南の島の大冒険!! -Alola Generation- 作:natsuki
ククイ博士が通信機を何度か叩いてみるものの、砂嵐に包まれた画面が元に戻ることはなく、やがて博士は「仕方ないね」と肩を竦めながら電源を落とすことにしたようで、その場に流れていた僅かな緊張感も、まるで南国を吹き抜ける風に攫われるように消えていき、研究所には再び穏やかな時間が戻ってきていた。
「壊れちゃったのかな」
ハウが首を傾げる。
「この前まで普通に動いていたんだけどね」
博士も困ったように笑う。
「まあ、機械だからね。調子が悪くなる日くらいあるさ」
「でも、博士」
ムーンが通信機を見つめたまま口を開く。
「さっき、『国際』って聞こえませんでしたか」
「ああ」
博士は頷く。
「確かにそんな言葉が聞こえた気もするけれど……雑音だったからね。あまり気にしなくても大丈夫だと思うよ」
そう言われればそんなものかもしれない。
僕もそれ以上深く考えることはなかった。
アローラへ来てまだ数日。
知らない言葉や文化に触れるたび驚いている僕にとって、通信機の故障など、きっと些細な出来事だったのだろう。
「ろとろとはどう思う」
ふと僕は図鑑へ目を向けた。
しかし。
返事がない。
「ろとろと」
もう一度呼ぶ。
ようやく図鑑は身体を震わせた。
「……考え事をしていたロ」
「珍しいね」
「ボクだって考えるロ」
ぷいっと画面を逸らす。
何となく機嫌を損ねてしまったらしい。
「ロトムってそんな性格なんですか」
ムーンが苦笑する。
「いや」
ククイ博士は腕を組んだ。
「たぶん、この子だけだと思う」
「博士」
「はい」
「責任を取るロ」
「まだ言うのかい!」
研究所に笑い声が広がる。
ろとろとはころころと宙を回りながら笑い続けていた。
その姿を見ていると、不思議とこちらまで笑顔になってしまう。
ポケモン図鑑なのに。
図鑑というより、一人の旅仲間だった。
旅とは目的地へ向かうだけのものではない。
その途中で誰と出会うか。
何を見るか。
何を感じるか。
そういう積み重ねが旅なのだと、お父さんも昔言っていた気がする。
アローラへ来る前は、その意味がよく分からなかった。
けれど。
今なら少しだけ分かる。
ハウが居る。
ムーンが居る。
ニャビーが居る。
そして、ろとろとまで居る。
まだ始まったばかりの旅なのに、毎日が新しい発見ばかりで、一日が終わる頃には昨日までの自分とは少し違う人間になっているような気さえした。
「そういえば」
ククイ博士が思い出したように手を叩く。
「サンくん」
「はい」
「ニャビーとは仲良くなれたかな」
僕は足元を見る。
ニャビーは相変わらず毛づくろいを続けていた。
僕が見ても。
特に反応はしない。
「うーん……」
「難しい顔だね」
「嫌われてはいないと思うんです」
「うんうん」
「でも、好かれている気もしないです」
博士は笑った。
「それでいいんだよ」
「え」
「ニャビーはそういうポケモンだからね」
博士はしゃがみ込み、ニャビーの頭をそっと撫でる。
ニャビーは嫌がる様子もなく目を閉じた。
「信頼っていうのは、一日で出来るものじゃない」
「……」
「毎日少しずつ積み重ねるものなんだ」
その言葉は、不思議と胸に残った。
人間同士でも。
ポケモン同士でも。
きっと同じなのだろう。
「だから焦らなくていい」
博士は立ち上がる。
「明日は大試練だからね」
その一言で。
空気が少しだけ変わった。
ハウも。
ムーンも。
自然と表情を引き締める。
「しまキングとのバトル……」
ハウが小さく呟く。
「負けられないなあ」
「ええ」
ムーンも静かに頷いた。
僕もまた、胸の奥で何かが熱くなるのを感じていた。
初めて手に入れたパートナー。
初めての試練。
そして。
アローラで初めて迎える本気のポケモンバトル。
緊張もある。
不安もある。
だけど、それ以上に楽しみだった。
その気持ちが自然と笑みに変わっていく。
「よし」
ハウが拳を握る。
「今日は早く寝よう」
「賛成」
ムーンが笑う。
「万全の状態で挑まないとね」
夕焼けに染まり始めたリリィタウンを三人で歩きながら、僕は遠くに見える海へ視線を向けた。
夕日を受けて輝く水平線はどこまでも続いていて、その向こうにはまだ見ぬ島々が待っている。
アーカラ島。
ウラウラ島。
ポニ島。
その先には、まだ知らない景色も、まだ出会っていないポケモンもいる。
だからこそ。
この大試練は、その第一歩だった。