的な大食い量で済んだものの、肩透かしと疲労、安心と満足によって判断力が低下した他の面々は、圧倒的な物量に飲み込まれてしまった。

 

 戦線離脱(リタイア)分を併呑し、山のようになったチャーハン相手に、未だに健啖を発揮するペコリーヌ。

 それを眺めながら、なんとか完食したレイは開きっぱなしの口から言葉をこぼす。

「……どこに入っているか、を聞いてはいけないんだろうな」

「……考えたら負けだよ、レイさん」

 それなりに食べ進めているヒヨリの前にはジュンの作った青椒肉絲が乗ったチャーハンが残っている。

「でも美味しいんだよね……お肉の濃い味と、さっぱりした簡易チャーハンの組み合わせ」

 残っている、のではなく、好きなものを最後に食べる性格だったようだ。

 

 まだ味の分かる分量だった二人は続ける。

「ふむ。

 それなら、私はマホのが美味しいと感じたよ。あの作り方でもパラパラに仕上がるものなんだね」

「サレンさんのも面白かったね。あんかけが緩くってちょっと物足りなかったけど」

「フカヒレはそういうものだよ。味より食感を楽しむものだからね。

 そこで言うとマコトのはさすがだね。味付けもバッチリ。スープも後を引く。魔物討伐後なら間違いないね」

「ユイちゃんのはいつも通り美味しかった!!」

「そうだね。

 ……ユウキのは、要研鑽、かな」

「うん……こればっかりはね」

 

 ペコリーヌ以外の【美食殿】メンバーも、まったりと楽しむ。

 一口ずつ、全員のものを食べ比べたコッコロは感心の息を漏らす。

「ふむ。チャーハンと一口に言っても、様々な調理法や種類がございますね」

 少し顔を歪めるキャルも同様に感心を見せる。

「ほっとんどかぶらなかった、ってことが驚きよ。正直、同じようなものを三品くらい食べさせられるんじゃ、って思ってたわ」

 安心というよりは安堵だ。

 

 だが、ユウキは珍しいことに、露骨に凹んでいた。

 思った以上の主の消沈ぶりに、コッコロもなんと言っていいか分からず、チャーハンに逃避していたのだ。

 口を開きかけるも、やはりかける言葉を見つけられない。

 だが。

「あのねぇユウキ。凹むのは勝手だけど、出来なかったのは事実よ」

 乱暴で相手の事情を一切鑑みない言葉を放つのは、いつも通りキャルだ。

 

 確かに、失敗の事実と向き合うのは正しいことだ。そこから得られる経験則は、必ず今後の糧となる。それは分かっている。

 とはいえ、それを即座に行うのは間違っている、と思うのだ。ある程度時間を置き、その上で振り返ればいいのではないか。

 傷口に塩を塗り込むような言説に面食らいつつ、流石にたしなめる。

「キャルさま、そのような物言いは」

 だが、コッコロの言葉を途中で遮り、勝ち気な目でユウキを見据え、

「だから」

 キャルはびし、と指さして言い放つ。

 

「今度は、ちゃんと料理ができる人に習って、きちんとできるようになってからリベンジなさい!!」

 

 

 

 

味王・ペコリーヌによる総評

「全部美味しかったです!!

 ただ、優劣をつけるとすれば、一番はマホさんですね。

 時間配分を間違えた中でも、きちんとパラパラに仕上げた丁寧な腕前、そして時間通りに仕上げて修正した点は高得点です。

 

 次点でジュンさん。

 女性だらけで、あの組み合わせは搦手すぎて少々いただけませんが、味付けとバランスはバッチリです。火加減もちょうどよかったです。

 

 そして、マコトさん。

 何も文句ありません。味も大好きです。ですが、創意工夫という点で守りに入ってしまい、マホさんとジュンさんには劣ってしまいました。

 

 ユイちゃんはその後ろ、となります。

 ご家庭の味は安泰ですが、こちらもマコトさん同様、守りに入ったために創意工夫が欲しかったですね。

 

 サレンさんは使い慣れていない食材に振り回され、強みを強化しきれなかった感じがしました。

 もう少しあんかけのとろみを強くし、チャーハンとの絡みを強くした方が良かったです。

 

 残念ながら、ユウキくんは失格です。攻めかかる点は良かったですが、量を作れませんでしたからね。

 焦げ臭いのはネギを加熱しすぎたせいです。手際の問題なので、今後の成長に期待します。

 

 さぁ、私のお腹……キッチンスタジアムはいつでも貴方の挑戦をお待ちしていますよ!!」




登場人物

マコト
ヒロイン。獣人。ユイの幼馴染。熱中すると視野が狭くなる。胸、弾けてるよ?
ユイの背中を押しているが、自分の気持ちにまっすぐになることは幼馴染の気持ちを裏切ることになると分かっている。
餌付けには成功しているので、このまま胃袋を掴むことでなんとか……と考えている。

サレン
ヒロイン。エルフ。いろいろあったお嬢様。ユウキの幼馴染。でも思い出は焼きそばパン。
声とか立ち姿からはいけ好かない感じを想定してたけど、思っていた以上に気さくないい人。
アイツとは幼馴染だし、家族みたいなものだし……いやここは明確に家族(意味深)を目指すべきなのでは、と最近考え始めた。

ユイ
ヒロイン。ヒューマン。ユウキとは浅からぬ縁。なんだかんだで着せかえ要員。そして断らない。かわいい。
冒頭からユウキへの好意があけすけなのに当人が小学生なので気づかず、そして告れないので後出しの連中に地位を脅かされることに。
眺めているだけでも十分だが、そろそろ告は……明日!! 今日はええと、日が悪いから明日!! と常に先延ばしを考えている。

ヒヨリ
ヒロイン。獣人。ユウキとは浅からぬ縁。元気印のお人好し。楽しい。
ユイの気持ちを応援したいが、自分にもユウキへの淡い思いがあることを自覚している。
ユウキは好きだけど、ユイちゃんのこともあるしなぁ……えへへ、と考えている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。