だからこいつの青春ラブコメはまちがっている   作:rinta

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書いた!!第二巻完!!


すなわち茅ヶ崎千賀は先輩思いである

「と、いうわけで作戦変更よ」

 

「...なんでそんな堂々としてるんだよ」

 

雪ノ下雪乃のアニマルセラピー作戦が開始する前に破綻したため、落胆する暇をもなく俺たちは新しい作戦についての会議を始めた。

しかし失敗した当の本人がこれでは落ち込む気にもならないが。

 

「...ラブレター大作戦とかな」

 

「今とても古めかしいドラマのタイトルが聞こえたのだけれど...」

 

「つうかお前昭和好きだな」

 

「...逆にお前らがこの名前知ってることに驚きだ」

 

ひねくれコンピの趣味が少し暴露されたところで作戦の概要を話す。

この作戦は簡単に言うならただ手紙を渡すだけだ。だが普通に渡すのではなく、それこそラブレターのように下駄箱に入れ込んでインパクトを強くする算段だ。

 

「せやっちって、もしかしてかなりロマンチスト?」

 

「というより、似合わないわね」

 

「...うるせぇよ」

 

失礼なことをいってくる女子どもに一言いいながら、ノートで便箋を作る。適当な作りだが、そのまま素で渡すよりも雰囲気はあって良い。

そうして完成させると、俺はそれを女子達の方へ渡す。

だがしかし、返ってきたのは雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣の怪訝な目だった。

 

「なぜその便箋をこちらへ渡してくるのかしら?」

 

「...手紙の文章書いてもらうために決まってンだろうが」

 

「いや、こういうのって男子が書くものでしょ」

 

川崎へと出す手紙の執筆を拒む女子たち。

しかし、こいつら何も分かっていない。

 

「...お前らは俺たちが手紙なんて書けると思っているのか?答えはノーだ。特にこいつなんかが書けば通報される恐れがあるぞ」

 

「おい、流れで俺を犯罪者予備軍扱いすんな。手紙ぐらい書けるっつーの、文系なめんな」

 

「いえ、一理あるわ。奉仕部の歴史に汚名をつけたくはないし、やはり私たちで書いた方がいいのかしら?」

 

「捕まることは決定事項なのかよ...」

 

俺と雪ノ下は犯罪者予備軍(ストーカー)の小言を無視しながら考え込む。

別に俺が書いてもいいのだが、如何せん名前しか知らん相手に対しそこまで感情的な文が書けるとも思わない。

やはり女子組に任せることにしようと思った矢先、ふと一人の男子が目に入った。

 

「あの...僕もいるんだけど」

 

「「「「あっ」」」」

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

執筆者が戸塚彩加へと決まり、俺たちはすぐさま作戦を実行した。

その間、戸塚彩加より、新たに平塚先生によって説得してもらうという作戦も提案されたのでこれも同時に実行に移す。

そうして作戦が順調に決まっていけば、先ほど腐った魚がメールで呼んだ平塚女史が昇降口へ現れた。(ちなみに手紙の方はもう戸塚彩加が文章を書き終えスタンバイは出来ている)

 

「やぁ、諸君。状況は理解している。詳しい話を聞こう」

 

そうすると、腐った魚より平塚女史へ現状の報告が為されていく。

 

「ふむ、確かにわが校の生徒が深夜に働いているとすると由々しき事態だ。今回に限っては緊急を要し、私が解決しよう」

 

そう言い、不敵な笑みを浮かべる平塚女史。

なんとも便り甲斐があるもの言いをしてくれるものの、その姿はどうみても噛ませ犬臭かった。

見れば雪ノ下や腐った魚も同じように感じたらしい、若干心配している表情をしている。残り二人はそれを感じなかったようだが...

そんな心配をしている暇もなく川崎沙希が昇降口へ現れた...らしい。

 

「...あのポニーテールの女か?」

 

「あれ?せやっちって川崎さんのこと知らないの?」

 

知らねぇよ、何で知ってること前提で話進められてンだよ、つうか雪ノ下は何で川崎のこと知ってんだよ。

そんな俺の心の叫びもいう暇もなく、川崎沙希と平塚女史が遂に接触した。

話始めでは平塚女史が普段見せない大人の余裕を見せて川崎沙希をリードしている。

実はその男らしさが結婚の壁になっていることは、この際黙っておく。言ってもあとが怖いだけだ。

 

「なんかこう見ると、平塚先生ってカッコいいよね~」

 

「それじゃあ普段の平塚先生がカッコ悪いみたいな言い方になってるぞ、由比ヶ浜」

 

「まぁカッコいいと例えるには少し語弊があるわね」

 

「...アラサー独身の時点で格好も何もねぇだろ」

 

と、無駄話をしていれば平塚女史が川崎沙希へ教師の殺し文句を言ってきた。川崎も思うところがあるのだろうか顔をしかめる。

流石は現職教師。これは手紙の方は必要ないかと思い始めれば...

 

「ていうか、先生に親の気持ちとか分かんないでしょ。独身だし」

 

「グハッ!!」

 

川崎沙希から発せられた禁句により平塚女史はそのまま膝をついてしまった。っておい。

 

「...あの教師はいったい何をしたかったんだ」

 

結婚の話なんて今は関係ないのだからスルーすればよかったものを...

変なところでメンタルの弱い教師に呆れのため息が出てきそうになるが、その前に廊下真ん中で邪魔臭く膝をついているあれの処理のため、俺の背中で同じように呆れ...というか同情の意を表情に出している腐った魚に視線を与える。

 

「な、なんだよ」

 

「...察しろ。早く行け」

 

「察する前に言葉に出すなよ...はぁ。」

 

気が重そうに平塚女史へと近づく腐った魚。

俺たちは引き続き川崎沙希の監視を行う。川崎の方も何事もなかったかのように膝まずいた平塚女史を放っておき、自分の下駄箱へと向かっていっている。

そして...

 

「あっ、手紙に気づいたよ」

 

「便箋を開けたわね...」

 

「よ、読み始めた...!!」

 

「...その実況に何か意味はあるのか?」

 

何故だか興味津々に川崎の動向を見守る女子コンビ+戸塚彩加には、作戦の成功の有無以外にも何か関心を寄せているように見える。

そうしていると読み終わったのか、川崎は手紙を便箋に戻すと丁寧に折り畳んで...

 

「あっ、破った!!」

 

「ゴミ箱に捨てたわね...」

 

「始めて書いた恋文なのに...」

 

「.........」

 

手紙を破られ落ち込んでいる戸塚を尻目に川崎の動向を目で追う。あの感じもしや...

 

「...あいついたずらだと思ってんな」

 

「え?どういうこと?」

 

俺の呟きに敏感に察知し、小首を傾げる由比ヶ浜。

まぁリア充ライフを満喫してきたこいつには分からんことだろうな...

 

「...まぁ推論でしかねぇが、あいつ前にも同じようにラブレター貰ったことがあるんだろ。それでそれはいたずらで、それ以降はこういった手紙は信じないようにしてんだろ。ちなみにソースは...」

 

「比企谷くん、ね」

 

俺の言葉を遮り答えを言うのは雪ノ下雪乃。その姿に失敗して落胆した雰囲気もなく、ただ現状を正しく認知するように、とても冷静であった。

 

「とにもかくにも、また失敗に終わってしまったからには新しく作戦を練り直す必要があるわね。ところで平塚先生たちはどうなったのかしら?」

 

「...百聞は一見にしかず」

 

そう言い親指でそちらを示すと、そこにはゆっくりと腰をあげ何処へと消えていく平塚女史の姿と、それを儚げに見送る腐った魚の姿があった。

泣きじゃくりながら歩く平塚女史のその後ろ姿はどうみても...

 

「...カッコよくはねぇな」

 

「アハハ......」

 

由比ヶ浜結衣の乾いた笑いのみが、俺たちの周りを包んでいった。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「というわけで、新しい作戦を考えましょう」

 

翌日。

俺と戸塚彩加の作戦が失敗に終わった昨日、結局奉仕部面々は解散となった。

本来ならあのあと、腐った魚が調べた千葉に二つしかないエンジェルと名のつく店の一つへ行く予定だったが、茅ヶ崎の情報もありそれは後回しにされた。(メイドカフェに行きたくなかったのもあったが、それは黙っておこう)

そして本日。

俺たちは新たな川崎沙希更正案についての話し合いを行っていた。つうか...

 

「...なんで葉山隼人がいるんだよ」

 

「ん?いや、結衣に呼ばれてね」

 

現在、ミーティングに使われている場所は奉仕部部室内。中には昨日の面々合わせ、よく部室に足を運んできている中二野郎と部室へは数えるほどしか来たことがないのに何故かいる、葉山隼人が揃っていた。

 

「私が呼んだんだよ。隼人くんに手伝ってもらうことがあるんだ」

 

「手伝いって、何か案が思い付いたのか?」

 

自信ありげに説明し出す由比ヶ浜に葉山をチラチラ見ながら疑問をもつ腐った魚。

ちなみに中二野郎や雪ノ下雪乃も同じように葉山隼人へ視線を送っている。こんな味方のいない状況をよく耐えられるものだ。

感心するものだ、嫌いだが。

 

「や、あたし考えたんだけどさ...」

 

その後始まった由比ヶ浜結衣による論理付けられた論説は、由比ヶ浜にしては珍しく筋が通っていて、それでいて由比ヶ浜らしく少女漫画チックなものであった。

簡単に言えば「恋で女の子は変わっちゃうのっ!!作戦」ということだ...我ながら気持ち悪いな。

そんななか恋される役として由比ヶ浜に抜擢されたのが葉山隼人だったということだ。まぁ腹はたつが適役ではある。

つうかもうこの事案自体俺は関心をなくしていた。人の恋路に興味はないし、それが仕組まれたものであるなら尚更だ。

だから一通り話を聞いた葉山隼人が言った次の一言は俺にとって焦燥を感じさせるものだった。

 

「でもほかにも女子に好かれそうなやついるでしょ。この中でも...瀬谷とか俺よりいいんじゃないか?」

 

「...あぁ?」

 

いきなりの葉山の提案に思わず素の睨みがかかる。しかし葉山隼人はその睨みに臆することもなく、逆に極上の笑顔をこちらへ見せてくる。(見続けていると見ててとてもイライラしてくる)

 

「...由比ヶ浜がお前を適材と感じたんだろ。だったら大人しく従っておけよ、友達なんだろ?」

 

「いや、まぁそうだけど...」

 

友達を助けたい。友達の願いは聞き入れたい。

この前の葉山隼人の依頼より感じた、こいつの特徴。俺や腐った魚にとってはふざけた信条だ。

だがそんなことを邪気もなく言えるのはきっとこいつが今までの人生のなかで裏切られたという行為を一度も味わったことがないからだろう。

だから俺はこいつが嫌いだ。

傷つけられたやつの気持ちを、こいつはきっと理解できないから。

 

「せやっちはだめだよ。顔怖いし...それに歯の浮くようなこと言えないでしょ」

 

「...言えるわけねぇだろが、こいつと一緒にすんな」

 

「いや、それじゃあ俺がよく歯の浮くような台詞を言ってるように聞こえるんだが...」

 

「...違うのか?」

 

「違うよ!!」

 

追記するとこの話し合いの間、腐った魚と中二野郎はずっと葉山隼人を睨んでいた。

 

かくして、由比ヶ浜結衣発案による「ジゴロ葉山のっ、ラブコメきゅんきゅん胸きゅん作戦!」(命名、腐った魚)は幕を開けた。

概要に関しては葉山隼人のもてる力すべてを振り絞り川崎沙希を説得する、ということだけ。ここまできて他力本願というのも後味が悪いが、もはや手段は選んでられない。使えるものはリア充でも使って見せるのが奉仕部である。

しかし結果は...

 

「......あ、そういうのいらないんで」

 

「...ふられてんじゃねぇか」

 

無駄に爽やかで無駄に隔たりがなく無駄にイケメンなあの葉山隼人からの言葉を足蹴にした川崎沙希に、一種の英雄観を思いつつ、この作戦も結局失敗に終わった。

哀愁漂う背中を見せる葉山隼人に戸塚彩加と由比ヶ浜結衣は残念そうな顔をし、雪ノ下雪乃はこめかみに指を当てて呆れたように目を閉じている。そして残り二人はというと...

 

「...くっくく」

 

「プッ...プププ」

 

「...はぁ」

 

何が面白いのやら楽しいのやら、腹を抱えて必死に笑いをこらえていた。

こういう最底辺の人間たちにとっては他人の不幸は蜜の味なのだろう。悪趣味極まりない。

 

「...ん?」

 

もはや救いようのないこいつらを見て、またため息が出そうになると、俺の視界に知人の姿が写った。茅ヶ崎だ。

 

「...あいつ、なにやってんだ?」

 

「どうやら、川崎さんと話をしているようね」

 

同じく存在に気づいたのだろう。雪ノ下雪乃も茅ヶ崎の様子を監視する。見ていると葉山との会話以上にはコミュニケーションを取れていた。

すると会話が終わったのだろう。川崎沙希は帰っていった。

 

「あっ、瀬谷。奇遇だね。自転車通学だったっけ?」

 

「...あぁ、そうだが。つうかさっき...」

 

「さっきは川崎さんと何を話していたのかしら?」

 

茅ヶ崎がこちらに気づき話をかけてくる。そして隣にいる雪の下はこれを好機と茅ヶ崎へ質問をかけていった。

つうか俺の言葉を切るな。一応俺の知人だ。

 

「えっと今日のシフトが同じだったので話してただけですけど...何かあったんですか?」

 

「そう...これで黒ね」

 

「...茅ヶ崎と川崎のバイト先は同じっつーことか」

 

思いもかけずてにいれた茅ヶ崎のこの情報は、今までのどの作戦よりも利を得ることができた。

再度追記すると、この間中腐った魚と中二野郎はずっと葉山隼人を笑っていた。

とりあえず腹が立ったので蹴っておいた。まる。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「...なんでてめぇと一緒に行動をしにゃあならねぇんだ、苦行かよ」

 

「本人目の前にしてそういうこと声に出すんじゃねぇよ。終いには泣くぞ、俺が」

 

現在夜の七時。場所はよく撮影などで使われる千葉名所のあそこ。

茅ヶ崎の情報もあり俺たちはあのあと急遽解散となり、またここへ再集合という形になった。

 

「それにしてもお前黒スーツって...なんでよりにもよってそれなんだよ。宇宙人たちとでも対話しに行くの?地味に似合ってるし」

 

「...姉貴に話したらこれしかなかった。着たくて着てるんじゃねぇよ。それにしてもお前はなに着てもその腐った目のせいで台無しになるな、ある意味才能だ」

 

「なにその才能、超要らねぇ。つうか俺が服に似合わないんじゃなく、服が俺に似合わないんだ。それに、真のボッチは服にさえも関心を抱かれないんだよ」

 

「...果てしなく意味のない責任転嫁だな」

 

そんなことを話しているうちに他のメンバーも続々と集まってきた。

全員雪ノ下雪乃に言われた通り、大人らしい服装をチョイスしたらしい。(一人大幅にずれた思考のやつもいたが)

そして最後に現れたのは雪ノ下雪乃。

 

「ごめんなさい、遅れたかしら?」

 

「...いや、時間通りだ」

 

かくして女大生風女子高生(由比ヶ浜と戸塚)、作務衣のオッサン(中二野郎)、議員の令嬢(雪ノ下雪乃)、ジャケットを着た腐った魚に黒スーツを着た不機嫌男と、どこぞの雑技団でも見ない、摩訶不思議なメンバーが揃った。

 

「...で、これからどうすんだ?」

 

「その前にちょっと確認したいのだけれど...」

 

そう言うと雪ノ下はこの場の全員の姿を流し見る。そして中二野郎から順に指を指し...

 

「不合格」

 

「ぬぅ?」

 

「不合格」

 

「えっ?」

 

「不合格」

 

「へっ?」

 

「一応合格」

 

「...あぁ?」

 

「不適格」

 

「おい...」

 

何故か合否判定を下された。

ちなみに不適格判定されたのは腐った魚だ。社会不適合者ではあるから間違いではないが。

 

「あなたたち、ちゃんと大人しめな格好でって言ったでしょう?」

 

「大人っぽい、じゃなくて?」

 

「...ただの聞き間違いかよ」

 

誰が間違えたかは知らんがはた迷惑な...

ということは戸塚彩加と中二野郎、由比ヶ浜結衣は今回は不参加でやるのか...あまりやるせないな。

 

「...後日に回した方がいいんじゃねぇか?」

 

「いえ、二度手間は避けたいし...それに茅ヶ崎くんと川崎さんのシフトは今日を逃したら結構先になるみたいなのよ」

 

「...内部協力者はいた方がいい、と」

 

理にはかなっている。

しかしそのためにボッチの俺たち三人だけってのはなんとも便りがない。せめて由比ヶ浜か戸塚彩加どちらだけでもいたらよかったが...

 

「由比ヶ浜さんだけならうちで着替えた方がいいかもしれないわ」

 

「えっ!?ゆきのんの家行けるの!?行く行く!」

 

「.........」

 

思いが届いたのかそんなわけないが、由比ヶ浜が雪ノ下の家へドレスコードへ行くらしい。これで人員は不足なし。とりあえずひと安心というところか。

そしてあとは川崎沙希の抱える事情次第で俺たちは今回の以来に対する奉仕内容を具体化させる、と。

 

「...はぁ」

 

なにやら深く考え込んでしまい自然にため息が出てくる。

俺も奉仕部という場所に毒されてきたということか?あまりに不本意だ。

そんな俺の気持ちも知らず、女子たちは雪ノ下の家へ、俺たち男共は何故か腹ごなしにラーメン屋へと行くことになった。

いや、俺は行く気無いんだが...

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

ラーメンを食い終えると中二と戸塚彩加は帰っていった。そして俺ともう一人はそのままホテルロイヤルオークラへ。

 

「で、でかいな...」

 

ホテルの前まで行くとたじろぐように腐った魚が感嘆の声をあげる。その言葉通り確かに俺たちの前にこれでもかというほど存在感を出しているホテルは高級感が溢れでていて本当に無断で入っていいのか不安になるが、こちらにはいざというときのブルジョワ淑女(雪ノ下雪乃)がいるのだから問題はない。

俺は呆けている隣の爪先を踏んで雪ノ下たちとの待ち合わせ場所であるエレベーターホールへ向かった。

 

「おまえ...急に爪先踏むんじゃねぇよ。声あげそうになったじゃねぇか」

 

「...高級ホテルに威圧されてるお前を現実に引き戻してやったんだろが。感謝こそされども文句なんか言われる筋合いはねぇぞ」

 

「いや、やり方ってもんがあるだろ...」

 

グチグチ垂れる腐った魚の文句を適当に流していると、不意に電話がなる。腐った魚からだ。

電話をとると、周囲を見渡す腐った魚。

なんだ?ついに周りの目を気にして更正する気になったか?

 

「お、お待たせ」

 

「.........誰だ?」

 

知らん綺麗な女より声をかけられた。もしやこれが世に言う客引きとやらか?とりあえず目線を合わせないでおこう。

 

「なんかピアノの発表会みたいになってるんだけど...」

 

「「(...)由比ヶ浜かよ」」

 

言葉レベルの低さに腐った魚と同じく由比ヶ浜結衣だということにようやく気づいた。近くにいても全くわからんな、おい。

 

「せめて結婚式くらいとは言えないかしら?さすがにこのレベルの服を発表会と言われると複雑なのだけれど...」

 

「...今度は雪ノ下か」

 

由比ヶ浜が来た方よりまた新たに現れた女性、雪ノ下雪乃である。

 

「これで全員揃ったか」

 

「えぇ、では行きましょうか」

 

そう言い、雪ノ下はエレベーターのボタンを押す。

エレベーターは時間をかからずに開き、俺たちは最上階へ向かった。

最上階につくとまたしても腐った魚が感嘆の声をあげる。

 

「す、すげえな...」

 

その言葉のあとにまた帰りたいオーラを込めた視線をこちらへ向けてくるので扱いに困る。由比ヶ浜がすぐさま首を振ってくれたが、腰はへっぴり腰へと退化している。また喝でもいれようかと足を踏もうとすると...

 

「キョロキョロしないで」

 

「いっ!」

 

俺のかかとがやつの爪先をとらえる前に先に雪ノ下のピンヒールがやつのかかとを踏んでいた。

見事な早業。思わず雪ノ下の顔を見ると、何事もなかったかのように澄まし顔をしている。

 

「背筋を伸ばして胸を張りなさい。顎は引いて。二人も同じように」

 

「...あぁ」

 

「う、うん」

 

雪ノ下の言う通りに姿勢をただし、後ろをついていく。

そのまま開け放たれたドアをくぐっていくとギャルソンがすぐ横に...って

 

「...茅ヶ崎か」

 

「雪ノ下さんから話は聞いてるから。どうぞこちらへ」

 

小声で一言二言話し、すぐさま普段からは想像できないほどキリッとした顔にする茅ヶ崎。これが本来の仕事スタイルなのだろう。恐れ入るものだ。

そして茅ヶ崎に案内され訪れたカウンターバーには、昨日今日と放課後に見続けた顔、川崎沙希がいた。

 

「川崎」

 

腐った魚が椅子にかける前から声をかける。しかし川崎は心得ない顔をした。

 

「申し訳ございません。どちら様でしたでしょうか?」

 

「同じクラスなのに顔も覚えられていないなんて、さすが比企谷くんね」

 

「や、ほら、今日は服装も違うし、しょうがないんじゃないの」

 

「...服装変わらなくとも分かんねぇときは分かんねぇよ」

 

「経験あるんだ...」

 

なにやら感心する由比ヶ浜を放置し雪ノ下へとアイコンタクトを送る。返事のサインはすぐに帰ってきた。

 

『go』

 

「...少し外すぞ」

 

椅子にかけず、そのままもと来た方向へ戻る。そこにいるのは先程俺たちを先導したギャルソン、茅ヶ崎だ。

 

「...時間空いてるか?」

 

「一時間前から俺は上がりだよ。今は先輩の代わり、内緒だけどね。川崎さんは違うけど...」

 

「...少し話を聞かせてくれ」

 

そのあと着替えた茅ヶ崎とともに、俺は店から出ていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

ピピピピピピッ

 

眠気眼の俺の横で聞き苦しくなるのはケータイのアラーム。

重い体を持ち上げ、その音の発生を止める。

現在の時刻午前4時。

奉仕部活動開始の時間だ。

 

「...ダルい」

 

文句をキッチリ言いながら着替えを済まし、顔を洗い、ついでにメールを送る。相手は茅ヶ崎。

内容はただの天気の話。簡単に言えばモーニングコールならぬモーニングメールだ。

あいつがいなけりゃこれからのことも楽になる。遅れてもらっては困るのだ。

 

「...とりあえず行くか」

 

自転車をだし、俺は目的地、ホテルロイヤルオークラへ向かった。

 

昨晩、俺は他のやつらよりも先に店を出て茅ヶ崎より前に聞かされたという川崎沙希の身の上話を聞いた。

これは雪ノ下と以前より決めてた計画だ。

きっと川崎は素直に俺たちに事情を話すことはないだろう。

そのため川崎に顔を知られてない可能性が一番高い俺が本命の茅ヶ崎より話を聞く役目を負い、他のやつらは川崎の監視をしていたのだ。

 

「...なんともまどろっこしいやり方だな」

 

朝の千葉。人気はない。

ただでさえ早寝遅起きで有名な千葉だ。朝4時なんて健全な県民ならば夢のなかである。

あいつならこういうだろう、「日本一健康意識の高い県」と。

 

「...っという間に到着だな」

 

いつのまにか俺の目の前には昨夜訪れたホテルロイヤルオークラがあった。

そしてちょうどそこから出てきたのは...

 

「...川崎沙希」

 

淡い青色の髪にポニーテール。印象的な泣きぼくろ。間違いなく昨夜見た川崎沙希その人だった。

 

「あ...誰あんた?」

 

「...雪ノ下雪乃の使いっぱしりだよ」

 

いろんな意味で頭がこんがらがってる俺はもはや自己紹介すんのも面倒だったので、適当に、的確に自分のたち位置だけを話した。

 

「そ。で、その使いっぱしりが何か用?」

 

「...あんたが勝手に帰らないよう見張りだよ」

 

「そんなもんいらないっての」

 

そう言い川崎沙希は歩きだし、俺もそれについて行く。

歩いてる途中はどちらとも喋りかけることはしない。お互い他人であり、知らないことの方が多い。

葉山隼人でもない限り、この空気を打ち破ることなどないだろう。

本当に腹立たしいやつだ、あいつは。

 

数十分後俺たちは目的地、通り沿いのワックについた。

中に入ると、そこにいたのは何故か気まずい雰囲気を醸し出している茅ヶ崎と腐った魚がいる。つかなんで一緒にいんだよ、他のやつらはどうした。

すると横の川崎沙希は茅ヶ崎の顔を見たとたんキッと眼光を鋭くし、睨み付ける。それを受けた茅ヶ崎もたまらず萎縮していった。蛇に睨まれた蛙とはまさにこういう状況のことか。

 

「チガ、まさかあんたが関わってたなんてね...」

 

「ごごごごめんなさい川崎さん...友達の頼みで、川崎さんのことしんぱいだったので」

 

川崎はその茅ヶ崎の様子を見て小さくため息をはく。

その後予定調和のごとくどんどんと人が集まってきた。そして全員が揃ったとき、雪ノ下が口を開く。

 

「川崎さん、事情は茅ヶ崎くんが教えてくれたわ。自分の学費のため、だそうね」

 

真実を突きとめられたからか、川崎は唇をかむ。

川崎弟も原因が自分の学費のせいということに気づき顔をうつ伏せる。

 

「ごめんなさい川崎さん...でももうこれ以上深夜に働くなんて良くないと思います。弟さんに迷惑かけないでやってください」

 

「茅ヶ崎うるさい...それでもバイトはやめられないから。大学には行くし、そのために親にも大志にも迷惑かけられないから」

 

「姉ちゃん...」

 

強情にバイトをやめない決心をいう川崎になにも言えるやつはいない。これは個人の家の話だ。俺たちが関わる話じゃない。

だがしかしこのまま放っておくわけにもいけない。深夜での学生のバイトは禁止されてるし、何より奉仕部の依頼はまだ終わっていない。

しかし俺にとってはそれ以上に許せないことがあった。

 

「...迷惑かけられないってなんだよ」

 

いつも以上の低い声で話す。違和感を察したのはまず俺の古い付き合いがあるやつらから。

 

「お、おいお前...」

 

「...今この瞬間まで、弟がどれだけ心配してたかお前には分かんのか?心配されるようなことしてるって自覚はあったのか?自分勝手に相手のこと理解したつもりでいるんじゃねぇぞ。今一番の迷惑はお前がお前の家族に心配かけさせてるってことが分かってんのか、おい」

 

いつもではうち明かさない言葉が自然と口から出てくる。自分でも不思議だと思う。

普段の俺はこんなに喋らないのに。

 

「瀬谷くん。そこらへんで止めて」

 

ふと、雪ノ下の声により高ぶっていた感情が収まり始める。そして自分が何をいっていたかを自覚し始め、顔をうつ伏せた。

 

「...悪い、外出てくる」

 

返事は待たずにすぐに外へ出ていった。

血が昇った頭に朝の風がちょうどよく当たり、すぐに冷静になっていく。

そしてまた、先程言ってしまったことに対し、後悔の感情が生まれてくる。

 

ーもう誰にも心配はかけられないー

 

ーもう誰にも迷惑をかけられないー

 

ーもう間違いたくなかったはずだー

 

日の出と共に吹いた風は俺の頬に当たり、水滴を乾かしてくれた。

 




ほーお、それで次の更新はいつになるんだ?
未定です。すみません(-_-;)
更新ペースは前のように一週間一度ぐらいになればいいかなぐらいに思っています。
そして読者の皆々様。長らく更新をお待たせしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
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