南の島の大冒険!! -Alola Generation-   作:natsuki

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短編シリーズ 「グズマさんとムーン」
#01 呼び名


「ねえ、グズマって何でも壊しちゃうの?」

 

「おうよお! ぶっ壊してもぶっ壊しても手を緩めないのがグズマ様だぜえ! ってかなんでお前ここにいるんだよ!? まさか毎回下っ端を倒してるんじゃないだろうな!!」

 

「えへへー。だって毎回ポータウンのスカル団の皆、バトルしてくるんだもん」

 

「してくるんだもん、じゃなくてだな……」

 

 ムーンの言葉に頭を掻くグズマ。

 

 しかしながらそれは手を焼いているようで、前からいつもこんな感じだから仕方ないといった諦めモードにも見える。

 

「ねえねえグズマ? 話聞いてる?」

 

「おうよお! ……じゃなくてだな、もうちょっと手加減てものをしてやってくれよ。お前、仮にもアローラのチャンピオンだろ。今はいろいろと大変なんじゃないのか?」

 

 グズマはムーンが忙しいことを知っていた。

 

 とはいえそれは本人から聞くのじゃなくて、風の噂や旧友のククイ博士から手紙をもらって状況を知る程度なのだが。

 

 半年前、ムーンがポケモンチャンピオンになってアローラという地方は大きく変わっていった。

 

 ジムを作るという計画もあったが、それじゃほかの地方と変わらない、アローラはアローラなりのものが無いとダメだとムーンが反対してジムの計画は頓挫した。

 

「……それにしてもよお、どうしてお前はジムの計画を受け入れなかったんだ? 別に、あれはお前には直接関係の無い話だろ。わざわざお前が介入することは……」

 

「ムーン」

 

「ん?」

 

 ムーンはグズマの口に人差し指を当てる。

 

「ムーンって呼んで。お前、じゃなくて」

 

「…………ムーン」

 

「うん?」

 

「あー、もう! べつにいいだろ、名前くらい!!」

 

 グズマは頭を掻いて、掻きむしって、ムーンを見る。

 

 しかしムーンは悪戯っぽくグズマのほうを見るだけだった。

 

 グズマはそれを見て、結局何も言えないのだった。

 

「私もどんどん暇じゃなくなっちゃうんだよね」

 

 ムーンは話題を変えた。

 

 それは今の彼女の近況についてだった。

 

「チャンピオンになったから、しまキングやクイーンとの調整や会合に参加する必要もあるし、バトルツリーで挑戦状を叩きつけられたカントーの二人組が居るし……おっと、そんな言い方しちゃだめだったよね。だって『先輩方』なんだから。それについては、グズマ、何か聞かれたら無視してね? オフレコ、ってやつだよ」

 

 しー、とわざとらしく口で言いながら人差し指を口に当ててムーンは言った。

 

 グズマはそれを見て、ただ何も言えなかった。

 

 ムーンの話は続く。

 

「まあ、それはいいんだよ。けれど、これからずっと忙しくなるようだったら……グズマと会う時間も少なくなるなあ、って」

 

「別にそれくらいいいじゃねえかよ。お前、俺と会うたびに下っ端とプルメリをぶっ潰すつもりかよ」

 

「ムーン」

 

「……ムーンは俺と会うたびに下っ端をぶっ潰すつもりかよ?」

 

「経験値になるから」

 

「経験値扱いかよ」

 

 ムーンはベッドに腰掛ける。

 

「だから……前々から思っていたけれど、そんな邪険に扱ってほしくないんだよ」

 

「あ?」

 

「だーかーら、言っているじゃない。グズマはどうして私のことを邪険に扱うの?」

 

「別に……邪険に扱うつもりはねえよ」

 

「じゃあ、前見てそれを言って」

 

 グズマはずっとムーンの目を見ずにそれを言っていた。

 

 だからムーンは敢えてグズマにそう言った。

 

 グズマは……恥ずかしがっていたようだったが、やがてゆっくりとそちらを向いて、

 

「……解ったよ。次からは邪険に扱わねえ。その代わり、下っ端をボッコボコにするのはやめろよ」

 

「えー」

 

「交換条件! それでいいだろ。解ったらさっさと帰れ」

 

 しっしっ、と手で払いながらグズマは言う。

 

 しかしムーンはそれが気に入らない様子で、

 

「別れの挨拶って、もっといいのがあるんじゃない?」

 

「……ほんと、お前って」

 

「ム・ー・ン!」

 

「……ムーンって我儘だよな」

 

 長い溜息を吐いて、グズマは言った。

 

「また会おうぜ、ムーン」

 

「うん、またね。グズマ」

 

 ムーンは立ち上がって、手を振って部屋を後にした。

 

 グズマはそれにぎこちない感じで合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 後日談。

 

 というか、ムーンが部屋を後にした直ぐの話。

 

「……グズマ、ほんとあんたあの子に弱いよね」

 

「プルメリ。突然やってきたと思ったら……今の俺にそれは傷に塩を塗る感じだぞ?」

 

「あんたにはそれくらいがちょうどいいよ」

 

 プルメリはそれだけ言って部屋を後にした。

 

 プルメリの顔がどこか赤かったようにも見えたが、グズマにはそれが何の意味だったのかはさっぱり解らないのだった。

 

 


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