…さて、話は少し外れるかもしれない。読者諸賢は、「異世界」とはなんだと思う?
ぼくが考えるに、世界とは物語だ。
あらゆる世界がありえる。月が0か1か2か、魔法があるかないか、ユートピアかディストピアか、ギャグ時空かシリアス時空か…これは世界観の話ではなく世界の話なんだ。どんな法則のどんな世界かはあらゆる可能性があり、キミがいる世界が例えば手のひらをかざすと燭台に魔法の炎がともるにしても指先を押すとライトに電子の光がともるにしても手を振った気になると脳を入れている水槽に視覚野明信号が送り込まれるにしても、それはあまた無数にある可能性世界の中でたまったまキミの世界がそうだった、と言うだけに過ぎない。
もちろん例外はある。人間が生活できてかつ理解できる世界でないと、どうにもならないからね。逆説的に、存在し得る世界は全て人間が生きそして理解の範疇にある、人間の生体脳が論理構造として解釈を行える世界のみだ。…もっとも拙稿読者のキミが人類ないし人類と類似の論理構造を内包している種族でなければ話は別だがその場合はこの文章を理解できまい。とどのつまり、人間が生息し知覚し認識し得る無数の可能性世界はすべて人間が理解できるということだね。
理解できれば著述できる。あらゆる可能性世界は、”物語”の形式として外部から観測できる。逆に、あらゆる世界は自覚がないだけで外部からは物語として読まれているかもしれない。
そもそもあらゆる物事は形而上学的に示し得る。今日キミが体験した、朝起きてタスクをこなし昼たべて作業を再開し夜食べて遊んで寝る、という行動も、物理事象として顕れているだけではなく、文字としてイデアとして論理文で表記できる。つまりキミの一日は物語だ。そしてキミの一日を含む巨大なあらゆる事象はすべて著述可能だね?何があり、起きて、こうなった...つまりすべては物語の形式を取るんだ。
端折っているからわからないかもしれないな。キミたちが並行世界だの異世界だの呼ぶ無数の世界の可能性、パターン、分岐、それらはすべて物語の形式を取る。
ぼくの仮説は、この無数の可能性世界、物語は相互に読み読まれの網目状の構造をしているということなんだ。ぼくの世界で白雪姫の世界を物語として読み、白雪姫は/vs]z\/氏冒険記を(…おっと、キミの世界のフォーマットを逸脱しているのかな?)読み、/vs]z\/氏は某大統領の一生の物語を読み、そして某大統領がまさに世界を騒がせているキミの世界からぼくの世界の物語を読む。麗しき相互承認だね。…おっと、それともキミは、もしかしてキミが今読んでいる物語だけではなく、ある貴族の1000年前の恋物語としても読んだことがあるのではないかな?
ぼくはこのように物語というフォーマットで見つめなおした世界のことを、物騙と呼ぶことにした。物語の住人を飛び出して著述能力、つまりメタ能力を手に入れれば、世界に対して騙ることができるからだ。ほら、今この前書きに書き込んでいるようにね。これは読者諸賢の世界の物騙...いわばアカシックレコードに直接、こういった書き込みが存在するという事象を書き込んでいるんだよ。
そう、そうなんだ、つまり、ぼくは、鉄錆卿は、ついに、世界を物騙として優位を取れる、魔法のペンを手に入れたんだ。
さあ、刮目したまえ。この物騙の、エピローグをね。
余談(上) 幻想 遥か世界を超えて
ー*-
赤穂は、モンスターボール片手に、老人を睨みつけた。
「やはり、貴方でしたか。」
老人の禿頭から、鉄錆がぱらぱら零れ落ちる。
「ふむ…
…鉄錆卿の正体がぼくだと、どうしてわかったんだい?」
新見教授は、満面の笑顔で愉しそうに振り返った。
「確かにぼくは鉄錆卿だ。滅んで宙に浮いたポケモン世界のイデアをこの世界に”書き写し”、迷い子を4人ほどあっちからこっちこっちからそっちへ異世界転生させ、てつさびきょうだんに指示を下し自作自演の誘拐劇で世間の注目を集め、フラダリに伝説のポケモン2体を手渡し、IAVFを援助して反ポケモン運動で世界中を引っ掻き回し、フラダリを当選させるためにアルベール候補へ政治資金問題を起こしてニューカレドニア事変で現職の信頼を失墜させ、鉄砲弾をチャネル諸島にパシらせてフラダリの本性を発動させ、六条絵里華が覚醒したこの世界の新たな力をBREAK進化というカタチへ昇華させたのは...
…すべて、ぼくだよ。」
「鉄砲弾...!?教授、仮にも教祖を名乗りながら...そこまで堕ちて…」
「教団の教祖、か…
まあ、勘違いも面白い展開だからあえて言わなかったことだね。
てつさびきょうだんは鉄錆の教団だとみんなが思っていた。鉄錆の世界の到来を待つ信仰団体だとね。しかし本当は鉄錆卿の弾丸...鉄錆卿をトップにして、教会を隠れ蓑にこの世界の変革を達成する社会運動団体にして、鉄錆卿ひとりの迂遠な目的を達成せしめるための使い捨ての鉄砲弾...それが鉄錆卿弾だ。
だから、ぼくはボスなどではないよ。ぼくはぼくひとりで、鉄錆卿なんだ。
それで、もう一度聞いていいかい?どうしてわかったんだ?」
「…あまりにも、誘拐から解放されてすぐ、すべてを知って電話をかけてくるのが早すぎたし、知りすぎていました。それに...
...世界が混じる、そういう現象だと考えてきました。しかし、この世界によく似た世界が2つも、しかも因縁がぶつかりあうなど偶然ではありません。…仕組まれたのではないか、と。エリカ嬢はフラダリが犯人と思っていましたが…」
「ああ、そうだね。それで、なぜぼくが黒幕だと?」
「あまりにも、貴方の影響は大きすぎた。
ポケモンが出現してから誰もが先が見えない世界を手探りで進んだ。ポケモンの世界を知る絵里華さんまでもが最後にはチュートリアルガイドの役目も前世の因縁も放り捨てて一人の人間としてぶつかっていった。
そこに来て、世界の融合という事態と、共存しかないという方針を、始まってもいないのに最初に指し示し、それがすべて正しかった…いくら天才でも、いや天才だからこそ、凡才たる私には信じられませんでした。」
「そして今も、わからないでいる、ぼくがどうしてこんなことをしているのか…そうだろう、凡才くん?」
「けれど、ここで貴方を止める、捕まえるべきことはわかります。
出馬の時です、ビビヨン!」
「…おっと?ポケモンには人間は対抗できないからって、ぼくを甘く見過ぎじゃないかな?
ぼくは作家で、学者で、そして空想科学研究家だよ?
空論屋などと揶揄されることもあったが、しかしぼくなりに、世界の真理も、物語の力も、追及してきたつもりだ。」
新見は、ひとつのゲーム機を机に置いた。
やたらと錆をまとった3DSが、崩れて、内部の基盤があらわになり、それすらも消えていく。そして、鉄錆の粉がひとりでに寄り集まり、一冊の分厚い本をなした。
「だが、ポケモンの世界を訪れさせたからには、ポケモンで戦うのが正解だろう。」
本が開かれ、本に書かれた黒い文字が浮き上がり、鉄錆となって宙に舞う。
鉄錆が空中で渦を巻きながら集まり、それは徐々に、球体とそれを取り巻く3つの輪の輪郭をとった。
「いでよ。
神話となり、物語を顕せ。
フィクトマキナ!」
球い胴体に、つぶらな2つの目が浮かび上がり、その周囲を3本の絶えず絵柄が変わり続けるフィルムロールが回転して、ちょうど正面視界を覆い隠す。
目から発する光がフィルムを透過し、壁にどこかの誰かの物語を常に切り替え流していた。
フィクトマキナ くうそうポケモン タイプ フェアリー 大きさ 1.0m 重さ 1.0i㎏
特性 over=Ⅳthウォール このポケモンを出した場合、バトルのこのポケモンがかかわらない全勝敗を決定できる
物語を具現化させるポケモン。人が書いた物語から生まれたと言われるが、このポケモンが物語を書かせたのではないかとも言われる。視界を覆う3枚のフィルムロールが消えた時、真の能力を表す。/因果を決めるコマンドを持つ全能のポケモン。ナニカがポケモンのカタチを成したものらしい。人に見えているのは仮の姿。
「僕の作品に、バトルで勝てる猶予がある、そう考えているのかな?
フィクトマキナ、ぜったいれいど。」
「っ、ビビヨン避けろ!」
明らかにワザ名からしてヤバイが、しかし細く絞られた閃光を避けるのはたやすいことに思われた。
だから、赤穂には何が起こったのかまったくわからなかった。だって、確かに避けれていたはずなのに、ビビヨンが凍り付いているなんてありえない。
「…コイツの特性は、事実を後から遡及的に書き換える、いわばメタ的なものでね。自分から見て物騙である世界を改変する能力を持つ伝説のポケモンなのだよ。
フラダリは折られ、絵里華嬢は前世への無念因縁未練を捨ててこの世界の存在として確立された。つまり、ポケモンという物騙は、この世界を侵食する片方は、この私とコイツだけのものだ...すなわちそれは、この世界の中の存在ではなく外側の存在としてメタフィクショナルな事象を起こし得るのは僕らだけということになるね。
例えば、こんな風に...フィクトマキナ、BREAK=write」
フィクトマキナが、ミラーボールのように虹色の光を発した。
「何をっ...!?」
「改変:『六条絵里華は、フラダリとの戦いが終わり一息ついたと思った瞬間、なぜか輝きを発する伝説のポケモンと、知らない老人を目の前にしていた』」
六条エリカは、フラダリとの戦いが終わり一息ついたと思った瞬間、なぜか輝きを発する伝説のポケモンと、知らない老人を目の前にしていた。
「絵里華嬢、お初にお目にかかるね。どうだい、僕のポケモンは...伝説のポケモンは。」
熟練のポケモントレーナーなら、異常事態についていけなくても、するべきことはわかっている。
「…黒幕は貴方でしたか。止めます、貴方も。
ラフレシア、BREAK進化!」
金色の光が地面に湧きあがり、ラフレシアへと収束ーしようとして、爆ぜた。
「なっ...」
「BREAK進化…この世界だからうまれたアディッショナルなポケモンの力を誇るのはいいが、残念ながらその象徴がキミの目の前に座しているんだよ。」
金色の粉が、フィクトマキナの回るロールから零れ落ちてどこかへ消えていく。
「まあ孫悟空と同じでね、掌の上にいる、なんてのはね。
フィクトマキナ、BREAK=write。六条絵里華の物騙を書き換えろ。」
フィクトマキナは、かすかに震えた。。
「…フィクトマキナの物語改変が、通じない?」
フィルムロールが前にもまして高速で回転する。
「なんでだいフィクトマキナ。絵里華くんは今、元いたポケモンの世界ではなく、この世界に根差している。その象徴がこの壊れ再生する世界の象徴であるBREAK進化だ。…ならば、ポケモンの世界の威の象徴である伝説ポケモンは、もはやポケモン世界の住人ではなくこの世界に帰化した絵里華くんを物語改変できるはず…」
「いいえ、私の心は決して、あの世界から離れてはおりません。」
「そんなはずはないよ絵里華くん。君の心がまだあの世界に囚われているのなら、この世界の新たなる力は手に入らない。そういう設定だからね。だからあの世界に未だ根差すフィクトマキナが…ううーん、なぜ効かない?」
「ポケモンの世界、ポケモンがいない世界、そんなことはわたくしには関係ございませんわ。わたくしにとって、出会ってきた人々もポケモンも、見てきた空も、海も、森も、街も、世界中のすべてがかけがえのないものなのです。
だから、わたくしはわたくしです。世界とか物語とか、そんなことは関係ございません!」
フィクトマキナとて生き物だ、自分が世界を書き換える能力を持っている一方で、むやみに自分の世界を改変すれば自分の存在がそれに伴って変わってしまうかもしれないことは本能的に察していて、だから、「自分から見て、自分が存在する世界ではなく自分にとって物語である世界」のみを書き換えようとしている。あらゆる世界を物語とみなして書き換える能力をスペック上持っていると言っても、肝心かなめの「自分の由緒がある世界」の改変には無意識にセーブをかけているのだ。
「そうか...君の中では、ポケモンの世界もこの世界も、絡み合っているのか...君たちはどちらの物騙に属するでもない、すべてを包摂している、だからか…」
…だが、エリカが自分のことを「この世界に生きている」と定義しているのではなく「ポケモンの世界とこの世界を生きてきた」と定義しているのなら、半分ポケモン世界の住人であり続ける自認を持つ彼女に対する物語改変は、フィクトマキナの足場を揺るがす行為になりかねない。
「手出しできなくなっては僕の負けだよ。まあもっとも、別に勝ちたかったわけでもないのだがね。」
「…どういうことだ?」
「赤穂君、そうカリカリしてはいけないよ。バトルはもともと余興だったということさ。フィクトマキナがどんなに優れた存在かと言うことを示したかっただけでね。
いいかい?僕が降参する。すると君たちには2つの選択肢がうまれる。フィクトマキナを野放しにするか、僕の代わりに用いるかだ。」
「用いる...?」
「フィクトマキナは自分が根差す物騙以外のすべてのフィクションを書き換えることができる。すべての喜劇も悲劇もだ。フィクトマキナの名をデウスエクスマキナから採ったのは、そういうことなんだよ。
フィクトマキナはポケモン世界という作品を筆に具現化した、エリカ君の世界を存在の根にするポケモンだ。すなわちエリカ君の世界以外のすべてを書き換えることができる。」
すなわち、すでに滅んだある世界以外のありとあらゆる世界だ。
「僕はそれをすることに特に興味はないが、君たちが望むのなら、君たちはフィクトマキナによって世界を書くことが可能なんだ。どんな不幸も不満も失くして、すべての人間、すべての世界を、物騙のような美しいハッピーエンドに導くことができる。」
ー君たちは望まないかい?すべての人の幸福を。あまねく全世界を照らすご都合主義を。
「もともとコイツは、僕が作品を書くための道具にするつもりだったんだよ。僕は二次創作も書くからね。
ほら、原作キャラ救済、とか、そういうやつ?」
-まあ君は原作からかなり外れた存在だったんだけどね?と教授は六条エリカを指さした。
「でもまあコイツにとってはこの世界もフィクションだ、問題ない。さて、君たちにこれを差し上げよう。キミたちはこれで何をする?」
鉄錆を撒き散らしながら、白紙の本が、宙を舞う。
赤穂は、投げられたものはキャッチせねばと思わず手を伸ばした。
六条エリカは、赤穂総理のスーツの背中をわしづかみ、思い切り、引き寄せた。
天空から光弾が降り注ぎ、本へと衝突ーする寸前で、フィクトマキナが金色の光線を発して迎え撃つ。
神々しすぎる光が、地球を照らしている。
徐々に迫るソレは、白い光に、金色よりもなお金色をした原始の光をまとい、ソレが何か誰も知らないというのに誰もがこうべを垂れた。
「…あれは?」
赤穂総理の、手が、声が、震える。
「アルセウス、ですね…創生の神と呼ばれる...」
六条エリカの声の震えは、神を前にした畏れなのか、大事な時に助けてもらえなかったことへの怒りなのか…誰にもそれは読み取れない。
アルセウスの頭上に金光が渦を巻く。
フィクトマキナの身体が金に輝き、フィルムロールがほどけて本を包み込んでいく。
「あれは、まずいね…
フィクトマキナが本気を出してしまう。」
次の瞬間だった。
宇宙が、壊れた。
アルセウス「あ”?なんか知らんうちに『宇宙ってつまり物語だから好きなように書き換えれるよね』とかいう奴登場しとるやんけ。許せん、滅したろ。」
フィクトマキナ「ヤッバ、アイツは俺が最初から存在しない宇宙に創り換えることで俺を倒せるんだったわ...
…あ、でも先制で『この物語にはアルセウスは存在しない』って書き換えときゃええやんけ。勝ったわ。」
アルセウス「創世神ともなると自分が存在しない宇宙に存在して後出しで自分が存在した宇宙に創り換えることもできるんだな、全知全能だから。
さてフィクトマキナ、お前には消えてもらう。」
フィクトマキナ「消えるとでも思ったか。こっちだって物語の神だし、存在消されても作者に書き足させればいいもんね」
作者「ファッ!?(書き加えさせられる)」
千日手→宇宙の法則が乱れる!
Q:なんで六条エリカの物語改変に失敗してるのに最初のワープには成功してるんですか?
A:正確にはワープの時の物語改変で「あっ六条絵里華の帰属世界にまだポケモン世界タグ残っとるやんけ!?」って気づいた。生まれたてだからね、確認忘れて一発勝負しても仕方ないね。
ヒント:本作では六条絵里華/エリカの書き分けには意味があります。実際には漢字でもカタカナでも同じ発音だから新見教授以外の登場人物は区別できていないけれど、あえて地の文まで反映させています。
Q:ちなみに新見教授は何が目的で暗躍してたんですか?
A:ジャンキー作家過ぎて「この世界だって一つの物語だ!書き換えるための
おまけにマッドサイエンティスト過ぎて「この世界が物語の可能性あることない?逆に物語の世界が実在する可能性あることない?」って気づいたら八方手を尽くして仮説を実証してしまうだけの才能もあったもんだからはた迷惑なことになってしまった。
たぶん物語理論が存在しない世界だったら宇宙小説の取材をする野望を秘めて政府を動かして火星ロケットを飛ばしたりしてたような人物で、「善悪の概念は理解しているけれどそれはそれとして面白さや欲望を優先している」タイプ。