目が覚めるとウィッチでした。   作:華山

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ここは地獄の最前線。そんな日常2

一部想像で保管している所もあるので、実際のSWとは異なる場合もあります。それはご了承下さい。

-追記-
一部キャラクターの口調とかが違う理由については、感想欄をご参照ください。



フロントラインの日常2

ウルカは理不尽に思う。

ネウロイの侵攻を受けて、全員気が立っている事も理解出来た。

日々、戦線は押し返されて、もうカールスラントへの侵攻すら許してしまっている。

この前線基地も何時まで保つか分からない。

明日の保証がされる事の無いこの場所で、全員が命をすり減らしながら戦っている。

 

「なんで扶桑人がこんな所に居るんだよ?」

「そうだ! ただでさえ少ない補給なんだ! お前に居場所なんて無い!」

 

簡易に作られたシャワールームの前で、理不尽な事にウルカは囲まれていた。

それは敵であるネウロイではなく、同じ人間にだった。

三人の少女。

カールスラントの制服を着ているため、おそらくは彼女達もウィッチなのだろうと、ウルカは理解した。

そして、明確な敵意を自分に向けている事も分かる。

 

「なに黙ってるんだよ?」

 

反論もせずにそのまま立ち尽くすウルカの襟首を掴み、目の前で怒鳴り散らす少女。

流石のウルカも手を出してきた事に口を開いた。

 

「申し訳ありません。確かに私は部外者かもしれません。しかしここで問題を起こしていいものでしょうか?」

 

視線をそらす事無く、そして出来る限り、まるで上官と対話するかの様な口調で言葉を返す。

 

「んあ? 何がいいてぇんだよ?」

 

その言葉に取り巻きの一人が、さらに不良の様な口調でウルカに突っかかる。

 

「私はカールスラントの軍人ではありません。上官が部下に対して可愛がるのは……まぁ、あり得る事ですが……」

「だから何が言いたいんだよ!」

「先ほど貴女も言ったではないですか。私は扶桑人だと」

 

ため息を交えながら、ウルカは言葉を続けた。

 

「例えば私が扶桑軍人だとしたら? 貴女方より階級が高かった場合は?」

「うっ」

 

そんな言葉に、少女は襟首を離して、ウルカから一歩下がった。

 

「そうですよね。賢明な判断です。まぁ、それは仮定の話ですが」

「てめぇ! 嘘つきやがったなっ!」

 

ブラフに気付いたのか、少女はさらに怒りを露にした。

しかし睨みつけられても、ウルカは動じない。

 

「でも、私が扶桑人である事には変わりない。もしここで暴力を振るえば……。一歩間違えれば国際問題」

「知るかっ! それは私たちには関係ない!」

「貴女達は、誇りあるカールスラント軍人でしょう?」

 

ウルカはそれぞれ取り巻きの少女に視線を向けた。

少女達は俯いたり視線をそらす。

頭に血が上ってしまった一人を除いて。

 

「おい、もう止めとこうって……」

「そうだよ……」

 

取り巻きの少女達は、少し冷静さを取り戻していたのか、明らかな怒りをウルカに向けている少女を宥めようとしている。

 

「ここまで来て引き下がれるかっ! 馬鹿にしやがってっ!」

(あーあ、余計に怒っちゃったか……)

 

完全に読み違えたなと、ウルカは深くため息を吐いた。

彼女らの言う事も理解出来る。ギリギリの補給で保っている前線基地。

一人増えただけでも危機感を覚える事は間違いではない。

そして、そんな状況で、理性で押さえ込めない程に精神も逼迫している。

何か一つ、気に入らない事が起きて怒りたくなる事も、ウルカには痛い程よく分かった。

少女は拳を握りしめた。

それを見てウルカは、手を後ろに組んで少女を見つめる。

 

「それで貴女の気が済むなら殴ると良い。私は逃げませんから」

「巫山戯やがってぇ!」

 

それでこの状況が丸く治まるのならと、ウルカは抵抗する意思を見せない。

気に入らないとの理由で殴られる事は、ウルカにとって初めてではない。

少女は身体を捻って思いっきり拳をウルカに叩き付けようとしたその時だった。

 

「あーっ! ねーねートゥルーデ! 何か面白い事やってるよー!」

「全くだな。ずいぶんと愉快な事をやっている様じゃないか?」

 

跳ねる様な。そして少し大げさな可愛らしい声と、冷静さに満ちあふれた対照的な声が響き、その場に居た全員が動きを止めた。

そして全員がその声の方をじっと見つめる。

 

「あー? 何だてめぇ!? 横やり入れてんじゃねぇよ!」

 

一旦間を置いて、怒りの発散を許されなかった少女は、横やりを入れてきた二人へと矛先を向ける。

ウルカもそんな二人を、驚いた様な表情で見つめていた。

 

「貴様らっ! カールスラント軍人として恥ずかしくないのかっ!」

「っ!」

 

そして響く様な声で一喝。

少女はその言葉に怯み、それ以上彼女達に近づけなかった。

 

「その怒りをぶつけるべき相手はネウロイだろうに! たった一人を複数で囲んで……!」

「うぅ!」

「それでもカールスラント軍人なのかっ!」

 

ウルカは聞き覚えのある声に、瞬きする事ら忘れて、その光景を見つめていた。

そして、小さく呟く。

 

「まさか……エーリカ……ハルトマンと……ゲルトルート・バルクホルン……?」

 

ウルカは知っていた。

あれだけ見た作品なのだから、忘れる筈も無かった。

カールスラントのスーパーエースが二人。

彼の目の前で、あのアニメと寸分も違わない口調で、叱咤している。

 

「どうしてもと言うのなら、変わりに私たちが相手になってやるが?」

「言っとくけど、トゥルーデは凄く強いよー?」

 

既に怖じ気づいてしまった少女は、バルクホルンが一歩近寄る度に一歩後ずさる。

少女が後ろを振り返ると、取り巻きの少女達は既に居なくなっていた。

 

「くっ、扶桑人形め……覚えてやがれ……」

 

そして、お決まりのセリフを吐いて、少女はそのまま走り去っていった。

 

「本当に嫌になっちゃうよねー? 血気盛んでさ」

「怪我は無い様だな? すまない。悪く思わないでくれ。あんな奴らばかりではないんだ」

「あぁ、いやっ! 大丈夫だ!」

 

 

まるで作品の一シーンが目の前で起こっている状況に、ウルカは興奮した様な様子で言葉を返した。

それも無理は無かった。

今から四年後には、ガリアを解放する立役者の一員となるスーパーエースが、そして何よりも大好きな作品の登場人物が自分に話しかけているのだ。

 

「もしかして扶桑人? 珍しいねー」

 

天使の様な微笑みを見せながら近づいてくるハルトマンに、ウルカは顔を真っ赤にさせながら、ぎこちない笑みを見せた。

 

「私はエーリカ・ハルトマン。まー、好きな様に呼んでよ」

「私はゲルトルート・バルクホルン見ての通りカールスラントの軍人だ」

「おっ、おれは……カナイ……。カナイ ウルカ」

 

一旦気持ちを落ち着けようと、ウルカは大きく深呼吸をしてなんとか自己紹介を済ませる。

 

「へぇ、ウルカかぁ。よろしくねー?」

「この基地に居るってことは、ウルカは扶桑軍人なのか? この基地に扶桑軍が居るとは聞いてないが……」

 

そして当然の様な疑問を投げつけられる。

この基地に扶桑軍は駐留していない。そしてこの欧州戦線には扶桑人は少ない。

 

「俺はその……。オストマルクからの撤退に紛れてここまで来たんだ。グラティアってウィッチについてきて……」

 

ウルカは自分でも自分の事を理解していなかった為、曖昧な返事しか出来なかった。

嘘をついている様で気が引けたのか、ウルカは二人から視線をそらす。

 

「グラティア……。JG27もこの基地に来てるのか。大所帯になってきたな」

「ウルカは運がいいね。オストマルクってことは、前線から逃げてきたってことでしょ?」

 

ウルカの顔を背ける仕草に、何かを勘違いしたのか、二人はそれ以上ウルカの事を詮索しなかった。

 

「皆の助けがあったから……なんとかな」

「……とにかく、命あっての物種だからな」

「そーそー。で、ウルカはなんでこんな所にいるの?」

 

エーリカは扶桑人に興味津々と言った感じで、ウルカの事を頭からつま先まで何度も見返す。

 

「少しは落ち着かんか。どう見てもここに用があるに決まっているだろう」

「んー? あぁ、着替えも持ってるもんね」

 

バルクホルンはシャワー室を指差しながら、ハルトマンに落ち着く様に言い聞かせる。

対照的な二人の姿に、呆気にとられながらもウルカはその会話を聞いていた。

 

「私たちも丁度だったし、ウルカも一緒に行こ!」

「あぁ、私たちと一緒なら突っかかってくる奴も居ないだろう」

「へ?」

 

ウルカは話しを聞いた居たのだが、突然の提案に素っ頓狂な疑問符のついた声を上げる。

目の前のアニメで見ていたキャラクター達に『一緒にシャワー』と提案されてしまった事に、言葉を理解する事が出来ずに、首を傾げる。

 

「一緒に?」

「うんっ! ほらほら早くっ!」

「うえっ!? ちょ、ハルトマンさんっ!?」

 

そして、ウルカは自分が置かれている状況を理解したのか、背中を押してシャワールームに押し込めようとするハルトマンに抵抗を見せる。

しかし、あまり背丈も体重も変わらないであろう彼女に押し込まれてしまう。

 

「うっ……、落ち着け俺……。たかがシャワーを浴びるだけじゃぁないか……!」

「なに言ってるんだ?」

 

シャワールームの前には、脱衣所が設けられていた。

入った途端に二人は何の躊躇も無く服を脱ぎ始める。

ウルカは何かに謝った。

 

(ごめんなさい……。SWが好きな人たち全員ごめんなさい……! 裸見ちゃいそうでごめんなさい……)

 

瞳を閉じて、何度も何度も心の中で謝り続ける。

全く行動をとらないウルカにハルトマンは近づくと、いきなり後ろから抱き付いた。

 

「うわぁぁっ!?」

「なになにー? 扶桑人って『奥ゆかしい人』が多いって聞いた事があるけど、ウルカもその部類なのー?」

 

突然、天使が背中に抱き付いてきた。ウルカは背中から受ける柔らかい感覚に、素っ頓狂な声を再び上げる。

そして、それを面白く思ったのか、エーリカは揶揄う事を止めない。

 

「ほら、ウルカも早く脱いでっ!」

「ちょ、やめっ、ハルトマンさんっ!?」

「お前達なにやってるんだ……」

 

ゆっくりと、服を脱がされてしまうウルカ。

その様子を見て、止める事はしないが、バルクホルンは頭を抱えている。

 

「ふっふー良いではないか……っ!」

 

背後でエーリカがビクッと震えると、その動きを止めて背中からゆっくりと離れた。

 

「どうした? 何かあったのか?」

 

先ほどまで超ハイテンションで、ウルカの身ぐるみを剥いでいたハルトマンが、打って変わって俯いたまま黙り込む。

疑問に思ったのか、バルクホルンはエーリカの近くに歩み寄って、ウルカの背中を見つめる。

 

「これは……っ!」

「ごめんウルカ……。これを見せたくなかったから嫌がってたんだ……」

「えっ……?」

 

深刻そうな二人の顔に、一体何事かとウルカは言葉をあげた。

何も悪い事をしていない筈なのに、ハルトマンは謝罪すら入れてきた。

 

「この傷跡……ネウロイにやられたのか……?」

「傷……?」

 

ウルカは自ら服を脱ぎ捨てると、更衣室に一カ所だけ置いてある姿見に背中を向けた。

そして、初めて自分の背中にある傷に気がついた。

 

「っ……!」

 

白い肌に、左肩から右脇腹まで裂かれた様な傷跡が存在していた。

傷は塞がっているものの、こんな傷を受ければ、普通の人間なら絶命しているだろう。

ウルカも、当たり前だが覚えの無い傷に、驚きの表情を見せた。

 

「ごめんウルカっ! 私何も知らなくて……!」

「あっ、あぁ、気にしないでくれ! こんな傷は……その、あんまり気にしてない」

 

ハルトマンの必死に謝る声に、現実に引き戻されたウルカは、ハルトマンにフォローを入れた。

自分も覚えの無い傷に、これ以上謝られても困ると、ウルカは頭を下げるハルトマンの肩に手を置いた。

 

「戦争なんだ。傷の一つや二つ出来るさ。あぁ、この傷については聞かないでくれよ? 話したくないし」

「ウルカ……」

 

これ以上この傷の由来など聞かれても困ると、それらしい理由を付けてその場を取り繕う。

ハルトマンは、少し涙目になりつつもウルカを見つめた。

 

「泣いてたら可愛い顔が台無しだ。ハルトマンさん?」

「うんっ、本当にごめん。ありがとう」

 

ハルトマンは手でゴシゴシと涙を拭った。そして少し申し訳なさそうな笑顔をウルカに見せる。

 

(……控えめに言って天使だなこの人)

 

ウルカは心の中でそんな事を呟いた。

 

「これに懲りれば、浅はかな行動は避けるべきだ」

「はいはーい、トゥルーデは一言多いなぁもー」

「うぐっ、人が忠告してるのに、お前って奴は……!」

「ふふっ……」

 

アニメで見たままの光景に、ウルカは思わず笑みをこぼした。

そして、いつの間にか『一シーン』の中に入り込んでいる現状に、慣れの様なものを感じていた。

 

「気を取り直して、いこっか!」

 

そしてまた背中に密着する様に抱き付き、シャワールームへウルカを押していくハルトマン。

 

「背中は私が隠してるから安心して?」

「ハルトマンさん……」

「エーリカって呼んでよ。ここまで色々話して他人行儀とか嫌じゃん?」

 

(はぁーっ! マジ天使だ……!)

 

その後の気配りも忘れないハルトマンの心遣いに、ウルカはまた心の中で叫んだ。

 

——————

 

未知の世界に呆気にとられていたのか、ウルカはシャワールームでの出来事はあまり覚えていなかった。

呆気にとられているうちに、ハルトマンに身体を洗われていたのは覚えている。

一人にあてがわれた時間が五分という事もあり、それは一瞬で過ぎた。

 

「はぁ……」

 

そして、残ってるのは身体の火照り。

ウルカには、それが未知の世界に興奮しての事か、それともシャワーを浴びた事によるものかは分からなかった。

ウルカはグラティアに貰った衣服に着替える。

現実世界では『パンツ』と言われるであろうズボンもちゃんと用意されていた。

ウルカはそれを履いてふと思う。

 

(元の世界なら痴女だな……)

 

こんな姿の少女が現実にいたら、誰でも目のやり場に困るだろう。

ウルカは更衣室に唯一置かれている鏡に自分の身体を映す。

整えられた顔立ちは、まさに人形の様だと言っても過言ではない。

身長はエーリカと変わらなかった所を見ると、150cmそこそこと言った所だろう。

 

(扶桑人形か……)

 

先ほどは罵倒で言われたのだろうが、言い得て妙だとウルカは苦笑する。

カールスラント軍の制服を着た扶桑の少女。

そんな不釣り合いな少女も、こちらにあわせるかの様に苦笑した。

 

「ウルカ? なにやってるの?」

 

そして鏡に映り込むエーリカ。ウルカはその方向へと振り返った。

 

「何でも無いさ。そう言えば今更になるけど、さっきはありがとうな? 助かった」

「いーのいーの、気にしないでよ」

「放っておけなかったからな」

「ウルカはこれからどうするの?」

「グラティアに第二会議室に来る様に言われてるんだ。何処か分かるか?」

 

グラティアに言われた事を思い出し、ウルカは二人に尋ねた。

 

「それならついてくると良い。近くまでは連れて行ってやろう」

「本当か? ありがとうなバルクホルンさん」

 

グラティアは兵に聞けば分かると言っていたが、先ほどの一件の様に、自分の様なイレギュラーを快く思わない者達も多いとウルカは考えていた。

この二人が知っている様なので、面倒ごとに巻き込まれなくて済みそうだと、ウルカは胸を撫で下ろした。

 

「それじゃ行こうか!」

「あっ、ちょ、エーリカ」

「だからお前はもっと落ち着いて……って、待たんか! 場所知ってるのかっ?」

 

あ、と言った顔を見せて苦笑するエーリカ。

そしてバルクホルンに呆れられる。この一連の流れを見て、ウルカも自然と笑みがこぼれていた。

 

——————

 

二人と別れた後、ウルカは第二会議室のある建物へ入っていった。

この建物には司令部が置かれているらしく、慌ただしく人が出入りしている。

グラティアが口添えをしていたのか、ウルカは難なくこの建物に入る事が出来た。

 

「第二会議室……。ん……?」

 

そして、廊下を暫く歩き突き当たりに位置する部屋に描かれている文字。

現実世界のドイツ語。この世界ではカールスラント語で書かれたそれを何故かウルカは読む事が出来た。

今まで読めてしまっていたので疑問に思わなかったが、ウルカは今になって可笑しく思う。

 

(俺が読めるのは英語、ロシア語、中国語、韓国語……。なんでカールスラント語が分かる……?)

 

元の職業上、ウルカは複数の言語を話すことが出来た。しかし、ドイツ語は習った覚えは無い。

腕を組んで扉の前で考え込む。

 

(覚えの無い傷もある訳だし……。この身体は俺が変化した物じゃない……?)

 

ウルカはいくつかの仮説を頭の中で考え始めた。

 

(だとしたら、この身体の知識……? ……だめだ仮説の域も出ないし、確かめようも無い)

 

考え込む度に混乱してしまい、ウルカは唸る。

超常現象が自分の身に起きている訳で、確かめようも無い事に、余計に悩みを増大させた。

 

「ウルカ? なに扉の前で唸ってるんだ?」

 

突然ウルカの目の前の扉が開き、顔を出したのはグラティアだった。

どうやら、唸り声が部屋の中まで聞こえていたらしい。

 

「グラティア……。いや、気にしないでくれ」

「そうか? ならいいんだが……。とりあえず部屋に入ってくれ。ちょうど集まってる所だ」

 

扉を大きく開けると、グラティアはウルカの手を握って部屋に引き込んだ。

 

「っとっと……。引っ張るなよ……え?」

 

体勢を立て直しながら視線を戻すと、部屋の奥に立つ二人の影。

 

「紹介しよう。我が軍のウィッチの」

「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケと……アドルフィーネ・ガランド!?」

 

ウルカはその二人に見覚えがあった。

今日一日で何回驚かされるんだと、興奮を落ち着かせようと、ウルカは大きく深呼吸をする。

 

「なんで知ってるんだ?」

「あぁ、それは……。えっと、エーリカ達から聞いたんだ!」

「彼女達と知り合いだったの? それなら自己紹介は不要ね」

「余計な話が省けていいじゃないか」

 

カールスラントの有名人が揃っているこの状況に、ウルカは自分が本当に居ていいのかと。そんな感覚に陥る。

 

「あの、何故自分がここに呼ばれたんですか……ね?」

 

あまり居心地の良い空気とは言えないこの場所に、ウルカは今にも逃げたくなる様な気分になる。

 

「あぁ、そんなに怯えないでくれ。君の話を聞いたら会いたくなっただけだよ」

「又聞きした私も興味があったの。あの激戦区から、レーデル中尉を連れ帰ったのはどんな人物なのか」

「えと……」

 

どう話して良いか分からない。表情を引きつらせたまま、ウルカは少し後ずさりをする。

 

「二人とも少し落ち着け。いきなりズカズカ言っては混乱するだろ?」

 

グラティアはウルカの肩に手を置いた。

 

「ウルカは話せる事だけ話せば良い」

「グラティア……。あの俺は……」

「言っただろう? あの激戦に巻き込まれたんだ。ウルカは記憶の混乱が起きてる」

 

言われた通りにしろ。

そう言った意味なのか、ウルカに対してグラティアはウィンクを見せた。

 

「えぇ、その件については私達も理解しているわ」

「もとより、詰問の様な事をするつもりは無い。もちろん身分は落ち着いてから、こちらで調べさせてもらうが」

「とりあえず座ろう」

 

ウルカはグラティアに勧められるがままに、部屋の中央に置いてある机に備えられた椅子に座る。

全員席についた所で、ウルカの対面に座っているガランドが口を開いた。

 

「君の固有魔法。私はまだ同じ様な能力を見た事が無い。ティアに聞いた所、制御出来てない様子だね」

「固有魔法……ですか?」

「あの魔法力の爆発的放出の事だよ」

 

ウルカは覚えが無かった。何かしら気持ちが昂ったと思ったら気を失う。

確かに身体から何かを放出していた事は覚えがあるのだが、それがどういった作用を示したのかは分からなかった。

 

「俺の能力ですか……?」

「そう、シールドの様な魔法力を使う技の強化版……。そう言った関係の能力じゃないかと仮説を立てたわ」

 

ガランドの隣に立っているミーナが口を開く。

 

「まぁ、私は見た事が無いのだけれど、見せてと言うのも酷な話よね」

「制御出来ないのだから、また気を失う可能性があるからな」

「俺もどう使ったのか、必死だったからイマイチ分からない……」

 

あの時何が起こったのか。

それすら分からないのに、頼まれてもここでそれが発現するかも分からない。

ウルカは、二人を見つめながらそう返す。

 

「えぇ、逆に使うべきではないわ。その能力は諸刃の剣。あまり言いたくないけど、制御出来ないなら、戦場では足手まといになるわ」

 

的確な意見を淡々と話すミーナ。

包み隠さずの発言から、指揮官向きの人材である事がよく分かる。

 

「見た事無い能力だから……。便宜上『魔法力バースト』と呼ぶ事にしようか」

「魔法力バースト……」

「っと、前座はここまでにしようか。ウルカ? 君はストライカーの操縦経験はあるかい?」

 

考え込む時間も与えず、ガランドはウルカに質問を投げつけた。

 

「いや、えっと、分かんないです……」

「ふふっ、そうか分からないか」

 

曖昧な答えに、瞳を閉じながら笑みを浮かべるガランド。

 

「やっぱり無理ね……。軍人でもない彼女を戦わせるべきではないわ」

 

ミーナはガランドの思惑を抑制する様に、隣から口を出した。

 

「ミーナ? それは我々が決める事ではない。最終的には彼女の意思だよ。ティアもそう思うだろう?」

「……ウルカ? 前も言ったが、すぐに結論を出さなくていい」

 

ウルカは双方からの言葉に黙り込んで、そして暫くの沈黙の後、言葉を発した。

 

「ガランドさんは、俺がストライカーを扱えると思いますか?」

「ふむ……私はそう思ってるよ。確信に近い物を感じる」

「確信ですか……?」

 

ガランドは肘を机について、目の前で手を組んみ、じっとウルカを見つめながら話し始める。

 

「君の心は空に囚われている。君は瞳は空に魅せられている。だからこそ飛べると確信している」

「もう、また曖昧なことを言って……」

「曖昧ではないさ」

 

ミーナは片手で頭を抑えて、ガランドの話しを聞いていた。

ウルカはまた黙り込んだ。確かに自分は空に命を捧げていた。

しかしその翼は少し前に奪われた。もう二度と空を飛ぶ事なんて無い。

そうとすら思っていた。

 

「彼女は、空を飛びたいと心から渇望している」

「俺は……」

 

ガランドの言う通り、ウルカは空に魅せられていた。

翼を奪われたその日から、また空を飛びたいと思い続けていた。

そして今、目の前にチャンスが来ている。

 

「君の心は空にあるのだろう?」

「俺は……!」

 

全員が見守る中、ウルカはその言葉を口にする。

 

「俺は空を……」

 

言いかけた瞬間に、会議室の扉を蹴飛ばしたかの様に入ってくる一人の兵士。

そして怯えた様に声を上げる。

 

「ガランド大尉! 緊急です!」

「どうした? 話してみろ」

「ネウロイ十数機が戦線を突破! あと数分もしないうちにこの基地に到達します!」

「なんですって!?」

「何故今まで分からなかった!」

「戦線が崩壊。混乱によって連絡が遅れた様です!」

 

そう言い終わるか終わらないうちに、基地にサイレンの音が響き渡る。

 

「技術者は避難させろ。出れるウィッチは全員迎撃に上がる。ミーナは司令部にいってくれ」

「分かったわ」

「ウルカ! お前は避難していろ。ハンガーの整備員と一緒にだ」

「グラティア……。俺は……!」

「大丈夫、今度は私が守る番だよ」

 

安心させる為か、グラティアはウルカの頭を撫でる。

グラティアの頭を撫でる手に力が入っている。

無意識に力が入るのだから、相当に切迫した状況なのだろう、ウルカは言葉を使わずただ頷いた。

 

「ウルカ君? 話の続きは後で聞こう。くれぐれも死なないでくれよ?」

 

誰より速く部屋を後にしたのはガランドとミーナだった。

外から地響きが聞こえる。基地がネウロイの射程圏に入ったのだろう。

 

「ハンガーまでは一緒に居る。ウルカ、ついてこい」

「あぁ……!」

 

グラティアに手を引かれて、ウルカは走り始める。

まるで普段の日常の様に思えるその時も、一瞬で過ぎ去ってしまう。

先ほどまで少なからず聞こえた笑い声も、高射砲の音に変わる。

フロントラインの日常。

ここは最前線である事を、ウルカは再確認させられた。

 




毎回、誤字の報告ありがとうございます。本当に感謝しています。
最近評価が上がってきて、本当に嬉しいばかりです。

何かございましたら、感想の方にお願い致します。
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