「おはよ。それじゃあ少し歩こうか」
「……うん」
翌日。約束通り留美ちゃんと合流した僕は二人で森の中を歩き始めた。とは言っても実は今歩いているこの道、今夜行われる肝試しのルートなのだ。何故そんな所を歩いているのか、と聞かれれば勿論いくつか理由があるが最大の理由は僕ら以外誰も来ないということ。別に変なことを考えてるわけでもなく、ただ単に第三者に聞かれるとこの後のことに支障が出るかもしれないという可能性を潰すためだ。
きっと今夜、僕以外のボランティア組は留美ちゃんの件に関して何かしらの動きを見せるだろう。おそらく、だけど比企谷君あたりが策を出すと思う。とはいえあの中からだと、という消去法での話だが。
まぁ仮に誰かが解決策ないし解消策を提案しようと、今夜の肝試しのなんて使えそうなイベントを利用するに決まっている。
その時に留美ちゃんが直面した時、少しでも選択肢を広げられるようにという、いわば下見の意味合いも兼ねているのだ。
ーーさて、ここまで来れば万が一誰かが来るなんてことははないだろう。
急に足を止めた僕に合わせて留美ちゃんも止まる。どこか不安そうに僕の顔を伺う留美ちゃんに安心できるよう笑顔を向けて話す。
「多分今夜、肝試しを利用してボランティア組が留美ちゃんが現在置かれている状況を変えるために動くと思う。大方比企谷君あたりの策だろうけど」
「八幡が?」
「あれ? 比企谷君のこと知ってたの?」
「うん。昨日、悠里と話した後に話したの」
「ふーん、なるほど、ね」
まぁ予想してなかったわけではない。となると雪ノ下さんや由比ヶ浜さんとも話しているだろうな。あの三人同じ部活みたいだし。
「ま、それは置いといて。とにかく、彼らはなんらかの策に出る。その時に対応出来るように肝試しルートの下見って感じでここまで来たんだ」
「……それって、意味あるの?」
「うん。なきにしも、あらず。まぁ一応の保険だと思ってくれればいいよ」
なんの保険か、と首をかしげる留美ちゃんにそのまま続けて話しかける。
「留美ちゃんはさ、あの四人のこと嫌い?」
「……別に。嫌いっていうか、どーでもいい」
「好きの反対は無関心、っていうくらいだから留美ちゃんはまさにそうなんだろうね。で、留美ちゃんはあの四人のことどう思う? 無関心なりにも彼女達からの嫌がらせは受けているんだ。何か思うことはあるでしょ?」
「どう思うって、別に。なんで、こんな事するんだろうって。……私も、なんであんなことしてたんだろうって」
「ああ、それはね、弱いからさ」
「弱い?」
「そう。子供でも大人でも、成長すれば自分というものができてきて、そして他人と自分を比べ始める。あいつより優れている、あいつより劣っている。言ってしまえば自己の確立の一部さ」
そうさ、自己の確立の一部なんだ。特に小学生なんていう多感なお年頃にはよくある話だ。
他人と比べようが、優れてようが劣っていようが、結局自分というのはどこまでいっても自分でしかないというのに。
だからこそ、比企谷君のことだ。そこを的確についてくる策に違いない。例えば、そう。留美ちゃんを含めたあの五人グループ内の不和。それこそ互いの本心が曝け出されてしまう場を作ってやればあとは簡単だ。
はたから見ていてもわかる。彼女達は本物の友達なんかではない。だから少しつつけばその関係はあっという間に崩壊する。
正直僕としてもあまり気持ちのいいことではないけれど、あのあと調べた比企谷君の今までを振り返ればそういう考えに至ってもおかしくない。
「きっと留美ちゃんには選択が迫られる。その時にどう動くのか。それは留美ちゃんが決めることだ」
「……何言ってるのかよくわかんない」
「わかるよ。少なからず、肝試しの時には」
あまり納得のしていない表情ではあるが、留美ちゃんは僕の言葉にコクリと頷いて来れた。さて、僕が出来るのなんてここまでだ。あとは彼らに任せよう。
「じゃあ、そろそろ戻ろっか」
そう言い留美ちゃんの手を引く。急に手を握られたことに驚いたのか一瞬だけビクついたが、間も無くして僕の手をその小さな手でぎゅっと握り返してくれた。
それがどうにも僕の妹に似ていて、少しだけ、ほんの少しだけ頰がつり上がったのを感じたままロッジの方へと戻っていった。
*
留美ちゃんを送り届けたあと、みんなが集まっていたようなので何事かと顔を出すと、案の定留美ちゃんの話だった。そしてどうやら、比企谷君が何か策を思いついたらしい。
その内容はいたってシンプル。夜にある肝試しで留美ちゃんの班を自然に一番最後のグループにする。そしてそこに僕達高校生が何人かで彼女達を脅し、彼女達の本性を曝け出させて関係性をバラバラにしてやる、とのことだった。
予想通りの策に内心ほくそ笑む。確かにこれであれば問題を解決はしないが解消することはできる。まぁしかし、一歩間違えれば問題になりかねない行動だ。慎重にやらねばならない。
「その役、俺にやらせてくれないかな」
「……いいのかよ?」
「ああ。それに、俺は彼女達が一致団結する事に賭ける。根はいい子達だと思うんだ」
脅し役を引き受けたのは意外にも隼人君だった。僕的にはてっきり比企谷君本人がやるのかと思っていたけど。でもある意味効果は絶大かもな。人気者の優しかったお兄さんが! って考えると隼人君以外に適役はいないだろうし。
その他の役にはチャラチャラした外見の戸部君と、いかにもギャルって感じの三浦さんが引き受ける事になった。
ここまでは僕の予想通りに進んではいるけれど、問題はこのあと。正直な話、留美ちゃんがどう選択し行動するのか予測不可能だ。これまでハブられ続けてきたんだから自分一人だけ助かるかもな、とも思うけど彼女は優しい。もしかしたら何人かは助かるかもしれない。
「……どうしたもんかねぇ」
みんなが肝試しの脅かし役での衣装で盛り上がっている中、僕は誰にも聞こえない声でぽつりとそう呟くのであった。
次でボランティアの話は終われるかなぁ?そのあとは花火大会の話に入るか、それとも文化祭にいっちゃうか、オリジナルの話にするか。迷いどころですね。