南の島の大冒険!! -Alola Generation-   作:natsuki

19 / 19
第十九話 VSしまキング・ハラ④

 一つにする。

 その言葉が胸へ刺さる。

 今。

 僕とニャビーは、ようやく互いを知り始めたばかりだ。

 それに対して。

 ハラさんとマケンカニは。

 何年も。

 何度も。

 共に戦ってきたのだろう。

 その差が。

 光として目の前に現れている。

 

「サン!」

 

 ククイ博士の声が飛ぶ。

 

「よく見るんだ!」

「……はい」

「Zワザは強い! だけど、ただ強いだけじゃない!」

 

 博士は僕たちを真っ直ぐ見つめていた。

 

「そこには、必ず使う者の意志がある!」

 

 意志。

 ハラさんの意志。

 マケンカニの意志。

 それが一つになって。

 これから、僕たちへ向けられる。

 

「ニャビー」

 

 僕は名前を呼ぶ。

 ニャビーはこちらを見ない。

 目の前のマケンカニを見たまま。

 それでも。

 耳だけが、僕の方へ向いた。

 

「避けられるかな」

「ニャア」

 

 短い返事。

 出来る。

 そう言っているのか。

 それとも。

 やるしかない。

 そう言っているのか。

 分からない。

 けれど。

 不思議と怖くなかった。

 

「分かった」

 

 僕はニャビーを見る。

 

「信じるよ」

 

 ハラさんの動きが止まる。

 同時に。

 マケンカニを包んでいた光が、一気に膨れ上がった。

 

「マケンカニ!」

 

 ハラさんの声が響く。

 

「全力無双激烈拳!」

 

 マケンカニが消えた。

 そう見えるほどの速さだった。

 

「ニャビー!」

 

 気付いた時には。

 マケンカニはもう、目の前にいる。

 拳が一つ。

 二つ。

 三つ。

 連続して振るわれる。

 ニャビーは避ける。

 右。

 左。

 後ろ。

 けれど。

 速すぎる。

 一発目は避けた。

 二発目も。

 三発目は身体を掠める。

 

「ニャッ!」

 

 ニャビーの身体が僅かに浮く。

 そこへ。

 次の拳。

 

「避けて!」

 

 間に合わない。

 そう思った。

 けれど。

 ニャビーは空中で身体を捻ると、振り下ろされた拳を蹴るようにして、さらに上へ跳んだ。

 

「なにっ」

 

 ハラさんの目が見開かれる。

 ニャビーは。

 避けるのではなく。

 マケンカニの攻撃を足場にした。

 

「そのまま!」

 

 僕は叫ぶ。

 何をするべきか。

 ニャビーも分かっている。

 

「ひのこ!」

 

 空中から。

 炎が放たれる。

 マケンカニの顔へ直撃する。

 しかし。

 Zワザは止まらない。

 マケンカニは炎を受けながら。

 最後の拳を引いた。

 これまでのすべてを上回る。

 最大の一撃。

 ニャビーはまだ空中。

 逃げる場所はない。

 受ければ。

 終わる。

 

「ニャビー!」

 

 僕は叫ぶ。

 

「前へ!」

 

 自分でも。

 どうしてそんな言葉が出たのか分からなかった。

 避けろではない。

 守れでもない。

 前へ。

 ニャビーは。

 一瞬も迷わなかった。

 空中で身体を丸める。

 そして。

 マケンカニの拳へ向かって飛び込んだ。

 

「サン!」

 

 誰かが名前を呼ぶ。

 けれど。

 今は、何も聞こえない。

 拳と。

 ニャビー。

 二つが正面からぶつかる。

 その直前。

 

「ひのこ!」

 

 ニャビーの口から炎が放たれた。

 拳の正面。

 至近距離。

 炎が爆発する。

 大きな音。

 光。

 煙。

 衝撃が舞台全体へ広がり、僕は思わず腕で顔を覆った。

 

「ニャビー!」

 

 煙で何も見えない。

 返事もない。

 僕は目を凝らす。

 少しずつ。

 煙が薄くなる。

 最初に見えたのは。

 倒れているマケンカニだった。

 

「マケンカニ……」

 

 ハラさんが静かに名前を呼ぶ。

 マケンカニは動かない。

 そして。

 その少し離れた場所。

 ニャビーもまた。

 地面へ倒れていた。

 

「ニャビー!」

 

 僕は駆け寄ろうとする。

 けれど。

 試合はまだ終わっていない。

 審判もいない。

 どちらが先に立つか。

 それで。

 決まる。

 

「立って……」

 

 僕は拳を握る。

 

「ニャビー」

 

 マケンカニの腕が動いた。

 地面へ拳をつく。

 身体を起こそうとしている。

 ニャビーは。

 動かない。

 

「ニャビー」

 

 僕の声が。

 届いているのか。

 分からない。

 それでも。

 呼ぶことしか出来ない。

 

「もう一度だけ」

 

 勝ってほしいからではない。

 大試練を越えたいからでもない。

 

「僕のところへ戻ってきて」

 

 ニャビーの耳が。

 ほんの僅かに動いた。

 

「……」

 

 前足が地面を掻く。

 身体を持ち上げようとする。

 一度。

 崩れる。

 それでも。

 もう一度。

 

「ニャビー!」

 

 立った。

 四本の足は震えている。

 今にも倒れそうだった。

 けれど。

 ニャビーは立っていた。

 対するマケンカニは。

 片膝をついたまま。

 身体を起こそうとして。

 そのまま前へ倒れた。

 静寂。

 誰も、すぐには声を出さなかった。

 やがて。

 ハラさんがマケンカニへ近づく。

 その身体を抱え上げると、ゆっくりと頷いた。

 

「マケンカニ、戦闘不能」

 

 そして。

 僕を見る。

 

「この大試練」

 

 一拍。

 間を置いて。

 

「サンとニャビーの勝利ですぞ!」

 

 歓声が上がった。

 リリィタウン中が揺れるような、大きな声。

 

「やったー!」

 

 ハウが飛び跳ねる。

 

「サン!」

 

 ムーンも手を叩いていた。

 ククイ博士。

 リーリエ。

 イリマさん。

 周囲の人たち。

 皆が笑っている。

 けれど。

 僕はすぐには喜べなかった。

 ニャビーのところへ駆け寄る。

 

「大丈夫?」

「ニャア……」

 

 弱々しい鳴き声。

 それでも。

 いつものように。

 僕の手から逃げようとはしなかった。

 僕はニャビーを抱き上げる。

 軽い。

 思っていたよりも。

 ずっと。

 

「ありがとう」

 

 その言葉しか出てこなかった。

 

「最後まで戦ってくれて」

 

 ニャビーは僕の腕の中で目を閉じる。

 それから。

 一度だけ。

 僕の手に顔を擦りつけた。

 

「……」

 

 ほんの少し。

 けれど。

 それだけで。

 十分だった。

 

「見事でしたぞ」

 

 ハラさんが、マケンカニをモンスターボールへ戻しながら近づいてくる。

 

「ありがとうございます」

「礼を言うのはこちらです」

「え?」

「よい戦いでした」

 

 ハラさんは笑う。

 

「最初、サンはニャビーへ命令することばかり考えていた」

「……はい」

「そして、ニャビーはサンの命令を聞くことより、自分で戦うことを優先していた」

 

 何も言い返せない。

 その通りだった。

 

「ですが、最後は違った」

 

 ハラさんが僕とニャビーを交互に見る。

 

「サンはニャビーを信じ、ニャビーもサンの言葉を信じた」

「……」

「互いに知らぬ者同士だったからこそ、この戦いの中で、一歩を踏み出すことが出来たのでしょう」

 

 一歩。

 昨日。

 僕は大試練を、次の島へ行くための第一歩だと思っていた。

 でも。

 違ったのかもしれない。

 これは。

 僕がニャビーと歩くための。

 最初の一歩だった。

 

「サン」

 

 ハラさんは懐から、小さな石を取り出した。

 白く。

 不思議な模様が刻まれている。

 

「これは?」

「カクトウZですぞ」

「カクトウZ……」

「大試練を乗り越えた証です」

 

 ハラさんはそれを僕へ差し出す。

 

「そして、Zパワーを使うために必要なものでもある」

 

 僕は両手で受け取った。

 小さな石。

 けれど。

 不思議な重みがある。

 

「僕にも、さっきの技が使えるんですか」

「今すぐ使えるとは限りません」

 

 ハラさんは首を横に振る。

 

「Zワザは、石を持っているだけで使えるものではありません。トレーナーとポケモンの心が一つになった時、初めてその力を引き出すことが出来る」

 

 心が一つ。

 僕は腕の中にいるニャビーを見る。

 まだ。

 僕たちは何も知らない。

 今日。

 ようやく一歩を踏み出したばかり。

 

「いつか」

 

 僕はカクトウZを握る。

 

「使えるようになります」

「その日を楽しみにしておりますぞ」

 

 ハラさんは大きく笑った。

 

「ですが、忘れてはなりません」

「はい」

「これは、サン一人の大試練です」

 

 ハラさんは舞台の下へ視線を向ける。

 そこには。

 ハウとムーンがいた。

 

「次は俺だねー!」

 

 ハウが元気よく手を上げる。

 

「その次は私」

 

 ムーンもアシマリを抱え直す。

 

「二人とも、頑張って」

 

 僕が声を掛けると。

 

「もちろんー」

「サンには負けないから」

 

 二人は笑った。

 僕は舞台から降りる。

 リーリエがすぐに近づいてきた。

 

「おめでとうございます」

「ありがとう」

「ニャビーさんも」

「ニャア」

 

 ニャビーは目を閉じたまま、小さく返事をした。

 

「すごかったです」

 

 リーリエはそう言ったあと。

 少しだけ。

 寂しそうな顔をした。

 

「どうしたの?」

「いえ」

 

 彼女はすぐに首を横に振る。

 

「ただ」

 

 胸元の鞄へ手を添える。

 

「ポケモンと一緒に戦えるというのは、きっと、とても素敵なことなのだと思って」

 

 鞄の中で。

 何かが動いた。

 ほしぐもちゃん。

 僕はまだ。

 あのポケモンのことをよく知らない。

 どうしてリーリエが鞄へ隠しているのか。

 どうして戦わせないのか。

 ククイ博士は何も言わない。

 リーリエも話さない。

 だから。

 僕も聞かなかった。

 

「リーリエも」

 

 僕は言う。

 

「いつか一緒に戦えるといいね」

「……はい」

 

 リーリエは微笑む。

 けれど。

 その笑顔は。

 どこか遠いものを見ているようだった。

 

「サン!」

 

 ハウが舞台の上から叫ぶ。

 

「ちゃんと見ててよー!」

「見てるよ」

「俺はもっとすごい勝ち方をするからねー!」

「それはどうかな」

 

 ムーンが言う。

 

「ハウはすぐ油断するから」

「しないってー!」

 

 二人の声。

 周囲の笑い声。

 アローラの風。

 腕の中にいるニャビーの温もり。

 僕は。

 この場所へ来て良かったと思った。

 ほんの少し前まで。

 ここは知らない土地だった。

 引っ越してきただけの場所。

 でも。

 今は違う。

 ここには。

 一緒に旅をする仲間がいる。

 共に戦うポケモンがいる。

 そして。

 まだ知らない景色へ続く道がある。

 アーカラ島。

 次の島。

 次の試練。

 僕は、掌の中にあるカクトウZを見つめる。

 まだ使うことの出来ない力。

 いつか。

 ニャビーと本当に心を一つに出来た時。

 その時。

 僕たちは。

 今日よりも。

 もっと強くなれるのだろう。

 

「ニャビー」

「ニャア」

「次も、よろしくね」

 

 ニャビーは目を開ける。

 僕を見つめると。

 今度は逃げることなく。

 もう一度だけ。

 僕の腕へ顔を擦りつけた。

 それが。

 大試練を乗り越えたことよりも。

 何より嬉しかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。