嫌顔至上主義   作:嫌至ξ紳士

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一之瀬帆波【親愛】

 この世界に純正たる善人がいるとしたら、それはきっと、ピンク髪で母なる包容力を大きく抱えた、優しさと温かさで人を包み込むような少女に他ならない。

 その瞳に宿る温もりと、すべてを包み込むような穏やかな笑顔で、皆から愛される存在だ。

 

 

 一之瀬帆波。

 Bクラスに所属しており、クラスの中ではその優れた統治能力と、何よりその柔らかで人徳ある性格でリーダーの役割を果たしている。

 

 彼女がいるだけで、クラスメイトたちは安心し、彼女の元に集う。

 まるで母鳥にひなが集まるように。そのピンクの髪が柔らかな光を反射する度、彼女がどれほど皆に信頼されているかがわかる。

 

 そんな彼女は今日、同じクラスの男の子に『大事な話がある』と校舎裏呼ばれていた。

 あちゃー、これは“そういうこと”を受けるのだろうか……。

 一之瀬は心の中でそう思いながらも、どのように優しく、かつ相手を傷つけずに断るべきかを思案していた。

 

 彼女は決して、誰かを傷つけるような言葉を使わない。

 それが一之瀬帆波という少女の性分だからだ。

 

 

「お待たせっ!」

 

 校舎裏に着くと、彼女は相変わらずの明るい笑顔で、軽やかに右手を上げながら男子の元へと歩み寄った。

 華やかな笑みを浮かべ、その姿はさながら光り輝く存在のように。

 

「それで、君がわたしを呼ぶなんて珍しいね。何かあったのかにゃ?」

 

 その言葉には、一之瀬特有のあざとさが混じっていた。

 半分はわざと、半分は無意識に。

 彼女は自分の魅力を十分に理解しながらも、それを完全に制御しているわけではない。

 それこそが、一之瀬を魅惑的な存在たらしめる不思議な魔法だった。

 

 しかし、その魔法はすぐに解けてしまう運命にあった。

 

 

「えっと……その、聞き間違いかにゃ、な?」

 

 彼女の笑顔が次第に硬くなり、顔には戸惑いの色が浮かぶ。

 男子からの言葉――それは彼女、一之瀬帆波に、

 

 

――――嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい。

 

 

ξ

 

 

 

 ピンク髪の少女、一之瀬帆波は、深く困っていた。

 とーっても、とーっても困っていたのだ。

 

 それもそのはず、同じクラスメイトの男子生徒から『自身の下着を見せてほしい』という突飛なお願いをされてしまったのだから。

 彼女は一瞬、聞き間違いではないかと自分の耳を疑ったが、そうではないらしい。

 

「えっと……その……ね?」

 

 言葉に詰まる彼女。

 とはいえ、一之瀬帆波も華の女性である。

 突然、そんな突拍子もないことを頼まれても、困惑するしかない。

 驚きと戸惑い、そして少しばかりの恥じらいが入り混じる中、彼女は相手の要求にどう応じるべきかを考えた。

 そして、答えは一つしかない。

 

「女の子にそんなお願い、しちゃダメなんだ……ぞ?」

 

 一之瀬帆波は、至極優しく、そして丁寧に、それを男に伝えることにした。

 相手を傷つけないよう、困惑を滲ませながらもおちゃらけた様子で。

 

 しかし、男は引かなかった。

 

 

――いや、一之瀬のおパンツが見たいんだ。

 

 彼の言葉に、一之瀬の脳内は混乱し、動揺が走る。

 何を言われたのか、信じたくない。

 情報の処理が追いつかず、彼女は顔を真っ赤に染めてしまう。

 滑らかな頬は、まるで燃えるように紅くなり、表情には明らかな戸惑いが浮かんでいた。

 

「にゃ……な。う、うーん」

 

 絞り出された言葉は、そんな過重いっぱいの濃縮された産物である。

 一之瀬は、何とか脳の演算を終えようと、ふぅ、と一旦深呼吸をする。

 そして落ち着いたのか、キリッとした瞳で男子を見据え、断固としてこう言った。

 

「それはね、女の子にしちゃダメなお願いなんだよ?」

 

 ああ、我が聖母。

 その慈愛の目は見られる人々を天の門へと送ることでしょう。

 

「いい? 私たちはクラスメイトでしょ? こんな変なことしてないで、皆と遊ぼうよ!」

 

 なんと彼女は、男の先の要求を水に流そうとしてくれているようだ。

 その姿は美しく、胸元に手をあてて説得する様は、さながら平和の守護者。

 そんな一之瀬をみてしまえば、ふつう人類は改心してしまうことだろう。

 

「ほら、この手を取って! 一緒に皆のところに行こう?」

 

 手をおしげもなく差し出してくる一ノ瀬。

 その格好に男もとうとう心を入れ替えようと、手を伸ばし……。

 

――いいや、邪心はもっと強欲だった。

 

「ひゃっ⁉︎ な、なんで今、私の手の匂いを嗅いだのさ⁉︎」

 

 とてもいい匂いだった。

 香水をつけているのか、柑橘類の仄かな甘みのような香りが漂っていた。

 

「ね、ねえ⁉︎ ちょっと説明してくれるかな!⁉︎」

 

 慌てふためきながら、こちらに先ほどの行為の理由の説明を求めてくる彼女。

 そんな様子に、やっぱりうちのリーダーは可愛いなあとは皆が思うこと。

 ……とはいえ、怒られているので大人しく正座をして、今はそれを受け入れよう。

 

「まったく、急にそんなことをするなんてダメだよ? 匂いの件は許してあげるから」

 

 体感、長々と怒られた後。

 大いなる優しさによって男は許された。

 そして、ようやく落ち着いた一之瀬がこちらに尋ねてくる。

 

「それで? 私の下着を見たいなんて言いだすなんて、一体どうしたのさ」

 

 その目は慈愛に満ちていて、まるで迷子になった子供を慰める理想の母のような顔だ。

 だが許して欲しい、男はただ、おパンツが見たいだけなのだ……そう正直に答えた。

 

「え、えぇ……。その、こまるよぉ」

 

 そして勢いよく正座の姿勢から土下座にうつる彼は、一之瀬をより困惑させる。

 

「ちょ、ちょっと汚いよそんな場所に頭つけちゃ⁉︎ いいから頭をあげてって!」

 

 彼女はその男の突拍子も無い行動に驚き、急いで自分も屈んで視線を合わせてくる。

 それはさながら、だだをこねて床に這いつくばる子供を説得する究極のママのようだ。

 

「それにしても、本当に困るよ……どうしてそんなお願いをするのさ?」

 

 その言葉に応えるかのように、彼の表情が変わるわけでもなく、ただ無言のまま。

 息を潜めるようなその空気に、一之瀬は内心焦りを感じた。

 自分が今、彼の何か期待を抱かせてしまったのだろうか。

 

「……そんな目で見られても、困っちゃうよ。あのね、女の子にはさ、そういうのは……」

 

 言葉を濁しながら、彼女は少し顔を伏せた。

 顔が熱くなるのを感じた。

 だが、彼の視線は変わらず、まっすぐ彼女を射抜いている。

 こんな状況は、彼女にとって初で、この手のお願いは冗談に流して終わるはずだった。

 

「あの……ね?」

 

 一之瀬は、心の中で焦りを覚えつつも、表情には出さないよう努めた。

 彼の視線は一切ブレることなく、何かを待っている。

 そんな様子に、彼女の心はさらに乱れた。

 

「本当に、冗談でもダメなんだよ? 女の子に、そういうことを頼んじゃうと……」

 

 彼女は言葉を選びながら、再び断ろうとする。

 だが、彼の無言の圧力は、彼女に自分の言葉が届いていないことを痛感させた。

 

――頼む、一之瀬のおパンツを見せてくれ。

――私の一生のお願いだ。

 

「……ねえ、本当に困るよ」

 

 優しげな顔がいつの間にか消え、彼女は困惑の表情を浮かべる。

 すると一之瀬はふっと視線をそらし、自分のピンクの髪を無意識に弄り始めた。

 彼女の心の中では、どうにかしてこの場をやり過ごしたいという思いが渦巻いていたが、相手の意図が明確である以上、何を言っても無駄だということを感じていた。

 

 無言の沈黙。

 無言の圧力。

 無言の期待。

 

「……わかった。わかったから、もうこれで終わりにして」

 

 ため息をつきながら、一之瀬はそう言いきった。

 彼の反応は変わらず、ただ彼女の一言を待っていたように見える。

 

「はぁ……ほんと、何やってるんだろ、わたし」

 

 一之瀬は、心の奥底での葛藤を抑え込むように、小さく息をついた。

 彼の視線は鋭く、自分が何を言おうが、聞き入れないだろうという無言の圧力があった。

 彼女は、何とかその場を収めたい一心で、仕方なく決断を下す。

 

「……しょうがないなぁ……」

 

 一之瀬は、冷めた目を細めながら、ため息をひとつ吐いた。

 彼女の中で巻き起こる不快感が顔に表れるのを隠す気もない。

 じろりと男を見下ろしながら、その視線には冷たさが混じっていた。

 

「……本当に、しょうがないな……」

 

 彼女は小さく呟くが、その言葉には微塵も愛想が感じられなかった。

 スカートの裾に手を伸ばしながらも、その動作にはあからさまな嫌悪感が滲み出ている。

 彼女の指先は、わずかに震えていたが、それは怒りに近い感情から来るものだった。

 彼女は心の中で「なんでこんなことを」と毒づきながらも、冷静な顔を装っていた。

 

 そして、ついに。

 一ノ瀬はスカートの裾をそっと掴む。

 その手をわずかに震わせながらゆっくりと持ち上げていく。

 

 その動作は決して大胆ではなく、むしろ躊躇とためらいが詰まったものだった。

 布がわずかに持ち上がるたびに、一之瀬の顔に浮かぶ紅潮はさらに深まっていった。

 自分の行為に恥ずかしさを覚えつつも、彼女はそれを押し殺すかのようにしていた。

 

 スカートの裾を持ち上げ始める彼女の動作は、ゆっくりで慎重だが、その慎重さは決して優雅さを意味しない。

 むしろ、彼女が抱く嫌悪感と不快感が動作のすべてに反映されていた。

 彼女は男に一切の情けを見せないまま、冷ややかな視線を浴びせ続けていた。

 

「ほら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

を笑顔にして団結させるのは彼女の魅力。

○○○願いされたら断れないそんな性、

○○○○○のような笑みこそ彼女。

○○○○○○想郷は柑橘類の色。

○○○○○○○愛一之瀬帆

 

 

 

 

「これで十分?」

 

 その言葉には、まるで彼を突き放すかのような冷たい響きがあった。

 一之瀬の目は、完全に冷たく凍りついており、男に向けるその視線はまるで目の前にあるものが穢らわしいものであるかのようだった。

 

 それでも、最後にキチンと可愛らしいのは彼女の特権。

 

 

ほーんと、君は気持ち悪いにゃあ〜

 

―END―

 




にゃあ、なのでご褒美です
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