1話_終わりと始まり
 ̄
それは、DMMO-RPGという
他のゲームに比べてゲーム内部を幅広く弄れる。これは言い方が悪いか。言うなれば「プレイヤーの自由度が広い」。それも異常なほどに。
DMMO-RPGと言えば
時代とは移り行くもの。
オンラインサービス開始から十二年続いた栄光も今日、あと数刻でその幕を閉じようとしていた。
「仕方ないよな。皆だって、
広く、大きい黒曜石の円形テーブルに四十一個の椅子が置かれた部屋。
その一つの椅子に座る骸骨は呟くように言った。その声音は酷く寂しそうで、聞く者がいたのなら悲痛な声であっただろう。
骸骨が座る椅子以外の残りの四十の椅子は空席。
他にも人──皆異形種ではあるが──は居た。
それでも、皆辞めていった。
「クエスト手伝ってくれませんか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「あ、やまいこさん。私もご一緒していいですか?」
「あ! たっち・みーさんが来てくれるなら、前衛はお任せしますね」
「お任せください」
「すみません、弓兵の援護とかいりません?」
「いいですね。行きましょうよ」
「じゃあ私も行こうかな」
「なんでだよ! 姉ちゃんはくるなよ!」
「あぁ?」
「ま、まぁ、せっかくですし皆さんで行きましょう! ね、やまいこさん!」
「そ、そうですね! 真実の涙って言うアイテムを手に入れればクリアできるクエストですから、あまり派手ではありませんけど」
「おや? 真実の涙なら確か、どこかのギルドが周回して大量に持っていると掲示板でありましたね。何処だったかな」
「ぷにっと萌えさん、まさか……」
「せっかくですから、そのギルド強襲してアイテム
「えぇー……」
「なんだ? どっかのギルド奇襲か? だったら俺も行くぞ」
「居たんですかウルベルトさん」
「ずっと居ただろうが。その目は複眼か?」
「いえ、単眼ですよ。羊は見えてましたが、まさかウルベルトさんだったとは」
「うわぁ、珍しくたっちさんから話が始まった」
「と、ととにかく! ギルドに攻めるも、モンスターを狩るにしても、準備しましょうよ!」
「モモンガさんの言う通りですね。では、ギルドに奇襲するなら、ぬーぼーさんに索敵お願いしましょう」
「あいよー」
「じゃあ、皆さん。各自準備が終わり次第此所で! ギルド戦するかはその後話し合いましょう」
『はーい』
「……」
輝かしいあの日々。
結局、ギルドに奇襲して目的のアイテムと他にも色々と貰っちゃったんだっけ。
ここはナザリック地下大墳墓。10階層からなるダンジョン──ではなく、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点である。
そのギルドのギルド長たる骸骨──
そこには
ギルドの証であり、『アインズ・ウール・ゴウン』の皆で創ったまさに黄金時代の象徴を手に取る。
「……行こうか、我がギルドの証よ」
部屋を出る時、振り返った。
特別ななにかが無い限り、ギルドメンバーはログインした時には必ずこの『
だから、最後の確認だった。そう、
この部屋の景色も、手に持ったギルドの証も、あと数刻で消えてなくなってしまうのだから。
「……」
わかっている。
覚悟していた事じゃないか。
「「始まり」があるのは「終わり」があるから」と言ったのは大学の教授をしていると言っていたギルドメンバー。
だから、もう振り向きはしない。
背後で扉が閉まる音を聞きながら、モモンガは玉座の間に向かった。
────────── 1
雨が降る中、後を水飛沫が舞い上がるのを気にすることなく一台のバイクが交差点を駆抜ける。
座席と同じよりも少し低い位置にあるハンドルを握る手に力がこもる。
店を出る時は22時前だった為、家に着くのは23時を過ぎた頃だろう。
バイクを車庫に停め、マンションのエレベーターを使おうと思ったがすぐには来ないことを確認すると階段を駈け上がる。
部屋に入り、バイクのヘルメットとカバンを適当に置いて椅子に座ると、首の後ろに取り付けたコネクタにコードを接続してヘルメット型のデータロガーを被る。
部屋に入った時に見た時計は23:30を過ぎようとしていた。
なら、間に合うはずだ。
昨日、メールが来た。
ユグドラシルと言う名のゲーム仲間であり、所属しているギルドの
内容を省略すると「ゲームサービス終了の最終日だからメンバーの皆で集まらないか」とのお誘いのメール。
(ふふっ。本来であればギルマス特権使って招集!なんて事も言えるだろうに……まったく、あの人は)
ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』
最凶ギルドなんてネット掲示板で──ほとんどが悪名だったが──書かれた事もある。
ギルドにしては41人という少ない数でありながら、最盛期の時のギルドランキングでは上位10位内など当たり前だった。
そんな最高峰のギルド『アインズ・ウール・ゴウン』。そう、アインズ・ウール・ゴウンだ。
我々こそがアインズ・ウール・ゴウンであり、アインズ・ウール・ゴウンこそが我々である。
「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ」
呟く。
つい口から出てしまった。
目を開ければ目の前には黒曜石でできた円形のテーブルがあり、椅子が置かれている。
その部屋の名は『
ログインしたことを確認して、同時に目の前の光景が意外で、少し驚いた。
すべての椅子が空席で、部屋には自分しか居ない。
てっきり、皆で雑談でもしているのかと思っていた。登場は自分が最後になるだろうと、時間的に察していたのだが、まさか誰も居ない事態だとは思ってもみないではないか。
「いや、これが当然なのかもな」
所詮ゲームだ。
リアルとゲームのどちらを選択するかは明白で、それは皆の自由ではないか。
でも、最後じゃないか。
このゲームで、ユグドラシルで会えるのは今日が最後じゃないか!
実に身勝手な事だ。今日までろくにログインしていなかった人物が思うべきではない。
皆だってリアルで事情があるのかもしれない。仕事が終わらずに残業しているかもしれない。だから来れない。
「……」
考えても仕方がないことだ。
椅子に座り、違和感があった。椅子に、ではなく部屋に。
だが、それは誰も居ないからだと思い、他に誰か来ないか自分のステータスやアバターの状態を確認しながら待つ事にした。
アバターネーム『ハンス・ヴルスト』。種族は
(それにしても、皆忙しいと思うけどモモンガさんが居ないのはどういうことだろう? トイレかな?)
この時、フレンドリストを確認していれば気付いたかもしれない。
あの時、ログインした時に目を閉じていなければ、ドアが閉じた事に気づけたかもしれない。
この違和感を勘違いしなければ、ちゃんと部屋を見渡せば、ギルドの証が無かったことに気づけたかもしれない。
そう、数多の可能性がありながら、それを無下にしてしまった。
そう、これは『罪』なのだろう。
そう、あれは『罰』だったのだろう。
彼を置いていった、
──と、不意に声を掛けられた。
「こんばんは」
声がした方に顔を向けると、そこには山羊の頭をした悪魔が居た。
「こんばんは。お久しぶりですね。ウルベルトさん」
ウルベルト・アレイン・オードル。種族は悪魔であり、アインズ・ウール・ゴウン魔法職最強の一人。
「そうですね、お久しぶりですハンスさん」
自分のアバターの名前だというのに一瞬だが新鮮な気持ちがあった。
「何を見ていたんです?」
さっきまでの動作でコンソールを操作していたと予想したのだろう。流石最強の一角。目ざとい!
「自分のステータスですね。っと、敬語やめません? オフ会の時のような口調で大丈夫ですよ?」
「そうか。わかった」
声音が変わった。きっと久し振りだったから敬語を使ったのだろう。
やっぱり、そっちの方が親しみを持てますよ、ウルベルトさん。とは口に出さない。思うだけだ。
「ステータスってことは、いつもの装備はモモンガさんに?」
「はい。そうです」
ウルベルトが言っているのは
今の装備は
それでも、アカウントは消さなかった。いや、消せなかったが正しいのだろう。
皆で積み上げて来たものを、無かったことにしたくないから。だから、今ここに居るのではないか?
先程、見ていたのはHPと俊敏値を今の装備で上げられるだけ上げた特化ステータス。
戦闘ではその俊敏値で集団の中に突っ込み、隊列を崩し、そこへ味方の援護魔法で殲滅。が、初見で行う場合の集団戦の主な作戦であり、この案をぷにっと萌えに話した所、「馬鹿じゃないの」と言われた。それでも採用されたが。モンスターが相手だとヒット&ウェイでの地道な削り戦である。
今でこそロールプレイ用のビルド構成であるが、アインズ・ウール・ゴウン──ナザリック地下墳墓攻略直前のナインズ・オウン・ゴールではあるが──に入る前はバランス型ビルドだった。
そんな過去のことをハンスが思い出していると、ウルベルトが本題とばかりに口を開いた──実際に口は動かないが。
「他の──特にモモンガさんはまだ来てないのか?」
「他の」と言う言葉に若干の抵抗のような、否定するような感情が混じっているような気がした。
「そうですね。私が来た時には誰も居なかったですね」
「そうか……」
「もしかして、まだ
ウルベルトは答えない。代わりに明後日の方向を向くだけだ。
それに対して苦笑いするしかない。顔は動かないので困ったようなアイコンを出す。
「なぁ」
「なんですか」
「あれ」
そう言われて、ウルベルトが指差した方へ視線を向けて──
「ブッ」
吹いた。
指差した先には席に座る
此方の視線に合わせて手を振ったので吹いてしまった。
「ちょっ、声掛けてくださいよ!」
「す、すまん」
いつもの赤い武装をしていないのを見るに、彼もモモンガに装備を譲渡したのだろう。
今ここ、円卓に
時間を見れば23:55で、あと5分で強制ログアウトだ。
モモンガさんが来ないわけがない。
「……流石に、モモンガさんが来ないわけ無いよね」
「だな。あの人のことだから、もうインしてたりな」
「どうだろうな」
ただ待つのは愚行だろう。しかし、今更ログアウトしてリアルでメールを送るなどもっと愚かだ。
モモンガさんの事だから何処か──
「ここは悪役らしく、最後は玉座に座しておくべきだったな」
などとウルベルトが「くっくっくっ」と笑いながら言う。
「ならば単騎で何処かのギルドに攻め入るのもよかったか」
などと武人建御雷も同じように笑いながら言った。
「それだ!」
「は?」
「ん?」
唐突に声をあげながら立ち上がり、二人の視線を受ける。
「ギルドに単騎で行くのか? もう時間はないぞ?」
「そうじゃなくて。ウルベルトさんが言ったように、玉座の間で最後っていうのは、もしかしたら──」
そこまで言って、二人から微かだが「あ」と察した声が聞こえた。
「行ってみるか」
「そうだな」
「指輪がないのが最悪ですね」
指輪──リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。
名前の付いている部屋であれば転移ができるギルドメンバー全員が持っていた物だ。二人はどうか知らないが、ハンスは装備と一緒にモモンガに渡してしまった。
「いや、指輪があっても玉座の間には転移できなかった筈だぞ?」
そう武人建御雷に指摘されて、そんなことまで忘れていた自分が恥ずかしい。が、今はそれどころではない。
部屋を出て玉座の間へと三人は走った。
────────── 2
玉座の間にて、モモンガは最後の時を座して待っていた。
「俺。たっち・みー。死獣天朱雀。餡ころもっちもち。ばりあぶる・たりすまん。源次郎。タブラ・スマラグディナ。」
個々のサインの旗を指差しながら名を上げてゆく。
目を閉じて、カウントダウンを始めた。
───50...51...52...53
「楽しかった。楽しかったんだ」
雫が頬を伝う感覚。いや、錯覚か。
感覚は実装されていないのだから、これはモモンガの感情がそう思っているだけだろう。
───54...55...56...57
「───」
声が聞こえた。錯覚の次は幻聴かと、苦笑いする。
「ちょ、あの天使と悪魔、襲ってきませんよね!?」
「天使じゃねぇ、女神だ。あと、そんな防衛システムは組んでない」
「ならこのまま突撃だな」
「はぁ!? 扉の厚さ考えてくださいよ! ここは慎重に……」
『んな時間はねぇ!』
(ははは。ウルベルトさんと建御雷さん、あとはハンスさんかな)
もう居ない人の、人達の声が──幻聴が聞こえて、涙腺が崩壊した。
────58...59...
──ドン
「え?」
幻聴? いや、確かに今扉に何かが当たる音と共に振動が
目を開けて──目蓋はないが──見れば扉が半開きになっていた。
「……え?」
「どうか、なさいましたか?」
「は?」
声がして、そちらに視線を向ければアルベドが見上げていた。
「……は?」
【追記】
間違え、誤字等を修正いたしました。