蒼きウマ娘 〜ウマ娘朝モンゴル帝国について〜   作:友爪

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閑話:名作歴史ウマ娘映画《赤兎千里行》について

 人間とウマ娘の関係とは、ティグリス・ユーフラテス間の沖積平野に文明が発祥する以前、遥か古代まで遡る。

 自然、その関係の長さから、歴史上様々な場面が紡がれてきた。

 また、それらの鮮烈な一場面を切り取り、作品という形で今に復活させようとする試みは、時の大河と同時並行に行われてきたのである。

 

 今回は、その作品の一つについて語らせて頂こう──ご存知の通り、歴史ウマ娘映画の金字塔は三本あると言われている。

 

 駆士道物語《ローランの歌》。

 忠愛に生きた聖駆士ローランの波乱の生涯を、華麗な映像と楽曲で彩った名作である。

 大衆に好まれる様々な要素を盛り込んでいるため、老若男女を問わず、最も幅広い人気を得ているのは本作であろう。

 

 世界冒険譚《オケアノス》。

 ギリシャ世界の大英雄アレクサンドロスと、その愛バ、ブケファロスが、世界の果てを目指して東征する浪漫譚である。

 様々な文化圏を大王(トレーナー)と共に駆け抜ける明快なストーリーは、多くの子ウマが競走バを目指す契機となり、現在のスターウマ娘がこの映画の想い出を語る事も少なくない。

 

 そして今回語らせて頂くのが、

 戦国活劇《赤兎千里行》。

 三国志演義を忠実になぞりながら、目まぐるしい運命に揉まれながらも、力強く生き抜いた伝説的ウマ娘、赤兎バの生涯を描いた作品である。

 

 読者の皆様におかれては、1994年版《赤兎千里行》の説明は今更不要と思われるが、体裁上ストーリーを記しておこう。

 

 

 ◆

 

 

 中華世界の西隣、大宛(フェルガナ)(現ウズベキスタン)は、古くから駿メの生まれ出る土地として知られてきた。

 大宛のウマ娘は血の如き赤毛であるのが特徴であり、日に千里をも駆ける《毛血バ》と呼ばれていた。

 

 その中でも一際鮮やかな赤毛、紅玉を溶かした様な毛並みを持つウマ娘が居た。

 彼女の名を《赤兎》と言った。

 赤兎は、並み居る毛血バより増して俊足であり、誰も追い付く事は叶わないのだった。

 

 大宛は絹の道(シルクロード)の途上に位置する広大なオアシス地帯であり、古来旅人の往来が盛んであった。

 赤兎は、幼い頃から旅人から話を聞くのが好きだった。

 旅人に曰く、東方中華世界の大漢帝国は、数百年に渡り平和の続く素晴らしい国であり、競バも盛んである。その競バで勝利したウマ娘は、一生涯称えられるのだ──赤兎と仲間たちは、目を輝かせて話を聞き、何時の日か漢帝国に行ってみたいものだと、想いを募らせるのだった。

 

 とある日、憧れの中華世界から来たという男が訪ねてきて言った。

 

「もし自分に付いてくるなら、漢でデビューさせてあげよう。酒池肉林も思うがままだ」

 

 そう笑いかける男は《董卓》と名乗った。

 酒池肉林はともかく、憧れのデビューに惹かれた赤兎と仲間たちは、董卓の口車に乗ってしまう。

 

 しかし、董卓は大悪党であった。

 デビューというのは真っ赤な嘘で、ウマ娘たちは、今や地獄の釜と化した乱世中華の戦場に放り込まれた。

 ずたぼろになるまで酷使された挙句、動けなくなると放り出されるという劣悪な環境に、毛血バたちは一人また一人と命を落とす中、赤兎だけは生き延びていた。

 

 赤兎は董卓が大嫌いであった。

 顔を思い浮かべるだけで尾が逆立ち、唇が噛み切れる程だった。

 憧れていた中華世界も、もはや平和が失われたと知ると嫌いになった。

 夢破れた赤兎は誰にも心を開かず、不用意に近付いた者を蹴り飛ばし、怪我をさせる事もしばしばであった。

 

 余りの気性難に手を焼いた董卓は、厄介払いをする事にした。荒ぶる赤兎を、配下に押し付けたのである。

 その配下こそが《呂布》である。

 

 言わずと知れた猛将、呂布は苛烈な性格であったが、ウマ娘の扱いを心得ていた。

 赤兎は酷使される事が無くなり、まともな衣食住を与えられ、真っ当に世話をされた。

 また、戦で功を立てた褒美として、毛並みと同じ深紅の勝負服と、呂布とお揃いの方天画戟(・・・・)が下賜された。

 赤兎は大いに喜び、何時しか呂布に淡い恋心を抱く事になる。

 

 才能を開花させた赤兎は、戦場を縦横無尽に駆け巡り、方天画戟を振り回し、反董卓連合を散々に打ち負かした。

 しかし、幾ら戦功を立てても呂布が振り向く事は無い。

 彼には貂蝉という相思相愛の、しかも絶世の美女という恋人が居り、あくまで赤兎は配下の一人という扱いであった。

 戦場では果敢であっても、恋愛に関しては朴訥とした赤兎は、悶々とする日々を送った。

 

 だがある時、董卓と呂布の仲が悪化している事を知る。

 董卓が、呂布の恋人である貂蝉を強奪しようとしたのである。呂布は激怒して突っぱねたので、主従関係にヒビが入ったのだ。

 赤兎は、これは好機であると考えた。

 もしかしたならば、恋敵を追い払えるかもしれない──彼女は様々画策し、貂蝉を追い込むが、結局呂布が恋人を手放す事はなく、逆に呂布が董卓を弑逆するという事態になった。

 そして独立勢力と化した呂布は、更なる戦禍に巻き込まれていく。

 

 直接原因ではないにしろ、呂布に主君殺しをさせてしまい、更には恋路も叶わないと悟った赤兎は、完全に心を閉ざしてしまった。

 かつて夢見る少女であった赤兎は、何時しか無尽蔵に迫り来る敵を、ただただ斬り捨てるだけの無感情な殺戮機械に変貌していくのだった。

 (人形)の如き無表情で、大量の返り血を浴び、猛烈な速さで迫り来る赤兎を見た者は「赤兎来来(赤兎だあ)!」と叫び震え上がった。

 

『人中の呂布、バ中の赤兎』

 

 中華諸侯は両名をそう称し、義理も人情も無く人を殺し続ける姿を畏怖した。

 しかし、因果応報と言うべきか──その短慮と不義理により呂布は配下に裏切られた挙句、曹操に突き出され、処刑されてしまった。

 

 同時に赤兎も捕らえられた。

 彼女は、せめて主人と共に処刑される事を望んだが、貴重な戦利品(・・・)である赤兎を、むざむざ曹操が手放す筈もなかった。

 そうして、再び主人が変わる事となった赤兎は「義理無しにして尻軽」等と陰口され、ウマ娘としてこの上ない恥辱を味わうのである。

 全てに失望し、生きる気力を無くした赤兎は、やはり曹操にも全く懐かず、気性難の暴れウマとして手を焼かせるばかりであった。

 

 案の定、持て余した曹操は何度か赤兎を配下に与えようとするが、その度に彼女は主人を蹴飛ばしたり、物を破壊したりして、誰にも扱いきれなかった。

 赤兎は荒ぶりに荒ぶり、とうとう曹操の愛バ《絶影》とも喧嘩して怪我をさせてしまう。

 曹操は頭を抱え、最後の手段とばかり、とある男に赤兎を託す事となる。

 

 たらい回しにされてきた赤兎は、新しい主人、赤顔で髭の豊かな大男の前に引き出された。

 今度も同じ事だ。笑顔で近寄ってくる男を、問答無用で赤兎は蹴転がした──だが驚くべき事に、男は何でもない様に立ち上がったのである。

 

「何と元気の良いウマ娘か。これで長兄の元に早く駆けつけられる。曹丞相の御厚恩に感謝致します」

 

 むしろ喜んで言うと、男は笑って赤兎の赤髪を優しく撫でた。大きな手の温かさを感じながら、赤兎はじっと大男を見つめた。

 この人は何か違うのかもしれない──ウマ娘の予感は的中していた。

 彼こそ三国一の豪傑にして忠義の士《関羽》その人であった。

 

 敗戦の末、義兄弟と離れ離れになり、曹操の客将であった関羽は、どんな財宝や美女、官職にも靡かず、兄劉備への忠義を守っていた。

 しかし、戦場で目にした赤兎バには、武人として尊敬の念を抱いており、共に戦える事を非常に喜んだのだ。

 関羽に出会った赤兎は、彼の広い義侠心と、忠義に満ちた人柄に触れ、徐々に凍った心を溶かしていく。

 感情を閉ざしていた彼女は、再び本来の愛くるしい豊かな表情を取り戻すのだった。

 

 共に訓練に励み信頼を深める最中、関羽の元に、生死不明であった劉備の所在が伝わった。

 即離脱を求める関羽を、遂に引き止められないと悟った曹操は、渋々帰参を認める。

 関羽は、赤兎が牽引する戦車に乗って、一目散に劉備の元を目指すのだった。

 

 

 世に名高い忠節の旅《関羽・赤兎千里行》の始まりである。

 

 

 関羽と赤兎を逃すまいとした曹操は、通行手形を敢えて渡さなかった。結果、千里の道中に点在する五つの関門は、尽く二人を阻んだのである。

 しかし、関門を守る将兵は知らなかった──愛と忠義に目覚めた赤兎が、今や完全に覚醒していたという事を。

 

 固く閉ざされた関門に、赤兎と関羽は、そのまま戦車を突っ込ませた(・・・・・・・・・)

 まるで濡れた紙を破る様に門戸を突破すると、関羽は青龍偃月刀を、赤兎は方天画戟を携えて、大立ち回りを演じて見せたのだ。

 

 行く手には、それぞれ個性の強い六名の武将が、五つの関で待ち構えていた。

 時には力ずくで、時には謀略を使い、あの手この手で関羽と赤兎を留めようとしたが、三国志に名高い二武将は、正に破竹の勢いで関門を突破するのだった。

 

 そして、最後の関門を突破、最早阻む物が無くなった時、背後から敵の大軍が迫って来ていた。

 曹操配下の将軍、隻眼の夏侯惇であった。夏侯惇は、二人が道中で将兵を斬った事を咎め、投降を要求した。

 それを聞いた関羽と赤兎は高笑いした。

 左右に仁王立ちし、青龍偃月刀と方天画戟を交差させ、一喝する。

 

「では我々が五つの関を破った様に、この関門を押し通ってみせよ!」

 

 天下無双の豪傑二名が、得物を交差させるという関門(・・)を前にして、夏侯惇は怯み、大軍を翻して撤退してしまった。

 関羽と赤兎は顔を見合わせ、大軍を以てたった一つの関を破れぬ、敵の背中に哄笑を浴びせたのだった。

 

 これぞ、二人の豪胆と、装いの色調から取って、後に《紅緑之関》と呼ばれる「とても破れない難関」を示す故事の成立であった──

 

 

 ◆

 

 

 94年版《赤兎千里行》は、制作秘話を抜きにして語れないだろう。

 むしろファンの間からは、映画と制作秘話を合わせて一つの作品である、とすら言われている。

 

 この映画が封切りされた時、その番宣ポスターの格好良さを覚えている人も多いであろう。

 そびえ立つ関門を前にして、燃えるような真っ赤な髪と、同じ色の勝負服を纏ったウマ娘が、不敵な笑みで方天画戟を構える画は、如何にも様になっていた。

 そして思った。

 

「このウマ娘女優は誰だろう?」

 

 作中で赤兎バを演じる女優こそ、今や伝説と化した《ルビーイグニス》というウマ娘であった。

 86年版《ローランの歌》では、当時人気絶頂であったウマ娘女優を主演に起用したのとは対照的に、本作は素人歓迎のオーディション形式で主演を決めたのである。

 主演ルビーイグニスについて、監督は語る。

 

「一目見て、赤兎の生まれ変わりかと思った」

 

 彼女は、正にルビーを溶かした様な長い赤毛を蓄え、スラリとした体躯に勝気な瞳、そして中国棒術をも修めていた。

 オーディションのために田舎から出てきた、という人物背景も赤兎と重なって、監督はその場でオーディションを打ち切り、主演を決定したという。

 

 撮影が始まると、ルビーイグニスは、ついこの前まで素人だったとは思えない怪演を披露した。

 

 演出のため、当初ワイヤーアクションを使用する予定であったが、ルビーイグニスは自前の脚力だけでスタジオを飛び回った。

 赤兎の異名の一つに《飛将》というものがあるが、正にその通りであったという。

 監督は予定を変更し、ワイヤーアクションを使わないリアリティ重視の撮影をした結果が、本作の手に汗握る臨場感溢れた映像に仕上がったという事である。

 

 想いが呂布に届かず、冷酷な殺戮機械に堕ちてゆく場面。

 幾多の敵兵を斬り捨て、死体の山で独り俯く赤兎が顔を上げ、夥しい返り血の間から覗かせた、本当に光の失せた瞳は、撮影陣をゾッとさせた。

 

 本人の役作り具合も半端でなかった。

 ある朝、スタジオに入った撮影陣は、既に真っ赤な衣装に着替え、方天画戟の素振りをしているルビーイグニスを見付けた。

 感心して「稽古熱心ですね」と声をかけると、彼女は見向きもせずに、

 

「乱世の将たる者、日々鍛錬を欠かさぬものだ」

 

 汗だくで答えた姿を、撮影陣は滑稽に思うどころか、まるで自分が三国時代の一兵卒であるかの様な心地がして、自然に拱手をしていたという。

 

「あれは完全に降りて(・・・)来ていた」

 

 居合わせたカメラマンはそう語る。

 関羽役の俳優(ダンディな雰囲気で人気を博した)と共同撮影が始まると、ルビーイグニスは、本当に彼の元を片時も離れなかったという。

 彼はインタビューで言った。

 

「映画前半の撮影を見て怖そうなウマ娘だと思っていましたが、何時も後ろにくっついて来る可愛らしい様子を見て、印象が変わりました。

 耳をぴょこぴょこさせて擦り寄ってくるルビーちゃんを見ていると、役作りなのか本気なのか、時々分からなくなるくらいに。お恥ずかしい事です」

 

 なお、呂布役の俳優(端正なルックスで人気を博した)は、半ば本気でルビーイグニスを好きになりかけており、この様子を見てガックリ来た──と語る。

 そんな様子であったから、関羽と赤兎の息はぴったりで、物語の核である《千里行》の撮影は、よりダイナミックな迫力がある殺陣が撮れた。

 この殺陣シーンが、某三国志アクションゲームの着想になったというのは有名な話であろう。

 

 そして、無事撮影終了(クランクアップ)を迎えた本作は、世に打ち出されると同時に大ヒットとなった。

 ルビーイグニスは、田舎上がりの女優志望から、一躍時の人となった。

 その後、アカデミー主演ウマ娘女優賞を獲得した彼女は、テレビ出演に写真集と引っ張りだこであった。

 

 世界中の男子と子ウマの間では、関羽と赤兎ごっこ(・・・・・・・・)が大流行した。親にねだった緑や赤の服を着て、日々チャンバラに明け暮れるのだった。

 しかしこれは、怪我人が続出したため(ウマ娘の腕力を侮ってはならない)、学校側から禁止された。

 

 ともかく社会現象を起こした《赤兎千里行》は、早くも続編を望まれた。

 実際、企画も進んでいたのだが──悲劇が起きる。

 

 

 ルビーイグニスが交通事故で亡くなったのだ。

 

 

 突然過ぎる訃報に、世界中が悲嘆に暮れた。関羽役の俳優が、カメラの前で涙ながらに追悼を読み上げると、子供たちですら落涙が止まらなかった。

 当時を思い出せば、筆者も胸が痛む。

 

『赤兎の魂が冥府から抜け出している事に、映画を観て気が付いた冥府の王が、慌てて彼女を呼び戻したのだ』

 

 と、ファンの間でまことしやかに語られる程、稀代のハマり役であった。

 これもまた《ローランの歌》で主演を務めたウマ娘女優が、その後も次々と名演を披露したのとは対照的である。

 

 そして《赤兎千里行》という大名作を、生涯にただ一つ遺した、ルビーイグニスというウマ娘は伝説となった。

 

 

 ◆

 

 

 ルビーイグニスという伝説は、ある意味で功罪の深い存在であった。

 待ち望まれた《赤兎千里行》の続編は、彼女の死によりあえなく頓挫したが、数年後、代役を立てて撮影しようという企画が浮上した。

 だがしかし、世界中のファンが猛反対したのである。

 

『赤兎役はルビーイグニス以外に考えられない』

『代役は彼女に対する侮辱だ』

『どうしてもと言うなら、再び赤兎の魂を現世に呼び戻せ』

 

 等々、非難轟々であった。

 毎日大量に送られてくる脅迫じみた手紙に、心の折れた前作の監督は、赤兎役を永久欠番とする事でファンの溜飲を下ろしたのだった。

 

 この影響は続編映画に留まらず、他の三国志もの(・・・・・)にすら影響を及ぼした。

 そもそも《赤兎バ》というのは、三国志において重要キャラクターであるので、なかなか避けては制作できない。

 しかし、赤兎が端役としてドラマ作品に登場するだけで、ファンからは非難殺到、

 

『監督は何も分かっていない』

『作品に失望した』

『もう観るの止める』

 

 と、作品そのものの評判が落ちるのであった。

 半ば呪いの登場人物(・・・・・・・)の様相を呈してきたが、その現状を憂う映画監督が現れた。

 

 監督としてはまだ若い彼は、このままでは三国志作品自体が多様性を失い、衰退してしまうと危惧した。

 そして彼は、勇敢にも前作監督から撮影権を譲り受け、続編制作を発表したのである。

 これが04年《続・赤兎千里行》の始まりであった。前作公開から十年が経過していた。

 

 代役を立てる上に監督すら違う──という事で、世間に散々にこき下ろされ、監督の人格批判にまで及んだが、それも予想していた彼はめげなかった。

 圧倒的逆風の中、必死に撮影陣とキャストを集め、残るは赤兎役のみ、という状況まで漕ぎ着ける。

 

『赤兎役オーディション開催! 略歴不問、飛び入り歓迎、第二のルビーイグニスは君だ!』

 

 意気揚々と募集広告をばら撒き、当日オーディション会場に向かった監督であった。

 後に、彼はその日を振り返って語る。

 

「参加者は、誰一人、来ませんでした……」

 

 それもその筈である。

 当時の世相から考えれば、何をした所で大批判される事が目に見えていたし、女優生命が絶たれる可能性すらあったのだから。

 

 このオーディション0人(・・・・・・・・・)というエピソードは、今でこそ笑い話であるが、当時監督は相当凹んだという。

 遂に赤兎役が決まらなかった《続・赤兎千里行》であるが、何と制作は続行された。

 主演不在で一体どうしたのかというと、

 

 赤兎に扮するスタントマンに、往年のルビーイグニスの顔をCGで貼り付ける(・・・・・・・・・・)

 

 という、まさかの力技であった。

 オーディション0人のショックから立ち上がった新監督は、タダでは起き上がらず、当時最高水準のCG制作チームを結成したのである。

 また、どうせチームを結成したなら利用しなければ損、という考えの元、映像にもCGを多用した。

 

 結果、前作のリアリティ路線からは離れてしまったのだが「これはこれで面白い」と一定の評価を得ている。

 ルビーイグニスの顔の貼り付けに関しては、

 

『代役を立てなかったのは英断』

『CGだとしても、再びルビーイグニスの動く姿を見れて感動した』

『だが、やはり殺陣シーンが本人に劣るのが残念』

 

 等々、手放しで賞賛される事こそなかったものの、逆境を跳ね除けた新監督の勇気は認められた(それでもなお新作を批判するカルト的ファンが居たが、こういう連中の相手はするだけ無駄である)。

 三国志界隈に新風を呼んだ彼は、その後も歴史映画監督として順当に活躍する事となったのである。

 

 

 名作歴史ウマ娘映画《赤兎千里行》。

 史上に名高い駿メ《赤兎バ》と、その生まれ変わりとまで言われた伝説の女優《ルビーイグニス》──どちらを欠いても成立しなかった本作は、正に歴史の数奇な運命を象徴する作品として、人々に愛されている。




《赤兎千里行》は多彩な制作秘話に彩られた作品である。
 もし皆様が知っている話があれば、是非とも教えてほしい。
 筆者が喜びます。
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