オーバーロード ~四人の英雄~   作:古花めいり

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8話_竜王国~閃烈~

 

 

 ドラウディロン・オーリウクルスとセラブレイトが遭遇する少し前。

 

 大都市周辺の偵察と見回りを仲間──クリスタルティアのメンバーと竜王国の兵と合同で行い、親睦を深め、臨時の際における体制を話し合う。

 親睦を深めるのは後の事を考えてだ。いざ戦う時に実力を知らない。助けてくれるかわからない。背中も預けられないでは話にならない。だからこそ、偵察や演習などは信用を得るにも実力を知るにもちょうど良い。

 力があるからと他の者を見下したりしたくはない。無論、賊や畜生は別だが。

 竜王国に滞在して長いセラブレイトは国民との仲は友好だ。

 冒険者でありながら、国に支えているかのような立場であるセラブレイト、クリスタルティアのメンバーは他の冒険者から煙たがられることもなく、逆に称賛されることが多い。

 

 

「なんだ?」

 

 

 ふと、門の方から喧騒が聞こえてそちらへ向かう。

 家の角を曲がったところで馬車を見つけ、王族所有の物だとすぐにわかった。何度も見かけたことがあるからだ。

 その馬車の近くに宰相と竜王国女王ドラウディロン・オーリウクルスを見つけてついニヤけてしまう。

 だらしないのは百も承知。だが仕方ないではないか。好きなのだから。惚れた腫れたはどうしようもない。

 一目惚れだった。仕えたいと、側にいたいと思ったが、竜王国の現状を考えればそれはできなかった。

 アダマンタイト級冒険者という肩書きがそうさせているのではない。その肩書きがなければ面会すらできない立場だからこそ、セラブレイトは依頼を受けた一冒険者として“今は”竜王国のために力を貸している。

 ビーストマンの国を滅ぼした暁には正式に仕えようと、または真っ向から告白してドラウディロンの夫に──

 

 

「いかんいかん。つい煩悩が」

 

 

 表情と気持ちを引き締めてドラウディロンの元へ向かう。その途中にどこからか投げ飛ばされた兵士が宰相を巻き込んで転がる。

 飛んできたであろう場所へ視線を向ければ数人の近衛兵が倒れて奇怪な仮面の者が立っていた。

 ドラウディロンの隣に並んで聞いてみた。

 

 

「威勢が良いですね。志願兵ですか?」

「え? 志願兵? いや、私は──」

「セラブレイト殿! この者を取り押さえて下さい!」

 

 

 近衛兵の要請にセラブレイトは好機と思った。自分の戦いを直に見て惚れる女性は居てくれるが趣味が合わない異性ばかり。

 数多のビーストマンを葬っても書類でしか見られない。だからそこ、これは好機なのだ。兵士の要請がドラウディロン・オーリウクルスへ己が力を魅せる好機だと!

 

 

「了解した」

 

 

 相手が志願兵などもう頭にない。あるのは力を見せるという誇示だけ。

 仮面の者の方へと向き、腰の剣を取り外して剣と鞘を固定する。

 剣は抜かない。一瞬で片付けるには勿体ない舞台だ。圧勝はもはや当然。そんなものを見てもドラウディロンの心は動かせない。

(剣も抜かずに近衛兵を倒した相手を軽くあしらう姿には力を示すにはいいか?)

 自信はない。しかし、やるしかない。

 

 

「……戦うのかい?」

「どちらでも。それとも、おとなしく捕まるか?」

 

 

 仮面の者は諦めたように肩を落す。

 おとなしく捕まるつもりはないということ。その行動に口許がつり上がるのを我慢して構える。

 言質はとった。相手が抵抗するから仕方なく(・・・・)実力行使するのだ。

 セラブレイトが構えてから先端が九十度曲がり、赤く塗られた鉄の棒を仮面の者は取り出した。まともな武器ではない。それについてはなにも言えない。セラブレイトもまた、鞘から剣を抜いていないのだから文句など言えるはずはない。鉄の棒しか持っていない可能性もある。

 仮面の者は構えずに棒立ちでいるので準備ができるまで待っていた所に声がかかる。

 

 

「来ないのなら、此方から行くけど?」

 

 

 嘗められているわけではないと、雰囲気で察することが出来た。

 ただ、試されている感じがするのは気のせいではないだろう。その証拠に、仮面の者は一瞬で間合いを詰めるが鉄の棒を降り下ろす速度はゆっくりとだった。足の速度だけが高いのであれば話は別だが。

 攻撃を横に避けてカウンターで下から剣を手に向けて振り上げる。手を叩いて武器を捨てさせれば抵抗できなくなると踏んでの行動だが、驚かされた。

 鉄の棒を握る場所で剣を防がれたのだ。

 セラブレイトは嬲る趣味はないので、手を狙って本気で剣を振ったのだが、相手は武器を降り下ろす攻撃を回避されてバランスを崩した後なのだから、意思が反応出来ても体が降り下ろし後の硬直で対応できるはずはない。武技<即応反射>ならば可能だが使った様子はない。

 防がれ、そのまま鍔迫り合いに似た状況になってしまった。

 いくら剣に力を込めても押しきれない。武技<能力向上>を使っているにも関わらず武器を弾くことすらできない。

 さすがに不利と判断し、<光輝剣>を使うために一度距離をおこうとした刹那。

 

 

「ごはっ」

 

 

 セラブレイトは数メートル飛ばされて家の壁に叩きつけられた。

 何が起きたのか。一瞬だけ見えたが、足に蹴飛ばされた?

 血を吐きながらも身を起こして仮面の者を見れば片足を上げた体勢である。やはり蹴飛ばされたらしい。

 強いとか速いとかの問題ではない。そういえば志願兵だったのでは? 明らかに殺す気でいないか?

 殺される。そう考えるだけで背中を冷たいものが走る。

 肋骨の何本かを折られたが距離はあけられた。剣と鞘を固定していた紐を解き、<光輝剣>を発動──しようとして視界が遮られる。

 頭を鷲掴みにされてその時になってやっと、セラブレイトの中にある恐怖を実感した。

 

 

「なかなか強いね。ビーストマンよりは」

 

 

 最後に聞こえたのは綺麗な声だった。先程まで気にしてなかったが、近くだとよく聞こえる。仮面の下は女性だろうか?

 そんな事を考えてしまうのは現実逃避でしかないが、仕方ない。直後、セラブレイトは背後の家の壁に後頭部を叩きつけられて意識は黒く染まった。

 

 

 

 

 

──────────  1

 

 

 

 

 

 目を開けると知らない天井が最初に目についた。

 

 

「セラブ…イト! おい、早く……さん、呼んで…い!」

 

 

 耳元で五月蝿い。仲間の声だとわかるが頭がぼんやりしてよく聞き取れない。寝惚けているのだろうか?

 早く起きなくては。修練所に行って兵士に剣術を教え、外壁に行って連携を打合せし、都市周辺の見回りにも同行しなくてはない。

 早く起きなくては。早く……。

 

 

「やぁ。おはよう」

「───」

 

 目の前に綺麗な女性──いや、男性? 中性的な顔立ちの人が覗いてくる。

 中性的でありながらその顔立ちは綺麗で目眩がするほどだ。同時になにか言わないとと思っていたが声は出せず、唖然していると部屋にはクリスタルティアのメンバーもいることに気付いた。

 

「セラブレイト、よかった」

「セラブレイトさん動揺しすぎですよ」

「……よかった」

 

 完全に目覚める前の虚ろの中で仲間たちの声が聞こえたのだからいるのは当然だか、セラブレイトの顔を覗いてきた中性的な顔立ちの人は知らない。

 

(医者……か?)

 

 上半身を起き上がらせて仲間を見て、部屋を見渡せば病室だった。薬品の臭いが鼻をくすぐる。

 ベッドの横に先程顔を覗いてきた人が座っていた。よく見れば顔には手術の跡だろうか継ぎ接ぎだらけで、直視するのは失礼だとわかっていながらじっと見つめてしまった。傷があろうともその顔があまりにも綺麗だったから。

 

 

「大丈夫かい? 申し訳ない。つい力が入ってしまったようだ。ポーションで外傷は治せたけど、意識は大丈夫?」

 

 

 なんて優しい人なんだ。と思ったが「力が」の部分に疑問を抱き、なぜセラブレイトはここで寝ていたのかを、寝る前の事を思い出して再び口をぱくぱくさせて指差した。

 

 

「えーと。ごめんなさい」

 

 

 頭を下げられた。

 

 

「セラブレイト、ハンスさんは御詫びにと凄いポーションを使ってくれたんだ」

 

 

 仲間が耳打ちしてくる。名は『ハンス』と言うらしい。

 それにしても可憐だ。

 

(はっ!? いやいやいやいや! 俺は陛下一筋ですよ!?)

 

 誰に対しての言い訳か。

 とにかく謝罪を受け、ハンスや仲間たちから状況を説明してもらった。

 

 都市にビーストマンが進行して来たこと。その都市から国民を連れてこの大都市まで移動したこと。国民を助けてくれた恩人になんて失礼な事をしでかしたのだろうかとセラブレイト自身、罪悪感で顔が青くなるが、ハンスは許してくれた。

 

 

 

 

 

「セラブレイトより強い人はこの都市にいるのかい?」

 

 

 歩いても大丈夫なほど回復したのでハンスと共に王城へ向かう途中て聞かれた。

 

 先の騒動でドラウディロンはハンスと市長の言葉を聞いて国民を受け入れた後に王城へ戻り、セラブレイトと近衛兵は病院に運ばれていた。その時に赤いポーションを全員に使用したらしい。

 ハンスに対してドラウディロンからは共に王城へと誘われたらしいがセラブレイトへの謝罪のために断ったのだとか。

 

(なんて誠実な人なんだ……)

 

 王族の誘いよりも自らが過ちを正す事を優先する。そんなハンスの態度にセラブレイトは好感を持てた。戦闘での出来事など些細なことであると思うほどに。

 

 

「まぁ、俺らはアダマンタイト級だからな」

「アダマンタイト?」

 

 

 クリスタルティアのメンバーの一人、バゼットが質問に答えたがハンスは首をかしげた。

 

 

「あれ? ハンスさんは冒険者のランクって知らないっすか?」

「うん」

「アダマンタイトと言うのは冒険者の頂点、最高ランクの事だ。つまり、俺たちより強い冒険者はこの国には居ないな」

「ま、一番強いセラブレイトはハンスさんには負けたけどな!」

 

 

 どっと仲間たちが笑いだす。アダマンタイト級としてのプライドはあるが、敗けは負け。油断はしたが実力で倒されたのだから清々しいものだ。ゴロツキじゃあるまいし、根に持つ気もない。だが──

 

(バゼットめ、後で覚えていろよ?)

 

 笑い話の中心にされるのは気に食わない。

 セラブレイトはバゼットを訓練と称して打ちのめす事を誓った。

 

 その後、ハンスは驚くほど冒険者について知らなかったので、クリスタルティアのメンバーと雑談混じりに説明していると王城へ到着した。

 その間、セラブレイトを瞬殺できる強さがありながら冒険者やギルド等について知らず、竜王国や周辺国家は知っている。などと、ちぐはぐな知識に疑問を抱くが誰一人として聞かなかった。人には触れられたくない事もあるだろう。顔の継ぎ接ぎ傷についても。

 

 

「ありがとう。ここまで案内してくれて」

「気にしないでくれ。俺たちも用があったんだ」

 

 

 「そうかい」と微笑まれてメンバーの大半が顔を赤くするなか、ハンスは仮面を着けた。

 やはり傷は隠したいのか。隠すことで城内で問題が起こることは必須だろうと思っていたが、ドラウディロンから門兵には話が通っていたらしい。なぜかドラウディロンの私室へ案内されていった。

 セラブレイトとクリスタルティアの面々は客室へ通される。

 

 




竜王国編はまだ続きます。
なぜクリスタルティアの人達はハンスを女性と思い、なぜ異形種だと気づかないのか。
それは追々語られます。

そして完全空気な人物が一人……南無。
ビーストゾンビ「!?」
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