仮面ライダー鎧武 ― グリドン外伝 ―   作:たかだや

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「S」の錠前の力でドラゴンエナジーアームズを纏った龍玄。しかし、ソニックアローの刃をグリドンに向けて……


第五話 『真実の探求』

1.

 

 東沢芽公園での戦況は混迷していた。

 龍玄から分離したスイカアームズ・ヨロイモードはナックル・ジンバーマロンアームズに襲いかかり、擬似的にドラゴンエナジーアームズとなった龍玄は、グリドンにソニックアローの刃を向けている。

 

 この混乱を演出した黒影は、アーマードライダー達の戦いを黙って傍観していた。

 

 龍玄は躊躇うことなく、ソニックアローの刃をグリドンに振り下ろす。

 

「……ッ!!」

 

「マジかよっ……!?」

 

 グリドンは辛うじて初太刀を避けるが、態勢が崩れ、追撃の回し蹴りを頭部に受けてしまう。

 

「ぐぁっ!」

 

 グリドンは、地べたに這いつくばりながら声を上げた。

 

「おい!ミッチ、どうした!?」

 

「多分、あの『S』の錠前の力だ……!体の自由が完全に奪われてる……!」

 

 グリドンにソニックアローの刃を向けながら、龍玄は自分の現状を伝えた。

 

「どうなってんのよ」

 

 一葉(いちは)は突如始まったアーマードライダー達の内輪揉めに、ただただ呆然としていた。しかし、一葉は直ぐにあることに気付く。

 

「あれ……亮二は……?」

 

 一葉の視界から黒影が消えていたのだ。一葉が咄嗟に周囲を見回すと、黒影の姿は直ぐに見つかった。

 

 黒影は他のアーマードライダー同士の戦いから距離を取り、チューリップホッパーの錠前を起動していた。

 黒影は現場からの離脱を図ろうとしているのだ。

 一葉は咄嗟に叫んだ。

 

「亮二、待って!」

 

「じゃあな。姉貴は隠れてた方がいいぞ」

 

 黒影は一葉にそう声をかけ、チューリップホッパーに搭乗しクラックに姿を消した。

 

 

 黒影が戦線離脱した後も、アーマードライダー同士の戦いは続いていた。

 圧倒的なパワーをもつ龍玄に、グリドンは完全に力負けしている。ランクSのエナジーアームズに対抗するには、ランクBのドングリアームズでは力不足なのだ。

 

「城乃内!大丈夫か!?」

 

 ナックルは苦戦するグリドンに加勢しようとするが……

 

『ジャイロモード!』

 

 スイカアームズのガトリング攻撃が、ナックルを襲う。

 

「うぁっ……!!」

 

 ナックルは背中にスイカアームズの不意討ちを受け、その場に倒れてしまう。

 

「ザック!」

 

 グリドンがナックルに注意を向けた瞬間、龍玄が放ったソニックアローの矢がグリドンを襲った。

 

「痛ッテェ!」

 

 グリドンとナックルのコンビネーションはなかなか嚙み合わず、二人は次第に劣勢になっていく。

 この状況で、グリドンはナックルに声を上げた。

 

「そうだ、ザック!バナナのロックシード、今持ってたりする?」

 

「あるにはあるが……これでどうにかなるのか?」

 

 ナックルはそう言って、バナナのロックシードをグリドンに手渡す。

 その錠前は、ザックが黒の菩提樹の一員、シュラとの戦いで入手したものだった。

 

「まあ、見とけって!」

 

 グリドンはバナナロックシードをベルトにセットし、新たな形態に変身した。

 

『バナーナアームズ!Knight of spear!!』

 

 茶色のライドウェアに、バナナの鎧を纏った姿はさながらチョコバナナ。アーマードライダーグリドン・バナナアームズが誕生する。

 グリドンは龍玄に向かってランス型アームズウェポン「バナスピアー」を構えながら、ナックルに言った。

 

スイカアームズ( あ の デ カ ブ ツ )の相手は任せた!」

 

「無茶するなよ!」

 

 ナックルがスイカアームズに向かって走り出したことを確認すると、グリドンは目の前の龍玄に集中する。

 実力で言えば、ナックルジンバーマロンアームズがスイカアームズの無人機に負けることはないだろう。

 だが、ランクAのバナナアームズと、ランクSのドラゴンエナジーアームズでは、いささか出力の差が大きい。

 少しでも気を抜けば負ける、という緊張感はあったが、城乃内の頭は勝利への道筋をはっきりと描いていた。

 グリドンはベルトのブレードを二回倒し、バナスピアーを地面に突き刺す。

 

『バナーナオーレ!』

 

 龍玄の足元からバナナ状のエネルギーが出現し、龍玄の動きを封じる。

 これがバナナアームズの必殺技「スピアビクトリー」だ。

 本来はバナナのエネルギー体をぶつけて相手を粉砕する技だが、ぶつけるスピードや角度、エネルギーの出力を調節することで、相手を拘束する技としても応用ができる。

 ランクAの出力で、疑似的にランクSのアームズを纏った龍玄を拘束できるのはほんの数秒だ。しかし、その数秒はグリドンにとっては十分な時間だった。

 

「要はさ、こうすればいいんだろ?」

 

 バナナのエネルギーが直撃したのは、龍玄だけではない。龍玄の後ろに放置されていたゲネシスコア付きのドラゴンフルーツエナジーロックシードにも直撃していた。

 通常のロックシードや戦極ドライバーなら損壊してもおかしくない攻撃だ。しかし、その次世代のドライバーユニットとロックシードを破壊するには至らない。

 スピアビクトリーを受けたエナジーロックシードは、グリドンめがけて飛んでくる。

 

「へへっ、いただき!」

 

 グリドンはドラゴンフルーツエナジーロックシードを掴み、錠前と展開されたフルーツのパーツを閉じた。

 すると龍玄のアームズが消滅する。

 

「そうか……!なら、あとはスイカの錠前を閉じれば……!」

 

 身体の自由が戻ると、龍玄もドライバーのスイカロック―ドを閉じ変身を解除した。

 

 光実はスイカアームズの消滅を確認し、城乃内に笑顔を向ける。

 

「……ありがとう!」

 

「まっ『策士』だからな……っいてて」

 

 城乃内は変身を解除すると、軽口を飛ばしながらその場にへたり込んだ。

 

 

2.

 

 ザックは変身を解除するなり、吐き捨てるように毒づく。

 

「初瀬のヤツ……!なんでクラックの出現場所も教えてくれないんだ……!」

 

「出現場所を言ったら、僕達が先回りして彼を拘束するかもしれない。それを警戒しているんだろうね」

 

 光実はザックとは対照的に冷静だった。

 

「俺達を全く信用してないってことか……あんな邪魔までしやがって」

 

 光実の推測に、ザックはまた毒づいた。

 

「でも、結果的には僕にこの錠前をくれた。ご丁寧にゲネシスコアまでつけてね」

 

 光実はドラゴンフルーツエナジーロックシードを手でいじりながら、先を続ける。

 

「彼にロックシードやドライバーを渡しているのはいったい誰なのか、早く突き止めないとね。もしかしたら、そいつが一連の事件の首謀者かもしれない。今回このロック―ドを僕に渡した目的も気になる……」

 

「そんな奴と組んでまで、初瀬は一体何がしたいんだ。町を守りたいなら、俺達と協力しようとするはずだろ!」

 

「俺達が信用されてないのは当たり前だろ……!」

 

 興奮するザックを見ながら、城乃内は言い放つ。

 

「オレも、ザックも、ミッチも、ユグドラシルも……みんなで初瀬ちゃんを蹴落としたんだ。だから初瀬ちゃんは追い詰められて……今更信じてほしいなんて、虫が良すぎるだろ……」

 

 城乃内の言葉に、ザックも気まずそうに黙り込んだ。再び光実が口を開く。

 

「とにかく、今は真相の究明だよ。今回の防犯カメラの映像分析は情報管理課の人たちに任せて、沢芽警察署で桜井さんと合流しよう」

 

 この一言で三人の会話は終わる。城乃内たちは離れて様子をうかがっていた一葉に声をかけると、全員で城乃内の車に乗り込んだ。時刻は五時半を過ぎていた。

 

3.

 

 沢芽警察署の受付に行くと、すでに桜井が待ち構えていた。城乃内たちは取調室の隣の部屋まで案内され、そこに入るよう促される。

 その部屋からは、ガラス越しに取調室の様子を見ることができるようになっていた。

 

「光実君、これを」

 

 桜井は光実に、何やら資料を手渡した。城乃内が盗み見た限りでは、証言者の個人情報や、証言内容が書かれているようだ。

 城乃内はそれだけ確認すると、取調室に目を向けた。

 

 自分たちが入っても取調室の人間は誰も反応しないので、このガラスはマジックミラーなのだろう。なんか刑事ドラマみたいだな。城乃内は不謹慎だと分かりながらも、そう思わずにはいられなかった。

 

 取調室にいたのは3人だった。一人は部屋の隅のデスクに腰掛ける制服の警察官、二人目は黒いスーツを着た刑事のような風貌の男。無精ひげが伸び、スーツもくたびれているせいか、やけに老けて見える。その刑事風の男は部屋中央に置かれてた机の前に座っている。

 机を挟んで、その刑事の向かいに座る太ったリクールトスーツ姿の男を見た瞬間、城乃内は声を漏らした。

 

『今井健司』(いまいけんじ)って、デーブのことか……」

 

 太ったリクルートスーツの男は、今朝城乃内が遭遇した「チーム・レイドワイルド」の元メンバー・「デーブ」だった。

 

 デーブが事件の目撃者だったこと、そしてその友人の本名を今日まで知らなかった自分に、城乃内は軽い衝撃を覚えた。

 城乃内が隣にいるザックや光実の顔をそっと見ると、彼らも納得と衝撃が入り交じった複雑な表情をしている。

 一葉だけはまだ状況が飲み込めていない様子で、城乃内に話しかけた。

 

 

「今井さんって、亮二や城乃内さんとどういう間柄なんですか?」

 

「初瀬ちゃんがリーダーをしていたダンスチームの元メンバーです。俺ともそこそこ交流がありました」

 

「そうですか……」

 

 弟の知り合いをまた見つけられて嬉しいのか、一葉は少し頬を緩ませる。

 

 一方、取調室は恐ろしく殺風景だ。スタンドライトのような、武器になるようなものは一切置かれていない。

 大人が3人もいるのに、誰も動かない。マジックミラー越しに見ていると、部屋そのものが死んでしまったように思えてしまう。

 視覚的な変化といえば、小さなホコリが窓からの日差しを浴びてユラユラと動いているだけだ。

 

 光実は、デーブの証言が書かれた書類に目を通すと、すぐに桜井に声をかける。

 

「僕も質問をしたいので、中に入ってもいいですか?」

 

「少し待っててくれ」

 

 桜井はそういうと取調室に入り、刑事らしき男に声をかける。二人は小さな声で話を始めた。

 それが三十秒ほど続くと、話がついたのか桜井は取調室を出て光実に声をかける。

 

「私も一緒なら、入っていいそうだ」

「わかりました。お願いします」

 

 桜井は光実を伴って取調室に入る。光実に真っ先に反応したのはデーブだった。

 

「ミッチ……」

「デーブ、久しぶりだね」

 

 光実はデーブと軽く言葉を交わすと、今度は刑事らしき男に自己紹介をする。

 

「復興局客員の呉島です」

 

「沢芽署強行犯係の須藤だ。聞きたいことがあるなら、手短に頼むぞ」

 

 須藤と名乗った刑事は、それまで自分が座っていた席に座るよう、光実に手で促す。

 

「なぁ、ミッチ。俺、見たんだ。黒影を。やっぱりあれ、初瀬さんなのか?」

 

「さっきも言ったろ。捜査情報は話せないの」

 

 デーブが光実に早口で質問すると、須藤が口を挟んだ。

 デーブがしぶしぶ黙り込むと、光実は彼に語り掛ける。

 

「ごめん。今は僕から情報を流すことはできないんだ。それから、いくつか君に聞きたいことがある。刑事さんと同じ質問をするかもしれないけど、答えてほしい」

 

「わかった」

 

 光実の申し入れにデーブは素直に頷いた。

 

「まずは、インベスに襲われた経緯を教えてほしい。できるだけ丁寧に」

 

「昨日は夕方からずっと飲んでて、5件目の『スナック早苗』って店を出た後、近くの裏路地に入ったら、五人くらいの若いやつらに絡まれたんだ。『何見てんだよデブ!』とか言ってさ。あんまり死んだ人間の悪口なんか言いたくないけどさ、ホントむかついたよ……」

 

「災難だったね…それから?」

 

 光実はデーブに話の続きを促す。

 

「『そのスーツ汚されたくなかったら、有り金全部おいてけ!』って死んだ茶髪の奴に言われて……胸倉掴まれたんだよ、俺。さすがに怖くなって財布渡したんだけど…こんどはそいつ『五千円しか持ってねぇのか』とかぬかしやがってさ。さすがに頭に来て睨みつけたら、 そいつもキレて……俺、殴られる直前だったんだけど。そのとき……」

 

 デーブはその時の情景を思い出したのか、手で口を押え嗚咽を漏らす。 

 

「そいつがインベスの触手に吹き飛ばされて……それで吹き飛ばされた方を見たら、そいつ……胸を刺されてて……」

 

 デーブは涙を漏らしながら話す。きっと、彼はその光景を一生忘れないのだろう。須藤は気を使ったのか水を紙コップに入れて、デーブに差し出す。デーブは一気に飲み干した。

 

「デーブ、辛かったね……まだ話せる?」

 

「ああ。大丈夫だ」

 

 デーブは水を飲んで落ち着いたのか、話を続けた。

 

「インベスが出てきたって分かったら、他の若いやつらはさっさと逃げたみたいで、俺だけ逃げ遅れたんだ。なんかあの時は、足が動かなくて……インベスもいつの間にか3体に増えてて、俺の方によって来るし……でも、その時に黒影が、助けてくれたんだ」

 

 マジックミラー越しに話を聞いていたザックが声を漏らす。

 

「たった三体か……」

 

 ザックの口調は、どこか拍子抜けしたようだった。

 インベス三体に詰め寄られるというのは、普通の人間にしてみれば絶望的な状況だ。しかし、アーマードライダーとして十数体のインベスを倒した直後に聞くと、城乃内もあまり衝撃を覚えない。

 しかし、この先のことを考えると、危機感を感じずにはいられなかった。

 

「やっぱり、クラックの維持される時間は一気に長くなっているんだ。だから、初めのうちは初瀬ちゃんだけでも対処できた。でも、このままいくと……」

 

 城乃内の話を聞いているうちに、ザックもだんだん状況が呑み込めてきたのか、呟くようにいった。

 

「そのうち、俺たちだけじゃ対処できなくなるかもな」

 

 城乃内とザックが話していると、取調室ではデーブのスマートフォンが鳴った。

 

「出てくれていいよ」

 

 光実がそういうと、デーブはスマートフォンを取り出して操作する。

 デーブの様子を見るに、電話ではないらしい。メールだろうか。

 そんなことを城乃内が考えていると、スマートフォンの操作をするデーブの手が止まった。顔は強張って痙攣したように震えている。その状態が10秒ほど続いた。

 

「もう帰っていいかな……?」

 

 デーブがボソリといった。

 

「いや、まだ聞きたいことがあるんだ」

 

 光実はデーブの様子戸惑いながらも、彼を引き止める。

 

「オレ忙しいんだ。帰らせてくれ」

 

 デーブは下を向いたままだが、その顔が赤くなっているのがわかる。

 

「外に出るのは危険だ。ここを出ない方が良い……!」

 

 光実がそういうと、デーブは足元にあった鞄を光実に投げつけ、光実に掴みかかる。

 

「ッ!?デーブッ……!?」

 

 デーブの変化に気づいていたであろう光実も、彼の剣幕に動揺している。

 

「迷惑なんだよ、ほっとけよ!」

 

「おい!落ちつけ!!」

 

 光実の横に立っていた須藤と桜井が、光実に食って掛かるデーブを押しとどめる。

 

「アイツ、どうしたんだ!?」

 

 マジックミラー越しに様子を見ていたザックも一目散に取調室に入って、桜井たちに手を貸す。

 

「とにかく落ち着け!デーブ!」

 

「これ以上暴れると、傷害で現逮にするぞ!」

 

 須藤のこの一言でようやくデーブもあきらめたように椅子に腰を落とす。一部始終を見ていた城乃内と、一葉はほっと安堵の声を漏らした。

 

「あいつ……勝手に入るなよな……」

 

 城乃内はあきれながらも、ザックらしいと思う。

 考える前に身体が動く。短絡的と言ってしまえば聞こえは悪いが、困難を目の前にしてすぐに行動できる人間は貴重だ。自分にはとても真似できるものじゃない。

 城乃内がそんなことを考えていると、隣でずっと黙っていた一葉がポツリとつぶやく。

 

「でも今井さん、どうしたんでしょう?」

 

 そう聞かれた城乃内には、すでにアテがついていた。

 

「たぶん、不採用通知が来たんだと思います」

 

 今朝、デーブと遭遇した時にも感じたことだが、今のデーブは白髪も増え、顔も完全にやつれている。

 就活中に採用がもらえずに、過度のストレスをためる若者は少なくない。きっとデーブもその一人なのだろう。

 

「面接した企業だけでもう二十社だ」

 

 デーブはどこか投げやりに言うと、スマートフォンを机に放り出した。どうやら城乃内の考えは当たっていたようだ。

 だからといって、うれしいとは思わない。辛そうに顔を手にうずめる仲間を見ているだけで、鉛を飲み込んだような気分になる。

 

「お前らには分かんないだろ。俺には何にもないんだよ。エントリーシートだけなら200通出したよ。でも、そこで切られるのがほとんど…いざ面接受けてもこのザマだ。もうしんどいんだよ。警察だか、復興局だか知らねえけど、俺は今インベスどころじゃないんだ。ほっといてくれ……」

 

 デーブは完全に自暴自棄になっている。ここは彼の言う通りに、そっとしておくべきなのかもしれない。

 だが、光実は聞きたいことを聞けていない。

 光実は申し訳ないと思いつつも、現場周辺の地図を取り出してデーブに見せる。

 

「デーブが入った裏通りって、この『スナック早苗』からデーブの家に帰るのには遠回りだよね?なんでこの通りに入ったの?」

 

「あの路地は、オレと初瀬さんが初めて会った場所なんだ。あの人と出会ってから俺の人生がちょっとだけ変わったから…あそこにもう一回行けば、また変われるんじゃないかって、思ったのかも。そんなわけないのにな…」

 

 デーブはふてくされながらも、光実の質問にはしっかり答える。

 

「もういいか?外に出れなくても取調室は勘弁だ。さすがに気が滅入るよ」

 

 ここいらが潮時だろう。そう判断した光実は、彼を休ませていいか須藤に判断を仰ぐ。須藤は首を縦に振るとデーブに目を向けた。

 

「よし、じゃあ、さっきの休憩所でしばらく休んでてくれ。何なら雑魚寝してもいいぞ」

 

 デーブは頷くと。須藤の案内に従って取調室をでた。

 

4.

 

 取調室の様子を見ていた一葉は城乃内に問いかける。

 

「これって偶然でしょうか?」

 

 『これ』というのは、事件の現場が初瀬とデーブの出会いの場所だったということだろう。

 

「分かりません。でも偶然じゃないとしたら……」

 

 城乃内はそれも気になったが、いまはデーブの様子が気がかりだ。城乃内は部屋を出ると、歩いていくデーブに声をかける。

 

「城乃内さんもいたんだ……」

 

「今朝はなんも聞いてやれなくて、悪かったな」

 

「今朝……?」

 

 ――あ、そうだコイツ今朝は泥酔して俺と初瀬ちゃん見間違えてたっけ…

 

 城乃内は今朝の一部始終をデーブに説明する。

 

「あれ、城乃内さんだったんですね。迷惑かけてすいません……」

 

「確かにあれにはドン引きしたよ」

 

 城乃内は軽い冗談のつもりで言ったのだが、デーブの顔が一気に曇る。

 

「初瀬さんが余計なことしなければ死ねたのに。俺には何もできない。社会からも全然認めてもらえない…これなら死んだほうがましだ……」

 

「そんなこと言うなって」

 

 デーブを励まそうとしても、当たり障りのない言葉しか思いつかない。城乃内は話しながら、自分で墓穴を掘っているのだと気づく。

 

「あんたはいいよ。才能があって、仕事があって、助けてくれる人だっている。でも俺は自分に何ができるのか、何がしたいのかも分かってないんだよ。恵まれた環境にいるあんたにとやかく言われる筋合いはない……!」

 

 二人のやり取りを聞いていた須藤が、デーブのこの言葉に目の色を変える。須藤はデーブの胸倉を掴み壁に叩き付けた。

 

「甘ったれるのもいい加減にしろ!ちょっと世間を見ればわかるだろ。仕事なんざいくらでも転がってる。自分磨きたけりゃ、いくらでもやり方はあるだろうが!てめぇで何にも成長しないまま、他人の批判するなんざ百年早いんだよ!」

 

 須藤はそう言い放ち、デーブから手を放す。デーブはうなだれているが、須藤の言葉は彼に少なからず響いているようだ。それは城乃内にとっても同じだった。

 本来なら自分がデーブにしてやらなければいけなかったことだ。

 城乃内は上辺にばかりこだわって成長しない自分の性根を苦々しく思う。これじゃ、誰の心も動かせない。途方に暮れている友人に手も差し伸べられないで、何が大人だ。

 

「なぁ、デーブ……」

 

 形になっていなくても、自己満足でもいい。今は目の前のデーブに本音でぶつからなくては…城乃内はそう奮起して言葉を紡いでいく。

 

「俺も同じだよ。今どうすればいいか、これから何がしたいか、正直なトコよくわからない。それでも必死に働いて、生きてる。お前だって同じだろ。見てれば分かる。今は誰からも見向きもされなくても、自分を変えるためにお前は必死に戦ってる。だから、ほんの少しでいい、自分に自信を持て」

 

 城乃内の言葉にデーブは何も言わず足早で休憩所と書かれた部屋に入って行ってしまう。

 

「なんて言われて持てるもんでもないよな。くそっ……!」

 

 城乃内は軽く舌を打つ。須藤がそんな城乃内の肩を軽く叩いた。

 

「そう簡単なモンじゃねぇよ。まぁ、今はこれぐらいでいいだろ」

 

「あっどうも……」

 

 城乃内が軽く頭を下げると、須藤は今度は制服の警官の肩を叩いていう。

 

「コイツが休憩室まで案内するから。アンタらはちょっと休んどけ」

「はい。よろしくお願いします」

 

 城乃内がそういうと警官は口を尖らせる。

 

「須藤さん、自分パシリじゃないんですけど……」

「後輩は全員パシリだよ」

 

 須藤は平然と言ってのける。警官は言い返すのを諦めたのか、城乃内、ザック、一葉を別の階の休憩所に案内した。

 

5.

 

 四人が歩き出すと須藤は取調室に戻る。取調室には桜井と光実が残っていた。須藤が戻ったのを確認すると桜井が声をかける。

 

「わかったよ。クラックの出現法則」

 

「あっ?」

 

「今、復興局の部下から連絡が入った」

 

 桜井の突然の報告に、須藤は素っ頓狂な声を漏らす。

 

「ユグドラシルが残したクラックの観測データと、今回の観測データを突き合わせたら一発だった。専門的な説明は省くが、クラックの発生時間の間隔には一定の周期がある。今回の一連の観測結果は、三年前までのペースでクラックの出現頻度が増加した場合の現在の沢芽市でのクラック発生時間の予想に概ね一致するんだ。次のクラックが出現するのは明日の午前5時頃、その次が午前九時頃。その次が十六時頃だ」 

 

 

 桜井の報告に、須藤は舌打ちをした。

 

「復興局が事前に警察にクラックの出現データを渡しとけば、こっちでもっと早くクラックの出現法則をつかめたんだ」

 

「無茶言うな。クラックの出現データは復興局の沢芽本部に保管されていて、ほかの支部への持ち出しも禁止なんだ。それを日本の警察、それも所轄に回せるわけがないだろ」

 

「そこまで言うなら、警察がすぐに協力要請しないからっていちいち抗議しないでほしいね」

 

「抗議じゃない。円滑な協力をお願いしているんだよ」

 

 桜井の返しは事務的だが、どこか須藤への親しみを感じさせる。

 

「うちの刑事部にいたときから、お前の責任逃れの物言いは変わらないな。たくっ、最初から本庁の公安部に行けばよかったんだ。そうすれば俺はお前の面倒ごとに巻き込まれることもなく、こんな所轄に流されることもなかった」

 

「アレはお前が勝手に嗅ぎつけて、勝手に首を突っ込んだだけだろ。お陰で被害は最小限で済んだがな」

 

 この二人はいわゆる腐れ縁という関係なんだろう。そう思いながら光実は黙っていた。

 

「もういい。それよりも、クラックの出現時間が分かっても、発生場所がわからないと、また被害者が出るぞ?」

 

 そういわれると、桜井もばつが悪くなったのか言葉を濁らせる。

 

「まだ出現場所の予測まではできていない。過去のデータでも、ユグドラシルタワーを中心にクラックの発生頻度が分散しているいること以外に法則をつかめていないんだ」

 

「当てがついてるって言ったらどうする?」

 

 須藤のもったいぶった態度に、桜井はあきれたような顔になる。

 

「さっさと教えてほしいね。事態は一刻を争う」

 

「最初の4件はクラックが発生したのは人目に付きにくい奥の裏路地ばかりだった。だがさっき分かった5件目で被害者が出た途端に防犯カメラの設置場所にクラックが発生するようになった。そして5件目は以前よりも人目に付きやすく、初瀬亮二と今井が初めて出会った場所。6件目は初瀬亮二と親しくしていたアーマードライダーの勤務場所の真ん前だ」

 

 ここまで説明されると、桜井も須藤が何を言いたいのかわかったのか口を開く。

 

「何者かがクラックの発生場所を意図的に設定している……ということか」

 

「少なくとも、これをただの偶然で片づけるような能無しは警察にはいないな」

 

「クラックを人為的に生成できる存在というと。オーバーロードということになるが……」

 

 そこで、やり取りを聞いていた光実が口を挟む。

 

「普通のオーバーロードじゃクラックの発生場所を自由に設定できませんよ。ユグドラシルタワーを占拠したレデュエも、タワーにあった人工クラックの痕跡を使ってクラックを開いたんです」

 

 『オーバーロード』、インベスの力を持ちながら、ヘルヘイムの果実の毒に理性を破壊されなかった存在だ。

 地球に侵攻したフェムシンム達は、身体に特殊な改造を施した後で、ヘルヘイムの果実を食らい、『オーバーロード』に進化した者達だった。

 彼らはヘルヘイムの植物や他のインベスを操る能力を持っていた。しかし、オーバーロードの中でもクラックを自在に操る能力を持つ者は、光実が知る限りたった二人しかいない。

 

 桜井は光実に問いかける。

 

「では、意図的にクラックを生成できる存在というと……」

 

「クラックを自在に操れるのは…」

 

 桜井の疑問の答えはすでに、光実の中で出ていた。

 

 

「『知恵の実』を手にした者だけです」

 




おまけ

桜井「光実君!クラックを作った黒幕がわかったぞ!」
光実「本当ですかっ!?」
桜井「その組織の名は……地下帝国バダンだ!」
光実「桜井さん、疲れているようですね」

とりあえず、春休み合体スペシャルは別時空ということで……

長ったらしい文章で、本当に申し訳ありません。誤字脱字など教えて頂けると助かります。
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