「瀬谷、なんか疲れてるけど大丈夫か?」
「...ああン?」
俺が奉仕部に入り、三日経ったある日の昼休み。俺は疲れたように (疲れている) 机に突っ伏していると、前方から声をかけられた。
「...今まで避けてきた部活動というものを始めてやってみたらお前も分かるようになる」
「あぁ、部活始めたんだったな」
顔をあげてみれば、そこにいたのは俺の後ろの後ろの席に位置するクラスメイト、茅ヶ崎千賀だった。
女のような名前だが、れっきとした男である。女よりもひ弱で、髪も縛っているが...
「...しかしお前もオレなんかによく普通に話しかけれるな。知り合いに間違われるぞ」
「いや友達だろ、一応...」
喋ってみると意外に優しかったし...など言ってくる茅ヶ崎。こいつとは最初、名前も知らない仲だったのに、今では俺が教室でまともにしゃべれる人間の一人になっている。まぁそのそんなこいつと知り合えるきっかけを作ったのが...
「なぁなぁ聞いて!この前ケイコちゃんが弁当作ってくれてさー!ってあれ、瀬谷なんか疲れてる?」
「...はぁ」
噂を思えばなんとやら、とは言ったもののいきなり出てくんじゃねぇよ。あとうるせぇ、黙れ。
「た、高津いきなり大きい声出すなよ...みんながこっち見てるぞ」
安心しろ茅ヶ崎、だれもこちらを見てない。お前が神経質すぎるだけだ。
そう、こいつこそうざけれど俺のコミュニティを広げた張本人。俺の真後ろで茅ヶ崎の前の席に位置する人間(?)、高津克だった。
「そんなことより瀬谷、ケイコちゃんが弁当をさー、」
「...その話はさっき聞いた。そして声がでかいんだよ、少し黙れ騒音発声機」
「瀬谷、なんかいつにもまして不機嫌そうだな...」
こいつ彼女できてから本当にうぜぇ、はやく別れろ。向こうもこいつのどこに惚れたんだよ。
そして茅ヶ崎、それじゃあ俺が年中不機嫌そうに聞こえるからやめろ。否定はしないが。
「なんだよ、つれねぇなー。そんなんだから彼女できないんだぞ、瀬谷」
「...ッンとうぜぇ」
一々堪に触ることを言うこいつに本気でイラついてきたので、蹴りでもかまそうと椅子から立ち上がろうとしたところ...
ガララッ
「瀬谷はいるかー?」
ドアを開けて、誰かが俺の名を呼ぶのが聞こえた。というかその声には聞き覚えがあり、関わると今まで碌なことがなかったので、俺は...
「おぉ、瀬谷が体育の時間でも見せたことがない俊敏な動きで机から立ち上がり、教室後方のドアへ一目散に駆けていった!!」
「何!?逃がすか!!」
とりあえず逃げることにした。
「なんで高津はそんな実況者風なんだよ、ていうか今の人現国の平塚先生...瀬谷に何の用事なんだろう?」
そんな茅ヶ崎の言葉を背に受けながら俺は無心に廊下を走り去っていった。
ーーーーーーーーーーーーーー
「一応言い訳ぐらいは聞いてやる。なぜ逃げた」
「...死兆星が見えたのでついうっかり」
「もう少しまともな言い訳を考えろ。バカモン」
結局あのあと俺を追ってきた平塚女史に捕まり、現在は職員室にある平塚女史のデスクの前。例のごとく他に教師はいない。この学校は本当に成り立っているのだろうか?
「...もう説教は聞き飽きたんでさっさと本題に入ってくれないスか」
「誰のせいで説教してると思ってるんだ、全く」
いい加減諦めたのだろう、そう愚痴ると平塚女史は自分のデスクの引き出しから一枚の紙をとって俺の前につき出した。
「...高校生と結婚は流石に無理だと思うスが」
「バカか君は。よく読め」
一番気にしている話題をジョークとして持ち込んだが平塚女史はそんなことに一々気にせず、その紙への確認を俺に促した。
「...入部届」
「そうだ。まだ出してないだろう」
そういやこんなものを出す決まりがあったな、この学校。
「今更だが書いておけ。後々面倒なことになるからな」
「...ンだよそれ」
少し平塚女史の言葉に気が掛かったが、とりあえずの優先事項としてペンを借り俺は入部届を書いた。
「そういえばさっき君はクラスメイトと一緒にいたが、彼らは友達か?」
「...片方はそれに近いがもう片方は赤の他人だ」
もしかしなくとも高津のことである。
「そうか...いや、比企谷のように友達が作る方ではないと思っていたからな。
少し意外だったんだが...すまないこんな考え方は少し失礼だったかな」
「...あいつと一緒にするな。そっちの方がかなり失礼だ」
平塚女史がそう考えたことはよくわかる。自覚はしているのだ。目付きが悪く、いつも不機嫌そうで感情の起伏に乏しい。そんな自分の風貌に。だから今までは友達なんぞと言うものはないに等しかったし、必要ないとも思っていた。しかし...
『なぁ不機嫌そうだけどなんか嫌なことでもあったのか?お前』
『......』
あのときは俺でも少し驚いた。(顔には出さなかったが)
まさか俺に素で話しかけてくるやつがいるとは思いもよらなかったからだ。まぁ今ではそんなことに一々気にしなくなったが...
「彼とは違い、君は充実した青春を送れそうだな。存分に楽しみたまえよ」
平塚女史は微笑みを浮かべながらそう言う。つうか...
「その言いぐさからもう年の功が「ブンッッッ!!」......」
「次は当てるぞ」
微笑みを浮かべたまんま言ってんじゃねぇよ...
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「そういや瀬谷、この前ホームルーム受けずに帰ったけど、どうしたんだ?あのあと平塚先生が来て瀬谷はどこだ!!って騒いで大変だったんだぞ」
「...ストーカーかよ、あの人」
帰りのホームルーム終了時。茅ヶ崎が話しかけてきて、その内容を聞き若干驚いた。
あの教師、教室にまできたのかよ...
どんだけ熱血ドラマ愛してんだ。
「なぁ瀬谷、茅ヶ崎の働いてるレストラン行こうぜ!ケイコちゃんの話したげる!」
「...死んでも断る」
つうかそんな大声で茅ヶ崎がバイトしてること公言すんなよ。
本人あわあわしてんだろうが。
「ちょっ!?た、高津、そんな大声で俺がバイトしてること言うなよ!?」
高津にそう注意するが、茅ヶ崎よ、そういうお前の声も大概大きいぞ。
「へー、茅ヶ崎くんバイトやってるんだー」
「今度みんなで行こうぜー」
そしてこうなった。
そんな茅ヶ崎のバイト先への打ち上げの話で盛り上がり、茅ヶ崎がさらにあわあわし始めた教室を尻目に、俺は奉仕部の部室へと向かった。
「せ、瀬谷ー!!助けてー!!」
すまん、無理だ。
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奉仕部教室前。
「はぁ...」
気乗りしない気持ちをため息と共に吐き、諦めて目の前のドアを開ける。
ガララッ
「......」
「...瀬谷くん、ノックと挨拶ぐらいしなさい」
「...ソリャワルゥゴザイマシタ」
ドアを開ければすごい美人がそこにいた...などとは思わず、不機嫌そうな顔をした雪ノ下雪乃がいた。
つうか今更ノックなど必要なのだろうか?この部でノックをまともにしてるやつを俺はまだ見たことないんだが。
「...他のやつらはまだかよ」
「ええ、この時間ならもう比企谷くんぐらい来てもいいのだけれど...」
「...ふーん」
聞くには聞いてみたが、特に興味もなかったので、雪ノ下に空返事をする。
そうすれば近くにあった椅子に座り鞄からタブレットを取り出せば、同じく鞄に突っ込んであったヘッドフォンにそれを繋ぎ、耳に付ける。
そしてタブレットの電源をつけ、朝からやりかけであった作業を進めようとすれば...
ジーッ
そんな擬音が空耳で聞こえるほどに誰かから見られてる気配がした。
「何をしているのかしら、瀬谷くん」
もしかしなくとも雪ノ下雪乃だった。
「...作曲」
ヘッドフォンを付けているので聞こえないふりもできるのだが、そんなことをしても雪ノ下の機嫌が悪くなるだけなので正直に答えておく。その間も作業の手は止めないが。
「作曲?あなた音楽に精通しているの?」
「...精通してるってわけじゃねぇよ。ただの趣味だ」
雪ノ下が大層な解釈をしてきたため、一応訂正をいれておく。
本当に、そこまで誇れるものでもない。
「趣味で作曲ってことは、あなた他に楽器もなにかできるの?」
「...ギターとベース」
なぜかいつもより突っかかってくる雪ノ下の質問に適当に答えながら、頭のなかに浮かんでくる音符をタブレットの中のアプリの五線譜に写し出し、時々音がきちんと繋ぎ合わさっているか確認するため再生する。
「...ずいぶんと本格的なのね」
「...趣味の範囲でだけどな」
その間も雪ノ下雪乃は俺の作業を興味深げに凝視していた。今ではもう俺の後ろで立ち、まじまじと覗いてくるほど。
「.........」
ぶっちゃけるとかなり気まずい。
雪ノ下からしてみれば見たことのない玩具を見つけて興味があるだけなのかもしれないだろうが、こちらからしてみれば後ろに超絶美少女を立たせているので違和感がハンパないのだ。
「.........」
しかしそんなことで一々反応するのも何か釈なので渋々と我慢し、無心で作業を進める。
幸なことは朝のうちにほとんどのメロディーを仕上げていたため、あとは曲の終わり部分だけだということだった。
そして...
「...ふぅ」
俺は最後の休符を五線譜の中にいれ、息と共に力を抜いた。
一応確認のためこれから曲全体を再生し、こぼれがないことを確かめなければならないのだが、曲作りの余韻に浸っている今の俺に、そんなことまでする余裕はなかった。
「...面白いそうね、それ」
「...あン?」
そうしていると後ろから雪ノ下の声が何だか感慨深げに聞こえたので、思わず振り向く。
すると...
ガシッ
「...おい、なにしやがる」
「ちょっと借りるだけよ」
雪ノ下は刹那の速さで俺の手からタブレットを奪い取り、まじまじとその中身を確かめていった。
「...なるほど。データ上に含まれてる音符の音を同じくデータの中の五線譜に入れ込んで曲を作るのね。
確かにこれなら紙代も浮いて合理的ね」
「...ンな冷静に分析してンじゃねぇよ。さっさと返せ」
「いや、ちょっと待って。まだ何か...」
そうして俺が雪ノ下からタブレットを奪い返そうと詰め寄ると...
ガララッ
「ごっめーん!ゆきのん!!ちょっと外せない用事があって遅れちゃった。」
「お前にとって数学の宿題のやり直しはそんな大事なことなのか。あんなもんちゃちゃっと適当にかいて終わりじゃねぇか」
「いや、ヒッキーは適当すぎるからやり直し食らったんでしょ。まぁ私はそれ以前にやってな...」
「あン?どうした由比ヶ...」
奉仕部の残り二人が現れたのであった。
「...はぁ」
そして俺は驚愕の表情をし、奉仕部のドアの前にたつ二人を見て思わずため息がこぼれた。
現在俺の状況を言葉にして表せばこうだ。
[女子の先輩を壁際まで追い込ませている目付きの悪い不良]
書き表してみると本当にけだもののようだな...
そしてそんな状況を前情報なしに見てしまったこの二人。こんなリアクションになるのは当たり前というものだろう...
ちなみに当事者の雪ノ下雪乃さんは...
「...なにこれ、すごいわ。ピアノの音声だけでなく、ギターにドラムにベースの音でまで作った曲を再生できる。これがあったら楽器いらずじゃない」
と、こうして俺のタブレットに夢中になり、事態に参加すらしていなかった。
「...はぁ」
また、ため息がこぼれる。
さて、なんと言い訳をしようか。
そんなもんは決まっている、考えるまでもない。
そして俺は二人の方向に向き、また少しため息を吐き、そして口を開いた。
「...おい、誤解「失礼しましたー!!」...おい」
本当に頭が痛くなる。
俺の言葉が言い終わる前に由比ヶ浜結衣が全速力でその場から立ち去ったのだ。
もはや抗弁の余地無しかよ...
「.........」
「...そして何でてめぇはそんな惚けた顔してんだよ。分かってンだろうがよ、誤解だ、誤解」
そんなキャラじゃねぇだろが。
「...あ、あぁそうだな。ビックリさせんなよ。
思わず、俺にはフラグすら立てさせてくれない雪ノ下がなんでお前とこんなと仲良かったのか、本気で疑っちまったところじゃねぇか。」
「...卑屈だな、おい」
もう少し楽に生きろよ。どうでもいいが。
「あら、比企谷くんいつのまにきたの?ついにボッチの域すら越えて空気にでもなったの?」
「本当に空気だったらもっと空気読んで登場したのだがな...」
「......?そういえば由比ヶ浜さんは?一緒じゃないのかしら?」
「「.........」」
その後、状況を説明された雪ノ下は、話を聞いたあと顔を真っ赤にすると、俺に罵詈雑言を浴びせ、急いで由比ヶ浜さんを探しにいったとさ。
めでたくねぇ、めでたくねぇ
「...はぁ」
...もうこの部活辞めてぇな
主人公はヒッキ―と違い友達もいて、クラスでも認知されています。
...怖がられていますが。