南の島の大冒険!! -Alola Generation-   作:natsuki

17 / 18
第十七話 VSしまキング・ハラ②

 ほどなくして、僕たちはリリィタウンへ到着した。

 昨日と同じ舞台。

 けれど、今日はその周囲に多くの人が集まっていた。

 島めぐりを始める子供たちが、しまキングへ挑む。

 それは、この島の人々にとって特別な出来事なのだろう。

 舞台の上にはハラさんが立っていた。

 昨日と変わらない落ち着いた表情。

 僕たちが近づいてくるのを見つけると、両腕を広げて迎えてくれる。

 

「よく来ましたな」

「じっちゃん、おはようー」

「おはようございます」

「おはようございます」

 

 三人がそれぞれ挨拶をする。

 ハラさんは大きく頷いた。

 

「顔を見る限り、皆、覚悟は出来ているようですな」

「もちろんだよー」

「はい」

 

 ハウとムーンが答える。

 僕も遅れて頷いた。

 

「よろしい」

 

 ハラさんは僕たちの後ろへ目を向ける。

 そこにはククイ博士とリーリエ、それからイリマさんが立っていた。

 

「やあ、サンくん」

 

 ククイ博士が手を振る。

 

「調子はどうだい」

「たぶん、大丈夫です」

「たぶんかい」

 

 博士は笑った。

 

「でも、それくらいでいい」

「え?」

「絶対に勝てると思っている人間より、自分が負けるかもしれないと思っている人間の方が、相手をよく見るからね」

 

 それは励ましているのか、それとも本当にそう思っているのか。

 博士の表情から判断することは出来なかった。

 けれど、相手を見る。

 その言葉は覚えておこうと思った。

 

「サン」

 

 リーリエが僕の名前を呼ぶ。

 

「頑張ってください」

「ありがとう」

「ニャビーさんも」

 

 彼女はそう言って、僕の腰につけられたモンスターボールへ頭を下げる。

 僕もボールへ触れた。

 やはり。

 ほんの少しだけ。

 中でニャビーが動いたような気がした。

 

「それでは、大試練を始めましょう」

 

 ハラさんの声が、リリィタウン全体へ響く。

 周囲の人々が静かになる。

 風が止まったように感じた。

 

「本来であれば、挑戦者は一人ずつ戦うものですが、今年は三人同時に島めぐりへ挑むという珍しい年となりました」

 

 ハラさんは僕たち三人を順番に見る。

 

「故に、誰から挑むかは、皆で決めるとよいでしょう」

「俺、最初でもいいよー」

 

 ハウがすぐに手を上げる。

 

「待って」

 

 ムーンがそれを止めた。

 

「どうしたの」

「最初はサンがいいと思う」

「僕?」

 

 突然名前を出されて、思わず聞き返す。

 

「サンはアローラへ来たばかりでしょう」

「それがどうしたの」

「だからこそ、一番最初にアローラの大試練を受けるべきだと思うの」

 

 理屈が分かるような。

 分からないような。

 

「俺も賛成ー」

 

 ハウまで同意する。

 

「サンがどう戦うのか見たいし」

「僕は二人がどう戦うかを見たかったんだけど」

「それじゃ、終わるまでずっと決まらないよー」

 

 確かにそうだった。

 誰かが最初に戦わなければいけない。

 それが僕であってはいけない理由もない。

 

「分かった」

 

 僕は舞台へ上がる。

 一歩。

 また一歩。

 舞台の中央へ近づくたび、周囲から向けられる視線が増えていき、胸の鼓動もそれに合わせるように速くなっていった。

 ハラさんと向かい合う。

 近くで見ると。

 やはり大きい。

 身体も。

 存在感も。

 まるで目の前に大きな岩が立っているようだった。

 

「サン」

 

 ハラさんは静かに僕の名前を呼ぶ。

 

「はい」

「島めぐりとは、強さを示すためだけの旅ではありません」

「……」

「己を知り、ポケモンを知り、アローラを知る。そのすべてを通して、昨日までの自分を越えていくための旅です」

 

 ハラさんはモンスターボールを取り出す。

 

「この大試練もまた、その一歩」

 

 僕もモンスターボールを握る。

 

「君が、君のポケモンとどのような道を歩むのか」

 

 ニャビー。

 僕はまだ。

 君のことを何も知らない。

 何が好きなのか。

 何が嫌いなのか。

 どんな戦い方をしたいのか。

 どうすれば僕のことを信じてくれるのか。

 分からないことばかりだ。

 だけど。

 だからこそ。

 これから知っていけばいい。

 

「我が全力をもって、確かめさせてもらいましょう」

「はい」

 

 僕はモンスターボールを投げた。

 

「ニャビー、お願い!」

 

 赤い光が舞台へ広がる。

 光の中から姿を現したニャビーは、地面へ着地するとすぐに身体を低くし、真正面に立つハラさんを鋭い目で睨みつけた。

 毛づくろいもしない。

 僕の方も見ない。

 今まで見たことがないほど真剣な表情だった。

 戦う気だ。

 ニャビーも。

 僕と一緒に。

 

「よい目をしておりますな」

 

 ハラさんは笑う。

 

「では、こちらも参りましょう」

 

 モンスターボールが投げられる。

 

「マケンカニ!」

 

 飛び出してきたのは、両手に大きな鋏のような拳を持つ紫色のポケモンだった。

 先ほどまで僕の中にあった不安が。

 その姿を見た瞬間。

 すべて消えた。

 いや。

 消えたわけではない。

 考えている余裕がなくなったのだ。

 目の前に相手がいる。

 僕の前にはニャビーがいる。

 今は。

 戦うことだけを考える。

 

「大試練、開始ですぞ!」

 

 ハラさんの声と同時に。

 マケンカニが地面を蹴った。

 その大きな拳を振り上げながら、真っ直ぐニャビーへ迫ってくる。

 

「ニャビー、避けて!」

 

 僕の声に反応して、ニャビーは横へ跳ぶ。

 マケンカニの拳が地面へ叩きつけられ、舞台全体が僅かに揺れた。

 当たっていたら。

 そう考えるだけで、背中に冷たいものが走る。

 

「驚くにはまだ早いですぞ」

 

 ハラさんが腕を振り下ろす。

 

「追いなさい、マケンカニ!」

 

 マケンカニは地面に突き刺さった拳を引き抜くと、すぐにニャビーへ向き直った。

 速い。

 身体の大きさからは想像出来ないほど。

 

「ひのこ!」

 

 ニャビーが口を開く。

 小さな炎が次々と放たれ、マケンカニへ向かって飛んでいく。

 しかし。

 

「受け止めなさい!」

 

 マケンカニは両腕を顔の前で交差させる。

 炎が身体に当たる。

 けれど。

 止まらない。

 煙を突き破りながら、さらに前へ進んでくる。

 

「そんな」

 

 効いていないわけではない。

 身体には焦げた跡が残っている。

 それでも、マケンカニは攻撃を恐れていなかった。

 こちらへ進むことだけを考えている。

 しまキングのポケモン。

 これが。

 大試練。

 

「ニャビー、もう一度避けて!」

 

 僕は叫ぶ。

 けれど。

 ニャビーは動かなかった。

 

「ニャビー?」

 

 マケンカニが迫っている。

 今からでは間に合わない。

 

「どうして……」

 

 その瞬間。

 ニャビーは前へ飛び出した。

 逃げるのではなく。

 自分からマケンカニの懐へ。

 

「ニャビー!」

 

 マケンカニの拳が振り下ろされる。

 しかし、ニャビーの小さな身体はその下を潜り抜け、マケンカニの足元へ入り込んでいた。

 そして。

 鋭い爪を振るう。

 ひっかく。

 マケンカニの身体が僅かに傾いた。

 

「そうか……」

 

 ニャビーは分かっていた。

 避け続けるだけでは勝てないことを。

 僕が命令するよりも先に。

 自分で考えて。

 自分で動いた。

 

「見事ですな」

 

 ハラさんが笑う。

 

「ですが」

 

 マケンカニが身体を捻る。

 

「近づいたからこそ、逃げられぬ攻撃もある」

 

 大きな拳が。

 ニャビーの身体を捉えた。

 

「ニャビー!」

 

 鈍い音が響く。

 ニャビーの小さな身体が宙へ浮かび、そのまま舞台の端まで飛ばされていった。

 地面を転がる。

 一度。

 二度。

 そして、動かなくなる。

 

「……ニャビー」

 

 呼びかける。

 返事はない。

 胸が締めつけられる。

 僕の命令が悪かったのか。

 もっと早く止めるべきだったのか。

 そもそも。

 僕が最初に戦うべきではなかったのか。

 次々と考えが浮かぶ。

 けれど。

 

「サン!」

 

 ハウの声が聞こえた。

 

「まだ終わってないよ!」

 

 分かっている。

 それでも。

 

「ニャビー、もういいよ」

 

 気付けば。

 そんな言葉が口から出ていた。

 

「無理しなくていい」

 

 負けてもいい。

 お母さんもそう言っていた。

 勝つためだけの試練ではない。

 ここまで戦えた。

 それで十分なのかもしれない。

 

「戻っておいで」

 

 モンスターボールを向ける。

 その瞬間だった。

 ニャビーの耳が動いた。

 

「……」

 

 ゆっくりと。

 地面へ爪を立てる。

 身体を起こそうとしている。

 

「ニャビー」

 

 震えている。

 立つだけでも苦しいはずなのに。

 それでも。

 ニャビーは立ち上がった。

 そして。

 こちらを見た。

 初めてだった。

 戦いの途中で、ニャビーが僕の顔を真っ直ぐ見つめたのは。

 その目は。

 まだ終わっていないと。

 そう言っているように見えた。

 

「……戦いたいの?」

「ニャア」

 

 短い鳴き声。

 でも。

 はっきりと聞こえた。

 

「分かった」

 

 僕はモンスターボールを下ろす。

 

「最後まで一緒に戦おう」

 

 ニャビーは前を向く。

 マケンカニもまた、拳を構え直していた。

 力では勝てない。

 速さだけでも勝てない。

 僕はニャビーのことを知らない。

 けれど。

 ニャビーも僕のことを知らない。

 なら。

 今。

 この戦いの中で。

 お互いを知ればいい。

 

「ニャビー」

 

 僕は小さく息を吸う。

 

「次は、君の好きに動いて」

 

 ニャビーの耳が僅かに動く。

 

「僕が合わせる」

 

 ハラさんが目を細めた。

 

「ほう」

 

 マケンカニが走り出す。

 大きな拳。

 真っ直ぐ迫る攻撃。

 ニャビーは動かない。

 僕も。

 まだ命令しない。

 距離が縮まる。

 あと三歩。

 二歩。

 一歩。

 その瞬間。

 ニャビーが身を低くした。

 

「今だ!」

 

 何を命令するのか。

 考えるより先に。

 言葉が出た。

 

「足元へ、ひのこ!」

 

 ニャビーはマケンカニではなく、その目の前の地面へ炎を放った。

 舞い上がる煙。

 マケンカニの視界が塞がれる。

 ニャビーは煙の中へ飛び込んだ。

 姿は見えない。

 けれど。

 分かる。

 ニャビーがどこへ向かっているのか。

 

「右から、ひっかく!」

 

 煙の向こうで。

 鋭い音が響いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。