Lyrical NANOHA The Lord 〜契約せし魔法使い〜   作:vegatair

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お久しぶりです。そして申し訳ありません。
新形態の名前やら何やら考えていたら時間がかかってしまいました。
次はもう少し早く投稿します。



騎士の力

 薄暗い森の中、一人の女性がある場所へと向かっていた。艶やかな長い黒髪を闇に溶かし暗い夜道を迷いなく進んでいく女性がたどり着いたのは、木々がなく開けた小さな広場のような場所。

 そこには身の丈ほどの長さの杖を持ち、黒と白の入り混じったローブを身に纏った男が立っており。

 

「カルキノス、ただいま到着しました……ボス」

「あぁ、よく来てくれた」

「それで、私をお呼びになった理由とは」

 

 ボス、そう呼ばれた男はそういうと振り返り、懐から一枚の写真を撮り出しカルキノスへと渡す。

 

「数日後、この地の都市で事件が起こる。それに乗じこの人間を攫ってこい……それがお前の仕事だ」

「はい、確かに承りました。このカルキノスにおまかせください」

「良い働きを期待しているぞ」

 

 そう言い残しローブの男はまるで陽炎のように姿を消す。

 カルキノスは男がいた場所へ一度、深々と頭をさげると手渡された写真へと視線を移す。そこに写っていたのは青い長髪の楚々とした容姿の女性で。

 

「……ギンガ・ナカジマ」

 

 写真の右下に書かれた名前をポツリと読み上げ、カルキノスは上着のポケットへそっと忍ばせた。

 

 

 

 

 

 

 日曜の朝9時、トオル宅。

 

「妹が来る、ですか?」

 

 こてっ、と可愛らしく首をかしげるエルピス。用意したコーヒーをテーブルに着くトオルへと渡し、彼女もまた対面に座る。

 トオルはコーヒーに口をつけ「あぁ」と、一言返事を返す。

 

「妹というと、スバルのことですか?」

 

 いつぞや、トオルの家でばったりと出会してしまった青髪の少女の姿を思い浮かべるエルピス。

 しかしトオルは首を横に振り、否定の意を示し

 

「妹つっても二人いてな、今日は姉の方が来るんだよ」

「へぇ、もう一人妹さんがいたんですね」

 

 もう一人の妹の存在にエルピスが感心していると、扉が開き寝間着姿のダインスレイブがリビングへとやってきた。

 

「おはよう、ございます……」

「おう、おはよう」

「おはようございます!」

 

 寝惚け眼をこしこしと擦りながら、ペタペタと足音を鳴らしトオルたちの座るテーブルへと移動するダインスレイブ。

 まだ眠いのか椅子の上でこっくりこっくりと船を漕ぐ彼女は、つい数日前に協力体制を結んだファントムであるなどと、事情が知らないものが見れば露とも思わないだろう。

 

「はい、朝食ですよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 エルピスから朝食を受け取り、そに小さな口に見合った量をチビチビと食べ始めるダインスレイブ。

 彼女もファントムなので食事は必要ではないが、エルピス同様に食事を摂るようトオルに義務付けられている。

 

 そんなダインスレイブの隣へ腰掛けると、エルピスは人差し指を頬に当てトオルへ質問する。

 

「そういえば、妹さんが来るのに私たちはここにいていいんでしょうか?」

 

 スバルの時のように、自分たちがいることで何かトラブルが起きないかと心配したエルピスだが、トオルは再び首を横に振り

 

「ギンガには伝えてあるから心配すんな。エルピスは前にも言った通り居候で、ダインスレイブは知り合いに預かった子供って事にしている」

 

 以前はスバルの突然の来訪でトラブルになりかけたが、今回はそこのところの根回しはすでにすんである。準備は万端というわけだ。

 

「んでもって、それに合わせてダインスレイブに一つ提案があるんだが」

「提案、ですか……?」

 

 トオルにそう言われ、食事の手を止めるダインスレイブ。そして青空のような瞳を向けると、トオルは口を開き

 

「君たち二人の名前を分けようと思うんだが」

「名前を分ける……?」

 

 こてっ、と首を傾げるダインスレイブに、トオルは続けて説明に入る。

 

「このままダインスレイブで統一してもいいんだけど、分けた方が何かと便利かと思ってよ。嫌だって言うんなら別にいいけど、君はどうだ?」

「そう、ですね……」

 

 一度視線を落とし考えるダインスレイブ。1分に届くかどうかの時間考えた後、ゆっくりと顔を上げ

 

「トオルさんの提案に従います」

「もう一度言っとくが、無理に従う必要はないからな?」

「大丈夫です。お願いします」

 

 そういうダインスレイブに、トオルは彼女の意思が変わらないうちに事を済ませようと、彼女たちの名前を口にする。

 

「それじゃ名前だが、君が『レイヴ』であっちの君が『ダイス』っていうのはどうだ?」

 

『ダインスレイブ』だから『ダイス』と『レイヴ』。いささか単純な分け方になってしまい、トオルはやや不安そうに彼女に尋ねると

 

「レイヴ、私の名前……あ、ありがとうございますっ」

 

 どうやら無事に受け入れてくれたらしい。レイヴの反応にトオルは安堵の息を吐く。

 

「それじゃあこれからよろしくな、レイヴ」

「は、はい、よろしくお願いしますっ」

 

 

 

「それで、そのギンガという方はいつ来られるのですか?」

「そうだな、いつもだったらそろそろ来る頃だけど」

 

 するとまるでタイミングを見計らったかのように、ピンポーン、とインターホンが鳴る。

 トオルは椅子から立ち上がると玄関へ向かい、扉の鍵を解錠する。そしてドアノブを回し扉を開けるとそこには、青い長髪に白いリボンが特徴的な女性の姿が。

 

「久しぶり、トオル兄さん」

「おぅ、久しぶりだなギンガ」

 

 ニコリと柔和な笑みを浮かべる彼女の名はギンガ・ナカジマ。スバルの姉にしてトオルのもう一人の妹分である。

 

「立ち話もなんだし、とりあえず上がるか?」

「うん、お邪魔します」

 

 きちんと挨拶をし家の中へと足を踏み入れるギンガ。そのままトオルの背を追いリビングへと入り、中にいたエルピスとレイヴの二人と目を合わせる。

 エルピスはいつも通りニコニコと笑みを浮かべ、レイヴは緊張からかチラチラとせわしなく瞳を動かしギンガを見る。そんな二人の視線を浴びるギンガ本人もまた、エルピス同様に柔らかな笑みを浮かべている。

 

「紹介する、俺のもう一人の妹分のギンガだ」

「どうも、ギンガ・ナカジマです。兄さんから聞いてた通り、可愛い子達ね」

「エルピスと申します。訳あって、トオルの家で居候させてもらっています」

「えと、その……だぃじゃなかった、レイヴ、です」

 

 新雪のように白く透き通った髪が靡く、笑顔の似合う少女エルピス。青空のように淡い水色の髪をした、オドオドと小動物を思わせる少女レイヴ。

 おそらく町で10人に聞けば10人が『美少女』だと答えるであろう容姿を持つ二人を見て、ギンガの笑みがより一層柔らかさを増す。

 

「ささっ、どうぞ腰をかけてください。あ、今お茶をお持ちしますね!」

「うん、ありがとう」

 

 トテトテ、と小走りでキッチンへと向かうエルピス。彼女がお茶の用意をしている間にギンガは椅子へ座り、ふぅ、と小さく息を吐く。

 どことなく疲れた様子なギンガに、彼女の正面に座ったトオルが声をかける。

 

「なんか疲れてるみたいだけど、どうかしたのか?」

「……兄さんも知ってるでしょ、ここ最近頻発している魔導師失踪事件」

「ああ、よくニュースで流れるからな。知らないって方が無理だろ」

 

 少し冷えたコーヒーを口にし、トオルはギンガの質問に答える。

 魔導師を中心に起こっている失踪事件。その詳細は管理局でも掴みきれておらず、真相は未だに闇の中とされている、世間で注目されている事件だ。

 

 どうやらギンガはその失踪事件について色々と調査を行っていたらしく、そのせいでここ最近はひどく忙しかったのでそこまで休息をとれていなかったらしい。

 

「だったらこんなとこ来ないで家でゆっくりしとけよ。じゃねぇと体がもたないぞ」

「いいの、明日まで休み取ってるから。それに、兄さんに会うと落ち着けるしね」

「俺にはんなリラックス効果はねぇぞ。いいから早く家でゆっくりしろって」

「まあまあ、せっかく来てくれたんですし、少しくらい話をしてあげてもいいじゃないですか」

 

 ギンガの分のコーヒーを用意したエルピスが、トオルの台詞を遮って会話に入ってくる。

 コーヒーを受け取ったギンガはカップに口をつけ中身を少し飲むと、ほっ、と息を吐き

 

「うん、すごく美味しい」

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 互いに笑みを浮かべるエルピスとギンガ。

 するとエルピスが何かに気づいたようにギンガへ質問をする。

 

「そういえば、ギンガとスバルはトオルの妹なんですよね?」

「ええ。でも血は繋がっていないから『妹分』だけど……幼い頃からずっと一緒にいたから、私とスバルにとっては本当のお兄ちゃんみたいなものかな」

 

 そう言い、小さく笑みを浮かべるギンガ。そんな彼女の笑顔を見たエルピスもまた、口元を綻ばせ

 

「スバルもそうでしたけど、ギンガもトオルが大好きなのですね」

「えっ⁉︎ え、えぇっと、そうね……うん、大好き……かな」

「なに恥ずかしがってんだよ。昔はあんなに「お兄ちゃん大好き」って言ってたじゃねぇか」

 

 はぁ、と息を吐きながら横目でギンガを見るトオル。そんな彼の発言にギンガは顔を赤くさせ、両手で机を叩き立ち上がる。

 

「もうっ、それは昔のことでしょ⁉︎ 恥ずかしいからそんなに掘り返さないでよ!」

「あー、あの頃のギンガは可愛かったなぁ。スバルと一緒に俺の後ろにくっついて」

「〜〜〜〜っ! に、兄さんのばかぁ!」

 

 目に涙を溜め、ぷいっ、とそっぽを向くギンガ。

 

「トオル、あんまりいじめるのは良くないですよ」

「まぁそう怒るなって。これも立派な兄妹のスキンシップってやつだ」

「……とてもそうには見えないのですが」

 

 未だ顔を背けたままのギンガを見て、エルピスは兄妹のスキンシップとやらに疑問を抱く。

 すると突如、ピピピピッ、という電子音が鳴り、ギンガは懐から通信端末を取り出すと、空間に小さなモニターが展開される。

 そこに映し出されたのは、管理局の制服に身を包んだ灰色の髪の初老の男性。彼はトオルの姿を目にすると、ニカリ、と笑みを浮かべ

 

『おおトオルじゃねぇか。久しぶりだな、元気にしてるか?』

「久しぶりっす、ゲンヤさん」

 

 彼の名前はゲンヤ・ナカジマ。スバルとギンガの父親であり、トオルにとっても親父同然の男性である。

 画面越しだがこうして顔をあわせるのは久しぶりの両名。互いに懐かしさに浸っていると、ギンガが咳払いをし話を進める。

 

「お父さん、私に用があるんじゃないの?」

『ああそうだった……実は今、クラナガンの銀行で立て篭り事件が起きててな。お前も応援に向かってくれねぇかと思って連絡したんだ』

「立て篭り……うんわかった、今すぐに向かうね」

『すまねぇな。現場の地図は送っておく……くれぐれも無茶はするなよ』

 

 そしてモニターが消える。

 

「そういうわけだから、行ってくるね」

「あぁ、気をつけろよ」

「うん、また来るね」

 

 軽く言葉を交わし、ギンガは足早にトオルの家を後にする。

 バタン、と玄関の扉が閉まる音を聞き、エルピスはトオルへ話しかける。

 

「トオル、行かせても良かったんですか?」

「いいわけねぇけどよ……どうせ何言ってもとまらねぇよ。あいつは昔っから、困ってるやつがいたら助けに行くお人好しだからな」

「なるほど、さすがはトオルの妹ですね」

 

 なんとなくだが、ギンガがトオルの妹だと納得するエルピス。

 冷めきったコーヒーを口にしつつ、トオルは現場へ向かっているであろうギンガの心配をするのだった。

 

 

 

 

 一方その頃、トオルのアパートを去ったギンガは、立て篭り事件が起きている現場へとたどり着いていた。

 事件現場である銀行の前には多くの魔導師が集まっており、ギンガはその内の一人に状況を確認するため声をかける。

 

「陸士108部隊所属、ギンガ・ナカジマです。状況はどうなっていますか?」

「はい。立て篭り犯は男性が1名なのですが、女性一人を人質にとっています」

「犯人の持っている武器は?」

「銃を持っていて、動けば人質を殺すと言っており、迂闊に手出しができない状況で」

 

 確かに人質をとられていてはそう簡単に手を出すことができない。しかも銃を持っているとなれば尚更、人質をどうにかするなど簡単だ。

 

「人質は一人だけですか?」

「はい。他の従業員や客は全員逃げだせたんですが、運悪く彼女だけが捕まったようで」

「申し上げます! 犯人が建物から出てきました!」

 

 二人の話を遮り、現場の状況を観察していた男性局員が叫ぶように報告をする。

 すぐさまギンガが建物へ目を向けると、そこには人質の女性を腕で拘束し、頭部へ銃口を向けている犯人の姿が。

 

「お、おらぁ! 動くなよ、動くんじゃねぇぞ! 少しでも怪しい行動してみろ、この女がどうなってもしらねぇぞ!」

 

 叫びながら、壁に背をつけゆっくりと移動する犯人。どうやら人質を盾にこの場を逃げ出すつもりらしい。

 犯人が外に姿を晒したのはいいが、人質をとられている以上こちらが下手に動くことはできない。

 

『私が時間を稼ぎます。その間に狙撃部隊を呼んでください』

 

 局員の一人に念話で伝え、一歩前に出るギンガ。

 

「管理局員のギンガ・ナカジマです。これ以上の抵抗はやめて、おとなしく投降してください」

「う、うるせぇ! 誰が捕まるもんか!」

 

 じりじりと、少しずつ、だが確実に建物の壁を伝う犯人。

 

『狙撃部隊の準備は?』

『狙撃にはまだもう暫くかかるそうです』

 

 ギンガが念話で狙撃部隊の状況を確認するが、まだ時間はかかるらしく、ギンガは足止めをするべく犯人へと意識を切り替える。

 その時、一瞬だけ人質の女性と視線が交差し

 

「──ふふ」

 

(……笑った?)

 

 女性の口角が上がるのを見たギンガが、その笑みに疑問を抱いていると

 

「ようやく来ましたか。これで、この演技も終わりですね」

「お、おい、何言ってんだ?」

「さて、そろそろ離してもらいましょうか。いい加減、吐きそうです」

 

 女性はそう言うと、銃口を向けられているのにもかかわらず、首元を絞める男の腕へと手を伸ばし

 

 ──ゴキッ、バキゴキッ

 

「あ、あがぁああああ⁉︎ う、腕が、腕がぁ!」

 

 握りつぶされ骨を砕かれた男は地面へへたりこみ、滝のように汗と涙を流す。

 まさか人質が犯人の腕を折って拘束を解除するなどという、想定外の事態にギンガがあっけにとられていると

 

「管理局というのは名ばかりの組織なのですか? この程度の小物、すぐに始末すればいいものを」

 

 ひどく冷めた声がギンガの意識を女性へと戻し、ギンガは慌てて女性へと質問をする。

 

「あ、あの、あなたは一体……」

「私ですか? 私はカルキノス、少しあなたに用がありまして、このような手段をとらせてもらいました」

「私に用、ですか……?」

 

 自分に合うために人質になるという危ない手段をとった、そう語る女性にギンガは冷や汗を流す。

 明らかに普通の人がする思考回路ではない。怪しさがにじみ出る女性に、ギンガは警戒しながら耳を傾ける。

 

「えぇ、とっても大切な用です」

「それで、その用とは……」

「なに、簡単なことですよ。だって──私と共に来てもらうだけなんですから!」

 

 直後、女性の体が発光するとその姿が一変する。

 蟹や蠍といった、まるで甲殻類を思わせるような体は焦げ茶色で統一され。肩部には棘が生え、両手首からは蟹のような鋭い鋏が生える。

 

 異形へと変貌を遂げた女性に、ギンガはもちろん周りの局員たちも目を丸くさせる。

 

「あ、あなたは、本当に何者なんですか」

「深く知りたければ教えてあげますよ。連れ帰った後で、たっぷりと」

 

 そして女性──カルキノスは鋏を構えるとギンガへ肉薄。いきなり襲い掛かってきたカルキノスに対抗すべく、ギンガはバリアジャケットを身に纏いプロテクションを展開。

 一瞬の拮抗の後、カルキノスの鋏はプロテクションを破り、振り下ろすタイミングがずれたことでギンガは後方へ跳躍、直撃を回避する。

 

「ナカジマ陸曹!」

「援護します!」

 

 ギンガが離れたところを狙い、他の局員たちが魔力弾を放ちカルキノスを狙い撃つ。

 

「この程度で攻撃のつもりですか? 魔導師とはこの程度なのですね……幻滅しました」

 

 だがその堅牢な鎧には傷一つ付けることすら適わず、カルキノスは落胆の声と共に周囲の魔導師へ視線を向けると

 

「お見せしましょう。攻撃とは……こうやるのですよ!」

 

 カルキノスが叫ぶと、両肩から生えた無数の棘が弾丸となり放出、魔導師めがけて一斉に襲いかかる。

 棘の弾丸は局員のプロテクションを貫き、深々とその体へ突き刺さる。

 

「どうですか? これが攻撃というものです……さて、邪魔者も減ったことだし、続きを始めましょう」

 

 カルキノスがギンガへ視線を向けると、突如、彼女の周囲を魔力でできた道が駆け巡る。

『ウィングロード』と呼ばれるその魔力の道を走るのは無論ギンガだ。

 

「はぁぁあああ!」

 

 縦横無尽に宙を駆けるギンガはカルキノスを翻弄し、無防備な背中へ魔力を込めた一撃をお見舞いする。

 確かな手応えを感じとるギンガだったが

 

「ふふっ、いい攻撃ですね。うん、さっきの魔導師なんかよりも断然攻撃です」

「なっ、直撃したのに……ッ!」

「でも私に痛みを与えるにはまだまだ。さて、次はこっちの番!」

 

 ダメージは愚か傷すらつかないカルキノスに呆然とするギンガは、薙ぐように振るわれた鋏の一撃をモロに受け吹き飛ばされる。

 

「抵抗するのは構わないですが、その時は相応の覚悟はしてもらいます。さて、どうしますか?」

「……あなたには、局で話を聞かせてもらいます」

「そう、後悔しないでくださいよ!」

 

 ぶつかり合う両名。

 振るわれるカルキノスの鋏をかわしながら、ギンガは『ウィングロード』を駆使し一撃を与え続けるが、堅牢な鎧に阻まれどれもダメージを与えるには至らない。

 

「はははっ、無駄ですよ! あなたの攻撃では、私の鎧を貫けない!」

 

 カルキノスのいうとおり、ギンガの一撃ではあの甲殻を打ち破れない。しかしギンガは何度も何度も拳を打ち付け、カルキノスは余裕綽々とばかりにその拳を受け入れる。

 そうして二人の攻防が繰り広げられること5分。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 宙を地を、縦横無尽に駆け回っていたギンガはスタミナ切れを起こし肩で息をする。

 

「おやおや、もうおしまいですか」

 

 一方のカルキノスは疲労の色などいっさい見せず、疲労したギンガをみて嘆息する。

 

(おかしい、体が重い……いつもみたいに、力が出ない)

 

「顔色が悪いですよ? どうやら体調がすぐれないようですね」

 

 ここ最近の無理が祟ったらしい。いつものように体が動かず、動悸も激しく、足や腕に力が入らない。

 分が悪い敵を前にコンディションも最悪。さすがにこのままで戦い続けては、どうなるのかは明白。

 

「安心してください、私には相手を甚振る趣味はないので……すぐに楽にして差し上げますよ!」

 

 動きの鈍ったギンガへ、カルキノスはトドメを刺そうと鋏を振り上げ駆け出す。

 その直前──

 

 《ロード・ブラストストライク! ガンガンガン!》

 

「なっ──ぐぁあああ⁉︎」

「え……?」

 

 突如、カルキノス目掛けて飛来した数発の弾丸がその体を吹き飛ばす。火花を散らせ視界から消え去るカルキノスに呆気にとられるギンガだったが、すぐさま視線を弾丸の飛んできた方へ向ける。

 そこにいたのは、銀色の鎧に身を包んだ戦士。手形のついた奇妙な形をした銃を構えたその戦士は、目を丸くさせるギンガの元へと歩み寄ると

 

「ギンガ、大丈夫か?」

「え……あ、はい」

「後は俺が引き受ける。お前はさがってろ」

 

 そう言い、戦士──ロードはカルキノスへと視線を向ける。

 

「まったく、不意打ちとはやってくれますね魔法使い」

「生憎と、敵に攻撃の合図を送るほど善人じゃないからな」

「まぁいいでしょう。本来の目的から逸れてはしまいますが、あなたを倒し賢者の石の在り処を持ち帰るとしましょう」

 

 構え、カルキノスはロードめがけて駆け出す。対するロードも指輪を付け替え、迫るファントムへ迎撃の準備を整える。

 

『相手の外殻はかなりの硬度のようです。生半可な攻撃は意味を成さないですよ』

「わかってる。どれくらいの硬度か、まずは様子見だ」

 

 《バインド・カモーン!》

 

 ベルトを操作し、魔法陣から数本の鎖を出現させる。そしてそれを操り、接近してくるカルキノスの四肢を縛り上げ宙へ持ち上げる。そしてそのまま振り回し、遠心力を利用して地面へ叩きつけた。

 まるで隕石でも落ちたのかと疑うほどの衝撃と破壊音が響き、大量の砂煙りが立ち上る。

 

 ロードは煙の中、カルキノスの様子を静観していると

 

「まったく、荒々しい攻撃ですね」

 

 呆れたような声とともに、煙の中から無傷のカルキノスが姿を現す。

 ガーゴイルの時と同じく、あれくらいでは傷の一つもつけられないほどの硬度を持っているらしい。

 

「さて、私からもお返しをさせていただきましょうか──ね!」

 

 カルキノスは双肩から無数の棘を発射し、上空へ打ち上げられた棘たちは雨霰となりロードを襲う。

 降り注ぐ棘を前にもロードは慌てることなく、素早く指輪を付け替えるとベルトへかざす。

 

 《ディフェンド・カモーン!》

 

 その音声の後、ロードが右手を天にかざすと銀の魔法陣が展開され、それが盾となり棘を防ぐ。だがカルキノスは防御の隙をつきロードへ肉薄すると、自慢の鋏を振り上げて襲いかかる。

 ロードも棘を防ぎきると即座に剣を構え、カルキノスの一撃を受け止める。そのまま鋏を打ち上げ、無防備になった胴体へと斬撃をお見舞いする。

 

「〜〜〜っ‼︎ かってぇ!」

「その程度じゃ傷一つ付けられませんよ」

 

 あまりの硬度に手が痺れ、その隙をついたカルキノスの一撃がロードを吹き飛ばす。

 地面を二転三転し立ち上がるロードだが、未だに痺れが残っているらしく手首をぶらぶらとさせている。

 

「くそっ、やっぱ堅いなあの甲羅」

『ガーゴイルの時のように、一点狙いで破りますか?』

「……いや、多分無理だな」

 

 ガーゴイルの時は、石化した状態では動くことができないデメリットがあったが、今回の相手は素であの防御力を有している。

 一点集中で『ブラストストライク』を放ったとしても、回避されるのがオチだろう。

 

 どうしたものか、ロードが現状を打破する方法を考えていると

 

『おいこらァ、トオル!』

「うおっ! びっくりした……なんだよダイス」

 

 ロードの頭に響いてきたのは、ダインスレイブの片割れ『ダイス』の声だった。なにやらご立腹らしく声を荒げるダイスは、怒りのままロードを怒鳴りつける。

 

『なんだよじゃねぇ! 俺に戦わせるって約束だろうが!』

「あー……そうだっけ?」

『しらばっくれてんじゃねぇぞ! ほら、さっさと「あの指輪」使え!』

 

 捲し立ててくるダイスに負け、ロードは渋々とホルダーから赤い指輪を取り出し、ベルトを操作する。

 

 《シャバドゥビタッチヘンシーン! シャバドゥビタッチヘンシーン!……》

 

「はぁ……いくぞ、ダイス」

『っしゃあ! やっと俺の出番だ!』

 

 待機音と嬉しそうなダイスの声を聞きながら、ロードは『ロードウィザードリング』とその指輪を取り替え、そしてベルトへかざす。

 

 《ナイト・カモーン‼︎》

 

 そして左手を横にかざすと赤い魔法陣が展開し、ロードの体を通過していく。

 

 《ロード! エンチャント! クラスナイト‼︎》

 

 全身を通過する頃には、ロードの姿は変わっており。

 銀色の装甲はところどころに赤の装飾が付け加えられ、複眼は鮮血を思わせる赤に染まる。そして左手には、ダイスが持っていたような刀身が赤黒い西洋剣が。

 

 これがファントム『ダインスレイブ』の力を宿したロードの新しい姿。

 

 ──名をロード『クラスナイト』。

 

『さーて、ぶった斬るぜぇ!』

 

 先ほどまでとは打って変わって意気揚々になるダイの声を聞きつつ、ロードは剣を構えカルキノスへと立ち向かった。

 

 

 




新たなフォームになれた理由は次の話で明かします。
まぁそこまで大した理由じゃ有りません。

次こそは、一月以内に投稿を……。

オリジナルリング

・ナイトウィザードリング

ファントム『ダインスレイブ』の力を宿した指輪。
使用することで『クラスナイト』へと変化する。
絵柄はチェスの騎士の駒と西洋剣。

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