南の島の大冒険!! -Alola Generation-   作:natsuki

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第十八話 VSしまキング・ハラ③

 

 煙の向こうで。

 鋭い音が響いた。

 

「マケッ!」

 

 続けて聞こえたのは、マケンカニの短い鳴き声だった。

 風に押されるように煙が流れていき、その奥から姿を現したニャビーは、マケンカニの右腕を蹴るようにして距離を取ると、そのまま僕の前へ戻ってきた。

 足取りは決して軽くない。

 先ほど受けた一撃が、身体に残っているのだろう。

 それでも。

 ニャビーの目から戦う意志は消えていなかった。

 

「やった……」

 

 攻撃が通った。

 それだけではない。

 僕がニャビーの動きを見て。

 ニャビーが僕の言葉を聞いて。

 初めて一つの攻撃を作ることが出来た。

 胸の奥にあった不安が、少しずつ別のものへ変わっていく。

 勝てるかもしれない。

 そんな安易な自信ではない。

 今なら。

 ニャビーと一緒に戦える。

 そう思えた。

 

「ほう」

 

 ハラさんは傷ついたマケンカニを見て、それから僕たちへ視線を戻した。

 

「先ほどまでとは、目が変わりましたな」

「……そうですか」

「サンだけではありませんぞ」

 

 ハラさんは笑う。

 

「ニャビーもです」

「ニャア」

 

 名前を呼ばれたニャビーは、警戒するように身体を低くする。

 

「互いに相手を従わせようとしているうちは、力を合わせることなど出来ません」

 

 ハラさんの声は、戦いの最中とは思えないほど穏やかだった。

 

「トレーナーが一方的に命じてもいけない。ポケモンが一方的に動いてもいけない。互いを知り、互いの考えを認め、その上で初めて一つの力となる」

 

 それは。

 僕が戦いながら、ようやく気付き始めたことだった。

 ニャビーは、命令を待つだけのポケモンではない。

 自分で考える。

 自分で動く。

 それを止めて、僕の思い通りに戦わせようとすれば、きっとニャビーの良さは消えてしまう。

 だから。

 僕が合わせる。

 けれど、ただ好きにさせるのでもない。

 ニャビーが作った動きへ、僕が次の一手を重ねる。

 それが。

 僕たちの戦い方なのかもしれない。

 

「ですが」

 

 ハラさんが右腕を上げる。

 

「それを理解しただけで、大試練を乗り越えたことにはなりませんぞ」

 

 マケンカニが大きく拳を鳴らす。

 先ほどの攻撃を受けているはずなのに、その闘志は少しも衰えていない。

 

「参ります」

「ニャビー、よく見て!」

 

 ハラさんが腕を振るう。

 

「グロウパンチ!」

 

 マケンカニが地面を蹴った。

 速い。

 けれど。

 今度は、ただ避けるだけではいけない。

 

「左へ!」

 

 ニャビーが横へ跳ぶ。

 マケンカニの拳が頬のすぐ横を通り過ぎる。

 

「そのまま後ろへ!」

 

 着地と同時に、ニャビーはさらに後方へ跳ぶ。

 マケンカニが追う。

 拳を振るう。

 ニャビーは避ける。

 一度。

 二度。

 三度。

 逃げ続けているように見えるかもしれない。

 けれど。

 僕はマケンカニの足元を見ていた。

 最初は真っ直ぐだった動きが、少しずつ大きくなっている。

 腕を振るうたび。

 身体の重心が崩れている。

 あの大きな拳は強力だ。

 だからこそ。

 何度も外せば、その重さがマケンカニ自身を苦しめる。

 

「もう一度ですぞ!」

 

 マケンカニが右腕を引く。

 大きい。

 これまでよりも、さらに強い攻撃。

 

「ニャビー」

 

 僕は息を止める。

 マケンカニが踏み込む。

 拳が迫る。

 

「今!」

 

 ニャビーが真横へ跳んだ。

 空を切った拳が、そのまま地面へ叩きつけられる。

 舞台が揺れる。

 けれど。

 マケンカニはすぐには拳を抜くことが出来ない。

 

「ひのこ!」

 

 ニャビーが口を開く。

 至近距離。

 炎がマケンカニの身体へ直撃した。

 

「マケンカニ!」

 

 マケンカニの身体が炎に包まれる。

 倒れはしない。

 しかし。

 確実に動きが止まった。

 

「まだだよ、ニャビー!」

 

 ニャビーは僕の声を待たず、すでに走り出していた。

 炎の中へ。

 怯むことなく。

 真っ直ぐ。

 

「ひっかく!」

 

 鋭い爪が、マケンカニの胸元を捉える。

 マケンカニの身体が後ろへ傾く。

 一歩。

 二歩。

 そして。

 片膝をついた。

 

「いける……」

 

 あと少し。

 そんな考えが頭を過ぎった。

 その瞬間だった。

 

「マケンカニ」

 

 ハラさんの声が低く響く。

 

「耐えなさい」

 

 マケンカニの身体が止まる。

 片膝をついたまま。

 拳を地面に押しつけ。

 ゆっくりと立ち上がる。

 

「嘘……」

 

 ムーンの声が聞こえた。

 僕も同じ気持ちだった。

 あれだけ攻撃した。

 何度も炎を当てた。

 ひっかくも通った。

 それでも。

 マケンカニは立っている。

 

「これが、しまキングのポケモン……」

「よくぞ、ここまで追い詰めましたな」

 

 ハラさんは満足そうに頷く。

 

「ですが」

 

 その右手が。

 ゆっくりと胸元へ上がる。

 僕は、その腕にあるものを見た。

 リング。

 イリマさんがスカル団との戦いで見せたものと同じ。

 Zリング。

 

「ここからが、我が全力ですぞ」

 

 周囲がどよめく。

 

「Zワザ……」

 

 ハウが呟いた。

 僕たちはまだ。

 その力を使ったことがない。

 見たことすら。

 イリマさんはあの時、結局使わなかった。

 だから。

 これが初めてだった。

 

「マケンカニ!」

 

 ハラさんが足を開く。

 両腕を胸の前で交差させる。

 そして。

 まるで決められた型をなぞるように、身体全体を大きく動かし始めた。

 拳。

 腕。

 肩。

 腰。

 そのすべてが、一つの流れの中で繋がっていく。

 少し変わった動きにも見える。

 けれど。

 笑えるようなものではなかった。

 動きが進むたび。

 ハラさんの身体から、目には見えない何かが放たれていく。

 空気が震える。

 舞台が軋む。

 マケンカニの身体を、眩しい光が包み込む。

 

「これが……Zパワー」

 

 ろとろとが僕の隣で声を上げる。

 

「トレーナーとポケモンの力を、一つにするエネルギーロ!」

 

 

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