オーバーロード ~四人の英雄~   作:古花めいり

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9話_竜王国~屍王~前編

 

 

 ふと、画面左端にある半透明の白色の文字が流れる。

 

──山財の丘クエ同行募集! ※総レべ90以上限定!

──グラントレントの小枝_5000枚で売りまーす

──ギルメン募集!初心者歓迎!連絡は個チャで。

 

 白色の文字が流れていく中、チャットを周囲限定にした青色のログが白色に埋もれるように流れた。

 

 

──2ch連合の掲示板みたか?

──『東の村』付近の谷底で七鉱山が見付かったってヤツ?

──炎上してたなぁ

──ワールド・サーチャーズのメンバーが攻略しようとしたらアンデットとかが大量に出てきて撤退したってヤツ?

──大量っつーか、通常のスポらしくなかったってあったぞ?

──トリニティも行ったらしい。メンバー総出だったらしいよ? 動死体(ゾンビ)系と死霊(レイス)系に半壊させられたとかなんとか

──横槍失礼\(__) サーチャーズの餡テンです。鉱山入り口でデス・ナイトを筆頭にワイト、スウェル・スキン、コラプト・デッド、ペイルライダー、デュラハンと……デッド・ドラゴンが2体も出てきて半壊しますた(*´∇`*)

──なにそれどこの深淵?ww

──その顔文字にイラッとしたww

──なんでそんな明るいんだよww

──深淵にスポするモンスター群ww

──鉱山は深淵だった?ww

──我らは探索メインですしお寿司。楽しければなんでもおk。ちなみにラジエルとイスラフェルの天使系まで出てきたん。もうどこの天空都市かと。ギルマスと副マスが絶望してた(´・ω・`)

──ただの天国と地獄ww

──連合軍かよww

──エンジェルとアンデットの夢の共演!やったね!地獄絵図だよ!

──だれ得だよww

──おいやめろ

──まぁ、そんなところで大天使に加えてデッド・ドラゴンまでがでたなら十中八九あの人だろうねぇ

──一人軍隊(ワンマンアーミー)

──屍師団とも言われてるよなww

──痛い二つ名に困らないあの人かww

──初心者救済の代名詞。略して初心者の救世主(ルーキー・セイヴー)!(* ̄∇ ̄)ノ

──救世主ww

──まぁ、そうなるな

──我はメシアである! フハハハ!

──僕はね、救世主に、なりたかったんだ

──流石は救世主、馬力が違いますよ

──ほんとネタに困らないなあの人はww

──おい、色々混ざってんぞww

──その人って、そんなに強いんですか?

──混ぜるな、聞けん

──強いのベクトルが違うな。チャンピオン並みに強いわけではない

──おっほ。救世主を知らない人おるやん

──教えてあげてエ□い人!

──お前が教えてやれよww

──呼ばれて飛び出た。教えてやろう。救世主とは人の世、人類の救い手だ!

──そっちの意味じゃねぇよ!ww

──カボチャの人だろ?

──ゾンビだろ?

──救世主なんだぜ?

──いい加減、救世主呼びはやめて差し上げろw

──ゾンビって言ってるのはあの人の自称だからな。絶対に上位種族取ってるだろ

──ゾンビ基準があの人なら、沈みの洞窟にいるゾンビはどうなるよ?

──(ノ∀`)アチャー

──居るゾンビが全部なら攻略不可ダンジョンと化すなww

──いや、一人でも混ざってたらアウトだろww

──決闘で勝たないけど負けない人。

──でも、決闘で降参したら必ず承諾してくれるよな

──まともに戦うと何十時間もやらないと倒せないと思う

──まともじゃなくても倒せねーよ

──上位の人6人で倒せなかったんだぜ?

──www

──ww

──wwwwww

──ww

──www

──w

──wwwwwwww

──大草原不可避

──あとアレな。はめられたワルエミ動画

──あー、あれか

──あれだな。

──うんうん、あれだろ? 昨日食べた

──ワルエミ? セフィラーの十天使、七大罪の魔王、八竜etc...で、どれ?

──食wwうwwなww

──九曜の世界喰いのキュラの全力回避動画ww

──わーお!Σ( ̄□ ̄;)

──マジか

──すごいぜぇー

──キュラなんて無理だわ俺

──それでも男ですか!軟弱者!

──うるせー!だったら行ってこい。見た目でSUN値削ってくるんだぞ!?

──ほんとそれ

──キュラの見た目はヤバイよな

──見たことないんだけど、ドンだけやばいん?

──見た目は芋虫。色が毒々しい

──アゲハの幼虫。酸の霧振り撒いてくるやべーやつ。あと色がやばい

──うわぁ……

──体にある複数の目玉から酸霧を噴き出して接近対策してくる。しかも魔法のみの属性耐性持ち

──更にさらにー、出の早い腐食属性の液ぶっかけてくる。当たると確定で浸食って状態異常になる

──浸食? 侵蝕じゃね?

──すまん、誤字った

──浸食?侵蝕?はどんなやつ?

──状態異常になった後、ステータス見ると侵蝕率が%で表示されて、時間経過で上がる。100%になるとHPの最大値が半分下がって継続ダメージ。しかも、その継続ダメージが吸収型で、減った数値の3倍?くらいでキュラのHPが回復する。現状、侵蝕の下げ方と回復方法は見つかってない。キュラを狩る場合、侵蝕になったプレイヤーは自滅させるしかなくなるから攻略不可エネミーと大手ギルドでは諦めてるらしい

──仲間自滅させたら総合火力の人数減るしな

──酸の霧で接近職は継続回復必須、魔法耐性あるから魔法職は火力期待できない。侵蝕属性攻撃は当たれば状態異常確定でそのプレイヤーが生存してるとエネミーの体力回復するから、ほぼ死刑宣告。……どうしろと?(´・ω・`)

──無理ぽww

──まぁ、キュラの驚異がそれだけじゃないってのが動画で載ってる。羽化能力まで引き出したあの人たちマジ神がかってた

──あの人たちの伝説が始まった瞬間ww

──何があるんだよ?ww

──動画みろ

──つーかキュラキュラ言ってるけど、どのキュラだ?スタラキュラ?

──それただのエネミー

──ワールドエネミー キュラピーラで検索どうぞ

──略されてキュラって言ってるけど、世界樹の葉を喰らう蟲(キュラピーラ・ラーヴァバグ)だよ

──あと、九曜の世界喰い最強のスコロこと、貪るモノ(スコロペンドラ)も検索しとけよ。あいつの擬態能力エグいから。

──プレイヤーにすら擬態するチート持ちだからなww

──伝説と言えば、主神ウェウェテオトル戦の動画が私は一番好き

──あの十二時間狩りかww

──なにそれww

──ウェウェは天空都市とは別のエリアで、天空都市の転移ゲートから行けるらしい雲海島のボス。救世主とチャンプ三人の計四人での攻略動画。ちゃんと救世主があげてるやつだから無許可ワルエミ戦とは違うから大丈夫。

──道中十時間、ボス戦二時間のカットなし動画

──チャンピオンが三人もいる頭おかしい動画

──救世主呼びはやめてさしあげろww

──「雲海島の半日」で検索すればすぐ出る

──時間に気を付けろよwwwマジで十二時間だから

──www

──その人はワールドアイテム持ち?

──ありえるな、ワールドセイヴァー説

──あーあ、あの人うちのギルドに入ってくれねーかなー

──はぁ? だったら俺んところに欲しいわ

──うちのギルマス、前に断られてるんだよなぁ……。

──あの人ギルド入ったんじゃなかったか?

──あれ? あの人って確かギルド未所属じゃなったっけ?

──いや、確か結構前に最凶ギルドに入ったらしいぜ?

──最凶ギルド?

──ほら、毒沼の……何処とは言わないけど

 

 

 

 

 

 

──────────  1

 

 

 

 

 

 

 ハンスは困惑していた。

 大都市に付いて女王に出会い、兵士に絡まれ、冒険者(セラブレイト)をボコボコにし、あれよあれよと王城に招待されれば──女王ドラウディロン・オーリウクルスの私室(・・)に招かれているのだから。

 共に来ていたセラブレイトとその仲間は別の部屋に通されて、ドラウディロンと宰相──としか名乗らなかった者──、ハンスの三人は部屋にいた。前の都市で<接触感染Ⅲ(コンテイジャス)>を使用して使役した獣の動死体(ビースト・ゾンビ)にはジエット、ネメルの家族を守るよう命令して広場に置いてきた。

 獣の動死体(ビースト・ゾンビ)の姿のままでは不味いので、異形種であれば誰もが知っているであろうアイテム『人擬の指輪』を装備させて人間の姿に擬態させている。

 ユグドラシルでは都市に一部の異形種は入ることができないが、この『人擬の指輪』を装備すれば全ての魔法、スキルを使用不可にする代わりに種族を『人間(偽)』にして都市に入ることができる──ぶっちゃけごみアイテムだ。指輪であるが故に課金してまで十本指の一つを使用する人など、まずいない。

 他にも下位に『疑似の指輪』が存在するがそれは見た目を少し変更するだけで種族までは変更できない欠陥品と言われている。

 

「まず、あなたに聞きたいのですが、都市からこの大都市までどの様に? 怪我人を乗せた馬車であれば3日は掛かるはずですし、途中には少なからずモンスターも出ます。それにあの馬車は何処から? 都市にはなかったはずですが?」

 

 ドラウディロンの後ろに控えた宰相が聞いてくる。当然の疑問だろうが、ハンスはテーブルに出されたお茶らしきモノを手に取って眺めながら話す。

 

「馬車は私の持ち物さ。ここまで3日と言うけど、夜通し馬車を走らせ、モンスターは私が対応すれば問題はなかったよ」

 

 本当だ。しかし、細かい部分まで話す気はない。

 馬車は長距離移動用アイテム『魔法の馬車』で都市の人を乗せて別のアイテムで彼らを眠らせて、その隙に密かにスキルで召喚した移動速度の速い動死体(ゾンビ)系と死霊(レイス)系を十体ほど広範囲に先行させて見つけたモンスターは片っ端から殲滅していたのだから問題はない。……問題はないはずだ。

 

「では他にも。都市壊滅の知らせは此方にも届いています。直後に都市の長へ《伝言(メッセージ)》を送りましたが繋がらず、返答もなかったのですが正門であなたと共にいた方は都市長であったはずですが?」

「その質問に答える前に、今から誰でもいいけど《伝言(メッセージ)》を送ってみてくれるかい?」

 

 疑問に思いつつも宰相は《伝言(メッセージ)》を唱える。

 しばらくして宰相は首を横に降る。

 

「……繋がりません」

 

 ハンスはカップを置いて左手の指から一つの指輪を外し、もう一度《伝言(メッセージ)》を飛ばすよう宰相へ促す。

 宰相は怪訝な表情をしながらもそれに従う。

 

「……! 都市長ですか、私です。ええ、今──」

「どういうこと?」

 

 宰相の《伝言(メッセージ)》が繋がった事に困惑気味のドラウディロンに、種明かしをするためにハンスはテーブルに手を置いて填められている指輪の名と先程外した指輪の効果を説明する。

 自分を含む範囲内の転移と連絡手段の一切を無効化する『阻害の指輪』を説明し、他にも着けている『冥王の魔指輪(リング・オブ・ハデス)』『流れ星の指輪(シューティングスター)』『虚勢の指輪』『堕天使の災禍(ルシフェル・ディザスター)』『不屈の指輪(アンコンケラブル)』『主神の誓救』等を。

 

「そんな……高価な…いや、伝説のアイテム……?」

 

 ブツブツと独り言を言い始めるドラウディロンの様子を見て、装備アイテムの情報を開示する危険を犯した事で得られた情報にハンスは警戒心を下げた。

 改めて、ここがゲーム『YGGDRASIL(ユグドラシル)』ではない事実を突きつけられ、向こうの──称するならば現実世界に帰る手段を一から探さなくてはならない事態である事実も突きつけられたのだ。

(まぁ、戻るつもりはないけど……皆はどうかな)

 もしも、ハンスだけでなく、他のギルド(アインズ・ウール・ゴウン)のメンバーが居たのなら。と考えて、帰る帰らないに限らず、帰れる手段は探しておくべきと判断した。

 まずは──と、ドラウディロンにハンスはニグンから聞いた話の裏取りをはじめる。

 疑っていたわけではないが、ニグンからは冒険者の話など聞いていなかった。ニグンの国──スレイン法国には冒険者が居ない可能性も考えてドラウディロンに問いた。

 

「わかんない」

 

 “子供の様に”何も知らない素振りをするドラウディロンへ、ハンスは問う。

 

「……キミ、見た目ほど子供じゃないよね?」

 

 微かに眉を動かした宰相が声を発しようとするよりも先にドラウディロンは無邪気な子供の表情を崩し、真面目な顔で、疑問を込めた視線をハンスへ向けた。

 

「まぁ別にいいんだけどね。その辺はどうでも。じゃ、人は送り届けたし、説明もしたから私はこれで失礼するよ」

 

 言いながら席を立って扉へ向けて歩き出すと、廊下の方から部屋に駆けてくる足音を聞いて扉の手前で止まる。

 数秒後、扉を開けると警備兵なのか、皮の防具を着けた軽装の青年がノックをしようとする体勢で驚いた表情をして立っていた。ノックしようとしたら扉が開くのだから無理はない。

 青年の横を抜けて城の出口へと向かう──が、背後から聴こえた会話で足を止めた。

 

「受け入れた都市の難民ですが……その、住居が足らず雨風を凌ぐ場所が……」

 

 つまるところ家が足らない、と。それは死活問題だ。あちら(リアル)であるならば確実に死ぬであろう問題だった。その事に対して考えるのは一瞬。行動を起こす事への迷いはなかった。

 一人納得し、ハンスは歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

──────────  3

 

 

 

 

 

 

 

 

 城を出て竜王国のもっとも大きいであろう広場は活気に溢れて──は、いなかった。

 都市からの難民で広場は埋まり、皆鬱々としていた。その中でも、大人に声を掛けながら走り回っている少年──ジエットを見つける。スキルの《音源探知(トーンサーチ)》をオンにして聞き耳をたててみれば、励ましの言葉だった。絶望と不安に意気消沈している大人に十代前半の子供が声をかけて回っている。ジエットの付近に獣の動死体(ビースト・ゾンビ)の姿がないのを見るに、ネメルと母親の所だろう。

 走り回るジエットを見て──ただの子供であれば無視したかもしれない。いや、ジエットやネメルでなければ無視しただろう。しかし、走っている子供はジエットであり、ハンスに助けを求めた人間であり、ハンスが尊敬した兄妹の兄だ。ならば、とハンスはジエットに近付くと軽々と持ち上げる。

 

「ちょっ!?」

「やぁ」

「やぁじゃない! 離してくれ! 降ろしてくれ!」

 

 つい衝動に任せて持ち上げたものの、特に何かする予定もなかったのでどうしようか考えているとジエットは顔を赤くしながらも暴れる。無論その程度の抵抗でハンスの手から逃げられるはずもなく、広場で持ち上げられて声をあげたことで周囲の視線はジエットとハンスに注がれた。

 

「は・な・せー!!」

「HAHAHAHA がんばれがんばれ」

 

 注意を集めたくないジエットは周りに助けをも止めることはなく、意地でも自力で抜け出そうと抵抗をする。なんだか楽しくなってきたハンスだったが、作り笑いの声をやめて仮面越しにジエットを見つめた。

 

「な、なんだよ」

 

 雰囲気を察したのか、ジエットは抵抗をやめて見つめてくるハンスを見返す。

 持ち上げられて抵抗するも、怪我を負わせないことへの配慮か腕や頭を蹴ることもせずにいるジエットを本当に子供か?と疑問に思う。

 

「ジエット。私は君を尊敬するよ」

 

 出会った時に言った言葉を、もう一度言う。

 妹を守ろうとビーストマンに立ち向かう勇気に。

 家族を救うために、誰かも知れない人に頭を下げる覚悟に。

 自分も大変だろうに、他者を励まそうと走り回るその努力に。

 

「さて、小耳にはさんだんだけど、屋根に困っているそうだね? どうせ乗り掛かった……えーと、車だったかな? 私が住む家を作ってあげようじゃないか」

 

 ジエットを下ろし、そう告げると周りのジエットのみならず聞こえたであろう周囲の物たちは目を見開く。

 ハンスからしてみれば元より、連れてきた住民がこの都市に受け入れられなければ作るつもりだったのだ。それが確定しただけの事。

 ジエットを連れて森に近い門に向かうと、住民もついてくるがハンスは気にしなかった。

 門前に到着して、門番へ言って大門の端にある普通の扉から外へ出る。

 作るのは森に近い門から。なぜなら、今から創るその都市には多少は防衛機能があるからだ。ユグドラシルでは防御にしか使わないが。しかし、ハンスは『ゾンビだらけのハロウィン前夜』の会場として使っていたりもした馴染みのある超位魔法(・・・・)である。

 

「この辺でいいかな」

 

 呟き、直後にハンスを中心に十メートル程の巨大なドーム状の魔法陣が展開される。魔法陣は蒼白い光を放ち、半透明の文字とも記号ともいえるようなものを浮かべてめまぐるしく姿を変え、一瞬たりとも同じ文字を浮かべずにいる。そのあまりにも幻想的な光景に周囲の者は目を奪われていた。

 ユグドラシルのゲーム内での超位魔法は強大ではあるが、発動までに時間がかかるというペナルティがあった。強ければ強いほどに時間がかかるようなシステムとなっているのだ。だが、ハンスが有する超位魔法の中でも──いや、部分的な発動をするのであれば全ての超位魔法の中でも三番目くらいには、最速で発動する魔法だった。

 周囲が唖然と、または魔法陣の美しさに見とれる中、ハンスは召喚する()の箇所と構造、防衛機能を設定していく。そして、フル設定を終えた魔法が発動する。

 

 

「《自然の城(キャッスル・オブ・プラント)》!」

 

 

 

 

 

 


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