魔法少女まどか☆マギカ★マジか?   作:深冬

13 / 16
第十二話

 努力はしてきた。そして、見合うだけの実力や連携を魔法少女たちは身についたことだろう。

 そして運も味方に出来た。これが一番大きかったんじゃないかと俺は感じている。

 全てが俺の思惑通りにはいかなかったものの、状況があれよあれよと良い方向に好転していった。それだけに恐かった。これは運命が俺とほむらに諦めろと囁いているんじゃないかと。

 だから俺は、最後の不安を取り除くべく行動する。

 

 ――鹿目さんは他人のことをわかってあげられる優しい子よ。

 

 黄色の魔法少女は言った。

 うん、知っていますよ。今まで俺が見てきた鹿目まどかという少女は、いつだって自分ではない誰かのために一生懸命頑張っていた。

 

 ――まどかはね、ホントにドジだけど、それに負けないように努力できる子なんだ。

 

 青色の魔法少女は言った。

 それも知っている。そんな彼女だから、俺とほむらは苦労してまで救うために行動している。だけど、そんな彼女でなければ、助けようとは思わなかっただろう。

 

 ――鹿目まどか? まー、アタシから見たらただのアマちゃんだねぇ。

 

 赤色の魔法少女は言った。

 この時間軸では、鹿目と彼女の関係は薄い。だからこういう言葉になるのは必然であろう。

 

 ――まどかを頼むわ。

 

 同じ時間を歩み続けた魔法少女は言った。

 短い言葉。だけれども、その言葉には今までの想いが凝縮されている。今回失敗したら、きっとほむらは壊れてしまうんじゃないかと思う。

 

 

 *****

 

 

 雲で覆われた一面の灰色の空。視界いっぱいのその光景が、ワルプルギスの夜が見滝原市に襲来することを知らせてくれている。

 準備は万全。もうやれる事がないぐらい色々と下準備を終えていた。

 その過程で、美樹と佐倉との衝突などがあったのは良い思い出かもしれない。なんせ、これが最後の時間軸になるのだから、それぐらいあってみんなが仲良くなっていた方が良いに決まっている。

 

「どこ行くんだ?」

 

 避難場所として開放されている市立体育館から見知った顔の少女が飛び出してきた。どこか決意したような雰囲気を纏っている。

 

「……向井君。お願いだからそこを通して」

「それだけは出来ないよ、鹿目。お前がここを通って戦場へと進ませるわけにはいかない」

 

 桃色の二房の髪が吹き荒れる風に揺れる。表情は真剣そのものだ。

 いつだって彼女は、他人のために己を犠牲にしようとする。俺を助けたあの時だって……。

 だからここを通すわけにはいかない。

 

「どうして……どうしてなの向井君! このままじゃ、みんな死んじゃうっ!」

「そうならないように、みんな努力はしてきた。だから無力な俺たちは祈りながら待っているしかないんだよ」

「キュゥべえから訊いたよ」

「何を?」

「今度の魔女は四人がチカラを合わせても勝てるかどうかもわからないぐらいに強い魔女だってっ!」

 

 俺は視線を鹿目の後方へとズラし、キュゥべえを見やる。

 余計なことを言ってくれやがって、それほどまでに鹿目の感情エネルギーが欲しいのか。

 それならば仕方ない。

 

「たしかに、俺自身も勝てるかどうか不安だよ」

 

 俺の弱気ともとれる発言に鹿目の表情に一筋の光が差す。

 

「だったら、わたしも契約して魔法少女になって戦うっ! それなら勝てるってキュゥべえは言ってたよ!」

 

 まぁ、勝てるだろうよ。何度か、鹿目が魔法少女となってワルプルギスの夜を一撃で倒すところを俺は見ている。

 

「それだけは駄目だ」

 

 鹿目まどかは日常の住人でなければならない。その対価としてほむらが非日常の中で生きると決意したのだから。

 その決意を踏みにじるようなことは、例え鹿目だって許さない。俺にとって優先度が高いのはあくまでほむらなんだ。ほむらが納得しない限り、俺が鹿目に従うことはない。

 

「どうして!? そうしないと見滝原に住む人たちが死んじゃうかもしれないんだよ! 向井君にだって家族がいるならわかるよね!?」

「家族ね……。最近は怒られてばっかりだったよ」

 

 その原因は言わずもがな帰宅時間が遅いと言う一点のみだけど。

 

「だけどな……。俺とほむらには家族や見滝原に住まう人々よりも大切なことがあるんだよ」

「大切なこと……?」

「まあな」

 

 鹿目まどかの運命を覆す。俺たちにとっては大勢の人間の命より、お前の命の方が大切なんだ。

 

「まぁ、いいか。そうだな、お前の目で見届けろよ。契約するかはそれからでも遅くないだろ?」

 

 もしも鹿目が契約することになったら、俺が絶対に止めるだろうが、こうでも言わないと鹿目が納得してくれそうにもなかった。

 それだけ鹿目は頑固者だということなんだけどな。

 

「え? う、うん……」

 

 いきなり意見を変えた俺に驚きながらも鹿目は頷く。

 

「とっておきの観覧席にご招待ってな」

 

 というわけで、鹿目を戦いの現場を一望できるビルの屋上へと案内する。

 そこからはサーベルを振るう美樹、槍で薙ぐ佐倉、マスケット銃を発砲する巴さん、そしてそれらの後方からグレネードランチャーを構えるほむらの姿がよく見えた。

 いつの間にか最終決戦は始まっていたらしい。

 隣に立つ鹿目が唾を飲み込む音が聞こえた。

 

「本当にアレに介入できると思っているのか?」

「うん。わたしならどんな願い事でも叶えられるってキュゥべえが言ってた」

「おかしいな。キュゥべえに騙されたとこの前わめいてたのは誰だったかな?」

「…………だけど、みんなが戦ってるのにわたしだけが何にもしないなんて堪えられない」

 

 大人しくお姫様でいてくれれば、それが一番良いんだけどな。

 戦場へと視線を戻せば、戦況は押されつつもなんとか均衡を保っているようだ。だがそれもいつまで持つかはわからない。

 本当は解消してくれればいいのだけど、これは消耗戦になりそうだ。

 

「ほら見てみろ。鹿目がいなくてもなんとかなってるだろ。もう少し様子を見ても大丈夫じゃないか?」

 

 今はそれが精一杯の時間稼ぎ。

 本当なら鹿目は俺の言葉なんて耳を貸さずにキュゥべえと契約を結んでしまえば良い。もちろん、それを簡単に許すつもりはないけど。

 

 これは俺も覚悟を決めないといけないかもしれない。

 

 全ては順調だった。

 いくら超弩級魔女ワルプルギスの夜であろうとも、その身に宿る魔力には限界が存在しているハズである。たとえ一撃が必殺に及ばない魔法少女たちの攻撃でも、ワルプルギスの夜の身体を削り、その傷を治癒するためにワルプルギスの夜は魔力を消費する。

 先ほどから行なわれている戦闘はそういったものだ。

 いつ終わるかもわからない精神状態の中、手持ちのグリーフシードが消耗されていく恐怖と闘うしかない。

 

 右手をズボンのポケットに突っ込む。

 

「……頼むから、コイツを使わなくちゃいけない状況にはならないでくれよ」

 

 ボソッと口の中で呟く。鹿目には気づかれていないようだ。ただ、キュゥべえには気付かれたらしく、ヤツと視線が交差した。

 本当に嫌な時に現れてくれるよな。まぁ、干渉はしてこないようだが。

 

「あっ、駄目!? そ、そんな……」

 

 鹿目が屋上のフェンスに縋りつくように叫ぶ。俺も戦場へと視線を戻すと、どうやら美樹がポカをやらかしたらしい。

 だがすぐさま佐倉がカバーに入り、事無き得ている。

 鹿目のホッとした溜め息が聴こえた。

 

「わたし、やっぱり戦うよっ!」

 

 俺の方に振り返って、鹿目がそんなことをのたまった。

 

「まだまだだろ。戦いは始まったばかりだ」

「でも、向井君だって今の見たでしょ!?」

 

 今のとは美樹がやらかしたポカのことだろう。だからあくまでも非情に返す。

 

「あんなのは予想通りだ。あのメンバーの中で一番経験の足りない美樹だ。そんなことは織り込み済み。それに、それを予想しているからあそこで佐倉がカバーに入っていけたんだ」

 

 現在は美樹も態勢を整えて戦いに参加しているから大丈夫のハズだし。

 

「そうなんだけど……だけど、わたしがあそこに加われば状況は好転するんだよね?」

「まぁ、キュゥべえによるとそうらしいな。俺からしたら新人の魔法少女があの場に行っても足手まといにしかならんと思ってるけど」

 

 嘘だ。鹿目が契約して魔法少女になった次の瞬間、ワルプルギスの夜は鹿目の一撃の下に消滅することになるだろう。

 だけど、それではほむらの努力が報われない。

 

『酷いなぁ、キリト。僕が他人を騙す行為に及んでいるとでもいうのかい?』

「いや、お前が嘘をついている認識がないだけで、その実は勝てないかもしれないじゃないか」

『たしかにその通りかもしれないね。僕から言えるのはワルプルギスの夜は鹿目まどかが魔法少女にならない限り倒せないという事実だけだよ。どうするまどか、僕と契約するかい?』

 

 おそらくキュゥべえは俺たちの正体に気づいているんだろう。それでも、いつもと変わらない行動を取っている。

 

「えっ、あの……わたしは……」

 

 俺が言った揺さぶりが効いているらしく、鹿目は言い淀む。

 そうだ。悩んで悩んで、結果的に契約なんて止めてしまえ。

 そのためには魔法少女たちが頑張っていないといけないんだけど――

 

 突如、ビルの屋上に何かが墜落したような轟音が鳴り響いた。立ち込める砂けむり、そしてその中心に居たのはほむらだった。

 それに続くように周りのビルに他の三人の魔法少女が次々と打ち付けられる。

 

「ほむらちゃんっ!」

 

 鹿目がほむらの元へと駆け付け、その身を抱き起こしている。

 俺はというと、ワルプルギスの夜に視線を向けていた。

 ウフフフ……という貴婦人のような笑い声。何度と聞いてきたワルプルギスの夜の笑い声。

 今はそれが憎くてしょうがない。

 

「どうして……どうしてこんなことになっているッ!?」

 

 叫ぶしかない。あれだけの下準備をして、さっきまで善戦していたのにどうしていきなりこんなことになるんだ!?

 俺たちがワルプルギスの夜のことを測り違えていたとでもいうのか。それぐらいしか、こうなった原因が浮かんでこなかった。

 

『キリト。君に確認したいことがある』

 

 俺の疑問を解消してくれたのはキュゥべえだった。

 

『君と暁美ほむらは時間遡行者だね? 数多の平行世界を横断し、君たちが望む結末を求めてこの一ヶ月を繰り返してきた』

「それがどうした。そんなことお前は確認しなくても確信してるんだろうが」

 

 おそらく俺のせいでそのことがキュゥべえにバレてしまったのだろうが、今はそれどころではない。

 

『もしかして、繰り返すたびにワルプルギスの夜は強力な魔女になっていったんじゃないのか?』

 

 言われてみて初めてその事実に気づく。

 初めて俺がワルプルギスの夜と対峙した時、ほむら一人でもなんとか戦えていた。だが、今回は四人で戦っているのだ。それなのにこの状況になってしまっている。

 

 早く決断しなければならなかった。

 頭から血を流すほむらのことをそっと床に寝かせてこちらに振り向く鹿目の姿が目に映る。

 

「待って……駄目よ、まどかぁ……。あなたはキュゥべえと契約してはいけないのッ!?」

 

 必死に身体を起こそうとしながらほむらは叫ぶが、鹿目は苦笑するばかりだ。

 

「ごめんね、ほむらちゃん。でも、戦えるのはわたししか残ってないんだよ。わたししか街のみんなを守ることができない。だから……わたしが魔法少女にならなくちゃ」

 

 おい、待て、止めろ……止めてくれ。

 これ以上、ほむらの心を傷つけないでくれ。

 

 ガラスが割れる音がした。きっと、幻聴に違いないが、確かに俺の耳には聴こえたんだ。

 

「待てよ、鹿目。頼むから待ってくれ」

「どうして? 向井君は言ったよね、見届けてからでも遅くはないって。たぶん、これ以上見届けていたら手遅れになっちゃうよ」

 

 そんなこと言われなくてもわかってる。

 

「そうだな。だけど、鹿目が契約する必要はない」

 

 だから俺は……

 

「契約するのは俺だ! 俺の願いを叶えろ、インキュベーター!!!」

 

 ほむらが笑顔になれるように犠牲にならなければならない。

 

「え? そ、それはどういう……」

 

 俺の宣言に鹿目が戸惑うのが視線を向けずともわかった。

 それも当り前のことだ。俺は少年であり、少女ではない。だから本来、キュゥべえと契約できるハズがない。

 だけれども、この俺は契約する権利を持っていた。

 

『それは本気かい? 僕としては全然構わないんだけど、キリトが契約して魔法使いになったとしてもワルプルギスの夜相手じゃ負けるのが目に見えているよ』

 

 そんなことはわかっている。いくら莫大な魔力を身に宿している俺だとしても、感情のエネルギー変換効率が悪い第二次成長期の少年である以上、契約して魔法使いになったとしても、普通の魔法少女一人分の戦力にしかならないだろう。

 だけど、魔法少女は条理を覆す存在だ。それならば同じ過程を踏んで契約した魔法使いに適用されないはずはない。

 

「だが、それは俺の願いによって変わってくるんじゃないのか? 魔法少女の強さはその身に宿る魔力の総量だけじゃなく、契約の際に願った希望により生まれた固有魔法によっても変わってくる」

 

 美樹が恭介の身体を治すことを願って強力な治癒魔法を獲得したように、願いによってはワルプルギスの夜に俺が勝つことのできる固有魔法を手にする可能性がある。

 

『確かにキリトの言う通りかもしれないね。だけど君に運命を変えるほど願いをすることができるのかい? そんな雲を掴むような可能性に縋るより、僕はまどかのチカラに頼った方が建設的だと思うな』

「そうだよ! なんで向井君が契約できるのかとか、よくわからないことがたくさんあるけど、わたしが戦うからっ! それで街のみんなを守れるならわたしは良いんだよ?」

 

 こんな時にまで鹿目に契約させるように誘導するか。

 鹿目の顔を窺うと真剣そのもの。あの表情は自らを犠牲にしたとしても他人を助けようとする顔だ。

 

「良くないよ。鹿目……お前が魔法少女になったら悲しむ人がいるんだよ。なぁ、ほむら」

「ほむらちゃん……?」

 

 ここまで、何度も何十回も何百回も、いや、もっとそれ以上かもしれない。鹿目のためにこの一ヶ月を繰り返し続けてきたのはほむらなんだ。

 詳しい事情を俺は知らない。だけれども、その想いが本物だと知っている。

 

「ええ、私が……悲しむわ」

 

 ほむらは必死に身体を起こす。

 

「平行世界のあなたと約束したの。残酷な運命からあなたを助けるって……何度繰り返してもあなたを救ってみせるって」

 

 その瞳から涙を零しながら言葉を続ける。

 

「今まで騙しててごめんね。……私たちはまどかを救うために未来から来たんだよ」

 

 言いきって、ほむらの身体からチカラが抜けたようで倒れそうになるが、鹿目が駆け寄ってほむらの身体を支えた。

 もうほむらの身体にはチカラが残されていないのかもしれない。ならば急がないといけない。

 

「キュゥべえ……いや、インキュベーター。お前たちの目的は宇宙の寿命の延ばすためのエネルギー回収なんだろ? そのために最高の魔法少女になれる素質を持った存在と契約したいわけだ」

『いきなり何を言っているんだい?』

「じゃあ、例えばの話だ。もしも俺の魔力がもっとも効率良くエネルギー変換できたとしたらどうだ?」

『鹿目まどかが生み出すエネルギーには及ばないかもしれないけど、たしかに魅力的な話だね。だがそれはあくまでも仮定の話でしかないよ。君が少年である以上……いや、まさかキリトの願いと言うのは!?』

 

 俺の願いは最初からたった一つしかない。

 この繰り返しから解き放たれること。色々と回り道をしてきたが、ようやくみんなが笑って終われる道を見つけた。

 

「そうだ。俺が最高の魔法少女を生み出せば、お前たちインキュベーターは必要以上の人類への搾取を防ぐために鹿目まどかに手を出せなくなる」

 

 だから(ねが)う。

 

「この身に宿る全ての魔力を暁美ほむらに譲渡したい。それが俺の答えだッ!」

 

 これでやっと終われる。きっとほむらならやってくれるハズだ。

 

『君はそれがどういう願いなのか理解しているのか!? 魔力を全て譲渡するということは、君が感情を失うということと同義だ!』

「ああ、わかってるよ。良くて、廃人か植物人間。悪かったら、きっと死ぬんだろうな」

 

 後悔はしない。

 ほむらと過ごし続けたこの一ヶ月は楽しかった。きっとこの思い出は神様とやらがくれた最後の手土産なのかもしれない。

 身体から何かが抜け出ていくような喪失感を感じる。この抜け出ていくのが魔力なのか。ここまできて初めて魔力というものを実感できた。

 

「あなたはなんていうことを!?」

「ん? ほむらか」

 

 俺から譲渡されている魔力でボロボロだった身体を治したのだろう。俺の胸倉を掴むように詰め寄ってきた。

 

「これで、お前は鹿目を護るチカラを手にし、俺は繰り返しから解き放たれる。そして、鹿目が契約する心配もなくなった。なんともまぁ、最高の結末じゃないか」

「……冗談じゃないわ。これが……あなたの望んだ結末だって言うの? あなたは生きたくはないのっ!?」

「おいおい、泣くなよ。ほむらに涙は似合わないぞ」

 

 別に死にたいわけではない。だけど、これが最良の選択だと思ったんだよ。

 

「鹿目。ほむらのことを頼んだぞ」

「……うん」

 

 何故か鹿目まで涙を流していた。

 ああ、最後までほむらが鹿目のことを救おうとした理由がわからなかったな。

 

「ほれ」

 

 ズボンの右ポケットからとあるモノを取り出し、ほむらの目の前に出す。

 

「グリーフシード……?」

「そうだ。これからほむらにはワルプルギスの夜を救ってもらわないといけないからな。お前の時間操作でワルプルギスの夜の時間を巻き戻してやれ。そして消耗した魔力をコイツで回復ってな」

 

 ほむらの時間操作には対象の時間を巻き戻すという能力はない。時間を停止させるか、あの始まりの日に時間を戻すかの二つのチカラだけだ。

 だけど、今のほむらの身には俺の魔力が流れ込んでいる。俺の願いによって譲渡された魔力は、きっと俺の思惑を叶えてくれるだろう。

 

 俺の中の魔力がほとんどなくなってきたようで足元がふらついてきた。

 ほむらを抱きしめることでなんとか誤魔化す。

 

「ありがとう。ほむらと過ごした日々は楽しかったよ」

 

 鹿目まどかを救うために試行錯誤し続けた日々。正確ではないがおそらくその日数は俺の年齢である14年以上のモノであることは間違いない。

 その中での出会いと別れ。

 泣いた日があった。笑った日もあった。本当にほむらと出会ってから毎日が充実していた。

 

「でも、あなたが……」

「気にするな。ほむらは鹿目のことだけを考えて行動してれば良いんだ。俺のことなんて放っておいて行ってこいよ」

 

 俺に出来るお膳立ては全てやったハズだ。

 きっと成功すると俺は信じている。

 

 俺は鹿目のために一生懸命になるほむらが好きだったから。そんな彼女の隣にいれただけで満足している。

 薄れゆく意識の中、俺は最後にそんなことを思った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。