仮面ライダー鎧武 ― グリドン外伝 ―   作:たかだや

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少し間を空けてしまいましたがお待たせしました。過去編、完結です。


第十二話 『始動 鎧武』

1.

 

 チーム・バロンが鮮烈なデビューを飾った、その夜

 

 斬月とデューク、ユグドラシルが誇る二人のアーマードライダーは三体のインベスと向かい合っていた。

 

 和の意匠が入った斬月、西洋風の騎士の装飾が施されたデューク、方向性は違うが両者とも言い知れぬ高貴な風格を纏っている。

 

 斬月は左手にメロンの模した盾型のアームズウェポン「メロンディフェンダー」を、右手には銃口付きのマルチウエポン「無双セイバー」をそれぞれ構える。月光を纏ったその出立ちの威圧感たるや凄まじい。

 デュークはレイピア型のアームズウェポン「レモンレイピア」を飄々と構える。威圧感こそ斬月に劣るが、その態度からは勝利を確信している者特有の余裕が感じられる。

 斬月は目の前に迫ってきた灰色のインベスに無双セイバーの銃口を向け、引き金を引く。

 

「ジェッ…!」

 

「はああ!」

 

 斬月は怒号を上げながら、先制攻撃に怯む下級インベスの元に走り込み、その勢いのままに上段から無双セイバーを振り下ろす。

 

「ジビャー!!」

 

 奇声を挙げながら膝をつく下級インベスの腹に、斬月はすかさず無双セイバーの刃を鋭く突き刺した。斬月の猛攻の前に下級インベスはなす術なく爆散する。

 

「シュ……シュベェ~」

 

 下級インベスの最期を看取ったカミキリインベスとトナカイインベスは斬月を凝視する。

 どうやら、斬月を自分たちの敵と認識したらしい。

 デュークは斬月の傍らにまで歩み寄る。その足取りはどこか芝居がかっており、戦士としての緊張感は微塵も見られない。

 

「今貴虎が倒したインベスを含めて3体……今回はこれで終わりか……」

 

「ヘルヘイムの森と違って、長居はできない。一気に決めるぞ」

 

 斬月は再びメロンディフェンダーと無双セイバーを構えた。二体のインベスは斬月とデュークにゆっくりと歩み寄る。カミキリインベスは頭部から伸びる二本の触覚を斬月に向けて走らせると、斬月はすかさず無双セイバーでその触覚を切り刻み無効化する。

 カミキリインベスが怯むと、デュークは素早く駆け寄りレイピアで強烈な突きを放った。

 

「データ収集のためだ。付き合いたまえ」

 

 デュークはそう言って、カマキリインベスに追撃の突きを放つ。

 カミキリインベスを圧倒するデュークに、トナカイインベスが襲い掛かかろうとするが、その身体を緑色の何かが吹き飛ばす。見るとメロンディフェンダーが空中をブーメランのように旋回しており、斬月の左腕に戻っていく。

 

「油断するな。凌馬」

 

 駆け寄ってきた斬月に、デュークは左手を自身の胸に合わせて仰々しくお辞儀をする。

 

「感謝するよ貴虎。しかし、君が(そば)にいてくれれば、危険なんて何もないさ」

 

「フン……カミキリムシのインベスは任せたぞ」

 

 斬月はデュークは、無双セイバーとレモンレイピアを互いに交換する。

 

 斬月はトナカイインベスに駆け寄り、相手の攻撃をメロンディフェンダーで受け止めながら、レイピアで敵の急所を突いていく。

 

 一方のデュークは、ベルトから錠前を取り外し、無双セイバーにセットした。

 

『イチ、ジュウ、ヒャク……!レモンチャージ!』

 

 デュークはレモン色のエネルギーを纏った無双セイバーの刃でカミキリインベスを切り付ける。

 軽く振るだけでインベスはそのエネルギーの衝撃に怯み、動きは目に見えて悪くなる。

 

「これが私達が作り上げたベルトの力だ……!」

 

 デュークは無双セイバーの銃口をカマキリインベスに向け、その引き金を引く。

 

『レモンパワー!』

 

 無双セイバーは電子音声とともに、レモン型の弾丸を銃口から発射する。カマキリインベスはその銃弾を受け、たちまち爆散した。デュークは敵が爆死したことを確認すると、すぐさま斬月に錠前を外した無双セイバーを投げてよこす。

 

「貴虎!」

 

「任せろ!」

 

 斬月は咄嗟にレモンレイピアをその場に捨て、無双セイバーをキャッチするとその勢いのままに目の前のトナカイインベスを斬り付ける。敵が怯んだのを確認すると、ベルトの錠前を外し無双セイバーにセットした。

 

『イチ、ジュウ、ヒャク……!メロンチャージ!』

 

「はあ!」

 

 斬月は一瞬構えをとると、メロンのエネルギーを込めた刃でトナカイインベスをけさ斬りにする。

 斬月必殺の一撃を受けたトナカイインベスは、すぐさま爆散した。

 

「貴虎、やっぱり君はすごいね」

 

 変身を解除した凌馬が話しかけてくると、斬月も変身を解除して応える。

 

「いつも言っているだろう。お前の力があればこそだ」

 

 貴虎がそういうと、先ほど「シド」と呼ばれた黒い服の男が凌馬のもとに寄ってくる。

 

「でっ?レモンロックシードの実践データはもういいのかい、プロフェッサー?」

 

「ああ!これで初期型ロックシード、全100種の調整およびデータ収集が完了した。ようやくエナジーロックシードの開発に移行できる」

 

 凌馬がそう言うと、貴虎が何か思い出したように凌馬に問いかける。

 

「それはそうと、ドライバーのアップグレードの件は進んでいるのか?」

 

「ああ。来月には実験用サンプルが完成する予定だ。前回のアップデートでは安全性を考慮して泣く泣くオミットしたが、ロックシードのエネルギー出力をドライバー本体で一定時間向上させる機能を実装する。今まで以上にアームズウェポンの攻撃の幅が広がる。当然、ロックシードの生成機能と栄養摂取機能もこれまで通り完備されているよ。このアップデートが済んだら初期型ドライバーの当初予定された機能はすべて揃う。あとは毒素のフィリタリング機能を低下させずにイニシアライズシステムのオミットを実現できれば、量産も可能になって来るんだが……これがまた難行しててね」

 

「始まったちまったよ、プロフェッサーの一人語りが」

 

 マイペースに喋りだす凌馬にシドが愚痴を漏らすと、今度は「(みなと)」と呼ばれたスーツ姿の女性、湊曜子が口を開く。

 

「そういえば、完成品のドライバーの名前はどうするのですか?今、主任とプロフェッサーが使ってらっしゃるのが……その……」

 

「あぁ!『ユグドライバー』だ!しかし、次のドライバーは性能としては完成品と言えるからね……さて、どうしたものか……」

 

 凌馬がまた一人で盛り上がり始めたが、直ぐに貴虎が口を挟む。

 

「お前が作り上げたドライバーなんだ。『戦極ドライバー』でいいだろう」

 

「あんた、マジか……」

 

 シドが化け物を見るような目で貴虎を見つめる一方で、凌馬は貴虎の言葉に手を叩いて笑い出した。

 

「いいねそれ!さすが貴虎だよ!ハハハッ!」

 

「それより主任さんよう、こんなペースでインベスが出現していたら…すぐ一般人にもインベスやヘルヘイムの森の存在がばれるぜ?」

 

 シドがそう言うと、貴虎は天に伸びる大樹ようにそびえ立つ巨大なオフィス、通称「ユグドラシルタワー」に目を向ける。

 

「インベスの実体化機能を制限したロックシードの流通量を、来月から大幅に増やす。それでカモフラージュをすればいい」

 

「まったく……売る方の身にもなってもらいたいねぇ」

 

 不平を漏らすシドの肩に、凌馬が腕を回し話しかける。

 

「クラックが活性化するまでには、戦極ドライバーの実践データも揃うだろう。それを基にした新型ドライバーが実戦投入されれば……インベスの駆除は劇的に進む。計画は順調だよ……!」

 

 凌馬はそう言いながら、貴虎と曜子にも無邪気に目を走らせる。

 

「プロジェクトアークの本格的な始動まであと2年ですか」

 

 凌馬が言った「計画」という言葉に反応したのか、湊曜子は独り言のようにそう呟いた。

 

「なんとしてもプロジェクトを成功させ、人類を救う。それが私たちの使命だ」

 

 貴虎は決意を込めて己の信念を語る。

 しかし、この4人の中のある者は新たな世界とそれを導く神の誕生を、ある者は自分のすべてを奉げるにふさわしい王を、またある者はすべてを蹂躙するための力をそれぞれ求めていた。4人をつき動かす運命は、すでに狂い始めている。

 

 

2.

 

「俺達が目を覚ました時には、そいつらはその場からいなくなってた」

 

 初瀬がそこまで話すと、今まで黙って彼の話を聞いていた一葉が口を挟む。

 

「……ねぇ。なんで亮二が気を失った後も、しれっと話を続けたの?」

 

「その辺の下りは別のヤツに聞いたんだ」

 

 初瀬は即座に彼女の質問に答えたが、その内容はイマイチ釈然としない。

 

「いや別のヤツって……」

 

 一葉は納得が行かない様子だが、初瀬はそんな姉に構わずにまた話を始めた。

 

 

3.

 

 真っ赤に燃える太陽の光を瞼の上に浴びて、初瀬亮二は目を覚ました。体を起こそうとすると、背中と腹がひどく傷む。その痛みで、意識を失う直前の記憶が少しずつ蘇ってきた。

 

「……なんだったんだよ。あれ……」

 

 初瀬はそう呟いて、何とか上半身を起き上がらせると、周囲を見回した。目に留まったのは南のステージだ。

 自分は城乃内と南のステージで言い争っていた最中に、インベスに襲われた。そして、インベスから逃げられたと安心した瞬間に、スーツ姿の美女に二人とも打ちのめされたのだ。初瀬の記憶はそこで途切れていた。

 

 あのインベスは何なのか。あの美女は何者なのか。あの後、彼女たちはどうなったのか。まだ目覚めきっていない意識のなかで次々に疑問が流れ出る。

 

「イってっ……!なんだよこれ!?」

 

 不意に声が聞こえて、初瀬の思考は途切れた。声がした方を見ると、城乃内が腹を押さえてうつ伏せに倒れている。彼が愛用する眼鏡のレンズにはヒビが入っていた。初瀬が城乃内を見ていると、城乃内もその視線に気が付いたのか、初瀬に目を向けた。

 

「初瀬ちゃん……あっ、そうだ!今何時!?」

 

 それよりも気にするべきことがあるだろう。初瀬はそう思ったが口には出さなかった。

 初瀬はため息を吐いて、自分の腕時計に目をやる。

 

「6時半…ずいぶん経ったな……」

 

「え……!?もうそんな時間?夕方じゃないよなァ!」

 

 城乃内はそう言って、自分のスマートフォンを取り出した。

 

「……よかった。まだ朝だ。……ってなんだコレ?チーム・バロンのメッセージ?」

 

「はぁっ!?」

 

 城乃内の言葉を受けて、初瀬は慌てて彼のスマートフォンを覗き込む。

 

『H…ELLOOO!!沢芽シティ!!DJサガラの「ビートライダーズ・ホットライン」へようこソゥ!!今日もみんな!ビートにノッテるかイ?』

 

 城乃内のスマートフォンから、ハイテショションなラジオDJ風の男の声が響く。

 城乃内が観ているのは『ビートライダーズ・ホットライン』。ビートライダーズの情報を発信することに特化したネット動画番組だ。配信者であるDJサガラという男のハイテショションで的確な解説が話題となり、すぐにサイトのページはビートライダーズ関連の情報の共有する場として浸透した。

 

『今日は期待のニューカマァー!チーム・バロンから!ホットなメッセージがとどいているゼ!!では、サッソク見てみよう!!HERE WE GO!!』

 

 サガラがそう言うと、画面の映像が切り替わる。駆紋戒斗の姿が画面に映し出された。戒斗は後ろに他のメンバーを従えている。

 

『チーム・バロンのリーダー、駆紋戒斗だ。北のステージは俺たちチーム・バロンが奪い取った。だが……これで終わらせる気はない。俺はビートライダーズに分けられた、4つのステージを全て手に入れる。次は南のステージだ。インヴィット!レイドワイルド……!明日の午後3時、貴様らのステージを奪いに行く!痛い目を見たくなかったら、尻尾を巻いて逃げるがいい!』

 

『Hey!Hey!Hey!こいつはとんだアウトローだ!拳と拳!魂と魂がぶつかるドッグファイト!この挑発にインヴィットは!?レイドワイルドは!?応えるのカァ!?背を向けるのカァ!?ますますビートライダーズの今後から、目が!離せないゼ!!』

 

「ホント、何処(どこ)までもコケにしてくれるね……!」

 

 城乃内はそう言うと立ち上がり、地べたで胡坐をかいている初瀬に手を差し出す。

 

「昨日も言ったけど、戦いは(かず)だ。今はお互いのチームを守るために、手を組むしかない」

 

 初瀬は何も言わずに城乃内の手を払いのけた。そして、ふらつきながら自力で立ち上がる。

 

「初瀬ちゃんッ……!?」

 

「今回だけだ……今回だけはお前を使ってやる」

 

 初瀬は城乃内の顔を見ずにそういった。

 

4.

 

 初瀬は自分のスマートフォンを取り出すと、幾つも着信があったことに気付く。履歴を見ると、全てチーム・レイドワイルドのメンバーからのものだった。おそらく、レイドワイルドがチーム・バロンの標的になったことを知って、慌てて初瀬に連絡を取ろうとしたのだろう。

 初瀬は一番先に着信があった「デーブ」というメンバーに電話を掛ける。

 呼び出し音が2回鳴っただけで、デーブは電話に出た。

 

『リ、リーダー!?なんで俺らがバロンに狙われてるんですか!?』

 

狼狽(うろた)えてんじゃねえ!!勝てばいいんだよ!勝てば!」

 

『で、でもっ!動画でも見ましたけど…アイツら、めちゃくちゃ強いじゃないですか!』

 

 初瀬も予想はしていたが、デーブは相当チーム・バロンの宣戦布告に怯えている。昨日、デーブはチームの活動に参加していなかったので、バロンの脅威は動画で初めて目の当たりにして動揺しているのだ。他のレイドワイルドのメンバーもデーブ程は動揺していなくても、怯えているという点ではデーブと大差ないだろう。

 

「オレを信じろ!あの場所は俺達がダンスで勝ち取った場所だ。これからも、レイドワイルドが南のステージで踊るんだよ!」

 

『俺もそうしたいですけど……でもっ!』

 

「戦うしかない……!居場所を守るためには、戦うしかないんだ!」

 

『……!』

 

 電話越しに、デーブが息を呑むのが分かった。初瀬はここが勝負とばかりに呼びかける。

 

「……デーブ!」

 

『リーダーと一緒なら、俺も変われるのかも……』

 

「はっ……?」

 

 初瀬にはデーブの言葉の意味がよく呑み込めなかったが、デーブが今度は大きな声で初瀬に語り掛ける。

 

『決めました。俺も……闘います!他の奴らも絶対説得してきます』

 

「……おう!」

 

 初瀬は内心驚いていた。デーブがここまで奮起してくれるとは、思ってもみなかったことだ。何はともあれ、チームの士気が上がるのに越したことはない。

 初瀬はデーブとの通話を終えると、城乃内に目を向けた。城乃内でスマートフォンで誰かと連絡を取っている。それが終わりスマートフォンをしまうと、城乃内は初瀬に向き直った。

 

「初瀬ちゃん、バロンの奴らが来る前に、一つお願いしたいことがあるんだ」

 

「なんだよ?」

 

 初瀬がそう言うと、城乃内はいつものヘラヘラした態度で話しかける。その態度が今は妙に頼もしい。

 

「今、南のステージの使用権、インヴィットも持ってること知ってるよね?」

 

「それがどうした?だから俺達が組むことになったんだろ?」

 

 初瀬が問いかけると、城乃内は彼の目を見据える。

 

「インヴィットの使用権、レイドワイルドに渡したいんだけど」

 

「はぁっ!?」

 

 呆気に取られている初瀬を見ながら、城乃内は左手で眼鏡の位置を直し、狡猾そうに目を光らせた。

 

 

5.

 

 午後3時、南のステージに3つのチームが集合した。

 チーム・インヴィットとチーム・レイドワイルドの連合軍が、チーム・バロンと相対する形になっている。

 

「やはり徒党を組んだか、手間が省けていい」

 

「抜かせ。ここでテメーらをぶっ潰す」

 

 初瀬は真っ先に戒斗に向かって走っていく。

 

「先手必勝だ!」

 

 初瀬はその勢いのままに左ストレートを打ち込むが、気付くと自分の左頬に鋭い痛みを感じる。初瀬は思わず後ずさり、戒斗が右の拳で強烈なクロスカウンターを叩きこんだことに気付く。怯んだ初瀬に、戒斗は渾身の左アッパーを叩きこんだ。

 

「ガッ……」

 

 頭が震え、一瞬頭が真っ白になる。ここで気を緩めれば、直ぐに意識を失う。

 

「くそったれ!」

 

 初瀬は歯を必死に食いしばり、後方に倒れかけた上半身を支えるため、両足で大地をしっかり踏み直す。

 

「リーダー……」

「リーダーっ!」

 

 初瀬は、後ろで声を漏らしたレイドワイルドの仲間に顔を向けると、今度は戒斗に向き直って言った。

 

「まだ、終われねぇんだよ……!」

 

「ほう。今のを耐えたか……根性だけはあるようだな」

 

 戒斗が余裕の笑みを浮かべてそう言うと、初瀬は彼の目を睨み付ける。本当は目眩と吐き気で今にも倒れそうだったが、ここで倒れるわけにはいかない。初瀬は精一杯の虚勢を張る。

 

「……悪いが昨日、お前よりずっと強い奴とやり合ったばっかりなモンでな……」

 

「ほう。お前の様子を見るに、負けたようだが?」

 

「……ッ、うるせぇ!余計なお世話だ!」

 

 初瀬は自分を奮い立たせ、再び戒斗に殴りかかっていく。

 

 デーブ達が初瀬の奮闘に見入っていると、城乃内が声を上げた。

 

「ほらほら、あの二人ばっかり戦っても仕方ないでしょ?行くよ、レイドワイルド」

 

 城乃内が前に出ながらそう言うと、他のレイドワイルドのメンバーも臨戦態勢に入る。しかし、インヴィットの女性メンバー達は逆に一歩下がった。

 

 デーブは恐る恐る、城乃内に問いかける。

 

「あの……あの子達は見てるだけですか?戦ったりは……?」

 

「はっ?女の子にケンカさせるわけないじゃん」

 

「ないじゃん!」

 

 城乃内が平然と言ってのけると、インヴィットの他のメンバーも何故か彼の言葉を復唱する。

 レイドワイルドのメンバー全員が一瞬天を仰いだ。彼女たちが戦わないなら、レイドワイルドがインヴィットと同盟を組んで得た戦力は、城乃内一人ということになる。

 

 せめて、城乃内の実力が高いことを願い、レイドワイルドのメンバーは全員彼に視線を送った。

 

 城乃内はそのまま一人で歩き出て、バロンのサブリーダー・ザックと対峙する。

 

「よう。バロンでも二番手?付いていくリーダーは誰でも良かったんだ?」

 

「確かに、このチームにアザミさんはいない。でもな、あの人に教えてもらったダンスはオレの身体にちゃんと染み付いて残ってる。オレは沢芽市で一番のチームの一員として、アザミさんに教えてもらったダンスをこれからも踊り続ける。その邪魔になる奴に容赦はしない。それだけだ!」

 

「へぇ、じゃあこっちも容赦はしないよ?」

 

 城乃内はそう言ってファイティングポーズを取る。しかし……

 

「イッテっ!なんだァ!?」

 

 突然、後頭部の痛みが城乃内を襲った。城乃内が咄嗟に後ろを振り返ると、ペコが澄ました顔でパチンコを構えている。

 

「アイツっ……!」

 

 城乃内は顔を真っ赤にしてペコに歩み寄ると、その背中にザックが思い切り蹴りを浴びせる。

 

「…うおォっ!?」

 

 今度は背中に衝撃を受けて、うつ伏せに地面に倒れ込んでしまう。また城乃内が振り返ると、ザックが城乃内を蹴るために前に突き出した右足を下した。

 

「飛び道具なんて汚ねぇぞ!」

 

 城乃内は自分を見下ろすザックを指さして吐き捨てるように叫んだ。

 

「うろせぇ!!」

 

「ブふッ…!」

 

 ザックはそんな城乃内の左のこめかみにローキックを見舞って、彼を黙らせる。

 城乃内は無様に転げまわり、フラフラの足で立ち上がる。腰は完全に引けている。先程までの余裕は何処にもない。

 

「よっわ・・・・・・・」

 

 その場の誰もが、城乃内に対して侮蔑とも言える感情を持った。しかし、デーブを初めレイドワイルドのメンバー達の中には別の感情がジワジワと湧き上がってくる。その感情は「不安」「焦り」「恐怖」、これから自分たちはバロンと戦って成す術なく蹂躙される。そのイメージが彼らを支配しているのだ。

 

「おっ……俺達も行くぞォ!」

「ォ…オォー!!」

「あぁ……行くぞォー!」

 

 

 デーブ達はそのイメージを振り払うために、ただ我武者羅にバロンのメンバー目掛けて突撃して行った。大声を上げて自身を奮い立たせてはいるが、所詮は喧嘩慣れしていない素人集団だ。

 

「たくっ、オタクどもが息巻くな…よっ!」

 

「う……うるさいっ!」

 

 チーム・バロンはその団結力を武器に、レイドワイルドの無軌道な攻撃をいなし、隙を見ては苦戦する仲間のアシスト狙う。

 チーム・バロンのメンバーも素人集団という点では同じだが、駆紋戒斗という圧倒的なリーダーの元で団結する彼等の動きには、レイドワイルドのメンバーにはない気迫と余裕がある。

 数ではチーム・レイドワイルドと互角のチーム・バロンだが、彼らはレイドワイルドのメンバーを一人、また一人となぎ倒していった。

 

「あらら。やっぱりシンドイかぁ?」

 

「オイ!逃げんな!城乃内!」

 

 苦戦を強いられてい連合チームの中で、比較的冷静に戦えているのは、先ほどまでザックとペコに翻弄されていた城乃内だ。

 

 デーブにマウントポジションを取って殴りつけようとする金髪のバロンのメンバーを、城乃内はドロップキックで吹き飛ばす。

 

「っぐ……城乃内さん…」

 

「ほ~ら、しっかりしろ。レイドワイルド!」

 

 城乃内はそう言ってザックに向かって行く。

ザックもなかなか城乃内に決定打を与えられないでいた。城乃内は終始へっぴり腰で、ザックの攻撃をかわしては申し訳程度にキックやジャブで応戦している。

 そして、ザックから距離を取っては、苦戦しているレイドワイルドのメンバーへのアシストを決める。

 

 しかし、それも長くは続かなかった。

 

「……っ!」

 

 城乃内は自分の上着の後ろ襟が捕まれたのを感じ、咄嗟に振り返る。

 

「茶番はそのくらいにしておけ…!」

 

 駆紋戒斗はそう言って、振り返った城乃内に顔を近づけた。城乃内が振り返る瞬間、戒斗は右手で城乃内の前襟を掴んで自分に引き付けた。城乃内は爪先立ちの体勢になってしまう。この体勢で自由に動くことは極めて困難だ。

 

「ぐッ…!ハハッ……アレ?初瀬ちゃんは?」

 

 城乃内は冷や汗をかきながら、軽口を飛ばす。戒斗は城乃内を睨みつけながら言った。

 

「負け犬らしく這いつくばっている」

 

 城乃内が戒斗の背後を見ると、初瀬が腹を抑えて倒れていた。意識は失っていないが全身が痙攣している。

 

「初瀬ちゃんッ……」 

 

「貴様も今からこうなる……それが弱者の末路だ!」

 

「あぁ~、ヤバいかなコレ」

 

 城乃内は軽口を叩きながら、顔を強張らせる。

 その場の誰もがインヴィットとレイドワイルドの敗北を確信してたその時、駆紋戒斗はある異変に気付く。

 

「…バイクか……?」

 

 先程まで閑散としていたステージの外からバイクのエンジン音が鳴っているのだ。その音は猛烈な勢いで大きくなり、バイクが北のステージに迫っていることが分かる。

 バイクの姿が見えた瞬間、ザックが叫び声を上げた。

 

「戒斗!こっちに来るぞ!」

 

 ザックがそう言うや否や、二台のバイクがエンジンの爆音を轟かせながら北のステージに進入し、城乃内と戒斗の間を走り抜ける。

 

「チッ……!なんだコイツらは……!」

 

 戒斗は咄嗟に城乃内を突き放し、二台のバイクから身を引いた。城乃内は尻餅をつきながら口元を緩める。

 

「間一髪ってトコかァ…」

 

 二台のバイクは、レイドワイルドのメンバーと城乃内からバロンを引きはがすように走り抜ける。

 

「なッ……なんだよ!?」

 

「うおッ!危ねェッ!」

 

 バロンのメンバー達がそのバイクを避けると、再びバロンと連合チームの間を駆け抜ける。両者を引き剥がすことに成功すると、2台のバイクは城乃内の目の前に背中を見せる形で停車する。

 片方のバイクには銀髪の青年一人が乗っており、もう片方のバイクには運転手の黒髪の青年の後ろに小柄な少女が乗っている。

 彼らはチーム鎧武のユニフォームである青色のパーカーに身を包んでおり、ヘルメットを外すと自分たちを睨んでいる戒斗に顔を向けた。

 

「アンタが駆紋戒斗か。舞が言ってた通り、とんでもないヤツだな」

 

 そう言ったのは、チーム鎧武のサブリーダー、葛葉紘汰だ。彼の運転するバイクの後部座席に乗っていた高司舞も戒斗を睨み付けている。

 そしてもう一人、もう一台のバイクに乗って現れた銀髪の青年も戒斗に語り掛けた。

 

「別のチーム同士のいさかいに関わりたくはないんだが、ビートライダーズをここまでコケにされて黙ってるわけににはいかないな」

 

「何だ貴様等は?」

 

 戒斗の問いかけに、銀髪の青年が応える。

 

「俺はチーム鎧武のリーダー、角居裕也(すみいゆうや)。そしてサブリーダーの紘汰に、舞だ。よろしくな。新人君」

 

「ほう。自分から潰されに来たか。ならば、それ相応の覚悟は出来ているのだろうな?」

 

 戒斗は、チーム鎧武がこの場で負けた場合はチーム鎧武のステージの使用権を譲渡しろ、と言っているのだ。

 紘汰と裕也はその意を察して、まだ地面に膝を突いている城乃内とレイドワイルドのメンバーの前に無言で歩み寄り、彼らに背を預ける形で並び立つ。舞も二人の後に続いた。三人は戒斗の申し出に応じたのだ。

 

「角居、葛葉…」

 

 初瀬が呆気に取られている横で、城乃内がほくそ笑みながら眼鏡をかけ直す。

 

「城乃内、まさかお前が…」

 

「言ったろ初瀬ちゃん……戦いは(かず)だって…!にしても、来るのが遅いんだよお前ら!」

 

 城乃内が軽口を叩くと、紘汰が彼に食って掛かる。

 

「こっちだってなァっ!今朝いきなり電話で相談されても、バイトで動けないんだよ!」

 

「お前らみたいに暇じゃないからな」

 

「……」

 

 絋汰と裕也が城乃内と軽く言葉を交わすと、舞が無言で絋汰のパーカー右袖を握った。彼女のただならぬ雰囲気に絋汰も眉を潜める。

 

「舞?」

 

「紘汰、裕也……やっぱり、私も闘わせて!」

 

 舞がそう言うと、裕也は彼女の頭にそっと手を置いた。まるで親が幼い子供を宥めている様だ。

 

「ダメだ。喧嘩には手を出さない。そういう条件で舞をここに連れて来たんだ」

 

 裕也の口調は穏やかだが、これだけは決して譲れないという意思を感じさせる。

 

「でも……!ただ見てるだけなんて、私だって……」

 

「舞……」

 

 なお食い下がる舞に、今度は絋汰が彼女の両肩に両手を乗せて語りかけた。

 

「お前はウチのチームの誰よりも踊れる。だからな、こんな所で怪我させるわけにはいかねぇんだ。俺も裕也も最近ロクにチームに顔出せてないしな。こんな時ぐらい良いカッコさせてくれって!」

 

 絋汰にそこまで言われると、舞も言葉を詰まらせる。彼女がまた口を開こうとすると、裕也が舞の目の前にしゃがみこんだ。

 

「大丈夫だ舞。俺達を信じろ……!」

 

「……うん」

 

 舞は顔を下に向けてそう言ったが、すぐにその顔を上げた。その表情には、先程まで見られた迷いはもうなくなっている。 

 

「でも、無理はしないで。それから……絶対に勝って!」

 

 舞の言葉に裕也は頬を緩ませて立ち上がる。

 

「あぁ!勝つさ。なあ、絋汰?」

 

「おう!まぁ、見てろって、舞!そんなに長くは待たせないからさ!」

 

 チーム鎧武の話が纏まると、城乃内がヒョイと立ち上がる。その目は自信に満ち溢れている。

 

「さてと!仕切り直しだね?駆紋戒斗」

 

「ふん。雑魚が笑わせる」

 

 初瀬は城乃内が立ち上がった姿を見届けると、まだ地べたに這いつくばってるレイドワイドのメンバー達に顔を向けた。

 

「お前ら……!立つぞ。このステージを守り抜くんだ!」

 

「リーダー…!はいッ!」

 

 レイドワイルドの面々もフラフラと立ち上がる。

 戒斗は彼等を見ながら眼を鋭く光らせた。数で逆転されてもバロンの勝利を微塵も疑ってはいないようだ。

 

「ほう。まだ立ち上がるか。弱い貴様らが戦ってなんになる?」

 

 戒斗の問いかけに、ふらふらになりながらも初瀬が答える。

 

「きまってんだろ!これからもここで踊るんだよ!」

 

 初瀬がそう言うと、城乃内も前に歩み出る。ポケットに手を突っ込んだまま、いつにない大きな声で叫んだ。

 

「覚えとけ!ここは俺の……俺たちのステージだ!」

 

 城乃内の叫びが最後の戦いの合図になる。両陣営のメンバー全てが互いの敵目掛けて走り出した。

 

6.

 

 両陣営が走り出した瞬間、連合チームの先頭を走る城乃内は初瀬を初めとする連合チームに振り返り振り返って叫んだ。

 

「オレはペコを潰すから。皆は他のヤツらを宜しく!」

 

「はあッ!?」

 

 城乃内のこの発言に連合チームのみならず、チーム・バロンの面々も絶句する。あれだけの大見得を切っておいて、城乃内は敵の大将たる戒斗はおろか、サブリーダーのザックとも戦わないないと言っているのだ。

 当のペコは、自分を標的にした城乃内を苦々しそうな目で睨みつける。

 

「舐めやがってッ…!」

 

「あぁ、舐めてるさ。だってお前、ナックルに未練タラタラじゃん。見てれば分かるぜ?」

 

「うるさいんだよっ!」

 

 城乃内の言葉に逆上したペコは歯を食い縛り、勢い任せに城乃内に殴りかかる。しかし、先ほどまで城乃内が戦っいたザックに比べて、ペコのパンチはパワーもスピードも正確性においても、遥かに劣っている。

 城乃内はその拳をいなしながら、チーム・バロンのジャケットの襟を掴み、ペコの耳元に自分の顔を近付ける。

 

「本当はダンスで勝負したいんだろ?でも無理だよな、戒斗の下にいたんじゃさぁ…喧嘩の余興(よきょう)に踊るのがせいぜいって感じ?」

 

「この……!」

 

 ペコも城乃内の胸ぐらを掴み返すと、城乃内は声を落として言った。

 

「丁度良い落とし処、セッティングしてやろうか?」

 

 

 城乃内がペコに向かっていくのを横目で見ながらが初瀬も戒斗を見据える。

 初瀬も城乃内の蛮行に一瞬は面食らったが、直ぐ気を取り直して叫んだ。

 

「オラ!狼狽えんな!オレと角居は戒斗、葛葉はザック、デーブ達はさっき戦ったヤツらだ!」 

 

「了解!」

 

 デーブ達レイドワイルドの面々は初瀬の言葉に即座に

反応する。先程は城乃内の醜態に出鼻を挫かれ浮足立っていた彼らだが、今は援軍を得たという事実と、初瀬の叱責で、チームとしての纏まりを取り戻している。

 

 初瀬はレイドワイルドの士気が上がるのを肌で感じながら戒斗に向かっていく。

 初瀬は右腕を振りかぶり戒斗の顔面を狙うが、当の戒斗はノーガードで佇んでいるだけだ。

 

「この野郎ッ!」

 

 初瀬は思い切り右腕を振り抜く。しかし、戒斗はつまらなそう左前方に身体を移し、初瀬の拳を避けた。

 

「馬鹿の一つ覚えか…」

 

 戒斗は鼻で笑いながら身を屈め、初瀬の鳩尾(みぞおち)に右手の掌低(しょうてい)を叩きこむ。瞬間、初瀬はその衝撃に息を詰まらせる。危うく胃の内容物を一気に吐き出しそうになったが、初瀬はなんとかそれを飲み込む。一瞬頭が真っ白になりかけたが、初瀬はその時自分がするべき行動を即座に察し、行動した。

 

「……取ったぜ!」

 

「なにッ!?」

 

 初瀬は自分の鳩尾(みぞおち)を捉えていた戒斗の右腕を掴んだのだ。

 戒斗は咄嗟に初瀬は振りほどこうと腕を振り抜くも、初瀬はその手を放さない。初瀬に腕を掴まれたところで、戒斗の優勢は変わらない。しかし…

 

「ナイスだ!初瀬ェ!」

 

 動きを制限された戒斗の顔面に、裕也が渾身の右ストレートを叩き込む。その拳は戒斗の鼻先を打ちのめした。

 

「貴様…!ふざけた真似を!」

 

 戒斗は初瀬の手をなんとか振りほどき、初瀬と裕也から距離をとる。鼻からは血がドクドクと溢れているが、そんなことは意に介さずに裕也を睨み付ける。

 

「ああ、悪い悪い。随分出血してるなァ」

 

 裕也は殺気に溢れた目を戒斗に向けたまま、初瀬の隣に立つ。

 

「しかし、久しぶりの喧嘩だ。お前のその鼻、フルーツジュースにしてやるぜッ!」

 

 裕也と初瀬は同時に戒斗に向かって、地面を蹴った。

 

 絋汰とザックも互角の闘いを繰り広げていた。いや、互角というには語弊がある。お互いに決定打となる攻撃は回避しているものの、絋汰はその身軽な動きでザックを終始翻弄していた。

 

「なんだコイツ…!」

 

「まだまだいくぜェ!」

 

 紘汰の動きは明らかに人間の限界を超越している。絋汰は壁をキックして空中を走りながら、ザックの背後に回り込み、全身で勢いを付けて豪快な回し蹴りを叩きこむ。

 

「ウオォラッ!!」

 

「どういう身体(からだ)してんだよお前!」

 

 ザックはなんとかその蹴りを受け流すも、今度は体勢を大きく崩され、後退する。

 

 紘汰は、未だ体勢が崩れたままのザックに一気に駆け寄り、その身長からは考えられない高さまで跳躍する。

 

「うおぉォオオ……!セイッ…ハァアー!」

 

 紘汰は怒号を上げながら、身構えるのが遅れたザックの胸に、自分の全体重を乗せた渾身のドロップキックを叩きこんだ。

 

 他のレイドワイルドの面々も、優勢とはいかないまでも先程より善戦している。相手の動き、仲間の動きが見えるようになったお陰で、無理な闘い方が減ったのだ。

 自分が劣勢でも一度相手から距離さえとれば、仲間に助けを求めることができる。そして、少し余裕のある者なら目に見えて劣勢な仲間に手を貸すこともできる。

 

「おい、大丈夫か!」

 

「ありがとう。デーブ!」

 

 デーブはレイドワイルドの中では比較的余裕を持って闘えている。そして、一番苦戦しているのが誰なのかも直ぐに分かった。

 

 

「結局、他人の力に頼るだけ……頭の悪い弱者が考えそうなことだ」

 

 戒斗は地面にうずくまる初瀬と裕也を見下ろしている。既に鼻の血は止まっていた。初瀬はただ震えながら戒斗をジッと睨んでいる。

 

「そして、お前達はその頭の悪い弱者の考えに乗っただけ。最早強い弱い以前の問題だな」

 

 戒斗がそう言った瞬間、デーブは彼に突進する。

 

「お前が初瀬さんを……リーダーを馬鹿にするな!」

 

 デーブは戒斗にしがみつくが、戒斗はすぐさまデーブの胸に(ひざ)を打ち付ける。デーブは堪らず後ろにひっくり返った。

 

「雑魚が喚くな。虫酸が走る…!」

 

「デーブ!?」

 

 初瀬も咄嗟に叫び声を上げるが、デーブは直ぐに起き上がり、再び戒斗の腰にしがみつく。

 

「リーダーは強い!自分勝手で傲慢だけど、この人がいたから俺たちはビートライダーズになれたんだ!他人のルールを荒らして偉そうにしてるだけのアンタが、馬鹿にして良いヒトじゃない!」

 

 戒斗は再びデーブを膝蹴りで打ち倒し、尻餅をついたデーブを見下ろす。

 

「傷の舐め合いしかできない弱者が、強さを語るな!」

 

 戒斗の言葉を聞いた瞬間、初瀬は全身の血がカッと熱くなるのを感じた。

 

「テメェっ!」

 

 初瀬は身体を震わせながら、懸命にその身を起こす。自分を認めてくれた仲間を、戒斗は嘲笑った。初瀬が再び立ち上がる理由はそれで十分だった。

 

「ブッ潰す!」

 

 初瀬は戒斗を睨み付けながら、三度(みたび)彼に突進する。

 しかし、この戦いは突然終わりを迎えた。

 

 

「は~い、ストップ~」

 

 城乃内の声がステージ中に響く。その場の全員が城乃内の声が聞こえた方向に注目した。

 ザックは絋汰と組み合いながらも、城乃内の姿を見つけた瞬間、叫び声を上げた。

 

「ペコ……!?」

 

 城乃内がペコの左腕を締めあげている。その固め技の痛みは強烈らしく、ペコは苦悶の表情を浮かべている。表情にもどこか影が差している。

 

「戒斗ぉ~?今日はもう帰ってよ。こいつの腕、ポキッと折っちゃうよ?」

 

「うぁッ…はッ」

 

 城乃内がペコの左肩を更に強く締め上げると、ペコも堪らず呻き声を上げた。

 

「おい、止めろッ!」

 

 紘汰がザックと組み合ったまま城乃内に向かって叫ぶ。ザックも最早目の前の絋汰に注意を向けてはいない。

 

 

「……」

 

 初瀬も城乃内の行動に動揺している。喧嘩の結果骨折する負傷者が出るのと、相手を脅した上で怪我させるのとでは事情が全く違うのだ。

 

「ちょっと、やり過ぎ!それじゃバロンより酷いよ!」

 

 舞が城乃内に向かって叫ぶと、地面にうつ伏せになったまま事態を見守っていた裕也も、口元の血を拭って立ち上がる。

 

「ペコの腕を折ったら、警察に引っ張られるのはお前だぞ?」

 

「ここに来た時点で、俺はバロンと同じ土俵に乗ったんだ。それ位の覚悟はできてるよ」

 

 城乃内は飄々とペコの肩を締め上げたままだ。絋汰も城乃内を睨みつけていたが、痺れを切らしたのか戒斗に向き直る。

 

「おいアンタ!次からはダンスで勝負しろよ!お前にとっては喧嘩の代わりかもしれないけどな!俺たちは本気でダンスで勝負をしてるんだ!それができないなら、お前らはもう、ビートライダーズじゃない!」

 

 戒斗は苦虫を嚙み潰したような顔で、紘汰と城乃内、そしてペコの顔を睨み付ける。ペコは戒斗と目が合った瞬間、口元を歪ませてそっと顔を落とした。

 戒斗はその仕草を見ると、軽く溜息を吐いて城乃内に目を向ける。

 

「ここは引いてやる。さっさとペコを放せ」

 

「っ!どうして……」

 

 ペコは目を見開いて声を漏らす。城乃内もどこか気の抜けたような顔になる。しかし、戒斗は未だに険しい目を城乃内に向けたままだ。

 

「だが、覚えておけ。貴様のような卑劣な弱者を俺は決して認めない」

 

 

「ハハっ……負け犬の遠吠えかぁ。まあ良いよ。コイツは返してやる」

 

 ペコは城乃内から腕を解かれると、トボトボと戒斗の元に歩いていく。ペコはただ下を向いて、戒斗の顔を見ようとはしない。しかし、戒斗が黙っているので、恐る恐る顔を上げた。

 

「あんた……なんで……?」

 

「ペコ、俺に付いてくるうちはお前を見捨てない。それが力ある者の務めだ」

 

 ペコの問いかけに、戒斗は眉一つ動かさずに応えた。表情こそ先程城乃内に向けていたものと変わらないが、ペコには全く違って見えた。

 

「悪かった。ごめん。戒斗さん……!」

 

 

7.

 

「やっぱり、身内には甘いやつだったね」

 

 チーム・バロンが北のステージを後にするのを見届けた後、城乃内が薄笑いを浮かべてそう言うと、紘汰はその胸倉に掴みかかる。

 

「お前、どういうつもりだ!?もっと他にやり方ってモンがあるだろ!」

 

 紘汰に詰め寄られると、城乃内はそっけなく言った。

 

「アイツ、蒼天のリーダーが他のメンバー置いて逃げようとしたときに言ったんだ。『お前に強者を名乗る資格はない』ってね。と言っても、本当に退いてくれる確証もないし?結構スリリングなチキンレースだったよ」

 

 紘汰が憤りを顔に滲ませながら城乃内を睨み付けていると、今まで戦いを見守っていた舞が城乃内の前におずおずと歩み寄る。

 

「これで……インヴィットのステージの使用時間を鎧武に分けてくれる、ってことでいいんだよね?」

 

「えっ?なんの話?」

 

 城乃内がとぼけた声でそう言うと、紘汰は再び声を荒げた。

 

「とぼけんなよ!インヴィットのステージを守れたら、鎧武とステージの使用時間分けるって電話で言ったろ!?」

 

「そうよ!そういう条件で絋汰も裕也も闘ったんじゃない!」

 

 絋汰と舞に詰め寄られても、城乃内はヘラヘラと薄ら笑いを浮かべたままだ。

 

「ああ、悪いんだけど、うち等のステージ…もうないんだよねぇ~」

 

「ハアっ!?ステージなら今バロンから守っただろ!」

 

「いや…実はその前にレイドワイルドに取られてさあ。つまり、お前らはうち等のステージを守れなかったってワケ」

 

「だったら、なんでお前ら一緒に戦ってんだよ!おかしいだろ!」

 

 絋汰に詰め寄られると、城乃内は得意げに腕をくんで応える。

 

「レイドワイルのステージを守れたら、インヴィットとの共有ステージにするってことになったんだ」

 

「じゃあ!そこに鎧武も入れなさいよ!」

 

 舞も顔を真っ赤に染めてまくし立てるが、城乃内は一向に自分の態度を改めようとはしない。むしろ、喚く二人の様子を面白がっているようにさえ見える。

 

「そうしたいのはヤマヤマなんだけどさあ…ここの使用権はあくまでレイドワイルドにあるわけだから。俺も勝手に決められないわけよ。どうする初瀬ちゃん?」

 

 城乃内はわざとらしく顔を顰めて初瀬を見た。初瀬もその態度には嫌悪感を抱かずにはいられない。

 

「おい初瀬!鎧武にもステージを使わせろよ!」

 

 初瀬は一瞬心が揺らいだが、彼の答えは闘う前に既に決まっていた。

 

「断る!」

 

 初瀬は決めていた。チーム・レイドワイルドを守ると。その為には手段を選びはしないと。しかし、紘汰と舞にとってはこの応えは到底許せるものではない。

 

「はあ!?ふざけんなよ!」

 

「二人に助けてもらったのに……アンタら恥ずかしくないわけ!?」

 

 紘汰と舞が初瀬に詰め寄ると、今まで黙っていた裕也が声を上げた。

 

「紘汰、舞、もういい。時間の無駄だ」

 

 裕也がそう言うと 舞が毒気を抜かれたような顔で向き直る。

 

「ちょっと、裕也!?」

 

「どのみちコイツらが潰されたら、次はウチのステージがバロンの標的になってたんだ。俺らもこいつ等も現状を維持できた。それで十分じゃないか」

 

 裕也はそう言って紘汰と舞に微笑みかける。リーダーにここまで言われては、二人もこれ以上食い下がるわけにもいかない。

 

「でも……なんか納得いかねえ!」

 

「ほら、リーダーがこう言ってんるんだ。お前もおとなしく従えよ」

 

 紘汰が怒りの持って行き場を失って地団駄を踏んでいると、城乃内はまたヘラヘラと笑いながら野次を飛ばす。

 

「うるせえな!お前ら絶対許さねェ!!覚えとけよ!」

 

 紘汰はそう叫ぶと、自分のバイクへとツカツカと歩き出す。舞は城乃内と初瀬を睨みながら、裕也はどこか呆れた顔をしながら、紘汰の後に続いてバイクに搭乗し、北のステージを去って行った。

 

「城乃内」

 

 初瀬がインヴィットの仲間の元に歩き出した城乃内に呼び掛けると、城乃内も初瀬の方に振り返る。

 

「なに?」

 

「お前、結構頭良かったんだな」

 

 初瀬が城乃内の顔を見ないままにそう言うと、城乃内は頬を緩ませて初瀬の肩に腕を回す。

 

「あれ、知らなかった?じゃあさ!これからはオレのこと、『策士』って呼んでよ」

 

───あぁ、やっぱりコイツバカだわ。

 

 初瀬はそう思いながらも、今守り抜いたステージをジッと眺める。日はすでに沈みかけていた。

 

 この連合チームとバロンの抗争の1ヶ月後、ビートライダーズの間でロックシードが出回るようになる。一時的にダンス対決で優劣が決まるようになったランキングも、インベスゲームで左右されるようになっていった。

 城乃内も初瀬もやがてにその流れに迎合していくことになる。

 

8.

 

「こうして俺は城乃内とツルむようになり、最後は城乃内にもチームメイトにも見捨てられ、ヤケになってヘルヘイムの実を食べてユグドラシルに殺されたわけだ」

 

 初瀬はそう話を締めくくって立ち上がる。

 

「笑えないからやめて。怒るよ」

 

「…ごめん」

 

 一葉は頬杖をついて顔をしかめている。正直、一葉はもっと健全な馴れ初めを期待していたのだが、弟が語った話はロクでなしのセコい武勇伝にしか聞こえない。

 

「ていうか、アンタもそうだけどさ、城乃内さんのやり方ってすっごい姑息(こそく)じゃない?男の人ってもっとこう…正々堂々とするべきだよ」

 

「目的のためなら何でもする。どんな努力も惜しまない。アイツはそういう男だ。あの頃のアイツは、努力の仕方を間違えてたんだ」

 

 初瀬は至って真面目な調子で言ったが、一葉はどうにも納得が出来ない。

 

「そういう問題かなぁ……?」

 

「あいつが作ったケーキ、旨かったろ?」

 

 初瀬の唐突な一言に、一葉は一瞬ポカンと呆けた顔になる。しかし、直ぐにどこか府に落ちたように頬を緩めた。

 

「うん。すっごく美味しかった……!」

 

「あいつは今、確かに守りたいものを持ってる。だからな、今の城乃内のこと、ちょっとは信じてやってもいいと思う」

 

 初瀬がそう言いながら、どこか遠くに目をやった。一葉はそんな弟の顔を見ると、言い知れない不安に襲われる。

 

「城乃内さんが守りたいモノの中に、亮二は入っていると思う?」

 

「姉貴はどう思う?」

 

 そう聞き返されると、一葉も城乃内がどういう決断を下そうとしているのか、はっきりとしたことは何も分かっていないことに気付いた。

 

「わからない。でも、入ってて欲しい、って思うよ」

 

 そこまで言うと、一葉は弟の瞳に目を向ける。

 

「亮二は?」

 

 初瀬は一葉の問いかけには答えずに、自分の胸に手を当て、踞る(うずくま)

 

「亮二……?」

 

「そろそろか……」

 

 初瀬はそう一言だけ言うと、目を瞑り(つむ)眠りに落ちた。

 




少し長くなってしまいましたが、二話にまたがってお送りした過去編、いかがでしたでしょうか?
一応タイトル詐欺にはなっていないかなと思います。

念のため捕捉しておくと、「ユグドライバー」や「チーム・ナックル」なんて単語は公式の設定にはありませんし、初瀬がさくらんぼ好きの理系男子と言うのも私の後付け設定です。

難がある部分も多いと思うので、読者の皆さんの感想お待ちしています。

それからこの二次小説とは関係ありませんが、この第12話の投稿日9月20日で、貴虎役の久保田悠来さんは俳優デビュー10周年を迎えるそうです。めでたい!
  
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