オーバーロード ~四人の英雄~   作:古花めいり

3 / 11
3話_竜王国~前編~

 

 

 石畳で舗装された大通りを、人混みを避けながら袋を背負う少年が走る。その足が向かう場所は城門の近くにある薬師の店。

 大通りから路地に入り、細い道を通って幾つもの角を曲がる。近道である路地を抜けた先に、古びた木の家が建っている。

 一見すると何の店かを判断しずらい──そもそも看板が出ていないので店だと判断できない──ボロ家で、薬屋であるが品揃えは多くはない。しかし、腕は確かだ。

 この都市ではほとんどの家が石造りである。木材が少ないので木の家など贅沢とも言える。今ある木の家は昔建てられた古いものばかりで、木材の調達が困難ゆえ、そうなったと母が話してくれた。

 木も手にいれようと思えばできる。だがそれは死と同義でもある。都市の西に行けば森があり、ここから木材を調達できるのだが、その森にはビーストマンと呼ばれる亜人種がおり、下手に近付けば捕まり、餌食となる。

 奴等は人間を食うのだ。

 故に森へは近づけず、必然的に周囲の木を切り倒して木材へと変えていた為、都市周囲は木が少ない草原と化している。

 少年が産まれた時から草原だったので話に聞いただけであり、ビーストマンの話も城門の警備兵である父から聞かされただけだった。

 

 

「こんにちはー」

 

 

 店の扉がギギギと音を立てて開き、少年は店内に入る。

 中は外から見た通り古びている。汚いとゆう意味ではなく、年月を経た独特の雰囲気とも言うべき──古風ともゆうのだろうか──感じがしていた。

 

 

「こんにちはー!」

 

 

 先程よりも大きく声を出す。すると奥の部屋からローブを羽織った白髪の老人が姿を現した。

 

 

「聞こえておるよ。いつもの薬じゃろう、ジエット?」

 

「うん」

 

 

 少年──ジエットは持ってきた袋を机の下に置いて、老人から薬の小袋を受けとる。

 そうして店から出ようとした時、老人が呟くような声で話しかけてきた。

 

 

「粉末の薬よりも、ポーションの方が効き目はすぐに出るじゃろう」

 

 

 そう、受け取った薬は薬草等を粉末状にした物で、効き目は薄く、時間がかかる。ポーションならば飲めばあっと言う間に効き目が表れる。大抵の傷も病もポーションであれば治せる。だが──

 

 

「うちにあんな高価な物を買う金なんてないよ」

 

 

 ポーションはその効果と相まって高い。最低でも銀貨数十枚。「そんな物を買う金はない」とは嘘ではない。

 実際、今受け取った薬の代金もお金ではないのだから。

 床に置いた袋に一瞬だが視線を向け、すぐに老人に礼を言うと店を出た。

 来た道を戻り、大通りに出るとやけに騒がしい。

 活気出はないことはすぐにわかる。喧嘩等ではないことも、“それ”が聴こえた事でわかった。わかってしまった。

 路地から大通りへ出た場所は城門の付近だ。だから、いつも閉まったままの城門の扉が片方開き、その付近から悲鳴み混じって聞こえた事が異常であると判断できる。それは──

 

 

「ビーストマンだ!」

 

 

 

 

 

──────────  1

 

 

 

 

 

「いらない」

 

 

 そう聞こえ、ハンスが落としていた視線を上げた時にはビーストマンの拳が降り下ろされ、眼前に迫っていた。

──が、あまりにも遅すぎる拳に対して右足を後ろやや左に引き、体を横にして拳を避ける。ビーストマンの拳が通りすぎる。タイミングを合わせてその腹部へ蹴りをいれる。

 ビーストマンは吹っ飛び、地面を転がる──と思っていた。ビーストマンが吹っ飛ばなかった? 否。吹っ飛ぶどころか、風船が弾けるかのように腹部が血と肉片を撒き散らしながら弾け飛び、上半身と下半身が分離した。

 

 

「うわぁ……」

 

 

 予想外すぎて理解できない。

 クリティカルヒットや防御力が低い等の話どころではない。

 ユグドラシルではここまでグロテスクな表現はできなかった。 

 例によっては18禁に該当するのでゲーム説明の表示に偽りとして法に触れ、法的措置をとられるだろう。では今、目の前の惨状はどう説明する? ここはどこ(・・)だ?

 一つ、18禁要素を取り入れた。

 二つ、夢。または幻で見えているだけ。

 三つ、仮想が現実になった。

 最後のはありえないだろう。しかし、前の二つよりも「ここは現実です」と言われた方が、まだ信じれるかもしれない。なぜこの姿かは予想できるが。

 一つ目が否定できるのは、18禁要素を取り入れたとしても、そのゲームを同意の確認もせずにやらせているのは法律、電脳法で定められているからであり、ゲームからログインできないなど監禁と同じだからだ。二つ目は感覚がある時点で夢や幻ではないと簡単に否定できる。もしこの感覚が夢や幻ならば、今の現実も、あちらの現実でさえも信用できなくなるだろう。

 そう考えると、ここはユグドラシルではない──言うなれば異世界とゆう可能性が高くなる。辺りを見渡せばどことなくだが、ユグドラシルとは違うとゆう感じがするからだが。

 付近は草が少なく土があらわになっている地面が続いているが、遠く、西──太陽の位置で方角を把握した──には緑があり、木々が生い茂る森林か密林かがあり、南には木はぽつりぽつりと生えているが草原が広がっている。北には山が見えた。

 こんな地形のエリアはユグドラシルにはなかったはずだ。ただ未発見であるだけの可能性も捨てきれないが。

 東はかなり距離があるが建物らしき建造物が見える。

(街か?)

 距離を考えるに数十キロはあるだろうか。

 RPGの基本はまずは情報収集。ユグドラシルではそれの価値が異常なほど高いが、ここが何処であるにしても、まずは情報。

 異形種だから街に入れるかは不明でもある。だが、行かないよりは、ここで呆然としているよりはマシだろう。

 視線を先程のビーストマンの残骸に向ける。拠点を持っていないギルドかクランに所属していないプレイヤーであれば、近くの街に復活(リスポーン)しているはずだ。

 はてと、疑問を感じた。ビーストマンの残骸──胸から上と下半身に腹部の肉片。それらを見ていても何も感じない。普通なら嘔吐ないし、気分は害しているだろう。

 

(これ(ビーストマン)がプレイヤーだから? それとも、自分が異形種だから? そうなれば、自分は人間をやめていると判断した方がいい?)

 

 やめよう。それを考えるのは。すべては憶測でしかない。

 かもしれない、と思えば幾らだって思い付く。

 とにかく今は見えている街へ行き、情報収集である。

 また、ウルベルトと武人建御雷の二人が辺りにいないとなれば、何処かに行ったか。ここではない別々の場所にいるのか。はたまたハンスだけがこの世界──異世界に来てしまったのか。何にしても情報が足りないのだから街か知性ある生物との接触が望ましい。

 そう考えを無理矢理まとめて、歩き出した。

 

 ハンスは気付くべきだったかもしれない。

 地面から出る時、感じた地響きの原因と、付近にあった無数の足跡に。

 

 

 

 

 

──────────  2

 

 

 

 

 

 幾つもの家の角を曲がり、自宅に飛び込むように入ると叫んだ。

 

 

「母さん! ネメル!」

 

 

 一階に居ないのを確認してすぐに二階へと上がり、二つあるうちの一つの部屋の扉を乱暴に開け放って再び叫んだ。

 

 

「ジエット、そんなに慌ててどうしたの?」

 

 

 ベッドから上半身を起き上がらせていた母がジエットを見た。母は病で下半身が不自由であり、薬を服用している。ベッドの横には妹のネメルもいる。それを見て、安心した。

 

 

「門が開いてて、皆ビーストマンって……」

 

 

 そこまで言って、母は目を見開き、すぐに真剣な顔になるとジエットとネメルを近くに来るよう呼ぶ。

 

 

「ジエット。今からネメルと一緒に協会に行きなさい。もし協会の人が何も知らないようだったら今の話をしなさい。いいわね?」

「母さんは?」

「父さんが来てくれるから大丈夫」

 

 

 嘘だ。父さんは警備で城壁にいる。仮にこの事態を知ったとしても行くのは城門になるだろう。

 母の言葉の意味を察して、ジエットは涙を堪え、頷いた。

 

 

「大丈夫。ネメル、お兄ちゃんの言うことちゃんと聞くのよ」

 

 

 ネメルも頷き、ジエットはその手を取って家から出ると協会へ向かって走り出した。

 

 

 家の間を通り、路地を進む。一本隣の大通りからは悲鳴や「助けて」と叫び声が聞こえる。

 

(母さんっ……!)

 

 歯を食いしばり、振り向くことなく、聞こえてくる声を振り払うように走る。

 振り替えったら、きっとこの足は止まってしまうだろうから。

 幾つかの角を曲がった先に、目的の出口が近づいてくる。この路地を出れば協会の目の前につくはずである。

 ジエットは妹──ネメルの手を握る手に力を込め、路地を出た。

 

 

「え……」

 

 

 最初に見えたのは揺らめく赤。

 白かった建物、協会は燃えていた。その目の前には狼やライオンが二足歩行したような生物、ビーストマンが数体。

 足下は赤く、血が水溜まりのようになって人の腕や足が部分的に散乱している。

 逃げろと頭の中で誰かが叫んでいる。しかし、足が動かない。

 目的の協会は燃え、都市内はビーストマンが跋扈(ばっこ)する。この都市に、逃げ場などあるのだろうか?

 

 

「お兄ちゃん……」

 

 

 はっと我に返り、服を引っ張るネメルに振り向く。その表情は不安げで、本当なら泣き出したいだろうに我慢している。

 すべてを諦めてしまいたい。そんな事を考えた自分を叱咤する。

 

 

「おい、餓鬼だ」

「!」

 

 

 ビーストマンに気づかれ、路地に戻り、城門の方へとネメルを引き連れて走った。

 ビーストマンが追ってくるだろうが、子供がやっと通れる程の路地の狭いところを通って行く。

 

 

「お兄ちゃん!」

「大丈夫。大丈夫!」

 

 

 それは自分に言い聞かせていた。

 自分がどうなろうと、妹のネメルだけは逃がして見せると。

 この都市を出れば東の大都市へ向かえばいい。そう考えている間に、路地の向こうに大通りが見えてくる。

 

 

「ネメル! 大通りに出たら走るからな!」

 

 

 もう走っているが、言葉は休まずにと言う意味である。ネメルに通じたかを確認することなく大通りに出た。

 不意に握っていた手が離れ、転んだと思って慌てて振り向けばビーストマンがネメルを持ち上げていた。

 

 

「鬼ごっこはここまでだ」

「チッ、速ぇよお前」

「そっちの餓鬼は貰うぞ」

「はぁ? ざけんな」

 

 

 続々とビーストマンが集まるが、そんなことはジエットの頭になかった。

 

 

「ネメルを離せ!」

「威勢がいいな。グルルル」

 

 

 ビーストマンが威嚇するように喉を鳴らす。それだけでジエットは硬直した。

 頭ではわかっていても、本能的な恐怖は人には操れない。

 

 

「安心しな、こいつの後にテメェも食ってやるからよ」

 

 

 そう言って口を開き、ネメルに食い付こうとする。それをただ見ているだけしかできない。体が震えて動かない。

 己の無力を恨み、何もしようとしない自分に怒りがこみ上げて、聞こえた(・・・・)

 微かだが、確かに聞こえた。

 

 

「──やがれ」

「あ?」

「妹を離しやがれ! この獣野郎!」

 

 

 ネメルに食い付こうとしていたビーストマンは動きをやめ、ジエットを睨み付ける。

 

 

「言うじゃねぇか。おい、そっちの餓鬼はお前らにやるよ」

「元々そのつもりだ」

「ハッ。餓鬼は食いごたえがねぇがな」

 

 

 見ていたビーストマン達がジエットへ近付く。ネメルを掴んでいるビーストマンが嘲笑うように顔を歪め、一度ネメルを放すと、その頭を鷲掴みにして持ち上げたする。

 

 

「う……」

「ネメル!」

「ちっと勿体ねぇが、妹なんだろ? 助けてみろよ。妹も言ってるぜ。お兄ちゃん助けてーってな。ガハハハハ」

 

 

 ネメルをブラブラと振り、合わせて周りのビーストマンも笑う。

 

 

「殺してやる!」

「おっと、テメェはこっちだろ?」

 

 

 殴りかかろうとして、他のビーストマンに地面に押さえ付けられる。殴りかかったところでビーストマン相手では大人でさえ勝てはしないだろう。それでも、それでも!

 

 

「コイツの頭か潰れるのを見てな」

「う……あ…ぁぁぁああぁぁあぁぁぁ!」

「やめろ!やめろぉぉ!!」

 

 

 ネメルの叫び声が響き。

 

───ぐちゃ

 

 と、音がやけに大きく聞こえた。

 

 

 

 

 

──────────  3

 

 

 

 

 

 城門を潜り、都市へ入る。

 第一印象は「死の街」。

 あちらこちらで悲鳴がまるで木霊するかのように聞こえるのだ。

 

 

「やっぱり、今の状態はステータス値に依存しているのかな」

 

 

 ハンスは動死体(ゾンビ)の種族スキルにある《音源探知(トーンサーチ)》をオンにしている。どの程度の距離まで探知できるか試しているのだが、数百メートルは可能と大雑把だが把握できた。

 

 

「にしたって、ビーストマンが都市を襲うとは。ユグドラシルならイベントものだね。都市防衛戦とか楽しそう。あれ? その場合異形種は攻める側?」

 

 

 などと独り言を呟きながら石畳で舗装された大きな通りを歩く。

 道には血のような液体が広がるが死体はない。「食人族(笑)」とか言いながらも人らしきものが居ないか見渡しながら進む。

 すでに腕輪の《静かなる香花(フルーフラワー)》は外している。

 この都市に来るまでに何度もビーストマンに群がれ、アンデットだとわかると戦闘する。というのを繰り返してイライラし、外した。

 そのお陰か、色々とわかったことがある。

 まず、精神が一定以上になると強制的に安定化され、平坦なものへとなる。また、思考とも言うべきか、考え方がアンデット(ゾンビ)に依ってきている。人間やビーストマンを見ても同族感がない事。レベルは一様に低いが、ビーストマンにも個性があるらしく、言語能力に差があった。普通に喋る者から喚く事しかできない者まで多様だ。

 そして、これがもっとも重要な事である。このアバターというか身体は───

 

 

「ネメルを離せ!」

「おう?」

 

 

 考え事に集中しすぎたのか、前方の路地の出入口付近で六体のビーストマンと二人の子供が居た。

 話を察するに捕食の最中と。

(まぁ、関係ない)

 子供ではなく大人であれば助けて情報を聞きたかったが、子供では……子供では助けないのか?

 ビーストマンのレベルが不明である以上、情報を持っているかもわからない子供を助けて、周囲の全てのビーストマンで来られては面倒だ。下手にリスクを負うことはできない。見捨てるべきだろう。

 もうすでに、ここに来るまでに何十とビーストマンは実験の為に殺したが。それは棚上げしよう。

 

 

「妹を離しやがれ! この獣野郎!」

 

 

 通りすぎようとして、足が止まった。

 改めて状況を確認する。

 ビーストマンが少女の頭を掴み上げ、少年はビーストマンに押さえ付けられていた。残り四体のビーストマンはたぶん──表情がわからないので──笑っているのだろう。

 

 

「……」

 

 

 少女は少年の妹なのだろう。押さえ付けられる前に少年はビーストマンに飛びかかろうとしていた。勇敢なことだ。力の差など分からないわけではないだろう。

 それでも、助け出そうとした。

 何故か? 簡単だ。

 ()だから、家族(・・)だからだろう。

 それ以外に、命をかける理由は必要ない。だが───

 

「子供がすることじゃないな」 

 

 

 

 

 

「兄さん、やりました。見てください!」

 

 

 

 

 

「兄ってのは、弟妹を守ってこそだよね」

 

 少年の行動は称賛に、いや、憧れすら抱ける。

 いたぶるようにビーストマンが少女を持つ手に力を入れたのか、少女の悲鳴が響き、そのなかに少年の叫び声が混ざる。

 

 

「あ」

 

 

 意外だった。自分でも驚いて声をあげた。

 気付けば、自らの手から鉄の棒が投擲された後だった。

 

 声が聞こえたんだ。確かに聞こえた。

 これはきっとスキルを使用してなくては聞こえ無かっただろう微かな声で、確かに

 

──助けて

 

 と掴み上げられた時、少女は言った。

 その声が、その言葉が、あの時聞いた妹の言葉に、声音と酷似していて。

 流れるような動作でアイテムボックスから鉄の棒を取り出し、投擲していた。完全に無意識だった。

 

 鉄の棒は吸い込まれるように少女を掴んだビーストマンの頭部へ命中し、威力がありすぎたのか刺さることなく頭部をぐちゃっと弾け飛ばして、投げた勢いのまま家の壁を破壊した。同時にハンスの精神が安定化される。

 

 

「あちゃぁ」

 

 

 家を破壊したのはまずい。すごくまずい。弁償なんて洒落にならない。

 

(よし。今後、全力投球は控えよう)

 

 そう心に決めて唖然としているビーストマンと子供の方へ走る。

 先手必勝。起こしてしまったことは仕方ない。目撃者が居なくなれば大丈夫だろう。死人に口なしともいうのだから。

 少年を押さえているビーストマンに加減した跳び蹴りをして壊した家の壁へ飛ばし、着地せずに隣に居たビーストマンの頭を掴み、顔面へ膝打ち。倒れる前に肩を踏み台にしてその後ろのビーストマンの頭部へ蹴りを入れる。二体が倒れるのと同時にようやく着地。

 状況を理解したのか、ただ仲間がやられたからか、まだ立っている残りの二体のビーストマンがハンスへ襲いかかる。

 鋭い爪を使った引っ掻きにも似た切り裂きを屈んで避け、足を蹴飛ばしてバランスを崩して倒れそうになったところに立ち上がり様に脇腹へ肘打ちし、胸ぐら──というか毛?──を掴んでもう一体のビーストマンの拳を受け止めさせる。拳を仲間に当ててしまい一瞬戸惑ったビーストマンの腹部へ拳を入れた。

 ゆっくりとビーストマン達が倒れ、ハンスは壊した壁へ向かう。投げた物の回収と、手加減して蹴り飛ばしたビーストマンへのトドメを刺しに。 

 

 

 

 

 ジエットは目の前の状況が理解できないでいた。ネメルを掴んでいたビーストマンの頭部が吹き飛ぶと同時にその背後の壁が壊れ、押さえ付けられていた体が自由になったかと思えばビーストマンが次々倒れていく。そして、壊れた壁の方から声が聞こえる。

 

「ひぃぃ」

「安心していい。ここは子供の目が届かない。だから、惨たらしく死ねるゾ」

「た、助けてくれ!」

「クハハハハハ」

 

 

「な、なんなんだ……?」

 

 壁の中は暗くて見えない。

 だが、そんなことよりも、倒れているネメルへ駆け寄った。

 

「ネメル!」

 

 返事はないが息をしている。ビーストマンの死体からネメルと離れ、楽な体制で寝かせる。

 本当なら、すぐにでも都市に出たい。しかし、希望が目の前にあるとジエットは理解していた。

 その希望が暗闇の壊れた壁の中から出てくる。

 

「ふむ。やっぱり撲殺は後悔を抱かせるには最適かな」

 

 などと物騒な事を言っている希望だ。

 気付き、鉄の棒で肩を叩きながらジエットの前に来た。

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 第一声は少年からの土下座で、礼だった。

 正直に言うならば、イラっとした。

 何度も思う。こんなことは子供にさせることではない。

 少年──ジエットに立つように促し、立ってもらうと、ハンスは地面に膝をついて視線を合わせてから話をした。

 

 

「少年、私は君を尊敬するよ」

「え?」

 

 

 都市では見かけない珍しい黒髪に、紫の瞳。継ぎ接ぎだらけの顔に身体。目の前の人物が人間ではないのだと、なんとなくわかった。しかし、それでも、縋らずにはいられない。

 ジエットとネメルをどんな理由であれ、救ったのは事実なのだから。 

 

 

「あの」

 

 

 尊敬すると言ってくれた人に、助けてくれた人に、図々しいお願いだとわかっていながらも、ジエットはお願いする。

 

 

「おねがいじまず、かあさんを、たすけてくだざい」

 

 

 涙が溢れ、ちゃんと言えたかわからない。

 ただただ諦めたくなかった。助けてくれないかもしれない。それでも───

 

 

「任せなさいな」

 

 

 聞こえたのは優しい声。抱き寄せられ、頭を撫でられて、ジエットはさらに泣いた。

 

 

 

 

 




ビーストマン「幼女を食う(意味深)」
ハンス「死刑♪」

【追記】
名前の誤字等を修正しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。