オーバーロード ~四人の英雄~   作:古花めいり

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7話_竜王国~女王~

 

 竜王国。

 それは“黒鱗の竜王(ブラックスケイル・ドラゴンロード)”ドラウディロン・オーリウクルスを女王に戴く国である。

 竜王国と聞いて竜族の国と思う者は少なからずいる。というより、はじめて聞いた者は必ずしもそう思うはずだろう。だが、人間の国ではある。

 過去。竜王と言われる七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)によって建国されたため、竜王国と名付けられ、王家はその竜王の血を引いている。

 元々、近隣のビーストマン国家による侵略に日々悩まされ、今はもう少ない資金で法国に支援を要請し、どうにか凌いできた。しかし、それももう限界が近付いていた。

 

「頭が痛い。お先が真っ暗すぎる」

 

 テーブルに突っ伏す少女の見た目をした女王───ドラウディロン・オーリウクルスは呟く。

 現在、竜王国の情勢はどちらかと言えば良い方だ。しかし、それもいつ崩れるか不明である。明日なのか、はたまた明後日なのか。

 ビーストマンからの大きな侵攻はないものの、国家存亡の危機は変わらない。

 竜王国には冒険者。それも最高レベルのアダマンタイト級が一チーム存在する。本来、冒険者は国家同士の争いには関与しないルールだが、モンスター討伐の名目で冒険者組合から許可は取っている。

 アダマンタイト級冒険者チーム『クリスタルティア』。そのチームのリーダーであるセラブレイトは「閃烈」の二つ名を持つ凄腕の剣士だ。しかし、当のセラブレイトは宰相曰く、『ロリコン』らしい。

 ドラウディロンの姿を見る視線はねっちょりとしている。ドラウディロンが、国の者がそれを拒絶する(すべ)はない。

 どのような素性、性癖であれセラブレイトの、アダマンタイト級冒険者チームの助力なくして竜王国はビーストマン国家からの進行は防げない。

 

「いずれは、身を捧げるしかあるまい」

 

 窓から城下を眺める。

 女王として、国を預かる者として民は守らねばならない。我が身可愛さに父と母が護ったこの国を、曾祖父が作ったこの国を見捨てるなど“あり得ない”。

 不意のノックに扉へ振り向く。無意識に握っていた拳を解き、「誰か」と問えば宰相だった。

 

「陛下、都市が落ちました」

 

 部屋に通して開口一番。宰相が口にしたのはそれだった。

 唐突に何を言っているのか、頭では理解していながら認めたくなく、聞きたくもなかった。

 都市が落ちた。言葉通りの意味だろう。

 またビーストマンの進行が開始された。しかし、都市が落ちたことは今までなかったのだから、今回の進行は今までの比ではないと物語っているようだ。

 

「ビーストマンの進行があり早馬で報せに来た者の後、《伝言(メッセージ)》を都市の長に送りましたが……返答はなく、恐らくは確定かと」

 

 ドラウディロンは目を閉じ、天井を仰ぐ。

 都市を落とすほどの軍勢。その進行を防ぐのは現在の竜王国には不可能である。

 アダマンタイト級冒険者チーム『クリスタルティア』。彼らと兵士の混成部隊でも結果は変わらないかもしれない。

 

「確か、二日前に陽光聖典が入国したのではなかったのか?」

 

 微かな希望。法国の裏の部隊である秘密裏に入国させていた陽光聖典ならばとすがるしかない。

 

「……先程、湖の港から法国へ帰国したとの報せがきています」

「……」

 

 絶望とはこの事を言うのではないか。と、思った。

 タイミングが悪すぎる。

 他国にばかり頼ったのが悪いのか?

 ドラウディロン()に力がないのが悪いのか?

 何故、曾祖父の国が滅ぼされなくてはならない?

 人間だから。ビーストマンにとっては餌でしかないから?

 ならば、貴様らを道連れに滅んでやろうか。

 

 竜王にのみ使えると聞かされている原始の魔法。その魔法をドラウディロンが使う代償を考え、ビーストマン共々滅んでしまおうかと考えていた時、再び扉がノックされる。

 

「正門の警備の者です! 問題が起こり、御報告に参上しました!」

 

 ドラウディロンは椅子に座り、その後ろに宰相が立つ。警備の兵を部屋に通して報告を聞けば、正門に難民らしき者達が来ていると。その者たちは宰相が報せてきたビーストマンに落とされた都市から来たと言っているらしい。

 あり得ない事だ。都市がビーストマンに落ちたのであれば人間は生きてはいない。そこから来たとはどういうことなのか。

 その中の奇妙な仮面を着けた者が「民を受け入れなけれないのであれば隣接して都市を造ってもいいか」と言ってきているらしい。

 都市を造るのに何年、何十年かかると思っているのか。その前にビーストマンが進行してくるのは間違いないだろう。

 

「私がいく」

「陛下がですか!?」

 

 天真爛漫な子供を演じて首を傾げる。

 その姿に兵士は言おうとしていた事を「子供のすることだから」と言うかのように諦め、正門へドラウディロンとその近衛兵、宰相らと共に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────  2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大都市でも数少ない馬車で正門へついたドラウディロンは警備兵と難民の男性とが話して──と言うよりは、怒鳴りあっているのを見つけた。

 門の外側には見えるだけでも荷馬車が六つ。どれも木材で出来ている。都市にそんな木材があるはずはないのだから、都市の者とは嘘か、何か理由があるのか。

 

「おそらく、兵と話しているのは都市長かと。見た覚えがあります」

 

 宰相が耳打ちしてくる。

 そう言うのであれば、落ちた筈の都市の民である可能性が高まる。しかし、荷馬車といい、どうやって都市から来れたのかが疑問だ。それに、宰相の話では都市陥落の報の早馬は今朝来たと言う。馬でも一日はかかる距離を荷馬車のような足の遅い物ではこの時間で来れる筈がなかった。

 宰相も同じ疑問を持ったのか、視線は鋭い。

 近衛兵が門の兵と男性の元へ近付き、声をあげた。

 

「双方怒鳴り合いはそこまでにせよ!竜王国女王ドラウディロン・オーリウクルス様がお見えである!」

 

 近衛兵の口上の後に馬車から降りる。降りる時も演技は欠かさない。子供が背伸びをして振る舞っているかのようにしなくてはならないのだから面倒だ。だから外には──正確には人の前には──なるべく出たくない。城に籠っているのはそれもあるのだ。

 女王の登場にその場の皆が跪く──のだか、宰相と近衛はともかく二人、荷馬車の近くに立つものがいた。

 声が聞こえていない筈はない。その後ろの者たちは跪いているのだから。

 

「おい、そこの二人! 聞こえなかったのか!」

 

 近衛兵がその者へ怒鳴るがこちらを見るだけで返答はない。

 一人は白い丸みの仮面には目の部分が黒く大きい点で口にはなにも描かれていない。見たことのない仮面。また、身につけた衣装も仮面同様見たことはない。だが、一目で高価な物であることがわかった。

 ドラウディロンが見たことがないのは必然だった。この世界にはその服の名すら存在しないのだから。

 見た目はインバネスコートと呼ばれるもので袖があり、全体的に黒く、丈が長いコートに、裾が黄色のケープは黄色の紐で留めるていて丈は肘までしかない。

 もう一人は二メートルを軽く超える大男。動物の皮を被っていてビーストマンと見間違えそうになるが、狼の口の下──顎の部位から人間の口があるのが確認でき、皮の隙間から屈強な肉体が見え隠れしていた。

 

「いや、すまない。女王が竜だとは聞いていたけども、まさか子供(・・)だとは思わなくてね。言葉がでなかった」

 

 爆弾が投下された。

 ドラウディロンからすればその様な、少女の姿をしているのだから子供と言われるのは当然の反応だろうと納得できる。むしろそれが目的でこんな姿をしている訳である。好き好んでやっているわけではない。断じてない。

 しかし、ドラウディロン()姿に関して思うところはないが、真実を知らない近衛兵は違う。

 

「き、貴様ぁ!」

 

 案の定、近衛兵は怒鳴り、目くじらを立てて仮面の者へ近づく。

 ドラウディロンは明後日の方向を向く。止める気などはない。自己責任だ。自業自得と言うやつである。

 何故正門(ここ)まで来たのか自分でもわからない。“勘”と言うのだろうか、何か思うところがあって来たはずなのだ。

(無駄足、か)

 そう思い、明後日の方へ向けていてた視線が──目が合った。

 その目が合った者はにこやかに微笑み、ねっとりとした視線を隠す様子もなく近付いてきた。

 今、馬車に戻った所で意味はない。目が合ってしまったのだから。アダマンタイト級冒険者チーム『クリスタルティア』のセラブレイトと。

 

「陛下」

 

 宰相が呼ぶ。しかし、今はそれどころではない。あのロリコンとこんな場所で会うのは想定外だ。いつもは面会を求められても「忙しい」の一言で断れた。城内であれば。

 今は外であり、逃げ場などはない。馬車に戻っても怪しまれるだけであり、そんな些細なことで力を貸さない等と駄々をこねられるのも面倒だ。だが、すぐにでも城に戻ればいい。

 

「陛下!」

「なんだ! 今は忙──」

 

 忙しいと言いかけて、近くにいた宰相が飛んだ。いや、正確には何か人のようなものが飛んできて、それが当たって一緒に吹き飛び、馬車の方へと転がる。

 飛んできたであろう場所を見れば奇妙な面を着けた者が立っている。その周りには二十人程の近衛兵が倒れていた。

(あの一瞬で? いくら気を向けてなかったとはいえ、大した騒音もなく二十人近い兵を?)

 近衛兵が一人、近付いて行くのはわかっていた。いつの間にか他の近衛兵も参戦していたようだ。

 

「威勢が良いですね。志願兵ですか?」

 

 セラブレイトが自然にドラウディロンの隣へ来るが少しだけ離れる。

 

「え? 志願兵? いや、私は──」

「セラブレイト殿! この者を取り押さえて下さい!」

 

 困惑した仮面の者の言葉を遮り、倒れながらもセラブレイトへ要請する近衛兵。

 面倒な要請をするな。と言いたいが押さえる。暴言──子供どうこうに関してはドラウディロンは暴言とは思わないが──を言ったのは確かだ。しかし、手を出したのは此方が先なのだからここは話し合いをすべきではないだろうか。

 そう考えている間にセラブレイトは返事をしてしまった。

 

「了解した」

 

 

 

 

 

 

 

 




更新が遅れ、更には短めですみません。
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