本日も天気がよく、艦娘たちは海へと出向き深海棲艦と戦う。
さて、出撃している艦もいるというなか特製スイーツを食べようと間宮にやってきた瑞鶴と葛城。秘書艦をやっていて放置され提督に「暇だ、ふてくされるぞ」と抗議した結果、やることないから間宮にでも行っておいでと執務室から追い出された瑞鶴。暇ならそもそも秘書艦をつけるな、とぶつくさ言いながらとりあえず彼女は間宮へと足を向けた。
誰か誘うかな、と思っていたら丁度野生の葛城がいたので拉致ってきた次第。
最近新メニューができたらしくそれを頼もうとするが、見た感じでかい。ものすごくでかい。一人で食べ切れるような大きさではないように見えるパフェが新メニューだそうだ。メニュー表を見た時点でこれは多人数で食べる前提だなと二人は理解する。
間宮に聞くと姉妹が多い駆逐艦たちに大人気なようで、時間が合えば数人で食べている様子を見られるとのことだ。
が、今は駆逐艦の多くは出払っている様子。ここにいるのは二人だけ。
座席について、無難なスイーツを頼む二人。さすがにアレに挑もうなんて気はない。瑞鶴はその身体からは想像もつかないくらいに大食いではあるが、対して葛城はその身体からは想像もつかないくらいの少食なのだ。食べ切れるビジョンが見えない。
葛城はあばらが浮き出ているしもっと食えと瑞鶴が食事に誘うことはしばしば。けれども肉は増えない、なぜだ。
「先日、蒼龍先パイと飛龍先パイに雲龍姉が挟まれていたんです」
「なんというか葛城のイントネーションで色々と察せるんだけど」
ふと思い出したように語りだす葛城。ふたりの頭には大きくて柔らかいものがぎゅうぎゅうと密集しているのが浮かんだ。
「お二人が笑顔なのに対して雲龍姉はいつものように半目で宙を見ていたんですよ」
「雲龍ってたまに魂入っているのか気になる時あるよね」
葛城の姉である雲龍はそのふわふわした性格に同じくふわふわした髪の毛、なんというか浮世離れしすぎて本当に生きているのか心配になるレベルのおっとりお姉さんなのだ。同じくゆるふわおっとりお姉さんの部類である翔鶴とは格が違う。目を話したら本当に宙に浮いていそうですらある。
そして宙に浮いても動じずに「浮いてしまったわ」とだけ言って気にもとめないところまで想像できる。
彼女は暇な時間は本を読むとか出かけるとかもすることなく、よく空を見上げてぽけーっとした無防備な姿を晒している。お前は定年退職した老人か、と瑞鶴に限らずにその姿をみた艦娘たちは言いたくなるらしい。
艦娘の中でも一位二位を争うくらいに不思議ちゃんな彼女を脳裏に浮かべながら会話を続ける。
「それでこっちに気付いたお二人が雲龍姉を挟んだまま寄ってきたんですよ」
「とてつもないボリュームねぇ」
「『雲龍に何が必要だと思う?』って聞かれまして、私は服って答えたんです」
「確かにあの子、似たような服しか着ているの見たことないかも」
葛城に聞く前にも蒼龍と飛龍は雲龍に尋ねていたらしいのだが、自室に小さな服を入れる箱といつも持っている杖のようなもの以外全くない彼女は「足りています」とだけ答えた。なんとまあ物欲のない女性であろうか、もし瑞鶴であったならば小物やアクセサリー、化粧品などをおねだりしていたことだろう。
ほんとになにもいらないの、と聞かれても本当に足りてしまっている雲龍は何もないとしか言えない。困った二人は葛城に聞くも、その葛城も姉に似て物欲が薄かった。聞く相手間違ってるでしょ二人とも、と瑞鶴はつぶやく。
なお雲龍の妹で葛城の姉の天城も物欲が無いので、この三人に何かプレゼントしようとすると深く頭を悩ませることになる。以前提督が知恵熱を出して煙を出していたなあ、と瑞鶴は思い出した。
「で、雲龍姉ったらひどくて。私が蒼龍先輩の質問に答えたときようやく気付いたんですよ、妹に。『あら葛城。とても心地よくてうとうとしてしまっていたわ』ですって」
「だろうね」
きっとあの二人に包まれたら極上の感覚だろう。きっと天国に勝るかもしれないし、ついでに雲龍も含めた三人の中に混じればそれはもう例えようもないものになるのではないだろうか。きっと男がいたならば血涙を流して俺も混ぜてくれと心の底から叫ぶに違いない。正直言うと瑞鶴も混じってみたい。
「それで飛龍先輩が買い物に私も誘ってくださったんですけど」
「断った、と」
「はい。一応大人だから……あの二人の甘やかしは辛いです」
雲龍型は空母の中でも末っ子。さらに飛龍からすれば雲龍型は子供みたいなものなのだ、それこそ目に入れても痛くないのだろう。よく買い物に連れ回したりお土産を買ってきていたりする。一部で言われるロリオカンの雷ですら認める母性が彼女には満ち溢れている。少し空回り気味だが。
完全マイペースな雲龍は気にはしないのだが、多少は彼女よりしっかりした天城に葛城は恥ずかしい思いを多々しているようで、正直勘弁して欲しいらしい。
ふと二人が座っている席に影がさした。葛城が顔をあげると、そこにはいつものように無表情な加賀がいた。彼女は葛城と同じく普段着である。編成に入っていなかったようで、とりあえず間宮にでも行こうと考えたようだった。
「なるほど、だからあまり甘やかさない瑞鶴のところに来た、ということね。大体わかったわ」
「あ、加賀さん」
「こんにちは、今日もいい天気ね。こんな日は海に向かってバカヤローと叫んでみたいものだわ」
「うわぜんっぜんキャラに合ってない」
近くから椅子を持ってくる加賀。加賀は瑞鶴が甘やかしていないと言うが、彼女もなかなか葛城に対して目をかけている。ヤバいレベルのが近くにいるために霞んで見えるだけだし、言うなら加賀も相当。
同格の二航戦について加賀も気になるのか興味津々といった様子だ。
「私もあの二人の甘やかしがどんなものなのか気になるわね」
加賀の言葉に、葛城は左上に視線をやり思い出す。たくさん良くしてもらってはいるが、やはり感想は気恥ずかしいというものだった。
「色々抜けてる雲龍姉じゃないと耐えられない感じです。結構抜けてる天城姉ですら逃げ出すレベルと言えば分かります?」
「けっこう姉に対する評価辛辣ね」
「分かるわ、赤城さんも食べ物以外について抜けているもの。他にも関心を向けて欲しいものだわ」
「いや赤城さんは誰よりも職務に真面目でしょ、普段も色々研究しているみたいだし」
真剣に戦いに挑む赤城の姿は艦種を越えても憧れられている。
そんな彼女に対しておなじ空母である瑞鶴が憧れないわけはなく尊敬の念を抱いているし、出撃待機時ですら艦載機の整備や現状の分析に余念がなく、困難な戦いの中彼女の機転により助かったという経験も多々ある。
たまに頭の中の声とか言い出すが、頼れるお人なのだ。
確かに彼女は食に関して人一倍関心があるようだが、以上のこともあって食だけに関心があるとは言えないと瑞鶴も葛城も思う。
しかし加賀はそれを否定した。同室でかつコンビのようなものだからこそわかるのだ。
「いいえ、あれはさっさと仕事を終わらせて美味しいものを食べたいという姿の現れです」
「……マジ?」
「マジです」
「え、加賀先輩。いつもの冗談ではなくて」
「大マジです」
ガチトーンで語られた衝撃の真実に瑞鶴も葛城も間抜けた表情を晒したまま数秒固まってしまった。なんということだ、深海棲艦をばったばったなぎ倒していくのは「私はお腹が減っているんだ」ということなのだろうか。イライラしていたのだろうか。
いち早く再起動した葛城が妙な雰囲気から脱するために話を変える。
「でも加賀さんも食べ物に目がないですよね。聞きましたよ、少し前に牛丼屋に妖怪牛丼おかわり女が出るって」
「心当たりないわ」
すっと視線をそらす加賀。あ、この人動揺したなと瑞鶴は察した。顔の筋肉は動かないし口もあまり饒舌ではないが、加賀という女は目で語ることが多い。今だってそうだった。
加賀は何故か牛丼が好きなようだ。たまに食べに行っているし、連れていかれた回数もかなりなもの。そして一時期牛丼しか食べていない時期があった。
「嘘つけ、レシート広げて何か打ち込んでいたじゃないの」
「気のせいよ」
「駆逐艦たちが描いてあるどんぶり、あれ加賀先輩のですよね」
「知らないわ」
ツーンとした表情で加賀はしらを切ろうとする。瑞鶴はいつもからかわれている仕返しとばかりだ。
牛丼屋と艦隊のタイアップ企画というかそういうので、夕雲型たちが描かれたどんぶりが抽選であたるとかいうキャンペーンをしていたらしい。他にもあったらしいが瑞鶴は詳しく知らない。けれども数か月前に妙にキラキラした加賀がそのどんぶりを手にしていたのを記憶している。
「じゃ、あのどんぶりもらっちゃうよ?」
「頭にきました」
「やっぱ加賀さんのじゃない」
数秒の沈黙。加賀はわざとらしい咳払いをする。
「話を戻しましょう」
「おい」
加賀にとってはタイミングよくパフェがやってきた。二人分が運ばれてきて、そのついでに加賀も注文をする。いただきまーす、と笑顔で手を合わせて葛城はスプーンを取った。それを見て加賀と瑞鶴は「かわいい……」と心のなかで漏らす。
物欲が薄いといってもやはり女の子で甘いものが好きなようだ。幸せそうな表情をする末娘を見ているとほっこりとする。温かい目で見られているのに気付いた葛城は少し恥ずかしそうにしながら話を続けた。
「公衆の門前で『葛城ちゃん』と大声で呼ばれたのがけっこうきましたね」
「え、別にどうってことなくない? 瑞鶴も翔鶴姉からけっこう呼ばれるし」
「あれは病気よ」
翔鶴の瑞鶴を呼ぶ頻度はおかしい。瑞鶴は知らないが翔鶴は瑞鶴が出撃などでいないときでさえ彼女へと喋りかけているのだ。その様子が怖いと提督が漏らしたこともある。知らぬが仏、というやつで加賀の言葉に瑞鶴はそうかなあ、と首を傾げた。
加賀は彼女のその様子を見て「知らないって良いわね」と呟く。加賀も怖かったようだ。
二人の様子を苦笑いで眺めながら葛城は続ける。
「ほら、私達って改飛龍型じゃないですか。やっぱり顔立ち似ているんですよ」
「ああ、いつも見ているからか気にならないけど他人からすれば」
「なるほど」
「恥ずかしいんですよね。とくにご高齢の方からは『仲のいい姉妹なのねぇ』と言われることもあって」
瑞鶴は葛城の言葉に嬉しいことじゃないの、と思うが続く彼女の言葉で固まる。
「それに対して飛龍先輩は『いやあ、実は母なんですよ』とか言い出しやがりまして」
「クローンみたいなものなのに」
「加賀さんは黙ってて」
「可愛くない後輩ね」
いきなり飛龍に「実はこの子の母なんですよ」と言われたら相手もどう反応すれば良いのか困るだろう。どう見てもそこらへんの若い女学生にしか見えないのだ。加賀は飛龍のことを老成している、と思っているがそれは海の上での話で陸では年相応にしか見えない。
そんな女の子が近い年の葛城、そして雲龍や天城を「娘だ」と猫可愛がりする。それはもう気恥ずかしいとかそういうものじゃない。
「それは、うん。確かに困る。絶対に困る」
「分かってくれます? 瑞鶴先輩」
「それに押しが強いしね飛龍さんは」
そういえば自分だけ姉妹艦とかいないな、と加賀は思いながら瑞鶴と葛城の会話に耳を傾けた。
届いた新メニューのパフェをつつきながら。
「うわでっか! 邪魔よ加賀さんテーブル移動して!」
「頭にきました」
「加賀先輩これを一人で食べ切れるんですか!?」
「栄光の第一航空戦隊、その主力よ。心配ないわ」
「いまそれ関係ある?」
「五航戦は黙って」
「さっきの仕返しか」
今日も賑やかに三人の時間は過ぎていく。