その大学生は怠惰で、これはそんな大学生がその教授の講義内容を非公認で録音したデータである。
えーはい、ということで本日は先週伝えた通り特別講義ということで、外部から高嶺教授をお呼びしております。くれぐれも失礼のないよう、それとこれも先週伝えた通りですが今回は終了後に本講義についてのレポートを提出してもらいます。文字数やフォーマット等は前回提出した時と同じです。それでは、高嶺教授、よろしくお願いします。
(壇上に上がる音、マイクのハウリング音)
はじめまして皆さん、高嶺マユギです。本日は皆さんに怪人についての講義をしたいと思います。
さて。これまで皆さんは基礎課程において怪人粒子は怪人、及びヒーローのみが有する、あるいは一昔前に流行った人間の負の感情の集合体が怪人粒子になり怪人を生み出してきた等といった、現在主流となっている発生メカニズムの定説を学んできたはずです。世間一般でもそのように報道されていますし、政府の公式見解も概ねそれに近しいものになっています。
ですが今日の講義では皆さんの頭の中にあるその前提を、一度完全に白紙に戻していただきたいのです。
怪人が二年前に発生し私の妻を奪ってから、ずっと私は独自に観測を進め、膨大な発生位置データの解析を行ってきました。そして今回皆さんには私が導き出した、一つの仮説についてお話しします。
仮説と言いましたが私の中では既に確信に近い理論です。
web上で配布された講義資料3を見てください。これは過去二年間における、地球規模での怪人粒子の発生分布と濃度の推移をモデル化したものです。一見するとランダムに各地で怪人、つまりは怪人粒子が湧き出ているように見えるでしょう。今回私は独自の技術により各地に残存する怪人粒子の推移を検知する機械を作り出しました。
そして気づいたのです……恐らく怪人粒子自体はこの二年よりもっと前から発生している。
講義資料4を見てください、私が集計した怪人粒子の発生量をわかりやすく年代別に纏めたものです。そしてその推移を逆算していくと、明確なまでにある特定の時期から突然発生し以降は増加していることがわかります。
結論から言いましょう。怪人粒子、およびそれを集合させ実体化する怪人という存在の根本的な原因は、十数年前に突如として発生した怪人粒子……もっと言えばその怪人粒子が発生した原因であるナニカなのです。
そして資料を見てください、この怪人粒子が発生したのは……約15年前です。その時期を境に怪人粒子は突然発生した。これは明らかに不自然な出現の仕方としか言いようがありません。
そしてこの歪みが引き起こしている影響は、単なる怪人の発生だけに留まらなくなってきています。皆さんもニュースなどで耳に、あるいは目撃した人も中にはいるかもしれません、怪人塔事件です。
実はあの現象の直前私の観測機器は極めて膨大な怪人粒子を検出しました。通常の怪人発生時とは比較にならないほどの、異常な密度の怪人粒子の発生を検知したのです。しかしその次の瞬間その怪人粒子は突如として観測されなくなってしまいました。まるで突然その怪人粒子が消失したかのようです。
しかも実を言うとこの現象はその前にも起こっているんです。
2か月前である九月の一日にも、似たような現象が確認されてる。ただでさえありえない事象が2回もこの短期間で起きたんです。こんなのおかしいでしょう?
ですがつい最近私は氣づきました。この粒子が突然消えた理由、そして15年前の出来事……それらすべてが私の提唱する理論を前提とすればそのすべてが説明できます。
教えましょう、全ての元凶は……悪魔です。悪魔は15年前に突如としてこの世界に出現し、その際に悪魔の鱗粉を落として行ったのですそれこそが怪人粒子の元そして悪魔は尚もほくそ笑みながら悪魔の鱗粉を放出したのです。突然怪人粒子が消えたのも、すべて理由がつきます理由は、悪魔だから! 理由は怖い悪魔だからなんですよ!
(教室内のざわめきが多くなる、教授の声が大きくなる)
でも神は悪魔をお許しにならなかった! やった! 私の妻を奪いやがった悪魔を神は決して見捨てなかった!! だから神はヒーローを造られた! 悪魔の手先の怪人を決して許さないから! 白血球みたいにヒーローは現れたんです! やっぱすごいなぁヒーローは!
(チョークで黒板を強く叩く音)
おや一部の学生が怪訝な顔をしていますね。ふふまあ無理もありません。ですが、これは単なる机上の空論ではないのです。私はこの独自の観測機器を用いて、その歪みたる悪魔の発生源、すべての始まりである怪人粒子の! 悪魔の鱗粉の出した微弱なシグナルを実際に観測したんです!!
忘れないでください。悪魔は過去に発生して消えたんじゃありませんよ、だって怪人粒子はまだ増え続けてる! このままだとまた悪魔が怪人塔のような事件を引き起こしてしまう! 現在もなお悪魔はこの世界のどこかに存在し続けているんです! 悪魔が混乱する人間界を嘲笑っていて、今もどこかで息を潜めています!
でも安心して! 私が解析したデータによればその特異点が存在する大まかな座標は……ここ、日本なんですよ! もっと詳細に絞り込むならその悪魔が現れたのは関東地方のどこかなんです! そこまでは分かっているんだけどなぁ怪人粒子が薄くなりすぎたんだよなぁ。しかも5年前から悪魔が痕跡残さなくなったし、バレちゃったんだと思いますよ私の決死の監視が、でもそれってダメージ与えられたってことですよね。前向きに考えます。
じゃあじゃあ! そんな関東に潜む悪魔って一体何なんですか!? ねえ!? 悪魔はどんな見た目してるんですかね、私から妻を奪ったのはどんな見た目をしてるんですかね……遺憾ながら、私の現状のシステムではそこまで特定することはできません。
でもさ私わかっちゃったんですよね。皆さん考えてみてください。もし仮にこの全ての元凶の悪魔……こいつを特定して完全にぶち殺したらどうなっちゃんでしょうかねぇ。
でも理論上、この悪魔は悪魔の鱗粉を垂れ流してるんですからそいつが消滅すれば、怪人粒子はもう生まれないんですよねぇ、そしたら残るのはカスみたいな量の怪人粒子だけ、怪人を倒し続けたらいずれは肉体すら維持できな、できなくなって! 世界から自然と霧散していくことになるんですかねぇ。それって、現在私達を脅かしている全ての怪人が、この世界から跡形もなく消え去るという結論に至っちゃいますよねぇ!?
あーもう時間近いな……まあこの関東のどこかに潜む、この悪魔の正体。これを突き止めてぶっ殺すことが、怪人という未曾有の災害に対する究極にして唯一の根本治療となると思いまーすはい講義終わり。
(チャイムが鳴る)
……えー、あー……その、ありがとうございます。高嶺教授、えとね、やっぱりちょっとレポートの提出はもうちょっと後にずらしましょうかね、うん、ちょっとこれは……
まあとにかく次回の講義では、ヒーローとして何故ヴァントガゼルはに──
[録音終了]