仮面ライダー鎧武 ― グリドン外伝 ―   作:たかだや

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沢芽警察署に向かう城乃内とザック、そして一葉(いちは)。一方、彼らを待つ光実と桜井は……


第八話 『Point Of No Return』

1.

 

 城乃内からの通話を終え、光実はその内容を桜井に伝える。

 

「城乃内たちが来るそうです。初瀬一葉(はせいちは)も一緒に。受付で待つように言っておきましたよ」

 

「初瀬一葉の狙いが分からない以上、彼女を問いただすのは得策じゃないな」

 

 捜査本部の判断で一葉には既に見張りがついている。しかし、事情を知らないアーマードライダーの二人を捜査本部に連れてきて事情を説明しなくてはならない。

 一葉の現状が分かっていない以上アーマードライダーと彼女を引き離して、警察署内で遠巻きから監視するというのは危険だ。

 誰かが近くで彼女を監視できないか。そう考えていた光実と桜井の目の前に、ちょうどいい人物が現れた。

 

「真倉君、ちょっと来てくれるかな?」

 

「なんですか?」

 

 桜井に呼び止められた真倉はあからさまに不機嫌になる。ここまで気持ちが表にでる人間も珍しい。

 こういう人間ほど交渉相手としては抱き込みやすい。光実は少しだけ口元を緩ませる。

 

 

「初瀬一葉の顔、知ってるよね?もう少しで受付に来るみたいなんだが、彼女を監視してもらえるかな?」

 

「自分地域課ですよ?なんでそんな刑事みたいなことしなきゃならないんですか!」

 

 桜井の申し入れに、真倉は即座に異を唱える。真倉が言葉をつづける前に光実が口を挟む。

 

「警備課の人や刑事と違って、警戒されずに近くで監視できるからですよ。堂々と護衛だと言えば良いんです。植物状態だった件がなくても、彼女は東京で初瀬亮二と接触したと言っているんですよ?彼女が事件にどう巻き込まれているか分からないから、身の安全を確保したいと言えば良いんですよ。上には僕たちから話しておきます」

 

「はぁっ!?」

 

 光実の言葉に、真倉は明らかにいら立っている。冷静さを欠いているなら、もう丸め込むのは容易い。そこで桜井が話を少しそらす。

 

「須藤から聞いたよ?君優秀らしいじゃない」

 

「あの人の勝手に振り回されてるだけです!自分は地域課で、退官まで平和にしたいんですよ」

 

「やってくれないと。君を彼と同じ刑事課に推薦しちゃうよ?」

 

 桜井は急に無表情になって、真倉に詰め寄る。

 光実は背もたれに寄りかかって、言葉をつないだ。

 

「そういうお話を跳ねつけると、今の職場には居づらくなるでしょうね?」

 

 余談だが、桜井や光実にそんな権限はない。しかし、この場で手早く真倉を丸め込めれば、後の処理はどうとでもなる。そう考えた二人の対応にはまるで容赦がない。

 桜井も光実も、恐ろしいほどに無表情だ。真倉は背筋が寒くなるのを感じた。

 

「やりますよ……やりゃあイイんでしょ!」

 

 真倉は半ばやけくそ気味に、復興局コンビの依頼を引き受けた。

 

 

2.

 

 真倉への脅迫が終わったころ、城乃内、ザック、一葉の三人は二度沢芽警察署に足を踏み入れた。

 昼間よりも人の往来が激しい。元々警察署は日中よりも夜間の方が騒がしいのだが、時々警察官同士の言い争いも聞こえる。恐らく近くの警察署や県警本部からも応援が来ているのだろう。外の寒さとは打って変わって署内は熱気で満ちている。

 受付を終えると城乃内は思わず声を漏らす。

 

「なんか、蒸し暑いですね……」

 

「上着、いったんお持ちしましょうか?」

 

 一葉は気を利かせたのか暑さに顔をしかめた城乃内に声をかける。

 

「あっ、じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「お前よくそんなんでパティシエやってられるな?厨房の暑さってってこんなもんじゃないだろう?」

 

 城乃内が自分のダウンコートを脱いで一葉に渡すと、ザックが涼しい顔で彼をからかう。

 

「仕事するときはそういうの感じなくなるんだよ!」

 

「さすが全国洋菓子コンクールで1位に輝いたパティシエ!言うことが違うな~」

 

「お前絶対バカにしてるだろ……!」

 

 城乃内がザックにガンを飛ばすが、はっきり言って全く怖くない。一葉は思わず笑いを漏らした。

 

「なんで笑ってんですか!?」

 

 城乃内が今度は一葉に突っかかると、一葉は笑いながら答える。

 

「すいません……顔が面白くて……」

 

 沈黙する城乃内、腹を抱えて笑うザック、なお笑い続ける一葉。

 殺伐とした沢芽警察署で、この三人だけが完全に浮いている。

 

「警察署であまり騒がないでね」

 

 その声に城乃内たちが振り返ると、そこには苦笑いを浮かべた光実がいた。後ろには真倉もいる。

 

「おうミッチ!」

 

「待たせてごめんね」

 

 光実はザックの軽い挨拶に答えると、一葉に顔を向ける。

 

「ところで、お話って何ですか?」

 

 一葉は先ほどとは打って変わって、真剣な顔を光実に向ける。ほとんど睨みつけているといってもいい。

 

「あの……亮二は本当に一度死んだんですか?」

 

「はい。確かです」

 

 光実が手短に答えるが、一葉もこのまま引くつもりはないようだ。

 

「今日二回も亮二を見ました。あなたも見ましたよね?亮二が死んでたらそんなことありえないはずです」

 

 一葉の口調がだんだんとキツくなる。彼女の態度に耐えかね、城乃内が口を挟む。

 

「なんか、初瀬ちゃんが亡くなった証拠とかはないの?」

 

「現場の映像が残ってるんだ」

 

 光実の答えに、城乃内も(まゆ)(ひそ)める。そんな映像があるというのは初耳だった。

 

「映像?」

 

「町の防犯カメラとユグドラシルの調査班が記録した映像だよ。初瀬亮二さんがインベスになった瞬間も、彼がユグドラシルの人間に……倒された現場も写されていた」

 

「殺されたんです!」

 

 一葉は光実の目を見据えて言い放つが、光実はそれに構わず話を続ける。

 

「だから彼が亡くなっていることは間違いありません」

 

 この言葉を聞くと、一葉は光実に詰め寄る。

 

「その映像、私に見せてください」

 

 今度は光実が一葉を見据える。城乃内はこの状況に違和感を覚えた。昼までと異なり、今の光実からはわずかに一葉に対する敵意が感じられる。

 

「できません。映像は復興局の機密情報です」

 

「アナタ達には私に見せる義務があるはずです」

 

 一葉は語気を強めて光実を睨みつけ、光実もその目を見返す。先に目をそらしたのは光実だった。

 

「うちの情報管理課に問い合わせてデータを送らせます。説得に時間がかかるので少し待っていてください。それから…」

 

 光実は今度は、城乃内とザックに目を向ける。

 

「城乃内とザックには捜査本部に来てもうよ。現状を把握してもらいたい」

 

「おう……」

 

「わかった」

 

 城乃内とザックは急に話を振られ、戸惑いながらも返事を返す。

 

「なら私もっ…」

 

「事件関係者の親族とは言え一般人を捜査本部に入れることはできません。初瀬さんはさっきの小会議室で待っていてもらいます」

 

 光実は一葉の申し入れを即座に却下する。

 

「…わかりました」

 

 一葉は光実から城乃内に視線を向け、預かっていたダウンコートを差し出す。城乃内が受け取ろうとすると、一葉は城乃内のシャツの袖をそっと掴んだ。

 

「一葉さん?」

 

「亮二のこと、お願いします……!」

 

 一葉は少しうつむきながら弱弱しく呟いた。

 

「……はい!」

 

 城乃内がそういうと、一葉は彼に深く頭を下げる。

 

「ご一緒します」

 

 そのまま小会議室に向かおうとする一葉に、真倉が声をかける。一葉は即座に光実に目を向けた。

 

「真倉さんはあなたの護衛役です。あなたはこの事件に何らかの形で巻き込まれている可能性があります。沢芽市のインベスの駆除に手を焼いているはずの弟さんがわざわざ様子を伺うくらいですからね。念の為に安全の確保をしたいという捜査本部の意向です」

 

「じゃあ…お願いします」

 

 光実の説明を受けて、一葉は事務的に真倉に頭を下げる。真倉も軽く頭を下げ一葉を再び小会議室に案内する。

 

「僕たちも行こうか」

 

 まだ戸惑っている様子の城乃内とザックを連れ、光実は捜査本部に向かって歩き出した。

 

3.

 

 城乃内たちが捜査本部に入ると、その雰囲気は異様だった。パソコンが大量に置かれており、人の往来も激しい。タバコと汗の匂いが充満していて、むさ苦しい。

 桜井がいるデスクに着くと、光実は単刀直入に話を始めた。

 

「この事件では不確定要素が4つある。1つ目は、一昨日からクラックを沢芽市に作り続ける存在。2つ目は、死んだはずなのにクラックの発生場所に現れる初瀬亮二。3つめは彼にドライバーやロックシードを提供している存在。そして最後が、初瀬一葉だ」

 

「やっぱり」

 

 光実の話を聞いていた城乃内が声を漏らした。

 

「さっきからミッチの一葉さんへの態度が変だと思ってたんだ。で?なんで一葉さんが不確定要素なんだ?」

 

 ザックも城乃内と同じことを感じていたのか、光実に目で話の続きを促す。

 

「さっき兄から報告があった。彼女は3年前のフェムシンムの侵攻の時にインベスに襲われて以来、植物状態だったらしい。城乃内に見せてもらった名刺の会社に問い合わせても、契約は去年打ち切りになったと言われたよ。おまけに今朝方、初瀬一葉が入院していた病院が彼女の失踪届を警察に提出している」

 

「どういうことだよ」

 

 ザックが驚愕の声を漏らすが、この場で一番驚いているのは城乃内だった。

 城乃内が衝撃に言葉を失っていると、光実が話を続ける。

 

「今は真相を知るための情報が集まっていない。真倉さんに見張り役を頼んだから、今のところ彼女については保留だ」

 

「保留って、そんなの本人に直接聞けばいいだろ!」

 

 光実の見解に城乃内が嚙みつくが、それでも光実は動じない。

 

「彼女は会社帰りに初瀬亮二に着けられていた、なんて嘘をついた。つまり、僕たちを騙して何かしようとしてる。彼女の手札がわかっていない状況でヘタにつつけば、せっかくの手がかりを失う可能性もある」

 

 城乃内が押し黙ると、光実は説明を再開する。

 

「そこで今、警察と復興局が探している手掛かりが二つある。一つめはクラックを作っている元凶について。もし僕の推測が当たっているなら、僕たちの出る幕じゃないけどね」

 

「今回の黒幕の目星がついているのか?」

 

 ザックが期待の目を向けると、光実はうなずいてそれに答える。

 

「まだ裏付けはないけどクラックを開いているのはリンゴのロックシードの所有者、もしくは過去に使用した者だと思う」

 

「リンゴのロックシードって、戦極凌馬が作った知恵の実の模造品だったよな?」

 

 城乃内はメガネの位置を指先で軽く直すと、光実に確認を取る。

 

「そう。犯人はクラックの発生場所は選べても、発生時間は自由に選べていない。可能性は二つ。一つは犯人が知恵の実の力を引き出せていない可能性。でも、そもそも資質のないものが知恵の実の力を手に入れることはできない。戦極凌馬がそうだったようにね。もう一つの可能性は、知恵の実そのものが不完全なものである可能性。つまり犯人の力がリンゴロックシードのような知恵の実の模造品か、紘汰さんが持ってた極ロックシードのように知恵の実の欠片によるものかなんだ。もし黒幕がリンゴロックシードの力を持つ者なら、戦極凌馬のパソコンから犯人を示す証拠が見つかるかもしれない」

 

「見つからなかったらどうするんだ?」

 

 城乃内の問いかけに、光実は即座に答える。

 

「防犯カメラに初瀬亮二と一緒に写ってたりしたら話は別だけど、現時点で洗い出すのは困難だろうね」

 

「その二つの他に本当に可能性はないのか?」

 

 今度はザックが疑問の声を上げた。

 

「前例のない仮説を立てることはいくらでも出来るよ。でも今は最も可能性のある仮説の裏付けをする方が効率的だ」

 

 光実の話を聞いても、城乃内はあまり釈然としない。ロックシードやヘルヘイムの専門的な知識がないのだから当然かもしれないが、疑問が次々に出てくる。

 

「前例って言っても、リンゴロックシードの起動実験で狗道供界は暴発で消滅したんだろ?」

 

「貴虎兄さんの報告ではかつて他のリンゴロックシードの使用者が自在にクラックを開いていたらしい。駆紋戒斗についてもオーバーロードになるより前にリンゴロックシードを使用していたことが分かったんだ」

 

「戒斗が……?」

 

 ザックが声を漏らす。

 

 今日は知らなったことが、随分日の目を見る日だな。

 城乃内はどこか他人事のようにそう思った。

 

「狗道供界の前例から分かる通り、リンゴロックシードは使用者の肉体に大きな影響を及ぼす。貴虎兄さんが遭遇したリンゴロック―ドの使用者も、後にヘルヘイムの植物の成分に毒されて遺体で発見されたんだ。戒斗がオーバーロードになった後にクラックを自在に開けるようになったのも、リンゴロックシードの影響が身体に残っていたからだと考えれば辻褄が合う」

 

「でも、そんなにリンゴロックシードを使った人間がいるなら洗い出すのも時間がかかるんじゃないか?」

 

 ザックが光実に疑問を投げかける。

──この男は本当にこの説明についていけているのだろうか。──

 城乃内はいぶかしがりながら光実の話に聞き入る。

 

「黒の菩提樹の一件の時に、戦極凌馬のビデオレターは見たよね?彼はリンゴロックシードの量産やバージョンアップには否定的だった。彼が製造したリンゴロックシードは必要最小限の数だと思うんだ。だから、もし今回の一件の黒幕がリンゴロックシードの使用者なら、戦極凌馬のパソコンのデータに手掛かりがあるはずだ」

 

「だから俺たちに出る幕はないってことか…」

 

 城乃内は光実の話を理解できているような気になってきた。それが自分でも不思議で仕方ない。

 

「いま復興局で戦極凌馬のパソコンを解析して、リンゴロックシードのファイルを探しているんだ。相変わらず、セキュリティを突破するのに手間取ってるけどね」

 

 光実はそこで少し息を呑み、顔を少し険しくする。

 

「もう一つの手掛かりが初瀬亮二だ。彼は一度死んだはずなのに蘇ってインベスと戦っている。つまり、狗道供界と同じだ。クラックを開いているのがリンゴロックシードの持ち主なら、その第一候補は間違いなく彼だ」

 

「初瀬ちゃんはインベスと戦ってたんだぞ!?そもそも…クラックを開いて何の得があるんだ!?」

 

「それはまだ判断できないよ。いずれにしろ、彼が重要参考人であることは間違いない。彼の話を聞ければ事件の全容の解明は一気に進む。そして、初瀬亮二を見つけるには警察の人海戦術で探すのが一番効率的だ。彼が見つかり次第、僕たちアーマードライダーが出動して彼の身柄を拘束する」

 

「身柄を拘束って…」

 

 城乃内は自分の仲間が一体何を言っているのか、今度こそ見失いそうになる。

 

「彼が抵抗するようなら、多少手荒な真似をすることになるだろうね」

 

 城乃内も我慢の限界だった。無意識に自分の中から叫び声があふれ出る。

 

「だから……!いくら何でもやりすぎだって言ってるだろ!」

 

「僕は本気でこの町の人たちを守りたいんだ!」

 

 光実も声を荒げて、城乃内に詰め寄る。

 

「君はなんの為にココにいるの?初瀬亮二を救うため?悪いけど、僕はこの町を救うために君をココに呼んだんだ。それに協力できないなら今すぐベルトを置いてこの部屋から出て!」

 

 城乃内と光実は、しばらく無言でにらみ合った。

 気付くと、この部屋の全員が二人に視線を送っている。

 城乃内は周囲の視線には構わず、光実の目をジッと見つめて口を開いた。

 

「わかったよ。俺だってもう犠牲者を出したくない」

 

 言葉とは裏腹に、城乃内は光実を睨み続ける。今ここを追い出されたら初瀬を救うこともできない。

──今は、光実に従うしかないのか。──

 城乃内は自分の無力さに毒づいた。

 

「いざとなったら君も初瀬亮二と戦う。約束できる?」

 

「ああ…その時は俺も初瀬ちゃんと戦う」

 

 城乃内がそう答えると、光実の携帯が鳴った。光実は少し携帯を操作して、眉を顰める。

 

「復興局から初瀬亮二が亡くなったときの映像が届いた、一葉さんにそれを伝えに行く」

 

──あれ?交渉に時間がかかるって言ってなかったか?──

 城乃内がそう言おうとすると光実が睨んでくる。

 城乃内は軽くため息を吐き、光実に続いて捜査本部を後にした。

 

4.

 

 城乃内と光実、ザック、桜井が小会議室の前に着くと、目の前の通路から一葉と真倉が部屋にやってきた。一葉は目元を赤く腫らしている。

 

「何かあったんですか…?」

 

「なんでもありません」

 

 城乃内の問いかけに、一葉は目も合わせずにはぐらかす。

 いったい何があった……?

 城乃内は困惑しながらも、小会議室に入る一葉に続く。全員が部屋に入ると光実は自分の鞄からタブレットを取り出した。

 

「今から映像をお見せします。初めに言っておきますが、映像をあなたのメディアに移したりすることはできません」

 

 光実は一葉の様子を観察しながら声をかける。

 

「構いません」

 

 一葉がそう返事をすると、光実はタブレットを操作して動画の再生を始めた。城乃内も思わず画面を覗き込む。

 城乃内につられて画面を見たザックは目を見開き、呟いた。

 

「戒斗、紘汰…」

 

 画面にはが三人のアーマードライダーが写っている。一人は呉島貴虎が変身した斬月・真。

 他の二人はオレンジのアームズを纏ったアーマードライダー・鎧武、バナナのアームズを纏ったライダー・バロン。当時ビートライダーズとして活動していた葛葉紘汰と駆紋戒斗が変身したライダーだ。

 カメラは三人のライダーを捉えているが彼らとは別の方向から声が響く。

 

『もう一度俺に力を……!』

 

 初瀬の声だ。カメラはその声が聞こえたであろう方向に焦点を合わせズームする。初瀬はヘルヘイムの果実を貪っていた。その目は焦点が定まっておらず、初瀬の精神は既に満身創痍の状態であることがうかがえる。

 

「初瀬ちゃん……」

 

『おい!吐き出せ!』

 

 斬月・真の叫びも無虚しく、初瀬の体は緑の閃光を放ち、ヘルヘイムの弦が彼の身体を覆う。

 初瀬が姿を変えたインベスは黄土色の頭部、緑の胴体、白い下半身をもっていた。

 その姿はどこかいびつで「怪物」という言葉が城乃内の頭をよぎる。

 

『手遅れか……』

 

 斬月・真はソニックアローを構え、初瀬が鳴り果てたインベスに向ける。そこで真っ先に動き出したのが、鎧武だった。鎧武はソニックアローを構える斬月・真の腕を押さえつけて言った。

 

『そんな武器で撃ったら死んじまうぞ!?』

 

『当然だ!殺さないでどうする』

 

 攻撃を阻止した鎧武に斬月・真は激高する。一葉は画面を見ながら手をきつく握りしめた。

 斬月・真はその場から逃走するインベスを追跡しようとするが、鎧武とバロンがその道を阻む。

 二人のアーマードライダーに斬月・真は言い放つ。

 

『あれはもう人間じゃない。人を襲う怪物だ』

 

「違う……怪物なんかじゃないッ……!」

 

 一葉がそう呟くのと同時に、映像の場面が変わった。

 噴水のある広場で、初瀬が変貌したインベスとサクランボの鎧を纏った暗い緑のライドウェアのアーマードライダーが対峙している。

 サクランボのライダーは、左手に持ったソニックアローの刃でインベスに切りかかった。インベスはアーマードライダーの攻撃をほとんどよけることができない。力の差は画面越しにも明らかだった。

 クランボのライダーの攻撃には一切の容赦がない。仮面の下でどんな表情をしているのか直接見ることはできないが、インベスをいたぶるのを楽しんでいるようにさえ見える。

 

「やめろ」

 

 城乃内は震える声でそう言った。

 しかし、彼の願いが映像に反映するはずもなく、サクランボのアーマードライダーの蹂躙は続く。インベスが弱り果てて跪くと、アーマードライダーはソニックアローを引き絞り、非情に矢を放った。

 矢に貫かれたインベスからは巨大なサクランボのようなエネルギー体が生える。サクランボの実はインベスを挟み撃ち、その攻撃を受けたインベスはたちまち爆散する。爆散したインベスはその亡骸も残らない。

 

そこで光実が動画を止めようとタブレットに手を伸ばすが、一葉の手がそれを制する。

 

 サクランボのライダーが変身を解除すると全身怪しげな黒い服を着た男が現れた。

黒いハットを飄々といじるその男の態度からは、人ひとりを殺した罪悪感は一切感じられない。

 

「シド……!」

 

 城乃内が「シド」と呼んだ男は決して大きな声ではないが確かにこういった。

 

『人を襲う化け物を始末したんだぜ?これはいわゆる正義ってやつだろ?』

 

この言葉を聞くと一葉が手を下す。そこでようやく光実は動画を停止した。

 

「これがあなたたちの正義ですか……」

 

 一葉は冷たく刺すような声で光実に問う。光実が何も言うことができないでいるとさらに言葉を続ける。

 

「もしまた亮二がインベスになったら、あなたはこの男と同じことをするんですか」

 

「はい。そのときは彼を処分します」

 

 光実はわずかにためらったが、はっきりと答える。

 

「あなたたちがどういう人間か、よくわかりました」

 

 一葉はそういうと部屋を出ていった。

 

「ちょっと……一葉さん!?」

 

 城乃内も初めてみる初瀬の死にざまに怒りとも悔しさともわからない感情を抱いていた。

 一葉が部屋を出ていったことでようやく城乃内は我に返る。廊下に出ると一葉の背中が見える。

 

「一葉さん!どこ行くんですか」

 

「城乃内さんはどうするんですか……」

 

 一葉は背を向けたままか細い声で城乃内に問いかける。

 

「えっ……?」

 

「城乃内さんも、亮二を無理矢理捕まえて、殺すんですか!」

 

背中越しにも一葉が震えているのが分かる。しかし彼女はいったい何を言っているのだろう。城乃内が混乱して何も答えることができずにいると、一葉は城乃内に向き直る。

彼の目の前まで歩み寄ると、一葉は城乃内が手で抱えているのダウンコートの内ポケットに乱暴に手を突っ込んだ。

 

「一葉さんっ!?」

「……ごめんなさい」

 

そういってポケットから引き抜かれた一葉の手の中にあったのは見覚えのない小さな携帯端末だった。「通話中」の表示と一葉の名刺に書いてあった電話番号がディスプレイに写っているのを見た瞬間、城乃内は頭の中がかき乱されるような感覚に襲われる。

 

「……っ!?」

 

 ダウンコートを自分に渡したときの一葉の様子、捜査本部で光実に言った自分の言葉、小会議室の前で見た一葉の泣きはらした顔、すべての記憶が走馬灯のように城乃内の頭を駆け巡った。

 

           『私と亮二の味方になってくれるのは城乃内さんだけなんです!

 

 

『亮二のこと、お願いします…』

       

            『ああ…その時は俺も初瀬ちゃんと戦う』

 

『なんでもありません』

 

              『城乃内さんも亮二を無理矢理捕まえて…殺すんですか!』

 

 一葉に話を聞かれた。彼女はどこまで知ってる?一体どこまであの話を聞いた?

 様々な言葉が思い浮かんでは消えていく。

 

「一葉さん、俺は」

 

「信じてたのに……」

 

 城乃内がやっとの思いでしぼりだした言葉に返されたのは、拒絶だった。

 一葉は、今まで一度も見せたことがない目で城乃内を見据えている。その目に秘められた感情は、失望だろうか、悲しみだろうか、怒りだろうか。

言葉を失っている城乃内に、一葉は言葉を続けた。

 

「騙したことは謝ります。でも、城乃内さんが一番卑怯です!」

 

 一葉はそれだけ言うと走り出す。真倉も彼女を追って走り出したことがなんとなくわかる。城乃内はただ呆然と立ち尽くしていた。

 

5.

 

 時刻が十一時を回ったころ、沢芽市ではにわか雨が降っていた。真倉から逃げ切った一葉は、雨宿りのために屋根のある裏通りを一人歩いていた。雨が降っているのに屋根があるせいか、自分の足音が響いて聞こえる。しかし、突然自分のモノとは別の足音が響いた。

 

「亮二ね。探したよ」

 

 一葉が振り返ると、そこには警察と復興局から逃げているはずの弟、初瀬亮二が佇んでいる。

 

「よくわかったな」

 

「わかるよ。何年一緒に暮らしたと思ってるの?」

 

 初瀬の後ろには限定クラックが開いており、その奥にはチューリップホッパーが待機している。

 

「今は何も言えねぇけど、とにかく入れよ」

 

「……うん」

 

 一葉がクラックを通ると、周囲には不思議な植物で覆われた森が広がっていた。一葉が周りを見回している間に、弟の亮二は彼女を追い越して歩いていく。

 いつの間にか、ロックビークルは錠前の形に戻り初瀬の左手に握られていた。

 

「遅れるなよ?」

 

 亮二がそういって振り返ろうとすると、一葉は彼を背中から抱きしめた。

 

「姉貴……?」

 

「何も言いたくないならそれでもいいよ。あなたは私が守る。今度こそ、何があっても!」

 

「いいから離れろよ……」

 

 初瀬が迷惑そうに一葉の手を振りほどこうとしていると後ろから足音が聞こえる。二人が振り返ると5体のインベスが二人に迫ってきていた。

 

「インベス……!」

 

「姉貴はさがってろ!」

 

 戦極ドライバーを装着した弟を他所に一葉は足元に落ちている太い木の枝を拾い上げる。

 

「おい!姉貴、よせ!」

 

 亮二の制止を無視して一葉はインベス軍団に向かって走りだした。

 

「やああああ!」

 

 赤いライオンインベスに枝の一撃を振るうも、まったくダメージは見られない。

 ライオンインベスに反撃の拳が一葉を襲う。しかし、その拳が一葉にあたる前に、初瀬の飛び蹴りがライオンインベスを吹き飛ばしてた。

 

「姉ちゃんじゃ無理だ!下がってろ!」

 

 一葉は目を充血させながら、弟の目を見据える。

 

「もう二度とあなたを一人ぼっちにしないって決めたの!あなたは私に残されたたった一人の家族だから…」

 

 初瀬は一葉に駆け寄り、あきらめたように顔を下げた。

 初瀬が一葉の腹部に手をかざすとゲネシスドライバーが一葉の腰周りに生成される。

 

「亮二……?あなた一体……」

 

「話はあとだ。それよりも姉ちゃん、無茶するなよ。死んだら許さねぇからな」

 

 初瀬はそういうとゲネシスコアが付いたマツボックリエナジーロックシードを手渡す。一葉はそれを受け取ると、微かに笑みを浮かべて答える。

 

「言ったでしょ?もうあなたを一人にはしない」

 

 一葉の言葉に、初瀬は口元を強張らせる。

 初瀬は何かを振り切るように、声を張り上げた。

 

「うっし!じゃぁいくか!」

 

 二人は錠前を解錠しながら声を揃え、叫ぶ。

 

「変身!」

 

 初瀬は戦極ドライバーにロックシードをセットし、ブレードを倒す。

 一葉もゲネシスコアごとロックシードをドライバーにはめ、上がった錠前のハンガーを下しシーボルトコンプレッサーを押し込んだ。

 

『マツボックリアームズ!一撃!インザシャドー!』

 

『マツボックリエナジーアームズ!ハッ!ヨイショッ!ワッショイ!』

 

 ベルト以外は全く同じ姿をした二人の黒影の変身が完了すると、弟の黒影がインベスに啖呵を切る。

 

「俺はアーマードライダー黒影!そして、こいつは『黒影・真』!」

 

「『こいつ』って……『お姉さん』でしょ!」

 

 血を分けた二人の黒影がインベス達の前に並び立った。

 

 




 続きを待ってくれていた皆様、本当にありがとうございます。物語も後半を迎え、タイトル通り後戻りの出来ない状況になって来ました。
 この先、城乃内がどんな選択をしていくのか、どうか見届けて頂きたいです。
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