進撃! 犬耳機動部隊   作:神谷萌

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Chapter-10

「ダメなものはダメだと言っている!!」

 大日本帝国海軍第八艦隊、陸上司令部。

 司令部公室に入ろうと、チハーキュ帝国海軍、アリシア・グレイス・ローレンス少将がノックをしようとしたところ、中から怒声が聞こえてきて、一瞬ギョッとした表情になって、動きを止めた。

 室内では、日本第一八戦隊首席参謀の篠原多磨夫中佐が、神相手に膝詰談判を行っているところだった。第八艦隊指揮官の三川軍一中将もいる。

「しかし、1隻でも多くの兵力が必要な作戦でしょう!? それだと言うのに、我々が置いていかれると言うのは、どうしても納得できません!」

 一応、上官に対する言葉遣いをしているが、かなり強い語気で、篠原が神に詰めている。

 ── 気持ちは解るが……

 三川は、複雑な内心を声に出さずに呟く。

「今回は他国の、チハーキュの艦隊との共同作戦になる! 向こうは派遣前に終えているだろうが、こちらは回転整合すらしていない! この状況で、貴様らを同道させて足手まといになったりしたら、我が帝国海軍の恥を晒すことになる。自重しろと言っているのだ!」

 神の方も、声を荒げつつ、きっぱりとそう言った。

「だったらなおさらです! 向こうは水雷戦隊も出すそうではありませんか! それこそ我々が1隻の駆逐艦も出さないなど、笑い者になります!」

「逆にそれこそ恥をかかせる気か!? 向こうの駆逐艦は我が方で言えば特型、そこへ並型を出して駆逐艦でござい、などと言えるものか!」

 どちらも体面を前面に押し出して主張し、引く気配がない。

「えーと……すみません」

 一瞬、言葉が途切れたところで、部屋の扉が開き、頭の犬耳を伏せた女性が、おずおずと覗き込むように入ってくる。

「時間がないので、失礼させていただきます」

「いえ、我々もお見苦しいところを見せてしまい、恥ずかしい限りです」

 アリシアの言葉に、三川が困惑の苦笑でそう返した。

 アリシアは、室内に入ってから、三川に正対する位置に進み、そこで改めて直立不動の姿勢になり、耳もピンっと立てて、敬礼する。

「今回、戦闘の指揮を任されました、海軍少将、アリシア・グレイス・ローレンスです。以後、我々の部隊は第71任務部隊とお呼びください」

「第八艦隊司令長官中将、三川軍一です」

 三川の返礼を待って、アリシアは姿勢を緩める。

「それで……今、かなり白熱した物言いのようでしたが……何か?」

「ハッ! ローレンス少将!!」

 神が発言しようとしたが、先に篠原の方が、アリシアに向かって敬礼しながら口を開いた。

「今回の作戦の話を聞きまして! 我が第一八戦隊も同道を進言していたところです!」

 アリシアは、篠原に返礼し、彼が敬礼を解くのを待ってから、神に対して、

「何か問題が?」

「ええ……第一八戦隊は設計も旧く、他の巡洋艦と足並みの揃わない軽巡洋艦で構成されていまして……重巡部隊と足並みが揃わなくなると……」

 神が、眉間に皺を寄せた難しい表情で説明する。

「そう言うことでしたら……離脱時は我々が面倒を見ましょうか? 我々と日本巡洋艦ではもとより速度があいません」

 アリシアが提案する。

「少将!」

「ローレンス司令!」

 篠原が表情を綻ばせ、神が、険しい顔をしたまま少し慌てたようにした。

「それだけではないのです。まず、第一八戦隊自体、現在乙巡 ──── 軽巡の1隻が離脱中です。それに、参加を求めている巡洋艦の1隻が、スクリュー軸が故障していまして」

「あ、そりゃ駄目だ」

 神が事情を説明すると、アリシアは、やたら軽い口調で、あっさりとそう言った。

「ローレンス少将、ですが!」

 先程とは一転、どこか呆気にとられたような表情をした篠原が、縋り付くような声を上げる。

「今回のような速度頼みの作戦で、出発前から推進器に損傷を抱えている艦を参加させるわけにはいきませんよ」

 アリシアも、困ったような顔をしつつ、手振りを加えながらそう言った。

「で、ですが、30ノットは出せます! 足手纏にはなりません!」

 それでも、篠原が食い下がる。

「…………参考までに、本来の軸数と故障している軸数はお聞かせ願えますか?」

「軽巡『夕張』で、本来3軸のところ、1軸が不動です」

 アリシアの問いに、神が、事務的な口調になって説明した。

 それを聞いてから、アリシアは篠原に視線を向け直す。

「その状況でもう1軸損傷したら、速度が20ノットを割る可能性もあります。それに、1軸運転だと、回避運動の際に当て舵もできないではありませんか」

 困惑気な表情になり、アリシアが手を振りながらそう言う。

 同じようなことは神も三川もさんざん言って聞かせた。それでも篠原、それに第一八戦隊の松山光治少将が食い下がっていた。

 だが、共同作戦を執る他国軍の将からも難色を示されたとなると、これはまた話の重みというか、その質が、だいぶ変わってくる。

「し、しかし……」

 それでも、篠原は食い下がろうとしてくる。

「そ、それでは、『天龍』と『夕凪』だけでも……」

 艦の名前を出されても、事情を深くは知らないアリシアは、神に視線を向けた。

「緊急の作戦で第八艦隊も我々も、それぞれの合同演習も充分とは言えません。そこへさらに艦の整備も間に合っていない部隊が加わっても、戦力どころか混乱を生むだけかと ────」

 アリシアは、険しい表情でそこまで言ってしまってから、はっと我に返る。

「────……失礼、少し言い過ぎましたか」

 そう言って、口元に手を当てた。

「いえ、ローレンス少将の御意見はご尤もかと」

 神が、手振りを加えながら言う。

「そ、それでもガ島の友軍を考えれば、今は……」

 篠原は最後まで足掻こうとするものの、

 ブチッ

 ── あっ

 雰囲気が変わったことに、三川と神は気がついた。

「ああもう、はっきり言いましょうか」

 アリシアは、不気味な笑顔を浮かべる。

「私は今回、夜戦ができると聞いて今回の任務に志願しました。解りますか? やりたいんですよ、夜戦。だと言うのに不安要素を無理やり押し込んで邪魔しないでいただけます?」

「い、言わせておけば!」

 篠原の方も、返って憤った声を上げる。

「女の分際で、我が帝国海軍の作戦にくちばしを挟んでくるなど!」

「あ゙?」

 篠原のその声を聞くと、アリシアは、とうとう顔から笑みを消して、パキパキと両手の指関節を鳴らし始めた。

[こちらも性差の問題については言及しないつもりだったが、そう言う言い方をするんだったら、表で白黒つけるか?]

 この言葉は、篠原も、神や三上も聞き取れなかった。逆上しかけたせいで、母国語・カムイガルド語に戻ってしまっていたからだ。だが、怒りの表情は理解できる。

 ヴォルクスは、トロルなどの極端な(デミ・)(ヒューマ)(ノイド)を除けば、体格が大きい方であると同時に、男性と女性の体格差が小さい。

 新学暦204年の統計調査では、チハーキュのヴォルクス女性の平均身長は162cm。男性は171cmである。

 対して、昭和14年、西暦1939年の日本人男性の平均身長は165cm、女性で153cm。

 他に筋肉の着き方などに性差はある反面、地球人類に近似する人間族に対して、ヴォルクスは極端ではないが筋肉密度が高い。

「そこまでだ!」

 三川が、2人共に窘めるように、強い口調で声を上げた。

「あ ──── も、申し訳ありません。自軍の部下のつもりで、思わず……いえ、失礼しました」

 我に返ると、途端に縮こまるようにして、耳を伏せ、尻尾を自身の脚の後ろに隠してしまいながら、謝罪の言葉を口にする。

「いえ、篠原中佐の言い方も悪かったので。こちらこそご容赦願いたい」

 三川は、アリシアにそう言ってから、篠原の方を向いた。

「諸君らにも同情するところはあるが、行くならば我々も思う存分やりたいというのは本音だ。一八戦隊には今回は自重してもらおう」

「は、はぁ……」

 三川の言葉に、篠原は消沈したような様子を見せる。

「それに、準備不足の艦を連れて行ってみすみす沈めるほど、帝国海軍には余裕はない」

「そうですね、軍人は国と国民の為に命を賭すのが仕事ですが、むやみに死んでいいわけではありません」

 三川の言葉に、アリシアは、耳を立て直して真摯な表情で、同意の言葉を発した。

「そう言うことだ。どうしても納得ができないというのであれば、理解できるまで、松山君と2人で、廊下に正座でもしていたまえ」

 

 

 数時間後 ──── 8月7日、14時40分。

 重巡洋艦『キャルヴェロン』戦闘艦橋。

 チハーキュ帝国海軍地球覇権艦隊、第71任務部隊は、より新しく地球重巡の枠を超えるラピス・デル・プエルト級ではなく、こちらを旗艦として、司令部を置いていた。

「『鳥海』、出発します。発光信号、『我ニ続ケ』」

「了解。打ち合わせ通り、我々も進軍開始」

 キャルヴェロン艦長、ヴァレリア・ヘイスティングス・クーパー大佐が、部下に下令する。

 日本一八戦隊との押し問答が終わった後の会合での決めた通り、日本の重巡洋艦『鳥海』に続いて、ラピス・デル・プエルト、ヴェンタ・トレドールがレシプロ機関を巡航出力に上げて前進し始め、キャルヴェロンは更にそれに続く。

「電波警戒器、切るんじゃないんですか? 無線封止では?」

 ヴァレリアが、アリシアに問いかける。

 電波警戒器 ──── レーダーは、電波発信源になるため、捜査範囲の外側からでも、レーダー波とその発信源を特定できるという、諸刃の剣の一面も持っている。

「いや、入れといてくれだって」

「え? 隠密行動じゃないんですか?」

 アリシアの答えに、ヴァレリアが驚いたような声を出す。

「敵の航空機が接近してくる方角を知りたいんですと」

「そう言うことですか」

 ヴァレリアが納得の声を出してから、アリシアは、

「陸軍さん、対潜哨戒部隊は出した?」

 と、自らの副官、司令官補であるリティア・カレン・ヴェルネス少佐に訊ねた。

「ええ、出てます」

 フィリシスのリティアが答える。

 ヴォルクスとフィリシスの違いは、耳と尻尾だけではなく、肉付きがよくガッシリとした体型が多いヴォルクスに対し、フィリシスは細身でしなやかな肢体を持つ者が多い。ちなみに、交配自体は可能だが、子孫はまぜこぜになるのではなく、明確にどちらかの特徴を選択的に取得する。ただし、隔世遺伝で、本人で選択されなかった側の遺伝情報が発露することもある。

 そしてフィリシスの最大の特徴は、夜目が効くことだ。

 ヴォルクスも人間族やエルフに比べれば遥かに暗視能力が高いが、フィリシスの光順応には叶わない。

 なので、アリシアは自身の副官にフィリシスを希望することが多かった。

 閑話休題 ──── 先日から、ソロモンからニューブリテン島にかけての一帯に、米軍の潜水艦が出没していることから、陸軍第902飛行軍団は、エルードEl9多目的戦闘機の沿岸哨戒飛行部隊と、セレスSe6水上偵察機とレイアナーRe2飛行艇で編成される対潜哨戒部隊を展開していた。

 ……

 …………

 …………日本との間で、

「陸軍が飛行艇? 対潜哨戒部隊?」

「陸上に基地を置く航空隊は陸軍の管轄であるべきでは?」

「? ??」

 ってなやり取りがあったのはともかく。

 レイアナーRe2はもともと民間用として設計されたRe1を、軍用に全面的にリファインした機体で、エンジンは2発が前・1発が後ろを向く3発飛行艇だ。

 絶対的な性能では、日本の川西H8K 二式飛行艇には及ばないものの、空対水上電波警戒器を搭載している。

 この時代の潜水艦は長時間潜航していられるわけではなく、戦闘時以外は浮上している事が多いため、戦闘海域を単独航行しているようなフネを電波警戒器で探し出して、それを潜水艦だと()()()をつけるわけである。

 ちなみにEl9は……はっきり言ってしまうと “チハーキュ版Bf110” だ。ご丁寧に機首もガラス張りの銃座という3座機で、なんならフランスのポテーズ630がより近い。

 チハーキュの巷では、陸軍がこれの開発に予算を割いた結果、海軍のIe9、El11を採用することになった、とか言われている。実際には、Ie9となるXF-201が発注された時点で陸軍も採用するつもりだったのだが。

 で、結局Ie9やEl11、それどころかSe9にも敵わないということで、多目的機として哨戒飛行隊に回される結果になった。

「上手く飛行機で潜水艦を狩り出せればいいんだけど」

「ですね」

 アリシアが呟くように言うと、リティアが同意の言葉を出した。

 斬り込み作戦であるため、第71任務部隊も駆逐隊は第61駆逐隊の4隻だけしか連れてこなかった。重巡洋艦、特に大型のラピス・デル・プエルト級には対潜能力が期待できない。

 ──── 16時30分。

「ふーん…………」

 一時的に減速しているラピス・デル・プエルトの艦橋で、艦長、ビクトリア・アーチャー・ニュートン大佐が、双眼鏡で前方を覗き込んでいる。

 その視線の先では、先行の鳥海に、日本第六戦隊、『古鷹』『加古』『青葉』『衣笠』が合流してきて、単縦陣を組み直しているところだった。

「日本ってか、地球で一番古い重巡洋艦だって言うけど、ミネルヴィアより小型だけど、その分洗練されているねぇ……」

 双眼鏡を下ろしながら、ビクトリアは苦笑してそう言った。

 ミネルヴィア級は前方こそ50口径20cm砲を連装で搭載し、先進的に見える一方、後方は同じ砲を単装砲として搭載し、その左右に中間砲としてセミケースメイト式の32口径20cm砲を配置した、古臭い形状をしている。

 これは、ミネルヴィア級が巡洋艦による突撃戦術の試行錯誤の途上で建造されたからで、中間砲で火力を補いつつ、後部に武装艇を搭載するスペースを確保した。

 …………が、省スペースと後部主砲塔の旋回範囲を大きく取るため、後部主砲塔はセミケースメイト砲の上に配置されていたのだが、…………まぁ想像通り見事にトップヘビーで復元性に問題を抱え、結局武装艇の搭載をやめて、そこに後部主砲塔を移す改造が施工された。その後、旧後部主砲塔のスペースが水上機搭載・運用スペースになった。

『進撃再開ス、速力24ノット』

 日本艦隊最後尾の古鷹から、発光信号で、チハーキュ艦隊先頭のラピス・デル・プエルトに伝えられた。

「ラバウルから緊急!」

 ヴォルクス・フィリシス用のイヤーレシーバーに手を宛てながら、通信オペレーターが緊迫した声を上げる。

「何!?」

「Re4類似の4発機に爆撃を受けた、1機が我々の進路上に向かう可能性大!」

「チッ」

 ビクトリアが、眉間に皺を寄せて舌打ちする。

「ボーイングB-17ってやつね……性能もRe4に似ているから、離脱中は高々度を飛行しているだろうから、こっちの詳細を知られないとは思うけど……」

 ラバウルにはすでに、チハーキュ陸軍の移動式対空電波警戒器が運び込まれていたし、第902航空団のEl11戦闘機24機が邀撃に飛び上がった。

 実際に進入したB-17は3機だった。本来なら、簡単に全滅させられる数だった。にも関わらず爆撃を許し、爆撃後も1機すり抜けられたのは、Re4とB-17が酷似していたため、戦闘機搭乗員が一瞬、躊躇してしまったためだ。

 果たして、このB-17は、彼ら彼女らの “殴り込み艦隊” を発見した。その内容は、

「大型巡洋艦2、中型巡洋艦4、駆逐艦5、水雷艇3」

 と、自身の司令部に報告した。

 “殴り込み艦隊” は、それに構わないかのように、航路上の第1目標であるショートランド諸島の泊地を目指して、南東へと進んでいった。

 

 






ミネルヴィア級重巡洋艦 要目
基準排水量14,050トン(後部砲塔移設後)
主砲 50口径20cm砲 前部連装2基 後部単装1基
中間砲 35口径20cm砲 セミケースメイト式 後部両舷 合計2門
 50口径75mm対空砲 連装×4
 45mm前装式ケースレス・リボルバーカノン連装×6
 20mm機銃4連装×6 連装×2
 8mm機銃14丁
 55cm魚雷発射管 連装4基
水上機3機 カタパルト2基
機関型式 蒸気レシプロエレクトリック・蒸気タービン併用
ボイラー 海軍省185年式水管式トラップ炎路型
 重油専燃×6 重油・石炭混焼×4
蒸気レシプロユニット レイアナー重工業製複式ユニフロー
 高圧4気筒・低圧2気筒×2
蒸気タービン レイアナー重工業製衝動式タービン
最大軸出力 118,000hp
軸数 4
公称最大速力 32ノット
電気系統 交流30c/s 375V


具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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