真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
―――学園都市須摩留には“エレクトリック・マーケット”と呼ばれる場所が存在する。
湾岸の埋立地に作られた新市街の東側、ゲームセンターやアミューズメント・パーク、電化製品を数多く取り扱う商店が軒を連ねるビジネスタウン。
北陸の秋葉原とも呼ばれるその場所の、入り組んだ路地を通った先にある裏通り。
人目に付きにくい故、非合法な商品まで平然と並ぶ闇市である事からブラックマーケットとも称される須摩留でも指折りの危険地帯である。
通常であればこのような悪所は都市の上層部によって一掃されるはずだ。
そうでなくとも、風紀委員を始めとした治安維持部隊が取り締まるか厳重な監視下に置かれるべきだろう。
だがしかし、何らかの意図があるのか。都市からの干渉はほぼ存在しない。
半ば管理放棄された治外法権がまかり通ってしまっていた。
故に当然と言うべきか、ここではトラブルなど履いて捨てるほど発生する。
「おいてめえ! これのどこがダイヤだ!?
安物のジルコニアじゃねーか!!」
「クケケケ! ウチは返品不可能ですよオキャクサマァアアアアア!!」
「上等だよ表出ろクソヤロウ!!!!」
ある所では口論を繰り広げる客と店主が。
「わわわっ、これはまさか“先生”の生着替え無修正映像……っ!!
最近ガード厳しくて全然出回らないのに」
「こっちも割と危ない橋渡ったブツだから値引きは出来ませんぜ。
なんせ、狐面被った物騒な女に追い掛け回されたんでね」
「―――全部買った!!!!」
ある所では刺激を求めて危険な代物に手を出そうとする少女が。
「フヒヒヒヒ……この試作品13号ちゃんに相応しい持ち主が見つかるといいなぁ!」
「全自動
「そこにロマンがあるからですよ……っ!!」
ある所では処分扱いにした軍用装備の試作品を横流しする研究者が。
華々しさを取り繕っている表通りとは正反対の、まさに都市の暗部を体現するかのような光景。
グレーゾーンスレスレどころか余裕でぶっちぎった闇市場だ。
決して治安が良いとは言えない須摩留ではあるが、ここまで開けっぴろげな場所はそう無い。
せめてもの救いは、あまりにも騒ぎの規模が大きくなれば―――例えば表通りまで被害が及ぶ場合―――都市も介入して来るという事くらいだろうか。
―――だから、その日起きた事件もそういった案件であった。
| 《暴れまくり》*1 | 敵複数体にランダムで1~5回の物理属性小ダメージ。 |
絶叫、そして轟音と悲鳴。
路上へと並べられた非合法な売り物。
ブラックマーケットを訪れた利用客。
意志を剥奪された物言わぬ
それら全て一切の区別なく、血や破片を撒き散らしながら宙を舞っている。
下手人は頭を覆う大型ARデバイスを装着した、頭上に
つまりは須摩留の主な住人である“学生”だ。
しかし、口元から涎を撒き散らしてふらつく姿は誰がどう見てもまともではない。
流石の須摩留であってもこんな住人がデフォルトであれば成り立たないだろう。
「AGIYAHI! ぎゃhじゃいお!!!!!!」
| 狂人 | ジャンキー | Lv15 |
意味を成さない言葉の羅列を吐き出しながら、少女はやたらめったらに手を振り回す。
電子ドラッグによって大量に分泌され続ける脳内麻薬が理性を剥ぎ取っている。
駄々をこねる子供のような、感情や衝動に任せた暴走。
しかし、普通の子供が暴れ回っているならともかく。
やっているのは都市で生まれた悪魔人間、人を超えられるよう
例えるなら人型のブルドーザーが直進しているようなもの。
現に、進行方向にある
「カスい電子ドラッグで
粗悪品掴まされてんじゃねーよボケ!!」
「ガードマシンいないの!?
無理なら悪魔呼んで取り押さえて!!」
「ここじゃ戦闘用の
この場に居た者たちに不幸な点があったとすれば2つ。
巡回警備をしている非合法ガードマシンが別件に対処中で近くに居なかった事。
最低限の予防策としてマーケット内では悪魔支配プログラムに使用制限が掛けられている事。
よって、誰も彼もが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
一般人は勿論だが、悪魔人間である学生たちも全員が戦える訳ではない。
力こそあれど、それを躊躇なく振るえるかはまた別の話。
むしろパニックになって矢鱈滅多に攻撃しない分マシな方だ。
そんな中―――。
「チッ……チョーシこいてんじゃねぇぞジャンキーが」
「力任せに暴れてるだけじゃねえか。
自警団、特に風紀委員の連中に比べりゃ全然怖くねー」
「アタシらの買い物邪魔したの後悔させてやる!!」
改造されたセーラー服に身を包んだ少女たちが正面から堂々と立ち塞がる。
一見すれば所謂“スケバン”と呼ばれる、前時代的スタイルの不良少女だ。
都市の“外”ではとうに廃れた、もはや須摩留でしか見られない姿だろう。
ある意味現代まで残った化石で―――こういった手合いにも慣れている。
各々が木刀や銃を構え、邪魔な
少なくとも暴力の行使を躊躇う気配は微塵もない。
「――――??? ぁ……GRうううあああああぱあおあおおあ!?!?!?」
「何言ってっか分かんねーんだよ日本語話せやゴラァアアア!!!!」
虚ろな双眸が敵意を向けるスケバンたちを捉えた。
一瞬にも満たない睨み合い……同時に地を蹴る。
狂気と怒気の咆哮と共に激突が始まろうとして――――。
『アソコダヨ! アッチニイルヨ!!』
「あっ! 見つけましたよ貴女たちがこの騒ぎの元凶ですね!!」
場違いなくらい明るい声が響いた。
両者は思わず足を止め、声のした方向に視線を向ける。
そこにいたのは長い銀髪を三つ編みにした少女と言葉を話すピクシーの姿だ。
人目を引く整った容姿と自警団の1つである“特別課外活動部”の制服。
悪魔支配プログラムではなく、
そして学生でありながら
この特徴に該当するのは1人だけ。
須摩留において極少数しか存在しない外からの転入生。
その中でも特待生として異例の抜擢をされた次期エース。
名前だけならそれなりに知られているESP使い。
何故こんな場所にいるのか。一体何をしに来たのか。
それ以前に――――。
「貴女たちにはちゃんと黙秘権があるので安心してください!!!!」
『ヤッチャウ? 殺ッチャエ!?』
| 「M134バルカン」*2 | 敵全員に射撃攻撃する。 ⇒「神経弾」*3装填済み。 |
その両腕で構えた馬鹿デカイ機関銃は何なのか。
というか人間に向けて良いモノじゃないだろう。
そもそも何処にも安心出来る要素が存在しない。
笑顔で引き金を引く女。
唸りを上げる鋼の砲身。
全力で逃げ出す通行人。
直後―――全身をハチの巣にされるような衝撃が走る。
(もうクスリは止めよう)
(次に見かけたらすぐ逃げよう)
そんな事を思いながら、彼女たちは意識を失うのだった。
・
・
・
「―――とまあ、昔のミノリちゃんってこんな感じでしたよね。
あの頃はまだ目が輝いてやる気に満ちていて……。
物騒なのは変わらないけど」
「ちょっとノアさん。あんまり昔の話しないでよ」
預けた
黒歴史、とまでは言わずとも積極的に思い返したい事ではない。
決して忘れる事は無いが、ムズ痒さがどうしても走るのだ。
「えー、信じられませんよ。
ミノリ先輩っていっつも警告無しにぶっ飛ばして来るゴリラじゃないですか。
そんなお行儀良いとかありええええええええ!?!?」
軽口を叩く後輩はアイアンクローで黙らせた。
(そういえば1年の頃は警告してから無力化してたっけ……もう全然やってない)
―――転入したばかりの時期は半ば空回り気味に頑張っていた記憶ばかりだ。
特待生の地位に相応しくあろうとしたのもある。
外からやって来た自分は人一倍頑張らなければならないと思っていたのもある。
力ある者としての使命感に燃えていたのもある。
己が普通の人間とは違うのだという優越感もあったかもしれない。
もっとも、そういった気持ちは半年ほどで擦り切れて消し飛んだが。
須摩留の治安や闇深さを前に、綺麗事だけではどうにもならなかった。
自分や仲間を守る為には仕方なかった。あるいは染まったとも言える。
(免許取ってからは無警告ひき逃げもするようになって……。
いやでもヤバい奴にしかやってないし、うん問題無い)
ついでに思い返す様々な
過去も大切だが今と未来に目を向けねば生きられない。
流れ着いたこの世界はかつて以上の地獄なのだから。
「……やっぱり駄目ですね。
使用者権限はミノリちゃんで完全固定されてます。
サブアカウントなら一応大丈夫でしたけど」
「その辺の生体認証は仕様なんで私でも弄れません。
普通のCOMPならともかく、そればっかりは無理です」
「んー、万が一考えて譲渡の用意したかったんだけど……まあいいか。
コユキのおかげで悪魔支配プログラム以外の機能は十分使えるし」
「元々自力使役派の先輩には無用の長物ですけどねーそれ。
前から思ってましたけど何で使わなかったんです?」
「いやだって……意志剥奪するとか嫌じゃない?
話通じて協力関係築けるなら必要ないでしょそんなの」
「……やっぱり、ミノリちゃんは“外”の人なのね」
ひとまずこの凪の期間は出来る事をする。
それが最善の未来を掴む鍵となると信じて。
・
・
・
下町情緒を漂わせる浅草の町並みに悲痛染みた声が響く。
隅田川を挟んだ向こう側、スカイツリーの傍にいた巨人が崩れ落ちる轟音にも負けぬ声量だ。
そしてそれは、ただ1人によって発せられたものではなかった。
| 軍勢 | トゥワイス | Lv50 |
黒と灰を基調としたラバースーツに身を包んだ怪人の群れ。
同じ衣装で統一した集団……否、全員が
| 《分身》*4 | 分身を生み出す。 それは自分と同じステータス、スキルを保持する。 |
彼らはトゥワイスと呼ばれる、極めて特殊なスキルを用いて多数となった個だ。
阿修羅会に属する正義の敵対者。
自分たちを社会に弾かれた弱者であると嘯く天魔外道。
そして―――欠片の誇りも持たぬ加害者である。
「命を賭けるのはてめえらの特権じゃねえ!」
「俺たちにだって出来るんだ!」
「こんな俺でも皆の為に、やれるんだよぉっ!!」
| 《献身》*5 | 使用時、相性を1つ選択する。 次のターン終了時まで、味方全員は選んだ相性無効の相性特性を得る。 使用者が死亡した場合、そのDEAD状態は戦闘終了まで解除できない。 100%属性さえも相性であるがゆえに選択が可能。 |
| 《ケアマネージャーⅢ》*6 | このスキルの保持者がいる場合、BS発生率-15%する。 この効果は重複する。 |
| 《裏ルート》*7 | 現状GP限界を超えたアイテムや情報を手に入れられる。 社会の締け付や選ばれた大多数だけを守る法律をぶち破り入手した。 つまり非合法だ。 |
| 《ケミストリー》*8 | 支援型の消費型アイテムを同時にランク数まで使用可能。 強者に護られている弱者から巻き上げたアイテムを保持している。 |
―――自分たちは悪だ。
―――弱い奴らを残酷な世界は認めてくれない。
―――だけど、それでも!
思い思いに叫びながら突き進む“
命を捨てる献身を以って脅威に立ち向かう、それだけならまさに勇者の在り方。
……もっとも、逃げ惑う民間人やDB達へと襲い掛かっていなければの話だが。
平和を、力無きものを脅かす者がいるから多くの人間は仕方なく命を賭ける。
命をチップにした戦場に立たせているのは己が原因だと、この男が理解する時は終ぞ訪れない。
| 《エクスプロード》*9 | 距離1(100m)の敵すべてに爆発属性ダメージ。 獣族に特に有効。ドワーフが使用可能。 |
―――だから。これは当然の帰結かつ約束された末路の1つ。
全てを飲み込まんとする個の群れが、広範囲に渡る強烈な爆風を浴びて吹き飛んだ。
衝撃で飛び散った手足。
建物に張り付いた臓腑。
炙られ空気を漂う脂肪。
一般人が見れば卒倒間違いなしのグロテスクな光景。
せめてもの救いは死体が数十秒で泡のように消えていく事だろう。
分身であるゆえか、活動停止した後まで残る事は無いらしい。
「うむ、イチバチじゃったが“爆発属性”は対象外か。
実際マイナーもいい所だからのうコレ。
おぬし等の勉強不足に救われたわ」
万能は元より100%属性含めてあらゆる相性をトゥワイスは無効としていた。
それは仲間の為、勉強机とPCに齧りついて覚えた成果。
いずれ来る日の為に彼が積み重ねて来た努力の結晶。
しかし、流石に
知る者が少なければ、持ち前の非合法情報網であっても意味を成さない。
だから、浅草方面へ侵攻した彼らはここで終わりを迎えた。
「ち……ちく、しょうが……っ!!」
かろうじて生き残った―――他の
自分たちごと観光地を爆発跡へ変えたのは小柄な人影だった。
一見すれば金髪縦ロールの可憐な少女にしか見えない。
しかし、老練な口調と雰囲気。何より肩に担いだ巨大な戦斧が外見を否定する。
| 魔匠 | 正宗 | Lv63 |
その正体は浅草に居を構える練達の鍛冶師―――正宗。
この半年の間に起きた幾つもの襲撃を返り討ちにした、戦う魔匠にして
「閑古鳥が鳴いとるとはいえ、人の店の前で暴れよって。
―――商売の邪魔じゃ、さっさと去ね」
倒れ伏した分身に一瞥もくれずに彼女は告げる。
何の興味もない、邪魔な物があったからどかしただけとでもいうような態度。
それはあからさまに強者の姿であり―――。
「ざけ、んな……!
ふざけるな! 俺を、みんな殺しやがって!!」
虐げられる弱者を自称する男からすれば許せるものではなかった。
「俺たちがこんなにも死んでるんだ!
卑怯だぞそっちはなんで死なない!!?
畜生、畜生がぁあああああ!!!!」
理不尽を目の当たりにした怒りをエネルギーに変え、消滅寸前の身体を再起させる。
常識で考えれば破綻している論理は彼らからすれば正当であり、矛盾は一切ない。
「証明してやる、俺たちは絶対に負けやしないって!!!!」
少しでも気を抜けば崩れそうな体に鞭打って、トゥワイスは叫ぶ。
東京で、各地で戦い続ける仲間を想って。
今この時にも命を散らす仲間を背負って。
「この
| 《天驚地爆断》*10 | 敵単体に斧属性大ダメージ。 |
| 《リミットブレイク》*11 | 格闘武器または射撃武器を1つ指定。 シーンまたは戦闘終了まで対象を使用した攻撃の相性は 万能に変更される(スキル本来の相性も無視)。 自動失敗または大失敗した場合、使用したアイテムは壊れる。 |
そして―――順当に消し飛んだ。
断末魔さえ上がらなかった。
思い1つで覆せる状態でもなかった故に。
「おぬし等の主張なぞどうでもいいわ、勝手にしろ。
というかわしに言ってどうする。
所詮鍛冶師……一介の武器商人でしかないぞ」
残滓すら消え去ったのを確認して、正宗はひとりごちる。
事実、彼女からすればヤクザの言い分など心底どうでも良かった。
大切なのは鍛冶の道を極める事。そして受けた仕事を完遂する事。
敵にどのような悲惨な過去があったにしろ、己には微塵も関係無い。
邪魔となるなら、害を与えて来るなら。容赦なく叩き潰して終わり。
それ以上でもそれ以下でもない。
敢えて言うのなら――――。
「商品が欲しいのならちゃんと金を払って買え。
子供でも知っている事じゃぞ」
訴えたい事があればまず正規の手順を踏んでから。
もちろん、返答があるはずもなかった。
・
・
・
「クソォッまただ! またここを通ってる!?」
「もう何回目だよここから出られねぇ」
「トラフーリボム*12使っても同じところに出る……どうなってんだ?!」
帝都上空で巨大な爆発が起こる少し前。
一般人が多くいるであろう場所を攻めていたトゥワイス達の一部は立ち往生していた。
厳密に言えば―――今いる場所から出られない。
オフィス街を一直線に駆け抜けていた―――いつの間にか戻っている。
不気味に思い一旦後ろに引こうとした―――いつの間にか戻っている。
アイテムを使って離脱する事を試みた―――いつの間にか戻っている。
先程からずっとこのままだ。
明らかに妨害……否、攻撃を受けている。
「畜生出てこい!! ずるいぞ戦えよぉっ!!」
「あれだ、聞いた事がある! 確か繋がる道を遮断するとかいうスキル!! *13」
「とにかく走り続けろ、何処かに抜け穴がないか試すんだよ!」
「馬鹿、体力の無駄遣いだ!!」
これでは完全に浮き駒だ。命を賭けているのに意味がない。
遠くからは戦闘音と仲間たちの悲鳴が聞こえるというのに何も出来ていないのだ。
焦りだけが積み重なり、一部では自分同士の喧嘩も始まっている。
「……
「単に出口が無いだけなら
そんな中、争う自分たちを後方で見ていた為か冷静さを保っていた分身たちは仕掛けられたカラクリを解き明かそうとしていた。
「さっき辺りを数で埋め尽くそうとしたら、
「強制的に解除されたのか……いや違う!!」
「
「俺らが無事なのはおかしい」
「纏めて夢でも見せられてるのか!?」
「これだけいるのに嵌まる訳ねー!」
「……あれ? 一応パトラストーン使ってみたけど……
「数え間違いか?」
「数え間違いじゃないっ!
疑問、奇妙な事実が答えを明確な形にしようとして―――。
瞬間、全ての視線が1点―――オフィス街端のオープンカフェへと注がれる。
果たして、何時からいたのだろうか?
今の今まで、声を掛けられるまで誰一人として存在に気付けなかった。
この事変の真っただ中でテラス席に座り、新聞を読んでいるこの男を。
年齢としては40代半ばほどだろうか。
短髪に髑髏を象った様な顎鬚。細身であるが鍛えられた色白の肉体。
武装は腰に吊るした1丁の拳銃のみ。
だが、何よりも目立つのはその瞳。
まるで
DBの1人には間違いないのだろうが……些か異質さを放ち過ぎている。
気配が違う、雰囲気が違う、在り方が違う。
人や悪魔、秩序と混沌という括りではなく。
もっと別の――住む世界が違うかのような。
普段であれば罵詈雑言と共に襲い掛かるトゥワイスたちも、その雰囲気に呑まれ動けない。
自分たちに理不尽を強いている元凶であると、遠回しに言い放ったにも関わらずだ。
「もう一度言う。ここを出ていきたければ、オレを殺すしかない。
それが進むべき道、いずれ決断しなくてはならない事柄……」
「何を……言ってんだよテメェはっ!!?」
男は立ち上がり、トゥワイスたちへと相対する。
ホルスターから銃は抜かず、ただ手を添えるだけ。
「あと
そうすれば戦いの火蓋は切って落とされるだろう。
どうする……仲間の為に命を賭けるというのは
何処か遠くでまた爆発音、そして
「やめるのは自由。
だがその場合、あなた方は
―――迷っている暇など、トゥワイスたちには無かった。
| 《ATTACK》*14 | 物理属性の通常攻撃。 軍勢の通常攻撃は3~4回。 |
手にしたナイフが、拳が、蹴りが男へと突き刺さる。
骨が砕け内臓が潰れる感触。
耐性は無い、少なくとも物理に関しては素通しだ。
「数で押せるぞぉおおお!!」
トゥワイスたちは殺せる事を確信する。
男は自らの負傷を確かめる。
そして―――右腕の腕時計、その秒針を
気づけばトゥワイスたちは
後ろへ引いた覚えはない。相討ち覚悟で攻めた以上それはあり得ない。
そして何故か―――叩き込んだはずのダメージが男にはまるで見られなかった。
「え……えっ?」
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなものでは断じてない。
これは―――もっと恐ろしいものの片鱗だ。
「遅れましたが自己紹介させていただく……」
混乱を他所に、頭を下げ一礼しながら。
遅すぎる名乗りを男は上げた。
「名は……“リンゴォ・ロードアゲイン”。異能者としての分類はスタンド使い……。
能力名は“マンダム”―――ほんの“
キッカリ“
| スタンド使い | リンゴォ・ロードアゲイン | Lv63 |
| 《 | PCと同じ能力を持つ別のキャラを作る。 回復はMPを消費すればいくらでも可能。 戦闘が終了すると消えてしまうが、MPを消費すれば維持も可能。 霊動に分類される自己のエーテル体に形を与え、物質化する能力。 術者の意思により操作されるエーテル・プラズマのフィールドとも。 |
| 《アンドゥ》*16 | ターンの始めまで時間を戻す。 逆回転の劣化版であるが、失敗による自滅も無い。 |
男―――リンゴォに纏わりつくように、無数の足がついたタコのような
もしこの場に千束やたきな……リコリス関係者が居れば反応出来ただろう。
何せその名は
―――通称“マンダム”。
彼の“デッドジャンキー”に次ぐ
曰く“男の世界”なる独自の美学を長きに渡って貫く歴戦の傭兵。
格上の相手であっても公正な戦いという枷を嵌めて挑む自殺志願者。
―――公正なる果たし合いでの勝利、それに伴う殺害は人を成長させる。
―――
―――卑劣さの欠片もない、“神聖”なる“修行”である。
彼が語る価値観は現代の道徳や倫理、一般的なレベル上げの
裏社会でさえ居場所がほとんど存在しない、まさに孤高の
人によっては実在を疑う者もいる。
中にはとっくに死んだと言う者も。
「このオフィス街から出ようとする度、時を巻き戻している……。
だから……決して脱出する事は出来ない」
だが―――彼は確かに生きてこの戦場にいる。
「こうして話しているのは“修行”が目的であり人としてこの世の糧となる為だ。
長年世話になっている友への恩義もある。
君たちをここから先へと通す訳にはいかない……」
和風喫茶店を営む古い友人に依頼されて。
己と同じく、現代社会とは相容れない者たちの敵として。
更に先へ、自身を“聖なる領域”へと高める為に。
“神聖”さは“修行”―――嘘偽りは欠片も含まれていない。
―――数十分後、オフィス街から出て来たのは1人だけだった。
・
・
・
混沌の奇禍事変から2日後。
魔人たちの襲撃により学園結界が粉砕された事もあり、厳戒態勢に置かれた聖華学園周辺地域。
生徒を守る為、という建前で敷かれた複数の検問所―――その1つで珍妙な事態が発生していた。
これが襲撃者の類であれば―――良くはないが―――まだいい。
この警備の数に単騎で突っ込んでくるのは相当な愚か者か怪物だ。
前者であれば返り討ちにするのは容易く、後者であれば時間稼ぎと情報を抜く程度は出来る。
だがこの場合は―――。
「何ですか、無抵抗無防備である事を示す為に全裸になろうとしてるんですよ!
破魔が素通しになる、言わばまな板の上の鯉のような状態!!
流石に処女は差し出せませんがそれ以外なら火の中水の中……っ!!」
「いや、そうじゃなくて!
なんか俺が脱げって言ったみたいになってるから!!
後ろの同僚たちの目が凄いことになってるから!!!!」
対応したこの警備員*17に非は無かった。
規定通り許可証と身分証明を求めただけだ。
訪ねて来た少女にそれらが無かったので、万が一に備えて武装解除を求めたらいきなり脱ごうとし始めただけである。
「ごめんなさい先輩……でも、貴方とまた会う為なら私は……私は!!」
『
ちなみに少女―――ななみと契約を交わしたユニコーンは目が死んでいた。
最近では諦めの極地である。
もはや悪態をつく気にもなれず、ななみの中でこのやり取りを見ているだけだった。
「ド、ドリフターとかその辺りかな……?
悪いが決まりなんだ、今は特に生徒との接触は間接的なもの含めて禁止されてる。
残念だが今日は帰って欲しい」
「毎日通って良いですか!?
先輩の
セイトニウム不足で夜も眠れなくて!!!!」
『その割には昨日爆睡してたような……』
「やばい……あの子と同類、いやそれ以上だ……っ!
あとそっちも出来れば勘弁して欲しいかなぁ!」
呆れと戦慄、内と外の言葉に晒されながらもななみは食い下がる。
自分が無茶を言っているのは百も承知。
事前に集めた情報から通るどころか言伝さえ無理な事も予想はしていた。
そも、学校にいるという事自体が盲点だったのだ。
このような情勢なら各地で戦っていると思い込んでいた。
かつてのボルテクス界では悪魔から山賊とまで言われるほど暴れ回っていたのだから。
―――ちなみに原因の半分はななみであるがそこの自覚は無かった。
(これ以上はもう駄目かな……)
流石にそろそろ他の警備員も動き出すだろう。
出来るかどうかは別として、強行突破は論外でする気は無い。その程度の分別はある。
全裸になって引き回される覚悟はあったが、その程度では駄目らしい。
悔しさと悲しさで目尻に熱いものがこみ上げるのを、スカートの裾を強く握り絞めて堪える。
せめて、襲撃さえなければ一目会うくらいは出来たかもしれなかったというのに。
(美人さんに鼻の下伸ばしてる気配もしたし、急がなきゃいけないのに)
『なんかここまで来ると逆に興味沸いてきましたわ、その先輩とやらに』
果たしてどのような変人奇人なのか、そもそも人なのか。
ユニコーンの頭の中ではまともな相手でない事だけは確定していた。
「……ご迷惑を、お掛けしました。失礼しますね」
「ああ……その、なんだ。
状況が落ち着いたら面会くらい出来るだろうし、焦らず待ってた方がいい」
見るからに気落ちして背を向けるななみへ警備員は声をかけた。
職務として彼女を通す事は出来ない。
だが……励まして助言する程度は構わないだろう。
「生きてればまたチャンスはあるんだからな。
まだ若いんだ、いつか必ず会えるさ」
何時死地に放り込まれてもおかしくない情勢では不確かな言葉。
明日死んでも不思議ではなく、羽毛のような軽さしか持たない。
それでも、学園を守る
「……そう、ですよね。
生きてるなら、きっとまた会える。
いつかまた、絶対……」
ななみは振り返り、少しだけ微笑んで会釈した。
ちなみに。
この時のやり取りがとあるJCに誇張されて伝わり。
警備員が貞操を賭けた鬼ごっこをする事になるのだが……それはまた別の話である。
・
・
・
「イタタタ……あんのヘタクソ共、丁重に扱えっての。
仮にも生贄じゃないの? 使い物にならなくなったらどーするのよ」
「……随分余裕ですね。あれだけ痛めつけられておいて」
「ん、おっと巫女さんじゃない。
今日も目が死んでるわねー、生きてて楽しい?
いや、楽しくないから連中とつるんでるのかな」
「……答えてください」
「心に余裕があれば余力も出来るってもんでしょ。
生憎大人しく死んでやる気は無いの。
隙見つけたらまた暴れてやるから」
「死にたいとは、思わないのですね」
「は? あんな素人共に
あれなら京都のクソ共に実家潰された後の方がきつかったかなー。
まっ、授業料で
「―――強いのですね、貴女は。
レベルという意味ではなく……
「このくらい普通だと思うんだねどねぇ……。
あーあ、こんなとこで取っ捕まってるよりレベル上げしたーい」
「
「私も死に物狂いで頑張って時間稼いだけど、半々てとこ?
随分と分が良い賭けね」
「………………」
「え、何? 逃げ切って欲しいのアンタ?
どっちつかず……じゃなくて
「……この世界に流れて。友人たちを見捨てて。
流されるまま、誘われるままここに来ただけなので。
きっと―――生きたい訳でも、死にたい訳でもないんです」
「ふーん……そっか」
「そんな奴が日本中の火山噴火させる片棒担ぐとか―――随分傍迷惑」
「そうでしょうね―――でもどうでもよくなっちゃったんですよ私」
混沌の奇禍事変より4日後。
ガイア系含めた
通称“グッドルーザーズ”による「日本沈没計画」が実行される。
計画阻止の為に参戦したDBたちの中で特化戦力は4名。
“剣鬼”八瀬宗吾。
“スタンド使い”若槻美野里。
“凄拳の魔獣”蔵田七海。
“筋者”佐藤ケイ。
彼らが首魁を討つ事でこの事件は幕を閉じる事となる。
なお、この事件は10日ほど後のセプテントリオン襲来によって僅かな記録しか残さなかった。
次回から各勢力の残党連合による大事件(ほぼ記録に残らない)が始まります。
これもすべてセプテントリオンって奴の仕業なんだ(