中間テストを切ったある日の平日。
俺はいつもの通り奉仕部の活動が終わりそのまま帰宅...ということをせず複合商業施設マリンピアに来ていた。
目的といってもただ譜面を買いにきただけなのだが、そこで要らぬエンカウントをしてしまった。
「茅ヶ崎、この服はどうだ?デートにはピッタリだろ?」
「いや、その服は派手すぎるから...」
「...おい、俺はもう帰っていいか?」
高津と茅ヶ崎である。
なんでも高津のデートに使う服を選んでいるらしい、腹が立つ。
茅ヶ崎も何故こいつに付き合っているのだろうか。まぁ顔色から見るに無理矢理つれていかれたのだということが察せられるが。
しかもそのエンカウントしたのは二人だけでなく...
「高津、こんな服なんかもいいと思うが。特にこのドクロマークが君にピッタリだ」
「本当ですか先生!!茅ヶ崎、俺これ来ていく!!」
「いや、やめといた方がいいと思うけど...というか平塚先生も適当に選ばないでください」
「適当とは失敬な。私は高津が彼女に濃い印象を持ってもらうために必要な服を選んでるだけだぞ」
「...印象っつっても悪印象じゃねぇか」
高津に要らぬ服のアドバイスを送っているアラサー教師、平塚静女史もいた。
というか俺が帰れない原因がこの人にある。先程から帰ろうとすればもれなく襟首をつかみ無駄にいい笑顔でもう一つの拳で脅してくる。
人恋しいのであろうか。そういう感情はあの腐った魚にだけ表してほしいものだが。
「そう言うな、瀬谷。買い物中に教え子にあったのならアドバイスのひとつも送るのが教師の勤めってものだろう?」
「...そもそも買い物中に教え子にあったんなら注意をするのが教師の勤めだと思うのだがな」
何故この人はこんな自然に生徒の買い物に入り込めるのだろう。別にどうでもいいが。
俺としてはさっさとこの場を収拾させ、帰路に付きたい心で一杯である。
そんな俺の願いが通じたのか、やっと茅ヶ崎が高津の服のコーディネートを終えた。
「よし、こんなものかな...瀬谷や先生はどう思いますか?」
「むっ、中々に似合っている。...これでは私より早い既婚者が増えてしまうではないか」
「おいアラサー教師、心の声が表にでてんぞ。そしてその考えはあまりにも飛躍しすぎだと思うが」
つーかだからさっきあんな無茶苦茶な服選んでたのかよ。どんだけ結婚に飢えてんだか。
そんな平塚女史に冷やかな視線を送っていれば、高津もその服に納得したのだろうか、よし!っという気合いを入れる声が聞こえた。
「俺これにする!茅ヶ崎、選んでくれてありがとう!なんか奢るわ!」
「そう?だったら遠慮なく頂こうかな。瀬谷もどう?」
茅ヶ崎が俺を誘うが、先程から帰ることだけを意識していた俺としてはさっさとこの場を去りたい。
そのため否定の意を示そうとすれば...
「瀬谷も一緒に行くそうだぞ」
平塚女史が俺より先に茅ヶ崎の誘いに肯定していた。...って
「...おい、なに勝手に決めてんだ。俺は別に」
「顧問命令だ。瀬谷、君も行きたまえ」
「.........」
横暴だ。というかそんな権限など聞いたことがない。
いや恐らく断ったらあの右ストレートが飛んでくるような恐ろしい権利なのだろうが...
「瀬谷、これは君のために言っているんだ。ただでさえ過去に暗い部分を持っているのだ。もっと今の関係を大事にしたまえ」
「...ッチ」
いつものため息でなく、つい舌打ちが出てしまう。今の平塚女史の発言は、それほど俺の機嫌を悪くさせた。
「...あんたも底意地が悪ィな」
「意地が悪くなければ思春期の子供の相手など出来るものか」
皮肉をたっぷり込めて平塚女史にそう言い、俺は高津と茅ヶ崎のもとへ行く。
その心には、これ以上俺の過去を知る人物の側には居たくはなかったという感情が大部分占めていたことは俺しか知らない。
ーーーーーーーーーーーーーー
なにか黒いものを心に残しつつ、高津と茅ヶ崎と共に適当なカフェを探し当てる。しかしテスト前だからだろうか、中は学生客で列をなしていた。
なので別の場所にしようかと踵を返したところ...
「...あっ」
「...あン?」
目に入ってきたのは俺たちと同じ総武高の制服を着た目の死んでいる学生。
そしてその顔をようやく脳が視認すると、俺はおもむろに腰の体制を低くし、重心を整えると、瞬時の速さで片膝をそいつの鳩尾に向けて打ち込む。
「ぐふっ!?」
狙いは見事クリーンヒットし、腐った魚の目をしたそいつは膝をつく。
ふぅ...我ながら良い仕事をした。
「ちょっ瀬谷!?いきなりなんでこの人蹴ったの!?」
しかし、俺の周りの人物...特に茅ヶ崎は俺のその突然の奇行に驚いていた。
ちなみに高津はメールに集中していてこちらの状況に目もくれていない。おそらくケイコちゃんだろう、爆死しろ。
「...あぁ、いきなり目線に入ってきたから、ついうっかりな」
茅ヶ崎に適当な説明を渡しそいつに目をやる。
回復したのだろうか覇気と生気のない目でこちらを睨んでいた。
「お前、いきなり蹴るやつがいるかコノヤロォ...」
「...ワリィワリィ、ツイウッカリナ」
片言に謝るが、勿論反省などはしていない。
こんなゾンビみたいなやつがいきなり現れたら誰だって蹴るはずだ。
なにせ、もはやバイオハザードの世界の住人のような顔つきなのだから、こいつ。
しかしいい加減こいつがひざまついてるせいで道行く通行人より奇異な目線が送られてくるのが鬱陶しく感じられてきたのでカフェの中へ退散していく。
レジが混んでいるのはこの際仕方がないだろう。
「あっ、ちょっと瀬谷待ってよ。高津、ここでお茶しよう」
「ん?あぁ分かった。ってこの膝着いてる人誰?」
「えーと、瀬谷の知り合いみたいな人?というか、もう放っといてあげようよ...」
後ろでは茅ヶ崎が高津を呼んでいるらしく声が聞こえる。
しかし俺はそんなことより前方の視界に写る二人へと意識が向いていた。由比ヶ浜結衣と雪ノ下雪乃と...あと一人名前も知らない総武高の学生がレジで並んでいたのである。
俺は無意識のうちにその二人から見つからないよう、レジに並ぶ他の客の後ろへと隠れた。
何故そんなことをしたかは俺にも理解不能だ。
そうしていれば、案の定俺の後ろで構えていた茅ヶ崎と高津がポカンとしていた。
「瀬谷、どうしたんだ?」
「さぁ?あ、雪ノ下さんが並んでる...もしかして瀬谷気まずいの?」
「...あぁ、まあそんなところだ」
なにやら少しだけ口元がにやついている茅ヶ崎にいつもと違う雰囲気を感じながら、二人の見解に肯定しつつ、このカフェは止めとこうと進言する。学校外で知り合いに会うことほど気まずいものもないからだ。
しかし二人は...
「レジに並んじゃったしここにしとこうよ。べ、別に瀬谷の入ってる部活に興味あるとかじゃないから」
「これから他のところ探すの面倒だしここで良いんじゃね?べ、別に雪ノ下さんに興味あるわけじゃないからな」
「...高津、お前彼女いるだろが」
何故か積極的にこのカフェに入ろうとしていた。
まぁ下心が言葉として出てるがな...
そしてそんな会話をそれほど小さな声を使わずしていれば、近くにいる知り合いには声色でばれる可能性があり、
「あれ、せやっちじゃん。放課後ぶり~」
「...はぁ」
結局俺は由比ヶ浜結衣に見つかった。
「えっ、なんでそんな落ちこんでんの?私なにか悪いことした?」
「...いや、なにか実態のないなにかに負けたような気がしただけだ。気にすんな」
俺がなにか途方もない虚無感に襲われてることに気にかける由比ヶ浜結衣の問いを適当に流せば、その後ろから新たに顔見知りが現れる。
「瀬谷くん、奇遇ね。というより貴方も勉強会に誘われてたのかしら?由比ヶ浜さん」
「あ、いやえ~と...」
雪ノ下雪乃の質問に気まずそうに目を泳がす由比ヶ浜結衣。
なにやら答えづらそうだったので代わりに返答しておく。
「...別に俺は誘われていないがな」
「ちなみに俺も誘われていないんだが」
不意に聞き覚えのある、腐った魚のような目をしている人間がだす声が後ろより発せられる。
その直後、俺はノーモーションで右足を背後へと打ち込もうとするが...
「ちょっ!?タンマ!ここ店の中だから!千葉県民ならモラルを守れ!」
「...ちっ」
さすがに店の中でまで暴力沙汰はしたくなかったので、俺は上げた右足を地につけ無念の舌打ちをつく。
そして図らずとも奉仕部部員一同がここに集まったのであった。
「えっと瀬谷、この人たちが瀬谷の部活の先輩?」
「なにかイメージと違うなー...」
「...勝手にお前らが想像してただけだろうが」
不本意な感想を述べてくる高津にツッコミながらため息をはく。
こんなはずではなかったのに...
「で、そちらは瀬谷くんのお知り合いかしら?」
すると雪ノ下雪乃が俺の後ろのこいつらを気になったのか、話題を降ってきた。
「はい、瀬谷の友達の茅ヶ崎って言います」
「同じく高津です!よろしくお願いします!ところで雪ノ下さん、メアド交換...痛った!?」
なにやら無作法なことを高津がしようとしたのでとりあえず足の爪先を踏む。ていうか初対面にいきなりそれはないだろ...
「何故私の名前を知っているかはおいとくけれど...とりあえず驚いたわ。瀬谷くん、貴方友達いたのね」
「ゆきのん、そういうことヒッキー以外に正直に言うのやめようよ」
「なにそれ、なんで俺だけ例外的扱い受けてんの?差別なの?」
本当に驚愕した顔でこちらに失礼なことを言ってくる雪ノ下雪乃と、それを指摘する由比ヶ浜結衣と、なにやらギャーギャー騒ぐ腐った魚。
端から見たらかなり盛り上がっているが一人取り残されている中性的な男がいた。
「あの...そろそろレジ済ませた方がいいんじゃないかな?」
「...それもそうだよな」
その男、戸塚彩加の助言に従い、俺は騒いでいる後ろを放ってレジで注文をする。高津と茅ヶ崎も俺に習い注文を済まし(高津は律儀に茅ヶ崎の勘定も払っていた)、そそくさと奉仕部連中を横目に席へつく。よし、なんとかバレなかったな。
「いや、なんで先輩たちに黙って行くんだよ...」
「雪ノ下さんたち見事に気づかなかったな...」
「...一緒にいる理由も別になかっただろ」
言い訳のごとくそう言って、頼んだコーヒーを飲みながら鞄の中より教科書とノートとヘッドホンを取りだし、完全なる勉強の体制をとる。
一応2週間を切ったため、万全に整えとく必要もある。見れば茅ヶ崎も問題集を取り出してテスト勉強をしていた。高津は携帯を弄ってたが。
そう意気込んだとき、不意に横から袖を引かれる。
片足入れた集中の域を追い出されたため、少し不機嫌になりながらもそちらへ顔を向けると、
「ソウくん、やっはろー♪」
そこに見たのは、いつもと同じアホな雰囲気を醸し出すあの腐った魚の妹、比企谷小町の姿だった。
「...小町、なんでここにいんだよ?」
「や、この前話した大志くんの...」
そう話そうとする小町の座っていたソファーの向こうより来た鞄がぶつかる。総武高の鞄だ。
とりあえず鞄が投げられた方向に睨みをかけるとそこには腐った魚の姿があった。
「あ、お兄ちゃんだ」
「...てめぇ妹に鞄ぶつけてんなよ」
なにやらとても腑に落ちないような顔をしているそいつに小町は嬉しそうに呟き、俺は非礼を責める。
「...瀬谷はともかくなんでお前もここにいんだよ?」
「あ、そうだ。実は大志くんから相談受けてるんだよ」
そう言うと小町の向かいの席にいた学ランの制服の中坊らしき男子が会釈をする。
こいつ小町の知り合いだったのか。
あまりにもパッとしなかったから相席なのかと思ってたが。
そう思っていたら俺の向かいの席より声がかけられる。茅ヶ崎だ。
「瀬谷、知り合い?邪魔なら席はずそうか?」
「...さっきまで人の部活の先輩に興味を引かれてたのは誰だよ?」
いや、まぁ...と答えづらそうに目を剃らす茅ヶ崎。
別に気にしていないが、こいつはもっと自分に自信を持った方がいいと思う。
そんな中、結局奉仕部全員が小町のテーブルを中心に集まっていく。
俺の奉仕部活動が今再び始まった。
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