南の島の大冒険!! -Alola Generation- 作:natsuki
煙の向こうで。
鋭い音が響いた。
「マケッ!」
続けて聞こえたのは、マケンカニの短い鳴き声だった。
風に押されるように煙が流れていき、その奥から姿を現したニャビーは、マケンカニの右腕を蹴るようにして距離を取ると、そのまま僕の前へ戻ってきた。
足取りは決して軽くない。
先ほど受けた一撃が、身体に残っているのだろう。
それでも。
ニャビーの目から戦う意志は消えていなかった。
「やった……」
攻撃が通った。
それだけではない。
僕がニャビーの動きを見て。
ニャビーが僕の言葉を聞いて。
初めて一つの攻撃を作ることが出来た。
胸の奥にあった不安が、少しずつ別のものへ変わっていく。
勝てるかもしれない。
そんな安易な自信ではない。
今なら。
ニャビーと一緒に戦える。
そう思えた。
「ほう」
ハラさんは傷ついたマケンカニを見て、それから僕たちへ視線を戻した。
「先ほどまでとは、目が変わりましたな」
「……そうですか」
「サンだけではありませんぞ」
ハラさんは笑う。
「ニャビーもです」
「ニャア」
名前を呼ばれたニャビーは、警戒するように身体を低くする。
「互いに相手を従わせようとしているうちは、力を合わせることなど出来ません」
ハラさんの声は、戦いの最中とは思えないほど穏やかだった。
「トレーナーが一方的に命じてもいけない。ポケモンが一方的に動いてもいけない。互いを知り、互いの考えを認め、その上で初めて一つの力となる」
それは。
僕が戦いながら、ようやく気付き始めたことだった。
ニャビーは、命令を待つだけのポケモンではない。
自分で考える。
自分で動く。
それを止めて、僕の思い通りに戦わせようとすれば、きっとニャビーの良さは消えてしまう。
だから。
僕が合わせる。
けれど、ただ好きにさせるのでもない。
ニャビーが作った動きへ、僕が次の一手を重ねる。
それが。
僕たちの戦い方なのかもしれない。
「ですが」
ハラさんが右腕を上げる。
「それを理解しただけで、大試練を乗り越えたことにはなりませんぞ」
マケンカニが大きく拳を鳴らす。
先ほどの攻撃を受けているはずなのに、その闘志は少しも衰えていない。
「参ります」
「ニャビー、よく見て!」
ハラさんが腕を振るう。
「グロウパンチ!」
マケンカニが地面を蹴った。
速い。
けれど。
今度は、ただ避けるだけではいけない。
「左へ!」
ニャビーが横へ跳ぶ。
マケンカニの拳が頬のすぐ横を通り過ぎる。
「そのまま後ろへ!」
着地と同時に、ニャビーはさらに後方へ跳ぶ。
マケンカニが追う。
拳を振るう。
ニャビーは避ける。
一度。
二度。
三度。
逃げ続けているように見えるかもしれない。
けれど。
僕はマケンカニの足元を見ていた。
最初は真っ直ぐだった動きが、少しずつ大きくなっている。
腕を振るうたび。
身体の重心が崩れている。
あの大きな拳は強力だ。
だからこそ。
何度も外せば、その重さがマケンカニ自身を苦しめる。
「もう一度ですぞ!」
マケンカニが右腕を引く。
大きい。
これまでよりも、さらに強い攻撃。
「ニャビー」
僕は息を止める。
マケンカニが踏み込む。
拳が迫る。
「今!」
ニャビーが真横へ跳んだ。
空を切った拳が、そのまま地面へ叩きつけられる。
舞台が揺れる。
けれど。
マケンカニはすぐには拳を抜くことが出来ない。
「ひのこ!」
ニャビーが口を開く。
至近距離。
炎がマケンカニの身体へ直撃した。
「マケンカニ!」
マケンカニの身体が炎に包まれる。
倒れはしない。
しかし。
確実に動きが止まった。
「まだだよ、ニャビー!」
ニャビーは僕の声を待たず、すでに走り出していた。
炎の中へ。
怯むことなく。
真っ直ぐ。
「ひっかく!」
鋭い爪が、マケンカニの胸元を捉える。
マケンカニの身体が後ろへ傾く。
一歩。
二歩。
そして。
片膝をついた。
「いける……」
あと少し。
そんな考えが頭を過ぎった。
その瞬間だった。
「マケンカニ」
ハラさんの声が低く響く。
「耐えなさい」
マケンカニの身体が止まる。
片膝をついたまま。
拳を地面に押しつけ。
ゆっくりと立ち上がる。
「嘘……」
ムーンの声が聞こえた。
僕も同じ気持ちだった。
あれだけ攻撃した。
何度も炎を当てた。
ひっかくも通った。
それでも。
マケンカニは立っている。
「これが、しまキングのポケモン……」
「よくぞ、ここまで追い詰めましたな」
ハラさんは満足そうに頷く。
「ですが」
その右手が。
ゆっくりと胸元へ上がる。
僕は、その腕にあるものを見た。
リング。
イリマさんがスカル団との戦いで見せたものと同じ。
Zリング。
「ここからが、我が全力ですぞ」
周囲がどよめく。
「Zワザ……」
ハウが呟いた。
僕たちはまだ。
その力を使ったことがない。
見たことすら。
イリマさんはあの時、結局使わなかった。
だから。
これが初めてだった。
「マケンカニ!」
ハラさんが足を開く。
両腕を胸の前で交差させる。
そして。
まるで決められた型をなぞるように、身体全体を大きく動かし始めた。
拳。
腕。
肩。
腰。
そのすべてが、一つの流れの中で繋がっていく。
少し変わった動きにも見える。
けれど。
笑えるようなものではなかった。
動きが進むたび。
ハラさんの身体から、目には見えない何かが放たれていく。
空気が震える。
舞台が軋む。
マケンカニの身体を、眩しい光が包み込む。
「これが……Zパワー」
ろとろとが僕の隣で声を上げる。
「トレーナーとポケモンの力を、一つにするエネルギーロ!」