少女たちの無限夢路_Summer&Cosmos 作:十二の子
…
これで、世界の欺瞞の暴露へ、この世界の意義へ、世界のウツロへ…
…この物語の終着点へ…!」
顔があるのに顔を認識できない、彼なのか彼女なのかもわからない人物は、どこかであることは確かだがどこかわからない場所で、そう叫んだ。
ー*ー
「ここ、は...?」
蒼玻は、呆然と、銀河渦巻く虚無の中に浮かんでいた。
「確か俺は、チャンピオンのユウリがムゲンダイナのカケラを呑み込んで世界を収束させて、情報を奪われて...
いや、違う…?」
世界の構成情報をすべてムゲンダイナのBREAKオーラに焼き付けてセーブデータ化しつつ、構成情報を奪い取り「存在するという情報すら失われた」状態にして現在の世界を破棄する…それがムゲン団の作戦だ、蒼玻はそう把握している。だが、保存し改変するためのセーブデータが、解凍されずして自ずから思考したりできるだろうか?
蒼玻の目の前、映画のフィルムが廻るように、無数のイメージが流れている。
ー「おれはマサラタウンの」「そこに 3びき ポケモンが いる じゃろう!」「ロケットだんは…ほんじつを もってかいさんする!」「どんな ときも あきらめない それは きみだって おなじだろ?」「……なぜだ なぜ まける」「そう そして 憎らしいほど エレガント!」「クフハっ! 無様なモノだな…… アオギリよ」「キテレツな身なりですね アナタ おもしろいです!」「さあ 8つめの ジムバッジ うけとってくれ!」「ギンガだんの れんちゅう あつまって なにを はじめるつもりだ?」「クラクラさせる つもりが あなたに しびれさせられたのね」「トモダチの ため 世界を 変えねば ならない」「 指差し 確認 準備 オッケー! 目指すは 勝利! 出発 進行!」「10秒に こめた 思い! 世界に 届けちゃお!」「とはいえ 3000年も 前の 話ですから 怪しいものです」「その名も メガシンカおやじ って 人が いるんだ」「破壊して 破壊して 好きなだけ ブッ壊す!!」「ちなみに わたし あかいギャラドスを つったことも あるんですね」「方向オンチの オレとは 違うな」「そんな ムゲンダイナが…… ああ ローズさま……」「耳に! ハートに! きざみつけな!」「そうです 大事なアレとは ポケモンのタマゴ なんですねえ」「ブルベリの動画 始めてから 視聴者数 爆上がり!」
前世でポケモンニワカだった蒼玻には、そのイメージが何か知ることはできない。だが、察することはできる。
ー「失敗の繰り返しは!勝算の代替には!ならないッ!」「お姉ちゃん、やっぱり、お姉ちゃんじゃ、ないよね?」「蒼玻くん。この指輪、つけてください。」
そして、決定的な場面で、蒼玻はすべてを理解できた。
「…これは…
…俺はもしかして、この世界の外にいるのか…?
世界のすべての情報をセーブしたカケラを、外から、見てるのか…?
…アオバちゃん?
おーいアオバちゃん!?
…ダメか。まあそんな気はしてたが…」
彼の、この世界での最大で最愛の相方は、ふだん身体を共有するお嬢様は、応えを返さない。
「イーブイ…!シャンデラ…!ブロスター…!クリムガン…!オリセクト…!ディアンシー…!
…これもダメ、と。いよいよ俺だけ、ここに取り残されたな…
…なんで!?なんで俺だけ!?」
メガシンカという絆の法則でつながるディアンシーですら応えないのなら、本当に蒼玻の心…魂は、「世界の情報」の外側に放り出されたらしい。
「…ああ、そうか。
すっかり忘れてた。俺はこの世界の人間じゃないからか。」
考えてみれば当たり前だ。蒼玻は転生者…その魂は「フォーマットが異なる」…魂の情報を、しょせんこのポケモン世界の法則に縛られたムゲンダイナとBREAK力場で写し取れなくても不思議はないのだ。
「…なんとなくわかってきたぞ…
…せっかくだし、気になってたところ、視ておくか。」
全世界の現在の構成情報と過去の歴史情報…今に至るこの世界すべてが眺められるのだ。無粋はよすとしても、このムゲン団騒動の根幹を確認しても、悪くはないではないか…
…蒼玻は、目の前を流れる無数のイメージへ、念を込め目を凝らし、しばらく悪戦苦闘し、そしてその情報を視つけた。
ー「あたし、は…」
ー「なるほど、これが情報次元とやらですか。」
ー「あなたは…『ダレデモナイ』!?どうしてここに…!?」
ー「『ダレデモナイ』からですよ…
…これは狂言廻しを逸脱しますが、このほうがファニーでしょう。」
ー「あっ…がっ…!あたしの…記憶…!」
ー「『強かった思いは、ムゲンダイナで世界を踏みにじるほうだった。躊躇うあなたは弱く、記憶を奪われた敗北者となった』…
…決して、脚本と喜劇の配役が逆、などということには、ならないのですよ。」
…世界のすべての情報、そう銘打っているイメージにもかかわらず、蒼玻はイメージの中のその人物の顔を認識できないし、それどころかその人物を長く記憶にとどめてすらおけない。それでも蒼玻はなんとか、今まで全員がしてきた思い違いだけは、理解できた。
「そういう、ことだったのか…!
だとしたら、気づいてもらわないと…!」
だがどうすればいい?
「俺が働きかけられる人間は、ここには...
...いや、待てよ?」
ムゲンダイナによる全世界のデータ化。それに巻き込まれていない人間が、蒼玻以外にもう一人だけ、いるはずではないか。
「ユウリ!
チャンピオンのユウリ!」
ー*ー
「な、ん、で…!?」
チャンピオンユウリは、呆然と、空を仰いだ。
そう、空を、仰いだ。
空があり、街があり、大地があり、星がある…そして、自分の前には依然、小癪に歯向かってくる、2人の少女がいる。
…ムゲンダイナのBREAKオーラによる世界の構成情報奪取は、失敗したのだ。
「どうして…?」
全世界の構成情報のカケラへの収束と、それに伴う実体世界の破棄、それには成功した…だが、改変を行使しようとした瞬間に、失敗した…あたかも、セーブデータを改造しようとした瞬間にエラーとともにロードされたかのような。
「…俺が」
(…お、れ…?)
目の前の令嬢の言葉遣いが、異常に不安定であると、その時やっとユウリは気づいた。そんなことにも気付けないほど、今まで視野が狭まっていた。
「俺が、もし大した事ない存在だったら、バグとして処理されてたかもしれない。
だけど/わたくしと蒼玻くんは、たくさんの人に影響を与えましたわ。蒼玻くんの存在を考慮しない世界を、もはや存在させられないほどに…!」
(まさか…
…アオバ令嬢は、ムゲンダイナでもデータ化して取り込めないとてつもない何か、いや誰かを隠し持って…!?)
「アオバ…!
ムゲンダイナ、やって。」
ー改変より前に死ぬという歴史を作ってしまえば、もはやアオバの中身に誰が入っていようと、どうせ改変までに死ぬ人間なのだから中身を除外しての改変処理に破綻は生じないのではないか…そんな穴だらけの論理に思わずすがってしまうほど、最後の最後に出現した理解しがたい邪魔に、チャンピオンユウリは混乱していた。
ムゲンタワーの上空、金色の雲から腕を伸ばし、金色の体表から赤黒いオーラを振りまく怪物が、その手のひらのような身体を振るった。
当たり前だが、しょせん人為になる時計塔が耐えられるはずもない。えぐられるようにして、屋根と壁が粉々に吹き飛び、時計の機構部とチャンピオンの玉座、時計裏バトルコートが吹きさらしとなる。
今だ止まったままの時計の針が、衝撃を受けて大きくズレる。
ームゲンダイマックス_
ムゲンダイビーム_
金色の粒子をまとう、マゼンダのビーム。極光が、蒼玻/アオバへと迫る。
ーザマゼンタの きょじゅうだんBREAK!
巨大な盾が、ビームの前に出現し大爆発した。
「はあ、はあ、間に合ったんだぞ!」
「お姉ちゃん、大丈夫!?」
「カグヤ、ホップ博士、ナイスタイミングですわ!/役者が揃ったという意味でもな!
だよな?真のユウリ?」
「「「え…?」」」
純白の令嬢は、無色のユウリの肩をポンポンと叩いた…当の姉令嬢ですら、片方の人格から驚きの声が漏れる。
「うん…
…だいたい、思い出したよ。
あたし『が』ユウリだったんだね…!
おいで、ザシアン!」
ー*ー
(どういうことかしら?蒼玻くん。
/あー…
…記憶喪失の少女がユウリのドッペルゲンガーだとわかってからずっと、チャンピオンユウリから分かたれた副人格、不要部分だと思ってきただろ?あっちがバリバリ活躍して記憶も引き継いでるわけだしさ。
/なるほど、わかりましたわ。
チャンピオンの…闇のユウリこそが、ユウリの影、分離された副人格で、記憶も地位もポケモンもすべてを奪って「ユウリ」を乗っ取っていたわけですわね…?
/それも概念レベルだよたぶん。俺たちがホップ博士に言われるまで彼女をユウリと気づかなかったのは、照合しなかったからじゃなくて、本当に「ユウリ」じゃなくなるほどに奪われてたからじゃないか。
/それではどうして、今、彼女はユウリですの?
/俺にはムゲンダイナのカケラの効果が及ばなかったんだ。もともとこの世界の存在じゃないからか。だから外側から見れたし、刺激してやったらユウリの記憶を統合することもできた。
…俺とアオバちゃんと同じだよ。2つの人格は、確かに相反して分離するほどのものだったし、それだけホップ博士に関する悩みはユウリの精神を病ませて、闇の部分を肥大させてた…だけど、光と闇、陽と影は本来は一体なんだ。
/記憶喪失のユウリが自分の正体について自覚して、目を背けずに自分の過去や闇の部分と向き合えば、無理に分かたれていた2つのユウリは、統合される運命だった…ということなのですね。
けれど、よく彼女を呼び覚まさせられましたわね?チャンピオンこと闇ユウリと蒼玻くん以外はすべて、取り込まれていたはずでしょう?
/ああそれは...
...俺刺激したのは真ユウリじゃなくて、闇ユウリのほうだよ。
/え...?
確かに改変者として外側にいて、『声が届く』状態だったのでしょうけれど…敵に塩を送るような真似ですわよね...?
/せっかく人格が2つに割れて、色恋沙汰じみた大騒ぎで、片方は記憶を失う圧倒的アンフェア。それで、言っておくべき言葉なんて一つだろ。
「ホップは、どっちのユウリが好きなんだろうな?」
/...ちょっとそれは反則ではありませんこと?人の心がなさすぎですわよ。
/これを問われて闇ユウリが真ユウリとやっと向き合いあったのなら、結局恋については闇ユウリは真の自分から逃げ続けてたってことだろ。
それで一番デリケートな時に深層心理にダイレクトに聞かれて崩れるようなら、自業自得だよ。)
結局それって、メンヘラを殺すには恋の不安ってことじゃありませんの...アオバは、なんだか自分も頭痛薬が欲しいような気分になっていた。
ー*-
剣を口にくわえた王獣を従え、真のガラルチャンピオン、真の最強トレーナーが、自らの闇を睨む。
「あたしがなにもない?
自分の『今』を大事にせず見切りをつけてセーブデータからやり直そうとしてるあなたには、それこそ無限の時が経ったってわかんないよ。
あたしの大事なものは、今、ここにある。」
遥か眼下の元エール団団員たち、今も中層階で祈っているのであろうマリィ、ここまで苦心して彼女を連れて来てくれたフロックス姉妹、そして今ここで彼女の隣に立つホップ...彼らの顔が、脳裏をよぎる。
「あたしがチャンピオンになった意味も、ここにある。」
吹き曝しになったムゲンタワー最上階、両手を大きく広げ、シュートシティのメガロポリス、ガラルの大地を背に、真ユウリは叫んだ。
「ホップ、力を貸して!」「ああ!ユウリのためなら、もちろんだぞ!」
「なんで...!」
(そこにいるのは、あたしのはずだったのに...!)
「ザシアン、きょじゅうざん!」「ザマゼンタ、きょじゅうだん!」
「ムゲンダイナ、ムゲンダイビームッ!」
-ザシアンの きょじゅうざんBREAK!
-ザマゼンタの きょじゅうだんBREAK!
ームゲンダイマックス_
ムゲンダイビーム_
「無限のエネルギーを持つムゲンダイナが、負けるはずがない…ッ!」
巨大な光盾を、文字通り無限大の光線はその途絶えることのないエネルギーで押し込んでいく。
剣閃は、無限の光量に消えかかっている。
闇ユウリは険しいながらも勝利を確信した表情でムゲンダイマックス_
真ユウリとホップもまた、決して諦めた者の瞳ではない。
「ザマゼンタ、踏ん張るんだぞ…!」「ザシアン、頑張って…!」
「無駄ッ!
無限の出力を持つムゲンダイナに勝つことは、できないッ!」
なおもムゲンダイビーム_
ザシアンの脚が、カクリ、折れた。
ザマゼンタの盾に、ヒビが入った。
直後、無限の極光が2体を呑み込み、ムゲンタワーの床を次々とぶち抜いて最下階へと到達、時計塔全体を激震と爆煙で包んだ。
ー*ー
「ユウリ…!」
ダンデは、爆発に包まれたムゲンタワーを、数区画離れたユキコシ総領事館の医務室の窓から見上げた。
視線の先、崩れていないのが不思議なほどにあちこちから煙を噴き上げる時計塔を、赤黒い空から金色の腕が睥睨している。
ー煙の中から、飛び出してくる2つの影があった。
「…あの時の、再現みたいだな…」
ーもっと、鍛えなくちゃな。3度目の再現は、ないように。
ー*ー
ダンデがさらなる強さへの決意を新たにしているころ。
ザシアンの剣とザマゼンタの盾は、金色の粒子を振り撒き、金色のムゲンダイマックス_
顔らしきものがないにもかかわらず、怒っていることがよくわかる、それくらい、ムゲンダイマックス_
金色の粒子をまとうビームが、金色の光盾に阻まれる。
「なんで…ッ!無限の力に…かなうはずが…!」
ビームを大上段に斬り裂き、巨大な金色の斬撃が、マゼンダの空も金色の雲も分かつ。
「あら、ご存知でなくって?例え解が無限になる数式でも…」
聖なる斬撃と盾打は、毒々しい無限の極光を打ち祓い…
「/…『矛盾』する命題は、入力できないってさ!」
…金色のムゲンダイマックス_
ー*ー
虚ろな龍の姿へ戻ったムゲンダイナが、ゆっくりと、崩れ落ちる。
世界を覆っていた赤黒いオーラが晴れ、青空がガラルの空を満たす。
「あたしの、負け、かぁ…」
力なく微笑む闇ユウリは、玉座から立ち上がることなく、自分めがけ落下するムゲンダイナをマスターボールへ収め、向き合う真ユウリへと投げ渡した。
マスターボールは真ユウリに届かず、てん、てん…穴だらけの床を跳ね、真ユウリの足元で止まる。
「
ー仮にもチャンピオンが、ボールコントロールをミスるはずがない…
…闇ユウリの身体が、透け始めていた。
「あはは…
…あたし、ほんとに、オーラに写し取られた闇の部分だったんだね…」
金色の光の粒が、闇ユウリの全身から舞う。
(そっか…ムゲンダイナのオーラがデータ化したときに相反して分離したのが彼女だから…/ムゲンダイナが堕ちて情報化が解除されれば、独立した個ではなくなるというわけですわね…)
身体がほどけるように、BREAKオーラの粒子を散らして、服が、手が、足が、頭が、透けていく。
「あたしは...あたしは...
...ホップの夢、かなえてあげたかったのに...」
途切れ途切れの声を漏らしながら、闇ユウリは金色の粒子の塊となっていく。
その、時だった。
ユウリが座る玉座の後ろ、止まったままの時計の針...その上から、声がした。
「過去は変えられない。
未来は依然たゆたう夢のごとく。
現在ですら意のままにはならない。
残念でしたね、一度魔が差したばっかりに。」
「…貴方、誰かしら。」
「私ですか?私は、名前など必要もない人間ですよ。『ダレデモナイ』とお呼びください。
『主人公』さん?」
顔があるのに認識できない人物は、そう告げた。
「お前/貴方はいったい...」
絶句。意味深すぎる台詞に、蒼玻/アオバもカグヤも、言葉を発することができない。
「…最期にひとつ、いいかな。」
「なんでしょう、『闇ユウリ』さん?」
「あたしはどこから間違ってたの?
闇のあたしは主人格になれなかった。結局、良心のあたしがずっと強かった。
なのにあたしは、オーラに焼き付いて分離する前に、ムゲンダイナを学園島に連れて行った。ラスト団と手を組んだ。BREAK
いつからだったの?いつからあたしは...」
金色の霧となりつつある彼女は、言葉にならない感情を乗せ、その問いを、「物語のラスボス」へと尋ねた。
「二重人格...
...と、合理的な結論も言えるのでしょうね。恋煩いとはそれほどのファクターなのですから。
しかし私はこう答えましょう。
『ムゲン団ボスのユウリ』、これは『ソード&シールドの後日談』の『天命』であったのだと。
『ムゲン団という集団幻覚』、これがムゲン団を生み出したのだと。」
金色の霧となりながら、闇ユウリは、何か、気づいてはいけないことに気付いてしまったかのように、目を見開いた。
「アイツをこれ以上喋らせるなッ!」
蒼玻が、途方もない危機感におそわれ、応急処置ではとても足りないのを知っていながらもディアンシーのボールと「げんきのかたまり」を構える。
「『”
ダレデモナイは、ただそう一言口にした。
蒼玻/アオバが脱力し、へたりこむ。
「これだからチート転生者は無粋で困ります。
さて、そう、天命です。
『ムゲン団ボスのユウリ』が時間を超えようとするのもまた、ムゲン団の天命ですね。
ですから、ユウリさん。
過去へはもう戻れない。現在にもはや希望はない。
ならば、無限の未来を、変えればいいのです。」
「むげんの... みらい...?」
もはや言葉もほとんど聞こえないほどに消えかかっている闇ユウリに、ダレデモナイはとどめの言葉を告げた。
「1つ先の宇宙、興味ありませんか?」