オーバーロード ~四人の英雄~   作:古花めいり

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5話_王国戦士長

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 森の入り口は木々の隙間から日差しが地面を照らす幻想的な風景が広がる。

 森の奥へ進むにつれて日差しが遮られたのか極端に暗くなり、入口とは反対に不気味な雰囲気を発していた。しかし、その暗い森の中を進む二人組には関係のないこと。

 

「確か、この辺りか?」

 

 がたいがいい方の、半魔巨人(ネフィリム)──武人建御雷が聞けば、山羊の頭を持つ悪魔──ウルベルト・アレイン・オードルは頷いた。

 二人が森に入ってから、転移してきたであろう場所を捜索し、他に誰も──主にハンス──が来てないか探したがそれらしい手がかりは見つからなかった。

 そこらじゅうに浅い穴が空いているのは二人と、ウルベルトが召喚した悪魔とで掘ったものだ。理由は暗黙の了解のごとく、頷き合っただけである。

 

「これだけ探しても居ないとなると、別の場所か?」

 

 武人建御雷が持ち上げていた岩を下ろして聞くが返事はない。

 

「おい?」

 

 ウルベルトの方へ振り向けばそこにはおらず、召喚された悪魔だけがいた。悪魔が上を見ていたのでつられて見れば木々で遮られてウルベルトは確認できない。

 《飛行(フライ)》の魔法で上空からの探索にしては木上からでは森は見渡せても、木下にいるであろう動物すら見つけられまい。

 木々の隙間からウルベルトが降りてくる。

 

「この先に村があったぞ」

「なら向かうか?」

 

 情報を得るためにも誰か言語能力がある生物との接触は必要だ。

 敵対行動をとられれば逃げればいい。最悪、悪魔達を盾にすれば時間稼ぎぐらいはできるだろう。前衛と後衛が居るとはいえ、同レベル戦では数と連携、装備が物を言うのだから。

 

 

 一キロほど森の中を歩いたところで森が開け、先に村があったが──

 

「騒がしいな」

 

 村を遠目に見て。貧相な服装の者が走り回り、鎧を着た者が剣を振りかざしている。

 

「祭か? 武道祭なら是非参加してみたいが」

 

 村で起こっているのは武道祭などと生易しいものではない。

 貧相な服装の人々へ剣が降り下ろされ、血飛沫をあげて地面に倒れる。

 

「血生臭い祭だな」

「武道祭ではなかったか……残念だ」

「いや、この村伝統の祭かもしれないぞ?」

 

 それではまるで蛮族だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 悲鳴や怒声が周辺から聞こえる。

 目の前には背を向け、幼児に覆い被さり守る女が地面に伏していた。

 幼児は泣き叫び、女は震えている。その背に向かって、せめて苦しまずにと剣を降り下ろす。

 幼児の声が消え、女の震えは止まる。

 

「どうか、安らかに」

 

 鎧を身に纏い、剣を携える男──ロンデス・ディ・グランプはそう唱え、剣を引き抜く。

 この身は神に忠誠を、信仰を絶やした事などない。自分は不信心者ではない。

 この行いは人類存続の為であり、これはその為の仕方のない(・・・・・)犠牲だと。

 

 

「うぁぁぁぁ! 化け物だ!」

 

 同じ部隊のエリオンの声が悲鳴に混じって聞こえてくる。

 何らかの非常事態が起きたことは明白で、モンスターが現れた可能性を考えてロンデスは声がした広場へと走った。

 その先でみたものは──

 

「ハハハハハ! どうした。その程度か?」

 

 広場の上空に人間の形をした山羊の頭を持つ異形の者。

 それが悪魔の分類であると瞬時に理解できた。なぜなら、悪魔の言動がそれを物語っているからだ。

 

「貴様達には“悪”とは何か、悪行を、邪道と言うやつを教えてやろう!」

 

 悪魔は両手を広げて公言した。

 言葉通り、悪行と邪道が騎士──を装っているだけだが──を遊んでいる。

 逃げようとする騎士には山羊の悪魔が魔法を放って脚を攻撃して鈍らせ、小鬼の悪魔が群がりリンチにし。

 立ち向かう騎士にはガーゴイルと呼ばれる悪魔が剣を弾き、翼で騎士を弾き飛ばす。

 

「なんだこれは……」

 

 山羊の悪魔の下──地上には屈強な体を持つ人食い大鬼(オーガ)らしきモンスター。他と違う雰囲気を纏う姿は山羊の悪魔と同格か。

 騎士の一人が背後からそのモンスターへ切りかかるが、剣は弾かれる。

 勝てない。戦っている悪魔達はなんとか対処できているが、あの二体は別格だろう。

 モンスターに遭遇したのは不運ではあるが、ここは撤退すべきだ。村人の生き残りを残しても、あのモンスター相手には助かる事はないだろう。

 

「ひぃぃぃ!」

 

 悲鳴に似た声にそちらに視線を向ければベリュースが尻餅をついていた。

 曲がりなりにもこの部隊の隊長だ。ロンデスはベリュースに部隊を撤退するよう言おうとして──

 

「俺はこんなところで死んでいい人間じゃない!」

 

 立ち上がると一目散に逃げ出した。部下を置いてである。

 苛立ちよりも呆れが(まさ)り、声を張り上げて指示を出す。

 

「撤退だ! 全員撤退!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────  2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「追わないのか?」

「ふん! 奴等にそんな価値はない」

 

 やけに不機嫌だ。

 山羊の悪魔──ウルベルトはあの騎士達の戦闘を見ていて、いきなり介入したかと思えば弱い悪魔を召喚して見ているだけ。自らは逃げようとした者にのみ攻撃していた。

 はじめは村人を助けるためかとも思っていたが、そうではないらしい。何が彼をこうさせたのか。

 

「慈悲? 慈悲だと? 同族を殺して慈悲などと──悪行を行って神に祈るなど虫酸が走る──悪とは非情に、逃げるものには死を、向かってくるものには己の無力さを理解させる絶望を──悪の、悪の美学が足りない!! それを奴等は──」

 

 なにやらブツブツ言っているがここは放って置く。

 周囲を見渡して、少し離れた所に人が集まっているのを確認すると、状況を聞きに村人が集まっている所へ近付くが村人は怯えだ。

 目の前であのな戦闘を見せられれば当然か。

 

「我々は通りすがりの者だが、誰か状況を説明してもらえないだろうか」

 

 なるべく怯えさせないように武器はしまう。

 

 武人建御雷は気付かなかった。怯えられる理由が自分の外見も含まれていることに。

 

 集まっていた人の中から一人、老いた男性が踏み出す。

 

「あなた方は……」

「通りすがりと言った。この村が──」

「クソがぁぁぁ!」

「ひぃ!」

 

 交渉を開始しようとして、ウルベルトの怒声に遮られて老いた男は怯えて尻餅をつき、後ろの人達は目を見張る。

 

「暫し待て」

 

 言って男に背を向けてウルベルトの方へ行き、後頭部を殴った。

 武器を未使用とはいえ、前衛職ゆえに素の攻撃力は高い。ダメージは入らないだろうが、想像か妄想かは不明なものから帰ってこさせるには十分である。

 

「なにをする」

「それはこちらの台詞だ。せっかく人を助けたんだ、何か報酬を貰うのも悪くないだろう?」

 

 わざと大きめの声で会話する。

 村人に聞こえればこちらの意図を察してもらうために。

 

「なるほど、そういうことか。ククク」

 

 ウルベルトのその笑みはやめろとは言えない。

 交渉スキルなど二人とも取ってないのだから、使える物は全て使うべきだろう。

 男性の元に戻る頃には、男性は初めより怯えはないように思えた。

 

「我が名はウルベルト・アレイン・オードル! 希代の大悪魔にして大魔法使い! さぁ、貴様らの命の対価になにを差し出す?」

 

 見ている此方が恥ずかしい。

 その振る舞いは宝物殿のアレ(・・)を思い出させる。が、この場ではその振る舞いこそが必要だ。

 ここで下手に出ては足元を見られ、軽んじられる恐れがある。

 

「と、まぁ我々は貴様らの命等にそれほど興味はない。我々は最近この地に来たばかり。人間の情勢を知るのも悪くはない。故に、それを話すのであれば他は不要だが?」

 

 男性と、他の村人から多少は警戒や恐怖心が薄れたのを感じ、武人建御雷はホッとした。

(いきなり高圧的で心配だったが、これならば大丈夫か)

 

 

 後に、男性──村長だったらしい──の家に情報を提供してもらい、ある程度の知識が手に入った。

 この地はユグドラシルではないという確信と、ゲーム縛りを強制されているのはウルベルトと建御雷だけであり、村人──この世界の住人には適用されない事等々。

 しかし、やはりと言うべきか、村人が保有する情報には限りがあり、王国や帝国の情報はあっても詳細まではない。

 ウルベルトと建御雷は相談した後にここ、ネルカ村から近い都市エ・ランテルに行くのが得策だろう。

 問題は冒険者の強さが気になる。冒険者とは名ばかりのモンスターを専門に討伐するのだとか。もし仮にレベル100であるなら異形種と言うだけで二人は戦闘を吹っ掛けられるだろう。

 せめて外見だけでも隠す必要がある。また、目立たないようにする必要もだ。

 そこで、ウルベルトはローブと仮面を着け、建御雷は全身鎧を着たが、村長からダメ出しを食らった。

 聖遺物級(レリック)では伝説の装備等と言われ、遺産級(レガシー)でも希少価値が高すぎて目立つと言われてしまった。

 仕方なく、上位装備で妥協する。冒険者がレベル100なら、伝説級(レジェンド)または神器級(ゴッズ)と警戒していたが、もしかしたら誰も持っていない可能性が出てきた。

 村人が情報を持っていないという可能性もあるが、それは都市についてみればわかるだろう。

 そうこうしている内に夕方になり、()が現れた。

 

 遠目に村へ接近する部隊を確認した。

 しかし、武装が統一化されていない。先程の騎士とは違う可能性が出てくるが、ここで判断をミスする訳にもいかない。先制攻撃は避けて村の広場で待つ。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ」

 

 村長から聞いていた。

 王国最強の人物であると。

 『最強』その言葉に反応する人物がこの場には一人いた。

 

「村長とお見受けする。そちらの二人は……」

 

 一人は薄汚れた水色の全身鎧(フルプレート)に角が生えた面頬付き兜(クローズド・ヘルム)を被り。

 一人は漆黒のローブと牛のような闘牛の頭蓋骨を仮面のように被った奇異な者。

 

「我が名は──」

「武人建御雷だ。王国戦士長、手合わせを願いたい」

 

 ローブの者の言葉を遮って全身鎧(フルプレート)の者が一歩踏み出して奇怪な事を言う。

 初対面で手合わせを申し出るなど、礼がないのかと。だが、ガゼフは悪い気はしなかった。

 

「わかった。その申し出、答えよう」

 

 後ろの部下が驚きの声を上げるがガゼフは気にせずに馬から降り、剣を抜く。

 

「感謝する」

 

 武人建御雷は剣(拾った物)を肩を落として背筋を伸ばし、剣先をガゼフの中心を捉えるように構える。中段の構えだ。

 ガゼフは下段の構えで合い対す。

 

「……」

「……」

 

 互いに構えたまま動かず、相手を見つめ続ける。

(なんだ。この者は)

 対峙しただけでわかる技量。気迫。

 並の戦士ではない。蒼の薔薇のガガーランと同等か、それ以上の戦士。

 

「考え事か? 気が緩んでいるぞ」

 

 手合わせとはいえ、戦闘中に気を緩ませるなどあってはならない。それは相手を軽く見ているとなる。だが、かけられた言葉には軽んじられていることへの不快感は感じられず、あくまでも好意的な静かな警告。

 この隙に攻撃すればいいものを、そんなことはせずにいる。ただ純粋に真剣勝負がしたいのだろう。

 ガゼフは目の前の人物がどういう性格なのかを少しだが理解した。

 

「すまない。すごい気迫だと思ってな」

「そうか。では、此方から行くぞ」

 

 わざわざ口に出す。不意や奇襲は好みではないのか。

 だが、ガゼフにとってそれ(・・)は不意な攻撃に等しかった。

 一歩。

 そう、一歩踏み出したかと思えば武人建御雷は眼前に迫り、剣を降り下ろそうとしていた。

 十メートルは離れていた距離を一瞬にして詰める。

 防ぐのは危険と判断して横に転がるようにして避け、体勢を立て直す。

──が、眼前に刃が迫る。上体を反らして剣を避る。

 後退り、距離を置こうとするが離れず、剣は迫るばかり。

 全身鎧(フルプレート)なのにその重さを感じさせない俊敏な動き。相手との距離の置き方。自分の得物(武器)長さ(リーチ)を熟知した立ち回り。見事の一言につきる。

 これほどの技量の前になら、負けるてもいいとさえ思う。

 だが、ガゼフとて王国戦士長としての──いや、国王へ忠誠を捧げた者として、何もせずに負ける訳にはいかない。

 負けるにしても無様であっても、何もせずに負けるわけにはいかない。

 何度目かの剣を避け、先程までは後退する一歩を前へ踏み出す。

 

「ほう?」

 

 感心の声。

 なぜ喜ぶのか。そんなことを考える余裕などなく、ガゼフはかの者の脇へ剣を振る。

 防がれることは予想済み。手を止めず、足を前へ前へと付きだし、左上下右と連撃を繰り返す。その全てが流されるが確実に一歩、また一歩と後退させていく。

 

 

 

「なかなかやるな。人間にしては」

 

 戦闘の成り行きを見ていたウルベルトはガゼフと名乗った男への称賛の言葉を呟く。

(まぁ、加減されてアレとは。レベルは40辺りか? 最強が知れるな)

 『最強』の言葉に反応した武人建御雷が興味を持つのは別に構わなかった。

 ウルベルトも最強と言われれば反応はしたが、戦士職では話にならない。魔法職最強ならば武人建御雷と同様に競おうとしただろうが。

 と、戦闘の決着がついたようだった。

 武人建御雷の持つ剣が折れため、この手合わせは引き分けとなった。

 

「もっとまともな剣を拾うべきだったか」

 

 拾い物であそこまで戦えるものなのかとガゼフは驚愕するが、武人建御雷がヘルムを脱いだことで更に驚愕した。

 人ではない異形の者。

 

「なるほど、人ではなかったか」

「ならば、どうする?」

 

 ヘルムを脇に抱えて武人建御雷は聞く。危険なモンスターは討伐するべきだ。王国の為にも。だが、武人建御雷は武器を取り出すわけでも、逃げようとするわけでもない。

 ガゼフはこの人物──人ではなかったが──の性格は先の戦闘で少しではあるが理解できていた。

 

「お、お待ちください! 戦士長殿!」

 

 村長が慌てて間にはいり、武人建御雷の前に立つ。

 

「村を救って下さったのはこのお二人です!」

 

 ガゼフに驚きはない。しかし部下達からは驚きの声が上がる。

 異形の者が人を救うなど補食以外では、ほぼないだろう。それゆえの驚きだ。

 

「我々は何も見なかった」

「戦士長!?」

「冒険者のお二方。村を救ってくれたこと、感謝する」

 

 頭を下げる。

 王国戦士長という立場でありながら、異形種相手に頭を下げるなど気が触れているとか言いようがないが、ガゼフにはそんなもの関係なかった。

 平民出身のガゼフは村の過酷さを知っている。野党やモンスターに襲われた時は、通りすがりの冒険者や国の軍が助けに来てくれないかと願わずにはいられなかった。

 敵国に襲われたらモンスターが助けてくれた。意思の疎通ができた。敬意を払うべき技量と度量を持ち合わせていた。たったそれだけのことだ。

 姿を見なかった。いや、ここには全身鎧(フルプレート)の者と漆黒のローブを纏った二人の冒険者がたまたま居合わせただけの事。

 

「して、村を襲った帝国の兵士とは殲滅を?」

「いや、南西へ逃げた」

 

 漆黒のローブを纏う者は闘牛の頭蓋骨をとっており、山羊の頭を露にしていた。

 

「そうか。感謝する」

「もう行くのか?」

 

 馬に跨がり、漆黒のローブの者に聞かれて頷く。

 もう夕方なだけに、村で一晩過ごせばいいのだろうが、今から出立すれば次の村は間に合うかもしれないのだ。

 それを理解したのか、漆黒のローブの者は止めずにいた。

 

「戦士長。次はしっかりとした武器を使った勝負をしよう」

「もちろんだ、武人建御雷殿」

「建御雷で構わない」

「そうか、では私もガゼフで構わないが?」

 

 武人建御雷の表情は読み取れないが、笑ったように感じた。

 

「うむ、ではガゼフ」

 

 言って拳を突き出してきた。その意味をすぐに理解して、ガゼフも拳を突き出す。

 

「ああ! また会おう建御雷殿」

 

 拳を突き合わせた。

 

「王都に来た際には是非とも家によってくれ。歓迎しよう」

「では、裏口からお邪魔しよう」

 

 一瞬キョトンとして、武人建御雷の外見の意味での軽口だと理解してお互いに笑い、ガゼフは村を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 




法国の者に救いはないのか。
ここで時系列のお話です。
モモンガ様は転移してから3日はナザリックに引きこもっていたので、その3日は三人の進みです。

【追記】
間違え、誤字を修正しました。
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