仮面ライダー鎧武 ― グリドン外伝 ―   作:たかだや

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続きを待っている方がいらしたらですが、遅くなりました。第二話です。


第二話 『出戦』

1.

 

 

 城乃内は副店長の女性店員に一声(ひとこえ)かけ、初瀬一葉(は せ い ち は)を事務所の個室に案内した。

 一葉は白いブラウスにシワ一つないグレーのスーツを身に着けている。落ち着いた雰囲気を醸し出すという点では弟の初瀬亮二(は せ りょ うじ)と対照的だが、切れ長で気が強そうな目はどこか弟に似ている。

 そんなことを考えながら、城乃内は彼女にダージリンティーを注いだティーカップを差しだした。

 話題の中心になるであろう初瀬亮二のことを思うと、途端に何から話を始めたら良いやら分からなくなってしまう。

 それでも、初瀬について自分が知っていることは全て話さなくてはならない。城乃内はそう自分を奮い立たせ、口を開いた。

 

「は、亮二君のことで話があるってことでしたよね。亮二君は実はもう、亡くなっているんです」

 

 城乃内はそっと一葉の様子を見た。弟の訃報を告げられても、一葉は取り乱したりはしていない。

 城乃内が言葉に詰まると、今度は一葉が口を開いた。

 

「はい。亮二が亡くなったことは二年ほど前に復興局の方から聞きました。あの実を食べて怪物になったって……でも私見たんです、亮二を。昨日、東京で……」

 

「えっ……?」

 

 ―ヘルヘイムの果実―、その異世界の果実を喰らった者はインベスとして強大な力を得る代わりに、人間としての理性を完全に破壊される。

 初瀬亮二はヘルヘイムの果実を食らってインベスへと変貌し、最後には人間によって処分された。その真相を姉の一葉が知っていたことは城乃内としてもそれほど意外ではない。しかし、彼女の発言の後半の内容は少なからず城乃内に衝撃を与えた。

 城乃内の反応を受けて、一葉が話を続ける。

 

「私は東京の商社に勤めているんです。昨日、職場から自宅に帰るときに誰かに着けられてる気がして、初めはあまり気にしてなかったんですけど……だんだん怖くなって、思い切って後ろを振り向いたんです。そうしたら……」

 

「亮二君がいた……?」

 

 城乃内の言葉を、一葉は首を縦に振って肯定する。

 

「私と目が合った途端に、亮二は走って逃げてしまって……私、追いかけたんですけど、結局、亮二を見失って……」

 

 一葉は言葉を詰まらせるが、すぐに城乃内の目を見つめて話を続ける。

 

「何が起こってるのかどうしても知りたくて……それで今朝、復興局に行って問い合わせたんです。でも、今現場にいる人では答えられない、って言われて。いったん復興局から引き揚げたんですけど、復興局の前の掲示板でコレを見つけて……」

 

 一葉は鞄から一枚のチラシを取り出す。それは失踪した初瀬亮二の捜索を呼びかけるチラシだ。かつて、初瀬亮二の失踪の真相を知らなかった城乃内が作成したものだった。

 

「これを見て、城乃内さんがどこにいるか復興局の人に聞いて、ここまで来たんです。あなたなら何か知ってるんじゃないかって……城乃内さんは亮二が生きてたことを知ってたんじゃないんですか!?」

 

 一葉は身を乗り出して、早口で城乃内に問いかける。

 今から話す話は、きっと彼女の期待に応えられるものではないだろう。そう思いながらも城乃内は口を開いた。

 

「いえ。このチラシを作ったときには初瀬ちゃんが、その……亡くなっていたことは知らなかったんです。全てを知った後もどうしてもこのチラシを処分できなくて……だから、もし初瀬ちゃんが生きているとしても、今の俺に分かることは、何もありません……」

 

 嘘は吐いていないが、本音を言うことはできなかった。確かに城乃内に初瀬が死んだことが知らされたのは、初瀬が死んでから1年と半年後だ。

 しかし、その間に城乃内がその真相に思い至らなかったわけでも、事実が隠されていたわけでもない。その事実を受け入れることを必死に避けていたのだ。

 

「そうですか……」

 

 一葉は当てが外れて落ち込んだのか、下を向き、椅子の背もたれに寄りかかる。しかし、すぐに口に手を当てて笑いだした。

 

「『初瀬ちゃん』って呼んでたんですね。亮二のこと」

 

「あっ、すいません」

 

 城乃内はいつの間にか「亮二君」と呼んでいたのが、「初瀬ちゃん」に変わっていたことに気付いた。

 城乃内が途端にあたふたしたのが面白かったのか、一葉も頬を緩ませる。笑った顔は弟によく似ていると、城乃内はひそかに思った。

 

「良いですよ。呼びやすいならそれで。でも、仲が良かったんですね、亮二と」

 

 初瀬の実の姉にそう言われると、城乃内も素直に「はい」と言えるだけの関係を築けてたのか、不安になってくる。

 かつてビートライダーズ間の競争に敗れ、打ちひしがれる初瀬を城乃内は切り捨てたのだ。

 

『どうした!?黙って見てるだけか!?チームワークはどうしたんだよ!!』

 

『あのね?初瀬ちゃん、俺たちインヴィットがこのステージを乗っ取っちゃう手だってあったんだよ?もうレイドワイルドも終わりだね?まっ、一から出直すしかないんじゃないの?』

 

 これが城乃内が生前の初瀬と交わした最後の会話だった。

 城乃内は後悔の念を一葉に悟られないように、ゆっくり言葉を絞り出していく。

 

「初対面の頃は、けんもほろろって感じで、全然相手してもらえなかったんですけどね」

 

「亮二とはどういう間柄だったんですか?」

 

「初めて会ったのは大学なんですけど、よく話すようになったのは……初瀬ちゃんと俺がこの町で別々のダンスチームのリーダーになってからなんです」

 

「あっ!知ってます。『ビートライダーズ』ですよね?」

 

「はい。ご存知でしたか」

 

 当時は自己顕示欲を満たすためだけに参加していたビートライダーズだが、こうして見ず知らずの人にも認知されているというのは、城乃内としても感慨深い。

 

「でも、亮二がダンス、ですか……」

 

「俺、初瀬ちゃんとは同じ大学だったんですよ。学年は俺が二つ上だったんですけど、俺の方から話しかけて、その時にビートライダーズに誘ったんです。初瀬ちゃん、大学では結構有名だったんで」

 

 初瀬亮二は理工学部の学部長にスカウトされて入学した天才として、当時大学では有名だった。なんでも初瀬が高校時代に趣味で作った「遠隔操作型マシンガン&放水機能付きドラム缶ロボット(仮)」が何をまかり間違ったか、ロボット工学を専門にする学部長の目に留まり、彼の推薦で大学に入学したのだと言うのだから噂になるのは当然だった。

 一葉もそのことを察してか少し声を落として城乃内に尋ねた。

 

「ああ……弟は調子に乗って、威張ったりしてませんでした?」

 

「いえ、むしろその頃はずっと一人でムスーっとしてて、人と話してるところもあまり見ませんでした。でも、初瀬ちゃんのチーム、『レイドワイルド』って言うんですけど…そのチームのリーダーになってからは……相当威張り散らしてましたね」

 

「極端なんだからもう……あっ、すみません……!」

 

 一葉は一瞬荒っぽい口調になったが、慌てて元の余所行きの態度に戻った。その様子はどこかコミカルで、城乃内も頬を緩ませる。

 

「いえ、初瀬ちゃんのことを久しぶりに他の人と話せてうれしいです」

 

「私もです。こんなに亮二のこと思ってくれる人がいたなんて……」

 

 一葉はそういうと差し出された紅茶に口をつけ、表情を和ませる。

 

「亮二があの実を食べて死んだって聞いたときは、何か思い詰めてたのかなって思ったんです。でも、城乃内さんみたいなお友達がいたなら、きっと亮二も不幸じゃなかったんですね」

 

 一葉のこの言葉を聞くと、城乃内は胸のあたりが痛むのを感じ、うつ向いてしまう。

 

「いや、俺は初瀬ちゃんに何もしてやれませんでした」

 

「私もです。何もできませんでした。亮二が大学に進学するときに、私も就職して沢芽から東京に越したんです。両親はその直前に事故で他界してしまって……だから、私が亮二にもっと気を配らなきゃいけなかったのに……姉失格です」

 

「そんなことは」

 

 そう言いかけて城乃内は言葉を止めてしまう。中途半端な慰めの言葉がいかに無意味か、自分が一番わかっていた。

 城乃内の様子を見て、一葉は無理に気を取り直ししたように立ち上がる。そして名刺入れの中から一枚を取り出して何かを書き付け、城乃内に手渡した。

 

「何か分かりましたら、裏に書いてある電話番号まで連絡してください。それ、私の携帯の番号です」

 

 名刺の表には「浅見商事 総務課 初瀬一葉」と書かれている。

 

「あ、わかりました。じゃあ、俺の番号も」

 

 城乃内は慌てて事務所のデスクから名刺を取り出して、自分の携帯番号を書き付ける。

 

『マツボックリアームズ!一撃!インザシャドウ!』

 

 城乃内が自分の番号を書き終わるのと、事務所の外から聞き慣れた電子音声が鳴り響いたのは、ほとんど同時だった。

 

 

2.

 

 

 電子音声を聞いた城乃内は、一葉に名刺を渡すのも忘れ、ロッカーの自分の鞄から「あるもの」を取り出し、事務所を出た。

 客や従業員達にに店から出ないように言うと、店の出口に一目散に駆け出す。

 店の前にいたのは、二度と目にするはずのない者達だった。

 

 銀色の龍のようなインベスと赤いヤギのようなインベス、そして全長5メートル程の巨大な龍のようなインベス……見知ったインベスが10体ほどいた。クラックもまだ開いている。

 しかし、最も城乃内の注意を引いたのは、そのインベス達と戦う黒い戦士、「アーマードライダー黒影」だった。

 

「初瀬ちゃん……!」

 

 「アーマードライダー」とは、ヘルヘイムの植物がもたらす環境に人間が適応するために開発されたベルト「戦極ドライバー」で変身した人間の通称だ。初瀬が生前変身した「アーマードライダー黒影」の姿は、のちに戦極ドライバーの量産化モデルとして採用された。

 量産型の「黒影トルーパー」と、オリジナルの「黒影」はベルトのデザインやアーマーの色の違いなどから、容易に見分けることができる。

 そして、城乃内の目の前にいるのはオリジナルの黒影。つまり、かつて死んだはずの初瀬亮二が変身した姿だった。

 

「あれって……!」

 

 不意に一葉の声が聞こえて、城乃内は我に返る。

 目の前の黒影とインベスに気を取られて、自分の隣に一葉が来ていることに城乃内はしばらく気付かなかったのだ。

 

「一葉さんは店の中に隠れてください!」

 

「あれってインベスじゃ……城乃内さんはどうするんですか!?」

 

「俺は大丈夫ですから!一葉さんははやく隠れて!」

 

 城乃内は一葉をなんとかシャルモン二号店に避難させると、店を出るときに取り出したバックル状の戦極ドライバーを腹にあてる。

 腰に黄色い蛍光色のベルトが生成されると、左手に持ったヘルヘイムの果実のエネルギーを内包した錠前「ロックシード」を掲げ、城乃内は叫ぶ。

 

「変身ッ!!」

 

『ドングリ!』

 

 解錠したロックシードから電子音声が発せられる。城乃内はロックシードを持った左腕を斜めに振り下ろし、錠前をベルトにセットした。

 

『Lock On!』

 

 ベルトから鳴り響くファンファーレが、戦士の登場を予告する。城乃内の頭上の「限定クラック」からは鋼のドングリが降りてきて……

 

『Como‘n!ドングリアームズ!Never give up!』

 

 城乃内がベルトのブレードを倒すと、鋼のドングリが彼の頭部を覆う。同時に、小麦色のスーツ「ライドウェア」が城乃内の全身に生成される。

 鋼のドングリが鉄壁の鎧に変形し、城乃内は城の如く堅牢な鎧を纏った戦士・アーマードライダーグリドンに「変身」した。

 

「うおぉぉりゃぁぁあ!」

 

 グリドンは近くにいるインベスに駆け寄り、次々にハンマー型のアームズウェポン「ドンカチ」を叩き込んでいく。

 グリドンとインベスの交戦が始まったのを確認すると、黒影はグリドンに向かって声を上げた。

 

「城乃内!話はアトだ。コイツらは任せたぞ……!」

 

「ちょっと、初瀬ちゃん!?」

 

 黒影はグリドンの声を無視して、槍型のアームズウエポン「影松」で下級インベス達を退ける。

 黒影はそのまま一人で、龍のような巨大インベスに向かって走っていった。

 

「あれは、槍じゃ面倒だな……」

 

 黒影はそう言って、青い半透明のロックシードを取り出し、解錠した。

 

『マツボックリエナジー!』

 

 黒影のベルトには拡張ユニット「ゲネシスコア」がセットされている。ゲネシスコアを装着したことで、黒影のドライバーは二つ目のロックシードを運用することが可能になる。

 黒影はゲネシスコアに「マツボックリエナジロックシード」をセットし、新たな姿に変身する。

 

『ミックス!マツボックリアームズ!一撃!インザシャドウ!ジンバーマツボックリ!ハハァ!』

 

 同じマツボックリの形状をしたアームズが融合し、黒影を鎧う。誕生したのはマツボックリの断面が描かれた陣羽織を纏いし黒影・ジンバーマツボックリアームズ。

 

「どうなってんだよ……」

 

 グリドンはインベスにドンカチを打ち付けながら、黒影が次々と新たな武装を使用する光景に驚嘆の声を漏らす。黒影は巨大な龍のインベスに向かい合い、柄に三又の戟を備えた影松「影松・真」を構え、ベルトのブレードを二回倒した。

 

『マツボックリオーレ!ジンバーマツボックリオーレ!』

 

 黒影が鋭く投げつけた影松・真は無数に分身し、インベスを次々に突き刺していく。黒影の猛攻を受けた巨大インベスの動きは目に見えて鈍くなっていく。

 それを確認した黒影は、ベルトからエナジーロックシードを外し、新たに取り出した「S」と描かれた錠前「ロックサプリ」を解錠する。

 

「あれって確か、シドが持ってた錠前……!」

 

 それはかつてビートライダーズにロックシードを売りさばいていた錠前ディーラー・シドだけが持っていた錠前で、城乃内にも見覚えがある。

 シドはスイカの巨大なロボット型アームズ「スイカアームズ」の遠隔操作に使ったが、この錠前の機能は他にも存在する。

 黒影がロックサプリをゲネシスコアにセットすると、彼の右手に赤いメカニカルな弓矢型ウエポン「ソニックアロー」が生成された。

 

『ロック……オン!』

 

 黒影はソニックアローにエナジーロックシードをセットし、そのまま矢を引き絞った。矢の先に漆黒のエネルギーが収束していく。

 

『マツボックリエナジー!』

 

 黒影がソニックアローの矢を手離すと、矢の形をした漆黒のエネルギーが発射され、巨大な龍のインベスを一瞬で貫通する。黒影必殺の一撃「ソニックボレー」を食らった巨大インベスは忽ち爆散した。

 黒影の戦いを横目に見ながら、グリドンも目の前のインベス達を追い詰めていた。グリドンは弱ったインベス達から少し距離を取り、ベルトのブレードを倒す。

 

『ドーングリスカーッシュ!』

 

「グリドンインパクト!」

 

 グリドンは必殺の一振りを5体のインベスにまとめて放ち、インベス達を一気に撃破する。

 クラックはいつの間にか閉じていて、残ったインベスもあとわずかだったが…

 

『ブドウスカッシュ!』

 

 紫色のエネルギーを纏った弾丸が残りのインベス達を一掃する。エネルギー弾が飛んできた方向にはブドウの意匠が入った回転銃・ブドウ龍砲を構えた緑のアーマードライダーが立っていた。グリドンはその姿を見て、思わず声を漏らす。

 

「ミッチ……」

 

 緑のアーマードライダーの名は「龍玄」。変身者の呉島光実(くれしまみつざね)は高校時代に城乃内達と同じくビートライダーズとして活動していた。

 彼は今、大学生として勉強する傍ら、半年前の「黒の菩提樹事件(くろのぼだいじゅじけん)」での功績が評価され、「特別客員」として復興局の活動に尽力している。

 頼れる味方の登場に安堵するグリドンだったが、次に龍玄がとった行動は彼の予想を裏切るものだった。

 

「話を聞かせてもらうよ」

 

 龍玄はそう言って、ブドウ龍砲の銃口を黒影に向けた。

 

 




というわけで第二話でした。ところどころ私の独自解釈設定が入っていますが、ご容赦ください。

シドが持っていた錠前の公式名称は「シドロックシード」です。
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