瀬谷壮介
ニックネーム:せやっち
生年月日:7月7日
血液型:B型
座右の銘:為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり
総武高校一年。
無表情無感動淡泊に加え目つきも悪いと、一見したら不良な外見だが、
その実、面倒見がよく、人並み以上の正義感を持っていた。
実は昔バンドを組んでいたことがある。
「...で、具体的に俺たちは何をすりゃいいんだ?」
葉山隼人により見せられたそのチェーンメールは、特定の人物を中傷する内容のものだった。
名前はそれぞれ、戸部、大岡、大和と、当たり前だが全く心当たりのいかない人物。
そのため、俺ではその三人がどのような性格なのかさえも分からん。
(俺の仕事無いかもな...)
この依頼、犯人探しとなったら俺は役立たずとなる。
しかし、葉山隼人の目的は犯人探しではなかったようだ。
「頼みたいことは犯人探しじゃないんだ。この状況を円満に解決させること、そのことに協力してほしい。それだけなんだ」
...なんだと?
「...お前今、円満つったか?」
「ん?あぁ。こうやって友達を悪く言われて気分が良いわけないけど、これを書いた奴がそれが原因で浮いちゃっても後味悪いし。
だからこの状況を丸くおさめてほしい。それが俺からの依頼だ」
「.........」
なんとも良いやつなんだろうか。
とても尊敬できるものだ、尊敬しすぎて吐き気を催すほど。
「.........」
俺は葉山隼人を心のなかでそう評価すると、椅子から立ち上がり、部室のドアの方へ向かっていった。
「瀬谷くん、どこへ行こうとしてるのかしら?」
「...トイレだよ」
「ちょっとせやっち。空気読んでよ」
「...ソリャスミマセンデシタ」
「............」
由比ヶ浜結衣に心のこもっていない謝罪を言って俺は部室から出る。
その足は雪ノ下雪乃に言った通りにトイレへと向かっていった。
気のせいだとは思うが、部室から出ていく俺を、あの腐った魚が哀れみを込めて見ているように感じた。
ーーーーーーーーーーーーーー
「.........」
トイレに着けば俺はおもむろに洗面台で顔を洗う。
目の前の鏡を見れば、いつも通りのボサボサした髪に不機嫌そうな顔をしたいつも通りの俺。
『この状況を丸くおさめてほしい』
頭のなかでフラッシュバックしていくのは、葉山隼人の甘すぎる言葉。
思い出すだけで胸焼けがおき、頭痛が起こり、胃に穴があくような嫌悪感が巻き起こる。
「......はぁ...」
その嫌悪感を長く、そして深いため息で押し吐く。
おそらく葉山隼人は全くの悪気も他意もなく口に出したのだろう。
いや、それどころか善意をもってその言葉を口に出したのであろう。
だから葉山隼人は全く悪くない。
きっと誰にでも優しい、まさに聖人君子のような人間なのだ。
だからであろう。
『俺はお前を守れない...』
それが原因なのであろう。
『私はキミを見捨てた...』
それが理由なのであろう。
『ごめん...なさい...瀬谷くん』
その時
円満などという言葉を口にだした時
俺は葉山隼人を
心の底から
嫌いになった。
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心を落ち着かせた俺はトイレを出て部室に戻ろうとする。
すると...
「ん?瀬谷か。まだ部室へ行ってなかったのか」
「.........」
出た先の廊下には平塚女史がピッタリのタイミングで歩いていた。
つうかどんな偶然だ...もはや奇跡か。
それとも本当にこの教師にはストーカー気質でもあるのだろうか。
そんなことを考えていると、平塚女史がこちらをじろじろと見てほくそ笑んでいた。
「なんだ~?いつも以上に不機嫌顔だぞ。何か嫌なことでもあったか?」
「...あんたが送ってきたあの依頼人のせいだよ」
不良少年の更正のシチュエーションとでも考えているのだろうか、楽しそうにこちらにグイグイ突っ掛かってくる熱血教師モドキのテンションにうざくなりながら、適当に質問に答える。
「ん?葉山が原因か?おかしいな、葉山がそんな嫌悪感を与えるようなことをするわけないと思うが...」
「...ンな直接的に嫌がらせなんてあの男はしねーよ。
俺が勝手にあの男を嫌いになって、勝手に不機嫌になっただけだ...」
適当すぎた答えに平塚女史が真面目に思考するので、理由を言い加える。
しかしその理由を説明していくうちにまた胸の奥から嫌な感情が蘇っていく。
...チッ。
「...じゃあ俺、部室行くんで」
「待て、瀬谷」
部室の方へ体を向かせる俺のその言葉に被せ、平塚女史がこちらを呼び止めた。
「...なんスか?」
少しイライラしながらも、返事をする。
「別に大したことじゃないが、
ザクッ
平塚女史のその言葉が俺の体へと、刃になって突き刺さる。
そして気付いた。
平塚女史が「あのこと」を知っていたことに。
「...知ってたん、スか」
「まぁ、な。一応私は生徒指導担当だからな。これぐらいは把握している」
「.........はぁ」
平塚女史が 「あのこと」について知っていたことの驚愕は俺にとっては思う以上に少なかった。
さっきも自分で言っていたが、この人は進路指導の教師だ。 「あのこと」 について把握ぐらいしているのは、ほぼ当たり前のことだろう。
だが、平塚女史が「あのこと」を知っているとしたら、一体どこまでしっているのだろうか。
平塚女史は「あのこと」をどれほど理解しているのだろうか。
俺はとても気になった。だからだろう...
「...あんたは俺を軽蔑しないんだな」
普段なら決して口にしないことを、俺は思いの外重い口を開き、言ってしまったのだ。そして...
「...瀬谷、私は生徒の味方だ。君がどんな過去を持っていても、私は君を裏切らない」
俺はそれを言ってしまったことに、とても後悔した。
「...そうかい」
俺はそれだけ言い捨て部室へと戻っていった。
そして知った。知ってしまった。
平塚女史はなにも理解していないことに。
何も分かっていなかったことに。
―――俺が中学二年の時、いじめを行ったという事実のことに―――
「...あんたも、俺を信じないんだな」
その言葉は勿論、平塚女史の耳には届かなかった。
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「.........」
「瀬谷くん、遅いわよ」
「...あぁ」
再び奉仕部の敷居を跨げば、飛びかかるのは雪ノ下雪乃からの叱咤。
反論も面倒だったのでまたも適当に答える。
「うわ、せやっちどうしたの?顔色すごく悪いよ。もしかして便秘?」
「...便秘じゃねぇし。つうか女がその言葉使うのに躊躇いはねぇのか」
「え~、別にそんなのないけど」
いや持っとけよ。こっちが気を使うっつの。
心のなかで由比ヶ浜結衣に突っ込み、小さくため息を吐く。
「で、瀬谷くんがいない間に決まったのだけれど、そのチェーンメールに載っている三人が怪しいみたいよ」
「...みたいってなんだよ」
雪ノ下雪乃がやけに他人気に言ったため少し疑問を持つ。
「まだ仮定の話よ、断言はできないわ」
「...あっそ」
雪ノ下雪乃の完全無欠の性格を再確認しつつ、俺にはまた新たな疑問が浮かび上がった。
「...犯人探しはしねぇんじゃなかったのか?」
その三人が怪しいとは、つまりそのなかに犯人がいるかもしれないということだ。
しかし、葉山隼人は犯人探しは乗り気ではなかったはずだが。
「犯人探しはするわ。その方が手っ取り早く済むし...というより、この方法以外、事件の収束のしかたがないと思うのだけれど」
「...そうかい」
哀れだな、葉山隼人。
早期解決のため、自分が望まない方法をとられるとは。
「...つうかその場合、俺の仕事は?」
「ないわ」
きっぱりと言い切ったな。
まぁ、学年の違う俺じゃ何の助力もできんが。
面倒くさいことをせずに済むと思えばラッキーだ。
「というわけで、よろしく頼むわね、由比ヶ浜さん。...あと期待はしてないけど比企谷くん」
「おい、本当に期待してない風に言うのやめろ。照れるだろ」
照れるのかよ。
ていうか期待してないなら最初から頼むなよ。
「まっかせてー!!ゆきのーん♪」
「ち、ちょっと...由比ヶ浜さん」
そんなことを考えていれば、雪ノ下雪乃から頼まれた由比ヶ浜結衣は嬉しさのあまりか雪ノ下に抱きつく姿が目に入る。
雪ノ下雪乃の方も多少抵抗しながらも、満更でもない様子だった。
...本当に、仲睦まじく。
「仲良いんだな」
「あいつらはな」
「ヒキタニくんも、だろ」
「「.........」」
ヒキタニって誰だ?
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ガチャッ
「.........」
結局葉山隼人の依頼に対する活動方針が決まった後、奉仕部はお開きとなり、即時解散となった。
解散後は葉山隼人から寄り道に誘われたが、怠くて面倒だったので丁重に断り、俺はまっすぐ帰宅の道を歩いた。 (ちなみにあいつと雪ノ下雪乃は誘われる前に速攻で帰っていった)
そして現在、自宅の玄関。
「ちょっと壮介、帰ってきたなら何か言いなさいよ。ビックリするじゃない」
「...あン?」
そう言って玄関先から右にある洗面所から出てきたのは、下着姿の我が姉、瀬谷蒼子だった。
つうか、服ぐらい着ろよ。
「今日も遅かったけど、前に言ってた部活?ハッチーいるんだっけ?この頃会ってないけど元気してた?」
「...気になるんなら自分でメールしろよ」
あんたもあいつのアドレスもってンだろが。
「いや、だってあの子、メールすると、すごく長文になってかえってくるんだもん...なんか少し怖い」
「...だろうな」
姉の言葉に、あいつならそんなことをやりかねんと同意する。
「そういやあんた、高校では大丈夫?」
「.........」
姉の言葉に一瞬言葉がつまる。
しかし、それは本当に一瞬だけ。
すぐに口を開け、言葉を紡ぐ。
...これ以上、心配させることなどできない。
「...心配されるほどのことはまだなにもねぇよ」
「そう...それならいいけど」
「.........」
俺の言葉にそう返すと、姉はそれじゃ晩ご飯よろしくねー、と言い捨て部屋に戻っていった。
寝る気だな...つうか、晩飯俺が作るのかよ。
「...はぁ」
なんともいえない疲労感が全身に襲いかかり、自室のベッドに対し誘惑がかかりながらも、なんとか抵抗し、面倒ながら晩飯の用意に取りかかった。
「お姉ちゃんパスタがいいなー」
「...黙って寝てろ」
結局晩飯は、カップラーメンとなった。