ちょいちょい書き換えています
「あははははは、燃えてしまえバカ野郎が!!」
炎上する敵1番艦 ──── キャンベラの姿を見ながら、ヴェンタ・トレドール艦長、マグダレナ・ローザ・キャスタイン大佐が、声を上げる。
「ジノプスの事を考えたら、こんなものじゃ全然足りないわ!」
途中から笑みを消し、険しい表情で拳を突き出す仕種をしながら、そう言った。
その時 ────────
ドゥ……ドゥドゥドゥドォ……ゥッ
「な、なんだっ!?」
ヴェンタ・トレドールから方向的に真右にいた、シカゴの左舷側に、3本の巨大な水柱が出現した。
シカゴはその場で船足を落とし、艦体が軽く折れ曲がった状態で海中に引きずり込まれていく。
「雷撃……」
断末魔のシカゴを見ながら、マグダレナは一瞬、呆気にとられてしまったが、
「雷跡……誰か、雷跡は見なかったか?」
「見張員、今の雷跡を見た者はいるか!?」
マグダレナが問いただすように言うと、艦内オペレーターが受令電話器で問い質す。
だが、返答はこなかった。
「これは……つまり……」
マグダレナは呟き、口を半開きにしてしまう。
────────
────
──
「は? 先制雷撃禁止?」
ラバウルを出立する際、チハーキュ艦の各艦にそう通達された。
「なんで?」
マグダレナ以外、旗艦としてすでに聞いていたヴァレリア以外の全艦長、全駆逐艦長が不服そうにそう声を上げた。
「日本の雷撃の妨害になるのが嫌だそうよ。よほど魚雷の性能に自信があるみたい。これだけは譲ってくれなかったわ」
アリシアも困ったと言うか、疲れたような表情でそう言った。
「自身があるなら、こっちだって、さぁ……」
シルヴィアが、到底承諾できないような表情と口調で言い返す。
「それを喋るなって。カティナに……司令に言われてるの。まだ戦略のすり合わせが完全に終わってないから、こっちの軍機の詳細まで教えるなって」
アリシアにそう言われては、それ以上は言えなかったが、ヴァレリア達は深刻ではないものの、引っかかる程度の不満を感じながら、それを承諾したのだが ────
──────── 現在。
「持っているのか、日本
半開きになった口の、唇の端が釣り上がる。
「艦長!」
電波警戒器オペレーターの声が、ヴァレリアは我に返る。
「電波警戒器に感あります! 右舷寄り前方に多数の反応! 輸送船団と思われます!」
「よーし、本命はそいつらだな……────」
マグダレナが舌なめずりするが ────
「敵1番艦、左に転舵! 接触します!」
「なんだってぇ!?」
見張員が悲鳴のような声を上げる。
キャンベラは大きく左に転舵し、ラピス・デル・プエルトとヴェンタ・トレドールに衝突させるかのようなコースを取った。
「日本隊に ──── 鳥海に通信、『電波警戒器に南東方向に多数の反応、輸送船団と思われる。米艦隊は我らが引き受ける』」
「了解!」
通信士に指示を出してから、ヴァレリアは右舷側の窓から外に視線を向け、燃え上がるキャンベラを睨みつける。
「そんなにとどめを刺してほしいのなら、望み通りにしてやる! 右方魚雷戦用意!」
「ヴェンタ・トレドールより入電!」
鳥海、戦闘艦橋。
「『電波警戒器に南東方向に多数の反応、輸送船団と思われる。米艦隊は我らが引き受ける』!」
「む…………」
それを聞いて、神重徳が表情を歪ませ、難しそうに呻くような声を出した。
「これ以上東進すると、離脱が遅れ、夜明けまでに敵空母部隊の攻撃範囲から出られなくなる可能性がありますが……」
神は、三川に向かって、自らの懸念を伝える。
「参謀長! 何を言っているのですか!」
それを聞きつけた早川が、声を上げる。
「ここで逃げる手はありません! それが本来の目的でしょう!?」
「だが、艦隊を危険に晒すことは……」
三川は、いまいちどちらにも決めかねている様子で、語尾を濁した言葉を出す。
「何を躊躇っているのですか! 数海里先に、敵の輸送船団がいるのですよ! ここで敵の揚陸を許せば、喪失は巡洋艦数隻で済まないかも知れない! 長官!!」
早川は、鳥海の前方を指差し、熱弁する。
「うむ」
三川は、さほど間を置かずに、決断の表情になった。
「艦長、このまま東進、輸送船団停泊地に向かう!」
それを聞いて、早川の表情がぱっと明るくなった。
「長官……了解です! 変針右15° 速度そのまま!」
別段、神も気を悪くしたような顔はしていない。
その時だった。
「! 前方隊と交戦中の巡洋艦に水柱!」
見張員が、そう叫んだ。
早川が三川に食い下がっている最中、ヴェンタ・トレドールの右舷側中甲板から発射された2本の魚雷は、 ──── 日本の九三式魚雷と異なり、エボールグでは斜板機関が発明されず、クランクシャフトを持つエンジンで魚雷を駆動していたが、以前は6気筒の4ストローク複列星型エンジンで推進していたのを、まず、新たに開発された3気筒水平シリンダー型対向ピストンエンジンに切り替えた。それまでどうしても、カウンタートルクをきれいに消すことができず、魚雷の自転がジャイロによる安定航走を妨げていたが、2つのクランクシャフトが連動して逆回転するこのエンジンの採用で、理想的な二重反転スクリューを実現でき、自転問題の解消が図られた。 ──── これがSSB-55TS魚雷。新学暦195年に採用された。
そして、今発射された魚雷は、着水するとベンチュリーバルブが切り替わり、通常の圧搾空気に代わって、より純度の高い圧縮酸素が掃気ポートからシリンダーに送られる。
エンジンの排気から窒素酸化物の気泡がなくなり、あまり膨張せず水に溶けやすい二酸化炭素がほとんどとなり、その航跡は青白く、淡くなる。
SSB-55/200魚雷。チハーキュ帝国海軍の誇る55cm酸素魚雷は、632kgの炸薬を炸裂させ、水線下でキャンベラの艦体を食い破った。
「こ、こんな高い水柱……わ、
「何……」
愕然としたような見張員の言葉に、三川は持っていた双眼鏡を、左舷側に向けた。
巨大な水柱2本が崩れ落ち、もはやフネとしてすら原型を保てていないキャンベラが、1万トン級重巡とは思えないほど急速に沈んでいく。
「まさか……そう言うことなのか……」
神が呟く。
『我々も低航跡・高性能の魚雷には自信があります。日本隊の邪魔にはならないと思いますが……』
出撃前の軍議で、航跡が目立つ通常の熱走魚雷を使われて、九三式魚雷の隠密性が失われることになることを避けるため、チハーキュ隊に先制雷撃を自重してもらうよう伝えた時、アリシアはどこか勿体つけた様子でそう言った。
最終的には、チハーキュ側が折れてはくれたものの……────
── そりゃ、それ以上強く言わないはずだ。酸素魚雷を実用化しているのだとしたら、向こうだって最高軍機でもおかしくはない……
神が、声に出さずに、胸中で言葉を発して逡巡している、その横で、
「これは面白い! 魚雷の性能がどれほど海戦を左右するか、米豪軍に見せつけるぞ!」
と、怪気炎を伴うほどの様子で、早川が愉快そうに声を上げた。
「鳥海より入電、『我敵船団泊地に突入を敢行す、チハーキュ隊は自己判断で離脱されたし』以上です!」
「逃げ出したいやつはここにいるー?」
キャルヴェロン艦橋で、通信士がそう読み上げると、アリシアがその場で問いかけるように言った。
「遠慮なく言ってくれて構わないわよー」
アリシアが念を押すが、誰も声を上げることはなく、やがて、
「お言葉ですが指揮官、我が艦にその程度で怖気づく者はいません」
と、ヴァレリア艦長が言う。
「それに、ジノプスに懇意にしていた後輩が乗っていた者、そもそもジノプスに思いがある者も、少なくありませんので」
ヴェンタ・トレドールのような新鋭艦では、マグダレナは少数例だったが、旧式のミネルヴィア級は訓練過程を終えた者が最初に配属されてくる事が多い。去年や一昨年程度の近い過去にジノプスに乗っていた者、同期や後輩がジノプスに乗っていた者、そういった者がキャルヴェロンの乗員にも少なからずいた。
もちろん、入隊年次が多少離れていても、可愛がっていた後輩、なんてケースは当然にある。マグダレナがそうだった。
「それじゃあしょうがないわねぇ」
やれやれ、と言った感じで、アリシアは気怠そうに言った後、次に顔を上げたときには、凛とした表情になっていた。
「日本隊に続航! 輸送船団泊地に突入する!」
「申し訳ありませんね、危険な場所にお連れすることになってしまって」
リティアが、幾分申し訳無さそうに苦笑しながら、丈乃に言う。
「なんの」
丈乃は怯える様子もなく、堂々とした様子で、自身の視線を艦橋の前方へ向けている。
「軍人でないとは言っても、望んで軍と行動を共にしてるんです。危険は承知の上ですよ」
「左舷側に反応あります!」
電波警戒器オペレーターが告げる。
「敵駆逐艦と思われます! 急速に接近!」
「左方主砲戦! 照準でき次第撃て!」
ドゴゴゴォッ
キャルヴェロンの20cm主砲が、孤立無援でなお突進してきた、 ──── あるいは混乱していたのかも知れないが、哀れな ──── Re4の爆撃で爆沈したバッグレイの代わりに配置された、不運なポーター級駆逐艦『セルフリッジ』に、呵責のない射撃を浴びせる。
──────── 午前1時。
南集団とラピス・デル・プエルト級との撃ち合いが始まった頃、ニューオーリンズ級重巡『ヴィンセンス』の艦長、フレデリック・ロイス・リーフコール大佐も、やはり就寝中だった。彼もまた、ブルーが撃沈された
彼が艦橋に上がった時、すでにキャンベラが炎上していた。シカゴと、そのすぐ前方にいたバッグレイ級駆逐艦『パターソン』に日本隊の雷撃による水柱が上がった。
「クラッチレー少将はどこだ? 艦隊の指揮はどうなっている!?」
リーフコールは状況を確認しようとしたが、クラッチレー少将は座乗艦のオーストラリアともども行方がわからない。
その途中、燃えるキャンベラと撃ち合いながら、敵艦2隻がヴィンセンスを含む北集団の方に方向を変えた。
「あ……あ……あ! 馬鹿野郎、あれは戦艦だ! ジャップか!? パピーか!? こんな馬鹿げたことを……!!」
燃えるキャンベラの炎が照らし出すそのシルエットは、明らかに巡洋艦のサイズではなかった。
それまで、“殴り込み艦隊” を連合軍はチラチラと見つけてはいたものの、その報告は「重巡2隻、軽巡3隻、駆逐艦4隻程度、水雷艇3ないし4隻」というものだった。
この為、艦隊の規模からしても、情報が軽視される原因のひとつになった。
気付かれた方はもうおられるだろう、ラピス・デル・プエルト級2隻のスケールが、航空機からの見た目を狂わせていた。通常型の重巡洋艦を軽巡と、特に小さい古鷹型・青葉型と、軽巡のカスティラナを駆逐艦、駆逐艦を水雷艇と間違えていたのである。
その時、キャンベラの左舷で2本の水柱が上がった。雷撃されたのだ。水柱が崩れて落ちた時、キャンベラはもう、キャンベラだったなにかになっていた。
キャンベラを粉砕した超大型巡洋艦2隻が、ヴィンセンスに舳先を向けた。
「僚艦に伝えろ! 『我を基準に縦隊を組め、敵に突撃する』!」
「で、ですが艦長!」
リーフコールの指示に、副長が一瞬、驚いて反論する。
「向こうが戦艦、ないし巡洋戦艦だとしたら、こちらの砲火力では太刀打ちできません!」
「だからといって逃げられるか! 輸送船団が丸裸になるぞ!!」
海峡北側のフロリダ諸島、ツラギ島の周辺にも、輸送船のグループが停泊していた。ツラギ島にも日本軍の水上機基地が設けられていたが、ガダカルカナル島上陸に先立ち、この周辺の島嶼にも連合軍は上陸していた。ツラギ島の日本軍守備隊は8月9日までに、20数名の捕虜を除き全滅した。
「至近距離から殴り合う! 向こうに損傷を与えて離脱させる! それ以外に勝機はない!」
「りょ、了解です」
リーフコールの言葉に、副長が応じた時。
ドゴゴゴゴォッ……!
ラピス・デル・プエルトが、容赦のない24cm砲の射撃を、北集団に浴びせ始めた。
「え? 右側に出てほしい?」
その時、ラピス・デル・プエルトの戦闘艦橋では、ヴェンタ・トレドールのマグダレナ艦長から無線電話で直接、ビクトリアと通話していた。
敵は目の前だ。周囲の状況は肉眼でも電波警戒器でも把握されている。僅かな間の行動は部下に任せていても問題なかった。
『ああ、なーんかあの、先頭の巡洋艦、逃がしたくないんだよ。できれば綺麗さっぱり木っ端微塵にしたい』
マグダレナの言葉に、ビクトリアは眉を
「それは良いけど、なんで右側?」
『右舷側の魚雷の再装填がまだ終わってない』
「ああ、そうだったわね」
マグダレナの答えに、ビクトリアは少し呆れたように言った。
「了解。敵さん次第だけど、やってみるわ」
『宜しく。通信終わり』
マグダレナの返事を待って、ビクトリアは通信コンソールの受話器受けに、電話機型送受話器を戻した。
「射撃続け! 変針右25°、敵艦隊の右側に出る! 左方魚雷戦用意!」
ビクトリアがそう、下令したとき。
「右舷側! 炎らしきもの、見えます!!」
「撃てぇーッ」
「船団はこっちだ! 構わず撃ってくれぇっ!!」
「緊急! ツラギの輸送船団から緊急です!」
「ええい、今度は何がおきた!」
混乱状態にあるTF62司令部に、さらなる緊急電が飛び込んでくる。ターナーは忌々しそうな口調で、問い質した。
「ツラギ側の輸送船団で、日本軍捕虜が脱走、船に放火したそうです!!」
カスティラナ級軽巡洋艦
基準排水量9,180トン
主砲:44口径16cm砲
前部 連装1基(建造時は2基)・3連装1基
後部 連装1基
副兵装:
45口径12.5cm両用砲 連装4基(建造時は2基)
50口径75mm対空砲 連装4基
45mm前装式ケースレス・リボルバーカノン 連装×4
20mm機銃 4連装×4 連装×2
8mm機銃10丁
55cm魚雷発射管 連装×4
水上機3機 カタパルト1基
機関型式 蒸気レシプロエレクトリック・蒸気タービン併用
ボイラー 海軍省185年式水管式トラップ炎路型
重油専燃×6 重油・石炭混焼×2
蒸気レシプロユニット レイアナー重工業製複式ユニフロー
高圧4気筒・低圧2気筒×2
蒸気タービン レイアナー重工業製衝動式タービン
最大軸出力 102,000hp
軸数 4
公称最大速力 34ノット
電気系統 交流30c/s 375V
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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チハーキュ帝国海軍軍装、どちらがいい?(絵のリンクは Chapter-12 あとがき)
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