「いいんですか、同盟国とはいえ、民間人の自分にここまで見せてしまって……」
「まぁ別に、我が軍としては、機構そのものは最新鋭の軍事機密、というわけではありませんから……」
キャルヴェロンの艦橋基部前部、左舷側のケースレス・リボルバーカノン銃塔。
報道班員として同乗を認められた、日本の作家であり、戦史研究家でもある、
丈乃は、戦記小説の作家を目指していたが、日華事変激化を受けて検閲が厳しくなり、創作物として滅多なものが書けなくなり、そこへ従軍報道班員の声がかかったため、参加した。
…………したはいいものの、同業者で名前の字面が似ている人間がいて、しょっちゅう間違えられ、若干辟易していた。
そんな折、チハーキュの対米宣戦布告、同時に日千攻守同盟条約が締結され、「異世界国家参戦」の報に、 ──── まぁ丈乃も最初はどんな与太だと思ったが、そのうちに、自分独自の書き物ができるかもしれないと考え、志願して南太平洋支隊司令部のゲスト報道官として迎えられた。
余談だが、日本語におけるチハーキュ帝国の漢字表記は、両国間の協議で『千八九帝國』に決定されている。
話を戻すと、丈乃は偶発戦のミッドウェイ沖海戦を除き、最初の実戦参加となるこの戦いにも、志願して第71任務部隊に同道していた。
ちなみに、丈乃がしょっちゅう間違えられるという先達の同業者も、実は今、報道班員として、日本隊の旗艦・鳥海に乗っていたりするのだが。
一方のサリは、丈乃は彼女を見るなり、
「こ、子供!?」
と言ってしまった。サリはチハーキュ主要4種族のうちのデミ・ドワーフだ。
身長が低いことはドワーフの系譜の共通点だが、年齢に比して老けて見えたり、女性でもヒゲが生えたりするドワーフに対して、デミ・ドワーフは逆に女顔の童顔で、中性的で子どものような姿をしている。
体格は小さいが、筋肉密度が飛び抜けて高く、大柄なヴォルクスやオークと比べても膂力に劣らない者が多い。
なので、軍内部では砲術関係にちらほらいる。主に陸軍に多いが、海軍にもいる。大体、砲が焼き付いて排莢不良を起こした時にぶっこ抜く役だ。
サリも国防大学は海軍砲術が専攻だったが、警護巡洋艦乗組の時に、海賊退治に従事した際、残弾の計算ばっかりやってたら、気付いたら主計をやれと言われて研修の後にキャルヴェロンに回された。
2人の前に、地球にはない45mm前装式ケースレス・リボルバーカノン・202年型を支持している砲架がある。
「面白い構造ですね……蓮根形弾倉の前部から装填するんですか」
“前装式” の名のとおり、回転シリンダーの前部から次弾が装填される仕組みになっている。
「ええ、今主流のブローバック銃が出現する前からの技術なもので」
サリが言う。
地球においては西暦1718年、イギリスのジェームズ・パックルが、最古の機関銃でありリボルバーカノンの源流とされる連発式リボルバー銃を発明した。開発者の名前を取って「パックルガン」と呼ばれたこれはしかし、マスケット銃を装備した戦列歩兵による投射量に大きく勝るものではなく、しかもパックル自身が己の宗教感に基づいた、「異教徒には痛みを長引かせる角形の弾丸を使える」とかわけのわからん内容を特許に盛り込んだこともあって、正式に量産される事はなかった。
一方、エボールグでは、チハーキュがイビムの軍隊を撤退させ独立主権を回復して間もない新学暦18年、フェルディナンド・タヴィン・グリスウォルドが、パックルガンによく似た連発式リボルバー銃「フェルディナント砲」を試作した。
チハーキュとイギリスの判断が分かれたのは、当時の両国の置かれた立場だ。チハーキュは、独立戦争では逆に、寡兵でイビムの戦列歩兵と戦った。なので、少人数で運用できる機械式の連発銃は魅力的なモノに見えたわけだ。
ついでに、フェルディナントは、非軍事的な、余計な思想信条を設計に反映させる事はなかった。
結果、エボールグ版パックルガンであるフェルディナント砲は制式兵器の座を勝ち取った。
装填機構の省力化などの改良が順次進む中、新学暦100年頃になって、レバーアクション銃が登場したあたりで、撃鉄の自動起こしと、連続装弾という課題が出現した。
前者は然程困難もなく実現されたが……連続装弾を行なうにあたって、ボルトをブローバックさせて撃鉄の自動起こしをする際についでに装弾する、というところまでは良かったのだが、何を考えたのか、────
もともとの設計を踏まえて、「シリンダーの前部から装弾する」と思い込んでしまった。
問題として排莢をどうするか、が上がったが、導き出された結論は、
「薬莢を弾頭と一体にして一緒に発射してしまう」
という身も蓋もない物になった。つまり鉛が詰められた弾頭の後ろに、薬莢である
安定して動作する銃が完成するまでに年月がかかり、そのうちにレバーアクション銃の構造がより洗練された結果、あるウィークポイントが出来上がってしまう。
それは、構造上ストレート弾しか採用できないと言うことだ。地球同様、この時期以降の高速ライフル弾は、発射装薬を増大するため、弾頭に対して薬莢の口径が大きい、所謂ボトルネック弾が主流になっていった。
この為、ケースレス・リボルバーカノンは、発射装薬が増量できない為、威力と射程が伸び悩むというだけではなく、歩兵の持つ小銃と弾丸の互換性を確保できないという問題にもつながった。
むしろ深刻だったのは互換性の方で、大量消費のバイハイ戦役で問題が顕在化した。この為、すでに登場し進化著しく、小銃との弾丸の互換性も確保できる、より単純なブローバック式の機関銃が戦争中期以降の主力となり、オルガン砲など他の原始的連発銃同様、陸戦兵器としては、科学同盟側の優勢が明らかになる時期には姿を消しつつあった。
──── そう、 “
前装式ケースレス・リボルバーカノンは、ブローバック銃では取り扱いの難しい口径35mm以上にも対応できた。しかも、弾丸の重さと装弾数の問題において、重力落下式の原始的なホッパー給弾で良く、射撃しながらでも追加装填できる点で有利だった。
その代わり、地球で登場することになる後装式のリボルバーカノンと異なり、発射速度は遅い。遅いと言っても240rpmは確保できた。
また、装弾機構が銃身とオーバーラップしているため、口径・銃身長の割に前後に短いという特徴もあった。
この為、チハーキュの前装式ケースレス・リボルバーカノンは、小型舟艇撃退用の艦載砲として生き残りに成功した。間もなく対空射撃が任務に加わったことは言うまでもない。
地球ではエポックメーカーとして名を残しつつも自身は歴史の徒花として消えたパックルガンに対し、エボールグのフェルディナント砲は直接の系譜が引き継がれたわけである。
今、丈乃とサリの目前にある202年型は、最新の改良型で、従前と同じ口径45mmでも、まんま弾頭後部が薬莢になっていた構造から、技術革新を受けて、パラフィン系の
「今、202年型と言いましたよね?」
しばらく、好奇心旺盛そうに観察していた丈乃だったが、ふと気がついたように、サリに質問した。
「ええ、4年前、新学暦202年に制式採用されました。こちらで言うと……昭和13年ですか」
「旧型の銃は、まだ使われていますか?」
サリが答えると、丈乃は更に質問する。
「うーん……主戦総艦隊、日本で言えば聯合艦隊に相当しますが……それはもうほとんどの
「…………」
サリの答えを聞いて、丈乃は表情を険しくする。
── 4年前に開発して、ほぼ全艦艇に行き渡っている……日本には到底無理だ。チハーキュ海軍の規模がどれほどか正確には解らないが、こりゃ多分、日本よりだいぶ国力のでかい国だぞ……
[サリ大尉!]
受令電話器、とチハーキュ海軍では呼んでいる、艦内電話のスピーカーから何かを伝えられたらしい銃塔班長が、カムイガルド語でサリを呼んで言う。
[駆逐隊が潜水艦を発見したとのことです。報道班員を艦内に戻すようにと]
[あら]
サリが、一瞬だけ「まずいなー」というような表情をした後、
「どうかしましたか?」
と、丈乃がサリに訊ねる。
すると、サリは、いくらか険しめの真面目な表情に戻り、
「潜水艦が至近にいるようです。おそらく敵でしょう。あなたを艦内の中に戻すようにと。私も持ち場に戻らなければなりません」
と、丈乃に伝えた。
「解りました。艦内の事は指示に従いますよ」
口元で笑ってそう言う丈乃を連れて、サリは艦橋構造物の方に戻るために、銃塔内を後にした。
「ふっざけんなコラ! 逃さないぞ!!」
第61駆逐隊の駆逐艦『ブルピナ』『スコルナ』『リムブラ』『チャペラ』の4隻が、4基搭載しているSBRC-195、4連装365mm対潜爆雷砲のうち1基から、1隻あたり4発、合計16発の爆雷砲弾を発射する。365mm親子式爆雷砲弾は60kg子爆雷4発に別れて着水する。
「爆雷投射装置も、あちらの方が優れているか……」
鳥海の艦橋では、SBRCが発射されたのを、双眼鏡で見ていた三川が、そう呟いた。
確かに、イギリス軍が開発中の対潜ロケット砲『スキッド』によく似ている。
ただし、これは技術の差と言うより、発想の差だった。地球の、所謂K砲、Y砲と呼ばれるアーム式の爆雷投射機が開発された頃、チハーキュは、
「どのみち火薬使うんだったら直接飛ばしたろ」
と考えてしまっただけのことだ。なので砲弾もロケット砲とは微妙に違い、先述のリボルバーカノン用のケースレス弾に着想を得たもので、なんなら地球で類似の兵器は日本陸軍の九八式臼砲と言えたりする。
形式号で分かる通り、砲本体は新学暦195年、つまり11年前に開発されている。日本で言えば “九一式” だ。
ただ親子式の365mm対潜爆雷弾205年型、と形式に入ってしまっているが、去年開発・制式化されたばかりのものである。
それどころか、潜水艦を探すソナーは、連合国ではなく日本の九三式水中探信儀そっくりの代物がくっついていた。ただし日本では未採用の、ソナードーム周辺の水流を整えて雑音を抑制するフェアリングプレートは早々に装着していた。
ついでにオペレーター、つまりヴォルクスやフィリシスが聴力と言うか、音に対する分解能が高いという、人間との
本来、水中ソナー類は高速を出すと、己の航行の騒音で探知能力が落ちる。24ノットも出したら、チハーキュ海軍の聴音手でもマトモな探知はまず無理だ。
今回、20ノット超でガダルカナルへ向かうことから、第61駆逐隊も、嚮導艦の軽巡カスティラナも、積極的な水中探査を半ば諦めていた。
──── ではどうして今、こうなったのか。それは簡単で、相手の潜水艦が接近しすぎて、日本隊の衣笠と接触しかけたのだ。
それがあまりに大胆だったものだから、先のリムブラ艦長、シルヴィア・ティナ・クラウディン中佐の激昂の怒声が出たわけである。
対潜攻撃を受けたのはアメリカ海軍の潜水艦S-38。艦長のヘンリー・グラス・マンソン少佐は、すぐに司令部に打電しようとしたが、激昂したシルヴィアが、リムブラをS-38の司令塔に半ばぶつける気で接近してきたため、それを断念して急速潜航を命じざるを得なかった。
「
リムブラを寸でのところでやり過ごしたS-38だったが、すでに位置が割れていたため、直後に365mm対潜爆雷砲の攻撃を受けることになる。
数発の致命的な爆発音と、それに続く嫌な軋みが聞こえてきた。
「バッテリー室浸水!」
報告が上がる。
「メインタンクブロー!」
「艦長、それでは敵のど真ン中に出てしまいます!」
マンソンが指示すると、慌てた声が返ってくる。
「このまま沈むよりはマシだ! 急げ!」
マンソンはそう指示したが、
「駄目です! メインタンク排水不可!」
「なんだと!? 何があった!?」
「ベント弁が開放状態で、反応しません! 電気系統の異常か、それともベントそのものが破損したのか……────ッ」
潜水艦は、メインタンクと、釣り合いをとるためのトリムタンクに注水することで潜航し、浮上する時には逆に内部の圧縮空気を送り込んでタンクから水を抜く。
ベント弁は、先行する際に開き、タンク内の空気を抜く為に付いている。
これが開放状態で固渋しているということは、いくらタンク内に空気を送り込んでも、ここから抜けてしまって、タンク内から排水できないということであり、つまり ──── S-38は、二度と自力で浮上することができないということだ。
それどころか、バッテリー室内への浸水は増し、動力は失われつつあり、同時に最低限の浮力すら失いつつあった。
「日本隊から指示」
そんな事も知らないリムブラの方では、敵潜水艦の撃沈を確認しようとしていたが、三川中将が進撃再開を決断したため、それが済まないうちに離れざるを得なくなった。
「ちっ、運の良い奴らだ」
シルヴィアは、忌々しそうにそう言った。
S-38は、この場所の水深が浅かったため、圧壊に至らないまま、着底していた。
しかし、彼らの運命は、シルヴィアの言葉とは真逆で、苛酷極まりないものだった。
S-38は、 “殴り込み艦隊” が去った後、ベント弁の損傷に対応しようとしたが、その最中にバッテリー室の浸水で、浮上操作する為の動力を喪った。
浮上不可能となった潜水艦に、外気が供給されることはない。つまり ────
ラピス・デル・プエルト級重巡洋艦 主要要目
基準排水量18,250トン
主砲:「50口径20cm艦載砲mod.203」
実際には46口径24cm砲 連装 前部×2 後部×1
副砲:44口径16cm砲 連装 前部右寄り・後部左寄り各1基
45口径12.5cm両用砲 連装×2
50口径75mm 対空砲 連装×4
45mm前装式ケースレス・リボルバーカノン
連装銃塔 ×6
20mm機銃 4連装×8 連装×4
8mm機銃20丁
55cm魚雷発射管 連装×4
水上機3機 カタパルト2基
機関型式 蒸気レシプロエレクトリック・蒸気タービン併用
ボイラー 海軍省185年式水管式トラップ炎路型
重油専燃×6 重油・石炭混焼×4
蒸気レシプロユニット レイアナー重工業製複式ユニフロー
高圧4気筒・低圧2気筒×2
蒸気タービン レイアナー重工業製衝動式タービン
最大軸出力 118,000hp
軸数 4
公称最大速力 32ノット
電気系統 交流30c/s 375V
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