シュタウフェンベルクは飛び込んでくる娘を抱きしめた。
話からすれば、久しぶりの再会なのだろう。
しばらくのあいだ抱擁が終わることはない。
その様子をグラティアは微笑み、そしてウルカはただ口を半開きにして見つめていた。
「父上、お元気そうで何より……」
そして少女は凛とし表情でシュタウフェンベルクに話しかける。
久しぶりに会えたのなら、年相応の少女なら涙の一つも流すかもしれない。
しかし凛とした表情を崩すことのない少女。
その表情はシュタウフェンベルクの雰囲気そのもので、間違いなく彼の娘であると言うことがわかる。
「ヒルデ、寂しくなかったかい?」
「妾は父上の様に強くなりたいのです。だからこの程度で寂しいと思うわけにはいきません」
シュタウフェンベルクの言葉に、間髪を入れずにハキハキと返すヒルデと呼ばれる少女。
この家の者達は根っからの軍人で、そして何よりも国を愛しているのだろう。
側から見ているだけでも、言葉を二、三個聞いただけでも、それが感じ取れる。
「ん、おぉ! ティア! ティアではないか! 久しいのぉ!」
そしてヒルデはやっとティア達の存在に気づく。
家族だけの空間がヒルダの言葉で広がっていく。
ヒルデはシュタウフェンベルクからはなれると、次はティアの前へと向かう。
「おひさしぶりです、ヒルデお嬢様。お元気そうで」
「うむ、お主も……。なにやら活躍してるそうじゃな。友人として誇らしいぞ」
満面の笑みを浮かべるヒルデ。
久しぶりの再会に、そして互いがまだ無事であることを確かめる様に
言葉を交わす。
「私たちが頑張らなくては、他にできる人もいませんからね」
「まぁ、その通りじゃな。これからは……ん?」
ヒルデは二、三言葉を交わすと、その視線を隣にいるウルカに移す。
この席にそぐわない扶桑人と言う人種に、好奇の目をもって見つめる。
足先から頭頂まで。顔を近づけては離す。
一通りウルカのことを見つめると、ヒルデは一歩後ろへと下がる。
「おー、扶桑の者か? すまぬ、久しぶりの友人との再会に盛り上がってしまった。許されよ」
「お、おう……」
ヒルダは瞳を伏せると、先ほどの興奮とは打って変わった落ち着いた口調で話し始める。
その様子にウルカは呆気に取られた返事を返した。
公務の顔と言うことだろう。
貴族そのものと言った凛とした雰囲気が漂う。
「妾はヒルデ・フォン・シュタウフェンベルク。 よろしく頼む」
軽く会釈してみせるヒルデ。
ただそれだけなのに、一挙手一投足。動きの全てが洗練されている。
その姿にウルカはまた口を半開きにした。
「遠き異国の者よ。お主も軍人と見える。この戦いに参戦しているのだろう?」
「あ、あぁ、ティアと行動を共にさせてもらってる」
「そうか、妾などから言うのも可笑しいかもしれぬが……。感謝しているぞ、えっと……」
ヒルデが言葉に詰まる。
一瞬の沈黙の後、その理由を悟ったウルカが口を開いた。
「ウルカだ。カナイ・ウルカ。よろしく頼む。ヒルデお嬢様」
ウルカはヒルデに向けて手を差し出した。
ヒルデは微笑むと、その手を掴み固く握手に応じる。
「ウルカ? ヒルデお嬢様は強い魔法力をお持ちだ。まだ訓練中だが、いつか前線で共にするときも来るだろう」
「ウィッチだったのか。なるほど」
補足で説明するかの様に、話の輪に入り込むティア。
しばらく離れていたと言うのも、訓練のためだと言うことをウルカは悟る。
「うむ、今日は久しぶりに帰宅の許可が降りたのでな。街にも出てみたい」
せっかくの休みなのだから、満喫したいのだろう。
さっきの落ち着きとは打って変わり、ヒルデはそわそわした様な仕草をみせる。
「もう畏る必要もなかろう。ウルカ! 今日からお主も妾の友達じゃ!」
そしてヒルデ口調も話し方も崩す。
これが彼女のいつもの口調なのだろう。
雰囲気を切り替えられるのも貴族として育ってきた故だと言うことがわかる。
「あぁ、ティアの友達だもんな。拒否する理由もない」
ヒルデの歳相応の無邪気な反応を見れたことで、ウルカは笑みをこぼしながら答えた。
「ふふっ、安心したよ。ウルカくん。仲良くできそうだね」
そして、その様子を微笑ましく見つめる父の姿がある。
きっと、これがこんなご時世でなければ、日常で見られる光景なのだろう。
しかし、こんな歪んだ非日常に慣れてしまった人々は、その中にある日常に心の癒しを求めていたのかもしれない。
シュタウフェンベルクの瞳がそれを物語っていた。
「父上! 街に出ても構わないでしょうか?」
そしてそろそろ我慢の限界といった感じに、ヒルデは言葉を発した。
「あぁ、いいよヒルデ。少尉? ウルカくん。一緒に行ってもらってもいいかい?」
「もちろんです」
「あぁ、俺もベルリンには興味がある」
「決まりじゃっ! 行くぞ、ティア! ウルカ!」
まるで野に解き放たれた獣の様に。
水を得た魚と言ったほうが正しいだろうか。
ヒルデは許可をもらった途端に駆け出して行く。
「ヒルデお嬢様!」
その後を慌ててティアが追いかける。
嵐が去った様に静まり返った部屋の中にウルカとシュタウフェンベルクが取り残される。
「ちょっ、ティア!」
1テンポ遅れてウルカが彼女らを追いかけようとした。
「ウルカくん!」
そんなウルカをシュタウフェンベルクが引き止める。
「忙しない娘だが、真っ直ぐで優しい子だ」
澄み切った空。そうとしか形容できない瞳がウルカを見つめる。
「娘を頼む」
どこまでも優しく、心に染み渡るかの様な声。
綺麗だった。なによりも美しい決意に聞こえたその声にウルカは視線を鋭く見つめ返す。
「おっさん。死ぬのか?」
その言葉に一瞬、シュタウフェンベルクは眉を動かした。
瞳を一度閉じると、すぐに何時もの表情にもどる。
「どうして、そう思ったんだい?」
「俺は知ってる。そんな瞳を。そんな声を」
シュタウフェンベルクは不敵に笑みを浮かべた。
それはまるで見透かされたことを肯定する様な笑みだ。
「君は何者だい? その歳でそこまで達観している」
「知ってるだけだ。死んで行った人のことを」
その言葉に観念したかの様にシュタウフェンベルクはウルカに背を向けて話し始める。
「ネウロイが現れてから戦争とは呼べない虐殺が続いた。男も、女も、老人も、子供も」
小さくため息をつくシュタウフェンベルク。
「軍人も、一般人も、政治家も。皆等しく逝った」
「…………」
ただ沈黙してウルカは言葉を聞く。
先ほどの喧噪とは思えない重苦しい空気が部屋を包む。
「……君たちウィッチは気づいてるだろう。遠からずベルリンは落ちる」
「……あぁ」
ウルカも気づいていた。
彼はこの世界についての知識が少なからずある。
そして1945年時点でもカールスラントは奪還できていないことも知っていた。
カールスラント、欧州にはこれから苦しい時期が続く。
それを知っているが故に、ウルカはただ頷くことしかできない。
「私はベルリンの防衛を担うことになっている。出来る限りここを死守して、多くの国民を守る。それが使命だ」
シュタウフェンベルクはウルカへ向きなおる。
「私も生きて帰れるか分からない。妻はもう安全な地域に移した。心残りは娘とこれからを歩めないことだ」
「だから、一番近い友人であるティアや、それになり得る俺に頼んだ?」
「あぁ、そうだ」
ウルカは俯いて顔に陰を落とす。
そして強く拳を握ると、無言でシュタウフェンベルクの目の前へと歩み出る。
「ウルカくっ――!」
ウルカは思いっきり手を伸ばすと、ギリギリのところでシュタウフェンベルクの胸ぐらを掴む。
そして顔を自らの目の前まで持ってくると、声を荒げた。
「ふざけんな! 勝手に意思を固めるんじゃねぇ!」
「っ……」
今まで見せなかったウルカの姿に、シュタウフェンベルクは息を飲んだ。
「残されたヒルデはどうなるんだ! 俺たちはあんたの代わりにはなれないんだぞ!」
「ウルカくん……。私は」
ウルカの声がシュタウフェンベルクの心に突き刺さる。
「アンタは生きてないといけない人だ! この世界の為にも、ヒルデの為にも! あの子と共に歩んでいける父親はアンタしかいなんだ」
シュタウフェンベルクの心が揺らぐ。
彼は歯を食いしばって、ウルカの声を聞くことしかできなかった。
「俺が死なせない。おっさんを守る。約束だ」
声を荒げたウルカも次第に冷静を取り戻していく。
胸ぐらを掴んだ手を離すと、シュタウフェンベルクは床に座り込んだ。
「……言うじゃないか」
「伝えたかっただけだ。誰だって生きたいんだよ……」
「はぁ、君の言葉はなかなかに効いたよ。死に対する決意が歪むほどに。さぁ、もう行きなさい」
「……声を荒げて悪かった」
ウルカはシュタウフェンベルクから視線をそらすとそのまま扉へと向かう。
「……ウルカくん。私はまだ生きたくなってしまったよ」
シュタウフェンベルクはさっきの言葉に付け加えるようにウルカに声をかけた。
ウルカは一旦歩みを止めて、その言葉に耳を傾ける。
「君たちの生きる未来を見てみたくなった……」
そして彼は笑みを浮かべる。
先ほどの達観した澄み切った青空の様な、誰の手も届かない笑みではなく。
地に咲いている花のような、手の届きそうな実感のある笑顔を。
「安心しろ。必ず守る。ウィッチに不可能はないから……な」
肩越しに振り返り、頬を掻きながら恥ずかしそうな笑みを浮かべて、ウルカはシュタウフェンベルクに言葉をかける。
そしてそそくさと、恥ずかしさから逃げるように部屋から出て行った。
「ウィッチに不可能はない……か」
部屋に一人残された彼は立ち上がると、誰もいない虚空に一言呟いた。
――――――――――
カールスラント ベルリン
中央市街
――――――――――
ベルリン――
カールスラント北東部に位置するその都市は、少なくともウルカの世界では1200年代には存在していた。
第二次世界大戦では最後の激戦区となった都市でもあり、その戦死者数は市民だけでも12万人にも登る。
商業的にも発展はしているのだが、現在はその活気は見られない。
閉まっている店も多く、首都という割には人通りもまばらである。
理由は言わずもがな、現在迫っている脅威だろう。
ネウロイという脅威。
基本的に金を持っている者なら、もうすでにここから脱出しているだろう。
今はまだガリア方面の方が安全といえる。
それも時間の問題ではあるのだが。
そして金を持たない貧民層は街に取り残される。
運良く生き残れても難民という形でスラムに近い様な環境で生きる事を強いられる。
シュタウフェンベルクの言うように、このベルリンが落ちるのも時間の問題だろう。
前線では敗走が続く。
ウィッチの個の力は確かに強い。
しかし戦況をひっくり返す為には圧倒的に数が足りない。
「ふぅ……」
ウルカは思わずため息をつく。
このまま敗走が続き、ネウロイが川を越えこのベルリンに流れ込めば……。
ベルリン市街戦以上の惨事は避けられないだろう。
シュタウフェンベルクの死に対しての決意。
その双肩にかかった重さを考えれば、当然の決意だったのかもしれないとウルカは思う。
「どうしたウルカよ? 妾と一緒じゃ楽しくないかの?」
ウルカの異変に気付いたヒルデは真っ先に声をかけた。
せっかくの大都市というのに、その町並みを見るわけではなく、黙々とその思考に陥っていた。
心配されるのも無理はなかった。
「あぁ、いや、少しな?」
「気分でも悪いのか?」
そして心配はティアにも伝染する。
ウルカは否定する様に大きく顔を振って、表情を正す。
「いや、俺は田舎もんだからさ。都市の雰囲気に飲まれたというか」
それっぽい理由をつけて、話を濁す。
「ふっふ〜。当然じゃな! 妾が愛する街だからの!」
胸を張り、それを高らかに自慢するヒルデ。
その姿がウルカの心に刺さる。
その街は陥ちる。
その時この少女はどんな顔をするだろうか。
そう思うとウルカはヒルデの顔を直視できなかった。
「……ウルカよ。そんな顔をするでない。妾もとうに気付いておる」
「な、何をだ?」
ヒルデはウルカの顔が見える場所に移動すると、その真っ直ぐな瞳を向けた。
「ベルリンは陥ちる――」
「っ……」
ヒルデの口から出た言葉は、シュタウフェンベルクと全く同じものだった。
「父上から聞いたわけではない。現在の戦況を見れば馬鹿でもわかる」
ウルカはティアの方を見つめる。
彼女は無言で頷いた。
「だからと言って、悲観してはならぬ。立ち止まってはならぬ」
ヒルデはで伸びするとウルカの肩に手を置き、諭す様な口調で言葉を続けた。
「このベルリンには逃げずに、地位も格差も関係なく自らの意思で残ってる者もおる。何故だかわかるか?」
「……この街を、愛してるから?」
「正解じゃ」
ニッと笑顔を向けると、ヒルデは一歩下がった。
「そういった者達を守る為に、このベルリンを守れる可能性が少しでもあるのなら、全力で使命を全うする。それがこの国の軍人の姿じゃ」
根っからの指導者の風格。
ヒルデそういった雰囲気を辺りに漂わせる。
「ウルカは扶桑人でありながら、この国のことを憂いてくれるのじゃな? 優しい人じゃ」
「そんな事は……」
「ウルカは謙虚すぎるぞ。私だって救われている」
「ティアの言う通りじゃ。遠き国に来て、世界の果てで戦っておる。お主は優しくツワモノじゃよ」
否定すればすぐさまそれを否定する声。
ウルカはやがて否定する事をやめて黙り込んだ。
励ます言葉だが、ウルカにはそれが恥ずかしく頬を指で掻く。
「一人でも多く救っていこう。お前がいったんだぞ? ウィッチに――」
「あぁ、不可能はない」
「おぉ、いい言葉じゃな! そうじゃ、妾らには不可能はない!」
励まされ、霧の中にいた様なウルカの心はいつの間に晴れていた。
ウルカ一人なら、とっくの昔に押しつぶされていただろう。
「出来ることをだな……?」
ウルカは今まで悩んでいたことが恥ずかしい。とばかりに苦笑を浮かべる。
「そうそう。むむっ、もうこんな時間か……」
ヒルデは手首に巻いている時計を見ると声を上げる。
「あっ、すまん。貴重な時間を……」
せっかくの休日の時間を自分の悩みに使わせてしまった事に、ウルカは罪悪感を覚えた。
組織に所属していたこともあり、休日の大切さはウルカが一番よく知っていた。
「よいよい! 気分を晴らすためにも、甘味でも食べにいこうぞ」
怒られても可笑しくはない。
しかし、ヒルデは怒ることもせずに再び歩みを始めた。
「友人と悩みを共有するのも大切なことじゃからな」
ぎこちないウィンクを見せるヒルデ。
その様子にウルカとティアは小さく笑いを浮かべた。
――――――――――
世界は無情である。
ベルリンという街はこの国の商業の中心でもある。
様々な店が軒を連ねているのだが、結論として。
物資の供給が少なくなり、店を閉めざるを得なくなった者が多い。
「なんかすまぬ……」
ヒルデはぶすっとした顔を見せて二人謝った。
案内した店は全て空振り。
悉く店じまいしていた。
この様な情勢なのだから無理はない。二人はヒルデを咎めるつもりもなかった。
「俺はいろんな町並みを見れて楽しかったぞ?」
「私も久しぶりに街を歩けた。楽しかったよ」
二人はとっさにフォローを入れる。
フォローというよりもそれが二人の本心だった。
「ネウロイめ……戦いが終わった暁にはリベンジじゃ。甘味の恨みは恐ろしいぞ……」
ヒルデは何かに決意する様に、恨み節に近い何かを小さく呟いた。
三人は歩き疲れたため、街路樹の木陰で休憩していた。
流れる町並みを。まばらな人影をただ見つめる。
やがて戦火に巻き込まれるであろう街のあるべき姿を、瞳に焼き付ける様に。
「ん……」
そんな中、ウルカは気づく。
三人の男がこちらに向けて歩いてくる事に。
「こんなところにガキが何をやってるんだ?」
そして目の前で止まり、いきなり挑発的な言葉を吐く。
着崩した制服。軍人である事は間違いなかった。
「お? よく見るとガキのくせに可愛いじゃねぇか。ちょっと遊んでくれや」
絵に描いた様なガラの悪さに、ウルカはため息をつく。
それにつられた様に、残る二人もやれやれといった様に肩を竦めた。
「だとさ。どうするよティア」
「どうするも何も不快だ。何よりこんなにも風紀が乱れてる事に呆れる」
「その通りじゃな。レディへの声のかけ方も知らんとは」
一方的に評価をつけられた事に、男たちは顔をしかめる。
そしてすぐに怒りの感情をあらわにする。
「テメェらガキだと思ってれば……!」
「大人をバカにするんじゃねぇ! 黙って付き合えや!」
男の一人がウルカの手に掴みかかろうとした瞬間だった。
「は? へ?」
ヒルデが男の腕を掴んで、ウルカへの接触を妨げた。
そして何かが折れる音。男は状況が飲み込めてないのだろう。
だらんと下がる手首。
「おっ、折れっ……!!」
「すまぬのぉ。加減を忘れておった」
悪びれた様子もなく、ヒルデは掴んでいた男の手を離す。
言葉にできない痛みのせいか、男はその場に座り込んだ。
「てめぇ! 何をしやがった!」
「クソガキガァ!」
感情が高ぶったのか、残りの男達はナイフを持ち出している。
ウルカはとっさにヒルデの前に立ち庇う。
「よい、ウルカよ。妾に任せよ」
ウルカの後ろから敢出て行くヒルデ。
「任せろって……」
「ウルカ? ヒルデお嬢様に任せよう。お嬢様! 手加減してくださいよ!」
ウルカはティアの顔を驚いた様な表情で見つめる。
「妾の友人には触れさせぬぞ。武器をしまえ。今ならまだ間に合う」
「引き下がれるか! バカにしやがって!」
男の一人がナイフをヒルデに向けて振り下ろす。
瞬間――。
その刀身を指でつまむ様に受け止める。
その直後だった。
ただ触れただけの様な力にもかかわらず、ナイフが砕け散る。
「うげっ……」
ヒルダの頭頂部には三角の耳が現れていた。
イヌ科のそれに似た耳を見た男達は、後ずさりをする。
「くそっ、ウィッチじゃねぇか!」
ナイフを砕かれた男はそのまま逃げ去って行く。
腕を折られて戦意喪失した男もそれにつられて逃げていった。
残されたのは一人のみ。
「逃げぬのか?」
最後の慈悲とでも言えば良いだろうか?
ヒルデは男に逃げるチャンスを与えたが、男はナイフを出鱈目に振り回して向かってくる。
「うわぁぁぁっ!」
しかしヒルデは冷静だった。
ナイフを的確に避けると手首に手刀。
男の手からナイフがこぼれ落ちる。
ナイフを蹴り飛ばすヒルダは、手首の痛みに顔を顰める男に距離を詰めると。
「お主が悪いのじゃ」
何食わぬ顔でヒルデは男の鳩尾に拳を突き立てた。
その小さな体から放たれた拳とは思えない力が、男を中に浮かせる。
そして、その体は宙を舞う。
10メートル近い距離を飛び、そして地面に転げる。
「ヒルデ……。固有魔法か……?」
「はぁ……強化系。超怪力ってやつだな」
ティアは男が転げる光景にため息をつきながら、冷静にウルカに解説した。
能力としてはバルクホルンやカミラのものに近いだろう。
「馬鹿力ってやつかよ……」
「バカとはひどいのぉ」
能力を解くと同時に、ヒルデの耳がきえる。
ヒルデは二人の目の前に戻ってきて、ウルカの言葉に抗議の言葉を返す。
「悪い。……アイツ死んでないよな?」
地面に転げている男は、痙攣したかの様に体を動かしている。
息はあるようだが、再起不能といった感じであろう。
「加減はした『つもり』じゃ」
胸を張っていうヒルデ。
手加減であれだったらと、ウルカは恐怖に似たものを感じた。
「貴様らっ! 何をしとるか!」
当然のことではある。
気がつけば人集りが出来ており、そこに警邏の大声が響き渡る。
「お嬢様やりすぎですよ。手加減をと言ったじゃないですか……」
「しっ、仕方がないのじゃ! それに妾に任せてくれたのはお主であろう!?」
「そりゃそうなるよな……。流石ベルリン対応も早い」
手加減しなかった事を咎めるティア。それに言い訳をしようとするヒルデ。
集まってきたMPに拘束されながら、半ば諦めたように感じるウルカ。
三者三様のリアクションを取りながら、MPに連れて行かれるのだった。
お久しぶりです(遅い
投稿を待っててくれた方達申し訳ありません!
安定して投稿したいなと思う今日この頃です。
毎回感想などありがとうございます。すごくやる気が出ます。
これからも末長くよろしくお願いします!