仮面ライダー鎧武 ― グリドン外伝 ―   作:たかだや

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また、前回から時間が開いてしまいましたが、お待たせしました。第13話です。


第十三話 『JUST LIVE MORE』

1.

 

───ここ、どこだ?

 

 気が付くと、城乃内の目の前は真っ暗だった。戸惑いながら辺りを見渡すと、一人の男が立ったまま城乃内を見つめている。顔はよく見えないが、彼が誰なのかは直ぐに分かった。

 

───初瀬、ちゃん……?

 

 そう言おうとしたが、声が出なかった。

 初瀬は城乃内に詰め寄り、声を荒げる。

 

「おい…!グリドンはどうした!?黙って見てるだけか!?」

 

───初瀬ちゃん……?俺は、初瀬ちゃんを……!

 

 助けたい。そう言おうとしたとき、ようやく自分の口が開いた。

 

「無茶言わないでくれよ!どうして俺が……?」

 

───なんで……?

 

 城乃内は自分の意志とは関係なく、初瀬に言葉を叩き付けていた。自分が口元を歪ませて薄ら笑いを浮かべているのが分かる。

 

「チームワークはどうしたんだよ!!」

 

 初瀬が激昂して城乃内に掴みかかると、城乃内も初瀬の両肩を掴んだ。

話せばまだ間に合う。城乃内がそう思った時には、初瀬を突き飛ばしていた。

 

初瀬が自分を恨めしそうに見ているのが分かる。

 

───違う……!初瀬ちゃん、オレは……!

 頭がおかしくなりそうだった。初瀬に言いたくないこと、したくないことを身体が勝手に強制する。

 この後、自分が初瀬に言う言葉はもう、わかっていた。そしてそれは、城乃内が彼に二度と言いたくない言葉だ。

 

「あのね、初瀬ちゃん?このステージを俺たちインヴィットが頂いちゃう手だってあったんだよ……?先越されちゃったけどね」

 

───やめろ……!

 

「……は?」

 

 初瀬はそういって呆然と自分を見つめる。それでも、自分の口は勝手に動き出す。

 

「戦極ドライバーがないんじゃ、レイドワイルドも終わりだね?まっ、一から出直すしかないんじゃない?」

 

「城乃内ッ───!」

 

 初瀬は呪いにも似た声でそう言うと、呆然と跪いた。初瀬はそれ以上何も言わずに、その場で項垂れながら消滅した。

 

「初瀬ちゃん……」

 

 ようやく、自分の意志で声を出せたが、その声を届けたかった相手はもういない。しかし突如、再び目の前に初瀬が現れる。初瀬の両目は深紅の輝きを放ち、右手の指から禍々しい爪が伸びている。肌は緑色に染まり、静脈も弦のように変質していた。

 

「気安く俺の名前を呼ぶな……!」

 

 初瀬はそう言って自分に近づいてくる。城乃内が身構えると、初瀬は右手の爪を振り上げ、城乃内に向けて振り下ろす。城乃内は初瀬の腕を掴み、自分の意志と関係なく、再び彼に語り掛ける。

 

「ずっと謝りたかった。ランキングで少しでも上に行きたくて……!初瀬ちゃんを利用したこと…そのせいで初瀬ちゃんがこんなことになってっ……!俺にも!少しは責任あると思ってる!」

 

───少しなんてもんじゃない……全部俺のせいじゃないか……!

 

 城乃内の左手には、いつの間にかハンマーが握られている。城乃内はおもむろにそのハンマーを振り上げた。

 

「ごめんな、初瀬ちゃん……」

 

───おいっ、よせ……!

 

 何をしようとしても無駄だということは、もうわかっていた。それでも足搔かずにはいられない。しかし、城乃内には足搔くことさえも許されていなかった。

 

「俺は、初瀬ちゃんの分も……!」

 

───やめろォ‼

 

 城乃内は初瀬の頭上に、思い切りハンマーを叩き付ける。初瀬の頭蓋骨が砕ける感触が手に残った。

 初瀬は鮮血を流しながらその場で倒れ、再び消滅した。

 

「さよなら、初瀬ちゃん……」

 

 そう言った自分の声は、どこか満足そうに聞こえた。

 

───なんでだよ……

 

 城乃内の問いかけに答えるものは誰もいない。まるで地獄のような時間だった。しかし、悲嘆に暮れる暇もなく、城乃内は背後に気配を感じる。

 

 気付いた時には、城乃内は何者かに身体を突き飛ばされていた。背中に激しい痛みが走る。自分を突き飛ばしたのが初瀬であると、城乃内は彼の姿を見るまでもなく分かった。

 混乱が収まる間もなく、初瀬は城乃内の胸倉を掴み、罵声を浴びせる。

 

「城乃内!!お前が俺のことをバカにしてことはわかってんだよ!!」

 

「初瀬ちゃん!?俺が何したっていうんだよ!?」

 

 初瀬は城乃内の言葉に耳も貸さず、ベルトと錠前を取り出した。

 

「変身ッ!!!」

 

 初瀬はアーマードライダー黒影に変身し、槍で襲い掛かって来る。何とかその攻撃を避けると、黒影は今度は虚空に向かって槍を放った。

 

「ァァァぁああああああああああああああ!!」

 

 黒影は奇声を上げながら、一人槍を振り乱して暴れ回る。

 

───初瀬ちゃん…

 

 やがて、黒影は壊れた人形のように倒れて苦しみだす。

 その身体からは腐った植物のようなモノが生え、やがて黒影の全身を覆った。

 

「城乃内ぃい!! うぁあぅああああああああっ…」

 

 黒影は呪詛の声ととも、気泡のように蒸発していく。その場には蔦の走った漆黒の鎧と、錠前だけが残った。

 

「初瀬ちゃん……」

 

 城乃内がそう言うと、鎧も錠前も消滅した。瞬間、城乃内の中で何かが壊れた気がした。

 城乃内は得体の知れない激しい衝動に駆られて、自分の錠前とベルトを取り出す。

 

「変身……」

 

 城乃内はアーマードライダーに変身すると、その激情のままに暴れ出す。暗闇でひたすらに手足を振り乱し、何もない虚空にドンカチを叩き付ける。一人で暴れている時だけは、自分を取り戻せた気がした。しかし、自分では気づかないうちに心の空白が広がっていく。

 自分が何を恨んでいたのか、誰のために悲しんでいたのか、分からなくなる。気付いた時には、変身も解除され、身体はボロボロになって仰向けに倒れていた。いつの間にか、初瀬を殺めたのと同じ、腐りかけの植物が城乃内の身体から生えてくる。

 しかし、城乃内は最早それすらも自覚できなかった。身を焦がすような激痛に苦しむことしかできない。

 

「あ、ガァ……ぐぁあぅうああああああああああ!!」

 

 何が起きているのかはわからない。ただ一つの予感が頭に浮かんだ。

 

───俺…もう死ぬのか……?

 

 そう悟ったとき、どこかで聞いた男の声が頭に響く。

 

『そうだ。だがそれは悲しむべきことではない。救済なのだ……この地獄で血穢れた君の魂は、君自身が消えることでのみ救われる』

 

───……そっか

 

 男の声はそれきり聞こえなくなる。途端にすべてが馬鹿らしくなった。

 

───何が初瀬ちゃんを助けたいだよ……何が初瀬ちゃんの分もだよ……!俺はずっと初瀬ちゃんに酷いことしてきて…それなのに、俺だけ生き残れるわけないだろ……

 

「それでいいのか?」

 

 どこからか、懐かしい声が聞こえてきた。いままで何度も現れては消えていった初瀬と同じ声のようだったが、それでいて全く違う声のようにも聞こえた。

 初瀬の声は、なお城乃内に語り掛ける。

 

「お前の罪滅ぼしは、もう終わりか?」

 

───俺は……

 

 一瞬、初瀬の姿がはっきり見えた気がした。彼は自分に手を差し出している。

 

「お前は、その力で何がしたい?」

 

 今なら初瀬に自分の言葉を、そして思いを届けられる。城乃内はそう確信する。

 

───俺は…俺は……!!

 

 城乃内は初瀬の手を掴もうと、思い切り自分の手を伸ばす。

 

「初瀬ちゃんっ!!!」

 

 瞬間、城乃内の周りを眩い光が包んだ。

 

2.

 

「初瀬ちゃんっ…!」

 

 そう言って目を覚ました時には、城乃内はベットの上だった。すぐに、ベットの傍らのパイプ椅子に座って自分を見つめる光実の存在に気付く。どうやらここは、病院の病室のようだ。

 光実は城乃内にそっと笑いかける。

 

「良かった……!」

 

 自分が気を失うまでの記憶が少しずつ蘇ってくる。城乃内は初瀬が操るヘルヘイムの植物に首を絞められ気を失ったのだ。

 城乃内は独り言のように光実に語り掛ける。

 

「あの時の夢を見たんだ……」

 

「夢……?」

 

 光実がまだ要領を得ない様子でそう呟くと、城乃内は頷いて話を続ける。

 

「狗道供界がセイヴァーシステムで沢芽市を包み込んだ時、俺……地獄みたいな幻をずっと見させられたんだ。でも、俺が諦めそうになったとき、初瀬ちゃんが助けてくれた……」

 

「そっか……」

 

 光実はどこか感慨深そうに呟くと、直ぐに顔を引き締める。

 

「僕はこれから自宅に戻る。君にも来てほしい」

 

「ミッチの家にか…?」

 

 城之内は光実の突然の誘いに戸惑いながらも、光実の目に確かな自信を見て取った。 

 

「うん。もしかしたら……すべての真相が分かるかもしれない」

 

 

3.

 

 光実は城乃内を自宅に保管されている巨大なパソコンの前に招く。それは戦極凌馬が生前使用していたものだ。そして、光実がそのパソコンを操作すると、ほどなく城乃内も見覚えのある動画が再生される。

 

『やあ。このファイルにアクセスしたということは、狗道供界がまた現れたのかな?』

 

 光実はパソコンにマイクを接続し、そこに向かって話し出した。

 

「そろそろ出てきてもらえるかな、戦極凌馬」

 

『この動画を見ている君は一体だれかな?』

 

 光実は動画の再生が続いていることには構わず、話を続ける。

 

「あなたは自分が死ぬことを前提に動いたりしない。だから、こんなファイルを残していること自体おかしいんだ。決定的だったのはあなたが使っていた『マスターインテリジェントシステム』、あれはあなた本人がアーマードライダーになって現れる数値がリアルタイムで入力され続けないと作動しないシステムだ。それが今、起動している」 

 

『光実君か、もしかしたら貴虎か……ま、どっちでもいいか』

 

「最初は、メガヘクスがアンタの再現データを使って起動しているものとばかり思っていたよ。復興局や警察の捜査の進捗を把握するためにね。でも、それはおかしいんだ」

 

 光実はそう言うと、手に持ったタブレットを操作し、ディスプレイをパソコンに備え付けられたカメラに向かって示した。

 

「『アニマシステム』。メガヘクスが作ったアンドロイドに組み込まれていたシステムだ。これを使えば、精神をネット回線に直接ダイブすることが可能になる。うちの情報管理課の調査で分かったことだけど、外部からその痕跡を測定する手段はないようだね。つまり、アニマシステムを保有しているメガヘクスが、復興局の人間が少し調べただけで起動していることが露見してしまう『マスターインテリジェントシステム』を使う必要なんてないんだ。じゃあ、一体誰が、マスターインテリジェントシステムを起動しているのか……ここまでくれば、答えは一つしかないよね?」

 

 光実がそこまで言い終わると画面が切り替わった。写し出されているのは戦極凌馬が生前変身していたアーマードライダー・デュークの黄金の紋章、そして光実達には聞き覚えのある、飄々とした声が鳴り響く。

 

『やあ光実くん。思ったよりも遅かったね。君ならもっと早く真相にたどり着くと思っていたよ。折角マスターインテリジェントシステムを起動してヒントをあげたのに、メガヘクスの仕業だと考えるなんてね。あっ、言っておくけど、アニマシステムを使うとネット上に僅かなバグが生まれる。痕跡を残さず諜報活動ができるかというと、微妙だね』

 

「まさか本当に生きているとはね」

 

 事前に光実の推論を聞かされていた城乃内だけでなく、戦極凌馬の生存を唱えた張本人である光実も呆気に取られている。戦極凌馬は彼らの様子などには意も介さずに、飄々と話を続けた。

 

『驚くようなことではないだろう?既に君はいくつも前例を見てきたはずだ』

 

 城乃内と光実の頭には何人もの甦りし者達の顔が浮かぶ。初瀬亮二、葛葉絋汰、駆紋戒斗、狗道供界、そして一度はメガへクスによって復活した戦極凌馬もその一人だった。

 

「あんたなら初瀬ちゃんに何があったか知ってるんじゃないのか!」

 

 城乃内は痺れを切らしたのか、画面に向かって声を荒げる。

 

『今は経過を観察中なんだ。終わり次第教えてあげよう。それではご不満かな』

 

「ふざけたこと言ってんじゃねぇ!」

 

 城乃内が食って掛かると、途端にスピーカーから高笑いの声が鳴り響いた。

 

『冗談だよ。まったく……血の気が多いねぇ。まぁ、君たちも見た通り。今回の事件の首謀者はメガヘクスだ』

 

 戦極凌馬がそう告げると、今度は光実が口を開いた。

 

「メガヘクスは紘汰さんと泊進ノ介が倒したはずだろう?」

 

『そう。惑星メガヘクスは機械生命体・ロイミュードを吸収してコア・ドライビアの構造を組み入れ、その弱点を突かれて崩壊した。あっ、ちなみにこうなるように誘導したのは私なんだ。感謝してほしいものだね』

 

「なんだって?」

 

 突然の告白に城乃内と光実は眉を顰める。彼等の戸惑う様子が面白かったのか、戦極凌馬は堰を切ったように話を始めた。

 

『メガヘクスは知恵の実の力を内包した極ロックシードを取り込もうとした。奴の失敗はここから始まったのさ。彼は極ロックシードを取り組むために、戦極ドライバーとロックシードのシステムに最も詳しい人物、すなわち私の頭脳をメガヘクスのサーバー上に再現した。しかし、やりすぎたんだろうねぇ。最後には私のアバターにも感情が生まれてしまうほどに、私の人格の再現が行われた』

 

「メガヘクスのサーバーで復活したあなたは、その機会に便乗して自分のデータを保存したのか」

 

 光実がそう呟くと、城乃内も戦極凌馬がどうして暗躍を続けることが出来たのか理解できた。

 戦極凌馬は蘇ったのではなく、メガヘクスの再現技術で限りなく本物の戦極凌馬に近い頭脳と記憶、そして人格を持つ存在が生まれ、メガヘクスの意思に反して独自に行動を開始したのだ。

 

『せっかく手に入れた命だ。自由に使ってもバチは当たらないだろう?もっとも、この星には罰を下す神なんてもういないけどねぇ』

 

 戦極凌馬のどこか渇いた笑い声が部屋に響く。この男に顔があったら、今どんな顔しているのだろうか。城乃内はそう考えると、無性に腹が立った。

 

『そこからはまっ、私の独壇場だったよ。メガヘクスが極ロックシードを取り込んだ後に、私はメガヘクスが取り込んでいた葛葉紘汰の人格を、メガヘクスのサーバー内部から極ロックシードにインストールした。貴虎が極ロックシードを自力で取り出したのにはさすがに驚いたけどね。葛葉紘汰が自分のデータのバックアップを残すなんて、考え付くと思ったかい?』

 

「ノウガキはいいよ。話を続けて」

 

 光実はディスプレイの横に備え付けられたカメラを睨みつける。それには構わず、戦極凌馬は悠々と解説を再開した。

 

『その作業と並行して、メガヘクスの時空転移能力を応用、別次元からメガヘクス攻略の切り札になるようなものを探したんだ。そうしたら、すぐに見つかったよ。君達がともに戦った戦士の名をとって、その世界を仮に「ドライブの世界」とでも名付けようかな。ドライブの世界と私たちが今いる世界をクラックで接続し、コアドライビアをエンジンとした機械生命体・ロイミュードをメガヘクスに取り込ませて君たちの活路を開いたのさ』

 

 光実はそこまで聞くと、未だに腑に落ちない様子で口を開いた。

 

「どうしてアンタがそんなことをしたんだ。知恵の実のために、世界も見捨てたアンタが」

 

『あれっ?前にも言わなかったかな?私の考える神とは新しい世界を作り出す者だ。既存の世界のデータ化に満足するような三流以下のポンコツロボットが神の座に就くなんて、不愉快極まりないじゃないか』

 

 戦極凌馬がそう得意げに言うと、城乃内は痺れを切らしたのか、腹立たし気に声を上げる。

 

「そんなことはどうでもいい!それよりも初瀬ちゃんと一葉さんに何が起きているのか、知ってることは全部話してもらうからな!」

 

『おお、怖い。まあ、私もメガヘクスをこれ以上放置するつもりはない。しかし、メガヘクスが消滅しなかったせいで、私もメガヘクスの監視下からは逃れていない。この会話は全部メガヘクスにも聞かれているはずだよ?』

 

「でも、それはメガヘクスにとってもお互い様なんじゃないかな。だからこそ、あなたは事情に通じることができている。違う?」

 

 メガヘクスにネット回線上の情報を自在に入手する能力や戦極凌馬の頭脳のデータがわたっている以上、この会話がメガヘクスに漏れている可能性は光実も城乃内も覚悟の上だ。それでも、事件の全容を把握する必要がある。そう判断して、桜井も須藤も邪魔が入らないように警察上層部への根回しに奔走しているのだ。

 

『賢明な判断だ。お察しの通り、私はこの一件の全容を把握している。じゃあ、まずはこれを見てもらおうかな』

 

 ディスプレイ上のデュークの紋章が消え、薄暗い部屋が映された動画が再生される。動画が始まるやいなや、画面に戦極凌馬が現れ、こちらに向かって語り掛けてくる。

 

『2013年12月24日。これより量産型戦極ドライバーの動作テスト、並びにリンゴロックシードの起動実験を開始する。これは狗道供界が到達した状態について検証するためのものでもある。黒影トルーパー用の量産型ドライバー単体では、マツボックリ以外のロックシードを運用することは不可能。よってリンゴロックシードはゲネシスコアユニットを媒介して運用する。これは過剰なエネルギーから、被験者を保護するための措置でもある』

 

 戦極凌馬の芝居がかった声とともに、画面にはストレッチャーに縛り付けられ、腰に量産型の戦極ドライバーを巻かれた上半身裸の被験者が映し出される。その被験者の顔を見た瞬間、城乃内は戦慄した。

 

 画面に映された被験者は他でもない、初瀬亮二だった。

 

「なんだよ……これ……」

 

 城乃内がそう呟くと映像が一旦停止され、戦極凌馬の声が響く。

 

『あ、この日、君たちはヘルヘイムの森に来ていたよね。実は貴虎が、初瀬亮二を確保する時に彼のドライバーを破壊してしまったんだ。そうなると、もう初瀬亮二に利用価値はないからねぇ。麻酔で眠らせてる間に実験に協力してもらった、というわけだ』

 

 城乃内は自分の頭がサァッと冷えていくのを感じる。その時自分が抱いた感情が「怒り」だと気づくのに時間は掛からなかった。

 再び動画の再生が始まると、画面に戦極凌馬が現れた。彼は初瀬のドライバーに錠前をセットし、ブレードを倒す。

 

『マツボックリアームズ!一撃!インザシャドウ!』

 

 初瀬は黒影トルーパー・マツボックリアームズに変身する。この変身を経ても、初瀬が目を覚ました様子は見られない。

 

『ここはクリア。まっ、当然か』

 

 戦極凌馬は黒影トルーパーのベルトにゲネシスコアユニットをセットし、さらに赤いリンゴのロックシードを解錠する。

 

『リンゴ!』

 

 凌馬は黒影トルーパーの戦極ドライバーにリンゴロックシードをセットする。ドライバーのブレードを倒すと、凌馬は機械的に言った。

 

『融合、開始。』

 

『マツボックリアームズ!リンゴアームズ!』

 

 黒影トルーパーの周囲に形成されたアーマーが、そのまま黒影トルーパーを武装していく。ほとんどマツボックリアームズと同様の姿だが、左肩だけはリンゴを模した赤いアーマーを纏った黒影トルーパー・リンゴマツボックリアームズが誕生した。

 

『第二段階もクリアか……ん?』

 

 ゲネシスコア・ユニットに装着されたリンゴロックシードから、ヘルヘイムの植物に似た弦が現れ黒影トルーパーを覆い出す。黒影トルーパーは依然として意識を取り戻していないようだが、苦悶の声を漏らしている。

 

『あぁ、まだ死んでもらっては困るよ……変身!』

 

『レモンエナジーアームズ!』

 

 画面の外から、青いスーツの上に黄色いレモンの鎧をまとったアーマードライダー・デュークが現れる。デュークは黒影トルーパーのベルトからロックシードを取り外し、変身を強制的に解除する。初瀬は未だに意識を失ったままだ。

 戦極凌馬は自身の変身も解除すると、また画面に向かって語りかけた。

 

『これより、初瀬亮二の身体の精密検査を実施。その後、観察期間に入る』

 

 そこで動画は一旦停止し、ディスプレイにデュークの紋章が浮かび上がる。

 

『検査の結果、ゲネシスコアでも除去できない成分が初瀬亮二の体内に残っていることが分かった。専門的な説明は省くが……』

 

 凌馬がそこまで言った瞬間、城乃内はパソコンに掴みかかる。

 

「お前はッ……初瀬ちゃんに何をッ!」

 

「止めるんだ!城乃内!今は戦極凌馬が必要だ!」

 

 光実が城乃内を羽交い絞めにして、パソコンから離そうとするが、城乃内も直ぐに大人しくならない。瞳を真っ赤に染め、潤ませ、見開き、必死の形相でパソコンのディスプレイを睨み付ける。

 

「うるせェ!放せよ!こいつはッ……!初瀬ちゃんを……初瀬ちゃんを……!」

 

 城乃内はそこまで言うと、光実も身を震わせながら憤怒の表情を浮かべていることに気付く。

 

「ミッチ……?」

 

 思えば、光実もまた戦極凌馬に大切な人を傷つけられた人間の一人なのだ。凌馬の初瀬への仕打ちに平気でいるはずがない。それでも、今なすべきことのために、必死に自分の理性を保とうとしているのだ。

 

「ごめん、ミッチ……」

 

 城乃内は荒くなった呼吸を整えてそう言うと、光実も城乃内の脇に回していた腕を外す。最後に城乃内の左肩にそっと自分の右手を置いた。

 しばしの沈黙の後、戦極凌馬の声が再び響いた。

 

『あっ、終わった?じゃあ、続きを見てもらおうか』

 

「ああ。頼むよ」

 

 光実がそう言うと、またディスプレイからデュークの紋章が消え、新たな動画が再生される。

 

 その動画は沢芽市の歩道を防犯カメラで撮影したものだ。歩行者の中に、一人歩く初瀬亮二がいた。その足取りはどこか頼りなく、目も焦点が定まっていない。他の歩行者にぶつかり、倒れ怯えた様子で何事か喚き(わめ)ながらその場からひたすらに逃げ回る。

 いつも根拠のない自信に溢れていた初瀬の姿は、もうそこにはない。

 

「初瀬ちゃんッ……!」

 

 城乃内の怒りは絶えることはないが、今はその怒りをなんとか抑え込む。守りたいものを守るために。

 そこで動画が切り替わり、画面いっぱいに戦極凌馬の姿が映し出される。

 

『被験者は情緒不安定に陥った。このことからヘルヘイムの実の毒素で、脳が損傷を受け始めていると推測される。もう少し経過を見たかったところだが……観察期間の途中で被験者がインベスに変貌、処分を余儀なくされた。したがって、被験者が狗道供界と同等の存在になったかどうかを検証する手段はなくなってしまった。しかし……』

 

 画面が切り替わり、街で放浪する初瀬の姿が映される。右腕は緑色に変色し鋭い爪が伸び、先ほど城乃内が夢にみた初瀬の姿そのものとなっている。しかし、夢で出会った初瀬と違って、ディスプレイに映された初瀬からは理性は感じられない。

 

『インベスになった後の被験者に、興味深い症状が現れた。元の人間の姿に戻ったのだ。インベスになった生物がもとの姿に戻るという事例は、今まで確認されていない。もし、これがリンゴロックシードの影響ならば……ヘルヘイムを支配する禁断の果実は、実在する可能性が極めて高いということになる』

 

 凌馬の声からは、一人の若者の人生を台無しにしたことに対する、罪の意識が一切感じられない。むしろ、新しい玩具を貰った子供さながらにはしゃいでいるようにさえ見える。

 一連の動画が終了し、デュークの紋章がディスプレイに浮かび上がると、スピーカーからは凌馬のどこか冷めた声が響いた。

 城乃内は理性を手放さないようにと堪えてきたが、ついに震えた声で言った。

 

「初瀬ちゃんはお前の研究のモルモットじゃない……!」

 

『驚いたなぁ。君たちは戦極ドライバーを手にした時点で、私の研究のモルモットだったはずだろう?それに科学の発展は犠牲を伴うものだ。それが偉大な研究ならなおさらね』

 

 この男に何を言っても無駄なことは城乃内にも分かっている。それでも、何か言わなければ気が済まなかった。

 このままではあまりにも、初瀬が浮かばれない。

 

「初瀬ちゃんを犠牲にしたのは科学じゃない……!お前の勝手な好奇心だろ!」

 

『その勝手な好奇心のお陰で、戦極ドライバーが生まれた。そして、葛葉紘汰はドライバーを使って知恵の実を手に入れ、地球を救うことができた。違うかい?』

 

 城乃内は凌馬との会話に、怒りと同時に虚しさを感じた。話が全く嚙み合わない。しかし、それも当然だ。凌馬は人として死ぬずっと前から、情や優しさなどという感情は捨てているのだから。

 

「全部自分のお陰だとでも言いたいのかよ…!」

 

『言っただろう?私がいなくなった後の地球がどうなるかなんて興味はない。この世界は私の研究の箱庭にすぎなかった』

 

「だったら、何が言いたいんだよ」

 

『私の研究の偉大さを考えれば、初瀬亮二の命なんて空き缶ほどの価値もない、ということさ』

 

「お前はッ!」

 

 城乃内もついに頭に血が上り、再びパソコンに詰め寄る。光実が手でそれを制していなければ、城乃内は自分でも何をしていたか分からない。

 

『さて、話を今回の件に戻そうか』

 

 凌馬が話し出すと、城乃内もそれ以上何も言わなかった。そう、まだ初瀬は終わっていない。生きているなら、まだ救うことが出来るはずだ。城乃内はそう自分に言い聞かせる。

 

『光実君、初瀬亮二はリンゴロックシードを現在保有していないために、クラックの出現時間を自在に選ぶほどの力がない。君はそう推測したようだが……実は逆なんだ。彼は今リンゴロックシードよりもさらに知恵に実に近い力を手にしている』

 

「どういうことだ?」

 

 光実も初瀬亮二がクラックやヘルヘイムの植物を自在に操ったことから、彼の力がそんなに生易しいものでないことは察していた。しかし、その力を初瀬がどうやって手に入れたのかまでは分からない。

 

『そのきっかけを担ったのが……メガヘクスだ。メガヘクスは、葛葉紘汰の記憶を解析して、様々な人間やインベスを再現した。私や駆紋戒斗のコピー体は君も見ただろう?そして、その中にいたんだよ。初瀬亮二のコピー体がね』

 

「コピー体……?」

 

 光実が全てを悟ったように息を呑み、城乃内はその言葉の意味を何度も自分に言い聞かせる。

 

『思念体となった初瀬亮二は、町を破壊する自分のコピー体のボディーに憑依して、沢芽市を守るヒーローとして立ち上がった。狗道供界がドライバーをコアに、仮初(かりそめ)の肉体を手に入れたようにね。それが、彼の過ちだった。全く、過ぎた力は自らを亡ぼすと身をもって知っただろうに、愚か者とは同じ失敗を繰り返すものだねぇ』

 

「お前に初瀬ちゃんの何が分かる……!」

 

『さっぱり分からないよ。モルモットの考えなんてね』

 

 正直、城乃内が今抱いている感情は凌馬への怒りよりも、現状への戸惑いの方が大きい。

 今日、城乃内は初瀬の姿を見た瞬間から、初瀬が完全に蘇ったのではないかと期待していた。一度は、初瀬は死んでいないのではないかとさえ思った。しかし、現実に初瀬は亡き骸も残らずに息絶えていた。ましてや、消滅した肉体が、再び元に戻ることなどない。こんな当たり前のことが、今は恐ろしく残酷に思える。

 

『初瀬亮二の思念体を構成するリンゴロックシードのエネルギー、メガヘクスが自分の星で吸収した知恵の実のエネルギー、そして私が取り込ませた極ロックシードのエネルギーが互いに刺激を始めた結果……初瀬亮二のコピーのボディーに新たな知恵の実の種が生まれた。その種に、メガヘクスは自らのバックアップを保存したのさ』

 

「アンタの真似をした。ってことか」

 

 そう言った光実の声はどこか淡々としている。顔からは表情を消して、今やるべきことに頭を巡らせている。

 城乃内の目には、そんな光実の姿がやけに大きく見えた。

 

『初瀬亮二は戦いが終わった後、ボディーごと自壊しようとしたが……初瀬亮二を繋ぎ止めたメガヘクスは、自らのデータ化技術を応用して、ヘルヘイムの胞子が脳にまで転移した衰弱状態の初瀬一葉と一体化、彼女を人質にすることで、彼の自害を阻止したんだ』

 

 初瀬亮二は人としての肉体を失い、一葉は意識を失い、今では二人ともメガヘクスの奴隷として利用されている。その命はもはや彼らの手の中にはないのだ。城乃内は凌馬の言葉を聞くたびに、言い知れぬ絶望に襲われる。

 

『そして今、新たな知恵の実が生まれようとしている。次のクラックの発生のタイミングがその引き金になるだろうね。初瀬亮二の意志に反してクラックが生まれるのは、知恵の実のエネルギーが一時的に成長している時間帯はエネルギーの制御が困難になるからなんだ。地球への被害を避けるために再び自壊を決心した初瀬亮二に、メガヘクスは最後の切り札を使った。成長しかけの知恵の実のエネルギーを利用して、初瀬一葉の意識を強制的に回復させた。要は元気な姉の姿を見せることで、初瀬亮二を引き留めたのさ。新たな知恵の実を手に入れ、元の力を取り戻すのが、メガヘクスの目的だ。さすが、自己保存だけを目的にしたポンコツロボットだよ。全くもって、芸がない』

 

「一葉さんを救う方法は……!」

 

『仮にメガヘクスの分離に成功したとして、彼女の意識の回復は……現代の医学では不可能だね』

 

 城乃内はついに言葉を失った。初瀬もその姉の一葉も、メガヘクスに利用されている。そして、仮にメガヘクスを倒しても二人を救うことはできない。この世界の平穏を守ったところで、その時にはこの二人は存在しないのだ。

 

『おや、どうやらお出ましのようだ』

 

 凌馬の声が途絶え、画面が切り替わる。映し出されるのは初瀬亮二の姿だ。

 

『よう、城乃内。洗いざらい聞いたらしいな』

 

「初瀬ちゃん……」

 

 城乃内はそれ以上何も言うことが出来なかった。初瀬が今背負っている運命はあまりにも重く、残酷だ。

 

『一時間後の午前5時、クラックは三か所に発生する。天樹大学沢芽キャンパスの入り口、東沢芽公園、そして、ビートライダーズの南の解放ステージだ。天樹大学には城乃内一人で来い。少しでも指示に従わなかったら、世界全体にクラックを開く』

 

 そこで、動画が途切れる。ディスプレイからは光が消え、静寂が部屋を支配した。

 

「初瀬亮二も勝負に出たんだ。初瀬一葉を、彼のお姉さんを救うために……それでも、僕たちが世界を守る方法は一つ。知恵の実が完成する前に、彼らを破壊して、メガヘクスを根絶することだ」

 

 光実の瞳には迷いは見られない。城乃内はただ自分の拳を握りしめる。

 

 

「俺は……!」

 

 

 

 




今回でほとんどのネタバラシも終わり、残すことろあと2話となりました。前回の投稿をした頃には、『平成ジェネレーションズFINAL』に絋汰が登場することも発表されていなかったので、随分と間が空いてしまいましたね。
次回の投稿がいつになるかは未定なので、どうか気長にお待ち下さい。
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