転校してからある程度の日数が過ぎた。当初は波のように押し寄せてきた人達も今では落ち着き、僕自身快適に過ごすことができている。
ちなみに現在僕はどのグループにも所属していない。元々僕が欲しかった立ち位置は周りから好意的に見られる人物であって、クラスカーストのトップに立ちたいわけじゃない。カーストトップの隼人君グループと懇意にしているのもあくまでその立ち位置の維持のため。あんまり目立ちすぎると
さて、ここで大きく話が変わるがなんと明日から夏休みに入る。まぁそれを狙ってのこの時期の転校なのだが。
夏休みという約一ヶ月ほどの準備期間を使って次のステップに進まなければならない。皆んなの関心や評価は短い期間で必要な分は得た。あとは……
と、そんなことを考えながら廊下を歩いていると、ふと掲示板に貼られてある一枚の紙が目に入った。
そこに書かれているのは【夏休みボランティア】の文字。どうやら千葉村というところでの小学生の宿泊学習でのボランティア要員の募集をかけるもののようだ。目を通していると、どうやら内申点を稼ぐこともできるらしい。
「にしてもボランティア、か」
そう呟いて思い出されるのは、過去の記憶。僕に感情をくれた一人の少女。
『ねぇ悠里。絶対に届かないとわかっていても手を伸ばしてしまうのは、愚かなことなのかな?』
……余計なことまで思い出してしまった。
振り切るようぶんぶんと頭を横に振ると、もう一度貼り紙を見る。
せっかくの機会だ。教師からの信頼や好感度も得ておいて損はないし、むしろこれからのことを考えればプラスに動く。
僕はボランティアに参加すべく、早速この募集をかけた主である平塚先生の元へと足を向けた。
*
「ほう。まさか君がやってくれるとはね、雨宮」
「そんなに意外なことですかね?」
「ああ、いや、そういうことじゃないんだ。……一応君のことは少し、前の学校の教員から聞いていてね。聞いていたイメージと違うからつい、な」
「……へぇ」
「っ!? 雨宮……?」
何か驚いたような顔をする平塚先生。まぁ、それもそうか。自分でもわかるくらいに今の僕は冷たい目をしているのだろう。
前の学校でのことはまさに失敗だった。あいつさえいなければ僕の目的は果たされたというのに。
……ま、今更そんなことを言っても仕方がない。
僕はいつも通りの笑みを浮かべて、再度話しかける。
「ああ、すみません。それで、ボランティアに参加しても大丈夫ですか?」
「……まぁ、そうだな。君が参加してくれるならありがたい。詳しい日程は把握しているか?」
「はい。掲示されたものには一通り目を通したので」
「そうか。なら当日は頼むぞ」
会話を終えた僕は綺麗に礼をして職員室を後にする。
まぁ、教師ならば前の学校でのことを知っていて当然だろうから、予想の範疇といえばそうだ。
ーーさて。内申点のためとボランティアに参加するわけだが、実はそれだけが理由ではない。
平塚先生は【奉仕部】という、まぁ言うなればボランティア部の顧問をしている人だ。それにその部活を参加させないわけがない。そしてその奉仕部には、転校初日から少し気になっている比企谷八幡も所属している。接触するには良い機会だろう。
……あの目。あれは下手したら僕の本質に気付くかもしれない目だった。現時点で僕が作り上げたこのキャラを露呈させるわけにはいかないし、何よりただ純粋にほんの少しだけ気になった。
きっとあの人は周りに何の期待もしていない。そういうところは僕に似ているところがある。
「千葉村までの移動手段は……まぁあいつに頼めばいっか」
夏休みのボランティアに向けて、僕は頭の中で立ち居振る舞いを考えるのであった。願わくば、一歩でも僕の目的に近付けるように。
次はボランティアっすねぇ。ルミルミだねルミルミ!