仮面ライダー鎧武 ― グリドン外伝 ―   作:たかだや

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3人のアーマードライダーと交戦する、ブラーボと斬月・真。この戦いの行方は果たして……?


第七話 『Unperfected World』

 

 東南アジア某国、ブラーボと斬月・真は確実に敵を追い詰めていた。

 ブラーボは奪い取ったマンゴパニッシャーを、マンゴーアームズのライダーに容赦なくも叩き付ける。

 敵がガードを緩めると、ブラーボはその胸部にマンゴーパニッシャーを押し当てる。

 

「ガァっ……!」

 

「まだ、終わりじゃなくてよ?」

 

 ブラーボはマンゴパニッシャーでマンゴーのライダーを空中に持ち上げ、思い切り地面に叩きつけた。

 マンゴーのライダーが地面を転がるのはもう何度目だろうか。強度の強い背中のマントが無傷なのがむしろ痛々しい。

 

「なぜだ…なぜあんな若造一人のために…私はこんな目にっ……」

 

 マンゴーのライダーは、消え入りそうな声でシクシクと泣き言を言った。彼はブラーボの猛攻を受け、最早立つこともままならない。

 

「それはこれからゆっくり考えなさい……そろそろフィナーレにしてあげるわ!」

 

 ブラーボはベルトのカッティングブレードを下す。

 

『ドリアンスカッシュ!』

「エイヤァ―!!」

 

 ブラーボはマンゴパニッシャーを真上に投げると、そこに緑のエネルギーを纏った右足でオーバーヘッドキックを叩き込む。

 マンゴパニッシャーはドリアンのエネルギーを吸収し、本来の持ち主のもとに加速する。

 マンゴーのライダーは胸部にその一撃を受けると、ダメージの許容量を超えたのか強制的に変身が解除される。

 マンゴーのライダーに変身していたスキンヘッドの男はそのまま意識を失った。

 

 斬月・真も二対一の状況にも関わらず敵を圧倒していた。パインのライダーもイチゴのライダーも既に疲弊しており斬月・真のソニックアローによる太刀を一切回避できなくなっている。

 彼らは近距離の戦いから離脱しようと後退すると、斬月・真はソニックアローの矢を容赦なく放つ。

 牽制目的の攻撃だったが、パインのライダーもイチゴのライダーもこの攻撃で地面に倒れこんでしまう。

 斬月・真が二人のライダーを仕留めるのは、最早時間の問題だった。パインのライダーが万策尽きたこの状況にいら立ったのか、生き絶え絶えに叫ぶ。

 

「お前、呉島貴虎だろう!インベス災害一番の戦犯が……正義の味方気取りか……!ふざけるな!」

 

 斬月・真は敵のの罵声には答えず、ベルトのグリップ「シーボルトコンプレッサー」を押し込む。

 

『メロンエナジースカッシュ!』

 

 ベルトから電子音声が鳴り響くのと同時に、斬月・真ソニックアローを右手に持ち替え、必殺の構えをとる。

 

「はあああ!!」

 

 斬月・真は鋭い叫び声を上げながら、ソニックアローを居合切りのように一気に振り抜き、メロンのエネルギー刃を敵の二人に放つ。

 最早戦意を失いかけていた二人のライダーはその攻撃を避けきれず、変身解除と同時に攻撃の衝撃で気絶してしまった。

 

 ブラーボと斬月・真が変身を解除すると無線から声が流れる。

 

『さすがですね。凰蓮隊長、貴虎。今そちらにサイスとアイザックが向かっています。敵の連行は彼らに引き継いでください』

 

「了解よ。レイモンドもお疲れ様。明日も頼むわよ?」

 

『もちろんですよ』

 

 凰蓮とレイモンドの声からは強い信頼関係が感じられる。貴虎は彼らの会話を聞いているだけで、彼らが信頼できる仲間だとつくづく思った。

 そこで、無線を聞いていた財団代表の青年の声が響く。

 

『みんなありがとう!パレードを成功させたいっていうのは僕の我がままなのに……』

 

 青年の名は、シャプール。彼はフェムシンムの侵攻の直前から、財団代表の養子としての立場を活かし、当時マフィアだった組織の健全化を図って奔走している。

 プロジェクト・アークを察知した当時、一部の財団幹部たちは独自のルートで戦極ドライバーとロックシードを入手していた。

 ドライバーと錠前の回収のために、シャプールと貴虎は2年前から協力関係にある。

 貴虎は無線でシャプールに話し掛けた。

 

「敵の襲撃は今日まで不確定だったんだ。止むを得ない。それに、今日は財団とこの国とって記念すべき日になる。君の希望はこの国の希望になりつつあるんだ。それを叶えるための援助は惜しまない」

 

 財団はフェムシンムの侵攻が始まった直後から、災害で発生した怪我人への医療支援や、NPO法人への人材や資金の提供などの人道支援を開始し、現在まで継続してる。

 最初のうちはマフィアと政府の癒着だと非難された。しかし、財団を引き継いだシャプール自ら危険な場所での支援や、現場の視察などの活動に積極的に参加する姿勢が現場の人間から評価を得るようになると、少しずつそうした批判も減っていった。

 今日は財団の功績が認められ、財団の健全化を祝して、この国の大統領やNPO法人の代表などを招いたパレードが行われているのだ。

 

「シャプール、この男たちに見覚えはあるか?」

 

 貴虎はたった今までアーマードライダーに変身して自分たちと戦っていた3人の男たちの姿を携帯端末に映し、シャプールに中継して見せる。

 

『オーガスにロバート、ルドナー。さっきの狙撃された人たちと同じ、財団の健全化のために僕が追放した元幹部だよ』

 

 シャプールの声は重い。普段は明るく天真爛漫、見ているだけで周りを元気にするような青年だが、この数年で血の涙を流す思いで多くの者を切り捨ててきた。

 正しいと信じてやってきたことだが、彼は自らの行いの無慈悲さに常にさいなまれている。

 それでも、貴虎は彼が弱音を吐く姿を見たことがない。彼の強さはどこから来るのだろうか。貴虎がそんなことを考えていると、不意にシャプールが声を漏らす。

 

『オーガスはマンゴーのロックシードを使ったんだ……戒斗と同じだね』

 

「そうか。君は駆紋戒斗と面識があったんだったな」

 

 フェムシンムの侵攻が始まる前、シャプールは沢芽市の視察をしたことがある。

 そこでシャプールは彼の執事をしていたアルフレッドという男に暗殺されるはずだったが、その窮地を救ったのがアーマードライダーバロンの力を持っていた青年、駆紋戒斗だった。

 戒斗の顔はシャプールの顔と瓜二つだった。シャプールが自由に沢芽市の観光をするために、戒斗に変装するという大胆すぎる奇策を考えついてしまうほどよく似ていた。

 

『あと戒斗が使ってたのは…バナナとリンゴのロックシードだっけ?』

 

「……!彼がリンゴのロック―ドを!?」

 

 貴虎とっては初めて聞いた情報だ。

 

『戒斗はついてくるな、って言ったんだけど、どうしても気になって、戒斗とアルフレッドとの戦いを二人から隠れて見ていたんだ。戦いが終わったら、戒斗は自分でリンゴのロックシードを壊してたけどね…』

 

 まだまだ知らない事実がある。貴虎は自分にそう言い聞かせ、気を引き締める。

 

「そうか……ではシャプール、パレードの残りも頑張ってくれ」

 

『うん!じゃあね!』

 

 貴虎は電話を切ると、復興局沢芽本部の桜井から報告が届いていることに気付いた。

 

「沢芽市のクラックの件に進展があったようね。まさか黒影がうちの坊やの亡くなったはずのお友達だったなんて」

 

 貴虎は、先に資料に目を通していた凰蓮と言葉を交わしながら資料を読みすすめる。

 

「初瀬亮二がインベスになった現場にも、そのインベスがシドに始末される現場にも私は立ち会っている。彼が生きているはずが……」

 

 貴虎は急に言葉を止め、息を飲む。貴虎の顔からは容易に驚愕が見て取れる。

 

Qu’est-ce qui se passce(ケスピスパス)?メロンの君、どうかした?」

「どうして彼女が……」

 

 貴虎は資料に書かれた「初瀬一葉」(はせいちは)という名前を凝視していた。

 

2.

 

 所変わって日本の沢芽市。フルーツパーラー・ドルーパーズでは3人の男女がいた。

 そのうちの一人、ザックはカレーを食べ終えてソファーで寝てしまっている。無理もない、今日は色々なことがあり過ぎた。

 店主の阪東は数分前にイヨを避難所に送り届けるために、城乃内に合鍵を渡して店を出ていった。

 

 復興局が次のクラックの発生時間をマスコミに発表し、市内放送でもその時間の外出を控えるように呼びかけを開始したのだ。

 城乃内はカレーの皿を洗い終えると、食後のコーヒーを飲んでいる一葉の目の前にシャルモンケーキが入った箱を差し出す。

 

「一葉さん、よかったら、好きなケーキ食べてください」

 

「えっと、じゃあ……コレいただきます。サクランボ、好きなので」

 

 一葉が選んだケーキを見て、城乃内は顔を強張らせる。

 そのケーキは初瀬亮二が生前ドルーパーズでよく食べていた、サクランボのパフェをイメージして城乃内が考案したものだった。

 このケーキを考案したときには初瀬はこの世を去っており、彼がこのケーキを口にすることはなかった。

 姉弟だと好物も似てくるものなのだろうか。そんな月並みな感想を口に出すこともなく、城乃内は一葉を見ていた。

 

「……っ!?」

 

 一葉はケーキを口に入れると目を見開いた。

 ケーキの生地は舌に乗せただけでほどけ、噛んだ瞬間にサクランボの果汁があふれ出す。

 果汁は一瞬で消え口の中いっぱいにさわやかなサクランボの香りが吹き抜ける。自分がいつケーキを飲み込んだのかもわからない。

 一葉は口の中に残ったサクランボの余韻にしばらく浸っていた。 

 

「美味しいです。えっ、ていうか想像してた味と全然違う。なんですかこれ……」

 

 一葉が満面の笑顔で城乃内の顔を見ると、当の城乃内はどこか遠くを見るような目をしてる。

 

「どうかしました?」

 

「あっ……いえ。気に入ってもらえてよかったです。そのケーキ、初瀬ちゃんがこの店でよく食べてたサクランボのパフェをイメージして作ったんですよ」

 

 城乃内は言うべきか迷ったが、結局このケーキの由来を語った。

 

「……そういえば、子供の時はよくサクランボを取り合ったっけ……」

 

 一葉はそういうと、再びケーキに目を向ける。

 今度はサクランボがたっぷりと乗ったケーキをフォークで大きく切り分けて、口いっぱいに頬張る。

 相変わらず笑顔だが、その顔はどこか切なそうでもあった。一葉は城乃内が差し出した紅茶を飲むと、呟くように語りだす。

 

「亮二はあんまり食べる方じゃないんですけど、サクランボを食べるときは、よく私の分まで横取りして、喧嘩になって…今思うと、本当に下らないですけど・・・」

 

 そりゃ、あなたに比べたらみんな小食ですよ。そんなことを言う度胸は城乃内にはない。

 城乃内が何も言わないでいると、一葉の愚痴は続く。

 

「考えてみれば、亮二はいつも身勝手なんですよ。子供の頃には近所の工場から廃材勝手にとってきて、そこの社長がうちに怒鳴り込んできたこともありますし…両親が他界した後だって、亮二の高校の卒業式に私が出席しても結局すっぽかすし、ほんとアイツはいつも……」 

 

「なんか、初瀬ちゃんらしいですね。俺も勝手にバイトのヘルプに入れられたり、無理やり説明会に行かされたりしましたよ」 

 

「えっ!なんかごめんなさい……」

 

 一葉は謝ったが、今の城乃内にとっては、その思い出すら愛おしい。

 

「振り回される側は溜まったもんじゃないんですよね。でも、やりたいことやってるって感じで……ちょっとうらやましかったな」

 

 城乃内がしみじみというと、一葉も愚痴が湧いてきたのか口を尖らせる。

 

「今だって全然何も言ってくれないし……ほんとにあのバカは……」

 

 一葉は言葉を詰まらせながら、何かに思い当たったように表情を変える。

 

「本当に死んだんですかね……亮二は」

 

「えっ?」

 

「だって、今日もインベスと戦って…城乃内さんだって見ましたよね!?」

 

「でも、復興局の人が初瀬ちゃんは死んだって……」

 

「城乃内さんはそれを見たわけじゃないんですよね?」

 

「そりゃそうですけど……」

 

 一葉の顔はいたって本気だ。とても軽くあしらえる雰囲気ではない。

 

「死んだ人間が話せて、戦えるなんて…おかしいじゃないですか。でも、本当は死んでいなかったとしたら……」

 

 そう言うと一葉は立ち上がる。いつの間にか皿の上のケーキはなくなっていた。

 

「あの、一葉さん?」

 

「呉島光実に真相を確かめます。もしユグドラシルが何かを隠してて、今度こそ亮二を消そうとしているなら、何とかして止めないと!」

 

「落ち着いてください!ユグドラシルは潰れたんです。もう、彼らには何かを隠す必要も、隠し通す力もありませんよ」

 

「いるじゃないですか!まだ、守るべき立場も力も持っている人間が……」

 

 一葉が誰のことを言っているのかは、容易に想像がついた。

 

「まさか……」

 

「復興局局長、呉島貴虎。そしてその弟、呉島光実…彼らならやりかねませんよ。事実、呉島光実は亮二を捕まえようとしたじゃないですか!」

 

 そんなはずはない。一葉は手っ取り早く悪役を誰かに押し付けたいだけだ。城乃内はそう考えながらも、初瀬が本当に死んでいないなら、そんな想像をしてしまう。

 

「今、私と亮二の味方になってくれるのは城乃内さんだけなんです!お願いです。力を貸してください……」

 

 一葉の懇願を跳ねつけるだけの気力は、もう城乃内には残っていなかった。

 

「ミッチに話を聞くだけですよ。アイツが、初瀬ちゃんを抹殺しようとしているなんて思い込みだけは絶対に言わないで下さい」

 

「……わかりました」

 

 一葉は少しだけ不満そうだが、城乃内もこれ以上譲歩することはできない。二人はソファーで寝ているザックを起こして阪東に店を出ることを電話で伝えると、彼を連れてドルーパーズを後にした。

 

 

3.

 

 沢芽警察署の捜査本部の時計は7時半を回っていた。

 桜井はたった今仕入れた情報を光実に伝える。

 

「戦極凌馬のパソコンの解析だが、12時まで待ってほしいということだ」

 

「そうですか……」

 

 光実はいつの間にか用意されたパイプ椅子に座りこむ。平静を装ってもは苛立ちを隠せない。そんな彼に、桜井は一枚の紙を差し出す。

 

「今朝、東京の聖都大学付属病院が提出した失踪届だ」 

 

 失踪者の欄を見ると光実は目を細める。そんな彼に、桜井は話を続ける。

 

「局長の報告通り、初瀬一葉は3年前にインベスに襲われて以来寝たきりだった。襲われたときに植え付けられたヘルヘイムの胞子の除去の目処は、未だに立っていないそうだ。そんな彼女が昨夜、病室から姿を消したらしい」

 

 貴虎からの連絡で、初瀬一葉が植物状態だったことは、光実を初め捜査本部の全員が知っている。

 いままで植物状態だった彼女が、急に失踪したのはどういうわけか。

 光実が頭の中で情報を整理していると、自分のスマートフォンが振動しているのに気付く。

 城乃内からの電話だった。光実はすぐに電話に出た。

 

「どうかした?」

 

『一葉さんが初瀬ちゃんについて聞きたいことがあるらしいんだ。今から沢芽警察署に行っていいか?ザックも一緒に』

 

 光実は少し黙り込むがすぐに口を開く。

 

「わかった。警察署に着いたら受付で待ってて」

 

 光実は電話を切ると前のめりになって、吐き捨てるように呟く。

 

「初瀬一葉、あなたはいったい何者なんだ……!」

 

 




第7話、いかがでしたでしょうか?
次回本編を投稿できるのは8月頃になると思います。
続きを楽しみにしている方がいましたら、申し訳ありません。
皆さんの感想もお待ちしています。
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