俺が奉仕部とやらに入り、ちょうど24時間程たったある日(というほどでもない)。
俺は授業が終わり少々の解放感に包まれているその体をそのまま奉仕部の部室へ...ということなどせず、昇降口へ向かわせた。
当たり前だ。誰があんな無理矢理に入れられた部活動などに自主的に行くものか。なんなら学校すらサボってもいいレベルだ。
しかし、そんな愚行が許されるほど世界はまかり通ってるわけでもなく、俺は昇降口へ向けたその足をやむなく止め、一つのため息をはいた。
「はぁ...」
「何をしているのかしら、瀬谷くん?あなたのクラスはまだホームルーム中でしょ」
俺の目の前に雪ノ下雪乃がいた。
この際なぜ雪ノ下が俺のクラスのホームルーム終了時間を知っているのかや、お前こそホームルームはどうしたなどという突っ込みはしないでおこう。
今俺が気にすべきはどうやってこの状況を切り抜けるべきかである。
「...気分が悪いので早退シマス」
「そう、だったら平塚先生に報告しなければならないわね」
「......ちっ」
雪ノ下にとっては幸な、俺にとっては不幸なことにすぐ近くには職員室がある。つうか雪ノ下はその職員室から出てきたのだ。
「瀬谷くん、どうせならもっとましな嘘をつきなさい。論破のしがいがないわ」
「...そういうじゃれあいを望むならあいつに頼め。女子のたのみは断れないからな、あいつ」
ちなみに俺はノーと言える日本人である。
「あいつ...?もしかしなくともそれが比企谷君のことなら私への最大の侮辱よ。それに彼とのあれはただの制裁であり、決してじゃれあいなどではないわ」
「...制裁って、お前何様だよ」
「雪ノ下雪乃様」
マジで言っていた。言ったあとの恥じらいすらなかった。肝っ玉でけぇな、おい。
「...はぁ」
結局俺はそのあと渋々と雪ノ下雪乃の後ろについて行くしかなかったのであった。
ーーーーーーーーーーーーーー
「おじゃMAXコーヒーは千葉の宝...って、おぉ、雪ノ下以外に目付きの悪い不良が部室にいる...」
「...ンだと、ゴラ」
結局あのあと俺は雪ノ下雪乃と共に奉仕部へと足を運び、面倒ではあれど部活動に励むことにした。(なにもやることなどないが)
そして遅れてきて、さらにおかしな挨拶で入室してきたそいつは俺の顔を見るなり、白々しくも驚いた顔を作り、こちらに当て付けだと言わんばかりの挨拶をしてきた。(お返しに睨み付けてやると、かなり怯んで目線をそらしたが)
つうかてめぇが言えることじゃねぇだろ、この腐った魚の目。
「そういえば昨日はゴタゴタしてて聞いていなかったのだけれど、あなた達の関係って言ったいなんなのかしら?友人の類ではないのでしょう」
「真っ先にその可能性を消していくのは流石に俺にもこいつにも失礼だと思わないのか、雪ノ下...」
「...いや、それでいい。知り合いでも我慢の限界なのに友人なんてあり得ねぇから」
「お前は俺になんか恨みでも...あぁ、あったな...」
「...自覚あンなら素直に黙ってろよ」
嫌なことを思いだし、悪態をついておく。そして思うことはやはり、俺はこいつを許すことはできないということだった。
「私の質問に応えれてないのだけれど。結局あなた達はなんなの?」
一人おいてけぼりにされた雪ノ下雪乃は少し不機嫌そうに眉をひそめたあと、咎めるように話を戻して答えを催促する。
「いや、まぁあれだ。小学校からの付き合いっていうか、腐れ縁みたいなもんだな」
「そう......意外だわ。あなたに昔ながらに知り合えた人がいたなんて。瀬谷くんはそんなに精神力が強大なのかしら」
...平塚女史の時もそうだが、こいつは本当に友人が乏しいことでイメージを固定させられているんだな。
別にオレには関係ねぇからどうでもいいが。
「...まぁ、こんな人生過ごしながらもまだ生きていようなんて思えるこいつよりはメンタルなんて弱い方なんだろうがな」
「比企谷くんと比べてはいけないわ。彼は自分の不幸や失敗を人のせいにして精神を維持するとんでもないひねくれ者よ。勝負以前に彼は土俵にたっていないわ」
「おい雪ノ下、別にそこら辺の否定はしないが、もっとオブラートに包んで言えよ。なんなら水戸の餃子皮でいいから」
「...千葉の敵のネタもふるんだな、お前」
少し意外だ、どうでもいいが。
「ふっ、違うな。俺は千葉ファン以前にMAXコーヒーファンだ。ならば同じくMAXコーヒーを売る茨城の擁護も仕事のうちだろう?」
「それは貴方の仕事ではないと思うのだけど...」
「...全くその通りだ」
つうか普通は逆だろ。千葉ファンであるからMAXコーヒーが好きなんだろうが。いや、MAXコーヒー飲まねぇけど。つうか俺千葉出身じゃあねぇけど。
「ま、とにかくオレとこいつはそんな仲良くねぇっつうことだよ、...小町とはこいつ何故か仲良いんだがな...」
諦めたようにこいつは言うが、最後の一言は何かしらの悲哀を含まっているような気がした。別におまえには関係ないと思うが...まだシスコン抜けてねぇのかこいつ。
「細かいところがウヤムヤにされた気がしたのだけれど...とりあえずは入部を歓迎するわ。これからよろしく頼むわね。瀬谷くん」
「俺の時とは全くもって反応が違うな、雪ノ下。なんだ?そいつにでも惚れたか?やめとけよ、やべぇ事件に巻き込まれるかもしれないぜ」
ムカッ
そんな擬音が雪ノ下の方から聞こえた気がした。つうか実際に雪ノ下が凄いしかめっ面をしている。
(...墓穴掘ったな)
哀れ腐った魚。
つうか自業自得だ。なにげに俺の悪口も言ったしな。
そんな腐った魚も雪ノ下の表情に気づいたのかとても気まずそうに目を泳がす。端から見れば挙動不審者だ。なんなら不審者として通報されても仕方がないほど。
「「「.........」」」
(......気まず)
空気が推定キロ単位で重くなり、そろそろ退散しようかと思った時、
ガララッ
「やっはろー♪」
この空気をぶち壊す救世主が現れた。
「...あれ?なんか空気が重いな~、なんて」
訂正。かなり頼り無さそうだった。
つうかこいつ誰だよ。
「...はぁ」
俺のため息の声だけが部室内に響いていった。
ーーーーーーーーーーーーーー
「へ~、ヒッキーって一年に知り合いいたんだ~。ちょっと、というかかなり意外」
気まずかった雰囲気をありがたくも壊してくれた由比ヶ浜結衣がそう言うと、こちらにいかにも興味があります的な視線を送ってくる。
...つうか、これで三回目だぞその台詞。どんだけこいつ友達いねぇんだよ。いや知っていたが。
「...あんま見ねぇでもらえますか」
「ヒッ...ご、ごめん」
俺がそう言って顔を向けると、由比ヶ浜結衣は怯えた表情になり謝罪を言うが、その手は雪ノ下雪乃の袖をつかんでいた。
...つうか、いくらなんでもビビりすぎだろ。いくらオレでも流石に傷つくぞ。
「由比ヶ浜さん、怯えすぎよ。瀬谷くんは確かに目付きは悪いけれど、性格の方はそこのひねくれ者よりは断然良いから安心しなさい」
「いや、ヒッキーに比べればほとんどの人は性格は良い方になると思うんだけど...」
「由比ヶ浜...お前も結構言うようになったな」
「はぁ...」
結局あのあとは乱入してきた由比ヶ浜結衣だとかいう三人目の (オレを除いた) 奉仕部員 により、気まずかった雰囲気は一応霧散された。
そうすれば、お互いに面識が無かったオレと由比ヶ浜結衣は互いの顔を見てクエスチョンマークを浮かべるだけであり、仕方なく残りの奉仕部員が仲人となって俺達の自己紹介をするといった形になり、現在に至っている。
「ていうかせやっち聞く限りじゃヒッキーの幼馴染みってことじゃん!!すごーい!!本当にそんな関係あるんだ!!」
「...あン?」
突っ込みどころが多すぎて一瞬思考が停止しかけた。
つうかなんだ?せやっちとはもしかしなくともオレにつけたあだ名のことか?
だとすれば屈辱以外の何物でもないぞ。
そして幼馴染みの部分を否定しようと声を出そうとすれば...
「プッ...せやっちって。似合わねー」
イラッ
そんな呟きが聞こえ、今度は俺がそんな擬音を出した。そして一瞬目の前にいるこいつに蹴りを一発かまそうかと思ったが、こいつに対してそこまでの運動量を与えるのももはや面倒だったので、仕方なく小さなため息を吐いておく。
「...おい、黙っとけ腐った魚」
「のような目、を付けろよ。それじゃ俺が腐った魚のような存在価値しかねぇように聞こえるだろ。」
「...違うのか?」
「違うのかしら?」
「だから被せて罵んじゃねぇよ。おまえら芸人か」
黙れ愚者。
「せやっち、なんかすっかり溶け込んじゃってるね。元々ここにいたみたいな感じ」
由比ヶ浜結衣はそう言って楽しそうに笑う。その笑いは純粋なものだったが、ふと俺は気になった。
「...そういうあんたは結構場違いな感じだな。ここにいるべき存在じゃねぇだろ」
気づけば俺はそんな失礼なことを口に出していた。
しかしそれは先程から気になったことでもあった。
何しろ雰囲気から察して由比ヶ浜結衣の存在感は奉仕部のこいつらとは全く別のものなのだったのだ。
放課後などはこうして部室に集まるのではなく、騒がしい連中と騒がしいところで騒がしいことをしているのが似合っている。
そのような感じの雰囲気を由比ヶ浜結衣は醸し出しているのだ。
すると腐った魚は目を逸らし、由比ヶ浜結衣はアハハと乾いた笑いをこぼし、そして雪ノ下雪乃は...
「瀬谷くん、それは貴方の勝手な価値観よ。今すぐその考え方は捨てなさい。何より、今の発言は由比ヶ浜さんに対してとても失礼よ」
とても憤怒した。
「...あぁ、悪ぃ。場違いだったのは俺の方だったな」
そしてオレも雪ノ下雪乃に指摘される前より自己嫌悪を始めていた。
俺が口に出したことは今、言うべきことではなかったということに。
「い、いいよ別に。私がこの部に似合わないってことはちょっと分かってたことだし...」
「......」
そう言いつつも目に見える形で落ち込む由比ヶ浜結衣。
(はぁ...)
そんな由比ヶ浜結衣を見て心のなかでため息を吐く。
またやってしまった、と。
「ま、別に気にすんなよ由比ヶ浜。来てほしくなくなったらその時にまた言うからよ」
「え、なにそれ!?まるで私の扱いに面倒になる時期が必ずあるみたいな言い方!?かなり傷ついた!!」
「いや、今までも結構あったんだぜ。言葉にしてねぇだけで」
「それもかなり傷つくよ!?」
「......」
...不覚だ。というか屈辱だ。
まさか腐った魚ごときにフォローを受けるとは。なんならまだ猫の手の方がダメージが少なくてすむ。
そしてなにか釈然としない感情を持ち、依然漫才をしている二人を見る。
そして思うことが一つ。
(...一人でいるときより楽しそうだな、こいつ)
ボッチを名乗り、集団行動をこよなく嫌うこいつがこんなに楽しそうに他人と接しているのは久しぶりに見た。
そしてそんな楽しそうな雰囲気を見ると、ふと記憶のフラッシュバックが起こる。
『君、名前なんて言うの?』
............
(...こいつ大丈夫か?ってなに考えてんだよ、俺は)
らしくもない心配を心のなかでしてしまい、少し気落ちする。
勿論、決して口には出さない。
「...貴方も一応反省しておきなさい」
ふと雪ノ下雪乃がこちらに向かいそう言ったのを感じ、視線だけをそちらに向ける。
そうすれば同じく漫才をしている二人を見ていた雪ノ下雪乃が微笑みを浮かべているのが少し見える。
「...大いに反省中だ」
「そう、なら結構よ」
視線を漫才師に戻し、そう言い合う。
そして、最終的には...
「はぁ...」
自己嫌悪と反省の色で染まったため息を吐くのであった。
(...ため息、癖になったな)
誤字脱字指摘ありがとうございました...
これは原作ファンとしてしてはいけない間違いでした...
すみません、以後精進します...