表1 冒険の始まり
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視界の果てまでただひとつ残る、茶色。
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六条絵里華は、悪夢にうなされながら目を覚ました。
「また、この夢ですのね…」
物心ついたころから、なぜかわからないが、茶色が怖く、緑色が優しく感じる。幼稚園児の頃にはテレビの自然ドキュメンタリーで流れたグランドキャニオンに泣いたらしいし、今彼女の趣味は生け花だったり茶道だったりするーもっとも後者は色の好みというだけではなく六条家が古い家柄だからということもあるが。
「お父様、お母様はお帰りですか?」
「まだだね。それほど長引きそうな議題があるとは聞いてないんだが…
…絵里華、お前は今日はいいのかい?」
「わたくしは今日はお休みですの。華道はございますが…」
「そうか。母さんが帰ってくる前にご飯を作っておくけど」「お手伝いいたしますわ。ただ、いつ帰ってくるのでしょう...?」
もしかしたらSNSを見れば何かわかるかもしれない...絵理華はTwitterを開いた。
すっかり慣れたあるタグを検索しようとして、彼女の指はタイムラインを見た瞬間にフリーズしたーいや、指だけではない、頭もだ。
(わたくしは、これを何処かで見たことがある…!)
茶色の毛に、白い襟巻のような首周りの毛、そして長い耳ーいそうでいない哺乳類、といった趣をしたそれは、「見て見てかわいい動物見つけた!」という言葉を添えて投稿されていた。
動物に詳しくないらしい投稿者を置き去りにして、その正体不明の獣の正体について激論が交わされ、バズっている。
(知っている、知っているはずですわ。わたくしの、大切な、そう、ポ...)
名前が出てこない。まるで、思い出したくないかのように。
@ihbdew3324
なんかのモンスターだったりするんじゃね!?それか異世界転移!
午前9:33 · 2023年10月27日·69件の表示
返信先@ihbdew3324
は?お前ばっかじゃねーの!?こんなかわいいのにモンスターとか。
返信先@ihbdew3324
異世界転移というのも眉唾ですね。確かに知られていない哺乳類ですが哺乳類ということは確かです。何かのフィクションならともかく現実の異世界生物がこれほど似通っているとはとても。
場違いに近いその発言はほとんど炎上していたが、絵里華の脳裏をチクチクと刺激した。
ポ...モンスター...
そう、そんな名前の、あの星の不思議な不思議な...
(...あの星?どうして、わたくしはそんなことを...)
ー異世界転移
「あっ...あぁっっ!?」
「お、おいどうした絵里華!?」
「わたくし、どうして忘れていましたの!?」
あんな大切な日々をすっかり忘れるなんてありえない...!エリカが自分と世界に驚愕したその時、エリカの目の前の卓上に、コンコンコン、ツヤツヤの紅白2色の球体が6つ、転がった。
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「浦和くん、どうなんだね?どうすればいい?」
赤穂は、数時間で寄せられてきた報告に頭を抱えていた。
各地の湖沼で太った赤い魚が山ほど積み上げられ、首が2本ある鳥が街中で走り回り、子どもほどある巨大なハチが森を飛び回り針を撃ちだし(!)、地下配管網のいくつかが急に寸断され…ひとつひとつは珍奇な事件に過ぎないが、各地でこうも多発しては大きな異変と言わざるを得ない。
「赤穂さん、首相たるものがそんなうろたえてどうするんですか…」
そうは言いつつも、つい狼狽えると自分に聞いてくるのは赤穂の昔からの癖だと浦和官房長官はよく知っていた。
「新見教授に聞けば、何かわかりませんかね?」
浦和は、SF作家で生物学者というまるでこの事態のためにいるかのような知己の名前を挙げた。
「そうだ、それだ!」
「それがですね首相。」
秘書が立ち上がる。
「なにかな?」
「…首相お気に入りの新見教授ですが…」
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正体不明の生物があちこちに出没して騒ぎになる東京。その街中のある大学キャンパスでは、変わらぬ日常を送っていた学生たちが、時ならぬ騒動に巻き込まれていた。
「警察は出ていけ!」「権力の横暴を許すな!」「大学自治を守れ!」プラカードが掲げられる中を、機動隊が押し入っていく。
「今回は恒例行事ではないというのに、元気なことだな...」
機動隊員は学生たちに呆れながら、キャンパスの奥のある研究棟を目指して進んでいくーその矢先、爆音が響き、煙が上がった。
「「おいおいマジかよ…!」」
学生と隊員の声が一つになった。
「…もしかして弾圧じゃない?」「ガチ事件っぽいぞ...」「新見センセの部屋じゃね?オイオイ」
「ちくしょー公安の奴ら正しかったのか!」「ただの空論好き学者だから杞憂だろうとか言った奴誰だよ!」
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「証拠はすべて隠滅してきたな?」
「はっ。すべては我らが教会のため。
人類文明の歪んだ延命を行おうとする曲学阿世の徒、捕まえましてございます。」
オンライン会議システムの画面の向こうへ、男たちが頭を垂れるー髪の毛から、錆の粉が零れ落ちた。
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「研究室は完全に焼け落ちたようです…かなり入念な犯行ですね。無事だったのは堅牢な金庫に保存されていたメモリだけです。」
「証拠の完全な隠滅か?いや研究や著作の抹消が目的であるかもしれんな…教授本人は?」
「証言を総合すると、爆発発生時に裏口を抜けたトラックに載せられているものかと。わざわざ爆破までしながら現場で焼殺しないことから、おそらく生かしておくつもりでしょう。
ただ、現場周辺の監視カメラがすべてハッキングされており、ハッキング元の追跡も海外のサーバーを複数経由しており不可能で、相当に大規模で専門知識を備え周到な組織的犯行であることは間違いないと思います。」
「…組織的な犯行で、思想くらいしか狙う理由のない大学教授をさらう…やはり『てつさびきょうだん』が犯人だという見立ては間違っていないか…?」
「しかし奴らは終末論カルトといえどもネット上の集団に過ぎません。捕まえるのは難しいでしょうね…」
「とりあえずメモリは私が預かろう。教授に上が注目してるらしくてな。」
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案の定、新見教授はこの事態に頼りになる。…事件現場から回収されたデータには膨大なアイデアやメモのファイルがあり、その中には「ファンタジーのような、既存の物理・生物法則に支配されない生態系が現代日本に登場したならば」というファイルもあった。
「さすが生物学者で空想科学研究家で未来学者、起き得ないことが起きたらどうなるかの考察に驚くほど長けていますね。…問題は、それが起きてしまったことなんですが…」
「言わないでくれ浦和くん…胃に穴が…
…なになに?『必要なのは、生物群の特徴、生態、そして能力をいち早くつかみ、対処可能性と対処法を把握すること。未知の生物への評価は、実用性と危険性を排除コストのてんびんにかけることで共存か排除かを決めるべきである』」
そんなこと言われてもな…と赤穂と浦和は顔を見合せた。いち早く情報をゲットできれば適切に対処できるのは正論だが、数時間のうちに積み上がった被害報告はすでにマスコミや野党を騒がせており、情報収集のための時間稼ぎとなる対処法が必要な状況なのである。
「…『ただし未知生物が特にファンタジー、例えば銃火器が通用しなかったり火を吐いたりなど(例として、中世からなろう小説に至るまで描写されるドラゴンが挙げられる)、ビームやエネルギー弾のような攻撃を行うなど物理法則を極めて逸脱している場合、排除は慎重に検討する必要がある。
既存の物理法則をまったく逸脱したこのような生物群の発生は、彼らにとってはこの宇宙の法則が制御要因ではないことを示している。すなわちファンタジー生物の侵入の増加が発生しそれがワームホール等の次元の穴による移動ではなく突如発生した場合、それは生物群の侵入ではなく世界あるいは世界観そのものの侵入と捉えるべきであり、先兵を排除できても蟷螂之斧になるだけというべきであろう。』
…魔法じみたことをやらかした場合は、生物が入ってきたというよりは世界そのものが変化しているから無駄な抵抗はやめて共存しろ…ってことか…」
そうは言われてもな…赤穂はこめかみをグリグリした。思考力のバケモノである新見教授はあらゆる未知の事態へのアイデアを出してくれる(だからこそ作家と学者を兼ねられる)が、本人がいなくなってしまってはどうしようもない。
「…もしかして『てつさびきょうだん』は、このつもりで!?」
「浦和くん、それはつまりなんだ、教団は未知生物の出現に対処法を提案できる教授をタイムリーにさらい、何かを計画している…ということか?」
「教団は『人類世界は限界に達している。したがって文明が鉄錆になるまで一度崩壊させ、しかるのちに理想の世界を一から再構築しなければならない』という主張ですからね。想像のためにまず破壊をしなければならないとしたら、破壊を遠ざけ延命を提案する教授は目の上のたん瘤でしょう。
…おや六条議員、どうしたのですか?」
浦和は、息を切らせて部屋へ飛び込んできた美人へと問いかけた。
「赤穂総理…
…もしかしたら、この事態の答えが見つかるかもしれません。
私の娘に、お会いいただけますか!?」
彼女が差し出した端末の写真の中で、エリカは、未知生物と呼ぶにふさわしいファンタジックな生き物たちと、仲良さそうに戯れていた。
ポケットモンスター、縮めてポケモン。あの星の不思議な不思議な生き物。
空に、海に、森に、街に、世界中の至る所で、今にもその姿を見せようとしている。
あの世界からただひとり流れ着いた少女”
これは、まっさらな世界に出現していくポケモン達とともに織りなす、旧縁の帰結と新時代の始まりの物語。
投稿頻度と精度は私の卒論の機嫌にかかっています…!